藤原肇「九天の輝きと風と声」 (33)
モバマスss
書き溜めあり
地の分あり
肇ちゃんだけど大丈夫だよ
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冬の空風もすっかり春風に変わり、少しだけ過ごしやすくなっていく中で、女子寮まで歩いて帰っていきます
今度行われるライブにむけてのレッスンは順調。ダンスやステップ…曲のイメージも理想通りに描けています
なので、ファンの皆さんの期待に応えられるようにもっともっと頑張ろうと思います!
寮に帰るとリビングで比奈さんがパラパラと漫画をめくり、朋さんが眉をひそめ雑誌とにらめっこをしていました
どうやら朋さんの星座の運勢があまり良くなかったみたいです
「肇ちゃんも危なかったわね。後少し産まれるのが遅かったら蟹座になってたわよ」
「確かに蟹座は不遇っスからね」
「その件に関してはしょうがないって思うことにしたわ。それよりも凄いのよ、今年の双子座は……ええと、仕事で新たな一面を覗かせ大成功。異性とも急接近!」
「双子座って……あれッスよね。確か人間の血を引いた兄と神の血を引いた弟の話で……」
「双子座……ですか?冬にはバーダユシチャヤズヴェズダ……ンー?星がいっぱい降ってきます。とても綺麗ですね」
途中からアーニャちゃんもやって来て同じ星座の話なのに占いと神話と天体と……三者三様。それぞれがそれぞれの話を聞いて頷いて納得したり熱心に話し込んだり
その様子がとても面白く。しばらく聞き入ってしまいました
そのあとは比奈さんが突如「進捗……脱稿……」と我に返ったように呟きはじめフラフラと自室に戻ったのを皮切りにそのお話会はお開きになりました
私も自分の部屋に戻り明日の事について考えます
明日もプロデューサーさんに会える
そう思うとなんだか体の中からポカポカしていくようで嬉しくなります
あ……でも、着ていく服をどうしましょう……急いでタンスの二段目と三段目を目一杯引っ張り、その中にある畳まれた服を選んでいきます。ああでもない……こうでもない……
これがお仕事の衣装であるならばすぐに何を選べばいいのかすぐにイメージできるのですが……
「大丈夫? 何か凄い音がしたけど」
「朋さん!!」
「え!? どうしたの!?」
翌朝、朋さんに着て行く服をコーディネートしてもらい
なんともバタバタしてしまい申し訳なく思うも
いいからいいからと押しきられる形で寮を追い出されてしまいました
今日は快晴、日だまりが気持ち良く、弾む心と同じように髪もふわりと揺れます
視界の隅にちらりと映るピンクの髪ゴムが桜を連想させ、近い内に訪れるであろう開花の報せを楽しみに待ちながら集合場所に向かいます
「待ったか?」
「いえ、私も今来た所です」
軽い挨拶を交わしながらプロデューサーさんが連れていきたいという所へと向かいます
ここは……
「スタジオですか?」
「ああ、今ちょうど撮影をしてるから見学させてもらうんだ」
見学ですか……一体誰のでしょうか…?
