和久井留美「Re:N・のあの事件簿劇場版」 (154)

あらすじ
怪盗古澤頼子、復活。しかし、そこに高峯のあはいなかった。

注意

のあの事件簿シリーズを読んでる人向けのオマケ。

あくまでサスペンス映画です。
のあさん、しゃべりすぎだけど演技です。

それでは、投下していきます。


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上映前

みく「劇場にお越しいただき、ありがとうございますなのにゃ」

みく「のあちゃんの活躍を見る前に、守ってほしいことがあるにゃ」

みく「上映中はケータイ電話の電源を切るにゃ」

みく「周りの人の迷惑にならないように、足元には気をつけてね」

みく「お話は上映後にとっておくにゃ」

みく「マナーを守って、楽しい映画を」

みく「以上、みくとの約束だにゃ」

みく「それと、映画の録音、撮影は犯罪だにゃ!絶対にしちゃダメだよ」

みくにゃん・あーにゃんのストップ映画泥棒をお楽しみください

Re:N
のあの事件簿劇場版

製作 tv○sahi
映倫



あっさりと終わった、というのがその場にいる誰もの印象だった。

滔々と裁判官から読み上げられる罪状を、彼女は黙って聞いていた。

背筋を伸ばし、堂々と。

全ての質問に明確に答え、全ての罪を受け入れた。

判決が下されても、彼女は微動だにしなかった。控訴はなかった。

少年刑務所に送致されても、彼女の態度は変わらなかった。

ただ静かに。

正坐をして、瞑想している様子がたびたび見られた。

それが水野翠の現在だった。

水野翠
射手。古澤頼子の元部下。八神マキノを含めて、数件の殺人で刑に伏す。

彼女は必要以上は語らず、もちろん、古澤頼子についてなど語らなかった。

そして。

古澤頼子が再び世間を騒がせていても、彼女は変わらなかった。

古澤頼子
犯罪提供者。高峯のあを追い詰めるために、自ら命を絶った、はずだった。

序 了



櫻井邸玄関ホール

櫻井邸
ご存じ、櫻井さんの大豪邸。コレクションルームがある。

和久井留美「今、何時かしら」

和久井留美
刑事一課和久井班班長。無事に昇進し、階級は警部補。

大和亜季「20時37分であります」

大和亜季
刑事一課和久井班所属。階級は巡査部長。最近、剣道の段位も取得。

新田美波「あと、23分ですか」

新田美波
刑事一課和久井班所属の巡査。フレッシュな若手警察官。

留美「23分ね……」

亜季「なんだか、憂鬱そうでありますな、警部補殿」

留美「憂鬱にもなるわよ。なんで、ここにいるのかしらね」

美波「それは、課長と署長の特命で」

留美「刑事一課なんだから、刑事事件を担当してもいいと思うわ」

亜季「とはいえ、命令を断るわけにもいきませんし」

留美「……どう思う、新田さん?」

美波「えっ、私は……」

留美「バカみたいなことに付き合ってられないでしょ」

美波「いえ!れっきとした犯罪予告、市民の皆様を守ることに、貴賎はありません!」

亜季「おお、やる気でありますな」

留美「……いいわね、若くて」

美波「あの……どうかしましたか」

留美「別に」

亜季「何か気になることでもあるでありますか?」

留美「質問よ、新田さん」

美波「はいっ」

留美「今回の事件は何?」

美波「ここ、櫻井邸のコレクションルームを狙った犯行予告です」

亜季「予告しているのは、古澤頼子であります」

留美「ええ。これで何件目だったかしらね」

美波「6件です」

留美「そのうち失敗に終わったのは?」

美波「3件ですね」

亜季「なんでかというと」

留美「そこの探偵さんが活躍しているから」

美波「はい」

亜季「お呼びしますか?」

留美「ええ」

美波「それじゃ、呼んで来ますね」



櫻井邸玄関ホール

美波「お連れしました」

留美「こんばんは、探偵さん」

安斎都「お疲れ様です、和久井警部補!」

安斎都
最近評判の女子高生探偵。怪盗古澤頼子の予告を既に阻止した実績がある。

留美「お聞きしたいのだけれど」

都「なんでしょうか?」

留美「今回はどうするのかしら」

都「ええ。コレクションルームの警備は厳重です。逃走ルートも限られるかと思います」

亜季「ふむ。確かに、コレクションルームまでは一本道でありますな」

留美「具体的には?」

都「秘密です!」

留美「……そう」

都「どこに協力者がいてもおかしくありませんからね。それじゃ、失礼します!」

留美「ええ、がんばって」

美波「あの、警部補」

留美「なにかしら」

美波「私達は何をすればよいのでしょう?」

亜季「それは、もちろん」

美波「もちろん?」

亜季「その場で的確に行動するであります」

美波「……それって」

留美「配置も指示されてないし、せめて探偵さんの傍にでもいれば何かあるでしょう」

亜季「ええ。非常に後ろ向きでありながら、何かが転がりこんできそうな作戦であります」

留美「探偵に振り回されるのもごめんだわ。最近、ようやく振りまわされなくなって清々してたのに」

美波「わ、わかりました」

亜季「……たまには諦めも肝心でありますよ」



櫻井邸玄関ロビー

美波「あれ?」

櫻井桃華「こんばんはですわ」

櫻井桃華
櫻井家の娘さん。実にお嬢様然としたお嬢様。コレクションルームは彼女のために父親が買ったものがほとんど。

留美「お嬢様、出てきては危ないですよ」

桃華「怪盗は獲物以外狙わないのでしょう?なら、安全ですわ」

亜季「確かに、これまでの所、人の被害者は出ておりませんな」

留美「言っておくけど、まともな人間じゃないの。何が起こるかわからないわ」

桃華「そうなんですの?」

留美「詳しい話はしないわ」

桃華「ますます興味が湧いてきましたわ!」

美波「……えっ?」

桃華「刑事さん、一緒に居てもよいかしら」

留美「……そうね。時間も近いし、構わない」

桃華「嬉しいですわ!お部屋に閉じ込められてて、今日は退屈でしたの」

亜季「……どうするでありますか」ヒソヒソ

留美「……何かあったら抱きとめておいて」ヒソヒソ

亜季「了解であります」

桃華「どこから来るのかしら、玄関かしら、空かしら?」

留美「そろそろ、時間ね」



櫻井邸玄関ロビー

美波「残り5秒です」

亜季「5、4、3、2、1」

桃華「……」ドキドキ

留美「ゼロ」

パチン!

桃華「真っ暗ですの!」

留美「美波さん、停電かしら」

美波「無線で確認中です!」

桃華「ひゃいん!?誰ですの、私を抱き上げたのは!?」

亜季「私であります。暗くて危ないのでつかまってるであります」

美波「この周辺のみ停電のようです」

留美「セキュリティ破りのために大掛かりに停電させたのね」

美波「ケーブルが切られているので、復帰には時間がかかるそうです」

留美「ありがとう……ん?」

桃華「誰か通っていきましたの……」

タッタッタ!

