ありす「バレンタインチョコを」 桃華「作りましょう!」 (128)

このSSは

ありす「Pさんに認められた方が」 桃華「大人、ですわね?」

から、ほぼ月一くらいで続いているシリーズの10作目です。全10話中の10話目。
今回でついに最終回です。毎回最終回みたいな感じでしたが。
ありすとちゃまがチョコを作るよ! チョコ作るから画像もいっぱいだよ!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423875657

モバP「……よし。ちひろさん、これ終わりましたからチェックお願いします」

ちひろ「ありがとうございます。次、こちらになりますね」

モバP「はい。あー、まだあるなぁ……」

社長「期日が先のも多いから、あとに回しても良いよ?」

モバP「大丈夫です。そうしても、負担を先延ばしにするだけですから」

ちひろ「でも、Pさんはアイドルの子達の関係も一手に引き受けていますし……」

社長「私らに比べれば大変だろう?」

モバP「それを言ったら、アイドル関係のおもな書類処理も2人が中心じゃないですか」

モバP「全員が平均的に大変なんです。自分だけ丸投げする理由にはなりませんね」

社長「実にまじめだなぁ、P君は」

モバP「社長も、いつももう少しまじめだと助かるんですが」

社長「私は適当なのがニュートラルポジションだからね!」

ちひろ「それでこそ社長というかなんというか」

社長「決算期に近いからこんな感じだけど、山さえ越えれば問題無い」

社長「幸いにも、明日とあさっての土日両日は所属アイドル達も全員オフだ」

社長「今日だけ徹底的にやって、週末をゆっくり休もうじゃないか!」

モバP「同意です。潰せるだけ潰しましょう!」

ちひろ「あの、Pさん。早速なんですが、さっきの書類に不備が……」

モバP「えっ」

社長「まぁ、焦ってもケアレスミス頻繁するだけだから、ゆっくりとね?」

土曜日 商店街


モバP「結局全部は終わらなかったな、惜しい」

モバP「ある程度はさばけたから、週明けにまとめてやれば良いか」

モバP「さて、なんとなく街に出たけれど、どこ行こうかなぁ」

桃華「……」

モバP「おっ?」

モバP (今、そこの本屋から出てきたのって桃華だよな?)

モバP「フード被ったりしていたが、一瞬ちらっと顔が見えたぞ」

モバP「冬服も最近撮影に行く時とかに着てくるやつと同じだし、本人か?」

モバP「あっ、ベンチに座った」

モバP「そこそこ通行人はいるけど、意外とみんな気づかないものなんだな」

モバP「……ちょっと試してみよう」

桃華「ふぅ」

モバP「すいません、櫻井桃華さんですよね? あの、写真良いですか……?」

桃華「申し訳ありません。プライベートでそういうのはNGでして」

モバP「よし、オッケー。それで大丈夫」

桃華「Pちゃまったら。話しかけるなら普通にしてくださいまし」

モバP「いや、プライベート時の対応とかどうしているのかなぁと思って」


櫻井桃華(12) http://i.imgur.com/0vhD4lw.jpg

桃華「わたくしは、この辺りはきちんと線引きしておりますので、問題ありませんわ♪」

モバP「そうだな。さすがはお嬢様の桃華といったところだな。対応はよくできている」

モバP「まぁ、桃華に関しては大丈夫だろうなって思いはあったんだ」

桃華「光栄ですわ♪」

モバP「みんな公私は分けているから問題無いとは思いたいけど……」

桃華「不安な方もいると?」

モバP「うん」

モバP「俺としては、ありすと珠美の2人が心配なんだよ」

桃華「あぁ、ちょっとわかるような気が……」

モバP「まゆとか桃華とかはしっかりしているんだけど、あの2人は押しに弱いから」

モバP「オフの時に熱心なファンに出会って、地に頭擦り付ける勢いで必死に懇願されたりしたら」

モバP「『それくらいなら……』とか『握手くらいでしたら……』とか折れそう」

桃華「ありえますわね」

モバP「そうだろう?」

モバP「あまり躍起になって言っても過保護とかウザイとか言われるから、あとは個人のさじ加減で」

桃華「いえいえ、そう気遣ってくださるお気持ちは非常に嬉しいですわ♪」

モバP「そっか。あっ、もしかして今って待ち合わせとかそういう?」

桃華「ええ。合流待ちですわ」

モバP「そうだったか。ごめんね、オフなのに邪魔しちゃって。それじゃあ」

桃華「邪魔だなんて。Pちゃまもお休みを楽しんでくださいまし♪」

モバP「了解。気をつけてね」

桃華「あら……着信が」

桃華「はい、桃華ですわ」

桃華「わたくしもちょうど買い終わったところですわ。色々あって迷いましたが」

桃華「あと、Pちゃまに先程お会いしました。休日なので来ていたみたいですわね」

桃華「今ちょうど別れたところですので、わたくし1人ですわ」

桃華「そんなに心配しなくても大丈夫ですわ♪」

桃華「では、わたくしはこのままお店の前におりますので」

数日前、月曜日 事務所


モバP「戻りました」

ありす「みなさん、お疲れ様です」

社長「おつかれー」

ちひろ「お疲れ様です」

モバP「今日もありすはバッチリでした」

ありす「も、もうPさん! 恥ずかしいですよ!」

モバP「実際そう思ったんだから、もっと胸張って良いんだぞ」


橘ありす(12) http://i.imgur.com/KC81our.jpg

モバP「今からちょっとだけ報告書を書かなきゃいけないんだよね」

モバP「長い時間かからないとは思うけど、良いかな?」

ありす「待つのは別に構わないですから、PさんはPさんの仕事をお願いします」

モバP「わかった。そんなに待たせないから」

ありす「タブレットもありますから。暇つぶしなら余裕です」

ありす「あっ、まゆさんだ」

ありす「まゆさーん」

まゆ「……」

ありす「?」

ありす (なんか、すごい集中して雑誌読んでる……)

ありす (もしかして、自分の出たファッション誌の写り具合をチェックしているとか?)

