橘ありす「やっぱり、プロデューサーですか」 (129)

ありすは、なんだかとってもつまらなくなってきました。

ありす「本も読み終わったし、ゲームも飽きたし…」

事務所のソファで足をぶらぶらさせていると、その横を誰かが駆け抜けていきます。

菜々「きゃあん! 遅刻しちゃいますぅーっ!」

ありす「菜々さん!? お月見ライブの衣装でどこに行くんですか!」

ドアを開けて飛び出していく菜々のあとを追ったありすは、

ありす「えっ——」

底の見えない穴に落ちてしまいました。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1367414042

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橘ありす(12)

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安部菜々(17?)

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ありす「きゃああああっ」

叫んでみましたが、この縦穴はよっぽど深いようで、あたりを見回す余裕すら出てきたので、ありすは叫ぶのをやめました。
穴の内側には一面には戸棚や本棚がぎっしりとつまっていました。

ありす「菜々さんはどこへ…?」

落ちながら下を見てみますが、暗いだけでなにも見えません。
ひょいとありすが壁に置かれていた箱を取ってみると、

   高級おせち

と書いてありました。
でも、がっかり。からっぽです。

ありす「どこまで落ちるんだろう…だいじょうぶなのかな?」

これを持ってきてよかった、と思ってありすはタブレット端末を取り出して、ぽてぽてとタップします。

ありす「なるほど。地球の半径は6357km…」

なんだかとても眠たくなってありすがうつらうつらとしていると、
どっしーん!
とつぜん山のような衣装の上に落ちて、墜落はおしまいとなりました。

かすりきずひとつ負わずにありすが立ち上がると、長い通路を菜々が駆けていくのが見えるではありませんか。

菜々「うへえ! 遅刻ちこくぅ〜っ!」

彼女を追いかけていくと細長いホールにたどりつきました。
ホールにはずらりとドアが並んでいましたが、どれもカギがかかっています。

ありす「…ゲームではこういうとき、どこかにカギが落ちているもの…」

たしかに、ガラステーブルのうえに小さな金色のカギを見つけました。
それで開いたドアは、しかし小さいありすでも頭が通るかどうか、といったくらいの小ささです。

ありす「……ドアを大きくするには…」

  ドア 大きく
  約 15,900,000 件 (0.24 秒)

ありす「…車のことばっかり」

タブレットを仕舞って、ありすがテーブルに戻ってみると、星型のキャップの小瓶が置いてありました。

ありす「さっきまでは絶対になかったのに」

小瓶の首には札がくくりつけられていて、

   困ったときにはスタンザムだ!

と書かれていました。
うさんくさいので(それにありすは賢い子でしたので)小瓶の後ろを見てみると、怪しげな成分が書かれていました。

ありす(青色一号…?)

検索しようかと思いましたが、そのときありすはのどが渇いてることに気付いたので、がまんできなくなって飲んでしまいました。

ありす「あれ?」

気付いたときには、ありすはとても小さくなっていました。
それから見覚えのあるケーキや可愛らしいシュシュで大きくなったり小さくなったりしているうちに、
辺りはすっかり野原のようになっています。

ありす「ここ、どこだろう」

??「こ、ここ、だって…?」

ありす「誰っ!」

見回しても、草ときのこしかありません。

??「あ、あの…ココに居ますけどー…」

ありすの首くらいの大きさの(といっても、今の、ですけれど)きのこの上に、髪の長い少女が座っていました。
しばらく少女とありすは黙って見つめ合っていました。
そうしていると、ようやく少女はぼそぼそとした声で話しかけました。

輝子「…こ、ここが、どこかって、き、聞いた…?」

ありす「えっと、はい。わかるんですか?」

輝子「こ、ここは、ここだよ…フヒヒ」

ありす「えっ、と」

輝子「あそこは、こ、ここじゃ、な、ない。そちらも、こちらじゃ、ない」

ありす「そ、そうですね」

輝子「こ、ここは、ここ…フフ…分かりますか…」

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星輝子(15)

ありす「ごめんなさい、よくわからないです」

輝子「フヒヒ…ど、どこかは、ここじゃ、な、ないから…」

ありす「すいません、人をさがしてるんですけど」

輝子「ひと? き、君は、ひ、ひとじゃないの…?」

ありす「あ、いえ、私も人ですけど、そうじゃなくて、"特定の"人を探してるんです」

輝子「と、"特定"の…フヒヒ、と、友達ってやつか…」

ありす「友達っていうか、同僚なんですけど。こう、ウサギの耳をつけて…」

輝子「ウサギの、み、耳…? さ、探してるのは、ひ、ひと、だよね…?」

ありす「そ、そうなんですけど、なんていうか、耳は作り物で」

輝子「ヒャッハァーッ! でっかくなっちゃった! 耳が! ファッキン手品ァーッ!」

突然立ち上がって叫びだした少女に、ありすは若干おびえました。

輝子「ゴートゥヘェェェルッ! …あ、これはまずいですか、はい」

少女はまた突然座り込みました。

輝子「きのこを食べると…大きく…」

ありす「えっ?」

輝子「きのこ…フフ…な、なんでもない」

ありす「いえ、あの、私いますごく小さくて、あっ元から小さいといえば小さいですけど…」

輝子「も、もともと、ど、どれくらいの、大きさなの?」

ありす「141cmです」

輝子「ナイトメアビフォアキノコーォッ! りっぱな背丈じゃねェかァーッ!」

また絶叫する少女に、今度は眉をひそめながらありすは尋ねました。

ありす「あの、それで、大きくなる方法を知ってるんですか?」

輝子「きのこの力を借りる…フフ…」

ありす「きのこにそんな効能が?」

検索して調べようかと思いましたが、さきほどから訳のわからないことで大きくなったり小さくなったりしているので、むだだと思い直しました。

輝子「キノコーキノコーボッチノコー♪」

まったく楽しくなさそうに歌いながら少女がきのこから下りて、草むらに歩いていきながら、

輝子「い、いっぽうの側は、せ、背がたか、高くなる。は、反対側は背が、ひ、低くなる」

といいました。

ありす(いっぽうって、なんのいっぽう? なんの反対側?)

輝子「き、きのこだよ…フヒヒ」

まるでありすが声に出して聞いたかのように少女は答えました。
そして、

輝子「さりげなくきのこをアピール…フフ…」

草むらに消えていきました。
残されたありすは少しの間ぽかんとしてしまいました。

まんまるのきのこに正面と反対があるのか検索したりしてから、
ありすはちぎりとったきのこのかけらを食べてようやく元の大きさに戻ることができました。

そういえばさきほどの少女に菜々のことを聞けなかったと思い、ありすは少女が消えていったほうへと歩き出しました。
けれど、ありすは気付きませんでしたが、すぐに追い越してしまっていたのです(だって、すっかり大きくなっていましたからね)

そうして歩いていると、開けた場所に小さなおうちがありました。
ありすはすこし怖気づきながらその家のドアを開けて、なかへはいっていきました。

なかはすぐに台所になっており、もうもうとけむりがたちこめていました。
公爵夫人が赤子をあやしており、料理人は火にかけた大なべの中のスープをゆっくりとかきまぜています。

ありす「っくしゅん! くしゅん!」

けむりと一緒にコショウが部屋に漂っているのは明らかでした。
公爵夫人も赤子も頻繁にくしゃみをしていました。
くしゃみをしていないのは料理人と大きなネコだけです。

ありす「すいません、ひとつ教えてほしいんですけど」

はなをむずむずさせながら、ありすは公爵夫人におずおずと尋ねました。

ありす「あなたのネコは、どうしてあんなににっこりしているんですか?」

亜里沙「あれはみくにゃん。だからですよ♪ ウサコ!」

公爵夫人の最後の言葉はどうやら赤子にたいして言ったようでした。

ありす「みくにゃん…ネコの種類ですか? ネコがにこにこするなんて、知りませんでした」

亜里沙「ねこさんはみんな、にこにこするんですよ? ええ、ふつう、にこにこします」

ありす「ネコがにこにこするところをみたことがなかったので」

亜里沙「知らないことがあってもだいじょうぶ! これから勉強していこうね♪」

ありす「はい!」

まともな会話をしていることに嬉しくなって調子よく返事をしていると、

あい「こんなものかな。ふっ、私にかかればこんなものだ」

料理人がなべを火から下ろし、さわやかな素振りでぽいぽいと料理道具を放り投げ始めました。
赤子はなきわめき(ずうっと泣いていましたが)、公爵夫人は「めっ♪」とか中空に向かって言っています。

ありす「やめて! やめてください!」

料理人は投げるのをやめて振り返りました。

あい「メイド長…やれやれ、いいだろう」

ありす「そんなこと言ってません」

亜里沙「さてっ! お歌の時間ね!」

そう言って立ち上がると、公爵夫人はぶんぶんと赤子を振り回しながら歌い始めました。


   お願い! シンデレラ
   夢は夢で終われない
   動き始めてる
   輝く日のために


コーラス(料理人と赤子も声を合わせます)
   わー! わー! わー!

