高峯のあ「のあの事件簿・東郷邸の秘密」 (99)
あらすじ
チケットが取れなかった腹いせに、探偵高峯のあは助手木場真奈美と共に通り魔殺人の調査に乗り出しました
そんな、サスペンスドラマにアイドル達が出るようです
注
グロ注意
あくまでサスペンスドラマです、のあさん喋りすぎだけどセリフです
最初に謝ります、各々担当プロデューサー、ごめんなさい。
では、ノリで書いてしまった4万文字はどうしようもないので投下していきます
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396432268
メインキャスト
高峯探偵事務所
探偵・高峯のあ
助手・木場真奈美
刑事一課・柊組
警部補・柊志乃
巡査長・和久井留美
巡査・大和亜季
のあが大好きなアイドル・前川みく
及川雫「うふふ、今日はケーキですー。小麦粉、卵に、バター、今日はチョコレートもぉー」
雫「みんな、喜んでくれるかなー。ちょっと遅くなったから急がないとー」
雫「よーし、ウチの塀が見えてきましたー」
雫「あれ?人がいるなんて、珍しいですねー」
雫「……!!!」
高峯探偵事務所
高峯ビル3階にある探偵事務所。ビルの所有者であり所長の高峯のあはテナント収入で暮らしていけるらしく、設立はほぼ趣味。
木場真奈美「帰ったぞー、のあはいるか?」
木場真奈美
高峯のあの助手。高峯家の居候でもあり、家事もこなしている。
高峯のあ「真奈美、少し静かになさい。重要な件を抱えているの」カチカチ
高峯のあ
高峯探偵事務所の所長。優秀な頭脳と美しい容姿、そしてとても個性的なパーソナリティで構成されている。
真奈美「仕事か、すまなかった」
のあ「……よし、新しい情報が、きた」
真奈美「君の真面目な顔も久々に見たよ、事件かい?」
のあ「ええ、とっても、重要な……」
真奈美「どうした、のあ?」
のあ「嘘でしょ……」
真奈美「のあ……?」
のあ「なんで、なんで、みくにゃんのライブチケットが取れないの!ファンクラブ、先行、一般まで落ちるなんて!許せない、許せないわ……」
前川みく
高峯のあが大好きなネコちゃんアイドル。のあは地方公演に行くほど入れ込んでいる。
真奈美「いつもの発作だったか。昼食を作るが、ご飯と焼きそばならどっちがいい?」
のあ「焼きそばがいいわ。ああ、みくにゃん……」スリスリ
真奈美「壁にあるポスターを撫でながら呟くのは怪しいぞ、のあ。というか、仕事場なんだからはずせと言ったはずだが」
のあ「みくにゃん、会いたかったわ……」ホオズリ
真奈美「聞いてないな。そんなにアイドルが大事か?」
のあ「当り前よ。私の興味の6割はみくにゃんで出来ている、残り3割が事件よ」
真奈美「事件が9割を越していた時期よりは、人間味が出てきたほうか……。いや、間違ってるような……」
のあ「その6割が奪われた、まずいわよ」
真奈美「まずいと言われても」
いたずら目して、やだもん
真奈美「電話だぞ。というか、事務所の電話の着信音まで前川みくに変えたのか」
ご褒美が欲しいもん
まつ毛が触れるほど急接近
真奈美「出ないのか、私が出るか?」
のあ「自分で出るわ」
なんて甘い、ドキドキしたでしょ
にゃお!
のあ「はい、こちら、高峯探偵事務所」
真奈美「まさかサビが終わるまで出ないのか?」
のあ「いつもお世話になっております、柊警部補。……はい。……なるほど。今は事件へのモチベーションも十分です。……わかりました。それでは失礼いたします」
真奈美「柊警部補から、なんの用だったんだ?」
のあ「真奈美、はやく焼きそばを作りなさい。食べたら出かけるわよ」
真奈美「事件か?」
のあ「ええ。志乃も良いタイミングで電話をくれたものね。ふふふ、みくにゃんのライブを奪われた怨みをぶつけさせてもらうわ」
真奈美「完全に私怨じゃないか……」
東郷邸横・路上
のあ「お疲れ様です」
真奈美「お世話になります」
志乃「よろしく、高峯さん、木場さん」
柊志乃
刑事部一課警部補。柊班班長。勤務中にアルコールは摂取しない。
のあ「状況は?」
志乃「警察の初期調査は終わり。死体もここにはない。詳しい話は部下から聞いて。和久井さん、大和さん」
和久井留美「なんでしょう、警部補」
大和亜季「なんでありましょうか」
和久井留美
刑事部一課巡査部長。柊班所属。高峯のあとは腐れ縁。
大和亜季
刑事部一課巡査。柊班所属。署までは自転車通勤。
志乃「こちら、高峯のあさんと木場真奈美さん。自由に出入りさせて」
留美「知ってますけど。また、この人たちですか……」
亜季「はじめまして、大和亜季巡査であります。これからよろしくお願いいたします!」
のあ「よろしく、大和巡査」
志乃「私と和久井さんは調査本部へ戻るから、何かあったら連絡を」
のあ「わかったわ」
留美「あまり警察の邪魔をしないように、いいわね、のあ?」
のあ「わかってる」
留美「本当かしらね」
志乃「和久井さん、車を出して」
留美「わかりました」
のあ「大和巡査、案内をお願いしていいかしら」
亜季「もちろんであります。ささ、こちらへ!」
のあ「ありがとう。行くわよ、真奈美」
真奈美「ああ
犯行現場
亜季「被害者は及川雫、16歳。昨日午後8時頃に帰宅途中だった、近所のOLにここに倒れているところを発見されました」
のあ「その時点で息は?」
亜季「残念でありますが、死亡推定時刻は昨日午後7時前後。近隣住民の話によると、ここはあまり人通りが多くないようでして、発見が遅れたようであります」
のあ「警察としての見解は?」
亜季「通り魔の線で調査をしております。ただ、場所が狙い澄ましているので、ストーカー等の線を捨てておりません」
真奈美「被害者は高校生なんだな……、悲しい事だ」
亜季「ええ、警察は事態を重く見て、人員を割いて素早い調査に乗り出しました。調査本部も今日8時づけで設置されまして、調査会議も終わっております」
のあ「その様子だと、犯人の目星はついてないのね?」
亜季「おはずかしながら。検問も実施したのですが、あやしい人物はだれ一人として浮かんでこないという……」
のあ「不審者は?」
亜季「周辺の警邏担当である伊集院惠巡査に問い合わせましたが、気になる情報はありませんでした」
真奈美「警察も困ってるのか?」
亜季「そうであります。初期調査もかなり迅速だったのですが」
のあ「ふむん、だから志乃が私に声をかけたのね」
亜季「お噂はかねがねであります、高峯殿。ご助言を頂ければ、と、警部補も申しておりました」
のあ「警察は警察の調査法を続ければいいわ。こっちはこっちで好きにやりましょう。被害者の状況を教えてちょうだい」
亜季「了解であります」
松山久美子「私でよければ、説明するわ」
松山久美子
科学調査部所属。常に白衣を身にまとった美人。
亜季「松山殿、お疲れ様であります」
久美子「お久しぶり、のあさん、真奈美さん」
のあ「久しぶり、元気そうね」
真奈美「むしろ、寝むたそうじゃないか」
久美子「真奈美さんが正解、さっき検視まで終わらせたのよ」
のあ「現場まで出てきたということは、何か気になることでもあるんでしょう?」
久美子「そんなところよ。何から聞きたい?」
のあ「一通り、全て。検視の結果もね」
久美子「わかったわ」
久美子「被害者は、及川雫。高校生。性別は女性。死因は、左胸をナイフらしき刃物で刺されたことによるもの」
のあ「ナイフらしき?」
亜季「凶器は持ち去られております」
久美子「数か所の傷は心臓まで到達していて、襲われた時点で即死」
真奈美「……数か所ということは」
久美子「あまり気分がいいものじゃないけど、見る?」
のあ「もちろん」
久美子「じゃあ、これがさっきの検視の写真ね」
のあ「滅多刺し、ね」
久美子「前方から最初の一撃をくらわせて、その後も滅多刺し。前方からの傷は全部で7か所、すべて刺したことによるもの。心臓と肺は穴だらけだったわ」
のあ「顔は綺麗なのは、理由はあるのかしら?」
久美子「検視の結果、最初の一撃が心臓に到達していたの。前方の傷はおそらく、支えながら刺したため、そもそもさせる範囲が狭かった」
真奈美「死んだと気づいてなかった、のか?」
のあ「最初の一撃で心臓を狙える犯人がそんなことするとは思えないわ」
久美子「そうなのよね。乳房の下、刃を横にして肋骨の間を通過させ、心臓まで到達させてる」
のあ「そう。続けて」
久美子「こっちに来て。ああ、血痕は踏まないように」
のあ「返り血が少ないわね」
亜季「前方の血は犯人がほとんど浴びたと考えられております。血のついた服等は見つかっておりませんが」
久美子「犯人は支えるのを止めて、被害者を俯けに路上に倒した。その後、背中も滅多刺し」
のあ「写真は?」
久美子「これね。背中は傷のバリエーションが豊富よ」
真奈美「むぅ……」
久美子「うーん、やっぱりそうか」
のあ「どうかしたの?」
久美子「いや、どんな姿勢で刺したのか、気になったのだけど、血痕の散り方を見る限り、横に座っていたようね」
亜季「路上に座っていたのですか?」
久美子「そうよ。この辺に座って、グサグサグサっと。背中は全部で16か所」
真奈美「横に座っていたのか、覆いかぶさらずに」
のあ「間違いなく死んでることはわかってたわね」
久美子「で、最後だけれど。被害者の手が伸びてるのわかるわよね?」
のあ「ええ」
久美子「傷は腹部と背中以外にもう一つ、それが両手の小指」
真奈美「小指?」
のあ「写真はあるの?」
久美子「はい。見ればわかると思うけど、小指は……」
のあ「なるほど」マジマジ
真奈美「何が映ってるんだ?」
のあ「むしろ無いわよ」
真奈美「まさか」
のあ「小指はないわね。切断された、というには皮が残りすぎてる。皮と筋肉を切った後に、関節から引き抜いた、ってところかしら」
久美子「さすがね、やっぱり鑑識課あたりに来ない?」
のあ「お断りするわ。集団行動は苦手なの」
真奈美「苦手どころじゃないだろう」
のあ「うるさいわ。久美子、詳細を教えて」
久美子「さっき、のあさんが言った通り小指は切り取られてます。被害者の横に座って、ハサミのようなものでチョキチョキと。ハサミで皮と筋を切り取って、付け根の関節を外して小指をはずした」
のあ「大和巡査、小指は現場に?」
亜季「小指は持ち去られております、ハサミも見つかっておりません」
久美子「小指を取ると、犯人は死体をこのままにして立ち去った。私の想像だけど、この犯人、相当手際がいいわ。人を殺しなれてるとは言わないけど、少なくとも生物を切ったことはあるはずよ」
亜季「犯人は短時間ですべて済ませたと推測されております」
のあ「ありがとう、久美子。ところで、ひとつ聞きたいことがあるのだけど」
久美子「どうぞ」
のあ「さっきから、ナイフとハサミのフリはすべて左手でやってるけど、意味があるのかしら?」
久美子「ああ、言ってなかったわね。犯人はほぼ100%左利きよ」
のあ「左利き?」
久美子「傷の方向と、ハサミの傷から左利きとほぼ断定。右利きが左手で振りまわしたとは思えない」
真奈美「左利きか」
久美子「日本では大きなヒントなのよ。日本人は左利き自体が少ないし、右に強制されることも多い。特に、ハサミを」
のあ「ハサミは左では使いづらい、からね」
久美子「そういうこと。ハサミを右で使えないほどの、生粋の左利きが犯人よ」
真奈美「なるほど、他に犯人の特徴は?」
久美子「そこまで大柄じゃないこと。身長は150cmから170cmくらいで太ってはいない」
のあ「大体の日本人男性と女性がそこに入るじゃない。日本人の肥満は少ないのに」
久美子「その通り、証拠はほとんどない。凶器はおろか、痕跡すら残ってないの。指紋はおろか髪の毛ひとつ落とさなくて、残ってたのは、大量生産のジャンパーの化学繊維だけ」
亜季「ジャンパーは返り血が付いておりますので、処分した可能性が高いかと」
プルル……
久美子「失礼。はい、こちら松山。なに、志希ちゃん?部長が呼んでる?今は現場よ。わかった、すぐ行くから」ピッ
のあ「お忙しいようね」
久美子「検視して、報告書上げ忘れたわ。部長がお冠みたい。それじゃ、失礼するわ」
亜季「お疲れ様であります。柊警部補にも検視報告書をお送りください」
久美子「わかってる。それじゃ、のあさん、よろしくお願いします」
のあ「まかされたわ」
亜季「現場は以上であります。他に何かありますでしょうか?」
のあ「被害者はどこに住んでたの?こんな塀に沿った道を歩く必要ないでしょう?」
亜季「被害者の住所でありますか?そこであります」
真奈美「もしかして、この塀の中か?」
