北条加蓮「正座」 (53)


 「ただいまーあっつぃ!」

 「おー、お帰り」

 「Pさんお疲れ様。いま麦茶持ってくるね」

奈緒と雑談をしていると、汗だくのPさんが事務所へ帰ってきた。
流石にシャツの袖を捲ってはいるけど、8月の暑い盛りにスーツなんてホントに大変だよね。
冷蔵庫で冷やしておいたグラスに氷を浮かべて、麦茶をたっぷりと注ぐ。

 「はい、どうぞ」

 「サンキュー……あ"-、生き返る」

 「Pさん、おっさんくさいぞ……」

 「まだまだお兄さんだ」

一口で半分くらい飲み干して、深く息をつく。
アイドル達の体調のためか、それとも倹約の一環なのか、事務所のエアコンは温度設定が高めだ。
電気を大切にね、とちひろさんは笑顔で言ってたけど。

 「しばらくクールダウンさせてくれ……」

 「あ、Pさん。お疲れの所悪いけど、正座してくれない?」

 「おう…………ん?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1409924975


反射的に答えたPさんが、直後に首を傾げる。

 「すまん、何をしてくれって?」

 「え? いや、だから」

どこかで聞いたような会話だな、と思いながら。


 「Pさん。正座」


私は笑顔で床を指差した。

シンデレラストーリーの主人公こと北条加蓮ちゃんのSSです

前作とか
藤原肇「彦星に願いを」( 藤原肇「彦星に願いを」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405601439/) )
渋谷凛「ガラスの靴」( 渋谷凛「ガラスの靴」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404552719/) )

Pはプリムスの三人を担当してます
凛ちゃんは色々と頑張りました


 「えっと、加蓮」

 「正座」

 「あ、はい」

Pさんが恐る恐る床に座ろうとする。

 「あ、ごめんね。スーツが汚れちゃうからソファーに座って」

 「……これでいいのか?」

靴を脱いで、Pさんがソファーの上で正座する。
まず普段は見かけない妙な光景に、奈緒は単行本で顔を隠しながら笑いを堪えていた。

 「Pさん。なんで正座させられたか分かる?」

 「……すまん、全く心当たりが無い。ひょっとしてスケジュールに無理があったとか」

 「ううん。全然問題無いよ」

不安な表情であれこれと原因を考えるPさんが、何だかおかしくて。
思わず頬が緩んでしまう。

 「むしろ、疲れさせないようにちゃんとレッスンとオフとか挟んでくれてるでしょ。……ありがとね、Pさん」

 「あ、あぁ……それ以外となると見当もつかないな」

 「私達はともかく。Pさん、ちゃんと休んでる?」


そう尋ねると、Pさんはどこか安心したような表情になった。

 「何だ、そんな事か。確かに最近は忙しいけど、休む時はちゃんと休んでるから心配ないぞ?」

 「だよね、体調管理もアイドルのお手本にならなくちゃ駄目だもんね。さっすがPさん」

 「手放しで褒められると何か恥ずかしいな」

 「うん。まぁ褒めるだけなら正座させないけどね」

にっこりと笑う私と、引き攣った顔のPさんと、必死に笑いを噛み殺す奈緒。
CGプロダクションは今日も平和だね。

 「さて、第2問です。この冊子は何でしょーか?」

Pさんの目の前で、ホチキス留めされた紙束をぱらぱらと捲って見せる。
あらら。Pさんはもう私に目を合わせられなくなっちゃったみたい。

 「……勤怠表、です」

 「せいかーい、10ポイントプラスだよ。私も詳しくは知らないけど、出席簿みたいな物だよね、ちひろさんにお願いしたら見せてくれたんだ」

そう言いながら、数ページに渡る勤務記録に目を通す。

 「で、これによると。最後の全休だった日は先々週の日曜。ここ一週間は5時間前後の残業が続いてるんだよね」


 「いや……こういう職業だからさ、ある程度は仕方無いんだよ。分かってくれ」

 「ま、アタシ達も健全とは言いにくいスケジュールで動く時もあるからなぁ」

奈緒がにやにやと笑いながら口を挟む。
私だってアイドルやってるんだし、そりゃ分からない話ではないんだけどね。

 「それについ昨日までツアーがあったからな。忙しいのはしょうがないんだ」

 「……うん、そうだよね。私も、Pさんの事が心配だっただけだよ」

 「加蓮……」

 「これからは忙しいっていうのを言い訳にしないで、きちんと休みをとってね?」

 「あぁ、心配してくれて本当にありがとうな。俺も気を付けるよ」

そう言ってソファーから立ち上がろうとしたPさんの肩を、両手でそっと押さえ付ける。
不思議そうに私を見つめるPさんを、にっこり笑って間近で見つめ返す。

 「私もね? ホントならここで終わらせたかったんだよ? …………Pさん、正座」


Pさんが両手を膝の上に揃えて、目をペンギンみたいに忙しく泳がせている。
奈緒はもう笑ってるのを隠そうともしないで、苦しそうにお腹を押さえていた。
私はそのまま二分近く黙って待って、ゆっくり話し出した。