   お願い! シンデレラ
   夢は夢で終われない
   叶えるよ星に願いをかけたなら

コーラス
   わー! わー! わー!

亜里沙「さぁ次はあなたの番ですよぉ!」

公爵夫人はぽおんと赤子を放り投げ、ありすはなんとかそれを受け止めました。

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持田亜里沙(21)

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前川みく(15)

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東郷あい(23)

ありす「わっわっ、えぇ、ど、どうすれば…」

亜里沙「せんせいは女王陛下とクロッケーをしなくちゃいけないので!」

公爵夫人は急いで部屋を出て行ってしまいました。

あい「おや。待ちたまえ」

料理人がひょいひょいとまたいろんなものを投げ出したので、ありすは慌てて家から逃げ出しました。

ありす「な、なんなのあのひと…」

ようやくくしゃみが止まったありすはだっこしたままだった赤子の顔をのぞきこみました。
赤子は赤い眼で見返してきます。

ありす「この子…うさぎみたい」

思わずありすがそう言うと、赤子はみるみるうちにうさぎになって、ぴょんと腕から離れて森の中へはいっていきました。

ありす「……私、どうかしてるのかな」

じっと森を見つめて、ありすはため息をつきました。

今日はここまでで
画像先輩乙です
鏡もまぜまぜして書いていくます

何番煎じだとは思っていたけどタブレット持ってるとこまでかぶるとは…

??「にゃあん」

ネコの鳴き声がしたのでありすが辺りを見回すと、

??「こっちにゃ」

頭上から呼びかけられました。
ありすが見上げると、木の枝の上にさきほどのネコが座っているではありませんか。

ありす「みくにゃんさん」

そんな呼び方でいいのか自信がなかったので、ありすはおずおずと話しかけました。
けれど、ネコは足をぶらぶらさせたまま、笑みを深くするだけでした。

ありす「私、ひとを探してるんです」

みく「みくは探してないにゃ」

ありす「………。えっと、ウサギの耳をつけてる人なんですけど」

みく「うさぎとひとなら知ってるにゃ」

ありす「あの、ウサミミなんです」

みく「うさぎの耳なら知ってるにゃ」

ありす「………。どこに行けば見つかるか、わかりますか?」

みく「"どこか"に行きさえすれば、」

ネコは楽しそうに笑いながら言いました。

みく「そうすれば見つかると思うにゃ」

ありす「………。その、"どこか"に着けるでしょうか」

みく「そりゃあ着けるにゃ。そこまで歩いていけばねっ」

ネコがけらけらと笑うので、ありすは少し腹が立ってきました。

ありす「あの、この近くに誰かほかのひとは住んでいないんですか」

みく「あっちには帽子屋が住んでるにゃ。あっちには三月ウサギが住んでるにゃ」

ありす「ありがとうございます」

みく「好きなほうにいくといいにゃ。どっちも気が狂ってるにゃ」

ありす「…ええと、そういうのはあんまり良くないと思います」

みく「それはしかたないにゃ」

とネコ。

みく「ここではみんな気が狂っているのにゃ! みくも狂っている。君も狂ってるにゃ」

ありす「わ、私が狂っているってなんですか!」

怒鳴られても、ネコはふにゃふにゃ鼻唄を歌うだけでした。

みく「そのはずにゃ。さもにゃいと、こんなところに来ないでしょ?」

ネコの言っていることがありすはさっぱりわかりませんでしたが、こう続けました。

ありす「どうしてあなたは、自分が狂っているって思うんですか」

みく「理由はみっつあるにゃ。まずひとつめ。ネコはお魚が好きだけど、みくはお魚苦手〜」

ありすはふたつめとみっつめをじっと待ちましたが、
ネコは鼻唄を歌っているだけで続きを話そうとしなかったので、ありすは自分の思ったことを言いました。

ありす「ネコが魚を好きだというのは、魚を食べる文化圏だけでの話だって聞いたことがあります」

みく「どういうことにゃ?」

ありす「魚を好きじゃないネコもいるってことです」

みく「へえ。その子らも、気が狂っているにゃ」

ありす「そんなにみんなの気が狂っているなんておかしいと思います」

議論なら負けない、とありすは気合を入れて言い返しました。

みく「そうにゃ! やっぱりみんな"おかしい"にゃ!」

ありす「違います! そんなの変だって言ってるんです」

みく「みんなの気が"変"?」

ありす「だいたい、自分の気が狂っているなんていうひと、聞いたことありません」

みく「気が狂っているから、気が"利かない"のにゃ」

ありす「私は狂ってなんていません!」

みく「気違いはみんなそう言うにゃ♪」

ありす「……じゃあ、自分の気が狂っているっていうひとが、狂っていないってことなんですか」

みく「今日、女王様とクロッケーするのかにゃ?」

ありす「………。知りません、もうっ」

怒ったありすがそう言うと、ネコはふっと消えてしまいました。

ため息をついて、ありすがどこかへいこうとすると、

みく「ところで、赤ちゃんはどうなったにゃ?」

急にネコが見えてきました。

みく「もうちょっとで聞き忘れるところだったにゃ」

ありす「ウサギになりました」

なんだかばからしくなってありすはつんと答えました。
ネコはうんうんと頷き、

みく「そうだと思ったにゃ」

また消えてしまいました。
さよならも言えないのかと思いながら、ありすは歩き出しました。

ありす(帽子屋さんか…なにかいい帽子があるかな。だめだめ、今は菜々さんを探さないと)

みく「ウサギっていったにゃ? それとも草木?」

木の枝にさっきのネコが座ってにっこりしていました。

ありす「ウサギです」

ありす「いい加減にしてください! そんな急に消えたり現れたりされると、その、困ります!」

みく「わかったにゃ」

というと、ネコは今度はとてもゆっくりと消えていきました。
しっぽの先から消え始め、最後にはにこにこ笑いが残り、ネコがすっかり消えてもしばらく残っていました。

ありす「……ほんとうに、気が変になりそう」

珍しいものをみたので、写真を撮っておけばよかったな、と思いながらありすが歩いていくと、
木陰にテーブルが用意されていて、そこで三月ウサギと帽子屋がお茶会をしていました。
二人はヤマネを挟んで座っており、ヤマネはすっかり眠ってしまっているようでした。

ありす「こんにちは」

美羽「"コード"があるなら"優先"席へどうぞ!」

芽衣子「何事も"行動" ある の み、だよねっ!」

美羽「アル ミ缶のうえに あるミ ッシュ・メタル! …あ、あれ?」

二人が話し出すと止まらないので、ありすは長テーブルのはじっこに座りました。
大きくとふかふかしていたので、ありすの足は床につきません。

美羽「ジュース飲みます?」

ありす「ありがとう。……お茶しかないみたいだけど」

美羽「ないですからね」

ありす「え、と、どうして無いものを勧めたんですか?」

芽衣子「勧めたかったからじゃないかな」

美羽「進め! 宝へと!」

芽衣子「冒険は今まさに始まったよっ!」

美羽「棒と剣で戦います!」

芽衣子「高いマスの権謀渦巻く!」

美羽「うずうずしてきました!」

芽衣子「ダジャレとかけて旅情と解く。その心は?」

そのなぞなぞをありすは一生懸命考えました。
三月ウサギがありすのカップに紅茶を淹れて飲み始めました。
帽子屋はバターを懐中時計に塗りました。

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矢口美羽(14)

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並木芽衣子(22)

ありす「あの、なにやってるんですか?」

気になってありすは帽子屋に尋ねました。

芽衣子「え? バターを塗ってるんだよっ! バターは塗るものでしょ?」

ありす「それはそうですけど」

美羽「極上のバターなんですよ!」

ありす「でもパンとかに塗るならわかるんですけど、懐中時計には塗るものじゃないと思います」

芽衣子「パンと懐中時計のなにが違うのかな〜」

美羽「時計は時を刻む! パンは、ぱ、ぱ…パーンッ!」

芽衣子「一発の銃弾がすべてを惨劇に変える!」

美羽「かえるぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ!」

ありす「あの! さっきのなぞなぞの答えはなんですか?」

美羽「わかりません」

芽衣子「あはは〜、私もわかんないな〜!」

たぶん今日はここまで

杏「考えるのもめんどくさい…」

ヤマネがようやく言葉を発しましたが、どうやらそれは寝言のようでした。
帽子屋はヤマネの頭をなでりなでりしました。
バターを塗られたまま放置された懐中時計を見て、ありすは自分がなんのためにここに来たかを思い出しました。

