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面接官「得意武器は斧……ですか」
斧戦士「はい」
斧戦士「これまで傭兵や用心棒などの業務で、数々の戦果を上げて参りました」
面接官「うーん……斧ねえ……」
斧戦士「え、なにか問題でも?」
面接官「今回募集してる仕事の内容を、アナタちゃんと分かってます?」
斧戦士「もちろんです。明日、大商人さんの邸宅で行われる新製品発表会の警備ですよね」
面接官「その通り。一応分かってはいるんですね」
斧戦士(なにが言いたいんだ? この面接官……)
面接官「ようするに、そういう華やかな場に“斧”のような無骨な武器は相応しくないんですよ」
斧戦士「な……!」
面接官「剣や槍といった今主流の武器に比べると、スタイリッシュさにも欠けるしねえ」
斧戦士「そんなことないですよ! 斧だって十分スタイリッシュです!」
面接官「ふぅーん……じゃ、今やってみせて?」
斧戦士「は、はいっ!」ガタッ
斧戦士「どりゃ!」ブンッ
斧戦士「うりゃ!」ブオンッ
斧戦士「どおりゃあっ!」ブオオンッ
斧戦士「……いかがです?」ニコッ
面接官「…………」
面接官「なんとも荒々しい……やはり斧は文明人というより、蛮族の武器だ」
斧戦士「ば、蛮族だとォ!?」
顔を真っ赤にして、面接官に詰め寄ろうとする。
面接官「おっと」サッ
斧戦士「うぎゃっ!」バチバチッ
斧戦士(いででで……っ! この面接官、魔法が使えるのか!)
面接官「ほら、そうやってすぐ場をわきまえず熱くなる。斧の使い手などそんなものだ」
面接官「ま、今回はご縁がなかったということで、とっととお引き取り下さい」
斧戦士「ううう……!」
面接会場を出た斧戦士。
斧戦士「くそっ! なんで斧ってだけで――」
剣士「やぁ、斧戦士」ニコニコ
斧戦士「剣士……!」
剣士「キミもさっきの面接受けてたんだろ? もちろんボクは受かったけど、キミはどうだった?」
斧戦士「…………」
剣士「いやぁー、ごめんごめん! 聞くまでもなかったかな? アッハッハッハッハ!」
剣士「なにしろ今の世の中、斧の使い手なんてどこにも需要ないもんねえ」
斧戦士「なんだと……!?」
剣士「あ、怒った? 怒っちゃった?」
斧戦士「怒るに決まってんだろうが!」
剣士「だけど飛びかかってこないなんて、ずいぶん冷静じゃないか」
剣士「あ、もしかして心の中じゃ認めてるのかな? 斧じゃ剣に勝てないって」
斧戦士「このヤロウ!」バッ
剣士「ふん」シュバッ
――ピタァッ!
斧戦士「ぐ……!」
斧戦士が斧を振りかぶろうとした瞬間、剣先が首に突きつけられていた。
剣士「ね? スピードが違うよ」
斧戦士「だけど、斧の方が重くて威力あるし……!」
剣士「威力ゥ? ハッ、そんなもん当たらなきゃなんの意味もない!」
剣士「これからの時代、戦いに求められるのはパワーよりもスピードさ」
剣士「斧使いの居場所なんかどこにもありゃしない」
剣士「ま、場末の酒場の用心棒ぐらいなら、雇ってもらえるんじゃない?」
剣士「酔っ払いやチンピラ相手にせいぜい自慢の斧を振るってくれよ!」
剣士「アッハッハッハッハ……!」スタスタ…
斧戦士「く、くそう……!」
傷心で町をあてもなくさまよう斧戦士。
斧戦士「面接は落ちるわ、剣士にはしてやられるわ……ろくなことがねえ!」
斧戦士「もうこんな斧捨てて、剣や槍に乗り換えてやろうか!」グッ…
斧戦士「……できるわけねえよな、そんなこと」
斧戦士「ちくしょう……!」
「ちくしょーっ!」
斧戦士「!?」ビクッ
土魔女「ったくなんなのさ! どいつもこいつも、あたしを必要としてないってどういうこと!?」
