剣士「依頼があれば……この剣でなんでも斬る!」 (153)
第一話『若奥様を斬る』
< 剣士の家 >
剣士(──とかっこつけたところで)
剣士(こんな平和な田舎町で、物騒な依頼なんかあるわけもなく)
剣士(世間は、ついに王国軍と大盗賊団の抗争が本格化したとかで大騒ぎだが)
剣士(この町にはなんも関係ないしな……)
妻「すみませぇ~ん、剣士さん」
剣士「なんですか、奥さん」
妻「あの~、スイカを切って欲しいんですけど」
剣士「はいはい」
剣士(こんな仕事ばっか……)
スパンッ! スパンッ!
剣士「はい、斬れましたよ」
妻「ありがとう! 助かったわぁ~」
剣士「スイカぐらい自分でも切れるでしょうに」
剣士「こないだはキャベツの千切り、その前はリンゴをウサギさんにする、でしたっけ」
妻「でも、あたしって料理が下手なのよ~」
剣士(ウソつけ……少しでも手を抜きたいだけだろう)
剣士「だったら……さっきのお代はいりませんから、俺に料理を作ってくれませんか?」
剣士「味を見てあげますよ」
妻「そんなことならお安い御用よ。台所と材料を借りるわね」
剣士「どうぞどうぞ」
剣士(ラッキー、昼飯まだだったんだよな)
しばらくして、料理が出来上がった。
妻「さ、召し上がれ」
剣士(お、うまそうじゃん)
剣士「じゃ、いただきま──」パクッ
剣士「す!?」
剣士「お、おお……! なんだこれ……!? うげえええっ!」
妻「やっぱりダメ?」
剣士(ダメってレベルじゃない! どうなってんだ、これ!?)
剣士「これ……ちゃんと味見してるんですか?」
妻「もちろん。で、おかしいとこを直そうとすると、ますますおかしくなって……」
妻「でも、主人は美味しいって食べてくれるから……」
剣士(結果として、この劇薬が生まれたってわけか……)
剣士「……奥さん」
剣士「今日は帰しませんよ! 俺が徹底的に特訓します! この剣に賭けて!」
妻「ええっ、そんなぁ!」
気づいた時には、もう夜になっていた。
剣士「ハァ、ハァ、ハァ……」
妻「ハァ、ハァ、ハァ……」
剣士「まあ、少しはマシになりましたね」
剣士「とりあえず、調味料をドバッと入れるクセと」
剣士「ミスった時に砂糖の甘さを塩で相殺させる、みたいなバカなマネをやめれば」
剣士「だいぶ、よくなると思いますよ」
妻「ええ、ありがとう!」
剣士(ふう……もう剣士の仕事じゃねえよな、これ)
数日後、町でおかしなウワサが広がっていた。
ザワザワ……
「あそこの若奥さんが剣士さんの家にずっといたとか……」
「今日は帰さない、とか声が聞こえたって……」
「二人して、息が荒くなってたとか……」
ザワザワ……
剣士(な、なんか……俺とあの奥さんが不倫したみたいになってやがる!)
剣士(しかも、小さな町だから、広がるのが早い!)
剣士(ま、まずいぞ……旦那の耳に入る前になんとかしねえと!)
夫「剣士君!」
剣士「ゲッ!?」
夫「君にいいたいことがある」
剣士「いや、その、あの……」オドオド…
夫「あ、ありがとう……!」グスッ…
剣士「へ!?」
夫「やっと……やっとあの地獄の日々から解放された……!」
夫「君のおかげで、妻がようやく“料理”と呼べるものを作るようになってくれた!」
夫「惚れた弱みでマズくてもいえなかったんだ……なかなか」
夫「しかも、ボクは出されたものは全部食べないと落ちつかないタイプだから」
夫「本当に大変だった……!」
夫「これも、君が妻の料理下手をばっさり切ってくれたおかげだ! ありがとう!」
剣士「いやぁ~、いいんですよ」
剣士(斬るのは……なにも剣だけでなく、口でもできるってことか)
ちなみにウワサは七十五日どころか、七日で消えたという。
~おわり~
第二話『カップルを斬る』
< 剣士の家 >
剣士「オイオイ、俺はあくまで剣を使うのが仕事なんだぞ?」
町娘「えぇ~!? でも、外の看板に『なんでも斬ります』って書いてあるじゃない!」
剣士「そりゃ書いたけどさ……」
剣士「なんで君と、今付き合ってる彼氏の縁を切らなきゃならないんだよ」
町娘「だって……イマイチ頼りないんだもん」
剣士「別れたいんなら、自分で振ればいいだろうが」
町娘「でも、彼のどこが悪いか、具体的によく分からないし……」
町娘「なんかいいだしにくくって……ね、お願い! なんとかして!」
剣士「しょうがないなぁ……」
しばらく考えた後──
剣士「じゃあ、こうしよう」
剣士「明日の夜、この町をちょっと出たとこにある森で」
剣士「君と彼氏とでデートするんだ」
町娘「うんうん」
剣士「で、俺が変質者のフリして襲いかかるから……」
剣士「そんなに頼りない彼氏なら、多分ビビりあがって、逃げちまうだろう」
剣士「そしたら、それを理由にして別れ話を切り出せばいい」
剣士「どうだ?」
町娘「悪くないわね! いいわ、それ採用!」
剣士(まったくひどい話だ……ま、別れた方が相手の男にとってもいいかもな)
翌日の夜──
< 森 >
青年「ホ、ホントにこんなところでデートするの……? やめようよ……」
町娘「だらしないわねぇ~、こういうとこでデートするのがスリルあるんじゃない」
剣士(来たな……覆面をかぶって、と)ガバッ…
覆面「ヒヒヒ……」ヌゥッ…
青年「うわっ!?」
町娘(来たわ!)