ありす「もう。こんなくだらないことで時間をつぶしてる場合じゃなかった…」

芽衣子「時間を"つぶす"だって?」

美羽「"つぶさ"に調べよう!」

芽衣子「時間をつぶせるなら、やってみせてよ! 私、そんな曲芸みたことない!」

ありす「あ、いえ、今のは言葉の綾です」

美羽「あ〜矢ですか」

芽衣子「言葉の時間をつぶすのならできるかも。ジカンッ! どう?」

美羽「チカンッ!」

芽衣子「キカンッ!」

ありす「あの、そういうことじゃないんです」

芽衣子「お話をしてあげるっ!」

美羽「王は無し! 女王様だけ!」

ありす「ひとを探してるんです」

芽衣子「お話の中に出てくるかもしれないよ。そうしたら見つけられる!」

美羽「みっつ蹴ったらジャックをチェック!」

芽衣子「ほら、お話してあげて!」

杏「う〜…しかたないなぁ」

ありすはお話の中に菜々が出てくるとは思いませんでしたが、断るのも申し訳ない気がして言い出せませんでした。

杏「あるところに、仲のいい四人姉妹が住んでいました」

芽衣子「いよっ! いいぞーっ」

杏「名前を、マスタートレーナー、ベテラントレーナー、トレーナー、ルーキートレーナーといいました」

へんな名前! とありすは思いました。

杏「もしどこにも行っていなければ、」

美羽「ふむふむ」

杏「四人はまだそこに住んでいるでしょう。おしまい」

ありす「……えっ」

杏「あー飴なめたい。もうこれ以上はむりだよ」

そう言うと、ヤマネはまたぐうぐうと眠ってしまいました。
その頭を撫でながら帽子屋は笑いました。

芽衣子「おめでと! 見つかったね!」

美羽「"ひと"はでてきましたね!」

ありす「いえ。人違いでした。ごちそうさまでした」

呆れてしまって、ありすはさっさと席を立ちました。
その後ろで二人はまたお話を再開したようでした。

芽衣子「あーあ! "旅行"に行きたいなぁ!」

美羽「天気は"良好"!」

芽衣子「さぁきれいな景色を求めて!」

美羽「サーキュレート形式にもとって!」

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双葉杏(17)

それから木についたドアから(「これはとても変」とありすは思いました)元のホールに戻ったありすは、
ようやく小さなドアを潜り抜けて、そこで王様と女王様に会いました。

麗奈「なにアンタ。生意気そうな眼をしているじゃない!」

トランプの兵隊を引き連れた女王様はありすの前に傲然と立ちふさがりました。
ありすも負けじと胸を張ります。
だって女王様もありすと同じくらいの年恰好でしたから。

ありす「こんにちは。あなたが女王様?」

麗奈「アーッハッハッハ! そうよ! アタシが女王様よッ!」

ありす「ずいぶんと偉そうなんですね」

麗奈「当ッたり前じゃない! 世界を牛耳っているのはこのアタシなんだから!」

ありす「では、私が探しているひともすぐ見つけられますよね?」

麗奈「その程度、できて当然!」

ありす「ウサギの耳をつけてる女の人なんですけど」

麗奈「……こいつの首を刎ねなさい!」

ありす「ナンセンス!」

とても大きな声できっぱりとありすが言いますと、女王様は黙ってしまわれました。

由愛「あ、あの…」

王様が女王様に半分隠れたまま、ありすに声をかけられました。

由愛「こんにちは…。あの、あなたが探しているひとって、あのひと…?」

王様が示したほうに、果たせるかな、菜々がちょこんと立っていました。
ありすは喜び、駆け寄りました。

ありす「菜々さん! こんなところにいたんですか」

菜々「ピピッ! フルムーンウーサミンッ!」

兵隊「「「ウーサミン、ハイッ!」」」

ありす「いえ、あの? 早く帰りま——どうやって帰ればいいんだろう……」

菜々「そんなあなたをウサミン星にご招待! キャハッ!」

ありす「そんな星がないのはわかってるんで、帰る方法を一緒に考えてください」

菜々「へっ!? いいいいや、作ってないですよっ!?」

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小関麗奈(13)

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成宮由愛(13)

麗奈「アンタ、クロッケーはできる?」

ありす「できると思いますけど、私は急いでるんです」

由愛「え…。いっしょに、遊べないの…?」

ありす「……わかりました。でも終わったら帰りますから」

由愛「うん…っ!」

そうしてクロッケーが始まりましたが、これがとってもみょうちきりんなクロッケーでしたのでありすはすぐいやになってしまいました。
そんなとき、ありすは空中に変なものが浮かんでいるのを見つけました。

??「にゃっほい☆ 元気かにゃ?」

ありす「みくにゃんさんですか?」

みく「そうにゃ!」

ネコは首だけをぷかりと現して、にこにこと笑っています。
ありすは先ほどのネコに対する苛立ちは忘れて、このクロッケーの文句を垂れました。

みく「フラミンゴでハリネズミを打つクロッケー? 意味わかんないにゃ」

ありす「私もそう思います。というか、ゲームになりません」

由愛「あの…そのひとは?」

ありす「ああ。みくにゃんさんです」

王様はこわごわとネコを眺めました。
ネコはにゃふにゃふと笑っています。

麗奈「ぎゃあっ! なによこれはッ!」

首だけのネコを見て女王様は仰天したようでした。
気持ちは分かるわ、とありすは思いました。

みく「ちっこいにゃあ」

麗奈「な、なんですって!? こいつの首を刎ねなさい!」

女王様の命令に従おうとした処刑人はネコを見て、

のあ「……星が見たい」

と呟きました。

麗奈「えぇッ!? 今は昼よ! いいからさっさと首を刎ねなさいよ!」

のあ「無いものを刎ねることはできない……不可能性の原理を覆すことは誰にもできはしない」

麗奈「なッ…ここに首があるのよ! 首があれば、切り落とせるでしょうが!」

のあ「言葉は虚構……すべてをその眼で確かめなさい」

麗奈「アンタまでアタシを莫迦にするっていうの!? こいつの首を刎ねなさい!」

のあ「自己言及がいざなう無限後退……そういうことね」

麗奈「ムキーッ! アンタなんなのよ!」

のあ「『私』とはなんなのか……そう、この世界すべてのことよ」

ネコを撫でていた王様がありすにそっと問いました。

由愛「海ガメもどきって…知ってる…?」

ありす「海ガメは知ってるけど…、もどき? 調べてみよう」

由愛「えへへ…可愛いよ。見せてあげるね」

またも断りきれずにありすが王様のあとをついていく後ろで、ネコは消えていき、
公爵夫人と白ウサギはチェスをしていました。
女王様は叫びつかれて咳き込んでいました。

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高峯のあ(24)

王様とありすが歩いていきますと、グリフォンに出会いました。

夏樹「よぉ、王様じゃねーか。元気か?」

由愛「あ、こんにちは…元気です。あの、この子を海ガメもどきさんのところに、連れて行ってもらえますか…?」

夏樹「へえ? こいつを? まぁいいよ。王様は忙しいもんな」

由愛「いえ…でも、女王様が、心配なので…」

夏樹「へへっ、まったくだな! じゃあ、任せときな!」

由愛「ありがとう」

ポケットに手を突っ込んだまま、グリフォンは歩き出したので、ありすは慌てて追いかけました。
王様はもと来た道を戻っていきました。

夏樹「ん? どした、飴ほしいのか?」

ありす「いっいりません! 子ども扱いしないでください」

夏樹「ははっ。いいな、その意気、気に入ったぜ」

いつの間にやら海の見える岩場に来ていました。

いくらも歩かぬうちに、遠くに海ガメもどきが見えてきました。
岩に片足を乗せて、一心にギターを掻き鳴らしています。

ありす「あれは、なにを演奏しているんですか?」

夏樹「つもりになってるだけなんだよ。実際は、あんなふうに弾けたことなんてありゃしないんだ」

たしかに、波の音しか聞こえませんでした。
そうして二人は海ガメもどきのところまでやってきました。

李衣菜「イエーッ! センキューッ!」

海に向かって歓声にこたえて(ありすには聞こえない歓声でしたが)、海ガメもどきは振り返りました。

夏樹「よっ。こちらのお嬢さんが、アンタの話を聞きたいんだってさ」

李衣菜「えっ! もしかして私のファン!?」

ぐっと近づいてくる海ガメもどきから身を引きながらありすは首を振りました。

ありす「違います。あの、海ガメもどきってなんですか?」

李衣菜「なーんだ。今ならファン第一号だったのに」

海ガメもどきはがっかりしたように岩に腰を下ろしました。

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木村夏樹(18)

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多田李衣菜(17)

李衣菜「訂正しておくけどね! 私は"もどき"じゃないよ! ホントの海ガメ」

夏樹「なにいってんだ。お前は"もどき"だよ」

李衣菜「違うよー! 勘違いしないでね。君、ロックは知ってる?」

ありす「はい、たぶん」

李衣菜「たぶん? へへん、私はロックを"ちゃあんと"知ってるよ!」

夏樹「はいはい」

李衣菜「じゃあ私が"もどき"じゃないことを証明するために、ロックのことを教えてあげようっ! 終わるまで寝ちゃだめだよ!」

得意げにそう言った海ガメもどきでしたが、それから長いこと口を開きません。

ありす(始まらなかったら、話が終わらないじゃない)