斧戦士「……どうした? 小娘」
土魔女「なに、おっさん、話し相手になってくれるの? だったら聞いてよ!」
斧戦士「おっさんって、俺はまだ――」
土魔女「あたし、土の魔女! 魔女の村の出身なんだけどさ」
斧戦士「魔女……!」
斧戦士(この世のどこかに魔女が暮らす村があって……)
斧戦士(ある程度の年齢になると村の外に出るって聞いたことあるが、初めて見た)
土魔女「仕事は自分で探さなきゃいけないから、まず魔法の学び舎に行ったのよ」
土魔女「でさ、『あたし土魔法なら教えられますよ』って自己紹介したら」
土魔女「『土魔法なんて地味だから今時習いたい子はいない』って断られちゃって……」
斧戦士「なんだそりゃ、ひでえ話だな」
土魔女「で、この町で土魔法でできる商売探してたけど、なあんにもなし」
土魔女「炎魔法が得意な友達はパン屋に雇われたり、水魔法が得意な子はクリーニング屋に雇われたりしたのに」
土魔女「あたしだけあぶれちゃって……」
土魔女「土魔法だって立派な魔法なのにさ……」
斧戦士「…………」
土魔女「おっさんこそ、どうしてベンチで一人寂しそうにしてたの?」
斧戦士「俺もお前と同じような境遇だよ」
斧戦士「今時、斧の使い手を雇ってくれる職場なんてそうそうねえ」
斧戦士「さっきも面接でボロクソ言われた挙げ句、落とされたところさ」
土魔女「なんで斧だとダメなの?」
斧戦士「今の戦士はみんな剣や槍ばかり使って、斧なんかちっとも人気ねえんだ」
斧戦士「しかも最近じゃ、魔法の力が宿った武器や魔力で動く兵器、なんてのも登場してきてるしな」
斧戦士「斧を使ってるってだけで“脳筋”だの“時代遅れ”だのとレッテルを貼られる」
斧戦士「斧だって立派な武器なのによ……」
土魔女「おっさんも大変だったんだね……」
斧戦士「おお、分かってくれるか、俺の気持ちが!」
土魔女「分かる、分かるよ、おっさぁん!」
斧戦士「よっしゃ! ここはひとつ、不人気同士、手を組まねえか!?」
斧戦士「俺たち二人で、世の中をあっといわせることをやろうぜ!」
土魔女「いいねいいね! やろうやろう!」
斧戦士「決まり! んじゃあ、あっちにある酒場でさっそく同盟を深めようぜ!」
土魔女「おっさん、いっとくけど、あたしお酒飲めないよ」
斧戦士「分かってるよ。おめーはジュースでも飲んでやがれ」
斧戦士「あとおっさんってのやめろ。俺はまだ20をちょいと過ぎたぐらいの若造だ」
土魔女「え~、全然見えない! 40ぐらいだと思ってた! ゴツイし、貫禄あるし!」
斧戦士「40……!?」
土魔女「ん~、じゃあおっさんはやめて、“斧っさん”って呼んであげる!」
斧戦士「……もう好きに呼んでくれ」
酒場にて――
土魔女「オレンジジュースおいしーい! やっぱり土魔法って最高!」プハッ
斧戦士「ハァ? オレンジジュースと土魔法ってなんの関係もないだろ?」
土魔女「だって果物は土で育つでしょ? だからこのジュースがあるのは土のおかげ!」
土魔女「で、土魔法は土を操る魔法だから、土魔法最高!」
斧戦士「ガッハッハ、なるほどな!」
土魔女「それで斧っさん! あたしらが手を組んでどんなことすんの!?」
斧戦士「一つ考えてることがある」
土魔女「え、なになに?」
斧戦士「実は明日、大商人の屋敷でビッグイベントが開かれるんだ」
土魔女「どんなイベント?」
斧戦士「大商人が今度売り出すっていう、新製品の発表会を兼ねたパーティーさ」
斧戦士「だが、商売敵がなんらかの攻撃をしてくるおそれがあるらしくて、警備兵を募集してたんだ」
斧戦士「まあ、俺はそれに応募して、面接であっさり落とされちまったわけだけど……」
