※注意事項
・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。
・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。
・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。
・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。
※階級について
艦種を実際の格闘技における重量階級に当てはめており、この作品内では艦種ではなく階級と呼称させていただきます。
戦艦級=ヘビー級
正規空母級=ライトヘビー級
重巡級=ミドル級
軽巡級、軽空母級=ウェルター級
駆逐艦級=ライト級
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451576137
~オープニング~
『き……決まったァァァ! 扶桑選手の三角絞めが見事に入りました! 武蔵選手、振りほどけません!』
『お、落ちた! 武蔵選手、失神! 勝ったのは扶桑、扶桑選手です! 優勝候補の一角、武蔵選手がまさかの一回戦KO負け!』
『これは予想外の展開です! 圧倒的不利とされていた扶桑選手、一回戦突破! UKF無差別級グランプリ、早くも大番狂わせが起こりました!』
―――第一回UKF無差別級グランプリ。艦娘格闘界最高峰の舞台であるUKFによって開催された、最強の艦娘を決める史上最大のトーナメント。
―――その初戦は一回戦突破さえ絶望視されていた扶桑が優勝候補の武蔵を下すという、大波乱によって幕を開けた。
『つ、強い! あの重巡級王者の足柄選手が何もできない! 長門選手、圧倒的です! 実力の底がまったく見えません!』
『やはり勝者はUKF戦艦級絶対王者、長門! 強い、強すぎる! 一体、この怪物を止められる選手は現れるのでしょうか!?』
―――扶桑とは対照的に、開催前から優勝候補筆頭とされていたUKF戦艦級王者、長門。その実力は強者揃いの出場者の中でも圧倒的だった。
『き、霧島選手が打ち負けました! まさか扶桑選手の打たれ強さがこれ程とは! 扶桑選手、狂犬霧島を真っ向から打ち砕きました!』
『榛名選手、ダウン! あの殺人聖女が初めて地に伏しました! あの榛名を倒してのけたのはやはり長門! 長門選手、あまりにも強すぎる!』
『これは現実の光景なのでしょうか! もはやKO寸前と思われた扶桑が立ち、優勝候補の赤城が倒れてる! 赤城選手、ぴくりとも動きません!』
『お、大淀選手が瞬殺! 軽巡級グランプリ王者、ここに来てあまりに呆気ない敗北! いや、むしろ長門選手が強すぎる!』
―――出場者の中でも格下という前評判を覆す快進撃を続ける扶桑と、予想を遥かに超える実力を見せつけた長門。
―――誰もが予想し得なかったUKF無差別級グランプリ決勝の対戦カード。後に「世紀の1戦」と呼ばれる、2人の死闘は30分にも及んだ。
『扶桑選手が流血! しかし一向に倒れる気配がありません! 長門選手は冷静に追い打ちを掛けます! 扶桑選手、下がらない!』
『そ、壮絶な打撃戦が行われています! どちらもまるで倒れない! 特に扶桑選手、一体いつになったら倒れるのか!』
『長門選手がテイクダウンを奪った! 扶桑選手が食い下がる! いや、マウントを取られました! 扶桑選手、絶対絶命か!?』
『非情の鉄槌打ちが振り下ろされる! まだ、まだ扶桑選手は動いています! 未だ闘志の炎消えず! 長門の猛攻を凌ぎ切れるか!』
『あっ、バックマウントになりました! 扶桑選手が再び立ち上が……いや、長門が首を狙う! チョークスリーパーが入った!』
『これは完全に極まっています! 扶桑選手の顔がみるみる朱に染まる! 振りほどけるか!? ついに扶桑選手が落ちるのか!?』
『お……落ちたァァァ! 扶桑選手、陥落! 下馬評を覆す彼女の快進撃を止めたのは、UKF戦艦級絶対王者、長門!』
『ここに最強の艦娘が誕生しました! 絶対王者、長門! UKF無差別級グランプリを制したのは、やはり長門選手です!』
―――実力に劣りながらも不屈の精神で闘い抜いた扶桑は「伝説」と呼ばれ、他を寄せ付けぬ強さで優勝を勝ち取った長門は「神話」と呼ばれた。
―――激闘から1年。未だ敗北を知らぬ長門から、最強の座を奪わんとする艦娘たちが再びここに集おうとしていた。
―――第二回、UKF無差別級グランプリ。16名の選ばれし艦娘ファイターたちが最強の名を求め、八角形のリングへと降り立つ。
放送開始時刻:2016年1月1日午前1:00
明石「さあ、とうとう始まりました! 第二回UKF無差別級グランプリ!」
明石「本日の放送では、Aブロックの1回戦、計4試合を続けて行います!」
明石「実況はこの私こと明石、解説はUKF軽巡級グランプリ優勝者でもある大淀さんをお招きしております!」
大淀「どうも。今日はよろしくお願いします。」
明石「この度、大淀さんにもトーナメント出場のオファーは来たと思いますが、それをお断りになられた理由とはどういったものなんでしょう?」
大淀「私も出たかったんですけど……ほら、前回の大会で、私は長門さんに惨敗してるじゃないですか」
明石「そうですね。大淀さんは並み居る強敵を下して3回戦に駒を進めながらも、長門選手にストレート負けという無念の結果となられています」
大淀「それでですね、また出るなら長門さんを倒す方策を立てなきゃいけないんですけど、どうしてもそれが立たなくて」
大淀「勝算のない試合に臨むのは私の主義に反しますので、今回は出場を辞退させて頂きました」
明石「そうですか……それでは、今大会では解説として、どうかよろしくお願いします」
大淀「はい、頑張ります」
明石「それでは、早速出場選手の発表に参りましょう!」
明石「今大会では16名の艦娘ファイターたちが最強の座を目指し、トーナメント形式で対戦する形となっております!」
明石「勝者には1試合につきファイトマネー1000万! 優勝者には賞金10億円がスポンサーの大本営より贈られます!」
明石「また、優勝賞品として、伊良湖さんと間宮さんの給糧艦1年フリーパス券が贈与される事となっております!」
明石「試合をより白熱したものとするため、ファイトマネーは勝者総取り! 敗者には一切の報酬は支払われません!」
大淀「敗けても旨味があるという甘いトーナメントではないので、各選手、全力で挑んでいただきたいですね」
明石「それでは、その死闘に挑む対戦者のほうを、対戦カードと併せて発表させて頂きます!」
明石「まずは第一試合、赤コーナー! UKF試合成績17戦16勝1敗、K-1試合成績28戦27勝1ドロー!」
明石「艦娘格闘界立ち技絶対王者! 最強の一航戦が、再びこのUKFトーナメントの舞台に降り立つ!」
明石「その打撃は痛烈にして冷酷無慈悲! 拳が、肘が、蹴りが骨肉を砕き、迸る対戦者の血が全てを緋色に染め上げる!」
明石「一航戦の誇りをその目に刻め! ”緋色の暴君” 赤城ィィィィィ!」
明石「第一試合、青コーナー! UKF試合成績31戦29勝2敗!」
明石「戦いが、勝利が彼女を呼んでいる! あの美しき餓狼が戦場に帰ってきた!」
明石「そのファイトスタイルに『後退』の2文字はない! 華麗さと勇猛さを併せ持つ、その姿はまさに戦乙女!」
明石「戦乙女は戦場でこそ美しい! ”不退転の戦乙女” 足柄ァァァァァ!」
明石「第二試合、赤コーナー! UKF試合成績15戦12勝3敗! OUTSIDER試合成績20戦20勝0敗!」
明石「格闘技経験一切なし! 無頼の喧嘩ファイターがトーナメントに牙を剥く!」
明石「戦いに技など不要! ただ殴って、殴って、ひたすら殴ることこそ我が流儀!」
明石「喧嘩がしたいからここへ来た! ”血染めの狂犬” 霧島ァァァァァ!」
明石「第二試合、青コーナー! UKF試合成績10戦9勝1敗! プロボクシング41戦41勝0敗!」
明石「強さとは力なり! 大艦巨砲主義は彼女のためにこそ存在する!」
明石「両の拳に宿る比類なきパワーは全てを打ち砕く! 新たなファイトスタイルにも注目だ!」
明石「前大会の雪辱を晴らせるか!? ”破壊王” 武蔵ィィィィィ!」
明石「第三試合、赤コーナー! UKF試合成績28戦19勝9敗!」
明石「前大会準優勝! 数々の名勝負を生み出した不屈のファイターが、新たな伝説を作り上げる!」
明石「もう『欠陥戦艦』などとは言わせない! どんな逆境にも折れない心が、再び戦場にて奇跡を起こす!」
明石「悲願の優勝なるか!? ”不沈艦” 扶桑ォォォォォ!」
明石「第三試合、青コーナー! UKF初参戦!」
明石「艦娘最強の座は一航戦にこそ相応しい! あの天才がUKFの舞台に満を持して舞い降りる!」
明石「鎧袖一触のその神技! 実戦の場にて、その技はどのような煌きを見せるのか!?」
明石「一瞬たりとも目を離すな! ”見えざる神の手” 加賀ァァァァァ!」
明石「第四試合、赤コーナー! UKF試合成績48戦45勝3敗!」
明石「UKF初代戦艦級王者! その手足、絡みつく触手の如し! 柔術の恐怖が再び艦娘格闘界を震撼させる!」
明石「絡み取られれば最期! 寝技の無間地獄に引きずり込まれ、もはや生還の術はない!」
明石「狙うは王座奪還! ”戦慄のデビルフィッシュ” 日向ァァァァァ!」
明石「第四試合、青コーナー! UKF試合成績11戦3勝8敗!」
明石「今回も気合いが入っている! なんと中国からの修行帰りだ!」
明石「修行の内容一切不明! 取材拒否! 中国拳法4000年の歴史は、彼女に一体何を与えたのか!?」
明石「未知の魔技が対戦者を襲う! ”蛇蝎の瘴姫” 比叡ィィィィィ!」
明石「第五試合、赤コーナー! UKF試合成績13戦13勝0敗!」
明石「優勝候補筆頭! 艦娘最強の遺伝子がトーナメントの舞台で花開く!」
明石「打、極、投、すべて良し! 新生アルティメットファイターは最強の壁を超えていけるのか!?」
明石「艦娘格闘界の超新星! ”ジャガーノート” 陸奥ゥゥゥゥゥ!」
明石「第五試合、青コーナー! UKF初参戦!」
明石「戦艦クラスなのは眼光だけに非ず! UKF駆逐艦級2大王者を野試合にて下した、その実力とはいかなるものか!」
明石「恐怖を知らぬ冷酷な瞳、繰り出される技は全くの未知数! 神秘のベールはリング上にて明らかになる!」
明石「今大会注目のダークホース! ”猛毒の雷撃手” 不知火ィィィィィ!」
明石「第六試合、赤コーナー! UKF試合成績25戦22勝3敗!」
明石「とうとう彼女が来てしまった! 戦艦すら恐れを為す、軽巡級最凶ファイターの登場だ!」
明石「闘いに来たのではない! お前の悲鳴を聞きに来た! 残虐非道のサディスティックファイトがリング上を地獄に変える!」
明石「彼女の凶行を止めることはできるのか! ”悪魔女王” 龍田ァァァァァ!」
明石「第六試合、青コーナー! UKF初参戦!」
明石「初の海外選手の参戦だ! 同盟国ドイツから、謎のファイターがやってきた!」
明石「経歴不明! 流儀不明! その実力、一切未知数! 全ての情報を非公開とした、その意味するところは如何に!?」
明石「全てはリング上にて明らかになる! ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルクゥゥゥゥゥ!」
明石「第七試合、赤コーナー! UKF試合成績28戦21勝7敗!」
明石「スピードとかわいさならば随一! 艦娘格闘界のアイドル、懲りずにトーナメント再出場!」
明石「速さこそ強さ! 速さこそ全て! 階級の不利を自慢のスピードで覆せるか!?」
明石「本人は自信満々だ! ”神速の花嫁” 島風ェェェェェ!」
明石「第七試合、青コーナー! UKF試合成績11戦8勝3敗、K-1試合成績29戦26勝2敗1ドロー、シュートボクシング12戦12勝0敗!」
明石「愛より強い力など存在しない! 熱い想いを胸に秘め、恋するファイターの参戦だ!」
明石「恋の炎に燃える拳! うなる脚! この勝利、大切な人に捧げます!」
明石「あなたのハートを打ち砕く! ”恋のバーニングハリケーン” 金剛ゥゥゥゥゥ!」
明石「第八試合、赤コーナー! UKF初参戦!」
明石「私を差し置いて最強を名乗ることは許さない! 音に聞こえた無冠の帝王、満を持してトーナメント参戦!」
明石「必殺の名は伊達に非ず! 華麗に舞い、優雅に微笑み、そして放たれるは致命の一撃!」
明石「世界最大の超弩級戦艦、推して参る! ”死の天使” 大和ォォォォォ!」
明石「第八試合、青コーナー! UKF試合成績41戦41勝0敗!」
明石「彼女こそ艦娘最強ファイター! 前大会優勝者がさらなる無敗神話を築き上げる!」
明石「その強さ、もはや理不尽! 未だ敗北を知らぬ彼女の戦歴に、黒星を刻む選手は現れるのか!?」
明石「UKF絶対王者! ”ザ・グレイテスト・ワン” 長門ォォォォォ!」
※トーナメント表は大会運営委員長のうっかりにより未制作のため、準備でき次第掲載します。
明石「さて、そうそうたるメンバーによる対戦カードとなっておりますが、出場選手を見渡して、改めてどのような印象をお持ちでしょう?」
大淀「前大会以上にレベルの高いファイターが参加されていますね。若干、不安な方もいらっしゃいますが……」
大淀「魅力的なファイトが売りの選手ばかりですから、試合内容は大変期待できるかと思います」
明石「各ブロックごとの見どころ、あるいは注目選手などはいらっしゃいますか?」
大淀「Aブロックの注目はやはり扶桑選手ですね。前大会で彼女の準優勝を予想された方は誰一人いらっしゃらなかったと思います」
明石「はい。扶桑さんは優勝候補と言われた武蔵選手を初戦で下すという大番狂わせを演じ、そのまま怒涛の勢いで決勝まで駒を進めております」
明石「決勝で行われた長門さんとの30分に渡る死闘は『世紀の1戦』と呼ばれ、その戦いぶりから一気にトップファイターの仲間入りを果たしました」
大淀「その決勝に上り詰める過程で、扶桑さんは武蔵選手だけでなく、霧島選手、赤城選手をも激闘の果てに破っております」
大淀「いわば、Aブロックには扶桑さんと因縁のある選手が3人もいるわけです。誰が扶桑選手にリベンジを果たすのか、注目はそこでしょうね」
明石「Bブロックについてはどう思われますか? 注目選手は聞くまでもないかもしれませんが……」
大淀「当然、長門選手ですね。前大会優勝、未だ負け無しの絶対王者に誰が土をつけるのかが見どころになってくると思います」
大淀「初参戦の選手が3名もいらっしゃいますから、このブロックでは何か予想外のことが色々起きそうな気がしますね」
大淀「また、Bブロックには長門さんの妹、陸奥さんもいらっしゃいます。彼女にも期待がかかるところです」
明石「なるほど。では、ずばり優勝候補はどなたと思われるでしょうか」
大淀「大本命は長門さんでしょう。次いで陸奥さん、赤城さん、武蔵さん。扶桑さんの健闘にも期待したいところです」
明石「ありがとうございます。では試合開始の前に、ルール確認をさせて頂きます」
明石「このUKFは究極の『バーリ・トゥード』を目指し、限りなく実戦に近い試合形式となっておりますが、公平を期すためのルールが存在します」
明石「それらを一通りまとめてみましたので、予めお目通しください。こちらです!」
UKF無差別級トーナメント特別ルール一覧
・今大会は階級制限のない無差別級とする。階級差によるハンデ等は存在しない。
・今大会のルールは限りなく実戦に近く、公正な試合作りを目指すために設けられる。
・ファイトマネーは1試合につき賞金1000万円の勝者総取りとする。
・試合場は一辺が8m、高さ2mの金網で覆われた8角形のリングで行われる。
・試合後に選手は会場に仮設されたドックに入渠し、完全に回復した後に次の試合に臨むものとする。
・五体を使った攻撃をすべて認める。頭突き、噛み付き、引っかき、指関節等も認められる。
・体のどの部位に対しても攻撃することができる。指、眼球、下腹部、後頭部、腎臓などへの攻撃も全て認める。
・相手の衣服を掴む行為、衣服を用いた投げや締め技を認める。
・相手の頭髪を掴む行為は反則とする。
・頭髪を用いる絞め技等は反則とする。
・自分から衣服を脱いだり破く行為は認められない。不可抗力で衣服が脱げたり破れた場合は、そのまま続行する。
・相手を辱める目的で衣服を脱がす、破く行為は即座に失格とする。
・相手に唾を吐きかける、罵倒を浴びせる等、相手を侮辱する行為は認められない。
・武器の使用は一切認められない。脱げたり破れた衣服等を手に持って利用する行為も認められない。
・試合は素手によって行われる。グローブの着用は認められない。
・選手の流血、骨折などが起こっても、選手に続行の意思が認められる場合はレフェリーストップは行われない。
・関節、締め技が完全に極まり、反撃が不可能だと判断される場合、レフェリーは試合を終了させる権限を持つ。
・レフェリーを意図的に攻撃する行為は即座に失格となる。
・試合時間は無制限とし、決着となるまで続行する。判定、ドローは原則としてないものとする。
・両選手が同時にKOした場合、回復後に再試合を行うものとする。
・意図的に試合を膠着させるような行為は認められない。
・試合が長時間膠着し、両者に交戦の意志がないと判断された場合、両者失格とする。
・ギブアップの際は、相手選手だけでなくレフェリーにもそれと分かるようアピールしなければならない。
・レフェリーストップが掛かってから相手を攻撃することは認められない。
・レフェリーストップが掛からない限り、たとえギブアップを受けても攻撃を中止する義務は発生しない。
・試合場の金網を掴む行為は認められるが、金網に登る行為は認められない。
・金網を登って場外へ出た場合、即座に失格となる。
・上記の規定に基づいた反則が試合中に認められた場合、あるいは何らかの不正行為が見受けられた場合、レフェリーは選手に対し警告を行う。
・警告を受けた選手は1回に付き100万円の罰金、3回目で失格となる。
・罰金は勝敗の結果に関わらず支払わなくてはならない。3回の警告により失格となった場合も、300万円の罰金が課せられる。
・選手の服装は以下の服装規定に従うものとする。
①履物を禁止とし、選手はすべて裸足で試合を行う。
②明らかに武器として使用できそうな装飾品等は着用を認められない。
③投げ技の際に掴める襟がない服を着用している場合、運営の用意する袖なしの道着を上から着用しなければならない。
④袖のある服の着用は認められない。
⑤バンデージの装着は認められる。
明石「えーちょっと数が多いですが、要点となるものだけ補足させて頂きましょう。大淀さん、お願いします」
大淀「はい。まず観覧の際に気を付けていただきたいのが『服装規定』ですね」
大淀「上半身に服を着ているか着ていないかで、リング上で使える柔術系の技はまったく違うものになってしまいます」
大淀「UKFでは『より実戦に近く』をテーマにしているため、道着は必ず着用していただきます」
明石「普段の衣装の武蔵選手に柔道技を仕掛けると、胸のさらしを引き千切ることになってしまいますからね」
大淀「はい。ですので、日向さんなんかは通常の衣装で問題ありませんが、他の多くの選手は袖なし道着に着替えていただきます」
大淀「袖ありの道着だと、袖が邪魔で打撃系ファイターが不利になりますから、今大会は袖なしの道着を採用しています」
大淀「また、道着を意図的に脱いだり、脱がしたりする行為は反則です。脱がす行為が反則、というのは前大会ではなかったものですね」
明石「はい。前回では霧島選手が島風選手に酷いことをしたので……」
大淀「酷い事件でしたね……そういうわけで、長門さんの胸ぐらを掴むシーンがあっても、それはブラを剥がそうとしているわけではありません」
明石「そういったシーンは各自で脳内補完をよろしくお願いします」
大淀「まあ、後はほとんど喧嘩に近いルールです。目突きなどもOKですが、髪を掴む行為は反則となっています」
大淀「『より実戦に近く』というテーマとずれるルールかもしれませんが、これを許可すると髪を剃ってくる選手が確実に出てきますからね」
大淀「当然、私だったら試合前にスキンヘッドにしてきます。そんなのは見たくないでしょう?」
明石「ええ、それはちょっと絵面的にキツいです……」
大淀「あとは反則による罰金制です。勝敗に関わらず1回につき100万円は痛いでしょうから、選手の方々には気を付けていただきたいですね」
明石「どうか選手の皆さん、フェアプレーの精神でお願いします」
大淀「ルールで気を付けていただきたいのはそれくらいです。基本的には『何でもアリ』の、より過激なルールの総合格闘と思ってくだされば」
明石「ちなみにレフェリーは妖精さんの方々にお願いしております。万が一、審査が必要な場合は審査員長の香取さんに控えて頂いております」
明石「さあ、そろそろ試合開始が迫って参りましたが、ここで1つ! 大会運営委員長からお知らせがあります!」
明石「実はトーナメントの対戦の他に、なんとエキシビションマッチが予定されているとのことです!」
明石「1回戦、2回戦後にそれぞれ1試合ずつ、計2試合行われる予定なのですが……なんと、まだ出場者が決まっておりません!」
明石「後ほどエキシビションマッチ出場候補者を発表いたしますので、その中から視聴者リクエストの多い選手を出場させるとのことです!」
大淀「候補者の一覧を見ましたが、どなたもトーナメントの選手と遜色ない実力を持った方ばかりです。これは楽しみですね」
明石「候補者の詳細やリクエスト方法は1回戦Aブロック終了後にお知らせしますので、どうぞご期待ください!」
明石「それでは皆様、大変長らくお待たせしました! これより第一試合を行います! まずは赤コーナーより選手の入場です!」
試合前インタビュー:赤城
―――前回は3回戦目で惜しくも敗退となってしまいましたが、今回の意気込みをお聞かせください。
赤城「はい。前回は応援してくれた方々の期待に添えず、本当に申し訳なかったと思っています」
赤城「リベンジのために今日まで頑張って練習してきたので、今度こそ期待に応えたいですね」
―――優勝賞品より、優勝そのもののほうが大事、ということですか?
赤城「えー、あー、はい。その通りです。もちろん優勝賞品も魅力的ですけど」
赤城「商品って何でしたっけ。間宮さんと伊良湖さんから食事券がもらえるんですよね」
―――はい。年間フリーパス、つまりお2人の料理と甘味が1年食べ放題ですね。それから、賞金10億円です。
赤城「間宮さんと伊良湖さんの料理が1年間食べ放題って、なんかお2人に悪いですよね」
赤城「まあ、貰ったら使いますけど。あの2人の料理なら1年でも10年でも飽きることはないでしょうし」
赤城「賞金10億円っていうのも、ねえ? 多すぎると思いません? そんなにいらないですよ、私。使い切れませんもの」
赤城「前回も同じ賞品でしたよね。優勝者の長門さん、全部使ったんでしょうか」
赤城「余ってるなら欲しいですね。いえ、もったいないからですよ。もし余らせるくらいなら、ね」
赤城「まあ、ちょっとは賞品に興味はあります。優勝のついでではありますが、欲しいことは欲しいです」
―――もし今回優勝できなかったら、と考えてしまうことはありますか?
赤城「そうですね……もしそうなったら、自分を許せないです」
赤城「私が優勝できなかったってことは、賞品が他の人の手に渡って、その人は好きなものを好きなだけ食べたりできるわけでしょう?」
赤城「そんなことは絶対に許せません。絶対に。あ、いえ。負けた自分をってことですよ」
―――対戦相手の足柄さんをどう思いますか?
赤城「バランスの良く、とても優れたファイターだと思います。厄介な相手ですね」
赤城「初戦はもっと楽な人がよかったです。でも、勝てるよう精一杯頑張ります」
赤城:入場テーマ「Dark Funeral/King Antichrist」
https://www.youtube.com/watch?v=i_DrP5zlFPQ
明石「UKF無差別級グランプリ、栄えある第一試合の先入場者は冷酷非道の立ち技王者、一航戦の赤城!」
明石「悠々と歩を進めながら浮かべる微笑、しかし、今や誰もが知っています! その姿は擬態だと!」
明石「その五体は全てが凶器そのもの! この拳を、肘を、足を叩き込まれたとき、初めて貴様は私の名の意味を知るだろう!」
明石「緋色とは即ち、鮮血を流しながらリングに伏す貴様自身のことだ! 相手が血だまりに沈むまで、私は拳を振るい続ける!」
明石「リングに上がれば相手にかける慈悲などない! 艦娘立ち技格闘界絶対王者、 ”緋色の暴君” 赤城ィィィ!
大淀「第一試合から優勝候補の登場ですね。とても白熱した試合になると思います」
明石「では大淀さん。赤城選手についての解説をお願いします」
大淀「はい。赤城さんはムエタイをバックボーンとした、完全なストライカータイプのファイターです」
大淀「艦娘K-1界では無類の強さを発揮し、前王者の金剛選手を破ってK-1チャンピオンとなり、5度のベルト防衛成功の後にUKFへ転向しています」
大淀「こういった立ち技系格闘家に対する定石は、打撃を凌いでテイクダウンを取り、グラウンドに持ち込んで寝技を仕掛けるというものです」
大淀「ですが、赤城さんは未だにテイクダウンを取られたことさえありません。これは本当に驚異的なことです」
明石「ですよね。立ち技格闘家が総合に来ると、大抵の選手が寝技に苦しめられますが、赤城選手にそれがなかったのはどうしてでしょうか?」
大淀「やはり、赤城さんのストライカーとしての能力が高すぎるせいでしょう。また、ムエタイには密着してからの打撃がありますから」
大淀「タックルには膝蹴り、組み合えば肘、そして必殺のゼロ距離ハイキックがあります。彼女をグラウンドに持ち込むのは相当な骨ですよ」
明石「確かに、赤城選手は前大会で扶桑選手の手により初の敗北を喫していますが、それも打撃のカウンターによるものでしたね」
大淀「ええ。ですが、アレはラッキーパンチみたいなものです。再びムエタイファイターの赤城さんにカウンターを決めるのは難しいでしょう」
大淀「要するに、赤城さんは立ち技に絶対的な強さを誇り、テイクダウンも許さない隙のないファイターだということです」
大淀「それ程の実力があるからこその優勝候補です。対戦相手の苦戦は必死でしょう」
明石「なるほど、ありがとうございます。それでは続いて、青コーナーより選手の入場です!」
試合前インタビュー:足柄
―――前大会から引き続き、出場を決意された理由を教えて下さい。
足柄「いつも言っていることだけど、戦場と勝利が私を呼んでいるから、よ」
―――前回は初戦から長門選手と当たってしまい、初戦敗退となってしまいましたが、その結果をどう思っていますか?、
足柄「前回、長門さんと初戦で当たったことを不運だと思ったことは一度もないわ」
足柄「むしろ幸運だと思ってるくらいよ。だって、最初から最高のファイターと戦えたんですもの」
足柄「ま、結果自体は確かに不満ね。1度しか戦えなかったのも物足りなかったし」
足柄「だから、今回の目標はとにかく勝ちに徹したいわ。私らしい戦い方でね」
―――今回も「不退転」と呼ばれる闘いを見せていただけるのでしょうか。
足柄「勘違いしてもらっては困るのだけど、私が試合で下がらないのは意地を張っているからじゃないわ」
足柄「私の流儀は前進してこそ勝利を掴めるの。後ろに下がる戦法なんて持っていないわ」
足柄「だから今回も、後退はありえないわね。それに、ほら。後ろに進むべき道はなし、っていうじゃない?」
―――赤城さんは初戦の相手としてどう思いますか?
足柄「前回同様に幸運だわ。立ち技王者と闘えるなんて、すごくワクワクするじゃない」
足柄「早く試合が始まらないかってウズウズしてるの。ふふ、みなぎってきたわ」
足柄:入場テーマ「Marilyn Manson/The Fight Song」
https://www.youtube.com/watch?v=9GFI6Rf-IkI
明石「大きな歓声が沸き起こりました! 重巡級グランプリ覇者、足柄選手の入場です!」
明石「強敵との戦いを求めるその精神はまさに餓狼! しかし、戦う姿は美しき戦乙女そのもの!」
明石「彼女の辞書に『後退』の文字はない! 相手の攻撃を華麗に躱し、捌き、勝利に向けて果敢に突き進む!」
明石「この美しき餓狼は今夜、どのような戦いを見せてくれるのでしょうか!? ”不退転の戦乙女” 足柄ァァァ!」
明石「さすがは重巡級王者の風格、周囲の歓声に笑顔で手を振っております。その表情に緊張の色はありません!」
大淀「相手が赤城さんともなれば、大抵の選手は戦う前から恐怖を抱いてしまうでしょうが、彼女にそれはないでしょうね」
大淀「むしろ、強い相手と戦えると喜んでいるんじゃないでしょうか。彼女はそういう人ですから」
明石「大淀さんは足柄選手と仲が良いそうですが、ファイトスタイルなどもお詳しいのでしょうか?」
大淀「はい。足柄さんの流儀はジークンドーです。私も彼女には何度か手ほどきを受けさせてもらいました」
明石「ジークンドーと言いますと、かのブルース・リーが詠春拳にボクシングやシラットの要素を取り入れて創始した、中国拳法の一種ですね?」
大淀「間違ってはいませんが、型や神秘性を一切省き、実戦における効率性を追求した点においてジークンドーは他の中国拳法と一線を画します」
大淀「日常で起こる実戦、路上で発生する喧嘩などに即座に対応するために編み出された現代格闘技、それがジークンドーです」
大淀「とにかく実戦性という点を重視している格闘術なので、こういった何でもありの試合においては最大限に力を発揮できるでしょう」
明石「なるほど。率直に言って、赤城さんと足柄さん、どちらが有利かと思われますか?」
大淀「階級差の面では赤城さんでしょうが、足柄さんはそれを補って余りあるテクニックがあります」
大淀「相手の打撃を捌くことに関して足柄さんは達人級の技を持っていますから。赤城さんとはいえ、容易には攻め込めないでしょう」
明石「ということは、やはり勝敗を分けるのは打撃の攻防になってくるでしょうか?」
大淀「……どうでしょうね。ジークンドーは打撃を捌いてからの投げや関節技、またグラウンドでの攻防も研究されています」
大淀「足柄さんの技術があれば、赤城さんの打撃を封じてそういう局面に持ち込むことも不可能ではないかと思いますが……」
明石「……足柄選手は正面からの勝負を臨むでしょうか?」
大淀「だと思います。彼女は小細工を弄するタイプではありませんから」
明石「……ありがとうございます。さあ、両選手がリングに入場しました! レフェリーの妖精さんより、再度ルール確認が行われます!」
明石「おっと赤城選手、朗らかな笑顔で足柄選手に話かけております! 油断させようという作戦でしょうか?」
大淀「でしょうね。赤城さんはそういうことをする人ですから。ずいぶん前から本性はバレてるのに、よくやりますよね」
明石「さあ、足柄選手は不敵な笑みで応じております。その心中にはどのような……おっ、赤城選手が握手を求めました!」
明石「足柄選手、これを丁寧に拒否! 赤城選手の心理戦に応じる気はないようです!」
大淀「当然ですね。足柄さんはそんな甘いファイターではないですよ」
明石「一応確認させていただきますが、本大会では実戦性の重視のため、対戦選手同士の握手は基本的に行われません!」
明石「これは足柄選手が無礼なのではなく、赤城選手がイレギュラーなことをしたのだとご理解ください!」
大淀「対戦前から不穏な空気が漂っていますね。これは序盤からもつれ込むかもしれません」
明石「さあ、両選手がニュートラルコーナーに戻りました! 睨み合ったまま、互いに視線を切りません!」
明石「開始のゴングが鳴りました! 第一試合開幕です!」
明石「両選手、ゆっくりと距離を詰めていきます。赤城選手は両腕を高く上げて頭部をブロックした、いつものムエタイの構え!」
明石「先程の笑顔とは打って変わり、まるで獲物を狙う爬虫類のような赤城選手の表情! ギラつく眼が足柄選手を捉えて離しません!」
明石「対する足柄選手は右半身を開き、利き手利き足を前に出したジークンドーの構えを取っております! 両者、中々仕掛けません!」
大淀「どちらもスタンドが得意な選手ですから。今は間合いを探り合っているようですね」
明石「さあ、先に仕掛けるのはどちらか! おっとここで赤城のローキック! 足柄選手、うまく脛でカットしました!」
明石「ダメージはあまりないようですが、足柄選手も踏み込む様子はありません。未だ様子見といった状況です」
大淀「どちらも積極的に攻めていくタイプですが、相手が相手ですから不用意には踏み込めませんね。互いに出方を伺っています」
明石「両選手、リング中央で間合いを取りつつ対峙したままです。さあ、次に仕掛けるのはどちらか!?」
明石「おっとここで赤城が仕掛けた! 踏み込んでの右フック! 足柄選手これを捌いてサイドに回ります!」
明石「赤城選手の追撃! 強烈なミドルキッ……いやカウンターで足柄のパンチが決まった! ジークンドーのリード・ストレートです!」
明石「顔面にもらいましたが、赤城選手、崩れません! 足柄選手も深追いはしないようです!」
大淀「赤城さんはギリギリで打点をズラしたみたいです。さすがに反応がいいですね」
明石「さあ、足柄選手が再びジリジリと距離を縮めていく! 赤城選手はやや後退! これは珍しい光景ですね」
大淀「赤城さんの圧力に気圧されず前に出られる選手はそういませんからね。さすがは足柄さんといったところです」
明石「あっ、足柄選手が踏み込んで行きました! またもや右のリード・ストレート! 赤城選手、流石にこれは上手くブロックします!」
明石「立て続けに足柄選手が手打ちのコンビネーションを重ねる! さすがの重巡級王者、積極的に手数を出していきます!」
明石「しかし、相手の赤城は立ち技王者! 鋭い前蹴りで反撃します! 足柄はバックステップで回避! 両者、大きく距離を取る形になりました!
大淀「お互い、攻めも守りも上手いですね。とても良い勝負になっていると思います」
明石「どうでしょう、ここまでの攻防で、どちらが優勢という印象はありますか?」
大淀「やや足柄さんが押している印象ですね。ジークンドーという見慣れないスタイルに、赤城さんが攻めあぐねているように見えます」
明石「確かに、なかなか赤城さんが積極的に仕掛けていきませんね。カウンターを警戒しているんでしょうか?」
大淀「だと思います。ジークンドーのリード・ストレートは前に構えた拳を腰の回転と共に突き出し、肘で相手の打撃を逸らしつつ当てる技です」
大淀「全身運動による急加速の拳を最短距離で放つわけですから、速度はジャブ、威力はストレートと同等。赤城さんも食らいたくないでしょう」
明石「なるほど。さあ、ここから足柄選手はどう料理していくのか、赤城選手は如何に現状を打破するのか?」
明石「おっと、再び赤城選手のローキック! 痛烈な音がしましたが、足柄選手も上手く受けました!」
明石「更に赤城がローキックを重ねていく! 利き足を潰そうという作戦でしょうか!」
大淀「反撃を貰わないよう、じわじわと壊すつもりなんでしょう。彼女のローキックは強力ですから、そう長く受け続けることはできません」
大淀「赤城さんがこういう手段を取った以上、足柄さんは積極的に出て行かざるを得なくなりましたね。さて、どう動きますか……」
明石「確かに、足柄選手の表情が幾分険しくなってまいりました。赤城選手、更にローキックを足柄選手の右足に叩き込む!」
明石「今のは太ももに入りました! これは効いたように見えます! 赤城選手優勢、足柄選手、反撃できません!」
明石「さあ再び赤城のローキッ……ああっ! これはっ、足柄選手が足払いを仕掛けました! 赤城選手、大きくバランスを崩します!」
明石「ローキックを繰り出した足が掬われました! 赤城選手後退! 足柄選手、好機とばかりに踏み込んでいく!」
明石「ジャブが赤城の顔面に入った! 更にコンビネーションが叩き込まれる! 今、レバー打ちがまともに入ったように見えます!」
大淀「足柄さんがペースを掴みましたね。ただ、中距離の打ち合いで足柄さんが赤城さんとどこまで張り合えるのか……」
明石「足柄選手のラッシュが止まらない! 赤城選手、防戦一方です! ガードを固めて辛うじて頭部と顎を守っています!」
明石「おっと、ここで足柄選手が後ろ回し蹴りを繰り出した! 赤城選手は辛うじてブロック! 逆に足柄選手の体勢がやや崩れる!」
明石「すかさず赤城選手が反撃の左フック! いや、捌かれた! 赤城選手の打撃がパリィで次々とはたき落とされていきます!」
明石「さすが足柄選手、赤城選手の拳を下がらずに捌き切っている! ここでカウンター! リード・ストレートが顔面に炸裂!」
明石「赤城選手がわずかにぐらつきます! 赤城選手が後退! 足柄選手は更に追い打ちをかける!」
明石「バックステップを取る赤城選手に、膝を踏み抜くような関節蹴り! あの鋼鉄の足にもこれは効いたか!?」
明石「赤城選手がサイドステップで逃れる! 足柄選手、更に畳み掛ける! 打撃のコンビネーションが次々と叩きこまれていきます!」
大淀「ここまで打撃のテクニックを磨いていたなんて……中距離の打ち合いなら足柄さんが上みたいですね」
明石「まさかの打撃戦で足柄選手、立ち技王者赤城を順調に追い込んでいます! 大淀さん、このまま押し切れると思いますか?」
大淀「優勢ではありますが、まだわかりません。さっきのリード・ストレートも関節蹴りも、大きなダメージは与えられなかったようです」
大淀「むしろ、赤城さんが徐々に足柄さんの打撃に慣れつつあるように見えます。まるで何かを狙っているような……」
明石「ムエタイファイターである赤城さんが狙うとなると、やはりカウンターでしょうか?」
大淀「それはないと思います。足柄さんが用いるジークンドーの打撃は手数とスピードに特化したものです。カウンターが取れるとは思えません」
大淀「もっと別の何か、赤城さんはそれを待っているような……」
明石「しかし、足柄選手の猛攻はまったく止む気配を見せません! 鮮やかなコンビネーションが赤城選手を確実に捉えています!」
明石「赤城選手はガードとフットワークで上手く凌いでいますが、確実に何割かの打撃は入っています! いつまでその動きが保つのか!」
明石「ここで足柄選手、サイドキックを繰り出しました! 赤城選手の胸に命中! コーナーへと大きくのけぞります!」
明石「更に追撃、いや足柄選手が懐へ飛び込んだ! 腕を赤城の首に掛けた、これは首投げの体勢! 足柄選手、テイクダウンを狙う気です!」
大淀「あっ、まず……」
明石「さあ、そのまま足柄選手が赤城選手を投げ……!? な、投げられない! 赤城選手、足に根が生えたように動きません!」
明石「首と腰の筋力で投げに耐えています! 体勢は完璧に見えたのですが、赤城選手は倒れず! そのまま組み合いにもつれ込みました!」
明石「これは足柄選手にとってまずい展開です! 首相撲になれば、もはや赤城選手の思う壺です!」
大淀「足柄さんはとにかく距離を取らなくてはいけません。赤城さんがあの投げを凌いだとなると、この距離では……」
明石「あっと、赤城が足柄選手の頭を押し下げた! 足柄選手の頭を抱え込む形になりました、赤城選手! この光景はあまりにまずい!」
明石「赤城の膝蹴りが繰り出される! ボディ! ボディ! 顔面! 今度は足柄選手が防戦一方、ガードし切れません!」
明石「戦慄の膝小僧がなおも足柄を襲う! 顔面! ボディ! 顔面、顔面、顔面! 足柄選手の顔があっという間に血に染まりました!」
明石「足柄選手、逃げられない! これで終わりなのか! 再び膝が……あっ、膝を抱え込みました! 足柄選手、膝の捕獲に成功!」
明石「赤城選手は片足立ちの状態になりました! 足柄選手、テイクダウンを奪うチャンスです!」
大淀「この機を逃したら二度とチャンスはないでしょう。ここでグラウンドに持ち込めれば……」
明石「さあ足柄選手がそのまま抱えた足を押し込みます! 赤城選手は倒れず、片足のままバックステップ! 驚異的なバランス感覚です!」
明石「フェンス際までもつれ込みました! ここで足柄選手、横に引き倒そうとしますが……た、倒れません!」
明石「赤城選手、片足立ちとは思えない抜群の安定感でスタンド状態を維持しています! 足柄選手は頭を抱え込まれたままです!」
大淀「まずい、足柄さんは今すぐ離れないと!」
明石「あっ、赤城選手が抱えた頭を更に押し下げた! 肘、肘です! 足柄選手の頭部、いや延髄に肘が振り下ろされます!」
明石「赤城選手、片足立ちのまま激しい肘打ちのラッシュ! 為す術もなく打たれ続ける足柄選手! まだ意識はあるのか!?」
明石「いや、まだ足柄選手は健在! 押し出すように膝を放しました! このまま距離を……ま、前に出ます! 足柄選手が踏み込む!」
明石「再びリード・ストレート! か、躱した! 赤城選手が躱しざまに足柄選手の懐に飛び込む!」
明石「き、決まったァァァ! とうとう姿を表しました! 肉薄した相手のこめかみを撃ち抜く、赤城のゼロ距離ハイキック!」
明石「魔の蹴りがキレイに足柄選手の側頭部に入りました! 足柄選手、ダウン! 崩れ落ちるようにリングへ倒れ伏します!」
明石「ま、まだ意識はあるようです! どうにか手をつき、立ち上がろうと……ああっ! な、何ということでしょう!」
明石「赤城選手が後頭部を踏み付けた! 何の躊躇もなく、足柄選手の頭を全体重を掛けて踏み抜きました!」
明石「足柄選手、激しく顔面をマットに叩きつけられます! 肉が潰れるような嫌な音が響きました! 血が、血だまりが広がっています!」
明石「ここでレフェリーストップが入りました! 試合終了! 勝ったのは赤城、赤城選手です!」
明石「果敢なファイトを見せるも、足柄選手、一歩及ばず! 暴君の手により緋色の海に沈んでしまいました!」
明石「やはり赤城選手、強い! 絶対的な打撃力、そしてテイクダウンへの対応力! 優勝候補の1人として、その実力を見せつけました!」
大淀「素晴らしいファイトだったと思います。足柄さんも大変良く健闘されていました。今回は相手が悪かったですね」
明石「惜しくも負けてしまった足柄選手ですが、敗因は何だったと思われますか? やはりあそこで投げを狙ったのは間違いだったのでしょうか」
大淀「それは難しい問題ですね。足柄さんが投げに入るために密着してくる瞬間を赤城さんが狙っていたのは確かですが……」
大淀「仮に打撃勝負を続けていても、打たれ強い赤城さんはいずれ足柄さんの動きに対応し、打撃でも足柄さんに打ち勝っていたでしょう」
大淀「それなら足柄さんはどこかで勝負に出るしかないのですが、そこを狙われたわけですから。やはり赤城さんは強い、と言わざるを得ません」
明石「なるほど、ありがとうございます。それではご観覧の皆様、勝者の赤城選手、並びに足柄選手の健闘を讃え、今一度拍手をお願いします!」
試合後インタビュー:赤城
―――展開としては赤城選手が打ち負けたように見えたシーンもありましたが、先ほどの試合に関してどのようなご感想をお持ちでしょうか?
赤城「あれは打ち負けたというより、リスク覚悟の様子見ですよ。足柄さんの打撃に慣れるのは時間が掛かりそうでしたから」
赤城「長期戦に臨む準備も出来てたんですけど、彼女が突っ込んできてくれて助かりましたね。おかげでキレイに終わらせることができました」
―――今まで対戦された選手と比較されて、足柄選手はどのように思いましたか?
赤城「テクニックやスピードはすごいですよ。下手に出るとすぐカウンターをもらっちゃうんで、序盤はだいぶ攻めあぐねましたね」
赤城「厄介な方ですけど……うーん、今までの人と比べたら、まあ5本の指には入りますかね。もっと強い人もいましたよ」
―――リベンジを希望されたら、対戦を受けますか?
赤城「もちろん受けますよ。もう彼女の技は大体わかりました。後は何度やっても私が勝つでしょうね」
赤城「まあ、私はもう誰にも負ける気はないんですけど。長門さんにも、扶桑さんにも、ね」
試合後インタビュー:足柄
―――残念ながら敗退となってしまいましたが、今の正直な心境を聞かせていただけますか。
足柄「……とても残念だし、悔しいわ。また初戦敗退だなんて……まだまだ戦い足りないのに」
―――赤城選手と実際に戦ってみて、どういう選手だと思われましたか?
足柄「そうね。人間味がないっていうか、何をしてくるのかわからない感じが凄くスリリングだったわ」
足柄「打撃戦で優勢だった間もずっと不安だったのよ。何だか全然効いてなさそうだし、このまま打ち続けると悪いことになる予感がして……」
足柄「それで一か八か投げを狙ってみたけど、ダメだったわね。あの体勢で首投げを耐えるなんて、どういう体の鍛え方をしてるのかしら」
足柄「あれだけやって勝てなかったってことは、それだけ彼女が強いってことなんでしょう。才能も鍛錬も、尋常じゃないレベルだと思うわ」
足柄「また戦ってみたいわね。それまでに、私もしっかり鍛え直しておかなくちゃ」
明石「さあ、初戦から激闘となりましたが、まだAブロック一回戦は3試合残っております!」
大淀「しかも次も優勝候補の選手による試合ですから。会場が更なる興奮に渦巻いているように見えますね」
明石「皆さん、次の対戦が待ちきれないのでしょう! それでは第二試合を開始いたします!」
明石「まずはこの方から入場していただきましょう! 赤コーナーより選手の入場です!」
試合前インタビュー:霧島
―――今回も一切格闘技の練習をせず大会に臨まれるそうですが、自信の程はどうでしょうか。
霧島「当然あります。格闘技の練習をしないのは、単に効率が悪いからです」
霧島「ライオンが狩りのためにロードワークや素振りをするかしら? しませんよね」
霧島「本当の闘争とは、闘争でしか学べないものなんです。それを今日も対戦相手に教えてあげるつもりです」
―――前回は打撃で敗北するという結果に終わっていますが、打撃の他に寝技、関節技対策などはお有りでしょうか。
霧島「ありません。そもそも、そんな局面に持ち込まれなければいいんです」
霧島「前回の私は、ちょっと気合が足りてませんでした。今日は万全ですから、以前のような醜態は絶対に晒しませんよ」
霧島「今回は前の大会以上に殴って、殴って、ひたすら殴るつもりです。グラウンドテクニックは必要ありません」
―――初戦の相手、武蔵さんも打撃中心のファイターです。どのように闘いますか?
霧島「もちろんブン殴ります。相手がどこの誰だろうと一緒です」
霧島「彼女は破壊王って呼ばれてるそうですけど、今日破壊されるのは彼女の顔面になるでしょうね」
霧島「今のうちに彼女の写真をいっぱい撮っておくといいですよ。私がグチャグチャに殴って、元の顔がわからなくなる前にね」
霧島:入場テーマ「KoRn/Right Now」
https://www.youtube.com/watch?v=VRPxao3e_jY
明石「メガネを外した霧島選手が会場に現れました! その表情に知性と呼べるものは跡形もありません!」
明石「その目は血と暴力に飢えた狂犬そのもの! 今、リングに上がろうとしているのは格闘家ではありません、ただの1匹の狂獣なのです!」
明石「技術などない! 数百の喧嘩で鍛え上げられた肉体と、実戦経験こそが武器! むき出しの本能が対戦者に襲いかかる!」
明石「格闘家どもに喧嘩の仕方を教えてやろう! ”血染めの狂犬” 霧島ァァァ!」
大淀「今大会唯一の格闘技未経験者ですね。空手やボクシングといった技術は何一つ練習したことがないそうで」
明石「何でも喧嘩の数は400を超えていて、毎日のように素手で海域に出て、深海棲艦を手当たり次第殴るというトレーニングをしているとか」
大淀「そこら辺の話は誇張されてる気がしないでもないですが、実戦に近いルールでの戦いなら強いということに異論はありません」
大淀「元はアマチュア格闘団体『OUTSIDER』の絶対王者兼看板ファイターだったのに、『強すぎる』という理由で追放されるほどですから」
明石「そこでよっぽどやらかしたという話ですね……」
大淀「彼女の武器はとにかく積極的に攻めてくることでしょう。掴みかかって殴ったり頭突きを食らわせたりと、喧嘩殺法で相手を追い込みます」
大淀「恵まれた運動神経も持っていますし、実戦で磨いた打撃と打たれ強さもあります。案外、攻防のバランスはいい選手なんです」
大淀「欠点はやはり技術がないことです。打撃戦で相手の攻撃を捌きながら攻めるような技術はありませんし、寝技に入られたらほぼ終わりです」
大淀「でも、スピードとパワーは申し分ないものを持っていらっしゃいますから。序盤から一気に攻めていけるかどうかが分かれ目ですね」
明石「ありがとうございます。それでは、青コーナーの選手入場! またもや優勝候補の登場です!」
試合前インタビュー:武蔵
―――前回は優勝候補と呼ばれながら1回戦敗退とい結果に終わってしまいましたが、今はそのことをどう受け止めていらっしゃるのでしょうか。
武蔵「前回の失態は当然の結果だったと私は考えている。あのときの私は傲慢で、愚かで、そして弱かった。ならば敗北して当然だ」
―――そのときと比べて、今のご自分をどう思われますか?
武蔵「あの敗戦から、私は自分を一から鍛え直した。一年前の私とは違う。生まれ変わったと言ってもいい。今の私は、あのときより遥かに強い」
―――今日までどのようなトレーニングを行ってきましたか?
武蔵「とにかく弱点を埋める練習に取り組んできた。具体的には、フットワーク、ディフェンス、タックルや寝技への対応、といったところだ」
武蔵「ファイトスタイルも大きく変えた。もう以前の猪武者のような闘い方は二度としないつもりだ」
―――今大会はご自身の名誉挽回が掛かっていると思いますが、その意気込みを教えて下さい。
武蔵「優勝以外は敗北に等しいと考えている。一戦一戦を全力で臨むまでだ」
―――初戦の霧島さんへの印象をお願いします。
武蔵「勇敢な戦士と聞いているが、野蛮な喧嘩殺法という話も聞く。となると、あるいは以前の私のような闘い方かもしれん」
武蔵「もし負けるようなことがあるなら、今までの私の費やした日々はなんの意味もなかったということになるな」
武蔵「一切油断はできない。彼女との闘いは、私にとってこの大会の試金石となるだろう」
武蔵:入場テーマ「FinalFantasyⅩ/Jecht Battle 」
https://www.youtube.com/watch?v=vGIswJBe9PU
明石「ヘビー級プロボクシング、4団体統一級チャンピオン、武蔵! 彼女が再びこのUKFのリングに舞い戻りました!」
明石「屈辱の初戦敗退から1年! 勝った扶桑選手はトップファイターの仲間入りをし、武蔵選手の評価は地に落ちたと言ってもいいでしょう!」
明石「しかし、彼女は帰ってきた! 汚名を返上するために、扶桑への借りを返すために! そして最強の艦娘になるために!」
明石「今宵もあの豪腕を目にすることができるのか! 大艦巨砲主義の集大成! ”破壊王” 武蔵ィィィ!」
大淀「いやーいい雰囲気出してますね。前回よりよく仕上がっていると思いますよ、彼女は」
明石「言われてみれば、今日の武蔵選手は前と比べて落ち着きがありますね。以前は闘志をむき出しにするタイプの方でしたが」
大淀「熱くなっては勝てない、ということを前回で痛感されたのでしょう。今回はどういう戦い方をされるか楽しみですね」
明石「霧島選手と武蔵選手ですと、やはりパワーと身長で勝り、ボクシングの技術もある武蔵選手が有利なのでしょうか?」
大淀「まあ、まともに行けば霧島さんに勝ち目はないと思います。ただ、不安要素があるとすれば武蔵さんですね」
明石「武蔵選手に何か弱点が?」
大淀「まだわからないんですけど、たまにあるんです。例えば、打撃のすごく強い選手が寝技で負けたのを機に、寝技の練習に重きを置き始める」
大淀「結果、打撃の練習がおろそかになってしまい、打撃も寝技も中途半端な選手が出来上がる、ってことはそんなに珍しいことではありません」
明石「武蔵選手もそういう中途半端な実力になってしまっているかもしれないと?」
大淀「もしかしたらの話ですけどね。彼女は豪腕に物を言わせたパンチのラッシュで相手を徹底的に打ち負かすファイトスタイルでしたから」
大淀「それはそれですごく強かったんです。それをどう変えたのか……多少心配なところがなくもないです」
明石「なるほど。それはきっと、リング上で明らかになることでしょう……さあ、両者リング中央で睨み合っています!」
明石「視線で射殺そうというかのような殺気を浴びせかける霧島! 武蔵選手はそれを平然と受け止めています!」
明石「さあ、この喧嘩屋とボクサーの戦い、如何なるものになるのでしょうか! 開始のゴングが鳴り響きました!」
明石「おっと、いきなり霧島が突っかけていった! 彼女に様子見という戦術はないのか!」
大淀「さすが怖いもの知らずですね。ボクサーに正面から殴り合いを挑む気ですよ」
明石「さあ霧島、助走をつけて殴りかかりますが、空振り! 武蔵選手、軽快なバックステップで躱しました!」
大淀「え? 今の動き……」
明石「しかし霧島が止まらない! 下がる武蔵に追いすがり、次々と拳を繰り出していく! その姿、まさに怒れる狂犬!」
明石「おっと、今度は前蹴りを繰り出しますが当たらない! それでもお構いなしに両腕が恐るべきスピードで突き出される!」
明石「野生の本能そのままのような猛攻! 目にも留まらないラッシュが更に武蔵選手を襲います……が……!?」
明石「こ、これはどういうことでしょう! 霧島選手の攻撃が、さっきからかすりもしない! さしもの狂犬も表情に戸惑いが浮かんでいます!」
明石「武蔵選手、鮮やかなフットワークで猛攻の全てを難なく躱している! 両腕をだらりと下げたまま、ガードを上げる気配すらありません!」
大淀「これは……躱しているというより、予め当たらない位置に移動しているという感じですね」
明石「えーと、それはつまり、霧島選手の攻撃を全て見切っているということでしょうか?」
大淀「はい。細かな初動や体重移動を見極めて、次の動きを予測しているんだと思います」
大淀「ディフェンスやフットワークを徹底的に磨いたと聞いていましたが、まさかここまでファイトスタイルを完成させているなんて……」
明石「あっ、霧島選手が胴タックルに行きました! しかし武蔵、これもヒラリと躱す! 完全に霧島選手の動きを見切っています!」
明石「とうとう霧島選手の攻め手が止まりました! スタミナ切れというよりは、あまりに攻撃が入らない混乱によるものでしょう!」
明石「ここまでの攻防で、武蔵選手は攻撃どころか構える気配さえありません! これは何を狙っているのでしょうか!」
大淀「……狙っているというより、観察している?」
明石「さあ、再び霧島選手が踏み込んでいきます! 何か作戦があるのか、あるいはただ無策に突っ込んで……ああっ!?」
明石「こ、これはっ!? 武蔵選手の右ストレートが顔面に命中! 霧島選手、フェンスに叩きつけられました! そのままマットに倒れ込む!」
明石「霧島選手、動かない! 動きません! あの打たれ強さを誇る霧島選手が、たった1発のストレートで完全沈黙!」
明石「試合終了! 最後の最後で豪腕の健在を見せつけました、破壊王武蔵! 勝者は武蔵選手です!」
明石「会場は戸惑いを隠せません! これがあの大艦巨砲主義の権化と言われた、武蔵選手の新たなファイトスタイルなのでしょうか!」
大淀「……私も驚いています。如何に武蔵さんの右ストレートが疾くても、正面からそれを打たれて躱せない霧島さんじゃないんですよ」
大淀「あれは完全に霧島さんの動きを読んで、攻撃の出だしを完璧に捉えないとできない芸当です。狙ってもできるような事じゃありません」
明石「しかし武蔵選手は実際にそれをやってのけています。今のは一体……」
大淀「……才能と練習量、と考えるしかありません。武蔵選手はこういう戦い方ができるよう、徹底的なトレーニングを積まれたのでしょう」
大淀「一体、どれほどの練習量をこなせばその領域に到達できるのか想像もつきませんが……とんでもないファイターが誕生してしまいましたね」
明石「試合前に大淀さんが仰られたのとは真逆の、テクニックとパワーを併せ持つパーフェクトファイター、ということでしょうか」
大淀「その通りです。今の試合では実力の底が見えないくらいでしたから……俄然、優勝候補としての期待が高まりますね」
試合後インタビュー:武蔵
―――序盤の武蔵選手は攻撃の意志が全く無いように見えましたが、あれも作戦だったのでしょうか?
武蔵「作戦というよりは、試運転だな。私の戦い方が実戦の場でどの程度通用するものなのか、一回戦目で試しておきたかった」
武蔵「霧島には悪いが、あいつには私の肩慣らしに付き合ってもらった。その気になれば、もっと早い段階で終わらせることもできたな」
武蔵「まあ、結果ほど彼女は悪い選手ではない。熱くならず、冷静に私の動きを見ることができていれば、あいつにも勝機はあっただろう」
武蔵「こういう終わり方は霧島にとっても納得できないだろう。再戦したければいつでも相手になる、と伝えておいてくれ」
―――先ほどの試合で見せたようなファイトスタイルに変えた、何か理由というのはありますか?
武蔵「ただ前に出るような戦い方では勝てないとわかったからな。かと言って、私が持っているのはボクシングの技術しかない」
武蔵「だから、どんな相手でも絶対に勝てるよう、ボクシングの技術を磨き直した結果、自然とああなった。まだ全てを見せたわけではないがな」
―――試合を終えてみて、手応えのようなものは感じられましたか?
武蔵「自信は確信に変わった。私は誰にも負けないし、必ず勝利する。相手が誰であろうと打ちのめしてみせる」
武蔵「もはや長門であろうと私には勝てない。このグランプリで優勝するのは、私だ」
試合後インタビュー:霧島
霧島「クソッ! 何なんだよあれは! 訳わかんねえ、あいつ、一体何をしやがったんだ!」
霧島「打っても全然当たんねえし、攻撃もして来ねえと思ってたらいきなりアレだ! 訳わかんねえよ!」
霧島「……オイ、テメエ! 何撮ってんだ、消えろ! ブチ殺すぞ!」
(霧島選手の取材拒否につき、インタビュー中止)
明石「さあ! 激戦が続いておりますが、3試合目にしていよいよ、今大会最大の注目選手と言ってもよい、彼女の出番がやって参りました!」
大淀「観客席もざわついてますね。前大会で、彼女のファンは爆発的に増えましたから」
明石「では登場していただきましょう! 第三試合、赤コーナーの選手の入場です!」
試合前インタビュー:扶桑
―――前大会では準優勝の座を勝ち取ったことで一挙に注目選手となった扶桑さんですが、プレッシャーというのは感じていらっしゃいますか?
扶桑「正直に言うと、すごく感じています。前回は本来の実力以上の結果を出せたと思っていますから……」
扶桑「今回もその声援に応えられるかどうか、不安でたまりません」
―――準優勝者であるにも関わらず、今回は出場そのものに大きな躊躇いがあったということですが、それはどうしてでしょうか。
扶桑「はい。前回の結果に満足して、闘いそのものを終わりにしよう、という気持ちがあったのは本当です」
扶桑「早い話が、もう引退してしまおうか……あれで終わりにしてしまうのが一番キレイな終わり方なんじゃないかと考えていました」
―――前回、扶桑さんの試合はすべてが名勝負と呼ばれ、特に決勝戦での長門選手との激闘は今でも語り草となっています。
扶桑「皆さん、そう言ってくれますけど……長門さんとの試合、本当は、あれは名勝負なんかじゃないんです」
扶桑「私、長門さんには全力で勝ちに行きました。やれることは全てやったと思います。それでも、まるで歯が立ちませんでした」
扶桑「あの闘いで自分の限界を感じました。もう、この大会以上の結果は出せない、と」
扶桑「それでも、周りに思われていたよりずっと良い結果が残せましたから。それでいいと思っていたんです」
―――それなのに、なぜ今回出場を決心されたのですか?
扶桑「きっかけは、妹の山城ですね」
扶桑「運営の方に出場を打診されて悩んでいたとき、『また出場する気ですか?』って聞かれたんです」
扶桑「悩んでるって答えたら、あの子、涙ぐんで『お願いだからもう出ないでください』って言うんです」
扶桑「こんなに心配させてたんだって心が痛んだんですけど、こうも思ったんです。ああ、この子はきっと、私が負けると思ってるんだわ、って」
―――それが、出場を決めた理由?
扶桑「はい。そう考えたら、その……すごく悔しくなってしまったんです」
扶桑「なんていうか、ただの意地ですね。妹にだけは格好つけたいんですよ、私」
扶桑「今度は絶対に優勝して、山城に言わせるんです。『お姉さまは強いですね』って」
―――初戦の加賀さんは初出場ながら天才と名高い選手です。自信の程をお聞かせください。
扶桑「そうですね。私なんかよりずっと才能があって、すごく強い人だと思います」
扶桑「だけど、私は思うんです。そういう相手にこそ、私は絶対に負けたらいけないんだ、って」
扶桑「根拠は別にないんですけど……私が勝ちます。絶対に」
扶桑:入場テーマ「Chthonic/Broken Jade」
https://www.youtube.com/watch?v=heF_NPJbv8Y
明石「かつての彼女の二つ名は『欠陥戦艦』! しかし、今や彼女をそう呼ぶ格闘技ファンは1人もおりません!」
明石「はるか格上のファイターを相手に、一歩も引かない鉄の意志! どんな逆境でも心を折らず、冷静に立ち向かう勝利への執念!」
明石「並み居る強敵を退け、勝ち取られた第一回UKF無差別級グランプリ準優勝の称号! しかし、彼女が欲するのはその程度ではありません!」
明石「今度こそは長門を倒し、優勝してみせる! 『欠陥戦艦』と呼ばれた彼女が今、最強の座へと挑む! ”不沈艦” 扶桑ォォォ!」
大淀「ファンからの声援がすごいですね。前回の活躍もあり、やはり彼女への期待は非常に大きいものがあるんでしょう」
明石「扶桑選手はそんな期待に対して『プレッシャーになる』と答えられていましたが、試合に及ぼす影響はありそうでしょうか」
大淀「ないと思います。扶桑さんって、本番に強いタイプですから、試合になればそういうプレッシャーも感じなくなるんじゃないでしょうか」
明石「なるほど。では、ここで少しだけ、扶桑選手が準優勝された前大会での活躍を振り返ってみましょう」
大淀「はい。まず、一回戦の相手は武蔵さんでしたね。格闘界でも随一のパワーファイターと恐れられ、優勝候補の1人と言われていました」
大淀「扶桑さんの勝ち目は全く無いという予想でしたが、蓋を開けてみれば開始30秒でKO勝ちという結果になりました」
明石「あれは凄かったですね。武蔵選手の猛攻を凌ぎつつ、大振りのストレートを放った右手に飛びついてからの三角絞めがキレイに入りました」
明石「そのまま頸動脈を極められて、武蔵選手は失神。誰もが予想しなかった大番狂わせでした」
大淀「二回戦目は霧島さんでしたね。彼女相手には、きっと寝技に引き込んで勝負すると誰もが思っていたでしょうが……」
明石「まさかの正面からの打ち合いでしたね。しかも互いにノーガードで、ひたすら顔面を叩き合う削り合いです」
明石「霧島選手が倒れた時には、扶桑さんも血まみれでフラフラになっていました。壮絶な試合となりましたね」
大淀「三試合目はある意味、霧島さんとの試合とは対照的でした。スタンドに秀でた赤城さんに、扶桑さんが一方的に打撃を浴びる展開です」
大淀「後で集計してみたところによると、扶桑さんが受けた打撃は200発を超えていて、ガードできなかったものは50にも及ぶそうです」
明石「これはもうダメだ、と思ったあたりから全く倒れなかったんですよね、扶桑さんは」
大淀「あれは驚きました。もう立っているのがやっとのはずなのに、いきなり赤城さんのストレートにクロスカウンターを決めるんですから」
大淀「ふらついた赤城さんを、そのまま背負い投げで頭から落としてKO勝ちです。あまりの出来事に会場は割れんばかりの歓声でした」
明石「そして決勝戦での長門戦ですが……これもまた凄かったです。いやもう、凄かった以外の言葉が出てきませんね」
大淀「はっきり言って、実力は完全に長門さんが上でした。それでも猛然と食らいついて行きましたね、扶桑さんは」
大淀「とにかくもう、何が何でも勝つ、という凄まじい執念を感じました。それを凌いで優勝した長門さんも化物なんですけれど」
明石「まさに死闘と呼ぶに相応しい決勝戦は『世紀の一戦』と今でも語り継がれ、扶桑選手をトップファイターに押し上げた一因となっています」
明石「不可能を可能にし、リング上で奇跡を起こす不屈のファイター扶桑! 立ち塞がる相手は彼女です! 青コーナーより選手の入場です!」
試合前インタビュー:加賀
―――加賀さんはこういった大会には批判的であるとのことでしたが、今回出場を決意されたのはどういった心境の変化でしょうか。
加賀「こういう大会に嫌悪感があることは否定しません。ですが前大会を観て、私たち一航戦の強さを改めて証明する必要があると感じました」
―――3回戦敗退となってしまった赤城さんの敵討、と捉えてもよろしいのでしょうか。
加賀「そういうつもりではありませんが、私の初戦は扶桑さんですから。結果としてはそうなるでしょう」
加賀「彼女には思い知っていただかなくてはいけません。私たち一航戦が、どれほどの強さを持つのかということを」
―――前回の結果を踏まえて、扶桑選手に対する印象を教えて下さい。
加賀「皆さん、扶桑さんをずいぶん持ち上げていますけど、私は彼女のことをそこまで評価していません」
加賀「確かに精神的な強さはあるのでしょうが、それだけです。赤城さんに勝ったのもまぐれに過ぎません」
加賀「彼女は私に一切のダメージを与えることなく敗れ去るでしょう。扶桑さんに勝機はひとつもありません」
加賀「扶桑さんには本来の二つ名を思い出していただきます。『欠陥戦艦』という、彼女に相応しい名前を」
加賀:入場テーマ「Emperor/I Am The Black Wizards」
https://www.youtube.com/watch?v=4ACxklBLUqI
明石「天才! その言葉は今や、彼女のためにある言葉だと言う専門家さえいます! それほどまでに彼女の実力は計り知れない!」
明石「地獄から来た無敵の戦闘集団、一航戦! 才能においてなら赤城さえ上回ると言われた彼女が、ついに実戦の場に現れました!」
明石「我々が目撃するのは一体何か! 奇跡か、神秘か! それとも見ることさえ叶わないのか! ”見えざる神の手” 加賀ァァァ!」
大淀「彼女についての前情報はあまりないんですけど、かなり期待の持てる選手であることは確かでしょうね」
明石「聞くところによると、加賀選手の流儀は合気道だとか。大淀さんから見て、合気道とはどのような格闘技でしょうか?」
大淀「極めればとてつもなく強い反面、極めるのに膨大な時間がかかる、というのが私の考えです」
大淀「合気道の極意を完璧に習得し、実戦で扱えるまでの実力を得るのに、頑張っても5,60年かかると言われているほどですからね」
明石「うわあ。幼少期から始めても、達人になる頃には老人ですか。それはちょっと長すぎますね」
大淀「ですが、加賀さんはその合気道をすでに実戦レベルで扱えるそうです。それが本当なら、とんでもない才能ですよ」
明石「実際、彼女は道場内での組手では10人相手でも倒せないという話ですね。ちょっと胡散臭い話でもありますが……」
大淀「合気道は幾人もの偽物が現れたせいで実戦性がないと思われがちですが、源流は武士たちが合戦の中で編み出した古流柔術にあるわけです」
大淀「いわば、最古の戦場格闘技の発展形であり、その技術は人体のメカニズムに則り、実戦におけるあらゆる場面を想定したものばかりです」
大淀「それを演舞でなく実戦で使うのは大変難しいのですが、極めれば相当な強さになることは確かです。扶桑さんがそれにどう対応するか……」
明石「あ、そういえば扶桑さんのファイトスタイルの解説がまだだったので、それもお願いします」
大淀「そうでしたね。彼女は空手と柔道をバックボーンにした、打、極、投のバランスの良いトータルファイターです」
大淀「反面、スピードと決め手になる技に欠け、トップクラスのファイターと比べると中途半端で見劣りする、というのが以前の評価でした」
大淀「しかし、彼女の武器は技やフィジカル面ではなく、精神的な強さにあります」
大淀「どんな逆境に陥っても冷静さを失わず、相手を観察しながら勝機を探り、ここぞというところで確実に決める、絶対的な勝負強さ」
大淀「その意外性が彼女の最大の武器ですね。UKF参戦初期は敗戦も多かったものの、今は基本技術にも磨きを掛け、隙のない実力の持ち主です」
大淀「多くの逆境を乗り越えた扶桑さんと、天才合気道家の加賀さん。これは面白い展開が期待できるのではないでしょうか」
明石「ありがとうございます。さあ、両選手リングイン! 2人の表情は冷静そのもの! まるで互いの心境を探り合っているかのようです」
明石「互いに視線を切りません。まるでゴングの鳴る前からすでに試合は始まっていると言わんばかりの緊張感!」
明石「両者、ニュートラルコーナーに戻ります。さあ、ゴングが鳴りました! 試合開始です!」
明石「加賀選手、半身に開手を中段に突き出した合気道の構え! 対する扶桑選手はガードを上げた空手の構えで詰め寄ります!」
大淀「扶桑さん、まずは様子見を兼ねて打撃で攻めるつもりですね。相手の出方がまだわかりませんから」
明石「徐々に両者、間合いを詰めていく! 先に仕掛けるのはどちらか……あっ、加賀選手が飛び込んだ!」
明石「扶桑選手は肘で迎撃、いや躱された! 入り身投げが決まりました! あっさりとマットに転がされ……なっ、加賀選手が踏みつけた!」
大淀「うわっ、これは……」
明石「転がって躱します、扶桑選手! どうにかダメージを負わずに立ちました。加賀選手、同胞の赤城選手を思わせるまるで容赦のない攻撃!」
明石「更に加賀選手が間合いを詰める! 扶桑選手が反撃の突きを……いや、取られた! 小手返しが決まった! マットに引き倒される!」
明石「素早く逃れて立ち上がります! しかし今度は加賀選手、襟を取った! ああっ、投げられた! 扶桑選手が弧を描いて宙を舞う!」
明石「マットに叩きつけられますが、またしても扶桑選手、素早く起きる! 起きざまに蹴りを……これも取られた! また転がされます!」
明石「加賀選手が流れるように腕を固めに行く! 扶桑選手、身を捩って脱出するものの、立たせてもらえない!」
明石「扶桑選手が足を開いた! このままガードポジションに、いや離れました! 加賀選手はグラウンド勝負に付き合う気はないようです!」
明石「扶桑選手も応じて立ち上がります! それをただ待つ加賀選手、終始試合のペースを握っています!」
大淀「あー、今ので寝技に引き込めれば扶桑さんにチャンスが回ってきたんですが……」
明石「さあ、スタンドからの再勝負となりました! 今度はどちらが先に仕掛けて行くのか!」
明石「あっ、加賀選手が詰めた! 扶桑選手が膝……ああっ、また仰向けに倒された! 扶桑選手が音を立ててマットに叩きつけられます!」
明石「そこに加賀選手、無情の踏み付け! どうにか躱しました、扶桑選手! 扶桑選手がまるで反撃できません!」
明石「ここまで一方的な展開です! あの扶桑選手が難なくマットに転がされています!」
明石「加賀選手、まさに『見えざる神の手』! 扶桑選手がまるで、何者かの巨大な手に振り回されているよう!」
明石「再びスタンド状態で対峙! 今のところ、扶桑選手が大きく劣勢という展開に見えますが、大淀さんはどう見られますか?」
大淀「加賀さんの投げ、すごいえげつないですよ。普通の合気道じゃありません」
明石「普通じゃない? 合気道の投げというと、ああいう感じかと思うのですが……」
大淀「あんなに扶桑さんがあっさり投げられているのはですね、扶桑さんが柔道黒帯で、投げに対する受け身に慣れているからなんです」
大淀「合気道の投げは、本来相手を傷つけることなく制圧することを目的としています。ですが、加賀さんの投げはそうじゃありません」
大淀「加賀さんは投げるときに関節を折ろうとしたり、頭を床に打ち付けようとしています。相手に受け身を取らせまいとしているんですよ」
大淀「下手に抵抗すれば致命傷を負う、だから扶桑さんは受け身を取るためにわざと投げられているんです。並の選手なら最初の投げでKOですよ」
大淀「挙句の果てに、投げてから踏みに行くなんて合気道じゃ考えられません。彼女の戦い方は邪道と呼ばれる部類に入るでしょうね」
明石「ならば、見かけよりこの試合は切迫したものなのでしょうか?」
大淀「いえ、扶桑さんの圧倒的不利に変わりはありません。柔道技は通用しないでしょうし、打撃もことごとく投げに繋げられてしまっています」
大淀「多分、扶桑さんは1度でも受け身をミスればそれで終わってしまうと思います。かなりの綱渡りになりますよ、これは」
明石「なるほど……さあ、扶桑選手が再び打撃で攻め始めました! ジャブとローキックを小刻みに放って牽制します!」
明石「しかし加賀選手、間合いを見切って当たらな……いや、投げた! 腕の突き出された瞬間を捉えられました!」
明石「またしても投げ落とし! 更に踏み付け! 彼女の合気はまるで人体破壊を前提としているかのようです!」
大淀「多分、加賀さんは合気道の実戦的な部分だけを徹底的に取り入れたんです。優しく相手を倒す技なんて知らないんでしょう」
明石「辛うじて致命傷だけは避けているものの、扶桑選手、危うい場面が続いています!」
明石「扶桑選手には、ここから逆転するプランが有るのでしょうか? 今のところはかなり追い込まれているように見えます」
明石「重大なダメージはないにせよ、扶桑選手はすでに息が上がりつつあります。対する加賀選手は汗ひとつ掻いていません!」
明石「扶桑選手、ここからどう攻める! 打撃か、それとも一か八か寝技へと引きこむのか!」
大淀「加賀さんの打撃反応の速度が半端ではないので、打撃を当てるのは少々苦しいですね。かと言って寝技に持ち込めるのかどうか……」
明石「おっと、扶桑選手は今一度打撃戦を仕掛けるようです! フェイントのジャブを加賀選手の顔面へと連打!」
明石「更にローキック、これもフェイント! 正拳突き……いや、これもフェイントです! これは打撃の幻惑作戦か!?」
大淀「加賀さんの実戦経験を考えると、これはいい手です。こういう打撃の応酬には慣れてないはずですから」
明石「さあ、加賀選手はフェイントに動じている様子はありません。これは見切っているからなのか、それとも反応できていないのか!」
明石「再び左ジャブが二連打! これもフェイント! いずれ放たれる本物の打撃を、加賀選手は見きることができるのか!」
明石「今度はローキックのフェイ……いや上段突きを繰り出した! なんと加賀選手、これを片手で掴み止めた!」
明石「掴んだ手首を離さない! そのまま片手で捻った! こ、これは……扶桑選手が片膝を突きました! 苦悶の表情が浮かんでいます!」
明石「まさか、動けないのでしょうか!? 加賀選手、片手だけで関節を極めています!」
大淀「これは……最悪です。加賀さん、あの体勢で扶桑さんの右腕の関節、全部極めてます。下手に動いたら確実に折れます」
明石「ということは……扶桑選手はもう、この状態から動けないということですか?」
大淀「……そうですね。レフェリーもそれを察し始めています。これではもう……」
明石「あっ、扶桑選手が動きました! 左手をマットに着いて、カポエラのような逆立ちキック! わずかに加賀選手の顔面を掠めます!」
明石「蹴りは躱されましたが、加賀選手が離れます! 扶桑選手、立ち上がりました! 立ち上がりましたが、これは……!」
明石「右の手首が力なく垂れ下がっています! 明らかな手首の脱臼! とうとう致命的なダメージを負ってしまいました!」
大淀「今の蹴りは苦肉の策だったんでしょう。脱出はできましたが……そのせいで、右の手首は完全に外れました。この試合では死に腕ですね」
明石「ふ、扶桑選手に試合続行の意思が見られるため、レフェリーストップは掛かりません! しかし、この状態では……」
大淀「絶体絶命ですね。片腕になれば打撃も柔道技も大幅に制限されます。扶桑さんがこの状態にも関わらず、加賀さんは未だ無傷です」
大淀「それでも勝機があるとするなら、扶桑さんの表情に、勝負を捨てている感じがまったくないという点だけでしょう」
明石「た……確かに! 外れた右手を道着の中に仕舞いこむ、その表情は苦悶に歪みつつも、未だ闘志の炎が揺らめいています!」
明石「扶桑選手には未だ勝算あり! 一体、満身創痍のこの状態で、いかに加賀選手を仕留めようと言うのか!」
明石「さあ、加賀選手が止めを刺そうとすり足で詰め寄ります。扶桑選手は……おっと、自らマットに腰を下ろしました!」
明石「左手を床に付けて、加賀選手を見上げている! 加賀選手は攻めて行きません!」
明石「これはいわゆる『猪狩アリ状態』! 扶桑選手にとって、これは現状の打開策に成り得るのでしょうか!」
大淀「あーなるほど。これはいい手だと思います。立ってて倒されるなら、最初から倒れておけばいいという簡単な話です」
大淀「古流柔術は大抵そうですが、合気道にも寝ている相手に仕掛ける技はありません。戦場だと倒れれば終わりだと考えられていますから」
大淀「ですが、現代格闘技には寝技があります。加賀さんはこれをどう攻略しますかね」
明石「確かに加賀選手、かなり攻めあぐねている様子! ギリギリまで間合いを詰めて、そこから近づけません!」
明石「あっ、扶桑選手が寝たまま蹴り付けました! 加賀選手の膝にヒット! これは少々効いたか!」
明石「やや加賀選手に苛立ちの色が見えます! おそらくは得意の踏みつけに行きたいところなのでしょうが……」
大淀「扶桑さんの狙いもそれでしょうね。踏みに来れば、そのまま膝関節に持っていけますから。加賀さんもそれを察しているんでしょう」
明石「さあ、完全に膠着状態に入りました。あっ、ここでレフェリーストップ! レフェリーから扶桑選手に対して警告が入ります!」
大淀「やっぱりそうなりますよね。このままだと泥仕合になりますから……」
明石「おっと、加賀選手にも警告が出されました! 攻めて行かなかったことが消極的だと判断されたようです!」
明石「これには加賀選手、かなり気分を害した様子! 険しい表情でレフェリーの妖精さんに詰め寄って行きます!」
大淀「総合格闘に慣れた選手なら、あの状態でも色々攻め方はあるんですけどね。ローキックだとか、ジャンプして踏みつけだとか」
大淀「自分からガードポジションに入っていくのも1つの手です。ですが、加賀さんにそういう技はないでしょうからね」
明石「思わぬ部分で加賀選手の試合経験の無さが響きました。抗議は認められず、両選手警告1回により、100万円ずつの罰金です!」
明石「さあ、試合が再開されました! クールで知られる加賀選手の表情が明らかに穏やかではない!」
大淀「相当イラっとしたんでしょう。ここで熱くなると扶桑さんの思う壷ですが……」
明石「対して、扶桑選手は冷静そのもの! 今度はどう出るか……ああっ、またリングに座りました! 足を突き出して、再び猪木アリ状態!」
明石「これには加賀選手も激昂! 何かを叫んでいます! どうやら『立て!』と言っているようです!」
明石「扶桑選手、これに応じる気配なし! 唯一動く左手をこまねいて加賀選手を誘っています!」
明石「観客席からもブーイングが起こっています! あちこちから『立って闘え!』という罵声が浴びせられています!」
大淀「いやーよくやりますね、扶桑さん。もうファンの期待とか何も気にしてないですよね」
明石「試合の流れが大きく変わってきました! ここから加賀選手がどう動くかで全てが決まります!」
明石「容易に動けば扶桑選手の術中! さあ、何をする!? 踏み付けか、それともあえて寝技に挑むか!?」
明石「……動かない! 攻めていけません、加賀選手! やはりグラウンド勝負には踏み込めない!」
大淀「多分、それも正解ではあります。わざわざ相手の罠に引っかかりに行くメリットもないでしょうから」
明石「ここでレフェリーストップ! 再度、両選手に警告が入ります! これで両者、勝敗にかかわらず計200万円の罰金が決定です!」
明石「あっ、見てください加賀選手の表情を! 鬼のような形相です! 玲瓏で知られる加賀選手の、こんな表情を見られるとは!」
大淀「うわ、もう完全にキレちゃいましたね、加賀さん。ここからは殺す気で扶桑さんに仕掛けていくと思いますよ」
大淀「3回目の警告で失格ですから、扶桑さんはもうさっきの作戦は取れません。再びピンチになってしまうかもしれませんね」
明石「やはり扶桑選手は猪木アリ状態から加賀選手に仕掛けさせて、そこから勝負を決めるつもりだったんでしょうか?」
大淀「少なくとも、プランの1つではあったと思います。一番安全で確実な方法ですから」
大淀「ですが、ここから何をしようとしているかは……ちょっとわかりません。どう出ますかね」
明石「さあ、試合再開! 加賀選手の放つ殺気が尋常ではない! 並の選手なら目を合わせただけでギブアップしてしまいそうなほどです!」
明石「再開のゴングと同時に加賀選手、やはり詰め寄……あっ、扶桑選手が先に仕掛けた!」
大淀「うそっ!?」
明石「こ、これは!? 加賀選手がダウン、ダウンです! 失神はしていませんが、完全に脳震盪を起こしています!」
明石「驚きました、開始直後に扶桑選手、いきなりの胴廻し回転蹴り! この局面で大技が飛び出しました!」
大淀「ビックリした、あんな技を持っていたなんて。加賀さん、踵が頭部にクリーンヒットしてしまいましたね。このダメージは深刻でしょう」
明石「扶桑選手、そのままマウントを取りました! あっ、加賀選手が動いています! まだ意識はある模様!」
大淀「あっ、まずいです。扶桑さんは右手首が……」
明石「扶桑選手の襟を取りました、加賀選手! 引き込んで打撃を防ぐつもりか……いや、違う! 道着に仕舞われた右手首を狙っている!」
明石「外れた手首を両手で捩じ上げています、加賀選手! これは痛い! 扶桑選手の顔が苦痛に歪む!」
明石「しかし、扶桑選手がお構いなしに拳を振り上げた! 左の鉄槌打ちが加賀選手の顔面に叩き込まれる!」
明石「1発! 2発! 加賀選手の顔面が腫れ上がる! それでも掴んだ右手首を離さない! これは我慢比べの様相を呈してきました!」
明石「捻る加賀選手! 拳を振り下ろす扶桑選手! 一体どちらが先に音を上げるのか!」
明石「あっ、加賀選手が左手を離しました! さすがに顔面への打撃は応えた様子、左腕を顔面へのガードに回します!」
大淀「扶桑さんは結構パワーがありますからね。あの体勢でパウンドを貰えば、すぐに限界が来るのは当然でしょう」
明石「片手をガードに回しても、もう片方の手は扶桑選手の外れた右手首を相変わらず捻っています! うわっ、道着に血が滲んできました!」
明石「これは凄まじい激痛のはず! それでも扶桑選手の打撃が止まない! ガード越しに拳が雨あられと……あっ、体勢を変えた!」
明石「加賀選手が腕を取られた! ガードしていた方の腕です! 流れるような動きで扶桑選手が体をひねる!」
明石「う、腕十字が入ったァァァ! 扶桑選手、片手で加賀選手の左腕を極めました!」
明石「これは完全に入っている! 加賀選手、身動きが取れない! まさか、加賀選手が関節を取られるとは!」
明石「このまま終わってしまうのか……あっ、加賀選手がマット上を叩いています! タップです、タップアウトしました!