 「それじゃあ第3問ね。Pさん、この冊子は何でしょうか?」

Pさんの目の前で、厚紙で綴じられた紙束をぺらぺらと捲る。
あれ、Pさんまた汗かいてるよ? エアコンの温度下げた方が良いかなぁ。

 「…………」

 「はい残念、時間切れー。まぁ答えられないよね。正解は『勤怠表』だよ」

笑顔を崩さないまま、数十ページに渡って細かく綴られた勤務記録を眺める。

 「こういうのって本来は見せちゃいけないらしいけど、ちひろさんに『お願い』したら見せてくれたんだ」

 「……お、お願い?」

 「うん。『いざという時の魔法の呪文です』って楓さんに教わったの。『ロウキショ、アイドル、チンジョウ』っていうの」

 「……は、はは」

 「初めて唱えたけど、効果覿面だったよ。私、シンデレラより魔法使いの方が向いてるかもね?」

Pさんの笑い方、なんだかちょっと乾いてる気がする。
駄目だよ、汗をかいたらもっと水分を摂らなくちゃ。

文句垂れたい気持ちもわかるけど
そうやってここに書き込んで荒らしの片棒担ぐのはおやめになって
なんなら↓をNGワード登録しとくといいざんす

変な艦これ劇場 -鎮守府狂騒曲- - SSまとめ速報
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凛「シロウ。こんな怪談を知っているかしら」

凛「シロウ。こんな怪談を知っているかしら」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1409994706/)

UBW(凛ルート)後。

ロンドンの時計塔へ留学する直前の、1ヶ月間の話です。

初SSなので拙い点もあると思いますが、

どうか大目に見てやってください。

それではよろしくお願いします。

凛「シロウ。こんな怪談を知っているかしら」

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理樹・佳奈多「「メル友?」」真人・葉留佳「「おう(うん)」」

理樹・佳奈多「「メル友?」」真人・葉留佳「「おう(うん)」」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410004413/)

理樹(バスの事故から3ヶ月、

もう雪が降る季節だ。

僕らは悪夢のような出来事から目を覚まし、

今をこうして悠々と過ごしている)

日常系リトバスSSです!

亀更新ですがよろしくお願いします。


 「ごちそうさまでした。今度は私がジョインデューティ、料理をごちそうしますね」

 「あ、そろそろ仕事の時間か。うん、楽しみにしてる」

 「それでは、また」

 「おう、行ってらっしゃい」

アーニャが仕事に出かけていったのを見送って、またPさんの腕を抱き寄せる。
諦めたのか悟ったのか、Pさんも何も言わなくなってきた。

 「……意外だったよ。加蓮、家事とか苦手そうだと思ってたからな」

 「う。まぁ、そりゃ前は苦手だったよ? でも、ブライダルの時がきっかけになったというか」

 「あー、あの時か」

まさかあの歳でウェディングドレスを着る事になるとは思わなかったな。
ブライダルイベントで初めて袖を通して、それからPさんと……
……今思えば、すごいチャンスを逃しちゃったような気がする。