亜季「はい。この長い塀の内部に所在する、東郷邸に暮らしておりました。人通りが少ない理由をもう一つあげますと、このあたりのほとんど東郷家の持ち物でして、倉庫と空地しかありません」
のあ「東郷か、最近どこかで聞いたわ」
亜季「東郷邸の家主は、東郷あい、であります。最近はテレビにも出演している、やり手の実業家であります」
真奈美「東郷あい、か。『レディ東郷』と呼ばれてる麗人だな」
のあ「そう」
真奈美「そう、って。一緒に見てただろう」
のあ「みくにゃんが次の番組に出るから見てただけよ」
真奈美「……世間に興味が出てきたわけではなかったのか。その番組で、何人か学生を自宅に預かって、学業などを支援してるとも言ってたぞ」
のあ「大和巡査、東郷あいと住人には会えるかしら?」
亜季「会えるか、と。外出は今日一杯控えさせて頂いておりますので」
のあ「案内をよろしく」
亜季「了解であります」
東郷邸・東郷あいの書斎前
真奈美「それにしても広いな」
のあ「騒ぎすぎよ、真奈美」
亜季「東郷家は昔ながらの資産家でありますから。当代のあい氏になってからは、資産を生かした事業も何個かたて続けに成功、今や時の人と家であります」
真奈美「しかし、それでこの事件か」
亜季「気丈な人物ではありますが、心中は穏やかじゃないか思われます。お気遣いを」コンコン
東郷あい「なんだ?」
亜季「大和巡査であります。お時間はよろしいでしょうか」
あい「大和巡査か、いいよ、入りたまえ」
亜季「失礼するであります。さ、どうぞ」
のあ「ありがとう」
東郷邸・東郷あいの書斎
あい「そちらの方はどなたかな?」チョキチョキ
東郷あい
東郷家の当主。資産家、実業家。最近はテレビで見ることも多い麗人。
亜季「高峯探偵事務所の、高峯のあ殿と木場真奈美殿であります」
のあ「高峯です」
真奈美「木場真奈美です、お邪魔しております」
あい「今度は探偵か。メディアよりはマシと言ったところか」チョキチョキ
真奈美「お話をお聞きしてよろしいでしょうか?」
あい「構わないよ。どうせ今日はここに缶詰だ。みだりに言いふらさないなら、何でも聞きたまえ」チョキチョキ
のあ「では、はじめに。切り絵がお好きなのですか?」
真奈美(生で見ると、実に麗人だな。男性的かと思いきや、結構女性的だな)
あい「嫌いか好きかと言われれば、好きな方だろう」チョキチョキ
のあ「暇ならいつもするほど?」
真奈美(学生時代の写真は、少年にしか見えんな。ソフトボールの投手だったのか)
あい「違うな。今は手でも動かさないと気持ちが落ち着かないんだ」
真奈美「心中お察しします」
真奈美(ハサミは右、か)
あい「ありがとう、こういう時ほど気丈にふるまわないとは思っているのだがね」
のあ「及川雫はどんな娘でしたか?」
あい「良い子だったよ。気は優しくて、面倒見が良くてね、年下の子からは本当に姉のように慕われてたよ。だから、残念だ」
のあ「殺されるような理由はありません、と?」
あい「もちろん、だ。彼女に限って、そんなことはない」
のあ「では、逆をお聞きします。殺しそうな人間はこの屋敷にいますか?」
あい「なんだって?」
真奈美「お、おい、のあ、何を言ってるんだ」
のあ「一応です。殺人を犯せるような人物はいますか?同居人を滅多刺しにできるような人物が」
あい「いるわけないだろう!失礼だな!」
のあ「申し訳ありません。最後にひとつ」
あい「なんだ」
のあ「利き手はどちらで?」
あい「右だ」
のあ「ありがとうございます。失礼しました、他の娘達にお話を聞いてもよろしいでしょうか?」
あい「さっきのようなことを聞かなければ、な。彼女達も傷ついてる、くれぐれも気をつけてくれ」
のあ「承知しております。それでは」
東郷家・廊下
のあ「東郷家には何人が暮らしてるの?」
亜季「東郷あい氏と及川雫を除いて、7人であります。1人は昨日より出かけていて、帰宅はしておりません」
のあ「今、ここにいるのは6人ね。その1人に連絡は取れてるの?」
亜季「取れております。名前は西川保奈美、芸能事務所と警察で身柄を保護しております」
西川保奈美
東郷家の住人。16歳。学生の傍ら、劇団員および俳優として活躍中。
真奈美「おお、西川保奈美か」
のあ「知らないわ」
真奈美「人気はまだまだだが、演技はもちろん歌唱力が高いんだ。私の仲間内では次にくる芸能人筆頭だぞ」
のあ「そう。彼女は犯行時刻はどこに?」
亜季「地方公演のリハーサル中で、都内にもいませんでした。劇団員の多くから証言を得ています」
真奈美「西川保奈美はここには帰らないのか?」
亜季「帰らせてあげたいと個人的には思うのですが、メディアがうるさく……」
のあ「賢明だわ。東郷あいならともかく、まともに対応は出来ないでしょう」
亜季「そうでありますな。まったくメディアは困ったものです。着きました、ここがリビングであります」
のあ「ありがとう」
東郷邸・リビング
棟方愛海「ヒックヒック……」
佐久間まゆ「愛海ちゃん、泣きやんで……」
のあ「彼女達は?」
亜季「佐久間まゆ、棟方愛海、両名であります。棟方殿は殺された及川殿にとても懐いていたようで……」
佐久間まゆ
東郷邸の住人。16歳。編み物と料理が趣味で優しい性格。
棟方愛海
東郷邸の住人。14歳。雫を姉のように慕っていた。
まゆ「ご飯も食べてないのだよね……。リンゴ切ってあげるから、少し食べて、ね?」
愛海「うん、ありがと、まゆお姉ちゃん……」
まゆ「よしよし、大丈夫だからね……」
のあ「こんにちは」
まゆ「あの、どなたでしょう……?」
のあ「高峯探偵事務所の、高峯のあです」
まゆ「探偵さん?」
愛海「……探偵?」
のあ「ええ、そうよ」
愛海「お願い、雫お姉ちゃんを殺した犯人、絶対に見つけて!」
のあ「わかってる。必ず見つけてあげるから、今は落ち着きなさい」
愛海「……うん」
のあ「リンゴ、剥いてあげてなさい」
まゆ「はぁい」
のあ「雫さんはどういう人だったの、愛海ちゃん?」
愛海「雫お姉ちゃんは、とっても優しくてね、いつもみんなにケーキを作ってくれたんだ。とっても美味しくて、でも、それで……」
のあ「それで?」
愛海「そのせいで殺されちゃったんだ!あたしのせいなんだ!」
のあ「じゃーん、けん、ぽん!」パー
愛海「え?」チョキ
のあ「負けたわ。少し落ち着いたかしら。それは絶対に違うわ。そんなこと思っていたら、雫ちゃんも浮かばれないわよ」
まゆ「……」
のあ「何があったのか、話してごらんなさい」
愛海「……うん。あの道はね、雫お姉ちゃんがケーキの材料を買って、帰る時にしか使わないんだ。ケーキが食べたいとか言わなければ、雫お姉ちゃんは事件に会わずに済んだの……」
のあ「それで、自分のせいと言ったのね」
愛海「だって、だって……」
のあ「悪いのは犯人よ。必ず、見つけ出すから」
愛海「うん……」
まゆ「ありがとう、探偵さん。愛海ちゃん、リンゴ剥いたよ。食べられる?」
のあ「食べなさい、あなたは生きないと」
愛海「食べる」
まゆ「はい、あーん」
愛海「……美味しいよ」シャリシャリ
まゆ「良かった。あの、探偵さん達も食べますか?」
のあ「いただくわ」
真奈美「いただこう」
のあ「佐久間まゆさん、事件の日、気づいた事は?」
まゆ「その、警察の人にも話したんですけど、特に何もなくて……」
のあ「なんでもいいの、7時くらいに何をしてた?」
まゆ「雫ちゃんの帰りをみんなで待ってて、帰ってきたらご飯にしようって」
のあ「みんなリビングに?」
まゆ「いいえ。まゆはリビングにいましたけど、他の人は別の所に」
のあ「全員帰ってきてはいたの?」
まゆ「保奈美ちゃんは地方公演に行ってて、あいさんはまだでしたけど、他の人は全員帰ってました」
のあ「声とかは、聞こえなかったのね」
まゆ「はい。気づいてれば、助かったかもしれないのに……」
のあ「気に病むことはないわ。任せて」
まゆ「お願いします、探偵さん」
のあ「リンゴ、ごちそうさま。愛海ちゃんを見ててあげて」
まゆ「はい」
のあ「最後に聞くけれど、貴方達、利き手はどっち?」
愛海「右だよ」
まゆ「右ですよぉ」
のあ「今、他の人は?」
まゆ「お部屋だと思います」
のあ「ありがとう。行くわよ、真奈美」
真奈美「ああ」
亜季「案内するであります」
東郷邸・瑛梨華の部屋
赤西瑛梨華「……こんなことになって、瑛梨華ちん悲しい。いつも元気が取り柄だけれど、今日はダメ」
赤西瑛梨華
東郷邸の住人。16歳。明るく元気なことが取り柄だが、消沈気味。
のあ「こんなことになったら、仕方がないわ」
瑛梨華「雫ちゃんが殺されちゃうなんて、信じられないよ」
のあ「当日は何もなかったのね?」
瑛梨華「そうだよ。雫ちゃんは帰ってきたらケーキを作るんだ、って高校に行って。アタシは夕ご飯が遅いなって思いながら部屋でテレビを見てたら、警察の人が来て……」
のあ「無理に思い出さなくていいわ。辛いことを聞いてごめんなさい」
瑛梨華「犯人が見つかるなら、いくらでも協力するよ」
のあ「こんな時に聞くのもなんだけれど、夢とかある?」
瑛梨華「アタシ?実はね、テレビに出れる人になりたいんだ☆芸人さんかな」
のあ「そう、このことに負けないように」
瑛梨華「ありがとう、のあさん。がんばっちゃうから」
のあ「こちらこそ、ありがとう。最後にひとつ聞いていいかしら、利き手はどっち?」
瑛梨華「利き手は右だよ?何かあるの?」
のあ「いいえ、なんでもないわ。お邪魔したわ」
東郷邸・中庭
真奈美「広いな」
のあ「外から見てもあれだけの広さがあるんだから、当然でしょう」
亜季「藤原肇殿がこちらにいるはずなのですが」
のあ「あのバンダナの子ね」
真奈美「何を見てるんだ、窯か?」
亜季「陶芸用の窯のようです。彼女はすでに陶芸家として活躍しているようであります」
真奈美「若き陶芸家か」
のあ「もしもし」
藤原肇「……」
真奈美「聞こえてないのか」
のあ「藤原肇、さん?」チョンチョン
肇「……!な、なにか御用でしょうか?」
藤原肇
東郷邸の住人。16歳。女子高生陶芸家として一部で有名。
のあ「こんにちは、お話をお聞きしても?
肇「あ、はい。構いません。窯に火を起こしてるので、それを見ながらでもよろしいですか?」
のあ「構わないわ」
肇「ありがとうございます」
のあ「窯の火はいつから?」
肇「今日からです。本当はこんな日にいれたくはないのですが」
のあ「そう。でも、入れたのね?」
肇「前からの予定通りに火を入れました。お客が待ってますし、それに何かしないと気が滅入ってしまいそうで」
のあ「その通りね、火を見ると落ち着く?」
肇「はい。揺らいでいるものを見ると、落ち着きます。薪をくべてきていいですか」
のあ「どうぞ。昨の夜7時もここに?」
肇「はい。今日は火を入れる日だったので、その準備をしていました。塀の外が騒がしくなって、呼びに来たまゆちゃんに教えられて、はじめて、何かあったか知りました」
のあ「雫ちゃんについてはなにかある?」
肇「今でも信じられません。それに雫ちゃんだって、こんな命の終わり方はしたくなかったと思います。とっても、綺麗な子だったのに……」
のあ「……そう」
肇「はやく犯人を見つけてください、お願いします」
のあ「ええ。一つ、聞いていいかしら?」
肇「なにでしょうか」
のあ「あなた、利き手はどちら?」
肇「右です」
のあ「ありがとう。お邪魔したわ」
東郷邸・玄関
真奈美「なにか聞こえないか?」
のあ「聞こえるわ、少なくとも怒鳴りあってるわね」
亜季「玄関の方でありますな、急ぐであります」
アナスタシア「????????!!」
白人男性「?????!!!」
のあ「彼女は?」
亜季「アナスタシア殿であります、こちらの住人で日露ハーフだそうで」
アナスタシア
東郷邸の住人。15歳。家族はロシアへと帰ったが、当人の希望で東郷家に住み、日本で教育を受けている
真奈美「のあ、何言ってるのかわかるか?」
のあ「ロシア語もわからないの、真奈美は」
真奈美「お前の基準は間違ってるぞ。普通の日本人はな、英語はともかくロシア語はこれっぽちもわからないんだ」
のあ「仕方ないから教えてあげるわ。要約すると、日本の警察はボンクラだ、お前が狙われるかもしれん、パパは意地でもロシアに連れて帰る、が男が言ってること」
真奈美「パパ?父親なのか」
のあ「そうなんでしょう。一方で、娘の言ってる事は、いやだ、雫は家族みたいなもの、お葬式も終わってないのに離れられない、他の家族のことも心配、パパのわからずや、みたいなことを延々と言い合ってるわ」
亜季「止めた方がよいでしょうか……」
アナスタシア「パパのバカ!」パチーン!
