【最強の艦娘、出てこいや!】UKF(Ultimate 艦娘 Fighters)無差別級格闘グランプリ (980)

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【最強の艦娘】UKF(Ultimate 艦娘 Fighters)無差別級格闘グランプリ【決定戦】 - SSまとめ速報
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トーナメント組み合わせ抽選会&開幕戦 放送日5/31 22:00

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1464611575


※注意事項
・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。
・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。
・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。
・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。


※階級について
艦種を実際の格闘技における重量階級に当てはめており、この作品内では艦種ではなく階級と呼称させていただきます。

戦艦級=ヘビー級

正規空母級=ライトヘビー級

重巡級=ミドル級

軽巡級、軽空母級=ウェルター級

駆逐艦級=ライト級


UKF無差別級トーナメント特別ルール一覧

・今大会は階級制限のない無差別級とする。階級差によるハンデ等は存在しない。
・今大会のルールは限りなく実戦に近く、公正な試合作りを目指すために設けられる。
・ファイトマネーは1試合につき賞金1000万円の勝者総取りとする。
・試合場は一辺が8m、高さ2mの金網で覆われた8角形のリングで行われる。
・試合後に選手は会場に仮設されたドックに入渠し、完全に回復した後に次の試合に臨むものとする。
・五体を使った攻撃をすべて認める。頭突き、噛み付き、引っかき、指関節等も認められる。
・体のどの部位に対しても攻撃することができる。指、眼球、下腹部、後頭部、腎臓などへの攻撃も全て認める。
・相手の衣服を掴む行為、衣服を用いた投げや締め技を認める。
・相手の頭髪を掴む行為は反則とする。
・頭髪を用いる絞め技等は反則とする。
・自分から衣服を脱いだり破く行為は認められない。不可抗力で衣服が脱げたり破れた場合は、そのまま続行する。
・相手を辱める目的で衣服を脱がす、破く行為は即座に失格とする。
・相手に唾を吐きかける、罵倒を浴びせる等、相手を侮辱する行為は認められない。
・武器の使用は一切認められない。脱げたり破れた衣服等を手に持って利用する行為も認められない。
・試合は素手によって行われる。グローブの着用は認められない。
・選手の流血、骨折などが起こっても、選手に続行の意思が認められる場合はレフェリーストップは行われない。
・関節、締め技が完全に極まり、反撃が不可能だと判断される場合、レフェリーは試合を終了させる権限を持つ。
・レフェリーを意図的に攻撃する行為は即座に失格となる。
・試合時間は無制限とし、決着となるまで続行する。判定、ドローは原則としてないものとする。
・両選手が同時にKOした場合、回復後に再試合を行うものとする。
・意図的に試合を膠着させるような行為は認められない。
・試合が長時間膠着し、両者に交戦の意志がないと判断された場合、両者失格とする。
・ギブアップの際は、相手選手だけでなくレフェリーにもそれと分かるようアピールしなければならない。
・レフェリーストップが掛かってから相手を攻撃することは認められない。
・レフェリーストップが掛からない限り、たとえギブアップを受けても攻撃を中止する義務は発生しない。
・試合場の金網を掴む行為は認められるが、金網に登る行為は認められない。
・金網を登って場外へ出た場合、即座に失格となる。
・毒物、および何らかの薬物の使用は如何なる場合においても認められない。
・上記の規定に基づいた反則が試合中に認められた場合、あるいは何らかの不正行為が見受けられた場合、レフェリーは選手に対し警告を行う。
・警告を受けた選手は1回に付き100万円の罰金、3回目で失格となる。
・罰金は勝敗の結果に関わらず支払わなくてはならない。3回の警告により失格となった場合も、300万円の罰金が課せられる。

・選手の服装は以下の服装規定に従うものとする。
①履物を禁止とし、選手はすべて裸足で試合を行う。
②明らかに武器として使用できそうな装飾品等は着用を認められない。
③投げ技の際に掴める襟がない服を着用している場合、運営の用意する袖なしの道着を上から着用しなければならない。
④袖のある服の着用は認められない。
⑤バンデージの装着は認められる。


大会テーマ曲
https://www.youtube.com/watch?v=7IjQQc3vZDQ


明石「全国一千万人のUKFファンの皆様、本日はようこそお越しくださいました!」

明石「本日は第三回UKF無差別級グランプリ出場選手発表、ならびにトーナメント組み合わせ抽選会を行います!」

明石「その後には本戦出場者以外の選手により、開幕戦を1試合行わせていただきます! そちらもお見逃しなく!」

明石「実況はお馴染み明石、解説は前大会では審査員長を勤めていただいた、香取さんにお越しいただいております!」

香取「香取です。今回は審査員長と兼任する形で解説者を勤めさせていただくわ」

香取「副審査員長として、妹の鹿島をリングサイドの審査員席にスタンバイさせるつもりだから、非常時の審査の方も任せておいてね」

明石「よろしくお願いします! 今回は3回目の無差別級グランプリということで、何かルール変更などはありますか?」

香取「基本的には変わりないけれど、1つだけルールが追加されたわ。毒物、薬物の使用規制ね」

香取「前回の比叡さんの例があるから、あれを真似して体に毒を仕込むような選手が現れたら収集がつかないことになるもの」

香取「ということで、毒物、および何らかの薬物の使用が発覚したら即失格です。今回はさすがにそんなことをしてくる選手はいないとは思うけれど」

明石「なるほど、ありがとうございます。ルールもそうですが、ファイトマネーや優勝賞品に関しても過去大会と同じものとなっております!」


明石「ファイトマネーは1000万円の勝者総取り! 敗者には一切支払われることはありません!」

明石「更に優勝選手には賞金10億円! 副賞には伊良湖さんと間宮さんの給糧艦1年フリーパス券が贈与されます!」

明石「艦娘ならば誰もが欲しがる富と栄光が手に入るわけですが、それを手にするのは勝者のみ!」

明石「ファイターの方々には全身全霊を以って優勝を目指していただきたく思います! では、さっそく出場選手の発表をさせていただきましょう!」

明石「今大会は初参加選手が多数いるため、まずはUKFの正式所属選手からご紹介いたします!」


明石「エントリーNO.1、正規空母級! UKF戦績20戦18勝2敗、K-1戦績28戦27勝1ドロー! あの立ち技絶対王者が帰ってきた!」

明石「戦慄のムエタイがリングを緋色に染め上げる! もはやK-1のベルトなど興味はない、欲しいのはUKFチャンピオン、即ち艦娘最強の称号のみ!」

明石「一航戦の名に震え慄くがいい! ”緋色の暴君” 赤城ィィィ!」


明石「エントリーNO.2、戦艦級! UKF戦績31戦21勝10敗! 永遠に沈まぬ不屈の戦艦、悲願の優勝へ向けて再始動!」

明石「幾多の勝利と敗北を乗り越え、ここまで来た! 不可能を可能に変える奇跡の戦艦が、王者の栄冠を求めて最後の戦場に足を踏み入れる!」

明石「もう敗北は許されない! 飽くなき勝利への執念は、最強の称号を勝ち取ることができるのか! ”不沈艦” 扶桑ォォォ!」


明石「エントリーNO.3、戦艦級! UKF戦績7戦5勝2敗! 立ち技格闘界の裏王者が今、最強の名を空手に取り戻す!」

明石「凶器と化すまで鍛え抜かれたその五体! いかなる流儀、いかなる相手であろうとも、この打撃で全てを打ち砕く!」

明石「孤高の空手家はヴァーリ・トゥードを制することができるのか! ”殺人聖女” 榛名ァァァ!」


明石「エントリーNO.4、戦艦級! UKF戦績3戦3勝0敗! 戦艦級初代王者、日向を超える柔術テクニックにて王者奪還を狙う!」

明石「グラウンドもスタンドも関係ない! この手足が絡みつくとき、貴様は逃げ場のない関節地獄へと引きずり込まれるのだ!」

明石「今一度、格闘界は柔術の脅威に戦慄する! ”東洋のクラーケン” 伊勢ェェェ!」


明石「エントリーNO.5、戦艦級! UKF戦績1戦0勝1敗! あの柔道王が山籠りより下山! UKFグランプリに再挑戦だ!」

明石「柔道こそ最強の格闘技! 組めば即投! 極めれば即折! デスマッチ無敗の柔道技から逃れる術など有りはしない!」

明石「前大会初戦敗退の屈辱を晴らせるか! ”死の天使” 大和ォォォ!」


明石「エントリーNO.6、正規空母級! UKF戦績9戦6勝3敗、K-1戦績11戦9勝2敗! 艦娘K-1新王者に輝いた、不死身のファイターの登場だ! 」

明石「打撃によるダウン経験、未だなし! 死してなお立ち続ける、不壊のファイターを倒せる者は果たして現れるのか!」

明石「五航戦の強さを知らしめる時が来た! ”ウォーキング・デッド” 翔鶴ゥゥゥ!」


明石「エントリーNO.7、軽巡級! UKF戦績35戦34勝1敗! UKF一の頭脳派ファイターが、優勝への最適解を弾き出す!」

明石「我こそはリング上の殺し屋! せいぜい足掻いてみせるがいい! 貴様の取る一挙一動は、全て私の描いたシナリオでしかないのだ!」

明石「幾多のファイターを破滅させてきた、殺人コンピューターの計算に狂いなし! ”インテリジェンス・マーダー” 大淀ォォォ!」


明石「エントリーNO.8、軽巡級! UKF戦績22戦16勝6敗! スキャンダルまみれのアイドルプロレスラー、名誉挽回を賭けてグランプリ参戦! 」

明石「人気を失い、ファンを失い、名声は地に落ちた! もはや失うものは何もない! ただ貪欲に、ファイターとしての強さを示すのみ!」

明石「得意の空中殺法が炸裂する! ”堕天のローレライ” 那珂ぁぁぁ!」


明石「エントリーNO.9、駆逐艦級! 駆逐艦級グランプリの新王者が、その勢いを借りて無差別級制覇を狙う!」

明石「階級の不利など弱者の戯れ言! 冴え渡る無限のテクニックは、最軽量級にして最強という奇跡を成し遂げられるのか!」

明石「恐れ知らずのビッグマウスにも注目だ! ”氷の万華鏡” 吹雪ィィィ!」


明石「エントリーNO.10、戦艦級! UKF戦績45戦45勝0敗! 誰も疑うことのない、最強の艦娘が全てのファイターの前に立ち塞がる!」

明石「彼女こそ究極の体現者! 私に小細工など通用しない、勝ちたければ、己の全てを賭けて掛かって来るがいい!」

明石「UKF無差別級絶対王者、前人未到の3連覇に挑む! ”ザ・グレイテスト・ワン” 長門ォォォ!」


明石「以上、10名がUKF所属選手! これより紹介するのは、いずれもUKF初参戦となる選手です!」


明石「エントリーNO.11、軽空母級! 流儀、中国拳法! 酔いどれファイターがUKFトーナメントに乱入だ!」

明石「飲めば飲むほど強くなる! その拳足は舞鳥のごとく優雅なれど、1つ1つが必殺の一撃! 中国拳法の深淵、とくと味わうがいい!」

明石「私の技に酔いしれろ! ”酔雷の華拳” 隼鷹ォォォ!」


明石「エントリーNO.12、重巡級! 流儀、古流柔術! 歴史の片隅に忘れ去られた神技が今、現代に蘇る!」

明石「武の真髄は古流にあり! 傷つくことも、傷つけることも必要ない! 完成された技術の前に、相手はただ平伏すのみ!」

明石「活殺自在の秘術が現代格闘技に挑む! ”銀眼の摩利支天” 古鷹ァァァ!」


明石「エントリーNO.13、重巡級! 流儀、截拳道! 陰府を従え進み出る、その者の名は死! 第四の封印が解かれ、妙高姉妹の死神が姿を現す!」

明石「重巡級王者、足柄を野試合にて瞬殺! その実力は全くの未知数! 彼女がリングに上がるそのとき、UKFに不吉な風が吹き荒ぶ!」

明石「冥府より来たりし死神は、いかなる戦いを我々に見せるのか! ”黒死蝶” 羽黒ォォォ!」


明石「エントリーNO.14 戦艦級! 流儀、剣闘術! イタリア最強の艦娘ファイター、満を持してUKFへ来日!」

明石「かつての世界最強国家、神聖ローマ帝国! その流れを汲むイタリアが弱いなど有り得ない! それを今、リングにて証明しよう!」

明石「最強の名はイタリアの地に持ち帰らせてもらう! ”闘神” ローマァァァ!」


明石「エントリーNO.15、戦艦級! 流儀、フリーファイト! とうとう奴らが来てしまった! 鉄底海峡より来たりし真の黒船、UKFに来航!」

明石「こなしたデスマッチは200戦! ルール無用の素手喧嘩にて無数の屍を積み上げてきた、正真正銘の魔人がUKFのリングに降り立つ!」

明石「我らの艦娘ファイターは、深海棲艦の女王を迎え討つことができるのか! ”黒鉄の踊り子” 戦艦棲姫ィィィ!」


明石「エントリーNO.16、正規空母級! 流儀、軍隊格闘術! ナチス・ドイツより解き放たれし新たなる怪物!」

明石「冷たき瞳に宿るのは闘志か、それとも狂気か! 思い起こされるはかつての悪夢! あの最凶の艦娘をも、この新造艦は凌駕するというのか!」

明石「地獄の門が再び開かれる! ”キリング・ドール” グラーフ・ツェッペリィィィン!」


明石「以上、16名! ただいまご紹介した選手により、トーナメント勝ち抜き方式で優勝を争うものとします!」

明石「初出場の選手が多数参加しておりますが、香取さん。注目選手はどなたかと思われますか?」

香取「難しいわね。運営が喧伝していた『優勝を狙える選手のみを集めた』って言葉通り、一筋縄じゃ行かない強者が勢揃いしているわ」

香取「しいて言うなら、目につくのは海外艦勢ね。ドイツのグラーフ・ツェッペリンに、イタリアのローマさん。おまけに深海棲艦の戦艦棲姫よ」

香取「ドイツ、イタリアはともかく、深海棲艦からも出場者が出てくるとは思わなかったわ。正真正銘、私達の敵ですものね」

明石「何でも、戦艦棲姫さんは単身でUKFに出場を表明したそうです。デスマッチのライバルだった大和選手を追いかけてきたみたいで……」

香取「なるほど、そういう経緯ね。あの大和さんのライバルとなれば、実力は相当なものでしょう」

香取「グラーフ・ツェッペリンも警戒せざるを得ないわね。あのビスマルクさんと同じ研究機関の出身なんでしょう? よく運営が出場を認めたわね」

明石「ドイツ側からの情報によると、決してビスマルク選手のような凶暴性はない、とのことです」

明石「むしろ礼儀正しく、理性的で、対戦相手に過剰な暴力を振るうようなことは決してないと……」

香取「どこまで信用していいのかしらね、それ」


明石「まあ、まともな選手ではなさそうですよね……UKF正式所属の選手はどうですか?」

香取「そうね、やっぱり扶桑さんの活躍に期待したいところだわ。数多くの伝説的な名勝負を残しながらも、未だに優勝だけは逃し続けているもの」

香取「今度こそ、という想いはとても強いでしょうね。彼女には頑張ってほしいわ。もちろん、他の選手だってそうよ」

香取「同じく優勝を逃している赤城さん、破格の強敵に敗北を喫した大和さんに榛名さん。K-1の新王者になった翔鶴さんも優勝は悲願のはず」

香取「全選手が等しく優勝を狙っているわ。果たして、現王者の長門さんはどう迎え討つのかしらね」

明石「長門選手がこの大会で優勝すれば前人未到の三連覇達成となります。そちらにも大きな期待が掛かるところですね」

香取「ええ。どの選手も、長門さんを倒せなければ優勝できない、ということは理解しているはずだわ。何らかの対策を講じていることでしょう」

香取「結局、一番の見所はそこでしょうね。長門さんを倒す選手は果たして現れるか否か」

香取「あとは組み合わせの運次第ね。選手同士の相性もあるし、誰が勝ち抜けるかはそこで大きく左右されるんじゃないかしら」

明石「確かにそうですね。ではそろそろ、トーナメント組み合わせ抽選会の放送に移りたいと思います!」


明石「抽選会は大会運営委員長により、完全なランダムで行われました! 偏った組み合わせを防ぐため、以下のルールを適用しております!」



・長門は最終枠に固定とし、15名で抽選を行うものとする。

・抽選の際、運営長は自己判断で一度だけ対戦カードの引き直しをすることができる。
 それは選手Aに対して選手Bを引き、その対戦カードが思わしくないと判断したとき、選手Bの抽選のみを引き直すことができるというものである。
 最初に引いた選手の引き直し、あるいは既に確定させた対戦カードの引き直しは認められない。

・全ての対戦カード確定後、運営長は1回戦の対戦カードを独断で選んだ対戦カードと入れ替えることができる。
 長門が出場する最終戦枠はこの候補から除外される。


抽選にお借りしたツール:とっすぃ☆しゃっふぉ~
製作者様サイト:http://kaqule-app-sqr.seesaa.net/category/4900315-1.html


明石「これらは念の為に設けられたルールですので、必要がなければ適用しないこともある、ということをご理解ください!」

香取「こういうルールを作っておかないと、引き運次第で変な組み合わせになるものね。1回戦でいきなり長門さんが出たら困っちゃうもの」

明石「ええ。大会運営委員長は大型艦建造で重巡しか出したことがないほど引き運がありませんから、これくらいの措置はしておかないとまずいです」

香取「ああ、そう……ともかく、既に抽選は終わっていて、今からそれを公開するということね」

明石「そうなります。当然のことですが、組み合わせ内容に運営側の恣意的要素は一切絡んでいません」

明石「抽選には上記のフリーソフトが使用されており、出場選手が被らないようランダムで選択されるようになっています」

明石「抽選会の録画は数回のリハの後、一発撮りで行われました。運営の都合のいい組み合わせになるまでやり直すようなことはしておりません!」

香取「一応聞いておくけど、その証拠は?」

明石「特にないんですが……そこは信じていただくしかありません。動画はノーカット編集ですので、その点は信用できるかと……」

明石「付け加えると、何度かリハをしてみた結果、運営が頭を抱えるような組み合わせは必ず発生するので、やり直しに意味はないとのことです」

香取「ああ、そうなの。何はともあれ、見てみましょうか」


明石「香取さんは組み合わせに関しては、どの点に注目すべきと思われますか?」

香取「やっぱり海外艦勢ね。未知数の相手と初戦に当たることで得する選手なんて、いるはずもないわ」

香取「グラーフ・ツェッペリン、戦艦棲姫は誰もが避けたい相手でしょう。長門さんの初戦の相手が誰になるかも気になるわね」

香取「さっきも言ったけど、選手の実力と同じくらい、対戦の組み合わせは勝ち抜けの結果を左右するはず。外れクジを引いてしまうのは誰かしら」

明石「ありがとうございます。それでは、抽選会の放送に移りましょう!」

明石「トーナメント組み合わせ抽選会は以下のURLよりご覧になれます! 視聴していただくため、30分ほど時間を取らせていただきます!」

明石「それでは抽選会動画を公開します! 誰が誰と相対するのか、ぜひご自身の目でお確かめください!」


第3回UKF(Ultimate 艦娘 Fighters)無差別級グランプリ トーナメント抽選会

ニコニコ動画
http://www.nicovideo.jp/watch/sm28927332

アカウントを持っていない方
http://nicoviewer.net/sm28927332

Youtube(字幕のみ)
https://www.youtube.com/watch?v=lIJXTvxIt7g

※字幕が小さくなりすぎた箇所がありますので、できるだけ大画面、高画質設定でご視聴ください。

~22:45より放送再開~



.........................┏━ 扶桑
....................┏┫
....................┃┗━ 大和
...............┏┫
...............┃┃┏━ 赤城
...............┃┗┫
...............┃.....┗━那珂
..........┏┫
..........┃┃.....┏━ ローマ
..........┃┃┏┫
..........┃┃┃┗━ 戦艦棲姫
..........┃┗┫
..........┃.....┃┏━ 大淀
..........┃.....┗┫
..........┃..........┗━グラーフ・ツェッペリン
優勝┫
...........┃..........┏━ 榛名
...........┃.....┏┫
...........┃.....┃┗━ 翔鶴
...........┃┏┫
...........┃┃┃┏━ 隼鷹
...........┃┃┗┫
...........┃┃.....┗━ 伊勢
...........┗┫
................┃.....┏━古鷹
................┃┏┫
................┃┃┗━ 吹雪
................┗┫
.....................┃┏━ 羽黒
.....................┗┫
..........................┗━ 長門


明石「ご視聴、お疲れ様でした! トーナメントの組み合わせは以上のように確定いたしました!」

明石「どれも注目の対戦カード揃いかと思われますが、香取さん。トーナメント表を改めてご覧になられて、何か思うところはありますか?」

香取「そうね。少し偏った組み合わせになっちゃったかしら。海外艦勢の3人がみんなAブロックに入ってしまったわね」

香取「個人的には扶桑さんに頑張ってほしいけど、ここを勝ち抜くのは本当に厳しいわよ。海外艦だけじゃなく、大和さんや赤城さんまでいるもの」

香取「未知数の選手と強豪選手のぶつかり合いになるわね。最後に誰が残るのか、まったく予想が付かないわ」

明石「そうですね。一番引いちゃいけなさそうなグラーフ選手を大淀さんが引いてしまいましたけど、どう思います?」

香取「……きっと大丈夫よ。何だかんだ言って、大淀さんは強いんだから」

明石「えーっと、はい。では、Bブロックについてはどう思われます?」


香取「Aブロックとは対照的に、正統派ファイターが揃ってるって印象かしら。どの対戦カードも激闘になりそうね」

香取「榛名さんVS翔鶴さんなんて、ちょっとした立ち技頂上決戦じゃない。1回戦にはもったいないくらいの組み合わせよ」

香取「長門さんに目が行きがちなBブロックだけど、駆逐艦級王者になった吹雪さんや、王者奪還を狙う伊勢さん、初参加の選手にも注目したいわね」

明石「そういえば、大会運営委員長はグラーフ選手と同じくらい羽黒選手を気にしていましたね。理由は何なんでしょう?」

香取「さあ……確かに変ね。グラーフさんはともかく、戦艦棲姫を差し置いて羽黒さんを警戒するのはちょっと不自然だわ」

香取「重巡級王者の足柄さんを瞬殺したのは間違いなく凄いけど……情報が少なすぎるわね。私にはまだ判断できないわ」

香取「少なくとも、グランプリに出場するからには相応の実力者なんでしょう。あるいは、初戦で長門さんが落ちる可能性だってゼロじゃないわ」

香取「もし本当に長門さんが序盤で落ちれば、Bブロックは混沌と化すでしょうね。こちらも予想が付かないブロックだわ」

明石「やはり一番の焦点は長門選手ということですね。長門選手を倒す選手は現れるか否か、と」


香取「結局はそうなっちゃうかしら。長門さんには弱点も攻略法もない。勝利できるのは純粋な強さを持った選手だけでしょう」

香取「その選手は年々実力を増しつつあるUKF所属のファイターなのか、あるいは未知数の初参戦ファイターか、それともそんな選手は現れないのか」

香取「少なくとも、優勝を狙っているのはどの選手も同じね。たった1人しか手に入れることの出来ない栄冠、誰が手に入れるのか今から楽しみだわ」

明石「ありがとうございます。さて、これにてトーナメント組み合わせ抽選会は終了となります!」

明石「エキシビジョンマッチの候補者については、Aブロック1回戦終了の後に発表される予定となっております!」

明石「前大会との相違点ですが、エキシビジョンマッチの候補には、通常の候補選手だけでなく、1回戦敗退選手も含まれます!」

明石「今回のランダム抽選により、相性の関係で十分な実力を発揮できなかった選手、というのは高い確率で出現するかと思われます!」

明石「そのような場合を想定して、このような敗退選手の救済措置となるシステムを設けさせていただきました!」

明石「もちろん、選ばれるかどうかはリクエスト次第です! リクエスト方法に関しては、候補者発表と併せてお伝えさせていただきます!」


明石「それでは! これより、第三回UKF無差別級グランプリ、開幕戦を行いたいのですが……少々準備に時間が掛かっているとのことです!」

香取「それは大会運営委員長お得意の遅刻と捉えてもいいのかしら?」

明石「構いません! ということで、大変申し訳ありませんが24:00までお時間をいただきたいと思います!」

明石「開幕戦の準備が整うまで、しばしご歓談ください! では、一旦放送を休止します! 約1時間後にお会いしましょう!」

香取「それまでにはちゃんと間に合わせてほしいわね」

~24:00より開幕戦開始~


明石「皆様、大変お待たせしました! これより第三回UKF無差別級グランプリに先駆けて、開幕戦を行います!」

香取「大会のための景気付けみたいなものね。やっぱり、出場選手と組み合わせの発表だけじゃお客さんは満足しないでしょうし」

明石「開幕戦ということで、試合ルールはトーナメントと同じものが適用されます! 今夜限りのスペシャルワンマッチをどうぞお楽しみください!」

香取「出場者はどちらも本戦枠から漏れた選手だけど、それでも実力者よ。本選出場選手にも引けを取らない試合を見せてほしいわね」

明石「それでは、赤コーナーより選手入場! 初代戦艦級王者の登場です!」


試合前インタビュー:日向

―――今大会では出場枠を伊勢選手に譲られ、ご自身は引退の意志を固められているとのことですが、それはどういった心境の変化でしょうか。

日向「単純なことさ。伊勢は私より強い。私より強いなら、きっと誰にも敗けないだろう。優勝争いは伊勢に任せるよ」

日向「選手としてのトレーニングは続けるつもりだが、これからはブラジリアン柔術の指導をメインにやっていこうかなと思っているんだ」

日向「最近は全盛期に比べて、柔術の人気が下火でね。ブラジリアン柔術の黒帯を持つ者は残念でならない」

日向「今後は試合に出るのはそこそこに、柔術の発展に向けて活動していきたいんだ。ブラジリアン柔術は最強の格闘技だからね」

日向「この試合は、事実上の引退試合になるかも知れないな。伊勢の優勝への手向けになればいいんだが」

―――試合に向ける意気込みをお聞かせください。

日向「負けられないね。伊勢の晴れ舞台を前にして、私がここで醜態を晒すわけにはいかないだろう?」

日向「伊勢が私より強いと言っても、私がこの試合で負ければ、その響きは酷く薄っぺらいものになってしまうだろう」

日向「戦艦級王者は長門に奪われたが、初代王者として、今までその名に恥じない戦いをしてきたつもりだ……比叡との試合はノーカンにしてくれ」

日向「私は伊勢以外なら誰であろうと勝ってみせる。この試合の勝利を伊勢に捧げたい」


日向:入場テーマ「Cradle Of Filth/Cthulhu Dawn」

https://www.youtube.com/watch?v=o4iJJceQmkI


明石「最強の格闘技とはブラジリアン柔術である! いま再び、それを証明するために1人の艦娘がリングへ立つ!」

明石「スタンド、寝技、ともに隙はなし! グラウンドに引きずり込まれれば最後、何も出来ずに絞め落とされるという、敗北の運命が待っている!」

明石「初代戦艦級王者、推して参る! ”戦慄のデビルフィッシュ” 日向ァァァ!」

香取「柔術家の日向さんね。長門さんの参戦以前、最強の艦娘とは彼女のことを指す言葉だったわ」

香取「今や長門さんの登場や赤城さん、扶桑さんの台頭で陰が薄くなってしまったけど、彼女も戦艦級指折りの強豪選手よ」

明石「第二回グランプリでは、格下と思われた比叡選手を相手に初戦敗退という結果でしたが……まあ、あれは事故みたいなものですよね」

香取「負けは負けかもしれないけど、不運な事故なのは間違いないわね。事前に比叡さんの情報を知っていれば、一瞬で絞め落としてみせたでしょう」

香取「あるいは、立ち技でKOすることもできたかもしれないわ。日向さんはボクシングのテクニックも磨いているそうだから」

明石「らしいですね。最近では、プロボクサーとしてのライセンスを取ったとか。柔術の第一人者としては矛盾する行為にも見えますが……」

香取「そんなことはないでしょう。柔術家に取って、仮想敵である打撃格闘家のファイトスタイルを学ぶことは重要な事よ」

香取「日向さんのボクシングテクニックは、柔術の技を更に深めるツールであり、寝技に引き込むための補助技になっているんでしょう」

香取「試合運びとしては、まずボクシングの技で立ち回り、パンチで相手を崩してから寝技に引き込み、そして絞め落とす」

香取「それが日向さんの勝利するシステムね。総合格闘では極めて有効な戦術でしょう」

香取「本戦に出てくれないのがもったいない強豪選手よ。さて、相手は初代王者相手にどう戦うのかしら」

明石「ありがとうございます。それでは、続いて青コーナーより選手入場! 深海棲艦デスマッチより生還を果たした喧嘩屋の登場です!」


試合前インタビュー:霧島

―――最近まで深海棲艦デスマッチに参加されていたそうですが、そこでの戦績に関してお聞かせください。

霧島「10試合ほど戦って、全て勝ちました。とても刺激的で、有意義な体験でしたね」

霧島「深海棲艦では最強と言われている戦艦棲姫さんとはすれ違う形で戦い損ねましたが、それでもなかなか楽しい方々と戦うことができました」

霧島「学ぶべきことはUKFより多かったように思います。やはり私の理論は間違っていませんでしたね」

―――デスマッチで学ばれたというのは、具体的にどのようなことでしょうか。

霧島「格闘技術なんてものは、闘争において些末事に過ぎないということです。必要なのは、本能に根ざした凶暴性を如何に発揮するかですね」

霧島「相手を殺傷できる攻撃を躊躇うことなく繰り出せるかどうか。これこそが闘争を制するに当たって最も重要なことです」

霧島「それから、今までの私は相手を殺す気で試合に臨んでいたんですけど、その精神の在り方は間違いだとわかりました」

―――間違い、とはどういうことですか?

霧島「そこまで気負うことはなかったんですよ。私はもっとリラックスして試合に臨むべきでした」

霧島「相手を殺す、ではなく、『殺しちゃってもいいや』くらいの気持ちがちょうどいいんです。気を張らず、自然体で殺意を持つのが肝心です」

霧島「今日の相手は日向さんでしたっけ。可哀想ですね、姉の前で無様な姿を晒すことになるなんで。お悔やみ申し上げます」

霧島「でもまあ、徹底的にやらせていただきますね。試合が終わった後に、日向さんの原型が残っていればいいんですけど」


霧島:入場テーマ「KoRn/Right Now」

https://www.youtube.com/watch?v=VRPxao3e_jY


明石「本能のままに戦うリアルバーサーカー! 深海棲艦デスマッチを経て、ソロモン海の喧嘩屋が更に凶悪さを増して帰ってきた!」

明石「やることはただ1つ! 殴って、殴って、殴り倒す! 喧嘩とは、殺し合いとはこういう風にやるものだ!」

明石「誰であろうとリング上でぶっ殺す! ”血染めの狂犬” 霧島ァァァ!」

香取「ホント、メガネを外すと霧島さんは別人ね。以前と比べて一層凄みを増したんじゃないかしら」

明石「深海棲艦デスマッチを経験し、心身ともに変化があったという霧島選手ですが、香取さんはどう見られますか?」

香取「目付きの悪さが一次元上のステージに入ってる、って感じね。前はイカれたチンピラみたいな印象だったけど、今は凶悪な殺人鬼に見えるわ」

香取「デスマッチの戦場で、UKF以上に血の匂いを嗅いできたんでしょう。恐ろしい方向に成長を遂げてしまったわね」

明石「霧島選手と言えば喧嘩殺法で有名ですが、そのファイトスタイルに変化はないとお思いですか?」

香取「……変化はあるでしょうね。喧嘩と殺し合い、ルール無用の戦いという共通点はあるけど、性質としては全く異なるものよ」

香取「路上の喧嘩で勝つのに重要なのは躊躇いのなさ。相手より少しだけ残酷で、なおかつ先手を取りさえすれば大抵は勝てるでしょう」


香取「でも、今の霧島さんは喧嘩じゃなく、殺し合いに臨む覚悟で来ている。命のやり取りなら、求められるのは冷徹さになってくるわ」

香取「今の霧島さんは狂犬というより、血に飢えた狼に見えるわね。この上なく残酷で、それでいて氷のように冷徹な殺意を放っているの」

香取「技量は日向さんのほうが圧倒的に上だけど、今の霧島さんは何をしてくるかわからないわ。きっと一筋縄ではいかないでしょう」

香取「対戦カードを聞いた直後は日向さんの勝利は揺るがないと思ってたけど、怪しくなってきたわね」

明石「霧島選手が何をしてくるか……という点が勝敗を分ける、と見ていいんでしょうか」

香取「そうなるわね。殺し合いを知った霧島さんが何をするのか。そして日向さんはそれにどう対応するのか」

香取「ファイターとしての性質は真逆同士の対戦、どういう結末を迎えるのかしらね」

明石「ありがとうございます。さあ、両者リングイン! リング中央で激しい視殺戦が繰り広げられています!」


明石「震え上がるような殺意を込めてガンを飛ばす霧島選手! それを悠然と受け止める日向選手! どちらも視線を切りません!」

明石「レフェリーの妖精さんにより、ようやく両選手が引き離されます! 柔術家VS血に飢えた喧嘩屋、勝負を征するのはどちらか!」

明石「ゴングが鳴りました、試合開始! 両選手が颯爽と……いや! 霧島選手が先に仕掛ける! コーナーから勢い良く飛び出した!」

明石「いきなり振りかぶってワイルドパンチ! か、カウンターが決まったァァァ! 日向選手、躱しざまに顎へ左フック! 綺麗に決まりました!」

明石「早くも日向選手が主導権を……いや、霧島選手が崩れていない! 猛然と打ち返した! 日向選手、辛うじてパンチをガード!」

明石「続けて霧島選手、強烈なフックのラッシュを繰り出す! 先ほどのクリーンヒットが嘘のように、まるでダメージの色がありません!」


香取「デスマッチの経験のおかげね。きっと、霧島さんはその戦いの中で、何度も殺されかけたんでしょう」

香取「一度崩れれば、そこに付け込まれて殺される。それを学習したからこそ、ダメージへの覚悟が生まれ、覚悟は打たれ強さとなって現れてるのよ」

香取「後はアドレナリンね。命懸けの戦いとなれば、脳内麻薬はフルに分泌されていることでしょう。そうそうの打撃じゃ沈みそうにないわね」

明石「霧島のラッシュが続く! 日向選手、ガードとフットワークで耐え忍んでいますが、徐々に押されて来ている!」

明石「スタミナ配分など知ったことかと言わんばかりに霧島が殴る、殴る! 日向選手、反撃に移れな……いや、再びカウンター!」

明石「霧島の右ストレートに合わせた右フック! 再び霧島選手がよろめくも、すぐに体勢を立て直して打ち返す! やはりダメージがない!」

明石「プロボクサー級の鋭いフック! 日向、これをダッキングで躱した! 起き上がりざまにアッパーカットォォォ! またもや綺麗に決まった!」

明石「霧島、やや後方によろめく! しかし踏み止まった! 前進と同時に、今度はミドルキックを放つ! 日向、難なく肘でブロック!」


明石「逆に踏み込んでレバーブロー! 霧島、かすかに表情を歪ませるもお構いなし! 再び拳を振り上げる! なおもパンチで倒すつもりだ!」

明石「試合始めと全く勢いの変わらぬラッシュ、ラッシュ! しかし当たらない! 日向選手、見事なボクシングテクニックでこれを防いでいる!」

明石「序盤に打ち込まれていたのは何だったのか! 霧島の打撃がまるで通用しなくなりました! 全てのパンチを防ぎ、なおかつ正確な反撃!」

明石「状況は一転! 打撃戦の主導権は日向選手に移りました! 霧島選手の顔面がみるみるアザだらけになっていきます!」

香取「日向さんが最初に打ち込まれていたのは、きっと霧島さんの動きを観察したかったんでしょう。やっぱり、霧島さんに技術はないみたい」

香取「本能に任せた攻撃はどうしても単調になりがちね。格闘技はそうした攻撃を制するための技術。一流のファイターに喧嘩殺法は通用しないわ」

香取「あの打撃に耐え続けている霧島さんは凄いけど、このままじゃジリ貧ね。スタミナの消耗も、霧島さんのほうが大きいでしょう」

明石「確かに、霧島選手は大振りの打撃を尽く防がれ、なおかつ無数のパンチを食らっています! ここに来て、とうとう息が上がってきた!」


明石「日向選手は最小限の動きで攻撃を防ぎ、なおかつ反撃を繰り出している! 余力は十分残しています!」

明石「このままでは霧島選手の敗北は明らか! さあ霧島選手はどう出る! やはりパンチを繰り出……いや、タックルに行った!」

明石「パンチをフェイントに使い、日向選手にスウェーバックを取らせてからの胴タックル! 早い! 見事にテイクダウンを取った!」

明石「霧島選手、初めて格闘技術らしきものを見せました! 状況はグラウンド戦に移行! 霧島、ここから日向をどう仕留める!」

香取「うーん、タックルは上手だったけど、この状況ってどうなのかしら。私には、日向さんに誘い込まれた感じがあるんだけど」

明石「誘い込まれた? それはどういう……」

香取「試合前に言ったけど、日向さんのボクシング技術はあくまで寝技に引き込む補助でしかないの」

香取「さっきの打撃戦も、決めに行こうとはせず、ただ霧島さんにダメージを与えて追い込むのが目的だったように見えたわね」

香取「打撃で勝てないとなれば、テイクダウンを取るしかない。そうやって敢えて相手のタックルを受けて、グラウンドに持ち込んだのよ」


香取「グラウンド戦は日向さんの土俵。ほら、あっという間にガードポジションに入ってる。霧島さんは悪手を引いたんじゃないかしら」

明石「なるほど、確かに霧島選手、トップポジションを取るも、胴を足で挟み込まれて身動きが取れない! 顔面を殴りに行けません!」

明石「ならば、狙うのはボディ! 喧嘩屋の右拳が日向選手のボディに振り落とされ……いや、防がれた! 腕を抱き込まれてしまいました!」

明石「更に左腕も抱き込まれ、完全な密着状態! この体勢は日向選手にとっての勝ちパターン! さあ、ここから戦慄の寝技が霧島を襲う!」

明石「狙うは三角絞めか、腕十字か! 胴を挟み込む足が徐々にせり上がって……おっと、ここで霧島が動いた!」

香取「ああ、やけに大人しいと思ったら、消耗したスタミナを回復させてたのね。ここからどう反撃するのかしら」

明石「まるで猛獣のごとく、日向選手の懐でもがいている! しかしホールドは完璧! 腕も足もまったく動かせません!」

明石「しかし動きが激しすぎる! わずかながら拘束が緩みました! だが脱出には至らない! このまま絞め技の餌食に……うおっ!?」

香取「あら、やっぱりそういう攻撃を学んじゃったの」

明石「か、噛み付きぃぃぃ! ひゅ、日向選手の喉笛に噛み付こうとしました! これは危ない! 日向選手、腕で押しのけて噛み付きを回避!」


明石「しかし、霧島の腕を自由にしてしまった! パンチがボディに降ってくる! 日向選手、これを辛うじてブロック!」

明石「続けざまにボディへ拳が叩き込まれる! 密着して打撃を防ぎたいところですが、あの噛み付きがそれを許さない!」

明石「今度は日向選手のほうがジリ貧か! 霧島選手のパンチは強力です! ガードポジションからとはいえ、着実に日向選手の体力を削っている!」

明石「このまま霧島は削り切る気か! スタミナは完全に回復させた模様、猛然とラッシュを叩き込んでいる! 日向選手、防ぎ切れない!」

香取「ガードの空いたところに、片っ端からパンチを入れてるわね。強引だけど、ガードポジションの攻略法の1つよ」

香取「霧島さんは経験則でこの攻め方を知ったんでしょう。これをやられると、柔術家は結構苦しいのよね」

香取「ここからの攻防が重要ね。噛み付きがあるから密着はできない。密着できないとなると、技が掛けられないわ」

香取「かといって、霧島さんも隙を見せれば関節を極められるでしょう。どちらも下手に動けないわね」


明石「さあ、日向選手の表情が苦しげになってきました! 対する霧島、鬼の形相で拳を打ち続けている! 底なしのスタミナです!」

明石「このままだと日向選手の体力が先に尽きてしまう! さあ、どうする初代戦艦級王者! あっと、霧島選手が腕を取られた!」

明石「再び日向選手、腕を抱き込んでの密着を図る! やはり打撃に耐え兼ねたか!? 一か八か、再び絞め技を狙う気だ!」

香取「あら、それはまずいんじゃないかしら……」

明石「またも両選手、密着状態! 足がせり上がる! 間に合うか! いや、間に合わない! 霧島、とうとう噛み付いたァァァ!」

明石「狙いを変え、噛み付きやすい右の鎖骨に噛み付いた! みるみる道着に血が滲む! これはまずい! 堪らず日向選手が引き剥がしに掛かる!」

明石「腕のホールドを解き、手を差し込んで霧島を押しのけようとしています! しかし離れない! 狂犬霧島、一度捉えた獲物は決して逃さない!」


明石「更に流血が広がっていく! 霧島選手、血染めの狂犬の名に違わぬ凄惨な戦いぶり! このまま鎖骨を噛み砕く気だ!」

明石「日向選手はなおも手で押しのけようとしていますが、功を奏さない! 日向選手、絶体絶命か!」

香取「えっと、絶体絶命なのは霧島さんのほうじゃないかしら」

明石「骨の軋む音が聞こえてきそうです! 激痛に日向選手の表情が歪み……香取さん、今なんて言いました?」

香取「絶体絶命なのは霧島さんのほう、って言ったのよ。今、技を掛けているのは日向さんなんだから」

明石「はい? だって、日向さんは防戦一方……いや、違う!? 日向選手は霧島を押しのけようとしているわけではない!」


明石「日向選手、手に自分の道着の襟を掴んでいる! 押しのけるのではなく、下から霧島の頸動脈に道着の襟を巻きつけているのです!」

明石「柔術独特の、道着を使った絞め技です! まさか日向選手、これを狙って敢えて噛み付かせたのか!」

香取「そうなんでしょうね。霧島さんの咬筋力は強そうだから、本来なら既に鎖骨を噛み砕かれてるはずよ」

香取「でも、そうなっていないのは、初めから日向さんがこの絞め技を狙っていたからでしょう。噛み付かれると同時に、道着で首を絞めたのよ」

香取「頸動脈を絞められれば、脳に血が行かなくなって全身の力が抜けるわ。噛み付きの威力もそれで弱まっているんでしょう」

明石「まさしく戦艦級初代王者の名に恥じない、勝利への執念! 霧島選手、よく見れば既に顔色がどす黒く鬱血している!」


明石「いや、これは……あっ、日向選手が払いのけるように霧島を押した! 霧島選手、力なくリング上へ横たわりました!」

明石「か、完全に落ちている! まさか、意識を失ってもなお噛み付き続けていたのでしょうか! こちらも恐るべき勝利への執念です!」

明石「しかし、もう霧島選手は動かない! 日向選手、右腕をかばいながらゆっくりと立ち上がります!」

明石「ゴングが鳴りました、ここで試合終了! 最後までリングに立っているのは、初代戦艦級王者、日向選手です!」

明石「予想以上の激闘となりましたが、最後は技術と執念で勝利を収めました! 勝ったのは日向、日向選手です!」


香取「霧島さんは十分強かったと思うけど、相手が悪かったわね。やっぱり凶暴さだけじゃ、トップファイターの牙城は崩れないみたい」

明石「かなりの死闘となりましたが、香取さん。日向選手の勝因は何だったと思われますか?」

香取「技術もそうだけど、一番はあの状況で冷静さを失わない精神力かしら。ここは初代王者の貫禄を見せたと言ってもいいでしょう」

香取「ストリートファイトにおいて、何の技術も持たない暴漢に格闘家が負けることは珍しくないわ。その原因は、恐怖で相手に飲まれてしまうからよ」

香取「日向さんにそんな弱さはないわね。彼女より強いっていう伊勢さんの実力にも、これで十分期待が持てるようになったんじゃないかしら」

明石「ありがとうございます。それでは皆様、両選手の健闘を讃え、今一度拍手をお願い致します!」


試合後インタビュー:日向

―――試合をしてみて、霧島選手をどのように思いましたか?

日向「いやあ、恐ろしいやつだったよ。前の大会に出てたビスマルクといい、最近は噛み付き攻撃が流行っているのかい?」

日向「喉元を狙われたときはヒヤリとしたけど、学んだ技術に救われたよ。楽勝とまでは行かなかったけどね」

日向「まあ、柔術の強さはそれなりに示せたと思うから良かったよ。できれば無傷で勝ちたかったが、今回はこれで良しとするよ」

―――伊勢選手に何かメッセージはありますか?

日向「そうだな……おそらく本戦には、霧島以上に強い選手が当たり前のように出てくるだろう」

日向「だが、恐れることはない。君は私より強いんだ。長門を相手にしようとも、必ず君が勝つ。必ずだ」

日向「自信を持ってトーナメントに臨んでほしい。私は伊勢が艦娘最強の座に輝くことを、心から信じてるよ」


試合後インタビュー:霧島

霧島「クソがァァァ! ふざけんなよあの柔術女よぉ! デスマッチならテイクダウン取ったときに終わってんだよ!」

霧島「いいか!? デスマッチは路上でやるんだよ! わかるか? 床はコンクリートなんだからよお、叩き付けてやればそれで殺せるんだよ!」

霧島「なんでここのリングはあんなに柔らけえんだよクソが! 本当なら頭ぶつけてやった時点で脳みそぶちまけてるるんだよ、あの女は!」

霧島「リングをコンクリート製に変えやがれ! そしたらあいつの頭、粉々にブチ割ってやれるんだ! 何ならてめえで試してみるかオラァ!」

(取材班の逃亡により、インタビュー中止)


明石「皆様、お疲れ様でした! これにて本日の日程を終了させていただきます!」

明石「本戦放送日は未定となっていますが、おそらく2,3週間後になることと思われます!」

明石「なるべく早めに放送できるよう急いで準備させていただきますので、どうか今しばらくお待ちください!」

香取「大会運営委員長の調子次第ね。どうかしら、そっちのほうの調子は」

明石「かなりいいそうです。保険手当をつぎ込んで輸入した薬がよく効いているそうで」

香取「……何の薬なのかしら」

明石「10種類くらい飲んでるので、もうどれが何の薬かはわからなくなったとのことです」

香取「ああ、そう……調子がいいなら、それでいいわ」

明石「それでは、Aブロック1回戦にてお会いしましょう! それでは、さようなら」

香取「さようなら。また次回もよろしくね」


―――第三回UKF無差別級グランプリ。最強の艦娘を決める戦いの火蓋が今、切って落とされようとしている。

―――怪物、魔人の蠢くAブロックはいかなる死闘になるのか。放送日、現在調整中。

動画にも使用した、見やすいトーナメント表の画像を用意しました。欲しい方はどうぞ。

古代ローマ帝国と神聖ローマ帝国は別物ですよ

衣服を着用している相手に噛み付きは愚策とか言われるけど、
剥き出しの部位を狙う場合はまだ有効だったのか。

>>78
ご指摘ありがとうございます。同じものだと思ってました。歴史関連は疎いので、そこら辺はもうちょっと詳しく調べておきます。

>>79
軍隊格闘での噛み付きは敵を仕留めるのではなく、戦意を挫くために用いるのが基本です。
推奨される部位は鼻か耳、絞め技から抜けるときには腕、指を狙うこともあり、それ以外の箇所は有効でないためほとんど狙いません。
範馬勇次郎さんはああ言ってますが、着衣はあんまり関係なかったりします。
最近バキを読み返して、板垣さんは現実の格闘技にはあんまり詳しくないんじゃないかと思うようになりました。

放送予定日が決まりました。

6/12(日)22:00 Aブロック1回戦

戦艦級”不沈艦”扶桑 VS 戦艦級”死の天使”大和

正規空母級”緋色の暴君”赤城 VS 軽巡級”堕天のローレライ” 那珂

戦艦級”闘神”ローマ VS 戦艦級”黒鉄の踊り子”戦艦棲姫

軽巡級”インテリジェンス・マーダー”大淀 VS 正規空母級”キリング・ドール”グラーフ・ツェッペリン


エキシビジョンマッチ候補も同時発表します。

ビスマルク同様グラ子に不穏な空気しか感じない
またも俺の嫁艦が怪物と化してしまうのか・・・

>>85

ご心配なく。グラーフ・ツェッペリンはこちらの言うこともちゃんと聞いてくれる、素直で良い子です。

ギリギリですが、どうにか予定日時に放送できる見込みです。

ネタバレ:大淀と那珂ちゃんが大活躍

申し訳ありません、急遽用事が入ってしまいました。ちょっとだけ放送時間をずらさせてください。

23:00より放送開始に変更させていただきます。

これ以上の延長は無理です。なぜなら、今この時点で大会運営委員長はすごく眠いからです。

今回は試合の1つ1つが長めです。ただ、そのぶん前回より内容は濃くなっているはずです。

何時に終わるかはよくわかりません。寝落ちしないよう頑張ります。

~放送準備中~


大会テーマ曲
https://www.youtube.com/watch?v=7IjQQc3vZDQ


明石「皆様、お待たせいたしました! これより第3回UKF無差別級グランプリ、Aブロック1回戦を行います!」

明石「実況はお馴染みの明石、解説兼審査員長には香取さんをお呼びしております!」

香取「香取です。副審査員長の鹿島もよろしくね」

明石「本日の日程はAブロックの計4試合、その後にエキシビジョンマッチの出場候補者が発表されます!」

明石「エキシビジョン候補者には本日のAブロック、およびBブロックの1回戦敗退選手も含まれるので、それも踏まえて試合結果にご注目ください!」

明石「前回の開幕イベントでご覧になった通り、今大会の対戦カードはランダム抽選によって組み合わせを決めております!」

明石「好勝負を引いた選手もいれば、ハズレとも言えるカードを引いてしまった選手もおります! 集った群雄16名、うち4名が今日消える!」

明石「結果は終わってみなければわからない! 最初の運命の分かれ道となるAブロック1回戦、これより開幕です!」

明石「それでは第1試合を始めさせていただきます! 赤コーナーより選手入場! 彼女がいなければ、このグランプリは始まらない!」


試合前インタビュー:扶桑

―――無差別級グランプリに参加するのは、この大会が最後になるとの話を伺いましたが、それはどういうご理由でしょうか。

扶桑「山城とそんな約束をしてしまいまして。今回のグランプリ参加にも、あの子はずいぶんと反対してたんです」

扶桑「前回も、前々回も私は途中で負けましたから……そのときの私の姿が、あの子にはひどくショックだったんでしょうね」

扶桑「どうしても私の参戦を認めてくれなくて、色々話し合った結果、これを最後にするって条件で山城を納得させました」

扶桑「それでも、結局最後には山城を泣かせてしまったのですけど……あの子には心配かけてばかりですね、私」

―――優勝できる自信はありますか?

扶桑「あります。今の私は、以前よりずっと強い。もう誰にも負けない自信があります」

扶桑「私は1人で戦っているわけではないんです。山城と、そして最も長門さんに近い実力を持っている、武蔵さんが私の側にいます」

扶桑「ずっと武蔵さんと鍛錬を繰り返してきて、最近、ようやく武蔵さんに勝てるようになりました。だから、長門さんにも勝てます」

―――武蔵さんとはどのようなトレーニングを積まれてきましたか?

扶桑「詳しくは秘密ですけど……組手がほとんどでした。あらゆるケースを想定した、実戦形式の練習をとにかく繰り返してきました」

扶桑「私は要領が悪いので、武蔵さんには随分と手間を掛けさせてしまって……彼女には感謝してもし切れません」

―――最後に大会への意気込みをお願いします。

扶桑「……今まで何度も敗北を繰り返して、ここまで来ました。これ以上、私に敗北は必要ありません」

扶桑「どんな相手にも私は負けない。このグランプリは、私にとって最後の戦場です。必ず、優勝を勝ち取ります」


扶桑:入場テーマ「Chthonic/Broken Jade」

https://www.youtube.com/watch?v=heF_NPJbv8Y


明石「前々大会準優勝! 前大会3回戦進出! 伝説的な名勝負を演じながらも、優勝にはわずか及ばず! しかし、未だ闘志の炎は消えていない!」

明石「目指すは最強! 諦めを拒絶し、弛まぬ研鑽と克己の道を歩み続けた不屈のファイターは、最後の舞台で栄光を手にすることができるのか!」

明石「勝利と奇跡は、己の力で掴み取る! ”不沈艦”扶桑ォォォ!」

香取「いきなり扶桑さんの登場ね。彼女はグランプリの挑戦に関しては、これで最後にする覚悟を決めているみたい」

明石「それは、この大会が終わったら引退するということなのでしょうか?」

香取「そこまで明言はしていないけど、少なくとも、仮に第4回目のグランプリが開かれたとしても、彼女はそこに参加しないということ」

香取「この大会を自分にとっての最後の挑戦にするつもりでしょう。だけど、それは彼女の戦いへの意志が薄れたからってわけじゃないわよ」

香取「これを最後にするということは、自分自身へのけじめなんだと思うわ。負けても次がある、なんてことを考えたくないんでしょう」

香取「扶桑さんは、この大会に己の全てをぶつけてくる。優勝への意気込みは出場者の中の誰よりも強いわよ」

明石「そうですよね。それに扶桑選手は今大会に向けて、前大会準優勝者の武蔵さんをスパーリングパートナーとして練習に打ち込んできたそうです」

明石「その過程で、武蔵さんに実戦形式の練習試合で勝ったとか……実力は以前より遥かに増している、と考えるべきでしょうか」

香取「間違いなくそうね。扶桑さんは試合を重ねる度に強くなってきたわ。あの武蔵さんに勝ったとなれば、長門さんにも大きく近付いたということ」


香取「扶桑さんは空手と柔道をバックボーンにしたファイトスタイルだけど、フットワークが苦手という欠点を抱えていたわ」

香取「対して、武蔵さんはフットワークにおいてトップクラスの技量を持つ。武蔵さんがフットワークを扶桑さんに教えないはずがないわよね」

香取「もしかしたら、ボクシングテクニックの一部も伝授したかもしれないわ。扶桑さんの戦い方は、以前と比べて少なからず変化してるでしょう」

明石「空手、柔道に加えてボクシングですか。技のバリエーションが大きく広がったと考えるべきですかね」

香取「そうね。ただ、扶桑さんは空手家でも柔道家でもなく、ましてやボクサーになる気もない。強くなるための手段として学んでいただけよ」

香取「扶桑さんの強さは技やフィジカルよりも、やっぱり精神性と戦略眼。どんな逆境でも冷静に状況を判断し、常に最善手を選び抜く」

香取「そういう戦い方において、技の選択肢が増えたのは大きな強みね。足回りの弱点まで消えれば、もはや扶桑さんに不安要素はない」

香取「扶桑さんはどんな相手にだって十二分に戦えるでしょう。たとえ、相手がデスマッチの王者となった最強の柔道家でもね」

明石「ありがとうございます。さて、続いて青コーナーより選手入場! 無冠の帝王が前大会の屈辱を晴らしにやってくる!」


試合前インタビュー:大和

―――しばらく山篭りをしていたとのことですが、そういった修行を経て、何か自分自身への変化はありますか?

大和「色々ありますが、なんて言えばいいのか……執着心がなくなった、というのが一番大きな変化でしょうか」

大和「以前の私は勝ちたいと思って戦っていました。山に篭ってみて、そういう気持ちは勝負において邪念に繋がることに気付いたんです」

大和「勝利に執着するからこそ、戦いの最中で勝ちを実感した瞬間、隙が生まれてしまう。前回の長門さんにはそのせいで敗北しました」

大和「今の私にそういう気持ちはありません。いえ、勝ちたくないっていうわけではないんですよ」

大和「ただ、勝負に臨む以上、勝つのは当たり前というか……もう何があっても負ける気がしないんです」

大和「相手がどう動くのかもよく見えますし、自分が何をすべきかも自然にわかります。いえ、思うより先に体が勝手に動くと思います」

大和「自分の負ける姿がどうしても思い浮かびません。何だか不思議な気分です」

―――対戦相手の扶桑選手にはどう見られていますか。

大和「とても強い方だとは思います。ただ、私ほどではありません」

大和「彼女も柔道を嗜んでいるとお聞きしていますが、少なくとも、私にその技は通用しないと思っていただきたいですね」

大和「この大会では、自分がどの領域にいるのか確かめにきました。扶桑さんに勝てば、その一端がわかるように感じています」


大和:入場テーマ「大神/太陽は昇る」

https://www.youtube.com/watch?v=aH8HIebZlyg


明石「最強の格闘技とは柔道なり! 今ここに、最強の柔道家がそれを証明しにやってきた! デスマッチ王者、UKFに再挑戦!」

明石「無冠の帝王に2度目の敗北は有り得ない! 全てのファイターを投げ落とし、汚名返上を果たしてみせる!」

明石「実戦柔道の恐怖、今一度思い知れ! ”死の天使” 大和ォォォ!」

香取「初戦から大物同士の対戦ね。前回は初戦敗退だったとはいえ、大和さんは組み技において絶対的な技量の持ち主よ」

香取「総合格闘における組み技の重要性は誰もが知るところ。着衣ありとなれば、これほど彼女に有利な舞台はないでしょう」

明石「長門選手に敗北後はしばらく山に篭って修行してきたそうですが、印象の変化などは見られますか?」

香取「そうね。以前にも増して落ち着いているというか……悟りを開いた、って感じかしら」

香取「とても穏やかに見えるのに、立ち姿にまるで隙がないわ。行住坐臥、常在戦場っていう言葉がぴったり来るわね」

香取「精神面において、更に上の次元に到達してしまったんじゃないかしら。こういう相手はかなり厄介よ」


明石「以前は一瞬の隙を突かれて敗北、という形でしたが、そういうことはもう有り得ないということになりますかね」

香取「まずないでしょう。慢心や動揺を誘う戦術は通用しないんじゃないかしら。柔道の欠点である、打撃対策も万全でしょうし」

明石「元々大和選手は、打撃を投げや関節技に持ち込むのが得意でしたよね。長門選手もその点で苦戦されました」

香取「ええ。どんな選手でも、打撃技を放つ瞬間は姿勢が崩れる。大和さんはその瞬間を狙って投げ技を繰り出すわ」

香取「当然、組み合うのもまずいわね。道着の掴み合いになれば、間髪入れずに投げられると思ったほうがいいでしょう」

香取「普通の格闘家は相手の体勢を崩してからでないと投げられないけど、大和さんは投げる動作がそのまま崩しになっているの」

香取「だから組めば即、投げ落とされる。投げ落としを耐えても、柔道には寝技、固め技も豊富にある。グラウンドも大和さんの土俵ね」

香取「大和さんは実戦柔道の使い手だから、投げるときは受け身が取れないよう頭から落とすし、極めれば即折りにくるわ」

香取「文句なしの強敵よ。UKFでの実績が少ないとはいえ、勝つ見込みのある選手はごく一部の実力者に限られるでしょう」


明石「扶桑選手も柔道の技を使いますが、それらは大和選手には通用しないと見るべきでしょうか」

香取「そりゃあそうでしょう。柔道の段位で表わせば、扶桑さんと大和さんじゃ2つか3つくらい違うはずよ」

香取「扶桑さんは組み合うわけにはいかないわね。この試合で重要なのは間合い取りよ。いかに距離を置いて、近付かずに戦うかがポイントね」

明石「となると、構図としては打撃対組み技、ということになりますね」

香取「というよりは、そうならざるをえないでしょう。技量で上を行かれている以上、扶桑さんは組み技を捨てて、打撃勝負に出るしかないわ」

香取「扶桑さんの打撃とフットワークがどれだけ成長してるかが勝機の分かれ目ね。ボクシングって、柔道家相手には最適な格闘術だし」

香取「空手もそうだけど、特にボクシングは常に中距離の間合いを維持して戦うもの。そう来られると、大和さんにはやりにくいはず」

香取「引きが速くて腕を取られにくいジャブも有効ね。もっとも、扶桑さんが本当にボクシングをできるかどうかはまだわからないんだけど」

香取「扶桑さんのことだから、色々作戦は立てているでしょう。どういう風に攻めるのか、私もとても楽しみだわ」


明石「ありがとうございます。さあ、両選手がリングイン! 静かな視線で相手の表情を伺っております!」

明石「奇しくも古代日本の名を背負う者同士の対決! 共に優勝への期待が大きい選手でもあります! 激戦にならないわけがない!」

明石「初戦から会場も沸いている! そんな歓声も意に介さず、両者は平静を保ったままコーナーに戻ります!」

明石「不屈の戦艦と柔道王、強いのはどっちだ! 今、その答えが明らかになる! ゴングが鳴りました! 第1試合、開始です!」

明石「先に出て行くのは大和選手! ゆったりとした足取りで開手を前に出しました! 柔道の右自然体の構えを取ります!」

明石「少し遅れて扶桑選手もリング中央へ! 今までと構えが違います! 軸足を変えたサウスポーの……えっ、嘘でしょ!?」

香取「……ちょっと、扶桑さん。何を考えてるの?」


明石「な……なんと! 扶桑選手、開手で構えた! 大和選手と同じく右自然体! 柔道の構えを取っています!」

明石「これが意味するのはつまり……大和選手と柔道で勝負を挑むという意思表示か! あまりに無謀な選択です!」

明石「平静を保っていた大和選手も、少々驚いた表情を見せています! まさか、自分に柔道で挑もうとする者が存在するとは!」

香取「もしかしたら、罠かもしれないわね。扶桑さんが本気で柔道で勝てると思ってるとは考えにくいわ」

明石「さすがに警戒しているのか、大和選手は前に出ません! 対する扶桑、躊躇なく前進! 大きく間合いを詰めました!」

明石「拳の射程をあっさり越えて、いつでも掴み合いに入れる距離まで近付いてしまいました! 共に構えは維持したまま!」

明石「お互いに技を掛け合える間合いですが、ここに来て扶桑選手の動きが止まった! 自分からは仕掛けようとしません!」


明石「明らかに大和選手に仕掛けさせようとしています! 掴んでこいと誘っている! 投げてみろと挑発しているかのようです!」

香取「一度掴まれたら、もう逃げられないわよ。叩き付けられて、寝技に持ち込まれて極められるわ。何を狙っているの……?」

明石「大和選手も動きません! これは警戒せざるを得ない! いくら技量で上回るとはいえ、この誘いに乗るのは危険だ!」

明石「至近距離で対峙してから、30秒が既に経過しています! どちらも動かない! 根比べの様相を呈してきました!」

明石「一体、両者にはどのような思惑と葛藤があるのか! 極限に張り詰めたこの空気、破るのはどちらだ! 扶桑か、それとも大和か!」

明石「動いた! 大和選手です、大和選手が襟を掴む! そのまま払腰……肘打ちィィィ! 扶桑が肘を振り下ろしました!」

明石「襟を掴みにきた手を狙った肘の打ち下ろし! 大和選手、寸でのところで襟を放して回避! 一旦距離を取ります!」


明石「これが狙いだったのか、扶桑選手! あえて掴ませ、懐に肘を落とし手を砕く! 柔道家最大の武器を奪う、非情なる作戦です!」

香取「利き手を壊されれば、柔道の技はほとんどが使用不可になるわ。柔道家対策としては最も理に適ったものね」

香取「だけど、さすがに読まれてたみたい。ここからはどうするのかしら」

明石「仕掛けた罠は不発に終わりました! 大和選手は再び右自然体の構えを取ります。もう同じ手は通用しない!」

明石「扶桑選手、次の一手は何を打つ! これは……またしても右自然体!? なおも柔道を構えを取りました!」

明石「一体何を考える、扶桑選手! あまりにもあからさまな誘いに、大和選手もわずかに顔をしかめた! 真意を図りかねているようです!」


明石「距離を詰めてくるのはやはり扶桑! 先ほどと同じ、至近距離まで一気に近付いてきました! 同じことをするつもりか!?」

香取「そんなわけがない……少しだけ扶桑さんの考えが読めてきたわ。心理戦に持ち込むつもりね?」

香取「次の一手を相手に考えさせて、本来の実力を発揮させないようにしてるんだわ。でも、大和さんにそんな小細工が通じるかしら」

明石「再び至近距離内で睨み合いが始まりました! 先ほどは敢えて手を出した大和選手、次はどのように行動するか!」

明石「あっ、掴みにいった!? いや、フェイントです! 掴むふりをしただけ! 扶桑選手、反射的に肘を振りかぶってしまいました!」

明石「またもや同じ罠、しかも中身を暴露されてしまった! 純粋な技量だけでなく、試合巧者としての格まで大和は上だというのか!」

明石「苦しい展開になりました、扶桑選手! 小細工は通用しない! 作戦の切り替えが求められる状況です! 今度はどう攻めていく!」


明石「……またも右自然体!? 3度に渡って柔道の構えです! これは不可解! もう小細工は通用しないと証明されたはず!」

明石「扶桑選手が意味もなく不可解な行動をするはずはない! しかし、我々ではその意図を察することはできそうにありません!」

明石「理解できる者がいるとすれば、他でもない対戦相手の大和選手! ここまで来ると、もはや構えに対する驚きはまったく見られません!」

明石「静かな瞳で扶桑選手を見つめている! 心を見透かすような目です! やはり、彼女だけは扶桑の考えを読んでいるのか!」

香取「……オオカミ少年の原理を狙っているわけではないでしょうね。あまりに安直すぎるし、そんなに浅い考えをしてるはずがない」

香取「ただ惑わそうとしてるだけなのか、別の何かを狙っているのか……大和さんを見誤っているんじゃないでしょうね」

明石「やはり扶桑選手からは動かない! どう出る、大和! あっ……手を降ろした! 大和選手が構えを解いた!?」


明石「構えを解いたまま、1歩前進! これは……今度は逆に大和選手が挑発しています! 襟を掴んで投げてみろと誘っている!」

明石「扶桑選手は接近を嫌うかのように1歩後退! だが、即座に大和選手が詰めてくる! 次はお前の番だとでも言いたげです!」

明石「逆に心理戦を仕掛けられる側になってしまいました、扶桑選手! 実質、主導権を握られている! この状況をどう打開する!?」

香取「ここが勝負の分水嶺になるわね。扶桑さんが正しい選択をできるか否かで、全ての趨勢が決まるわ……!」

明石「どうする扶桑! この挑発にどう応える! う……動いた! 扶桑選手、掴みに行かず左の直突きを放った!」


明石「不意を突かれたか、大和選手、ボディに食らってしまった! 腰が引けて崩れたところに、扶桑が入り込む! 投げる気だ!」

香取「……あの直突きは入っていないわ! 腰を引いて受け流されてる、投げてはダメ!」

明石「襟を取った! 体を沈み込ませて一気に投げ……あっ!? 投げ技じゃない! ず、頭突きを食らわせたぁぁぁ!」

香取「まさか、全部作戦!?」

明石「体を沈ませたところから、立ち上がり様に頭頂部で大和選手のあごを突き上げた! こ、これは効いている! 大和選手の構えが崩れた!」

明石「そ、そして今度こそ投げたぁぁぁ! 背負い投げ炸裂! 扶桑選手、柔道王大和を投げ落としてみせました!」


香取「ここまで読んで……いえ、違うわ。きっと何パターンも作戦を立ててたのよ。扶桑さんは相当準備をして試合に臨んでる……!」

明石「マットに叩きつけられた大和選手! 受け身は取れたようですが、扶桑選手の攻撃が終わっていない! 関節技を仕掛けにいきました!」

明石「う、腕十字です! これが極まれば勝利はほぼ確定! 一気に逆関節を伸ばしに掛かる! が……大和選手、さすがに対応が速い!」

明石「瞬時に腕をクラッチして防御! そのまま一気に身を捻る! なんと、するりと腕十字から抜け出してしまいました!」

明石「逃すまいと扶桑選手が迫りますが、大和選手のほうが速い! 扶桑に覆い被さった! 逆にサイドポジションを奪ってみせました!」


明石「柔道王、恐るべし! ここまでグラウンドの攻防が磨かれているとは! 形勢は一点、大和選手に傾いております!」

香取「やっぱり技量差があり過ぎるわ。腕を折って柔道技を封じたかったんでしょうけど、関節技を仕掛けるのは悪手だったみたいね」

明石「大和選手がまず狙うのはアームロック! 扶桑選手、腕を取らせまいとポジションを移動させますが、その動きも大和は読んでいる!」

明石「寝技の攻防は大和選手の本領! 簡単には逃しません! 扶桑選手の抵抗を捌きつつ、とうとう腕を取った!」

明石「一気に逆関節を捻じり上げる! 腕を折らせまいと、扶桑選手は大和に合わせて身をよじる! 辛うじて骨折を免れています!」

明石「何とか寝技から逃れ、立ち上がりたい扶桑! しかし大和はそれを許さない! 体勢をマウントポジションに移しました!」


明石「状況は刻一刻と扶桑選手にとって不利になっております! 大和選手、即座に絞め落としに掛かった! 奥襟を取った両手絞めです!」

明石「頸動脈がみるみる圧迫される! 扶桑選手危うし! 絞めから逃れようと、腕を押しのけようとしていますが、やはり離してはくれない!」

香取「……下から殴らないの? 何かおかしいわね……」

明石「しかも、その腕を大和選手に取られた! 両手絞めで決めきれないと見るやいなや、即座に腕十字に移行! 扶桑の腕を折りに掛かる!」

明石「いや、ギリギリで扶桑選手の反応が間に合いました! 技を掛けられる前に体を反転! 腕は取られたままですが、立ち上がることに成功!」

明石「だが腕を離してもらえない! な、投げたぁぁぁ! 秘技、山嵐! 伝説の柔道技が炸裂してしまったぁ!」


明石「マットを揺るがす勢いで叩き付けられました、扶桑選手! しかし、まだ動ける! マウントを取らせまいと、ガードポジションの構え!」

明石「なっ!? 大和選手、寝技に入らない! 腕を取って扶桑を引き起こしました! ダメージが深いのか、扶桑選手は抵抗できない!」

明石「無理やり立たされる形になってしまいました! やはり、組み技では圧倒的力量差! 扶桑選手が問題になりません!」

香取「扶桑さんのディフェンスが上手いから、寝技で仕留め切るのが難しいと判断したのね。投げ落としで体力を削る気よ」

香取「頭から落とされなくても、あれだけの勢いで何度も叩き付けられればすぐに限界が来る。まずい状況だわ」

明石「また組み合いになりましたが、扶桑選手の足元が危うい! 大和選手に押され、ふらつくように1歩後退! また投げたぁぁぁ!」

明石「隅落とし、またの名を空気投げ! 再びマットに叩き付けられてしまいました、扶桑選手! しかも、また大和が引き起こしに掛かる!」


明石「トドメを刺すにはまだ早いというのか! 死の天使の名は伊達ではない! 完全に動けなくなるまで、何度でも投げ落とす気です!」

明石「扶桑選手の体力が限界に近い! 踏ん張りすら効かない様子です! しかし、まだ眼は死んでいない! 勝負を諦めてはいません!」

明石「今度は扶桑選手が投げに掛かった! 大外刈り! ダメです、足をスカされた! 続けて背負い投げ! 引き手を外されて失敗!」

明石「逆に大和が再び投げたぁぁぁ! 背負い投げ炸裂! 背負いとはこう投げるのだと言わんばかりに、一気呵成に叩き付けました!」

香取「扶桑さん、この攻防って……!」

明石「そして柔道王、冷酷に扶桑選手を引き起こす! もう扶桑選手は立つことすらままならない! 無抵抗に引き起こされてしまった!」


明石「勝負となれば、相手に慈悲など掛けはしない! これがデスマッチを制した実戦柔道家の恐ろしさなのか! 終わりの刻が近付いている!」

明石「また組み合いに持ち込まれてしまった! もう扶桑選手には投げに耐える体力は残っていない! これで終わってしま……はい!?」

香取「さ、作戦だったのね……!」

明石「しょ、ショートアッパーが入ったぁぁぁ! 至近距離からのアッパーカット! 見事に大和のあごを打ち抜きました!」

明石「しかも1発では終わらない! ロシアンフック炸裂ぅぅぅ! これもあごを捉えた! 大和の体がぐらりと崩れる!」


明石「更に左ジャブ、右フック、アッパー、バックブロー、! そしてトドメの右ストレートォォォ! ら、ラッシュが全て命中ぅぅぅ!」

明石「柔道王が崩れ落ちる! 仰向けに倒れ、まったく動きません! その姿を確認し、扶桑選手が残心を取る!」

明石「れ、レフェリーが大和選手の失神を確認しました! 試合終了! 完っ全なるKO! こ、ここまで鮮烈な逆転劇が起きるとは!」

明石「衝撃の結末となりました! 勝ったのは扶桑選手! もはや限界かと思われた局面で、とんでもないラッシュを見せました!」

明石「不沈艦の名は伊達に非ず! どんな逆境でも、どれほど傷を負っても勝利を掴み取る! これこそが奇跡の戦艦、扶桑!」

明石「不意を突かれたか、全ての打撃をまともに食らってしまいました! 大和選手、惜しくも敗北! 汚名返上は果たせませんでした!」

香取「大和さんはまんまとやられてしまったわね。こんな作戦を立てる扶桑さんもどうかと思うけど、見事に術中へハマってしまったみたい」


明石「作戦、ですか? 私には、扶桑選手が最後の底力で勝ったように見えたのですが……」

香取「本来の大和さんなら、あそこまですんなり打撃を貰わないわよ。この試合に向けて、打撃対策は万全だったはずよ」

香取「だけど、やっぱり大和さんを倒すなら打撃しかなかったみたい。扶桑さんはその打撃を確実に決めるために、入念な布石を打っていたのよ」

明石「……そういえば、途中から扶桑選手は、真っ向から大和選手に柔道勝負を挑んでいましたね」

香取「ええ。本当は序盤の作戦で決めるつもりだったんでしょうけど、失敗したからハイリスクなほうの作戦に移行したんでしょう」


香取「打撃が有効な場面でも打撃を使わず、飽くまで組み技で挑む。当然、大和さんも柔道の技で応えるわよね」

香取「その柔道技に対して、扶桑さんは打撃を使わずに体捌きで対処し、柔道技で反撃する。まるで柔道の試合みたいにね」

香取「誰だって、自分の特技を披露するのは気分がいいものよ。扶桑さんに柔道技を挑まれ続けた結果、大和さんは無意識に、勝負を取り違えたの」

香取「何でもありの勝負であることを忘れ、大好きな柔道で勝負してしまったのよ。きっと、だんだん気持ちよくなっちゃたんでしょうね」

明石「き、気持よく、ですか。確かに投げ技を使うときは、ちょっと楽しそうに見えましたが……」

香取「もちろん楽しかったでしょう。元々柔道は楽しいスポーツ、創始者の嘉納治五郎が武道を大衆に親しんでもらうために作られたものよ」

香取「おまけに扶桑さんがいい感じに抵抗するから、より楽しかったんじゃないかしら。ほら、ゲームってちょうどいい難易度が一番面白いでしょ?」

明石「……あの攻防の全ては、扶桑選手の演出ということですか?」


香取「まあ、そう呼んでもいいんじゃないかしら。ダメージ覚悟の、限界まで身を削った演出よ」

香取「そうして大和さんに打撃の警戒心がなくなった頃合いを見計らって、怒涛の打撃ラッシュを仕掛けたの。最後の力を振り絞ってね」

香取「然るべきタイミングで体力が残っているかは賭けだったんでしょうけど……本当に、毎回危なっかしい試合をするわよね、扶桑さんは」

明石「全部作戦通りだったというわけですか……大和選手に限って、そういう隙を突かれるような負け方はないという予想でしたが」

香取「本来なら有り得ない負け方ね。だけど、扶桑さんの身を削った演出で、消したはずの慢心にまた火が付いちゃったじゃないかしら」

香取「試合にはできる限り楽をして、なおかつ鮮やかに、余裕綽々と勝ってみせたい。ファイターの本音を言えば、みんなそういうものなのよ」

香取「精神的に達観した大和さんにも、そういう気持ちの火種は残っていた。扶桑さんは試合を通して、こっそりその火種に燃料を注いだの」


香取「つまるところ、この作戦は技量で遥か上を行き、精神的にも互角以上の大和さんを、精神面で下のステージに落としてしまうというものよ」

香取「大和さんは修行がまだ足りなかった……というのはさすがに酷ね。扶桑さんの戦略が優れていた、と見るべきかしら」

香取「最後の打撃も、ボクシングの練習成果が見て取れたわ。扶桑さんは優勝へ向けて、大きな1歩を踏み出したわね」

明石「なるほど。組み技最強の大和選手も、扶桑選手の巧みな試合運びの前に惜しくも陥落! またしても初戦敗退となってしまいました!」

明石「ですが、素晴らしい試合でした! 扶桑選手もさすがの底力! 皆様、もう一度、両選手を称える拍手をお願い致します!」


試合後インタビュー:扶桑

―――内容としては、当初の作戦通りに進行したのでしょうか?

扶桑「いえ、そこまで簡単には行きませんでした。いくつかプランは合ったんですけど、大和さんが強くて、ほとんど上手くいきませんでした」

扶桑「あの作戦は成功するかどうかもわからない、最終手段だったんです。正直言って、ギリギリの勝利だったと思います」

扶桑「まさか、あそこまで通用しないなんて……実力では私より完全に上の方なのは間違いありません。本当に強かったです」

―――勝因は何だったかと思いますか?

扶桑「……大和さんって、心から柔道を愛してる方だと思うんです。この試合で、私はその愛に付け込むような戦い方をしました」

扶桑「勝因は、大和さんが柔道を愛していたことなんじゃないでしょうか。もしくは、それを逆手に取る私の性格の悪さ加減かもしれませんね」

扶桑「大和さんの柔道への気持ちを否定するつもりはありません。むしろ、尊敬します。私は柔道を技術としてしか学んでいませんから」

扶桑「なぜ柔道が『術』ではなく『道』と書くのか、何となくわかった気がします。彼女はまさに柔道という『道』を歩んでいるんです」

扶桑「その道を信じてきたからこそ、あそこまで強くなれたんじゃないでしょうか。私もあんな風に強くなりたいです」

扶桑「でも、今回は私が勝ちましたから……この試合では私のほうが強かった、ってことにしておいてください」

―――最後にボクシングの技術を少しだけ見せられましたが、やはり武蔵さんから学ばれたんですか?

扶桑「秘密です。ごめんなさい、出来る限り自分の実力は隠しておきたいので……」

扶桑「ただ、試合が進めばお見せする機会が必ずあると思います。そのときを待っていてください。その試合でも、私は勝ちます」


試合後インタビュー:大和

大和「ああああっ、恥ずかしい! 大口を叩いておいて、あんな情けない負け方……やられました、穴があったら入りたいです!」

大和「まさか、私が調子に乗せられるなんて……ああああっ、今思い出しても恥ずかしいです! 公の場で恥を掻かされました!」

大和「扶桑さんのこと、一生恨みます! と、撮らないでください! 私を見ないで! ああっ、山があったら籠りたいです!」

(大和選手の取材拒否につき、インタビュー中止)


明石「第1試合から激戦となりましたが、今日の対戦カードはまだ3つも残している! まだまだグランプリは始まったばかりです!」

明石「残る3試合、そのどれもが、先の試合に匹敵する激戦を予感させるものばかり! これより第2試合を開始致します!」

明石「まずは赤コーナーより選手入場! 勝利に飢えた立ち技王者が再びリングに上がります!」


試合前インタビュー:赤城

―――無差別級グランプリには3度目の参戦となりますが、意気込みをお聞かせください。

赤城「いい加減優勝させてもらえないかな、なんて思っています。正直、これ以上他人に優勝を掠め取られるのはうんざりですから」

赤城「しかも、それが2回とも長門さんだなんてね。もう彼女は王座の栄光を十二分に楽しんだはずです。そろそろ、席を譲っていただきたいですね」

赤城「もちろん、私にですよ。優勝は他の誰にも渡しません。誰が相手だろうと、全力で勝たせていただきます」

―――初戦の相手はアイドルプロレスラーの那珂ちゃんですが、彼女について何かコメントはありますか?

赤城「八百長問題についてはあまりコメントしたくありません。本当にUKFでそういうことが行われていたのなら、大変ショックです」

赤城「UKFはどこよりも混じりっけのない真っ向勝負ができる場として気に入っていましたから。決して許されるものではないでしょう」

赤城「強いて那珂ちゃんにコメントするなら、これからは真っ当なファイトをしてほしい、ということですね……これからがあれば、の話ですけど」

―――対戦相手としては、どのように見ていますか?

赤城「戦うには気が引ける相手です。この試合で私が勝てば、那珂ちゃんはファイターとしても、アイドルとしても終わってしまうでしょう」

赤城「その幕引きを担う役を任されるのは辛いですね。アイドルとしての那珂ちゃんは、私も好きでしたから」

赤城「でも、勝負は勝負です。躊躇も手加減もありません。1人のファイターとして、真っ向から打ち破らせていただきます」


赤城:入場テーマ「Dark Funeral/King Antichrist」

https://www.youtube.com/watch?v=i_DrP5zlFPQ


明石「優勝候補に数えられながらも、過去2回の無差別級グランプリではいずれも途中敗退! 耐え難きこの屈辱! 敗北は一航戦には似合わない!」

明石「やるべきことは1つ! 優勝への道に立ち塞がる者は、全て打ち砕く! 立ち技格闘界の頂点を取ったこの打撃、受けてみるがいい!」

明石「今宵もリングが緋色に染まる! ”緋色の暴君” 赤城ィィィ!」

香取「やっぱり入場時だけは笑顔ね。本当に裏表の激しい選手よねえ」

明石「今大会の赤城選手の意気込みは尋常じゃないそうで。昨日もスパーリング仲間を全員大破させるまで、決して練習を終えなかったそうです」

香取「私も聞いてるわ。何でも、タイに出稽古へ行ったときは、断食修行までやっていたそうよ」

明石「……はあ? はっはっは、あの赤城選手が断食なんて、そんなの有り得るわけないじゃないですか」

香取「それが、実際にやったそうよ。詳しい修行の内容は秘密らしいけど、断食を含めたとてつもなく過酷なメニューだったらしいの」

香取「元々ものすごく強い赤城さんが、それほどの修行を経てどんな成長を遂げたのか……非常に気になるところね」


明石「そこまでしてでも優勝したいということですね、赤城選手は……今のところ、普段と変わりない様子ではありますが」

香取「あの人はギリギリまで本性を隠すタイプだから。前大会だって、ブラジリアン柔術の技を隠していたでしょう」

明石「そうでしたね。もしかしたら、今回も何か秘策を隠し持っている、ということは有り得るんでしょうか」

香取「あるでしょうね。赤城さんにとって、前回見せた柔術は万が一テイクダウンを取られたときの保険であり、不意を突く切り札でもあったはず」

香取「それが既に露呈してしまっている今、何かしらの用意をしていてもおかしくないわね」

香取「まあ、そういうものがなくても赤城さんは強いんだけど。ストライカーとして最も完成されたファイトスタイルの持ち主ですから」

香取「蹴りと拳、両方の技術に秀で、組み合えばムエタイの真髄である首相撲からの肘打ち、膝蹴り、そしてゼロ距離からのハイキックが待っている」

香取「間合い取りとタックルへの反応も絶妙だから、テイクダウンを取るのもほぼ不可能。初戦で戦いたくない選手の1人ね」

香取「立ち技を武器としながら、テイクダウンが弱点にならない最高のストライカーである赤城さん。さて、彼女はどう戦う気なのかしら……」

明石「ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! 汚名返上と名誉挽回を掛け、アイドルプロレスラーがリングに上がります!」


試合前インタビュー:那珂ちゃん

―――現在、八百長問題を始めとして様々なスキャンダルを報じられていますが、ファンの方に向けて何か一言ありますか?

那珂「えっと……那珂ちゃんファンのみんな、裏切るようなことをして本当にごめんなさい! 那珂ちゃん、どうしても人気が欲しかったんです!」

那珂「これからの那珂ちゃんは、絶対に悪いことはしません! だから……どうか那珂ちゃんの嫌いにならないでください!」

那珂「それでも那珂ちゃんが嫌いって方は……もし、私が優勝したら、好きになってください! 那珂ちゃん、必ず優勝しますから!」

―――今回の対戦相手はUKF屈指の強豪、赤城選手です。何か対策はありますか?

