塩見周子「荘一郎さーん、約束のケーキっ!」東雲荘一郎「わかってますよ」 (111)


塩見周子
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東雲荘一郎
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荘一郎「というかあなた、電話かけてきたと思ったら、開口一番それですか」


――『えへへっ、楽しみにしちゃってたからさー。結果発表は見てくれたんでしょ?』


荘一郎「ええ」


――『もうびっくりびっくり。夢みたいだよ』


荘一郎「夢じゃありませんよ。私も確かめましたから。…… 一位おめでとうさんです」


――『ん、おおきに荘一郎さん』






荘一郎「……ほんま、大きゅうなられたんですね」

幸広「あの京都の和菓子屋のお嬢さんからだな。ケーキを振舞うんだろ? ははは、東雲、約束は破ってはいけないぞ?」

荘一郎「心得てます。神谷、周子さん店に来たいそうなんですが、ええですか?」

幸広「もちろん! とびっきりな幸せな一時を提供してやりなよ!」

荘一郎「ええ、わかってます」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1429964397

――

――――



周子「んー、そっかー。シンデレラガールになったんだよねー。金メダル取ったってことなんだよねー」

紗枝「なんや、周子はん、何度も繰り返してはりますなぁ。そんなに信じられへんのどすか?」

周子「実感はないワケじゃないんだ。でも、なんてゆーかフワフワしてるんだよね。おもえばとおくにきたものだーってそんなカッコイーことも考えてみたいんだけどねー」

紗枝「心配せんでも、いやでも実感することになりますえ~。CDにアニバーサリーに、大忙しにならはるんどすから」

周子「え~、ホント? そんな大役任せられるまでになっちゃったかー。ホントにプロデューサーには感謝だね」

フレデリカ「シューコちゃん、ミリョク大爆発してたもーん。ナットクの一位ってカンジ? 胸はれーっ、胸さらせーっ♪」

紗枝「さ、さらしたらあかん~」

周子「あ、でも。フレちゃんとか、紗枝はんとか、雪美ちゃんとか色んな人におめでとー、おめでとーって言われんのはスッゴイうれしー」

フレデリカ「じゃっ、何度でもゆったげる♪ おめでとー、おめでとー! 当選オメデトー☆」

周子「ありがとうございます、ありがとうございまーす。これもひとえに応援して下さった方々のお力の……タマモノ? ありがとーっ」

雪美「おめでとう……おめでとう……こんぐらっちゅれーしょん」

紗枝「あれあれ、雪美はんまで」



宮本フレデリカ
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小早川紗枝
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佐城雪美
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周子「おおきに、雪美ちゃん。次はキミの番だよー」ナデナデ

雪美「ん……、私もがんばる……」

周子「あ、そだ。みんなもいっしょに、ケーキ食べにいくー? 明後日、そういち……知り合いがごちそうしてくれるんだー」

雪美「え、いいの……?」

周子「いいのいいの、大歓迎。お祝いのお返しー!」

フレデリカ「おーっ! サントノーレもでるカンジかなっ?」

周子「頼めばきっとなんでもでるよー。じゃんじゃん頼んじゃってー」

フレデリカ「きゃはっ、そんじゃ同行ケッテーイ♪!」

雪美「ケーキ、楽しみ……」

周子「紗枝はんも来るよね」

紗枝「あー、是非行きたいんやけど……明後日からは、京都でロケすることになっとるんどす~」

周子「ありゃ~そうなん?」

紗枝「こころくばせ、冥加無く思います~。えろうすいまへん……」

周子「いーのいーの! 京都親善大使だもんね! ばしっと決めてきてー」

紗枝「はい~。……あ、そうや、周子はんも京都に戻りはったらどうどすか」

周子「えっ」

紗枝「故郷に錦を飾る~ゆうてはりましたやん? 今がその時ちゃいます?」

周子「あー、んー……そっか。そだよね。考えとく」



紗枝「京の夏は鍋底みたいにしんどい暑さになりますから、戻りやすい時に戻った方がええ思います~」

周子「それ言えてんね。紗枝はんは気遣いができる、ええ子や~」

紗枝「なんどすか、それ」クスクス

周子「てゆーか、洋服姿もすごいカワイイね」

紗枝「は!? も、もぅ~、いきなり勘弁しとくれやす~。そんなイキナリ褒められたら、えらい気恥ずかしいわぁ~」

周子「んー、でもやっぱザンネンだねー。紗枝はんみたいないい子と友達なんだって、知り合いに紹介したかったな」

紗枝「ふふ、ならまたの機会に、会わせていただきます~」

周子「ん。会っていただきます~……さて。どーしよっかな。もうちょっと誘っとこうかなー」






周子(でも、京都かー)

周子(仕事で帰る機会がこれからあるかもしんないけど……、個人的に一回実家に顔出しにいこっかな)

周子(今なら鼻高々で戻っても、いーよね)


周子(あ、でも荘一郎さんはどうなんだろ)

周子(あんこが食べれなくて和菓子屋を継ぐ夢諦めて…………パティシエになって、今はアイドルもやって。実家に帰ろうとか思わへんのかな?)


とりあえず冒頭だけ
座右の銘、見切り発車スタイル

塩見周子「誕生日に」東雲荘一郎「想を練る」 の設定を踏襲してますが別に読まなくても大丈夫です

新SR出るタイミング周子さんと東雲さんで被りましたね
SideM新アイドルも楽しみ

色々衝撃的なことばかりで書く時間あまり取れてないんですが、続き投下します





――「本当におめでとうございます、周子さん」





――「羨ましいですよ」







周子「羨ましい、ね」



周子「…………んー、どないしよかな」


――

――――

卯月巻緒
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アスラン=BBⅡ世
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水嶋咲
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神谷幸広
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巻緒「わぁ……!! 荘一郎さん! ケーキ完成したんですか! 青と白が映えて……食べるのもったないくらいキレイです」