のあ「スナップの効いた良いビンタね。ダッシュも良いわ」
真奈美「冷静に判断してる場合か!お前は親を説得してくれ、私と大和さんで娘は落ち着かせて来る」
のあ「わかったわ、リビングで会いましょう」
東郷邸・リビング
真奈美「佐久間さん、たびたびご迷惑をおかけして」
まゆ「いいえ、お茶をいれるなんてお安いご用ですから」
のあ「さて、落ち着いたかしら、アナスタシアさん?」
アナスタシア「ダー……落ち着きました」
のあ「お父さんと話をつけてきたわ」
真奈美「早いな。普段の私との会話でもその能力を発揮してくれ」
アナスタシア「私は、ロシアになんて行きません!ここが私の、ロージナ、お家なんですから……」
のあ「わかってるわ。とりあえず、お父さんと同じホテルで過ごしなさい。警察も護衛に協力してくれるでしょう」
アナスタシア「……イヤ、です。みんなと一緒に、居たいです」
まゆ「アーニャちゃん……」
のあ「気持ちはわかるわ。でも同時に、お父さんの気持ちもわかるの」
アーニャ「ダー、パパが私を心配してくれる、わかります」
のあ「とりあえず、ここから離れてみましょう。犯人はいち早く見つけて、戻してあげるから」
アーニャ「ダー、ありがとう、えっと」
のあ「のあでいいわ」
アーニャ「スパシィーバ、えっと、ありがとう、ノア」
のあ「どういたしまして。聞いていいかしら、あなたは昨日の7時頃何を?」
アーニャ「7時、雫が、その時、アーニャは、部屋で本を読んでました」
のあ「もう一つ、あなた、利き手はどっち?」
アーニャ「利き手?右、でした」
のあ「ありがとう。大和巡査、ホテルでの警備の話、志乃とアナスタシアさんのお父さんに通してくれない?」
亜季「了解であります。ただ、お父様とロシア語で話すのは……」
のあ「大丈夫よ。あの人、日本語で十分会話できるから」
亜季「そうでありましたか。すぐに行うであります」
のあ「お願いするわ。真奈美、最後の人の所へ行きましょう」
真奈美「わかった。二人とも、お騒がせしたね」
まゆ「いえ」
アーニャ「ありがとう、ノア、マナミ」
東郷邸・由愛の部屋前
真奈美「最後の一人はここか」
のあ「成宮由愛ね」コンコン
成宮由愛「誰、ですか?」
のあ「高峯探偵事務所の、高峯のあです。お話を聞いてもよろしいでしょうか」
由愛「……嫌です。会いたく、ないです」
のあ「少しだけですので」
由愛「嫌です……話すことなんて……なにもないから」
のあ「……成宮さん?」シーン
真奈美「大和巡査によると、13歳で最年少。辛いんだろう。出なおすか?」
のあ「いえ、会わないとダメだわ」
真奈美「会わないといけない事情があるか?」
のあ「ある。誰かに協力を頼みましょう」
真奈美「成宮由愛は画家だったな。藤原肇とは気があうとは聞いたな」
のあ「藤原肇は動かなさそうね。他の人を気にしてられない、といった感じだったもの。もう一度佐久間さんに頼みましょう」
真奈美「わかった、呼んでくるよ」
まゆ「由愛ちゃん、まゆですよぉ。入っていいかしら?」
由愛「……うん」
まゆ「待っててくださいね」カランカラン
のあ「ええ」
真奈美「佐久間君に心は開いてくれてるようだな」
のあ「及川雫がいなくなった分を、佐久間さんが埋めようと動いているようにも見えるわ」
真奈美「ずっとリビングにいるな。精神的には落ち着いてるようには見えるが」
のあ「落ち着いてないと、他の人が不安になるから、ってところでしょう」
真奈美「ケアが必要だな」
のあ「東郷あいに任せましょう。そこまでは私には出来ない」
真奈美「のあにも親心があると知って、私は嬉しいよ」
のあ「……残念だけど、違うわ」
まゆ「探偵さん、中へどうぞ」
のあ「開かれたようね」
東郷邸・成宮由愛の自室
まゆ「由愛ちゃん、手を出して」
由愛「……うん」
まゆ「汚れてるから、ふきましょうね」
のあ「絵を描いていたのね」
由愛「……」コクリ
成宮由愛
東郷邸の住人。13歳。次世代を担う画家。東郷邸に住みながら英才教育を受けている。
のあ「指に絵の具を付けて描くことはよくやるの?」
由愛「……」コクリ
のあ「部屋にあるのは、すべて貴方の作品なのかしら?」
由愛「……」コクリ
真奈美(イーゼルには叩きつけるような荒々しい抽象画が製作中か)
のあ「書もたしなむのね」
由愛「……」コクリ
真奈美(大人しく見えるが、心の中には秘す物がある、か)
のあ「今の気分は、どう?」
由愛「……苦しい、です」
まゆ「由愛ちゃん、大丈夫、大丈夫だからね」ダキ
由愛「だって、だって……」ポロポロ
のあ「ごめんなさい、必ず、仇は取るわ」
由愛「……うん」
のあ「最後にひとつ、利き手はどちら?」
由愛「右手、です」
のあ「ありがとう。お邪魔したわ、佐久間さん、よろしく」
まゆ「はい」
のあ「事務所に帰るわ。真奈美、車を出して」
真奈美「わかった。お邪魔したね」
高峯探偵事務所
真奈美「うーむ、若い人が苦しんでるのを見ると、心が痛むな」
のあ「……」カタカタ
真奈美「犯人を早く見つけよう、なぁ、のあ?」
のあ「……そうね」カチカチ
真奈美「車内ではケータイ、事務所に帰ってきたらパソコンに難しい顔してかじりついて。なにかあるのか?」
のあ「……」カチ
真奈美「のあ?」
のあ「……ビンゴ」
真奈美「何に気づいた?」
のあ「真奈美、あなたは東郷邸の子供にいれこんでいるようだけれど、間違いよ」
真奈美「それは、むしろのあの方じゃないのか。あんなに親身になれるとは、私も驚いたのだが」
のあ「事件のためなら、それぐらい演じるわ」
真奈美「待て、まさか、誰かを疑ってるのか?」
のあ「誰か、じゃない。全員よ」
真奈美「……東郷あいを除けば未成年だぞ」
のあ「人は殺せるわ」
真奈美「何に気づいた、のあ」
のあ「むしろ、何にも気づかないの?」
真奈美「すまないが、のあほど良く出来た頭脳をしてない」
のあ「真奈美は相変わらずね。教えてあげる、全員に嘘をつかれたから、私は猛烈に不機嫌なのよ」
真奈美「嘘?」
のあ「久美子が言っていた犯人の特徴は?」
真奈美「残忍、証拠を残さない、身長は150cmから170cm、肥満ではない」
のあ「そこじゃない」
真奈美「あとは、左利き」
のあ「その通り。では、聞くけど、東郷あいの利き手は?」
真奈美「右と言っていたな」
のあ「それは本当かしら?」
真奈美「右でハサミを使ってたぞ」
のあ「じゃあ、質問を変えるわ。部屋にあった学生時代の写真、グローブをどちらの手につけていた?」
真奈美「……ん、どっちだ、覚えてないな」
のあ「グローブは右手、ボールを持っていたのは左手。ソフトボールでは左利きのプレイヤーだったみたいね」
真奈美「ということは」
のあ「どのレベルで左手が使えるかはわからないけど、純粋な右利きではない。次に行きましょう、棟方愛海が咄嗟にじゃんけんで出した手は?」
真奈美「チョキを……」
のあ「左手で。右は空いてたわ。次、佐久間まゆがリンゴを切るために包丁を持っていた手は?」
真奈美「左だったのか?」
のあ「その通り。ついでに言うと、棟方愛海の口にリンゴを運んだ手も左だった。次、藤原肇が薪を投げ入れた手は?」
真奈美「いや、これは右だった」
のあ「その通り。だけれど、薪を奥に入れるために使った棒は左手で使った。次、アナスタシアがビンタした父親の頬はどっち?」
真奈美「えっと、右頬か」
のあ「正解。つまり、アナスタシアが出した手は左。次、成宮由愛のペンだこはどっちの手にあった?」
真奈美「そんなところには注目してないぞ」
のあ「次からは気をつけなさい。正解は両方。ちょっとずつ形が違うから、日常と絵画用でわけてるのでしょう。それで、これが成宮由愛の取材記事」
真奈美「筆は左で持ってるな」
のあ「線の流れ方からして、最後のサインは右で書いてる。では、最後、赤西瑛梨華が両利きである理由は?」
真奈美「なにかあったか?」
のあ「みくにゃんが出てる番組に出てたわ。素人じゃなかったのね」
真奈美「そんな理由か。それで、本当なのか?」
のあ「私が間違えるとでも?両手で器用に箸を使ってたわ。このように、東郷邸の人々は全員が右利きとは言い切れない」
真奈美「……最後に一人いるぞ、西川保奈美は?」
のあ「芸能事務所のホームページ。利き手が両利きになってる。左利きのキャラクターも演じれるのは武器になるのかもしれないわ。犯人が左利きなんていう安いサスペンスドラマとかよ」
真奈美「なるほど」
のあ「でも、全員が自分は右利きと答えたわ」
真奈美「普段から右と答えてるのではないか?」
のあ「その可能性はなきにしもあらず。ただ、一人足りとも両利きと答えないのは何故?」
真奈美「それは、わからないな」
のあ「そして、もう一つ。犯人が左利きという情報はまだ公表されてない」
真奈美「……示し合わせて、嘘をついたと?」
のあ「断定はできない。ただ、何か怪しい。私は東郷邸を中心に捜査を進める、それでいいわね?」
真奈美「……ああ、あまり疑いたくはないんだが」
のあ「それは私もよ。しかし、真実が明らかにならなければ、私を含めて誰も浮かばれない」
真奈美「そうだな」
のあ「真奈美、電話を。志乃、もしくはその部下を呼んで」
真奈美「了解した」
のあ「発見者に会ってみましょう」
発見者・財前時子の部屋
財前時子「なに?話せることは警察に全部話したわよ」
財前時子
及川雫の遺体を発見、通報したOL。東郷邸近くのアパートに一人暮らし。口調はきつめ。
のあ「申し訳ありません」
時子「どうせ、聞かれるから最初から話すわよ。残業で遅れたから、ご飯を食べてから帰宅の途中に、血みどろで倒れてる及川さんを見つけたのよ」
のあ「及川さん?」
時子「近くに住んでるし、会ったら挨拶ぐらいする間柄だったのよ。話を戻すけど、見た瞬間に、これはまずいと思って、通報したのよ。正直言うと、もう生きてないだろうと心の奥では思ってて、妙に冷静だったわ」
のあ「不審者は見ましたか?」
時子「いいえ。普通、あんな道通らないわよ。私も普段は使わないし」
のあ「では、何故昨日は通ったのでしょう?」
時子「昨日夕ご飯を食べた所から、家まで近いからよ。遅くなってたし」
のあ「ちょっと話を変えましょう、東郷家についてはどう思いますか?」
時子「どう、って。別になんとも思ってないわよ。このアパートだって、東郷家の持ち物だけど、近所の金持ち以上の感想はないわ」
のあ「住んでる子供たちについては?」
時子「そうねぇ、悪い子供とは思わないわ。若くして成功してる子もいるじゃない、だから、変なウワサは流されたりするけど」
のあ「ウワサ?」
時子「根も葉もないわよ。東郷あいの愛人の代償として支援を受けてるとか、カラダを売ってるとか、そんな下世話な、腹の立つ話よ」
のあ「事実無根だと思いますか?」
時子「あのねぇ、流石に別世界に住んでるわけじゃないのよ。門から出てくれば、近所の学生さんなのよ。本当に、何の変哲もない、普通の子供達なのに」
のあ「そうですか。この事件についてはどう思いますか?」
時子「腹が立つわ、何もかも」
のあ「犯人に心当たりは?」
時子「ないわ。テレビでも見て、何かに固執した異常者の犯行よ、きっと。知っていれば、あんなことは絶対に、出来ない」
のあ「ありがとうございました。しばらくはお気を付けて」
時子「わかってるわ」
のあ「最後に、利き手はどちらで?」
時子「利き手?そんなん聞いてどうするのよ」
のあ「特になにも」
時子「右よ」
東郷邸横・事件現場
真奈美「財前時子の家から近いな」
のあ「でも無理に通る必要もない」
真奈美「そうだな。ところで、のあ、財前時子の話だが」
のあ「気になるところはなかったけれど」
真奈美「口は悪いが、割と的を得てるかもしれないぞ」
のあ「何が?」
真奈美「異常者って話だよ。犯人は何の接点もないのさ」
のあ「異常者なのは間違いないでしょう。でも、それだけ」
いたずら目して
のあ「はい、こちら高峯。ああ、志乃。はい、いますぐ行きます」
真奈美「なんだって?」
のあ「監視カメラがあったらしいわ。行くわよ」
東郷邸・警察詰所
のあ「それで、どこのなの?」
志乃「門の前ね」
のあ「殺害現場のもあるの?」
志乃「あったけれど、電源が抜かれてたから何も映っていない」
のあ「そう、電源が抜かれたのはいつ?」
志乃「軽く見積もって数年前。そもそも管理業者もいなくて、子供達と東郷あいが自分で管理してるから、カメラの存在も忘れていたようね」
のあ「なるほど、それでそこに流してるのが門の前の映像?」
亜季「そうであります。犯行時刻前後に出入りした人はおりませんでした」
留美「何日か流して見ましたが、ここの住人以外はほとんど中に入りません」
真奈美「東郷あいは、自宅には人を呼ばないらしいからな」
留美「ただ、一人だけ何度か出入りしている人物がいまして。亜季ちゃん、出して」
亜季「はい。こちらであります」
志乃「パーマのかかった茶髪、いつも肩からかける大きめのバッグを持ってる、少し派手な服装、年齢は20歳前後」
のあ「知ってるわ、この人」
真奈美「本当か?」
のあ「住人に確認すればいいけど、美容師よ」
志乃「大和さん、東郷あいに確認を」
亜季「了解です」
志乃「高峯さん、勤務先と名前を教えてちょうだい」
のあ「去年から××美容室勤務、名前は太田優」
志乃「和久井さん、車の準備を」
真奈美「知り合いだったんだな」
のあ「みくにゃんへの愛を示すために同じ髪型と色にしようと思ったら、とめられたわ。だから、覚えているのよ」
真奈美「……あほだろ、のあ」
××美容室