斧戦士「俺の戦士としてのカンがいってる。きっとその発表会ではなにかが起こる!」
斧戦士「だから俺たちもその発表会に忍び込んで、警備してれば活躍のチャンスができる! はず!」
斧戦士「もし大活躍できれば、斧と土魔法の評判がグーンと上がるって寸法よ!」
土魔女「いいね、それ! やろうやろう!」
斧戦士「よっしゃ、決まりだな!」
土魔女「決まりっ!」ガシッ
熱い握手を交わす二人。
斧戦士「目的も決まったところで、そろそろ出るか。あんまり金もねえしな」
斧戦士「ところでお前、今はどこで暮らしてんだ? 下宿とかしてんのか?」
土魔女「実は、今までは宿屋に泊まってたんだけど、あたしもそろそろお金ヤバイの」
斧戦士「……だったら俺んちに泊めてやるよ。もちろんタダでいいぜ」
土魔女「えっ、いいの!?」
斧戦士「同盟組んだんだから、これぐらいは当然だろ」
土魔女「……だけど、斧っさん」
斧戦士「ん?」
土魔女「あたしに悪さしちゃダメだよ?」
土魔女「『ぐへへ、俺のこっちの斧がビンビンだぜぇ~!』みたいなのやめてよ? 泣いちゃうよ?」
斧戦士「斧使いは野蛮人じゃねえっつうの!」
斧戦士の自宅は、町外れの質素な小屋であった。
土魔女「うわぁ~、殺風景! なんもない! 『ザ・独身男の家』って感じ!」
斧戦士「ほっとけ」
土魔女「でも斧っさん、あたしはオシャレな宿屋よりこういうとこのが落ち着くよ」
斧戦士「へへへ、俺もだ。ベッドの上より床の上のが眠れるタイプだし」
土魔女「だけど、こんなんだから世の中からはみだしちゃったのかもね、あたしたち」
斧戦士「うーん、たしかに……」
斧戦士「けれど、それももう終わりだ!」
斧戦士「明日、大商人の屋敷で大活躍して、斧と土のすごさを世の中に認めてもらうんだ!」
土魔女「オーッ!」
翌日、はりきって大商人の屋敷に向かった二人だったが――
斧戦士「発表会は敷地内にあるデカイ庭で行われるって聞いてたけど――」
斧戦士「なんだありゃあ……」
土魔女「大勢の兵隊さんで囲まれちゃってるね……」
ズラッ……!
屋敷周辺は、大商人の私兵によって厳重に固められていた。
忍び込むどころか、近づくスキさえない。
土魔女「どうすんの、斧っさん?」
斧戦士「……どうしよっか」
土魔女「ええーっ、まさかの無策ですか!?」
斧戦士「当たり前だろ!」
斧戦士「ド派手なパーティーだろうから、忍び込むスキなんかいくらでもあると思ってたんだよ!」
斧戦士「他の客に紛れてとかさ!」
土魔女「んもー!」
土魔女「だったらしょうがない! 地上がダメなら地下から入るしかないね!」
斧戦士「地下って、どうやってだよ?」
土魔女「あたしが土魔法で、地面に穴を掘って侵入すればいいんだよ!」
斧戦士「おおっ、そんなことできるのか! さすが魔女!」
土魔女「たあっ!」パァァァ…
シ~ン……
斧戦士「……掘れてねえじゃん」
土魔女「そーいや、あたしは土を柔らかくはできるけど、掘るのはまだできないや」
土魔女「だから斧っさん、お願い! 穴を掘って!」
斧戦士「やれやれ、こんなことになるような気がしたぜ」ザクッザクッ
魔法で柔らかくなった土を、斧で掘っていく。
斧戦士「お、いけるいける!」ザクッザクッ
土魔女「んじゃ、あたしは後ろからどんどん土を柔らかくするからね!」
斧戦士「おう! 俺についてこい! 地盤沈下させんなよ!」ザクッザクッ
一方、屋敷の庭ではパーティーが始まっていた。
大商人「ようこそ皆さま! このたびは新製品発表会にお集まり下さり、誠にありがとうございます!」
魔法使い「後ほど私が開発した新製品の紹介をさせていただきます」
パチパチパチ……!
