男「妖怪?」妖狐「用かい!」 (432)
貯めなし暇なしノコノコ歩き
暇なときに適当に書いて投下します
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男「いや、だから少し落ち着けと……」
女のヒステリーというのは恐ろしい。
父さんの言葉だったが、今それを身をもって体験している。
とにかく話を聞かない。
聞いても曲解する。
泣く、しかも公衆の面前で。
あげくに水を引っかけられる。
そこまでされても尚悪い立場に立たされている。
喧嘩の理由なんて些細なものだったが、それがここまでの大騒動に発展するなんて思ってもみなかった。
曰く、冷たい。
曰く、本当に好きなのか分からない。
曰く、他の女と浮気してるんじゃない?
曰く、一緒にいてつまらなさそう。
曰く、遊びだったの?
俺は俺なりに初めての彼女を大切にしていたし、彼女の疑いはまるで的外れだ。
だが、どんなに説明しても聞く耳を持たない彼女を相手にして一時間。
周りの視線も痛く、状況の好転を望めない以上、やることはひとつだけだった。
男「…………分かった、もう話すことはない。別れよう、それじゃあな」
逃げ。父さんの教え、無理なときは無理だからスッパリ諦める。
未練なんて別に無い。
それなら逃げるが勝ちだ。
元カノ「はぁ!? なんでそんな話になるのよ!」
むしろならないと思っていた相手に驚きだったが、女は基本的に理不尽なものと教え込まれて育ってきていたので、気にしないことにした。
全員が全員そうじゃないのは中学時代に理解したが、それでもいるときはいる。
割り切れればスッと気持ちが楽になる。
元カノから逃走して10分、後方に人影無し。
さっきからひっきりなしにスマホが鳴っていたが、電源を落としてしまえば静かなものだ。
さて、出鱈目に走ってきたせいでまったく知らない場所に来てしまったが……ここはどこだ?
いつ登ったのかも覚えてない長い階段の途中で座り込んでいる、上の方には鳥居が見えた。
察するに神社だろう。
ほぼ無いだろうが、下に降りて見つかるのも嫌だったので登りきってしまうことにした。
男「……………………うむ。趣があって良い。静かだ、心が洗われる」
都会にものどかな場所はいくらでもある、もっと先では人がわらわらと動いているのだろうが、まったくの別世界のようだ。
先ほどまでの喧騒が嘘のように、若干ムカムカとしていた気分が冷えきっていった。
折角だ、御参りと御神籤をしていこう。
あまりこういう場所に馴染みは無いが、なんとなく記憶にある部分と、御参りの方法がしっかり書いてあったので、その通りに実践した。
男「(穏やかに過ごせますように)」
御参りを終えて御神籤を引こうとしたが、そういえば売り場がどこにもない。
しばらく辺りを探してみると、何故か神社の裏に御神籤の箱と……狐のような像が鳥小屋のようなものに納められていた。
男「なんでこんなところに? ……まぁ、良いか」
お金をいれる場所も無くどうしたものか分からなかったので、そこで閃く。
狐の祠? のようなものの前にお皿があるので、ここに乗せれば良いのだろう。
お皿に100円を乗せて、籤を一枚手に取る。
大凶。
それだけが紙には書かれていた。
良く見る待ち人だとかそういうものは一切無い、ただ広げた紙の中央にその文字だけがある。
……うむ、大凶か。
確かに数時間前の騒動を思い出すと、確実に大凶だ。
だがそれはもう少し前に教えておいてくれないだろうか。
見えない神に少しだけ内心で苦言し、籤の紙を巻く。
「さて、帰るか」
そろそろ時間的にも大丈夫だろう。
表に回って階段へ……。
「……あれ? 階段どこだ?」
自分が登ってきた筈の階段が消滅していた。
それはもう物の見事にだ、鳥居の向こうには森しか無い。
…………。
こんなときこそ冷静になる、冷静さは希望を見つける第一段階だと教えられてきた。
例え階段が一瞬で森に変わったとしても、そこに道はあるんだ。
そうだ、よじ登って上を越えていこう。
『無駄じゃ。もう逃げられんよ』
「え?」
背後から声が聞こえてきた。
だが人の声という気がまったくしない。
憎悪に満ちたような……不快感だけがそこにはあった。
「誰だ?」
振り向いてみても、人影は無い。
そもそもこの状況は、どこからどうみてもオカルトのそれにしか思えないものだ。
ドッキリ? 何故こんな人気の無い場所で?
それでないなら本物。
「つまり幽霊か妖怪の類いって訳だ」
『ほう……察しが良いな。最近の人間は何をみても信じないものだが』
会話が成立した。
話は通じるようだ。
「それで、そういう不可思議な存在なのは理解したけどだ。何が目的だ? 命か?」
『そうだ。久しく人が訪れることもなかったからな、腹が減ったのだ』
「なるほど……人の肉を食う?」
『分かったのならば、観念しろ。もう逃げ場はないぞ』
俺を食べたいらしい。
人の肉なんて美味そうには思えないんだが、同族故か?
まぁなんにしてもだ。
こんなところで死にたくはない。
「どうしたらそれを回避できる」
『…………無駄だと言っているだろう? もう逃げられない』
「交渉の余地は一切無いのか?」
『こ、交渉?』
「あぁ。例えば人肉以外で好みのものがあるとか」
『好み……そ、そうだな。いなりが好きだ。あれは美味い』
「それなら交換条件だ。いなりを腹一杯持ってきてやるから、今すぐ道を開けてくれ。大丈夫だ、物質としてスマホを置いていく。これがないと俺は辛いから、絶対に取りに来るぞ」
『…………だ、ダメだ。人間は嘘を平然と言うからな。証明できん』
「それならこれもおまけだ」
上着とシャツを脱いで、折り畳んで地面におく。
「これは今日のデート用に奮発して買ったものだ。いなり一個100円換算で大体いなり1000個相当だ」
『いなり1000個!』
「そうだ。お前ならその価値が分かるだろう。俺にとっても大切なものだ、何度も使うために買ったからな。これでも足りないか?」
『……し、仕方ないな。ふん人間め、この我を頷かせるとはやるな』
「いいや。生きるためなんでも投げ捨てれる人間になれと教えられているんだ。では頼む」
俺が頭を下げると、ザザザッ……と音が聞こえてくる。
森が消えて、また階段が現れた。
良かった、とりあえず帰れそうだ。
階段に足をかける。
『きっと戻ってこい! 約束違わば命はないぞ!』
「すぐ戻る。あぁそうだ、いなりは何個が良い?」
『……いっぱいだ!』
どの基準のいっぱいなのかは判断がつかないが、いっぱいあれば良いのか。
50個くらいあればいっぱいかな。
長い階段を降りると、数人の歩行者から変な目で見られた。
上半身裸の男が現れたら……不審者なのだろう。
「いよぉぉぉし!!!!! あと町内三周!!! 今年こそは勝つぞぉぉぉぉ!!!!」
うむ、視線が暖かいものに変わった気がする。
嘘も知らねば真だ。
あとは走りながらどことも知れない高校の名前を言いながら優勝とでも言えば、通報は免れるだろう。
「北城! 高校! 優勝! ファイトっ!」
変に注目されるよりは自分から注目されるようなことをしていれば大概気にならなくなる。
父さんの教訓は今日も生きてるよ。
男「ただいま」
妹「おか……え? なんで上裸なの?」
男「死なないために最善を尽くした結果だ。俺は今からいなり寿司を作るから、なにか変わりの服を出してきてくれないか?」
妹「え? え? 今日彼女さんとデートじゃ? なんでいなり?」
男「別れたんだよ。あとはやむにやまれぬ事情だ。理解してくれ」
妹「……いや、無理だよ。まぁ上着持ってくるけど……」
男「頼んだ。もし暇ならいなり作り手伝ってくれ」
妹「……う、うん……?」
せっせといなり寿司を作り始める。
途中から妹も事情もわからずに手伝いをしてくれたおかげで、日が暮れる前には届けられそうだ。
…………………………終わった。
「ありがとうな妹。じゃあ行ってくる」
「う、うん……帰ったら事情説明してね?」
「確約はできん。相手次第だ」
話して妹が危険に遇ったら意味がない。
いなり寿司を詰めたタッパーを五個持って、神社へ向かう。
階段を登りきる頃には夕暮れとなっていた。
男「持ってきたぞ。いるか?」
ザザザッ……と後ろから聞こえてきた。
退路は塞がれたようだ。
男「ここに置くぞ」
地面にタッパーを置く。
だがしばらく待ってみても無反応だった。
と、突然熱風が吹いた。
男「ぬ……」
そして、一匹の狐が舞い降りてきた。
優雅な仕草をし、悠然と地に立つ狐。
男「妖怪が正解のようだな。狐……九尾しか分からん。まぁいいか、約束の品だ」
妖狐『ふん、よく戻る気になったな。人間とは時を越えてなお欲望が強い』
男「まぁな。スマホと服は惜しいし、なによりこちらから持ちかけた約束事だ」
妖狐『フンッ! 我は人間が嫌いでな……お前のような人間は特にだ。いなりは貰うがお前も喰らう。我らは人間ごときに御せる存在ではない』
どうやら向こうは約束を守る気はないらしい。
妖狐『先にお前から貰おう!』
ガバッと口を開けて襲いかかってくる狐。
男「約束を!!!」
妖狐『!?』
男「約束を守らば品位を落とす!」
男「しかも妖し者!! 貴様は人に出来ることも出来ない低級な存在か!!」
男「成る程こんな寂れた誰も寄り付かない所にて人を襲うのにも頷けるな!!」
男「俺はお前に勝った! 万歳人間! 俺は妖し者に出来ぬことも怯えずやり抜いた! どうだ人間に負けた気分は!?」
男「いつまでもそうしていろ! いつまでも人に負けたことを忘れるな! 俺を喰らうてもお前は俺には勝てぬ! お前が俺を糧としようとお前が俺に負けた過去は一生消えんぞ!」
妖狐『ぬ……ぐ、ぐ……な、なんだと……?』
秘技ハッタリ。
父さんに教えられた切り札だ。
口八丁で何度も母さんを騙していた父さんだが、「人間ってのは身体は弱い。だがな、人間の武器は舌と頭だ。これで世界の頂点に立った」といつも言われていた。
どうしようもないなら最後はハッタリ任せの運任せということだ。
だがそんなハッタリでも効いてくれたらしい。
何をか唸っている狐。
あともう一押しか?
男「だがな、貴様も約束を守るなら今回は引き分けだ。どうだ、人に負けるのは好きか? 貴様は負けて喜ぶ変態か? それならそのまま喰らえ! どうする妖し者!」
狐『ぐぐぐ!! ええい人間め、よくよく知恵が回るのも変わらずか! あいつも似たようなことを言っては我を黙らせてくれたものよ! 小癪な人間め! 』
地団駄を踏み始めた狐を見て、助かったことを確信した。
いまのハッタリは本当に低級な妖怪相手には通用しなかっただろう、鼻で笑われて平気で殺しに来ただろう。
それをしないというのはある程度理解はしていた。
第一に、プライドが高そうな高圧的な態度。
自信に溢れているタイプではなく見下している、人間よりも上だと思っていそうな物言いにそのプライドの高さは見えていた。
第二に、人間は嘘をつくという発言。
過去人間に嫌な目に合わされたのだろう。
それを組み合わせて、プライドがやたら高そうな妖怪が口八丁なりとも人間に負けたという事実を許せないだろう、ということに賭けた。
妖狐『もう顔も見たくない! さっさと失せろ!』
男「いやまて。その前にいなりを食え」
妖狐『な、なんだと?』
男「美味いか美味くないか教えてほしいんだよ。妖怪の狐がどんな味を好むか聞きたいんだよ」
妖狐『うぐぐ……い、意味が分からん……やはり人間は分からん……嫌いだ……』
ほら、と一ついなりを取り出して口に入れる。
大きい口に小さいいなりは物足りないだろうか。
妖狐『……う、美味い! やはりいなりは美味いな!』
男「ふむ……意外と普通の味覚なのか、なるほど」
妖狐『ぐ……まじまじと見るな!』
男「悪いな。あ、スマホと服返してくれないか?」
妖狐『ふん……あんなもの食べてしまったわ。言っておくが貴様との約束にあれを返すことは含まれていないからな』
何故か優位に立ったような、人間で言うところのどや顔をしているような狐。
男「そうか……狐は服や機械でも食えるのか。雑食か? 妖怪故か? なんにしてもこれをネットに流して面白く伝承をしよう」
妖狐『やめんか貴様! ここにある!』
上から手元に俺の物質が降ってきた。
良かった、無事のようだ。
男「それじゃあ俺はこれで」
妖狐『二度と顔を見せるな!』
男「……あぁ、ちょっと待て。もうひとつ約束してやる。たまに気が向いたら、いなりを差し入れてやるから。あのお皿って、つまりはそういうことだろ? 金なんて置いて悪かったな」
妖狐『……ふん。人間は、嘘つきだ……』
男「俺は約束は破らん。じゃあな狐」
妖狐『……美味い』
家に戻ると、妹に質問攻めを受けた。
妖狐に何も聞いていないので、適当に嘘をついて騙す。
納得したようなそうでないような、そんな顔をしたのを見て母さんを思い出した。
父さんと話しているときはいつもこんな顔をしていたな……。
夜食は余った材料でいなりを二人で作って食べた。
部屋に戻って布団に入り、スマホの電源をつける。
男「すごい数のメールと電話……オバケや何かよりもよっぽど人間が怖いってのもよく言ったものだ」
全件削除して、少し疲れてたのもあり、すぐに眠りにつく。
…………………………朝。
学校に行くのが若干億劫なのは、昨日逃げ切った元カノがいるからだ。
だがサボるわけにもいかないので、仕方なく登校したのだが。
結論から先にいうと、俺は悪者に仕立てあげられたらしい。
元カノが色々と吹聴したようだ。
女の敵を見るような視線には、うんざりさせられる。
友「ま、気にすんな。男連中はあんま気にしてないってか信じてないから。元カノとかその辺の連中って評判悪いからさ」
男「慰めてもらってありがたいんだが、女性にあんな目で見られるのはかなり厳しいんだ」
元カノはこちらの様子を伺っていて、その回りを取り囲むように女の壁ができている。
友「あとで飯食うときにでも詳しく話せよ?」
男「おう」
自分から、好きだから付き合ってくれ、と言った相手の悪評を吹聴する心理が理解できなかったが、理解する必要は無いのだろう。
男「…………ん?」
視線を感じて、廊下に目を向ける。
……隣のクラスの……女? だったかな、がこちらをじっと見つめていた。
不気味だ。
おやすみなさい
放課後、嫌な視線に晒されることに耐え抜いて帰宅途中。
後ろからの視線をも無視して、マイペースに歩き続けた。
視線の主はさっき確認した限り朝と同じく隣のクラスの女。
何故つけてきているのかは不明、女の敵ーとか言っていきなり殴られないか心配なくらいだ。
ミステリードラマの見すぎかな……と。
女「ねぇあなた」
話しかけられた。
意味はないが意味ありげにゆっくりと振り向く。
男「なんだ?」
女「……最近妖怪と話したでしょ? それも飛びきり強力な奴と」
男「……さぁね」
意味はないが意味ありげにニヤリと笑う。
女「あなた……同業者? 妖怪の力を利用するつもりね?」
男「悪いが、あんたと話すことはない。じゃあな」
何をいってるかサッパリ分からないから本当に話すことはないのだが、無駄に意味ありげを追求する。
父さんの教え、意味不明な人間に絡まれたときに含みを持たせるような行動をしていれば面白い世界が見れる、それは普通に生きていれば経験し得ないものが多いから経験してみろ。
わざわざ危険に足を突っ込まなくても良いんじゃないかと主張すると、「知らない世界ってのは男のロマンなんだ。お前もいつか風俗に行け、ロマンを感じるぞ。母さんにバレたらデンジャラスだがな」と話を流された。
そんな意味ありげなことをしているだけの俺の肩を女が掴んできた。
女「待ちなさい。あなたを見過ごすことはできないわ。あなたの出会った妖怪の居場所を教えなさい」
男「離せ! ……俺には必要なものなんだ。邪魔をするな」
女「……ッ……復讐が目的? 止めておきなさい、自分の身を滅ぼすわよ。あなただけじゃない、家族や友人にも被害が及ぶわ」
男「黙れ黙れ黙れ!!! んなの知ったことかよ!!! 俺は……俺はぁ!!!」
何度も言うが100%意味はない、ただ合わせているだけだ。
もしかしたら悪質なんじゃないかと思いはするが、やると決めたらやり通そう。
乙
長くなるのかな?量じゃなくて期間
女「そう……そんなに言うなら……無理矢理にでも大人しくしてもらうわ! 一つ目!」
ドシンッ、と重たい音が聞こえる。
先ほどまでなにもなかったそこに、赤い肌をした、身長2m越えマッチョ、おまけに金棒を持った一つ目の妖怪が姿を表した。
召喚? ファンタジー?
見た目は明らかに鬼、よく見かけるタイプのもの。
男「……なるほど、陰陽師?」
女「一つ目、殺しは禁止。押さえつけなさい」
一つ目『…………!』
頷いた一つ目は……。
男「おっと!」
戦いなれているような、俊敏な動きで頭に掴みかかってきた。
どうするか……殴りあって勝てる相手ではない。
というよりも、俺自体にそこまでの戦闘力が無い。
父さんの教え、戦うな、逃げろ。
その教えの通り俺は危険から逃げる方法ばかりを教えられてきた。
そもそも危険に近づかなければ良いのでは? と聞いた俺に「退屈は人間を壊す病気よりも厄介な代物だ。お前も大人になったら分かる。そして刺激は人をより成長させる。母さんの嫉妬した顔は可愛いが怒ったときのスリリングさも私にとっては無くてはならない刺激の一つなんだ」とボロボロの顔で答えてくれた。
ネタバラしをして謝罪するのも良いが、そうなるとあの妖狐のことを伝えなければならない。
今目の前の女にそれをしたくない気分だ。
理由は、
男「っとその前に逃げっ!」
塀に掴まって木に飛び付き、そのまま屋根に飛び乗る。
女「なっ……!」
理由は簡単、人の話を聞かない。
それなりの事情があってそれをしない、という演技をした俺に行った行動は実力行使。
復讐心に燃えていると読み取ったとして、まず話を聞いてみようという気が一切無いのはかなりの減点ポイントだ。
家族や周りのことを持ち出してきて止めようとしたところに理性的なものも感じたが、今話している俺についてまるでなにも考えずの実力行使は、心に余裕が無いか血の気が多いの
女「鎌鼬!」
風! 足!
転がるように塀を足場にして着地する。
そのすぐ後ろをビュンッ! と風が通りすぎていった。
そしてもうひとつ、女が宙に浮いている。
一瞬判断が遅れたら逃げ足を失っていた、危ない危ない。
>>17
終わるまでの期間という話なら、不明。
今日の投下の期間という話なら、仕事の暇な合間に書いてたから時間が開きます
女「逃げることは不可能よ。大人しくしなさい九尾の居場所を教えなさい」
さてどうしたものか、周りには何もない。
相手は宙に受けるし、早さもある。
遠距離からの攻撃もでき、近距離に入って捕まると終了。
今この状況で何ができる?
あと一つだけ切り札があるが、何度も引っ掛かってくれる手でも無いし、失敗すると詰みだ。
……石、見っけ!
男「く……ククククク……!!!」
女「なに? その笑いは?」
男「悪いな、陰陽師。俺は諦めが悪い男なんだよ……そして……」
男「今だ九尾!!!!!!!」
大声で、女の後ろにいる九尾に向かって声を張り上げる。
女「なっ……! 九尾!? 一つ目!」
女が後ろを振り向いた隙に、石を回収しそのまま勢いをつけて女めがけて投擲。
タンッ! バシッ!
女「ッ……九尾なんていない、それにこれは……石? なるほどね」
女「でも残念ね、私それなりにこういう場数は踏んでるの。さて、音も聞こえなかったしすぐ近くに隠れているのは確定。悪いけど私、耳はすごく良いの。そのまま見つかるのを怯えながら待つと良い」
女がどこかに隠れているであろう俺に語りかける。
バッチリ聞こえる距離にいるので、確かに少しだけ怖いものだ。
女が歩いていく。
俺もその歩幅に合わせて音をなるべくたてないように、下がっていく。
ゆっくりゆっくりお互いの距離が離れていく。
願わくば後ろを振り向かれないことだが、俺が向こう側に逃げたと思い込んでいるであろうから大丈夫そうだ。
そして曲がり角に差し掛かったところで、ようやく一息つく。
さて何があったかの解説だが、場数を踏んでいる立ち回りなのは見てて分かる。
その相手をだまくらかすには、定石を覆さなければならない。
女を目掛けて放った石は一つ目に受け止められ、そのまま下に落ちた。
だが投げた瞬間に俺が向かった方向は女のいる方面、バシッ! と受け止めた音で近くに寄ったことを隠し、石が落ちた音で振り向いた瞬間に後ろに回り込む音を隠した。
女としては俺は、俺がいた場所からさらに奥のどこかに隠れたと思うしかない。
……改めて、俺の父さんの技術に舌を巻くしかないし、俺に訓練させてそれを実行させてくれたことに感謝するばかりだ。
さてと……。
狐のところに行くか。
長い階段を登り、神社にたどり着く。
途中で買ったいなり寿司はコンビニのものだが、まぁ多分大丈夫だろう。
裏手にある狐の像、その皿にいなりを乗せる。
………………。
来ない。どころかちょっと目を離した隙にいなりが無くなっている、
強い拒絶を感じる。
男「なるほどな。まぁそれならそれでも構わんが、もう二度といなり参りは無くなるだろう、残念だ」
少し大きめに、心の底から残念そうに独り言を言って、家に帰ることにした。
ガサッ! と目の前で木に阻害され、階段が消える。
妖狐『貴様ぁ……この我を脅かす気か……!』
男「せっかく持ってきたのに顔も見せずにいなりを食う方がどうかしている」
妖狐『そもそも今日のいなりは昨日に比べて不味い! それで我に顔を見せようなどと、甘く見られたものだな!』
男「美味い不味いで会うか会わないかまで決めてんのか? 随分甘やかされてきたみたいだな狐、温室育ちか?」
妖狐『なんだと貴様ッ!?』
男「そんな話はどうでもよろしい。お前に話がある」
妖狐『ぐぐぐ……ぎぎぎ……!』
男「さっき変な女に妖怪を使った襲撃を受けた。女はお前の居所を探っていたみたいでな、話を通しておこうかと」
妖狐『…………なに? そうか、残り香を嗅ぎとられたか。現代にもまだいるのだな』
男「残り香ね」
女の背後を取った時のことを考えると、正確には把握できない程度の痕跡か。
妖狐『……それで、何故ここにきた』
男「ここなら俺が安全だと思ったからだ」
妖狐『なに?』
男「お前がここにいるのに女はお前に辿り着けない、お前の周囲にそういうものを阻害するものがあると考えた。ここなら俺の残り香、を嗅ぎとられないとも」
妖狐『ふん、正解だ。大昔に我をここに封じた者が、我の力を求める人間に気付かれぬように結界を張った』
男「なるほどな。さて……どうすれば良い」
妖狐『知らん』
男「残り香を消す方法も知らんのか。まったく大した妖怪だな、大きいのはプライドだけだ」
妖狐『煽っても知らんもんは知らんぞクソ人間が……! やはり貴様は奴にそっくりだ……! そのイラつかせる話し方といい……!』
男「本当に知らないのか。……そうか」
困ったことになった。
狐なら知っていると思ったのだが……。
痕跡さえ消せれば口八丁でいくらでもやり込める気がするのだが、バレバレでは意味がない。
おやすみ
ごめん誤字多いな
脳内変換お願いします
これからどうするか。
残り香があるならどこにいても逃げきれない。
狐を売れば助かる。
というより俺はほぼ無関係なのだ。
妙な義理と、女への危うさを感じたが故に今ここにいる。
…………本当に無関係だろうか。
妖怪を使役する、この狐は……あの女の言うところの強力な妖怪。
こいつを使役して、あの女は何をするつもりだろう。
復讐は違う、自身が復讐に関して否定的だった。
妖怪を嫌いながらも、妖怪を使役している……それによって妖怪を捕らえている?
復讐ではなく、収集が目的?
単なる仕事?
……………………善意?