<スタジオ>
「おや? 肇ちゃんだ! こんにちわー」
そこに居たのは休憩中だったらしい周子さんが椅子に座りながらお菓子を頬張っていました
「肇ちゃんも撮影? 楓さんといいなんや今日はえらい多いな」
「いえ、私は見学だけで撮影はしないんです」
「あら? そうだったん?わざわざしゅーこちゃんを見たいだなんて……ならあたしも頑張らないとね!」
にこっと笑う周子さんの近くに居るとふわりと日だまりの中に居るような暖かさがあり、とても不思議な感覚に襲われます
周子さんとお互いの家の事情や、アイドルになったきっかけ、自分のプロデューサーさんのお話などしていた所で急に周子さんが小道具入れの中を探しはじめ
「おや? 見てみてこれ、どう思う?」
見せてくれたそれは桜の模様が入った青色の扇子で、周子さんがパタパタと扇ぐ度に光と反射をしてキラキラと光っていて……
「綺麗ですね……周子さんにとっても似合ってると思います」
「そう?いやーたまたま目に入ってさぁー。なら使ってみよっかなーって」
周子さんがそう言い終わると同時にスタッフさんから撮影再開の指示が飛んできました
「はーい! 今行くよーん!」
レフ板で作られた小さな箱庭の中で銀色の妖精が羽のように扇子をたなびかせ舞い踊っています
その光景はなんとも優雅で幻想的で……フラッシュの中を流れるように動いていきます
監督さんもカメラマンさんも……もちろん私も……その場に居た人達全員が息をのんでいたのが分かりました
思いつきでやっているという事が嘘で有るかのように自然で美しくて……
「お疲れ様でしたー!」
「んー!おつかれー」
お疲れ様です。まるで周子さんに羽が生えていたようでとても綺麗でしたとありのままの感想を伝えますと
一瞬。ほんの一瞬だけ周子さんは目を見開きましたが、またいつものふわりとした笑顔に戻って
「そんなに褒めてもお菓子しかでないよ」
スッとチョコレート菓子を差し出され、いただきますと言いながらそれを受け取ります
口の中にそれをほうり込むとじわりとした甘さが広がっていきました
遠くからそれぞれのプロデューサーさん達が私達を呼ぶ声が聞こえてきます
「……自由って逆に難しいよねー。でも何をやってもあたしはあたしなんだよね」
「最近やっとそれに気付いてさぁー。でもまぁ、そのおかげで楽しくアイドルやれてるんだけどね」
「だからさ、たまには肇ちゃんも吹く風に身を任せてみようよ」
「悪かったな。どうしてもあそこの監督やスタッフさん達には改めて挨拶をしておきたくて」
次の私の撮影も同じ人達だったということでしたのできちんとお世話になります。とご挨拶をしていきました
アイドルは一人では素敵なものは作れませんから、こういう事は大切にしていかなければ……
そんなことを考えていますと
プロデューサーさんが悪戯っ子のような笑みを見せながら鍵をチャリンと鳴らしていました
「次の仕事現場の鍵を貰ったんだ」
とても高いところまで行くものですから、もっと音を立てて力強く進んでいくものだと思っていました
エレベーターは静かに私達を上へ上へと運んで行き、どんどん視界が開けていきます
「案内してくれるなんて、優しいですね」
「口でどうこう説明するより見てもらった方が楽だからな」
天気が良く向こうの方の景色まで見えていきます
なんだか気が遠くなっていくようでした……この街並、光すべてに人がいるなんて
私の目線と同じくらい高いビル、憧れだった都会の風景、ガラス張りのエレベーター
目に飛び込むすべてが新鮮で感想をプロデューサーさんに投げかけてみますと
あのビルの工事費が云々、エレベーターがガラス張りなのは防犯が云々となんとも味気ない答えが返ってきました
もう少し……もう少し別の答えを期待していたのですが、そんな所でも許せてしまうのはプロデューサーさんとの一緒に居た年月の長さが為せる業でしょうか? それとも別の……
そんなことを考えている内にエレベーターは最上階に着いていました
頬を膨らませて怒っているフリをしていたままだったのを忘れていましたので
隣に居るプロデューサーさんは未だにどうしていいか分からずにオロオロとしていました
その様子がとても面白く
思わず頬に溜めていた空気を一気に吹き出してしまいました
「あの監督からの指示でさ。撮影は自由にやって良いそうだ」
撮影が行われる場所へと歩みを進める中でぽつぽつりとプロデューサーさんがこぼしていきます
きっと少し前の私なら自由と言われても難しく考えすぎて視野が狭くなり。体が動かなくなっていたかもしれません
誰かのイメージする「藤原肇」になろうと必死で自分を押さえ込んでいたかもしれません
でも今はもう大丈夫 風がふいています
「見失いません。どんなに広い場所に居ても、私も、プロデューサーさんも」
撮影当日
下見の時とは打って変わり
まるで逆転した世界のような……
昼間よりも目に飛び込む光が色濃く映るのは、闇もまたひとつの色として光と手を取り合っているからでしょうか
空を見上げれば真珠星が青白く瞬いていました
「星が綺麗だな。それでもやっぱり岡山の空の方が星が見えたりするものなのか?」
「ええ、とっても。手を伸ばせば星に届いてしまう位に近くて鮮明に見えますよ」
いつか一緒に見に行きませんか?
