男「ほう。では、そのたわわな胸を揉ませてもらおうか」
天使「そうすればあなたは幸せになれるんですか?」
男「そうだ。俺はすごく幸せになれる」
天使「そうですか。どうぞ、お揉みください」
男「……ふむ、これはドッキリとか冗談とかそういう類ではないのか?」
天使「どうぞ、お揉みください」
男「騙されんぞ! 俺が揉んだ瞬間、警察を呼んで痴漢として訴える気だろう?」
天使「それがあなたのお望みなら、そうしますが」
男「お、おい! やめろ。携帯を取り出すな。今のは違う」
天使「そうですか」
男「本当に揉んでいいのか?」
天使「はい。それであなたが幸せになるのでしたら」
男「ふむ、いいだろう。良い精神科を紹介してやろう。まずは家の連絡先を教えて貰おうか」
天使「連絡先ですか? 天界になにか用事でもあるんですか?」
男「いつまでこの茶番を続ける気なのか」
男「いや、まぁ、中二病患者だから仕方ないか。ああ、そうだ、天界とやらに用事がある」
天使「神様に会いたいんですか?」
男「神様だと? 親か? ああ、そうだ。神様とやらに連絡を取ってくれ」
天使「では、わたしに捕まってください」
男「はぁ? なんで、その携帯で連絡取れば――っておい、手を掴むな!」
天界
男「って、ここはどこだ!?」
天使「天界です。正確には神様の部屋前ですけど」
男「は?」
天使「神様、わたしの主様が用事があるということなので連れて参りました」
男「え? ま、まじかよ。本当に、この女、天使だったっていうのかよ」
扉 ギギギ
神「……」
男「このおっさんみたいなのが……神?」
神「天使ちゃ~~~~ん」ギュッ
天使「お、お父様、やめてください」
男「お、お父様?」
神「ふん、この糞餓鬼が天使ちゃんの担当か」
天使「はい。男様と言います」
男「や、やばい。展開ついていけないぞ」
神「おい、糞餓鬼。天使ちゃんに変なことしなかっただろうな?」
男「え?」
神「変なことしてたら殺す」
男「ひ、ひぃ」
天使「お、お父様!」
神「く~~~~~なんでよりによって男なんだ!? 女の子ならこんなにパパ心配しなくてもいいのに!」
天使「仕方ないですよ。この試験はいくらお父様でも干渉出来ないんですから」
神「糞っ、もっと根回ししておくんだった」
男「マジで置いてきぼりだ。俺はきっと夢を見てるんだな。さっさと覚めろ」
天使「主様」
男「え?」
天使「お父様に何か用事があるのではないのですか?」
神「ほう。糞餓鬼、俺になにか言いたいことでもあるのか? 良いだろう。聞こうじゃないか」
神「人間風情の糞餓鬼が、神である俺に、何の、用があるって?」
男「ひ、ひぃ」
天使「お父様! 主様を脅さないでください!」
神「ご、ごめんね。天使ちゃん。そんなつもりないだよ?」
天使「なら、いいですけど」
天使「主様、もう大丈夫ですから」
男「と、とにかく、質問していいんだな?」
神「ああん? いいんですか? だろ? なにタメ口聞いてんだ?」
男「ひぃ!」
天使「お父様!」
神「ご、ごめんね。パパのこと嫌いにならないでね」
天使「まったく、お父様ったら」
男「こ、ここは天界なんですよね?」
神「まだ信じられないか? 話すのめんどくせぇな。おらよ」パチン
男「え? なに?」
――回想――
神「お前らは見習い天使だ」
神「立派な天使になる為には試験を受け、合格する必要がある」
神「ひとりの人間を幸せにするという試験だ」
神「その人間が死ぬまで試験期間」
神「その人間が幸せな人生を送れたなら、合格。そうでないなら、不合格」
神「天力ってのは知ってるよな?」
神「奇跡の力ともいう。お前たちはそれを使って人間を幸せにする」
神「天力は便利だが、気をつけろよ。使い過ぎると死ぬからな」
神「ま、そういわけで、天使ちゅわ~~~~~ん! パパ応援してるからね~~!」
――――――
男「い、今のなんだ?」
神「ま、そういうわけだ。お前は試験の対象に選ばれた」
男「(さっきまで胡散臭いし、夢だと思ってたのに、今は納得してしまう)」
神「戸惑ってるみたいだな。まぁ、くれぐれも天使に迷惑かけんなよ? 絶対幸せになれ」
男「は、はい」
天使「そういうこと言わないでください。主様はわたしの力で幸せにしてみせるんですから」
神「そうだよね~~! 天使ちゃんなら出来るよ! 出来るのよな?」