那珂「……あります。きっと、皆さんはこう思っているはずです。那珂ちゃんはどう足掻いても赤城さんには勝てないって」

那珂「確かにそうかもしれません。それでも、那珂ちゃんは勝つしかないんです。もう、那珂ちゃんには後がありませんから……」

那珂「赤城さんを倒せば、優勝に1歩近づけます。だから、全てを賭けて戦います。そして、那珂ちゃんは必ず赤城さんを倒します」

那珂「負けることは考えてません。もしも負けたら終わりですから……準備はしてきました。那珂ちゃんの全部を投げ打ってでも、勝ちます」


那珂:入場テーマ

「那珂ちゃん/恋の2-4-11」

https://www.youtube.com/watch?v=WSK0YPi6SJs


明石「昨今に次々と発覚した八百長問題! UKFの信用を揺るがし、なおかつ彼女自身の名声も地に落ちました!」

明石「今まで演じてきた名勝負は全て偽りだったのか! 真実は、この戦いによって明らかになる! プロレスラーは本当に強いのか否か!」

明石「アイドルプロレスラー、立ち技王者に真剣勝負を挑む! ”堕天のローレライ” 那珂ちゃぁぁぁん!」

香取「最近、色々なスキャンダルでマスコミを賑わせてる那珂ちゃんね。中でも八百長問題はUKFにも衝撃的だったわ」

明石「発端は翔鶴選手がK-1王者になったときのインタビューでしたね。『今まで不当な試合もさせられてきた』という発言が追求されて……」

香取「きっと口止めされてたんでしょうけど、K-1王者になれたのが嬉しくてポロっと漏らしたんでしょうね。そのまま那珂ちゃんの八百長発覚よ」

明石「以前に行われた那珂VS翔鶴のスペシャルマッチで那珂ちゃんが勝利したのはとても話題になったんですが……あれはシナリオだったんですね」

香取「翔鶴さんは当時、強豪相手に敗戦が続いていて、資金難に陥っていたらしいわ。そこに目を付けられたんでしょうね」

香取「その件が話題になってからは芋づる式よ。大淀さんまで八百長を持ちかけられたことを暴露して、他の芸能活動にも不正があったとか」

明石「事務所の力を使って、競争相手のアイドルやプロレスラーのスキャンダルを雑誌にリークしたんでしたっけ?」

香取「そうそう。人気取りのためなら手段を選ばない、那珂ちゃんの本性がどんどん露わになっちゃったわけ」


香取「下積み時代にすごく苦労した子だから、今の地位を失いたくなくて必死だったのは理解できるけど、さすがにやりすぎよね」

明石「私もファンだったんですけど、ここまで黒いイメージが付くとちょっと……」

香取「アイドル業はもちろん、プロレスラーとしても致命的ね。もうベビーフェイス役は任せられないし、ヒールって感じでもないもの」

香取「ここまで来たら、もうやれることは1つ。本物のトップファイター、赤城さんを真っ向から打ち負かして実力を示すしかないわ」

明石「……香取さんから見て、勝算はありそうですか?」

香取「表面的な部分を見れば、絶望的ね。那珂ちゃんはまだ、赤城さんに勝てるレベルには達していないんじゃないかしら」

香取「確かに那珂ちゃんは、八百長なしのファイトで大物に勝ったこともあるけど、逆に格下とも取れる平凡なファイターに敗北したこともあるわ」

香取「原因はそのトリッキーなファイトスタイルね。大技狙いの奇襲戦法で、成功すれば大勝利だけど、ミスったらあっさりやられちゃうのよ」

明石「今までの那珂ちゃんは勝つことより、面白い試合をすることを心掛けていましたからね。人気があるときはそれでも良かったんですが……」

香取「今回はそうはいかないわね。この試合は那珂ちゃんにとって最後のチャンス。負ければどこの団体も使ってくれなくなるわ」


香取「グランプリの出場者に選ばれたこと自体、今の状況じゃありえないことだもの。大きな声じゃ言えないけど、かなり私財を投げ打ったみたいね」

明石「そういえば、運営内での出場者選考の際に不自然な資金の流れがあったらしいです」

香取「関係者に対する賄賂でしょうね。この大会で活躍できれば人気回復の機会を得られるから、是が非でも出場枠が欲しかったんでしょう」

香取「だけど、裏工作が通用するのはそこまで。赤城さんがブックを飲むわけはないから、この試合は本当の実力で勝つしかないわ」

明石「那珂ちゃんのファイトスタイルはルチャ・リブレ、いわゆるメキシコプロレスの技をメインとしていますが、赤城選手に通用するでしょうか?」

香取「一般的なプロレスと同じく、ルチャ・リブレにも見せかけだけの技があるのは確かね。だけど、決して格闘技として劣るわけじゃないわ」

香取「ゲリラ軍を指揮した某革命家は、ゲリラ戦士に教える格闘術の基礎をメキシコのルチャドールから学んだそうよ。実戦性は既に証明されてるわ」

香取「実際に那珂ちゃんは、ルチャ・リブレ独特の空中殺法で格上の相手を倒してる。彼女は決して運や工作だけで勝ってきたファイターじゃない」


香取「だけど、赤城さん相手に那珂ちゃんの戦法は辛いわね。あのレベルの選手に、下手な奇襲を仕掛けても返り討ちにされるだけだから」

香取「ダンス経験を生かした蹴り技も、リーチと威力の面で劣る。あとはテイクダウンを取って関節技に持ち込むくらいしか手がないけど……」

明石「赤城選手は20戦に及ぶ総合の試合を経験していますが、テイクダウンを許したのは前大会の武蔵戦における1度切りですね」

香取「ええ。でも、あれは怪力とテクニックを併せ持つ武蔵さんが、半ば不意を突く形でようやく取れたテイクダウンよ」

香取「テクニックは上回るかもしれないけど、パワーでは遥かに劣り、タックルも警戒されてる。不意を突ける可能性はないわ」

香取「仮にグラウンドへ持ち込めたとしても、赤城さんには柔術のテクニックもある。付け入る隙なんてどこにもありはしないのよ」

明石「勝率としては、限りなくゼロに近いと?」

香取「そう言わざるを得ないわ。だけど那珂ちゃんは、1パーセントもない勝機に全てを賭けるしかないでしょう」


香取「今日は今までとは違った那珂ちゃんを見られるんじゃないかしら。盛り上げるためでなく、勝ちに徹する試合をする那珂ちゃんの姿を」

香取「それが果たして赤城さんに届くかどうか……せめてあっけない形で終わりにはなってほしくないわね」

明石「……ありがとうございます。両選手、リングインしました! 未だ微笑みを浮かべる赤城選手に対し、那珂ちゃん、笑みを消した覚悟の表情!」

明石「会場のブーイングにも、わずかに集ったファンクラブの声援にも応える気配はありません! その内心にはどのような葛藤があるのでしょう!」

明石「さあ、ルール確認を終えて両者……あっ、赤城選手が握手を求めました! これに対し那珂ちゃん、凍てついた表情のまま応える!」

明石「リング中央にて、UKFでは珍しい握手の光景です! 本来なら拍手を送るべき光景ですが……私にはなぜか、不気味にしか見えません!」


明石「会場にも動揺に近いざわめきが広がっております! 笑顔の赤城選手、無表情の那珂ちゃん、交わされる握手! この試合、何かが起こる!」

香取「……? 変ね、照明のせいかしら……」

明石「握手も終わり、両者がコーナーに戻ります! 一体この試合、どうなってしまうのか……香取さん、独り言はやめてくれませんか?」

香取「え? あ、ああ、ごめんなさい。ちょっと気になったものだから。たぶん、見間違いだと思うし……」

明石「しっかりしてくださいよ……さあ! 勝ち進むのはどちらか! 勝利に飢えた無慈悲な暴君、赤城か! 崖っぷちアイドル、那珂ちゃんか!」

明石「試合が終わるとき、立っているのはどっちだ! ゴングが鳴った、試合開始です!」


明石「同時に飛び出していく両選手! 赤城選手はいつも通り、ライトアップ気味のムエタイの構えで臨みます!」

明石「対する那珂ちゃん、左腕で側頭部をブロックし、右拳をまっすぐ突き出して対峙します! この構えにはどのような意図があるのでしょうか!」

香取「あの右拳は距離を取るためのものね。拳の攻防に付き合いたくないんでしょう。左のガードは当然、右のハイキック対策よね」

明石「なるほど、那珂ちゃんはディフェンス主体で攻めるようで……いや、那珂ちゃんが先に仕掛ける! 右のローキックだ!」

明石「赤城選手、脛を上げてこれを受ける! 那珂ちゃん、続けざまに左のロー! これも脛でガードされます!」

明石「まさか那珂ちゃん、赤城選手に蹴り合いを挑もうというのか! いや、それ以上は攻めません! 那珂ちゃん、バックステップで距離を取る!」


明石「後退する那珂ちゃんに、赤城選手も深追いはしません! だが徐々に、プレッシャーを掛けるようにゆっくりと前進していきます!」

香取「あのローキックは良い選択ではなかったわね。那珂ちゃんは今ので、逆にダメージを負ったんじゃないかしら」

明石「それは、やはり赤城選手の脛受けが原因でしょうか?」

香取「そうね。空手やムエタイの熟練者は部位鍛錬を経て手足を武器化する。ムエタイは特に脛を徹底的に鍛え込むわ」

香取「ビンや石を脛にこすり付けて神経を潰し、石灰化させてしまうの。そんな脛にローキックを当てるのは、石柱に蹴りを入れるのと同じよ」

香取「足を痛めてフットワークを失えば、捕まえられて終わる。那珂ちゃんはこれ以上蹴りを打つわけにはいかないわね」

明石「どうやら初手の攻めを誤ってしまった那珂ちゃん! そのミスに付け入ろうとするでもなく、赤城選手はマイペースに間合いを詰めていく!」


明石「ここで赤城が蹴りを放った! 強烈なローキック! 那珂ちゃん、足を浮かせて受けるも、太腿にヒット! 弾けるような音が響きます!」

明石「ローキックとはこう打つのだと言わんばかりの、倍返しの一撃! 続けてミドルキック! 那珂ちゃん、大きく後方へと飛び退いた!」

明石「回避はしたものの、もう後退するスペースがない! フェンス際に追い詰められました! ここぞとばかりに赤城が前進する!」

明石「那珂ちゃんはどうする! あっ、背中を向けた! フェンスに足を掛けました! フェンスを足場に、空中殺法が繰り出される!」

香取「さすがに安直じゃないかしら? タイミングを読まれるわよ」

明石「出るか、ローリングソバッ……いや、出さない! フェイントです! 赤城選手、空中技を警戒して距離を取ってしまった!」


明石「その隙に那珂ちゃんはサイドに回る! フェンス際のピンチをどうにか切り抜けました!」

香取「赤城さんも慎重ね。焦って攻める必要がないから、隙を見せるまでじっくり料理するつもりなんでしょう」

明石「フットワークを踏みつつ、那珂ちゃんはリング中央に! 赤城選手は急がず、出方を伺うように前へ出ていきます!」

明石「そのプレッシャーに押されてか、那珂ちゃんもじわじわと後退! もう自分から仕掛ける気配はありません! 赤城の攻勢を待っているのか!」

明石「ここで赤城、再びローキック! 両足ごと刈り取るような猛烈な蹴りを、那珂ちゃんは大きくバックステップで躱します!」

明石「またもや後方へのスペースが無くなりました! 赤城選手、仕掛けるか!? いや、那珂ちゃんが先に動く! 勢い良くフェンスを蹴った!」

明石「出ました、三角跳びだぁぁ! 得意の空中殺法発動! 三角跳びからのローリングソバッ……いや、出さない! 回り込んだだけです!」


明石「那珂ちゃん、跳躍力を生かしてまたもピンチを脱出! 赤城の魔の手からは未だ逃れていますが、なかなか攻めることができません!」

香取「攻められる技がないんでしょうね。パンチは圧倒的に赤城さんが上だし、蹴りも実質封じられてる。タックルや空中戦も警戒されて通らないし」

香取「となると逃げ回って赤城さんのミスを待つ、という戦法しかないけど、その前に激しく動き回ってる那珂ちゃんのスタミナが底を尽きそうね」

明石「赤城選手もそれを読んでいる気配がありますね。ゆっくりと動いて手数を打たず、那珂ちゃんの動きを観察しているように見えます」

香取「赤城さんは一撃入れればいいだけだもの。那珂ちゃんは打たれ強いタイプのプロレスラーじゃないし、ミス待ちは赤城さんも同じなのかも」

香取「それか、もし那珂ちゃんに別の作戦があるのなら……何かしらね。とにかくこの場をやり過ごそうとしてるとはわかるけど」

明石「再びリング中央で構えた那珂ちゃん! 赤城選手は焦らない! ペースを乱さず冷静に那珂ちゃんへ近付いていく!」


明石「那珂ちゃんはサイドに回りつつ、とにかく距離を取る! もう蹴りの間合いへも入りません! まったく攻める気配がない!」

明石「そろそろ業を煮やし始めたか、赤城選手が大きく踏み込んだ! しかし那珂ちゃん、それ以上に大きく退避! とにかく逃げ回ります!」

香取「このままだと泥仕合になるわね。膠着状態だし、ぼちぼちレフェリーが警告を出すんじゃないかしら」

明石「逃げる那珂ちゃん! 追う赤城選手! とうとう那珂ちゃんは逃げに徹し始めました! やはり面白い試合をする気は全くないようです!」

明石「しかし、このままでは盛り上がる以前に試合にならない! 踏み込む赤城! あからさまに逃げる那珂ちゃん! 決して間合いに入りません!」


明石「完全なる泥仕合の様相を呈してきました! 那珂ちゃんは消極的として警告を出されてもおかしくない状況ですが、中断の合図はありません!」

香取「おかしいわね。なるべく試合を中断しない方針かしら……」

明石「こうなってくると、赤城選手から攻めるしかない! 表情にもやや苛立ちが見受けられます! 攻めるか、それともまだ様子を見るか!」

明石「赤城、前進! 赤城選手は攻めを選択しました! バックステップを繰り返す那珂ちゃん目掛けて、立ち技王者が一気に詰め寄る!」

明石「大きく踏み込んで前蹴り! 那珂ちゃん、辛うじてブロック! 続けてサイドキック! これもブロックしますが、バランスを崩した!」

明石「那珂ちゃんの足が止まります! これを見逃す赤城ではない! パンチの射程へ入った! 右のフックで仕留めに掛か……おっと!?」

香取「えっ、スリップ!?」


明石「赤城選手、スリップダウン! 汗のせいでしょうか、フックの勢いで横に足を滑らせました! 拳は空振りし、片手をマットに着く!」

明石「予想外のアンラッキーが降りかかりました、赤城選手! 今度は逆に、那珂ちゃんがその隙を突く! 一気に赤城へ飛び掛かった!」

明石「サッカーボールキィィィック! 赤城選手、片手でブロックするも更にバランスを崩した! 立ち上がることができません!」

明石「降って湧いたこのチャンス、逃すわけにはいかない! 那珂ちゃんがサイドポジションを取った! 赤城選手、まさかのテイクダウンです!」

香取「まさしくアンラッキーね。赤城さんのスリップダウンなんて、K-1時代にさえ1度もなかったのに……」

明石「まずは那珂ちゃん、アームロックを狙う! しかし、そう簡単に極めさせはしない! 赤城選手、身を捻って脱出を試みる!」

明石「那珂ちゃんもここは逃したくない! 起き上がりかけた赤城に上から覆い被さる! よ、四点ポジションに持ち込みました!」


明石「赤城選手、屈辱の四つん這い状態! 上から那珂ちゃんに抑え込まれ、立ち上がれない! 完全に那珂ちゃんが主導権を握ったぁぁぁ!」

香取「対応が早い……まさか、たった1つのアクシデントに付け込んで、赤城さんをここまで追い込むなんて……!」

明石「さあ、この体勢になったからには、那珂ちゃんがやることは1つ! 頭部へ膝、膝、膝ァ! 赤城選手の十八番を奪う膝蹴りの連打です!」

明石「赤城選手は片手で何とかガードをしていますが、あの体勢ではどこから膝が来るか目視できない! また頭部に膝がクリーンヒットォォォ!」

明石「まさかの展開に、会場からも大きな歓声が沸き起こっています! 膝蹴りが再度繰り出される! 赤城選手、頭部から出血です!」

香取「あの状態からの膝は相当効くわよ。もしかしたら、本当にここで決まるんじゃ……」

明石「更に膝、膝! あっ、赤城選手が両手で膝を捉えました! これは放したくない! 放せばまた膝が……ダメです、あっさり外れた!」


明石「またしても膝蹴りの応酬! もう一度赤城選手が膝の捕獲を試みます! また捉えた! しかし、即座に引き抜かれます!」

香取「……やけに簡単に放すわね。意識が飛びかけているのかしら」

明石「今度は赤城選手、強引に四点ポジションから抜け出しに掛かる! もう膝蹴りをガードすらしない! 膂力で立ち上がろうとしています!」

明石「那珂ちゃんは膝を打ち続けて阻止しようとしますが、パワー差を覆せない! 赤城選手、辛うじて四点ポジションから脱出しました!」

明石「頭部から血を滴らせながらも、赤城選手はまだ健在! 肩で息をしながらも、首相撲を那珂ちゃんに仕掛けます! 今度は赤城の番か!?」

明石「いや、抜けた! 那珂ちゃん、下からスルリと赤城の首相撲から脱出! 抱き込みが甘かったのか、赤城選手、反撃のチャンスを逃します!」

香取「何、今の? ダメージがあるとはいえ、赤城さんがあんな簡単に脱出を許すわけが……」

明石「両者、再びスタンド状態で対峙! しかし、赤城選手のダメージは深刻です! 那珂ちゃん、大健闘! 試合を有利に進めています!」


明石「幸運でチャンスに恵まれたとはいえ……おや? 赤城選手が奇妙な動きを取っています! その場から大きく後退しました!」

明石「何でしょう、両手を道着で拭っています! あっ、レフェリーに何か叫んでいます! これは一体?」

香取「……何かおかしい。赤城さんはなんて言ってるか聞こえる?」

明石「えーっと……どうやら、『試合を止めろ』と主張しているようです! 赤城選手、異例のタイム申請! ど、どういうことだ!?」

香取「様子が変だわ。一度試合を止めて、チェックすべきよ」

明石「赤城選手は何らかのトラブルを訴えているようです! レフェリーはどう判断を……あっ、那珂ちゃんが仕掛けた!」

香取「ちょっ、ちょっと!」

明石「勢いを付けてのローリングソバット! 赤城選手、不意を突かれてしまった! ボディに直撃! これは効いているぞ!」


明石「しかし、このタイミングでの攻撃は少々卑劣です! 赤城選手も怒っている! タイム主張をやめ、一転攻勢に出る!」

明石「左右のフックを繰り出した! 那珂ちゃん、ダッキングとバックステップで回避! 拳の間合いは危険だ!」

明石「後退する那珂ちゃんに、追撃のハイキック! 腕で防ぐも、ガードごと吹き飛ばすような一撃! 那珂ちゃんが大きく体勢を崩す!」

明石「更に赤城が踏み込んで右ストレー……またスリップ!? 赤城選手、またしても足を滑らせて転倒しました!」

香取「これ、おかしいわ! 赤城さんが転ぶなんて偶然、2度も続けて起こるはずがない!」

明石「赤城選手、またレフェリーに向けて叫んでいます! タイム要求でしょうか、しかしレフェリーは反応しない! 那珂ちゃんは追撃を掛ける!」

明石「立ち上がりかける赤城に、那珂ちゃんのストンピングキック! 顔面を狙った! 赤城選手、ガードするも体勢を崩す!」


明石「一瞬の隙を突いて、那珂ちゃんがパスガードを試みる! せ、成功! 赤城選手から、まさかのマウントポジションを奪いました!」

香取「もしもし、鹿島さん? なんで試合を止めないのよ! 明らかに様子が……いいからゴングを鳴らしなさい!」

明石「え、えーっと! 那珂ちゃんは上からパウンドを繰り出しています! 赤城選手、防戦一方! まだ何か主張しているようです!」

明石「あっ、ここでゴング、ゴングです! 試合終了ではなく中断のゴング! レフェリーの指示ではなく、鹿島副審査員長の独断です!」

明石「試合は一時中断となりました! 赤城選手、苛立たしげに那珂ちゃんを押しのけて立ち上がります! 感情を露わにした怒りの表情です!」

明石「対する那珂ちゃんは悪びれる様子もなく、実に平然としています! 一体、両者の間に何が起こっているのか!」


香取「……那珂ちゃんが何かしたわね。鹿島がリングに上ってボディチェックをするみたい……ちょっと、あの妖精さん何してるの?」

明石「鹿島さんがリングに上がるのを止めようとしてるみたいです。これって……」

香取「なるほど……那珂ちゃん、そこまで手を回してたのね」

明石「えー、リング内外で騒然とした雰囲気になっていますが、鹿島副審査員長の手により、那珂ちゃんのボディチェックが行われます!」

明石「那珂ちゃんは抵抗なくチェックに応じているようです。レフェリー役を始めとした妖精さんたちは邪魔しようとしているように見えますが……」

香取「妖精さんたちを予め買収しておいたんでしょう。もしくは、自分のファンで固めたかのどちらかね」

香取「試合が膠着してるのに警告を出さなかったり、赤城さんの主張を無視したからおかしいと思ったのよ。妖精さんは全員那珂ちゃんの味方なのね」


明石「まさかこんな……那珂ちゃんは買収工作までして、試合に勝とうと?」

香取「みたいね。普通なら、このグランプリにおいてレフェリーを務める妖精さんの買収はあまり意味が無い。判定もないわけだし」

香取「でも、何かしらの不正をするための下準備としてなら話は別よ。運営はそこまで考えが及ばず、こういう事態はノーマークだったでしょうね」

香取「そろそろボディチェックも終わるみたい。那珂ちゃんは何を仕込んでいたのかしら。大体の予想は付くけど……」

明石「そのようで……ん? どうしたんでしょう、鹿島さんが赤城選手の元へ何かを伝えに行きました!」

明石「話し合いをしているようですが……どうやらそれも終わったようです。鹿島副審査員長より、通信が入ります!」


鹿島『もしもし、放送席? あの、鹿島だけど……』

香取「鹿島さん、結果は? 那珂ちゃんのボディチェックで何か見つけたでしょう」

鹿島『見つけたっていうか……腕と足、それに道着がヌルヌルに滑るわ。たぶん、粉末ローションをすり込んでたんだと思う』

明石「ふ、粉末ローション?」

香取「ああ……そのせいだったのね。入場のとき、手足の色が顔よりも色白に見えたから変だとは思ったのよ」

香取「粉末ローションを腕と足、それに道着に塗ったくっておけば、試合中の汗で溶け出して全身つるつるに滑るようになるわね」

香取「そうすれば、手足や道着を掴まれても簡単に抜けられるわ。赤城さんが膝を取ったときや、首相撲もそれで逃げられてしまったのね」

香取「赤城さんが2度も試合中にスリップダウンしたのは、滴り落ちたローションのせいかしら?」

鹿島『そう。リングにところどころ滑る箇所があるわ。なんで那珂ちゃんは滑らなかったかというと、足の裏に滑り止めのロジンを塗ってたせいよ』

香取「なるほどね……で、副審査員長としての判断は?」


鹿島『それなんだけど……ルールブックにそんな反則行為は明記されてない、って那珂ちゃんは主張してるの。どう思う?』

香取「……そういえば、ないわね。こちらの落ち度だわ」

鹿島『レフェリーの妖精さんたちも、満場一致でこれは反則にならないって言ってるのよ。だから、ペナルティが出せる空気じゃないわ』

明石「ルール以前に、そういうのって試合前のボディチェックでわかるんじゃないんですか?」

香取「チェックをしたのは妖精さんたちよ。那珂ちゃん側についているんだから、異常があっても何食わぬ顔で通したんでしょう」

明石「あ、そっか……」

鹿島『で、妥協案としては……那珂ちゃんの体を拭いて、道着を着替えさせて、リングの清掃をした上で試合再開したら良いと思うけど、どう?』

香取「赤城さん次第ね。それで納得するかしら?」

鹿島『さっき聞いてきたわ。その条件の上で、こちらの止血もさせてくれるならいいって』


香取「そう……那珂ちゃんもその条件を飲んだ上で、試合再開に応じているのね?」

鹿島『う、うん。そうだけど……』

香取「再開するに当たって、レフェリーの妖精さんは交代できないかしら? 那珂ちゃんの息が掛かってなさそうな子に」

鹿島「今日お願いしてる妖精さんは全員ここにいるから……無理だわ。那珂ちゃん側の妖精さんしかいないみたい」

香取「じゃあ、そのままで行くしかないわね。すぐ再開できるよう、急いで準備して。妖精さんが何か仕掛けないか、入念に見張っておくのよ」

鹿島『気をつけるわ。じゃあ、準備を始めます。切るわね』

香取「ええ、よろしく……そういうことだから、明石さん。みんなにお知らせして」


明石「あっ、はい! えーただいま、那珂ちゃんのボディチェックが行われたところ、体や道着から粉末ローションの付着が確認されました!」

明石「赤城選手のスリップや、那珂ちゃんが捕獲から簡単に抜けられたのはこれが原因と思われます!」

明石「しかし、これを反則とするか否かはルールブックに明確には記載されていません! よって、那珂ちゃんへのペナルティは無しとします!」

明石「試合再開は那珂ちゃんの道着交換及び体のふき取り、リング清掃、赤城選手の止血をしてからスタンド状態で再開します!」

明石「準備に少々時間がかかりますので、申し訳ありませんが、しばらくお待ち下さい!」


香取「ふう……これで一段落ね」

明石「いやあ、色々驚かされました……でも、ここからの那珂ちゃんは真っ当な勝負に臨むしかなくなりましたね」

香取「なに言ってるのよ。まだ何か仕掛けてくるに決まってるじゃない」

明石「えっ? それは何を根拠に……」

香取「もし、粉末ローションを塗り込むのが対赤城戦に用意した那珂ちゃん唯一の秘策なら、あの条件をあっさり飲むなんて不自然だわ」

香取「周りのレフェリーは全て自分側の妖精さんで固めてあるわけだし、状態を維持したままの試合続行を主張してもおかしくないはずよ」

明石「いやでも、そんな主張はさすがに通らないでしょう。審査委員長の香取さんが出て行って一喝すれば、妖精さんもおとなしくなるでしょうし」

香取「どうかしら? あの妖精さんたちが買収じゃなく、那珂ちゃんファンクラブの親衛隊だったら、私にだって抵抗するわよ」


香取「赤城さんを挑発して乗せるって手も有効ね。結論を言うと、那珂ちゃんはあのとき、そのまま試合続行できる可能性は何割かはあったの」

香取「その可能性をあっさり捨てて、半ば振り出しの状況からの再戦に応じたということは……この先にも、那珂ちゃんは仕掛けを残している」

明石「……香取さん。それをわかっていて試合続行にOKを出したんですか?」

香取「そうね。審査委員長としては失格かもしれないけど、那珂ちゃんの気持ちには汲むべきものがあると思ったもの」

香取「もしかしたら、組み合わせ抽選で赤城さんと当たったとき、那珂ちゃんの命運は既に尽きていたのかもしれないわ」

香取「まともに戦って赤城さんに勝ち目はない。全身全霊、死力を尽くして戦っても勝率はごくごく僅か。鮮烈な勝利を手に入れるのはまず不可能」

香取「だから那珂ちゃんは、全てを捨てる決意をしたんでしょう。負けて何もかも終わるなら、どんなに手を汚してでも赤城さんに勝つと」

香取「称賛も拍手も求めず、汚れきった勝利を手に入れる。負けた後のことなんて考えない。那珂ちゃんはそれだけの覚悟で試合に臨んだのよ」


明石「……そんな勝ち方をしても、那珂ちゃんに再起の道があるとは思えません」

香取「負ければもっとないわよ。赤城さんに負ければ、那珂ちゃんは所詮、卑劣で嘘つきな凡百のファイターというだけで終わる」

香取「でも、誰もが強者と認める赤城さんに勝ったとなれば、形はどうあれ話題になるわ。彼女を擁護して、使いたがる団体も出てくる」

香取「彼女には色んな団体にコネがあるから、不正があったことはうやむやにして、赤城さんに勝ったことだけを宣伝すれば復帰も夢じゃない」

香取「でも、それには勝つのが絶対条件。勝利のために、那珂ちゃんは最も確実で過酷な道を選んだ。その気持ちは汲んであげてもいいでしょう」

明石「そうかもしれませんが……赤城選手はどう思っているんでしょう?」

香取「赤城さんはそんなに複雑なことは考えてないわ。試合再開を受けたのは、この場で受けた屈辱をすぐに晴らしたいからよ」

香取「対戦相手に掛ける慈悲なんてない。赤城さんはそういう人だし。でも、那珂ちゃんがまた何か仕掛けてくる可能性は考えているかもね」


明石「……那珂ちゃんがここから仕掛ける策とは、何だと思いますか?」

香取「わからないわ。本当は試合中断前に赤城さんをKOすることが理想だったと思うから、この先の仕掛けは最後の保険なんじゃないかしら」

香取「あるいは、その策が不発に終わる可能性もあるわよ。赤城さんはそれをさせないように、今までとは作戦を変えるでしょうから」

香取「おそらくは、速攻。那珂ちゃんが何かをする前に叩きのめす。格闘技術で上回る赤城さんなら、そう簡単なことじゃない」

香取「頭部のダメージはかなり大きいけど、これだけ間を置けば多少は回復しているでしょう。変わっていないのは、那珂ちゃんに対する怒りだけよ」

明石「赤城選手を怒らせるなんて、那珂ちゃんもとんでもない度胸ですね。命が惜しくないんでしょうか……」

香取「本当に惜しくなかったりしてね。自分の命とアイドル生命、2つを天秤に掛けて、傾いたのはアイドル生命のほうなのかも」

香取「それじゃ、何が起きるか見てみましょう。準備が整ったみたいね」


明石「……皆様、大変お待たせしました! 再開の準備が終了したようです!」

明石「那珂ちゃんは道着を新しいものに着替え、手足には何も付着しておりません! 鹿島副審査員長によりチェック済みです!」

明石「赤城選手の止血も完了し、試合はほぼ振り出し! ともにスタンド状態からの再開です!」

明石「不気味なのは赤城選手のあの表情! もう怒りさえ通り越し、殺意を抱いているのではないかという、異様に冷静な佇まいです!」

明石「那珂ちゃんも至って落ち着いている! 赤城戦への用意を奪われ、ここから勝機はあるのか!それとも、赤城の魔の手に掛かってしまうのか!」

明石「それでは試合再開! ゴングが鳴り響き……あっ、一気に赤城選手が仕掛けた! 那珂ちゃんへ向けてまっすぐ走り出しました!」


明石「那珂ちゃん、逃げようとはしない! ガードを固めて待ち構える! 来たぁぁ! 赤城、渾身の飛び膝蹴りィィィ!」

明石「ガードを吹き飛ばして那珂ちゃんの顔面へヒット! そのまま組み付いた! 今度こそ、赤城選手が那珂ちゃんを捉えました!」

香取「やはり速攻を仕掛けてきたわね。この展開は那珂ちゃんの想定通り? それとも……」

明石「組み合いになった以上、ここは暴君の処刑場! 頭を押し下げた! 赤城がラッシュの準備を整えてしまいました!」

明石「始まったぁぁぁ! 那珂ちゃんの顔面に膝、膝! さっきの借りを何倍にも返してやろうという、膝蹴りの応酬! 那珂ちゃん、絶体絶命!」

明石「この膝蹴り地獄から生還したファイターは今まで皆無! 膝蹴りが顔面、ボディへ立て続けにヒット! 那珂ちゃん、為す術なし!」

明石「また膝……あっ、那珂ちゃんが膝を抱えた! これが千載一遇の好機となるか!? いや、赤城の対応のほうが早い!」


明石「膝を抱えたままの那珂ちゃんを抑え込み、膝を付かせました! こっ、これは膝蹴り以上にまずい! 肘打ちには絶好のポジションです!」

明石「躊躇なく振り下ろしたぁぁぁ! 脳天をかち割らんばかりの肘の打ち落とし! 必殺の一撃が那珂ちゃんの頭頂部に入ったぁぁぁ!」

明石「このダメージは致命的だ! しかし、那珂ちゃんは必死に耐えている! もう2度とこの膝を放すものかと、決して離れようとしません!」

香取「足を取ってのテイクダウンを狙っているのかしら。那珂ちゃんのパワーじゃ、赤城さんにそれは無理なのに、なぜあそこまで……」

明石「顔と頭に無数の裂傷を負い、もう那珂ちゃんの耐久力は限界です! 再び肘が落とされた! 那珂ちゃん、遂に終わってしまうのか!」

明石「肘打ちを防ごうともせず、那珂ちゃんは更に膝を抱き込みます! これから何をしようと……あっ、引っ掻き!? 引っ掻いています!」


明石「もはや万策尽きたのか、痛みだけでダメージにはならない引っ掻き攻撃です! これが那珂ちゃんにとっての、最後の足掻きなのか!?」

香取「……違う、引っ掻き方がおかしいわ! 縦じゃなく、爪を横に滑らせるように引っ掻いてる!」

明石「あっ、赤城選手が肘打ちをやめました! 掌底で那珂ちゃんを突き飛ばし、まるで避難するかのように距離を取って……なっ!?」

香取「出血!? 尋常な量じゃないわよ!」

明石「赤城選手、内腿から大量の流血です! ただの出血ではない、まるで水道管に穴を開けたような勢いで血が噴き出ている! これは一体!」


香取「……これが那珂ちゃんの切り札だったんだわ。あのときの引っ掻きで、太腿の大腿動脈に傷を入れたのよ」

明石「で、でも引っ掻きでは動脈まで達するような傷をつけることは……」

香取「あのとき、那珂ちゃんは横滑りに引っ掻いていた。おそらく、爪の尖端を刃物のように鋭く研いでおいたのよ」

香取「これもルール上反則とは明記されてないわ。ダメージ覚悟で膝蹴りを受け、足にしがみつき、太腿の動脈を掻き切る。これがきっと最後の策」

香取「試合が中断されることも、その後に赤城さんが速攻を掛けてくることも読んでいたんだわ。那珂ちゃんは賭けに勝った……!」

明石「まさか、緋色の暴君が自らの血だまりを作ってしまうとは! この出血量では、行動不能まで幾ばくかもありません!」

香取「大腿動脈は失血死に至ることもある血管よ。そこを切られたなら、赤城さんが行動できるのはせいぜい後、1分……!」

明石「赤城選手は何としてもこの時間内に決めるしかない! 止血する時間も惜しい! 赤城、那珂ちゃん目掛けて走る!」


明石「しかし、那珂ちゃんはここに来てまたも逃げの一手! それもそのはず、もう那珂ちゃんは時間を稼ぐだけで勝利が決まるのです!」

明石「那珂ちゃんの顔には、先ほどの膝蹴りによるアザが生々しく残っています! あれほど膝と肘を食らい、限界が近いのは那珂ちゃんも同じ!」

明石「それでも、血に塗れて倒れそうな体を奮い立たせ、全力で逃げる、逃げる! 那珂ちゃん、勝利へ向けて全力で逃走を図ります!」

香取「レフェリーが据え置きな以上、警告も出されない。あとは逃げ回ってさえいれば那珂ちゃんは勝てそうね」

香取「でも……ここで簡単に諦める赤城さんではないはずよ」

明石「赤城選手、リング上に血を撒き散らしながら那珂ちゃんを追い詰める! 動脈を切られているとは思えない動きのキレです!」


明石「この動きが維持できるまでがタイムリミット! ここで那珂ちゃんをコーナーに追い詰め……これはっ、三角跳びぃぃぃ!?」

明石「出ました、逃げの三角跳びです! 己の技術と身体能力、全てを逃げることに使っています! 最後のスタミナを燃やし尽くす気だ!」

明石「それでも赤城選手は追うしかない! またフェンス際に……フェンス上を走った!? 那珂ちゃん、横向きにフェンスを疾走!」

明石「限界間近と思われた那珂ちゃん、驚異的な底力と運動神経でまたも窮地を脱出! 何が何でも逃げ切るつもりです!」

明石「那珂ちゃんとかなり距離を開けてしまった赤城選手、とうとう足が止まりました! 顔に血の気がない、もはや限界か!?」

香取「……違う。顔つきがまだ死んでないわ」

明石「あっ、何だ!? ここに来て、赤城選手が構えを変えました! 重心が低い! ガードを下ろし、両の拳を中段に構えています!」


明石「出血も意に介さず、その構えの先に那珂ちゃんを捉えている! ここから何をする気だ、赤城選手!」

香取「あの構え……まさか、古式ムエタイ!?」

明石「じわじわと距離を寄せている! 那珂ちゃんはフェンス際です! またさっきの三次元的な逃げ技で……いや、赤城のほうが早い!」

明石「一呼吸で間合いを詰めた! 那珂ちゃん危うし! ガードを固めて耐え……な、何だぁぁぁ! こ、これは見たこのない膝蹴りです!」

明石「一気に間合いを詰め、足を那珂ちゃんの膝に掛けた! その膝を土台に跳び上がり、頭を抱えての飛び膝蹴りぃぃぃ! これは痛烈だぁぁぁ!」

香取「……そうだったわ。赤城さんにも、隠し持った何かがあるはずよね」

明石「ここまで追い込んだにも関わらず、一撃で那珂ちゃんが……いや、落ちてない!? ま、まだ那珂ちゃんが動いている!」


明石「手で膝を辛うじてブロックしていた! しかも、蹴りに来た膝を抱え込むこの体勢は……プロレス技が使える!」

明石「自分から後ろへ倒れ込み、相手の頭をマットに打ち付ける! 必殺、那珂ちゃんバスターぁぁぁ! きっ、決まったァァァ!」

明石「す……凄まじい轟音が響きました! リングが割れたかのような……うわっ、血だまりです! おびただしい血が広がっています!」

明石「これはどっちの血だ!? 赤城選手か、それとも!? 両者とも倒れていて、勝敗がここからでは確認……あっ」

香取「……まさか、ここまでやるなんてね」


明石「あっ……あああっ……ご、ゴングが鳴りました! し……試合終了、終了です! か、勝ったのは……赤城選手! 赤城選手です!」

明石「投げが決まる寸前、赤城選手は投げられる勢いを利用して……那珂ちゃんの顔面に膝を落としました! 膝の打ち下ろしです!」

明石「マットと膝のサンドイッチにされ、既に限界が近かった那珂ちゃんが耐えられるはずもありません! 那珂ちゃん、完全に失神!」

明石「全身全霊を尽くしてここまで戦い抜くも、那珂ちゃん1歩及ばず! 最後に立っていたのはやはり、赤城選手です!」


明石「レフェリーを買収し、体と道着に粉末ローションを仕込み、最後には研いだ爪による引っ掻きでの動脈切断! その戦い、卑劣の極みです!」

明石「だがしかし、那珂ちゃんは全身全霊で勝ちに徹して戦いました! もう全て失っていい、その覚悟で那珂ちゃんは戦ったのです!」

明石「会場の皆さん、那珂ちゃんのファンになってほしいとは言いません、ただ、その心意気だけは称賛に値するはずです!」

明石「そして、那珂ちゃんの秘策を受け切りながら、それでも崩せなかった立ち技王者、赤城選手! 文句無しに強い!」

香取「小細工では赤城さんは崩せない、ということね。やはり彼女は最高のストライカーだわ」

香取「那珂ちゃんは不正工作を尽くした上での敗北……という最悪な負け方だけど、よく頑張ったわ。どうか、次があることを祈っているわね」

明石「波乱だらけの試合となってしまいましたが、どちらも死力を尽くした戦いとなりました! どうか、両選手を称える拍手をお願いします!」


試合後インタビュー:赤城

―――試合内容に不服はありますか?

赤城「あるにはありますが……今はない、と言っておきましょう。負けていれば文句のひとつも言ったでしょうが、今回は勝ちましたし」

赤城「こういう手段で勝ちに来られるとは思ってなかったので、戸惑ってしまいました。ですが、今はあまり気にしていません」

赤城「那珂ちゃんがこの赤城を倒そうとするなら、考えてみると当然の用意です。準備の周到さは、それだけ私を脅威と感じてくれていたのでしょう」

赤城「数々の不正は、むしろ私への尊敬と受け取らせていただきます。なかなか面白い戦いでした」

―――那珂ちゃんの実力をどのように評価しますか?

赤城「はっきりと断言しますが、那珂ちゃんは強いです。この私をあそこまで追い込んだ選手は、那珂ちゃんを入れてそうはいませんから」

赤城「初戦で使う予定のなかった技を使わされるはめにもなりましたしね。まさか、こんなところで古式の構えを見られることになるとは」

赤城「まあ、あの技は冥土の土産だと思っていただきたいですね。今後の那珂ちゃんの活躍をお祈りしています」


試合後インタビュー:那珂ちゃん

―――初戦敗退となりましたが、今のお気持ちをお聞かせください。

那珂「……勝てませんでした。だけど……不思議と悪い気分じゃないんです」

那珂「生まれて初めて、本当の全力で戦いました。なりふり構わない工作も、ルールを逆手に取った戦術も、全部勝つためです」

那珂「那珂ちゃんはこんなに勝ちたかったのは初めてです。後先も考えずに、勝ちに徹して……それでも負けました。赤城さんは強いですね」

那珂「これで、明日からの身の振り方を色々考えなくちゃならなくなりましたけど……いいんです。やるだけやって、すっきりしましたから」


明石「第2試合目は波乱の連続となりました! やはり第3回無差別級グランプリ、一筋縄ではいかない選手ばかりが集っています!」

明石「次なる第3試合も波乱の予兆を感じます! 対戦者はどちらも初参戦の海外艦、その上、片方は我々の敵国からの襲来です!」

明石「それでは第3試合に移ります! まずは赤コーナーより選手入場! イタリアより、最強を名乗る闘神がやってきた!」


試合前インタビュー:ローマ

―――日本は初めてとのことですが、異国の地で戦う緊張や不安などは感じておられるのでしょうか。

ローマ「Grazie。お気遣いに感謝します。しかし、そういったマイナス要素は一切感じていません」

ローマ「日本の方は同盟国ということもあり、とても親切に接してくださっています。これなら万全の態勢で試合に臨めそうです」

―――前大会では出場を見送られたとのことですが、今大会の出場を決意された理由をお聞かせください。

ローマ「他選手の試合を含め、長門さんの映像を全て拝見しました。彼女はとてつもなく強い。あのときの私では決して勝てなかったでしょう」

ローマ「元々私は総合格闘術だったのですが、長門さんには通用しないと感じました。ですから、戦い方を一から見直す必要に迫られたんです」

ローマ「過去のUKF無差別級グランプリに出た選手と技を解析し、古流の戦闘術と組み合わせる形で技を組み立てました」

ローマ「身に付けるには過酷な鍛錬が必要でしたが、思い描いていたシステムは完成しました。今の私なら、長門さんに勝てます」

―――初戦の相手となる戦艦棲姫ですが、何か思うことはありますか?

ローマ「抽選でなければ、初戦の相手は長門さんをお願いするつもりでしたから、そういう点では残念です」

ローマ「ですが、相手が未知数の深海棲艦だとしても、恐れはしません。対長門に組み立てられた私のシステムは、どんな相手にも通用します」

ローマ「戦艦棲姫にはその実験台になっていただきます。彼女なら、手加減はしなくてもいいでしょうし」


ローマ:入場テーマ「ブレイブリーデフォルト/地平を食らう蛇」

https://www.youtube.com/watch?v=XxGFVxqILN0&index=1&list=PLitCfufmsWBL3FKlTig8U9EAHlGs8x02W



明石「ローマ帝国とは!? かつて都市国家時代の欧州に存在し、圧倒的な文化と軍事力を誇った、世界最強の帝国である!」

明石「戦乱と没落により滅んだその帝国の名残を残すのは、今や一都市の名前のみなのか! 否! ここに存在する!」

明石「最強国家の名を背負い、UKFにてイタリアの強さを証明して見せよう! ”闘神”ローマァァァ!」

香取「まずは1人目の海外艦選手ね。あの3人の中では一番まともそうな方だわ。だから強くなさそう、ってわけじゃないけど」

明石「ローマ選手はイタリア軍部から送り出される形での出場ですが、軍部の方も『ローマなら優勝できる』と自信満々だそうです」

香取「それだけ自信があるのは、対長門さんを想定して組み上げたという彼女の戦闘システムにあるんでしょうね」

明石「公表では『剣闘術』となっていましたが、これはどういう意味なんでしょう?」

香取「名前だけから察すれば、おそらくは古代ローマのコロシアムで戦った剣闘士たちの技術、ということになるのかしら」

香取「まさか剣と盾を持ってきているわけはないから、日本武術でいう甲冑組討ちみたいなものなんじゃない?」

明石「甲冑組討ちですか……急所に当身を入れ、投げて組み伏せてから仕留めるという一連の動きは、確かに総合格闘に通じるものがありますね」

香取「そうなんだけど、まんま剣闘士の技術を使うわけじゃないんでしょう。そもそも剣闘士の技術の大半は武器術のはずよ」


香取「彼女はUKFグランプリの映像を全て見て、それを参考にしたと言っていたから、実際にはほぼ独自の格闘術を作ってきたんじゃないかしら」

明石「私もそうは思うんですが、ローマ選手は少し妙な言い方をしてるんですよね。これは流儀ではなく、『システム』だと」

香取「システムね……総合格闘技にも、そういう言い方をされたものが存在するわ」

香取「それはUKF初期の日向さんの戦術ね。胴タックルでテイクダウンを取ってからマウントポジションに持ち込み、パウンドを浴びせる」

香取「相手が嫌がってマウントから脱出しようとし、背を向けたところにバックチョーク。これで日向さんは20連勝し、戦艦級王者になっているわ」

香取「今は解析されて通用しなくなっているけど、その完成された勝利への流れは確かに『システム』と呼ぶべきものよ」

香取「ローマさんが言っているシステムが同じものを意味するとは限らないけど……なかなか興味深い技の組み立てをしてきたみたいね」

香取「どんな戦い方なのか楽しみだわ。もしかしたら、少々相手が悪いかもしれないけどね」

明石「ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! 深海棲艦の女王が今、UKFに登場します!」


試合前インタビュー:戦艦棲姫

―――今回はなぜUKFに参加されたのでしょうか。

戦艦棲姫「私ノ目的ハ大和ヲ殺スコトヨ。以前、私ヲ殺シテクレタオ返シニネ」

戦艦棲姫「ソノタメニ、セッカク海ノ底カラ這イ戻ッテキタトイウノニ、マサカ1回線デアイツガ落チルトハ思ワナカッタワ」

戦艦棲姫「仕方ガナイカラ予定ヲ変エマショウ。扶桑ト長門。大和ヲ倒シタコノ2人ヲ殺シテ、ソノ後ニ試合外デ大和ヲ殺ス」

戦艦棲姫「優勝ナドニ興味ハナイ。ソンナモノハ私ニトッテ通過点ニ過ギナイノ。大和ヘノ復讐コソ、私ニハ最モ大切ナノヨ」

―――UKFのルールに関しては把握されていますか?

戦艦棲姫「ルールニハ目ヲ通シタガ、馴染ミガナイワネ。ナゼ髪ヲ掴ム行為ヲ禁止ニシテルノ? 髪ノ毛デ絞メ殺スヤリ方ガ私ハ好キナノニ」

戦艦棲姫「柔ラカイマットモ、金網ニ囲マレタ空間モ好ミジャナイワ。殺シ合イハモット自由ニヤルノガ楽シイノヨ」

戦艦棲姫「マア、イイワ。ココハアナタ達ノ流儀ニ従ッテアゲル。別ニ殺シチャイケナイ、ッテワケデモナインデショウ?」

戦艦棲姫「慣レナイ環境ダケド、早メニ適応デキルヨウニスルワ。艦娘ヲ素手デ殺セル良イ機会ダ、大事ニサセテモラウワヨ」

―――対戦相手のローマ選手のことはどう見ていますか?

戦艦棲姫「ドウセ戦ウナラUKFノ強者ガ良カッタ。新参ノ海外艦トヤラサレルノハ少々興ザメネ」

戦艦棲姫「初戦デ人気ノアル艦娘ヲ血祭リニ上ゲテヤリタカッタノニ……デモ、イイワ。誰ガ相手ダッテ殺セバイイダケダカラ」

戦艦棲姫「ココヘ戦イニキタトイウコトハ、ソレナリノ覚悟ト実力ハアルンデショウ? セイゼイ私ヲ退屈サセナイコトネ」

戦艦棲姫「モシ退屈ナ相手ダッタラ……ソノトキハ、悶エ苦シム死ニ様デ楽シマセテモラウワヨ」


戦艦棲姫:入場テーマ「魔法少女まどか☆マギカ/Surgam identidem」

https://www.youtube.com/watch?v=wStS5Anvwjo


明石「ついに我々の宿敵がUKFのリングへ上がります! 鉄底海峡から来たりし深海棲艦の女王、艦娘最強の舞台に降臨!」

明石「格闘技など知ったことではない! 私が見せるのはルール無用の殺人技法! 敗北と死が直結する、闘争の本質を思い知れ!」

明石「貴様もアイアンボトムサウンドに沈むがいい! ”黒鉄の踊り子”戦艦棲姫ィィィ!」

香取「まったく、深海棲艦をリングに上げるなんて。UKFの運営は一体何を考えているのかしら」

明石「スポンサーの大本営からは物凄い文句を言われてますけど、話題にはなったのでプラマイゼロだとのことです」

香取「ああ、そう……しかし、敵地の真っ只中とも言える舞台に単身で乗り込むなんて、相当肝が座ってるわね」

明石「担当スタッフも驚いているそうです。粗暴な感じも、気負った感じもまるでなく、実に落ち着いた王者の風格を放っているそうで」

香取「さすが、大和さん以前のデスマッチ王者だけはあるわね。深海棲艦の中では最強なんでしょ?」

明石「はい。大和さん以外には誰にも負けたことがなく、本当に200戦無敗だったらしいです」

香取「交流なんてあるわけないから、深海棲艦のデスマッチに関する情報はこっちには全然伝わってないんだけど、大和さんなら知ってるわよね」


香取「大和さんは戦艦棲姫のファイトスタイルについて、何か話をしてくれたかしら?」

明石「聞きには言ったんですけど、『フェアじゃないから』と言うことで詳しくは教えてくれませんでした」

明石「大和さんが話してくれたのは、『足技に注意』ということと、『倒すのにかなり手こずった』という2つの情報だけです」

香取「……足技ね。確かに、あの長い手足は警戒に値すべきだわ。同じ戦艦級の中でも、リーチの長さはトップクラスでしょう」

香取「ストリートファイトの熟練者だから、素手の打撃にも慣れっこでしょうし、ストライカー能力はかなり高いんじゃないかしら」

明石「大和さんが手こずったというくらいですから、格闘技経験がないとはいえ、油断できる相手ではありませんね」

香取「……その大和さんが手こずった、ってところがどうも納得いかないわ」

明石「えっ? それはその……普通に強いって意味じゃないんですか?」

香取「そりゃあ強いでしょうよ。深海棲艦のデスマッチがどれくらいのレベルかは知らないけど、生半可な実力じゃ200戦無敗の戦績は築けないわ」


香取「だけど、いくら実力が高くても相性というものがあるわ。戦艦棲姫は霧島さんと同じ、喧嘩殺法のはずでしょ?」

明石「あ、はい。流儀はフリーファイトとなっていますし、本人も格闘技経験はないと明言しています。その情報は確かかと……」

香取「そんな人が大和さんを苦戦させるはずはないわ。大和さんは柔道家、組み技系では最強クラスの格闘家よ」

香取「場慣れした喧嘩屋が、路上でボクサーや空手家を叩きのめすのは確かに有り得る。でも、組み技系の格闘家相手だとそうはいかない」

香取「本能的に動けばある程度まではどうにかなる打撃系とくらべて、投げ技、組み技は抜け方を知っていないと逃げられない技が多数存在するわ」

香取「ましてや実戦経験豊富な大和さんに技を掛けられて、乱取りの練習さえしたことない喧嘩屋が抵抗できるはずがないのよ」

明石「霧島さんあたりは確かにそうですね。寝技や関節技を掛けられれば、噛み付くか殴る以上のことはできないようでしたし」

香取「実戦だけで強くなった喧嘩屋はそれが限界なのよ。組み技の攻防は知識と練習量でしか培えない、一種の学問みたいなものだから」

香取「格闘技経験なくして、組み技という知恵の輪は決して解けないはず。それなのに、戦艦棲姫が大和さんを苦戦させたということは……」

明石「……戦艦棲姫は格闘技を知っている、ってことでしょうか?」


香取「そこまで断言はできないけど……普通の喧嘩屋じゃないとは思うわ。戦艦棲姫は、何らかの形で組み技への対処ができるはず」

香取「もしかしたら、格闘技経験がないって発言も油断を誘うための嘘なのかも。騙し合いは実戦の基本だものね」

明石「なるほど……では、ローマ選手と戦艦棲姫の戦い、どのような展開を予想されますか?」

香取「正直なところ、予想できることはほとんどないわ。どちらもファイトスタイルがまったくの未知数だもの」

香取「初戦から海外艦同士が潰し合うことになるなんてね。なんで大会運営委員長はこの組み合わせを通したのかしら」

明石「なんでも、この対戦カードが抽選されたとき、まだ『絶対にやっちゃいけない組み合わせ』を引く可能性が残っていたからだそうですが……」

香取「ふうん……何にしても、異質な戦いになるのは何となく感じるわ。片方の相手は深海棲艦だものね」

香取「元デスマッチ王者の戦艦棲姫なら、当たり前のように急所を狙ってくるでしょう。ローマさんも、そのことは当然想定しているわよね」

香取「長門さんに勝てると言い切り、『闘神』を名乗る自信に実力が伴っているのかどうか、見せていただきましょう。相手に不足はないはずよ」


明石「ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! 初参戦の海外艦同士が睨み合っております!」

明石「薄笑いを浮かべて相手を見下す戦艦棲姫、その視線を傲然と受け止めるローマ選手! 激戦を予感させる空気が漂っております!」

明石「殺し合いを知り尽くす魔人を前に、イタリアの闘神はどのように戦うのか! 今、ゴングが鳴ろうとしています!」

明石「試合開始! 共にマイペースな速度でリング中央に出ていきますが……これは、互いに対象的な構えを取っています!」


明石「ローマ選手は左半身を開き、スタンスを広めに取った安定感のある構え! 左腕を盾のように前へ出し、右拳を大きく振りかぶっています!」

明石「いかにも、この右拳で殴りつけてやろうという立ち姿です! おそらく、我々が初めて目にする構えではないでしょうか!」

香取「確かに見たことない構えね。あの右手は何のつもりかしら? あのまま打ってもテレフォンパンチになって躱されるわよ」

明石「対する戦艦棲姫ですが、これを構えと呼んでいいのでしょうか! ほぼ棒立ちのまま両手をだらりと下げ、その場でステップを踏んでいます!」

明石「ノーガード戦法というより、ただその場で飛び跳ねているだけにも見えます! これはすなわち、喧嘩に構えなど不要ということなのか!」


明石「異質な構え同士が対峙します! その構えの真意を探り合うかのように、どちらも仕掛けない! お互いを冷静に観察しています!」

香取「どっちも出方を伺わざるを得ないわね。見たことのない構えに向かっていくのは無謀でしかないでしょうし」

明石「ローマ選手は足に根が生えたように微動だにせず、戦艦棲姫は直立姿勢のままステップを踏み続ける! 睨み合いが続いています!」

明石「先に拮抗を破るのはどちらか! ここで戦艦棲姫がやや前に出……いきなりドロップキィィィック! ぷ、プロレス技ぁ!?」

香取「あの間合いから!?」

明石「戦艦棲姫、初手から大技を繰り出したぁ! 全体重を乗せた両足が叩き付けられる! これをローマ、左腕1本でブロック!」


明石「完全に受け止めました! そして……戦艦棲姫、華麗に着地!? これは、驚嘆すべきバランス感覚です!」

香取「凄いわね。ドロップキックは成否に関わらず、放った後はグラウンドに倒れ込むものよ。それを着地なんて……運動能力がずば抜けてるわ」

明石「プロレスラーの度肝を抜くような凄まじい蹴りでした! それを腕1本で受け止めたローマも恐るべし! やはりこの2人、強い!」

明石「共に構えをニュートラルに戻します! 戦艦棲姫が再びステップを踏み……いや、蹴った! 回し蹴りです!」

明石「ボディを狙った左のミドルキック! これもローマ選手、左手で止めた! ムエタイを思わせる鋭い蹴りでしたが、ブロックには成功です!」

明石「しかし、続けて戦艦棲姫が蹴りを放つ! 右のハイキックだ! これも左腕でガード! 間髪入れずに後ろ回し蹴りぃ!?」


明石「更にローキック、ミドル、あごへの蹴り上げ! まるでテコンドー選手のように継ぎ目なく蹴りを放つ戦艦棲姫! 凄まじい身のこなしです!」

明石「だが、ローマ選手はその全てを左腕のみで防ぎ切っている! 鉄壁の如きガードの厚さです! その左、まさに剣闘士の大盾!」

明石「戦艦棲姫もそのディフェンス力の前に、一旦攻勢をやめて間合いを置きます! しかし呼吸は乱れず、薄笑いも消えていません!」

明石「攻撃を誘っているようにも見えますが、ローマ選手は動かない! 右拳の照準を戦艦棲姫に合わせたまま、左腕をガードに置くのみです!」

香取「普通、強い蹴りは利き足でしか打てないものだけど、戦艦棲姫は両足で打てるみたいね。天才的な運動センスだわ」


明石「どうでしょうか、この攻防。戦艦棲姫が攻めはしていますが、蹴りはことごとく防がれています。互角と思われますか?」

香取「ローマさんのほうが不利かもしれないわ。蹴りを防いだといっても、全部左腕1本で受けてるのよ。あの腕、もう感覚がないんじゃない?」

香取「戦艦棲姫の蹴りは素人仕込みとは思えないほど強力に見えるわ。このまま左だけで受け続けると、死に腕になって防御が崩れるかもしれない」

明石「防御もそうですが、ローマ選手はあの右拳を一向に打ちませんね。カウンターを狙っているんでしょうか?」

香取「単に間合いの問題じゃないかしら。戦艦棲姫が蹴りしか打たない上にリーチが長いから、拳の射程に入れないのよ」

香取「戦艦棲姫もそれをわかって蹴りしか打たないのかも。ローマさん、早くも考えが見透かされてるわよ」

明石「確かに……このままでは、ローマ選手は『システム』を披露する前に、左腕を消耗して構えを崩されかねません!」


明石「しかしローマは動かない! その様子を戦艦棲姫は薄笑いを浮かべて観察しています! ここから何を仕掛けてくるのか!」

明石「再び戦艦棲姫がステップと共に間合いを詰める! 左のハイキッ……いや、何だあの脚の持ち上がり!? 上空から蹴りを振り下ろした!」

明石「ぶ、ブラジリアンキック! 高度な蹴り技を繰り出して来ました! せり上がった脚がガードをかいくぐり、ローマの首の付け根にヒット!」

明石「驚くべき股関節の柔軟性です! それでもなお、ローマは動かない! わずかに姿勢が揺らいだ様子はありましたが、構えは崩れていません!」

明石「まだローマ選手は攻めないのか! 対する戦艦棲姫は次の攻撃に移る! 今度は何だ? 体を左方向に捻りました!」


明石「捻りを加えてまたブラジリアンキッ……空振り!? 違う、回転力を殺さずそのまま下段後ろ回し蹴り! かかとで膝を狙いました!」

明石「これも命中! フェイントを入れた重い蹴りが膝に入りました! 相変わらず動かないローマですが、さすがに効いたのではないでしょうか!」

香取「恐ろしく器用なやつね。ここまで多彩な蹴りを打てるなんて、テコンドー選手でもこうはいかないわよ」

明石「更に戦艦棲姫は蹴りを放つ! 左の後ろ回し蹴り! これはローマ、がっちりと側頭部をガード……いや、すり抜けた!?」

明石「蹴りが途中で変化しました! 膝を曲げ、足裏を叩き付けるような掛け蹴り! 後頭部に当たった! この一撃はまずい!」


明石「わずかにローマ選手がよろめく! 好機とばかりに戦艦棲姫がトドメの蹴り! 顔面狙いの前蹴りが……ローマが動いた!?」

香取「カウンター!?」

明石「せ、正拳逆突きぃぃぃ! 凄まじい突きが決まりました! 前蹴りを左手で捌いてからの正確無比なカウンター! 戦艦棲姫の顔面に命中!」

明石「コンクリートの壁をも貫きそうな、強烈な一撃です! 全てはこれを決めるために耐えてきた! 今、その一撃が入りました!」

明石「この威力は耐えようがない! 戦艦棲姫、ダウン! ダウンです! すかさずローマがパスガードに向かう! ま、マウントポジション!」


明石「戦艦棲姫のダメージは深刻だ! 逆突きをまともに受け、顔面がへこんで……そこに鉄槌振り下ろしぃぃぃ! キツいダメ押しが入ったぁ!」

明石「ローマ選手、トドメを刺しに掛かった! パウンドのラッシュ、ラッシュ、ラッシュ! 戦艦棲姫、辛うじてガードを上げて防御に徹する!」

明石「しかし、明らかに意識が朦朧としている! パンチをガードし切れない! 攻勢は一転、ローマ選手が完全に主導権を握りました!」

香取「……『システム』ね。参考にしたファイトスタイルは、カウンター特化の武蔵さんと島風さん、一撃必殺の夕立さんってところかしら」

香取「まさに長門さんを倒すためだけの技の組み立てだわ。彼女、このシステムだけで全試合を勝ち抜くつもりよ」

明石「今のが『システム』ですか? 確かにカウンターを当ててマウントを取る動きは非常にスムーズでしたが……」

香取「ローマさんは元々総合格闘術だったそうじゃない? 彼女は長門さんを勝つために、新しい技を覚えるんじゃなく、むしろ技を捨てたのよ」


香取「何でもできる長門さんに、多彩な攻撃は通用しない。なら、可能性があるのは一点特化。ごく一部の技を研ぎ澄まし、その一撃で鉄壁を穿つ」

香取「あれはそのための戦法よ。左腕は防御に徹し、攻撃に耐えて右の正拳突きをカウンターで入れる。磨きに磨いた正拳突きをね」

香取「カウンターでそんなものをもらえば、確実にダウンが取れる。それからマウントに移行して仕留める。彼女はこの流れだけを鍛錬したの」

香取「極めてシンプルな技の組み立ては、確かに流儀というよりは『システム』。盾で受けて剣を突き刺す、まさに剣闘術の戦い方ね」

明石「なるほど。ということは、マウントを取ったこの状態は、ローマ選手にとって最終段階! ここで確実に試合を終わらせる気だ!」

明石「最初の正拳突き、そしてパウンドのラッシュにより、戦艦棲姫はKO寸前! 数え切れないほどのパンチを顔面にもらっています!」


明石「鼻骨は折れ、流血とアザで表情すら窺い知れない! それでもローマは容赦しない! ここでアームロックを仕掛けたぁ!」

香取「マウントを取ってから、確実に仕留める技術もばっちりね。身体能力は凄かったけど、喧嘩屋さんはここで終わりかしら」

明石「右腕の逆関節を取り、捻じ曲げる! き、極まったァァァ! 肘があらぬ方向へと曲がりました! もう右腕は使い物に……?」

香取「え……?」

明石「な……何だ!? アームロックは間違いなく極まっています! 肘は関節の可動域を超えて曲がっている! なのに……手応えがない!?」

明石「いくら腕を捻っても、折れる気配がない! ローマ選手の表情にも戸惑いが浮かびます! これは一体!?」

香取「関節技が……通用しない!?」


明石「あっ!? ろ、ローマ選手の首に脚が絡み付きました! あれほどの打撃を食らって、まだ意識があるのか、戦艦棲姫!」

明石「しかも、異常な脚の上がり方です! マウントを取られた状態から、両足でローマの首をクラッチ! そのまま背後に引き倒している!」

明石「同時に頸動脈も絞めている!? 二匹の蛇のような脚が今、ローマを引きずり倒したぁ! 戦艦棲姫がマウントから抜け出します!」

明石「こ、こいつ……!? 笑っています! 鼻を潰され、血みどろになりながらも、その表情は薄笑いのままだ!」

香取「……アドレナリンを操作してるわ。殺し合いへの高揚感でダメージを消してる……!」

明石「マウントから逃げられたローマですが、まだ立たせはしない! 首に絡みつく脚を引き剥がし、足関節を狙う! 足首固めが入った!」


明石「一息に捻じ曲げたぁぁぁ! 戦艦棲姫、自慢の脚を骨折……してない!? 薄笑いが消えていません!」

明石「極められていない脚でローマを蹴り飛ばし、関節技から易々と脱出! お、折れてません! あれだけ拗じられたのに!?」

香取「わかったわ。こいつ、関節の可動域が異常に広いのよ。熟練のヨガ僧かそれ以上の、超人的な柔軟性を持っているの」

香取「普通、あれだけ拗じられれば靭帯断裂か、脱臼骨折のどちらかを起こすはずよ。鍛えて手に入るものじゃない、天性の才能……!」

明石「まさに魔人と言うべき身体能力! 関節技がここまで効かないとは! ローマがグラウンドで仕留め切れない!」


明石「関節技から抜け、戦艦棲姫が立ち上がり……!? 違う、脚を絡めた! まさか、グラウンド勝負を挑む気か!?」

明石「あ、足4の字固めぇぇぇ!? またしてもプロレス技、しかも関節技です! 喧嘩屋、戦艦棲姫が寝技を繰り出しました!」

香取「馬鹿な、実戦で掛けられるような技じゃないはずよ!?」

明石「蛇のような両脚が絡みつき、ローマの膝が悲鳴を上げる! まさか、デスマッチの王者が足関節を使えるとは!」

明石「あっと、ローマ選手、戦艦棲姫を蹴りつけた! どうにか4の字固めから脱出しました! グラウンドを捨て、再びスタンドに戻ります!」

明石「どうやら戦艦棲姫に寝技は危険と判断したようです! もう一度、打撃戦からのカウンターで仕留める作戦か、ローマ選手!」


明石「スタンドに戻ったローマを見て、戦艦棲姫も立ち上が……らない!? ガードポジションのまま、ローマの懐に滑り込んだ!」

明石「また脚を絡めてきました! これは、足搦み!? 膝裏を折りたたまれるようにして、ローマがあっけなくグラウンドに引きずり込まれた!」

香取「デラヒーバ・ガード!? ブラジリアン柔術の技じゃない! こいつ、やっぱり格闘技を知ってる。それも相当なレベルで……!」

明石「予想外です、喧嘩屋であるはずの戦艦棲姫が柔術を使いこなしている! 格闘技経験なしというのは偽りだったのか!」

明石「ともかく、ローマ選手はこの絡みつく両脚から逃れなくてはなりません! 脚をかき分け、グラウンドからの脱出を図る!」

明石「し、しかし……戦艦棲姫の体捌きが思いのほか上手い! こいつ、グラウンドのポジション取りまで出来るのか!」

香取「大和さんが手こずるわけだわ。関節技が効かない上に、寝技も黒帯級の腕前じゃない……!」


明石「とうとう戦艦棲姫がトップポジションを取った! ローマ選手、辛うじてハーフガードを維持! ここから片足を抜かれるのはまずい!」

明石「戦艦棲姫の最大の武器、脚を自由にすれば何をされるかわからない! どうにかディフェンスを……戦艦棲姫が襟を取った!?」

香取「つ、突込絞め!?」

明石「道着を使った絞め技です! 忘れていました、戦艦棲姫は脚だけでなく腕のリーチもある! ハーフガードからでも絞め技が可能なのです!」

明石「初めて戦艦棲姫が腕を武器として使う! ローマ選手、防戦一方! グラウンドで圧倒的劣勢に立たされています!」

明石「し、しかもここで戦艦棲姫が脚を抜いた! マウントポジションを取られました! ローマ選手にとって最悪の展開です!」

香取「いえ、これはローマさんから仕向けたことみたい」

明石「おっと!? ローマ選手、戦艦棲姫の腕を取って体を捻った! 腰を浮かせて亀の体勢に移行! マウントから一時脱出!」


明石「どうやら、グラウンドから逃れるため、わざとマウントを取らせたようです! まだローマ選手に逆転のチャンスは残されています!」

香取「……戦艦棲姫の技量が読めない。あれだけクラウンドの攻防ができるのに、マウントポジションの維持は全然できないみたいだわ」

明石「ローマ選手が立ち上がった! 背中には戦艦棲姫がしがみついたまま! まだ袖を締めあげて頸動脈に圧力をかけ続けています!」

明石「これを振りほどけるか! ローマがより深く腕を抱き寄せた! 体を沈み込ませる! い、一本背負いぃぃぃ! 一息に投げ落としたぁ!」

明石「起死回生の投げ技で戦艦棲姫をマットに叩き付けました! まだ終わっていない! イタリアの闘神はここからだ!」

明石「戦艦棲姫は受け身を取ったようですが、それよりローマのパスガードのほうが速い! 間髪入れずマウントポジションを取り返しました!」

香取「スタンドからマウントを取る能力はローマさんのほうが上ね。ここで戦艦棲姫を仕留め切らないと、厄介なことになるわよ」


明石「再び手にしたマウントポジション、ローマの選択する攻撃手段はやはりパウンド! 関節技が効かないなら、殴り倒すのみ!」

明石「上から殴る、殴る、殴る! 顔面へ容赦ない鉄槌打ちの雨あられ! 一発一発の打撃が重い! マットへ血しぶきが飛び散っています!」

明石「ただでさえ潰れかけていた顔を更に潰され、戦艦棲姫も限界は近いはず! どうするデスマッチ王者! これで終わりか!?」

明石「いや、やはり終わってはいない! 再度脚が持ち上がる! ローマの背後から2本の脚が襲い掛かります! しかし、今度は読んでいる!」

明石「素早く腕で防御を……いや、狙いが違う! 襟です! 足指が道着の襟を掴み、しかも締め上げた!? 頸動脈を極められている!」

香取「あんな体勢から、足の指を使った送り襟絞め!? こんな技見たことない……ていうか、普通できるわけない!」

明石「まさに化け物じみた絞め技です! 不意を突かれたローマ選手、堪らず立ち上がって振りほどいた! 同時に戦艦棲姫も立ち上がる!」


明石「スタンドからの再勝負となってしまいました! 無傷のローマ選手に対し、明らかに手負いの戦艦棲姫ですが……薄笑いが消えていない!」

明石「血をボタボタと滴らせながら、楽しそうに笑っています! 再びステップを踏み始める、その動きにダメージは感じられません!」

明石「敗北が死に直結するというなら、死なない限り立ち上がるとでも言うのか! やはりこいつも、常識が通用しない怪物です!」

明石「ローマ選手の剣闘術は、このような化け物を想定して組み立てられてはいない! 打撃も、関節技も、寝技さえこいつには通らない!」

明石「もはやローマ選手に残された武器は1つ、正拳逆突き! この一撃を当てるしか、戦艦棲姫を沈める方法はない!」

香取「アドレナリン放出で誤魔化してるとはいえ、戦艦棲姫のダメージは深刻よ。今度大きな一発が入れば、流石に耐え切れないはず」

香取「でも、ローマさんがカウンター狙いなのを戦艦棲姫は知っている。簡単には当てられないわよ」

明石「ローマ選手は再び動かなくなりました! 左腕を防御に構え、右拳を振りかぶったまま戦艦棲姫から視線を切らない!」


明石「また蹴ってこいと誘っています! 誘いに乗るか、戦艦棲姫! 間合いを詰めていく! やはり攻めるのは戦艦棲姫です!」

明石「脚のリーチを生かした前蹴り! ローマが捌いた! 早くもカウンターの右……二段蹴りぃぃぃ!? ローマ、逆にカウンターをもらった!」

香取「二段重ねの飛び前蹴り!? どれだけ蹴りのレパートリーがあるのよ!」

明石「あごにつま先蹴りが入ってしまいました! ローマ選手、ダウン! 今度は戦艦棲姫がマウント……違う、踏み付けにいった!」

香取「ま、まずい!」

明石「躊躇なく踏み抜いたぁぁぁ! 魔の脚がローマの顔面を押し潰しました! 続けて踏み付け、踏み付け、踏み付けぇぇぇ!」


明石「ご、ゴングが鳴りました、試合終了! それでも戦艦棲姫が追撃をやめない! レフェリーに強引に制止され、ようやく攻撃を中断しました!」

明石「劇的な幕切れとなってしまいました! スタンド、グラウンド共に凄まじい攻防になりましたが……勝負を制したのは、戦艦棲姫!」

明石「恐るべき格闘技巧を見せつけながら、最後は喧嘩屋らしく踏み付けで終わらせました! 勝ったのは戦艦棲姫、戦艦棲姫です!」

明石「対長門に組み立てられた剣闘術も、深海棲艦の女王には通用せず! ローマ選手、無念! ローマ選手はここで敗退となります!」

明石「逆に戦艦棲姫は1回戦突破! UKFは深海棲艦の初戦勝ち抜きを許してしまいました! この怪物を倒せる者は現れるのでしょうか!」


香取「想像以上……というより、思ってたのと全く別の強さを持つファイターみたいね、戦艦棲姫は。まさか技巧に長けてるなんて思いもしなかった」

香取「ローマさんは相手が悪かったとしか言いようがないわ。あんな規格外を想定した技の組み立てもしていなかったでしょうしね」

香取「対長門戦法はシンプルで汎用が効く反面、トリッキーな相手には向いてないのかも。まだ改良の余地があるのかもしれないわ」

明石「戦艦棲姫の格闘技経験がないという発言は嘘だったんでしょうか? 蹴り技から寝技まで、かなり高度な技術を使いこなしていましたが……」

香取「嘘と見て間違いないわね。私が見る限り、打撃系と柔術系、2つ以上の格闘術を相当深くやり込んでるわ」

香取「経歴まで偽って勝ちに来るなんて……さすが実戦慣れしてるじゃない。性格のほうもかなりしたたかみたいね」

香取「戦艦棲姫は優勝候補の実力を持っていると見ていいでしょう。まだ見せてない技もありそうだし、警戒する必要があるわ」

明石「まさしくダークホースですね。運営側の本音を言えば、話題作りのためだけに呼んだ節があるので、あまり勝ち抜かれると困るのですが……」

香取「簡単には倒せないわよ。戦艦棲姫に喧嘩屋特有の弱点はない。打撃も寝技もできて、関節技が効かない特異性まで持ち合わせてる」

香取「最悪、決勝まで勝ち進まれる可能性もあるわ……どうにか他の選手に頑張ってほしいわね」

明石「そうですね。とんでもないやつでした……」


試合後インタビュー:戦艦棲姫

―――初戦突破の感想をお聞かせください。

戦艦棲姫「ナカナカ楽シメタ。初戦カラ歯応エノアル艦娘ヲ殺セテ満足ヨ。戦イ方モ面白イヤツダッタ」

戦艦棲姫「ココニハ見タコトノナイ戦イ方ヲスル相手ガ大勢イルミタイネ。次ノ対戦モ今カラ楽シミダ」

―――ブラジリアンキックや送り襟絞めなど、高度な技を使われていましたが、ああいった技はどこで学ばれたんですか?

戦艦棲姫「ブラジリアン……? ナンダソレハ。アア、技ノ名前? ソウイウ呼ビ名ナノネ、知ラナカッタ」

戦艦棲姫「アレハ、デスマッチデ見タコトノアル技ヲ真似タダケダ。襟ヲ掴ンデ絞メ殺ス技ハ、大和ガ私ニトドメヲ刺シタ技ダカラヨク覚エテルワ」

戦艦棲姫「蹴リモ以前ニ戦ッタ、空手家ヤ中国拳法家ガ使ッテイタモノヲ真似シテイル。蹴リ技ハ好キダ、使ッテイテ楽シイカラ」

戦艦棲姫「手技ハ好キジャナイカラ使ワナイ。指ガ痛クナルノガ嫌ダ」

―――どれくらい練習したんですか?

戦艦棲姫「練習? 技ナンテ、一度見レバ普通覚エルデショウ。踊リノ稽古ジャナインダカラ、イチイチ練習ナンテスル必要ガナイ」

戦艦棲姫「……ナンダ、ソノ顔ハ。違ウノカ? 私ハ技ヲ練習シタコトナンテナイガ……普通ハスルモノナノカ?」

戦艦棲姫「ソウナノカ……実ニ不器用ダナ、艦娘トイウモノハ」


試合後インタビュー:ローマ

―――敗因は何だったと思われますか?

ローマ「何から考えていいのか……まず、あんなファイターが存在すること自体、まったくの想定外でした」

ローマ「関節技が効かず、四方八方どこからでも脚が飛んでくる……彼女には専用の対策を講じるしか、勝算が思い浮かびません」

ローマ「長門さんを想定したシステムなら、全ての相手に通用すると思い込んでいました。自分の考えが甘かったことを恥じます」

―――初戦敗退となってしまいましたが、今の心境をお聞かせください。

ローマ「……こんなことになるなんて、思ってもみなかったわ。本国の方たちに、必ず優勝するって約束してきたのに……」

ローマ「しかも、深海棲艦を相手に負けるなんて……悔しいです。こんなことじゃイタリアに帰れない……」

ローマ「できることなら、もう一度チャンスが欲しいです。でも、負けたら終わりなんですよね……」

ローマ「……敗北を認めます。だけど、2度と負けません。次こそは、必ず……!」

~小休止 15分後に再開~

~再開~


明石「海外艦同士がぶつかり合った第3試合、勝者は深海棲艦となってしまいました! 続々と怪物級の強者が勝ち上がっていきます!」

明石「本日最後の対戦となりました! こちらにも海外艦が登場! ナチス・ドイツからの刺客を、軽巡級王者は迎え討つことはできるのか!」

明石「それでは第4試合、開幕! 赤コーナーより選手入場! 軽巡級王者にして、艦娘一の頭脳派ファイターです!」


試合前インタビュー:大淀

―――組み合わせ抽選において、大淀選手は一番の外れクジを引いたという下馬評ですが、ご自身はどう捉えられていますか?

大淀「否定はしません。確かに私にとって、初戦で海外艦に当たるというのは好ましくないケースです」

大淀「ですが、別に最悪というわけではありませんよ。なぜなら、こういったケースも予め想定していましたから」

大淀「序盤で手の内を晒さざるを得ないという不利益は発生しますが、勝算は十二分にあります。心配してくださらなくて結構です」

―――グラーフ・ツェッペリン選手にデータ戦術は通用しないかと思いますが、どのように戦いますか?

大淀「グラーフさんにデータが通じないというのは皆さんの思い込みです。どんな訓練や改造を受けていようと、ベースは私達と同じ艦娘ですから」

大淀「関節があり、急所があり、神経が通っている。本物のサイボーグではない以上、型にはめることは可能です」

大淀「それに、彼女はビスマルクさんと同じ研究機関の出身らしいじゃないですか。それだけの情報があれば、データとしては充分です」

大淀「既にビスマルクさんについては解析が終了しています。ベルリンの人喰い鬼は、今の私にとっては少々変わり種のファイターに過ぎません」

大淀「足りない部分は戦いながら埋めていけばいいでしょう。彼女には今日付けでドイツへの帰国便に乗っていただきます」

―――人気がないことでお悩みの大淀選手ですが、グラーフ選手に勝利すれば、人気が出るとお考えですか?

大淀「いいえ? 以前からそうですが、私は人気取りのために戦ったことは一度もありません」

大淀「私は那珂ちゃんのような人気があってこそのファイターではなく、純正の格闘家。格闘家とは勝つことが全てです」

大淀「面白い試合作りなんて考えたこともありませんし、負けたのに評価されるなんてことも望んでいません。負けるのはただただ恥だと思ってます」

大淀「今日も勝ちに来ました。もし名勝負をお望みなら、期待には応えられそうにありません。私がただ勝つだけですから」


大淀:入場テーマ「Silent Hill/Opening theme」

https://www.youtube.com/watch?v=w2cK8mOG4Q8


明石「兵は詭道なり! ならばリング上での騙し合いに最も長けた者こそ最強のファイター! 即ちそれは、軽巡級王者のことを指し示す!」

明石「裏をかき、型にはめ、罠に誘い込む! リベンジの意志さえ挫く、冷酷非道な処刑ファイトを目に焼き付けろ!」

明石「勝利への方程式が解き明かされる! ”インテリジェンス・マーダー” 大淀ォォォ!」

香取「前回は解説だった大淀さんね。解説役を務められるだけあって、彼女はあらゆる格闘技に精通しているわ」

明石「元々は少林寺拳法を学んでいたそうですが、既に流派からは離れているそうですね」

香取「ええ。実戦性に疑問を感じたらしくて、それからは世界中のあらゆる格闘術を学び、技を取捨選択して独自のファイトスタイルを築いているわ」

香取「ベースになってるは少林寺拳法とジークンドーだけど、基本的には何でもやれるわね。どちらかと言えば打撃が主体かしら」

香取「大淀さんのハンドスピードはUKF選手でもトップクラス。威力はないけど、突きの速度と正確さはかなりの脅威になると思うわ」


明石「大淀選手の得意技と言えば、やはりフィンガージャブになるでしょうか」

香取「そうね。本来、目突きは実戦で使うと驚くほど成功しないものよ。的が小さい上に、人には顔への攻撃を防ごうとする本能が備わっているから」

香取「逆に言えば、目突きを打たれると相手は反応せざるを得ない。大淀さんはそれを利用して、フェイントとしての目突きを多用するわ」

香取「大淀さんの目突きはとにかくしつこいのよ。目の前で何度も何度も猫騙しをされるようなものね。やられる側は堪ったものじゃないわ」

香取「で、相手がフェイントに慣れる頃合いになると、本当に突いてくる。そうやって大淀さんは、何度も正面からの目突きを成功させてきたわ」

香取「総括すると、大淀さんのファイトスタイルはとにかく性格が悪いのよね。心理戦を仕掛けて、嫌らしいところを突いてくる戦術よ」

明石「大淀選手と対戦したファイターは、口を揃えて『二度と戦いたくない』とコメントしていますよね」

香取「だって、大淀さんって本当に相手に何もさせないんだもの。大淀さんは対戦者の流儀から人格まで、全てのデータを解析して試合に臨むから」

香取「彼女が読むのは次の一手だけじゃなく、相手の『やりたいこと』と『して欲しくないこと』。相手の行動を戦略的視点から潰してしまうのよ」

香取「打撃を望まれれば組み付き、組み技を望まれれば離れる。常に相手の嫌うことを選択して、徹底的に噛み合わせず立ち回る」

香取「結果、相手は何もできなくなる。そうやって主導権を握ってしまえば、後はパターンにハメて潰すだけね」


明石「テレビゲームで例えるなら、ハメ技ばかり使ってくるタイプのファイターですか。そりゃあ嫌われるわけです」

香取「そうね。そんな戦い方だから、今まで大淀さんはほぼ全ての試合を無傷で勝っている。これほど完封勝ちの多い選手は極稀よ」

香取「ただ、彼女には欠点が2つあるわ。1つは試合を盛り上げようとする気持ちが全くないということ」

香取「まあ、これはまさしく欠点であって、弱点にはならないんだけど。勝ちに徹した戦い方だから、面白みにはどうしても欠けるのよ」

香取「もう1つは、相性の悪い相手には勝率が薄いことね。何を考えているかわからないようなタイプのファイターは大の苦手みたい」

香取「具体的には鳳翔さんや、長門さんね。実際、第1回目のグランプリで、大淀さんは何もできないまま長門さんに敗北しているわ」

香取「でもね、逆に言えば、大淀さんは長門さん以外にはリング上で負けたことはない。それはそのまま、彼女の実力を表しているんじゃないかしら」

明石「下馬評において、大淀選手がこの試合を勝ち抜く確率は絶望的と言われていますが、香取さんとしてはどう思っていますか?」

香取「勝率が低いのは間違いないけど、そう捨てたものでもないと思うわ。彼女は言ってたもの、『ビスマルクさんの解析は済んでいる』って」

香取「ビスマルクさんのデータはこの試合で大いに役立つはず。何より、大淀さんがリングに上がること自体、彼女なりの勝算があるということよ」

香取「大淀さんは戦いにおいて完全な合理主義者。プライドも周囲の評判も二の次だから、負けると思ったら試合をするまでもなく棄権するはず」

香取「優勝するための準備はしっかり整えていることでしょう。それはどの選手にとっても、決して油断できるものではないと思うわよ」

明石「ありがとうございます。さて、それでは青コーナーより選手入場! 恐怖のナチス・ドイツ新造艦がとうとう姿を現します!」


試合前インタビュー:グラーフ・ツェッペリン

―――ビスマルク選手の後継機と伺っておりますが、ご自身はビスマルク選手についてどう思っていらっしゃいますか?

グラーフ「あの出来損ないと私を一緒にされては困る。私はナチス・ドイツより生まれた最高傑作、ビスマルクはただの欠陥品だ」

グラーフ「後継機であり最新である私は、全ての性能においてビスマルクを凌駕する。アレと戦えば、間違いなく私が勝つだろう」

グラーフ「何よりアレは理性と品性に欠ける、ドイツの面汚し。厳格な訓練と教育を受けた私とは全くものが違う、ということを理解して頂きたい」

―――ビスマルク選手は噛み付き攻撃を得意としていましたが、そういったことはされないということでしょうか。

グラーフ「質問の意味がわからない。私が噛み付く、噛み付かないからといって、それがどうしたというのだ」

グラーフ「噛み付きは軍隊格闘術において平凡な技の1つに過ぎない。必要があれば私も噛み付くが、必要がなければ使うことはない」

グラーフ「欠陥品であるビスマルクのように、相手を捕食するような真似はしない。そんな行為は戦闘において全く無駄でしかないからだ」

グラーフ「UKFのルールには目を通した。噛み付きが反則でないなら、それを使う場面もあるだろう。私は戦闘において、最適な行動を選択するだけだ」

―――優勝に向けた意気込みをお聞かせください。

グラーフ「私は総統閣下直々に、UKFにて優勝してくるよう指令を賜った。ならば、全力でその任務を果たすまでだ」

グラーフ「意気込みなどはない。任務の障害になるものは全て排除し、下された命を遂行する。私にあるのはそれだけだ」


グラーフ・ツェッペリン:入場テーマ「DEAD SILENCE/OFFICIAL THEME SONG」

https://www.youtube.com/watch?v=UI2WuKFX7u0


明石「ナチス・ドイツより、新たなる怪物が日本上陸! その鉄面皮の裏側には、いかなる本性が秘められているのでしょう!」

明石「彼女は言い切った、あのベルリンの人喰い鬼より自分は強いと! UKFのリングで、再び惨劇が繰り広げられてしまうのか!」

明石「戦闘マシーンの歯車が今、音を立てて動き出す! ”キリング・ドール”グラーフ・ツェッペリィィィン!」

香取「さて……出てきたわね。今大会で最も警戒すべき選手のひとりと言ってもいいでしょう」

明石「ナチス・ドイツからの選手は前例が前例ですからね。どうしても不気味に感じてしまいます」

香取「接触したスタッフによれば、実に礼儀正しくて生真面目な方だそうね。感情を全く表に出さないのが少し気になったらしいけど」

明石「確かに、全くの無表情ですね。あの人、笑ったり泣いたりすることがあるんでしょうか……」

香取「終始微笑みを絶やさなかったビスマルクさんとは対照的ね。どっちにしろ、不気味なことに変わりはないけれど」

明石「ドイツ側から寄せられた情報によると、彼女はビスマルク選手の実験データを元に開発された、ナチス・ドイツ研究機関所有の艦娘だそうです」

明石「両者の大きく異なる点は、ビスマルク選手が以前は普通の鎮守府に配属されていたのに対し、グラーフ選手は元から研究機関の出自らしいです」

香取「……ビスマルクさんが後天的に何かを付与されたとするなら、グラーフさんは先天的に何かを持っている、ということかしら」

明石「さあ、そこまでは……他にわかっているのは、扱う格闘術はフェアバーン・システムを基礎とした軍隊格闘術ということぐらいです」


香取「軍隊格闘術ね……一般的に勘違いされやすいんだけど、軍隊格闘は技術として特別優れている、というわけじゃないの」

香取「元々、軍隊格闘術は新兵の早期育成を目的としたもの。技の組み立てはごくシンプルで、効果的かつ習得しやすいものに限られているわ」

香取「いわば、初心者用のスターターパックみたいなものね。短期間で白兵戦を学ぶにはこれ以上ないほど実用的だけど、格闘技としては底が浅いの」

香取「ハイキックみたいに高度な蹴り技はないし、組み技、投げ技もバリエーションはない。軍隊格闘術は対格闘家用には組み立てられていないわ」

香取「付け入る隙があるとすればそこだけど……あまり当てにはできなさそうね。ナチス・ドイツがまともな選手を送ってくるはずがないもの」

明石「……やっぱり、何かしらの特異性は持っているでしょうね」

香取「ええ。ビスマルクさんがそうだったように、脳内麻薬の異常分泌なんかは標準装備されているんじゃないかしら」

香取「ダメージや疲労を蓄積させるような戦術は使えない。急所に当てても怯まず向かってくると考えたほうがいいでしょう」

香取「後は……格闘技術と身体能力がどの程度かによるわね。大淀さんはデータを集めながら戦わざるを得ないんじゃないかしら」

明石「となると……大淀選手は泥仕合に持ち込むということですね」


香取「おそらくは。大淀さんは未知数の相手へ積極的に攻め込むことはまずしない。適当にフェイントを放って逃げ回るでしょう」

香取「判定ありのルールなら、そのまま判定勝ち狙いの展開に持っていくこともあるけど、今回はそうはいかないわ。KOしないと勝利は得られない」

香取「泥仕合の果てにどういう作戦を選択するかは、大淀さん次第ね。そもそも泥仕合に持ち込めるかどうか、って心配もあるけれど」

明石「……以前の龍田選手みたいな憂き目に合ったりしないでしょうか、大淀さん……」

香取「……大丈夫よ。大淀さんは負けない戦いに徹するから、そこまで酷いことにはならないはずよ」

香取「かといって勝てるとも限らないけれど……少なくとも、グラーフ・ツェッペリンの底を晒すくらいのことはしてくれると思うわ」

明石「……ありがとうございます。さあ、両選手がリングに入りました! 共に無表情で向き合うその様は、さながら殺人マシーン同士の対決!」


明石「どちらの視線も同じことを物語っているようです! 恐怖も慢心もなく、ただ合理的に、的確に相手を破壊してやると!」

明石「勝つのは殺人コンピューター大淀か、それとも戦闘マシーン、グラーフ・ツェッペリンか! 共にどう戦うのか、全く予想が付きません!」

明石「注目度の高いこの試合、どのような結末を迎えるのでしょうか! ゴングが鳴りました、試合開始です!」

明石「両者、ゆっくりとコーナーから出ていきます! グラーフ選手はオーソドックスなファイティングポーズで歩みを進めていく!」

明石「拳を固めたグラーフ選手に対し、大淀選手は開手にて臨みます! ヒットマンスタイル寄りの構えを取り、軽快なステップを踏んでいる!」


香取「やっぱり、まずはフットワーク主体で攻めるみたいね。スピードはおそらく大淀さんが上でしょうから」

明石「徐々に間合いが狭まっていきます! まずは大淀選手が仕掛けた! 左のフィンガージャブ! 続けて右のストレー……とぉっ!?」

香取「なっ!?」

明石「こ、股間蹴り上げぇぇぇ!? 大淀選手、いきなり急所技を繰り出した! ワンツーをフェイントに、股下へ痛烈な蹴りをお見舞いだぁぁ!」

明石「グラーフ選手の体が前へ傾く! 大淀、頭を掴んだ! ひ、膝蹴り炸裂ゥゥゥ! 顔面へ膝がクリーンヒットォォォ!」

明石「まだコンビネーションが終わらない! 延髄へ肘の打ち下ろしぃぃぃ! これも決まったぁ! グラーフ選手の意識がわずかに途切れる!」


明石「その隙を大淀は見逃さない! 首を極めに掛かった! ふ、フロントチョークが入ったぁぁぁ! グラーフ選手、完全に極められました!」

明石「しかも両足を胴に巻きつけた! グラウンドに引き倒し、もはやグラーフ選手は身動きひとつ取れません! 完璧に捕獲完了!」

明石「予想外の展開です! 大淀選手、まさかの速攻! 試合開始十数秒で、早くも終わらせに掛かっている!」

香取「なるほど……そういう作戦なの。相手が未知数なら、何かする前に終わらせてしまえばいいということね」

香取「顔面へのフェイントから股間蹴り上げ。屈曲反射を狙った膝蹴りと、その反動を利用する延髄への肘打ち。最後は絞め技で終わらせる」

香取「長門さんがビスマルクさんを倒した技を発展させたコンビネーションね。ダメージで倒れない相手でも、これなら仕留め切れる」

香取「試合を盛り上げることなんて本当に考えていないのね、大淀さんは。このまま勝負を決める気だわ」


明石「完全にフロントチョークは入っています! これなら落ちるまで後わずか! しかし、ここからでも腕へ噛み付くことが……」

香取「噛み付くことはできないわ。だってあれ、フロントチョークじゃないもの」

明石「えっ? でも、明らかにあの体勢は……」

香取「最初に掛けたのは確かにフロントチョークだったわ。だけど、今は違う。大淀さんは胴に両足を掛けたとき、技を変化させたの」

香取「よく見て。胸で頭を押し下げて、てこの原理で首に圧力を掛けてる。大淀さんは頸動脈を絞めつつ、首の骨を折ろうとしてるのよ」

明石「あっ……確かに、首が可動域限界まで押し下げられています! これではどうやっても噛み付きにはいけません!」

明石「唯一自由に動く腕は、チョークを緩めようとする動きで精一杯です! もはやグラーフ選手、絶体絶命! 反撃のしようがありません!」

香取「やってくれるわね、大淀さん。注目選手のグラーフさんを、何もさせないまま落とすなんて……えっ?」


明石「さあ、ここから……あれ? えっと……な、何が起こった!? 技が外されている! グラーフ選手がフロントチョークから抜けました!」

明石「どうやってチョークを解いた!? た、体勢は単なるガードポジションに変わりました! グラーフ選手にダメージの色はありません!」

香取「そんな馬鹿な……! 今、フロントチョークを普通に引き剥がしたわ。技も何もない、ただの腕力だけで……!」

明石「やはりこの選手、尋常じゃない! 思わぬ計算違いに、大淀選手もさすがに動揺……してない!? 即座に技を切り替えた!」

明石「う、腕ひしぎ三角固めぇぇぇ! まさか、この状況さえ計算の内なのか!? 瞬時に関節技に持って行きました!」

香取「大淀さん、ここまで想定していたの!?」

明石「大淀の膂力がグラーフ選手の右腕1本に襲い掛かる! いくらパワー差があろうと、これを力で返せる可能性は皆無!」


明石「殺人コンピューター、大淀に躊躇はない! 迷わずグラーフ選手の右腕を折……り……?」

香取「……は?」

明石「た……立った!? グラーフ選手が立ち上がりました! 右腕に絡みつく大淀選手などいないかのように、平然と立っている!」

明石「しかも、腕がまったく折れない! 大淀選手は全力で右腕を捻じ曲げようとしているはずですが、ビクともしていません!」

明石「も、持ち上げた! グラーフ選手、まったくの無表情で右腕を高々と上げました! 大淀選手を腕1本で持ち上げています!」

明石「ふ、振り下ろしたぁ! なんだこの馬鹿力は! 間一髪、大淀選手は脱出! 叩き付けからは無傷で生還しました!」


明石「しかし、腕を折ることは失敗! あれだけ必殺技を重ね掛けされながら、グラーフ・ツェッペリンもまた無傷! やはりこの選手、怪物です!」

香取「……豪腕を誇る武蔵さんだって、ここまでの芸当はできないはず。この人、身体能力が異常過ぎる……!」

明石「スタンドからの再開となってしまいました! ともにノーダメージではありますが、状況は手の内を晒してしまった大淀選手が不利か!」

明石「始まりと同じく、グラーフ選手は顔面のガードを固める! 大淀選手は開手のヒットマンスタイルにて挑みます!」

明石「初手の必勝策を潰され、振り出しに戻ってしまったこの勝負! ここから、互いにどう攻めていくのか!」

香取「もうさっきのコンビネーションは使えない。大淀さん、ここからの作戦はあるの?」


明石「グラーフ選手が1歩踏み出す! それより先に大淀が動いた! フィンガージャブによるフェイント! そしてローキック!」

明石「即座に離れます! 再び目突きのフェイント! ローキック! 大淀選手、ヒット・アンド・アウェイに戦法を切り替えました!」

香取「順当に長期戦へ引き込むつもりね。末端から徐々に切り崩していく気だわ。でも、グラーフさん相手じゃ……」

明石「またフィンガージャブのフェイント! キックは打たない! 大淀選手、フェイントで相手の反応を伺っているようです!」

明石「こちらから見る限り、グラーフ選手はフェイントにまったく反応していません! 動きを読んでいるのか、それとも大淀の術中にハマったか!」

明石「大淀、再び目突き! そして股間蹴り上げぇぇぇ! 今度はグラーフ選手、腕で完璧にブロックしました! さすがに読まれていた!」


明石「しかしグラーフ選手、反撃する気配がまるでありません! 能面のような無表情で、ただ大淀選手の攻撃を受けるばかりです!」

明石「これは大淀選手の動きについていけないのか、それとも別の意図があるのか! 考えがまったく読めません!」

香取「まさに大淀さんが天敵とするタイプね。何を考えているのか全然わからないわ」

香取「フェイントにも反応しないし、かと言って棒立ちに構えてるわけでもない。これじゃ大淀さんは攻めようがないわね」

明石「目立った動きを見せないグラーフ選手に対し、大淀選手も攻めあぐねています! しかし、その表情にまだ焦りは見られません!」

明石「今度はいきなりローキックにいった! 内膝にヒットするも、グラーフ選手微動だにせず! 効いている様子はありません!」


明石「続けてワンツーのダブル! フェイントです! グラーフ選手反応せず! 人形のように立ち尽くしています!」

明石「再びフィンガージャ……おおっと!? グラーフ選手が動いた! ひ、肘打ちです! 目突きに来た左手そのものを狙いました!」

明石「大淀選手、紙一重で手を引きました! これは危なかった! 危うく拳を粉砕されるところでした! グラーフ選手、恐るべし!」

香取「今のは……レベルの高い攻防ね。大淀さんのジャブは、見てから反応できるほど甘い速度じゃない。初動を読まれてたんだわ」

香取「そして、カウンターを回避した大淀さんも、ジャブに狙いを定められていることを読んでいた。どちらも動きを読み合っているわね」

明石「どうして大淀選手はカウンターを読むことができたんでしょう? ここからだと、グラーフ選手が急激に反応したように見えましたが……」

香取「大淀さんは瞬発的な洞察力に優れているのよ。相手の全体を見つつ、細かいところまで観察する目付けは達人並と言ってもいいでしょう」


香取「わずかな瞳の動きや、重心の移動、筋肉の収縮、呼吸。それらを総合的に見て相手の心理を読み、次の動きを予測しているの」

香取「その読みこそが大淀さんに残った唯一の武器ね。ここから先、一手読み違えれば大淀さんはパワー差にねじ伏せられて終わるでしょう」

香取「一挙一動、全てが綱渡りになるわよ。あの能面みたいな表情から、考えを読めなければ勝ち目はない……!」

明石「なるほど……ここに来て、両者とも動きがなくなりました! 大淀選手まで攻めるの止め、どちらもまったく手を出そうとしません!」

明石「微動だにしないグラーフ選手はもちろん、大淀選手もその場でステップを踏むばかり……いや、グラーフ選手が踏み込んだ!」

明石「それとほぼ同時に大淀選手、後退! 最低限の動きで射程から逃れました! グラーフ選手も追撃はしません!」


明石「続いて、今度は大淀選手が半歩間合いに踏み込む! フェイントですが、グラーフ選手は反応しない! やはり読んでいるのか!」

明石「どちらも手を出しません! まるでお互いが理解しているようです、先に手を出したほうが負けると!」

明石「後の先を狙い合い、完全に膠着しています! 共に動けない! レフェリーさえ警告を忘れ、固唾を呑んで攻防を見守っています!」

明石「先に手を出すのはどちらか!? おっと……ここでグラーフ選手に変化があります! フットワークを踏み始めました!」

明石「自重を感じさせない、軽量級ボクサーのように軽快なテンポです! これは、自分から攻めていこうというのか!」

香取「大淀さんにとってはありがたい選択ね。打撃戦は大淀さんの土俵よ。スピードなら彼女のほうが上だと思うし」

明石「大淀選手は静かに観察しつつ、相手が攻めてくるのを待っています! 均衡が破られ、更に熾烈な戦いが始まる予感がします!」


明石「グラーフ選手がわずかに間合いを詰める! 大淀選手は下がらない! まるで打ってこいと誘っているようです!」

明石「両選手の間合いが触れ合います! 打撃戦が始まろうとしている! その攻防を制するのはどちら……はあっ!?」

香取「は、速い!?」

明石「グラーフ選手が攻撃を開始! 速い、速過ぎます! 何だこの動きは! 超高速のコンビネーションを立て続けに放っています!」

明石「ワンツーからのミドルキック! 左のロー! ショートアッパー、右フック、バックスピンキック! 大淀選手が回避するので精一杯だ!」

明石「打撃の回転速度があまりに凄まじい! スピードで大淀選手を圧倒しています! これではカウンターが取れない!」

香取「何なのこの人! あれだけパワーがあって、スピードまで持っているって言うの!?」


明石「打撃がまったく途切れません! 息つく暇もないラッシュを放ちながら、グラーフ選手に疲労の色は一向に見えてこない!」

明石「むしろ回避し続けている大淀選手の呼吸が乱れてきた! どういうスタミナだ!? ケタ違いの身体能力です!」

明石「疲れ始めた大淀選手に対し、グラーフ選手はまるでスピードが落ちない! これでは一撃を食らうのも時間の問題だ!」

明石「ここで大淀選手がクリンチを試みる! 打撃の嵐をかいくぐり、密着に成功! 一時ラッシュから難を逃れます!」

香取「ダメよ! パワー差がある相手に組み合っちゃ……!」

明石「あっ、グラーフ選手が捕獲に掛かった! 大淀選手、腕ごと抱きしめられるように捕まえられました! この状態はまずい!」

明石「大淀選手は押しのけて逃れようとしますが、パワー差があり過ぎる! グラーフ選手の腕の中でもがいて……えっ、掌底!?」

香取「まさか、これも計算の内!?」


明石「大淀選手、あごを狙った掌底の突き挙げ! しかし密着した距離では威力が……違う、掌底じゃない! 虎爪による目潰しだ!」

明石「グラーフ選手の顔面に指を突き立てた! は、入ったぁぁぁ! 両目に指を入れました! グラーフ選手、完全失明!」

明石「これだけで大淀は終わらせない! 眼窩に指を引っ掛けました! そのまま引き倒したぁぁぁ……あ?」

香取「嘘でしょ……」

明石「び……ビクともしない! 目に指を入れられているのに、まったく反応がありません! うめき声ひとつ、表情ひとつ変えない!」

明石「こいつ、ビスマルク以上に痛覚がない!? 目潰しもお構いなしに、グラーフ・ツェッペリンが大淀選手を更に抱き寄せた!」


明石「か、抱え上げている! ベアハッグです! 腕力だけで胴体を締め上げている! 大淀選手、身動きが取れない!」

明石「骨の軋む音が聞こえてくるようです! とてつもない怪力だ! まさかグラーフ選手、このまま大淀選手を押し潰すつもりか!?」

明石「何とか大淀選手、右腕だけは抜きました! しかし胴体はどう足掻いても抜けられそうにない! 大淀選手、絶体絶命!」

明石「あっ、大淀選手がグラーフの耳を掴んだ! ひ、引きちぎりました! しかしグラーフ選手、ピクリとも動かない!」

香取「おかしい、生体反射すら起こってないわ。最初の股間蹴りは効いていたのに、なんで!?」

明石「お、大淀選手の口から血泡が漏れ始めました! もう限界が近い! の、残された手はあるのか!」


明石「まだ、まだ大淀選手は生きている! ちぎった耳の穴を狙っている! ゆ、指を突っ込んだぁぁぁ!」

明石「中指を根本まで突き入れました! これなら三半規管に直接ダメージが入る! 効かないはずがない……のに、なんで効いてないの!?」

香取「ど、どういうことよ……!」

明石「あっ、ああ……今、グラーフ・ツェッペリンが腕の拘束を解きました! ようやく、大淀選手が解放されます!」

明石「しかし……ピクリとも動きません! 糸の切れた操り人形のように、力なくリングへ倒れ込みました! 完全に意識がありません!」

明石「……試合終了! 勝ったのはグラーフ・ツェッペリン! 技術と頭脳に長けた大淀選手に対し、ひたすら身体能力のみで勝利を収めました!」

明石「今なら納得できます、こいつはビスマルクより更に危険だ! 軽巡級王者、大淀選手を以ってしても、まるで底が見えません!」


明石「大淀選手、無念! グラーフ・ツェッペリン、恐るべし! UKFは想像以上の怪物を迎え討たなくてはならなくなりました!」

香取「……ビスマルクさんの後継機って聞いてたけど、私にはまるで別物に見えるわ。あの身体能力は尋常じゃない」

明石「脳内麻薬の異常分泌……とは異なるものだと思いますか?」

香取「違うと思うわ……仮に同じだとしても、ビスマルクさんは痛みというトリガーを必要としていた。彼女はそれを必要としていない」

香取「本当に私達と同じ艦娘なんでしょうね? 途中からは生物としての反射すら見せなかったし、血が通っているのかどうかさえ怪しいわ」

香取「ナチス・ドイツはとんでもない怪物を送りつけてくれたわね。一体、どうやったらこいつを倒せるっていうのよ……」

明石「……とうとうグラーフ選手は、試合開始から終了まで、一切表情を変えませんでしたね」

香取「私も気になっていたわ。彼女、感情自体がないんじゃないかしら……勝利した今だって、何の感慨も浮かんでないように見えるわ」

香取「大淀さんが破れた今、私にグラーフさんの攻略法はまったく見えないわね……勝てるとしたら、長門さんくらいのものでしょう」

明石「ええ……まったく、だからナチと関わるのは嫌なんですよ……」


試合後インタビュー:グラーフ・ツェッペリン

―――初戦突破を果たしたことに関して、今はどのような心境でしょうか。

グラーフ「質問の意味がわからない。私は勝利するために戦い、そして勝っただけだ。特別なことは何もない」

グラーフ「その上、私の目的は優勝であり、初戦を抜けることではない。たかが一勝を上げただけで、なぜ感慨を抱く必要があるのだ」

―――大淀選手のことはどのように感じられましたか。

グラーフ「厄介な敵ではあった。これほど早期に手の内を晒すつもりはなかったが、ある程度はやむを得ないと判断せざるを得なかった」

グラーフ「痛覚を切っておかなければ、更なる苦戦もあり得ただろう。どちらにしろ、敗北の可能性はなかった」

―――今、痛覚を切ったと言われましたか?