覆面「俺は人を斬るのが大好きなんだぁ~……斬らせてくれよぉ~……」チャキッ
町娘(なかなかの名演じゃないのよ!)
青年「う、う……う……」
青年「うおおおおおっ!!!」ガシッ…
覆面「!?」
青年「町娘ちゃん! 逃げてぇっ! 早く逃げてぇっ!」
町娘「えっ……」
青年「うわぁぁぁっ!!!」
覆面(コ、コイツ……力はないが、なんて気迫だ! こっちがビビっちまってる!)
青年「ボクは死んでもいい……彼女だけは絶対守るっ!」
覆面(だけど、なんとかしてビビらせないと……!)
覆面(仕方ない……やるしかない!)ビュアッ
ビシュッ!
次の瞬間、青年の服にべっとりと血がついていた。
覆面(どうだ……!?)
町娘「!?」
町娘「な、なにやってんのよ……」プルプル…
町娘「やりすぎなのよ、アンタはァッ!」バッ
覆面「へ?」
ゴシャッ!!!
町娘のドロップキックが、覆面に炸裂した。
覆面「あがっ……!」ヨロッ…
覆面「ち、ちくしょう、覚えてやがれ!」ダダダッ
町娘(もう……ビビらせるだけっていったのに、まさか斬るなんて……!)ハァハァ…
町娘「大丈夫!? 血がついて……! どこを斬られたの……?」
青年「いや……ボクはどこも斬られてないよ」
町娘「そうなの!? でも、よかった……あなたが無事で……!」
町娘「ごめんなさい、ごめんなさい……全部あたしが悪いの……」グスッ…
青年「(なにがなんだかサッパリだけど──)いいんだよ」
剣士「いってぇ~……」ズキズキ…
剣士(相手を斬るフリして自分の腕を斬るわ、ドロップキックされるわ……散々だな)
剣士(だけど──)
町娘「行こっ!」
青年「う、うん……!」
剣士(俺の血が二人の赤い糸になったみたいだし、よしとするか)
剣士(あれはもう、俺の剣でも斬れないだろう)
~おわり~
第三話『斬られる剣士』
ギィンッ!
ワァァァ……! ワァァァ……!
友人「ハァ、ハァ……やったぞぉっ! 俺の勝ちだぁっ!」
剣士「ぐっ……!」
剣士(正面からまっすぐ攻めたけど、まっすぐ押し切られたか……!)
剣士(これで俺が王国軍の精鋭として、剣を振るう道は絶たれた……!)
……………
………
…
剣士「…………!」ガバッ
剣士(また……あの時の夢か……)ハァハァ…
剣士(もし、あの試合で勝てていたなら、今頃俺はどうなってたんだろうか……)
< 剣士の家 >
週一回、剣士の家では剣術の稽古が行われている。
剣士「みんな、木剣はちゃんと持ってきてるな?」
「はいっ!」 「はーいっ!」 「はいっ!」
剣士「じゃあ、今日は素振りからだ!」
ただし、生徒はみんな子供である。
剣士(くっ……今朝、あんな夢見ちまったから)
剣士(なんで俺が子供たちの相手しなきゃならない、とか思っちまってる)
剣士(くそっ……そんな自分にもイラついてきやがる……)
剣士(平常心、平常心……)
剣士「──ん?」
生徒の中で一人だけ、メチャクチャな素振りをしている少年がいた。
少年「えいっ、やぁっ、とおっ!」ブオンブオンッ
剣士(この子は……子供たちの中で一番才能を感じる生徒だ)
剣士(将来的には、多分だけど、俺より強くなるだろう)
剣士(だけど、こういう時は叱らないとな)
剣士「コラ、ちゃんと素振りしなきゃダメじゃないか! ふざけちゃダメだ!」
少年「ちゃんと……?」ピクッ
少年「だったら先生も、ちゃんと教えてよ。さっきからずっとイライラしてるじゃん」
剣士「なっ……!(見透かされてた……!?)」
少年「そういえば先生ってさ、むかし王国軍のエリート剣士を目指してて」
少年「いいところまで行ったけど、結局ダメだったんでしょ?」
少年「その時のことを思い出して、イラついてんじゃないのぉ~?」
剣士「…………」プルプル…
剣士「うるさいッ!!!」
剣士「お前みたいな子供になにが分かる!」
剣士「いくら才能があったって、まだまだお前は親のスネかじりなんだ!」
剣士「親の金で剣術習ってるんだから、大人しく俺のいうとおりに練習しろ!」
剣士「────!」ハッ
シ~ン……
少年「…………」
剣士(しまった……俺はなんてことをっ! なにやってんだ!)
剣士(自分の心をコントロールできないようじゃ、剣士失格だ、俺は……!)
少年「…………」ウルッ…
剣士「(涙!?)ご、ごめっ──」
少年「ありがとう、先生!」
剣士「へ!?」
少年「おかげで新技のヒントが掴めたよ! ちょっとやってみていい!?」
剣士「いいけど……」
木剣を構える剣士と少年。
少年「今からボクが殴りかかるから、反撃してみて!」ザッ…
剣士「わ、分かった……」
少年「えいっ!」ヒュッ
剣士「とうっ」ブンッ
少年は体の小ささを利用して剣をかわすと──
少年「ここっ!」シュッ
ボゴォッ!
