店主「西の森の喫茶店!!」 (128)

・このSSは勇者「魔導人形?」 幼女「ユーシャ!」のシリーズものです

受付「勇者様! 英霊祭ですよ!」 幼女「♪♪♪」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421063327/)

・慣れない部分もありますがそこは見なかったことに…

・基本妄想の垂れ流しです

・前の話を見てなくても雰囲気だけでさくっととわかる気がしないでもないような気がします

・書き溜めの部分もありますが、ゆっくり進行していきます


以下読んでも読まなくてもいいニートの勇者と人形の幼女のお話

勇者「魔導人形?」 幼女「ユーシャ!」
勇者「魔導人形?」 幼女「ユーシャ!」 - SSまとめ速報
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魔法使い「なにか食べたいものはあるかの?」幼女「チャーハン!」
魔法使い「なにか食べたいものはあるかの?」幼女「チャーハン!」 - SSまとめ速報
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受付「勇者様! 英霊祭ですよ!」 幼女「♪♪♪」
受付「勇者様! 英霊祭ですよ!」 幼女「♪♪♪」 - SSまとめ速報
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院長「あなたが幼女ちゃん?」幼女「むい!!」
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幼女「おじいちゃん。なんの……用?」妖精長「なに、ちょっとした頼みごとじゃ」
幼女「おじいちゃん。なんの……用?」妖精長「なに、ちょっとした頼みごとじゃ」 - SSまとめ速報
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えー、お久しぶりです。今回は番外編ということなので全部完成してから投下しようと思って最後まで粘っていたのですがどうしても完成せず見切り発車という形になってしまいました……
とりあえず少しずつ手直しを加えていきながらゆっくりと進めていく次第ですのでなんとかよろしくお願いします!

それでは今回も最後までお付き合いしていただけたら幸いです


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441544416


――???―――




勇者「ついに……ついに見つけたぞ! 魔王!!」

僧侶「あれが……魔王」ゴクッ

魔王「とうとう来たか……いや、来てしまったか。愚かなる人間よ」

勇者「俺の名は勇者! 貴様を倒す者! 世界に闇をもたらした魔王め! 勝負しろ!」

僧侶「落ち着いて勇者。一秒たりとも油断はできない」

魔王「外にいた連中はどうした?」

勇者「全て斬り伏せた!」

魔王「そうか……気のいい連中だったというのに。随分とひどいことをするじゃないか」ズズズズズ

僧侶「なに? この力……?」

勇者「ひどいだと? 自分が今までやってきたことを忘れたのか!?」

魔王「さぁ? 俺は自らが恥ずべきことなど1つも……は言い過ぎだがそれほどないとおもっているのだがな」

勇者「この……!! なめやがって!!」

僧侶「あなたの様な邪悪な存在がいるからこの世界は……!!」

魔王「……どうやら、話し合いの余地は無い様だな」

勇者「当たり前だ! いまさらお前と話すことなど何もない!!」

魔王「やはりこれが運命と言う奴か。この世界は『運命』の望むがまま……悲しいな」

勇者「魔王! お前の命運も終わりだ! 俺はお前を倒してこの世界の平和を取り戻す! 今日! ここで!!」チャキッ

僧侶「………」

魔王「『光と闇。二つの強大な力が一つになる時、運命は真の姿を現す』」

僧侶「!!!」

勇者「なに?」

魔王「遠い昔のどこかの誰かが残した予言だよ。いや、妄言と言ってもいいか」

勇者「どういうことだ!?」


魔王「そいつが言うにはこの世は全て『運命』という奴が全てを決めているらしい。全ての生命体にはそれぞれの『役割』があってそれをただ遂行するだけの存在……どこかの誰かを楽しませるためのちょっとした余興なんだとさ」

僧侶「それはつまり……私たちが今ここであなたの前にいるのも運命が決めたからだとでも?」

魔王「その通り。勇者、お前が俺を憎むその気持ちもこの世界の運命とやらが決めた『設計図』の通りなんだそうだ。だから占い師は未来が分かり、星読みはこれからのことがわかる。あいつらは生命体の『設計図』を解き明かしているだけに過ぎないんだよ。本能的にな」ククク

勇者「だとしたらどうだって言うんだよ! お前が今までやってきたことは変わらない! 運命だろうがなんだろうが俺はお前を倒すためだけに生まれてきたんだ!」

魔王「なぁ、勇者。なんで俺が今までお前たち人間の前に姿を現さなかったかわかるか?」

勇者「え?」

魔王「魔王がこの世に現れてから今まで、なぜ俺がお前たちの前に姿を現さなかったのか! 今まで不思議に思わなかったのか?」

僧侶「それは……」

魔王「勇者! 俺はお前に一つ警告してやろう!」


魔王「『運命』に食い殺されるなよ?」ニタァ


勇者「黙れ黙れ黙れ!! 俺は勇者なんだ! お前を倒して、世界に平和を取り戻すんだ!!」

僧侶「!! ダメ! 勇者!!」

勇者「うぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」




ドゴォォォォォォォン!!!


―――――


ピッピッピッピッピ……


勇者「……う……うぁ……」

「先生! 目を覚ましました!!」

「医療用魔法の準備を! 使える人間はありったけ呼んできてくれ!」

「はい!!」

勇者「こ……ここ……は……?」

「もう大丈夫ですよ。落ち着いてください。大丈夫ですからね」

勇者「だい……じょ……う……ぶ?」



???「……笑って……生きて……」



勇者「うっ……!」

「先生! 勇者様の様子が!」

「マズイな! 意識が混乱している! 抑えてくれ!」

「わかりました!」

勇者「……うああああ……」



???「あなたは……私の……」


???「希望だった」


勇者「うあああああああああああああああああ!!!!」バタバタバタ







――西の森『喫茶くろねこ』――




店主「友ちゃーん」

友「ん?」

店主「見て見てー」

友「どうしたんだ、店主?」

店主「ネコミミ!!」ピョコン

友「………仕事しろ」

店主「働きたくないニャン♪」

友「………」

店主「ニャンニャン働かないニャン♪ 働きたくない、働かな……んぎゃああああああ!!!」メリメリメリ

友「働・け!」ギリギリギリ

店主「ちょっ! 待っ……!! ゆ、指が食い込んでるにゃぁぁあああああ!!!」ジタバタ

友「ったく」パッ

店主「痛たた……死ぬかと思った……」

友「どっから拾ってきたんだそんなもの」ハァ

店主「いつものお昼寝スポットに落ちてた」

友「お前、毎回毎回よくわからないもの拾ってくるなよ……」

店主「でもでも! 可愛くないこれ?」ニャン

友「……いいから働け」

店主「可愛いでしょ?」ニャンニャン

友「しつこいぞ」

店主「むぅー、友ちゃんのいけずー!」プクー

友「うるさい」

店主「大体さー、働け働け言うけどさー」



ガラーン……



店主「お客さんなんて誰も来ないじゃん」


友「………」

店主「はい。今日もお客さんは0! お疲れ様でした! さぁ、閉店しましょ♪」

友「ふざけんな!」ビシッ

店主「ふぎゃっ!」

友「まだ開店してから一時間も経ってないだろ!」

店主「あのねぇ、いっくら頑張ったって無理なものは無理なんだよ? 一時間やっても十時間やっても一緒。こんなど田舎で喫茶店なんか流行る訳ないじゃん」

友「……おじさんの時は繁盛してたじゃないか」ボソッ

店主「うん? なんか言った?」

友「いや、なんでもない」

店主「そんな感じなんでー今日はおっしまーい♪ お昼寝行ってくるねん♪」

友「させるか!」バシッ

店主「痛た……もう! 友ちゃんはすぐそうやって手を出す! そういうの嫌われるんだよ!」

友「お前はもうちょっとやる気を出せ……頼むから」

店主「友ちゃん私はね、ニートなんだよ? 働いたら負けかなーって思ってるんだよ!」ドヤッ

友「またそれか……」


店主「えへへ、これは私の生き方だからね、簡単には変えられないよん?」

友「要は働く気のないクズってことだろ?」

店主「む、失礼しちゃうな! ニートはそんなんじゃないもん!」

友「じゃあ、どうだっていうんだよ?」

店主「ニート! それは世間の流れに歯向かう反逆者! 世俗に縛られることのない自由な風! 自分に嘘をつくことなく、好きな方へ楽な方へ流れていく! そんな新時代に相応しいナウでヤングな生き方なんだよ!」