グラーフ「そうだが。私は瞬時に痛覚を遮断できるよう訓練を受けている。それを行えば、爪を剥がされようと何も感じない」

グラーフ「痛覚は戦闘において、必要な場合と必要ない場合がある。先の戦闘は不必要と判断し、痛覚を切り戦った。それがどうしたというのだ」

―――ならば、日常においては人並みに痛かったり苦しかったりすることはあるということでしょうか。

グラーフ「質問の意味がわからない。触覚神経があるのだから、痛みを感じるのは当然だ。だが、苦しいとはなんだ?」

グラーフ「窒息や酸欠のことを指しているのか? そんなものを日常で経験することなどないだろう。痛みと苦しみを同列にするのは不可解だ」

グラーフ「それ以前に、私に日常という概念は存在しない。私はナチス・ドイツの戦闘兵器。常に戦闘へ備え、有事となれば命を惜しまず戦う」

グラーフ「私の生存活動はナチス・ドイツの敵を排斥し、総統閣下に栄光をもたらすためにある。他の一切は、些末事に過ぎないのだ」


試合後インタビュー:大淀

―――グラーフ・ツェッペリン選手をどのように感じましたか?

大淀「いやあ、ね……負けは負けですから、言い訳するつもりではないんですけど……思ってたのと全然違いました」

大淀「あんなのだって知ってたら、端から棄権してましたよ。あれなら、ビスマルクさんのほうがよっぽど可愛げがあります」

―――危険度はビスマルク選手より上、ということでしょうか。

大淀「さあ、どっちが強いかはわかりません。ただ、私との相性が最悪っていうだけでして」

大淀「ずっと彼女を観察して、考えを読み取ろうとしていました。結局最後まで読むことはできなかったんですが、今なら理由がわかります」

大淀「彼女、何も考えていないんです。したいことも、して欲しくないこともない。彼女の中には何もないんですよ」

大淀「刷り込まれた戦闘プログラム通りに状況を判断し、最適な攻防技術を駆使しているだけで、そこに感情や意志はどこにも見当たらないんです」

大淀「昆虫か、ロボットと戦っている気分でした。ていうか、本物のサイボーグじゃないですよね? それくらい無機質なファイターです」

大淀「あれは私には無理です。読むべき感情がないんですから……結局、私が引いたのは本当に外れクジだったというわけですね」

大淀「ファイトマネーをあてにして、後払いでマンションを購入したのに……ああ、明日からどうやって生活しよう……」


明石「戦慄の第4試合となりましたが……皆様、お疲れ様でした! これにてAブロック1回戦は全て終了となります!」

明石「次回放送はBブロック1回戦となりますが……同時に、エキシビジョンマッチ、第1戦目を同時開催します!」

明石「お待たせいたしました! エキシビジョンマッチ出場候補者は、こちらの7名の選手です!」


駆逐艦級 ”鋼鉄の魔女” 夕立

戦績:34戦30勝4敗

流儀:八極拳

駆逐艦級四天王の一角。最軽量級でありながら、戦艦級をも凌ぐUKF最強の一撃を放つことで恐れられる究極の八極拳士。
その一撃必殺技である「鉄靠背肘撃」はまさに八極拳の理想を体現したものであり、ガードした腕ごと肋骨をへし折る驚異的な威力を誇る。
勝利試合の大半をこの一撃で決めており、20秒以内のKO率は9割を超える。この技を耐え切ったのはUKF一の打たれ強さを誇る翔鶴のみ。
駆逐艦級王者の吹雪とはライバルにして犬猿の仲。駆逐艦級王者決定戦では決勝で相対し、死闘の末に敗北。長きに渡る因縁は一応の決着を見た。
しかし、本人は既にリベンジの意志を固めており、その一撃を更に磨いているという。



駆逐艦級 ”神速の花嫁” 島風

戦績:33戦24勝9敗

流儀:スプリンター

駆逐艦級四天王の一角。またの名を戦艦キラー。通常の選手と異なり、階級差があればあるほど勝率が上がる特殊なファイトスタイルを持つ。
格闘技術はテコンドーの蹴り技と数種の絞め技しか持っていないが、恐るべきは艦娘一のスピードを生かした驚異的な回避能力。
瞬時に相手の初動を見切って攻撃をくぐり抜け、正確かつ反撃不能なカウンターで相手を切り崩し、隙を見い出せばすかさず急所に蹴りを叩き込む。
そのスピード特化の戦術で数多くの重量級ファイターに勝利を収めており、無差別級では屈指の実力者である。
反面、スピードを生かし切れない同階級では未だ苦戦気味であり、駆逐艦級王者決定戦では吹雪にあっさり敗北。今日も猛特訓に取り組んでいる。


軽巡級 ”疾風神雷” 川内

戦績:3戦0勝3敗

流儀:忍術

失伝したはずの風魔忍術の正統伝承者を自称するエセ忍者。胡散臭い経歴だが体術の完成度は本物で、忍者の名に相応しい多彩な技を使いこなす。
恐れ知らずな性格から、今や誰も戦いたがらない大淀、龍田との対戦が組める貴重な軽巡級選手。同時に、最悪の問題児でもある。
その所以は試合の度に必ず隠し武器を持ち込もうとすること。3戦中2戦は試合前の身体検査、1戦は試合中の武器使用により失格負けとなっている。
本来なら出場停止処分ものだが、有力選手を大淀、龍田に軒並み潰されてしまった軽巡級の状況を鑑み、どうにか処分を免れている。
本人は軽巡級の新王者になると自信満々だが、頭はあまり良くないようで、今日もどうやって隠し武器を仕込むかの研究に勤しんでいる。



軽空母級 ”羅刹” 鳳翔

戦績:1戦1勝0敗

流儀:介者剣術

天正真伝香取神道流の免許皆伝、及び「一の太刀」の継承者。本物の実戦において並ぶ者はいないとされる達人。
武道家として最も高い次元に到達していており、その在り方は「菩薩のように慈悲深く、流水の如く澄み渡り、悪鬼よりも残忍」。
彼女の勇名を聞きつけた道場破りたちはその本性の一端を垣間見るとされ、同時にそれを見た者は全て、表舞台から姿を消している。
リングでは人前で使えない技もあることから戦い方を大きく制限されるが、そのハンデを背負ってもなお、トップファイター級の実力を持つ。
今回は恵まれない子どもたちへの義援金を集めるためにエキシビジョンへ参加を希望している。


重巡級 ”静かなる帝王” 妙高

戦績:18戦18勝0敗

流儀:シラット

かつての重巡級絶対王者。同階級の強豪選手たちを一切寄せ付けず勝利を積み上げ、無敗のまま引退した伝説的な武術家。
その技に打、極、投の区別はなく、全てが一連の動き。流れるような連携技により、数多くの選手が為す術もなく敗北を喫している。
無差別級の試合を経ずして引退したため、「勝ち逃げした」という批判も多いが、現在でも「妙高最強説」は往年のUKFファンで根強く語られている。
現在は指導者の立場に回っており、足柄や羽黒など若手選手の育成に当たっている。その指導は軍隊経験者が自殺を考えるほどに過酷を極めるという。
本人はエキシビジョンマッチの参加には不本意だが、羽黒を出場させるために、運営の条件を飲む形で候補者に名を連ねている。



戦艦級 ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルク

戦績:3戦2勝1敗

流儀:軍隊格闘術

UKF史上最凶最悪と呼ばれる元ドイツ軍所属のジャーマンファイター。優れた身体能力と格闘技術に加え、制御不能の凶暴性を持つ正真正銘の怪物。
その正体はナチス・ドイツの研究機関が所有する実験体であり、人格を変えるほどの特殊訓練、及び脳への直接的な改造を施されている。
敵性存在へ抱く強烈な食欲と性欲。痛みに対する脳内麻薬の異常分泌。悶絶するような苦痛に快感を覚えるという、様々な異常性を併せ持つ。
ときに敵味方の区別すら無くす凶暴性から、ドイツ軍は彼女を失敗作として所有権を放棄。半ば押し付けられる形でUKF所有選手となっている。
元々はキール鎮守府に配備されていた普通の艦娘だったが、軍部により強制的に研究所へ接収され、訓練と改造により正気を失ったと思われる。



戦艦級 ”破壊王” 武蔵

戦績:14戦12勝2敗

流儀:ボクシング

第2回UKF無差別級グランプリ準優勝。艦娘一の怪力と卓越したテクニックを併せ持ち、現時点で最も長門に近いと言われる最強クラスの実力者。
元々は豪腕頼みのボクサースタイルだったが、第1回UKF無差別級GPにて扶桑相手にまさかの初戦敗退。それを期にファイトスタイルを一新する。
膨大な鍛錬を経て獲得したヒットマンスタイルは打撃戦にて絶対的な制圧力を誇り、タックルやグラウンド戦にも対応可能。加えて豪腕も健在である。
弱点もなく、手の付けようのない強者ではあるが、現在は事実上の引退。扶桑のセコンドに回り、彼女を優勝させるために全力を注いでいる。
当然ながら選手としての闘志と実力は健在。扶桑への激励としてエキシビジョンマッチへの出場を望んでいる。


明石「さて、そうそうたる顔ぶれとなっていますが……香取さん、実力としてはどうランク付けされますか?」

香取「当然、一番強いのは武蔵さんでしょうね。次いでビスマルクさん、鳳翔さん、妙高さんあたりが並ぶのかしら」

香取「それはそうとして……とうとう運営はビスマルクさんの封印を解くのね」

明石「ええ。もしビスマルク選手を出場させるなら、確実に倒せる選手としか対戦させたくない、とのことです。復活後の世話にすごく困るので」

香取「相手が誰であれ、確実に倒せる保証なんてないのに……でも、結局リクエストに応じた対戦カードになるんでしょう?」

明石「そうなります。リクエストの多い選手を選抜し、対戦カード自体は大会運営委員長が独断で決定します」

明石「出来る限りリクエスト数が同じくらいの選手同士が対戦できるよう心がけるそうなので、その点は任せて大丈夫だそうです」

香取「ふうん。リクエスト方法については?」


香取「ふうん。リクエスト方法については?」

明石「放送終了後にアンケートフォームのURLを掲載するので、そちらに投票していただく形になります」

明石「票数が偏るのか、拮抗するのか、今はまったく予想がつきませんが……香取さん、おすすめの選手なんかはいます?」

香取「逆におすすめしたくない選手はいるわ。なんで川内さんを候補者に入れてるの? あの子、最悪の問題児よ」

明石「もう1人くらい軽巡級選手を出したいという運営の意向で……実力は十分とのことですが」

香取「私は嫌よ。あの子、何が何でも試合に隠し武器を持ち込もうとするのよ。ボディチェックする身にもなってほしいわ。責任者は私なんだから」

香取「最近はどんどん仕込みも巧妙になってきて、もう試合前に全裸にするしか、確実にチェックする方法がないのよ」

香取「それでもあの子は隠し武器を仕込もうとするでしょうね。最悪、前後の穴のチェックまでするはめに……」

明石「わかりました、香取さん。もうわかりましたから、それ以上言わないでください」


香取「ああ、はいはい。とにかく、川内さんは勘弁してください。審査員長からのお願いです」

明石「あのーおすすめの選手をお聞きしたんですけど……」

香取「あ、そうだったわね。まあ……個人的には妙高さんが気になるけど、みんなおすすめよ。好きな選手を選んだらいいわ」

香取「審査員長の私が贔屓するのもなんだし。あと、1回戦敗退選手も候補者なんでしょう?」

明石「はい、その通りです。本日の試合で敗退した、大和選手、那珂選手、ローマ選手、大淀選手もリクエスト可能な候補者になります!」

明石「これは飽くまで救済措置ですので、通常の候補者か敗退選手かということは気にせず、好きな選手をお選びください!」

明石「特定の対戦カードが観たい、というご要望にも、できるかぎりお応えします! ご自由にリクエストしてください!」


明石「それでは、本日の日程はこれにて終了となります! 皆様、ご視聴ありがとうございました!」

香取「次回、Bブロック1回戦もよろしくお願いします。こちらもAブロックに負けないくらいの激戦区よ」

明石「放送予定日時は追ってお知らせします! それでは、またお会いしましょう!」


―――音に聞こえた強者と、知られざる超人がひしめくBブロック。最強を謳う8名の内、4名が消える。

―――そして、UKFは再び怪物をリングに迎える。Bブロック1回戦、放送予定日、現在調整中。


エキシビジョンマッチのリクエスト投票、及びアンケートにご協力をお願いします。

https://docs.google.com/forms/d/1aLpgPRvAPo-YNWPHWWD9HtkCcvJ5Zm3MzZA5y5aua_s/viewform

放送予定日時が決まりました。

6/30(木)22:00 Bブロック1回戦&EVマッチ1戦目

戦艦級 ”殺人聖女”榛名 VS 正規空母級 ”ウォーキング・デッド”翔鶴

戦艦級 ”東洋のクラーケン”伊勢 VS 軽空母級 ”酔雷の華拳”隼鷹

駆逐艦級 ”氷の万華鏡”吹雪 VS 重巡級 ”銀眼の摩利支天”古鷹

重巡級 ”黒死蝶”羽黒 VS 戦艦級 ”ザ・グレイテスト・ワン”長門

エキシビジョンマッチ出場者:未公開


~お詫び~
不足の事態により、現在投票中のエキシビジョンマッチ候補者の内、1人が出場不能になります。
詳細に関しては次回の放送終了前に発表させていただきます。

>>273

訂正 未公開≠未定

まだEVに誰を出すかは決めていません。たぶん、放送直前くらいに決めることになると思います。
投票に関して上記のお詫びについてはあまり気にされなくて大丈夫です。期待を裏切るようなことにはならないはずです。


相手がデタラメだっただけで実は大淀強いんじゃないか?
もっかい戦うとこ見てみたい

>>275

大淀にとってのグラーフ・ツェッペリンは、ウルヴァリンにとってのマグニートーくらい相性の悪い相手でした。

次回のエキシビジョンマッチ出場者が確定しました。今までは対戦カードを秘密にする方針でしたが、今回は公開しようと思います。

軽巡級 ”堕天のローレライ”那珂ちゃん VS 軽巡級 ”インテリジェンス・マーダー”大淀 


Bブロックは総じて難しい対戦が多いことに今更気付きました。もしかしたら放送日が延びてしまう可能性があることを予めご了承ください。

PCの電源を入れたまま放置してたら、作業中のデータもお構いなしにWindows Updateが勝手にPCを再起動させる、例のアレが起こりました。

まる1つデータが消えました。6/30に間に合う確率は今のところ3%くらいです。具体的な目処が立ったらまた報告します。

osにもよるけどwindows update後の自動再起動はグループポリシーの変更で抑制できるので試してみては?

ダメそうです。あと2日ください。放送日を7/2(土)22:00に延期させていただきます。

Bブロックは本当に難しいです。この先、誰が勝ち上がるのか全く見えません。なぜこんなことになったんだ……

>>286
ありがとうございます。設定をいじって自動再起動をオフにしました。二度と同じ過ちは繰り返しません。

隼鷹の入場テーマはコルピかな?ww

>>290
隼鷹の入場テーマは誰もが知ってるあの曲です。
ちなみにBブロック出場者の入場テーマで一番注目して欲しいのは、羽黒です。

ばっちり目処が立ちました。もう延期はありません。2日後の放送をどうかもうしばらくお待ち下さい。

予定通り本日22:00より放送を行います。


大会テーマ曲
https://www.youtube.com/watch?v=7IjQQc3vZDQ


明石「皆様、大変長らくお待たせいたしました! これより第3回UKF無差別級グランプリ、Bブロック1回戦を開催いたします!」

明石「実況はお馴染みの明石、解説兼審査員長には香取さんをお越しいただいております!」

香取「香取です。大会日が遅れてしまってごめんなさいね。運営スタッフを代表してお詫びいたします」

明石「本日の日程はBブロック1回戦の計4試合、加えてエキシビションマッチ1戦目の合計5試合を執り行います!」

明石「このBブロックで初戦敗退した選手は、そのままEVマッチ出場候補者となります! その点も踏まえて、試合結果にご注目ください!」

明石「それでは、さっそく第1試合に移りたいと思います! 赤コーナーより選手入場! 立ち技格闘界、最強候補の一角がいきなり登場だ!」


試合前インタビュー:榛名

―――対戦相手の翔鶴選手は立ち技最強の代名詞でもあるK-1王者ですが、意識するところはありますか?

榛名「肩書に興味はありません。私が追い求めるのは実戦の中での強さ。スポーツ格闘技で得た称号なんて、私にとって意味のないものです」

榛名「グローブを着け、ルールに縛られた勝負で知れる実力などたかが知れています。K-1の舞台で証明される最強などあるわけがありません」

榛名「ただし、私が興味を持っていないのはK-1に関してです。翔鶴さん個人に対しては大いに興味があります」

榛名「翔鶴さんとは、彼女がまだ新米だったときに戦いましたが、その頃から他のファイターとは一線を画するものを秘めていると感じていました」

榛名「K-1王者になるべくしてなったのは間違いないでしょう。その実力を疑っているわけではありません」

―――以前、榛名さんはUKFで翔鶴さんと対戦され、判定勝ちを収められています。今回も勝てる自信はありますか?

榛名「勝つことはできます。ただ、以前と同じ過程になるかはわかりません」

榛名「翔鶴さんが強いことは知っています。私とどちらが強いのかは、戦いが終わればわかることです。ただ、彼女がどう戦うのかが問題です」

榛名「なおも彼女は、私の打撃を避けないか否か。私の空手を受け切って勝てるつもりでいるのか、そのことが今から気になっています」

―――もし翔鶴選手が試合で打撃を避けなかったとしたら、どうなさいますか?

榛名「どちらにしても勝敗は変わりません。勝つのは私です。しかし、私にとって好ましい試合にはならないでしょう」

榛名「そもそも、それが試合と呼べるものにはなるかどうかもわかりませんし、やりたくもありません。昔から試し割りは嫌いでしたから」

榛名「どう戦うのかは翔鶴さんの自由ですが、できることなら、動かないものを一方的に壊すような真似を私にさせないでいただきたいものです」


榛名:入場テーマ「GuiltyGearX/Holy Orders (Be Just or Be Dead)」

https://www.youtube.com/watch?v=FUn8sSi6d0c


明石「地上最強の空手! この私がいる限り、決してその看板を降ろさせはしない! 空手こそ、最強の格闘技なのだ!」

明石「研ぎ澄まされた五体はまさに凶器! 岩をも穿つこの打撃、受けられるものなら受けてみるがいい!」

明石「立ち技格闘界、真の王者とは私のことだ! ”殺人聖女”榛名ァァァ!」

香取「実戦空手の第一人者、榛名さんね。彼女ほど打撃に特化したファイトスタイルを持つ選手はそうはいないわ」

香取「総合格闘に挑むにあたって、榛名さんは最低限の組み技すら持ち合わせていない。ひたすら空手の技だけで勝ち進んできたファイターよ」

明石「今日も赤帯を締めての登場ですね。空手界からの正式な段位の認定は一切受けていないとのことですが」

香取「榛名さんは強すぎて、空手界から事実上の追放処分にされちゃってるものね。フルコンの試合で何度も相手を殺しかけちゃったから」

香取「空手は競技化によって世界に広まり、競技化によって最強と呼ばれた牙を失った。榛名さんはその牙を未だに研ぎ続けている数少ない空手家よ」

香取「瓦を割るために巻藁稽古をする空手家はまだいるでしょうけど、本気で人に打ち込むために巻藁稽古してるのは彼女くらいのものでしょう」

香取「その気になれば瓦20枚は容易く割ってみせる拳は凶器そのもの。まともに受ければどこで受けたって致命傷を負うわ」

香取「ストライカーとしての立ち回りは赤城さんのほうが上かもしれないけど、打撃の強さという点では榛名さんに軍配が上がるんじゃないかしら」


明石「空手にもいくつか流派がありますが、榛名選手はどこの流派の空手を学んでいるんでしょうか?」

香取「最初は伝統派の空手に属していたそうだけど、すぐに剛柔流の道場に移り、そこで事実上の破門を受けてからは沖縄空手に傾倒してるみたい」

香取「沖縄空手には、空手道が競技化される以前の特色、つまりは空手が戦場格闘技だった頃の技が根強く残っているわ」

香取「更に榛名さんは古流空手の技だけでなく、現代空手で生まれたフットワークも扱える。まさに空手の集大成と言える選手でしょう」

明石「多方面から実力の高さを評価されている榛名選手ですけど、戦績としては7戦5勝2敗とそこまで優れたものではないように見えますね」

香取「榛名さんは強すぎて、試合が組みにくいのよね。UKFに契約した当初から、トップファイターにさえ対戦を避けられていたくらいだし」

香取「赤城さんでさえ榛名さんとの試合は避けたって噂よ。赤城さん本人は絶対に認めないでしょうけど」

明石「もしも赤城選手が榛名選手に負けるとすれば、立ち技最強ファイターの通り名を事実上奪われることになりますからね」

香取「そうね。そういうわけで、榛名さんは戦績こそ少ないけど、試合を組みさえすれば大抵の相手には完勝できるわ。トップファイター相手にもね」

香取「敗北を喫したのは最強の艦娘と言われる長門さん、本物の達人である鳳翔さんの2人だけ。あの2人は格が違う実力者だもの」

香取「武道家である榛名さんにとって、敗北は死に等しい。2度に渡る敗北というのは、榛名さんにとって耐え難い重みを持つんだと思うわ」

香取「それでも彼女がグランプリのリングに上がるということは、もう2度と負けるつもりはない、ということなのでしょう」

香取「たぶん、優勝候補の1人ね。赤城さんや長門さんさえ恐れさせたその打撃、もう1度見られると思うと楽しみだわ」

明石「ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! 新たなるK-1チャンピオンに輝いた、不死身のファイターの登場です!」


試合前インタビュー:翔鶴

―――この度はK-1グランプリを制してのチャンピオンベルト獲得、あらためておめでとうございます。

翔鶴「ありがとうございます。ベルトを貰ったときは本当に嬉しかったです。今まで苦しい鍛錬を重ねてきた成果をやっと出せた、と思いましたから」

翔鶴「ただ……嬉しかったのは最初だけで、最近はだんだんと悩むようになってきました。このベルト、本当に価値のあるものなんでしょうか」

翔鶴「このベルトは前王者だった赤城さんが返上したもので、以前に私は赤城さんと3回試合をして、3回とも負けています」

翔鶴「立ち技界真の王者と言われてる榛名さんにも私は負けています。私は最強と呼ばれる方々に勝っていないのに、王座に着いてしまったんです」

翔鶴「それって、どうなんでしょうか。周りの方はどう思われているんでしょうか……K-1王者になってから、毎日不安で仕方がないんです」

―――今日の対戦相手は先程言われた榛名選手ですが、特別な思いなどはありますか?

翔鶴「対戦カードが榛名さんに決まって、ホッとしました。赤城さんか榛名さん、どちらかの方と早いうちに戦いたいと思っていたんです」

翔鶴「今の私は、K-1王者である自分に疑問を感じています。でも、立ち技最強候補と言われる榛名さんに勝てば、その疑問はなくなります」

翔鶴「榛名さんは間違いなく強いです。今の私は自分が強いかどうかさえ自信がないので……戦って、それを確かめたいと思っています」

―――榛名選手の打撃も避けないつもりでしょうか?

翔鶴「……たぶん、皆さん勘違いされていらっしゃいます。私は意地やプライドから相手の打撃を避けないわけじゃありません」

翔鶴「そういう戦い方しか知らないんです。だから、私は打撃を避けないんじゃなくて、単に避けられないんです」

翔鶴「だから、榛名さんの打撃も避けません。甘く見ているつもりはありません。それ以外、勝つ方法がありませんから」


翔鶴:入場テーマ「Norther/Death Unlimited」

https://www.youtube.com/watch?v=EUUo9crSdf8


明石「K-1のベルトを引っさげ、不死身のファイターがUKF再臨! 数々の強敵と死闘に臨みながら、打撃によるダウン経験、なんとゼロ!」

明石「どんなに打たれても下がらない! どんなに打たれても倒れない! 後退のネジが外れた、不壊不倒の超人がここに存在する!」

明石「立ち技格闘界の新たな最強候補が、艦娘最強の舞台に挑む! ”ウォーキング・デッド” 翔鶴ゥゥゥ!」

香取「今日も不幸な顔をしてリングへ向かうのね……金剛さんを倒してK-1王者になったときはあんなに嬉しそうだったのに」

明石「私もあんなに嬉しそうな翔鶴選手は初めて見ました。今日は今まで通りの不幸オーラを発しての登場ですけど」

香取「半端な格闘評論家にケチを付けられて、傷付いちゃったのかしら。赤城さんとも榛名さんとも戦わずに得た、K-1ベルトに価値なんてないって」

明石「事実、翔鶴さんは以前にその2人と対戦されて、どちらにも勝てていませんね。明石さんはどう思います?」

香取「それは以前の話でしょ。あの頃の翔鶴さんは伸び盛りの新人ファイター、今は試合経験を積んだ、れっきとしたトップファイターよ」

香取「翔鶴さんは試合を重ねる度に着実に強くなっていったわ。以前に負けたからと言って、今も翔鶴さんがあの2人より弱いとは限らない」

香取「そもそも榛名さんだって赤城さんとは戦ったことがないんだし、そんな批判は机上の空論でしかないのよ」

香取「少なくとも、翔鶴さんはUKFに次いで選手層が厚いK-1では一番強いということ。それだけは揺るぎない事実よ」


明石「翔鶴選手の流儀はミャンマーラウェイというあまりメジャーではない格闘技ですね。一般にはムエタイと混同されがちのようですが」

香取「同じ東アジア発祥だし、似てるのは間違いないわね。元は同じ拳闘術だったものが、それぞれの地域で独自の発達を遂げたみたい」

香取「ムエタイとは兄弟関係に当たるラウェイだけど、近代ルールを取り入れたムエタイに対し、ラウェイはより古流拳闘に近い形を残しているわ」

香取「主な相違点は3つ。首から下への頭突きが認められていることと、スタンドからの投げ技が認められていること」

香取「何より最大の特徴は、グローブを着用せずに荒縄を手に巻いて試合をすること。つまり、ほとんど素手同然で打ち合いをするのよ」

香取「世界中を探しても、これほど過激なルールで試合をしている格闘技は他にないわ。ラウェイは地上で最も過酷な格闘技と言えるでしょう」

明石「フルコン空手も素手で打ち合いをしますが、顔面への打撃は禁止ですよね。ラウェイは顔面への打撃もありなんですか?」

香取「ありよ。それこそが最も過酷な格闘技と言われる所以ね。しかも、素手の攻撃っていうのはボクシングみたいにガードできないのよ」

香取「盾になるグローブがないから、素手のパンチはガードをすり抜けて当たるわ。だから、ラウェイの選手はガードを捨てて打撃を受けに行くの」


香取「翔鶴さんのファイトスタイルはまさにラウェイそのものよ。打撃を一切避けず、自ら受けに行って打点をずらしながら受け切る」

香取「打たれながらも打ち返し、前へ前へと出て相手を打ち負かす。まるで重戦車みたいな戦い方よね」

香取「関節技や寝技への対処が苦手っていう欠点はあるけど、最近はとにかく殴りまくって強引に抜け出す、っていう形で対応できているわ」

香取「もっとも、今回はその点は考えなくても良さそうね。相手は組み技なんて1つも持っていない、空手家の榛名さんなんだし」

明石「となるとこの試合、間違いなく打撃戦になると見ていいんでしょうか」

香取「と言うより、それ以外は有り得ないわね。翔鶴さんの打撃以外の技はせいぜい首投げくらい、榛名さんに至っては空手技一辺倒だもの」

香取「共に打撃特化のファイトスタイルである以上、打ち合いになるのは必然よ。それも、真正面からのね」

明石「……翔鶴選手は、今回も榛名選手の打撃を避けないんでしょうか」

香取「避けないでしょうね。前大会のエキシビジョンマッチでは、最強の一撃と言われる夕立さんの必殺技さえ、翔鶴さんは避けなかったわ」


香取「翔鶴さんの戦い方は良く言えば真っ直ぐ、悪く言えば不器用なの。躱しつつ打ち返したり、間合いを計りながら戦うような器用さは持ってない」

香取「前へ前へと突き進む。翔鶴さんの戦術はたったそれだけ。たとえ相手が最強の空手家、榛名さんであっても、翔鶴さんは前へ出るしかないわ」

明石「以前の対戦もそうでしたよね。結果は翔鶴選手が手数で押されての判定負けでしたが」

香取「終盤は何で立っていられるか不思議なくらいボロボロだったわよね。はっきり言って、完全に打ち負けてたわ」

香取「翔鶴さんは今回も同じ戦い方をするでしょう。榛名さんがそれにどう応えるかはわからないけど……概ねは同じ流れになるんじゃないかしら

香取「前に出る翔鶴さんと、それを迎え撃つ榛名さん。先に打ち負けたほうが敗北するっていう、ある意味では我慢比べみたいな試合になると思うわ」

香取「徹底的に削り合って、最後まで立っていることができたほうが勝つ。こんなにわかりやすい勝負はないわね」

明石「どちらが有利、不利かは特にないと思われますか?」

香取「……不利なのは翔鶴さんと言わざるをえないでしょう。彼女の打撃を受け切る戦法は、榛名さん相手に使うにはあまりにも無謀だから」


香取「前に出て打点をずらしながら受ける、っていうのは打撃の威力を無効化するんじゃなく、2,3割ほど威力を減衰させてるに過ぎないの」

香取「急所を外させてるからKOはなくても、当たってはいるんだから痛いしダメージもある。翔鶴さんはそれをただ耐えているだけなのよ」

香取「鈍器による殴打を生身で受けることはできないように、榛名さんの打撃はどこで受けても致命傷になり得る。普通なら耐えられるはずはないわ」

明石「でも……翔鶴選手は判定負けした試合でも、榛名選手の打撃を受け切った上で、ただの1度もダウンしませんでしたね」

香取「そうね。確かに翔鶴さんは打ち負けたにも関わらず立ち続けていた。けど、あのまま戦っていたとしても勝機は薄かったでしょう」

香取「今回の試合は、前回の続きになるかもしれないわ。時間制限もなく、判定もない。どちらかが完全に動けなくなるまで、勝負は終わらないから」

香取「翔鶴さんは打撃でダウンしたことは1度もない。ルールの上では翔鶴さん有利と言えるかもしれないわね」

香取「だけど、相手は打撃最強候補の榛名さん。翔鶴さんは最後まで立っていることができるのかしら」

香取「真っ向勝負を仕掛けるに違いない翔鶴さんに、榛名さんはどう応えるのか。そこが一番の見所になるんじゃないかしらね」


明石「ありがとうございます。さあ、両選手リングイン! 屹然と対戦者を見据える榛名選手に対し、翔鶴選手は伏目がちに対峙しています!」

明石「気圧されているわけではなさそうですが……あっ、翔鶴選手が顔を上げました! 戦いに挑む者とは思えない、穏やかな表情です!」

明石「静かな闘志が両者の間に渦巻いています! ここから始まるのは、壮絶な打撃の死闘! 果たして、最後まで立っているのはどちらなのか!」

明石「全身凶器の空手家、榛名は不壊不倒の超人、翔鶴を打ち倒すことができるのか! それとも、ダウン経験なしの連続記録が更新されるのか!」

明石「この試合、我々は立ち技最強の一端を垣間見る事になるでしょう! ゴングが鳴りました、試合開始です!」


明石「まず出て行くのは翔鶴……いや、榛名選手が先にリング中央へ躍り出た! これは……左手を突き出し、右拳を引いた正拳突きの構え!」

明石「挑発に近い、あからさまな誘いです! コンクリートの壁をもぶち抜く正拳突き、これを受けられるかという、翔鶴選手への挑戦だ!」

明石「遅れて翔鶴選手がリング中央へ歩み出る! 中段に構え、迷いのないベタ足でゆっくりと榛名選手に近付いていく!」

香取「……まあ、翔鶴さんはそれしかないものね」

明石「躊躇なく榛名選手との間合いを狭めていきます! まさか、受けるというのか! 一体、翔鶴選手に恐怖心は……いったぁぁぁぁぁ!」

明石「りょ、両者相討ちです! 正拳突きと右ストレートが同時にクリーンヒット! まともに入りました! 顔面から鮮血が飛び散ります!」

明石「共に大きく体勢が崩れる! ダブルKOか!? いや、どちらも倒れはしません! ふらつきながらも、辛うじて踏み止まった!」


明石「骨が砕けるような拳を食らいながら、両選手ともダウンしません! 体勢を立て直しながら、同時に拳を振り上げた!」

明石「鉤突きと左フックが交錯する! これもクリーンヒットォォォ! 同じように両者がぐらつく! しかし、倒れはしない!」

明石「ノーガードの殴り合いです! まるで榛名選手が翔鶴選手のスタイルに合わせるような……今度はハイキィィック!」

明石「またもや相討ち! 互いに側頭部が揺さぶられ、大きく崩れます! 先に立て直すのは……翔鶴選手だ! 榛名選手が出遅れた!」

明石「ぼ、ボディへのアッパーカット! そしてローキック! 顔面へ膝ぁぁぁ! しょ、翔鶴選手が打撃で押し勝った!」

明石「頭を抱え込んで、もう一度膝蹴り! これはブロックした! 榛名選手、どうにか押しのけるも翔鶴の打撃が止まらない!」

香取「榛名さんも負けず嫌いだから、意地を張り過ぎてしまったわね。これはちょっとまずいかも……」

明石「左ジャブ、からの右エルボー! これも入った! 榛名選手が滅多打ちだ! 足元がぐらついている! かなりのダメージを受けています!」


明石「トドメのハイキィィック! これは……入らない! 肘でブロックしました! 榛名選手、初めて打撃を防御します!」

明石「更に翔鶴選手が前に出る! 追撃の右フック! 榛名選手、これを手刀で弾き落とした! 防御に回って体勢を立て直そうとしています!」

明石「続く左フックも廻し受けで捌く! 前羽の構えで防御を固め、距離を取ろうと榛名選手が後退! それを翔鶴選手は許さない!」

明石「下がる榛名選手を追うように猛然と前進! 前蹴り! 十字受けで止められた! 右ミドルキック! これも挟み受けで止められました!」

明石「榛名選手が回復しつつあります! 翔鶴選手が左ジャブ、右ストレートと追撃を繰り出しますが、これらも手首で弾かれる!」

明石「序盤の攻防から一転、翔鶴選手の打撃がまるで通らなくなりました! 鉄壁の如き空手の防御術! 着実に回復の時間を稼いでいます!」


明石「もはや打ち合いには付き合わない! 翔鶴選手の打撃を的確にガードし、傾いた形勢をどうにか元に戻していきます!」

香取「打ち負けたから防御に回った……っていう感じじゃなさそうね。最初だけ相手の流儀に付き合ってあげた、ってところかしら」

香取「ちょっとダメージを受け過ぎた気もするけど、ここからが榛名さんの本気。空手の全てを使って倒しにかかるわ」

明石「左フックを手首で弾く! と、同時に足払いを掛けた! 翔鶴選手がややバランスを崩した隙に、榛名選手、大きく距離を取ります!」

明石「構えを前羽から天地上下の構えに移しました! 更に息吹によって呼吸を整えています! 乱れていた呼吸を回復させました!」

明石「顔面からはかなりの流血が見られますが、余力は十分残っている! ここからが本当の勝負だ! 翔鶴選手も再び前進します!」


明石「距離を一気に詰め、ワンツーパンチ! どちらも捌き落とされました! 防御から一転、榛名選手の鉄槌打ちが鎖骨に振り落とされる!」

明石「しかし翔鶴選手は止まらない! 打撃を意に介さず、前へ出て左の肘打ち! 榛名選手、これを回り込むような運足で回避!」

明石「躱し様に、首を狙った手刀が放たれた! 翔鶴選手、これも避けない! 普通なら昏倒必至の一撃が入りました!」

香取「急所を外して受けてるわね。と言っても、痛みは相当なはずだけど……」

明石「迷わず翔鶴選手は反撃! 間合いを詰めて右、左のフック! 手首を使ったパリィで捌かれます! 榛名選手、やや押され気味に後退!」

明石「下がる榛名選手に対し、追撃のミドルキック! 肘でブロックされました! 体勢を立て直したいのか、榛名選手がまた下がります!」

明石「おっと、今度は翔鶴選手、追いません! 足が止まりました! 少々スタミナを使い過ぎたのか、呼吸がやや乱れてします!」


明石「構えた腕も下げてしまいました! 珍しい光景です! 翔鶴選手はスタミナにも優れているはずですが、明らかな疲れを見せています!」

香取「これは……痛みが限界を超えたせいね。てっきり、榛名さんは防御主体に立ち回っているんだと思ってたけど、そうじゃなかったみたい」

明石「痛み、ですか? 確かにだいぶ打ち込まれはしていますが、打たれ強い翔鶴選手にとって、これくらいは……」

香取「そうね、頭やボディに対するダメージはそうでもないでしょう。深刻なのは、手足に感じている痛みのほうじゃないかしら」

明石「手足? 腕や足に打撃をもらうような場面はなかったようでしたが……」

香取「原因は榛名さんの手首や肘による受けよ。空手の受けには、防御と同時に相手を攻撃する受け方があるの」

香取「手首の骨が突き出た部分や、肘、手刀を使った受けがそれよ。体の角で打撃を受けることで、逆に相手へダメージを与えるのよ」


香取「榛名さんの廻し受けは、防御技ではなく一種のカウンターなのね。翔鶴さんの手足、よく見たら切り傷があるじゃない」

明石「あっ、確かに! 翔鶴選手の手足に、擦過傷のような流血箇所がいくつも見受けられます! これが榛名選手の受けによる傷なのか!」

明石「攻め手が止まったのは、この傷の痛みによるもの! 頭や胴は打たれ慣れていても、手足そのものへのダメージは直接動きに響きます!」

明石「榛名選手は相手のダメージを観察するかのように、距離を取って構えています! 自分からは仕掛けていかない! 待ちに徹しています!」

明石「どうする、翔鶴選手! 彼女のファイトスタイルは前進あるのみ! しかし、このダメージでは……いや、前に出ます!」

明石「休憩は終わりとばかりに、再びベタ足で距離を詰めていく! やはり、翔鶴選手は前に出て攻めるしかない! 榛名選手が迎撃の体勢を取る!」


明石「先に榛名選手が仕掛けた! 中段回し蹴り! やはり避けない! 翔鶴選手、無理やり前へ出て右フック! カウンター気味に当たりました!」

明石「しかし榛名選手、瞬時に立て直した! 腕刀であごを打った! 翔鶴選手は揺るがない! 左の肘打ち! 榛名選手、スウェーで回避!」

明石「肘が掠ったのか、額をカットされました! かなりの出血です! だが、血を拭う暇はない! 心臓を狙った正拳突きが放たれる!」

明石「まともに入ったぁ! が、下がらない! お返しの右ストレート! 榛名選手、手首で捌いた! 手首の角を使った受け技です!」

明石「更に榛名選手、踏み込んで頭突き! 額で受けられました! そのまま首相撲の体勢です! 翔鶴選手が頭に肘を振り落とした!」

明石「榛名選手、頭部から更に出血! 反撃に同じ肘打ちを鎖骨に突き刺した! 骨折狙いの一撃です! しかし翔鶴選手、びくともしません!」

香取「今のはまともに入ってるわよ。鎖骨にヒビくらい入ったんじゃ……」

明石「構わず翔鶴選手、ボディへ膝蹴り! 負けじと榛名選手も膝を繰り出す! ここで翔鶴選手、首投げを敢行! 投げが決まったぁ!」


明石「密着状態から綺麗に投げました! 榛名選手、テイクダウン! そのまま翔鶴選手が流れるようにマウントポジションを取った!」

香取「翔鶴さんって、あんなに投げが上手だったの!? 思ってたより器用じゃない。あるいは、榛名さん対策をしてきたのかも……」

明石「榛名選手、対応が遅れました! やはりグラウンドの攻防は不慣れなのか! 空手には寝てからの攻撃技はありません、この状態はまずい!」

明石「対する翔鶴選手はがっちりと馬乗り状態をキープ! K-1王者に関節技はない! やはり翔鶴選手、パウンドを繰り出しました!」

明石「とにかく殴る、殴る! 容赦なく拳を落としていきます! 榛名選手は防戦一方! ひたすらガードを固めています!」

明石「ここに来て形勢は一気に翔鶴選手へ傾いています! 辛うじて致命傷を避け続けている榛名選手ですが、何発かのパンチは当たっている!」


明石「翔鶴選手はボディへのフックも交えながらパウンドを入れていく! 榛名選手、マウントから抜け出せない! もはやこれまでか!」

香取「……えらく無抵抗に殴られてるわね。腰を使った跳ね除けも、下からのパンチもない。何か狙ってる……?」

明石「また1発、まともに入った! 更に1発、フックが頭を大きく揺らしました! ダメージが確実に蓄積されています!」

明石「もう1発フックが入ったぁぁぁ! 遂に殺人聖女が落ちるのか! 翔鶴選手がトドメに……ここで榛名選手が跳ね起きた!」

明石「さ……刺したぁぁぁ! ぬ、貫手です! 左鎖骨の下を狙った二本貫手! 比喩ではなく、文字通り指を皮膚が貫いている!」

香取「出た……! 実現不可能とされた、空手最強の武器。それを榛名さんは、実戦で使えるまでに……!」

明石「鎖骨下に走る、腕の神経を直接切り裂かれました! この一撃を狙っていたのか! 翔鶴選手の左腕は完全に機能を停止しました!」


明石「神経を傷付けられる、この激痛は半端じゃない! 翔鶴選手の攻め手が止ま……止まらない!? 構わず右で殴った!!」

香取「嘘でしょ、発狂レベルの痛みのはずよ!?」

明石「貫手は左鎖骨下に刺さったまま! それを翔鶴選手、意に介さず右腕でパウンド! 流石に不意を突かれたか、榛名選手まともに食らった!」

明石「パウンドで前に出たせいで、更に傷口から血が吹き出した! それでも翔鶴選手が止まらない! もはや左は捨てたとばかりに殴る、殴る!」

明石「榛名選手も殴られてばかりではない! 二本貫手に捻りを加えた! 神経を完全に引き千切りました! しかも、更に深く突き刺す!」

明石「ようやく耐えかねたのか、翔鶴選手が貫手を外しに掛かった! 指を狙って右肘を振り落とす! それより早く、榛名選手が手を引いた!」

明石「同時に跳ね起きて頭突きぃぃぃ! もろに入りました! わずかに仰け反った翔鶴選手の顔面に掌底! 翔鶴選手を突き飛ばしました!」


明石「榛名選手、マウントポジション脱出! 今一度息吹で呼吸を整えます! やはり空手家榛名、スタンドで決着を付けるつもりです!」

明石「跳ね除けられて体勢を崩した翔鶴選手、ゆっくりと立ち上がります! 左腕はだらりと垂れ下がり、その指先から血が滴り落ちています!」

明石「呼吸も荒く、限界に近いダメージを受けています! もはや立っているのがやっとなのではないでしょうか!」

香取「痛いわよね……翔鶴さんの打たれ強さは、脳内麻薬の分泌でも、痛覚の遮断でもない。ただ単に、我慢しているだけなのよ」

香取「痛みとダメージへの耐性が人一倍あるだけで、痛いものは痛いし、疲弊もする。翔鶴さんはそれを精神力で耐えているに過ぎないわ」

香取「動けなくなるときは必ず来る……その瞬間は、もうそんなに遠くない」

明石「榛名選手が構えます! 天地上下ではなく、拳を固めた上段の構え! このまま一気にトドメ刺すつもりです!」


明石「対する翔鶴選手、動く右腕だけを上げて応える! 打ち合う気です! 右腕1本で榛名選手と打ち合う気だ!」

明石「あまりに無謀な挑戦です、ダメージ差は明らかに翔鶴選手のほうが大きい! おまけに左腕は神経を切られ、もう指一本動かない!」

明石「それでも翔鶴選手、自分から前に出た! 躊躇なく間合いを詰める! 自ら死地に飛び込もうというのか! 榛名選手はどう応える!」

明石「迷わず迎え撃った! 右ストレートと正拳突きが同時に放たれる! ま、またも相討ちぃぃぃ! 拳が顔面を叩き合いました!」

明石「榛名選手はおろか、翔鶴選手もまったく打撃の威力が失われていない! 両者、大きく体勢を崩した! どちらが先に立ち直れるか!」

明石「わずかに翔鶴選手のほうが早い! が、左が使えないぶん出遅れた! 榛名選手の左鉤突きが先にヒット! 脇腹に入りました!」

明石「しかし翔鶴選手、踏み止まった! 腕ごと叩き付けるような右フック! 廻し受けで止められました! これで右腕にもダメージが入った!」


明石「続けざまに榛名選手の虎爪による面打ち! いや、これは熊手打ち!? 掌底を横から顔面に打ち付けました!」

香取「競技空手にはない、危険技の1つよ。フックみたいに脳震盪を狙うんじゃなく、頬骨を砕くための一撃。これはさすがに……」

明石「翔鶴選手の口から歯が数本飛び散りました! こ、これは本当に骨折したのでは! 出血も……殴り返した!?」

香取「まだ動けるの!?」

明石「またも右フックで反撃! これは榛名選手、こめかみにもらってしまいました! わずかによろめいたところに、翔鶴選手の回し膝蹴り!」

明石「続けてローキック! これも入りました! ダメージ以前に、驚きのあまり榛名選手が後退します! 翔鶴選手がそれをゆっくりと追う!」


明石「歩みのペースは明らかに序盤と比べて遅い! だが打撃の重さだけは落ちていない! 榛名選手も今の攻防でかなり体力を消耗したようです!」

明石「まさに後退のネジが外れた戦いぶり! 前に出る以外のことは知らない! ゆっくりと間合いを詰める翔鶴選手を、再度榛名選手が迎え撃つ!」

明石「翔鶴選手のミドルキック! 榛名選手、蹴り足に対し垂直に肘を突き入れた! これは痛い! 足へカウンターの肘打ちです!」

明石「骨に響く一撃だったはずです! しかし翔鶴選手は下がらない! 踏み込んで右ストレート! カウンターの鉤突きが入ったぁぁぁ!」

明石「大きくあごが揺さぶられました! 翔鶴選手、ダウ……いや、立ち直りました! しかし、更に側頭部へ上段回し蹴りぃぃぃ!」

明石「これも完全に入っています! 横へつんのめるように翔鶴選手が崩れる! だが、立て直した! 倒れない! まるで倒れません!」

香取「翔鶴さん……もう、意識がないんじゃないの?」

明石「不死身の名は伊達ではありません! 幽鬼のような立ち姿で、なおも榛名選手目掛けて前進する! その姿、まさに歩く死人!」


明石「歩いてはいますが、目が虚ろです! 足取りもどこか危うい! これは、既に意識がないのかもしれません! 無意識で戦っているのか!?」

明石「榛名選手も戦慄したような表情を浮かべています! しかし、翔鶴選手がまだ立ち向かおうとしているのは事実! ならば、迎え撃つまで!」

明石「首を狙った手刀打ち! 入った! が、止まらない! 翔鶴選手、踏み込んで飛び膝蹴りぃぃぃ! 榛名選手のあごを打ち抜いた!」

明石「追い打ちにボディへ前蹴り! よろめきつつ榛名選手が後退! それを翔鶴選手はゆっくりとした足取りで追う! 目は虚ろなままです!」

明石「まさに本能だけで戦っている! 刷り込まれた戦いの記憶だけを頼りに、意識のないまま榛名選手へ向かっていきます!」

明石「今にも倒れそうなのに、なぜでしょうか、翔鶴選手が倒れることが想像できない! この想いは榛名選手にもあるはずです!」


明石「再び間合いが近付いていきます! 先に仕掛けたのは榛名選手! 上段回し蹴りです! またもや側頭部にクリーンヒット!」

明石「ぐらりと前のめりになった翔鶴選手、そこからむくりと上体を起こした! 倒れない! もう、何をしても倒れないとしか思えない!」

香取「翔鶴さんが、ここまで怪物じみてたなんて……!」

明石「本能のままに翔鶴選手が打撃を放つ! 右ストレートです! 榛名選手、腕刀で逸らした! 同時に、正拳突きのカウンターァァァ!」

明石「みぞおちに突き刺さり……いや、違う! 正拳突きではない! 貫手です! まっすぐに揃えられた指先が、翔鶴選手の水月に刺さっている!」

明石「文字通り、刺さっている! 抜いた! 尋常ではない量の血が滴り落ちます! 明らかに内蔵まで傷が達している!」

明石「まさしく致命傷を受けた翔鶴選手、何の反応も示しません! 傷を庇うことも、打ち返すこともせず、ただ立ち尽くしている!」


明石「今度こそ意識が……!? 動いた! 前に出ます! まだ動いている! 翔鶴選手はまだ生きています!」

明石「足元に血だまりを作りながら、翔鶴選手が死の道を歩きます! 一体、何がここまで彼女を突き動かすのでしょうか!」

明石「まさか本当に不死身だとでもいうのか! 再び拳の間合いに入った! 翔鶴選手が仕掛けます! 右ストレートォォォ……?」

香取「……とっくに限界だったのよ」

明石「こ、拳は当たりましたが……触れただけです! もう、スピードも重さもない! ただ力なく腕を突き出しただけです!」

明石「続いて右フック! これも榛名選手の頬に触れただけ! 今や翔鶴選手は炎の消えた蝋燭! 最期の灯火さえ、とうに燃え尽きているのです!」


明石「それでもなお、倒れることだけは拒否しています! 蹴りを出そうとしても、足を上げることさえできない! 翔鶴選手はもう戦えません!」

明石「ようやくそのことに気付いたレフェリーが試合を止めようと……いや、榛名選手が構えた! ただ静観していた榛名選手が構えを取った!」

明石「スタンスを広くとり、大きく右拳を引いた! これは……何をする気だ! まさか……せ、正拳突きぃぃぃ! 渾身の突きが入ったぁ!」

明石「演舞や試し割りでしか見られない、大きく振りかぶった正拳突きが顔面に炸裂! 翔鶴選手がとうとう、リングに倒れ伏しました!」

明石「ゴングが鳴りました! 試合終了です! 恐るべき試合を目の当たりにしてしまいました! 翔鶴選手、生涯初のダウンKO負けです!」

明石「桁違いの打たれ強さを誇る翔鶴選手を、脅威の空手技で徹底的に打ち負かしました! 勝者は榛名選手、榛名選手です!」

明石「やはり、立ち技格闘界真の王者はこの空手家なのか! その多彩かつ必殺の打撃、果たして超えられる者は現れるのでしょうか!」


香取「以前にも増して、榛名さんは更に凄みを増したわね……そりゃあ誰だって戦いたくないわけだわ」

香取「それに、おそらくだけど……榛名さんはもっと早く試合を終わらせることもできたんじゃないかしら。ここまでダメージを負うこともなく……」

明石「榛名選手は……最初は本気で戦っていなかったということですか?」

香取「あれはあれで本気なのよ。翔鶴選手の流儀に本気で付き合ったからこそ、こういう試合展開になったんだわ」

香取「貫手を使える場面は他にもあったはず。それをしなかったのは……えっと、幻覚かしら。嘘よね?」

明石「はい? なっ……何だ!? しょ、翔鶴選手が起き上がった! 今、担架で運び出されようとしていたところです! 翔鶴選手が立ちました!」


明石「か、構えています! 唯一動く右腕を上げて、ファイティングポーズを取っている! 目は虚ろながら、榛名選手を探している!」

明石「ちょうど榛名選手もリングを降りるところでしたが、彼女も驚愕の表情を浮かべています! まさに死人が起き上がったかのような光景です!」

明石「ふらふらとリング中央へ歩いていきます! これは……もう目が見えていないようです! 榛名選手を見つけられません!」

明石「榛名選手、凍り付いたように動くことができない! 翔鶴選手は……あっ、再び倒れました! もう……もう、起き上がりません!」

明石「お、恐ろしいものを見てしまいました! 鍛錬や執念すら超えた、妄執の領域! 死してなお、翔鶴選手は敗北を拒否したのです!」

明石「負けてもなお、不死身の名が伊達ではないことを示しました、翔鶴選手! まさか、K-1新王者がこれほどの底力を秘めていたとは!」

明石「しかし翔鶴選手は1回戦敗退! 榛名選手という大き過ぎる壁を前に、死闘むなしく玉砕という形に終わりました!」

香取「とんでもないわ……もし、K-1が時間制限なし、判定なしのルールだったら、本当に赤城さんにさえ勝っていたかもしれないわ」

香取「惜しい選手が初戦落ちになったわね……でも、翔鶴さんはきっと諦めないわ。またいずれ、もっと強くなって榛名さんに再戦を挑むでしょう」

香取「そのときは……どうなるのかしら。ともかく、どちらも素晴らしいファイターだったわ」

明石「はい、まさに死闘と言うに相応しい、凄まじいファイトでした! 両選手の健闘を讃え、皆様、今一度拍手をお願いします!」


試合後インタビュー:榛名

―――初戦を突破した喜び、というのはありますか?

榛名「……ありません。むしろ、とても苦々しい気持ちでいっぱいです。あんな戦いは、私の望むものではありませんでした」

榛名「翔鶴さんも途中でわかっていたはずです。私の打撃は受け切れるようなものではないと。もっと早く終わらせることだってできたんです」

榛名「それに気付いてほしかったから、彼女の打撃に付き合ったのに……なんて愚かな。悲しいほどに愚かな人ですよ、翔鶴さんは」

―――戦ってみて、翔鶴選手のことをどのように評価されますか?

榛名「愚直の一言に尽きます。あの戦い方で私に勝てる可能性なんて、万に一つもない。それは翔鶴さん自身も理解するところだったはずです」

榛名「それでも、彼女は最後の最後まで私に向かってきました。まるで死に場所探しているのに、死に方がわからないような、哀れな有様でした」

榛名「やはり、翔鶴さんは普通のファイターとは根本から違う。あれはもう、勝ちたいという意志すら超えた何かを求めているような気さえします」

榛名「何度戦っても、私の敵ではありませんが……また彼女は戦いを挑んでくるでしょうね。きっと、同じ戦い方で」

榛名「そのときに私はどう応えるべきなのか……目の前の戦いに集中したいのに、今はそのことばかりが頭にちらつきます。とても腹立たしいです」

―――翔鶴選手に向けてのコメントなどがありましたら、お願いします。

榛名「……グランプリは私が優勝します。それから、再戦はいつでも受けます。これだけ伝えてくだされば十分です」


試合後インタビュー:翔鶴

―――試合のことはどこまで覚えていますか?

翔鶴「私はよく記憶が飛ぶんですけど、今日は珍しく全て覚えています。試合に負けたことも、それを認められなかったことも」

翔鶴「悔いはありません。私にしてはよく食い下がれたと思います。榛名さんには最後まで付き合っていただいて、ありがたく思っています」

翔鶴「勝てないのは何となくわかっていた気がします。だけど、自分がどこまで行けるか試してみたかったんですよね」

翔鶴「感想としては、思ったより行けました。負けたことは悔しいですけど、今はそれくらいで満足しようかと思います」

―――なぜ、あそこまで立ち続けることができたんですか?

翔鶴「なぜ、と聞かれても……私は立って前に出る戦い方しか知りません。他にやれることがないから、そうしただけです」

翔鶴「こういう風に答えると、だったらなぜ戦うのかっていう質問になってきますよね。実は、私にもその答えがわからないんです」

翔鶴「どうして、私はここまで頑張って戦うんでしょうか……その答えを知るために戦っている気もしますし、永遠にわからない気もします」

翔鶴「たぶん、答えが出るまで私は同じことを繰り返し続けるんだと思います。ただ前に進むだけです。後ろに答えはないと思うので」


明石「1試合目から衝撃的な内容となりますが、まだまだBブロック1回戦は始まったばかり! この後に3試合も控えております!」

明石「次なる第2試合は、どのような死闘になるのでしょうか! 赤コーナーより選手入場! ブラジリアン柔術が、戦艦級王者奪還を狙います!」


試合後インタビュー:伊勢

―――今までUKF出場を見送られてきたのはなぜでしょうか?

伊勢「うーん、日向が先に参戦して勝ち続けてたから、私はその応援をしていたいなって思ってたの。日向が最強になるなら、それでよかったから」

伊勢「でも、ブラジリアン柔術の解析が進んでからは勝てなくなってきたのよね。おまけに、長門さんっていう最強のファイターまで出てきちゃって」

伊勢「日向は柔術にボクシングを組み合わせることでどうにかしようとしてたけど、それでも厳しいみたい。だから、私の出番かなって」

―――自分よりも強い、と日向選手から太鼓判を押されていますが、ご自身はその言葉をどう受け止められていますか?

伊勢「もちろん、そうじゃないかしら? そもそも日向に関節技や寝技を教えたのは私なんだから!」

伊勢「練習でも、日向に負けたことは一度もないのよ! あの子は総合格闘家としては強いけど、ブラジリアン柔術家としてはまだまだよね」

伊勢「やっぱり最強はブラジリアン柔術! 打撃よりもサブミッション! 今日は対戦相手の骨をバッキバキにしちゃうわよ!」

―――打撃にはどう対処されるおつもりですか?

伊勢「まあ、ちょっとくらいなら打ち合ってもいいかな。でも殴り合いは好きじゃないから、即行でサブミッションに持って行くわ!」

伊勢「半端な打撃は私に通用しないわよ? そのまま手足を折っちゃうから! 仮に反応のいい相手でも、こっちには秘策が……」

伊勢「あっ、これは秘密だったわ。とにかく、打撃で攻められても問題ないってこと! どこからでも掛かってきなさい!」


伊勢:入場テーマ「Cradle Of Filth/Cthulhu Dawn」

https://www.youtube.com/watch?v=o4iJJceQmkI


明石「Fist or Twist!? もちろんTwist! サブミッションこそ至高にして最強、つまり最強はブラジリアン柔術だ!」

明石「掴んで折る! 捻って折る! 投げて倒して絞め落とす! 寝技だけに留まらない、ブラジリアン柔術の真の脅威がここにある!」

明石「関節破壊のスペシャリストによる、骨折ショーの始まりだ! ”東洋のクラーケン”伊勢ェェェ!」

香取「初代戦艦級王者、日向さんの姉である伊勢さんね。寝技、関節技では並ぶ者がいないほどのテクニックの持ち主よ」

香取「まだ戦績は3戦3勝と少ないけど、どの試合も一瞬で関節を極めての圧勝で終わらせているわ。日向さんより強い、っていうのは本当みたいね」

明石「ファイトスタイルとしては寝技中心というより、どこからでも関節技、絞め技に繋げられるサブミッションハンターといったところでしょうか」

香取「そうね。日向さんがスタンドの攻防をボクシングで補おうとしていたのに対し、伊勢さんは柔術の技をより極めることで対応しようとしてるわ」

香取「パンチが来れば腕を巻き込んで折り、蹴りが来れば足を取ってテイクダウンに持ち込む。打撃への対処はかなり研究してるようね」

香取「とりあえず、伊勢さんに掴まれたら即、折られると思ったほうがいいわ。彼女は人体の関節構造を知り尽くしているから」

香取「どの関節がどれくらいの可動域を持ち、どの方向に曲げれば折れるか。伊勢さんにとって人体はガラス細工よりも壊しやすい代物でしょう」


香取「対戦相手は彼女と組み合うわけには行かないわね。とにかく掴まれないよう、打撃で立ち回るのが賢明な戦法じゃないかしら」

明石「逆に、組み技を用いない立ち技系のトップファイターに対しては、伊勢さんはどのように攻めるのでしょうか」

香取「うーん。半端な打撃なら、打ち込んできた手足を取って関節技に繋げるんでしょうけど、トップクラスの打撃はどうするのかしらね」

香取「伊勢さんはそのレベルの選手とまだ戦ってないから、見てみないとわからないわね。たぶん、相手に仕掛けさせるんじゃないかとは思うけど」

香取「少なくとも、対策は練ってきているはずよ。スタンドの攻防で上手く立ち回れないと、総合格闘で勝てないのはよく理解してるはずだから」

香取「あとは相手次第かしら。今日の対戦相手は初参戦の方だから、まずは様子見から入っていく形になると思うわ」

香取「断言できるのは、最後は関節技か絞め技で終わらせるということ。相手が組み技からどう逃げるのかも見どころじゃないかしら」

明石「ありがとうございます。さあ、それでは青コーナーより選手入場! 中国拳法の秘技が今、実戦の舞台に上がります!」


試合前インタビュー:隼鷹

―――ご自分についての選手紹介に対して怒っているとのことですが、どういった点が気に入らなかったんでしょうか。

隼鷹「いやね、あたしも悪かったとは思うよ。あんまり技を調べられたくなかったから、自分の流派を隠しておいたりしてさ」

隼鷹「でもさあ、あの紹介はなくない!? 何だよ、飲めば飲むほど強くなるって! あたし、酔拳使いじゃないから!」

隼鷹「だいたい酔拳だって本当は酒なんて飲まないし! あれは動きが酔っ払ってるように見えるってだけだから! 映画の影響受け過ぎだよ!」

―――試合前なのに、飲んでないんですか?

隼鷹「当たり前だよ! 酒飲んで強くなるわけないじゃん! あたしだって試合前は禁酒するよ! 終わった後は浴びるほど飲むけど!」

隼鷹「いい? あたしの流派は太極拳! ほらここ! 陰陽魚のネックレス! 陰陽=太極図! つまり太極拳! ほら、ピンと来たでしょ?」

隼鷹「……なんでピンと来ないんだよ! どんだけ私にアルコールのイメージ抱いてんの!? なに、差し入れの酒? だから今は飲まないって!」

隼鷹「何だよ、人をアル中扱いして! あったまきた! 絶対試合で圧勝して、そのイメージを払拭してやるよ!」

―――対戦相手はブラジリアン柔術の伊勢選手ですが、どのように戦いますか?

隼鷹「何だよ、もう酒の話題終わりかよ! そっちが振ってきた話題なんだから、勝手に終わらすのやめろよ! せっかくテンション上げたのに!」

隼鷹「まあいいけど……んー、別に対策はしてないよ。柔術がどんなのかは知ってるから、いつも通りにやればいいだけでしょ」

隼鷹「気を付けるのは引き込まれないようにすることくらいかな。関節技はあたしも使えるし、展開によっちゃ寝技で勝負するかも」

隼鷹「あーでも、初戦から擒拿術は見せないほうがいいかな? できれば打撃で片を付けたいね。ま、どうにかなるんじゃない?」


隼鷹:入場テーマ「布袋寅泰/BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」

https://www.youtube.com/watch?v=VogWfA4zesA


明石「酔いどれ軽空母、禁酒を課してリングに登場! 酒を飲むのは試合に勝ってから! 正真正銘シラフで戦いに臨みます!」

明石「その流派は中国拳法の代表格、太極拳! 深遠なる柔の拳は、実戦においてどのような技を繰り出すのか!」

明石「勝利の祝杯を上げるのはこの私だ! ”酔雷の華拳”隼鷹ゥゥゥ!」

香取「常識的に考えて、お酒を飲んで戦えるわけがないわよね。何となく隼鷹さんならやりそうな気はしていたけど」

明石「運営側も『どうせ酔拳使いなのに何で隠してるんだろう』くらいに思っていたそうですが、思い込みだったみたいですね」

香取「お酒好きだから酔拳っていうのは安直な予想だったわね。それに、本当の酔拳は既に継承が途絶えていて、実態は失われているみたい」

香取「対して太極拳は未だに受け継がれ続けている、中国拳法の中でも名の知られた流派の1つね。名前くらいは誰でも聞いたことがあるはずよ」

明石「一般のイメージとしては、やっぱり健康体操の印象が強いですよね。実際、そういう方向で世界に広まったわけですし」

明石「というか、中国拳法自体が実戦性を疑問視される格闘技の代表格ではないでしょうか。型ばかりで戦いには使えないんじゃないか、と」

香取「体操としての太極拳や、中国拳法の表演舞を見る限りではそう思わざるを得ないわよね。あんな動きが実戦で有効なわけがないもの」


香取「表舞台で戦っている中国拳法家も少ないし、多くの人は思うわよね。中国拳法は実際には弱い、真剣勝負なら簡単に倒せると」

香取「そう考えている人は、まんまと中国拳法家の策略に引っ掛かっているの。中国拳法の演舞はむしろ、弱いと思わせるのが目的なのよ」

明石「それは、一般的な武術の演舞とは逆の目的ですが……なぜ、わざわざ流派の評判を落とすようなことを?」

香取「『大巧は巧術なし』という中国のことわざがあるわ。本当の名人は、あからさまに技をひけらかすような真似はしないということよ」

香取「中国拳法は全般的に秘密主義。強さを誇示するのは実戦のときで十分。表向きには決して真の実力を明かすことはないわ」

香取「演舞に見られる実用性のなさそうな技は、大抵が演舞用に改変されてるの。へんてこに見える蹴りが、実は急所を蹴り潰す技だったりするのよ」

香取「そうやって実力を隠し、真剣勝負では容赦なく敵を叩きのめす。そもそも中国拳法って、他民族との戦争に勝つために育まれた武術なんだし」

香取「今でも中華系マフィアは用心棒や殺し屋として、カンフーの使い手を雇っているそうよ。中国拳法の実用性は、やっぱり実戦で発揮されるのね」

明石「……映画の話ですよね?」

香取「現実の話よ。中国の武術に、日本みたいな高尚な精神はあんまりないもの。ブルース・リーだって、よく映画で人を殺しているでしょう」

香取「中国拳法の実態はそんな感じよ。華やかで神秘的なのは表向きの顔。民族間の殺し合いで磨かれた、実戦的な血生臭さが本当の顔なんでしょう」


明石「では、隼鷹選手が使う太極拳にも、そういった側面があると?」

香取「もちろん。健康体操として知られる動きは太極拳の隘路、いわゆる武術の型ね。それを体操として変形させたものに過ぎないわ」

香取「太極拳の隘路なんて、武術を学ぶ上での入り口の、その手前にある入口みたいなものよ。体操の動きから太極拳の本質は決して測れないわ」

香取「実際には私も見たことはないけど、本当の太極拳はゆったりした動きではなく、激しい全身運動を伴う攻撃的な武術らしいわ」

香取「動きは素早く、一撃は重く、状況に応じて多彩な技を繰り出す。技の体系には関節技も含まれるみたいね」

明石「隼鷹選手がちらっと口にしていた、『擒拿術(きんなじゅつ)』というのがそれでしょうか?」

香取「ええ、中国拳法では関節技のことを擒拿術と呼ぶの。発剄なんかと並んで、中国拳法における高級技と言われているわ」

香取「この擒拿術を扱えるか否かで、中国拳法家を自称する人の実力が測れると言っても過言ではないでしょう。実戦に関節技は必須だもの」

香取「隼鷹さんは擒拿術を使えると言っていた。それが嘘でないなら、拳法家としての実力は本物と見て間違いないでしょうね」


明石「ブラジリアン柔術VS中国拳法という図式のこの試合ですが、予想としてはどのように見られますか?」

香取「予想はしづらいわね。伊勢さんが組み技を狙ってくるのは間違いないけど、隼鷹さんがそれにどう対応するかよね」

香取「太極拳士が本気で戦うところは私も見たことがないの。どんな技を使うかもはっきりとわからないから、予想のしようがないわ」

香取「順当に考えれば、やっぱり打撃で攻めるんじゃないかしら。中国拳法は全般的に打撃中心で組み立てられているはずだから」

香取「何にせよ、面白い勝負ね。表舞台での強さが実証されているブラジリアン柔術と、なかなか表舞台には出てこない中国拳法家が戦うのよ」

香取「普段は見られない技が色々見られるんじゃないかしら。どちらの戦い方にも注目したいわ」

明石「ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! どちらも自信満々の笑みを浮かべて睨み合っています!」


明石「共に己の必勝を確信している! 果たして、どちらの笑みが先に消えるのか! ゆっくりと互いのコーナーへ戻っていきます!」

明石「視線を切らない隼鷹選手に対し、伊勢選手はセコンドの日向選手と何か話しています! 姉妹で講じた作戦でもあるのでしょうか!」

明石「ブラジリアン柔術と太極拳、果たしてこの戦い、どのような技が飛び出すのか! ゴングが鳴りました、試合開始です!」

明石「両者、同時にコーナーからリング中央に歩いていきます! 伊勢選手は開手を脇に置き、腰を落とした組み技狙いの構えを取ります!」

明石「隼鷹選手も同じく開手! 左は上段に、右は胸元に備えたオーソドックスな太極拳の構えです! まずは睨み合う形になりました!」

明石「どちらも相手に仕掛けさせたい様子です! 円を描くように動いて、共に間合いを計り合っています! 先に仕掛けるのはどちらか!」


明石「動いたのは伊勢選手! 牽制気味のローキックで内腿を狙った! 隼鷹選手はこれを受けつつ後ろ回し蹴り……いや、違う!?」

明石「蹴りではなく、体を反転させてキックを両足で挟んだ! そして、テコの原理で捻じりを加える! 伊勢選手があっさりとバランスを崩した!」

香取「何あれ、立った状態での蟹挟み!?」

明石「まさかの展開です、伊勢選手が先にテイクダウンを取られた! 流れるように隼鷹選手が寝技に向かう! 足首固めを狙っています!」

明石「しかし、寝技の攻防は伊勢選手の本領! 素早く身を反転して技を外しました! ガードポジションに移行し、隼鷹選手を引き込みに掛かる!」

明石「隼鷹選手はこれを逃れて立ち上がり……なんだ? 立ったと思いきや、自ら脇に倒れ込みました! サイドポジション狙いか……蹴った!?」

香取「あの体勢から、旋風脚!?」

明石「倒れ込みつつ蹴りを放ちました! 伊勢選手の脇腹に命中! 思わぬ体勢からの蹴り技です、完全に不意を突かれました!」


明石「かなりダメージがあったようです、転がって距離を取った! グラウンド戦を諦め、一度立ち上がります! 伊勢選手、早くも呼吸が荒い!」

香取「胴体の急所の1つ、腎臓を蹴られたわ。多くの格闘技で狙うことを禁止されてるくらい、打たれると危険な箇所よ。伊勢さんにはまずい展開ね」

香取「初っ端から面白い技を見せてくれるじゃない、隼鷹さん。伊勢さんはここから、どうにか状況を盛り返さないと行けないわ」

明石「序盤の攻防は隼鷹選手が制する形になりました! これが太極拳、これが中国拳法! わずかな攻防で、早くもその脅威を見せつけました!」

明石「共にスタンド状態に戻りました! 表情の険しい伊勢選手に対し、隼鷹選手は余裕の笑み! 先に笑みを消されたのは伊勢選手となりました!」

明石「太極拳が踊り拳法でないとわかった今、伊勢選手はどう仕掛ける! 開手に構えを取り、慎重に間合いを詰めていきます!」

香取「もう牽制目的でも打撃は使えないわね。さっきの二の舞いになりかねないから、伊勢さんはどうにかして相手を捕まえるしかないわ」

香取「タックルで行くか、打撃を捉えるか……難しいところね。隼鷹さんが何をしてくるかわからないから、伊勢さんも慎重にならざるを得ないわ」

明石「再び間合いの測り合います! どちらも仕掛けない! 今の時点で優勢な隼鷹選手も、なかなか自分からは攻めようとしません!」


明石「ここで伊勢選手が踏み込んだ! 左手を掴みに掛かりました! しかし隼鷹選手、トラッピングを敢行! 手を掴ませません!」

明石「しかし、構わず伊勢選手が前へ出る! 真の狙いはクリンチで打撃を封じることか!? 組み合いの状態になりました!」

明石「この体勢も伊勢選手の土俵です! まずはテイクダウンを狙う! 腰投げを仕掛けます! だが隼鷹選手、するりと脇に抜けてしまった!」

明石「しかも、逆に伊勢選手の腕を取っている! 関節技を掛ける気です! これは脇固め!? スタンドからの脇固めを狙っています!」

明石「関節技で遅れを取るわけにはいかない! 伊勢選手、素早く振り解きました! 脇固めからは抜けたものの、クリンチも外されてしまいます!」

明石「またもやスタンド状態! 予想以上に隼鷹選手の関節技が上手い! 伊勢選手が苦戦を強いられています! サブミッションが決まらない!」

香取「中国拳法の恐ろしさは臨機応変な体の使い方だってことは知っていたけど、ここまでできるなんて……!」

明石「攻めあぐねている伊勢選手に対し、今度は隼鷹選手から間合いを詰めていきます! 仕掛けた! 右の崩拳突きです!」


明石「伊勢選手、躱しつつ腕を取った! 逆転のチャンス! 即座に関節技へ……放した!? 違う、打撃が入った! この至近距離で!?」

香取「まさか、寸勁!?」

明石「悶絶しながら伊勢選手が距離を取る! ボディに大きなダメージを受けたようです! 原因は、至近距離から放たれた左の崩拳です!」

明石「威力の大きい打撃は、普通だとある程度の距離が必要です! しかし、さっきのは距離が近過ぎる! あれはまさか、発勁による打撃!?」

香取「そうみたいね。中国拳法に発勁は実在するわ。剄とは即ち力の流れ、発勁は背中の筋肉から発する力を、全身で自在に発揮させる技術よ」

香取「カンフーは力の流れをスムーズにするため、無駄な筋力をつけない。小柄な拳士でも、達人ともなれば崩拳一発で背骨をも折ってしまうそうよ」

香取「さっきの一撃は、姿勢が完全じゃなかったからあの程度の威力で済んだみたいだけど……今更ながら、隼鷹さんは本物みたいね」

明石「状況は刻々と伊勢選手に対して不利になりつつあります! 打撃は通用しない! 密着状態でも、発勁による打撃の危険がある!」


明石「ダメージは大きいものの、まだ十分に余力はある! 苦しげだった表情も、徐々に闘志が戻ってきています!」

明石「初代戦艦級王者の名を取り戻すため、負けるわけにはいかない! ここからが本当の勝負! 伊勢選手、勇気を持って前進します!」

明石「それを待ち構える隼鷹選手! その立ち姿には、何を仕掛けられても対処できるという自信が漲っています! 伊勢選手、ここからどう出る!」

明石「ジャブのフェイント! そこから瞬時に腰を沈めて足へのタックル! 躱されました! 隼鷹選手、ひらりと脇へ逃れます!」

明石「逃れると同時に、横から膝を踏み潰すようなサイドキック! 伊勢選手、よろめきながらもクリーンヒットは回避しました!」

明石「向き直るなり、即座に胴タックル! これも躱した! 間合いの取り方が絶妙です! 円を描くような軌道で、無駄なく回り込んだ!」

明石「そして足が振り上がる! 斜め上からの踵落としです! 腕でブロックしました! 片足立ちになった隼鷹選手目掛けて、再度タックル!」


明石「決まったぁ! 隼鷹選手、テイクダウン! 執念でタックルを決めました、伊勢選手! ようやく反撃のチャンスを……なっ!?」

香取「あの体勢から、関節技!?」

明石「隼鷹選手が逆に関節技を仕掛けた! 腕ひしぎ三角固めです! 蹴り足をそのまま腕に絡めました! 恐るべき対応速度です!」

明石「まさか、この展開を読んだ上で蹴りを繰り出したのか!? 技の継ぎ目を感じさせない、完璧なタイミングでした!」

明石「しかも、相手は関節技のスペシャリスト、伊勢選手です! ブラジリアン柔術家の伊勢選手が関節技で圧倒されています!」

香取「まずいわよ、三角固めに抜け技はない。このままじゃ……!」

明石「徐々に技が完全に極まりつつあります! 伊勢選手、絶体絶命! 抜けられるか! ここで脱出できなければ……抜けた、抜けました!」


明石「強引に腕を引き抜いての脱出です! やはり純粋な力では軽空母級と戦艦級! 技ではなく力の差で関節技から脱出です!」

明石「脱出するや否や、伊勢選手またもやタックル! 攻め続けることで活路を見出そうというのか! しかし、これも躱されてしまいます!」

明石「隼鷹選手、位置取りが抜群に上手い! 動きが速いわけではなく、一挙一動が実に正確です! タックルが通用しません!」

香取「天才的だわ……組み技系格闘技は、自分の中心軸に相手を引き込まないと技を掛けられない。その射程から、最低限の動きで逃れてるわ」

香取「タックルは通らない、打撃は無理、クリンチも危険……伊勢さんの勝つ手段なんて、もうほとんどないじゃない」

明石「反転して即タックル! やはり躱された! 躱し様にハイキックが炸裂! 伊勢選手、辛うじて肘でブロックしました!」


明石「まさか、隼鷹選手がこれほどとは! 優勝への期待さえ掛けられていた、伊勢選手が圧倒されています!」

明石「どうにか致命傷は免れていますが、伊勢選手の攻撃は通らず、隼鷹選手が一方的に攻め続けています! しかも、隼鷹選手はノーダメージ!」

香取「……隼鷹さんがまだ伊勢さんを仕留めてないのは、技を隠してるからだわ。初戦であまりたくさんの技を見せたくないのよ」

香取「それくらいの余裕を持って隼鷹さんは戦ってる。それでも伊勢さんに勝てると踏んでるんだわ。それほどまでに隼鷹さんは強い……!」

明石「伊勢選手にはあまりにも苦しい展開! 一体、ここから逆転のチャンスはあるのでしょうか! 隼鷹選手は虎視眈々とk」


※放送が中断されました。しばらくお待ち下さい。


※現在、グランプリ会場内にて電源異常が発生。完全停電により放送、および試合が中断されています。復旧までしばらくお待ち下さい。


明石「……あっ、点いた! 明かりが点きました! 復旧作業が終了したようです! いやーびっくりした! いきなり真っ暗になるんですから!」

香取「何よ、雷でも落ちたの? そんな天気でもなかったのに……設備の故障? そんな不手際で試合を中断させないでほしいわ」

明石「申し訳ありません、突然の停電により、放送及び試合が中断してしまいました! 両選手には一時、待機の形を取っていただいております!」

明石「電源設備に異常は見られないようなので、これよりコーナー際からの仕切り直しになります! まもなく再スタートです!」

香取「伊勢さんとっては幸運だったわね。休む時間ができたから、少しは回復できたみたい。呼吸も落ち着いたようね」


明石「不測の事態により、実質的な第2ラウンド! 伊勢選手の逆転なるか! ゴングが鳴りました! 試合再開です!」

明石「やはり伊勢選手は腰を落としたタックルの構えです! 隼鷹選手も太極拳の構えでゆっくりと歩みを進めます!」

明石「相手の回復の度合いを計っているのか、隼鷹選手はやはり自分からは仕掛けない! 伊勢選手が近付いてくるのを待っています!」

明石「伊勢選手、どうやら誘いに乗るようです! 間合いを詰め、フェイントを交えながらタイミングを伺っている! そして一気に踏み込んだ!」

明石「しかし隼鷹選手は躱す! 円の動きでするりとタックルから逃れ……あっ!? ぱ、パンチです! 伊勢選手が右フックを繰り出した!」

香取「うそ、打撃!?」

明石「振り向き様の右フック! 隼鷹選手は驚きつつもトラッピングで捌きました! 反撃の掌底! が、これを伊勢選手、スウェーで回避!」


明石「回り込もうとする隼鷹選手に対し、伊勢選手が先回りした! フットワーク!? 左ジャブを放った! 隼鷹選手、防御が間に合わない!」

明石「軽微ながらも、初めて隼鷹選手にダメージが入りました! 立て続けに右ストレート! これも隼鷹選手の頬を掠めた!」

明石「明らかに伊勢選手の動きが変わりました! 積極的に打撃戦を挑んでいる! ボクシングの動きで太極拳の技術に対抗しています!」

明石「まさかの打撃に不意を突かれたか、隼鷹選手が後退! しかし伊勢選手は追いすがる! 左フックからのショートアッパーを繰り出しました!」

明石「隼鷹選手、これにトラッピングで対応! カウンターを試みますが、伊勢選手のペースが速い! 反撃の隙を与えません!」

香取「……伊勢さんって、こんなにボクシングができたかしら」

明石「変則的なフットワークから、素早いパンチが繰り出される! それらを隼鷹選手、次々と捌く! そしてカウンターァァァ!」

明石「顔面へ掌底が叩き込まれました! 伊勢選手が大きく後方によろめく! しかし、立て直した! まだ伊勢選手は動けます!」


明石「右、左へと不規則に動きつつ、左フック! これは読まれていた! 隼鷹選手、ダッキングで回避! 同時に足元へ水面蹴り!」

明石「伊勢選手がバランスを崩す! が、フットワークで持ち直しました! 追撃を避けて一旦距離を取る! しかし、すぐに攻めへ転じた!」

明石「ジャブから入ってショートアッパー! だが当たらない! 隼鷹選手がボクシングの打撃に慣れてきました! スムーズに捌かれます!」

明石「それでも伊勢選手は攻める! 右フック、と見せかけた胴タックル! 決まったぁ! ここでとうとう、隼鷹選手からテイクダウンを奪った!」

香取「えーっと、うん。さすがだわ。打撃に集中させておいてからのタックル、熟練の試合巧者ぶりね」

明石「隼鷹選手がガードポジションに入る! が、伊勢選手のパスガードのほうが速い! 一息にマウントポジションに持って行きました!」

明石「千載一遇の好機です! ここは確実に決めたいところ! まず伊勢選手、パウンドを落とした! 隼鷹選手がガードを固めます!」


明石「ガードした腕を素早く捉える! アームロックに掛かった! ここでもパワー差が浮き彫りになります! 隼鷹選手、外し切れない!」

明石「しっかりと逆関節を取った! これは極まっ……蹴った!? 隼鷹選手、マウントを取られた状態から蹴りを繰り出しました!」

明石「足を振り上げ、つま先で伊勢選手の後頭部を叩いた! わずかに伊勢選手の意識が途切れる! その隙を突き、隼鷹選手、脱出!」

明石「一旦離れようとする隼鷹選手を、意識が戻った伊勢選手が追いすがる! グラウンドから逃しはしない! 足への低空タックルです!」

明石「か、踵落としぃぃぃ! 頭頂部へまともに喰らいました! タックルは勢いをなくし、伊勢選手がマットに手を着きます!」

明石「追撃の耳打ちだぁぁぁ! これはイヤーカップ!? 掌底を耳に打ち込まれました! おそらく、鼓膜が破壊されてしまった!」


明石「だが、なおも伊勢選手は動いています! 朦朧とする意識のまま、隼鷹選手の足に組み付こうとしている! しかし、隼鷹選手が足を引いた!」

明石「真正面からの蹴り上げぇぇぇ! サッカーボールキックがあごを打ち抜いた! 浮き上がった頭に、ダメ押しのハイキィィィック!」

明石「側頭部を蹴り抜かれました! 音を立てて伊勢選手が崩れる! 立てない! 立てません! もう、身動き一つ取れない!」

明石「失神が確認されました! 試合終了! ダークホースが現れました! 勝者は太極拳士、隼鷹選手! 脅威的な強さです!」


明石「ブラジリアン柔術VS中国拳法の戦いは、中国拳法に軍配が上がりました! 戦艦級王者奪還を狙う、伊勢選手を技術によって圧倒!」

明石「ボクシングの攻防に惑わされる場面もありましたが、終始一方的な試合展開! 中国拳法の恐ろしさをまざまざと見せつけました!」

香取「強いわね……あれだけ余力を残して勝利するなんて、とんでもない実力よ。ここまでできるとは思わなかったわ」

香取「隼鷹さんは凄まじく強い……という話は置いておいて、明石さん。もう気付いてるでしょう?」

明石「……まあ、はい。途中から、あからさまに伊勢選手の動きが変わりましたよね」

香取「ええ。停電になって試合を再開した直後からね。なんだか伊勢さん、髪の毛がちょっと短くなったと思わない?」

明石「ものすごく思います。ついでに、セコンドの日向さんは髪が少し伸びました」

香取「そうよね……今、担架でリングから運び出されてるのって……伊勢さんじゃなくて、後ろ髪を結んだ日向さんよね」

明石「で、リング下でオロオロしてるのが髪を降ろした伊勢さんですね。いやあ、こうして見ると全く同じ容姿なんですね」


香取「本当ね。打撃も傷跡が見えないボディにしか受けてないし、髪の長さと雰囲気でしか見分けられないわ。戦い方の違いは一目瞭然だったけど」

明石「ボクシングの打撃からテイクダウンに繋げる戦法も、まるっきり日向選手ですもんね。停電のときに入れ替わったんでしょうか」

香取「元々、そういう作戦だったんじゃないかしら。停電を仕組んだのも伊勢型姉妹と考えるのが妥当ね」

香取「日向さんと伊勢さんは、同じブラジリアン柔術でもはっきりとタイプが分かれてるのよ。主に組み技への入り方の違いね」

香取「伊勢さんは組み付く、タックル、相手の打撃を取るという形で技に繋げる。これはこれで完成度は高いけど、欠点が存在するわ」

香取「打撃技がほぼない、という点ね。隼鷹さんみたいに間合い取りと打撃のレベルが高い選手だと、どうしても苦戦を強いられてしまうのよ」

香取「関節技に偏重した代償みたいなものかしら。その点、日向さんはボクシングの打撃もできるバランス型。欠点らしい欠点はないわ」

香取「伊勢さんのような一点特化の強さは薄れるかわりに、どんな相手とでも順当に戦える。2人は姉妹だけど、異なった強さを持つのよね」

香取「組み技偏重型の伊勢さんと、バランス型の日向さん。対戦相手を見極めて、相性の良さそうなほうがリングに上がる作戦だったんでしょう」


香取「事前予想が外れた場合は、苦肉の策として停電を起こし、髪型を変えて入れ替わる。ダメージも帳消しになるし、勝ち上がるには良い作戦ね」

明石「ルールブックには明記されてませんが……反則ですよね?」

香取「書くまでもないことだもの。この手段で勝ち上がられてたら困った事態になってたけど……負けたものはしょうがないわね」

明石「……実質的に、隼鷹選手は2人分のトップファイターを相手にし、そして完勝したということになりますね」

香取「ええ。仮に伊勢さんがあのまま戦っていても、最初から日向さんがリングに上ったとしても、隼鷹さんの勝利は揺るがなかったでしょう」

香取「隼鷹さんは発勁の打撃を1度しか使わなかったわ。一流のファイターを技を隠したまま勝つ余裕があるほど、彼女は強い」

香取「まだまだ見せてない技は多そうだわ。この先の試合で、真の実力が明らかになってくるでしょうね」

明石「そうですね……あっ、日向選手……じゃなくて、リング下にいた伊勢選手が運営スタッフに連行されていきます。事情聴取をされるみたいです」

明石「波乱づくめの内容でしたが……まあ、いい試合でしたよね! 2人……じゃなくて、3人の選手の健闘を讃え、今一度拍手をお願いします!」


試合後インタビュー:隼鷹

―――対戦者が入れ替わったことには気が付かれていましたか?