都「怪盗です!コレクションルームから玄関ロビーを横切って逃走中!」

留美「コレクションルームの方から出て来たわね」

亜季「そのようでありますな」

美波「猛スピードでしたね。見えてるのでしょうか」

留美「暗視ゴーグルか何かでしょう。最近はずっと付けてるわね」

亜季「それで、どうしますか」

留美「新田さん、ライトを」

美波「はいっ」

留美「お嬢様、協力してもらえる?」

桃華「なんですの?」

留美「追うのはお任せして、コレクションルームへと行きましょう」

美波「追わないんですか?」

留美「ええ。さ、行きましょう」

桃華「とりあえず、降ろしていただけませんの?」

留美「転ぶと危ないわ」

亜季「そうであります。このまま行くでありますよ」



幕間

櫻井邸庭園

夜の闇に紛れて、怪盗は走る。

ふと、速度を落とす。ライトが彼女に照らされる。

もう一人の登場人物がスポットライトの下へと登場する。

待ってたよ、都、と小さく呟き。

都「そこまでです!怪盗、古澤頼子!」

暗視ゴーグルをつけたままの怪盗は口角を少しだけ上げました。

頼子「……」

都「コレクションルームへの侵入はお見事でした」

暗視ゴーグルのまま、彼女は空を見上げました。

都「でも、逃げ道は少ない。裏をかくための前庭からの移動はここで止めました」

艶やかな長髪が風に揺れます。

都「これで、終わりで……」

バチンと大きな音がして、大きなライトが消えました。

都「ラ、ライトはどうしたんですか!?」

人々の目が闇に慣れる前に、怪盗は再び闇の中へと逃げて行きました。

都「バッテリーの故障!?警察は何をやってるんです!?」

やがて遠くで巨大なバイクのエンジン音が響きました。

幕間 了



櫻井邸コレクションルーム

桃華「トパーズがありませんわ!」

亜季「他に盗まれたものは?」

桃華「ないようですわね。あれはお気に入りでしたのに……」

留美「予告通り、ということね」

桃華「大切な物を盗む、そう言っておりましたわ」

美波「怪盗、取り逃したそうです」

留美「あら、追い詰めたんじゃなかったの?」

美波「警察が用意したバッテリーに細工されていたようで、闇に紛れて」

亜季「その後は?」

美波「蒼いバイクみたいです。既にパトカーは振り払ったようです」

留美「用意周到ね」

桃華「暗いですわ。うちの発電機はどうしたんですの?」

亜季「発電機?」

桃華「災害時の発電機ですの。ご近所にも分けられる、強いものですって」

留美「何か聞いてるかしら?」

美波「確認してみます」

留美「お願い」

桃華「それにしても、鮮やかでしたの」

亜季「そうでありますな」

留美「どこから侵入したのかしら?」

亜季「ふむ、特に破損したような所は見当たりませんな」

桃華「あら?」

亜季「何か気づいたでありますか?」

桃華「いつも、このあたりはうるさいのに。停電だからですの?」

留美「どんな感じなの?」

桃華「コロコロという音がしてましたわ」

亜季「換気扇?」

留美「床下、かしらね」

亜季「桃華殿、少し降ろすでありますよ」

桃華「ええ。じっとしてますわ」

美波「警部補!」

留美「自家発電は?」

美波「非常時に稼働するシステムが切られていました」

留美「復旧は?」

美波「装置そのものも壊されていて、難しいと」

桃華「まぁ……今日はどこかホテルに行かないといけませんわね」

留美「そこもクリアしてるのね。ふむ……」

亜季「ありました!」

美波「何ですか?」

亜季「侵入経路であります!」



櫻井邸玄関ホール

留美「侵入経路は、床下。換気設備から侵入したようです」

亜季「改築前の古い設備が残っていたようであります」

都「やられました……」

留美「それでは、ここで失礼します」

都「あの、刑事さん」

留美「なんでしょう」

都「玄関ホールで古澤頼子を見ましたか?」

留美「いいえ」

亜季「暗闇でしたから」

都「新田巡査も?」

美波「はい。何かが通ったのはわかりましたけど……」

都「ふーむ。何故、玄関だったのでしょうか」

留美「古澤頼子の考えることなんてわからないわ」

亜季「まったくであります」

都「目的に検討はつきますか?」

留美「いいえ」

都「お二人は古澤頼子の事件に以前から関わってますので、何かお知りかと思いまして」

留美「正直、知らないわよ。警備を担当していたことはあるけど」

亜季「しかも、逃げられているであります」

留美「そういうこと。あんまり期待しないでちょうだい」

美波「……珍しく弱気なんですね」

留美「逆にあなたには期待しているわ」

都「わ、私ですか?」

留美「あなた以外に誰がいるのよ」

都「光栄です!名高い和久井刑事に期待されてるなんて!」

美波「名高い?」

亜季「みくにゃんの熱狂的ファンとして、でありますか?」

留美「それは、あんまりよろしくないわね。それで人質になってたらしいもの」

都「その噂も聞きますが、そうじゃありません!」

亜季「なら、なんでありますか?」

都「柊志乃の懐刀、武勇伝は数知れず。順調に出世してるじゃないですか」

留美「……そうね」

都「あれ?自慢じゃないんですか」

留美「出世もせずに、結婚して家庭にでも入ってる予定だったわ。帰りましょう、大和さん、新田さん」

亜季「はい」

美波「はいっ」

留美「よろしくね、探偵さん」

都「最後に一つだけ、聞いていいですか?」

留美「……どうぞ」

都「高峯のあ、さんを知っていますか?」

留美「知ってたわよ。とってもよく、ね」

亜季「……」

都「今は、どこにいるんですか」

留美「……知ってるでしょう。死んだわ」

都「いいえ、死亡届は出ていません」

留美「……生きてれば、どんなに良かったでしょうね。あんなに人騒がせな彼女でも」

都「古澤頼子を追うためには、絶対にあの人の力が必要です。教えてください」

留美「話はそれだけ?」

都「……はい」

留美「なら、何も言えることはないわ。さよなら」

亜季「待ってください、警部補!」



車内

美波「……」チラッ

留美「気になることがあるなら言いなさい、新田さん」

美波「い、いえ」

亜季「聞いておいた方がいいでありますよ。聞くは一時の恥であります」

留美「その言葉は、続きも言わないとダメでしょうに」

美波「あの」

留美「なにかしら」

美波「高峯のあ、って、探偵ですよね」

亜季「そうであります。一時期話題になっていたから知っているかと思いますが」

留美「知っていると思うけど、死んだわ」

美波「でも、都さんは生きてるって」

留美「……そうかもしれないわね。古澤頼子も戻っているもの」

亜季「残念でありますが、亡くなっております」

美波「聞きたいことがあるんですが」

留美「のあのことならもう何も言えないわ」

美波「古澤頼子の目的は、高峯のあを没落させることだったんですよね?」

留美「署長はそう言ってるわ」

美波「そのために怪盗を演じていた」

亜季「そうらしいでありますな」

美波「なら、古澤頼子の現在の目的って何なんでしょう?」

留美「さぁ?捕まえてみればわかるんじゃないかしら」

亜季「てっとり早いでありますな」

美波「もう!真剣に聞いてるのに!」

留美「ごめんなさいね。私達にはわからないの」

亜季「刑事一課でありますから」

留美「そうね……わかるとしたら」

美波「誰かいるんですか?」

留美「高峯のあ、その人くらいかしらね」

美波「……」

留美「天国か地獄にいるかはわからないけど、引きずりだせればいいのに。そう思わない?」

美波「……ええ」



翌日


警察署内・刑事一課オフィス

柊志乃「古澤頼子の目的ね……」

柊志乃
刑事一課の課長。階級は警部。見かけの数倍はキレモノ。待機時間以外はアルコールが入っているので注意。

留美「何か、心あたりはありますか?」

志乃「ないわ。あなた達こそ、現場に出向いているから何か知らないのかしら」

亜季「わかりませんな」

美波「私も……」

志乃「なら、私にもわからない」

留美「そうですね。変なことをお聞きしてすみません」

志乃「いいのよ。何でも言ってくれないと困るわ」

亜季「了解であります」

留美「それでは、昨日の暴行事件の捜査に戻ります」

志乃「その必要はないわ」

美波「ということは……」

留美「……継続ですか」

志乃「そうよ。応援に行ってちょうだい」

亜季「古澤頼子の件でありますな」

志乃「ええ」

留美「課長と、それに署長もこの班を自由に動かせるからって、好き勝手しすぎです」

美波「暴行事件はどうなるんですか?」

志乃「それはもう他に渡したから。心置きなく行っていいわよ」

亜季「課長らしい仕事と言えばそうでありますが……」

留美「わかりました。行ってきます」

志乃「気をつけて、くれぐれも」

留美「わかってます」

10

高峯探偵事務所前

都「古澤頼子と高峯のあの関係は切っても切れません」

都「多くの事件に関わり、最後にはあの大きな出来事を起こした」

都「真実はわかりません」

都「死亡届が出ていないこと、そして、今も開いている探偵事務所」

都「探偵事務所は3階ですね」

都「やはり、避けては通れません!」

都「お邪魔します!」

11

高峯探偵事務所

槙原志保「いらっしゃいませ!」

槙原志保
働き者のウェイトレス。その原動力は甘いもの、主にパフェ。

都「……あれ?」

志保「お一人様ですね。こちらの席へどーぞ!」

都「間違えた?」

志保「どうされました?」

都「ここって、高峯探偵事務所、ですよね?」

志保「はい!喫茶店高峯探偵事務所です」

都「喫茶店?」

志保「あれ?黒板見ませんでした?」

都「いいえ」

海老原菜帆「あらー、出し忘れてましたぁ」

海老原菜帆
喫茶店高峯探偵事務所のウェイトレス。そんなところも可愛いと近所では人気。

志保「あらら。菜帆ちゃん、出してきて」

菜帆「はーい。行ってきまーす」

都「その確認なんですけど」

志保「立ち話もなんですし、とりあえず、座ってください」

都「え、ええ、そうします」

相原雪乃「いらっしゃいませ。お水をどうぞ」

相原雪乃
喫茶店高峯探偵事務所のマスター。言葉遣い等々柔らかそうと評判。

志保「こちら、メニューとなります。マスター、オススメはあります?」

雪乃「紅茶は本日のブレンドをご用意しております。いかかでしょうか」

都「それじゃあ、それをお願いします」

雪乃「かしこまりました。どうぞごゆるりと」

志保「パフェとかケーキとかいかがですか?」

都「いえ、大丈夫です」

志保「菜帆ちゃんが来てくれたおかげで、和風スウィーツも増えたんです。ご覧になってくださいね」

都「違うんです。私は話を聞きに来たんです」

志保「話?」

都「ここは高峯探偵事務所ですよね?」

志保「はい。喫茶店高峯探偵事務所です」

都「探偵事務所じゃなくて、喫茶店なんですか?」

志保「もちろん。推理小説とか関連グッズを展示してる、テーマカフェですよ?」

都「確かに……何度も読んだ本がありますね。これはマスターが?」

志保「いいえ。このフロアのオーナーが寄贈してくれたものです。せっかくこんなにあるんだから、テーマカフェにしてみようって」

都「オーナーとは、どなたですか?」

菜帆「置いて来ましたー」

志保「お帰り、菜帆ちゃん。ねぇ、オーナーさんって名前なんて言うんだっけ?」

菜帆「あのカッコイイお姉さんですよねぇー。えっと、誰でしたっけ?」

志保「マスター!」

雪乃「なんでしょう」

志保「ここのオーナーさんって名前はなんでしたっけ?」

雪乃「木場真奈美さんですよ」

志保「そうそう、木場真奈美さんです」

都「木場真奈美さん……」

菜帆「カッコイイ女の人で憧れてるんです」

志保「ねー」

雪乃「お待たせしました。本日のブレンドです」

都「ありがとうございます。あのマスター」

雪乃「はい。何でしょうか」

志保「何か聞きたいことがあるみたいですよ」

都「高峯のあさんを知っていますか」

12

喫茶店高峯探偵事務所

志保「……」

雪乃「……」

菜帆「どうかしましたかー?」

雪乃「色々とありましたから」

志保「あ、いらっしゃいませー!菜帆ちゃん、お願いね」

菜帆「はーい。いらっしゃいませー」

都「知っているのですか?」

雪乃「はい。お世話になりましたから」

志保「……マスター」

雪乃「大丈夫ですよ、志保さん」

志保「でも……」

雪乃「高峯のあさんをご存じなのですか」

都「はい。その詳しくは知らないのですが」

雪乃「爆発事件を解決したことは知っておりますか?」

都「富士神社近辺のことですね」

雪乃「……犯人は喫茶店の店員でした」

都「……それは」

志保「……」

雪乃「私の家でもありましたし、細々と続けていたのですが……」

志保「……あまり良く思わない人もいてね」

雪乃「……はい。売った店舗もあまりお金にならず……」

都「それは、大変でしたね」

志保「高峯さんは、気にかけてくれててね。ここを貸してくれたのもそんな経緯からなんです」

雪乃「……亡くなってしまいましたが」

都「……」

雪乃「彼女に敬意を示して、この喫茶店を開いたんです」

志保「探偵事務所風の喫茶店です。蔵書も彼女が集めていたものですよ」

都「そんな経緯があったんですか……」

雪乃「……はい」

志保「……良い人だったのに」

都「その、これは噂なんですが」

雪乃「噂ですか……?」

都「高峯さんは生きているのではないかと」

志保「……」

雪乃「そうとは、思えません」

都「何故、ですか」

雪乃「それなら木場さんがここを手放したりしないと、思いますわ」

志保「……そんな可能性があるなら、特に」

都「木場真奈美さんは、どちらに」

志保「ボイストレーナーの仕事を都内でやってるらしいです」

雪乃「どこに住んでいるか、それはわかりかねます」

都「……そうですか」

雪乃「悲しい話は終わりにいたしましょう。ごゆるりと」

都「……この紅茶、いいニオイがします」

13

喫茶店高峯探偵事務所前

菜帆「また来てくださいねー」

都「はい。ごちそうさまでした」

都「……」

都「……なんでしょう、何か、隠しているような」

都「調査が必要ですね」

14

警察署内・会議室

高橋礼子「署長の高橋です」

高橋礼子
警察署の署長。階級は警視正。警視庁のキャリアから外れて地方の警察署長に収まっている。

留美「……署長が出てきたということは」

亜季「何かあるでありますな」

美波「なんでですか?」

留美「古澤頼子に関しては陣頭指揮を執るからよ。理由は知らないわ」

美波「そうなんですか」

亜季「ここまで出てこなかったのに、急に出て来たのは何かあるであります」

美波「なるほど」

留美「さて、何があるのかしらね」

礼子「犯行予告には引き続き警戒してください」

亜季「次も出てるでありますか?」

美波「いえ、まだだと思います」

礼子「では、本題を。殺人と放火に関して、です」

留美「……課長、知ってたわね」

15

刑事一課・和久井班室

美波「よいしょっ、と」

亜季「思ったより膨大な量でありますな」

留美「あまり刑事事件を起こしてないイメージだったけれど、違うようね」

亜季「関連があると思われるものは、片っ端から運んできたであります」

留美「まずは、放火から行きましょうか」

美波「はいっ、署長から指示された事件はこの二つです」

亜季「一件はバイク屋、二件目は花屋であります」

留美「詳細を」

美波「えっと、一件目のバイク専門店ですが、老夫婦が経営している小さなものです」

亜季「大きなバイクを仕上げた、そんな証言があるであります」

留美「だけど、火事で焼失」

美波「はい。死体が二つ見つかりました」

亜季「この店を経営する老夫婦のものと結論されております」

留美「バイクは?」

美波「大きなものは見つかりませんでした。おそらく……」

留美「今の古澤頼子が乗っているもの」

美波「はい」

留美「前のものとは比較してあるの?」

美波「映像解析によると、見た目は似ていますが、別物だと」

亜季「ちなみにでありますが、押収した物は署内にまだ保管しているであります」