咲「おっきーぃ! レースとリボンがついてるんだ~カワイイ! そーいちろーすごいね!」

荘一郎「ええ。中々骨が折れました。巻緒さん。カタログを返しておきます」

巻緒「あ、はーい」

咲「カタログ? それなに?」

巻緒「色んなケーキを取材してファイルしたケーキカタログ! シンデレラをイメージしたケーキを作るために貸したんだよ」

荘一郎「結局シンデレラのドレスをモチーフにしましたが、かぼちゃの馬車の荷台に乗せたり、ガラスの靴をあしらったりと見ていて興味深かったですよ」

咲「シンデレラかぁ、アコガレちゃうなぁ~! シューコちゃんもうすぐ来るんでしょ?」

荘一郎「ええ……すいませんね。私の約束にみなさんを付き合わせてしまって」

咲「そういちろうわかってないな~! シンデレラガールに会えるなんてとっても楽しみなんだから! あたし、断られてもプピッと手伝ちゃうよ!」

巻緒「そうですよ! こんなケーキを作るのに関われたの俺うれしいんです! 気にしないでください」

荘一郎「……恩にきます。私はいい同僚を持ちましたね」


幸広「そうだ、東雲。俺が周子お嬢さんを迎えに行ってこようか?」

荘一郎「やめぇや。また行方不明になるんが目に見えとるわ。神谷はここでじっとしていてください」

アスラン「ハーハッハッ! ソーイチローよ! 今宵の暗黒王位継承の儀! 供物はすでに整ったり! 我が魔技を讃えることを許すぞ! アーハッハッハ!!」

荘一郎「ありがとうございます。ですが、お静かに。ほこりがたつでしょうが……!!」

アスラン「う……ッ、こ、心得ておる! だ、だからその魔眼で我を射抜くな!」


咲「そういちろうってさ、静かなのにコワいよね~」

巻緒「そう? 厳しい時はあるけど、優しい人だと思うよ」







――「こんばんわー。荘一郎さーん、しゅーこちゃんがご来店あそばされたよー。ケーキを所望するーっ」




荘一郎「あ、いらっしゃったようですね」

咲「いらっしゃいませー! こちらへどうぞー!」タタッ


――……


周子「わ……っ」



堂々たるケーキが目に入った。


ホワイトベースに幸せを象徴するパステルブルーのデコレーション。

ドレスを模した四段のケーキの土台にはフリルがあしらわれている。

多種多様な口金を使用されて表現された、白い白い生クリームのレースはケーキ全体に纏われて。

店の照明のもとでふわりとシンデレラが舞っているような錯覚さえ覚える、それは洗練された女王の残像だった。



周子「これがケーキ!? ブリリアントだねー! なんかウェディングケーキみたいじゃん!」

雪美「わぁ…すごい、きらきらしてる……!」

フレデリカ「でっかー! ピエスモンテの波動を感じるー。テンションあがんね♪」

荘一郎「労作です。お気に召しましたか」

周子「え? あぁ、うん! 気にいったよ。……ここまでしてくれるなんて、びっくり」

荘一郎「お祝いですからね」

咲「しゅーこちゃん総選挙1位オメデトー! パピっとプピッとお祝いしちゃうっ!」

巻緒「おめでとう!」

周子「おー咲ちゃん、巻緒くん。ありがとありがと! みんなのおかげー」


荘一郎「では、こちらに……って」

周子「あむっ。うーんっ、おいしー!! 荘一郎よ、腕を上げたのう……あたしが教えることはもうないよ」

荘一郎「あなたはどういう立ち位置なんですか。ケーキをそのままフォークでつまむのやめなさい。切り分けますから」

周子「はいはーいっ、いやー感動しちゃってさ。やばいこのままじゃ、もったいなくて食べられへんよーになるって危機感がね?」

荘一郎「……1位になってもそこらへんの性格は変わりませんね」

周子「そりゃそうでしょー。お腹すいたーん。早く食べさせてー♪」


アスラン「雅なる城塞より導かれし光の姫どもよ! 今宵は闇の歓待に身をゆだね、存分に魔力をその裡に取り込むがいい!!」

フレデリカ「おっけーおっけー、ってかすでに摂りこみまくってるよー。ローストビーフおかわりねーっ」


志希「トリゴネリンにナイアシン~♪ シナプスが花開くね~」

幸広「少々お待ちをお嬢さん。渾身のラテアートを……」


夕美「ふぅーん、シューコちゃんの知り合いってあのお兄さんなんだ」

巻緒「そうです。和菓子屋同士の、家の繋がりがあったんだって」


一ノ瀬志希
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相葉夕美
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荘一郎「お友達が多いですね」

周子「シューコは友達作んの得意だかんねー。いっぱいお祝いされたよ。あ、こんな連れてきちゃまずかったー?」

荘一郎「こちらは大丈夫ですよ。ですがアイドルなんですから、もう少し忍ぶべきではないですか。変なウワサがたったらせっかくシンデレラガールになったのにケチがつきますよ」

周子「いーよ、そんなの。荘一郎さんのケーキを食べられないなんて1位になったカイがないよ」

荘一郎「……あなたは。いや、そこまで私のケーキを評価して頂いたのは光栄ですが……」

周子「いやでもホントにだいじょーぶ。昨日も一昨日も一昨々日も宴じゃーってプロデューサーとか友達とかといろんな店に繰り出してるから、マスコミかわす動き身についてるもん」

荘一郎「不安ですね」

周子「シンヨウしぃなー。てゆーか、後ろめたいことやってないやん?」

荘一郎「……それもそうですね。杞憂でした」


荘一郎「ゆうても、身内を祝ってるだけですからね」

周子「そうそう。親元離れて厳しい都会に生きるアイドルにはこれくらいの止まり木は必要だよー」

荘一郎「止まり木って、私ですか」

周子「そういや荘一郎さん、植物っぽーい」

荘一郎「はじめて言われたわそんなん。というかその場の勢いで話を進めんのやめなさい。掴みどころがなさすぎて困惑します」

周子「あは、なにをナンジャクなことをゆうてはる。もっともっと上げていくよ、ついてこーい」

荘一郎「……プロデューサーさんの苦労がしのばれますね。塩見のご店主も手を焼いていたのでは?」

周子「うぁ」

荘一郎「―? どうしました」

周子「あー、そうだね。親父か……顔、見せに行こっかな……」

荘一郎「帰省の話ですか? 戻った方がええ思いますが。今は堂々と戻れるでしょう」

周子「うん、京都、友達がロケしてるし。……帰るかなー。ね、荘一郎さんは」


巻緒「荘一郎さん! そろそろあのポティマロンを使ったマフィン出しますね!」


荘一郎「ああ、待ってください私も運びます。周子さん、失礼します」

周子「あっ」


夕美「ねえ、周子ちゃん」

周子「夕美ちゃん、どしたん?」

夕美「荘一郎さんと仲いいんだね」

周子「まーね。ちっさい頃はよく会ってたから気心は知れてるかなー。再会したのは最近だけど」

夕美「そうなんだ。ケーキ作ってくれる知り合いって男の人だったんだって、ちょっとびっくりしちゃったよ。荘一郎さん、パティシエでアイドルなんてすごいね」

周子「あたしだってびっくりしてるよー。和菓子屋の息子さんの姿しか知らなかったし」

夕美「で、今アイドルになって、再会したんだね。なんかロマンチック。ホントにただの知り合い?」

周子「え? あー、そう見えるもんかー。いうても古い知り合い兼同業者だよー」

夕美「それだけ~?」

周子「それだけー。だと思うよ、うん……向こうも妹って感じに接してんじゃないかな」


咲「じゃあ、ロールは弟かな~? そういちろう、なんかロールにはやさしー感じがするんだよね」

周子「えー、咲ちゃん、それホント?」

夕美「どうなの、ロール君?」

巻緒「俺? どうかなー……サキちゃん、荘一郎さんをからかったりするから、怖くなっちゃうんじゃない?」

咲「えー、悪気はないのにー」

周子「ツッコミ気質だからねー。荘一郎さん。素直な巻緒くんには甘くなんだろーね」

咲「むー、あたしにもケッコウ優しくしてくれてるもん! 寝坊した時とかには怒られるけど! そうだ、周子ちゃん!」

周子「んー、なんじゃらほい?」

咲「シンデレラガールになったキブンってどんなカンジ!? トップに立つヒケツは!? 聞きたかったの! コッソリ、あたしにだけプピっとおしえて?」


周子「え、あたしに?」

咲「そう! しゅーこちゃんアタシと同じ18歳だもん。アコガれちゃう~」

夕美「あ、咲ちゃんも巻緒くんも私たちと同じ18歳か」


周子(……荘一郎さん、3歳年下の子に縁があんね)