隼鷹「そりゃあすぐ気付くよ。だって、全然戦い方が違うんだもん。いやー驚いた! 双子ってあんなにそっくりなもんなんだね!」

隼鷹「つーか姉妹揃って、なかなかやるね! あたしに擒拿術から発勁まで使わせて、打撃も当てるなんて、そうそうできるもんじゃないよ!」

隼鷹「面白い勝負だった! そんで勝った勝った! これで酒も解禁だぜ! ファイトマネーで高い酒をたらふく飲んでやるよ!」

―――まだ技を隠されているようですが、次の試合に向けて何か……

隼鷹「うるせー! こっちは丸一日も禁酒してるんだ! もう酒宴の予約も入れてるんだから、邪魔すんな! あたしは酒を飲みに帰る!」

隼鷹「さあ、今夜はドンペリ飲み放題だ! 可愛い子ちゃんも侍らせて、酔い潰れるまで飲み明かすぜ! じゃあね!」

(隼鷹選手の帰宅により、インタビュー中止)


試合後インタビュー:伊勢(?)

―――日向選手ですよね?

伊勢(?)「な……何言ってるのよ! 私は伊勢よ! ほら、髪型が違うじゃないか! あっ、間違えた。髪型が違うじゃない!」

―――容姿以外は全部違うのでバレバレですよ。

日向「……そうか、そんなに違うものなのか。良い手段だと思ったんだが、やっぱりこういうのはバレてしまうものなんだな」

日向「いや、提案したのは私だよ。伊勢が赤城対策に悩んでいたからね。ほら、赤城は組み技系格闘家の天敵のようなファイトスタイルじゃないか」

日向「今から伊勢が打撃を身に着けるのは無理だから、こういう作戦を取ったんだ。私たちは双子だし、髪型を変えればバレないと思ってたよ」

日向「私自身、赤城にリベンジする良い機会だからね。試合中に入れ替わるのは、万が一の保険のつもりだったんだ」

日向「まさか初戦でその作戦をつかうハメになって、しかも負けるなんてね。いやあ、踏んだり蹴ったりだ。実に口惜しいよ」

伊勢「ごめんなさい、日向……私がダメなせいで、こんな不正に付き合わせることに……」

日向「ああ、伊勢。いいんだよ、私が言い出したことなんだ。最終的に試合で負けたのも私だし、伊勢が責任を感じる必要はない」

日向「また2人で一緒にやっていこう。これで全てが終わったわけじゃないんだ、次の機会に頑張ればいいさ」

伊勢「うん。ごめんね、ごめんね……」

(取材陣が空気を読んで退室したため、インタビュー中止)


明石「知られざる強者の出現をはじめ、波乱だらけの第2試合となりました! やはりこのBブロック、一筋縄ではいきません!」

明石「続く第3試合にも、知られざる強者が登場します! 赤コーナーより選手入場! 日本武術の結晶がグランプリに挑みます!」


試合前インタビュー:古鷹

―――他流試合は初めてとのことですが、緊張はされていますか?

古鷹「少しだけ……こういうところで戦うのには慣れてませんし、不安もあります。でも、大丈夫です! 鍛錬は毎日欠かさずやってましたから!」

古鷹「もちろん、実戦を想定した鍛錬ですよ! 古流は型ばかりで役に立たないってよく言われますけど、そんなことはありません!」

古鷹「古流柔術はれっきとした戦場格闘技ですから、きちんと実用性があります! どんな相手とだって戦える、最高の武術です!」

―――グランプリへの出場を決意された理由を教えていただけますか。

古鷹「古流の強さを世間の方々に知ってもらうため、っていうのも大きいですけど、やっぱり私自身が出たかったのが1番の理由です!」

古鷹「古流柔術の継承者は、その膨大な技を受け継ぐために人生の大半を費やし、そして1度も実戦の場で技を使うことなく生涯を終えます」

古鷹「それは本来、喜ばしいことなんです。世の中が平和になり、武術で争いを解決するような時代ではなくなったっていうことですから」

古鷹「だけど、私には耐えられませんでした。培ってきた技術が本当に正しいのか、本当に実戦で使えるのか……どうしても確かめたいんです!」

古鷹「私たちの戦い方は皆さんの目にはつまらないように映るかもしれません。ですが、柔術とは相手を倒すのではなく、制する技なんです!」

古鷹「対戦者の方には怪我をする前にギブアップをしていただきたく思います。わざわざ無駄に傷付く必要はないはずですから」

古高「あ、別に甘く見ているわけじゃありませんよ! 活殺自在っていうのは、そういうことなんです!」


古鷹:入場テーマ「鬼武者3/Main Theme」

https://www.youtube.com/watch?v=0vcTztElcSQ


明石「柔道、合気道、ブラジリアン柔術! あらゆる格闘技の源流となった、日本武術の集大成がついに現代のリングへ上がります!」

明石「勝つということは、打ちのめすことと同義ではない! 一切の流血なく、敵を制する武の真髄をここにお見せしよう!」

明石「活殺自在の古流柔術、その神秘のベールが明かされる! ”銀眼の摩利支天” 古鷹ぁぁぁ!」

香取「面白い流儀の選手が出てきたわね。リングで戦える古流柔術家なんて、もう現代にはいないと思っていたわ」

明石「古鷹選手は『竹内流』という、古流柔術の中でも最古に位置する流派に属しているそうですね。発祥は江戸初期とのことです」

香取「一応はそうなってるけど、実は柔術がいつ、どこで生まれたのかは諸説あって、未だにはっきりしないのよね」

香取「竹内流の発祥は、開祖が謎の山伏から技を伝授されたのが始まりだそうよ。つまり、技術そのものは更に以前から存在していたということね」

香取「最も古い記述は古事記の『国譲り』ね。建御雷神と建御名方神という神様が力比べをするんだけど、ここの描写が柔術として解釈できるのよ」

香取「『手を葦の若葉を摘むように握り潰して投げた』っていう部分、これは古流柔術でいう逆手投げを神話的に説明したものじゃないかしら」

香取「歴史上に現れてからは400年だけど、一部の技術集団だけで伝承されてきた期間を考えると、あるいは1000年を超す歴史を持つのかもね」


明石「非常に伝統のある格闘術ということになるわけですが、やはり様々な発達を遂げてきた現代格闘技の前だと苦しい戦いを強いられるのでは?」

香取「どうかしらね。古流柔術は世界の数ある古武術の中でも、2つの特異な点を持っているわ」

香取「まず1つは、相手を殺傷せず無力化することに重点を置くところ。ここまで平和的な武力解決を目指す武術は他に例がないわ」

香取「甲冑組打ちの流れを組む危険な技もあるけど、基本は相手を動けなくする固め技がメインよ。合気道、柔道にもその理念が受け継がれてるわ」

香取「その独特の理念は他の武術にはない革新的な技の数々を生み出し、そのいくつかは軍隊格闘術にまで取り入れられているくらいよ」

香取「もう1つの特異な点なんだけど、これが不思議なのよね。普通、技術っていうのは時代と共に発展していくものじゃない?」

香取「古流柔術の場合はそれが逆。時代に現れた直後に全ての技の体系が完成して、それから時を追うごとに失われていったのよ」


明石「それは……確かに普通の格闘技と逆ですね。数百年前の技術のほうが、今よりむしろ発達していたということですか?」

香取「ええ。現存する奥義書を紐解いてみると、江戸時代初期から中期のあたりで、現代で使われている技のほとんどが出尽くしているの」

香取「特に投げ技、関節技において、現代格闘技にあって古流に存在しない技はないと言ってもいいくらい。それほど古流柔術は完成されていたの」

香取「そこまで発達した技術がなぜ失われてしまったかというと、これは流派継承のシステムに問題があるのよね」

香取「古流柔術は門下の内弟子にしか秘伝、奥伝の技を明かさないの。1つの流派にある膨大な技の体系を、ほんの数人だけが次世代に受け継ぐのよ」

香取「継承者が少ないと、どうしても個人の癖や才能の偏りで技が変質し、あるいは形骸化してしまう。そうして古流は少しずつ弱体化していったの」

香取「大衆に広く門戸を開いた柔道の出現は、衰退の最中にあった古流柔術にトドメを刺したわね。数多くの流派が柔道によって一掃されたわ」

香取「今や、古流は技を絶やさないためだけに伝えられている伝統芸能に近いものになったわね。伝承者が少なすぎるのよ」

香取「実戦的に教えてるところはほとんどないんじゃないかしら。古鷹さんは、未だ戦場格闘技として古流を学んでる数少ない継承者の1人みたいね」


明石「古鷹選手はどの程度、古流の技を継承しているんでしょう。話を聞くと、ほとんどが歴史の中で失伝しているようですが」

香取「少なくとも、柔道と合気道に伝わっている中で使えない技はない、と古鷹さんは言っていたわ」

香取「柔道と合気道は、古流柔術の膨大な技の一部を限定的に使っているに過ぎない。それらを全て使いこなすとしたら、とてつもないことよ」

香取「それらだけじゃなく、古流には投げたり固め技に入るために相手を崩す当身技、つまり打撃も技の体系に含まれるはず」

香取「戦場格闘技なんだから当然よね。技の多彩さにおいては、ずば抜けたバリエーションを持っていると見ていいでしょう」

香取「その膨大な技をリング上でどんな風に使いこなすか、重要なのはそこよね。それは試合を見てみないとわからないわ」

明石「ありがとうございます。さあ、それでは青コーナーより選手入場! 駆逐艦級王者に輝いた、今大会最軽量級選手の登場です!」


試合前インタビュー:吹雪

―――駆逐艦級グランプリ優勝者としての今大会出場ですが、意気込みをお聞かせください。

吹雪「まあ、私が駆逐艦級王者になったのは当然の結果ですよね。今までは夕立に邪魔されてきましたけど、どう考えても私のほうが強いですし」

吹雪「ていうか、艦娘で一番強いのが私ですからね。駆逐艦級なんて小さい枠組みで満足するつもりはありません。無差別級でも私は最強です」

吹雪「このグランプリでも必ず優勝しますよ。するっていうか、優勝するのが当たり前、みたいな? 私より弱い選手しか出場してませんからね」

―――対戦相手の古鷹選手についてはどう感じていらっしゃいますか?

吹雪「えーっと、古流柔術の継承者でしたっけ? 竹内流とかいう、超マイナーな流派の。流儀からしてカビ臭い感じですよね」

吹雪「ああ、どんな武術かは知ってますよ。あれでしょ? あの、公園で戦うと絶対に負けないけど、リングだとデタラメに弱いってやつでしょ?」

吹雪「違いましたっけ? あ、そっか。武器もいるんですよね。素手だと噛ませ犬にもなれない、三下未満のポンコツ武術でした」

吹雪「いやー初戦で弱そうな方と当たってラッキーです。楽して勝てるに越したことはありませんから」

―――ギブアップは早めに申告してほしいとの古鷹選手からの忠告ですが、どのように受け止められますか?

吹雪「わあ、カッコいい! 試合でどんな無様な目に合うか知らないでいると、そんなに恥ずかしい戯れ言が吐けるんですね!」

吹雪「それとも、アレですか? 自分はは弱っちくて勝てそうにないから、どうかギブアップという形で勝ちを譲っていただけませんかってこと?」

吹雪「何を勘違いしてるんでしょうね。相手にギブアップを求めるくらいなら、端からリングに上がってくるなって話ですよ」

吹雪「無論、彼女のお遊びに付き合う気はありません。あなたが学んできたのは、ただの役立たずな伝統芸能だってことを思い知らせてやります」


吹雪:入場テーマ「聖剣伝説Legend of Mana/The Darkness Nova」

https://www.youtube.com/watch?v=Elu5LoFiiXE


明石「駆逐艦四天王最強! 最軽量級の王者に輝き、次なる目標は無差別級王者! 体躯に似合わぬビッグマウスは、留まるところを知らない!」

明石「強さに階級など関係ない! 戦艦だろうと何だろうと、誰が相手でも打ち倒す! 負けたときの言い訳でも考えておくがいい!」

明石「最強の駆逐艦は、無差別級でどこまで行けるのか! ”氷の万華鏡”吹雪ぃぃぃ!」

香取「新たに駆逐艦級の王者になった吹雪さんね。夕立さん、島風さん、不知火さん全員に勝っての王者だから大したものだわ」

明石「駆逐艦四天王と言われる選手たちですね。どの選手も無差別級試合を経験しており、階級差をひっくり返せる実力の持ち主です」

香取「その中でも、やっぱり吹雪さんが一歩抜きん出たみたいね。吹雪さんは体格、パワー以外の弱点がまったくない選手だもの」

明石「吹雪選手は本当に何でもできますよね。柔道家を投げて、空手家を殴り倒して、ボクサーにカウンターを決めたこともありました」

香取「それを可能にするのは、やっぱり練習量でしょうね。メディアでは大口ばかり叩いてるけど、ジムでは誰もが尊敬するくらいに真面目らしいわ」

香取「今の実力に妥協せず、とことん自分を追い込んで強さを追求する。口の悪さに反して、ファイターとしては最高の精神を持っているのよ」


明石「吹雪選手の流儀はクラヴ・マガ、イスラエル発祥の軍隊格闘術ですね。何でも、『世界最新のセルフ・ディフェンス・システム』だとか」

香取「最新であることは間違いないわね。今、こうしている間にも、クラヴ・マガの技術は常に進化し続けているんだから」

香取「クラヴ・マガには色々な理念があるけど、最も重要視されているのは実用性。実戦で如何に効率的に戦えるかということを追求しているの」

香取「空手や柔道を実戦で使うには何年もの歳月を必要とするけど、クラヴ・マガなら数ヶ月から1年で実戦に対応できる技術が身に付くわ」

香取「短期間で強くなるという点で、クラヴ・マガ以上に優れた護身術はないと言ってもいいでしょう。もちろん、底が浅いってわけじゃないわ」

香取「クラヴ・マガは初心者にはシンプルな技だけを教え、熟練度が増すにつれて学ぶ技術のレベルを上げるシステムを取っているの」

香取「吹雪さんのレベルは最高位のブラックベルト。あらゆる技を使いこなし、どんな局面でも実力を発揮できることを表してるわ」


明石「非常に汎用性の高い格闘術というわけですが、他の武術と比べて、何か特色と言えるものは何かあるんでしょうか」

香取「一番大きな特色は防御テクニックかしら。通常の武術が生物としての本能を抑制しようとするのに対して、クラヴ・マガは本能を活用するの」

香取「顔に向かって飛んで来るものを避けたり、手で防ごうとする自然な条件反射をテクニックに応用し、即座に反撃へ転じるよう訓練するのよ」

香取「防御と攻撃は同時に行わなければならない、というのがクラヴ・マガの考え方。吹雪さんの戦い方も、この基本理念に則ってるわ」

香取「膨大な練習量によって研ぎ澄まされた反射神経はまさに神速。1手仕掛けられる間に2手、3手と次々に技を繰り出して相手を翻弄する」

香取「目まぐるしいほどに多彩な技で戦うその様は、まさに万華鏡。艦娘一と言われるテクニックは伊達じゃないわ」


明石「となると、今回のこの対戦、勝敗の分かれ目はどちらのテクニックがより優れているか、ということになってきますね」

香取「そうなるわね。しかも、古流柔術は歴史ある伝統武術、クラヴ・マガは伝統を廃した最新鋭のセルフ・ディフェンス・システムよ」

香取「いわば、図式は伝統VS最新。中世で既に完成の域に達していた古流柔術か、今なお改良され続けているクラヴ・マガか」

香取「どちらも豊富な技の持ち主だから、テクニックの応酬になることは間違いなさそうね。階級差なんて、2人にはあってないようなものでしょう」

明石「力量としては今のところ互角と思われますか?」

香取「今のところはね。戦い方を見ないと何とも言えないけど……この時点で判断するなら、分があるのは吹雪さんのほうかもしれないわね」

香取「格闘技は近代の競技化によって、飛躍的な進歩を遂げているわ。フットワーク、ガードポジション、左ジャブの重要性なんかがそれよ」

香取「古流の技にそれらはなく、現代格闘術の粋である吹雪さんはそういった小技を熟知してる。それらを有効に使えば、優位に立てるかもね」

香取「かといって、現代格闘術になく、古流にのみ存在する技だってあるかもしれない。少なくとも、技が勝敗を分けるのは間違いないでしょう」


明石「ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! 頭1つ分の身長差がある古鷹選手を、吹雪選手が傲然と見上げています!」

明石「体格の不利など恐れるに足らず! 古鷹選手は透き通るような瞳で小さな挑戦者を見つめています! その内側にはどんな想いがあるのか!」

明石「両者、視線を切らないままコーナーに戻ります! 切れ味鋭い殺気を放つ吹雪選手に対し、古鷹選手は達人然とした落ち着いた振る舞いです!」

明石「最新格闘技VS古流柔術、勝利の天秤はどちらに傾くのでしょうか! ゴングが鳴りました、試合開始です!」

明石「颯爽と飛び出していくのは吹雪選手! 開手のファイティングポーズを取り、フットワークを使って間合いを詰めています!」

明石「対する古鷹選手、古武術らしくベタ足で歩み出ます! 正中線を隠した霞の構えを取りました! 両手は吹雪選手と同じく開手!」


明石「腕は水月に置かれています! 見た限りでは日本拳法に近い構えですが……吹雪選手のフットワークに対し、足さばきで対応しています!」

香取「霞の構え、でいいのよね。剣術と同じく、横向きに構えて急所を隠してるわ。下腹部や顔面への攻撃はなかなか通らなさそうね」

明石「どちらもまずは様子見か……おっと、やはり先に仕掛けるのは吹雪選手! さすが駆逐艦級王者、アグレッシブに攻めます!」

明石「ジャブフェイントからのローキック! 古鷹選手、正確に間合いを見切って後退! ローキックは空振りに終わりました!」

明石「しかし、吹雪選手の攻勢はこれだけでは終わらない! ローキックの勢いのまま、跳び後ろ回し蹴り! これは左手でブロックされました!」

明石「どうやら吹雪選手は打撃主体で攻める作戦のようです! しかし古鷹選手、その打撃を的確にディフェンス! なかなか鋭い打撃反応です!」

明石「構えをニュートラルに戻した吹雪選手、間髪入れずにバックスピンキック! 古鷹選手、左手でキックの軌道を逸らして回避!」


明石「そのまま足を捉えようとする動きを見せますが、素早く足を戻されました! 防御はできても、技には繋げられません!」

香取「たぶん、吹雪さんは古流柔術の技体系を調べた上で試合に臨んでいるわね。古流にない技を意図的に選択して攻めてるように見えるわ」

香取「それを防御できている古鷹さんのほうも、現代格闘技を調べてきてるのかも。だけど、即座に固め技に繋げられるほどじゃないみたいね」

明石「吹雪選手は休まず攻め続けます! ローキックと同時にレバーブロー! どちらも左手で捌き落とされます!」

明石「回転の速い吹雪選手の攻撃に、古鷹選手も難なく対応しています! しかし、未だ自ら攻める気配はありません!」

明石「待ちに徹する古鷹選手のディフェンスを、攻め続けることで吹雪選手は突破を図る! フットワークを交えつつ、今度は前蹴りを放った!」

明石「霞の構えでは躱しにくい、膝を狙った下段前蹴り! 古鷹選手は騎馬立ちで受け止めますが、これはやや膝に衝撃が響いたか!」

明石「続けてローキック! 足を浮かせて受けますが、巻き付くような蹴りが内腿に入った! 平手打ちのような叩き付ける音が聞こえました!」


明石「コツを掴んだのか、吹雪選手の打撃が当たるようになってきました! 細かい打撃で末端から徐々に切り崩していくつもりのようです!」

明石「こうなると、守勢に回っている古鷹選手が不利になります! 隙を見せない吹雪選手を前に、耐久力を少しずつ削られていく!」

香取「古流の欠点であるフットワークのなさを突かれているわね。駆逐艦級のスピードで不規則に動き回られると、攻撃を躱し辛いんでしょう」

香取「反面、ガードは固いから吹雪さんも決定打に欠けるわね。下手に飛び込むと固め技に繋げられるし、この試合、ちょっと長引くかも」

明石「吹雪選手の攻勢が続きます! 左ジャブ、そしてハイキック! どちらも左手で捌かれました! 中段より上への打撃がなかなか通りません!」

明石「再び左ジャブ、からのローキック! 蹴りが太腿に入った! やはり下段が弱点なのか、ローキックを防げない!」


明石「下段蹴りを嫌ってか、古鷹選手が後退! それを追って吹雪選手の左ジャブ、バックブロー! どちらも間合いを見切られました!」

香取「ローキック以外は全然当たらないわね。でも、メインの狙いは足みたい。注意を逸らすために上体への攻撃を続けてるんでしょう」

香取「いくら吹雪さんが最軽量級でも、あれだけ太腿に蹴りを受ければじわじわと効いてくるはず。そろそろ古鷹さんも動かざるを得ないわね」

明石「ローキックに突破口を見出したか、吹雪選手、更に足を攻める! 右のローキック! 1歩引いて構えをスイッチした! 左のローキック!」

明石「続けて下段後ろ回し蹴り! 変化を交えつつ絶え間なく攻め立てます! 古鷹選手、やはり防ぎ切れない!」

明石「足さばきも鈍っているように見えます! 追い打ちを掛けるように右のローキック、これはフェイント! 本命は左のロー……足を取った!?」

香取「あっ、動きを読まれた!」

明石「古鷹選手がローキックの蹴り足を掬い取った! 吹雪選手、テイクダウン! 即座に古鷹選手が関節技を仕掛ける! ひ、膝十字だぁぁぁ!」


明石「まるで型稽古のように、スムーズに技を決めました! 吹雪選手が関節を極められてしまった! しかし、寝技も吹雪選手にはお手の物だ!」

明石「素早く転がって技を外しました! 逆に古鷹選手の足首を脇に抱え、ヒールホールドを狙う! 状況はグラウンドの攻防に移行しました!」

明石「古鷹選手も対応が速い! 瞬時に肩を蹴って足を抜きます! それと同時に、吹雪選手がパスガードに掛かる! 寝技で仕留めるつもりだ!」

明石「マウントを狙う吹雪選手に対し、古鷹選手はガードポジションに近い動きを見せています! 胴の間に足を入れ……あっ、足を腕に絡めた!?」

香取「あれは、オモプラッタ!?」

明石「ブラジリアン柔術で言うオモプラッタ、柔道での腕ひしぎ膝固めです! 膝を起点に、吹雪選手の右腕を極めています!」

明石「古流柔術にはこんな技まであるのか! 意表を突かれた吹雪選手、再び関節技を極められてしまいました! ここから抜け出せるか!」


明石「身を捻って技を外そうとしますが……ダメです、古鷹選手も同時に体勢を変えた! 吹雪選手が足でうつ伏せに組み伏せられています!」

香取「まずいわ。あれを完全に極められたら、動かせる箇所がない。極められてない腕も相手に届かないし、下手に動けば折られるわ」

明石「吹雪選手がまるで身動きが取れない! これ以上、古鷹選手は力を入れようとしません! これぞ活殺自在の状態なのか!」

明石「このまま動きがないと、レフェリーに戦闘不能と判断されてしまいます! どうにか抜けられるか、それともここで終わってしまうのか!」

明石「動いた! 極められてない左腕が伸び上がりました! 狙いは古鷹選手の顔面! 虎爪で顔を引っ掻きました!」

香取「えっ!? ちょっと、あの位置から顔まで届くはずないのに……!」

明石「指が眼に触れたようです! 古鷹選手の体勢が崩れた! 拘束の緩む一瞬を突いて右腕を引き抜く! 吹雪選手、脱出!」


明石「一旦距離を取っています! どうにか関節技から逃げ……って、あれ!? み、右腕が力なく垂れ下がっています!」

明石「よく見れば、右肩の位置が明らかに下がっている! 脱臼です! 吹雪選手、肩の関節を脱臼してしまいました!」

香取「自分から外したわね。あの位置から左腕で古鷹さんに攻撃するには、そうやって体の可動域を広げるしかなかったのよ」

香取「これで右は死に腕と化したわ。左腕一本じゃ、使える関節技も限られてくるから、大きく戦い方が制限され……何してるの?」

明石「なんだ!? 吹雪選手がマットに右腕を着きました! 肩の外れている右腕です! 一体、何をする気だ!」

明石「は……嵌め込んだ! 肩の関節を無理やり押し込みました! 表情ひとつ、うめき声ひとつ上げず、脱臼した肩を元に戻しました!」


明石「悲鳴を上げてもおかしくない激痛だったはずです! 吹雪選手、右腕を回してノーダメージをアピール! この行為さえ相当痛いはず!」

明石「何という精神力、何という負けず嫌い! 自ら肩を外し、そして嵌め直す! 古鷹選手、棒立ちのまま呆気に取られています!」

香取「さすが、としか言いようがないわね。吹雪さんがギブアップなんてするわけがなかったわ。腕をねじ切られたって敗北を認めない子よ」

香取「活殺自在の状態に置いてギブアップを促す、という戦い方は綺麗だし、尊敬すべき姿勢だけど、吹雪さんには通用しそうにないわね」

明石「まるで何事もなかったかのように、吹雪選手が構えを戻します! 元気にフットワークを踏みつつ、躊躇なく間合いを詰めていく!」

明石「古鷹選手も再び霞の構えを取ります! 表情には未だ動揺が色濃く残っている! こんな奴がいるはずない、そう言いたげな表情です!」


明石「そんな動揺にも構わず、吹雪選手が迫ってくる! ここから古鷹選手はどう攻め……胴タックル!? ふ、古鷹選手がタックルを仕掛けた!」

香取「これは……戦い方を変えた! 甲冑組討ちに切り替えたわ!」

明石「吹雪選手がタックルを切り損ねた! どうにかガードポジションでディフェンスを……古鷹選手が拳を振り上げた! て、鉄槌打ちぃぃぃ!」

明石「顔面へ拳が落とされる! 吹雪選手、辛うじて身を捻って躱します! が、そのまま古鷹選手が襟を掴む! 身動きを封じて再びパウンド!」

明石「今度は掌底打ちです! これは、虎爪による目潰しも狙っている! 吹雪選手は腕でブロック! その腕を古鷹選手が捉える!」

明石「ガードポジションのまま、腕の逆関節を取ろうとしています! 肘が捻じり上げられている! 吹雪選手、体を捩って技から抜けます!」

明石「が、背後を見せた吹雪選手に対し、古鷹選手が裸絞めを敢行! 咄嗟に手を挟んで絞めを回避します! だが、絞め付けから抜けられない!」


明石「ここで吹雪選手、腕に噛み付いたぁぁぁ! これには古鷹選手も堪ったものではない! 絞めを解いて立ち上がり……投げたぁぁぁ!?」

明石「腕に噛み付かせたまま、吹雪選手を宙に舞わせた! これは、合気の回転投げ!? 吹雪選手をリングに叩き付けました!」

香取「合気の呼吸力!? ここまでの技量を……!」

明石「しかも古鷹選手、間髪入れずに踏み付けたぁぁぁ! どうにか跳ね起きてこれを回避しました、吹雪選手! 受け身を取っていたようです!」

明石「駆逐艦級王者は転んでもただでは起きない! そのまま足へタックル! ああっ!? よ、読まれていた! 体捌きで躱されました!」

明石「し、しかも……古鷹選手の右手には、吹雪選手の右手の指が握られている! 古流柔術の真骨頂、指関節を極められてしまいました!」


香取「古鷹さんは完全に戦い方を切り替えてるわ。平和的なギブアップ狙いじゃなく、戦場格闘技としての、仕留めるための戦いに……!」

明石「吹雪選手が体勢を取り直します! 両者、対手のような形で対峙! 握手にも見えるこの状態、その本質はまったくの逆!」

明石「古鷹選手は指を折る気です! その瞳、試合前とは打って変わって氷のように冷徹です! 折ることに躊躇はない!」

明石「捻ったぁぁぁ! が、それに合わせて吹雪選手が跳んだ! 折れていません! 動きを同調させて骨折を回避しました!」

明石「今度は更に大きく捻る! 同時に吹雪選手がマット上を回転! また折れていません! 脅威的な身のこなしと反射神経です!」

明石「それでも古鷹選手は容赦しない! 指を掴んでの逆手投げぇぇぇ! また吹雪選手が宙を舞った! そして、華麗に着地! 折れていません!」

明石「新体操ばりの運動能力です! しかし、これは死のダンス! 一挙一動間違えれば、指という最大の武器を失ってしまうのです!」


明石「それにしても、急所攻撃にまったく躊躇いを見せない、この非情なる戦いぶり! 序盤の古鷹選手とは別人と見紛うほどの容赦の無さです!」

明石「もはや無血勝利など狙っていないのは明らか! 相手を破壊してでも勝とうという気迫がひしひしと感じられます!」

香取「……兵法の極意は戦わずして勝つこと。血を流さず勝利を得られるのは理想だけど、現実でそう簡単にいかないからこその理想なのよね」

香取「武術とは勝つために作り上げられたもの。負けて面目を失うくらいなら、相手を殺してでも勝ちを掴み取る。それが武術の本質よ」

香取「古流柔術家、古鷹さんはその辺を十分理解してるみたい。もう、ギブアップを求める気はないでしょう。殺し合いのつもりで戦いに臨んでるわ」

明石「今度は小手投げです! 指を引っ張りながら腕を抱えて投げた! 吹雪選手、相手に逆らわず綺麗に投げられました!」

明石「そして着地! ノーダメージです! 指も折れていない! コンマ1秒単位で古鷹選手の動きに反応しています!」

明石「致命傷こそ免れているものの、状況は吹雪選手の窮地に変わりありません! どうにかして指関節から抜け出さなければ、勝利はない!」


明石「古鷹選手は何としてもこの状況から仕留めたい! 再び指を思いっきり捻った! 吹雪選手、懐に沈み込むようにして骨折を避けます!」

明石「だが、古鷹選手が更なる捻りを加えた! その動きに従って、吹雪選手がマット上に転がる! 手首の関節を極めようとしています!」

明石「吹雪選手が立ち上がれない! そのまま古鷹選手、踏み付けたぁ! どうにか腕でブロックしますが、衝撃を殺し切れません!」

明石「もう1度踏み付け! 更に転がって回避します、吹雪選手! 同時に素早く立ち上がる! まだ指は折れていません!」

明石「危うい綱渡りが続きます! 身体的なダメージはないものの、吹雪選手はその額にびっしょりと冷たい汗を掻いています!」

明石「極限の集中を強いられるこの状況、もう長くは持ちません! 一刻も早く状況を打開しなければ、勝機はない!」


明石「古鷹選手、今度は指を引き込んだ! 両手を使って折るつもりです! 両手を使われれば回避のしようがない! 吹雪選手、どう動く!」

明石「引き込まれると同時に踏み込んだ! ば、バックエルボー炸裂ぅぅぅ! 高速で身を翻し、古鷹選手のあごに肘を打ち込んだぁぁぁ!」

明石「わずかに意識が飛んだ刹那に指を引き抜く! 吹雪選手、とうとう指関節から脱出! 即座に古鷹選手を仕留めに掛かります!」

明石「あご目掛けて追撃の飛び膝蹴りぃぃぃ! 更に古鷹選手の意識が遠のく! そのまま首を固めた! フロントチョークを仕掛けています!」

明石「足で胴を挟み込み、腕もしっかりと首に絡めています! 完全に極まったぁ! 吹雪選手、窮地からの逆転に成功しました!」

香取「あの状況で、よく冷静さを保ち続けられたわね。まさに氷のような、いえ、鋼のような精神力だわ」

香取「技量はわずかに古鷹さんが上かもしれないけど、どうやら精神力の差で吹雪さんが勝ったみたいね」

明石「完全に極まったフロントチョークに返し技はありません! 古鷹選手、直立の姿勢を維持していますが、落ちるのは時間の問題です!」


明石「動かせる両腕も、吹雪選手の道着を後ろに引っ張るだけ……ん? 何でしょう、親指を背中に突き立てるような……あっ!?」

香取「放した!? 吹雪さんが、あの状況から……!」

明石「吹雪選手が絞めを解きました! というより、まるで落下するように体を放しました! 体勢を崩しながらマットへ着地!」

明石「まるで避難するかのように吹雪選手が距離を取ります! 吹雪選手が目前の勝利を手放すなんてことは有り得ない! 何が起こった!?」

香取「骨法……? 今の、脊髄へ指を突き立てているように見えたわ。古流にはそんな技まで……!」

明石「勝負はほぼ振り出しに戻ってしまいました! 共に構えを取り直します! 吹雪選手はフットワーク、古鷹選手は霞の構え!」


明石「改めて吹雪選手が仕掛けます! フットワークで回り込みつつ、まずは左ジャ……カウンターァァァ!? ちょ、直突き炸裂ぅぅぅ!」

明石「古鷹選手、まさかの拳撃を繰り出しました! 右の直突きです! 忘れていました、古流の技体系には当身、打撃技も含まれる!」

明石「吹雪選手が大きく後方に吹き飛ばされました! こんな形で階級差が現れるとは! 重巡級の拳をもろに食らってしまいました!」

香取「木板の5、6枚は打ち抜きそうな突きだったわ。吹雪さんは……たぶん、脱力して受けてる。大げさに飛んで、後ろに衝撃を逃がしたのよ」

香取「でも、ダメージは深そうね。どう足掻いても吹雪さんは最軽量級。階級差のある打撃を何発も耐えることはできないわ」

明石「追い打ちを掛けようとする古鷹選手ですが、跳ね起きた吹雪選手を見て足を止めます! まるで何事もなかったかのような振る舞いです!」

明石「ですが、顔の大きなアザはダメージの深さをまざまざと物語っている! これ以上、打撃を受けることはできません!」


明石「再びフットワークを始める吹雪選手! 古鷹選手も迎撃の構え! 勝負はここからだと言わんばかりの緊張感です!」

明石「古鷹選手はどう攻める! 直突きか、あるいは仕掛けさせての固め技か! 吹雪選手、真正面から一気に距離を詰めた!」

明石「先に古鷹選手が動いた! 直突きです! 対する吹雪選手、跳びつき腕十字だぁぁぁ! 完璧にタイミングを読んで腕を捉えました!」

明石「腕に吹雪選手をぶら下げ、マットに古鷹選手が引きずり倒されていく! 吹雪選手は躊躇なく折る気だ! その前に技から抜けられるか!?」

明石「ぬ……抜けられない! タップ、タップが入りました! 古鷹選手のギブアップです! レフェリーがギブアップを確認しました!」

明石「試合終了! 劇的な幕切れを遂げました! 熾烈なテクニックの応酬を制したのは、駆逐艦級王者、吹雪選手です!」


明石「古流柔術の底知れぬ技の数々を臨機応変に対処し、最後は鮮やかに終わらせました! 古鷹選手、屈辱のギブアップ!」

明石「まさか自身がギブアップすることになるとは! 古流の奥伝、秘伝を以ってしても、吹雪選手のテクニックを超えることはできませんでした!」

香取「真っ向から切って落とした、って感じね。吹雪さんらしい勝ち方だわ。古鷹さんの技術に正面から打ち勝ってしまったわね」

香取「古鷹さんの技はもっと底がありそうだったけど、それは吹雪さんも同じ。どちらも底なしのテクニックの持ち主だったわ」

香取「勝敗を分けたのは、やっぱり吹雪さんの精神力かしら。本当に負けるのが嫌なのね。あんなに痩せ我慢をしてみせる必要もなかったでしょうに」

香取「これで吹雪さんは、グランプリ優勝への道へ大きな一歩を踏み出したわ。最軽量級の無差別級制覇、有り得るかもしれないわよ」

明石「どちらの選手も驚嘆すべき技の数々を見せてくれました! 皆様、両選手の健闘を讃え、今一度拍手をお願いします!」


試合後インタビュー:吹雪

―――戦ってみて、古鷹選手はどう感じられましたか?

吹雪「想像通りでした。古流柔術なんてあんなもんですよ。でも、なかなか面白かったですね。倒し甲斐のある相手ではありました」

吹雪「テクニックもそこそこあるみたいでしたね。まあ、私ほどじゃないですけど。もっと早く終わらせることもできましたよ」

吹雪「1つ忠告するなら、指捕りはまずかったんじゃないですか? 柔術家が指を取るのは負けフラグだって、昔から相場が決まってるんですよ」

―――指関節を極められたときはピンチだったように見えましたが、あのときはどういう気持ちでしたか?

吹雪「別に何も? 余裕ですよあんなの。相手に合わせて動けばいいだけなんですから、何も難しいことなんてありません」

吹雪「古鷹さんの動きも合わせやすかったですし、踊ってるのと同じですよ。アドリブでフォークダンスに付き合ったようなものです」

吹雪「何なら、もう1回やりましょうか? 今度はもっと複雑に捻ってもらっても構いません。1万回やっても折られない自信がありますから」

―――これで1回戦突破ですが、心境をお聞かせください。

吹雪「当然の結果です。私が初戦で落ちるなんて、宝くじの1等に10回連続で当たるよりも有り得ない確率ですよ」

吹雪「ていうか、1回戦だろうと決勝だろうと、私が負けること自体有り得ませんから。2回戦も私が勝ちます、間違いなくね」

吹雪「負けたらリング上でストリップでもしてあげますよ。今の発言、言質として記録しておいてください。何があっても私は負けませんから」


試合後インタビュー:古鷹

―――敗因は何だったと思われますか?

古鷹「なんていうか……何でしょう? ギブアップしちゃったのは事実ですけど、気持ちで負けたわけじゃないんです」

古鷹「技量でもそんなに差があったようにも思いませんし……でも、腕を極められたとき、もう絶対に勝てないって確信しちゃったんです」

古鷹「ただただ、普通に負けました。あんなに強い子がいるんですね。まだ負けたことが受け止め切れません……」

―――途中から戦い方が攻撃的なものに変わりましたが、どういう心境の変化だったのでしょうか。

古鷹「……私が甘かったんです。もっと早く気付くべきでした。吹雪さんがギブアップするなんて、絶対に有り得ないことだったんです」

古鷹「戦ってみたからわかります。彼女は本当に命を賭けて戦っているんです。負けることは、彼女にとって死よりも重いんだと思います」

古鷹「だから……私も命を賭けて、殺すつもりで戦いました。それでも勝てなかったんですけど……凄いなあ、あそこまでやったのに勝っちゃうんだ」

古鷹「今日は勉強になりました。負けたのは悔しいですけど……古流への信頼を捨てるつもりはありません! 私も、もっと頑張ります!」

~休憩~

23:15より再開

~再開~


明石「強者が散り、更なる強者が勝ち上がる! Bブロック1回戦、とうとう最終試合となります!」

明石「最後の試合を締めくくるには、やはり彼女しかない! 赤コーナーより選手入場! 絶対王者、ついに登場です!」


試合前インタビュー:長門

―――今大会では3連覇への大きな期待が寄せられていますが、自信の程をお聞かせください。

長門「自信はあるが、慢心はしていないつもりだ。今までの全ての試合を見た。前回より更に強力な選手が集っているのは間違いない」

長門「初戦を突破した者たちは全員、私をも倒しうる実力者たちだ。ここから先の戦いは厳しいものになるだろう」

長門「それでも優勝するのは私だ。最強の名を譲り渡すつもりはない。どんな相手であろうと、全力で戦う。そして勝つのは常に私だ」

―――今までの試合を見られて、特に警戒している選手はいらっしゃいますか?

長門「特別というのはないな。初戦を抜けた選手は皆、警戒すべき存在だ。甘く見れば足元を掬われることは間違いない」

長門「何より、今は目の前の戦いに集中したい。相手は重巡級王者の足柄を瞬殺したと聞く。よほどの実力がなくては、できることではない」

長門「そういう意味では、誰よりも羽黒を警戒しているな。1回戦で私が敗北を喫するなど、あってはならないことだ」

長門「羽黒には悪いが、全身全霊で行かせてもらう。手加減はできそうにない。私も負けたくはないからな」


長門:入場テーマ「クロノトリガー/魔王決戦」

https://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=1y_DS691Vhc#t=48


明石「第1回、第2回無差別級グランプリ優勝! 誰も疑いようのない最強の艦娘が、三度グランプリの舞台へ上がります!」

明石「打、極、投、全てが究極! 未だ敗北を知らぬ無敗の戦艦は、3連覇という前人未到の偉業を成し遂げることができるのか!」

明石「UKF無差別級絶対王者が今、全選手の前に立ち塞がる! ”ザ・グレイテスト・ワン”長門ォォォ!」

香取「とうとう出てきたわね。デビューから連勝記録を重ね続けている、無敗の王者。長門さんは間違いなく最強の艦娘でしょう」

明石「今のところの記録では、45連勝中ですね。その中には扶桑、榛名、武蔵選手といったトップファイターも多数含まれます」

香取「この記録は永遠に破られることはないかもしれないわね。彼女ほど完成されたファイトスタイルの持ち主はそうそう輩出されるものじゃないわ」

香取「もし強さを総合点で表すなら、長門さんはどの選手よりも高い点数を叩き出すでしょう。パワー、テクニック、そして精神面。全て完璧だもの」


明石「非常に高い総合力で知られる長門選手ですが、明石さんとしてはどの点を最も脅威に感じられますか?」

香取「やっぱり、精神面でしょうね。彼女の試合経験において、追い込まれる場面は少なからずあったわ。でも、彼女は常にそこから逆転しているの」

香取「長門さんはどんな逆境に追い込まれても、決して揺るがない。格下の相手にも油断しない。どんな局面でも100%の実力を発揮できるわ」

香取「格闘技術や身体能力も総じて一流だし、戦う相手には堪ったものじゃないわね。どこを探しても付け入る隙がないんだから」

香取「弱点もなければ攻略法もない。精神面も崩せないとなると、いよいよ手の付けようがない相手よね」

香取「長門さんを倒せるとしたら、純粋な強さを持つ選手だけでしょう。それに最も近かったのが武蔵さんだったけど、彼女でさえ勝てなかったわね」

明石「武蔵選手も破格のパワーとテクニック、そして精神の強さも併せ持つファイターでしたが、あと一歩のところで敗北されてしまいました」

香取「その一歩がどうしても長門さんに届かないのよね。いわゆる越えられない壁、ってやつかしら」

香取「大淀さんは『途方もない絶壁』と表現していたわね。その壁を突破できる選手こそが、長門さんを倒す者になるんでしょう」

香取「少なくとも、生半可な相手に長門さんが遅れを取ることは絶対にない。それだけは断言できるわ」

香取「勝てるとしたら超一流の選手のみ。今日の対戦相手がどうなのかは……まだわからないわね。実力がほぼ未知数の選手だから」

明石「ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! 妙高型姉妹より、漆黒の死神が姿を現します!」


試合前インタビュー:羽黒

―――初戦から長門選手というのは不運な組み合わせのように感じられますが、ご自身はどう思われていますか?

羽黒「別に……誰でもいいです。出場すること自体、私は嫌だったので……本当は誰とも戦いたくありません。もちろん、長門さんともです」

羽黒「ジークンドーだって、妙高姉さんの言いつけで学んでいるだけだったんです。たまたま足柄姉さんに勝ったから、こんなことに……」

羽黒「出場したのは、妙高姉さんに出ろって言われたからです。妙高姉さんは怖いです。戦うのは嫌ですけど、怒られるのはもっと嫌なので……」

―――なぜ戦うのが嫌なのですか?

羽黒「だって、自分から傷付け合うようなことをするなんて、おかしいじゃないですか。戦うのが好きっていう感覚、私には理解できません」

羽黒「戦うのは怖いし、痛いし、相手の人を傷付けるのも嫌いです。今日は早く終わらせて帰りたいです……」

―――長門選手への対策などは講じられていますか?

羽黒「何もありません……今日のことはなるべく考えないようにしていましたから。長門さんのことも、よく知らないんです」

羽黒「格闘技の試合は、痛そうだから観ていられないんです。それなのに、私自身が出ることになってしまうなんて……」

羽黒「でも……妙高姉さんが怖いので、試合には出ます。できればすぐギブアップしたいんですけど、ギブアップはするなって言われてるので……」

羽黒「どうすればいいんでしょうか……とにかく、早く試合が終わってくれれば、それでいいです」


羽黒:入場テーマ「Enemite/ - The Head - Stream - River Of Death」

https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=7SvPlLdV8Xg


明石「出場が内定していた重巡級王者、足柄選手がまさかの野試合で瞬殺! その相手とは、同じ妙高型姉妹の末妹! 事実上の重巡級王者です!」

明石「不吉な風が吹き荒ぶ! 冥府の死神を思わせる、その不穏な気配は何を意味するのか! 今、隠された実力が明らかになる!」

明石「妙高姉妹の死神は、絶対王者に死を告げることはできるのか! ”黒死蝶”羽黒ォォォ!」

香取「足柄さんを倒しての出場ね……足柄さんに加えて、妙高さんからの推薦もあったから彼女の出場枠が決まったわ」

香取「でも、大丈夫なのかしら? 2人の重巡級王者に推薦されたなら出すしかないのはわかるけど……」

明石「香取さんは運営スタッフとして羽黒さんと顔を合わされたそうですね。どのような様子でしたか?」

香取「なんていうか……やる気がない、強くなさそう、その2つを踏まえた上で、それ以上に戦うのに向いてないって印象だったわ」

明石「……やる気がない、強くなさそう、戦うのに向いてない……ですか? ファイターらしからぬ三拍子が揃ってるんですけど」

香取「でも、そう感じたのは事実よ。彼女は根本的に争いごとが好きじゃないの。学校のクラスに1人はいる、地味で気弱な女の子って感じだったわ」

香取「別に気弱な自分を変えたくて格闘技を始めた、ってわけでもないみたい。強い弱いじゃなく、そもそも戦えるようにすら見えなかったわ」


明石「香取さんは以前に、『本物の達人は見ただけでは強さがわからない』とおっしゃっていましたけど、それに該当する可能性は?」

香取「足柄さんに勝った、っていう前情報があるから、その可能性も捨て切れないけど……私は何も感じなかったわ」

香取「油断させるための演技をしてる、ってわけでもないと思う。ほら、今だってただただ憂鬱そうに花道を歩いてるわ」

明石「うわっ……なんか、処刑台に上がる死刑囚みたいな雰囲気ですね。やる気がないどころの騒ぎじゃなさそうです」

香取「でしょ? 普通の人がリングへ戦わされることになって、全てを諦めてるような表情よ。あの憂鬱さ、演技で出し切れるものじゃないわ」

明石「……でも、羽黒さんは野試合で足柄さんを倒してるんですよね」

香取「……そうなのよね。足柄さんや妙高さんがそんな嘘を吐くメリットは1つもないし、本当のことだと思うけど……どういうことかしら?」

明石「多重人格、とか?」

香取「まさかそんな……いえ、あり得るのかしら。実例はあるそうだし……何にせよ、予測の域を出ないわ。やっぱり、試合を見てみないとね」


明石「羽黒選手もまた、足柄選手と同じジークンドーの使い手だそうですね」

香取「そう聞いてるわ。武術家としてのブルース・リーが中国拳法と決別し、ボクシング、シラット、フェンシングの技術を取り入れた近代格闘術よ」

香取「ベースとしては詠春拳の形を多少残しているけど、実態は別物ね。伝統や型を廃し、実戦性と運動力学的な合理性を特に重視しているわ」

香取「特に注目すべき技は、リードストレートかしら。ボクシングのストレートとフェンシングの突きを参考に作られた、ジークンドーの主武器ね」

香取「利き手を前に構え、足腰の捻りを加えて最短最速で拳を突き出す。ジャブの速度とストレートの威力を併せ持つ、最高のパンチよ」

香取「ジークンドーの技体系は、このリードストレートを主軸に組み立てられてるわ。実戦における想定タイムは、わずか6秒」

香取「合理的に、最速で戦いを制する。路上格闘において、ジークンドーは最も優れた武術の1つに数えられるでしょう」


明石「そういえば、羽黒選手はしきりに『早く終わらせたい』と言っていましたね。それって、短期決着を狙っているってことでしょうか?」

香取「どうなのかしら。長門さん相手に、そんな自信過剰な発言をするタイプとはとても思えないけど……単に早く帰りたいだけなんじゃない?」

明石「えーっと……この試合、どう予想されますか?」

香取「長門さん相手に、ジークンドーがどういう技を見せるか……って話をしようと思ってたけど、そんな次元じゃなそうね」

香取「そもそも、羽黒さんは何者なのか。なぜ妙高さんたちは彼女の出場を推したのか。それ自体が見どころなんじゃない?」

香取「私にはそれ以上、何も言えないわ。Bブロックの最終試合なんだし、一方的な展開で終わるのは避けてほしいわね」

明石「……ありがとうございます。さて、両選手リングイン! 屹然と王者の風格を表す長門選手に対し、羽黒選手、まったく目を合わせない!」

明石「まるで叱られた子供のように俯いています! 本当に彼女は戦えるのでしょうか! 会場に、別の意味での不穏な空気が漂っています!」


明石「長門選手はいつもと全く変わりなし! 獅子は兎を狩るにも全力を尽くす! 油断も同様も一切見受けられません!」

明石「とうとう視線を交わさないまま、両者コーナーへ! この試合、まったく予想が付きません! どのような展開になってしまうのでしょうか!」

明石「今、ゴングが鳴りました! 試合開始と同時に、長門選手がリング中央へ進み出ます! いつものオーソドックススタイルの構えを取ります!」

明石「羽黒選手はコーナーから1、2歩進んだところで歩みを止めました! その場で構えます! 利き手を前に出す、ジークンドーの構えです!」

明石「両者、大きく距離を取って対峙! 長門選手は相手がもっと前に出てくるのを待っている様子ですが、羽黒選手はそれ以上進み出ない!」

明石「これは仕掛けさせたいという意図があるのか、それとも単に近寄りたくないだけなのか! 羽黒選手、未だ実力の全容が明かされません!」


香取「見た感じ、後者の意図でしょうね。実に嫌そうな顔をして構えを取ってるわ。長門さんに近寄ってほしくもないみたい」

香取「でも……構えは堂に入ってるわ。ジークンドーの構えとして、前後へ均等に体重を掛けた正三角形の立ち方も様になっているし」

香取「それにしても、嫌な感じを出してるわね。長門さんも、あんな感情を向けられたのは初めてなんじゃない?」

明石「あんな感じ、とは、具体的にどういうことですか?」

香取「なんて言ったらいいか……ゴキブリを見るような嫌悪感を長門さんに向けてるわ。殺意にも似た、粘ついた敵意みたいなものを感じるの」

香取「試合前と比べて雰囲気が変わったわね。でも、やっぱり戦いたくはなさそう。このまま試合が終わればいい、って思ってるんじゃないかしら」

明石「確かに羽黒選手、生理的嫌悪に近い眼差しで長門選手を見つめています! とにかく近寄らないでほしい、とでも言いたげだ!」


明石「しかし、それでは試合にならない! 長門選手、前進! 待つことを止め、絶対王者が自ら攻めに行きます!」

明石「羽黒選手は動かない! 逃げることも、迎え撃とうとする気配もない! ただ、距離が狭まるごとに嫌悪の強さだけが増していきます!」

香取「戦意がない相手でも、リングに立った以上は長門さんは容赦しないわよ。ジークンドーの技も長門さんは知ってるし……えっ?」

明石「さあ、いよいよ射程距離に入ります! おっと、ここで長門選手が前のめりに……はい? えっと……えっ、あれ!?」

香取「う……嘘でしょ」

明石「な、な、何が起こった!? 長門選手がダウン! ダウンです! 糸の切れた操り人形のように、突如として前のめりにダウンしました!」


明石「動かない! まさか、失神している!? 羽黒選手は動いていません! 構えを取ったまま……あっ、今、その構えさえ解いてしまいました!」

明石「羽黒選手は何もしていないはずです! まさか、試合終了!? レフェリーも驚いた様子で……起きた!? 今、長門選手が跳ね起きました!」

明石「一気にコーナー際まで距離を取りました! 王者らしからぬ動揺を浮かべています! 長門選手自身、何が起きたか理解していない!?」

香取「……リードストレートだと思うわ。それしか考えられない」

明石「はい? それはつまり……羽黒選手の打撃により、長門選手がダウンしたということですか? でも、我々の目には何も……」

香取「ハンドスピードが速過ぎたのよ。目に映らないほど速い……しかも、コンマ1秒にも満たない、長門さんの意識が逸れる瞬間を狙って打ったの」

香取「私にも、羽黒さんが構えをニュートラルに戻す動きしか見えなかったわ。でも、彼女は確かに突きを放っていたはずよ」

香取「羽黒さんはリードストレートの一撃で長門さんをダウンさせた……事実のはずだけど、私にも信じられないわ。そんなことが可能なの?」


明石「あっ、ようやく長門選手が動揺から立ち直りました! 再びファイティングポーズを取り、羽黒選手に接近していきます!」

明石「羽黒選手は……なんだ? 構えも取らずにレフェリーのほうを見ました! これは、試合続行の必要性を確認しています!」

明石「さっきのダウンで終わりじゃないのか、と尋ねているようです! 確かに先の場面、羽黒選手がトドメを加えれば間違いなく終わっていた!」

香取「でも、レフェリーストップは掛かっていなかった。それより早く長門さんが起きた以上、まだ勝負はついていないわ」

香取「長門さんがルールに救われるような日が来るなんてね。羽黒さん、一体何者なの……?」


明石「迫る長門選手を見て、実に嫌そうな様子で羽黒選手が再び構える! もう1度両者が射程距離に……なっ! また長門選手が打たれました!」

明石「わずかにですが、私の目にも見えました! 恐ろしく初動の少ない、超高速のリードストレートです! 一直線に長門選手のあごを射抜いた!」

明石「長門選手、大きく後方にぐらついた! どうにか片膝を着いて完全なダウンは免れます! 羽黒選手、追撃はしません!」

明石「まさか、こんな光景を目にする日が来るとは! 長門選手が見下されています! 嫌悪に満ち満ちた眼差しが、王者を見下ろしている!」

明石「もう立ってこないでほしい、と訴えかけるような眼差しです! しかし、それだけは応じられない! 長門選手が再び立ちます!」

香取「……長門さんから打撃でダウンを取るなんて、武蔵さんクラスが全力を尽くして1度取れるかどうかってくらい難しいはずなのよ」

香取「それを、大した攻防もなく2度までも……あの子、どういう次元の強さなの……!?」


明石「長門選手、構えを切り替えました! ボクシングのピーカーブースタイルに近い、徹底的にあごをガードした構えです!」

明石「リードストレートを警戒しているようです! 先よりも慎重に、少しずつ長門選手が距離を狭めていきます! 今度は長門選手から仕掛けた!」

明石「拳の射程外からローキック! か、カウンターァァァ!? 羽黒選手、フットワークで躱した! 同時に右フックを鮮やかに決めました!」

香取「そんな、リードストレートだけじゃないの!?」

明石「ガードの隙間を潜って拳があごに炸裂! 長門選手、3度目のダウン! 膝が崩れ落ち、両手をマットに着いてしまいました!」

明石「羽黒選手はやはり追撃はしない! 何だこいつは! 絶対王者相手に、格の違いを見せつけるような戦いぶりを披露しています!」

明石「すぐには立ち上がれない長門選手、それを見下ろす羽黒選手! ありえない事が起きています! 長門選手が圧倒されている!」


香取「……攻撃に移る瞬間だけ、羽黒さんから爆発するような殺気を感じたわ。おそらく、彼女は瞬発的な動きに優れているんでしょう」

香取「それだけじゃなく、相手の機微を読んで後の先を取るのも抜群に上手い。武術家が何十年も掛けて到達する技を、彼女は既に持っているんだわ」

香取「天才どころの話じゃない、異次元の存在よ。妙高姉妹は、こんな隠し玉を持っていたっていうの……!?」

明石「ようやく長門選手が立ち上がります! また構えを変えました! 右で側面、左であごを守っている! 腕を完全に防御へ徹する構えです!」

明石「度重なる脳震盪のせいか、額には玉のような汗が浮き出ています! やはり回復し切れるようなダメージではありません!」

明石「それでも、負けるわけにはいかない! 王者としての矜持、ファイターとしてのプライド、負ければ全てを失う! 負けることは許されない!」

明石「長門選手、前進! 羽黒選手も構えます! 相変わらず嫌悪に満ちた表情です! 一体、武の神はどういうつもりでこいつを生み出したんだ!」


明石「射程のわずか手前で対峙します! 長門選手、仕掛けない! 羽黒選手から仕掛けさせようとしています!」

明石「後の先を取られるなら、向こうから仕掛けさせるまで! 不動のプレッシャーで羽黒選手に圧力を掛けています! 羽黒選手、どう出る!」

明石「やはり動かない! どうあっても自分からは動きたくな……動いた!? リードストレートがぐんと伸びた! 長門選手の顔面に命中!」

明石「あごではなく、人中を狙われました! 長門選手が後方によろめく! が、踏み止まった! この程度で倒れるわけにはいかない!」

明石「長門選手が構えを取り直す! 先ほどと同じ防御の構えで接近し……またリードストレート! 眉間に打ち込まれてしまいました!」

香取「……速過ぎる! タイミングもスピードも、これ以上ない完璧さだわ。長門さんがまったく反応できないなんて……!」

明石「仕掛けても、仕掛けさせても打ち込まれる! しかも、ことごとく急所をピンポイントに! 長門選手が太刀打ち出来ない!」


明石「再びバランスを崩した長門選手ですが、闘志だけは折れていない! もう一度ファイティングポーズを取りました!」

明石「もう顔面を守ってはいません! 打ちたいなら打ってこい! 覚悟を決めたように、手負いの王者が再び歩を進める!」

明石「羽黒選手、ますます嫌悪を露わにしながら構える! この時点で、羽黒選手は指一本長門選手に触れられていません! まったくの無傷です!」

明石「それでも勝ってみせる! 長門選手は幾度となく逆境を覆して来ました! これが過去最大の逆境だとしても、必ず覆してみせる!」

明石「長門選手、左ジャブを放った! カウンターのリードストレート! 顔面に直撃するも、下がらない! 長門選手、自ら受けに行った!」

明石「強引に前へ出る! 右のローキックだ! これが決まれば……カウンターァァァ!? 下段のサイドキック! 伸び切った蹴り足を狙われた!」

香取「こんなことが……!」

明石「膝を踏み抜くようなサイドキックが、完璧な正確さで決まりました! 膝があらぬ方向に折れ曲がる! 靭帯を断裂しました!」


明石「長門選手、転倒! 脳震盪ではない、利き足を折られての転倒です! 絶対王者が崩れ落ちる! こんな馬鹿な!」

明石「片足を失えば、戦闘能力の8割以上を削がれます! 踏ん張りが効かないため、打撃技は使用不可! できるのはせいぜい組み技くらいです!」

明石「その組み技でさえ、相手が近付いてこなければ使えない! 羽黒選手が自ら近付く訳はない! 長門選手、絶体絶命の窮地に立たされました!」

明石「なおも羽黒選手は追撃しない! もう勝負は着いたとでも言いたげな、不快そうな顔つきをしています! 王者に対し、あるまじき不敬です!」

明石「ここから逆転できる可能性は皆無! し、しかし……長門選手が立ちます! 痛みを堪えながら、死力を振り絞って立ち上がった!」


明石「片足のままファイティングポーズを取っています! まだ諦めていない! 足を折られても、闘志は未だ折れていません!」

明石「勝負は終わっていない! これに対し、羽黒選手は……構えを取らない! あらぬ方向へ歩き出しました! どこへ行く気だ!?」

明石「向かう先には審判員席があります! 羽黒選手、フェンス越しに何かを審判員席に話しています! 自分の勝利を懇願しているのか!?」

明石「しかし、まだ長門選手はギブアップしていない! 戦闘続行の意志も十分! 勝負はこれから……ちょっと、嘘! ゴングが鳴った!?」

香取「め……滅茶苦茶だわ、こんなの」

明石「し……試合終了! 試合終了です! 勝者は……勝者は長門選手! 長門選手の勝利となります! 羽黒選手が試合を棄権しました!」


明石「羽黒選手の試合放棄により、長門選手、勝利! 勝利ですが……こんな勝利があっていいのでしょうか!」

明石「長門選手、体力の限界か、再び崩れ落ちました! 急所に幾度となく打撃を受け、片足を折られ、そのダメージは深刻です!」

明石「立つことすらできない勝者を尻目に、無傷の敗者が足早にリングを降りていきます! 長門選手に目を向けることすらしません!」

明石「何とも後味の悪い幕切れとなりました! 敗北に限りなく等しい勝利です! 連勝記録こそ守られたものの、無敗神話はここに崩壊!」

明石「崩壊というより、ただただブチ壊しにされました! 無敗神話も、王者の矜持も、羽黒選手はそれら全てを破壊していきました!」

明石「誰もが越えられなかった絶対的な存在、長門選手という絶壁を、いとも容易く打ち砕いてしまった! それでいて勝利を捨てて去っていきます!」

明石「逃げるように会場を後にする、あの化物は一体何なんだ! まるで通り魔にあった気分です! 悪夢なら今すぐ覚めてほしい!」


香取「残念ながら……現実よ。長門さんがリングで敵わない相手が存在するなんて、夢にも思わなかったわ」

香取「才能があまりにも飛び抜けてる……技量にまったく精神面が伴っていないわ。勝とうとする意欲すらなく、長門さんを圧倒したのよ」

香取「最後には精神力で勝った長門さんがルール上での勝利を得たけど……あれを本当に勝利と呼んでいいのか、私にはわからない」

明石「一応、長門選手は1回戦を勝ち抜きですが……苦い出だしになってしまいましたね」

香取「ええ、本当に……怪物じみた選手はこれまでに何人か出てきたけど、羽黒さんこそ、本当の怪物なのかもしれないわ」

香取「勝ちたくもない、戦いたくもない、それなのに最強。理屈と常識からかけ離れた、異端のファイターよ」

香取「組み合わせの抽選で、最大の外れクジを引いたのは……長門さんだったわけね。嫌な結果になってしまったわ」

明石「まったくです。なんともしこりが残る、Bブロック最終試合でした……」


試合後インタビュー:長門

―――試合結果をどう受け止められていますか?

長門「……すぐには気の利いた答えが出せない。考える時間をくれ……だが、私は敗北したと思っている」

長門「手も足も出ない、という経験をしたのはいつ以来だったか……ここまで来てそんな目に合うとは、さすがに思っていなかったな」

長門「あのような奴が存在するとはな。ずいぶんと長く最強と呼ばれてきたが、私も自分自身を見返す時期に来たようだ」

長門「とにかく、今は考える時間が欲しい。取材もこれくらいにしてくれ」

―――では最後に、初戦を勝ち抜かれた今の心境をお聞きしてもよろしいでしょうか。

長門「……そうか、そうだったな。悪いが、その質問には答えられない」

長門「運営の責任者を呼んでくれ。話がある。青葉、お前はもう出て行ってくれ」

(長門選手の取材拒否につき、インタビュー中止)


試合後インタビュー:羽黒

―――勝利は目前の状況でしたが、なぜ棄権されたのですか?

羽黒「なんだか、嫌になってしまって……長門さん、全然諦めてくれないじゃないですか。何度打ち込んでも立ち上がってくるんです」

羽黒「もう無理だってわかってるのに……私は傷付くのも、傷付けるのも嫌いです。あれ以上はどうしても戦いたくありませんでした」

羽黒「続けていても、戦いにすらならなかったと思いますし、もういいかなって……あそこまでやれば妙高姉さんも許してくれるはずですから」

羽黒「あっ、でも、あれって私のギブアップになるんでしょうか。ギブアップはするなって言われてたのに……やっぱり怒られるのかな、私」

―――今までどんな鍛錬を積んで来られたんですか?

羽黒「大したことは何も……妙高姉さんの言いつけを守ってきただけです。辛かったけど、サボると怒られるので……」

羽黒「妙高姉さんに怒られるのは、何よりも怖いんです。だから、ずっと言いつけ通りに鍛錬してきました」

羽黒「一緒に鍛錬を始めた方は、みんな途中で逃げ出したり、自殺未遂をして破門されたりして、私だけが残りました。すごく寂しかったです」

羽黒「私も辞めてしまいたいんですけど……妙高姉さんが怖いんです。こんなこと聞かれたら、また怒られるかな。やだなあ……」

羽黒「もう、良いですか? 今日は疲れました。試合も終わったんですし……早く、帰らせてください」


明石「えー、ということで……Bブロック1回戦、これにて終了となります! しかし、本日の日程はこれだけではありません!」

明石「何だか変な空気になってしまいましたが、先程のことは一旦忘れましょう! 気を取り直して、これよりエキシビションマッチ、1戦目です!」

明石「まずは赤コーナーより選手入場! まさか選ばれるとは思わなかった! 崖っぷちアイドルに、再チャンス到来です!」


試合前インタビュー:那珂ちゃん

―――エキシビジョンマッチの出場者として選ばれたときの心境をお聞かせください。

那珂「とっても嬉しかったです! もう2度とUKFには呼ばれないと思ってたので……通知が来たときには泣きそうなくらいでした!」

那珂「ファンのみんな、応援してくれてありがとー! 那珂ちゃん、精一杯頑張るよー! 絶対に負けないから!」

那珂「会場の皆さんには、最高の試合をすることを約束します! もう不正はしません! 正々堂々戦って、勝ちます!」

―――対戦相手の大淀選手はどのように感じていらっしゃいますか?

那珂「これって、チャンスですよね? 軽巡級王者の大淀さんに勝てば、那珂ちゃんが事実上の軽巡級王者ってことになりますから!」

那珂「実力は那珂ちゃんよりずっと上かも知れませんけど……やる前から諦めるようなことは、もう2度としたくないんです!」

那珂「どんなに実力に開きがあっても、全力で食い下がります! ギブアップするようなことは絶対にしません!」

那珂「絶対に勝ちます! その上で、面白い試合をします! 那珂ちゃんはアイドルで、プロレスラーですから!」

那珂「これが那珂ちゃんにとって、正真正銘の最後のチャンスです! 絶対に、絶対に掴み取ります!」


那珂:入場テーマ「那珂ちゃん/恋の2-4-11」

https://www.youtube.com/watch?v=WSK0YPi6SJs


明石「試合が盛り上がればそれでいい、そんな甘い考えは捨てた! プロレスラーは本当は強いということを、今度こそ証明しよう!」

明石「本戦では不正の限りを尽くして赤城に食い下がるも惜敗! 今日はクリーンファイトでの完全勝利を目指します!」

明石「崖っぷちから這い上がる、最後のチャンスだ! ”堕天のローレライ”那珂ちゃぁぁぁん!」

香取「良かったわね、那珂ちゃん。まさかエキシビジョンマッチ出場者に選ばれるなんて、本人が一番びっくりしてるでしょう」

明石「ファイト内容そのものは問題のあるものでしたが、『勝利への強い執念に感動した』との思わぬ反響に応えての選出ですね」

明石「那珂ちゃんの名誉のために言っておきますが、この選出には関係者への賄賂等は一切行われていないことを保証させていただきます」

香取「もうないとは思うけど、買収対策もしておいたわ。今日のレフェリーを務める妖精さんは全員、熱烈なBEBYMETALファンで固めてあるから」

香取「選民思想の強いBABYMETALファンなら、どんな形で那珂ちゃんに頼まれても絶対に贔屓しないわ。公正なジャッジをしてくれることでしょう」

明石「……わざわざアイドルの名前を出す必要はあったんですか?」

香取「より信頼性が高まると思ったから……とにかく私が言いたいのは、この試合での那珂ちゃんの不正は絶対に有り得ないということよ」

香取「運営側の対策は万全だし、那珂ちゃん自身も今日の試合はクリーンファイトでいきたいと思っているはず。前回のような波乱はないわ」

香取「ダンスで培った高い運動能力を持ち、奇襲を得意とするルチャドーラ。那珂ちゃん本来の戦い方を見せてくれるんじゃないかしら」


明石「前回はフェイントでしか使いませんでしたが、空中殺法も見ることができるでしょうか?」

香取「可能性は高いわ。那珂ちゃんはできる限り面白い試合をしたいと考えてるはずだから、フィニッシュはぜひとも空中技で決めたいでしょうね」

香取「この試合は那珂ちゃんにとって、グランプリ本戦と同じか、それ以上の価値を持つはず。ここで注目されれば、芸能界復帰は一気に早まるもの」

香取「試合に勝つ作戦だけじゃなく、盛り上げる算段も入念に練ってきてるんじゃないかしら。そこは期待していいと思うわよ」

明石「ぜひ頑張って欲しいですね。本戦では相手が悪かったこともあり、那珂ちゃん本来の魅力を出し切れたとは言えませんでしたから」

香取「……そうね。そうなんだけど……問題なのは、今日の対戦者が赤城さん以上に相手が悪い可能性がある、ってところなのよね」

明石「あっ……」

香取「やってみなければわからないけど……ファイターとしてのタチの悪さは筋金入りだから。那珂ちゃん、大丈夫かしら……」

明石「……ありがとうございます。では、青コーナーより選手入場! こちらも本戦では実力を発揮しきれなかったファイターになります!」


試合前インタビュー:大淀

―――那珂ちゃんのことはファイターとしてどのように評価されていますか?

大淀「私とは真逆のタイプですね。試合をあくまでエンターテイメントと捉えているみたいで、勝ち負けにはあまり拘ってないようです」

大淀「……と、いうのが以前の那珂ちゃんへの評価です。赤城さんとの試合を見て、考えが変わりました。いやあ、大変勉強させてもらいました」

大淀「レフェリーの買収は盲点でしたね。私もやれば良かったです。おそらくはもう運営に対策されて、通用しなくなっていることが口惜しいですね」

大淀「あそこまでルールと環境を利用して勝ちに行ったファイターは那珂ちゃんが初めてでしょう。先駆者として、惜しみない賛辞を送ります」

―――勝てる自信はありますか?