友「やっぱりクズじゃないか」

店主「クズじゃないもん! ニートだもん! 自由な風なんだもん」

友「少しは聞こえのいい言葉に変えて自分を擁護してるだけだろ。そんなんじゃ生きていけないぞ?」

店主「今が楽しければそれでいいの!」

友「そんな考え方が蔓延したらこの国は終わるな、確実に」

店主「なんでさ? みんな辛い思いしなくてもいいんだよ? 幸せじゃない」

友「その結果が目の前でグダついてる馬鹿だと思うと悲しくなるんだよ」

店主「むぅ……友ちゃんは今、全国のニートに喧嘩を売ったね!」

友「上等だ。お前含めて全員泣くまで説教してやる」フフン

店主「友ちゃんのわからず屋! こんなことしたってどうせ無駄だってことくらいわかってるくせに!」

友「そんなのやってみなきゃわかんないだろ?」

店主「私は働きたくないのー!!」

友「……どうしたらやる気を出してくれるんだ?」

店主「そうだねぇ……週休六日?」

友「よしわかった。お前のそのねじ曲がった根性、矯正してやる」ボキボキッ

店主「に、ニートは暴力には屈しないんだかんね!」

友「いい度胸だ……ならば私も本気でいかないとな……」ゴゴゴゴゴ

店主「と、友ちゃんが鬼の様な顔に……」


友「喜べ……死ぬまで働ける様に五体満足で返してやる……」ニタァ

店主「そ、それって逆に怖いんですけど……」アワアワ

友「クックック……あっはっはっはっは!!!!」




カランカラン……



友「いらっしゃいませお客様―!」キャルンッ

隠居婆「邪魔するよ」

友「婆様。いらっしゃいませ」キラッ

店主「た、助かった……」ヘナヘナ

隠居婆「なんだい、あんた達また喧嘩してたのかい? 」

友「まさか! 滅相もありません!」

店主「出た、友ちゃんの営業スマイル。さっきまでの鬼みたいな表情が嘘みたい」

友「なにか?」ニコッ

店主「……なんでもありません」

隠居婆「あんだけ大声で高笑いなんかしてたらあたしの遠い耳でもよーく聞こえるさね」

友「あはは……いや、なんのことでしょう? 私たちはいつでも仲良しですよ?」ニコニコ

隠居婆「あんたもあたしの前ではいい加減にその猫かぶりやめな。知らない仲じゃないだろうに」

店主「だってさ、友ちゃん。やっぱり気持ち悪いんだよそれ」

友「……うるさいな」


隠居婆「店主、コーヒー淹れてくれないかい?」

店主「えー! 嫌だよそんな面倒くさい。自分で淹れなよ!」

隠居婆「お前さんが淹れた方が美味いから頼んでるんじゃないか」

店主「そんなこと言っても嫌なものは嫌だもーん!」

友「いい加減にしろ! お客様に向かってなんだその態度は!」

店主「お婆ちゃん、悪いけど帰ってくんない? 今日はもう店閉めるから」

友「おい!」

店主「うーん……もう今日はいいんじゃないかな? うん、もう十分働いたよ。うん。働いた。私にしては上出来だって。はい終了―!」

友「お前商売なめてんのか?」グググ

店主「いふぁいいふぁい……」

友「ちゃんと働け! ほら、さっさと豆を……」

店主「~♪」ピーピピー

友「おい……お前……豆どうした?」

店主「さて、なんのことでしょう?」

友「とぼけるな! コーヒーの豆だよ! ここにストックがあっただろ!?」

店主「ああ、あれ。なんか変な匂いするから捨てちった」テヘペロ

友「捨てた?」

店主「正直、昔から嫌いなんだよね、あの匂い。だから全部捨てちゃったんだー」

友「か、代わりの豆は?」

店主「ん? 注文してないよ? だって二度と淹れる気ないし」

友「は?」


隠居婆「それじゃあ、今日はコーヒー飲めないってことかい?」

店主「ごめんねぇ、お婆ちゃん。コーヒー淹れるのってすんごい面倒だからこれを機にメニューから外そうかと
思ってるんだー」

隠居婆「そうかい……それは残念だね」

店主「しょうがないよね、だって面倒なんだもん。友ちゃん、そういうわけだから……って」

友「」

店主「ありゃりゃ……おーい!」フリフリ

友「」

店主「あちゃー、こりゃ絶対怒られるパターンだね」

隠居婆「わかってるならなんでそんなことしたんだい?」

店主「だって面倒くさいんだもん」

隠居婆「でも昔は毎日嬉しそうに淹れてくれてたじゃないか」

店主「それは昔の話でしょ? 今の私とは違うもん」

隠居婆「そうかねぇ……私には何一つ変わってないように見えるんだが」

店主「乙女は日々成長するんだよ、婆様。そしてその成長した結果が今の私!」

隠居婆「お前さんがそれでいいって言うなら私は止める気はないけどね」

店主「んー、このまま友ちゃんに怒られるのも面倒だし、私ちょっと出かけてくるね」

隠居婆「いいのかい? この子放っておいて」

店主「悪いけどお婆ちゃん、友ちゃん見ておいてくれる?」

隠居婆「知らないよ? 後でもっと怒られても」

店主「へーきへーき。ニートは今が楽しければそれでいいんだよ」タッタッタッタ

隠居婆「気をつけるんだよ?」ヒラヒラ

店主「いってきまーす!」




隠居婆「……自由だねぇ、あの子は」

友「……けるな」

隠居婆「ん?」

友「ふざけるなぁぁぁぁあああああああああ!!!!!」ビリビリビリ


――西の森――



店主「やれやれ、友ちゃんには困ったもんだね。あんなお堅い人になっちゃうなんて……」ヤレヤレ

店主「友ちゃんも難しいこと考えないで楽に生きればいいのにさ」

店主「………」




「わたし、いつかお父さんよりおいしいコーヒー淹れるんだー」

「そうか、だったらお父さんもお前に負けないように頑張らないとな」

「へへーん! そんなの無駄だもんね! わたし、お父さんの何十倍も頑張るもん!」

「そうか、だったらお父さんはその何百倍も頑張るぞ!」

「じゃ、じゃあ私はその何千倍!!」

「そうかそうか、お前は頑張り屋なんだな」

「うん! わたし、頑張り屋!」

「立派だぞ、さすがお父さんの娘!」ナデナデ

「えへへ~」




店主「……頑張ったってなんにもなんないのにね」ハァ

店主「おっといけないいけない! 昔のこと思い出したらちょっと暗くなっちゃったよ」


店主「ニートの心得その一! 『ニートは常に楽しく楽な道!』」

店主「暗い気持ちなんてナンセンス! 明るくニコニコ生きてかなきゃ!」

店主「こういう時はポカポカの太陽の下でグダグダとお昼寝すべし! だね!」

店主「嫌なことなんか忘れて夢の中~♪ ぽかぽかお日様ありがと~♪ 今日も極めるニート道~♪」

店主「頑張ったって辛いだけ~♪ 楽な道を進むだけ~♪ 今日も行くのさニート道~♪」

店主「そ~れ♪ 働きたくないでござる! 働きたくないでござるぅぅぅぅぅぅ!!! ってわぁぁああ!!」



ドンガラガッシャーン!!


店主「痛た……もう、誰!? こんな道の真ん中に丸太かなにか置いたの! 思いっきり転んじゃったじゃない!」


「………うう……」


店主「………あり?」

「………は……はら……」

店主「げぇ!? もしかして人間!?」

「は……はら……」

店主「ご、ごめん! もしかして蹴っちゃった!?」

「……は……腹が……」

店主「腹? お、お腹がどうしたの!?」

「腹……減った……」

店主「ちょ、ちょっと!? だ、大丈夫!?」

「く、食い物……くれぇぇぇ!!!」

店主「うひゃぁぁあああああ!!」


友「あの大馬鹿者! ついに気でも狂ったか!?」

隠居婆「これこれ、そうカッカするもんじゃないよ」

友「ですが婆様! メニューにコーヒーが無い喫茶店がどこにあるというんですか!?」

隠居婆「本人が淹れたくないって言ってるんだ。無理に淹れさせるわけにはいかないだろ?」

友「しかし! よりによって看板メニューを外すなんて……納得できるわけがないでしょう!」

隠居婆「そうは言ってもねぇ」

友「あいつのコーヒーは特別なんです! なのにあいつは……」

隠居婆「特別だからこそだろうね。特別だからこそもう淹れたくないんだろ」

友「くっ……」

隠居婆「どうだね、店を再開して一ヶ月。売上の方は順調かい?」

友「どうもこうも、見ての通りですよ婆様」

隠居婆「見ての通りというと……」


ガラーン……


隠居婆「……あんまりうまくいってないみたいだね」


友「店主がやる気を出してくれさえすればきっと繁盛するはずなのに……」

隠居婆「引きこもりが治って少しは前向きになったと思ったんだがね」

友「逆方向に前向きになったというわけです」

隠居婆「『ニート』ってやつだね」

友「まったく、あんな言葉どこで知ったのか……」ハァ

隠居婆「習慣や風習に縛られない自由な風だっけかい? いいじゃないか、若い時はそれくらいやんちゃじゃなきゃ」

友「やんちゃとかそういうレベルではありません!」バンッ

友「このままでは喫茶店を繁盛させるどころか生きていくことさえ厳しいんですよ!」

隠居婆「それは困ったね」

友「……どうにかしてかつてのやる気を取り戻す方法はないものか……」

隠居婆「焦るこたぁ無いよ。あの子はちゃんと自分で決断するはずさ」

友「わかっています。だけどこのまま放っておけばあいつが腐ってしまうんじゃないかって……」

隠居婆「腐る?」

友「心配なんですよ。あの日からあいつを支えてきた根っこの様なものがどんどんと腐ってダメになっていくんじゃないかって」

隠居婆「………」

友「以前のあいつはあんなんじゃなかった。目標に向かってどこまでもまっすぐでした。だから……」

隠居婆「いいかい友。決めるのは全部あの子だよ」

友「ですがあいつの才能をここで終わらせるわけには……」

隠居婆「本人が望まないのなら仕方ないじゃないか。それともあんたは嫌がるあの子を無理にでも動かそうって言うのかい?」

友「それは……違いますけど……」

隠居婆「なら信じて待ってやりな。あの子が答えを出すのをさ」

友「でも……あんな感じですよ?」

隠居婆「グダグダ文句言いながら毎日店には顔を出すんだろう? それが何よりの証拠だよ」

友「そう……ですか」

隠居婆「お前さんはあの子が帰る場所をちゃんと守っていりゃそれでいい」

友「ありがとう……ございます。婆様」


隠居婆「いいっていいって。誰にでもそんな時期はあるもんさね。なにもかも放り投げたくなる様な時期がね。あんたもそうだろう?」

友「……そうでした」

隠居婆「国を救った英雄でもそういう風になっちまうんだ。なんも恥ずかしいことじゃないよ」

友「英雄?」

隠居婆「なんだ、お前さん知らないのかい? 新聞にも載ってたし、役所からも通達が来てたんだが」

友「ええ……なにかあったんですか?」

隠居婆「勇者様が行方不明らしいんだよ」

友「勇者って言えば……先日魔王を討ち果たしたとかいう……」

隠居婆「そう。救国の英雄さ。魔王との戦いで大怪我を負って治療中って話だったんだが……どうやら逃げ出したみたいだね」

友「なぜそんなことを……」

隠居婆「だから言ったろ。人間は誰でも全てを投げ出したくなっちまう時があるのさ」

友「………」

隠居婆「勇者もやっぱり1人の人間だったってことだねぇ……」

友「そう……ですね」

隠居婆「さて、そろそろ行こうかね。今日はあんた達の顔を見に来ただけだから」

友「すみません、大したおもてなしもできずに……」

隠居婆「いいさいいさ、あの子がやる気になった時に最高のコーヒーを出してくれたらそれでいいから」

友「はい。いつか必ず」

隠居婆「あの子を信じてやんな。それが私たちができる唯一のことなんだから」

友「……はい」

隠居婆「邪魔したね、また来るよ」



カランカランカラン……



友「ありがとうございましたー!」




――役所――


「おい、この資料作成どうなってる!?」

「まだ終わってません!」

「バカ野郎、提出今日の午後一だぞ!」

「汚染地の計測データをまとめて!」

「予算!? そんなの本店の方で回してくださいよ!!」



ガヤガヤガヤ……



課長「……うーむ」

同僚「あああ!! やってもやっても終わんないじゃないの! どうなってんのよ!!」

課長「ぬぅ……」


同僚「はぁ!? 予算委員会に提出する書類を明日までに!? 無茶言わないでくださいよ! 私、もうかれこれ三日もここに缶詰なんですよ!?」

同僚「いいからやれって……ああもう!!」


課長「うーむ……」グヌヌヌ

同僚「課長! なにそんな難しい顔してんですか! こっちは火の車状態なんですからさっさとこっち来て手伝ってくださいよ!」

課長「ああ、同僚くん。いやぁ、手伝いたいのも山々なんだがちょっと困ったことがあってね」

同僚「ちょっとくらいならこっちきて手伝ってください! 私、今大分困ってるんで!!」

課長「おお、そんなに困っているのかい?」

同僚「ええ、そりゃもう! 勇者様が魔王を倒してくれたおかげでやらなきゃいけない仕事が急増しましてね! 喜んでいいやら悲しんでいいやらで役所は今てんやわんやですよ!」

課長「……ああ、その勇者のことなんだがね、例の話、君の耳にも届いているだろう?」

同僚「行方不明でしたっけ? なんか大変そうですよねぇ……で、それがなにか?」

課長「それがねぇ、どういうわけか王都から捜索隊が派遣されるらしいんだよ」

同僚「捜索隊? そんなのうちになんの関係があるってんです? そんなの王都の本店さんの仕事でしょ? もしくは騎士団の」

課長「そうなんだけどねぇ、その本店さんが捜索隊の受け入れをこっちでやってくれってね……」

同僚「はぁ!? そんなのできるわけないじゃないですか!」

課長「だよねぇ……」

同僚「こんな王都から離れたクソど田舎に勇者なんているわけないでしょ! 王都の奴ら頭湧いてんじゃないですか!」

課長「それは流石に言いすぎだよ、同僚くん」

同僚「とにかく無理です! 所長に言って断ってきてくださいよ! 所長って役所の全支部を統括してるんでしょ!?」

課長「それが……やる気なんだよねぇ……所長」

同僚「……マジですか」


課長「この話したらやけに乗り気でね、あの人もなにを考えてるんだか……」アハハ

同僚「アハハじゃないでしょうよ! 捜索隊って騎士団の連中でしょ!? あの連中の受け入れがどれだけ大変か知らないわけじゃないでしょ!?」

課長「あー、そうだね」

同僚「課長、改めてこの状況を見てくださいよ」



「あははは……お花畑が見える……」

「お前ら諦めろー、どうせ終わらないぞー」

「お願いです! もう帰らせてください!!」


課長「修羅場とはまさにこのことだね」

同僚「この状況で騎士団の受け入れは無理です! 絶対!!」

課長「だけど所長がもうOK出しちゃったから……」

同僚「課長、今すぐ止めてきてください!」

課長「無理だよ、僕が殺されちゃうよ」

同僚「部下のために[ピーーー]ばいいじゃないですか! それが上司の勤めってもんでしょう! 安心してください! 屍は拾ってあげますから!!」

課長「悪いけどこれはもう決定事項なんだ。諦めて」

同僚「もう嫌だ……お家帰して……」


課長「ああ、でも一つ良いニュースがあるんだ」

同僚「良いニュース?」

課長「流石に本店さんもボクらを気遣ってくれたんだろうね、本店からこの案件が終わるまで人員を回してくれることになったんだ」

同僚「……ちなみに何人ですか?」

課長「……一人」

同僚「一人でなにができるっていうんですかぁぁぁぁあああ!!!」

課長「あはは……」

同僚「お家帰りたいよぉぉぉぉおおおおお!!!」

といったところで今日の投下は以上です

長らくお待たせしてしまいましたがなんとかゆっくりと進めていける目処が立ったので……すみません

次回の投下は今週中に投下できればと思います

スローペースですがお付き合いくださればと思っています


今日もありがとうございました!