あぁそうか、悪意だけとは限らないのか。
1、俺に強力な妖怪の残り香を感じた
2、悪さをされているのではないかと様子をうかがい声をかけた
3、俺が意味深な行動をした←とても重要
4、危険な精神状態にいる俺を大人しくさせようとした、何故ならまともに話が通じそうに見えないから
これなら、納得できる。
それなら素直に話せば全て解決するということだ。
うむ。
問題はだ。
男「あそこまでやっておいて信じてもらえるかどうかだ」
狐『なんだ?』
男「いや、考察が正しければ俺が悪いということになった。父さんの教えに従うといつもこの結論に至る。さて、尻拭いも自分の仕事なら今回はどんな目に遭うやら」
狐『よくわからんが、良い気味だ』
男「…………まさしく良い気味だな。いやしかしロマンはあるね、なんてこったい妖怪だ。楽しいことに変わりはない」
手をあげて狐に別れを告げる。
男「あぁそうそう、俺の考察が無意味で本当に女がお前を狙っている可能性もあるから、準備はしておけよ。俺が確認したのは一つ目の鬼、鎌鼬。他にもいるかもな」
とは言っても俺がここのことを伝えなければ良いだけだが。
それともうひとつ大事なこともある。
男「俺の考察はよく外れる」
階段を降りて、まっすぐ家に帰宅する。
男「ただいま」
妹「あ、やっと帰ってきた! お客さん来てるよ!」
男「やっぱりね」
妹「やっぱりって?」
男「なんでも。部屋にいるの?」
妹「う、うん……」
妹の頭を撫でて、ゆっくりと階段を登る。
戸を開くと、女が椅子に座って寛いでいた。
女「遅かったわね」
男「まぁね。何か用?」
女「それを聞くの?」
男「あぁ、教えてくれよ。それしか今は気にならないってくらいには気になってる」
女「……? あなたの出会った妖怪……九尾? それは今どこにいるのか。それが聞きたいの」
男「正確には狐の妖怪ってだけで、九尾かどうかまでは分からん」
俺が狐に何かされたどうかじゃなく居所ばかりに着目しているな、こいつ。
女「いいえ、九尾よ! そう、伝承ではこの地には狐の大妖が眠るとされていた! でもどんなに探しても見つからない……あなたにこんなにも強く残り香があるんでもの! かなり強力!」
興奮し始めた。
あの狐の強さに興味があるらしい。
男「なるほど、確かに強そうだったな。なぁ悪い、あいつってばあそこで封印されてるから悪さはしないぞ?」
女「え? それがなにかしら?」
うん。
善意じゃないやっぱり。
己の欲求を満たせることへの喜びを感じる。
俺の性格の違いについても一瞬疑問に感じただけで指摘することもしないくらいに俺への興味もない。
さて……人質が下にいる。
この狭い室内で鎌鼬はかなり強力だ。
それなら、俺は俺の武器を使う。
男「いやー、さっきは悪かったな。ぶっちゃけ復讐とか考えてないんだよねー、なんか頭おかしい奴に絡まれて、「あ、こいつ最近流行りの中二病かー相手してやるかめんどくせぇ」ってふざけたら、マジモンだっただけって話でさ」
女「あ、頭がおかしい?」
男「最近その狐に襲われそうになってさー、命からがら逃げ延びたけど怖くて夜も寝れないって時に妖怪使った女の子ってもう確実に刺客だと思ったね」ウンウン
女「……そ、そう」
男「あれでしょ? 妖怪退治してくれるんでしょ? いやーマジ助かるわー! やっぱりどんなものにも正義の味方っているもんなんだね! 早速案内するから着いてきてくれよ!」
女「なるほど……そういうことだったのね。確かに日常とかけ離れたことが起これば、人間は正常に思考できなくなるものね」フフン
男「常日頃から父さんに「危ないものからは何がなんでも逃げろ」って特訓されててさー! 父さんに助けられたと思ったけど蓋を開けてみれば真逆だって訳かー……使えねー」
女「ふふふ、良いお父さんじゃない。さぁ、ではお願いね」
人質開放&狭い空間からの脱出成功。
二人で仲良く神社への道を歩く。
男「それにしてもアニメや漫画の世界の話だと思ってたのになぁ、いやぁ世界にはまだまだ不思議がいっぱいだ」
大人しく神社に連れていこうか。
一つ目と鎌鼬と聞いたときの狐の反応は余裕を感じるものだった。
女「あまり踏み込みすぎない方がいいわ。平和な日常にいたいなら」
あの二匹以上に強力な妖怪がいないのなら、そもそも身を案じるまでもないだろう。
だがこの女が余裕を見せていることに引っ掛かる。
秘策があるのか、はたまたもっと強力な
男「でもこういうのって男のロマンだからなぁ……すげー気になるっちゃ気になるんだよ。ねぇねぇ、鎌鼬と一つ目鬼って言ったよね! 他にも何かいるの?」
妖怪がいる可能性もあるから聞いてみた。
その場合はどうしよう、隙を見て気絶させるか?
どうやって? 首筋に一発?
無理、あれは
女「ふふ、いるわよ。企業秘密だけどね」
いたみたいだが無理なものは無理だ。
それなら仕方ない。
男「っと、先にコンビニ寄って良いか? あいつはいなりが好きらしくてね、これがあれば釣れるんだ」
女「ええ、良いわよ」クス
おっと気になる笑い方。
今のは明らかに「無駄なことをしている無知な人間を笑う」タイプのものだ。
つまり姿を見せてもらう必要もなく狐を従わせる方法があるということだろうか。
男「あったあったちょっと買ってくる。一緒に来る?」
女「ここで待ってるわ」
男「了解! すぐ済ませる! あ、何かいる?」
女「いえ、大丈夫よ」
頷いてコンビニにはいる。
外から視線を感じるが、気づかないふり。
買い物カゴにコーラといなりと……皿を入れてカゴの中で即座に破きポケットに入れて、レジへ行く。
男「すいません、一枚でよかったもので。あ、破いた袋のバーコード打ってください。これ全部捨てておいてください、お願いします」
変な目で見られたが、ここで行われていることは、あの位置からは見えないだろう。
金を支払って、店を出る。
男「お待たせー、んじゃ改めて行こうか」
女「はい」ニコッ
おやすみなさい
男がすかしてて気持ち悪い
>>29
万人受けする主人公は難しいのと、元々こういう主人公が引っ掻き回す物語で書いているので、恐らく肌に合わないかと。
ここから改善させる予定もないので、見ない方が良いと思いますよ
女を連れてやってきたのは、土を掘られて作られた穴のなかに立っている地蔵のある、寂れた森林。
先に駆け寄って、隠していた皿をあたかも今拾い上げたかのように、女に見せるように持ち上げる。
男「ほらこれこれ。ここに狐がいるんだ」
女「……なにも感じないわよ?」
男「そう! その狐に聞いたんだけど、大昔にかなり力のある陰陽師に封印されて、その力を悪用する人間に気付かれないように気配を消す術を施した……らしいんだ」
女「それは……相当力のある人間なのでしょうね」
男「さてと、隠れててくれ。いなりを置いたら、多分出てくると思う」
女「大妖怪相手に隠れても無駄よ」
男「そうなのか? まぁいいや……よし、置くぞ」
いなりを、恐る恐るといった風に皿に置いて、慌てて距離をとる。
……………………。
女「なにも起こらないわよ?」
男「起こらないな。隠れてる……? 向こうからは陰陽師の気配とかは分かるものなのか?」
女「九尾ともなると、そのくらい朝飯前なのかしら……まぁ封印されているのなら話は簡単よ」
男「え、そうなのか? なら俺の出る幕は無さそうだな、よろしく頼む」
女「ええ、離れてなさい。…………この地に封じられし太古よりの者よ……」
タンタンタンタン……
女「その力、我が魂に永住し、我が道の柱となれ!」
タンタン……ダッ!!
女「……何も……起こらない? 私の力では足り……ッ!! いない!?」
男「ただいまー」
妖狐『何故戻ってきた……』
男「いや、ちょっと探り入れに……上手くいったから、相談したいんだよ」
数分後、狐のもとに戻った俺は冷ややかな視線を浴びながらも起こったことの全てを打ち明けた。
妖狐『……これは、服従の呪術だな。それも、問答無用で屈服させる種類のものだ』
男「分かるのか」
妖狐『伊達に長年生きていないさ……』
男「これを言われたら、意思もなにも関係なく、好き勝手されるのか?」
妖狐『相応の妖力があればな。そもそも意思を持つことも許さんものだ』
男「なるほどな。こういうものしかないのか?」
妖狐『そんなわけが無いだろう。むしろ異端の代物だ、本来我等と人間の間には契約を行って使役されるものとなるのだが、妖力任せに無理矢理使役させる輩はどこにでもいるものよ』
男「ふむふむ。この文面はじゃあ、本来のものを改変させてるってことか」
妖狐『見たところ……そのようだな』
男「そうか。太古よりの者よ、我と契約して力を貸したまえー、ってところかな」
妖狐『あぁ、まぁ、そう』
男&妖狐「『!?」』
いきなりふわっとした感覚が全身を襲った。
身体が異常に軽い、未知の感覚だ。
妖狐『いやそんな馬鹿な!? き、き、貴様何をした!?』
男「なにもしてない。お前も見てただろ」
妖狐『こんなデタラメな契約の仕方があるか! というより何故我と契約ができた!?』
滅茶苦茶焦っている狐。
というか、契約ができた?
つまり何か、今俺と狐は繋がっているってことか?
妖狐『こんなデタラメなことができるやつは我をこの地に封印したあいつ……いやまて……き、貴様……安倍……!?』
男「いやまて、俺の先祖にそんなのは……知らないけど、いないだろ流石に?」
狐の動揺が感染したように、俺の思考もぐちゃぐちゃになってきていた。
冷静になろうなろうと落ち着かせても、いつものようにはならない。
男「おい……落ち着け狐……思考が纏まらん……」
妖狐『貴様!!! いいや我には分かったぞ! 貴様アレの子孫だな!? いつまで経っても滅茶苦茶なことをして我を弄ぶつもりか!! だから貴様らのことが大嫌いなのだ!』
俺の先祖にそんな高名な人がいただろうか……父さんにはなにも聞いていない。
俺にはわからない。分からないことは……気持ちが悪い……知りたい……。
分からないと困る……困るのは嫌だ……知らないのはこわ
男「だから落ち着け!!! 考えさせろ!!! お前の動揺が邪魔だ!」
妖狐『むぐっ!?』
急速に思考が冷え込む。
先祖に何がいるかは知らないがこれは後にしようまず契約についてだ、それを聞き出さなければ。
男「まず契約についてだ。メリットでデメリットを簡潔に教えてくれ」
妖狐『むむむむむ!!』
男「え? なんだ?」
狐はもがいてこちらを睨み付けているだけで、なにも話そうとはしない。
なにが……「黙れ?」。
男「……もう黙らなくて良いぞ!」
妖狐『むっ……き、貴様……! 何故縛れた……いや、我にはわかっている、契約を果たして貴様の妖力を感じ悟った、貴様はデタラメなあの男の血を濃く継いでいる…な、なんの、呪術も用いずに我を黙らせる……あぁ、またあの忌まわしき日々が……』
何をしたんだろうその安倍某は。
男「悪かった、俺もよく分かってないんだ。頼む、ゆっくりと俺に説明してくれ。妖怪については無知で、俺はお前よりも下の存在だ」
妖狐『……そうか。それで、なにが聞きたい?』
男「まず、お前と契約したことで起こることだ。お前にはなにが、俺にはなにが起こる?」
妖狐『我に起こること、それは貴様からの妖力供給だ。妖怪は妖力を使って力を使うものだが、妖怪よりも強く多い妖力を持っている人間もいる。そういう人間から妖力を貰えれば、より強い力を行使できる』
妖狐『それと、弱い妖怪か、自分の妖力に見合わない力を持っている妖力にはそもそも人間と契約しなければ何もできない者、消滅してしまう者も多い』
妖狐『そして貴様ら人間に起こることは……詳しくはないが、妖力の供給をすることで発生する体力の消耗。それと妖怪に精神を乗っ取られる危険性だ』
男「それは怖い。対処法は?」
妖狐『教えるとでも?』
男「だよな」
妖狐『それと、我のような妖怪と契約するときには代償が発生する場合もある。いや我とするときも本来は発生する。貴様はぶち破ってくれたが』
男「ラッキー」
妖狐『意味合いは分からんが馬鹿にしていることだけは分かった、いつか呪い殺してやる』
とまぁ、そういうことらしい。
妖怪と契約してしまうことになるなんて、人生なにが起こるかわからないものだということは、父さんによく教えられていた。
だが予想を遥かに越えた。
でも悪い気はしない。
男「……状況は概ね把握した。狐と契約して陰陽男子に成ったよ、って訳だ」
妖狐『…………ふん、貴様はまだ理解していない。我と契約したことの本当の恐ろしさを』
男「それはどうでも良いんだ、重要なことじゃない。それよりもお前はいったい何て言う妖怪なんだ? 九尾の狐ってやつか?」
女が何度か九尾と言っていたのと狐で大妖怪といったら九尾しか思い付かない。
妖狐『九尾であった時期もあったが、封印される間際は十尾に成ったよ。アレのせいかおかげでな』
男「妖怪の狐って尾が増えるとその分強力になるのか?」
妖狐『先が逆になっているぞ。強力になるから尾が増えるのだ』
男「何故強力になると尾が増えるんだ?」
妖狐『……知らんが、多い方が強いのだろう』
男「それもそうか」
数は力だ。
おやすみ
めちゃくちゃ期待してる
長編なのかな?
>>39
反応が多ければそうするかも知れませんが、現在はこの十尾の章しか考えていません
期待
長編にしてくれていいんだよ?
いやしてくださいお願いします
>>42
でも実はあんまり妖怪詳しくないから、オリジナル妖怪とか既存妖怪改変したのとか、そんなのばかりになるけれど大丈夫でしょうかね?
男「とりあえず当面の目標はあの女をどうするかだな。十尾ってどのくらい強いんだ?」
妖狐『ふん。その辺の雑魚なら一撫でで消し去ってやる』
男「なるほど、強力だ。負ける要素は無さそうだな」
妖狐『とは言え、我も長々とここに閉じ込められて来たからな。妖力は強い妖怪程度しかもう無いわ』
男「ふむ……それだと厳しいのか?」
妖狐『……いや、それよりもだ。我がいるいないに関わらず貴様なら何が相手だろうと取るに足らんと思うが? 我と違って触る必要すら無いのだからな』
男「使えればな。さっきの口封じをどうやったのかも分からんし、人間相手にも聞くのか?」
妖狐『相手の妖力が強ければ無理だが、強くなければ効くぞ』
人にも効くのか、かなり怖いなそれも。
もっと妖怪にしか効果がない類いのものだと思っていたのだが。
男「それはそれとしても、そもそも口封じ程度じゃ……いやまてよ? 妖怪の力を行使するときに、その妖怪の名前を呼ばなきゃいけないとかある?」
妖狐『名を呼ばれんと応じんぞ、普通は』
男「念じるだけで喚べたりとかは?」
妖狐『余程の高妖力持ちならば可能だろうな』
男「ふーん。それなら試してみるか」
十尾!!!
ボンっ!
妖狐『うわぁ!! 貴様いきなり何をする!?』
出来てしまった。
俺のとなりに十尾が現れて、抗議している。
男「試してみると言っただろ。そうか、なるほどな」
妖狐『こんな小僧に我が好き放題されるなど……くくく……!!!』
男「黙れ十尾」
妖狐『な、なんだと!?』
黙らない。
これは言うだけじゃダメなのか?
もっと本心から叫ぶ、とかそういう気持ちの問題?
やってみるか。
男「…………俺は黙れと言っているんだ。黙れ十尾!」
妖狐『む!? むむぐむむ!!!!』
男「お、できた。本気で黙れと思ったら使えるんだな、便利だ」
妖狐『むむぐぅ! むーん!!』
男「これ応用して使えないかな。声を出すな!」
妖狐『むむんぐぅ……むーー!!』
男「そこまで便利ではないのか。黙れと言っているのに奇声をあげている時点で分かってはいたが」
男「喋ってよし」
妖狐『我を実験台に使うな!!』
男「そんなこと言われても使い方も知らない力なんて用はないし……そんなことより、狐と俺の間に契約が起きているんなら、お前は俺に危害を加えないのか?」
妖狐『さぁな! 話す気は無い!』
男「そうか……これからよろしくな、狐。俺っていなり寿司大嫌いで見ただけで蕁麻疹が出るくらいだから生涯二度といなりなんて見ることも無いだろうけど、苦労かける」
妖狐『嘘をつくな! 貴様ふざけるな!! おい!』
男「あーそうか、いなりは嫌いか。そりゃ良かった、都合がいい」
妖狐『ぐ……ぅぅ…………わ、我は……貴様に手出しすることはできんよ……』
男「そうかそうか、偉い偉い」ワシワシ
狐の頭を撫でてやると、これ以上無いくらいに絶望したような(獣の顔なので実際どうかまではわからないとして)顔をして項垂れてしまった。
少しいじめすぎた気もするが、重要なことは是が非にでも知っておかなければならない。
男「さて、行くか。まずは目先の敵を退治しないとな」
妖狐『……あぁ』
男「そう落ち込むな。ところで乗ってもいいか?」
妖狐『ダメだ』
冷たい反応。
口も聞きたくないというのは聞かないでもわかる。
元々期待してないしされても本当にされても困ることなので、別に気にしない。
~~~~
自宅に戻ると、やはりというか、憤慨した様子の女がいた。
今度は分かりやすく妹と一緒に居間で座っている。
妹「あ、おかえりなさい。もう……お兄ちゃん、ダメだよ約束破っちゃ……女さん、怒ってるよ?」
男「あぁ知ってる。妹、向こうに行ってろ」
女「あら、いても構わないわよ。ねぇ、男さん?」
嫌な笑みを浮かべている。
どうやらここで下手な動きを見せると……と言外に脅しているらしい。
男「黙れ!」
女「……は?」
ダメみたいだ。
妹「お兄ちゃん! 怒るよ!」
男「実験だよ実験。怒らないでくれ」
女「…………とにかく。ゆっくりお話ししてくれない?」
男「俺は狐とお友達。これから一生ついていく。妹はいらないよな」
妹「え? なに? なにいってるの?」
女「…………!」
伝わったみたいで一安心。
廊下に出ると、慌てたように女がついてきた。
女「あなた!! なぜ、どうやって!?」
男「お前の言葉を借りたら、何故か契約できた。ま、これも何かの縁ってことだ」
女「……そんな……馬鹿な……今すぐ渡しなさい!」
男「お断りだ。理由? あんたが危ういから。力持つと何するか分からないし」
女「ぐ…………わ、私は……なんとしてでも……!!!」
そのまま外に出る。
やっぱり着いてくる。
あっさりと脱出成功できたことに拍子抜けした。
女「待ちなさい! その力がどうしても必要なの!」
男「何故? 理由求む」
口ごもる。
言えない過去でもあるのか。
だが意を決したように口を開いた。
女「……安倍晴明……奴に辱しめられた先祖の無念を……私が晴らす……! その為に力が必要なの!!」
なるほど安倍晴明か。
見えてきた、女の背景。
ずっと昔に安倍某と張り合っていた陰陽師の末裔で、陰陽師の名を安倍某が欲しいままにしたせいで、彼女の先祖は表に出てくることは無かったと。
そして俺がその安倍某の子孫かもしれないと。
出来すぎた話だ。
男「あぁ、もしかしたら俺がその安倍晴明とやらの子孫の可能性が高いらしいぞ。良かったな宿敵が目の前にいる訳だ」
正直に打ち明けた方がロマンがあると感じて、にこやかな笑みを浮かべながら先ほど知ったばかりのことを話してあげた。
ぽかんと……何を言ってるんだこいつくらいの表情をして、女は固まっている。
長い沈黙、そして突然胸ぐらを掴まれた。
女「殺す!!!」
男「楽しみだ!」
すぐに払いのけて、後方にバックステップ。
女「鎌鼬!」
ヒュンッ! と鋭い風が無数に襲いかかるが、なんとかかわしきる。
男「九尾!」
女「一つ目!」
一つ目鬼が俺目掛けて金棒を降り下ろすが、若干動きが鈍い。
俺のフェイクに女が思考を割いたからだろうか。
サッと一つ目の後ろに回り、女の目の前で
パァンッ!
と猫だましを使った。
そして更に女の後ろに回って、
十尾!
と十尾を召喚。
ボンッ!
妖狐『……………………』
男「そっちの一つ目は任せた」
妖狐『ふんっ!』
女「なっ」
男「っと、悪いな。このまま大人しくしてもらう」
女を羽交い締めにして、身動きを封じる。
男「こっちには九尾の狐もいる。お前に勝ち目はない」
女「それはどうかしら? 我が家には、あなたの家には無い秘術が眠っているわ」
余裕だな……もしかして?
ドスッ……
男「ガハッ……!?」
こいつ……鳩尾に……。
女「ハッ!」ブンッ
男「~ッ!!」
尻餅をつくように回避したが……。
男「油断した……そうだよな、妖怪頼みってだけなわけないよな……ぐ……」
あまりにも強烈な一撃に、そのまま意識を手放した。
女「言ったでしょ? 修羅場は慣れてるって。……さぁ、九尾の狐よ! その魂を引き裂き、我が魂に眠りたまえ!」
妖狐『………………ここまで読んでたのか?』
男「いや……何かしら未だお前を手にする方法があるんじゃないかと思ったが、ビンゴだったってだけだ……いつ……」
女「な……ど、どういうこと!?」
男「一つ目鬼よ! その砕けた魂を我が魂の心底にて癒したまえ!」
一瞬の浮遊感……そして、目の前の一つ目が消え去った。
女「な……ぁ……!?」
男「いやぁ……ありがたい。今回だけで俺は色々と成長させてもらったよ。ペラペラ話すのがお好きなようで、自尊心は身を滅ぼすぞ? それに、勝つためなら手段も選ばないその様……あまりに不様」
妖狐『本当にデタラメだ……何故、妖怪を相手にしてここまで滅茶苦茶なことが許されるのだ? 理解に及べぬ……』
男「一つ目は……今はまだ無理みたいだな。まったく酷使したものだ、俺の魂に入った一つ目が苦しんでるぞ」
女は俺を化け物を見るような、怯えた瞳で見ている。
後退りながら、混乱したように鎌鼬を召喚した。
男「鎌鼬! お前も辛そうだな、俺の心で休め! 受け入れてやる!」
すぐに風は止み、浮遊感に包まれる。
……試しにやってみたが、割りと台詞は形式だけのものなのか。
それとも、また心が重要なのか?
謎は深まるばかりだ。
女「ひ……ひぃい……!」
男「で、どうする? まだ妖怪がいるなら、全員受け入れるつもりだけど」
女「そんな……そんな……な、なんで……私は……あんなに……」
男「運が悪かったんじゃないか? あと喋りすぎ」
女「……うう……うぁぁぁ!!!」
半ば発狂したようにこちらに突っ込んできた。
男「十尾、頼む。俺は無理だ」
妖狐『我にも無理だ。人を襲えぬ。そういう呪いを貴様の先祖に課せられたからな』
男「え?」
今度こそ俺は本気で意識を手放したのだった。
~~~~
おやすみ
男「ん……? どこだ?」
目覚めてまず目についたのは人形が並んでいる光景。
そして体に残る鈍い痛み。
…………多分恐らく察するに、女の部屋か?
拘束はされていない。
ここで十尾を出すのは、狭すぎるか?
男「まぁいいや、十尾!」
ボンッ!
妖狐『……なんだ』
男「状況説明を頼む。いなり」
妖狐『…………貴様が倒れて、あの女がここまで連れてきたんだ』
男「目の前に俺の家があったのに? なんでだ? いなり」
妖狐『知らん。あと腹が立つから終わりにいなりをつけるのをやめろ』
男「そういなりか、女はどこにいなりるんだ?」
妖狐『だからやめろ! 我にも分からん!』
ふむ……。
とりあえず外に出るか。
と立ち上がる前に、扉が開いた。
女「起きたのね」
男「お邪魔しました」
女「帰さないわよ?」
男「監禁プレイ? 楽しそうだな」
女「……あなたの妹さん、悪いけど人質に取らせてもらったわ。私の言うこと」
男「いや、人質には大分前に取ってただろ。俺の家に二回来たとき、なにか俺が反抗的なことをしたらすぐに人質にするつもりだったんじゃないのか? ん?」
女「……えぇ、それが」
男「ならやめとけ、あいつは人質にはならないから。殺すなら殺せば? そのあとで報復としてお前を殺すだけ。やったね、安倍某の子孫の妹ちゃんに復讐できたよ。でも同じ子孫の男くんに殺されちゃった、あーあ」
男「大体陰険なんだよねー、人には復讐やめとけって言ったくせに自分は復讐のために動いてますって凄い棚上げ。あれかな? 自分達には正当な権利があるとか信じちゃってるたちが悪い人たちなのかな?」
男「そもそも無理矢理妖怪服従させる術だとか相手の使役する妖怪奪い取るだとか、そんな術ばっか使ってたから人に見向きもされなくなったんじゃないの? 自分達のマイナス点見ないで自分よりも評価されてる人間に八つ当たりって、器ちっさいな。何様?」
男「しかもこんな子孫まで恨み持ち込んで、根暗の末裔ってこんな感じ。根暗の子は根暗なのかな。正に陰陽だ、陰の子孫。といっても、こっちは昔のことなんてとっくの昔に消え失せてるみたいだし相手にもしてなかったみたいだけどねー」
女の顔怒りで真っ赤。
少し悪いとは思いながらも、全力で煽ることをやめない。
とりあえず心を折る方向に持っていきたい、逆上するならそれもまた良し。
男「で、まだ何か用? もう俺には無いけど」
女「殺してやる……」
男「俺を? 構わんよ。やれるもんならやってみな、やられそうだけど。やったやった、勝った勝ったわーい。妖怪勝負に絶対に敵わないとしった相手が直接暴力振るってくるらしいぞーやっぱり安倍某最強だなぁはっはー」
妖狐『よくも口から口からベラベラ出てくるものじゃ……』
呆れた様子の狐。
俺もそう思うよ。
男「見逃してくれるんなら、今日のことは無かったことにしてあげるけど。勝ち負けとか興味ないし、女のヒステリーに付き合う気も無い。理性ある回答を望むよ」
女「…………ぅ……ぅぅぅぅ……!」
男「…………あ」
恐れていた事態が起きた。
エマージェンシーエマージェンシー、対男性用最強殺戮兵器「NAMIDA」の登場だ。
普通に女の涙に弱い俺、途端にオロオロしてしまう。
男「悪い、泣くな。言い過ぎた、すまない」
女「ぅぅぅぅ……! ひぅ……!」
妖狐『貴様が悪いな。完全に』
いやだって、修羅場がどうとか大きなこと言ってたし、そのつもりでやらないと……。
男「よしよし、ほら大丈夫だよ。適当なこと言ってるだけだから。なかないでなかないで」
女「さわん、ひっく、ないで……!」グスグス
男「ほーら落ち着いてきたー。はいゆっくり深呼吸しよーほら大丈夫大丈夫」
その昔、妹相手に父さんに教えてもらった通りのことを実践していたら、かなり大荒れしたときがあった。
それはもう局地的大嵐でも起こったのかと思うほどに、俺は妹にズタボロにされて泣き狂う妹を宥めるのに一日を費やした。
それ以来極力そうならないように努めていたが、まさか二日連続でこんなことになるなんて夢にも思わなかった。
今回は女というよりも敵として認識していた部分も大きいだろうが、それでもこうなってしまうともう手も足もでないのが女性と言うものだと心得ている。
それから小一時間ほど慰めることになったのだった。
男「………………」
女「………………」
気まずい沈黙。
正直どうしていいかわからず、目を合わせないようにして床に座っている。
女も同じようにしていた。
時間が無駄に過ぎていく……だが俺には話始める権限がない。
それくらい女泣かせは重罪なのだ。
父さんに女には絶対に手をあげないこと、女を泣かせることは避けることを教えられたが、どうにもならないことも世の中にはある……。
今は相手の反応を待つしかない。
女「あの……」
男「なんだ?」
しまった食いぎみになってしまった。
落ち着け俺。
女「…………私は、物心ついてすぐに、長年の恨みを晴らせと教えられてきたわ。妖怪を道具として使い、彼の安倍晴明を越えるために」
男「なるほどね」
女「あたなは違うの?」
男「残念ながら、妖怪に出会ったのが昨日と言う超初心者。先祖に安倍晴明とやらかもしれない、ということすら知らない」
女「そう……ふふ、何年と時が過ぎて残ったものは一方的な恨みだけということね。それに、私たちだけの結果を見ればどちらが優れているかなんて明らか」
男「まぁな。まだ右も左も分からない俺でもこうなるんなら、そういうことだったんだろ。酷いよな、結局努力だなんだなんて関係ないってことだ」
女「……。悪かったわね、もう行っていいわよ」
男「分かった。じゃあな。何かあったら、いつでも来い」
それ以上深くは踏み込まずに、その場を後にする。
遅くなったことに怒る妹を適当にあしらって、部屋に戻る。
そして暇潰しに狐を召喚して、暖をとる。
男「…………疲れたな、今日は」
妖狐『………………』
嫌そうにしているのがよく伝わってくるが、これくらい許してもらいたい。
動物って暖かい。
男「なんだその目は」
妖狐『何故我を喚んだ?』
男「別に。何となく」
妖狐『狭い』
男「小さくなれ」
妖狐『無理を言うな!』
男「九尾って人に姿を変えて人を騙して悪さしていたんじゃないのか? 人間の姿になればいいだろ」
妖狐『断る。頼まれてやるもんでもないわ』
男「ほう」
妖狐『いなりを持ち出してもダメだ、聞かんぞ。絶対に嫌だ』
頑なだな、そこまでのものなのか。
何故だろう?