と思いましたが、じっと我慢しました。本当はすぐにでも「ありがとうございました」といって帰りたかったのですが。

李衣菜「ロックといえばビーツケルズは外せないよね」

ありす「? ビートルズでは」

李衣菜「ビー"取る"ズじゃないよ。ビー"付ける"ズ」

ありす「??」

李衣菜「ボブなんかのスプーン・ロックも私は好きかな」

ありす「す、スプーン?」

李衣菜「もちろんハート・ロックとかプリングレッシブ・ロックも忘れちゃいけないよね!」

ありす「プリンが好きなんですか?」

李衣菜「ロックの話だよ? ケーキ・ロックもあるよね」

ありす「ロックの話なんですよね?」

李衣菜「そうだってば! それからやっぱりヘビ・ロックだよね」

ありす「今度はヘビですか」

李衣菜「"シューシュー"やってるからねっ! あ、私はオルテガティヴ以降はロックとは認めてないから! 硬派だから!」

ありす「はあ」

李衣菜「どうかな? 私が"もどき"じゃないってわかってもらえたと思う」

ありす「お菓子の話じゃないってことは分かりました」

李衣菜「あれえ?」

夏樹「ああもう。アンタの話はいいや。なあ、今度はアンタの話を聞かせてくれよ」

グリフォンはありすに水を向けました。
ありすは、今日のおかしな出来事を説明すれば帰る方法を教えてもらえるかもしれないと思って、そうしました。

李衣菜「それはとってもヘンテコだね!」

夏樹「こいつの歌もヘンテコだぜ。ほら、歌ってやれよ」

李衣菜「かしこまり! さぁ行くぜぇーっノッてるかーい!」

ありす「お、おー」

海ガメもどきはギターを掻き鳴らして歌い始めました。


    どこまでも広がる グラディエーター
    こたつにはいって みかんを食べる
    光差す放課後 止まるエレベーター

    Shoat end the store (お店に並べられた子ブタ)
    肉を切り裂いて食べるよ
    Bee tinge my hart (ハチみたいな色した私の雄ジカ)
    それは止められない 角が長いよ


なんの歌なんだろうとありすは思いました。

眼を閉じたまま海ガメもどきは熱心に歌い続けます。


    無病息災 きらめいて 流れる髪はストレート
    斎戒沐浴 いいけれど 三ヶ月もきれいだよね
    順風満帆に 見えるけど 底に穴開いたボート

    ツナ買って 食べれる
    自分勝手 輝く
    コロコロを 追いかけてく


夏樹「ヒューッ! いい歌だった!」

ありす「………」

なんとも言えずにありすは拍手をしました。

李衣菜「えへへーっ! こりゃデビューの日も近いね! サインいる?」

そのとき、遠くのほうから「裁判が始まります!」という声が聞こえてきたので、

夏樹「なんか面白そうなことが始まるみたいだぞ!」

グリフォンはありすの手をつかんで走り出しました。
海ガメもどきは色紙を突き出したまま固まっていました。

グリフォンに引っ張られてありすが着いたのはお城の広間でした。
そこでは王様と女王様がチェスをされていました。

ありす「えっ? 裁判をするんじゃ…」

菜々「"裁判"と"チェス"って、似てるじゃないですか♪」

ありす「あぁ菜々さん。いえ、似てないと思います」

菜々「"裁判"と"サイパン"は?」

ありす「……言葉は似てるかもしれませんが」

兵隊「「「ウーサミン、ハイッ!」」」

由愛「チェックメイト…」

麗菜「ちょ、ちょっと待ってッ! これ、こっち…あダメだ…もーっこれで三連敗じゃない!」

由愛「だ、誰かと代わろうか…?」

女王様はそこでありすに気がつきました。そしてにやりとしました。

麗菜「いいわ。アタシの最終兵器を見せてあげる。ほら! アンタが指すのよ!」

ありす「なんで私が…」

むりやり女王様の代役をさせられて、ありすは王様とチェスを始めました。
タブレットでルールを確認しながらでしたが、王様は文句を言わずに楽しそうでした。

数十手打ったあたりで、ありすは王様がぽかんとしているのに気付きました。

ありす「?」

その視線を追って振り返ったところで、

麗奈「スペシャルバズーカ!」

大きな音がして、女王様が持っていた筒が爆発しました。

ありす「きゃあっ!」

びっくりしたありすはバランスを崩してテーブルに倒れこんでしまいました。
するとどうしたことでしょう、ありすの身体はチェス盤に吸い込まれていったのです。

菜々「いってらっしゃいませ、ご主人様♪」

そして、裁判が始まりました。

あっちゃあしまった、>>56の麗菜→麗奈でお願いします
明日から鏡の国です
クイーンにお似合いの子がいたら教えてくれると嬉しいです
画像先輩ありがとです

ありす「いたた…。びっくりした…」

転んでいたありすは服をはたきながら立ち上がりました。
そこで、辺りが先ほどまでとすっかり変わってしまっていることに気付きました。

ありす「……あれ…王様? 女王様?」

彼女は、花が咲き乱れる庭園にぽつんと立っていたのです。
今日は訳のわからないことだらけでしたが、特別訳がわかりませんでした。

ありす「………」

なぜだか急にさみしくなって、ありすは早く帰りたいと思いました。
早く事務所に帰って、——プロデューサーに会いたい。

ありす「帰りたいよぅ……」

瑞樹「わかるわ」

ありす「えっ」

ありすがぽつりと呟くと、庭のハナミズキが相槌を打ちました。

レスありがとです
自分なりのチョイスでやってみます

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川島瑞樹(28)

瑞樹「花は、土から伸びて咲き、土に還る。みんなそうよね」

ありすは驚きのあまり、しばらく口が利けませんでした。
そんな彼女におかまいなしに、アヤメにサクラにツバキ、ランまで一斉に話し出したのです。

あやめ「瑞樹殿! わたくし、まだまだ土に還るつもりはありませんよ!」

さくら「きゃぁん! 毛虫がいるぅーっ!」

椿「あなたも、きれいに咲いてるんですね」

蘭子「茫漠荒涼たる野をゆく指針を求めよ(帰り道がわからないんでしょうか)」

ありす「あの、ごめんなさい、私、花が話せるって知らなくて」

瑞樹「あら。話せるわよ。それも、あなたよりずっと流暢にね!」

蘭子「解き放たれし言の葉を舞うに任せん!(おしゃべり楽しいですよね!)」

さくら「さくらでぇす♪ えっへへー♪」

椿「それで、あなたはなんという花なの?」

ありす「いえ、花ではないんですけど。橘ありすっていいます」

あやめ「タチバナ? だとすると、貴方はもっと大きくなるのでしょうな。うらやましい限りです」

ありす「え? あぁ、もちろん、これから成長しますよ」

椿「3メートルくらいまでは伸びないとね!」

ありす「3メートルッ!?」

瑞樹「そうね、それくらいかしら。あなたが還るのは当分先のことになりそうね」

ありす「そんなに大きくならないと思いますけど……。でも、早く帰りたいんです」

蘭子「ククク、絶海の回廊を踏破し、黄金郷への到達者となるがよい(がんばれば帰れますよ!)」

あやめ「それならば、やはりクイーン殿に聞いてみるのがよいのでは?」

瑞樹「そうね。サクラ! あの赤くておおきなふたつの苞葉を持った花はどこにいるか、見える?」

さくら「はいはぁい♪ んーっとね、丘の上にいるよぉ?」

瑞樹「だそうよ」

ありす「ありがとうございます」

花に頭を下げるなんて、おかしな気分だとありすは思いました。

あやめ「ご武運を!」

椿「きっと帰れるわ。気をつけてね」

蘭子「闇に飲まれよ!(いってらっしゃーいっ)」

さくら「はりきって、いってみよぉ〜♪」

瑞樹「ふふっ、やればできるわ。タチバナだもの」

ありす「失礼します」

瑞樹「そうそう、反対に歩けばすぐに会えるわ」

ありす「はい。はい?」

聞き返そうと思いましたが、花たちはまたすぐに別の話題で盛り上がってしまったので、
しかたなくありすは向き直ってたしかにクイーンの見える丘に向かって歩き始めました。

ありす「あれ?」

しかし、どれだけ歩いても、すぐに花たちのところに戻ってきてしまいます。
少しむっとしたありすは、今度は走って丘へと近づくことにしました。

ありす「はぁっ、はぁっ……どうして…」

それでも、丘には近づけません。
そこで、ハナミズキに言われたように、丘から"遠ざかろう"と歩き出しますと、
すぐにありすはクイーンと出会うことができました。

雪乃「ごきげんよう」

ありす「こんにちは。あの、相談があるんです」

雪乃「相談もいいですけれど、まずはお茶の時間にいたしませんか?」

ありす「えぇと、お茶ですか」

雪乃「それで、相談というのは?」

ありす「えっ。あの、私、ここから帰りたいんです」

雪乃「とってもおいしい葉っぱだから、ゆっくり味わってくださいね」

ありす「えっ」

雪乃「帰る方法はひとつ。とっても簡単」

ありす「あの」

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浜口あやめ(15)