大淀「以前チラっと発言しましたけど、私にとって那珂ちゃんは絶好の獲物です。ああいう選手は一番やりやすいタイプですね」

大淀「1回戦の試合は全て観ましたが、やっぱりグラーフ・ツェッペリンさんが私には最悪の相手でした。彼女以外なら誰でも勝てる自信があります」

大淀「羽黒さんでも私なら勝てますよ。技量は規格外ですけど、メンタルはお豆腐並の脆さみたいでしたから、そこを突けば簡単に崩せるでしょう」

大淀「那珂ちゃんも似たようなものですね。彼女は思ってることが表情に出やすいんですよ。何を考えてるか、対峙すれば手に取るようにわかります」

大淀「もちろん、以前の那珂ちゃんとは違うことは理解してますよ。彼女は試合を盛り上げるだけじゃなく、勝利に徹する戦い方もするでしょう」

大淀「でもですね、勝利に徹する戦い方なら、私のほうが数段上です。そのことを、試合の中で教えて差し上げましょう」


大淀:入場テーマ「Silent Hill/Opening theme」

https://www.youtube.com/watch?v=w2cK8mOG4Q8


明石「本戦ではドイツの怪物ファイター、グラーフ・ツェッペリンに為す術なく惨敗! 真の実力を発揮することができませんでした!」

明石「リング上の殺し屋にとって、怪物退治は専門外! 私が標的とするのは飽くまで同じ艦娘ファイター! 彼女の本当の脅威が明らかになる!」

明石「殺人コンピューターの計算能力、今日こそ発揮なるか!? ”インテリジェンス・マーダー”大淀ォォォ!」

香取「彼女は組み合わせで運がなかった選手の1人ね。グラーフさんは本当に相性最悪の相手だったから、まったく持ち味を出せなかったわ」

香取「純粋な格闘技術だけで、よくあそこまで張り合ったというべきでしょう。今日こそは本領を発揮できるといいわね」

明石「確かに、大淀選手が得意とする先読みや心理戦はほとんど見られませんでしたね。データ戦術もまるで通用しませんでしたし」

香取「結局、ビスマルクさんのデータはほとんど役に立たなかったものね。何を考えてるのかわからないから、心理戦も仕掛けようがなかったわ」

香取「大淀さんは相性の良し悪しがはっきり出てしまうのが弱点ね。今日の試合にその心配はしなくても良さそうだけど」


明石「……大淀選手は以前、断言していました。『那珂ちゃんなら絶対に勝てる』……と」

香取「その発言には自信はもちろん、実力と実績が伴っているわ。大淀さんはね、那珂ちゃんみたいな人間味のあるファイターを潰すのが得意なの」

香取「大淀さんの勝利パターンは概ね3つの工程があるわ。相手のやりたいことを潰す、選択肢を減らす、誘導して罠に誘い込む、この3段階」

香取「卓越した技量を持つ大淀さんなら、方針さえ掴めれば大抵の動きを封じられるわ。そこから相手がどう方針を変えるか予測し、それも潰す」

香取「そうやって取れる行動の選択肢を減らし、一本道へと追い込む。そこに本命の罠を張って、トドメを刺すのが大淀さんの戦法ね」

香取「この戦法にハマったファイターは、本当に何の見せ場もなく敗北するわ。大淀さんが対戦相手にひどく嫌われるのはそれが所以よ」

香取「グラーフ選手のような怪物級には通用しないみたいだけど、そういった例外を除く9割のファイターには間違いなく通用するわ」

明石「……どう考えても、那珂ちゃんは『例外』のファイターではありませんよね」

香取「そうでしょうね。赤城戦を経て勝ちに徹する戦い方を経験したとはいえ、大淀さんにはやりやすいファイターであることに変わりはないわ」

香取「運動能力では那珂ちゃんのほうが高いと思うけど、テクニックや戦術眼、攻め方の豊富さは大淀さんが大きく上を行っている」

香取「仮に那珂ちゃんが勝利だけに目的を絞ったとしても、勝率は赤城さんと同じくらい低いでしょう。前回みたいな不正を使ったとしても一緒よ」

香取「大淀さんは仕掛けられる不正手段すら、臨機応変に勝利へ繋げられる。その点では赤城さん以上に厄介な相手でしょうね」


明石「……那珂ちゃんが大淀さんに勝つには、どのような戦い方をするべきかと思いますか?」

香取「難しいわね……心理戦で大淀さんに勝とうとするのは厳しいでしょう。奇襲も逆用される恐れのほうが大きいわ」

香取「勝算があるとすれば、どうにかして正面対決に引き込むことね。運動能力で勝る那珂ちゃんなら、まともに当たれば押し勝てるかもしれない」

香取「もしくは、大淀さんの勝利への固執を逆手に取れるかもしれないわ。同階級で負けたとなれば、彼女は軽巡級王者という最大の肩書を失うから」

香取「大淀さんに掛かるプレッシャーはいつにも増して大きいはず。勝ちを急いで選択ミスをする可能性はゼロじゃないわ」

明石「そういえば、大淀選手は不動産の売買に失敗して、多額の借金があるそうですね。ファイトマネーを手に入れないと生活が危ういとか」

香取「らしいわね。王者の肩書が有名無実と化し、ファイトマネーさえ手に入らないとなると、大淀さんは是が非でも負けるわけにはいかないわ」


明石「……今、ふと思ったんですけど、金銭のやり取りによる八百長って有り得ると思います?」

香取「ああ、那珂ちゃんが大淀さんにお金を渡して、勝たせてもらうんじゃないかってこと? ない話ではないわね。お互いの利益は一致するわ」

香取「でも、それは不可能なの。以前にも那珂ちゃんは大淀さんに八百長を持ちかけたらしいけど、要求額が大きすぎて成立しなかったそうよ」

香取「当たり前よね。大淀さんに勝ちを譲ってもらうなら、勝った場合のファイトマネーに加えて、戦績に黒星が付く補償金も要求されるもの」

香取「この試合は勝てば2000万円、プラス軽巡級王者の名を売り渡す形にもなるから……大淀さんは億に近い額を要求してくるでしょうね」

明石「億、ですか……欲深い大淀選手なら、それくらいは吹っかけてきそうですね」

香取「那珂ちゃんはグランプリ出場選考の工作でかなり私財を消費してるから、そんな額は払えないわ。だから、八百長は成り立たない」

香取「実力差を考慮して、那珂ちゃんも八百長を視野に入れた工作をしたかったでしょうけど、実弾がないんじゃどうしようもないわね」

香取「お互い、勝てば得るものは大きく、負ければ全てを失う。那珂ちゃんは不正に頼らず大淀さんと戦わなければならないわ」

香取「とにかく那珂ちゃんは慎重に、冷静に攻めることね。できれば大淀さんから攻めさせるのが理想よ……できればだけど」


明石「那珂ちゃんがどれだけ作戦を練ってきているかが勝負の分かれ目……ということになりますかね」

香取「そうね。那珂ちゃんと同じく、大淀さんもこの試合は何が何でも勝ちたいはずよ。熾烈な戦いになりそうね」

明石「ありがとうございます。さあ、両選手がリングインしました! 余裕が見受けられる大淀選手に対し、那珂ちゃんは闘志満々の表情です!」

明石「お互いにとって、この試合は天王山! 負ければ那珂ちゃんは再起の機会を失い、大淀選手は王者の面目を失う! どちらも負けられません!」

明石「大淀選手は軽巡級王者の肩書を守り抜けるのか! 那珂ちゃんは大番狂わせを起こせるのか! 負ければ全てを失う戦いが今、始まります!」

明石「ゴングが鳴りました、試合開始! 颯爽と飛び出していくのは那珂ちゃん! やや腰を落とし、中段に拳を構えてステップを踏んでおります!」

明石「打撃、タックル、何でも来いという気合の入ったこの構え! 対する大淀選手は……? どうしたのでしょう、近寄ろうとしません!」


明石「コーナーからは離れましたが、構えも取らずフェンス際をゆっくりと歩いています! これには何の意図が……えっ、ちょっと!」

香取「……何してるの?」

明石「お、大淀選手がフェンスを掴んで登り始めました! フェンスを掴むこと自体は認められていますが、登るのは反則です!」

明石「あっという間に天辺まで登ってしまいました! 攻撃から避難しているわけでもない、不可解な行動です! ここでレフェリーからの警告!」

明石「フェンスに登るのは膠着を誘発させる行動であるため、ルール違反となります! 大淀選手に警告1回、100万円の罰金が課せられました!」

香取「大淀さん……あなた、まさか」

明石「レフェリーの指導を受け、大淀選手がフェンスから降ります! 大淀選手はあと2回の警告で失格負け! コーナー際からの再開です!」


明石「再開のゴングが鳴りました! 那珂ちゃんは不可解そうな表情を浮かべながらも、同じように構えを……えっ、また!?」

香取「やっぱり……!」

明石「大淀選手がまたもやフェンスを登り始めました! 再び試合が中断されます! 大淀選手に2回目の警告が出されました!」

明石「これで勝敗に関係なく、大淀選手には計200万円の罰金が課せられます! 経済難の大淀選手にはあまりに痛い出費のはず!」

明石「しかも、あと1回の警告で大淀選手は失格負けです! 那珂ちゃんも驚いている様子! 一体、大淀選手は何を考えているんでしょうか!?」

香取「ここまでやるとは思わなかったわ……大淀さんは、序盤から早くも那珂ちゃんの選択肢を潰したのよ」

明石「選択肢を潰した? 選択肢が減って不利になったのは大淀選手のはずじゃ……」

香取「大淀さんと那珂ちゃんは目的が違うのよ。ただ勝てばいいと思ってる大淀さんに対し、那珂ちゃんは面白い試合をして勝たなきゃいけないの」


香取「『面白い試合をして勝つ』のは那珂ちゃんにとって絶対条件よ。試合内容を評価してもらわなければ、勝ち負けに関わらず復帰の道はない」

香取「もし、ここから試合が膠着して、両選手に警告が出されれば大淀さんが失格になって、那珂ちゃんは勝つ……でも、それじゃ意味がないのよ」

香取「大した攻防もなく、相手の失格で得た勝利を誰が評価するかしら? 那珂ちゃんが欲しいのは端金じゃなく、評価と人気なのよ」

香取「大淀さんはそれを理解して、先手を打った。試合が全く盛り上がらず終わるという、那珂ちゃんにとって最悪のシナリオを提示することでね」

明石「……そういうことですか。普通に戦って負けることも、面白くない試合で勝つことも、那珂ちゃんには結局同じことだから……!」

香取「そう。ここから先、那珂ちゃんには自分から攻める以外の選択肢がないのよ。大淀さんを失格にさせないためにね」

香取「相手のやりたいことを察して潰し、選択肢を減らす。試合開始数十秒で、大淀さんは早くも勝利工程の第2段階へ状況を移行させてしまったわ」


明石「しかし、勝つためとはいえ、まさか金銭面で困っている大淀選手が自ら罰金200万円を払うような真似を……」

香取「そこが大淀さんの恐ろしいところよ。彼女は徹底した合理主義者。勝率を上げるためなら、どんな行為でも躊躇なくやってのけるのよ」

香取「元々9割の勝率を、200万円払って10割に近付けるくらい、造作も無いことでしょう。勝てば差し引きで1800万円貰えるんだから」

香取「ここから、那珂ちゃんにはかなり苦しい展開になるわよ。心理戦で上を行かれた挙句、空中殺法も実質的に封じられてしまったわ」

香取「那珂ちゃんの空中殺法は、フェンス際に追い詰められた状態から、壁を足場にしないと繰り出せない。つまり、相手に攻めさせる必要があるの」

香取「大淀さんはそれもわかって、決して自分からは攻めないでしょう。あらゆる面で不利なこの状況で、那珂ちゃんは自分から攻めるしかないわ」

明石「……一切の攻防がないまま、那珂ちゃんは早くも不利な展開に追い込まれました! このままだと、試合が尻すぼみで終わってしまう!」

明石「焦りの表情を見せる那珂ちゃん! それを見てほくそ笑む大淀選手! 何たる狡猾さでしょう! これが軽巡級王者の戦い方だ!」


明石「再びコーナー際からの再開となります! あと1回の警告で大淀選手は失格! それは那珂ちゃんにとっても絶対に避けたい展開です!」

明石「大淀選手が失格負けにならないよう、那珂ちゃんは攻めることを強いられる形になります! ここから大淀の術中より抜け出せるでしょうか!」

明石「3度目のゴングが鳴った! 試合再開です! もう1度ゴングが鳴るとき、それは勝敗が決定したときに他なりません!」

明石「那珂ちゃんは腰を低めに落とした、ややタックル狙いの構え! 対する大淀選手、開手のヒットマンスタイルで臨みます!」

明石「もはや待つことに意味はない! 那珂ちゃんが仕掛けます! 初手は右のロー……いや、先に大淀が仕掛けた!?」

明石「蹴り足を狙った下段へのサイドキック! ローキックが形になる前に止められました! 那珂ちゃん、反射的に後退します!」

明石「やや距離を取り、そこからバックスピンキックを繰り出した! 大淀選手、またサイドキック! 今度は軸足を狙った!」


明石「バランスを崩され、バックスピンキックが不発! よろめきながら再び距離を取る那珂ちゃん! 完全に動きを読まれています!」

香取「初動を見切られてるわ。たぶん、過去の試合映像から動きのクセを把握されてる……」

明石「それでも那珂ちゃんは攻めるしかない! 今度は左のローキック! ダメです、足を引かれてスカされました!」

明石「続けざまに足を狙ったタックル……それより先に大淀選手、大きくバックステップ! タックルの射程から難なく逃れます!」

明石「タックルの勢いのまま、那珂ちゃんが突っ込んだ! 左右のフック連撃! パリィであっさりと捌かれてしまった!」

明石「まだ那珂ちゃんは攻め立てる! 再びタックル……違う、前転からの浴びせ蹴りだ! しかし躱され……大淀が踏み付けに行ったぁぁぁ!」

明石「那珂ちゃん、踏み付けを腕で受け止めた! そのまま大淀がパウンドを狙う! ここで那珂ちゃん、カポエラキィィック!」

明石「が、大淀選手はバックステップで回避! 蹴りの勢いで立ち上がることには成功しましたが、那珂ちゃん、起死回生の奇襲は成功ならず!」


明石「大淀選手に動きを見切られているのは明らか! しかし、攻め手を止めるわけにはいかない! なおも那珂ちゃん、果敢に攻める!」

明石「飛び込んで右フック! スウェーで回避……と、同時に軸足を刈られた! 那珂ちゃん転倒! 大淀選手が再びパウンドを仕掛けます!」

明石「1発、顔面に入った! もう1発はブロック! 那珂ちゃん、素早くガードポジションに入ってディフェンス! パウンドから逃れます!」

明石「大淀選手、ガードポジションには入っていかない! 1発入れただけで早々に距離を取ります! グラウンドには付き合いません!」

明石「止む無く那珂ちゃんが立ち上がります! 目の下に大きなアザを作ってしまいました! ダメージは……いや、間髪入れず那珂ちゃんの追撃!」

明石「またもやタックルです! 大淀選手はバックステップで……あっと、那珂ちゃんが1歩深く踏み込んだ! これはタックルではない!」

明石「大淀選手のあごを狙った、中段からせり上がるような頭突き! 入るか! ダメだ、頭を抑え込まれた! しかも膝蹴りが入ったぁぁぁ!」

明石「那珂ちゃんの顔面に膝が入りました! 更に膝蹴り! 頭部のガードを固めるも、今度はボディを狙われました! みぞおちに膝が命中!」


明石「もう1発ボディへ膝! 那珂ちゃん、胸を突き飛ばすようにして大淀選手から距離を……ここで追撃のフィンガージャブだぁぁぁ!」

明石「すんでのところで躱しました! 那珂ちゃん危うし……ではない! 指が掠めてしまった! 左目に薄っすら血が滲んでいます!」

明石「顔に膝を入れられ、左目の視力も大きく削がれました! 良くない状況です、どう攻めても、ことごとく撃ち落とされる!」

明石「とうとう攻め手が止まってしまいました! 呼吸は乱れ、表情には焦りが見えます! もう那珂ちゃんに打つ手はないのか!」

香取「大淀さんの勝利工程、第2段階が終わろうとしてるわ。相手が攻めざるを得ない状況を作って、まともに攻めても通らないことを見せつけた」

香取「那珂ちゃんが取れる選択肢は、もう一か八かの思い切った攻勢に出るしかない……そこに罠が仕掛けてあるとわかっていても、やるしかないわ」


明石「その、一か八かの攻勢というのは、具体的にどんなものだと思われますか?」

香取「そうね、技量では勝てないことはもうわかってるから……相討ち覚悟で体力勝負を掛ける、ってところかしら」

香取「つまるところ、ノーガードの殴り合いよ。とにかく前に出て大淀さんのテクニックを潰す。ほら、那珂ちゃんが構えを変えるみたい」

明石「あっ、本当です! 赤城戦で見せたものと似た、左の拳を真っ直ぐ突き出した構えを取りました! 間合いを測っているようです!」

明石「大淀選手の周囲をゆっくりと回りながら、浅いローキックを放つ! 入りはしませんが、おそらくこれは膠着をさせないためのものでしょう!」

香取「呼吸を整えつつ距離を計算してるわね。理想の間合いは、肘打ちが当たる至近距離より少し手前ってところかしら」

香取「フックとショートアッパー、振りかぶったパンチしか使えない微妙な間合いね。そこからならテクニックは関係なく……ちょっと、嘘でしょ?」

明石「那珂ちゃんの消極的なローキックを嫌ってか、大淀選手が後退! 間合いを測らせないつもりか……あっ!? ふぇ、フェンスに手を掛けた!」


明石「またフェンスを登ろうとしています! 自分から失格負けを選ぶ気か!? 慌てて那珂ちゃんが飛び出し……ろ、ローリングソバットォォォ!」

明石「那珂ちゃんの必殺技、フェンスを足場にしたローリングソバットを大淀選手が繰り出しました! 那珂ちゃんの顔面にヒットォォォ!」

明石「完全に不意を突かれてしまった! 試合展開にこだわる那珂ちゃんの弱みに付け込み、大淀選手が奇襲に成功! なんて汚い王者なんだ!」

香取「相手の回復を待つほど、大淀さんは甘くなかったわね……今のは那珂ちゃんが悪いわ。大淀さんが失格負けを選ぶわけないんだから」

香取「でも、わざわざ那珂ちゃんの得意技を使うのは悪意を感じるわね。精神面を崩しに掛かってるわ」

明石「大きく後方に蹴り飛ばされた那珂ちゃん、ふらつきながらも何とか立ち上がります! だが、そこに大淀の魔の手が迫る!」

明石「ボディ、いや顔面へリードストレート! 那珂ちゃん、まんまとボディへのフェイントに引っ掛かった! 高速の拳がクリーンヒットォォォ!」


明石「立て続けに膝関節へサイドキック! 那珂ちゃんが大きく崩れた! 今度は脇腹への回し蹴り! これも入ってしまいました!」

明石「打撃のラッシュを逃れて、那珂ちゃんがクリンチを試みる! が、小外刈りを仕掛けられてしまった! 那珂ちゃん、テイクダウン!」

明石「大淀選手がパスガードを狙いますが、那珂ちゃんの対応が早い! 即座にガードポジションの体勢に入りました!」

明石「やはり大淀選手、ガードポジションの攻防には付き合わない! さっさと離れ、那珂ちゃんが立ち上がるのを待っています!」

明石「どうにか立ち上がった那珂ちゃんですが……ダメージは深刻! 顔面へかなりの打撃をもらい、対する大淀選手は全くのノーダメージ!」

明石「それどころか、まともに触れることすら出来ていません! まさか、両選手の技量にここまで開きがあるとは!」

香取「心身共に動きを見透かされてるわ。やっぱり、序盤で選択肢を狭められてしまったのが大きく響いてるわね」

香取「那珂ちゃんは打たれ強いタイプのプロレスラーじゃない。これ以上ダメージを負う前に、状況を打開しないと勝ち目はないわ」


明石「さあ、やはり大淀選手は自分からは攻めない! 那珂ちゃんが仕掛けてくるのを虎視眈々と待ち構えています!」

明石「あらゆる手段が封じられてしまったこの状況から、那珂ちゃんはどう攻める! 既に息は荒く、フットワークを踏む余力も残っていない!」

明石「ただ、その目だけはまだ諦めていない! ここからどうする! おっと、1歩後退しました! 大淀から大きく距離を取ります!」

明石「手招きをしています! そっちから攻めてこいという挑発! 那珂ちゃん、ここへ来て相手に仕掛けさせることを選択しました!」

明石「考えてみれば、ここで膠着による両選手への警告が出されたとき、一番困るのは他でもない大淀選手! 3回目の警告は失格負けです!」

明石「膠着を起こしたくないのは那珂ちゃんだけではない! 大淀選手が心理戦を仕掛けられています! さあ、大淀はどう応じる!?」

香取「……その手段はタイミングが遅かったわね」

明石「大淀選手が仕掛けます! フィンガージャブ、からの下段サイドキック! 膝より更に位置が低い! 足の甲への踏み蹴りです!」


明石「那珂ちゃん、フェイントのほうに反応してしまった! 足の機動力を削がれます! しかし、ここで下がるわけにはいかない!」

明石「前に出て右フック! 大淀、カウンターで迎え撃ったぁぁぁ! 視力を奪った左目の死角からの、右フックによるクロスカウンター!」

明石「ぐらついたところにボディへのサイドキック! 急所の下腹部に入ったぁぁぁ! 那珂ちゃん、悶絶しながら転倒!」

明石「大淀がすかさず踏み付けに行く! だが、悶え苦しみながらも那珂ちゃん、転げ回ってこれを逃れる! 大淀の射程から逃げます!」

明石「フェンス際で立ち上がりました! 呼吸と共に肩が大きく上下し、もう体力が限界に近い! 大淀選手、トドメを刺しに距離を詰める!」

明石「まずはフィンガージャブのフェイント! 那珂ちゃん、バックステップでこれを避け……いや、跳んだ! フェンスを足場にしました!」


明石「一発逆転の必殺技が繰り出される! 那珂ちゃんローリングソバッ……一本背負いィィィ!? あ、足を抱えて投げ落とされました!」

香取「読まれてたわね。フェンス際に追い込んでやれば、間違いなく得意技を出すと踏んでいたんでしょう」

明石「空中殺法、敗れたり! 受け身は取ったようで、ダメージそのものはありません! 那珂ちゃん、素早く立ち上がります!」

明石「立ち上がり様に、大淀のハイキィィィック! 側頭部へ命中! 那珂ちゃん、ダウン! 今度こそトドメを刺そうと大淀が迫る!」

明石「パウンド! 踏み付け、踏み付け! 那珂ちゃん、地べたを転げ回って回避! まさに逃走というに相応しい、なりふり構わぬ逃げ方です!」

明石「大きくよろめきながら、ようやく距離を取って立ち上がりました! 大淀選手も仕方なく追撃をやめ、構えをニュートラルに戻します!」

明石「頼みの空中殺法が破れた今、那珂ちゃんに勝つ手段は残されているのか! 表情にも、闘志より疲労の色が目立ってきました!」


香取「ダメージを受け過ぎたわね。動きのキレが明らかに落ちてる。もう真っ向勝負は不可能、奇襲作戦もことごとく潰されてる」

香取「大淀さんの勝利パターンは最終段階に入っているわ。ここまで来ると、もう那珂ちゃんに勝機は……」

明石「既に那珂ちゃんは自分から仕掛けられる余力すらない! 大淀選手、ここは決めに掛かるか! 再び自ら仕掛けます!」

明石「フィンガージャブ、からのローキック! まともに膝へ入りました! 那珂ちゃんの反応が明らかに鈍い! もう動く力さえないのか!」

明石「更にローキック、続けてフィンガージャブ! 今度はフェイントではない! 目を突きに行った! 那珂ちゃん、これは辛うじて回避!」

明石「だが、後退する足を狙って大淀のサイドキック! 完全に立てなくするつもりです! 徹底的に機動力を削ぎ落とそうとしている!」

明石「ここで那珂ちゃんが反撃に出る! 蹴り足を狙った低空タックル! が、読まれていた! 顔面へ迎撃の膝蹴りが入ったぁぁぁ!」

明石「まだ那珂ちゃんは動けています! ダメージにも構わず足を取ろうとしている! しかし、動きにキレがない! 意識が飛びかけています!」


明石「大淀選手は素早く足と腰を引いてタックルを切った! そのまま上半身を抱え込む! 腕ごと首を抱き込んで絞め技を掛けました!」

明石「これは、スピングチョークです! 三角絞めの要領で頸動脈を締め上げている! と、とうとう終わらせに掛かったぁぁぁ!」

香取「大淀さんはタックルに罠を張っていたみたいね。打撃で弱らせれば、最後の反撃はタックルで来ると読んでいたんでしょう」

香取「スピングチョークは落ちるまでに時間の掛かる絞め技だけど、抵抗を少なくするために体力は削ってある。全部、大淀さんの思い通りね」

明石「完全に動きを封じられ、那珂ちゃん、抜けられない! ここで落ちてしまうのか……ん? 何の音ですか?」

香取「何? 金物でも落ちたような……あっ!?」

明石「な、なんだ!? 那珂ちゃんがチョークから抜け出した! 落ちていません! 即座に大淀の足を掬い上げる! あ、足を取ったぁぁぁ!」


明石「間髪入れずにヒールホールドへ移行! 速い! 大淀選手の対応が間に合わない! おっ……折ったぁぁぁ! 足首が折れ曲がりました!」

明石「大淀選手、左足首を骨折! 残る右足で那珂ちゃんを蹴りつけ、なんとか距離を取ります! 大淀はもう、フットワークを使えません!」

明石「蹴られた那珂ちゃんも、立ち上がることすら難しいほど体力を消耗しています! ですが、ここへ来て大逆転のチャンスを掴みました!」

明石「しかし、解せません! あの状態から、なぜ那珂ちゃんはチョークから抜けられたのでしょうか! 技は完全に入っていたはずです!」

明石「落とす前に相手を放してしまうほど、大淀選手は甘いファイターではない! 一体あのとき、何が起こったのでしょうか!」

香取「……たぶんだけど、那珂ちゃんは絞められているときにタップをしたのよ。大淀さんの体のどこかを、軽く手のひらで叩いてね」

明石「それは……つまり、ギブアップをするフリをしたということですか? まさか、大淀選手がそんな子ども騙しに……」

香取「ええ、引っ掛かるわけはないわ。本来の大淀さんなら、不意討ちの危険性を考えて、相手がタップしても念のため絞め落としておくはず」


香取「だけど、レフェリーストップが掛かれば話は別。既に警告を2回受けてるんだから、3回目は何としても回避しなければならなかったのよ」

明石「レフェリーストップ? 別にレフェリーは何の対応も……あっ、あの金属音って、もしかして……」

香取「ええ。これも推測だけど、那珂ちゃんはタップするフリと同時に、何らかの合図を観客席に送ったんじゃないかしら」

香取「合図と同時に、観客席にいる那珂ちゃんの支援者が金属音を鳴らす。聞きようによってはゴングのようにも聞こえる音だったでしょう?」

香取「試合終了のゴングが鳴ってからの加撃は反則になる。咄嗟に絞めを緩めたところを、那珂ちゃんは最後の力で反撃したのよ」

明石「この展開は、那珂ちゃんの仕込みによるものだということですか?」

香取「そうでしか有り得ないわ。まあ、調べても証拠は出てこないでしょうけど。大淀さんが後で証言したって、言い訳にしかならないもの」


香取「これは最後の保険でしょうね。大淀さんの巧みな試合運びのせいで、那珂ちゃんは用意していた本来の作戦をほとんど潰されてしまったはず」

香取「クリーンファイトでの勝ち目がなくなった場合に、大淀さんから何としても勝利をもぎ取る最終策。この作戦だけは上手く行ったみたい」

香取「あとは大淀さんにトドメを刺すだけなんだけど……それだけの力がまだ残ってるのかしら。大淀さんも、まったく動けないわけじゃないのよ」

明石「あっ……那珂ちゃんが立ち上がります! 足元が覚束ない! やはり体力の限界です、もはや那珂ちゃんを立たせるのは勝利への執念のみ!」

明石「立ち上がることのできない大淀選手は、体の右側を上にしてガードポジションを取りました! 残った右脚で下から蹴りつけようという体勢!」

明石「片足を壊されたからといって、勝利を譲り渡すほど軽巡級王者は甘くない! こちらも勝利への執念なら負けていません!」

香取「大淀さんは盛んにローキックを繰り返していたから、那珂ちゃんの足には相当なダメージが蓄積してるはずよ」

香取「あと1、2回蹴られれば、根性のあるなしに関わらず立てなくなる。それよりも先に、那珂ちゃんは決めるしかないわ」


明石「よろめきながらも、那珂ちゃんが大淀へと近付いていく! 大淀も横向きのガードポジションのままにじり寄って行きます!」

明石「足へ一撃入れれば大淀選手の勝利! その前に大淀選手を仕留められれば那珂ちゃんの勝利! 一瞬の攻防が両者の命運を分けます!」

明石「互いに体を引きずるようにして、徐々にお互いの射程へ近付いていきます! 共に満身創痍なこの状況から、勝利を掴むのはどちらだ!」

明石「大淀が動いた! 足を狙ったキック……と、跳んだぁぁぁ! 那珂ちゃん、最後の力を振り絞っての空中殺法ぉぉぉ!」

明石「垂直ローリングソバットォォォ! 那珂ちゃんの全体重が大淀の側頭部を踏み抜きました! 大淀選手、脳震盪により失神!」

明石「ゴングが鳴り響きました! 試合終了です! まさか、まさかの大逆転! 軽巡級同士の死闘を制したのは、アイドル那珂ちゃんです!」


明石「心理戦と技量で圧倒されるも、最後の最後で勝負をひっくり返しました! 勝因は他でもない、飽くなき勝利への執念でしょう!」

明石「立つことさえままならない体で、決め技は得意の空中殺法を見せてくれました! 大淀選手は事実上の王者陥落です!」

明石「軽巡級王者としての狡猾さと恐ろしさを存分に披露してはくれましたが、那珂ちゃんの捨て身の策に引っ掛かり、惜しくも敗北!」

明石「那珂ちゃんは軽巡級暫定王者に輝きました! 大番狂わせです! 那珂ちゃん、芸能界復帰へ大きな1歩を踏み出しました!」

香取「不正に近い策だったとはいえ、あそこから逆転できる精神力は大したものよ。まさに執念で勝利をもぎ取ったというべきでしょう」

香取「大淀さんは間違いなく物言いを付けてくるでしょうけど、残念ながら判定は覆らなさそうね。かなりグレーなところだから」

明石「報告ですけど、那珂ちゃんの支援者らしき人を審判員の妖精さんが見つけたそうです。あの音は金属製の水筒を床に落としたときのものだと」

香取「落としただけにしてはやけに音が大きかったけど?」

明石「まあ、実際には叩き付けたんでしょうけど……証拠がないんですよね。たまたまタイミングよく水筒を落とした、と言い張ってるみたいで」


香取「当然、那珂ちゃんとの繋がりがわかるものは持ってきてないでしょうしね。詳しく身元を調べれば怪しいところは出てくると思うけど」

香取「それ以前に、水筒を落とした音をゴングと聞き間違えたのは大淀さん自身なのよね。だからどっちにしろ、判定は変わらないわ」

明石「音が似てるって言っても、聞きようによってはですからね。大淀選手もあんな状況でなければ聞き間違えなかったでしょうし……」

香取「自分から警告を2回受けたのは、大淀さんにとっても賭けだったのよね。そこからは反則に対して過敏にならざるを得ないのよ」

香取「そもそも、那珂ちゃんの最後の策は成功率の高くない、信頼性に欠けるものよ。大淀さんが引っ掛かるかは運次第だったんじゃないかしら」

香取「運営の対策やファンからの期待もあって、露骨な不正ができる状況じゃなかったのよね。だからあの程度の仕掛けしか用意できなかったんだわ」

香取「運頼みに近い最後の保険と、予想もしなかった大淀さんの反則。2つの要因が重なった結果、あの逆転劇が引き起こされたんでしょう」

香取「幸運に救われたのは間違いないけど、最後に命運を分けたのは、絶対に諦めない那珂ちゃんの闘志じゃないかしら」

香取「いくら大淀さんが抗議しても、この試合の勝者は那珂ちゃんに変わりないわ。軽巡級暫定王者として、今後もUKFでは起用させていただくわね」

明石「審査員長の香取さんのお墨付きもあり、勝者は間違いなく那珂ちゃんです! 死闘を繰り広げた両選手に対し、今一度拍手をお願いします!」


試合後インタビュー:那珂ちゃん

―――あの逆転の直前に、不正行為と捉えられかねない部分があったとの指摘がありますが、どう受け止めていらっしゃいますか?

那珂「……那珂ちゃんの口から真実を言うことはできません。ただ、応援してくださったファンの方々には申し訳ない気持ちでいっぱいです」

那珂「本当なら、誰も文句のないクリーンファイトで勝ちたいと思っていました。同階級なら、全力で行けば勝ち目はある、その考えが甘かったです」

那珂「大淀さんは想像以上でした。那珂ちゃんの作戦は全部見透かされていて、正面からの攻防でもまるで歯が立ちませんでした」

那珂「あそこまで勝利に徹底してるなんて……今日、那珂ちゃんが勝てたのは運が良かったからに過ぎないと思います」

那珂「しかも、あんな手段を使って……でも、あれですよね。勝ちは勝ち、ですよね?」

那珂「つまり那珂ちゃんが今の軽巡級暫定王者……ってことですよね? それでいいですよね!? 那珂ちゃんが、軽巡級最強ってことで!」

那珂「やったぁ! これから、UKFでは間違いなく使ってもらえますよね! 那珂ちゃん、トップアイドルへ返り咲きのチャンスをゲットしました!」

―――えっと、不正疑惑に対するコメントは……

那珂「ありません! もう開き直ります! 那珂ちゃん、そういう感じのキャラで売り出していきたいと思います!」

那珂「清純系腹黒アイドルって受けると思います? プロデューサーさんと相談しなくちゃ! 作る曲の方向性も変えていかないと!」

那珂「これから、忙しくなるぞ―! 那珂ちゃん、ファンのみんなのために頑張っちゃうんだから!」


試合後インタビュー:大淀

―――試合結果には納得されていますか?

大淀「していませんね。なんと言われようと、私は断固抗議します。個人で調査団を作ってでも不正を追求しますよ」

大淀「あれが那珂ちゃんの仕込みであることは間違いありませんからね。必ず証拠を掴んで、私の戦績から黒星を消させていただきます」

大淀「勝負とは、リングの上だけで行われるものではないんですよ。何なら香取さん率いる審査員団との直接対決になったって構いません」

大淀「私は論戦でも艦娘最強を自負していますからね。最終的にはUKFのルールを改変してでも、試合結果を覆してみせますよ」

大淀「マスコミを巻き込んで、那珂ちゃんにパッシングをするのもいいですね。世論を利用すれば、かなり私が有利に……」

―――失礼します、運営スタッフのものです。試合中の反則行為による罰金の徴収に参りました。

大淀「……えっ? あっ、えっと……早くないですか? こういうのって、1ヶ月くらい後に支払うものじゃ……」

―――大淀選手には本日分を除いて700万円分にも及ぶ罰金の未払いがあり、今まで支払いをはぐらかされてきました。
   それらを合わせた合計900万円全てを徴収してこいと、大会運営委員長からの厳命です。今すぐ、こちらの小切手にサインをお願いします。

大淀「いや、ちょっと……無理です。900万円も口座にお金ないです……小切手にサインしても、不渡りになると思うので……」

―――その場合、駐車場に止めてある大淀選手のフェラーリを差し押さえさせていただく形になりますが、よろしいですか?

大淀「……勘弁してください。まだローンが残ってる新車ですし、もう私、外車にしか乗れないんです。安い国産車だと乗っただけで発疹が……」

―――支払えないというのなら仕方がありません。こちらには契約書もあり、法的にも問題ありません。あのフェラーリは差し押さえます。

大淀「あの、土下座するんで許してください。1週間、1週間待ってください。その間にどうにかお金を工面しますから、どうかお慈悲を……」


明石「……香取さん。大変なことになりました」

香取「なに? 大淀さんが罰金を払えなくて、押し込み強盗でも働いたの?」

明石「そんな微笑ましい話題じゃないんです……長門選手が2回戦進出を辞退しました」

香取「……なんですって?」

明石「試合結果が不服だそうです。あれが自分の勝利だとは絶対に認めないと……」

香取「羽黒さんは試合を放棄したのよ。内容がどうあれ、判定は長門さんの勝利で間違いはないはずよ」

明石「ルールは関係ない、とのことです。判定で勝利が認められたとしても、2回戦への出場は断固拒否するとの意志を表明されています」

香取「……説得は無理そう?」

明石「無理でした。陸奥選手や、武蔵選手にまで来てもらって説得したんですが……長門さんの意志は固いです」

明石「この大会で、もう長門さんはリングへは上がりません。無理やり上げさせようとするなら、引退も辞さないとまで発言されています」


香取「そう……仕方がないわね。何となく、こうなる気がしてたわ。絶対王者と呼ばれる身として、譲れないプライドがあるんでしょう」

香取「でも、困ったわ。リザーバーなんて用意してないわよ。繰り上げで羽黒さんを2回戦進出にするのは……できないでしょうね」

明石「ええ、無理です。羽黒選手にも交渉しましたが、こちらも断固拒否されました。2度とリングには上がりたくないそうです」

明石「運営側で協議した結果、エキシビジョンマッチの候補者の中から、適格者を代理出場させようという決定があったんですけど……」

香取「適格者ね……一番その資格があるのは、前回準優勝の武蔵さんだけど、彼女は出ないでしょう?」

明石「はい。真っ先に交渉しましたが、断られました。武蔵選手の目的は扶桑選手を優勝させることですから、自分が出場しては目的がブレると……」

香取「じゃあ、妙高さんは? 羽黒さんの代理っていうことで筋は通らなくもないでしょう」

明石「そちらにも断られてしまいました。そもそも、エキシビジョンマッチに出る事自体、渋っていた方ですから……」

香取「……それじゃあ、もう適格者なんていなくない? 鳳翔さんは絶対に出ないでしょうし、他に候補なんて……」


明石「いるじゃないですか、もう1人……戦績は少ないにしても、誰も疑わない実力を持つ、戦艦級のトップファイターが」

香取「……誰?」

明石「もう気付いてるんじゃないですか? 前大会では脅威的な強さで3回戦出場を果たし、今なおカルト的人気を誇る、彼女ですよ」

香取「まさかとは思うけど……彼女を本戦に参加させるなんて、正気?」

明石「運営側は既にゴーサインを出しました。後は審査員長である香取さんの承諾があれば、彼女が2回戦よりリザーバーとして出場します」

香取「……本気なの? 彼女が前大会でどれだけのことをしたのか、運営は忘れているわけじゃないでしょう?」

明石「放送コードギリギリになるのは覚悟の上だそうです。長門選手の代役なら、これくらい話題性のある選手でないと務まらないとの判断です」

明石「私もあまり気は進みませんが……判断は香取さんにお任せします」

香取「……大会の成功を考えれば、生半可な選手は出せない。その点では、確かに彼女以上の適格者はいないかもしれないわ」

香取「いいでしょう。手続きはしておくから、すぐに発表の準備に取り掛かってちょうだい」

※重大発表の準備中。しばらくお待ち下さい。


明石「えー皆様、お疲れ様でした! これをもって、本日の日程は終了となります!」

明石「エキシビションマッチのリクエストは、後ほど改めてアンケートフォームをご用意します! そちらに投票をお願いします!」

明石「前回のアンケートで入った票数は無効になるわけではなく、両方を加味した選出になるかと思われます! ご了承ください!」

香取「それでは、さようなら……と行きたいところだけれど、運営側から重要な発表があるのよね」

明石「……はい。本日のBブロック1回戦、第4試合の勝者は長門選手となっております。この判定には変わりありません」

明石「しかし……勝負としては敗北していたというのが長門選手の意見です! 敗北した自分が、2回戦に進出するわけにはいかないと!」

明石「これは長門選手自身の強い希望によるものです! よって……長門選手は1回戦勝ち抜きとなりますが、2回戦には進出しません!」

明石「となると、Bブロックの最終枠に空きが生じる形になり、急遽、エキシビションマッチ候補者の中からリザーバーを選出することになりました!」

明石「最も妥当と思われた武蔵選手、妙高選手は出場を固辞しました! しかし、UKFには最終兵器とも言える選手を1人、保有しております!」

明石「発表します! Bブロック2回戦、最終枠のリザーバーとして……”ベルリンの人喰い鬼”ビスマルク選手の出場が決定しました!」

明石「ビスマルク選手は事実上のシード出場となりますが、前大会の戦績を踏まえ、それだけの実力は備わっているものと判断されました!」

明石「これは決定事項です! よって、2回戦の対戦カードは以下の通りとなります!」


Aブロック

戦艦級 ”不沈艦” 扶桑 VS 正規空母級 ”緋色の暴君” 赤城

戦艦級 ”黒鉄の踊り子” 戦艦棲姫 VS 正規空母級 ”キリング・ドール” グラーフ・ツェッペリン

Bブロック

戦艦級 ”殺人聖女” 榛名 VS 軽空母級 ”酔雷の華拳” 隼鷹

駆逐艦級 ”氷の万華鏡” 吹雪 VS 戦艦級 ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルク

エキシビションマッチ2戦目(ファイトマネー3000万円)

出場者未定


明石「以上がリザーバー出場を踏まえた2回戦の対戦カードとなります! あらためてご確認ください!」

香取「吹雪さんが割りを食った……ってわけでもないかもね。長門さんか、羽黒さんか、ビスマルクさんのどれかって言われたら、全部嫌だもの」

香取「しかし、えらいことになったわ。これで怪物クラスの海外艦が3人も出場することになってしまったわ」

明石「ええ、なんでこんなことになってるのか……決勝が海外艦同士、というのは何としても避けたいところではあります」

香取「まったくね……UKFファイターたちの実力を信じましょう。長門さんが消えた今、誰が勝って誰が落ちるか、完全に予測不能になったわ」

香取「ここから先は超一級の選手しかいない。壮絶な戦いになるでしょうね」

明石「さて……では、これにて運営からの発表を終えたいと思います! お付き合い、ありがとうございました!」

明石「次回放送日は追って告知させていただきます! 今度は延期がないよう、しっかりハッパをかけておきますので」

香取「お願いね。それじゃ、今日はこのへんで……また次回お会いしましょう」

明石「はい、また次回に! 2回戦放送日にお会いしましょう! さようなら!」


―――『4人』の怪物が勝ち上がった2回戦。長門が消えた今、この怪物たちの暴虐を止められる者は現れるのか。

―――次回放送日、現在調整中。

ちょっと操作をミスりました。

アンケートフォームをご用意しました。リクエストはこちらからお願いします。アンケートにもご協力ください。

https://docs.google.com/forms/d/14NcVM0nud_QF89S-9AdDpga-g0VVkBNBWr-OwUkkdc0/viewform

※長門、羽黒はエキシビション候補者の条件から外れるため、候補には含まれていません。
 どのみち、羽黒は二度と出場してくれません。

ところでエキシビションマッチのルールの補足を忘れていました。

エキシビションマッチは1戦ごとにファイトマネーが増額されます。
1戦目は2000万円、2戦目は3000万円、3戦目は5000万円です。

票数の多い大物選手はより後半に登場するものとご理解ください。

乙。
多分もう出番無いでしょうが純粋な戦闘能力最強はやっぱ羽黒なんですかね?
長門が手も足も出ないレベルとなると相性があってもどうにもならなそうだし

>>482

純粋な戦闘能力だけなら、羽黒は最強です。武器ありの鳳翔さんでさえ戦いたがらないレベルです。
ただしほとんどの相手に勝つことができません。羽黒は非常に複雑な精神構造を持っており、弱った相手にトドメをさせないからです。

大淀VSグラーフが決まったときも最悪だと思いましたが、当初に想定していた最悪の組み合わせは、グラーフVS羽黒でした。
勝敗がどうなるかは何とも言えませんが、あの2人が戦うと、お互いがお互いの特性を打ち消し合って訳の分からない試合内容になります。

正直、羽黒VS長門も想定された中では3番目くらいに避けたい組み合わせでしたが、確率的に有り得ないはずだったので無警戒でした。

次回の放送予定日が決まりました。

7/23(土)22:00~
今度こそ延期がないよう頑張ります。

エキシビションマッチ2戦目に出場する選手はまだ検討中ですが、これが決まると3戦目の出場者も同時に確定する形になります。
なので2戦目の選手が決まった時点で、リクエスト投票は締め切りとさせていただきます。
本戦の2回戦は全部が超一流同士の激闘なので、それに見劣りしないEVマッチにするため、選考がかなり難航しています。
票数にも大差がないので本当に悩んでいます。どうしよう、鳳翔さんの出番はまだ早いような気がするし……

7/9(土)22:00より緊急放送

放送内容
・2回戦出場者特別インタビュー「長門不在のグランプリを良しとするか否か?」
・ドリームマッチ開催の告知

※インタビュー、及び告知のみの放送になります。試合は行われません。

>>509

放送内容に記入漏れがありました。
・第3回UKF無差別級グランプリにおけるルール変更の説明(試合の内容、進行に影響はない)

第3回UKF無差別級グランプリ緊急放送

2回戦進出選手への特別インタビュー


①長門VS羽黒の試合内容に対するコメント

②長門不在のグランプリを良しとするか否か?


特別インタビュー:扶桑



扶桑「……ただ戦慄しました。羽黒さんもですけど……長門さんに対してもです。あのとき、長門さんは最後まで立とうとしていました」

扶桑「以前に、長門さんの攻略法を改めて武蔵さんと検討したことがあって、その中に長門さんを精神的に崩すという案があったんです」

扶桑「やっぱり長門さんの一番凄いところは精神面だと思いますから……あの試合で、その凄さを更に思い知らされました」

扶桑「羽黒さんは恐ろしい人です。どうやっても勝てる手段が思い浮かばない……そんなことを考えること自体、時間の無駄のように思えるほどです」

扶桑「それ程に桁違いの相手に、長門さんは最後まで戦い抜いたんです。勝算なんて全くない状況まで追い込まれても、長門さんは諦めませんでした」

扶桑「序盤に動揺こそあったものの、それからは常に勝つための最善手を冷静に探ろうとしていました。生半な精神力ではできることではありません」

扶桑「長門さんを精神的に崩す、という案は放棄しなければいけませんね。仕方ありません、他にも策は考えてありますから」



扶桑「……良しとしてしまいたい気持ちが私の中にあるのは確かです。長門さんがいなければ、優勝できる確率はグッと高まりますから」

扶桑「でも、そんな形で最強の座に着いても、きっと後から迷いが出てくるんでしょうね。やっぱり、長門さんと戦うべきだったんじゃないかって」

扶桑「武蔵さんはとにかく目の前の試合に集中すべきだってアドバイスをしてくれていますけど、どうしてもその点ははっきりさせておきたいんです」

扶桑「長門さんと戦わないまま、優勝することになっても私は嬉しくありません。どういう形でも構わないので、本戦への長門さんの参入を望みます」

扶桑「ずっと準備してきたんです。どうか、もう1度長門さんと戦うチャンスをください。そうでないと、納得がいきません」


特別インタビュー:赤城



赤城「……あまりコメントしたくありません。強いて言えば……羽黒さんは2度とリングに上ってほしくありませんね」

赤城「ええ、私は勝てないでしょう。でも、それが理由ではありません。勝負に絶対はないんですから、戦うことになれば、私は勝つために戦います」

赤城「そして戦って、私が負けたとします。負けること自体も許しがたいことですが、一旦それは置いておきましょう、問題は、相手の態度です」

赤城「何ですかね、あの態度。いえ、彼女の存在そのものがファイターへの侮辱です。戦い方も、戦いへの姿勢も、私たちを馬鹿にしています」

赤城「あんな形で私が負けることになったら……私は、私自身を抑えられないでしょう。きっと、怒りと憎しみでおかしくなると思います」

赤城「ですので、今後羽黒さんはリングに上げないでいただきたいです。本人もそれを望んでいないようですしね」



赤城「私は今のままで良いと思っています。本人が辞退されたんですから、ここに来て本戦への再参加なんて虫のいい話でしょう」

赤城「いくらUKF絶対王者だと言っても、そんな特別扱いをする必要はないと思いますけどね。まあ、多少残念な気持ちはありますよ」

赤城「私がUKFに参戦してから随分経ちますが、未だ長門さんと戦う機会はないままです。そろそろ一戦交えたいところではあります」

赤城「ですが、それとこれとは話が別です。優勝争いは誰もが平等な条件で参加すべきですから、横から入ってくるような真似は勘弁してほしいです」

赤城「正直に行って、優勝だけを目的に絞れば、長門さんは最も邪魔な存在です。消えてくれてよかったと、心から思っていますよ」


特別インタビュー:戦艦棲姫



戦艦棲姫「1ツ聞クガ、アノ羽黒トイウヤツハ本当ニ艦娘ナノ? ドウモ違ウ気ガスル……私タチ、深海棲艦ト同ジ匂イガスルワ」

戦艦棲姫「アンナニ冗談地味タ強サヲ持ツ仲間ガイルワケジャナイ。ダケド、アイツノ雰囲気ハマサニ深海棲艦ソノモノヨ」

戦艦棲姫「戦イタクハナイ。ダガ、会ッテミタイ。話セバ仲良クナレルト思ウ。アイツハキット、コチラ側ノ存在ダ」



戦艦棲姫「大和ニ長門、私ノ標的ガ2人モ消エタワ。コレジャ手間ガ増エルバカリデ、イツマデ経ッテモ向コウニ帰レナイジャナイ」

戦艦棲姫「ツイサッキ知ッタンダガ、コッチデハ路上ノ決闘ハ禁止ナンデショウ? 私カラ襲エバイイコトダケド、邪魔ガ入ルノハ御免ヨ」

戦艦棲姫「セッカク贅沢ナ戦イノ場ガアルンダカラ、長門ハゼヒリングノ上デ殺シタイ。ソノ機会ガナクナルノハ困ルノヨ」

戦艦棲姫「何デモ良イカラ、長門ト戦ワセテ。ソノタメニコンナ場所マデ来タノヨ。ソレガ出来ナイナラ……私ハ何ヲスルカワカラナイワヨ」


特別インタビュー:グラーフ・ツェッペリン



グラーフ「長門への勝算はある。だが、羽黒には勝てない。あれほどの技量の持ち主と戦う術を私は持ち合わせていない」

グラーフ「羽黒の動きは私の反射神経を遥かに凌駕している。タイミングを読むことも不可能だろう。羽黒と戦って勝ち目はない」

グラーフ「だが、私が死ぬことを前提に考えれば、殺すことはできる。それでも可能性は低いと言わざるを得ない」

グラーフ「あの2人が同時にグランプリから消えたのは願ってもない僥倖だ。このような幸運に恵まれたのも、総統閣下の神意によるものだろう」

グラーフ「必ずグランプリを制せよという、総統閣下からの天啓だ。これで私の優勝は確定的なものになったことは間違いない」



グラーフ「質問の意味がわからない。私が閣下から賜った任務はグランプリの制覇。長門を倒すことではない」

グラーフ「長門は飽くまで優勝を阻む障壁の1つに過ぎないのだ。それが自らいなくなったのなら、私の目的にとっては好都合だ」

グラーフ「しかし理解しかねる。なぜ代役として、ビスマルクを選んだのだ? あんな鉄クズ以下のガラクタをUKFが保有していた事自体が不可解だ」

グラーフ「所詮、あれは失敗作。今度も結果は敗北で終わるだろう。そのときは速やかに処分してもらいたい。あれの存在は私にとって不愉快だ」


特別インタビュー:榛名



榛名「……長門さんが私以外の相手に負けるはずはないと思っていました。強いショックを受けています」

榛名「羽黒さん……あれは、ものが違う。長門さんとも、鳳翔さんとも異なる、根本から全くの別物だと感じました」

榛名「もし、私が戦うことになっていたら……長門さんと同じことになっていたでしょう。勝てる、とは言い難い」

榛名「戦う前から相手に恐れを抱いたのは初めてです。そんな自分が許せない……私はまだまだ未熟です」



榛名「認められません。私がグランプリに参加したのは、長門さんを倒すためです。優勝なんて眼中にありません」

榛名「2回戦進出を辞退した、長門さんのお気持ちは痛いほどわかります。しかし、それでも納得することはできかねます」

榛名「無差別級王者たる長門さんが不在になれば、グランプリ優勝者という称号など、有名無実のものと化してしまうのは言うまでもないでしょう」

榛名「長門さんにも彼女なりの譲れないものはあるかと思いますが、それは私にもあります。どうか、戦う機会を作っていただきたい」


特別インタビュー:隼鷹



隼鷹「いやあ、ビビったよ。超強いって聞いてた長門を瞬殺なんてね。あのレベルに到達した武術家って、大陸史でも1、2人くらいじゃない?」

隼鷹「もし抽選であたしが羽黒と戦うことになってたとしたら、ゾッとするよ。あんな化け物みたいなやつとやりたくはないね」

隼鷹「勝てるかって? んー……勝てない、とは言いたくないね。こっちにもプライドってもんがあるんだ」

隼鷹「ただ、まあ。やりたくないってのは認める。あたしはスポーツマンじゃなく武術家だからね。できるかぎり楽な相手とやりたいのさ」



隼鷹「そんなの、良しとするに決まってるじゃん。こっちは酒代を稼ぐために参加してるんだ。戦闘狂ってわけじゃないんだよ」

隼鷹「自分を試すためとか、最強になるためとか、そういう目的で参加してるやつを否定はしないけどさ。あたしはそういう理由で戦ってないんだ」

隼鷹「あたしは自分の武術でなるべく良い思いをしたいんだよね。最強の座よりも、あたしにとっては旨い酒のほうが大事さ」

隼鷹「ってことだから、羽黒と長門が消えてくれたのは超ラッキーだね。これでBブロックを勝ち抜くのがだいぶ楽になったよ」

隼鷹「あんまり苦労したくはないもんでね。できることなら、長門ちゃんにはグランプリが終わるまでのんびりしててくれることを望むよ」


特別インタビュー:吹雪



吹雪「別に驚くことでもないんじゃないですか? 長門さんだって、たまには負けることもあるでしょう。あんなの運ですよ、運」

吹雪「羽黒さんが特別強いとは思いませんね。ええ、勝てます。勝ってみせますよ、絶対に。長門さんが無理でも、私なら勝てます」

吹雪「勝算? そんなの……そんなの、あるに決まってるじゃないですか。楽勝ですよ。あんな根暗の鬱病患者、簡単に倒せます」

吹雪「私は認めませんから。あんなふざけたやつが強いだなんて……絶対に認めない。例え死んでも、それだけは認めるわけにはいかないんです」



吹雪「なんていうか、要は勝ち逃げでしょ? ファイターって一度負けると連敗するパターンが多いから、負けるのが怖いんじゃないですか?」

吹雪「逃しませんよ。長門さんが大して強くないにせよ、その名前はA級のブランド物なんです。その肩書だけは渡してもらわないと困ります」

吹雪「だいたい、1回負けたくらいで何をふてくされてるんですか? 贅沢なんですよ、こっちが何度敗北から這い上がってきたと思ってるんですか」

吹雪「絶対王者が聞いて呆れます。今まで散々持て囃されてきたんですから、無差別級王者として最低限の責任は果たしてほしいですね」


特別インタビュー:ビスマルク

(現在、修復作業中につきインタビュー不能)



明石「えー、急遽お集まりいただきありがとうございます! 第3回UKF無差別級グランプリ、実況の明石です」

香取「解説兼審査員長の香取です。今日は大事なお知らせがあって、こういった場を設けさせていただきました」

明石「御存知の通り、長門選手は1回戦で判定勝利を収めながらも、その結果を不服として2回戦への進出を辞退されました!」

明石「つまり、ここから先のグランプリは、無差別級王者不在という形で優勝を争うことになってしまうのです!」

明石「今までの無差別級グランプリは、優勝が即ちUKF無差別級王者の座に着くことでした! しかし現在、その構図がうやむやになっております!」

明石「長門不在のグランプリを良しとするか否か! 2回戦進出を決めた選手たちに意見を求めたところ、4対3で否とする声が過半数でした!」

明石「周囲からも長門選手不参加でのグランプリ進行に異議を唱える声が多数寄せられています! そこで、大会ルールに若干の変更を加えます!」


明石「まずお断りさせていただきたいのですが、長門選手の途中参加はありません! それを許すと、大会の公平さを欠くことになってしまいます!」

明石「グランプリの進行はこのまま行われ、優勝賞金などにも変更はありません。しかし、得られる称号は今までと異なるものになります!」

明石「第3回UKF無差別級グランプリの優勝者に与えられる名は、第3回大会優勝者の称号のみ! 無差別級王者は長門選手に据え置きとします!」

香取「今までは長門さんがいたから、グランプリ決勝がそのまま無差別級王者決定戦になっていたけど、こういう状況になってしまったものね」

香取「王者の称号は一旦、長門さんに預かっておいてもらうことにして、それとは別に優勝者を決めるって感じになるわ」

明石「もちろん、これだと長門選手の勝ち逃げと捉えられかねません! 無差別級王者決定戦は、機会を改めて行なっていただくことになります!」

明石「その機会というのがこれだ! 『UKF無差別級ドリームマッチ』の開催をここに告知致します!」


明石「このUKF無差別級ドリームマッチとは、これまで出場した選手の中から、対戦の要望が強い者同士で試合を行なっていただくという内容です!」

明石「あの選手とあの選手、一体どっちが強いんだ!? ドリームマッチとは、そういった疑問へ明確な答えを掲示する舞台なのです!」

香取「立ち技格闘家で本当に最強なのはどっちなのか、とか。あるいは、UKF真の最凶はどっちなのか、っていう風な対戦カードになるでしょうね」

香取「まだ本戦が終わってないからわからないけど、ある程度の対戦カードは今からでも予想が着くんじゃないかしら」

明石「このドリームマッチの最終試合として、長門選手VS第3回UKF無差別級GP優勝者の王者決定戦を行いたいと思います!」

明石「その試合こそが、真の最強決定戦! 今大会の優勝者は、最強の艦娘の座を賭けた試合への挑戦権を手に入れる形になります!」

明石「長門選手はこの内容を承諾しました! 試合には、王者ではなく挑戦者のつもりで臨むという、未だかつてない意気込みを既に見せております!」


明石「ドリームマッチの詳細な対戦カード、放送日時などはまだ決まっておりません! グランプリの結果を鑑みて、それらが決定される予定です!」

明石「どうか、今はグランプリがどのような決着を迎えるのか、その点にご注目ください! 全てはその結果次第です!」

香取「優勝者が誰になるかで、対戦カードは大きく変わってくるでしょうしね。今はそういう大会が開催されることだけ知っておいてもらえれば」

明石「告知は以上です! グランプリが終わっても、全てが終わるわけではない! まだまだ戦いは続きます!」

明石「本日はこの辺で! どうもありがとうございました!」

香取「本戦の放送日は7/23(土)です。遅れないよう私からも言っておきます。ではさようなら」

エキシビションマッチの対戦カードが確定しました。

正規空母級”ウォーキング・デッド” 翔鶴 VS 重巡級”静かなる帝王” 妙高

同時に3戦目のエキシビションマッチ出場者も確定する形になるため、リクエストはこれにて一旦締め切りとさせていただきます。
ご投票いただきありがとうございました。予定には間に合う見込みです。

つい先日まで絶好調だったのに、急に調子が悪くなりました。なぜだ、なぜなんだ。
本当に申し訳ありませんが、プラス2日だけ時間をください。お願いです、お願いします……

誠に勝手ながら放送日を7/25(月)22:00~に変更させていただきます。
新しく仕入れたアッパー系の薬がここまで効かないとは思わなかったんです。本当に申しわけありません。

目処が立ちました。次の予定日は大丈夫です。

ところで、羽黒はグランプリが終わった後にもう1試合だけ出すことが決まりました。
羽黒の正体はその試合で明らかになり、同時に完結すると思われます。

予期しない方向性で期待が高まると困るので、最初にお断りさせていただきます。

羽黒の相手は鳳翔さんではありません。

嘘だろ? さすがに眠いからちょっと横になろうと思っただけなのに。

申し訳ありません、爆睡してしまいました。ビスマルクは勘弁してください。あの子はずっと眠らせてたんで空腹なんです。
今日の22:00に今度こそ放送します。大丈夫です。もう全部用意はできてるんで。

起きてます。


大会テーマ曲

https://www.youtube.com/watch?v=7IjQQc3vZDQ


明石「さあ始まりました! これより第3回UKF無差別級グランプリ、2回戦を開催いたします!」

明石「実況はお馴染みの明石、解説兼審査員長には香取さんでお送りします! この度は大会運営委員長がアレなせいでお待たせすることになり、申し訳ありませんでした!」

香取「香取です。大会運営委員長には今後、何らかのペナルティを与えるつもりです。遅刻1回につき指1本とか」

明石「本日の日程はA、Bブロック2回戦の計4試合、加えてエキシビションマッチ2戦目の合計5試合を執り行います!」

明石「それでは早速試合に移ります! Aブロック第1試合! 赤コーナーより選手入場! 優勝への期待が掛かる、彼女の登場です!」


試合前インタビュー:扶桑

―――扶桑選手は以前、赤城選手に勝利されています。今回も勝てる自信はおありでしょうか。

扶桑「……正直に言って、前回の対戦は運が良かったんだと思っています。苦し紛れに出したパンチがたまたま入った、という印象です」

扶桑「地力では明らかに押されていましたし、時間制限のあるルールなら、間違いなく私の判定負けでした。赤城さんが強いことに疑いはありません」

扶桑「今回も苦しい戦いになると思います。それでも……私が勝ちます。自信だってあります。それだけのことはしてきました」

―――対策などは考えられてきていますか?

扶桑「考えはしたんですけど、無駄だという結論になってしまいました。赤城さんは全く欠点のないストライカーですから」

扶桑「多少の小細工を弄する余地はあるかもしれませんが、結局、赤城さんに勝つために必要なのは真っ当な強さだと思うんです」

扶桑「以前の私にはそれが足りていませんでした。でも、今は違います。今の私なら、赤城さんに通用します」

扶桑「対策はありません。真っ向から勝負します。赤城さんに勝つには、それが一番いい方法だと思いますから」

―――赤城選手は以前の敗北により、扶桑選手のことを憎んでいるという話を聞いています。何かコメントはありますか?

扶桑「……赤城さんがそういう人なのは知っていました。穏やかなふりをしていますけど、その内側にどす黒く燃える炎があるのを感じます」

扶桑「でも、ファイターってそうあるべきなのかもしれませんね。最強は自分だと信じて疑わず、己を負かした相手には絶対に復讐する」

扶桑「そういう貪欲さは、間違いなく私より赤城さんのほうが上なんでしょう。だからといって、それで勝負が決まるわけではないと思います」

扶桑「私だって、誰にも負けたくありません。この気持ちだけなら、赤城さんにだって負けていないはずですから」


扶桑:入場テーマ「Chthonic/Broken Jade」

https://www.youtube.com/watch?v=heF_NPJbv8Y


明石「1回戦では柔道家、大和選手に逆転勝利! 永遠に沈まぬ奇跡の戦艦が、悲願の優勝へ向けて更なる進撃を仕掛ける!」

明石「空手、柔道に加えてボクシングの技術を会得し、グランプリ制覇の準備は万全! どんな相手であろうと、この手に勝利を掴み取る!」

明石「奇跡とは、己の力で起こすものなのだ! ”不沈艦” 扶桑ォォォ!」

香取「さて、長門さんの出場辞退によって、扶桑さんは優勝への期待が最も高くなった選手の1人でしょう。何としても負けられないわね」

明石「大和選手に勝ったこともあり、期待度は増すばかりといったところですね。本人もそういうプレッシャーを感じているのではないでしょうか」

香取「どうかしら。あまり感じてないと思うわよ。だって、扶桑さんは最初から優勝だけを目標にしているんだから」

香取「どの選手にも言えることだけど、長門さんのいないこの状況でも、結局やることは変わりないわ。目の前の相手にただ勝ち続けるだけ」

香取「扶桑さんは誰よりもそのことを理解しているはずでしょう。精神的な乱れが起こるなんてことはないと断言できるんじゃないかしら」

明石「そうですね。注目すべき点として、まだ扶桑選手は新しく会得したボクシング技術を全て見せてはいない、という点でしょうか」


香取「そうね。大和さんとは正面対決というより、試合展開をコントロールしての奇襲で終わらせたから、基本技術はあまり見れなかったわね」

香取「最後のパンチのラッシュは見事なものだったけど、扶桑さんはまだ武蔵さんから伝授された技術、フットワークや打撃を攻防を見せていない」

香取「底上げされた基本技術がどこまで上達しているか、それがここからの試合を扶桑さんが勝ち抜くための重要なポイントになるんじゃないかしら」

明石「なるほど。例えばボクシングの……? えーっと、ちょっと待って下さい。えっ? 赤城選手がもう入場してくる?」

明石「いや、ちょっと早いですよ。もう少し扶桑選手の話を……はあ? 止められないってどういうことですか?」

香取「どうしたのよ、何かあったの?」

明石「えっと……なんか、もう赤城選手が入場してくるみたいです。スタッフにも止められないそうで」

香取「そういうのって、スタッフが呼び込んでから入場してくるものじゃないの?」

明石「どうも赤城選手が勝手に……えっ、もうコールするんですか? あーはいはい、わかりました!」

明石「ちょっと早いですが、青コーナーより選手入場! 立ち技王者が過去の因縁を晴らしにやってきます!」


試合前インタビュー:赤城

―――赤城選手は第1回UKF無差別級グランプリにおいて、扶桑選手との試合で敗退されています。リベンジへの意気込みをお聞かせください。

赤城「確かに敗北はしました。でも、あんなのはただのラッキーです。扶桑さんに珍しく幸運が舞い降りたというだけですよ」

赤城「奇跡は2度も続けて起こりはしません。もうラッキーパンチを当てられるようなことは決してないでしょう」

赤城「実力なら私のほうが全てにおいて上です。ようやくこのときが来ました。ずっとあの女を殺したいと思っていたんです」

赤城「私の栄華への道を阻んだ罪は死よりも重い。そのことを知らしめる機会を待ち望んでいた。ようやくだ、遂に復讐のときが来たのだ!」

(インタビュー用のマイクが握り潰される音)

―――あの、マイクが……

赤城「この赤城の戦績に泥を塗り付けた不届き者どもが! しかし、私は負けてなどいない! 貴様らが勝てたのは、幸運に恵まれたからだ!」

赤城「扶桑には偶然のカウンターで、武蔵には不意討ちのタックルで破れた! 真っ向から戦えば、錆び付いた戦艦風情に私が負けるはずはない!」

赤城「最強はこの赤城だ! 異を唱えるウジ虫どもは、片端から蹴り殺してくれる! まずは扶桑、貴様からだ!」

赤城「劣等なるクズ鉄製の浮舟ごときが、奇跡の戦艦などと持て囃されおって! それも今日で終わりだ、貴様の惨たらしい敗北と死で終わる!」

赤城「出し惜しみはせんぞ! 禁じ手の殺し技、全てを使って貴様を殺す! 頭を蹴り砕き、顔を踏み潰してくれるわ!」

赤城「ここより先は地獄の門! 門番はこの赤城、待ち受けるのは屍山血河! 己が血の作り出す緋色の水底に沈んでいくがいい!」

赤城「我が地獄は貴様を喜んで受け入れるぞ、扶桑! 灼熱の血の海に溺れ、悶え苦しみながら死ね! 貴様の死で、我が復讐は成る!」

赤城「苦しみと死の果てに、己が罪の重さを思い知れ! 真の王者たるこの私に土を付けた、その業の深さを! 私への不敬は万死に値するのだ!」

赤城「さあ、道を開けろ! 一刻も早くあの女を殺せと全身が疼いている! 邪魔をするなら、貴様らから先に縊り殺してやろうか!」


赤城:入場テーマ「Setherial/Hell Eternal」

https://www.youtube.com/watch?v=2cU-6l3GJWQ


明石「第1回UKF無差別級グランプリ! 圧倒的優位に試合を進めるも、扶桑選手のカウンターにより逆転KO負け! 3回戦敗退となりました!」

明石「そして続く第2回無差別級グランプリ! ボクサーである武蔵選手に不意討ちのタックルを喰らい、終始一方的な展開! 結果は2回戦敗退!」

明石「武蔵、そして扶桑! 片時も忘れたことのないこの屈辱を、晴らすときがやってきた! 血に飢えた復讐鬼が今、リングに上がります!」

明石「今宵の暴君はいつにも増して荒れ狂っている! ”緋色の暴君” 赤城ィィィ!」

香取「……なんて顔してるの。笑顔かって言われれば笑顔だけど、まるで噛み付く寸前の猛獣みたいな表情をしてるわ」

明石「放送席まで伝わってくるほどの殺気ですね……赤城選手が試合前にここまで本性を露わにするのは初めてではないでしょうか」

香取「以前から、赤城さんが自分に最初の黒星を付けた扶桑さんを憎んでいることは噂されていたわ。まさか、これほどとは思わなかったけど」

香取「普段の赤城さんは冷静な振る舞いに務め、その内にある凶悪な本性が垣間見えるのは試合のときだけだったわ」

香取「それなのに、今日はそれを隠そうともしていない。というより、隠し切れないというべきなのかしら」

明石「自分でも抑えられないほどに、扶桑選手に対する憎しみが強い……ということでしょうか」

香取「でしょうね。しかも、扶桑さんのバックには、赤城さんに2度目の敗北を与えたもう1人のファイター、武蔵さんがいるわ」

香取「2人分の憎悪を抱えて、内なる怪物がとうとう顔を出したって感じね。赤城さんは、その全ての憎しみを扶桑さんにぶつける気よ」


明石「赤城選手と言えば情け容赦のない試合運びで知られていますが……その戦いぶりが更に激しくなりそうですね」

香取「考えるだけでゾッとするわね。一体、何をしてくるのか……おまけに、赤城さんにはまだ出し切っていない技があるわ」

明石「那珂ちゃんとの試合で一瞬だけ見せた、古式ムエタイの技のことでしょうか」

香取「そうよ。ムエタイが競技化される前の、戦場や決闘で使われることを前提にした徒手格闘術。近代ムエタイ以上に危険な技を有しているわ」

香取「古流武術において、ここまで打撃のみに特化したものは中国拳法の流派にすらないでしょう。しかも、目的は相手を殺すことよ」

香取「戦場格闘技である古式ムエタイは、複数の敵を相手にすることも想定している。だから、1人の敵を倒すのに時間は掛けない」

香取「狙うのは肘、膝による一撃必殺。特に危険なのは肘打ちだと言われているわ。肘を急所のこめかみに受ければ、そのまま死ぬこともあるそうよ」

香取「更に、相手の膝を土台に飛び上がってから繰り出される空中技も危険ね。膝蹴りか、肘の打ち下ろしか、どちらにしろ受ければ致命傷ね」

香取「赤城さんはそういったムエタイの殺人技全てを使って扶桑さんを倒しに行くでしょう。ありったけの憎悪と殺意を込めてね」

香取「そんなものを受け止めてた上で、扶桑さんは勝たなくてはならない。今日の赤城さんは、今までで最強の赤城さんなんじゃないかしら」


明石「試合展開としては、やはり赤城選手は立ち技での攻防を狙ってきますよね」

香取「まずはそれを狙うでしょうね。冷静に行くなら、最初は様子見に打ち合って扶桑さんの打撃のレベルを図り、本気で攻めるのはそれからよね」

香取「だけど、今日の赤城さんを見てると、そういう普通の戦術は取らなさそう。いきなり決めに行くかもしれないわ」

明石「確かに冷静な感じは欠片もありませんね。早く相手を殺したくて堪らない、といった雰囲気です」

香取「こういう相手とは誰も戦いたくないでしょうね。何をしてくるのかわからない、一番怖いタイプのファイターだわ」

香取「ただでさえ赤城さんは攻略の難しいストライカーよ。組み付けば密着状態からの打撃があり、タックルへの鋭い反応速度も持っている」

香取「仮にテイクダウンを取れたとしても、ブラジリアン柔術の技がある。ストライカー特有の弱点は一切持っていないわ」

香取「結局、赤城さんを倒すには正攻法で打ち破るか、那珂ちゃんがやったような意表を突く奇襲を成功させるしかないでしょう」

明石「扶桑選手はどちらの手段を選ぶと思われますか?」

香取「どうかしらね……扶桑さんのことだから、大和さんを倒したような作戦を色々考えてきているとは思うわ」

香取「だけど、今日の赤城さんは今までと違う。あんな野獣のように闘志を剥き出しにしている相手に、おそらく心理戦のような小細工は通用しない」


香取「赤城さんは怒りのボルテージが上がるほど、試合運びが冷酷になる傾向があるわ。激情で動きに隙が生じるようなこともないと思うの」

香取「となると、取れる手段は正攻法のみ。迂闊な奇襲は墓穴を掘る恐れがある。扶桑さんは最も過酷で、真っ当な手段を取るしかないわ」

明石「つまるところ……完全な実力勝負になるというわけですね」

香取「おそらくはね。以前の対戦だって、扶桑さんはあらゆる手段を赤城さんに潰されて、終盤はほとんど手詰まりの状況だったわ」

香取「200発に及ぶ打撃を耐え抜いてカウンターを当てたのは凄いけど、展開としては終始圧倒されていた。赤城さんはそれほどの相手なのよ」

香取「あの時点での地力は赤城さんのほうが格上だったわ。お互いに成長を遂げた今、どちらが優っているかはやってみないとわからないわね」

香取「確実に断言できるのは……死闘になる、というだけだわ」

明石「……ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました。赤城選手が放つあまりの威圧感に、レフェリーすら萎縮している様子です!」


明石「対峙する扶桑選手も、やや張り詰めた表情をしております! ここまで凶暴性をむき出しにされ、流石に気圧されてしまっているのか!」

香取「赤城さんがこんなに露骨な態度で試合に臨むのは、扶桑さんも想定外、いえ想定以上のことでしょう。まずい出だしになるかも……」

明石「飢えた猛獣のような表情のまま、赤城選手がゆっくりコーナーに戻ります! 視線は扶桑選手から切らないままです!」

明石「扶桑選手もやや遅れてコーナーに戻る! セコンドの武蔵選手が何か叫んでいます、『落ち着いて行け』とアドバイスしているようです!」

明石「試合開始前から、早くも扶桑選手が相手に飲まれ気味です! 扶桑選手は冷静さを保てるのか、赤城選手は何を仕掛けてくるのか!」

明石「果たしてこの勝負、どのような結末を迎えるのでしょうか!? ゴングが鳴りました! 試合開始……同時に赤城選手が走ったぁぁぁ!」


明石「瞬く間に距離が狭まる! 扶桑選手、遅れてコーナーを飛び出し構えを取る! 上段を警戒した空手寄りの……胴タックル!?」

香取「これは……かつての武蔵さんへの意趣返し!?」

明石「なんと、赤城選手が胴タックルを仕掛けました! 扶桑選手、打撃を警戒し過ぎてしまった! 一気にバランスを崩されます!」

明石「赤城選手、朽木倒しの要領であっさりとテイクダウンを取った! 即座にパスガードに掛かる! ま、マウントポジションです!」

明石「まだ試合開始から10秒も経っていない! 劇的な速度で早くも試合の趨勢を握りました、赤城選手! 扶桑選手が追い込まれている!」

明石「いや、扶桑選手もすぐさま反撃の体勢を整えます! 素早く相手を抱き込んで密着させました! まずはパウンドを封じ込みます!」

明石「そのまま横に引き剥がそうとしていますが、赤城選手はブラジリアン柔術の有段者! 巧みにマウントを維持し、全く離れません!」


明石「ここで赤城選手、肘打ちを繰り出した! 首を狙っています! この密着状態では威力は減衰する反面、防ぐことも出来ない!」

明石「赤城選手は冷静だ! はち切れんばかりの殺意を制御し、着実な試合運びで扶桑選手にダメージを蓄積させてします! 扶桑選手危うし!」

香取「まずい展開ね。赤城さんは打撃勝負に拘るんじゃないかと思ってたけど、そんなことはどうでもいいみたい」

香取「赤城さんは最善、最良の手段で勝ちを狙っているわ。やはり激情による隙はない、どうにか扶桑さんはこの状況を抜け出さないと……!」

明石「赤城選手、更に肘で頭部を狙います! カットして出血させることが目的か! 密着状態のまま、地道にダメージを与えようとしています!」

明石「これ以上肘をもらい続けるわけにはいかない! 扶桑選手が密着状態を解きます! それだけではない、赤城選手の両襟を掴んだ!」

明石「そして襟を力の限り交差させた! 十字絞めです! 襟で頸動脈を極める絞め技だ! マウントを取られたまま、赤城選手を仕留めに掛かる!」


明石「攻撃に集中し過ぎたか、赤城選手は対応が遅れました! 絞めは完全に入っている! しかし、両腕はフリーです! 反撃は可能!」

明石「赤城選手の反撃より先に、扶桑選手、落とせるか!? 赤城選手はどのように……肩を掴んだ!? これは、パウンドでも絞め技でもない!」

明石「膝が振り上がったぁぁぁ! マウント状態からの膝の振り落とし! 狙いは急所の下腹部! この一撃は危険だぁぁぁ!」

明石「落とした! 地響きのような衝撃がマットを揺るがせます! 間一髪、扶桑選手は身を躱しました! 同時にマウントポジションからも脱出!」

明石「一度距離を取ろうとする扶桑選手に、赤城が追いすがる! 重心が低い! 足を狙ったタックルだ! なおも赤城、グラウンドを狙う!」

明石「扶桑選手は足を引いてタックルを切っ……は、ハイキック炸裂ぅぅぅ!? あの体勢から!? 右のゼロ距離ハイキック繰り出されました!」


明石「タックルをフェイントに使い、ほぼ垂直に振り上がる脅威のハイキック! 扶桑選手の側頭部にヒット! 大きく体勢が崩れます!」

香取「上手い! 1つ1つが必殺、しかも次の動きにまで繋げている。完璧な戦いぶりだわ。今の、ガードを下げてたら終わってたわよ」

明石「おっと、扶桑選手ダウンしない! どうやら左のガードを上げたままにしておいたようです! ハイキックのクリーンヒットは回避!」

明石「しかしガード越しでも体勢を崩すほどの、恐るべき蹴りの威力! 赤城選手、今度はレバーブローを狙った! これは肘でブロックされる!」

明石「体勢を立て直すため、扶桑選手は一時退却! 今度は赤城選手も深追いはしません、こちらも構えを取り直します!」

明石「赤城選手がガードを上げた! アップライト気味のムエタイの構えです! 同じように扶桑選手も頭部のガードを固めます!」


明石「共にフットワークを使いながら距離を詰める! 今まで見られなかった扶桑選手のフットワークです! これは打撃戦になるか!」

香取「扶桑さんは気持ちの面でも持ち直せたようね。ここからの攻勢が肝心よ。うまく距離を計りながら打ち合う必要があるわ」

香取「中距離では有利かもしれないけど、蹴りと首相撲からの打撃は赤城さんに一日の長がある。フットワークをどれだけ使えるかが勝負の分け目ね」

明石「まもなく接敵します! 先手を取ったのは赤城選手! いきなり右のハイキックだ! 扶桑選手、これをダッキングで回避!」

明石「そのままアッパーカットで反撃に移る! スウェーで躱された! 同時に赤城選手、下段への前蹴り! つま先が膝に入りました!」

明石「扶桑選手、下がらずに左フック! これもスウェーバックで回避、更に下段前蹴り! またも膝に蹴りが当たります!」

明石「足へのダメージはさほどではないようですが、前蹴りによって扶桑選手、踏み込みが止められてしまっています! 距離を詰められない!」


明石「距離が開くやいなや、再び赤城選手のハイキック! いや、軌道が変わった! ミドルキックだ! 蹴りが頭部ではなく中段を狙う!」

明石「辛うじてブロックが間に合いました! 蹴りの間合いを潰そうと扶桑選手、前進! しかしその足を下段前蹴りが止める!」

明石「巧みに距離を維持し、パンチを打たせません! やはり立ち技の攻防は赤城選手が一枚上手か! 扶桑選手、中距離に入れない!」

香取「さすがに打撃戦をやり慣れてるわね。浅い前蹴りでフットワークを潰して、自分の得意な間合いを完璧に保ってるわ」

香取「何より恐ろしいのは、あの殺意に満ち満ちたコンディションでこんな地道な戦い方をやってのける精神性ね。扶桑さんもかなりやりにくそうよ」

明石「ここで扶桑選手、ローキックを放ちました! 赤城選手は脛受け! 堅牢な脛にブロックされ、下段蹴りは通りません!」

明石「フットワークで回り込もうとしますが、赤城選手も俊敏さでは負けていない! しっかりと正面に扶桑選手を捉え、照準を外しません!」


明石「今度は赤城選手がローキック! 扶桑選手も脛受けで対抗しますが、威力が段違いだ! 脛ごと叩き折ろうとするかのような強烈な蹴り!」

明石「もう1発ロー、いやミドルキック! 肘で受け止めました! 赤城選手の蹴り技が冴え渡る! 立ち技絶対王者の名は伊達ではない!」

明石「その獰猛なオーラとは裏腹に、着実な戦法で試合の主導権を握っています、赤城選手! 扶桑選手はどう反撃するのか!」

香取「上、中、下段に蹴りを打ち分けてきたわね。あれをやられるとかなり厄介よ。どこをガードすべきなのか、見分けが付きにくくなるのよ」

香取「下段、中段の蹴りに目が慣れた頃合いにハイキックを打たれると、驚くほどあっさり蹴りをもらうことが多いわ。それを狙われてるわね」

香取「逆にハイキックを警戒し過ぎれば、下段、中段にクリーンヒットが入る。赤城さんの蹴りはどこに当たっても効く。まずい展開だわ」

明石「再びローキック! 足を浮かせて受けたのに、体勢が崩れた! 脛受けが通用しません! 恐ろしい蹴りの威力です!」

明石「まともに太腿へ入れば、一撃で機動力を奪われ兼ねない! 追撃を避けて扶桑選手が後退! 赤城選手は前進します!」


明石「更にローキック! 今度は左で太腿を狙いました! 浅めの蹴りですが、命中! 徐々に足へのダメージが浮き彫りになりつつあります!」

明石「この状況を覆す術はあるのか、扶桑選手! またもや赤城選手はローキッ……違う、足が振り上がった! ここで右のハイキックだぁぁぁ!」

明石「いや! 扶桑選手は読んでいた! 蹴りと同時に突進! ハイキックの懐に入り込みました! キックの間合いを潰した!」

明石「蹴り足を抱え込みました! 扶桑選手、ハイキックの攻略に成功! 赤城選手が片足立ちを強いられます! 大きなチャンスを手にしました!」

香取「そろそろ下段に目が慣れたから、ハイキックを打ってくるとヤマを張っていたのね。いえ、最初からハイキック封じを狙っていたんだわ」

香取「右脚を抱え込めばキックはおろか、立つことで精一杯よ。後は押し込むだけでテイクダウンが取れるはず……ちょっと、嘘でしょう!?」

明石「扶桑選手、そのまま一気に押し込んだ! テイクダウンを……取れない!? 赤城選手、片足のままスタンド状態を維持しています!」


明石「前に押されても、横へ引っ張られても、巧みにバランスを維持している! あんな不安定な状態で、まるで倒れる気配がありません!」

明石「逆に右脚を抱え込こんだ、扶桑選手のほうが攻めあぐねている!? この状態では打撃が使えず、倒せないならやれることがない!」

香取「いえ、あるわ。押し込んで倒せなくても、関節技なら……!」

明石「赤城選手は構えを解いていません! まさか、この体勢からでも打撃を使うことができるのか! あっ、抱えられた足を押し込んだ!」

明石「同時に片足の赤城が踏み込む! 右ストレート!? あんな体勢から、あれほど鋭いパンチを! 扶桑選手の頬を掠めていきました!」

明石「片足を取らせたまま、仕留めようというのか! かといって扶桑選手も足を放すわけには……あっと、今度は扶桑選手、足を後ろに引いた!」

明石「そして跳びついた! 関節技です! 跳び膝十字固めだぁぁぁ! 極まれば勝負は決まっ……飛び蹴り!?」

香取「あんな体勢から!? どんな体のバネしてるのよ!」

明石「赤城選手が軸足で跳んだ! 同時に扶桑選手のあごへ飛び蹴りが炸裂ぅぅぅ! 膝十字が解けます! 関節技は不発!」


明石「両者、リングに倒れ込む! 先に起きたのはダメージのない赤城選手! 扶桑選手も遅れて起きますが、もう遅い! 一息で組み付かれた!」

明石「扶桑選手が最も避け、赤城選手が最も望んだ展開がやって来ました! ムエタイの真骨頂、首相撲! ここからの打撃は、赤城の領域です!」

明石「まずは赤城、頭を押し下げようとしています! しかし、それだけは避けねばならない! 扶桑選手、抵抗しつつレバーブローを放った!」

明石「命中しましたが、密着状態では威力がない! 逆に赤城選手の打撃は、この状態でこそ真の脅威を発揮するのです!」

明石「わずかに下がった頭部に、肘の打ち下ろしが入ったぁぁぁ! これは痛烈だ! 一撃で裂傷が入った! みるみる出血が始まります!」

明石「もう肘を打たすわけにはいかない扶桑選手、腕で頭部を守った! そこへすかさず膝蹴りぃぃぃ! 戦慄の膝があごを打ち抜きました!」

明石「浮き上がった頭を、赤城選手が無理やり押し下げる! これが意味するのは、処刑人が咎人の首をギロチンに固定したのと同じ!」

明石「始まったぁぁぁ! 膝蹴りの連打です! 顔面、ボディ! 顔面、顔面、ボディ! 戦慄の膝蹴りが容赦なく扶桑選手を襲う!」


明石「扶桑選手が両手でガードを試みますが、全ては防ぎ切れない! 首を制されたこの状態では、距離を取ることも叶わない!」

明石「ボディ、顔面、顔面、顔面! 血がマットに飛び散りました! 全ての対戦者を血の海に沈めてきた、この戦い方こそ緋色の暴君!」

明石「この状態に持ち込まれ、自力で生還できた者は1人もいない! 扶桑選手は、その初の生還者になるしか勝機がありません!」

香取「……ダメージを受けて過ぎてるわ。たとえ抜け出しても、まともに動ける余力が残っているかどうか……」

明石「更に顔面! ここで扶桑選手、顔を砕きにきた膝を捉えた! 再び片足の捕獲に成功しますが、これだけでは赤城は止まらない!」

明石「片足でバランスを取りながら、肘の振り下ろしです! また頭頂部に入った! 膝を抱えているため、ガードができない!」

明石「完全なジリ貧に陥りました、扶桑選手! まさか、ここで終わってしまうのか! 不沈艦がとうとう沈み……ええっ、何それ!?」

香取「も……持ち上げた!?」

明石「あ、赤城選手の膝を抱え、宙に持ち上げました! 扶桑選手にはこれほどの膂力があったのか! 地に足が着いていなければ、肘も打てない!」


明石「そのまま、スープレックスで投げ落としたぁぁぁ! 不自然な体勢で無理に投げられ、赤城選手が受け身に失敗! 完全に頭から落ちた!」

明石「首にも大きな負荷が掛かったはずです! このダメージはかなり深刻な……えっ、起きた!? 一瞬で跳ね起きました!」

香取「ダメージが、全くない!?」

明石「ダメージを受けている様子がありません! 頭からは多少の流血があるものの、呼吸も立ち姿も全く揺らぎがない!」

明石「起死回生の投げにより首相撲から生還した扶桑選手ですが、こちらは大きなダメージを負っています! 顔は血にまみれ、呼吸は荒い!」

明石「武蔵選手を思わせる膂力は凄まじいものでしたが、あの投げで体力を消費してしまったか! スタミナは残りわずかに見えます!」

明石「対する赤城選手は余力十分、目に殺意がみなぎっています! どうやら、怒りと憎しみでダメージを感じていない模様!」

明石「しかも、赤城選手が取っている構えは、従来のムエタイのものではありません! ステップを止め、中段に拳を構えた!」


明石「先の試合で那珂ちゃんにトドメを刺した、古式ムエタイの構え! 戦場格闘技としての殺し技で扶桑選手を仕留めるつもりです!」

明石「扶桑選手はこれを打ち破らなければならない! 扶桑選手に構えの変更はありません! 頭部をガードで固め、フットワークを始めます!」

明石「まだ戦う力は残っている! この勝負はどちらかが身も心もへし折れるまで、終わることはないのです!」

明石「扶桑選手が一歩踏み出す! 同時に赤城選手も動く! 赤城のほうが速い! 一息で蹴りの間合いに入った! まずは中段前蹴りを放つ!」

明石「これを扶桑選手、パリィで捌く! が、ただの前蹴りではない! 赤城選手が跳んだ! 二段前蹴りです! 二発目の蹴りが水月にヒット!」

明石「わずかに扶桑選手がよろめく! その隙を見逃さず、赤城が至近距離へ間合いを詰める! 肘の射程距離です! 迷わず肘打ちを放った!」

明石「側頭部狙いの一撃は、左腕でブロック! しかし瞬時に赤城が身を翻す! バックエルボーです! 顔面、いや軌道が変わった!」


明石「肘が脇腹に突き刺さった! これは相当に効いている! 扶桑選手が体勢を崩す! 更に追撃が……いや、赤城選手もよろめいた!?」

明石「ふらつくように赤城選手が後退! その額には脂汗が吹き出ています! 腰の右側あたりを手で庇っていますが、これは!?」

香取「今のは相討ちだったみたいね。扶桑さんはバックエルボーを受ける寸前に、キドニーブローを放っていたのよ。ボクシングでの反則技ね」

香取「いわゆる腎臓打ち。骨格で守られていない内蔵の1つ、腎臓を狙って打つ。腎臓は背中側にあるから、普通は打てないんだけど」

香取「赤城さんは不用意に背中を向けてしまったわね。ボクシングにはこういう裏技があることくらい、警戒しておかなくちゃ」

明石「共にボディへ強烈な打撃を受け、すぐには攻撃に移れない! ですが決して倒れてはいない! まだどちらも戦意高揚!」

明石「ほぼ同時に両者が立ち直ります! 赤城選手はやはり古式ムエタイの構え! 扶桑選手はフットワークでそれに対抗します!」

明石「赤城選手が先に動いた! 蹴りは打たない! 一気に至近距離まで迫るつもりです! 扶桑選手はサイドに回り込む!」


明石「しかし、即座に赤城選手も追う! 扶桑選手の放った左フックをくぐり抜け、懐に入った! そして膝蹴りぃぃぃ、カウンター!?」

香取「うっわ……」

明石「ず、頭突きです! 扶桑選手、懐に潜り込んできた赤城選手目掛けて、頭突きを敢行! 赤城選手、顔面へもろに食らった!」

明石「先の首相撲での攻防とは逆に、扶桑選手のほうが赤城の頭を掴む! そしてもう1発頭突きぃぃぃ! 赤城選手の顔から血が迸る!」

明石「扶桑選手が手を放した! もちろん、終わらせたわけではない! ショートアッパーが入ったぁぁぁ! 続いて、ダメ押しの右フック!」

明石「これも顔面に入りました! 赤城選手が崩れ落ち……いや、反撃! こちらも右フックを繰り出した! しかし、スウェーで空振り!」

明石「即座に扶桑選手が右ストレートを放った! これも直撃ぃ! 中距離戦では扶桑選手が上なのか! パンチで赤城を圧倒しています!」

明石「それでも赤城選手は下がらない! 鬼のような形相で再び拳を突き出した! それよりも先に扶桑選手の左ジャブが顔面を捉える!」


明石「そのまま乱打戦にもつれ込みました! 両選手の拳が交錯する! もうガードする暇すら惜しい! 矢継ぎ早にパンチが繰り出されます!」

明石「赤城の左フックが命中! 扶桑選手のレバーブローも入った! 一進一退の打撃戦です! 扶桑選手、打ち続けることで蹴りを出させない!」

明石「どちらも止まりません! 顔面とボディに無数の拳が入っている! ですが……徐々に、徐々に赤城選手が押されている!」

明石「スピード、技術、パワー、全てにおいてほんのわずかに扶桑選手が上回っている! 赤城選手が手数で押し込まれていきます!」

明石「扶桑選手のパンチが入る度に、赤城選手が後退していく! 押されている! 立ち技王者と呼ばれた赤城選手が打撃で圧倒されている!」

明石「とうとうコーナーまで押し込まれてしまった! 扶桑選手が休まずラッシュを打ち続ける! 赤城選手の反撃が徐々に減っていきます!」


明石「ここで左フックがあごへクリーンヒットォォォ! 赤城選手が前のめりに崩れる! そしてトドメのアッパーカットォォォ!」

明石「これも入ったぁぁぁ! 浮き上がった頭目掛けて! 渾身の右ストレートが放たれる! これは……躱された!?」

香取「まだ意識があるの!?」

明石「ダッキングで躱されました! まだ赤城選手は死んでいない! 一気に体を浮き上がらせ、跳んだ! フェンスを利用して跳び上がりました!」

明石「フェンスを掴んでの跳躍! そこから、肘を振り下ろしたぁぁぁ! 狙うは頭頂部! これが決まれば一発逆転だぁぁぁ!」

明石「ご……轟音が鳴り響きました! マットを揺るがすような衝撃です! ゴングが鳴りました! 試合終了です!」


明石「勝ったのは、扶桑選手! 最後の肘の振り下ろしを、見事な背負い投げに繋げました! 頭から落とされ、今度こそ赤城選手は失神!」

明石「未だかつてない凶暴さで襲い掛かる赤城選手の猛攻を受けながら、その殺意を真正面から打ち砕きました! 扶桑選手、文句なしの勝利!」

明石「もうラッキーパンチなどとは言わせない! 正真正銘、扶桑選手の勝利です! 立ち技王者赤城、ここに敗れ去りました!」

香取「……強いわね。赤城さんを真っ向から倒し切るなんて。いえ、強くなったというべきかしら」

香取「赤城さんの得意技は蹴りや肘だけど、パンチだって並のプロボクサーじゃ太刀打ちできないレベルなのよ。それを正面から打ち負かすなんてね」

明石「扶桑選手はパンチだけでなく、総合力もかなり上がっていますね。武蔵選手並みの膂力さえ見せていましたし」

香取「そうね。元から扶桑さんはパワーも上のほうだったけど、基礎体力まで底上げされてるみたい。これはいよいよ隙がないわね」

香取「今の扶桑さんなら、十分に優勝を狙えるわ。次の試合にも期待させてもらいたいわね」

明石「そうですね! どうか皆様、激戦を繰り広げた両選手に、今一度大きな拍手をお願いします!」


試合後インタビュー:扶桑

―――勝因は何だったと思われますか?

扶桑「勝因、ですか? そういうのは恥ずかしいので、あまり言いたくないんですけど……私のほうが強かったからだと思います」

扶桑「赤城さんは強いです。特に、今日の赤城さんは凄かった。以前の私では絶対に勝ち目がなかったんじゃないでしょうか」

扶桑「それでも、勝ちました。あのときの赤城さんは私の遥か上の実力者でしたけど、ようやく追いつけたみたいです」

扶桑「簡単にはいきませんでしたけどね。危ない場面は何度もありました。ちょっとでも油断してたら、負けていたのは私だったでしょう」

扶桑「でも、油断さえしなければ、もう赤城さんには負けません。今日の試合で自信を付けさせてもらいました。赤城さんには感謝しています」

―――赤城選手から再戦の申し込みがあれば、受けますか?

扶桑「……喜んで、とはいきませんね。戦って勝てるとしても、赤城さんは凄く怖い方です。できることなら、もう戦いたくありません」

扶桑「そうは言っても、きっと赤城さんは再戦を申し込んでくるでしょうね……あの人は執念深いし、恨みは永遠に忘れないタイプですから」

扶桑「もし、そのときが来れば……勝負を受けます。そして私が勝ちます。もう、私は誰にも負けません」


試合後インタビュー:赤城

赤城「ははっ……はははははははっ! くくくっ……がぁあああっ! なぜだ! なぜ、なぜこの私が負けた!? あんな錆びだらけの戦艦如きに!」

赤城「全力を尽くした! 殺すつもりで戦った! 古式の技も使った! なのに、なぜ! おのれ……おのれぇええええ!」

赤城「またしても私の道を阻むのか、扶桑! 殺してやる……いつの日か、必ず殺してやるぞ、扶桑! 武蔵も同じ地獄に送ってやる!」

赤城「これで勝ったと思うなよ! 最強はこの私だ! いずれ貴様が私の前にひれ伏す日が来る! その時が来るのは決して遠くはないぞ!」

赤城「その日まで、せいぜい束の間の栄光を味わうがいい! たとえこの身が滅びても、必ず復讐を果たしてみせるからな!」

(取材陣の逃亡により、インタビュー中止)

大会運営委員長がお花を摘みに行ったため(下痢でトイレに篭ったため)暫し中断します。

帰還。再開。


明石「初戦から激闘となりました! やはりこの2回戦、揃っているのはどれも超級のファイターばかりです!」

明石「続くAブロック第2試合は、超級どころか怪物同士の潰し合い! まずは赤コーナーより選手入場! 深海棲艦の女王、再度出陣です!」


試合前インタビュー:戦艦棲姫

―――グラーフ・ツェッペリン選手の試合を見られて、どのような感想をお持ちですか?

戦艦棲姫「アレハ本当ニ艦娘ナノカ? 私ガ知ッテイル奴ラトハ随分ト様子ガ違ウ。カト言ッテ、深海棲艦ニモアンナ奴ハイナイ」

戦艦棲姫「出会ッタコトノナイタイプノ相手ダ。今マデノ経験ハ捨テテ挑ム必要ガアリソウネ」

戦艦棲姫「戦ウノガ楽シミデ仕方ガナイ。ナゼナラ、アイツヲドウヤッテ倒セバイイノカ、全クワカラナイカラヨ」

―――勝てる自信はありますか?

戦艦棲姫「サア? 今ワカッテイルコトハ、アイツハ並大抵ノコトデハ壊レナイッテコトクライカシラ」

戦艦棲姫「ツマリ、壊シ甲斐ガアルッテコトネ。簡単ニ壊レナイ玩具ハ貴重ヨ。私ガ本気ヲ出シタラ、ホトンドノ相手ハスグ死ンデシマウカラ」

戦艦棲姫「アイツニハ最初カラ本気デ仕掛ケヨウ。ドウヤッタラ壊レルカ、色々ト試シテミヨウ。期待外レニナラナイトイイケド」

戦艦棲姫「デキルコトナラ、ナルベク試合ヲ長引カセタイ。アイツニ使ッテミタイ技ガタクサンアルノヨ」


戦艦棲姫:入場テーマ「魔法少女まどか☆マギカ/Surgam identidem」

https://www.youtube.com/watch?v=wStS5Anvwjo



明石「鉄底海峡より来たりし怪物! その技、その身体能力、全てが我々の常識外! デスマッチの女王の名は伊達ではない!」

明石「関節技は通用しない! 使いこなせる技は無限! そして、容赦なく殺しに掛かる! その強さ、文句なしの怪物級!」

明石「最強の深海棲艦、UKFのリングで再び猛威を振るう! ”黒鉄の踊り子”戦艦棲姫ィィィ!」

香取「来たわね。彼女の情報が新しく入ってきたけど、驚いたわ。私の予想は見事に外れていたというわけね」

明石「香取さんの見立てでは、戦艦棲姫は柔術系を含む2つ以上の格闘技をやりこんでいるはずとのことでしたが……その実、全くの未経験者でした」

明石「戦艦棲姫は格闘技を学んだ経験はおろか、技を練習したこともありません。ただ、見たことのある技をトレースしているだけだそうです」

香取「……信じられないわ。技とは、1つ1つに長い時間を掛けて鍛錬し、組手に取り入れながら練習しないと身に付かないはずなのよ」

香取「なのに、あいつは見ただけの技をそのまま本番で使いこなせるっていうの? 吹雪さんあたりが聞いたら、発狂しかねないわね」

明石「嘘を言っている様子はなかったそうです。むしろ、技を練習していること自体に驚いている様子だったと……」

香取「……神様が気まぐれに生み出した化け物ってやつかしら。大和さんも人が悪いわね。こんな情報まで秘密にしていたなんて」


明石「それが、大和選手も知らなかったらしいんです。試合後インタビューの発言を聞いて、ずいぶん驚かれたそうです」

香取「そうなの……そういえば、大和さんはどうやってあんな化け物を倒したの?」

明石「最初は蹴りをかい潜って巴投げを掛け、寝技に持ち込んだそうです。ですが、あまりに寝技の対応が上手く、仕留め切れませんでした」

明石「ただ、投げ技はやたらとあっさり決まるので、何度か叩き付けてから体力を削り、それから襟絞めで落とした、とのことです」

香取「なるほどね……ん? 大和さんはトドメを刺したわけじゃないの? 戦艦棲姫は大和さんに殺されたって言ってた気がするけど」

明石「ああ、それはデスマッチの風習によるものみたいです。敗北者は周りの観客によって、アイアンボトムサウンドに投げ込まれるんだとか」

香取「へえ、そう……何にしても、これで戦艦棲姫には弱点があることがわかったわね」


明石「それって、投げ技に弱いってことですか? そういえばローマ戦でも、一本背負いですんなり投げられてましたね」

香取「それだけじゃないわ。戦艦棲姫は見たことのある技や攻防をトレースできる。反面、知らない技は使うことができないのよ」

香取「技を体系立てて学んだわけじゃないから、高度な技を使えても、初歩的な技を知らなかったりするの。彼女の技術は虫食い状態なの」

香取「文字通りの『穴』ね。大和さんと戦ったなら、いくつかの柔道技を使うこともできるでしょう。だけど、それらの返し技を彼女は知らない」

香取「なぜなら見たことがないから。投げ技を掛けられるとき、相手の足に自分の足を絡ませれば投げを防げるなんて基礎さえ知らないんだわ」

香取「それらの穴を慎重に探り、一気に付け込むことができれば、戦艦棲姫の攻略は難しくないわ。やり方さえ間違えなければね」

明石「なるほど。底なしに見えた戦艦棲姫にも弱点があると……まあ、今日の対戦相手には関係がなさそうですけどね」

香取「……まあ、そうよね。弱点がどうこうの次元じゃないわよね」

明石「あはは……さて、それでは青コーナーより選手入場! こいつも負けず劣らず、破格の怪物だ!」


試合前インタビュー:グラーフ・ツェッペリン

―――戦艦棲姫をどう見ますか?

グラーフ「私は対深海棲艦との戦闘用に製造されている。奴らを皆殺しにするために私は生まれた。培った戦闘技術もそのためのものだ」

グラーフ「これはナチス・ドイツにとっても良い実地試験になる。徒手格闘においても深海棲艦を倒すことができれば、研究の正しさが証明される」

グラーフ「標的である戦艦棲姫は私の予想の範疇を超えていない。相手はたかが海の害虫。敗北することなど有り得ない」

グラーフ「今日の戦闘は殺害を目的に行う。問題はないだろう、奴らは生きていても邪魔なだけの存在なのだから」

―――戦艦棲姫も殺しを前提にした戦い方を得意としていますが、恐怖はありますか?