留美「そう。これが古澤頼子と関連している理由は」

美波「こちらですね」

留美「前例があるから」

亜季「前回のバイク業者も全焼しております」

留美「まぁ、理由は明確ね」

美波「証拠の隠蔽?」

留美「それ以外はないでしょうね」

亜季「そうでしょうな」

留美「これは置いておきましょう。次は?」

美波「花屋に放火されています。自宅兼店舗が全焼し、3人が遺体で発見されました」

亜季「両親と娘であります」

美波「時刻は……」

留美「待って。花屋の名前を教えて」

亜季「渋谷生花店であります」

留美「娘の名前は」

美波「渋谷凛です」

亜季「……渋谷凛?」

美波「はい。渋谷凛です」

亜季「って、確か……」

留美「バイク乗りね。他に情報は?」

美波「放火であることは間違いなさそうなのですが、特に犯人や不審者が見つかっておりません」

亜季「つまるところ、初動調査では解決しそうもないと」

留美「それで、被害者からこっちに回って来た、わけね」

亜季「渋谷凛についての報告書がありますか?」

留美「これね。逮捕されたけど、しばらくして保釈金が両親から払われて、保釈」

亜季「その後は特に補導等されておりません」

美波「それで、今回の件と」

留美「自殺、とは思えないわね」

亜季「特に経営に困っていたようでもありませんからな」

美波「むしろ儲かっていたのではないか、なんて書かれてますね」

亜季「しかし、金品がそのままでしたので、強盗ではないとも」

留美「古澤頼子に関する犯罪に関わっていた可能性は?」

美波「それなら、警察に捕まえさせるのでは」

亜季「前回はそうでありましたな。娘の渋谷凛は関わっていても花屋が裏稼業をしていたわけではないであります」

留美「なら、簡単ね。渋谷凛を殺すのが目的なんでしょう」

美波「……」

亜季「ふむ」

留美「新田さん、渋谷凛についての資料を揃えて」

美波「はい!」

留美「私達は出てくるわ」

亜季「どちらへ?」

留美「まずは、少年課よ」

16

警察署内・生活安全課オフィス

相馬夏美「あら、何かごよう?」

相馬夏美
生活安全課少年班の巡査部長。水野翠を逮捕した人物でもあり、表彰だけはされた。

留美「渋谷凛が亡くなったことは知ってるわね」

夏美「知ってるわよ。それで?」

亜季「他の共犯者に話は聞けるでありますか?」

夏美「聞けるわよ。一人はすぐにでも呼び出せるはず」

留美「へぇ、準備がいいのね」

夏美「たまたまよ。仙崎巡査!」

仙崎恵磨「はい!呼びましたか!?」

仙崎恵磨
生活安全課少年班巡査。夏美のバディ。

留美「こんにちは」

亜季「どうもであります」

恵磨「お疲れ様ですっ!どうかしました?」

夏美「吉岡さん、呼び出せる?」

恵磨「もちろん!で、何でです?」

夏美「刑事さんに会わせてあげて。命の危険があるとでも言って」

17

刑事一課・和久井班室

吉岡沙紀「ここが刑事課のオフィスっすか?雰囲気違うっすね」

吉岡沙紀
以前の事件における落書きの主犯格。今は堂々とアート出来る場所を見つけた模様。

留美「刑事の和久井よ、よろしく」

亜季「同じく、大和であります」

沙紀「吉岡沙紀、よろしくっす」

留美「聞きたいことがあるのだけれど」

沙紀「いやびっくりしたっすよ。恵磨ちゃんが命の危険があるなんて言うんすから」

亜季「先に聞きたいことがあるであります」

沙紀「なんすか?」

亜季「仙崎巡査とはどのような関係でありますか?」

沙紀「エスっすよ、エス」

留美「情報の見返りは?」

沙紀「先払いっす」

亜季「先払い?」

沙紀「正直言うと、もう路上に出てないんすよ。出なくて済むように、恵磨ちゃんが頑張ってくれたお礼っす」

留美「そう、良かったわね」

沙紀「それで、コンクールに出したんすよ。まともなやつに」

亜季「落書きではなく、でありますな」

沙紀「そうっす。あとでチケット渡すんで見に来てほしいっす」

留美「考えておくわ」

沙紀「それで、刑事さんが何のようっすか?」

留美「あなた、過去に古澤頼子の指示を受けてたわね」

沙紀「いや、曖昧な感じでどうともつかないんすけど」

亜季「そうでありましたか?」

沙紀「高峯のあ、って人か古澤頼子って人かどっちなんすか、結局。ニュースを見てもわからないっすよ」

留美「答えを言うと、古澤頼子。高峯のあは利用されただけよ」

沙紀「なら、さっきの質問の返事はイエスっすね」

留美「そう。では、これを見てちょうだい」

沙紀「黒髪の女の子っすね」

留美「知ってるかしら」

沙紀「ノーっす」

亜季「名前は渋谷凛であります。聞き覚えは?」

沙紀「ないっすね」

留美「彼女も古澤頼子の指示を受けていた人物の一人よ」

沙紀「ふーん」

亜季「何か知らないでありますか。古澤頼子につながるなら、誰でもいいであります」

沙紀「正直、知らないっすね」

留美「彼女、家出も何度かしていたようだけど、あなたは知らないかしら」

沙紀「うーん、渋谷、渋谷……知らないっすね。家出といっても、夜の街をさまよってないんじゃないっすか」

亜季「つまり?」

沙紀「こっちのグループには関わってないんすよ。たとえば、誰かに匿われていたとか」

留美「……なるほど」

亜季「古澤頼子のもとでありますか」

留美「もしくは、その周辺」

沙紀「見てれば、どっからか噂は聞くっすよ。でも、この子は違うっす」

留美「ありがとう。次はあなたのことだけど」

沙紀「自分っすか?」

留美「何か、最近おかしなことは?」

沙紀「ないっすね。平穏無事っす」

留美「確かに、そうね。あなたが狙われる理由は、ないものね」

亜季「古澤頼子に、でありますな」

沙紀「話がわからないすけど、どういうことっすか?」

留美「あなたを殺したところで、何も得をしない。あなたは、何も知らないのだから」

18

刑事一課・和久井班室

留美「……ふむ」

美波「あの、何かありましたか」

留美「ないわね」

亜季「うーむ、古澤頼子とつながりそうな点がありませんな」

美波「しいて言うなら、無免許運転くらいでしょうか」

留美「そうね。二輪の無免許運転くらいかしら」

亜季「結局、何個か軽犯罪はありますが、古澤頼子に関わったのは」

留美「あの、逃亡劇だけ」

亜季「直接面識はないという証言がありますが」

留美「なんとも言えるでしょう。たとえ本当だとしても、おかしい」

美波「それなのに、殺されてしまうのでしょうか」

亜季「ふむ。何を知っていたのでありましょうか」

留美「さぁ?だけど、思ったより近くにいた可能性があるわね」

亜季「古澤頼子にですな」

留美「しかし、何故彼女なのかしら」

美波「何故とは、どういうことでしょうか?」

留美「言い方は悪いけど、単なる家出少女でしょう」

亜季「吉岡沙紀はペイントアートの技術がありました」

美波「あとは……この人とか」

留美「井村雪菜。彼女はメイクと演技が武器だった」

井村雪菜
古澤頼子に変装し、一件の犯行を行ったが、のあに捕らえられた少女。メイクに執着がある。

亜季「それと、もう一人おりますな」

留美「水野翠ね。彼女には任務を遂行する心技体全てが揃っていた。でも、やはり」

亜季「ええ。渋谷凛である必要がありません」

美波「何かの目的があって選ばれているのに、彼女だけ違う……?」

留美「運転は成熟してるとは言えなかった」

亜季「だから、捕まったわけでありますし」

留美「なら、何故かしら」

美波「なんででしょう?」

亜季「なんでしょうなぁ」

留美「ここで悩んでいても解決しないわ」

美波「そうですね」

留美「会ってみましょうか」

亜季「誰に、でありますか」

留美「答えに近い方から。水野翠によ」

19

某少年刑務所・面会室

翠「私は何も関係ありません」

留美「ばっさりね」

翠「私の罪は、全て裁かれました。それ以上のことはありません」

留美「知ってるわ」

翠「なら、お帰りください」

留美「あなたの罪を聞こうとしているわけではないわよ」

翠「……」

留美「渋谷凛を知っているかしら」

翠「知っています」

留美「あら、あっさりと認めるのね」

翠「聞かれなかっただけですから。そして、知っているだけです」

留美「会ったことは?」

翠「何度か」

留美「何のために」

翠「指示を伝えるため」

留美「詳細を」

翠「知っているのではないですか?」

留美「……」

翠「……」

留美「それは、殺される理由にはならないわ」

翠「……殺されたのですか」

留美「言ってなかったわね。自宅に放火されたわ。両親と共に亡くなった」

翠「悲しくもあります」

留美「も?」

翠「嬉しくもあります。こんなことから手を払い、自宅へ戻ったという意味でしょうから」

留美「……警察は殺人と見てるわ」

翠「私ではありません。もちろん、私の指示でも」

留美「手紙すら出さない、面会人もほとんどいないあなたではないでしょうね」

翠「そういうことです」

留美「私が聞きたいことは一つ。渋谷凛は殺されるような情報を持っていたか、よ」

翠「……」

留美「何か、あるかしら」

翠「何もありません」

留美「あなたが知ってる古澤頼子に殺されるような理由はないと?」

翠「その通りです。ふふ」

留美「何かおかしかったかしら」

翠「そうかもしれませんね。やはり、私には関係ありません」

留美「……そう」

翠「話はそれだけですか?」

留美「ええ。古澤頼子の話でも聞こうかと思ったけど、その様子だと無駄ね」

翠「わかっていただけて、嬉しいです」

留美「……ありがとう。お邪魔したわね」

翠「一つ、お願いをしてよろしいでしょうか」

留美「無理のない範囲で」

翠「新聞を」

留美「新聞?」

翠「地元の新聞を差し入れていただけないでしょうか。退屈でして」

留美「……それは看守に言いなさい」

翠「では、情報を」

留美「情報……?」

翠「私の上司だった古澤頼子は死にました」

留美「でも、今はいるわ」

翠「私の上司だった古澤頼子は、死にました」

留美「そうじゃない古澤頼子がいるとでも?」

翠「新聞、差し入れていただけますか?」

留美「……わかったわ」

20

車内

亜季「……先ほどの水野翠の話でありますが」

美波「どういうことでしょうか?」

留美「腹が立ってきたわ」

亜季「そんな酷い態度でありましたか?」

留美「水野翠に苛立ってるわけじゃないわ。彼女は単に、自分に指示していた古澤頼子は死んだと言っただけ」

美波「でも、それだと」

留美「水野翠は落下した所も死体も見てるのよ。おそらく、嘘はついてない」

亜季「ということは、今の古澤頼子は別人でありますか」

留美「こんな時に、のあの話し方を思い出したわ」

美波「高峯さんの……?」

留美「あの古澤頼子が本物だって確証はあるのかしら、留美。私達が会っていた方が本物だなんて、誰が決めたのかしら」

亜季「似てないであります」

留美「そんな感じのことを平然と言うわよ、のあなら」

美波「あの、どういうことですか」

留美「生物学的には別人よ、今と昔の古澤頼子は」

亜季「本物と偽物については、どういうことでありますか?」

留美「どっちが本物かなんてわからない。でも、前が偽物なら次が復活するのも楽でしょう」

美波「うーん、前の方が偽物とは思えないです……」

留美「いずれにしろ、渋谷凛を殺す理由があるはず」

美波「殺す理由……」

亜季「今のところ、確信的な事というと」

留美「正体かしらね」

亜季「今か昔の古澤頼子の正体でありますか?」

留美「あるいは目的」

美波「ふむ……」

留美「捕まえれば済む話よね」」

亜季「それもそうでありますな」

留美「しかし、探偵と怪盗ごっごで捕らえるのは厳しいわ。だから、辿るわ」

美波「了解です」

21

某カフェ

都「あの……松山久美子さんですか?」

松山久美子「そうだけど、どなたかしら?」

松山久美子
科学捜査課所属。常に白衣をまとった美人警察官。もちろん、オシャレなカフェで休憩中の今も白衣着用。

都「はじめまして、私は安斎都です」

久美子「ご丁寧にどうも。ああ、探偵さんなのね」

都「はい。今は怪盗を追っています」

久美子「思いだした。女子高生探偵ね」

都「そう言われるとむずかゆいのですが……」

久美子「いいじゃない、悪いことじゃないし」

都「松山さん、お聞きしたいことがあるのですが」

久美子「古澤頼子のこと?正直、私はそれに関しては門外漢よ」

都「違うんです」

久美子「なら、何を聞きたいのかしら?」

都「高峯のあさんについて、です」

久美子「久しぶりに聞いたわ、その名前」

都「死亡とされています」

久美子「その通りよ。死因は、転落死……正確には飛び降り自殺」

都「本当なのですか」

久美子「のあさんのことだから、ひょっこり帰って来るような気もしてた。そんなことはないんだけど、ね」

都「死体を見たのですか」

久美子「ええ。私は流石に死体かそうでないか、それぐらいの見分けはつくわ。だからこそ、ね」

都「……しかし、不思議な点があるんです」

久美子「例えば?」

都「死亡届が出されてないんです」

久美子「死亡診断書を書くわけにはいかないから、私に言われても」

都「資産も凍結されてないようですし」

久美子「あら、それは全部助手の人が管理してるはずよ」

都「木場真奈美さんですか」

久美子「そう、真奈美さん」

都「名義も変えずに?」

久美子「それは知らないけど」

都「本当に、死んでいるのですか」

久美子「仮に生きていたとして、あなたは何が知りたいの?」

都「古澤頼子について、です。高峯のあは何かを知っているはずです」

久美子「のあさんなら、いの一番に追うわ。でも、そうじゃない。だって、生きてないから」

都「何か、企みがあるとは考えられないでしょうか」

久美子「……生きているなら、ね」

都「……」

久美子「科学捜査課として言うけれど、高峯のあは死んだの。もう、続きはないのよ」

22

刑事一課・和久井班室

志乃「お疲れ様」

亜季「お疲れ様であります!」

志乃「調査は順調かしら?」

留美「いいえ。そう簡単にはいかないようです」

美波「……はい」

志乃「目的の人物は見つかったかしら」

留美「調査中です」

志乃「内密にね」

亜季「わかっております」

留美「明日、井村雪菜と会う予定になっています」

志乃「そう。それは困ったわ」

美波「困った?」

志乃「その予定、取り消してくれるかしら」

亜季「まさか、犯行予告でありますか?」

志乃「察しがいいのね。その通り」

美波「えっ……?」

留美「課長、概要だけを」

志乃「今度は誘拐らしいわ」

亜季「……人を盗むようになったでありますか」

23

某カフェ

久美子「……」

都「……」

久美子「ごめん、呼び出しがかかったから失礼するわ。なに、志希ちゃん……え?」

都「お気にならさず」

久美子「わかったわ。すぐ行く」

都「お話、ありがとうございました」

久美子「どういたしまして。それで、あなたに伝言だけど」

都「私に、ですか?」

久美子「連絡、来てないかしら」

都「えっと、ケータイケータイ、これは!」

久美子「……犯行予告よ。ご協力をお願いするわ」

24

翌日

亜季「それで……ここはどこでありますか」

留美「何って、屋上よ」

亜季「知ってるであります。ターゲットとなった、ライラ殿が日本で宿泊しているヘレン邸の屋上であります」

ライラ
某国のご令嬢。本名は凄く長いらしい。お忍びで日本に滞在中。

ヘレン
ライラが日本滞在中に頼っている人物。警察の信頼にあたいする地位と実績を持っている。

美波「それはわかってます!」

留美「そんなに強く言わなくていいわ」

亜季「要するに、特に必要ないというわけでありますか」

留美「そもそも誘拐は刑事一課の案件ではないわ。当然よ」

美波「そうですけど……」

留美「警備も厳重で、警察も詰めてる。あとは空いているスペースに人を置いておけばいいの」

亜季「で、屋上と」

ヘレン「ご苦労さまね」

亜季「ヘレン殿、お疲れ様であります」

ヘレン「怪盗は見つかったのかしら」

美波「予告の時間にもなっておりませんので、姿をみせておりません」

留美「ライラさんの警備の方は?」

