剣士「俺は七曜の力を秘めた七本の剣を持っている」(30)

女「本日は取材を受けていただき、誠にありがとうございます」

剣士「とんでもない」

女「さっそくですが、剣士さんは常に七本の剣を腰や背中に携えておられますが……」

剣士「ああ、俺は七曜の力を秘めた七本の剣を持っている」

女「それぞれの能力を拝見させていただいても、よろしいですか?」

剣士「いいとも」

剣士「じゃあまず、“月の剣”からいこうか」チャキッ

月の剣――

剣士「この剣は月の石を加工して作られた剣といわれていて――
   常に妖しげな光を発している」

ボァァ……

女「この光を見ていると、なんだか自分が自分じゃないような感覚になりますね。
  頭をこねくり回される、というか……」

剣士「その通り。この光には見る者の心を狂わせる作用がある。
   俺もこの剣を入手したての時は、今あなたが感じている感覚に襲われた」

剣士「もしも、この剣の力を最大に発揮したなら――
   おそらくあなたは発狂し、二度と元には戻れないだろう」

女「……恐ろしい剣ですね」ゴクッ

火の剣――

剣士「この剣は、炎竜の牙を鍛えて作られたとされている」

剣士「こうして握っているだけで、手に熱が伝わってくる」ジジッ…

剣士「そして、ひとたび振れば――」ヒュッ

ボワァッ!

女「きゃっ!」

剣士「炎を噴き出す剣となる」

剣士「今のはこけおどしのようなものだが、さらに力を込めれば、
   岩や鉄ぐらいならやすやすと溶かす炎を発することができる」

水の剣――

剣士「この剣には、海神の力が秘められている」

剣士「ちょいと力を込めるだけで、このように水が出てくる」チョロチョロ…

剣士「これがまた美味い」ゴクゴク

剣士「飲んでみるか?」

女「い、いえっ! 結構です!」

剣士「この剣を戦いに用いたなら、たちまち水の激流が巻き起こり、
   敵を打ち滅ぼすことになるだろう」

木の剣――

剣士「この剣は、世界樹の一部とされる」

剣士「新芽にこの剣を近づければ、たちまち生長するし、
   枯れ木にこの剣を近づければ、たちまち息を吹き返す」

剣士「バカな人間に森を焼き払われたエルフのために、森を再生したこともある」

女「今までの剣とはちがい……平和的な剣なのですね」

剣士「だが……もちろん、この剣も強力な魔性を秘めている」

剣士「凶悪な肉食植物を召喚し、敵を襲わせることもできるのだからな」

金の剣――

剣士「キレイだろう?」キラキラ…

女「はい! 光り輝いていて……とても美しいです!」

剣士「元々、剣というものは金属で作るものだし、
   この剣には今までの剣のような特殊な能力は存在しない」

剣士「ただし――」ヒュヒュッ

女「空中に……亀裂が!?」

剣士「すぐ直るがね。この剣は七本の剣の中で一番切れ味がある。
   そう、空間をも切り裂けるほどに」

土の剣――

剣士「大地の力を凝縮してできたとされるのが、この剣だ」

剣士「念を込めて振れば、落石を誘発させ、大地を隆起させることもできる」

剣士「さらに、この剣を地面に突き刺せば――」ザクッ

グラグラ……

女「じ、地震……!」

剣士「我々の周囲にだけ、軽い地震を発生させた。
   全力でやれば、とんでもない天変地異を引き起こすことも可能だ」

日の剣――

剣士「ラストはこれ」

剣士「全ての生命の源である太陽の力が込められたこの剣は、
   やはり七本の剣の中でダントツの創造力と破壊力を誇る」

剣士「ただし、制御するのも非常に難しく、
   もし、使い方を誤れば……俺自身をも滅ぼしかねない剣だ」

剣士「できることなら、なるべく使わずに済ませたい」

女「なるほど……」

剣士「――といったところか」

女「ありがとうございました!」

女「七本の剣の強さと恐ろしさ、そして、これらの剣を使いこなす剣士さんの凄さを、
  私のような素人にも感じ取ることができました!」

剣士「そういってもらえると光栄だね」

剣士「だが、これらの剣には実はさらに隠された力が――」





「グハハハハハッ!」ズシンッ…

剣士「!」ピクッ

女「きゃああああっ! ――ば、化け物っ!」

剣士「お前か……また来たのか」

魔物「グハハハハ……お前ほどの剣士をブッ倒せば、オレの名も上がるからな。
   そうなりゃ、魔竜王様にも褒めていただけるってもんよ!」

魔物「前はコテンパンにされちまったが、今日こそブッ倒してやるぜェ!」

剣士「いいだろう、相手をしてやる」チャキッ

魔物「ガアアアアアッ!」ドドドッ

剣士「月の剣」ボァァァ…

魔物「ぐっ!?」

魔物「ぐ、ぐぐぐ……無駄だ、無駄だァ!」

魔物「こんな光で、オレの精神をどうにかできるわけねえだろう!」

剣士「だいぶ修行を積んだようだな――ならば、火の剣」ブンッ

ゴォワァァァァァッ!