と小さな約束を一つ作り
嬉しいのと恥ずかしい気持ちが混ざり合い、熱を帯びてしまった顔を隠すように視線をプロデューサーさんから眼下の街の光に移します
宝石箱の中身をばらまいたように色とりどりの光
物騒と言われている都会の夜がやさしいと感じた理由はこれのおかげでしょうか
あの光はきっと私達そのものなのだと
比奈さん、朋さん、アーニャちゃんの時のように同じ星座の話でもそれぞれ内容に個性が有ったように
同じような色に見えていても一つ一つ光り方が違っていて
周子さんのようにきっかけが人と変わっていてもその輝きは色あせることは無く
そのそれぞれに目指していきたい星がある
ならば私も夜空に鮮明に浮かぶ星に手を届かせるように、今するべき事は一つ
「流れで……撮ってください」
春めく夜風に耳をかたむけていますとまるで『こう動けば美しく見える』と語りかけてくれているようで……
たなびく衣装の裾をひるがえし何にも逆らわず今はただ、緩やかに動いて行きます
集中と脱力の間をたゆたっているような不思議な感覚の中で、ずいぶんと遠い場所に来たんだなとぼんやり思ってしまいました
プロデューサーさんが撮影をしている私の様子を見て満足そうに笑っています
あなたのおかげでアイドルの幅がまたひとつ広がっていきましたよ。と私もつられてつい微笑んでしまいました
パシャ!
ーーーっあ!
http://imgur.com/BkX4Dty.jpeg
あの写真はプロデューサーさんやあの場に居たスタッフさん達全員に好評で、恥ずかしいような
なんとも複雑な気分でしたが今はライブに向けて最終調整していかなければいけません
あいさんにもレッスンを付き合ってもらい私の動きを見てもらっています
「うん、歌もダンスも問題なさそうだね。あとは何か聞きたいことでもあるかい?」
あまり利口な質問ではないと分かっていますが、完成をイメージしながら形作るのが私のやり方でしたから
どうしても最高のステージというものを思い描いていたいのです
それを尋ねてみますとあいさんは顎に手を添えて少し考えたあと
「幸い私達には一緒に歩んでくれる魔法使いが居る……少しだけ頼りないが」
「それに、ステージはみんなでつくるものだよ。それさえ分かっていれば大丈夫だ」
そうですね! プロデューサーさんとスタッフの皆さんと力を合わせて最高のステージを届けていきたいです!
私がそう決心していますとあいさんは私の方を見ながら目を細めて微笑んで居ました
ライブ当日
ステージまで5分前
「この前の撮影の様なイメージで臨んでほしい」
普段、あまり指示を出さないプロデューサーさんでしたが、見せたい景色がある。と珍しく私に声をかけて来ました
スタッフさんに促され定位置に着きます
目を閉じ、あの日の撮影の時のように集中します
耳に飛び込んで来るのはガヤガヤと聞こえる……これは人の声……?
30秒前……
水面に浮いているウキが沈むのを待っているかのように緊張と期待でドンドン胸の音が速くなっていくのが分かります
10秒前……
会場の照明が落ち、拍手とざわめき声が一層大きく聞こえてきました
手足が動き出したいと叫んでいるのを必死に抑え
大きく息を吸い込みます
5秒前……
4
3
2
1……!