ありす (まゆさんは仕事熱心だから、ありえますね)

まゆ「……あれ? ありすちゃん?」

ありす「お疲れ様です」

まゆ「お疲れ様♪ 収録終わったの?」

ありす「はい。まゆさんもお仕事が終わったんですか?」

まゆ「そうよ♪ 今日は特に用事も無いから、ここで場所を借りて雑誌でも読もうかな、って」

ありす「そうでしたか。それ、まゆさんが出ている号ですか?」

まゆ「たしかにファッション誌だけど、今回は私の出ている号じゃないの」


佐久間まゆ(16) http://i.imgur.com/8FjZuWJ.jpg

まゆ「特集記事にね、目が行っちゃって」

ありす「特集ですか?」



『バレンタインデー直前・緊急特集! 名門パティシエがオススメする絶品チョコレートの数々!』



ありす「バレンタインデー……そういえばそんな時期ですね」

まゆ「2月のメインイベントだもの。スーパーとかでも、だんだんと装飾が増えてきたわね」

まゆ「ありすちゃんは、いつもバレンタインデーでチョコをあげたりするの?」

ありす「学校で何人かお友達には」

まゆ「ありすちゃんは友達思いなのね」

まゆ「その子達がうらやましいわ。ありすちゃんみたいなお友達を持てて」

ありす「そ、そんなこと無いですよ。個人的にあげたいからあげているだけです」

まゆ「うふふ♪」

まゆ「じゃあ、もちろん好きな男の子とかにも本命チョコを贈っているのよね?」

ありす「それは……」

まゆ「違うの?」

ありす「クラスの男子なんて、みんな子供っぽくてダメですね。気になるような対象にもなりません」

まゆ「ありすちゃんは大人っぽい子のほうが良いんだ?」

ありす「年下よりは年上が頼りになりますから」

まゆ「なるほどね」

ありす「まゆさんも、もしかして気になっている人に本命チョコを……?」

まゆ「もちろん、作って送るつもりよぉ♪」

ありす「おぉー……!」

まゆ「ピンクの包装紙できれいに包んで、運命のような……そう、赤い糸みたいな激しい色のリボンでラッピングしたいわね」

ありす「素敵ですね。まゆさんはさすがです」

まゆ「ありすちゃんだって、せっかくあげるならカワイイ見た目にしたいでしょう?」

ありす「できれば、そうですね。自分でやると不格好になっちゃいそうですが……」

まゆ「見た目だってそれは大事だけど、重要なのは何よりも気持ち」

まゆ「手作りするなら、相手のために思いを込めてあげるのよぉ♪」

ありす「なるほど、チョコ作りも料理ですよね! 見た目より思いですよね!」

まゆ「その気持ちは間違いなく相手に伝わるから」

まゆ「ありすちゃんも誰か気になる人に作ってあげるなら、気持ちを大事にねぇ♪」

ありす「参考になります!」

社長「P君」

モバP「はい?」

社長「もうすぐバレンタインデーだよ、バレンタインデー」

モバP「はあ」

社長「世間一般の甘酸っぱい思いを抱えている女性がさ、男性に向けて胸のうちをチョコレートに乗せて送るバレンタインデーだよ」

モバP「急にどうしたんですか」

社長「世間はバレンタインの色に染まっているなぁ、って思ってね」

社長「P君は学生時代に女の子からチョコをもらったことはあるかい?」

モバP「学生時代なんてしばらく前ですが、義理すらも無いですね」

モバP「イケメンでもスポーツマンでも無いですし、チョコをもらえるほど好感度が上がる要素がまったく無かったもので」

社長「そうかぁ」

モバP「社長は?」

社長「無い」

モバP「なるほど」

社長「大丈夫。チョコはもらえなくても私は結婚できたよ」

モバP「あー、はい」

ありす「友チョコを交換したりとかは?」

モバP「友チョコなんてものができたのは、本当にごく最近だぞ?」

モバP「俺の中学校とか高校時代はそんな多種多様なパターンは無かった。女子から本命か義理か、この選択肢だけだな」

モバP「というか、もらう側の男同士でお互いにチョコ買ってきて交換する絵面は悲しいものが……」

ありす「うーん、そうでしょうか?」

モバP「もらえない人の傷の舐め合いみたいだもん」

ありす (Pさんは、バレンタインデーにチョコをもらった経験が無かった、と)

ありす (……これはチャンスかも)

ありす (日頃お世話になっているお礼も兼ねてPさんにチョコを贈れば、きっと喜んでくれるはず)

ありす (手作りして、ラッピングも自分でやって……)

ありす (よし、これはいけます!)

モバP「どうした? 何か俺の顔に付いているか?」

ありす「なっ、なんでもないですよ! 気にしなくて大丈夫です!」

モバP「ん……? あぁ、もしかして用事があって帰らなきゃいけないとか?」

ありす「そういうことでも……」

モバP「安心してくれ。ほとんど済んだから、もうすぐ終わるぞ!」

ありす「あっ、はい。わかりました」

ありす (考え事をしていたことは読まれていませんね。渡すまでは気をつけないと)

