持田亜里沙「7人が行く・真鍋先生の罪」 (56)
あらすじ
真鍋いつきは、少女の転落事故について何を隠しているのか
注
前2話
松山久美子「7人が行く・吸血令嬢」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403002283
伊集院惠「7人が行く・狐憑き」
伊集院惠「7人が行く・狐憑き」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406552681/)
から設定を引き継いでいます。未読でも問題はありません。
あくまでサスペンスドラマです。設定はドラマ内のものです。
久々に短いです。
それでは投下していきます
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1407499766
メインキャスト
持田亜里沙
S大学教育学部4年生。小学校教諭の卵。真鍋いつきが赴任している小学校で教育実習を行った。
真鍋いつき
小学校教諭。S大学教育学部卒。持田亜里沙とは大学時代からの付き合い。
序
SWOW部室
SWOW
S大学のサークル。セブン・ワンダーズ・オブ・ワールドの略で、名目上は旅行サークル。
構成メンバーは、代表財前時子、以下、伊集院惠、太田優、仙崎恵磨、松山久美子、大和亜季、そして、持田亜里沙の7人。
ひとしきり泣いて、彼女は顔をあげました。
覚悟を決めきれない、そんな様子で、ボソボソと話し始めました。
「あなたらしくないわ。そんな声で授業するつもりじゃないでしょう?」
いつも通りの彼女の指摘を受けて、深呼吸をしました。
その場にいる全員と一度ずつ目を合わせる。いつものように彼女はこの場を静かに支配して。
そして、話始めました。
教育実習の最終週、わずか数日前に起こった少女の転落事故のことを。
大切なモノを守るための、静かな戦いの結末を。
序 了
幕間
ケイト「ハーイ!」
ケイト「みなさん、準備は出来ましたカ?」
はーい!
メアリー「ケイト!アタシも準備ができたワ!」
ケイト「Okay!Please enjoy English!Let’s start today lesson!」
幕間 了
1
時刻:先週木曜日18:00
場所:市立T小学校会議室(校舎2階)
市立T小学校
N県某市にある公立小学校。山の中腹に所在する。
会議室
校舎2階東端。1階職員室の真上。南窓。
(真鍋いつき:会議室に入ってくる)
いつき「お疲れ様!今日はどうだった?」
(持田亜里沙:笑顔で迎える)
亜里沙「毎日、驚くことばっかりです」
いつき「そうだよねー。私もそうだったな。今日は何か用事でも?」
亜里沙「ちょっと相談したいことがあって。かけてください」
(亜里沙:2つの机を挟んだ向かいの椅子をしめす)
いつき「それで、相談ってなに?」
(いつき:着席・机の上に置かれたタイマーに目を向ける)
いつき「何、これ?」
(亜里沙:タイマーを手に取る)
亜里沙「お時間はありますか?」
いつき「あるけど、そんな遅くならないでほしいな」
(亜里沙:タイマーをセットする。机に置く)
亜里沙「短めにしますね」
(いつき:タイマーをじっと見た後に、亜里沙と向き合う)
いつき「どういうこと、かな?」
(亜里沙:ほほえむ)
亜里沙「隠しごとをしていませんか」
いつき「ううん。そんなこと……」
亜里沙「話してくれますね?」
(亜里沙:タイマーに手をかける。カウントダウンが始まる)
いつき「なんのこと?」
亜里沙「昨日の、放課後のことです」
(いつき:うつむく)
いつき「……そう」
亜里沙「……話してくれませんか」
いつき「いいよ。持田先生の今後のため、だもんね」
(亜里沙:小さく口を噛む。すぐに戻す)
亜里沙「はい。お願いします」
いつき「放課後の話だね、薫ちゃんが階段から落ちた……」
(いつき:外を見る)
南窓から外の景色へ。
校舎と校庭には高低差があり、つなぐコンクリート階段のカット。
2
時刻:先週水曜日17:50
場所:T小学校職員室(校舎1階)
職員室
校舎1階。東側は職員玄関、西側は生徒の玄関。南窓。
亜里沙「……」
いつき「……」
亜里沙「どうです……か?」
いつき「はい。よくできました」
亜里沙「ふー」
いつき「うん、自信持っていいよ。私はこんなにうまく出来なかったし」
亜里沙「そんな、いつき先輩は」
いつき「真鍋先生」