その中には剣士をはじめとした、昨日の面接に合格した警備兵たちも混ざっていた。
剣士「…………」キョロキョロ
剣士(妙だな……)
剣士(新製品の発表会ってわりに、客がさほど多くない)
剣士(それどころか、ボクたち雇われの警備兵の方が多いぐらいだ)
剣士(屋敷の周辺は私兵で固められてるし、ちょっと警備が厳重すぎる気もするよな……)
剣士「――ん?」
ボコボコ……
斧戦士「よ、よし……やっと開通……」ボコッ
剣士「やぁ、なにしてんだい?」
斧戦士「ゲ、剣士!?」
剣士「地面から怪しい気配を感じたから身構えてたら、まさかキミだったとはね」
剣士「面接落ちたからって穴を掘ってまで警備に参加しようだなんて、涙ぐましい努力じゃないか」
斧戦士「ぐ……!」
剣士「もし、このままボクが大商人に報告したら、キミは下手すりゃ逮捕されるけど……」
剣士「知り合い同士のよしみってことで、報告するのはやめといてあげよう」
剣士「まあ、せいぜいその暗い穴ぼこから、この華やかなパーティーを見物してなよ」
剣士「斧戦士……いや、モグラ君だったっけ?」ニヤニヤ
斧戦士「ぐぐぐ……!」
穴の中――
土魔女「斧っさん、どうしたの?」ボソッ
斧戦士「すまねえ、いきなりバレちまった」
土魔女「えーっ!? ずいぶん勘の鋭い人がいたんだね!」
斧戦士「ホントだぜ……。あのヤロウ、若手の中じゃ実力は飛び抜けてるからな」
土魔女「どうするの?」
斧戦士「こうなった以上、パーティーに忍び込むわけにはいかねえな」
斧戦士「そんなことしたら、さすがに剣士は俺たちのことをチクるだろうしな」
土魔女「だったら穴をもっと広げて、せめて二人でパーティー見物しようよ!」
斧戦士「ごめんな……俺のせいで……」
土魔女「いいっていいって! 次があるよ、斧っさん!」
斧戦士「……ありがとよ」
大商人「パーティーも盛り上がってきたところで、いよいよ新製品の発表をさせていただきます!」
大商人「警備兵を除く、ご来場の皆さまはこちらへお集まり下さい!」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
大商人の客たちは全員ステージの上に移り、庭にいるのは警備兵だけとなった。
大商人「では頼むぞ、魔法使い」
魔法使い「かしこまりました」
土魔女「あ、いよいよ新製品のお出ましだってよ!」
斧戦士「ん? あの魔法使い……どこかで見たツラだな……」
魔法使い「出でよ、ゴーレム!」
ズシン…… ズシン……
魔法使いの号令で、庭に巨大な鉄人形が現れた。
ゴーレム「…………」ズシン…
オォォ……! ワイワイ……!
剣士(これが新製品か! なるほど、警備を厳重にするわけだ……)
斧戦士「なんだありゃ!? まるで鉄のバケモノだな!」
土魔女「村にも土人形みたいのは作れる人いたけど、あんなゴツイの初めて見た!」
大商人「ゴーレムの性能はやはり口で説明するより、実際に見てもらった方がよろしいでしょう」
大商人「ただいまより、我らがゴーレムと、庭にいる警備兵たちの戦いを始めます!」
ワァァァ……!
まるでオモチャを与えられた子供のように、喜ぶ来客たち。
剣士「な……!?」
昨日の面接で雇われた警備兵たちは当然困惑する。
斧戦士(どういうことだ!?)
大商人「よし、魔法使いよ、命令を下せ」
魔法使い「はい」
魔法使い「ゴーレムよ、庭にいる警備兵たちを全員排除せよ!」
ゴーレム「了解シマシタ」ウイーン
傭兵A「お、なんだなんだ?」
傭兵B「目が光ったぞ。よくできてんなぁ」
剣士「――バカ、離れろッ!」
ドゴォンッ!!!
ゴーレムのパンチで、二人の傭兵は吹き飛ばされた。
傭兵A「ぐはぁぁぁっ!」ドザァッ
傭兵B「ぎゃふぅっ!」ドサッ
ゴーレム「残リモ排除シマス」ウイーン
ようやく自分たちが騙されたと悟った傭兵たちの心にも火がつく。
「俺たちを実験台にするつもりか!」 「ふざけやがって!」 「たかが人形、解体してやれえっ!」
しかし――
バキィッ! ドカァッ! ドゴンッ!
「ぶげえっ!」 「うぎゃあっ!」 「がふっ……!」
ゴーレムの戦闘力は凄まじく、立ち向かった傭兵たちは次々倒されていく。
傭兵C「もらったァ!」シュバッ
ゴーレム「…………」
パキンッ!
傭兵C「剣が折れ……!」
ゴーレム「損傷ゼロ、反撃シマス」ウイーン
ドゴォッ!
傭兵C「ぐげえっ……!」ドシャッ
こうなると、傭兵の中にも逃げ出す者が出てくるが――
傭兵D「無理だ……! あんな化け物、敵いっこねえ!」タタタッ
私兵隊長「フッ、ここから逃がすわけにはいかんな」ザザッ
傭兵D「ひいいっ……!」
大商人の私兵たちがそれを阻む。
斧戦士「そうか! あの私兵どもの役割は侵入者が中に入るのを防ぐんじゃなく」
斧戦士「ゴーレムの実験台になる傭兵どもを逃がさないことだったんだ!」
土魔女「ひどすぎるよ、こんなの!」
斧戦士(客が少ないのも、きっと悪趣味な金持ちばかりだからなんだろうな……)
ほとんどの傭兵が戦意を失いつつある中、剣士だけがゴーレムに立ち向かおうとしていた。
剣士「――来い!」
ゴーレム「敵ヲ排除シマス」ウイーン
剣士「たああっ!」シュバッ
ガキンッ! キンッ! ――ギィンッ!