男「は、はい!(く、糞、本当にこいつが神であると判ってしまった所為か、迂闊なことが言えん!)」
天使「お父様!」
自宅
男「はぁ……」
天使「大丈夫ですか? 主様」
男「あ? いや、ちょっと疲れただけだ。気にするな」
天使「そうですか」
男「はぁ……」
天使「胸お揉みになりますか?」
男「な! なに言ってるんだよ、お前は!」
天使「え? 主様はわたしの胸を揉むと幸せになるんですよね?」
男「ば、ばか! そんなことしたらあいつに殺されるだろうが!」
天使「! だ、誰ですか! 主様を殺そうする者は! すぐに排除します!」
男「お、お前の父親だ」
天使「お父様が? そんな、お父様が主様を殺そうとするなんて……」
男「ああ、する。絶対殺すだろうな」
天使「お父様はわたしを応援してくれてるものと思ったのに……わたしは嫌われているのでしょうか」
男「……いや、溺愛してるからだ」
天使「いくらお父様でも主様を傷つけることは絶対させません! 大丈夫です、安心してくださいね」
男「は、はは。ま、まぁ、頑張ってくれ」
天使「はい! お任せください!」
翌日
天使「主様、起きてください」
男「あ、うん、誰だ?」
天使「天使ですよ」
男「天使……うわあ!」
天使「ど、どうかなさいましたか! 敵ですか!? 排除します!」
男「ち、違う。そうじゃなくて、ちょっと、びっくりしただけだ」
天使「そうですか。安心しました」
男「やっぱり夢じゃないんだな」
天使「はい?」
男「いや、なんでも」
リビング
姉「朝食の用意できたよ」
男「あ、姉貴。て、天使、すぐに隠れ――」
姉「天使ちゃん、おはよう」
天使「おはようございます、姉様」
男「え?」
天使「父様もおはようございます」
父「うむ、おはよう」
男「え?」
天使「それはわたしが居たところではよく定番に作られてた――肉じゃがに似たものです」
姉「あ、そうなの? 超うまいんですけど」
天使「わたしの母が作ってくださったものです。喜んでもらえてうれしいです」
男「……」
天使「主様もどうですか? 母の得意料理、とてもおいしいですよ」
男「あ、ああ、もぐっ……確かにうまいな」
父「うむうむ、うまいな。母さんより断然うまい」
姉「うわっ、そこは母さんと同じくらいにしときなよ。罰が当たるよ」
父「うむ、しかし、母さんの飯は不味かったからなぁ」
姉「あ、それは言えてる。でも、癖になる味だったよね」
天使「そうなのですか?」
父「うむ、あれは癖になる不味さだ。食べたくなったきたな。姉、おかわり」
姉「なにそれ、あたしの料理が母さんと同じだって言うわけ?」
父「あ、あ、その目、母さんと一緒。ぞくぞくする」
姉「ウチの男どもは変人だから、注意してね、天使ちゃん」
天使「そ、そうですね」
男「お前……なんでそんなに馴染んでるんだ!」
姉「なに、いきなり。ほらね? 変人でしょ?」
天使「そんな主様は変人なんかでは」
男「おい、天使、これはどういうことだ。何故、お前は普通に馴染んでいる」
天使「それは」
男「姉貴もどうしてこいつと親しそうにしている!」
姉「なに言ってんのよ? 天使ちゃんはウチで預かってる遠い親戚の子でしょ?」
男「は?」
天使「主様、天力でそういうことにしてるのです」
男「ぐっ、な、なるほど」
姉「てかさ、前から気になってたんだけど、その主様っていうの」
天使「はい? 主様がどうかしたんですか?」
姉「あ、いや、天使ちゃんはこの馬鹿に騙されて言わされてるとは知ってるからね」
姉「男、あんたが前から変人で変態で、中二病なのは知ってるけど、流石にないわ」
男「ちょ、ちょっと待て! 違う! 俺は言わせてなんかいないぞ!」
姉「じゃあ、なんで天使ちゃんはそうあんたのこと呼んでるのよ」
男「それはこいつが勝手に呼んでるだけで――」
天使「す、すみません。そうです。わたしが勝手に呼んでいるだけなんです」
姉「……」
男「お、おい、天使、そんな言い方するとまるでお前が俺を庇ってるように見えるぞ」
姉「最低ね、あんた。流石父さんの子どもだわ」
男「貴様もあいつの子どもだからな!」
姉「あたしはきっと母さんが浮気して出来た子どもだと信じてるから」
男「そ、それなら俺だって」
父「くっ! 子どもたちが酷い!」
天使「だ、大丈夫ですよ。父様は素敵な方です。姉様も主様も照れているだけです」
父「天使ちゃん……キミはなんて良い子なんだ。どうだい? おじさんと結婚しないか?」