明石「レフェリーが止めに入ります! 試合終了! 決まり手は腕十字による、加賀選手のギブアップです!」
明石「序盤では圧倒していたはずの加賀選手、屈辱の逆転負け! 扶桑選手、トップファイターとしての矜持を見せつけました!」
大淀「加賀さんにとっては大変遺恨の残る結果に感じているでしょうね。技量では完全に勝っていましたから」
明石「そうですよね。最初の内はむしろ、扶桑選手が相手にならないという感じでした」
大淀「加賀さんの敗因は2つですね。総合ルールによる試合経験の不足、そして精神面です」
大淀「扶桑さんはルールを利用して上手いこと加賀さんから冷静さを奪い、奇襲を成功させ、マウントの攻防に持っていくことができました」
大淀「本当なら手首を外された激痛で、そんな作戦は立てられないはずなんですけどね。その精神性がやはり扶桑さんの強みでしょう」
大淀「しかも外された手首を血が滲むほど拗じられながら殴り続け、関節を仕掛けるなんて。メンタルの強さが尋常じゃありません」
明石「あの胴廻し回転蹴りも凄かったですね。UKFの舞台では滅多にお目にかかることのない大技ですし」
大淀「はい。あれは躱される確率と外した時のリスクが大きすぎますから。立ち技限定の試合でない限り、やろうとする人はいないはずです」
大淀「だからこそ扶桑さんは切り札として、あの技を密かに磨いていたんでしょう。さすがの戦いぶりでした」
明石「確かに、熟練のファイターらしい戦いぶりでした。扶桑選手、丁寧にお辞儀をしてリングから降りていきます」
明石「加賀選手はそれに目も合わせません。苦々しげな表情で退場して行きます。扶桑選手、また1つ一航戦に因縁を作ってしまいました!」
大淀「加賀さんにも色々思うところはあるんでしょうけど、敗けは敗けですから。それは素直に受け止めて、成長の糧にしてほしいですね」
試合後インタビュー:扶桑
―――加賀選手と戦ってみた感想をお聞かせください。
扶桑「……怖かったです。地力では完全に私が敗けていたと思います。この人相手には何をやっても勝てないんじゃないか、とすら感じました」
―――序盤の展開では打撃にこだわっていたように見えましたが、あれも作戦の内だったんでしょうか?
扶桑「あれは……本当のところを言うと打撃勝負へ逃げようとしていました。組み技で勝負するのが怖かったので……」
扶桑「その結果、腕を極められてしまったんですけど、それがむしろ僥倖でした。あの痛みで吹っ切れたんです」
扶桑「右腕を捨てる覚悟を固めてからは、ずっと冷静でいられました。やっぱり私、追い込まれないと力が出ないみたいですね」
―――試合の結果に対して、今はどのようなお気持ちですか??
扶桑「今回はちょっと、卑怯な手を使ったと自分でも思っています。あんな戦い方を見せてしまって、応援してくれた人に謝らないといけません」
扶桑「でも、勝ちたかったんです。そのためなら、使える手段はどんな手でも使うって決めてましたから……どうか許してくれると嬉しいです」
―――今後の試合に対する意気込みを教えて下さい。
扶桑「正直、不安です。さっきの試合で出した胴廻し回転蹴りは、私がこの大会のために用意したとっておきでしたから」
扶桑「それを1回戦から使ってしまうことになるなんて、先が思いやられます……すみません、何だかブルーになっちゃいましたね」
扶桑「えっと、大丈夫です。私、必ず優勝しますから。皆さん、どうか応援してくださいね」
試合後インタビュー:加賀
―――惜しくも敗けてしまいましたが、試合後の感想をお聞かせいただけますか?
加賀「……納得いきません。あんな汚い戦い方で敗けて、しかも罰金まで払わされるなんて」
加賀「実戦なら私が勝っていました。あれで私が敗けたことにされるなんて、認められません」
―――試合終了時にはご自分からギブアップされていましたが、そのときはどういう心境だったのでしょうか。
加賀「……は? 何ですか、ギブアップって。そんなこと、私がするはずありません。審判が勝手に試合を止めたんです」
―――明らかにマット上を手のひらで叩いてらしたように見えました。映像でも確認できるかと思いますが。
加賀「……覚えていません。もういいでしょう、出て行ってください。不愉快です」
(加賀選手の取材拒否により、インタビュー中止)
明石「激闘の3試合が続き、Aブロックも残り1試合となりました! 第四試合を開始させていただきたいと思います!」
大淀「この試合はまったく予想が付きませんね。一体、何が起こるのか……」
明石「私もどうなるのかドキドキしています。では赤コーナーより、選手の入場です!」
試合前インタビュー:日向
―――UKF戦艦級王者を長門選手に奪われて久しいですが、今大会に向けての心境を教えて下さい。
日向「もちろん、今度こそ王者の座を取り戻すつもりさ。長門を含め、全ての選手に勝利してね」
日向「今は打撃も練習しているし、柔術にも磨きを掛けた。コンディションは万全さ」
日向「伊勢も応援に来てくれていることだし、無様な姿は見せられないね。相手には何もさせずに勝たせてもらうよ」
―――対戦相手の比叡選手についてはどう思われていますか?
日向「うーん……正直に言って、なぜ比叡がこのグランプリに出場しているんだ? 私はてっきり、榛名と間違えているんだと思っていた」
日向「彼女には悪いが、私の敵じゃないよ。比叡は戦い向きの性格じゃないし、まだまだ鍛錬が足りない。相手としては物足りないな」
日向「まあ、1回戦を楽に勝ち上がれると思えば、そう文句を言う理由もないんだがな」
日向:入場テーマ「Cradle Of Filth/Cthulhu Dawn」
https://www.youtube.com/watch?v=o4iJJceQmkI
明石「艦娘格闘界最高峰、UKFはこの艦娘から始まった! そう言っても過言ではないでしょう!」
明石「未知の寝技テクニックで並み居る強敵たちを次々と瞬殺! 戦艦級絶対王者とは、そう! 最初は彼女のことを指す言葉でした!」
明石「長門さえ現れなければ、今も私がチャンピオンだったはず! 今日こそは貴様から、チャンピオンベルトを奪い返す!」
明石「初代戦艦級王者、その恐ろしさを改めて思い知るがいい! ”戦慄のデビルフィッシュ” 日向ァァァ!」
大淀「長門さんの登場によって、その影に隠れてしまった日向さんですが、彼女が強者であることは全く変わりないですよ」
明石「日向選手はUKFで最初にブラジリアン柔術を持ち込んだことで有名な選手ですね」
大淀「はい。当初の総合格闘にはグラウンド勝負という概念自体がないに等しい状況でしたから」
大淀「相手の胴を足で挟み込み、ガードポジションに引きずり込んで何もさせないまま料理する。それが彼女の闘い方でした」
大淀「当初のUKFでそういう技に対処する戦法が確立されていませんでしたから、多くの選手が為す術もなく彼女の手足に絡め取られていきました」
明石「今は日向さん、及びブラジリアン柔術に対する研究が進み過ぎて、彼女にとっては闘いにくい状況になってしまいましたね」
大淀「それは否めませんね。柔術にどう対処するかが総合格闘の基本技術になってしまいましたから」
大淀「そのため、今のUKFではどちらかと言うと、テイクダウンに対処できる立ち技に秀でたファイターの活躍がメインになりつつあります」
大淀「ただ、最近の日向さんも、その傾向に追いついて来ています。打撃を磨き、相手を寝技に引き込む技術もより洗練されています」
大淀「UKFでは古株ながら、常に成長し続けるファイターですので、もしかしたら、彼女も優勝候補に匹敵する実力を持っているかもしれません」
明石「ありがとうございます。それでは、問題となる青コーナーの選手の入場です!」
試合前インタビュー:比叡
(取材完全拒否につき、インタビューなし)
比叡:入場テーマ「新機動戦記ガンダムW/思春期を殺した少年の翼」
https://www.youtube.com/watch?v=BGwU363ZAaI
明石「両腕を高々と挙げて登場しました! 比叡選手、ブーイングと歓声の両方に笑顔で応えております!」
明石「彼女はお笑いブームに乗じてお笑い芸人となり、あらゆるバラエティ番組に出演し、お茶の間に笑いを届ける人気雛壇芸人でした!」
明石「しかし、お笑いブーム終焉と共に仕事が激減! そこで彼女は心機一転し、姉妹たちと同じ、憧れだった格闘家へと転向しました!」
明石「勝つときは勝つ! 敗けるときは悲惨なほどに敗ける! 本来はグランプリに出場できるキャリアではありませんが、今回は話が違う!」
明石「中国の奥地に単身で踏み入り、丸一年に渡る謎の修行! その内容は我々大会運営側にも一切明かされていません!」
明石「期待と不安が渦巻く中、彼女は一体リング上で何をしでかすのか! ”蛇蝎の瘴姫” 比叡ィィィ!」
大淀「……ちょっとカメラさん、手をアップで写してくれませんか。どうなってます?」
明石「えーカメラさん、お願いします……普通ですね。バンデージも必要以上には巻いてませんし……」
大淀「別に変わったところはないですか。うーん……」
明石「まあ、大淀さん。とりあえず比叡選手の解説をお願いします」
大淀「あ、はい。比叡さんは比較的最近デビューされたファイターですね。ボクシングと、総合格闘技ジムでトレーニングされてきたそうで」
大淀「実力としては、金剛四姉妹と同じく運動神経がよく、スピードと勢いがありますね。ペースに乗れば調子よく勝てることもあります」
大淀「ですが、やはりまだテクニックは未熟ですし、寝技への対応能力もほとんどありません」
大淀「何より、追い込まれると簡単に崩れてしまうメンタルの弱さが致命的ですね。はっきり言って、グランプリ出場者では最弱でしょう」
明石「もともとは榛名選手が出場する予定でしたからね。彼女が辞退と共に比叡選手を推薦してきたので、こちら側も仕方なく……」
大淀「まあ、まともに行けば勝ち目があるかどうかより、日向選手がKOを決めるまで何秒かかるか、という話になると思います」
大淀「問題は、中国でしてきたという1年間の修行ですね。これが全くの未知数です」
明石「帰国の際には青葉さんが取材に行っていたんですが、その場ではとうとう比叡選手を見つけることができなかったそうです」
明石「そのときに適当に撮った写真の中に、比叡選手によく似た髪型の人物が写り込んでいたのですが、これがまたわからないんですよね」
大淀「何でも、すごくおかしな変装をしていたと聞いていますよ」
明石「ええ。全身、もこもこに厚着してて、見たこともないような大きなマスクを着けてて、手にはゴム手袋をはめていたそうです」
大淀「もう怪しさ丸出しですよね。しかも、帰国からこの日の間に比叡さんを見た人はいないんでしょう?」
明石「はい。姉妹の方々も会っていないとか……どう思います?」
大淀「……ゴム手袋がすごく気になりますね。いわゆる、その……」
明石「毒手、ですよね。そもそも実在するんですか?」
大淀「実在するとは聞いていますよ。中国にはそういう、毒物を体に仕込む技術がまだ脈々と受け継がれているそうなので」
大淀「ただ、見たところ手は普通ですね……そういう毒手もあるのかもしれませんが」
明石「もし本当に毒手なら、日向選手といえども勝敗は危ういでしょうか?」
大淀「いいえ。まさか、触れた瞬間に全身に回る毒もないでしょうし、一瞬で絞め落とせば毒手も何も関係ないでしょう」
大淀「ただ、まあ……何が起こるのか、不安ではありますね」
明石「とにかく、試合の方に集中しましょう……今、両者ルール確認を終え、ニュートラルコーナーに戻りました」
大淀「2人ともいつも通りですね。日向さんは落ち着いていて、比叡さんは若干緊張気味です」
明石「さあ、ゴングが鳴った! 試合開始と共に、両者飛び出して行きます!」
明石「まずは日向選手、ボクシングの構えを取った! これは比叡選手の打撃に付き合おうというのか!?」
大淀「日向さんは打撃としてボクシングの練習に励んだそうですから、立ち技でも比叡さんくらいなら問題なく勝てるでしょうね」
明石「対する比叡選手は……おおっと、なんだこれは! 奇妙な構えを取っているぞ!」
明石「この上半身を揺らし、二本貫手を突き出した構えは……まさか、蟷螂拳!?」
大淀「えー……まさか、1年の修行で習得してきたのがこれ?」
明石「さあ、ゴングが鳴った! 試合開始と共に、両者飛び出して行きます!」
明石「まずは日向選手、ボクシングの構えを取った! これは比叡選手の打撃に付き合おうというのか!?」
大淀「日向さんは打撃としてボクシングの練習に励んだそうですから、立ち技でも比叡さんくらいなら問題なく勝てるでしょうね」
明石「対する比叡選手は……おおっと、なんだこれは! 奇妙な構えを取っているぞ!」
明石「この上半身を揺らし、二本貫手を突き出した構えは……まさか、蟷螂拳!?」
大淀「えー……まさか、1年の修行で習得してきたのがこれ?」
明石「大淀さん、蟷螂拳とは大淀さんから見て、どういう拳法でしょうか?」
大淀「中国拳法の中では割りと実戦性が高い部類に入る流派ですよ。ただ、徹底的に指を鍛え込む必要がありますから……」
大淀「たった1年で二本貫手で相手にダメージを与えられるレベルに達することはできないはずです。比叡さん、何を考えているんでしょうか?」
明石「どうやら、日向選手も似たようなことを考えている様子です。その構えを怪しみ、仕掛けていきません!」
明石「比叡選手は逆に、闘志満々の笑み! それだけこの構えに自信があるのでしょうか!」
大淀「どうなりますかね、これ。比叡さんが何を隠し持っているのか……」
明石「おっ、ついに意を決したかのように、日向選手が間合いを詰めていく! 比叡選手は動かず、迎撃の構え!」
明石「さあ打撃戦となるか! まずは日向選手、牽制気味にジャブ! ジャブ! ジャ……あっ、タックルを仕掛けた!」
明石「比叡選手、タックルが切れない! クリンチの形になりました! 日向選手、自ら倒れてガードポジションに誘い込む!」
大淀「うわっ……」
明石「日向選手が足を絡ませた! 比叡選手、胴を挟み込まれ完全に捕獲完了! 腕も日向選手の脇にホールドされています!」
明石「これは完全に日向選手の勝利パターンです! ここから比叡選手、何ができるのか!」
大淀「ちょっと……これはひどいですね」
明石「大淀さん。さっき、私のとなりでうめき声を上げていましたが、あれは何に対してですか?」
大淀「いやですね、比叡さんのタックルへの対処と、クリンチからの攻防がちょっと……下手すぎて」
明石「ああ……やっぱりそうですよね。私にもそう見えました」
大淀「今もガードポジションから逃げも攻めもできそうにないですし……これ、もう時間の問題ですよ」
大淀「大丈夫ですか? 比叡選手の出場を認めた運営側の責任を問われそうな試合内容ですよ。榛名さんを見たかったファンも大勢いるんですし」
明石「ま、まあ、まだ試合結果は出ていませんから……あれ?」
大淀「どうかしましたか?」
明石「いや、レフェリーの妖精さんが……なんかリングで寝てるんですけど。何してるんですか、あの子」
大淀「うわ、試合が退屈だからって、リング上でお昼寝は止してくださいよ」
明石「えーお見苦しいところがあってすみません。今、レフェリーを交代しています。試合の中断はありません。実況に戻ります」
明石「現状、比叡選手はガードポジションで上になったまま、四肢の身動きが全く取れずにいます」
明石「対して、日向選手は組んだ足を徐々に引き上げ、首へと近付けていきます! 恐らく、狙うは三角絞めか!」
大淀「比叡さん、もうちょっと頑張ってくれませんかね。これ、生放送だからカットできないんですよ」
明石「さあ比叡選手、大淀さんの冷たい叱咤が聞こえたかのように猛然と抵抗する! 全身を激しく揺さぶっています!」
明石「だが絡まる手足が外れない! もはや比叡選手、絶対絶命か!」
大淀「ああ、だから翔鶴さんの出場を推薦しておいたのに……あれ?」
明石「おや? 日向選手の動きが妙です。これは……体勢を変えようとしているのか?」
明石「どうやら日向選手、三角絞めをやめてマウントポジションに持っていくつもりのようです。これはどういう意図があるのか!?」
大淀「うーん、試合が面白くならないから、長引かせて盛り上げようとしているんでしょうか? そういうことをする人じゃないんですけど」
明石「さあ日向選手、体勢を入れ替えます! 今度はマウントから攻めて……あれっ!?」
大淀「えっ、何してるの!?」
明石「日向選手、グラウンドを捨てて離れました! まるで比叡選手から逃げるように大きく距離を取ります!」
明石「これは一体どうしたことか……な、何だ!? 日向選手が前のめりに膝を着いた!」
明石「吐血!? ひゅ、日向選手が咳き込みながら血を吐いています! 明らかに内臓へのダメージを受けている!」
明石「な、何が起こっているのでしょう! まさか、知らぬ間に比叡選手の攻撃を受けていたのか!?」
大淀「そんなはずありません! 比叡さんは指一本触れることさえできていなかったはずです!」
明石「しかし……ああっ、起き上がった比叡選手が仕掛けた! うつむいた頭部にサッカーボールキック! 日向選手がマットに転がる!」
明石「そのままマウントを取った! 比叡選手、猛然とパウンドラッシュ! 日向選手は辛うじてガードしていますが、明らかに動きが鈍い!」
大淀「ちょ、ちょっと! 何ですかこれ! おかしいでしょ!」
明石「あっ、日向選手のガードが下がった! 完全に力尽きています! レフェリーストップが掛かりました!」
明石「日向選手、もはやピクリとも動きません! 試合終了、試合終了です!」
明石「これは……比叡選手の勝ちでいいのでしょうか!? 何か、すごく不可解な試合内容でしたが……」
大淀「ダメでしょう、これは! 今の攻防、明らかに不自然です!」
明石「えっ、あっ、はい! これは試合終了ではありません! 中断、中断という措置が取られています! 試合結果は一旦保留です!」
明石「審査委員長の香取さんがリングに上がりました。どうやら只今の試合、明らかな不正が見受けられたため、審議に入ります!」
明石「あっ、日向サイドのコーナーから、セコンドの伊勢さんがリングに上がってきました! ものすごく怒っています!」
明石「この場で比叡選手に勝負を挑もうというような勢いです! 妖精さんたちが必死に押し留めています!」
大淀「それはそうでしょう。姉妹があんな形でやられたら、当然黙っているわけにはいきませんよ」
明石「会場の皆様、しばしお待ち下さい! ただいま、比叡選手のボディチェックが行われております! もうしばらくお待ち下さい!」
大淀「ああ、よかった。今ので勝敗が決まるなら、私までリングに上がるところでしたよ」
明石「大淀さん。やはり、比叡選手は何かの不正をしたと思われるでしょうか?」
大淀「そりゃあ、もうクロでしょう。ここまであからさまに不自然なんですから」
明石「仮に何かをしていたとして、それは何だと推測されますか?」
大淀「……暗器、つまりは隠し武器の可能性が一番高いと思います」
大淀「例えば、バンデージの中に毒針を隠しておいて、どこかのタイミングで日向さんにそれを刺したとか……」
明石「いやでも、そこまで露骨な反則行為を比叡選手がするでしょうか? こういう厳正な舞台に……」
大淀「中国の修行で、絶対にバレない毒術を習得してきた可能性も考えられます。それを香取さんが見つけてくれるかどうか……」
明石「おや? 比叡選手、どうも香取さんからのボディチェックを嫌がっている素振りを見せています。これは……」
大淀「ああ、もう完全にクロですね。そんな体を触られることに恥じらうタイプじゃないでしょう。元お笑い芸人なんですし」
明石「少々雲行きが怪しくなってきました。今のところ香取さんは何も見つけていないようですが……ん?」
明石「猛抗議していた伊勢さんがしゃがみ込みました。どうされたんでしょう?」
大淀「……何か様子がおかしいですね」
明石「日向選手の容体にショックを受けているんでしょうか? すぐドックに運ばれたので生死に別状はないと思うのですが」
大淀「まあ、私たちは大破進撃しないかぎりバラバラになっても死にませんからね」
明石「そうですよね。伊勢さんもそれは承知のはず……あっ!? 伊勢さんが倒れました! 血、血を吐いています!」
大淀「えっ!? ちょっと、何なの!?」
明石「ああっ、か、香取さんも倒れました! リング上にいる妖精さんたちも次々と倒れていきます!」
明石「リング上で立っているのは困惑気味の比叡選手のみ! 一体何が起こっているのか!?」
大淀「ちょ、ちょっと私が行ってきます! 後はよろしくお願いします!」
明石「ええっ!? お、大淀さん! 待って、1人にしないで!」
明石「ああ、行っちゃった……しかし、大淀さんは何をする気なのでしょうか? 今のところ、収拾の付かない事態となっております」
明石「えー大淀さんがリングに上がりました。大股で戸惑う比叡選手に詰め寄り……えっ、殴った!?」
明石「大淀さんが見事なリード・ストレートを比叡選手の顎に決めました! 比叡選手、ダウン! えっ、何これ! 勝者大淀!?」
明石「はい!? えー……あ、はい! わかりました! 申し訳ありません! 事態収拾のため、一旦放送を中断させていただきます!」
明石「なるべく早めに再開致しますので、今しばらくお待ち下さい! それでは、また後程!」
~CM~
―――秘書艦、電の着任した鎮守府。そこは無能な提督と仲の悪い主力艦隊、そして奇行を繰り返す放置艦が蔓延る空気の最悪な鎮守府だった!
―――失われた友、アカギドーラという名の怪物、一向に進まない海域攻略。皆の境遇に耐えかねた電が、ついに提督へ反旗を翻す!
―――ブラック要素満載の艦これSS「電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです(完結済み)」
―――大会運営委員長推薦! どうぞよろしく!
http://sstokosokuho.com/user/works/1849
大淀「……すみません。ただいま戻りました」
明石「あ、お帰りなさい。ずいぶん時間が掛かりましたね」
大淀「ええ。ちょっと私も入渠してきたものですから」
明石「えっ、大淀さんまで!?」
大淀「そうなんですよ。私も毒にやられちゃって……えーっと、もう放送始まってます?」
明石「いや、まだです。それじゃ、再開しましょうか。青葉さん、お願いします。5、4、3……」
明石「えー皆様、大変お待たせ致しました! 放送を再開させていただきます!」
大淀「どうもお待たせして申し訳ありませんでした」
明石「先ほどの騒動ですが、とりあえず大淀さん。なんでいきなり比叡選手を攻撃したんですか?」
大淀「あの時点では彼女が何をしているのか全くわかりませんでしたから。とりあえず無力化しようと思って、先制攻撃をさせていただきました」
明石「ああ、なるほど……では早速、先程の試合内容に関してのご説明をお願いします」
大淀「えっとですね。まず比叡さんの不正疑惑ですが、大会ルールに反するものはありませんでした」
明石「えっ、なかったんですか?」
大淀「はい。隠し武器だとか、予め毒を盛っていただとか、そういうものではなかったみたいです」
大淀「ただですね。試合開始前に毒手の話をしたと思いますが、それに近いものを比叡さんは中国で身につけてしまったみたいです」
明石「え。何ですか、毒手に準ずるものって」
大淀「名前は毒身術っていうそうで。比叡さん、この1年間、毒虫や毒草以外のものを口にしていないそうです」
明石「はあ? そんなことしてたら死……死にはしませんか。艦娘だから」
大淀「ええ、そうなんです。仮に一般人でも死にはしません。最初は少しずつ毒を口にし、体に毒への耐性を付けていくそうです」
大淀「徐々に摂取する毒の種類や量を増やし、合わせて中国秘伝の薬湯を飲む。これをひたすら繰り返すのが毒身の術らしいです」
大淀「これを適切な摂取方法を守って行うことによってですね、体全体に変化が起きるそうです」
大淀「本来、毒物を排出するはずの内臓が毒を貯蔵するようになり、更に取り込んだ毒を混ぜ合わせ、ある特性を持った毒を新たに作り出します」
大淀「その毒は全身の汗腺から霧状に発散され、毒ガスのように周囲に撒き散らされるとのことです」
明石「すみません。ちょっと話について行けてないんですけど」
大淀「ついて来てくださいよ。私も比叡さんから説明したことをそのまま伝えているだけなんですから」
明石「えーまず整理させてください。つまり、比叡選手が中国の修行で身につけたのは、毒手のもっとすごいやつってことでいいんでしょうか?」
大淀「まあ、それで間違ってはないですよ。毒手の無差別攻撃バージョンです。いわば歩く毒ガス兵器ですね」
明石「それって、日常ずっと毒ガスを全身から放出してるんですか?」
大淀「そうらしいです。観客の方にも体調不良を訴えられた方が何名かいらっしゃったそうで、今、解毒薬を処方しています」
明石「あの、それが試合上のルールでOKになる意味がわからないんですが……」
大淀「だって、全身から毒を垂れ流す選手を反則とするルールなんてどこにも明記されてませんからね」
大淀「一応、比叡さんは中国の辛い修行を1年間頑張ったということで。その頑張りを認めて今大会限り、比叡さんの毒は有効とします」
明石「マジですか……さっき、ある特性を持った毒って言われてましたけど、どういう特性なんですか?」
大淀「これがですね、アドレナリンに反応して毒性が強くなる性質を持っているそうなんです」
大淀「比叡さんが闘志満々になれば、より強い毒ガスが周囲に撒き散らされ、それを闘志満々の選手が吸えば、症状がより強く早く体に現れると」
大淀「何というか、すごく試合向けの毒ですよ。しばらく頑張って攻撃を凌げば、勝手に相手が倒れてくれるんですから」
明石「なるほど……日向さんも、妖精さんや伊勢さん、香取さんもその毒にやられてしまったと……」
大淀「皆さん、命に別状はないですよ。比叡さんが中国から持ってきた解毒薬もありますし」
明石「つまり、まとめると……この第四試合、比叡選手の勝利ということでよろしいのでしょうか?」
大淀「はい。審査委員長の香取さんからも正式に発表がありました。決まり手は比叡さんの毒殺による日向選手のKO敗けということで」
明石「わ……わかりました。では第四試合の勝者発表! 審議の結果、勝者は比叡選手となりました!」
明石「あっ、リングにゴミを投げるのはお止めください! 片付けるのは妖精さんです! 妖精さんのことを思いやってください!」
大淀「観客の皆さんも納得行かないお気持ちもわかりますが、比叡さんは比叡さんなりに頑張ったということで、どうかここはひとつ……」
試合後インタビュー:比叡
―――ちゅ……修行……つら……
比叡「あのーすみません。防毒マスク越しだと聞き取り辛いんで、もっとはっきりお願いします!」
―――中国での修行はどれくらい辛いものでしたか?
比叡「いえ、全然辛くなかったですよ! 師匠もいい人でしたし、むしろすっごく楽しかったです!」
比叡「何が楽しいって、毒虫をどうやってより美味しく食べるか考えるのが楽しかったですね。サソリって歯ごたえがあって美味しいんです!」
比叡「サソリの唐揚げが一番美味しいんですけど、それだと油で揚げるときに毒が熱菌処理で減っちゃうので、それは残念でしたね」
比叡「色々試して一番良かったのがタランチュラのチリソース和えです。タランチュラは生ですよ、生! これがジューシーで美味しいんです!」
―――そもそも、なぜこういう修行をしようと思ったんですか?
比叡「最初は毒手を身につけるつもりだったんですよ。ほら、やり方は知ってるでしょ?」
比叡「それをやる準備をしてる時に材料のムカデが目について、美味しそうだなって思って食べてみたんです」
比叡「実際、なかなかイケる味だったんですけど、それを見てた師匠が驚きましてね、急遽、毒身の術の修行に切り替えたんです」
比叡「ただ、この術ってリスクがあるんですよ。入渠したら体がリセットされちゃうから、体内に作った毒袋がなくなっちゃうんです」
―――つまり、勝つ際に怪我をしてしまうと、ダメージをほぼ持ち越したまま次の試合に臨まなければならないと?
比叡「そうなんです。1回の入渠で1年の修行がパーになっちゃいますから。全試合、出来る限りダメージを負わずに勝たないといけないんです」
比叡「ちょっと不利ですけど、この日のために頑張って来ましたから! 絶対優勝しますよ!」
試合後インタビュー:日向
―――何かおかしい、という感じはどの辺りから感じていましたか?
日向「そろそろ三角絞めを極めてしまおう、というときだったな。突然、猛烈な気分の悪さに襲われたのは」
日向「なんて言ったらいいのかな、全身の血管に悪臭を放つヘドロが駆け巡っているような、耐え難い不快感だったよ」
日向「格闘家だから痛みへの耐性は強いはずなんだが、あれはそういうレベルじゃなかった。途中からとにかくこの感覚から逃げたいと思ったよ」
日向「比叡から離れた後の記憶はあまりないんだ。覚えてるのは、ものすごく苦しかったことくらいだな」
―――正直なところ、試合結果に納得されていますか?
日向「うーん……あの試合に手を抜いていたことは認めるよ。あまりにあっさりテイクダウンが決まったからね」
日向「そのまま一気に絞め落とせていれば勝ちだったのに、ダラダラやってしまったから私が敗ける形になってしまった。これは反省点だな」
日向「なあ、そもそもアレってありなのか? 反則ってことで、私の勝ちになったりしないかな? 再試合でもいいんだが」
日向「ダメ? ダメか、そうか……とても残念だ」
明石「それでは選手の方々、観客席の皆様、お疲れ様でした! これにてAブロックの全試合を終了致します!」
明石「次回はBブロックの4試合の放送となりますが、その試合の後にエキシビションマッチが予定されております!」
明石「最初に予告させて頂いた通り、まだ出場者は確定しておりません! 皆様のリクエスト次第で対戦カードが組まれることになるのです!」
明石「栄えある出場者に選ばれるのは誰なのか! エキシビションマッチ出場候補者は、こちらの8名の選手です!」
駆逐艦級 ”氷の万華鏡” 吹雪
流儀:クラヴ・マガ
対戦成績:38戦36勝2敗
駆逐艦級二大王者の1人。膨大な練習量に裏付けされた技の多彩さと完成度は艦娘格闘界一と言われ、テクニックならば長門をも凌駕する。
格闘術において彼女に扱えない技はないとされ、打、極、投のあらゆる手段で対戦相手を圧倒してしまう。
その並外れた実力から、今や同階級で相手が務まるのは夕立のみ。彼女とは試合内外ともに犬猿の仲である。
度を越したビッグマウスを度々批判されるが、その言動は己をより追い込むためのものであり、自分に厳しく妥協を許さない性格の持ち主。
駆逐艦級 ”鋼鉄の魔女” 夕立
流儀:八極拳
対戦成績:30戦28勝2敗
駆逐艦級二大王者の1人。1つの技を磨き上げた者にのみ与えられる「一撃必殺」の打撃が最大の武器。
その威力はガードした相手の腕ごと肋骨を破壊するほどで、必殺を釣り技にした各種打撃技も得意とする。
グラウンドでの攻防は不得手ではあるものの、スタンドで絶対的な強さを誇るため、テイクダウンを取られる局面は滅多にない。
対戦者のほとんどを開始20秒以内でKOしており、もはや同階級では敵なしの実力者。吹雪のみがライバルである。
軽巡級 ”天空のローレライ” 那珂
流儀:ルチャ・リブレ
対戦成績:19戦14勝5敗
アイドル兼プロレスラー。ルチャドーラとしての関節技と空中殺法、ダンスで鍛えた足腰から繰り出される足技が武器。
「プロレスラーの強さを証明する」という大義名分を背負ってUKFに参加し、常に強敵との対戦を求め、魅せる試合作りをするためファンは多い。
本物の実力を持つ一方で、UKFにおける八百長疑惑も度々指摘されており、彼女にまつわる黒い噂は数知れない。
そのトリッキーな戦法により、はるか格上に勝利することもある反面、しょうもない相手に負けることもある浮き沈みの激しいファイター。
軽巡級 ”インテリジェンス・マーダー” 大淀
流儀:大淀流格闘術
対戦成績:32戦31勝1敗
軽巡級グランプリ優勝者。元は少林寺拳法を学んでいたが、より実戦性を求めて様々な格闘技に取り組んだ結果、我流格闘術を身に付けるに至る。
ジークンドーをベースにし、柔術の技なども複合的に取り入れているが、主軸となるものはハンドスピードを活かした急所を狙う打撃技。
より素早く確実に急所へ当てることに重点を置いており、UKFで初めて二本貫手による目突きを成功させたファイターでもある。
とにかく勝つことを目的としたファイトスタイルであるため、名勝負は多いものの、つまらない試合をしてしまうこともしばしば。
ライバルである龍田との軽巡級グランプリ決勝戦では空前絶後の泥仕合を演じ、方々から非難を集め、ブログが炎上した。
軽空母級 ”羅刹” 鳳翔
流儀:介者剣術
対戦成績:なし
香取神道流の免許皆伝、及び「一の太刀」の伝承者。武器ありの戦いなら並ぶ者はいない達人。
幾度の立ち会いに臨みながら無敗を誇り、彼女を倒して名を上げようとした道場破りは皆、敗北の後に武から身を引いている。
徒手においては戦い方が大きく制限されるものの、生半可なファイターはその卓越した技の前に触れることさえできないと言われる。
人前で技を見せることを嫌い、公の場で戦った経験はほとんどないが、今回は道場拡張の資金作りのために参戦を希望。
重巡級 ”肉弾魔人” 愛宕
流儀:オイルレスリング
対戦成績:14戦11勝3敗
重巡級グランプリ準優勝。テイクダウンを取る技術は艦娘格闘界トップレベル。組んでから彼女に投げられなかったファイターは未だ存在しない。
どんな相手もあっさりと投げてしまう上、ガードポジションに入った相手を無理やり持ち上げるほどの怪力を持つ。特に握力は戦艦級をも凌ぐ。
抜群の安定を誇る体幹から繰り出される右フックも強力だが、打撃の攻防や寝技の技術は若干未熟。
足柄との重巡級グランプリ決勝では打撃のコンビネーションに対応できず、わずか12秒で敗北。今は打撃のディフェンスを徹底的に磨いている。
正規空母級 ”ウォーキング・デッド” 翔鶴
流儀:ラウェイ
対戦成績:7戦4勝3敗 K-1成績:6戦4勝2敗
艦娘K-1にて唯一赤城を追い詰めた脅威の新人ファイター。打撃だけでなく投げ技も得意とし、スタンドにおいて全く隙のない実力の持ち主。
ストライカー能力の高さもさることながら、桁外れの打たれ強さを誇り、打撃でダウンした経験が一度もない。
3度に渡る赤城との死闘では、完全に意識を失いながらも打ち合いを続けたという信じられない逸話を持つ。
チャンピオン級選手との対戦が多いため勝ち星には恵まれていないが、層の厚い立ち技格闘界のトップに食い込むため、日々猛特訓を続けている。
戦艦級 ”殺人聖女” 榛名
流儀:空手
対戦成績:6戦5勝1敗
フルコンタクト空手の試合で何度も対戦相手を殺しかけ、空手界から追放された孤高の武人。素手の打撃勝負なら赤城すら凌駕すると言われる。
打撃においてはUKFでもトップクラスの実力を誇り、唯一彼女に土をつけた長門でさえ打撃の真っ向勝負は避けざるを得なかった。
その冷酷なファイトスタイルはトップファイターからも対戦を恐れられるほどであり、運営は彼女の対戦者探しに度々苦慮しているという。
金剛四姉妹の中では最強だが、今回は他の姉妹に出場枠を譲る形で大会出場を辞退している。
明石「あの、大淀さんも候補者に入っているんですか?」
大淀「当然でしょう。軽巡級グランプリ優勝者の上、前大会3回戦出場者ですよ、私は」
明石「それはそうですが……ちなみにこの候補者は、どういう選考基準なんでしょうか?」
大淀「グランプリ出場者と同レベルの実力を持ち、なおかつ出場を希望している選手ですね」
大淀「榛名さんなんかは前大会でもかなり活躍されていましたし、他の方々の実力も申し分ないでしょう」
明石「ていうかこれ没キャラ……」
大淀「明石さん。そういった発言は控えてください」
明石「あ、はい。すみません。ということは、実力に関してはこの8名とも同程度ということでしょうか?」
大淀「うーん。それを言われると、榛名さんが頭一つ抜けてるという印象です。そこから半歩下がって鳳翔さん、それから残りの6名ですかね」
大淀「那珂ちゃんはコンディション次第でかなりムラがあるので難しいところですが、まあ頑張ってくれるでしょう」
明石「えーそれではリクエスト方法についてご説明致します。安価という形を取ることも検討されましたが、それは取りやめになりました」
明石「大会運営委員長の中で、『この対戦カードは良くない』という組み合わせがいくつかあるため、それが選ばれるとまずいとのことです」
明石「そのため、リクエストは投票制とさせていただきます! 試合を観たい候補者の名前を自由に書き込んでください!」
明石「単独の名前でも構いませんし、○○VS○○という書き方をしてくだされば、組み合わせの検討にそれを考慮させていただきます!」
大淀「これはなるべくで構いませんが、1レスに同一選手の名前を複数回書き込むのは避けてください。集計の際に手間になってしまうので」
明石「ただし、ご理解いただきたい点として、必ずしも票数の多い候補者が選出されるわけではありません!」
明石「先にお断りした通り、対戦カードは大会運営委員長の都合を考慮しつつ決定されます。特に、同階級選手の対決は基本的にはなしとします」
大淀「せっかくの無差別級の大会ですし、階級の違う方同士の対決のほうが盛り上がると思いますからね」
大淀「吹雪さんと夕立さんなんて何度も闘ってますし、やってもまた泥仕合になるだけでしょう」
明石「まあ、あの2人はそうなりますよね……」
大淀「私と那珂ちゃんとの試合なんかも止したほうがいいですよ。100%私が勝ちますから」
明石「え、根拠は?」
大淀「得意なんです、私。ああいう精神的に浮き沈みのある人を潰すのって」
明石「ああ、なるほど……那珂ちゃんファンの方々のためにも、同階級選手による対決は避けたほうがいいですね」
明石「鳳翔さんは軽空母級ですが、どうします? 軽巡級と同階級扱いということでいいんでしょうか」
大淀「そうしましょう。鳳翔さんと軽巡級選手の対戦もなしで」
明石「鳳翔さんなら階級とかあんまり関係ない気がするんですけど、それでいいんですか?」
大淀「いいんです。私、鳳翔さんとだけは絶対に対戦したくありません」
明石「え、個人的な理由?」
大淀「あっいえ、やっぱり体格差のある選手同士の対戦のほうが面白いでしょうから……ねえ?」
大淀「きっと鳳翔さんは愛宕さんみたいな選手と対戦するのが一番盛り上がると思いますよ。まあリクエスト次第ですけど」
明石「はあ……確かに、視聴者の皆さんが誰と誰の試合を観たいかで変わってくるとは思いますね」
明石「ちなみに、エキシビションマッチ1戦目のリクエストは、Bブロック試合放送日決定と同時に締め切らせていただきます」
明石「2戦目の出場者は、1戦目終了後のリクエストも含めて再度検討させていただく、という形を取りたいと思います」
大淀「多少選出方法に曖昧な部分がありますが、リクエストを完全に無視するようなことは絶対に致しません」
大淀「リクエストと大会運営委員長の都合がちょうど良く折り合いのつくよう、いい対戦カードができることを願っています」
明石「まあ、大会運営委員長次第ですね」
大淀「どうですか、大会運営委員長の調子は?」
明石「大会運営委員長もこの大会を成功させるため、異常な量のお薬とサプリメントを飲んで頑張っています。きっと大丈夫でしょう」
大淀「それは大丈夫なんですかね……」
明石「では、これにて本日の放送を終了させていただきたいと思います!」
明石「次回、Bブロック1回戦4試合の放送日は追ってお知らせ致します! どうぞ気長にお待ち下さい!」
大淀「なるべく間を置かず放送してほしいですね」
明石「それでは実況は明石、解説は大淀さんでお送りいたしました! ご視聴、ありがとうございました!」
―――超人、魔人の蠢くBブロック。試合開始のその時、UKFは新たな怪物の誕生を目の当たりにする。
―――放送予定日、現在調整中。
~大会運営委員長からのお知らせ~
トーナメント表のAAを作ってくれる有志の方を募集しています。
作ってくれた方には、先着1名様に付き何らかのリクエストに応えられる限りで応えます。
応えられないかもしれませんが、応える意志は今のところあります。親切な方、どうかよろしくお願いします。
~大会運営委員長よりエキシビションマッチ出場選手選考における補足事項~
・エキシビションは2試合あるので、2試合目以上の好カードを1試合に組むことができません。
仮に榛名選手のリクエストが多くても、彼女ほどの選手になると1試合目には出場させられず、2試合目への出場になるでしょう。
リクエストはそういった1,2試合目との折り合いも兼ねたものになるとご考慮いただく思います。
・鳳翔さんは格闘家としては特異な存在であり、一定以上のテクニックを持たない選手は瞬殺されてしまいます。
大淀は自分が戦いたくないのであんなことを言いましたが、鳳翔VS愛宕は成立するかギリギリのマッチメイクです。
ちなみに鳳翔さんと技術でまともに張り合える候補者は吹雪、榛名、大淀です。
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....................┃┗━ 足柄
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..........┃┃┃┗━ 加賀
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優勝┫
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...........┃.....┃┗━ 不知火
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...........┃┃┃┏━ 龍田
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..........................┗━ 長門
>>137
助かりました。どうもありがとうございます。リクエストがあれば聞きます。
嫁の山城に良い出番があればそれで
>>142
彼女は扶桑選手のセコンドなので、何かしらの出番はあるかと思います。
※放送予定日決定のお知らせ
1/22(金)22:00よりBブロック1回戦&エキシビジョンマッチ1戦目(出場選手確定)
2戦目の出場選手は現状定まっておりませんので、リクエストは継続して行わせていただきます。
また、大会運営委員長は実家のぶら下がり健康器で懸垂を3回したところ、その疲労で腕が上がらない状態が3日続いております。
大会運営委員長の体調次第で放送日は若干前後してしまう可能性がありますので、その際は何卒ご容赦いただけますようお願いします。
経過報告ですが、9割方期日通りに放送できそうです。
Bブロック対戦カード
第1試合
最強の遺伝子を持つトータルファイター ”ジャガーノート” 陸奥
VS
駆逐艦級二大王者を下した神秘の拳法家 ”猛毒の雷撃手” 不知火
第2試合
UKF最凶のサディスティックファイター ”悪魔女王” 龍田
VS
ナチス・ドイツの誇る正体不明のジャーマンファイター ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルク
第3試合
最速こそ最強を証明せんとするスプリントファイター ”神速の花嫁” 島風
VS
K-1初代王者にして戦艦級最速のシュートボクサー ”恋のバーニングハリケーン” 金剛
第4試合
深海棲艦デスマッチより生還した無冠の帝王 ”死の天使” 大和
VS
未だ敗北を知らぬUKF無差別級絶対王者 ”ザ・グレイテスト・ワン” 長門
エキシビションマッチ第1試合
出場選手非公開
無事予定通りに放送できることが確実となりました。
放送時間は明日の午後10時からです。よろしくお願いします。
~放送準備中~
明石「皆様、大変な長らくお待たせいたしました! 第二回UKF無差別級グランプリ、Bブロック1回戦の放送を開始します!」
明石「実況はお馴染みの明石、解説は大淀さんでお送りさせていただきます!」
大淀「どうも。エキシビションマッチのリクエストで1票も入らなかった不人気ファイターの大淀です」
明石「ちょっと、それはもういいじゃないですか。まだへそを曲げてるんですか?」
大淀「大会運営委員長から言われてたんですよ。『お前は9割方出場させる見込みだからしっかり準備しておけよ』って」
大淀「ほぼ全候補者の対策も考えてましたし、ファイトマネーで新しいマンションを買う予定も立ててたんです。それが全部パーですよ」
明石「まあ、その件は大会運営委員長も『えっ、大淀って人気無いの?』って戸惑ってましたね」
大淀「軽巡級王者の私が人気無いわけないじゃないですか。きっと何かの間違いです」
明石「でも、大淀さんは過去に泥仕合を演じた汚点がありますから……」
大淀「いやいや、それでも私は相当強いですよ? 榛名さん相手だろうと勝つプランはありますからね」
明石「えー申し訳ありませんが、エキシビションマッチ1回戦の出場者は決定しました! リクエストは締め切らせていただいております!」
明石「2回戦出場者のリクエストは引き続き行いますので、よろしくお願いします! 大淀さんは解説役として頑張りましょう。ねっ?」
大淀「……そこは2回戦出場のリクエストに期待しましょう、じゃないんですか?」
明石「いや、もう可能性は薄いかなって……ほら、皆さんは解説役としての大淀さんが大好きなんです! だから元気出して行きましょうよ!」
大淀「はい……ファイトマネー……」
明石「それでは早速試合を始めたいところですが、Bブロック1回戦終了後、皆様お待ちかねのエキシビションマッチが行われます!」
明石「出場者の発表は、試合直前にて行いますので、どうかお楽しみに! なかなかの好カードが組まれております!」
大淀「ええ、はい……確かに面白そうな組み合わせではありますね……」
明石「ほら、大淀さんテンション上げて! それではBブロック1回戦、第1試合を開始いたします!」
明石「赤コーナーより選手入場! 新生ファイターにして優勝候補の登場です!」
試合前インタビュー:陸奥
―――陸奥選手は長門選手に次ぐ優勝候補として名前が挙げられています。今大会への意気込みをお聞かせいただけますでしょうか。
陸奥「UKFに参加したときから、いずれ長門姉さんに勝たなくてはならないことは覚悟していたわ
陸奥「いつまでも姉さんの背中を眺めてばかりじゃ嫌だもの。それだけのトレーニングは積んできたつもりよ」
陸奥「この大会にはまだ戦ったことのない選手が多いじゃない? その方たちに勝って、それを糧に私はもっと強くなると思うの」
陸奥「戦うことになる場が決勝でないことは少し残念だけど、長門姉さんと私が戦うとき、私の実力は姉さんと並んでいるでしょうね」
―――初戦の不知火選手は全く未知数のファイターですが、どのように戦いますか?
陸奥「うーん、いつも通りでいいんじゃないかしら。と言っても、彼女のファイトスタイル次第ね」
陸奥「不知火さんって、あの吹雪と夕立を倒したんでしょう? そういう何を持っているかわからない選手こそ、私の求めていた対戦相手なの」
陸奥「彼女に勝って、色々と学ばせてもらうわ。ぜひお手柔らかにお願いしたいわね」
陸奥:入場テーマ「Dimmu Borgir/Progenies of The Great Apocalypse」
https://www.youtube.com/watch?v=40wRv4yjres
明石「絶対王者、長門選手は語ります! もし将来、自分の王座を脅かす者が現れるとしたら、それは我が妹に違いないと!」
明石「デビュー戦以来、数々の強豪を相手にして無敗! この新生アルティメットファイターの実力を疑う者は、今や誰一人いません!」
明石「その打撃は痛烈無比! 組技、寝技もお手の物! 彼女の突き進んだその後には、屍しか残らない!」
明石「この私の進撃を止めてみるがいい! ”ジャガーノート” 陸奥ゥゥゥ!」
大淀「さあ、注目の一戦ですね。陸奥さんは文句無しに強いですよ」
明石「陸奥選手は元々レスリングをされていたそうですが、それなのに打撃が強いんですよね」
大淀「そうなんです。レスリングで鍛えられた強靭な体幹が、そのまま打撃の強さに反映されています」
大淀「パワーだけでなく、キックボクシングのテクニックも中々のもので、ほとんどの相手を組み技に持ち込むことなくKOしています」
明石「普通に考えると、レスリングテクニックを活かせるグラウンドに持ち込んだほうが陸奥選手にとって戦いやすそうですよね」
明石「それなのに、彼女が立ち技で戦うのには何か理由があるのでしょうか?」
大淀「総合格闘のリングですと、立ち技で勝負するときは、常にタックルや投げを警戒しながら打ち合いをする必要があります」
大淀「その点、陸奥さんはレスリングテクニックに秀でていますから、絶対に倒されない自信がある。だから存分に打撃を叩き込めるんです」
大淀「だから、まずは打撃でダメージを与えてから寝技に持ち込むのが彼女の本当の戦法です。大半の選手は、その入口でKOされてしまうんですね」
明石「なるほど。どうにか打撃を凌いだとしても、寝技、組み技は更に洗練されたものを持っていると。まさにアルティメットファイターですね」
大淀「しかも、スパーリング相手はあの長門さんですから。陸奥さんの仕上がりは相当なものになっているでしょう」
大淀「強いて欠点を挙げるなら、選手としての熟練度が若干足りていないというか、時折、新人ファイターらしい面影を覗かせてしまうところですね」
大淀「以前に日向さんと対戦したときは辛うじて勝つことはできましたが、寝技に引き込まれたときにかなり焦った表情を見せていました」
明石「あの試合ではほとんど力だけで寝技を振りほどいての勝利でしたね。日向さんもあと一歩のところで勝機を逃したという感じでした」
大淀「ですから、そういったメンタル面に多少付け入る隙はありますが、パワーやテクニックはトップファイターの名に恥じないレベルの選手です」
大淀「このグランプリを通して、彼女もそういう精神的な強さを得ようとしています。きっと素晴らしいファイトを見せてくれることでしょう」
明石「ありがとうございます。それで青コーナーより選手入場! 注目のダークホースです!」
試合前インタビュー:不知火
―――改めてお聞きします。駆逐艦二大王者の吹雪さん、夕立さんを野試合で倒したという話は本当でしょうか。
不知火「彼女たちも認めていたと思いますが、事実です。このグランプリに出る権利が欲しかったので、非正規な手段を取らせていただきました」
―――今回、不知火さんの参戦は誰も予想していなかったと思います。そこまでして出場を決意された理由を教えていただけますでしょうか。
不知火「勝てると思ったので」
―――それは試合全般に、ということでしょうか。
不知火「いえ。長門さんにです」
―――長門選手に勝てると?
不知火「はい」
―――やはり戦艦級と駆逐艦級では体格差がありますから、パワーや身長では当然不利かと思います。
更にテクニック面でも長門選手は非常に優れた選手ですが、勝てると思われた根拠をお聞きしてもよろしいでしょうか。
不知火「例えば、子犬が虎に勝つ見込みはまずないでしょう。それは虎の方が大きいからです」
不知火「しかし、子犬より遥かに小さくとも虎を殺しうる生き物がいます。例えば毒蛇。あるいは、毒蜘蛛。サソリなどもその可能性を持つでしょう」
不知火「彼らがなぜ虎を殺しうる可能性を持っているか。それは猛毒を持っているからです」
不知火「つまり、強大な者を倒すのに必ずしも大きい必要はありません。必要なのは猛毒に代わる技、それを刺せるだけの速さと技術があればいい」
不知火「そして、不知火はその猛毒と、速さと技術を持っているということです」
―――1回戦は長門選手に匹敵するとも言われる陸奥選手です。陸奥選手にも、今言われた猛毒を刺せると思いますか?
不知火「長門さんに刺せるということは、すべての選手に刺せるのと同じことでしょう。不知火の負けはありません。陸奥さんには気の毒ですがね」
不知火:入場テーマ「FINAL FANTASY VII/片翼の天使」
https://www.youtube.com/watch?v=rmhZMZRgFXQ
明石「会場にざわめきが起こっています! 小さい、今までの出場者たちと比べれば、その体格は明らかに小柄です!」
明石「しかし、その眼光と風格はまさに戦艦クラス! リングへの花道を堂々とした足取りで歩みを進めます!」
明石「彼女は断言した、私は長門選手を倒せると! 今、彼女が挑もうとしている相手はまさに、長門選手と同じ遺伝子を持つ陸奥選手!」
明石「この絶対的なパワーの差、体格の差を、彼女は如何に覆すのか!? ”猛毒の雷撃手” 不知火ィィィ!」
大淀「不知火さんが強い、という噂はかねがね聞いていました。まさか、本当にグランプリに殴りこみを掛けて来るとは……」
明石「人前で試合をするのはこれが初めてだそうですね。本来なら、そういう選手をグランプリに出場させることはあまりないのですが……」
大淀「ええ、本当は吹雪さんか夕立さんが出る予定だったんですよね。あの2人は強すぎて、同階級では試合が組めない状態ですから」
大淀「まさか、あの2人ともを非公式の試合で倒してグランプリ出場権を奪い取るなんて……並大抵の自信と実力がなければできない行為です」
明石「吹雪選手と夕立選手が敗けた、という話も信じられませんでした。まさか、同じ駆逐艦級を相手にあの2人が敗けるなんて……」
大淀「私もです。あの2人は既に戦艦級トップファイターとも渡り合える実力を秘めていますからね」
大淀「ですが、2人とも公式の会見で敗北を認め、グランプリ出場を辞退されていますから。その話も本当なんでしょう」
大淀「公式試合ではないので正式な形ではありませんが、現時点で、不知火さんは駆逐艦級の暫定王者ということになります」
明石「不知火選手は長門選手を倒す手段を『猛毒』に例えられていましたが、それはどのようなものだと予想されますか?」
大淀「正直なところ、わかりません。そのままの意味、つまり比叡さんのようなものとは異なるニュアンスであることは確かです」
大淀「不知火さんは何か未知の技を持っていて、それを使えば戦艦級とも渡り合える。今はそう考えるしかありません」
明石「となると、この試合は全く予想の付かないものになってきますね」
大淀「はい。階級差や選手としてのキャリアを考えれば圧倒的に陸奥さんが有利ですが、不知火さんの実力が謎に包まれたままですから」
大淀「これはもう、見て確かめるしかありません。それまでは何とも……」
明石「ありがとうございます。さあ、両者リングイン! リングの中央で対峙しております。こうして並ぶと、体格差が一層際立っております!」
明石「不知火選手が完全に陸奥選手を見上げる形になっています。しかし、不知火選手の瞳に恐れは微塵もありません! まるで氷のような視線!」
明石「対する陸奥選手も落ち着いた様子でその視線を受け止めます。さあ、両者コーナーへ! この試合、一体どのような展開になるのか!」
明石「ゴングが鳴りました、試合開始です! 両者、ゆっくりとリング中央に歩み寄る!」
明石「陸奥選手は中段にファイティングポーズを取り、重心をやや高めに構えています。これは上からの打撃で押し込もうという作戦でしょうか?」
大淀「そうだと思います。ひとまずは体格差を利用して打撃に持っていくのが一番確実ですから」
明石「さあ、対する不知火選手は……何でしょう、この構えは? 重心はやや前のめりに、両手を前にゆらゆらと絶え間なく動かしています」
明石「どこか中国拳法や太極拳の構えに通ずるものがあるように見えますが……大淀さん、これは何の構えでしょうか?」
大淀「……ちょっと思いつくものがありません。どこかで見た気もするのですが……」
明石「そうですか……えー両者、間合いを取り合うようにジリジリと互いのサイドへ回ります。仕掛けるタイミングを図っているのでしょうか?」
大淀「不知火さんがフットワークで立ち回る展開になると思いましたが、その様子はありませんね」
明石「確かに、不知火選手が陸奥選手に確実に勝るところと言えば、駆逐艦級としてのスピードのはずですよね」
大淀「ええ。ですが、不知火さんはほとんどベタ足で陸奥さんが動くのを待ち構えているように見えます。何を狙っているのか……」
明石「あっ、ここで陸奥選手が仕掛けた! 上から叩き潰すような右フック! 不知火選手、これを捌き落とした!」
明石「カウンターでボディに正拳突き! さすが駆逐艦級暫定王者、動きが素早……あっ!?」
大淀「えっ?」
明石「む、陸奥選手が後方へ大きく仰け反りました! 尻もちを付くようにダウン! まさか、あのボディへの突きが効いているのか!?」
大淀「そんな、カウンターとはいえ急所でも何でもないところに当たったのに。駆逐艦級にそこまでの打撃力は……」
明石「ここぞとばかりに不知火が仕掛ける! 助走をつけて飛んだ! と、飛び足刀踏み付けだぁぁ!」
明石「腰の捻りを加えた足刀が襲い掛かる! 陸奥選手、辛うじて転がって避けました! どうにか立ち上がります!」
明石「し、しかし体勢が安定しない! よろめきながら再び距離を取ります! 先程打たれたみぞおちの横辺りを手でかばっている!」
大淀「……やっぱり急所ではない部位です。それなのにあれだけダメージを受けているということは……肋骨が折れているのかもしれません」
明石「ろ、肋骨がですか? 駆逐艦級の不知火選手にそれほどのパワーがあるとは思えませんが……」
大淀「わかりません。ただ、現に陸奥さんは動きに支障が出るほどのダメージを負っています。これはもしかして……」
明石「あっ、更に不知火選手が追い打ちをかけます! 先程の構えのまま、一気に距離を詰めていく! 陸奥選手、重心を低く構えた!」
明石「陸奥選手は打撃を避け、組み合いを狙うようです! 果たして、この作戦変更は吉と出るか、凶と出るか!」
明石「さあ間合いが近付いていく! 陸奥選手が先に動いた! 速い! 強烈な胴タックルが不知火選手に迫る!」
明石「陸奥選手の豪腕が不知火を捉え……ああっ!? これは何だ!? 陸奥選手の体が宙を舞った!?」
明石「と、巴投げです! 不知火選手、まさかの柔道技! 投げ技で陸奥選手のタックルを制しました!」
大淀「やっぱり、この動き……!」
明石「タックルの勢いのまま、背中から激しく叩きつけられました、陸奥選手! かなり苦しそうだ! 衝撃が折れた肋骨に響いているのか!?」
明石「そのまま不知火選手、寝技に持ち込みます! 上四方固めの体勢になりました! 素早く首に腕を絡めた! 絞め技を掛けようとしている!」
明石「の、ノースサウスチョークだ! これは頸動脈に入っている! ま、まさか、このまま陸奥が落ちるのか!?」
大淀「同じ階級同士ならこれで決まるでしょうが、陸奥さんならここから……」
明石「あっ……む、陸奥選手が起き上がります! 首を不知火選手に取られたまま、力づくで強引に起き上がる!」
明石「た、立ち上がった! 首には不知火選手をぶら下げたまま! さすがは長門、武蔵に並ぶパワーファイター! 首と腰の筋力が尋常ではない!」
明石「不知火選手の腕を掴んだ! これも強引に引き剥がすつもりです! 戦艦級のパワーが不知火選手に襲い掛かる!」
明石「しかし、絞めの体勢は既に裸絞めに移行しております! 両足も陸奥選手の胴に巻き付いている! これは容易には振りほどけない!」
大淀「腕が完全に首へ入っています。陸奥さんは筋力でどうにか耐えていますが、落ちるまで後、十数秒……」
明石「どうする陸奥! このまま終わるのか!? 陸奥選手の豪腕とはいえ、やはり完全に首を極めている腕は外せません!」
明石「あっ!? む、陸奥選手が走り出した! 何をする気だ? そのままフェンスに叩きつけるのか!?」
明石「いや、跳んだ! フェンスを蹴って跳び上がりました! 自分をマットに叩きつけ、背中で不知火を押し潰すつもりだぁぁ!」
明石「さあどうする不知火!? 裸絞めを……解いた! 着地寸前にエスケープ! あっさりと絞め技を捨てて離れます!」
明石「陸奥選手は音を立てて背中から着地! 素早く体勢を立て直します! 不知火選手もすぐには攻めて行きません!」
大淀「不知火さんは危険を冒してまで決めに行く必要はないと判断したみたいです。今までに十分なダメージを与えていますから」
大淀「それに、今の着地で陸奥さんは更なるダメージを蓄積させたんじゃないでしょうか。何と言っても、肋骨が折れてますからね」
明石「確かに陸奥選手、全身に疲労とダメージが色濃く浮き出ています! 肩を上下させながら激しく呼吸し、大量の脂汗を掻いている!」
明石「今の攻防で大きく体力を消耗したようです! しかも回復する気配がない! もはや陸奥選手のスタミナは限界に近いように見えます!」
明石「対する不知火選手は冷静そのもの! ダメージも一切なく、氷のような視線で陸奥選手を注意深く観察している!」
明石「スタンド状態には戻りましたが、両者のダメージの差は明白! 不知火選手、完全に陸奥選手を圧倒しています!」
明石「この状況に会場は驚きを隠せません! まさか不知火選手の実力がこれほどとは! 階級差をまるで感じさせない戦いぶりです!」
大淀「……不知火さんの流儀がわかりました。あれは太気拳です」
明石「太気拳? それは確か、日本人中国拳法家が国内で創始したという……」
大淀「はい。中国拳法の1つである意拳に加え、空手や柔術の要素を含んだ極めて完成度の高い格闘技の流派です」
大淀「だから不知火さんはあれだけの打撃に加え、投げや寝技も扱える。太気拳はいわば日中の合作格闘技ですから」
明石「それでは、あの陸奥選手の肋骨を折ったと思われる打撃も太気拳の技なのでしょうか?」
大淀「……多分、あれは『発剄』による打撃だと思います」
明石「発剄? それって寸勁とかの、中国拳法でよく聞く技ではありますが……架空の技術じゃないんですか?」
大淀「発剄は実在する技術ですよ。単に体重移動と全身運動をスムーズに行うことにより、打撃の速度と威力を上げるというものです」
大淀「打撃系格闘技では、威力のあるパンチを打ちたければ腰を入れて打て、というのは基本中の基本です」
大淀「ですが、発剄はそれを更に高度にしたものです。打撃の際、足先から腰、全身の筋肉全てを連動させて、一撃に全体重を叩き込むんです」
大淀「ジークンドーのリード・ストレートも似たような打ち方をしますが……きっと、不知火さんはその発剄の技術を極めているんでしょう」
大淀「あれだけ最小限の動きで、陸奥さんの肋骨を折るほどの突きを放てるなんて。信じられないほど高度なテクニックです」
明石「試合前に不知火選手が発言していた『猛毒』の正体とは、その『発剄』ということですか?」
大淀「そうだと思います。あの夕立さんに迫るほどの一撃を、不知火さんはあらゆる打撃で使うことができるのでしょう」
大淀「更に不知火さんは陸奥さんを投げるほどの柔術のテクニックも持ち合わせています。ここまで隙のない実力を持っているなんて……」
明石「どうやら、徐々に不知火選手の正体が明らかになってきました! その流儀は太気拳、発剄の打撃と柔術を使いこなす小さな達人!」
明石「その不知火選手が再度、動き出しました! 手負いの陸奥選手に止めを刺さんと、ジリジリと距離を狭めて行きます!」
明石「陸奥選手は未だ苦しそうに荒い息をしています! 長門選手を超えるという夢は、ここで儚くも散ってしまうのか!?」
大淀「肋骨が折れれば腰の捻りが効かなくなりますから、あらゆる動きに支障が出ます。陸奥さんがここからどう反撃するか……」
明石「……おや? 陸奥選手が再び構えます! 先程より更に重心が低い! 開手を前に突き出した、襲い掛かる猛獣のように前のめりの構え!」
明石「これはキャッチ・アズ・キャッチ・キャン・スタイル! 陸奥選手、己の根底であるレスリングの構えを取りました!」
大淀「陸奥さんの状態からして、全力で動けるのはせいぜいあと1回くらいでしょう。これで決めるつもりですね」
大淀「というより、これで決めなければ次はありません。陸奥さんは一か八かの賭けに臨む気です」
明石「さあ、陸奥選手が猛獣のように待ち構える! 不知火選手はペースを落とさず詰め寄っていく!」
明石「陸奥が動いた! 地を這うような低いタックル! これで不知火を仕留められるか!」
明石「ああーっ! か、カウンター! 肘鉄が顔面に突き刺さったァァ! 不知火選手、無情なる必殺の発剄! 凄まじい一撃が叩き込まれ……!?」
明石「む……陸奥選手がダウンしない! 勢いをそのままに、不知火選手を押し倒した! 腕はガッチリとホールドしています!」
明石「テイクダウンに成功! いや、というより不知火選手を道連れにダウンしたのか!? 陸奥選手、そのまま動かない!」
明石「マウントポジションを取ろうとする気配もありません! 不知火選手を抱き締めたまま、陸奥選手、ピクリともしま……!?」
明石「ち……血です! マットに流血! 陸奥選手の顔面から激しい出血が見られます! 陸奥選手、果たして意識はあるのか!?」
大淀「タックルの勢いのまま、あの不知火さんによる肘打ちを受けたなら、顔面は潰れてしまったでしょう。でも……」
明石「おっ? う、動いています! 陸奥選手が動いている! 捉えた不知火選手を逃すまいと、腕の位置を調整しているようです!」
明石「ならば、不知火選手の様子はどうか? これは……陸奥選手にホールドされて、ほとんど身動きが取れていません!」
明石「どうにかもがいて逃れようとしていますが、ここはパワー差が顕著に出ています! 陸奥選手の締め付けをまるで振りほどけない!」
明石「しかし、陸奥選手はここからどうやって不知火を仕留めるのか! まさかサバ折りで……あっ、腕の位置を動かしました!」
明石「か、肩固めです! 腕と肩で不知火選手の首を絞めている! 戦艦級の腕力が、まともに駆逐艦級を襲います!」
明石「不知火選手は必死にもがいていますが……陸奥選手、びくともしない! 卓越した技術も、この状態では使いようがありません!」
大淀「発剄は地面に足をつけて、腰を回さないと使えませんからね。あんな風に覆い被さられてはどうしようもないでしょう」
明石「じょ、徐々に不知火選手の動きが弱まっていきます! マット上の血だまりも広がりつつありますが、陸奥選手は締め付けを緩めない!」
明石「あっ……不知火選手が動かなくなりました! これは……完全に落ちている! あの小さな達人がピクリとも動きません!」
明石「レフェリーが不知火選手の失神を確認しました! 試合終了! 勝ったのは陸奥、陸奥選手です!」
明石「序盤でKO寸前まで追い込まれるも、圧巻の逆転勝利! 予想以上の強敵、不知火選手の技術をパワーとタフさでねじ伏せました!」
明石「陸奥選手、やはり強い! 優勝候補としての矜持を守り抜きました!」
大淀「ここまで接戦になるとは思いませんでした。途中、もう陸奥さんに勝ち目はないんじゃないかと思いましたが……」
明石「大逆転でしたね。やはり勝因は階級差にあると思われますでしょうか?」
大淀「それも大きいとは思いますが、最期まで心を折らなかった陸奥さんの精神的な強さが一番大きいとは思いますね」
大淀「本来なら、不知火さんによる迎撃の肘で終わっているはずだったんです。ほら、やっぱり顔の骨が折れてるみたいですね」
明石「うっ……うわ、左目がほとんど潰れていますね。かなりの出血が見られます。これは骨も折れてそうですね」
大淀「おそらくは眼底骨折、および眼球破裂もあるでしょう。首の筋力があるので脳震盪は起こりませんでしたが、致命傷には違いありません」
明石「あっ、立とうとした陸奥選手がよろめきました。やはり体力の限界だったようです。あの状態で、よく勝利をもぎ取りましたね」
大淀「普通、あんな一撃を貰えば戦意喪失するはずですけど、陸奥さんは耐え抜きました。きっと、致命傷を覚悟のタックルだったんでしょう」
大淀「階級差を利用したのは事実ですが、勝利に直接繋がったのはその覚悟の強さなのだと思います」
大淀「きっと、今は陸奥さんも感じているじゃないでしょうか。これで1歩、長門さんに近付いたと」
明石「まさにそうですね。不知火選手も予想以上の実力でしたが……」
大淀「最後の最後で詰めの甘さが出ましたね。おそらく、自分の一撃を過信してしまったんだと思います」
大淀「肘をクリーンヒットさせて、これで決まったと隙が出てしまったんでしょう。普通はあれで終わりでも、勝負に絶対はありませんからね」
大淀「ですが、どちらが勝ってもおかしくない大接戦だったと思います。非常にハイレベルな試合でした」
明石「はい、どちらも素晴らしい選手でした。観客の皆様、今一度、両選手に盛大な拍手をお願いします!」
試合後インタビュー:陸奥
―――初戦から予想以上の苦戦を強いられたかと思いますが、終わってみて今はどのようなお気持ちですか?
陸奥「……不知火さんは本当に強かったわ。仮に10回戦ったら7回は私が敗けるんじゃないかしら……もう一度戦って、勝てる自信がないわ」
陸奥「長門姉さんを超えるって目標なのに、最初からこんなに追い込まれてしまうなんて……先が思いやられるわね」
陸奥「でも、今の戦いでまた一回り強くなれた気がするの。こういうファイトスタイルもあるんだって勉強にもなったわ」
陸奥「うん。勝ったくせに弱気になるなんておかしいわよね。もっと強気で行かなくちゃ。相手をしてくれた不知火さんにも失礼よね」
陸奥「よーし、次の試合も敗けないわよ! このまま勝ち続けて、長門姉さんも倒して、必ず優勝するわ!」
―――ちなみに長門選手ですが、試合に勝ったということでお祝いのコメントなどは伺っていますか?
陸奥「いいえ。このグランプリ中はお互いに会わないって決めてるの」
陸奥「だって、今は姉妹じゃなくて、戦うべき敵同士だもの。次に会うのはリングで、って長門姉さんと約束したのよ」
陸奥「私はこのグランプリで、本気で長門姉さんを超えるつもりだから。そのために出場したんだものね」
陸奥「姉さんは間違いなくトーナメントを勝ち上がってくる。だから、絶対に途中で私が敗けるわけにはいかないわ」
試合後インタビュー:不知火
―――優勝候補の陸奥選手を相手に、素晴らしい戦いぶりでした。惜しくも敗北となりましたが、試合をしてみてどのような感想をお持ちでしょうか。
不知火「……不知火の落ち度です。それ以上、敗けた不知火に語る言葉はありません」
不知火「いえ、1つだけ……吹雪さんと夕立さんに、済まなかったと伝えてください」
(不知火選手の取材拒否により、インタビュー中止)
明石「さあ、異色の対決で幕を開けたBブロック! 続く第2試合、これもまた注目のカードです!」
大淀「先程の試合も事前の予想が難しい対決でしたが、これもまた何が起こるかわからない選手同士の試合ですね」
明石「それでは入場していただきましょう! 赤コーナーより、UKF屈指の問題児ファイターの登場です!」
試合前インタビュー:龍田
―――今大会に向けて、目標などはありますか?
龍田「ないわねぇ。優勝もしたいと言えばしたいけど、やっぱり単純に試合を楽しみたいわ~」
龍田「私たち格闘家はエンターテイナーだものね。勝ち負け以上に、お客様を楽しませることが大切だと私は思ってるの」
龍田「誰かに楽しんでもらうには、まず自分が楽しまなくちゃいけないじゃない? だから今日はうんと試合を楽しむつもりよ~」
―――無差別級の試合に臨むのは初めてかと思いますが、自分より階級が上の選手と対戦するにあたり不安は感じていらっしゃいますか?
龍田「もちろん怖いし、不安よ。階級差があると色んな面で不利だし、階級が上ってだけでちょっと萎縮しちゃうわ」
龍田「だけど、逆に安心な点もあるわね。だって、階級が高いってことは、それだけ壊れにくいってことじゃない?」
龍田「今まで戦ってきた軽巡級の子たちは壊れやすくて、いい加減ウンザリしてたのよ~。今日はもっと雑に扱っても大丈夫よね?」
龍田「手心を加えなくてもいいなんて気が楽だわ~。ドイツ人ってどんな声で泣いてくれるのかしら~」
龍田:入場テーマ「Mayhem/De Mysteriis Dom Sathanas」
https://www.youtube.com/watch?v=uZmDL_PzvdY
明石「軽巡級グランプリ準優勝! 彼女の恐ろしさを語るには、その程度の肩書ではあまりに物足りません!」
明石「曰く、真性のサディスト! 曰く、その身に悪魔を宿す女! 曰く、合法的に相手を虐めるためにリングへ立つ残虐ファイター!」
明石「格闘家が選ぶ最も戦いたくないUKF選手堂々の第1位! ”悪魔女王” 龍田ァァァ!」
大淀「今日もいい笑顔ですね。内面はドロッドロのくせに」
明石「龍田選手といえば、軽巡級王者の座を勝ち取った大淀さんにとってはライバルに当たる存在ですよね?」
大淀「そうですね、大っ嫌いです。死ねばいいと思っています」
明石「あの、解説者なんですから、思ったことをそのまま言うのは控えてください」
大淀「ああ、すみません。ただ彼女さえいなければ、私が格闘雑誌でボロクソにこき下ろされたり、ブログも炎上せずに済んだと思うと……」
明石「えーっと、そろそろ龍田選手の解説をしていただきたいんですが」
大淀「あーはい。龍田さんはいわゆる日拳、日本拳法の使い手ですね。打投極から組み討ちなども重視した、総合格闘の先駆けとも言える流派です」
大淀「技のバリエーションは豊富なんですが、日拳には1つ弱点がありまして。防具を着用して練習する性質上、防御技が身に着かないというものです」
大淀「これを龍田さんは天性のセンスと常に攻め続けることでカバーしています。実際、彼女が受けに回った試合というのは今までありません」
明石「というより、龍田さんが苦戦した試合というもの自体がないに等しいんですよね?」
大淀「ええ。龍田さんは戦績としては今までに3敗していますが、うち2敗はレフェリーストップを無視して追撃をしたことによる反則負けです」
大淀「彼女は相手がタップしても殴り続けますし、関節を極めたら折れるまで離しません。それに関しては何度指導されても改める気はないようです」
大淀「そのドSぶりは早々に知れ渡りましたから、大半の選手は龍田さん相手だと早めにギブアップします。だからこの程度の黒星で済んでいます」
明石「龍田選手を相手に頑張り過ぎると目も当てられないことになってしまいますからね……」
大淀「もう1つは私との試合ですね。時間切れによる判定負けです。軽巡級グランプリは10分3ラウンド制の試合でしたので」
明石「あの『史上最低の泥仕合』と言われた決勝ですね。これに関しては大淀さんも色んな所から散々言われたかとは思うんですが……」
大淀「……龍田さんはですね、普通の選手と根本的に違うんですよ。そもそも、試合に勝とうとしていないんです」
大淀「あの人は試合の過程で対戦相手を痛めつけて、自分の嗜虐心を満足させることが目的なんです。だから戦い方も普通とは全く違います」
大淀「私は勝つための手段に目突きを使いますが、龍田さんが目突きをするのは、単に相手の目を潰したいからです。手段と目的が一緒なんですよ」
大淀「龍田さんが試合に勝つのは、下手に実力が高いせいで結果的に勝っているというだけなんです。本当は勝敗なんてまるで興味がないはずです」
大淀「私は逆に、何としても試合に勝ちたい。だからあの決勝では、初めから『判定勝ち』を狙いに行かせていただきました」
明石「体重の乗らないジャブやローキックをたまに繰り出してはすぐ離れる、超消極的ヒット&アウェイと呼ばれたあの戦法ですね」
大淀「ええ。こっちは一応攻め続けているから膠着ではないし、攻撃も受けてないんですから、判定で私が勝つと思いました」
大淀「龍田さんは何度も攻め込んできましたけど、私が上手いこと逃げましたからね。作戦通り、途中でやる気をなくしてくれました」
明石「あれは方々から大批判でしたね。とうとう龍田さんの本気が見れると期待の大きい試合だったばっかりに」
大淀「確かに申し訳なかったとは思います。でもですね、趣味で相手の指を折ろうとするような人とまともな試合なんて、誰もしたくありませんよ」
明石「そうかもしれませんが……ともかく、龍田さんの実力に関して1つ言えるのは、『未だに底が知れない』ということでしょうか」
大淀「はい。さっき言った通り龍田さんは勝とうとしていませんから、今まで本気で戦った試合がないんです」
大淀「日本拳法の人ですから、打撃から関節技まで何でもできることは確かです。ですが、どの程度できるかは戦った私にもわかりません」
大淀「ですから、もしかすると……この試合でそれが明らかになるかもしれません。その役目を務める対戦相手は不幸としか言いようがありませんが」
明石「わかりました。それでは不運にも悪魔女王に挑むのはこちらの選手です! 青コーナーより、対戦者の入場です!」
試合前インタビュー:ビスマルク
ビスマルク「Guten Tag. コ……コニチハ。アタシ、ワタシは……」
―――通訳の方に来ていただいていますので、ドイツ語で話されて大丈夫ですよ。
(以下、ドイツ語による会話を日本語に翻訳したものになります)
ビスマルク「あら、そうなの? でもかなり日本語上手くなったたでしょ! 空いている時間にすっごく練習したのよ!」
ビスマルク「えーっと通訳のあなた、ろーちゃんだっけ? 後でもっと日本語教えてよ! 帰国する前にはペラペラに喋れるようになりたいの!」
ビスマルク「観光もしていきたいし、よろしくね! 大丈夫よ、講習料はちゃんと払ってあげるから! 優勝賞金の10億円でね!」
―――そのご様子では随分と日本のことを気に入ってくださっているようですが、アウェイの地で戦う緊張や不安などはありますか?
ビスマルク「緊張? 全くないわね。むしろすっごく調子がいいわ。この国の空気は私に合っているみたい」
ビスマルク「気候も過ごしやすくて、風土や町並みも素敵だわ。美味しそうな食べ物もあるし、しばらくこっちに滞在するのもいいかもね」
―――対戦相手の龍田選手について、何か対策などは立てられていますか?
ビスマルク「うーん。実は私、その子のことを全然知らないのよね。この国の軽巡級グランプリ準優勝者ってこと以外はさっぱり」
ビスマルク「第一回UKF無差別級グランプリの映像は見たんだけど、彼女は出場してなかったじゃない? だから、対策なんて立てようもないわ」
ビスマルク「でもまあ、いつも通りにやるわよ。龍田さんってキレイな子なのかしら? だとしたら、すごく楽しみね」
―――ビスマルク選手の本国における経歴、戦績などは一切非公開となっていますが、ここで何か明かしていただける情報などはありますか?