周子「そっかー、聞いちゃうかーそれ。しょうがないなー…………あれ、ヒケツって何だろ? 夕美ちゃんなんかわかる?」

夕美「私にふるのーっ!?」

周子「夕美ちゃんがんばーっ」

咲「夕美ちゃんもスッゴイ躍進だったねー! あやかりたいなーっ!」

夕美「え、え? よ、ようしっ……! では、その、アイドルとしての心構えから……」





雪美「あ、そのぬいぐるみ、かわいい……さわっちゃダメ?」

アスラン「な、ならぬ! 我以外が触れては、闇の波動の奔流が……!」

フレデリカ「いーじゃん。ちょっとだけー、15分レンタル、延長なしーっ」

アスラン「ならぬーっ!!」


志希「にゃははっ、おもしろーい」

幸広「アスランとサタンはどうも子どもに好かれるようだね」







周子「――ふー、お腹いっぱーい。余はマンゾクじゃー」

志希「にゃは~レプチン分泌ちゅー……」

雪美「ケーキ特においしかった……。きれいで……夢の味……?」

巻緒「そうだよね! あのケーキ美味しかったよね! 荘一郎さんのケーキはすごいんだよ! 俺が今まで特にすごいと思ったのは……!」


周子「あれ? 荘一郎さんは」

幸広「調理場にいるよ。片づけをはじめてる。話したいなら入っても構わないよ、主賓殿」

周子「……そんじゃ、ちょっと働きぶりカントクしてこよっかな」

幸広「ははは、お手柔らかにね」









周子「もう片付けしてんのー?」

荘一郎「ああ、周子さん。失礼しました。……段取り良く立ち回らんと店回らへんかったもので、手早く片付けるの癖になってまして」

周子「荘一郎さんきちょうめーん」


調理場を見渡す。

甘い菓子の残り香が漂う、静謐な領域。



周子「あ、これ使ってんの?」


目に入ったのはパティシエの仕事道具。



計量カップ、計量スプーン、計量秤。

ボウル、泡だて器、パレットナイフ。

ゴムべら、口金、絞り袋、ストレーナー ――


菓子をこの世に創造するための、職人の手足。



荘一郎「ええ。手に馴染んだ道具ですから大切にしています」

周子「そっか。じゃあ触らんとこ。“ご店主”の道具で遊んで怒られたことあるしね」

荘一郎「什器類で遊んではあきませんよ」

周子「反省してるって。今はもう、大切なものなんだってわかってるから」


周子「でも、この調理場の空気? フンイキ? なんか実家の和菓子屋を思いだすかも」

荘一郎「そうですか?」

周子「そう。いま、あたし、きょーしゅーに誘われてる」

荘一郎「郷愁……ああ、やはり実家に戻るんですか? ええと思いますよ。今こそ錦を飾るタイミングやと思いますし」

周子「うん。帰ってみるよ」

荘一郎「そうですか……」

周子「だから、荘一郎さんも大阪の実家に戻ってみない?」

荘一郎「……? 私が、実家に? なぜです」

周子「新幹線で帰ろ思てるけどー、道中ヒマやん? 手ごろな話し相手がほしーなーって。大阪と京都やったらルート同じやし」

荘一郎「……いえ、私は結構です。まだ道半ば。帰れる時ちゃう思いますし」

周子「……もう、そういうことゆう。いいじゃん、顔見せに行くくらい。あたしだって、今までに帰ったことあるよ?」

荘一郎「男は…………軽々に振り返りはしないんです」

周子「なにそれーっ、理由になってないっつのーっ」

荘一郎「理由ゆうたら、そっちもむちゃくちゃやないですか。他のお友達の方がええ話し相手になる思います」

周子「……えっと、あれだから。実は荘一郎さんが作ってくるお菓子を食べながら帰りたいってそーゆーコンタンやから」

荘一郎「お菓子目当てかいな。なら、タルトでも持たせてあげますよ。それなら私は必要ないでしょう」

周子「むぅ~、今日あたしのお祝いの席やのにー……荘一郎さん、冷たい。道中ナンパされてスキャンダルに発展したらセキニンとれんのー……男避けがヒツヨウやのにー」

荘一郎「……また断りにくい理由を持ち出してきますね」



荘一郎「でしたら……」



幸広「東雲! 実家に帰るのかい? ちょうどよかったな!」



周子「え」

荘一郎「な、神谷?」

幸広「実はプロデューサーさんから話されてね。バラエティに出演オファーが来てるって。そこで、とあるコーナーで必要になるからアルバムを持って来てほしいんだってさ」

荘一郎「アルバム……?」

幸広「ああ。実家に戻るんだろ? ちょうどいい。取りにいきなよ」

荘一郎「それは送ってもらえば済む話では? というか、水嶋さんとかアスランさんとかアルバムどうするんですか。深い闇が覗けそうなんですが」


咲「そういちろうひっどーいっ! あたしだって自分で作ったアルバムあるもーん! アスランはアルバム持ってないかもしれないけどさー!」

アスラン「わ、我の闇の古代史に触れる禁忌! そうそう許せるわけがなかろうが!」


幸広「な……? この分じゃ番組回らないかもしれないからさ、アルバムを取ってきてくれよ、東雲」

荘一郎「事情は分かりますが、わざわざ家に足を運ぶ必要は……」

幸広「東雲の実家の和菓子。プロデューサーや同僚達にも食べさせたいと思うんだ。いいの見繕ってきてほしい」

荘一郎「和菓子、ですか?」

幸広「ああ。頼むよ」

咲「あ、あたしもそういちろうの和菓子屋の味しりた―いっ! カワイイお菓子選んできてねっ!」

雪美「和菓子も……あのケーキみたいにおいしいの? 食べてみたい」

周子「あ、雪美ちゃんまで」


荘一郎「なんですか、あなたたちは……牽強付会じゃないですか」

巻緒「俺も和菓子はまだ全然知らないんですよね! 食べてみたいです!」

荘一郎「……巻緒さんまでですか」

幸広「道中お嬢さんをガードしてやりなよ」

咲「イガイと筋肉あるもんね、そういちろう!」


荘一郎「…………」

荘一郎「はぁ…………手を焼かせますね。―――は」


周子「え?」

荘一郎「出発はいつにしますか? 周子さん」

周子「あ、いっしょに帰ってくれるの?」

荘一郎「ええ、帰ります。いい機会かもしれませんしね」

周子「あはっ、やたっー」




夕美「なんか周子ちゃん誘うの成功したみたいだね」

志希「よくわかんにゃいけど、よかったよかったー。狙った反応が出るのってうれしいもんねー」



――……






荘一郎(……やれやれ、みなさん強引でしたね)


荘一郎(そろそろ出ますか。周子さんを待たせるのもなんですし)


荘一郎「…………」




――――『荘一郎… どうしても家を… 店を継がないのね?』



『ええ… 和菓子は好きですが… この体質だけは変えられないので…』



『…すみません』





荘一郎「…………やはり、思い出してしまいますね」


荘一郎「さあ、行きますか」

とりあえずここまで。
このSSは東雲さんと周子さんがいっしょに帰る話です

涼くんの回想で涙腺がやられた…
九十九先生も六代目の大吾君もめっちゃ好きになれそう
大吾と巴お嬢が絡む話を誰か早く書くのです。私が直央くんと巴お嬢が将棋をするSSの構成を練っている間に
モバマスではキャンプでアイプロだし…、九十九君、趣味キャンプだし……! 提供されるネタの嵐に全然手が追いつかないぜ

投下します

――

――――

――――――



――東京駅





周子「こっちの駅ってほんとどこも混雑してるよね」

荘一郎「新大阪辺りといい勝負ではないですか?」

周子「お、それはあれー? 東京人には負けんぞーってゆー大阪人のプライドー?」

荘一郎「そういうわけではないです……決してないです」

周子「ほんとかな?」

荘一郎「それよりも指定席で良かったんですか、グリーン車の方が安心では?」

周子「んー、そっちに乗りたい気持ちはあるけどねー。変装してるから指定席の方でもだいじょぶだなって。それに荘一郎さん、グリーン車に乗るの遠慮しそうだったし」

荘一郎「遠慮……まぁ、そうですね。私にはもったいないと思ったかもしれません」

周子「ほらー、しゅーこちゃんの読み当たったじゃん」

荘一郎「いうても私にとって今回の帰省は、仕事の一環ですからね。グリーン車を使う場面ではないでしょう」

周子「帰りに乗ろっかー?」

荘一郎「いや、帰りはいっしょにならへんでしょう」

周子「合わせたらいーよ。――あっ、ほら新幹線来たよ」


16両編成の新幹線が、ホームにその巨体を滑り込ませていく。

休日前、昼過ぎということもあって、込み具合はほどほど……しかし、東海道新幹線が一日50万人を搬ぶことを考えれば、この空き具合は幸運に感じてもいいものだろう。


荘一郎(なにしろ……アイドルですからね。変装してるにしろ、人目につかない方がええでしょう。……男と女なら、なおさら)



なにしろ同伴者はシンデレラガールなのだ。道中なにかあれば、向こうの事務所に迷惑がかかる。無論315プロダクションにもだ。

体感としてはそうそう面倒な事態など起こらないと分かっているが、やはり気が引き締まった。


総選挙1位。

……彼女は遠くの地平に達した。


荘一郎「……私とは違いますからね」




周子「ね、ね! そういち……おにいちゃんも持ったげてーっ」

荘一郎「は?」


と、そこで掛けられた声に我に返った。

見ると、件のシンデレラガールは一人の老婦人のそばで、彼女のものらしき荷物を持って声を上げていた。


周子「このおばあちゃんの荷物! 運ぶのナンギしてんのーっ」

老婦人「もうしわけありません……本当にごめんなさいね」

周子「いーのいーの、ヒザ痛くなっちゃったならしょーがない! 同じのに乗るからついでだし、男手もあるからエンリョむよー」


荘一郎「……」


どうやら彼女は老婦人に親切を見せているようだった。


荘一郎「……だから、人目につかないようにと……。――いや言ってる場合では無いですね」

荘一郎「わかりました。荷物は私が運びます、あなたはおばあちゃんを席に連れたってください」

――

――――

新幹線・車内


老婦人「助かったわ。本当にありがとう。急にヒザが痛くなって、でも駅員さんも見えなくて……」

周子「いーのいーの。旅はみちづれーってやつだからさ。そんでおばあちゃん、ヒザもう痛くない??」

老婦人「収まったわ。時々あるのよね……突然痛みがはしるの。気ばかり若いつもりでもダメね」

周子「んーでも、まだまだ全然おばあちゃんきれいだよ? 若い若い。ね、“おにいちゃん”?」

荘一郎「え、ええ……きれいだと思います」

老婦人「うふふ、ありがとうね。お世辞でも嬉しいわ。お二人は兄妹?」

周子「んーと……」

荘一郎「そうです。兄妹です」

周子「あっ」

老婦人「そう。仲がいいのね」



車両の端の席で老婦人と向かい合って話す。

座席を回転させ、ボックス席にしている。


偶然にも老婦人と席が前後していたのには驚いたが、座りやすくしたげるとボックス席にするとはさらに意表をつかれた。


荘一郎(逆に恐縮するでしょう……)