天使「え? そ、それは」
姉「死ね! ド屑が!」ギシッ
父「あうっ! 良い! 良い! この感じ懐かしい!」
男「俺は絶対、母さんが浮気して出来た子どもだ。そうに違いない。いや、そうであってくれ」
玄関前
天使「学校ですか?」
男「ああ、それくらい知ってるだろ」
天使「はい、わたしも一応、学生の身だったので」
男「じゃあ、話は早いな。俺は学校に行く」
天使「そうですか。ちょっと待ってくださいね。わたしもすぐ準備を」
男「しなくていいからな。お前はついてくるな」
天使「ど、どうしてですか?」
男「当たり前だろう。お前、学校の方まで、その天力という奴で記憶を改ざんしたのか?」
天使「い、いえ、流石に学校の人数となるとかなりの天力を浪費するので」
男「だろ? だったら、大人しく家で待っていろ」
天使「し、しかし、わたしには主様を幸せにするという使命が」
男「じゃあ、お前が家で大人しくしてることが幸せだ」
天使「そ、そんな」
男「じゃあな、まぁ、四時くらいには戻る」
天使「……はい」
バタン
登校路
男「にしても、天使ね」
男「あの神に記憶を見せられるまでは信じられなかったが」
男「実際、姉貴とか父さんの記憶が書き変わってるし、信じるしかないよな」
男「あいつ、天力っていうので、魔法みたいな力を持ってるんだよな」
男「金持ちになる、ハーレムを作る、良い食い物を食う」
男「色々頼みたいことはある」
男「世界を征服するなんてのも、良いな。今まで俺様をコケにしてきた屑どもを一掃するのも素晴らしい」
男「よくよく考えると、俺はすごい力を手に入れたんじゃないのか?」
男「ふふふ、はははは!」
幼女「ママーあの人」
幼女母「見ちゃいけません!」
男「とにかく家に帰ったら、なにか願いを叶えて貰うとするか」
男「なにがいいか」
男「そうだな、まずは大金持ちにでもしてもらおうか」
学校
男「ふふふふ」
友「よっ、どうした? いつもより更にきもい笑い方して」
男「貴様、今のうちだぞ。俺にそんな軽口叩けるのは」
友「はぁ、そうですか」
男「なんたって、俺は天使の力を手に入れたんだからな!」
友「今日はいつにも増して電波だね」
男「ふん、馬鹿め。今のうちに媚を売っていれば、お前を優遇してやったかもしれんのに」
友「はいはい」
幼馴染「友くーん、はい、これ委員会の資料」
友「ありがとう。幼さん」
男「……」
幼「あ」
男「なんだ、貴様。なにをじろじろ見てる」
幼「……まだそんな喋り方、してるんだね」
男「ほう、俺にケチをつけるつもりか? 相手になってやろう。悪女」
幼「……」
男「無視とは良い度胸だな。ぺったんこの癖に」
幼「……懲りないんだね」
男「チッ……鬱陶しい奴だな。そんな目で見てくるな、悪女」
幼「……じゃあ、友くん、また委員会で」
友「あいよ」
男「ふん」
友「相変わらずギスギスしてるね、キミら」
男「知らん。あいつがそういう空気を醸し出してるだけだ」
友「そうかな。お前がまともな喋り方したら、また昔みたいに仲良くなれると思うけどな」
男「あの悪女と仲良くだと? 笑わせるな」
友「はいはい、本当は気にしまくってる癖に。素直じゃないな」
男「ニヤニヤするな。気持ち悪い」
家
天使「暇です」
天使「主様は大丈夫でしょうか? なにか辛い思いをしていないでしょうか」
天使「心配です」
姉「あれ? 天使ちゃん」
天使「あ、姉様。大学の方は大丈夫なんですか?」
姉「うん、まぁ、昼からだし」
天使「そうなのですか。あの、なにか手伝えることありませんか?」
姉「手伝えること? べつにとくに無いけど」
天使「そうですか」
姉「そんな悲しそうな顔しなくても……じゃあ、買い物にでも行く?」
天使「買い物ですか? はい! 喜んで――」
――回想――
男「じゃあ、お前が家で大人しくしてることが幸せだ」
――――――
天使「申し訳ありません。買い物には、ちょっと」
姉「そうなの?」
天使「はい……折角提案して頂いたのに、本当にごめんなさい」ペコ
姉「いや、そんな大げさに謝らなくても」
天使「外に出ずに家でなにか手伝えることはありませんか?」
姉「うーん、じゃあ、洗濯物畳んでくれる?」
天使「はい! 喜んで!」トコトコ
姉「嬉しそうな顔して行っちゃったな」
姉「そんなに暇だったのか、それとも、居候として居心地悪かったのか」
姉「もう日にちも経ってるし、慣れて欲しいよね」