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村松さくら(15)

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江上椿(19)

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神崎蘭子(14)

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相原雪乃(22)

雪乃「美味しいお茶菓子もありますよ」

ありす「えっと」

雪乃「ゲームを終わらせるんです」

ありす「え?」

雪乃「お口に合うといいですけど」

ありす「えっ」

雪乃「チェックメイトをかけるんですよ。そうすれば、ゲームは終わり。あなたもきっと帰れます」

ありす「チェックメイト…ここ、本当にチェスのなかなんですか?」

雪乃「まずは、お茶にいたしませんこと?」

ありす「話を聞いてください…」

雪乃「あなたは白のポーン。さあ、チェックメイトを目指しましょう!」

ありす「は、はい」

雪乃「さて、お茶をいただきましょうか」

ありす「………」

ありすがため息をつこうとしたとき、どういうわけか、ふたりは走り出していました。
気付いたときには、ありすはクイーンに手を引っ張られて、ものすごい速さでついていくのがやっとでした。

雪乃「もっと速く! もっと速く!」

びゅうびゅうと風が耳元で鳴っています。
ありすは息が切れてしまいました。

雪乃「お茶にしましょうか」

走り出したときと同じくらい唐突にクイーンは足を止めました。
ありすはへとへとになってその場に座り込んでしまいました。

ありす「はぁ…はぁ…あれ…ここ、同じ場所じゃ…」

そのとおり、二人は走り出した場所と同じ場所にいたんです!

雪乃「もちろん、そうですわよ」

ありす「えぇ…? あぁのどが渇いた! お茶をもらえますか?」

雪乃「ちょうどいいものがありますわ。召し上がる? ビスケット」

ありす「………。いりません」

ありす「あんなに走ったのに、動いてないなんて…」

雪乃「どういうことかしら?」

ありす「ふつう、あれだけ速く走ったら、どこかに行ってしまうはずです」

雪乃「あなたって、のんびり屋さんですわね。"ふつう"、同じ場所にとどまるためにはおもいっきり走らないといけないものですよ」

ありす「…めちゃくちゃです」

雪乃「ひとまず、お茶にしましょうか」

ありす「本当に頂けるんですか?」

雪乃「最初にくじけないためのヒントをお教えしましょう。——自分がだれなのか、きちんと覚えておくことです」

ありす「大丈夫です。私は子供じゃないんですから」

雪乃「それは結構!」

クイーンはすたすたと離れていき、一瞬振り返って「さようなら」と挨拶されますと、いなくなってしまいました。
やっぱりありすは訳がわかりませんでしたが、とにかく今はチェスに勝って帰ろうと思い、立ち上がりました。

ありす「たしかポーンは八つ目のマスにいったらクイーンになれるはず。まずはクイーンを目指そう」

そして、ありすは丘をくだって、六つ見える小川の最初のひとつをぴょんと跳び越えました。

友紀「切符を拝見っ!」

車掌さんが窓から顔をつっこんで言いました。
ありすは汽車の席に座っていました。そう、"いつも"どおり、"いつの"間にか。
コンパートメントのなかのみんなが突き出した切符を切っていった車掌さんが、ありすを見つめます。

友紀「さあ、そこのキミ! 切符を見せてよねっ!」

向こうのコンパートメントから大きな声で聞こえてきます。

亜子「待たせちゃだめだめ! 車掌さんの時間は、一刻千金!」

ありす「ごめんなさい。切符を持っていません。切符売り場のないところから来たんです」

亜子「この子がいたところには切符売り場を置く土地がない! 土地一インチ、値千金!」

友紀「ダメだよー。機関士さんから買えばよかったんだよ」

亜子「機関車を運転する人! 煙だけでも、ひと吹き千金!」

ありすは何を言ったらいいかわからなくなって、黙り込んでしまいました。

亜子(何もいわんほうがいい! 言葉は一言千金!)

ありす(もうなんなの。今日は千金の夢を見そう。ううん、絶対)

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姫川友紀(20)

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土屋亜子(15)

友紀「まったくもう。しかたのないお子だねっ!」

缶ビールのプルトップを開けながら、車掌さんは行ってしまいました。
ほっとしたありすの前に座っていたジャージ姿の少女が言いました。

比奈「切符を持ってなくても、自分の名前くらいはわかるッスよね?」

ありす「はい。橘、ありすです」

名乗るのはこれで二度目だとありすは思いました。
ジャージの隣の褐色の少女が笑いました。

ナターリア「名前なんて、スグにイミなくなるヨ!」

亜子「名前のない森! 銭こそ力! 一攫千金!」

向こうのコンパートメントが続きました。
どうやら順繰りに口をきく決まりのようでした。

「意味はなくともドッグタグを外すことなかれ! 総員、かまえーっ!」
「………心……繋がってる……から………ずっと一緒……」
「ほえぇ…名前、なくっちゃうんですか? はわぁ…そうなったらぁ、私はどうなっちゃうんでしょう?」

ありす(名前がなくなるなら、それってとてもいいことだと思う)

とありすは思いました。

すすまねぇー!
今日はここまでで
画像先輩乙です

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ナターリア(14)

比奈「気をつけたほうがいいでスよ。名前をなくしてしまうと、自分でなくなってしまうッスから」

ありす「でも私、自分の名前が嫌いなんです」

ナターリア「なら捨てればイイ! あの森ならデキル」

亜子「贅沢な名前は質に入れてしまえ! 一文字千金!」

亜季「名前は捨てても剣を手放すな! 突撃ーッ!」

雪美「………名前…呼んでもらうの……好き……」

里美「私が私でなくなってしまうっていうのは、どういうことなんでしょうかぁ? あれ? お兄様…?」

??「名前が"ねえ、無"名だ…それでも、"遠く迷"路を越えていける…ふふっ」

小さな声がありすの耳元で聞こえ、鈴を転がすように笑いました。
ありすは誰かと思って見回しましたが、みんなが思い思いに話しているのでまったくわかりません。
そのとき、大きな汽笛が鳴って、汽車がひょいと小川を跳び越しました。

ありす「きゃあっ」

ふわっと宙に浮くのが感じられ、慌ててありすが座ったのは木陰の切り株でした。

ありす「あれ…。まぁいいか。静かになったし」

だんだん慣れてきたありすでした。

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荒木比奈(20)

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佐城雪美(10)

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榊原里美(17)

楓「静かにしてほしい"聖者、く"ったくた…彼が一言挨拶、"おや、炭"の火が消えた…」

ありす「誰なんですか? さっきからくだらないことをいってるのは」

冷たい呼びかけに答えたのはカでした。
草に腰掛けてふわふわと笑っています。

楓「"くだ"らないものいっ"ぱい、プ"ディングに混ぜたもの、"くだ"さい」

ありす「……私、カはあんまり好きじゃないんです」

楓「なんて虫が"好き"なの? "くわ"しく聞かせてほしい…"かま"わない?」

ありす「いいですけど…。ちょうちょとか、かわいい虫なら好きです」

楓「感想に"ちゅうちょ"してしまいますね。その虫に呼びかけてみたことは?」

ありす「え? いえ、ないです」

楓「でももし呼びかけたら、もちろん返事をしますよね」

ありす「しないと思います。そんなこと、聞いたこともありません」

楓「呼ばれても返事を"しない"なら、なんのために名前があるのか…"紫外"線避け?」

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高垣楓(25)

ありす「そんな訳ありません。名前っていうのは、呼ぶためにあるんだと思います」

楓「そう? じゃあ貴方を好きなように呼んでもいいってこと?」

ありす「……私、自分の名前があんまり好きじゃないんです」

楓「なんて名前が"好き"なの? "くわ"しく——」

ありす「もういいです。私、早くこのチェスを終わらせないと」

楓「さよう"なら"。"みえ"なくなるまでそう言う"しが"ないです。"今日と"いう日を忘れません」

ありすが見上げると、ふらふらとカは空に姿を消してしまいました。
なんだかネコを思い出して、ありすはちょっとだけその表情をまねしました。

ありす「よし。あの森に入ろう」

薄暗い森に入ると、ずいぶんとひんやりしていました。

ありす「ああ涼しい。この——…この、なんだっけ」

はっとありすは自分の口を押さえました。言葉が出てきません。この森には名前がないからです。

ありす「本当にこの——ここには、——ないんだ。じゃあ私は、…——ない。私は誰?」

ありす「ううん、私の——は、いらない。ここなら——に、いやな呼び方をされることもないし」

ちょっとだけありすは顔をしかめました。

ありす「——は別に無くならなくてもいいのに。——、——っ……」

このまま"彼"に呼びかけられなくなったらどうしよう。
ありすはふとそんな不安に駆られました。
そんなとき、獣が通りがかりました。

??「………」

不審そうな獣に、ありすはちょっと怖くなって丁寧な調子で挨拶しました。

ありす「こんにちは」

美玲「オマエ、なんて名前?」

ありす「——…、ごめんなさい、今は、名前がなくて」

美玲「ふうん。オマエ、名前がないのに、どうやって自分が自分だってわかるんだ?」

ありす「え……」

美玲「名前がないならオマエは誰なんだ? 誰でもないんだろ。誰でもなければ、もう誰からも呼びかけられないよ」

じり、と一歩ありすは後退りました。
いやだ——と思いました。

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早坂美玲(14)