こんばんは>>1です

今日も少しですが投下していきたいと思います。よろしくお願いします!


その前に前回の修正部分から始めます

>>18


課長「この話したらやけに乗り気でね、あの人もなにを考えてるんだか……」アハハ

同僚「アハハじゃないでしょうよ! 捜索隊って騎士団の連中でしょ!? あの連中の受け入れがどれだけ大変か知らないわけじゃないでしょ!?」

課長「あー、そうだね」

同僚「課長、改めてこの状況を見てくださいよ」



「あははは……お花畑が見える……」

「お前ら諦めろー、どうせ終わらないぞー」

「お願いです! もう帰らせてください!!」


課長「修羅場とはまさにこのことだね」

同僚「この状況で騎士団の受け入れは無理です! 絶対!!」

課長「だけど所長がもうOK出しちゃったから……」

同僚「課長、今すぐ止めてきてください!」

課長「無理だよ、僕が殺されちゃうよ」

同僚「部下のために死ねばいいじゃないですか! それが上司の勤めってもんでしょう! 安心してください! 屍は拾ってあげますから!!」

課長「悪いけどこれはもう決定事項なんだ。諦めて」

同僚「もう嫌だ……お家帰して……」


――西の森の喫茶店――



友「……あいつ、帰ってこないな」

友「まぁ、店主のことだ。いつもの場所で昼寝でもしてるんだろう」

友「いや、それにしても遅いな、あいつが出て行ってから随分と経つ。一体なにしてるんだ?」

友「……まさか、誘拐?」

友「いやいやそんなことあり得ない。あいつを誘拐してなんのメリットがある?」

友「それとも……ついにこの店が嫌になったか?」

友「いやいやいや……そんなことはあり得ない……と思う。さっき婆様もそう言っていたし……でもしかしだが……」ウヌヌ

友「やはりもうちょっとあいつに優しくすべきだろうか……」

友「思えば最近、店主に対して怒鳴ってばかりだった気がする。店を再興させるために焦ってばかりいて店主の気持ちを無視しすぎていたんじゃないだろうか?」

友「あいつが帰ってきたらしっかり話し合おう。うん、そうしよう」

友「まずはあいつを優しく出迎えるんだ。それがいい」



カランカランカラン……


店主「友ちゃーん! 見て見てー!!」

友「あ、ああ!」

友(また変なもの拾ってきたのか……いや、ここは笑顔笑顔。あいつに歩み寄らなければ!)

友「どうしたんだ店主? なにか拾い物か?」ニコッ

店主「うーん、拾い物っていうかなんていうか……」

友「ん? なにを拾ってきたんだ?」

店主「えっとねぇ……男の人!!」

友「は!?」


赤髪「ど、どうもー……」


友「お、男!!」ビクッ

店主「なんか困ってるみたいだったからさ、ここまで連れてきちゃった♪」

赤髪「連れてこられちゃいましたー」アハハ

友「男が……男が私の前に……」ガタガタ

赤髪「あの……大丈夫ですか? 顔色が悪いようですけど……」スタスタ

友「はう……」フラッ


バターン!!


店主「え、ちょっ!? 友ちゃん!!」

赤髪「お、俺のせい!?」

友「男……男……いやぁ……」ウーン




――王都 王立騎士団本部――



コンコン……


軍人貴族「入れ」


「失礼しますよ、閣下」


軍人貴族「遅かったではないか、参謀」

参謀「いやはや、第二騎士団を動かすのに少々手こずりましてねぇ。あいつらったらプライドだけは高いもんだから中々言うこと聞いてくれないんですよ」

軍人貴族「ふん、そもそもこんな事態に騎士団を動かすことが異例中の異例なのだ。全く、陛下と来たら何を考えているのか……」

参謀「閣下、行方不明の勇者の捜索……これは一刻も早く解決しなければいけない最優先事項なんですよ?」

軍人貴族「だがなにもわざわざ騎士団を動かす必要などどこにある! 勇者の捜索など役所の人間にやらせれば良いではないか! どうせあいつら公務員など暇だろう!」

参謀「役所の方々は今汚染大地の対策にあたっています。聞くところによると毎日死ぬ思いではたらいているとか……というより今暇なのは戦争も終わってお役御免となった我々くらいなものですけどねー!」クスクス

軍人貴族「ぐぬぬぬ……」

参謀「いいですか閣下。アホの閣下にでもわかりやすく説明しますよ。先の不祥事で我々王立騎士団の信用は落ちぶれています。不要なタダ飯喰いに存在価値はありませんから」

軍人貴族「貴様! 言うに事欠いてそのような!!」ダンッ

参謀「事実を言ったまでです。いいですかアホ閣下、このままだと騎士団の解体も有り得ます。そうなると困るのは閣下ご自身ではありませんか?」


軍人貴族「解体!? なぜそうなるのだ!?」

参謀「アホにもわかるように説明しますよ? いいですか、戦争は終わったのですから軍隊の必要性もなくなる。無駄飯ぐらいの軍隊なんてお荷物に金を払ってる場合じゃないでしょう? 軍備縮小は十分現実的な話です」

軍人貴族「確かにそうだが……貴様、今私に向かってアホと言ったか?」

参謀「我々は国王から、ひいてはこの国から信用を取り返さなければなりません。ですからできる限り国の要請にお答えし信用を取り返していくのです。今回の勇者捜索もその一環ですよ」

軍人貴族「しかし、なぜ第二騎士団なのだ? あそこの部隊を雑用に派遣するのは私の貴族としての立場というものが……」

参謀「そんなこと知ったこっちゃありませんよ」

軍人貴族「貴様! 私がこの後どういう目に合うか分かっているのか?」

参謀「元老院最高責任者である王弟殿下にどやされるとかですか?」

軍人貴族「そうだ! 第二騎士団の連中は貴族の中でも選りすぐりのエリート集団! 中には王族との血縁関係を持つものも少なくはない。それに第二騎士団団長は……」

参謀「三大名家のひとつ『金十字』……でしたっけ?」

軍人貴族「その通りだ!! そういった方々をこんな雑用に駆り出すなど……考えただけでも恐ろしい!」

参謀「でも立場はあなたの方が上でしょう? なにせ閣下はこの騎士団の総司令なんですから」

軍人貴族「そう簡単にいかないから私がこうして頭を悩ませているのではないか! あの方々が本気を出したら私の地位など……」

参謀「気にしすぎですよ閣下。ちゃんと角が立たないようにお伝えしましたから大丈夫です」

軍人貴族「空いているといえば第一騎士団もそうであろう? あいつらを派遣すればよかったんじゃ……」

参謀「第一騎士団は先の不祥事で現在団長が不在。部隊としてまともに機能しません」

軍人貴族「それもこれも全部お前がやったことだろう!」


参謀「あの場はああするしかなかったんだからしょうがないじゃないですか。私は騎士団のために最善を尽くしたつもりですよ?」

軍人貴族「だったらお前が第一騎士団を率いて勇者の捜索に……」

参謀「いえいえ、第一騎士団には別のことをやってもらう予定ですから」

軍人貴族「しかしお前、今第一騎士団は機能しないと……」

参謀「そこまで含めてご安心を。もう既に手は打ってあります」

軍人貴族「どういうことだ?」

参謀「騎士団の団長にピッタリの人材がいるんですよ」フフッ

軍人貴族「ピッタリな人材? そんなやついたか?」

参謀「ええ、貴族出身ではないが相応しい人材ですよ。それに民衆にも人気がある」

軍人貴族「まさか……」

参謀「ええ、そのまさかです。元々旅立つ前は士官学校にいた男です。問題はないでしょう。まぁ、異例の大出世という形にはなりますが誰も文句は言わないはずです」

軍人貴族「いやだがしかし……」

参謀「既に国王陛下にも許可はとっておきました。明日にでも正式な辞令が彼の元にいくでしょう」

軍人貴族「なにを勝手に話を進めておるのだ貴様!」

参謀「閣下」


軍人貴族「ぬう……」

参謀「忘れないでください。あの日もお話したように、私は閣下の利のためだけに動いているのです。これも全て閣下のため。どうかご理解ください」

軍人貴族「……それで本当に大丈夫なのだな?」

参謀「ええ、あの男はどこまでも愚直な男です。それゆえに扱いやすい。こちらの思惑通りに動いてくれるでしょう」

軍人貴族「で、では勇者の捜索を第二騎士団に行かせたのも……」

参謀「はい。団長就任の件でごちゃごちゃ言われるのが面倒だったので遠くに行ってもらいました」

軍人貴族「……そこまで考えていたのか、貴様は」

参謀「全ては閣下のために……ですよ」

軍人貴族「第二騎士団か……」

参謀「なにか気になることでも?」

軍人貴族「……いや、なにもない。なんでもない」

参謀「そうですか」

軍人貴族「すまないが参謀、あとは任せるぞ。私はこれから王弟殿下と会食があるのだ」

参謀「どうぞごゆっくり」

軍人貴族「くれぐれも私の立場が危うくなるような行動は控えるように。いいな?」

参謀「もちろんです」フフッ



ガチャッ……バタンッ!



参謀「……ふむ。アホ閣下のあの反応、気になるな」

参謀「第二騎士団になにかあるのか? 少し調べてみた方がよさそうだな……」

「私の出番ですかー?」

参謀「……ああ、頼むよ。使えるカードは持っておきたいからね」

「しこたま了解ですよー!」

参謀「………」




「お父さんお父さん!!」

「どうしたんだい? そんなに慌てて」

「見て見て! そこで拾ったの!!」

「拾ったってなにをだい?」

「女の子!」

「ええ!!??」





友「……う」パチッ

友「私は……どうして……?」


ジュージュージュー!!