水曜日 公園


桃華「ありすさん」

ありす「桃華さん。こんにちは」

桃華「ごきげんようですわ。何かご用でしょうか?」

ありす「はい。ちょっとしたサプライズを計画していまして」

桃華「サプライズ誕生パーティーでしょうか?」

ありす「違います。バレンタインです」

ありす「もうすぐバレンタインデーです。チョコを贈る日です」

ありす「なので、チョコをPさんにプレゼントしようと思います」

桃華「わたくしもPちゃまには差し上げようと思っておりますわ♪」

ありす「それはどういった感じのものですか?」

桃華「海外の有名パティシエが作った素敵なチョコですわね」

ありす「つまり、買ってくるということですね?」

桃華「そうなりますが……」

ありす「私は、手作りのチョコを贈るつもりです……!」

桃華「手作り……」

ありす「男性からすれば、チョコを貰えれば嬉しいのは間違いありません」

ありす「ですが、手作りとなればどうでしょう?」

ありす「わざわざ手間をかけて作ったものであれば、より一層喜んでもらえると、そう思うのです」

桃華「たしかに、わたくしも手作りのプレゼントをいただけたら、とても嬉しい気持ちになりますわ」

ありす「実は数日前、事務所にいたまゆさんとお話したのですが」

ありす「Pさんに手作りチョコを渡すと言っていました」

桃華「まゆさんが? それは難しい問題ですわ」

ありす「まゆさんは料理もできますし、手先も器用です」

ありす「それで手作りチョコとお手製ラッピング……きっと、売り物のようなすごいものになるはずです」

桃華「容易に想像できますわね」

ありす「そのチョコの前では、他のチョコはかすんでしまうでしょう」

ありす「だから、桃華さんを呼んだのです」

ありす「桃華さん、一緒にPさんに渡すチョコを作りましょう」

桃華「手作りチョコをですか?」

ありす「まゆさんのチョコには、おそらく勝てません」

ありす「いや、別に勝ち負けを競っているわけじゃないですが、可能なら肩を並べるか上回りたいんです!」

ありす「以前の料理を通してスキルも上がりました」

ありす「1人より2人。力を合わせれば、おいしいチョコが作れるはずです」

桃華「手作りチョコレート……」

桃華「失念しておりましたわ。高価で有名なものだとしても、それは買っただけの既製品」

桃華「そこには“愛”がありません。作り手ではなく、渡す側の」

桃華「その点に気付けないとは、わたくしも、まだまだ大人のレディーへの道が見えていませんわね……」

ありす「桃華さん……」

桃華「ありすさん。2人でチョコを作って、Pちゃまに喜んでもらいましょう♪」

ありす「ありがとうございます! がんばりましょう!」

桃華「で、手作りといっても一体どこから始めますの? カカオ豆から?」

ありす「そこまではさすがに……TOKIOのみなさんくらいにしかできそうに無いので」

ありす「通常の手作りチョコ同様、自体は売っているものを溶かして作りたいと思います」

ありす「どこに個性を出すか、どんな味付けをするか、その点はいろんなレシピ本を参考にしてみましょう」

桃華「わかりましたわ」

ありす「もし良ければ、土曜日か日曜日に買い出しに行って、そのあと私の家で作りませんか?」

桃華「まあ、ありすさんのお家に? 是非行ってみたいですわ♪」

桃華「週末もスケジュール的には特に問題無いはずなので、土曜日にでもやってみましょう♪」

ありす「決まりですね! では土曜日に!」

ありす「作って渡すまではPさんに悟られてはいけません。渡す時の喜びが半減しますからね」

ありす「あまり悟られないようにしましょう」

桃華「その程度なら余裕ですわ♪」

土曜日 商店街


ありす「おはようございます」

桃華「おはようございます、ありすさん♪」

ありす「ここ数日のあいだにPさんにはバレていませんよね?」

桃華「問題無いでしょう。Pちゃまはとても鋭い時もありますが、同じくらい鈍い時もありますので」

桃華「いつも通りにしていれば余裕ですわ」

ありす「私もいつも通りだったので大丈夫です。……たぶん」

桃華「ありすさんはウソが下手ですものね……」

ありす「う、ウソやごまかしが上手では良い大人になれませんよ!」

ありす「さて、材料ですが」

桃華「どこで購入いたしましょうか?」

ありす「私はまずリボンやラッピングの用品を向こうのお店で探してきますので」

ありす「桃華さんはそこの本屋さんでチョコのレシピ本をお願いします」

ありす「2つの用事が済み次第、合流して材料を買いに行きましょう」

桃華「承知いたしましたわ」

ありす「ここでタイミング良くPさんに出会うことも無いでしょうから、ここはゆっくりと行きましょうか」

雑貨店


店員「いらっしゃいませー!」

ありす(さすがはバレンタインシーズン。店内装飾もバレンタイン一色だ……)