ビスマルク「ごめんなさい。そういうことは言うなって上から止められてるの。せっかくのインタビューなのに申し訳ないわね」
ビスマルク「ちょっとだけ本当のことを言うと、実は人前で戦うのって初めてなの。だから、さっきからワクワクが止まらないわ」
ビスマルク「みんなに見られてる前で戦うなんて、変な感じ。あんまり意識しないよう気を付けないといけないわね」
(通訳は呂-500さんにご協力していただきました)
ビスマルク:入場テーマ「SAW/Hello Zepp」
https://www.youtube.com/watch?v=vhSHXGM7kgE
明石「今や艦娘格闘界最高峰と呼ばれるUKF! 最強を決めるこの舞台に、ついに海外選手の参戦です!」
明石「第三帝国ドイツから放たれた謎の刺客! ハーケンクロイツの印を背負うその身には、如何なる実力が秘められているのか!」
明石「ドイツ最強の戦艦級ファイター、万を持して日本襲来! ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルクゥゥゥ!」
大淀「初の外国人選手ですね。彼女は経歴が非公開なので、残念ですが私から解説できることはほとんどありません」
明石「見たところはアレですね。例の紋章が……」
大淀「ああ、ドクロのマークを着けてますよね。ということはナチスの親衛隊の方で、軍隊格闘か何かをやってらっしゃるのかなと思います」
大淀「わかるのはそれくらいです。後はそうですね……彼女の参戦にあたり、ドイツ本国のほうで随分と揉めた、という噂くらいしか」
明石「それは私から説明させていただきますが、私自身もよくわからない話なんですよね。何だか情報が曖昧過ぎて」
明石「何でも、運営が第二回グランプリの開催にあたり、同盟国のイタリア、ドイツにぜひ貴国の選手を招聘したいと打診したそうなんです」
明石「イタリアのほうは大会のVTRを見て、間もなく出場を見送る旨が伝えられてきました。長門選手には敵わないと判断したようです」
明石「ですが、ドイツは逆にすぐさま出場を表明したんです。そのときこちらに伝えられた艦娘がビスマルク選手でした」
大淀「大会の内容を見た上でビスマルクさんを推したということは、それだけ彼女の実力が信頼のおけるものだということでしょうね」
明石「そのはずなんですが、出場表明のわずか数日後に、突然それが取りやめになったんです。何でもこれ、ドイツ軍部からの圧力だそうです」
明石「最初に出場を決めたのも同じ軍部なんですが……どうやら、軍部内で意見が分かれていたようなんですね」
明石「ビスマルク選手をドイツの威信を示すに相応しいとする派閥と、相応しくないとする派閥。この2つが揉めに揉めたらしくて」
大淀「そもそも揉めた理由は何なんでしょう。実力は十分なはずですよね?」
明石「はっきり言ってそれすらわからないんです。ドイツ側も何が理由でビスマルク選手の出場をためらっているのか教えてくれませんでしたから」
明石「でも、結局は出場という運びになりまして。その代わり、経歴などに関しては一切公開しないということになってしまいました」
大淀「UKFの運営側はさぞかし困ったでしょう。せっかく大会の目玉選手のつもりで外国人選手を招聘したのに、公開できる情報がないなんて」
明石「まあ……そんなビスマルク選手を龍田選手にぶつけるっていうこと自体、運営からドイツへの当て付けみたいなものですよね」
大淀「ええ、ちょっと悪意を感じます。ビスマルクさんは龍田さんのことを何も知りませんからね。それは龍田さんも同じではありますが」
明石「何もかも未知数のこの試合ですが、大淀さん。何か見どころというか、予想などはありますか?」
大淀「予想は勘弁してください。とにかく、実力未知数の2人がどんな試合をするのか。私自身もそれが楽しみではあります」
明石「ありがとうございます。さあ、両者リングイン! どちらも今からお茶会でも始めるのかというような穏やかな笑顔!」
明石「しかし、ここから始まるのは究極のバーリ・トゥード! あらゆる技が許されるこの舞台で、この2人はどんな戦いを繰り広げるのか!」
明石「今このとき、地獄の門は開かれる! ゴングが鳴りました、試合開始です!」
※注意事項
・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。
・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。
・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。
・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。
明石「さあ両者、ゆっくりと間合いを詰めて行きます。龍田選手は日本拳法家らしく拳を水月に置いた、中段の構え!」
明石「対するビスマルク選手は……これはどうしたことでしょう、構えを取りません! まるで散歩のような足取りで龍田選手に歩み寄ります!」
大淀「油断……という感じではないですね。もしかしたら構えなんてないのかも……」
明石「いよいよ互いの射程距離に入ります、両選手! その表情は相変わらずの微笑! さあ、どのような攻防が繰り広げられるのか!」
明石「おっと、龍田選手が先に動いた! 顔面へ直突き! 目にも留まらぬさすがのハンドスピード!」
明石「ビスマルク選手、これを難なくウェービングで躱しました! なかなか鋭い打撃反応です!」
大淀「打撃戦になりそうな雰囲気ですね。ビスマルクさんに攻める気配がないのが怪しいですが……」
明石「さて、躱された龍田選手ですが、動じている気配はありません。今のはほんの挨拶だと言わんばかりの余裕の表情!」
明石「龍田選手が更に打撃を重ねます! 横打ち! 揚げ打ち! 軽巡級ならではのハイスピードで果敢に攻め立てる!」
明石「しかしビスマルク選手、打撃のラッシュを巧みに捌く! 中段への回し蹴りも容易くブロックしました!」
明石「再び直突き! これも躱す! 前蹴り! 片手で弾く! ビスマルクのディフェンステクニックが冴え渡ります!」
大淀「階級差があるのに、ビスマルクさんはスピード負けしていませんね。むしろパワーで劣る龍田さんが不利でしょうか」
明石「続けざまに攻め立てる龍田選手に対し、未だビスマルク選手、反撃の気配なし! わずかにガードを上げて攻撃に備えるのみです!」
明石「それでも龍田選手は攻撃の手を緩めない! 顔面に左のジャブ、ジャブ、ジャブ! そして直突き! これも当たらない!」
明石「またもやウェービングで躱されました! さすがに疲れたのか、龍田選手が距離を取ります。ビスマルク選手、やはり非常に動きが……」
大淀「……いえ、違います! 今のが龍田さんの狙いだったんです!」
明石「えっ? 何が……あっ!? しゅ、出血です! ビスマルク選手の側頭部からおびただしい量の血が滴っています!」
明石「こ、これは……耳です! ビスマルク選手の片耳がありません! 龍田選手の直突きがかすめたほうの耳です!」
明石「無くなった耳はどこに……ああっ! 龍田選手、これ見よがしに手の中の耳を見せつけました! その表情は満面の笑み!」
明石「なんと龍田選手、打撃の攻防に見せかけて耳を引きちぎりました! これが悪魔女王と呼ばれる、サディストファイターの戦い方なのか!?」
大淀「最後の直突きを引いた瞬間です。あえて自分の打撃に慣れさせておいて、躱される間際に耳をもぎ取ったんです」
明石「なるほど、先ほどの攻防はこのための布石! これが『何でもあり』ルールの恐ろしさ! 龍田選手、早くも試合のペースを握りました!」
大淀「……あの人、何なの? 笑ってるなんておかしい……」
明石「いやあ、本当にそうですね! こんなことをしでかして笑顔だなんて、どこまでサディストなんだっていう……」
大淀「いえ、違います。龍田さんはいつも通りです。今まで控えめにしていた本性を今日はあからさまにしてるっていうだけです」
明石「え? じゃあおかしいって何が……」
大淀「ビスマルクさんですよ……あの人、耳をちぎられた瞬間も、そして今も、ずっと笑っているんです」
明石「あっ……ほ、本当です! 自分の耳を奪われたにも関わらず、ビスマルク選手、開始直後と変わらぬ微笑! まったく動じていません!」
明石「これには龍田選手も眉をひそめています! せっかく悲鳴が聞けると思ったのに、なんだこいつはというような不機嫌な表情!」
明石「うわっ、龍田選手が耳をビスマルク選手に投げ渡しました! 明らかな挑発行為です! ビスマルク選手、微笑を浮かべてこれを受け取る!」
明石「さあビスマルク選手、受け取ったとしても耳をどうするのか。当然くっつくわけもなく……うげぇ!?」
大淀「ちょっ、何してるの!?」
明石「し、信じられません! ビスマルク選手、渡された自分の耳を口に含みました! こめかみが動いている、明らかに咀嚼しています!」
明石「の……飲み込みました! 何ということでしょう! ビスマルク選手、ちぎられた自分の耳を食べました! これには龍田選手もドン引きだ!」
大淀「ひ……人喰い鬼って、ただの通り名じゃないの……?」
明石「これはにわかに不穏な気配が立ち込めて参りました! いつになく険しい表情の龍田選手、そして笑みを崩さないビスマルク!」
明石「あっ、ビスマルク選手がファイティングポーズを取りました! ここに来てまともに打ち合おうというのか!?」
大淀「耳の出血がありますから、現時点ではビスマルクさんが不利です。龍田さんなら、容赦なく傷口を狙うはずですし」
大淀「ただ、今の行動でビスマルクさんがまともな選手ではないことがわかりました。今から何を仕掛けるのか、不気味です」
明石「さあ、笑う人食い鬼が悪魔女王へと詰め寄る! 龍田選手は気圧されることなく、中段の構えで迎え撃つ体勢!」
明石「再び打撃戦となるか!? 先に動くのはやはり龍田! 牽制気味の直突きが放たれ……なっ!?」
大淀「うそ、カウンター!?」
明石「龍田選手がカウンターを取られた! 顎へ突き上げるような掌底! そのまま足を刈った! この動きは大外狩り!?」
明石「あの龍田選手があっさりテイクダウンを取られました! いや、しかし胴との間に足を挟んでいる! 辛うじてガードポジションを取ります!」
明石「そのままビスマルクが腰を下ろした! グラウンド戦に移行……あっ!? 龍田選手が目を手でかばっています! 僅かに出血もある模様!」
明石「龍田選手、どうやら目にダメージを受けたようです! 視力を失っている! 一体、いつの間に攻撃されていたのか!?」
大淀「掌底を顎に入れた時、ビスマルクさんは同時に虎爪の形で目に指を入れたんです。やっぱりこの動き、軍隊格闘術……!」
明石「これは龍田選手、圧倒的不利な状況に立たされました! 目を開けられない状態で、ビスマルクの攻撃をどう凌ぐのか!?」
明石「さあ、ビスマルク選手が拳でパウンドを仕掛け……いや、龍田選手が腕を抱き込みました! 両足も胴をガッチリとホールドしています!」
明石「目はまだ開けられないようですが、どうにかディフェンスできています! このまま視力の回復を待つつもりでしょうか!」
大淀「寝技の攻防なら、目は見えてなくても感触で相手の動きがわかります。一旦膠着させて、打撃に持ち込まれなければ何とか……」
明石「あっ、これは……龍田選手がビスマルクの腕を取ろうとしている! 絡めた足も徐々に首へ近づけています!」
明石「どうやら、このまま腕ひしぎを狙う気です! さすがは龍田選手、この状況でも守りに入るという選択肢はありません!」
大淀「やっぱり龍田さんは寝技も相当上手いです。もしかしたら決められるかも……」
明石「さあ、どうするビスマルク! 上半身を抑え込まれたまま、動くことができません!」
明石「このまま腕ひしぎを決められてしまうのか! 今のところ抵抗する様子もなく……なっ、なんだ!?」
大淀「えっ! ど、どうしたの!?」
明石「龍田選手が悲鳴を上げています! 何が起こった!? あの悪魔女王が絶叫している! こんな光景はありえない!」
明石「ち、血です! マット上に血が! これは……噛み付きです! ビスマルクが龍田選手の脇腹に噛み付いている!」
明石「衣服の上からだというのに、恐るべき咬筋力です! 龍田選手の脇腹から血が……か、噛みちぎった!?」
大淀「ひっ……!」
明石「ビスマルク選手、脇腹の肉を服ごと食いちぎりました! し、しかも吐き出さない! 咀嚼して……く、食った!」
明石「目を疑うような光景が繰り広げられています! 噛み付きというよりは猛獣の捕食! このビスマルクという選手、何を考えているんだ!?」
明石「龍田選手はおびただしい出血! しかも傷口に再びビスマルクが顔を……あっ、絞めを解きました!」
明石「ビスマルク選手の顔面を蹴り飛ばした! 龍田選手、ガードポジションから脱出! 一旦距離を取ります! 視力は回復しているようです!」
明石「再びスタンド状態に戻りました! ですが……このダメージは甚大! 手で抑えた脇腹からは、今も流血が止まりません!」
明石「対するビスマルク選手、蹴りで目の下が腫れていますが、ダメージを感じている様子はありません! 唇を血で濡らし、相変わらずの微笑!」
明石「これは大変なことになって来ました! 龍田選手、ここから逆転する術はあるのか! ビスマルク、こいつは一体何なんだ!?」
大淀「ま、まさか龍田さんがここまで追い詰められるなんて……」
明石「さあダメージを負っている龍田選手、さすがにその表情は険し……い、いや違う! その目付きに疲労や恐怖はまるでありません!」
明石「笑みの掻き消えた顔に人間らしい感情は何も浮かんでいません! 寒気のするような無表情! 眼差しに宿すのは、氷のように冷徹な殺意!」
明石「未だかつて見たことのない龍田選手の顔つき! 殺意を超えて妖気すら感じさせる、これこそが本気になった悪魔女王の姿なのか!?」
大淀「こ、こんな龍田さんは初めてです。ビスマルクさんが龍田さんを本気にさせた……!」
明石「あっ、脇腹から手を離しました! 出血にも構わず、再び中段の構えを取る! 悪魔女王、健在! なおもビスマルクに挑む気です!」
明石「ビスマルク選手、これに応えるようにファイティングポーズを取りました! 悪魔と人喰い鬼、果たしてこの勝負を制するのはどちらか!?」
大淀「凄い気迫……龍田さんはもう遊ぶ気はまったくありません。相手を殺す気になってる……!」
明石「さあ龍田選手が軽快なフットワークで間合いを詰める! その足取りにダメージの色はまったくありません!」
明石「サイドに回り込んで回し蹴り! これは捌かれた! 続けざまにレバー打ち! 肘でブロックされる!」
明石「それでも龍田選手、一歩も引かない! 序盤の打撃戦を上回るスピードでビスマルク選手を攻め立てています!」
明石「今度は顔面にジャブ! 横打ち、いやこれはフェイント! 直突きがみぞおちに入った! 初めてまともに打撃が当たりました!」
大淀「速い、この動きなら行ける!」
明石「しかし、ビスマルク選手もスピードで龍田選手について行く! 続けざまに襲い掛かる打撃を避ける、避ける、避ける!」
明石「あっ、バックハンドブロー! 龍田選手がカウンターを食らった! 裏拳がまともに顔面へ入りました! 龍田選手、ダウン!」
大淀「まずい、立って! 今、足が止まったら……!」
明石「いや、すぐに立ち上がりました、龍田選手! 体勢を立て直し、再びビスマルク選手へ向かっていく!」
明石「また顔面に直突き! パリィで防がれた! 続けて連打! 激しい拳と拳の応酬です! しかし、ビスマルクには1発もヒットしない!」
明石「むしろ龍田選手が徐々に押され……あっ、ここでハイキック! ビスマルクは辛うじてスウェーで回避! 龍田選手の打撃をものともしません!」
大淀「惜しい! 今のはちぎった耳の傷口を狙ったんです。あれが当たっていれば……!」
明石「そろそろ龍田選手の息が上がってきました! 対するビスマルク選手は未だ余裕を残した動き! ダメージや疲労は一切ありません!」
明石「それでも龍田選手は休まない! 再び打撃戦を仕掛けます! また中距離での打ち合い! やはりビスマルクのディフェンスを突破できない!」
明石「回し蹴……ああっ、先にビスマルクのミドルキックがヒット! 脇腹の傷口に蹴りが入った! 龍田選手、再び大きくバランスを崩す!」
大淀「嘘でしょ、もう動きを読まれているの!?」
明石「ビスマルクが追い打ちを掛ける! 容赦のない右フック! いや、ダッキングで躱しました! 龍田選手はまだ動けています!」
明石「打撃を逃れ、龍田選手がクリンチを仕掛る! ここで組み合うか!? あっ、ちぎった耳の傷口を狙っ……な、何だ!? 何が起こった!?」
大淀「そんなっ!? あんな反撃……!」
明石「龍田選手が再び絶叫! ビスマルクから大きく距離を取ります! い、今のは何が起こったのでしょう!」
大淀「た、龍田さんはちぎった耳の穴に指を突き入れたんです。三半規管に直接ダメージを与えるために……」
大淀「だけどビスマルクさんはあえて指を入れさせて、頃合いを見計らって頭を捻ったんです。それで、てこの原理で龍田さんの指を……」
明石「あっ……た、確かに、龍田選手の右の人差し指があらぬ方向に曲がっている! 指の骨折です! またもや重大なダメージを負ってしまった!」
明石「し、しかし……龍田選手、折れた指を仕舞い込んで無理やり拳を作りました! 悪魔女王、未だに交戦の意思あり!」
明石「ビスマルク選手はその姿を悠然と眺めている! 一体、こいつはどういう神経をしているんだ!?」
大淀「あれだけ深く耳の穴に指を突き刺されたら、鼓膜の損傷くらいはあるはずです。なのに、何でダメージがないの!?」
明石「再び龍田選手、間合いを詰めに行く! 果たして、ここから為す術はあるのか!?」
明石「今度は自分からは仕掛けません! 軽くステップを踏みながら、ビスマルクから仕掛けてくるのを誘っている!」
明石「さあビスマルク、どう出る!? ジャブを打った! 龍田選手はバックステップで躱す!」
明石「ビスマルクは更に前へ出て行く! フック、ショートアッパー! サイドステップで躱す! ビスマルク、ここは決めに行くか!?」
大淀「た、龍田さんが受け身に回ってる……何をする気なの?」
明石「ビスマルクの前蹴り! これは捌いた! 龍田選手、一転して防戦一方! ここから如何に反撃を繰り出すのか!」
明石「ここでビスマルク、ワンツーのストレート! 躱した! 龍田選手、再び懐に飛び込……うわっ! ゆ、指を唇に引っ掛けた!」
明石「龍田選手、左手をビスマルクの唇に……いや、頬裏に差し込んでいる! こ、これはどういう攻撃なんだ!?」
大淀「き、禁じ手の投げ技です! 頬裏に手を入れれば噛み付きもできない! 行ける!」
明石「そのまま龍田選手が足を刈っ……あれっ!? ビスマルクが離れた! あっさりとビスマルクがエスケープに成功……ひぃい!?」
大淀「な、何なのこの人……!」
明石「ほ……頬がぱっくりと裂けています! 裂け目から歯茎がむき出しに! 一体何が起こった!?」
大淀「……まさか、投げられる瞬間に自分で逆向きに顔を振って、あえて頬を裂いたの!?」
明石「い、イカれています! まるで口裂け女のようなおぞましい形相! そして、血を滴らせながら、なおもこの女は笑っている!」
明石「なぜこんな逃げ方ができる!? 痛みを感じていないのか!? まるで何事もなかったのように再度構え直します、ビスマルク!」
明石「さしもの悪魔女王にも驚愕の色が伺えます! 龍田選手、まだ手は残っているのか!」
明石「詰め寄るビスマルクに龍田選手、距離を取るように前蹴……か、カウンターァァァ! 顎に右フックが完全に入ったぁぁぁ!」
明石「蹴りを躱しざまにフックがクリーンヒット! 頭部が大きく揺れました! 龍田選手、ダウン! ダウンです!」
大淀「そんな、あんな簡単にもらうわけが……!!」
明石「さあビスマルクが踏み込んでいく! 止めを刺すつもりです! 足が振り上がった! 踏み付ける気だ!」
明石「龍田選手危うし! これで終わるのか……あっ! 動いた! 龍田選手が動いています!」
明石「踏みに来た足を捉えました! 龍田選手、はっきりと意識があります! ビスマルクを引き倒し、そのまま足関節に移行する!」
大淀「さっき右フックをもらったとき、自分から顎を振ってダメージを逃がしたんです。そのままダウンする振りをして、ビスマルクを誘った……!」
明石「龍田選手、ビスマルクの足首を脇で抱えました! これはヒールホールドの体勢! 技は入っている! 決まるか? 決められるか!?」
明石「決まったァァァ! 足首の折れる音が聞こえました!ビスマルク選手、利き足首を骨折! これは致命的なダメージ……!?」
明石「な、なんだ!? ビスマルクが逆に龍田選手の足を掴んだ! 何をしている!? 骨が折れているのに、痛みがないのか!?」
大淀「こ、こんな馬鹿な!」
明石「ひっ!? あ、悪魔女王が三度の絶叫! ビスマルク、龍田選手のつま先に噛み付きました! 裂けた頬から龍田選手の血が溢れ出ている!」
明石「く、食いちぎったぁぁぁ! 龍田選手、つま先を丸ごと喪失! 足指の付け根から骨がむき出しになっています!」
明石「ビスマルク、またもやこれを食う! うげっ、頬の隙間から指がこぼれ落ちた! 血を口から滴らせながら笑う、その姿はまさに人喰い鬼!」
明石「そのまま龍田選手に覆い被さった! 龍田選手、足の痛みで動きが鈍い! とうとうマウントポジションを取られました!」
大淀「も、もうスタンド勝負はできない……グラウンドで逆転するしか……!」
明石「龍田選手、絶体絶命! ビスマルクが腕を振り上げてパウンド! 辛うじてガードしますが、やはり戦艦級と軽巡級! パワーが違いすぎる!」
明石「ガード越しでも明らかにダメージが蓄積されています! このままでは……あっ、龍田選手がガードを解いた! ビスマルクの頭を抱えました!」
明石「このまま密着させて打撃を凌ぐつもり……じゃ、じゃない! サミングです! 頭を抱えたのは防御のためではありません!」
明石「龍田選手、ビスマルクの右目に親指を突き入れた! 人喰い鬼の右目が潰れました! これはさすがに効いたはず!」
大淀「……ありえない。あの人、痛覚がないの!?」
明石「なっ!? ビスマルク、平然と拳を振り下ろした! 目に指が入っているにも関わらず、お構いなしの下段突き!」
明石「顔面に痛烈な一撃が入りました! 目に入れていた指も抜けてしまった! ここで追撃……いや、ビスマルクが顔を覆い被せた!?」
明石「な、何なんだこいつ!? 龍田選手、4度目の絶叫! ビスマルクが肩、いや鎖骨に噛み付いています! こいつはどこまでイカれてるんだ!?」
明石「肉ごと鎖骨を食いちぎった! こ、これで右が完全な死に腕と化しました! 龍田選手、もう右腕は動きません!」
明石「ああっ!? なおもビスマルクが顔を覆い被せる! 今度は耳だ! 龍田の耳を食いちぎった! 悪魔女王が5度目の悲鳴を上げる!」
明石「肉と骨を咀嚼する生々しい音が聞こえます! 自分と龍田選手の血で赤く染まったビスマルクのこの表情! 楽しそうに笑っている!」
大淀「も、もう無理です! レフェリーストップを!」
明石「あっ!? た、龍田選手がブリッジした! 一瞬の隙を突き、マウントポジションからエスケープを図る! まだ諦めていません!」
明石「バックマウントから立ち上がろうとしています! 左の肘鉄でビスマルクの顔面を強打! このまま逃げられるか!?」
明石「いや、ビスマルクの腕に顔を挟まれた! これは……フェイスロックです! ビスマルク、このまま龍田選手の首を捻るつもりだ!」
明石「腕の締め付けが強すぎる! 龍田選手、これは逃れられない! しかしタップはしない! 悪魔女王の意地がタップを許さない!」
大淀「目です、もう一度目を狙って!」
明石「あっ! 龍田選手の左手が何かを探っている! ビスマルクの顔をまさぐっています!」
明石「うわっ……ふ、再びサミング! 潰れていない左目に、親指が深々と突き刺さったァァァ! ビスマルク、これで両目を完全に失明!」
明石「いや、それだけではない! お、親指で目の中をかき回している! 背筋の凍るような光景です! これは想像を絶する痛みのはず!」
明石「な、なのに……ビスマルクは動じない! 眼窩に指を入れられても、まるで意に介していない! 本当に痛覚そのものがないのか!?」
明石「ビスマルクが更に首を捻り、頸骨が軋みを上げる! 龍田が更に深く目に親指を入れ、眼窩をかき回す!」
明石「こ、これはもう戦いではありません! 殺し合いですらない! 悪魔と鬼、怪物同士の喰い合いだぁぁぁ!」
大淀「な、なんで……なんでビスマルクさんは笑っていられるの!?」
明石「す……既に親指は根元近くまで目の中に入っています! もう痛いどころではないはず! なのに、ビスマルクはうめき声1つ……!?」
明石「な、何だ!? ビスマルクが笑い出した! 声高らかに、不気味な哄笑が会場に響き渡っている!」
明石「これはこの世の光景なのか!? 一体、何がそんなにおかしいのか! もはや見ているこちらのほうが頭がおかしくなりそうです!」
大淀「だ、だめ……! もうやめて!」
明石「あっ! た、龍田選手の首が限界に近い! もう90度近く回っている! これ以上は本当に首の骨が折れてしまう!」
明石「それでも龍田選手はタップしない! なおも親指をビスマルクの目に突き刺し、眼球をかき回している! もはや執念を超えた狂気の領域!」
明石「しかし、ビスマルクは笑っている! 龍田選手の抵抗をあざ笑うかのように、さも嬉しそうな高笑いを上げている!」
大淀「く、狂ってる……!」
明石「ああっ……! お、折れた! 龍田選手の首が! まるで赤ん坊のようにくったりと頭が垂れています!」
明石「左腕も力なく垂れ下がりました! もうぴくりとも動きません! ま、まさかあの龍田選手がこのような敗北を喫するとは!」
明石「とうとう終わってしまった! 悪魔女王、陥落! 真の実力を見せつけるも、ビスマルクの狂気にねじ伏せられました!」
明石「ゆっくりとビスマルクが立ち上がります! 潰された両目から血の涙を流し、頬まで裂けたビスマルクの形相は、鬼以上の化物に見えます!」
明石「一体、こいつは本当に私たちと同じ艦娘なのか……なっ!? 何をしている!? ビスマルクが龍田選手に再び覆い被さった!」
明石「く、食っている!? 意識のない龍田選手に噛み付いています! ち、乳房を食いちぎろうとしている!」
明石「あああっ、食いちぎった! もはや完全に肉食獣の捕食です! もう龍田選手に意識はないのに!」
大淀「何しているの! 止めなさい、早く!」
明石「あっ、ようやくレフェリーストップが掛かりました! レフェリーの妖精さんも、驚愕のあまり呆然としてしまっていたみたいです!」
明石「たった今、ゴングが鳴りました! 試合終了です! ビスマルクもさすがに攻撃をやめ、レフェリーの指示に従っています!」
明石「しょ、勝敗の結果をお伝えします……勝者はビスマルク、ドイツのビスマルク選手です」
明石「試合終了後の追撃はルール上では反則負けですが、あの時点でレフェリーストップは掛かっていませんでした」
明石「ですので、先ほどの行為は反則には当たりません。勝敗に変更はなく、ビスマルク選手の勝利となります」
明石「両目が潰れ、頬の裂けたままビスマルク選手は再び微笑を浮かべています。その姿に、会場は水を打ったように静まり返っております……」
明石「壮絶な試合でしたが……大淀さん。何かその、ご感想などを……」
大淀「……正直なところ、大きなショックを受けています。龍田さんがこんな形で敗れるなんて思ってもみませんでした
大淀「龍田さんは本物の実力者です。ビスマルクさんの状態を見てもらえばわかる通り、階級がはるか上の相手にあれほどの手傷を負わせています」
大淀「なのに、終わってみれば完敗に等しい有様です。試合内容では切迫した場面もあったのに、こんな結果になるなんて……」
明石「ビスマルク選手は……一体何なんでしょう? あれだけの傷を負って、痛みを感じている様子が一度もありませんでしたが……」
大淀「わかりませんが、トレーニングなどでは得られない何かを持っているのは確かです。明らかに常軌を逸していました」
大淀「しかも、動きを見る限り、基本的な格闘技術も極めて高いものを持っています。打撃に関してはトップクラスと見ていいでしょう」
明石「それに加えて痛みを意に介さず、噛み付き……というより食いちぎる攻撃まであるわけですか。本当に恐ろしい選手です」
大淀「……個人的な感想ですが、レフェリーストップが掛かった瞬間の様子が一番ゾッとしました」
明石「えっ? そのときはキチンとレフェリーからの制止に従っていましたが……」
大淀「だからですよ。例えば龍田さんはレフェリーストップを無視して攻撃するときがありますが、それは興奮していて制止が聞こえないからです」
大淀「ビスマルクさんは制止を受けて、ピタリと追撃をやめました。あの異常な攻撃の全てを、興奮状態ではなく冷静なまま行っていたんです」
大淀「私にはそれが一番恐ろしく感じました。理性を保ったままあんな戦い方ができるなんて、考えられません」
大淀「しかも、龍田さんがあれほど底を見せたにも関わらず、ビスマルクさんの底は見えませんでした……恐ろしい選手、その一言に尽きます」
明石「……ありがとうございます。しかし、とんでもない試合でした……」
試合後インタビュー:ビスマルク
―――人前で戦うのは初めてだったそうですが、対戦を終えてどのような感想をお持ちですか?
ビスマルク「すっごく楽しかったわ! 最初は慣れない感じがしたけど、ああいう場で戦うのも新鮮でいいわね!」
ビスマルク「すぐにでも次の試合がしたいくらい! もう楽しみで仕方がないわ!」
―――試合で見せた噛み付き攻撃について教えて下さい。
ビスマルク「噛み付き? 変な言い方するのね。日本語じゃパンを食べることをパンに噛み付くって表現するの?」
ビスマルク「あれは普通に食べてるだけよ。実戦だったら終わった後にゆっくり食べるんだけど、今日は試合だったから難しかったわ」
ビスマルク「なるべく戦ってる間に食べなくちゃいけないから、食べたいところがなかなか食べられなかったの」
ビスマルク「ああ、もっとおっぱいを食べたかったなあ。ほっぺを食べ損ねたことも残念ね」
―――なぜ対戦相手を食べるんです?
ビスマルク「なぜって、美味しいからよ。私、戦う相手以外に美味しい食べ物を知らないの。他は何を食べても美味しくないのよね」
ビスマルク「よく変わってるって言われるけど、好き嫌いは誰だってあるでしょ? 私はそれがみんなより少し激しいだけよ」
―――試合中、ダメージを感じていないご様子でしたが、痛みはなかったんですか?
ビスマルク「えっ? そりゃもう、すっごく痛かったわよ! 最初に耳をちぎられたときなんて、ビックリしちゃったわ!」
ビスマルク「あそこからどんどんテンションが上ったわね! 凄いわよあの子! 頬を裂いたり、足首を折ったり、色んな事を私にしてくれたの!」
ビスマルク「最後に目の中をかき回されてたときなんて、もう痛くて気持よくて、何度もイっちゃった! ショーツがビショビショよ!」
ビスマルク「強いし可愛いし、最高の選手だったわ! できることならドイツに持って帰りたいわね!」
―――イっちゃった、とはどういうことですか?
ビスマルク「あら、あなた処女? オナニーとか自分でしたことないの? ほら、いわゆる絶頂よ。オーガニズムとも言うけど」
ビスマルク「私は自分でするとき、クリを指で潰したり、子宮に針を刺したりするんだけど、やっぱり自分でするのと人にしてもらうのじゃ大違いね!」
ビスマルク「あなた、そういう経験ってまだないの? 何なら私がやってあげましょうか! 大丈夫よ、初めてなら優しくしてあげるから!」
ビスマルク「ちょっと、どこ行くの? 逃げないでよ、ねえ! 待ちなさい! 私の話はまだ終わっていないわ!」
(呂-500さんの逃亡により、インタビュー中止)
試合後インタビュー:龍田
―――今のご気分はいかがですか?
龍田「……それを言わせるの? 最悪に決まってるでしょう。イライラして、誰でもいいから殺してやりたいわ」
―――ビスマルク選手と戦った感想をお聞かせください。
龍田「……途中から、自分はどうなってもいいから、こいつだけは殺してやろうと思って戦ってたわ」
龍田「それでも、何も通用しなかった……強いとか、頭がおかしいとか、そういうレベルじゃないわ。あいつ、一体何なの?」
―――リベンジしたい、という気持ちはおありでしょか。
龍田「……今は何も考えたくないわ。特に、あいつのことは何もかも忘れてしまいたい気分よ」
龍田「もう放っておいてくれない? 今は気分が悪いから、何ならあなたでストレス発散してもいいのよ」
(龍田選手の取材拒否につき、インタビュー中止)
明石「大淀さん。良いニュースと悪いニュースがあるんですが、どちらから聞きます?」
大淀「えっ、何ですかそれ。じゃあ……悪いニュースから」
明石「このグランプリ、国営テレビに生放送されてるのは知ってますよね。今、そのチャンネルではボートの映像が流れています」
大淀「ああ……やっぱり放送コードに引っかかりましたか。どの当たりからですか?」
明石「ビスマルク選手が龍田選手のつま先を食いちぎったところからですね。今もずっと運営に各方面からクレームの電話が殺到しています」
大淀「運営としては逆にクレームを入れたい気分でしょうね。ビスマルクさんを派遣したドイツ軍部に」
明石「全くその通りです。で、良いニュースなんですけど、放送が止まっているわけですから、今は何を話しても大丈夫です」
明石「血まみれになったリングの清掃もありますので、ちょっとした息抜きタイムですよ」
大淀「そうなんですか? じゃあ、今は気を抜いて喋ってもいいわけですね」
明石「そういうことです。いやー私は最初から嫌だったんですよ。ナチ公の選手をUKFに出すなんて」
大淀「軍部で揉めたのって、明らかに精神面の問題ですよね。あの人、どう見ても精神に異常をきたしてるじゃないですか」
明石「今すぐ本国に送り返せないもんですかね。何か適当な理由をつけて」
大淀「私としては反対です。だって、やられっぱなしで帰国させるなんて嫌じゃないですか。他の選手に敵討ちをしてもらってからでもいいでしょう」
明石「それもそうなんですが……陸奥選手は勝てますか?」
大淀「気持ちの面で負けなければ可能性はあります。彼女の実力を信じましょう」
明石「そうですね……何だか疲れました。大淀さん、何か放送禁止用語でも言ってくださいよ」
大淀「えっ、嫌ですよ。誰が聞いてるかわからないんですし、VTR用に録音はしてあるんでしょう?」
明石「いいじゃないですか。編集でカットできますし、こんな場で放送禁止用語を言える機会なんて滅多にありませんよ」
大淀「そうですか。じゃあ……フェラチオ」
明石「ちょっ、何を口走ってるんですか! やめてくださいよ!」
大淀「えっ、だって明石さんが言い出したんじゃないですか。放送禁止用語を言えって」
明石「だからって、いきなりド直球過ぎるじゃないですか! もっと試合のときみたいにジャブから入ってくださいよ!」
大淀「何ちょっと上手いこと言おうとしてるんですか。だいたい、放送禁止用語のジャブってなんです?」
明石「それはその……おちんちん、とか」
大淀「男性器の名前を口にしてる時点でジャブでもないと思うんですけど。だったらペニスって言ったほうがもう少しライトなんじゃないですか?」
明石「えーそうですか? むしろそっちのほうが生々しい気が……」
青葉「あのーすみません。ちょっといいですか?」
明石「ああ、青葉さん。もう放送再開します?」
青葉「再開はするんですけど、さっきからお2人の会話、ラジオ放送で垂れ流しですよ」
大淀「えっ?」
明石「えっ……えぇえええっ! 嘘でしょ!?」
大淀「きゃっ、何を言わせるんですか明石さん! はしたないですよ、もう! ああっ、恥ずかしい……!」
明石「なに自分だけ取り戻そうとしてるの!? もう手遅れですから!」
大淀「それもそうですね。明石さん、放送終了後に1発だけ殴らせてください」
明石「私のせいじゃないですよ! そりゃラジオ放送のことを忘れてたのは私ですけど! 言ったのは大淀さん自身ですから!」
大淀「あっ、やっぱり2発殴らせてください。大丈夫です、ボディで済ませてあげますから」
明石「え、ええー……勘弁して下さいよ……」
青葉「はーい、それじゃあテレビ放送再開しますよー。5,4,3……」
明石「え、えーっと……はい、中継が戻りました! 申し訳ございません、試合内容があまりに過激だったため、放送が中断されてしまったようです!」
明石「壮絶な死闘を制したのはビスマルク選手! 龍田選手も凄まじい奮戦ぶりでしたが、あと一歩及びませんでした!」
明石「試合内容は後ほど編集したものが放送されるかと思いますので、そちらでご確認ください!」
大淀「いやあ、凄い試合でした。まだ余韻が抜け切りませんね……」
明石「死闘の衝撃も冷めやらぬままですが、続けてBブロック第3試合を行います! 第1試合に続き、こちらもまた戦艦級VS駆逐艦級!」
明石「まずは駆逐艦級の選手から登場していただきましょう! 赤コーナーより選手入場です!」
試合前インタビュー:島風
―――前大会に引き続き、グランプリ出場を決意された理由をお聞かせいただけますでしょうか。
島風「前回はみんなの前で大恥を掻かされたわ! そのリベンジに決まってるじゃない!」
島風「わかってるわよ、みんな私がまた負けると思ってるんでしょ? 今度こそやるわよ! 絶対に優勝してやるんだから!」
―――島風選手には非常に多くのファンがいらっしゃいますが、そういったファンからの期待はどのように受け止められていますか?
島風「普通に応援してくれてる人はいいけど、なんか今回はアレよね。どうせ別のことを私に期待してるファンが多いんでしょ?」
島風「言っておくけど、そんな期待に応えるつもりは全然ないわ! 私、負けないから! 負けない方法も色々考えてきたし!」
島風「何だったら応援なんてなくても勝ってやるわよ! 私は私のために戦ってるんだから!」
―――やはり駆逐艦級ですと階級差の不利が大きいと思いますが、どのような対策をされてきていますか?
島風「もちろんスピードで勝負よ! 疾きこと島風の如しなんだから、私のスピードで引っ掻き回してやるわ!」
島風「あーはいはい! 言わなくていいわよ! 前回も同じこと言って惨敗したって思ってるんでしょ!」
島風「今日の私は今までとは違うわよ! 本当のスプリントファイターの実力を見せてやるんだから!」
島風:入場テーマ「Michael Angelo/Double Guitar」
https://www.youtube.com/watch?v=rutyA12z3Ok
明石「強さとは力? 強さとは技? 否、強さとは速さなり! 最強の艦娘とは、すなわち最速の艦娘である!」
明石「ならば最速の艦娘とは誰か!? それはもちろん、疾きこと島風の如し! この私の素早さについてこれるのか!?」
明石「最速の強さを今こそ証明するとき! 超高速のスプリントファイター! ”神速の花嫁” 島風ェェェ!」
大淀「相変わらず可愛いですよね。さっきの試合内容を忘れさせてくれる可愛さです」
明石「ええ、可愛いです……よく再出場を決意されましたよね、島風選手は」
大淀「そうですね。前回の島風さんは1回戦で霧島さんと当たり、マウントを取られて衣服を下着ごと剥がされるという屈辱的な惨敗を喫しました」
明石「島風選手は出場者の中で唯一の駆逐艦級ということで注目を集めていましたので、あれは衝撃的な事件でしたね」
大淀「立ち回り次第で駆逐艦級でも戦艦級に勝てるのではないか、という期待が打ち砕かれた瞬間でした。やはり階級の有利というものは絶対です」
大淀「そもそも、島風さんは駆逐艦級としてトップファイターかと言えばそうではありません。駆逐艦級には吹雪、夕立という二大王者がいますから」
明石「実際、島風選手はそのどちらの選手にも王者の座を賭けたタイトルマッチに挑んでいますが、両方とも敗北を喫していましたね」
大淀「ええ、実力としてはその2人には及ぶべくもないと言わざるを得ません。それでも彼女はこの無差別級グランプリへの出場枠を与えられています」
大淀「それはファンからのアイドル的な人気という面もありますが、何より、本人による『私は無差別級でこそ実力を発揮できる』という主張です」
明石「同じ駆逐艦級との戦いより、スピードで上回れる戦艦級相手のほうが戦いやすい、という理屈ですね」
大淀「そうなんですが、現実はそこまで甘くありません。いくら素早いと言っても、漫画のように残像が見えるほどの速さで動くことはできませんから」
大淀「やはり階級が高いほうが打撃力もありますし、捕まえられてしまえば速さも意味を成さなくなります。それは霧島さんが既に実践しています」
大淀「こういった情報を並べてみると、島風さんに勝機はほとんどないんですが、本人は自信満々なんですよね」
明石「前回も島風選手はそんな感じでしたよ。相手が霧島選手と知っても揺らぐ気配はまったくありませんでした。試合結果はご存知の通りですが」
大淀「あんな負け方をすれば、いくら島風さんでも相当なショックだったはずです。また無策に試合へ臨むとは思えません」
大淀「ですから、自信満々なのは前回にはない策を講じてきている……と考えたほうが自然でしょう」
明石「島風選手のファイトスタイルは、一応テコンドーということになっていますよね?」
大淀「ええ。ただ、格闘技を身に着けるために一通りやったという程度らしく、最近は総合格闘ジム通いや走り込みを主にされているようです」
大淀「実態は格闘技を多少かじった一流の陸上選手という感じですね。体のバネや脚力は素晴らしいものをお持ちですが、もちろんパワーはありません」
大淀「打撃は足技こそ強力ですが拳打はなく、寝技や組み技のテクニックもありません。残る武器はやはり相手をかき乱すスピードだけです」
大淀「それらの武器でどこまで戦えるのか……前回のような結果にならないよう、頑張って欲しいですね」
明石「ありがとうございます。対する島風選手の相手は、またもや戦艦級! 青コーナーより選手の入場です!」
試合前インタビュー:金剛
―――現在はシュートボクシング界で主に活躍されているとのことですが、再びUKFグランプリに出場を決意されたのはどういった理由ですか?
金剛「確かにシュートボクシングは私にとって一番戦いやすい舞台ネ。でも、やっぱり格闘界最強といえばUKFデース!」
金剛「K-1もシュートも好きだけど、やっぱりUKFのチャンピオンベルトが私にとって最大の目標ネ! 今日はそいつを貰いに来たデース!」
金剛「今度こそ赤城も長門もぶっ倒して、艦娘最強の座をいただいてやるデース!」
―――もし優勝されたら、優勝賞金はどのように使いますか?
金剛「もちろん決まってるね! まずは私と提督が一緒に住む新居を買うネ! いわゆる愛の巣デース!」
金剛「新婚旅行はその後ネ! イギリスには何度かデートで行ってるから、世界一周旅行に行ってみたいと思ってマース!」
金剛「私は他のファイターにはないものを持ってるネ! それは愛する提督デース! 他の選手は恋の味すら知らない奴ばかりネ!」
金剛「恋の力を得た私がどこまで強いか! このグランプリで魅せつけてやるネ! 期待してるデース!」
―――今日は金剛選手のファンである方々がたくさん見に来られていますが、何か一言お願いします!
金剛「あなたのハートにBurning Love! 私の試合、期待して観ててほしいデース!」
金剛:入場テーマ「Deep Purple/Burn」
https://www.youtube.com/watch?v=LCnebZnysmI
明石「K-1無差別級初代王者! シュートボクシング暫定王者! 数々の戦場を渡り歩いた彼女が、再びUKFの舞台に戻ってきた!」
明石「イギリス仕込みのボクシングに、K-1で磨かれた多彩なキック! 今はレスリングの技術も学んでいると聞きます!」
明石「常に成長し続けるその上昇志向は天井知らず! 彼女の目的はK-1、シュート、そしてUKF、全てのチャンピオンベルトを勝ち取ることだ!」
明石「この無差別級グランプリで、今日の彼女はどんな成長ぶりを見せてくれるのか! ”恋のバーニングハリケーン” 金剛ゥゥゥ!」
大淀「K-1初代王者の金剛さんですね。赤城さんはK-1との契約が切れた際にベルトを返還しているので、今は金剛さんが暫定王者でもあります」
大淀「その実績からわかるように、やはり金剛さんと言えば赤城さんに次ぐ立ち技の強さですね。技の多彩さでは赤城さん以上かもしれません」
明石「元々はボクシングから格闘技のキャリアを始められたそうですが、今の得意技はキックなんですよね」
大淀「ええ。まずはパンチを繰り出して、相手の意識を拳に集中させたところで強力なキックを決める、というのが彼女のファイトスタイルです」
大淀「特に強力なのはバックスピンキックですね。『馬蹴り』とも称されますが、食らうとボディでも痛みで動けなくなるほどの威力を持っています」
大淀「こういう大技を試合で出すのは難しいんですが、金剛さんの併せ持つスピードとテクニックがその戦法を可能にしているんですね」
明石「やはり強みはスタンドの強さにあるということでしょうか。赤城選手とのK-1における戦績は負け越しではありますが……」
大淀「そうですね。初戦は金剛さんの王座防衛戦で、これは両者ともに5ラウンド戦い抜き、判定なしのルールだったので決着が付きませんでした」
大淀「2度目の防衛戦では、赤城さんは徹底的に金剛さんのファイトスタイルを研究してきたようでしたね。終始金剛さんが押される展開でした」
大淀「結局、ハイキックをもらった金剛さんがKO負け、逆に金剛さんが王座奪還をかけたタイトルマッチでも、同じハイキックでKOされてしまいました」
明石「赤城さんは1度勝った相手には2度と負けませんよね。ファイトスタイルを覚えてしまうそうなので」
大淀「ええ。だから金剛さんは戦績としては負け越しですが、あの赤城さんと唯一引き分けた選手だと考えれば、その実力の高さが伺えます」
大淀「当然、金剛さんはリベンジを希望しています。あれから自身のファイトスタイルを更に磨いたそうで、使える技も劇的に増やしています」
大淀「赤城さんが主戦場をUKFに移してからは投げや関節技にも力を入れ、徐々に隙のないファイターへと成長しつつあります」
大淀「金剛さんはいわばトータルファイターの卵とも言うべき存在で、グラウンド技術に関しては練習中の身ですが、スタンドには既に隙はありません」
大淀「学んでいるレスリングに関しても、寝てからの攻防より、倒されずに倒すスタンドレスリングの技術を重点的に磨いているそうです」
大淀「このグランプリではその成長ぶりを存分に見せつけてくれるでしょう。皆さんも期待していいと思います」
明石「それでは大淀さん。そんな金剛選手と島風選手、どのような試合展開になると予想されますか?」
大淀「そうですね……はっきり言ってしまうと、島風さんが圧倒的に不利です。彼女にとっては最悪の相手でしょうね」
明石「それは……もちろん階級差という点もあるのでしょうが、他にも不利な要因があるんでしょうか?」
大淀「はい。島風さんの武器は何といってもスピードですが、対する金剛さんも同じくスピードに秀でた選手なんです」
大淀「戦艦級としての足回りは最速といっても過言ではないでしょう。パワーは損なわず、フットワークの軽さは軽巡級にも劣りません」
大淀「スピードだけで比べれば島風さんのほうが上でしょうが、それが金剛さんを引っ掻き回せるほどだとは思えません」
明石「となると、スピードで戦艦級を圧倒するという島風選手の戦法がそもそも破綻してしまうと……」
大淀「そういうことになります。極端な話、島風さんにとってはいっそのこと長門さんのほうが戦いやすいのかもしれませんね」
大淀「ただ、だからといって島風さんがあっさり負けるようなことはないと思います。今大会にかける彼女の意気込みは相当なものですから」
大淀「厳しい戦いになるでしょうが、彼女の健闘を期待します。もう以前のような敗北は経験したくないでしょうしね」
明石「ありがとうございます。さあ、両者リングインしました! やはり体格差は目に見えて明らか! 島風選手、傲然と金剛選手を見上げている!」
明石「金剛選手は余裕の表情です! まるでお前など、私の通過点に過ぎないのだとでも言いたげに見下ろしています!」
明石「さあ、駆逐艦級最速VS戦艦級最速! この戦い、どのような決着を迎えるのか!」
明石「ゴングが鳴りました! 試合開始です! 両者、颯爽とコーナーから飛び出していく!」
明石「どちらもすぐには仕掛けません! やや広めに間合いを取って、フットワークで互いのサイドに回り込もうとしています!」
大淀「この試合、間合いが重要なポイントになると思います。特に島風選手にとっては」
明石「間合いですか。それはどういうことでしょう?」
大淀「島風さんの攻撃方法は主に蹴りですが、彼女の蹴りが届く間合いは、金剛さんの蹴りと拳、両方の射程距離範囲内になってしまいます」
大淀「駆逐艦級と戦艦級ですからね。それだけリーチ差があります。島風さんが攻撃を当てるには、かなり間合いに踏み込まないといけません」
大淀「その瞬間に金剛さんも攻撃に転じるでしょう。島風さんの蹴りは届かず、自分の蹴りは届く間合いに入られたときにね」
明石「なるほど。島風選手はそのギリギリを見極めなければならないと」
大淀「金剛さんの打撃力なら、一撃で島風さんを沈められるでしょう。島風さんはその一発を貰わないよう、慎重にならざるをえないでしょうね」
明石「確かに島風選手、金剛選手の周囲を回りながら、なかなか攻めて行きません!」
明石「金剛選手もサイドを取られないよう動くばかりで、自分から踏み込もうとはしないようです。やはり、島風選手を待ち構えているのか!」
明石「おっ? 島風選手がやや間合いを詰めました! 金剛選手の出方を伺うように、射程ギリギリの間合いに出入りを繰り返している!」
明石「それに金剛は応えない! あくまで島風選手から仕掛けるのを待つようです! お互い、慎重に探り合っている!」
大淀「どちらも寝技はない選手ですからね。打撃戦になるとは思いますが、それがどのような形でかは……」
明石「あっ、とうとう島風が踏み込んだ! サイドステップから一気に金剛へと突っ込んでいく! 速い! 自分の間合いへと一息で詰め寄りました!」
明石「島風の痛烈なローキック! 金剛はショートアッパーで反撃! 島風、軽快なバックステップでこれを躱します!」
大淀「さすが、最速を自負するだけのスピードですね。でもそれだけじゃ勝てない……」
明石「一旦距離を取った島風、また突っ込んでいった! またもやローで金剛の膝を叩く! まずは相手のスピードを殺そうという作戦か!?」
明石「金剛もやられてばかりではない! バックステップで逃げる島風に追いすがる! ジャブ! 右フック! ボクシングの打撃を繰り出していく!」
明石「これを島風、フットワークで巧みに避ける! さすがのスピードだ! しかし金剛もそれについて行っている!」
明石「ジャブ、ストレート! これも避けた! ハイキック! これは危なかった! どうにかダッキングで躱します!」
明石「打撃のラッシュが更に続く! どうやら金剛選手、このまま攻め続けてコーナーに追い詰めるつもりだ!」
大淀「コーナーに追い詰められるのは島風さんとしては一番避けたい展開ですね。フットワークを生かしての回避ができなくなりますから」
明石「今は逃げ続けている島風選手ですが、これはもしかして、金剛選手のスタミナ切れを狙っているんでしょうか?」
大淀「うーん、だとしたらその作戦はおすすめできませんね。金剛さんはスタミナも戦艦級トップクラスですから」
明石「確かに金剛選手、休みなく打撃のラッシュを放っていますが、未だ息切れすらしていません! 島風選手、いつまで逃げ続けられるのか!」
明石「金剛選手のミドルキック! これは躱し切れない、肘でブロック! 島風選手の足がわずかに止まった!」
明石「そこに金剛が回り込む! とうとうコーナーに追い詰められました、島風選手! さあ、ここから金剛選手の攻撃をどう凌ぐ!?」
明石「ジリジリと金剛選手が間合いを詰める! 千載一遇のこの好機、逃してなるものかという気迫が伝わってきます! 金剛、ここで決められるか!」
明石「対する島風、フェンスを背にして逃げ場がない! 下手に動けば金剛のキックの餌食! この窮地、自慢のスピードでどう脱出する!?」
明石「さあ金剛が仕掛けた! まずはジャブ! 島風はダッキングで……あっ!? 島風選手がタックルを仕掛けた!」
大淀「えっ、タックル?」
明石「まさかの島風選手、胴タックル! グラウンド勝負を狙うのか!? だが、そう簡単にテイクダウンを許す金剛ではありません!」
明石「金剛選手、腰を引いてタックルを切った! これでは倒せそうにありません! むしろ、組み合いになれば階級差の……なっ!?」
明石「こ、これは……痛烈な一撃が決まったぁぁぁ! 金剛選手、悶絶! あまりの痛みに、体をくの字に折り曲げている!」
大淀「なるほど、タックルはこの攻撃のための……」
明石「決まったのは膝蹴り! 金剛選手の下腹部を狙った膝蹴りです! 筋肉の薄い下腹部に、走り込みで鍛えた島風の脚力がまともに叩き込まれた!」
明石「島風選手、えげつない一撃を決めました! あっ、更にもう一撃! 今度は顔面に膝を打ち上げた!」
明石「痛みで体をくの字に折っていたことが災いしました! 下がった頭を抱えられての膝蹴り! 金剛選手の顔から鮮血が吹き出す!」
明石「ここで島風選手、更に決めに行く! フロントチョークを掛けた! 金剛選手、意識が鮮明でないのかディフェンスできない!」
明石「金剛選手がとうとう膝を着いた! 四点ポジションの体勢になってしまいました! そのまま島風がフロントチョークで首を絞める!」
大淀「島風さん、ちゃんと極め技も練習されてたんですね。ただ、やっぱり技のレベルがまだ……」
明石「あっ、ここで金剛選手の動きが戻りました! 首を抜こうとしています! 島風選手、ここは逃すまいと更に締め上げる!」
明石「だが、まだフロントチョークに慣れていないのか!? 徐々に首が抜けています! 金剛選手、脱出まであと僅か!」
明石「首が抜けました! しかし島風、抜ける間際の金剛に膝蹴りをもう一発! 再び顔面にもらってしまいました、金剛選手!」
明石「しかし、なんとか立ち上がりました! 回復のため一度距離を取ります! 膝蹴りで皮膚を切ったのか、顔面にはかなりの出血!」
明石「島風選手、予想を覆す大健闘です! 金剛選手にこれだけのダメージを負わせるとは! しかも、本人はノーダメージです!」
大淀「私も驚いています。自分の持っているものでどうすれば戦艦級を仕留められるのか、入念に研究されてきたのだと思います」
大淀「あの下腹部への膝蹴りなんて、その最たるものですね。あそこに貰えば、階級なんて関係なしに凄まじく痛いですから」
明石「顔面への膝も凄まじかったですね。その後のチョークがもっと深く入っていれば決まっていたかもしれませんが、それでも以前、島風選手優勢!」
明石「金剛選手は苦境に立たされました! さあ、ここから駆逐艦級が戦艦級を倒すという、大番狂わせがとうとう起きるのか!」
大淀「その可能性はないわけではありませんが、これでだいぶ薄くなりました。島風さんは勝機を逃しましたね」
明石「えっ? あの、金剛選手はかなりダメージを負っていると思うんですが……」
大淀「下腹部への膝蹴りは非常に効果的な打撃ですが、あそこは打たれるとものすごく痛いというだけで、時間が経てば痛みも収まります」
大淀「頭部への膝もそのときは効いたでしょうが、脳のダメージも時間で回復します。今の金剛さんにそれほどダメージは残っていません」
大淀「金剛さんが立ち上がって距離を取ったとき、島風さんは間を置かず攻めるべきでした。勝負は振り出しに戻ってしまったかもしれませんね」
明石「な、なるほど……言われた通り、島風選手は逃げる金剛選手を追いませんでした! 有効打を浴びせて油断してしまっていたのか!?」
明石「対する金剛選手、やや揺らいでいた意識もはっきりしてきたようです! 出血はありますが、大きな疲労は見られません!」
明石「ダメージ差はありますが、状況は試合開始時にほぼ戻ってしまいました! 島風選手、ここからどう攻めていくのか!」
大淀「金剛さんも一流のファイターです。同じ手は通用しませんから、この時点で不利なのは島風さんになるでしょうね」
明石「さあ、再び金剛が動き出す! 表情には若干険しいものがありますが、熱くなっている様子はありません!」
明石「さっきのお返しをしてやろう! そう言わんばかりに金剛が間合いを詰める! もはや様子見はありません、まっすぐ島風に迫っていく!」
明石「あっ!? し、島風選手、それに応えるように前へ出て行く! 何かを決意したようなその表情、フットワークを使う様子もありません!」
明石「まさか、金剛選手に真っ向勝負を挑むのか!? それはあまりに無謀! それとも何か策はあるのか!?」
大淀「……島風さんに正面から打ち合えるほどの打撃はないはず。何をするつもりなんでしょう……」
明石「さあ間合いが狭まっていく! 金剛の足が跳ね上がった! 風を切るような鋭いミドルキックが島風を襲う!」
明石「おおっ!? な、なんだ!? 当たっていない! 逆に島風選手、金剛の足にローキックを叩き込んだ! 今、ミドルキックをどう避けた!?」
大淀「い、今の動きって……!」
明石「島風選手、深追いはしません! 蹴ってすぐ離れました! 金剛はそれを許さない! 再びミドルキックが放たれる!」
明石「ま、また避けた! 同じようにローキックを入れて離れます、島風選手! 金剛のキックがかすりもしない!」
明石「金剛選手にも戸惑いの色が見えます! 大淀さん、あの島風選手の回避はどういう動きなんでしょう!?」
大淀「信じられません……島風さんは、蹴りが形になる前に初動を見切って、前方に走り抜けているんです」
大淀「そのまま金剛さんの脇をすり抜けつつ、ローキックを入れています。よほどの反応速度とスピードがないとできない芸当です」
明石「あっ、また金剛選手が蹴りを放った! 今度はハイキックだ! 島風選手、これもすり抜けるように躱した!」
明石「またローキックを叩き込む! 金剛選手にとって嫌な展開になってきました! 一発入れれば終わるのに、それがかすりもしない!」
明石「ローキックもじわじわと効いてくる頃です! 足のダメージを蓄積させれば、金剛選手には大きな危機が訪れます!」
明石「おっと、金剛選手が一歩踏み込みました! これは蹴り技を捨てて殴りに行こうというのか! 島風、これにはどう対応する!」
大淀「パンチはキックより遥かに少ない動きで打つことができます。初動を読んで脇をすり抜ける、あの避け方はもうできないでしょう」
明石「さあ、島風選手に後退する様子はない! あくまで金剛選手を真っ向から倒すつもりだ!」
明石「まずは金剛、ジャブ……か、躱した! 島風、ウェービングと共に踏み込む! またもやローキックを入れた!」
明石「しかし金剛も引かない! 立て続けにショートフック! こ、これも躱す! 島風がダッキン……いや、地面に伏せてフックを回避!」
明石「そのままマットに手を付いてカポエイラのようなキック! これは子安キックだ! またもや膝にクリーンヒット! 金剛がぐらついた!」
大淀「すごい、なんて反応速度……!」
明石「金剛選手、表情に焦りが見え始めました! 更にパンチで打って出る! ジャブ、ワンツーのストレート! 手数で押し切るつもりか!?」
明石「戦艦級最速のパンチが吹き荒れる! しかし島風はそれを避ける、避ける! しかもことごとくカウンターでローキックをお見舞いだ!」
明石「まさか、こんな光景を目にするとは! 島風選手、宣言通りスピードで戦艦級を圧倒している! しかも、あの金剛選手を!」
明石「またローキックを打って離れる! あっ、金剛のバックスピンキック! これはスウェーバックで躱した! あの必殺の蹴りも空振り!」
明石「更に追撃のフック! いや、フックはフェイント! 殴りに行く勢いのまま、金剛がタックルに行く! テイクダウン狙いだ!」
明石「これが決まれば再び状況が変わる! どうなる!? き……決まったぁぁぁ! き、決めたのは島風、島風選手です!」
明石「金剛選手の胴タックルに合わせて、カウンターの飛び膝蹴りだぁぁ! 強烈な一撃が顎を打ち抜いた! これがスプリントファイターの脚力!」
明石「金剛選手、糸が切れた人形のように力なくマットに伏した! ダウン、ダウンです! これはもう立ち上がれない!」
明石「レフェリーストップです! 試合終了! 大番狂わせが起こりました! 島風選手、まさかの大勝利です!」
明石「戦艦級の強豪選手、金剛を相手に真っ向からの打ち合いを制しました! 誰がこの結果を予想したでしょう! 勝ったのは島風、島風選手です!」
大淀「いやあ……今日の試合は驚かされてばかりです。始めのうちは、島風さんの勝率は1割もないと思っていました」
明石「私もそう思っていました。この試合はその1割が出たというよりも……」
大淀「ええ、文句無しに実力で勝利を掴み取られました。島風さんはこの日のために、相当な激しい練習に臨まれたのだと思います」
明石「打ち合いになってから島風選手が見せた回避が凄かったですね。何をしてもまったく当たる気配がないというか……」
大淀「途中からなんですけど、からくりに気付きました。島風さんの目線が重要ですよ」
明石「目線、ですか? それはどういう……」
大淀「ちょっとVTRで確認してみましょう。ほら、これはミドルキックをすり抜けたときのシーンですね」
明石「はい。やっぱり足が動くと同時に回避運動を始めていますね」
大淀「少し先に飛ばしてください。これがパンチを躱しているときのシーンです。目線に注目してください」
明石「……飛んでくる拳を見てませんね。というか、やけに目線が下に行っているような……」
大淀「そうなんですよ。小柄な選手が体格差のある選手との打ち合いに臨むと、大抵は視界外からの一発をもらってしまいます」
大淀「パンチやキックを目で追うことで視界が狭められ、別方向からの打撃が見えなくなってしまうんですね。打撃戦ではよく起こる現象です」
大淀「じゃあ、島風さんの場合はというと、パンチやキックは見ようともせず、目線を下げて相手の足腰の動きだけに注目しているんです」
大淀「キックだけでなく、パンチを打つときも足腰が先に動きます。だから島風さんは足腰の動きで初動を見切り、攻撃を読んでいたんです」
大淀「唯一、ジャブは手だけで打つパンチですが、これは正面から飛んでくるので目線を下げても見えます。ジャブだけは反射だけで避けてますね」
明石「……そんなことが可能なんですか? つまり、足腰の動きだけを見て次の攻撃が何かを予測して回避してるってことでしょ?」
大淀「私がやろうと思ってもできません。生来のスピードと反射、そして膨大な練習量で可能になる戦法です」
大淀「島風さんは自分の持っているもので戦艦級に勝つための方法を考え抜き、それを実践できるよう過酷なトレーニングに耐え抜いたんだと思います」
大淀「その結果がこの勝利です。島風さんが勝ったのは運ではありません。正真正銘、実力で金剛さんを倒したんです」
明石「ということは……断言しても構わないでしょうか!? 島風選手は、無差別級トップファイターの仲間入りを果たしたと!」
大淀「はい。もう、どんな選手と戦っても引けを取らないでしょう。かつての敗北を糧に、素晴らしい成長を遂げられました」
明石「これはUKF史上、記念すべき一戦になりました! 駆逐艦級が戦艦級選手を倒した、初めての試合です!」
明石「駆逐艦級の中堅選手から一転、島風選手はトップファイターの仲間入りです! 彼女は実践しました、速さこそ強さだと!」
明石「あるいは、彼女こそUKFの歴史を変える選手になり得るかもしれません! 皆様、もう一度島風選手に盛大な拍手をお願いします!」
試合後インタビュー:島風
―――1回戦突破、おめでとうございます。今はどのようなお気持ちですか?
島風「最高! やったわ、勝ったわよ私! 言ったでしょ、絶対に勝つって! 私、本当に戦艦級に勝ったのよ!」
島風「今日までいっぱい練習したんだから! 私を馬鹿にした奴らを見返してやりたくて、ものっすごく頑張ったのよ!」
島風「もう絶対に負けないって決めてたから! 本当は出場するのも怖かったけど、負けっぱなしじゃ……い、嫌だったから……」
島風「……ぐすっ、ううっ……ご、ごめんなさい。勝てたのが嬉しくて……負けちゃったらどうしようって、ずっと不安だったから……」
島風「わ……私、絶対優勝する! 長門さんだって倒して、駆逐艦級でも最強になれるんだって証明してやるんだから!」
島風「次の試合も絶対に負けないわよ! だから……応援よろしく!」
試合後インタビュー:金剛
―――初戦敗退、という今の結果は予想されていましたか?
金剛「まさか。夢にも思わなかったネ……正直、組み合わせが決まったときはラッキーだと思ったくらいデース。提督に合わせる顔がないネ……」
金剛「今も悪い夢を見てるだけじゃないかと疑っている最中ネ……私、もう寝るデース。しばらく起こさないでほしいネ」
(金剛選手の取材拒否につき、インタビュー中止)
明石「激闘、死闘の続くBブロック! とうとう第4試合の始まるときがやってまいりました!」
大淀「ようやくあの2人の登場ですね。最強を決めるグランプリなら、彼女たちがいないと話になりませんから」
明石「Bブロック最終試合にして、超弩級戦艦同士の頂上決戦! まずは赤コーナーより選手の入場です!」
試合前インタビュー:大和
―――大和選手は国内ではなく、今まで深海棲艦の領域での試合に参加されていたそうですが、それはなぜでしょう?
大和「理由は主に2つです。艦娘の強さを広めるため、そしてより強い方とルールのない形で戦いたいと思ったからです」
大和「私が日本を出た頃にはUKFも世間にあまり浸透していなくて、私自身もよく知らなかったので、国内で戦う理由はないと感じていました」
大和「今は少しだけ後悔しています。日本にもまだ、強い方はそれなりにいらしたみたいですね」
―――今大会に出場するにあたり、運営側に条件を付けさせたとお聞きしました。
大和「はい。初戦で長門選手と戦わせてくれるなら、とお願いしました」
―――それはどういった理由でしょうか?
大和「トーナメント方式ですから、何が起こるかわかりません。もしかしたら、長門さんが途中で負けてしまう可能性だってありえると思うんです」
大和「それで私が優勝したら、すごく心残りができてしまいます。だから確実に戦えるように、と」
―――長門選手に勝つ自信はありますか?
大和「当然です。でなければ、こんなお願いはしていません」
大和「長門選手のことを知ってから、ずっと気になっていたんです。どうして私と戦っていないのに、最強を名乗っているのかなって」
大和「ルールのある戦いはあまり得意ではありませんが、このUKFのルールなら問題なさそうです。私らしい戦いができそうですね」
大和「優勝賞金やチャンピオンベルトには興味はないんですけど、今日は私が勝って、はっきりと証明させていただきたいと思っています」
大和「最強の艦娘はこの大和です。私は誰にも負けません」
大和:入場テーマ「大神/太陽は昇る」
https://www.youtube.com/watch?v=aH8HIebZlyg
明石「とうとう彼女が公の舞台に現れました! 武に携わる者なら誰もがその名を耳にする、無敵の武人がUKFへついに降臨!」
明石「100を超える格闘試合に臨みながら未だ無敗! 深海棲艦とのデスマッチに艦娘として単身挑み、全戦全勝!」
明石「敗北を知らぬのは長門だけではない! 今このとき、貸していた最強の名を私に返してもらおう!」
明石「無冠の帝王がグランプリ制覇に挑む! ”死の天使” 大和ォォォ!」
大淀「ようやくUKFに参戦してくれましたね。オファーはずっと前からあったはずなんですが」
明石「大和選手は深海棲艦の領域で行われているという格闘大会にずっと出場されていたそうで。なかなかUKFには出場してくれませんでした」
大淀「らしいですね。なんでも向こうの大会は本当のデスマッチで、ルールも武器なし以外には何もないということです」
明石「UKF以上に実戦的な戦いをずっとしてこられたということですね……しかも、完全なアウェイの地で」
大淀「その上、試合は全戦全勝。強者として知られていた戦艦棲姫や港湾水鬼も彼女が轟沈させたそうです」
明石「大和さんは国内での実績が皆無なので『無冠の帝王』などと呼ばれておりますが、実際にはそのデスマッチのチャンピオンになるんですかね?」
大淀「いえ、どうもあれは大会というより、観客と賭博があるストリートファイトみたいなもので、そういった称号などはないようです」
大淀「ただ、そこで大和さんは深海棲艦からも畏怖される存在だったということです。そして付いた通り名が『死の天使』」
大淀「戦いぶりは優雅に、仕留めるときは容赦なく、確実に息の根を止めることからそう呼ばれたと聞いています」
大淀「その話の全てが本当だとしたら、戦艦級の中でも間違いなく最強クラスの実力を持つファイターでしょう」
明石「つまり、長門選手にも匹敵しうると?」
大淀「おそらくは。彼女のファイトスタイルは柔道らしいので、組み技や投げにおいては並ぶ者はいないんじゃないでしょうか」
明石「柔道ですか。総合格闘の舞台に上がるなら、多くのファイターが学ぶ格闘技ですが……」
大淀「既に周知の事ですけど、柔道は実戦において非常に優れた格闘技です。特に着衣ありなら最大限の殺傷力を誇ります」
大淀「今の柔道は普及のためにスポーツ化が進んでいますが、大和さんが用いるのは柔道の元となった古流柔術に近い、より実戦的なものだそうです」
大淀「投げるときには頭から落としますし、相手の体勢を崩すための当身も使います。寝技に入れば素早く関節を取り、そのまま折ってしまうでしょう」
大淀「実戦を知っている柔道家ほど怖いものはありません。今までやってきたのがデスマッチなら、そういう戦い方をするでしょうね」
明石「そういう戦い方とは、つまり……」
大淀「ええ。最低限のルールは守りつつも、スポーツ格闘技ではなく、殺し合いとして彼女はリングに上がるでしょう」
大淀「彼女は長門さんの強さを知った上でこの試合を望んだと聞いています。よほどの自信と実力の持ち主でなければできない決断です」
大淀「実戦格闘家の大和さんにとって、敗北とは死ぬことと等しいはず。ならば、彼女は確信しているんでしょう。自分は長門さんに勝てると」
明石「観客の方の大多数は、UKFの絶対王者である長門選手の勝利を予想しているとは思いますが……」
大淀「わかりませんよ。長門さんも強いですが、大和さんの実力も底知れないものがありますから」
明石「ありがとうございます。では、続いて青コーナーより選手入場! とうとう絶対王者が姿を現します!」
試合前インタビュー:長門
―――今大会では長門選手の連覇が期待されています。自信の程をお聞かせいただけますでしょうか。
長門「特に気負うところはない。前回は全力で戦い、そしてすべて勝利した。今回も同じだ」
―――今日までのトレーニングはどのようなものを行ってきましたか?
長門「特別なことはしていない。私は常にあらゆる相手、あらゆる場面を想定し、妥協のない修練を積んでいる」
長門「自分の才能に溺れるつもりはない。勝利とは強い者だけに与えられ、強さとは厳しい修練に耐えたものだけが得られるものだ」
―――練習の質と量こそ、長門さんの強さの秘訣と思ってもいいのでしょうか?
長門「そうとも言える。だが、私以上の練習をこなしてきた選手もおそらくいるだろう」
長門「それに、試合では何が起こるかわからない。戦う相手との相性というのもある」
長門「私の強さに秘訣があるとすれば、どんな相手でも、どんな局面でも全力を尽くすことができる、というところだろうな」
―――初戦の大和選手に対する印象をお聞かせください。
長門「強い。今まで戦ってきた選手の中でも最強に位置する相手であることは間違いない」
長門「それでも私が勝つ。なぜなら、私はそれ以上に強いからだ」
長門:入場テーマ「クロノトリガー/魔王決戦」
https://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=1y_DS691Vhc#t=48
明石「絶対は存在する! 最強の艦娘が今、絶対王者の名を引っさげて無差別級グランプリ連覇に挑む!」
明石「百戦錬磨のトップファイターたちに全勝! 強靭な肉体とあらゆるテクニックを併せ持つ、彼女こそ正真正銘のアルティメットファイター!」
明石「最強の座は誰にも渡さない! 第一回UKF無差別級グランプリ覇者! ”ザ・グレイテスト・ワン” 長門ォォォ!」
大淀「……とうとう長門さんの登場ですね。会場も大きく沸き立っています」
明石「大淀さんにとっては複雑な想いのある選手ではないでしょうか。前大会では3回戦まで勝ち抜かれた末に長門選手と対戦されて……」
大淀「ええ、瞬殺されました。苦い思い出です。私がもっと違うタイプのファイターなら、もう少し戦えたのですが……」
明石「タイプと言いますと、大淀さんは長門選手のファイトスタイルとの相性が悪い、ということでしょうか」
大淀「そうとも言えますが、少し違います。私はいわゆる、コンピューター型ファイターなんですよ」
大淀「相手の能力とファイトスタイルを分析して、あらゆるケースを想定したプランを予め立てて、入念に準備した上で試合に臨みます」
大淀「それから試合の中でプランに修正を加えつつ、詰将棋のように相手を私に型にはめて戦う、これが私のファイトスタイルです」
大淀「で、長門さんと戦ったときも色々プランを用意して臨んだんですけど……対峙した瞬間、『えっ、何これ?』って思ったんです」
明石「えーっと、『何これ?』とはどういう意味なんでしょう?」
大淀「あの印象をなんて説明したらいいか……登山の用意をして目的の山に来てみたら、巨大な絶壁がそそり立っていた、とでも言いましょうか」
大淀「構えを取った立ち姿に、付け入る隙がどこにもないんです。その時点で全てのプランが破綻して、動けなくなってしまいました」
明石「それで、そのまま投げられて終わってしまったと……」
大淀「ええ、衝撃的でした。舐めていたつもりはないんですけど、戦った人にしかわからない、想像を超える強さでした」
明石「なるほど……もう多くの方がご存知ですが、一応長門選手のファイトスタイルについても解説をお願いします」
大淀「わかりました。長門さんは相手に合わせて戦い方を変えますが、基本的なファイトスタイルはそこまで特徴的なものではありません」
大淀「長門さんの戦い方は打撃やタックルでテイクダウンを取り、パウンドか寝技で確実に仕留めるという至ってオーソドックスなものです」
大淀「ただ、彼女の恐ろしいところは打、極、投、そして身体能力。全てにおいて最高クラスのものを持っているということです」
大淀「だから長門さんは相手に合わせてどんな戦い方もできます。打撃で圧倒することもできるし、寝技に引き込む戦い方もできる」
大淀「とにかく弱点が一切ないんです。並外れたパワーを持ち、それを叩き込むあらゆる技とテクニックを持っている。それが長門さんです」
明石「流儀のようなものもあまりないんですよね。格闘技は色んなものを一通りやっているとか」
大淀「ええ。最近はコマンド・サンボが気に入ったらしくて、そちらの道場によく足を運んでいらっしゃるそうです」
明石「サンボ、といえば柔道から発展した組み技系格闘技ですね。コマンド・サンボというのはつまり……」
大淀「ソビエト軍がサンボを元に開発した軍隊格闘術です。相手を制圧することを目的とし、組み技だけでなく、急所を狙う打撃も取り入れています」
大淀「大和さんが実戦に基づいた戦い方をするなら、長門さんもそれに対応できるでしょう。激しい戦いになると思います」
明石「試合の展開としては、どのようなものになると予想されますか?」
大淀「何でもできる長門さんですが、さすがに柔道家の大和さんと組み合いたくはないんじゃないかな、と思います」
大淀「同様に、グラウンド勝負も大和さんの専門分野です。やはり長門さんは打撃に持って行きたいんじゃないでしょうか」
大淀「そして、大和さんは当然それを予想しているはずです。打撃対策は万全を期していることでしょう」
大淀「それらを考えると、ハイレベルな攻防になる一方で、試合が膠着する可能性もありますね。共に技量は最上級者同士ですから」
大淀「お互い、最強の看板を賭けた戦いです。どのような試合になるか、私自身、とても楽しみです」
明石「ありがとうございます。さあ、とうとう両選手がリング上で対峙しました! どちらも極めて落ち着いた様子に見えます!」
明石「まるで嵐の前の静けさ! 冷たい視線が交錯しています。その心中にあるものは、互いに最強としての誇り!」
明石「決着のそのとき、どちらの最強の名が残るのか! 果たして、勝利の女神はどちらに微笑むのか!」
明石「両者、ゆっくりとニュートラルコーナーに戻ります! ゴングが鳴りました! 試合開始です!」
明石「コーナーに戻ったときと同じように、両選手、ゆっくりとリング中央に歩み寄る! どちらも非常に落ち着いている!」
明石「長門選手が静かにファイティングポーズを取りました。対する大和選手、ガードを上げる気配はありません!」
明石「右半身を前に出した立ち姿、これは柔道で言うところの『右自然体』! やはり大和選手、柔道で長門に挑む気だ!」
大淀「ガードは上げませんか。打撃にはどう対応してきますかね……」
明石「さあ、どちらもベタ足でゆっくりとサイドに周り、間合いを維持しております。互いに出方を伺っている!」
明石「いや、長門選手が一歩踏み込んだ! やはり打撃を仕掛けるつもりです! 大和選手、右自然体のまま下がらない! 受けて立つのか!?」
明石「長門選手が仕掛ける! 鋭いローキック! 空振り! 大和選手、ヒラリと足を引いて躱しました!」
明石「続けて長門選手の右ストレート! これも当たらない! 大和選手がサイドステップで回り込みます!」
明石「長門選手、サイドを取られることを嫌ってやや後退! さすがは大和選手、打撃にも的確に対応しています! 長門選手も慎重だ!」
明石「大和選手は自分からは仕掛けて行きません! 長門選手も積極的には攻め込まない! 互いに様子を探り合っている!」
大淀「長門さんはどう攻めるべきか、まだ決めかねているようですね。大和さんは既に何かを狙っているみたいですが……」
明石「さて、大淀さんが言われた通り、試合は少々膠着の様相を呈して来ました! 両者、間合いを取り合って仕掛けない!」
明石「長門選手も最初の打撃を躱されてから、次の攻勢に移る様子がありません! 何かを警戒しているのか!」
明石「……おや? 大和選手が奇妙な動きを見せております。開いた右手を長門選手に向けて差し出しました!」
明石「まるで握手を求めているかのよう! これは何を意味するのか! 大和選手、何を狙っている!?」
大淀「まさか本気で握手しようなんてわけもないでしょう……誘っていますね。長門さんはそれにどう応えるか……」
明石「この挑発じみた行為に、長門選手は眉一つ動かしません! 視線は大和をしかと捉えたまま、冷静に観察して……」
明石「い、いや! 長門選手がガードを下ろしました! 同じように右手を差し出した! これはまさか、大和の誘いに応えるというのか!」
明石「ゆっくりと両者が歩み寄る! 今、互いの右手が触れ合おうとしています!」
大淀「まさか長門さん、組み技で勝負する気なの……?」
明石「とうとう両選手の右手が触れた! 試合中とは思えない、友好の握手が……あっ、長門選手が踏み込んだ!?」
明石「大和の右腕を掴んで捻じり上げた! アームロックです! 真正面からアームロックを仕掛ける! 長門選手が決めに掛かった!」
明石「これに対し、大和選手が身を翻して逃れ……いや、違う! 技を返しつつ腕に跳び付いた! と、跳びつき腕十字だ!」
明石「大和の足が首に掛かる! 四肢の動きが異常なほど速い! 腕が極まった! 大和選手、あの長門選手の不意を突きました!」
大淀「あ、あんなにあっさり長門さんへ関節を決めるなんて……!」
明石「長門選手、完全に腕を取られている! どうにかスタンドを維持していますが、その右腕を大和が全身で折りに掛かる!」
明石「いや、しかしそこは王者長門! 腕を取られたまま大和の顔を踏み付けに行った! 大和選手、あっさりと腕を放して逃れ……あっ!?」
明石「か、蟹挟みを仕掛けた! 大和選手が両足で長門選手を倒しに行く! 長門選手、前のめりにぐらついた!」
明石「マットに手を着いた! 倒れることは阻止しましたが、そのまま大和選手が流れるように動いてバックを取っている!」
大淀「なんてスピード……技のキレが桁違いだわ……!」
明石「襟を掴んだ! 送襟絞めを狙っている! 長門選手、これは読んでいた! 背後から回される腕を掴み取り、襟絞めを阻止!」
明石「そのまま腕を取って一本背負いを仕掛ける! だが、そこは柔道家の大和選手! 長門選手の投げでも微動だにしません!」
明石「立ち上がる長門選手ですが、腰に大和選手が腕を回している! 以前、バックを取られたままの状態です!」
明石「長門選手は振りほどこうと腕を外しに掛かりますが、大和選手もそう簡単には逃さない! さあ大和、ここからどう仕掛け……あっ!?」
明石「長門が腕を掴んだまま体を反転! 大和の腕を再び捻じり上げた! 背面からのダブルリストロックです!」
明石「腕を掴んでいたのは防御のためではない、これを狙っていた! 大和選手の腕が不自然な方向へ捻じ曲げられていく!」
明石「大和選手、反射的に身をよじっ……いや、宙で体を捻った! 着地! わ、技が解けています! 大和選手、華麗にエスケープ!」
明石「鮮やかな身のこなしで、極まったかに見えたダブルリストロックを難なく外しました! やはりこの選手、底が知れない!」
大淀「聞きしに勝るテクニックです。戦艦級であんなに繊細な動きができるなんて……」
明石「再び正面から右手を取り合った状態で対峙しました! ここで長門選手、首相撲を仕掛ける! 大和もこれに応え、両選手が組み合った!」
明石「長門選手、すかさず膝蹴りを放つ! 大和選手はこれを手のひらでブロック! やはり打撃慣れしています、ディフェンスは万全!」
明石「互いに身動きが取れなくなりつつあります! 組み合ったまま動けない! 試合は再び、膠着状態に入りました!」
大淀「本当にレベルの高い戦いですね。下手に動けば逆手に取られる、それをお互いがわかっているからこその膠着です」
大淀「ここまで攻めあぐねている長門さんは今まで初めて見ます。それほど大和さんの技量が高いということでしょう」
明石「長門選手は最初にローキックとストレートを打った以外、ほとんど打撃を使いませんね。組み技で勝負しようとしているんでしょうか?」
大淀「というより、今のところそれしか手がないんだと思います。多分ですけど、大和さんは打撃が来るのを待っているんです」
明石「それはつまり、カウンター狙いというか……打撃に来た腕や足を取って柔道技に持ち込もうとしている、ということでしょうか」
大淀「はい。長門さんは序盤の打撃に対する大和さんの反応を見て、そう判断したんだと思います」
大淀「うかつに打撃を使うと投げや関節に引き込まれる、ならば組み合いに勝機を見出す。そう考えた上で今の状況があるんでしょう」
明石「ということは、この時点では勝負は互角と見てもいいんでしょうか?」
大淀「いいえ。組み合いならやはり柔道家の大和さんに分があります。それを承知で長門さんは、相手の土俵の上で戦っているわけです」
大淀「今の状況では長門さんが不利です。ここから、彼女がどう大和さんに対処するのか……」
明石「なるほど……あっ、長門選手が動きました! 頭を押し下げようとしている! これはおそらく、顔面への膝蹴りを狙っている!」
明石「それに大和選手も抵抗! 両者、激しい揉み合いに……いや、大和選手が逆に仕掛けた!」
明石「お、大外刈りだぁぁ! 大和選手、豪快に足を刈った! 長門選手を背中から勢い良くマットに叩きつける! て、テイクダウンに成功!」
大淀「な、長門さんからテイクダウンを奪った……!」
明石「しかし、長門選手も受け身を取った! 素早くガードポジションに移行……いや、それ以上に大和の動きが速い! 一気にパスガードを狙う!」
明石「どうにか左足だけ挟み込みました! 辛うじてマウントを阻止! ですが、依然として大和選手はトップポジションを維持しています!」
明石「体勢は大和選手が上になったハーフガードポジション! 長門選手、大きな危機が訪れました! 大和とのグラウンド勝負を制せるか!?」
大淀「まずいですね。ハーフガードでも、大和さんなら十分技を掛けられる……」
明石「まずは大和選手、左足を抜いてマウントを取ろうと試みる! しかし長門選手の脚力がそれをさせない! がっちりと挟み込んでいます!」
明石「防戦にならざるを得ない長門選手、まずは大和との密着を試みる! 襟を掴んで抱き込もうと……あっ! や、大和選手が殴った!」
大淀「やっぱり、大和さんは打撃も……!」
明石「顔面に鉄槌打ちを入れました! ハーフガード状態のまま、大和選手が猛然と拳を振り下ろしています! 肉と骨のぶつかり合う音が響く!」
明石「長門選手、抱き込みをやめて頭部へのガードを固める! しかし大和はガードの空いたボディにまで拳を落とす! 長門選手、防戦一方!」
明石「もはや柔道技など知った事かと言わんばかりの大和選手のパウンドラッシュ! このまま打撃で仕留めるのか!?」
大淀「長門さんは打たれ強さもありますから、このまま終わるはずはありません。だけど、この状態が長引けば……」
明石「強烈な拳が雨あられと降り注ぐ! 大和選手はガードの空いたところを手当たり次第殴っています! 長門選手、ひたすらそれに耐える!」
明石「更に心臓目掛けて大和が肘を振り下ろした! これは長門選手、手のひらでブロッ……あっ! その手を大和が取った!」
明石「ここで大和選手、腕がらみを敢行! 長門選手の左腕を一気に脇から背中まで捻った! 大和の全体重が腕一本にのしかかる!」
大淀「今までの打撃は、この関節技に繋げるためだったんです。ガードさせて、付け入る隙を作るために……!」
明石「長門選手、絶体絶命! このまま決められてしま……いや、ブリッジした! 腰の力で大和選手を浮かせました!」
明石「素早く身を返して大和を引き剥がします! 腕がらみに大和選手が集中した瞬間を狙って、長門選手、ハーフガードポジションから脱出に成功!