志乃「先ほどお電話しました、柊です。4人連れで申し訳ありませんが」
のあ「お久しぶりです」
太田優「お待ちしてました。あらぁ、高峯さん、髪は短く切ってないんですねぇ、良かったぁ♪」
のあ「おかげさまで」
太田優
美容師。東郷邸に出張して、カットをしている。犬派。
優「警察の方、だったんですねぇ」
のあ「私は探偵ですが、彼女らは警察」
優「そう言えば、前に来た時に言ってましたねぇ。それで、何かあったんですか?」
志乃「テレビは見てないでしょうか?」
優「今日は見る暇がなくてぇ……」
志乃「構いません。こちらの人に御面識はありますか」
優「ええ、雫ちゃんですか。東郷さんのお家に住んでるんですよね、カットしてあげたこともありますよぉ♪」
志乃「言いにくいのですが、殺されました」
優「……えっ?」
志乃「及川雫が昨日19時頃、路上で殺害されました。それで、東郷邸に出入りしているあなたにお話を、と思いまして」
優「あの、嘘、だよね?」
志乃「いいえ」
優「そんな……」
志乃「時間がありません、お話を聞いてもよろしいでしょうか」
優「……はい」
志乃「昨日の夕方7時頃はどちらに?」
優「仕事を終えて、自宅でした」
志乃「証明してくれる人はいますか?」
優「……飼い犬だけ」
志乃「東郷邸にはいつから?」
優「1年前ぐらいかな。あいさんが自宅に呼べる美容師を探していて、たまたまあたしに声がかかったの」
志乃「東郷邸では何を?」
優「出張でカットをしてたんです、報酬も良かったし、あいさんは優しいし……」
志乃「頻度はどのくらい?」
優「一か月に一回くらい」
志乃「東郷あい以外との面識はあるのね?」
優「うん。あいさんを待ってる時に、話たりもしたし、一緒にご飯を食べた事もあったかな、もちろんカットをしてあげたこともあるよ」
志乃「具体的には?」
優「カットしたことがあるのは、雫ちゃん、愛海ちゃん、肇ちゃんの3人かな。肇ちゃんはあまりにもボサボサだったから、覚えてる」
志乃「話したことがあるのは?」
優「たぶん、全員」
志乃「具体的に」
優「瑛梨華ちゃん、まゆちゃん、アーニャちゃん、由愛ちゃん、保奈美ちゃん、で全員だったよね?」
志乃「ここ最近はいつ出向きましたか?」
優「十日前くらいだったかな」
志乃「その時は、何か話しましたか?」
優「時間がタイトだったからぁ、あいさんともあまり話をしてなくて」
志乃「及川雫がストーカーや付きまといにあっていた、という話を知ってますか?」
優「ううん、知らない、そんなことが……」
志乃「そんなことはありませんでした。しかし、実際はそれ以上の被害が出た」
優「……」
志乃「和久井さん、メモは取れたわね?」
留美「はい」
志乃「先ほどの東郷邸での聞き取りと矛盾点はないわね?」
留美「はい、相違ありません」
志乃「私からは以上です。高峯さん、お話を聞きたいならどうぞ」
のあ「太田さん、お話を聞いても良いかしら?」
優「……ええ、何がなんだか、わけがわからないけど、あたしが協力できるなら」
のあ「ありがとう。東郷あいはどんな人物なのかしら?」
優「あいさん?とっても良い人、かな。子供たちからも信頼されて、尊敬されてる。あたしにも優しいし」
のあ「変なウワサは聞くかしら?」
優「根も葉もないなら、いくらでも」
のあ「東郷邸に出入りしている人をあなたは知ってる?」
優「ううん、知らない。あいさんは自宅には人を本当に入れないの。来客は全て会社とかで受けて、自分のスペースを守ってる」
のあ「本当に誰もいないの?」
優「うん」
のあ「じゃあ、最近の東郷邸の中を知ってるのは、あなただけね」
優「そうかもね……」
のあ「あまり言いたくはないけれど、ケンカとか言い争いとかはあったの?」
優「ない、みんな、仲良しで……待って、高峯さん、それって」
のあ「東郷邸の誰かが雫さんを殺した、可能性があるわ」
優「ない、そんなの絶対にない!そんな子たちじゃ絶対に……」
のあ「あなたが言うならそうなんでしょう。引き続き、通り魔の線で調査を続けます」
志乃「……」
優「……なんで、人殺しなんか」
のあ「最後にひとつ、聞いてもいいかしら?」
優「どうぞ……」
のあ「あなた、利き手はどっち?」
優「利き手?普段は右」
のあ「普段は?」
優「あたし、左手も使えるんだ。カットの時は、右手用と左手用のハサミ両方準備するし」
のあ「そう言えばそうだったわね。ありがとう」
志乃「お時間頂き、ありがとうございました」
優「いえ、大丈夫、です」
高峯探偵事務所
のあ「……」モグモグ
真奈美「どうだ?」
のあ「真奈美のハンバーグはいつでも美味しいわ」モグモグ
真奈美「さっきから眉間にしわが寄ってるから気になってな」
のあ「別に、なんでもないわよ」ズズー
久美子「ストレスためると皺が増えるわよ。せっかく綺麗な顔してるんだから、もっと気にしたら」モグモグ
真奈美「そして、君も当然のように夕食を食べてるのはなんでなんだ?」モグモグ
久美子「だって、真奈美さんのご飯美味しいもの。疲れた体には美味しいご飯が大切」モグモグ
真奈美「のあの財布から食費は出てるし、美味しいと言われて悪い気はしないんだが、白衣ぐらい脱がないのか」
久美子「脱いだら寒いもの」
真奈美「あのなぁ。のあからも何か言ってくれよ」
のあ「似合ってるわ、久美子」
真奈美「期待した私がバカだった」
のあ「ごちそうさま」
真奈美「おかわりあるぞ」
のあ「いらないわ」
久美子「じゃあ、私がおかわりー♪」
真奈美「……いや、いいんだけどな」
のあ「……」ガララララ!
真奈美「無言でホワイトボードを引っ張りだすな、食事中だぞ」
のあ「犯行は昨日午後7時前後、被害者は及川雫」
真奈美「聞いてないか」
のあ「発見者は近所のOL財前時子、残業後夕食の後、帰宅途中」
久美子「おいしーい、上司のイヤミも忘れそう♪」
真奈美「……」
のあ「犯人は左利き、ナイフで滅多刺し、小指はハサミで切断」
真奈美「まだ食事中なんだが」
のあ「東郷邸の家主は、東郷あい。犯行時刻は会社にいた、が特にアリバイはなし。右利きと自称、実際は不明」
久美子「私は大丈夫よ。検視の最中に馬刺し食べたいとか、思うわ」
のあ「赤西瑛梨華、犯行時自室でテレビ。右利きと自称、おそらく両利き」
真奈美「私も苦手ではないが、君たちは変だぞ」
のあ「アナスタシア、自室で読書。自称は右利き、現在は都内某所のホテルで監視下」
真奈美「監視って」
のあ「佐久間まゆ、リビングで食事の準備中。自称は右利き、しかし左手を使えることを隠そうともしていない」
久美子「ふーん」モグモグ
のあ「成宮由愛、自室で絵を描いていた。普段は右利き、絵は左手」
真奈美「なにか、新しくわかったことはあるのか?」
のあ「西川保奈美、地方公演で不在」
久美子「新しいこと、そうねぇ……」
のあ「藤原肇、窯の準備中。右利きとは言ったが、詳細不明」
久美子「そうそう、犯行に使われたハサミがだいたい特定できたのよ」
のあ「棟方愛海、自室にいた。おそらく両利き」
久美子「なんかね、凄い細かったのよ。だから市販のものではなくて、特殊なハサミ」
のあ「太田優、東郷邸に出入りしている美容師、犯行時刻のアリバイはなし」
久美子「のあさん、美容師って言った?」
のあ「ええ」
久美子「犯行に使われたハサミ、美容師が使うカット用のハサミよ」
のあ「……ひとつ、聞いていい、久美子」
久美子「どうぞ」
のあ「その話、誰かに話したかしら?」
久美子「いいえ、はじめてだけど」
のあ「……あなたはもっと組織内で連絡を取りなさい」
真奈美「……のあが言うのか、それを」
翌日
高峯探偵事務所
真奈美「コーヒーで良かったな?」
のあ「ええ。そう言えば、志乃からメールが来てたわ」ズズ
真奈美「何か進展があったのか?」
のあ「太田優のハサミが、といってもスペアとして仕事場に置いてあったものが盗まれてたらしいわ」
真奈美「なるほど。犯行に使われたものか?」
のあ「久美子曰く、少なくとも同形状ね。実物が見つからないと断定はできないけれど」
真奈美「やっぱり、太田優は事件にかかわってるのか?」
のあ「偶然を信じるな」
真奈美「急になんだ?」
のあ「ライザの上司がよく言ってるらしいわ。偶然で片付けたら、それで終わりよ」
真奈美「太田優が犯人、その可能性もあるのか?」
のあ「そこまでは言ってないわ。太田優が犯人だとしたら、妙な点が多すぎる」
真奈美「例えば?」
のあ「まずはハサミ。久美子が言ってたように、右利き用のハサミを犯行に使用している」
真奈美「左手で、だな」
のあ「その通り。でも、わざわざする必要がないのよ、彼女は普段から左利き用のハサミを持っている」
真奈美「確かにな、だが偽造という説は?」
のあ「両利きであることは、お客さんの中では知れ渡ってるし、一度だけ行った私でも覚えているくらいよ。それに、彼女だけは両利きと言った」
真奈美「ふむ、東郷邸の住民は右利きと言ったが、彼女だけは違ったな」
のあ「ハサミについては、もう一つ。太田優が犯人ならハサミを盗まれたままにしておく必要はない」
真奈美「犯行に使ったとしても、戻せばいいのか」
のあ「そう、洗浄して研磨すればとりあえず隠せるし、そうでなくても新しいものを補充しておけばいい」
真奈美「確かにな」
のあ「それと、棟方愛海が言ったことが気になる」
真奈美「及川雫があの道を使う理由か」
のあ「昨日、ケーキを作ると太田優が知っているとは思えない」
真奈美「つまり……」
のあ「警察の網に引っ掛からないなら、犯人はあの屋敷の中にいるわ」
真奈美「……信じたくはない」
のあ「信じなくていいわ。ただの勘よ」
真奈美「そろそろ出る時間だな。及川雫の葬儀がはじまる」
のあ「行きましょう。犯人が通り魔なら帰って来る可能性は、ある」
東郷邸・警察詰所モニタ室
真奈美「怪しい人を探す、とは言っても」
のあ「想像以上に人が多いわ」
亜季「むー、東郷あいが著名でありますし、野次馬も多いとなると」
留美「今のところ、挙動が不審なものはおりません」
真奈美「気になる人はいるか、のあ?」
のあ「いない。東郷邸の住人に、岩手からでてきた及川雫の親族が加わっただけ。あとは警察の目を気にしてそうな人もいない」
志乃「警戒は怠らないように」
亜季「了解であります」
真奈美「のあ」
のあ「なに?」
真奈美「参列者の中」
のあ「ああ、気づいたのね。太田優がいるわ、それに財前時子も」
真奈美「なんだ、気づいてたのか」
のあ「付き合い方は違うけれど、あの二人は及川雫に対する評価は好意的じゃない。来る理由は十分よ。ところで、志乃」
志乃「なんでしょう、高峯さん?」
のあ「東郷邸の調査はしてる?」
志乃「正式なガサイレは出来ないけど、警備という名目でしてるわ。何も見つからないけれど」
のあ「そう」
東郷邸・東郷あいの書斎
あい「おや、探偵さん達か。夕方まで御苦労だね」
のあ「いえ、東郷さんほどでは。葬儀の手配、お疲れ様でした」
あい「雫のことを思えば、苦ではない。せめて、安らかに眠って欲しい、それしか私には出来ない」
真奈美「……」
あい「それで、誰か来たかね?」
のあ「いいえ。怪しい人物はおりませんでした」
あい「そうか、一刻も早い解決を祈っている」
のあ「重々承知です」
あい「それならいい」
のあ「お聞きしたいことがあるのですが」
あい「そのために来たのだろう?明日から仕事に復帰する、今のうちに聞きたまえ」
のあ「太田優という美容師はどのような人物なのですか?」
あい「優君か。明るくて仕事もできる。軽い性格だが、意外と口は固くてな、色々と愚痴を聞いてもらってるよ」
のあ「愚痴ですか」
あい「まぁ、愚痴を吐くなんて私らしくないがね。自室だし、気が緩むのかもしれん」
のあ「太田優とは親身なご様子ですね」
あい「そうだな。この立場になってから、気が緩む時間はこの家にいる時だけになってな。あの子たちと優君ぐらいしか、気が休まる相手などいないのさ」
のあ「太田優とあなたの間にある秘密はありますか?」
あい「いろいろと、だ。ただ、今回の事件に関しては何もないよ。この前来てくれた時から、会ってもいない。君らはあったのか?」
のあ「はい」
あい「様子はどうだった?」
のあ「落ち込んでいる様子ではありました。彼女もこの家の事は気にかけていたようですから」
あい「……何か、事件については言っていたか」
のあ「いいえ。何も知らないようでした」
あい「そうか、それならいい」
真奈美「……?」
のあ「では、失礼いたします。貴方も警戒を」
あい「わかっている。君らも気を付けたまえ」
東郷邸・中庭前廊下
真奈美「……なぁ、のあ」
のあ「なにかあるの、真奈美」
真奈美「なんか、おかしくなかったか?」
のあ「いえ、別に。あなたの思い込みよ」
真奈美「そうか、うーん」
肇「あ、えっと、探偵さんでしたか?」ゴリゴリ
のあ「藤原肇、ね。こんなところでどうしたの?」
肇「中庭を警察の人が見回ってて、居づらいんです」
のあ「人が出入りした可能性があるから、仕方ないわ。作品は出来た?」
肇「はい。でも、あまり出来がよくなくて、次の準備をしているところです」
真奈美「ところで、何を臼で潰してるんだ?」
肇「鉱石とか貝殻とかです。土に微妙に混ぜることで、焼き上がりに差をつけるんです」
のあ「なるほど、繊細ね」
肇「やっぱり落ち着きませんから、そっちが焼き物に出てます。探偵さん、その、お願いします」
のあ「わかったわ。あなたも気にやみ過ぎないように」
肇「はい」
東郷邸・リビング
まゆ「あらぁ、探偵さん、こんにちは」