店員「何をお買い求めでしょうか?」

ありす「あの、バレンタイン用のラッピング用紙とかリボンとかを」

店員「それでしたら、こちらの特設コーナーになります」

ありす「ありがとうございます」

ありす「まゆさんは、たしかピンクの包装に赤のリボンを使うとか」

ありす「同じようなものにしては二番煎じになるから、うーん」

店員「お友達への友チョコ用でしたら、こちらの色が人気となっております」

ありす「あ、はい」

店員「彼氏様用でしょうか? それでしたら、こちらが……」

ありす「かかか彼氏っ!?」

ありす「あのあのあの! 違います! そういうあれでは!」

店員「そうでしたか、失礼いたしました」

ありす「い、いえ。あの、こっちにあるラッピングバッグで良いです! これとこれで!」

ありす「焦っちゃって、ちゃんと選べなかった……」

ありす「あーもう、なんで慌てちゃったんだろう」

ありす「彼氏用って……Pさんは、その、決して彼氏などでは。大切な人だけど」

ありす「チョコもお世話になっているお礼であって、いわゆる告白とかの類でも……」

ありす「うぅ~……」

ありす「と、とにかく! 買い終わったことを桃華さんに連絡しないと!」

桃華『はい、桃華ですわ』

ありす「私です。こっちは買い終わりました」

桃華『わたくしもちょうど買い終わったところですわ。色々あって迷いましたが』

ありす「わざわざ選んでもらってありがとうございます」

桃華『あと、Pちゃまに先程お会いしました。休日なので来ていたみたいですわね』

ありす「えっ、Pさんがいたんですか!?」

ありす「まずいですね。せっかく隠し通してきていたのに……」

ありす「Pさんはまだ一緒にいるんですか?」

桃華『今ちょうど別れたところですので、わたくし1人ですわ』

ありす「近くには? まだ見える範囲にいます?」

ありす「購入途中で出会ったりしないか気になって不安です」

桃華『そんなに心配しなくても大丈夫ですわ♪』

ありす「そうでしょうか……」

桃華「では、わたくしはこのままお店の前におりますので」

ありす「わかりました。私もすぐ戻ります」

桃華「お疲れ様ですわ♪」

ありす「そっちもお疲れ様です。Pさんは……もういないですよね?」

桃華「ええ。少なくとも見える範囲には」

ありす「パパッとお店に移動しましょう。あまりここにいると、また出会っちゃうかもしれませんし」

桃華「そういえば、特に目的は無いのでブラブラすると言っておられましたわね」

ありす「となると、店内よりこの大通りにいたほうが危険かもしれませんね」

男性「なぁなぁ、あの子達ってさ……」

女性「ん~? ……ああっ、もしかして!」

男性「す、すみません! 橘ありすさんですよね!」

ありす「えっ? あ、はい」

女性「うっそー! 本物!?」

男性「僕達ファンなんです。あの、写真とか良いですかね……」

ありす「プライベートなので写真は、その……」

女性「じゃあ、握手だけでも!」

ありす「握手くらいでしたら」

桃華「ありすさん……」

ありす「ダメですよね……」

男性「その声、櫻井桃華さん?」

桃華「ええ、そうですわ」

女性「こっちも本物? すごーい!」

桃華「申し訳ございません。ファンの方々と交流したいのはやまやまなのですが、今はオフでして」

桃華「あまりオフのファンサービスもいけないと事務所からも言われておりますので……」

男性「そうですか……すいません! でも応援してます!」

女性「私も、テレビの前から応援してます!」

桃華「はい♪ これからもよろしくお願いいたします♪」

ありす「応援に応えられるように、がんばりますね」

男性「がんばってください! では!」

桃華「Pちゃまの予感が的中ですわね」

ありす「予感?」

桃華「ありすさんは、必死にお願いされたらファンサービスしてしまうだろうというものですわ」

ありす「写真だけなら断りきれていました」

桃華「でも握手で揺らぎましたわね?」

ありす「うぅ……」

桃華「ファンの方々を大切にしたいのは、わたくしも同じですわ。でもやっぱり、わたくし達だけの時に何かあっても事務所に迷惑がかかりますし」

ありす「線引きをちゃんとしなければと思ってはいるんですけどね」

モバP「難しいところだよな」

ありす「!?」

桃華「Pちゃま……」

モバP「やあ。ありすと待ち合わせだったんだな」

ありす「……あの、Pさんは何でここに」

モバP「ブラブラしていたんだけど、桃華が本屋から出てきたことを思い出して」

モバP「何か面白い本があれば買って行こうかなー、なんて思ったんだ」

モバP「しかし、オフの時の対応は難儀だな」

モバP「あまり強く言ったりして対応を間違うと評判は下がりかねないし」

モバP「かと言って、おねだりを聞いちゃうと際限が無くなってしまう」

モバP「でも、ありすの場合は桃華が一緒なら大丈夫だろう!」

モバP「ということで、じゃあね。気をつけて」

ありす「は、はい」

桃華「Pちゃまもお気をつけてくださいまし」

ありす「バレていないですよね!? 今の大丈夫ですよね!?」

桃華「ですから、大丈夫ですわ」

桃華「わたくし達2人でおでかけすることが多いのはPちゃまも知っておりますから、今ので察するということは難しいでしょう」

ありす「ですよね。でも早めに移動しないと」

桃華「あっ、ちょっと待ってくださいまし」

桃華「材料を買う前にレシピを見てほしいのですが」

ありす「あぁ、そういえばそうでした」

桃華「これがこの本に載っておりまして」

ありす「これですね……お酒を使った生チョコですか」

桃華「Pちゃまは大人ですから、お酒を使ったチョコにすれば喜ぶと思いますわ」

ありす「なるほど。大人の味というやつですね!」

ありす「……でも、Pさんってお酒得意なんですか?」

桃華「そこまではリサーチしておりませんわ……」

ありす「もうこの際、飲めるという前提で行きましょう。でないと話が進みません」

桃華「やむを得ませんわね。お店にまいりましょう」

ありす「場所は調べてきました。あっちです」

輸入食品取扱店


ありす「着きました! ここです!」

桃華「まあ、すごいですわ! 珍しいものがこんなにたくさん♪」

ありす「本当に色んな食品が……よ、読めない……」

桃華「どうしてこのお店を選んだのですか?」

ありす「作るなら珍しい海外製の材料を使ったほうが、より個性が出ると思いまして」

ありす「調べてみたら、ここで各国のチョコや製菓材料も扱っているみたいなので、ここにしようと」

桃華「こんなに色々あるなら、チョコ以外にも様々なものが作れそうですわね」

ありす「面白そうなものもいっぱいありますけど、がまんしてチョコ作りの材料に絞りましょう」

桃華「さて、レシピの通りだとこの生チョコ作り必要なものは……」

ありす「チョコレートと生クリームと牛乳と」

桃華「ハチミツとラム酒、コーティング用のココアパウダー」

ありす「ラム酒? ラム酒って海賊が飲んでいるやつですか?」

桃華「イメージがかなり偏っておりますが、一応そのラム酒ですわ」

桃華「製菓用として少量のビンに詰められたものがスーパー等にあるらしいので、ここでも買えるのではないかと」

ありす「材料の種類が少ないですし、全部手に届きそうなものですね。牛乳は家にあるので、それ以外を探しましょう」

桃華「チョコレート……チョコレート……」

ありす「チョコ売り場はここみたいですね」

桃華「本当に様々な国のチョコがありますのね」

ありす「正直なところ、色々ありすぎて何を選べば良いのかわかりません」

桃華「よくチョコレートの本場はベルギーなどと言われることがありますわ」

ありす「つまり、ベルギー産のチョコを選んでおけば解決ですね」

桃華「ハチミツを使うということは甘くなるでしょうから、あえて1番ビターなチョコにしましょう」


※実際はそこまで甘くなりません

桃華「あとは生クリームとハチミツと……」

ありす「……あっ」

ありす (こ、この棚にあるビンは……)



http://i.imgur.com/8LnP36c.jpg



ありす (ス、ストロベリーエッセンス!?)

ありす (まさか、これを振りかけるだけて何でもイチゴ風味になる……?)

ありす (すごい! すごすぎる! まさに料理の革命!)

ありす(今買っておいて、あとでチョコに……)