亜里沙「真鍋先生はお手本だもの、そんなことないです」
いつき「ふふ、ありがと、持田先生。はい、これ返すね」
亜里沙「ありがとうございます」
いつき「そろそろ6時になるね。お疲れ様」
亜里沙「お疲れ様でした。真鍋先生は?」
いつき「今日は戸締り担当だから、残って行くね」
亜里沙「わかりました。お先に失礼します」
いつき「また明日!」
3
会議室
いつき「このあと、まっすぐ帰った?」
亜里沙「はい」
いつき「だから、何も知らない」
亜里沙「……はい」
いつき「ケイトさんとも会ってないの?」
亜里沙「そうです」
いつき「何も知らないって、ことね」
亜里沙「だから、聞かせてください」
いつき「昨日、あの後に何が予定されていたかは知ってる?」
亜里沙「ええ。ケイトさんが放課後授業をしてくれた」
ケイト
地元国立大学の留学生。英語教育のアシスタントをしてくれている。
いつき「その目的は?」
亜里沙「学童保育の延長ですね。利用しやすいように名前が変わりました」
いつき「はい、正解」
亜里沙「昨日は何人残ってました?」
いつき「えっと……」
(いつき:指を折りながら数える)
いつき「8人だね」
亜里沙「覚えてます?」
いつき「うん」
亜里沙「ケイトさんと……」
いつき「メアリーちゃん、仁奈ちゃん、みりあちゃん」
メアリー・コクラン
T小学校の児童。アメリカ人。英語関連では、ケイトのお手伝いをしている。
市原仁奈
T小学校の児童。着ぐるみ好きの模様。
赤城みりあ
T小学校の児童。元気な女の子。
亜里沙「あとは……」
いつき「舞ちゃん、千枝ちゃん、千佳ちゃん、こずえちゃん」
福山舞
T小学校の児童。趣味は一輪車。
佐々木千枝
T小学校の児童。おませさん。
横山千佳
T小学校の児童。魔女っ子に憧れのある女の子。
遊佐こずえ
T小学校の児童。ぽやんぽやん系。
いつき「それと……」
亜里沙「薫ちゃん……」
龍崎薫
T小学校の児童。転落事故の被害者。
いつき「……」
亜里沙「……様子はどうですか」
いつき「命に別状はないようだけど……」
亜里沙「意識は戻ってないんですか」
いつき「そうみたい……」
亜里沙「退院の予定は……」
いつき「そんな状況じゃない、かな」
亜里沙「……そう」
いつき「私がいたのに、こんなことになってしまって」
亜里沙「……」
いつき「昨日、ご両親に謝ったけど……どうしたらいいかわからなくて」
亜里沙「……ご両親は責めていませんでしたよ」
いつき「……話をしたの?」
亜里沙「はい」
いつき「……いつの間に」
亜里沙「ねぇ、真鍋先生」
いつき「なにかな」
亜里沙「……」
いつき「なに……?」
亜里沙「薫ちゃんを突き落したのは、誰なのかな」
4
いつき「何を言ってるの、かな」
亜里沙「……」
いつき「本気?」
(亜里沙:首を振る)
亜里沙「いいえ」
いつき「タチの悪い冗談は、やめてね。ドキドキしちゃった」
亜里沙「はい。だって、真鍋先生は」
いつき「……目撃者だもの」
亜里沙「真鍋先生の職員室の席は、窓際だものね」
いつき「はっきりと、見ちゃった……」
亜里沙「何時頃でしたか」
いつき「知ってはいると思うけど、19時20分くらいかな」
亜里沙「ケイトさんが真鍋先生に呼ばれたと言ってますね」
いつき「酷い傷だったから、すぐに助けを呼んで……」
亜里沙「ケイトさんは準備室からかけつけた。その時、薫ちゃんは既に……」
いつき「意識はなかった。頭から出血していたから、すぐに応急処置をして……」
亜里沙「包帯は、救急箱から?」
いつき「うん。職員室の救急箱から」
亜里沙「真鍋先生は、職員室で薫ちゃんが階段から落ちるのを目撃し、すぐに救助に向かった」
いつき「うん」
亜里沙「ケイトさんを呼んだのはいつですか?」
いつき「ケイトさんを?それは、薫ちゃんの様子を見てからかな」
亜里沙「なぜ、ですか?」
いつき「どういうこと……?」
亜里沙「落ちた時に呼べば、良かったんじゃないですか」
いつき「そうだね……でも、慌ててたから」
亜里沙「救急箱は持って行けるのに?」
いつき「……それは」
亜里沙「その後に、救急車と薫ちゃんのご両親が来た」
いつき「……ええ」
亜里沙「救急車を呼んだのは、真鍋先生ですか」
いつき「そうだよ。ケイトさんは不安げだったから」
亜里沙「ケイトさん、取り乱していたみたい……」
いつき「ついさっきまで元気に話してた子が、ぐったりとしていたら、どう思う?」
亜里沙「……わかります」