姉「あれ? そういえば、あの子がウチに来たのいつだっけ?」
姉「うーん……思い出せない」
姉「ま、いっか」
学校 放課後
男「ふふふふふふふ」
友「その笑い方どうにかならない? 完璧に不審者だよ」
男「ついに放課後がやってきた」
友「そうだね」
男「見ていろよ。友よ。明日、俺は大金持ちになっている」
友「へー」
男「媚びるなら今のうちだぞ? 今なら、俺も機嫌が良いからな。いくらか分けてやってもいい」
友「そうなの? でも、媚びるって言われても、よくわかんないしなぁ」
男「俺を男様と呼べ」
友「えー……男様」
男「いまいち敬意がこもってないぞ。もっと俺を敬う感じにだな」
クラスメート女子「友く~~ん、一緒に帰ろう~~?」
友「は~~い。というわけで、帰るね」
男「おい、まだちゃんと敬意を込めて男様と呼んでないぞ」
友「はいはい。じゃあ、また明日、男様」
男「く~~~! 明日後悔させてやる! 千円札何枚かで頬を叩いてやる!」
幼「……」ジーッ
男「ん?」
幼「っ……」プイッ
男「ふんっ……帰るとするか」
帰宅
男「ただいま、今帰ったぞ」
天使「主様! おかえりなさいませ」ペコ
男「お、おう、来るの早いな」
天使「鞄持ちますね」
男「うむ」
男の部屋
天使「上着を脱がせますね」
男「うむ」
天使「シャツを脱がせますね」
男「うむ」
天使「ズボンを脱がせますね」
男「うむ」
天使「下着を脱がせますね」
男「う、それはやらなくていい!」
天使「そうなのですか? 清潔な下着に穿き変えた方が気持ち良いと思いますが」
男「そ、そうかもしれんが、風呂の時に着替えるからいいんだ」
天使「そうですか。主様がすぐ着替えられるように下着を持って待っていたのですが」
男「は?」
天使「片時も離さず持っていたのですが」
男「き、貴様、俺の下着をずっと持っていたのか!」
天使「はい、朝方洗濯物を畳んでいたのですが、その時に主様の下着を見つけまして」
天使「豊臣秀吉様を見習って主様がすぐに穿けるように温めておきました」
男「なっ、な!」
天使「どうぞ、お使いください、主様」ニコニコ
男「……」
天使「そ、そんな……温めていた下着を再度洗濯するなんて……」
男「当然だ」
天使「なにが間違っていたのでしょう……織田信長様は喜んでくださっていたのに」
男「全部だ。色々、お前はおかしい」
天使「そ、そんな。わたしはただ主様に喜んでほしくて」
男「あんなの喜ぶのは変態だけだ。鳥肌が立つわ」
天使「ふ、不快だったのですね。申し訳ありません……」
男「そんな気落ちするな。いますぐに俺が喜ぶようなことを教えてやる」
天使「本当ですか!」
男「ああ、お前がこれを叶えてくれれば、俺も俺の家族もハッピーになる」
天使「そ、そんなすごいお願いが。教えてください!」
男「ああ、そんなに焦らなくても教えてやるよ」
天使「お金……ですか?」
男「ああ、人間が一番喜ぶのは金だ。金さえあればどんなものでも得られるからな」
天使「な、なるほど。わかりました。お金をここに出せばいいんですね」
男「ああ、お前の天力とかいう奴で俺を大金持ちにしろ」
天使「わかりました。頑張ってみます」
男「おう。ん? なんだ、その変な小さいガラス玉のようなものは」
天使「これですか? これは天力を行使するのに必要な道具のようなものです」
男「ふーん」
天使「では」
男「……」ゴクリ
男「……(魔法みたいなものだしな。詠唱みたいなことでもするのか? ふふふ、少し楽しみだ)」
天使「お金よ! 出てきてください!」
男「え、それだけ?」
ピカーン
天使「で、出来ましたよ! 主様!」
男「ふんっ、まぁ、いいだろう。金さえ手に入れば」
天使「はい、どうぞ!」
男「ふむ、いくら、出てきたかな? 100万くらいは――って、小銭?」
天使「はい! いっぱい、出てきましたよ! わたし、すごいです!」
男「一円玉がざっと20枚」
天使「主様! 褒めてくださいますか?」ニコニコ
男「ふふふ」
天使「ふふふ?」
男「ふざけるな!」
天使「え? え? だ、ダメでした? これってお金じゃありませんでした?」
男「こんな小銭で満足できるか! って、そうか。お前、紙幣を知らないのか」
天使「紙幣ですか?」
男「つまり」ゴソゴソ
天使「?」
男「これだよ。今は千円しか持ってないが、まぁ、いいだろう。こいつを増やせ」