桃華「ありすさん?」

ありす「あ、はい」

桃華「それは?」

ありす「何のことでしょうか」

桃華「手に持っている小さなビンのことですわ」

ありす「こ、これは、ただのビタミン剤です」

桃華「そこは香料類の棚みたいですが……」

ありす「桃華さん。チョコレートは香りも重要な役割を持っていると思うんですよ」

桃華「チョコの甘い香りは食欲をそそりますものね」

ありす「そうです。香りは重要なのです」

ありす「ですから、生チョコにさらに香りをプラスすれば、より良いものになるはず」

ありす「例えば、このストロベリーエッセンスをですね」

桃華「それはありすさんが食べたいだけでは……」

ありす「ち、ちが、違いますよ? 貰った人の気持ちになって考えていたんですよ?」

桃華「あら、よく見たら香料だけじゃなくてお酒も棚にありますわね」

ありす「本当だ。ラム酒も並んでいるんでしょうか?」

桃華「ええと、ありましたわ!」

桃華「種類がいくつもありますわ。ダークとかホワイトとか……」

ありす「ちょっと待ってください。タブレットで調べてみますから」

ありす「どうやらチョコレートにはダークラムという種類が良いらしいです」

桃華「ダークですわね? だいぶ絞り込めましたわ」

桃華「とは言ったものの、ダークラムというお酒も複数あって、どれにしましょうか?」

ありす「中身の量以外はどれも似たような感じですね……」

ありす「じゃあ、1番アルコール度数が高いものにしましょう」

桃華「1番高いものを?」

ありす「お酒の風味がチョコに入るなら、強いほうがより香り高くなります!」

桃華「そうなのですか?」

ありす「料理番組経験がありますからね。この直感は間違いありません」

ありす「この中で1番強い……54%というのを使います!」

ありす「生クリームとハチミツとココアパウダーと、これで全部揃いました」

桃華「あとは作るだけですわ」

ありす「会計を済ませてすぐ取り掛かりましょう!」

桃華「あの、ありすさん」

ありす「はい」

桃華「買い物かごの中にストロベリーエッセンスと書かれたビンが見えますが」

ありす「……見えませんねぇ」

桃華「ありすさん」

ありす「わ、私には何も見えません」

ありす宅


ありす「さぁ、着きました」

桃華「ここが、ありすさんのお家ですのね♪」

ありす「さすがに桃華さんのご実家には敵いませんよ。行ったこと無いですけど」

桃華「家なんて、あまり広くてもデメリットしかありませんわ。歩く距離が無駄に長くなりますし」

ありす「大きな家特有の悩みもあるんですか……」

ありす「今後は桃華さんのご実家にも行ってみたいです」

桃華「ええ、いつでもいらっしゃってくださいまし♪」

ありす「ただいま」

橘母「おかえりー。あら、その子が?」

ありす「うん。桃華さんだよ」

桃華「はじめまして、櫻井桃華と申します♪ ありすさんにはいつもお世話になっておりますわ」

橘母「ご丁寧にどうも。ありすの母です」

桃華「なるほど。ありすさん、将来は美人になるのが確定ですわね♪」

ありす「も、桃華さん……」

橘母「ふふっ、桃華ちゃんったら♪」

ありす「さっそく台所を使いたいんだけど、良い?」

橘母「良いけど……少しくらい休んだら? せっかく来てもらったんだから」

桃華「お心遣い感謝いたしますわ。でも、大丈夫です。そのために今日は参りましたので♪」

橘母「そう? わかった。どうぞ遠慮無く上がっていって」

ありす「台所はこっちです」

ありす「材料もレシピも揃いました。料理道具も一通りあります」

桃華「あとは作るだけですわ」

桃華「失敗しないでできるのでしょうか?」

ありす「溶かして固めるだけですから、焦げて台無しとかにはならないはず。余裕ですよ」

ありす「私にはもう、料理のイマジネーションが見えています!」

橘母「火を使うような時は念のため呼んでねー」

ありす「うん、でも使わないから大丈夫」

桃華「ありすさん、ありすさん」

ありす「どうかしましたか?」

桃華「先程買っていらした例のストロベリーエッセンスのビンはどこへ?」

ありす「さて、何のことかわかりませんが……」

桃華「ばっちり会計していたではありませんか」

ありす「あ、あれ? そんなもの買いましたっけ?」

桃華「ありすさん……」

ありす「今は1分の時間も惜しいです! さぁ、作りましょう!」

http://i.imgur.com/8to36rN.jpg


購入材料

チョコレート150g  567円
ハチミツ30g 157円
生クリーム200ml (乳脂肪分45%) 443円
ダークラム30ml 454円
ココアパウダー100g 429円

【1:150g分のチョコレートを細かくきざむ。もしくは小さく割る】


桃華「まずは、150g分のチョコを細かくきざむみたいですわ。溶かしやすくするために」

ありす「チョコの塊を包丁で細かくする……造作も無いことですね」

桃華「えっ? でもチョコは硬いから切りにくいのでは?」

ありす「包丁の力加減を使いこなせば、どれだけチョコが硬くても不可能ではありません」

ありす「具体例を見せるために、私からやってみます」

桃華「わかりましたわ。参考にさせていただきます」

ありす「チョコを切るのは初めてですが、まぁ期待していてください」

ありす「チョコに、包丁の先を乗せます」

桃華「ええ」

ありす「次に包丁の背に片手を乗せます」

ありす「包丁を持っている手と一緒に下方向へ力を入れて、まな板からタンッ! って音が鳴る感じに切……あっ」

桃華「……タンッ! って音と同時に、チョコのかけらが吹っ飛びましたが……」

ありす「……」

ありす「先日、NHKの『きょうの料理』で栗原はるみ先生がこう言っていました」

ありす「台所をきれいに使うのも料理、と」

ありす「半分終わったので、残りは桃華さんがどうぞ」

桃華「はい。ええと、下方向へ力を入れて……」

桃華「なるほど。これは、力み過ぎないほうがきちんと切れますわね」

ありす「そうです。力加減をうまく使えば、チョコだってあっさり切れるんです」

桃華「うまく使えないと……」

ありす「チョコのかけらが吹っ飛びます」

桃華「参考になりましたわ」

ありす「悲劇を繰り返してはいけません……!」

【2:細かくしたチョコを湯煎で溶かす】


桃華「次は、細かくしたチョコを湯煎で溶かすと書いてありますわ」

ありす「お湯ですね! それなら電気ケトルがあります!」

ありす「もう中身は温まっていますね……お母さんが使ったのかな? そのまま使っちゃいましょうか」

ありす「それじゃあ入れますね」

桃華「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!」

ありす「はい?」

桃華「湯煎というのは、容器を温めて間接的に溶かす方法ですわ」

桃華「今の場合は、温めるのはボウル本体。チョコにお湯をかけたらダメです!」

ありす「なるほど……」

ありす「あ、いや、違います。これは……桃華さんが気づくかどうか試してみただけです」

桃華「え……ええ?」

桃華 (ありすさん、大丈夫なのでしょうか……)

