勇者「これから魔王を倒しに行くぞ!」 (16)

暇なので

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勇者「な。頑張ろう、剣士!」

剣士「……あのな、頑張ろうって言われても、具体的にどうするんだよ」

勇者「具体的?」

剣士「そうだよ。ほら、装備品とか道具とか、魔王の元までどうやって行くか、とか。あと仲間だよ。おれとお前だけで倒しに行くつもりか?」

勇者「まさか! 他にも仲間を集めるさ」

剣士「だったら、どうやってその仲間を集めるんだよ」

勇者「それは……旅の途中で見つけられるよ。武器とかも、先へ進めば強いのが手に入るさ」

剣士「あのな、それは本の中の話だろ? 確かに、俺たちがよく読み聞かされた……そうだな、例えば騎士物語の中では、主人公が旅をしていくうちに仲間が集まったり」

勇者「うん」

剣士「強い武器を手に入れたりしてたさ。でもあれはあくまでもお伽話の世界だ。旅をしていくうちに、ああも簡単に物事がうまくいくはずがないんだよ」

勇者「でも実際、魔王を倒しにいったり、世界を旅して回っている人もいるだろ?」

剣士「ああ、いるな。大国の名のある将軍や、貴族たちがな」

勇者「……それがどうかしたの?」

剣士「はぁ、勇者。つまりな、俺たち農民風情が出しゃ張るだけ無駄ってことだよ」

勇者「そんな! 今から出発しようってところじゃないか!」

剣士「ああ、だからお前が満足するまで付き合うよ。昔から、お前は言ったら聞かない奴だからな」

勇者「じゃあなんでそんなこと言ったんだ?」

剣士「まあ、出発する前にお前に現実を……って、無駄か」ハァ

勇者「?」

剣士「とにかくだ勇者。まずはじめにどこへ向かうか決めなくちゃいけない。それに、手持ちの金だけじゃ旅を続けるのも無理だから、どこかで稼がなきゃな」

勇者「どこへ向かうって、魔王を倒しに行くんだ。当然魔王城だろ」

剣士「……魔王城っていってもな、ここからどれだけ離れていると思ってるんだまったく。1日でいける距離じゃないだろ?」

勇者「確かにそうだな。よし、じゃあまずは《石の街》に行こう!」

剣士「そうだな。そこでお金を稼ぎつつ、装備や道具を準備するか」

書き留めないので一旦ここまで

石の街
――酒場にて


剣士「さて、どうするよ」

勇者「……どうしよっか? あはは……」

剣士「はぁ。まあ予想はできてたな」

勇者「……」

剣士「とりあえず、今俺たちの状況を確認するぞ」

勇者「う、うん」

剣士「今は手持ちの金は二人合わせて200G。で、旅に必要な装備を整えるのには最低でも4000Gは要る」

剣士「で、宿代は1日9G。だからまあ、稼ぎなしでもこの街に2週間は滞在できるな」

勇者「うん」

剣士「ただもちろんなにもしなければ金は減っていくばかり。だから働いて金を稼がなければいけない」

勇者「そうだね、魔物でも退治する? なんかそういうのあるよね」

剣士「ああ、たしかにある。でも俺たちができると思うか? 魔物退治なんて」

勇者「できないの? 弱いやつなら大丈夫じゃない?」

剣士「なめすぎだ勇者。そもそも弱い魔物を退治して欲しいなんて依頼、あるわけない」

剣士「だいたい、剣も振ったこともない棒切れ一つ携えた俺たちが、魔物なんて倒せるかよ」

勇者「そうかな。スライムくらい倒せるんじゃない?」

剣士「バカだなお前、本当に。スライム強いぞ? あいつら可愛い顔して、タックルしてくるからな。みぞに入ったらかなり痛いぞ、あれ」

勇者「剣士戦ったことあるの!?」

剣士「小さい頃、裏山で遊んでたら偶然見つけちゃってさ。触ろうとしたらやられた」

勇者「へ~、あそこスライム出たんだ。ならこの辺にもいるかな?」

剣士「ああ、そうだ。言い忘れてたけど、この辺全く魔物でないからな。ここから南に1日歩いたところにある廃村が、この辺で唯一の魔物スポットらしい」