剣士のスネに木剣をブチ当てた。
剣士「うっ……うごぉぉぉっ!」ゴロゴロ…
少年「やったぁ!」
少年「このところ、なにか新しい必殺技が思いつきそうで思いつかなかったんだけど」
少年「先生のおかげで思いつけたよ! ありがとう!」
剣士「いだだ……いやぁ~」ズキズキ…
剣士(みごとな一撃だった……本物の剣だったらスネを斬られてたところだ)
剣士(さっきの変な素振りは、それを模索してたってところか)
剣士(それに全く気づけなかったことといい、怒鳴っちまったことといい……)
剣士(俺もまだまだだな)
剣士(まだまだってことはつまり、この町でも俺は進歩できるってことだ!)
剣士「みんな、稽古を再開するぞっ! 君も今度はちゃんと素振りしろよ!」
少年「はいっ!」
「えいっ!」 「はあっ!」 「でやっ!」
剣士(エリートになれなくても……剣の道を歩むことはできる……)
~おわり~
第四話『エリートを斬る』
< 町 >
ザワザワ…… ガヤガヤ……
剣士「あの、なにかあったんですか?」
夫「今日から国から派遣された騎士が、町に駐在することになったんだ」
妻「で、みんなでどんな騎士なのか見にきてるのよ~」
剣士「へぇ~」
剣士(騎士といえば、生まれからしてちがう、エリート中のエリート……)
剣士(それが町に駐在するってことは、この町は国の保護下に入ったも同然ってことだ)
剣士(そりゃあ、盛り上がるよな……。さて、どんな奴なんだろ?)
女騎士「今日からこの町に駐在することになった。みんな、よろしく頼む」
剣士(お、女ァ!?)
女騎士「さて……私が女ということで、不安に思っている人間も多いことだろう」
女騎士「そういえば、この町には半ば便利屋のような腕利きの剣士がいるときく」
剣士「!」ピクッ
剣士「あ……多分それは俺のことかと……(他に剣士なんていないしな)」
女騎士「フフフ……君か」
女騎士「なぁ、勝負をしないか? どちらが町一番の戦士か、この場で決めるんだ」
剣士「いや……俺は勝負なんて……」
女騎士「逃げるのか……まあいい」
女騎士「剣で戦う私と、剣で遊んでいる君では、勝負になるはずがないものな」
剣士「!」カチン
剣士「聞き捨てならないな……今の言葉」
剣士「いいだろう、受けて立ってやる!」
数十人の町民が見守る中、試合をすることになった剣士と女騎士。
剣士(こんな風に試合をするなんて、何年ぶりかな……)
女騎士「いくぞっ!」ダッ
キィンッ! ギンッ! キンッ!
剣士(速いっ! 口だけじゃないな、この女! さすがだ!)
女騎士「どうした、どうした!?」
ガッ! ギィンッ! キンッ!
剣士(あ、ヤバイ。これ以上下がったら、野次馬が危ない──)
女騎士「そこだっ!」シュッ
ピタッ……
一瞬のスキを突かれ、剣士の首筋に刃が突きつけられた。
剣士「ぐ……! ま、参った……!」
女騎士「フッ、私の勝ちだな」
< 剣士の家 >
剣士(完敗だな……)
剣士(試合は久しぶり、とか野次馬に気を取られた、なんて言い訳にもならない)
剣士(ま、元々強さをウリにしてたわけじゃないから、商売に差し支えないけど……)
剣士(やっぱへこむよなぁ……)フゥ…
剣士(それにしてもあの女騎士……)
剣士(あんなに強いのに、なんでこんな田舎町に来ることになったんだ?)
剣士(今、王国軍は大盗賊団と戦ってるハズだってのに……)
ワァァ…… キャァァ……
剣士「?」
「コソドロだァ!」 「またあいつ盗みやがった!」 「捕まえろおっ!」
剣士(またコソドロか……アイツも懲りないな)
剣士(どれどれ、俺が退治してやるか)
< 町 >
剣士(お、いたいた)スッ…
剣士(また叩きのめしてやる)
コソドロ「へっへっへ~、オイラが捕まるもんかよォ!」スタタッ
コソドロ「──ん?」
女騎士「…………」チャキッ
剣士(なんだ女騎士がいたのか。なら任せるか……)
コソドロ「どけ、どけ、女ァ~!」タタタッ
女騎士「う、ううっ……」ガチガチ…
剣士(ど、どうしたんだ!?)
女騎士(やはり……体が動かない! 試合であれば平気なのに──)ガタガタ…
女騎士(“本番”だと……緊張してしまって……)ガタガタ…
コソドロ「どけどけぇ~っ!」タタタッ
女騎士「ひっ……!」
ガンッ!