天使「これを増やせばいいんですか?」
男「いや、待てよ。これをそのまま増やせば、同一の札が増えるわけか」
天使「これを増やさないのですか?」
男「いや、こいつを増やせ」
天使「なんですか? これ」
男「五百円玉だ。こいつなら増やしても問題無いはずだ」
天使「わかりました。これを増やせばいいんですね」
男「ああ、次こそは大金持ちだ」
天使「五百円よ! 増えてください!」
ピカーン
天使「あ、あれ?」
男「増えたのか! って、また一円玉ではないか! しかも、さっきより減って5枚!」
天使「お、おかしいですね」
男「おい、どういうことだ。天使」
天使「ど、どうやらお金を増やすのは制限されてるようです」
男「はぁ?」
天使「主様は言ってましたよね、人間が一番喜ぶのはお金だって」
男「だからどうした?」
天使「これは試験ですから、そう簡単にお金が手に入らないようになっているんです」
男「は、はぁ!?」
天使「簡単に幸せが手に入ったら、試験の意味がありませんから……」
男「ば、馬鹿な……じゃ、じゃあ、お前はただの」
天使「お、お金は手に入りませんでしたが、きっといつか主様を幸せにしてみせます!」
男「居候じゃねぇかあああああああああああああああ!」
翌朝
男「おい、俺はイケメンにしろと言ったんだが」
天使「はい、さわやかでとても格好良いです」ニコニコ
男「は、はは、これはいつもの俺の顔だ!」
天使「は、はい? そうですね。とてもイケメンです」ポッ
男「頬を染めるな! 俺はイケメンにしてくれと貴様に頼んだ」
天使「はい。とてもイケメンです」
男「ふふふ、イケメンと言っておけば良いと思うなよ、貴様」
男「全然顔が変わってないではないか! 精々、髭が剃られ、眉毛が綺麗に整ってるくらいだ!」
天使「不精は良くないですからね」
男「俺は別に顔を綺麗にしろと言ったんじゃない。イケてる面子。イケメンにしろと言ったのだ」
天使「はぁ……イケメンだと思うのですが」
男「いいだろう。貴様は無知だからな。イケメンという奴を教えてやる」
リビング
男「確かこの辺に雑誌が……あった」
天使「雑誌にイケメンさんが載っているのですか?」
男「ああ、見てみろ。これがイケメンだ」
天使「ああ、これが」
男「この顔に変えろ……っていうのは危険か。俺の顔の面影を残しつつ、こういう顔にしろ」
天使「……」
男「どうした? 早く変えろ」
天使「わたしはこの人より、主様の方がイケメンだと思いますが」
男「ふんっ、天使の感性など知らん。一般的にモテているのはこの顔だ。さっさと変えろ」
天使「……わかりました。これで主様は幸せになれるんですよね?」
男「ああ、なれる」
天使「……主様よ……こういうイケメンになってください……」
ピカーン
男「貴様、全然やる気が感じられんぞ。しかし、よくやった。早速、鏡を見てくるか」
天使「あ……主様、格好良い……」ポー
男「ほう。そんな見蕩れる程、イケメンになったか。ふふふふ」
鏡
男「おい……どういうことだ。貴様」
天使「はい、なんでしょう」
男「髪型が変わっただけではないか!」
天使「はい……とても似合ってます。あのイケメンさんより全然」
男「俺は! 顔を! 変えろ! と言ったのだ!」
天使「……そうしましたよ? 嫌でしたけど、ちゃんとさっきの雑誌のイケメンさんの顔になるように」
男「じゃあ、なんで変わってないのだ」
天使「そ、そんなこと言われましても……もしかしたら、これも制限がかかっているのかもしれません」
男「また制限か……」
天使「きっと一般的なイケメンになると、主様が言っていた通り」
天使「モテモテになってすぐに幸せになるからじゃないでしょうか。それを防ぐために」
男「制限がかかっていると」
天使「はい」
男「使えねぇえええええええ!」
天使「主様はイケメンですから。きっと顔を変えなくてもモテモテになりますよ」
男「ふふふふふ、彼女居ない歴=年齢の俺様をなめるなよ、貴様」
天使「ほ、他の幸せを探しましょう。異性との付き合いだけが幸せではないと思いますし」
男「ほう。金ダメ。女ダメ。後はなんだ? 食い物か? 上手い食い物が食いたい」
天使「わかりました。今晩、丹精込めて作りますねっ」
男「え? 作るつもりなのか?」
天使「朝食はもうお取りになりましたし、昼食はお弁当ですし、わたしが作れる時は夕食の時しか」