自慢の速さでゴーレムの体に幾度も刃をぶつけるが、傷一つつかない。
剣士「くそっ、なんて硬さだ……!」
剣士(しかも、こいつ……パワーや防御力だけじゃない……)
剣士(ボクの動きを読んでる……!)
ゴーレム「ソッチデスネ」ギョロッ
剣士「しまっ――!」
ドガァッ!
剣士「ぐああっ……!」ドサッ
ついに一撃を喰らってしまった。
ゴーレムの強さに興奮する観客たち。
客「おおっ、あの剣士はかなりの使い手のようですが、あっさりと!」
魔法使い「私のゴーレムには、剣や槍の戦闘法をたっぷりとインプットしていますからね」
魔法使い「しかも、敵の動きを学習する機能も備えております」
魔法使い「多少手強い相手でも、すぐさまゴーレムの敵ではなくなるわけです」ニヤッ
剣士「まだだ……!」ヨロッ…
剣士(ゴーレムは、腹部にあるコアに強い衝撃を与えれば、機能を停止するはず……!)
剣士(このフットワークで近づいて――)バババッ
ゴーレム「ソノ動キハ『インプット』サレテイマス」ブオンッ
ガゴォッ!
剣士「が、はぁっ……!」ドサァッ…
最後の希望だった剣士も、ついに倒された。
斧戦士「なんつー強さだ……! あの剣士がなんもできずやられちまうなんて……!」
土魔女「ど、どうすんの、斧っさん!?」
斧戦士「そりゃあ、逃げるしかねえよ! あんなのと戦ってたら命がいくつあっても足りねえ!」
斧戦士「俺たちがここにいるのを知ってるのは剣士ぐらいだし、この穴を引き返せば安全に逃げられる!」
土魔女「だよね~!」
斧戦士「へへへ、世の中逃げるが勝ちってやつよ!」
土魔女「さすが斧っさん! 頭が冴えてるね!」
斧戦士「…………」
土魔女「…………」
斧戦士「――って、ンなことできるわけねえだろうがァ!!!」ボコォッ
土魔女「斧っさん、かっこいい!」ボコォッ
二人は穴から飛び出した。
ゴーレム「ン?」
剣士「斧戦士……!」ゲホッ
ザワザワ…… ドヨドヨ……
魔法使い「アイツは……! なんでこんなところに!?」
大商人「なんだ、あのきったない斧使いと小娘は!? どこから湧いてきた!?」
斧戦士「ゴーレム!」
ゴーレム「ナンスカ?」
斧戦士「次はこの俺が相手してやるぜ!」
ゴーレム「敵ト見ナシマス。排除シマス」ウイーン
斧戦士「だりゃあっ!」ブオンッ
ドガァッ!!!
ゴーレム「!?」ピシッ
これまでどんな攻撃にも無傷だったゴーレムに初めて傷がついた。
大商人「なにぃ!? あのきったない斧使い、なんという攻撃力だ!」
魔法使い「ぐ……っ!」
斧戦士「たしかに斧ってのはなかなか当たらねえんだ……重くて小回りがきかねえからな」
斧戦士「だけど当たるとデカイんだぜぇぇぇ!」ブオンッ
ガッ! ドガッ! ドゴォッ!
ゴーレム「イテテ……腰部損傷、左腕損傷、右足損傷……」
土魔女「いっけえ、斧っさん! メチャクチャ押してるじゃん!」
斧戦士(そういやこのゴーレム、さっき剣士たちを相手にしてた時より動きが悪くねえか?)
ガツッ! ガンッ! ドカッ!
魔法使い『私のゴーレムには、剣や槍の戦闘法をたっぷりとインプットしていますからね』
斧戦士「そうか……!」
斧戦士「ゴーレム、さてはお前……斧の戦い方は全然インプットされてねえな!?」
ゴーレム「ギクッ」
斧戦士「そりゃそうだ! 斧の使い手なんてほとんどいないから、入れられる情報がないもんな!」
斧戦士「だから昨日の面接官は俺のことを落としたんだ! こいつは斧に対応できねえから!」
斧戦士「だよな魔法使い? ……いや、昨日の圧迫面接官さんよォ!」
魔法使い「ぐっ……! おのれえええっ……!」
斧戦士「そうと分かれば、一気にケリつけてやる!」ブオンッ
ドガッ! ガッ! ガツンッ!
ところが――
ドゴォッ!