友「あれ? この匂い……?」

店主「あ、友ちゃん起きた?」

友「あ、ああ……」

店主「もうびっくりしちゃったよ。いきなり倒れちゃうんだもん!」

友「倒れた? 私が?」

店主「そうだよ、ここまで運んでくるの大変だったんだかんね!」

友「それはすまない……」

店主「やっぱり友ちゃん疲れてるんだよ。色々と大変だったんでしょ?」

友「それはお前が働かないからだろ」

店主「まぁ、それは置いといて……」フイッ

友「私としては置いておかれると困るんだが……」

店主「有りもので適当にチャーハン作ってみたから食べよ!」

友「チャーハンって……お前が作ったのか?」

店主「もっちろーん! お陰で久々に厨房に立っちゃったよ。ああ、疲れたー」ヤレヤレ


友「お前の料理を久々に食べられるのか……楽しみだな」

店主「まぁ、適当に作ったもんだからあんまり期待してもらっちゃ困るんだけど」

友「お前が作ったんだ。美味いに決まってる」

店主「そんな褒めたってなんにも出ないよう」エヘヘ

友「じゃあ、食べようか」

店主「うん! それじゃあ皆様ご一緒に!」


店主・友・赤髪「いただきまーす!!」


友「ってちょっと待て!!」

店主「どうしたの友ちゃん? 冷めちゃうよ?」

赤髪「うまい! これすごく美味いですよ!!」ガツガツガツ

店主「え? そう?」

赤髪「俺、こんな美味いチャーハン食ったの初めてです!!」

店主「まぁ、それほどでもあるけどねん!」ムフフ

友「どうして男がこんなところにいるんだ!?」

店主「詳しいことは後で説明するから今は食べよ?」

友「後でって……」

赤髪「食べないなら俺が貰いますよ?」

友「寄るな汚らわしい!」


赤髪「ひ、ひどい……」オヨヨ

店主「もうだめじゃない友ちゃん! 食事はみんなで楽しく! だよ?」

友「くっ……」

店主「ほら、食べて食べて?」

友「………美味しい」

店主「よかった」ニコッ




店主「それじゃあ皆様ご一緒に!」



店主・友・赤髪「ごちそうさまでしたー!!」



赤髪「あ、それじゃあ俺後片付けやっておきますよ」

店主「じゃあお願い!」

赤髪「はーい」スタスタスタ




友「さて、どういうことか説明してもらおうか店主」


店主「どういうことって?」

友「決まってる! なぜこういう状況になったのかということだ!」バンッ

店主「ああ、赤髪さんのこと?」

友「それ以外になにがあるっていうんだ!」バンッ

店主「もう! そんなに怒鳴らなくたっていいじゃない!」

友「私は基本的にお前のわがままを見逃してきたつもりだ。そうだろう?」

店主「そうかな?」

友「そうなんだ! でなかったらお前はとっくの昔に胴と首がさよならしている!」

店主「こ、怖いよ友ちゃん!」

友「しかし今回はどうだ? よ、よりによってお、おおおお男を連れ込むなんて!!」

店主「ああ……友ちゃんってば病的な男嫌いだったね」

友「それとこれとは関係ない! 年頃の少女が自宅に男を連れ込むということが問題なんだ!」バンッ

店主「でもあのまま放っておいたら多分赤髪さん野垂れ死にしてたと思うし」

友「野垂れ死にって……どこで拾ってきたんだこんな奴!」

店主「いつもの昼寝スペースに行こうとしたら道の真ん中で倒れてた」

赤髪「いやー、店主さんがいてくれなかったら死ぬとこでしたよ!」

店主「いきなり襲いかかられた時はびっくりしたんだからね?」

友「襲った?」

店主「そうだよ。いきなりガバッ!! って!!」

赤髪「あれは本当にすみませんでした」


友「よし、やはりこいつ殺そう」チャキンッ

赤髪「え、えええ!!??」ガタッ

店主「ちょ、なにしてるの友ちゃん!!」

友「店主を襲うなど天が許しても私が許さん!」

赤髪「あ、あの時は極限まで腹が減って幻覚を……」

友「ええい! この期に及んで命乞いか!」

店主「そんなことしちゃダメだって! 私はなんともなかったんだから!!」

友「騙されるな! 世の中にはお前の様なのを愛する変態ロリコン野郎という人種がだな……!!」

店主「同い年! よく間違われるけど私と友ちゃんは同い年でしょ!?」

赤髪「え! 同い年!?……見えねぇ」ボソッ

友「おい、貴様」グリンッ

赤髪「ひっ!」

友「今の言葉はどういう意味だ?」

赤髪「あ、いやその……なんていうか……違うんです」

友「違うとは? それは私が店主に比べて明らかに老けているという意味か?」

赤髪「いや! 老けてるだなんて! 友さんはとても美しいですよ!」

友「くだらんことを抜かすな! 下半身で思考するクズが!!」

赤髪「そこまで言いますか!?」

友「とにかく貴様を店主に近づけるわけにはいかん! 私の全存在を掛けて貴様を亡き者にしてやる!!」

赤髪「ひぇぇ!!!」


店主「友ちゃん」

友「止めてくれるな、店主! こいつはお前にとって悪影響を及ぼす存在なんだ!!」

店主「いい加減にしないと嫌いになるよ?」ジトッ

友「うっ……! そ、それは……」

店主「私が考えなしになにか拾ってくると思う?」

友(今朝の猫耳とかには考えがあったのか……?)

店主「私は私のことをちゃんと信じてくれる友ちゃんのことが好きだなぁ……」ウワメヅカイ

友「うぅぅ……」

赤髪(押されてる……)

赤髪「あの……ちょっといいですか? 店主さん、今、言ってた考えってなんです? 俺になにをさせる気ですか?」

友「勝手に喋るな性欲に取り憑かれた猿め!!」

赤髪「さ、猿……」ズーン

友「だ、だが!! こんな田舎で行き倒れって思いっきり怪しいじゃないか!」

赤髪(あ、ちょっと立ち直った)

店主「そう? 旅人って聞いてるけど」

友「とにかく早く追い出した方がいい! この空間に男がいること自体がおぞましい!!」

店主「まぁまぁ、落ち着いてよ友ちゃん。私、すごい作戦を思いついたのです!」ビシッ

友「作戦?」

店主「そ! これでみんなが幸せになれること間違いなし!!」ビシッ



店主「『喫茶くろねこ』は今日から赤髪さんをこの店で雇おうと思います!!」



友「はぁ!?」


赤髪「雇うって……」

友「反対だ! 私は絶対に反対だ! なぜ私が男と働かなければならないんだ!」

店主「異論は認めませんーん! もうこれは決定で確定で確約でーす!」

友「いや、そんなこと言われても納得なんかできるか!」

店主「赤髪さんは私の代わりに友ちゃんと一生懸命働いて、私を養ってね?」

友「やっぱりそれが目的かぁぁああああ!!」ガシッ

店主「もちろーん! ずっと探してたんだよねん! 私の代わりに働いてくれる人! これで私は自由の身なのです!!」

赤髪「いや、あのちょっとそれは困るというかなんというか……」

店主「え? 嫌なの?」クビカシゲ

友「嫌もなにもそんなの私が認めるわけないだろう!」

店主「えー、名案だったと思ったのになぁ……」

友「まったく……」

店主「じゃあいいや、友ちゃん、赤髪さんのお会計してくれる?」

友「お前、賄い食わせて金取る気か?」

店主「だって雇わないんだったらお客さんでしょ?」

友「お前、今滅茶苦茶なこと言ってる気がするぞ」

赤髪「あ、いや別にいいですよ。美味しいチャーハンいただきましたし」

友「私に喋りかけるな、汚れた豚が」ペッ


店主「友ちゃん、お客さんだからお客さん。そんな態度じゃだめじゃない?」

友「あ………」

赤髪「???」



友「大変失礼しました! お客様!!」キャルンッ



赤髪「ええええ!!!」

友「お会計の方失礼しまーす!!」キャルンッ

赤髪「店主さん店主さん!!」

店主「なーに?」

赤髪「さっきと態度が全然違うんですけど!!??」

店主「ああ、そういう人だから別に気にしないで」

赤髪「そ、そうなんですか……」

友「えー、お会計が……おい、店主」

店主「なーに?」

友「これはどういうつもりだ?」

店主「見たまんまだと思うけど?」

赤髪「どうしたんですか? なにか問題でも?」

友「えー、お会計ですけども……」


友「『二千五百万』になりまーす……」


赤髪「に、二千五百万!?」


店主「おうおう! 赤髪さん!! チャーハン代きっちり二千五百万耳揃えて払ってもらおうか!!」

赤髪「えええ!!??」

友「馬鹿か!」バシッ

店主「もう! また叩いたね友ちゃん!! オヤジにもぶたれたことないのに!!」クワッ

友「どこのどいつがチャーハンで二千五百万取るんだよ!」

店主「二千五百万あれば……うへへ……しばらくは悠々自適にね……」ウヘヘ

店主「さぁ! 払ってもらおうか! 赤髪さん!!」

赤髪「は、払えるわけないじゃないですか!」

店主「じゃあここで働く?」

赤髪「そ、それは……」

友「無茶苦茶だ……またこいつは無茶苦茶なことを……」ハァ

店主「えっへっへっへ……どうする? 赤髪さん?」

赤髪「なぜ、こんなことに……」

店主「いい? 赤髪さんよーく聞いてね? 私はね、善人なんかじゃないの」

赤髪「え?」

店主「私は自分のためだけに生きていくって決めたの。だからなんでも利用するし、どんなひどいことだってするよ? 私のニート生活のために」

赤髪「自分のために……」

店主「私はできることならね、働きたくないの。働かない方法があるなら人だって騙すし、ぼったくりもするんだよ」

店主「私が私のために笑って暮らせるようにね」

赤髪「笑って暮らせる?」

店主「さぁ、赤髪さん! 働くの? 払うの? どうするの!?」

赤髪「俺は……」





――所長室――


「あー、忙しい忙しいですよー」ズババババッ

「猫の手でも借りたいとはまさにこのことなのです!!」ズベベベベッ


コンコン……


「今取り込み中なのです!」


コンコン………


「取り込み中って言ってるのです!!」


コンコン……


「もう! しつこいですよ!! 入ってきたらひどい目にあうと思うのでそれなりの覚悟をして欲しいのですよ!」


課長「所長、失礼します」

所長「失せろ!」バシュッ

課長「まぁまぁ、そう怒らずに」カキンッ

所長「むぅ……あなたは本当に忌々しいですねぇ。忙しいのが見てわからないのですか?」

課長「我々も忙しいのでお相子ということで」

所長「自分は定時で帰るくせにですか?」

課長「私はあなたの世話が主な仕事ですから」


所長「お給料の見直しが必要のようですね」

課長「それは勘弁してください。こっちも娘が魔法学校に進学するんで金が必要なんですよ」

所長「ああ、もうそんな歳ですか。『あれ』は?」

課長「ええ、元気にここまで育ってくれましたよ」

所長「あなたの実験もこれで進むというものですね」ニコッ

課長「それは嫌味ですか?」

所長「そう聞こえましたか? なら素直に謝っておきましょうか?」

課長「別にいいですよ、後が怖い」

所長「そろそろ本題に入って欲しいのです。さっきから忙しいと言ってるでしょう?」

課長「失礼しました……それで本題なんですが」

所長「どうせ騎士団の受け入れが無理とかそういう話です?」

課長「わかってたらなんであんなことしたんですか? うちの様な田舎の役所では手が足りないことくらいわかるでしょう? 部下にもどやされましたよ。無理なものは無理ってね」アハハ

所長「むう……所長としては部下の信頼は重要視するべきなのですが今回ばかりは従ってもらうしかないのですよ」

課長「一応聞きますがなぜですか?」

所長「面白そうだからに決まってます!」ブイッ

課長「………」ハァ


所長「なんなのですそのため息は!? 私を馬鹿にしてるのです?」

課長「いい加減そういう子供みたいな思考をなんとかしてくれませんか? 付き合うこっちの身にもなってくださいよ」

所長「うるさいうるさい! たかだか半世紀程度しか生きていないあなたに子供扱いされたくないのですよ!」

課長「だって子供じゃないですか」

所長「子供じゃないもん!」

課長「子供はどうしたってそう言う生き物ですよ。まぁ、いくらあなたが無駄に年を重ねたところで私にはあなたが子供にしか見えないですけどね」ププッ

課長「おっとこれは失礼、つい本音が出てしまいましたよ」クックック

課長「……所長?」

所長「………」プルプル

課長「おっと……これは挑発し過ぎたかね……? 同僚くん、屍はちゃんと拾ってくれよ?」ボソッ



所長「貴様……人間の分際で私を愚弄するのか?」ギンッ



カッ!!