【3:鍋に生クリーム90mlを入れ、ひと肌くらいまで温める】


ありす「生クリームを温めるのですか。湯煎ですね!」

桃華「こちらは直接火をかけて加熱するみたいですわ」

ありす「うぐっ」

桃華「あの……湯煎にします?」

ありす「いいえ。加熱しましょう、レシピ通りに」

【4:チョコと生クリーム、牛乳10ml、ハチミツ10g、ラム酒15mlを混ぜる】


ありす「次は、他の材料をまとめて混ぜるんですね?」

ありす「入れるのは生クリームとハチミツ。あとはこれを……」

桃華「ありすさん」

ありす「はい」

桃華「何を入れようとしているのです?」

ありす「当然、買ってきたラム酒を」

桃華「ストロベリーエッセンスと書いてありますが」

ありす「……桃華さんが気がつくかどうかを」

桃華「気づきます。気づきますわ」

ありす「15ml……ふーむ」

桃華「どうかなさいました?」

ありす「このラム酒のビンの中には30ml入っているので、全部使い切っちゃいましょう」

桃華「全部!? それではレシピの倍の量ですわ!!」

ありす「結局風味付けですし、Pさんも大人だから少しくらい濃くても問題ありません!」

ありす「お酒っぽさが生きていれば万事OKです!」

桃華「そ、そうでしょうか……?」

ありす「まとめてドバッと混ぜましょう」

ありす「うっ」

桃華「これは」

ありす「凄まじいほどのアルコール臭ですね……」

桃華「さすが、度数54%ですわ……」

ありす「30mlだけで、こ、ここまで香りが強烈だとは。嗅ぎ続けると酔って具合悪くなってしまいそうです……」

桃華「もうチョコの香りが完全に飛んでしまいました。これでは単なるドロっとしたお酒ですわ」

ありす「えほっ、ごほっ! か、顔は近づけないほうが良いですね!」

ありす「お酒のにおいがここまで強烈とは」

桃華「やはりレシピ通りの量にしなかったのが原因では……」

ありす「いえ、まだあたたかいので、その熱気とアルコールが混ざったから強く感じるだけだと思います」

ありす「冷やしてしまえばそんなこともなくなりますよ!」

桃華「たしかに次の工程は、型に流して冷やすとありますが」

ありす「問題ありません。冷やしましょう」

【5:適度な大きさの容器に入れて、冷蔵庫で1時間以上冷やす】


http://i.imgur.com/1tsDeu9.jpg


ありす「タッパーで良かったんですか?」

桃華「この量でバットに流し込むと、たぶん板チョコくらいの薄さになってしまいますわ」

ありす「なるほど。たしかに生チョコはあの厚みと食感あってこそですよね」

ありす「冷やす時間はどれくらいですか?」

桃華「1時間以上と」

ありす「結構かかるんですね。それまで休憩しましょうか」

居間


橘母「はい、麦茶どうぞ」

ありす「ありがとう」

桃華「感謝いたしますわ♪」

橘母「いえいえ。ほとんど終わりなら、あとはお母さんが洗っておく?」

ありす「ううん、大丈夫。自分達で使ったものだから、後片付けまでやらないと」

橘母「わかった。続きもがんばってね」

桃華「良いお母様ですわね」

ありす「優しいですが、でも、どこにでもいる普通のお母さんだと思いますよ?」

桃華「それが1番良いのですわ」

桃華「子供に優しいということは、すなわち愛していることに他なりません」

桃華「もちろん甘さと優しさは違うので、甘いだけなのはダメですわ。しかし、あの優しさは大切に思われているからこそのもの」

桃華「だから、良いお母様なのです♪」

ありす「ふふっ」

桃華「どうかなさいました?」

ありす「前々からずっと思っていたんですけど」

ありす「桃華さんって、どこかお母さんみたいなところありますよね」

桃華「へっ?」

ありす「こう……寛容って言えば良いのかな。優しさで包んでくれるみたいな、年齢に見合わない大人っぽい部分が」

桃華「ま、まだわたくしは12歳でしてよ!?」

ありす「わかっていますよ。なんとなくそう思えたので」

桃華「あぁ……でも言い換えれば、大人のレディーに近づいているということなのでは?」

桃華「ですが、“大人のレディー”と“お母さんみたい”は近くて遠いような……」

ありす「桃華さんは、きっと良いお母さんになれますね」

桃華「茶菓さないでくださいまし……」

ありす「大人のレディーとお母さんを同時に達成できると思いますよ。桃華さんなら」

桃華「そ、そうでしょうか?」

ありす「絶対になれますよ」

桃華「ありすさんのお母様はご多忙だとうかがっておりましたが」

ありす「はい。休日のこの時間に家にいるのはかなり珍しいですね」

桃華「そうでしたか……ちょっと申し訳無い気持ちが」

ありす「えっ、何がですか?」

桃華「せっかくありすさんもお母様もお休みなのに、買い出しに出かけたりチョコ作りしたり……」

桃華「2人の時間を邪魔したのではと思ってしまいまして」

ありす「そんなこと無いですよ。気にしすぎです」

ありす「たしかに休みは少ないですが、ゼロではありませんから」

ありす「またタイミングが合えば、その時に一緒に出かけたりとか色々できますし」

ありす「それに比べれば、バレンタインなんて年1回なんです。こっちのほうがイベント的には重要です」

ありす「桃華さんをチョコ作りに誘ったのは私のほうですから、そこまで深く考えなくても良いんですよ」

桃華「お優しいのですね。ありすさんも、良いお母様になれそうですわ♪」

ありす「自分が母親になった姿……想像できませんね……」

1時間後


ありす「1時間ちょっと経過しましたから、もう固まっていますよね?」

桃華「そうだと思いますわ」

ありす「どれどれ……うん、傾けても揺すってもびくともしません!」

ありす「しかも、お酒臭さも!!」

ありす「……消えていないですね。全然」

桃華「これ、大丈夫でしょうか……?」

ありす「えっとですね、お酒臭さ以外は成功しているので、セーフという判断で」


※料理はレシピ通りに作りましょう

【6:包丁で適当なサイズに切り、ココアパウダーをまぶして完成】


桃華「1つ、提案がございますの。よろしくて?」

ありす「はい、何ですか?」

桃華「このチョコ、半分ずつにしませんこと?」

ありす「半分に?」

桃華「例えば、片方はそのまま等間隔で切りそろえて市販の生チョコのような形に。もう片方は小さく丸めて、トリュフチョコレートにするとか」

ありす「同じ材料で違うバリエーションにするということですね」

ありす「たしかに、まったく同じものを2人分渡すより、個性を出したほうが良いかもしれません」

桃華「決まりですわね! トリュフを担当してもよろしいかしら?」

ありす「はい。それじゃあ私は四角にします」

ありす「硬いのかと思ったら、意外とやわらかくて切りやすい……これが作り立ての生チョコかぁ」

桃華「丸めるだけで溶け始めましたわ。もう手がベトベトに」

桃華「そして溶けたらまたお酒の香りもしてきましたし……」

ありす「あれだけ入れたら、うかつに味見もできませんね」

桃華「未成年ですもの、わたくし達」

ありす「味は確認できませんが、ここまでは順調ですし成功なのは確実です」

ありす「……あっ、切っていただけなのに、もう溶け始めてる!?」


http://i.imgur.com/6BC1JQP.jpg


桃華「丸め終わりましたわ。でも、やわらかくてきちんとした丸になりませんでした」

ありす「こっちも切り終えましたが、きれいな四角にはなりませんね……」

桃華「ともかく、残るは梱包だけですわ。ありすさん、ラッピングの用品を」

ありす「ラッピング……」

桃華「どうなさいました?」

ありす「なんでもないです。ラッピングバッグですけど、良いですよね?」

桃華「もちろんですわ♪」


http://i.imgur.com/69TKWeh.jpg


ありす「これです」

桃華「あら、シックなラッピングバッグ♪ ありすさんが選んだのですか?」

ありす「ちょっとトラブルというかアクシデントがあって、じっくり選べずに取ってきてしまって」

ありす「かろうじて、まゆさんの言っていた赤とかピンクには被っていませんが……」

桃華「うふふ、全然大丈夫ですわ♪ むしろこれは何より素敵なラッピングではありませんか♪」

ありす「ほ、本当ですか?」

桃華「もちろんですわ♪」

桃華「特に、ここ。この袋に付けるタグみたいな部分」

ありす「これですか? 英語が書いてありますね」


『Today is a Special day』
『With all my heart.』
『HOMEMADE Sweets』
『I hope to be with for a long time.』
『You give me so much Happiness.』