周子「そっかー、おばあちゃんは名古屋で降りるんだねー」

老婦人「ええ。こっちへは孫に会いに来ていたの」

荘一郎(しかし、打ち解けてはりますね)








周子「――あむっ、うん。このスティックケーキなかなかいけるね」ムグムグ

荘一郎「簡単に作ったもんですが、お気に召しましたか?」

周子「ん、おいしーよ」

老婦人「お兄さんお菓子作りをなされるの? 素敵ね」

荘一郎「ええ……まぁ」

周子「おばあちゃんも食べる?」

老婦人「あら、いいの?」

荘一郎「もちろんですよ。どうぞ」スッ

老婦人「おそれいります。ふふっ、こういう洋菓子をいただくのってなんだかお洒落ね」

周子「へー……おしゃれに見えるんだ」

老婦人「ええ……普段はもなかとか松露とか和菓子しか食べないから。では、いただきます――はむり」

周子「和菓子だってさ。おにいちゃん」

荘一郎「……そうですね」


老婦人「まぁ……! とってもおいしいわ……! レモンの香りがさわやかね」

荘一郎「ええ……車内で食べる用に作ったので、くどいものは避けたんです」

老婦人「気遣いの心がおありなのね」

荘一郎「いえ、気遣いというか自然にそうしようと思っただけで……」

老婦人「私もお返ししたいけれど、お菓子の持ち合わせがなくて……ごめんなさいね」

荘一郎「いえいえ。そんな気を使わんといてください」

周子「そーそー、こっちが勝手にあげただけだよ。それに……おにいちゃん、その、なんてゆーか食べられへん和菓子あるから」

荘一郎「そうです。ですから本当にお返しとかは結構です」

老婦人「そう……でも心苦しいわ。あなたたち本当にいい子達だし……」

周子「ね、おばあちゃん。それオレイってゆーより、若い子になんかしたげたいってキモチだよー。あたしたちはそのキモチだけでマンゾクできるエコ体質だからだいじょーぶ」

老婦人「え……なにかしてあげたい?」

周子「そーじゃない?」

老婦人「…………あなたすごいわね。まさしく、そういう気持ちだったわ。今気付いたわ」

周子「あは、これでもお年寄りとケッコー接してるからー、そういうの、わかんの」


老婦人「息子がいるんだけれど。もう自立しちゃっててね」

荘一郎「そうなんですか」

老婦人「東京で事業を成功させた事は喜ぶべきなんだけど、もう簡単にこっちに帰ってこれなくなっちゃって……構えなくなったのが寂しいのね、私」

周子「でも、今回会いに行けたんでしょ?」

老婦人「そう。でも、ひどいのよ? お土産なにがいいか行く前に聞いたのに、なんにも要らない、それよりもこっちの駅は複雑だから迷うだろう、迎えをやる―ってこうよ」

周子「あー、お土産エンリョするなんてひどいねー。贈るのがうれしいってのワカってないね」

老婦人「そう、そうなのよ。わかってくれる? だから、私、息子の家でなにが必要なものか必死で探してそれを贈ってやろうって――――ふふっ、話しちゃったらすごく子供っぽいケンカね」

周子「でもおばあちゃん、やさしくていーよ。あたしの親なんか娘を家から追い出すんだもん」

荘一郎「実家でだらだら過ごしていては、ためにならんと思われたんでしょう」

老婦人「あらっ、追いだされてしまったの。あ……それで、おにいさんの所に身を寄せているワケなのね。わかったわ」

周子「えっ」

荘一郎「はい。恥ずかしながらそういうことでして」



荘一郎(迂闊なこと言って設定増やさんでください……)

周子(ごめ)


老婦人「それで、なにを贈ろうかって考えたの」

荘一郎「ほう。なにに決めたんです?」

老婦人「やっぱり、お菓子にしようと思ったわ。その方が孫もよろこぶでしょうしね」

周子「うんうん、お菓子はいーよね。人類のブンカの極みよ」

老婦人「息子ね、まだおじいさんが生きていた時に錦玉羹(きんぎょくかん)を贈ってきたことがったの。あ、錦玉羹ってわかるかしら?」

荘一郎「寒天に砂糖や水あめを混ぜて、冷やし固めた和生菓子ですね。見た目が透き通って涼しげな」

周子「練り切りで作った金魚とか入ってるヤツだねー。夏場によく見るよ」

老婦人「そうそう。あなた達和菓子にも詳しいのね。息子が贈ってきたのはそれなの」

老婦人「……こっちとしてはそういうお菓子とか、業績が一位になったとかいう知らせよりも、まず顔を見せに来てほしかったんだけれどね」

周子「オトコは故郷をケイケイに振り返りはしないもんなんだって。ね、おにいちゃん?」

荘一郎「…………なんや肩身狭いわ」

老婦人「でもね。それでも、うれしかったから……私、その贈られてきたお菓子を今度はこちらから贈ろうと思ってるの」

荘一郎「…………ほう」

老婦人「ちゃんと貰ったこと覚えてるからね――ってそう伝えたくて」

周子「ふぅん、なんかいーね、そーゆうの」

荘一郎「はい。ええと思いますよ。そのお菓子、菓銘はなんといいはるんですか?」

老婦人「……それが、どういう名前なのかどうしても思い出せないのよ。困ったことに」

周子「ええーっ」


老婦人「ケースでも残っていれば分かったかもしれないんだけれど……ダメよねぇ。息子からの贈り物の名前を忘れてるようじゃ」

荘一郎「……無理もありません。一度食べたきりの菓子の名前なんてそうそう覚えているものではないですから……」

周子「よーし、おばあちゃん、今から名前を突き止めよーっ!」

老婦人「え、突き止めるの?」

周子「お菓子のことならケッコウあたしたち強いのよ。どんなお菓子だったか言ってくれればわかるかもしんない」

老婦人「え……本当に?」

荘一郎「……ですね。話すだけ話してみてください。ダメでもともとですから」

老婦人「あなた達、本当に親切なのね……!」



周子(本気で考えたげてよー?)

荘一郎(わかっていますよ)


和菓子の菓銘は日本古来の俳句や短歌、歴史や風土、自然などから着想されるのが常である。


それは和菓子というものが風情を重視し、四季の光景を絡め、故実に結び付けるという観賞を尊んだ“作品”であるからだ。

表現されているものを知り、元となった題材が分かれば、名前を類推することは決して不可能ではない。



荘一郎(ない……はずです)






老婦人「丸い形をしていたわ。手のひらに収まるくらいの大きさで。錦玉羹だから、透き通ってて……これはわかるわね」

荘一郎「…………」

老婦人「中の具は……多分練り切りでできていたんだと思うんだけど、艶のある黄色い玉」

周子「玉?」


老婦人「そう。丸い形の錦玉羹の中にまた丸い玉が浮かんでいたの。煌めいていて金色のようにも見えたことを覚えているわ……」

荘一郎「……他に具はありましたか?」

老婦人「あと、小さなお花。これも黄色かったわ。鮮やかな」

荘一郎「黄色い花……」

老婦人「多分……菊だったと思うけれど。もしかしたらタンポポの花かも」

周子「味は? おいしかったん?」

老婦人「もちろん。美味しかったわ。涼しげで、食べやすくて。甘い香りも良かったし」

荘一郎「香り……」

老婦人「思い出せるのはこれくらいだわ……ごめんなさいね、困るわよね、これだけで当てろだなんて」


荘一郎「いえ……」

荘一郎「…………」

周子「寒天、玉、花ねー、水玉花火とか?」

荘一郎「花火の要素は無いでしょう」


荘一郎「…………」

荘一郎(……水の中の玉。黄色い花――菊?)