そういや恐ろしい程の美貌で……とか、そういう話も伝わっているんだったっけ?
あぁ、あれか。
俺が襲うとかそういうことを気にしているのか?
そんな無駄なことするわけないのにな。
男「俺は立場を使って悪さする気は一切無い。だがまぁ、嫌なら嫌でいいさ……眠いおやすみ」
妖狐『なんて勝手なやつだ……』
狐とのこのまったりした空間は、悪くないから。
わざわざ自分から壊す気は俺にはなかった。
なんせ今は最高に楽しいから……。
~~~~
ではまた。
次回投稿で十尾編完です
乙乙
今の妖狐の姿って完全に狐なのかな?
>>62
十本尻尾があるおっきい狐です
ただ普通の狐よりも毛が多くてふさふさしてるイメージなので、ポケモンのキュウコンみたいなイメージです
男「ん? おはよう」
女「……えぇ」
次の日、家を出ると女が入り口に立っていた。
また何事かあったのかも知れないと一瞬思ったが、すぐにそんな雰囲気にも思えなくなる。
モジモジしているというか、何か言いたいことがありそうだ。
男「どうした?」
女「……一緒に、学校に行かない?」
男「あぁいいぞ」
了承して、並んで歩き出す。
だが、特に会話は無い。
横目でこちらの様子を窺ってくる女、つまり俺から話を振れってことか?
男「……なんだ? 何か用があるんじゃないのか?」
女「え、えぇ……そうよ。……あの……」
男「…………」
女「………………」
男「……………………まさか告白か? 悪いが昨日今日で会った女と付き合うのは流石に」
女「違うわよ!」
流石にあり得ないと思いつつもしっかりと否定されたことで安心する。
女性の心はブラックボックスだ……。
男「となると……弟子入りでもしたいのか?」
女「う……」
図星のようだ。
男「本気か? 昨日の今日だし、俺はお前の宿敵だぞ?」
女「……だから? 私は自分がのしあがるためなら、何でも踏み台にできる。あなたのことも踏み台にする。そう決めたの」
男「それを俺に言うかね」
女「あなた相手に駆け引きしようとしても面倒だと判断したわ」
男「なるほど」
女「それと、もうひとつだけ言っておくけど、あなたの解答は不正解。私があなたに弟子入りするんじゃないわ、あなたが私に手を貸すのよ」
男「ずいぶん上から目線だな……」
女「当然よ、私の方がこの業界では先輩だもの」
確かにそうだ、上から目線になる権利はあるか。
そもそも彼女がかなりの馬鹿だったからこそ昨日は大勝利という結果で終われたのは、重々承知している。
もしもっと非道でなんでもするタイプの人間だったなら?
妹は死んでいたかも知れないし、俺だって無事に今日を迎えられなかったかもしれない。
分からないというのは、本当に怖い。
だからこそ、分かろうとするんだ。
男「……あぁいいよ。手伝ってやる。その代わり俺の知識不足を補ってくれ」
女「……交渉成立ね。今日からよろしく、男くん」
男「よろしく」
手を差し出されて、ギュッと握る。
この女の思惑は別のところにあるかもしれない。
だが、俺はそれでも前に前進する。
父さんの教えを信じて―――。
prprprpr...prprprpr...
男「ん、もしもし?」
父『俺だ。どうだ最近?』
男「父さん、今通学中」
父『おうそうなのか、それは知ってた。ただもう眠いからな、謝らないぞ』
男「それで? なに?」
父『あぁ、最近面白いことあったか? 人生に刺激は足りてるか?』
男「安倍晴明って俺の先祖にいる?」
父『あぁいるぞ。凄い血筋なんだぞ俺達は。妖怪相手に頑張るのも良いが、日常も忘れないようにな。刺激というのは退屈な日常があるからこそ感じられるものだ』
男「大丈夫、忘れてないよ。母さんは?」
父『毎日凄い怒ってる』
男「単身赴任に言葉巧みに連れ出して、しかも北海道と言われてたのに海外に連れてかれたら誰でも怒るかと」
父『おかげで生傷が絶えん。が、それもまた一種の刺激だな。それじゃ、困ったことがあったら言えよ』
男「なるべく手は借りないよ。ただ死んだらごめん」
父『死ぬときは人として死ぬんだぞ』
男「うん。それじゃ」ピッ
女「……楽しそうな父親ね」
男「そうだな。楽しそうだよ」
プロローグ
【妖怪との邂逅】 終わり
ここまで見ていただきありがとうございました。
>>1の次回作にご期待ください
勝手に父親死んだと思い込んでたわww
乙
>>70
そう思ってもらえるように書いてました
そうしないとオチに使うには弱かったので……
もちろん…続くよな…?
>>72
そういえばなにも考えてませんでした。
起きたら次考えてみます
男「鎌鼬!」バシュッ
ようやく追い詰めた妖怪を、鎌鼬を使って転ばせる。
勢い余って木に激突する化けダヌキ。
女「……手こずらせてくれましたわね」
男「まったく、イタズラ好きな奴だ」
化けダヌキ「…………」クゥン
女「それじゃ、良いわね?」
男「もちろん」
女「……ん。化けダヌキ、私の魂においでなさい」
化けダヌキ「…………」
女「契約の条件は、あなたの力を借りる変わりに妖力を分けてあげる。どうかしら」
女の言葉を聞き、少ししてからぽわっ……と化けダヌキが消えると女のなかに光が吸い込まれていく。
男「おつかれ。すんなり行ってくれて良かったな」
女「基本的に脅かすことしかできない化けダヌキ相手に苦戦する理由もないわよ?」
男「それもそうか。とにかく、初めての妖怪なんだから大事にな」
女「……ん」
無表情だが、どこか嬉しそうにしているのが分かる。
初めての妖怪とはいっても、鎌鼬と一つ目鬼を扱っていたこともあったが、そちらは無理矢理屈服させていたので大分馴染み方が違うらしい。
心を閉ざした妖怪との契約よりも、ちゃんと契約した妖怪の方がやはり良いのだろう。
そういうところをしっかりしなかった女の先祖たちに問題が多い気もする。
男「そろそろ行くか。日も暮れてきてる」
女「ええ。帰りましょう」
妖狐『……………………』
男「不満そうだな」
妖狐『当たり前だ。何故我が化けダヌキなどという小物を相手にせねばならん』
女から奪ってしまった鎌鼬と一つ目を返そうと思ったのだが、二人とも激しく拒否してしまった為、何でもいいから妖怪と契約するということになったのが今日の発端。
最近街で噂になっているお化けの食器を追っていくと化けダヌキにたどり着いたのだ。
俺にとっては厄介この上ない相手(すぐに何かに化ける上に、妖力も小さいので探知も難しい)のだが、狐にとっては相手にするのも面倒な雑魚の一人なのだろう。
男「帰ったらいなりを作ってやるつもりだが」
妖狐『いつまでもいなりに惑わされると思うな』
男「いらないのか?」
妖狐『いる』
まったく面倒な妖怪だ。
男「化けダヌキは何をさせられるんだ?」
女「……そうね……見てわかったと思うけど、何かに変身するのは得意よ。それと、軽い火なら出せるわ」
正直俺好みの能力だ。
相手を惑わせる変身、軽い火もいくらでも使い道がある。
鎌鼬は風で相手を切り刻む力、相手の足を狙って転ばせる力、驚くことに怪我を治療する力を持っている。
一つ目はそのまま力仕事が得意だ。
パワーファイターな一つ目、スピードスター鎌鼬、トリックスター化けダヌキ……三匹いれば正直十尾もいらない気がする。
妖狐『なんだと?』
男「おっと……」
最近になってちゃんと女に手解きを受けた結果、俺の思考が妖怪たちに伝わるようになった。
勿論思考が流れないようにできるが、基本的にオープンにしている。
一つ目『兄さん、ワシ言うてもそれなりに速いんすよ? 力馬鹿や思わんといて』
男「分かってるよ、そこも頼りにしてる」
一つ目は意外なことに人の言葉を話せた。
鎌鼬も言っていることは分かるらしいので、それなりに賑わっている。
女「それじゃあまた明日の朝」
男「おやすみ」
女と別れて、家路を歩く。
一つ目『にしても、あいつのことホンマに信じていいんすか? 悪名高い九重家の子孫なんて、身震いとまらんすよ』
男「まぁ大丈夫だろ。何かあったら十尾に押し付ける」
妖狐『ふざけるな。我はそんな面倒ごとに付き合う気は無いぞ』
男「っと、狐、中に入れ。いくら普通の人には見えないっても、妹とか素質ある人間に見られたら面倒になるし」
妖狐『ふん…………ん?』
男「ん?」
妖狐『………………戻れん』
男「なに?」
何度か試している妖狐だが、一向に中に入ってくる気配がない。
なんだ? 何が起こってる?
一つ目『十尾の姉さん、太ったんとちゃいます? 最近調子にのっていなり寿司食いすぎたんすよ』
妖狐『なんだと!? そんな理由で人間の中に戻れないなんてことあるわけないだろ!!』
男「うるさいから一つ目も煽るなって。えぇ……悪いけどこんな狐と一緒に歩くのはかなり厳しいぞ?」
妖狐『くっ……! この……! ふぬぬ!!!』
男「……無理みたいだな。仕方ない、小さくなれ」
妖狐『だから無理だと……!』
男「人間の姿だ。もうなれ、無理なら仕方ないから」
~~~~
男「ただいま」
妹「おか」ピシッ
妹が俺の後ろにいる狐を見て凍りつく。
上着だけ羽織った全裸の美少女がいたら、そうもなるか。
男「妹、事件だ。俺の後ろにいるこいつをみてお前、どう思う?」
妹「なにさせてるのお兄ちゃん!?」
男「俺じゃない。変な男たちに無理やり服を破かれて、そこを俺が助けたんだ。お前の服貸してやってくれ」
妹「ええ!? 大丈夫なの!?」
男「一応急所を全員蹴りあげたから平気だ。とにかく服を着せてやってくれ、ほら」
狐?「ふんっ!」
妹「うん! こっちです!」
妹に連れられていく。
こんな適当なことで騙されてくれるから、俺は妹が大好きなのと同時に将来に不安を感じてしまう。
一つ目『兄さん、あれでよかったんすか? ワシ、姉さんがボロ出さんか心配なんすけど』
男「ボロを出しても俺が修正できるから、問題ない。妹相手だからな」
一つ目『ちっこい姉さん、ホンマ純粋すわぁ』
男「妹に欲情したら殺す。地獄の釜をわざわざ開けるなよ」
一つ目『わ、ワシそんなこと言わんですわ! 安心したってください!』
それ以降一つ目が黙ってしまったので、テレビをつける。
面白いニュースは……やってなさそうだ。
チャンネルを何回か切り替える。
男「……ん?」
地元のラーメン屋を取材している番組がやっていた。
普通に美味しそうなラーメンを食べたり店主に話を聞いたりお客さんの話を聞いたり、普通の番組。
だが、変な違和感を覚えた。
しかし違和感の正体は、すぐにスタジオの方にカメラが切り替わってしまった為に分からなかった。
……なんなんだ、とても気味が悪い感じがした。
おやすみなさい
ガチャ……。
妹「お兄ちゃん、お待たせ!」
妖狐「…………」
数分後、戻ってきた狐は妹の私服で現代の若者に変身していた。
特に不審な点も見当たらない。
男「お帰り。うん、良いんじゃないかな」
妹「うん! とっても可愛くてナニ着せれば良いか迷ったよー」
妖狐「く……」
とても悔しそうにしているのは恐らく妹に手も足も出なかったからだろう。
純粋で真面目な妹は搦め手には一切の耐性がないものの、正面の壁は厚すぎる程に厚い。
逆に俺は搦め手なら大歓迎だが正面攻撃には基本能力が低すぎる。
男「……さてと。今日からここで暮らすことになるわけだが、不備はないか?」
妹「えぇ!? 一緒に住むの!?」
男「妹……実はな、こいつは某国の姫だったんだ。だが戦争で国が滅びて故郷は焼かれ……命からがらここまで逃げて来たらしい。お前……そんな奴を見捨てられるのか?」
妹「そ、そんな……うぅ……可哀想に……」ツー
男「う……な、泣くなよ……」
妹「……分かったよ! お父さんの部屋、片付けてくる!」
そう意気込むと、俺の話も聞かずに居間を飛び出してしまう。
妖狐「ふふん。貴様、女の涙に滅法弱いのだな」
男「うるさい。あれは核兵器だから怖いんだよ……」
妖狐「ほほう?」
男「…………」
一つ目『姉さん、謝った方がええんちゃいます? いなり食えんくなりますよって』
妖狐「ふん、我がそのような小さいことを気にするような妖怪だと思うか?」
男「魂胆は読めてるよ。お前妹に泣きついていなりをいただく腹積もりだから俺に強気に出れるんだろ?」
妖狐「う……」
男「…………それを知っててみすみす俺が見逃すとでも……?」
妖狐「うぐぐ……」
男「よしよし、良い子だな」
妖狐「い、い、いつか殺す……! 絶対に……!」
声が震えている妖狐に何を言われても怖いものは特にない。
男「そういえば、今後どうするんだ? 家に住むのは良いが、俺が学校にいる間家で待機してられるか?」
妖狐「無理だ。こんなところに縛られているくらいなら好き勝手出歩く」
男「……あのな……お前の今の顔ってそこらの男なら誰でも食いつくようなものなんだ。ナンパされたりしたときお前どうするつもりだ?」
妖狐「ナンパ? とはなんだ?」
男「えー……と……可愛い女の子に男が声をかけることだ」
妖狐「ほう……そんな人間が来たら蹴り飛ばしてやるわ」
男「それが無理なんだろ今のお前には」
妖狐「…………あ」
あ、じゃないぞおい。
なに大々的に忘れてるんだよ。
妖狐「仕方がないだろう! 人間になったのは久方ぶりのことなのだから!」
男「伊達にうん百年生きてないなー?」
妖狐「………………」
それにしても本当にどうしようか。
こいつのことだから「なんとかなる」とか思って勝手気ままに飛び出して行くだろう。
いっそ縛って監禁するか?
妖狐「お、恐ろしいことを考えるな!」
うーん……。
十尾!
ぼんっ!
妖狐「うわっ!?」
男「おお、人の姿で出てくるのか。そうか……」
妖狐「だからいきなり試すなと言うに!」
……………………ふーむ。
そうだ、良いことを考えた。
男「…………もしもし、父さん? あのさ」
~~~~
男「おはよう女」
女「おはよう男。でそっちは?」
妖狐?「う……うう……」モジモジ
翌日。
俺の後ろを、同じ学校の制服を着た狐が何故かモジモジしっぱなしだった。
昨日父さんに連絡すると、驚くほどスムーズに事が成った。
まさか翌日にはもう……とは夢にも思ってなかったのだ。
相変わらず父さんには頭が上がらない。
男「モジモジするんじゃない。十尾だよこいつ。何故か俺の中に戻れなくなったから人の姿にさせてる」
女「戻れなく……? そんなことあるのかしら……?」
男「知らない」
妖狐「や、やはりこれは……短すぎる……脚が見えてるではないか……」
男「今さらなに言ってるんだ? 狐の時は全裸みたいなもんだろ?」
妖狐「それとこれとは訳が違う!」
男「まったく面倒なやつだ」
女「…………流石、その美貌で人間を次々と虜にした伝説さんね」
男「そうだな。俺もこれを見て納得した」
女「あなたもこういうのが好きなの?」
男「特には。芸術的な美しさはあると思うがね」
女「そう。それじゃあ十尾、行くわよ」
男「おっと、それも伝え忘れてた。今日からこいつの名前は転校生で頼む。戸籍を偽造したから、問題ないらしい」
女「……そこまでしたの?」
男「父さんがな」
呆れた様子の女だが、使えるものはなんでも使うべきだ。
現にこうして監視できるのなら、俺はなんだって良い。
スカートって自分で折ってるから短いんだよ
最初からひざ上のなんてコスプレ用くらいだよ
三人での登校、一人は元敵、一人は妖怪という珍メンバーなのは、俺たち以外の誰も知らないことだ。
そして狐のせいで今日は殊更視線が気になる。
妖狐「うぅ……見られてるぞ……なぁ……」
男「気にするなって言ってるだろ」
女「まったく……面倒ね」
同意見だ。
目立つ行動は散々してきたが、別に目立とうとしてやってたことではない。
目立つこと自体あまり気分はよくないのだ。
元カノ「男!」
急に呼び止められ、聞き覚えのある声にとてつもなく億劫になる。
やはりというか、振り返ると元カノが顔を怒りに染めて迫ってきた。
元カノ「誰よこの女!」
男「……もう関係ないだろ」
元カノ「関係無いわけないでしょ! やっぱり僕とのことは遊びだったんだ!」
男「…………は?」
元カノ「どうせ僕と付き合ってる時もその女たちとよろしくしてたんでしょ!? 気持ち悪い! 最低よあんた!」
男「………………」
女「あなた、やめなさいよみっともない。それに私は男くんのことなんて」
元カノ「触らないでよビッチ!」
女「ビ……!?」
元カノ「もう二度と僕に近づかないでよね!!」
嵐のように去っていく元カノ。
あいつは何しに来たんだ、と思ったがそれよりも重要なことがあった。
だが、まだ考えるには早い。
違和感はとりあえず頭の片隅に置いておこう。
~~~~
ここまで。朝また来るかも知れません
>>86
太股でもなく生足が既にアウトという貞操観念バリバリな妖狐
勝手なイメージですけど、江戸時代とかの貴族って重装してるような印象
なので他人に足を見せてることが既に恥という思考に至ってます、妖狐のなかでは。
男「…………」
ガヤガヤ……ガヤガヤ……
男「ふぅむ……」
ざわざわ……わいわい……
男「いつにもましてうるさいな」
朝から謎の美少女の話で持ちきりの教室。
と同時に俺が手を出しているいないの話も浮上していた。
友「この裏切者め……A組の女さんまで弄んだらしいじゃねぇか……!」
友もこんな感じで話にもならない。
別に否定する理由も特にないので、あえて沈黙を貫いた。
教師「お前らうるさいぞ! 静かにしろ! まったく……よし、ホームルームを始めるぞ。の前に転校生の紹介だ」
がら……
妖狐「…………転校生だ。よろしく頼む」
狐の自己紹介に教室が静まり返る。
ごくり、と喉を鳴らす奴までいた。
やれやれ……。
教師「転校生は、海外に暮らしていたらしいんだが色々あってここに通うことになったらしい。日本語は話せるからみんな、仲良くするんだぞー」
相変わらず静寂に包まれた教室でも、淡々と話を進める。
教師「えーと、席は……おい友、一番後ろに机ごと移動しろ。男と隣のほうが良いだろ」
ざわっ!
なんてことを言ってくれるんだ。
余計白い目で見られる。
教師「あとは今日は特になし。男、用具室から机と椅子運んできてくれ」
男「…………はぁ……」
昼休み、狐はどこかに拉致られた。
凄い早さだったから止める間も無い。
男子に莫大な人気を獲得したが、それはそれとして女子からは面白くない、という空気も感じる。
友「そ・れ・で……男くんはどういう訳なのかなぁ? 僕気になっちゃうなぁ?」
男「なにがだ」
友「マジで付き合ってんの?」
男と女が一緒にいたらイコール恋人って話にしたがるのは思春期特有の病気か何かか?
男「別に。ホームステイ先が俺の家ってだけだ」
友「ハァァ!? つーことはなに、転校生さんと一つ屋根なの!?」
男「あのな……いや、もういい」
友「あーもう怒るなってぇ! 悪かったよぅ」
男「別に怒ってないが」
友「ったく、少しはヤキモチ妬かせろよなぁ……」
焼く餅も無いんだがな……。
ん、メール?
妹か、なんだろう?
男「……………………ふむ」
念のため女にもメールをしておく。
少しして返信。
男「話す人がいない? ふぅん……」
妹に「最近のブームだから合わせておけ」とメールを返しておく。
男「なぁ、友。最近のお前のマイブームってなんだ?」
友「なんだよ藪から棒に。僕のマイブーム? うーん……なんだろ」
男「あぁもういいわ」
友「お前情緒不安定だな!?」
少し様子を見る必要がある……か。
おやすみなさい
「ぼくのかんがえたさいきょうのおんみょうじ」って感じだな
>>94
安倍晴明って賢くてなんでもできるというイメージなので、それを反映させてます。
主人公が成長して強くなって何とか命からがら壁を越えていくお話は探せばいくらでもあるので、そちらを見ていただければ。
荒らしに構う必要は無いけど>>1の書き方はどうかと思う
探せばいくらでもあるって言い方はそういうの書いてる人に失礼じゃない?
>>100
別段そういう作者さんを否定したり嘲笑したりしている訳ではなく、そういうのがお嫌いならそちらへ、という発言のつもりでした。
見てわかる通り、滅茶苦茶な主人公が周りを振り回すようなものを書きたかったので、肌には合わないだろう、と。
一ヶ月ほど経過して、さて酷いことになったものだ。
周りの一人称が総じて「僕」に変わってしまった。
男だろうが女だろうが教師だろうがなんだろうが、皆が皆僕と言う。
そして現時点でそれが異常であることを察しているのは、俺と女、それと妹だけだ。
学校どころではない、この街全体がそなってしまっていることには、流石の俺も辟易してしまった。
俺の教室で相談をしていたが、互いに核心には迫れずにいる。
男「これはどういう意図があってやってるんだ? 僕っ子属性でも持ってるのか? それにしてもあまりに無差別だ」
妖狐「妖怪の仕業で間違いはない。だが妖気は感じん」
女「私もよ。ここまで巧妙に隠すなんて、よっぽどの妖怪ね。こんなことをした理由はまったくの謎だけど」
いくら考えても分からないものは分からない。
目星はそれなりにつけてはあるが……さて……。
男「すぐに危険は無いにしても、原因は探らないといけないな。とりあえず今日は帰るぞ」
女「そうね」
流石に悠長にし過ぎたかもしれない。
女は独自で動いていたらしいが、俺の方はというと周りを観察していただけに過ぎない。
厄介ごとは増すばかりだな。
だがそれが面白い。
男「……ふふ」
女「なによ?」
男「いや。ありがとう」
女「……え?」
呆けた顔を見せる女を置いて、さっさと教室を出る。
女「……あ。私、少し調べたいことがあるの。今日はここで」
男「分かった。なにかあったら連絡な」
女「ええ」
女と分かれて、狐と並んで歩く。
狐は最近、学校には慣れたものの退屈な日々を過ごしている。
晴れて学校のアイドルにはなったものの、俺の側にいたがるようになってしまい、最近では付き合っている説が確信に変わってしまったようで、男も女も遠巻きに眺めるだけだ。
俺は俺で刺すような視線に耐えながら大人しく生活している。
嫉妬する暇があるなら声をかけるなりなんなりすれば良い……そういうこともせずに他人を僻むのは、時間の無駄でしかないはずなのだが……。
ん、あそこにいるのは……。
確か、この学校の理事長の孫とか言う在り来たりな設定を現実に持ち込んだ……お嬢様……だったか?
お嬢様「……あら? 僕のことを見て、何か用かしら?」
男「ハッ!! クックック……!」
不味い……とは思っても、流石に笑わずにはいられない。
あまりにキャラじゃない。
なんだよ、尊大な態度をしながら僕って。
なるほど、犯人はもしかしたらこういう姿を見るためにこんなことをしでかしたのかもしれないな。
お嬢様「な、なんですの!? 僕の顔を見るなり笑い出すなんて! あなた、失礼ではなくて!?」
男「ハッハッハ! いや、申し訳ない、面白すぎてつい」
お嬢様「なにが面白いんですの!?」
こいつは明らかに白だ。
プライドが人一倍高そうなこいつが自分から馬鹿な様を晒すとは考えにくい。
そういう意味で理事長の孫溺愛っぷりを知っている、そっちも白になる。
……と、言うより。
こいつ経由で一人、目についた人間がいる。
男「悪かった。許してくれ」
お嬢様「……ふん。まぁ良いですわ。あなたなんかに構っている暇はありませんの!」
そう言うと、大急ぎで通り過ぎていった。
男「廊下は走るな……っていっても意味ないか……ん?」~♪
スマホが鳴って、画面を確認する。
女……?