男「そうじゃなくて、その天力とやらで出すんじゃないのか?」
天使「おいしいものと言われましても、具体的ではないと出せませんし」
男「それもそうだな……では、キャビア出してもらおうか」
天使「キャビア?」
男「サメの卵だ。超高級食品でうまいらしい」
天使「べつにおいしいものでしたら、わたしが作りますのに」
男「いらん。俺が食いたいのは高級なものだ」
天使「むぅ……そうですか。わかりました」
男「次こそは出せよ。食い物だし、幸せになるとしても、一瞬だ。次なら成功するだろう」
天使「頑張ります。すぅ……はぁ……」
男「……」
天使「キャビアよ! 出てきてください!」
ピカーン
天使「ひぃ! て、手に」
男「な、なんだ? どうかしたのか?」
天使「て、手に粒々ぬるぬるしたものが……」
男「ほう。ようやく成功したか!」
天使「は、早く取ってくださいっ」
男「まぁ、落ちつけよ。ただサメの卵だ……ふふふふ」
天使「ど、どうかしたんですか? 早く取ってくださいっ」
男「おい、天使、キャビアはなに色だ?」
天使「え? えと、オレンジですか?」
男「黒だ」
天使「じゃ、じゃあ、これは」
男「これはサケの卵でいくらと言う」
天使「……」
男「……」
天使「さ、サメもサケも似たようなものですよ」
男「最近、思うのだ、天使よ」
天使「な、なにをですか?」
男「貴様は役立たずだぁあああああああ!」
学校
男「まったく使えない天使が……あれじゃ、本当にただの居候ではないか」
友「よっ、髪型変えた?」
男「あ? ああ、そうだな」
友「ふーん、結構似合ってるじゃん」
男「ふんっ」
友「で、金持ちになった?」
男「ふふふふふ、見ろ。これだけ儲かった」
友「一円玉がにのしのろの……25枚」
男「どうだ」
友「すごいお金持ちになったね」
男「……」
友「男様はそれからいくら恵んでくれるのかな?」
男「全部貴様にやるよ」
友「わっ、本当にくれるんだ」
男「くそっ、こんなつもりじゃなかったんだ」
友「ふーん」
男「あいつがあそこまで使えないなんて想定外だ」
友「よくわからないけど、色々あったんだね」
男「そうだな……本当に……色々……使えなかった」
友「まぁ、元気だしなよ。今日、ゲーセン行くつもりなんだけど、来る?」
男「また夜遅くまで遊ぶことになるだろ」
友「なんか用事でもあるの? 男は」
男「用事ねぇ」
――回想――
天使「今晩は丹精込めて作りますので、楽しみしてくださいね!」
男「ふんっ、貴様には失望したんだ。期待などしない」
天使「そ、そんなぁ」
――――――
男「……そうだな、あるかもしれない」
友「ふーん、そっか。久しぶりに男と遊びたかったんだけどな」
男「ふんっ、女とデートでもしてろ」
友「はは、昨日、彼女とは別れたんだ」
男「……またか。この女泣かせが」
友「傷心なのに酷いなぁ」
男「何度傷心になれば気が済むんだ、貴様は」
友「さぁね。仕方ない、前から目星をつけてた一年の娘を誘ってみるかな」
男「刺されてしまえ」
校門
男「今日は寄り道せず帰るか」
幼「あ」
男「……なんだ、貴様」
幼「べ、べつに」
男「ふんっ」
幼「……」スタスタ
男「……」スタスタ
幼「つ、ついてこないでよ」
男「ふざけるな。誰がついてきてるって?」
幼「あなたに決まってるでしょう」
男「なんで俺が貴様なんかの後をつけなければならないんだ」
幼「じゃ、じゃあ、なんでこっち歩いてるのよっ」
男「自分の家に帰っているからに決まっているだろうが」
幼「そ、それもそうか」
男「ふんっ」スタスタ
幼「……」スタスタ
男「貴様、なんで並んで歩いているんだ?」
幼「べつに並んでなんかいないっ」
男「いいだろう。俺が先に行く。お前はここで俺が見えなくなるまで待っていろ」
幼「ど、どうしてわたしがそんなことしなくちゃいけないのよ! そっちがしなさいよ」
男「どうして俺がお前なんかの為にここで突っ立ってなきゃならんのだ」
幼「こっちだって同じよ」
男「……」
幼「……」
男「ふんっ」スタスタ
幼「あっ……むぅ」スタスタスタ
男「なっ! こ、この」スタスタスタスタ
自宅前
男「はぁ……はぁ……」
幼「はぁ……はぁ……」
男「ふんっ」スタスタ
幼「……」
扉 ガチャッ
男「……ふんっ」バタンッ
幼「……」
幼「なによ」
幼「馬鹿」
玄関
天使「おかえりなさいませ、主様!」
男「……」