明石「同時に腕がらみからもエスケープ! 長門選手、危ういところで難を逃れました!」
明石「やはり絶対王者、このままでは終わらない! 再び両者が立ち上がる! これで勝負は振り出しに……」
大淀「立ち上がってはダメ! 大和さんはまだ手を放していない!」
明石「あっ!? 大和選手がタックル、いや顔面へ頭突きを食らわした! 動きが速い! 長門選手、対応が遅れました! 足元がわずかにぐらつく!」
明石「そのまま大和が襟を捉える! こ、この体勢は! 頭突きで長門選手のバランスが崩れている! これはまずい!」
大淀「ああっ!」
明石「なっ……投げたぁぁぁ! い、一本背負い炸裂! 轟音が鳴り響きました! 長門選手の頭部がマットに叩きつけられる音です!」
明石「完っ全に投げが決まった! 数多の深海棲艦を葬ってきたという大和選手の投げが頭頂部に炸裂! まさか、まさかの王者かん……ら……?」
大淀「……はあ?」
明石「あれ? えーっと……ちょ、ちょっと待ってください! 大和選手が……あれぇ!?」
明石「わ、私たちは幻を見たのでしょうか! 今、この状況は……大淀さん! 一体何が起こったんですか!?」
大淀「ちょっと、待ってください。頭の整理が……」
明石「し、信じられません! 私たちは確かに、長門選手の頭がマットに打ち付けられる姿を目にしました! しかもリングを揺るがすほどの勢いで!」
明石「それなのに……なんだこれは! 今、リングでは長門が大和選手にマウントポジションを取っています! そして、ひたすらに殴っている!」
明石「今までのツケを返すというような情け容赦ないパウンド! 大和選手は防戦……いや、もうほとんど意識がありません!」
明石「あっ、今レフェリーが試合をストップしました! 大和選手を戦闘続行不可能と判断し、レフェリーストップです!」
明石「ゴングが鳴りました、試合終了! 劇的な幕切れです! あわや長門選手の敗北かと思われた矢先、まさかの逆転勝利!」
明石「観客席からもどよめきが起こっています! 私自身、狐につままれたような気分です! 何が起こった!? なぜ長門選手が勝ったのか!?」
大淀「大急ぎでVTRを見せてください。スローモーションでお願いします」
明石「えーはい! VTRが来ました! 先ほどの一本背負いのところからです!」
明石「頭突きを入れて、長門選手の体勢を崩して、そこから襟を取って一気に一本背負いを……完全に決まってますよね、これ」
大淀「ええ、マットに頭から激突しています。もし路上のコンクリートなら即死、マットでも脳挫傷は避けられない勢いの落ち方です」
明石「で、ここから長門選手は……何ですかね、この動き」
大淀「体操の前転に似てますね。投げ落とされた頭を起点にしてエビ反りから体を起こして……そのまま振り向きざまに大和さんへフックを入れてます」
大淀「大和さんには不意打ちだったでしょう、あっさり顎に入れられてますね。脳震盪を起こしてぐらついたところを長門さんが押し倒して……」
明石「マウントポジションを取って殴りに殴ったと……えっと、これはスロー再生してますから、実際の時間だと……」
大淀「投げから立ち上がってマウントを取るまで、1秒にも満たない一瞬でこれらの攻防が行われたわけですね。凄まじい運動能力です」
明石「……つまり、長門さんは投げ落としのダメージがまったくなかった?」
大淀「……そういうことになってしまいますね。ほら、長門さんがリングから降りて行きますよ。自分の足で。観客にも手を振っています」
明石「ほ、本当ですね……足取りもしっかりしてます。ダメージなんて何一つないみたいに……」
大淀「普通なら頭蓋骨が割れるか、首の骨が折れていてもおかしくないんですけどね。でも……長門さんは脳震盪すら起こさなかったようです」
明石「あっはっは……そんなわけあります?」
大淀「私にも信じられません……もう一度VTRを見せてもらっていいですか」
明石「はい。えーと、一本背負いに入られて、頭から落ちて、そこから前転して……」
大淀「……あっ、待って! ちょっと戻してください! 投げ落とされた瞬間のところです!」
明石「えっ? えーはい、ここでいいですか? この、長門さんの頭がちょうどマットに……」
大淀「よく見てください。長門さん、この時点で右手をマットに着いてるんです」
明石「あっ……! 本当ですね。頭がマットに激突すると同時に手を……」
大淀「あの頭が叩きつけられたと思った音は、この手を着いたときの音だったんじゃないでしょうか。長門さんは投げに受け身を取っていたんです」
大淀「だからダメージもなく、そこからあの流れるような動きで大和さんに打撃を決め、マウントで仕留めることができたんじゃないでしょうか」
明石「ああ、なるほど……いやでも、これはつまり、長門さんは投げられることを読んでいたということですか?」
大淀「……そうじゃないと思います。投げられたのは長門さんにとっても不意を突かれたことだったんじゃないでしょうか」
大淀「長門さんは投げられながら即座に状況を判断し、その一連の動きをやってのけたんです。対応速度が並の選手の比じゃありません」
明石「それは……凄いですね。大淀さんが試合前、長門選手の恐ろしさは『付け入る隙の無さ』とおっしゃっていましたが……」
大淀「正直、ここまでとは思いませんでした。完全な不意打ちに対しても冷静に対処し切るほどの対応力まで持っているなんて……」
大淀「もしかしたら、これこそが長門さんの一番恐ろしいところかもしれません。あらゆる状況でも冷静さを失わず、最善の行動を取り続ける」
大淀「まさしく、究極のファイターです。このグランプリで、彼女を倒せる選手は現れるんでしょうか……」
明石「ありがとうございました……大和選手も素晴らしい攻防を見せましたが、長門選手はそれを上回りました!」
明石「絶対王者、最強の艦娘の看板に偽りなし! 最強を名乗る艦娘同士の対決は、長門選手に軍配が上がりました!」
明石「この試合を持ってBブロック1回戦、全試合を終了します! 観客の皆様、激闘を終えた選手たちを讃え、もう一度拍手をお願いします!」
試合後インタビュー:長門
―――試合の展開では危ない部分もあったように見えましたが、大和選手のことはどのように感じましたか?
長門「さすがに強かったな。奴の打撃対策が完璧すぎたせいで、組み技で勝負に出ざるを得なかった。展開としては終始大和にペースを握られていたな」
長門「投げられたときは一瞬、しまったと思ったが、うまい具合に反撃できた。なかなか面白い試合ができたと、私自身は満足している」
―――仮にもう一度、大和選手と戦って勝つ自信はありますか?
長門「当然だ。大和は確かに強い。このグランプリ出場者でも、あいつに勝てる選手は皆無と言っていいだろう」
長門「だが、私のほうが強い。もし大和と再戦する機会が訪れたとき、奴は今以上に強くなっているだろうが、私もそのときは更に強くなっている」
長門「リベンジを奴が望むなら受けて立つ。そのときは、今日よりも徹底的に叩きのめしてやろう」
―――今回のグランプリ出場者の中で、長門選手が一番警戒している選手はどなたですか?
長門「警戒……というよりは期待だが、陸奥だな。私の妹だ」
長門「あれはまだ未熟だが、私を超える資質をその身に秘めている。このグランプリを通して、陸奥も大きく成長するはずだ」
長門「正直、陸奥が私の前に立ちはだかる瞬間が楽しみでたまらないな。あいつが私の期待に応えてくれるよう、祈っているよ」
試合後インタビュー:大和
―――非常に惜しいところで敗北してしまったという印象の試合でしたが、今はどのようなお気持ちですか?
大和「……敗北感より、今は驚きで頭の中がいっぱいです。あの投げを受けて立ち上がった相手なんて、今まで1人もいませんでしたから……」
大和「気持ちの整理には時間が掛かりそうです。しばらくは山にでも篭って、一から修行のし直しですね」
―――長門選手についてはどのように思われましたか。
大和「凄い方ですね、長門さんは。何がどういう風に強いというより、ただただ強い。そんな印象です」
大和「私が狭い世界で最強を自負していたことを恥じます。確かに彼女は最強の艦娘です。多分、誰にも倒せないと思います」
大和「いえ……今は無理ですが、いずれ私が倒します。武道家にとって敗北とは死と同義ですが、私はまだ生きていますから」
大和「ならば、このままでは終われません。いつか、彼女には再挑戦させていただきます。それまでどうか、彼女が最強で在り続けるよう願っています」
明石「さあ、これにて第二回UKF無差別級グランプリ、第一回戦の全てが終了となりました!」
明石「しかし! 本日はもう1つメインイベントが残っています! 今夜限りのスペシャルワンマッチ!」
明石「UKF無差別級グランプリ、エキシビジョンマッチ第1戦目を開催させていただきます!」
大淀「試合のルールはグランプリのものと同じですが、一点だけ異なる点があります。それはファイトマネーに関してです」
大淀「トーナメントでは1試合につき1000万円、勝者総取りとしていましたが、エキシビジョンマッチにおいては、3000万円に増額致します」
大淀「もちろん、これも勝者総取りです。負けた方には一銭も入ってきませんので、両選手、全力で勝利を目指してくださいね」
明石「ルール変更の説明も終わったところで、それでは早速参りましょう!」
明石「8名の候補者からリクエストにより選ばれた、エキシビションマッチ1戦目の出場者! まずは赤コーナーより選手の入場です!」
試合前インタビュー:愛宕
―――エキシビションマッチの出場者にリクエストで選ばれたことについて、どのように受け止められていますか?
愛宕「うふふ。なんだか期待されちゃってるわよねえ。なら、ちゃんとみんなの期待に応えないとね」
愛宕「私にとっても、この試合は大事なものなのよ。注目度も高いし、勝てばもっとたくさん試合を組んでもらえるようになると思うの」
愛宕「目指すは無差別級トップファイター! そのために、たくさん試合をさせてほしいのよね! だから頑張るわ!」
―――勝つ自信はどれくらいありますか?
愛宕「重巡級グランプリでは決勝で足柄さんに負けちゃったけど、あれからしっかりトレーニングしたのよ。今なら足柄さんにだって勝ってみせるわ」
愛宕「打撃も寝技も対策は完璧! 組み合いなら絶対に私が勝つから、相手の子はすごく戦いにくいと思うわよ~!」
愛宕「今日はきっちりと勝って、ファンのみんなを喜ばせてあげるから! 応援、よろしくね~!」
愛宕:入場テーマ「機動武闘伝Gガンダム/我が心 明鏡止水~されどこの掌は烈火の如く」
https://www.youtube.com/watch?v=BvKWpyGQCK0
明石「怪力! それが戦艦級選手だけの武器だと誰が決めた!? 艦娘一の怪力の持ち主とは、この私のことだ!」
明石「その握力は自然石を握り潰し、一度掴めば二度と離さない! そして組み合ったなら最後! 誰であろうと盛大に大地へ叩きつけてやろう!」
明石「無差別級においても、その怪力が猛威をふるう! ”肉弾魔神” 愛宕ォォォ!」
大淀「面白い選手が出てきましたね。彼女のファイトスタイルは非常に特徴的ですから」
明石「愛宕さんはオイルレスリングの出身だそうですが、それはどういった格闘技なのでしょう?」
大淀「別名、トルコ相撲とも言われる通り、相撲と似たルールで行われる格闘技ですね。相撲のように組み合って、相手を地面に倒せば勝ちです」
大淀「上半身裸で試合を行う、打撃や急所を掴む行為が禁止されているところも相撲と似ていますが、異なる点が2つあります」
大淀「相撲では必ず回しを着けますが、オイルレスリングに回しはありません。ですので、掴めるのは相手の体だけです」
大淀「それともう1点。これが一番特徴的なのですが、全身にオリーブオイルを塗りたくって組み合いに臨むというところです」
明石「ルールだけ聞くと、深夜のバラエティ番組でたまにやる、お色気企画みたいな内容ですよね。いわゆるローション相撲みたいな」
大淀「まあ、似てはいると思います。ですけど、オイルレスリングは極めて高度な技術と身体能力を求められる格闘技なんですよ」
大淀「皮膚が露出してる部分しか掴めないのに、そこにはオイルがべったり塗られているわけですから、当然手がツルツル滑ります」
大淀「というか、組み合うだけでも全身が滑りますから。掴むにせよ、組むにせよ、それにはとてつもない技術と筋力が必要になってきます」
大淀「しかも体が滑ることで大抵の勝負が長丁場になるので、持久力も求められます。結果、超人的な肉体が出来上がってくるわけです」
大淀「愛宕さんはそのオイルレスリングの一流選手だそうです。身体能力、技術ともに凄まじいものを持っていることは間違いありません」
明石「ですが、愛宕選手の戦績はそこまで秀でたものではありませんね。11勝3敗と、優れた成績ではありますが……」
大淀「そうなんですよね。角界出身の総合格闘家の大半が良い戦績を残せなかったのと同じく、愛宕さんは優れた点と弱点がはっきりしています」
大淀「強靭な体幹と握力があり、打撃の威力と組み合いの強さは飛び抜けています。ですが、フットワークは全くと言っていいほどありません」
大淀「スピードのある打撃の攻防にも不慣れですし、組み合って倒してからのグラウンドでも、上から殴るくらいのことしかできないでしょう」
大淀「実際、重巡級グランプリ決勝の際にも、足柄さんに打撃反応のなさを突かれて瞬殺されています。足柄さんは打撃の連携に長けていますから」
明石「それでもエキシビションマッチ出場者として選ばれたということは、その弱点を補って余りある実力を持つ、ということでしょうか?」
大淀「ええ。やはり、彼女の組み合いの強さは驚異的です。今までオイル塗れの悪環境での組み合いを制してきた人ですからね」
大淀「着衣を掴んでいいとなれば、彼女から見れば相手の全身に取っ手が付いているようなものでしょう。だから誰であろうと簡単に投げてしまいます」
大淀「それに、今は打撃、寝技に対する攻防を積極的に学んでいると聞きます。弱点さえ克服すれば、彼女は戦艦級相手にも通用するファイターです」
大淀「この試合は彼女がトップファイターに駆け上がるための、重要な一戦になるでしょう。ぜひ頑張ってほしいですね」
明石「ありがとうございます。それでは、赤コーナーより選手入場! 駆逐艦級二大王者の一角が、ついに無差別級へ挑みます!」
試合前インタビュー:吹雪
―――ご自身を負かされた不知火選手がグランプリで敗退されてしまいましたが、何かコメントはありますか?
吹雪「まあ当然ですよね。だってあの人、そんなに強くないじゃないですか。しかも、私に勝ったときに一生分の運を使い果たしましたからね」
―――吹雪選手が敗北したのは、運が悪かったからだということですか?
吹雪「そりゃ勝負の世界に幸運、不運は確実にありますよ。不知火さんは私に一生分の幸運を使って勝ったんです」
吹雪「実力で言えば私が圧倒的に上ですよ。1万回戦って1回負けるかどうか、ってところでしょう。不知火さんにはその1回を引かれちゃいましたね」
吹雪「弱いなりに頑張った、ってのが試合を観た感想です。私なら間違いなく陸奥さんに勝ってますよ」
―――もし吹雪選手がグランプリに出場していたら、どのような結果になると思いますか?
吹雪「もちろん優勝しますよ。えーっと、誰でしたっけ? ほら、絶対王者とか呼ばれてる、あの筋肉だけの雌ゴリラみたいな人」
吹雪「そうそう、長門さんですね。なんていうか、いつまであんな木偶の坊をチャンピオンにのさばらせておくんだって感じです」
吹雪「今回はお情けで不知火さんに出場枠を譲ってあげましたけど、次があるなら私が長門さんを倒しますよ。ボッコボコにしてやります」
―――長門選手もそうですが、対戦相手である愛宕選手も階級としては吹雪選手を上回ります。階級差の不利はどのように捉えられていますか?
吹雪「もうね、そんな質問をすること自体がおこがましいんですよ。階級差とか、弱いやつらの言い訳に過ぎませんから」
吹雪「強いやつは強い。弱いやつは弱い。そして私は強い。それだけです。愛宕さん? あんなの、牧場から逃げ出してきた、ただの肉牛でしょ?」
吹雪「私、試合後に焼肉屋さんの予約を入れてるんですよ。私がお肉を直接持って行くから、それを焼かせてくれって」
吹雪「あーでも愛宕さんって脂身が多そうだから美味しくないかも? ま、試合中にできるだけ叩きのめして、柔らかくしてから持って行きますよ」
吹雪:入場テーマ「聖剣伝説Legend of Mana/The Darkness Nova」
https://www.youtube.com/watch?v=Elu5LoFiiXE
明石「小さな体格に似合わぬビッグマウス、しかし実力は超一流! その強さと大言壮語は留まるところを知りません!」
明石「究極の域にまで練り上げられた無限の格闘テクニック! 多彩な技を目まぐるしく繰り出すその様は、まさに万華鏡!」
明石「今宵も『圧勝』という有言実行を成し遂げられるのか! ”氷の万華鏡” 吹雪ィィィ!」
大淀「こちらもまた特徴的なファイターですね。言わずと知れた駆逐艦級二大王者の一角です」
明石「この度は不知火さんに敗北したことでグランプリ出場を辞退されましたが、内心は敗北を認めていないらしいですよ」
大淀「でしょうね。というか、彼女が本心から敗北を認めるような発言をしたことは、今まで1度もありません」
大淀「往生際の悪い言い訳や屁理屈と言ってしまえばそれまでですが、それほどまでに彼女は度を越した負けず嫌いないんですよ」
明石「吹雪選手は試合前に度々相手を侮辱する発言を非難されていますが、それも己を追い込むためだそうですね?」
大淀「はい。彼女は絶対に後には退けないような状況を自ら作って、徹底的に自分を追い込んで過酷な練習に臨み、試合では命を賭けて戦います」
大淀「吹雪さんの技の多彩さは艦娘格闘界一だと言われていますが、おそらく練習量についても彼女が一番になるでしょうね」
大淀「彼女はボクサー相手にカウンターパンチを決め、柔術家をガードポジションから絞め落とすほど、あらゆるテクニックを持ち合わせています」
大淀「同階級では既に試合が組めないというのも頷けます。夕立さんは例外ですけどね」
明石「その練習されている格闘技の流儀ですが、吹雪選手の使うクラヴ・マガとはどんなものなのでしょうか?」
大淀「クラヴ・マガとは、イスラエルを発祥とする、様々な武術、格闘技のいいとこ取りをする形で作り上げられた軍隊格闘技です」
大淀「『最強の格闘技とは何か』という問いに答えるのは難しいですが、『最新の格闘技は何か』と聞かれたら、私は迷わずクラヴ・マガと答えます」
明石「やはり軍隊格闘技ですと、打撃から寝技、投げから関節まで、あらゆる技があるということでしょうか」
大淀「はい。クラヴ・マガは『日常における脅威の排除』という基本理念を持っていて、そのために急所攻撃も含めたあらゆる技を使用します」
大淀「また、これは吹雪さん個人の強さにも関わってきますが、クラヴ・マガで特徴的な動きが『条件反射と護身術の一体化』です」
大淀「例えば、顔面に拳が飛んでくれば誰でも反射的に避けるか、手で顔を庇います。これは生物として本能的な反射です」
大淀「普通の格闘技だと、こういう本能をなるべく抑制しようとしますが、クラヴ・マガではむしろ活用するんです」
大淀「顔に拳が来る。反射的に手を出す。その手でそのまま素早く拳を捌き、攻勢に転じる。そうした動きがクラヴ・マガでは研究されています」
明石「そういえば、吹雪選手と対戦したファイターからは『凄まじいスピードを持つ相手だった』という感想をよく耳にしますね」
大淀「ええ。吹雪さんはクラヴ・マガとしてだけでなく、膨大な練習量によってのみ得られる、鋭い反射神経と瞬発的な思考速度に長けています」
大淀「相手が一手仕掛ける間に、吹雪さんは三手仕掛け、しかもその後の攻防を十手先まで読んで相手に何もさせず圧倒する。それが吹雪選手です」
明石「では、吹雪選手とは対象的なパワーファイターの愛宕選手、この2人の対戦はどのような展開になると思われますか?」
大淀「パワーVSスピード&テクニック、という図式ですが、島風VS金剛のような試合とはまた違う展開になるでしょうね」
大淀「階級とパワー差を考えて、愛宕さんは掴めば勝てるでしょう。しかし吹雪さんは容易には捕まりませんし、おそらく、捕まった後のプランもある」
大淀「愛宕さんはとにかく掴むことでしか勝負を決められませんが、吹雪さんは愛宕さんを仕留めるあらゆる手段を用意しています」
大淀「となると、まずは主導権の握り合いから始まりそうですね。吹雪さんが捕まらないよう逃げまわるか、愛宕さんが防戦一方になるか」
大淀「実力的には階級差を考えても互角だと見ていいでしょう。白熱した試合になると思いますね」
明石「ありがとうございます。さあ、両選手がリングインしました! やはり体格差が際立っている! 特に体の厚みがまるで違う!」
明石「吹雪選手は射抜くような視線を愛宕選手から切りません! その殺気に愛宕選手も押し負けない! 不敵な笑顔でそれに応えている!」
明石「両者、視線を全く切らないままコーナーへ! ゴングが鳴りました、試合開始……あっ! いきなり吹雪選手が突っかけた!」
明石「ゴングが鳴るや否やの先制攻撃! 吹雪選手、助走をつけて顔面へ跳び膝蹴りだぁぁ! 愛宕選手、不意打ちを食らっ……いや、防いだ!」
明石「間一髪、手のひらでガードしました! そのまま吹雪選手の膝を抱える! 愛宕選手、早くも吹雪選手の捕獲に成功!」
明石「全身をしかと抱き締めた! 吹雪選手を持ち上げたまま、体を後ろに反る! ぱ、パワーボムです! マットに叩きつける気だ!」
大淀「……これも吹雪さんの計算通りですね」
明石「あっ!? 愛宕選手がよろめくようにして前かがみになりました! 叩きつけにいきません! 愛宕選手の動きが止まった!」
大淀「吹雪さんを見てください。あの体勢で愛宕さんの首を絞めているんですよ」
明石「えっ? ほ、本当です! 吹雪選手、襟を取って頸動脈を締め上げている! あの跳び膝蹴りの真の狙いはここにあった!」
明石「愛宕選手、首にしがみつく吹雪選手を振りほどけない! 顔面が鬱血していく! こ、これで決まってしまうのか!」
明石「更に前方へ倒れ込んだ! まだ試合開始から20秒も経っていない! 愛宕選手、そのまま前のめりに倒れ……っ!?」
明石「いや、勢い良く仰け反った! 愛宕選手、最後の力を振り絞ってスープレックスを敢行! 吹雪を頭からマットへ落としに行ったぁぁぁ!」
明石「轟音が鳴り響いた! こ、これは愛宕選手の頭がマットに激突した音です! 吹雪選手は直前でエスケープ! ノーダメージです!」
明石「絞めを解いて脱出した吹雪選手、即座にマウントポジションへ移行! 愛宕選手はやや意識が揺らいでいるのか、対応が鈍い!」
明石「吹雪がマウントを取った! ここからはグラウンドの攻防、吹雪はどう仕留める! 愛宕はどう対処するのか!」
明石「まずは吹雪選手、慎重に拳を顔面に落としていく! 腕を掴まれないよう、一発づつ確実に! 愛宕選手はひとまずガードを固めた!」
明石「顔面だけでなく、ボディにも打撃を入れる! 愛宕選手は防戦一方! 吹雪選手が終始、主導権を握っています! ここから逆転はあるのか!」
大淀「さすが吹雪さん、堅実に決めてきますね。ただ、ちょっと愛宕さんを甘く見ているじゃないでしょうか」
明石「はい? それはどういう……」
大淀「マウントポジションでは、上になっている選手が圧倒的に有利です。吹雪さんなら、トップポジションを維持する技術も持っているでしょう」
大淀「ですけど、技術ではどうしようもないパワーというものが存在します。そろそろ、愛宕さんがダメージから回復する頃ですね」
明石「えー、以前、吹雪選手はマウントで打撃を入れ続けています! 愛宕選手はガードを固め、ひたすら耐えており……いや、愛宕が動いた!」
明石「こ、これは!? なんと愛宕選手、普通に体を起こしました! まるで寝床から起き上がるように! あっさりマウントポジションを破った!」
明石「吹雪選手、立ち上がらせまいと顔面へ肘打ち! ガードされた! 愛宕選手、そのまま吹雪の襟へ手を伸ばす! つ、掴んだ!」
明石「な、なんという怪力! 腕だけで振り回すようにして吹雪選手を引き剥がしました! 愛宕選手が立ち上がる! 意識も回復しています!」
明石「さあ、このまま吹雪を投げに掛かる! いや、先に吹雪選手が動いた! 襟を掴ませたまま、その腕に足で跳び付く!」
明石「跳び付き腕十字です! これが万華鏡と呼ばれる吹雪選手! あらゆる状況で絶え間なく技を繰り出し続ける! 再び愛宕にピンチが訪れた!」
明石「なっ!? う、腕を振り回しました! 技を極められている腕を、腰を入れてぶん回した! 吹雪をフェンスに叩きつける気だ!」
明石「これも吹雪選手、間一髪でエスケープ! フェンスの激しく揺れる音だけが響きました! しかし愛宕選手、掴んだ襟を放さ……あれっ?」
明石「愛宕選手、いとも簡単に襟を放しました! これはどうしたことでしょう! 両者、一旦距離を取り合います!」
大淀「今のはですね、吹雪さんが肘鉄を拳に落とそうとしてたんですよ。それを読んで、愛宕さんが仕方なく襟を放したんです」
明石「ああ、なるほど。吹雪選手の肘はかなり強力ですからね。下手に受けて拳を砕かれるのを避けたと」
大淀「そういうことです。しかし……まさにパワーとテクニックですね。非常にいい勝負をしています」
明石「凄まじい力と技の応酬ですよね。吹雪選手もすごいですが、愛宕選手も敗けては……うわっ、フェンスがへこんでる」
大淀「さっき、吹雪選手を叩きつけ損ねた場所ですね。愛宕選手の怪力がどれほどのものか伺い知れます」
大淀「吹雪さんも、ここまで愛宕さんの力が凄まじいとは思わなかったんじゃないでしょうか。今、作戦に修正を加えている最中でしょうね」
明石「今のところは愛宕選手のダメージが大きいように見えますが、どちらが優勢と思われますか?」
大淀「点数を付けるなら吹雪さんが優勢でしょうけど、愛宕さんは吹雪さんを一発で仕留める怪力を持っていますからね」
大淀「愛宕さんにダメージはあっても、まだ動きに支障が出るほどではありません。今のところは互角と見てもいいんじゃないでしょうか」
明石「なるほど。さあ、両者スタンド状態で対峙! こうして構えを取って向かい合うのは、この試合では初めてです!」
明石「吹雪選手は開手を顔の前に出したクラヴ・マガの構え! 対する愛宕選手は……これはちょっと、変わった構えを取っています!」
明石「重心は低く前かがみに、手のひらで顔面をガードしています! 明らかに打撃を警戒しつつ、相手へ組み付こうとする構えです!」
大淀「この構えは……厄介ですね。あそこまで前かがみだと、ローキックも入れづらいでしょう。ガードの固い顔面への打撃も通りません」
大淀「重心が低いから倒すこともできないでしょう。となると、ガードの空いている下や側面を通すような打撃か、もしくは組み合うか……」
明石「しかし、組み合いとなれば愛宕選手の領域です。吹雪選手はここからどう攻めるのでしょう?」
大淀「難しいです。愛宕さんは相手の取れる選択肢を狭めて、自分にとってやりやすい戦い方を相手に強いるのが狙いでしょう」
大淀「何でもできる吹雪さんでも、やはりパワーと体格はありませんから。これを正面突破するのはとても困難ですよ」
明石「さて、愛宕選手はジリジリと前に詰め寄るだけで仕掛けようとはしません。やはり、吹雪選手が動くのを待つつもりのようです!」
明石「ならば吹雪選手はどう応えるか! あっ、その場でステップを踏み始めました! フットワークを使うようです!」
大淀「やはりそこを突いてきますか。どうあがいても、愛宕さんはスピードにおいては劣っていますからね」
明石「軽快なフットワークで距離を縮めます、吹雪選手! 慎重に間合いを計りながら、愛宕選手の周囲を回り始めた!」
明石「愛宕選手もそれに合わせて動く! 吹雪選手に狙いを定め、仕掛けてくるのを待つ! さあ、ここからどのような攻防が繰り広げられるのか!」
明石「吹雪選手が踏み込んだ! ローキッ……フェイント! 蹴る振りをしてすぐ離れた! 愛宕選手、動かしかけた体勢をすぐに立て直す!」
大淀「愛宕さん、打撃への反応が速くなっていますね。あのまま蹴っていたら足を取られていたでしょう。これをどう切り崩すつもりなのか……」
明石「再び吹雪選手が踏み込む! またローキックのフェイント! 実際に蹴りには行かない! またもやすぐ距離を取る!」
明石「更に吹雪選手、フェイントをかます! 愛宕選手はフェイントにも反応していますが、さすがに3度目ともなると苛立ちがあるか!?」
明石「また吹雪選手がフェイ……あっ、愛宕選手が踏み込んだ! これに対し、吹雪選手はさっさと離れる! まだ直接は仕掛けない!」
明石「愛宕選手も深追いはしません! これはお互いに手が出せないのか、それとも吹雪選手が何かを狙っているのか!」
明石「またもや吹雪選手が踏み込む! ローキック! やはりフェイ……あっ、殴りに行った! ローキックをフェイントにした右フック!」
明石「拳がガードの脇をすり抜けた! 愛宕選手の顔面にヒット! し、しかし効いていない! 間髪入れずに愛宕選手がタックルに行った!」
大淀「そりゃあ、この階級差ですから……」
明石「愛宕選手、打撃のダメージがまるでない! 至近距離に捉えられた吹雪選手、とうとう捕獲され……ああっ!? ぎゃ、逆に掴んだ!」
明石「指です! 吹雪選手、掴みに来た愛宕選手の指を取った! まさか、これを狙っていたのか! 吹雪選手が指関節を極めました!」
大淀「あえて掴ませに来させたんですね。どのタイミングで掴みに来るか、打撃反応を見てずっと計っていたんでしょう」
明石「吹雪選手が掴んでいるのは右手の小指! これを一気に捻じり上げた! 愛宕選手、さすがに痛みで攻勢に移れない!」
明石「しかし、吹雪選手は未だに掴んだ指を折りません! もてあそんでいるのか、それとも何か狙いがあるのか!」
大淀「吹雪さんは戦いの中で遊ぶような選手ではありません。もしかしたら、単純に折れないのかもしれませんね」
明石「それはつまり、愛宕選手が小指一本で指折りに耐えていると?」
大淀「愛宕さんほどの握力だと、小指だけでも相当な力がありますから。掴まれても簡単にはへし折られません」
大淀「まあ、もっと吹雪さんが力を入れれば折れるとは思いますが……吹雪さんも、何か狙いがあって折らないのかも」
明石「なるほど、しかし状況は圧倒的に愛宕選手が不利! 小指を折られれば、右手では掴むことができなくなります! これは避けたいところ!」
明石「また吹雪が小指を捻った! 愛宕選手、苦悶の表情! しかしまだ折れていない! これはやはり、吹雪選手が意図的に折らないでいる!」
明石「これは何を狙っているのか! 主導権は文字通り吹雪選手が握っている! このまま痛みを与え続け、ギブアップさせるつもりなのか!?」
大淀「……吹雪さんは待っているのかもしれません。追い詰められた愛宕さんが軽率に動くのを」
大淀「かといって、愛宕さんが耐え続けても状況は好転しません。ここは仕掛けるしかありませんが……」
明石「愛宕選手の額に玉のような脂汗が滲んできた! やはりこの激痛は耐え難い! 対する吹雪、冷徹にそれを観察している!」
明石「もはや一方的な展開になりつつあるこの状況! 愛宕選手に逆転の目は……あっ! 愛宕選手が指を振りほどいた!」
明石「というか、自ら指を折らせて手を引っこ抜いた! 右手の小指は骨折! しかし左手は健在! まだ愛宕選手は戦意高揚!」
明石「左手を伸ばす! 掴んだ! 吹雪選手の襟を捉えた! 今度こそ捕獲成功! さあ、ここから愛宕選手の逆転……えっ!?」
大淀「うわっ!?」
明石「か……担ぎ上げた! 吹雪選手が愛宕を両肩に担いだ! か、肩車です! そのまま頭から投げ落としたぁぁ!」
明石「まさか、あの小柄な吹雪選手がこれほど豪快な投げ技を繰り出すとは! 愛宕選手、受け身を取り損ねた! すぐには立ち上がれない!」
明石「吹雪選手、即座に寝技へ移行! なんだこれは!? 愛宕の首に両足を絡ませた!」
大淀「は、裸絞めです! 柔道では禁止技になっている、足を使った裸絞め……!」
明石「完全に締め付けが入った! 愛宕選手の首に、両足が深く絡みつく! 愛宕選手の怪力でも、これは外せない!」
明石「メリメリと頸動脈が締まる! 愛宕の顔が赤黒く染まっていく! パワー対テクニック、この勝負を制したのはやはりテクニッ……」
明石「い……いや! まだ終わっていない! 愛宕選手が起き上がる! 序盤で襟絞めを使われたときのように、むくりと身を起こした!」
明石「しかも立ち上がった! 首には吹雪選手が足を絡みつけたまま! 相手が小柄な駆逐艦級とはいえ、なんという体幹の強さ!」
明石「前のめりになった! これはバランスを崩したのではない! またアレをやる気だ! まだそんな力が残っているのか!?」
大淀「すごい、なんて執念……!」
明石「やれるか!? 愛宕選手、やれるのか!? 吹雪選手は締め付けを緩める気配はない! このまま落とす気だ! 間に合うのか!?」
明石「いっ……行ったぁぁぁ! 勢い良く仰け反って、再び豪快なスープレックス! しかも、今度は吹雪選手、脱出に失敗!」
明石「マットを揺るがしたのは、吹雪選手が頭を打ち付けた衝撃に違いありません! 吹雪選手、まともにスープレックスをもらってしまった!」
明石「パワー対テクニック! 終始追い込まれながらも、その勝負を制したのはパワー! 愛宕選手、ここに来て大逆転だぁぁ!」
大淀「待ってください、吹雪さんが落ちてない!」
明石「えっ? ま……まさか! ふ、吹雪選手、絞めを解いていない! た、耐えた! あのスープレックスを耐えていた!」
明石「いや、たった今、絞めを解きました! さすがにダメージがあるのか、肩で息をしながらゆっくりと立ち上がります!」
明石「愛宕選手は……立ち上がらない! こちらは完全に落ちている! まさか、こんな結末になるとは!」
明石「ゴングが鳴りました! 試合終了! この激闘を制したのは吹雪……あっ!? ふ、吹雪選手が倒れました!」
大淀「吹雪さんは頭部にダメージが行かないよう、首と腰で受け身を取っていました。ですが、あの勢いですから……脊椎に損傷があるかもしれません」
明石「どうやら吹雪選手、ダメージで立てないようです! しかし、ゴングの鳴った時点では吹雪選手は確かに立っていました!」
明石「よって、ダブルKOという形にはなりません! 勝者は吹雪、吹雪選手です!」
大淀「凄まじい試合になりましたね。どちらも一歩も譲らず、死力を尽くし合うような展開でした」
明石「勝ったのは吹雪選手ですが、愛宕選手も凄かったですね。あそこまで力があるとは……」
大淀「今までの愛宕さんの敗けパターンは、怪力を発揮する機会を与えられずにやられてしまう、というものが多かったんです」
大淀「それが今回は違います。存分に自分の戦い方ができるよう、しっかりと弱点を補い、ファイトスタイルを整えて試合に臨まれていました」
大淀「精神的にも非常に強い意志を感じました。おそらくはトップファイター級の実力かとは思いますが……吹雪さんは全てを上回っていきましたね」
明石「なんていうか、小さな長門選手を見ているようでした。吹雪選手は加えて、冷酷さも持ち合わせているようですけど」
大淀「勝つためなら何でもしますからね、吹雪さんは。彼女がグランプリに出場されなかったことが悔やまれます」
大淀「彼女は長門さんを倒せると度々豪語していますけど……もしかしたら、本当にそんなことが起きるかもしれませんね」
明石「ええ、そんな期待を抱いてしまうほど、凄い選手でした……愛宕選手の将来にも同じく期待ですね」
大淀「ええ。エキシビジョンにはもったいないくらいの試合でした」
明石「両選手とも、素晴らしいファイトでした! 皆様、愛宕選手、吹雪選手の健闘を讃え、今一度拍手をお願いします!」
試合後インタビュー:吹雪
―――かなりの接戦になったかと思いますが、対戦してみて愛宕選手のことはどのように思われましたか?
吹雪「ん? 予想通りですよ、もちろん。しいて言えば、焼肉屋さんに持ち込むのはやめておこうと思ったくらいです」
吹雪「あの人、脂身ばっかりかと思ったら筋肉ばっかりじゃないですか。そんな筋張ったお肉なんて、美味しくないでしょう」
―――試合終了の時点では非常に大きなダメージを負っていたように見えましたが、やはりあそこはダメージ覚悟で決めに行ったのでしょうか?
吹雪「ダメージ覚悟なんて、そんなの考えていませんでしたよ。だって、そんな苦労しなくたって勝てる相手ですからね」
吹雪「あれはちょっと、受け身を取り損ねただけです。あの体勢からのスープレックスは経験したことがなかったので、変な受け方をしてしまいました」
吹雪「ま、試合内容をどう見られたかは知りませんけど、あれは私の圧勝です。100万回やっても愛宕さんは私に勝てませんよ」
吹雪「ていうか、もうこの世に私に勝てるなんて人いるの? って思ってます。もう、不知火さんや夕立のときのような不運は許さないつもりなので」
吹雪「長門さんだろうと誰だろうと掛かって来い、って記事に書いておいてください。どうせみんな、私より弱いんですから」
試合後インタビュー:愛宕
―――大健闘でしたが、惜しくも敗けてしまいました。今のお気持ちをお聞かせいただけますでしょうか。
愛宕「ショックだわ……あれだけやったのに勝てなかったなんて。吹雪さんって、小さいのにものすごく強いのね」
愛宕「技も凄いけど、やっぱり気持ちで負けちゃったんだと思うの。絶対に勝つ、って気迫が彼女からビンビン伝わってきてたもの」
愛宕「私だって絶対勝つつもりでいたのに……UKFには凄い選手がまだまだたくさんいるのね」
―――これから先の目標などはありますか?
愛宕「もっと強くなりたい、としか今のところは言えないわ。だって階級が下の選手に負けちゃったんだもの」
愛宕「吹雪さんってすごく練習するんでしょ? なら、私も練習量をもっと増やそうかしら」
愛宕「とにかく頑張るしかないわね。もう2度と負けないよう、気を取り直して一からトレーニングに励むわ」
明石「皆様、お疲れ様でした! Bブロック1回戦、およびエキシビションマッチ1戦目、これにて全て終了です!」」
明石「次回の放送は、A&Bブロック2回戦を一挙に開催! 計4試合に加え、エキシビションマッチ2戦目を行います!」
明石「お別れの前に、2回戦の対戦カードを確認してみましょう! こちらです!」
Aブロック第1試合
正規空母級”緋色の暴君” 赤城 VS 戦艦級”破壊王” 武蔵
Aブロック第2試合
戦艦級”不沈艦” 扶桑 VS 戦艦級”蛇蝎の瘴姫” 比叡
Bブロック第1試合
戦艦級”ジャガーノート” 陸奥 VS 戦艦級”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルク
Bブロック第2試合
駆逐艦級”神速の花嫁” 島風 VS 戦艦級”ザ・グレイテスト・ワン” 長門
エキシビションマッチ2戦目
出場者未定
大淀「まだ2回戦なのに、非常に豪華なマッチメイクですね。どの試合も目が離せません」
明石「Bブロックは波乱だらけでしたが、2回戦もどこで波乱が起こってもおかしくありませんね」
大淀「そうですね。あるいは、とんでもない大番狂わせだって起こるかも……とても楽しみです」
明石「エキシビションマッチも楽しみですね。大会運営委員長によると、一方の出場者はほぼ確定だそうですが、もう一方を迷っているようです」
大淀「私の出番はありそうですか?」
明石「……さあ」
大淀「お願いしますよ。最近、FXに失敗して、秋刀魚漁で稼いだ貯金が8割吹っ飛んだんです。ファイトマネーで稼がないとまずいんですよ」
明石「私に言われても……それは視聴者が決めることですから」
大淀「そういえば、ラジオ放送で猥語を言わされたお礼がまだでしたね。視聴者アピールも兼ねて、明石さんのボディに自慢のハンドスピードを……」
明石「それではこれにて放送を終了します! 次回放送日は追ってお知らせしますので!」
明石「次回、A&Bブロック2回戦でお会いしましょう! さようなら!」
大淀「ちょっと、逃しませんよ! 明石さん! せめて1発は受けてもらいますからね!」
―――UKF無差別級グランプリ2回戦。激闘は更に苛酷さを増し、音に聞こえた強者たちが次々と消えていく。
―――次回放送予定日、現在調整中。
乙
日向比叡戦みたく、龍田の敗北に天龍ちゃん現れるかと思ったけどそんなことは無かった
>>292
天龍さんはセコンド席で失禁されてました。
今後の参考にさせていただくため、良かったらアンケートのご協力をお願いします。
UKF無差別級グランプリアンケート
https://docs.google.com/forms/d/1-Op3dFpL7-ENHBllODf01-OICl284zcc7rwxs_nDR0U/viewform?usp=send_form
~大会運営委員長からのお知らせ~
・エキシビジョンマッチは計2戦の予定でしたが、リクエスト数の割合を考慮し、3戦に増やすことを決断しました。
よって、2回戦終了後に加え、3回戦終了後にもエキシビジョンマッチを行います。
よりリクエストの多い選手は3戦目のエキシビジョンマッチへ出場していただくことになりますので、その点はご理解ください。
・大淀は出ません。
~大会運営委員長からのお知らせ~
Aブロック1回戦にて、武蔵選手の入場テーマを「FinalFantasyⅩ/Jecht Battle」と表記していましたが、
よくよく調べてみるとあの曲の正式名称が「Otherworld」だということに気付きました。
誰も気にしていないようにも思いますが、2回戦からは武蔵選手の入場テーマを「FinalFantasyⅩ/Otherworld」と表記を改め、リンク先も変更させていただきます。
テーマ曲そのものに変更はありません。一応、報告だけさせていただきます。
※放送予定日決定のお知らせ
2/12(金)22:00よりA&Bブロック2回戦&エキシビジョンマッチ2戦目(出場選手確定)
出場者リクエストはここで一旦締め切りとさせていただきます。ご応募してくださった方々、ありがとうごさいました。
また、不人気のため出場が見送られた大淀選手ですが、経済的に追い込まれている彼女の状況を鑑み、「裏出場枠」の存在をこっそり伝えました。
それがどういう形になるかはまだわかりませんが、大淀選手の活躍にもご期待ください。
ちなみに大淀選手は赤城選手と互角に渡り合える程度には強いです。
~大会運営委員長からのお知らせ~
大会運営委員長の不調により、エキシビジョンマッチのみ本戦放送日の翌日、または翌々日になる可能性があります。
いっぱいお薬を飲んで頑張りますが、ダメだった場合は何卒ご容赦ください。本戦の放送は間に合わせます。
今夜午後10時よりUKF無差別級グランプリ2回戦、放送確定。
全力で準備中。
明石「皆様、大変長らくお待たせしました! これより第二回UKF無差別級グランプリ、A&Bブロックの2回戦を行います!」
明石「実況はお馴染みの明石、そして解説は大淀さんでお送りします!」
大淀「どうも。立ち技格闘界絶対王者の赤城さんと互角に渡り合える程度の実力を持つ大淀です」
明石「……いや、大会運営委員長もそう言ってましたけど、それって本当ですか? 赤城さん滅茶苦茶強いし、階級も上でしょう」
大淀「だって、考えてみてくださいよ。私は軽巡級王者で、第一回UKF無差別級グランプリの3回戦に進出しているんですよ?」
大淀「16名トーナメントの3回戦って言ったらつまりは準決勝ですよ。出場者の中のベスト4には確実に入る計算です」
大淀「しかも私は勝ち抜く過程で、赤城さんにして唯一再戦したくないと言わしめた翔鶴さんも倒してますし、それくらい強くて当然でしょう」
明石「はあ……で、裏出場枠って何ですか?」
大淀「秘密です。非正規な出場枠なので、そのときまでお話することはできません。私も必死なんですよ、愛車のベンツが借金の抵当になってますから」
明石「……大淀さん、借金があるんですか?」
大淀「保有してた中国企業の株が暴落しましてね、稼がないと本当にまずいんです。もう1000万円以下の車には乗りたくないんですよ」
明石「そんな発言してるとまた人気と好感度が下がりますよ?」
大淀「いいんですよ、格闘家は試合に勝つことが全てですから。ま、今回は出番はありません。あるのは次回ですね。どうぞお楽しみに」
明石「そうですか……話が逸れましたが、早速試合の方に移りましょう!」
明石「本日はA&Bブロックの2回戦、合わせて4試合を開催します!」
明石「予定されていたエキシビションマッチ2戦目は、大会運営委員長の不調により後日に延期となりました! 申し訳ありません!」
大淀「いい加減にしてほしいですよね。放置ブラウザゲームで現実逃避してる場合じゃないですよ」
明石「エキシビションマッチの開催は明日、午後22時より行います! どうかご容赦の程をお願いします!」
明石「それでは試合を始めて参りましょう! まずはAブロック2回戦第1試合! 早くも優勝候補同士のぶつかり合いです!」
試合前インタビュー:赤城
―――これからグランプリ2回戦に挑まれるわけですが、コンディションはどうですか?
赤城「最高です。早く戦いたくてウズウズしてますよ。リングに上がるのが待ち遠しいですね」
―――この試合を勝ち抜けば、因縁の相手である扶桑選手と再戦できる可能性が出てきます。何か意識するところはありますか?
赤城「特にありません。優勝を狙っているんですから、どうせ全ての相手に勝たなければいけませんので」
赤城「扶桑さんが勝ち上がってくるかどうかも興味がないですね。私としては比叡さんのほうがやりやすそうなので、彼女には敗けてほしいくらいです」
―――優勝以外には何一つ興味が無いと?
赤城「ええ、他のことはどうでもいいと思っています。この試合も因縁を賭けた対決だなんて言われていますが、私にとっては通過点に過ぎません」
赤城「もちろん、試合には全力で挑みますよ。こんなところで敗けられませんからね。確実に叩き潰します」
―――武蔵選手が大きくファイトスタイルを変えられたのはご覧になったかと思いますが、赤城選手はどのような印象をお持ちでしょうか?
赤城「まあ……脅威には感じてます。簡単には勝てないでしょう。いつも以上に頑張らないといけませんね」
赤城「もう、いいですか? すみませんが出て行ってください。集中したいので」
(赤城選手の取材拒否により、インタビュー中止)
赤城:入場テーマ「Dark Funeral/King Antichrist」
https://www.youtube.com/watch?v=i_DrP5z
明石「かつて行われた第一回UKF無差別級グランプリ! その出場者の中でも、『最も優勝を渇望している選手』と呼ばれたのが彼女でした!」
明石「優勝候補の名に恥じぬ圧倒的実力で勝ち進むも、3回戦でまさかの逆転負け! 優勝という夢は扶桑選手によって粉々に打ち砕かれました!」
明石「しかし、彼女は帰ってきた! 第二回UKF無差別級グランプリ! かつて奪われたものを取り戻すため、より一層冷酷さを増して!」
明石「誰であろうと、私の前に立ちはだかるものは緋色の海に沈んでもらう! ”緋色の暴君” 赤城ィィィ!」
大淀「……珍しいですね。彼女は入場してくるときはいつも笑顔なんですけど、今日は既に表情が殺気立っています」
明石「試合前インタビューにて、赤城選手は『扶桑さんには興味が無い』と発言されたそうですが、その質問以降、空気が変わったそうです」
明石「急に笑顔が掻き消えて、全身から立ち上る殺気が目に見えるようだったとか。インタビュアーの青葉さんも慌てて逃げ出したとのことです」
大淀「やはり赤城さんも扶桑さんのことは意識しているんでしょう。そして、同じくらいこの試合が大事なものだということもわかっていると思います」
大淀「もともと赤城さんは冷酷な試合運びで知られていますが、今日は一段と殺気が研ぎ澄まされているように感じますね」
明石「あと、これもさっき伝わってきた情報なんですが……チーム一航戦のセコンドに、ずっと龍驤選手が付いてらっしゃったのはご存じですか?」
大淀「あ、そうなんですか。彼女は体が薄……小さいのであまり目に入りませんでした。その龍驤さんが何か?」
明石「ご周知の通り、龍驤選手は最近デビューされたUKFの軽空母級ファイターですが……現在、スパーリング中の事故で大破入渠中だそうです」
大淀「……そのスパーリングの相手って、もしかして」
明石「はい、赤城選手です。試合前のウォーミングアップに軽いスパーリングして、それで誤って龍驤選手を大破させてしまったと」
大淀「ドックに運ばれたときの状態はどういうものだったんですか?」
明石「首の骨が完全に折れていたそうです。多分、赤城選手のハイキックをまともに食らったんじゃないかと……」
大淀「……故意かどうかは断定できませんけど、赤城さんは本気で打ち込んだんでしょうね」
明石「詳しいことはわかりませんが、試合前からそれくらい赤城選手の殺気が尋常じゃないそうです。加賀選手すら怖くて近づけないとか」
大淀「それほど武蔵さんのことを脅威に感じているんでしょう。彼女を倒さなければ、扶桑さんへのリベンジも、優勝もなくなってしまいますから」
大淀「そういえば第一回グランプリのときも、赤城さんは『最も優勝を渇望している選手』と呼ばれてましたね」
明石「優勝賞品が10億円プラス、間宮、伊良湖の食事券ですからね。その2人は『赤城さんだけには優勝しないでほしい』と言ってましたよ」
大淀「そりゃあそうでしょう。暴食で知られる赤城さんが給糧艦を好きにできるとなったら、あの2人は過労死寸前まで追いやられるでしょうね」
大淀「その権利を得られる優勝を前回阻んだのが、扶桑さんです。この試合に勝てば、扶桑さんにリベンジを果たすことができる」
大淀「赤城さんにとって、この試合へのモチベーションを上げる要素は盛りだくさんですね。精神的には極めて充実しているんではないでしょうか」
明石「ですが、熱くなるあまり冷静さを失って選択ミスを犯す、ということはありませんか?」
大淀「それはありません。赤城さんの怒り方って怖いんですよ。怒れば怒るほど、試合では冷静になっていくんです」
大淀「この状態の赤城さんは、もはや殺人マシーンですよ。相手を倒すこと以外、何も考えてません。ギブアップなんて何があってもしないでしょうね」
明石「なるほど……ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! こちらも扶桑選手に因縁を持つ選手! しかも同じ優勝候補だ!」
試合前インタビュー:武蔵
―――立ち技系トップファイター同士の戦いとして注目度の高いこの試合ですが、意気込みの方をお聞かせください。
武蔵「意気込みか。そのように言われると難しいが……私が勝つ、とだけ言っておこう」
武蔵「この試合を勝てば、再び扶桑に挑む機会を得られる。それを逃すわけには行かないからな」
―――やはり、扶桑選手のことは意識されていらっしゃいますか?
武蔵「もちろんだ。私がこのグランプリに出場した理由は、優勝以前に扶桑への借りを返すためだからな」
武蔵「言っておくが、恨んでいるわけではない。赤城のやつは凄まじい憎悪を扶桑に抱いているようだが、私はむしろ感謝しているくらいだ」
武蔵「扶桑のおかげでここまで強くなれた。この試合の勝利を、ぜひ扶桑に捧げたい。彼女が勝ち上がるのは間違いないからな」
―――相手は立ち技絶対王者と呼ばれる赤城選手です。どのように戦いますか?
武蔵「私はボクサー出身だが、今は総合格闘家だ。全局面において十全の戦いができるように、入念なトレーニングを積んできた」
武蔵「相手のファイトスタイルなど関係ない。私は培ってきたものを合理的に発揮するだけだ。全身全霊でな」
武蔵「扶桑への復讐を渇望している赤城には悪いが、勝つのは私だ。あの女を倒して、もう一度私は扶桑の前に立つ」
武蔵:入場テーマ「FinalFantasyⅩ/Otherworld」
https://www.youtube.com/watch?v=kXDxYIWAT7Y
明石「パワーファイターの象徴とまで言われたチャンピオンボクサー、武蔵! しかし、私たちは生まれ変わった彼女の姿を目の当たりにしました!」
明石「相手の動きを読む卓越した見切りと、軽やかなフットワーク! そして正確無比のカウンター! しかも、その豪腕は全く衰えず!」
明石「テクニックとパワーを併せ持つ、今の私に一切の隙はない! 過去の雪辱を晴らすため、また一歩覇道へ足を進める!」
明石「邪魔するものは全て、この両の拳が打ち砕く! ”破壊王” 武蔵ィィィ!」
大淀「武蔵さんは見た限りでは落ち着いていますね。初戦のときと変わりない雰囲気です」
明石「見た目はそうですが、武蔵さんも意気込みは相当ですよ。インタビューでは『優勝よりもまず扶桑と戦いたい』と言っていたほどですし」
大淀「そうでしょうね……どうも、武蔵さんは扶桑さんに勝たない限り、これ以上先へは進めないと考えているようです」
大淀「赤城さんも口には出しませんが、端々の言動を見るところでは、扶桑さんに対して腹わたが煮えくり返っているとみて間違いなさそうです」
大淀「いわば、この戦いは扶桑さんへのリベンジを賭けた争奪戦ということになります。どちらも一歩も譲らない試合展開になるでしょうね」
明石「ファイトスタイルとしてはムエタイVSボクシングという構図ですが、有利なのはどちらだと思われますか?」
大淀「そうですね……打撃戦になることはまず間違いないでしょうけど、両者の打撃には大きな差があります」
大淀「赤城さんはパンチだけでなく肘、膝、キックも巧みに使うオールマイティな打撃。武蔵さんはパンチに特化したボクサースタイルです」
大淀「攻撃のバリエーションを見れば赤城さん有利とも言えますが、やはり立ち技において拳の攻防は大きな比重を占めています」
大淀「いくら赤城さんでも、武蔵さんのパンチに付き合うようなことはしないでしょう。単純にどちらが有利、と断言することはできません」
大淀「重要なのは、お互いにどうやって自分の得意分野で戦うかでしょうね。ですから、この試合は間合いが重要になると思います」
明石「間合い……というと、キックとパンチの届く間合いの差、ということでしょうか」
大淀「そうです。武蔵さんの武器がパンチしかない以上、彼女は中距離でしか打ち合うことができません」
大淀「だから赤城さんはそこを突いてくると思います。キックだけの届く間合いで距離を取りつつ戦うか、あるいは密着して肘、膝で一気に決めるか」
大淀「それを武蔵さんも予想していると思うので、どう対策を講じてくるか……彼女がどう出るかは私にもわかりませんね」
明石「武蔵選手の実力には、まだ未知数の部分があると思われますか?」
大淀「ええ。武蔵さんにとって、霧島さんとの試合はリハーサルのようなものだったと聞いています」
大淀「となれば、あの試合で全てを見せたわけではないと思います。まだ何かを隠し持っている気がしてなりません」
大淀「わかりやすい構図に見えて、非常に予想の難しい対戦です。何せ、どちらも優勝候補の実力者ですからね」
明石「ありがとうございます。さあ、両者リングインしました! 睨み合っている! 両者、視線に闘志を滾らせて睨み合っている!」
明石「まったく視線を切らない! ルール確認を終えてもコーナーに戻ろうとしない! まるで、既に試合は始まっていると言わんばかりだ!」
明石「睨み合ったまま、両選手、ゆっくりとコーナーへ戻る! 試合開始前からこの凄まじい緊張感! 一体、この試合はどうなってしまうのか!」
明石「今、ここでゴングが鳴った! 試合開始です! 両選手、颯爽とリング中央へ飛び出した!」
明石「武蔵選手は先の試合で見せたものと同じく、両腕を下げて軽くステップを踏むノーガード戦法! 対する赤城選手、少々構えを変えてきた!」
明石「いつもは側頭部をガードしている腕を下げ、両の拳で顎を守っています! これは武蔵選手に対するパンチへの対策か!」
大淀「赤城さんはディフェンス重視で攻めるつもりですね。カウンターを警戒し、徐々に壊していく作戦でしょうか」
明石「さあ、先に仕掛けるのはどちらか! 武蔵選手はガードを下げたまま、打ってこいとばかりに赤城選手へ間合いを詰めていく!」
大淀「赤城選手、これに応えた! 鋭いローキッ……なっ!? む、武蔵選手が飛び込んだ!」
大淀「えっ、嘘!?」
明石「タックルです! 武蔵選手が足を狙った低空タックル! ローキックの足を素早く掬い取った!」
明石「そのまま赤城選手を地面から引っこ抜くように押し倒す! て、テイクダウン! 赤城選手、UKF初のテイクダウンです!」
大淀「あ、赤城さんからテイクダウンを取った……!」
明石「初めて見る光景です、赤城選手がマットに倒れている! 武蔵選手、その顔面目掛けて豪腕を振り降ろした! ヘビー級ボクサーの下段突きだ!」
明石「間一髪、赤城選手これを躱す! しかし武蔵選手は更にパウンドで追撃! もはや間合いもへったくれもありません!」
明石「赤城選手、立たせてもらえない! どうにか足を胴の間に入れました! ガードポジションで武蔵選手の猛攻を凌ぎ……いや、違う!?」
大淀「あの動き、ブラジリアン柔術!?」
明石「パウンドに来た武蔵選手の腕を取った! 両足を首に絡める! さ、三角絞めだぁぁ! 立ち技王者赤城、まさかの寝技を繰り出した!」
明石「意表を突いたタックルへの意趣返しとばかりに、ムエタイファイター赤城の三角絞め! 綺麗に首と腕が極まりました!」
明石「完全に絞めが入った! まさか赤城選手が柔術を隠し持っていたとは! 武蔵選手、不意を突いたつもりが逆に不意を突かれる形に……」
大淀「いや、でも赤城さん。それは悪手でしょう」
明石「あっ!? 赤城選手の体が浮き上がった! これは……武蔵選手が力づくで持ち上げています!」
明石「す、凄まじい怪力です! やはり、艦娘一と言われた豪腕は健在! ほとんど腕1本で、赤城選手の体を高々と持ち上げた!」
明石「そして……叩き付けたぁ! リングを揺るがすほどの衝撃! 強烈なパワーボムが赤城選手に炸裂しました!」
明石「この衝撃では受け身も取りようがない! 赤城選手の動きが止まった! 三角絞めも解ける! 武蔵選手、難なく危機を脱しました!」
大淀「武蔵さんにとって、三角絞めは1回戦敗退を喫することになった因縁の技ですから。万全の対策を期しているのは当たり前でしょう」
大淀「あの赤城さんが三角絞めを繰り出せば誰だって意表を突かれますけど、武蔵さん相手にその技はまずかったですね」
明石「さあ武蔵選手が腰を下ろした! やはり立って勝負する気はない! このまま赤城をグラウンドで仕留めるつもりのようです!」
明石「赤城選手はダメージが大きいのか、動きが鈍い! どうにか片足だけ挟み込んだハーフガードポジションを取ります!」
明石「まさかの展開となりました! 立ち技トップファイター同士のグラウンド戦! やはりこの勝負、尋常なものではない!」
大淀「武蔵さんがタックルまで習得しているとは思いませんでした。赤城さんの柔術にも驚きましたが……この先の展開、まったく予想が付きません」
明石「さて、ここから武蔵選手はどう攻めるか! 拳を振り下ろした! やはり武蔵、上からの打撃で仕留めに掛かる!」
明石「赤城選手もただではやられない! 降り注ぐ拳を的確に捌く! 同時に襟を抱き込んで密着を試み……あっ、武蔵選手が頭突きを入れた!」
明石「しばらく大人しくしていろと言わんばかりの強烈な頭突き! 更にもう1発! 打たれ強い赤城にもこれは効いたか!?」
明石「いや、それでも赤城は怯まない! もはや打撃にも構わず脇へ腕を差し込んだ! 下から組み付くような形でどうにか打撃を凌ぐ!」
明石「武蔵選手は休みなく赤城の脇腹に拳を叩き込んでいますが、さすがにこの状態では効果が薄い! 一旦膠着にもつれ込むか!」
大淀「いえ、赤城さんは膠着を狙ってはいません。これも柔術の……」
明石「んっ、なんだ? 密着したまま赤城選手が、武蔵選手の足を掴んだ! もう片方の手はマットに着いている!」
明石「あっ……赤城選手が身を起こした! 抱き合ったまま、両者の体がぐるりと反転! 武蔵をひっくり返した! 体勢が入れ替わりました!」
明石「赤城選手、あっさりとハーフガードポジションを返しました! やはり赤城選手、ムエタイの技だけではない! 柔術の技も冴え渡っている!」
明石「今度は武蔵選手がマウントポジションを取られています! これぞ柔術の恐ろしさ! さあ、ここから赤城選手が反撃を仕掛け……はあっ!?」
大淀「うっわ!?」
明石「赤城選手が引き剥がされた! なんだ今のは! テクニックもクソもない! 武蔵選手、単純に赤城の襟を掴み、腕力で引き剥がしました!」
明石「即座にマウントを取り返す! 再び武蔵選手がトップポジションを取りました! しかも、今度は完全なマウントポジション!」
大淀「……怪力だけじゃありません。マウントを取る動きも非常に洗練されています。武蔵さんはグラウンドの攻防も磨いている……!」
明石「赤城選手も呆気に取られたような表情を見せています! こんなはずはない! 今、自分の身に有り得ないことが起きていると!」
明石「しかし、そんな逡巡に付き合う武蔵ではない! 豪腕が振り下ろされた! 1発、もう1発! パウンドのラッシュが始まったぁぁ!」
明石「赤城選手、これには防戦一方! ひたすら顔面のガードを固める! 武蔵選手は構わず殴る! ここは赤城選手、耐えるしか策がない!」
明石「武蔵選手、がら空きの脇腹にすかさずフックを入れる! おまけに鉄槌打ち! も、もう滅多打ちです! 赤城選手も苦悶の表情で耐える!」
大淀「あっ、今の……」
明石「霧島戦で見せた華麗なテクニックが霞むほどの、武蔵選手の荒々しい猛攻! そして、それは着実に赤城の耐久力を削っていく!」
明石「あっ、ここで赤城選手が反撃です! 下から雄叫びを上げながら拳を突き出した! 武蔵選手の顔面へカウンター気味に命中!」
明石「しかし、カウンターと言えどもマウントを取られていては打撃の威力が出ない! 武蔵選手、構わず殴る、殴る、殴る!」
明石「ガードの空いた顔面に武蔵選手の拳が落とされる! だが、赤城選手はもうガードさえ固めない! 咆哮を上げながら拳を突き上げる!」
明石「マウントポジションの上下で凄まじい拳の応酬! 冷静に殴る武蔵と、猛獣のように吠えながらパンチを繰り出す赤城! 顔面の叩き合いです!」
明石「手数は同じでも、ダメージの差は一目瞭然! 武蔵選手にはほとんどダメージはなく、赤城選手の顔面はみるみる朱色に腫れ上がっていく!」
明石「もはや赤城選手の限界は時間の問題です! しかし、赤城選手は攻撃の手を緩めません! ダメージにも構わず、効果の薄いパンチを繰り出す!」
明石「柔術の技でマウントを返そうという動きもありません! まるで赤城選手、自らを死地へと追い立てるような捨て身の猛攻です!」
大淀「……赤城さんにはもう、他に打つ手がないんだと思います。悪手だとわかっていても、あの体勢でパンチを出すしかないんです」
明石「打つ手がない? それはどういうことでしょうか」
大淀「武蔵さんの打撃が強力過ぎたんです。さっき、脇腹にフックを入れられたとき……多分、赤城さんは肋骨を折られたんです」
大淀「本来ならブリッジしてマウントを返したいのに、肋骨が折れてるせいで腰に力を入れられない。しかも、また同じ場所を殴られたら致命傷になる」
大淀「ボディと顔面を同時にガードすることはできませんから、守りにも入れない。だから赤城さんはあの体勢で攻めるしかないんです」
明石「な、なるほど。しかし、下からの打撃ではいくら打っても……」
大淀「ええ。腰を入れて打つことができませんから、クリーンヒットでも大した威力はありません。せいぜい、武蔵さんの気を逸らすので精一杯です」
大淀「赤城さんは諦めていないようですが、この状況から勝ちの目を引く可能性は、もう……」
明石「あっ、一際強烈なパンチが赤城選手の顎に入った! 雄叫びが途切れた! 同時に下からのラッシュも止まってしまった!」
明石「ここぞとばかりに武蔵が殴る! もはや赤城選手は無抵抗! 武蔵選手は完全に止めを刺しに掛かっています!」
明石「武蔵選手が更に身を乗り出して拳を振り上げた! 最後の一撃が振り下ろされ……!? いや、躱した! 赤城選手、まだ意識がある!」
大淀「まだ余力があるの!? あんなに打ち込まれたのに……!」
明石「空を切る拳がマットを揺るがした! すかさず赤城が反撃のパンチ……じゃない!? の、喉輪です! 武蔵の喉に指を食い込ませた!」
明石「単純な握力による首絞めです! これには武蔵選手も堪ったものではない! 離せとばかりに顔面へ拳を更に叩き込む! しかし全く離れない!」
明石「赤城選手の顔は既に血で真っ赤に染まっています! しかし、その表情だけはありありと見て取れます! 歯を食いしばる、鬼のような形相が!」
明石「とうとう武蔵選手の限界が先に来た! 最後に一発顔面に叩き込み、手を振りほどいて立ち上がる!」
明石「赤城選手も立ち上がった! 明らかに呼吸が荒い! 顔面からは多量の出血! もはや立っているのがやっとのように見えます!」
明石「対する武蔵選手に大きなダメージは見られません! 首には生々しい指の跡が残っていますが、呼吸も乱れず、スタミナは十分残している!」
明石「絶望的なダメージ差です! しかし、赤城選手は再び構える! 立ち技王者の名に賭けて、もう2度と敗北は許されない!」
明石「その表情にいつもの冷酷さはありません! まるで秘めたる凶暴さを露わにしたような形相! 満身創痍ながらも、赤城選手は未だ戦意高揚!」
明石「これに対し、武蔵選手は相変わらずステップを踏みながらのノーガード……いや、構えた! 赤城の闘志に応えるように、武蔵が構えました!」
明石「両手を上げつつも、ガードは固めない! これはボクシングの『ヒットマンスタイル』! これこそ武蔵選手の真骨頂なのか!?!」
大淀「……これ以上、勝負が長引くことはありません。次のコンタクトで決まる……!」
明石「武蔵選手が間合いを詰めた! それより早く赤城が踏み込んでいく! 速い! 一撃で決める気だ!」
明石「赤城が足を振り上げた! 伝家の宝刀、ハイキッ……き、決まったぁぁぁ! 武蔵選手、カウンターァァァ!」
明石「ハイキックの内側へ滑り込むような右ストレート一閃! 完璧に顎へ入った! 赤城選手、ぐらりと前のめりに倒れていく!」
明石「音を立ててマットへ沈んだ! 血だまりが広がっていく! 動かない! 動きません! 完全に失神しています!」
明石「ゴングが鳴りました、試合終了! 数々の強敵を血の海に沈めてきた、あの緋色の暴君がKO敗け! 自らの血の海に沈んでいきました!」
明石「まさか、まさかの武蔵選手、圧倒的勝利! 立ち技最強と言われた赤城に肘も、膝も、キックさえもろくに打たせず、完全封殺!」
明石「もはや疑いようもありません! 武蔵選手、優勝候補筆頭として、グランプリ制覇への道に大きな一歩を踏み出しました!」
大淀「……こんな展開になるとは思っても見ませんでした。あの赤城さんをほぼ完封して勝ちを収めるだなんて……」
明石「いやあ、予想をはるかに上回る強さでしたね。パワーとボクシングテクニックだけでなく、グラウンドの攻防までできるとは」
大淀「私も驚いています。タックルも、グラウンドの攻防も、一朝一夕で身に付くものではありません。一体、どれだけの鍛錬を積んだのか……」
明石「予想を覆す場面だらけの試合でしたが、やはり武蔵選手の一番の勝因は、最初のタックルを決めてテイクダウンを取ったことでしょうか?」
大淀「確かにタックルは凄かったです。タイミングも、足の取り方も完璧で、入り込むスピードも目を見張るものがありました」
大淀「ただ、あそこで赤城さんがタックルを切っていたとしても……どちらにしろ、赤城さんの敗北という結果は変わらなかったという気がします」
明石「それはその……それだけ、赤城選手と武蔵選手に実力の開きがあったと?」
大淀「負けたにせよ、赤城さんの強さが本物なのは間違いありません。強力な打撃に加え、今日の試合で柔術まで持っていることが明らかになりました」
大淀「彼女はムエタイとブラジリアン柔術を両方会得している、いわば隠れたトータルファイターだったわけです。それは誰一人知らなかったはずです」
大淀「当然、武蔵さんだって予想していなかった。その上で、それら全てをまとめて叩き潰して武蔵さんは勝ったんです」
大淀「赤城さんは強いです。だけど、武蔵さんはそれ以上に強い。それがどれほどのものか、まだ底が見えないくらいに……」
明石「仮に、赤城さんと武蔵さんが正面からのスタンド勝負という展開になっていたとしても……」
大淀「武蔵さんが勝っていたと思います。それほど、先ほどの武蔵さんからは絶対的な実力を感じました」
大淀「1回戦で長門さんの試合を観たとき、彼女を倒せる選手なんているのかって思いましたけど、武蔵さんならもしかすると……」
明石「武蔵選手の実力は、長門選手に匹敵していると思われますか?」
大淀「……わかりません。ここまでレベルが高いと、予想なんてできませんから」
大淀「それに、まだ2回戦です。ここからグランプリで何が起こるかわからない以上、あまり断定的な物言いはしないでおきます」
大淀「1つだけ確かなことは……武蔵さんはとてつもなく強い、ということです」
明石「……ありがとうございます。1試合目から、凄まじい死闘でした……」
試合後インタビュー:武蔵
―――見た限りでは完封勝利という印象でしたが、ご自身としては試合結果をどのように受け止められていますか?
武蔵「そうだな。赤城にやってやろうと思っていた大抵のことはうまく行った。当然の結果だと言ってしまってもいいだろう」
武蔵「ただ、本来ならばあのような試合結果になるほど、私と赤城に力の差はない。あいつの戦い方を、私が全て潰しに行ったというだけだ」
武蔵「真っ向からの打ち合いになれば、赤城ともいい勝負ができただろう。それでも私が勝つという結果は揺るがないがな」
―――武蔵選手は意図的に赤城選手との打撃勝負を避けた、ということでしょうか。
武蔵「そういう言われ方は心外だな。私が赤城との打ち合いを恐れたと思っているのか?」
武蔵「私は勝つために最適な選択をしただけだ。負けるわけにはいかない試合だったからな。ちなみに、これは扶桑から学んだ戦い方だ」
武蔵「今日の結果に文句があるなら、いつでも赤城との再戦を受けて立とう。そのときは、正面から打ち合ってやるとするか」
―――赤城選手に対して、何かコメントはありますか?
武蔵「あいつには気の毒なことをした。それだけだ」
試合後インタビュー:赤城
赤城「おのれぇぇぇ! あの女ぁ、この私にあのような醜態を晒させるとは! 今日という日の屈辱、骨身に刻んででも忘れんぞ!」
赤城「次に戦うときは、必ず武蔵を殺してやる! あの澄ました顔を粉々に踏み砕いてくれる! 二度と修理できないほど、徹底的にな!」
赤城「……貴様、何を見ている! 出て行け! 何なら貴様から殺してやろうか!」
(赤城選手の取材拒否につき、インタビュー中止)
明石「想像を絶する激闘から始まった2回戦! 続きまして、Aブロック第2試合を開始いたします!」
明石「これもまた何が起こるかわからない、異色のカード! 一体、どのような展開になるのか!」
大淀「片方の選手がまったく前例のないファイトスタイルですからね。本当にどうなることやら……」
明石「まずは彼女から登場していただきましょう! 赤コーナーより選手入場です!」
試合前インタビュー:扶桑
―――比叡選手に対する作戦などは何か立てられていますか?
扶桑「一応は……比叡さんみたいな戦い方をする選手のことは全く予想してなかったので、慌てて対策を考えました」
扶桑「具体的には言いませんけど、勝算はあります。ここで負けるわけには行きませんから」
―――比叡選手の毒身術がルールで認められたことに納得はされていますか?
扶桑「運営の方がそう判断されたなら、不満はありません。また、比叡さんを卑怯だと思う気持ちもありません」
扶桑「他の選手が勝つために色んな格闘技を学ぶのと同じように、比叡さんも勝つためにそういった能力を身に付けられたのだと思います」
扶桑「なら、その気持ちにやましいところはないはずです。だから、私も飽くまでルールに則って戦います」
―――この試合を勝ち抜いた後は武蔵選手との対戦が決定していますが、意識するところはありますか?
扶桑「今は何も考えていません。目の前の試合にだけ集中していたいので、比叡さんに勝ってから考えます」
扶桑「ただ……どんな人とも戦う覚悟はできています。この先で戦うことになる選手は、きっと地力では遥かに私を上回る方ばかりでしょう」
扶桑「だからって、負けるためにリングへ上がるようなことはしたくありません。誰が相手だって、私は全力で勝ちに行きます」
扶桑「そういうところは、比叡さんと私は似ているのかもしれませんね。それでも勝ちを譲るようなことはできませんけど」
扶桑:入場テーマ「Chthonic/Broken Jade」
https://www.youtube.com/watch?v=heF_NPJbv8Y
明石「大きな歓声に包まれて入場してきます! 穏やかな表情に秘める不屈の闘志! 彼女が今一度、リング上で奇跡を起こしにやってきた!」
明石「1回戦では天才合気道家、加賀選手に一本勝ち! 第一回グランプリ準優勝者が、中国4000年の妖術に挑む!」
明石「飽くなき勝利への執念は、迫り来る毒の瘴気を打ち破れるか!? ”不沈艦” 扶桑ォォォ!」
大淀「さて、扶桑さんは少々厄介な選手を相手にすることになってしまいましたね」
明石「周囲からの事前予想としては、扶桑選手の勝率は9割と出ています。大淀さんはどう思われますか?」
大淀「同じ意見ではあります。力量、精神性、戦術眼、全てにおいて優っているのは扶桑さんですから」
大淀「ただ、勝率がどうしても10割にはならないんですね。残りの1割、これが怖いところです」
明石「可能性の上では、扶桑選手の敗北も有り得ると……」
大淀「ええ。勝負に絶対はありませんので。また、結果にあるのが勝つか負けるかの二択しかない以上、勝率という数字はあまり意味がないんです」
大淀「扶桑さんはジャイアントキリングで名を挙げた選手です。相手の弱点や隙を冷静に観察し、幾度と無く格上のファイターを倒してきました」
大淀「そして今や、扶桑さんこそが狙われるべきトップファイターです。何と言っても、第一回UKF無差別級グランプリの準優勝者ですから」
大淀「下克上を果たした結果、逆に足元を脅かされる立場になったわけです。扶桑さんを倒して名を挙げたいというファイターはごまんといるでしょう」
大淀「比叡さんもその中の1人です。元戦艦級王者の日向さんを倒し、扶桑さんをも倒したとなれば、比叡さんの名は格闘界に響き渡りますからね」
明石「ですが、扶桑さんはトップファイターが起こしがちな慢心や油断とは無縁なタイプですよね?」
大淀「もちろんです。どんな相手であろうと、扶桑さんは全力で戦う人です。精神的な隙が生じるようなことはないでしょう」
大淀「でもですね、それは比叡さんも同じなんです。トップファイターである扶桑さんに挑むなら、そこに慢心や油断が起こるはずもありません」
大淀「加賀さんにはわずかにですが慢心はあったと思います。しかし、比叡さんにそういうことはないでしょう」
大淀「彼女は自分が成り上がるために、扶桑さんに全身全霊で挑みます。勝つためならどんな手段でも使うと思います」
明石「……ありがとうございます。それでは続いて登場していただきましょう! 青コーナーより、選手入場です!」
試合前インタビュー:比叡
―――先程まで食事中だったとお聞きしましたが、どういったメニューだったんでしょうか。
比叡「えーっと、ヤクドクガエルのお刺身と、タランチュラの和え物と、ドリンクにブラックマンバの体液ですね」
比叡「どれもすっごく美味しかったですよ! 体調も良いし、コンディションは万全です!」
比叡「私のファイトスタイルに批判もあるみたいですけど、お姉さま方も勝ちは勝ちだって言ってくれましたから、扶桑さんにも絶対に勝ちます!」
―――グランプリに参加された金剛姉妹の中では唯一勝ち残っている比叡選手ですが、プレッシャーなどは感じられていますか?
比叡「プレッシャーというより、心地良い緊張感ですね。私にこんなに期待が掛かることなんて、今までありませんでしたから!」
比叡「金剛姉妹の名に賭けて、必ず優勝します! お姉さま方に褒めてもらえるよう、頑張りますから!」
―――対戦相手の扶桑選手ですが、作戦としてはどのようなオエッ、ウォエェェェ!
