並木芽衣子「ハネウマトラベラー」 (43)
秋と聞くと、一人一人違ったイメージがある。
例えば、食欲の季節であったり、芸術の季節であったり、後は・・・恋愛の季節でもあったり。
だけど、秋は他の季節とは違って夜まで騒いだりするようなイベントは少なくて、その代わりに食べ物や自然の大切さに感謝する行事が多くある静かな季節だ。
そんな涼しげな気候と同じように、ちょっと落ち着いた雰囲気のするこの季節が私は大好き。
多くの食べ物が旬を迎え、紅葉を初めとした美しい景色が彩られるこの時期は、私の趣味である旅行の楽しみを沢山用意してくれる。
恋愛については・・・残念ながら無縁だったけど。まぁ、良しとしよう。
「んー♪いい天気っ!」
そんな穏やかな秋空の広がる、9月下旬のある日の事。私はある場所へと向かっていた。
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しかし、こう天気がいいと思わず歌いたくなってしまう。気づくと、私の口は自然と歌を口ずさんでいた。
「まわるよー、まわる♪ちきゅうはー、まわるっ♪」
お気に入りの帽子と服とカバンを身に着けて、雲ひとつない青空の下で大好きな曲を口ずさむ。
これだけで、旅に出かけているような楽しい気分になってくる。
アイドルという仕事を志してから、以前とは比べ物にならないくらい忙しくなった。でも、それ以上に楽しい事の方に出逢うが多い。
だから、趣味の旅行が出来なくてもストレスを溜めずに頑張れるんだと思う。
昔々のその昔、人生とは旅をすることだと言った偉人がいるって先生から教わったけれど、ひょっとすると、こういう事なのかもしれない。
「なきたく、なる、よーなときもっ♪きみにあいーにいきーたくなぁーてーもっ♪」
ハンドサイズの地図を片手に、見慣れない道をグイグイ進んでいく。旅の経験は、こんな日常の一幕でも私の事を助けてくれる。
それは、私が積み重ねてきた頑張りは決して無駄じゃなかったのだと教えてくれるようで、思わず嬉しくなる。
きっと、私が何かにつけて旅をしたくなるのも、そんな嬉しさが関係してるんじゃないかと改めて思う。
「よーし、到着っと!」
そうこうしている間に目的地に到着した。
住宅街の中にぽつんとある、少し大きな一軒家。
ショーケースに守られた沢山の二輪車。
そう、バイク屋さんである。それも、中古車の専門店だ。
「わー、目移りしちゃいそう!どれにしようかなー♪」
ここへ来た目的は当然一つ。昔からの夢だった、バイク旅の相棒を捜す事だ!
「・・・でも、中古車でも結構お値段が張るんだね。ちょっと、甘く考えてたかも・・・。」
しかし、実際のところ選択肢はほとんどなかったりする。今回の予算はそこまで多くないのだ。
アイドルはお給料もすごいとみんな言うけれど、実際のところ、そんな人は一握りだけ。
私も例にもれず、まだ一握りのレベルまで到達できていないアイドルの一人。だから、まだまだ頑張らないと!
「いらっしゃいませ。何か御探しでしょうか?」
「え?」
考えに没頭していたせいで、隣に人がいたことに気づかなかった。
・・・青いスーツにネクタイ。多分、ここの店員さんだ。
「あ、はい。実は、バイクを買おうと思ってて・・・。」
「なるほど。そのご様子ですと、バイクは初めてですか?」
「はい!」
優しく声をかけてくれた店員さんに、素直に答える。
店員さんも予想していたのか、動じる事も無く話を続けた。
「そうですか、それなら初心者の方向けにいい品があるんです。少々お待ちください。」
「はーい♪」
そう言うと、店員さんは店に入らず裏通りの方へと向かっていった。
・・・数分後、店員さんは一台のバイクを持ってきた。
そのマシンは少し古風な外見で、だけどきっと旅をするのにピッタリな一台。そんな気がした。
「少し古風な外観ですが、しっかりと整備された一品です。構造も頑丈に出来ていますので、長距離の旅行にも使えますよ。」
「旅っ!?」
その単語に思わず反応してしまった。まさか、私の考えていた事と同じだなんて・・・。
「いかがでしょうか?今なら表示価格よりもお安く出来ますよ?」
「買いますっ!」
即決だった。こんなに早く出会えたのはビックリだけど、逆に良かったかもしれない。
「かしこまりました。では、必要書類等の話はこちらで説明いたします。どうぞ。」
「はーい!」
私の即答すら予測していたのか、店員さんは始終穏やかな姿勢を崩すことなくショールームへと案内する。
そんな店員さんに続いて、私もショールームへと向かう。
でも、その前に・・・。
「・・・よろしく、私の新しい相棒さんっ♪」
新しい相棒にはじめましての挨拶をする。
これからはオフの日が楽しくなりそうっ♪
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