いつき「救急車が到着したのは19時50分頃、すぐに薫ちゃんは病院に搬送されました」
亜里沙「真鍋先生とケイトさんがつきそいに?」
いつき「ええ、何が出来るわけではないんだけど……」
亜里沙「……」
いつき「9時までは居たんだけどね……命に別状はないってわかったし、ご両親にそれからは預けた」
亜里沙「……昨日のことは、それで終わり?」
いつき「うん。昨日起こったことはそれだけ」
亜里沙「……ごめんなさい、真鍋先生」
いつき「なに……?」
亜里沙「嘘、ついてますよね」
いつき「……」
亜里沙「……」
いつき「まるで、取り調べみたいだね」
亜里沙「否定しません」
いつき「……そう」
5
亜里沙「聞きたいことがいくつかあります」
いつき「……どうぞ」
亜里沙「真鍋先生、本当に目撃したんですか」
いつき「ええ」
亜里沙「本当に?」
いつき「本当、だよ」
亜里沙「昨日、階段の下に何が落ちていたか知ってますか?」
いつき「ううん、覚えてない」
亜里沙「トンボがあったらしいの」
いつき「トンボ?校庭を整備する、あれ?」
亜里沙「はい」
いつき「なんのために?」
亜里沙「足跡を消すため、です」
いつき「……え?」
亜里沙「といっても、もう足跡含めて痕跡はありません。あの階段はいくらでも、使いますから」
いつき「……」
亜里沙「本当にトンボがあったかどうかもわかりません。ケイトさんが、言っていただけです」
いつき「……何が言いたい?」
亜里沙「その答えは後にしませんか。次の質問をしていいですか」
いつき「……どうぞ」
亜里沙「薫ちゃんの絆創膏、覚えてますか」
いつき「うん、もちろん。昨日の昼間につけたんだ」
亜里沙「真鍋先生がいつも持ってるものだものね」
いつき「そうそう。ぶつけてね、膝が内出血してるみたいだったから、それを隠すために、ね」
亜里沙「傷を隠すため……」
いつき「昼間の間に、注意しておけば、起こらなかったかもしれない」
亜里沙「不注意だったの?」
いつき「足元をみないで、遊んでいたようだから。鉄棒にぶつけたみたい」
亜里沙「……それを証言できますか」
いつき「……どういうことかな」
亜里沙「あの絆創膏、直前に貼ったんじゃないですか」
いつき「いいえ。ケイトさんとか、知ってるはずです」
亜里沙「ええ。ケイトさんと薫ちゃんの両親は、そう言ってました」
いつき「そうでしょ?」
亜里沙「でも、どうやらケイトさんの授業中は貼られてなかったみたいです。こずえちゃんが言ってました」
いつき「こずえちゃんが、ね……」
亜里沙「真鍋先生は、昼間に自分が注意していれば防げたかもしれない、という話で絆創膏の記憶を上書きした」
いつき「それで……?」
亜里沙「お医者さんに調べてもらいました。絆創膏の下の傷を」
いつき「……なにか、わかった?」
亜里沙「内出血でした。鉄棒にでも膝をぶつけたんじゃないか、と」
いつき「……え?」
亜里沙「どうかしました?」
いつき「それだけ?」
亜里沙「はい。次に行きましょう」
いつき「え、うん、いいけど……」
6
亜里沙「真鍋先生、薫ちゃんはどんな様子でした?」
いつき「頭に大きな傷があって……」
亜里沙「出血していたんですよね」
いつき「うん……ひどい傷だった」
亜里沙「どこで傷がついたか、わかりますか」
いつき「階段の下の方かな、血もついてたし」
亜里沙「はい。そうだと思います」
いつき「コンクリートの階段だったし、角に当たるようなことがあれば……」
亜里沙「はい。だから、おかしくありませんか」
いつき「……何が?」
亜里沙「どんな傷がついていたか、教えてくれますか」
いつき「後頭部に、横にすっぱりと」
亜里沙「はい。だから、おかしくないかな」
いつき「……」
亜里沙「薫ちゃんは階段から落ちた」
いつき「そう、見たから。足を踏み外したのを……」
亜里沙「1階の職員室で」
いつき「うん」
亜里沙「もし、見えるのだったら頂点近くだけ」
いつき「……」
亜里沙「職員室から校庭の階段近くは死角になります。目撃できるとしたら、薫ちゃんが階段を踏み外したのが一番上の時だけ」
いつき「ええ」
亜里沙「それだと、あの傷はつきません」
いつき「……」
亜里沙「おそらく、薫ちゃんが足を踏み外しただけじゃない」
いつき「……なんで」
亜里沙「それだけじゃ、あの傷はつけられない。後頭部を階段下で強く打ちつけられない」
いつき「……言っちゃうの、そのことを」
亜里沙「薫ちゃんは突き落された、可能性があるの」
7