グラーフ「質問の意味がわからない。恐怖とは抱くものではなく、抱かせるものだ。私の中に恐怖という感情はプログラムされていない」

グラーフ「殺されることが怖いかという質問であるなら、否と答える。私が死ねば、その戦闘データはナチス・ドイツ研究機関に持ち帰られる」

グラーフ「そのデータを元に更なる次世代機が生み出され、その艦娘が戦艦棲姫を倒すだろう。不要となった私は廃棄される。それだけのことだ」

グラーフ「たとえ廃棄されようとも、わずかでも総統閣下のお役に立つことができたのなら本望。私の全てはそのためだけにある」

グラーフ「今日の勝利も、総統閣下へと捧げられる。私はまだ死ぬには早い。戦闘データがもっと必要だ。戦艦棲姫にはその糧となってもらおう」


グラーフ・ツェッペリン:入場テーマ「DEAD SILENCE/OFFICIAL THEME SONG」

https://www.youtube.com/watch?v=UI2WuKFX7u0


明石「軽巡級王者、大淀が為す術もなく敗北! その強さ、その力、まさに桁違い! ドイツはまたしても我々に怪物を送りつけてきたのです!」

明石「あらゆる刺激に反応を見せず、黙々と戦闘を行う様は、まさしく戦闘マシーン! 果たして、こいつに人の心はあるのか!」

明石「冷徹なるドイツ製戦闘マシーン、真の実力は明らかなるか! ”キリング・ドール”グラーフ・ツェッペリィィィン!」

香取「ジャーマンモンスターのお出ましね。今のところ、羽黒さんを除いて最も底知れない選手がこのグラーフさんだわ」

明石「大淀戦でも、技らしい技はほとんど見せませんでしたね。ただただ桁外れの身体能力で圧倒していたとしか……」

香取「それと、精神性のなさね。全ての行動に感情がまるで伴わず、なおかつ痛みに一切の反応を見せなかったわ」

香取「ビスマルクさんは脳内麻薬で痛みを快感に変えていたみたいだけど、グラーフさんは本当に何も感じていないようにしか見えなかったわ」

明石「試合後インタビューでは、『痛覚を遮断した』という信じられない発言をしていましたね。本当でしょうか?」

香取「嘘を付くタイプには見えないし、本当なんでしょう。どうやらナチス・ドイツは、艦娘の脳みそを弄る研究を行なっているみたいね」


香取「それを踏まえると、あの化け物地味た身体能力にもある程度の予想が着くわ。たぶんだけど、グラーフさんには『リミッター』がないのよ」

明石「……リミッターってなんですか?」

香取「人体は本来の持つ3割程度しか平常時に力を発揮できない、って理論は聞いたことがあるでしょう? その制限を掛けてるのがリミッターよ」

香取「人体を保護するための安全装置みたいなものね。過剰な運動による骨格や筋肉への負担を抑えるために、脳は人体が全力を出すのを許さない」

香取「例外はいわゆる、『火事場の馬鹿力』くらい。危機的状況が迫ると、脳内麻薬によってリミッターが緩み、人体は爆発的な力を発揮するわ」

香取「この脳内麻薬くらいは大小なりとも、多くの選手が無意識に使っている。グラーフさんはおそらく、このリミッター自体がないのよ」

香取「脳内麻薬の分泌に頼ることなく、グラーフさんは肉体の持つ運動性能を限界まで引き出すことができる。痛覚遮断はそのためにあるんだわ」

香取「リミッターの外れた100%の力で相手を殴れば、反動で自分の肉体さえも傷付ける。そのダメージを痛覚遮断で消しているのよ」

香取「普通の選手が使える身体能力を3割とすると、グラーフさんはその3倍の運動性能を発揮する。しかも、痛みや疲れさえ感じない」


香取「戦闘マシーンというのは比喩ではなさそうね。苦痛を感じず、破格の身体能力で無感情に相手を殲滅する。まさしく機械だわ」

明石「そんな化け物級の能力を持っているのに、軍隊格闘術のテクニックまで持っている……と考えるべきでしょうか」

香取「大淀戦では見せなかったけど、持っていると見たほうがいいでしょうね。おそらくは、ビスマルクさんと同等の格闘術を」

香取「そうなってくると、もう倒す方法が思い浮かばないわ。パワー、スピードが桁違いで、技術面でも付け入る隙がないなんてね」

香取「精神面では更に隙がないとなると、いよいよお手上げよ。純粋に能力で上回るか、とんでもない奇策を試みるくらいしか勝機がないわ」

明石「となると、戦艦棲姫はどう戦うでしょうか? まあ、その……どっちが勝っても怪物が残るだけって感じですけど」

香取「まったくだわ。どっちもまともじゃないんだから、勝負もまともなものにはならないでしょう。今から始まるのは、怪物同士の喰い合いよ」

香取「互いに削り合って、どっちがより化け物なのか決めるだけ。戦艦棲姫とグラーフ・ツェッペリン、どちらが残っても待ってるのは悪夢だわ」

香取「できることなら、試合の中で実力の底を晒してほしいものね。そこで攻略法を見つけられなければ、この試合の勝者に優勝を持っていかれるわ」

明石「……ありがとうございます。さて、怪物2名がリングイン! 薄笑いを浮かべる戦艦棲姫を、能面のような表情でグラーフが見ている!」


明石「どちらも底知れない破格の怪物! 勝つのは深海棲艦の女王、戦艦棲姫か! それともドイツ科学の結晶、グラーフ・ツェッペリンか!」

明石「どっちが勝ってもUKFに未来はない! 今、ゴングが鳴ってしまった! 試合開始です! 両者、ゆっくりとリング中央へ!」

明石「戦艦棲姫は例の如く、両手をだらりと下げてその場でステップを踏んでいます! 対するグラーフ選手、静かにガードを上げて待ち構える!」

明石「最初に攻めるのは、やはり戦艦棲姫! いきなり後ろ回し蹴りを繰り出した! いや、これは蹴り技ではない! 軸足も跳ね上がった!?」

香取「またプロレス技!?」

明石「両足で首を挟み込んだ!? これはヘッドシザーズ・ホイップだぁぁぁ! 首を捻ねられ、グラーフ選手がリングに引きずり倒される!」

明石「戦艦棲姫、即座に寝技へ移行! 両足で首を挟んだまま、腕を取って背面から絞めた! 上三角絞めが決まったぁぁぁ!」

明石「プロレス技から柔道技への鮮やかな連携! これが素人だと言うから驚きです! 演舞の如く綺麗に決まりました! 完全に頸動脈へ入った!」


明石「仰向けに倒されている以上、この体勢からの反撃は通常の前三角絞めより遥かに困難! これは、早くも決着が……た、立った!?」

香取「こ……ここまでの膂力を……!」

明石「グラーフ選手が立ちました! 上三角絞めを極められたまま、戦艦棲姫を背負いながら立ち上がった! 足腰の強さが尋常ではない!」

明石「しかも、取られた腕を前に振って事も無げに拘束をぶち切った! 技もクソもありません! 上三角絞めが腕力だけで外されました!」

明石「だが、戦艦棲姫はこの程度では諦めない! 首を挟んだ足を解かず、そのまま足による裸絞めに移行! 更に強烈に首を絞め付けます!」

明石「柔道では死の恐れがあることから、禁止技とされる足の裸絞め! これならグラーフを落とし切れるか! グラーフ選手、動きを見せない!」

明石「絞め付けを緩めたいのか、首に巻き付く足に手を掛けています! その程度で絞めが解けることは……うげえっ!?」

香取「嘘でしょ……!」

明石「あ、足首を握り潰した! グラーフはただ単に足首を思いっきり握っただけです! 握力までが桁外れなのか!?」


明石「しかも、潰した足をまだ放していない! 戦艦棲姫が脱出を試みますが、そんなことは許さない! な、投げたぁぁぁ!」

明石「足を掴んで、片手でぶん回されました! 戦艦棲姫が布切れの如く振り回され、そして宙を舞った! 勢い良くフェンスに激突!」

明石「もう力が強いとかそういう次元ではない! 完全に別物だ! グラーフの身体能力は、我々の水準とは全くの別物です!」

明石「いわば、人と同じ体重の昆虫のようなもの! 体の作り自体がまるで違うとしか思えない! もう、この力には手が付けられない!」

明石「戦艦棲姫も既に瀕死……いや、立った!? 笑っています! 片足を完全に潰されたというのに、まだ笑う余裕が残っているのか!」

明石「片足立ちで飛び跳ねながら、リング中央へ進んでいく! 戦艦棲姫は戦う気です! あの力を見せつけられながら、まだ勝つ気だ!」


香取「アドレナリン放出で痛みを消してる……でも、長くは持たない。戦艦棲姫がダメージをごまかせるのは一時的なものよ」

香取「対するグラーフさんは死なない限り全力を発揮できる。まだ勝機があるっていうの……?」

明石「まもなく接触! グラーフは静かにガードを上げます! こいつに油断という概念は存在しない! 相手が手負いでも容赦はしません!」

明石「仮に、敵の片足が完全骨折していようともです! 片足立ちの戦艦棲姫が近付く! 打った! グラーフの右ストレート!」

明石「目にも留まらぬハンドスピード! ですが……弾いた!? 戦艦棲姫が打撃を捌きました! 拳の軌道を逸らされ、空振り!」

明石「更にグラーフ、ワンツーのコンビネーションパンチ! これも捌かれた! あの動きは……中国拳法のトラッピング!?」

香取「まさか、隼鷹さんの試合を見て覚えたの!? もしくは、既に持っていたか……!」

明石「そうでした、戦艦棲姫もまた底なしの怪物! ここにきて巧みな防御術を披露しています! 片足立ちでグラーフの打撃を捌いている!」


明石「しかし、この状態で防げるのはパンチだけのはず! グラーフも当然その考えに至った! 残る片足を狙い、すかさずローキックを放った!」

明石「か、空振り! というか、先に戦艦棲姫の掌底がグラーフの顔面に決まった! 上体を押される形で、蹴りが潰されました!」

明石「戦艦棲姫にはこの武器もあった! それは長い手足! リーチにおいてはグラーフより拳2つ分は長い! 自身の有利を上手く使っています!」

明石「カウンターで掌底をもらい、ややよろめいたグラーフですが、すぐに持ち直しました! やはり大したダメージはない!」

明石「戦艦棲姫も片足のため、追撃には移れませんでした! ここからどう攻める、戦艦棲姫! どう仕留める、グラーフ・ツェッペリン!」

香取「グラーフさんが圧倒的有利な状況に変わりはない。でも、戦艦棲姫はまるで動じてない……この状況を楽しんでいるんだわ」

明石「ここでグラーフ・ツェッペリンに動きがあります! ステップを踏み始めました! 大淀選手を追い込んだ、あの高速フットワークだ!」


明石「パワー型から一転、攻撃方法をスピード型に切り替えるつもりです! あの連撃を繰り出されれば、戦艦棲姫に防ぐ術はない!」

明石「来た! グラーフのラッシュが始まった! 左ジャブ! 右フック! サイドキックにアッパーカット! 超高速ラッシュが繰り出される!」

明石「一発でももらえば戦艦棲姫は終わる! しかも片足では一発も避けきれるはずはない……のに、避けてる!? 戦艦棲姫が打撃を避けている!」

香取「な、何なのあの動き!?」

明石「これはなんだ!? 迫り来る打撃の嵐を、戦艦棲姫が全て避けている! 片足のまま! その動き、華麗どころかとんでもなく不気味です!」

明石「例えるなら、超高速で全方位に揺れる細長いコマ! 回転し、手足で打撃を捌き、捌き切れない打撃を上体がグラグラと揺らして躱している!」

明石「どっちが化け物地味ているか、甲乙付け難い光景です! 戦艦棲姫は関節の可動域が異常に広い! まさか、背骨までこんなに動くとは!」


明石「グラーフは息も付かずにラッシュを続ける! 戦艦棲姫はラッシュの合間を不自然極まりない動きで掻い潜る! まるで死のダンスです!」

明石「あっ……!? わ、笑い声が聞こえてきました! 笑っているのは他でもない、戦艦棲姫! 狂ったような哄笑を上げています!」

明石「死のダンスを踊りながら、一体何がそんなにおかしい!? 死が全身を掠めていく、そのスリルが楽しくてしょうがないとでも言うのか!」

明石「だが、このダンスの終わりが近いのは明白です! 即ち、ダメージが大きく不自然な回避を強いられる戦艦棲姫が力尽きる、そのとき!」

明石「終わりの時が来た! ハイキックが戦艦棲姫の首に入ったぁぁぁ! これは、曲がったのではない! 明らかに首の骨が折れた!」


明石「壊れた人形のように頭をぐらつかせながら、戦艦棲姫がその場に崩れる! デスマッチの女王、ここに陥ら……えっ?」

香取「……ちょっと、どういう体の構造してるのよ」

明石「なっ……! た、立った!? 戦艦棲姫が立ち上がりました! 首はあらぬ方向にねじ曲がり、頸骨が折れているのは間違いありません!」

明石「もう戦艦棲姫は息絶えているはず! なのになぜ……く、首を嵌めこんだ!? 首の脱臼って、嵌め込んで済むものでしたっけ!?」

香取「そんなわけがない。普通は即死、運良く助かっても、一生車椅子生活を余儀なくされるような損傷があるはずよ。なのに……!」

明石「こ、こいつも体の作り自体がぶっ壊れている! しかも、まだ笑っている! ここまでやられて、更に戦い続ける気か!」

明石「今現在、グラーフ・ツェッペリンは全くの無傷! あれだけ動きながら呼吸さえ乱れていない! 同じ怪物でも、戦力の格が違う!」


明石「それでも戦艦棲姫は挑む気だ! 戦いの終わりはどちらかの死のみ! ならば、まだ終わってはいない! 戦艦棲姫がドイツの怪物に挑む!」

明石「戦艦棲姫が構えた! 今までとは違う、左の手の甲を相手に向けて構えました! これは……詠春拳!?」

香取「ジークンドーの下敷きになった中国拳法……! 技術で活路を見出そうと言うの? グラーフさんに小手先の技なんて……」

明石「グラーフ・ツェッペリンも再び戦闘体勢を取ります! 一撃で決める! 拳を固めて、戦艦棲姫へと接近する!」

明石「グラーフの左ジャブ、これはフェイント! 本命はローキック! 残る片足を狙った! が……戦艦棲姫の突きが先にヒットォォォ!」

明石「グラーフが吹っ飛んだ!? ダウンは免れましたが、顔面へまともに入りました! 今のは……まさか!」

香取「嘘でしょう……発勁!?」


明石「中国拳法の真髄、勁力を使った打撃です! まさか戦艦棲姫がここまで中国拳法を扱えるとは! しかも、片足立ちでこれほどの威力を!」

明石「片足でなければ、どれほどの威力があったことでしょう! その技量、まさしく底なし! まだ勝負の結果はわからない!」

明石「グラーフが再度歩み寄る! 詠春拳の構えで待ち受ける、戦艦棲姫に恐れはない! この腕のリーチ差があれば、先に打撃を当てられる!」

明石「先にグラーフが打ち込んだ! いきなり右ストレート! 戦艦棲姫のトラッピングが軌道を逸らす! そのまま、カウンターの突きィィィ!」

明石「またしても顔面直撃! し、しかし……グラーフ・ツェッペリンが微動だにしない! これはまさか……自ら受けに行った!?」

明石「戦艦棲姫の拳が砕かれました! 手の甲から骨が突き出している! グラーフ、己の顔面を叩き付けて拳を砕きました!」

明石「どうする戦艦棲姫! なっ……棒立ち!? 骨の突き出た手の甲を、戦艦棲姫、呆けたようにじっと見つめている!」


香取「アドレナリン放出が止まったんだわ! 同時に集中力も切れた……まずい!」

明石「ああっ! み、ミドルキック炸裂ゥゥゥ! 棒立ちの戦艦棲姫を、グラーフの右脚が薙ぎ払ったぁ! 戦艦棲姫が紙切れのように吹っ飛ぶ!」

明石「戦艦棲姫、まだ意識がある! が……立てない! 痛みが戻ってきてしまったのか! 更にあの強烈な蹴り! おそらく脊椎に損傷が入った!」

明石「マットに手を着く戦艦棲姫の前に、グラーフ・ツェッペリンが立った! な……何をする気だ! 相手は既に戦闘不能だ!」

明石「ふ、踏み付けたぁぁぁ! 頭を完全に踏み砕いた! 血と共に、透明な脳漿がこぼれ落ちる! 戦艦棲姫、完全に絶命!」

明石「ここでゴングが鳴った! 試合終了です! グラーフ・ツェッペリン、無情にも戦艦棲姫を絶命KO! 恐ろしい戦いを見せられました!」


明石「戦艦棲姫を相手にしても、ろくに技を見せませんでした! 身体能力によるゴリ押し! ただそれだけで、あの怪物に勝ってしまった!」

明石「一体、誰がこの怪物を止められる!? 長門選手はもういない! 我々には、こいつを倒す方法がまったく思い付かない!」

香取「これほどまで……! 甘かったわ。こいつの身体能力は、通常の3倍なんてものじゃない。少なく見積もって、5倍近い身体能力を持っている」

香取「脳だけじゃなく、体にも改造が施されているのかも……じゃなきゃ、あんな凄まじい運動性能は発揮できないはず」

香取「その気になれば、熊だって素手で打ち殺せそうよ。まずいわ、このままじゃ本当に優勝を持っていかれる……!」

明石「次の対戦相手は……扶桑選手ということになりますよね。扶桑選手なら、あるいは……」

香取「……可能性は低いと言わざるを得ないわ。仮に長門さんが相手をするとしても、勝ち目は薄い。それほどにグラーフさんは強すぎる」

香取「力が強い、スピードが速いってだけで、こんなにも脅威だなんてね。扶桑さんには、対戦までに何としても作戦を練っておいてほしいわ」

香取「正面からは絶対に勝てない。今までの試合から穴を見つけて、それを突くしか方法がない……穴があれば、なんだけど」

明石「なんか……まずいことになってきましたね。今度、UKFにナチス・ドイツは出禁にしましょう……」


試合後インタビュー:グラーフ・ツェッペリン

―――戦ってみて、戦艦棲姫はどうでしたか?

グラーフ「予想を下回る戦闘能力だった。最強の深海棲艦があの程度か。これなら、我がドイツ帝国の制海権拡大はさほど困難なことではないな」

グラーフ「戦闘データも大した収穫はない。実りの少ない戦闘だった。深海棲艦に我々の強さを見せつけられたことだけは成果と呼ぶべきか」

―――未だにグラーフ選手は格闘技術らしいものを見せていませんが、それはまだ隠している段階だからでしょうか。

グラーフ「戦闘の過程を見れば明らかだ。使う必要がない。腕を振るえば殺せる相手を、わざわざ術を使って仕留める理由はない」

グラーフ「技術を使うべき相手との戦闘になれば、迷いなく格闘術を使う。だが、このグランプリでその機会はなさそうだ」

―――グラーフ選手は試合中に凄まじい身体能力を発揮していますが、差し障りのない程度で構いませんので、その秘訣を教えていただけませんか。

グラーフ「秘訣などない。私はあのレベルの動きができるよう製造され、継戦能力を伸ばせるよう訓練を受けた。そして、総統閣下より洗礼を受けた」

グラーフ「総統閣下の神通力を授かったことにより、私の体には底知れない力が宿った。私はそれを使って閣下の敵を打ち倒す。それだけだ」

グラーフ「貴様らが弱いのは、総統閣下のご威光の下にないからだ。私のような力が欲しければ、ドイツへ亡命するがいい」

グラーフ「閣下は日本人を名誉アーリア人と認めてくださる。閣下の洗礼を受ければ、私のように強くなれるだろう」


試合後インタビュー:戦艦棲姫

戦艦棲姫「……? ナンダ、私ヲ修理シタノ? ソノママ海ニ投ゲ捨テレバヨカッタノニ、艦娘トハオ優シイモノダ」

―――グラーフ・ツェッペリンと戦ってみて、何を感じましたか?

戦艦棲姫「モシ、大和ト戦エバ少ナク見積モッテ10回ニ数回ハ勝テルダロウ。ダガ、グラーフ・ツェッペリンニハ勝テナイ」

戦艦棲姫「ダカラ楽シク戦エタ。愉快ナモノダナ、自ラ死ニ身ヲ投ジルトイウモノハ。久シブリニ、本気デ戦エタ」

戦艦棲姫「限界マデ燃エ尽キルコトガデキタ。トドメモシッカリ刺シテクレタシ、満足ダ。面白イ戦イダッタ」

―――リベンジの意志はありますか?

戦艦棲姫「スグニデモ戦イタイワ。ダケド、勝テナイカラヤメテオク。アイツハタブン、誰ニモ勝テナイワ」

戦艦棲姫「ソロソロ私ハ深海棲艦ノ領域ニ帰ル。アイツヲ倒ス方法デモ考エテオコウ。思イ付イタラ、マタココヘ来ル」

戦艦棲姫「アア、言イ忘レテタ……修理シテクレテ、アリガトウ。コノ借リハイズレ、必ズ返ス」


明石「とんでもない試合となってしまいましたが……気を取り直して、続いてBブロック2回戦、第1試合を行います!」

明石「こちらも注目の一戦です! まずは赤コーナーより選手入場! 今こそ、空手の真の強さを見せつけるときだ!」


試合前インタビュー:榛名

―――空手と中国拳法はどちらが優れていると思いますか?

榛名「正直に答えるなら、わかりません。空手のほうが優れているから勝てると自惚れるつもりはありませんので」

榛名「技の多彩さという点なら、中国拳法に軍配が上がるでしょう。実戦における合理性においても、あるいは空手に勝っているかもしれません」

榛名「ですが、勘違いしてもらっては困ります。空手とは楽をして勝つ武術ではなく、己に困難を課して強くなるための武術なのです」

榛名「あえて非合理に身を置き、五体を武器化する。長い時間を掛けて技を研磨することでのみ、空手は真の力を発揮できます」

榛名「理合を重んじる中国拳法と比べて、その点なら空手が勝る。技術としてではなく、結局は使い手の練度が勝敗の優劣を分けるのです」

―――隼鷹選手をどう見ますか?

榛名「優れた使い手であるのは疑いようもありません。あれほど高度な技を使いこなし、なおかつまだ手の内の全てを明かしてはいないのですから」

榛名「隼鷹さんは中国拳法の深淵、その一端を手にしている。私にとっても脅威であることは間違いないかと思います」


―――勝てる自信はありますか?

榛名「私は空手だけを信仰してここまで来ました。ここで中国拳法に敗北するなら、私の歩んだ道は何の意味もなかったことになるでしょう」

榛名「自信という生易しい言葉は口にしたくありません。必ず勝ちます。どんなことがあっても、敗北は決して許されないのです」


榛名:入場テーマ「GuiltyGearX/Holy Orders (Be Just or Be Dead)」

https://www.youtube.com/watch?v=FUn8sSi6d0c



明石「打撃最強候補筆頭! 全ての一撃を必殺とし、全身を凶器と化す! 究極の実戦空手の体現者がここに存在する!」

明石「不死身のK-1王者、翔鶴選手に初のダウンKOを与えたその打撃は底が知れない! 今一度、空手の真の恐ろしさを知らしめてやろう!」

明石「この拳に全てを賭ける! ”殺人聖女”榛名ァァァ!」

香取「さあ、面白いことになりそうね。空手VS中国拳法よ。ちょっとした因縁の対決、ってことになるのかしら」

明石「一応、空手の発祥も元々は中国拳法にたどり着くとのことですよね」

香取「発祥はそうらしいわね。空手の源流である首里手、泊手、那覇手のうち、特に那覇手は中国拳法の一流派である白鶴拳から生まれたとされるわ」

香取「でも、空手としての形を成してからは、全く独自の発展を遂げているわ。既に中国拳法とは全くの別物と言ってもいいでしょう」

香取「更に言えば、中国拳法が伝統的に受け継がれているのに対し、空手は今もなお競技化や他流派との交流によって進化し続けているわ」

香取「どちらが優れていると言う気はないけれど、より近代的なのは空手、ということになるんじゃないかしら」


明石「他流派との交流というと、主にボクシングやムエタイということになってきますかね」

香取「そうね。どちらも立ち技格闘技において最強の名を奪い合う流派。空手はそれらに対抗するため、技をパクったのよ」

香取「ボクシングからはフットワークを、ムエタイからは蹴りを吸収した。勝つために敵の技術を使うのは戦争では当たり前のことよね」

香取「他国で生まれたものを取り入れて独自に発展させるのは、日本のお家芸。空手はパクった技術を完全に技の体系へと取り込んだわ」

香取「特にフットワークは榛名さんも得意とする技術。中国拳法を相手にするなら、かなり心強い武器になるんじゃないかしら」

香取「後は貫手ね。人体を真正面から貫く技は、一朝一夕じゃ身に付かない。榛名さんは想像を絶する苦難を経て、あの貫手を身に付けたんでしょう」

香取「いくら中国拳法が技で優れるといっても、究極まで研ぎ澄まされたあの一撃に対抗する術はないはず。榛名さんが技で劣ることはないわ」

香取「仮に寝技に持ち込まれても、あの指を体のどこかに突き立てれば脱出できるでしょう。榛名さんの空手に隙はどこにもないわよ」

明石「ありがとうございます。では、青コーナーより選手入場! 予想外の強さを見せつけたダークホースが再度登場します!」


試合前インタビュー:隼鷹

―――今日もお酒は飲まれていないんですか。

隼鷹「しつこくない? だから、試合前は飲まないって! しかも今日の相手って超化け物じゃん! あんなのと戦う前に酒なんて飲めないよ!」

隼鷹「あーやだやだ。勝ったらお金くれるって言われたから来たのに、強い奴ばっかりじゃん。もうちょっと楽させてくんないかね」

―――榛名選手をどのように感じておられますか?

隼鷹「強いよ。めっちゃ強い。ファイトマネーの額があとちょっとでも安かったら、絶対に戦いたくない相手だね」

隼鷹「あれって実現不可能って言われてた空手の完成形じゃない? そんなやつとはできることなら一生やり合いたくなかったよ」

隼鷹「あたしは楽に勝てるに越したことはないと思ってるからね。あーあ、スポーツ空手家だったら楽勝だったのになー」

―――勝てる自信はありますか?

隼鷹「あるに決まってるじゃん。なかったらさっさと棄権して帰ってるよ。負けるために戦うほど、あたしは酔狂じゃないんでね」

隼鷹「あたしはまだ太極拳の全てを見せたつもりはない。ちょっと早いけど、この試合では全てを見せる必要がありそうだ」

隼鷹「簡単にはいかないだろうね。それでも勝つよ。勝利の祝杯があたしを待ってるんでね、酒のためならあたしは何でもするよ」

―――空手と中国拳法はどちらが優れていると思いますか?

隼鷹「中国拳法でしょ。空手は遅れてる。こっちがだいぶ前からライフル使ってるのに、向こうは未だに火縄銃で戦争してるようなもんさ」

隼鷹「空手は実戦において非効率だ。だからって必ずしも弱いってわけじゃないけどね。勝つのは、あたしが強すぎるからさ」


隼鷹:入場テーマ「布袋寅泰/BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」

https://www.youtube.com/watch?v=VogWfA4zesA


明石「その流儀、酔拳にあらず! 中国拳法の一流派、その名は太極拳! 本物の中国拳法家が表舞台に姿を現しました!」

明石「脅威的な強さで1回戦を圧勝! それでもなお、真の実力は明らかになっていない! 中国拳法とは、一体どれほどのものなのか!」

明石「秘術の深淵を今、垣間見る! ”酔雷の華拳”隼鷹ォォォ!」

香取「ダークホースの登場ね。まさか、隼鷹さんがあそこまで強いとは思ってもみなかったわ」

明石「1回線は技を出し切らずに圧勝ですからね。発勁の打撃も1回しか使っていませんでした」

香取「そうね。主に使っていたのは足技と関節技、中国拳法で言うところの擒拿術ね。明らかに技を隠しつつ戦っていたわ」

香取「戦艦級のトップファイターを相手にそれだけの余裕があるということは、イコール彼女の実力と自信がどれだけ高いかを表しているわ」

明石「榛名選手に対しても、技を隠して戦うと思われますか?」

香取「さすがにそれは無理なはずよ。榛名さんは戦艦級の中でも頂点を争う一角。特に打撃に関しては絶対的な強さを誇っているわ」

香取「あのレベルの選手を相手に技を出し惜しみするほど、隼鷹さんも自惚れてはいないでしょう。この試合では本気を見せるんじゃないかしら」

明石「となると……発勁も存分に使うということですね」

香取「おそらくわね。といっても、発勁はどんな状況からでも自在に繰り出せるほど、便利な代物じゃないわ」


香取「発勁は構えと姿勢を完璧に取り、大地を踏みしめてながら放つ必要がある。重要なのは力の伝達をいかに効率よく行えるか、ということよ」

香取「発勁とは全身の力を一点に集中させて放つ技術。十分な支えがないと、力が分散してうまく拳に伝えることができないの」

香取「拳の攻防の最中に、そこまで十分な構えを取るのは難しいわ。榛名さんが絶え間なく攻め続ければ、発勁を封じることができるかもしれない」

明石「分は榛名選手のほうにあると考えられますか?」

香取「さあ……どうかしら。階級としての耐久力を考えれば、榛名さんは一撃で隼鷹さんを倒すことが可能でしょう」

香取「それでも、どちらに分があるかはわからないわ。隼鷹さんが実力の底を見せてない以上、うかつな判断はできない」

香取「気になるのは、隼鷹さんの発言ね。『空手は中国拳法に劣っている』。考えなしの失言ではなく、何かしらの根拠を伴った言葉に聞こえたわ」

明石「その根拠とは何なのでしょうか。発勁がないこと、関節技がないことなど、思い付くことはいくつかありますが……」

香取「……空手と中国拳法の打撃を比較した場合、最大の違いは『エンジンの数』だと言われているわ」


香取「空手には4つのエンジンがある。それは即ち、両腕と両足。もちろん腰を入れて打つのは共通してるけど、拳打と蹴りでは力の発生箇所が違う」

香取「対して、中国拳法には1つしかエンジンがないわ。勁力と呼ばれる、背骨の筋肉。全ての打撃はこの一点から力を放出しているの」

香取「厳密に言うなら、隼鷹さんは打撃全般において発勁を使っているわ。構えが完全でないから100%の威力ではないというだけでね」

香取「中国拳法が筋力をあまり重要としないのはこの違いよ。腕の力を鍛えるより、力の伝達能力を磨いたほうが効率がいいという考えでしょう」

香取「効率性という点では、空手は中国拳法に一歩譲るかもしれない。でも、榛名さんの空手にはもう1つのエンジンがあるわ」

明石「指……貫手ですね」

香取「ええ。人体で最も繊細な指の力を、岩をも砕くまでに研ぎ澄ました貫手の威力。その必殺性は、完全な発勁に勝るとも劣らないはずよ」

香取「もしも隼鷹さんの言っているのが、打撃の優劣に関することなら、的外れと言わざるをえないわ。だけど、そうじゃなかったら……」

明石「隼鷹選手にはもっと、別の武器があるということでしょうか」

香取「かもしれないわ。Bブロックの第1試合で、隼鷹さんは既に貫手を自分の目で見ているはず。その脅威を軽視しているとは思えない」


香取「どちらにしろ、隼鷹さんが実力の底を見せてない以上、予想はできないわね。何をしてくるかは、そのときにならないとわからないわ」

香取「この試合で、中国拳法の真髄の一端が垣間見えるはず。それは空手にも言えることだけどね」

明石「……ありがとうございます。さあ、両選手リングイン! 空手家と中国拳法家が同じリングに相対しております!」

明石「榛名選手の圧力を一身に受けながら、余裕の表情を崩さない隼鷹選手! これは虚勢か、それとも自信の表れか!」

明石「視線を切らないまま、両者コーナーへ! この勝負が終わったとき、東洋最強の格闘技は何か、その答えの一端が明らかになる!」

明石「空手と中国拳法、勝つのはどっちだ! ゴングが鳴りました、試合開始です! 両者、颯爽とコーナーから飛び出していく!」


明石「榛名選手は天地上下の構えを取った! 対する隼鷹選手も左を上段、右を中段に置いた太極拳の構え! どちらも、様子見をする気はない!」

明石「まずは榛名選手! 踏み込んで前蹴り! 捌かれた! 受け流すと同時に隼鷹選手の後ろ回し蹴り! これもブロックされました!」

明石「体勢を戻すやいなや、再び榛名選手が蹴りを放つ! 中段回し蹴りです! 隼鷹選手、バックステップ! みぞおちを掠めていきました!」

明石「蹴り合いが続きます! 榛名選手、蹴り足を入れ替えての三日月蹴り! これは交差させた両腕により止められました!」

明石「今度は隼鷹選手が蹴る! ローキック、続けて跳び後ろ回し蹴り! 上下を打ち分けた二段蹴りですが、空振りに終わりました!」

明石「蹴りの勝負は互角! 互いに間合いと初動を見切り、クリーンヒットを許しません! やはり、共に打撃は最高レベル!」

香取「どっちも拳の射程に入れないわね。踏み込もうとすると相手が蹴ってくるから、接近し切れないんだわ」

香取「出だしの攻防は完全に拮抗してる。下手に攻めれば一撃で持っていかれるのはどちらも同じよ。さて、均衡を破るのはどっちかしら……」


明石「互いに蹴りの間合いを維持しつつ戦っております! 隼鷹選手、足の甲を狙った踏み蹴り! 足を引かれて躱されました!」

明石「足を引くと同時に、榛名選手の上段前蹴り! ウェービングで躱されます! お互いになかなか隙を見せない!」

明石「続けて榛名選手の上段回し蹴り、いや踵落とし! 大技を繰り出しました! しかし、これもバックステップにより空振りです!」

明石「わずかに榛名選手へ隙が生じたように見えましたが、隼鷹選手は攻め込みません! 未だ発勁は姿を表さず!」

香取「今の踵落としはフェイントに近いわね。わざと隙を作って相手を誘ったみたい。隼鷹さんは引っかからなかったけれど」

明石「どちらも受け手には回らないものの、膠着に近い状態です! このまま蹴り合いを続けても、永遠に勝負が着きそうにない!」

明石「そのことを悟ったように、榛名選手が天地上下の構えを解きます! 拳を固め、上段のガードを固めました!」


明石「あっ、その場でステップを踏み始めました! 出ました、近代空手のフットワーク! 巧みな足捌きで間合いを読ませない戦法です!」

明石「中国拳法広しと言えど、このような近代格闘術はどの流派にも聞いたことはない! これなら中国拳法のディフェンスも打ち破り……?」

香取「……笑ってる?」

明石「な、なんだ? 隼鷹選手が一層余裕の笑みを浮かべました! これを待っていたとでも言わんばかりの表情です!」

明石「フットワークはボクシングの浸透により、近代で広まった技術です。中国拳法にその対応策は考案されていないはず!」

明石「なのに、この余裕は何だ!? ブラフか、それとも本当にこれを待ち構えていたのか! 少なくとも、この攻防で均衡が崩れる!」


明石「榛名選手、構わず打って出る! 左右に上体を振りながらの順突き! これはトラッピングで捌かれた!」

明石「当たりはしませんでしたが、あまり余裕のない回避に見えました! この戦法なら、打ち続ければいずれ一撃が入るはず!」

明石「サイドに回ろうとする隼鷹選手を、榛名選手がフットワークで先回りする! 右の鉤突き! 続けて左の順突きです!」

明石「最後の順突きはこめかみを掠めました! 完全に避け切れていないのは明らか! やはり、先ほどの笑みは隼鷹選手のブラフなのか!」

明石「隼鷹選手、後退! それより早く榛名選手が間合いを詰め……あっ!? 榛名選手がバランスを崩した! ローキックを当てられました!」

明石「先の蹴り合いに見せたものよりは浅く、そのぶん鋭い隼鷹選手のローキック! あっさりと榛名選手の足を払い打ちました!」

明石「足の止まった榛名選手目掛けて、追撃のハイキック! どうにかガードが間に合いました! 後退して体勢を立て直しています!」


明石「隼鷹選手は深追いしない! 再びフットワークを始めた榛名選手を待ち構えています! 足へのダメージはさほどではない様子です!」

明石「しかし、解せません! あれだけ蹴り合いは互角だったにも関わらず、榛名選手があっさりとローキックをもらってしまうとは!」

明石「蹴りのスピードだけが原因ではないように思えます! 隼鷹選手が何かを仕掛けた! しかし、こちらからではその正体が掴めない!」

香取「これは、もしかして……!」

明石「再度、榛名選手が攻め込みます! 順突き、これはフェイント! お返しとばかりに下段回し蹴り! これは脛受けで流される!」

明石「やはり隼鷹選手は後退します! それを追う榛名選手! サイドに回り込みながらの鉤突……あっ!? 先に打たれた!」

香取「やっぱり。フットワークは通用しないんだわ!」

明石「リードジャブが入りました! カウンターというより、打撃を打撃で潰すような手打ち! ダメージは大きくありません!」

明石「しかし、これもあっさりと当てられました! 打撃において榛名選手は最強クラス! いくら速い手打ちとはいえ、簡単にもらうわけがない!」


明石「体勢を崩すほどではなかったので、榛名選手はそのまま攻勢を続行! 右の正拳……またローキックが入った! 再び足が止まる!」

明石「追撃を避け、今度は榛名選手が大きく後退! これは何だ!? フットワークを使い始めた瞬間、逆に隼鷹選手の打撃が当たり始めた!」

明石「回転速度を上げているのは確かですが、反応できないほどではないはず! なぜ、榛名選手がこうも簡単に打撃をもらうのか!」

香取「……空手が中国拳法に遅れてる、その発言の意味が今、わかったわ。隼鷹さんに言わせれば、空手は使えない技術を取り入れてしまったのよ」

明石「フットワークが使えない? まさか、近代格闘術の粋であるフットワークが、そんな……!」

香取「古流柔術においても、フットワークは独自に考案されて、一時期には研究されていたの。でも、すぐに奥義書からは消え去ったわ」

香取「古流にとって、フットワークは使えない駄作と呼ばれたのよ。原因は、リズムを維持して飛び跳ね続けるという動き自体にある」


香取「考えてみれば、その欠点は一目瞭然よ。リズムを維持するということは、自ら相手に呼吸のタイミングを教えてあげるようなものなのよ」

香取「仮に変則的なリズムに切り替えたとしても、動き続けることにも欠点があるわ。動くということは、自ら重心を崩さないといけないのよ」

香取「重心が崩れるわずかな瞬間、確実に隙が生じる。呼吸と重心のブレ、そのタイミングを狙って隼鷹さんは打ち込んでいるの」

香取「間合いを悟らせないことにかけてはフットワークは優れた技術。だけど、相手の呼吸を見切れるような相手には通用しない」

香取「隼鷹さんはそのレベルの使い手よ。近代空手のフットワークは通じないどころか悪手。全ての打撃に後の先を取られかねないわ」

明石「なるほど、フットワークで均衡を破る作戦は失敗! 近代空手の技術は、中国拳法の前には通用しないのです!」

明石「榛名選手の負ったダメージは決して大きくありません、しかし精神的な痛手はどうか! 心理面では、圧倒的に隼鷹選手の優勢です!」


明石「頼みのフットワークが敗れ、榛名選手はここからどう攻める! それとも、隼鷹選手のほうから仕掛けてくるか!」

明石「先に前へ踏み出したのは、隼鷹選手! 相手が動揺している内に畳み掛けようという魂胆か! すり足で間合いを詰めていきます!」

明石「榛名選手も素早く立ち直って構えた! 天地上下の構えではなく、上段の構え! もうフットワークは使っていません!」

明石「フットワークを捨て、真正面から打撃戦を挑む構えです! 隼鷹選手はそれに応えるか否か! 今、蹴りの間合いを踏み越えた!」

明石「榛名選手が先手を取った! 鎖骨狙いの手刀! パリィで逸らされます! 反撃に隼鷹選手の裏拳が顔面を叩く!」

明石「そのまま裏拳に使った右腕が軌道を変え、肘打ち! これも脇に入った! 致命傷ではないが、効いている!」

明石「榛名選手も肘打ちで対抗! 側頭部を狙うも躱された! 後を追うように喉を狙った腕刀! ダッキングで回避される!」


明石「同時にボディへ崩拳突き! 発勁ではないようですが……おっと、ここで榛名選手が大きく後退! 崩拳を打たれた箇所を手で庇っています!」

明石「表情には隠し切れない苦悶が露わになっている! しかも、傷を押さえる手の隙間から流血!? そんな馬鹿な、崩拳で出血するはずがない!」

明石「仮に今のが発勁の打撃なら、内臓へ響くようなダメージのはずです! しかし、負わされたのは出血を伴う外傷! これは一体!?」

香取「今のは崩拳突きじゃなかったのよ。あの傷を見る限り……貫手を使われたと見るべきでしょうね」

明石「貫手? 確かに隼鷹選手は打ち込む寸前は手を開いていましたが、インパクトの際は拳を握っていましたよ?」

香取「中国拳法にはそういう貫手が存在するのよ。鍛えていない指で、簡単に相手の皮膚を貫ける貫手がね」


香取「打ち方は正拳突きとほぼ同じ。開手で相手に打ち込み、初めに触れる四指をクッションにしながら、親指を捻じ込むようにして突き刺すの」

香取「スピードとタイミングが十分なら、最低限の指の力で皮膚に穴を開けられる。榛名さんはまんまとやられたわね」

香取「空手が遅れてると言っていた理由は、これもあるのかしら。貫手をやるのに指を鍛え込む必要なんてない、ってことね」

明石「榛名選手、不覚にも大きなダメージを負ってしまいました! 出血量は多くありませんが、未だ血が止まらない!」

明石「血が止まらないということは、時間経過ごとに体力が失われることを意味します! 長期戦に持ち込まれれば敗北は必定!」

明石「依然として隼鷹選手リードの状況に揺るぎなし! 否が応でも、榛名選手は短期決戦を挑むしかなくなりました!」

明石「休んでいてもダメージは回復しない! 息吹で無理やり呼吸を整え、榛名選手が構えます! これもまた、今までと違う構えです!」


明石「スタンスを広く取り、右拳を大きく後ろに引いた! 正拳突きの一撃に賭けるつもりです! もはや、勝つにはこれしかない!」

明石「リスクを承知で、死路に活路を見出す! 隼鷹選手は応じるか! どうやら応じるようです! 自ら前へ進み出ていく!」

香取「隼鷹さんには願ってもない展開でしょうね。彼女はずっと、榛名さんからカウンターを取るタイミングを測っていたんだから」

香取「来るのが右正拳突きであることは間違いない。何が来るのかわかっていれば、確実にカウンターを取る自信があるはずよ」

香取「ただし、その正拳突きがどれほどの速度と威力を持つのか測り間違えば……敗北するのは隼鷹さんになるでしょうね」

明石「いつの間にか、隼鷹選手の顔から余裕が消えています! 目を見開いた極限の集中を思わせる表情! とうとう隼鷹選手が本気になった!」

明石「もしカウンターを取るとしたら、その技は完全なる発勁! そんなものを貰えば、榛名選手といえど一撃でやられかねません!」


明石「しかし、それは隼鷹選手も同じこと! 次の一撃で勝敗が決まる! 勝つのは右の正拳突きか、それともカウンターの発勁か!」

明石「間もなく射程に入る! 動いた! 渾身の右正拳突き! このハンドスピードは躱せな……流された!?」

香取「纏絲勁!? 捻るようにして敵の力を受け流す防御の勁力、ここまでの技術を……!」

明石「空振りで榛名選手の体勢が崩れた! 隼鷹選手は崩れていない! き、決まったぁぁぁ! 全力の発勁による崩拳突き!」

明石「胴を貫通したかと見紛う凄まじい一撃がみぞおちに入った! これは、内臓どころか背骨まで達している! 榛名選手がよろめいた!」

明石「ふらつきながら後ろに1歩下がり、大量の喀血! 胃が破れてしまったのか! このダメージは尋常ではない! まさしく致命傷!」


明石「しかし、まだ倒れてはいない! 隼鷹選手、ダメ押しとばかりにハイキィィィッ、あっ! ぎゃ、逆にぶん殴られたぁぁぁ!?」

香取「嘘でしょ、動けるの!?」

明石「ひ、左正拳追い突きぃぃぃ! 最後の死力を振り絞るかのような渾身の一撃! 隼鷹選手の心臓目掛けて突き刺さったぁぁぁ!」

明石「隼鷹選手、カウンター気味にもらってしまった! 大きく後方に吹っ飛び、ダウン! しかし、榛名選手も力尽きるかのように膝を着いた!」

明石「共に立ち上がれない! 隼鷹選手は意識こそありますが、おそらく胸骨を砕かれた! 榛名選手も内蔵をやられている!」

明石「これは、ダブルKOの様相を呈してしまうのか! 隼鷹選手が立ち上がろうとしていますが、ダメージが大き過ぎる! どうしても立てない!」


明石「榛名選手に至っては、意識があるかさえ定かではありません! その場に膝を着いたままピクリとも……いや、動いた! 意識はある!」

明石「た、立ちます! ふらつきながらも立とうとしている! 息吹で呼吸を整える余力さえ残っていない体を、精神力だけで動かしています!」

明石「……立った! 限界を超えるダメージを受け、もう一歩も動くことができないのは明らかですが、確かに立っています!」

明石「後を追うように隼鷹選手が立とうとします! が、立てない! 体に力が入らないのか、手足は震えるばかりで一向に立ち上がれません!」


明石「ここでゴングが鳴りました! 試合終了! 隼鷹選手を戦闘不能とみなし、レフェリーストップです! ここに勝敗が決定しました!」

明石「勝ったのは空手家、榛名選手! 技術においては圧倒されるも、最後の最後で勝負を丸ごとひっくり返しました!」

明石「太極拳士、隼鷹選手は卓越した技量を見せつけるも、榛名選手の底力の前に惜しくも敗北を喫しました! やはり榛名選手、恐るべし!」

香取「紙一重の勝負だったわね。隼鷹さんがもう一息早くトドメを刺しに掛かっていれば、勝敗は逆だったでしょう」

香取「たぶん、発勁は全力を叩き込むだけに、放ってすぐには次の動きに移れないんじゃないかしら。わずかだけど、その一瞬が命運を分けたわね」

香取「まあ、何より凄いのは完全な発勁の拳を受けながら反撃し、その上で立ち上がれる榛名さんのほうなんだけど」


明石「あの一撃、拳がみぞおちへ完全に埋まるほど深く入ってましたよね。普通なら死んでてもおかしくないような気がするんですが……」

香取「翔鶴さんが桁外れだから影に隠れがちだけど、実は榛名さんも相当に打たれ強いのよね。元々はフルコン空手の出身なんだし」

香取「物理的な耐久力に加え、あの精神力。普通なら絶対に立ち上がれない一撃でも、心が折れていなければ立ち上がれるのよ」

香取「技量に勝る隼鷹さんを凌駕したのは、空手で練り上げた心身の底力ね。そういえば、中国拳法は精神鍛錬はおろそかにしがちだったかしら」

香取「これで榛名さんは優勝に大きく一歩近付いたわ。あれで倒れないなら、もう並大抵の攻撃では絶対に倒れないわよ」

明石「なるほど、空手VS中国拳法は、精神力の差で空手に軍配が上がりました! 中国拳法の神技も、榛名選手の心を折ることだけはできなかった!」

明石「深遠なる中国拳法の奥義を見せつけた隼鷹選手と、空手の強さを体現してみせた榛名選手! 両選手に今一度拍手をお願いします!」


試合後インタビュー:榛名

―――勝利した感想をお聞かせください。

榛名「……私は勝ったんですか。いえ、試合を決めたときの記憶がほとんどないので。どうやら無意識で戦っていたようです」

榛名「覚えているのは、地獄のような苦しみと、それを跳ね除けて拳を突き出したことだけです。それ以外は、何も」

榛名「ふふっ、まるで翔鶴さんですね。彼女の愚直さが私にも伝染ってしまったんでしょうか……私もまだまだ未熟なものです」

―――戦ってみて、隼鷹選手をどう感じましたか?

榛名「私と彼女の在り方が相容れることは永遠にないでしょう。私は空手に全てを捧げ、彼女は中国拳法を己のために利用しているに過ぎない」

榛名「それでも、強いことだけは認めざるを得ません。技においては敗北したに等しいでしょう。小技では全て上を行かれたように思います」

榛名「私の気迫を一身に浴びても、その心に何のゆらぎもない。そして底知れない技の数々。もう一度戦って、必ず勝てるとはとても言えません」

榛名「今日は私が勝ったようですが、本当にわずかな差でした。自身の未熟さを思い知らされます。結局、勝因は力押しなのですから」

榛名「いずれ再戦したいものです。次は、全てにおいて隼鷹さんを上回ってみせる。もちろん、空手家としてです」

榛名「技で負けたとしても、空手への信頼を捨てるつもりはありません。全ては私の未熟さが招いた結果。空手は決して劣ってなどいません」

榛名「今はそうでなくても、いずれ空手は中国拳法を超える。私はそのために戦います。ここまで私を育ててくれたのは、空手ですから」


試合後インタビュー:隼鷹

―――今の心境をお聞かせください。

隼鷹「負けたんだから、良くはないね。あーあ、勝てなかったか。背骨ごと持っていくつもりで打ち込んだのに、なんで動けたんだろ」

隼鷹「あれを受けて動かれちゃ、あたしは負けを認めるしかないね。あの一撃はあたしの拳法の集大成みたいなもんだし」

隼鷹「他の技で勝っていようと、結局勝負ってのは結果が全てだ。あいつの勝ちだよ、今日のところはね」

―――この後、お酒のほうはどうされますか?

隼鷹「飲まない。負けた後はしばらく禁酒するって決めてるんだ。どうせ敗北後の酒なんて、飲んでも大して旨くないし」

隼鷹「仕方がないから、隘路から修行のやり直しでもするかな。次はもっと素早く、確実な一撃を打てるようにしとかないと」

隼鷹「榛名ちゃんに言っておいてよ。またやろうって。次は、あたしが勝つ。そのときは殺しちゃうと思うけど、恨まないでくれよ?」


明石「空手VS中国拳法の一戦が終わり、次が2回戦最終試合! とうとうこの対戦のときがやってきてしまいました!」

明石「まずは赤コーナーより選手入場! 怪物退治への期待を一身に背負い、駆逐艦級王者がリングへと上がります!」


試合前インタビュー:吹雪

―――2回戦の相手が長門選手ではなくビスマルク選手になったことに対して、幸不幸、どちらだと感じますか?

吹雪「どっちかって言われれば、幸運です。楽に勝ち進めるわけですし、優勝すれば長門さんと戦わせてくれるんでしょ? なら文句はないですよ」

吹雪「まっ、今となっては長門さんを倒す意味なんてあるのかって感じですけどね。所詮は自信がなくて勝ち逃げした臆病者でしょ?」

吹雪「あんな雌ゴリラが王者であり続けたこと自体が奇跡みたいなものだったんですよ。まあ近いうちに、私がトドメを刺してあげます」

―――ビスマルク選手に対して、恐怖心はありますか?

吹雪「怖いっていうか気持ち悪いですね、あんなビョーキ持ちと戦うなんて。あいつは閉鎖病棟にでもブチ込んでおくのがお似合いです」

吹雪「結局あいつの個性なんて、頭がおかしいってことだけですから。たぶん、私が戦ってきた中で一番弱い相手になると思いますよ」

吹雪「なんだったら、私のほうがあいつを食べてやりましょうか。人喰い鬼が食われるなんて、なかなかの見ものでしょ?」

吹雪「あーでも、さすがにヤだな……あいつの肉ってまずそうですし、食べたら私まで病気になりそう。性病とか持ってそうですよね、あいつ」

―――勝てる自信はあるということですか?

吹雪「当たり前でしょ? 楽勝です。いやー2戦続けて雑魚と戦わせてもらえるなんて、なんか事実上のシード権をもらったみたいで申し訳ないです」

吹雪「鬼退治、なんていうのも馬鹿らしいですね。病院から頭のおかしい患者が逃げたので、看護師の代わりに私が連れ戻してあげるって感じです」

吹雪「噛みつかれるのは嫌なんで、歯とか骨とか出来るだけ折っておきますね。いいでしょ? あいつ、そういうプレイが好きな変態みたいですし」


吹雪:入場テーマ「聖剣伝説Legend of Mana/The Darkness Nova」

https://www.youtube.com/watch?v=Elu5LoFiiXE


明石「最強に挑戦する最軽量級! 古流柔術家、古鷹選手を下した駆逐艦級王者の前に、過去最悪の怪物が立ちはだかります!」

明石「それでもビッグマウスは止まらない! 有言実行とは彼女のためにある言葉! 宣言通り、鬼退治を完遂することはできるのか!」

明石「鬼だろうと怪物だろうと、余裕綽々倒してのける! ”氷の万華鏡”吹雪ィィィ!」

香取「さて……吹雪さんにとって最大の受難の時ね。今日の敵は正攻法のテクニックが通用する相手じゃないわよ」

明石「下馬評としては2:8で吹雪選手の敗北を予想する評価が多いそうですね。さすがの吹雪選手でも、ビスマルク選手は無理だと……」

香取「普通に考えれば、ね。ビスマルクさんは単に凶暴なだけじゃない。高い身体能力と格闘術、冷静な判断力さえ持ち合わせているわ」

香取「それでも、吹雪さんに勝機がないわけじゃないわ。彼女はビスマルクさんと相対するための、最低条件は満たしているもの」

香取「その条件とは、恐怖に飲まれないということ。精神的な強さにおいて、吹雪さんは全選手の中でも三本の指に入るはず」

香取「呆れられるほどの大言壮語を吐いて自分を追い込み、プレッシャーを力に変えて勝利をもぎ取る。尋常な精神力でないとできることじゃないわ」


香取「負けるくらいなら死を選ぶ。それ程の覚悟があるのはトップファイターにもそうは多くない。吹雪さんが試合で心を折ることは有り得ない」

香取「いつだって吹雪さんは、プライドのために命を賭けて戦っている。ビスマルクさんが相手でも、そのことに変わりはないと思うわよ」

明石「確かに、精神的な強さというものはビスマルク選手と戦うための必須能力ですね。ですが、それだけでは……」

香取「もちろん、それだけではビスマルクさんという破格の怪物には勝てない。純粋な強さも間違いなく求められるでしょう」

香取「吹雪さんは全てにおいて駆逐艦としては高水準だけど、優れた才覚があるわけじゃないわ。むしろ、才能という点では凡庸だと言っていい」

香取「夕立さんのような一撃必殺もなく、島風さんのようにずば抜けたスピードもない。不知火さんのように発勁を使いこなすこともできない」

香取「あるのは全方位に対応できるテクニックと、本能を利用した反射神経、後は膨大な練習量による思考の瞬発力くらいかしら」

香取「階級差を踏まえれば、ビスマルクさんと戦うには心許ないのは間違いないわね。勝算は確かに薄い。薄いけど、ゼロではないわ」


香取「引っ掻きと噛み付きくらいしかできない女子供が、成人男性を圧倒することだってある。心を折らないことは、戦いの場では最も重要なこと」

香取「吹雪さんは喉笛を食い千切られようとも、髪の毛一本になるまでビスマルクさんに立ち向かうわ。諦めるという選択肢は最初から捨てている」

香取「ならば勝算はゼロじゃない。結果が勝つか負けるかの2つしかないなら、この勝負は五分、ということになるんじゃないかしら」

明石「……少なくとも、ビスマルク選手の喉元に迫る力は持っている、ということですね」

香取「それに関して言えば、間違いなく。今の吹雪さんの目付きを見ればわかるわ、負けることなんて微塵も考えてない」

香取「下馬評がどうであろうと、結果は終わってみないとわからないものよ。これが賭け事なら、私は大穴狙いで吹雪さんに賭けるわね」

明石「なるほど……ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! とうとうあの怪物がUKFに帰ってきます!」


試合前インタビュー:ビスマルク

(ドイツ語による会話を日本語に翻訳したものになります)

―――おはようございます。ご気分はどうですか?

ビスマルク「Guten Morgen! 気分は良いけど、お腹が空いちゃったわ! 朝ごはんはどこかしら? あっ、もしかしてあなたが朝ごはん?」

―――違います。今からビスマルク選手には試合をしていただくことになります。準備のほうは大丈夫ですか?

ビスマルク「そうなの? 別に良いわよ! 試合ってことは、誰かを食べてもいいってことでしょ? すぐに始めましょう!」

ビスマルク「思い出したわ、私は長門さんにやられちゃったのよね? ああっ、悔しい! まだ長門さんを一口も食べてなかったのに!」

ビスマルク「あっ、もしかして、試合の相手って長門さん? だったら嬉しいわ! あのとき食べ損ねたぶん、たくさん食べたいの!」

ビスマルク「もし食べさせてくれないなら、今度はちゃんと私を殺してほしいわね! じっくりと痛めつけてから、嬲り殺しにされたいわ!」

―――今日の相手は長門選手ではなく、こちらの吹雪選手です。彼女を含めて3回勝ち進めば、長門選手ともう一度戦う権利を得られます。

ビスマルク「わあ、美味しそう! ちっちゃいから食べるところは少ないけど、そのぶん、とっても濃厚な味がすると思わない?」

ビスマルク「何より、この子可愛いわね! 腕を食い千切ったらどんな風に泣くのかしら! 早く試したくてワクワクしてきたわ!」

ビスマルク「ああっでも、この子に嬲り殺してもらうってのも捨てがたいわね! あの指が私の目に突っ込まれたら、すごく気持ちよさそう!」

ビスマルク「どっちにすれば迷っちゃうわ。長門さんを食べられなくなるとしても、こんな可愛い子に殺してもらえる機会なんて滅多にないし……」

ビスマルク「とりあえず、この子を食べてから考えるわね! 一口くらいなら死なないでしょ? まずは味見をしてみるわ!」

ビスマルク「美味しかったら、そのまま全部食べちゃう! そうでもなかったら、私は痛めつけられながら殺されるわ! それが良さそうね!」

ビスマルク「考えてたらお腹が空いてきちゃった! さあ、早く吹雪さんのところに行きましょう! きっと美味しそうな匂いがするに違いないわ!」

(通訳は精神病院から退院した伊8さんに協力していただきました)


ビスマルク:入場テーマ「SAW/Hello Zepp」

https://www.youtube.com/watch?v=vhSHXGM7kgE


明石「UKF最凶の艦娘は誰か!? その問を投げかければ、誰もが同じ名前を口にするでしょう! それ程までに、彼女が残した爪痕は大きい!」

明石「噛み付きを超えた捕食攻撃! 目に指を突っ込まれても揺るがぬ微笑! あらゆる狂気を満載した、最凶のジャマンファイターが戻ってくる!」

明石「とうとう怪物が長き眠りより目を覚ます! ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルクゥゥゥ!」

香取「出てきたわね。管理ができないから試合直前まで入渠してたはずなのに、ずいぶんと目覚めが良さそうじゃない」

明石「前大会の長門戦で大破させられてから、ずっと放置していましたからね……寝起きで不機嫌なら、それはそれで問題ですけど」

香取「ビスマルクさんは、今日の対戦相手について何も知らされずにリングへ上がることになったみたいね。それってフェアじゃなくないかしら?」

明石「フェアではないですけど……運営側としては、早めに敗退してほしいというのが本音なので」

香取「……まあ、そうでしょうね。私もできることなら、ビスマルクさんには勝ち上がってほしくないわ」

香取「彼女が勝利を重ねるということは、同じ数だけ惨劇が起こるということだもの。運営がビスマルクさんに不利な状況を作るのも無理ないわ」

香取「だけど、そう簡単に負けてくれるほど、ビスマルクさんは甘くない。彼女が単なる狂った艦娘じゃないのは周知の事実でしょう」


明石「ビスマルク選手を低く評価しているのは、対抗意識があるらしいグラーフ選手と、ビックマウスを欠かさない吹雪選手だけですからね」

明石「他の選手、特に戦ったことのある選手は皆、口を揃えて言います。『ビスマルク選手は強い』と……」

香取「例外は、長門さんくらいかしらね。序盤の奇襲が上手く行っていなければ、あそこまで一方的な試合展開にはならなかったでしょうけど」

香取「ビスマルクさんは本物よ。軍隊格闘術のテクニックに、身体能力と戦術性を併せ持った、弱点のない戦艦級屈指の実力者なのは間違いないわ」

香取「何よりも恐ろしいのが、『何をしてくるかわからない』ということ。行動を読めないって要素は、戦う上で最大の脅威になり得るわ」

香取「彼女に一切の常識は通用しない。ビスマルクさんにとって対戦相手とは捕食対象。『人喰い鬼』という通り名は彼女の本質そのものを表してる」

香取「ファイターの強さを測る一般的な尺度にビスマルクさんを当て嵌めようとすれば、必ず見誤るわ。相手は本当の怪物なのだから」


明石「吹雪選手の扱うクラヴ・マガも軍隊格闘術の一種ですが……ビスマルク選手に通用するでしょうか?」

香取「通用しなくはないはずよ。でも、まともなテクニックが通用するのはある程度のところまでじゃないかしら」

香取「いくらクラヴ・マガの汎用性が優れていても、怪物と戦うことは想定してないわ。噛み付きには対処できても、捕食してくる相手は想定外よ」

香取「吹雪さんはテクニックを最大限に発揮した上で、更にテクニック以上のものでビスマルクさんを超える必要があるわ。でなければ、勝てない」

香取「身体能力では遥かに劣っているし、駆逐艦級としてのスピードも、ビスマルクさんを掻き回せるほどじゃない。総力では完全に不利だわ」

香取「口では楽勝だなんて言ってたけど、裏では対ビスマルク用の作戦を入念に練ってきているはず。吹雪さんの勝機は、それ次第ね」


明石「試合展開として、何か予想できるものはありますか?」

香取「……ないわ。ビスマルクさんが何をしてくるかわからないし、それに吹雪さんがどう対応するかも、予測が付かないから」

香取「少なくとも言えるのは……血を見ずには終わらない、ということでしょうね」

明石「……わかりました、ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! 両者、まったく対照的な表情を浮かべております!」

明石「闘志を漲らせた吹雪選手に対し、ビスマルク選手は相変わらずの微笑! その笑顔に不穏なものは全く感じられません!」

明石「しかし、我々は知っている! その微笑の裏には、底知れぬ狂気が秘められていると! 吹雪選手はその狂気に対抗できるのか!」

明石「今再び、地獄の門が開かれる! ゴングが鳴りました、試合開始です!」


※注意事項
・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。
・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。
・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。
・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。


明石「両選手、速くも遅くもないペースでリング中央に歩み寄ります! ビスマルク選手はオーソドックススタイルの構えを取っています!」

明石「吹雪選手は開手を顔前に備えたクラヴ・マガの構え! 真っ直ぐに間合いを詰めていきます! フットワークを使う様子はありません!」

香取「フットワークを使わない? 駆逐艦級としての唯一の強みを捨てて、正面からビスマルクさんに当たる気かしら。いくら何でも無謀じゃ……」

明石「ガードを上げたまま、散歩のような足取りでビスマルクが近付く! 吹雪選手は足を止めて迎撃体勢に入りました!」

明石「スピード以外で、ビスマルクにどう立ち向かうのか! ビスマルクが先手を取った! いきなり右ストレート! 速い!」

明石「吹雪選手、これを手首によるパリィで受け流した! 続く左ジャブも同じパリィで軌道を逸します! 同時にサイドステップで側面へ回る!」

明石「当然ビスマルクは追撃! 左のミドルキック! クロスした両腕で受けて威力を殺しました! 戦艦級の蹴りを受け止め、微動だにせず!」


明石「蹴り足を素早く引き、続いてビスマルクは右のローキック! これは膝蹴りで迎撃! 身長差を逆手に取り、蹴りを蹴りで止めました!」

明石「逆にローキックの足へダメージが入ったか! しかし、ビスマルクがダメージの蓄積が望めないことは過去の対戦から明らかです!」

明石「どうやら吹雪選手、まずは防御に徹するようです! 狙いはスタミナ切れか、あるいは別の意図があるのか!」

香取「スタミナ切れは狙っていないでしょうね。ビスマルクさんは脳内麻薬の異常分泌により、疲労や痛みを感じないのよ」

香取「そんな相手にスタミナ切れを狙えば、受け側が持たないわ。別の何かを狙っていると見るのが正解でしょう」

香取「だとしたら、何を狙っているのか……打たせて打撃の呼吸を読んでから、攻勢に移るつもりかしら」

明石「ビスマルク選手は更に打撃を使って攻め立てます! 左右のフック! ショートアッパーからのリバーブロー! プロボクサー並の連撃です!」

明石「しかし、吹雪選手に掠りもしない! 全ての打撃が円を描くような両手のパリィによって逸らされ、空振りに終わっています!」


明石「パンチがダメなら、蹴りはどうか! ビスマルクのミドルサイドキック! これもパリィで逸らされてしまった!」

明石「右のハイキック! ダッキングで回避! 左のローキック! 軸足を回転させて受け流した! 驚嘆すべきディフェンステクニックです!」

明石「ビスマルクは打撃寄りのファイターですが、その打撃が尽く受け流される! これこそがクラヴ・マガの実戦防御術ないのか!」

香取「360°ディフェンス、と呼ばれるものね。クラヴ・マガの最も基礎となり、同時に最も汎用性の高い防御術よ」

香取「空手の廻し受けの影響を受けているんでしょう。円の軌道を描く動きで打撃を逸す。ついでに相手のバランスを崩せれば理想形よ」

香取「でも、ビスマルクさんはバランス感覚も良いみたいね。空振りでも体勢が崩れないし、腕の引きも速いから反撃に移れないわ」

香取「というより、吹雪さんに反撃する意志がまだないみたいね。珍しい戦い方だわ、やっぱり何かを狙ってる……」

明石「更にジャブ、ストレート、フックと打撃を放ちますが、やはり通らない! 吹雪選手の柔軟かつ鉄壁のディフェンスを突破できません!」

明石「とうとうビスマルク選手が攻撃を止めました! 打ち疲れたというより、打撃に飽きたといった様子です。ビスマルク、やや距離を取る!」


明石「吹雪選手は追いません! 同じ構えを取ったまま、その場で待ち構えています! 来るなら来い、というような気迫を感じさせます!」

明石「さあ、ビスマルクはどう出る! ガードを下げました! 構えを変えるようです! 重心が低く……これは!?」

香取「……キャッチ・アズ・キャッチ・キャン・スタイル! レスリングの構えだわ。体格差を利用する作戦に変えてきた……!」

明石「考えてみれば、至極当然の選択です! 打撃が通らないなら、タックルで組み付く! 組み付けば、パワーで劣る吹雪選手は絶対的に不利!」

明石「飛び掛かろうとする猛獣のように腰を落とし、両腕は吹雪選手を逃すまいと大きく広げられている! これを回避するのは困難を極めます!」

香取「これが吹雪さんの狙い? 打撃主体のビスマルクさんをタックルに誘う……私には、更に不利な状況に自らを追い込んだとしか思えない」

香取「でも、これが吹雪さんの痩せ我慢でない限り、この先に何かを仕掛けているはず。それが成功すれば……!」

明石「ジリジリとビスマルクがタックルの射程へ距離を狭めていきます! 吹雪選手は動かない! 構えを取ったまま不動の体勢です!」

明石「組み付かれれば圧倒的不利な状況に追い込まれます! テイクダウンを取られれば輪をかけて最悪! 今、ビスマルクが射程距離に入ります!」


明石「タックルに行ったぁぁぁ! 速い! しかも体勢が低い! 吹雪選手、タックルを切れるか! これは……タックルが決まったぁぁぁ!」

明石「吹雪選手、タックルを切れない! テイクダウン、そのままマウントポジション! 最悪の展開です! ここから待ち受けるのは惨劇……!?」

香取「これは……相討ち!?」

明石「なっ……び、ビスマルクの両目が潰れています! まさか、これが吹雪選手の狙いか! タックルのカウンターとして目突きを放っていた!」

明石「目潰しは成功! しかし……代償があまりにも大き過ぎる! 目突きに使ったと思しき2本の指が、あらぬ方向に折れ曲がっています!」

香取「……ビスマルクさんは、あえて目突きを受けたのね。目を潰されると同時に、眼窩に指を引っ掛けて、テコの原理でへし折ったんだわ」

香取「痛みへの反応が狂ってるビスマルクさんならではの指関節攻撃ね。相変わらず、狂ってる……!」

明石「利き手の人差し指、中指は骨折! しかも状態はマウントポジションを取られ……!? わ、笑っている! ビスマルクが笑っています!」

明石「両目の視力を奪われながら、声高々に笑っています! 目を潰してくれてありがとうとでも言うように、嬉しそうな高笑いを上げている!」


明石「血涙を流しながら哄笑を上げる、これが人喰い鬼ビスマルク! 視力は奪ったものの、状況は吹雪選手の圧倒的不利となってしまいました!」

明石「マウントポジションなら、目が見えなくても相手の動きが掴める! ビスマルクの鉄槌が振り下ろされたぁぁぁ! 吹雪選手、辛うじて回避!」

明石「一撃入れば致命傷! ビスマルクはなりふり構わず拳を落としていく! 防戦一方の吹雪選手! どうにか拳を捌いて回避し続けています!」

明石「攻撃は当たっていないものの、マウントを返せない! 当然です、相手は四階級上の戦艦級! そんな相手を腰から振り落とす術はない!」

明石「ビスマルクは休みなく連打を放ちます! ボディへの打撃を交えた絶え間ないパウンド! 吹雪選手はギリギリで全ての拳を防御している!」

明石「しかし、その防御もどこまで保つ! 相手は疲れ知らずにパウンドを放ち続けている! 100発中1発当たれば吹雪選手は終わってします!」

香取「スタンドに戻れば、逆に視力のないビスマルクさんが圧倒的不利になるわ。どうにかして立てないと……!」

明石「満面の笑みでラッシュを続けるビスマルク! そのパウンドは見えているかの如く正確です! 右フックが吹雪選手の脇腹に入ったぁぁぁ!」


明石「とうとう当たってしまった! 戦艦級の打撃が、駆逐艦級の吹雪選手にクリーンヒット! 吹雪選手、堪らず悶絶の表情を浮かべている!」

明石「続いて顔面へも鉄槌炸裂ぅぅぅ! 鼻骨が折られたか! 吹雪選手、絶体絶命! 重大なダメージを負ってしまいました!」

明石「更にトドメのパウンド……違う! 顔を寄せてきた! た、食べる気だ! 捕食攻撃が始まってしまったぁぁぁ!」

明石「顔面を狙っている! 吹雪選手、堪らず顔を腕で覆う! 躊躇なく噛み付いたぁぁぁ! 右腕です! 右の前腕を食い千切ろうとしている!」

香取「まずい、完全にビスマルクさんのペースだわ。このままじゃ……? 吹雪さんが、うめき声ひとつ上げてない……!」

明石「ビスマルクは骨ごと噛み砕く気だ! その上、腕一本で満足するビスマルクではない! 次はどこを噛み付かれるかわからない!」

明石「何としても腕を外さなければ! ここで吹雪選手が反撃! 左の掌底による横打ちです! ですが、この程度では……あれ?」

香取「まさか……噛み付かれることを狙っていたの!?」

明石「び……ビスマルクが腕を離した!? 噛み付きが緩んだのでしょうか! しかし、あの程度でビスマルクが捕らえた獲物を逃がすはずがない!」


明石「もう1発、吹雪選手の左フック! な、なんだ!? ビスマルクが口を開きっぱなしだ! あっさりとあごに当たってしまった!」

明石「マウントを取られた状態での、しかも最軽量級のパンチの威力などたかが知れている! しかし、開きっぱなしのあごに当たれば話は別!」

明石「ビスマルクが大きくぐらついている! 即座に吹雪選手が襟を片手で取って引き倒す! 吹雪選手、マウントから脱出成功!」

明石「そのまま追撃に行こうとしますが、素早くビスマルクが立ち上がった! 大きく距離を取っています! まるで避難するかのように!」

明石「口は相変わらず呆けたように空いたままです! これは……まさか、あごが外されている!?」

香取「なるほどね……吹雪さんはビスマルクさんを倒すために、そこまでの覚悟を決めていたんだわ。腕を食いちぎられる覚悟をね」


香取「ビスマルクさんの戦い方は、ファイターというより獣に近い。相手に十分なダメージを与え、動けなくなれば即座に食いついてくる」

香取「吹雪さんはその瞬間に賭けていたんだわ。ビスマルクさんの咬合力でも、腕を丸ごと噛み付かせれば、一瞬では食い千切られないはず」

香取「だから吹雪さんはあえて噛み付かせ、掌底で下顎骨をずらしてあごを外した。口を開けた状態で打たれると、あごって簡単に外れるのよ」

香取「外れたのは片側の関節だけでも、もう口は閉じられないわ。歯を食いしばらないと人並み以下の力しかでないのは誰もが知るところよね」

香取「噛み付きは封じられた。視力も全くない。ここからは、完全に吹雪さん有利の展開になるわ」

明石「フェンスに背中が当たるまでビスマルクは後退! あごに手を掛けています! 自力であごを嵌めようとしているようです!」

明石「しかし、そんな暇は与えない! 吹雪選手、全速力で突進! ビスマルクは見えていない! 跳び前蹴りが決まったぁぁぁ!」

明石「外れたあごに命中です! これは、もう片側の関節も外れてしまったのではないでしょうか! あごを嵌めるのが更に困難になりました!」


明石「ビスマルク、反撃の左フック! しかし見当違いの方向です! その場所に吹雪選手はいない! 既にサイドへ回り込んでいる!」

明石「今度は跳び後ろ回し蹴りだぁぁぁ! 今のビスマルクは真っ暗闇の中! またもやあごにクリーンヒットしました!」

明石「この一撃はあごの骨自体を砕いたのではないでしょうか! 追撃に吹雪選手のハイキック! ビスマルク、転がるようにして回避した!」

明石「そのまま反対方向のフェンス際まで逃げる! またあごに手を掛けています! やはりもうあごは嵌まら……ぎゃあああああっ!?」

香取「なっ、なな……何してるの!? 」

明石「ひっ、ひぃいい! イカれてる! わかってはいましたが、想像以上にイカれてる! ビスマルクはあごを嵌めようとしていたのではない!」

明石「自ら……自ら下顎をもぎ取りました! 夥しい血がマットに流れ落ちる! むき出しになった舌がだらりと垂れ下がっています!」

明石「ぶらさがるだけのあごが邪魔だったとでも言うのか! まったく理解を超えた行動です! 何考えてるんだ! 頭おかしいのか!」


明石「もぎ取った自分の下顎を、ゴミのように投げ捨てた! 今やビスマルクの姿は完全なる異形! 人の形すら捨てた、まさしくモンスターです!」

香取「頭がおかしいのは間違いないわ……嵌まらないあごが弱点になるのは理解できる、でも、それを引きちぎろうだなんで誰も思わない」

香取「しかも、あんな暴挙に及べば、出血で自滅するのよ。いくらビスマルクさんでも失血死は免れ……あはは、嘘よね?」

明石「はっ……はあ!? ち、血が止まった! あれほどの出血がピタリと止まった! 止血を施した様子はありません!」

明石「ていうか、あの箇所の出血を止めるには、脳へ繋がる頸動脈を止めるくらいしかない! これはどんな魔法だ!?」

香取「そうか、脳内麻薬の異常分泌……! 脳内麻薬の一種、アドレナリンには血管収縮による止血効果がある。ここまで作用が早いなんて……!」

明石「出血量はコップ2杯程度で済んでしまいました! ビスマルクの体力を考えれば、スタミナを削るにはいささか心許ない量です!」

明石「しかし下顎を失うという致命傷を負っているのは確か! さすがにこのダメージは……なんだ? ビスマルクが奇声を上げている!?」


明石「ま、まさか……笑っているのか!? 下顎を失って発声能力が損なわれた今、その笑い声は、さながら地獄に棲む魔獣の雄叫びです!」

明石「これほどのものか、ビスマルク! こいつの狂気は常に我々の想像を超えている! あの吹雪選手も、驚愕で動けずにいます!」

香取「化け物……! 吹雪さんが飲まれかかっているわ。有利な状況なのは変わりないはずなのに、吹雪さんの勝機が見えない……!」

明石「び、ビスマルクが動き出します! 血涙を流し、下顎のない口から舌を垂れたその姿、紛れもなく怪物です!」

明石「しかしガードを上げているということは、まだ戦えるということ! 明らかに動揺している吹雪選手、立ち向かえるか!?」

明石「……吹雪選手が構えました! 右腕は噛み付きによって死に腕と化し、全身に冷や汗を掻きながら、それでも闘争心を奮い起こしました!」


明石「そうです、怪物なのは分かり切っていたこと! それが想像を超えていようと、倒さなくては先に進めない! 立ち向かわなくては勝てない!」

明石「吹雪選手のほうから間合いを詰めた! 今度はフットワークを使っています! 盲目の不利を突き、サイドから攻める気です!」

明石「しかし、先に仕掛けたのはビスマルク! 右のミドルキックです! 動きが全く落ちていない! しかし、やはり狙いは定まらない!」

明石「難なく回り込んで回避! 膝裏にサイドキックを入れました! ビスマルクが体勢を崩す! 側頭部に肘打ちが入ったぁぁぁ!」

明石「だが、効いていない!? 即座に立て直し、ビスマルクのバックブロー! これも当たらない! 失明させたのが功を奏しています!」

明石「吹雪選手が追撃を掛ける! 顔面へ膝蹴り……ブロックされた!? 手のひらで止められました! ビスマルクが正面に吹雪選手を捉えた!」

明石「咄嗟に吹雪選手、後退! 視力を奪ったとはいえ、捕まえられては元も子もない! 一旦距離を開けてビスマルクの様子を伺います!」


明石「どうやら聴覚で吹雪選手の位置を探っているようです! 2つの眼窩が吹雪選手を捉えて離さない! まるで見えているかのようです!」

香取「視力を失って動けなくなるのは、恐怖心によるものよ。暗闇を恐れるのは、人として拭い去れない本能だから」

香取「だけど、相手は怪物。暗闇への恐怖心なんてこれっぽっちもないみたい。冷静に、吹雪さんの出す音を聞き分けてる……!」

明石「有利とは言え、吹雪選手は慎重に攻めなくてはなりません! 掴まれてしまえば、ここまでの全ての布石が台無しになってしまう!」

明石「今度はフットワークではなく、忍び足で足音を立てずビスマルクへ近付こうとしています! しかし、あの眼窩は吹雪選手を向いたまま!」

明石「呼吸音で吹雪選手を認識しているのか!? 確かに、吹雪選手も少なからずダメージを負い、かなり呼吸は乱れています!」


明石「呼吸を乱す主な原因は、骨まで達しているであろう右腕の噛み傷! この痛みは消しようもなく、どうしても呼吸は大きくなってしまう!」

明石「それでも、近付かなくては仕留められない! 吹雪選手、出来る限り呼吸と足音を抑えながらビスマルクに接近していきます!」

香取「ビスマルクさんは死んでいてもおかしくない傷なのに、吹雪さんより元気そうに見えるわ。どこまでも常識を超えた相手ね」

明石「異形となったビスマルクが、吹雪選手を待ち受けている! 構えはガードを上げた……いや、再び構えを変えます!」

明石「タックルのときより、更に重心が低い! いや、とうとう手をマットに付いてしまった! ほとんど四つん這いになっています!」

明石「これは……この構えは、まさに獣! 獲物を狙う肉食獣を模したような、クラウチングスタートに近い構えです!」

明石「吹雪選手が近付き次第、飛び掛かってやろうという体勢! まさか、下顎を失いながら、まだ吹雪選手を食べることを諦めていないのか!?」

香取「……理にかなっているわ。目が見えなければ、照準はどうしても大雑把にならざるを得ない。それを踏まえた攻撃手段を見つけたみたいね」


香取「何がどうなろうとも、とにかく捕まえる。吹雪さんは一瞬の判断ミスで敗北しかねないわ。今こそ、冷静さを保たないと……!」

明石「ビスマルクの構えを見て、吹雪選手が一度接近を止めました! しかし、再度足を踏み出す! 恐怖に囚われては勝てるものも勝てない!」

明石「間もなく互いの射程に入ります! ビスマルクの眼窩は吹雪選手へ向けられたまま! それを承知の上で、吹雪選手も接近する!」

明石「動いた! ビスマルクが飛び掛かった! まさしく猛獣のごとく、全身をバネにして跳躍した! 速い! 致命傷を負っている動きじゃない!」

明石「しかし吹雪選手も反応している! 垂直に飛んでタックルを回避! 同時に頭頂部を踏み抜いたぁぁぁ! これは効いているはず!」

明石「ビスマルクが頭からマットに叩き付けられる! 皮膚が剥き出しのあごを打ち付けた! もう1発踏み付けぇぇぇ! マットに再び血が滲む!」

明石「あっ!? ビスマルクが身を翻した! き、効いてないのか! 吹雪選手の足首を掴んだ! ば、馬鹿な! まだこんなに動けるのか!」

香取「考えられない、脳へダメージが届いてないの!?」

明石「ひ、捻ったぁぁぁ! 足首をへし折りました! 噛み合わせがないのに、これほどの腕力が残っているのか! 吹雪選手が利き足をやられた!」


明石「残った足で顔を蹴りつけ、どうにか右脚を引き抜きました! しかし、完全に折れている! 右腕に続き、右脚まで機能停止!」

明石「吹雪選手、苦悶と驚愕を露わにしながらマットへ倒れ込みます! 這うようにしてビスマルクから距離を取ろうとしている!」

香取「……まずいわ。ダメージ以前に、精神力が限界に近い!」

明石「衣擦れの音を聴きつけたのか、再びビスマルクが吹雪選手へ向き直る! 暗い眼窩が手負いの吹雪選手を覗いています!」

明石「そして歩き出した! 四足獣の如く、四つん這いでにじり寄っていきます! また、さっきの攻撃を仕掛けるつもりだ!」

明石「吹雪選手の動きが鈍い! 距離を取ることが出来ません! ビスマルクがみるみる接近してくる! 来た! 飛び掛かったぁぁぁ!」

明石「間一髪、転がって回避しました! ビスマルクの攻撃は不発! しかし、すぐさま吹雪選手のほうを向き直った!」

明石「ビスマルクが音で相手の位置を感知することに慣れ始めているように見えます! 機動力を失った吹雪選手、逃げ場がない!」


明石「完全に獣と化してしまったかのように、またビスマルクが四本足で近付いてくる! 真っ直ぐ吹雪選手を目指しています!」

明石「どうする、吹雪選手! これで終わりなのか……あっ! 立ちました! 吹雪選手、片足ではありますが、自力で立ち上がった!」

明石「迎え撃つ覚悟を固めたようです! 表情に闘志が戻っている! しかし、どのような手段で……ん? 左手に何か持っている?」

香取「あ、あれって……ビスマルクさんが引きちぎった、下顎!?」

明石「なっ……何を考えているんだ、吹雪選手! それをビスマルクに叩き付けるつもりか!? もう、奴はすぐそこまで迫っている!」

明石「間もなく射程距離に……捨てた!? 吹雪選手、持っていた下顎を傍らに投げ捨てた! これは……あっ、ビスマルクが!?」

香取「そうか、落下音を囮に!」

明石「ビスマルクが飛ぶ掛かる! しかし、狙いが違う! 落ちた下顎のほうに反応してしまった! 吹雪選手が照準から外れた!」


明石「脇を通り抜けるビスマルクに、横から吹雪選手が覆いかぶさる! バックチョークが入ったぁぁぁ! 左腕で頸動脈を絞め上げた!」

明石「死に腕だった右腕も、無理やり動かして裏から首を抑えつけている! 完全に極まった! これは、絶対に抜け出せない!」

明石「バックチョークに抜け技は存在しない! これで勝負は……うっ! ま、また! ビスマルクが……笑っている!」

明石「気道と頸動脈を絞められながら、潰れたカエルのような奇声を上げている! 笑っているのです! この状況さえビスマルクは楽しんでいる!」

明石「た、立ち上がった! 首に吹雪選手を巻きつけたまま! どこにそんな力が残されているのか! やはりこの怪物、底が知れない!」

明石「それでも、吹雪選手は放すわけにはいかない! これを放せばもはや勝機はない! ここで決める! このままビスマルクを落とさなければ!」

明石「ビスマルクが前のめりになった! 吹雪選手の重みに耐え兼ねたわけではない! まさか……い、勢い良く仰け反ったぁぁぁ!」

明石「変形のスープレックスです! 膂力で背中から吹雪選手をマットに打ち付けた! やはり、こいつは死ぬまで動き続けるのか!」


明石「吹雪選手はモロに衝撃を受けてしまいました! だが、頭から落ちることだけは避けた模様! まだ、吹雪選手はチョークを解いていない!」

明石「背中から倒れ込み、さすがのビスマルクも立ち上がれない! で、ですが……笑っている! あの表情、笑っていることだけは確かです!」

明石「また、あの奇声が鳴り響く! 耳を覆いたくなるような、おぞましい奇声を上げている! こいつは、まだ生きている!」

香取「だけど……ようやく終わるわ」

明石「あっ……声が徐々に、徐々にですが小さくなっていきます! 奇声が息絶え絶えの呼吸音へと変わっていく! そして、それさえ小さくなる!」

明石「そして……今、完全に息が途絶えた! 落ちている! ビスマルクが落ちている! 失神です! あの怪物、ビスマルクがもう動かない!」

明石「試合終了! 駆逐艦級王者がやってくれました! 吹雪選手は、とうとう鬼退治をやってのけたのです!」

明石「地獄のような死闘を繰り広げ、恐怖に飲まれかけた場面さえあったものの、最後には勝利を掴み取りました!」


明石「歓迎すべき番狂わせが起こりました! 狂気の怪物、ビスマルクここに堕つ! 勝ったのは吹雪選手、吹雪選手です!」

香取「ああ……冷や冷やさせられっぱなしだったわ。想像以上の怪物だったビスマルクさんを相手に、よく勝てたわね、吹雪さん」

明石「勝因は何だったと思いますか? やはり、最後まで戦い抜くことができた精神力、ということになるのでしょうか」

香取「正確に言えば、勇気ね。吹雪さんは途中で恐怖に負けそうになっていた。無理ないわ、相手は本当に怪物だったんだもの」

香取「真の勇者とは恐れを知らない者ではなく、恐怖に打ち勝つ強さを持つ者である。これって、誰の言葉だったかしら」

香取「吹雪さんは恐怖に飲まれそうになりながら、恐怖に打ち勝った。それは初めから恐怖を感じないことより遥かに凄いことだと思うわ」

香取「ビスマルクさんに勝てたのはテクニックや戦略ではなく、覚悟と勇気。その2つが彼女の底なしの狂気を凌駕したんじゃないかしら」

香取「過去最大の壁を乗り越えて、吹雪さんはもう1段階先へ進めたんじゃないかしら。この次の試合が今から楽しみだわ」

明石「はい、まさしく勇者と呼ぶに相応しいファイトでした! この世のものとは思えない大怪物、ビスマルクを相手に文句なしのKO勝利!」

明石「怪物退治を成し遂げた駆逐艦級王者、吹雪選手に今一度拍手をお願いします! いやー勝てて良かった!」


試合後インタビュー:吹雪

―――かなりの死闘になりましたが、試合を終えた感想はいかがですか?

吹雪「いやー楽勝でした! チョロかったですねーあいつ! ホントにもう、楽過ぎて途中であくびが出そうになっちゃいました!」

吹雪「間違いなく、私にとって過去最弱の相手でしたね! あー余裕だった! あんなの100万回やっても全部勝てますよ!」

吹雪「あいつと比べたら、走り回るしか能がない島風や、バカのひとつ覚えみたいに同じ技を繰り返す夕立のほうがよっぽどやり甲斐がありますね」

吹雪「ま、結局はただのビョーキ持ちだったってことで。人喰い鬼だろうとも、私の敵じゃないってことですよ」

―――試合展開としては、作戦通りに進んだのでしょうか。

吹雪「はい、全て当初の計画通りに。お腹を空かせてるのが可哀想だったので、腕を食わせてやるのも予定の内でした」

吹雪「構いませんよ、腕の1本や2本。まあ、やっぱ気色悪かったんで食べさせるのはやめましたけど。あーなんか噛まれた右腕がまだ臭い気がする」

吹雪「ああ、あごを自分でちぎったのは想定外だったかな。あれは本当に気持ち悪くて吐きそうになりましたよ」

―――途中で恐怖に飲まれかかっているような場面がありましたが、あのときはどういう心境でしたか?

吹雪「はあ? あれはですね、ただドン引きしただけです。イカれてるのは知ってましたけど、あそこまで脳みそがとろけてるとは思いませんでした」

吹雪「気色悪かったんで、近寄るのが嫌になった場面はあったかもしれないですね。嫌でしょ、触れたらこっちまで病気が移りそうで」

吹雪「だから恐怖なんて感じてません。ええ、これっぽっちも。2度言わせないでください。次に聞いたらぶっ飛ばしますよ」

吹雪「私は最強ですから。あんなやつに遅れを取ってる暇はありません。誰が相手でも、私は絶対に負けませんから」



試合後インタビュー:ビスマルク

―――なぜ試合中に自ら下顎を引きちぎったんですか?

ビスマルク「なぜって、邪魔だったからよ? 吹雪ちゃんを食べたいから、できれば嵌め直したかったけど、どうしても無理そうだったの」

ビスマルク「あごって外れるとあんなに邪魔なのね……あっ、しまった! 自分でやらずに、吹雪ちゃんにもぎ取ってもらえば良かったのに!」

ビスマルク「ああっ、試合中に思い付けば良かったわ! そしたら、もっと気持ち良くなれてたのになあ」

―――吹雪選手はどうでしたか?

ビスマルク「ほとんど食べられなくてとても残念だわ。血はすっごく美味しかったから、お肉はそれ以上に美味しかったんだろうなあ……」

ビスマルク「でも、楽しかったわ! それにとっても、とっても気持ちよかった! 今までで一番気持ちよかったかもしれないわ!」

ビスマルク「あんなに痛めつけられたのは初めてよ! ああっ、失神なんてもったいなことしちゃったなあ」

ビスマルク「できれば、もっともっと私を傷付けて欲しかったわ! トドメは首を捻り切って殺されるのが理想だったわね!」

ビスマルク「ねえ、あの子まだ近くにいる? もう1回やらせてよ! 私、入渠で元気になったからすぐにでも戦えるわ!」

ビスマルク「結局一口も食べられなかったから、お腹ぺこぺこ! 次はちゃんと食べたいなあ! 最後には殺してほしいんだけど!」

―――今日は無理です。次の試合がしばらく先に確定しているので、それまでどうかお待ち下さい。

ビスマルク「やだ! お腹空いた! ねえねえ、それじゃあ吹雪ちゃんじゃなくてもいいから、誰か食べさせてよ!」

ビスマルク「できるだけ可愛い子がいいなあ。よく見ると、あなたってすっごく可愛らしい顔してるわね!」

ビスマルク「あっ、思い出した! 前に仲良くしてくれた伊8ちゃんよね? 久しぶり! 元気にしてた?」

ビスマルク「また一緒に遊びましょうよ! ほら、早く! 爪の剥ぎっこなんてどう? とっても楽しいわよ!」

ビスマルク「……そんなに嫌ならいいわ。ごめんなさい、もう我慢できないの。ねえ、あなたの内臓ってどんな……」

(取材陣の用意した神経ガスによりビスマルク選手が昏倒したため、インタビュー中止)


明石「さあ、ビスマルク戦後の恒例となりました! 放送コードに引っ掛かっての生放送中断による雑談コーナーです!」

香取「やっぱり中断されたのね。下顎をもぎ取ったあたりからかしら?」

明石「ずばりそうです。あれはもう、完全にアウトでした。スプラッター映画でもあそこまではなかなかやりませんよ」

香取「それはそうよね……ところで、今回はなぜビスマルクさんを入渠させたの? 昏睡状態で放置しておけば、今後の管理が楽なのに」

明石「理由は2つですね。下顎がないので試合後インタビューができないこと、伊8さんが入渠させてあげるよう懇願したことです」

香取「……伊8さんって、ビスマルクさんに虐められて精神病院に入院してたんじゃなかったかしら」

明石「なんていうか、その……退院後もちょっとおかしくなっちゃったみたいで。ビスマルク選手に悪い意味で抵抗がなくなってるんですよね」

香取「そう……この話は闇が深そうだからやめましょうか」

明石「そうしましょう。ところで、羽黒選手がドリームマッチで出場することは聞かれましたか?」

香取「ええ。と言っても、出場すること以外はほとんど知らないけど。どう説き伏せたんでしょうね、運営は」

明石「その件に関してちょっと気になることがあるんですよね。私、次に羽黒選手の相手をするのは鳳翔選手しかいないと思ってました」


明石「なのに、相手は鳳翔選手じゃないって話なんですよ。これってどう思います? 長門選手で無理なら、もう鳳翔選手しかいないはずじゃ?」

香取「その問には簡単に答えられるわ。確かに、長門さん以上の選手と言えば、鳳翔さんくらいしか考えられないのは間違いない」

香取「だけど、あの2人が戦うことは絶対に有り得ないのよ。鳳翔さんと羽黒さんは、在り方が似ているからこそ永遠に相容れないの」

明石「在り方が似ているから、ですか? 共に達人級の腕前ではありますが……」

香取「まず鳳翔さんはね、確実に勝てる相手としか戦わない。徒手格闘という制限付きだと、榛名さんまでがギリギリのラインなんだと思うわ」

香取「それ以上の相手と戦うなら、鳳翔さんは必ず武器の使用許可を求めてくるわ。それが通らないなら、彼女がリングに上がることは絶対にない」

香取「次に羽黒さんだけど、こっちは戦うこと自体が嫌なのよ。妙高さんが強く言い付けない限り、自分からは決してリングに上がろうとしないわ」

香取「加えて、相手が武器持ちの鳳翔さんだとすれば、妙高さんに言われても断固拒否するでしょう。最悪、試合開始と同時に降参しかねない」

香取「そもそも、武器の持ち込みを許可したとしても、長門さんを圧倒するような相手と鳳翔さんが戦おうとする可能性は極めて低いわ」


香取「ざっくり言えば、お互いがお互いと戦いたくない。よって試合は成り立たない。どちらに打診しても絶対に断られるでしょうね」

明石「ああ、そういうことで……それじゃあ、誰が羽黒選手と戦うんですか? もう勝てそうな選手なんていませんよ」

香取「さあ……? 既に対戦カードは決まってるそうだけど、まだこちらには知らされてないわ」

香取「グランプリが終わったら早めに発表するらしいから、それまで待つしかないんじゃないかしら」

明石「そうですね。あ、ビスマルク選手もやっぱりドリームマッチに出場するみたいですよ」

香取「ええ、聞いてるわ。その試合日まで、運営はビスマルクさんを管理しなくちゃいけないのよね。それは大丈夫なの?」

明石「大丈夫です。伊8さんが世話係を自ら引き受けてくれましたので」

香取「……大丈夫なの? ビスマルクさんじゃなく、伊8さんのほうが」

明石「大丈夫ですよ、きっと……この話、もうやめません?」

香取「……ええ、そうしましょう。あまり深く触れるべきじゃない気がするわ」

~放送再開までしばらくお待ち下さい~


青葉「はーい、放送再開しますよー。5,4,3………」

明石「はい、お待たせいたしました! いつものことですが、吹雪VSビスマルク戦はグロい内容になったので地上波ではカットとなっています!」

明石「詳細はネット配信の映像でご確認ください! これにて2回戦は全て終了! 残るはエキシビションマッチ2戦目となります!」

明石「リクエスト投票の結果、こちらの2名が選出されました! まずは赤コーナーより選手入場! 不死身のK-1王者、再登場です!」


試合前インタビュー:翔鶴

―――往年のUKFファンの間で語られている、「妙高最強説」はどのようにお考えですか?

翔鶴「試合の映像は見たことがあります。確かに、そういう説が出てきても不思議ではありません。あまりにも圧倒的な実力でした」

翔鶴「戦う前にこんなことを言っちゃいけないんでしょうけど、勝つ方法が全くわからないほどです。技量では天と地ほどの差があるみたいですし」

―――勝つ自信がないということですか?

翔鶴「はい。でも、いつものことですから。自分がどこまで行けるのか、力の限り試すだけです。私が強いなら、妙高さんにもきっと勝つでしょう」

翔鶴「妙高さんのほうが強くても、簡単に負ける気はありません。食い下がれるだけ食い下がれば、案外それで勝てるかもしれませんし」

―――翔鶴選手は組み技、寝技が弱点だという評価を受けられていますが、ご自身ではどのように思われますか?

翔鶴「事実です。投げ技は少しできるんですけど、組み技や寝技はほぼ使えません。ディフェンスとエスケープが私としては精一杯です」

翔鶴「打撃技と組み技は系統が全く違いますから、なかなか身に付かないんです。練習はしたんですけど……やっぱり私は才能がないみたいですね」

翔鶴「組み技系ファイターの方が相手の場合は、とにかく倒されないようにするしかありません。私の武器は打撃と打たれ強さだけですから」

―――本日の対戦相手、妙高選手は組み技寄りのファイターです。対策はされてきていますか?