男「すまん、ちょっと電話に出てくる。ここで待っててくれ」
妖狐「……早くしろ」
男「もしもし、どうした?」
女『もしもし。ちょっと知り合いに調べてもらったんだけれど、妖怪の気配はするみたい。でも、どこから……はやっぱり分からなくて』
男「それは、なんとなく分かっていることだな」
女『そうね。それで、ある仮説を立ててみたの。もしかしたら、ゆっくりと妖力を蔓延させて、少しずつ気にならないように濃度を濃くしたんじゃないか、って』
女『つまり、その妖怪の妖力を濃度の低い状態からじわじわと強くされたせいで、麻痺しているんじゃない……と』
男「……なるほど? そんなことができる妖怪はかなりの使い手……ということか」
女『つまり相手が強そうと言う以外の収穫は無しということね。むしろここからどう探すべきか悩まされるわ』
女『認識阻害の影響で一般人に異常性を説いてもこっちが異常者扱いされたし……』
男「…………わかった。また何かわかったら連絡してくれ」
女『えぇ。それと、もしかしたら……他の陰陽師が動く可能性もあるわ。気を付けてね』ピッ
ほぼ収穫0か。
だが予想通りなので、特に言うことはない。
男「他の陰陽師ね……」
何をしてくるか分からない連中に介入されたくないな。
……いや、俺に言われたくはないか。
さて、狐が不機嫌になると面倒だから戻るか。
………………ん?
狐の側に、一人の男がいた。
必死に話しかけている姿を見るにナンパ?
と普段なら思っていたところだが……。
とりあえず声をかけておく。
都合が良い、目をつけていた人間の一人だ。
俺の存在を認識してもらっておいた方が良いだろう。
「あ……ええと……」
なんとなく俺にたいして良い印象を抱いていないのが分かる。
妖狐「ふふん。我に声をかけてきた無礼者を切り捨てようかと」
本気で言っている狐に、冷めた視線を送っておく。
とりあえず話は合わせておこう。
男「ナンパ? 凄い勇気だな、やるなお前」
「いやいやいやいや! ナンパとかしてないって!」
全力で首を横に振っている、怯えられてるのか?
警戒されてる……というより、本気で誤解を解こうとしているように見える。
男「ふぅん……。悪いことは言わないからやめとけ。ろくなことにならんから」
「だから違うって! ほんとほんと! というかお前彼氏だろ!?」
この反応……こいつ……。
男「え? ……はは、そうそう夫婦なんだよ。な、転校生?」
妖狐「誰がだ! 貴様と夫婦になるくらいなら今すぐ永き眠りについてやる!」
男「こいつ相当なツンデレだから気にしなくていいぞ」
妖狐「つんでれとはなんだ! だがやはり馬鹿にしているのは分かるぞこの!!」
男「おっと、暴力反対。それじゃあな、弟」
弟「え!」
やはり、こいつも白だ。
最有力候補だと思ってたんだがな。
男「いくぞ転校生」
妖狐「ふん! いつか絶対殺してやるからな! 絶対だからな!」
男「はいはい、やってから言ってくれ」
妖狐「ぐぬぬ……」
さてと……となると……。
あっちか。
妖狐「……それで? あの男を疑っていた理由はなんだ?」
男「ん? ……あぁ。いや、あいつの周囲が少し気になってな。少し注意深く観察していた」
妖狐「周囲?」
男「あいつの周りには常に別の女がいる。そしてあいつが他の女といるときは誰も干渉しようとはしない。好意……のようなものを向けていても、ある程度のところでセーブをかける。これも共通」
男「それと、弟との会話の流れ……のようなものが、似たようなものになっていることが多い。全員が全員、まるで弟を喜ばせる為に何かをしているような……そんな印象を受けた」
男「だから仮説として、弟が自分の好みの女を自分の都合の良いように動かして楽しんでいる……全員が僕、と言うのも弟の趣味、というものを立てていたんだが。宛が外れたな?」
妖狐「……それにしては、まだ余裕がありそうだな」
男「まぁな。現在、弟に都合の良いように話が進んでいるのなら……つまりは、弟の周囲に弟に都合の良い夢を見せたい奴がいるってことだろ」
その上で大きく男に干渉しようとしなかった、とある二人が容疑者に浮上する。
そこまで来ても何も分からなかった、その時は……。
男「本気でお手上げだな」
妖狐「…………」
男「そんな目でみられても。弟が余程相手を騙すことに長けているとか、弟がスケープゴートだとか、そこに真実があるなら俺に手のだしようが無いのは分かりきってるだろ」
妖狐「普段偉そうにしている割りには役に立たぬ奴だ」
男「偉そうにしているのは父さんからの教育だ」
まったく、口の減らない奴だ。
妖狐「どっちがだ!」
ここまで。
おやすみなさい
弟って新キャラ?
>>110
はい、新キャラです。
特に出たりはしてないです。
男「弟は白で濃厚。ということで容疑者は二人」
女「女教師と……陸娘。この二人ね」
女に今回のことを伝えると、同じ結論に至っていたのか、写真を二枚机の上に置いてくる。
男「そうだ。このどちらも、弟へ大きく干渉をしないように立ち回っていた。女教師は弟の義理の姉、陸娘と弟の関係は分かっていない」
女「女教師と陸娘のふたりは、それなりに仲良しのようね。たまに親しそうに話しているのを見かける人がいるみたい」
男「ふぅん……。なるほど」
女「共犯の可能性もありそうね?」
男「あるかもな」
それなら、もう少し探りを入れて……何かあれば、交渉すれば良いか。
聞き入れて貰えるようにして、な。
妹「お、お兄ちゃん……なにが起こってるの……?」
男「超局地的流行り病だよ。知らないのか?」
妹「えっえっ、でもお兄ちゃん、ブームだって」
男「お前! ここでその話はするな……!」
妹「ええっ!?」
男「……実はな、これはバイオテロの可能性もあるって話なんだ……その証拠にネットではまるで話題になってないだろ……? 謎の組織が工作しているらしい……だから、今はなにも言うな……良いな?」
妹「わ、分かった……!」
男「俺はもう、お前を失いたくないからな……」
妹「うう……お兄ちゃん……!!」
呆れた顔をしている女に親指を立てておく。
妹をこちらがわに巻き込みたくない兄心を分かってほしい。
俺はブラコンなんだ。
一つ目『兄さん、そんだけ想っとるちっこい姉さんのこと騙しまくっとるんわ、ええんすか?』
男「超法規的措置だ」
妖狐「こいつダメだ」
./ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽヽ
./ | i .|
.| / ノ' 'ヽ、 | |
| ⌒ )(●●) ^ヽ
| ┃ ノ^_^) ┃ |
_________ヽ ┃ ヽニソ ┃ |
/ ∧_∧ // . ||.|| ヽ ┗ ⌒ ┛ ノ
|_( ^ω^ )//_||.|| /ヽ. ` ー--一'イ
/_  ̄ ̄_ | |.|| ー--一'
◎====◎ | |.|| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
|___ | |.|| | | | | |
ヽ -?ヽ\ | |.||__|__|__|__|__| 三;;::('⌒;;:⌒
/ / // ヽ\__|__/???| |/ / ヽ
|| し | |w|│(_|w| | O | 三 ;;::('⌒ ;;:⌒
ヽヽ___ノ ヽヽ___ノ ヽヽ___ノ 三≡ (´⌒(´⌒;:
おやすみなさい
今回情報量不足ですが、ある地点までいったらちゃんと開示します
ブラコンじゃなくてシスコンじゃない?妹でしょ?
>>117
最近三時間睡眠なんです、許してくださいなんでもしますから
男「おはよう妹。早速だが少しお願いしたいことがある」
妹「お願いしたいこと?」
起床して早々、朝食を作る妹に相談事をする。
男「あぁ、今から言う全員に接触を図ってくれ。理由はなんでも良い」
妹「えぇ!? ど、どういうこと!?」
男「理由は聞くな……自然に接触するんだ、できるな?」
妹「で、できるけど……」
男「よし」
納得いかないながらも、こちらのお願いをしっかりと聞き入れてくれる。
こんなに出来た妹はいない。
別に贔屓目じゃない。
仮に俺がシスコン(強調)じゃなかったとしても、同じことを思っていると断言する。
男「まずは、女教師。それと、友、幼、お嬢様、会長……あと陸娘。分かるか?」
妹「友さんと幼さんと陸娘さんは分からないけど……他は、うん」
男「あとでメールでその三人の教室教えるよ。とにかく頼んだ」
妹「う……うん……」
曖昧な表情をする妹の頭を撫でる。
俺がいくと警戒されそうだが、妹ならいける。
仕事前にこれだけ。
それではまた後程
男「っと、悪い先に出る」
妹「早いね、どうかしたの?」
男「ちょっと女に用事だ」
妹「そうなんだ。うん、分かったよ」
男「ほら、いくぞ転校生」
妖狐「……うむ」
狐は朝に弱い、というよりこんな時間に起きることがあまり無かったらしい。
好きなときに寝て好きなときに起きる、そんな生活を続けていたから、狐曰く人間は急ぎすぎ、とのこと。
他の動物の生き方がとても羨ましい限りだ。
外に出ると、女は相変わらず家の前に立っていた。
男「おはよう。行くか」
女「えぇ」
男「今日は?」
女「化けダヌキと鎌鼬で模擬戦をしたいのだけど、良いかしら」
男「良いよ。なら……狐の神社に行くか」
妖狐「言っておくが、神社を破壊するなよ」
男「流石にそんなことしない」
妖狐「ふん、どうだか。貴様の口は他の人間よりも信用ならん」
よく分かってらっしゃる。
神社は、相変わらず閑散としていて、人のよりついた気配も無い場所だった。
今は狐も俺のところにいる。
だからこそ、隠れて何かをするには向いているのだが。
女「さて……じゃあ良いかしら。ルールは、そうね……相手に攻撃を当てれば勝ち……で良い?」
男「その相手は、妖怪も含むのか?」
女「私かあなた、ね」
男「了解。もう一つ、防御しても当たった判定になるのか?
女「そうね……なら相手を地面に倒したら勝ち、に変えようかしら?
男「それでいいか。審判は任せた狐」
妖狐「はいはい……じゃあ、始め」
やる気も無い上に、まるで間も置かない始めの合図だったが、こんなものだろう。
女「化けダヌキ! 変化!」
化けダヌキ『クオオ!』
バフゥン! と煙が視界を覆う。
使ってみて分かった化けダヌキの変化の特徴で、使い始めに必ずこの煙が邪魔をしてくれる。
本当に、俺が欲しかったな……。
男「鎌鼬! 疾風!」
鎌鼬の疾風が駆け抜けて、視界を少しだけ晴らしてくれる。
だが何かに当たった気配はない。
あれは……「ッ!」
パァン!
男「がっ……!」
女に顎を打たれた。
真っ先に思いつく戦術なだけに、考えもしてなかった。
自分の愚かさに頭が痛くなる。
搦め手が正道になりすぎていた、相手がこちらの手の内を知っているのでこういう手では来ないと勝手に判断してしまった。
男「く……っ」
体勢を立て直したかったのだが……足が笑っている、ダメだ、言うことを聞いてくれない。
女「……なんで当たったのかしら」
男「お前のことを過大評価してたから」
女「はい?」
男「裏の裏は表ってことだよ」
女の次の手は、軽く俺を押してくれることだった。
短いですがここまで
かんこれやりに行ってたらこんな時間に……
妖狐「フハハハハ!! これを笑わずに何を笑う! ここまで間抜けな負けっぷりも中々無いわ!」
滅茶苦茶に笑う狐に、今は言い返す気力も無い。
実際その通り過ぎて何も言えない。
笑わば笑え、という精神状態で聞き流しておく。
女「あそこまで反応できないとも思わなかったわよ」
男「あまりにも古典的過ぎて、今さら考える余地も無いと」
女「ふぅん……」
妖狐「普段から裏ばかり取ろうとするから、正道突き進む人間には勝てないということだな! このひねくれものめ!」
耳障り過ぎて激しくイラつきそうになる。
だが冷静に……あいつはただの馬鹿なんだ……と思うことで心を落ち着ける。
妖狐「はん! 我はあのような攻撃に当たる大間抜けでは無いぞ? は! ハッハッハ!」
女「十尾、その辺にしておきなさい。こういうタイプは本格的にキレると理不尽なことばかりするわよ? しかも頑固だから、例えば一ヶ月いなり抜きなんて言われたら……」
妖狐「………………」
顔を青くさせた狐がチラチラとこちらを伺い始めたので、視線で女に悪い、と伝える。
女「あなたもよ。自分で言っていたけど、あんな古典的な手法にやられるなんて情けないにも程がある。そういうところを見つめ直す為の訓練だから、良いのだけどね」
男「ん……悪い。気をつける」
素直に頭を下げる。
気が抜けていたわけでは無いんだがな……むしろ気が抜けてないのにしてやられた、という方が問題か?
男「学校行くか、予定よりも早いが」
女「そうね。……顎、大丈夫?」
男「足が少し震えてるくらいだ、問題はない」
女「そう」
男「ほら行くぞ?」
大人しくなった狐に声をかける。
そこまでするほどいなり好きなのか……。
~~~~
途中まで女と登校していたが、家に財布を置いてきてしまったことに気がついた。
女が「少しなら貸せるけど」と言ってきたが、父さんからの教えで「金の貸し借りはするな、そこから人間関係が腐敗することもある」というものがあるので、仕方なく一度取りに帰る。
妹は既に出ているようだ。
時間もそれなりなので、財布を取ってすぐに家を出る。
男「……ん」
歩き始めて少し、弟と妹が話しているのが見えた。
ふむ…………。
時計を見て慌てて走り出したので、俺も後を追う。
おやすみなさい
校門前に着いたが……。
ふーむ……良い雰囲気という訳でもなし、お互いにほとんど知らない関係のようだ。
……なんで俺はこんなストーカー紛いなことしてるんだ。
妖狐「本当にな」
狐の呟きを聞いて、頭が冷えてくる。
いかんな……妹のことになるとどうにも冷静になりきれない。
改めなければ。
弟「妹ちゃん、元気だなぁ。可愛いし、男のやつが羨ましいぜ……」
こいつ……妹が可愛いだと……?
男「貴様……妹に手を出したら殺す」
弟「うわっ!? お、お前いつからそこに!?」
男「最初から。あいつは純粋なんだから汚してくれるなよ」
弟「そんなことしないから!」
…………ふぅ、落ち着け。
大丈夫だ、こいつにそういう意図は無い。
理解しろ、それは確実だ。
男「そうか? まぁ良いか。そういえば、最近調子はどうだ? なにか周りが変だったりするか?」
然り気無く探りをいれてみる。
こいつはほぼ白だが、ボロを出して
弟「いや……特には? え、逆に何かあるの?」
ダメだ。
素直すぎて裏の取りようが無い。
俺の大敗北だ。
男「そうか。…………それじゃあまたな。いくぞ、転校生」
妖狐「チッ……」
弟「な、なんなんだ?」
そうだろうな、なんなんだ、という感想で概ね正しい。
事情もこの異常性も知らない彼にとっては、俺は不審者そのものだ。
問題は……。
女教師「…………」
男「こんにちは」ニコッ
女教師「えぇ」ニッコリ
ずっとこちらを見ていた女教師。
そこまで警戒心剥き出しなのもどうかと思うがね……。
どういう類いの警戒なのか……弟が変人に絡まれている事へなのか、最近周囲を探ってる事へなのか。
それがハッキリとはしていない。
男「やれやれ、今日はいつにもまして視線の鋭さが違うな」
狐、女とよく行動する俺を嫉妬のような視線で見ている奴らもいたか、今日は一味違った。
どこから見られているのかは明確にはわからない、強い殺気を込めた視線が時折こちらを見ている。
妖狐「そのようだな。余程我らが気にくわないようだ」
狐にもその視線が行っているらしく、イラつきを隠せずにいた。
地味子だけは、とても分かりやすくこちらを監視していた。
気付かれてるのを承知でわざとやってるのかね。
監視される立場になるとどうにも落ち着かない。
男「少し歩いてくる」
妖狐「勝手にしろ」
可愛くない奴だな。
そんなんだからあっという間に孤立するんだよ。
妖狐「ふん。人間の友人などそもそも必要ない」
男「はいはい」
廊下に出ると、いつのまにか地味子はいなくなっていた。
少し手を出して会話でも楽しもうと思ったが宛が外れたな……。
飲み物でも買ってくるか。
おや……前方でフラフラとしているのは、弟か?
弟「…………う」
男「おっと」
危うく倒れそうになる弟を後ろで受け止める。
弟「あ……!」
随分と……顔色が悪いな。
なにかあったのだろうか。
男「体調が悪そうだが、大丈夫か?」
弟「あ……あぁ……」
精神的に落ち込むようなことがあったらしいな。
少し見た程度だが、身体に問題は見られない。
男「そうか。なにか悩み事でも?」
弟「ええと……その……」
歯切れが悪い。
どちらかというと……自分でもよくわかってない、という心情が近いだろう。
つまり……現状について違和感を持ち始めてる……?
男「ふむ……例えば……なにか違和感を覚えた?」
弟「いわ……かん……?」
男「そう。違和感。自分の知っている常識とかけ離れた状態なのに、それに気づけなかったりする……」
弟「……分からない」
……無駄か。
なにか面白いことになりそうな予感がしたんだがね。
男「分からないのなら仕方がないな」
弟「お前は……なにか知ってるのか?」
正直俺の知ってることなんて、大多数の一人称が僕に変わって、一部女子の性格が少し変化していて、そんなことをしでかした犯人が女教師の可能性が高いってことくらいだ。
なにも知らなくはないが、少し詳しい程度でしか無い。
目的も理由も到達地点も何も知らない。
何も知らないからこそ。
男「…………さて? どうだろうな?」
ニヤリと笑って、ハッタリを利かせる。
弟「知っているなら……」
ムッとした表情を隠さないのは、そういう余裕がないのか、そういう性格なのか。
恐らく後者だろうな。
男「教えない。真実には自分でたどり着くべきだからな。いつまでも手を引かなければ歩けないガキでもあるまい」
はは、笑えるくらいに怒ってる。
まったく冗談も通じないのか。
男「ふ……体調には気を使えよ」
時間切れ、だ。
女教師「弟くん!」
弟「あ……姉さん」
女教師「…………!」
そこまで睨み付けるくらいに弟が大事か?
どこまでも殺気が籠っている……が……。
なんだ? 何かを恐れている……?
男「おおこわい。そんな誘うような目をされたら……視線を奪われてしまうな。それじゃあ、弟」
弟「お、おい!」
そろそろ決める時期かね……。
特に困るようなことも無いんだが……この先ずっとこれで、何かあっても遅い。
これ以上待ってても情報はやってこない、踏み込む時期だ。
おやすみなさい
男「おっと、妹にメールしておかないとな。ええと……友は3-B、幼は3-D、陸娘は2-B……と」
少しして返信が来る。
どう声をかければ良いんだろう……?
適当に「彼氏いますか?」とでも聞けば良いんじゃないかな。
と返すと、わかった、と短文だけ返ってきた。
男「さてと。女にも話を通しておくか」
女「あら、ここにいるわよ?」
男「流石話が早い。今夜決行しようと思うんだが、良いか?」
女「全員呼び出すの?」
男「妹次第かなー」
女「そう。私も付き合うわ」
男「あぁ、頼む。俺の推測が正しければ戦闘は避けられんと思うから、覚悟しておいてくれよ」
あれ、そういえば狐がいない。
どこにいったんだ?
一つ目『姐さんならさっきふらふらーといっちまいましたよ?』
男「ふぅん……なんでだろ」
一つ目『さぁ、ワシにはさっぱり。友達もおらんようやし、あれやないです? 便所』
男「あぁなるほど、その可能性が高いか。なら放っておこう」
女「自由ねぇ……普通自分の使役する妖怪がいなくなったらもっと驚くのに」
まぁ狐には狐の事情があるだろうしな。
何もないときは好きにやらせるさ。
話もついたし、あとは【手紙】の準備でもしておくか。
男「女は先に帰っててくれないか? 場所とかはあとで知らせるから」
女「あら、のけ者?」
男「いや。なんか準備あるならしておいてほしいってのと、ここで出来ることはもう無いから夜に備えておいてほしい」
女「そう。分かったわ」
女を見送って、手紙を書き始める。
少しして妹から連絡が来た。
……お嬢様にだけは会えなかった、と。
あとは……女教師は……私……。
男「早いな」
女「そうかしら」
あれから時間は飛んで夜。
俺と女、狐は家から少し歩いた森林公園まで来ていた。
近くに人気がなくて、それなりに広くて……となるとこの公園くらいしかなかったからだ。
女教師はまだ来ていないみたいだな。
男「やれやれ……ようやく謎が解けそうだ。時間がかかったな」
妖狐「貴様ならもっと早くここまで来ると思ってたんだがな」
男「俺って基本的にそこまで戦闘能力無いから。情報収集をしっかりしてから事を起こしたいんだよね、本当は」
女「…………私の時は?」
男「あれは別。あの時ああしないと機会を逃しそうだったから」
多少危険でも機会を逃すよりはマシって判断だったからな。
今回は弟の周りを見て、余裕がありそうだったからこそたっぷり一月もの時間をかけた。
はてさて……どんな展開になって、どうなることやら。
一つ目『にしても、ちゃんと来ますかね? 怖じ気づいて逃げたりとかしません?』
男「大丈夫だろ。……ほら」
公園の入口、女教師がいた。
それともう一人、人の影。
男「おや? 俺が招待した客は一人だけだったんだが……まさか追加のお客さんが来てるなんてな。なぁ、陸娘?」
陸娘「………………」
女教師「こそこそと嗅ぎ回っているのには飽きたのかしら、そのまま大人しくしてたら痛い目に合わずに済んだのに」
男「おやぁ……? どこぞで聞いたことのある典型的な負け台詞が、聞こえたなぁ……まさか今の、女教師さん? 小者臭いと見ていたがよもやこれ程とは……呆れを通り越して笑いに変えるなんて、シュールギャグ系のお笑い芸人でも目指してるのか?」
安い挑発をしておく。
だがまったくこちらに付き合う気は無いようで、ぐ……と構える。
男「待て待て、その前に聞かせろ。目的はなんだ?」
女教師「……弟くんが幸せな世界。私が望むのはただそれだけ」
陸娘「部外者は引っ込んでいろ」
男「……は?」
本気で面食らった。
おいおいこいつら、たったそんなことの為だけにここまで大掛かりなことをしたのか?
嘘だろ?
…………おいおいおいおい、もしかして……。
男「まさか、一人称の僕……って……」
女教師「弟くんが好きだから、ならみーんなそうなるようにしたの」
女「……頭おかしいんじゃないの?」
妖狐「同感。気が狂ってるな」
男「なにか裏があるとか、もっと先を見越して、とか……僕にすることでエネルギーが溢れるとか! そういうの一切なしか!?」
一気にどうでもよくなってきた……。
ここまで大事(と言っても認識できてる人間は少ないが)にしておいて、理由が弟の好みって……。
男「……これ、放置しても良いんじゃないか? 好き勝手納得するまで……」
女「良いわけないでしょ。馬鹿じゃないの?」
妖狐「おい。この馬鹿げたことはいつまで続けるんだ?」
女教師「弟くんの思うままに。私たちは弟くんの為に世界を捧げるの」
男「で現実問題成功はしないんじゃない? だって俺たちみたいなのに察知されて、今ここまで来てるんだから。もっと強い陰陽師なんていくらでもいるらしい、そいつらに討伐されるのが見えてるだろ」
女教師「障害は排除するわ。邪魔者には……死んでもらわないと……ね!」
と目の前に陸娘が現れた。
はや――
女「化けダヌキ!」
ボンッ! と俺と女教師の間に小さい爆発が起きる。
それによって後方に吹き飛ばされるが……助かった。
女「ボーッとしない!」
男「悪い!」
受け身を取りながら立ち上がる。
その時には既に相手も妖怪の姿に変身していた。
女教師『我が名は風神!』
陸娘『我が名は雷神!』
風神雷神『我らが前に障害無し!』
今度こそ本当に、俺たちは呆然とするしかなかった。
おやすみなさい
二時間書きっぱなしだったのにこれしか書けないなんて……
風神雷神倒すところまで書いたんですけど、男が鬼畜過ぎて……
ちょっと明日まで考えてきます
男「……女。雷神風神とか言ってるが?」
女「迂闊だった……妖力に気づけない理由がもうひとつあることを、完全に忘れていたなんて……あまりにも弱すぎるか、巧妙に偽装しているか……もしくは、あまりにも強すぎるか……」
男「……強すぎる力には反応しない?」
女「過ぎたる力には触れない方が良いってこと……身体が勝手に拒否するの。見なかったことにする、という表現が、適切かしら……」
男「……なるほどね……でどうする? 流石に、俺でも知ってるレベルのバケモノ二人を相t十尾女をフォロー!!! ッ!!」
バチィン!
反応が起こる直前、咄嗟にその場から真横に転がるように跳んだ。
その一瞬後、俺たちのいた地点で大きな雷撃音が響く。
ちらと確認すると、女も無事なようだ。
はてさてどうしたものか……女とは分断されたが、むしろ好都合か?
手持ちの策は二つ。
上手くいくかは分か
ピシャァァンッ! と、爆音が鳴り響いた。
あまりの眩しさに目が開けていられない。
なんとか飛ばされないように咄嗟に体勢を低くしたが、風圧が大き過ぎて弾き飛ばされてしまう。
男「……おいおい……冗談キツいな、ここまでか?」
差の大きさに、思わず笑ってしまいそうになる。
あれは人が相手して良い存在では無い。
あんなもん直撃したら、間違いなく即死する。
だというのに……死を前にして、つい楽しくなってきてしまった。
死ぬのは困るが、普通に生きていたら味わえない感動がここにある。
男「よし……やるか!」
気合いを入れて立ち上がり、雷神の追い撃ちを避ける。
だが背中にバチンッ! と衝撃が走る。
完全には避けきれんか……!
出し惜しみは無しだ!!
男「女ァァァァァ!!!! 中央!!! 化けダヌキ!!! 思いっきりやれ!!!」
女「ッ化けダヌキ!!!」
バフゥン!!