コソドロ「あぐっ……」ドサッ…
剣士が投げた剣の柄が当たり、コソドロは失神した。
女騎士「あ……」
ザワザワ……
「ありがとう、剣士さん!」 「コソドロめ!」 「とっつかまえろ!」
「今女騎士さん、ビビってなかった?」 「マジ?」 「エリートなのに……」
町民から、剣士への称賛と、女騎士への懐疑の声が入り混じる。
女騎士(うっ……)
剣士「…………」
剣士「女騎士さん、俺に名誉挽回のチャンスを与えるため」
剣士「わざとコソドロに手を出さないでくれて、ありがとよ!」
剣士「だがな……さっきアンタに負けた恨みはまだ残ってるんだからな!」
女騎士「!」
ワイワイ……
「なんだそういうことか」 「騎士がコソドロにビビるわけないしな」 「だよなぁ」
散っていく町民たち。
剣士「さて、帰るか」
女騎士「ま、待て!」
剣士「ん?」
女騎士「キサマ……なぜ私をかばうようなマネをした!」
女騎士「私が実戦で役に立たず、こんな平和な町に派遣されるハメになったこと──」
女騎士「キサマほどの腕なら、察することができたはずだ!」
剣士「だって……アンタはエリートだろ?」
剣士「エリートは俺の……いやみんなの憧れだ」
剣士「そのアンタがコソドロにビビったなんて知れたら、みんなガッカリするだろ?」
剣士「別にアンタのためにやったわけじゃないから、気にすんな」
女騎士「…………」
剣士「ま、これで一勝一敗ってことで……仲良く町を守っていこう」
女騎士「……考えておく」
~おわり~
第五話『老人を研ぐ』
< 町長の家 >
町長「ふう……」
町娘「どうしたの、おじいちゃん?」
町長「年を取るというのは、イヤなもんじゃのう……」
町長「頭のキレも、体のキレも、すっかりなくなってしもうた……」
町長「そろそろワシも引退かのう……」
町娘「そんなことないわよ! 元気出してよ、おじいちゃん!」
町長「…………」フゥ…
町娘「んもう、急にどうしちゃったんだろ)
町娘(頭のキレ、体のキレ……。そうだわ、こういう時は!)
< 剣士の家 >
剣士「──で、俺に町長さんを元気づけろ、と」
剣士「……なんで俺なんだよ!?」
町娘「だって~、頭のキレや体のキレをよくするんなら」
町娘「やっぱりよく斬れる剣を持つ、剣士さんの仕事でしょ?」
剣士「絶対ちがう……」
すると──
女騎士「受けてやれ、剣士」ガチャッ…
剣士「女騎士さん! なんでアンタがここに!?」
女騎士「なに、キサマと剣について語り合おうと思ってな」
女騎士(この間の礼をいいにきた、などとはとてもいえん……)
女騎士「だが、町長殿の悩みを解決する方が優先だろう」
町娘「さっすが、女騎士さん!」
剣士(はぁ……こんなの絶対剣士の仕事じゃないって)
< 町長の家 >
町長「ふう……」ショボン…
町娘「おじいちゃん、剣士さんと女騎士さんが来てくれたわよ!」
町長「そうかい……すまんのう」
剣士(おおっ、ホントに元気ないな)
女騎士「町長殿、元気を出してくれ」
女騎士「この町は人口が少なく、リーダーの気落ちは皆の士気に関わる」
町長「うむ……それは分かっておるんじゃが……」
剣士(どういう励まし方だよ……軍隊じゃあるまいし)
剣士「まぁ……元気出してくれよ、町長さん」
剣士「俺たちだけじゃない。みんな心配してるんだから、さ」
町長「そうじゃな……ありがとう」
剣士(う~ん、なんかイマイチ効果ないな……)
剣士「まぁ……顔でも洗って、サッパリした方がいいですよ」
町長「どういう意味じゃね……?」
剣士「年寄りの冷や水っていうじゃないですか」
町娘「え?」
女騎士「お、おい!」
剣士「あれ……? これって褒め言葉じゃなかったでしたっけ……ハハ」
町長「ぐ、ぐぬ……」
剣士「まぁ、残り少ない人生ですし、落ち込んで過ごすよりは笑った方がいいですよ」
剣士「あと……頭のキレや体のキレが悪くなってるんですって?」
剣士「なら、小便のキレも悪くなってるでしょ」
剣士「きちんと最後まで出さないと、ズボンとパンツがぬれて──」
町長「いい加減にせいッ!!!」
バチィンッ!
町長のビンタが炸裂した。
剣士「ぎゃんっ!」
町長「ワシは生涯現役じゃ! 分かったか、この若造め!」
町長「ちょっくら走ってくる! えっほ、えっほ……」タタタッ
町娘「剣士さん、大丈夫!?」
女騎士「なぜ、あんな失礼なことをいったのだ! 怒られるのは当然だ!」
剣士「でも……元気は出ただろ?」
町娘「あっ、たしかに……!」
剣士「町娘ちゃんが、俺の剣はよく斬れるっていってたけど」
剣士「ならキレさせれば、町長さんの切れ味もよくなるかなって思ったんだ」
女騎士「なるほど……よく考えたものだ」
女騎士「ただし、あとできちんと謝罪するのだぞ」
剣士(許してもらえなかったら、どうしよ……)
~おわり~
最終話『守るために斬る』
< 剣士の家 >
少年「先生、さようなら!」
「さよなら~!」 「またよろしくお願いします!」 「さようなら!」
剣士「おう、また来週な!」
剣士(ふう、今日も町は平和だな)
剣士(事件といえる事件は、せいぜいコソドロが悪さをやらかすくらい……)
剣士(そういや、例の大盗賊団もついに壊滅したって新聞に載ってたな)
剣士(こう平和だと、ついついなにか事件が起きないか、なんて期待しちゃうよ)
ザッ……
女騎士「……突然、すまない」