ヘレン「問題ないわ。警察と警備、素晴らしいチームワークを見せている。どんな人だろうと、ライラには近づけない」

亜季「そうでありますか」

ヘレン「空から来るとは思えないけれど、来たら捕まえなさい」

留美「わかっています」

ヘレン「期待しているわ、留美」

留美「ええ」

25

ヘレン邸・屋上

美波「時間まで、あと一分です」

亜季「さて、どう来るでありますか……」

留美「知らないわ」

美波「……」

亜季「あと、5秒。5、4、3、2、1」

美波「時間です」

留美「……」

亜季「……」

美波「……」

留美「屋上異常なし。他は?」

亜季「ライラ殿は無事であります!」

美波「全域、異常ありません!」

亜季「時間通りに来なかったでありますな」

留美「引き続き警戒を」

美波「あの、言葉と行動が一致してません」

留美「あなた達も飲むかしら、缶コーヒーだけれど」

亜季「いただくであります」

美波「来ないと思ってます?」

留美「あそこまで時間通りの人間が来ないんだから、そうなんでしょう。あなたもお休みなさい」

美波「は、はい……」

留美「しばらくしたら、ライラさんの様子でも見に行ってみましょう」

26

ヘレン邸・屋上

都「ここは無事ですか?」

美波「あ、探偵さん」

留美「無事よ」

亜季「何事もありませんでした」

都「ふむ……やはり、ニセモノだったのでしょうか」

留美「ニセモノ?」

都「古澤頼子なら、こんなことをしないと思うんです」

留美「そうね」

都「人を襲うとなるとリスクも大きいですから」

亜季「そうでありますな。警備も厳重になりますし」

都「でも、無事でなによりです」

美波「そうですね。何も起こらなくて良かったです」

留美「……ええ」

亜季「さて、そろそろライラ殿に会いにいくでありますか」

留美「そうしましょう。探偵さんは?」

都「ずっと近くにいましたので。異常がないか、屋敷内を見て回ります」

留美「お気をつけて。新田さん」

美波「はい、何でしょうか」

留美「探偵さんを警護してあげて」

美波「わかりました」

留美「よろしく。行くわよ、大和巡査部長」

亜季「了解であります、警部補殿」

27

ヘレン邸・リビング

ライラ「ライラさんは無事ですよー」

留美「よかったわ。ストレスは感じてない?」

ライラ「守ってくれる人、一杯でした。大丈夫」

留美「それは良かった」

ヘレン「ほら、言ったでしょう?」

留美「ええ」

ヘレン「ここに攻めこめるような度胸はないわ。ここをどこだと思ってるのかしら?」

留美「もちろん、あなたの家よ」

ヘレン「ザッツライト。それで、わかったかしら?」

留美「検討はついてる」

亜季「問題はどう証明するかでありますなぁ」

ライラ「なんの話でございますか?」

ヘレン「こっちの話よ」

留美「ご心配なく」

ヘレン「目的が明確になれば、自ずと答えも見える」

留美「隙も」

ヘレン「一つだけ、いい事を教えてあげるわ。感謝なさい」

留美「感謝は聞いてからにするわ。それで?」

ヘレン「ライラが言っていたわ。名簿よ」

亜季「名簿、でありますか?」

ライラ「ライラさん、お小遣いの誘惑に負けなかったです」

ヘレン「検討を祈るわ、留美」

留美「ご協力感謝いたします」

ヘレン「素直でよろしい。礼子に今度訪ねて来るようにでも言っておきなさい」

留美「了解しました」

28

車内

留美「新田さん」

美波「はい、なんでしょう?」

留美「探偵さんは何か言ってた?」

美波「特には、何も」

留美「古澤頼子が何を目的に現れたか、持論を展開してなかった?」

美波「いいえ。でも、目的については言ってました」

亜季「なんとでありますか?」

美波「前の目的も高峯のあに関連するものだったから、今回もそうではないかと」

留美「大和巡査部長、どう思うかしら」

亜季「可能性はあるかと思います」

美波「……でも、高峯のあさんはいません」

留美「ええ。探偵さんは引き続き調査を?」

美波「そうみたいです」

プルルル……

留美「ごめんなさい、電話に出るわ」

亜季「どうぞ」

留美「こちら、和久井です」

一ノ瀬志希『やっほー、留美ちゃん』

一ノ瀬志希
科学捜査課所属。久美子の部下らしく常時白衣着用。アメリカ帰りの問題児。

留美「……なにかしら、一ノ瀬さん」

志希『ニュースだよー。聞きたい?』

留美「手短に」

志希『昨日来た予告状の差出人見つかったよん』

留美「良いタイミングね。見計らってたみたい」

志希『にゃははー、さすが留美にゃん』

留美「感想は?」

志希『予想タイムには届かなかったんだー。今から反省会』

留美「精進なさい。言いたいことは、それだけ?」

志希『それだけー。まったねー』ブチ

留美「……切れたわ」

美波「なんだったんですか?」

留美「今日の件、やっぱりニセモノだったそうよ」

美波「そうですか……」

留美「差出人も特定できたみたいだし」

美波「誰だったんですか?」

留美「……聞き忘れたわ」

美波「あら……」

留美「それはいいわ。私達は私達の仕事に集中すること」

亜季「ええ、井村雪菜に会いに行くであります」

29

某ファミリーレストラン

留美「こんにちは」

井村雪菜「こんにちは」

留美「刑事一課の和久井です。こちらは大和巡査部長」

亜季「大和であります。よろしくお願いします」

留美「あと、車内に一人おりますので」

雪菜「逃げたりしませんので、安心してください」

留美「ありがとう。それで、確認していいかしら」

雪菜「なにをです?」

留美「あの、本当に井村雪菜かしら?」

雪菜「はい、そうですけど?」

留美「ごめんなさい、随分と印象が違うものだから」

雪菜「嬉しいです。ありがとうございます」

留美「嬉しい?」

雪菜「メイクって人を変えられるんですよ。このように」

亜季「性格も違うようですが」

雪菜「表情によって印象は違うんです。同じことを言っているのに、違うことに」

留美「なるほど」

雪菜「変われること、それを私は示しているんです」

留美「今は何をなさっているのですか?」

雪菜「小さな仕事を、何個か」

亜季「メイク関連でありますか」

雪菜「はい」

留美「学校は」

雪菜「やめてはいません」

留美「……そう」

亜季「警部補、そろそろ本題に入るであります」

留美「そうね」

雪菜「はて、何でしょうか」

留美「あなた、渋谷凛さんは知ってる?」

雪菜「いいえ。どなたですか?」

亜季「ふむ」

留美「古澤頼子はどうかしら」

雪菜「……」

留美「質問を変えましょうか。今の古澤頼子は何者なの?」

雪菜「私は、知りません」

留美「あなた、ではないと」

雪菜「私なら……」

亜季「私なら?」

雪菜「ゴーグルで目を隠さなくても、彼女になってみせます」

留美「それがあなたの矜持だものね」

雪菜「そうです」

亜季「最近は、というか犯罪行為をしたのはあの一件だけでありますな?」

雪菜「ええ。今は警察が来るようなこと、来ても恥じるようなことはしてません」

留美「今の古澤頼子とは関係ないということね?」

雪菜「はい」

亜季「ふむ。では、もう一つ」

留美「名簿、ってわかるかしら」

雪菜「名簿?」

留美「あなたの能力を見つけられる、名簿」

雪菜「それなら、ありますよ」

亜季「本当でありますか?」

雪菜「……そうか、そういうことなんですね」

亜季「お話願えますか」

雪菜「今のメイクのお仕事もそれ経由で入ってきます。前の事件の時も……」

留美「利用していた、ということね」

亜季「古澤頼子が」

留美「名簿の業者、教えてもらえるかしら」

雪菜「……ええ。犯罪に関わっている可能性が、あるんですよね」

留美「その通り。お願いするわ」

30

某拘置所前

都「こんにちは。高森藍子さんですか?」

高森藍子「……どなた、でしょうか」

高森藍子
星輪高校の学生。佐久間まゆの友人。

都「申し遅れました。こういうものです」

藍子「探偵さん……」

都「安斎都と言います。お話をお聞きしてもよいですか?」

藍子「……」

都「高森さん?」

藍子「どこから、聞いたんですか」

都「はい?」

藍子「どこで知ったのか、聞いてるんです!」

都「落ち着いてください」

藍子「何のために、ここに来たかも知ってるんですよね」

都「……はい」

藍子「彼女のこと、調べないでください……お願いします」

都「すみません、でも、知りたいことがあるんです」

藍子「答えませんから」

都「高峯のあ、さんについてです」

藍子「……のあ、さん」

都「古澤頼子が世間を騒がせているのは、知ってますか」

藍子「……はい」

都「犯罪の理由がわかりません。高峯のあなら何か知っているか、と」

藍子「……」

都「死んでいるとされていますが……本当でしょうか」

藍子「……」

都「何でもいいんです。教えてください、高森さん」

藍子「赦してあげてください」

都「赦す?」

藍子「お願いします」

都「あの、言っていることがよくわかりません」

藍子「さようならっ」

都「あっ……行ってしまった。何も収穫なし、ですか……」

31

某雑居ビル2階

留美「こちらはGP社で間違いないわね?」

桐生つかさ「ないけど、あんたら何者なのさ」

桐生つかさ
GP社の代表。本人含めて学生だけで構成されたGP社を経営している。

留美「申し遅れたわね。警察の和久井です」

亜季「同じく、大和であります」

留美「入口に部下を立たせているから、それを考慮しておいて」

つかさ「警察?悪いことなんて何もしてないんだけど」

留美「そうね。私がしたいのは名簿を見たいだけなの」

亜季「そうです」

留美「女子高生を中心とした、能力のある人を派遣する会社。いいコンセプトね」

つかさ「ありがとよ」

亜季「つまるところ、ヘッドハンティングに使いたいであります」

つかさ「なんだ、そんなことか。警察も人材不足なのか?」

留美「優秀な女性警察官はいくらでも欲しいの」

つかさ「ふーん。なら、金額面の交渉からだな」

亜季「お金を取るでありますか?」

つかさ「当り前だろ?法人への貸し出しは有料だ。見なかったの、ホームページ?」

留美「見たわ」

つかさ「なら、文句は言わないよね」

留美「ええ。私が欲しいリストを用意してくれるのなら」

つかさ「警察つうと、体力テストの結果とか、武道歴、か。それくらいなら、ないわけないじゃん」

留美「流石ね。まずは、犯罪歴から」

つかさ「警察って前科あるとなれないんだったか。大丈夫、そこはウチの会社が保証する」

留美「それに、年齢、身長、体重、スリーサイズ、性病の有無」

つかさ「……は?」

留美「家庭状況、お金が欲しいかどうか、処女非処女」

つかさ「何を言ってんの?」

留美「そこまで言ったら、いくらお金を出してくれる?」

つかさ「なんのことだよ」

留美「情報提供の見返り料」

亜季「人を集めるために、投資をしているようでありますね。名簿に載せるためにお金を学生に払っておりますな」

つかさ「そうだけど……さっきの話は酷いだろ」

留美「で、いくらかしら?」

つかさ「どっちがだよ」

留美「もちろん、私が欲しいのはリストよ」

つかさ「そんなことが書いてあるリストはない」

留美「後ろの社員、机に隠したファイルは都合が悪いことでも書いてあるのかしら?」

つかさ「……ちっ」

留美「それで、どうかしら?」

つかさ「生きて帰れると思うなよ」

留美「あなたのプロフィール、格闘技歴があったわね」

つかさ「そういうこと。悪く思うなよ、婦警さん!」

亜季「……あーあ」

32

GP社オフィス

留美「はい、公務執行妨害で4人逮捕」

亜季「私に出番を残して欲しいであります。4人とも倒されては立つ瀬がないであります」

留美「こっちに向かって来るんだもの。仕方がないでしょう、見かけは大和巡査部長の方が大変そうだし」

亜季「そうでありますが」

つかさ「は……あ、なにもんだよ……」

亜季「柊志乃の部下であります」

留美「そのフレーズ、いいわね。次に使わせてもらうわ」

つかさ「空手か、柔道か、いや柔術か……」

亜季「正解であります。ちなみにでありますが、警部補殿の武道歴は20年であります。柔道空手剣道すべて有段者であります」

留美「そんなこと言わなくてもいいわ。ついでに、少林寺拳法も黒帯よ」

つかさ「そりゃ、勝てないな……」

留美「調べさせてもらうわ」

つかさ「勝手にすれば」

留美「刑事課の案件ではないわね」

亜季「ボロボロと出てくるでありますな。この帳簿は明らかに非合法的なことに利用しているのでしょうな」

留美「応援を呼びましょう。新田巡査に呼ばせて」

亜季「了解であります」

留美「……しかし」

つかさ「なんだよ」

留美「違うわね。こんなものを見つけるために来たんじゃないわ」

つかさ「……」

留美「どこに……」

亜季「警部補殿、しばらくしたら応援が来るであります」

留美「少年課?」

亜季「一応」

留美「あら、夏美が来るとなると覚悟しておいてね。怖いわよ」

つかさ「あんたより怖いのかよ、それはそれは」

留美「ずいぶんと余裕ね」

亜季「そうでありますな」

留美「キッチンの方も調べるわ」

亜季「……これは」

留美「糠床……渋い趣味を持ってる人がいるようね」

つかさ「悪いか」

留美「いいえ。別に」

亜季「あなたでありましたか……」

33

GP社オフィス

亜季「一通り調べましたが、目当ての物は見つかりませんな」

留美「なら、代表さんに聞くとしましょう」

つかさ「もう、何もない。調べたらわかるだろ?」

留美「古澤頼子って知ってる?」

つかさ「あれだろ、怪盗」

亜季「この会社を利用したことはあるでありますか?」

つかさ「……ない」

留美「あるわね」

つかさ「ないよ。第一、怪盗が何でウチの会社を使うのさ」

亜季「人集め」

留美「そういうこと。ついでに、聞いていいかしら」

つかさ「なんだよ」

留美「この会社、あなたが起こしたわけではないわね」

つかさ「……なんで知ってんだ」

留美「実は起業者じゃないのは、公にされるとまずいのね」

つかさ「そうだよ……ビジネスプランは前任が作ったんだよ。事故で死んじまったがな」

亜季「事故で……」

留美「良かったわね」

つかさ「何が、だ」

留美「古澤頼子に潰されなくて」

つかさ「は?」

留美「利用価値がまだある、というか必要だったのかしら」

亜季「仔細はわかりませんが、これで確実でありますな」

留美「ええ。古澤頼子に売った名簿があるわね」

つかさ「ないって。本当に古澤頼子は知らないんだ」

留美「でも、まだ余裕を保てるくらいに上客がいるでしょう」

つかさ「諦めてるだけ」

留美「死ぬ気でやるが信条じゃないの?」

つかさ「良く調べてんな、おい」

亜季「しかし、隠し場所はどこでありますか」

留美「最近見た刑事ドラマだと……」

亜季「あー、検事のやつでありますな。残業中に流れてたあれですな」

留美「女政治家の隠し帳簿、どこにあったかしら」

亜季「糠床の中でありました」

留美「まさか、そんな所に隠してないでしょう」チラッ

つかさ「そ、そんな所に隠さねぇって」

留美「調べましょう」

亜季「了解であります。手袋手袋っと」

留美「糠漬けは、いい出来栄えね」

亜季「あったであります!」

つかさ「あーあ……」

留美「中身の確認を」

亜季「……あの」

留美「……ええ」

亜季「これは、想像以上にまずいであります」

留美「隠しておけば、今後、何とでもなりそうね」

つかさ「まったく、お手上げだよ、あんたらには」

留美「大和巡査部長」

亜季「わかっております。内密に」

留美「お願いするわ」

34

車内

亜季「……これからどうするでありますか?」

留美「結局、古澤頼子にまでは到達しないのね……」

美波「あの、次の犯行予告はあるんでしょうか」

留美「今のところ、連絡は来てないわね」

亜季「あったとしても、私達にすぐには飛んでこないであります」

留美「さて、どうしようかしらね」

美波「とりあえず、署に向かって良いですか」

留美「ええ、お願い」

35

警察署内・会議室(古澤頼子対策本部)

