兵士A「貴様だな? 呪いをかけると人々を脅して、近隣の村々から金品を巻き上げているのは!」
兵士B「大人しく捕まるんだ!」
呪術師「クックック……」
呪術師「私の呪いを受ければ、いかなる猛者も舌を引き裂かれて死ぬ」
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兵士A「呪術だと!? そんなものがあってたまるものか!」
兵士B「やれるものならやってみろ!」
呪術師「なら、お言葉に甘えるとしようか……」
ウギャァァァ……
村――
剣士「なるほど……その呪術師を斬れ、と」
村長「はい、あの呪術師のおかげでこの一帯はすっかり寂れてしまいました」
村長「依頼金といわれる100万ゴールドも、なんとか用意いたしました!」
村長「どうか、最強の剣の使い手といわれるあなたの力をお貸し下さい!」
剣士「いいだろう」
剣士「ただし、金は前金でいただく。これが俺のルールだ」
村長「前金……ですか」
剣士「嫌ならよそをあたるんだな」
村長「わ、分かりました……! どうかあの呪術師を倒して下され!」
剣士「任せておけ」
呪術師の住む館は、村の近くにある森の中にあった。
剣士「ここか……」
ギィィ……
剣士「お前が……呪術師か?」
呪術師「そのとおりだが、君は?」
剣士「俺は剣士だ」
呪術師「ほう……君があの世界最強ともいわれる……」
呪術師「だが、どんな猛者であろうと、私の呪いを受ければ、舌を引き裂かれて死ぬことになる」
剣士「やってみろ……」
呪術師「じゃあ呪術師って10回早口で言って」
剣士「いいだろう」
呪術師(バカめ……かかった!)
剣士「呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師」
呪術師「なっ……!?」
剣士「……これがお前の呪いの正体か」
呪術師「な、なぜだ!?」
呪術師「これまでの挑戦者はみんな舌を噛みちぎり、苦しみながら死んでいったのに!」
呪術師「なんなんだ、今の舌の滑らかさはァァァァァ!?」
剣士「呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師呪術師」
呪術師「ぐおおおおおおおおっ!!!」
呪術師「今日までこの戦法でひたすら勝ち続けてきたが、ここまでか……!」ガクッ
剣士「どうして俺が呪いを受けなかったか、知りたいか?」
呪術師「し、知りたい!」
剣士「ならば教えてやろう……」
剣士「実は俺も……口先だけで世を渡ってきた人間だからだよ」
呪術師「へ?」
剣士「俺の舌は、どんなに嘘っぽい武勇伝だって、真実っぽく滑らかに語ることができる」
剣士「それに比べれば、あれぐらいの早口言葉、なんてことはない」
呪術師「ってことはアンタもまさか……」
剣士「ああ、弱いよ」
剣士「剣を振ってもこのとおり」ブンブンッ
呪術師(しょぼっ!)
剣士「ただし……強そうな雰囲気だけは出せるよう、特訓したがな」ゴゴゴ…
呪術師(たしかに……雰囲気だけは恐ろしく強そうだ)
呪術師「……で、私をどうする気だ?」
剣士「実は俺、もう最強の剣士を名乗るのをやめようと思うんだ」
剣士「本当の実力がバレそうになる場面も年々増えてきたしな……」
剣士「で、新しい商売ができないかと模索してたんだけど……」
剣士「どうだお前、俺と組まないか? 俺と組んで新しい商売を始めないか?」
呪術師「は……!?」
剣士「さっき村でもらった100万もあるしな。これで当座はしのげるだろう」
呪術師「お断りだ! 私は一生ここで気ままに暮らすんだ! あの呪術の力でな!」
剣士「だけどあんな戦法、いつまでも通用するもんじゃないぞ」
剣士「今日だって俺がそれなりの剣の腕を持ってたら、お前はやられてたしな」
呪術師「……ぐっ!」
剣士「本当は分かってるんだろ? いつまでも呪術師じゃいられないって」
呪術師「……よく舌が回る男だ」
剣士「それだけが取り柄だからな」
呪術師「しかし、この戦いの始末はどうするのだ?」
剣士「適当に館の中を荒らして、二人とも消えれば、村人たちが都合よく解釈するだろ」
剣士「きっと相討ちになったんだ、とかなんとか」
剣士「そうすれば、俺もお前も死んだことになって動きやすくなるしな。一石二鳥だ」
呪術師「なるほど……頭もよく回る男だ」
剣士「じゃ、口先だけの俺たちでもできる商売をなにか考えよう!」
呪術師「よかろう」
この後、都にてある漫才コンビが一世を風靡することになるのだが、
それがこの二人かどうかは定かではない――
― 完 ―
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