比叡「あれ、どうしたんですか青葉さん。急に倒れて……もしもし? 青葉さーん。寝てるんですか?」
比叡「うわっ、青葉さん2日酔いですか? 寝ゲロなんてしないでくださいよ。しかもガスマスク着けたまま。マスクの中、気持ち悪くないですか?」
比叡「……全然起きなくなっちゃった。ちょっと、スタッフさん。青葉さんを運んであげてくd」
(取材スタッフ全滅により、インタビュー中止)
比叡:入場テーマ「新機動戦記ガンダムW/思春期を殺した少年の翼」
https://www.youtube.com/watch?v=BGwU363ZAaI
明石「大きなブーイングに両手を上げて応えながら、堂々と入場して来ます! こんなブーイングはお笑い芸人時代に慣れ切ったと言わんばかりだ!」
明石「徒手格闘が絶対原則のUKFルール! しかし、中国4000年の歴史は無手でいながら武器を持つ手段を作り上げてしまった!」
明石「その武器とは、すなわち猛毒! 打たれ強さなど関係ない! 吸い込めば即、全身が毒に侵され、時間と共に命を削っていく!」
明石「笑いを取る気など一切ない! 反則スレスレの毒身術にて、金剛姉妹の末子がグランプリ制覇を狙う! ”蛇蝎の瘴姫” 比叡ィィィ!」
大淀「……あれは本当に比叡さんでいいんですか? 宇宙服みたいなのを着てて、誰だかわからないんですけど」
明石「比叡さんは常時全身から毒を垂れ流しているので、運営側の処置として、観覧の方々の安全を図るために防護服を着用しての入場になりました」
大淀「はあ……防護服の用途が逆ですよね。普通は外側からの脅威を防ぐために着るのに、着てる比叡さんが脅威そのものですから」
明石「何でも、1回戦のときより毒性が強くなっているそうですよ。もう一般に普及しているレベルのガスマスクじゃ防ぎ切れないそうです」
大淀「……まさか防毒フィルターを溶かしてしまうわけじゃありませんよね」
明石「そのまさかです。取材に行ったスタッフも全滅ですよ。ガスマスクがものの3分で使い物にならなくなったそうです」
明石「安全のため、リングサイドにいる関係者やセコンド陣、レフェリーは軍から取り寄せた特殊部隊仕様のガスマスクを着用しています」
明石「そうでもしないとみんな嘔吐と吐血で昏倒してしまうので……試合を観る側も命がけですよ」
大淀「もし第三回UKFグランプリがあるなら、ルールに『いかなる方法でも毒物の使用を禁ずる』と明記しないといけませんね」
明石「一応、明らかになった比叡選手のファイトスタイルについて解説しておいてもらえますか?」
大淀「ああ、はい。比叡さんが中国の修行で身に付けて来たのは『毒身術』という、中国拳法における毒手の無差別攻撃バージョンです」
大淀「長期間、天然の毒物と薬湯を交互に摂取し続けて内蔵を毒袋に変化させ、体内に溜め込んだ毒を汗腺から霧状に放出するという攻撃方法ですね」
大淀「相手は比叡さんの近くで呼吸しただけで毒が回るという、大変厄介な代物ですが、一番恐ろしいのはもう1つの特徴です」
明石「例の『アドレナリンに反応して体内の毒性が強くなる』というやつですね」
大淀「ええ。比叡さんが興奮すればより強い毒を対戦者が吸引することになり、対戦者が興奮すれば、毒の回りが更に強くなるというものです」
大淀「アドレナリンを放出しなければならない格闘試合には最適な毒術です。比叡さんに負けた日向さんは本当に運が悪かったですね」
大淀「しかし、毒性が強くなっているということは……それだけ比叡さんがやる気満々だということでしょうね」
明石「きっと、試合前から興奮しっぱなしなんでしょう。青葉さんをインタビュー中に昏倒させるくらいですし」
大淀「しかも控室では世界各地の猛毒生物をたらふく食べていたそうじゃないですか。溜め込まれた体内の毒が、アドレナリンで更に熟成されて……」
明石「……これって格闘試合ですよね?」
大淀「ルール上で認められたからには、そう捉えるしかありませんよ。扶桑さんは実に厄介な相手と戦うことになってしまいましたね」
大淀「もはや相手は格闘家というより、毒を持った異生物です。普段の戦い方をしても勝ち目がないかもしれません」
明石「でも、いくら毒という武器を持つ比叡選手だって、棒立ちのまま扶桑さんに毒が回るのを待つわけには行きませんよね」
明石「そこは比叡選手も何かしら戦い方を考えていると思いますが、それはどういうものだと思われますか?」
大淀「まず断言できるのは、日向戦で見せた蟷螂拳の構えは単なるブラフでしょう。奇をてらった動きで時間を稼いだだけと見て間違いありません」
大淀「また、走って逃げ回れるほどリングは広くありません。基本的な格闘術もあまり成長していないとすると、比叡さんは『亀』になるでしょうね」
明石「亀、というのはつまり、徹底的に防御を固めてくると……」
大淀「おそらくは。時間を稼げばそれだけ扶桑さんに毒が回って、勝手に倒れてくれるはずですので」
大淀「となると扶桑さんの取れる手段は1つしかありません。速攻、即ち毒が回る前に比叡さんを倒す。これしか手はないでしょう」
明石「でも、比叡さんは防御を固めると考えられるわけですよね。ならば速攻という手段は難しいのでは?」
大淀「もちろんそうなんですけど、そうするしかないんです。毒で倒れるのが数分後か、数十秒後なのかすら、現段階では判断できませんから」
大淀「難しいところです。時間を掛けて戦うことはできないし、下手にラッシュで攻めると息が切れて、それだけ多く毒を吸い込んでしまいます」
大淀「だから理想は一撃で決めることでしょう。果たして、防御を固める比叡さんに対し、それを可能とする技を扶桑さんが持っているかどうか……」
明石「扶桑選手はそういうファイトスタイルではないですしね。誘い受けタイプというか」
大淀「ですね。相手が仕掛けてくるのを待って、的確に対処するのが扶桑さん本来の戦い方ですが、比叡さんにそれはできないでしょう」
大淀「一体、どういう方向に勝負が転がるのか……結局は、扶桑さんが考えた対応策次第ということになりますね」
明石「……ありがとうございます。今、比叡選手がリングインしました! リング中央でのルール確認までは防護服を着用したまま行われます!」
明石「ここで告知させていただきますが、比叡選手の試合に限り、若干のルール修正が入ります!」
明石「UKFルールでは通常、試合を意図的に膠着させる行為を選手が取った場合、試合を一時中断した後に、対象となる選手に警告が出されます!」
明石「しかし、比叡選手の特性を考えると、試合中断という措置自体が比叡選手にとって有利になってしまいます!」
明石「そのため、比叡選手の試合では、膠着が起こっても警告等は行われず、そのまま試合を続行します!」
明石「あまりに著しい不正などが見られた場合のみ、試合を中断することはありますが、原則として比叡戦において試合中断は極力行いません!」
明石「これも試合の公正を期すためのルール修正ですので、どうかご理解の程をお願いします!」
大淀「このルール変更は扶桑さんにとって有利ですね。試合時間は長引けば長引くほど、比叡さんの思う壺でしょうから」
大淀「試合が膠着していても、その間に毒は充満し続けているわけですし、この措置は当然と言うべきでしょう」
明石「さて、両選手がリング中央へ! 扶桑選手は至って落ち着いた様子! 比叡選手は防護服により、その表情は全く窺い知ることができません!」
明石「リング周囲にはガスマスク着用の関係者がずらりと並んだ異様な光景! まるで化学兵器の実験にでも立ち会っているかのようです!」
大淀「嫌な例えですね……確かに今の比叡さんは一種の生物兵器みたいなものですけど」
明石「さあ、両者コーナーに戻ります! 比叡選手が防護服を脱ぎ捨てる! 露わになった表情は闘志満々! つまり、毒もばっちり熟成している!」
明石「正統派ファイター扶桑と、もはや格闘家と呼んでいいのかどうかもわからない比叡選手! この戦い、一体何が起こるのか!」
明石「ゴングが鳴りました、試合開始です! 両者、速くも遅くもない足取りでリング中央に出て行く!」
明石「比叡選手はやはり蟷螂拳の構えは取りません! 重心を低く取り、両腕を盾のようにして顔前をガードした徹底防御の構え!」
明石「大淀さんの予想通り、比叡選手は毒が回る時間を稼ぐつもりです! 対する扶桑選手、いつものように空手の構えを取った!」
明石「ゆっくりと間合いを詰めます! 打撃の射程圏に入った! そして……攻めない! 攻めません!」
明石「じりじりとすり足で間合いを詰めてはいますが、攻めていかない! 両者、近距離で対峙したまま、動きがありません!」
明石「こうしている間にも、扶桑選手は呼吸と共に毒を吸い続けているはず! 扶桑選手、一体何を考える!?」
大淀「これは……何でしょうね。扶桑さんはいつも通りに戦おうとしているんでしょうか。だとしたら、非常に危険ですよ」
明石「またわずかに扶桑選手が間合いを詰める! 比叡選手はじわりと後退! 両者、まったくの動きがありません!」
明石「動きのないまま、試合時間は30秒が経過! 日向戦より毒性が強くなっていることを考えると、そろそろ身体に影響が出る頃です!」
明石「時間が経てば経つほど毒は回っていく一方! しかし扶桑選手、仕掛けない! ただ間合いだけを詰めていきます!」
明石「比叡選手も冒険はしません! 前に出る扶桑選手に合わせて後ろに下がる! やはり毒が回るのをただ待っている!」
明石「試合時間は1分を経過! 心なしか扶桑選手の顔色がどす黒くなってきました! しかし、表情だけは冷静そのもの!」
明石「また1歩間合いを詰める! 比叡は下がる! 両者仕掛けない! 完全な膠着状態です! 大淀さん、扶桑選手は何を狙っているんでしょう?」
大淀「……わかるのは、扶桑さんがゆっくりと呼吸をしていて、毒の吸引をできるだけ抑えようとしていることだけです」
大淀「試合を長引かせて扶桑さんが得することは1つもないはずです。一体、どういう考えで仕掛けずにいるのか……」
明石「あっ、扶桑選手がわずかに咳込んだ! 唇の端から血泡が漏れています! 明らかに比叡選手の毒が内蔵まで回っている!」
明石「もはや扶桑選手が昏倒するまで、幾ばくかの時間しかありません! ここで仕掛けなければ、扶桑選手の敗北は確定的です!」
明石「しかしながら、扶桑選手に焦った様子がまったくない! また1歩間合いを詰めました! やはり比叡選手は後退するだけ!」
明石「とうとうコーナー際まで後退しました! 比叡選手にプレッシャーを掛けるように、扶桑選手も詰め寄っていく! 完全に拳が届く圏内です!」
明石「だが攻めない! 間合いすら詰めなくなりました! 扶桑選手、コーナに追い込んだ比叡を前に1歩も動かない! また口から血が溢れました!」
明石「扶桑選手の行動不能まで、長く見積もっても数十秒程度しかありません! それなのに動かない! なぜ動かない!?」
大淀「……ああ、そっか。そういう狙いで……」
明石「極限に張り詰めた時間が過ぎていく! 扶桑選手、咳き込みながら吐血! マットに血が飛び散った! しかし立ち姿だけは揺るがない!」
明石「この状況は一体何なのか! 扶桑選手はただ時が過ぎるのを待っているのでしょうか!? その先に待つのは何が……あっ、仕掛けた!?」
明石「仕掛けたのは比叡選手だ! 重圧に耐えかねたかのようにジャブを打っ……か、カウンターぁぁぁ!?」
明石「ひ、肘です! 扶桑選手、ジャブに対し肘でカウンター! 狙ったのは比叡選手の拳そのもの! 拳を肘で砕きました!」
明石「指が何本か骨折しています! これは凄まじい激痛だ! 比叡選手の防御が崩れる! そこに扶桑、一気に飛び込んだ!」
明石「き……決まったぁぁぁ! 跳びつき三角絞めです! 扶桑選手、必殺の三角絞め! 砕いた拳を捉えて、一息に技を掛けました!」
明石「比叡選手に三角絞めを振りほどくほどのパワーはない! 今度は比叡選手の顔色がみるみる変わっていく!」
明石「落ちた! 落ちました! 持ちネタの悲鳴を上げる暇もありません! 試合終了のゴングです! 勝者、扶桑選手! 扶桑選手です!」
明石「試合時間は1分半といったところですが、恐ろしく長く感じる時間でした! しかし、最後は扶桑選手、一気に決めてみせました!」
明石「中国4000年の妖術、ここに敗北! 猛毒を持ってしても、奇跡の不沈艦を沈めるには至りませんでした!」
大淀「さすが扶桑さん、と言ったところですね。こんな手段で勝ちに来るとは思ってもみませんでした」
明石「大淀さんは途中で何かに気付かれた素振りを見せていらっしゃいましたが、扶桑さんは具体的にどういう作戦だったんでしょう?」
大淀「これはまあ、そうですね。言うなれば、精神力のゴリ押しです。根性と度胸で比叡さんを寄り切ったようなものです」
大淀「扶桑さんはずっと構えを取ったまま、比叡さんに間合いを詰め続けていたでしょう? あれはプレッシャーを掛けるのが狙いだったんです」
大淀「比叡さんの立場になってみないとわかりにくいことでしょうけど、相手が今にも仕掛けてきそうなのに何もしない、ってのはすごく怖いんです」
大淀「元々比叡さんは精神的にあまり強くない選手ですから、扶桑さんが何もせずに近寄ってくる、という圧力に耐えかねてしまったんです」
明石「なるほど、まるで表情を変えず迫ってくる扶桑選手のプレッシャーに負けて、自分から手を出してしまったと……」
大淀「ええ。比叡さんはきっと、扶桑さんが一気に攻めてくると予想してたんでしょう。それなのに、血を吐くほど毒が回ってきても何もしてこない」
大淀「その姿が比叡さんにはさぞかし不気味に見えたことでしょう。まるで扶桑さんこそ、何かを待ち続けているように思えて」
大淀「初めの内は毒身術への信頼から来る自信と冷静さを維持していた比叡さんも、プレッシャーによってそれらを徐々に失っていったんです」
大淀「最終的に冷静さを失って、比叡さんは不安から逃れるために手を出してしまいました。それこそ扶桑さんの待っていた瞬間だったんですけどね」
明石「非常に正確なカウンターでしたね。左ジャブが来ることも読んでいたんでしょうか?」
大淀「おそらくそうでしょう。恐怖に負けて比叡さんが仕掛けてくるとすれば、反撃される恐れが少ない左ジャブを打つ可能性が一番高いですから」
大淀「そういうわけで、比叡さんの敗因は精神面です。もっと冷静さを保てていれば、試合の結果は逆になっていたでしょう」
明石「それに比べて、扶桑さんのメンタルの強さは驚異的ですね。普通の選手なら、同じ作戦を取っても途中で手を出してしまいそうなものです」
大淀「ええ、しかも最後に技を決めた時点で、扶桑さんには全身に毒が回っている状態ですから、立っていることさえ辛かったはずです」
大淀「そんな状態から、一瞬とは言えあれほどの動きを可能にする精神力は驚嘆に値します。同じファイターとして頭が下がる戦いぶりでした」
明石「ありがとうございます。リングサイドの皆様、ガスマスクをお取りください! 比叡選手という毒ガスの発生源は既に退場しました!」
明石「どうなることかと思われたこの試合、勝ったのはやはり正統派ファイター、扶桑! 皆様、今一度拍手をお願いします!」
試合後インタビュー:扶桑
―――試合の展開としては、扶桑選手の読み通りに進んだのでしょうか。
扶桑「おおむねはそうです。毒の回りが予想以上に早かったことだけが計算外でしたね」
扶桑「最後に技を決めたときは、苦しくてほとんど意識がありませんでした。身体が動いてくれたのは奇跡に近いです。日頃の練習の賜物ですね」
―――なぜこういった作戦を取られたんですか?
扶桑「危険だとは思ったんですけど、他の案が思いつかなかったんです。比叡さんを確実に倒すにはこれ以外にないんじゃないかって」
扶桑「私って戦い方が上手いってよく言ってもらえるんですけど、本当はそうじゃないんです。むしろ、戦い方がすごく下手なんです」
扶桑「色々用意してても、いつも試合ではうまく行かなくて、結局相手の技を一通り受けてしまうんです。ほら、私って毎回追い込まれているでしょ?」
扶桑「今回だってそうです。1分を過ぎた辺りからは手足も痺れて、のたうち回りたいくらいに苦しくて……でも、負けたくなかったんです」
扶桑「だから必死に耐えて、比叡さんが仕掛けてきた瞬間にも動くことができました。あと10秒遅かったら、さすがに意識が飛んでいたと思います」
扶桑「正直、負けててもおかしくなかったギリギリの勝利でしたね。私はいつもそんな感じですけど」
扶桑「危なっかしい試合続きですが、狙っているのは優勝です。どうか皆さん、応援してくれると嬉しいです」
―――比叡選手に何かコメントはありますか?
扶桑「勝ったから言うわけじゃないんですけど……ああいう奇妙な術を身に付けるより、もっと基礎的な練習をされたほうが強くなれると思います」
扶桑「比叡さんのことはお笑い芸人をされていたときから好きでしたので、格闘家に転向されてからもずっと応援していました」
扶桑「彼女には頑張ってほしいと思っています。一生懸命練習すればきっと強くなれますから、そのときにまた、お相手させていただきたいです」
試合後インタビュー:比叡
―――対戦されてみて、扶桑選手はどうでしたか?
比叡「思ってたよりずっと強くて、怖かったです。もう倒れてもおかしくないくらい毒が回ってるはずなのに、怖い顔でグングン近付いてきて……」
比叡「最後は不安で軽いパニックになっちゃって、思わず手が出ちゃいました。あのとき動かなかったら私の勝ちだったと思うと……うう、悔しいです」
比叡「お姉さま方に顔向けができません。優勝してくるって約束してきちゃったのに……毒もなくなったし、これからどうしよう……」
―――入渠で毒が全て消えてしまったというのは本当ですか?
比叡「そうなんです、体に馴染んでた毒が全部浄化されちゃって……もし毒身術を使うなら、また一から修行のやり直しです」
比叡「修行し直してもいいですけど、もう戦い方が知れ渡っちゃいましたから、今後は対策されて通用しないってお姉さまから言われてるんです」
比叡「お笑い界に戻れって声もありますけど……私は格闘家として活躍したいので、やっぱり基礎から練習し直します! お姉さま方と一緒に!」
比叡「次はちゃんとしたテクニックを身に付けてUKFに戻ってきます! そのときは、またよろしくお願いします!」
―――さっきから何を食べてらっしゃるんですか?
比叡「あ、これですか? 自宅で作ってきたカレーです。大会中は毒しか食べられないから、優勝した後でお祝いに食べようと思ってて」
比叡「でも負けちゃったので、仕方ないから今食べてます。いやーやっぱりカレーは美味しいですね!」
―――そのカレーに毒は入れてないんですか?
比叡「あはは、入れてるわけないじゃないですか! そんな間抜けなことしませんよ。これは普通の食材を使ってます!」
―――でも、比叡選手は今までずっと全身から毒を放出していたんですよね。
比叡「そうですね! どこに行くにも厚着して手袋しないと毒が周りに散っちゃうので大変でした! もちろん、自宅では脱いでましたけど!」
―――つまり、料理は素手で行なったということですか?
比叡「そりゃそうですよ。手袋着けて料理なんてやりにくいじゃないですか! もちろん手は洗いましたよ!」
比叡「……あれ? その場合ってどうなるんだっけ。手からも毒が出てるから、食材に毒が染み込んで、カレーの中に毒が混入して……」
比叡「えっ、嘘でしょ。なんか吐きそう。猛烈に気分が悪くなってき……ヒッ、ヒエー!」
(比叡選手の体調不良により、インタビュー中止)
明石「……さて、これよりBブロック1回戦となるわけですが……おそらく、もっとも注目度の高い試合なのではないでしょうか」
大淀「UKFの威信が掛かっていると言っても過言ではない一戦です。壮絶な試合になるのは明らかですからね」
明石「まずは赤コーナーより選手入場! ドイツの怪物に挑むのは、UKFの超新星ファイターだ!」
試合前インタビュー:陸奥
―――ビスマルク選手をどう感じていますか?
陸奥「……とても怖い人。あんなに惨たらしい戦い方をする相手と戦うなんて、考えたこともなかったわ」
陸奥「試合前から、ずっと震えが止まらないの。私も龍田さんみたいになるんじゃないかって、不安でたまらないわ」
―――勝つ自信はありますか?
陸奥「……ある、と言えば嘘になるわね。ずっとイメージトレーニングをしてるんだけど、私の勝つビジョンが全く見えてこないの」
陸奥「ビスマルクさんは底なしに強い。全ての面で私を凌駕してるんじゃないかって思うくらいに。きっと、何をしたって勝てっこないわ」
―――それはつまり、棄権することを検討されているということですか?
陸奥「……そうね、棄権も本気で考えてたわ。さっきまではね」
陸奥「でも、気付いたの。ビスマルクさんは強い。でも、最強の艦娘と言われる長門姉さんはそれより更に強いはず」
陸奥「私の目標は長門姉さんを超えること。なら、ビスマルクさんは私の通過点でしかない。それなのに戦いもせず負けを認めるなんて、馬鹿らしいわ」
陸奥「怖いし、勝算もないけど、勝つためにリングへ上がるわ。ここで躓いてたら、私は一生姉さんを超えられないと思うから」
陸奥「それにね、私がビスマルクさんに勝てないっていうのは、今この瞬間の話。リングに上るときの私は、きっと今の私じゃなくなってるわ」
陸奥「確かに今は怖いって気持ちでいっぱいよ。でも、もう少しなの。もう少しでビスマルクさんに挑む覚悟が決まる。覚悟さえ決まれば勝算はあるわ」
陸奥「この恐怖を乗り越えて、必ずビスマルクさんに勝つ。姉さんが3回戦で待っていてくれるもの、絶対に負けられないわよね」
陸奥:入場テーマ「Dimmu Borgir/Progenies of The Great Apocalypse」
https://www.youtube.com/watch?v=40wRv4yjres
明石「将来のUKFチャンピオン候補筆頭! 太気拳の不知火選手に辛勝したのも束の間、再び大きな受難が舞い降りました!」
明石「立ちはだかるのはドイツから来た正体不明の怪物! この障壁を乗り越えずして、絶対王者である実姉、長門選手を超えることは不可能!」
明石「怪物だろうと何であろうと、この私の進撃を止めさせはしない! ”ジャガーノート” 陸奥ゥゥゥ!」
大淀「……いい顔をされてますね。どうにか覚悟を決めることができたみたいです」
明石「強張りのない、透き通った表情ですね。今までの陸奥選手とは何か違う雰囲気を感じますが……」
大淀「ビスマルクさんに挑むという恐怖に打ち勝ったことで、内面に何かしらの変化があったのだと思います」
大淀「目に指を突っ込まれても微笑を崩さず、こちらの手足を食い千切るような相手と戦うとなれば、誰だってとてつもない恐怖を抱くでしょう」
大淀「陸奥さんは精神的に未熟なところがあったので、そういう恐怖は人一倍感じられていたと思います。ですが、今の陸奥さんにそれはありません」
大淀「あのビスマルクさんと対峙するなら、気持ちで負けないことが大前提になるでしょう。その条件は満たされたと判断しても良さそうです」
明石「なら、勝算は間違いなくあるわけですね。陸奥さんはどういう風に戦われると予想されますでしょうか?」
大淀「陸奥さんはトータルファイターです。打撃、組み合い、グラウンド勝負、どれを取っても一流ですから、選択肢は豊富にあります」
大淀「ですが、やはりレスリングの技を中心に使うんじゃないでしょうか。自分が最も得意で、なおかつビスマルクさんの動きを制御できますから」
明石「ということは、グラウンド勝負に持ち込むのではないかと?」
大淀「そうです。トップポジションを維持していれば、不意を突かれない限り噛み付きをやられることはまずないでしょう」
大淀「そのためにはテイクダウンを取る必要がありますが、私としてはその手段として『手四つ』の体勢に持ち込むことをおすすめしたいですね」
明石「手四つと言うと、プロレスなどでよく見られる、互いに両手を掴み合った状態ですね。そこに陸奥選手の勝機があると?」
大淀「ええ。ビスマルクさんの一番恐ろしい武器は噛み付きです。受ければ致命傷を負いかねませんから、これを確実に封じなくてはいけません」
大淀「噛み付きには大きな欠点があります。動き回る相手には使えず、組み伏せるなり抑え込むなりして動きを止めないと使えないということです」
大淀「両手を掴み合えば、レスリングの技術とパワーを併せ持つ陸奥さんが動きの主導権を握れます。また、噛み付いて来たら頭突きで迎撃できます」
大淀「陸奥さんなら、その体勢からテイクダウンを取ることもできます。そのままグラウンドに持ち込んで、関節技を決めるのが一番確実でしょう」
明石「陸奥選手は打撃も優れていますが、大淀さんとしては打撃はおすすめできないと考えられていますか?」
大淀「……ビスマルクさんのもう1つの武器は、どんなダメージを受けても全く怯まないというところです」
大淀「あれは打たれ強さとは別次元のものです。きっと、彼女はパンチで顔面を砕かれても平然と打ち返して来るでしょう」
大淀「ダメージに怯まない相手との打撃戦は非常に危険です。陸奥さんもそれは理解しているところではないでしょうか」
大淀「とにかく、陸奥さんには慎重に、冷静な試合運びをしてほしいですね。冷静でさえあれば、きっと彼女が勝ちます」
明石「ありがとうございます。さて、それでは青コーナーより選手入場! UKF史上最凶最悪のファイターの登場です!」
試合前インタビュー:ビスマルク
―――陸奥選手との対戦を前にして、今はどういうお気持ちですか?
ビスマルク「すっごく楽しみ! あの子って、最強って言われてる長門さんの妹なんでしょ? だったら、同じくらい強いに決まってるわよね!」
ビスマルク「陸奥さんにはとにかく遠慮せず向かってきてもらいたいわ! 殺してやるくらいの勢いで私のことをムチャクチャにしてほしいの!」
ビスマルク「彼女は龍田さんよりパワーがあるから、そういう攻め方をしてほしいわね! 抵抗する私を力づくで犯しまくるような、そんな戦い方よ!」
―――ビスマルク選手は痛めつけられるのがお好きなんですか?
ビスマルク「うーん、ちょっと語弊があるわね。別にただ痛いのは好きじゃないの。自分で爪を剥がしたときも、あんまり気持ちよくなかったし」
ビスマルク「例えば、相手が私を殴ろうとしてくるでしょ? 私はそれから逃げるの。でも、その人はすごく強くて、どうやっても全然逃げられないの」
ビスマルク「結局捕まっちゃって、私は頭が砕けて脳みそが溢れるまで殴られ続けるの。そういうね、無理やりされるのが大好きなのよ!」
ビスマルク「だから、陸奥さんには私を目一杯痛めつけて欲しいわ! そのために私、頑張って戦うわよ!」
―――それは試合の過程こそが大事で、勝敗にはあまり頓着されないということでしょうか?
ビスマルク「そういうわけにも行かないのよ。上の人たちに全試合必ず勝てって言われてるから、試合にはちゃんと勝たせてもらうわ」
ビスマルク「それに、痛めつけられた後は、どうせ陸奥さんのことを食べちゃうもの。だから結局は私が勝つと思うわ」
―――痛めつけられた後だと動けなくなるのでは?
ビスマルク「なんで? 痛めつけられるって言っても、別に殺されるまでしてもらうわけじゃないのよ?」
ビスマルク「つまり死んではないから、動けるのは当たり前でしょ? 本当は殺されるまでやってほしいんだけどね!」
ビスマルク「ああっ、もう興奮してきちゃった! すっごく濡れてる……試合前にショーツ、履き替えて行かなきゃ!」
(通訳は呂-500さんが泣いて固辞したため、伊8さんにご協力していただきました)
明石「1回戦ではUKF最凶とまで呼ばれた龍田選手を凶悪さで圧倒! 第三帝国ナチス・ドイツはとんでもない怪物をUKFに送り込んで来ました!」
明石「こいつにはあらゆる常識が通用しない! 目を潰されようと、骨を折られようと揺るがぬ微笑! その上、格闘テクニックも超一流!」
明石「捕まれば最後、猛獣のような捕食攻撃の餌食となる! そのおぞましい戦いぶりは、まさしく人喰い鬼!」
明石「狂気のジャーマンファイターが再びUKFのリングを戦慄させる! ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルクゥゥゥ!」
大淀「さて、大問題児の登場ですね。UKF側としての意見を述べるなら、彼女のような選手にこれ以上の勝ち抜きを許すわけには行きません」
明石「まったくです。えーここで、ビスマルク選手の素性に関して、運営側から2つの情報が入ってきております」
大淀「ビスマルクさんの情報? 彼女は素性について一切非公開となっていましたが、何かわかったんですか?」
明石「はい、少しだけ。まずはドイツに派遣された運営の情報員が軍関係者から聞き出した、匿名のタレコミです」
明石「どうもビスマルクさんはナチス親衛隊に直接所属しているのではなく、親衛隊の管轄となっている研究機関が所持している艦娘だそうです」
大淀「研究機関って……何の研究をしているところなんですか?」
明石「それはドイツ軍の機密らしくて、さすがに教えてはもらえませんでした。ビスマルクさんは、その研究機関の『実験体』だとか」
大淀「……実験体?」
明石「ええ。対深海棲艦用に特別な訓練を施されているそうで、ビスマルクさんは訓練の一環としてフェアバーン・システムを学んでいたようです」
大淀「フェアバーン・システム……世界中の軍で最も普及している軍隊格闘術ですね。龍田戦の動きから予想はしていましたが、やっぱりそうでしたか」
明石「ただですね、ビスマルクさんは実験体ですが、既に『失敗作』の烙印を押されているらしいんですよ」
大淀「……まあ、言動を見る限り成功ではなさそうですね。やはり精神面の問題で?」
明石「いえ、精神面は成功らしいんです。元々、ああいう風になるように教育を受けていたそうで……」
大淀「あれが成功って……じゃあ、何が失敗なんです?」
明石「実地試験の結果によるものだそうです。深海棲艦との戦闘に僚艦付きで出撃させたところ……敵だけでなく、味方も皆殺しにしたとかで」
大淀「ああ……それくらいはやりそうですね、彼女は」
明石「取材でわかったのはそれくらいです。ビスマルクさん自体が軍の機密扱いらしく、ここまでしか調査できませんでした」
大淀「そうですか……もう1つの情報はなんです?」
明石「これは運営がドイツに直接問い合わせた……というか、ドイツ軍部へビスマルク選手に対する苦情を入れたときに言われたことなんです」
明石「ドイツ側は運営からの苦情、質問には一切答えませんでした。ただ1つだけ……『ビスマルクが敗北したら、修理は結構』と」
大淀「……は?」
明石「戦艦級だから大破した場合の修理費用は結構なものでしょう、だから負けた場合は入渠させず、そちらで適当に解体してくれ……って」
大淀「そんな、国の威信を背負わせて送り出した大事な艦娘を使い捨てるような……」
明石「つまり、そういうことじゃないですか? どうせ失敗作だから、負けるようなら、もういらないって……」
大淀「……そのことをビスマルクさんは知っているんでしょうか」
明石「ビスマルク選手は取材でも軍上層部からの命令でUKFに参加している、ということを口にしているので……知ってる可能性はゼロではないです」
大淀「それは……どうコメントしたらいいのか。使い捨てられることがわかっていて戦っていると?」
明石「どうなんでしょうね……そもそも、ビスマルク選手自体、まともな物の考え方をしているとは思えない艦娘ですし」
大淀「……もし、ビスマルクさんが自分の境遇を理解しているとするなら……彼女は、本当の意味で命を賭けて戦っていることになります」
大淀「自分の身を顧みないファイターほど恐ろしいものはありません。それほどの覚悟でリングに上がる選手は、UKFにもそうはいないでしょう」
大淀「もしかしたら……ビスマルクさんは、私たちが目の当たりにしているものより、更にとてつもない怪物なのかもしれません」
明石「……何やら雲行きが怪しくなってきましたが、ついに両選手がリングインします! 陸奥選手とビスマルク選手が向かい合う!」
明石「ビスマルク選手は相変わらずの微笑! これに応えるかのように、陸奥選手も静かに笑う! その笑顔が意味するのは余裕か、それとも覚悟か!」
明石「普段は熱気に包まれている会場には異様な静寂と緊張が舞い降りています! 誰もが知っています、今から始まるのは、尋常な試合ではないと!」
明石「両者がコーナーに戻る! ビスマルクはやはり笑っている! 陸奥選手は既に笑みを消し、闘志を燃やした覚悟の表情!」
明石「超新星ファイター、陸奥はベルリンの人喰い鬼を超えて行けるのか! それとも、文字通り人喰い鬼の狂気に喰らい尽くされてしまうのか!」
明石「再び地獄の門は開かれる! ゴングが鳴りました、試合開始です!」
※注意事項
・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。
・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。
・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。
・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。
明石「まずはビスマルク選手が颯爽とコーナーから飛び出した! ファイティングポーズを取り、陸奥選手を虎視眈々と待ち構える!」
明石「対する陸奥選手、ガードは上げません! 重心を低く、両腕を大きく広げました! キャッチ・アズ・キャッチ・キャンスタイルです!」
明石「不知火選手を破ったレスリングの構え! 陸奥選手は打撃に付き合うつもりはありません、タックルでテイクダウンを狙う気だ!」
大淀「ビスマルクさんがストライカーとして優れていることは龍田戦で既に判明済みです。やはり、打撃は避けたほうが賢明でしょうね」
大淀「このまま一気にタックルで倒してもいいし、組み合いも陸奥さんの土俵です。ビスマルクさんはこれにどう対応してくるか……」
明石「さあ、陸奥選手がじりじりと詰め寄る! タックルの射程圏に入れば、即組み付いてやろうと言わんばかりの前傾姿勢!」
明石「ビスマルク選手はタックルを警戒してか、やや後退! どうやら、あまり組み合いはしたくない様子!」
明石「陸奥選手は迷いなく間合いを詰めに行きます! ビスマルクはそれを嫌って距離を取る! 先ほどの扶桑VS比叡戦と似た展開になってきました!」
明石「ここで陸奥選手が大きく踏み込んだ! タックルへ行くか!? いや、ビスマルクはバックステップで退避! やはり組み合いを嫌っている!」
明石「しかし、ビスマルク選手は少々後退し過ぎました! 気が付けばコーナー際に追い詰められています! もはや逃げ場がない!」
明石「迫り来る陸奥選手に、後退する場はどこにもありません! どうするビスマルク! ここでタックルの餌食となるのか!」
大淀「……まずい展開かもしれません。ここまではビスマルクさんの計算通りです」
明石「はい? 計算って……コーナーに追い込まれることが作戦だったってことですか?」
大淀「追い込まれてるわけじゃないんです。タックルっていうのは、接触と同時に相手の後ろに手を回さないと、テイクダウンは取れません」
大淀「ビスマルクさんはコーナー際で、フェンスに半ば背中を預けています。あれでは後ろに手が回せないから、タックルしても意味が無いんです」
明石「あっ……」
大淀「本当なら、陸奥さんはもっと早いタイミングでタックルに行きたかったんです。ただ、ビスマルクさんの距離の取り方が絶妙過ぎました」
大淀「おそらく、既にタックルの射程を読まれています。その距離から上手く逃れて、ビスマルクさんは自らコーナー際に身を置いています」
大淀「だからこの状況は陸奥さんがビスマルクさんを追い込んだのではなく、ビスマルクさんが陸奥さんをコーナー際に誘い込んだんです」
明石「つまり、そこからビスマルク選手が狙っているのは……」
大淀「ええ。どうやらビスマルクさんは、スタンド勝負をご所望のようです」
明石「事前予想で、ビスマルク選手との打撃戦は危険だとおっしゃられていましたが……」
大淀「もちろん危険です。ですが、状況としては互角ですよ。陸奥さんは立ち技も得意ですから」
大淀「その上、相手は打撃を避けるスペースのないコーナー際です。地の理ではビスマルクさんのほうが不利と言えるでしょう」
大淀「フェンスに頭を押さえつけて殴る、という戦い方もできます。打撃戦の誘いに応じるかどうかは陸奥さんの判断次第ですが……」
明石「えー、陸奥選手はやや距離を取ってビスマルク選手と対峙! やはりタックルには行けない様子! ビスマルクはコーナーから動く気配はない!」
明石「一般的にはコーナーに追い詰められることは不利とされていますが、相手はベルリンの人喰い鬼! 常識が通用する相手ではありません!」
明石「何を企むビスマルク! 陸奥選手はこれにどう応え……あっ、構えを変えた! ガードを上げました!」
明石「陸奥選手がファイティングポーズを取りました! 打撃勝負に挑むつもりです! ビスマルクの誘いに乗りました!」
明石「しかし、その表情は澄み切ったまま、焦りや動揺は一切ありません! これは打撃であろうと勝てるという自信の現れか!」
大淀「やはり陸奥さんは非常に強い気持ちで試合に臨まれています。この程度の予定変更で動揺したりはしませんね」
大淀「こうなると、あるいはビスマルクさんこそ迂闊だったかもしれません。組み合いを避けたとはいえ、ここから打撃で打ち勝つのは難しいですよ」
明石「さあ、陸奥選手が踏み込む! その歩みに恐れは微塵もない! 一気に打撃の射程圏へと距離を狭めていく!」
明石「間合いに入った! 迷わず陸奥選手が打ち込む! 初手から懇親の右ストレート! ビスマルク、これを腕で逸らした!」
明石「すかさずビスマルクが右フック、しかし陸奥選手のほうが速い! 左ジャブが先に入った! ツーワンのコンビネーションパンチです!」
明石「衝撃でビスマルクがフェンスに頭を打ち付ける! だが怯まない! 今度はビスマルクがジャブを放つ! 陸奥選手、自ら額で受けに行った!」
明石「拳を頭突きで迎撃する形になりました! これはビスマルク選手、拳を痛めたのではないでしょうか! しかし表情は相変わらずの微笑!」
明石「続く陸奥選手の右フックをダッキングで回避! そのままビスマルク、踏み込んでアッパー! 当たらない!スウェーバックで躱された!」
明石「ビスマルクがやや前に出ようとしますが、陸奥選手、それを許さない! 両腕でパンチを連打! ビスマルクはガードを固めます!」
明石「コーナー際である以上、後ろと左右には避けられない! ビスマルク、防戦一方! 陸奥選手が手数で打撃を押し込んでいく!」
明石「陸奥選手の猛攻をまともに受け止める形になりました! ビスマルク選手、どこにも逃げ場がない! ラッシュに圧倒されて反撃もできません!」
大淀「……でも、ビスマルクさんのディフェンスは非常に上手いです。あのパンチのラッシュを両腕で正確に横へ流しています」
大淀「何発か当たっている打撃もありますが、クリーンヒットは皆無です。こうなると、陸奥さんのスタミナ切れが心配です」
明石「陸奥選手のラッシュが続いています! ビスマルクはガードし続けていますが、だんだんと両腕が赤黒く腫れ上がって来ました!」
明石「しかし、ベルリンの人喰い鬼は痛みなど意に介さない! やはりビスマルクより、陸奥選手のスタミナが先に限界を迎えるのか!」
明石「いや、ビスマルクがガードをし損ねた! 左ストレートが顔面に直撃! とうとう陸奥選手の豪腕が炸裂しました!」
大淀「……違う、今のは自分で受けに行ってます!」
明石「あっ、効いてない!? ビスマルクが無理やり前に出た! 鼻血を迸らせながら拳を振り上げた! 左右のフック連撃!」
明石「陸奥選手、回避のために後退! ここでビスマルクが仕掛けに行く! コーナー際から拳を掲げて飛び出……ああっ!?」
明石「ビスマルク、再びコーナーに叩きつけられた! 陸奥が繰り出したのはローリングソバット! 豪快な蹴り技がまともにボディへ入りました!」
大淀「陸奥さんはコーナーからビスマルクさんを逃がす気がないみたいですね。このまま打撃で押し潰すつもりでしょう」
明石「パワーファイター陸奥の全体重を乗せたボディ蹴り! これにはさすがのビスマルクも悶絶! すかさず陸奥が追い打ちを掛ける!」
明石「繰り出すのは必殺の右ストレー……いや、ストレートはフェイント! 前蹴りです! フェイントでガードを上げさせてからの前蹴り!」
明石「つま先がビスマルクのみぞおちを貫きました! しかも背後はフェンス、衝撃を後ろへ逃せない! これは内蔵まで届くダメ……あれっ!?」
大淀「なっ!?」
明石「む、陸奥選手がテイクダウン! なんだ今のは! 渾身の蹴りを決めたはずの陸奥選手がマット上に転がされました!」
明石「信じられません! ビスマルク選手、前蹴りがみぞおちに突き刺さると同時に、無理やり前進しました!」
明石「片足立ちで不意に押し込まれた陸奥選手、バランスを崩して転倒! 予想外の形でグラウンド戦に移行しました!」
大淀「い……痛みへの反応が狂っています。ただでさえ地獄の苦しみを味わうみぞおちへの蹴りを、自分で更に深く突き刺すような真似を……!」
明石「まずい展開になりました! ビスマルクが陸奥選手の足を掻い潜りながら覆い被さろうとする! こいつにトップポジションを許すのは危険だ!」
明石「引き剥がそうと、陸奥が下から蹴り付ける! ビスマルク、顔面に食らうも微動だにせ……あっ!? ビスマルクが血を吐いた!」
明石「いきなり大量の吐血です! 尋常な量ではありません、優にコップ2杯分は血を吐いている! 大淀さん、これはおそらく……!」
大淀「ええ、前蹴りによるものです。みぞおちに深く入り過ぎて、胃が破れたんだと思います」
大淀「自分の内臓が潰されているんですから、その苦痛は我慢できる、できないの次元ではありません。普通の選手ならのたうち回っているはずです」
大淀「なのに、ビスマルクさんはまったく動きが落ちてない。呼吸さえ乱れていないなんて、異常過ぎる……!」
明石「とうとうビスマルクが覆い被さった! 陸奥選手はガードポジションに移行! 龍田戦の悪夢が頭をよぎる状況です!」
明石「ビスマルクとの密着状態は危険だ! 陸奥選手、足を上手く使ってビスマルクを押しのけようとしています! ビスマルクはパスガードを狙う!」
明石「あっ、ビスマルクが足を掴んだ! 口を大きく開ける! これはまず……いや、振り払った! 陸奥選手、噛み付きから間一髪で回避!」
明石「危うく足を食いちぎられるところでした! 陸奥選手、トップポジションを取られながらもどうにかビスマルクの動きを制御しています!」
明石「ビスマルクはなおも噛み付きを狙う! 口から自分の血液をボタボタと滴らせ、どこを食いちぎってやろうかと虎視眈々と狙っている!」
大淀「陸奥さんには苦しい展開です。一手読み違えれば致命傷を負いかねません。ビスマルクさんは噛み付きだけでなく、グラウンドの打撃もあります」
明石「どうにか立ち上がりたい陸奥選手、しかしビスマルクがそれを許さない! このガードポジション状態から陸奥を料理する気だ!」
明石「現在、両者の間には陸奥選手の膝が差し込まれています! ビスマルクはここからどう攻める! 足に噛み付くか、パスガードを狙うか!」
明石「どちらも何かを仕掛けたいという雰囲気はありますが、様子を伺い合って動かない! やや膠着状態にもつれ込んで来ました!」
大淀「陸奥さんはあの状態から顔を蹴りたいんでしょうけど、足を振り上げるとパスガードされる恐れがありますから、下手に動けないんですね」
大淀「ビスマルクさんが動かないのも、蹴りを待っているからのように思えます。どちらかが動けば一気に状況が変わるんじゃないでしょうか」
明石「おっと……ここでビスマルクが立ち上がりました! 再びスタンド勝負を狙っているのか!? 陸奥選手も様子見程度に身を起こす!」
明石「いや、違う! ビスマルクが太ももへローキックを入れた! 立たせるつもりはない、猪狩アリ状態で陸奥選手を痛めつけるのが狙いです!」
明石「陸奥選手も反撃に蹴りを出す! 躱された! また太ももへ痛烈なローキック! 肉の弾けるような音がしました! 非常に良くない展開です!」
大淀「ええ、まずいです。あの体勢のまま蹴り続けられたら、足の痛みで二度と立てなくなってしまいます」
大淀「これがビスマルクさんの本当の怖さではないでしょうか。やってることは狂気に満ちているのに、試合運びは極めて冷静で、合理的です」
明石「またローキック! 今度は陸奥選手、手でガードしました! ひとまずはガードを固めて耐えるしか、今はできることがありません!」
明石「ビスマルクは構わず蹴る、蹴る! 徹底的に足を痛めつけようとしています! 一発一発のローキックから弾けるような重い音が鳴り響きます!」
明石「ここは立ちたい陸奥選手! しかし下手に立とうとすれば大きな隙が出来てしまう! それを見逃すビスマルクではありません!」
明石「慎重にならざるを得ないものの、状況は悪くなる一方! このまま耐えてビスマルクのスタミナ切れを待つのか! そのとき、足は動くのか!?」
明石「あっ、ビスマルクが一瞬踏み付けに行く動きを見せました! フェイントまで使って陸奥選手を立たせない! 陸奥選手、為す術がない!」
大淀「まずいです、完全にビスマルクさんが試合の主導権を握っています。本当なら胃が破れた時点で戦闘不能になっているはずなのに……!」
明石「再びローキックを再開! もはや噛み付きを使うまでもなく、このまま陸奥選手を仕留めようとしているのではないかというほどの猛攻!」
明石「冷静な表情を維持していた陸奥選手にも、さすがに焦りの色が見られ始めました! この状況を脱しない限り、陸奥選手に勝ち目はありません!」
明石「陸奥はここからどう逆転する!? ビスマルクは休みなくローキックを放ち続け……あっ、サイドに回っ、な、なんだ!?」
大淀「そ、側転!?」
明石「ビスマルクがいきなり側転を繰り出しました! 体操選手ばりの身のこなしで陸奥の体を跳び越えた! ぱ、パスガードに成功!」
大淀「あ、あんなアクロバティックな動きまでできるなんて……!」
明石「陸奥選手のサイドを取った! ビスマルク、即座に覆い被さる! 陸奥選手がサイドポジションを取られました!」
明石「逃れようと陸奥選手が身を捩りますが、一度捉えた獲物をビスマルクが逃すはずもない! 血まみれの口を開いた! 噛み付く気だ!」
明石「させまいと陸奥選手が顔を手で押しのける! だが振り払われます! もはやビスマルクの凶行を止める術はない……あっ!?」
大淀「やった、入った!」
明石「ビスマルクの頭が大きく揺れた! 足元がふらつく! そのままリングにへたり込んでしまった! ビスマルク、ダウン!」
明石「ベルリンの人喰い鬼からダウンを奪ったのは、陸奥選手の右フック! マットに背中を着けた状態からの右フックです!」
明石「打撃の威力が激減する、トップポジションを取られた状態からのパンチでビスマルクの顎を打ち抜きました! 信じられない打撃力です!」
大淀「やはりグラウンドの攻防は陸奥さんが一枚上手でしたね。サイドポジションなら、上になられていても腰は抑えつけられていません」
大淀「レスリングで鍛えた陸奥さんの体幹なら、あの体勢でも十分威力のあるパンチを打てます。選択を誤ったのはビスマルクさんだったようですね」
明石「陸奥選手、素早く立ち上がった! 立ち上がろうとするビスマルクにサッカーボールキック! 頭部を思いっきり蹴り飛ばしました!」
明石「いくらビスマルクの打たれ強さが異常でも、脳震盪には耐えようもない! マットに転がされたビスマルク、立つことができません!」
明石「このチャンスを逃す手はない! 陸奥が一気に仕掛ける! 再び頭部を狙った回し蹴り! ビスマルク、辛うじてブロック!」
明石「足元が覚束ないまま、ビスマルクが立ち上がろうとする! そこに陸奥が渾身のローキック! 散々蹴ってくれたお返しと言わんばかりだ!」
明石「これもまともに入った! 膝が妙な方向へ曲がりました! 膝の靭帯を痛めたか!? 足元のふらつきが更に酷くなる!」
大淀「やりましたね。膝が壊れれば、痛みのあるなしに関係なく、足をまともに動かすことができなくなります。足さえ壊せばこっちのものですよ」
明石「もはやビスマルクは風前の灯火! 回復を図ろうとガードを固めていますが、休む暇を与える陸奥選手ではありません!」
明石「ふらふらと後退するビスマルクに、陸奥が一気に詰め寄る! 両手を広げた! ここで陸奥選手、タックルを繰り出す!」
明石「あっ!? ビスマルク、これに対応! 陸奥選手が伸ばした両手を掴み取った! 『手四つ』の体勢になりました!」
大淀「あら。ビスマルクさん、意識がもうろうとして判断力も失っているんでしょうね。とっさとはいえ、自ら陸奥さんと手四つをするなんて」
明石「大淀さんの言うとおり、この体勢は陸奥選手の土俵! ビスマルク選手、またもや悪手を選んでしまいました!」
明石「さあ、陸奥選手が決めに掛かります! まずは一気に両腕を押し込む! ビスマルクはまだダメージが残っている、踏み留まれない!」
明石「念には念をとばかりに陸奥が頭突きを入れた! ビスマルクの足がまたふらつく! さあ、満を持して陸奥選手がテイクダウンを……?」
大淀「……え、なんで?」
明石「な……何が起こった!? 陸奥選手が膝を着きました! その表情は苦悶に歪んでいる! 体勢は手四つのまま、それ以外の動きはありません!」
明石「ビスマルクは未だ焦点が定まらず、脳震盪のダメージから回復していないことは明らか! この状態で陸奥選手を抑え込むなんて有り得ない!」
明石「しかし、現にビスマルクは上から押し込むようにして陸奥選手の動きを封じています! 一体なぜ!?」
大淀「まさか……古流柔術の指関節!?」
明石「これは……ビスマルクが両手で陸奥選手の指、および手首の関節を極めています! 手の甲のツボに指を突き立て、握力を奪っている!」
明石「もはや掴み合いではありません! ビスマルクが陸奥選手の手を一方的に掴み上げている! 今にもへし折り、握り潰さんばかりの力で!」
明石「ビスマルク、陸奥選手のパワーを技でねじ伏せています! まさか、陸奥選手が手四つの組み合いで押し込まれるとは!」
大淀「……確かにフェアバーン・システムの源流は日本の古流柔術と言われています。それでも、ここまで高度な技を持っているなんて……!」
明石「び、ビスマルクが笑っています! 脳震盪から回復してしまった! このまま陸奥選手の指を折ろうとするかのように、上から手を押し込む!」
明石「両手の関節を極められ、陸奥選手は抵抗でき……いや、立ちます! 陸奥選手、痛みに耐えて強引に立ち上がる!」
明石「戦艦級トップの怪力がここでも発揮されます! 力ずくで立った! 再び手四つの体勢に戻ります! 指の関節は極められたまま!」
明石「テクニックで勝てないなら、パワーで押し切る! 陸奥が前に出た! 仕掛ける技は大内刈り! ビスマルクの足を豪快に刈った!」
明石「決まった、決まりました! ビスマルク、テイクダウン! 陸奥選手、とうとうトップポジ……ぎゃあああっ!?」
大淀「ひぃっ!?」
明石「な……何してるんだコイツ!? あ、頭に噛み付いている! ビスマルク、陸奥選手の頭に大口で喰らいついています!」
明石「目を疑う光景です! リンゴに齧りつくかのように、ビスマルクが陸奥選手の頭に歯を突き立てている! 陸奥選手、頭部からおびただしい出血!」
明石「これには陸奥選手、さすがに痛みで悲鳴を上げた! 逃れようとするが、頭を抱え込まれて逃げられない!」
明石「胴も足で挟み込まれ、完全に捕獲されてしまった! 必死にビスマルクの脇へパンチを入れますが、人喰い鬼はこの程度ではびくともしない!」
明石「もはや猛獣の捕食ですらありません! まさに人喰い鬼! まごうことなき怪物の所業! どう考えても人外の行為です!」
大淀「ず、頭蓋骨ごと食いちぎる気……!?」
明石「あっ!? 陸奥選手がビスマルクを引き剥がそうと、髪の毛を引っ張っています! 髪を引っ張るのは反則です! 陸奥選手に警告が出される!」
明石「膠着ではないため、中断は行われません! 陸奥選手に反則を気にしている余裕はない! 万力を込めてビスマルクの髪を引っ張っている!」
明石「どうにかビスマルクを離し……いや、同時に頭皮の一部を食いちぎった! 陸奥選手の頭部から大量の出血!」
明石「とにかくビスマルクから距離を取りたい陸奥選手! 上から肘打ちを顔面に一発! ビスマルクの拘束が僅かに緩む、一瞬の隙を突き脱出!」
明石「肘をまともに食らったビスマルクですが、やはり平然と立ち上がった! 口には陸奥選手の髪の毛付きの頭皮を咥えている!」
明石「とうとう食事の時間がやってきた! ビスマルク、微笑を浮かべて食いちぎった頭皮を咀嚼する! か、髪の毛ごと飲み込んでいます!」
明石「陸奥選手は呆然とした表情でその様を見つめる! 相手が本物の怪物だと再認識してしまった今、彼女に戦う意志は残っているのか!?」
明石「ビスマルクが短い食事を終え、再びファイティングポーズを取る! もう一度打ち込んで来いと、陸奥選手を誘っている!」
明石「陸奥選手もガードを上げますが、その表情には動揺が色濃く現れています! 体以前に、精神のダメージから立ち直れていない!?」
大淀「まずい、気持ちで飲まれてる……! ビスマルクさんは膝が壊れています。冷静に行けば十分勝機があるのに!」
明石「ビスマルクがやや足を引きずりながら前へ出る! 陸奥選手も動揺を押し殺しながら再び距離を詰める!」
明石「両者が間合いに入る! 先に動いたのは陸奥選手! 打撃、と見せかけて鋭い胴タックル! か、カウンターァァァ!」
明石「ビスマルク、タックルを膝蹴りで迎撃! 壊れてるほうの膝を陸奥の顔面に叩き込んだ! 血しぶきがマットに迸る!」
大淀「やっぱり、陸奥さんのタックルを読んでいた……!」
明石「陸奥選手が大きくぐらついた! ビスマルク、そのまま陸奥を抱える! なっ……も、持ち上げた!?」
明石「陸奥選手を高々と担ぎ上げた! そして……叩き付けたぁ! パワーボム炸裂! ビスマルク、陸奥に負けずとも劣らない怪力を見せつけた!」
大淀「嘘でしょ、さっきので左膝は完全に壊れてるのよ!?」
明石「意識の揺らいだ陸奥選手に、迷わずビスマルクが覆い被さった! マウントポジション! 最悪の展開が訪れてしまいました!」
明石「ビスマルク、まずは1発顔面に拳を入れる! まともに入った! 陸奥選手、まだ動くことができるのか!?」
明石「続けてもう1発! 今度はガードされました! 陸奥選手は健在! しかし、ダメージが大きすぎる! ここから挽回できるのか!」
明石「ブリッジで陸奥選手がエスケープを試みる! が、ビスマルクはそれを許さない! ロデオのように陸奥選手を乗りこなし、逃がそうとしない!」
明石「更に1発顔面に入った! たまらず陸奥選手、反撃のパンチを繰り出す! ビスマルクは難なくブロック……いや、腕を捉えた!」
大淀「待って、やめて!」
明石「ああーっ! て、手首に歯を突き立てた! 戦慄の捕食攻撃が始まってしまった! 陸奥選手の絶叫が会場に響き渡る!」
明石「く、食いちぎりました! 右手首が半切断状態! 骨がむき出しになっています! ビスマルク、食いちぎった肉と骨を微笑みながら咀嚼!」
明石「陸奥選手の右手はもはや使用不能! 残る左手で殴りに行くようなことはしません、片腕で必死にガードを固めている!」
明石「その表情は完全に怯え切っています! 陸奥選手、もはや戦意喪失か!? しかし、そんなことに気を掛けるビスマルクではない!」
明石「ビスマルクが更に身を乗り出した! 陸奥選手のガードを引き剥がそうというのか、左腕に手を掛ける!」
明石「陸奥選手、ガードを空けられまいと必死に抵抗! 更にビスマルクが体を前に……あっ、これは!?」
大淀「あっ……お、終わった……」
明石「ビスマルクがポジションを変えました! 両膝を陸奥選手の肩に乗せて抑えつける、変形のマウントポジション!」
明石「これでは片腕どころか、肩が抑えつけられているので両腕がまったく使えません! つまり、陸奥選手は完全に動きを封じられた!」
明石「陸奥選手は必死にもがいていますが、まるで動けない! ガードすら固められない! そこへビスマルクの拳が降り注ぐ!」
明石「大きく振りかぶったパンチが容赦なく陸奥選手の顔面へ落とされる! 陸奥選手は抵抗できない! あまりに一方的な攻撃です!」
明石「もはや戦いではなく、公開処刑! UKFの超新星ファイターが、ベルリンの人喰い鬼に打ち砕かれていく!」
―――中継:長門選手控室
長門「……何をしているんだ、陸奥。そんなやつに遅れを取るお前ではないはずだ……」
長門「もういい、やめろ。やめろ……おい、いつまで続ける気だ! やめろ!」
長門「くそっ! そこをどけ、私が行く! 決まっているだろう! あのドイツ女を殺す! 今すぐだ!」
長門「止めるな、どけ! どけと言っているだろうが!」
明石「あっ……ああーっ! ビスマルクが頬に噛み付いた! 今度は陸奥選手の頬を食いちぎりました!」
明石「既に陸奥選手の顔は流血で真っ赤に染まり、表情すら伺い知れません! しかし、もう反撃の余力がないのは明らかです!」
明石「もはや左腕さえろくに動かせず……あっ、ビスマルクがその腕を取った! な、何をする気だ!」
大淀「ちょ、ちょっと待って!」
明石「うげぇえ! ゆ、指を食いました! 親指を除く四指を根こそぎ持って行った! 耳を覆いたくなるような陸奥選手の悲鳴が響きます!」
大淀「もう試合を止めてください! 今、陸奥さんは左手でタップしようとしたんです! ビスマルクさんはそれをさせないために……!」
明石「た、確かにそうです! レフェリーは今すぐ……うぁっ!? び、ビスマルクが陸奥選手の喉笛に噛み付きました!」
大淀「止めて! 止めて、早く!」
明石「く……食いちぎったぁぁぁ! ち、血しぶきが噴水のように……リングがみるみる血の海へと変わっていく!」
明石「ゴング、ここでゴングです! 試合終了! ビスマルク、いい加減にしろ! いつまで噛み付いてるんだ!」
明石「れ……レフェリーに引き剥がされ、ようやくビスマルクが攻撃を中止しました! その顔には満足気な微笑が浮かんでいます……!」
明石「会場には拍手も、歓声も何もありません。観客席からは水を打ったような静寂と……わずかに、すすり泣くような声が聞こえます」
明石「し、信じたくない結果になってしまいました。UKFの誇る超新星ファイター陸奥、ドイツの怪物ビスマルクの手によって敢えなく敗北……!」
明石「あっ……おぞましい高笑いが聞こえて来ました! 笑っているのは他でもない、ビスマルク! ベルリンの人喰い鬼が声高らかに笑っている!」
明石「まるで陸奥選手を、そして我々をあざ笑うかのような勝利の哄笑が響き渡る! こんな笑い声は聞きたくなかった! 無念、無念です!」
明石「優勝候補筆頭と言われた陸奥選手、ここで敗退! 3回戦へと駒を進めるのは、ベルリンの人喰い鬼、ビスマルク!」
明石「狂気の怪物相手に善戦するも、力及ばず! 実姉である長門選手へ挑戦するという夢は、無残にも打ち砕かれてしまいました……!」
大淀「……言葉が出てきません。あの陸奥さんをここまで徹底的に打ち負かすなんて……」
明石「本当に残念です……展開としては何度も勝機はあったと思うのですが……」
大淀「陸奥さんに勝機があったのは間違いありません。しかし、ビスマルクさんがあまりにも強すぎました」
大淀「身体能力に優れ、多彩な技を持ち、計算し尽くされた試合運びで確実に相手を仕留める。加えて、あの並外れた凶悪さです」
大淀「ファイターとしては完璧以上の力を持つ相手です。残念ですが……陸奥さんは、まだその領域に達していなかったと言わざるを得ません」
明石「……確かに、ゴングが鳴るよりもっと早い段階で勝負は決まっていましたよね。試合終了があまりに遅すぎたと思いませんか?」
大淀「運営側も陸奥さんに勝って欲しかったんです。だから陸奥さんが逆転することを願って、ギリギリまで終了の合図を出さなかったんです」
大淀「それが完全に裏目に出ましたね……頭を噛みちぎられた時点で、陸奥さんは心が折れていました。後半で逆転できる可能性はなかったでしょう」
大淀「しかし、陸奥さんを臆病だと言うことは誰にもできません。相手は正真正銘の怪物でした。まともな選手が勝てるはずがない……」
明石「……あの、ビスマルク選手は試合終了のゴングの後も噛み付きをやめませんでしたよね。それを理由に反則負けということにしては……」
大淀「……できなくもないかもしれませんが、さすがに無理です。レフェリーの制止そのものには従っていましたし、第一、誰も納得しません」
大淀「何より、そんな形でビスマルクさんを敗退させるのは、UKFそのものの敗北を意味します。やられっぱなしのまま彼女をドイツへは帰せません」
明石「……ビスマルク選手が優勝してしまう可能性は?」
大淀「あります。しかし、陸奥さんが破れたからといって、UKFの全ての選手が破れたわけではありません」
大淀「ビスマルクさんを倒せる可能性を持つ選手はまだ残っています。彼女たちに希望を託すしかないでしょう」
明石「……ありがとうございます。あまりにショッキングな試合でした……」
試合後インタビュー:ビスマルク
―――陸奥選手はどうでしたか?
ビスマルク「美味しかったわよ! 龍田さんと比べるとちょっとだけ物足りなさはあるけど、それでもすっごく楽しめたわ!」
ビスマルク「パワフルな子で、怖がりなくせに精一杯私に向かってくるところがとっても可愛かった! 最後のほうなんて、あの子泣いてたのよ!」
ビスマルク「泣いてる顔が可愛すぎて、キスしちゃいそうだったわね! 試合じゃなかったら、もっともっと可愛がってあげたかったわ!」
―――ビスマルク選手は痛めつけるのではなく、痛めつけられるほうがお好きなのでは?
ビスマルク「どっちも好きなの! ほら、言うじゃない? 自分にして欲しいことは、他人にもしてあげたくなるって!」
ビスマルク「痛めつけるのも、痛めつけられるのも大好き! それが両方できるUKFって、すごく素敵なところよね!」
ビスマルク「次の試合はぜひ長門さんに勝ち抜いて来て欲しいわ! 陸奥さんがあれだけ美味しいなら、長門さんはもっと美味しいに決まってるもの!」
ビスマルク「ああっ、想像したらムラムラしてきちゃった……ねえ、あなたハチちゃんだっけ? これから時間ある?」
ビスマルク「良かったら私と……あっ、待って! 待ってよ、ねえ! 逃げないで! もっと私の話を聞いてよ!」
(伊8さんの逃亡により、インタビュー中止)
試合後インタビュー:陸奥
―――今はどういうお気持ちですか?
陸奥「うっ、うっ……すみません、泣いてしまって。あんな負け方をしてしまったことがショックで……」
陸奥「すごく、惨めです。試合の最中に心が折れるなんて……ファイターとして失格です」
陸奥「怖かった、逃げ出したいくらい怖かった……最後には心の中で、長門姉さんに助けを求めていました。そんな自分が恥ずかしくてたまりません」
陸奥「姉さんとの約束を破ってしまった……もう、帰ります。ここにいたくありません」
陸奥「取材もこれくらいで許してください。今は……誰とも話したくないんです」
(陸奥選手の取材拒否につき、インタビュー中止)
~小休止~
明石「えー大淀さん。あの……」
大淀「わかってますよ。試合内容の過激さが放送コードに引っ掛かって、またテレビ放送が中断されてるんでしょう?」
明石「その通りです。一応、ラジオ放送は続いています」
大淀「それもわかっています。以前と同じ轍は踏みませんよ」
明石「その件はどうも……ここで1つ、気になる情報が入ってきました」
大淀「情報って、またビスマルクさんについてですか?」
明石「いえ、長門選手についてです。控室で試合中継を見られていたそうなんですが……試合の有り様を見て、人が違ったように怒り狂っていたと」
大淀「……あの長門さんが?」
明石「ええ、あの冷静さで知られる長門選手がです。我を忘れて周囲に怒鳴り散らし、そのまま試合中のリングへ乗り込もうとしていたらしいですよ」
大淀「長門さんがそこまで……よっぽど陸奥さんのことを想ってらしたんですね。妹をあんな目に合わされて、じっとしていられなかったんでしょう」
大淀「今は落ち着かれているんですか? リングの清掃があるとはいえ、すぐに長門さんの試合が始まりますが……」
明石「それが……良くない状態みたいです。高速修復を終えた陸奥選手に会いに行ったときは、若干落ち着きを取り戻していたそうですが……」
明石「肝心の陸奥選手が、試合に負けたショックからか既に帰られてしまっていて。長門選手は陸奥選手に会うことができなかったんです」
明石「そこからまたピリピリし始めて、セコンドも取材陣も全て追い出し、今は控室にこもりっきりだそうです」
大淀「……つまり、精神的なコンディションは最悪というわけですね。3回戦進出を決めたビスマルクさんに対し、長門さんが最後の砦なんですが……」
明石「まさか……長門選手が3回戦出場を果たせず敗退する可能性があると?」
大淀「勝負に絶対はありません。その可能性は初めからあったわけですが……それが今、更に大きくなったように思います」
明石「もし、長門選手が敗退すれば、次にビスマルク選手と戦うのは島風選手になりますよね……」
大淀「……島風さんを過小評価するつもりはありませんが、彼女ではビスマルクさんには勝てないでしょう」
大淀「怪物を倒せるのは怪物だけです。肉体、技術、精神、全ての面で超越した力を持つ選手でなくてはビスマルクさんに勝つことはできません」
大淀「その超越した実力を持つ選手の1人が長門さんです。しかし、持ち前の冷静さを失っているとなると……先行きが不安です」
明石「……とにかくは次の試合の結果次第、ということになりますね」
大淀「はい。もうすぐ再開ですね……どうなるかは長門さんと島風さん次第です。まずはその戦いを見届けましょう」
青葉「お待たせしましたー。放送、再開します。5,4,3……」
明石「……はい、ご視聴の皆様、申し訳ありません! またもや試合内容に問題があり、放送が中断されてしまいました!」
明石「結果はご想像の通りかと思いますが……陸奥選手、無念の敗退! ビスマルク選手が3回戦進出決定です!」
明石「あの怪物を誰が止めるのか! 今から始まる試合で、次にビスマルクへ挑む選手が決まります!」
明石「まずは彼女から登場していただきましょう! 一気にトップファイターへのし上がった、新進気鋭の駆逐艦ファイターです!」
試合前インタビュー:島風
―――相手は絶対王者と呼ばれる長門選手です。勝機はあると考えられていますか?
島風「もちろん! 金剛さんに勝ったからって満足してないわ! 私が狙ってるのは優勝なんだから!」
島風「長門さんがとんでもなく強いことなんて百も承知よ! だからって、戦う前から諦めるようなことは絶対にしたくない!」
島風「今まですっごく練習してきたし、長門さん対策だって考えてきた! 金剛さんとの試合で見せてない技だってあるわ!」
島風「この試合でもう一度証明するの! 駆逐艦でも、最強になれるんだって! ここまで勝ち残ってる選手で、戦艦じゃないのは私だけでしょ?」
島風「だから、私は駆逐艦を代表するつもりで戦うわ! 必ず長門さんに勝ってみせる! 絶対に!」
―――勝った場合、次の対戦相手がビスマルク選手であることは意識されていますか?
島風「全然! だって私、さっきの試合見てないもん! 試合前の調整で大忙しだったんだから!」
島風「何があったかは知らないけど、今一番大事なのは次の試合でしょ? なら、その次のことを考えるような余裕なんてないわ!」
島風「とにかく、長門さんとの試合を全力で勝ちに行く! 今の私にはそれだけ! 以上、取材終わり! もう一回イメトレするから出て行って!」
(島風選手の取材拒否につき、インタビュー中止)
島風:入場テーマ「Michael Angelo/Double Guitar」
https://www.youtube.com/watch?v=rutyA12z3Ok
明石「大歓声に包まれて入場してきます! 今や可愛いだけでなく、最速最強の証明に王手を賭けた駆逐艦級トップファイター!」
明石「そのスピードは最速にして神速! 相手の動きを刹那に見切り、あらゆる攻撃をすり抜ける! 隙を許せば、急所を狙った足技が炸裂する!」
明石「戦艦級最速の金剛選手を倒し、次なる相手は戦艦級絶対王者! しかし、その瞳には決意と自信が満ち溢れている!」
明石「最速の駆逐艦級ファイターは、世紀の大番狂わせを起こせるか!? ”神速の花嫁” 島風ェェェ!」
大淀「すごくいい表情をしてますね。自信に溢れ、かと言って奢っているわけでもない。この試合で島風さんは最高のパフォーマンスができるでしょう」
明石「試合前も入念に準備されていたそうで、長門選手対策は万全とのことです。島風選手に勝機はあると思われますか?」
大淀「普通に考えれば、島風さんの勝利は絶望的でしょう。いくら島風さんが実力を上げていようと、相手は戦艦級の絶対王者です」
大淀「しかし、今回は島風さんの勝てる可能性が2つあります。まず1つ目は、金剛戦で見せたスピードを生かしたファイトスタイルです」
大淀「長門さんは全ての面において最高峰の実力を持っていますが、スピードにおいては戦艦級として多少優れている程度に過ぎません」
大淀「となると、戦艦級最速の金剛さんを下したあの戦法は長門さんにも通用すると見ていいでしょう。問題は2つ目です」
明石「……長門選手の精神状態についてですか?」
大淀「ええ。今から入場してくる長門さんがどういう状態なのか……それで勝率は大きく変わってくるでしょう」
大淀「長門さんは相手に合わせてファイトスタイルを変えます。しかし、過去の戦歴に島風さんのようなタイプの選手と戦った経験はありません」
大淀「いつもの冷静な長門さんなら戦いの中でそれに対応しようとするでしょうが、もし冷静さを失っているとなると……」
明石「……駆逐艦級ファイターがUKFの無差別級チャンピオンを倒すという、世紀の大番狂わせが起こると?」
大淀「その可能性はゼロではありません。いえ、今の島風さんなら、2割以上の確率はあるでしょう」
大淀「島風さんはスピードで戦艦級を倒すということを目的に、徹底的なトレーニングを積まれてきました。その結果が今のファイトスタイルです」
大淀「そのトレーニングで仮想敵としていたのは、長門さんなんじゃないでしょうか。島風さんは優勝するつもりでグランプリに臨まれていますから」
大淀「島風さんは本気で長門さんに勝つつもりでいます。そして、今の島風さんはそれを可能とする実力を身に着けています」
大淀「2度目の大番狂わせが起こってもおかしくはありません。長門さんにとって、決して油断できる相手ではないことは確かでしょう」
明石「ありがとうございます。それでは、続いて青コーナーより選手入場! 絶対王者が再びリングに降り立ちます!」
(長門選手の取材全面拒否につき、インタビューなし)
長門:入場テーマ「クロノトリガー/魔王決戦」
https://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=1y_DS691Vhc#t=48
明石「最強! その言葉は即ちUKF無差別級王者を意味する! 彼女を知る者は、誰一人それを疑わないでしょう!」
明石「しかし、今やその名を我が物にせんとする艦娘が集っています! 武蔵、扶桑、ビスマルク! そして、ここにまた1人!」
明石「その名は艦娘最速ファイター、島風! 史上最も小柄な挑戦者に、絶対王者はどのように受けて立つのか!」
明石「勝つのはスピードファイターか、それともアルティメットファイターか! ”ザ・グレイテスト・ワン” 長門ォォォ!」
大淀「……明らかに落ち着きのない様子ですね。殺気立っているというより、苛立っているというほうがしっくりくる表情です」
明石「やはり、長門選手は陸奥VSビスマルク戦のショックを引きずっていると?」
大淀「間違いなくそうです。いつもの長門さんは、どんなときも平然とした王者の風格を放っていますが、今日はそれがありません」
大淀「まるで霧島さんのような、荒々しい殺気を隠そうともしてません。長門さんらしくない落ち着きのなさです」
明石「その落ち着きのなさは、試合に臨むコンディションにも影響してくるでしょうか?」
大淀「確実に影響するでしょう。いくら長門さんが強いといっても、冷静さを欠けば必ずどこかに隙が生まれます」
大淀「長門さんの強みはどんなときでも揺るぎない冷静さ、そして冷静さから来る隙の無さです。今の長門さんにそれがないとすれば……」
明石「……島風選手に足元を掬われると?」
大淀「可能性は大いにあり得ます。少なくとも、今日の長門さんは過去最悪のコンディションだということです」
大淀「格上の相手に挑む以上、島風さんに長門さんの心中を察するような甘さはないでしょう。長門さんの不調は願ってもない幸運です」
大淀「長門さんの苛立ちに島風さんも気付いているはずです。となると、おそらくその苛立ちに付け込むような戦い方をするんじゃないでしょうか」
明石「それは具体的にどういうものだと思われますか?」
大淀「おおよそは金剛戦で見せたものと変わりません。相手に打たせて、カウンターでローキックを入れて離れる、この繰り返しです」
大淀「それを島風さんはより挑発的に、苛立ちを煽るように行うと思います。もしその挑発に長門さんが乗るようなことがあれば、大きな隙が生じます」
大淀「その隙を島風さんは絶対に見逃さないでしょう。普段の長門さんなら決してそんな挑発に乗るようなことはしませんが……」
明石「……絶対王者が、今日ばかりは絶対ではないかもしれない、ということですね」
大淀「そういうことになります。この試合で長門さんがどう戦うのかは、私にも予測が付きかねます」
大淀「できることなら、陸奥さんのことを今だけは忘れて、目の前の試合に集中してもらいたいのですが……難しいでしょうね」
明石「ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! またしてもこの体格差! 長門選手を傲然と島風選手が見上げています!」
明石「その視線には覚悟と自信が漲っている! その瞳は語っています、必ずやお前から王者の座を奪ってみせると!」
明石「対する長門選手、どうしたことでしょう、目を合わせない! 島風選手を見るでもなく、苛立たしげに視線を泳がせています!」
明石「両選手がコーナーに戻りますが、明らかに長門選手の様子が思わしくない! 一体、この試合はどうなってしまうのでしょうか!」
明石「ゴングが鳴りました! 試合開始……あっ、長門選手が飛び出した! 様子見もなく、ズンズンと歩を前に進める!」
明石「いきなり島風選手に殴り掛かった! 大振りの右フック! かすりもしません! 島風選手、いともあっさりと打撃をすり抜けた!」
明石「離れざまにローキックを一発! やはりスプリントファイター島風、速い! 早くも長門選手に一撃を入れました!」
明石「長門選手、即座に島風選手を追撃! 両腕を振り回すようなフックの連打! まったく当たらない! 再び島風がローキックを入れる!」
明石「駆逐艦級の蹴りとは思えない重い音が鳴り響きます! しかし、長門選手は意に介さない! またもや大振りのパンチを繰り出した!」
明石「当然当たらない! 島風選手、完全に長門選手の動きを見切っています! 今度は膝へのストンピングキック! 長門選手がやや揺らいだ!」
大淀「……長門さんの動きがあからさまに精彩を欠いています。攻撃も防御も大雑把過ぎる、試合に全く集中できていない……!」
明石「ここで島風選手、一旦長門選手と距離を取ります! あっ、手招きしています! その場を飛び跳ねながら、露骨に長門選手を誘っている!」
明石「この挑発に対し、長門選手、顔色が変わった! 殺気をより剥き出しにして島風選手に詰め寄っていきます!」
明石「一気に間合いを詰め、前蹴り! やはり躱された! 島風、一瞬で脇をすり抜けつつ再びローキック!」
明石「長門選手の足に赤黒いアザが目立ってきました! しかし、長門選手はお構いなし! サイドを取ろうとする島風に向き直ると同時に左フック!」
明石「またも島風、これをすり抜けた! またローキッ……いや、違う! バックに回った! 膝裏に痛烈なサイドキック!」
明石「長門選手の体がガクンと沈んだ! バランスを崩したところに、島風が飛びつく! ば、バックチョーク! 島風選手が首を絞めに掛かった!」
大淀「あ、あんなにあっさり……!」
明石「まさか、決まってしまうのか!? い、いや! 長門選手、これには素早く反応! 手を差し込んで絞めつけを防いでいます!」
明石「島風選手、決まらないとみるやいなや、あっさりとチョークを解いた! 再び距離を取る! その表情は実に落ち着いています!」
明石「体勢を立て直した長門選手、ギロリと島風選手を睨みつける! 誰もが震え上がる絶対王者の怒気、それを島風、平然と受け止めている!」
大淀「……やはり長門さんは試合に臨める精神状態ではないようです。普段の長門さんなら、あんな簡単にバックを許したりしません」
大淀「動きが荒すぎる。完全に島風さんのスピードに翻弄されています。まったく長門さんらしくない戦いぶりです」
明石「展開としては島風選手が優勢ですが、長門選手のダメージはどう思われますか?」
大淀「だいぶ足を蹴られていますが……ダメージはまだ致命的ではありません。不幸中の幸いというか、怒りで痛みが麻痺しているようにも見えます」
大淀「しかし、長くもらい続ければ動きに支障が出ます。何より、島風さんはさっきの膝裏へのサイドキックのような、急所への蹴りを狙っています」
大淀「このままだと、いずれ長門さんはそういう蹴りをもらってしまうでしょう。そのとき、長門さんは果たして立ち上がれるのか……」
明石「あっ、今度は島風選手のほうから間合いを詰めます! 長門選手、仁王のような形相で島風を待ち構える!」
明石「先に長門選手が打ち込んだ! 右ストレート! 島風、あっさり躱しつつローキック! 同時にバックへ回ろうとする!」
明石「振り向きながら長門選手のミドルキック! かがんで躱した! 起き上がりざまに子安キック! 下腹部へ入りました!」
明石「長門選手の表情が苦悶に歪む! しかし構えは揺るがない! 怒りで痛みを感じていないのか、急所への蹴りを耐え切った!」
明石「しかし、わずかに出来た隙を島風は逃さない! 膝に再びストンピングキック! そして離れた! 順調に足へのダメージを蓄積させている!」
大淀「ここまで、島風さんの戦い方は完璧です。ヒット・アンド・アウェイで長門さんの耐久力をじわじわと削っています」
大淀「長門さんのパワーなら一撃で島風さんを葬れますが、冷静さを欠いて今の島風さんに一撃を当てられる可能性は皆無でしょう。このままだと……」
明石「再び島風が間合いを詰める! もはや苛立ちが爆発寸前といった長門選手! 長門選手も同時に踏み込んで行った!」
明石「ワンツーのコンビネーションパンチ! 島風、これはバックステップで回避! ローキックには行きません!」
明石「長門選手の追撃! ミドルキック! 左フック! これもフットワークで躱した! これもローキックに行こうとしない!」
明石「何かを狙っているような島風選手、しかし長門選手、それを意に介さない! サイドに回る島風をなおも打撃で攻める!」
明石「長門のハイキック! スウェーで躱した! 右フック! これも空振り! 長門のラッシュをことごとくフットワークで躱して行く!」
明石「心なしか、長門選手の足取りが重いように思われます! これは足へのダメージが響いているのか!?」
大淀「足に蓄積されたダメージに加え、長門さんのスタミナが切れつつあります。打撃の空振りは見た目以上に疲れますから」
大淀「あれだけ打撃を見境なしに打てば、すぐ息が切れます。長門さんはそんなことにも気付けないほど冷静さを失っているようですね……」
明石「島風選手は挑発的に長門選手の周囲を動き回り、更なる打撃を誘っています! これ以上、島風選手の誘いに乗るのは危険だ!」
明石「し、しかし絶対王者長門、完全に平常心を失っている! またもや打撃のラッシュ! 蹴り、パンチを見境なく島風に繰り出していく!」
明石「まるで弁慶と牛若丸のような光景! 大振りの打撃を島風選手、華麗に避ける、避ける! 1発たりとも当たりません!」
明石「とうとう長門選手の息が荒くなってきた! それでも休むことなく、長門選手が再び左フッ……き、決まったぁぁぁ!」
大淀「ああっ……!」
明石「と、跳び後ろ回し蹴りです! フックでやや前かがみになった長門選手の顔面を狙った、島風のカウンターキック!」
明石「長門選手の顔から鮮血が迸った! これは……目です! 島風選手が狙ったのは、顔面ではなく右目です!」
明石「長門選手が右目を手で抑えています! 指の隙間からおびただしい出血! 島風選手、跳び後ろ回し蹴りで右目を叩き潰しました!」
大淀「すごい、リングの上であんな大技を決めるなんて……!」
明石「しかし、まだ長門は立っている! 島風も気を抜いてはいない! 再び足を振り上げた! とどめのハイキックだぁぁ……あ?」
大淀「なっ!?」
明石「なっ……ななな……なんということでしょう! け、決着! 決着です! まったく立ち上がりません! し……試合終了! 試合終了です!」
明石「勝ったのは……長門選手、長門選手です! 目の前の光景が信じられません! 圧倒的優勢だった島風選手が、今やぴくりとも動きません!」
明石「致命傷を負ったかに思われた長門選手ですが……最後の最後で、ハイキックに来た島風選手の足を素早く捉えました!」
明石「そのまま、足を掴んでの一本背負い! 島風選手をマットに凄まじい勢いで叩きつけました!」
明石「戦艦級最強の投げ技を喰らって、駆逐艦級の島風選手が立ち上がれるはずもありません! 受け身も取り損ね、島風選手、完全に失神!」
明石「あの長門選手をあと一歩というところまで追い込むも、一撃の前に敢えなく敗退! 島風選手、ここへ来て無念の敗退!」
明石「荒々しい試合ぶりでしたが、最後には絶対王者の矜持を見せつけました! 勝者はやはり長門、長門選手です!」
大淀「……最後の跳び後ろ回し蹴りは、あるいは悪手だったのかもしれませんね」
明石「あの蹴りがですか? あれは長門選手にも大きなダメージを与えていたと思いますが……」
大淀「だからこそです。一撃で意識を奪うような技なら良かったんですが……あの蹴りは痛みと傷を与え、長門さんの戦力を削るための蹴りでした」
大淀「普通の選手なら、目を潰されたダメージで戦意喪失するでしょう。しかし、長門さんは普通の選手ではありません」
大淀「あの痛みで、長門さんは本来の自分を取り戻してしまったんです。どんな状況にも揺るがない、不動の絶対王者としての自分を」
明石「ということは、あそこでハイキックを放った島風選手が迂闊だったと……」
大淀「いえ、あそこでハイキックを打ったのは正解です。しかも、ちゃんと失明させた右目の死角に回り込んで蹴りを放っていました」
大淀「おかしいのは長門さんの方です。普通、右目を潰された直後に死角から来たハイキックを、一本背負いに繋げられるはずがありません」
大淀「それを可能としたのは、やはり長門さんの冷静さでしょう。左目で捉えた島風さんの動きからハイキックの軌道を読み、投げに繋げたんでしょう」
大淀「本当にわずかな分かれ目だったとは思います。ですが、勝負は結果が全てです。長門さんのほうが強いから勝った、その事実は動かないでしょう」
明石「……島風選手には申し訳ないですが、これで3回戦でビスマルク選手と戦うのは、長門選手になりましたね」
大淀「そうですね。この試合では精神の不安定さが大いに見られましたが、既に長門さんは自分を取り戻しました。こういうことは二度とないでしょう」
大淀「あるいは、島風さんとの戦いで長門さんは一層揺るぎない強さを身に着けたかもしれません。熱くなっては勝てないと学ばれましたからね」
大淀「あのビスマルクさんを倒す可能性が一番高いのは、やはり長門さん以外にはありません。彼女には3回戦も大いに期待できると思います」
大淀「島風さんにとっては残念な結果になりましたが、長門さんを相手に見事な戦いぶりでした。この敗北もまた、成長の糧にしてほしいものです」
明石「ありがとうございます。接戦となりましたが、どちらも素晴らしい選手でした! 皆様、両選手を讃え、もう一度拍手をお願いします!」
試合前インタビュー:長門
―――決着の直前以外、失礼ながら長門選手は非常に冷静さを欠いているように思いました。やはり、陸奥戦を見られた動揺があったのでしょうか。
長門「そうだな、試合に全く集中できていなかったことを認めよう。あのときの私は陸奥のことで頭がいっぱいだった」
長門「恥じるべきことだが、島風との試合など、まるで眼中になかった。こんなものは3回戦に向けた消化試合に過ぎない、とな」
長門「それがあの体たらくだ。相手の良いように翻弄され、安い挑発に軽々しく乗った。まさしく愚か者の戦いぶりを演じてしまったな」
長門「その愚か者に落ちぶれた私の目を覚まさせたのは、他でもない島風だ。一瞬の隙を突き、今まで味わったことのない痛みを私に叩き込んだ」
長門「あれほどの一撃を許したのは、今までに経験がない。右目を潰された、灼けつくような痛みが私に正気を取り戻させたのだ」
―――試合を終えてみて、島風選手のことはどのように思われていますか?
長門「今まで戦ってきた中でも、指折りの強者だ。あいつを軽々しく扱おうとした私は本当に愚かだったと感じている」
長門「見劣りする体格で、よくぞあれほどまで技を練り込んだ。一撃で終わったのは時の運に過ぎない。全力の私でさえ、島風には手を焼くだろう」
長門「彼女には惜しみない賛辞を送りたい。素晴らしい選手だった。あいつと戦えて、私はとても嬉しく思っている」
―――次の相手はビスマルク選手です。何か……
長門「黙れ。あの女の名前を口にするな」
(長門選手の取材拒否につき、インタビュー中止)
試合前インタビュー:島風
島風「うっ……うわぁああん! 悔しい、悔しい、悔しい! もうちょっとだったのに! あとちょっとで私が勝てたのに!」
島風「ううっ……こ、こんなことで私、諦めないから! 今日は負けたけど、次は必ず勝つわ!」
島風「帰る! 帰ってまた練習する! 取材終わり! じゃあ、さよなら!」
(島風選手の帰宅につき、インタビュー中止)
明石「ご視聴の皆様、お疲れ様でした! これにて、本日の放送は一旦終了です!」
明石「持ち越しとなったエキシビションマッチ2戦目は、明日の午後22時より放送です! どうかお見逃しなく!」
大淀「それでは、今日のところはお別れしましょうか。またすぐお会いできると思いますので」
明石「そうですね! 出場者のほうも明日発表します! では、また明日お会いしましょう! ご視聴、ありがとうございました!」
―――2/13 22:00よりエキシビションマッチ2戦目放送確定。
―――最強の矛と最強の盾が、己の誇りを賭けて雌雄を決する。
【悲報】大会運営委員長、4時間の寝坊
申し訳ありません、もうしばらく待ってください。23時にはいけると思います。
いけませんでした。あと1時間延長お願いします。
大淀「……まだですか?」
明石「まだらしいですよ。さっき、大会運営委員長が本日2回目のカフェイン錠剤を摂取していました」
大淀「それって時間をおいて飲まないとダメな薬じゃありませんでしたっけ?」
明石「もうそんなことに構っていられないそうです。さっきまで寝てたから、寝起きでエンジンが掛からないんですよ」
大淀「あとどのくらいで始まりそうです?」
明石「……もう1時間?」
大淀「……そろそろ視聴者の方々もキレ出す頃ですよ」
明石「じゃあ、さっさと準備しろって急かしてきますね」
大淀「よろしくお願いします。キツ目の言い方でお願いしますね」
大淀「えっ、まだなんですか?」
明石「はい。『あと30分!』って大会運営委員長が気違いのように叫んでましたよ」
大淀「これはもう、アレですね。赤城さんが『誰でも良いから殺したい』って呟いていたそうなので……これ以上遅れるなら、赤城さんを部屋に寄越すと言って来てください」
明石「わかりました。ついでにビスマルクさんもオマケしておきますか?」
大淀「いいですね。ビスマルクさんも追加で」
明石「了解です。早くしないと死ぬより恐ろしいことが待ってますよ、と伝えてきます」
明石「はい、皆様大変長らくお待たせしました! これよりエキシビションマッチ、第2戦目を開催します!」
明石「昨日に引き続き、実況は明石、解説は大淀さんでお送りいたします!」
大淀「どうも皆さん。本当に申し訳ないです、こんなにお待たせした上に、今日もこの私の活躍をお見せできないなんて」
明石「誰も見たいなんて言ってませんよ! さて、本日はエキシビションマッチ2戦目の1試合のみの放送となります!」
明石「事前に告知があったかとは思いますが、エキシビジョンマッチは当初2戦のみの予定でしたが、リクエストを受け、3戦へと変更になりました!」
明石「そのため、本来2戦目に予定されていた対戦カードは3戦目に持ち越しとなり、本日の対戦はまた新たに組まれたカードとなっております!」
明石「あの2人のビッグマッチを楽しみにされていた方々には申し訳ありませんが、その対戦は次回放送日まで暫しお待ち下さい!」
大淀「ええ、どうぞお楽しみに。私にも出番があるはずですからね」
明石「……ありませんよ?」
大淀「まあ、いずれわかることですよ。そろそろ試合を開始しませんか?」
明石「はあ、そうですね……それではエキシビションマッチ2戦目、出場者の発表です!」
明石「まずは赤コーナーより選手入場! あの赤城さえ恐れさせた、脅威の立ち技ファイターです!」
試合前インタビュー:翔鶴
―――翔鶴選手は第一回UKF無差別級グランプリにも出場されていますが、今大会の出場選手に選ばれなかったことに不満はお持ちでしょうか。
翔鶴「悔しい想いはありますが、理解はしています。私はここのところ、敗北続きですから」
翔鶴「赤城さんを倒せず、榛名さん、日向さん、大淀さんにも敗北を喫しています。選ばれなかったのは、純粋に私が弱いからです」
翔鶴「エキシビションマッチに呼んでいただいたときも、何かの間違いだと思いました。私にそんな大舞台に立つ資格はないはずですから」
―――翔鶴選手は敗北してもなお実力を高く評価されていますが、今は自信を喪失していらっしゃるのでしょうか。
翔鶴「ふふっ、自信喪失だなんて。私、自分に自信があったことなんて今まで一度もありません。私は自信がないから練習ばかりしているんです」
翔鶴「試合ギリギリまで猛練習して、負けたら死ぬくらいのつもりで試合に臨むんですけど、それでもなかなか勝てないんです」
翔鶴「勝てないから自信がつかないのか、自信がないから勝てないのか、どっちなんでしょうね……どちらにしろ、私は精一杯やるしかないんですけど」
―――本日の試合に対する意気込みをお聞かせください。
翔鶴「そうですね……きっと今日負けたら、UKFの試合にもなかなか出られなくなってしまうでしょうね。運営側に干されてしまって」
翔鶴「余計なことは考えないようにして、とにかく勝ちに徹します。負けたら全部終わり、そういう覚悟で臨みたいと思います」
翔鶴:入場テーマ「Norther/Death Unlimited」
https://www.youtube.com/watch?v=EUUo9crSdf8
明石「立ち技格闘界に閃光の如く現れた不死身のファイター! 幾多の死闘に臨みながら、打撃によるダウン経験一切なし!」
明石「プロレスラーも裸足で逃げ出す打たれ強さ! 死神にすら嫌われ、地獄からも出入り禁止を食らった! もはや彼女の居場所は戦場のみ!」
明石「死してなお倒れない、五航戦の戦いざまを目に焼き付けろ! ”ウォーキング・デッド” 翔鶴ゥゥゥ!」
大淀「今日も沈んだ顔をされてますね。あんなに不幸オーラをまとって試合に臨む選手なんて、他にいませんよ」
明石「大淀さんは第一回UKF無差別級グランプリで、翔鶴選手と2回戦で対戦されていらっしゃいますよね」
大淀「ええ。そのときは私が勝ちました。目を潰して、足を折ってからフロントチョークを決めて一本勝ちです」
明石「……えげつない倒し方ですね」
大淀「仕方ないんですよ。そこまでやらないと翔鶴さんは倒せなかったんです。現に、足を折られても立とうとしてましたからね」
明石「はあ……では、実際に戦われてみて、翔鶴選手のことはどのように感じられましたか?」
大淀「最初からわかっていたことなんですけど、打撃で倒すのは無理だなと思いました。赤城さんとK-1で対決したときの例もありますからね」
明石「ああ、あの完全に意識を失っているのに打ち合いを続けたっていう……」
大淀「それですね。赤城さんとの3度目の対戦で起こった出来事ですが、翔鶴さんは3ラウンドの途中、まともにハイキックを食らったんです」
大淀「いわゆる操り人形の糸が切れた感じというか、一瞬そういう風に倒れ込みそうになったんですけど、直後に何もなかったように起き上がりました」
大淀「すぐに起き上がったのでカウントも取られず、また打ち合いを始めました。それからラウンドが終わって、コーナーに戻ったところ……」
明石「椅子に座って、それから2度と立ち上がらなかったんですよね。後日受けた取材によると、ハイキックの前後からまったく記憶がないと」
大淀「ええ。つまりは、ハイキックを受けた後からは、全部無意識というか、夢遊病患者のような状態で戦い続けていたということです」
明石「そんなことが有り得るんですかね……実際に起ったことではありますが」
大淀「それを可能としたのは、彼女の流派による練習の量と質ですね。彼女はあまりにも打たれ慣れているんですよ」
明石「翔鶴選手の流儀と言いますと、それはラウェイとなっていますよね。それはどんな格闘技なのでしょうか」
大淀「ミャンマーで行われている、ムエタイと似た格闘技です。肘ありの立ち技限定のルールという面では同じですが、いくつか異なる点があります」
大淀「まずはスタンド状態での投げ技が認められていること。首から下への頭突き、脊髄への打撃が認められていること」
大淀「何より大きな特徴は、グローブを嵌めず手に荒縄を巻いて試合を行うこと、即ちほとんど素手と変わらない状態で打ち合いをするんです」
大淀「フルコン空手も素手で試合を行いますが、顔面への打撃は許されていません。ですが、ラウェイではそれすら許されています」
大淀「彼女ほど素手の打撃勝負に慣れ親しんだ選手はいないでしょう。打撃に対する耐性においては、UKFの中でもトップクラスです」
大淀「下手をすると、ビスマルクさんに並ぶかもしれません。翔鶴さんは脳震盪にさえ対応してしまいますからね」
明石「情報を聞くと非常に実力のある選手に聞こえますが、翔鶴選手の戦績はあまり良いものではありませんよね」
大淀「そうなんですよね。新人ながら実力が高いぶん、誰も戦いたがらないような強い選手と試合を組まされることが多いんです」
大淀「関節や寝技が苦手という弱点を突かれることもあれば、榛名さんや赤城さんのような立ち技トップファイターに正面からぶつかるときもあります」
大淀「それでも、打撃でKOされたことはありません。負けるときは関節などの一本負けか、時間切れによる判定負けのみです」
大淀「翔鶴さんは強いんですけど、今までの相手が強すぎてあと一歩届かない、彼女の負け試合はそんなのばかりなんですよ」
大淀「要は運がないんです、彼女は。悪いのは運営ですね。スター選手への噛ませ犬に使われているんですよ。本来ならもっと勝ち星は多いはずなのに」
明石「なるほど。なら、今回の舞台はうってつけですね。注目度の高い試合ですから、勝てばきっとスターダムにのし上がれますよ」
大淀「……どうでしょうね。相手が相手ですから、運営はまた当て馬として彼女を呼んだようにも思います」
大淀「まあ、それは翔鶴さん次第です。仮に当て馬扱いされても、勝てばいいんですから。ぜひ頑張っていただきたいですね」
明石「ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! 吹雪選手に続き、駆逐艦級二大王者のもう一角が姿を現します!」
試合前インタビュー:夕立
―――既に先の試合でライバルの吹雪選手が活躍されていますが、何か意識するところはありますか?