いつき「……違う」
亜里沙「でも、それを否定しているのは一人だけです。ケイトさんは、準備室にいたようですから」
いつき「……」
亜里沙「真鍋先生、だけです」
いつき「そう。なら、聞いていいかな」
亜里沙「なんでしょう」
いつき「なら、誰が、突き落したの?」
亜里沙「話を聞いて来ました。まずは、ケイトさん」
いつき「職員室に来たのは、19時過ぎだったよ」
亜里沙「放課後授業が終わったのは19時ほんの少し前」
いつき「それから、多目的室の戸締りをして、職員室に」
亜里沙「そうみたいです。10分くらいに職員室へ」
いつき「ケイトさんが言ってたの?」
亜里沙「はい」
いつき「それなら信用できそうね。ケイトさん、良く腕時計見るし」
亜里沙「……ええ。その後は、準備室へ」
いつき「メアリーちゃんが授業道具を運んでくれて、ケイトさんはそこで別れた」
亜里沙「ケイトさんは後片付けをしていた。準備室で」
いつき「準備室は校舎1階西側つきあたり。窓は西側にしかない」
亜里沙「はい。だから、薫ちゃんがいた校庭側は見れない。そして、真鍋先生に呼び出された」
いつき「そうだね」
亜里沙「時刻は19時20分ごろ。大きな声だったようですね」
いつき「慌ててたから」
亜里沙「ケイトさんは、どこから出てきましたか?」
いつき「うーんと、東玄関からかな。上履きのままで」
亜里沙「はい。多分間違いないと思います」
いつき「ケイトさんを疑ってるの?」
亜里沙「……」
いつき「……どうしたの、持田先生、そんな人だったっけ?」
亜里沙「他の子達も確認しますね」
いつき「うん、お願い」
亜里沙「……なんで」
いつき「どうしたの?」
亜里沙「いいえ、なんでもないです。順番に確認していきますね」
幕間
メアリー「ケイト!」
ケイト「Oh!」
メアリー「ほら、また英語で反応しようとしたでしょ!ケイトも日本語勉強するのヨ!日本にいるんだから!」
ケイト「オー、どっちが先生かわからないですネ。フフ」
メアリー「バイバーイ!」
ケイト「バーイ♪」
幕間 了
8
亜里沙「授業終了後に、まず教室から出たのは、こずえちゃんでした。お母さんが迎えに、教室まで来たみたい」
いつき「うん。見たから」
亜里沙「校庭には行っていないですね?」
いつき「職員室の前を通って、校舎裏にある駐車場に向かった。お母さんに会釈されたかな」
亜里沙「はい。間違いないそうです。真鍋先生に会釈をしたと。反応してくれたみたいですね」
いつき「……調べてあるんだ」
亜里沙「こずえちゃんはそのまま帰宅しました。次に行きましょうか」
いつき「駐車場に向かう道を通った人なら、みんな見てるよ」
亜里沙「教えてください」
いつき「最初に、仁奈ちゃんとみりあちゃん」
亜里沙「はい。ケイトさんもそう言ってました」
いつき「すぐに帰ってないよね?」
亜里沙「いいえ。みりあちゃんのお父さんが迎えにくるそうだったのですが、少しだけ遅れて、19時15分くらいだったみたいです」
いつき「……そう」
亜里沙「……次は誰でした?」
いつき「千佳ちゃん」
亜里沙「はい。駐車場で待っていた、仁奈ちゃんとみりあちゃんもそう言っています」
いつき「次は、舞ちゃん。駐車場に行ったのはこれで全員」
亜里沙「そうですね。誰の証言とも矛盾してません」
いつき「他の子は、それぞれ帰ったんだよね?」
亜里沙「はい。まずは、千枝ちゃん」
いつき「階段を降りて行くのを見たよ」
亜里沙「はい。薫ちゃんが教室から出る前に、帰宅しています」
いつき「千佳ちゃんの後ぐらいだったかな。階段を降りて、校庭を横切って帰って行った」
亜里沙「はい。見ましたか?」
いつき「校門まで行くと、見えるようになるから。うん、赤いランドセルの子が帰って行くのを見たよ」
亜里沙「わかりました。次は、メアリーちゃんですね」
いつき「ケイトさんの後片付けを手伝ってたのよね?」
亜里沙「ええ。ケイトさんと舞ちゃんと一緒に部屋を出ました。ケイトさんがカギを閉めるのを見てから、舞ちゃんは駐車場へ。ケイトさんは職員室へ」
いつき「メアリーちゃんは、準備室に」
亜里沙「はい。その後、校舎東側にある階段を降りて、プールサイド横に出て、そこから帰りました」
いつき「私、メアリーちゃんは見てないんだ」
亜里沙「ケイトさんが、準備室の窓から帰ったのを見ています。手も振ってくれたそうで」
いつき「なら、時間もわかる?」
亜里沙「19時15分ごろですね」
いつき「メアリーちゃんは、用具室の隣を通ったの?」