剣士「おお、女騎士さん。顔が青ざめてるが、どうしたんだ?」
女騎士「とんでもないことになってしまった……」
剣士「へ……?」
剣士「盗賊団が……この町に来る!?」
女騎士「ああ、王国軍は大盗賊団を壊滅させた……はずだった」
女騎士「しかし、奴らには分派ともいえる集団がいくつも存在した」
女騎士「奴らは散って、各地の町や村を襲い、金品を得て再起を図ろうとしているのだ」
女騎士「この町にも、その中の一団が来るという情報が入っている」
剣士「人数は……?」
女騎士「集団によってちがうが、100人程度はいると思っていた方がいい」
剣士「100人か……」
女騎士「しかも、この町は首都から遠く、国からの助力はとても期待できない……」
剣士(この町で盗賊とまともに戦える人間なんて……どのくらいいるのやら……)
女騎士「剣士、どうすべきだろうか?」
剣士「戦うのは……正直いって無謀だろう」
剣士「ならいっそ、町を捨てて、みんなで避難した方がいい」
女騎士「……たしかにそうだな。分かった、すぐ町長殿にも知らせよう!」
< 町長の家 >
町長「なるほど……それはまずいのう」
剣士「まだ時間はありますが、町長さんから公式な声として呼びかけて」
剣士「避難準備をさせた方がいいと思います」
町長「そうじゃな……。すぐ町民に避難準備をさせよう」
剣士「俺も手伝います!」
女騎士「私も協力させてくれ」
町娘「おじいちゃん、あたしも!」
町長「では……ひとまず町民を広場に集めて、状況を伝えるかのう」
剣士「分かりました!」
< 広場 >
ザワザワ…… ガヤガヤ……
町長「どうしても必要なものだけ、荷台に乗せて避難するのじゃ!」
女騎士「現在、避難場所は鋭意検討中だ。それが済み次第、全員で避難する!」
「盗賊め……!」 「ま、命がありゃやり直せるさ」 「怖いねえ……」
剣士(ふう……どうにかなりそうだな)
コソドロ「おい!」タタタッ
剣士「おう、コソドロじゃねえか。今はとてもお前にかまってるヒマはねえよ」
コソドロ「お前ら……なにのんきなことやってんだ!?」
剣士「のんきって……どこがのんきなんだよ。今、避難準備のために──」
コソドロ「オイラの情報によると、盗賊団はもう数時間もすりゃこの町に来るぞ!」
剣士「……な」
剣士「なんだとォ!?」
剣士「バカいうな。ウソなんかついたってすぐバレ──」
コソドロ「ウソなわけねえだろ! オイラだってこの町の出身なんだ!」
コソドロ「盗み常習犯のオイラを、町の人はいつも国に突き出さず許してくれてる!」
コソドロ「そんなオイラが……こんなウソをつくわけねえだろう!」
剣士(たしかに……コイツはどうしようもない奴だが)
剣士(こういうウソをつくタイプ、でもない……)
剣士「でも……どこでそんな情報をつかんだんだ?」
コソドロ「オイラみたいな人間には似た者同士の間で、ネットワークがあるんだよ」
コソドロ「なんでも、ここに来る盗賊団のリーダーは元王国軍の精鋭らしい!」
コソドロ「モタモタしてたら、みんな殺されちまうぞ!」
剣士(マジかよ……だが、それなら異常な進軍スピードもうなずける)
剣士「分かった……お前を信用しよう!」
剣士「おい、みんな! 突然だが、落ちついて聞いて欲しい!」
剣士は、事態が切迫していることを町民たちに話した。
ドヨドヨ…… ドヨドヨ……
「あと数時間って……」 「どうすんだよ!?」 「避難場所も決まってないのに!」
町長「みんな……落ちつくんじゃ! 混乱してしまってはなんにもならん!」
剣士(やっぱこうなるよな……今、話すべきじゃなかったか……!?)
すると──
女騎士「落ちつけッ!!!」
ピタッ……
女騎士「この町には私がいる。王国騎士である私がな」
女騎士「心配するな……。私はこの程度の修羅場、何度もくぐり抜けている」
女騎士「今は冷静になって、我々の指示に従うことだけを考えろ」
「そ、そうだっ!」 「女騎士様がいたんだ!」 「よかったぁ~……」
剣士(町長でも鎮められなかった混乱を、一瞬で……これがエリートの力か)
剣士(でも……)
女騎士「…………」ブルブル…
剣士(足が震えてる……本当は怖いだろうに、よくやってくれたよ)
女騎士の指示で、避難態勢は迅速に整った。
剣士「ありがとう、女騎士さん」
女騎士「なんの……民を守るのは、騎士として当然の務めだ」
剣士「でも……なにもかも置いて逃げたとしても、女性や子供を交えた逃避行だ」
剣士「もし、盗賊団が本気で追ってきたら……とても逃げ切れない」
女騎士「そうだな……。少しでも時間を稼ぎたいところだ」
剣士「だから……俺が時間を稼ぐ!」
女騎士「な、なんだと!? 死ぬ気か!?」
剣士「なぁに、もちろん俺だって死ぬつもりはないよ」
剣士「奴ら、ゴーストタウンみたいになってるこの町を見たら驚くだろう」
剣士「そのスキに先制攻撃をかまして、何人か斬って、すぐ逃げるさ」
女騎士「……大丈夫なんだろうな?」
剣士「逃げ足には自信がある。任せてくれ」
女騎士「…………」
そして──
< 広場 >
剣士(避難準備ができた家から、次々と町を出てるみたいだな)
剣士(町長さんや女騎士さんが、うまくやってくれたんだな)
剣士(コソドロの話じゃ、盗賊団はあと二時間もしないうちにやってくるだろう)
剣士(俺が斬り殺されるまでに、何人斬れるか……少しでも数を減らさなきゃ!)