のあ「こんにちは、佐久間さん。他の人は?」
まゆ「お部屋みたい。お茶を飲もうと誘ったのだけれど……」
のあ「私達が頂いてもいいかしら?」
まゆ「はい、今、注ぎますね」
のあ「ありがとう。何か変わったことは」
まゆ「とくにないですねぇ。はい、助手さんもどうぞ」
真奈美「ありがとう、いただくよ」
のあ「みんなの様子は?」
まゆ「大丈夫です。一応は……」
真奈美「君も悲しいなら、気丈にふるまう必要はないぞ」
まゆ「ありがとう、助手さん。お砂糖、使いますか?」コトン
のあ「遠慮するわ」
真奈美「私は頂こう」
まゆ「……いつもなら、もっと人がいるのに、今日はまゆの貸し切りです。贅沢、ですね」
のあ「……」
ガチャ
由愛「……あっ」
まゆ「あらぁ、由愛ちゃん、顔に白い絵の具が付いてる。待ってて、濡れ布巾を用意するからね」
由愛「うん……」
まゆ「こっち、向いて」フキフキ
のあ「……ごちそうさま。帰りましょう、真奈美」
真奈美「わかった。ごちそうさま、佐久間さん」
まゆ「はぁい、また、お茶を飲みに来てくださいねぇ」
5日後
高峯探偵事務所
真奈美「結局、進展はなしか」
のあ「怪しい人物はおろか、証拠品も証言も出てこない」
真奈美「なにかないのか、のあ!」
のあ「語気を強めてもないものはない。やっぱり、東郷邸の誰かが、もしくは複数人が関わっている」
真奈美「……」
のあ「黙るくらいなら聞かないで。私だって、棟方愛海の涙がニセモノだとは思いたくない」
真奈美「それでも、疑っているんだろう?」
のあ「それが、私の仕事だから。論理的な帰結以外は、私の中では認めてはいけない」
真奈美「のあ……」
プルルル……
のあ「はい、こちら高峯探偵事務所」
真奈美「着信音戻したのか」
のあ「……わかりました。すぐ行きます」ガチャ
真奈美「進展が?」
のあ「あの涙が本当だと証明はされた、最悪だわ。真奈美、車を出しなさい」
真奈美「……次の被害者か」
河川敷・東郷邸より約1キロ
のあ「お疲れ様です」
亜季「お疲れ様であります」
のあ「説明を」
亜季「了解であります。被害者は、棟方愛海」
真奈美「……まだ、14歳だぞ」
亜季「今日午後9時頃、帰りが遅いことから東郷邸の子供達が警察に相談、その後連絡を受けた警邏中の伊集院惠巡査が橋の下にて遺体を発見しました」
のあ「伊集院巡査、不審者情報を集めてくれてた交番の婦警さんね」
亜季「そうであります。惠は私の頼れる同期でして、現在もそちらで見分中であります」
のあ「続けて」
亜季「死亡推定時刻は今日午後8時ごろ。死因は喉を切られたことによる出血多量と予想されております」
のあ「目撃者は?」
亜季「7時頃から7時半頃に何かを探している棟方愛海を何人か目撃しています。また、棟方愛海は6時前後に同級生と河川敷に落し物を探しに行くと言ってわかれております」
のあ「犯人もしくは怪しい人を見た人は?」
亜季「おりません。昨日は厚い雲がかかる暗い日ではありましたから、橋の下に隠れていたら見つからないかもしれません」
のあ「遺体を見てもいい?」
亜季「どうぞ。松山殿がいるであります」
のあ「久美子」
久美子「あら、お疲れ様」
のあ「遺体の状況は?」
久美子「今から搬送するから、見れないけど、説明だけでいい?」
のあ「いいわ」
久美子「被害者は棟方愛海、死因はおそらく喉を切られたことによる大量出血。ノドにかなり大きめの刃物が振り落とされてて、首の骨も損傷」
のあ「傷は、ノドだけ?」
久美子「あとは両眼球とその近辺に数か所」
のあ「今回は持ち去られた、その」
久美子「ノドボトケがない。眼球は諦めたみたい」
のあ「諦めた?」
久美子「眼球付近の傷は小さな刃物、おそらくハサミによるもの。ただ、切るまでは至ってないから、目撃者を気にして諦めた、というのが私の予想」
真奈美「最初の事件ほど計画性がない、ということか?」
のあ「たんにそれほど興味がなかっただけかもしれない」
久美子「それと、もう一か所切り取られてたわ。手の平の皮膚が四角く切り取られてた」
のあ「……そこを切り取る理由は、なに?」
久美子「私にはわからない。私はこれから検視に移るわ。何か聞きたいことは?」
のあ「犯人、利き腕はどっち?」
久美子「左」
のあ「志乃」
志乃「高峯さん」
のあ「現場の状況を教えてちょうだい」
志乃「的確な人物がいるわ。伊集院巡査」
伊集院惠「はい」
志乃「高峯さんに説明をよろしく」
惠「了解しました」
伊集院惠
○○交番勤務の巡査。周辺の警邏と不審者情報収集を行っている。大和亜季とは同期。
惠「東郷邸の警備担当から連絡を受けまして、警邏から棟方愛海の捜索へと移りました。河川敷に女の子がいたという情報から、河川敷を調査したところ、橋の下にて遺体を発見いたしました」
のあ「遺体は野ざらしだったの?」
惠「いえ。ブルーシートがかかっておりました、もともと放置されていたものをかけただけのようですが」
のあ「遺留品は?」
惠「棟方愛海のカバンが見つかっております。サイフ等は取られておりませんので、物取りの可能性は低いかと。それと、今回は犯人の遺留物があります」
のあ「それは、なに?」
惠「レインコートです。大量の血を浴びております」
志乃「残念だけれど、犯人につながりそうもないわ。ブルーシートと同様に放置されたものを着ていたとみられている」
惠「犯人は非常に短い時間で行われたものと推測されます。目撃情報からして、7時から8時の間。不審者を目撃した人物もいないことから、堂々と現場を立ち去ったものと思われます」
のあ「ありがとう。志乃、あなたの考えでは、同一犯と思う?」
志乃「犯行の手際の良さからして、おそらく」
のあ「そして、標的がはっきりしたわ。東郷家をマークしなさい」
志乃「もちろん、すでに人が行ってるわ」
のあ「私達も行くわよ、真奈美」
真奈美「ああ」
のあ「いや待って、警察とはち合わせても、仕方が……」
真奈美「どうした?」
のあ「財前時子がいる」
真奈美「お、おい、待て!」
のあ「待ちなさい、財前時子!」
時子「なによ、って、探偵さんじゃない」
のあ「どうして、あなたがここに?」
時子「なんでって、通勤経路だからよ!それより、これは何の騒ぎよ」
のあ「また通り魔事件が起こったのよ」
時子「通り魔、また?」
のあ「ええ、また東郷邸の住人が殺された」
時子「……くっ、なんでこんなにタイミングが悪いのよ。まかり間違えたら、二つとも発見者になってたって、こと」
のあ「そうね」
時子「そうね、じゃないわよ!こっちの気分も知らないで!」
のあ「今日も残業だったのかしら?」
時子「そうよ、なんでこんな時間まで残らないといけないのかしら、そのあげくに、これよ」
のあ「そうみたいね」
時子「……誰が殺されたのよ」
のあ「棟方愛海よ」
時子「よりによって、その子、なの、気分が悪いわ。帰るわ、どいて頂戴」
のあ「そのうち警察が行くわ」
時子「ええ、なんでも話すわよ。でも覚えておいて、私はなんの関係もないわよ」
のあ「わかってるわ」
真奈美「急に走り出すな、のあ。まだ怪我が治ってないから走れないんだ。それで、財前時子はなんて?」
のあ「本当に帰り道だったようね。真奈美、太田優のところへ行きましょう」
真奈美「太田優のところへか?」
のあ「東郷邸は警察に任せましょう」
××美容室
カランカラン
優「今日はもう閉店ですよー」
のあ「こんばんは」
優「あら、高峯さん、どうし……まさか、また」
のあ「ええ、今度は棟方愛海が殺されたわ」
優「……そんな」
のあ「あなたは、ずっとここに?」
優「ええ、これから店を閉めるところ」
のあ「一人?」
優「ええ、7時過ぎた所から今日は一人で」
のあ「……また、アリバイはないのね?」
優「そんな、あたしも疑われているの……?」
のあ「……」
優「そんな!あたしはそんなこと、絶対にしない!」
のあ「……でも、誰かはしてるわ。もしかしたら、東郷邸の住人かもしれない」
優「……そんなはず、そんなはず、ありません」
のあ「二人目が殺された以上、続きがある可能性が高いわ」
優「……あの人たちが、そんなこと、しない」
のあ「教えて、太田優。東郷邸には何かあるの?」
優「なにも……」
のあ「東郷あいから何か聞いてるでしょう?」
真奈美「おい、のあ……」
優「ないの!あそこはあいさんの自宅で、子供達を支援するために開放してるだけ、本当に、本当に、やましいことはない、の……」
のあ「本当ね?」
優「ええ」
のあ「ありがとう。ところで、ハサミは見つかった?」
優「ハサミは、まだ」
のあ「心あたりは?」
優「……ない」
のあ「お邪魔したわ。真奈美、東郷邸へ」
東郷邸・中庭
まゆ「た、探偵さん!」
のあ「どうしたの、そんなに慌てて」
ガシャーン!
真奈美「大暴れしているようだな」
まゆ「肇ちゃんが暴れてて、こっちに、はやく!」
のあ「行くわ」
真奈美「私もすぐに追いつく」
まゆ「肇ちゃん!」
ガシャーン!
のあ「藤原肇作なら、一個数十万とかするでしょうに。もったいない」
肇「ああ、もう、なんで!」ガシャーン!
のあ「藤原肇、止まりなさい」
肇「いや、いやだよう、なんで、なんで殺されなくちゃならないの!」ガシャーン!
まゆ「肇ちゃん……」
のあ「とりあえず、止めるわ。落ち着きなさい、藤原肇!」
肇「嫌です!邪魔しないで!」ガシャーン!
のあ「おっと、危ない」
肇「あなたが、早く犯人を見つけてくれれば良かったのに、どうして、見つけてくれないの!」
のあ「……ごめんなさい」
肇「この、この!」ガシャーン!
真奈美「そこまでにしておこうか」
肇「つかまないでください!邪魔しないでください!」
真奈美「落ち着け、腕を振り回すな。物に当たった所で何にもならんぞ」
肇「だって……」
真奈美「よし、いい子だ。辛いのはわかる。だからこそ、強く立て。ここで折れたら、進めなくなるぞ」
肇「でも……」
真奈美「折り合いは徐々につけていけばいい、今は休むんだ」
肇「……はい」
真奈美「佐久間さん、部屋に連れて行ってあげてくれ」
まゆ「はい。肇ちゃん、行こう」
のあ「やるわね、真奈美」
真奈美「海外暮らしも時には役に立つ」
のあ「この様子だとまともに話は聞けなさそうね、撤退するわよ」
真奈美「了解だ」
翌日
高峯探偵事務所
のあ「志乃から聞き取りの報告が来たわ」
真奈美「進展はないんだろ?」
のあ「そうよ。東郷あいは帰宅途中で特にアリバイはないが、犯行の証拠はない。他の住人は犯行時刻に自宅にいたようね。西川保奈美とアナスタシアに関してはホテル内」
真奈美「前とほぼ同じか」
のあ「だけれど、棟方愛海は何かをあそこで探していた」
真奈美「何をだろうね」
のあ「違うわ。何故探していたかが問題よ」
真奈美「ん、どういうことだ?」
のあ「何かがあると教えられたんでしょう、及川雫殺しの犯人につながる証拠、とかね」
真奈美「教えた人物が犯人か」
のあ「抵抗した形跡がほとんどないから、おびき寄せた顔見知りの犯行なんでしょうね。ただ、犯人が証拠を残すとは思えない」
真奈美「つまり、どういうことだ?」
のあ「通話や紙もなく、棟方愛海へは口頭で吹き込んだ、とかね」
真奈美「……なら」
のあ「やはり通り魔はない。顔みしりの犯行よ」
真奈美「やっぱりか」
のあ「東郷邸へ行ってみましょう」
東郷邸・玄関前
時子「いいわよ、知らないから!」
のあ「また財前時子がいるわね」
時子「ああ、探偵さん、私は忙しいので止めないでくださらない!」
のあ「止めてないわ」
時子「ならいいわ!」
真奈美「怒っていたな」
のあ「わかりやすいわね。あれぐらいわかりやすいと世の中やりやすいのだけれど」
真奈美「しっかし、何のようだったんだ?」
のあ「さぁ、なんでしょうね」
東郷邸・リビング
まゆ「……探偵さん」
のあ「あなたもお疲れのようね」
まゆ「まゆ、どうすればいいのかわからない。どんどん、みんなが遠くへ行ってしまうみたい」
真奈美「気を病むな、気持ちが離れたわけじゃない」
まゆ「でも……」
のあ「佐久間さん、お聞きしていい?財前時子とはさっき話した?」
まゆ「ええ、失礼なことを言うので、追い払ってしまって……」
のあ「この中に犯人がいるとか」
まゆ「そうです。しかも、この家のこと罵って……信じられない。あんなこと言うなんて、ゆるせない」
真奈美「財前時子も口調は強いが、悪い人間ではない。ゆるしてあげてくれ」
まゆ「……はい」
のあ「他の人は?」
まゆ「瑛梨華ちゃんはここに居づらいのか学校へ。由愛ちゃんが部屋で塞ぎこんでいるので、まゆは学校をお休みしました。あいさんは、会社へ。今は肇ちゃんの様子を見に行こうかと思ってた所で」
のあ「藤原肇は何をしてるの?」
まゆ「火をじっと眺めてました」
のあ「窯に火を入れたのか」
まゆ「真奈美さんに止められた後、気持ちをぶつけるところが欲しい、とか言ってて、陶芸にぶつけるとか」
のあ「なるほど。芸術家としてはそれしかない、のね」
まゆ「お茶、入れますね」
のあ「ありがとう、いただくわ」
まゆ「……犯人見つからないんですよね」ズズ
のあ「……」ズズ
ピンポーン
真奈美「来客か?」
まゆ「まゆが出てきますね」
東郷邸・リビング
優「こんにちは」
のあ「太田優……」
優「心配だから、来てみたの」
まゆ「優さん……」
優「みんな、元気じゃない、のね」
まゆ「……うん」
優「今日はまゆちゃんと高峯さん達だけ?」
まゆ「由愛ちゃんと肇ちゃんはいます。でも、みんな、バラバラになってしまいそうで」
優「大丈夫よ、まゆちゃん。大丈夫だから……」