亜里沙「あの、竹馬とか一輪車が入ってる小屋ですか」
いつき「うん。トンボもあそこに入ってるから、もしかしたら誰か見たかも」
亜里沙「いいえ。わざわざ回らないと、小屋には出て来れないので。校庭には行っていないようです」
いつき「……そうなんだ」
亜里沙「後は、薫ちゃんです」
いつき「……薫ちゃんの両親は来るのが遅れた」
亜里沙「はい。薫ちゃんのケータイに、メールが来てました」
いつき「舞ちゃんよりも少し前に、薫ちゃんは多目的室を出た?」
亜里沙「ええ。見てましたか?」
いつき「うん。校庭に一回降りて行って、戻って来たから」
亜里沙「千枝ちゃんが校庭で会ってますね。遅れるから、少しだけ遊んでるんだって」
いつき「……ええ」
亜里沙「それが、今回の事件につながってしまった」
いつき「……ご両親は自分達を責めてたかも。そんなこと、ないのに」
亜里沙「……昨日のことは以上です」
いつき「終わり?」
亜里沙「……はい」
いつき「誰も、薫ちゃんを突き落せないよ。だって、誰もいなかった。ケイトさんは準備室で、他の児童は事故の前にみんな帰ったんだから」
亜里沙「いいえ……います」
いつき「……」
亜里沙「あなたです、真鍋先生」
幕間
みりあ「迎え、来ないねー」
仁奈「来ないでごぜーます」
みりあ「ごめんねー。妹がぐずっちゃったかも」
仁奈「いいでごぜーます。みりあお姉さんとお話するのも楽しーです」
みりあ「ありがとう、仁奈ちゃん♪」
舞「あ、みりあちゃん、仁奈ちゃん!」
みりあ「舞ちゃん!」
舞「えへへ、今日は楽しかったね♪」
みりあ「うん!」
仁奈「次が楽しみでやがります」
舞「えへへっ。お母さんが呼んでるから、行くね。ばいばーい」
仁奈「さようならでごぜーます」
みりあ「またねー!」
幕間 了
9
いつき「……そうなるよね」
亜里沙「あの時間、校庭にいた可能性があるのは、薫ちゃんと真鍋先生だけです」
いつき「……」
亜里沙「あなたの証言は、嘘なんですね」
いつき「……」
亜里沙「どうなんですか……真鍋先生」
いつき「持田先生に隠し事は出来ないかな。いや、昔からしてないけどね」
亜里沙「……」
いつき「そうだよ。薫ちゃんが階段から転落したっていうのは、嘘だよ」
亜里沙「……」
いつき「……突き落したのは、私だよ」
幕間
ケイト「ハーイ、今日の授業はここで終わりデス。メアリー?」
メアリー「とっても良かった!皆、アタシみたいなレディーになる日も近いワ!」
ケイト「良いジョークデス。号令をお願いします」
みりあ「きりーつ!ちゅーもく!れい!」
一同「ありがとうございました!」
ケイト「いい挨拶ですネ」
千枝「こずえちゃん、お母さん来てるよ」
こずえ「ふぁー。今行くのー」
ケイト「サヨウナラ」
こずえ「Good Bye. See you again」
キャシー「ワォ!飲み込みがはやいのネ、こずえ!」
幕間 了
10
いつき「……不思議だよね」
亜里沙「……」
いつき「あれだけさ、持田先生にも偉そうなこと言ってさ」
亜里沙「……」
いつき「でも、所詮はこんなもんだった」
亜里沙「……」
いつき「教え子、突き飛ばして、意識不明にさせるなんてね」
亜里沙「……」
いつき「あーあ、なんかね、疲れてたのかも。向いてなかった」
亜里沙「……」
いつき「元気というよりは、手のやく子供だったんだ。だから、ね」
亜里沙「……」
いつき「やっちゃいけないことやったのに、こんなに冷静だし、やっぱり」
亜里沙「……」
いつき「ずっと憧れてきたし、努力してきたよ。いい先生になりたいって」
亜里沙「……」
(亜里沙:唇をかむ)
いつき「でも、違った。無理な夢だったみたい」
亜里沙「……」
いつき「私自身も持田先生も騙していたみたい」
亜里沙「……やめてください」
いつき「……なに」
亜里沙「私の憧れを、それ以上、侮辱すると、怒りますよ」
いつき「……ごめんね。警察に出頭する」
(いつき:立ち上がろうとする)
亜里沙「座ってください」
いつき「これ以上、何か知りたいの?」
亜里沙「私の憧れは変わってないです」
いつき「……どういうことかな」
亜里沙「真鍋先生は変わってないの。あなたは犯人じゃない……」
いつき「いいえ、あなたが信じたいのはわかるけど……それは違うよ」
亜里沙「……私も嘘をつきました」
いつき「……何を」
亜里沙「薫ちゃんの傷は転落ではなくて、もっと可能性の高い方法があります」
いつき「……」