即座に反応してくれた女に感謝する。
化けダヌキの変化で起きた煙が、視界だけではない、風神、雷神、俺と女に狐……公園全体を覆っていく。
風神『ふん……こんな煙!』
男「女ァァァ!!! 耳塞げェェェ!!」
ありったけの声を振り絞って、女に次を伝える。
頼む、成功してくれ……!
俺はポケットに入れておいた(割れなくて本当助かった)水の入った風船を手に取る。
男「一つ目鬼!!」
一つ目鬼『あいよ!』
一つ目鬼にそれを渡して……。
男「風神! 止まれ!!」
物は試しと、言霊を風神に向けて放ってみた。
風神「ぬっ!? ぐ……ウォォォ!!!」
効いたようだが、一秒もないな……だが今は良い……。
そこだ!
男「いけ!」
一つ目『フンヌゥゥ!!!』ブンッ
風神『アァァ!!!!』ビュアッ!
風が煙を全てかき消した。
風神と雷神の姿が露になる。
それと同時に一つ目に投げさせた水風船が風神の顔面に当たって弾けた。
バシャッ!
風神『ッ!? なん……あ……? あ、あ、あぁぁあぁあ!!!???』
風神が目を押さえてその場を転げ回りだした。
雷神『風神!? どうした!?』
男「いやー、助かった。ちゃんと耳を塞いで、しっかり目を開けてくれてありがとう」
雷神『貴様ッ! 何をした!?』
男「別に? ちょっと唐辛子を磨り潰して水に混ぜて、水風船の中に入れただけだが? いやぁさぞ痛かろうな」
自分がされるのを想像するだけでも身の毛がよだつ。
風神『うぐぁぁぁぁぁ!!!!!』
雷神『風神落ち着け!』
暴れまわる風神を大人しくさせようとした雷神だが、風神の周囲に風が巻き起こった。
怒りの全てを濃縮したような、触れただけでズタズタになりそうな程の暴風だ。
それを多分、俺と女に向けて一気に放出しようとしている。
男「怒らせたかな?」
妖狐『当たり前だ!!! あれは流石の我でもひと溜まりも無いぞ!?』
だろうな。
それなら次の手だ。
………ん?
男「…………。な、なに?」
妖狐『我でもこれ程の高威力の攻撃は……ん? 貴様、どこを見ている!?』
あれは……まさか!?
男「風神!!! 今すぐ攻撃を止めろ!! 弟が……弟がそこにいるぞ!?」
雷神『な、なんだと!?』
風神『!!!??? と、止められ……!!』
男「畜生!!! 一般人巻き込んでたまるかよ!!!」
走り出す……が、これじゃあ、そこにいる弟には多分間に合わない……!
雷神『クソォォオ!!! ウォォォアァアアア!!!』
迫り来る暴風の目の前に、雷神が飛び出してきた。
そのまま暴風が雷神を襲うが、後ろにいる俺たちには殆ど影響がない。
全ての力を受けきっているようだ。
流石は神、と言ったところか……。
ズタズタに引き裂かれ、血が吹き出ても風を抑え込もうとしている。
雷神『っっっあ!!』
だが、ついに耐えきれなくなって吹き飛ばされていく。
木に激突して血を吐く雷神。
女に目配せする。
風神『雷神!! 弟は……無事か!? どこだ雷神! 返事を』
女「ハッ!」
フラフラとしている風神の顎を、俺にしたように突き上げる女。
俺は俺で、倒れる雷神に近付いて……。
男「悪いな嘘ついて。ここまで上手くいくとも思ってなかったけど、まぁ、でも良いだろ? 人間の武器は頭、正面衝突で勝てるわけないんだから」
そう、弟がいたなんてただの嘘だ。
信じてもらうために心の底から演技をしたけど、物の見事と言ったところなんだろう。
卑怯だなんだなんてことは知らない、そもそも名に神と冠するバケモノが、ちょっと妖怪を従えてる程度の人間に本気を出してることこそ卑怯みたいなものだ。
男「それじゃあ悪いけど、追撃かけさせてもらう」
一応宣言して、腹部を何度も踏みつけた。
ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!
ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!
ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!
ガスッ! ガスッ…………ガスッ!!
男「いつも映画とか見るとき思うことがあるんだよ。ヒーロー物の敵役って、無駄なことしてヒーローを回復させて、結局負けるんだなって。勝つチャンスはいくらでもあるのにさ」
男「敵がもう起き上がれなくなるくらいにボロボロにしてから野望達成すれば良いのにって。話始めるならそれからでも遅くないだろ?」
男「強大な敵に勝てそうで調子に乗りたくなる気持ちも分からんでも無いが、そういう一切合切は勝ってから思う存分やれば良い。そんなことも分からないから、負けるんだなって」
男「だからとりあえず、強い相手を偶然倒せたら、こうやってぶちのめすことにしてるんだよ。別にヒーローにもアンチヒーローにもそこまで憧れていないし」
雷神『ぐ……ぅ!』
男「でも俺の攻撃って大したダメージ与えられないのが問題なんだよな、いずれ改善しよう」
あー疲れた……一瞬で負けるかなんとか勝つかってんだから、心臓に悪い。
それにあれだけ滅多うちにしたのに、まだ動こうとする雷神に根本的に違う存在なんだと納得する。
しかし根性あるな、こいつ。
男「ほら。大人しくしろ」
ん……? おいおい、傷が……もう塞がってるのか?
どんな性能してるんだよ……流石の神ってことか。
男「十尾!」ボンッ!
十尾『っと……なんだ?』
男「こいつ抑えとけ。多分すぐに回復するから」
十尾『痺れるのは好かん。押さえつけておけば大した攻撃もできんだろうがな』
男「帰ったらいなりパーティだな」
十尾『ふん……』
鼻を鳴らして、雷神を拘束してくれる。
女「そっちも片付いたか。ほら、来い」
風神「うぐ……!」
風神が何故か人間の姿に戻っている。
男「大丈夫だったか?」
女「えぇ。無理矢理人間の姿に戻したから今はあまり能力が出せないわよ」
男「そうか。……なんとか無事で良かったな、お互い」
ようやくほっと一息つく。
まだ目が開けないのか、目を抑えている風神。
風神といい雷神といい、本当に悪の所業だな俺。
それは後で考えるとするか……。
男「……まったく、手こずらせてくれたな」
風神「く……」
雷神『離せ! この!』
さっき長々と回復する前に倒しておけば良いとか言っておきながら、結局回復を許してるあたり、悪役達って不憫だな……とどうでもいいことを考えてしまう。
倒したと思ったら元気取り戻してました、とか確かに洒落にならんかもな。
妖狐『暴れるな。食い殺すぞ』
一つ目『兄さん、こいつどうします?』
男「保留。理由もなくとっちめるやり方は好きじゃない」
一つ目『もうとっちめてるやないですか!』
男「失礼なことを言うな。交渉の席に座らせただけだ」
女「無理矢理にね」
無理矢理だが、そこは目を瞑ってもらおう。
男「……それで……良いか?」
風神「離せ……!」
反抗的な態度だ。
はてさて、どうしてこんなことをすることにしたのか聞きたいんだが、素直に答えてくれるかね。
男「まず、なんでこんなことを」
風神「人間と話すことなんて……ない……!」
やっぱり無理か。
それならもうやることは一つだな。
男「…………困ったな。それだと、連帯責任で弟も処分しなければならなくなるね?」
風神「な……?」
雷神『そんな馬鹿な! 弟は関係』
男「無いわけないだろ。今回の騒動、その中心は弟だ。あいつがいくら人間のようでも巧妙に偽装している可能性もある。疑わしきは罰せよ……人間って怖いな?」
雷神『ふ……ふざけるな!!!』
男「ふざけてなんて無いんだが。俺は至って本気だ。……さぁ……交渉の時間だ……」
と言いながら一つ目を盾にするように後ろに下がる。
割りと回復している雷神が何をして来るかは未知数だ。
今日はこれにて
乙でした
こんなん絡め手にもはいらんやろ
>>171
そうなんですよねー
書いてて凄い悩んだんですけど、短期決戦であの状況で出来ることがあまり思い付かなくて。
大前提としてあの程度の規模の事件を簡単に起こせて、且つ騙されやすそうなイメージがあって、且つ頑張れば倒せそうというところで風神と雷神というメジャーどころを選択したんですけど、その上で搦め手出来る元気が主人公側にはなくて……
結局王道どころの、「相手の動揺と躊躇を誘える発言をする作戦」と「相手を挑発して効果的な打撃を与える作戦」を実行することになりました。
人間には使い降るされたネタでも妖怪はそうでもないということでお願い致します。
「姉さん!!!」
…………弟……。
驚いた、まさか現実になるとはな……。
男「やあ、作られた主人公君。一時の甘い夢からは覚めたのかい?」
弟「ど、どういうことだ……?」
男「バケモノ姉さんの力でハーレム主人公になれたんだ、一生分の良い夢は見れただろ? なぁ、偽者くん」
雷神「耳を貸すな! そいつの言うことは全部嘘だ!」
男「なぁ……不思議に思わなかったのか弟? お前の都合の良いように周りが動き、お前の望むままにしてくれる。みんながみんな好意を向けてくれて……さぞ楽しい一ヶ月だったろ?」
弟「一ヶ月……?」
雷神「やめろ!! やめろぉぉ!!」
男「なぁ? 友とはどうやって知り合った? 幼馴染みって誰だ? お嬢様との馴れ初めは?」
男「地味子は? 会長は? 陸娘は?」
弟「…………え……あ……え?」
男「そもそもさぁ……」
男「お前に姉なんて存在が、いたのか?」
弟「――――――」
いるわけがない。
姉と呼ばれた存在は風神だと名乗った。
弟は普通の人間……なら、風神は弟の人生に割り込んだことになる。
どこまで記憶が捏造されてるかは知らないが……。
弟の顔が蒼白になっていくのを見て、過去の記憶にまで細工されていないことは分かった。
弟「…………俺は……あまり友達が……いなくて……」
思い出すように、呟き始める。
弟「……両親も……もういなくて……一人で……」
風神「思い出さないで! ダメ!」
弟「…………毎日……祈ってて……悲しくて……」
雷神「弟! 落ち着け! なにも考えるな!」
弟「目の前に……バケモノ……が…………母さんと父さんを…………殺…………」
雷神「アァァァアァア!!!!」バチィィン
弟「あ……ぐっ……!?」ドサッ
風神「お、弟くん!」
おいおい……最後の力を振り絞ったその一撃で、弟は倒れてしまった。
でも、何となく背景は読めてきた。
男「……傷つけられることは怖いのに、傷つけることにはなんの抵抗もないんだな? 怖い怖い」
雷神「黙れェェェ!!」
男「黙るのはお前だ」
雷神の頭を踏みつける。
とりあえずここまで。
男「嫉妬する女子って可愛いと思う」
男「嫉妬する女子って可愛いと思う」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461298807/)
弟視点です
よければ見てやってください、見る必要もあまりありませんけど。
乙
向こうから入った読者置いてきぼりだったし最初に注意書き入れた方が良かったかもね
>>180
狙い通りといえば狙い通りなんですけど、スレタイ詐欺も甚だしいですね。
男に自己投影して、「なんだこれ…主人公自分じゃなかったのか……」という気持ちの悪い感じを味わってもらいつつ、こちらの展開に組み込むつもりだったんですがやや強引に過ぎました。
男「ったく、本当に手こずらせんなっての。せっかく終わりそうだったのに、どうしてくれるんだよ」
ぐりぐりと踏んでやると、悔しそうに呻く声が漏れてきた。
弟は……無事なようだな。
女「男くん……一応女性よ? やりすぎじゃない?」
男「ん? ……あぁ悪い」
女に諌められて、足を退ける。
言われてみれば、確かに女だな。
バケモノという印象しか無かった。
男「まぁ、でも丁度良いか」
それはそれとして倒れている弟に近づいていく。
雷神「何をする気だ!?」
男「え? 別になにも。する必要無いだろ、お前らがちゃんと話してくれるんだからさ?」
言外に、話さないなら何かするという脅し。
本当になにもする気は無いんだけど、こういうのは相手がどう受けとるかだ。
風神「……話す……だから……」
男「そうだよな。じゃあ話してくれ。弟の両親を殺したお前らは、んでそのあとどうしたんだ?」
風神「ぅ……事故だったんだ……他の妖怪との抗争で」
男「いやそんなことはどうでも良いから。両親を殺したことで何が起こって、それでなんで弟の姉、後輩という立場を得ることになったんだ?」
風神「……最初は、悪いことをしたと……見守っていて……だが、弟が、可哀想で……どうしたら良いか分からなくて……家族を亡くしてしまったんだから、家族になれば……」
ふむ……?
つまり……弟の両親が死ぬ→弟は一人になる→それを見守る→我慢しきれなくなって姉になる。
ということか?
男「サッパリ意味がわからん」
家族がいないなら家族になれば良い、というどこぞの悪女理論か。
風神「……それが、半年前だ……そして一月前……」
罪滅ぼしも兼ねて、弟にとって都合の良い世界を作ろうとした、と…。
本当ぶっ飛んだ力持ってる奴は軽い気持ちでとんでもないことするから困る。
いや、それにしても……弟に思い出されると計画が破綻する、それを嫌った?
いや違うな……雷神が傷つけてまで弟を止めたが、雷神の方が傷ついている様子だったから……多分雷神だってそんなことはしたくなかった筈だな。
じゃあ……?
弟が雷神と風神を本当の意味で思い出して、何が起こる?
両親の仇……。
一緒にいれなくなる……?
嫌われる?
いやいや、待て待て。
男「まさか……弟に嫌われたくない……とか?」
風神雷神「……ッ……」
俺のふと出た言葉に、狐が「ぶはっ!」と吹き出した。
女もは? と俺の方を見てきた。
妖狐『貴様ら、人間に恋慕したのか!? ブハハハハ! これは面白い! 暴れん坊と散々言われた貴様らが!』
雷神「ぐ……ゥゥゥ……!」
……顔真っ赤。
こうしてみると、本当にただの女の子だな。
男「やめろ狐。……えーと、だ。俺には愛だの恋だのは分からん。だがお前らやってることが馬鹿すぎるということだけは分かったそ」
雷神「なんだと!?」
女「悪いけど私も同感。好きな相手になんでもしたくなるのは分からないでも無いけど、やり方が荒すぎよ。……まさか、ここまでの大事を引き起こしておいて、こんな結末に終わるなんて……」
頭を抱える女、気持ちはよくわかる。
俺も力が抜けた。
一つ目『風神姉さんも雷神姉さんも、昔から大暴れしとりましたからなぁ。加減ちゅうもんが分からんのですよ。一応抑え役として風神姉さんがおるんですけど、気がついたら二人で暴れる言うのが昔からのお約束ですわ』
男「なるほどな……よく分かる」
風神「だが……それじゃあどうすれば良かったんだ……」
男「いや、半年の最初のうちは上手く言ってたんだろ? それならそれで満足していれば良かっただろ」
雷神「弟には友達がいなかったんだ! だから私たちが」
男「やり方が浅すぎる。友人というのはそういうのじゃ………………」
そもそも、俺に友人と呼べる人間なんていたか?
クラスメートと話すこともあるし、絡んでくるやつもいるが、そこまで親しい訳でもない。
精々おはよう、世間話、さようなら……くらいで、遊びにいくだとかそういうのもない。
友というやつも、精々クラス内だけの知り合い程度……。
そうか……友達、いなかったのか、俺。
女を見るが、こちらも首を横に振る。
お仲間のようだ。
女「知り合い、陰陽師仲間はいても、友人はいないわ。……呼べそうなのは貴方くらいかしら」
男「俺もだ」
道から外れた二人だった。
妹は友人が山のようにいるんだがな……。
一つ目『兄さん、ワシこう見えても友人多いすよ?』
だからなんだよ。
友人なんて最低限で良いと思っていたんだが、その最低限すらいなかったことに少し驚いていた。
よく考えたら父さんの教え、「友人は少なくても良い、知人を増やせ」というものも、あまり実践できていない。
俺を知っている人、となれば俺の人となりのせいでそれこそ多くいるし、調べれば他人のどうこうなんていくらでも分かるが……。
一つ目『姉さん方、こないやり方じゃあ人間はあきまへんのや。兄さんはわかっとりゃしまへんけど、人間言うのは日々の積み重ねで、互いに繋がりおうていきますねん。何もないところからいきなり作り出そうとしたら、そりゃ無理が生じますわ』
一つ目の方が人間のことを分かっているようだ。
もう任せてしまおう。
風神「…………私には分からん。人間を弟にするなど、初めてのことだ。お前たちが来るまで、上手くやっていたんだ……」
男「俺たちだけしか気付いてとでも? こんな大規模な異常事態だ、誰かしら出動するに決まってるだろ。俺は暇潰しでこんなことしたから良かったが、もし本気のやつらが来たら、弟が死んでたかも知れないんだぞ?」
雷神「ふんっ! 人間相手に遅れを取るとでも思っているのか!?」
男「事実俺たちは人間だが」
雷神「あ……」
こいつ、頭が働いて無さすぎじゃないか?
女「それに、私たちが使役している妖怪なんて、鎌鼬に一つ目鬼、化けダヌキに十尾の狐だけよ。こんな低級妖怪しか持ってない私たちに負けているのに、もっと戦い慣れた相手なんてできるの?」
風神「……何が来ようと正面からならまず負けはしない。……が……」
男「妖怪は昔から人間の知恵に敗れると相場が決まっているからな」
雷神「卑怯ものめ……」
お前たちが考えなさすぎるからなんだが……。
まぁ良いか。
男「諸々把握したところで、だ。お前たちはどうしたい?」
風神「どう、って……?」
男「このままどこぞへ逃げるんなら見逃す。人間に迷惑はなるべくかけるな、かけたんなら仕方ないからさっさと消えろ」
雷神「………………」
風神「…………弟に、ちゃんと、謝罪がしたい」
男「そうかい。おい狐、離してやれ」
妖狐『ふん』
自由になった雷神は、もう暴れる気配がない。
風神もようやく目が見えるようになってきたようだ。
男「それじゃあ準備をしてくる。大人しく待ってろよ」
二人にそういって、弟を持ち上げ……無理だ。
一つ目に持ち上げてもらって、少し離れたところに座る。
男「向こうに戻ってろ。二人で話す」
一つ目『兄さん、話ややこしくしないでくださいよ?』
一つ目に注意されてしまった。
あいつのほうが圧倒的にコミュ力があるようだ……。
さて、まずは起きてもらわなきゃいけないな。
声をかけてペチペチと頬を叩いてみる。
ダメだ、起きる気配無し。
もう一つ持ってきていた唐辛子水風船を使って刺激的な目覚めを迎えさせるか?
いや、殺されるな。
仕方ない、あの手で行くか。
男「…………起きて、弟くん。朝よ」
耳元で、精一杯囁く。
若干似てた気がするが、別に嬉しくない。
弟「……ね、えさん……」
反応したか、流石だ。
男「……もう、お寝坊さんね。ほら、起きなさい」
弟「姉さん!!!」
ガバッ! と起き上がった。
寸前で回避できたが、今のは危なかったかも知れない。
遠くで狐がゲラゲラ笑ってるから、一週間飯抜きだ。
弟「……ここは、どこ…………っあ!」
男「おはよう。良い夢は見れたか?」
弟「男……いや、最悪な悪夢から目覚めたみたいだが。なんだよあれ、男までどいつもこいつも僕僕言ってたし、気持ち悪」
こいつ、記憶はあるのか……。
男「く……はは、違いないな」
弟「………………全部、楽しい夢だったな」
男「主人公になれた気分はどうだ?」
弟「最悪。嫉妬する女の子は確かに俺の趣味だけど、本当に好きな子にしてもらいたいのであって、ハーレム主人公に興味はないな」
男「……そうかい」
弟「大体、俺にあんなコミュ力あるわけないだろ。なんだよ幼馴染みって、いねーよ。お嬢様なんて俺のこと眼中にすら無いだろうし」
男「だろうな」
笑いあって、一息つく。
弟「……悪かった、俺のせい、なんだろ? これ」
男「原因はお前だがな、別に悪いことなんて一つも無いんじゃないか? あそこの馬鹿二人が暴走しただけだしな」
弟「…………母さんと父さん、旅行に行ってたんだよ。山に上る、って楽しみにしててさ……俺は、久しぶり、二人でデートしてきなよ、って……さ……」
男「……災難だったな」
弟「……本当にな。なんだよ、風神雷神って。いつから俺の人生はオカルト世界になったんだよ。……そんなわけわかんねーもんに、両親奪われちまったってんだから、怒れば良いか、笑えば良いかわかんねー」
男「……風神と雷神がお前に謝りたいとさ」
それを聞いて、何を思ったのか……表情からは読みきれなかった。
少し考えて、弟は口を開く。
弟「なら、思いきり罵倒してやらないとな」
その笑顔は……なんだ。
俺の好きじゃない方の奴だ。
だが……なるほどな。
男「お前は強い男だ。ただのモブキャラかと思ってたけど、撤回しないとな」
弟「親父の口癖だったから。あるがままを受け止める、って」
男「良い親だ。さ、行くぞ」
弟の意思を確認して、立ち上がる。
まったく……初めから向き合えばこんなことにはならなかっただろうに。
いや……向き合うことを恐れたから、今があるのか?
弟「ただいま」
風神「……弟くん……」
弟「えーと……風神だっけ? あと、雷神」
雷神「……お、う」
弟「まず初めに言っておく。よくも両親を殺してくれたな、一生かけて恨んでやる」
風神雷神「っ……」
弟「それと、ありがとう。一人で辛かった時に、側にいてくれて。二人がいなかったら、どこかで潰れてたかも知れない。すげー寂しかったんだからな」
風神「……知ってる。夜は泣いてたもんね」
弟「うん。だから、うん……良いや。一生かけて恨むけど、そっちの分で一生恩返しするつもりだったから、打ち消し!」
風神「え……?」
雷神「いや、待て! 先が違うぞそれは!」
弟「前までの俺も、そのあとの俺も、全部俺だから。関係ないぞ」
面食らって、固まる風神と雷神。
対してこちら側は笑いを堪えている。
弟「……あと、今回のことね。……バーーーーーーーカ!!!!」
風神「うあ!?」
キィィン……。
弟「あのな! 誰がこんな大事にしろつったんだよ馬鹿二人!」
風神「うう……」
雷神「いや……だって……」
弟「俺はな! なんか洗脳されてたみたいだけど、それでもさ……二人が近くにいてくれるだけで、楽しかったのに……それだけで良かったんだよ……」
弟「俺を幸せにしてくれるとかいって、何にも分かってないよな……」
風神「……弟くん……」
男「…………別れの挨拶は、これくらいで良いか?」
俺の横やりに、三人はこちらを見て、俯いた。
覚悟はした、ってことか。
弟「もう、ここにはいられないもんな……姉さんも、陸娘も」
風神「あ…………」
弟「でもな、男。ただの半年しか家族じゃなかったけど、もうこの人が俺の姉さんだった記憶は俺のなかにあるんだ。……もう家族と離れたくない!」
男「お前が不幸になるぞ。こいつらは有名過ぎる、いつ死ぬかも分からん」
弟「構わない」
その瞳から溢れ出る覚悟を感じた。
俺の嫌いな眼だ。
男「……ところで。俺って友達がいないらしいんだ。良かったら友達になってくれないか?」
弟「……は? え、いや、構わないけど……」
全員の「なにいってんだこいつ」という心の声が聞こえてきた。
だがガン無視だ。
男「だが友人なんて出来たことないから、何をどうすれば良いかサッパリだ。なぁ、巷の友人はあれだよな? 困ったときは助け合うんだろ? 素敵な関係だな」
俺の意図に気づいたのか、女がクスクス笑いだした。
……らしくない、なんて分かってるさ。
男「もうこんな騒ぎを起こさないって誓えるんなら、俺がお前らのことをサポートしてやる。話を聞かない奴が襲ってきたら、助けてやるよ」
風神「……お前……」
男「一緒に暮らしたいなら、暮らしたらどうだ? 馬鹿が近付いてきたら、追い返せば良い。勿論比較的穏便にだ。雷神が暴れだしたら歯止めが利かんからな」
雷神「うぐ」
男「ただし、俺が助けて欲しい時は助けてもらうがな。重要な戦力だ。馬鹿だけど強い、扱いやすくてこれ結構……弟の為になんでもできるよな、お姉ちゃんたち……?」
……と、要求してみたものの、風神雷神には本当に危ないときくらいしか世話になることはないだろう。
風神雷神は、スッキリした顔でただ頷いた。
男「これでようやく、終わりだな。この洗脳空間はどうやって解くんだ?」
風神「もう解いてるよ。さっきな、今はここに人が来ないようにしている」
あれだけ大騒ぎしておいて誰も来ないことは不思議に思っていたが、そういうことか。
……時間も遅いな。
男「……そろそろ…散するか。まったく、こんなことは二度と起こらないでほしいもんだ……」
妖狐『なぁ、主殿……』
な、なんだと……?
主殿……? なにいってんだこいつ……?