天使「なにかあったのですか?」
男「いや、べつに。それより、お前、食材とかはちゃんと買ったのであろうな」
天使「はい! 姉様と一緒に買い物に行ってまいりました」
男「ふーん」
天使「今日はカレーを作るつもりです」
男「そうか。期待せずに待ってる」
天使「す、少しは信用してください、主様」
男「無理だな。あれだけの失態をやらかしたんだ。俺の信頼を取り戻すのは相当厳しいぞ」
天使「そ、そんなぁ」
男「ふんっ」スタスタ
天使「あ、着替えお手伝いします」
男「いい。下準備でもしていろ」
天使「あ……はい」
男「なに落ち込んでいるのだ。料理において下準備は大切だぞ」
男「それを怠らないように気を使ってやっているのだから感謝しろ」
天使「そ、そうだったんですか。ありがとうございます! 頑張りますね! 主様!」
男「ふんっ」
天使「♪~~」トコトコ
夕飯
男「……」
天使「……」ドキドキ
男「……うまい」
天使「本当ですか!? うれしいです!」
姉「ほらね、大丈夫だって言ったでしょう?」
天使「はい! ありがとうございます、姉様」
男「なんか納得いかない」
天使「なにがですか?」
男「貴様はダメダメで定着し始めてるのだから、料理も不味くないとキャラが崩壊し始めるだろうが」
天使「そ、そんなぁ……」
姉「本当にあんたは素直じゃないよね。そんなじゃ天使ちゃんに嫌われるよ」
男「ふんっ……まぁ、うまかったから、これからは家賃代わりに料理を作れ」
天使「は、はいっ、ありがとうございます。主様」
姉「ふ~~~ん」
男「なんだ? なにを見ている」
姉「べつに~~。案外あんたも嫌われたくないんだなぁってね」
男「ふんっ、これで姉貴の不味い料理からおさらば出来ると思っただけだ。他に他意は――」
姉「そう。あんたも不味いと思っていたの。へー、そう」
男「い、いや、待て。冗談に決まってるだろう? 独特な味付けで、俺も親父も虜になっているしな!」
姉「なに? 母さんと同じだって言いたいの? 母さんのあの不味い料理と一緒だって、言いたいの?」
男「ち、違う! 落ち着け! そうじゃない。俺はただ――」
男の部屋
天使「大丈夫ですか? 主様」
男「い、痛!」
天使「ご、ごめんなさい!」
男「も、もっと優しくしてくれ」
天使「はい。こうですか?」
男「ああ、それくらいなら」
天使「はい。治療、終わりました」
男「……――がと」
天使「え?」
男「ふんっ、御苦労であったな。もう部屋出ていいぞ」
天使「はい。お邪魔しました」ペコ
バタンッ
男「ふんっ」
翌日 昼
テレビ「(学園ドラマ)」
天使「……」
テレビ「男優『俺はお前が好きなんだ』女優『あたしも前からあなたのことが好きでした』」
天使「……」ゴクリ
テレビ「(キスシーン)」
天使「はわわわ」
テレビ「(濡れ場シーン)」
天使「ひ、ひぃいい!」
テレビ「(学園ドラマ――終了)」
天使「に、に、人間の学校がこんな破廉恥な場所だったなんて」
天使「あ、あ、主様も誰かと……」
天使「(妄想中)」
天使「だ、ダメです。そんなの破廉恥です。不健全です」
天使「こ、こんなの……本当の幸せじゃありません」
天使「主様の目を覚まさせないと! で、でも、わたしは学校に来ることを禁止されてますし」
天使「どうしたら……」
姉「学校に行きたいの? 天使ちゃんは」
天使「え! あ、姉様? き、聞いていたのですか?」
姉「『学校に来ることを禁止されてますし』ってのが聞こえてね」
天使「そ、そうですか」
姉「で? 行きたいの?」
天使「……(あ、あんな破廉恥なことする場所に行きたいなんて思わないですけど)」
天使「(でも、わたしは主様をお助けしたいし……主様を助けられるのはわたししか)」
天使「行きたいです!」
姉「そっか。じゃあ、父さんと後は天使ちゃんのお父さんとお母さんに連絡を取って」
天使「え? わたしのお父さんとお母さんって……お父様とお母様ですか!」
姉「そうだけど? 流石にあたしたちで決められないからね。今から電話して――」
天使「で、で、電話はわたしからします!」
姉「え? まぁ、そうしてくれるんなら助かるけど」
天使「あ、ありがとうございます」
姉「あ、うん、どういたしまして?」
天使「で、では、電話してきますね」タタタタタ ガチャ バタンッ
姉「うん……なんで外に出て行ったんだろう」
外
天使「天界に移動」
天界 神の部屋