課長「おっと! 魔術『絶壁』!!」パッ


ドゴォォォォン!!!


課長「……相変わらずのデタラメな威力で……まぁ、だからこそ私は給料をもらえているというわけなのだが」ハハッ

所長「この私を愚弄したこと! 地獄の果てで後悔しろ! 人間!!」ゴゴゴゴゴゴゴ


課長「それは大変失礼しました。許していただけないでしょうか?」

所長「ならん! その罪、貴様の命で償うがいい! 人間!!」

課長「だとしたら残念です。せっかく3時のおやつにティラミスをお持ちしたのですが……」

所長「ティラミス!?」

課長「このティラミスも私と共に地獄の果てに飛ばされてしまうのでしょうか……」

所長「お……おお……!!」

課長「王都で話題の店から取り寄せた特注品だったのですが……無念です」

所長「許すのです許すのです!! ですからそのティラミスを私に……!!」

課長「しかしこのまま食べられないまま消滅するのは忍びない。ここは私が食べてせめてもの供養に……」アーン

所長「わぁぁぁああ!! ダメです! そのティラミスは私のものなのです!!」

課長「………ごめんなさいは?」

所長「へ?」

課長「いきなり私に攻撃を仕掛けたことは謝っていただかないと」

所長「な、なぜ私が人間風情に……」

課長「ではいただきます」アーン

所長「ごめんなさい!! ごめんなさぁぁぁいいい!!」

課長「初めからそうしていればいいのですよ」スッ

所長「おお!! これがティラミス!! 美味しそうなのです! 課長! 褒めてつかわすのです!」

課長(相変わらずちょろい……)


所長「いっただきまーす!!」ガツガツガツ

課長「それで? 面白そうというのはどういうことですか?」

所長「ふぉふぇふぁふゅーふゃがふぇふふぇあふぉふぉに……」モグモグ

課長「それは本当ですか?」

所長「ふぁい!!」ニコッ

課長「しかしなぜこのような田舎に……」

所長「面倒事は早めに片付けておきたいのです。私にかかればちょちょいのちょいで万事解決なのです」ニコッ

課長「それならそうと言ってくれれば彼らも納得がいくというのに……」

所長「そんな些細なことに時間を使えるほど私は暇じゃないのですよ」

課長「確かに説明するのには色々と面倒ではありますが……」

所長「それに人員不足分はちゃんと補充してるはずですよ?」

課長「私は本店から一人新人が来るとしか聞いていませんが?」

所長「それがなにか問題でも?」

課長「問題もなにも一人でなにができるというのですか?」

所長「まぁ、なんとかなると思うのですよ? ほれ、その新人さんのリストなのです」ピラッ

課長「どうも。へぇ、この子が……って」

所長「きっと強力な戦力になってくれるはずなのです!」フンスッ

課長「……ちょっと待ってください。所長」


所長「んあ? 食べ終わってからじゃダメですか?」

課長「この子が……その新人ですか?」

所長「そうですがなにか?」

課長「なにか? というか何考えてんですか? あなたは?」

所長「ああ! あなたはこの子のこと知ってるんでしたね! 失念していました!」

課長「失念していたじゃないですよ!」

所長「これはトップシークレットでお願いしますです! 絶対にみんなに言っちゃダメですよ!」

課長「私はそういうことを聞いてるんじゃないのです!」

所長「この二人、ぶつけてみたら面白そうじゃないですか?」

課長「面白そうって……!!」

所長「彼女には受付業務を担当してもらいましょう! もちろん他の雑務もこなしてもらいますが。その方が出会う可能性も上がるってもんですし!」ニヤッ

課長「どういうことですか?」

所長「……ちょっと長話をし過ぎてしまいましたね。とにかくこの件に関しては変更の余地はないのです。どうかみんなには頑張ってもらいたいのですよ!」

所長「みんな頑張って私が面白いと思った通りに進んで欲しいのですよ☆」ニコッ

課長「人間はあなたのおもちゃじゃないのですよ?」

所長「よくそんなことが言えますねぇ? 私に向かって」

課長「………」

所長「我々をおもちゃにしてたのはあなた達じゃないですか、人間」

課長「それは……」

所長「ま、過ぎた話をしても仕方ありません。私は与えられた場所で自分の出来ることを全うすることにするのです」

所長「できるだけ楽しい形でね」ニコッ

課長「………」


所長「むふふ……どうなるのかなぁ、楽しみなのです!! えへへ……」




すみません、途中中断してしまいまして……


といったところで今日の投下は以上です

次の投下は来週中までにできればなぁと思っています

よろしくお願いします!!


まともに出てきたのは初か?

こんばんは<<1です

すこしばかり投下していこうと思います

よろしくお願いします!!

>>48
まともに出てきたのは初めてです。番外編で何回かチラチラと出てはいますけども……


――道中 第二騎士団野営地――


老騎士「後続の兵どもはなにをしておる?」

騎士A「はっ! 現在2kmほど後方を行軍中であります」

老騎士「そんなに遅れておるのか! ちゃんと訓練をさせておったのか!?」

騎士A「お、お言葉ですが老騎士様。本隊の進軍速度が余りにも早く、歩兵である彼らが追いつくにはとても……」

老騎士「黙れ! 王立騎士団の兵士ならばそんなもの精神力でなんとかせんか!」

騎士A「申し訳ありません! 取り急ぎ伝令を出し速度を早めるように伝えて参ります!」

老騎士「くれぐれも貴族騎士様を怒らせることがあってはならん! よいか、もしものことがあれば貴様の首は無いと思え!」

騎士A「は、はいぃぃ!!」ダッ

老騎士「まったく……近頃の若い者はなんと情けないことか! 私があやつらの歳の頃には一日に100kmの道を駆け抜けたものだというのに……」

老騎士「貴族騎士様の機嫌を損ねることだけはなんとしても防がねばならん! ただでさえ急な勅命とこんな辺鄙な田舎ということで機嫌が悪いと言うのに……ああ、頭が痛いのう……!!」







貴族騎士「………」

「どうしたの~? 貴族騎士様~?」

貴族騎士「………」

「さっきから難しい顔しちゃって~。お腹でも痛いの~?」フフフッ

貴族騎士「………いや」

「むすっとしちゃってぇ~、そういうの可愛くないんだぞ~」

貴族騎士「いちいちピーチクパーチクさえずるんじゃねぇよ」

「それにしてもこんな辺鄙なところにわざわざ旅行だなんてあなたも変な趣味してるわよね~」

貴族騎士「旅行じゃねぇ。任務だ」

「どっちもおんなじじゃない。最初からちゃんと仕事する気なんかないくせにぃ」ウフッ

貴族騎士「まぁ、それはそうだがな」ククク

「ねぇ~? こんな仕事なんか早く終わらせて王都に帰りましょうよ~。私、欲しい指輪があるの」フフッ

貴族騎士「……なぁ、考えてみたんだがよ」

「な~に? エッチなことだったらやーよぉ?」

貴族騎士「人間ってのはよ、随分と可哀想な生き物だと思わねぇか?」

「どういうこと~? 急に難しいこと言われても私わかんないわよぅ~」ウフッ

貴族騎士「生まれてきた家や持ってる才能でそいつの運命が決まっちまう。より良い環境で育った奴がそれよりも弱い人間の運命を握る」

「な~に? それって自慢? 三代名家の当主様?」

貴族騎士「俺は自慢になんか一度たりとも思ったことはないぜ。なにせこれが日常だからだ。誰かの運命を握り、いいように扱う。俺にとってはこれが至極当たり前のことなんだよ」

「急にな~に? そんな話なんかしちゃって! らしくないんじゃない?」


貴族騎士「俺がここでなにをしようがどんな悪行をしようが周りにいる奴らは俺を裁くことはできない。当然だ。俺は『金十字』の当主なのだからな」スクッ

「そ、そうね」

貴族騎士「俺は『金十字』であるが故に全てが許される。そうだよな?」

「あなた、さっきから変よ? 田舎に来ておかしくなっちゃった?」

貴族騎士「おかしい? この俺が?」

「そうよ、いつものあなたじゃないみたい……」

貴族騎士「そうか、そりゃ残念だ」チャキッ

「な、なにを……?」



ザンッ!!!



「………え?」

貴族騎士「冥土の土産だ。覚えておけ」

「あ……ああ……!!」ブシュゥゥ!!

貴族騎士「権力者っていうのはいつだって気まぐれで残酷で……ちょっとばかし狂ってるんだよ!!」



ザシュッ!!


「あああああああああああああ!!!!」

貴族騎士「てめぇにはもう飽きた。俺に飽きられたってことはそれすなわち……」ニタニタ

「死にたくない……!! 死にたくない……!! せっかくここまで上り詰めたの……に!!」

貴族騎士「てめぇは何一つ価値のないゴミだってことなんだよ! ゴミは駆除しねぇとな!!」

「い、いやぁ……!!」

貴族騎士「ほら逃げろ逃げろ! 最後に俺を楽しませてみせろよ! そうしたら楽にしてやるぜ?」

「た、助けて……助けて……」

貴族騎士「助けて欲しいか?」

「お願い……お願い……殺さないで……」

貴族騎士「嫌だね」


ザンッ!!



「」ドサッ

貴族騎士「ちっ、少しは気晴らしになるかと思ったんだが服が汚れるだけじゃねぇか。ったく、何のために王都まで連れてきたんだか……! ったくうぜぇ!」ドカッ!!

貴族騎士「おー、飛んだ飛んだ……おい!」

騎士B「はっ!」

貴族騎士「あそこの醜い脂肪の塊を片付けておけ。臭くてかなわねぇからな」

騎士B「脂肪の? ……ひぃ!!」ガタッ


貴族騎士「なにをしている? 早くしろ」

騎士B「じ、自分が……これをでありますか?」

貴族騎士「そうだ。それともお前もこうなるか?」ククク

騎士B「め、滅相もありません!!」

貴族騎士「さっさとやれ。目障りだ」

騎士B「か、かしこまりました……!!」




貴族騎士「老騎士!」

老騎士「ここに」

貴族騎士「休憩は終わりだ。すぐに出発するぞ」

老騎士「で、ですがまだ後続の歩兵達が……」

貴族騎士「聞こえなかったのか? すぐに出発だ」

老騎士「………かしこまりました」




――――――




兵士「………」ガシャガシャガシャ

太め兵士「ひぃ……ひぃ……」ガシャガシャガシャ

痩せ兵士「ぜぇぜぇぜぇ……」ガシャガシャガシャ

太め兵士「も、もうかれこれどれくらい……走ってるの……?」

痩せ兵士「か、考えたくも……ありま……せん……」

兵士「団長達の野営地はもうすぐです! そこまで行ったらしばらくは休めますから!」

太め兵士「うひ~」

隊長「まったく、冗談じゃないぜ! あいつらこっちのペースなんて考えなしだ。こんなんじゃ全員潰れちまうっつーの!」ガシャガシャガシャ

太め兵士「隊長~」ガシャガシャガシャ

痩せ兵士「このままじゃ僕ら死んじゃいますよ~」ガシャガシャガシャ

隊長「気張れボンクラ共! 置いてくぞ!!」

痩せ兵士「そんなこと言ったって~」

太め兵士「も、もうダメ……」クラッ


ガシッ!!