荘一郎(そして香り…………これは…………どこかで)

荘一郎「…………」


荘一郎「しゅ……えっと、“塩子さん”、ケータイで調べてくれますか?」

周子「え?」



周子(なによ塩子って。ダレやねんなー)

荘一郎(呼び名が思いつかなかったんです。勘忍してください)


老婦人「?」


周子「ケータイで何調べんの? ネットはできるけど、お菓子名前当てアプリなんか入れてへんよ?」

荘一郎「答え合わせのためですよ。名前と和菓子で検索すれば、その菓子がヒットするでしょうから」

老婦人「え……あなたもしかして菓銘分かったの?」

荘一郎「これではと思うものが二つほど。塩子さん、まず――“菊”です。花の菊」

周子「りょーかい。和菓子、菊っと」ポチポチ

老婦人「本当に……?」

荘一郎「そして“水”」

周子「ん。菊、水」

荘一郎「そして――“月”。その菓子の名前は恐らく菊水月(きくすいげつ)ではないでしょうか」

老婦人「あ…………っ、その名前…………!」




周子「――おーっ、画像でてきたーっ! あっさりわかったねっ! おばあちゃん、これだよねっ」

――

――――

――――――




景色が後ろに飛んでいく。

先ほど名古屋駅を出発した新幹線は、再び線路を快調に走りはじめた。





周子「あのおばあちゃん、かわいかったね」

荘一郎「はい。品がええのに、愛嬌のある方でした」

周子「菊水月、取り寄せるって言ってたね」

荘一郎「ええ……お手伝いできて良かったです」

周子「んー。よくわかったもんだよねー。もしかしてカタログかなんかで知ってたん? ……あ、それはないか。あんこは見るのもダメだったよね。」

荘一郎「写真ぐらいは我慢できますよ。それに練り切りはあんこを加工した後なんで、見てもそこまで……苦しくはなりません」

周子「えっ、そんじゃ練り切りぐらいは今でも食べれんの?」

荘一郎「…………試したくはないですね。耐えられるかどうかわかりませんので。菓銘がわかったのは、『黄色い玉』が月を表していると察せたからですよ」

周子「月」

荘一郎「ええ。そこから、着想となっている言葉がなにか推測することができたんです」


荘一郎「掬水月在手 (みずをきくすればつきてにあり)、 弄花満香衣(はなをろうすればかおりころもにみつ)」


荘一郎「……禅語でもありますが、これはもとは唐の詩人が春の夜の優雅さを歌ったものです」


周子「みずをきくすれば……あ、だから水と菊と月」

荘一郎「そうです。水を掬えば、天の月は手のひらに。花に触れれば、その香りが衣に。……練り切りの菊の花は、掬うの“掬(きく)”に掛けると同時に、二節目の花の部分を表現したんでしょうね」

周子「ほーん、デザインに意味持たせてたんだ。透明な生地はやっぱよくある水のヒョーゲンだったか。あれ? そーいや二つ思い当たったって言ってたよね?」

荘一郎「ああ、この言葉が出てくるのは『春山夜月』という詩だったので、それかと。候補は二つでしたが、着想は一つです」

周子「タイトルまで知ってんのね。そういち……や、“おにいちゃん”、そーゆうの詳しいよね」

荘一郎「もうおにいちゃんって呼ばんでええでしょうが」

周子「あはは、あたしだって塩子じゃないよー。……実際さ、そんなふうに、菓銘とかデザインとかの奥にある物語を想像できたら、和菓子屋もやりがいあるっていうか……楽しい仕事だろーね」

荘一郎「終わりがありませんからね。想を練ることは。見せ方まで計算に入れた完成度の高い菓子は、本当に参考になりますし」

周子「ん……っと、荘一郎さん、和菓子屋に向いてたと思うよ」

荘一郎「周子さん。その…………気を遣わんでも……大丈夫、ですよ」

周子「むー…………そっか」


窓の外の景色は忙しなく移り変わっていく。

京都まで後どれくらいだろうか。


周子「ふー、気を取り直してお菓子食べよー!」

荘一郎「お菓子?」

周子「そ。スティックケーキもっとちょーだいな」

荘一郎「ああ、またケーキ食べたいんですか。……どうぞ」

周子「はは、錦玉羹の話なんかしてたから、和菓子も食べたいキブンだけどね。実はバッグに実家から贈られてきた和菓子も入ってんだけど――ここは荘一郎さんのケーキを選ぼう」

荘一郎「よくもの食べてはりますけど大丈夫なんですか?」

周子「だいじょーぶ。あたし、食べてもあんま太んないから」

荘一郎「食欲旺盛ですのに、それは便利な体質ですね」

周子「東雲さんもシュッとしてんじゃん。ひょっとして、あたしと同じ体質なん? そういや肌も白いね」

荘一郎「そうですか? ……ああ、でも水嶋さんには言われたことありますね。肌が白いし線が細いから女装したら様になると。全力でお断りしましたが」

周子「荘一郎さんの女装かー。ふっふー。なるほどねー、咲ちゃん、ケイガンってヤツだね! 確かに様になりそう」

荘一郎「何を言うてはりますか」

周子「ねーねー、アイドルを頑張ったしゅーこちゃんのお願い、聞いてくれる?」

荘一郎「女装は1ミクロンも興味無いのでムリです」

周子「あはっ、思考読まれてたかー。やりおるな、おぬし」

荘一郎「おぬし……」


周子「まー、ロリシューコを知られてるからねー、先読みされんのもしょーがないかっ」

荘一郎「なにを……性格変わってへんのがモンダイなんでしょうが」

周子「京の女に向かってシッケイなー。変わってるよ。まー、気まぐれなトコはそのままきちゃった感があるけど」

荘一郎「……ですね」

周子「ん?」

荘一郎「変わったんですよね。あなたは。失礼しました撤回します」

周子「え……、ん、まぁいーけど……。あれでしょ、おにいちゃん気分になってたんでしょ」

荘一郎「そうかもしれませんね」

周子「あはは、兄妹プレイなんかすることになるとは思わへんかったよ」

荘一郎「それは私も同じですよ。いきなりおにいちゃんと呼ばれた時はびっくりしました」

周子「えー、そんな驚かなかったっしょ。東雲さんとこに昔行ってた頃はあたしそう呼んでたやん」

荘一郎「…………」




――――『おにいちゃん、なにしてんのーん。あっ! ジグソーパズル? よーし、しゅーこがカンセイさせたげるっ! ええねんええねん、エンリョせんでっ!』


――――『そーいちにーちゃん、折り紙もっとくれへん? えーだめ? ええやん、しゅーこのびっぐぷろじぇくとにトーシしーっ! ヤマボコつくったげるからー』



荘一郎「…………そういえばそうでしたね」


周子「なに、顔じっと見ちゃってー、照れるやん。あ、シューコのビボウに気づいちゃったん?」

荘一郎「そういうことにしておきましょうか」

周子「む、なんか奥歯にモノが挟まったような言い方」

荘一郎「……昔を思い出しまして」

周子「昔かー。そういや、実は東雲さんのとこに顔出すのって緊張したんだよね。親戚回りもケッコウ気を遣ったけど、和菓子屋同士で失礼がないよーにせんとダメやったからー」