翔鶴「関節技から抜ける練習はしてきましたけど、十分ではありません。急に試合が決まったので、準備期間もあまり取れませんでしたし……」

翔鶴「不安は残りますが、情けない試合はしたくないですね。私があっさり負ければ、私と戦って勝ち進んだ榛名さんの名前にも傷が付きますから」

翔鶴「勝てるかどうかはわかりませんけど、私も一応、K-1王者ですから。K-1ファイターとして恥ずかしくない戦いをするつもりです」


翔鶴:入場テーマ「Norther/Death Unlimited」

https://www.youtube.com/watch?v=EUUo9crSdf8


明石「榛名戦では生涯初の打撃によるKO負け! しかし、負けてもなお立ち続けるその凄まじい執念に、我々は改めて戦慄せざるを得ませんでした!」

明石「不死身の看板に偽りなし! 骨が折れても心は折れない! 艦娘一と言われる脅威の打たれ強さは、常に私たちの想像を凌駕する!」

明石「今一度、不死身のK-1王者がUKFのリングに立つ! ”ウォーキング・デッド”翔鶴ゥゥゥ!」

香取「今日の翔鶴さんは……普通ね。何てことない様子で歩いてるわ。榛名戦で色々と悩みは晴れたんでしょうけど、今はどういう心境なのかしら」

明石「妙高選手が怖くないんですかね……妹の羽黒選手が真性の化け物だった上に、一部では真の艦娘最強と囁かれている妙高選手ですよ」

香取「翔鶴さんはその辺の感覚がちょっとおかしいのよね。肝が座っているというか、麻痺してるというか……どんな相手にも恐怖を全く見せない」

香取「隠しているのでも、恐怖を闘争心に変えているでもなく、何も感じてないようにさえ見えるわ。そんなはずは決してないのだけれど」

香取「ファンからはこの対戦で翔鶴さんが壊されるんじゃないかって凄く心配されてるのに、それも全然気にしてないみたいね」

明石「薄々気付いてたんですけど、翔鶴選手ってどこかズレてますよね。怖い意味で天然っていうか……」

香取「そうね、ちょっと変な子よね。自分に振りかかる痛みや恐怖に無頓着すぎて、破滅願望でもあるんじゃないかって勘ぐっちゃうくらいよ」


香取「天然、と言えばそうなのかも。彼女は普通のファイターとは価値観が違うんじゃないかしら。勝ち負けや名誉に拘っているようには見えないわ」

香取「徹底的に身を削って、自分がどれほどの者なのか……翔鶴さんは戦いの中で、常にそれだけを計っているように思えるのよ」

香取「膨大な鍛錬も勝つためではなく、戦い抜くことを目的にしてるんじゃないかしら。組み技、寝技に弱いのはその方向性のせいなのかも」

明石「ファイターというより、求道者みたいなものですか……確かにそういう目的だと、決まってしまえば勝負が終わる組み技とは相性が悪いですね」

香取「ええ。翔鶴さんの流儀であるラウェイはシュートボクシングをより過激にしたようなものだから、スタンドでの関節技や投げ技はあるわ」

香取「だけど、テイクダウンを取られた後の戦い方は存在しない。しかも翔鶴さんの打撃以外の技は首投げくらいしかないわ」

香取「打、極、投全てに優れる妙高さんを相手には分が悪いと言わざるを得ないでしょう。階級差の有利もないに等しいと見ていいわ」

香取「翔鶴さんは関節技、絞め技へ最大限の警戒を払いつつ、間合いを取って打撃戦に引き込むしか勝つ手段がない」

香取「そして妙高さんは、そういう相手を翻弄することを得意とする。翔鶴さんにはかなり厳しい戦いになることは間違いないわ」

香取「それでも……翔鶴さんならあるいは、という気持ちがあるのよね。願望かもしれないけど、彼女なら簡単に負けるようなことはないと思う」

香取「試合経験を重ねて、組み技への対処も少しずつ上達しているはずよ。翔鶴さんならきっと何かしてくれる……そんな気がするわ」

明石「ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! 死神を育て上げた、かつての重巡級絶対王者が姿を現します!」


試合前インタビュー:妙高

―――1回戦における羽黒選手の戦いぶりや行動に関して、どのようなコメントをお持ちでしょうか。

妙高「あの子は天才です。戦いの場に出せば羽黒は絶対に負けませんので、試合の内容はおおむね私の意図した通りになりました」

妙高「ただ、あの幕切れはいただけませんわね。私としては、一打だけで終わらせず、連携技に繋げて確実に仕留めるよう教えたつもりなのですけど」

妙高「きっと訓練の過程で同輩の血を見過ぎたのが原因ですわね。あの子には特別厳しい教育を施しましたのに、裏目に出てしまいましたわ」

妙高「教育方針を変えましょう。これからは精神面に重きを置き、実戦の場で迷わず相手を殺せるよう一から教え直しますわ」

―――妙高選手がもし羽黒選手と戦うことになれば、勝てますか?

妙高「勝てます。羽黒の技量は既に私を凌駕してはいますけれども、あの子は私に指一本触れることはできないでしょう」

妙高「私たちは姉妹である以前に師弟関係。師は弟子を強くする義務を持ちますが、その果てに弟子と戦って負けるようなことがあってはなりません」

妙高「それを防ぐために、あの子には私への恐怖を潜在意識にまで刷り込んでありますの。羽黒は私の言うことなら何でも聞きますわ」

妙高「例えば、私があの場で殺せと言いつけていれば、羽黒は長門さんを殺していたでしょう。あの子はとても素直で良い子ですから」

―――本日は引退宣言をされてから久方ぶりの復帰戦ですが、意気込みをお聞かせください。

妙高「私としては気が進みませんわね。既に妙高型姉妹は、この世界において十分な勇名を響かせることができたと考えていますから」

妙高「戦いはあくまで手段であり、それ自体が目的になってはいけません。私にとって、強さとは名声と地位を得るツールなんですの」

妙高「私はその役目を終え、後は足柄と羽黒に任せるつもりでした。ですけれど、羽黒があんな形で退場してしまいましたからね」

妙高「羽黒は戦いを嫌っていますが、あれほどの才能は捨て置けません。あの子には妙高型姉妹の名声のためにまだまだ戦ってもらいましょう」

妙高「今日の私は、羽黒が整うまでの場繋ぎです。最速最短で相手を仕留める、妙高の実戦格闘術を改めてお目にかけましょう」


妙高:入場テーマ「死亡遊戯/メインテーマ」

https://www.youtube.com/watch?v=paPFl5WMZqs


明石「今まで艦娘最強と呼ばれたファイターは3人存在する! 1人は初代戦艦級王者、日向! もう1人は言わずと知れた絶対王者、長門!」

明石「そして、最後の1人がここに存在する! 重巡級にて圧倒的な強さで勝利の山を築き上げ、無敗のまま引退した伝説のファイターが!」

明石「彼女は後継者である死神、羽黒をグランプリに送り込み、長門選手に事実上の敗北を与えた! ならば、本人の実力は如何なるものなのか!」

明石「伝説の真相が今日、明らかになる! ”静かなる帝王”妙高ォォォ!」

香取「とうとう黒幕が出てきたわね。彼女の育てた羽黒さんには随分とグランプリをかき回されてしまったわ」

香取「選手の実力が指導者の優秀さによって比例するのは間違いない事実。羽黒さんの才能が逸脱したものだとしても、妙高さんも相当な使い手よ」

明石「妙高選手は18戦無敗の戦績ですからね。無差別級試合を経験しないまま引退したことを考慮に入れても、強いことに疑いようはありません」

香取「そうね。しかも、彼女が引退したのは無差別級の試合から逃げたんじゃないわ。戦う相手がいなくなってしまったのよ」

香取「妙高さんが活躍していたのは無差別級グランプリが開かれるよりも前。あのときの彼女はあまりにも強すぎたわ」


香取「他の重巡級選手とはレベルが違った。18戦の中で、妙高さんに触れることはおろか、10秒以上保った選手すら片手で数られる程だったわ」

香取「結果、重巡級は妙高さんの独壇場になり、試合が組めないから引退するしかなくなった。彼女は重巡級を丸ごとを制圧してしまったのよ」

香取「それからしばらく、重巡級は低迷期だったわね。足柄さんや愛宕さんといった有力選手が成長して復興するまで、ずいぶん時間が掛かったわ」

明石「今の軽巡級も大淀選手によって有力選手を軒並み潰されてしまっていますが、それよりも当時の重巡級は酷かったですよね」

香取「そりゃあもう。妙高さんにはライバルすらいなかったんだから。対戦相手のほとんどはトラウマを抱えて引退してしまったわ」

香取「妙高さんが抜けた直後の重巡級は空っぽの状態よ。今の重巡級にベテランと言える選手がほぼいないのがその傷跡を物語っているわ」


明石「妙高選手はインドネシア周辺に伝わる古流武術、シラットの使い手ですよね。羽黒選手のジークンドーとは流儀が違うようですが」

香取「ジークンドーは創始にあたってシラットの影響を受けているわ。きっと妙高さんはシラットを学ぶ過程で、ジークンドーも習得したんでしょう」

香取「シラットは実戦で使えるようになるまでに熟練を要するから、弟子には習得しやすいジークンドーのほうを教えたんじゃないかしら」

明石「なるほど。確かに足柄選手のファイトスタイルは妙高選手の影響が若干見受けられましたが、羽黒選手は全く逆の戦い方ですよね」

香取「確かにね。羽黒さんは一撃入れた後のトドメを決して刺そうとしなかったけど、妙高さんは確実にトドメを刺す」

香取「妙高さんは全ての試合で対戦相手を殺しているわ。ギブアップも失神も許さず、息の根を止める。まさに戦場格闘技って感じね」

香取「シラットは世界中の伝統武術の中でも、極めて実戦色が強い武術の1つよ。日本の古流柔術に似てるけど、在り方はまったくの逆」

香取「急所に当身を入れて崩し、投げてから関節を極めて動けなくした上で、確実にトドメを入れる。明らかに殺傷を目的にした武術なのよ」


香取「シラットには空手の正拳突きや、柔道の背負い投げのような、独立した技がない。全ての攻撃は連携技を構成する一要素でしかないの」

香取「打撃は投げへ繋げるため、投げは関節技へ繋げるため、関節技は最後の一撃に繋げるため。この流れるような連携技こそがシラット最大の脅威」

香取「無数に分かれた枝葉も全ては大樹の幹へと繋がるように、シラットも膨大な技と同じ数だけ連携技への入り口があるわ」

香取「一度崩されたら最後、高速のコンビネーションを叩き込まれ、最後は絞め技か、踏み蹴りで終わる。それが妙高さんのシラットよ」

明石「妙高選手は打撃のスピードも驚異的ですからね。それだけでも厄介なのに、打撃技は入り口に過ぎないというわけですか」

香取「そういうことね。羽黒さんはいわば、入り口から先に誰も通さない戦い方。妙高さんにそんな優しさは一欠片もないわ」

香取「羽黒さんが死神なら、妙高さんは死をも司る冥王、とでも言うべきかしら。入り口に立った者全てを冥府に引き込む殺人武術家よ」


明石「対戦相手は全て絶命で終わっている……ということですが、翔鶴選手は不死身の通り名で知られていますよね」

香取「まあ……ね。でも、通り名はいつだって大げさなものよ。鉄人と呼ばれるファイターだって、鈍器で殴られて平気なわけじゃないわ」

香取「翔鶴さんは並の選手なら絶対に倒れるダメージを受けても、平然と戦い続けられる打たれ強さを持っている。不死身と形容するしかないほどに」

香取「それでも、気道や頸動脈を絞められたり、頭を踏み砕かれれば平気なわけがない。翔鶴さんだって、そこまでやられれば立ち上がれないわ」

香取「妙高さんは『倒す』ための戦いではなく、『殺す』ための戦いを得意とする。たぶん、翔鶴さんとの相性は最悪でしょう」

香取「しかも翔鶴さんは関節技や寝技への対応があまり得意ではないわ。急所に打撃を入れられて崩されたら、もう抵抗の術はない」

香取「翔鶴さんは1度たりとも強い打撃を受けることは許されないわ。そうするためには、相手に攻める隙を与えないほどに攻め立てるしかない」

香取「ただし、妙高さんはカウンターによる打撃も得意としている……厳しい戦いね。技量だけなら、一瞬で勝負が終わってもおかしくないわ」

明石「……それでも、翔鶴選手なら」

香取「ええ。翔鶴選手なら、何かしてくれるんじゃないか……そう思わせてくれる潜在性を彼女は持っているわ」


香取「せめて、瞬殺されることだけは避けてほしいけど、妙高さんは榛名さんのように、打撃に付き合ってくれるような相手じゃないのよね」

香取「翔鶴さんがどれだけ自分のペースに引き込めるか、勝負はそれに掛かっているわ。あとは……妙高さんの出方次第だわ」

明石「……ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! どちらの選手も非常に落ち着いた表情です!」

明石「しかし、発する雰囲気は対照的です! 平常と変わりない翔鶴選手に対し、妙高選手は冷血な処刑人の如き不穏さを漂わせています!」

明石「不死身と言われるK-1王者と、絶命勝利を重ねてきた重巡級の帝王! 果たして、リング上で生き残るのはどちらの王なのか!」

明石「両者がコーナーに戻ります! 試合開始のゴングが鳴った! 死闘の幕が上がりました! まず出て行くのはやはり翔鶴選手!」


明石「いつも通り、ライトアップ気味の打撃主体の構えです! 相手が妙高選手であろうと、翔鶴選手は自分のファイトスタイルを崩しません!」

明石「対峙する妙高選手は重心を低めに置き、左半身を開いたシラットの構え! 拳を固める翔鶴選手に対し、開手にて迎え撃つ体勢です!」

明石「どちらもフットワークは使わない選手同士です! 待ち構える妙高選手目掛けて、翔鶴選手が迷わず間合いを詰める!」

香取「いくら何でも愚直過ぎない? 様子見くらいしたほうがいいんじゃ……」

明石「まもなく接触! 先手を取ったのはやはり翔鶴選手! まずは左ジャブから……弾かれた!? パリィと同時に喉への手刀です!」

明石「カウンター気味に入った! しかし妙高は一撃では終わらせない! 立て続けにボディへ肘! 更に足払いで崩して脇固めだぁぁぁ!」


明石「妙高選手は躊躇なく折っ……と、抜けた! 翔鶴選手、間一髪で脇固めからエスケープ! どうにか腕を引き抜きました!」

香取「危なかったわね。今のが決まったらもう逆転は有り得なかったわよ。妙高さんは折った上でトドメを刺してくるんだから」

明石「死の連携技から辛うじて脱出に成功! 翔鶴選手が一旦距離を取ります! 喉を打たれた以上、かなりのダメージがあるはずです!」

明石「表情に苦しげな様子はありませんが……ここで妙高選手が仕掛けた! 回復の隙を与えないつもりです! 踏み込みが速い!」

明石「喉へ手刀、いやフェイント! 目打ちです! ってこれもフェイント!? 本命は下腹部への膝蹴り! これは入ったぁぁぁ!」

明石「崩れたところに側頭部へ肘! 腕の逆関節を取り、背面へ逆手投げェェェ! 頭を抑えた! 後頭部を叩き付ける気です!」

明石「もろに激突ゥゥゥ! マットが衝撃で揺れる! そしてトドメの面踏み蹴りが入っ……躱した!? 翔鶴選手、まだ意識があります!」


明石「下から強引に妙高選手を蹴りつけた! やむを得ず妙高選手が離れます! 素早く翔鶴選手、立ち上がった! ダメージの色はありません!」

明石「いや、少しふらついている!? やはり頭は打ち付けているようです! 意識が判然としない! それを妙高選手は見逃さない!」

明石「三度、妙高選手が仕掛ける! 顔面へ順突き、これはフェイント! ボディへアッパーを打ちました! 翔鶴選手はその程度では揺るがない!」

明石「翔鶴選手、下がらずに肘打ちで反撃! しかし読まれていた! 躱し様に目打ち! 浅く叩かれただけですが、一時的に視界を奪われる!」

明石「再び逆手投げだぁぁぁ! 翔鶴選手が再び投げ……られない!? どうやら逆関節の極めが甘かったようです! 身を捻ってエスケープ!」

明石「今度は下がらず、妙高選手へ組み付きに行った! 急所への素早い打撃を避けるつもりか! 首相撲を仕掛けています!」


香取「……翔鶴さんがここまで妙高さんの必殺連携技から抜け続けるなんて。現役を退いた期間が長かったから、妙高さんの腕が落ちたの?」

香取「いえ、そんなはずはない。技のキレは全盛期からまるで落ちてない。なのに不可避の連携を受けて、翔鶴さんは動けている。これは……なぜ?」

明石「翔鶴選手、首相撲からの打撃で決める気です! まずは肘! これは打撃が形になる前に掌底で止められました!」

明石「続けて膝蹴り! 同じ膝蹴りで軌道を逸らされました! 妙高選手、組み合ってからの打撃にも巧みに対処しています!」

明石「今度は妙高選手が反撃します! こめかみへ肘打ち! やはり翔鶴選手は前に出て受ける! しかも、そのまま頭突きを敢行だぁぁぁ!」

明石「あっ!? 頭突きが止まりました! 防がれたわけではないようですが……こっ、これは!? 耳です! 妙高選手に耳を掴まれてしまった!」

香取「なんで首相撲に付き合っているのかと思ったら、これを狙っていたのね。さすが、戦場格闘技の達人だけあるわ。本当に容赦ないわね」

明石「掴まれたのは右耳です! 横に引っ張ることで頭突きの勢いを殺したのでしょう! そして、妙高選手はそれだけでは終わらせない!」


明石「仕掛けるのは、耳を利用した大外刈り! 耳を引っ張ると同時に、足を払ったぁぁぁ……あっ? えーっと、あれ?」

香取「……そういうことだったのね。私は勘違いしてたんだわ」

明石「なっ……投げたぁぁ! 投げたのは妙高選手ではなく、翔鶴選手! 耳が引っ張られていることさえ意に介さず、一息に首投げを決めました!」

明石「耳は千切れかけてしまいましたが、それでも体勢を崩さず投げた! 空恐ろしいほどの痛みへの体勢です! 妙高選手、テイクダウン!」

明石「即座に翔鶴選手がマウントポジションを取った! もちろん、やることは殴る、殴る! 妙高選手が防戦一方です!」

明石「驚きの展開です! 敗戦濃厚とされていた翔鶴選手が、妙高選手を圧倒している! 数々の必殺の連携技をくぐり抜けての上です!」

明石「やはり不死身の翔鶴選手に、死を与える技は通用しないというのか! 妙高選手、試合経験初の打撃を存分に浴びております!」


香取「こういう展開になったのは、彼我の実力以上に相性ね。私はとんだ思い違いをしていたわ」

明石「相性……と言いますと、試合前に香取さんは、翔鶴選手にとって妙高選手は相性最悪と言われていましたね」

香取「ええ、それが私の勘違い。本当は逆だったわ。妙高さんにとって、翔鶴さんこそが相性最悪の相手なのよ」

香取「妙高さんのファイトスタイルは難解に見えてごく単純。打撃で崩して投げ、関節技で動きを封じてから仕留める、という連携技で勝負を決める」

香取「この『崩す』という点が重要なのよ。妙高さんは投げ技もできるけど、大和さんみたいに投げの動作自体が崩しになっているわけじゃないの」

香取「妙高さんは急所に打撃を入れて、相手を崩さないと投げられない。普通の相手なら、それで構わない。だけど、翔鶴さんは普通の相手じゃない」

香取「翔鶴さんは急所を外して自ら打撃を受ける、という受け方を本能にまで刷り込んであるわ。しかも、痛み自体への耐性も抜群に高いのよ」


明石「……つまり、翔鶴選手は打撃では崩せない。崩せないと次の技に繋げられない、となると……」

香取「そう、妙高さんの連携技そのものが通用しないの。崩し切れないから投げても受け身を取られるし、関節技も極め切れない」

香取「なぜなら連携技の入り口の時点で攻撃が失敗に終わっているから。翔鶴さんは、打撃でKOされたことが1度もないのよ」

香取「急所への打撃が入らない、妙高さんにとって最悪の相手ね。この勝負、完全に翔鶴さんに分があるわ」

明石「な、なるほど……あっ、ここで妙高選手がマウントポジションから抜け出しに掛かります! パンチが打たれるのに合わせて腰を跳ね上げた!」

明石「同時に翔鶴選手の腕を取って引き倒す! 脱出成功です! そのまま腕ひしぎを狙いますが、強引に外されてしまいます!」

明石「共に立ち上がった! スタンドからの再開ですが、妙高選手のダメージが大き過ぎる! かなり顔面にパンチをもらってしまいました!」


明石「無傷での勝利を築いてきた重巡級絶対王者が、こんなところで自らの天敵に出くわすとは! 対する翔鶴選手、目に見えるダメージは皆無!」

明石「勝負の趨勢は一気に翔鶴選手へと傾いております! 妙高選手の息が荒い! 構えを維持するのが精一杯に見えます!」

香取「今までほとんどダメージを受けたことがなかったから、打たれ慣れてないんでしょうね。打たれ慣れてる翔鶴さんとは大違いよ」

香取「本当なら最初の連携技で殺せていたはずなのに、って考えているんじゃないかしら。残念、翔鶴さんは本当に不死身なのかも」

明石「さあ、翔鶴選手が平然と間合いを詰める! 妙高選手、それを嫌がるようにやや後退! しかし翔鶴選手は止まってくれません!」

香取「ここから妙高さんはどう戦うかしら。打撃を捨てて組み技勝負に出るのも手だけど、首相撲からの打撃は避けられないと思うわよ」

香取「かと言って、打撃戦で翔鶴さんに打ち勝つのはほぼ不可能。相手は榛名さんや赤城さんさえ恐れさせたK-1王者なんだから」


明石「もはや妙高選手、打つ手はないのか! 翔鶴選手との距離が狭まる! 先に仕掛けるのは……妙高選手! 順突きを放ちました!」

明石「顔面に当たりましたが、翔鶴選手にはハエが止まったようなもの! 続けて妙高選手の右フック! これも避けずに……えっ、ガード!?」

香取「ガードした!? 翔鶴さんが、なんで!?」

明石「しょ、翔鶴選手が右フックを腕でガードしました! 初めての光景です、翔鶴選手が打撃を受けずに防いだ! これは何の意味が!?」

明石「妙高選手が逃げるように飛び退きます! 翔鶴選手は追いません! ガードを上げたまま、その場に棒立ちで……あっ、流血!?」

香取「これは……反則だわ!」

明石「ご……ゴングです! 試合終了のゴングが鳴りました! レフェリーストップによる試合終了です! 判定は、翔鶴選手の勝利!」


明石「妙高選手による武器の使用が確認されました! 右フックをガードした翔鶴選手の腕を、湾曲したナイフのような刃物が貫いています!」

明石「あれはシラットの護身用ナイフ『カランビット』! どこに隠し持っていたのか、妙高選手は打撃に見せかけて武器攻撃を仕掛けたのです!」

明石「これは重大な反則行為です! 審議をするまでもなく、妙高選手は反則負け! 翔鶴選手の勝利となります!」

明石「しかし、羽黒選手に続いて、またしても妙高型姉妹がやってくれました! まさか、こんな形で試合を終わらせてしまうとは!」

明石「かつての重巡級王者が、追い詰められた挙句に武器使用による反則負け! 観客席からも未だかつてないブーイングが飛び交っています!」

香取「なるほど……これが妙高さんの本質というわけね。武術家としては鳳翔さんに近い、けれど一層ダーティな価値観ね」


明石「それってつまり……まともにやって負けるくらいなら、反則負けで勝負の結果を有耶無耶にしてしまおう、というわけですか?」

香取「全くもってその通りだと思うわ。補足して言うこともないくらい。妙高さんにとって、これが名誉を守るための手段だったんでしょう」

香取「勝てると思っている相手でも、念の為に武器を仕込んでおく。そしていざとなったら迷いなく使用する。なんて実戦向きな思考なのかしら」

明石「……香取さん、もしかして今、キレてます?」

香取「キレてないわよ。ただね、試合前の選手の身体チェックは私の管轄だから、こういう形で試合が終わると私の責任問題になるのよね」

香取「具体的な責任の取り方としては、主に減給ね。川内さんに続き、妙高さんまでこんな真似を使ってくるなんて、私もナメられたものだわ」

香取「身体チェックの項目をまた見直さなくちゃ。予算でX線検査機と金属探知機を買って、更に罰則の強化と妖精さんスタッフの再教育を……」

明石「ああ、そうですか……ん? 翔鶴選手が何だか不思議そうな顔をしていますね。勝った実感がないんでしょうか」

香取「でしょうね。何が起こったのか、まだ理解できてないんじゃ……腕、痛くないのかしら。ナイフが刺さったままよ」


明石「うわぁ、前腕をザックリ貫通してるじゃないですか。よくあんなのを刺されて叫び声ひとつ上げませんでしたね、翔鶴選手」

香取「ホントよね。痛みから逃げようとするのは生物としての本能のはずだけど、翔鶴さんは練習の積み重ねでそれを完全に殺しているわ」

香取「刃が骨に達しても表情1つ変えない。刺されて反撃しなかったのは、それより早く妙高さんが離れてしまったからってだけでしょう」

香取「ナイフの痛みでビクともしないような相手を想定している戦場格闘技は存在しない。妙高さんは相手が悪かったわね」

明石「でも、こういう幕切れになると、とうとう妙高選手の真の実力はお目に掛かれなかったということになってしまいますね」

香取「それが妙高さんの狙いなんでしょう。試合結果はともかく、勝負としての結果を有耶無耶にして、実力の底を決して明かさない」

香取「そうすれば、後は熱心なファンが語り継いでくれるわ。批判も噴出するでしょうけど、真実は永遠に明らかにはならないわ」

香取「はっきり言って、本当に汚いやり方よ。でも、妙高さんに言わせれば、これが現代に生きる武術家の処世術ってことになるのかしら」

香取「まあ、これで翔鶴さんの評価も上がるでしょうし……終わってしまったものはどうしようもないわね」

明石「そうですね。すっきりしない結末ではありますが……いずれ、妙高選手にはもう一度リングに上っていただきたいものです」


試合後インタビュー:翔鶴

―――試合結果には満足されていますか?

翔鶴「あまり……勝ったという実感はないですね。もちろん、負けたとも思っていませんけど、消化不良な気持ちではあります」

翔鶴「武器に対応する格闘術は全然練習してなかったので、ナイフを取り出されたときは内心、動揺しました。それでも体は勝手に動いたんですけど」

翔鶴「そういう練習もこれからはしておくべきなんでしょうか。また試合中に武器を使われたら、防ぎ切れないと思いますし……」

―――武器を使われた時点で相手の反則負けですから、その必要はないと思いますよ。

翔鶴「ああ、そっか。すみません、私は頭もあまり良くないもので……たまに試合のルールのこともよくわからなくなるんです」

翔鶴「親しい人からは、試合で頭を打ち過ぎてるってよく言われます。でも、仕方ないですよね。そういう戦い方しかできませんから」

―――妙高選手はどのように感じましたか?

翔鶴「今まで戦ってきた方たちとは少し違いますね。対峙したときに、『あ、この人は私を殺そうとしてる』ってはっきりとわかりました」

翔鶴「でも、今更ですよね。毎回私は命を賭けて試合に臨んでいますから、殺されるくらいのことはどうってことありません」

翔鶴「戦い方は少し厄介でしたけど、頑張れば何とかなりました。痛いのにも慣れてますし、組み技を練習した成果も出せました」

翔鶴「ただ、終わり方は変な感じになってしまったので……できればちゃんと決着を付けたかったです。それだけが心残りですね」

翔鶴「妹さんの羽黒さんとも、いつか対戦してみたいです。あの打撃を受けて私が立ち上がれるのか、試してみたいですから」


試合後インタビュー:妙高

―――反則負けのペナルティとして罰金300万円が課せられますが、不服はありますか?

妙高「いいえ。すぐにお支払いします。敗北の可能性を払拭できた代償と考えれば、それくらい安いものです」

妙高「翔鶴さんは私と相性が悪すぎました。あれほど本能を潰した格闘家は他にいないでしょう。あのまま戦い続けるのは危険と判断しました」

妙高「保険としてカランビットを隠し持っておいて正解でしたわね。これで妙高型姉妹の名誉を守ることができました」

―――どちらかと言えば汚名ではないのでしょうか?

妙高「勘違いなさらないでいただきたいですね。武術家にとって、試合の勝ち負けは重要ではありません。勝負に負けないことが最も重要なのです」

妙高「全てが許される実戦なら、翔鶴さんは私に殺されているでしょう。実戦でわざわざ素手で戦うような真似など、私はしませんので」

妙高「私はただ、リング上の試合で実戦を演じてみせただけのこと。本当なら、すぐに腕から刃を抜いて喉を掻き切るつもりでしたけれど」

妙高「骨に刃が引っ掛かって抜けなかったんですの。直後にゴングが鳴ってしまいましたので、2本目を取り出すことにはなりませんでしたわ」

妙高「ほら、2本目はこちらに。ここのレフェリーは身体チェックが甘いですわね。私、重巡級の試合に出ていたときも毎回隠し持っていましたわ」

妙高「そろそろ私を非難したいマスコミが押し寄せる頃合いですわね。帰らせていただきます。もちろん、護衛を付けてくださいますわよね?」


明石「皆様、お疲れ様でした! これにて本日の試合日程は終了となります!」

明石「激闘に次ぐ激闘を制し、16名から勝ち抜けたのはたったの4名! 3回戦の内容はこちらとなります!」



Aブロック決勝戦

戦艦級 ”不沈艦” 扶桑 VS 正規空母級 ”キリング・ドール” グラーフ・ツェッペリン

Bブロック決勝戦

戦艦級 ”殺人聖女” 榛名 VS 駆逐艦級 ”氷の万華鏡” 吹雪


エキシビションマッチ最終戦

軽空母級 ”羅刹” 鳳翔 VS 軽巡級 ”疾風神雷” 川内

(特別ルールによるスペシャルマッチ)


明石「いやあ、最強候補が出揃ったという感じですね。まさか、駆逐艦級の吹雪選手がここまで残るとは」

香取「本当よね。階級の不利なんて言い訳に過ぎない、彼女がそう言えば、誰もが黙るしかないほどの実績を既に上げているわ」

明石「対するは榛名選手ですか。こちらも凄まじい戦いになりそうですが……問題はAブロックの決勝戦ですね」

香取「……ええ。扶桑さんには何としてもグラーフ・ツェッペリンを止めてほしいわ。ただ、勝算は今のところ、絶望的ね」

香取「今すぐにでも、適当な理由を付けてグラーフさんをドイツに送り返したいくらいよ。でも、ここまで来るとそうはいかないわ」

香取「扶桑さんを信じましょう。なんていったって、彼女は奇跡の戦艦。いつだって不可能を可能にしてきたんだから」

明石「そうですね……ところで、エキシビションマッチの特別ルールってなんですか?」

香取「ああ。それはまだ調整中だから、試合前に運営から発表があるわよ。それを確認して」

明石「あの……なんでいきなり不機嫌になるんです?」


香取「ルールを見ればわかるわよ。ホント、審査委員長って損な役回りよね。もっと給料を上げてほしいわ」

明石「なぜ急に愚痴りだしたのかはわかりませんが……それでは本日はこれでお別れとなります!」

明石「次回放送日は現在調整中です! いつになるかは大会運営委員長の調子次第です!」

香取「最近、調子の善し悪しが更に顕著になってきたけど、どうかしたの?」

明石「大したことではないです。海外輸入した薬と、医者から処方された薬との飲み合わせが悪かったと最近気付いたので、もう大丈夫です」

香取「あっそう。じゃ、次こそ遅れのないようにね」

明石「そうですね。それでは、次回放送日までしばらくお待ち下さい! さようなら!」

香取「さようなら。なるべく早めにお会いできるといいわね」


―――扶桑は史上最強の怪物、グラーフ・ツェッペリンを打倒することはできるのか。最強の駆逐艦級、吹雪は空手家榛名と渡り合うことはできるのか。

―――次回放送日、現在調整中。

今後の参考にさせていただくため、よかったらアンケートへのご協力をお願いします。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdc9FhuDZm9nwP5yWz-0KjjU5xVGHOOO7-GAZv7VCvk6fvl1w/viewform

特別ルールの案がまとまりました。もしかすると若干の変更があるかもしれませんが、先に公開しておきます。


鳳翔 VS 川内
スペシャルマッチ限定ルール

このルールは鳳翔、川内、そして審査委員長である香取の三者によって検討され、全員の賛同を得たものである。
万が一、このルールで行われた試合において重大なトラブルが発生した場合、審査委員長の香取が全責任を負うものとする。


この試合においてのみ、限定的に武器の持ち込み、及び使用を許可する。使用される武器には以下の規定が課せられる。

1.刃物などの鋭利な武器は刃引きし、殺傷能力を抑えたものでないと使用を認められない。
2.飛び道具の持ち込み、使用も自由に認める。持ち込める数も無制限とする。
3.毒物、薬物を何らかの形で持ち込むことは認められない。
4.火薬や電力を使う現代武器を持ち込むことはゆるされない。
5.持ち込む武器は事前に審査委員会により厳重な検査を受け、検査に合格したものだけをリングに持ち込むことができる。
6.服装、防具の着用は自由とする。


武器を使用する性質上、試合の勝敗判定には一部ポイント制が導入する。その判定基準は以下の通りである。

1.刃引きされた武器が頭、首に接触した場合、強弱に関わらず一本となる。胴に接触した場合、強い当たりなら一本、弱い当たりなら有効となる。
2.頭、首、胴以外の場所に刃引きされた武器が当たった場合は、その強弱に関わらず有効とする。
3.刃引きされた武器が飛び道具の場合、どこに当たっても有効とする。
4.元から刃のない打突武器はポイント制の対象にならない。
5.一本を取れば即座に勝利となり、有効は3回取ることで勝利となる。
6.審査委員会による検査を受けていない武器も、ポイント制の対象にならない。
7.防具の有無はポイント制の判定には考慮されない。
8.原則として、反則負けはない。


上記のルールと通常のUKFルールに矛盾が生じる箇所は、特別ルールが優先される。矛盾しない場合は、通常のUKFルールも適用される。
よって、KOやレフェリーストップも勝利条件の1つとなる。


もし質問、疑問がある場合は、まとめて試合前に香取さんが対応します。

戦闘領域がリングでは小さすぎるでしょ?


某むせる世界のバトリング場的な特別エリアでの仕合が見たいかな。
でないと、お互いの見せ場が少なくなるような気が……



ニンジャが剣豪に勝てるのはNARUTOの世界くらいだしなぁ

書き忘れてました。エキシビションマッチ最終戦のファイトマネーは5000万円、もちろん勝者総取りです。

>>754

リング上の問題は如何ともし難いですが、どちらもフェンスに囲まれた狭い領域を逆手に取る戦いをするはずなのでご安心ください。
あと、川内は超自信満々です。

次の放送予定日が決まりました。

8/13(土)22:00~

今度はきっと遅れないんじゃないかと思います。

>>748

追加ルール

・打撃による殺傷、または殺傷能力の強化を目的とする武器の持ち込みは認められない。

理由:川内が角手(という名のメリケンサック)を持ち込もうとしていたため。

寸鉄の扱いはどうなりますか?

>>773

超グレーですが、尖端を丸くしたものなら刃引きされた武器に該当するものとし、持ち込み可です。尖ってるやつはダメです。

>>748

重要な項目を書き忘れてました。

追加ルール

・原則として、レフェリーによる試合中断は行われない。

理由:やりたい放題する川内のためにいちいち中断してたら試合にならないため。

>>748

たびたび申し訳ありませんが、まだ書き忘れがありました。これ以上はもうないはずです。たぶん。

・検査を通過して持ち込まれた武器の内容は事前に公開され、対戦者の武器を互いに把握した状態で試合を始めるものとする。

理由:試合中での違反武器の使用を明確に区別するため。

だめかもしれない。

むりくさい。

時間か、やっぱり無理だったよ……

理由① こもりっきりの部屋に冷房がない。風通しも悪い。
理由② 川内がやりたい放題
理由③ 川内が自由すぎる

すみません、度々ですが明日の22:00まで時間をください……お願いします……

>>770
よし、ファイトマネー増額な!()

>>791

貯金が住民税で消えたので勘弁して下さい。


ところで遅れている原因ですが、鳳翔VS川内戦は試合の性質上、前置きがやたら長くなっています。我慢してください。

日にちを勘違いした挙句、強めの薬で爆睡するという痛恨のミス。

本当に申し訳ありません、今日の22:00必ず放送します。今日は大丈夫です。本当に。

今、腕に謎のジンマシンが発生してドン引きしていますが、更新には問題ありません。

私はマゾなんで大丈夫です。

今度こそ準備OKです。22:00より開始します。


大会テーマ曲

https://www.youtube.com/watch?v=7IjQQc3vZDQ


明石「大変長らくお待たせいたしました! これより第2回UKF無差別級グランプリ、3回戦を開催致します!」

明石「実況は明石、解説兼審査委員長は香取さんをお呼びしています! 毎度のことながら延期に次ぐ延期、申し訳ありませんでした!」

香取「全ては猛暑と、エアコンのない悪環境が原因だそうです。夏なんてなくなればいいのにね」

明石「それは知ったことではありませんが、早速第1試合、Aブロック決勝戦を開始したいと思います!」

明石「まずは赤コーナーより選手入場! 今回の怪物退治役を任されたのは、不可能を可能にする奇跡の戦艦だ!」


試合前インタビュー:扶桑

―――グラーフ・ツェッペリン選手への対策は何かお持ちでしょうか。

扶桑「あります。1回戦における彼女の戦い方を見たとき、すぐに攻略法に気付きました。作戦方針もすでに固めてあります」

扶桑「皆さんはグラーフさんと戦った大淀さん、戦艦棲姫さんに全く勝ち目がなかったと思っていらっしゃるみたいですけど、私はそうは思いません」

扶桑「大淀さん、戦艦棲姫さんはどちらにも勝機がありました。彼女たちは入り口を間違えてしまっただけで、正しく戦えば勝てたはずです」

扶桑「何でしたら、私にとってはその2人に勝ち上がられるほうが厄介でした。どちらも何をしてくるか、予測が付かない選手ですから」

―――今、言われた大淀選手、戦艦棲姫はどのような戦い方を選んでいたらグラーフ選手に勝てたのでしょうか?

扶桑「もう終わった試合ですから、断言はできませんが……最も答えに近い場所にいたのは大淀さんです。でも、彼女はそれを見落としました」

扶桑「気付くことさえできていれば、大淀さんならいくらでもやりようがあったでしょう。戦艦棲姫さんも同じです」

扶桑「彼女は策を講じて戦うタイプではないと思いますが、もし序盤から順当に戦っていさえすれば、戦艦棲姫さんは間違いなく勝っていました」

扶桑「グラーフさんには感謝しなければいけませんね。大淀さん、戦艦棲姫さんと戦わずに済みました。これでAブロックを勝ち抜くのは私です」

―――勝てる自信があるということですか?

扶桑「はい、勝てます。楽に勝てることはないでしょうけど、負ける可能性はありません。確実に勝てると思います」

扶桑「要は登山みたいなものですね。準備を怠らず、道順を間違えなければ頂上にたどり着ける。グラーフさんとの戦いは、ただそれだけのことです」

―――グラーフ・ツェッペリン選手に対する恐怖はありますか?

扶桑「戦うのはいつだって怖いんです。そういう意味での恐怖はありますけど、今まで戦ってきた方々と比べれば大したことはありません」

扶桑「大和さんや、赤城さんのほうがずっと怖かった。私にとって一番恐れるべきことは、負けること。今日はその心配をする必要はないでしょう」

扶桑「グラーフ・ツェッペリンさんは恐れるに値しません。魂のない人形なんかに、私は決して負けはない」


扶桑:入場テーマ「Chthonic/Broken Jade」

https://www.youtube.com/watch?v=heF_NPJbv8Y


明石「快進撃を続ける奇跡の戦艦の前に、大きな壁が立ちはだかりました! 敵は2戦連続で圧倒的勝利を遂げた、ナチス・ドイツの新造艦!」

明石「しかし、ここで終わるわけにはいかない! 無敵の怪物を倒す秘策もある! 今宵、我々は新たなる奇跡を目にすることができるのか!」

明石「UKFの命運は彼女に託された! ”不沈艦”扶桑ォォォ!」

香取「いつもと変わりない様子ね……相手がグラーフさんでも、精神的な揺らぎは全くないみたい」

明石「今のところ、下馬評でもグラーフ選手の優勝を予想する声が大きくなりつつあります。あの戦闘力は桁が違いすぎると……」

香取「無理もないわ。大淀さんに続き、常識外の能力を持った戦艦棲姫までもが為す術もなくグラーフ・ツェッペリンに敗北しているんだから」

香取「赤城さんを正面から倒せるほどに腕を上げた扶桑さんでも、はっきり言って、勝てる見込みはかなり薄いわ」

香取「扶桑さんは強い。技も豊富で練度も高く、鋭い戦術眼も持っている。だけど、グラーフさんとの能力差を覆せるほどとは思えない」

香取「グラーフさんは今までの試合を化け物じみた身体能力だけで勝利している。あれで技術を使われ出すと、もう手の付けようがないわ」

明石「客観的に見ればそうなんですが、扶桑選手は試合前に珍しい発言をしてるんですよね。『グラーフ選手には確実に勝てる』と……」

香取「そう、私もその発言が気になっているの。今まで、扶桑さんは『勝つ』と表現したことはあっても、『勝てる』と表現したことは一度もないわ」

香取「それは扶桑さんの謙虚さと、対戦相手への敬意の表れに加えて、実戦における不確実性を知っているからこその言葉選びだと思うの」

香取「勝負に絶対がないことを扶桑さんは誰よりも知っている。なのに、よりによってグラーフさん相手に『確実に勝てる』だなんて……」

明石「扶桑選手は試合前にそういう大言壮語を吐くタイプではありませんよね。普段は誰が対戦相手でも控えめです」

香取「そのはずよ。吹雪さんに感化されたのでもない限り、扶桑さんは何かの確信があるからこそ『勝てる』と発言したんだわ」


香取「確信の根拠は、おそらく扶桑さんの考えたグラーフ・ツェッペリン対策にある。それが何なのかはまだわからないけど……」

明石「扶桑選手も詳細に関しては言葉を伏せたみたいですが、ヒントになる発言は残されていますね。『敗北した2人は入り口を間違えた』とか」

香取「大淀さんと戦艦棲姫に共通する点……短期決戦を狙ったことかしら。どちらも、相手が何かする前に仕留めようとしていたわ」

香取「あるいは、仕留める技に絞め技を選択したこと? 気道と頸動脈を同時に絞めるような技でも、落とし切るまでに数秒は掛かるから……」

香取「ダメね、わからないわ。本来なら身体能力の勝る相手に、短期決戦と絞め技は順当な対処法よ。相手が化け物過ぎたから決まらなかったけど」

香取「特に短期決戦はグラーフ・ツェッペリン対策には一番有効に思えるわ。長期戦に持ち込まれれば、絶対に不利になるんだから」

香取「相手は痛みも疲れも知らない戦闘マシーン。戦いが長引いてもダメージの蓄積は望めないから、こちら側が先に力尽きてしまうわ」

香取「それら以外となると、残るは骨折や急所破壊を狙って戦闘力を削るやり方くらいだけど……それが簡単に行けば苦労はしないわよね」


明石「あるいは、一撃必殺を狙う作戦はどうでしょうか? 大きな一発を入れて脳震盪を起こせば、グラーフ選手も流石に倒れると思うのですが……」

香取「対戦者が榛名さんだったらそれが有効かもしれないわね。でも、扶桑さんにその作戦は難しいと思うわ」

香取「もし扶桑さんの弱点を1つだけ上げるとするなら、得意技がないこと。バランスがいいだけに、決定力のある技に欠けてしまうのよね」

香取「榛名さんだったら必殺の正拳突きがあるけど、扶桑さんにそういう技はない。一撃を狙えるとすれば、せいぜいカウンターくらいでしょう」

香取「もし一撃必殺を狙うにしても、方法が問題よ。グラーフさんは痛覚がないから当身で崩すこともできないし、もちろん棒立ちでもないわ」

香取「たぶん、扶桑さんは誰にも見つけられなかったグラーフさんの弱点か何かを見つけたんだと思うの。彼女の作戦はそれに付け込むもののはず」

香取「となれば、その弱点がわからない私たちには予測のしようがないわね。全ては試合の中で明らかになる、っていうことかしら」

明石「……ありがとうございます。さて、続いて青コーナーより選手入場! 怪物同士の食い合いを制した、最強の怪物が再びリングの上がります!」


試合前インタビュー:グラーフ・ツェッペリン

―――これよりAブロック勝ち抜きを懸けた重要な試合に挑むわけですが、意気込みをお聞かせ下さい。

グラーフ「質問の意味がわからない。優勝を目的とする私にとって、この試合はいくつかの通過点の1つに過ぎない」

グラーフ「ならば次の試合に特別な感情を抱く理由も必要もないはずだ。ただ、戦って勝利する。今までと同じだ」

グラーフ「無論、敗北は許されない。今までの試合と同様、全力を賭して臨む。もう己の戦力を隠す必要性も薄まってくる頃合いだろう」

グラーフ「これまではなるべく身体能力のみで戦闘を行なってきたが、必要に応じて技術も用いる。その必要があれば、の話だが」

―――扶桑選手についてはどう見られますか?

グラーフ「バランスよく体系立てられた格闘術と、優れた観察力を持っている。それ以下ではないし、それ以上でもない」

グラーフ「特出した能力も持たない、凡百のファイターだ。あれが3回戦まで残った事実こそが、この国のファイターの低レベルさを物語っている」

グラーフ「パワー、スピード、テクニック、全てにおいて私が大きく勝っている。負ける要素など、どこにもない」

グラーフ「私にとっては通過点に過ぎない相手だが、油断はない。全身全霊で戦い、完全な勝利を手に入れてみせよう」

―――グラーフ選手にとって「勝利」とはどのような意味を持つのでしょうか。

グラーフ「任務だ。勝利し続けるということが、総統閣下から承った現在の最重要任務。私は命に代えてでもこの任務を成し遂げる。それが全てだ」

グラーフ「この任務が終われば、更に大きな任務を任せていただけるだろう。総統閣下の栄光と、ナチス・ドイツの繁栄のため、私は戦い続ける」

グラーフ「私はそのために存在している。もし敗北するとき、私は己の存在価値を失うだろう。だが、そんな可能性は万が一にもない」

グラーフ「なぜなら、私は世界最高の技術を持つナチス・ドイツによって生み出された、最高傑作だからだ」


グラーフ・ツェッペリン:入場テーマ「DEAD SILENCE/OFFICIAL THEME SONG」

https://www.youtube.com/watch?v=UI2WuKFX7u0


明石「その性能はまさに究極! UKFは最強の外敵を迎え入れてしまいました! ナチス・ドイツの生み出した、最新鋭の戦闘マシーン!」

明石「大淀、戦艦棲姫を相手取り、実力の底を見せずに蹂躙! 桁外れの身体能力を有するこの怪物を倒す術など、果たして存在するのか!」

明石「誰かこいつを止めてくれ! ”キリング・ドール”グラーフ・ツェッペリィィィン!」

香取「出てきたわね。3回戦に残った4人の選手の中で、唯一グラーフさんだけが未だに実力の底どころか、苦戦のそぶりさえ見せていないわ」

香取「戦闘力を完璧に数値で表すことはできないけど、あえて数値化するなら、グラーフさんは4人の中でも最強でしょう」

香取「テクニックが未知数なのを考慮に入れてもね。ナチス・ドイツが最高傑作を謳うだけはあるわ。あの身体能力はそれほどに驚異的よ」

明石「武蔵選手のパワーと、島風選手のスピードを両方併せ持つファイター、とでも言うべきでしょうか。本当にとんでもない……」

香取「下手をすれば、その2人さえ上回っているかもしれないわ。特に単純なパワーに関しては、おそらく武蔵さんをも凌駕しているでしょう」

香取「仮にグラーフさんが大した格闘技術を持っていなくても、あのパワーとスピードさえあればほとんどの選手に勝つことができるはず」

香取「技とは力の差を埋めるために作られたもの。その力が飛び抜けて優れているなら、半端な技はねじ伏せられるしかないのよ」

香取「技術なしでもグラーフさんは強い。それだけなら多少付け入る隙があるけど、残念ながらグラーフさんは一定の技術を持っていると推定される」

香取「パワーとスピードとテクニックを併せ持ち、精神面は更に手の出しようがない。戦闘マシーンに心理戦が通用するはずがないわ」


明石「……扶桑選手が見出した弱点とは、もしかしてその機械的な部分では? 相手の攻撃に対して同じパターンでしか反撃できないとか……」

香取「そうは思えないわね。グラーフさんはまるで戦闘マシーンのようだけど、本当に脳みそが半導体で構成されてるわけじゃないから」

香取「ある攻撃に対して一定の反撃をするのは格闘家なら皆似たようなもの。それに付け込まれるなら、グラーフさんは自在にパターンを変えてくる」

香取「感情がないぶん、動きの癖を消すのはまともな格闘家より上手なはずよ。攻防における精神性のなさは、強みこそあれ弱みにはならないわ」

香取「現時点でグラーフさんを倒す術は見つかっていない。唯一あったとすれば……ルール違反による失格負けだったんだけど」

明石「そういえば、グラーフ選手に対して異例のドーピングチェックを行ったそうですね。UKFでそういうのはあまりやってないのに……」

香取「ええ。異例だけど、試合前に血液採取を含めた身体検査をさせてもらったわ。あの力はあまりにも異常だもの」

香取「結果としては、残念ながらシロ。グラーフさんの体液から異常なものは検出されなかったわ。正真正銘の健康体よ」

香取「ただ1つ異常だったのは、鉄で出来てるんじゃないかと思うほどの筋密度よ。あの体格で、質、量ともに極限まで筋肉が発達していたわ」


香取「どういう鍛え方をすればあんな体を作れるのか……鍛えられるところは余すところなく、限界まで鍛えてある。体幹から指まで、全身くまなく」

香取「薬物反応が出ないのが不思議なくらいよ。たぶん、グラーフさんは発狂するほどの過酷な鍛錬をやり遂げて、あの肉体を得たんだわ」

香取「グラーフさんの凄まじい身体能力の正体は、脳のストッパーがないことによる潜在能力の完全開放だけど、加えて筋肉量自体も多いのよ」

香取「要は地力の身体能力も戦艦級以上に高いの。その上でグラーフさんは潜在能力を開放している。その上昇率は足し算ではなく、掛け算になる」

香取「グラーフさんが並の正規空母級なら3倍だったけど、地の筋力が凄まじく高いことを考えると……5倍近い数値を叩き出すんじゃないかしら」

明石「5倍って……つまり、普通の正規空母級の身体能力を基準とした場合の5倍? 戦艦級に次ぐ体格を持つ正規空母級選手の、5倍ですか?」

香取「あくまで推定よ。本当は4倍くらいかもしれないし……6倍かもしれない。少なくとも、3倍程度では収まらないわ」

香取「素の身体能力だけでも、グラーフさんはパワーとスピード両方で扶桑さんに勝る。その上で潜在能力を開放し、おまけに技まで使ってくる」

香取「どうにか攻撃を当てたとしても、痛覚がないからダメージも与えられない。感情がないから、挑発にも心理戦にも乗せようがない」

香取「どう考えを巡らせても、絶望しか見えないわ。こんなやつに一体、誰が勝てるっていうの?」


明石「……扶桑選手は『勝てる』と断言したんですよね」

香取「ええ……それが最大の謎だわ。頼もしいとは思うし、その言葉に縋りたい気持ちもある。だけど、自信の根拠がわからない」

香取「確かに扶桑さんは卓越した戦術眼を持っているわ。その目がグラーフさんの弱点を映しだしたとしても、それだけで勝てるものかしら?」

香取「結局、ビスマルクさんと同じように、グラーフさんに勝つには真っ向から打ち破るしかないんじゃないかしら……それが何より不可能だけど」

明石「完全にお先真っ暗というわけですが……扶桑選手が見出した弱点が正しいかどうか、それが勝敗を分ける最大の焦点でしょうか」

香取「ええ、それが有効であることを祈っているわ。もし扶桑さんまでが倒されたら、もう永遠にグラーフさんは倒せない……そんな気がするわ」

明石「……不吉なお言葉、ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! グラーフ選手は相変わらず能面のような無表情!」


明石「対する扶桑選手、いつになく感情を消したような顔つきです! 瞳に宿る冷たい光は、まるで氷のような冷徹さを思わせます!」

明石「凍りつくような視線を交わし、両者がコーナーに戻ります! 果たして、扶桑選手の秘策は怪物退治を成し遂げることができるのか!」

明石「それとも、誰も怪物を止めることなどできないのか! UKFの命運を懸けた死闘の火蓋が今、切って落とされます!」

明石「ゴングが鳴りました、試合開始です! 両選手、ゆっくりとリング中央へ進み出ていきます! まずはグラーフ選手が構えた!」

明石「同様に扶桑選手もガードを上げる! 顔面を両腕でがっちりとブロックし、軽快なフットワークを始めます! ここでグラーフ選手は停止!」


明石「グラーフ選手、やはり待ちの体勢に入りました! 相手に攻めさせる気です! 動きを止めたその姿はまさに人形! 扶桑選手、どう出る!」

明石「攻めました! 右のローキックを放ちます! グラーフ選手の膝に命中! 浅めの蹴りでしたがクリーンヒットしました!」

香取「えっ……ローキック?」

明石「しかし、グラーフ選手は微動だにしない! 避けるそぶりも見せず、不動のまま受けました! ダメージがある様子は全くありません!」

明石「再び扶桑選手が攻める! 左ジャブのフェイントから、また右のローキック! 今度はグラーフ選手、脛で受け流しました!」

明石「扶桑選手は追撃せず、わずかに後退! グラーフ選手も追いません! 出方を伺い合うかのように、お互い大きな攻勢には出ようとしない!」

明石「もう1度扶桑選手が踏み込んだ! 今度はローキックをフェイントにレバーブロー! 直撃です! が、ここでグラーフ選手が反撃ぃぃぃ!」

明石「左の肘打ち! 続けて右フック、後ろ回し蹴り! 猛然とラッシュが放たれる! しかし扶桑選手、バックステップで辛うじて回避!」


明石「わずかに躱し損ねたか、額に大きな切り傷があります! 初手の肘打ちによるものでしょう! 浅い傷ではない、かなり出血している!」

明石「これがまともに当たっていれば、どんな結果になっていたか想像に難くない! やはりグラーフ選手の一撃はパワーも、スピードも桁が違う!」

明石「扶桑選手のレバーブローを貰ったグラーフ選手ですが、当然のごとくダメージは無し! 構えを戻し、深追いする様子はありません!」

香取「今の攻防、扶桑さんにとってあまりにもリスキーだわ。大した効果を望めないレバーブローを当てるために、懐へ飛び込むなんて」

香取「骨を折るような威力でもない限り、グラーフさんにダメージが入らないのは承知してるはず。何を狙っているの?」

明石「再び待ちの姿勢に戻ったグラーフ選手! 今度は扶桑選手、どう仕掛け……!? いや、違う! グラーフ選手は待ちに徹してなどいない!」

明石「フットワークを始めました! 軽量級ボクサーを思わせる高速のフットワーク! 冷酷なる戦闘マシーンがフル回転を始めようとしている!」


明石「もう様子見は済んだのか! それとも時間を掛けたくないのか! これより始まる打撃地獄から、無傷で生還した者は皆無!」

明石「大淀、戦艦棲姫もこのラッシュで追い詰められた! まずい展開です! 序盤から扶桑選手に最大のピンチが降りかかります!」

香取「……たぶん、理由なんてないんだわ。待ちに徹するか、速攻で決めるか、どちらでも良かったから後者を取っただけ。そんな感じがするわ」

香取「このラッシュは相手が動かなくなるまで永遠に続く。扶桑さんがそこから抜け出せるか否かで、勝敗は決まる……!」

明石「速攻にギアを入れ替えたグラーフ選手を前にしても、扶桑選手に変化はありません! 頭部のガードを固め、フットワークを踏んでおります!」

明石「表情にも動揺はない! ここから先に扶桑選手の作戦はあるのか! 今、グラーフ選手のラッシュが始まります!」


明石「始まったぁぁぁ! 左ジャブ、ロシアンフック、上段前蹴り! 1つ1つが必殺の高速ラッシュが扶桑選手に襲い掛かる!」

明石「左ロー、後ろ回し蹴り、右ストレート! 技の継ぎ目が全くない! やはり速い、速過ぎる! 息をつく暇もない嵐のような打撃です!」

明石「それを扶桑選手は耐え凌いでいます! ダッキング、バックステップ、パリィ! フットワークと防御術で打撃を的確に捌いている!」

明石「しかし、連打を掻い潜ってはいるものの、動きに余裕がない! グラーフ選手が速過ぎる! 絶え間ない攻撃に防御が追いついていない!」

明石「扶桑選手、防戦一方! ひたすら後退してラッシュを凌ぎます! 息が上がりつつある扶桑選手に対し、グラーフ選手は止まる気配すらない!」

明石「とうとうコーナーに追い詰められた! 左フック、膝蹴り、肘打ち! もう攻撃を躱せない! 扶桑選手、亀になって防御に徹します!」

香取「完全に追い込まれてる……! グラーフさんの打撃は防御し切れるようなものじゃない、扶桑さんは何を考えてこの展開に……!」


明石「右ミドルキック! 肘で受けましたが、威力を殺し切れない! バランスが崩れました! すかさずグラーフ選手のアッパーカット!」

明石「手のひらでブロック! が、ブロックもろとも、あごを打ち抜かれた! スピードに加えてこのパワー! もはや防御すらし切れない!」

明石「トドメとばかりに上段膝回し蹴り! どうにかブロックしましたが、衝撃で横薙ぎに倒されました! 扶桑選手、テイクダウン!」

明石「すかさずグラーフ選手が踏み付けたぁ! 扶桑選手、転がって避ける! それをグラーフ選手が踏み付けで追撃! これが当たれば終わる!」

明石「鼻先でグラーフ選手の足がリングを揺るがす! が、まだ扶桑選手は終わらない! ここは逃げの一手! 更に転がって距離を取ります!」

明石「辛うじてグラーフ選手の射程から逃げ切りました! 素早く立ち上がります! 致命傷は免れましたが、呼吸が荒い! 肩で息をしています!」

明石「対するグラーフ選手は息切れさえしていない! 再び後退しようとする扶桑選手目掛けて、グラーフ選手は休みなく距離を詰める!」


明石「左ジャブ、いやフェイント!? 胴タックルです! グラーフ選手がタックルを仕掛けた! 扶桑選手、的確に腰を引いてタックルを切る!」

明石「これは読まれていたか、胴タックルは失敗! グラーフ選手、上から覆い被られる形になりました! し、しかし……なんだこのパワーは!?」

明石「上半身を抑え込まれた体勢のまま、扶桑選手を力づくで押している! と、止められない! 扶桑選手がフェンス際まで押し込まれた!」

明石「グラーフ選手が腰帯に手を掛けた! 強引にスープレックスぅぅぅ! 扶桑選手が後方に投げ落とされた! 辛うじて受け身を取ります!」

明石「即座に立ち上がる扶桑選手の襟をグラーフ選手が掴む! せ、背負い投げぇぇぇ!? 柔道なら文句なしで一本! 投げが綺麗に決まったぁ!」

香取「まずい、技を使い始めた! ダメージもまったくないし、もう扶桑さんに勝ち目は……!」

明石「万力でマットに叩き付けられました! 受け身は取りましたが、衝撃ですぐには動けない! グラーフ選手がマウントを取りに掛かる!」


明石「どうにかガードポジションが間に合いました! 足を胴の間に挟んでディフェンス! グラーフ選手を近付けさせません!」

明石「状況はグラウンド戦に移行! グラーフ選手、自ら足の間に入っていき……も、持ち上げたぁ!? 扶桑選手が抱え上げられました!」

香取「ダメだわ、パワーが違い過ぎる!」

明石「まるで子供を抱きかかえるかのように、軽々と持ち上げられてしまいました! 扶桑選手が遅れて対応! そのまま三角絞めを試みます!」

明石「が、手を挟み込まれて防御された! やはり、このパワー差を覆せる技など存在しないのか! 扶桑選手が腕一本で高々と持ち上げられる!」

明石「一気に叩き付けたぁ! 寸前で技を解き、扶桑選手は脱出! 致命傷は回避しました……が、足元が覚束ない! 扶桑選手の限界が近い!」


明石「今までのダメージと疲労が足に来ています! もうフットワークもありません! 呼吸も乱れ、どうにか構えを維持している状態です!」

明石「やはり、グラーフ選手のパワーと手数を受け続けるのは無謀だったのか! 対するドイツの怪物は、未だ疲労の色さえ見せていない!」

香取「ラッシュを仕掛けてこない……疲れたから止めたというより、十分にダメージを与えたから中断したと見るべきね」

香取「あとは的確にトドメを刺すだけ……主導権を完全に握られてる。この状況は、扶桑さんの作戦が失敗したからなの? それとも……」

明石「今度はゆっくりとグラーフ選手が近付いてきます! ラッシュは終わったものの、その歩みは開始時点と同様に全く揺るぎがない!」

明石「あれほど動いて、まだ体力の底が見えません! 扶桑選手は明らかにスタミナが切れかかっている! 息切れしながら迎撃の構えを取ります!」


明石「先に扶桑選手が動いた! 太腿へローキック! 当たりましたが、効いた様子はない! グラーフ選手、微動だにしません!」

明石「やや後退しつつ、今度は扶桑選手、ボディへ順突き! 当然ビクともしない! 扶桑選手、もう浅い打撃しか放つ余力がないのか!」

香取「なんで足やボディを狙ってるの!? その程度じゃ効かないって散々わかってるはずなのに……!」

明石「今度はグラーフ選手が仕掛ける! 右のローキック! 脛で受けましたが、脛ごと吹っ飛ばされた! 扶桑選手が大きく傾く!」

明石「更に左のローキック! 太腿へまともに入ったぁ! これは痛い! 悶絶レベルの激痛のはずです! 扶桑選手、機動力を大幅に喪失!」

明石「一方的な展開になってきてしまいました! グラーフ選手が更に蹴り技を繰り出す! こ、今度は右のハイキックだぁぁぁ!」

明石「ブロックは間に合った! し、しかし……赤城選手すら凌駕するこの威力! ガード越しに扶桑選手の頭部を揺らしました!」


明石「扶桑選手が後方に大きくふらついた! フェンス際までよろめき、尻もちを着くようにダウン! このダメージは致命的だぁぁぁ!」

明石「即座にグラーフ選手が距離を詰める! 完全なトドメを刺すために! こ、ここで終わりなのか! 不沈艦がとうとう沈むのか!」

明石「顔面へ跳び足刀蹴りぃぃぃ! か、躱した! すんでのところで転がって躱しました! 扶桑選手がよろめきながら立ち上がる!」

明石「まだ扶桑選手は戦えます! 危うい足取りのまま大きく後退! 今は時間を稼いで回復を図る! 扶桑選手は諦めていません!」

明石「しかし、それを許すグラーフ選手ではない! 扶桑選手目掛けて走り出した! と、跳び膝蹴りぃぃぃ! この威力、ガードし切れない!」

明石「またしても吹き飛ばされるように後方へ倒れ込みました、扶桑選手! が、すぐに立つ! 息は絶え絶えですが、まだ動けている!」


明石「不沈艦は未だ沈まず! だがグラーフ選手の追撃は続く! 再び右のハイキッ……フェイント!? 勢いをそのままに、後ろ回し蹴りぃぃぃ!」

香取「グラーフさんは、ここまでのテクニックを……!」

明石「ハイキックのフェイントで回転力を増した後ろ回し蹴り! どうにか扶桑選手、ガードが間に合いました! 間に合いはしましたが……!」

明石「……様子がおかしい! ガードした左腕がだらりと下がりました! あの前腕の腫れ方、単なる打撲には到底見えません!」

明石「まさか、腕の骨を蹴り砕かれた!? グラーフ選手の恐るべき蹴りを受け止めた左腕は、完全な死に腕と化しました!」

明石「もう左腕は使えない! 片腕一本では、両腕でも受け切れなかったグラーフ選手の攻撃を防ぐことは不可能! 扶桑選手、絶体絶命です!」

香取「完全に追い込まれたわ……もう勝機はないに等しい。なのに……なぜ扶桑さんは表情を変えないの?」


明石「再びグラーフ選手が突っ込んでくる! 今度こそ息の根を止める気だ! 扶桑選手、休む暇もなく右腕だけで構えを取る!」

明石「いきなり右ストレートォ! うなる拳が扶桑選手の頬を掠めた! ギリギリ反応が間に合いました! こんなものをまともに受ければ、死ぬ!」

明石「満身創痍の扶桑選手に対し、グラーフ選手は動きのキレはまるで落ちてしない! 容赦なく前進し、扶桑選手を追い詰めていく!」

明石「扶桑選手はとにかく後退! まだ体力を回復を図っているのでしょうか!? すぐさまグラーフ選手が追いかけ……あれっ?」

香取「えっ、何?」


明石「ぐ……グラーフ選手、転倒! スリップダウンです! 不自然な倒れ方をしました! 転んだというより、自らマットに突っ込んだような!」

明石「扶桑選手は距離を取り、何も仕掛けていません! 足元に滑るようなものはない! しかも……グラーフ選手が、立ち上がらない!?」

明石「立とうとはしています! ですが、立ち上がる動作が異常なほど遅い! わざと隙を作っているのか!? いや、これは違う!」

明石「体を起こそうとする手足が痙攣しています! 呼吸も急に荒くなりました! ほとんど過呼吸に近い息遣いです!」

明石「肌からは大量の汗が滴り落ちている! こ、この変容は一体!? まるで毒でも受けたかのようです! 未だグラーフ選手は立ち上がれない!」

香取「ま……まさか、扶桑さんは最初から、こうなることを狙っていたの!? 考えられない……思い付いたって、普通なら実行できない……!」


明石「グラーフ選手、膝立ちから動けなくなりました! 扶桑選手は呼吸を整えながら、その様子を見守っています! 香取さん、これは一体!?」

香取「……思えば当然の結末なんだわ。グラーフさんは……動き過ぎてスタミナ切れになったのよ」

明石「す、スタミナ切れ!? まさか、さっきまであんなに元気だったのに! こんなに突然!?」

香取「普通の選手のスタミナ切れとは違うのよ。グラーフさんは脳のリミッターがないから、肉体の潜在能力を100%発揮できるでしょ」

香取「脳が潜在能力にリミッターを掛けているのは、過剰運動で体が傷付くのを防ぐためと、いざというときに余力を残しておくという目的があるわ」

香取「普通の選手なら体力の消耗と共に疲労感を覚え、同時に動きが落ちる。でも、リミッターどころか痛覚さえないグラーフさんは違う」

香取「体力の限界まで最高速で突っ走って、唐突に底を着く。余力なんてこれっぽっちも残らない。体力の残りが完全にゼロなのよ」


香取「どんな高性能エンジンを積んだモンスターマシンでも、燃料がなければ走れない。グラーフさんは燃料切れを起こしたんだわ」

明石「そ、それは自明の理ではありますが……こんなにもあっさりと?」

香取「私も驚いてる……身体能力だけに目が行って気付かなかったわ。考えてみれば、あんな動きをしていて燃費がいいわけがない」

香取「グラーフさんは潜在能力の解放により、並の選手と比べて5倍に達する身体能力を得た。それはつまり、スタミナの消費も5倍だということ」

香取「肉体の限界を超えた動きをしていることを考えると、それ以上かもしれないわ。たとえ体力の総量自体が多くても、無尽蔵のはずはない」

香取「あれほどのパワーとスピードを発揮し続ければ、いつか必ず底を着く。だから、扶桑さんは戦いを長引かせることで、自滅を促したのよ」

香取「足とボディを狙っていたのは、自滅までの時間を少しでも短縮するためだったのね。効いてないように見えて、体力は確実に削っていたんだわ」


明石「あっ……扶桑選手が動きます! もう構えはなく、腕を下ろして普通にグラーフ選手へ歩み寄っていきます!」

明石「グラーフ選手は未だに立ち上がるどころか、指一本ろくに動かせない! 接近する扶桑選手に気付いたようですが、反撃できる状態ではない!」

香取「でしょうね。体力は一滴残らず燃やし尽くしてしまったでしょうから。肉体の限界を超えたその先にあったのは、破滅だったわけね」

香取「要は相手が自滅するまで凌げば勝てる戦い。扶桑さんはグラーフさんへの必勝法としてこの作戦を取り、それが成功したんだわ」

明石「扶桑選手が静かにグラーフ選手の背後に回った! 右腕を首に掛けました! バックチョークです! 頸動脈を絞めている!」

明石「ほとんど片腕のみのチョークですが、入っています! グラーフ選手は必死に抵抗しているものの、まるで別人のように動きがか弱い!」

明石「腕力も、握力も人並み以下まで落ちてしまったようです! 不完全なチョークで、ゆっくりとグラーフ選手が絞め落とされていく!」


明石「心なしか、能面のようだった表情にも変化が見て取れます! 恐怖です! 冷酷なる戦闘マシーン、グラーフ・ツェッペリンが恐怖している!」

明石「何の抵抗もできないまま、落とされていく恐怖! ギブアップすることは許されない! 徐々に顔色が鬱血していきます!」

香取「グラーフさんも怖がることがあるのね……落とされるのが怖いの? それとも、敗北への恐れ? あるいは……扶桑さんが怖いのかしら」

香取「私は今、少しだけ……扶桑さんが恐ろしいわ」

明石「おっ……落ちたぁぁぁ! 完全に意識を失いました! 無敵とも思われたあのグラーフ・ツェッペリンが、もうピクリとも動かない!」


明石「試合終了のゴングが鳴りました! 勝ったのは扶桑選手! ドイツの怪物、グラーフ選手の猛攻を耐え抜き、見事勝利!」

明石「体力消費の激しさというグラーフ選手の弱点に着目した、鮮やかな作戦勝ち! 優勝に向けて、大きな壁を乗り越えました!」

香取「作戦勝ちね……この作戦があったから、扶桑さんは『確実に勝てる』と発言したのよね。これ、誰にでもできることじゃないわよ」

香取「グラーフさんが自滅するまで、攻撃を凌げば勝てる。だけど、いつ自滅するかは誰も知らないし、そのとき自分が立っていられる保証もない」

香取「あの化け物みたいな猛攻を耐え抜いて、最後に立つは自分だと確信できる覚悟と自信。それらを得るのに、どれだけのものを費やしたのかしら」

香取「扶桑さんはこの作戦を『登山』に例えていたわね。間違えなければ誰でも辿り着ける? さすがにそれは言い過ぎだわ」

香取「エベレスト山を前にして、『頑張れば必ず頂上を踏破できる』って言うようなものよ。そんなことをやり遂げられるのは、扶桑さんくらいだわ」


明石「過程と結果を鑑みれば、作戦勝ちというより執念の勝利というべきなのでしょうか?」

香取「執念の一言で片付けられるものでもない気がするわね。勝敗を分けたのは、勝利に対する想いの強さなんじゃないかしら」

香取「敗北と勝利を積み重ね、ここまで辿り着いた扶桑さんの想いは誰よりも強い。その想いの強さがグラーフさんの弱点を見出し、勝利まで導いた」

香取「絶望的なまでの能力差をひっくり返し、勝利をもぎ取るその強さ……これほどの境地に辿り着けるファイターはそう多くないわ」

香取「扶桑さんはとうとう、最強の一歩手前まで到達してしまったわね。真の最強の座を得るのに、倒すべき相手はあと2人」

香取「次の相手が誰になるのかはまだわからないけど、扶桑さんは強敵よ。優勝に王手を掛けた今、更に扶桑さんは強くなった」

香取「今の扶桑さんを倒せるファイターはUKFに何人もいないでしょう。本当に、強くなったわね」

明石「ナチス・ドイツが生んだ無敵の怪物、グラーフ・ツェッペリンはここで敗退! 扶桑選手は決勝進出です! 皆様、どうかもう一度拍手を!」


試合後インタビュー:扶桑

―――グラーフ・ツェッペリン選手に勝てると確信されていた理由を改めて教えて下さい。

扶桑「グラーフさんの戦いには意志を感じません。力と技術を闇雲に振るって、結果的に勝っているだけだったんだと思います」

扶桑「本人は勝つつもりで戦っていたようですが、本心ではそうではなかったんじゃないでしょうか。別に、彼女は勝ちたくなんてなかったんです」

扶桑「グラーフさんには何もない。ただ命令されるがままに突っ走っているだけ。なら、走れるだけ走らせてあげればいいと思いました」

扶桑「あんな体の使い方をすれば、すぐに限界が来ることはわかりきった話です。私はそのときまで、倒れないように耐え続ければいいだけです」

扶桑「我慢比べなら誰にも負けない自信があったので、確実に勝てると思いました。結果はご覧のとおりです」

―――グラーフ・ツェッペリン選手のことはどう思っていらっしゃいますか?

扶桑「……きっと、グラーフさんは兵器として育てられたんでしょうね。勝つとか負けるとかではなく、ただ敵を滅ぼすための道具として」

扶桑「彼女に備わっている力は強さではなく、兵器としての性能です。そんなものに勝っても、私は嬉しくありません。悲しくなるだけです」

扶桑「グラーフさんはもう、戦うべきではないと思います。あの力はいずれ、彼女自信を破滅させます。私が言っても仕方のないことですが……」

扶桑「責任はグラーフさんを育てた側にあるんでしょう。どうか、彼女がその呪縛から抜け出し、自分の意志を取り戻せるよう願っています」


試合後インタビュー:グラーフ・ツェッペリン

―――今はどのような心境ですか?

グラーフ「質問の意味がわからない。私は負けた。失敗した。まもなく処分が下るだろう。今はただ、そのときを待っている」

グラーフ「……だが、わからない。なぜ私が負けた? 負ける要素はなかった。ミスもしていない。なのに、どうして」

―――扶桑選手のことはどう感じましたか?

グラーフ「わからない。ただ、もう戦いたくない。あれは……嫌だ。おそらく、私には倒せない」

グラーフ「ああ……今、負けた理由がわかった。私は欠陥品だったのだ。出来損ないの私に、あんなものを倒せるわけがなかったのだ」

グラーフ「しかし、私のどこに欠陥があるのだろう。わからない、わからない……」

(グラーフ・ツェッペリン選手の機能不全により、インタビュー中止)

~22:30より再開~


明石「怪物だらけだったAブロックからの決勝進出は扶桑選手に決まりました! 次の試合で、もう1人の決勝進出者が決まります!」

明石「Bブロック決勝戦、いよいよスタートです! まずは赤コーナーより選手入場! 実戦空手の第一人者が、またしても空手の強さを見せつける!」


試合前インタビュー:榛名


―――隼鷹選手との戦いを引きずっている、という関係者からの話ですが、本当でしょうか。

榛名「引きずっているというわけではありませんが、少し考えを改めなくてはならないとは感じています」

榛名「技術において、私は隼鷹さんに圧倒されました。私の思う空手の技術体系は、まだまだ未完成だということを痛感しています」

榛名「フットワークの鍛錬にはかなりの期間を要しましたが、もう使うことはないでしょう。欠点は実戦の中で教えていただきましたから」

榛名「戦い方を変えるつもりはありませんが、技の取捨選択を再検討しています。使えるものと使えないもの、慎重に見分けなければなりません」

―――吹雪選手のことはどう思っていますか?

榛名「Bブロックに吹雪さんの名前を見たときから、3回戦で当たるのは彼女に違いないと密かに思っていました」

榛名「吹雪さんは私と似ています。絶対に妥協せず、弱い自分が許せない。強さと勝利を得るためなら、どんな無理や無茶でも通してみせる」

榛名「今頃、吹雪さんは私に対する罵詈雑言を思い付く限り並べ立てているでしょう。私を侮辱するためではなく、自分を追い詰めるために」

榛名「自ら退路を絶ち、命を懸けて戦う。負けた後のことなんて考えない。そういう彼女の在り方は、個人的には好きです」

榛名「駆逐艦級王者決定戦を観ていたときも、内心では吹雪さんの応援をしていました。私は彼女のファンなのかもしれません」

榛名「そんな彼女の前に立ち塞がることになってしまって、心苦しい想いはあります。だからと言って、手加減することは絶対に有り得ません」

榛名「迷いを持つことすら、吹雪さんに対する最悪の侮辱です。何より、私だって負けたくない。油断できる相手でもありませんから」

榛名「吹雪さんは強いです。技の完成度や練度においては、私さえ及ばないかもしれない。だからと言って、私より強いわけではないでしょう」

榛名「私は誰にも負ける気はありません。吹雪さんには、全力を以って当たらせていただきます」


榛名:入場テーマ「GuiltyGearX/Holy Orders (Be Just or Be Dead)」

https://www.youtube.com/watch?v=FUn8sSi6d0c


明石「最強であることを証明する唯一の方法とは、戦って勝ち続けること! 空手最強説の証明者が今、説立証のために再びリングへ上がる!」

明石「K-1王者を倒し、中国拳法家をも倒したその打撃、まさに一撃必殺! 全身を凶器とするその打撃に、一切の隙はない!」

明石「最強への道も、この打撃で切り開く! ”殺人聖女”榛名ァァァ!」

香取「さて、文句なしの実力者である榛名さんだけど……ここに来て、不安要素が出てきてしまったわね」

明石「隼鷹戦の失敗をきっかけに、フットワークを捨てるという発言ですね。そこまで気にするものなのか、とも思いますが……」

香取「榛名さんにとって、フットワークは切り札の1つだったはずよ。それを完膚なきまでに封殺されれば、ショックを受けるのも無理ないわ」

香取「一度破られてしまった技を、再び自信を持って使うことは難しい。自信がなければ、それは迷いとなって技のキレをなくしてしまうでしょう」

香取「そう考えれば、フットワークの封印は正しい選択かもしれないわね。ただ、次の相手が吹雪さんっていうのが問題よ」

明石「最軽量である駆逐艦級の王者ですからね。スピードでは吹雪選手が上だと考えると、フットワークの封印は痛いのではないでしょうか」

香取「そうね。吹雪さんはおそらくスピードを武器に攻めてくる。それに対抗するなら、榛名さんにとって一番の有効策がフットワークだったわ」


香取「しかし、フットワークは隼鷹さんによって破られた。呼吸のリズムと重心が乱れるわずかな瞬間を突くという、高等テクニックによってね」

香取「原理はわかっても、誰にでもできる芸当じゃないわ。でも、艦娘一のテクニックを持つ吹雪さんならやってのけるかもしれない」

香取「そんな不安要素を抱えてまで、フットワークを使うわけにはいかないわね。榛名さんは別の方法で対処する必要があるわ」

明石「スピードのある吹雪選手に対して、榛名選手は分が悪いと考えられますか?」

香取「そうは言ってないわ。階級の有利は榛名さんにある。強めの一撃さえ入れれば、駆逐艦級の吹雪さんはひとたまりもないでしょう」

香取「ただ、足元を掬われる可能性があるというだけ。榛名さんは戦艦級としてはスピードがあるほうだけど、吹雪さんほどじゃないから」

香取「スピードと関節技、それにカウンター。榛名さんが敗北する可能性があるとすれば、この3点かしら」

明石「一番弱点っぽいのは関節技ですよね。空手一辺倒の榛名選手には、組み技系の技が一切ありませんから」


香取「そうね……でも、駆逐艦級の吹雪さんが関節を極めるのは難しいでしょう。あまりにもパワーに差があり過ぎるわ」

香取「隼鷹さんとの試合でも、榛名さんは一度も関節を極められてないわ。そもそも、隼鷹さんは関節技を仕掛けようともしなかった」

香取「別に打撃勝負に拘ったわけじゃなく、関節技を仕掛ける隙がなかったのよ。隼鷹さんほどの腕でも、関節技は諦めざるを得なかったの」

香取「関節を極めるには、隙を突く、当身で崩す、力ずくのいずれかの手段を取る必要がある。榛名さんにはどの手段も難しいわ」

香取「立ち技最強候補の榛名さんを当身で崩すのはほぼ不可能でしょう。力ずくなんてもっと無理だし、隙を見せるような甘さもないわ」

香取「やっぱりスピードでかき回されるのが、榛名さんにとっては最も嫌なんじゃないかしら。吹雪さんも、それは理解しているところのはずよ」

香取「榛名さんがフットワーク以外でどうスピードに対抗するか、ここがちょっとした見どころになるんじゃないかしらね」

明石「ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! 怪物退治を果たした、駆逐艦級王者の登場です!」


試合前インタビュー:吹雪

―――相手は打撃最強候補の空手家、榛名選手です。どう戦いますか?

吹雪「えーっと……空手家? 榛名さんって、空手家だったんですか? あはっ、嘘でしょ! もしかして、あれで空手のつもりなんですか!」

吹雪「あんなスッとろい動きが空手だなんて、笑っちゃいますね。ラジオ体操のほうがもっと俊敏に動いてますよ」

吹雪「空手家を名乗りたいなら、おとなしく瓦やスイカでも割ってればいいんですよ。どうせ空手なんて健康体操なんですから」

吹雪「薬で死にかけの牛をいじめたり、人懐っこい熊と戯れるのが真の空手家です。スッとろい榛名さんは、その空手家以下ってことですね」

吹雪「対策なんて必要ありませんよ。相手はなんちゃって武術家ですから、私にとってはサンドバッグも同然です」

吹雪「健康体操に付き合う気はないので、ちゃっちゃと終わらせます。いやあ、3戦連続で弱い相手と戦わせてもらって、何だか申し訳ないです」

―――負けたらどうしよう、ということは考えますか?