妖狐『……我は主殿に絶対服従の身だ。故に、その……』
……あぁ、あれか、一週間飯抜き。
驚いて損した。
男「はいはい……まったく、こうなるって分かってるんだから少しくらい慎めよ」
妖狐『うぐぐ』
その後、全員で家へ帰ることになった。
それは別に良いのだが、どうにも鬱陶しい。
弟「……姉さん、くっつきすぎだから」
風神「ふふ、別に良いじゃない……ね、弟くん……私、ずっと弟くんの側にいるから……弟くんの両親を殺めてしまった罪を、ずっと償っていくから……」
弟「……もう気にしなくて良いよ。事故だったんなら、仕方ないし……」
雷神「私も、お前が幸せになるまで、付き合ってやるからよ……」
弟「ええと、陸娘? 雷神? 雰囲気変わったな」
雷神「……可愛いほうが良いかと思ってな」
弟「今のほうが良いと思うぞ?」
雷神「へ、へっ! なにいってんだよ!」
風神「むー……」
ラブコメ空間を展開し始めている、目障りだ。
先程までのシリアスな雰囲気は、完全に霧散している。
……まったく、大概にしてくれ……。
それはそれとして、気になっていることがあるので、折角だから女に相談してみることにした。
男「……女、良いか?」
女「ふふ……なに?」
男「いや。お前が気付いていないこと、あるんだけど、是非感想を聞かせてほしい」
女「……気付いて、いないこと……?」
男「あぁ。妖力探知についてだ」
女「え?」
男「今回俺たちは、風神と雷神の妖力を見つけることができなかった。それは前に話した通りだよな?」
女「…………?」
男「……となると、風神と雷神は十尾よりも圧倒的に上の存在ということか?」
女「そんな筈ないわよ。九尾の狐、という時点でかなりの知名度よ。妖怪の力って、人間からどれ程知られているかで上下する所もあるの」
女「十尾になったからといって、彼女が九尾であることに変わりはないわ」
男「それなら、俺とお前は何故、彼女の存在をいつでも感じ取れる? それも最初から」
女「……え……? それは、長い間封印されてたから、力が弱っている……とか……?」
男「俺もそれを考えはしたが、それにしても十尾の狐だぞ。弱体化しているにしては、あまりに反応が弱すぎる」
女「……それは……」
男「…………はっ。別にどうでも良いことだけどな」
女「…………もしかして、彼女は」
妖狐「ええいベタベタ触るな!」
雷神「可愛いじゃねーか、なぁ?」
風神「そうね……チッ」
妖狐「舌打ちしたな貴様!?」
男「別に困ってないからどうでもいいだろ。それだけだ」
女「……そう……そうね」
男「それはそうと、狐と化けダヌキ、交換しない? 俺結構気に入ってるんだよな、あいつ」
女「だーめ」
男「チッ……」
こんな時間にも関わらず大騒ぎする四人を、遠くから見つめる。
まったく、面白い。
雷神に風神か……次は何が出てくるんだろうな。
そんなことを考えながら、空を見上げる。
月が綺麗だ。
これからも、こんな訳のわからないことが起きてくれれば良いな、と。
ザシュッ!!
女「――――え?」
男「………………は。なるほど、そういうオチか」
腹に包丁が突き刺さっている。
闇夜に紛れ、そこに立っていたのは、地味子だった。
何かあるか、とは思っていたんだ。
何かあるとは思っていたが、もう終わったと思ってしまった。
気を緩めてしまった。
いやはや……ここまで気配を消すのが上手いなんてな……。
地味子「私の弟くん……私の……アハハハハハ!!! 邪魔しなければ、あのまま、ずっと一緒にいれたのに……!!!」
女「きゃぁぁぁぁぁあ!!!!」
なるほど……な。
彼女は、分かっていたのか。
分かって、合わせてたのか……。
弟の側にいるために…………。
ストーカー……そして、病んでる……。
男「が……」
意識が朦朧としていく。
刺された部分が、熱い。
風神「な……っ!?」
弟「男!!」
妖狐「……………………ふん!」
地味子「弟くん……弟くん!!! あは、アハハハハハ!! ずっと見てたんだぁ!!!! 良い機会だから、近づけたのになぁ!!」
風神「弟くんをずっと見てたのは、分かってたわ。大人しくしていれば、何もする気はなかったけど……こうなれば話は別だ!!」
弟「や、やめて姉さん! ……地味子、な、なんでこんなことを……」
地味子「邪魔したから……僕と弟くんの仲を引き裂いた!!! だから死ぬしかない! 死ぬしかないんだよこいつは!!」
好き勝手言いやがって……。
血が止まらない……ヤバイな、流石に……。
女「目を閉じちゃダメよ! 早く鎌鼬を召喚しなさい!!」
そう、だ、鎌鼬を…………――――
次回予告
そして俺は、人を殺してしまった。
「わ、我は……」
「いやぁ困ったなぁー」
「さぁ、行くか」
「あーあ、ここまでかぁ」
「俺は兄さんに助けられた身ですから」
「死にたくないぃぃぃ……だ、誰か助けて……」
「偽者仲間で相性良いんじゃない?」
「なるほど」
そして真実は……。
「さて問題です。果たして本物は誰でしょう?」
次回、三章。
『ホンモノのニセモノ』
それではおやすみなさい
いえ、続きはまだありません。
あれでとりあえず終わりです。
二章まで終わりまして。
このSSは面白いでしょうか?
もしよろしければ面白い部分、ダメな部分など言っていただけると今後の参考になりますので、よろしくお願いします。
あまり見ている人がいないみたいなのでつまらないのかと思っていました。
次回は一週間後くらいを目処に再開します。
反応が増えてて嬉しいです。
普段安価スレとかで遊んでいるので、普通のSSであまり反応がないとどうしても「これつまらないのかなぁ」と気になってしまいまして。
まるで構ってちゃんになっていたので自重します。
男「いやまさか、死んでしまうとは思わなかった。人間って柔だね、それにしても」
男「まぁ……父さんの教えには従えたし、良いか。それにしても、ここはどこだ?」
男「身に覚えも無い場所に放り出されて早三日……迎えもそろそろかと考えるのも止めた」
男「さて、どうしたものか……」
何もない森に佇む俺の声に反応してたのかする者はない。
そもそも地に足がついてないもので、声が大気を震わせているかすらも怪しいものだが。
それにしても幽霊なんて信じちゃいなかったが、こうしてなってみると寂しさを感じるものだ。
そもそもなんでこんなところに三日間も放置されなければならないんだ?
死んだならさっさと天国にでも地獄にでも連れていけば良いものを。
遠くまで行っても気がついたらここに戻されるし、死んでも前途多難とは。
気を失う間際、地味子がおかしくなったのはあの馬鹿二人のせいだから気にするな、と伝えられはしたがどうなったことやら。
……死後の方が不自由ってのも、変な話だ。
ため息を吐いて、ふわふわしている体を横にする。
アニメ映画で昔見たような、まるで雲の上で昼寝でもしているような感覚だ。
取っ掛かりだけ先に投下しておきます。
それではまた数日後に、失礼します。
それからまた二日過ぎた。
木々のざわめき以外、ここにはなにもない。
どこにいってもここしかない。
見知らぬ森のなかで地縛霊になるとか、最高の地獄すぎる。
寝ることくらいしかやることもない。
と、その時、何かがこちらを見ているような気がした。
木々の間から、こちらを観察するような視線が来ていることに気付いて、気付かないフリをすることにした。
さて、視線ということは霊体になっている俺が見えるということになる訳だが。
こんな森のなかに人が来る理由が分からん。
よくテレビに出てる、霊媒師とか言うやつか?
なんでこんなところに俺がいると分かったのか不明だ。
悪さした訳でもないし、そもそもそんなことする相手がいない。
無視したは良いがこのあとどうするか……出来れば近付いて来たところを捕獲したいが、そもそも触れないという不都合もある。
ふーむ……警戒しているのか?
男「あー…………俺はいつまでここにいれば良いんだ……訳わかんねぇよ…………」
悲壮感たっぷりに、泣き言のようにそんな一人言を聞かせる。
反応なし。
声が届いてない可能性もあるか……? ふむ。
男「…………はぁ……人と話したい…………孤独は寂しいよぉ……」
怖くないアピールも交えてみる。
もう少し甘えん坊のような感じで行ったら良いのだろうか?
ママー! とでも叫んでみようか。
と実行に移そうとしたとき、ガサッ、と草が揺れる。
「あ、あの…………」
ヤバい、声を聞いただけで本能的に虐めたくなるような、面倒くさい感覚に陥ってしまった。
なんともか細く、怯えた声色だろうか。
お約束に脅かしてやりたいが、ぐっ、と堪える。
男「…………え? お姉ちゃん誰……?」
声の主の方に向き直ると……。
何というか、オーラから薄幸そうな雰囲気が伝わってくるような、まるでこの世の可愛いの頂点に君臨していそうな程の美少女がそこにいた。
なんだこれ。
いやまて思考停止するな、考えるのを止めるな、まず言葉選びのミスを正そう。
どう見ても俺より年下だ、ここで弟キャラを貫くと俺が面倒だ。
男「……に、人間!?」
「ひぅっ……」
男「あ、ごめん……ええと……俺が、見えるの?」
「……ぅ……あ、の…………こ、ここで……何を……」
男「…………ん……それが俺にもよくわからなくて。三日前くらいに刺されて、死んじゃったみたいなんだよね」
「……え……!?」
男「うん?」
「……お化け、ですよね……?」
男「みたいだな。ところで君はこんな森になんの用?」
「……ぅ…………あの……あっちに……家が……」
家? ……よく確認してなかったな……森の奥だから何もないものかと……。
いやいやそれにしても、こんなところまで入ってくる理由にはならなくないか?
男「そうなんだ。あ、俺の名前は男。君は?」
少女「……し、少女、です……」
男「可愛い名前だね!」
少女「そ、そんな……可愛くなんて……!」
顔を真っ赤にして、手をバタバタとさせている。
可愛い。
………………おい。
俺はそんなキャラじゃないだろ。
なんだ? 幽体になって解放感に頭がやられたのか?
ダメだ、気持ちを切り替えないと……。
男「…………それで、ここはどこ? 俺、見覚えなくて」
少女「ふぇ……? ええと……ここは…………○○の森で……」
○○の森? そんな名前聞いたことも無いが……。
………………外国?
男「すまん、ここは日本の何県?」
少女「え? 日本? ……ここは、イギリスですよ……?」
…………………………なんで言葉通じてるんだ?
百歩譲ってここがイギリスのどこぞの森として、意思疏通が出来ちゃおかしいだろ。
俺は日本語と英語がギリギリ話せるか程度だ。
ここまで会話らしい会話なんてできる筈もないし、そもそも俺には彼女が日本語を話してるようにしか思えん。
男「……すまん、俺は日本人で、君は日本語ペラペラな理由が知りたい」
少女「日本語ペラペラ……? 私、日本語なんて話せません……」
男「……俺は今、何語を話している?」
少女「……え、英語です……」
とりあえず状況はわかった。
何らかのフィルターが発動して俺と彼女とのやり取りにおいて、言語の壁は乗り越えられているらしい。
男「それはいいや。……それで、なんでここまで来たの?」
少女「……ぅ…………」
そしてまた言葉に詰まる少女。
怯えているというか、泣きそうというか……見ていて気分が落ち着かなくなる。
俺が怖いのだろうか。
男「…………なにか嫌なことでもあった? よければ話、聞くぞ?」
少女「………………ぇ?」
柄にもない発言が、今はすとんと言葉として出ていく。
己の変化に戸惑いが隠せないが、今はとりあえずこの少女の話に耳を傾けたくなった。
話を聞いてもらいたいのは俺の方だと言うに、何を考えているんだ俺は……。
少女「あの…………その…………私……行ってこいって…………」
男「肝試しか何か?」
少女「肝を試す……はい、それです…………そしたら……空を飛んでて……」
男「浮いてる俺がいたと。そうなのか」
話を聞いていると虐められているような気もするが、そこまで踏み込むもので
男「虐めでも受けてるの? 大丈夫?」
おい……これは本気で異常だ……頭と口が剥離している。
慌てて口を塞ぐ。
だが少女は、捨てられた子犬のような瞳を俺に向けてきた。
少女「……お友達に……入れてもらえないから……言うこと聞かないと……!」
なんだこれは、何かの力が発動してるのか?
この子も妖し者の類いか……?
心の奥から煮えたぎるような怒りが沸いてきている。
冷静になれ……落ち着け……これは俺の気持ちじゃない……。
流れに流されるな……あるがままを受け入れるな……。
乱していくんだ……乱して……。
男「っ……ふぅ……それは大変だな。ところでお前にとり憑いても良いか?」
少女「ふえ……!?」
全然落ち着けてねぇ!!!
俺は男……父さんの言葉を信じて今まで育ってきた……妹と二人暮らしをしていて……最近……おかしなことに遭遇して…………刺され―――
おかしなことってなんだ!?
それが一番重要だろう!?
さらっと流せることじゃ…………あ……?
妖怪……妖怪と……会ったんだよ、な?
どんな妖怪……?
……なんでだ?
ここ二ヵ月、何かしてた筈なのに何をしてたのか、全然思い出せない。
………………なるほど、八方塞がりか。
男「あぁ、怯えなくて良い。俺もここから離れられなくて困ってたんだ。憑いていくだけだから、悪さはしないと誓うよ」
我ながらよくわからない話だが、詰んでいるのなら仕方ない。
俺単体で事態が動かないなら、流されざるを得ないだろ?
少女「……ぅ…………いや、です……」
断られることまでは想定していなかった。
……いや、普通の思考なら断るだろ?
俺なら断らないことが前提に――――
いやまて今考えるべき――――
思考がまと――――
思考を止めるな。
男「何故断る? 悪さをする気はないし君を何者からも守ると誓うよ。俺はそのためにここに来たみたいだからね」
少女「ぇ、ぇ……」
男「そう、今やっと気付いた。俺は君の僕だ。君を守るためにここにいたんだ。そして君を守るためにそこに行かなければならない。君のなかに俺が行かなければならない。分かるよね?」
少女「……ぁ……」
男「分からないなら分かるように言ってあげよう。君はこれから俺の守りを受けてもっともっと成長してもらわなければならないんだ。そんな些細な障害程度で難儀されては話になら無い」
少女「ど、ういう……」
男「さぁ世界を統べし姫君。隠れて生きる息苦しさを感じる必要はない。俺は君にのびのびとしてもらうために全力を投じるよ。俺を受け入れて? ねぇ俺を受け入れてくれよ」
少女「………………」
男「さ…………手を取って……? 見返してやろう……あいつらを」
右手を前に差し出す。
少女の出方を窺う。
頼む早く手を取ってくれ頭が乗っ取られちまいそうなんだ。
訳のわからん、何のことかもわからんことが次から次へと口からでてきて、それでも自我をなんとか保とうと必死になっている。
こいつは普通の人間じゃ無い。
怖いとかではなく、こいつに従わなければという気持ちになってしまう。
…………そっ、と手が触れる。
触れる? 触れた?
少女「……辛そう、です……大丈夫……?」
男「……………………っ!?」
その時、ようやく息苦しさから解放された。
抑え込まれていた意識が一気に覚醒する。
男「ぐ……! な、何をした……?」
少女「え…!? わ、私なにも……!」
…………少女が何かしたわけじゃない……?
なら、無意識に何かを起こしているのか?
分からないことが多すぎる……だが今は、とにかく気分が落ち着いた……。
…………ん?
男「…………あ?」
少女「…………?」
少女と俺の手が触れているところに目をやると、赤い糸のようなものが見えた。
その赤い糸は、俺の手首から少女の胸の辺りに繋がっている。
男「……なんだ、これ?」
黙視できるが触れられない。
少女も触れようとしているが、空を切るだけだ。
少女「な、なんですか……これ……?」
男「察するに……契約完了? みたいなことか? 俺が少女に憑いたってことで」
少女「…………えぇ!?」
少女が驚き、驚愕した表情で俺を見た。
俺は俺で、そんな声出せたのか……とどうでも良いことを考えてしまっているのだった。
おやすみなさい。
大分間が空いてしまい、すいません。
今日の昼くらいか、その前に更新できるように頑張ります。
男「…………おい」
少女「ひゃい……」
ビクビクとしている少女に声をかけ、その度に距離が離れていく。
そして距離が離れるごとに、俺は赤い糸によって引っ張られていくことになる。
なんなんだこれは?
さっきのはどういうことだ?
……世界を統べし姫……。
こいつが?
男「お前は何者なんだ?」
少女「…………ぅ……」
男「人間じゃないんだろ?」
少女「………………」
下唇を噛んで、俯いてしまった。
こいつはすぐに逃げようとする。
まるで昔の…………。
男「おい! なんなんだお前は!」
多少強引に肩を掴むと……やっぱり触れる。
とにかく、顔を上に向かせた。
男「目を見ろ! こうなった以上俺も知らなくちゃいけないんだよ! 何も分からんまま放り出されたんだ! 頼むからなにか教えてくれ!」
少女「はぅぅ……」
怯える瞳を正面から受け止めて、それでも胸中をさらけ出す。
こういう奴は強引に迫られないと行動を起こしてくれない。
逃げられないようにしてやらないと、すぐに逃げる。
少女「私は…………。……っ……吸血鬼……です……」
男「吸血鬼…………?」
吸血鬼ってあの?
イメージとして妖怪のリーダーによくいる?
男「…………ほう……?」
少女「ふぐぅぅ……!」
男「いや何故泣く」
ポロポロと涙を溢す少女。
その理由は分からないが、とりあえず……つまりどういうことだ?
1、俺が死んで何故か霊体が海外に放り出される
2、何故か森のなかで地縛され、吸血鬼の少女(推定10代前半)に出会う
3、霊体の俺、少女を主人と認めて過去の意識が消えてしまう手前、言動を乗っ取られてしまう程に心服してしまう
4、少女にとりついた瞬間それが解け、元に戻る
…………うむ。
さっぱりわからん。
あれか? 現世と離れそうになってたから、記憶が曖昧になったりしてたのか?
……………………考えても分からなさそうだ。
男「……ふぅ……とりあえず、泣くのはやめて帰るぞ。……いや俺にとって変える場所では無いんだが……とりあえず泣き止め」
少女「う、うん……ごめんなさい……」
男「……なんでそんなにオドオドしてるんだ? 何が怖い?」
少女「ぇ…………ぅ……私……怖いですか……?」
男「まったく。むしろ可愛いくらいだな」
少女「かわ……!?」
男「俺の知り合いたちに比べれば月とスッポンだ」
妹も妖狐も女も、見た目は良いが中身に難を抱えている奴らだ。
弟くらいじゃないか、普通なやつ。
男「せっかくこんなに可愛いのに、いつも泣き顔晒してたら勿体ないぞ? 笑顔のほうがす」
いやだからおかしいだろって。
こんなキャラじゃない、俺は。
なんでだ? こいつの前だとつい本心が出てきてしまう……くそ……。
少女「ぁぅぅ……」
すっかり顔を真っ赤にしてしまったお姫さまの背中を押して、歩みを進める。
くそ……俺も気恥ずかしくなってきた……。
それに……と隣を歩く少女を見る。
やっぱり、こいつを見てると……被る。
昔の俺に…………。
男「………………でかいな」
少女「私の……お家です……」
数分も歩くと、少女の自宅に着いた。
そしてその大きさに圧倒することになる。
というより家じゃない。
城だこれは。
魔王城のようなものを想像すれば、それに近いだろうか。
男「……ここに住んでるのか。流石高貴なる血族、ってやつなのか? いやいや……」
少女「……?」
男「あーいや……吸血鬼ってのは、そういうイメージがあるって……」
少女「………………そう、ですか?」
よく分からない、というように首を傾げる少女。
自分のことなのに分かってないのか……。
男「まぁいいか……えー……お邪魔しますでいいのかこの場合は」
少女「は、はい……」
ギギギィ……と重い音をたてて開く扉。
今は足も地についており、物にも触れるため、少しだけ警戒して歩く。
少女が妖怪でここに住んでいるのなら、その全てが妖怪の可能性もある。
霊体の俺を食べてしまうような奴に出会ったら……終わりか。
できれば天国か地獄かで採択してもらいたい。
もう一度終わってるんだから今さら構わないのだが、せめて最期は人として終わりたい。
そんな思いに反して、足音が近付いてきた……。
「おかえりなさい。どこにいってたの?」
少女「お母さん、ただいま。……ちょっと、遊びに……」
少女母「そう。手を洗ってきなさい、ご飯できてるわよ」
少女「うん……」
……見えてないようだ。
そっと少女の母親の手を握ってみる。
少女「あっ……」
少女母「ん、少女? どうしたの?」
男「やっぱり見えてないみたいだな」
わざと声も出してみる。
少女母「少女?」
少女「ぅ、ううん……なんでもないよ……」
少女母「……? そう、それならいいけど……」
ててて、と走り出してしまう少女に引っ張られていく俺。
触れるが見えないし聞こえないってことか、いたずらし放題ってわけだ。
手荒い場に来たところで、少女が手を洗いながら
少女「幽霊さん……いたずらしちゃ、め……」
とたしなめられてしまい、小さく舌打ちをしておく。
その後、無駄に広い食堂に着いた。
「遅かったね。……また、いじめられたのかい?」
少女「ち、違うよ……お父さん……」
少女父「そうか……すまないね、お父さんたちのせいで……」
「ふん……本当よ。私、こんな家もこんな顔もいらなかったわ。普通の家で、普通の子供として生きたかった! 人間の血なんて……飲みたくない!」
少女母「少女姉! 仕方ないでしょ!?」
少女姉「お母さんがお父さんと結婚なんてしなければ、私たちみたいなバケモノなんて生まれなかったのに!!!」
少女父「なにを言うんだ! バケモノだなんて!」
少女姉「本当のことでしょ!?」
食事を開始して一分も経たずに修羅場と化した食堂。
今の会話から、とりあえず母親は妖怪の類いでないことは分かった。
このダンディーな外見とは裏腹に熱い雰囲気のあるのが、父親で、吸血鬼ってわけだ。
少女「…………」
少女は借りてきた猫のように小さくなって大人しくしている。
その間にも少女の姉がヒートアップしてしまい、
少女姉「もういい! もう出てくもん! こんなところにいたくない!!」
少女父「待ちなさい! 少女姉!」
出ていってしまう姉。
深いため息をつきながら席に座る父。
心底から今ここに実在してなくて良かったと思ってしまった。
少女父「……もう、無理なのかな……」
少女母「そんなこと無いわよあなた……そのうち少女姉も分かってくれるわ……ね?」
少女父「……母さん……」
そして何故か始まるメロドラマ。
退屈しない家みたいだな。
少女「ごちそうさま……」
少女父「んっ、あ、あぁ……」
我関せずと食事を食べ終えていた少女が立ち上がって、食堂を出ていく。
男「……中々闇の深い家のようだな」
少女「…………私たち……バケモノですから……」
男「ふぅん。どうバケモノなんだ?」
少女「…………力、強いです……車、持ち上げられます……」
男「そりゃバケモノだ」
少女「ぅ…………ひっく……」
しまった、本音を出しすぎた。
いやでも車くらい妖狐にでも出来そうだしなぁ。
一つ目もできそうかな?
よく考えたら普通だった。
男「他には?」
少女「…………飛べます……ひっく……」
飛ぶのなんて俺でも鎌鼬に助けてもらえばできるな。
全然普通だ。
少女「………………血を飲みます……」
男「バケモノだ……」
少女「……ぅぅ……」
男「ごめん」
吸血鬼のイメージなぁ……あぁ、不死身だったりとか?
男「不死性はあるのか?」
少女「……死んだことないから……わかりません……」
そりゃそうか。
死ぬかもしれないのに軽々しく「死んでみて☆」なんて言える訳も試せるわけもない。
他には……血飛沫を凄い早さで飛ばして地面を抉ったり……想像もつかん。
闇の魔法を使う吸血鬼もいたな。
やはり想像もつかん。
男「総合してみると、お前って普通じゃないか?」
少女「え……?」
男「力が強いのは役に立つだろ。ミスターインクレディブルってアニメの映画見たこと無いか? 部屋を掃除してる妻のために普通は無理な家具を持ち上げたりするんだ」
少女「……見たことないです……」
男「飛ぶのだってメリットにはなってもデメリットにはならん。飛べないほうが不便だろ。飛べないほうが悪い」
少女「えう……」
男「吸血鬼なんだし死なないかもって思ったら他人より多少無茶なことできるし、ラッキーじゃないか?」
俺を不思議な生き物を見るようにしているが、よくよく考えたら彼女はとても運が良い。
問題は生き物は自分とは違うのを中々受け入れたがらないところだ。
まったく、自分と違うものはすぐ淘汰したがるからな人間は。
男「悲観して考えるな、お前は明らかに普通より上だ。俺のこの発言で世界征服目指されても困るから言っておくけど、創作物みたいに人の上に立てと唆す訳じゃない。とにかく自分は恵まれてると考えるんだ」
少女「恵まれてる……」
男「馬鹿らしいよな、分かる。人にあわせて生きるにはその力は過ぎたるものなんだけど、いざってときにその力は役に立つんだ」
少女「…………うん」
男「よし。力の制御はできてるのか?」
少女「……わからないです……だから、怖くて……」
あー……そうか、例えば鬼ごっこをしてるとして、タッチしたら数メートル吹っ飛んでくとかじゃお話にならないのか。
おやすみなさい
男「それなら俺で実験してみようか。どうせ霊体だ、多少乱暴にしても問題はないだろう」
少女「え……!?」
予想外の提案だったのか、少女は目を見開いて驚きの声をあげた。
触れるんだから大丈夫だと思うんだがな。
男「とりあえず外に出よう。ここで暴れるわけにもいかないからな」
こくん、と小さく頷いた少女と共に外に出る。
敷地が広すぎるくらいに広いので、少しくらいなにかあっても平気だろう。
男「それじゃ、まずはここに思い切りパンチしてみてくれ。本気でな」
手を広げて前に出し、手のひらを指差してやる。
少女は戸惑っているが、俺が微笑むと、おどおどしながらも構えた。
そして―――
気がついたら、俺は森の方にぶっ飛ばされて、そして糸に引っ張られて少女の方に跳ね返っていた。
少女「ふぇっ」
男「ぐえっ!?」
どんっ! とぶつかってしまう。
普通に痛い。なんで?
右手も消し飛んでるし……。
男「っと、大丈夫か?」
どう考えても俺の方が大丈夫じゃないんだが、それよりも少女が目を回してしまっていることが気になってしまう。
少女「きゅぅ……」
まったくベタな……まぁ良いか。
触れるんなら、このままベッドに連れていけば良い。
にしても……想像以上だ。
なんだあの威力? 一瞬風神たちとの戦いが脳裏に浮かぶような威力だった。
生身なら確実に死んでたぞ。
なるほど、バケモノだ。
とりあえず、少女が目を覚ましてから今後のことを考えないとな。
少女母「きゃぁぁぁ!!? あなた! あなたぁ!」ドタドタドタ
男「あっ」
少女以外には見えないんだった。
なんとかやり過ごして一時間後。
少女父たちが少女の様子を伺っているのでなにもしなかったが、ようやく二人とも安心して出ていった。
男「さて、どうしたもんか」
そのタイミングで、早速本題に入る。
まず、あれが最大威力として、それをどこまで下げたら丁度よくなるのかなんて俺には分からない訳だ。
そこは少しずつ調整するとして……。
男「なんで右手はぶっ飛んだままなんだ? 痛いし」
一時間経っても、霊体は治らないことへの疑問。
なに、俺は残機とかなくて、これが消えたら終わるもんなのか?