荘一郎「緊張……!? あれでですか」

周子「あー、シューコの緊張はわかりにくいのよ。プロデューサーにも言われたけど」

荘一郎「そうですか……」

周子「キライじゃなかったけどね、東雲さんとこ行くの。タコヤキ食べさせてもろたし。荘一郎さん優しかったように思うし」

荘一郎「そりゃ、子ども同士で遊んでなさいと言われたからには優しくしませんと。女の子でしたしね」

周子「昔のアタシかわいかったでしょー」

荘一郎「…………」




――『そーいちにーちゃん、アタシの夢教えたげる。わらわんといてね? わらわんといてね? わらわれんのいややねん……』


――『ほんま? わらわへん? えっへへ、じつはアタシ、うちの店のかんばんむすめになろうと思ってるんよー』


――『そーいちにーちゃんはこの店つぎはんの? えーなぁ。あ、そやったら、んーっと、この店のかんばんむすめにもなった方がええ?』



荘一郎「ええ……とても、かわいらしい子やったと思います」



周子「えっへへ、そうでしょそうでしょ」

荘一郎「あなたは看板娘になりたいと言ってましたね。それが今はアイドルに」

周子「ほんと、わっかんないもんだよねー。荘一郎さんまでアイドルになっててびっくりしたし」

荘一郎「大正浪漫、可憐に映ってはりましたね」

周子「水族館のイベントも成功だったんでしょ」

荘一郎「ええ、プロデューサーと仲間と……支えて下さった方々のおかげで」

周子「あはは、模範的な受け答えーっ。でもさ、ホント感謝だよね。仲間には連日祝ってもらったし……プロデューサーはアイドルの世界に連れてきてもらったし。感謝感謝。人の縁ってダイジだよね」

荘一郎「……ええ、最近とみにそう思います」

周子「あはっ、話が合うのって、やっぱなーんかフシギ」




周子「ほんまにフシギ……」


周子「小さい頃和菓子屋で話してたのに……いつのまにか……あたしたちアイドルになって、ここにいるんだもんね」



窓の外の景色は目まぐるしく変わっていく。

速い。……なんて速い。


周子「そんで、今いっしょに帰ってる」


周子「ま、荘一郎さんはあたしが誘ったんだけどさ。こーゆーシチュあるなんて小さい頃考えたこともなかった」

荘一郎「…………」

周子「実家でヌクヌクしようとして追い出された時も、こうなるとはゼンゼン想像できへんかった……」

荘一郎「……あの」

周子「今でもめっちゃ現実感がフワフワしてるし……」



周子「あのね、荘一郎さん。ホントにさ、あたしなんてそんな大それたもんやあらへんの」




遥か後ろに追いやられた、通り過ぎた風景の小ささに、ほんの少し侘びしい気持ちが湧いた。




周子「やから、羨ましいなんて……なんやさびしいこと言わんといてぇな」

荘一郎「違います」

周子「え……っ?」



荘一郎「周子さん。あなたは突破したんです。誇るべきですよ。誰でも出来ることじゃありません」

荘一郎「胸を張ってええんです」

今回の投下は終わりです。次辺りで完結です。
プロット書き直したりで難航しましたが、もう少しだけお付き合いをば


荘一郎「誰もが1位の名誉を手に入れられるわけやないんですから。アイドルを楽しみ、ファンを楽しませたあなたの姿にそれだけ多くの人が惹きつけられたんです」

周子「……」

荘一郎「それはあなたがずっと自分を失わずに、この道を走ってきたからなんですよ。実力がなければここまでこれません」

周子「んー……でもさ」

荘一郎「周子さん」

周子「え」

荘一郎「がんばりましたね。……この言葉言うの忘れとった気がします」

周子「……ん」


荘一郎「おめでとうの前に言うべきことだったかもしれません。遅れて、すいませんでしたね。あなたのがんばりにまず目を向けるべきでした」

周子「ありがと……でも、ちゃうって」

荘一郎「はい?」

周子「ほんまちゃうねんよ、そんな……せんぐり、こそばゆいことばっか言わんといて」

荘一郎「ちゃうって、なにがですか。あなたは――」

周子「ムリしてる気がすんねんもん、荘一郎さん」

荘一郎「……無理を?」


周子「羨ましいなんて言わんといてほしいねん」

荘一郎「言わないでほしいのならそうしますが……どうしてですか」

周子「なんで、荘一郎さんは羨ましいって感じるん?」



問いに、問いで返された。



荘一郎「それは……なにを言っているんですか。もちろんアイドルとして一つの大きな成功を収めたからですよ。私だって今はアイドルですから」

周子「それだけなん?」

荘一郎「それだけって、あなた」

周子「じゃあ、いっしょに帰ろって誘った時、あんなさびしそうな顔したのはなんでなん」

荘一郎「……!」

周子「あのさ、えっとさー……」


周子「ほんまに、あたしと比べることないと思うねん。帰りたい時に帰ったらええ思うんよ。壁なんか作らんで」

荘一郎「周子さん……」


荘一郎「やはり、あなたは……」


周子「荘一郎さんだってしっかりアイドルやってるんやから、それもパティシエやりながらやってるんやから、十分胸張っていいやん」

周子「跡を継げなかったからって……そんな、帰れないなんてさびしいやんか」

荘一郎「……見抜かれていたんですね」




シンデレラガールとなった“塩見周子”を見て、自分は彼女のように実家に胸を張って帰れるようになっているだろうか、

この道を歩いていて未来になにが待っているのだろうか――と考えた。


あの看板娘になりたいと言っていた少女が辿りついた、かつての夢を飲みこむ様な大きな夢物語に間近に触れて……きっと東雲荘一郎は昔と今の夢の合間で揺れたのだ。


零した、羨ましいという言葉。

それはつまりは……無くした夢への痛みだったのだろう。



荘一郎(そんなに、心乱れているように見えていたんでしょうか……)




あんこを食べられるようになって和菓子屋を継ぐ。

その夢をかなえようと、一体何度部屋にこもってあんこを克服しようと試みただろうか。


『信じろ』『克服』『強い心』――そんな己を鼓舞するような言葉を部屋に溢れさせて……



でも体質はどうにもならなくて、パティシエになった。

そして……今はアイドルに。


周子「あたし、親父と同じようなお菓子作りの情熱を、荘一郎さんから感じるよ」

周子「和菓子屋に向いてたって感じたのは、ウソじゃないからね」

荘一郎「……」

周子「その情熱さ、今だって持ってるんだからさ。その、和菓子屋で生まれたイミってゆうんかな、そういうのあったと思うの」

周子「ちゃんと意思は継いでるんやから、そんな実家に帰れないとか思うことないって」

荘一郎「……周子さん」


荘一郎「そうです……そうですね」


荘一郎「私は確かに……実家に戻りづらいと考えていたところがありました」

荘一郎「羨ましいと言ったのも、輝かしい成功を実家に持ち帰るあなたが、私にはできないことをしていると、そう思ったから……否定はできません」

周子「うん……」

荘一郎「後悔はないんです」

周子「荘一郎さん」

荘一郎「パティシエの道に進んだから、Cafe Paradeの仲間に会うことができた。アイドルをすることでプロデューサーさんや気のいい新しい仲間達にも出会えた」


荘一郎「しかし、申し訳なさと未来への不安が消えたわけでもないんでしょう」


荘一郎「このままで、あなたのように本当の意味で胸を張って帰ることができるようになるのかと……考えてしまいました」

周子「やっぱり、そうだったんだ」

荘一郎「今でもね、たまに思いだすんですよ」

周子「え、なにを?」

荘一郎「店を継がないと伝えた時の母の瞳を、です」


荘一郎「気づかわしげで、悲しそうで……それで、残念そうで、さびしそうで」


周子「ん……」

荘一郎「このままパティシエとアイドルをしていて、実家に報いることができるんだろうかと少し不安になったんです……だから、あなたの誘いに応えづらかった」

周子「……そっか」

荘一郎「すいませんでしたね。つれなくしてしまって」

周子「あの……あのさ、荘一郎さん。ちょっとだけえらそなコトゆうてもええ、かな?」

荘一郎「はい……?」


周子「最初の夢とは違うかもしれない……でもきっと、夢なんてさ、繋がって巡るモノだって」

周子「今の道を進んでいれば、いつかホントの大事なものとか、欲しかった満足とかに出会えるって思うの」


荘一郎「周子さん……」


周子「だから、このままでも荘一郎さんはモンダイ無しだよ。……あははっ、どう? あたしに言われてもなんにもならへんかな?」

荘一郎「いえ……そんなことないです。今や看板娘を越えて、シンデレラガールですからね。説得力あります」

周子「ん……。ほら、女の子になってアイドルをやってた子でも、今男アイドルとして活動を始めてたりするんだからさ」


周子「荘一郎さんもアイドルやり続けたら、本当の満足みたいなものが見つかるよ。実家に胸張れるような成功だって、きっとある。シューコが保証したげる」

周子「……というかもう見つかってるかも」

荘一郎「痛み入ります、周子さん」


荘一郎「そう言っていただいて、気が楽になりました」

周子「……そっか、よーし」


ほうっと零れた息がかかって、窓がわずかに白く染まった。

その靄も、すっと剥がれていって、あざやかな景色がまた現れ出る。


周子(よかった)