留美「あら、交通課のお二人は何の用かしら」

片桐早苗「美世ちゃんが気になることがあるって」

片桐早苗
交通課所属の巡査部長。原田美世のバディ。

原田美世「このバイクの映像なんですけど……」

原田美世
交通課所属の巡査。片桐早苗のバディ。春に念願の交通機動隊に異動予定。

亜季「最近の古澤頼子のものでありますな」

美世「はい」

留美「何か気になることでも?」

美世「運転技術がとても上達しています」

美波「そうなんですか?」

早苗「うん。明らかにうまくなってる」

亜季「確実に逃げられますからな。途中で捨てるようなこともありませんし」

美世「それだけならいいんですけど……」

留美「何か?」

美世「二つの映像、比較して見てください」

亜季「うーむ?」

留美「ごめんなさい、わからないから説明して」

早苗「よく見て。違うから」

留美「……ん?」

美波「何か、わかったんですか?」

留美「バイクが違うの、もしかして」

美世「はい。外見がかなり似せてあるので判別は難しいですが」

早苗「そう。片方はなんていうか、あらゆるバイクの寄せ集め、キメラみたいなやつだけど」

美世「もう片方は、とある車種を改造したものです」

留美「それは?」

美世「CB1300」

早苗「俗に言う、白バイよ。しかも、うちで採用されてるやつ」

亜季「なんと……」

美世「途中で入れ変われば、確実に逃げられるはずです」

美波「……そんな」

留美「運転技術も上かつ、無線も筒抜け、ということね」

早苗「そういうこと。古澤頼子もこの身代わりのおかげで運転が向上してるんでしょうね」

亜季「となると……」

早苗「こっちの情報漏れてるのは間違いなさそうよ」

留美「交通課も期待できない、と」

美世「……はい」

亜季「バイクに乗せた時点で負けということでありますな」

留美「やっかいね……」

美世「……」

留美「原田巡査、この身代わりを特定できる?」

美世「……はい、予想はついてます」

留美「そう。まぁ、止める手段はいくらでもあるわ。安心しなさい」

36

警察署内・和久井班室

美波「……警察内に内通者がいるなんて」

留美「前から言われてたわ」

亜季「そうでありますな」

美波「そうなんですか?」

留美「ええ。というか、その方が確実にやりやすいじゃない」

亜季「少なくとも、情報が流れていると」

美波「誰なんでしょうか」

留美「……実はかなり上層部に一人」

亜季「これは秘密であります。というか、立件は不可能であります」

留美「本当に小さなことしかやらないから、無理だったの」

亜季「一警察官で勝てる相手ではありませんな」

美波「……」

留美「やめておきましょう。中の闇を見続けると、外が見れなくなるわ」

美波「……はい」

志乃「お疲れ様」

留美「お疲れ様です、課長」

志乃「さっきの会社の件はお手柄だったようね」

亜季「偶然であります」

志乃「偶然も、引き寄せようとしなければ得られない」

留美「確かにその通りです」

志乃「今後の処理は私達に任せなさい。なんとか、するわ」

留美「お願いします」

志乃「今日は帰りなさい……来るべき時に備えて」

美波「はいっ」

37

幕間

寛大な判決が下された時に、彼女は呟いた。

お願いだから、罪を償わせて。

その罪に見合った刑を。

2人を明確な殺意で殺害した罪に。

最短で4年という判決。

望んでくれた人のためにそれを受け入れた。

でも。

それで赦されるとは、自分を赦せるとは思えなくて。

友人のように赦せる力を持っていなくて。

彼女は、小さな部屋の隅で小さく泣いている。

幕間 了

38

3日後

亜季「警部補殿!」

留美「なによ、午前中から何か問題でも……」

美波「会議室集合です!」

留美「古澤頼子、ね」

亜季「そうであります!犯行予告が出ました」

留美「遂に来たわね……場所は?」

美波「ヴィトライユという結婚式場です!」

留美「……結婚式場?」

39

結婚式場ヴィトライユ・裏口前

結婚式場ヴィトライユ
オシャレと評判の洋風庭園付き結婚式場。名前のとおり、3階披露宴会場及びレストランルームのステンドグラスで有名。

留美「なんだか、人が多いわね。結婚式をやってるの?」

美波「いいえ、今日は結婚式の予定がありません」

留美「でも、ドレス姿の女の子が多いわよ」

亜季「撮影だそうであります」

美波「はいっ、テレビと雑誌の合同企画だそうで」

留美「確かに、綺麗な花嫁さんだらけね」

亜季「そんなわけであります。絶対延期できないから、犯行予告があろうが続けさせてくれ、とのことです」

留美「それは別に構わないわ」

亜季「何故でありますか?」

美波「予告がニセモノだから……?」

留美「違うわ。大切なものって曖昧すぎるわ」

亜季「物ではなく、人の可能性もあると」

留美「そういうこと。ついでに、結婚式場に損害賠償払いたくないもの」

亜季「世知辛いでありますなぁ」

美波「あと、3階なんですけど」

留美「レストランフロアね。ここでは何を?」

美波「ケーキバイキングです」

亜季「はい。披露宴の予定もありませんし、撮影を見れるということで、ケーキバイキングをやっているそうで」

留美「商魂たくましいわね」

美波「警察は入るのはただでいいけど、もしケーキに手をつけるようなら料金を払え、と言われました」

留美「食べたいならお金払えばいいじゃない。止めないわよ」

美波「いえっ、勤務中ですので」

留美「そういうところは真面目なのね」

亜季「時間までは来ないでありましょうから、ケーキもいいかもしれませんな」

留美「まだ早いわね。話でも聞きに行ってみましょうか」

40

結婚式場ヴィトライユ・2階

亜季「2階は撮影の控室であります」

美波「普段も式の控室として使われてます」

留美「CGプロダクションの控室はどこ?」

美波「そこのセムプロダクションの隣です。なにかあるんですか?」

亜季「セムプロはモデル一人だけでありますか。CGプロは……」

留美「知っている名前があったから、訪ねてみるだけよ」

亜季「……」

41

ヴィトライユ・2階・CGプロ控室

西川保奈美「警察ですか?」

西川保奈美
CGプロ所属。歌唱力に自信を持つが、今日はそのスタイルを生かしたお仕事。

留美「はい。お話を聞かせてもらっても?」

保奈美「構いませんけど……」

亜季「あなたが西川保奈美さんで、間違いないでありますか」

保奈美「はい。その、どうかしましたか」

亜季「お元気そうでなによりであります。お会い出来てうれしいであります」

保奈美「そんなっ、私なんて大したものじゃ……」

亜季「同期として謝らせてください。申し訳ありませんでした」

保奈美「……もう、大丈夫です。ありがとうございます」

留美「そう言ってくれてるんだから、頭をあげなさい、巡査部長」

速水奏「あら、どちら様かしら」

速水奏
CGプロ所属のアイドル。17歳とは思えない艶やかさ。なお、彼女の撮影時間は夜。

保奈美「刑事さんです」

奏「刑事さん、何か……そうね、あったわね」

亜季「犯行予告が出ているのは知っているでありますか?」

奏「ええ。さっき、企画の人が来て言ってたの」

留美「何か、対策は?」

保奈美「特には。不審な人や物を見つけたら、すぐに言うようにって」

留美「そんなところよね。何か貴重品は、持って来たかしら?」

美波「ジュエリーとか」

保奈美「ありましたっけ?」

奏「ないとは思うけれど」

小松伊吹「よし、着替え完了。こんな衣装照れるなぁ……って、どちら様?」

小松伊吹
CGプロ所属アイドル。ダンスが武器だが、今日はおしとやかなドレス姿。

奏「警察よ」

美波「はいっ。警備を担当してます」

伊吹「ふーん、そうなんだ。なんだっけ、怪盗が来るんだっけ?」

留美「そうよ。狙いはわからないけれど」

奏「宝石とか、あったかしら」

伊吹「小物とかは事務所から借りて来たけど、高価なものはないよ」

亜季「怪盗に狙われるような?」

伊吹「そうそう」

留美「何か不審なことかあったら教えてちょうだい」

保奈美「わかりました」

留美「ところで……」

木場真奈美「小松君、時間が近付いてるぞ」

木場真奈美
ボイストレーナー。最近はCGプロ関連のお仕事が多い。

美波「あ……」

伊吹「いけないっ。急がないと」

真奈美「急ぐとドレスが汚れるぞ。気をつけて行きたまえ」

伊吹「はい、行ってきまーす!」

真奈美「やれやれ……おや?」

亜季「お久しぶりであります」

留美「噂をすれば。お久しぶり」

真奈美「久しぶりじゃないか。和久井巡査部長に、大和巡査」

亜季「今は巡査部長であります。それに和久井警部補であります」

真奈美「そうだったな。相変わらず、元気そうで何よりだ」

奏「お知り合い?」

真奈美「色々とあったのさ」

保奈美「……」

真奈美「保奈美君、そんな顔をするな。撮影前だぞ、笑顔笑顔」

保奈美「はい、真奈美さん」

真奈美「よろしい。で、こんな所で何を?」

留美「私が聞きたいわよ。ボイストレーナーじゃなかったの?」

真奈美「ボイストレーナーさ。今日は単なるアルバイトだよ、お目付け役さ」

奏「それなら甘えちゃおうかしら。ねぇ、真奈美さん」

真奈美「却下だ。ロクなことじゃないだろ」

奏「あら、お金がかかるものじゃないわ」

真奈美「なおさらタチが悪い」

美波「ということは、こちらに来たのは偶然ですか」

真奈美「そうだが。撮影がない子も何人か、手伝いとケーキバイキングに来てるし、保護者と運転手が必要だったんだよ」

留美「そう。なら、犯行予告が出たことは知ってる?」

真奈美「ああ。さっき聞いたよ」

亜季「何か、心あたりはないでありますか」

真奈美「ないな。古澤頼子の狙いを、一度たりとも当てられたことはない」

奏「あれ?」

留美「どうかしたの?」

奏「詳しいのね、真奈美さん」

真奈美「……色々とあったのさ」

保奈美「真奈美さん、探偵さんの助手をやっていたんですよ。前に」

真奈美「その関連だよ」

奏「探偵さんって、さっき訪ねて来た女子高生?」

留美「違うわよ」

保奈美「高峯のあ、っていう人です」

亜季「……」

奏「保奈美ちゃんが前に言ってた人……そう」

保奈美「感謝してるんです。あの人が止めてくれた、それに……」

真奈美「終わった話はやめにしよう」

留美「……ええ」

美波「あの、何か知りませんか?」

真奈美「……残念だが、何も」

亜季「やはり、そうでありますか」

真奈美「のあがいない、というのもあるが、興味がわかない理由があってな」

美波「なにでしょうか」

真奈美「どうも、古澤頼子らしくない。なんというか、無駄が多いというか……」

留美「無駄ねぇ……」

真奈美「いや、違うな。感情が多い、だ」

美波「感情が多い……」

真奈美「冷血に計画を実施するだけの怪物だったが、今は違う。そんな気がするんだよ」

亜季「ふむ」

真奈美「だから、のあの仇にもならない気がしてな……」

保奈美「……」

真奈美「私からは以上だ。やれることはやってみるさ」

留美「助かるわ。これは私からの餞別よ」

真奈美「箱入りのお菓子とは、気がきくじゃないか」

留美「底をなめたくなるくらい、美味しいわよ。誰かに渡そうと思っていたけど、ちょうど良かったわ」

真奈美「なるほど、ありがたくいただこうじゃないか」

留美「それでは、お気をつけて」

亜季「よろしくお願いするであります」

42

ヴィトライユ・2階・CGプロ控室

真奈美「まったく、人使いの荒い奴に縁があるものだ」モグモグ

保奈美「美味しいですね、これ」

奏「ええ」

真奈美「さて、と」

保奈美「どこかに行くんですか?」

真奈美「挨拶さ。色々な事務所がいるみたいだからな。まずは隣からだ」

43

ヴィトライユ・1階・結婚式場

留美「忙しそうね」

亜季「こっちに構っていられる様子はありませんな」

美波「さっきの、小松さん、でしたっけ、が撮影してますね」

留美「そうみたいね」

亜季「うむうむ。華やかでいいでありますな。警部補殿も着たらいかがでしょう」

留美「なんで、私が」

美波「レンタルもやってるそうですよ」

留美「だから、着ないわよ」

亜季「残念でありますな、きっとお綺麗であります」

美波「そうですよっ」

留美「本番までとっておくわ、大切にね」

亜季「……大切にしすぎないでください」

美波「……はい」

留美「あなたたちねぇ……」

亜季「いいや!ぜひ、警部補殿には行く所まで行って欲しいであります。ウェディングドレスなんて着ないでいいであります!」

留美「……着るわ。絶対に本番で着てやるんだから」

44

ヴィトライユ・1階・駐車場

留美「機動隊は?」

早苗「ここに一人で、他は近くに待機してる」

亜季「この白バイの持ち主は誰でありますか?」

早苗「紹介するね、詩織ちゃんよ」

瀬名詩織「瀬名です……よろしくお願いします」

瀬名詩織
いわゆる白バイ隊員。美しいと評判の白バイ乗り。

留美「よろしく」

亜季「今回の逃走手段は何でしょうか?」

早苗「わかんない。でも、バイクだったら詩織ちゃんにお任せ」

詩織「はい……追い詰めてみせます」

美波「心強いですね」

留美「そうね」

亜季「引き続き警戒をお願いするであります。不審車両の報告ありましたら、連絡を」

早苗「わかってるわ。美世ちゃんと周辺を警邏するから、ここは任せたわよ」

留美「もちろんよ。安心なさい」

45

ヴィトライユ・前庭

留美「あそこが教会の扉ね」

美波「はい。ここでライスシャワーとブーケトスですね」

亜季「ここも撮影で使われておりますな」

留美「逃走経路としては不向きね」

亜季「そうでありますな」

美波「そうですね、機材も多いですし」

留美「ここは大丈夫そうね。もっと警備を強めるべき場所を探しましょう」

美波「了解ですっ!」

46

ヴィトライユ・3階・ケーキバイキング会場

亜季「おお」

美波「わー」

留美「綺麗なステンドグラスね」

亜季「普段はここで結婚披露宴が行われているでありますか?」

美波「そうみたいですね。今はケーキバイキングですけど」

留美「盛況ね」

美波「窓から外を見てる人が多いのは、撮影を見てるからでしょうか」

亜季「そのようでありますな」

留美「本当に色々なモデルがいるのね」

亜季「外国人もおりますなぁ」

美波「綺麗な人が多くて、圧倒されちゃいますね」

留美「これなら見物客も増えるはずだ……わ」

亜季「どうしたでありますか」

留美「ううん、な、なんでもないわ。なんでもないったら」

美波「あの、警部補、慌てすぎです」

留美「……」チラッ

亜季「どうしたでありますか?」

留美「見間違えるはずないわ。うん」

美波「誰か見つけました?」

留美「……いいえ」

亜季「嘘が下手になったでありますなぁ」

留美「とにかく、今は勤務中よ!雑念に惑わされない!」

美波「は、はぁ……」

留美「そうよね……十分にある可能性だったわ。こんなことならもっと早く……」

亜季「警部補殿?」

留美「新田さん、この会場の問題点は?」

美波「え?」

留美「聞いてなかった?」

美波「話題の変え方が急すぎですっ!この会場の最大の問題は、人です」

留美「……さすが」

亜季「入口は四方八方にあるであります。今日は電気もついているので、見通しも良いであります」

美波「犯罪をするなら、人の目につきすぎます」

留美「だけど、利用もできる、と」

美波「人が多く、パニックの発生や人質に取られる可能性もあります」

亜季「なるほど」

留美「いい心がけね。肝に銘じておくわ」

美波「その、想像ですけど」

留美「ついでに聞くけど、その場合、犯人が逃げるとしたらどこかしら」

美波「候補が多すぎます。窓を割っても大丈夫ですし」

亜季「ウィングスーツは古澤頼子の十八番でありますからなぁ」

留美「着陸地点も考えないといけないわね」

亜季「そうでありますな」

留美「あとは……」

美波「あとは?」

留美「探偵さんにでもお話を聞いてみましょうか」

47

ヴィトライユ・1階・事務所

都「あやしい動きはないようです」

亜季「監視カメラは全てここで見れるのでありますな」

留美「あやしい動きはなくて当然。時間にならないと動きはじめないでしょう」

都「それは同感です」

亜季「お聞きしたいでありますが、今回の目的は何でしょうか?」

都「皆目見当もつきません。犯行予告はここと時間しか指定されておりませんし」

美波「大切なものを奪う、でしたっけ」

留美「ええ。今回は物を指定してもいないわ。目的は不明瞭」

都「とりあえず、姿は見せると思われます」

留美「でしょうね。それが計画後なのか前なのかはともかくとして」

亜季「なら、どこから侵入するでありますか」

都「うーん。やはり、ここからでしょうか」

留美「屋上ね」

都「記念撮影のためにスペースがありますし、着陸できるかと」

留美「……まぁ、やりかねないわね」

亜季「ふむ……まぁ、あれでありますな」

留美「出たとこ勝負ね。いつものことよ」

美波「それで、どうしますか?」

留美「やはり、3階を重点かしら」

亜季「そこから階段を警備するとしましょうか」

留美「ええ。上下含めてね」

美波「了解です」

48

ヴィトライユ・3階・ケーキバイキング会場

留美「無線、聞こえるかしら。どうぞ」

亜季『聞こえるであります。どうぞ』

美波『ばっちりです。どうぞ』

留美「最大限警戒を。特に人命最優先で」

亜季『わかっております』

美波『はい』

真奈美「調子はどうだ?」

留美「いつも通り。何か言いたいことでもあるのかしら」

真奈美「悪い知らせを」

留美「どんなことかしら」

真奈美「侵入されてる。おそらく、既に中にいる」

留美「……リストを使った業者がいたのね」

真奈美「そうだ。どこかに紛れている、かもしれない」

留美「となると、裏にまで入り込めるのね」

真奈美「ああ」

留美「私はそれでも構わない。準備はしているから」

真奈美「そうか。それじゃ、良い知らせを」

留美「あら、そんなものまであるの?」

真奈美「直接なんとかするわ、だそうだ」

留美「良くないじゃない、むしろ悪い知らせよ、それは」

真奈美「そうかもしれないな」

留美「わかったわ。よろしく」

真奈美「私は何も出来ないぞ」

留美「車の準備は?」

真奈美「いつでも出来てる」

留美「さすがね」

真奈美「それじゃ、怪しまれないうちに戻るよ」

留美「ええ。お気を付けて」

真奈美「そちらこそ」

49

ヴィトライユ・3階・ケーキバイキング会場

ゴーンゴーン

留美「14時の鐘、警戒を」

亜季『了解であります』

留美「何かしら、モーターが動くような……」

バチン!