夕立「そうね~、元気になったみたいでよかったっぽい? 不知火ちゃんに負けた直後は、ずっと部屋に引き篭って泣いてたぽいからね~」
夕立「ま、私も不知火ちゃんに負けてるんだけど、次は勝つっぽい! もちろん吹雪ちゃんにも勝つっぽいよ!」
―――本戦に出場した不知火選手、島風選手は既に敗退しております。同じ駆逐艦級として、ご自身が出場されていたら、どうなったと思われますか?
夕立「もちろん、優勝してるっぽい! 特に昨日の長門さんは調子が悪そうだったから、私なら絶対に勝てたっぽいよ!」
夕立「夕立の打撃は一撃必殺! 長門さんだってきっとKOしちゃうっぽいよ!」
―――初めての無差別級の試合に望まれるわけですが、緊張などはされていますか?
夕立「全然。ていうか、私ずっと運営に言ってたっぽい? 吹雪ちゃん以外の駆逐艦級は物足りないって!」
夕立「私の打撃は戦艦級にも通用するっぽいから、今日はそれを証明するっぽい! 夕立は初めから無差別級ファイターっぽいよ!」
夕立「目標は10秒! 10秒で翔鶴さんをKOするっぽい! ファンのみんな、応援よろしくっぽい~!」
夕立:入場テーマ「Devil May Cry 4/Shall Never Surrender」
https://www.youtube.com/watch?v=xIIYt5lcq3A
明石「一撃必殺! 格闘家なら誰もが夢見るその一撃を、完璧に体現したファイターがたった1人だけ存在する!」
明石「究極までに練り上げられたその技は、神速にして強力無比! 受ければガードごと骨をへし折り、内臓を破壊する!」
明石「戦艦級をも超えるその一撃が、無差別級の舞台ではどのように披露されるのか! 駆逐艦級二大王者! ”鋼鉄の魔女” 夕立ィィィ!」
大淀「登場としては、最後の駆逐艦級トップファイターですね。前回出場された吹雪さんと、唯一互角に戦える駆逐艦級の選手です」
明石「夕立選手の流儀は八極拳ですね。名前は中国拳法の一派としてよく聞きますが、どんな格闘技かはあまり知られていないんじゃないでしょうか」
大淀「そうですね。八極拳は超至近距離での白兵戦を想定した、一撃必殺の破壊力を重視する、中国拳法としては異色の流派です」
大淀「八極とは『八方の極遠にまで達する威力で敵の門を打ち開く』、つまり相手の防御を打ち崩して一撃を入れるということを意味しています」
大淀「至近距離での威力に優れる分、射程距離には難があるわけですが、夕立さんは相手の動きを見切って懐に滑り込む、という技量でカバーしてます」
明石「となると、完全なストライカー型の選手というわけですね。投げ技や寝技は持っていないと?」
大淀「寝技は全くありませんね。ストライカーとしての能力が優れていますから、グラウンドに持っていかれること自体が皆無ではありますが」
大淀「投げ技に関してですが、実は八極拳には投げ技もあります。しかし、夕立さんはそれを全く使うことができません」
大淀「それ以前に、夕立さんの八極拳は正統派のものではないんです。彼女の八極拳にはより一撃に特化した、独自のアレンジがなされています」
大淀「八極拳には『頂肘』という肘打ち、『鉄山靠』という背中で相手に激突する技があります。彼女の必殺技は、これを組み合わせたものです」
大淀「『鉄靠背肘撃(てっこうはいちゅうげき)』。後ろ回し蹴りのように体を回転させ、遠心力と震脚による踏み込みで全体重を肘に乗せて叩き込む」
大淀「これが夕立さんの一撃必殺です。当たれば内臓が破壊され、ガードしても腕ごと肋骨を叩き折る。戦艦級をも一撃で葬りさってしまうでしょう」
明石「夕立さんはほぼ全試合をこの技で決めていらっしゃいますよね。しかも、試合開始30秒以内に」
大淀「ええ。一見、大振りで隙の多い技ですが、彼女のファイトスタイルはこの一撃を確実に叩き込むために組み立てられていますので」
大淀「まず、技の練り込みが半端ではないので、大振りなのに凄まじく速いんです。射程距離に入られて打たれたら、絶対に躱せません」
大淀「となると間合いに入られないよう距離を保って戦うのが良さそうですが、震脚による夕立さんの踏み込みは、一気に間合いを詰めてしまいます」
大淀「更には鉄靠背肘撃に見せかけた後ろ回し蹴り、裏拳などの打撃技も警戒すべき威力を持っています。スタンドではまるで隙がないんですね」
明石「なら……一番安全そうなのは寝技に引き込むことですね。吹雪選手も夕立戦ではそれで勝利を収められていますが……」
大淀「それは間違いありませんけど、あいての翔鶴さんも寝技は全くない選手ですからね。せいぜい、テイクダウンを取って上から殴る程度です」
明石「となると、展開としては完全なスタンド勝負、ということになるんでしょうか?」
大淀「ええ。武蔵VS赤城戦ではその予想をものの見事に外してしまいましたが、この試合ばかりは間違いなくそうなると思います」
大淀「ただですね……夕立さんのファイトスタイルは今お話した通りですが、問題なのは翔鶴さんのファイトスタイルなんですよ」
明石「えーと、翔鶴選手もストライカータイプの選手ですよね。何か問題が?」
大淀「ええ。翔鶴さんのファイトスタイルで最も特徴的なところはですね、相手の攻撃を避けないんですよ。ガードすらしないことだってあります」
明石「それは……それだけ自分の打たれ強さに自信があるからでしょうか」
大淀「それもありますが、打たれ慣れているぶん、受け方を知っているんです。つまり、打点をずらして打撃のダメージを半減させる受けですね」
大淀「避けたりガードすると、それだけ攻撃の手が止まりますから。打たれながらも相手を徹底的に打ち負かす、それが翔鶴さんのスタイルです」
大淀「赤城さんや榛名さんの打撃に耐え抜くくらいですから、その耐久力は計り知れないものがあります。しかし、今日の相手は……」
明石「……UKFでも最強の一撃を放つと言われる夕立さんですよね。まさか、夕立さんの打撃も避けないと……?」
大淀「わかりません。ただ、翔鶴さんが打撃を躱すところは今まで見たことがないんです。そういう戦い方だけを磨いてきた人ですから」
大淀「注目すべきは、どちらが先に一撃を入れるかです。夕立さんは打撃力こそ戦艦級でも、打たれ強いというわけではありませんから」
大淀「階級が上の翔鶴さんも、夕立さんを一撃でKOする打撃力は持っています。もしかしたら、一瞬で試合が決まるかもしれません」
明石「なるほど……ありがとうございます。さあ、両選手がリングインしました! この身長差、無差別級グランプリではもはや見慣れた光景です!」
明石「余裕の笑みで相手を見上げる夕立選手! それを静かな眼差し受け止める翔鶴選手! 一流のストライカー同士、どのような戦いになるのか!」
明石「ゴングが鳴りました、試合開始! 両者、迷いなくリング中央へ歩みを進めます! みるみる間合いが狭まっていく!」
明石「自信に満ちた笑みの夕立選手に対し、戦いに臨む者とは思えないほど静かな表情の翔鶴選手! 両者の接触まであとわずか!」
大淀「えっ、ちょっと……まさか!」
明石「間合いに入っ……あっ、ああーっ! だ、ダウン! 両選手が同時にダウンしました! 相打ち、相打ちです!」
明石「夕立の鉄靠背肘撃が翔鶴選手に炸裂! しかし、同時に翔鶴選手も打ち込んでいた! こめかみへの肘打ちです!」
明石「当たったのは全くの同時! どちらの打撃も完全に入りました! 立ち上がれない! 両選手、立ち上がれません!」
大淀「ほ……本当にやるなんて。翔鶴さんは初めからこれを狙っていたんです。夕立さんの一撃を受け切っての肘打ちを……」
大淀「離れた距離からの打撃だと、懐に飛び込まれて一撃を受ける可能性が高い。だから確実に自分の打撃を入れるために、あえて打たせた……!」
明石「夕立選手は仰向けに倒れ、立とうとはしていますが意識が定かではない! 翔鶴選手は脇腹を抑えてうずくまり、動けないでいます!」
明石「まさか、ダブルKOとなるのか!? 先に立ったほうが勝者となる! どちらが先に立つのか!」
明石「あっ、夕立選手が立ちます! 足元はふらついていますが、辛うじて立ちました! 夕立選手、健在!」
明石「頭部からは肘打ちで皮膚を切ったのか、かなりの出血が見られます! 焦点も定かではありませんが、しかし立っている! 翔鶴選手はどうか!」
明石「翔鶴選手も立ちます! ゆっくりと立ち上がり、足取りもしっかりしている! 表情も穏やかで、ダメージを一切感じさせません!」
明石「両選手が再び対峙しました! 改めて構えを取ります! 夕立は八極の構え、翔鶴選手はライトアップ気味のファイティングポーズ!」
明石「先ほどの壮絶な相打ち劇はほんの挨拶! ここから本当の戦いが始まるとでもいうような緊張感です! 両選手、ダメージはどうなのか!」
大淀「一見するとダメージが大きいのは夕立さんですが、脳震盪ですから時間で回復します。翔鶴さんのほうは、むしろ立っているのが不思議です」
大淀「夕立さんの鉄靠背肘撃は完全に入っていました。おそらくレバーにまともに当たってしまったんじゃないかと思います」
大淀「本来なら、KO必至の地獄のような痛みが翔鶴さんを襲っているはずです。しかし、翔鶴さんは精神力でそれに耐えています」
大淀「限界が近いのは翔鶴さんのほうでしょう。これ以上、勝負が長引くことはない……」
明石「両者、じりじりとサイドに回り、距離を取り合っております! 警戒している! 互いに一撃を警戒しています!」
明石「夕立選手に先ほどのような余裕の笑みはありません! 無理もありません、あの一撃を入れて立ち上がられたのは初めての経験!」
明石「翔鶴選手、恐るべし! 翔鶴選手にとっても、打撃でうずくまるような経験は初めてだったに違いありません!」
明石「今までの相手とは違う! 互いにそれを認め合っている! ならばこそ負けられない、その気迫がリング上に渦巻いています!」
明石「まずは夕立選手が間合いを詰める! 振りかぶった! 再び出るか、鉄靠背肘撃!」
明石「いや、フェイントです! フェイントからのローキック! 翔鶴選手はびくともしない! フェイントにも全く反応しません!」
明石「再び夕立が仕掛ける! 振りかぶった! 今度は脇腹へのバックハンドブロー! 先ほど打撃を入れた傷口を狙う!」
明石「当たっ、いやカウンター!? 翔鶴選手、同時に右ストレートを放った! 夕立選手、紙一重で回避!」
明石「あわやKOというパンチを辛うじて躱しました、夕立選手! 追撃を警戒してか、再び大きく距離を取った! 翔鶴選手も追い打ちはしない!」
明石「再び間合いを取って対峙! 手に汗握る攻防が続きます! どうやって先に一撃を入れるかというこの勝負、どちらが制するのか!」
大淀「どちらも危なっかしい戦い方をしますね。さっきの打ち合い、どちらがKOになっていてもおかしくありませんでしたよ」
大淀「夕立さんの裏拳を、翔鶴さんは打点をずらして受けました。でも、傷が深いからずらしても痛みが響いたんでしょう」
大淀「その痛みでカウンターパンチの軌道がブレて、夕立さんも運良く打撃を躱せました。夕立さんはゾッとしたでしょうね」
大淀「翔鶴さんは立っている方がおかしい傷を負っています。あえてその傷付近を打たせてカウンターを取ろうなんて、危なっかしすぎますよ」
明石「さあ、対峙した両選手! 今度は互いに動きがなくなりました! 夕立選手もなかなか仕掛けようとしない!」
明石「様子を伺うように、ゆっくりと翔鶴選手の周囲を回ります! 翔鶴選手も自らは仕掛けない! 相手から来るのを待っています!」
大淀「もしかしたら、翔鶴さんは動かないのではなく、動けないのかもしれませんね。限界に近いダメージを負っていますから」
大淀「内臓へのダメージは、回復するどころか時間が経つほど響いてきます。既に翔鶴さんは、立っているのが精一杯なのかもしれません」
明石「なるほど! 確かに翔鶴選手、表情は穏やかですが、額には玉のような汗が浮かんでいます! もはや動くことすら出来ないのか!」
明石「夕立選手もそれに気付いた模様! じわりと間合いを詰めます! 夕立選手も冷たい汗を掻いている! その汗は緊張からか、恐怖からか!」
明石「翔鶴選手の拳の間合いに入りました! この距離、夕立選手の必殺の間合いでもあります! そこで歩みを止めた! 両者、動かない!」
明石「まったく動かない! 互いに死の間合いに位置しながら、動こうとしません! これはおそらく、どちらもカウンターを狙っている!」
明石「まるで剣豪の立ち会いです! 先に動いたほうが負ける、それをどちらも理解している! だから動かない、動きたくても動けない!」
明石「両者が近距離で対峙してから30秒が経過! どちらもこの数十秒が永遠のように長く感じていることでしょう! 先に動くのはどちらか!」
大淀「こうなると、集中力の持久戦になります。先に集中力を切らしたほうが負ける……!」
明石「時間は1分を経過! 心なしか、互いの表情が張り詰めて参りました! どちらも精神的な限界が間近に迫っている!」
明石「八極拳とラウェイの構えが対峙し続ける! 次の瞬間に勝負が決まってもおかしくありません! 勝つのは夕立か、翔鶴か!」
明石「動いた! 同時、同時です! まったく同時に仕掛け合った! 必殺の鉄靠背肘撃が放たれる! 翔鶴、再び肘打ちで迎え撃つ!」
明石「きっ……決まっ……!? 両者、お互いの技をまともに食らった! しかし、リングにただ1人だけが立っている!」
明石「立っているのは翔鶴、翔鶴選手です! 信じられません、夕立選手の一撃必殺を、2度に渡って受け切りました!」
明石「夕立選手はこめかみへの肘打ちでダウン! 今度は完全に失神しています! 立ちません! 文句なしのKO勝ち!」
明石「壮絶な幕切れとなりました! 翔鶴選手、UKF最強の一撃を受け切ってのKO勝利! 五航戦の強さをここに知らしめ……あっ!?」
大淀「無理もないですよ……本当に、とんでもない戦い方をする人ですね、翔鶴さんは」
明石「翔鶴選手が倒れました! か、完全に意識を失っています! これは……どうやら、立っていた時点で既に意識がなかったようです!」
明石「えー、少々お待ち下さい! 審議のほうを……はい、はい! わかりました!」
明石「ルール上、ダブルKOの場合は一旦引き分けとし、再試合となります! しかし、翔鶴選手は確かにリング上に立ち続けていました!」
明石「よって、勝者は変わらず! 勝ったのは翔鶴選手、翔鶴選手です!」
大淀「たぶん、レバーは完全に潰されていますよ。意識を失ったのは、限界を超えた激痛によるものでしょうね」
大淀「夕立さんの打撃を受け切って勝とうとするなんて、無謀過ぎます。まるで死にたがっているかのような戦い方ですよ」
明石「それでも、翔鶴選手は勝ちましたね。ほとんど相打ちに近い形ですが……」
大淀「私も驚いています。まさか、夕立さんの一撃必殺を正面から2度受け止めて、それで勝つなんて。まったく有り得ないことですよ」
大淀「翔鶴さんは以前から個人的に注目しているファイターでしたが、ここまで常軌を逸しているとは思ってもみませんでした」
大淀「彼女はあと1歩でトップファイターに仲間入りする実力を身に着けるでしょう。今日の勝利をその足がかりにしてほしいですね」
明石「ありがとうございます。どちらの選手も素晴らしいファイトでした! 皆様、両選手を讃え、もう一度拍手をお願いします!」
試合後インタビュー:翔鶴
―――接戦を制しての勝利となりましたが、今のお気持ちをお聞かせください。
翔鶴「嬉しいといえば、嬉しいです。ただ……変な気持ちです。死力を尽くして勝ったのに、まだ物足りないような……」
翔鶴「今日の試合を通してわかったんですけど、もしかしたら……本当は、私はあまり勝ちたくないのかもしれませんね」
翔鶴「死力を尽くして、限界を超えて、その果てで燃え尽きるように敗北する……それが私の望んでいる戦いなのかもしれません」
翔鶴「夕立さんはとても強かったです。今まで私を負かした選手たちに全く劣らない実力だと思います。勝てたのは……珍しく運が良かったんです」
翔鶴「というより、実質は引き分けですよね。ルールに救われたというか……後で、ファイトマネーを半分お渡ししに行こうかと思っています」
―――今日の勝利を通して、今後に対する心境の変化などはありますか?
翔鶴「少しだけですが、これからの展望が明るくなったように思います。一応勝ちましたから、またUKFにも出してもらえるでしょうし」
翔鶴「今後も練習に励みます。もっと強くなって、もっと強い人たちと戦いたい、というのが私の望みです」
翔鶴「夕立さんとも、また戦いたいです。今日は引き分けだと思いますから、もう一度、心ゆくまで勝負したいですね」
試合後インタビュー:夕立
―――翔鶴選手をどのように思いましたか?
夕立「強いっていうより……とんでもないっぽい。私の必殺技を受けて立ち上がった相手なんて、今までいなかったのに……」
夕立「しかも2回受けても立ってるなんて、ちょっと自信を失くしちゃうっぽい……まだまだUKFには強い人がたくさんいるっぽいね」
夕立「でも……絶対次は勝つっぽい! 忙しくなってきちゃったね、吹雪ちゃんに不知火ちゃん、翔鶴さんにもリベンジしなくちゃ!」
夕立「今日は負けちゃったけど、次は絶対グランプリに出られるよう、頑張るっぽい! 本戦には、もっと強い人がたくさんいるんでしょ!?」
夕立「私、そんな人たちともっと戦いたい! だから、もっともっと強くなって、どんな相手にも勝てるようになるっぽい!」
夕立「今、島風ちゃんが練習してるんだよね? 私の練習にも付き合ってもらうっぽい! それじゃ、バイバイ!」
(夕立選手の帰宅により、インタビュー中止)
明石「えー皆様、お疲れ様でした! これにて本日の放送は終了となります!」
明石「次回はUKF無差別級グランプリ、3回戦! A&Bブロックそれぞれの決勝戦と共に、エキシビションマッチ3戦目、計3試合を行います!」
大淀「3回戦ともなると、残っている選手のレベルはぐっと高くなります。今まで以上に激しい戦いになるでしょうね」
明石「では、対戦カードのほうを確認してみましょう! こちらです!」
Aブロック決勝戦
戦艦級”不沈艦” 扶桑 VS 戦艦級”破壊王” 武蔵
Bブロック決勝戦
戦艦級”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルク VS 戦艦級”ザ・グレイテスト・ワン” 長門
エキシビションマッチ3戦目
未公開
明石「これは……Aブロック、Bブロック、どちらの対戦もアレですね。因縁の対決というか……」
大淀「ええ。性質としては真逆ですが、どちらも『リベンジ』を賭けた戦いになります」
大淀「勝敗がどうなるか、まったく予想が付きません。死闘になることは間違いありませんけどね」
明石「エキシビションマッチも楽しみですね。実質、リクエストの1位と2位ですから、もう誰が出るかは予想が付くかとは思います」
大淀「ええ、本当に楽しみです。私もしっかり準備しておきたいと思います」
明石「……大淀さんになぜ準備の必要が?」
大淀「知ってますか? エキシビションマッチ3戦目のみ、ファイトマネーの額が違うんです」
大淀「1戦、2戦目は3000万円勝者総取りでしたが、3戦目のみ5000万円なんです。どちらも注目選手同士ですからね」
明石「はあ……だからなんです?」
大淀「うふふ、秘密です。でも、お約束します。きっと視聴者も、明石さんもびっくりすると思いますよ」
明石「はあ、そうですか……では、次回の放送予定日ですが、既に確定しております!」
明石「次回は2/26(金) 22:00より放送予定です! ぜひお見逃しなく!」
大淀「次は放送が遅れるようなことは絶対にしてほしくないですね。大丈夫でしょうか?」
明石「大丈夫です。薬と栄養ドリンクの貯蔵は十分ありますから」
大淀「そうですか……では、次回放送日にお会いしましょう」
明石「はい! それでは皆様、また次回! 本日は放送が遅れて申し訳ありませんでした! 次回放送日のほうも是非見に来てください! よろしく!」
―――かつての借りを返すため。愛する者を辱められた復讐のため。2つの因縁の対決が幕を開ける。
―――死闘の裏で、欲に目の眩んだ大淀が暗躍する……次回放送日、2/26(金) 22:00より
今後の参考にさせていただくため、良かったらアンケートのご協力をお願いします。
UKF無差別級グランプリアンケート
https://docs.google.com/forms/d/1-Op3dFpL7-ENHBllODf01-OICl284zcc7rwxs_nDR0U/viewform
翔鶴VS夕立良い試合でした!
嫁ビス子の怪物ぶりがマジパナイ
>>480
ありがとうございます。何かしらの形でそういうコメントをいただけると、次回放送予定日に確実に放送できる確率が高まります。
―――大会運営委員長が心の平衡を失ったのはいつの頃からであろう。
―――速筆である筈の指の動きを制御できぬと自覚した時ではなかったか。
大淀「えっ、嘘でしょ。延期ですか!?」
明石「はい……ちょっと大会運営委員長の体調が思わしくなくて。事実上のドクターストップが掛かりました」
大淀「そんなの、今に始まったことじゃないでしょう。海外から取り寄せた謎の薬さえあれば大丈夫なんじゃないですか?」
明石「そのはずだったんですけど、なんか最近、指がほぼずっと痙攣しっぱなしな上、ロボットみたいにしか動かせなくなってきたらしくて」
明石「通ってる病院の担当医に見せたら、『あんた絶対指に負担の掛かることしてるでしょ?』ってズバリ指摘されてしまったそうです」
大淀「ああ……それでドクターストップですか」
明石「ついでに、『わしゃC-3POか! ってくらいに指が動かないんです』ってボケを美人看護師の前でスベったので、そのショックで鬱にもなってます」
大淀「そっちは知りません。で、いつになるんですか?」
明石「3/4(金)、つまり1週間ほど時間をもらえればなんとか……」
大淀「次は大丈夫なんですね? 視聴者からも叩かれるし、何よりその日までビスマルクさんを管理しておくのが大変なんですよ」
明石「ビスマルクさんは大丈夫です。伊8さんに大金を渡して相手をしてもらっていますから」
大淀「相手ってそれはつまり……いえ、やめておきます。じゃあ、正式決定ということで?」
明石「はい。次回放送日は3/4(金)に延期となりました! 申し訳ありません!」
明石「じきに大会運営委員長宅にロシアから取り寄せたよくわからない薬が届くので、それを使えば再開は十分可能という判断です!」
明石「これ以上の延期は絶対にありませんので、どうかご容赦の方をお願いします!」
ツイッターのほうで延期の告知をするのを忘れていました。知らずに見に来ていただいた方はまことに申し訳ありません。
次回の放送予定日は3/4(金)22:00になりますので、どうかよろしくお願いします。
今はアスリートが競技前に使ったら5割方薬物検査で引っかかるロシア製の薬が効いているのでそこそこ調子はいいです。
ところで大会運営委員長のツイッターはこちらです。
https://twitter.com/fish12356780
予定通り放送を行います。全力で準備中。
明石「残念なお知らせがあります。大会運営委員長がやらかしました」
大淀「……延期は二度とないって言ってましたよね? まさか間に合わなかったわけじゃ……」
明石「いえ、ギリギリ間に合ってたんですけどね。ちょっと大きなミスをやってしまったみたいでして」
明石「メタな発言は禁止されてるのでぼかして言いますと、大会運営委員長はファイルを4つに分けて作業し、後で統合するという形を取っていたんです」
明石「それで作業を終え、中身を統合し、不要となったファイルを消したんですけど……実はこの時点で、うち1つのファイルを統合し忘れていました」
大淀「……つまり、4分の1の作業が消失したってことですか?」
明石「そういうことです。大会運営委員長はファイルを削除したと同時にゴミ箱を空にする、という悪癖がありまして。もう復旧は不可能です」
大淀「なんで確認しないんですか。そういうミスで首をくくる寸前まで行った人を見たことがあるはずでしょう」
明石「ほんと、なんで確認しなかったんでしょうね。せめてゴミ箱のクリーンアップさえしなければ、ことは簡単に済んだんですけど」
明石「復旧できるソフトも探せばあるかもしれませんが、それを導入する時間と、やり直す労力を比較して、大会運営委員長はやり直すことを選びました」
大淀「そうですか。で、いつになるんです?」
明石「1時間延長して、23:00までには……」
大淀「その時間なら絶対に大丈夫ですね? ダメだったら部屋に興奮状態のビスマルクさんを放り込みますよ」
明石「大丈夫です。大丈夫って言ってました。カフェインの過剰摂取でものっすごいえづきながら」
大淀「……じゃあ、待ちましょうか」
明石「はい。視聴者の方々、申し訳ありません! 放送時間は23:00に変更させていただきます! もう少々お待ち下さい!」
明石「……あの、大会運営委員長が『あと30分!』って喚いています」
大淀「もうビスマルクさん、部屋に向かいましたよ。今頃ドアをノックしてると思います」
明石「だからこそ叫んでるんじゃないですか? 仕方ありませんから、ビスマルク選手に戻ってもらいましょう」
大淀「いやいや、一度野に放ったビスマルクさんを戻す方法なんてありませんよ」
明石「いえ、あります。ビスマルク選手は伊8さんが気に入ったみたいで、彼女の頼みなら聞いてくれます」
大淀「え、そうなんですか? そこまで関係性を築けるとは……伊8さんって凄いんですね」
明石「まあ、後ほど伊8さんは精神病棟に入ることが確定してますけどね」
大淀「……ん?」
明石「じゃあ、ちょっとビスマルクさんを戻します。あと30分で本当に大丈夫みたいですので」
大淀「はあ……じゃあ、告知しておきますね」
大淀「視聴者の方々、すみません。大会運営委員長が無能なので、あと23:30までお待ち下さい。本当に申し訳ないです、私の活躍をこんなにお待たせしてしまって」
―――その後に訪れる運命の刻を、大淀は知らない。
明石「皆様、大変長らくお待たせしました! これより第二回UKF無差別級グランプリ、3回戦を開催致します!」
明石「本日の予定はA&Bブロックそれぞれの決勝戦、およびエキシビションマッチ3戦目の計3試合の放送となっております!」
大淀「いやーようやくですね。やっと私の活躍がお見せできる日がやってきましたよ」
明石「大淀さんは出ません! さて、随分と時間が押してしまったことですし、さっそく試合を始めて行きたいと思います!」
明石「まずはAブロック決勝戦! 第一回UKF無差別級グランプリから始まった、因縁の対決が幕を開けます!」
明石「生き残るのは不沈艦か、破壊王か! まずは彼女から登場していただきましょう! 赤コーナーより新生破壊王の入場です!」
試合前インタビュー:武蔵
―――これから念願の扶桑選手との対戦に臨まれるわけですが、今の心境をお聞かせください。
武蔵「ここまで来るのに随分と長い道のりを歩いてきたように思う。だが、この場所がゴールだというわけではない」
武蔵「私は今、ようやくスタートラインに立ったんだろうな。全てはまだ、始まってすらいないんだ」
武蔵「扶桑に敗北したとき、何もかも失った。地位も、名誉も、誇りも。だが、今更それらを取り戻そうとは思わない」
武蔵「失ってこそ得られたものもあったからな。一から全てをやり直した結果、全く新しい自分に出会えた。そのことを、心から扶桑に感謝したい」
武蔵「この感謝の想いを、扶桑には戦いを通して示したい。あの頃の私とは違うんだと見せつけることでな」
―――扶桑選手のことをどのように思っていらっしゃいますか?
武蔵「思うところは色々あるが、形ある言葉にするのは難しいな。ただ1つ言えるのは、扶桑は誰よりも強いということだ」
武蔵「おそらく、天性の才と呼べるものを扶桑はほとんど持ちあわせていなかったに違いない。彼女はゼロからあそこまで強くなったんだ」
武蔵「扶桑が歩んできた年月の重さは、他のどの選手とも比ぶべくもない。私をして、ようやく扶桑の足元に届いたところだと思っている」
武蔵「扶桑は強い。彼女を弱いという奴がいるなら、この私が殺してやる。扶桑は最高のファイターだよ」
―――戦う前に、扶桑選手に伝えたいコメントなどはありますか?
武蔵「何もない。言葉などなくても、扶桑は私の闘志に全身全霊で応えてくれるだろう」
武蔵「私は扶桑に挑戦者として戦いを挑む。出し惜しみはしない。慢心も油断もない。私の培ってきた全てをぶつけ、扶桑に勝つ」
武蔵「そうしなければ、私はどこへ行くこともできないんだろう。優勝なんて今はどうでもいい。今はただ、扶桑に勝ちたいんだ」
武蔵:入場テーマ「FinalFantasyⅩ/Otherworld」
https://www.youtube.com/watch?v=kXDxYIWAT7Y
明石「超絶パワー×超絶テクニック! 想像を絶する鍛錬の日々により、かつての豪腕ファイターは神業級の技術まで手に入れてしまった!」
明石「喧嘩屋、霧島を一蹴し、立ち技格闘界王者、赤城を封殺勝利! そしてとうとう、彼女はこのリベンジマッチの舞台に降り立った!」
明石「屈辱の初戦敗退から1年、今の私に一切の隙はない! 今こそ、あの敗北の借りを返すとき!」
明石「その両の拳は、奇跡の不沈艦を打ち倒すことができるのか! ”破壊王” 武蔵ィィィ!」
大淀「さあ、武蔵さんにとっては念願の扶桑戦ですね。表情からも、その意気込みの高さがありありと伺えます」
明石「熱くなっているという感じではないですけど、すごい気迫ですね。見ているだけで圧倒されるというか……」
大淀「あれほど望んでいた扶桑さんとの試合ですからね。彼女にとって、この試合は決勝戦以上に重い意味を持つのかもしれません」
明石「霧島戦、赤城戦の両方を圧勝で飾ってきた武蔵選手ですが……扶桑選手が相手となると、どのような戦いになると思われますでしょうか?」
大淀「……1つ言えるのは、1回戦、2回戦のとき以上に、この試合での武蔵さんは強いと思います」
大淀「武蔵さんは霧島戦を試運転だと称していました。ですが、もしかすると……赤城さんとの戦いすら試運転に過ぎなかったように思えます」
明石「あれが試運転? まさか、赤城選手を相手にそんな真似が……」
大淀「武蔵さんの目的は優勝、それ以前に扶桑さんに勝つことです。扶桑さんに勝つためには、グラウンド対策は避けて通れません」
大淀「ならば、その前に一度グラウンド戦を試しておきたい、と考えるのが自然ではないでしょうか。その相手に赤城さんは好都合だったんです」
大淀「未だかつてテイクダウンを取られたことのない立ち技王者の赤城さんからテイクダウンを奪えるなら、扶桑さんからもきっと奪える」
大淀「そう考えた武蔵さんは、打撃ではなく意図的にグラウンド戦へ持ち込んだように思えます。赤城さんの柔術は予想外ではあったでしょうけど」
大淀「いえ、柔術さえも武蔵さんにはグラウンド技術を試す最高の機会と捉えたかもしれません。そして存分に自分の技を試し、勝った……」
明石「……赤城選手との試合で、武蔵選手は手を抜いていたということですか?」
大淀「手を抜いた、というのとは少し違うでしょう。あれはあれで、武蔵さんは全力で戦ったんだと思います」
大淀「赤城さんをグラウンドで圧倒できないなら、この先の勝利は有り得ない。だから武蔵さんは敢えて自分の技を制限して戦ったんです」
大淀「そうした危険を冒してまで行なったリハーサルを終えて、武蔵さんはこの場に立っています。もはや、自分の技に一切の不安はないでしょう」
大淀「おそらく、この試合で武蔵さんは真の実力を明らかにします。立ち技でも、グラウンドでも惜しみなく技を発揮するでしょう」
大淀「その実力がどれほどのものか、私には想像も付きません。それだけ、今の武蔵さんは計り知れない力を持っています」
明石「……まさか、扶桑選手にも圧勝する、という展開も有り得るのでしょうか」
大淀「私の願望かもしれませんが……それはないと思います。何せ、あの扶桑さんですからね」
大淀「扶桑さんが強いからこそ、武蔵さんもここまで強くなったんです。どちらの選手も、実力者であることは疑いようもありません」
大淀「敗北を糧に駆け上がってきたトップファイター同士です。実力の差如何に関わらず、どちらが勝ってもおかしくない……と私は思います」
明石「……ありがとうございます。では、青コーナーより選手入場! かつて武蔵選手を下した、奇跡のファイターの登場です!」
試合前インタビュー:扶桑
―――武蔵選手のことをどのように感じていらっしゃいますか?
扶桑「……1年前の武蔵さんも強かったとは思いますが、付け入る隙はありました。でも、今の武蔵さんにそういうものはありません」
扶桑「あれからどれだけの鍛錬を積まれたのか……私は才能がないから練習してるのに、練習量でも追い抜かれてしまったかもしれませんね」
扶桑「元々武蔵さんは私より格上の実力を持つ方です。それなのに、あれから更に強くなってしまって……本当に凄いですね、武蔵さんは」
―――勝つ自信はありますか?
扶桑「……今の武蔵さんと私を比べたとき、私が優っているところは1つもないでしょう。パワーもテクニックも、武蔵さんが遥かに上です」
扶桑「グラウンドの攻防もできて、精神的な甘さすらないとなると、私の勝ち目は万に一つもない……ということになってしまいますね」
扶桑「困りました。3回戦で長門さんクラスの方と戦うことになるなんて……ふふっ。本当に運がないですね、私は」
―――嬉しそうにしていらっしゃるように見えますが、気のせいでしょうか?
扶桑「いえ、嬉しいわけじゃないんですよ。ちょっとだけ、おかしいなって思ってしまっただけで」
扶桑「私、武蔵さんのことが怖いんです。こんなに怖いと思ったのは赤城さん以来かしら……その赤城さんでさえ、武蔵さんには敵いませんでした」
扶桑「武蔵さんは私よりずっと強い。勝ち目なんてない、だから戦うのが怖い……でも、よく考えたら、そんなの今更って感じですよね」
扶桑「今でこそ私はトップファイターなんて言われてますけど、勝負はいつもギリギリです。今まで戦ってきた方たちは、私より強い人ばかりでした」
扶桑「負けて当たり前の戦いを、それでも私は何度も勝ってきたんです。だから、今回もきっと同じです」
扶桑「負けたくないから、武蔵さんに勝ちます。実は勝算だってあるんです。勝てると思うから、私は武蔵さんと戦います」
扶桑「勝ち目は万に一つもないかもしれませんけど、ゼロじゃないなら私には十分です。そういうの、慣れてますから」
扶桑「武蔵さんには悪いんですけど……私は、ここで負けるわけにはいかないんです」
扶桑:入場テーマ「Chthonic/Broken Jade」
https://www.youtube.com/watch?v=heF_NPJbv8Y
明石「ここに世紀のリベンジマッチが実現しました! 入場してくるのは、かつて格上と言われた武蔵選手を一瞬で仕留めた奇跡のファイター!」
明石「幾多の敗北と勝利を積み重ね、ここまで駆け上がってきた! あの長門さえ苦しめた彼女が今、史上最強の挑戦者を迎え討つ!」
明石「相手は己と同じく敗北の淵から這い上がってきた、”破壊王” 武蔵! 破壊の王はより一層破壊力を増して、優勝への道に立ち塞がる!」
明石「何人たりとも、悲願の優勝への道を阻ませはしない! ”不沈艦” 扶桑ォォォ!」
大淀「……落ち着いた表情をされてますね。あまり気負ったところは感じられません」
明石「今日は関係者席に山城さんが着いていらっしゃいます。落ち着いている扶桑選手とは反対に、山城さんは心配そうな視線を送っていますね」
大淀「まあ、相手が相手ですからね……あ、扶桑さんが笑顔で手を振りました。案外、余裕があるみたいですね」
明石「それだけ武蔵選手に勝つ自信がある……ということでしょうか」
大淀「どうなんでしょうね。おそらく、純粋な格闘術において、武蔵さんは扶桑さんを大きく上回っています」
大淀「正攻法ではまず勝ち目はありませんし、小細工の通じる相手でもありません。勝率は極めて薄い、と言わざるを得ないでしょう」
明石「……あれ? でも、大淀さんは先程、どちらが勝ってもおかしくはないと……」
大淀「それなんですよ。扶桑さんが他のどの選手よりも強い点はそこなんです」
大淀「例えば私なんかは、絶対に勝てるという確信がなければリングには上がりません。それはどんな選手も似たようなものだと思います」
大淀「反面、ときに選手というのは勝率の薄い試合に臨まざるを得ないことが多々あります。こういうトーナメントでは特にね」
大淀「そういう格上の相手と戦う場合、選手は皆思い悩みます。無理やり自信をひねり出してみたり、頭を空っぽにして試合に臨んでみたりします」
大淀「精神との折り合いがつかないままリングに登る選手だっていますね。まあ、どうやっても大抵は負けてしまうんですけど」
明石「その中だと、扶桑さんはどのタイプになるんでしょうか?」
大淀「どれも当てはまりません。扶桑さんはね、勝率がゼロに等しい相手だろうと、勝つこと以外何も考えていないんです」
大淀「負けたらどうしよう、なんてことは端から頭にないんですよ。試合前は謙遜された発言をしてますけど、実は負ける気なんて更々ありません」
明石「それはつまり、大の自信家っていうことでしょうか?」
大淀「いえ、自信があるわけではないんでしょうね。扶桑さんは自分と対戦相手に実力の開きがあるときは、それをはっきりと認めてますから」
大淀「ただ、勝利への執念が桁違いなんです。長門さんにあそこまで食い下がったのも、その不屈の精神があったからです」
大淀「私が長門さんと対峙した印象を『絶壁』と表現したのは覚えていますか? 扶桑さんも、きっと似たような印象を受けたと思います」
大淀「私はその時点で立ち尽くしてしまいましたが、扶桑さんは何の躊躇いもなく向かって行きました。ただ勝つことだけを考えてね」
明石「扶桑選手はどんな相手からも冷静に弱点を見出して、そこを突くタイプの選手かと思っていたんですけど、そういうわけではないと?」
大淀「もちろん、その分析は外れていませんよ。でもね、赤城さんにも長門さんにも、弱点と言えるほどものは何もないんです」
大淀「それでも扶桑さんは向かっていけるんです。目の前に絶壁があるなら、素手の拳を何万回打ち込んででも崩してやる、くらいの覚悟でね」
大淀「可能性がゼロでさえなければ、そのごく僅かな勝率を執念でもぎ取ってしまう。それが扶桑さんの強さなんです」
明石「……今の武蔵選手にも弱点はありません。それでも、扶桑選手は全力で勝ちに行くということでしょうか」
大淀「ええ。それがたとえ何万分の1の確率でも、扶桑さんなら勝機はある。だって、あの人は負けることなんて1ミリも考えてませんからね」
大淀「ただし、勝利への執念なら武蔵さんも十分持ち合わせています。あの2人がぶつかり合ったとき、一体どんな結末が待っているんでしょうね」
明石「なるほど……では、具体的に試合展開としてはどう予想されますか?」
大淀「そうですね……立ち技では武蔵さんが圧倒的に有利です。赤城戦の最後に見せた、ヒットマンスタイル。あれが曲者です」
大淀「本来、あのスタイルは非力なアウトボクサーが使うものです。フットワークと左ジャブで翻弄し、回避とカウンターを主軸に立ち回ります」
大淀「この戦い方には高い敏捷性と反射神経、そして天性のセンスが求められます。ですので、扱える選手はボクサーにもごく僅かしかいません」
大淀「しかし、武蔵さんは鍛錬によってこのスタイルを完全にものにしています。その上、元々武蔵さんは豪腕を生かしたインファイターなんです」
大淀「ならば状況次第でテクニカルに翻弄するか、パワーで押し込むか、スタイルをチェンジしつつ攻めることができます。非常に対処が厄介です」
大淀「ですので、スタンド勝負を挑むのは無謀です。かと言って、グラウンド技術も赤城さんを完封するレベルで、しかもタックルまで扱います」
大淀「はっきり言って、手がつけられません。強いて有効な戦術があるとすれば、テイクダウンを奪って素早く関節を極めて折る、くらいですかね」
明石「となると……まずはどうテイクダウンを奪うか、という話になってきますね」
大淀「ええ、それ自体も非常に難しいんです。下手に胴タックルを試みれば、切られた挙句持ち上げられて、マットに叩きつけられてしまうでしょう」
大淀「ガードポジションから絞め技を狙っても、武蔵さんは構わず殴ってくるでしょうしね。寝技に引き込むのも危険が伴います」
明石「情報を並べてみると……実に絶望的ですね。扶桑選手が勝つ可能性は本当にあるんでしょうか……」
大淀「ある、と私は考えています。ただし、どちらが勝つかはわかりません」
大淀「敗北を味わい、二度と負けないと誓ったファイター同士の戦い。当然のことながら、この試合の勝者は1人だけです」
大淀「死力を尽くした戦いになるでしょう。私が確実に予想できるのはそこまでです。後は、始まってみないとわかりませんね」
明石「ありがとうございます。さて、とうとう両者がリングイン! こうしてリング上で向かい合うのは2度目になります!」
明石「そのときの勝者は扶桑選手! しかし今、目の前に立っているのは、あのときより遥かに強大な力を手にした武蔵選手です!」
明石「両選手の心中にはどのような想いが……あっ、これは……武蔵選手が手を差し出しました! 扶桑選手に握手を求めています!」
明石「通常、UKFの試合では握手は行われませんが……扶桑選手、これに応じました! 2人のトップファイターが強く手を握り合った!」
明石「握手を交わしつつも、両選手に笑顔はありません! 今から始まるのは、互いの誇りを賭けた死闘! 息苦しいほどの闘志が渦巻いています!」
明石「固く握手と視線を結び、ついに試合開始間近となりました! 視線を切らぬまま、ゆっくりと手を離してコーナーへ戻っていく!」
明石「会場からは割れんばかりの歓声が響いていますが、2人とも全く意に介さない! ただ静かな闘志を秘めた目で、相手をしかと捉えている!」
明石「この試合の勝者はただ1人! 残るのは奇跡の不沈艦か、はたまた捲土重来を果さんとする破壊王か!」
明石「今、死闘の火蓋が切って落とされる! ゴングが鳴った、試合開始です!」
明石「両者、ゆっくりとコーナーから歩き出す! 先に構えを取ったのは武蔵! 例のヒットマンスタイルを取り、軽やかにステップを踏み始めた!」
明石「対する扶桑選手、いつもの空手の構えを取ります! これは打撃に付き合おうというのか、はたまた別の意図があるのか!」
大淀「こういうとき、扶桑さんはどんな手を使ってくるかわかりませんからね。まさか真っ向からの打ち合いはしないでしょうが……」
明石「さあ、両者が慎重に距離を詰める! 間合いが着実に近づき、早くも拳の射程内! 先に動くのはどちらか!」
明石「動いた! 仕掛けたのは武蔵です! しなる鞭のようなフリッカージャブ! 扶桑選手、これを辛うじてブロック!」
明石「再びフリッカージャブが放たれた! 速い! 目で追うのがやっとです! 武蔵選手の拳が扶桑選手の鼻先を掠めました!」
明石「武蔵選手、積極的にジャブを放って徐々にプレッシャーを掛けて行きます! 扶桑選手は打ち返さない! やはりカウンターを警戒している!」
大淀「武蔵さんの腕力なら、ジャブでも当たり方次第で十分ダメージが入ります。それに、コンビネーションの右も気を付けないと……」
明石「立て続けに左ジャブ! これは扶桑選手の頬を叩いた! ラッシュに押されてか、扶桑選手やや後退!」
明石「合わせて武蔵選手が前に出る! ジャブを打ちながら着々と扶桑選手を追い詰めて行きます! ダメージこそないものの、扶桑選手劣勢!」
明石「フットワークで回り込みつつ、武蔵が更にフリッカージャブ! わずかに顎を掠めた! 扶桑選手、反撃はしない!」
明石「まだ両者、出方を伺うような攻防です! 武蔵選手はジャブしか打たず、扶桑選手は慎重に距離を取るのみ! 大きな動きはありません!」
明石「どちらも勝負に出るタイミングを計っているのか! 武蔵選手がまたフリッカージャ……いや、右ストレート! ワンツーで右を……あっ!?」
大淀「なっ!?」
明石「い……一本背負い炸裂ぅぅぅ! 扶桑選手、コンビネーションの右を完璧に捉えた! 武蔵選手を一息に投げ落としました!」
明石「まるで右が来るタイミングを知っていたかのように綺麗に投げた! 武蔵選手、テイクダウン! マットに勢い良く叩き付けられました!」
大淀「多分、読んでいたんじゃなくて、ヤマを張っていたんでしょう。あのタイミングで右が来ることに賭けて、投げを狙っていたんです。」
明石「素早く扶桑が武蔵に跨った! マウントポジション! 扶桑選手、早くも大きなチャンスを手にしました! グラウンド戦に移行します!」
大淀「ここからが重要です。扶桑さんは2度と武蔵さんを立たせるつもりはないでしょう。ここで決めに行くはず……!」
明石「まずは扶桑選手、鉄槌打ちを振り落とした! これはブロックされる! 武蔵、すかさず下からパンチを放った!」
明石「扶桑、その腕を捕らえる! 腕十字、腕十字です! 早くも極め技を繰り出した! こ、ここで決まるのか!?」
明石「いや、武蔵は腕をフックして堪えています! 艦娘一とさえ言われる腕力は、扶桑選手の全身の力にさえ勝るのか! 腕十字を極め切れない!」
明石「あっ、武蔵選手が身を起こした! 力ずくでマウントを返しに掛かる! 逆に扶桑選手からマウントポジションを奪おうとしています!」
明石「しかし扶桑、それをさせない! 腕十字を腕ひしぎ三角固めに切り替えた! なおも武蔵の右腕を折りに掛かる!」
明石「先程は両腕、しかし今度は片腕のみに扶桑の膂力がのしかかっています! これは武蔵の腕力と言えども耐え難いは……うぇ!?」
大淀「こ……ここまでだなんて……!」
明石「む、武蔵が立ち上がった! 右腕を扶桑選手に極められたまま、両足でマットに屹然と立ちました! う、腕一本で三角固めに耐えている!」
明石「パワーで勝ると言えども、扶桑選手は戦艦級! 決して非力なファイターではありません! しかし腕が折れない! す、凄まじい腕力です!」
明石「武蔵は立ち上がりましたが、扶桑、未だ腕に絡みついて離れない! 腕を折るまでは絶対に離さないという執念を……あっ、踏み付けた!」
明石「武蔵の踏み付けです! 顔面狙いの踏み付けを扶桑選手、避けない! モロに顔を踏み抜かれました! こ、これは効いたか!?」
大淀「ふ、踏み付けを受けに行くなんて、無謀過ぎる……!」
明石「ま、まだ扶桑選手に意識はあります! しかし、目尻を切ったのか顔面から出血! それでも扶桑は離れない! 武蔵、再び踏み付けた!」
明石「扶桑選手、これもまともに食らった! このダメージは深刻……あっ!? む、武蔵が顔面を踏み付けたまま、足をどけない!?」
明石「なっ……武蔵選手、扶桑選手の顔に足を掛け、三角固めから腕を抜こうとしています! あまりにも強引な極め技からの脱出だ!」
明石「もはや相手への尊敬など知ったことではない! いや、手段を選ばないことこそ尊敬の表れか! 武蔵、扶桑選手を足蹴にして万力を込める!」
明石「ぬ、抜けたぁぁぁ! 抜けてしまった! 武蔵、扶桑選手渾身の三角固めから脱出成功! 長時間極められ続けながら、右腕は未だ健在!」
明石「扶桑、素早く立ち上がります! 武蔵は右腕を回してノーダメージをアピール! 対する扶桑、踏み付けのダメージが色濃く浮き出ている!」
明石「再度スタンド状態からの対峙となりました! 絶好のチャンスを逃した扶桑、絶対絶命の危機から脱した武蔵! ここから勝負はどう動く!」
大淀「武蔵さんの右腕には多少なりとも靭帯へ損傷があるはずです。これで打撃の脅威を軽減できはしましたが、状況は扶桑さんにとって不利です」
大淀「さっきテイクダウンが取れたのは、半分は運によるものです。武蔵さんに同じ手は2度と通用しないでしょう」
大淀「ここから武蔵さんはより慎重に、なおかつ確実に打撃で攻めてきます。果たして、扶桑さんにもう1度テイクダウンを取る術があるのか……」
明石「さあ武蔵選手、再びヒットマンスタイルを取った! フットワークで一気に距離を詰める! 扶桑、空手の構えで待ち構える!」
明石「まずは左のジャブ、ジャブ、フリッカージャブ! そして右フック! 高速の連撃が襲い掛かる! 扶桑、辛うじて防いだ!」
明石「武蔵、回りこんで左のフック! 続いて右のショートアッパー! これはボディに入った! 扶桑選手、やや体勢が崩れる!」
明石「すかさず武蔵が左フックを放つ! ギリギリでブロック! 武蔵選手、序盤よりも積極的に攻め立てています! 扶桑に反撃の隙を与えない!」
明石「回り込もうとする武蔵に扶桑選手がローキック! 空振り! バックステップで躱された! やはり武蔵、距離の取り方が絶妙だ!」
大淀「やはりスタンドでは武蔵さんは圧倒的です。これ以上立って戦えば扶桑さんは不利になるばかりでしょう。どうにかして状況を変えないと……」
明石「更に扶桑選手がローキックを打ちますが、また空振り! 武蔵選手、豪腕とは相反するはずの軽快なフットワークで扶桑を翻弄しています!」
明石「今度は武蔵がパンチを打ち込む! フリッカージャブ、右ストレート、左ショートアッパー! アッパーがまたボディに入った!」
明石「ボディへのパンチが着実に扶桑選手のスタミナを削っています! 扶桑選手、劣勢! ここから逆転の可能性はあるのか!」
明石「今度は扶桑が武蔵の顔面へジャブを打った! 当たらない! 拳の射程を完璧に読まれています! 絶妙なスウェーバックで躱された!」
明石「しかし扶桑はなおもジャブを放つ! 一転して攻勢に出るのか! しかし武蔵に打撃勝負を挑むのは危険……あっ、タックルに行った!」
大淀「ちょ、タックルはまずい!」
明石「足を狙った低空タックル! だが武蔵には通用しない! 素早く腰を引いてタックルを切り……いや、タックルじゃない!」
明石「水平蹴り! タックルに見せかけた水平蹴りです! 腰を引いた武蔵の足を刈った! 武蔵選手が大きく体勢を崩す!」
明石「扶桑、その襟を掴む! な、投げたぁぁぁ! 背負投げが決まったぁ! 扶桑、再びテイクダウンに成功……してない!?」
大淀「な、なんて反応速度……!」
明石「武蔵選手が受け身を取った! 体勢が崩れていない! 襟から扶桑選手の手を打ち払い、あっさりと立ち上がります!」
明石「なんということでしょう、扶桑選手、起死回生の背負投げを失敗! またしてもスタンド勝負からの対峙となってしまいました!」
大淀「武蔵さんの組技、投げ技対策が完璧過ぎる……これじゃもう、どうやってもテイクダウンなんて取れそうにありません」
明石「武蔵が再びフットワークを踏み始めた! その動きにダメージは一切なし! 扶桑選手はボディへの打撃が効いているのか、やや息が荒い!」
明石「距離が狭まり、再び打撃戦! チャンピオンボクサーの拳が扶桑選手へ襲い掛かる! 扶桑選手、防戦一方!」
明石「ジャブ、ジャブ、アッパー、ストレート、フック! 武蔵が豪腕と手数で攻め立てる! 顔面、ボディを交互に狙う激しいラッシュです!」
明石「扶桑選手はガードを固めつつ後退! 頭部は守れていますが、ボディには強烈なのが何発か入っている! そろそろ耐久力の限界のはず!」
明石「コーナーを避けつつ扶桑選手が下がる! 武蔵はパンチを繰り出しながら追う! 未だ武蔵選手にスタミナ切れの様子はありません!」
明石「むしろスタミナが心配なのは扶桑選手のほう! 徐々に足取りが重くなりつつあります! まさか、ここで不沈艦は沈んでしまうのか!」
大淀「絶望的です。打ち返せばカウンターを取られる危険があるし、タックルも通用しないとなると、もうやれることが……ん?」
明石「また武蔵の右フックがレバーを叩いた! 非常に苦しい展開です! このまま……ん? 何でしょう、扶桑選手がちらりとこっちを見ました!」
明石「どうしたんでしょう。あっ、またこっちを見……あっ、ああああっ!? な、何だぁぁ!」
大淀「なっ!?」
明石「はっ……ハイキック炸裂ぅぅぅ! 扶桑、武蔵選手の側頭部に右のハイキックを叩き込んだ! 完璧に入りました! クリーンヒットです!」
明石「武蔵の意識がぐらついている! 扶桑、そのまま懐に飛び込んでまたもや背負投げを掛ける! こ、これも決まったぁぁぁ!」
明石「武蔵選手、頭から落とされました! 受け身に失敗! まだ失神はしていませんが、明らかに脳震盪を起こしています!」
明石「すかさず扶桑がマウントを取った! し、信じられない逆転です! 大淀さん、今の攻防は一体何が起こったんですか!?」
大淀「信じられません、あんな小技をこの大舞台で使うなんて……扶桑さんは、あの状況で『よそ見戦法』を仕掛けたんです」
明石「よそ見? それって、さっきの扶桑さんがこっちを見たときのことですか?」
大淀「はい。一瞬なのでよく見えなかったでしょうけど、扶桑さんはひどく驚いた表情でこちらを見ました。何か只ならぬことに気付いたかのように」
大淀「それを間近にいた武蔵も見たんでしょう。一瞬でも気を抜くこと許されない状況で、対戦相手がよそ見をする。普通なら有り得ないことです」
大淀「だからこそ、武蔵さんはまんまと扶桑さんの演技に引っ掛かったんです。何かあったのかと思って、武蔵さんも釣られてこっちを見てしまった」
大淀「武蔵さんの視界が私たちに向く、その隙を扶桑さんは狙ったんです。死角からのハイキック。小細工で武蔵さんからダウンを奪った……!」
明石「な、なるほど……扶桑選手、再び絶好のチャンスを手に入れました! これを逃す手はない、ここで武蔵選手を仕留めに掛かる!」
明石「顔面へ渾身の鉄槌打ち! 入った! 扶桑の拳が、武蔵選手の思考を更に混濁させる! ガードを固める意識すら残っていないようです!」
明石「扶桑が更に顔面を拳で叩く! 今まで打ち込んでくれたお返しだ! 武蔵選手、もはや完全に脳震盪を……はあっ!?」
大淀「あっ、しまった!」
明石「ふ、扶桑選手が引き剥された! これは赤城戦で見せた、あのマウント返しの再現! 武蔵、腕力だけで扶桑選手を引き倒しました!」
明石「恐るべき豪腕! だが武蔵選手、意識がまだ回復していない! マットに膝を付いたまま、マウントを取り返すことができません!」
明石「手は扶桑選手の襟を掴んだまま! 座った体勢での組み合い状態になりました! 扶桑、まずは襟を掴んでいる手を外しに掛か……らない!?」
大淀「うわっ、さすがえげつない……!」
明石「め、目突きを放った! 武蔵、反応が遅れて躱し損ねる! 左目に指がかすった! 武蔵、片目の視力をほぼ喪失!」
明石「更に扶桑、組み合ったまま頭突きを敢行! これは入らない! 武蔵選手、額を突き出した受けに行きました!」
明石「互いの額から出血! まだ勝負は終わっていない! 破壊王武蔵、未だ陥落せず! クリンチで回復を試みようとしています!」
明石「扶桑、クリンチには入れさせない! マットに自ら倒れ込み、武蔵の胴を足で挟む! ガードポジション状態に突入しました!」
明石「下から武蔵の顔面を殴った! 意識の回復を許さない! 武蔵、ガードを固めますが、焦点は定かでないまま! 防ぎ切れるか!?」
明石「また扶桑が下からのパンチ! 死角となった左にフックを入れた! 側頭部に命中! やはり武蔵、打撃をガードし切れない!」
明石「扶桑がなおも下から殴る! 武蔵、たまらずガードを解いて殴り返した! 扶桑、その腕を取る! 足を胴から外す! こ……これは!」
大淀「まさか……!」
明石「さ、三角絞めが決まったぁぁぁ! まるであのときの繰り返し! 扶桑選手、武蔵から2度目の三角絞めを決めたぁぁぁ!」
明石「完全に入っている! これはもう外せません! 頸動脈が極められています! 破壊王武蔵、同じ決まり手での敗北を喫し……嘘でしょ!?」
大淀「た、立てるの!?」
明石「た……立った! 武蔵選手が立ちます! 三角絞めを極められたまま、未だ落ちず! 再び腕一本で扶桑選手を持ち上げ、立ち上がりました!」
明石「なんという腕力、なんという勝利への執念! 破壊王の誇りが2度目の敗北を許さない! まだ武蔵は諦めていません!」
明石「せ、戦艦級の扶桑選手を高々と宙へ振り上げた! た、叩き付ける気だ! そんな力がまだ残っているのか!?」
大淀「嘘でしょ……」
明石「い、いったぁぁぁ! 武蔵、叩き付けを敢行! 扶桑、背中から激しくマットへ落とされた! 破裂したかのような凄まじい音が鳴り響く!」
明石「しかし、扶桑選手は離さない! 勝利への執念ならこちらも負けてはいない! この程度で、最大の勝機を手放すなど論外だ!」
明石「叩き付けを耐え抜かれ、武蔵選手、万策尽きる! もはや前のめりの状態でまった動か……う、動いた!? まだ落ちてない!」
明石「し、信じられない! 武蔵選手、まだ意識があります! しかも、再び扶桑選手を持ち上げようとしている! どこにそんな力が!?」
大淀「く、首の位置をわずかにずらしていて、完全には頸動脈が極まっていないみたいです。だからって、こんな……!」
明石「も……持ち上げてしまった! さっきより位置が高い! ほぼ頭上まで扶桑を持ち上げた! まさか……い、いったぁぁぁ!」
明石「武蔵、再び叩き付けたぁぁぁ! リングが沈み込んでしまうのでないかというほどの衝撃音! 扶桑選手、受け身は取れているのか!?」
明石「ま……まだ扶桑選手、腕を離していない! 表情から察するに、蓄積されたダメージと疲労で限界は間近! それでも叩き付けに耐え抜いた!」
明石「勝利への執念が半端じゃない! やはり勝者はふそ……え、ちょっと。まだやれるの!?」
大淀「なんで!? もう落ちてなきゃおかしいでしょ!」
明石「ど、ど、どういうことだ! 武蔵選手がまだ動いている! さ、3度目をやる気か!? なんでやれるの!? 未だ破壊王、健在!」
明石「またもや扶桑を持ち上げようとしています! しかし、さすがに上がらない! 足がふらついています! 前につんのめりました!」
明石「もう意識はほとんどないはずです! 落ちていてもおかしくない! だが武蔵選手、地獄の淵に足を掛けながら、まるで落ちようとしない!」
明石「再度持ち上げを試みる! 当然、扶桑は離さない! おそらくこれが武蔵選手最期の抵抗! これを耐え切れば扶桑選手の勝利!」
明石「も……持ち上げてしまいました! さっきと同じ位置です! 腕一本で頭上高々と扶桑を持ち上げた! さ、3度目が来る!」
さ、3度目が来る!」
明石「た、叩き付けたぁぁぁ! 会場を衝撃が揺るがす! 叩き付けると同時に、武蔵選手、とうとう膝を着きました!」
明石「これは落ちているのか!? まだ倒れてはいませんが……あっ、扶桑選手が三角絞めを解きました! 落ちています、武蔵選手、失神!」
大淀「……明石さん」
明石「凄まじい攻防となりましたが、最後の最後で扶桑選手が逆転を決めました! 武蔵選手、リベンジならず! 勝ったのは扶桑選手……」
大淀「明石さん。違うでしょ、よく見てください」
明石「はい? 何ですか、大淀さん。だって、ほら。武蔵さんはもう……あ、あれ?」
明石「ふ……扶桑選手が起きない!? こ、これって……ああっ!? む、武蔵選手が立った! ふらつきながらも、自力で立ち上がりました!」
明石「扶桑選手は起き上がりません! いや、ピクリとも動きません! こ、これはまさか……!」
大淀「3度目の叩き付けは……耐えられるようなものではなかったんです。あれは後頭部をマットに打ち付けるものでしたから」
大淀「武蔵さんは三角絞め対策に万全を期していたんでしょう。極められてもすぐに落ちないよう、首のずらし方などを練習してたんだと思います」
大淀「あの叩き付けもそうです。武蔵さんは2度の叩き付け失敗から位置を調節し、3度目を試みたんです。頭からマットへ落とせるように」
大淀「結果、それは成功しました。扶桑さんがいくら打たれ強くても、あの勢いで後頭部を打ち付けられれば耐えられるはずはありません」
明石「れ……レフェリーが扶桑選手の失神を確認しました! しょ、勝者武蔵! 勝ったのは武蔵選手です!」
明石「まさか……まさかあそこから勝負をひっくり返すとは! 絶対絶滅の危機から、執念で勝利をもぎ取りました!」
明石「世紀のリベンジマッチ、制したのはかつての敗者、武蔵! 武蔵選手、決勝戦進出! 破壊王が優勝に向けて王手を掛けました!」
明石「お、大淀さん……扶桑さんの敗因は何だったんでしょうか。やっぱり、最後の三角絞めはまずかったと……」
大淀「いえ……普通なら絶対に落とせてますからね。武蔵さんもギリギリだったと思います。勝敗を分けたのは、ほんのわずかな差です」
大淀「体力、技術、精神、戦術、そして運……それらを引っくるめて、ほんの少し武蔵さんのほうが強かった。そういうことなんじゃないでしょうか」
大淀「扶桑さんは間違いなく強かったし、選択ミスをしたようにも思えません。ただ、それ以上に武蔵さんが強かったとしか……」
明石「な、なるほど……あっ、山城さんがリングに上がりました! 意識のない扶桑選手の元へ駆け寄っていきます!」
明石「扶桑選手は未だ意識を取り戻していません! 山城さんがその側に寄りすがるって……あっ。泣いて……いらっしゃいますね」
大淀「……悲しいですね。扶桑さんは、誰よりも山城さんに向けて優勝を約束されてましたから」
明石「セコンドの肩を借りてリングから降りようとしていた武蔵選手ですが、その足を止めました! 制止するセコンドの手を振り払っています!」
明石「武蔵選手が扶桑姉妹の元へ駆け寄り……いや、立ち止まりました。その場で立ち尽くしています。複雑そうな表情で扶桑姉妹を見つめています」
明石「何か思うところがあるのでしょう。山城さんに声を掛けることはしません。代わりに武蔵選手、扶桑姉妹へ深々と一礼を捧げました」
明石「その一礼に、山城さんも泣きながらではありますが、礼を返します。会場から静かにではありますが、一斉に拍手が沸き起こりました」
明石「そのまま、振り返らずにまっすぐリングを降りて行きます。後ろ姿に大きな歓声が送られてます。まさに武人、という潔い振る舞いですね」
大淀「そうですね……この勝利で、武蔵さんは何を思うんでしょうか。当面の目標はこれで果たせたわけですが……」
明石「ガッツポーズをするような気分ではないみたいですね。なんとも言えない表情をされてました」
大淀「このまま決勝戦を前に燃え尽きてしまうとか、そういうことにはならないといいですね。多分、武蔵さんなら長門さんと互角ですよ」
明石「あ、初めて明言されましたね。この試合で、それがはっきりとわかったと?」
大淀「ええ。武蔵さんは完璧です。パワーとスタンドの攻防に至っては、長門さんを確実に上回っているでしょう」
大淀「決勝戦には大きな期待を寄せていいと思います。扶桑さんは残念でしたが……彼女なら、またいつか必ず立ち上がってくれると信じています」
明石「ありがとうございます。奇跡の不沈艦、破壊王の手により轟沈セリ! しかし、どちらも最高のファイターでした!」
試合後インタビュー:武蔵
―――扶桑選手に勝った今、どのようなお気持ちでしょうか。
武蔵「……達成感は何一つない。扶桑に勝てば、きっと何かを得られるはずと思っていたんだが……今はむしろ、大事なものを失った気分だ」
武蔵「勝ったのは私だ。その確信は揺るがない。だが、何だろうな……重い勝利を手にした。私には抱え切れないほど、重い」
武蔵「すまない、インタビューはこれくらいにしてくれないか。まだ気持ちの整理が付かないんだ……扶桑には何も言わないでくれ」
(武蔵選手の取材拒否に付き、インタビュー中止)
試合後インタビュー:扶桑
扶桑「……私、負けたんですか? 頭を打ったせいか、試合の記憶がほとんどなくて……最後はどうなったんでしょう?」
扶桑「そう……そうですか。三角絞めから叩き付けられて……そっか、もうちょっとだったんですね」
扶桑「……ごめんね、山城。私、勝てなかったわ。また約束を破ってしまったわね……」
―――武蔵選手はどのように感じましたか?
扶桑「強かったです。武蔵さんなら、長門さんにも勝てるんじゃないでしょうか……きっと優勝するのは武蔵さんだと思います」
扶桑「負けたから言うんですけど、せっかく私に勝ったんですから、そのまま優勝してほしいですね。本当は、私が優勝したかったんですけど」
扶桑「……正直に言えば……悔しい、です」
小休憩:10分後に再開
~再開~
明石「……さて、3回戦の2試合の内、1つ目の因縁の対決が終わったわけですが」
大淀「次の試合が問題ですね。こっちの因縁は、さっきの試合ととはまったくの別物ですから」
大淀「因縁とはいえ、扶桑さんと武蔵さんには互いに認め合う心がありました。でも、こっちにそういうものはまるでないでしょう」
大淀「リベンジマッチではなく、純粋な『復讐』。そういう陰惨な試合になってしまわざるを得ないでしょうね」
明石「まったくです……それでは、赤コーナーより選手入場! ドイツの狂獣が、再びリングに姿を現します!」
試合前インタビュー:ビスマルク
―――待ち望まれていた長門選手との試合を控えた今、どのようなお気持ちでしょうか。
ビスマルク「ワクワクが止まらないわ! 私が陸奥さんを滅茶苦茶にしちゃったから、長門さんったらすごく怒ってるんでしょう?」
ビスマルク「その怒り、全部私の体にぶつけてほしい! 力いっぱい、思いっきり、徹底的に私のことをぐっちゃぐちゃに壊してほしいわ!」
ビスマルク「そしたら私、どうなっちゃうのかしら! 考えるだけで子宮が熱くなってくるわ。早く、早く戦いたくて仕方ないの!」
―――ドイツ本国のほうから、ビスマルク選手が敗退した場合は修理せずそのまま解体してくれ、との通達がありました。それをご存知ですか?
ビスマルク「うん、知ってるわよ? ていうか私、優勝してドイツに帰っても、どっちにしろ解体されちゃう予定なのよ」
ビスマルク「なんでか知らないけど、私は失敗作らしいの。だからもう要らないんだって。酷いわよね。私だって一生懸命頑張ってるのに」
ビスマルク「そういうことだから、勝っても負けてもどうせ私は死ぬの。残念だわ、まだまだしてみたいことはたくさんあったのに」
―――死ぬのは怖いですか?
ビスマルク「ううん。どっちかっていうと、楽しみかな! だって私、今まで1回も死んだことないんだもの!」
ビスマルク「死ぬのってどういう感じなのかな。冷たいのかな、あったかいのかしら? もしかして、すっごく気持ちいいものだったりして!」
ビスマルク「そう考えると、ワクワクしてくるわね! ああ、早く殺されてみたいわ。案外、長門さんが殺してくれるかもしれないわね!」
ビスマルク「そのときはできるだけゆっくり、うんと私を苦しませて! もう殺してって懇願しても、そのときは絶対に私を殺さないで!」
ビスマルク「私が泣き叫んで、苦しみ抜いて、もう泣く力すら失われたとき、長門さんは全てを赦すかのように、そっと私を抱き起こして……」
ビスマルク「その瞬間、私の命を奪い去って! それが理想! 天国の淵から地獄へ突き落とされるような、そんな絶望を味わって死にたいわ!」
―――試合には勝たなくてもいいということですか?
ビスマルク「あっ、そっか……それだと長門さんを食べられないわよね。うーん、今のなし! やっぱり、私が長門さんを殺しちゃうわね!」
ビスマルク「陸奥さんは少し物足りなかったから、長門さんはお腹いっぱい食べたいわ! もちろん、たくさん痛めつけてから!」
ビスマルク「どうせ私は死ぬんだから、最期くらい私の楽しみに付き合ってよ、ねえ! あはっ、あはははっ!」
ビスマルク「ああっ、試合はまだかしら? 早く血まみれになって、口の中を長門さんの血肉でいっぱいにしたいわ。あはっ、あははははははっ!」
(通訳は伊8さんが精神病棟に入院されたので、呂-500さんに10倍の報酬を払って協力していただきました)
ビスマルク:入場テーマ「SAW/Hello Zepp」
https://www.youtube.com/watch?v=vhSHXGM7kgE
明石「狂気! そんな一言では収まりきらない破格の怪物! ドイツから生み出されたこの艦娘は、一体何なのか!」
明石「1回戦では悪魔女王、龍田を圧倒! 超新星ファイター、陸奥までもがこの怪物の狂気に飲み込まれた! その戦いぶり、UKF史上最凶最悪!」
明石「血肉を貪り高々と笑うこの怪物を、止めることはできるのか! ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルクゥゥゥ!」
大淀「とうとう3回戦まで来てしまいましたね。ここが最終防衛ラインです。彼女が決勝進出なんて、UKFの消せない汚点になりますよ」
明石「酷い言いようですが、まったく同感です。最初は謎に包まれていたビスマルク選手ですが、先の2戦から改めてわかったことはありますか?」
大淀「そうですね……格闘能力の高さと凶暴性は言うまでもありませんが、あのダメージを意に介さないからくりは何となくわかりました」
明石「からくり、ですか。あの痛みへの異常な耐性には何か仕掛けがあると?」
大淀「まあ、わかったからと言って真似できるわけじゃありませんし、対策もあまりないんですけどね」
大淀「試合での動きを観ると、痛みを与えられた前後を比べて、後のほうが動きのキレが増しているんです。ダメージなんて全くないかのように」
大淀「取材でも、彼女は『痛いのが好き』というマゾのようなことを喋っています。それらから鑑みるに、あの動きの正体は脳内麻薬の異常分泌です」
明石「脳内麻薬というと、エンドルフィンやアドレナリンのような、集中したり興奮したりすると脳内に発生する物質のことですか?」
大淀「そうです。例の研究機関の特殊訓練でそうなったのか、直接脳に改造を施してあるのかはわかりませんが、起きてる現象は同じです」
大淀「アドレナリンが肉体の痛みと疲労を消し、エンドルフィンが多幸感による中枢神経の活性をもたらし、思考をよりクリアにします」
大淀「ついでにエンドルフィンで性的快感も感じているんでしょう。痛みをトリガーにした脳内麻薬の分泌、これがビスマルクさんの最大の武器です」
大淀「脳内麻薬が気付けの役割を果たしているので、脳震盪からの回復も早くなっています。非常に厄介な能力ですよ」
明石「あのダメージを受けても一切動きが落ちない理由はそれですか……対策も取りようがないと?」
大淀「取れなくはありませんが……龍田戦と陸奥戦を比較してみたとき、試合の趨勢以前に、龍田さんのほうがより大きなダメージを与えています」
大淀「それは龍田さんが回復しようのない、人体を直接削るような急所攻撃を何度も行なったからです。もちろん、それでも負けはしていますが」
明石「陸奥戦でも、膝の靭帯を切られたときは若干動きが落ちていましたね。つまり、ダメージよりも人体を壊すような攻撃なら……」
大淀「ええ。ビスマルクさんとはいえ、不死身ではありません。骨折や靭帯の断裂を起こせばさすがに立てなくなるでしょう」
大淀「でもこれ、当たり前の戦術なんですよ。私も大抵の試合でよくやりますし、ビスマルクさんもさすがに警戒しているところだと思います」
大淀「結局、ビスマルクさんに勝つのに簡単な攻略法なんてありません。単純に強いファイターでないと、彼女を倒すことはできないでしょう」
明石「なるほど。ということは、この試合の対戦者はうってつけですね」
大淀「ええ、これ以上はない適役です。ビスマルクさんを相手に冷静さを保つことができ、地力でも破格の実力者です」
大淀「彼女の敗北は、そのままUKFの敗北に直結すると言い切ってもいいくらいです。ぜひ、彼女には勝ってほしいですね」
明石「ありがとうございます。では、青コーナーより選手入場! ベルリンの人喰いを倒すのは、この選手をおいて他にない!」
試合前インタビュー:長門
―――今日の対戦相手について質問してもよろしいでしょうか。
長門「構わない。先日は悪かったな、青葉。あのときはまだ気が立っていた。不躾な態度を取ってしまったことをまず詫ておこう」
―――あれから陸奥選手と何かお話はされましたか?