ありす「わ、私は、」

美玲「オマエ、なんだ? 自分がなにか、言ってみろよ」

ありす「私は、——で——にプロデュースされてる——で、え、あれ…あの、私」

美玲「自分がなにかも言えないのか? オマエ、ほんとに誰でもないよ」

ありす「私が、誰でもない…?」


——雪乃「自分がだれなのか、きちんと覚えておくことです」


——比奈「名前をなくしてしまうと、自分でなくなってしまうッスから」


ありすはぞっとしました。
自分の首を両手でつかみます。

??「こ、ここまで出てるのに…——、私は——っ!」

美玲「自分の名前を思い出さないと、ここからは出られないよ」

??「そ、そんな…っ」

??「私……私は……っ」

美玲「誰でもなくてもいいじゃんか。呼ばれなきゃ名前に意味なんてない。オマエはもう誰にも呼ばれないしな!」

獣はけらけらと笑いました。
へたり込んだありすからぽろりとタブレットが落ちました。

??「……あ…」

タブレットに飛びついたありすは受信メールを呼び出します。


??「…プ、ロ、デューサー……」

今朝に(まるで遠い昔のようにありすには思われました)届いたプロデューサーからのメールを開きます。

P『おはよう、ありす。今日は夕方からボイストレーニングだけど、予定はだいじょうぶか? まぁありすなら問題ないと思ってるけどな』

??「あ……り、す……」

美玲「なァ」

タブレットに映る文字を指でなぞりながら自分の名前を呼ぶありすに獣が声をかけます。

美玲「どうだ? オマエもこの森にずっといればいいじゃんか。ここならみんな"誰でもない"んだ。なァ、いいだろ」

ありす「私は、ありす。私の名前は、橘ありす!」

自分の名前を取り戻したありすの目の前が突然開けました。

美玲「ちぇっ。名前のあるやつはここにはいられないよ。さっさと行きな」

ありす「私、自分の名前を大切にする。あの、あなたの名前は…」

美玲「なくしちゃった。フンッ、ウチは一匹狼だモンッ!」

ありす「もし、もし私があなたの、」

美玲「早く行けよ! ガルルー!」

獣に追い出されるようにして、ありすは森を抜けました。

ありす「………。ありす、ありす。私は、ありす。うん、もう忘れない」

それから、とありすは思いました。
——プロデューサー。もう忘れません。忘れたくありません。

さぁ先へ進もう。帰るために。
そうやって、ありすは再び歩き始めたのでした。

今日はココまで〜
思わず、ありすの冒険はこれからだ!完!って書きそうになった
画像先輩乙ですー

やがて、急な曲がり角を曲がったところで、ありすは二人の少女に出会いました。
二人は見つめあったまま動きません。

ありす「あの…」

愛梨「とりあえず、私がダムということで〜」

と片方が言いました。

加奈「つまり、わたしがディーということですね!」

ともう片方が言いました。
そして二人はようやくありすのほうに向き直りました。

愛梨「私はトゥィードルダム」

加奈「わたしはトゥィードルディー」

ありす「私は橘ありすです」

愛梨・加奈「「こんにちは!」」

言いながら二人が同時に手を差し出してきて、ありすは先にどちらと握手をしたら、
もう一方が気を悪くするのではないかと思ったので、二人の手をいっぺんにとりました。
と、次の瞬間、三人は輪になって踊っていました。

どこからともなく音楽が流れ出しました。



列伍 盾とライフル
そして日本刀
手旗を振って 連絡しろ
もっと のばすわ戦列
砕いて塹壕
最後にそっと手榴弾
勝ちたいから
焼いちゃおう敵キャンプ


「なんて野蛮な歌!」とありすは思いました。



パッと teak bike 買って
丁字路の前で
バイクにのってあの街へ
PiPiピッと 時計が鳴って
冷や汗アイ ゲット アップ
予鈴の鐘 鳴り響く

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十時愛梨(18)

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今井加奈(16)

始まったときと同じくらい突然に踊りは終わりました。
音楽も勝手に鳴り止みました。

ありす「………」

なんだか気恥ずかしくなってありすは頬を染めました。
トゥィードルダムとトゥィードルディーは満足したように頷きあうと、また向かいました。

ありす「ええと…、私、八つ目のマスまで行きたいんです。道を教えてくれませんか?」

愛梨「この子にアップルパイの作り方を教えてあげたほうがいいかな?」

加奈「いいと思います!」

愛梨「まず林檎の皮を剥いて薄く切ってね!」

トゥィードルディーは『まずい林檎の川を向いて薄く切手値』とメモしました。

ありす「すみません、もし知っていれば、先に道を教えてくれると嬉しいんですけど」

トゥィードルダムはにっこり笑って続けました。

愛梨「鍋にバターを溶かして、林檎を炒めて、それから砂糖を入れてね!」

加奈「バターは何gですか? 砂糖は何gですか?」

愛梨「うん、バターは5g、砂糖は50gくらいだよ」

トゥィードルディーはその数字をメモして、ふたつを足し合わせて、それをシリングとペンスに換算しました。(12ペンスで1シリングになります)

愛梨「なんだかココ暑くないですか?」

そういってトゥィードルダムが一枚上着を脱いだので、トゥィードルディーは1シリング引きました。

愛梨「そのまま林檎を、表面が半透明になるまで煮詰めてください!」

加奈「反透明?」

愛梨「はいっ! 半透明です」

加奈「林檎は透明だったってことですか?」

愛梨「えっ? 透明じゃないから、半透明になるまでです」

加奈「そうですよね。透明じゃないから、反透明なんですよね」

愛梨「とりあえず、そういうことです!」

加奈「つまり、そういうことですね!」

ありすは二人の会話に頭が痛くなってきて、つい頭を押さえました。

加奈「だいじょうぶですか? 少し横になりますか?」

愛梨「それがいいねっ。向こうに寝てるひとがいるから、"横"になればいいよっ」

ありす「あ、いえ…」

なんやかんやと心配されながら二人に案内されていくと、毛布を頭までかぶった赤のキングがぐうぐうと寝ていました。

愛梨「今、夢を見てるんだよ」

加奈「何の夢かわかりますか?」

ありす「わかりません。ひとの夢の内容なんてわかるわけありません」

愛梨「なんと、君が出てくる夢なんだよ!」

なぜか嬉しそうにトゥィードルダムは手をたたきました。

愛梨「もしキングが、君が出てくる夢を見るのをやめたら、君はどうなると思う?」

つまらなさそうにありすは答えました。

ありす「もちろん、このまま、ここにいると思います」

愛梨「はずれー、ですっ! いなくなっちゃいます! 君はキングの夢のなかにいるんだよ〜♪」

加奈「キングさんが目を覚ましたら、貴女は消えてしまうんです」

ありす「ありえません!」

怒ってありすは叫びました。

ありす「自分が夢の中にしかいないなんて、そんなおかしなこと……! だいたい、そうだとすればあなたたちはなんなんですか!」

愛梨「とりあえず、君と同じだね!」

加奈「つまり、貴女と同じです!」

ありす「やめてください! 私は本物です!」

愛梨「自分が本物かどうか、君にわかるの?」

加奈「本物の自分かどうか、貴女にわかりますか?」

ありす「わ…わかります! だって、だって…」

言っているうちになんだか不安になってきてありすは涙ぐんでしまいました。
二人は狼狽して、ありすの頭を撫でたり、メモ帳をめくったりしました。
その様子が可笑しくて、ありすはつい笑ってしまい、それを見た二人もなぜか笑い出しました。