亜季『照明が落ちたであります!』

留美「操作室は何をしてんのよ!?遮光カーテンまで閉められたら、真っ暗じゃないの!」

亜季『みなさん、落ち着いてください!すぐに復旧するであります!』

留美「巡査部長、何か不審な音はしないかしら」

亜季『申し訳ありません、騒ぎが大きく……』

パチン!

留美「電源復旧。状況は……」

頼子「皆さま、動かないでくださいな」

亜季『古澤頼子が姿を見せました。少女が一人、人質に。拳銃を所持しています』

留美「……」

亜季『暗視ゴーグルを着用……警部補殿?』

頼子「まずは、大切なことを。爆弾が仕掛けられていますので、逃げたら、起動させます」

亜季『なんと……』

頼子「これは警察の方々に。無線を捨てなさい。この人質の頭を撃ち抜かれたくないなら」

亜季『警部補殿、どうしますか』

留美「あーもう、このクソ女め……無線は捨てなさい、巡査部長」

亜季『非常に不安になりましたが、了解であります』

頼子「聞きわけがよくてよろしいです」

留美「……ニューナンブごときで威張ってんじゃないわよ」

頼子「ふふ……なら、この意味もわかりますね」

留美「ここに協力者がいるんでしょう。わかるわよ」

頼子「かしこい刑事さんで助かりますね」

留美「会場の仕掛けも使って、無駄のない行動、お見事ね」

頼子「褒めてくれるんですね」

留美「これで十分?人質を離しなさい」

頼子「離すとでも?」

留美「離しなさい、その子を人質に取るという意味がどういうことかわかる?」

頼子「さぁ、わかりません……とっても可愛い子だったのでつい」

留美「暗視ゴーグルでずっと見ててその言い訳は……」

頼子「どうしましたか?」

留美「暗視ゴーグル越しで可愛さをわかった気になるんじゃないわよ!?」

頼子「……あの、本当にどうしました」

留美「もう我慢ならないわ」

頼子「あら、無線を隠し持ってたんですか」

留美「無線じゃないわよ。一方通行の、ただの盗聴機」

頼子「ふふ、誰が聞いてるんですか」

留美「聞こえてるわね!こいつ、ぶん殴りに来なさい!」

頼子「ふふ、あははは!」

50

幕間

ヴィトライユ・3階・ケーキバイキング会場

頭につきつけられた拳銃はとっても怖くて。

変な格好している犯人は、高笑いしてるし。

近くにいた刑事さんは何故か猛烈に怒ってるし。

その時、空が暗くなったの。

天井のステンドグラスが盛大に割れて、空から人が降って来た。

真っ白で、まるで羽を伸ばしたように見えて。

本当に天使でも降りてきたのかも。

でも、違った。

真っ白なドレスだった。長い裾と銀髪が宙にふわふわと浮かんでて。

ドレスも銀髪もまだ浮いているうちに。

その人はドレスのスリットに手を入れた。

取り出したのは銀色の銃だった。

カラカラカラとリボルバーが回る。

ガチンと音がして。

その人は、銀色の銃を犯人へと向けた。

「高峯さん……?」

とっても目立つ姿をした、みくのファンがそこに立っていたにゃ。

幕間 了

51

ヴィトライユ・3階・ケーキバイキング会場

頼子「派手に出てきましたね……高峯、のあ!」

高峯のあ「はじめまして、怪盗」

高峯のあ
探偵。美貌と知性と財力、それと溢れんばかりのみくにゃんへの愛を兼ね備える。

頼子「どちらにいたのですか」

のあ「天国よ。空から降りて来たわ」

頼子「冗談が苦手なんですね」

のあ「ええ。だから、ストレートに言うわ。人質を離しなさい」

頼子「ええ、さっきから刑事さんが猛烈な殺気を放っているのでお返ししますね。ほら、受け取ってください!」

留美「このクソアマ!みくにゃんを乱雑に扱うんじゃないの!」

前川みく
みくにゃん。写真集やCDなどのグッズの売れ行きも日本全国で絶好調。噂では国会議員にもファンがいて、裏金をつぎ込んでいるとかいないとか。

頼子「おっと、探偵さんは動かないでくださいね」

のあ「こちらのセリフよ、怪盗さん」

留美「大丈夫?ごめんなさい、怖かったでしょう……こんなに震えて…うわ」

のあ「留美、人質の安全を確認して」

留美「私、みくにゃんを抱きとめてるわ……柔らかくて良いニオイがする……」

のあ「……」

頼子「あの、私よりも憎らしそうな視線を向けるのをやめませんか」

のあ「留美!」

留美「わかっています。こちらへ」

のあ「人質は離れたわ」

頼子「そうですね」

のあ「さて、どうするのかしら、怪盗」

頼子「まぁ、目的は達成しましたし」

のあ「目的は私ね」

頼子「頑固な人ですねぇ、さっさと出てくれればいいのに」

のあ「私に何の得があるのかしら」

頼子「探偵さんとして、名をあげるチャンスでしょう?」

のあ「そんなものはあそこにいる小さな探偵さんに譲るわ」

頼子「ふふふ、でも我慢できなくなりましたか?」

のあ「違うわ。終わりにするから出てきただけよ」

頼子「そうですか、何故ですか?」

のあ「あなたはここから逃げられないからよ」

52

ヴィトライユ・3階・ケーキバイキング会場

頼子「うふふ、自信があるんですね」

のあ「まずは一つ目」

頼子「話しますか?」

のあ「撃つなら、少なくとも道連れにするわ。反応速度は銃弾が届くよりも早い」

頼子「なら、構えてるのも無駄ですね。こっちにします」

のあ「起爆装置?」

頼子「ええ。どうぞ、お話になってください」

のあ「さて、あなたは何が目的だったかしら」

頼子「それはあなた」

のあ「なら、誰が必要か」

頼子「答えは出ていますね?」

のあ「そう。だから、確実に連れて来る必要がある」

頼子「……」

のあ「留美がリストをくれたわ。ここに記載されていて、みくにゃんに接触できる人物。そして、一つ目の逃走経路を確保してるのは」

頼子「リスト、残ってたんだ。あの社長も、狡猾ですね」

のあ「小松伊吹よ。真奈美!」

真奈美「確保してるぞ。問題ない」

頼子「あら、お久しぶりですね」

真奈美「……」

のあ「では、二人目。簡単に犯罪が成功する理由」

真奈美「間違いなく、それは情報だ」

のあ「そう。それも警察の」

真奈美「おそらく、処分を指示したんだろうな。だけど、残ってしまった」

のあ「情報を流している警察官の名前もそのリストにはある」

真奈美「大和巡査部長、聞いていいか」

亜季「何でありますか」

のあ「一つの偽物の情報を含めて、動いた人物がいるわね」

亜季「……ええ」

のあ「こちらの様子を探り、警察が用意した偽の犯行予告に過剰に反応した人物」

真奈美「ついでに、警備を浅くしておいた、逃走経路にいるのが内通者だ」

のあ「名前は、新田美波」

亜季「先ほど、扉に細工をしている所を確保しました」

頼子「ふふ」

のあ「今は施設を動かせる位置に協力者もいない」

真奈美「さて、どうするかな」

頼子「ふふふ、あははははは!」

真奈美「何か、おかしいか」

頼子「さすがですねぇ、そうでなくては面白くありません、高峯のあ!」

のあ「終わりよ、怪盗」

頼子「では、予告通りに。大切なものを頂きます」

のあ「観念なさい」

頼子「教わりませんでしたか?」

のあ「なにを」

頼子「最後は誰も信じられないんですよ」カチッ

真奈美「なっ!」

ボーン!