桃華「なんて書いてあるか、おわかりですか?」

ありす「うーん、ホームメイドスイーツとかはわかるんですけど、下の文章はちょっと……」

ありす「桃華さんは何が書いてあるかわかるんですか?」

桃華「ええ。これくらいでしたら」

ありす「おぉ、さすが桃華さん! すごいです!」

ありす「で、これの内容が……?」

桃華「上から順に訳して読んでみますわ」

桃華「えー……おほん」

桃華「『今日は特別な1日』」

桃華「『ありったけの想いと共に』」

桃華「『手作りのお菓子』」

桃華「『これからもずっと、あなたのそばにいたい』」

桃華「『あなたのおかげで、私はとても幸せです』」

桃華「こんな感じでしょうか」

桃華「最後1行はほぼ意訳になってしまいましたが、ニュアンスとしては間違っていないはずですわ」

ありす「なるほど……」

ありす「な、なんか、恥ずかしいですね。内容がストレートで」

桃華「そんなことはありませんわ。だって、この英文にすべてが集約されているではありませんか」

ありす「集約?」

桃華「Pちゃまにお世話になっているお礼。喜んでもらいたいから手作りする」

桃華「ありすさんは、そうおっしゃってわたくしをチョコ作りに誘いましたわね?」

ありす「はい」

桃華「それはPちゃまへの『ありったけの想い』ではありませんこと?」

ありす「あっ」

桃華「わたくしは、Pちゃまがいたからアイドルになったようなものですわ」

桃華「『あなたのおかげで』……ええ、Pちゃまがいたからこそ」

桃華「あと、最後の文にあるハピネスという単語は、“喜び”の意味もありまして」

桃華「それを踏まえて、意訳ではなく直訳をするとこうなります」

桃華「『あなたは私にたくさんの喜びをくれる』」

ありす「喜び……」

桃華「ええ」

ありす「……もしPさんがいなかったら、私もアイドルになっていなかったかもしれません」

ありす「アイドルになって、今がとても楽しいし、嬉しい」

ありす「もしかして『幸せ』でしょうか?」

桃華「そう感じたのでしたら、おそらく」

ありす「……」

ありす「桃華さん」

桃華「何でしょうか?」

ありす「マナーとして、貰ってばかりは失礼だと思いませんか?」

桃華「そうですわね。大人のレディーを目指すのであれば、お返しは必ずいたしませんと」

ありす「お返しをするなら、形のある物のほうが良いと思うんです」

桃華「それは名案ですわね! では、お菓子などはいかがでしょうか?」

桃華「例えば……チョコレートとか♪」

ありす「ふふっ」


http://i.imgur.com/1bbYIJm.jpg


ありす「できましたね」

桃華「できましたわ♪」

ありす「こうしてラッピングしてみると、なかなか様になっている気がしませんか?」

桃華「手前味噌ですが、上出来ではないかと」

ありす「ただ、全部は入りませんでしたね。中途半端に余って」

桃華「事務所にはまだ男性が1人おりますわよ?」

ありす「あぁ、社長! そうですね、社長にも1袋包んで行きましょう」

ありす「このラッピングは良いんですが中身は……チョコがやわらかいせいで、潰れて板チョコみたいになっちゃいましたね」

桃華「わたくしのも、包装に圧迫されておまんじゅうみたいな形に……」

ありす「確実にレシピ無視した私のせいです。すいません……」

桃華「そんな悲しい顔をしないでくださいまし。逆に、手作りらしい温かみがあるではありませんか♪」

ありす「そうかもしれませんが……」

ありす「これで気持ちは、想いは込められたのでしょうか?」

桃華「形が見えないので、わたくしには何とも」

ありす「じゃあ、桃華さんは込めなかったと」

桃華「そう見えます?」

ありす「形が見えないので、私には何とも」

桃華「実は精一杯込めたのです。見えないのが残念ですわ」

ありす「きっと、伝わると思いますよ」

桃華「そうですわね」

ありす「桃華さん。月曜日はお仕事入っていますか?」

桃華「無かったはずですわ。どうしてですの?」

ありす「次に仕事をやるよりも前に、事務所へ行って渡してみようと思って」

桃華「なるほど、押しかけサプライズですわね! ありすさんの予定はどうなのですか?」

ありす「週明けは入っていません。桃華さんも大丈夫なら、月曜日決行で」

桃華「Pちゃまの驚き顔と喜ぶ顔が見れそうですわね♪」

ありす「月曜日が楽しみになってきました」

橘母「終わったの?」

ありす「うん」

橘母「あらあら、その袋の中身が2人の作ったチョコなの? カワイイわね~」

桃華「台所をお貸しいただいてありがとうございます。おかげで良いプレゼントができましたわ♪」

橘母「いいのいいの。また何かあったら、いつでも来てちょうだい♪」

橘母「もちろん、遊びに来てもらっても良いのよ。ねぇ、ありすちゃん?」

ありす「桃華さんならいつでも来てくれて良いですよ」

桃華「うふふ、今度時間がある時に遊びに参りますわ♪」

ありす「溶けないように保冷剤をいくつか詰めました。たぶん戻るまでは大丈夫だと思うんですが」

桃華「寄り道せずに帰りますから、きっと大丈夫ですわ」

ありす「何時に事務所へ行くかは、あとで連絡しますので」

桃華「わかりましたわ」

桃華「ありすさん、今回は誘っていただいて本当にありがとうございます♪」

ありす「また一緒に何か作りましょう! クッキーとか!」

桃華「ええ♪ それでは、週明けに♪」

週明け 事務所前


桃華「Pちゃまはいらっしゃるのでしょうか?」