愛梨「とりあえず、楽しいですねっ!」

加奈「つまり、楽しいって事ですよね!」

ありす「はい、はい、もうそれでいいです」

風が強く吹き出して、空も暗くなってきました。

ありす「…雨が降るのかな…」

愛梨「それは困りますね!」

加奈「困っちゃいますね!」

トゥィードルディーは「雨が降って困る」とメモして、言葉を入れ替えて、「腐米あって曲がる」と書き直しました。

愛梨「とりあえず、家に帰りましょう!」

加奈「つまり、家に帰ります!」

そう言って二人はさっさと走っていってしまいました。
ありすは困ってしまって、隣のキングを見てみましたが、キングは静かに寝ているだけです。

ありす「はあ…」

ため息をついたありすが見上げると、白いショールが飛ばされてくるのが見えました。

ありす「誰のだろう」

ひとまずそれを掴まえて、ありすは周りを見渡しました。
風上から誰かが駆け寄ってきました。

今日はここまで…
歌くだらねえーっって自分でも思った

ありす「あの、これ、あなたのですか?」

駆け寄ってきたのは白のクイーンでした。

桃華「ごきげんようですわ!」

ありす「こんにちは。どうぞ」

クイーンは意味深な笑みを浮かべてありすからショールを受け取りました。

桃華「アナタ、ずいぶんと賢そうですのね。なかなか良いですわよ」

ありす「はあ。ありがとうございます」

桃華「決めましたわ! アナタをわたくしの侍女にしてあげます!」

ありす「いえ、私は、」

桃華「どうしましたの? "今"は喜ぶときですのよ!」

ありす「ごめんなさい、私、侍女にはなれません」

桃華「どうして?」

ありす「私にはもう、一緒に歩んでいきたい人がいるからです」

桃華「週に75円の給金ではどうですの? "毎日"ジャムつきですのよ!」

ありす「結構です」

桃華「とっても良いジャムですのよ」

ありす「本当にごめんなさい」

桃華「欲しがっても手に入らないジャムですのよ? "明日"のジャムや"昨日"のジャムはなくて、"今日"のジャムしかないんですの」

ありす「そりゃあ"昨日"のジャムはもう無いでしょう。でも"明日"のはまだあるはずでは?」

呆れたようにありすは反論しました。
クイーンはショールを留めながら首を振ります。

桃華「"昨日"のジャムも"明日"もジャムもありませんわ。あるのは"今日"のジャムだけ」

ありす「"明日"のジャムがなければ、どうやって"今日"のジャムがあるんです。"明日"の分が"今日"になるんでしょう?」

桃華「違いますわ。"明日"は"今日"になんてなりませんわ!」

ありす「一日は24時間あって、そうしたら"明日"になりますよね?」

桃華「"今日"はずっと"今日"のままです!」

ありす「いえ、それはそうですけど…」

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櫻井桃華(12)

桃華「"明日"も"昨日"もありません。あるのは"今日"だけですわ」

ありす「でも"明日"だったのが"今日"になり、"今日"だったのが"昨日"になっていくんですよ」

桃華「アナタはそれを見ましたの?」

ありす「見たことは無いですけど…。でもそうなるはずです」

桃華「アナタ、"今"、自分が"今日"にいるってわかりますわよね」

ありす「ええもちろん。私がいるのが"今日"です」

桃華「"明日"にいたことは? あるいは、"昨日"にいたことはありまして?」

ありす「……ないですけど。でも、たとえば、5月12日は"昨日"には"明日"であり、"今日"には"今日"であり、"明日"には"昨日"ですよね」

桃華「そのとおりですわ!」

ありす「やっぱり"明日"も"昨日"もあるじゃないですか」

桃華「いいですわ、では"とりあえず"、"昨日"はあると言っておきましょう。"今日"の事実が"昨日"になるという言い方は承服しますわ」

ありす「"明日"もありますよ」

桃華「どうしてですの? わたくしがショールを飛ばすのは"今日"であって、決して"明日"ではありませんわよ」

ありす「それはもう起こったことですから、"明日"ではないです」

桃華「では"明日"わたくしがピンで指を刺すと言えまして?」

ありす「私にはわかりません——刺すかもしれないですし、刺さないかもしれません」

桃華「そう! そしてもし刺したとしても、それはその"時"は必ず"今日"であるはずですわ。それが"昨日"になることは——確かめられませんけど——あるかもしれませんわね」

ありす「それでも、"明日"がない、というのは変です。私たちは"昨日"から"明日"へ進んでいくのではないですか」

桃華「そういえばアナタ先ほど、一緒に歩んでいきたい人がいると言いましたわね?」

自分の言ったことを思い出してありすは少し赤面しました。

桃華「でも、どこまで歩いていっても、そこは必ず"今日"ですわ。そう、どれだけ速く走っても、必ずそこは"今日"なのです!」

ありすは赤のクイーンのことを思い出しました。
同じ場所にとどまるためには、おもいきり走らなければいけない——

ありす「じゃあ、私たちはどこに向かって進んでいるんですか?」

桃華「わかりませんわ」

そっけない答えにありすは肩透かしを食らいました。

桃華「"明日"なんてありませんもの。本当は"昨日"もないんですのよ。ジャムは"今日"のが、あるだけですわ」

桃華「もしあるとすれば"昨日"は、そもそも"今日"ではなかった"昨日"そのもの、そして"明日"は、そもそも"今日"にならない"明日"そのものですわ!」

ありす「……ごめんなさい、よくわかりません」

桃華「いいえ、逆ですわ」

ありす「逆?」

桃華「"つまり"、アナタは、"今日"ということが当然すぎて、それを飛び越しているのです。表現できないものを飛び越して、先回りして理解しているのです!」

ありす「……ええと、私が"何"を飛び越しているんですか?」

桃華「"すべて"ですの! "すべて"を飛び越しているのですわ。こんなふうに!」

言いながら、クイーンはありすの手をとって小川を跳び越えました。

ありす「わわっ」

足を濡らさないように慌ててありすも同じようにしました。
そして、

??「何を買いやがりますか?」

ありすはいつの間にか薄暗い、小さなお店の中にいるのでした。

ありす「あの、ここはどこですか?」

カウンターの向こうに腰掛けた羊はきょろりと見回しました。
それから答えました。

仁奈「お店でごぜーます」

ありす「私、八つ目のマスに行きたいんです」

仁奈「モフモフしやがります?」

ありすの言葉をぜんぜん聞かずに、羊はそう言いました。

ありす「いえ、別に」

仁奈「そうでごぜーますか。じゃあお店のなかでも見やがるといいですよ」

そう言われて、ありすは店内を見ようとしましたが、どの商品も見ようとするとサッと逃げてしまうので、
いったい何が売られているのかさっぱりわかりませんでした。

仁奈「モフモフしやがります?」

ありす「いえ……はい、します」

あきらめてありすは羊をぽふぽふと撫でました。
そして気がついたときには、二人はボートに乗って川の上にいました。

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市原仁奈(9)