亜里沙「地上側から、階段に向かって突き出された。その勢いで後頭部を強打した可能性が、高いと、思います」
いつき「違う……私がやったの、私が突き落したの!」
亜里沙「違います……突き落してないです。全部、嘘です」
いつき「……」
亜里沙「……座ってください。お願いします」
いつき「……ええ、そうよ」
11
いつき「ええ、突き落してない。薫ちゃんが傷を負ったのは、校庭側」
亜里沙「……そう思います」
いつき「でも、それだけ。私がやったことは……変わらない」
亜里沙「どうして、突き落したと言ったんですか」
いつき「事故に見せたかったから」
亜里沙「……いいえ」
いつき「……ならなんだと思うの?」
亜里沙「意図をもった傷害事件だと思わせないため」
いつき「そうだね。突き落したなら、もののはずみだけど、校庭側ならそうともいかないから」
亜里沙「……そうしたら」
いつき「厳しい刑は避けられない」
亜里沙「だから、事故とした」
いつき「そう、私は保身のため、嘘をついた」
亜里沙「……」
いつき「どうしたの?」
亜里沙「聞いていい、ですか……」
いつき「……これ以上、何を?」
亜里沙「トンボはなんで使ったんですか」
いつき「何って……持田先生が言ったでしょう、足跡を消すため」
亜里沙「消す必要が、ないんです」
いつき「……なんで?」
亜里沙「目撃者として、ずっと現場にいたからです。足跡があって、当り前なんです」
いつき「……あ」
亜里沙「その場にいるのに、消す必要がないんです。なら、なぜ、消そうと思ったのですか」
いつき「隠そうと必死で……」
亜里沙「トンボはどこにあるか、わかりますか」
いつき「……用具小屋」
亜里沙「校庭の東端です。そこまで遠くもありませんが、離れるほうが、危険だと思いません?」
いつき「……」
亜里沙「でも、行かないといけなかった」
いつき「……なんのために」
亜里沙「何かを隠しに行った」
いつき「……」
亜里沙「例えば、鉄の棒、遊具の竹馬がありますね」
いつき「……なにが言いたいの」
亜里沙「膝の傷、おそらく人為的な打撲痕です」
いつき「……そう。ええ、そう。自分でつけた傷を、自分で手当てして……間抜けだよね」
亜里沙「……真鍋先生」
いつき「薫ちゃんに、それが出来るのは私しかいない。だから」
亜里沙「……いいえ。違います」
いつき「何が言いたいの?」
亜里沙「凶器とトンボにより足跡を消すのに、時間がいります。だから、思い当たることはひとつ」
いつき「……」
亜里沙「薫ちゃんが傷を負った時刻が、違うんです」
いつき「いいえ、薫ちゃんが傷を負ったのは、20分で間違いない。私が、やった私が言うんだから」
亜里沙「……少しだけ早ければ、残っている人は、います」
いつき「……」
亜里沙「あなたは時間をかけて、証拠を消し、傷の手当をした」
いつき「違う!もう、あの時には誰もいなかった!駐車場にも!」
亜里沙「……なんで、なんで知ってるんですか」
いつき「……」
亜里沙「なんで、その時点で駐車場を確認してるんですか。すぐにケイトさんを呼べばよかったんじゃないんですか……」
いつき「……」
亜里沙「あなたは、薫ちゃんが傷を負った時間を誤認させた。あえて、助けを呼ぶのを遅らせたんですね」
いつき「……」
亜里沙「包帯、とても綺麗に巻かれていたそうです。焦らず、丁寧にやったんじゃないかって、看護師さん、言ってました」
いつき「……だから」
亜里沙「時間をかけて治療を行った。薫ちゃんが怪我を負ったのは、20分より前」
いつき「それは、私が混乱してて……」
亜里沙「混乱してる手際じゃない、って言いました」
いつき「……」
亜里沙「それをした理由は、」
いつき「……理由なんて」
亜里沙「自らの犯罪の隠ぺいじゃありません。誰かをかばうための、もの」
幕間
千佳「ルルーン!スーパーマジカルパワーでメルヘンチェーンジ!ラブリーチカ、がんばっちゃいま……」
仁奈「……」
みりあ「……」
千佳「……ま、待ってたんだ」
みりあ「ブイ♪はーい、じゃあ、みりあも魔女っ子やるー!」
仁奈「仁奈にマスコットキャラを任せやがってください!」
千佳「えへへー♪また今度、遊ぼうね!ばいばーい!」
みりあ「ばいばい!」
仁奈「さようならでごぜーます」
幕間 了
12
いつき「……違う」
亜里沙「……違いません」
いつき「違う!私が、私が犯人なの!」
亜里沙「……いいえ。真鍋先生は犯人ではありません」