神「おっ、おお! 天使ちゃ~~~~ん! どうしたの? 最近、連絡無くてパパすごく心配したんだよ!」
天使「お父様、わたし学校に行きたいです!」
神「え? 学校?」
天使「はい、人間の学校に通いたいです!」
神「ふむ」パチン
天使「お願いします」
神「なるほど、あの糞餓鬼を守る為に学校に行きたいということだね」
天使「はいっ」
神「(人間界の学校を勘違いしてる天使ちゃんかわいい!)」
神「いいだろう。人間の学校に通うのも良い経験になるだろう」
天使「! ありがとうございます。お父様」
神「その代わり、パパは手を出せないから、手続きは自分でやるんだよ?」
天使「はい」
神「記憶を改ざんは試験官に頼むから大丈夫だよ?」
神「他の見習い天使だって彼らにやってもらっているんだから」
天使「はい」
神「じゃあ、最後にママの許可を取りに行きなさい」
天使「わ、わかりました」
女神の部屋
天使「お、お母様」
女神「あら天使。今は試験中では無かったの?」
天使「そ、そうなのですが、実は」
女神「大丈夫。今パパから事情を聞いたわ」
天使「だ、ダメでしょうか?」
女神「そんな弱気でどうするの」
天使「え?」
女神「そこはなにがなんでも学校に行くというところでしょう?」
天使「え、あ、はい……」
女神「そんな曖昧な感じであなたの主を助けられるの?」
天使「!」
天使「そ、そうですよね。わたし、行きたいです! いえ、行きます!」
女神「うん、そうそう。女の子は積極的にならなくちゃ」
天使「じゃあ、行ってきます! お母様!」
女神「(ああ、人間界の学校を勘違いしてる天使かわいい)」
リビング
天使「姉様! お父様とお母様の許可貰いました!」
姉「そう、じゃあ、後は父さんだけね」
天使「はい!」
姉「まぁ、父さんなら大丈夫だよ。てか、かなり嬉しそうね」
天使「はいっ、(こういう形とはいえ)主様と同じ学校に通えますから」
姉「本当、天使ちゃんは男のことが好きだよね」
天使「はいっ、主様ですから。あ、姉様も父様も好きですよ」
姉「そういう好きじゃないんだけど……まぁ、いっか」
天使「?」
学校
男「……」ブルッ
友「どうしたの? 急に身体震わせて」
男「い、いや、急に嫌な予感がして」
友「それってあれじゃない? 霊感って奴」
男「俺は霊なんて信じてない……ともいえないか、天使が居るし」
友「え?」
男「いや、べつに。次の授業始まるし、行くぞ」
友「あいよ」
帰宅
男「ただいま」
姉「おかえりー」ニヤニヤ
男「ん?」
天使「主様、おかえりなさいませ!」
男「うむ」
天使「主様、主様、わたし学――」
姉「ちょっと待った!」
天使「むぐっ!」
男「?」
姉「は、はは、天使ちゃん、話があるからこっち来てね?」
天使「……」コクコク
男「なにやってるんだ? あいつらは」
姉「だめでしょ。バラしたら」
天使「え? ど、どうしてですか?」
姉「どうしてって……そんなの」
天使「そんなの?」
姉「(面白くないじゃない……なんて言えないか)」
姉「サプライズをバラしたら意味ないでしょ?」
天使「サプライズ?」
姉「そう。男を驚かせて、喜ばすの」
天使「主様は喜んでくれるんでしょうか……?」
姉「喜ぶに決まってるでしょう」
天使「で、でも、主様はわたしを学校に来るの禁止してましたし、ちゃんと許可を取らないと」
姉「いいの、いいの。あいつ、素直じゃないから」
姉「本当は天使ちゃんと一緒に学校通いたいと思ってるんだから」
天使「ほ、本当ですか! 主様がそんなことを……」
姉「本当、本当、だから、サプライズ。今、言って喜ばすのもいいけど」
姉「驚かせて喜ばした方があいつ更に喜ぶから」
天使「そ、そっか。そうですよね!」
姉「うん、そうだよ。だから、当日までバラしたらいけないからね」
天使「はいっ」
数日後 玄関前
天使「主様、主様! どうぞ、ハンカチです!」
男「……お前、今日はやけにテンションが高くないか?」
天使「え? え? べ、べ、べつにそんなことはないですよ!」
男「……」
天使「……」アセアセ
男「変なことたくらんでないだろうな、貴様」
天使「な、無いです、無いです」
男「ふんっ、まぁ、行ってくる」
書き溜めはここまで
スローペースで投下していきます
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