すると、女騎士がやってきた。
剣士「女騎士さん……?」
女騎士「剣士……時間稼ぎ、私も手伝おう。人数が多いに越したことはなかろう?」
剣士「で、でも……」
女騎士「心配するな。もう以前のように、実戦で震えたりはしない」
女騎士「それにな、居残り希望者は私一人だけではないのだ」
剣士「え……」
ゾロゾロ……
妻「水臭いじゃな~い、剣士さん!」
夫「君だけに無理を押しつけるわけにはいかないよ」
青年「ボクも残らせて下さい!」
町娘「あたしも!」
少年「先生、ボクだって戦えるんだ!」
コソドロ「へへへ……一人でかっこつけんなよ」
町長「ワシも町の長として、残らせてもらうぞい」
およそ100人ほどの町民が残っていた。
剣士「み、みんな……」
女騎士「すまぬ……お前が残るというのをどこかで耳にしたらしくてな」
女騎士「ここにいる者たちが、残るといって聞かぬのだ」
剣士「……ありがとう」
剣士「実をいうと、ちょっと心細かったりしたんだ」
剣士「だけど……仮にも戦士として、みんなを死なせるわけにはいかない」
剣士「気持ちだけで十分だ。早く逃げてくれ」
ザワザワ……
妻「そんなっ! あたしは剣士さんのおかげで料理がだいぶマシになったのよ!」
妻「まだ恩を返していないのに……」
剣士「…………」ピクッ
この時、剣士の中であるアイディアが閃いた。
剣士(ん……?)
剣士(今俺はもしかして、とんでもないことを思いついちまったかもしれない)
剣士(この100人で、盗賊団100人相手に時間を稼ぐ──だけでなく)
剣士(町を守り、盗賊団に勝利できるかもしれない作戦を!)
剣士(やってみる価値は……ある!)
剣士「みんな……話があるんだ。聞いてくれるか?」
ザワザワ…… ドヨドヨ……
妻「分かったわ……。私は初心にかえって、めいっぱい料理を作ればいいのね?」
剣士「そうです。なるべく大量に作って下さい」
剣士「……で、コソドロ」
剣士「お前の役目が一番危険だが……やってくれるか?」
コソドロ「へっ……もちろんよ! オイラもたまにはやってやるよ!」
剣士「頼む……!」
剣士「さて……盗賊団がうまく罠にかかったら、一斉に襲いかかるんだ」
剣士「もちろん、俺と女騎士さんを先頭にな」
剣士「ただし、絶対に無理はしないこと!」
オ~ッ!!!
剣士(さあ、盗賊団……来るなら来い!)
< 町の外 >
盗賊団はすぐ近くまで迫っていた。
団員A「なんだ、てめえ……」
コソドロ「へへっ……オイラはケチなコソドロっすよ」
コソドロ「アンタたち、これからあの町を襲うんでしょ?」
コソドロ「オイラが案内人になれば、より効率的に略奪できますよ?」
団員B「チンピラなんぞに用はねえ……殺されたくなきゃ失せろ」
コソドロ「ひ、ひいっ! すんません! 失せます、失せます!」ビクッ
コソドロ「ま、あいつら、今日は広場で立食パーティーなんざやってますから」
コソドロ「オイラなんぞいなくても、平気でしょうが……じゃ、さいならっ!」ダダダッ
団員A「ふん、小金目当てのチンケな小悪党が……うざってえ」
団員A「ウチのボスの剣の腕なら、あんな奴は必要ねえんだ」
団員B「だが、立食パーティーか……いい腹ごしらえができそうだな」
まもなく、盗賊団が町に侵入した。
< 広場 >
団員A「テーブルに、いっぱい料理が並んでるな。パーティーの最中に逃げたらしい」
団員B「さっきのコソドロがいってたのは、事実だったみてえだな」
ボス「逃げた町民どもは、あとで追跡して始末するぞ。いい見せしめになる」
団員A「ところでボス、この料理どうします? なかなか美味そうですぜ」
ボス「ここまで長旅だったしな……せっかくだ、食っていいぞ」
団員A「そうこなくっちゃ!」パクッ…
モグッ…… ジュルッ……
盗賊たちが、次々に料理に口をつける。すると──
「うげえええっ!?」 「なんだこりゃ!?」 「まずっ……!」
団員A「ひ、ひでえ味だ……毒か!?」
団員B「いや、毒じゃねえようだが……ある意味、毒よりひでえ!」
剣士「今だぁぁぁっ!!!」
剣士と女騎士を始めとした、広場の周辺に隠れていた町民が、一斉に飛び出した。
ウオォォォォォ……!
団員A「なんだあっ!?」
団員B「くそっ……この料理は罠だったのか! うげっ……後味が最悪だ!」
剣士「どりゃあ! せいっ! ──ふんっ!」
ザシュッ! ズバァッ! ザンッ!
女騎士「はああああっ!」
ビシュッ! シュバッ! ドシュッ!
さすがに剣士と女騎士の二人は強く、次々に盗賊を倒していく。
団員A「ちくしょう……クソまずい料理のせいで力が……」オエッ
夫「女房の料理を吐くんじゃないッ!」ブンッ
ドゴォッ!
団員A「うげぇっ!」ドサッ…
妻「あなた、かっこいいわぁ~」
青年「町娘ちゃんは……ボクが守るッ!」ギロッ
団員B(なんだ……コイツのド迫力は……!)ビクッ
町娘「ええいっ!」バッ
ドゴンッ!!!