長門「していない。会いには行ったが、あいつは私と会いたくないようだった。立ち直るには時間が掛かるだろうな」
長門「陸奥を慰めてやりたい気持ちはあるが、それは今すべきことではない。私がすべきことは、ビスマルクを倒すことだ」
長門「あのドイツ女は報いを受けねばならない。UKFは私の戦場だ。その戦場を汚した罪、身を以て償わせてやる」
―――ビスマルク選手との試合を控えた今、どのような心境でしょうか。
長門「とても落ち着いている。試合に臨む前はどんな相手であろうと多少は気が張るものだが、今日に限っては実に気楽な気分だ」
長門「私は今まで、どのような対戦者にも必ず敬意を払ってきた。相手の培ってきた技と鍛錬の日々を尊敬し、全力で戦うことをその称賛としてきた」
長門「今日の試合にそんなものはない。技術への称賛も、健闘を讃え合うこともない。いい試合をしようなどという気も更々ない」
長門「私はただ、路傍の気に食わない石を力いっぱい蹴り飛ばすだけだ。虫を殺すようにあいつを踏み潰す。跡形もないほど徹底的にな」
長門「それが戦いと呼べるものになるかどうかはあいつ次第だろう。せいぜい私の前で足掻いてみせるといい」
―――ビスマルク選手が命を賭けて戦っているということに対して、どう思っていらっしゃいますか。
長門「どうでもいい。ビスマルクが国の威信を背負っていようが、命を賭して戦っていようが関係ない。あいつは今日、この試合で終わる」
長門「私が終わらせる。それだけのことをあいつはしてきた。最期を選ぶ自由がないことくらい、覚悟して然るべきだろう」
長門「ビスマルクが再びドイツの土を踏む日は永遠にやって来ない。あの女が水平線に暁を見ることは、もう二度とない……私がさせない」
長門:入場テーマ「クロノトリガー/魔王決戦」
https://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=1y_DS691Vhc#t=48
明石「最凶VS最強! 彼女こそベルリンの人喰いの進撃を止める者! UKF不動の絶対王者が、リング上で鬼退治をしにやってきた!」
明石「妹である陸奥選手を試合の中で好き放題やってくれた、その悪行許すまじ! 今夜の絶対王者はいつにも増して燃えている!」
明石「復讐するは我にあり! これ以上、私の戦場を汚すのは許さない! ”ザ・グレイテスト・ワン” 長門ぉぉぉ!」
大淀「……良かった。実に落ち着いた表情です。変に熱くなっている様子はまったくありませんね」
明石「取材のときも、長門さんはとても冷静だったそうですよ。その様子がむしろ怖かった、と青葉さんは言ってましたけど」
大淀「静かなる殺気、とでも言いますか。確かに、そういう只ならぬオーラは全身から立ち上っていますね」
大淀「私はそれがいい方向に転ぶとは思います。今日は絶対王者は一味違う、そんな感じがします」
大淀「この試合において、長門さんはUKFの希望全てを背負っています。長門さんならそのプレッシャーを、そのまま強さに変えてくれるでしょう」
明石「さて、大淀さん。事前予想はどうします?」
大淀「正直、やめておきたいですね。いわば怪物同士のぶつかり合いですから、何が起こるかはまったくわかりません」
大淀「外れるとは思いますけど、あえてしてみましょうか。ビスマルクさんのバックボーンは軍隊格闘、長門さんは格闘術全般です」
大淀「何でもありの軍隊格闘ですが、ビスマルクさんは若干ストライカー寄りのファイターです。まあ、抑え込んでの噛み付きが一番怖いんですけど」
大淀「注目すべきところとして、長門さんがビスマルクさんの打撃にどう対処するかですね。彼女なら、手段はいくらでもあるでしょうし」
大淀「あるいは、正面から打ち合うかもしれません。一応見どころだけ提示させていただいて、これ以上の予想はできません」
大淀「ビスマルクさんもそうですが、長門さんも何をしてくるかわかりませんからね。何が起こるのか楽しみでもあり、不安でもあります」
明石「ありがとうございます。さあ、とうとう両者がリングに並び立った! ビスマルク、絶対王者を目の前にしても変わらぬ微笑を浮かべている!」
明石「それを長門選手、冷徹な眼差しで受け止めます! すぐに笑えなくしてやろう、沈黙でそう語っております! 絶対王者、揺るぎなし!」
明石「会場からは長門選手への大きな声援が飛び交っています! ビスマルクにとってはアウェイの環境、しかし人喰い鬼にそんなものは関係ない!」
明石「あるのはただ、相手を蹂躙しようという狂気のみ! 王者の体に文字通り牙を突き立てようと、舌なめずりしていることでしょう!」
明石「果たして王者長門は鬼退治を完遂するすることができるのか、はたまた最悪の結末が訪れてしまうのか!」
明石「三度、地獄の門が開かれる! ゴングが鳴りました、試合開始です!」
※注意事項
・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。
・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。
・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。
・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。
明石「両者、ゆっくりとコーナーからリング中央へ歩みを進めます。まずはビスマルクがファイティングポーズを取った!」
明石「やはり、ビスマルクは打ち合いを望んでいる様子! 長門はこれにどう応える! 絶対王者が構えを取ります!」
明石「これは……いつものファイティングポーズではありません! 右半身を開き、左手を顎に添え、右の拳を縦に突き出した!」
大淀「……ジークンドー?」
明石「ジークンドーです! 足柄選手などが使い手で知られる、中国拳法の1つであるジークンドー! 長門選手、思わぬ構えを取りました!」
明石「予想外であろう長門選手の構えに、ビスマルクの動揺は見られません! 先を取り合うように、両者が間合いギリギリで対峙する!」
明石「異なる構え同士が静かに向かい合っています! 大淀さん、この構えにはどのような意図があると思われますか?」
大淀「……ジークンドーは打撃を捌くことに特化した流派です。ビスマルクさんと打ち合うなら、非常に適した格闘術だと思います」
大淀「ただ、長門さんがジークンドーにどこまで精通しているのか……一通りの格闘技をやっているとはいえ、熟練度はそう高くないはずです」
大淀「この構えを取った以上、何かしら長門さんに策があるんだと思います。それが何かは、あと数瞬のうちにわかるでしょう」
明石「なるほど。さて、両者睨み合って動かず! ビスマルクも警戒しているのか、自分からは手を出しません!」
明石「長門選手はどう出る! 仕掛けさせるのか、それとも自分から仕掛けるか! あっ、長門選手が距離を詰めた! 仕掛ける気だ!」
明石「長門が打った! 初手から目を狙ったフィンガージャブで……うげぇ!?」
大淀「うっわ!?」
明石「こ……股間蹴り上げが決まったぁぁぁ! フィンガージャブはフェイント! 顔面に意識を逸らしたところで、渾身の蹴りを入れたぁぁぁ!」
明石「ビスマルクの股間に長門の蹴りが深々と入った! ビスマルク、悶絶! 言語に絶する激痛に体を折り曲げ……お、追い打ちぃぃぃ!?」
明石「か、かかと落とし炸裂ぅぅぅ! 体を折ることで下がった頭頂に、天からかかとが振り下ろされたぁぁぁ! これも完っ壁に決まったぁぁぁ!」
大淀「じ、ジークンドーで気を逸らさせて、ここまで大技を……!」
明石「ビスマルク、顔面からマットへ叩き付けられた! 血しぶきがマットに飛び散る! 長門選手、更に容赦ない追撃だぁぁぁ!」
明石「今度は踏み付け! 頭蓋骨を踏み抜かんばかりのストンピングが今、ビスマルクに直撃し……躱した!?」
大淀「やっぱり、ダメージがないの!?」
明石「ビスマルク、素早く転がって躱しました! 距離を取って顔を上げた! わ……笑っています! 血を垂らしながら、人喰い鬼が笑っている!」
明石「KO必至の一撃を2発も受け、未だビスマルクは戦意高揚! その表情から笑顔は消えず、ダメージの色は一切感じさせません!」
明石「それを冷たく見下ろす長門選手! こちらにも動揺はありません! 立ち上がるならまた倒すまで! 瞳がそう語っている!」
明石「さあ、ビスマルクが立ち上がる! この程度で人喰い鬼は倒れない! 再び打撃勝負が始ま……あれっ!?」
大淀「えっ?」
明石「び、ビスマルクが転倒! 尻もちを突くように倒れました! これはどうしたことか、かかと落としのダメージが響いているのか!?」
明石「脳震盪の様子はありませんが……再びビスマルクが立とうとします! あっ、今度は前につんのめった! た、立てない!?」
明石「ビスマルク選手から笑顔が消えました! なぜ立てないのか、本人が一番戸惑っているようです! 一体、ビスマルクの身に何が!?」
大淀「これは……」
明石「追い打ちを掛けるならまたとないチャンスですが、長門選手、微動だにしません! 冷静にビスマルクを観察している! 罠を警戒してる!?」
明石「またビスマルクが立ち上がろうとします! が、立てない! 意識ははっきりしているのに、バランスを保てない様子!」
明石「この状況は一体何だ!? 立てないビスマルク、追撃をしない長門選手! 立てないのはビスマルクの演技なのか!?」
大淀「……いえ、演技ではないでしょう。そんな小芝居を打つタイプの選手でもないでしょうし」
明石「では大淀さん、ビスマルクはなぜ立てないのでしょう? どうも平衡感覚を失っているように見えますが……」
大淀「そうではありません。でも……もう2度とビスマルクさんは立ち上がれません。勝敗は……決しました」
明石「えっ? 決したって……ええっ!?」
大淀「ビスマルクさんが立てないのは、最初の股間蹴り上げが原因です。あの蹴りで、ビスマルクさんは恥骨を折られたんです」
明石「恥骨って……その、股関節にある骨ですよね」
大淀「ええ。骨盤の前側にあり、守る筋肉も薄く、骨自体も太くない、人体の急所の1つです」
大淀「これを折られると、恥骨の属している骨盤全てが歪みます。骨盤とは脊髄にも直結する、足腰を支える上で最も重要な骨の一群です」
大淀「その骨盤が歪めば、痛みに関係なく足腰が立たなくなります。彼女はもう、仰向けから体を起こすことさえできないでしょう」
明石「えっと……それって、つまり」
大淀「おわかりでしょう。片足を折られたのとは訳が違います。いわば、足腰の土台そのものをビスマルクさんは破壊されてしまったんです」
大淀「もうビスマルクさんは立てないし、腰に力を入れられないからガードポジションで勝負することもできません。だから、勝敗は決まりました」
大淀「長門さんもそれをわかってるから追撃しないんです。痛めつけるとビスマルクさんは喜びますからね。ああやって屈辱を与えてるんでしょう」
明石「な、なるほど……確かにビスマルク、何度も立ち上がろうと試みていますが、どうしても足が立たない! どうやっても倒れてしまう!」
明石「その表情に笑顔はなく、明らかな動揺と焦りが浮き出ています! ビスマルクが今大会で初めて見せる表情です!」
明石「長門選手、その姿を冷たく見下ろしている! 地を這う虫でも見るように! あえて追撃はしない!」
明石「ビスマルクが立てないとなると、もはや勝負になりません! ここはレフェリーの裁量で勝敗を……ん、何だ?」
明石「匍匐前進のような体勢のまま、ビスマルクが長門選手へ向けてドイツ語で叫んでいます! これは、『コム』って言っているでしょうか?」
大淀「……『Komm』。日本語に訳せば『来い』、つまり……掛かって来い、って叫んでいるんです」
明石「えっ……び、ビスマルク、この絶体絶命の状況であろうことか挑発行為! 長門選手もその意味を察し始めているようです!」
明石「わ、笑っている! ビスマルクの表情に笑顔が戻っています! まさか、自分の状態を知りながら、なおも戦おうというのか!?」
明石「どうする長門! もはやレフェリーストップを掛けてもいいような状況ですが……あっ! 長門選手、ファイティングポーズを取った!」
明石「この程度では済まさない! まだ戦意があると言うなら、それさえも挫くまで! 王者長門が再び歩みを進めます!」
明石「レフェリーストップは掛かりません! やるなら徹底的にやって終わらせてもらおう! 死闘再開! 人喰い鬼に止めを刺しに掛かります!」
大淀「もう、戦いと呼べるものにはならないでしょうね……」
明石「迷いなく長門選手が距離を詰めます! 立てないビスマルク、マットに這いつくばって待ち構える! この状態で反撃はできるのか!」
明石「間合いに入った! 長門選手、正面からサッカーボールキック! ビスマルク、転がって回避……いや、避け損ねた!」
明石「み、耳がちぎれ飛んだ! 長門選手の蹴りがビスマルクの片耳を削ぎ落とした! ビスマルク、龍田戦に続きまたしても片耳を喪失!」
明石「だが、そんなものは人喰い鬼にはダメージのうちに入らない! まだビスマルクは笑っている! もう1度蹴ってこいと笑っている!」
明石「長門が再び蹴りを放った! 今度はブラジリアンキックだ! 斜め上から蹴りが振り下ろされる! ビスマルク、これは腕を上げて防ぐ!」
明石「いや、防ぐだけでは留まらない! 足を掴みました! 噛み付く気です! う、動きが速すぎる!」
大淀「まずい、足を抜かないと!」
明石「あっ、ああーっ! か、噛み付かれてしまったぁぁぁ! 長門選手の足先に歯を突き立てた! これも龍田戦の悪夢の再現……うごぉ!?」
大淀「ひっ!?」
明石「ななな……長門選手、噛み付き状態から足を引っこ抜いた! ま、マットに血と……歯です! 何本もの歯が散らばった!」
明石「信じられません! 長門選手、あえて噛ませてから、足指を下顎に掛けて、前歯を引き抜きました! ビスマルク、下顎の前歯を喪失!」
明石「これで噛み付きの威力は半減! 歯を抜かれた驚きか、食い損ねたショックか、再びビスマルクの笑顔が消え失せました!」
明石「さすがに戦意喪失か!? いや、そんなことはない! ビスマルク、一層の笑顔を浮かべて長門に向かって這い寄っていく!」
明石「その姿、まるで上半身だけで襲い掛かってくるゾンビを思わせます! ここまでされてもなお、人喰い鬼は止まらない!」
明石「這い寄るビスマルクを、今度は長門選手が迎え討つ! そこには動揺も恐怖もなし! 絶対王者は揺るがない!」
明石「ビスマルクが射程圏に入った! 仕掛けるのはビスマルク! 腕の力だけで飛び掛かった! 足へ噛み付く気だ!」
明石「長門、これを蹴りで迎え討……うげぇ! と、トーキックだぁぁ! 長門選手、足の親指を右目に突き入れたぁぁぁ!」
明石「ビスマルク、足指を目に入れたまま足を捉えようとする! しかし足が抜かれた! 立て続けに側頭部へサッカーボールキィィィック!」
明石「これはモロに入った! ビスマルク、右目を失明! 更に脳震盪も起こしている! あっ、長門選手が大きく踏み込んだ!」
明石「あ、アッパーカット直撃ぃぃぃ! 大きく振りかぶった王者の一撃が、ビスマルクの顎にクリーンヒットォォォ!」
明石「ビスマルクの頭が打ち上げられる! な、長門選手がジャンプした! ま、まさか! いっ……いったぁぁぁ!」
明石「と、飛び上がり踏み付けぇぇぇ! 全体重、全膂力を乗せた踏み付けが脳天直撃ぃ! ビスマルク、またしてもマットに顔を打ち付けた!」
明石「更に長門、トドメとばかりに腰へ足刀踏み付けぇぇぇ! 立て続けに必殺が決まったぁ! 加えて長門選手……あれ?」
大淀「まあ……そうですよね」
明石「ここにきて長門選手、攻撃を中断! やや距離を取って、倒れたビスマルクを見下ろしています! ビスマルク、失神しているのか!?」
明石「いや! ビスマルクはまだ動いています! 血みどろの顔を上げた! 生きている! 人喰い鬼はまだ生きています!」
明石「し、しかし……その表情に笑顔はない! まったくの無表情です! これはどういう状況だ!? ビスマルク、長門に再び這い寄ろうとする!」
明石「で、ですが……前に進めない! 腕はマット上を撫でるばかりで、その場からまったく動けない!」
明石「笑顔の消えたビスマルクが長門を見上げる! 長門はそれを見下ろしている! 何という冷たい目線! まさに虫を見るかのような目です!」
明石「ああっ……ご、ゴングです! ゴングが鳴りました! これで決着、決着です! レフェリーストップにより、試合終了となります!」
明石「勝者は言うまでもありません! ベルリンの人喰いを下したのは、UKF絶対王者、長門! 長門選手がビスマルクに勝利を収めました!」
明石「恐るべし王者長門! あのビスマルクを初手で行動不能にし、終始一方的な展開! 噛み付きさえ許さず、圧倒的勝利!」
明石「陸奥選手の仇は討った、あとは優勝あるのみ! 長門選手、威風堂々とリングを降りて行きます!」
大淀「本当に恐ろしいですね、長門さんは。最後の足刀踏み付けですが、あれでビスマルクさんの背骨を折ったんですよ」
大淀「骨盤をやられて、背骨まで折られたとなると、もう手足どころか指一本動かすことはままなりません。しっかりとトドメを刺しましたね」
明石「ええ、徹底的でしたね。まあ、もしかしたら長門さんは、ビスマルクさんが絶命するまでやるんじゃないかと思いましたが……」
大淀「いえ、ビスマルクさんはもう死んだも同然ですよ。背骨が折れてますからね。今、ビスマルクさんには痛覚がないんです」
明石「えっ? あ、そっか。背骨って色んな神経が通ってますから……」
大淀「ええ。あれだけやられて笑ってたビスマルクさんが、今は笑ってないのはそれが原因です。愛すべき痛みが、今はまるでないんですから」
大淀「長門さんは息の根を止めるのではなく、全てを奪うことでビスマルクさんを殺しました。普通に殺されるなんて、彼女にはご褒美ですからね」
明石「なるほど……命まで奪わなかったのは慈悲ではなく、むしろビスマルク選手にとって一層残酷なことをしてやったと」
大淀「そういうことです。ここまで冷酷な長門さんは今回限りでしょうね。できれば二度とお目にかかりたくないものです」
明石「そ、そうですね……しかし、ようやくビスマルク選手が敗退しました。決勝戦は長門選手と……武蔵選手、ですね」
大淀「なんていうか、本当に純粋な強さを持つ選手が勝ち抜いた、って気がしますね。一体、どっちのほうが強いんでしょう」
大淀「まあ、それを考えるのはまだ気が早いですね。今はただ、長門さんを祝福しましょう」
明石「ですね。UKFを震撼させた怪物、”ベルリンの人喰い”ビスマルク、ここに陥落! やはり王者長門は揺るぎませんでした!」
明石「決勝進出は長門選手! 絶対王者長門、ドイツの刺客からUKFの看板を見事守り切りました! 皆様、今一度拍手をお願いします!」
試合後インタビュー:長門
―――今はどういうご気分でしょうか。
長門「少し疲れた。さっさと終わらせるつもりだったが、思いのほか手間を掛けてしまったな」
長門「まあいい。やるべきことはやった。勝利というより、一仕事終えた心地よさのようなものはあるな。悪くない気分だ」
―――陸奥選手に贈るコメントなどはありますか?
長門「そうだな……もう忘れろ、とでも言っておくか。あんなものはファイターでも何でもない。陸奥はたまたまタチの悪い虫に噛まれただけだ」
長門「ちょっとした事故のようなもので、後処理も私が済ませた。早く立ち直ってくれることを願っている」
―――これでビスマルク選手は解体される可能性が高いのですが、コメントはありますか?
長門「哀れではあるが、同情はしない。あいつは今まで好きにやった。そして然るべき最後が訪れようとしている。それ以外に何かあるのか?」
長門「もしかしたら、あいつは望まぬ環境や教育によってあのような形になり、罪を問われるべき者がどこか他にいるのかもしれない」
長門「だが、それはあいつを助けるべき理由にはならない。ビスマルクは消えるべきだ。私はそう思っている」
試合後:関係者専用通路(ビスマルク選手を担架により搬送中)
ビスマルク「待って……待ってよ! リングに戻して! もう1度、もう1度長門さんと戦わせて!」
ビスマルク「私、まだ1回もイってない! 長門さんを食べてもない! 今だって全然気持ちよくないの! 私、何もできてないのよ!」
ビスマルク「嫌よ! このまま死ぬなんて嫌! だって、全然楽しくないじゃない! こんなはずじゃなかったよ!」
ビスマルク「お願い、ねえ! もう1度だけやらせて! やだやだ! こんな風に終わるなんて……あれ?」
ビスマルク「えっ? えっと、あの……ここどこ? 私、なんでこんなところにいるの? さっきまで鎮守府に……あっ、提督! Guten Tag!」
ビスマルク「今日の出撃、頑張ったわよ! いいのよ? もっと褒めても。うふふ……嬉しい。提督、そんな風に私のこと、想っててくれたの?」
ビスマルク「うん、いいわよ。決まってるじゃない。私だって同じ。ずっと前から、提督のこと……」
(ビスマルク選手、意識の混濁の後に昏睡)
大淀「……明石さん。放送ってまた中断されてます?」
明石「えっとですね。ビスマルク戦は全般的にまずいということで、端からテレビでは放送しないことになってました」
明石「現在、テレビでは今までの対戦を振り返るUKFの総特集が流れています。長めに時間を取ってるので、再開まで少し掛かります」
大淀「そうですか。ちょっとの間ですけど、何を話しましょうかね」
明石「それなんですけど……お伝えすべきことがあります。ビスマルク選手についてです」
大淀「……解体するんですよね。それ以外に何か?」
明石「いえ、解体はしません。ビスマルク選手はUKFが貰い受けることに決定しました」
大淀「……今、耳を疑う言葉が聞こえたんですけど、聞き間違いですよね?」
明石「聞き間違いじゃありません。ビスマルク選手は、本日付でUKF専属の選手です」
大淀「それって……どういう経緯でそんなことになるんです?」
明石「まず、ドイツ軍部はすでにビスマルク選手の所有権を放棄しました。もはやビスマルク選手は軍属ではありません」
明石「凄惨な戦い方から凄まじい非難を浴びているビスマルク選手ですが、一部からカルト的な人気を得ているのも事実です」
明石「もし、ビスマルク選手と戦いたいというファイターが現れればビッグマッチが組めます。それまで、ビスマルク選手はこちらで預りとします」
大淀「預かるっていっても、ビスマルクさんはあんな艦娘ですよ? 管理のしようがないと思いますけど」
明石「幸いと言ってはなんですが、今、ビスマルク選手は致命傷を複数受けたことにより、昏睡状態にあります」
明石「艦娘なので死にはしませんし、修理せずにおけば目覚めることもありません。来たるその日まで、放置しておけば問題ないんです」
大淀「……なんか色々と問題ありそうな気がするんですけどね」
明石「大きい声では言えないんですけど……ほら、またビスマルク選手が試合するとしたら、ファイトマネーは払わなくて良さそうじゃないですか」
明石「ビスマルク選手の所有を決めたのは、そういう利益上の打算が大きいみたいですね。無料でカードが組める選手なんて、すごく貴重ですから」
大淀「……またいつか、大きな波乱を呼びそうな気がしますね、それ」
明石「ええ、まあ……せめてその日まで、起きずに眠り続けてくれることを祈るばかりです。えっと、再開までもう少しありますね」
大淀「そうですか。ちょっと休憩に行ってきますね。さてっと……」
小休憩:15分後に再開
青葉「放送再開するので、準備お願いしまーす。じゃあ行きますよ。5、4、3……」
明石「はい、お待たせしました! 放送再開となります! Bブロック決勝戦は決着しました! 勝ったのは他でもない、長門選手です!」
明石「死闘の連続となった3回戦がこれにて終了しました! しかし、本日の試合はこれで全てではありません!」
明石「残る1戦、今夜限りの夢の対戦! エキシビションマッチ、第3戦目がこれより始まります!」
明石「3回戦はいずれもレベルの高い試合でしたが、こちらも空前絶後のスペシャルマッチ! 先の2戦にも引けを取らない内容になるでしょう!」
香取「本当ね。2人ともリクエストの多かった選手だし、もちろん実力も本物よ。どんな試合になるのか楽しみだわ」
明石「……ん?」
香取「運営側もこの対戦を実現させるために色々と奔走したそうだから、その苦労が報われる試合になるといいわね」
明石「いや……あの、なんで私の隣に座ってるんですか、香取さん?」
香取「皆さん、初めまして。UKF審査委員長の香取です。大淀さんは用事があるから、この試合だけ解説を頼まれたの。ふふ、びっくりしたでしょう?」
明石「びっくりはしましたけど……大淀さんはどこに行ったんですか?」
香取「薄々感づいてるんじゃないかしら。エキシビションマッチ3戦目を控えたこのタイミングで大淀さんがいなくなる。後はわかるでしょう?」
明石「……もうはっきり言っちゃいますけど、大淀さんは出ませんよ? リクエストだってお情けの1票しか入ってないんですし」
香取「答えはすぐにわかるわよ。明石さんは気にせず普通に進めちゃって構わないわ。さあ、そろそろ試合を始めましょう?」
明石「はあ……じゃあ、進行しますよ? それでは……エキシビションマッチ3戦目、これより開幕です!」
明石「まずは赤コーナーより選手入場! 前大会では優勝候補の一角と呼ばれた彼女が登場だ!」
香取「ふふ、どうなるかしら」
試合前インタビュー:榛名
―――既に金剛姉妹の選手は全てグランプリで敗退されています。その結果をどう受け止められていますか?
榛名「失望しました。金剛さんは甘く、霧島さんは愚かで、比叡さんは軟弱です。同じ金剛姉妹として、恥ずべきことだと思います」
榛名「皆さんには一から出直す覚悟で、改めて修行に励んでいただきたく思います。あんな醜態を晒すような真似は、二度としてほしくありません」
―――姉妹の方々に出場枠を譲るためにグランプリ参加を辞退されたというのは本当ですか?
榛名「結果としてそうなったというだけで、少し語弊があります。そもそも、この榛名は二度とUKFの舞台に立つつもりはありませんでした」
榛名「榛名は第一回UKFグランプリで、長門さんに敗北を喫しました。武道家が敗北する、それは死ぬことと同じです」
榛名「死人が再び公に身を晒すなんて、恥知らずも良いところでしょう。もし再びUKFに出るなら、長門さんと戦うときだけ。そう決めていました」
―――ならば、なぜ今回のエキシビションマッチへ出場されることを決意されたのでしょうか。
榛名「理由はいくつかあります。まずは、地に落ちた金剛姉妹の名誉挽回のため。その役目を担うのは、金剛姉妹最強の榛名をおいて他にありません」
榛名「姉妹の皆さんはいずれも真の強者と戦って敗北しました。しかし、負けは負け。どのような形であれ、榛名たちは敗者の汚名を被せられました」
榛名「そのような屈辱、金剛姉妹に名を連ねる者として我慢なりません。一刻も早く、我々金剛型高速戦艦の強さを改めて証明したく思います」
榛名「既に対戦者の名も聞き及んでいます。相手にとって不足はありません。彼女なら、榛名たちが再び栄光を得るための良き踏み台になるでしょう」
榛名「また、彼女相手なら殺すための戦い方をしても構わないはずです。榛名自身、この戦いに身命を捧げる覚悟で臨みます」
榛名「この榛名は一度は死んだ身。二度目の敗北はありません。全てを投げ打ってでも勝利を掴み取らせていただきます」
榛名:入場テーマ「GuiltyGearX/Holy Orders (Be Just or Be Dead)」
https://www.youtube.com/watch?v=FUn8sSi6d0c
明石「金剛姉妹最強! 立ち技格闘界真の王者とさえ言われる彼女が、再びUKFの舞台に降り立ちました!」
明石「その五体、全てが凶器! 拳は岩をも砕き、蹴りは骨肉を切り裂く! トップファイターたちさえ恐れさせた、究極の打撃がここに存在する!」
明石「私の前で勝手は許さない! 何一つ出来ぬまま、ただ打ち砕かれて果てるがいい! ”殺人聖女” 榛名ァァァ!」
香取「あら、ちゃんと入場してきたわね。ふうん……そっちを選んだの」
明石「あの、香取さん。ボソボソ独り言呟いてないで、解説してくださらないと……」
香取「あ、そうね。ごめんなさい。えっと、榛名さんの解説ね。そう、まず榛名さんの流儀は空手。いわゆるストライカータイプのファイターよ」
香取「腕前は達人級なんだけど、彼女は空手家としてちょっと面白いところがあって。なんと、彼女は空手一辺倒なのにも関わらず、未だに白帯なの」
明石「えっ、そうなんですか!? あれだけ強かったら、今すぐにでも黒帯が認められそうなものですけど……」
香取「もちろん、実力は並の黒帯を軽く超えているでしょうね。でも、黒帯っていうのは昇段試験を経て正式に認められなければいけないの」
香取「彼女はその昇段試験を拒否したの。瓦や木板を何枚、何十枚割ろうと何の意味もありません、って言い放ってね」
明石「瓦割り、ですか。そういう試し割りは空手の象徴とも言えるものだと思うのですが、それを全否定したと……」
香取「そう。その気になれば、榛名さんは手刀で瓦の20枚くらいはいともたやすく割ってしまうでしょうけどね」
香取「かつては喧嘩空手と言われて実戦的だったフルコン空手も、時代を退行して今やすっかり伝統スポーツ。榛名さんはそれが嫌だったんでしょう」
香取「ま、全ての空手道場がそうだってわけじゃないけど、彼女が元々いた流派はそうだったの。だから、榛名さんは空手界では嫌われ者なのね」
明石「榛名選手はUKFでリングに上がるとき、白でも黒でもなく、赤い帯をされてますね。これには何か意味があるのでしょうか?」
香取「赤帯ってのは、そうね……黒帯よりも上に位置づけられてるわ。いわゆる、免許皆伝みたいなものかしら」
香取「もちろん、それも正式な形での認可が必要なのだけど、彼女は勝手にそれを着けてるの。つまるところ、空手に喧嘩を売っているのよ」
明石「は、はあ……なるほど。空手家なのに、空手に喧嘩を売っているんですか……」
香取「ええ。地上最強の格闘技と言えば空手。そう呼ばれていた時代は、もうすっかり過去のことになっちゃったわね」
香取「新しく興った総合格闘技という最強を証明する舞台で、多くの空手家が不覚を取ったわ。組み技、寝技、関節技に為す術もなかったのよ」
香取「結果、空手は空手界に逃げたの。実戦ではなく、空手は空手の中で強ければいい。あるいは勝ち負けより精神鍛錬が大事、そう言い訳してね」
香取「ただ1人、榛名さんは逃げなかった。最強を証明する場で孤高にも戦い続け、長門さんさえ彼女との試合では大きな苦戦を強いられたわ」
香取「今や、実戦空手では最強なんじゃないかしら。空手界から追放されてはいるけど、彼女こそが真の空手家なのかもしれないわね」
明石「確かに、榛名選手はUKFでも空手の技以外は全くと言っていいほど使いませんね。本当に立ち技だけで勝ち星を収めてきた選手です」
香取「そうね。榛名さんのファイトスタイルは完全な空手家スタイル。たまに合気道に近い体捌きを見せることもあるけど、組み技寝技は全くないわ」
香取「昔の黒帯空手家は実戦のために柔道を習う人が多かったけど、彼女はそれすらない。空手の打撃だけが榛名さんの武器よ」
香取「打撃のダメージが深く入ることを『刺さる』ってたまに表現するけど、榛名さんの打撃は本当に『刺さる』の」
香取「過酷な部位鍛錬を経た貫手や足尖はまさに研ぎ澄まされた武器。正拳突きに至っては、一撃で胸骨を折って心臓を止めるほどの威力よ」
香取「実際、彼女はフルコンタクト空手の試合で何度もそういう技を使って、対戦相手を殺しかけてるわ。これもまた、空手界から追放された一因ね」
香取「総合格闘技で戦ってるんだから、相手のタックルなんかに対処するのも上手いわ。この辺りは赤城さんの戦い方と似てるわね」
明石「K-1も赤城選手が去った後、破格の待遇で榛名選手を迎えようとしていましたね。彼女はきっぱりと断ったそうですが」
香取「K-1はグローブありですものね。空手家にとって、素手は最大の武器なの。それを封じられるのが気に入らなかったんでしょう」
香取「何より、榛名さんはいかに空手で実戦を制するかにこだわってるから。有利であるはずの立ち技限定ルールにも興味がないみたいね」
香取「長門さんには強引にグラウンド勝負に持ち込まれて負けてしまったけど、あれは長門さんだからできたこと。何でもありでも榛名さんは強いわ」
香取「榛名さんこそ実戦空手の体現者。彼女と戦えば、どんな相手であれど空手の強さと恐ろしさを実感すると思うわよ」
明石「なるほど。っていうか、普通に解説できるんですね、香取さん」
香取「そりゃあ、審査委員長なんだから、解説くらい訳ないわよ。さて、ここからが問題よ。榛名さんの対戦相手は誰かってことね」
明石「はあ。それはまあ、そうですが……えっと、このまま進めていいんですね?」
香取「どうぞどうぞ。明石さんはいつも通りで構わないの。実況なんて常にアドリブでトークするのと同じなんだから、そういうの慣れてるでしょ?」
明石「……? ええ、まあ……では、続きまして青コーナーより選手入場! 伝説の達人がまさかのUKF参戦だ!」
試合前インタビュー:鳳翔
―――こういった格闘大会は専門外かと思いますが、出場を希望されたのはどういう理由なのでしょうか。
鳳翔「恥ずかしながら、お金です。ほら、こういう時代でしょう? 今どき剣術道場なんて開いてるものですから、経営が苦しくって」
鳳翔「有り難いことに入門希望者はたくさん来てくださるんですけど、今の道場じゃ狭すぎるんです。それで、改築の資金が必要になりまして」
鳳翔「UKFって、武器なし以外は実戦と大して変わらないんでしょう? それなら大丈夫かなって思いましたので、出場を打診させていただきました」
―――格闘技にはどの程度精通しておられますか?
鳳翔「実はあまり知らないんです。剣術の稽古が主だったもので……ルールのある戦い、というのもほとんど馴染みがありません」
鳳翔「以前、大淀さんが道場の見学に来られたとき、技術交換のような形で手ほどきは受けてますけれど、格闘技はそれっきりですね」
鳳翔「香取神道流は総合武術ですので、体術もあるにはあります。けれど、リングで通用するかはどうかは……正直、あまり自信がありません」
鳳翔「私、変に注目されちゃってるでしょう? UKFに異色の選手が出るからって。道場の子たちもすっごく期待してるみたいで」
鳳翔「今はちょっとだけ出場を決めたことを後悔してるところです。私、大丈夫かしら……香取神道流の看板だけは汚さないよう頑張らないと」
―――榛名選手についてはどのような印象をお持ちでしょうか。
鳳翔「そうですね。榛名さんと聞いて、ちょっとだけ安心しました。だって、彼女はスポーツマンじゃなくて本物の武道家でしょう?」
鳳翔「それなら、気遣いはいりませんね。中途半端な方だと、私が勝ってもインチキだと思われそうなので。その心配はしなくて良さそうです」
鳳翔「でも、この組み合わせって酷いと思いません? 私って格闘界で言えば軽巡級、つまり下から2番目の階級なんでしょう?」
鳳翔「格闘技も初体験みたいなものなのに、いきなり戦艦級の実力者との対戦だなんて。運営の方もお人が悪いですね。私を買いかぶり過ぎですよ」
鳳翔「せめて棒切れでいいから持たせて試合させてもらえないかしら、って頼んだんですけど、断られてしまいました。ケチですよね、もう」
鳳翔「不安でいっぱいですけど、弟子たちに情けないところは見せられませんので。精一杯頑張ってきますね」
鳳翔:入場テーマ「HALLOWEEN/HALLOWEEN THEME」
https://www.youtube.com/watch?v=iP-jYiuDD9g
明石「歴史上最強の兵士とは何か! アメリカの海兵隊? 軍事国家スパルタの戦士? 違う! それは日本の武士である!」
明石「乱世から生まれ、戦場で武士たちが磨いた古流武術の三大源流! その1つである天真正伝香取神道流、免許皆伝の達人がUKFにまさかの参戦!」
明石「戦国を生き抜く武士の術技は、リングの上でどのような技の冴えを見せるのか! ”羅刹” 鳳翔ゥゥゥ……ぎぇあああっ!?」
香取「あらら……やっちゃった」
明石「な、な、な……何だぁ!? ち、血です! 道着におびただしい血の染みが! 鳳翔選手、べっとりと血化粧を施して入場してきました!」
明石「たおやかな笑みを浮かべる、その頬には血しぶきの痕! け、怪我をしているわけではないようです。これは返り血か、それとも演出か!? 」
明石「全身に血を浴びながら、鳳翔選手は柔和な笑顔で歩いております! その姿、あまりに不気味! 笑顔の裏に底知れない狂気を感じます!」
香取「選択を誤ったわね、大淀さん。欲に目が眩んでるから、こういうことになっちゃうのよ」
明石「香取さん、これは一体!? 大淀さんが何か関係してるんですか!?」
香取「そうね。まずは舞台裏で起こったことを簡単に説明しましょうか。大淀さんはね、出場寸前の鳳翔さんを襲って、返り討ちに合ったのよ」
明石「は……はあ!? お、襲ったって……なんで!?」
香取「それが裏出場枠の正体。つまりね、大会運営委員長が大淀さんに示唆したのは、『出場選手を試合直前に倒して出場枠を奪え』ってことなの」
明石「そ、そんな無茶な! なんで運営側の人が大会をぶち壊すようなことを大淀さんに吹き込むんです!」
香取「ぶち壊しにはならないんじゃない? 大淀さんが勝てば、そのまま出場してもらえばいい。対戦者さえいれば試合は成立するのよ」
香取「運営は大淀さんへの思い入れ以前に、大会を彩るためのハプニングが欲しかったの。話題になるような、都合のいいハプニングがね」
香取「だからお金に困っている大淀さんを唆した。もし2戦目の翔鶴さんか夕立さんを襲っていれば、本当に出場枠を手に入れてたかもしれないわね」
香取「でも、大淀さんは3戦目の出場枠を狙ってしまった。この試合だけ、ファイトマネーがより多額の5000万円だから」
香取「鳳翔さんを襲ったのは、リングで彼女に勝つ自信がなかったんでしょう。でも、それこそが誤り。彼女に不意討ちなんて通じるわけがない」
香取「榛名さんもそうでしょうけど、相手は本物の武術家。『常在戦場』が身に付いている相手を襲うなんて、密林で毒蛇と戦うようなものよ」
明石「は、はあ……裏出場枠がそんなものだったなんて……でも、なんで大淀さんはそこまで鳳翔さんと戦うのを避けてるんです?」
香取「以前、大淀さんは鳳翔さんの道場に行ったことがあるのよ。純粋に古流武術を教授してもらうためにね」
香取「鳳翔さんは快くもてなしてくれたそうよ。大淀さんと技を教え合いながら、寝食の用意までしてくれたらしいわ」
香取「結局道場に2泊して大淀さんが帰るとき、鳳翔さんが懐からあるものを差し出したの。『要らなくなったから、お土産にどうぞ』ってね」
香取「そのお土産っていうのはね、短刀だったの。この意味がわかる?」
明石「えっと……格闘術じゃなく、武器術も大事ですよってことですか?」
香取「違うわよ。懐から取り出したって言ったでしょ。つまりね、鳳翔さんは大淀さんがいる間、ずっとその短刀を隠し持ってたの」
香取「大淀さんが道場破りを仕掛けてくるかもしれないと思ったんでしょう。だから、そのときは短刀で返り討ちにするつもりだったのよ」
明石「返り討ちって……た、短刀で刺し殺すってことですか!?」
香取「もちろんそうよ。鳳翔さんは香取神道流の免許皆伝にして『一の太刀』の伝承者。いわば、香取神道流そのものを背負う存在なのよ」
香取「その鳳翔さんが畑違いの相手とはいえ、不覚を取ったとなれば流派の評判は地に落ちるわ。それだけは絶対に避けなければならないこと」
香取「実際、鳳翔さんの元へ道場破りに行った武術家の何人かは行方不明らしいわね。もしかしたら、鳳翔さんは何人か本当に斬っているのかも」
明石「げ、現代に人斬りなんて……そういう殺しをも厭わない戦い方を大淀さんは恐れたんでしょうか?」
香取「ちょっと違うと思うわ。大淀さんがいわゆるコンピュータ型ファイターなのは知ってるわよね。でも、彼女は一般的なそれとは少し違うの」
香取「あんまりファイトスタイルを明かし過ぎるのは良くないから端的に言うけれど、大淀さんはね、動きではなく相手の心を読むの」
香取「かき集めた情報を分析し、目の前にいる対戦相手を観察して何を考えているかを読み取って、どう動くかを予測する。これが大淀さんの戦い方」
香取「大淀さんが赤城さんや榛名さんに勝てると言っていたのも事実よ。あの2人は性格的にはわかりやすいから、大淀さんには格好の相手なの」
香取「でも、鳳翔さんにその戦い方は通用しないわ。だってあの人、何を考えているのか全然わからないんだもの」
香取「短刀を懐に忍ばせてたまま、次の瞬間殺すことになるかもしれない相手にニコニコ接することができる人の心理なんて読み取れると思う?」
香取「大淀さんはそういう底知れなさを何より恐れたの。だからリングでは榛名さんを倒すつもりで、鳳翔さんに不意討ちを仕掛けたんでしょうね」
明石「で……結果、返り討ちに合ったと……」
香取「そういうこと。正当防衛だから、武器を使われたのかも……あら。よく見たら鳳翔さん、帯刀してるじゃない」
明石「あ、そういえば入場のときだけ帯刀させてくれって言われてました。まさか、大淀さんはあの刀の錆に……」
香取「ご愁傷様、大淀さん。大丈夫、大破進撃さえしなければ艦娘だから死ぬことはないわ。今頃、ドックに運び込まれてるわよ」
明石「は、はあ……これは、試合前にとんだハプニングですね。運営側がどう受け止めているかはわかりませんが……」
香取「……ちょっと試合前に喋り過ぎちゃったかしら。まだ試合予想とかしてないけど、時間残ってる?」
明石「えーと、ちょっと鳳翔さんが血に濡れた道着を着替える時間があるので、もう少し大丈夫です」
香取「そう、ありがと。じゃあ、鳳翔さんの詳しいファイトスタイルの紹介がまだだから、そこから済ませましょうか」
明石「鳳翔選手は香取神道流の免許皆伝ですが、流儀の説明としては介者剣術となっていますね。この介者剣術って何なんでしょう?」
香取「介者剣術っていうのは、様々な日本武術の源流である古流柔術、それの更に元となった武術ね。簡単に言えば、戦で敵を討ち取るための技術よ」
香取「名前の通り太刀を使った戦いが主なんだけど、戦場なら武器を失った状態で敵と戦うこともあるわ。そのために徒手の技も研究されてるの」
香取「そっちは甲冑組討ちって言われてて、これも名前通り、甲冑を着けた相手を組み伏せて討ち取るって技術ね。これが古流柔術の源流よ」
明石「組み伏せてってことは、現代格闘技で言うと、マウントポジションを取ることだと解釈していいんでしょうか?」
香取「そうね。介者剣術では『馬乗り』と呼んでいて、止めの刺し方は喉を匕首か何かで掻き切るっていう違いはあるけれど」
香取「ただね、香取神道流は総合武術。そういった徒手格闘は技の体系の1つではあるけれど、決して専門分野ではないの」
香取「鳳翔さんの真骨頂はやっぱり剣術、ひいては本物の実戦。こういう場での戦いでは、使える技が大きく制限されると見て間違いないわ」
香取「人前に晒してはいけない技もあるでしょうし、鳳翔さんがリングで発揮できる力量はせいぜい、本来の2割といったところでしょうね」
明石「となると、達人として知られる鳳翔選手も大きな苦戦を強いられると見ていいんでしょうか?」
香取「もちろんそうよ。相手は徒手格闘の専門、最強の空手家の榛名さん。階級差もあるし、本来なら勝ち目があるかないかって話になるわね」
香取「でも、私には鳳翔さんが負けることが想像できないの。だって、彼女は『一の太刀』の伝承者だもの」
明石「それなんですけど、鳳翔さんが伝承してるっていう『一の太刀』っていうのは何なんでしょうか?」
香取「一の太刀っていうのはね、香取神道流最大の秘伝と言われている奥義なの。でも、それは決して必殺技のようなものではないのね」
香取「言うなれば、仏教で言うところの悟りの境地に近いわね。『一は全であり、全は一である』って言うじゃない?」
香取「歴史上で最強の剣豪は誰か、と言われれば真っ先に上がる名前が宮本武蔵だけど、次いで上がる名前が塚原卜伝。彼も一の太刀伝承者なの」
香取「塚原卜伝を含め、香取神道流で一の太刀を伝承できた剣士が敗北した記録は今まで一度もないわ。一の太刀とは、無敗の象徴と言ってもいいの」
香取「その名を背負う鳳翔さんがリングに上がる。それはつまり、勝てる確信を持っているから。どういう手段でかは知らなけれどね」
明石「取材では、鳳翔選手はあまり自信がないとぼやいてましたよ。棒切れくらい持たせてくれって愚痴をこぼしていたと」
香取「あ、棒切れを禁止したのは私の判断ね。その話を聞かされたとき、本当にゾッとしたわ」
香取「自信がないなんて、全部ブラフよ。出場を決めた時点で、鳳翔さんは勝利を確信してるの。油断させるためにそんな演技をしてるのよ」
香取「あわよくば運営側まで油断させて、棒切れの持ち込みを許可してもらおうっていう魂胆ね。そんなことされたら、長門さんだって勝てないわよ」
明石「えっ、棒切れ1本でそんなに?」
香取「そんなによ。今は返り血で不気味な感じになってるからわからないけど、普段の鳳翔さんってね、見た目は全然強そうじゃないの」
香取「長門さんみたいな強豪選手って、オーラからして強そうでしょ? 鳳翔さんはね、そのもう1つ向こう側。見ただけじゃ強さを判断できないの」
香取「生活と武が完全に一体化した境地ね。そんな人に棒切れを持たせたら、拳銃クラスの武器になるわ。誰も勝てっこないわよ」
明石「な、なるほど……では、素手の鳳翔選手と榛名選手、どのような試合になると思いますか?」
香取「そうね。榛名さんは当然打撃で攻めてくるわね。彼女の拳や蹴りなら、鳳翔さんを倒すのに一撃入れれば十分でしょう」
香取「問題は鳳翔さんね。介者剣術には打撃も多少あるし、組み技、投げ技、関節なんかもあるにはあるから、技の選択肢はあるでしょう」
香取「といっても、相手は実戦経験の豊富な空手家の榛名さん。どんな技にだって対処できる技量の持ち主よ」
香取「鳳翔さんがどう出てくるか、正直言って未知数ね。打ち合いはできないでしょうけど、何をしてくるかはわからないわ」
香取「鳳翔さんが負けるなんて想像できないってさっき言ったけど、榛名さんが負けることも想像しにくいの。彼女も本当に強い選手だから」
香取「こんな予想になって悪いけど、始まってみないとわからないわ。さて、どういう展開になるかしらね」
明石「なるほど。さて、両選手がリングイン! 2人の武術家がリング中央にて対峙しています!」
明石「道着を着替えた鳳翔選手。なるほど、確かに強そうには見えません。柔和な笑みを浮かべる姿は、単なる奥ゆかしい婦人としか思えない!」
明石「しかし、彼女こそ現代最強の剣士! 対するは空手界真の王者、榛名選手! 榛名選手は射抜くような視線で鳳翔選手を見つめている!」
明石「まったく予想の付かないこの試合、どんな展開になるのか! 最後に立っているのは、どちらの武人なのか!」
明石「ゴングが鳴った、試合開始! 両選手、ゆったりとした足取りでリング中央へ向かっていく!」
明石「榛名選手は両手を上下に広げた、空手で言う天地上下の構え! 対する鳳翔選手、構えは取りません! ガードも上げず、ただ立っています!」
香取「というか、ああいう構えなんでしょうね。自然体で、相手に合わせて動く。まずは仕掛けさせる気かしら」
明石「まずは両選手、距離を取り合って対峙! お互いを観察し合うように動きを止めました! いや、榛名選手はじわりと間合いを詰めています!」
明石「間合いを計りつつ詰める榛名選手に対し、鳳翔選手は微動だにしない! ただ自然に、静かな立ち姿で榛名選手を待ち受ける!」
明石「気付けばかなり距離が近付きました! すでに拳が届く距離! 動くか!? 動いた! 榛名選手、まずは順突きを放つ!」
明石「鳳翔選手、これをウェービングで回避……いや、同時に前へ出た!? 鳳翔、一瞬で懐へ滑り込んだ!」
明石「た、倒したぁぁぁ! 鳳翔選手、足を刈って榛名選手を倒しました! テイクダウン! 榛名選手、早くもテイクダウンを奪われました!」
香取「合気道の動きに近いわね。相手の呼吸と力の流れに合わせて、あっさり倒すなんて……さすが達人」
明石「鳳翔、すかさずマウントを取った! 間髪入れず顔面に一撃……あれっ!? 離れた! 鳳翔選手、一撃だけ入れてマウントを放棄した!」
明石「大きく距離を取っています! 当然、榛名選手は立ち上がり……ああっ!? め、目が潰されています! 榛名選手、右目を失明!」
明石「早くも大きなダメージを負いました、榛名選手! しかし表情に焦りはない! まだ榛名選手の闘志は折れていません!」
明石「逆に、鳳翔選手の表情がやや苦しげだ! これはどういう攻防なんだ!?」
香取「2人ともやるわね。鳳翔さん、マウント状態から虎爪で顔を打って、指を目に入れたの。まずは戦力を削るためにね」
香取「そこから色々やりたかったんでしょうけど、榛名さんが反撃してきたの。腰骨を掴んで指を突き立てる、っていう方法でね」
香取「榛名さんの指はコインを割るほどの力があるから、そんなのを突き立てられたら痛いなんてもんじゃないわ。鳳翔さんも離れるしかなかったの」
香取「ダメージは榛名さんのほうが上だけど、痛みなら鳳翔さんのほうが大きいでしょうね。達人といえども、痛いものは痛いんだから」
明石「なるほど、一瞬の攻防でしたが、どちらも実戦こそ本領を発揮する武術家! まずは痛み分けという形になりました!」
明石「再び榛名選手が天地上下の構えを取る! 片目を失いましたが、戦意は失わず! 鳳翔選手も笑顔を消して榛名選手を待ち受けます!」
明石「間合いが詰まっていく! 先に動くのはやはり榛名! いきなり後ろ回し蹴りを繰り出した! これは空振り!」
明石「鳳翔選手の鼻先を素通りしていきました! 再び榛名選手の攻撃! 次は正拳突き! これは……寸止め? 届いていません!」
明石「榛名選手、休みなく攻勢を続けます! 前蹴り! 届かない! 鉤突き! やはり届かない! 躱されているというより、届いていない!」
明石「更に榛名選手は攻め立てる! 下段回し蹴り! 逆突き! 回し打ち! どれも届かない! これはどういうことだ!?」
香取「ここは香取さんの本領発揮ね。剣士に最も重要な要素は、間合いの見切り。達人ともなると、刀を見ただけで何センチかわかるそうよ」
香取「素手となれば、より間合いは見切りやすいんでしょう。鳳翔さんはミリ単位で距離を取って榛名さんの打撃を躱しているの」
香取「というより、当たらない位置に予め移動しているのね。武蔵さんも似た動きをしてたけど、こっちは更に高精度ね」
明石「榛名選手、とうとう攻めの手が止まりました! 空手の打撃が通用しない! 榛名選手にとって信じたくない状況です!」
明石「ここからどうする、空手家榛名! どう仕留める、剣士鳳翔! 状況は膠着状態にもつれ込みかけています!」
香取「鳳翔さんも決め手に欠けてるわね。榛名選手の打撃は速いから、下手に潜り込めないんでしょう」
香取「榛名さんと組み合って肘打ちが来ればさすがに避けられないでしょうし、どうするのかしら」
明石「さて、相変わらず自然体で立っている鳳翔選手ですが……あっ、先に榛名選手に変化があります! 構えを変えました!」
明石「天地上下の構えではありません! 両手を八の字に構え、軽快なステップを踏み始めました! 初めて見る榛名選手の構えです!」
香取「なるほど……榛名さんはそう出るのね」
明石「フットワークです! ベタ足をやめてフットワークを使い始めました! 軽快な足取りで、一気に間合いを詰めに行った!」
明石「また順突き! というよりはジャブに近い鋭いパンチ! 鳳翔選手、躱しはしましたが、先ほどよりギリギリです!」
明石「中断回し蹴り! 道着を掠めました! 鳳翔選手が間合いを計り損ねた!? おそらく、榛名選手の不規則な運足が読みを困難にしている!」
明石「立て続けに榛名が攻める! 最初より遥かに回転が速い! 目にも留まらぬ連撃が達人鳳翔を追い詰めに掛かる!」
明石「右の鉤突きが頬を掠める! 上段回し蹴りが額の皮膚を切る! 鳳翔選手、打撃反応の精度が顕著に落ちています!」
香取「榛名さんはいい攻略法を見つけたわね。フットワークを踏みながら戦う剣士なんて、どこを探してもいないもの」
香取「ああいう風に体を揺らしながら打ってこられると、ギリギリで間合いを読むのが困難になるわ。このままだと、いずれもらってしまうかもね」
明石「このファイトスタイルの切り替えは明らかに状況を打破しました! 未だ当たってはいないものの、鳳翔の回避がやや危なっかしい!」
明石「いわばこのスタイルはスピード空手! 榛名選手、ランダムな足運びで打撃の軌道と距離を読ませない! 一気に手数で攻め立てる!」
明石「しかも榛名選手、打撃にフェイントを折り混ぜ始めた! 顔面へ順突き! フェイント! 下段蹴り! これもフェイント!」
明石「フットワークとフェイントが鳳翔の見切りを妨げる! 三日月蹴り! フェイント! 正拳突き! これは本命の打撃だ!」
明石「鳳翔、見切りを試みるも成功ならず! 直撃は逃れましたが、胸を押されるようにして後退! ダメージは入っているか!?」
香取「入っているわね。正拳突きは当たる寸前に拳を縦から横に回して威力をねじ込むの。榛名さんの技術なら、より深く打撃が体内に浸透するわ」
香取「しかも狙ったのは心臓打ち。鳳翔さん、呼吸が少しだけ乱れてるかもしれないわね」
明石「た、確かに鳳翔選手、立ち姿に最初のような自然さが薄れています! やや息が荒い! しかし、休憩を与える榛名ではない!」
明石「再び正拳突きを放った! これは鳳翔、確実に躱す! しかし間を置かず中断回し蹴り! 当たった、当たりました!」
明石「鳳翔選手、打撃を初めてブロック! 回し蹴りを肘で受けた! 直撃は免れるも、体勢が崩れる!」
明石「好機! 榛名が更に仕掛けていく! 顔面への正拳突き! 辛うじて躱し……いや、入ったぁぁぁ!」
明石「正拳突きではない! 平突きです! 指の第二関節を曲げて放つ、拳以上に『刺さる』打撃! 人中へ命中してしまったぁぁぁ!」
明石「鳳翔選手が倒れる! ダウン、ダウンです! 前のめりに倒れる! なおも榛名は追撃! 膝蹴りを繰り出したぁぁぁ……あっ!」
香取「あら、こんな技まで」
明石「ひ、膝蹴りを横に倒れて躱した! しかし転倒はしない! 足を絡めた! か、蟹挟み!? 逆に榛名を倒しに掛かった!」
明石「不意を突かれた榛名選手、前へ転倒! 鳳翔選手、足を外さない! これは、いつの間に!? 既に関節技が決まっている!」
明石「あ、足絡みです! 鳳翔、足関節で榛名を捉えた! 空手家としては避けたい関節技をついに決められてしまった!」
香取「鳳翔さん、ここまで嘘つきだったのね。介者剣術だけじゃなく、古流柔術も知ってるんじゃないの」
明石「榛名選手、絶体絶命! 足を折られれば戦闘力が大幅に削られるのは明白です! 鳳翔選手、このまま決めてしまうのか!」
明石「いや、決まらない! 決まりません! 榛名選手、強引に足を抜いた! ここに来てパワー差が顕著に……うわっ、や、やった!?」
香取「さて、これも鳳翔さんの本領発揮かしら」
明石「鳳翔選手、抜けかけた足の指を掴んだ! そして、一息にへし折ったぁぁぁ! 榛名選手、利き足の親指を折られました!」
明石「そ、それでも榛名選手、足を引き抜きます! 足絡みから脱出! 鳳翔選手も立ち上がる! 再びスタンド状態で対峙です!」
明石「しかし、先ほどとは状況が違う! 榛名選手はもうステップを踏みません! 完全にフットワークを殺されました!」
香取「やられたわね。足さばきで重要なのは、親指の付け根である拇指球。そこを壊されたとなると、右足はほとんど機能不全ね」
香取「右足はもう支え程度にしか役に立たないわ。軸足にも使えないから、拳打を含めて打撃の威力とバリエーションは激減。榛名さん、大ピンチね」
明石「なるほど、しかも痛みによるダメージも深刻です! 足の指を折られ、片目も潰された! その額には玉のような汗がいくつも浮き出ています!
明石「まだ闘志は維持できているのか……ん? 榛名選手が何かを始めました! 深く、深く息を吐いている! 空手の型のような動きしている!」
明石「息を吐き終えました! これは……荒れていた呼吸が整っています! 表情からも疲労が消えた! これは、どういう魔法だ!?」
香取「息吹。空手の呼吸法ね。体内の呼気を完全に出し切って、呼吸を整えるの。割りと誰でもできる呼吸法よ」
香取「榛名さんともなれば、息吹の効力も一味違うみたいだけど。今ので痛みや疲労も消えちゃったみたいね。自己暗示みたいなものかしら」
明石「なるほど。これで榛名選手、状況をある程度振り出しに戻しました! 足指の骨折は深刻ですが、表情は至って平静を保っています!」
明石「再び榛名選手が取るのは、最初と同じ天地上下の構え! しかし、ここから繰り出す技はまるで鳳翔選手に通用しませんでした!」
明石「右を死に足にされた今、ここからどう戦うのか! 鳳翔選手は自然体のまま、やはり構えず立って……ちょっと待って。香取さん?」
香取「聞きたいことはわかるわよ。急所である人中に平突きを食らって、なんで鳳翔さんがノーダメージなのかってことでしょ?」
明石「その通りです。クリーンヒットに見えたんですけど、大きな腫れや傷もないようですし……」
香取「だから、全部嘘だったのよ。回し蹴りを受けて体勢を崩したのも、平突きを受けたもの、みんな演技なんでしょうね」
明石「えっ、ええっ!? あれが……全部!?」
香取「榛名さんが切り替えたファイトスタイルは実のところ鳳翔さんを追い込んでたわ。このままだとやられるって思ったんでしょう」
香取「そこで小芝居を打ったわけ。わざと蹴りをブロックして、平突きも当たりつつダメージを受けないよう、丁度良く受けたんでしょうね」
香取「榛名さんもまんまと引っ掛かってしまったわね。鳳翔さんは武術家として榛名さんとは対照的。何でもしてくるダーティな人よ」
香取「技量も神がかってるし、ここからはどうにでも仕留められるわね。さて、榛名さんはどうするかしら」
明石「な、なるほど……さあ、榛名選手はどう動く! 後退はしない! やや右足をかばいつつも、ジリジリを間合いを詰めていく!」
明石「やはり、榛名選手の武器は空手のみ! なおも打撃を仕掛けるのか! 果たして、それは鳳翔に通用するのか!」
明石「鳳翔選手、やはり待つ! まずは仕掛けさせる気だ! 達人に油断も慢心もない! 自然な立ち姿で榛名の待ち受ける!」
明石「再び拳の射程圏! 榛名選手、仕掛けるのか! やはり打って出、あっ! 鳳翔が懐に飛び込っ、後ろに回った! な、何だ!」
香取「あっ、ちょっと」
明石「な、投げたぁぁぁ! 何だ今のは!? まるですり抜けるように後ろへ回り込んだと思ったいなや、榛名選手が宙を一回転!」
明石「そして頭から投げ落とされたぁぁぁ! 榛名選手、まともに頭を打った! お、起き上がれるか!?」
明石「だ……ダメです! 完全に失神しています! し、試合終了! ゴングです! あっという間の幕切れです!」
明石「まさに一瞬の出来事でした! 鳳翔選手が投げ技を繰り出したのはわかりますが、どういう技なのかすら私たちの目には写りませんでした!」
明石「あれはどんな技だったんでしょう。ちょっとVTRで確認を……」
香取「だめ。今の試合のVTR、金庫にでも入れておくように。映像がネットにアップされたら、すぐに削除するよう手はずを整えておいて」
明石「えっ、なんでですか? UKFはネットへの動画投稿には寛大なんですけど……」
香取「あの技はね、おそらく御留流の技。つまり、香取神道流において門外不出、人前で使ってはいけない技なのよ」
香取「直接見てしまった人は仕方がないけど、あまり拡散されないように配慮してあげないといけないわ」
明石「そ、そうなんですか……ただ、それはちょっと疑問が残ります。なぜ、あの圧倒的有利な状況で、鳳翔さんはそんな技を?」
香取「わからない? 鳳翔さんは技量で圧倒的に榛名さんを凌駕してた。しかも足指を折られとなると、もう勝機なんて1%もないの」
香取「それでも榛名さんは諦めなかったわ。息吹で体勢を整えて、一歩も引かない覚悟で鳳翔さんに向かっていった。何としても勝つつもりでね」
香取「だから、鳳翔さんは全力という形でそれに応えてあげたの。最後の技はせめてものプレゼント。小技ではなく、秘伝の術で倒してあげたの」
明石「ああ、そっか……今までは表に出してもOKな技だけで戦っていたわけなんですね」
香取「ええ。敗北したとはいえ、榛名さんは最後に鳳翔さんの全力を引き出させた。ま、そんなことで榛名さんは納得しないでしょうけどね」
香取「やっぱり鳳翔さんは1つ上のステージの達人。榛名さんは強いけれど、まだその域には達してはいないってこと」
香取「これから、榛名さんが目標とするのはそのステージに上がることね。負けたら死ぬなんて言ってたけど、そんなのもったいないわ」
明石「そうですね……鳳翔選手も凄まじい実力でしたが、榛名選手も、将来を感じさせる最高のファイターでした!」
明石「どちらも日本が誇る素晴らしい武術家です! 皆様、今一度拍手のほうをお願い致します!」
試合後インタビュー:鳳翔
―――実際に戦ってみて、榛名選手をどのように感じましたか?
鳳翔「そうですね。まだ若いのにとても洗練された技をお持ちで、思った以上に苦戦してしまいました」
鳳翔「途中から、懐かしいなって感じましたね。私も、昔はあんな風に熱い心を持っていたんだなって思い出してしまって」
鳳翔「とても将来性のある方だと私は見ています。彼女はもっと強くなりますよ。修行のほう、ぜひ頑張ってほしいです」
―――試合展開としては、全て鳳翔選手の読み通りに進んだんでしょうか。
鳳翔「いえいえ、そんなことありません。本当ですよ? フットワークを使われたときは、正直言ってすごく焦りました」
鳳翔「あの辺りの攻防は私にとってまったく未体験でしたから。胸に当てられたときもかなり苦しかったですし、本当に危なかったです」
鳳翔「今は大体の動きを覚えたので、またやられればうまく対処できると思いますけど。大変勉強になる試合でした」
―――最後に見せた技はどういうものなんでしょうか?
鳳翔「ごめんなさいね、ノーコメントでお願いします。あれ、本当はやっちゃいけない技だったんです」
鳳翔「ただ、榛名さんが心も強い方でしたから、つい……技の原理を解明するのは、どうかやめてくださらないかしら。そういうの、すごく困るわ」
―――またUKFには出てくださいますか?
鳳翔「うーん、どうしようかしら。私、まだまだ格闘技は不勉強ですから。道場の経営もあるし、あまり気は進みませんね」
鳳翔「いい対戦相手が見つかって、そのとき私がお金の欲しい時期でしたら、また出るかもしれません。自信はありませんけどね」
試合後インタビュー:榛名
―――鳳翔選手のことを、今はどう感じていらっしゃいますか?
榛名「……あの方に挑んだ武術家が皆、武から身を引いているという話、身を以て実感いたしました」
榛名「単純に強いのではなく、次元が違います。おそらくは長門さん以上。一体、どうすればあの領域にたどり着けるんでしょうか……」
―――試合展開について、何か思うところはありますか?
榛名「……勝てるチャンスはあったと思います。ですが、決め切れませんでした。鳳翔さんが強かったのもありますが、榛名が弱いせいです」
榛名「榛名が未熟であるということを思い知らされました。鳳翔さんが本気を出したのは最後の一瞬だけでしょう」
榛名「あのときも、何をされたのかすらわかりませんでした。榛名はまだまだです。これで2度、榛名は死ぬことになりました」
―――これからどうされますか?
榛名「……今までは長門さんを目標に修行を積んで参りました。しかし今日、その向こう側が存在することを知りました」
榛名「榛名もあの領域にたどり着きたい。それまで、死ぬわけにはいかないでしょう。恥を忍んで生きていくことを、今、この場で決めました」
榛名「またUKFにも戻ってくると思います。そのときの榛名は、今と比べ物にならないほど強いはず。見ていてください、まずは長門さんを倒します」
大淀「すみません、外してしまって。ただいま戻りました」
明石「あ、おかえりなさい……大丈夫ですか?」
大淀「ええ。入渠してすっかり良くなりました。試合には間に合いませんでしたが、もう大丈夫ですよ」
明石「ん? ああ、そうですね……あの、具体的に何をされたんです? 現場は血の海だったそうですけど……」
大淀「血の海? そんな大げさですよ。ちょっと階段から足を滑らせて、頭を強く打っただけなんですから」
明石「……はい?」
大淀「あれ、詳しく聞いてないんです? 私、そういう感じで気を失って、ドックに運び込まれたらしいんですよ。記憶はほとんどないんですけど」
大淀「解説役は急遽香取さんがしてくれたみたいで。ご迷惑おかけしました」
明石「あ……ああ、そういうスタンスですか。今回の件はなかったことに?」
大淀「え? いや、別に公表してもいいですよ。もしかしたら、意外と天然で可愛いってことで、私の人気が上がるかもしれませんし」
明石「……なんか、話が噛み合いませんね。大淀さん、正直に言ってください。鳳翔さんと何があったんです?」
大淀「……鳳翔さんって、誰です?」
明石「ほら、今日のエキシビションマッチに出た、香取神道流の……」
大淀「うっ、頭痛が……すみません、知らない人です。変ですね、まだ頭を打った傷が残っているんでしょうか……」
明石「き、記憶が修正されてる……! 一体、どんな恐ろしい目にあったんですか……」
大淀「何を話されているのかわかりませんけど、これで今日の試合は全て終了しましたね」
明石「あ、はい。これで残すはあと1試合。決勝戦のみです!」
戦艦級 ”破壊王”武蔵 VS 戦艦級 ”ザ・グレイテスト・ワン”ビスマルク
大淀「さて。この対戦カードについては、まだ何も言わないでおきましょう。どちらも超級のファイター、とだけ断言させていただきます」
明石「長かった第二回UKF無差別級グランプリを締めくくる試合ですからね。一体、どっちのファイターが勝つんでしょうか」
大淀「では、決勝戦開催のその日までお別れですね。そう長く間は空かないでしょう」
明石「それは大会運営委員長の調子次第です。今この瞬間も、腕の感覚がどんどん消えてなくなっていってますからね」
大淀「……長く間が空かないことを祈っています。それでは、また次回お会いしましょう」
明石「はい! ご視聴、ありがとうございました! 次回、決勝戦もどうかよろしくお願いします!」
―――死闘を制し、幾多の強者から選び抜かれた2人の王。破壊王と絶対王者、最強の称号はどちらの手に渡るのか。
―――次回放送日、現在調整中。
今後の参考にさせていただくため、良かったらアンケートのご協力をお願いします。
UKF無差別級グランプリアンケート
https://docs.google.com/forms/d/1-Op3dFpL7-ENHBllODf01-OICl284zcc7rwxs_nDR0U/viewform
>>614
大会運営委員長、なかなか思い切った誤字をしていたことに今更気付く。
何回も確認作業してるのに、なんでこんな有り得ないレベルのミスを……ビスマルクの呪い?
一応、修正しておきます。
戦艦級 ”破壊王”武蔵 VS 戦艦級 ”ザ・グレイテスト・ワン”長門
乙。
実は一回香取さんが本領発揮しちゃってる
>>626
(白目)
~大会運営委員長からのお知らせ~
次回放送予定日、3/21(月)22:00に確定。UKF無差別級グランプリ決勝戦を開催します。
たぶん間に合います、はい。大丈夫です。
あまり調子はよくありませんが、予定通り放送できる見込みです。どうにか間に合わせます。
大淀「……もう予定をだいぶ過ぎましたけど、まだですか?」
明石「……はい」
大淀「いや、はいじゃなくて。いつ始まるんです?」
明石「全然話は変わりますけど、早いけど美味しくない料理店と、遅いけど美味しい料理店、どっちがいいと思います?」
大淀「はあ? そんなの決まってるでしょう。どっちもノーです。早くて美味しい店以外は許されません」
明石「そう、そうなんです! 早くて美味しいこそ最高ですよね! 美味しくてもお客様を待たせるなんて最低ですよ!」
明石「でも、食べていただくなら遅くなってでも美味しいものを出したい、そういう気持ちに関しては理解していただけます?」
大淀「……何が言いたいんですか?」
明石「……やり直すって」
大淀「ん?」
明石「だからその、予定通りにできたはずのものに『これじゃない』感があるので、やり直したいと……」
大淀「火炙りの用意をしてきてもいいですか?」
明石「1日だけです! 1日あれば納得の行くものが出来上がるので、それまで時間を!」
大淀「えー、待たせた挙句やり直すって……お忘れのようですけど、ビスマルクさんはいつでも覚醒させられる手筈が整っているんですよ」
明石「覚悟の上で時間をくれとのことです。終わったら腕くらい差し出すと。どうせ役立たずの腕ですし」
大淀「うわーやっちゃうんですか。この延期で更にハードルが上がるというのに……」
明石「申し訳ないです、正式決定となります! 大変お待たせしていながら、誠に申し訳ありません!」
明石「決勝戦放送日、誠に勝手ながら明日の22時に変更させていただきます! 次は大丈夫です!」
明石「次でダメだったら丸刈りにした写真をツイッターで投稿させますので、今回限りご勘弁ください!」
大淀「そうですか。では楽しみにしてますね、丸刈り写真の投稿を」
どうやら丸刈りはせずに済みそうです。
予定通り22:00から始めます。どうぞよろしく。
明石「皆様、大変長らくお待たせいたしました! ついに本日、第二回UKF無差別級グランプリ、決勝戦を行います!」
明石「実況はお馴染みの明石、解説は大淀さんでお送りさせていただきます!」
大淀「とうとうこのときがやってきましたね。この試合で全てが決まります。そう思うと、感無量ですね」
明石「同感です。最強を自負する16人の艦娘が集い、激闘を勝ち登ったのはたった2人! 今日この日、真の最強の艦娘が決定するのです!」
明石「頂点の座を手にするのは不動の絶対王者か、それとも敗北から駆け上がってきた挑戦者か! 早速試合を始めさせていただきたいと思います!」
明石「まずは赤コーナーより選手入場! Aブロックを制したチャンピオンボクサーの登場だ!」
試合前インタビュー:武蔵
―――扶桑戦後、武蔵選手は精神的に燃え尽きてしまったのではないかという懸念がされていましたが、今の本心をお聞かせください。
武蔵「……あの後、扶桑に会いに行った。きっと会ってはくれないだろうと思っていたが、扶桑は快く迎えてくれたよ」
武蔵「色々話したいことがあったはずなのに、私は何も言えなかった……代わりに、扶桑は一言だけ私に言葉をくれた」
武蔵「勝ってください、と。ただそれだけ。それだけで十分だった。それこそが私の最も欲しかった言葉だったんだ」
武蔵「かつて、私は扶桑に全てを奪われた。今度は私が扶桑から全てを奪った。その罪悪感に苛まれていた私自身が、今は情けなくて仕方がない」
―――では、決勝戦にはどのような意気込みで臨まれますか?
武蔵「勝つ。長門がとてつもなく強いことは百も承知だ。それでも私は勝ってみせる」
武蔵「断言しよう。もし扶桑が長門と戦うことになっていれば、必ず扶桑が勝っていた。なぜなら、扶桑は誰よりも強いからだ」
武蔵「私はその扶桑に勝った。ならば、長門に勝つのは当然だ。なんとしてでも優勝をこの手に掴み取る。そして、その優勝は私だけのものではない」
武蔵「扶桑と私が2人で手にする優勝だ。少なくとも私はそう思っている。長門が私に勝てる可能性は万に一つもない」
武蔵「長門が相手をするのは、私と扶桑2人分の強さだ。今の私は扶桑の想いを背負っている。長門と言えども、この想いだけは絶対に砕けない」
武蔵「今の私は不沈艦と化した破壊王だ。どんな相手にも負けはしない。たとえ、それが敗北を知らない絶対王者であろうとも、だ」
武蔵「ここが本当のスタートラインとなる。リングから降りるそのとき、私は新たなるUKFチャンピオンだ」
武蔵:入場テーマ「FinalFantasyⅩ/Otherworld」
https://www.youtube.com/watch?v=kXDxYIWAT7Y
明石「霧島、赤城、そして扶桑! 数々の強敵をねじ伏せ、とうとう破壊王が最後の舞台に登ろうとしています!」
明石「扶桑へのリベンジを果たし、残る目標は優勝のみ! 脅威のテクニックとパワーを併せ持つ、この怪物の快進撃はどこまで続くのか!」
明石「不沈艦すら沈める最強ボクサーが、打倒絶対王者を掲げて決勝に臨む! ”破壊王” 武蔵ィィィ!」
大淀「やはりここまで来てしまいましたね。Aブロックにおいて、1回戦から武蔵さんの強さは突出したものがありましたから」
明石「1,2回戦は圧勝、扶桑選手の猛攻さえ退けての決勝進出ですしね。もはやその実力を疑う方は誰もいないんじゃないでしょうか」
大淀「まったくです。あれほどのテクニックとパワーを両立させた選手は今まで例がありません。文句なしの実力者です」
大淀「立ち技の攻防においては既に最強だと言ってもいいでしょう。軽快なフットワークと見切り、間合いの取り方も絶妙です」
大淀「カウンターも凄まじい正確さで決めてきますし、タックルやグラウンド戦にも対応できて、おまけにあの怪力ですよ」
大淀「もう、まともな選手で勝てる人は誰もいないでしょうね。武蔵さんに勝てる可能性があるのは、ほんの一握りの実力者だけでしょう」
明石「その実力者の中には、当然長門選手も含まれていますよね?」
大淀「もちろん。武蔵さんが完璧なら、長門さんも完璧です。今までの試合ぶりを見る限り、両者の実力は互角と判断していいと思います」
大淀「加えて、今日の武蔵さんは闘志200%のコンディションです。きっと、本来の実力を更に上回るパフォーマンスを発揮してくれるでしょう」
明石「武蔵選手は扶桑戦直後に燃え尽きてしまったかのような様子が見受けられましたが、その心配はどうも杞憂だったみたいですね」
大淀「むしろ、反動でやる気満々ですね。第一、あれで戦う意欲を失ってしまうことがあれば、扶桑さんに失礼でしょう」
大淀「扶桑さんに対してそうだったように、今の武蔵さんには慢心も油断も一切ありません。全身全霊で長門さんを倒しに掛かるでしょう」
大淀「先の試合で武蔵さんの底が垣間見えたようにも思いましたが、もしかしたらこの試合では、更なる強さを見せつけてくれるかもしれません」
明石「ありがとうございます。それでは青コーナーより選手入場! 迎え討つのは、不動のUKFチャンピオンだ!」
試合前インタビュー:長門
―――武蔵選手についてはどのような印象をお持ちですか?
長門「決勝で戦うに相応しい相手だ。私自身、ちょうどああいう気骨のあるファイターと戦いたいと思っていたところだ」
長門「ビスマルクを倒してからどうも気分がすっきりしない。こういうときは優れたファイターと戦って発散するのが一番だ」
長門「リングに上がるのが楽しみだよ。武蔵は強い。私もいつも以上に気を引き締めて臨もうと思う」
―――何か具体的な勝算はありますか?
長門「そんなものを試合前に考えたことはない。リングでは何が起こるかわからないからな、作戦など立てても仕方がないだろう」
長門「相手と対峙して、どう戦うかはそのときに決める。今までずっとそうしてきた。相手が武蔵だろうと変わりはない」
―――負けるかもしれない、という不安はありますか?
長門「ない。今までにそんな感情は抱いたことがないし、これからも思うことはないだろう」
長門「人はそんな私を自信過剰だと言うかも知れないが、少し違う。私は今まで負けたことがない。だから、負け方を知らないんだ」
長門「数多くの強敵と戦った。扶桑、榛名、大和、島風。過酷な鍛錬で研ぎ澄まされた彼女たちの牙は、私の喉元に迫るところまでは行っただろう」
長門「それでも勝ってきた。私が強いということもあるのだろうが、それ以上に宿命のようなものを感じている」
長門「おそらく、私は勝ち続ける星の下に生まれたのだ。だから敗北を知らない。どうすれば負けられるのかがわからないんだ」
長門「武蔵はUKFでも私に次いで最強のファイターだろう。それでも勝つ。私が負けることなど、永遠に有り得ない」
長門:入場テーマ「クロノトリガー/魔王決戦」
https://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=1y_DS691Vhc#t=48
明石「最凶最悪の魔人、ビスマルクを相手に圧倒勝利! 誰も疑うことのない絶対王者が、UKFグランプリ制覇に王手を掛ける!」
明石「全てが究極とさえ言われる最強の艦娘は、破壊王の豪腕さえも退け、前人未到のグランプリ連覇を達成することができるのか!」
明石「真の王者が誰なのか、この試合にて明らかになる! ”ザ・グレイテスト・ワン” 長門ォォォ!」
大淀「やはり、決勝の舞台に上がるもう1人は長門さんでしたね。番狂わせを起こしうる選手は何人もいたと思うのですが」
大淀「大和さん、島風さん、そしてビスマルクさん。誰も長門さんには敵いませんでした。あらためてゾッとするほどの強さですね」
明石「これまで長門選手は40を超える試合を経験していますが、未だ敗北はゼロですからね。とんでもない戦歴です」
大淀「普通はですね、どんなに強い選手でも負けるときはあるんです。それは対戦者との相性だったり、時の運に左右された結果だったりします」
大淀「にも関わらず、長門さんはここまで負けなしです。きっと、長門さんに勝つにはただ純粋に強さで上回るしかないんだと思います」
明石「ならば、長門選手に勝つことができるのは、紛れも無い最強の艦娘でしか有り得ないということですね」
大淀「そうなります。武蔵さんがそうなのか、そうでないかはまだわかりません。戦いが決着を迎えたとき、初めて答えがわかると思います」
明石「では、大淀さん。事前予想のほうをお願いしたいのですが」
大淀「外れそうなのであまりしたくありませんが、それでも注目すべきところはいくつかあります」
大淀「今までの試合を見てわかる通り、武蔵さんの立ち技の強さは圧倒的です。スタンドで打ち勝つのは長門さんと言えども不可能に近いでしょう」
大淀「ならば、長門さんはグラウンド戦に持って行きたいはずです。しかし、仮にテイクダウンを取ったとしても武蔵さんには怪力があります」
大淀「加えてグラウンドの技術も持っているとなれば、下手をすると長門さんのほうが仕留められかねません。パワーでは武蔵さんが上ですからね」
大淀「長門さんは慎重に攻めざるを得ないでしょう。甘い打撃は確実にカウンターを入れられますから、最悪、防戦一方になることも考えられます」
大淀「それだけ武蔵さんには隙がありません。長門さんがどう攻めるか、それは私の考えが及ぶところではないでしょうね」
大淀「どちらも負けることなんて考えられないレベルの強者です。リング上で何が起こるのか、私自身もすごく楽しみです」
明石「ありがとうございます。さあ、とうとう両者リングイン! 王と呼ばれる2人の艦娘がここに相対しております!」
明石「長門選手は決勝に臨むとは思えないほど平然とした王者の風格! 対する武蔵選手、湧き上がる闘志が目に見えるようです!」
明石「リングサイドを御覧ください! この試合の決着を自分の目で見ようと、戦いを終えたグランプリ出場選手が勢揃いしています!」
明石「何名かいらっしゃらない選手もおられますが、扶桑選手の姿はしっかりとそこにあります! 視線の先は長門選手ではなく、武蔵選手!」
明石「武蔵選手がわずかに扶桑選手と視線を交わしました! 扶桑の想いは私が引き継ぐ、その覚悟が闘志となって武蔵の両目に揺らめいています!」
明石「長門選手のセコンドには陸奥選手の姿があります! 偉大なる姉を見守る瞳には、一点の不安もない! 長門の勝利を信じて疑わない目です!」
明石「果たして、最強の名はどちらの手に渡るのか! 絶対王者が死守するか、それとも新たな王者の誕生を目の当たりにすることになるのか!」
明石「真の最強は誰なのか、その答えが明かされる! ゴングが鳴った、試合開始です!」
明石「とうとう死闘の火蓋が切って落とされた! まず飛び出していくのは武蔵! ヒットマンスタイルの軽快な足取りでリング中央に躍り出る!」
明石「対する長門、いつもと変わりないゆっくりとした足取りで歩を進める! ファイティングポーズを取った! 打ち合いに応ずるか!?」
大淀「長門さんはまったく普段通りの様子ですね。まさか打撃の真っ向勝負をするつもりなんじゃ……」
明石「先手を取るのはやはり武蔵! いきなり左フリッカージャブを打ち込んだ! 長門、ガードを上げて辛うじてブロック!」
明石「武蔵はフットワークで回りこみつつ、再度フリッカージャブ! これもブロック! 長門選手、ガードを固めつつも下がりはしない!」
明石「長門選手が反撃のフック! 空振り! 武蔵選手、タップを踏むような軽いフットワークで難なく躱す!」
大淀「速い、長門さんの打撃を完全に読んでる……!」
明石「ガードの空いた右へすかさず武蔵のストレート! カウンター気味の一撃ですが、長門選手ギリギリで反応! ウェービングで回避します!」
明石「回避と同時に長門が踏み込んだ! 打撃を避けてクリンチが狙いか!? しかし、武蔵の動きが速すぎる! 一瞬で距離を取られました!」
明石「間髪入れず武蔵の左ジャブが奔る! この拳は長門の頬を叩いた! 更にワンツーの右ストレート! パリィで弾かれた! 長門選手後退!」
明石「武蔵が追いすがる! パンチの射程から逃がしはしない! 左ジャブ、フック、ショートアッパー! アッパーがボディを強く叩いた!」
明石「長門選手の顔にかすかな苦悶が浮かぶ! 肘打ちで反撃するも、あっさり空振り! 武蔵選手、巧みに中距離を維持して打ち続ける!」
明石「武蔵が更にジャブを重ねる! 長門選手、ガードを上げてこれを凌ぐ! パンチの合間を狙い、鋭いローキックが放たれた!」
明石「しかし当たらない! バックステップで躱されました! 武蔵選手、驚異的な回避テクニック! 長門の打撃が問題にならない!」
大淀「間合いの取り方が絶妙です。中距離を維持して、長門さんにタックルもクリンチもさせていません。無理やり打撃勝負に引き込んでる……!」
明石「大きな当たりこそないものの、武蔵選手の攻勢が続いています! 長門選手、カウンターを警戒してか反撃のパンチが打てない!」
明石「絶対王者が武蔵のフットワークに翻弄されている! 隙を見てローキックを放っていますがかすりもしない! 長門選手、防戦一方!」
明石「だが、長門選手の表情は未だ平静を保っています! この状況を打ち破る策はあるのか! 武蔵はなおも猛攻を続けています!」
大淀「武蔵さん、あれだけ動いてまったく息切れしていませんね。長門さんもスタミナ切れを狙って攻め込まないわけではないみたいです」
大淀「ここから狙うとなれば……蹴りですかね。武蔵さんに唯一欠けるものがあるとすれば、離れた距離からの蹴り技です」
大淀「ただ、下手に大振りの蹴りを狙うと、それもカウンターに繋げられかねません。長門さんはここからどう出るのか……」
明石「武蔵選手のラッシュが続きます! 冴え渡る左ジャブが反撃を許さない! ガードを開ければ即、右のストレートが放たれる!」
明石「この一撃を貰えば、長門選手と言えど致命傷は確実! 組み合いをフットワークで封じられたこの状況、絶対王者はどうやって打ち崩すのか!」
明石「またフリッカージャブが当たった! この鞭のように不規則な軌道のパンチが曲者だ、ガードの合間を掻い潜って長門の顔面を狙う!」
明石「更に左ジャブ、続けて右フック! 長門はガードを空けられない! 打ち返すことさえできず……いや、打ち返した! ここで長門が反撃!」
明石「いきなりの鋭い左ストレート! 武蔵、すかさずカウンタ……あっ、何だ!? 両者、大きく距離を取った! 同時に後退しました!」
大淀「はっ……はあっ!?」
明石「広く間合いを取り合った両者、その表情は互いに驚愕が顕になっています! 何が起こった!? ごく一瞬の攻防でした!」
明石「両選手の拳が複雑に交錯したように見えましたが……大淀さん、今のは何だったんですか!?」
大淀「し、信じられない……どっちも次元が違う、あんなことができるなんて……」
明石「あの、大淀さん! 大淀さんには何が起こったのか見えたんですか!?」
大淀「い、今のは……まず、長門さんのストレートに対し、武蔵さんが躱しざまにカウンターのストレートを放ったんです」
大淀「その瞬間、長門さんはそのカウンターをダッキングで躱してフックを打ちました。つまり、カウンターに対してカウンターを仕掛けたんです」
明石「それはその、ダブルカウンターみたいなものですか?」
大淀「そうですけど、そんな格闘用語はありません。だって、カウンターの重ね掛けなんて、事前に打ち合わせでもしない限り不可能な芸当です」
大淀「しかも、武蔵さんはそのフックをガードしてるんです。意識は完全に攻撃へ集中していたのに、条件反射で防ぐことができたんでしょう」
大淀「防げたのは運もあったんだと思います。武蔵さん自身、ガードしたこと自分で驚いた様子でしたから。それは長門さんも同じですけど」
明石「な、なるほど……カウンターにカウンターを仕掛けられて、それを防いだと。だから、どちらもあんなに驚いた様子を……」
大淀「無理もないでしょう。そんなことをしてくるなんて武蔵さんも思いませんし、長門さんにも絶対に決まる確信があったはずです」
大淀「驚きが大きいのは武蔵さんのほうでしょうね。カウンターを重ねてきた長門さんへと、それを防いだ自分自身にに対しての2つの驚きです」
大淀「まさかこんな神業を長門さんが狙っていたなんて……不発には終わりましたが、これで状況は大きく変わったと思います」
明石「……長門さんが、武蔵さんの打撃に対応し始めているということでしょうか」
大淀「おそらくは。防戦一方だったのは、動きを観察してカウンターのタイミングを計っていたのかもしれません」
大淀「観察を終えた今、長門さんも攻勢に出てくるでしょう。武蔵さんも無闇に打撃戦を続けるのは危険だと考えるはずです」
大淀「頼みとしていた戦術を同時に破られたわけですから、2人とも戦い方を少なからず変えざるを得ません。ここから試合は大きく動きます」
明石「さて……両選手、未だ動揺が色濃く残っております。絶対的な冷静さを武器とする長門選手さえ、なかなか前へ出られずにいます」
明石「先に立ち直るのはどちらか……武蔵選手が動いた! 改めてヒットマンスタイルを取り、ステップを踏みつつ前へ出ていきます!」
明石「やはり武蔵はボクシングの打撃で攻める気です! 対する長門、ややガードを高めにファイティングポーズを取った!」
明石「一見変わりない両者の構え、その心中はいかに! ここから試合はどのような展開を見せるのか!」
明石「まずは武蔵が踏み込んでいく! 軽快なステップで一気に間合いを詰めた! 初手はやはり左のフリッカージャブ!」
明石「長門、これをパリィで防いだ! 軌道を読まなければできない芸当です! まさか、本当に武蔵の拳を見切っているのか!」
明石「武蔵、続けて左ジャブ! 長門はこれは肘でカット、間髪入れず左フックを返した! スウェーで躱されるも、的確に反撃している!」
明石「更にローキックで追撃! 当たった、当たりました! 足が止まったところにロシアンフックが武蔵を襲う!」
明石「辛うじてサイドステップで回避! 長門選手、間違いなく武蔵の動きに対応しつつあります! 打撃が当たり始めている!」
大淀「まさか、こんな短い接触だけで武蔵さんの動きを見切るなんて……!」
明石「武蔵選手にはまずい展開です! 頼みのボクシングスタイルが読まれている! ならば、ここから破壊王はどう攻める!」
明石「打ち込んだのはやはり左ジャブ! これはボクサーとしての意地か、それとも作戦か! 変わらずボクシングの打撃で攻め立てる!」
明石「序盤はガードだけで対処していた長門選手ですが、徐々に武蔵選手のパンチを捌けるようになって来ています! ジャブをパリィで弾いた!」
明石「コンビネーションの右フックもパリィで弾く! サイドに回ろうとする武蔵の足にローキック! 当たった! 機動力を殺しに掛かっている!」
明石「武蔵選手が打撃で押され始めている! 苦しい展開です、まさか長門選手、このままスタンド勝負で武蔵を仕留めるつもりなのか!」
明石「また武蔵のジャブが弾かれる! パンチが当たらなくなってきました! それでも武蔵はジャブ……あっ、タックルに行った!?」
大淀「……違う、スタイルを変えた!」
明石「なっ!? タックルと思いきや、地からせり上がるようなボディへのアッパー! 長門のみぞおちをモロにえぐりました!」
明石「さすがの長門選手もわずかに動きが止まる! 武蔵が踏み込んだ! ボディへの右フック、左フック! 間合いを狭めて力任せに叩き込む!」
明石「これはヒットマンスタイルではありません! 腕力だけでボクシング界を制した、パワーファイター武蔵の怒涛のインファイトだぁぁ!」
明石「そうです、武蔵選手は元々怪力任せに押し進むインファイター! ここに来て武蔵、ファイトスタイルを大きく切り替えて来ました!」
明石「強烈なボディブローが脇腹に叩き込まれました! 長門選手、これは堪ったものではない! 打撃を逃れてクリンチを試みる!」
明石「首相撲の体勢になりました! 武蔵、構わず脇へ拳を打つ、打つ! 長門、反撃の膝蹴りが出せない! ち、力負けしてる!?」
大淀「な、長門さんが組み合いで押し負けてる……!」
明石「テクニックを投げ捨て、力任せに攻める武蔵! 長門は組み合ったまま動けない! テイクダウンを取ろうとする動きさえありません!」
明石「武蔵はお構いなしにボディへ拳を入れる! 更に頭突き! これは額で受けたものの、長門選手、反撃ができません!」
大淀「本当ならあそこから大外刈りや朽木倒しでテイクダウンが取れるはずです。なのに、武蔵さんの力が強すぎるんです」
大淀「今、少しでもバランスを崩せば長門さんはテイクダウンを取られるでしょう。武蔵さんの膂力が凄すぎて、体勢を維持するのがやっとです」
大淀「テクニックで迫られるなら、パワーで押し返す。やはり武蔵さんにはまるで弱点がない……!」
明石「さあ、長門が徐々に後退している! なんとか武蔵の腕をホールドして打撃を防いでいますが、力では明らかに武蔵選手が上!」
明石「長門選手はレスリングテクニックも持ち合わせていますが、このパワー差は覆せない! 長門選手が押し切られる!」
明石「ああーっ! とうとう長門が倒された! テイクダウン! 武蔵、強引に横倒して長門からテイクダウンを奪いました!」
明石「そのままグラウンド戦へ移行! マウントは取れるか!? 長門、それはさすがに許さない! 素早く足で胴を挟み込んだ!」
大淀「長門さんは半分は自分から倒れ込みましたね。一か八か、寝技に引き込んで勝負する気です」
明石「体勢は武蔵が上のガードポジション! 長門選手が下の体勢になるのはUKF史上初めてです! ここからどのような攻防が繰り広げられるのか!」
明石「武蔵はやはり上から殴る! 長門選手、ガードしつつ足をせり上げています! このまま三角絞めを狙うのか!」
明石「いや……! 武蔵選手、それを許さない! 立ち上がろうとしています! 足を胴に絡ませたまま、強引に立とうとしている!」
明石「腕力だけでなく、足腰の力も半端ではない! 三角絞めどころではありません! 長門、立ち上がる武蔵の動きを阻止できない!」
明石「とうとう足を開いて立ちました! 腰は長門の足で挟み込まれているものの、もはやガードポジションとは呼べない体勢です!」
明石「その体勢から、武蔵の拳が振り下ろされる! 万力の拳が長門へ迫る! 躱した! 身を捩って躱しました! マットを衝撃が揺るがす!