のあ「爆発……」

頼子「それでは、ごきげんよう!」

真奈美「ゲホッ、酷い煙だな!」

亜季「そこを動かないでください!安全を確認してから逃げるであります!」

留美「のあ!」

のあ「無事なの?」

留美「私は無事よ」

のあ「留美じゃないわよ。あなたの心配なんかするだけ無駄」

留美「みくにゃんも無事に決まってるでしょう。私を誰だと思ってるのかしら」

真奈美「爆発はどこだ?」

留美「爆発は三つ。一つは駐車場、白バイが爆破されたわ。二つ目は窓ガラスを割るためのもの。三つ目は煙を出すためだけ、のようね」

のあ「……」

都「あ、あれを!」

亜季「被疑者、バイクで逃走中であります!」

留美「さっさと無線機拾って連絡を!追えるわね?」

真奈美「白バイが爆破されてるぞ」

のあ「そうね。逃げることに関しては、かなり気を使ってるみたいね」

留美「なんでそんなに余裕なのかしら」

のあ「警察は迅速な行動を」

留美「わかってる。あなたは?」

のあ「考える。真奈美」

真奈美「なんだ、のあ」

のあ「着替えるから、手伝って」

真奈美「……そういや、ドレスのままだったな」

53

ヴィトライユ・1階・事務所

のあ「お疲れ様」

亜季「おや、着替えてしまったのですか」

のあ「ええ。流石に動きづらいもの。それで、大和巡査部長、現状は?」

亜季「特に怪我人はおりません。無事に一般人の避難は終えております」

留美「今から現場検証に入るわ」

のあ「よろしく。真奈美、監視カメラは」

真奈美「完全に死角に入られてるな。ここまで内部の状況を把握してるのか」

留美「ええ。古澤頼子の姿はとらえられていないわ」

のあ「聞いていいかしら」

亜季「なんなりと」

のあ「小さな探偵さんは?」

亜季「パトカーに同乗して、逃走した古澤頼子を追っております」

のあ「ふむ。何か、言ってたかしら?」

留美「高峯のあをおびきだすため、だったとは言ってたわね。あと、あなたへの愚痴も」

のあ「私に?」

亜季「はやく出てきてくれれば、こんな事態にならなかったのに、と」

真奈美「まぁ、ごもっともだな」

のあ「犯行予告の度に駆り出されるのは、疲れるじゃない。あなたがいて、助かったと伝えておいて」

留美「会ったら、伝えておくわ」

のあ「……いや、直接言うからいいわ。真奈美、小松伊吹については?」

真奈美「桐生つかさの会社に情報を伝えて、お金をもらった。そのすぐ後に、古澤頼子、の関係者らしき人物から接触されてる」

亜季「とはいえ、特に何かをしていたわけではないようでありますな」

真奈美「そうだ。しかし、今回は違う」

のあ「今日の情報を提供し、人質まで用意した」

留美「逃走経路の確保も」

亜季「ええ。CGプロは以前にもここを利用していまして、内部を知っていた可能性が高いと思われます」

真奈美「彼女に関してはそんな所だ」

留美「真奈美さんから見て、以前からあやしい動きはなかったのかしら」

真奈美「気づけなかったな。警部補からリストを貰わなかったら、見逃していた」

のあ「では、リストのもう一人、新田美波については」

亜季「現在、署の方へと送っております」

留美「思った以上に、近くにいたわね」

真奈美「彼女に怪しい動きはあったのか?」

亜季「思い当たる点は色々と」

留美「あなたのことも探ってたわよ」

のあ「私の死んだふりも役にたったでしょう」

亜季「嘘は得意でないであります。これからはやめてほしいであります」

のあ「わかったわ、大和巡査部長」

真奈美「彼女もリストからか」

留美「そのようね。古澤頼子から、警察官になるように勧められてた」

真奈美「入った時点でスパイか。困ったもんだな」

のあ「合理的ね。電源に細工をしたのは彼女?」

亜季「そのようであります」

留美「こちらも逃走経路を確保していた。空からあなたが降って来たせいで、プランは崩れたみたいだけど」

亜季「生来の気質が、真面目で計画的、とっさのアドリブが苦手のようであります」

留美「冷静そうだけど、顔にも感情が出るタイプ」

のあ「悪事に向いてないわね」

留美「ええ……そのまま真っ当な警察官になって欲しかったわ。優秀な部下候補を失った」

亜季「……そうでありますな」

のあ「青いバイクで逃走している、怪盗については」

留美「オフレコで。この部屋だけの秘密よ」

真奈美「何かわかったのか?」

留美「追ってるのは、3階に姿を現した彼女ではないわ」

のあ「そう」

亜季「正体についても、ほぼ確定しております」

真奈美「この、リスト上の人物か?」

留美「ええ。名前が違うから偽名で登録したようね」

亜季「だから会場の一番近くに配置させたのですが、実行されました」

留美「動かないと思ったけど、簡単に立場を捨てたわね」

のあ「覚悟があるのね」

亜季「原田巡査の話によりますと、単に技術が見せられればそれで良いのではないかと」

真奈美「職人気質だな」

のあ「なら、警察がそれを隠す理由は?」

留美「単に時間稼ぎ」

真奈美「どういうことだ?」

のあ「次があると、踏んでるのね」

留美「その通り。だから、追っている間は時間稼ぎになる」

のあ「次の犯行を急がないから、ね」

留美「そういうこと。瀬名さんには逃げ続けてもらいましょう」

真奈美「なら、私達がやることは」

のあ「怪盗の次の出現場所を当てること」

54

ヴィトライユ・1階・会議室

のあ「お帰り、真奈美。わかったことは?」

真奈美「桐生つかさの会社を使った業者を問いただした」

のあ「詳しく」

真奈美「エキストラだ。芸能事務所で募集かけると高いから、素人の女子高生を使ったようだ」

のあ「それで?」

真奈美「身長165センチくらいの高校生が来たそうだ。長髪の、ご注文通りの」

のあ「名前は水野翠?」

真奈美「さすがにその名前は語れないみたいだな。聞いたこともリストにもない名前だ」

のあ「偽名ね。これで怪盗は、堂々と2階へと入りこんだ」

留美「侵入経路は確定。なら、逃げる時は?」

のあ「囮に視線を注目させた。客に紛れていた可能性もあるわね」

亜季「大胆であります」

真奈美「なぁ、のあ」

のあ「なにかしら」

真奈美「ばれない自信があるのか?」

のあ「それはそうでしょう。だって、古澤頼子じゃないんだから」

留美「あら、断言するのね」

のあ「似ているけど、別人でしょう。ほかならぬ、私が言うのだから」

亜季「なら、誰でありますか?」

のあ「それは、わからない。留美、リストに載ってた人物、調べは終わった?」

留美「ええ」

亜季「井村雪菜、吉岡沙紀、瀬名詩織、小松伊吹、新田美波はおわかりの通りであります」

留美「一人、行方不明者がいたわ。死亡も一人。この二人よ」

のあ「……へぇ」

真奈美「何か、わかったか」

のあ「なら、なんで今日だったのか。私を呼び出す必要があったのか……」

亜季「高峯殿、何かわかったでありますか」

のあ「今日……今日?」

真奈美「今日がどうかしたのか」

のあ「大切なもの……」

留美「去り際に言ってたわね、大切なものを頂くとか」

のあ「留美」

留美「なにかしら」

のあ「久美子に死体を調べさせて。火事の死体を」

留美「は?」

のあ「真奈美、車を出して!」

真奈美「わかったから落ち着け。どこへ行くんだ?」

のあ「拘置所よ。早く!」

55

幕間

翠「新聞を捨てていただけませんか」

一語一句同じ言葉を巡回している職員にかける。

同じようにスクラップがしてある、新聞紙を手渡す。

習慣になりかけの短い動作、その間隙。

翠「ありがとうございます」

カギを奪われていることに気づいた時には、水野翠は牢にいなかった。

幕間 了

56

某拘置所前

真奈美「のあ、どうだった?」

のあ「もう出てるわ。ルートは教えてくれたわ。これを」

真奈美「急ごう」

のあ「警察は?」

真奈美「近くの電波塔がやられているらしい、ここいらで電話が通じない」

のあ「もしかして、無線も?」

真奈美「そうだ。前にもあったな、こんなことが」

のあ「急いで、間違いない」

真奈美「わかってるさ。シートベルトをしたな?行くぞ!」

57

幕間

姫川友紀「ホントはあんまり話しちゃいけないんだけど、二人しかいないし言っていい?」

姫川友紀
移送車の警備官。竹を割ったような性格。

友紀「そんな、死にたそうな顔しないでさ。笑っててよ」

佐久間まゆ「……え」

佐久間まゆ
2人を殺害した件での刑事罰が確定し、少年刑務所に移送中の少女。

友紀「何人も見てるけど、思いつめてるのわかるよ」

まゆ「……」

友紀「行き先、少年院じゃないから、何か大きなことをしたのは予想つくけど」

まゆ「……はい。私は……赦されないことをしたんです」

友紀「そんなに思いつめなくてもいいと思うんだ」

まゆ「だって……」

友紀「なに?罪を犯したら笑ってもいけないの?」

まゆ「……」

友紀「前に連れて行った女の子冷静すぎて怖かったけど、君も怖いかな。いなくならないでね」

まゆ「……はい」

友紀「待っててくれる人、いる?」

まゆ「……」

友紀「ダイジョーブ?」

まゆ「……います」

友紀「その人のために早く出ないとね。うんうん」

まゆ「まゆは……」

友紀「なに?

ドン!

まゆ「きゃ!」

友紀「何かに衝突された!?頭抱えてて!」

まゆ「はい……」

友紀「止まった……事故った?それにしては横からの衝撃が強かったような……」

まゆ「……何が」

友紀「ごめん、事故ったみたい」

ギー

友紀「あちゃー、後ろのドア壊れたみたい。代わりの車が来ないと……」

頼子「こんにちは」

友紀「おっと……単なる事故じゃないってことか」

頼子「その子、渡してもらえますか」

友紀「無理。検察から受け取って、刑務所に引き渡す。それがアタシの仕事だし」

頼子「なら、これで大人しくしていてください」バチッ

友紀「がっ……」

頼子「死にはしません。それくらいの電圧です」

まゆ「なんで……あなたが」

頼子「久しぶりだね、まゆ」

幕間 了

58

真奈美「移送車だ!停車してるぞ!」

のあ「見ればわかるわ!横付けして!」

真奈美「言われなくても!」キキー!

のあ「後部扉が開いてる……」ダッ!

真奈美「待て、のあ!」

のあ「まゆ!」

頼子「はい、良く出来ました。でも、動かないように」

まゆ「……のあさん」

真奈美「ちっ、遅かったか」

頼子「まずは下がりなさい。車内は狭すぎるので」

のあ「……」

頼子「そうしないと、この子の頭をぶち抜きますよ」

真奈美「下がるぞ、のあ」

のあ「ええ……」

頼子「腰の銃を抜かないでくださいね、助手さん」

真奈美「……わかってるさ」

頼子「流石は高峯のあ、狙いもお見通しですか」

のあ「まゆ、だったのね」

頼子「だって、大切でしょう?」

のあ「その通りよ。そして、そうだからこそあなたの正体は確定したわ」

頼子「ふふ」

のあ「古澤頼子の遺産を使える位置にいる」

真奈美「バイクの運転も出来る」

のあ「私の情報を知っている」

真奈美「なおかつ、リスト上の人物」

のあ「そして何よりも、ここに来れること」

真奈美「のあが大々的に報道されても隠しつくした、佐久間君の存在を知っている」

のあ「まゆを見て、まゆだと判別できるほどに知っている」

真奈美「暗視ゴーグルで目元は隠さないといけない風貌。だが、古澤頼子に似てはいる」

のあ「暗視ゴーグルを外しなさい、渋谷凛」

59

渋谷凛「へぇ……やっぱり凄いんだね」

渋谷凛
古澤頼子の部下。まゆと同じ拘置所に一時期おり、とある命令を下されていた。

のあ「認めるのね」

凛「隠してもしかたがないかな。お望み通りにゴーグル外してあげる」

まゆ「凛ちゃん……どうして……」

凛「そんなにもったいぶって言わなくても、まゆがわかってたのに。そう思わない、高峯のあ?」

のあ「火事は偽装だったのね」

凛「そうだよ。古澤頼子は似通った背格好の女の子を集めてたから、用意するのは簡単だった」

真奈美「……なるほど」

のあ「そのついでに、両親を放火で殺したの?」

凛「そういうことになるかな」

まゆ「え……」

のあ「何のためにこんなことを。古澤頼子は死んだわ、あなたに命令する人物はいないのに」

凛「そうだね、古澤頼子は死んだ。でも、不公平だよね」

のあ「何がかしら」

凛「なんで、死んでないの、あんたは」

のあ「……私は古澤頼子に言われた通りに落ちたわ。彼女の筋書き通りに」

凛「そんな言い方……」

のあ「ええ。落ちたからといって確実には死なないわ。それは古澤頼子もわかっていたはず」

凛「……」

のあ「古澤頼子は落下前に自分の首を折ったわ。確実に死ぬために」

凛「なにを言ってるの……」

真奈美「……のあ、言うな」

のあ「計画は不完全だった。それだけよ」

凛「ふざけないで!あの人を侮辱しないで!」

のあ「古澤頼子はあなたに何をしてくれたの?」

凛「私には大切だった。あの人しかいなかった」

まゆ「……」

のあ「それで?」

凛「なりたかった。あの人みたいに。どこまでも強かった、あの人に」

のあ「なれないみたいね、あなたは」

凛「そうだよ。だからあの人がいないとダメなんだ。なのに……」

のあ「……」

凛「なんで、生きてるの。私は大切な人を奪われたのに!なんで、この子は何も失ってないの!」

のあ「……」

凛「なんで、なんで、私だけ、私だけ大切なものを持ってないの!?せっかく手に入れても、奪われる、こんな、こんな不公平は許せない」

まゆ「……それは違います」

凛「なに……」

まゆ「まゆは……まゆは失ったのに、凛ちゃんは、自分から燃やしてしまった……」

のあ「両親を殺しておいて、身代わりも一人殺して、何が得たかったの、あなたは」

凛「……」

のあ「古澤頼子は何もあなたに与えてくれないわ。特に、あなたが欲しいものは」

真奈美「……犯罪の仕方しか、教えてもらえなかったろ」

凛「うるさい!うるさい!黙って!」

のあ「やめましょう、渋谷凛。あなたは古澤頼子には成れないわ」

真奈美「古澤頼子に目をかけてもらいたかった、渋谷凛のままだ」

凛「うるさい……あなたは黙って、私の要求を聞けばいい」

のあ「まゆ!」

まゆ「ひっ……」

凛「まゆを殺されたくなかったら、死んで、高峯のあ。まゆの前で」

60

のあ「なるほど、私だったわけね」

凛「死に方はなんでもいいよ。選ばせてあげる」

のあ「確かにそうね。あなたにとっての古澤頼子は、まゆにとっての私」

真奈美「嫉妬を覚えるのは同じ立場の人間に、か」

凛「うるさい。この子がどうなってもいいの」

のあ「大切なものを失わせる、か」

まゆ「……のあさん」

のあ「大丈夫よ、まゆ。あなたは助けるわ」

まゆ「まゆは……どうなってもいいです」

真奈美「何を言って……」

まゆ「まゆは、のあさんが生きてればそれで……いいんです。だって」

のあ「あなたはちゃんと裁かれたのよ。法と良心で」

まゆ「それでも……まゆはまゆを……赦せないんです」

のあ「そんなことないわ!私は待ってる!」

まゆ「……ごめんなさい、のあさん……殺して」

凛「いいね、吐き気がするような思いやり。やっぱり、高峯のあに死んでもらおうかな」

まゆ「え……」

凛「それで、どうする?」

のあ「……」

まゆ「のあさん、やめて!」

61

ヒュン!