勇者「え、本当? だからここまでの道中鹿ぐらいしかいなかったの?」

剣士「ああそうだ。まあ、俺たち田舎もんにとっては、魔物も獣も区別ないけどな」

勇者「そっか……じゃあどうしよう。魔物退治なら、同時に俺たちも剣を覚えられて一石二鳥だと思ったんだけど……」

剣士「金は稼げても、それでも剣の腕は上がらないと思うぞ。やっぱそういうのは自己流より、誰かに教わらないと。とりあえず稼ぐとしたら、ここで募集してる仕事からだな」

勇者「ええっ! それじゃあ俺たちの村でやってることと変わらないじゃないか!」

剣士「ああ、そうだよ。現実そんな甘くないんだよ。お伽話みたいにな」

剣士「これ聴いても、まだ続ける気はあるか?」

勇者「もちろん! 昔からの夢だからな」

剣士「え、そうなの?」

勇者「そうだよ。いってなかったけ? 小さい頃から、魔王を倒すんだって、おれみんなにいってたよ?」

剣士「……小さい頃っていつだよ。もう覚えてないわ。まあいい、とにかく金を稼ぐとしたらそれぐらいしかない」

勇者「そっか……じゃあなるべく体を鍛えられるやつで……鉱山労働とかどうかな? 大変そうだから給料高いんじゃない?」

剣士「ばか。それ超ブラックだぞ。体鍛えられるんじゃなくて、逆に壊れるわ。それに、たいしてお金をもらえる仕事じゃない」

勇者「そうなの? へ~、じゃあ……うーん、難しいね……」

剣士「勇者、あのな……正直、剣も学べて金も稼げる仕事が一つある」

勇者「え、ほんと? もしかしてそれってヨウヘイってやつ?」

剣士「傭兵な。いや違う。まあ似たようなものだが、そんな自由にできない」

勇者「自由にできない?」

剣士「そうだ、俺たちに自由はなくなる。こうやって旅したりする自由がな」

勇者「それってもしかして……」

剣士「ああ、志願するんだよ。軍にな」

勇者「待って、それじゃあ戦争に行くことになるじゃん!」

剣士「場合によっちゃかもな。でも剣も学べて、金も稼げる。その代わり好きな時に退役することはできないと思うから、まあ時間はかなり喰われるな」

勇者「時間は別にいいさ。それより戦争はダメだ」

剣士「でもお前は魔王を倒したいんだろ? なら同じことだろ。実際、そっちのほうがまだ魔王を倒す機会はあると思うぞ」

勇者「ダメダメ。おれは魔王を倒したいわけで、戦争をしたいわけじゃない」

剣士「なに言ってんだ。魔王を倒したいなら、戦争に参加するのと一緒だろ」

勇者「違うよ。魔王を倒せば戦争が終わるだろ? だから魔王だけ倒すんだよ。戦争には参加したくない」

剣士「……だいたい言いたいことはわかったが、そんな単純じゃないと思うぞ、戦争は」

剣士「とにかく、それより好条件なものはないと思うぞ」

勇者「誰かに弟子入りとかは? その合間お金稼いでってやってさ」

剣士「弟子って誰のだよ。いっとくがそれもお伽話の世界だぞ」

勇者「じゃあさ、剣とか買うお金だけ集めて、もう出発しない? きっとどうにかなるよ!」

剣士「俺もお前も、野たれ死ぬぞ。原因はなんにしろな」

勇者「……じゃあ――」

剣士「現状、ド素人の俺たちにそれ以外の方法はない。せめて知り合いにそういうことができる奴がいたら良かったが、あいにく俺たちは小さな村の、世間知らずの田舎者だ」

勇者「……」

剣士「なあ勇者。やっぱ無理なんだよ。おとなしく村に帰ろうぜ」

勇者「……」

剣士「どうしてお前が魔王を倒したいのかは知らないが、別の誰かがやってくれるさ。俺たちは今まで通り、生活していこうぜ」

勇者「……」

剣士「な?」

勇者「じゃあ、するよ。それしかないなら、軍に志願する」

今日はここまで

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