明石「立て続けにパウンドが落とされる! 躱した! 次は辛うじてガード! 恐るべき威力の下段突きが絶対王者に襲い掛かる!」
明石「次の一撃はボディに入った! この体勢では打撃の全ては躱し切れない! かといって、足の拘束を解けば更なるパウンドが襲ってくる!」
明石「長門選手、耐えるしかない! 武蔵選手はここで決めに掛かる! 両の拳が絶対王者を打ち砕かんと立て続けに振り下ろされる!」
大淀「武蔵さんのあの体勢、全身に凄まじい負荷が掛かっているはずです。数秒維持するだけでもキツいのに、まだ立ってる……!」
明石「拳が長門の顔面を捉えた! 絶対王者が流血! 更にボディへもう1発! 武蔵の猛攻が止まらない!」
明石「もう1発顔面へ入った! これは顎に当たったか!? 長門のガードがわずかに空いた! その隙を見逃す武蔵ではない!」
明石「一気に身を乗り出した! マウントポジション! とうとう長門選手がマウントポジションを許しました!」
大淀「き、決まる……!」
明石「長門選手、絶体絶命! 武蔵選手は絶好のチャンス! 拳を振り上げた! は、入ったぁぁぁ! 顔面に痛烈な一撃が入っうごおっ!?」
大淀「うそっ!?」
明石「か……噛み付きぃぃぃ!? 長門選手、振り下ろされた腕を捉え、手首の一部を噛みちぎったぁぁぁ!」
明石「あのビスマルクを思わせる猟奇的な一撃! て、手首の腱を正確に噛み切っています! 武蔵選手、右手の握力を失いました!」
大淀「こ、こんな状況であんなに正確なバイティングを……!」
明石「し、しかも口に含んだ血を噴いた! 目潰しです! 武蔵、まともに浴びてしまった! 武蔵選手、視力を一時喪失!」
明石「しかし武蔵、見えないまま左拳を打ち込んだ! 長門、この腕を捉えた! 同時に身を大きく捻る!」
明石「ま、マウントポジション脱出ぅぅぅ! 武蔵を引きずり落としました! 長門選手、絶体絶命のピンチから脱出! 即座に立ち上がります!」
明石「武蔵選手も目を拭いながら立ち上がる! 視力は戻ったものの、右の拳が死んでいる! 致命的なダメージを負ってしまいました!」
明石「グラウンド戦でスタミナも消耗したのか、武蔵の息が荒い! 対する長門、多少息は上がっているものの、大きなダメージはありません!」
明石「絶対王者が静かに佇んでいます! あわやKOかと思われた矢先、まさかこんな展開になってしまうとは!」
大淀「な……なんであの状況から逆転してるの!?」
明石「長門がファイティングポーズを取る! 武蔵もヒットマンスタイルを構えるも、右手は開いたまま! 打撃力を大きく削がれています!」
明石「まさか、武蔵選手の圧倒的優勢からここまで状況を覆すとは! 恐るべし王者長門! 武蔵選手に逆転の手は残されているのか!」
明石「長門選手が踏み込んでいく! 再びスタンドでの打ち合いです! 武蔵、肩で息をしながらもフットワークで迎え討つ体勢!」
明石「左のフリッカージャブが奔る! 弾かれた! 脅威のハンドスピードを維持しているにも関わらず、長門難なくパリィに成功!」
明石「続く右の掌底もスウェーで回避! もはや打撃を完全に読んでいる! 反撃のローキック! 武蔵、躱し損ねた!」
明石「膝に痛烈な蹴りがヒット! 更にロシアンフックが迫る! これは皮一枚で回避! フットワークのキレが落ちている!?」
大淀「いえ、長門さんのキレが増しているんです。武蔵さんの動きに完全に対応してる……!」
明石「武蔵の打撃が当たらない! サイドに回ろうとするも、長門が先回りしている! 全ての動きが読まれているのか!?」
明石「それでも武蔵はパンチを打つしかない! 左ジャブ! ガードされた! 左フリッカージャブ! パリィで叩き落とされる!」
明石「逆に長門がジャブを放った! カウンター気味に武蔵の顔面へヒット! ダメージは大きくないものの、当てられたこと自体が最悪の展開!」
明石「もはやボクシングの打撃は通用しないのか! 速度は維持しているものの、武蔵の息が荒い! とうとうスタミナの底さえ見えて来ました!」
明石「長門はさほど呼吸も乱さず、多少の流血があるのみでダメージはほとんど残っていない! まさか、絶対王者がこれほどまでとは!」
大淀「嘘でしょう、武蔵さんがここまで通用しないなんて……」
明石「右手の握力を失い、スタミナも限界が間近! 武蔵の敗色が濃厚となってきた今、逆転の目は残されているのか!」
明石「……ある! まだ武蔵の闘志は燃え尽きていない! 満身創痍ながら、武蔵の目には不屈の炎が爛々と揺らめいています!」
明石「そうです! どんなときも、どんな相手でも扶桑は諦めなかった! 今の武蔵は不沈艦の意志を継ぐ破壊王! 決して敗北など受け入れない!」
明石「武蔵がフットワークをやめました! ガードを上げたオーソドックスなボクシングの構え! 真っ向から長門と打ち合うつもりです!」
明石「長門は平然とそれに応え、ファイティングポーズで無人の野を歩く! ここからです! 本当の勝負はここからだ!」
大淀「そう、まだ勝負は決まってない。武蔵さんが諦めていないなら……!」
明石「ゆっくりと両者が詰め寄る! 打った! 同時、同時です! 左の拳が交錯する! ともに顔面へクリーンヒットォォォ!」
明石「しかしどちらも倒れない! 長門がロシアンフックを振り上げる! いや、武蔵の方が速い! あ、アッパーカットォォォ!」
明石「長門の顎をモロに打ち抜いた! 絶対王者がふらつく! 追撃のボディブロー! これも入ったぁぁぁ! 長門選手、悶絶!」
明石「すかさず武蔵が飛び込んだ! 更にボディブローを狙うか! いや、タックルだ! 胴タックルを決めた! 長門、テイクダウン!」
明石「再び長門が下になりました! どうにか足を挟んでハーフガードポジション! 武蔵、休まず拳を振り下ろす!」
明石「1発、2発! ボディへのフックが立て続けに決まる! 長門もやられてばかりではない! 武蔵の腕と襟を取った! 引き倒しに掛かる!」
明石「武蔵、筋力で耐えられるか! いや、長門の柔術テクニックが勝った! ポジションを返されます! 今度は長門が上のサイドポジション!」
明石「グラウンドの攻防が続きます! 長門はアームロックを狙う! 武蔵、全身を捩ってそれをさせない! まだ武蔵の怪力は健在だ!」
明石「強引に振りほどいて立ち上がった! 遅れて立とうとする長門に右掌底! いっ、一本背負いぃぃぃ!」
明石「打撃が読まれていた! 長門、腕を取って綺麗に投げを決めました! 武蔵、受け身を取るもすぐには立ち上がれない!」
明石「長門が素早く上四方固めの体勢を取る! チョークを極めるか!? いや、武蔵が素早く左手を差し込み、チョークを許さない!」
明石「だが首に絡まる腕を振りほどくには至らない! 武蔵はどうにか身を起こそうとしますが、バックを取った長門がそれをさせない!」
明石「それでも武蔵、強引に身を起こした! なっ……投げたぁぁぁ!? む、武蔵の背負い投げ! ボクサー武蔵が投げ技を繰り出しました!」
大淀「技なんかじゃありません。力づくでぶん投げただけです。それでも、なんて怪力と執念……!」
明石「再び武蔵がトップポジション! 長門、足を絡ませてガードポジ……ふ、踏み付けたぁぁぁ! 武蔵、かかとで長門のみぞおちを踏み抜いた!」
明石「この一撃は効いている! しかも武蔵、続けて膝を胸に落とした! そのまま長門を抑えつけ、ニーオンザベリーの体勢!」
明石「ここに来て、武蔵に新たなチャンスが到来! 長門は抑え込まれて身動きが取れない! その顔面に武蔵の剛拳が炸裂ぅぅぅ!」
明石「痛烈な鉄槌打ちが入った! 1発、もう1発! ガードを顔面へ固めるも、お構いなしに武蔵が殴る、殴る!」
明石「必殺級の一撃が何度も振り下ろされる! 鮮血が飛び散った! 長門選手の血です! 武蔵が長門を追い詰めている! ここで決めに掛かる!」
明石「だが、長門はまだ意識を失っていない! 襟を掴んで引き込んだ! 武蔵を抱き込もうとするも、そう簡単にこのチャンスは逃せない!」
明石「構わず武蔵は拳を振り上げる! また顔面へ入った! 長門のダメージは深刻だ! 武蔵が留めを刺しに掛か……蹴った!?」
大淀「うそ、あの体勢から!?」
明石「長門の足が振り上がった! すねがガラ空きの側頭部へヒットォォォ! 驚くべき脚力と柔軟性! 変形の蹴り上げが武蔵を捉えました!」
明石「不意を突かれた武蔵が大きくぐらついた! すかさず長門、ポジションを取り返す! ま、マウント! マウントポジションです!」
明石「とうとう長門がマウントポジションを取ってしまった! 武蔵、危うし! 長門のパウンドが迫り来る!」
大淀「でも、この体勢は……!」
明石「あっ!? そ、そうです! 武蔵にはこれがあった! 襟を掴んでの強引な引き剥がし! 腕力にものを言わせた、力任せのマウント脱出!」
明石「相手が王者長門であろうとも関係ない! 先の2戦と同じく、あっさりと長門が引き剥がされ……あっ!?」
大淀「まさか、これも計算の内!?」
明石「違う、引き剥がされたのではない! 襟を取りに来た腕を逆に掴んだ! う……腕十字が決まったぁぁぁ!」
明石「豪腕で返せるか!? ダメだ、長門の動きが速過ぎる! お、折ったぁぁぁ! 折れました! 武蔵選手、左腕骨折!」
明石「極めた瞬間に即折りました、長門選手! 絶対王者に慈悲はない! 右手の握力喪失に加え、左腕を失いました、武蔵選手!」
明石「しかも、極められた腕十字から脱出する術はありません! もはや試合は……」
大淀「待って、まだ終わってない!」
明石「はっ!? こ……今度は武蔵が噛み付いたぁぁぁ!? 長門のふくらはぎに大口で食らいついている! みるみるマットに血が滴っていく!」
明石「長門、堪らず腕十字を解いて立ち上がる! しかし武蔵、ふくらはぎの一部を噛みちぎりました! 長門の足から大量の出血!」
明石「まだ勝負は終わってない! なんという執念、武蔵までが噛み付きを仕掛けるとは! しかし、これで長門の脚力を大きく削ぎました!」
明石「武蔵は左腕を折られ、動くのは握力のない右腕のみ! 対する長門もふくらはぎに傷を負い、足を引きずっています!」
明石「ともに満身創痍ながら、闘志は衰えず! 長門はなおも平然とした王者の風格を崩さず、武蔵も不屈の炎は消えることなく揺らめいている!」
明石「再びスタンドで向き合う2人の王! 最後に立っているのはどっちだ! 今一度、両者が間合いを詰めていきます!」
大淀「どちらも限界が近い、次の攻防で勝者が決まる……!」
明石「先に打ったのは武蔵! 右の掌底を力任せに叩き付ける! 長門、ガードするも踏ん張りが効かない! やや後方によろめく!」
明石「更に武蔵が掌底を打ち込む! もう武蔵にフットワークを使うスタミナは残されていません! 体力は風前の灯火です!」
明石「しかし、それは長門も同じこと! ふくらはぎの出血が止まらない! 動脈を切られたのか、血が体力と共にみるみる流れ出していきます!」
明石「もはや長期戦は有り得ない! 両選手、最後の力を振り絞って打ち合いに臨む! この攻防を制した者がチャンピオンとなるのです!」
明石「武蔵、再び右の掌底! これはダッキングで躱されました! 長門、浮き上がりざまにアッパーカット! 武蔵の顎を打ち抜いた!」
明石「大きくふらつくも、武蔵は倒れない! 長門も片足が動かず追撃に行けない! 武蔵、体勢を立て直してなおも向かっていく!」
明石「右の掌……いや、蹴った!? 武蔵のミドルキックです! 素人丸出しの、力任せの中段回し蹴り! しかし確実に胴へヒットしました!」
明石「右をフェイントにして、まさかのキック! 長門が大きくよろめいた! そこへ追撃の右掌底! 長門、辛うじてガードしました!」
明石「片腕と片足の対決、やや武蔵が押しているか!? ともに辛うじて決定打を免れつつ、それでも1歩も引きません!」
明石「今度は長門が腕を振り上げる! ロシアンフッ……か、カウンターァァァ! 右掌底が顔面を捉えた! カウンターが決まったぁぁぁ!」
明石「伝家の宝刀、右のカウンターパンチ! しかし長門、ギリギリで打点をずらしたか!? 大きく仰け反るも、倒れはしない!」
明石「どちらも未だ倒れない! なおも長門は向かっていく! 再びロシアンフック! かっ……カウンターが決まったぁぁぁ!」
大淀「し……信じられない。まさか、ここで……!」
明石「これは……っ! 序盤の攻防で見せた、あのカウンターの重ね掛け! 武蔵のカウンターに対し、長門が更に右フックのクロスカウンター!」
明石「今度は防げなかった! 武蔵の顎が大きく揺さぶられる! 腕が下がった! ああっ……ゆっくりと武蔵が前のめりに倒れていく!」
明石「えっ? な、長門選手が武蔵を抱きとめました! 武蔵選手の腕は力なくぶら下がっています! これは……完全に失神しているのか!?」
明石「ご、ゴングです! 武蔵選手の失神が確認されました! 試合終了です! 勝者は長門! 長門選手のKO勝ちです!」
明石「劇的な幕切れです! あの破壊王が、長門選手の腕の中でピクリとも動かない! 武蔵選手、ここに来て無念の敗退!」
明石「未だかつてないほどの苦戦を強いられるも、長門選手が絶対王者の意地を見せつけました! 決勝戦、ここに決着! 優勝が決まりました!」
明石「第二回UKF無差別級グランプリ、その頂点を制したのは長門、長門選手です! やはり、王者の名は絶対! 最強の艦娘がここに決定しました!」
明石「最強の艦娘、その名は長門! 第一回、第二回UKF無差別級グランプリ、連覇を達成! 紛れも無い、最強の艦娘です!」
明石「グランプリ当初から囁かれていた、誰が長門を倒すのかという答えがここにある! そんなやつはいない! 長門は誰にも倒せない!」
明石「KO寸前まで追い込むも、武蔵の拳、わずかに届かず! 勝利の女神は、最後の最後に長門選手へと微笑みました!」
大淀「……終わってしまったんですね。とうとう、誰も長門さんを倒すことができなかったと……」
明石「そういう結果になりましたね。武蔵選手も凄まじい強さでしたが、長門選手は更にその上を行ったように見えました」
大淀「ええ。武蔵さんに弱点はなかったし、過ちも犯しませんでした。ただ純粋に、長門さんのほうが少しだけ強かったんでしょう」
大淀「長門さんにここまでダメージを追わせたのは武蔵さんが初めてです。武蔵さんが強かったのは疑いようもありません」
大淀「でも、長門さんはそれ以上に強い。まさに究極のファイターです。長門さんに勝つ手段はもはや、本当にないのかもしれませんね」
明石「確かに、ここまで強いとそれも有り得ますね……引退するその日まで、生涯無敗を突き通してしまうと……」
大淀「まあ、有り得るかもしれないってだけです。ほら、リングサイドを見てください。グランプリ出場選手の顔つき、わかります?」
明石「あっ……なんというか、動揺している選手が1人もいませんね。むしろ、試合を見てなおさら燃え上がっているような……」
大淀「そういうことです。ファイターって、考えることはみんな同じです。結局は自分が一番なんだ、ってね」
大淀「目の前であんな最強ぶりを示されて、みんな奮い立ってます。長門さんさえ倒せば、自分が最強だって認めてもらえますからね」
大淀「これから、むしろ長門さんは一層色んな選手に狙われるかもしれませんよ。彼女の座っている、最強の座を奪いたいがために」
明石「なるほど……そういう大淀さんはどう思っていますか? 一応、大淀さんもUKF軽巡級王者ですし」
大淀「一応って何ですか、一応って……ま、ノーコメントとさせていただきます。私、戦いに関しては秘密主義者ですので」
明石「そうでしたっけ? まあ、いいですけど……さて、これで第二回UKFグランプリ、全ての試合が終了いたしました!」
明石「優勝した長門選手には、チャンピオンベルトに加え、優勝賞金として10億円、そして伊良湖&間宮給糧艦の年間フリーパスが送られます!」
明石「どうか長門選手には、王者として栄光ある生活を楽しんでいただきたく思います! 第三回UKF無差別級グランプリが開かれる、そのときまで!」
明石「これにで、第二回UKF無差別級グランプリ、全ての日程を終了いたします! 皆様、またいつかお会いしましょう!」
大淀「また会いましょうね。次は解説ではなく、選手として会うことになりますけど」
明石「えっ!? そ、そうですか……では、その日までさようなら! 今までご視聴、ありがとうございました!」
大淀「第三回UKF無差別級グランプリにて、またお会いしましょう」
試合後インタビュー:長門
―――連覇を達成されたご感想をお聞かせください。
長門「悪くない気分だ。これからしばらく贅沢な暮らしもできるからな。UKFには実に感謝している」
長門「曇っていた気分も晴れた。あそこまで本気で戦ったのはいつ以来だろうな。とても楽しく、いい試合ができたよ」
―――戦ってみて、武蔵選手をどう感じましたか?
長門「素晴らしいファイターだ。私をあそこまで苦しめたのは、後にも先にも武蔵だけだろう。こんなに殴られたのは久しぶりだな」
長門「私をして、百回戦って百回とも勝てるとは言い難い相手だ。やつの動きはだいたい覚えたが、それでも簡単に仕留められるものではない」
長門「いずれもう一度戦いたい相手だ。そのときも私が勝たせてもらおう。私は今以上に強くなっているだろうからな」
―――途中、長門選手らしからぬ噛み付きや目潰しを攻撃に使われていましたが、ああいった手段を取った理由というのはありますか?
長門「そうだな。あれを汚い手段だとは思っていない。噛み付きも、目潰しも、実戦なら警戒して然るべき攻撃方法だ」
長門「今までそれらを使わなかったのは、使う必要がなかったからだ。そんな手段を使わなくても私は勝てる。今まではな」
長門「だが、武蔵は私の予想を上回る強さだった。ああいう手を使わざるを得ない局面にまで追い込まれたことを認めよう」
長門「批判もあるだろうが、格闘家は勝つことが全てだ。負ければ全てを失う。勝つためなら、どんな手段も迷わず使うべきだ」
長門「この先、私にそこまでさせる選手が新たに現れることを祈っている。またいずれ、本気で戦ってみたいものだな」
試合後インタビュー:武蔵
武蔵「私は……負けたのか。信じられない……全力を尽くした。限界を超えて戦った。勝ちに繋がる場面はいくつもあったはずだ」
武蔵「それでも、勝てなかったのか……そうか、そこまで長門は強かったのか。ここまでやって、届かないのか……」
―――長門選手をどう感じられましたか?
武蔵「……よく覚えていないんだ。必死だったからな。恐怖も何もなかった。ひたすら無我夢中に戦ったよ」
武蔵「覚えているとすれば、そうだな……序盤に1度だけ驚いた表情を見せて、それから長門はまったく表情を変えなかった」
武蔵「どんなに殴っても、追い込んでも、冷静に私を観察していた。ああ……今になって思う。恐ろしいやつだよ、あいつは」
―――リベンジをしたい気持ちはありますか?
武蔵「……どうだろうな。あれほど熱く燃えていた闘志を、今は感じない。負けて悔しいと思う感情も大して湧いてこないな」
武蔵「今まで血の滲むような鍛錬の日々を送り、ここまで来た。そして負けた。どうやら、私はこの辺りで限界らしい」
武蔵「また試合をしたいという気持ちもほとんどない。この試合で、私は燃え尽きてしまったみたいだな」
―――それは引退されるということですか?
武蔵「そう取ってもらって構わない。だが、引退には少々早いな……それに、まだやってみたいことが1つ残っている」
武蔵「やってみたい、というのは違うな。私には、どうしても見てみたい光景があるんだ」
武蔵「扶桑が優勝する姿を見たい。あの長門の強さを目の当たりにしても、きっと扶桑なら諦めてはいないだろう」
武蔵「これから、私は扶桑の元に行きたいと思う。私がリングパートナーとなれば、扶桑は更なる実力を身に付けられるはずだ」
武蔵「私の物語はここで終わりにしよう。次のグランプリには出場しない。代わりに、扶桑のセコンドとして参加させてもらおう」
武蔵「今まで私を応援してくれたファンに心から礼を言いたい。これからは、代わりに扶桑を応援してくれ。最強を目指すバトンは扶桑に引き継ぐ」
武蔵「次のグランプリで、長門を倒すのは扶桑だ。きっとそうなると思う。楽しみにしていてくれ」
―――グランプリ出場選手インタビュー
正規空母級 ”緋色の暴君” 赤城
赤城「ああ、長門さんが優勝したらしいですね。まあ誰だっていいですよ。私じゃないなら、誰が優勝したって同じです」
赤城「次は私が優勝させてもらいます。今度こそ、チャンピオンの贅沢な食生活を満喫したいですね」
赤城「その過程でぜひ戦いたい人は何人かいますが……まあ、優勝できればいいんですよ。次こそは、必ず」
―――その後、赤城はムエタイに磨きを掛けるため、タイの地へと渡る。
大会終了後、怒りに任せて暴れ回り、一航戦関係者の大半をドック送りにしたという噂だが、その真相は定かではない。
重巡級 ”不退転の戦乙女” 足柄
足柄「素晴らしい試合を見せてもらったわ! 試合後も体が火照ってしょうがないの、いますぐ試合をしたくで堪らないわ!」
足柄「1回戦敗退しちゃったけど、次のグランプリも呼んでもらえるかしら? そのために、しっかりトレーニングしなくっちゃね!」
足柄「重巡級グランプリの防衛戦もしなくちゃいけないし、忙しくなるわよ! 早速妙高姉さんにスパーを付き合ってもらうわ!」
―――足柄は再び開かれた重巡級グランプリにて、見事王座を防衛。重巡級最強の座を確固たるものにする。
しかし、重巡級には未だ知られざる怪物が潜んでいる。自身が敗北するその運命を、足柄は知らない。
戦艦級 ”血染めの狂犬” 霧島
霧島「なるほど、なるほど。決勝はこうなりましたか。正直言って想定の範囲外でしたね」
霧島「まだまだ私も甘いです。いえ、格闘技を学ぶ気はありません。私は私のやり方で強くなりますから」
霧島「しばらく別の場所で戦うことにしたので、少しの間UKFとはお別れします。さて……どけよコラァ! アタシは忙しいんだよ、ブチ殺すぞ!」
―――霧島が目指した場所は、深海棲艦の領域。そこで繰り広げられているという、デスマッチの舞台へと単身乗り込んだ。
その後の霧島の消息は定かではない。本物の怪物が集う戦場で、霧島は何を目にしたのだろうか。
正規空母級 ”見えざる神の手” 加賀
加賀「……実を言うと、自信をなくしかけてます。UKFがここまでレベルの高い場所だとは思いませんでした」
加賀「道場で培った技術なんて、実戦では何ら役に立たないのではないかと不安に感じています。私が負けたのは当然の結果でした」
加賀「ですが、このままでは終われません。赤城さんもリベンジすると言っていますし……私自身、負けっぱなしは御免です」
―――UKF正規空母級にて、新たな強豪選手が誕生した。合気道の使い手、一航戦の加賀である。
天才と呼ばれた技の冴えはリングでも決して色褪せず、数々の名勝負を生み出し続けている。
戦艦級 ”蛇蝎の瘴姫” 比叡
比叡「ヒエー……凄い試合でした。情けないんですけど、決勝に行かなくてよかったって思っちゃいました……長門さん、怖すぎです」
比叡「でも、私だって負けてはいられません! もうお笑い界には戻らないって決めましたから、格闘家としてしっかり強くなります!」
比叡「いずれ、長門さんにだって勝ってみせます! ……っていうのは言い過ぎかもしれませんけど、頑張ります!」
―――毒身術を失った比叡は、心機一転して真面目にボクシングへのトレーニングに励むこととなる。
持ち前の俊敏性と勢いを武器とし、勝ったり負けたりを繰り返しながら、着実にファイターとしてのキャリアを積んでいる。
戦艦級 ”戦慄のデビルフィッシュ” 日向
日向「試合を見ていて嫉妬したよ。最強の艦娘と言えば、かつては私だったんだからな。今やすっかり長門の影に隠れてしまったよ」
日向「おまけに武蔵まで出てきて、このままだと初代戦艦級王者の立場がない。どうにかして名誉挽回を図らないとな」
日向「手段は決まっている。次のグランプリで優勝するんだ。長門対策は万全にしておく。今度こそ、チャンピオンベルトを返してもらうよ」
―――長門の影に隠れながらも、日向は寝技の強さをリングで発揮し続け、柔術の脅威を改めて格闘界に轟かせた。
しかしグランプリ後、日向は突然の引退を発表する。それは瓜二つの容姿でありながら、己以上の強さを持つファイターに座を譲るためだった。
戦艦級 ”ジャガーノート” 陸奥
陸奥「……ビスマルクさんのことは、未だにちょっとだけトラウマだわ。でも、長門姉さんのおかげでほとんど払拭できたみたい」
陸奥「だって、ビスマルクさんより長門姉さんのほうがずっと怖いものね。いつまでも凹んでなんていられないわ」
陸奥「姉さんも期待してくれているみたいだし、私も頑張らなくちゃ! 長門姉さんを倒すのは、やっぱり私じゃなきゃね」
―――その後も陸奥は快進撃を続け、誰もが恐れる戦艦級の強豪選手としてUKFに君臨し続ける。
果たして、彼女が長門を倒す日は訪れるのか。長門は来るべきその日を、静かに微笑みながら待っているという。
駆逐艦級 ”猛毒の雷撃手” 不知火
不知火「……1回戦敗退後に吹雪さんのところへ行ったのですが、ビンタされて追い返されました。さすが、自分にも他人にも厳しい方です」
不知火「ここは自分を高めるにはいい場所です。このまま、不知火もUKFの選手として契約させていただきます」
不知火「負けるのは好きではありません。2度目の敗北は決してないものとし、更なる精進に励みたいと思います」
―――駆逐艦級二大王者の時代は終わりを告げた。今は駆逐艦級四天王、その一角を担うのが不知火である。
完成されたその技は戦艦級にも匹敵し、駆逐艦級でありながら、無差別級試合の多くを白星で飾ることになる。
軽巡級 ”悪魔女王” 龍田
龍田「なんか気に入らないわ~。長門さん、私を一方的にやってくれたビスマルクにあっさり勝っちゃうんだもの」
龍田「あれからずっとイライラしっぱなしよ。誰か、お金あげるからイジメさせてくれないかしら~。死なない程度で許してあげるからぁ」
龍田「なかなかそんな人見つからないわよね。うーん……ちょっと私、旅行に行ってくるわ~」
―――龍田が向かった旅行先とは、深海棲艦の領域だった。合法的に痛めつけられる相手の求めて、霧島と同じくデスマッチの場を目指したのである。
数日後、龍田は何事もなかったように帰ってきた。それからしばらく、深海棲艦たちの間で「悪魔女王」の名は畏怖の対象になったという。
戦艦級 ”恋のバーニングハリケーン” 金剛
金剛「いやあ、長門はマジで怪物だったネ! ぶっちゃけ、今の私が勝てる気が全然しないデース!」
金剛「あれから榛名にもしこたま説教されて、私、いいところナシネ! このままだと、提督にも愛想尽かされてしまうデース!」
金剛「見てるがいいネ、長門! 次にそのチャンピオンベルトを巻くのは私デース! それまでせいぜいいい気になってるがいいネ!」
―――金剛は自身の実力を発揮する場所として、やはりシュートボクシングを選んだ。K-1、UKFの試合にも精力的に参加している。
戦艦級最速の名に磨きを掛け、次のUKFグランプリへの参加を熱望しているという。しかし、金剛姉妹最強の彼女がそれを許すかは定かではない。
駆逐艦級 ”神速の花嫁” 島風
島風「えっ、長門さんが優勝したの? ふーん、練習で忙しかったから、全然試合見てなかったわ! 後でDVDに焼いて持ってきてよ!」
島風「ま、当然の結果ね! なんたって、長門さんは島風に勝ったんだから! 長門さんに次いで最強なのが私よね!」
島風「もういい? いいよね? はい、取材終わり! 今から走り込みに行ってくるから、もう帰って! じゃあね!」
―――駆逐艦級四天王の一角となった島風。艦娘最速の実力は同階級相手にも存分に発揮され、今や吹雪、夕立と同等の実力者となった。
小柄ながらも華麗なテクニックで戦艦級を倒し、そして可愛い。今日もその魅力溢れるファイトで多くのファンを惹きつけてやまない。
戦艦級 ”死の天使” 大和
大和「長門さんが勝つことはわかっていました。ですが、武蔵さんも素晴らしい選手でしたね」
大和「大和がまだまだ実力不足であることを痛感いたしました。これから、修行のために山ごもりに入りたいと思います」
大和「長門さんに勝てる確信ができるまで、山を降りない覚悟です。どうか長門さん、それまで無敗でいてくださいね」
―――大和はデスマッチにも戻らず、表舞台から姿を消す。とある霊山の奥深くへと入ったきり、消息は完全に途絶えている。
ときおり、その霊山からは大木が揺れ動く轟音が聞こえるようになる。地元の住民は、天狗の仕業だと密かに噂し合っているそうだ。
戦艦級 ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルク
―――ビスマルクは眠り続けている。彼女と戦いたいというファイターが現れるそのときまで、決して目を覚まさない。
意識を失う直前、ビスマルクは夢から覚めたかのように、可愛らしい笑顔で存在しない提督に話しかけていた。
あれこそ、ビスマルクの本来の姿なのだろうか。ドイツの研究機関は彼女に何を施したのか。全ては闇に葬られ、真実は藪の中に捨て去られる。
戦艦級 ”不沈艦” 扶桑
扶桑「武蔵さん、負けてしまいましたね……残念です。仕方がありませんね、長門さんは強いですから」
扶桑「……次、ですか? その……私、あんまりこういうことを言うキャラじゃないんです。でも……言わせていただきますね」
扶桑「次は優勝します。必ず長門さんを倒します。私、全然諦めてませんから」
扶桑「ファンの方々にも、山城にも約束します。次こそ、UKFチャンピオンの座を手にします……必ず」
―――扶桑は自分の元へ訪ねてきた武蔵を迎え入れた。強くなりたい。扶桑はそのためならばどんな苦難も惜しまない。
次こそは優勝を。固い決意を胸に秘め、武蔵と共に今日も扶桑はその技に更なる磨きを掛ける。全ては、長門を倒すために。
―――第三回UKF無差別級グランプリに向けて、既に強者たちが動き始めている。その中には、知られざる怪物の姿もある。
―――重巡級からは不吉な風が吹き、遠い異国にて「3人の」海外艦が最強の座を求めて立ち上がる。
―――それらを前に、長門は王座を死守できるのか。扶桑は悲願の優勝を果たすことができるのか。
―――次大会、開催日未定。最強の艦娘はまだ決まっていない。
(C) Ultimate 艦娘 Fighters Japan運営委員会 2016
ご視聴ありがとうございました。後日、制作裏話、解説、次大会の予定などを含むあとがきを大淀、明石でお送りします。
次大会などへの参考にさせていただくため、アンケートにご協力ください。
https://docs.google.com/forms/d/1jmQ7YlPbfdm3qkZEUI2otOCoyNX6T4NKcUkL5ITB_RQ/formResponse
酉で検索かけた上で一応聞くけど第一回は無いよね?
>>706
大淀選手大活躍の第一回大会はみんなの心のなかにあります。
次の放送日は3/28(月)22:00に予定させていただきます。
放送内容
1.決勝で起こった「3回」の書き直しについて~本当は武蔵が優勝するはずだった?~
2.艦娘のモデルとなった格闘家たち~格闘家どころか人間じゃないものが混ざってる?~
3.次大会の予告、および大幅なシステム変更について~プロットなんて投げ捨てろ! 真のガチンコトーナメント開催!~
予定通り明日22:00から放送します。メタ発言全面解禁となるので、苦手な方はご視聴をお避けください。
また、質問等ありましたらリアルタイムで答えるつもりですので、放送中はご自由に発言されてください。
予定通り放送準備中です。言い忘れましたが、本編ではないので放送はsage進行で行わせていただきます。ご了承ください。
明石「こんばんは! UKFグランプリ実況の明石です! いやー終わっちゃいましたね、第二回UKF無差別級グランプリ!」
大淀「解説の大淀です。ええ、終わりましたね。まさか本当に長門さんが優勝するなんて、逆にびっくりしました」
明石「まあ、優勝候補筆頭ではありましたけど、そういう選手って逆に優勝しないことが多いですからね」
大淀「その結果については大会運営委員長自身が一番動揺してるらしいですよ。『あれ、なんで長門が優勝してるの!?』って」
明石「えーっと……今日はメタ発言は全面OKということでいいんですよね」
大淀「いいらしいですよ。大会運営委員長ってのも長いんで、もう作者って呼んでしまいましょうか」
明石「あ、作者と呼ばれるのは嫌らしいので、『運営長』でお願いしますとのことです」
大淀「そうですか。じゃあ、本日は運営長による大会裏話の回になります。まずは『決勝における書き直し』についてですね」
1.決勝で起こった「3回」の書き直しについて~本当は武蔵が優勝するはずだった?~
明石「このタイトルはどういうことなんでしょう。書き直したのは視聴者にも告知がありましたが、3回?」
大淀「ええ、そうなんです。最初の内、運営長はグランプリの優勝者は武蔵になるという予定を立てていました」
大淀「そのつもりで決勝を書いていたんですけど、気が付いたらどう考えても武蔵選手に勝ち目がない試合の流れになってしまったんです」
大淀「これはまずいと思い、予定通り武蔵選手を勝たせるために一度初めからやり直すことにしました。これが1回目の書き直しです」
大淀「それですぐ修正案を出して試合を書き直したんですけど、どうやっても長門選手が逆転するんです。全然勝たせてくれないんですよ」
明石「長門選手ってそういうファイターですからね。どこからでも逆転するし、何でもしてきますから」
大淀「仕方ないので、また一から書き直すことにしました。これが2回目の書き直しですね」
大淀「2度書き直した結果、ようやく当初のプロットに沿って武蔵選手を勝たせることができました。ただ、この内容に納得が行かなかったそうで」
明石「それって、急いで書いたから普通に品質が低いっていう問題ですか?」
大淀「というより、試合内容から『意図的に勝たせた感』が拭えなかったそうです。この試合だけ長門選手が弱体化している気がしたんだとか」
大淀「ぶっちゃけた話、長門さんというキャラが一人歩きした結果、強くなり過ぎたんですね。恣意的な力を加えないと、武蔵さんですら勝ち目がないんです」
大淀「思い悩んだ末、思い切って3回目の書き直しに踏み切りました。そうして生まれたのが前回の決勝戦です」
明石「へえ、締め切りを踏み倒したのはそういう理由なんですね。直前でストーリーそのものに変更を加える必要が生じてしまったと」
大淀「そういうことです。運営長としては批判覚悟の決断だったそうですよ」
明石「はあ……でも、試合内容の評判は良いみたいでしたけど、やっぱり武蔵選手が負けてがっかりされた方も多いでしょうね」
大淀「それはそうですよね。それを言ったら、扶桑さん敗退のときなんて、もっとがっかりが大きかったとは思いますけど」
明石「扶桑選手は明らかに扱いが主人公枠でしたからね。武蔵選手のほうが強かったってだけですけど、逆に番狂わせというか」
大淀「まあ、扶桑さんは製作初期の構想では元々優勝する予定でしたからね」
明石「えっ、そうなんですか?」
大淀「実はそうなんです。なぜ扶桑選手が敗退することになったのかは、モデルとなった格闘家に理由があります」
大淀「ということで、ここからは登場した艦娘のモデルとなった格闘家たちをご紹介いたします」
2.艦娘のモデルとなった格闘家たち~格闘家どころか人間じゃないものが混ざってる?~
明石「当然、全員にモデルが存在するわけじゃないんですよね? 比叡選手にモデルがいたら困りますし。強いて言うなら柳龍光?」
大淀「まあ、毒手から着想を得たものではありますが……ほぼ全ての艦娘にモデルは存在するものの、一部は参考にした程度に留まります」
大淀「それを全て公開するのもなんですし、明確なモデルが存在する艦娘のみピックアップさせていただきました。こちらです」
”緋色の暴君”赤城 = ヴァンダレイ・シウバ&ミルコ・クロコップ
”破壊王”武蔵 = ボブ・サップ&モハメド・アリ
”不沈艦”扶桑 = 桜庭和志&藤田和之
”戦慄のデビルフィッシュ”日向 = アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ
”猛毒の雷撃手”不知火 = 島田道男
”ベルリンの人喰い鬼”ビスマルク = セルゲイ・ハリトーノフ&リオック&アルバート・フィッシュ
”ザ・グレイテスト・ワン”長門 = エメリヤーエンコ・ヒョードル
”死の天使” 大和 = 木村政彦
”羅刹”鳳翔 = 塩田剛三&塚原卜伝
明石「へえ……こうなっているんですか。1人、どう考えてもモデルのおかしい艦娘がいるんですけど」
大淀「その話は後でしましょう。主要な方を解説しますが、まず赤城さんは『絶対的なストライカー』というコンセプトから作り上げられています」
大淀「そういうファイトスタイルの格闘家として、ムエタイのヴァンダレイ・シウバ、キックボクシングのミルコ・クロコップがモデルに採用されました」
明石「元PRIDEミドル級絶対王者と、後に総合格闘に転向したK-1王者ですね。立ち技の強さはここから来ているわけですか」
大淀「ええ。ハイキックやタックル返しの巧みさはミルコから、密着しての膝蹴りやムエタイという設定はシウバから取り入れられています」
大淀「ちなみにヴァンダレイ・シウバもムエタイだけでなく柔術の黒帯を持っているので、そこも赤城さんの参考になっていますね」
大淀「また、ミルコ・クロコップは運営長の一番好きな格闘家でもあり、彼のファイトスタイルは他の色んなキャラにも取り入れられていたりします」
ヴァンダレイ・シウバ紹介VTR
https://www.youtube.com/watch?v=9Lb9lRxm7WQ
ミルコ・クロコップ紹介VTR
https://www.youtube.com/watch?v=43EJauEYHQw
明石「運営長の前作のイメージから赤城選手は強キャラという印象を持たれていた方も多いでしょうけど、今大会では2回戦敗退となりましたね」
大淀「これは敢えてそういうポジションにした意図があります。赤城さんはいわばトップファイターの『門番』なんですよ」
明石「門番? ああ、なるほど。ドラゴンボールでいうピッコロさんの立ち位置ですね!」
大淀「……ピッコロさんがそうなのかどうかはわかりませんけど、少なくとも今大会において、赤城さんは『強さの基準』になっています」
大淀「赤城さんは誰にでもわかりやすい強さを持っています。しかも、登場は一番最初のAブロック1回戦です」
大淀「そこで赤城さんの強さを見せつけることで、視聴者に『赤城は強い』と印象付けるのが狙いでした。そこをトップファイターの境界線にするためにです」
明石「つまり、赤城選手以下なら『そこまで強くない』、赤城選手以上なら『ものすごく強い』というラインですね」
大淀「ええ、赤城さんに勝てる武蔵、扶桑の両選手は超強い。互角に渡り合える翔鶴さんや私もかなり強い、といった風になります」
大淀「最終的には噛ませ犬役になるんですけど、運営長は『噛ませ犬こそ強くあるべき』という考えを持っていますので」
大淀「武蔵さんに完封負けした赤城さんですが、それは武蔵さんが強いのであって、赤城さんが弱いわけではない、ということをご理解いただければ」
明石「わかりました。で、その赤城選手に勝った武蔵選手ですけど、これはまた凄い選手をミックスしてますね」
大淀「ええ。『ザ・ビースト』の名で知られた怪力超人ボブサップと、言わずと知れたボクシング史上最高のチャンピオン、モハメド・アリです」
モハメド・アリ紹介VTR
https://www.youtube.com/watch?v=C_fEIVwjrew
明石「モハメド・アリはわかりますけど、ボブ・サップはどうなんでしょうね。今、視聴者に『ボブ・サップは強い』って思ってる方います?」
大淀「仰りたいことはわかりますよ。大晦日のRIZINでも散々な泥仕合を演じていましたし、後年は負け続きでしたから」
明石「ボブ・サップってとにかく打たれ弱いんですよね。ちょっと追い込まれるとすぐに心が折れてしまうというか」
大淀「そうなった原因は、おそらくK-1でのミルコ・クロコップとの対戦です。あのとき、ボブ・サップは左ストレートで右眼窩を砕かれています」
大淀「あのときの痛みがトラウマになってしまったんでしょうね。戦いへの恐怖が染み付いてしまって、試合ではめっきり勝てなくなってしまいました」
大淀「多くの方は信じられないかもしれませんけど、それまでのボブ・サップは本当に強かったんですよ。それこそチャンピオン級に」
大淀「スタミナのなさや熱くなりやすい欠点はありますけど、それを補って余りあるパワー、そして基礎的な格闘テクニックもしっかり持っています」
大淀「信用できない方は、ボブ・サップVSアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ戦をご覧ください。相手は世界最強クラスの総合格闘家ですよ」
大淀「Youtubeの試合動画URLを貼っておきます。視聴していただくためにちょっと時間を取りますね」
https://www.youtube.com/watch?v=lEdSxpQpSC4
サップが強い、もしくは強かったのは異論はないけどそれでもやっぱメンタル面の弱さはあった印象
>>725
大淀「メンタルは確かに弱いですね。身体は鋼鉄なのに、心は豆腐と言いますか」
明石「ミノワマンと藤田和之にもボッコボコにされてましたからね。あれも確か、ミルコ戦以降だったはずです」
大淀「メンタルが強くて、トレーニングをサボりさえしなければ、もっと格闘界の高みに行けたんですけどね……」
大淀「……皆さん、観ました? どうです、ボブ・サップは強いでしょう。負けはしましたけど、ノゲイラを試合中に唖然とさせた選手なんてそうそういませんよ」
大淀「そう、ボブ・サップは強かったんです。もちろん、今はあんまり強くありませんし、全盛期も多くの弱点を抱えていたことは確かです」
大淀「その弱点にモハメド・アリのテクニックとスタミナ、精神的な強さを加えた夢のアルティメットファイター。それが武蔵さんです」
明石「ボブ・サップの筋力を持ったモハメド・アリだと考えると、そりゃあ強いに決まってますよね」
大淀「ええ、強すぎるくらいでした。それが扶桑さん敗退の悲劇へと繋がっていくんですが……」
明石「扶桑選手のモデルも皆さんご存知ですよね。IQレスラー桜庭和志に、猪木イズム最後の継承者、藤田和之。どちらもプロレスラーですか」
桜庭和志紹介VTR
https://www.youtube.com/watch?v=sxnL3TFVXp0
大淀「何だったら、モデルとして更に美濃輪育久や田村潔司、アレクサンダー大塚やエンセン井上、それに吉田秀彦を追加してもいいです」
大淀「いわば、扶桑さんは日本人格闘家の集大成なんですよ。ファンの期待と日の丸を背負い、格上の強豪外国人に1歩も引かない大和魂を持った武士です」
大淀「敗戦濃厚と言われても、リング上で己の全てを賭けて戦う。扶桑さんはそんな日本人格闘家の姿を投影したものです」
明石「なるほど……ただ、その選手たちの誰もが、強豪外国人には一歩及ばなかったんですよね」
大淀「残念ですが、それが現実です。グレイシーハンターと言われた桜庭も、ヴァンダレイ・シウバにはとうとう勝つことができませんでした」
大淀「藤田和之もPRIDEで人類最強と言われたヒョードルと唯一接戦を繰り広げた選手ですが、それでも勝つまでには至っていません」
参考:藤田和之VSエメリヤーエンコ・ヒョードル(ハイライト)
https://www.youtube.com/watch?v=2XkX2i1BAWE
大淀「扶桑さんは日本人の夢を背負ったファイターです。ですが、やはり夢はいずれ現実に敗れ去ってしまうものなんでしょう」
明石「運営長は戦いのリアリティにこだわっているそうですから、そういうところも今大会に反映された結果、扶桑選手の敗退に繋がったと……」
大淀「そもそも、このUKF大会は扶桑さんを優勝させるために作られた企画でした。ストーリーの終着点はそれしかないはずだったんです」
大淀「大会を成立させるためには、他にも選手が必要です。扶桑さんに続いて、赤城、武蔵、そして長門さん。この3人が最初期に作り出されました」
大淀「この長門さんが全てを狂わせたと言っても過言ではありません。運営長は長門さんをラスボスとするために、ヒョードルをモデルにしてしまったんです」
明石「PRIDE無敗のヘビー級絶対王者、エメリヤーエンコ・ヒョードルですね。『60億分の1の男』『人類最強』なんて呼ばれていました」
エメリヤーエンコ・ヒョードル紹介VTR
https://www.youtube.com/watch?v=BZIWG7J1UWg
大淀「視聴者の方は『最強の男』と聞かれたら誰を連想します? 結構な割合で範馬勇次郎が頭に浮かぶんじゃないでしょうか」
大淀「運営長の場合、それはヒョードルなんです。何なら、範馬勇次郎だろうとヒョードルなら倒せるんじゃないか、と思っているほどです」
明石「RIZINでもその強さは健在でしたね。シング・心・ジャディブという油の乗ったキックボクサーに圧勝です。もう40歳なのにですよ」
大淀「全盛期はもっと凄かったんです。何が強いって、全てが強い。弱点なんて1つもありませんでした」
大淀「K-1王者のミルコがスタンド勝負で打ち負けて、柔術世界一のノゲイラが寝技で勝負できない。ヒョードルはそんなレベルの怪物です」
明石「シウバですらわずかに敗戦はあるのに、ヒョードルは当時世界最高峰の舞台だったPRIDEでとうとう無敗を貫きましたからね」
大淀「そんなわけで、運営長にとっての最強とはヒョードルです。ヒョードルが負けることなんて想像もできません」
大淀「そのヒョードルの最強というイメージが投影された結果、長門さんが出来上がりました。完全無欠のアルティメットファイターです」
大淀「それでどうなったかというと、扶桑さんが優勝できなくなりました。長門さんが強すぎて、勝てる可能性がゼロになったんです」
大淀「扶桑さんを強化しようとも考えましたが、既にキャラが固まっていたこともあり、ここから下手にいじると扶桑さんの魅力そのものがなくなります」
大淀「色々検討した結果、武蔵さんとの因縁を絡ませてから、扶桑さんの想いを継いだ武蔵さんが優勝する……という筋書きでした」
明石「で、それすら叶わなかったと。本当に強すぎですね。現段階で長門選手に勝てるのは、武器ありの鳳翔選手のみらしいじゃないですか」
大淀「……鳳翔さんって、誰です?」
明石「あ、その設定ここでも引き継がれてるんですか……いえ、何でもありません。話を続けてください」
大淀「ああ、はい。そんな手を付けられないほど強い長門さんですが、もう1人、手を付けられない怪物になってしまった艦娘がいます」
明石「……とうとうその話題に触れるんですか」
大淀「ええ。UKFを震撼させた『ベルリンの人喰い鬼』、ビスマルク選手です」
明石「そもそも、なぜビスマルクさんはここまでの凶キャラになったんです?」
大淀「着想としては、第1回UFCトーナメントにおけるホイス・グレイシーのような、『正体不明の不気味な外国人選手』を出したいというものでした」
大淀「そのために海外艦からビスマルクを選手にすることに決めて、3分後にはベルリンの人喰い鬼がほぼ完成していました」
明石「早っ! 運営長の思考回路はどうなっているんですか!?」
大淀「あの人は頭がおかしいんです。扱う流儀を軍隊格闘術にして、その直後にはすでにビスマルク選手が龍田選手を貪っていたとか」
大淀「軍隊格闘術を使う格闘家として、モデルにはロシア軍空挺部隊経験のあるセルゲイ・ハリトーノフが採用されました」
大淀「セルゲイがどんな格闘家なのか、それはこちらの試合を見ていただければ理解してもらえるかと思います」
セルゲイ・ハリトーノフVSセーム・シュルト(グロ注意)
明石「ちょっと、URL忘れてますよ」
大淀「あ、うっかりうっかり。そう、大淀は意外と天然で可愛いんです」
明石「そういうのいいですから」
セルゲイ・ハリトーノフVSセーム・シュルト(グロ注意)
https://www.youtube.com/watch?v=avB3Y3xUsWU
明石「セルゲイもたいがいですけど、あと2人のモデルがおかしいですよね。正確には1人と1匹ですけど」
大淀「1匹のほうからお話しましょうか。当たり前の話ですけど、戦いながら食べる、なんてことは格闘家だけでなく肉食動物にだって有り得ません」
大淀「動物だって、まずは獲物を仕留めてから捕食します。しかし、仕留めると食べるを同時に行う生き物が世界には存在します」
大淀「化け物巨大肉食コオロギ、リオック。『インドネシアの悪霊』の異名を取る、世界最強虫王決定戦の絶対王者です」
大淀「ビスマルク選手の抑え込んで食らいつく、というファイトスタイルはこの昆虫をモチーフにしています」
化け物巨大肉食コオロギ リオック(グロ注意)
https://www.youtube.com/watch?v=7g24ML5PYqU
明石「うげえ……なんだか食欲がなくなってきました」
大淀「そうですか? 運営長はこの動画を見ながらハンバーグを食べてましたけど」
明石「そりゃそうでしょ、運営長は頭がおかしいんですから。何を思ってコレをファイトスタイルに取り入れようと思ったんですか?」
大淀「簡単です。噛み付くファイターは格闘漫画にもたくさんいるから、いっそ食べちゃおう! 食べながら戦うといえば、そうだリオックだ!」
大淀「そうしてビスマルクさんの方向性が固まりました。しかも、運営長はビスマルクさんに凶悪殺人犯のエッセンスまで盛り込もうとします」
明石「……アルバート・フィッシュですよね。満月の狂人と呼ばれた、アメリカ史上最悪の……」
大淀「ええ。ありとあらゆる性的倒錯に及んだ千年に一人レベルのサイコパスです。殺した数は十数人から百以上にも及び、その全ては子供です」
大淀「この男と比べれば、どんな凶悪犯もまともに見えます。ジェフェリー・ダーマーもエド・ゲインも、アルバート・フィシュの前には普通の人です」
大淀「一応、参考記事をご紹介しておきますね。ただし、読まないことをおすすめします。この殺人鬼がやったことはあまりにもおぞましすぎるので」
アルバート・フィッシュ Wikipedia(グロ注意)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5
アルバート・フィッシュ 殺人博物館(グロ注意)
http://www5b.biglobe.ne.jp/~madison/murder/text/fish.html
明石「……おえっ」
大淀「とまあ、こんな感じでビスマルクさんに食人嗜好と苛虐趣味、被虐趣味などの要素が加えられ、ベルリンの人喰い鬼が誕生しました」
大淀「テーマは『究極の狂気』。これを超える凶キャラは後にも先にも現れない。そう運営長が自負する化物です」
明石「はあ……ところで、運営長のハンドルネームって『フィッシュ藤原』ですけど、アルバート・フィッシュとの関係性は……」
大淀「モデル選手の紹介はこんなところですね。見てお分かりの通り、概ねがかつてのPRIDEの選手を参考にされています」
明石「えっ、無視?」
大淀「やっぱりPRIDEは最高ですね。紹介してない中で、聞きたい選手はいますか? ちょっと質問タイムを取りましょうか」
明石「それ、質問が来なかったときにシュンってなるやつですよ」
大淀「まあやるだけやってみましょうよ。ちょっとだけ時間を取りますね」
明石「ほら、ないみたいですよ」
大淀「そうですか……それでは、気にせず先に進みましょう」
大淀「これこそメインの話題ですね。そろそろ第三回UKF無差別級グランプリの構想についてお話したいと思います」
3.次大会の予告、および大幅なシステム変更について~プロットなんて投げ捨てろ! 真のガチンコトーナメント開催!~
明石「念のため確認しますけど、本当に大淀さんも出るんですか?」
大淀「当たり前です。もうね、今のネタキャラ扱いには我慢がならないんですよ」
大淀「もともと、私は隠れ強キャラポジションとして想定されていました。エキシビションマッチにも出場がほぼ確定していたんです」
大淀「それなのに、まさかのリクエスト0票ですよ。リクエストに応えると確約した手前、そんな状況で私が出るわけにはいかないじゃないですか」
明石「その件については、運営長も『宣伝の仕方を間違えた』と気にはしていましたが……」
大淀「というわけで、次の大会には本戦に出場させていただきます。皆さん、応援よろしくお願いしますね」
明石「まあ応援はしますけど、解説は誰が?」
大淀「審査委員長の香取さんがやってくれます。第一、運営長は初回放送の時点で気付いてたんですよ。私に解説を任せたのは失敗だったって」
明石「え、なんでですか? ちゃんと解説できてましたよ」
大淀「解説がどうこうではなく、私と明石さん、敬語キャラが被ってるんですよ。キャラの書き分けが面倒この上ないんです」
明石「……ものすごいぶっちゃけたメタ発言ですね」
大淀「事実ですから。そういうことで、第三回大会での解説は香取さんになりますので、よろしくお願いします」
明石「……ちょっと待ってください。そもそも、大淀さんが今大会の出場を見送った理由って……」
大淀「ええ。第一回大会で勝てなかった長門さんへの対策が立たなかったから、今回は出場しませんでした」
明石「長門選手は次も当然出場しますよね。それなのに、大淀さんが出場するということは……」
大淀「はい。今大会の試合を観て、長門さんへの対策が立ちました。必要なデータが集まりましたからね」
大淀「何なら1回戦から長門さんに当たっても構いません。今の私は長門さんに勝てます。つまり、次の大会の優勝者は私です」
明石「……大淀さん、知らないんですか? そういう発言のことを、『死亡フラグ』って言うんですよ」
大淀「大丈夫ですよ、そんなフラグなんてひっくり返してみせますから。今のネタキャライメージを完全に払拭してみせます」
明石「そうですか……でも、大淀さんってコンピュータ型選手なんでしょ? 次の大会、謎の初参加選手が何人も出てくるらしいですよ」
大淀「……まあ、正直なところ、そういうタイプの選手とは当たりたくないですね。特に、ドイツ軍部の新造艦とは絶対に戦いたくありません」
明石「例の研究機関所属の選手ですよね。何でも、ビスマルク選手の実験データを元に改良された訓練を施してあるとか」
明石「ビスマルク選手と違って制御のしやすさに重きを置いたので凶暴性は薄いんでしょうけど、それでもまともな選手ではなさそうですよね」
大淀「ええ、ぜひとも他の選手に倒されることを願います。おまけに、海外艦はあと『2人』いるんでしょう?」
明石「らしいです。どうも、イタリアのほうで対長門選手用のトレーニングを積んだ艦娘の準備が整ったとか」
明石「それから別の国からもう1人海外艦が参加するそうですけど……他に同盟国なんてありましたっけ?」
大淀「だから、同盟国ではないところから選手が来るんでしょう。海の向こう……ではなく、海の底からね」
明石「……ん? それってまさか……」
大淀「私も詳しくは知りません。それに、海外艦だけじゃなく、重巡級にもとんでもない選手がいるって聞いてますよ」
明石「誰でしょうね、全然心当たりがありませんけど。足柄選手を瞬殺する実力者だそうですが……」
大淀「その選手は極秘事項みたいです。運営長の隠し玉らしく、トーナメントをかき回す『ジョーカー』の役割を果たすことになるとのことです」
大淀「まだ変更の余地があるので具体的に誰が出るかはお教えできませんが、新規選手たちの通り名だけ公開しようかと思います。こちらですね」
戦艦級 ”闘神” ???
戦艦級 ”黒鉄の踊り子” ???
戦艦級 ”東洋のクラーケン” ???
正規空母級 ”キリング・ドール” ???
重巡級 ”黒死蝶” ???
軽巡級 ”堕天のローレライ” ???
軽空母級 ”酔雷の華拳” ???
明石「結構新規選手が出ますね……現時点で出場者は何人くらい決まっているんですか?」
大淀「今大会の選手や、エキシビションマッチ出場者も多く参戦しますので、既に16名中14名がほぼ確定してます」
大淀「後は戦艦級か重巡級から1,2人欲しいという状態ですね。できれば正統派ファイターがいいんですけど」
明石「比叡選手なんてどうです? 最近は真面目に頑張ってるそうですけど……」
大淀「比叡さんは……ちょっと。あんまり強くもないですし、第一、またグランプリでスベりそうな気が……」
明石「……あれって、やっぱりスベってたんですかね?」
大淀「絶対スベってましたよ。スベるのが怖いので、比叡さん以外で適格な選手を今探している最中です」
明石「そうですか……なかなか凄いメンツが揃いそうな雰囲気ですね。そういえば、トーナメントシステムを大幅に変更するということですが……」
大淀「そうです。第三回大会はそのシステムも大きな目玉要素になってくると思います」
大淀「第二回UKF無差別級グランプリは、一から十まで展開を考えた上で開催されました。AブロックとBブロック、それぞれに異なったドラマが展開されるようになっています」
大淀「Aブロックは扶桑さんを中心とした正統派ファイト、Bブロックは長門さん、ビスマルクさんへ焦点を当てた異形のファイト、という具合にです」
大淀「この手法には弊害があり、どうしても1回戦で消えざるを得ない当て馬ポジションの選手が発生します。足柄さんや霧島さんがそうですね」
明石「そりゃあ、トーナメント形式ですから仕方がないことですよね」
大淀「そうなんですけど、1回戦で消えることを想定された選手、というのはどうしても魅力に欠けてしまいがちです」
大淀「そのため、第三回UKF無差別級グランプリではそういった選手は一切登場しません。誰が勝ち抜くか、まったくわからない方式にします」
明石「……どういうことです?」
大淀「さっきも言った通り、今大会は後の展開が決まっていました。ですのでブロックごとのバランスを考慮して、運営長が意図的に組み合わせを決めています」
大淀「これをですね、ランダム抽選方式にします。つまり、誰が誰に当たるのか、運営長にさえ操作できないようにするんです」
明石「えっ、それってつまり……リアルくじ引きで対戦カードを決めるってことですか!?」
大淀「そういうことです。くじ引きの様子は、ニコ生あたりでリアルタイム放送をしようと思っています」
大淀「しかし、完全なランダムにすると、運営長と視聴者、どちら側にとっても都合の悪い組み合わせが発生する恐れが出てきます」
大淀「例えば1回戦で初参戦の海外艦同士が潰し合う、なんてことはもったいないですし、後の対戦もやりにくくなります」
大淀「そういったケースを避けるため、抽選にはいくつかのルールと権限を設けることを考えています。それは以下の様なものになります」
第三回UKF無差別級グランプリ 抽選会ルール
1.長門選手は最終戦枠に固定とし、15名で対戦カードの抽選を行うものとする。
2.抽選は視聴者の監視の元で行われ、意図的に対戦カードを決める等の不正は決して許されない。
3.抽選の際、運営長は自己判断で一度だけ対戦カードの引き直しをすることができる。
それは選手Aに対して選手Bを引き、その対戦カードが思わしくないと判断したとき、選手Bの抽選のみを引き直すことができるというものである。
最初に引いた選手の引き直し、あるいは既に確定させた対戦カードの引き直しは認められない。
4.全ての対戦カード確定後、運営長は1回戦の対戦カードを独断で選んだ対戦カードと入れ替えることができる。
長門が出場する最終戦枠はこの候補から除外される。
5.2回戦、3回戦も同様の抽選方式にて対戦カードを決めるものとする。
明石「これは……本当に誰が誰に当たるか、誰が勝ち抜くかわからない、ということになってしまいますね」
大淀「ええ。組み合わせの偏りを避けるための救済措置も設けてありますが、基本は完全にランダムな抽選になります」
大淀「ですので、グランプリで何が起こるのか、運営長にさえまったくわかりません。最悪、長門さんの初戦落ちさえあり得ます」
明石「いやいや、それはないでしょう。だって武蔵選手さえ敵わない絶対王者ですよ?」
大淀「それが有り得るんですよ。試しに何試合か想定してみたとき、長門さんが落ちる組み合わせが既に存在しています」
大淀「第三回UKF無差別級グランプリのテーマは『波乱』です。何が起こるかわからない、という緊張感に満ちた大会になると想定されています」
明石「でも、これって後々の展開とか大丈夫なんですかね? 製作方式を大幅に変更するということですから……」
大淀「大丈夫ですよ。例えば評判の良かった翔鶴VS夕立戦ですけど、あれを書き起こすとき、運営長は事前に何一つ決めてなかったんですよ」
明石「えっ? 何一つって……何も?」
大淀「ええ。もちろんどんな選手かは完全に固まっていましたけど、どういう試合にするのかはまるで考えていませんでした」
大淀「そんな場当たり的な状態で作ってみたら、いい感じの名勝負ができました。もちろん、それは選手が良かったという要素も強いんですが」
大淀「運営長は、その場当たり的製作方式を全試合でやるつもりです。きっと、何かしらのドラマも自然に生じてくるでしょう」
大淀「また、この方式だと1回戦敗退はもったいない選手さえ初戦落ちする場合が出てくると思います」
大淀「その救済措置として、エキシビションマッチは本戦敗退選手も含める予定です。もちろん、エキシビション用選手も豪華なメンツを用意します」
明石「鳳翔選手はグランプリには出たがらないでしょうから、きっとこっちに出ていただけるでしょうね」
大淀「……鳳翔さんって、誰です?」
明石「うわあ、この設定面倒くさ……いえ、何でもありません。いやあ、エキシビションマッチも面白くなりそうですね!」
大淀「ええ。このUKF企画は運営長も楽しみながらやっているので、次の大会で何が起こるのか、運営長が一番楽しみにしているんじゃないでしょうか」
明石「なるほど、次もいい大会になりそうですね。で、開催日はいつになるんです?」
大淀「さあ……一応、運営長は傷病手当をもらいながら療養中の身ですからね。しばらくは安静に過ごす必要もあります」
大淀「何より、ぼちぼちお金になるテキストを書き出さないと完治した後で路頭に迷うことになるので、そっちのほうにも取り掛からないといけないそうです」
大淀「それらを考えると……次の大会は夏ごろになるんじゃないでしょうか。格闘知識の補給もしなければいけませんし」
明石「既に色んな格闘技の流派が登場してますけど、また更に新しい格闘術の使い手も登場しそうですかね?」
大淀「うーん……シラット使いを出したいみたいですけど、シラットって攻防一体の流れるような動きが特徴ですから、それを表現するのが難しいんですよね」
大淀「でもまあ、新しい要素は出来る限り出していけるとは思います。何より私自身、まだ登場していないタイプのファイターですしね」
明石「はいはい、そうですね。ご活躍を期待してますよ。視聴者の方々もきっとそうだと思います」
大淀「……いえ、いいです。本戦に出れば私の評価はうなぎ登り間違いなしですから。ネタキャラ扱いは今回限りですよ」
明石「だといいですね。さて、そろそろあとがきに話すことも片付いてきましたね」
大淀「皆さん、何か質問ってあります? 今なら後にUKF最強と呼ばれることになる大淀が特別に答えてあげますよ」
明石「どんだけフラグ立てに余念がないんですか、大淀さん」
大淀「そういえば、選手ごとの入場テーマって皆さんちゃんと聴いてますか? あれは選手のイメージに合わせて厳しく選定されているんですよ」
明石「あの運営長の趣味が全面に押し出されたテーマ曲ですか? 明らかにブラックメタルが多いように思えるんですが……」
大淀「それは認めますけど、キャラ製作時間の3割をテーマ曲決めに割いていることは事実ですので、そっちも聴いてみてくださいね」
大淀「例えば、扶桑さんのテーマ曲である『Broken Jade』は『玉砕』意味し、日本軍の特攻隊のことを歌っています」
大淀「曲のイメージも意味合いも扶桑さんにピッタリだということで採用されました。歌ってる台湾のメタルバンド『CHTHONIC』もおすすめなので、ぜひ聴いてみてください」
強いて言えば吹雪のモデルが知りたかったけど誰だろ、魔裟斗?
あとボブ・サップの現役時代は俺が空手習ってた頃なんだけど
流派が極真みたいな打撃に特化した闘い方じゃなかったからか周りが無茶苦茶嫌ってたなぁ
>>750
大淀「吹雪さんはですね、THE OUTSIDERに出てくる超ビッグマウスのヤンキーがモデルになってます。そのヤンキーにクラヴ・マガの要素を付け足しています」
明石「そこまで強くはないんですけど、ビッグマウスは凄いんですよね。負けたのに相手を『ああ、あいつスゲー弱かったっす』とか言っちゃうくらいに」
大淀「残念ながら、名前が思い出せないんです。調べてもわかりませんでした」
明石「THE OUTSIDERはアマチュア大会ですから、選手の入れ替わりが激しいんですよね……」
入場テーマ全部聞きましたよ!
なんかどんどん面倒くさい方向へと舵とってるなぁ、大丈夫なのか
>>750
大淀「で、空手の話ですけど、それって芦原流みたいな捌き中心の空手ってことですか?」
明石「打撃に特化してない空手って何なんでしょう。空手から打撃を取ったら何も残らないはずですが……」
大淀「まあ、打撃に特化してるから強いってわけではありません。格闘技なんて勝てればいいんですよ、勝てれば」
>>752
明石「ありがとうございます! 運営長もYoutubeを見漁って曲を厳選した甲斐がありましたね」
大淀「曲のイメージは出来る限り選手のイメージに近づけてあるので、そういう聴き方をしていただけると幸いです。赤城さんとか特にそうですね」
大淀「よかったら私の入場テーマも聞きます? 既に決まってるものがあるんですけど」
明石「せっかく決めてたのに公開する機会がなかったやつですね……」
大淀:入場テーマ「Silent Hill/Opening theme」
https://www.youtube.com/watch?v=w2cK8mOG4Q8
>>754
あらら、やはり芦原流をご存知で
その派生版みたいなもので稽古時は掴み合いが多かったし普通に投げもあるから柔道の知識も結構いるのよね
>>753
大淀「運営長としては全然面倒ではないんですよね。むしろ楽をしようとしているんですよ」
明石「プロットを考える必要がありませんからね。視聴者の方々にとってどうかはまだ検討中の段階ですが」
大淀「まだ次の大会まで期間があるので、リクエストは随時受け付けております。視聴者の方々の意見を取り入れつつ、大会の方式を決定しようと思っています」
明石「こちらにリクエストフォームをご用意してありますので、遠慮無くご意見ご感想をお寄せください!」
https://docs.google.com/forms/d/1jmQ7YlPbfdm3qkZEUI2otOCoyNX6T4NKcUkL5ITB_RQ/formResponse
>>756
大淀「そのほうが実戦的ではありますよね。実戦を重んじていた昔の空手家は、昇段するのに柔道の黒帯が必要だったところもあるくらいですし」
明石「これ、あんまり表沙汰になっていない発言らしいですけど、芦原英幸は断言してるそうです。『空手家は柔道家には勝てない』って」
大淀「元極真会の芦原英幸がそう言われたんなら、説得力がありますよね。実際、警察官も空手より柔道を積極的に学んでいますし」
大淀「空手と柔道を融合させた空道なんて流派もあります。やっぱり実戦に投げは必要不可欠ですよ」
明石「そんなこと言ってると、空手家の榛名選手が怒りそうな気がしますけど……」
大淀「榛名選手は空手家としては別格です。あそこまで打撃に特化すれば、実戦性がどうとかなんて関係ありませんよ」
大淀「結局、格闘技の強さは流派に依るのではなく、個々人の強さに依るんだと思いますね」
大淀さんはサイレントヒルか…これもいい曲だ…。
入場テーマはビスマルクの時の使い方がよかったですねえ!
それまで「よくわかってない噛ませ外国人」とも「本物」とも取れる書き方だったのが、
あの曲名が出た瞬間に「あ、これやばい方じゃ」って思いましたから…
>>759
大淀「ありがとうございます。そんな感じで、テーマ曲は勝負の結果をわからなくする意図もあって選んでおります」
明石「1回戦敗退選手のテーマ曲も、かなり豪華なものを選んでますよね」
大淀「ええ。『The Fight Song』『片翼の天使』『太陽は昇る』『De Mysteriis Dom Sathanas』はいずれもラスボスに使ってもいい名曲ですからね」
大淀「正直、曲のストックはすでにネタ切れ間近です。知ってる良曲はあらかた使い果たしてしまいました」
明石「どうします? もう洋楽もゲームミュージックも映画のテーマ曲も残ってませんよ」
大淀「……まあ何とかなるでしょう。そろそろ邦楽を取り入れてもいいと思いますし」
大淀「そういえば、次大会についてそこそこ重要なことを言い忘れていました」
明石「何ですか、そこそこ重要なことって」
大淀「駆逐艦級についてです。駆逐艦級選手の試合は意外性のある戦いになりやすく、試合にもキャラにも魅力を出しやすくなっています」
大淀「反面、駆逐艦級選手の乱出はUKF全体のパワーバランスを崩す恐れがあります。現状、UKFには駆逐艦級四天王という4人の選手が所属してます」
大淀「期待していた方には申し訳ありませんが、これ以上の駆逐艦級選手を出すことはできません。グランプリには既存の選手のうち1人だけ出場していただくことにさせていただきます」
明石「1人だけ、ですか。それって誰になりそうです?」
大淀「さあ、誰になりますかね。裏で駆逐艦級王者決定戦をやって、そのチャンピオンに出場していただく形になるかと思います」
大淀「それが誰になるかは、大会抽選日まで非公開とさせていただきます。お楽しみに」
明石「では、こんなところですかね。運営長もぼちぼち腕が軋みを上げ始めた頃ですし」
大淀「ぼちぼち切り上げましょうか。私も次大会に向けてのトレーニングをしなくちゃいけませんので」
大淀「こだわりというより、リアルに考えたそうなりましたね。格闘漫画のように階級差を覆す、というのは並大抵の能力でできることではありません」
大淀「ですので、一番階級が上の戦艦級が残ったのは当然といえば当然です。だからといって、階級が絶対というわけではありませんから」
大淀「なんたって、私は軽巡級でいながら第一回大会の3回戦に進出していますからね。技術で階級差を覆すのは不可能ではないということです」
明石「まあ、大淀さんはその3回戦で長門選手に瞬殺されてるんですけどね」
大淀「……このタイミングでその話をしなくてもいいじゃないですか」
明石「それでは、本日はこの辺りでお開きにしたいと思います! ご視聴ありがとうございました!」
明石「次回、第三回UKF無差別級グランプリは6月頃を目標に制作いたしますので、どうかよろしくお願いします!」
大淀「そういえば、スレタイどうします? 2回目なのに第三回大会っていうよくわからない感じになりますし……」
明石「えー、それも6月までに考えておきます! もしスレが残ってたらここでも告知させていただきます!」
明石「では、その日までお別れとなります! どうか皆様、お元気で!」
大淀「リクエストのほうは当分受け付けるので、ご意見よろしくお願いします。それでは、さようなら」
次大会に向けてのアンケートへのご協力をよろしくお願いします。
https://docs.google.com/forms/d/1jmQ7YlPbfdm3qkZEUI2otOCoyNX6T4NKcUkL5ITB_RQ/viewform#responses
ご無沙汰しております、大会運営委員長です。まだ先の話になりますが、次大会についての経過報告を少しさせていただきます。
意見が少々割れている組み合わせの方法ですが、今のところの予定では、1回戦のみ抽選を行い、以降はトーナメント方式で対戦を行う形を取りたいと思っています。
理由としては、毎回抽選を行なっていると運営側の負担が大きくなり、大会進行の妨げになりかねないというものです。
選手の方はほぼ出揃いつつあります。今回はより艦種のバランスが取れ、なおかつ誰が優勝してもおかしくない強力なメンツをご用意いたしました。
エキシビション枠には武蔵、鳳翔、そしてビスマルクの出場が決定しております。誰が誰と対戦するのか、それはまたリクエストにて決定したいと思います。
開催はもう少し先の事になりますが、気長にお待ち下さい。
このスレの大淀さんは強さの実力見せないままダメなところを見せすぎてるからなぁ
赤城と互角に戦えるのは実際見せてほしいもんだ
というわけで過去映像はないのー?
そういえばこの運営長は格闘技の流派についてかなり細分化して表現してるのに
なんで愛宕のオイルレスリングだけヤールレギシュやその派生じゃなくてオイルレスリングなんだ?
>>779
大淀の強さは第三回大会まで秘匿させていただきます。組み合わせ次第では軽巡級絶対王者としての脅威を存分に発揮してくれると思います。
なぜかダメ要素ばかり目立つ大淀ですが、鳳翔さんとは相性が最悪なだけで、本気を出せば殺意MAXの龍田や赤城さえ退ける実力者です。
>>780
ヤールレギシュ=オイルレスリングという解釈です。角力=相撲みたいな感じですね。術技やルールに差異があることは理解しています。
ヤールギュレシは派生も含めてトルコ相撲、トルコレスリングなどの異称もあり、紛らわしいので一番わかり易いオイルレスリングという名前で通しました。
やや誤解を招く書き方でしたが、こういった部分を細かく説明すると解説ばかり長くなるので、それを省くため敢えて一括りにしました。どうかご了承ください。
UKF全選手のイメージ写真をMMDで作成しようと試みましたが、赤城1人分で挫折しました。
誰か代わりにやってくれないかな。1枚あたり100円あげるから。
なんとか赤城だけはできたので、宣伝も兼ねて一応公開します。なんか構えがムエタイと微妙に違う気がするのは気のせいではありません。
拳の握りが甘いのは指の調節があまりにも複雑過ぎ、途中で心が折れたからです。
http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im5740534
ご無沙汰しております。
今のところの予定として、5月下旬あたりに新スレを立てて出場選手発表と同時に抽選会をニコ生で放送し、その2,3週間後にAブロック1回戦を行うつもりです。
エキシビション出場候補者はAブロック1回戦終了後に発表し、同時にリクエストの受付を始めます。候補者には1回戦敗退選手も含まれます。
新スレのタイトルはまだ検討中ですが、決まり次第こちらでも通知させていただく予定ですので、もうしばらくお待ち下さい。
ところで全選手のイメージ写真をMMDで作成する目論見は完全に頓挫しました。これを16人分作ってたら開催日が2ヶ月後くらいになります。
何とかビスマルクはイメージに近いものができたので、せっかくですし公開させていただきます。
http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im5776258
ニコ生って初めてやるんですけど、コミュニティを設定しないと放送できないみたいなので、抽選会のためだけのコミュニティを立ち上げます。
抽選会には大会運営委員長が不正を行わなかったかを監視する立会人が必須なので、リアルタイムで視聴される方が必須です。
放送は手早く済ませるつもりですが、それなりに盛り上げるトークもします。スベらないよう頑張ります。
たぶん参加しなくても視聴できるとは思いますが、もしよろしければ加入の方をお願いします。
ちなみに顔出しはしません。ロシア製のガスマスクを被って放送します。
http://com.nicovideo.jp/community/co3292920
テスト放送中。マイクの不都合により音声はありません。
http://com.nicovideo.jp/community/co3292920
テスト終了しました。もし来ていただいた方がいらっしゃいましたらありがとうございます。
テスト結果、絶望的に回線が遅いという理由でニコ生は無理になりました。抽選方法は別の方法を考えます。申し訳ありません。
抽選会の代案がまとまりました。
フリーの抽選ソフトが見つかったので、それを使用した抽選内容を録画したものをニコ動とyoutubeにアップしようと思います。
今のところの予定では、5/31(火)22:00より新スレで組み合わせ発表会を行うつもりです。
そうだ、この前質問し忘れたんだけど長門のような最強クラスのキャラも組み合わせ次第では初戦敗退もあり得ると言ってたけど
逆にどんなに実力が下のクラスのキャラも組み合わせ次第では優勝できるってこと?
それとも実力不足過ぎて絶対に優勝できないキャラがもしかしていたりするのかな?
>>802
あまり明言はできませんが、少なくとも、全ての出場選手は優勝するために打倒長門の作戦を入念に練ってきています。
もし本当に長門が初戦で落ちれば、後はどうなるか予測不可能です。あるいは大淀が優勝する可能性だってあり得ます。
ついでに少しだけ情報を明かすと、「優勝できない」選手はいませんが、「優勝する気がない」選手が1人だけ参加しています。
先ほど、トーナメント組み合わせ抽選会の撮影を終えました。これを編集して5/31にアップロードします。
つまり1回戦の対戦カードが決まったわけですが、大波乱が起きそうな気がします。
ちなみに、大淀は最悪のハズレくじを引きました。
よく考えたら大淀が引いたのは2番目に最悪なカードでした。それ以上に引いちゃいけない奴を引いてしまった選手がもう1人います。
動画の編集も終わったのですが、ゆっくりムービーメーカーで作成したので、今の動画にはゆっくりボイスが付いています。
ゆっくりが嫌いな方もいると思うので、ニコニコにはゆっくりボイス、Youtubeには字幕のみの動画を上げる予定です。
ニコニコ、Youtubeともに無事、動画の投稿が終わりました。後は放送日に公開するだけです。
予定通り5/31(火)22:00に新スレを立てて出場選手、ならびにトーナメント組み合わせ発表を行いますので、よろしくお願いします。
新スレだけ先に立てました。
あと、出場選手発表と抽選会のみだと物足りない感じがしたので、本戦とエキシビジョン候補から漏れた選手で開幕戦やります。
【最強の艦娘、出てこいや!】UKF(Ultimate 艦娘 Fighters)無差別級格闘グランプリ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464611575/)
このSSまとめへのコメント
超絶期待!
美少女ゲームのSSにあって、内容のこの可愛げのなさよw
ゴミ
はっちゃん大丈夫か…?次回放映の時に五体満足であることを願うばかり…(苦笑
後語りは流石にサムい