まゆ「うん、ありがとう、優さん」
優「由愛ちゃんと、肇ちゃんには会えるかな?」
まゆ「……わかりません。でも、様子を一緒に見に行きましょう」
のあ「私達も行くわ」
東郷邸・由愛の自室前
優「由愛ちゃん、太田です、入っていい?」
由愛「……太田さん、ごめんね、今は入らないで」
優「わかった、また今度ね」
由愛「……」
のあ「ずっと、この調子か?」
まゆ「はい。まゆは時々入れてくれるんだけど……」
優「仕方ないもの、だって、ね……」
真奈美「……困ったものだな」
優「肇ちゃんのところにも行きましょう、ね?」
まゆ「はい、窯の前にいるかと思います」
東郷邸・中庭
のあ「……微動だにしないわね」
まゆ「今日はずっとあの調子で、ずっと窯の火だけ眺めていて……」
優「話しかけても大丈夫?」
まゆ「もともと集中すると聞こえないタイプだし、また、癇癪を起こすかもしれないから、静かにしておいてください」
優「……そう」
まゆ「肇ちゃんも、あんな子じゃなかったのに」
優「まゆちゃん、力になれることはなんでもするからね」
まゆ「ありがとうございます、優さん……」
真奈美「太田優を置いて来て大丈夫か?」
のあ「大丈夫でしょう。まだ大和巡査含めて詰めてる警察官も多いわ」
真奈美「まぁ、犯人と疑ってるわけじゃない」
のあ「それよりも気になるのは、財前時子の方ね」
真奈美「あの温厚な佐久間君を怒らせていたからな。何を言ったんだ?」
のあ「この中に犯人がいる、とかその類だと思うけれど。言いに来たのは、そのことじゃないかもしれないわ」
真奈美「なら、なんなんだ?」
のあ「さぁ、証拠でも見つけたのかもしれない。聞きにいけばいいことよ」
真奈美「それもそうだな」
のあ「行くわよ」
財前時子の部屋
ピンポーン
真奈美「出ないな」
ピンポーン
真奈美「留守か?」
のあ「待って。カギが開いてる……」
真奈美「どうした、のあ?」
のあ「真奈美、私達が東郷邸に居たのって、どれくらい」
真奈美「2時間は確実にいなかった」
のあ「くそっ、そんな馬鹿な」
真奈美「……まさか」
のあ「真奈美、警察を呼びなさい。財前時子が、死んだわ」
のあ「死因はロープのようなもので首を絞められたことによるもの。首の骨は折れてるから、よほど情け容赦なかったようね」
のあ「犯行時刻は2時から4時の間。部屋が荒らされた形跡は、ないことから犯人がいた時間は非常に短時間」
のあ「リビングで亡くなっていることから、少なくとも顔見知りの犯行」
のあ「犯人は財前時子が死亡した後に、新聞紙を彼女の体に乗せ、その上から台所から持ち出した包丁を突き刺した」
のあ「ロープは持ち去ったが、包丁ともう一つは残していった。それがハサミ」
のあ「ハサミはおそらくカット用のハサミ。犬のシールが付いている」
のあ「見覚えは?もちろん、これは太田優がハサミにつけているものだ」
のあ「太田優が盗難されたハサミ。かつ、これまでの二つの犯行で使われたもの。固まった血が付いている」
のあ「犯人は隠す気がない、いや、ハサミが出た所で犯人には近づけないという自信」
のあ「ハサミで財前時子の頬に傷がついている。歪だが、見覚えがある」
のあ「成宮由愛のサインだ、ばかばかしい」
のあ「ナイフならともかく、あの少女がどうやって首の骨を折る?いや、可能性は捨ててはダメ」
のあ「遊ばれている。ただでさえ手慣れているが、3つ目は速過ぎるわ」
のあ「だが、その早い行動に移した理由は?財前時子は何を知っていたの?」
のあ「ノートがちぎられている、持っていかれたわ。裏にも映っていない」
のあ「調べ物はインターネット、パソコン……ネット回線がつながってない、財前時子は意外と古風」
のあ「見かけは派手で、性格もキツイけれど、近所づきあいも大切にするタイプ」
のあ「情報源は、回覧板とチラシ。どちらも、迷い犬と猫を探すもの」
のあ「これに、財前時子に何か根拠があったの?」
のあ「いいえ、ないわ。犯人は先手を打った、それだけ、異常な行動力」
のあ「短時間の犯行、それこそ、数十分目を離せば可能」
のあ「いやそこじゃない、財前時子の行動をどうやって、知った……?」
のあ「……迷い猫と犬か」
真奈美「のあ!連れてきたぞ!」
のあ「ありがとう、真奈美、ここは任せたわ」
真奈美「どこ行くつもりだ!」
のあ「交番よ」
○○交番
のあ「伊集院巡査はいるかしら?」
惠「高峯さん、お疲れ様です」
のあ「ここ最近の不審者情報はある?」
惠「いえ、特には」
のあ「それじゃ、犬とか猫の被害届あるかしら?」
惠「犬とか猫、ですか?」
のあ「いじめているとか、そういう感じでいいわ」
惠「それなら、ありますね。小中学校が近いので、エアガンを動物に向けて撃ったとか。そんな話ばかりだけれど。少しだけ待っててください」
のあ「ええ」
惠「えっと、このファイルかな。どうぞ」
のあ「借りるわ」ペラペラ
惠「なにかありました?」
のあ「いいえ、なんでも。多いほうではないのね」ペラペラ
惠「ええ、おそらく」
のあ「ありがとう、参考になったわ」
惠「ええ、また何かありましたら」
のあ「また来るわ。そう言えば、伊集院巡査、利き手はどちら?」
惠「私ですか?左利きですが」
のあ「そう。連絡が来る前に来れて良かったわ、巡査」
東郷邸・玄関前
真奈美「おいおい、どこに行ってたんだ、のあ!」
のあ「別に確かめていただけ。事件の様子は?」
真奈美「直接の死因と思われるロープは見つからない、残っていた包丁から見つかった指紋は財前時子のものだけだった」
のあ「ハサミの方は?」
真奈美「太田優の指紋は見つかった。他の指紋はなしだ」
のあ「そうでしょうね」
真奈美「どう思う、のあ」
のあ「東郷あいは?」
真奈美「まだ連絡が取れない。やはり東郷あいが……」
のあ「いいえ、一番怪しいのは太田優。警察が話を聞いているのは、太田優でしょう」
真奈美「その通りだ。詰所にしてる部屋にいる」
のあ「だけれど、それならすぐにロープの方が出るはず」
真奈美「ロープは出ていない」
のあ「でしょう。簡単に犯人は尻尾をつかませない。東郷邸には誰か帰って来た?」
真奈美「いいや。いるのは佐久間さん、藤原肇、成宮由愛の3人だけだ」
のあ「西川保奈美とアナスタシアは?」
真奈美「実はすでに都内にすらいないそうだ」
のあ「ああ、容疑者から外れたからでしょう」
真奈美「その通りだ。のあ、もしかして、何か掴んでないか?」
のあ「つかんでいたら、今すぐにでも犯人をあげるわ。言うわ、わからない」
真奈美「じゃあ、聞くが、財前時子が殺された理由について検討はつくか?」
のあ「理由があるなら、口封じもしくは怨恨」
真奈美「財前時子は犯人がわかっていた?」
のあ「違うわ。わからないけど、犯人は殺した。真奈美、言っておくけれど」
真奈美「なんだ?」
のあ「人を殺すのに理由はいらないのよ」
真奈美「何を言ってるんだ?」
のあ「殺したいから殺す、それだけかもしれないわ」
真奈美「……」
のあ「捕まえるわ、必ず。理由がなくても行動はあるし、法もある。それで対抗すれば、良いだけよ」
東郷邸・リビング
真奈美「大丈夫か、佐久間さん?」
まゆ「……大丈夫です」
真奈美「東郷あいの帰りは深夜になりそうだな、君にばかり負担が行ってる」
まゆ「大丈夫、まゆ、お夕飯、作らないと」
真奈美「休んでおけ、私がやろう」
のあ「真奈美の料理はおいしいわよ、見かけによらず」
真奈美「見かけによらないは余計だ。いいかい?」
まゆ「ありがとうございます」
真奈美「よし、手によりをかけよう」
プルルル……
まゆ「はい、東郷です、あら、瑛梨華ちゃん、あ、そう、わかった、お友達のうちに泊まるのね、大丈夫、おやすみなさい」
のあ「赤西瑛梨華は警察の連絡も行っている、心配しなくていい」
真奈美「そうすると、何人だ?」
まゆ「あいさん、肇ちゃん、由愛ちゃん、まゆで、4人……」
真奈美「太田優は帰ったのか?」
まゆ「はい、大丈夫かな、優さん……」
真奈美「彼女も立派な人だ、大丈夫だよ」
のあ「……佐久間さんはここを離れたくないのね?」
まゆ「まゆは、ここが好きですから。みんなのために、何だって、するのに……」
のあ「……東郷あいはどう思ってるんだろうな、この事態を」
まゆ「……わかりません」
真奈美「湿っぽい話はよそう、すぐに夕飯にするから、呼んでおいで」
まゆ「わかりました」
のあ「私も行くわ」
東郷邸・中庭
まゆ「あれ……?」
肇「まゆちゃん、どうしました?」マジマジ
のあ「いい茶碗ね」
肇「いいものが出来ました。もう何も聞きなくないって、陶芸に向き合った結果なのが皮肉なところですが」
まゆ「肇ちゃん、大丈夫なの?」
肇「ありがとう、まゆちゃん。だいぶ落ち着いたから」
まゆ「肇ちゃん、ご飯食べよう、一緒に、ね?」
肇「お腹が空いちゃった」
のあ「……」
肇「どうかしましたか?」
のあ「いえ、なんでもないわ。落ち着いてよかった」
肇「…そう言えば、ご迷惑をおかけしました」
のあ「感謝は真奈美に言ってちょうだい。ご飯の準備もしてくれてるから」
東郷邸・成宮由愛の部屋
まゆ「由愛ちゃん、入っていい?」
由愛「……いいよ」
まゆ「入るよ」カランカラン
のあ「ここで待ってるわ」
まゆ「落ち着いた?」
のあ(荒れた様子なし。落ち込んでるだけ。手に傷はない)
まゆ「お腹すいたよね、一緒にご飯たべよう、ね?」
のあ(そもそもこの部屋、このドア以外で出られそうもない、そしてドアにはベルが付いてる)
まゆ「行こう」
のあ「行きましょう、安心して」
高峯探偵事務所
真奈美「今日は疲れたぞ」
のあ「そうね」
真奈美「被害者がまた一人増えて、東郷家から人はいなくなるばかりだ」
のあ「でも、犯人は尻尾すらつかませない」
真奈美「それなんだよ、なぜこんなに犯人は痕跡を残さないんだ?」
のあ「用意周到。凶器も返り血を浴びた服も当然のように見つからない」
真奈美「何ものなんだろうな」
のあ「……なんで、3人目が財前時子だったのか」
真奈美「どうした?」
のあ「わからない。本当に、突発的なものだったのか」
真奈美「のあ?」
のあ「警察の調査が終わるまでは寝ましょう。明日、犯人の尻尾をつかむわ」
真奈美「そうだな、今日は眠るとしよう」
のあ「おやすみ、真奈美」
翌日
高峯探偵事務所
のあ「私の目利きも悪くないものね」
真奈美「なんだ、資料を読んでいたわけじゃないのか」
のあ「警察は無能じゃないけど、犯人が上手すぎる。財前時子の靴で訪れるとか、あまりにもおかしすぎるわ」
真奈美「また袋小路か」
のあ「私が見ていたのはこれよ、藤原肇が昨日出した作品群にいい値段がついたわ。見てみなさい」
真奈美「凄いな、これは」
のあ「落ち着いたはいいけれど、逆に佐久間さんが心配するレベルで没頭してるらしいわ」
真奈美「それは心配だな。というか、連絡取ったのか?」
のあ「ええ。東郷あいの様子を含めて聞いたみたわ」
真奈美「それで?」
のあ「東郷あいはだいぶ慌てていたみたいね。それでも残った3人に対しては、かなり気遣った言葉をかけていたみたいだけれど」
真奈美「慌てていた?」
のあ「東郷あいが、喜怒哀楽を見せるのは想像できるけど、慌てるのは想像できないわね。なにか、あったのかしら」
真奈美「聞きに行けばいいんじゃないか?」
のあ「私達にその姿を見せると思うなら」
真奈美「見せんだろうな」
のあ「扱いやすい相手ではないわ、最初から」
真奈美「むぅ」
プルルル……
のあ「こちら高峯探偵事務所。わかった、転送して。mikunyandaisuki@noa.takamine.co.jpに送ってちょうだい」
真奈美「それ仕事用のアドレスに使ってないだろうな……?」
のあ「佐久間さんからメールが転送されてくるわ、来た」
真奈美「私にも見せろ」
のあ「ええ、太田優から来たメールよ」
Fwd:メモ
3-21-12
404
uo
2
L3R4
ごめんなさい
のあ「来たのは2時間前、佐久間さんにだけ送られてきたみたいね。今さっき見つけて、慌てて送ってきたらしいわ。言い忘れたけど、太田優から朝に電話もあったみたいね」
真奈美「なんだ、これ?」
のあ「さぁ、なんでしょうね」
真奈美「暗号か?」
のあ「LとRがあるくらいだから、左と右、上は住所かしら」
真奈美「uoは?」
のあ「魚、ではないでしょうね」
プルルル……
のあ「こちら高峯……、佐久間さん?なにか……わかった、すぐ行くわ」
真奈美「今度は何だ?」
のあ「ピポパっと」
真奈美「どこに電話している?」
のあ「留守番メッセージ、太田優の声。行くわよ、真奈美」ペラペラペラ
真奈美「太田優の自宅か?」
のあ「電話帳に自宅の住所あり、ここよ」
真奈美「了解した」
のあ「待て」
真奈美「なんだ?」
のあ「外の様子を確認して」
真奈美「……わかった、だが、誰をだ?」
のあ「警察官がいないかどうかだけ確かめて」
真奈美「いないぞ。だが、のあ、それって……」
のあ「話はあと。急いで」
太田優の自宅
のあ「警察は?」
真奈美「いない」
のあ「3階だったわね」
真奈美「留守番メッセージなんだったんだ?」
のあ「もし電話に出ないなら訪ねて♪、以上」
真奈美「単純だな」
のあ「だけれど、普通ではない。ここね」ピンポーン
真奈美「カギは?」
のあ「空いてない。オートロックみたいね」ピンポーン
真奈美「大屋に、カギを……」
のあ「真奈美、ぶち破るわ。大屋にはその後に、カギを開けて欲しいと頼んだ人間がいるか聞いて」
真奈美「はぁ?」
のあ「行くわよ、せーの!」ドン!