荘一郎「……やっぱり、心配かけていましたか。だから帰省するよう誘ってくれたんですね。気を遣わせました」

周子「ん、んー……ま、京都人だから、察するコトの大事さ知ってんのよ」

荘一郎「周子さん、おおきに」

周子「……くるしゅーない」


周子「はーっ。ね、荘一郎さん」

荘一郎「はい」

周子「ケーキちょうだい」

荘一郎「……はい」


…………


荘一郎「しかし、やっぱり変わったんですね、あなたは」

周子「どうだろ。時々自分でもわかんないや。自分が昔と変わったのか、変わってへんのか。どっちなんだろね」

荘一郎「どっちでもいいんじゃありませんか。私は今の周子さん好きですよ」

周子「……そぉ? ははっ、そっか、ならそれでいーかな。そっか、あたしもこのままでもモンダイなしかー」


荘一郎(昔馴染みの妹のようで、しかし尊敬できるアイドルで……私の過去と今を知っている)

荘一郎「考えてみれば……得難い人ですね。あなたは」

周子「んー、考えてみればってなんよそれー。ひどくない?」

荘一郎「おや、これは失礼しました」

周子「だめーっ、謝罪としてスティックケーキをもう一本ヨーキューするーっ! ははっ」

荘一郎「またですか」

周子「ええやん。お昼ごはんは荘一郎さんのお菓子って決めてたの」

荘一郎「……食べかす、口元についてはりますよ」

周子「えっ、ほんまに、はずかしっ」

荘一郎「喋りながら食べるからです。ほら、じっとして。ふいたげますから」

周子「んむー……。これはフカク。総選挙1位なのにこんなシュータイをさらすとはー」

荘一郎「手を焼かせますね……いや、それは私が言うことじゃないですね」

周子「ん? なんか言った?」

荘一郎「いえ。気にしないでください」


――

――――




Cafe Parade


咲「そういちろうと周子ちゃん、もう新幹線降りたかな?」

幸広「もうちょっとってとこじゃないか。新幹線使っても大阪や京都って近いようで遠いからな」

咲「気が変わって引き返したりはしてないかなー? ちょっとそれシンパイ」

幸広「はは、それはないと思うよ。東雲は真面目だから、使命があるうちは投げ出さないさ」

咲「そうやって家に帰したワケね。かみや、そういちろうにそこまで帰ってみてほしかったの?」


幸広「ああ……東雲、まだ家に対して申し訳なさみたいなものを感じているのか、壁を作っていたからな」

幸広「生まれ育った家は確かに旅立った先で想うぐらいがちょうどいい……だけど、戻れないって決めつけるのは違うだろう」

咲「なんか重いセリフ~。かみやは家飛び出して、あちこち旅してたんだもんねー」

幸広「その通り、親不孝じゃないかと、東雲に聞かれもした。そんなの聞くってことは……東雲は家を重要なものだと考えてるってことだろ?」

幸広「俺よりよっぽど家や家族を大事にしていた東雲が、今こんな風に負い目を感じることはないと思ったんだ」

咲「だからしゅーこちゃんが実家に帰ろーって誘ってた時、後押しするようみんなを動かしたんだー」

幸広「ははは……、東雲にはナイショだぞ?」



咲「いいけど、そういちろうにはもうバレてるって思うなー」

幸広「……そうなんだよなぁ。分かった上で乗った節があるんだよな、東雲のやつ」



あの『後押し』を受けた後、東雲はこう言った。


“手を焼かせますね。――私は”



幸広(俺達やお嬢さんの気遣いをありがたいと思ったんだろ? だから……その気持ちを汲んで帰ることにした。そうだろ、東雲?)



――

――――


荘一郎「……アイドル活動、充実してると思います」

荘一郎「面倒も多いですが、仲間やプロデューサーさんがいますからね。……アイドルを始めてから心の拠り所が増えた気がします」

周子「そっかー、なによりだね」

荘一郎「もちろん周子さんも、その一人です」

周子「え、あたし? あーそっか、まぁ止まり木にしっぱなしってゆーのもワルいもんね。いいよ、そっちもあたしを止まり木にしちゃってー」

荘一郎「止まり木……にはならないかもしれませんが、ありがとうございます」

周子「えー、止まり木もツトまるってー。掴まって休んでみる? ははっ」

荘一郎「掴まりはしません。しかし、そうですね……もし、寝てしまったら起こしていただけます?」

周子「あれ、眠たいん?」

荘一郎「実は、少し」

周子「あー、もしかして昨日、眠れなかったん?」

荘一郎「眠れはしましたよ。まぁ、いつもより睡眠時間は短くなりましたが」

周子「そっかー……。ん、ええよ。ちょっと寝てても」

荘一郎「何かあったらすぐ起こしてくれていいですから」

周子「りょーかーい」


荘一郎「寝てる隙に、いたずらとかはなしで。やったら怒りますよ」

周子「もー、せえへんってー。たぶん」

荘一郎「……シンデレラガールの言葉を信用します」

周子「ん、シンヨウして」





周子「……」

荘一郎「……」






周子(イタズラかー。なんかしてみたいけど、やめとこっかな)

周子(シンデレラガールだしね。ふ、なにそれリユウになんのかな)


周子「……あれ」


周子(なんだろ。今、はじめて実感ってゆーか……シンデレラガールになったコト飲みこめたかも)


周子「はは、あたしちょっとヘンかなー」


周子「んしょっと」


カバンから和菓子のケースを取り出す。実家から送られてきたやつだ。

荘一郎さんが寝ちゃったらもうケーキはヨーキューできないし、和菓子路線にシフトだ。


周子(起きてる荘一郎さんの前であんこ食べられへんし、いいタイミングかな)


ピンク色の、五つの花びら。桜の花の形をした練り切りだ。

桜あんでこしらえた華やかな一品。


周子「八つ橋もいーけど、やっぱこうゆうセンサイな味もオツなもんだよね」


桜の花。

これも、やっぱり気持ちを込めているんだろう。


周子「んー……」


見てるとなんかイロイロ考える。


周子(お土産は用意したけど他にも何か買っていこうかな……)



親はいつでも子が気がかりなもんなんだから。

心配ないよって伝わるような……そういう贈り物。


荘一郎さんみたいに、ちゃんと実家を想ってるとこもあるってのを見せたい。


窓から後ろの景色を振り返ってみる。

あのおばあちゃん、もう家に着いたかな?


周子「そーだ」



周子「ね、ね、荘一郎さん。ゴメン、ちょっとよろしい?」

荘一郎「ん……む……どうかしましたか……」

周子「なんで、あのおばあちゃんの息子さん、菊水月を選んだのかな?」

荘一郎「……もちろんあのおばあちゃんの好みに合わせたんでしょう。和菓子好きだったんですから」

周子「そうじゃなくてさ、なんで和菓子の中から菊水月なのかってコトよ」

荘一郎「春の夜が題材のもんを贈って、今は自分が春になっていると伝えようとしたんではないですか」

周子「春かー……ほーん」

荘一郎「それに、あの菊水月は故郷への錦を飾るのにふさわしいと言えますしね」

周子「え?」

荘一郎「周子さんも知ってはるでしょう? 錦玉羹の字は。“きん”はそのまま“錦”です」

周子「あーっ! そっかそっか」

荘一郎「成功したと伝えるのにちょうどよかったんでしょう。業績が一位になったと言うてはりましたし」

周子「一位」

荘一郎「錦(きん)は金(きん)ですから。満月にも重ね合わせることができます」

周子「あっ」



周子(そういえばおばあちゃんもゆうてはった。菊水月の中の月は)