 「ドレスを着てみて、あぁ、自分もその内結婚するんだろうなぁ、って何となく納得しちゃって」

 「まぁ加蓮なら相手には困らないだろうな」

 「それで、家事もちょっとずつ覚えていこうかと思って。たまに響子に教わったりしてるの」


 「この調子なら、すぐにマスターしそうだな」

 「頑張るよ。もうすぐ18になるし、誰か良い相手でもいればすぐにでも結婚できちゃうね」

 「…………」

 「ねぇ、Pさん。誰か身近で良い男の人、知らない?」

 「……いや、知らないな」

Pさんが苦し紛れの言葉を絞り出して、しばらく二人とも押し黙る。
抱えたPさんの左腕を、ちょっとだけ強く抱き寄せ直した。

 「……ところで、加蓮」

 「意気地無し」

 「…………ところで、加蓮。何か他にやりたい事無いのか? いつまでもこの体勢じゃ疲れるだろ」

 「……あるよ」

名残惜しいけど、Pさんの腕を解放する。
ソファーにお行儀悪く横になって、Pさんの膝に頭を乗せた。

 「一度やってみたかったんだ。これならPさんも動けないでしょ?」

 「いや、俺が言うのもなんだが、こういうのって普通は逆じゃないか」

 「いーの。ついでに頭も撫でてよ」

 「何のついでなんだか」

 「何だかんだ言ってお願い聞いてくれるPさんのそういう所、大好きだよ」

私の頭を、Pさんの手がおっかなびっくり撫で始める。
しばらくの間目を閉じて、そのゆっくりだけど優しい感触に身を委ねていた。


 「……うん。一ヶ月分くらいのPさん分は補給できたかな」

 「なんだその初耳の成分は」

身体を起こして、ぐっと背伸びをする。
何となく、身体が軽い。これでまた一ヶ月頑張れちゃうね。

 「じゃ、交代ね。はい、Pさん」

ぽんぽんと膝を叩く。

 「……はっ?」

 「寝て」

 「その言い回しはやめなさい」

 「Pさんも逆が良いって言ってた癖に。いいから、ほらっ」

 「そんな事は言ってな、うおっ」

Pさんを仰向けに引き倒して、頭を膝に乗せた。
ざらざらした髪が腿に当たる感触が、どうにもくすぐったくて笑ってしまう。

 「どう、Pさん? 私のひざ」

 「……ノーコメントで」

 「へぇ。悪くないみたいだね」

大サービスで頭を撫でてあげる。
場所が場所ならそれなりのお金が発生する……らしいよ? ちひろさんいわく。


 「……もう十分だろ。ほら、手を退けてくれ」

 「まぁまぁ、もうちょっといいでしょ」

 「こんなとこ他の奴らに見られたら立場が無くなる」

 「じゃああと10分だけ。誰か来たらすぐにやめるから」

 「……10分だけな。それ以上はナシだぞ」

 「分かってるよ」

頭を撫でながらじっと顔を見つめていると、Pさんはばつが悪そうに目を閉じた。
そのままゆっくり撫で続けて。
10分どころか3分も経たない内に、静かな寝息が聞こえてきた。

 「全くもう、無理しすぎだよ、Pさん。……本当にお疲れ様。ゆっくり休んでね」

さて、ここからは役得の時間だ。あの娘が来るまで存分に堪能しておかなくちゃ。
しばらくすると、事務所の扉が開く。

 「おはようございます」

 「あ、楓さん。こんにちは」

 「こんにちは、加蓮ちゃん……あら」

楓さんが意外そうな表情をPさんに向ける。

 「お休み中ですね。今日はお休みなんですか?」

 「うん。今日は休みで、今はお休み中」

二人で顔を見合わせてくすくすと笑う。
段々波長が合ってくるようになってきて、ちょっと面白い。

 「羨ましいですね。加蓮ちゃん、後で私にもお願いします」

 「もちろん。あ、そうだ楓さん、この前教わった魔法の呪文ね…………」

==================================================

 「おはようございます」

夕焼け空がちょっと暗くなってきた頃、凛が事務所にやって来た。
明日にかけて伊豆で泊まり込みの撮影があるから、スーツケースを転がしている。
流石に私のひざも正座した後みたいに痺れてきちゃったし、まぁちょうどいいと言えばちょうどいいのかな。

 「やほ、凛」

 「あ、加蓮。おはっ」

私のひざの上のPさんに気付いて、凛がぴたりと動きを止める。

 「加蓮、そこ代わってあげるよ」

 「え、いいよ。凛はこれから撮影だし」

 「はやく」

 「いや、起きちゃうから」

凛が私の頭を掴んでがくがくと揺さぶる。
何でこの娘はPさん絡みになると普段のクールさがどっかいっちゃうんだろう?