斧戦士「ぶげっ!? あ、あれ……?」
ゴーレム「アナタノ動キ、ダイブ覚エテキマシタ」ウイーン
斧戦士「ウソでしょ……?」
魔法使い「ククク……うぬぼれるなよ、この時代遅れの蛮族が!」
魔法使い「ゴーレムは学習機能も備えているのだ! お前の単純・単調・単細胞な動きなどすぐ学習できる!」
魔法使い「私がお前を落としたのは、斧使い如きではゴーレムの実験台にもならんと判断したからだ!」
魔法使い「ゴーレム! とっとと叩き潰してしまえ!」
斧戦士「くっそぉ~……!」
斧戦士「ゴーレム君……今日のところは引き分けということで手を打たないか?」
ゴーレム「ムリッスネ」
魔法使い「バカが、そのゴーレムは自分を起動させた者のいうことしか聞かんよ」
魔法使い「さぁ、その野蛮人に引導を渡してやれ!」
土魔女(このままじゃ、斧っさんがやられちゃう! あたしが援護しなきゃ!)
土魔女「土よ、盛り上がれ!」パァァ…
ボゴォッ!
土が隆起し、ゴーレムの体を直撃した。
ゴーレム「ワッ!」
だが、土がぶつかったぐらいではゴーレムはビクともしない。
ゴーレム「ナニコレ、ショボッ」
土魔女「ううっ……あたしじゃ役に立てない……。ごめん、斧っさん……!」
斧戦士「――いや、ナイスだぜ!」
斧戦士「どりゃああああっ!」
ボゴォンッ!!!
斧戦士は隆起した土に思い切り斧を振るい、土の散弾をゴーレムの顔面にぶつけた。
ゴーレム「!?」バサッ
ゴーレム「目ガッ、目ガァ~!」
剣士「斧戦士! 腹部のコアだ! ……コアを狙うんだ!」
斧戦士「腹だな!? 分かったぜ! とんでもねえ腹痛にしてやらァ!」ダッ
一気に間合いを詰めて、斧戦士がコアを狙うが――
ゴーレム「甘イ!」ガシッ
斧戦士「や、やばっ!」ミシミシ…
巨大な手で掴まれてしまう。
ゴーレム「コノママ握リ潰シテヤル」メキメキ…
斧戦士「ぐおぉぉぉぉぉっ……!」ミシミシ…
土魔女「土よ、柔らかくなれ!」パァァ…
ゴーレム「ワッ!」ガクッ
斧戦士「あっぶねえっ!」サッ
柔らかくなった土にゴーレムは足を取られ、斧戦士は逃げ出すことができた。
斧戦士「助かったぜぇ! もう少しで肉汁100パーセントジュースにされるとこだった!」
土魔女「へへへ、あたしもやるもんでしょ、斧っさん!」
大商人「なにをしておる! あんなきったない斧戦士如きに手こずりおって!」
大商人「圧勝せねば、お客様たちが満足せんではないか!」
魔法使い「ちっ、うるせえな!(申し訳ありません、大商人様!)」
大商人「えええええ!?」
魔法使い(私が精魂込めて造り上げた兵器が、野蛮な斧使い如きに負けるものか!)
魔法使い(ここで勝たねば、出資者を集めて最強のゴーレムを作るという私の夢は途絶えてしまう!)
魔法使い(斧戦士単体ではそこまでの強さはない。まず始末すべきはあの小娘だ!)
魔法使い「ゴーレム、魔女を狙え!」
ゴーレム「コレモ命令ナンデネ、恨ンジャイヤヨ」グオオオッ
土魔女「ゲ!? あたしに来んの!? きゃあぁぁぁっ!」
斧戦士「させるかよっ!」バッ
――メキィッ!!!
ゴーレムの拳を斧戦士がかろうじて受け止めるが、愛用の斧は砕けてしまった。
斧戦士「ぐっ……大丈夫か!?」ボロッ…
土魔女「斧っさぁん!」
斧戦士「逃げろ! お前だけなら、俺が戦ってるスキに穴から逃げられる!」
土魔女「やだ! あたしだけ逃げるなんてできない!」
斧戦士「もう斧は折れちまったし、俺にやれることなんて時間稼ぎぐらいだ! とっとと逃げろ!」
土魔女「やだよぉ!」
魔法使い「ふん……ゴーレムのことを知った以上、逃がすわけなかろうが」
魔法使い「せめてもの慈悲だ……地獄でも寂しくないよう、二人まとめて潰してしまえッ!」
大商人「フハハハ、我々の勝利だ!」
ゴーレム「了解シマシタ!」
ゴーレム「排除シマス」グオッ
――ギィンッ!