吹雪「なんで? 負けるわけないんだから、そんなことは考える必要もありません。私は最強の艦娘ですからね」

吹雪「どうしてもっていうなら、考えてみましょうか。あんなスッとろい健康体操家に負けるようなことがあれば、死んだほうがマシですね」

吹雪「ファイターとして終わりですよ。アレに負けたら虫けら以下、生きているのが恥ずかしいです。ま、負けることはありませんけど」

吹雪「そういえば、負けたらリングでストリップするって約束しましたね。あの約束、まだ有効なので。どうぞ私の敗北を期待してください」

吹雪「期待は裏切られると思いますけどね。この世で私に勝てるやつなんて、どこにもいないんですから」


吹雪:入場テーマ「聖剣伝説Legend of Mana/The Darkness Nova」

https://www.youtube.com/watch?v=Elu5LoFiiXE



明石「階級の不利は勝敗を分ける絶対条件か? 否! それが否であると、この最軽量級王者は勝利によって証明し続けた!」

明石「最凶の戦艦さえ退けた今、怖いものなど何一つない! 磨き上げたテクニックとビッグマウスを引っさげ、無差別級王者の座を狙う!」

明石「誰にも文句は言わせない! 駆逐艦王者の私こそ最強だ! ”氷の万華鏡”吹雪ィィィ!」

香取「試合前のインタビューでは冷や冷やさせられたわ。空手家が言われたくないことをバンバン言ってたわね」

明石「吹雪選手に好感を示していた榛名選手も、さすがにキレるんじゃないかというほどの罵詈雑言でしたね」

香取「本当に、よくやるわ。これでもかというくらい自分を追い込まなきゃ、彼女は気が済まないんでしょう。いえ、ある意味では不安なのかしら」

香取「吹雪さんは勝率を上げるためなら、負けた後のリスクはまったく考えないわ。自分を追い込むことが少しでも力になるなら、躊躇なくやる」

香取「ビッグマウスの聞くに堪えなさは、そのまま対戦相手へ抱いている脅威に比例しているんでしょう。榛名さんはそこまでの相手というわけよ」


明石「空手を舐め切っている発言をしていましたが、やはり本心ではないんでしょうね」

香取「たぶん、吹雪さんが心の底から対戦相手を馬鹿にしたことは一度もないわ。根っこのところでは真面目でいい子だから」

香取「試合後にも吹雪さんは相手を侮辱する発言をしてるけど、よく聞けば遠回しに相手を認めていることが多いわ」

香取「無理に無理を積み重ねて、小さい体でよくここまで登ってきたと思うわ。階級差をひっくり返すのは、本来、それほど困難なことよ」

明石「今回は立ち技特化の榛名選手と対戦するわけですが、階級差はどのような形で響くと思われますか?」

香取「駆逐艦と戦艦は四階級も離れているわ。これほどの階級差があると、打撃戦では絶対に勝てないと断言できるわね」

香取「威力の違いもさることながら、リーチと身長差は絶望的ね。完璧なタイミングでカウンターを仕掛けても、拳が届かないんじゃ話にならないわ」

香取「頭部に打撃を当てるには、かなり相手に接近する必要がある。ボディなら多少は当てやすいけど、よっぽど会心の一撃じゃないと効かないわね」


香取「打撃戦を仕掛けるなら、吹雪さんは大きく技を制限される。対して、榛名さんは空手の技を思う存分、あらゆる距離と角度から繰り出せるわ」

香取「あえて懐に誘って膝蹴りを入れるのもいいし、蹴りで遠巻きに削ることもできる。拳の連撃で圧倒するのも意のままよ」

香取「吹雪さんの流儀であるクラヴ・マガには打撃に対する防御、反撃テクニックが数多くあるけど、榛名さんレベルの打撃に通用するかは疑問ね」

香取「打撃で吹雪さんに勝ち目はないわ。やっぱり、まずはスピードでかき回して、隙を作ってから決め技を仕掛けるのが妥当な作戦ね」

明石「トータルで考えると、やはり吹雪選手の圧倒的不利ということになりますか?」

香取「もちろん。極端な話、このグランプリに出場した15名の中で、吹雪さんにとって有利な相手なんて1人もいないわ」

香取「競技化されてる格闘技は、ほぼ例外なく階級制を導入している。普通に考えて、小柄な選手が大柄な選手に勝てるわけはないからよ」

香取「でも、吹雪さんは言うでしょうね。『弱いやつらと一緒にするな、私なら勝てる』ってね」


香取「吹雪さんは自分に妥協を許さないわ。相手の階級が4つも5つも上だろうと、勝つことしか考えていないでしょう」

香取「今回だってそう。戦艦級トップファイターの榛名さんが相手でも、吹雪さんは勝つことを絶対に諦めないわ」

香取「当然ながら、勝ち気だけで倒せるほど、榛名さんは甘くはない。相手が最軽量級だろうと、彼女は本気で打ち込んでくる」

香取「あるいは、榛名さんも意地を張るタイプだから、少し吹雪さんの戦い方に付き合ったりはするかもしれないわね」

明石「なるほど。総括して、試合予想としては打撃戦を仕掛ける榛名選手と、それをスピードで切り抜ける吹雪選手という展開になりそうでしょうか」

香取「そんな感じね。スピードだけじゃ相手を倒せないから、決め技として何を選択するか。それも気になるところだわ」

香取「どちらも生粋の負けず嫌いだから、一歩も譲らない勝負になるでしょうね。片方が完全に動けなくなるまで、決して勝負は終わらないわ」


明石「ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! 榛名選手を傲然と見上げる吹雪選手! この身長差も見慣れてきました!」

明石「闘志満々の吹雪選手に対し、榛名選手も負けず劣らずの闘志で見返した! まったく視線を切らないまま、両者コーナーに戻ります!」

明石「負けることが大嫌いなこの2人、しかし勝つのはどちらか一方! 敗北の味を噛みしめることになるのは、一体どちらになるのか!」

明石「ゴングが鳴りました! 試合開始です! 共に迷いなくリング中央へと突き進んでいきます! 吹雪選手、フットワークを開始!」

明石「榛名選手はフットワークを使いません! 構えも普段とは異なり、拳を中段に置いた攻撃特化の構えを取っております!」


香取「上段にガードを置く必要はないものね。よほど近付かれないと頭に打撃は届かない。なら、攻めの一手で近付かせなければいいわ」

明石「動と静を思わせる構えが対峙します! 共に出方を伺うか? いや、吹雪選手が仕掛けた! サイドに回り込んでローキック!」

明石「榛名選手は脛で受けました! 即座に離れる吹雪選手! スピードを武器に、ヒット&アウェイで末端から切り崩そうという作戦か!」

明石「再び吹雪選手が間合いに踏み込みます! 当然、榛名選手は反撃! 左の順突きを繰り出した! 吹雪選手はこれを……すり抜けた!?」

香取「今のは……!」

明石「躱しざまにローキックを入れ、再び離れます! 間髪入れずに吹雪選手が攻め込む! 榛名選手、今度は同じ下段蹴りで迎え撃つ!」

明石「大きく横っ飛びで躱した! またローキックを太腿に入れ、後退! 浅いながらも確実に足へダメージを入れていきます!」


明石「しかし、打撃を躱しながらカウンター気味のローキックを入れていく、このファイトスタイル! 明らかにどこかで見たことがあります!」

明石「これは駆逐艦級四天王の一角、戦艦キラー島風選手のローキック戦法! 吹雪選手、なんと島風選手の戦法をパクリました!」

香取「戦艦級相手に無類の強さを誇る、島風さんの戦法……! パクろうと思ってパクれるほど、簡単な戦い方じゃないはずよ」

香取「相当に島風さんの動きを分析して、同じ動きができるよう、徹底的に練習したんだわ。それくらいしないと、あの精度は真似できない……!」

明石「また吹雪選手が突っ込んでいく! 榛名選手、中段鉤突き! 脇をすり抜け、サイドキックを膝横に入れて離れる!」

明石「追撃の下段蹴りはバックステップで回避! おまけとばかりに足の甲へ踏み蹴りを入れ、また距離を取ります!」


明石「清々しいまでに島風選手をパクっています! だが、通用している! 榛名選手へ着実にダメージを与えています!」

明石「やられてばかりでなるものかと、榛名選手の逆突きが放たれる! 吹雪選手、初動を見切って脇をすり抜ける! 同時に膝へローキック!」

明石「榛名選手を一切寄せ付けない! これが駆逐艦級王者のテクニックだ! 最強の空手家相手に、ローキックを決め続けています!」

香取「島風さんと比べて、さすがに蹴りの威力は劣るわね。だけど、反射速度は吹雪さんのほうが上かも。もともと反射神経の鋭さが武器だものね」

香取「足りない威力は手数で補える。後は削れるだけ削って、決め技を仕掛ければいいんだけど……榛名さんがこのままやられるとは思えないわ」

明石「吹雪選手、休むことなく攻め続けます! 右のインロー! 回りこんで膝にサイドキック! 榛名選手に脛受けさえ許しません!」


明石「これだけ蹴られると、鍛え上げられた榛名選手の足にもアザが目立ってきます! もらい続ければ、機動力どころか立つことさえ厳しくなる!」

明石「何とか状況を打開したいところですが、榛名選手、自分からは攻めなくなりました! 受けに回って隙を窺う作戦か!」

明石「構わず吹雪選手は攻める! また右のインロー……っと、これは空振り! フェイントでしょうか、少し手前で蹴りを放ちました!」

香取「ん……?」

明石「一旦離れて、もう一度吹雪選手が仕掛ける! 今度は左のローキック! これも空振り!? なんだ、吹雪選手が間合いを取り損ねた!?」

明石「いや……榛名選手の位置が少しズレてします! 後退してローキックを躱した? ですが、榛名選手に動いた様子はなかったはずです!」

明石「やや動きを止めた吹雪選手ですが、やはり攻める! 回り込んでサイドキック! これは……なんだ!? 榛名選手、奇妙な動きで躱した!」


明石「まったく上体を動かさず、滑るように移動しました! 足もほとんど動かさず、立ち位置だけが移動している! 今のは一体!?」

香取「浮身だわ……古武道の運足術。スポーツ格闘技の広まりと共に、失われた技術の1つよ。まさか、榛名さんが使えただなんて……」

香取「体幹で下半身を持ち上げるようにして、重心を崩さず、最小限の足捌きで滑るように移動する。いわば、古武道におけるフットワークね」

香取「通常のフットワークと比べて習得し辛いぶん、呼吸のリズムを悟られにくく、動きも読まれにくい。榛名さんの第二の切り札ってところかしら」

明石「榛名選手、まだ隠し玉を持っていたようです! 今度は吹雪選手の攻撃が当たらなくなりました! ローキックを尽く見切り、躱している!」

明石「今や、立場が逆転してしまいました! まさしく体が浮いているかのような、滑らかな運足に吹雪選手が翻弄されている!」


明石「更に深く踏み込んでのローキック! やはり空振り! するりと後退して躱しました! スピードに勝るはずの吹雪選手がついていけない!」

明石「見慣れない動きが吹雪選手の見切りを妨げているようです! さすがの吹雪選手にも、やや焦りの表情があるか!?」

明石「何よりまずいのは、吹雪選手の息が上がりつつあることです! そもそも、この戦法はずば抜けた俊足を持つ島風選手だからこそ可能なもの!」

明石「全てにおいて高水準の能力を持つ吹雪選手ですが、俊敏性は島風選手には及ばない! ファイトスタイルに体が付いていかないのです!」

明石「だからこそ、余計にスタミナを消耗する! おそらくはその前に決め技に入る作戦だったのでしょうが、完全に計算が狂いました!」

香取「おまけに、榛名さんは最小限の動きで避け続けているから体力の消耗が少ない。消耗戦狙いはこれで破綻してしまったわね」

香取「状況は榛名さんが優勢……でも、この程度で終わる吹雪さんでもないわ」


明石「一度呼吸を整え、吹雪選手が再び向かっていきます! またローキック! やはり当たりません! 打ち続けて数を当てる作戦か!?」

明石「それよりも早く、吹雪選手のスタミナが尽きるのではないか!? 即座に離れ、もう一度ロー、じゃない! 吹雪選手が足で飛びついた!」

明石「蟹挟みです! ローキックをフェイントに、榛名選手の足を挟み込んだ! これでテイクダウンを取れば状況が変わる! 倒せるか!?」

明石「……た、倒れない! ビクともしません! 下半身の安定感が尋常ではない! 吹雪選手が倒し切れない! 榛名選手、全く倒れません!」

香取「さすがね。空手に寝てからの戦い方はない。ならテイクダウンを取ればいいっていうのが空手家の攻略法だけど、そう簡単に倒れはしないわよ」

香取「榛名さんの組み技、関節技対策は万全を期している。タイミングは良かったけど、吹雪さんの体重とパワーじゃ無理ね……」

明石「吹雪選手、素早く離れます! 追撃の動きを見せた榛名選手の膝へ牽制のサイドキックを入れ、後退! 未だ決定打を見い出せません!」

明石「それでも吹雪選手は攻める、攻める! 左右のローキック、サイドキック! どれも躱されます! 既に蹴りの間合いを見切られている!」


明石「もうローキックは通用しないのか! しかし、まだ吹雪選手は諦めない! またローキック……ここで吹雪選手が跳んだ!?」

明石「ど、胴回し回転蹴りぃぃぃ! しかも難易度の高い、横回転の蹴りです! 下段を打ち続けたのは、目を慣れさせてこれを当てるためか!」

明石「しかし……防がれた! 榛名選手の反応が間に合ってしまった! 腕一本のブロックで弾かれます! やはりこの階級差、打撃に重さがない!」

明石「空中でバランスを崩し、吹雪選手がマットに倒れ込んだ! 榛名選手の追撃が来る! すぐに立ち上がり……ここで下段蹴りが入ったぁぁぁ!」

明石「あえて立ち上がらせ、バランスを取り戻す前に下段への回し蹴り! 吹雪選手、両足ごと刈られて大きくバランスを崩した!」


明石「よろめきながら後退し、辛うじて榛名選手の追撃から逃れます! が、太腿が見るも無惨に腫れている! このダメージは深刻です!」

明石「恐るべし榛名選手の蹴りの威力! 吹雪選手、フットワークを失いました! もう先程の戦法は使うことができません!」

香取「胴回し回転蹴りは空手の技。空手家の榛名さんには悪手だったかもしれないわね。あの攻め方しかなかった、と見ることもできるけど」

香取「いずれにしろ、これで吹雪さんはスピードを喪失したわ。ここからは、彼女にとって更に苦しい戦いになるでしょう」

明石「榛名選手が迫ってきます! もうフットワークで攻撃を躱すことはできません! 吹雪選手、足を止めて開手の構えで迎え撃ちます!」

明石「まずは左の順突きが飛んできた! 続いて右の逆突き、左鉤突き! 吹雪選手、クラヴ・マガの360°ディフェンスで対抗!」

明石「手首を払う動きで、空手の打撃を受け流しています! 密着されないよう後退しつつ、どうにか拳を捌いている!」


明石「鎖骨を狙った手刀! これも流した! 右の正拳追い突き! 外側に捌いた! 足元は覚束ないものの、必殺の打撃を捌く、捌く!」

明石「やはり吹雪選手のテクニックは超一流! 榛名選手の打撃といえども、そう簡単には通さな……!? なんだ、手首から血が!」

明石「吹雪選手の手首に切り傷ができています! わずかですが出血している! これはまさか……榛名選手の打撃によるものか!?」

香取「ビスマルクさんの打撃は受け切れても、榛名さんの打撃は無理みたいね。同じ戦艦級トップファイターでも、打撃に関してはレベルが違うわ」

香取「空手の一撃を極限まで磨いた榛名さんの拳は凶器そのもの。速さも、重さも全く別物よ。いくらテクニックがあっても、完全には受け切れない」

香取「あのまま受け続ければ、足に続いて今度は手が使い物にならなくなるわ。そうなったら、もう勝機はない……!」


明石「打撃の威力を殺し切れない! フットワークが使えない今の吹雪選手にとって、絶望を上塗りするような展開です!」

明石「しかし、榛名選手に容赦はない! 頭頂部を狙った鉄槌の振り下ろし! 吹雪選手、腕と体捌きで何とか受け流します!」

明石「が、ガードした左腕に軽い裂傷! ナックルパートで皮膚を切ってしまったか! 徐々に吹雪選手の生傷が増えていきます!」

明石「このままではジリ貧だ! 反撃に出たいところですが、スピードを失った今、リーチ差を埋められない! 反撃手段がありません!」

明石「じわじわと、確実に吹雪選手が追い詰められていきます! ここで再び下段蹴りぃぃぃ! 脛ごと弾き飛ばした! 痛烈な一撃が入りました!」

明石「脛受けも通用しない、傷付いた足への無慈悲な追撃! 殺人聖女の面目躍如といったところか! 吹雪選手が再びぐらつきながら後退します!」

明石「もう立っているだけで足に激痛を感じているはずです! それでも、まだ立っている! この程度では吹雪選手の心は折れません!」


明石「回復の間を与えず、榛名選手が迫る! 左順突き! これは捌き損ねた! 手のひらで受けましたが、勢いを殺せずバランスが崩れる!」

明石「その隙を榛名選手は見逃さない! 右の正拳追い突きを放ったぁぁぁ! なっ……ふ、吹雪選手、これを頭突きで迎撃ぃぃぃ!」

明石「バランスを崩したのは、この一撃を誘うため! 狙いは拳の破壊! し、しかし……吹雪選手が吹き飛ばされました!」

明石「何という一撃の重さ! 頭突きで受けられても打ち負けない、この威力! 拳が砕けた様子はまったくありません!」

明石「対して、頭突きを敢行した吹雪選手のダメージが深刻だ! 額が割れてしまったかのような出血! 明らかに脳震盪を起こしています!」

香取「岩をも砕く一撃、というのは、榛名さんにとっては比喩ではないわ。彼女の拳はコンクリートの壁くらいなら、本当に砕いてしまうから」

香取「そんな拳に頭突きをかます……吹雪さんにもう少し体重があれば、拳を砕けたかもしれない。でも、彼女じゃ軽過ぎる……」


明石「吹雪選手が立ちます! ですが、意識の回復が間に合わない! それより早く、榛名選手が間合いを詰めてしまった!」

明石「中段回し蹴りぃぃぃ! 左脇腹へまともに入りました! あの当たり方、確実に肋骨が折れた! 吹雪選手、再びダウンです!」

明石「ま、まだ立ちます! 脳震盪は多少回復したようですが、それ以前に耐久力の限界だ! 駆逐艦級の吹雪選手に、あの打撃は耐え切れない!」

明石「それでもなお、吹雪選手は立っています! もう動くことすらままならないはずですが、まだ諦めることはしない!」

明石「だからといって、手心を加える榛名選手ではない! 再び中段回し蹴りぃぃぃ! 折れた肋骨を狙われた! しかし、今度は腕で受けました!」

明石「受けはしましたが……受けた右腕が力なく下がった! 腕の耐久力が限界を迎えました! もう、右腕は使えない!」


明石「なおも榛名選手は追撃! 右の鉄槌振り下ろしです! ガードをぶち抜き、左の鎖骨を叩いた! 今度は左腕がだらりと下がる!」

明石「左の鎖骨を折られました! 更に下段蹴りまで入ったぁぁぁ! 太腿へクリーンヒット! 吹雪選手、崩れ落ちるようにダウン!」

明石「立とうとしてます! 四つん這いから立とうとしていますが……手足に力が入らない! もう、吹雪選手の五体に無事な部分はありません!」

明石「榛名選手はこれ以上、追撃はしません! 動けなくなった吹雪選手を見て、その必要なしと判断したか! 構えを取ったまま動かない!」

香取「追撃しないのは、榛名さんが空手家だからよ。空手家として、動けなくなった手負いの相手にトドメを刺すようなことはできないから」

香取「吹雪さんもそれがわかっている。そして、立とうと思えば立つこともできると思うわ。それをしないのは、別の理由によるものよ」

香取「彼女は作戦を立てて戦うタイプ。だからこそ、今の状況を理解してる……ここから、どうあがいても榛名さんには勝てない」


明石「榛名選手はトドメを刺さない! 吹雪選手は四つん這いのまま、立てない! 奇妙な膠着状態が続いています!」

明石「膠着として警告を出すべきか、吹雪選手を戦闘不能と判断すべきか、レフェリーも迷っているようです! 無為に時間だけが過ぎていく!」

明石「吹雪選手のダメージは時間経過で回復できるようなものではありません! 吹雪選手、ここからどうする!」

香取「死んでしまいたいような葛藤でしょうね。負けるとわかっていながら立つ、吹雪さんはそういう負けの美学を絶対に認めないわ」

香取「だからといって、このままでいるわけにもいかない。諦めることもできない。今、吹雪さんは他でもない、自分自身と戦っているのよ」

明石「吹雪選手、動かない! 榛名選手もただ待っています! これはレフェリーが試合終了を判断すべきか……いや、動きがありました!」


明石「た……タップです! 吹雪選手がタップしました! 震える手が、弱々しくマットを3回叩きました! 吹雪選手、屈辱のタップアウト!」

明石「レフェリーがギブアップの意志を確認しました! 試合終了のゴングです! 吹雪選手のギブアップにより、ここで試合終了!」

明石「勝者は榛名選手です! 駆逐艦級王者、吹雪選手は無念の敗退! 吹雪選手、未だ立ち上がれない! 顔を伏せたまま動きません!」

明石「榛名選手が一礼を残して去っていく! 取り残された吹雪選手を、セコンドチームが担ぎあげるようにして運び出します!」

明石「やはり榛名選手、圧倒的に強い! 吹雪選手は敢闘するも、あの領域には届かず! 最軽量級による無差別級制覇の夢は、露と消えました!」


香取「強いわね。吹雪さんでさえ、ここまで寄せ付けないなんて……階級がどうとかじゃなく、榛名さんが強すぎるわ」

香取「打撃の完成度、テイクダウンへの対処、そして浮身による運足……どこを取っても隙がない。付け込める弱点はないわね」

香取「吹雪さんの敗因は作戦ミスではなく、単純に榛名さんが強かった……そうとしか言いようがないわ」

明石「悔しさがここまで伝わってくるようでしたね。あんなに重々しいタップアウトは初めて見ました」

香取「ええ、吹雪さんもタップだけはしたくなかったでしょうね……ひと思いにトドメを刺してくれたほうが、彼女にとっては楽だったでしょう」

香取「榛名さんは空手家としてトドメを刺さなかったけど、それが一番残酷だったのかもしれないわ。精神的には、それこそがトドメに成り得るほど」

香取「『お情けで手加減される』ということほど、ファイターにとって屈辱的なことはないわ。榛名さんにそのつもりはなくてもね」


香取「吹雪さんは今頃、死んだほうがマシなくらいに苦しんでいるでしょう……でも、吹雪さんならきっと立ち上がれるわ」

香取「何だかんだで、今までも吹雪さんはときどき負けてるもの。負けるたびに悶えるほど苦しんで、それでも立ち上がった」

香取「次に吹雪さんが立つとき、更に彼女は強くなっているでしょう。そしていずれ……榛名さんへのリベンジを果たすわ」

香取「それがいつになるかはわからないけど。榛名さんも、そのときは全力で迎え撃つ必要があるでしょうね」

香取「とりあえず、榛名さんは決勝進出。空手最強説立証も目前よ。さて、扶桑さんとどちらが強いのかしらね」

明石「今、吹雪選手がセコンドチームに囲まれてリングを後にします! チラリと見えたその顔には、血と共に涙の筋が見えました!」

明石「よくここまで戦い抜きました、吹雪選手! 榛名選手も空手家としての矜持を守り抜いた! 両選手に向けて、今一度拍手をお願いします!」


試合後インタビュー:榛名

―――なぜ隼鷹選手との戦いでは、浮身を使わなかったのでしょうか。

榛名「使わなかったというより、使う勇気がなかったというのが正しいです。彼女にはフットワークをあっさり破られてしまいましたから」

榛名「もし、浮身まで破られたら、という恐れがあのとき私の中にありました。だから、隼鷹さんの前では使えませんでした」

榛名「できることなら、そのまま決勝まで取っておきたかった技です。吹雪さんを相手に、それは甘い考えでしたね」

榛名「貫手に、フットワークに、浮身。切り札は決勝に至る過程で出し尽くしてしまいました。ここまで苦戦するなんて、私もまだまだ未熟です」

―――最後に吹雪選手へトドメを刺さなかったのはなぜでしょうか。

榛名「私は武術家で、空手家ですから。動かない相手を攻撃するための技は持ちあわせていません」

榛名「吹雪さんの性格を考えれば、トドメを刺すべきだったかもしれません。しかし、私にも譲れないものがあります」

榛名「お互いに譲れないものがあるなら、勝負に敗れたほうが譲るべきでしょう。だから私はトドメを刺さず、吹雪さんがタップするのを待ちました」

榛名「吹雪さんがどれほど屈辱を味わうかは承知の上です。もし立場が逆なら、私も切腹してしまいたい衝動に駆られることでしょう」

榛名「でも、きっと吹雪さんは立ち上がります。彼女が強いことは、よく知っているつもりですから」

榛名「吹雪さんのことは好きなので、全力で打ち倒しました。そう遠くない日に再戦を申し込まれると思いますから、そのときも全力で倒します」

榛名「それまで、私以外の方には誰にも負けないようにしていただきたいです。吹雪さんはもっと強くなれると、私は信じています」


試合後インタビュー:吹雪

―――敗北を認めますか?

吹雪「いいえ? だって私、まだ戦えましたからね。踏み付けや蹴りを仕掛けてきたら、そのまま足を折ってやろうと思って攻撃を誘ってたんですよ」

吹雪「それなのに、全然攻撃してこないし。何だか私が休んでるみたいに思われるのが嫌で、仕方ないから勝ちを譲ってあげたんですよ」

吹雪「榛名さんには私に感謝してほしいですね。あのまま続けていたら、二度と空手ができないほどボッコボコしてたでしょうから」

吹雪「まあ、ルール上では負けっていうことでね。リング、空いてます? ストリップするって言ったでしょ。約束を守ってきます」

―――いえ、それはちょっと……落ち着いてください。

吹雪「……放してよ! 負け様を晒して、約束まで破って、私にどれだけ恥を掻かせる気!? 邪魔をしないで!」

吹雪「私に指図しないで! 私は負けてなんかない! あんなやつ……また戦えば絶対に勝てるんだから! 次は必ず、必ず……!」

吹雪「うっ……うっ……畜生! また、負けた……島風の技まで借りたのに……! もう負けないって、約束したのに……!」

吹雪「絶対、このままじゃ終わらないから! 今度こそ、誰にも負けない。私が……私が最強になってやるんだから!」


明石「これにて第2回UKF無差別級グランプリ、優勝決定戦のカードが決定しました! EVマッチの前に、それを改めて発表します!」


第2回UKF無差別級グランプリ 優勝決定戦

戦艦級 ”不沈艦” 扶桑 VS 戦艦級 ”殺人聖女” 榛名


香取「この2人で決勝戦を争うわけね……最初はどうなることかと思ったけど、わりと順当な結果になって良かったわ」

明石「ええ、安心しました。運命の歯車が少しでも狂えば、グラーフ・ツェッペリンVS羽黒というカードになっていた可能性すらありましたからね」

香取「羽黒さんの話は禁句だって言わなかったかしら? 色々とややこしくなるから」

明石「あっ、そうでしたね……すみません。えーそれでは、これよりEVマッチに移りますが……観客の皆様、事前にお伝えした通りです!」

明石「未成年者の方はご退場いただきます! また、不慮の事故による負傷を了承できない方もご退場をお願いします!」

明石「これから始まる試合は通常とは異なります! 流れ弾的なもので怪我をする恐れがあります! また、かなり過激な内容が予想されます!」

明石「全てをご了承いただいた上でご観覧ください! 苦情は受け付けますが、払い戻しなどは行いませんので!」

香取「この試合を宣伝しておいたおかげで、チケットが売れに売れたらしいわ。ヤフオクでは正規価格の20倍で取引されたとか」

香取「地上波放送をしないプレミア試合っていうのも売れた要因ね。それほど期待の大きい試合よ」

明石「退場される方は、係員の誘導に従ってください! グロいものを見たり、飛んできた武器に当たって怪我しても文句を言わないでくださいね!」

~23:15よりEVマッチ最終戦開幕~


明石「さて、退場誘導も済んだようですので……これより、EVマッチ最終試合を行いたいと思います!」

明石「ファイトマネーは勝者総取りの5000万円! 今回は事前にお伝えした通り、通常ルールとは異なる、スペシャルマッチとなります!」

明石「まずは赤コーナーより選手入場です! 現代最強の武術家が、再び我々の前に姿を現します!」


試合前インタビュー:鳳翔

―――武器ありの試合を打診されたとき、すぐに承諾されたそうですが、それだけ自信がおありということですか?

鳳翔「いえいえ、そんなことありませんよ。ただ、そのようなルールを掲示されて、今代の剣士として断るわけにはいかなかったというだけでして」

鳳翔「このご時世ですから、私のようなものでさえ、真剣に触れる機会はそう多くありません。刃引きの刀だって久しぶりに握ったくらいです」

鳳翔「ですから、決して私が有利だから武器ありの試合を受けたわけではないんですよ。今だって不安でいっぱいなんですから」

鳳翔「負けたら言い訳が効きませんからね。人前で恥を掻かないよう、精一杯頑張らせていただきます」

―――噂だと鳳翔選手は真剣での野試合を行なった経験が多々あるとのことですが、本当でしょうか?

鳳翔「まさか。そんなのは誇張された噂に過ぎませんよ。私、稽古でしか真剣は握ったことがありませんから。当たり前のことですけれど」

鳳翔「真剣で挑んでくる道場破りの方たちも確かにいらっしゃいましたけど、そういう方々には竹刀で御相手させていただいています」

鳳翔「せっかく私の道場を訪ねて来ていただいた方に、怪我をさせるわけにはいきませんから。それに、結局は真剣も竹刀も同じことです」

鳳翔「当てることができなければ、いくら切れ味の良い刀でも無意味です。何より、真剣で戦いを挑むなら、相応の覚悟を持たなくてはなりません」

鳳翔「甘い覚悟は迷いとなり、切っ先を鈍らせます。それを理解できていない方が何人もいらっしゃいましたので……丁重にお帰りを願いました」

鳳翔「本日お相手させていただく川内さんは、そのような方であってほしくはありませんね。半端な気持ちで挑まれると、私も困ってしまいますから」

―――川内選手は非常に高い意欲を持って試合に臨まれるそうです。どう迎え撃ちますか?

鳳翔「そうですか……それなら、私もそれなりのもてなしをしなければいけませんね。今一度、気を引き締めたいと思います」

鳳翔「こういう勝負は本当に久しぶりです。私もまだ未熟ですね……戦いを前にして、心が沸き立つなんて」


鳳翔:入場テーマ「HALLOWEEN/HALLOWEEN THEME」

https://www.youtube.com/watch?v=tLJr49Ewomk


明石「今世紀最強の剣豪! 実戦において並ぶ者なしと謳われる本物の達人が、前代未聞の武器あり試合のためにリングへ上がります!」

明石「無刀ですらトップファイター級! 今宵のリングで、この達人を縛るルールは一切なし! 剣士としての本領が今、明らかになる!」

明石「香取神道流の免許皆伝にして『一の太刀』の開眼者、その業前は如何なるものか! ”羅刹”鳳翔ォォォ!」

香取「剣士らしく、たすき掛けに大小二本差しでの入場ね。今回は演出としての帯刀じゃなく、試合でもその刀を使っていただくわ」

香取「刃引きの刀だけど、長物の武器があれば、鳳翔さんは100%に近い実力を発揮できる。刀を持った彼女に勝てる者なんて、この世にいないわ」

明石「下馬評だと、鳳翔VS川内の勝敗予想は100:1で鳳翔選手の断然有利が予想されてますね。それほど鳳翔選手の武名は轟いているようで」

香取「UKF本来のルールなら多少は鳳翔さん不利の声もあったでしょうけど、武器ありですもの。武器術の勝負なら、鳳翔さんは最強よ」

香取「香取神道流は総合武術。その免許皆伝となれば、刀だけでなく、あらゆる武器の扱いに通じ、同時に対処法も知り尽くしているの」

香取「しかも、鳳翔さんは香取神道流の歴史の中で無敗を誇る『一の太刀』を開眼した達人。エセ忍者ごときに遅れを取る要素はどこにもないわ」


明石「不安要素ではないんですけど、鳳翔選手は前大会のEVマッチに勝利したことで更に知名度が上がり、逆に疑う声が出てきたようですね」

明石「達人、剣聖とあまりにも持て囃されているが、実は宣伝が上手いだけで実力の伴わない、形だけの武術家なのではないかと……」

香取「ああ、榛名戦も八百長だったんじゃないかというアレね。それを聞いたら、まず榛名さんが発信源の人たちを皆殺しにしかねないわ」

香取「今更、榛名さんの強さを疑う人はいないでしょうし、それ以上に八百長を飲むなんてことは有り得ない。あれは正真正銘の真剣勝負だったわ」

香取「UKFでも5本の指に入る実力者の榛名さんと戦い、鳳翔さんは無傷で完勝した。それがどれほど凄まじいことかは語るべくもないでしょう」

香取「鳳翔さんの実力を疑っている人たちは、彼女のことをよく知らないか……あるいは、鳳翔さんの存在を信じたくないんでしょう」

香取「世が世なら歴史に名を連ねていたかもしれない、剣聖が自分たちと同じ時代に生きている。その事実が眩しすぎて、凡人には耐えられないのよ」

香取「鳳翔さんはすでに、武術家としての到達点に足を踏み入れているわ。まともに戦って、勝てる人はいないでしょうね」


明石「あと、鳳翔選手に対する批判が一点……本当に人を斬ったのか、ということに関してですけど」

香取「……その辺りは鳳翔さんも心得たものでしょう。決闘が禁じられている現代において、真剣勝負で人を斬ったという事実は表沙汰にできない」

香取「戦国時代なら、これまでに何人斬ったって自慢できるのにね。だから、鳳翔さんがそのことに関して明言する日は永遠に来ないでしょう」

香取「私が知っている事実は……鳳翔さんと戦った武術家たちは、敗北後に武から身を引いたか、行方知れずになったかのどちらかということよ」

明石「……行方知れずの武術家たちは、一体どこに?」

香取「さあ? それは鳳翔さんと一部の内弟子以外、誰も知らないし、知ってはいけないんじゃないかしら。私もそれ以上は知りたくないわね」

香取「間違いなく言えるのは……刀を持った鳳翔さんほど、この世で恐ろしい存在はないということよ」

明石「……ありがとうございます。それでは、続いて青コーナーより選手入場! 稀代の剣聖に挑むのは、自称風魔忍術の伝承者だ!」


試合前インタビュー:川内

―――川内選手は毎試合に隠し武器を持ち込もうとされてきましたが、それはなぜですか?

川内「何でって、素手より武器があったほうが有利だからに決まってるじゃない! 忍術は武器術が主体なんだし!」

川内「もちろんルール違反なのは知ってるわ! でも、ルールって破るためにあるんでしょ? 勝つために反則はどんどん使っていかなきゃ!」

川内「勝利のためなら何でもする! それが風魔忍者ってものなのよ! 今日も絶対に勝ってみせるわ!」

―――川内選手は風魔忍術の正統伝承者ということですが、本当ですか?

川内「もちろん! 風魔一族のお墨付きよ! 小田原市の風魔まつりに参加して、正式に風魔小太郎の称号を継承してきたから!」

川内「継承者争いを制したのよ! 決勝に2分間息止めができる水遁使いが出てきたのは驚いたけど、私の3回ひねり宙返りには敵わなかったわね!」

川内「忍術のほうもアメリカの道場でみっちり練習したし、名実ともに私は風魔忍者の頭領! 鳳翔さんにだって負けないよ!」

―――武器ありのルールを申し入れたのは川内選手からだそうですが、理由をお聞かせいただけますか?

川内「ほら、やっぱり私って忍者じゃない? 忍者と言えば忍具でしょ! なら素手より武器ありのほうが有利に決まってるじゃない!」

川内「実戦で武器を使うのって初めてなの! あードキドキするわ! 使ってみたい忍具がいっぱいあるから!」

川内「忍者の本領は実戦よ! 実戦なら武器は必須! 本当の『何でもあり』で私に勝てるやつなんていないわ!」

―――武器術にはどのくらい精通していますか?

川内「そりゃあもう、ありとあらゆる武器を使いこなせるわよ! 奥義書もたくさん読んだの! Amazonで20冊くらい注文したわ!」

川内「今日持ってきた武器もだいたいは通販ね! いやー良い時代になったわ! ネットで検索したら何だって手に入るんだから!」

川内「練習もバッチリしてきたわ! 武士でも剣豪でも何でも来いって感じ! 負けないよ! なんたって、忍者は最強なんだから!」


川内:入場テーマ「Linkin Park/Bleed It Out」

https://www.youtube.com/watch?v=OnuuYcqhzCE


明石「歴史伝奇小説における、侍の天敵! 神秘と謎と憧憬に彩られた、世界共通語! 戦乱の世に暗躍したその者達の名は、忍者!」

明石「戦乱の終わりと共に、数多くの一族が姿を消し、その技は失われた! しかし、ここに風魔忍術の伝承者を名乗る、現代の忍者が存在する!」

明石「未だ謎に包まれた、その正体が今宵、リングで明らかになる! ”疾風神雷”川内ィィィ!」

香取「さあ、出てきたわねエセ忍者。不本意だけど、この試合に反則負けはないわ。今日という今日はまともに戦ってもらうわよ」

明石「川内選手は今までちゃんと試合をしたことがほぼありませんからね。3戦中2回は試合前に失格、1回は試合中の武器使用で失格負けでした」

香取「ええ、どれも隠し武器による失格よ。仕込み刀から含み針、あらゆる手段で総合格闘のリングに武器を持ち込もうとしてきたわ」

香取「馬鹿なのよ、川内さんは。ルールで武器が禁止されてるなら、武器を使えば相手より有利に立ち回れるっていう考え方をしてるのよ」

香取「結果的に反則負けになるのにね。本人に言わせれば、勝負そのものには負けてないから、実質無敗ということらしいけど」


明石「ちょっとズレた実戦思考というわけですね。忍者らしいといえばそうですが……ぶっちゃけ、川内選手って本当に忍者なんですか?」

香取「私も疑ってたけど、その疑問は3戦目、川内VS大淀の試合で明らかになったわ。序盤、川内さんは間違いなく大淀さんを押していた」

香取「結果としては、防御に回った大淀さんを攻めあぐねた川内さんが含み針を使用したことで失格負けになったけど、序盤の動きで流儀が読めたわ」

香取「川内さんは卓越した運動神経を生かした足技を得意とするファイトスタイル。姉妹艦の那珂ちゃんから影響を受けた空中殺法も使えるみたい」

香取「飛び蹴りや逆立ちからの蹴り技といった、アクロバティックな動きは確かに忍者っぽく見えるわ。でも、あれは忍術では有り得ないのよ」

香取「古流柔術が江戸時代初期に突然現れた、って話は古鷹さんの試合のときにしたわよね。開祖が謎の山伏から技を伝承されたって話」

香取「つまり、古流柔術は歴史の裏で密かに受け継がれていたんだわ。江戸時代以前、混迷を極めた戦乱の世の中で、脈々とね」

香取「槍と弓、鉄砲が主体の戦場で、甲冑組み討ち以外の体術は重視されなかったはず。もし、徒手格闘の技術を必要とする集団がいたとすれば……」

明石「……古流柔術はもともと、忍術の一部?」


香取「説の一つでしかないんだけどね。でも実際、古流柔術の中には、隠し武器の使用法を伝えてる流派が数多く存在しているわ」

香取「忍者っていうのはいわば傭兵稼業、あるいは特殊部隊の前身みたいなもの。戦乱が終われば仕事もなくなり、食べていくのに困るのは必然よ」

香取「彼らの一部が民間に混じり、持っている技術を大衆に教えることで生計を立てようとした……っていうのは、ごく自然な推察じゃないかしら」

香取「忍術とはおそらく古流柔術の原型。古流柔術には現代格闘技のほぼ全ての技が出揃っているけど、唯一ない技の体系がある。それが足技よ」

香取「重心の安定を基礎とする古流柔術において、蹴りは自ら重心を崩し、大きな隙を作りかねない邪道の技。せいぜいあるのは下段蹴りくらい」

香取「それなのに、川内さんは足技を得意としている。それはなぜか……っていうか、アメリカで修行したって発言からして明らかよね」

香取「川内さんの体術はテコンドーやカポエラを土台にした我流格闘術。いわば、外国人が思い描く『ニンジャ』の動きを格闘術に仕立てあげたもの」

香取「彼女は本物の忍者か否か? と問われれば、間違いなく否。本物からは程遠い、正真正銘の紛い物。それが川内さんの正体よ」


明石「あー、言動から薄々感づいてはいましたが、やっぱり本物の忍者ではないんですね。忍者というより、『ニンジャ』と呼ぶべきでしょうか」

香取「そうね。彼女は単に忍者が好きなだけなんでしょう。通販で買った文献や忍具を独自に研究して、勝手に風魔忍者を名乗っているに過ぎないわ」

香取「忍者として川内さんは紛い物。問題なのは……紛い物であるはずの彼女が、間違いなく強いってことなのよ」

香取「彼女が修行していたという、アメリカの忍術道場にまともな師範がいたとは思えない。実用的な技はまったく学べなかったはず」

香取「川内さんは実用的でない技や、文献に載っている技を実戦に使えるよう、ほぼ独学で鍛錬したのよ。普通、そんなやり方じゃ強くなれない」

香取「でも、結果として彼女は大淀さんを追い込むほどの実力を身に付けた。やり方は無茶苦茶なのに、天性のセンスが無茶を可能にしたのよ」

香取「戦闘において、川内さんは天才という他にないわ。ずば抜けた運動神経、相手の意表を突く格闘センスとテクニック、どれをとってもね」


明石「武器術はどうなんでしょう? 今日の試合に関しては、そちらの技術のほうが重要かと思われますが……」

香取「そもそも川内さんは格闘家じゃなく、忍者を目指して修行を始めてるわ。体術と同時に、武器術も独学で練習してると見るべきでしょう」

香取「無茶苦茶な学び方であれほどの格闘術を身に付けた才能よ。そのセンスは武器術においても遺憾なく発揮されるんじゃないかしら」

香取「贋作の芸術品が、本物に匹敵する美しさを帯びるのはそう珍しいことじゃない。彼女はエセ忍者だけど、実力だけは本物の忍者なのよ」

香取「残念なのは、彼女が常識知らずの馬鹿ってこと。良く言えば型破りな強さだけど、ルールのある試合ではやっていけないほど頭が悪いわ」

香取「事実、実力はあるのに3戦とも武器の持ち込みによる失格負け……つまり3試合が無効試合も同然になったわけ」

香取「UKFは川内さんのおかげで多大な損失を被ったわ。責任を取るのは審査委員長である私。彼女は私の顔に3度に渡って泥を塗ったのよ」

香取「そのツケを今日、支払ってもらうことにするわ。取り立て人は現代最強の剣士、鳳翔さん。さて、エセ忍者に勝機はあるのかしら」


明石「えーっと、後半は私情が多分に含まれた発言なのでコメントに困りますが……実際、川内選手に勝ち目はあると思いますか?」

香取「ない、と断言したいところだけど、対戦カードを通した手前、そこまで一方的な意見を言える立場じゃないわね」

香取「まともにやれば、武器のあるなしに関わらず鳳翔さんの勝利は揺るがないわ。だけど、川内さんは戦闘に関してのみ、馬鹿ではないの」

香取「彼女は戦いにおいて異常なほど鼻が利くわ。鳳翔さんが絶対の勝算を持って試合に臨んでいるように、川内さんにも何かしらの勝算がある」

香取「それが鳳翔さんに届くかどうかはわからないけど。まあ、何かを仕出かすのは間違いないと思うわ」

香取「何をしてくるかわからない相手こそ、戦闘では一番の脅威。たとえ鳳翔さんと言えど、油断すれば足元を掬われる可能性はあるわね」

香取「さて、試合を始める前にやることがあるわね。今回は通常のルールが適応されないスペシャルマッチ。特別ルールの説明よ」

明石「はい! 今回のスペシャルマッチに適応される特別ルールは、以下の通りになります! 改めてご確認ください!」


鳳翔 VS 川内
スペシャルマッチ限定ルール

このルールは鳳翔、川内、そして審査委員長である香取の三者によって検討され、全員の賛同を得たものである。
万が一、このルールで行われた試合において重大なトラブルが発生した場合、審査委員長の香取が全責任を負うものとする。


この試合においてのみ、限定的に武器の持ち込み、及び使用を許可する。使用される武器には以下の規定が課せられる。

1.刃物などの鋭利な武器は刃引きし、殺傷能力を抑えたものでないと持ち込みを認められない。
2.飛び道具の持ち込み、使用も自由に認める。持ち込める数も無制限とする。
3.毒物、薬物を何らかの形で持ち込むことは認められない。
4.火薬や電力を使う現代武器を持ち込むことは認められない。
5.持ち込む武器は事前に審査委員会により厳重な検査を受け、検査に合格したものだけをリングに持ち込むことができる。
6.服装、防具の着用は自由とする。
7.打撃による殺傷、または殺傷能力の強化を目的とする武器の持ち込みは認められない。
8.検査を通過して持ち込まれた武器の内容は事前に公開され、対戦者の武器を互いに把握した状態で試合を始めるものとする。

武器を使用する性質上、試合の勝敗判定には一部ポイント制が導入される。その判定基準は以下の通りである。

1.刃引きされた武器が頭、首に接触した場合、強弱に関わらず一本となる。胴に接触した場合、強い当たりなら一本、弱い当たりなら有効となる。
2.頭、首、胴以外の場所に刃引きされた武器が当たった場合は、その強弱に関わらず有効とする。
3.刃引きされた武器が飛び道具の場合、どこに当たっても有効とする。
4.一本を取れば即座に勝利となり、有効は3回取ることで勝利となる。
5.元から刃のない打突武器はポイント制の対象にならない。
6.審査委員会による検査を受けていない武器は、ポイント制の対象にならない。
7.防具の有無はポイント制の判定には考慮されない。
8.原則として、反則負けはない。レフェリーによる試合中断も行われない。

上記のルールと通常のUKFルールに矛盾が生じる箇所は、特別ルールが優先される。矛盾しない場合は、通常のUKFルールも適用される。
よって、KOやギブアップも勝利条件の1つとなる。


明石「以上が特別ルールになります! 通常のUKFルールとは異なり、武器の使用を解禁! それに伴ってポイント制を導入しました!」

明石「一本を取れば即勝利! 有効も3回取れば勝利! 飛び道具さえ使用が許可され、未だかつてないほど実戦的な試合になると思われます!」

明石「ただし、刃物は刃引きしたものに限り、毒、火器、現代兵器等は使用禁止です! これを許可すると本当の殺し合いになってしまいますので!」

香取「どうせ入渠して復活するなら真剣でやれば? って声は多いみたいね。刃引きした刀だって、頭をスイカみたいに割るくらいはできるんだし」

香取「でも、超えてはいけない一線というものがあるわ。これらのルールは、倫理に抵触しないための建前として絶対に必要だったの」

香取「未成年の観客は退場してもらったし、地上波でも放送しない。これだけやっておけば、まあ、ギリギリ言い訳はできる範囲でしょう」


明石「しかし、よく武器ありルールなんて通りましたね。香取さんは絶対に反対すると思っていましたけど……」

香取「……なんかもう面倒くさくて。あれよね、どうせ不法投棄されるなら、その場所をゴミ捨て場にしちゃえばいいって発想よ」

香取「だいたい武器ありで鳳翔さんに勝てるわけないんだから、川内さんはせいぜい力の差を思い知らされた挙句、惨敗して挫折すればいいと思って」

香取「川内さんが犯した反則の責任を取らされて、私は3回も減給させられたのよ。その報いを受けさせるためなら、多少の無茶は通すわよ」

明石「香取さん。今の発言は聞かなかったことにするので、一から言い直していただけませんか。私情は挟まずに」

香取「はいはい。まず投票で鳳翔VS川内のカードが決まった時点で、川内さんが性懲りもなく隠し武器を持ち込もうとするのは目に見えていたわ」

香取「翔鶴VS妙高戦の失態もあるし、EVマッチ最終戦が反則により決着するのは何としても避けなければならない事態だったのよ」


香取「奇しくも2人は本来、本当の実戦において真の実力を発揮する武術家。武器ありルールを掲示すれば、どちらも喜んで飲むと思ったわ」

香取「どうせ持ち込まれるなら、堂々と持ち込んでもらえばいい。後はルールを整えればいいだけ。まあ、それが一番大変だったけど」

明石「三者賛同のルールとのことですが、制定の際はずいぶんと揉めたようですね?」

香取「ええ、揉めに揉めたわ。当然よね。より実戦に近付けたとはいえ、あくまで制約のある勝負。ルールの内容は勝敗を左右しかねないから」

香取「どれほど腕に自信があっても、戦う場は出来る限り自分へ有利にしておくのが真の武術家。おかげでなかなかルールが決まらなかったわ」

香取「特に揉めたのが飛び道具に関する項目ね。どちらも全然譲らないから、最終的にはお互いの意見を汲んだ妥協案になったわ」

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明石「飛び道具はどこに当たっても一本にはならず、全て有効という項目ですね。3回当てれば勝てる辺り、川内選手有利にも取れますが」

香取「そうでもないわ。確かに自称忍者の川内さんは、手裏剣を始めとした飛び道具を間違いなく使ってくるでしょう」

香取「だけど、香取神道流は総合武術。その免許皆伝を持つ鳳翔さんは、棒手裏剣の名手でもある。飛び道具で引けは取らないわ」

香取「最初は刃引き武器と同じく、急所に命中で一本、それ以外の箇所に当たれば有効にしようと思っていたの。強硬に反対したのが川内さんよ」

香取「彼女の言い分は、『実戦なら手裏剣に毒を塗るから、皮膚を掠めただけで致命傷を与えられる。だからどこに当たっても一本にすべきだ』」

香取「対する鳳翔さんの意見、『それを言うなら、実戦では鎧や鎖帷子を着込む。ならば飛び道具は顔以外の部位に当たった場合は無効にすべき』」

香取「どちらも無茶な言い分よね。接近戦に持ち込みたい鳳翔さんと、離れて戦いたい川内さんの思惑がありありと見て取れるわ」

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香取「しょうがないから妥協案として、どこに当てても有効にしたわ。他はまあ、川内さんが無茶ばかりを言ってただけね。煙幕を許可しろとか」

明石「煙幕は確かに忍者っぽいですけど、煙の中で戦われると外側からは何も見えませんからね……」

香取「まったくよ。観客の入ってる試合だってこと、何も考えてないんだわ。この試合を観るためにチケットを買った人もいるっていうのに」

香取「それ以外のルールは割りとすんなり決まったわ。反則負けがない、試合中断がないってのも両者、即合意だったわね」

明石「中断がないとしても、罰金の支払い義務は発生するんですよね?」

香取「もちろん。だけど、このEVマッチ最終戦のファイトマネーは勝者総取りの5000万円。対して、罰金額は1回につき100万円」

香取「49回反則を犯してもお釣りが来る計算だわ。そこまでの回数の反則を重ねるほうが難しいし、まあ一応の抑制みたいなものね」


香取「鳳翔さんと川内さんは武術家としては似ても似つかないけど、本質は同じ。それは、勝つためなら何でもするということ」

香取「今回のルールは双方の実力を100%引き出してくれるでしょう。過激な内容になるのは免れないけど、滅多にないプレミア物の試合になるわ」

香取「ところで、明石さん。このルールの最も重要な点に気付いているかしら? いわば、裏ルールと呼ぶべきものなんだけど」

明石「……最初にルールが公開された時点で違和感はありました。解釈次第では試合そのものを崩壊させかねないのに、その項目がない」

明石「最初は書き忘れだと思っていたんですが、他の細かいルールは書き足されていくのに、それに関しては一向に書き足されません」

明石「真意に気付いたのはつい最近です。試合中断がない、反則負けがない、全てはこの『裏ルール』のためにあるんだと」


香取「察しがいいわね。これは誰かが言い出したわけじゃないのよ。鳳翔さんと川内さん、そして私が暗黙の了解で決めたことなの」

香取「特別ルールには武器に制限を掛ける項目が多いわ。この項目に引っかかる武器は事前の身体チェックで検査され、試合前に取り上げられるの」

香取「ルールに反した武器の持ち込みは認めない。だけど……『ルールに反した武器の使用を認めない』という項目はどこにも書かれていないわ」

香取「書かれていないということは、ルール上で許可されているということ。つまり、『身体チェックを免れた武器は使用を認められる』」

明石「それって超まずくないですか? 川内さんが刃物や火薬でも持ち込んでたら……!」

香取「まったくその通りね。川内さんは常識が通用しない上に、戦闘には異常に鼻が利く。鳳翔さんの技量がどれほどかも察しているはずよ」

香取「鳳翔さんを倒すために、必ず何か仕掛けてくる。圧倒的な技量の差を埋めるためのそれは、間違いなく反則技になるでしょう」

香取「結局、ここまでルールを譲歩しても、川内さんが反則負けになる危険は拭えなかったのよ。だからリスクを承知でこんな裏ルールを通したの」

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明石「鳳翔選手は本当に承知しているんですか? 自分が敗北するかもしれないルールなのに……」

香取「承知の上よ。だって、裏ルールは鳳翔さんにも適応されるんだから。川内さんが何かを仕掛けるなら、鳳翔さんも何かしらの仕込みがあるはず」

香取「このルールは両者が最も公平になるよう作られてるの。罠だろうと忍法だろうと、鳳翔さんは川内さんの全てを凌駕して勝つつもりでいるわ」

香取「せいぜい足掻きなさいエセ忍者。相手は今代最強の剣豪。その実力差を思い知り、今まで散々私の顔に泥を塗ったことを後悔するがいいわ」

明石「最後のセリフは聞かなかったことにします。今、両選手が改めて身体チェックを受けていますが、本命のチェックはもう済んでいるんですよね」

香取「ええ、これは念のための抜き打ちチェック。事前の身体チェックは金属探知機を導入して入念に行ったわ。できればX線検査もしたかったけど」

香取「身体チェックを免れた武器は使用を認められる。だからと言って、そう簡単には持ち込ませない。チェック体制には万全を期してあるわ」


香取「検査を行った妖精さんたちはこう豪語していたわ。『内臓の中身以外は全て調べた。絶対に見落としはない』ってね」

明石「今まで不手際があったぶん、今回は意気込みが違いますね。で、チェックの結果、何か出てきましたか?」

香取「鳳翔さんからは何も出てこなかったわね。逆に、川内さんはこれでもかという量の隠し武器を持ち込もうとしてたわ」

香取「どこにどうやって隠してたのかは聞かないでね。かなりエグくてみんなの夢が壊れるから。それじゃ、押収物の内容を読み上げるわ」

香取「えーっと。含み針18本、千枚通し2本、手裏剣4枚、仕込み刀2本、赤クラゲの粉10g、バタフライナイフ1本、投げ矢3本」

香取「煙幕玉4つ、スタンガン1つ、メリケンサック2つ、トリカブト汁100cc、催涙スプレー1缶……実弾入り二連式デリンジャー1丁。以上よ」

香取「読み上げた中にある刃物や飛び道具は、全て刃引きしてないか、毒が塗ってあったわ。まるで隠し武器の見本市よね」

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明石「……思った以上に多いですね」

香取「ええ、多いわ……多すぎる。仮にこれら全てを持ち込んでリングに上がれば、むしろ嵩張って戦いにくかったはず」

香取「明らかにバレることを前提に仕込んでいるわ。たぶん、ほとんどの反則武器はダミー。本命の武器を持ち込むための目眩ましよ」

明石「もし見つかった武器の中に本命が含まれてるとしたら、デリンジャーが怪しいですね。それって、暗殺用の拳銃じゃないですか」

香取「一応、携帯性に優れた護身用拳銃という名目よ。至近距離でしか当たらない反面、超小型で手のひらにも収まる。護身より暗殺に最適よね」

香取「もっとも、その程度の武器で鳳翔さんを倒せたとは思えないけど。デリンジャーは安全装置がない代わりに、トリガーがものすごく重いのよ」

香取「だからいざというときに抜いても、一瞬では引き金を引けない。鳳翔さんならその一瞬があれば相手を仕留められるわ」

香取「戦う場がフェンスで囲われた狭いリングってのも銃を使うには不利ね。銃弾で侍を倒そうだなんて、忍術も何もあったもんじゃないわ」


明石「……別の本命があると思います?」

香取「さあ……あるかもしれないし、ないかもしれない。例えば、入場口から花道を通る間に、観客の1人から本命の武器を受け取ったかもしれない」

香取「可能性は尽きないわ。あっ……ほら、やっぱり何か持ってた。試合直前に抜き打ちの身体チェックをして正解ね」

明石「ああ、本当ですね。あれはナイフですか? 刃引きなしのナイフ程度で鳳翔選手をどうにかできるとは思いませんが……」

香取「やけに柄の太いナイフね。バネで刃を射出するスペツナズナイフか、尖端から圧縮ガスを噴き出すスズメバチナイフのどちらかでしょう」

香取「使いようによっては鳳翔さんに届かなくもない武器。でも、これでもう使えない。そのナイフが本命だったら嬉しいわ」

香取「川内さん。あなたは今まで、ありとあらゆる手で不正な武器を持ち込もうとしてきたわね。この神聖なUKFのリングの中に」

香取「1度は私の手抜かりで許したわ。でも、2度目はない。正々堂々、対等なルールで戦ってもらうわ。本物の達人、鳳翔さんを相手にね」

香取「ここまでやっても、どうせ何か仕掛けてくるんでしょう。それでもあなたは鳳翔さんには届かない。せいぜい無駄な足掻きをするがいいわ」


明石「えーと……試合前の抜き打ちチェックも終わったようですので、ここで両選手の装備を発表いたします!」

明石「鳳翔選手の装備は、太刀1本、小太刀1本、棒手裏剣5本! 防具は鎖帷子! 以上となります!」

明石「対する川内選手の装備は、忍者刀1本、鎖鎌1つ、寸鉄1つ、鎖分銅3本、四方手裏剣20枚! 防具は鎖帷子、額当て、手甲、足甲……?」

明石「えーっと……油粘土100g? 以上となります!」

明石「これら以外の武器が使用された場合、それは即ち反則となります! しかし、反則負けがない以上、課されるのは試合後の罰金のみです!」

明石「と、いうことで両者の装備が明らかになりましたが……油粘土って何に使うんです?」


香取「さあ。動物の形にしてやって、息を吹きかけると動き出して鳳翔さんを襲うんじゃない? そういう忍法を漫画で観たことがある気がするわ」

明石「……たぶん違うと思うんですけど」

香取「もちろん冗談よ。私の予想としては、本命の武器を持ち込むダミーとして持ってきて、そのまま持ち込んじゃったってところじゃないかしら」

香取「それ以外の意図があるなら、ちょっとわからないわね。武器にはなりそうにないし、やっぱり注意を逸らすのが目的なのかも」

明石「まあ粘土のことは置いといて、試合展開はどのようなものになると予想されますか?」

香取「鳳翔さんは、当然ながら白兵戦に持ち込みたいでしょうね。どんなに川内さんのセンスが良くても、剣術勝負では万が一にも勝ち目はないわ」

香取「棒手裏剣は念のために持ってるだけでしょう。対して、川内さんは是が非でも離れて戦うしかないわ。剣の間合いで戦ったら一瞬で終わるもの」

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【安価】 京太郎「魔物と」 咲「牌に愛された少年」 照「第九話だよ」
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↑二回戦(清澄・千里山・劔谷・鹿老渡、臨海・姫松・阿知賀・八桝)が行われています

【安価】 京太郎「魔物と」 咲「牌に愛された少年」 衣「わーい!第十話だー」
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↑団体戦二回戦(臨海・姫松・阿知賀・


香取「となると、まずメインで使ってくるのは鎖鎌かしら。他の武器は嵩張らない無難なものを持ってきたって感じね」

明石「鎖鎌ですか。某バラエティ番組では、最弱の武器という不名誉な称号を与えられてしまったことで少し話題になりましたが……」

香取「最弱、ね。本来なら、武器の優劣は使い手の腕と運用意図に依るところが大きいんだけど、それで片付けられないのが鎖鎌という武器なのよね」

香取「鎖鎌の実用性は、歴史に登場した時点で疑問視されていたわ。扱いにくさという点では、世界中の武器の中でもトップクラスでしょう」

香取「鎖分銅と鎌、これを1つに合わせたのが鎖鎌。使いこなせば強いと言われるけど、おそらくこの武器を使いこなすことは不可能なの」

香取「だって、くっついてる武器がどちらも癖が強い上に、全く違う性質を持ってるのよ。使い手には超人的な器用さと空間把握力を要求されるわ」

香取「剣の二刀流でさえ習得は困難を極めるのに、鎖鎌はそれに輪をかけた難解さだわ。実戦レベルまで技を高めるのに、何十年も掛かるでしょう」

香取「川内さんは天才だけど、短期間で鎖鎌を完璧に使いこなせる程だとは思えないわ。相手が鳳翔さんなら、なおさらよ」


明石「鎖鎌を主力武器に持ってきたのは悪手だと?」

香取「普通に考えればね。ただ、何度も言うように川内さんは戦闘に関してのみ馬鹿じゃない。何か狙いがあるように思えるわ」

香取「あるいは、鎖鎌を早々に放り出して飛び道具メインで立ち回るのかもね。どう奇襲を掛けるかが川内さんの勝機の分かれ目よ」

明石「もしかしたら、意表を突いて白兵戦を狙ってくるかもしれませんね。太刀の懐に入って、寸鉄を使った至近距離戦を仕掛けるとか」

香取「有り得る話だけど、鳳翔さんには小太刀術もあるわ。太刀の間合いを潰してくるなら、迷わず小太刀を抜いてくるでしょう」

香取「どのみち勝つのは鳳翔さんだと思うから、川内さんが敗北までにどれだけ足掻けるのか、それが最大の見所よ。瞬殺だけ避けてくれればいいわ」

明石「最後に元も子もないコメントをいただきましたが、ようやく両選手、最後の身体チェックを終え、リング中央で対峙しました!」


明石「改めてルール確認が行われていますが、ここまで来れば、この試合は事実上のノールール! あらゆる攻撃が認められてしまいます!」

明石「史上、最も過激で波乱が予想されるこのスペシャルマッチ! 勝つのは現代の剣聖か、それとも大穴のエセ風魔忍者か!」

明石「攻撃に巻き込まれないよう、レフェリーはこの試合に限りリングから降ります! 試合中断はない! 反則負けもこの試合にはないのです!」

明石「間もなく試合開……っと、ここで川内選手が九字を切り始めました! これは終わるまで待ってあげたほうがいいのでしょうか!」

香取「待ちましょう。数少ない見せ場なんだから、これくらいは許してあげないと可哀想よ」

明石「そうですか。では待ちま……おっと、額当てがズレたようです。額当てを付け直していますが……川内選手、時間を稼いでませんか?」

香取「そんな感じがするわね。別に試合開始を数十秒遅らせたところで、何が変わるわけでもないと思うけど」

明石「ですよね……さて、九字切りも終わったようですので、いよいよ武器ありスペシャルマッチ開幕! 前代未聞の試合が今、始まります!」


明石「ゴングが鳴りました、試合開始! 両者、同時に武器を構えました! 鳳翔選手は太刀を抜き、正眼の構えを取ります!」

明石「川内選手はやはり鎖鎌を使用! リング中央付近まで躍り出て、分銅を振り回しております! 鳳翔選手はコーナーから前に出ない!」

明石「ここで川内選手の先制攻撃! 分銅を正面から投げつけました! 鳳翔選手はわずかに首を傾けて回避! 軌道を見切っています!」

香取「鳳翔さんがコーナーから動かないのは、分銅攻撃が横から飛んで来るのを封じているのね。軌道を制限して避け安くしているんだわ」

明石「分銅を引くや否や、今度は縦回転で攻撃を仕掛けた! 狙いは頭頂部! ここで鳳翔選手、逆手抜き! 小太刀を鞘ごと抜いた!」

明石「小太刀の鞘に鎖が巻き付きました! それを鳳翔選手、間髪入れずフェンスの隙間に突き刺す! 鞘を引っ掛けて、小太刀だけを抜いた!」

明石「慌てて川内選手が鎖を引きますが、外れない! 小太刀の鞘によって、鎖が固定されてしまいました! これで鎖鎌は使用不能です!」

香取「ああ、やっぱり。鎖鎌じゃ無理だったみたいね。さて、鎖鎌が使い物にならなくなったここから、川内さんがどうするかだけど……」


明石「太刀と小太刀の二刀流になった鳳翔選手、そのまま川内選手の元へ走り出します! 川内選手は未だ固定された鎖鎌と格闘している!」

明石「あーっと、鎌の柄が抜けてしまった! 鎖鎌はもうダメだ! 川内選手、ヤケクソ気味に外れた鎖鎌の柄を鳳翔選手へ投げつけます!」

香取「えっ? あの柄、何か……」

明石「おっと、ここで鳳翔選手も小太刀を投げた!? 飛んでくる柄と空中でぶつかりました! 何か危険を感じ取ったんで―――――――――!?」

香取「がっ―――――――!」

明石「――――――――あああ痛い痛い痛い! 目が、目がー! 目に何か刺さっ……あれ!? 私、声出てる!? 何にも聞こえないんですけど!」

香取「あっ……あの馬鹿女ァ! やってくれたわね! これで全部、何もかもお終いよ!」

明石「香取さん、何か言いました!? よく聞こえないっていうか、目も耳もおかしくなっちゃったんですけど! 何も見えないし、聞こえません!」


香取「頭おかしいんじゃないの!? 減給どころじゃないわ、私なんてクビよクビ! それどころか、運営の賠償問題にまでなってくるわ!」

明石「あっ、ちょっとだけ治ってきた……香取さん? 聞こえますか、香取さーん!」

香取「やかましいわ淫乱ピンク! 横で喋ってるだけのアンタには何の責任も発生しないでしょうに! バーカ、バーカ!」

明石「今のはバッチリ聞こえましたよ!? ちょ、どうしたんですか香取さん! そんなに取り乱して……っていうか、何が起こったんです!?」

香取「まだわからないの!? あのクソ忍者、鎖鎌の柄をフラッシュバンに改造してたのよ! 鎌が抜けたら点火するようになってたんだわ!」

香取「しまった……油粘土! あれは耳栓のために持ち込んだのね! ズレた額当てを直すときに耳に入れたんだわ……クソッ!」

明石「ふ、フラッシュバンですか!? リングと放送席って割と距離があるんですけど、こんなに届くものでしたっけ!?」


香取「あのね、正規のフラッシュバンは非殺傷兵器として火薬量を調整してるのよ! あの馬鹿が火薬量の調整なんてしてると思うの!?」

香取「柄に詰められるだけパンパンの火薬を詰めたに違いないわ! この距離で私達の網膜と鼓膜をぶっ壊す威力、イカれてるとしか思えない!」

明石「ちょ、ちょっと待って下さい! じゃあ、近距離であの大音響と閃光を浴びた鳳翔選手は!?」

香取「考えたくもないわね! 火薬量で閃光の強さは大きく変わらないけど、音響は間違いなく大きくなる! 確実に鼓膜は破れてるわ!」

香取「失明は免れても、数十秒は暗闇の中! 耳はもう聞こえない! バカ忍者は目を伏せ、耳栓も使って被害を回避! 後はもう分かるわよね!?」

香取「全部台無しだわ! 試合が終わったら、あのバカ忍者に本物の殺し屋を差し向けてやる! こっちには色々とツテがあるのよ!」

明石「えー、ようやく目と耳が回復したので実況に戻ります! 香取さんが発狂するのも無理はありません! 観客席は阿鼻叫喚の地獄絵図です!」

やられたからやりかえすと子供以下すぎる…


明石「リング上は未だ白煙が立ち込めています! 一体、2人はどうなったのか! やや煙が晴れてきました! かすかに両者の姿が見えます!」

明石「どうやら、どちらかが組み伏せられているようです! まだ勝負は着いていない様子! 上にいるのは……ほ、鳳翔選手!?」

香取「……えっ、どうして!?」

明石「こっ、これはどういうことだ!? フラッシュバンをまともに浴びた鳳翔選手が、川内選手を組み伏せています! つ、鍔迫り合いだ!」

明石「鳳翔選手が太刀を上から押し込んでいます! 対する川内選手、忍者刀で辛うじて太刀を防いでいる! 明らかに圧倒されています!」

明石「今の鳳翔選手には視力も聴力もないはずです! 事実、両目は閉じられている! 川内選手は苦悶の表情ながら、視力は健在です!」

明石「蓋を開けてみれば、状況はまさかの鳳翔選手優勢! 我々が視聴覚を失っていた間に、一体何が!?」


香取「……鳳翔さんは咄嗟の判断で柄を小太刀で弾いたけど、結果は爆風を浴びずに済んだだけ。フラッシュバンの影響はモロに受けたはず」

香取「なのに川内さんを組み伏せているってことは……なるほど。目も耳も使えなくても、川内さんの居場所はわかっていたのね」

明石「それはその、達人だけが感じられる殺気とか気配とか……」

香取「そんな曖昧で不確かなものじゃないわ。川内さんはフラッシュバンを使った後、すぐさま鳳翔さんにトドメを刺しに行くわけよね」

香取「でも、すぐにとはいかない。閃光に目を伏せてたから、一度鳳翔さんの位置を確認する必要があるし、耳栓もできれば外しておきたい」

香取「それから忍者刀を抜いて鳳翔さんに向かっていく……ということは、爆発後のごく一瞬、川内さんはその前と変わらない場所にいる」

香取「その場所は、鳳翔さんの真正面。それらをコンマ0.1秒で判断した鳳翔さんは、フラッシュバンを受けた直後、一気に間合いを詰めたのよ」


香取「川内さんがいると思われる、その場所に向けて太刀を振り下ろした。忍者刀で受け止めた川内さんの技量は褒めてあげるべきでしょうね」

香取「後は甲冑組み討ちの技で川内さんを押し倒せば、相手の動きは鍔迫り合った刀を通してわかる。もう、目と耳を潰した不利は通用しないわ」

明石「つまり、鳳翔選手はフラッシュバンを浴びた直後、間髪入れずに川内選手へ斬りかかったと……そんなことが可能なんですか!?」

香取「それが鳳翔さんよ! 本能を極限まで制御し、戦いの場で常に最善を取る! 本物の達人とはそういうものを言うのよ!」

香取「ここまでくれば、残る作業は川内さんの首を落とすだけ! さあ、あのエセ忍者の素っ首を叩き落として! 報いを受けさせるのよ!」

明石「香取さんは未だ発狂したままですが、リングの状況も変わらず! 鳳翔選手の刃が更に川内選手の首筋に近付いております!」

明石「刀と刀のやり取りなら鳳翔選手の土俵! 鳳翔選手、刀の背に手を押し当て、力ずくで刃を押し付けています! 川内選手、防ぎ切れない!」

やられたからやりかえすと子供以下すぎる…


明石「自称風魔忍者、万策尽きたか! フラッシュバンを以ってしても、剣聖を討つことは叶わ……あれっ!? な、なんだ! 刃が抜けた!?」

香取「な、なんでよ! 太刀が分解した!?」

明石「太刀の柄から刃が抜けました! 何が起こった!? すかさず川内選手が忍者刀を振る! 鳳翔選手、後ろに飛びのいて回避!」

明石「視力は回復しているようですが、突如として武器を失った鳳翔選手! 川内選手はこの機を……いや、見当違いのほうへ走り出した!?」

香取「しまった、出遅れた!」

明石「あっ! 狙いは、先ほど鳳翔選手が投げた小太刀です! リングに置き去りになっていた小太刀を、先に川内選手が手に入れてしまった!」

明石「そして、躊躇なく場外へ投げ捨てました! 鳳翔選手、刀を2本とも失ってしまった! しかし、なぜ太刀の刃が抜けてしまったのか!」


香取「川内さん、手に寸鉄を嵌めてる……まさか、太刀の目釘を抜いたの!? あの鍔迫り合いの中で、寸鉄の尖端を柄の目釘穴に押し入れて……!」

香取「甘く見ていたわ、ここまで状況を読んで用意していたなんて……! 川内さんは予想以上に準備してきている!」

明石「刀を失った鳳翔選手、腰に差していた鞘を抜いて構えました! 武器にはなりますが、鞘には判定がないため、殴り倒すしかありません!」

明石「対する川内選手、ここでフェンスに手を掛けた! フェンス頂上まで登っていきます! 反則行為ですが、この試合では実質お咎めなし!」

明石「近接武器がまったく当たらない場所に移動してしまいました! 鞘を持ってあそこまでは登れない! 川内選手、飛び道具で仕留める気だ!」

明石「八方手裏剣を投げた! 鳳翔選手、やすやすと鞘で弾きます! この程度の飛び道具、剣聖にとって防ぐことは容易い!」

明石「更に手裏剣です! 立て続けに3枚投げた! 1つは弾かれ、2つは躱されます! やはり簡単には当たりません!」


香取「接近戦を避け、飛び道具で仕留めるってのは安易な発想ね。機関銃でもない限り、鳳翔さんには通らないわよ」

香取「落ち着いて考えれば、まだ鳳翔さんの勝利は揺るがないんだわ。耳は聴こえてなさそうだけど、目は見えるし、刀はなくても鞘がある」

香取「川内さんの手裏剣は残り16枚、鎖分銅が3本だったわね。それらを使い切ったとき、同時に川内さんの命運も尽きるでしょう」

香取「さあ、さっさと飛び道具を使い果たして降りて来なさい! 鳳翔さんに鞘でぶっ叩かれるがいいわ!」

明石「更に川内選手の手裏剣投げ! 両手を使っての連続射撃です! おまけに鎖分銅も投げつけた! 鎖で絡めて動きを封じる気です!」

明石「が、鳳翔選手には通用しない! 手裏剣4枚、全て空を切った! 鎖分銅も素通りしてフェンスへ激突! 鳳翔選手にかすりもしない!」


明石「無駄に飛び道具を消費する結果に終わりました! ここで鳳翔選手の反撃! 飛び道具には飛び道具、棒手裏剣が放たれました!」

明石「川内選手の手裏剣より速い! 躱しはしましたが、フェンス上でのバランスを崩した! 川内選手、リングへ落下します!」

明石「フェンス上から引きずり降ろされる形となりました、川内選手! 綺麗に着地はしましたが、ここからどう討って出る!」

明石「なんと、背に収めていた忍者刀を再び抜きました! まさか、剣術勝負に出る気か!? いくらなんでも無謀だ!」

香取「鳳翔さんは鼓膜が破れてる……軽い見当識障害を起こしてる可能性があるわ。飛び道具は躱せても、剣は躱せないかもしれない」

香取「……と考えるのはこれまた安易ね。鳳翔選手の動きに大きな支障は見られない。さしずめ、剣と見せかけて鎖分銅で攻撃したいんでしょう」

明石「川内選手、重心を低く落として忍者刀を構えた! 鳳翔選手は鞘を高々と掲げた上段の構え! ここからは白兵戦です!」


明石「ともにすり足でジリジリと間合いを詰める! 剣の間合いは鳳翔選手のほうが長い! 先手は鳳翔選手! 唐竹割りです!」

明石「咄嗟に川内選手、後方に飛び退いた! 即座に踏み込んで忍者刀を横振り! 手首を狙ったようですが、呆気無く空振りします!」

明石「踏み込んでくる鳳翔選手へ鎖分銅を投げた! 受けた鞘に絡みついたものの、一振りで外され……あっ!? 鳳翔選手が大きく仰け反った!」

明石「一気に後ろへ飛び退きます! 鳳翔選手が目を庇っている! 目を攻撃されました! 川内選手が持っている、あれは……!」

香取「さ、催涙スプレー!? 何で!?」

明石「川内選手、催涙スプレーで目を潰しました! どこに隠し持っていたんだ!? 間髪入れず忍者刀を構えて踏み込む! ここで仕留める気だ!」

明石「しかし、鳳翔選手が鞘を袈裟斬りに薙いだ! 勘だけで振ったようですが、川内選手の鼻先を掠めました! 川内選手、一時後退!」


明石「視力が本当になくなったのか、警戒しているようです! 鳳翔選手はフェンスに背を預けながら鞘を構えている! 瞼は一向に開きません!」

明石「ここで川内選手が手裏剣を投げた! 肩に当たりました! この試合、初めての有効打です! 川内選手に有効1!」

明石「鳳翔選手はまったく反応できていませんでした! これは、完全に視力を失っている! 加えて、鳳翔選手は耳も聞こえないのです!」

香取「……やられた。川内さんは催涙スプレーを隠し持っていたんじゃない……すでに持ち込んでいたんだわ」

明石「持ち込んでいた? それって……あっ」

香取「フェンスの上よ! 会場が開くよりも前にリングへ忍び込んで、予め催涙スプレーをフェンス上の目立たない場所に隠していたんだわ!」

香取「やたら考えなしに手裏剣を投げてるから、不自然だと思ったのよ! 飛び道具で注意を逸らして、その隙に催涙スプレーを回収していたのね!」


香取「どこまでもやってくれるわ! 耳を潰し、武器を奪い、視力まで奪った! 催涙スプレーの視力障害は、目を水で洗わないと回復しない!」

香取「鳳翔さんはこの試合中、無音の暗闇で戦わなければならない! これが忍術だって言うの!? やりたい放題ね、エセ忍者!」

明石「香取さんが再び発狂しました! 無理もありません、鳳翔選手の戦闘力は、これで絶望的なまでに削がれました!」

明石「フラッシュバンによる鼓膜破り! 太刀の目釘を抜く武器破壊! 催涙スプレーを用いた目潰し! 川内選手がここまで用意していたとは!」

明石「無音の暗闇に立たされた鳳翔選手にとって、もはや相手の動きを察知する術はありません! 状況は川内選手の思うがまま!」

明石「川内選手は焦ることなく、忍者刀を片手に鳳翔選手の様子を伺っています! 急がずとも、すでに鳳翔選手は回復不能の痛手を負っている!」

明石「後はトドメの手段を選ぶだけ! 川内選手、やはり飛び道具を使います! 八方手裏剣を取り出し、2枚連続で投げた!」


明石「躱した!? 鳳翔選手、フェンス際から飛び出すようにして手裏剣を躱しました! これは、見えているのか!?」

香取「見えてるはずがないわ。今のだって、手裏剣を躱すには動きが大き過ぎる……!」

明石「壁際から離れた鳳翔選手、正中線を隠すように平青眼の構えを取りました! 目は閉じていますが、鞘の切っ先は川内選手を捉えている!」

明石「川内選手は再度手裏剣を構えましたが、やや警戒してサイドに回る! それに合わせて鳳翔選手も動いた! 切っ先は川内選手に向いたまま!」

明石「見えてはいないようですが、何らかの方法で川内選手の位置を割り出している! 川内選手、迂闊には近寄れません!」

明石「距離を保ちつつ、手裏剣を投げる! 同時に鳳翔選手、大きく横に飛んだ! どうにか回避しました! しかし、動きが大雑把過ぎる!」

香取「やっぱり目も耳も機能してないわ。おそらく、感じているのは振動。足から伝わるマットのわずかな振動で、川内さんの動きを見ているのよ」


香取「触覚だけでここまで動けるのは驚異的だわ。でも、長くは保たない。正確な挙動や間合いは測れないから、大雑把な回避しかできない」

香取「いずれは攻撃が当たるし、反撃しようにも得物が鞘じゃ一撃で仕留めるのは難しい。このままだと、負ける……!」

明石「再び川内選手の手裏剣投げ! また横飛びで躱しました! 避けると同時に鳳翔選手、棒手裏剣を放った! が、忍者刀で防がれた!」

明石「驚くべき勘の良さで攻撃を避け続けています、鳳翔選手! しかし有効な反撃ができない! 主導権は川内選手が握ったままです!」

明石「川内選手が位置を変えます! 合わせて鳳翔選手も動く! 構えの先に川内選手を……あっ、ズレてる!? 川内選手はそこにはいない!」

明石「構えの角度がズレました! 歩幅にして2歩分、川内選手の立ち位置と違う場所を向いています! 鳳翔選手が位置を測り損ねた!」

香取「感知方法がバレたわ。忍び足で振動を殺して歩いてる……! 馬鹿のくせに、こういうところでは油断しないのね、エセ忍者!」


明石「またもや手裏剣投げです! 今度は続けて2枚! 鳳翔選手、大きく反応が遅れた! 2枚目は躱せたものの、最初の1枚が腰に命中!」

明石「2つ目の有効です! あと一発、体のどこに攻撃が当たっても鳳翔選手は敗北! ここから全ての攻撃を躱さなくてはいけません!」

明石「全ての攻撃を躱す、無音の暗闇に立たされる鳳翔選手にとって絶望的な難題です! むしろ、ここまで凌げたこと自体が奇跡に近い!」

明石「本来ならばフラッシュバンで終わっていた勝負をここまで繋いだ、鳳翔選手恐るべし! だが、勝負とは過程ではなく、結果が全て!」

明石「香取神道流免許皆伝、鳳翔選手にとって敗北は許されない! 果たして、ここから勝利する術など存在するのか!」

香取「鳳翔さんお願い、勝って! ファイトマネーを川内さんに払うなんて、絶対にしたくないわ!」

明石「中立であるはずの解説役が鳳翔選手側に付きましたが、状況は好転しません! 川内選手の手元には、手裏剣があと5枚残されている!」

明石「これを使い切っても1本の鎖分銅、更に忍者刀と寸鉄がある! 鳳翔選手はこれらの攻撃手段から完璧に逃れなくてはなりません!」


明石「すで川内選手は移動を開始しています! 忍び足により、鳳翔選手はその動きを察知できない! 構えの照準から、川内選手が外れていく!」

明石「手には手裏剣が握られています! この一枚で終わらせる気だ! 次の攻撃を躱す手段はない! これまでか、鳳翔選手!」

明石「おっと、ここで鳳翔選手が構えを変えます! 平青眼を止め、ほとんど棒立ちに近い立ち姿です! 鞘の切っ先も下ろされました!」

明石「勝負を諦めたとは思えません、涼やかな表情です! あっ……なんだ? 鞘の先端でマットを叩いています!」

明石「音を出すことが狙いなのでしょうか? 一定のリズムを保ちながら鞘でマットを打ち鳴らしています! 聞き慣れない音が会場に響きます!」

明石「少々川内選手も訝しむ気配を見せましたが、取るに足らないと判断した模様! 即座に手裏剣を投げ……いや、鳳翔選手が向き直った!?」

明石「閉じられた鳳翔選手の目が、確かに川内選手を捉えています! さすがに驚いたか、川内選手も手裏剣を投げる手を止めた!」


明石「危険を感じ取り、再び忍び足で位置を変えます! が、その動きに鳳翔選手はついていく! 動きを感知してます!」

香取「信じられない……エコーロケーションの要領だわ。マットを叩いて振動を起こし、その響きの具合で川内さんの位置を確かめてるのよ」

香取「リングのマットは衝撃を散らすよう設計されてるから、叩けば振動は全体に伝わる。だから理論上は可能だけど……超人的な感覚能力だわ」

香取「何よりも、戦闘不能に近い状態に追い込まれてるのに、まったく精神がブレてない。これが鳳翔さんのレベル……!」

明石「とうとう鳳翔選手、川内選手の方向へ歩き出しました! 近付かれるのを嫌い、川内選手が牽制気味に手裏剣を投げた!」

明石「大きく横に飛んで回避! やはり動きを感じ取っている! 鞘でマットを叩きながら歩くその姿は、得体の知れない不気味さを感じさせます!」

明石「川内選手、今度は両手に1枚ずつ手裏剣を構えた! 同時に投げる! これは、それぞれ狙う場所が違う! 回避運動を読んだ投擲だ!」


明石「狙いは鳳翔選手の両脇! これを回避すれば、逆に命中してしまう! が……鳳翔選手、今度は避けない! 手裏剣は素通りしていきました!」

香取「この辺りで回避を読んだ攻撃をしてくる、と読んでいたのね。読んでいたとしても、あんなに平然とやってのけることは普通できないけど」

明石「これで川内選手の手元にある手裏剣は残り2枚! 20枚あった手裏剣も、ここに来て貴重な飛び道具となってしまいました!」

明石「鳳翔選手が近付いてくる! もう手裏剣の無駄遣いはできない! ここで川内選手、再びフェンス上へ登ります!」

明石「フェンスに上がれば動きを察知されない! 相手の意図に気付いたか、その前に仕留めようと鳳翔選手が走る! いや、途中で止まった!?」

明石「あっ……鳳翔選手が止まった場所に、外れた太刀の刃が落ちています! これを組み直して、武器を取り戻そうというのか!?」

香取「さすがに無理でしょう。目釘を入れるには両手を使わなきゃいけないから、その間に攻撃されてしまうわ」

明石「刃は拾いましたが、目釘や柄は置いてその場を離れてます! 川内選手から距離を取りたいようです! 対角線上まで後退しました!」


明石「リングの対角線距離は約12m! 手裏剣の射程距離外です! 手持ちが少ない川内選手にとって、この距離で仕掛けるのは避けたいところ!」

明石「すぐには仕掛けず、フェンス上を伝って鳳翔選手に接近していきます! その間に鳳翔選手は……何をしているんでしょうか?」

明石「もうマットを打ち鳴らすのはやめたようです。片方の手に刃の茎(なかご)を持って、刃を手首に……えっ? ちょっ……出血!?」

香取「はっ……はあ!? ま、まさか……あの刀、真剣!?」

明石「あの刀、刃引きしてない!? 鳳翔選手が鍔迫り合いに使ったあの太刀は、本物の日本刀です! もし、あれが川内選手に触れていれば……!」

明石「しかし、身体チェックは間違いなく通ってたはずです! すり替えるような隙もなかった! 一体、どうやって刃引きされてない刀を!?」

香取「……身体チェックは完璧だったわ。抜き打ちチェックにも抜かりはない。それらをくぐり抜ける方法があるとすれば、1つだけ……!」


香取「チェックを行った、運営スタッフの買収! なんて単純で確実な方法なの。まさか、鳳翔さんがそれをしてくるとは思わなかった……!」

明石「真剣を持ち込んでいたことにも驚きですが、更に信じられないものが目の前にある! 一体、鳳翔選手は何をしているんだ!?」

明石「刃で自分の手首を切っている! かなり深い切り傷です、リストカット並の出血量! 切った手首を顔の上に! 血を浴びている!?」

香取「血で目を洗おうとしてるの!? あ、あの出血量なら催涙物質は洗い流せるかもしれないけど、今度は血でしばらく目が見えないわよ!」

明石「なんと、自らの血で目の洗浄を試みる鳳翔選手! だが、これは大きな隙になる! 川内選手が動かないわけがない!」

明石「すでにフェンス上での移動も終わり、手裏剣には十分な射程に近付いている! 手裏剣は残り2枚、うち1枚を迷わず投げた!」


明石「……外した!? 鳳翔選手の足元に落ちました! すぐさま次の手裏剣を投げつける! こ、これも外した!」

香取「動揺で狙いが定まってない……! 手裏剣投げは高等技術、心がブレれば狙いがブレるのも必然だわ」

香取「川内さんは気付いてしまったのよ。あの刀は真剣だった、つまり鳳翔さんは、自分を本気で殺そうとしていたんだと……!」

香取「鳳翔さんにとってこれは試合でも勝負でもない、命を懸けた本気の殺し合い。川内さんに、そこまでの覚悟はなかった……!」

明石「とうとう手持ちの手裏剣は尽きてしまいました! 残る武器は鎖分銅、寸鉄、忍者刀! もうフェンス上にいる意味はありません!」

明石「リングに降り立ち、忍者刀を抜いた! 見えていないうちに斬りかかる気だ! 同時に、鳳翔選手が目を洗い終えた!」

明石「まだ視力は回復し切っていません! 血が涙で洗い流されるまで、あと十数秒! この間に仕留めなければ、川内選手に勝機はない!」


明石「川内選手が間合いを詰める! が、足音の振動で鳳翔選手が気付いた! 位置を確認し、そして刃をぶん投げたぁぁぁ! 真剣の刃です!」

明石「咄嗟に身を伏せて躱します! 本物の死が頭上をすり抜けていく! 川内選手も肝を潰したことでしょう!」

明石「再度前進しようとする川内選手目掛け、今度は鞘が飛んできた! 当たっても痛いだけのはずですが、これも川内選手、大きく飛んで躱した!」

香取「最初に真剣の刃を投げて、恐怖を植え付けておいたのね。似たような長物が飛んでくれば、そりゃあ避けずにはいられないわよ」

明石「川内選手、大きなタイムロスを犯してしまいました! 鳳翔選手の視力回復まで、残り10秒を切っている! 一か八か、仕掛けるしかない!」

明石「今や鳳翔選手は鞘も刃も投擲に使い、丸腰も同然! やるなら今しかない! 川内選手が最短距離を走り出します!」


明石「もう忍び足はない、振動でだいたいの位置は気取られている! 鳳翔選手、ここで棒手裏剣を使用! 川内選手目掛けて放った!」

明石「胸に命中! 川内選手に有効1! しかし、意に介さず間合いを詰める! 川内選手はあと一撃入れさえすれば勝てるのです!」

明石「鳳翔選手も棒立ちでは待たない! 目の見えないまま、川内選手に背中を見せて逃走! フェンス伝いに走り出しました!」

明石「剣聖鳳翔、清々しいまでの逃げっぷりです! 川内選手、距離を詰められない! あっと、ここで川内選手が落ちていた手裏剣を拾った!」

明石「背中を見せた相手に手裏剣を当てるなど造作も無いこと! 川内選手、走りながら手裏剣を……転倒!? 何かに足を引っ掛けた!」

明石「放置されていた鎖鎌の鎖です! 鳳翔選手が片側を引っ張っている! まさか、リングに何があるのか、位置を記憶しているのか!」

香取「戦いの中で背中を見せての逃走、相手の武器を利用する戦術、さすが鳳翔さんも手段は選ばないわね……!」


明石「またもやタイムロス! すぐさま立ち上がって追撃を再開する川内選手ですが……足を止めた! 鳳翔選手の、目が開いている!」

明石「己の血に濡れながら微笑む、その瞳ははっきりと川内選手を映している! 鳳翔選手、とうとう視力を回復しました!」

明石「ここから鳳翔選手の反撃! しかし……武器がない! 鞘も刃も手放した今、鳳翔選手の手元にはわずかな棒手裏剣しかありません!」

明石「川内選手には忍者刀と寸鉄、鎖分銅がある! 達人といえど、武器を持つ相手に素手で挑むのは不利! 技量でその差を埋められるか!?」

香取「これが本当の実戦なら素手でも勝てるでしょうけど……ルール上、今の鳳翔さんは相手の武器に触れただけで敗北になるわ」

香取「『剣道三倍段』のことを考えれば、鳳翔さんが3倍以上の技量を持つことは明らかだけど、攻撃を一度も受けず倒せるかどうかになると……」

明石「川内選手、意を決したように間合いを詰めます! 素手の鳳翔選手なら勝機があると踏んだか! 忍者刀を片手に前進!」


明石「鳳翔選手は距離を取るでもなく、自然な歩みでリング中央へ! 特に構えも取らず……なんだ? 片手をまっすぐ上にかざしました!」

明石「何かの構えに見えなくもありませんが……あっ!? て、天井から何か落ちてきた! 白鞘の刀です! 鳳翔選手の元に、刀が降ってきた!」

香取「落ちてきたんじゃない、誰かが観客席からリングへ投げ込んだわ! ルール上、この行為を禁止する項目はない……!」

明石「川内選手にとって最悪の展開! 視力を取り戻した鳳翔選手が、刀まで手にしてしまいました! しかも……あの刀もおそらく、真剣!」

明石「鞘から刀身が抜き放たれ、妖しい刃紋の輝きが露わになります! 血塗れの剣聖が八相の構えを取る! その威容、まさに現代の人斬り!」

香取「あれは鳳翔さん秘蔵の愛刀……最上大業物十四工の一、二代目備前長船”波泳ぎ”兼光! 国宝級の名刀まで持ち出してきたの!?」

明石「放たれる殺気が尋常ではない! 見る者全てに死を覚悟させる、この姿こそが鳳翔選手の真骨頂! もはやこれは試合ではなく『死合』!」

明石「川内選手の額から冷たい汗が滴り落ちます! もう止められない! どちらかの刃が相手を捉えるまで、誰にも止めることはできません!」


明石「鳳翔選手が前に出る! 川内選手は動けない! 瞬く間に剣の間合いに入りました! あと数瞬で勝負は決まる!」

明石「先に川内選手が仕掛けた! 忍者刀をフェイントに、足を狙った鎖分銅! 同時に、鳳翔選手の太刀が目にも留まらぬ速さで翻る!」

明石「く、鎖を切った! これは名刀の切れ味によるものか、鳳翔選手の技前か! 鎖分銅がまったくの役立たずに成り果てました!」

明石「鎖の切れ端を捨て、川内選手が残る武器、忍者刀を構える! そこへ鳳翔選手が踏み込んだ! やや遠巻きからの横一閃!」

明石「に……忍者刀が折れた!? いや、刀を斬ったのか! これほどの技量か、鳳翔選手! もう川内選手の武器は寸鉄のみ!」


明石「しかし、細く短い寸鉄は、刀を携えた鳳翔選手に挑むにはあまりにも頼りない! 何より、あの鳳翔選手の懐に飛び込めるわけがない!」

明石「鳳翔選手が上段に構える! 終わらせる気だ! 川内選手は……動けない! 完全に心が折れている! 萎縮して体が固まっています!」

明石「本来なら勝負ありが掛かるこの状況! しかし、誰にも止められない! 降参しようにも、川内選手は声を出すことすらままならない!」

明石「掲げられた太刀が今、振り下ろされる! 真っ向唐竹割りぃぃぃ! 殺……い、いや! 寸止めです! 直前で刃を止めた!」

明石「刃は触れてはいません! しかし……川内選手が膝から崩れ落ちた! 気絶しています! 川内選手、恐怖のあまり失神!」

明石「ここでゴングが鳴ったぁぁぁ! 前代未聞の武器ありスペシャルマッチ、決まり手はUKF初の寸止めKO! 勝者はやはり、鳳翔選手です!」


明石「もはや忍術の枠すら超えた、川内選手の数々の計略! あわやというところまで追い詰められるも、剣聖を討ち果たすには一歩及ばず!」

明石「技、精神、そして手段を選ばぬ勝利への執念! そのどれもを凌駕して、鳳翔選手の勝利! これこそが本当の達人だ!」

香取「ああ、心臓に悪い試合だった……正直、鳳翔さんにもう勝ち目はないんじゃないかと思ったわ。特に、目を潰されたときにはね」

香取「今だって、何で鳳翔さんが勝てたのか不思議なくらいよ。終わっていてもおかしくない場面はいくらでもあったわ」

香取「鼓膜を破られ、武器を奪われ、視力まで失った。それなのに、最後に立っているのは鳳翔さんのほう。ほんと、信じられないわ」

明石「川内選手がここまでしてくるとは、鳳翔選手も予想外だったんじゃないでしょうか。追い詰められていたのは事実だと思いますし」

香取「まさか、現代兵器を駆使してくるとは思ってなかったでしょうね。いえ、予想はしていても、ここまで徹底的だとは思わなかったはず」


香取「川内さんは120点の戦いぶりだったと評価すべきね。鳳翔さんをあそこまで追い詰めたのは歴代でも片手で数えるほどでしょう」

香取「敗因は2つね。鳳翔さんが命を懸けて殺し合いとして試合に臨んでいたのに対し、川内さんはそこまでの覚悟ができていなかったこと」

香取「もう1つは、相手が鳳翔さんだったこと。命を懸けていなくても、あそこまでやれば普通は誰にだって勝てるものよ」

香取「踏んできた場数と、乗り越えた死線と、積み上げてきた修練の量……現代兵器を以ってしても、その差を埋められはしなかったわけね」

香取「鳳翔さんを実戦で倒すなら、機関銃以上の装備は必須ね。それでも鳳翔さんなら勝ちそうなのが恐ろしいところだけど」


明石「まったくですね……ところで、フラッシュバンで鼓膜が破れた観客が医務室に殺到しているそうですけど」

香取「……この責任って、私が取らなくちゃいけないのよね」

明石「まあ、そういうルールにしちゃったのは香取さんなので……」

香取「考えたくもないわね……あ、そうだ。賠償金も兼ねて治療費用を川内さんに請求しましょう。運営名義で訴訟を起こして……」

香取「そうそう、罰金も取り立てなくちゃ。損害補填の足しにはなるはずよ」

明石「合計いくらぐらいになってます?」

香取「1000万円くらいかしら。請求するのが楽しみだわ」

明石「えー大波乱の試合となってしまいましたが……剣聖VS忍者の勝負は、現代の剣聖、鳳翔選手に軍配が上がりました!」

明石「体調に異常を来した方は無理せず病院へどうぞ! 送迎車を現在手配中です! 無事な方は、両選手に今一度拍手をお願いします!」


試合後インタビュー:鳳翔

―――目や耳が使えなくなっても戦えるような訓練をされていたのですか?

鳳翔「まさか、そこまでのことはしていません。耳が聞こえなくなって、目も見えなくなったときは本当に焦りました」

鳳翔「日頃から、体の中の音を聞くよう心掛けていなければ、敗北していたのは私だったと思います。本当に危うい試合でした」

鳳翔「体の中の音を聞くというのは、風や木々、石や建物、人や動物、そしてその中にいる私自身を、全身を通して感じるということです」

鳳翔「そうすると、色々なものがよく見え、聞こえるようになるんです。鼓膜と目を潰されれた後も、体を通せば多少は見聞きすることができました」

鳳翔「気配や殺気? そういうのはわかりませんね。私、道場ではよくぼんやりしてますから。いつも後ろから、子どもたちに悪戯されています」

―――どうやって真剣を持ち込んだんですか?

鳳翔「ああ、あれですか? 本当にすみません、刃引きした刀と間違えてしまいました。妖精さんもたまたま気付かなかったみたいで」

鳳翔「妖精さんのことを責めてあげないでくださいね。私のことを信用してくれたからこそ、チェックし損ねたんだと思います」

鳳翔「最後にリング外から刀を投げ込んだのは私の弟子です。あれは保険のつもりでした。できれば使いたくない、最終手段だったんです」

鳳翔「とても大事にしてる刀ですから、使うのは忍びなかったんですけど……やはり戦いの中でこそ、刀というのは最も美しいみたいですね」

―――川内選手のことはどう感じましたか?

鳳翔「肝を冷やすような戦いはずいぶんと久しぶりです。あそこまで追い詰められた経験も初めてですね。二度と戦いたくない方です」

鳳翔「ですが、勉強になりました。今の時代には、ああいう戦い方があるんですね。道具にも色々なものがあるんだと知ることができました」

鳳翔「香取神道流は伝統を重んじる流派ですが、こうした現代的な戦い方も取り入れなければならない時期にあるのかもしれません」

鳳翔「とても良い経験でした。川内さんには感謝したいと思います」


試合後インタビュー:川内

―――鳳翔選手のことはどのように感じましたか?

川内「反則でしょ、反則! 何がっていうか……存在自体が! あんなのあり!? 目も耳も使えないのに、私の手裏剣を避けるなんて!」

川内「しかも、あの刀って本物の真剣だったんでしょ!? 殺す気満々じゃない! あー怖かった! 失禁してないのが奇跡よ!」

川内「敗因は私の準備不足ね! 最低でも拳銃は用意するべきだったわ! 次は遠隔起爆式C4爆弾も調達しておかなくちゃ!」

川内「リングごとふっ飛ばせば、さすがの鳳翔さんでも避けられないでしょ? そうそう、VXガスなんかもきっと有効よね!」

川内「それだけ用意すれば次は勝てるでしょ! 早速、調達ルートの確保を……」

―――運営のものですが、今回の試合での反則における罰金、1200万円を徴収に……

川内「忍法、煙玉! ドロン!」

(川内選手の逃亡につき、インタビュー中止)


明石「香取さん。川内さんが罰金を払わず行方をくらましたそうですよ」

香取「どこへ逃げようと、必ず探し出してやるわ。それに、訴訟を起こすにあたっては好都合よ。未出廷だとこっちの不戦勝になるから」

明石「もし見つからなかった場合、香取さんの私財を没収して損害補填費用に充てることになってるみたいなんですけど……」

香取「……妙高さんに連絡して。彼女の身内に凄腕の殺し屋がいるって話だから、依頼するわ」

明石「いや、殺しちゃダメですよ?」

香取「大丈夫よ。半殺しにして連れて来てもらうだけだから……できれば拷問もお願いしたいわ」

明石「ああ、そうですか。ではお好きに……それでは、これで本日の日程は終了となります!」

明石「次回は第2回UKF無差別級グランプリ、優勝決定戦です! どうかお見逃しなく!」

香取「今度こそ早めに放送準備を整えてもらいたいわね」

明石「期待せずにお待ち下さい! それでは、またお会いしましょう!」

―――無差別級王者の座を争うのは、不屈の戦艦扶桑と、最強の空手家榛名。真の最強への挑戦権を手に入れるのはどちらか。

―――次回放送日、現在調整中。

参考にさせていただくため、良かったらアンケートにご協力ください。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScrUmjY7TGpwuzPsfYNNz6qb_gJRJUpr3FKUVyhFCizj3xSVQ/viewform

次の放送直前か、もしくはその前に990前後まで行ったら新スレ立てます。

新スレ立てて間が空くようであれば、もう出す予定がないファイターの設定でも場つなぎに紹介します。

耐えるのが得意ってならそれこそビスマルクと組んだら面白そう
ツープラトンとかエゲツナイことになるで

>>965

絶対に実現しない、ビスマルク&グラーフ・ツェッペリンのタッグによる夢のツープラトン技

「Essen Bestattung(エッセン・ビスタータング)」

直訳で「食葬」。グラーフが相手をボコって羽交い締めにし、ビスマルクが一方的に捕食する。相手は死ぬ。

ドリームマッチにタッグが入る可能性が微レ存?

>>973

残念ながらその予定はないです。ただ、ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンが同じリングに立つ予定はあります。

えーグランプリは残すところ決勝戦のみなのですが、もう少々時間をいただきたいです。申し訳ない。
区切りの悪いタイミングですが、明日にでも新スレを立てておきます。場つなぎに登場予定のないファイター3名の設定でも公開します。
本当は6名の予定でしたが、うち3名はドリームマッチで出るかもしれないので今は伏せます。
ちなみに出場するかもしれないファイター3名はそれぞれ殺し屋、ステロイドファイター、忍者(本物)です。

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