いつき「全部想像でしょ!そんなことで、子供達を疑わないでよ!」
亜里沙「……子供達の中にいるんですか」
いつき「ち、違う!」
亜里沙「疑問な点があります。どうして、気づいたんですか」
いつき「何に……」
亜里沙「職員室からは、薫ちゃんが見えません。階段下に倒れていたのに」
いつき「それは!」
亜里沙「なんで、怪我していることに気が付いたんですか」
いつき「そんなの私がやったからに……」
亜里沙「犯人は、あなたの目の前を通ったんですね。階段を上がってきて」
いつき「……」
亜里沙「真鍋先生なら、様子が違うことに気づけると思います。だって、真鍋先生だから」
いつき「……そんなこと」
亜里沙「そして、様子を見に行った。犯人が上がってきた階段の下を」
いつき「……」
亜里沙「薫ちゃんの様子を見て、あなたは全てを理解した。そして、犯人をかばった」
いつき「……」
亜里沙「犯行の時間と詳細だけが嘘だった。犯人は正直に帰った時刻を言っても、疑われない」
いつき「……」
亜里沙「この時間帯に学校にいて、他の子に犯行を見られず、あなたの証言が嘘だった子が犯人です。つまり……」
いつき「持田先生!」
(いつき:机を叩く)
亜里沙「……!」
いつき「言わないで」
亜里沙「……認めますか」
いつき「いいえ。認めない」
亜里沙「なんで……」
いつき「私は、先生だから」
13
いつき「もし、傷害事件だとわかったらどうなるかな」
亜里沙「……」
いつき「報道される。世間に明らかになる。被害者はもちろん、犯人も、この学校も」
亜里沙「少年法は……」
いつき「それは、人の口をふさげる?」
亜里沙「……」
いつき「わかるよね。好奇心の目にさらされる。そして、意識しないといけなくなる」
亜里沙「何を……?」
いつき「人の目を。それだけで傷つくのに。人々はそれじゃ納得しない」
亜里沙「……」
いつき「そう、傷ついているように見せないといけない。時には犯罪者と同じように見られ、扱われる。そして、自分で自分を傷つける。自分はこんな存在なんだって」
亜里沙「……」
いつき「だから、守るの。被害者も犯人も、この学校の子供は誰も傷つけさせない」
亜里沙「だから……全部、自分が背負うのですか」
いつき「……そうだよ」
亜里沙「そんな、そんなのって」
いつき「なら、誰が守ってくれる?私がやらなかったら、誰が守るの?」
亜里沙「それは……」
いつき「答えられないよね。だから、私は言わない」
亜里沙「……真鍋先生」
いつき「確認していいかな」
亜里沙「……何をですか」
いつき「私が証言しないと、何もわからない、よね」
亜里沙「……」
いつき「私が犯人だと名乗れば、その通りに」
亜里沙「……」
いつき「今のままなら、事故。学校と私が責任を取る」
亜里沙「変える気は、ありませんか」
いつき「ない」
亜里沙「そんな……」
いつき「私はあなたが話したこと、全て認めない。それで、終わり」
亜里沙「……」
ピリリリリ……
いつき「時間みたい。タイマーとめるよ」
亜里沙「……はい」
いつき「これで、おしまい。またね、亜里沙」
亜里沙「真鍋先生……」
いつき「私はなれなかったから、良い先生になってね。亜里沙せんせい」
亜里沙「いつき先輩、待って!」
いつき「……ばいばい」
(いつき:退場)
亜里沙「いつき先輩……どうして……」
幕間
千枝「薫ちゃん、まだ遊んでるんだ」
薫「うん!ママのお迎えがね、遅れちゃうから、遊んでるんだー。一緒に遊ぶ?」
千枝「ううん、遅くなる前に帰らなきゃ」
薫「そうなんだ……」
千枝「ごめんね。気をつけて遊んでね」
薫「はーい」
千枝「ばいばい」
薫「千枝ちゃん、またねー!」
幕間 了
14
SWOW部室
亜里沙「……私の話は、終わり」
亜季「むー、実に厳しい話ですなぁ」
惠「……ええ」
久美子「その、真鍋先生は犯人をかばったのよね」
恵磨「犯人をかばってるなら、共犯だー、って強く言えるけど」
亜季「守ってるものが違うでありますからなぁ」
久美子「被害者と周りを助けるため、だものね」
惠「……正しいことだとは思えないけど」
恵磨「覚悟はかたそうだった?」
亜里沙「……はい」
惠「……」
久美子「時子ちゃんはどう思う?」
時子「……」
恵磨「時子ちゃん?」
時子「……ふん。大変だったわね、亜里沙。こっちに来なさい」
亜里沙「……うん」
時子「顔見せなさい」
亜里沙「……泣き腫れてないかな」
時子「気にしないでいいわ。だって」
バチーン!