兵士「大丈夫ですか?」

太め兵士「ご、ごめんよ~」

兵士「もう少しです! さぁ頑張りましょう!」


隊長「やれやれ……おいデブ! 他の奴に迷惑かけたら今日の晩飯抜きだからな!」

太め兵士「そんなー!」

痩せ兵士「お前、こんな状況で飯食えるのかよ……俺なんか……オエ」

兵士「兵士長! 行軍ペースを落とすべきですよ! このスピードは一般的な行軍速度よりもはるかに早いです! こんなペースで走り続けるなんて無茶です!」

隊長「そんなことは俺だってわかってる! だがついていくしかないだろ!」

兵士「でもこのままじゃ他の人達ももたないですよ!」

隊長「お偉いさん方は俺たちがどうなろうと知ったこっちゃないんだろ!」

兵士「そんな……」

太め兵士「ありがとう……僕ならなんとか大丈夫だから」

兵士「………」

隊長「いいよな、貴族ってやつは! 俺も貴族に生まれたかったぜ」

痩せ兵士「僕もですよ……なんで生まれでここまで差がつかなきゃいけないんですかね」

太め兵士「貴族だったら……毎日旨いもの食えるかな……?」

隊長「お前はまだ太りてぇってのか! いいから黙って走れ!」

兵士「あ、見てください! あれ野営地じゃないですか!」

太め兵士「や、やった……!!」

痩せ兵士「こ、これで休める……」

兵士「やりましたね、皆さん!」


隊長「……残念だがそういうわけにはいかないらしい」

太め兵士「ほえ?」



騎士A「これより我々はさらに西を目指し行軍を始める! 皆の者遅れをとるなよ!」


オオオオオオオ!!!!



痩せ兵士「そ、そんなぁ……」ゼェゼェ

隊長「残念だがまだまだ地獄は続くみたいだぜ?」

太め兵士「も、もう……無理……」ガクッ

隊長「おら! しっかりしやがれ野郎共! 置いてくぞ!」

兵士「隊長! これ以上は無理ですよ! ここで休むべきです!」

隊長「しょうがねぇだろ! 俺たち下っ端は上の人間に従うしかねぇんだ。諦めろ」

兵士「いいえ! こんなのやっぱりおかしいです」

隊長「じゃあどうするって言うんだよ? 仲良く軍規違反で斬られるか?」

兵士「みんなを休ませるように団長殿に掛け合ってきます!」

隊長「あ、おい! バカ!! そんなことしたら殺されちまうぞ!!」

兵士「大丈夫です! 行ってきます!!」

太め兵士「あわわ……」

痩せ兵士「行っちゃったよ……大丈夫かな……」ゼェゼェ

隊長「勘弁してくれよ、最終的に俺の監督責任になるじゃねぇか!」ダッ

痩せ兵士「あ! 隊長! 待ってくださいよ!!」

太め兵士「これ以上早く走れないですってー!」







貴族騎士「老騎士、目的地までどれくらいある?」

老騎士「このペースで進軍を続ければおそらく4日もあれば到着するかと……」

貴族騎士「遅い。3日で行くぞ」

老騎士「3、3.日でございますか!?」

貴族騎士「不満か? 俺はこんな馬鹿げた任務はさっさと終わらせて帰りたいんだが?」

老騎士「か、かしこまりました………そ、それでは……」



「お待ちください!!」バッ



貴族騎士「むお……!!」



ズザザザザザザ……!!



老騎士「これ! 貴様! 突然馬の前に出るとは……死ぬ気か!!」


貴族騎士「………」

兵士「申し訳ありません!! ですが団長殿に進言させていただきたいことがありましたので!」

貴族騎士「ほう? この俺になんの用だ?」

兵士「恐れながら貴族騎士様! 行軍速度を緩めていただきたくお願い申し上げます!!」

老騎士「なんじゃと!?」

兵士「はっきりと申しまして現在の行軍速度は異常です。このままでは後続の兵士達がついていけません!」

兵士「『兵は神速を尊ぶ』とは申しますが、これでは実際に現地に着いたとしてもその力を存分に発揮することはできないでしょう! どうかお考え直しを!」

貴族騎士「………」

兵士「今回の捜索任務、必要なのは人員だと考えます。それをこのような形で損耗することははっきり申しまして下策中の下策。すぐにお考え直しをお願いいたします!」ザッ

老騎士「貴様! 兵士の分際で貴族騎士様に意見をするか!」

兵士「ですが任務遂行のことを考えればこれ以上の無理は控えるべきです!!」

老騎士「こやつ……!!」

貴族騎士「老騎士、下がれ」

老騎士「しかし……」

貴族騎士「俺に二度同じことを言わせる気か?」ギロッ

老騎士「申し訳ありません!!」


貴族騎士「貴様、名を名乗れ」

兵士「……先日、第二騎士団に配属されました兵士です」

貴族騎士「貴様は貴族の出か?」

兵士「ええ……一応」

貴族騎士「そうか……ならば親から習わなかったか?」

兵士「なにをですか?」

貴族騎士「この『金十字』の紋章に逆らうことがどういうことか」キラッ

兵士「『金十字』『銀鷲』『赤金の盃』……貴族三代名家でありますか?」

貴族騎士「どうやらお前のご両親は真っ当な教育をしてたらしい。だがそれでもお前は俺に意見する。そうだな?」

兵士「この状況と貴族の位とでなんの関係があるというのですか? 私にはその因果関係が見い出せません!」

貴族騎士「はぁ……どうやらお前はどうしようもないバカの様だなぁ? 兵士?」

兵士「………」

貴族騎士「いいか? 何人たりともこの『金十字』に逆らう奴は許さねぇ」

貴族騎士「お前ら下民は俺の望む通りに動いてりゃいいんだよ。その通りにできねぇ奴はどうしようもねぇクズだ」

兵士「クズ……!! それが誇り高き騎士団の団長の言うことですか!!」

貴族騎士「どうやら本気でお前はバカのようだな! 兵士ぃ?」

貴族騎士「バカは俺の隊にはいらねぇよ!!」ゴゴゴゴゴゴ

兵士「!!!」

貴族騎士「死ね」




「盗賊だ!! 盗賊が出たぞ!!!」



貴族騎士「なに!?」ピタッ

「後方より盗賊団を確認! 敵撃です!!」

老騎士「各員、戦闘態勢!!」

貴族騎士「ちっ、老騎士、逆賊だ。さっさと片付けろ」

老騎士「はっ!!」












隊長「ふぅ……間一髪ってのは正にこのことだな」

兵士「……あ、ありがとうございます」


隊長「ったく、俺たちがもうちょっと遅かったらあの場で斬り殺されてるところだったんだぞ?」

兵士「俺……達?」

太め兵士「隊長~! 上手くいきました~!」

隊長「姿は見られてないだろうな?」

痩せ兵士「ええ、もちろんです」

兵士「あなた達は……」

太め兵士「さっき助けてもらったからね」エヘヘ

痩せ兵士「やれやれ……なぜ私までこんなことに協力しなければならないんだか」

隊長「お前が処罰なんかされたら俺の責任になる。部隊は団体行動なんだ。勝手な行動は慎め」

兵士「申し訳……ありませんでした」

隊長「まぁ、確かにお前が納得いかないのはわかる。加えてお前が他の連中を心配するその心は尊いものだと俺は思う。だがそれは時と場合を選ぶものだ。わかったな?」

兵士「でも、あのままじゃみんなが……」

隊長「異論は認めない。いいな?」

兵士「……はい」


太め兵士「それにしても驚いたよ。君って貴族だったんだね」

痩せ兵士「ああ、私も聞いていた。本当なのかい?」

兵士「あ、いえ、貴族といっても別に大したものじゃないですよ」ワタワタ

隊長「貴族の志願者は皆、士官学校に入れられて卒業する頃には騎士階級から始まるはずだが……お前はなぜそうしなかった?」

兵士「それは……えっと……」

隊長「言えないのか?」

兵士「……すみません、言えないです」

隊長「そうか……ならしょうがないな」

兵士「え?」

痩せ兵士「そうですね」

太め兵士「しょうがないしょうがない」

兵士「いいんですか?」

隊長「話したくないんだろ?」

兵士「それは……そうですが……」

隊長「だったら聞く必要はない」

兵士「はぁ……」

痩せ兵士「隊長、そろそろ隊列に戻ったほうが……」

太め兵士「逃げ出したのバレちゃいますよ!」

隊長「おっと! それはまずい! いいか兵士!」

兵士「は、はい!!」

隊長「お前、この作戦が終わるまであいつらの前に姿を現すなよ。下手したら殺されちまうからな」

兵士「………」

隊長「作戦が終わったら第三でも第四でもどこへでも好きな部隊に転属願いを書け。俺が掛け合ってやる」

兵士「あ、ありがとうございます……」

痩せ兵士「随分とお優しいじゃないですか、我々の時とは違って」

太め兵士「普段は僕の転属願い却下するくせに」

隊長「うるせぇ! さっさと隊列にもどるぞ!」

痩せ兵士・太め兵士「「はーい」」

兵士「……はい!」



――二日後 『喫茶くろねこ』――




「すみませーん」

友「お待たせいたしましたお客様! ご注文をお伺いいたします!!」

「え、えーっと……このホットケーキセットを1つ……」

友「かしこまりました! ホットケーキセットにはドリンクをお付けしておりますがどちらになさいますか?」

「え、えーっとじゃあ、ミルクティー……」

友「当店、店主の淹れたコーヒーをオススメしていますがいかがですか!?」

「こ、コーヒー……?」

友「いかがですか?」ニコッ

「わ、私……コーヒー飲めないです……に、苦くて……」

友「かしこまりました! 少々お待ちください!!」




友「……店主、オーダーだ」

店主「ぬふふ! いくら売り込んでも私はコーヒーなんか淹れたりしないよん♪」

友「……うるさい」

店主「私だってそう簡単に働くわけにはいかないからね! ニートの名にかけて!」

友「いいからオーダーをこなせ馬鹿」

店主「赤髪さん! それじゃあ、教えた通りに! あと味見用に一枚余計に焼いといて」

赤髪「了解です」

友「おい店主……」

店主「なに?」

友「店に来てまだ2日の男に厨房に立たせるんじゃない!!」ギギギギ

店主「ギャー!! アイアンクローは痛いよ友ちゃん!!」


友「お前にはこの店の主人という自覚がないのか!!」

店主「ええ、あーりません!」ムフッ

友「………」ギギギギ

店主「んぎょぉぉぉ!! 無言で力を強めないで! 痛い痛い!! 大丈夫だから友ちゃん! 赤髪さんなら大丈夫!!」

友「どこが大丈夫なんだ……? あん?」ギロッ

店主「昨日チャチャッと作り方教えたらチャチャッとできるようになっちゃったんだから!」

友「そんな嘘信じられるか!!」

店主「本当だもん! じゃあ、食べてみればいいじゃない!!」

友「私に男が作った料理を食べろっていうのか! 貴様正気か!?」

店主「えー、そこまで?」

友「きっとなにか体に悪い最近が付着しているに決まっている!!」

店主「病的とはこのことだよね……」アハハ


赤髪「できました。ホットケーキです」


友「むっ……」

店主「ほらほら! 食べて食べて!」

友「うう……男のあれが私の口を蹂躙するというのか……なんたる屈辱!!」

店主「言い方がいちいちエロいね、友ちゃん」


友「くっ……!!」ヒョイパクッ

店主「……どう?」

友「………………うまい」

店主「でしょ?」

友「お前ほどじゃないが……うまいよ」

店主「どれどれ……」ヒョイパクッ

店主「あー、生地を混ぜる時はグワグワーってしないと。それに焼く時はジュワジュワーじゃなくてジュ! ジュワーだよ?」

赤髪「はぁ……」

店主「でもま、こんなもんかな。お客さんに出してもいいよ。友ちゃん。私はお昼寝してくるから」

友「お、おいちょっと待て!!」

店主「あとよろしくねー!」

友「あの馬鹿が……」

赤髪「早く持っていかないと冷めますよ?」

友「そんなことはわかっている!!」

赤髪「えぇ……?」






「はわぁ……美味しかったぁ……」

友「いかがでしたかお客様?」

「すすすっごくく……美味しかったです!!」

友「む……」

「どうしたんですか?」

友「あ、いえ、それはよかったです。ごゆっくりどうぞ」ニコッ

「ちょ、ちょっと待ってください!」

友「はい。なにか?」

「あ、ああああの!! わ、わわわたしし……」ガタガタ

友「お客様、落ち着いてください」


「ああ! そ、そうですよね!! ごごごめんなさい!!」

友(大丈夫か? この子?)