凛「えっ……矢?」

真奈美「矢で拳銃を撃ち抜いた?そんなこと……」

凛「なんで、邪魔を……」

のあ「まゆ!」

まゆ「のあさん!」

のあ「大丈夫よ、まゆ」ダキッ

真奈美「止まれ、渋谷凛!」カチッ

凛「銃はもう一つあるし。もういいや、二人とも死ねばいい」

のあ「……守るわ、まゆ」

真奈美「ん?」

凛「ばいばい」カチッ

まゆ「のあさん……怖い」

のあ「大丈夫……」

62

まゆ「……」

のあ「……」

真奈美「目をあけろ、無事だ」

友紀「はーはー……警察官なめるな!あー、もー、あったまいたい!」

のあ「……渋谷凛は?」

真奈美「警棒のフルスイングで気絶した」

友紀「あー、やばい、懲戒ものだー。やりすぎた。後遺症とか残らないよね……」

真奈美「すぐに搬送すれば、大丈夫だとは思うが」

友紀「ふー。脳震盪ですんでね、お願いだからさ」

のあ「無事ね、まゆ」

まゆ「……はい。でも、離してください」

のあ「嫌よ。もう少し、このままで」ギュ

まゆ「のあさん……まゆは、抱き締めてもらう資格なんて……」

のあ「黙って、何も言わずに抱かれてなさい」

まゆ「……だって」

のあ「私に何も相談しないで、勝手に行動して、遠くに行ってしまって……そんな、あなたに口答えする資格なんてないのよ。だから、このままでいなさい」

友紀「見てない、見てなーい。私は移送中に部外者と接触なんてさせてなーい」

真奈美「……のあ」

のあ「まゆ、言わせて」

まゆ「……はい」

のあ「司法はあなたを裁いてくれたわ。それでいいのよ」

まゆ「……」

のあ「だから、赦してあげて。あなたを」

まゆ「まゆは……」

のあ「一日でも、いや、一秒でも早く戻ってきなさい」

まゆ「……」

のあ「口応えなんてさせないわ。私はいつだって私が思う通りに。これは命令よ、まゆ」

まゆ「のあさん、まゆを……まゆを」

のあ「続きは言わなくていいわ。待ってるから」

真奈美「……言っても減るもんじゃないぞ」

のあ「そうね。じゃあ、私から言うわ。愛してる、まゆ。だから、あなたが何者でもいいから処罰を終えて戻ってきて。約束よ」

まゆ「……はい、のあさん」

のあ「泣かなくていいわ。元気にしてるのよ、まゆ」

友紀「いいの?今なら連れて逃げていけるよ」

真奈美「いいんだよ、これで」

のあ「まゆをお願いします」

友紀「任せておいてー」

のあ「またね、まゆ」

真奈美「元気でな、待ってるぞ」

まゆ「ありがとう……のあさん、真奈美さん」

63

幕間

翠「二射目を中てる自信がありませんでした……腕が鈍ったようです」

頼子「一射目はお見事でしたよ、水野翠。殺さないようにするあたりが素晴らしいです」

翠「……」

頼子「そんな顔しないでください」

翠「あなたが本物でしょうか」

頼子「それを聞くことに意味があると思いますか?」

翠「はい。私の上司は、破滅願望があったあの方だけですから」

頼子「あの古澤頼子は素晴らしい部下に恵まれたのですね……質問の答えはその古澤頼子ではありません。古澤頼子ですらありません」

翠「……」

頼子「アイデンティティなんて弱者の楯ですよ。私は何者でもないんです」

翠「犯罪を提供するだけの存在」

頼子「はい。だから、誰でもいいんです。水野翠、次の私になりませんか」

翠「お誘いいただきありがとうございます。ですが、不可能です」

頼子「あなたならなれると思うのですが。家からも勘当されて、失うものはありません。あなたは私に似ていると思いますよ」

翠「いいえ……それでも水野翠のようです。私は、それ以外にはなれないようです」

頼子「残念です」

翠「……これで終わりですね」

頼子「これでこの町の古澤頼子は完全に破滅しました。あの社長なら、リストを処分しないと見込んだだけありますね」

翠「警察に一網打尽にさせるために残していたのですか」

頼子「そうだと思いますよ。それで、あなたはどうしますか?」

翠「私は……罪を償います」

頼子「それがいいでしょう。お礼を言いますね、ありがとうございます。偽物含めて全ては終わりました」

翠「あなたは、これから何をするのでしょうか」

頼子「完全に闇へと消えます。次は世界レベルですよ、いかがです?」

翠「……応援はしません」

頼子「真っ当です。そうですね、言葉以外のお礼を与えましょう」

翠「受けとっておきます」

頼子「この姿を見られたからには殺す所ですが、生きさせてあげます。いらないと言ったら、殺しました」

翠「……関わるべきではなかったですね。やはり」

頼子「その通り。それでは、ごきげんよう」

幕間 了

64

警察署内

留美「お疲れ様」

のあ「他の展開は?」

亜季「無事に終息しております」

真奈美「渋谷凛はどうした?」

留美「意識は取り戻したわよ。特に大きな外傷はなし」

のあ「そう」

亜季「先ほど、松山殿より連絡があったであります。死体の身元が判明しました」

のあ「……」

留美「今のところはこんな感じだけど、他に何かあるかしら」

のあ「ありがとう。最後は、向こうから来るでしょう」

留美「ん、何のことかしら?」

のあ「気にしなくていいわ」

亜季「あと、非常に申し上げにくいのですが」

のあ「何かしら」

亜季「ステンドグラスの修復代が大変なことに……」

のあ「……」

真奈美「まぁ、のあなら払えない金額じゃない、よな?」

のあ「わかってるわよ。前より良いものを提供してあげるわ」

留美「よろしく」

のあ「ところで」

留美「何かしら」

のあ「みくにゃんは?」

留美「プロデューサーが迎えに来たから、帰ったわよ」

のあ「……遅かったようね」

真奈美「あのさ、一応私は連絡取れるんだが」

のあ「そんなのは負けよ。権力の横暴はみくにゃんファンには許されないことよ」

留美「私はサインをもらったわ。感謝の言葉も」

のあ「……なんてやつ。この国の警察は腐敗してるわ」

留美「ふふふ……それじゃ、後始末に戻るわ」

のあ「留美、ありがとう」

留美「感謝されるようなことはしてないわ。仕事をしただけ、よ」

のあ「そうね。私も、探偵らしくケリをつけるわ」

65

数日後

都「……こんにちは」

のあ「こんにちは、小さな探偵さん」

真奈美「ようこそ、高峯探偵事務所へ」

都「喫茶店じゃなかったのですか」

のあ「喫茶店は1階よ。看板を見なかったの?」

真奈美「別の所で再出発したい、という話を聞いてな」

のあ「前のテナントが出る所だったから、オーナー権限で呼び寄せたのよ」

真奈美「その前に、3階で試験営業していただけさ。店の名前は引き続き、st.Vだ」

のあ「紅茶」

都「紅茶?」

のあ「美味しかったでしょう?」

都「ええ……ですが、あなたが死んでいることになっていた理由にはなりません」

のあ「そうね」

都「なぜ、出てこなかったのですか」

のあ「そうね、面倒だったということもあるけれど」

真奈美「決定的なことがある、古澤頼子の正体だ」

のあ「最初から別人だとは踏んでいたわ。私の評判は地に落ちてるし、死亡説も根強いからそのままにしておいた」

都「でも、狙いはあなたでした。すぐに出てくれば、事件は防げたはずです」

のあ「ええ。だから、出なくてよかった。息を潜めていた成果はあった」

真奈美「会ってはいけない人物に会っただろう、小さな探偵さん?」

都「……何を」

のあ「高森藍子に会ったわね。しかも、拘置所の前で」

真奈美「知っててはいけないはずだ」

のあ「私の生存まで隠してくれた、警察くらいしか知らない情報よ」

真奈美「しかし、君は知っている」

都「……」

のあ「この事件は、私に対する意趣返しよ。古澤頼子に陶酔していた渋谷凛なら、受け入れがたいことがあるはず」

真奈美「怪盗が探偵に作られたもの、だということだ」

のあ「だから、逆が必要よ」

真奈美「怪盗に作られた探偵だ」

のあ「それがあなたよ、安斎都」

66

高峯探偵事務所

都「何を言ってるのですか?私は正義心で動いているだけです」

のあ「そうね、志はそれでいいわ。一応、探偵稼業の先輩として言っておくけれど、その気持ち、満たせるような機会はほとんどないわ」

真奈美「地味な仕事の連続さ。儲かりもしない」

のあ「それでも貫けばよかったのに。だけど、乗ってしまった」

真奈美「そもそも、おかしいだろう」

都「何が、ですか」

のあ「警察も私も古澤頼子と断定してないのに、扱い方は古澤頼子のそれだった」

真奈美「つまり、誰かが印象付けしている」

のあ「変装した渋谷凛を、古澤頼子だと言った人物は誰かしら」

真奈美「調べてみたぞ」

のあ「最初の犯行予告を防いだ、あなただったわ」

都「な、状況から見てもそう考えるのが普通です!」

のあ「なら、もう一つ。過去の予告状は私か警察に来ていたわ」

真奈美「のあを狙ったものだからな」

のあ「でも、今回は違う。人目につく場所に公開されていた時もあった」

真奈美「それは、なぜか」

のあ「あなたが登場してもいいように、よ」

都「偶然です、偶然……」

のあ「多くの人物が、過去の事件の関係者の中、あなただけが違う」

真奈美「なら、どこから出てきたのか」

のあ「探偵業らしく、追わせてもらったわ。真奈美」

真奈美「これがコピーだ」

のあ「ここには写真があるわ。どうぞ」

都「これは……どこから」

のあ「あなたと渋谷凛の関係を示すもの」

真奈美「学校交流会の一場面だ。二人とも中学生の時だな」

のあ「その後にどのような交流があったのか」

真奈美「それは渋谷凛が家ごと燃やしてしまったから灰の中だ」

のあ「あなたは渋谷凛に協力した」

真奈美「計画を練り、現場で対応した」

のあ「例えば、櫻井邸での逃走のタイミング」

真奈美「あるいは、結婚式場から逃げたバイクに視線を集中させる」

のあ「そして、私のことを探った」

真奈美「古澤頼子という大義名分をつけて、正当化した」

のあ「他の共犯者と一線を画しながら行動した、実行犯にしてブレーン」

真奈美「それが君だ」

のあ「私からは以上よ、安斎都」

都「……」

67

高峯探偵事務所

都「……そうです」

のあ「理由は聞かない。全ては警察に任せるわ」

都「なんだか、ずるいなって」

のあ「……」

都「凛ちゃんが孤独だったのは知ってた、急に連絡が来たのも何か裏があるとは思ってました」

のあ「それでも、協力したのね」

都「凛ちゃんに会った頃には、私は探偵を志していましたから。だから、声をかけたのかな」

のあ「そこで、断らなかったの」

都「……」

のあ「それが、なんだかずるいなってこと、なのかしら」

都「羨ましかった。あなたが」

のあ「私が?」

都「古澤頼子のおかげとはいえ、あなたはスターだった。警察からも信頼されてて」

のあ「……」

都「なんで、私は主人公になれないんだろうって」

のあ「なれないわ。ならなくていい」

真奈美「……」

のあ「こんな稼業で名声なんてあげられないわ。ただ待つだけの仕事なの」

都「……知ってました」

のあ「知っていたなら、なぜ」

都「それでも……主役になりたいんです。せめて、自分の舞台の」

のあ「なら、あなたは負けたわ」

都「……」

のあ「あなたが持っていた志は崩れた。哀れね、安斎都」

都「……」

のあ「そんないい仕事じゃないわ。人間も世の中も、悪い所ばかり見える」

都「……ええ」

のあ「警察でもないから法の後ろ盾もない。唯一信じられるのは己が良心だけ。それを見失ったら、探偵なんて出来ないわ」

都「……そうですね」

のあ「それを捨てたら、探偵ではいられない。それしかないのよ、私達には」

68

高峯探偵事務所

真奈美「これで、全て終わりか」

のあ「ええ。安斎都の口から全ての顛末が語られるはずよ」

真奈美「それにしても、だな」

のあ「何かしら」

真奈美「動機なんて些細なものなんだな」

のあ「……」

真奈美「今回のそれは、羨望というべきものだった」

のあ「憧れるに値しない、そんなものなのに」

真奈美「だが、そんなことでも満たされていなければ憧れにはなる」

のあ「だけど、私の仕事はいつだって外れクジよ。何かが起こってからでなければ、何も出来ない」

真奈美「それでも、続けるんだろう」

のあ「当り前よ」

真奈美「それは、何でだ?」

のあ「私が探偵高峯のあだから。それだけよ」

エンディングテーマ

探し人
歌 前川みく

キャスト

探偵・高峯のあ
助手・木場真奈美

佐久間まゆ

高森藍子

国民的人気ネコちゃんアイドル・前川みく

探偵・安斎都

刑事一課和久井班

警部補・和久井留美
巡査部長・大和亜季
巡査・新田美波

刑事一課長・柊志乃

生活安全課少年班

巡査部長・相馬夏美
巡査・仙崎恵磨

科学捜査課・松山久美子
科学捜査課・一ノ瀬志希

交通課巡査部長・片桐早苗
交通課巡査・原田美世

交通機動隊・瀬名詩織

警護官・姫川友紀

ヘレン

警察署長・高橋礼子

櫻井桃華

相原雪乃
槙原志保
海老原菜帆

ライラ

西川保奈美
速水奏
小松伊吹
他エキストラの皆様

吉岡沙紀

井村雪菜

桐生つかさ

水野翠

渋谷凛

古澤頼子

69

高峯探偵事務所

真奈美「帰ったぞー、のあはいるのか?」

のあ「いるわよ。でも、静かになさい」

真奈美「なんだ、テレビにかじりついて。事件か?」

のあ「ええ……これは世の中を変えるわ」

真奈美「そんな大事件なんてあったか?」

のあ「当り前よ。今日は首相討論よ」

真奈美「なんだか、凄いものを見てるんだな」

女性政治家『これが公開された首相官邸の様子です。見てください、この前川みくグッズの山を!』

真奈美「……は?」

女性政治家『首相官邸は公の場です。一国の首相がみくにゃんにうつつを抜かしていい場所ではありません』

のあ「がんばるのよ……」

女性政治家『今この場で、みくにゃんのファンを辞めるか、政治家をやめるか選んでください!』

のあ「なんて、卑劣な政治家なの!」

電話が鳴ってるよ、早く出るにゃ!にゃにゃにゃん!

真奈美「なんだ、この着信音は……それはともかく、電話が鳴ってるぞ」

のあ「出ておいて」

真奈美「わかったよ。はい、こちら高峯探偵事務所」

首相『みくにゃんのファンを……』

のあ「……」

真奈美「これは警部補、お疲れ様。なに?事件?わかりました」

首相『みくにゃんのファンを辞めることはありません。なぜなら、私は政治家以前に一個人であり、みくにゃんのファンであるからです。その権利を……』

のあ「良く言ったわ!それでこそ、日本の首相よ!」

真奈美「……日本の将来が心配だ」

のあ「さすが、みくにゃんね。私は信じてたわ」

真奈美「……」

のあ「それで、留美からの電話、内容は?」

真奈美「事件だぞ。行くか?」

のあ「ええ、気分がいいから行くわ。車を出しなさい、真奈美」

真奈美「了解。行くぞ、のあ」

のあ「ええ、真奈美」

The End

製作 tv○sahi

オマケ

NGシーン・1

>>57

29

誰?

留美「こんにち、ぷふ」

亜季「ぷふふ」

雪菜「……」ニコニコ

留美「誰よ、ヤマンバメイクを指示したのは!?」

亜季「本当に誰でありますか……」

雪菜「一度やってみたかったんです♪似合います?」

留美「あなたは白い肌の方が似合うわよ、絶対に」

NGシーン・2

>>93

公開できません。

留美「あーもう、この(ピー)で、(ピー)!(ピー)、(ピー)、(ピー)!」

亜季「警部補殿、それは警察官としてダメであります!」

カットカット!

留美「ちょっと熱が入り過ぎたわ」

凛「ちょっと、怖すぎるね」

亜季「こんなもの公開したら、婚期が遠のくであります……」

留美「亜季ちゃん、何か言った?」

亜季「何も言っておりません!」

NGシーン・3

>>118

選択を。

凛「あなたは黙って、私の要求を聞けばいい」

のあ「まゆ!」

まゆ「ひっ……」

凛「みくのファンを辞めるか、まゆを見捨てるか選ばせてあげる」

まゆ「……はい?」

のあ「なんて、ことを……」

凛「さぁ、どっちなの?今すぐ、みくにゃんのファン辞めます、って言える?」

のあ「わ、私はみくにゃんのファンを……」

まゆ「のあさん……」

のあ「言えないわ。みくにゃんのファンを辞められない……ごめんなさい、まゆ……」

凛「あははは。それじゃ、まゆは貰って行くね。さ、行こうか。あそこのお城みたいな所にしようね」

のあ「お姫様だっこ……」

まゆ「た、助けて、のあさーん!」

カットカット!

真奈美「ドッキリをやるとは言ってたが、ここでやるとは……」

凛「うん、凄い表情見れて面白かったよ。ごめんね、のあさん、まゆ」

のあ「……」

まゆ「……」

真奈美「本当に深刻そうな顔をするなよ。さ、仕切り直しだ」

P達の視聴後

PaP「都ちゃんに、なかなか辛い役やらせたな」

CuP「悪役も新鮮だなと思いまして。本人はがんばってくれましたよ」

PaP「ならいいけど。次は主役を用意してやれよ」

CuP「はーい」

PaP「あと、気になったんだが」

CoP「どうかしましたか?」

PaP「ケーキバイキングの会場、頼子ちゃんいるよな」

CoP「おお、良く気づきましたね。いますよ」

PaP「怖ぇよ。映るの一瞬だけど、ずっとカメラの方に向いてるしさ」

CuP「ひぇ……」

CoP「その反応は嬉しい所です」

PaP「にしても、この世界のみくちゃんのファンはやばいな」

CoP「ええ。この首相はロシアの大統領にみくにゃんグッズを渡して、領土問題を進展させるらしいですよ」

PaP「あの、ヘレンちゃんが出てるやつ?」

CoP「はい。世界レベルの人気アイドルになったみくにゃんを宇宙人が誘拐して、それを助け出す話に続くとか」

CuP「この世界は大丈夫なんですかねぇ……」

PaP「むしろ平和な気がする」

おしまい

あとがき

次回作
のあの事件簿宇宙編・侵略者からみくにゃんを救え!
はありません。あしからず。

都P各位、ごめんなさい。
留美さんも、紹介文出落ちお姉さんじゃないことを示したかったけど、なんか更に悪化したような……

タイトルの正しい読み方に気づいた人はいないでほしい。

過剰に劇場版っぽくしているので、のあさん最後の4分の1しか出ないという。

今回もプロフィールネタです。
しぶりんが一番近いはず。目元が違いすぎるけど。

今のうちに白状しておくと、

第1話は嫁と21歳組のステマSSだった。亜季、久美子、惠、時子、優、からほとんどの情報をのあさんは得てるはず。
本気でこれで終わるつもりだった。続き書くつもりだったら1話から頼子さん出すよ。あと嫁を被害者にキャスティングしない。
まゆ絡みの話も書いてる時の思いつき。これで続きが書けるんだから運がいい。

あと、佐久間まゆの殺人のタイトルの元ネタ、
金田一少年の事件簿・金田一少年の殺人を、読んだことがない。ごめんね。
頼子さんがらみで言われてた高遠某も知らなかった始末。
つまるところ、金田一ほとんど知らない。

そんなわけで、のあの事件簿はオマケも終了です。
書く気もないのに布石だけ置いておくと役にたつよ。たまに。

それでは。

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