幕が上がり舞台風が私の手を引くように吹いて行きます
一目散にステージの上まで駆けだし、マイクを握っている手に力が入ります
そこで待っていたのは会場に押し寄せる光の海と歓声の波!!
以前の私ならその波にのまれないように強く、完成させた藤原肇を見せようとしましたが
今夜はその波を身体いっぱいに受け入れてみます!
その波は私が感じていた荒々しさはなく、まるで優しく包み込まれているように思い
身体がどんどん軽くなっていきます
今にも飛んで行きそうな私をイメージして、高く高くもっと高く。声を、もっと声を!
私の声を受けて会場の声が大きくなっていき、その声を受けた私もまた力強く声を出していきます!
声の応酬を何度も何度も何度も……何度も重ねて!
ファンの皆さんの声も距離もどんどん近く、大きくなっていきます!!
「コール、お願いしまーす!!」
堪え切れなくなりついマイクを客席に向けてしまいました。もっと貴方達の声を聞かせてほしい!!
うおぉ!と会場が揺れんばかりの声援を受け私達のステージが出来上がっていきます
まるで窯の中で焚きあげられていく器のように……
あいさんが言っていた「ステージはみんなで作るもの」の本当の意味が分かりました!
私は自分を磨くことばかり考えていて、大切なものが見えていなかったように思えます
こんなにもたくさんの声が私を支えていてくれたのですね……
吸い込む空気も私を照らすスポットライトも熱を帯びていて
身体が燃えるように熱くなっていきますが、その熱を身体の中に留めることはせず、声と一緒に全て吐き出していきます!
今まで見たこともない……初めての光景
これが……私が憧れ、イメージしたアイドル……!!
それでも私はまだ満足していません!もっと大きな自分……新しい色……!それを目指すには今を全力で!!
「藤原肇でした!! 今夜は私の歌を聞いてくれてありがとうございました!!」
割れんばかりの拍手と声にならない称賛の声を背中で受けながらステージから降りていきます
「肇っ!!」
ステージを降りたすぐ先でプロデューサーさんが一目散に駆け寄ってくれて、喉が渇いてしまった私の口に水の入ったペットボトルを突っ込み
タオルでワシャワシャと汗だくの身体を拭いてくれています
「プハッ。私ッ! できました! みんなと一緒に歌って! 心と声…合わせて……!!」
「ああ……ちゃんとできてたぞ! 最高だった! うん。輝いていた!」
プロデューサーさんも私もとにかく頭に浮かんできた言葉を口に出してはうんうんと頷き合います
未だに熱の冷めやらぬ私の身体はどこか夢の中に居るようにフワフワとしています
でも、それも苦にならないぐらい楽しくて……
気づいたことがひとつありました
「私の夢は……!」
私が言葉をかけようとしたその時、ステージの方からアンコールを望む声が大きく……大きく聞こえてきました
私達はお互い顔を見合わせフフッと笑い合い
「いけるか?」
「もちろんです! あの……プロデューサーさん!ステージ裏から、私の名前を呼んでください!」
「ああ、誰よりも大きな声を出してやるから任せな」
プロデューサーさんがそう言いながら 背中をポンッと押してくれます
フラフラだった手足にグッと力が入ります。まるで魔法のようだなんてぼんやり思っていましたが、すぐに切り替えます。集中、集中
ステージの方へ一歩
光の中に融けていくように吸い込まれていきます
今は星の輝きにはまだまだ敵わないかもしれない
それでも、みなさんの光を浴びて一緒に輝いていければ、きっと……!
未来が開いていくイメージが湧きました! その先まで行ってみたいです。もっと、もっと、ずっと!!
終わりです
来年は肇ちゃんssがもっと増えてたら良いなぁっと思います
増えてたら良いなぁっと思います!!
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それではよいお年を
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