真奈美「下手クソ、こうだ!」ドーン!
のあ「さすが」
真奈美「褒められても嬉しくない」
のあ「そして、室内も予想通りか」
真奈美「……これは酷いな」
のあ「さっき言った事を確認してきて。その後に警察を呼ぶわ」
真奈美「了解した」
のあ「被害者、おそらく太田優。遺体には指が何本かない。それと頭部がない」
のあ「財前時子の時はそれはなかった。何故か、財前時子には執着がなかったから」
のあ「左胸の皮膚と筋肉がハサミで切り取られている、ハート型、遊んでいる」
のあ「部屋の中は荒らされている。いや、もみ合った結果そうなった。物取りという可能性は低い」
のあ「何故か。タンスやテーブルの上を触った形跡がない。血しぶきがそのまま残っている」
のあ「ハサミが散乱している。が、これは太田優の私物だろう。そのうちの一つが、犯行に使われている。また、ハサミは置いて行った」
のあ「そして、今回はナイフが落ちている。犯行に使われたもの」
のあ「ナイフの手元には赤いものが付着。おそらくネイル。これは太田優のもの」
のあ「しかし、なんでネイルをしている?……なるほど」
のあ「風呂場から物音。太田優の愛犬が出したもの。風呂場にいたのか。だが、風呂場で飼っているわけがない。カットの時の半分はこの犬の話だったというのに」
のあ「閉じ込めた、何が起こるかわかっていたから。起こる?いや、起こすだ」
のあ「太田優がナイフを握っていた。先制攻撃は少なくとも太田優」
のあ「だけれど、相手が悪かった。右手が少し丸まったまま硬直、ナイフを奪われる前に殺された」
のあ「犯人はその後、自ら用意したナイフと太田優が持っていたもので滅多切り。今までと違う方向の傷だらけ」
のあ「ついに隠さなくなった。太田優の遺体、腹部にハサミでつけたサイン。左手用と右手用のハサミ、両方に血」
のあ「気分よくナイフを振り回す、踊るように」
のあ「犯行後、レインコートを捨てる。カビが生えているような使い古されたもの」
のあ「レインコートに一切の傷なし。犯人は一枚上手」
のあ「血が付いた靴が存在するが、派手なヒール。まぁ、太田優のものでしょう」
のあ「太田優が犯人で、返り討ちにあった?それはない。太田優は素手。犯人は自分に足がつくようなことはしない。でも、先制攻撃は太田優」
のあ「太田優は犯人を呼んだ、直接的か間接的かはわからない。財前時子の例がある、ほのめかすだけでくる」
のあ「理由はなんだ?いや簡単だ、犯人を止めるため」
のあ「……そうか、確固たる証拠がないのか。だから、それしかない」
のあ「私達は負けた。だけど、絶対に止めるわ、太田優」
真奈美「のあ、まだ誰も来てないようだぞ」
のあ「そうじゃないと意味がない」
真奈美「警察に連絡するか?」
のあ「あと少しだけ待ちなさい。3-21-12、ここの住所は28の1」
真奈美「住所か?」
のあ「21番の12は一軒家だ。逆」ポチポチ
のあ「12番の21、雑居ビル。3階は、ジムね。行くわよ、真奈美」
のあ「ジムの前、404と言えば」
真奈美「これだろ、ロッカー。404と表示されてる」
のあ「そうロッカー。カギではなく、暗号式。アルファベット入力」
真奈美「uとoだな」
のあ「uoとその下、2。つまり、uuoo」
真奈美「違う見たいだぞ」
のあ「先走り過ぎよ。あと3文字付ければいい、おそらく、yとtとa」
真奈美「その意味は」
のあ「yuuoota、開いた。送られても一瞬ではわからないし、いつもと綴りが違う。ありがとう、先手は取ったわ」
真奈美「何が入っていた?」
のあ「小箱とファイル。小箱には何かの骨、ファイルには日記の切れはしと、領収書か。それと写真。日記の切れ端にはまだインクが乾ききってない字で、『10時間以内に』」
真奈美「なんだ、この写真?」
のあ「タヌキの死体かしらね。撮り方が特徴的。更に問題は領収書」
真奈美「……これって」
のあ「残りは、L3R4。真奈美、太田優の美容室へ」
真奈美「わかった」
のあ「太田優のハサミを回収した。美容室に置いていたスペア、すでに一つは盗まれ、財前時子の部屋で再び見つかった」
真奈美「L3R4は、ハサミの番号」
のあ「明らかに指紋が付いてる。なぜか、古くない指紋。真奈美、急ぎなさい」
真奈美「十二分に急いでるさ!せっかくのスポーツカーだが、道が狭い!」
のあ「電話、佐久間さんからね、スピーカーつけるわよ」
真奈美「ああ」
まゆ「あの、探偵さん、お話したいことが」
のあ「なにかしら?」
まゆ「優さんは……」
のあ「残念だが」
まゆ「じゃあ、それじゃあ、やっぱり……」
のあ「どうしたの?」
まゆ「まゆ、犯人が、わかって……」
のあ「話すな!」
まゆ「……えっ」
のあ「悟られるな。相手は人殺しにためらいなんてない、怪物よ。今すぐ行くから、いつも通りに、お願い」
まゆ「……わかりました」
のあ「警察はだれがいる?」
まゆ「大和巡査が今、門の近くに……」ピンポーン
のあ「来客?」
まゆ「そうみたいです、ああ、見周りの伊集院さんです。今、大和巡査が迎えに……」
のあ「そこを離れなさい、ゆっくりと」
まゆ「えっ……」
のあ「和久井留美、柊志乃警部補のどちらかはいる?」
まゆ「たしか和久井さんが、部屋に」
のあ「ゆっくりと、お茶がいるか聞く感じで、行きなさい。いいわね?」
まゆ「わかりました」
のあ「すぐに行くわ。真奈美!」
真奈美「わかってる!」
のあ「座席、左下、いいわね。留美、はやく電話に出なさい!」
真奈美「わかってるさ!気をつけろ、舌噛むぞ!」
東郷邸・玄関前
のあ「お疲れ様です、大和巡査」
亜季「……お疲れ様です、高峯殿」
惠「お疲れ様です、何かお急ぎですか?」
のあ「話は聞いたわね?」
亜季「聞いているから、ここにいるであります……」
のあ「真奈美は留美の所へ急いで」
真奈美「ああ!」
のあ「大和巡査、伊集院巡査を拘束しなさい」
亜季「……了解であります」
惠「……な、なにを!?」
のあ「通話履歴を見せなさい。大和巡査、あとは任せたわ」
惠「……」
亜季「なぜでありますか、惠、辛い事も乗り越えて、憧れの警察官になったのに、どうして……」
惠「……だから、よ」
東郷邸・中庭
のあ「太田優、10時間以内に間に合ったわよ……藤原肇!」
肇「……なんですか、騒がしい。火を入れたところなんです、静かにしてください」
のあ「その火を止めさせてもらうわ。終わりよ、藤原肇」
肇「なんの話ですか、探偵さん?」
のあ「及川雫、棟方愛海、財前時子、そして太田優を殺したのはあなたよ」
肇「えっ、太田さんが亡くなった……?」
のあ「シラを切らなくていいわ。わかってるから」
肇「あの、証拠もないのに変なこと言わないでください」
のあ「あるわ。あなたには、ついにアリバイがなくなった」
肇「……なにを」
のあ「佐久間まゆがあなたがこの屋敷にいない時間を見つけてしまった」
肇「……部屋にこもっていたのでしょう。門のカメラに映ってないのでは?」
のあ「もちろん、あなたは門から出ていない。そもそも、全ての犯行で利用したのは隠し通路もしくはその塀を登るか、どちらか」
肇「まるで忍者みたいですね」
のあ「犯人は相当身軽よ。忍者、ヒットマン、本当にそれになりそうなくらい」
肇「面白いこと言いますね、探偵さん」
のあ「そして、もう一つ」
肇「なんでしょう?」
のあ「藤原肇、その首の傷、どこでつけたの?」
肇「……なにこれ」
のあ「勝ったわ、太田優、あなたの気持ちが勝ったわよ。唯一の成功した反撃、痛みすらほぼない傷、それだけで」
肇「違います、これは」
のあ「今までなら見つからないわ。だけれど、今回は私達の方が早かった。伊集院巡査はやっと、この屋敷の門の所に来ただけ」
肇「どこまでわかってますか、探偵さん?」
のあ「あなたの以前の犯行、要するに近くの犬や猫もしくはタヌキとかへの傷害行為、が伊集院巡査により隠ぺいされたこと。ハサミを太田優から盗んだこと、そして、最近もう一度盗もうとしたこと」
肇「それで?」
のあ「共犯がいること、警察内にいる伊集院巡査はそもそもあなたのしりぬぐいをしていた。そして、今回も」
肇「面白い想像ですね。あんなに真面目な婦警さんを疑うなんて」
のあ「今回は間に合った。まだ、ナイフは処理されてない。それに、あなたが持ち帰ったものも」
肇「持ちかえる?」
のあ「遺体の一部、どこにあるかも検討はつく。だから、時期にすべてわかるわ、藤原肇」
肇「……まいりましたね、なんで、みんなわかるのでしょう」
のあ「私が最初ではないのね」
肇「財前さん、太田さん、なんでわかるんでしょう。なにも残してないから、証明なんて無理なのに。大した付き合いもないのに」
のあ「財前時子はあなたが動物を殺している所を目撃した、そのあたりかしら?」
肇「そうみたいですね、それで決めつけるなんて、ばかばかしい。だから、醒めてしまった」
のあ「財前時子の遺体の一部を持ち帰らなかったのは、そのためね」
肇「ええ、もっともっと綺麗な作品が出来ると思ったのに」
のあ「遺体の一部を持ち帰ったのは、陶器に混ぜるため」
肇「陶器は土の命を火で焼きつける作業なんです、だから、濃密された命の塊を混ぜ合わせて、初めて素晴らしい作品を作れるんですよ。それに火も必要」
のあ「認めたわね?」
肇「ふふふ、探偵さんがいい作品だって言ってくれたから、解説してあげるんです。そうですよ、今、この火の中には太田さんの頭と指、胸の皮膚が入ってるんです」
のあ「……」
肇「命を燃やす火、とっても綺麗な火なんです、そんなに付き合いも深くないのに、私に優しくしてくれて、心配もしてくれて、そして命を科してまで、こんな殺人鬼を止めようとしてくれた……、ああ、なんてこの人は綺麗なんだろうって」
のあ「だから、殺したの?」
肇「そう、呼ばれたから。だから、とっても可愛いから頭を、人を幸せにする指を、そして、その清らかな心の証明で皮膚を頂きました。ねぇ、探偵さん、捕まえるのはもう少し待って、とってもいい陶器ができるわ」
のあ「本当にそんな理由だけなのかしら」
肇「もちろんです。雫ちゃんの小指は、とっても優しくて力強い雫ちゃんの力の源、前からとっても綺麗だと思ってたんです!ね、とってもいい茶碗見たでしょ、探偵さん!」
のあ「……あなた、私の目の前で」
肇「そうでした!うふふ、あの臼を回してる時間は楽しかったぁ……」
のあ「……癇癪も演技だったのね」
肇「もちろん!だって、前の作品なんて、これから出来る作品になーにひとつも勝らないのがわかってるのに?」
のあ「……」
肇「愛海ちゃんからは、可愛い声を出すノドとぬくもりある掌を頂きました。財前さんは、綺麗な鼻と指が欲しかったけど、使う気がおきませんでした。ねぇねぇ、探偵さん!今の窯、愛海ちゃんの命を固めています、出来あがったら、見てくださいね!」
のあ「お断りするわ」
肇「なんでですか?とってもいいものですよ?」
のあ「あなたは、そのためだけに、人を殺すの?」
肇「はい!動物の命じゃ濃密さが足らないから、私が知る人の美しい命を固めて、永遠にします。それの、なにが悪いんですか?」
のあ「あなたは、人間じゃない、別の何か」
肇「仕方がありません、それが芸術というものです」
のあ「話は通じなさそうね。道理で裁くのが無理なら、法で裁かれなさい」
肇「果たして、司法は裁くでしょうか?」
のあ「なんですって?」
肇「陶芸の方が大切な人は、お偉いさんほど多いですよね?」
のあ「あ、あなたは」
肇「太田さんの命を永遠にするためには、次の火が必要です。次は、あなたにします。本当は、とっても優しい、まゆちゃんにしようかと思っていんですけど、ね」
のあ「ナイフ……」
肇「いざとなったら伊集院さんに罪をかぶせるつもりで左手で振ってたけど、やっぱり右の方がいいですね。さ、探偵さん、こっちに来てください。来ないなら、こっちから行きますよ」
のあ「……!!」
肇「身軽ですね」ヒュン!
のあ「くっ」
肇「あきらめてください、私は忍者とか言ってたじゃないですか」
のあ「……」
肇「いい子です、静かに永遠に……」
のあ「真奈美!」
パーン!
真奈美「日本で銃を撃つとロクなことにならないんだがなぁ……」
肇「ナイフを撃ったんですか、助手さん、すごい!」ビリビリ
のあ「ふん!」ビターン!