仕方が無いのでありすはオールを漕ぎ出しました。
羊は鼻唄を歌いながら景色を眺めています。

ありす「あの、これはどこに行くんでしょうか」

仁奈「知ってるわけないですよ。だって漕いでいやがりませんし」

それはそうだと思ったので、ありすは黙りました。

仁奈「自分の行きたいところには、自分で行くものでごぜーます」

ありす「そ、そうですね」

仁奈「でも放っておいてもどこかへ流れていくもんでいやがりますけどね」

ありす「私は、流されたくないな…」

仁奈「でもそれもまた良し、でごぜーますよ。どうせ着くのはみんな同じ場所なんでいやがりますからね」

ありす「そうなんですか?」

仁奈「モフモフしやがります?」

ありす「……はい」

漕ぐ手を止めてありすが羊を撫でると、二人は薄暗い店内に戻っていました。

ありす「戻ってきちゃいましたね」

仁奈「違うでごぜーます」

ありす「え?」

仁奈「さっきと、こことは、違う場所でごぜーます。戻ってきやがったんではないですよ」

ありす「あれ。違うお店なんですか?」

仁奈「同じ店でいやがりますよ」

ありす「じゃあやっぱり同じ場所なんじゃないですか」

仁奈「同じ場所でも、違う場所になるんでいやがりますよ。ぷろせすが大事なんでごぜーます」

ありす「はあ。そんなもんですか」

仁奈「そんなもんでごぜーます! 卵が入り用でごぜーますか?」

ありす「え? あぁ、ありがとうございます」

仁奈「ボート楽しかったので、そのお礼でごぜーます! どうぞ後ろの棚から取りやがってくだせー」

ありすがそうしようとすると、周りにどんどん木が生えて、そうしてすっかり草原になってしまいました。

今日はココまで
鏡もあと半分くらいか…
画像先輩ありがとですー羊仁奈チョイスさすがです

ありす「…ここは何マス目だろう…」

きょろきょろとしていると、

??「なにか探してるの?」

高い塀の上にハンプティ・ダンプティが座っていました。
前にもこうして見上げて会話したと思いながら、ありすは「はい」と答えました。

かな子「なにかを探すときは高いところから見渡すとすぐに見つかるよ♪」

ありす「なるほど」

かな子「なにを探してるの? 私がここから見つけてあげる」

ありす「ええと、八マス目に行きたいんです」

ハンプティ・ダンプティはぐるりを見回して、指差しました。

かな子「あっちの方角だね!」

ありす「ありがとうございます。あの、なにか探しているんですか?」

かな子「よくわかったね。私は"なにか"を探してるんだ」

ありす「えっ? "何"をですか?」

かな子「わかんない。わかんないから、ここで探してるんだよ」

ありす「見つかりそうなんですか?」

かな子「うーん、スコーンだね」

ありす「はい?」

かな子「スコーンだよ」

ありす「どういうことですか」

かな子「"こと"じゃなくて"意味"かって聞くべきかな? 『スコーン』っていうのはね、『長い間探してるけれど、見つかりそうにないなぁ』って意味だよ!」

ありす「スコーンはそんな意味ではないと思います」

タブレットでスコーンを検索してありすは反論しました。

かな子「私が言葉を使うときは、言葉は私が意味させようとしたことを意味するんだよ。それ以上でも以下でもないよ」

ありす「そんなことになったらお話ができないと思います」

かな子「『お話』って、どういう意味かな?」

ありす「『一緒におしゃべりする』ってことです!」

かな子「ああ。私もそう"意味させよう"としてた。一緒だね!」

ありす「…はあ」

かな子「これはミンスパイだね」

ありす「『ミンスパイ』とはどういう意味ですか?」

かな子「正解! 『ミンスパイ』っていうのは『私たち、とっても似たもの同士。まるで姉妹みたいに!』って意味だよ」

ありす「あなたが『姉妹』に意味させようとしている意味と、私が『姉妹』に意味させようとしている意味は違うかもしれないんですよね」

かな子「またまた正解!」

ありす「でも辞書には『姉妹』の意味が載ってます。これが"正しい"意味では?」

かな子「残念、不正解! 辞書はいっつも遅れてくるからね♪ 辞書に載るから"正しい"んじゃなくて、"正しい"から辞書に載るんだよ」

ありす「む。じゃあ"正しい"ってなんなんですか」

かな子「君と私で、意味させようとしている意味が"似ている"ときの意味だよね」

ありす「"似ている"かどうか、どうやって確かめるんです」

かな子「確かめる!? ショートブレッド!」

ありす「………。『ショートブレッド』ってどういう意味ですか?」

かな子「『ショートブレッド』っていうのはね、『そんなのはできっこないよ! 走ってるまひろーを捕まえるようなものだよ!』って意味だよ」

ありす「えっと、"似ている"かどうか確かめられないなら、どうやって"正しい"ってわかるんですか?」

かな子「わかんない」

ありす「えっ」

かな子「"正しい"意味なんてないもん! 言ったでしょ、言葉は私が意味させようとしたことを意味するんだって」

ありす「でもそれを説明しないとわからないなら、最初からそんな言葉を使わなければいいじゃないですか」

かな子「いいけど、やってみる?」

ありす「はい」

かな子「『それだけが行われるさまで等級・程度などが同じであることを含めた下であることの心が通い合っているさまの相手を指し示す人称のひとつで話し手に対して聞き手を指していうものの代わりになる言葉』は、」

ありす「あの、ごめんなさい?」

かな子「怒ってないよ?」

ありす「なんて言ったんですか?」

かな子「まだ『君は、』って言っただけだよ? あ、そうか。ごめんね、まず『それ』の意味から……」

ありす「わかりました! だいじょうぶです!」

かな子「そう?」

ありす「なんだか今、さっきの"表現できないものを飛び越して、先回りして理解している"ってことをわかったような気がする」

かな子「何の話?」

ありす「ごめんなさい、こっちの話です」

かな子「そっか。でもトライフルだよね?」

ありす「……『トライフル』ってどういう意味でしょうか?」

かな子「『君は私が言いたいことをわかってくれてる』ってことだよ♪」

ありす「たぶん、もうちょっと探してみようってことですか?」

かな子「そうそう! いちばん大事なのはそれだからね! じゃあ私はまた探してみるよ」

ありす「ええと、はい。がんばってください」

かな子「うん! 君も"なにか"見つけたら教えてね」

ありす「努力します」

それからありすはハンプティ・ダンプティと別れて、教えてもらったほうへ歩いていくと小さな町並みが見えてきました。
そしてそこで白のキングと出会いました。

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三村かな子(17)

キングがなにやら考え事をしているふうだったので、ありすは邪魔をしないよう小さく挨拶しました。

ありす「こんにちは」

そうすると、キングはばっと顔を上げました。

幸子「ちょうどいいところに! ボクと一緒に連れて行ってあげてもいいですよ! ボクはカワイイので!」

ありす「はい?」

突然キングはありすの手を取って駆け出しました。
有無を言わせずありすはたいへんな人だかりへと連れてこられました。

ありす「一体なんなんですか」

幸子「教えてあげますよ! ボクは優しいですからね!」

キングがいうには、どうやらライオンとユニコーン(一角獣)がキングの王冠を巡って争っているようでした。

凛「ん。キング来てたんだ」

幸子「あ、はい。終わったんですか?」

ユニコーンがぶっきらぼうにうなずいて、立ち去ろうとしたところでありすを見つけ、足を止めました。

凛「なにこれ」

ありすはかちんと来たので、丁寧に自己紹介しました。

ありす「こんにちは。橘ありすです」

幸子「人間の子供ですよ!」

キングが言い添えると、ユニコーンは片方の眉を吊り上げて、しげしげとありすを眺めました。

凛「へえ。私、人間の子って御伽噺に出てくる怪物だと思ってたよ」

ありす「私もユニコーンはお話の中にしかいない怪物だと思ってました」

凛「ふうん。まぁ、悪くないかな」

幸子「あ、ケーキとか食べませんか!?」

キングの首筋に後ろから誰かが指を絡ませました。

まゆ「あらぁ…? キングさん、まゆにはくれないんですかぁ…?」

幸子「ヒィッ!」

ライオンでした。
キングは顔を真っ青にしながらじたばたと逃げ出し、ありすの後ろに隠れました。

まゆ「…? キングさん、それ、なんですかぁ?」

ライオンのまとわりつくような視線にありすはぞくりとしながら再び自己紹介しました。

凛「御伽噺に出てくる怪物だってさ」

まゆ「そうなんですかぁ。じゃあ怪物さん、ケーキを取り分けてもらえますかぁ?」

ありす「は、はい」

びくびくしているキングからケーキと包丁を受け取って、ありすはケーキを切り分けようとします。
ライオンとユニコーンがベンチに座り、

凛「これ使いなよ」

ありすはユニコーンにすすめられてゴシック風の意匠のいすに腰を下ろしました。

まゆ「キングさぁん…ここ、空いてますよぉ?」

幸子「あ、あはは、ボ、ボクはだいじょうぶです! ボクはカワイイので!」

まゆ「座らないんですかぁ…?」

幸子「座らせてもらいます」

キングはライオンとユニコーンの間に座って、とてつもなく居心地悪そうにしました。

凛「ね、キング。さっきの勝負、キングは私の勝ちだって思うよね?」

幸子「え、ええ! そうですね!」

まゆ「キングさぁん…? まゆの勝ちですよねぇ?」

幸子「ひァッ!? は、はいッそのとおりですッ!」

ライオンの指でおとがいをつつと撫でられてキングはだらだらと汗を流しました。

凛「何言ってるの。私の勝ちに決まってるよ」

まゆ「勝ったのはまゆですよぉ」

幸子「そ、そうだ! ケーキ、ケーキはまだですか!?」

ありすはケーキを切ろうと四苦八苦していました。
なぜかって?
切ったそばからケーキはまたくっついてしまうからです。

凛「ケーキの扱い方を知らないのかな。まずみんなに配って、それから切るんだよ」

そんなばかなと思いましたが、物は試しだと思い直し、ありすはキングらに向けてケーキを差し出しました。
すると、ケーキがひとりでにみっつに分かれ、それぞれのお皿に飛び込みました。

まゆ「さぁ、切ってくださいねぇ」

ありすはすっかり困惑してしまいました。

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輿水幸子(14)

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渋谷凛(15)

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佐久間まゆ(16)

凛「あれ。ちょっと。ライオンのほうが私のより大きいんじゃない」

幸子「えっ」

まゆ「そうですかぁ? まゆにはそうは見えませんけどぉ」

幸子「そ、そそそ、そうですね!」

凛「キング。私のケーキのほうが小さくない?」

まゆ「気のせいだと思いますよぉ? ねぇキングさん?」

幸子「あ、あはは…で、でも怪物さんは自分の分さえ無いですから! ね!」

ありすが何か言うより先に、ガチャが鳴り始めました。
どこから音がするのかわかりませんでした。
そこらじゅうがガチャガチャガチャという音でいっぱいになり、頭の中でも鳴り響いていました。

怖ろしさのあまり立ち上がってありすが小川を跳び越すと、

ありす「……あぁ良かった」

静かな森に一人で立っていました。
先に進まなくちゃ、とありすは思い、また歩き始めました。

今日はココまで〜
もうすぐ終わります

しばらく道なりに歩いていたありすでしたが、分かれ道がいくつもあって、
いつのまにかありすはすっかり森の中で迷ってしまいました。

ありす(困ったな…はやく八つ目のマスに行きたいのに)

そのとき、大きな声がしてありすは足を止めました。

茜「ボンバ————ッ!!! チェック!!」

赤のナイトを乗せた馬が駆けてきて、ありすの前でぴたりと止まりました。
ナイトは勢い余って転がり落ちながら、

茜「キミは私の捕虜だよ!!」

と叫びました。
ありすはびっくりして、ナイトを心配しました。
ナイトはふんふん言いながら鞍に戻り、また言い出しました。

茜「キミは、私の、捕虜だよ!!!」

ありすが何か言おうとすると、

晶葉「ふっふっふ。チェック!」

白のナイトが近づいてきました。

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