「わ、私……とある人を探してて」

友「そうなんですか。どんな人です?」

「ゆゆゆゆ勇者を探しているんですけどどど!!!」

友「勇者? ああ、あの魔王を倒したとかいう?」

「はいぃ。魔王討伐後に行方不明になってしまいまして……」

友「それは大変ですね」

「そうなんです。一応、王宮も捜索してるみたいなんですけど成果は無くって……なにか知りませんか?」

友「申し訳ありませんお客様。ここは国の中でも田舎の部類ですから情報が入ってこないんですよ。魔王が倒されたのは知ってますがその勇者という人がどんな人なのかはちょっと……」

「そうですか……」

友「ええ、申し訳ありません」ペコッ

「そんな! いいんですよ気にしないでください」

友「しかし、英雄が突然失踪だなんてどうしたんでしょうね?」

「そうですね……色々とありましたから……」

友「?」


「あ、いえ! なにを言ってるんでしょうね私ったら! まるで勇者の関係者みたいな口ぶりで!」

友「お客様?」

「関係ありませんから! 私は勇者とはなんにも関係ありませんから!!」

友「はぁ……」

「あ、ああ! そうだ! そろそろ私行かなくちゃいけないんでした! すみませんごちそうさまでした!!」

友「お気をつけて。この辺りはまだ魔王軍の残党が残っているかもしれませんから」

「大丈夫です。なんとかなります! お会計、ここに置いておきますね」

友「ありがとうございます」

「すっごく美味しかったです。また来ます!」

友「お待ちしています。次はもっと美味しいホットケーキをお持ちしますよ」

「わぁ……楽しみです!」



カランカランカラン……



友「ふむ……英雄の失踪事件か……」


赤髪「なんだか物騒な話ですね」

友「どわぁぁ!!」ビクゥ

赤髪「どうしました!?」

友「貴様! 私に近づくなと何度も言っているだろう!!」

赤髪「いや、俺は食べ終わった食器を片付けようと思って……」

友「私の半径1メートル範囲に近づくな。いいな!」

赤髪「は、はい」

友「まったく……」

赤髪「やっぱり病気レベルだよな……」ボソッ

友「なにか言ったか!?」

赤髪「い、いえなにも!?」


友「しかし、貴様は普通にこの店に居着いたな」

赤髪「まぁ……行くとこ無いですし。なぜか借金できましたし」

友「なにが目的だ?」

赤髪「目的もなにも借金の返済で……」

友「あんなの口からでまかせに過ぎないことくらいお前も分かっているだろう? 法的拘束力なんかあるはずがない」

赤髪「まぁ、それはもちろん分かってはいるんですけど」

友「ならばなぜここにいる? お前の目的はなんだ?」

赤髪「『困ってる人を放っておけない』とかじゃダメですか?」

友「なんだそれは?」

赤髪「だって、困ってるんでしょう?」

友「まぁ、困っていることは確かだ。店の経営も上手くいかないしあいつはやる気を出さないし……問題は山積みで今にも逃げ出したいくらいだが……」

赤髪「ああいえ、友さんのことじゃないですよ。店主さんのことです」

友「あいつが……困っている?」

赤髪「ええ、だから放っておけない。それが俺がここにいる理由」

友「ふんっ、余計に怪しいな」

赤髪「そうですかね?」

友「そんなことしてお前になんの得があるっていうんだ?」

赤髪「得っていうか……片っ端から全部助けてきたんだ。いまさら一人増えたところで別になんも変わらないでしょ?」

友「片っ端から全部? どういう意味だ?」

赤髪「あ! いや別に今の発言はそういった意味で言ったわけじゃなくてですね!!」

友「お前……」

赤髪「ああ!! さっきのお客さん!! なにか二人で話してたと思うんですけどどんな内容だったんですか!?」


友「ああ……どうやら失踪した勇者を探していたらしい」

赤髪「へぇ……失踪した勇者を」

友「こんな田舎くんだりまで探しに来るとはご苦労なことだ」

赤髪「放っておいてやればいいのに」

友「そうはいかないだろう……国の英雄なんだぞ? どこかで野垂れ死にでもされてみろ、色々と問題があるだろうが」

赤髪「それはそうですけど」

友「ここでも情報が回ってくるということは王都では大騒ぎになっていることだろう。まったく、人騒がせな英雄様だ」

赤髪「あはは……」

友「おっと、お前と立ち話をしている時間なんか無いんだったな。お前、今すぐ店主を呼び戻してくれ」

赤髪「俺がですか?」

友「他に誰がいる?」

赤髪「いや、友さんだったら『汚らわしい獣に店主の相手などさせられん!』位言うのかと……」

友「まったくもってその意見には大賛成だが、お前一人置いて店を開ける方が危険だ。ただとんずらされるだけならともかく、店の金まで持ってかれたらたまったものじゃない」

赤髪「そんなことしないですって……」

友「男の言うことなど誰が信じるか!」


赤髪「えっと、じゃあ店主さんを呼んでくればいいんですね?」

友「ああ。多分あいつのことだ、いつもの場所にいるだろう」

赤髪「いつもの場所っていうと、俺と店主さんが出会った辺りでいいんですよね?」

友「そうだ。お前がどういうわけだか野垂れ死にしてたところだよ」

赤髪「……はい」

友「そのまま死んどけば良かったんだがな」フンッ

赤髪「ま、またまた~」アハハ

友「………」

赤髪「じょ、冗談ですよね?」

友「ああ、もちろん冗談だぞ?」フフフ

赤髪「……いってきまーす……」

といったところで今日の投下は以上です

あっという間に書き貯めを消化してしまいました……笑

シルバーウィークを利用してもうちょっと頑張ります……

次回の投下は来週中を予定しています

今回もお付き合いくださりありがとうございました!

乙!
世界観がよく掴めないな 人間以外にも知的種族が居るのかな?

こんばんは。今日も少ないですが投下していきたいと思います! よろしくお願いします!!

>>79
今までで登場しているもので人間以外の知的種族は『龍族』『妖精族』『魔族』です。
ですがそんなこと知らなくても雰囲気でぶわっと楽しめるはずですので適当な感じで読んでいただければと……


――西の森の奥『ししょーの家?』――

店主「あ、いたいた! ししょー!!」

ししょー「……大きい声を出さないでくれるかい? 君の声は頭に響くんだ……」ノソッ

店主「あはは! ごめんごめん。久々に会えたから嬉しくて!」

ししょー「私は会いたくなかったのだけれども……」

店主「ししょーの家って毎回変わるから見つけるの大変なんだよ?」

ししょー「いいかい店主、私のことは放っておいて欲しいとお願いしたはずだよ?」

店主「えー! いいじゃんいいじゃん! ニートの生き方とかもっと色々と教えてよ!」

ししょー「……何度も言うけど君はニートにはなれないんだ」

店主「どうして? ししょーの言ったとおり面倒なことは全部やめたし、自分のことしか考えないようにしてるし、毎日ゴロゴロお昼寝ばかりしてるよ! ししょーとおんなじだよ!」

ししょー「でも君はまだあの店を捨てきれないでいる」

店主「そんなことないよ! あんな店いつだって閉めれるもん! 今日だって赤髪さんに全部押し付けてきたんだよ!」

ししょー「それでも君はあの店を閉めていない。そうだろう?」

店主「それは……そうだけどさ」

ししょー「君が僕の言ったことを守ろうと言うのなら今頃あの店は跡形もなく無くなっているはずだ。違うかな?」

店主「きゅ、急にお店無くなったら友ちゃんが困っちゃうだろうし!」

ししょー「店主。ニートとはなんだい?」

店主「うっ……そうでした。『ニートは自分のことしか考えない』」

ししょー「そう。他の人のことを真っ先に考えてしまう君はニートになるべきじゃないんだよ」


店主「ううう!! なるもんなるもん! 私、ししょーみたいな立派なニートになるんだもん!」

ししょー「立派なニートなんてこの世界にいるはずないんだけどね……」

店主「ねぇねぇ! いいでしょー! 私をニートにしてよー! ししょー!」

ししょー「だーめ。君はニートに向いていません」

店主「むぅぅぅ……」プクー

ししょー「わかったらこんなところにいつまでもいないで自分の居場所に帰るんだね。君に教えることなど何一つないのだから」


ボッ!


ししょー「ボッ?」

店主「ふふふふふ……」

ししょー「て、店主? 松明なんてどこから持ってきたんだ?」

店主「どうせししょーは断ると思ってさー」エヘヘ

ししょー「い、一応聞くけども……それでなにをするつもりだい?」

店主「ニートのこと教えてくれなきゃししょーの家を燃やします!」

ししょー「なっ!?」

店主「だってししょーが悪いんだし、しょうがないよね」

ししょー「や、やめるんだ店主! それは緻密な構造設計で柔軟性と耐久性を兼ね備え、尚且つコストパフォーマンスにも優れる一種の芸術作品『ダンボールハウス』なんだぞ!」


店主「知らないよそんなの! これだけ頼んでるのに教えてくれないししょーが悪いんだもん! ダンボールってことはよく燃えるんだろうなー」

ししょー「や、やめてくれ! 私がこれを作るのにどれだけの労力を……!!」

店主「嫌なら私をニートにして!」

ししょー「いいかい、店主。君には帰る場所がある。いるべき居場所がある。そんな人間はニートにはなれないんだよ」

店主「居場所なんて!」

店主「私に居場所なんてないもん!!」

ししょー「………」

店主「私は本気だかんね!」キッ

ししょー「本気、ねぇ……」



赤髪「本気かどうか知りませんが危ないので没収です」ヒョイッ



店主「ほえ!?」


赤髪「まったく。なにしてるかと思えばこんなところで火遊びですか?」

店主「ちょ、ちょっと赤髪さん! 返してよ! 私の最終兵器!」

赤髪「なに言ってんですか。こんなところで松明なんか振り回したら山火事になりますよ」

店主「だってししょーが!」

赤髪「ししょー?」


シーン……


店主「あれ? あああああああああ!!!」

赤髪「なんですか、いきなり大声出して!」キーン

店主「逃げられた………そんな! そんなのってないよ!!」

赤髪「逃げられた?」

店主「もう! 赤髪さんのせいだかんね! せっかくししょーを追い詰めたのに!!」

赤髪「なんのことかわかりませんけど子供に火は危険です!」

店主「子供じゃない! もう大人だよ!」

赤髪「子供に限ってそういうこと言うんですよ」

店主「二十歳! 友ちゃんと同じで私二十歳!!」

赤髪「……嘘。同い年かよ!?」

店主「そんなに驚くこと!?」


赤髪「まったく。なにしてるかと思えばこんなところで火遊びですか?」

店主「ちょ、ちょっと赤髪さん! 返してよ! 私の最終兵器!」

赤髪「なに言ってんですか。こんなところで松明なんか振り回したら山火事になりますよ」

店主「だってししょーが!」

赤髪「ししょー?」


シーン……


店主「あれ? あああああああああ!!!」

赤髪「なんですか、いきなり大声出して!」キーン

店主「逃げられた………そんな! そんなのってないよ!!」

赤髪「逃げられた?」

店主「もう! 赤髪さんのせいだかんね! せっかくししょーを追い詰めたのに!!」

赤髪「なんのことかわかりませんけど子供に火は危険です!」

店主「子供じゃない! もう大人だよ!」

赤髪「子供に限ってそういうこと言うんですよ」

店主「二十歳! 友ちゃんと同じで私二十歳!!」

赤髪「……嘘。同い年かよ!?」

店主「そんなに驚くこと!?」


赤髪「いやだってどっからどう見たって小学せ……べふぅ!!」ドゴォ

店主「フンッ!!」

赤髪「い、痛い……」

店主「誰が小学生か!!」

赤髪(ってことは友さんも同い年ってことだから……うわっ、見えねぇ!!)