――煌めいていて金色のようにも見えた


業績が一位。


一位は金メダル。金は転じて錦に。


……故郷への錦に



だから、錦玉羹。





周子「……ははっ。ほんとに縁って、フシギだよね」

荘一郎「どうしました?」

周子「実家へのオミヤゲにあたしも菊水月買っていこって思ったのよ。さっき調べた時、売ってる店、京都に本店があるって書いてあるの見つけたし。ちょーどいーね」

荘一郎「ふ……」

周子「へっ?」


荘一郎さんが、あたしの頭を撫でた。



周子「なにすんのー、カッテにオトメの髪さわって……」

荘一郎「親孝行者ですよ、あなたは」

周子「え」

荘一郎「ほんまに……」



頭に置かれた手から力が抜けて、ゆっくり降りていく。


それでなにかすごくアンシンしたみたいに、荘一郎さんは座席にカラダを沈めていって。



荘一郎「すぅ……――」



小さな寝息をたてはじめた。




周子「……荘一郎さん」


周子(オヤコウコウ、ね)



周子「やっぱりシューコが羨ましいのかなー……」

周子(しょーがないなー、ここはひとつ、目標になってあげますか)



比較して気が滅入るだけだったらあれだけど、追いかけるものがあるのは、いいコトだって思うし。


輝くコト。憧れられるコト。

アイドル業界っていうのは、やっぱり夢を見させるのが仕事。

――それであたしはシンデレラガール。


周子「……なら、やることは決まってんね」


周子「がんばんなきゃだねー。アイドルシューコは、まだまだ終わりじゃないし」


荘一郎「……」

周子「あれ? なーんか荘一郎さん笑ってる?」



顔を近づけて、カンサツする。


荘一郎「……」


周子(むー、やっぱちょっとホホエミ浮かべてるかな? いいキブンで寝たんだねー)


周子「……」

荘一郎「……」

周子「…………」

荘一郎「…………」


周子「ん~……」


周子(あれ? 荘一郎さんオトコマエ?)


周子「――って、シューコさんなにゆうてははるんどすか。お菓子食べよ」


周子「……あむ」


荘一郎「…………」


周子「んむんむ…………」


周子(静かー。この席の周り、人いないんだよね)




――『えっ、そんじゃ練り切りぐらいは今でも食べれんの?』

――『…………試したくはないですね。耐えられるかどうかわかりませんので』



周子「……」

荘一郎「……」

周子「……」



周子「そーいちにーちゃん、ほんとに寝てる?」

荘一郎「…………」


窓の外の風景は目まぐるしく変わっていく。

なのに、ここの空気はこんなに静かで、ゆっくりで、はんなりで。


周子「…………」

荘一郎「…………」


『見る』ことに、音が出ないでよかったと思った。


周子(荘一郎さん)



周子「――――――――」








――

――――


「……はっ」

「おー、起きたね。おはよー」

「はい……おはようございます。む……なにか……」

「コーヒー飲む?」

「はい。いただけますか」





「よし、オりる準備準備」

「む……京都に着くんですか?」

「もうちょっとでね」

「そうですか……見送りますよ」

「ね、いっしょに京都で降りへん?」

「はい?」

「あのね、ちょっと手伝ってもらいたいコトあんの。……あかんかなー?」

――

――――

――――――


京都




周子「――お久しぶりどすなぁ、京都はん。紗枝はんの収録進んでるかなー」

荘一郎「私も久しぶりですね。……菊水月の店探すんに付き合わされるとは」

周子「ごめんってばー。イマイチ場所わからへんかったからー」

荘一郎「京都の地図は分かりやすいもんでしょう」

周子「やー、でも二人で探す方が早いでしょ」

荘一郎「まぁ付き合いますよ。……周子さんには気を楽にしてもろた借りがありますしね」

周子「そーそー。あ、ついでにウチの店にも顔出しとく?」

荘一郎「……ここまで来て素通りというのも、愛想ないですね」


周子「そうそう、予行演習ってやつだよ。和菓子屋へのキカンのリハーサルにしなって」

荘一郎「リハーサル……」

周子「ははっ、じゃあ探しにいこっかー」



京の町は至る所で花が咲いていて、足取り軽く店を探せた。


周子「ほんまにもう怖ない? 実家に戻るの」

荘一郎「大丈夫です。自信を持って会いに行きますよ。あんこを食べられなくても、この道を進むことが今の私の道だと伝えるつもりです」

周子「そっか……でも、あんこのことも本当にいつか克服できるかもよ? 荘一郎さん、和菓子職人兼パティシエ兼アイドルになれる可能性だってあるんだから」

荘一郎「なんですか、その得体の知れない人物は」

周子「いやホントに。和菓子も作れるようになるかも。あんこ無理な体質コクフクして」

荘一郎「……希望は持っておきましょうか。今の状態が嫌いだというわけではないですが」

周子「ん、そうそう、そーゆー希望はダイジよ。セイシンテキなやつだったら案外気が楽になるだけで解決するかもしれないし。あたしも期待しといてあげる!」



水を掬えば、遠く輝く月も手にある。


きっと。


誰にだって、どこにだって、輝きは宿るもの。

光に向かっているうちに、いつの間にか自分自身が光になっている。


アイドルをやってきて、それが分かった。

夢が次から次へと輝く世界。


あたしは、今そこで生きている。



夢を追いかけてるうちに、自分が夢に。

道を進むコトそのものが道に。


――繋がって、巡る。



周子(あたしの小さい頃の夢は看板娘……)


京の町を歩くうちに、子どもの頃を思い出して、口元が緩む。


そっと唇に手を触れた。



周子(東雲さん、いつか、和菓子屋も継げるようにもなるかもしんない)


周子(だって――練り切りの味ぐらいは、耐えたんだから)



指でつつ、と唇をなぞる。








花びらが京の町にゆらゆらひらりと舞ってゆく。


――――ああ、晴れやかなり晴れやかなり。








終わりです。読んでくれてありがとう

前作
塩見周子「誕生日に」東雲荘一郎「想を練る」
渡辺みのり「シンデレラガール総選挙だよっみんな投票してッッ!!」

一応その他のクロス系過去作も置いておきます


橘志狼「よーしっ公園で自主練だ!」橘ありす「私たちが使う予定なんですけど」
橘志狼「顔面セーフっ!!」橘ありす「アイドル的にはアウトですよ」
橘志狼「ありすっライブのチケットくれ!」橘ありす「なんの冗談ですか」
橘志狼「早押しは得意だぜっ!」橘ありす「正解しないと意味ないですよ」

櫻井桃華「あら、あなた忘れ物をしておりますわよ?」 都築圭「ごめん、静かにして」

榊夏来「……猫?」佐城雪美「うん……ねこ」



さて、溜まった組み合わせのどれから手をつけたものか…

乙です
荘一郎はいい仲間といい「妹」に恵まれたなぁ・・・
それにしても、眠っている荘一郎にどうやって練り切りを食べさせたんですかねぇ

>>92
橘志狼「チョコ貰ったかって?」橘ありす「昨日の私はまさか渡していませんよね?」
が抜けてますぞ

>>95 すいません抜けていました。
>>92に 橘志狼「チョコ貰ったかって?」橘ありす「昨日の私はまさか渡していませんよね?」  も追加で

知識の幅が凄いという話ですが、せっかくの魅力的なキャラクターなんですから、ちゃんとそのキャラならではっていうのを出したいとは思っています
その点でSideMには感謝しています。様々な共通項のおかげでシンデレラのアイドル達の深い領域まで描くことができるようになりました。逆もまたしかり
まぁ、ネタばっか思いついても全然手が追いついてないんですけどね
ほんとにみんなもネタがあったらバンバン書いていいと思います

ラストなんですが、あまり言及したくはありませんが練り切りを直接食べさせてはいません。味には耐えましたが…


周子さん総選挙一位おめでとうございました!

軽い気持ちで書いていいと思うのですよー。私だって自分が読みたいのを書いてるだけなんですから
SideMとシンデレラのクロスが増えてくれるのはすごいうれしいですし。書きたくなったら自由に書いてくださいませ

>>97
いや、直接食べさせてないのはわかってますので大丈夫です
・・・ってことが>>95の書き方じゃちゃんと伝わらないですね
野暮な解説をさせてしまって申し訳ないです

SSのネタは思い浮かばなくもないのですが、
断片的な場面場面しか出て来なくて繋がりができないのが悩みどころ

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