亜里沙「……え」
恵磨「あわわわわ!なんでビンタするのさ!」
時子「バカじゃないの!」
久美子「そんな言い方は……」
時子「あのねぇ、その先輩、亜里沙の大切な人なんでしょう。そんな人、そのままにしていいと思ってるわけ?」
亜里沙「そんなわけじゃ……」
時子「それなのに、おめおめ帰って来たわけ?信じられないわ」
亜里沙「……」
時子「いい、バカみたいな報道とか世間の目とか、バカな奴らが悪い奴に決まってるわ。少なくとも、そんな奴らに育てたわけじゃない、その先輩が責任を取ることじゃない」
惠「……そうね」
時子「このままじゃ認めるだけよ。真鍋いつきが危惧している状態でいいと、認めてしまうだけよ。それでいいの、亜里沙?」
亜里沙「ううん……」
時子「当然よ。それの変えるのが、あなたの仕事でしょう。違うかしら、亜里沙」
亜里沙「……うん」
時子「よろしい。私の言いたいこと、わかるわね」
亜里沙「……」
時子「惠」
惠「わかったわ」
亜季「え、わかるでありますか」
惠「行く気はある、亜里沙ちゃん?」
亜里沙「……はい」
時子「よろしい。ひっぱたいて、目を覚まさせてきなさい。いいわね?」
亜里沙「……わかった。行ってくる。惠ちゃん、よろしくね」
惠「ええ。行きましょう」
亜里沙「……言ってたな」
久美子「何を?」
亜里沙「正しいことができないと、お手本になれないよ、って」
時子「そう。聞かせてやりなさい」
亜里沙「自分の言ったことくらい、思いださせなきゃ。行ってきます!」
エンディングテーマ
A Modelist
歌 持田亜里沙
オマケ
数十分後
SWOW部室
太田優「ただいまぁー!」
太田優
S大学教育学部。亜里沙と同期間、母校で教育実習を行った。
恵磨「あ」
亜季「あら」
久美子「あー」
時子「忘れてたわ」
優「なぁにぃ、この空気?」
時子「……教育実習はどうだったかしら?」
優「母校だったしぃ、楽しかったよ☆女子校っていいよねー♪」
久美子「……まぁ、亜里沙ちゃんが特別だっただけよね」
亜季「……そうでありますな」
優「あれ?亜里沙ちゃんと惠ちゃんはー?」
時子「時期に帰ってくるわよ。心配しなくていいわ」
優「ふーん……あ、そうだ、お土産あるんだ☆」
恵磨「お、なになに?」
時子「あら、気がきくじゃない」
優「はい、どーぞ♪いっぱいあるよー」
亜季「落花生……」
久美子「見事なまでの千葉土産ね……」
おしまい
あとがき
小学校にいたら誰がいいかな、と考えた結果が真鍋いつき先生。
そんな邪念で書いたのに内容はこんなのに。
それでは、また
一応、時系列表でも書けば犯人の目星はつくんじゃないかな
話的には、いつきが言わない以上は「わからない」ままでいいんですが
次回予告だけ投下しておきます
次回予告
関裕美「その銃で撃って。あなたが……止めて」
裕美「幸せなまま……終わらせて」
大和亜季「7人が行く・ハッピーエンド」
近日公開
>>29
×キャシー「ワォ!飲み込みがはやいのネ、こずえ!」
○メアリー「ワォ!飲み込みがはやいのネ、こずえ!」
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