店主「赤髪さん?」ギロッ

赤髪「い、いや! なんでもないです!!」

店主「本当に~? 失礼なこと考えてない~?」

赤髪「考えてないです考えてないです!」

店主「ならいいや。許してあげましょう!」

赤髪「ほっ」

店主「これからはわざわざ敬語も使わなくていいよ? 堅苦しいし」

赤髪「いや、でも一応そういうのはきっちりとしないと……」

店主「いいのいいの。私がいいって言ってるんだからいいの」

赤髪「そうか?」

店主「そうそう! もっとフランクに! 気楽にいきましょうよ、私の奴隷ちゃん♥」

赤髪「嬉しくねぇ……!!」


店主「それで?」

赤髪「え?」

店主「ここに来たってことは私になんか用があるんでしょ?」

赤髪「あ、そうだ。友さんがいい加減店に戻ってこいってさ」

店主「嫌デース!」

赤髪「清々しいまでの即答だな! おい!!」

店主「だって私が働きたくないから赤髪さんを雇ったんだよ? なんで働かなきゃなんないのさ?」

赤髪「だったら少しでも俺がまともに働けるように指導してくれよ。じゃないと辞めんぞ?」

店主「しゃ、借金の踏み倒しはいけないんだよ!」

赤髪「ぼったくりもいけないことだと思うんだけどなー?

店主「ぐぬぬ……赤髪さんのいじわる!」

赤髪「ほら、早く店に戻るぞ」

店主「むー!! 働きたくないのにぃぃ!!」

赤髪「なんでそこまで嫌がるんだよ……お前の店だろ?」

店主「だってこんなことしたってなんの意味もないじゃん」

赤髪「意味?」


店主「頑張ったって無駄だってわかってるのにどうして頑張らなきゃいけないの? 辛いってわかってるのにやる必要なんてどこにもないと思うんだけど」

店主「頑張ることでなにが得られるの? 挑戦することに意味があるとか適当なこと言う人がいるけどそれってただの自己満足じゃん。なんで他の人と同じことしなきゃいけないの? 私はやりたくないのに」

赤髪「それは……」

店主「私はのんべんだらりと日がな一日優雅にお昼寝をしていたいのだー!」ニャハハ

赤髪「それがニートの生き方ってやつなのか?」

店主「そだよ? これがニートの生き方なのです!」フンスッ

赤髪「俺には真似できないな……」

店主「そうかなー? 結構気楽でいいもんだよ? 自分のことだけ考えて生きていくのって楽しいし」

赤髪「本当にそう思ってるか?」

店主「え?」

赤髪「本当に楽しいのかよ? こんな毎日」

店主「た、楽しいに決まってるじゃん!」

赤髪「俺にはそんな風に見えないんだが」

店主「な、なーに? 赤髪さん? 急にそんなこと聞いちゃって。さては自由の化身であるこの私に嫉妬しておりますな?」ニシシ

赤髪「俺にはお前が辛そうに見える。理由はわからないけど辛そうに見えるんだよ」

店主「辛いわけなんかないよ! そんなことない!」


赤髪「お前はなにを我慢してるんだ? 俺はそれが知りたい」

店主「我慢なんか! 我慢なんかして……!!」



パチンッ!!



赤髪「え?」

「あんまり意地悪しないであげてくれないかい? この子は色々と繊細なんだ」

赤髪「誰だ!」

「とりあえず怪しい者じゃないってことだけは言っておこう。いきなり斬られたりなんかしたらたまったもんじゃないからね」

赤髪「店主。この人は?」

店主「」

赤髪「おい?」

ししょー「無駄だよ。君の声は届かない」

赤髪「どういうことだ」

ししょー「少しばかり時間を止めさせてもらった。君と二人っきりで話してみたくてね」

赤髪「……お前、何者だ?」

ししょー「なに、ただの通りすがりのニートだよ」ニヤッ

といったところで今日の投下は以上です!

次回も来週中に投下できたらと思っています!

今日もありがとうございました!!

こんばんは>>1です


少なめですが投下していきます。よろしくお願いします!!


――役所西支部前――


シュンッ


「っと。到着ね」シュタッ

メイド「………」ズーン

「ここが西支部……通称『鬼の巣窟』」

メイド「………」ズズーン

「まぁ、見た目は王都の役所と変わんないわね。当然だけど」

メイド「………」ズズズーン

「さてと。それじゃ私行ってくるから。お父様とお母様には上手いこと伝えておいてね」


グイッ


「……なに?」

メイド「………」ズズズーン

「悪いけどこっちも急いでるから。別れは惜しいけど時間が無いから離してくれないかしら?」


ギュッ


メイド「………」


「メイド。私の言っていることが聞こえないのかしら?」

メイド「………」ズダダーン

「もうおかしな擬音まで飛び出しちゃってるし。やっぱり別の人間に頼めばよかったかな……」ハァ

メイド「……慣れてない人間が転移魔法を使うのは危険ですの……」

「そうね。失敗して土の中に転移したらシャレにならないものね」アハハ

メイド「……冗談でもそういうこと仰るのはやめて欲しいですの……」

「ご、ごめん」

メイド「………」

「ああもう!! さっきからなによ!? 言いたいことがあるならはっきりと言いなさい!!」

メイド「……ですか?」

「え?」

メイド「どうして私を連れて行ってくださらないのですか!?」

「……まーたそれ? 何度も説明したでしょ? 今回ばかりは私だけで行くって」

メイド「ですが! 姫様の身にもしものことがあったら誰が姫さまのことをお守りするのですか!?」

「だいじょーぶよ。誰も私の素顔なんか知らないって。ほら、仮面でしっかり隠してるでしょ?」アハハ

メイド「それでも危険です! あなたはいずれこの国を背負うお方なのですよ!」


「だからこそよ」

「だからこそ私はここに来たの。今、この国がどんな状況か、あんたもわかっているでしょう?」

メイド「それは……」

「魔王が倒れたのはいいけど大地は汚染され、各地にはまだ戦いの傷が色濃く残っている。確かに世界は平和になったかもしれない。だけど今も苦しんでいる人はきっといる」

「それを知って放っておくことなんてできないわ」

メイド「で、ですがそんなことは王宮にいてもできることでしょう? なにもこんな所まで来なくても……」

「王族にできることは全部あのバカ親父……オホン。偉大なる国王であらせられるお父様が全てやってくれてるはずよ。そうでなかったら私がとっくに王座から引きずり落としているはずだもの」

メイド「そ、それは確かにそうかもしれませんが……」

「だから私は民の立場に立ってこの国の問題と戦う。そしてここが私の戦場ってわけ。わかる?」

メイド「姫様……」

「あなたには私が王都にいない間、起こった出来事を私に教えて欲しいの」

メイド「といいますと?」

「あんまり大きな声では言えないけどね、最近どうも元老院の様子がおかしいのよ。叔父様がおかしいのはいつものことなんだけどそれでもなんか嫌な予感がするのよね」

メイド「それは本当ですの?」

「なんとなく……だけどね。だからメイドには王都に残って色々と監視しておいて欲しいのよ。こんなこと頼めるのメイドくらいしかいないから」

メイド「………」


「なんだったら私のフリして元老院ぶっ潰しちゃってもいいわよ? あいつら邪魔だし」

メイド「そんな……姫様のフリなど恐れ多いですの!」

「そう? 案外この仮面つけとけばバレないと思うけど?」

メイド「姫様と私では纏っているオーラからして違いますもの!」

「そんなことないと思うけどなー」

メイド「それに恐れ多くも私では姫様の様な慎ましいお胸を再現することはとても……」バインッ

「フンッ!!」ガシィ

メイド「あん♥」

「あんた私をバカにするとはいい度胸じゃない」ワッシャワッシャ

メイド「姫様……激しいですのぉぉぉ……!!」

「なんだ、この脂肪の塊がそんなにいいのかぁぁぁああ!!??」ワッシャワッシャ

メイド「あああん!! もっとぉぉぉおおお!!」

「………」ピタッ

メイド「ハァハァ……もう終わりですの?」

「あんた、正直気持ち悪いわね」

メイド「やり始めたのは姫様ですのに……」オヨヨ

「とにかく! 私のいない間は色々と頼むわよ!」

メイド「ま、待ってくださいまし!!」ガシッ

「なーにーよー!! 私そろそろ行きたいんだけど!」

メイド「ほ、本当に行ってしまわれるんですの……」ウルッ


「……あんたいくつよ?」ハァ

メイド「姫様を引き止めることができるなら一生子供のままでいいですわ!!」

「あー、はいはい」

メイド「行っちゃ嫌ですの行っちゃ嫌ですのー!!」ジタバタジタバタ

「騒ぐな! 人に見られるでしょうが!」

メイド「姫様が行くと言うなら私はここで赤子の様に泣き喚きます!」

「子供か!」

メイド「姫様がいないと寂しくて死んじゃいますのー!!!」ジタバタジタバタ

「ああもう……昔はこんなんじゃなかったのにどうしてこうなった……」

メイド「それは姫様が悪いんですの! 私は姫様無しでは生きられない体にされてしまったんですの!!」

「なにもしてないっつーの!!」

メイド「姫様ぁぁぁあああ……行かないでくださいですのぉぉぉ……」ガシッ

「引っ付かないでよ、鬱陶しいわね!!」

メイド「ああああああああ……」

「ええい!! こうなったら最後の手段よ!!」

メイド「私はなにがあっても姫様を離しませんわ!」

「メイド」

メイド「なんですか!?」クワッ


チュッ



メイド「え?」

「これじゃダメ?」ウワメヅカイ

メイド「へ…へ……? 姫様……い、今……!!」

「私の初めて、メイドにあげちゃった」

メイド「」

(まぁ、とっさに唇と唇の間に指を挟んだがな!)

「それじゃ、私行ってくるから! あとよろしく!!」ダッダッダッダ




メイド「」チーン


(もう一度言うけど咄嗟に唇と唇の間に指を挟んだがな!!)



といったところで今日の投下は以上です

スローペースで本当に申し訳ありません!


今週中にもう一度投下したいと思います! よろしくお願いします!!

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