ゴーレム「ム?」
剣士「斧戦士なんかに助けられたままなんてのは、ボクのプライドが許さないからね……!」
ゴーレム「フン、オマエノ動キハモウ覚エタッツーノ」
ギンッ! キィンッ! キンッ!
剣士がゴーレムに立ち向かうが、やはりかすり傷すら与えられない。
斧戦士「ぐっ……! 剣士の奴……!」ヨロッ…
斧戦士「斧さえ、斧さえありゃあ……!」
土魔女「!」ハッ
土魔女(そうだ! あたしが土魔法でっ!)
土魔女「大地に眠る石よ、飛び出せ!」パァァ…
ボボボッ!
土魔女「そしてえ……互いにぶつかり合え!」キィィィン…
ガチンッ! ガチンッ! ガチッ! ……ボトッ!
土魔女「やった……! “石の斧”ができた!」
土魔女「斧っさぁん! 新しい斧だよぉ~!」
斧戦士「サンキュー! これで元気百倍だぜ!」ガシッ
斧戦士(ま……この石の固まりを“斧”と呼ぶのはちょっと苦しいけど……オマケしとくか)
斧戦士「この石斧で、あのヤロウをブッ倒す!」
剣士「ぐはぁ……っ!」ドザッ…
ゴーレム「手コズラセヤガッテ。チャチャット、トドメサシマース」ウイーン
そこへ斧戦士が、猛烈な勢いで突っ込んでいく。
斧戦士「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」ダダダッ
ゴーレム「エ」
斧戦士「くたばれえっ!!!」ブオオンッ
ドガァンッ!!!
斧戦士の石斧が、ゴーレムの腹部のコアを直撃した。
ゴーレム「強イショックヲ確認……停止シマス……」シュゥゥ… ガクーン
斧戦士「おっしゃ……! 止まった……!」ゼェゼェ…
土魔女「やったぁ!」
剣士「フン……斧戦士においしいところを持っていかれちゃったな」
土魔女「なにいってんの! お兄さんの腕力じゃ、どうせコアを攻撃しても止めらんなかったでしょ!」
剣士「うぐぅ……」
土魔女「それとお兄さん、斧っさんより若いんだから、あんまり失礼なこといっちゃダメだよ!」
剣士「へ? ボクと斧戦士は同い年だよ」
土魔女「マジですか!?」
土魔女(今日一番驚いたかもしんない……)
ゴーレムは無力化された、が――
ザワザワ…… ドヨドヨ……
大商人「ぐっ、まさかゴーレムが敗北するとは……! せっかくの新製品発表会が台無しだ!」
魔法使い「違うんですっ! こ、これはなにかの間違いです!」
大商人「そうだな、お前なんかと手を組んだのが間違いだった! さっき暴言も吐いてたし!」
大商人「こうなれば私兵たちよ! お前たちの手で奴らを始末するのだ!」
命令を受けた私兵軍団が、斧戦士たちを取り囲む。
私兵隊長「フッ、逃がさんぞ」ズラッ…
斧戦士「ち、ちくしょう……! 敵はゴーレムだけじゃないんだった……!」
剣士「傭兵たちは皆ボロボロだ……勝ち目はない……!」
土魔女「ちょっと待ったぁ!!!」
土魔女「ジャーン!」
ゴーレム「ドーモ」ウイーン
大商人「うわぁぁぁぁぁ!?」
魔法使い「な、なんで……!?」
土魔女「さっき、あんた“起動した者のいうことしか聞かん”っていってたじゃん?」
土魔女「でさ、試しにゴーレムに魔力を送ってみたら、起動してくれたの! すごいでしょ!」
ゴーレム「ヤッパリ男ヨリ、女ノ子ニ仕エル方ガ楽シイシネ!」
斧戦士「ガハハ、やってくれるぜ!」
剣士「フッ、これは頼もしすぎる味方だね」
土魔女「さぁ、どうする? “あたしのゴーレム”と戦う?」
ゴーレム「ファイッ」ウイーン
私兵隊長「…………」
私兵隊長「フッ、もちろん逃げるさ」
タタタッ……
私兵たちは全員逃げていった。
大商人「おいっ! 高い金払ってんだぞ! 置いてくなぁ!」
魔法使い「くそっ……! なぜこんなことにぃ……!」
大商人「全て貴様のせいだぞ! あんなポンコツを作りおって!」
魔法使い「そっちこそ! もっと予算を出してくれれば……!」
斧戦士「ちょーっと待った」
大商人&魔法使い「!」ビクッ
斧戦士「仲間同士でケンカする前に、俺のケンカを買ってくれねえか」
斧戦士「俺って場をわきまえず熱くなる、野蛮人だからよォ~!」
斧戦士「黒幕であるお前らをこの石斧でブン殴りたくてしょうがねえんだよなァ~!」ギロッ
大商人「ひ、ひいっ! 待ってくれ!」
魔法使い「このおっ!」バチバチッ
サッ
斧戦士「おーっと、魔法は喰わねえよ。面接で見せてもらったからな」
魔法使い「ぐっ……!」
大商人「ゆ、許してくれ……助けてくれ……!」
魔法使い「そんな斧で殴られたら、死んじゃうじゃないか! 人殺しだぞ、そんなの!」
斧戦士「俺たちをゴーレムで殺そうとしといて、なに言ってやがる!!!」
ブオンッ!