肇「ふふ、空が見えてます。とっても綺麗な一本背負いでした」
のあ「そう」
真奈美「取り押さえさせてもらうよ、藤原肇」
肇「はい、諦めます。ふふふ」
のあ「なぜ、楽しそうなのかしら?」
肇「だって、空もあなた達もとっても綺麗だから」
のあ「……あなたの気持ちだけで作品は作れなかったの?あなたは壊れているが、人の優しさや心は知っていたのに。それなら、誰も死なずに済んだのに」
肇「そっかぁ、そうですねぇ。ああ、そうでしたねぇ」
のあ「あなたは、あなたを思ってくれる人々を失ったのよ。太田優は命を賭してまで、止めようとしたのに」
肇「ふふ、綺麗。とっても綺麗です、探偵さん。なんて、綺麗なんだろう……」
東郷邸・中庭
のあ「連絡ありがとう、久美子」
真奈美「どうだった?」
のあ「太田優の爪から藤原肇の皮膚と血が出たわ。あとハサミから指紋も」
真奈美「そうか」
のあ「無駄な死だったわ。言ってくれれば、私が……」
真奈美「のあ……」
志乃「高峯さん」
のあ「志乃……」
志乃「ご協力ありがとうございます」
のあ「いや、役には立ってないわ」
志乃「最後は見つけてくれた。それに、役に立ってないのはこちらも同じよ。署長にこっぴどく怒られることにするわ」
のあ「藤原肇の様子は?」
志乃「驚くほど詳細に犯行を自白してる。はっきり言って、他の刑事が怯えている」
のあ「むしろ被害者のことに愛着があるから、嬉々として語ってるでしょう」
志乃「実況見分いらないかもしれないくらいに」
のあ「伊集院巡査は?」
志乃「順調に自白中。藤原肇の過去の行為と、棟方愛海の件に関しては藤原肇の送迎すらしていたようね。あと目撃者情報も削っていた」
のあ「なるほど」
志乃「裏に何があるかは、これから次第ね。ところで、真奈美さん?」
真奈美「なにでしょう?」
志乃「発砲したことに関しては聞き取りに行くから、よろしく」
真奈美「やっぱりか……のあ、お前のせいだぞ」
のあ「がんばって」
真奈美「人ごとじゃないだろ、のあ!」
のあ「だって、あれ真奈美が管理者だし」
真奈美「い、いつの間に!」
志乃「それじゃ、よろしくね、真奈美さん」
東郷邸・リビング
まゆ「探偵さん……」
のあ「もう、泣いていいわ」ダキ
まゆ「探偵さぁん……」
のあ「辛いわね、まゆ」ナデナデ
まゆ「どうして、そんな、肇ちゃん……」
のあ「太田優が殺された時に、中庭にもどこにもいないことを見つけてしまったのね」
まゆ「……はい」
のあ「気づかなくて、よかった。藤原肇とは仲が良かった?」
まゆ「……はい」
のあ「もし、気づかれていたら殺されていたかもしれない。あなたが無事で良かった」
真奈美「……人が少なくなったな」
まゆ「由愛ちゃんも絵画協会つながりの人が連れていきました。瑛梨華ちゃんも別の所に住むそうで。保奈美ちゃんも事務所の寮に。アーニャちゃんも、遠くに……」
のあ「東郷あいとあなただけになったのね」
まゆ「まゆは、まゆはここが好きだっただけのに、どうして……」
のあ「あなたのせいではないわ、まゆ。離れても、縁が切れるわけではない、彼女達をこれからも見守ってるのよ」
まゆ「うん」
のあ「だから、今日くらいは泣きなさい。がんばったわね、まゆ」
まゆ「ぇぇん、のあさん…」
のあ「でも、ごめんなさい、もうここには居られない」
まゆ「えっ……」
のあ「もう一人、話を聞かないといけない人物がいる」
あい「なんだね?」
のあ「お話を」
あい「肇君については残念だった。まさか、彼女が」
のあ「何故殺人を容認した?」
あい「なんだって?」
のあ「私は、あなたが何故藤原肇の殺人を容認したのか、それを聞いているわ」
あい「まさか、私を疑っているのか?」
のあ「語弊があります。疑ってなどいない、確信をもっている」
あい「ふっ、確信か。大きく出たものだね、探偵さん」
のあ「藤原肇だけでは犯行は無理だった。実行犯は藤原肇だとして、協力者がいるのは間違いないの。その一人が、伊集院惠。しかし、何故協力をしているのか、真奈美?」
真奈美「東郷あいと伊集院惠はそもそも同じ学校の出身だな。それだけならいいが、学生時代に家庭が困窮した伊集院惠を支援したようだな」
のあ「以降、警察内であなたの懐刀となったのが伊集院惠」
あい「それが何かね?警察官になるまでの支援をしたのは事実だが、交番勤務のただの巡査だぞ?」
のあ「むしろ、それで良かった。なぜなら、大切なのは藤原肇の行動を隠すため」
あい「……ふむ」
のあ「伊集院惠は無事近くの交番で勤務して、藤原肇の行動を隠した。特に動物への傷害。理由は、彼女の作品のため」
真奈美「3年ほど前から藤原肇の評価はうなぎ登りだった」
のあ「藤原肇は生物を殺すことでしか、陶芸のモチベーションを保てないと誤解していた。そして、その作品の良さは、あなたも知っていた」
あい「……そうだな」
のあ「そして、あなたの事業の初期資金ともなった。だが、問題はもっと簡単だ。魅入られたな、あんなものに」
あい「ああ、藤原肇の行動は確かに異常だったが、しかし、あの陶芸には変えられない」
のあ「醜い欲ね。しかし、次第にそれだけでは済まなくなった」
真奈美「その準備が隠し通路。道を挟んだ東郷家の持ち物である倉庫へとつながる通路を、隠した。それが2年前」
あい「よく調べているな」
のあ「そもそも探偵ですので。こちらならいくらでも真奈美がやってくれるわ」
真奈美「私も本職はスタジオボーカリストなんだが」
のあ「だいぶ無職だったでしょうに。その話はやめておくわ。藤原肇はその通路を利用して、ずっと考えていた、それが殺人」
あい「……」
のあ「あなたは殺人を知り、藤原肇に問い正し、凶器や返り血を浴びたコートを処理した。伊集院惠の協力を得て」
あい「確かに、その通りだな」
のあ「ダウト。実際は違う、彼女の行動がそれを教えてくれた」
あい「……なにが言いたい?」
のあ「偶然は信じない。財前時子の残業は、あなたが回したものだ」
真奈美「財前時子は子請け孫請けもやっているような企業の事務。親元の一部にはあなたの企業も含まれていた」
のあ「2度とも発見者になるように仕組まれていた。そして、3人目の被害者にすることも折り入れ済み」
真奈美「関わらせれば、伊集院惠が動かしやすくなるからな。2度目に関しては他の警官が動き始めたから、伊集院惠が発見したということにせざるを得なかったようだが」
のあ「いざとなったら伊集院惠に罪をかぶせて、時間稼ぎまで想定済み。普段から住人に右利きと言うようにさせているのも、そのため」
あい「ばかばかしい」
のあ「財前時子の時、想定外の藤原肇の行動の早さに慌てていた。あなたが慌てる必要もないのに。それと太田優が関わってしまったことを妙に気にしていた」
真奈美「やっぱり、様子がおかしいとは思ってたんじゃないか、のあ」
のあ「あくまで支配下のもとで藤原肇は行動する予定だった。だけれど、あれを御せると思ったのは大間違いよ」
あい「確かに、あれは怪物だった。だが、それが私となんの関係がある?」
のあ「藤原肇は倫理観含めて壊れているけど、愛情と作品への熱意は本物よ」
真奈美「藤原肇の部屋で見つかったのが日記。あなたがしてくれたことへの感謝が書かれているよ」
のあ「あなたの言った通り、怪物だった。価値感が人間とは違う。したくてしたくて、仕方がなかった殺しを容認してくれたあなたが好きにならないわけがない」
真奈美「ちなみにだが、次の標的は佐久間まゆと決めていたようだ。次は」
のあ「あなただったわ。理由は、あなたが綺麗だから」
真奈美「私からは以上だ」
のあ「何か、言いたいことでもあるかしら?」
あい「ああ、気味の悪いものに魅入られた私への罰だろう。いくらでも、受けるさ」
のあ「それは違うわ」
あい「……何が言いたい?」
のあ「財前時子と太田優すら藤原肇を止めようとした、なぜか、簡単よ。藤原肇いや他の住人に情があったから。あなたは?一緒に住んでいた、あなたは何をしたの?」
あい「……」
のあ「なんで、止めなかったの。なんで4人も死なないといけないの!」
真奈美「のあ……」
のあ「優しい女の子、本当の姉妹のように悲しんだ女の子、単なる隣人だったのにあそこまで怒ってくれた女性、命を賭けた出入りの美容師、それだけじゃない、未来ある警官と将来のある陶芸家まで奪ったのよ!」
あい「……」
のあ「あの子が好きでしょうがなかった、この場所まで、あなたは!」
真奈美「のあ、落ち着け」
のあ「許さない。私は、絶対に、あなたを許さない!」ポロポロ
真奈美「話は警官にするといい、東郷あい。帰るぞ、のあ」
数日後
真奈美「事件の全貌はほぼ解明したみたいだな。東郷あいも容疑を認めたようだ。あいかわらず藤原肇は饒舌に語っているみたいだな」
のあ「珍しい、真奈美も新聞を読むのね」
真奈美「私でも新聞ぐらい読むさ。うわっ、また藤原肇の作品が高額で取引されてるな」
のあ「作品自体は良いものよ。だけれど今回の事件で価値をあげているのが気に入らないわ」
真奈美「まあな」
のあ「東郷あいのように魅入られた人間が出てこないことを祈るだけよ」
真奈美「そうだな。ところで」
のあ「なに?」
真奈美「昼ご飯を鼻歌混じりで作っている、あの子は誰だ?」
のあ「誰って、佐久間まゆよ。忘れたの?」
まゆ「ふふふふ~♪」
真奈美「いや、忘れてはいないさ。なんで、ここにいるのか聞いている」
のあ「ああ、言い忘れたわ。今日からここに住むから」
真奈美「はぁ?」
のあ「家事とか掃除をしてもらうかわりに、部屋を貸すことにしたわ。真奈美も本職に専念できるわよ」
真奈美「いや、私はもう少し早く言ってくれればよかっただけだ。そうじゃない、どういう経緯で住むことになったんだ?」
まゆ「まゆがお願いしたんですよ♪」
真奈美「うわっ、急に背後に立つな!」
まゆ「あんなことになって、まゆ行く所が無くなっちゃったんです」
真奈美「それは知ってる、辛いことになったな」
まゆ「そうしたら、のあさんが、真奈美が既にいるし一人増えようが同じだから来ないか、真奈美よりは楽だから、って言ってくれて」
真奈美「私をなんだと思ってるんだ、のあ?」
まゆ「だから、よろしくお願いします、って。真奈美さん、今度お料理教えてくださいね♪」
真奈美「こら、抱きつくな、おい、のあ」
のあ「仲良くていいわね」
真奈美「なんで拗ねてるんだ」
のあ「……別に」
まゆ「のあさんは今度、あみぐるみを一緒に作りましょ♪」
のあ「みくにゃんのあみぐるみ!いい、いいわよ、まゆ!」
真奈美「あ、戻ったぞ。ただのみくにゃん狂いに」
のあ「こんな時間!真奈美!新聞を寄こしなさい!」
まゆ「はーい、のあさん」
のあ「ありがとう、まゆ。第一助手に格上げしてあげるわ」
まゆ「わーい♪」
真奈美「おい、初日で降格は速過ぎる」
みっくにゃんだにゃー!
のあ「黙りなさい、居候、木場真奈美」
真奈美「助手ですらないのか!」
のあ「うるさい。みくにゃんの声が聞こえない」
なにがでるかにゃ!なにがでるかにゃ!
まゆ「可愛いですねぇ♪」
のあ「でしょう。ああ、みくにゃん……」
真奈美「まずいぞ、取り入るのが早い」
気になる人の話!
のあ「気になる人、まさか、彼氏……」
真奈美「自分の妄想で怒りに震えるな」
うーん、そうだにゃー……
ああ、いつもね、イベントに来てくれるファンの人がいるの
地方とかでも来てくれて、すっごい応援してくれてるんだにゃ
まゆ「あらぁ?」
その人が、とっても美人なのにゃ!
とっても綺麗な銀色の髪をしててね、背も高くてカッコイイにゃ!
のあ「……これ、私よね?」
Tさーん、これからも応援よろしくにゃ!
またイベントに来てにゃあ!
のあ「やった、やったわ、真奈美、まゆ!ウッヒョー!」
まゆ「……」
真奈美「佐久間君、これは持病の発作だから。そのうち慣れる、むしろ慣れてくれ」
のあ「うふふ、みくにゃん、大好き……」
真奈美「良かったな、髪型変えなくて」
のあ「そうね、お礼を……」
真奈美「……もう遅いな」
まゆ「どうしたんですか?」
真奈美「……髪型変えない方が言いと、のあに言ってくれたのは太田優だったんだ」
まゆ「……そうだったんですか。名前通り優しい人、でした」
のあ「ええ、生きてて欲しかった」
まゆ「……」
真奈美「……」
のあ「なぁ!!」
真奈美「急にどうした?」
のあ「観覧席!なんで留美がいるのよ!くっそー、ずるい!」
真奈美「はぁ……」
のあ「ネコアレルギーの私が辿り着いた桃源郷とか言いやがって、ずるい!」
まゆ「……この人、のあさんですか?」
真奈美「信じられないかもしれないが、本物だ」
まゆ「事件でも起こってた方がいいかも」
真奈美「そうかもな」
のあ「あいたいわ、みくにゃん……」
終
製作 テレビ朝○
EDテーマ byにゃん・にゃん・にゃん
オマケ
CuP「ああ、まゆはなんて可憐で可愛いんだ、さすがボクのまゆだ」
PaP「……本物の高峯のあなのか?最後泣いたぞ?」
CoP「そうですよ。一年分くらいの大声と表情筋使ったとか言ってました」
CuP「優しいまゆ、愛しいまゆ、エンジェル……」
PaP「CGじゃないの?」
CoP「CGはいいすぎですよ!」
おしまい
わかったこと
見切り発車で長編書いてはいけない
プロデューサーの出てこないまゆはただの美少女だ、可愛いが物足りない
大事なことを言っておくと、太田優は両利き
あと雫ちゃんも両利きですよ
投票時のセリフで凄い満足しかけたけど、またなんか書くのでよろしくです
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