 「あ、凛ちゃん着いたのね? 急な連絡になっちゃったけど、今日の送迎は蘭子ちゃんのプロ、ひぃっ」

 「渋谷さん。先に車の中で待っててもら、ひっ」

 「凛。二人を威嚇しないの」

凛には内緒だけど、奈緒とは『凛がハナコに似てきてる』って意見で一致している。
飼い犬が飼い主に似てくるって話はよく聞くけど、逆を突いてくる辺りは流石は凛だと思う。
その内可愛く吠え出さないかちょっと心配だ。


 「……加蓮。帰ったら話聞かせてもらうからね」

 「はいはい。その調子で蘭子も威嚇しちゃダメだからね。あの娘こわがりだから」

 「しないってば。……と、その前に」

凛がつかつかと歩み寄ってきて、ソファーの前に跪く。
長い髪をかき上げて、Pさんの頬へそっと顔を寄せる。
……無駄に色っぽくてドキドキするのがちょっと悔しい。

 「…………一斉検挙」

 「ふぉわっ!?」

凛の囁きに、Pさんが文字通り飛び起きる。
寝ぼけ眼で辺りを見回して、真横に居た凛に気付いた。

 「おはよ」

 「……え、あ、凛?」

 「ふん。そうだよ、間抜け顔のプロデューサー。……お仕事行ってくるっ」

くるりと振り返ると、早歩きでスーツケースを引っ掴む。
そのまま事務所から流れるように出て行って、ようやくそれに気付いた蘭子の担当Pさんが慌てて後を追いかけた。

 「……今、何時だ?」

 「そろそろ18時半になるね」

Pさんが両手で顔を覆う。最近流行ってるのかな。


 「……何人に、見られた?」

 「えっと、凛でしょ。楓さん、美嘉、泰葉、茄子さん、肇、夕美、それから」

 「分かった……もういい。気が滅入ってきた」

Pさんが深い深い溜息をつく。うーん、疲れは取れたと思うんだけどなぁ。

 「Pさん、ゆっくり休めた?」

 「あぁ、休めたよ、休めたとも……もう仕事する気力も起きないぐらいな」

 「まぁ明日からは私も止めはしないけど、やり過ぎだけはダメだからね」

 「明日の事は明日考えるよ……今はとにかく家へ帰りたい」

布団代わりに掛けていたタオルケットをどけて、Pさんが立ち上がる。
大きく伸びをして、首をこきこきと鳴らしていた。

 「そだね。そろそろ帰ろっか」

 「ちょっと待ってろ。いま車出すから」

 「あ、今日は良いよ。歩いて送ってってほしいな」

 「えぇ……? それだと俺、帰りも歩きになるじゃないか」

 「一日ゴロゴロしてたんだし、たまには運動もいいでしょ?」

 「してたというか、させられてたような……まぁいいか。出るぞ」

==================================================

りぃん……ちり、ちりん。

夕陽が沈み掛けた今になって、ようやく風が出てきていた。
八月も終わりに近付いて、寝苦しい夜もちょっとは減ってきたような気がする。

 「……この時期の夜ってのは、何でこんなに寂しく感じるんだろうな」

 「夏休みが終わっちゃうからでしょ?」

 「そりゃ学生はそうかもしれんが。大人になっても胸に来るのは不思議なもんだな」

ちりん、ちりぃん。

Pさんと二人、女子寮への帰り道を並んで歩く。
どこからか聞こえる風鈴の音が、周りの空気をすこしだけ涼しくしてくれる。

 「私達が居るんだし、Pさんは寂しがってる暇も無いね」

 「自分で言うかこいつは。……加蓮も寂しがってる暇は無いな。凛と奈緒に誕生日祝われまくるぞ」

 「あ、ちゃんと覚えてるんだね。えらいえらい」

 「ちゃんとプレゼントだって用意してあるぞ。大事なアイドルの誕生日を忘れるわけないだろ」

こういう所を無意識にきっちりとしてる辺り、天然のタラシと言うか、何と言うか。

 「実は、私もPさんにプレゼントを用意してあったりして」

 「プレゼント? 何かあったっけか」

 「んー、日頃プロデュースしてくれたり、今日ワガママを聞いてもらったりしたお礼、かな」


途中にある公園へ立ち寄った。
確か、ここならベンチが……やっぱりあった。
わざとらしく、咳払いを一つ。

 「じゃ……Pさん、正座して」

 「……おい、またか。散々やったじゃないか」

 「最後にもう一つぐらいワガママ聞いてくれてもいいじゃん。お願いっ!」

 「……はぁ。一年分の正座した気分だ」

律儀に靴を脱いで、Pさんがベンチの上に正座する。
夕暮れ時の公園は私達以外に誰も居なくて、この妙な光景に目を留める人も居ない。
うん、良かった。プロデューサーにとっても…………私にとっても。