ドゴンッ!!!
石の斧は彼らがいたステージにヒビを入れていた。
大商人「あ、あ、あわわ……」ピクピク…
魔法使い「斧怖い、斧怖い、斧怖い……」ピクピク…
斧戦士「ふん、気絶しやがったか。だらしねえ」
戦いは終わった――
傭兵たちを実験台にしようとした大商人と魔法使い、そして悪趣味なショーを見物に来た客たちは、
駆けつけた国の兵隊によって連行された。
ゴーレムにやられた傭兵たちからは、さいわい死者は出ておらず、
彼らは斧戦士たちに感謝しつつ解散した。
剣士「……今日はやられたよ」
剣士「これからはゴーレムのような頑丈な魔導兵器がどんどん作られるだろうし」
剣士「もしかしたら斧の攻撃力の高さが見直される時代が来るのかもね」
斧戦士「へっ、なんだよ。らしくないじゃねえか」
剣士「だが! 次はこうはいかない!」
剣士「ボクももっと修行して、斧がどうしようもない武器ってことを改めて証明してみせるさ」
斧戦士「ぐっ……こいつ!」
剣士「それじゃあね。キミたちもせいぜい修行に励みなよ」クルッ
斧戦士「おめーにいわれなくてもな!」
土魔女「バイバーイ!」
ゴーレム「サイナラ~!」
斧戦士「なんでお前がいるんだよ!? お前を作った魔法使いは捕まったのに!」
ゴーレム「イイジャナイスカ。昨日ノ敵ハ今日ノ友、ッテイウデショ」
斧戦士「昨日どころか、ついさっきまで敵だったじゃん……」
斧戦士「なにはともあれ、大活躍できたってのは間違いねえ!」
斧戦士「今回の件は新聞にも載るだろうし、斧と土の評判はグンとよくなるはずだ!」
斧戦士「きっと仕事だってバンバンくるぜ!」
土魔女「やったね、斧っさん!」
斧戦士「斧と土、これからは忙しくなるだろうけど、気合入れてくぞ!」
土魔女「斧っさんとあたしのコンビは無敵だよ!」
斧戦士「だな!」
ゴーレム「自分ハミソッカスデスカ」シュン…
土魔女「あ、ごめんごめん。じゃトリオってことで」
斧戦士(妙な魔女と出会って、憎き剣士と一緒にゴーレムと戦って、大商人どもは捕まって……)
斧戦士(昨日面接落ちた時は、こんなことになるとは思わなかったぜ……)
一ヶ月後、二人は畑を耕していた。
土魔女「土魔法で土を柔らかく~」パァァ…
斧戦士「オラァッ、オラァッ!」ザクッザクッ
農民「二人ともよく働いてくれて、助かるでよ」
斧戦士「へっへっへ、こりゃどうも!」
ゴーレム「今日ハイイ天気ッスネ~、日光浴日和デスヨ」
斧戦士「そうだな……ってゴーレム、お前もちったぁ手伝えよ!」
ゴーレム「スミマセン、畑仕事ハインプットサレテナインデス。自分、都会ッ子ナモンデ」
斧戦士「ったく……学習機能はどうしたんだよ」
斧戦士「やれやれ、こないだは山に埋まってる宝探し、少し前は温泉掘り、戦いの依頼なんか来やしねえ」
土魔女「まあまあ、こうやって地道にやってけば、いつか光が当たる時がくるよ」
土魔女「斧で土を掘ってけば、必ず明るい場所に出られるんだから!」
斧戦士「ガッハッハ、その通りだな!」
斧戦士「よーし、俺たちの力で斧と土魔法をもっともっとメジャーなもんにすんぞっ!」
土魔女「オーッ!」
―完―
以上で終わりです
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