魔物「ぐおっ……!」

魔物「グハハッ! オレのぶ厚く頑丈な皮膚に、こんな炎は通用せんぜ!」

剣士「水の剣」

ザバァァァッ!

魔物「ぐぎぎぎ……っ! こんな水鉄砲に流されるオレ様じゃねえ!」

剣士「木の剣」

ニュルニュル…… キシャァァァッ!

魔物「うおおおっ! 絡みついてきやがった!
   だが、こんな植物どもなんぞ、逆に食い散らかしてやる!」ガブッ

剣士「金の剣」ヒュオッ

ザグゥ!

魔物「ぐおおっ! あぶねえ、あぶねえ。真っ二つにされるとこだった。
   とっとと再生しなきゃなァ」シュゥゥゥ…

剣士「この剣でも完璧には斬れんか……」

魔物「さすがにすげェ斬れ味だぜ! だが、オレの頑丈さの方が上だったようだな!」

剣士「土の剣」ザクッ

ズゴォンッ!

魔物「ぐ、ぐぐ……! たかが土くれの塊で、オレを倒せるわけねェだろう!」

剣士「仕方あるまい……日の剣」

ズオアッ!!!

魔物「ぐおああああっ!? とんでもねぇエネルギーだ!
   だが、そっちの女をかばって……全力は出せなかったようだなァ!」

魔物「そろそろ、こっちからいくぜェ!」ブオンッ

バチィンッ!

剣士「うぐっ……!」ドサッ



女「剣士さんっ!」

女「剣士さん、私のことはかまいません! 日の剣で、あの魔物を倒して下さい!」

剣士「そういうわけにはいかない。戦う術を持たない人を守るのが、剣士の務め。
   もし、あなたを巻き添えにヤツを倒したとしても、
   それは俺にとっては死よりも重い敗北なんだ」

女「だけど……!」

剣士「それに……この七本の剣には秘められた“裏の力”がある」

女「裏の力……!?」

剣士「これから俺はそれを使って、あの魔物を退ける。
   ただし、このことはくれぐれも記事にはしないでもらいたい」

女「わっ、分かりました! 絶対しません!」

女(裏の力……? いったいどんな能力であの魔物を倒すというの……?)

魔物「ケッ、いつまでゴチャゴチャやってやがる!? 次の一撃で終わりにしてやるぜ!」

剣士「…………」ジャキッ





女(剣士さんが、七本の剣を全て同時に抜いた!)

剣士「月の剣」ボァァァ…

魔物「!」ピクッ

魔物「うおおおおっ! 長い一週間が始まるぅ!
   仕事したくねぇぇぇ! 魔竜王様、めっちゃ理不尽だしよォ……!」



剣士「火の剣」ボワァッ

魔物「なんとか一日を乗り越えたけど、まだまだ一週間は長い! しんどいなぁ……」

剣士「水の剣」バシャァッ

魔物「やっと週の真ん中だ! ……ってまだ真ん中かよぉ!」

剣士「木の剣」ニュルニュル…

魔物「週末が見えてきた! ここまできたら根性だ! 乗り越えろ、オレ!」

剣士「金の剣」キラキラ…

魔物「やったぁぁぁぁぁ! 花金だぁぁぁぁぁ!」

魔物「調子こいて、飲みすぎてフラフラだぁ~……」フラッフラッ

剣士「土の剣」グラグラ…

魔物「やっと週末! 待ちに待った週末ゥ!」

魔物「だけどなんか、案外やることなくって、結局寝てただけで一日が終わったァ!
   なんでいつもこうなっちまうんだ!」

魔物「この寝すぎた時の頭痛がまたキツイんだわ……」ズキズキ…

剣士「そして――」チャキッ

剣士「日の剣!」サザエサーンサザエサン

魔物「うぎゃあぁぁぁぁぁっ!!!」

剣士「どうだ?」サザエサーンハ

魔物「や、やめてくれぇぇぇっ! 休みがっ……休みが終わっちまう!
   たっ、助けて……! ぐあぁぁぁぁぁっ!」

女「ああああっ……! く、苦しいっ!」
 (剣の力を直接ぶつけられてない私でさえ、こんなに心を締めつけられるなんて……!)

剣士(ぐっ……やはり、この剣は俺にもダメージがあるか……!)ユッカイダナー

剣士「ハァ、ハァ、ハァ……」

剣士「さぁ、降参するか?」

魔物「降参します……すみませんでした……」

剣士「なら、とっとと魔竜王のいる城へと帰れ。
   おおかた、ヤツから理不尽な仕打ちを受けて、そのうさ晴らしのために、
   俺に挑みにきたのだろう」

剣士「ここで油を売っていたことは、告げ口しないでおいてやるから……」

魔物「あ、ありがとう……」ズシンズシン…

女(魔物たちの世界も、色々大変なんだなぁ……)

女「七曜の力を秘めた七本の剣……恐ろしい“裏の力”でしたね」

剣士「もちろん今のは全力ではない。もし、もう少し力を発揮させていたら、
   あの魔物はもちろん、俺たち二人の精神も崩壊していただろう」

剣士「やはり、この七本の剣は表の力だけを使用することが望ましい。
   この恐ろしい力……二度と使う機会が来ないことを祈るよ」







                                   ~おわり~

以上で終わりです

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