それなら早まったことをしたな。
少女「ごめん、なさい……」
少女は少女ですっかり萎縮して、今にも大泣きしてしまいそうだ。
創作じゃ、魔力を注入して直すみたいなのが一般的なのかね……?
男「試してみるか。なぁ少女、魔力こっちに分けてくれないか?」
少女「…………え?」
男「大丈夫簡単だ、俺とお前のこの繋がっている糸に、何かを流し込むようなイメージをしてくれるだけで……多分良い」
サーヴァントみたいな感じなのか分からないが、とにかく試してみることから始めるべきだ。
それがダメなら……粘膜接触?
いやそっちの方が問題だろ馬鹿か俺は。
少女は目を閉じて、俺のいった通りにしてくれているみたいだ。
男「…………お……? 直った」
少女「あ……」
ふーむ……やっぱりそういうことなのか。
今のところ俺はこいつがいないと存在することもままならないらしい。
男「それはどうでも良いか。続きだが、さっきのパンチは、あれで本気か?」
少女「は……い」
男「そうか。ならあれの半分くらいの力で……もぶっ飛びそうだな。ぼんって吹っ飛んで、勢いよくお前の方に戻ってったし」
例えるならバンジージャンプの、下まで行ききって戻る瞬間を二秒くらいで経験した感じだ。
少女「ごめんなさい……ぅぅ……」
男「別に責めてる訳じゃない。慣らせば良いんだよ慣らせば。まずは力を弱くしてみよう。ちょっと、こつんってやってみてくれ」
少女「こつん……」
また広げた俺の手のひらに、力を抜いてパン
ごんっ!
男「……痛い……」
少女「だ、大丈夫ですか……!?」
強かに壁に背中を打ち付けてしまった。
右手に思いっきり重りをぶっ飛ばされて、そのまま重りに身体ごと引っ張られるような感じだが……どこにそんな力があるんだよこれ……。
自然の恐ろしさを再確認したところで、どたどたと音が聞こえてきた。
そりゃそうか……。
ばんっと、扉が開けられて、再度少女父出現。
少女父「少女!?」
少女「お、お父さん……」
少女父「なっ、なんだね君は!?」
男「えっ」
見られている。
あれ、さっきまで見えてなかったのに?
いつのまにか実体化したのか?
……少女に魔力を貰ったから?
少女父「まさか賊とは……時折人間には馬鹿が生まれるが、ここに忍び込む馬鹿は久しいな!!」
うっわ思い切り臨戦体勢。
少女「お父さん! 違うの!」
少女父「な、なに!?」
少女が俺の前にたち、少女父に対峙してくれお陰で、なんとか大事にはならなそうだ。
いかん、呆けている場面じゃないか。
すぐに立ち上がると、頭が急速に冷えていく。
男「初めまして。俺は男と言います。以後お見知りおきを」
少女父「男……? 日本人のような名前だな」
男「はい。俺は日本人です。故あって死んでしまい、何故か○○の森で漂っていたところを少女に見つけられ、とり憑かせてもらいました」
少女父「な、なんだと!?」
男「悪さしようとしているつもりはありません。ただ自分自身なんでここにいるのかも分からないので、助けてもらった恩を返すために少女と力加減の訓練をして、今に至ります」
俺の言葉を聞いて、しばらく口を開いたまま制止する少女父。
少女「本当なの、お父さん!」
少女父「…………な、なるほど……? 死んで……とは?」
男「その辺りは、ご家族と一緒にまとめて事情を説明してしまいましょう。その方が面倒も少ないですからね」
食堂に集まったのは少女家族の四人と俺。
俺が森に至るまでの過程をかいつまんで説明すると、少女が同情的な視線を、少女父もなにか思うところがあったらしい。
少女父「雷神殿と風神殿は昔から暴れん坊だったからな……君も大変だったのだね」
男「いえ特には。俺の父親には、そういう普通は経験できないことをどんどん経験しろと教えられて来ましたから。楽しいと思うことはあれ、辛いとかやめたいと思ったことはありません」
少女「……でも……死んじゃって……」
男「まぁそれも仕方がないことだ。気を抜いたのは俺だしな」
少女父「しかし……何故ここイギリスに? 死んだは良いとして、あの森に特にいわくも無い……まるで話が繋がらない」
男「そこですね、俺の疑問も。どこにも行けないし、なにもできない。そんなときに少女に見つけてもらって、今に至る訳です。だから恩人なんですよ」
男「それともう一つ、疑問があります。俺は英語なんて、日常会話も辿々しいレベルです。ですが、今俺はあなたたちと日本語でもって接している……そして、そちらには、俺が英語を流暢に話してるように見えますよね?」
少女母「えっ!? あなた、英語が喋れないの?」
少女父「…………謎だらけだね」
男「その通りです。でもいつまでも頭を捻ってる訳にもいかない。なので、少女とこの赤い糸で繋がったのも何かの縁として、虐められている少女をなんとかしようかと。そしてまず手加減を学んで貰おうと思ったわけです」
少女父「なるほど……」
男「そういうわけで、しばらくここに置いてもらえませんか? 強制成仏はつまらないので」
少女以外の三人がお互いに顔を見合わせた。
少女姉「……私は別に良いわよ」
少女母「そうねぇ……困ってる人を見捨てるのもね」
少女父「うん……分かった。一つだけ条件がある」
男「あぁ、もちろん娘さんに手出しはしません。というより、可愛いとは言えまだ幼い彼女に劣情など抱きませんから」
少女「…………」む
少女父「ん、あぁそれもそうだが、そうじゃない。……娘をなんとか虐められないようにしてくれ。いつも悲しそうにしている少女を見るのは、私も辛いんだ」
少女「…………お父さん……」
男「なるほど……それに関しても安心してください。出来る限りのことはします」
少女父「それを聞いて安心した。よろしく……ん!? 消えた!?」
男「あ、効果が消えたのか。少女、説明してあげてくれ」
少女「あ、う、うん……」
効果にして約30分か……見えなくて困ることはないけど、見えると不都合も生じる。
基本的にはこのままでいることにしよう。
おやすみなさい
現世から剥離しそうになっていたところを、少女と繋がることで留められたのだろう。
話し合いも終わって自室に戻る。
少女はかなり眠そうだ。
男「もう寝ろよ。子供は寝る時間だ」
少女「……男さんは……寝ないの……?」
男「さぁな。眠たくなったら、寝るんじゃないか?」
少女「……寝るところ……」
男「幽霊なんだからどこでだって寝れる。俺のことはどうでも良いから気にするな」
若干食い下がる気配も見せたので、ベッドのなかに押し込んでしまう。
すぐに寝息をたて始め、ため息をつく。
少女について考察してみたが、人間と距離をとって過ごす彼女の姿が一番理想的な気しかしない。
いじめられている少女を助けてやろうと思ったものの、冷静な自分がそれはダメだと告げている。
だが……少女と出会ってから生まれた俺は、とにかく少女を孤独から救ってやりたいと吠えてうるさい。
その声がうるさすぎて一度スイッチが入ると暴走を始めてしまうことも、 解せない。
どうやって少女を助ける?
助けたあとのことは考えているのか?
遊んでた弾みで人を殺せてしまう子だぞ?
男「…………チッ」
自分を誤魔化すように舌打ちをする。
どうせ逃げることはできないんだ。
やることをやって、さっさと逝くとしよう。
諦めたようにそう結論を出して、今日はもう寝ることにした。
朝。
……と呼ぶには大分外が暗かった。
ベッドを見ると……少女がいない。
というか、俺に布団がかけられている。
起き上がって周りを見ると、赤い糸が外の方に向かって延びていた。
こんな時間に外で何をしてるんだろうか?
窓から外に飛び降りて、赤い糸の向かっている方に辿ってみると……。
少女「……こう、かな?」
ボンッ! と石を投げて木を抉る少女の姿がそこにはあった。
レールガンかなにかか?
少女「もう、ずっと手加減してるのに……私、やっぱり……」
男「……手加減の練習か?」
少女「えっ!? あ……男さん……おはよう、ございます」
男「おはよう。……難しいか?」
少女「……今まで、こんなことしたこと、無かったから……」
男「そうか。……石を投げるくらいなら、こう……」
小石を拾って、ゆっくりと投げる。
飛距離は無いが、それでも良いだろう。
男「こんな感じに投げたらどうだ? できるだろ?」
少女「そうっと……え、えーい……」
ゆるやかな動作、そして聞きようによってはナメてるような掛け声と共に、投げるではなく放るように宙に浮いたボールは、今度はボトリ……と力なく地面に落ちた。
とりあえず……手加減という点では、上手くいったような気もする。
なにより。
少女「できました……できましたよ、男さん! 私、上手くできました!」
そんなことでここまで嬉しそうにされると、第一歩としては良いんじゃないかとも思える。
男「…………あぁ、上手くできたな。上出来だ、これからは自然に誰にも気付かれないように手加減する方法を身に付けような」
ぽんと頭を撫でてやると、また顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。
男「今のができるのなら、腕の力を完全に抜いてフォームだけはしっかり投げる姿勢にすれば、それほど違和感は無いんじゃないか?」
少女「フォームだけ……」
男「そう。こうやって……」
少女「ふぁ!?」
少女を後ろから抱き締めるようにして、両腕をつかむ。
男「こう……ここまではボールはちゃんと掴んでおいて……ここ、このタイミングで離す。もちろんこの動作中一切力は抜いてな。よし、やってみてくれ」
少女「ぅ……ぅ、はい……!」
ボンっ!!!!
軽く木を5、6本なぎ倒す衝撃。
いやいやいや……。
男「おい、なんでさっきより激しい失敗してるんだよ」
少女「ふわ、ふわ……はわああああ!!!」
男「あ、おい」
走って行ってしまった。
赤い糸を辿れば追い付けるが……多感な時期ということで放っておくか。
……そういえば、この糸はどこまで伸びるんだ?
俺が吹っ飛んだときは途中で限界が来たが、今はあの時以上に離れてるはずなのになんともない。
心の距離か何かか?
基本的に俺の意思は尊重されないようだ。
少女「行ってきます……」
少女母「気をつけて行ってらっしゃい」
忘れていたが、小学生の少女は平日は学校に行かなければいけない。
俺は留守番してる訳にもいかないので、着いていくことになった。
あれから少女は一度も口を聞いてくれず、俺の顔を見るたびに顔を真っ赤にしてしまう。
少女のことが分からない……。
ん……?
男の子「このバケモノー!!」
後ろから生意気そうなガキが少女に向かって走ってきた。
手に持ってるのは、土の塊か?
湿り気もあるし、ぶつければ服が台無しになるだろう。
悪戯にしてもやりすぎだろ。
少女を引っ張ってやると、ガキの投げた土の塊が横を通りすぎていこうとしたので、キャッチしておいた。
男の子「なっ! 避けるなんて生意気だぞ少女!」
少女「ぅ……あ、ありがとう男さん……」
男の子「無視すんなよテメー! うわっ!?」
尚も食い下がってくるガキの足を引っ掻けてやる。
無様に這いつくばるガキ、慌てて起き上がろうとしたところで土の塊を顔面に叩きつけてやった。
男の子「ぶえっ! ぺっ! おえっ!」
少女「……っ!」
怯えている少女の頭を撫でながら、耳元でそっと囁いた。
男「少女……日本には因果応報という言葉がある。良いことをすれば良いことが、悪いことをすれば悪いことが、自分に返ってくるという意味だ。……少女はもう少し押しの強さが必要だ。ここで、少しくらい脅かしてやろう」
少女「……インガオウホウ……」
男「ほら、言ってやれ。お前はいくつ私に悪いことをした? その分だけ、これからお前に返ってくるぞ、ってな」
少女「…………ダメです。……そんなの……私は……」
……驚いた。
こんなに力強く俺の目を見てくるなんて。
………………俺を拒絶するなんて。
男「っ! ……おいおい、子供に、子供を脅させようとするなんて。正気か俺も」
少女「男さん……時おり、変になります……今の男さんは、優しいのに……その時は、変で……」
自分でも理解してるさ。
……俺は、どうやらこの少女を本物のバケモノにしようとしているということが、今ので理解できた。
なるほど、吸血鬼として少女を完成させようとしていたのか。
……俺は幽霊だから、彼女を主として認め、彼女を王にしようとしている。
これでようやく、自分の異常に仮説をたてられた。
なるほど……それなら……。
男「そっちの方が面白そうじゃないか?」
少女「え?」
危ない存在になられてもアレだが、今ここで少女を吸血鬼として、妖怪の王として育てた方が、面白くなりそうじゃないか。
……そうと決まれば、大分気分がスッキリした。
抗う理由が無くなったせいか、分離していた精神が統一されたような感覚までした。
ここまでです。
あと何回かの更新で吸血鬼編から現世に戻れそうです
そういう事言わないの
____
/ \ /\ キリッ
. / (ー) (ー)\ <「そういう事言わないの」
/ ⌒(__人__)⌒ \
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\ `ー’´ /
ノ \
/´ ヽ
| l \
ヽ ____(⌒)(⌒)⌒) ) (⌒_(⌒)⌒)⌒))
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/_ノ ヽ、_\
ミ ミ ミ o゚((●)) ((●))゚o ミ ミ ミ <だっておwwwwww
/⌒)⌒)⌒. ::::::⌒(__人__)⌒:::\ /⌒)⌒)⌒)
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| :::::::::::(⌒) | | | / ゝ :::::::::::/
| ノ | | | \ / ) /
ヽ / `ー’´ ヽ / /
| | l||l 从人 l||l l||l 从人 l||l バンバン
ヽ -一””””~~``’ー–、 -一”””’ー-、
ヽ ____(⌒)(⌒)⌒) ) (⌒_(⌒)⌒)⌒))
お待たせしてしまって申し訳ないです
あとで投稿できたらします
最近クトゥルフTRPGのシナリオを書くのにはまってまして、中々筆が進まず……
すいません発狂してました
明日投下します
男の子「な、なにしたんだよお前!?」
少女「あの…………大丈夫ですか……?」
男の子「……は?」
少女「ごめんなさい……」
呆気に取られるガキを置いて走り去ってしまう少女。
もう少し強気にガンガンいけば良いのに、どれだけ酷いことをされようと我慢するつもりなんだろう。
さて、この場合少女が自分から相手を屈服させることの喜びを見つけてもらうには?
とにかく一度その我慢の限界を迎えてもらわないといけないな。
一度快楽に目覚めてしまえばすぐだ。
まずは観察しよう、この少女を。
……………………
……………………
……………………
男「つまらない」
少女「…………」
授業中。
何が書いてあるかぼんやりとしかわからない上、学校では遠巻きに見られるだけで少女にたいして直接的な干渉はほとんどなかった。
さっきのガキのグループがちょっかいをかけてくることもあるが、基本ガン無視である。
というかあのガキ、ガキの癖に少女にたいして好意を抱いてるのが丸わかりだったのも驚いた。
好きな子にイタズラしたくなる年頃なのだろう、それにしても土はやりすぎだが。
そういうわけで、これじゃあ確かに我慢してれば良いと思えてしまうのも仕方ないなと思うばかりである。
俺が率先して少女をいじめるか? 本末転倒過ぎる。
なんにしても、いじめらしいいじめなんてなく、「おめーの席ねーから!」レベルを想像してた俺は肩透かしをくらい、あくびをしながら床に寝転がっているのだった。
少女「………………」カリカリ
授業態度も真面目。
顔も良くて運動神経は人間レベルを遥かに越えている……。
こんな女の子をよくわからない理由で怖がっている奴らは馬鹿だな、と思いつつ、少女の悩みがいじめられていることじゃなくて友達ができないことだったのだと分かったところで、俺も俺で頭を抱えることになった。
この子を妖怪たちの王に盛り立てるとして、その方策がまるで見えてこない。
この子の怒りに触れなければならないのに、少女の心根は随分と優しすぎた。
なにか一騒動起こってくれれば……そう願わずにはいられない。
そんな願いも虚しく、気がつけば下校の時間になっていた。
少女「…………」
男「……学校は楽しいか?」
少女「…………普通、です」
男「何事も普通が一番だって? 分からないでも無いけど、俺の性質には驚くほどマッチしていないものでな。吸血鬼は吸血鬼らしく、妖怪の王になってみない? よければ手取り足取り教えるけど」
少女「………………」
男「……分かったから、そんな目を向けないでくれ」
馬鹿かなにかを見るようなそれを向けられて、反射的に目を背けてしまった。
どんな反応をするかなんて分かってただろうに、まったく情けない限りだ。
少女「…………なんで、私を……そんなものに、したいんですか……?」
男「そっちの方が面白そうだから」
少女「……私は、普通が良いんです。普通の人として、生きたいから……」
男「人じゃないだろお前」
少女「……っ」
その一言がよほど傷つけたのか、少しだけ目に涙を溜めたが、早足で歩きだしてしまった。
言い過ぎたか?
昨日は俺が味方になってくれると思っていたのに、やっていることは一番の敵みたいな――
――あ? なんだ? 頭が……――
ドーーーン!!!
轟音によって、思考が一時停止し、すぐに少女を追う。
すぐに見えてきた小さな背中は、カタカタと震えていた。
……そして、少女の家が破壊されていることも、すぐに確認できた。
いったい何が起きた?
少女姉「あぐっ!」
少女姉が転がってきた、それを追うように……鬼?
翼が生えた鬼のような何かが現れた。
翼が生えた鬼「吸血鬼と人間のハーフってなぁ、こんなに脆いもんなんだなぁ! 兄弟!」
声をかけた先には、少女の母親を無理矢理持ち上げているもう一体の鬼がいた。
翼が生えた鬼2「あんちゃん、俺は弱いものいじめの方が好きだな」
ミチミチミチっ、と嫌な音が聞こえ、少女母が声にならない悲鳴をあげる。
翼が生えた鬼「がはははっ! ここで吸血鬼をたおしゃ、俺らが次のリーダーよ! そのあとは好きなだけ人間どもを殺せるぜぇ兄弟!」
翼が生えた鬼2「楽しみだよあんちゃん」
翼が生えた鬼「探すのに苦労した甲斐があったなぁ?
おっと、そっちもまだ殺すんじゃねぇぞ? それを人質にして吸血鬼野郎をぶっ殺すんだからな!」
ありがちな展開だが、とてつもない好都合だった。
少女「お、かあさん……! お姉ちゃん……!」
男「あーらら、お姉ちゃんとお母さんが危ないな? 助けないのか少女?」
少女「え……!?」
男「お前ならそれができると思うんだけどなぁ……お姉さんよりも強い力を持ったお前なら」
少女「そ、そんな……私には……」
男「じゃあ黙って見てようぜ? 少女の安全だけは保証してあげるから、安心して二人が死ぬところを見てなよ。ほら」
少女の背中をどんっ、と押す。
少女「ひゃっ!?」
翼が生えた鬼「あん? おいおい、もう一人のガキも帰ってきたぜ!」
翼が生えた鬼2「可愛いねぇ、それに弱そうだよあんちゃん」
少女姉「ば……か……!! 逃げ、なさい!!!」
翼が生えた鬼「うるせぇ! 黙ってろ死に損ない!!」
腹部を強烈に蹴りあげられ、少女姉がついに気絶してしまった。
さて、少女? どうする?
本気を出せば捻り殺せる連中だぞ、しかも油断している。
お前にとっては獲物でしかない。
少女「あ…………あ……」
だと言うのに、恐怖で体が動かないようだ。
ま、それもそうか。
仕方ない、好都合なのにはかわりないんだ。
ゆっくりやっていけば良い。
そう思って、近づいてくる鬼を蹴り飛ばそうとする。
すかっ!
……あ?
足が鬼の体をすり抜けた。
何故急に触れられ……いや……そういうことか?
っと今はそんなことを考えてる場合じゃない。
男「少女、体をくれ。助けてやるから」
少女「……! は、い……!」
翼が生えた鬼「なっ!? テメェ、いつの間に!?」
実体化瞬間に鬼の顎を蹴り飛ばし、少女の腕をとって距離を取る。
男「笑い種だな? その倒すべき吸血鬼不在の中、女子供を相手にしてようやく強気にでれる鬼がいると来たもんだ」
ガーゴイル兄「なんだと!? 人間の分際で俺様たちガーゴイル兄弟に歯向かう気か!」
男「話も通じん。馬鹿と話すと疲れるな、元彼女のときもそうだったがどうしてこう」
鋭い爪が容赦なく振られる。
聞く耳も持たない。
少女を抱えながら後ろに飛ぶが、やはり鬼……戦い慣れてはいるようで、まるで格好がつかないながらも逃がすまいと追いすがる。
少女「きゃっ!」
ガーゴイル兄「ガハハハハ!! やはり人間は弱いな!! ほら逃げろ逃げろ!」
男「止まれ!」
ガーゴイル「なに? ……なんだと?」
止まらない、やはりダメか。
多分俺は本人ではないからだろう。
さて……妖狐もいない一つ目もいない鎌鼬もいない、その上言霊も使えないとなっては、まるで戦闘力のないゴミな訳だ。
回避極振りとは言っても体力は無尽蔵でも無いし、そもそも少女を守りながらの回避なんてそう何度も上手く行くわけがない。
格好つけた不意の一撃が最初で最後の攻撃になった訳だ。
男「はてさて……どうするかね。さっさと逃走するにしても、少女を安全に逃がす方法か。あいつら馬鹿だから挑発すれば隙作れないかな」
少女「え……お母さんと、お姉ちゃんは……!?」
男「さっきも言っただろ、お前だけなら助けてやれるが、俺には逆立ちしようとあの二人を助けられないと。今二人を助け出せるのはお前だけだ」
少女「私には」
男「無理とか言うなよ? 自分だって気づいてるくせに弱いふりなんかして、卑怯なやつだなお前は」
少女「…………ぅ……ぅぅ……」
男「お前は弱くない。強い。俺よりも数十倍以上だ、あのガーゴイル兄弟なんて一捻りなんだぜ? 思いきり殴れ、それで終わりなんだ」
ガーゴイル兄「なにをごちゃごちゃ言ってやがる! 死ね!!!」
男「ほら! やれ! 思いっきり!」
少女「う……うぁぁぁぁ!!!!!」
ガーゴイル兄「へ―――」
ばひゅっ……と風を切る音と共に、ガーゴイル兄の姿は森の方に飛んで行き、やがて見えなくなった。
どぉぉん!! と轟音と木を薙ぎ倒すような音は、少し遅れて聞こえてくる。
……ありゃ死んだな。
男「簡単だろ?」
少女「…………!!」
男「あとは……」
ガーゴイル弟「お、お、おまえらぁ! よくも、あ、あんちゃんおぉ!!」ガッ!
少女母「あ……うぐ……!」
母親の方を掴まえているガーゴイル弟の方に目を向ける。
先程までの余裕から一転、今は怯えた瞳を少女に向けている。
少女なら一瞬で距離を詰めて助けることも可能だろうが……力の使い方を知らない少女が母親を傷つけないかと怖がってしまうか。
致し方無い。
男「少女……俺が気を反らすから、がら空きになったところを思いっきりいけ。ふっ……!!」
少女「え、ぁ!」
少女に目を取られて俺が視界に映ってない今がチャンスだ。
数歩で詰めよって背後に回ると、でかいケツを蹴りあげてやった。
ガーゴイル弟「ぎゃっ!?」
予想以上にビビっていたらしい、ガーゴイル弟は跳ねあがって思いきり距離を取ろうとして、その隙に少女母を奪い取る。
その隙を見逃さなかったのか、ガーゴイル弟は横に吹き飛んでいった。
男「…………な? 簡単なんだよ、お前には」
少女「わ、私……!」
男「それがお前の力だ。怖がる理由はないだろ? 使いこなせれば、何に怯えることもないお前の力なんだから」
少女「……は、はい!」
若干気分が高揚しているか。
これで自分にたいしてポジティブになってくれれば、この先もはやそ
男「ッ!!」
それを目にして、駆け出す。
…………!!! ざしゅっ!!
男「が……!!」
少女「お……男さん!!」
間一髪……少女姉に向かった凶手は、俺の胸を貫いた。
ガーゴイル兄「げへ……げへへへ……死ね……ぜー、ぜー…………死ね、人間!!」
男「……はっ! …………元より死んだ身……貴様に殺されずとも……消え去る定めだよ」
少女姉「ん…………あ……え?」
男「……はやく」
いや、それよりも……少女の方が早かったか。
ガーゴイル兄がぶっ飛び、俺の胸に穴が開いた。
本気で痛い。
死人なんだから、痛みくらい多目に見てくれれば良いのに。
少女「男さん! だ、だい……」
俺の傷跡を見て、絶句する少女。
それもそうだ、これだけ酷ければ普通は助からない。
少女「ま、魔力を! ……な、なんで!?」
……無駄みたいだな。
薄々気付いてはいたが、もう時間切れなのだろう。
切っ掛けが何かは知らないが、とにかくもうここに俺は必要ないらしい。
勝手なものだ。
男「あーあ、ここまでかぁ」
少女姉「そ、そんな!」
男「死人に相応しい最期だと思わないか? 人助けできたんだ、これ以上は無い。俺自身楽しかったしな」
少女「私、まだ教えてもらいたいことが!」
男「俺が教えたいことはそうだな……自信を持てってくらいだ。そっちはもう教えられたんだから、必要ない……そもそも、それを教えたから存在理由も消えたらしいしな。今回のこれはつまり、少女にやらせろって警告だったのかもな。だからあのタイミングで俺は消えかけた。少女に身体を貰ったものの、今はそれも許されてない」
少女「…………嫌です! 私、男さんみたいに強くなりたいんです……!! お願い……まだ……消えないで……!」
男「……またな。同じ世界に生きてるんだ、また会えるさ。多分」
意識が、ふ、と途切れる。
さん!
……さ……。
…………!
お……! ……こ!!