団員B「ぎゃふっ!」
青年の迫力に怯えた盗賊を、町娘のドロップキックで吹っ飛ばすというコンビネーション。
剣士(おお……みんな、やるじゃねえか!)
少年「ボクだって戦えるんだ!」
団員C「このガキャアッ!」ブンッ
攻撃を転がりながらかわし、スネに木剣をぶつける少年。
ボゴォッ!
団員C「おごぉぉぉっ!」ドサッ…
少年「これがボクの“スネかじり剣”だ!」
剣士(アイツ……やっぱりとんでもない逸材だ。大人になる前に死ぬなよ!)
~
コソドロ「料理、うまかった?」
団員D「てめぇ……俺らをだましやがったな! ──って、あれ?」
コソドロ「へへへっ、アンタの剣はもうオイラの右手にあるよ」チャキッ
団員D「し、しまった!」ギクッ
剣士(コソドロ……今日だけはお前がやけに輝いて見えるぜ!)
町長「やれやれ、ワシの町で略奪をしようとはのう……」
町長「久しぶりに……キレちまったわい……」
町長「生涯現役……町長の超パワーを堪能するがいいッ!」
町長「キエエエエッ!!!」
ドゴォッ! バキィッ! ゴッ! ガスッ! メキィッ!
「ぐええっ!」 「ひぎゃあっ!」 「ぐぶっ!」
剣士(町長さんつええ! さすが、あの町娘ちゃんのじいさんだ!)
町長「あ~……疲れた」ゼェゼェ…
剣士(さすがにスタミナには難があるけど……)
女騎士「一人に対し、複数人で当たれ!」
女騎士「怪我をした者は、すぐに下がれ! 決して無理をするな!」
女騎士「この町には、この私がついているぞ!」
オオォォォォォ……! ワアァァァァァ……!
剣士(女騎士さん……やはり騎士だから、強いだけじゃなく戦術や戦略に明るいんだな)
剣士(それに、エリートとしての自分の役割をちゃんと分かってる)
剣士(いわば国の代表である彼女がいるからこそ、みんな安心して戦える!)
女騎士の指揮と、意外な実力を秘めていた町民たちにより、
戦いは町民側有利に進んでいた。
剣士(このままいけば……みんなは大丈夫だな)
剣士(だが、相手は大盗賊団の一派……油断できない! すぐに決めなければ!)
剣士(あとは……俺がこの盗賊団のリーダーを倒せば……!)
ボス「…………」シュバッ
ガキンッ!
剣士「くっ!」ザザッ…
ボス「ふん、よく受けたな」
剣士「そっちこそ……盗賊のくせに鋭い太刀筋だ……!」
剣士「!?」ハッ
剣士「お、お前は……! なんでお前が……!?」
剣士「友人!?」
ボス「久しぶりだな」シュバッ
キィンッ! ギンッ! ガキンッ!
剣士「ちょ、ちょっと待て!」ザッ
剣士「なんでお前が……! 俺に勝って王国軍の精鋭部隊に入ったのに……!」
剣士「なんで盗賊になってんだよッ!?」
ボス「ま……色々あってな」
剣士「色々ってなんだよ!?」
ギンッ!
ボス「エリートってのはな、剣の腕だけじゃやっていけないんだ」
ボス「駆け引きだの派閥だの、剣以外の権謀術数に優れてなきゃ話にならねえ」
ボス「……で、そういうのが苦手な俺はすぐさま冷遇され、僻地に飛ばされて」
ボス「次第にやる気も失せて……あれよあれよと、盗賊にまで落ちぶれちまった……」
剣士「…………」
ボス「俺もお前みたくとっととエリート街道を捨てて」
ボス「こんな田舎町で気楽に剣を振ってりゃ、幸せな人生を送れたのかもな」
剣士「ふざけんな」
剣士「お前と首都で知り合って以来、お前は……俺の憧れだったんだぜ!」
剣士「お前を妬んだり恨んだりしたこともあるけど、お前は俺の誇りだった!」
剣士「きっと今も、王国軍の中で輝かしい剣の道を歩んでるんだってな!」
剣士「なのに、俺みたいな人生を歩めばよかった、とか簡単にいうんじゃねえ!」
剣士「それにな……お前のいう“こんな田舎町”に送られたって」
剣士「やる気も誇りも捨ててない、エリートだっているんだよ!」
剣士「ゴチャゴチャと……言い訳すんじゃねえっ!」
剣士「お前はここで──叩き斬るッ!」
ボス「俺に負けた田舎剣士が……ずいぶんと偉そうな口叩くじゃねえか」
ボス「なら……お前のその憧れの剣技とやらで、お前を町ごと斬り捨ててやるよッ!」
ギィンッ!
キンッ! ギィンッ! ギャリッ! ──ザシッ!
剣士「ぐっ……!」ブシュッ…
ボス「俺はこのとおり落ちぶれたが……剣の鍛錬はやめてない」
ボス「お前はまた負けるんだよ……あの時のようになァ!」
キンッ! ギンッ! キィンッ!
剣士(強い……! 剣はあの試合と同じ──いや遥かに鋭くなってやがる!)
ボス「俺は王国軍で磨いた正統派剣術と、盗賊生活で鍛え上げた野良剣術を融合させた」
ボス「こんな町で遊んでた、お前に勝ち目はねえよ!」
ズシャッ……!
剣士「ぐは……っ!」ガクッ
剣士(そう……。俺もこんな町じゃ、剣の腕は鈍る……そう思ってた)
剣士(だがな、どんな町だろうが田舎だろうが、剣の道を歩むことはできんだよ!)
シュバァッ! ザシッ!