 「固い」

 「ごめん。もうちょっと我慢して」

そのまま五分も経つと、流石にPさんの顔も苦しそうになってきた。

 「……なぁ、いつまでこうしてればいいんだ? 流石に脚が痺れてきたんだが」

 「…………そう。Pさん、立てそう?」

 「いや、ちょっと厳しい」

 「なら良かった」

 「え?」


――Pさんの頬に手を添えて、唇を重ねる。


そうしていられたのは、たった三秒くらいが限界で。


 「はぁっ…………」


そっと唇を離す。


零れ出た吐息は、自分でもびっくりするぐらいに艶っぽくて――


固まったままのPさんから離れて、にこりと微笑む。

 「……え、な、加蓮」

 「……まだ、凛には敵わないけど。きっとファンのみんなが惚れちゃうくらい、いい女になるから」

そして振り返って、公園の入口に向けて駆け出した。

 「Pさん! それ、私の初めてだから! また明日ね!」

 「……っ! おい、こら加蓮! 待っ……おわっ!?」

脚をもつらせて、Pさんが転んだらしき音が背中で聞こえた。
心の中で謝りながら、振り返る事無く一目散に公園から走り去った。


 「……っはぁ、はぁ……っ!」

体力の続く限り、闇雲に走り続けて。女子寮の近くへ着いたときには、今にも倒れそうな具合だった。
心臓がドキドキうるさいくらいに跳ね回っていて、周りの音が聞こえない。

 「はぁっ……Pさんの、馬鹿……っ」

全身から汗が流れ落ちて、地面にぽたぽたと跡を付ける。

 「待てるわけ……ないじゃん」

だって、Pさんの事だもん。

きっと病院に担ぎ込まれちゃうに決まってる。


――火傷しそうなくらいに熱い、この真っ赤な顔を見られちゃったら、ね。

==================================================

 「ただいま戻りました」

 「おっかえりー」

 「お疲れー」

スーツケースを引き摺って事務所に戻ってきた凛を、奈緒と二人で出迎える。
砂浜で撮影してきたのか、顔のところどころが少し赤く焼けている。

 「で、加蓮。昨日の事についてだけど」

 「帰ってきて早速それ?」

 「重要だから」

 「よく分かんないけど、もっと他にツッコむべきトコがあるんじゃないか?」

奈緒に言われて、ようやく凛が気付く。

 「……加蓮、何でソファーの上で正座してるの?」

 「Pさんに怒られちゃったから。夕方までそのままでいろ、お仕置きだ、って」

 「お仕置きねぇ……そうは見えないけどな」

呆れたように、奈緒が私の周りを指差す。
暑さで体調を崩さないようにと、Pさんが用意してくれた冷たい麦茶や、団扇に、扇風機。
……うん。これじゃあ怒ってるのか世話を焼いてるのか分からないよ。


 「ふーん。ま、よく分からないけど、気を落とさない方が良いよ」

どうやら私がしくじっちゃったらしいと分かると、途端に凛が上機嫌になる。
……本当に凛は分かりやすいなぁ。

 「……凛は凄いよね」

 「何、急に褒めて」

 「シンデレラガールになっちゃったし、行動力あるし、時々色っぽいし、たまによく分からない事言い出すし」

 「加蓮、それ褒めてるのか?」

少なくとも前半はね。

 「うん、奈緒にも、加蓮にも負けられないからね。……アイドルとしても、ね」

私を見て、凛が不敵に笑う。
……こんな風に、時々格好良くもなっちゃうんだから、ずるい。

 「あー、アイドルはともかく、アタシをそっちに巻き込まないでくれないかなぁ」

 「いや、奈緒も結構怪しいと思ってるよ、私は」

 「ね。たまにPさんと二人でどっかシケ込んだりしてるし」

 「シケ込んではねぇよ!」


結局いつも通りに、きゃあきゃあと三人でじゃれ合い始める。
これぐらいの距離感が、私達には丁度良いんだ。

これ以上無いぐらい、厄介なライバルだと思う。
格好良くて、一途で、可愛くて。
実力的にも、今はまだ背中を追いかけるばかりで。

……だけど。

 「……今の所は、一歩リード、かな」

 「加蓮、何か言った?」

 「ううん。なーんでもない!」


ちりん、りぃん、りぃん――


ちょっとだけ背伸びをした17歳の夏が、そろそろ終わろうとしていた。

おしまい。
加蓮は正統派一途可愛い

スレタイは「正妻」でも問題無かった気がする
あと今までぼっちプロ経営してたけどお誘いがあったので銀河プロに入社しました

ちなみに微課金なので花嫁加蓮は持ってません
誰か助けてくれ

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