妖狐「男!」
男「おはよう。なんだ、死んでなかったのか」
妖狐「な、なに……?」
男「いや? 随分面白かったんでな。今は何時だ? 何日だ? 寝てる間に面白いことはあったか?」
妖狐「………………!!!!」
目覚めと共に、俺の頬に紅葉の痕が残ったのだった。
待ってる人がいるかは分かりませんが(一人いた)、お待たせしました。
やや強引ながらも少女編終了です
次回もなるべく早く来たいですねー
それではまた
申し訳ない……ちょっと色々あったのと、それ関係でやる気がどんどん落ち込んでました
金曜日に更新しますー
一つ目『いやぁ、なんにしても兄さんが目覚めて良かったですわぁ。二週間も目覚まさんかったさかい、もう死んだか思いましたから』
男「勝手に殺すな。……ん、二週間?」
そんなに向こうにいなかったと思うんだが、こっちでは二週間も経過していたのか。
妖狐「ふん。貴様のような馬鹿はさっさと死ねば良かったんだ」
まだ怒り気味の妖狐、多分心配してくれていたのだろう。
それが分かったので今回ばかりは妖狐で遊ぶのを控えて、現状の把握に努める。
男「とにかく。地味子は元々弟のストーカーだった、今回のことで暴力的な面が出現した、俺を刺した記憶は無くなってる、と。俺が包丁で刺された理由はいきなり包丁がすっ飛んできてたまたま、犯人は不明、そうなったと」
女「ええ。それで良かったのよね?」
男「ああ。…………ふむ」
女「どうかした?」
男「いや。誰も反応してくれないことに、どうしたものかとな」
女「反応しない? ……ごめんなさい、なんの話?」
俺は手首についている赤い糸を触りながら、女から視線を外す。
触れるようになったのは、肉体に戻ったからか?
というか、これは……少女に繋がっているんだよな、恐らく。
ふーむ……。
男「ふっ」
バチッ!
あ、切れた。
男「こうもあっさりだと、怖いものを感じるな……巻けば元通りなのか?」
一応巻いておこう。
女「……さっきから何をしてるの? 何かついてる?」
男「ちょっと赤い糸がな」
女「…………そう。それで、そろそろ本題に入っても良いかしら」
男「あぁ、そういえば。陰陽師が各地で襲われているんだったか?」
女「ええ。もう名のある陰陽師だけで五人も行方不明になっているわ。愛護の当主とも連絡がつかなくなったし……」
女の話を総合するとこうだ。
1、最近世界各地で陰陽師が次々に行方不明になっているらしい。
2、徐々に日本に向かっていたが、遂に最近愛護家という腕のたつ陰陽師がやられたらしい
3、このままだと名前が知られている女、そして先祖に桁違いの陰陽師がいる俺も襲われるかも知れない
4、風神と雷神も妙な気配が近づいてきていることを察知して、周囲に匂い隠しをしてくれているが、誤魔化し程度の効果しか見込めない
男「お前はさておき、なぜ俺まで? そもそも陰陽師じゃないんだが」
女「風神と雷神、この二人を私と協力して倒した……この時点で噂がたたないとでも?」
男「…………まぁそうか。いや、楽しいことは歓迎なんでな。構わんさ」
女「……死にかけたっていうのに、相変わらずねあなた」
男「死んで治るならここまでひん曲がらないんじゃないか」
妖狐「自分で言うな」
肩を竦めて、身体を倒す。
最近妙なことの連続だから、さっさと退院して次に備えたい。
次が来ないならこちらから出向くしな。
あと妹のことも心配だ。
家の留守を守ってくれているらしいのだが、たまにとんでもないトチり方をするからな……。
鎌鼬「…………!」
ベットの足元で丸まって寝ていた鎌鼬が、急に頭を起こす。
耳が立ち上がり、周囲を警戒し出した。
見ると鎌鼬だけではない、一つ目も妖狐も、窓の外を注視している。
妖狐「……噂をすれば、か?」
一つ目『兄さん……逃げれますか? 無理なら、ワシらで時間作るさかい姉さんと逃げてください』
男「………………」
一つ目の言葉の節々から、自分では相手を抑えることくらいしかできないという弱気が伝わってくる。
お出座ししてくれたのはありがたいのだが、流石になー、ここ病院だし点滴刺さってるしなー。
空気を読んでほしい。
男「…………あー……警戒体制解除、ゆったりお迎えしよう。多分逃げても捕まるし、無駄に抵抗して怪我人出すのは意味がない。のんびり捕まろう」
女「うわー……」
一つ目『諦めましょ、兄さんは間違った判断はしまへんから』
俺の命令に一気に空気が弛緩し、一つ目と妖狐はやれやれ……と言わんばかりに座り直して、鎌鼬はまた寝てしまった。
女もなにか言いたそうにしているが、俺たちの態度を見て諦めてしまったようだ。
バリィンッ! と窓が割れる。
「……陰陽師の……女? 悪いけど、拘束させてもらうわ」
女「もう好きにして……」
「え? ……まぁいいわ、もう一人いるわよね? 凄いやつ。ねぇ、そこのお兄さん?」
男「いないいない。ここには病人怪我人ご老人しかいないから」
「ふふ、なにそれ? ……悪いけど、遊んでる暇はないの。大人しくしてくれない?」
一つ目『十分大人しい思いません? 兄さんなんの抵抗もしてまへんし、ワシらもなんもする気ありまへんで?』
「…………? ……それもそうね。まぁ良いわ、大人しくしてくれれば痛い目にはあわせないことを約束してあげる」
男「いやまぁ捕まるのは良いんだけど、何が目的なんだ? 陰陽師ばかり襲ってるらしい」ガバッ
男「し…………ん?」
「ん? ………………え?」
布団から出ると、そこには……成長した少女姉がいた。
……見間違いの類いではない、あんな美人姉妹を忘れられる方が珍しい。
少女姉「あ、あ、あんた……な、なんでここに!?」
男「ふむ。…………なるほど、陰陽師襲撃か。こいつらならまぁ負けても仕方ないのかね」
少女姉「しかもあの時からぜんっぜん変わってないし! ってこんなところで何してるの!?」
男「病院で点滴してベットに寝てる奴を見て何してるのと聞かれるとは思わなかった」
少女姉「え……ど、どこか悪いの……?」
男「実はあと一週間の命なんだ」
少女姉「そんな! せっかく」
男「嘘だ」
男「それで? お前は何してるんだ?」
少女姉「はっ、そうだ! 男さん聞いて! 実は……お父さんと、お母さんが……陰陽師に、連れていかれて……」ギリッ
男「なるほどなー理解した」
少女姉「……男さん、もしかして……」
男「無い無い、俺ここで二週間も意識不明の重体だったらしいし」
少女姉「……そう。良かった」
男「殺さないで済んだ、か?」
後ろに隠れる少女姉の言葉を隠させずに暴露してやる。
一瞬言葉に詰まった少女姉、だがすぐに平静を取り繕った。
少女姉「そう。殺さないで済んだ。……男さんには感謝してるの、私たちを助けてくれたこと、少女と私を目覚めさせてくれたこと。でも、それとこれとは別……やられたらやり返す。報復しなきゃ」
男「変わったねぇお前も。人間社会に溶け込むことを止めて力を存分に振るうようになったと」
少女姉「……そうよ。こんな力があるんだから……使わなきゃ、損よね? 男さんが教えてくれたんだよね?」
男「いやぁ、嬉しいなぁ。そうそう、そういう方が俺は好きなんだよ。楽しいだろ、そっちの方が」
少女姉「っえ? ……え、えぇ、そ」
男「鎌鼬!!」
バシュッ! と風が少女姉に当たるが、かきけされる。
少女姉「…………どういうつもり?」
男「え? だってつまらないだろ?」
点滴を引き抜いて、注射の痕を鎌鼬に治療してもらう。
男「せっかく次が来てくれたんだから、俺も抗った方が楽しめるだろ?」
少女姉「は?」
女「ごめんなさい、この人こういう人だから……抵抗した方が楽しそうだから抵抗するだけみたいな……」
少女姉「……え?」
男「ついでにいうと少女を吸血鬼として目覚めさせたかったのも、そっちの方が面白そうだったから。お前の反応から大成功したらしくて良かった良かった」
女妖狐「吸血鬼(じゃと)!?」
少女姉「……あー……え、なに、ただ戦いたいだけで抵抗するつもりはないってこと?」
男「うん」
少女姉「……あの時も変な人だと思ってたけど……余程変人だったみたいね……」
男「そうか? ま、良いだろ別に。ここでやるのもあれだから、今の風で吹っ飛ばされたって体で外でやらないか?」
少女姉「…………ええ、いいわよ」
わざとらしく外に跳躍していく少女姉。
多分絶対勝てないと思うけど、だからどうした?
男「……そっちの方が、面白くなりそうだと思わんか? 鎌鼬、行くぞ!」
鎌鼬の風を纏って、窓から飛び出す。
三階の病室にいたらしいが、そんなものは関係ない。
一つ目『やれやれ、兄さんには敵いませんわ』
妖狐「…………」
一つ目『姉さん? 行かないんでっか?』
妖狐「……あぁ、行くか」
女「まったく、付き合わされるこっちの身にもなってほしいわね……」
妖狐「…………」
着地すると、少女姉の対面に立つ。
男「少女は?」
少女姉「ここにはいないわ。昨日けっこう派手にやったから、休憩中」
男「はぁん。さてと、多分俺は勝てないだろうけど、まぁあれだ。俺がほしけりゃ力づくで奪い取ってみな!」
少女姉「くす……なにそれ? それ、少女相手には言っちゃダメよ?」
男「ん?」
少女姉「あなたがいなくなって、一番悲しんだのはあの子よ。いえ、今もね」
男「なるほどね」
少女姉「……さ、やりましょうか。……人間ッ!!」
男「うおっ!?」
出鱈目な早さで突っ込んでくる少女姉の攻撃をすんでのところでかわし、転がるように回避した。
鎌鼬の風の補助を受けてなんとか体勢を崩さないようにはできたものの……。
少女姉「凄い。今のを初見で避けた人は一人もいなかったのに」
男「回避極振りしてるからな。回避もできなくなったらいよいよ取り柄が無くなる」
少女姉「ふぅん。……でも、それなら……少しくらい本気を出しても良いわよね!?」
男「手加減とかいらないよ。……来いッ!!」
ゴッ……!!!
少女姉「へぇ! これも避けるんだ!」
男「(これで連続攻撃可能なら余裕でボロ雑巾確定だろうし、普通に出来るんだろうなぁ)鎌鼬ッ!!」
少女姉「だからそれは効かな」
男「止まれ!!」
少女姉「い、あ??」
おっ、止まった。効くのかこれ。
いい収穫だ。
動きを止めた少女姉の顔に風が直撃した。
これでダメージが与えられるとは思わない、目眩ましからの一つ目の定石コンボだ。
がっ!!
一つ目『……せやろなぁ』
少女姉「…………こんな攻撃、効くわけ無いでしょ?」
まるでものともせずにこん棒を片手で止めてしまった。
男「ガーゴイルにぶちのめされてた時とは大違いって訳だ」
少女姉「そうよ。もうあんな思いはしたくないから」
男「へぇ……なるほどね」
少女姉「それよりも……今、何をしたの?」
男「言霊」
少女姉「私を止めるなんて、余程強い力を持ってるのね」
男「みたいだな」
元々戦力を測るために始めた戦いだったが、まるで戦力が桁違いと言うことを分からされた。
十尾、か。
無理だな。
男「ま、こんなもんで良いだろ。じゃあぶん殴ってくれ」
少女姉「ん……それも矜持ってやつ?」
男「やっぱ負けないとな」
少女姉「ふーん……」
ぱんっ、と殴られて、わざとらしく尻餅をつく。
男「さーて、敗者は大人しく着いていくことにするか」
少女姉「…………ね。私達、けっこう滅茶苦茶なことしてるよね? 何か思ったりしないの?」
男「別に。それをやらないといけないと思ったんだろ? それとも何も考えてないのか?」
少女姉「……やっぱり変な人。あの時、助けてくれてありがとね」
男「やりたいと思ったからやったことだ。さーて、じゃあ監禁場所につれていかれるのか?」
少女姉「男さん、逃げたりしないと思うからやめておくかな。……むしろその場所を知ってあとで不利になりたくないし、男さん抜け目無さそうだから」
……場慣れもしてるねぇ。
ま、人質は無事っぽいし良いか。
男「じゃあ女は連行されるとして、俺は家に帰って良いのか? 実は刺された傷が痛くて……」
少女姉「刺された……?」
男「じゃあ少女によろしく、頑張ってって伝えておいてくれ」
少女姉「……男さんも着いてきて。監視してないと何するか分からないから」
食いついてきたな。
むしろここで別れることになるとつまらないから、ありがたい。
男「分かったよ」
女「終わった?」
いつの間にか降りてきていた女が呆れたように俺を見ていた。
男「ああ。お前は監禁部屋だってさ」
女「あなたは違うみたいね?」
男「まぁな。警戒されたみたいで」
少女姉「……じゃあ行きましょ?」
少女姉の後を追っていくと、車が用意されており、後ろの席はスモークガラスになっていて外の見えないドライブが始まった。
少女姉「……男さん、今までどこにいたの? 少女がよくわからないことを言って、ずっと日本を探してたけど見つからなかったのに……」
男「よくわからないこと?」
少女「ええ。……えーと、糸はまだあるから、どこかにいる? だとかなんとか」
男「はぁん……ま、話せば長いことがあってな。信じてもらえない気がするから良いわ」
少女姉「……少女に気をつけて。あの子、昔から随分変わったわ」
忠告する程なのか。
はてさて、何がどう変わったのか楽しみだ。
ここまでです
金曜日(日曜日)
それではまた
スマホ新しくなったんですけど、まだなれてなくて……申し訳ない
当方暇な時間にスマホに書いたものを落としている身分でございます
パソコンだと中々モチベーション上がらなくて(というか艦これだとかやりはじめてしまう)、気軽に書けるスマホを採用しています。
ただポケモンGOが現れてしまったので失踪したらポケモン探しの旅に出たとでも考えてください(失踪しないと思いますが)
ポケモンGOをやっているときはね、誰にも邪魔されず、自由で……なんというか、救われてなきゃあダメなんだ(生存報告)
今見直してみるとこのスレあんまり面白くないかもですねぇ……ふぅ……
エタりません勝つまでは
とりあえず……明日投下します
メモ帳がデータごと消えましたワロチ^^
絶望ってあれですね、もう言葉も出なくなりますね
一週間くらいまっててください
少女姉「ここよ」
一時間後、俺たちはかなり綺麗なマンションの前に立っていた。
いかにも高そうな、という言葉がこうも綺麗にハマるのも早々無いな。
女「なるほど……部屋を数室借りて、そこに監禁しているのね」
少女姉「違うわよ? ここのマンション全部、私達が買ったの」
大分スケールが違う話をしているのでそちらは無視して、周囲を確認してみる。
数人、こちらを監視している人間がいるな……マンションは10階建て……視線は敵意ではなく観察……。
少女姉「いい? 少女を刺激するようなことをしちゃダメよ? 何をするか分からないんだから」
男「任せろ。そういうのは得意だ」
妖狐「どの口が……」
少女姉の言葉に従って、ゆっくりとオートロックの玄関に向かっていく。
そして……。
男「少女ちゃーん! あーそーびーまーしょー!!!」ゲシゲシ!
大声で扉を蹴ってみることにした。
少女姉「ちょっと!!!? 人の話聞いてたの!?」
男「少女と話したいんだよぅ少女ぉぉぉぉぉ!!! 開けてくれぇぇぇぇ!!!!!」バンバンバンバン
少女姉「やめなさいって!! 今開けるから!!」ピピピピ……カチャ
0512。記憶した。
男「少女はどこだ!! 少女を出せ!!」
女「……千尋?」
少女姉「だから部屋で寝てるってば!」
男「なぁんだよぉ早く部屋つーれーてーけーよーぉ!」
少女姉「男さんって、こんな人だったの……?」
女「概ね」
少女姉「とりあえず……女を換金部屋につれていくわ」
ヒソヒソ話をしている二人を無視して、俺は駆け出した。
少女姉「えっちょ」
男「糸が伸びてる方に少女はいるんだぜぇぇぇ!!!!」
少女姉「ま、まちなさ…………! な、なんなのよもう!! 糸ってなによ!! とりあえずあなたたち、こっち来なさい!!」
少女姉の追ってくる気配は無かったので、自由気ままに糸を辿っていく。
糸は五階、中央の部屋に伸びていた。
ガチャガチャ……。
鍵はちゃんとかかっているみたいだな。
こうなりゃやることは一つだ。
ピンポンダッシュ!!!
ピンポンピンポンピンポンピンポンダッ!!!!!
……………………カチャ……。
………………カチャン……。
覗き窓を覗いた音が聞こえた。
少女はちゃんと中にいるようだな、糸も動いてたし。
それじゃあもう一回だ。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンダッ!!!!!
……ガタン!! ……カチャ…………。
……カチャ……。
「……誰? お姉ちゃん?」
……いやはや、あの幼少期の頃も大概だったが、綺麗に育って……なんというか、奇妙な感覚だ。
少女「……そこにいるのは、誰?」
男「よう。久しぶりだな?」
バレてるなら仕方ない、と隠れるのをやめる。
少女は、呆けた顔をして、それから顔を真っ赤にさせた。
少女「お、男……さ、ん?」
男「いや、人違いだ」
少女「えっ!? そ、そんな筈ない! 糸も……男さんだ!」ダッ……ブンッ!!
男「おぐぅぁ!!!?」
物凄い威力のボディアタックで、あっさりとマウントをとられた俺は、のたうち回ることもできる席を数度した。
少女「あっあっごめんなさい! え? なんで男さんがここに?」
男「当ててみなよ」
少女「………………私達を……退治しに……?」
男「大正解!! お前を倒しに来た。百パーセント勝てないんだけど、やらなきゃいけないんじゃないかってことで」
少女「え?」
男「え? いやだって少女姉に完敗したし。雰囲気的に少女の方が強そうだし」
少女「………………じゃあ何しに来たの……?」
男「遊びに来た」
少女「遊び、に?」
男「そう遊びに。こっちの方がかっこつくだろ? 少女姉に負けて無理やり連れてこられましたって言うより」
少女「……お姉ちゃんに負けて無理やり連れてこられるのが嫌だから自分から来たっていう体を作ってカッコつけている、ってこと?」
男「おー。少女成長したなぁ。偉い偉い、つまりそういうことだよ」
少女「……男さん……」
男「そんな目で見ないでくれ。お邪魔しまーす」
少女「あっうっ!」
少女を押し退けて部屋の中に入っていくと、ふんわり花の香りがした。
うーん、女の子の部屋っていうには若干無機質だな。
少女「うう……あの……」
男「なに?」
少女「あんまり、じろじろ見ないでください……」
男「久しぶり、元気してた?」
少女「話を飛ばさないでください!? ……いや私よりも男さん、今までどこにいたんですか?」
男「それなんだけどさ、信じてもらえないかも知れないから良いや」
少女「えっ」
男「絶対信じないよ。絶対にね」
少女「そんな……聞いてみなくちゃ分からないじゃないですか!」
男「えー? じゃあ教えるけど……ナイフで刺された話は知ってるよな? あのあと割りとヤバい感じだったらしいんだけど、俺、この時代から過去の少女にあった時代にタイムスリップしてたみたいなんだよね、どうやら」
少女「…………」
男「目覚めたのついさっきなんだよね。二週間眠り続けてたみたいで。信じれるこんなこと?」
少女「あ…………信じ、られます。男さん、昔あった時のまま……」
男「……ふーん。ま、そういうことだ。さて本題だ。何してるんだ?」
少女「……何って……?」
男「いや、最近陰陽師とか襲ってるんだろ? 両親が捕まったんだって?」
少女「……そう。お母さんを人質にされて、お父さんも……!」
男「はぁん。少女も随分変わったな。力を振るうのは楽しいか?」
少女「うんっ、楽しいですよ! 力を使って屈伏させるのは、本当に楽しい……なんで今まで恐れていたのかわからないくらい」
男「なーるほどね。満願成就って訳だ。見つかったのか?」
少女「……ううん。でも絶対に見つける。このまま全員潰しちゃえば、もうおかしな真似をしようとする人なんていなくなると思うから、丁度良かった。でも本当、ここで男さんに会えるなんて、嬉しい誤算だなぁ」
男「ほう、そうなのか」
少女「うん。男さんを、私専用のペットにしようって、決めてたから……もうどこにも行かないように……」
ごめんなさいごめんなさい一回消えてやる気なくなって大分地文省きましたごめんなさい
あ、今日はここまで。
また一ヶ月後にでも(白目
わーまた時間結構経ってますね
近いうちに再開します
すいません……あとで投下できたらします
男「どこにも行かないように、か。なんだ、寂しかったのか? 甘えた根性は生来のものってわけだ」
少女「…………男さん……生意気ですよ? 人間の癖に……」
少女の顔から笑顔が消えた。
元々まともな感情がうかがえなかったし、よしとしておく。
それよりも、こんな挑発程度で怒るとは思わなかった。
男「元来、人間は化け物にたいして生意気なものだ。それはもう……ほら、化け物に生れた宿命って奴じゃないか?」
少女「……………………ばけもの」
男「違うのか? いや、化け物だろ。間違いなく。お前は化け物だよなぁ?」
ガァァン!
………………うわぁ、壁が弾けとんだ。
鉄筋だよな? 間違いなく鉄筋だ。
少女「……やめて。あなたにだけは、そんな風に言われたくない」
男「おっと、怖いな。情緒不安定なんじゃないのか? 病院行ってくるか? おーおーおーこんなに派手に壊してまぁ……ここまでしておいて化け物呼ばわりは拒絶って、ワガママじゃないのかね?」
少女「あなたが教えてくれたの!! 強い方が偉いんだって!! だからっ!! 化け物って言うなっっ!!」
俺の安い挑発に簡単に乗った少女は、首につかみかかって来た。
つかみかかって来たと可愛く言っても、距離を詰めてくるスピードが尋常では無い。
5メートルほどの距離はあったのに、瞬きをした瞬間には目の前に現れていた。
男「止まれ!」
反射的に言霊を放ってみる。
……一瞬の隙も生まれない……いや、動きは鈍くなったのかも知れないが、それも一瞬だけだったという話だ。
男「あぶね」
と軽く言って避けたものの、感情的になった少女が力の制御をするかなんて分からない。
なんだったら、ふとしたミスで俺は死ぬのだろう。
男「壁ドンか、魅力的だな? なぁ、このまま俺は襲われちゃうわけか? 血を吸って眷族にでもするか?」
少女「………………黙れ、動くな」
その一言で、俺の声は封じられた。
少女「男さん……言霊が自分だけの特権だと勘違いして、ましたか? 私にも……使えるんですよ……もっと、強いものを……」
やべー本物の大ピンチ。
喋れない詐欺師に価値なんてないってレベルでやばい。
いよいよ詰んだか?
少女「…………でも、男さんは……私のものにしますから……」
首に近づいてくる少女を止めることもできない。
ま……これはこれで面白い方向に向かうかも知れんし、良いか……。
バリィィン!!
バッシュ! バッシュ!
少女「え……男、さん……どこ……男さん!!!!」
――――――
男「助けてくれた所悪いがな、多分すぐ追いつかれるぞ?」
雷神「運命の赤い糸だろ? ったく、余計なもんばっか引きずりやがって」
男「性分でなぁ、状況を悪くすることには一日之長って奴だ」
風神「会話は私が聞こえていたので全て知っていますよこのキチガイ」
弟「まったくだな。なんでそんなに性格悪いんだ?」
男「仕方ないだろ、教育の賜物だ。それでお前ら丸く納めたんだから許せ」
弟「それはそうだな。でも悪かった、こっちのせいで長い間寝ることになってさ」
男「気にするな。それより、助けてやるなんて大見得切ったのに先に助けられることになって悪いな」
弟「友達は助け合うもんだろ? だよね、姉さん」
風神「ええ、その通りよ。こんなキチガイでも、弟くんの大事な友人だから。チッ」
男「さぁてと……どうするかねぇ。色々分かったことはあるけど、だからって止まるもんでもないわな。どうなのよ、お前らあいつらと戦って勝てる?」
雷神「勝てるは勝てるぜ。命の保証はしねぇけどよ」
男「あぁそりゃだめだ、却下だな」
弟「だよなぁ……俺もあんなかわいい子に死んでほしくない」
風神「弟くん。……弟くん」
弟「姉さんの方がよっぽど可愛いし美人だけどね!!」
男「敷かれてんなぁ」
弟「うう……姉さんのことは好きだけど男として情けない……」
男「どうするかね……お前らって戦力に頼れるのはいいんだけど、うまく納める方法が浮かばん」
雷神「とりあえず一度降りるぞ。どうせ位置はバレてんだ、逃げ回っても意味ねーし」
男「この赤い糸なら外れるぞ?」
風神雷神「え?」
男「ほれ」スッ
風神「……あ、赤い糸を……ええ!? そんな話聞いたことが無いぞ!?」
雷神「それは概念的な存在でそもそも触れられるものですらねーはずなんだけど……」
男「知らないよ。よくこれに振り回されてたし」
風神「まったく……お前はいったいなんなんだ……?」
弟「姉さん、赤い糸ってなんのこと?」
風神「ん、あ……弟くんには見えなかったわね。今男くんの手首に、さっきの少女ちゃんへの【運命の赤い糸】が繋がってるのよ。それがある限りどこに逃げても無駄だし、本来誰かがどうこうできるはずのものでも無いんだけど……」
弟「運命の赤い糸って本当にあったの!?」
男「どうする? 外す? これがあれば少女の位置もこっちから分かるって利点もあるけど」
風神「……いえ、まだそのままにしておきましょう。いきなりの遭遇は、できれば避けたいから」
男「ふーむ、それもそうだな」
何ヵ月ぶりかも忘れました
他のSS書いてたり、完全に書く気無くしてたんですけど、暇なときにまた投下したりします
遅くなって申し訳ない
このSSまとめへのコメント
期待
なんか雲行きが怪しく....?
続きはよ!
完結してるじゃねええええかぁぁぁぁ!!!!
途中で終わらんといて....