ボス「ぐおっ……!(足を狙ってきただと!?)」ブシュッ…
剣士「俺の弟子が教えてくれた……必殺剣“スネかじり剣”だ」
さらに──
剣士「どりゃあっ!」バッ
ドギャッ!!!
ボス「がはぁっ!」ドザッ…
剣士のドロップキックが、友人をダウンさせた。
ボス「ぐっ……どこが“剣の道”だ!」
剣士「俺はこの町で身につけた全てを──お前にぶつけるッ! 町を守るために!」
ギィンッ! キンッ! ガッ! キィンッ! ガキンッ!
ザシュッ!
ボス「ぐはっ……!」
剣士「どうした! 俺の憧れは、この程度か!?」
剣士「王国軍はもちろん、盗賊生活だってラクなもんじゃなかったろう!」
剣士「お前も全部ぶつけてこい! 全部出しきらなきゃ、俺には勝てねえぞ!」
ボス「へっ……」ニヤ…
ガキンッ!
キィンッ! ギンッ! ガッ! キンッ! ギャリィンッ!
二人の斬り合いは、全くの互角だった。
剣士「ハァ、ハァ……」
ボス「フゥ、フゥ……」
剣士(次の一撃で……)
ボス(次の一撃で……)
剣士&ボス(決めるッ!)
剣士「いくぞおっ!」ダッ
ボス「来いっ!」
剣士「うおおおおっ!」ブオンッ
ボス(うぐっ……!)ジリ…
剣士のまっすぐな剣と気迫に──友人は真正面からのぶつかり合いは避けるべきと判断し、
剣をわずかに逸らした。
ボス(この一撃をかわして、俺が勝つ……!)
しかし──
ザグゥッ……!
剣士のまっすぐな一閃が、友人の肩から胸を大きく切り裂いていた。
ボス「がふっ……!」
剣士「友人……!」
ボス「俺はお前にビビって、剣を曲げちまったが……」
ボス「お前の剣はあの時と同じ……まっすぐ、だった……な……」
ドサァッ……
剣士(友人……)
盗賊団ボスを倒した剣士に、女騎士が駆け寄ってきた。
女騎士「剣士、よくやってくれた! 我々の勝利だ!」
女騎士「奴が倒されたことで、盗賊団は総崩れになって、散り散りに──」
女騎士「……どうした?」
剣士「あ、いや、何でも……」
剣士「…………」
剣士「女騎士さん……」
剣士「コイツ……俺の友だちだったんだ……」
女騎士「!」
女騎士「そうか……」
女騎士「素晴らしい決闘、だった。どうか彼の分まで誇ってくれ」
剣士「ありがとう、女騎士さん」
< 町 >
ワアァァァァァ……!
「無事だったか!」 「よく町を守ってくれた!」 「本当にありがとう!」
妻「あたしの料理がこんな役に立つなんてねぇ~、また初心にかえろうかしら」
夫「お願いだからやめてくれ!」
町娘「青年君もかっこよかったよ!」
青年「いやぁ~、ボクは一人も倒してないし……。君は五人くらい倒したけど……」
少年「よぉ~し、もっと稽古を頑張るぞ! いつか先生を超えるんだ!」
コソドロ「まさか、本当に町を守れるなんてな……」
町長「いやぁ~久々に暴れたわい……こりゃ明後日は筋肉痛じゃな」コキッ
女騎士「お疲れ様だ、剣士」
剣士「女騎士さんこそ、お疲れ。町民に死人が出なかったのは、あなたのおかげだよ」
剣士(これでまた平和な町に戻るんだな……。やっぱり平和が一番だ)
二週間後──
< 剣士の家 >
剣士(あれから……各地に散ったという盗賊団は全て退治された)
剣士(盗賊団に襲われた町や村の対応は、戦ったり逃げたり様々だったらしいが)
剣士(盗賊団と戦うことを決意して、なおかつ死人を出さずに済んだのは)
剣士(この町だけだったらしい……)
剣士(いやぁ~、今思うと、かなり危険な賭けだったよな……あの作戦)
剣士(さぁ~て、今日はやることないし、トレーニングでも──)
ガチャッ……
剣士(──ん?)
女騎士「剣士……とんでもないことになってしまった!」
剣士「どうしたんだよ。まさか……また盗賊団が!?」
女騎士「いや……そうではない」
女騎士「実は……あのおしどり夫婦に聞いたのだが……」
剣士「?」
女騎士「お前は料理も得意らしいな?」
剣士「得意ってほどじゃないけど……。まぁ、自炊くらいは……」
女騎士「頼む、料理を教えて欲しい!」
女騎士「私は普段、付き人たちに料理をやらせていたのだが」
女騎士「たまには自分でやろうと──」
女騎士「さっき自分でイモの皮をむいたら、こんなになってしまったんだ!」スッ
剣士「!?」
剣士(なんだこりゃ……どう見ても“食べ物で遊んでる”レベルの、イモ……!)
剣士(イモに気の毒なんて感情を抱くのは、生まれて初めてだ!)
剣士(もしかして、女騎士さんってあの奥さんを上回る料理下手なんじゃ……)
剣士(だとしたら……被害は未然に防がなきゃ!)
剣士「分かった……じゃあここで勉強してってくれ」
女騎士「助かる……」
剣士「ところで、料理の稽古が終わったら、一緒に剣の稽古でもどう?」
剣士「そういや俺、まだ試合じゃアンタに負けっぱなしだしさ」
女騎士「うむ、望むところだ!」
~ おわり ~
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