ありす「事前にちひろさんにお電話して聞いておきました。今はいるそうです」

桃華「ありすさん、素晴らしい手際の良さですわ♪」

ありす「Pさんがお仕事で不在……っていうドジは踏みたくありませんから」

ありす「準備は良いですね?」

桃華「よろしくてよ!」

ありす「お疲れ様です」

桃華「ごきげんようですわ♪」

ちひろ「こんにちは、2人とも」

モバP「おぉ、どうしたんだ一体? 用事か?」

ありす「そうです。Pさんにお届け物をしに来ました」

桃華「バレンタインですので、チョコを」

モバP「チョコ!? 本当か?」

ありす「バレンタインですからね。どうぞ」

桃華「わたくしからも♪」

モバP「2人ともありがとう」

ありす「もちろん社長にも用意していますよ」

社長「おぉー! 私にもかい? P君、千川君、今日の私は今年1年で最も運が向いているのかもしれないぞ!」

モバP「俺以上にテンション上がっているな、この人は……」

ちひろ「今年ってまだ2ヶ月しか経っていませんよ」

社長「P君良かったねぇ。2人からも貰えて」

モバP「はい。まさか社会人になって、何人も女の子からチョコを貰えるとは……」

ありす「もしかして、他の方も既に?」

モバP「ちひろさんとか、まゆとか。ちひろさん、ありがとうございます」

社長「ホワイトデーをお楽しみに」

ちひろ「わざわざ良いんですよ、そんな。高いものじゃないんですから」

社長「男としては、貰ったんだからお返ししないとね。どうしても」

桃華「わたくし達と同じように考えていたみたいですわね、まゆさんは」

ありす「まゆさんは! まゆさんは手作りでしたか!?」

モバP「おう、よくわかったな。手作りしたって言っていた。今は給湯室の冷蔵庫に入れてある」

桃華「ラッピングの色は覚えていらっしゃいますか?」

モバP「ラッピング? あー、箱がピンクの紙で包まれていて、赤いリボンで結んであったような……」

ありす「言っていた通りですね……」

ありす「今渡した生チョコ、私と桃華さんで先日一緒に作ったんです」

モバP「手作りなのか! すごいなぁ!」

桃華「うふふ♪ そう言っていただけると、がんばった甲斐がありますわ♪」

モバP「あっ、ほのかにイチゴっぽいにおいがする。イチゴチョコ?」

桃華「……イチゴ?」

ありす「……」

桃華「……」

モバP「?」

桃華「ありすさん」

ありす「はい」

桃華「やっぱりストロベリーエッセンスを使ったのですね?」

ありす「どうしても使いたくなっちゃって。桃華さんが帰ったあと、袋にちょっとだけ。チョコにはかけていないです」

桃華「どうして使ったのですか?」

ありす「ええと……想い?」

桃華「もう……それも、ありすさんらしいですわね」

ありす「えへへ」

桃華「Pちゃま。イチゴの香りがするのがありすさん、そうじゃない丸いのがわたくしのチョコですわ」

ありす「風味付けにお酒も入れたので、帰ってから食べてくださいね。かなり強いので」

モバP「食べるのがもったいないけど、いただくよ」

モバP「ありす。桃華。ありがとう」

桃華「いえいえ♪」

ありす「また何かの時には、料理とかお菓子とか作ってきますからね。期待しておいてください」

ありす「あの、Pさん」

モバP「ん?」

ありす「今までずっとPさんのお世話になってきました」

ありす「これは、その“ありがとう”の意味もあるんです」

モバP「うん」

桃華「それだけではありませんわ。これからも支えてくださるでしょうから、“よろしく”の意味もあります」

モバP「そうか」

ありす「Pさんとしては、どう思っていますか」

モバP「2人は短期間で人気も出て、ファンもいっぱいだ」

モバP「でも、トップじゃないぞ? それに、まだまだ2人は輝ける要素がある」

モバP「これからも俺はプロデューサーとしてありすを、桃華を、みんなを引っ張るつもりだ」

モバP「アイドルのトップに踊り出てほしいからな。シンデレラのように」

桃華「シンデレラで例えると、今はどの辺でしょう?」

モバP「まだ舞踏会開始直後ってところだろう」

ありす「そういうことなら、もっとがんばらければ」

桃華「まだ夜の12時になっていないのなら、やり様はいくらでもありますわ」

ありす「じゃあ、Pさん」

桃華「舞踏会が始まったらエスコートをお願いしますわ♪」

モバP「シンデレラとダンスするのは王子様だぞ?」

桃華「よろしいではありませんか? 紳士としてエスコートしていただかないと♪」

ありす「Pさんが王子様……私は、それで良いですけどね」

桃華「右に同じく」

モバP「きちんとエスコートできるかわからないが、ずっとサポートするから安心してくれ」

ありす「嘘偽りはありませんね? すっとですね?」

モバP「手作りチョコまで貰ったんだから、俺も応えないとな」

桃華「ですってよ、ありすさん」

ありす「はい。これで明日からもがんばれますね」

ありす「Pさん」

桃華「Pちゃま」

モバP「ん?」

ありす「改まって言うのもこそばゆいですが……」

桃華「これから先も、わたくし達のことを」

ありす「よろしくお願いします!」

桃華「よろしくお願いいたしますわ♪」




――fin――

どうも、俺です!
このSSは開始当初から「ありす・ちゃまにボイス付かないかな」「CD出ないかな」
……とか、そんな感じのことを思いながら書き続けていました。

そうしたら、ありすにボイスは付くわ、ちゃまはアニメに出る(よね? たぶん出る)わ、まさかこんなことになるとは……。
なので、当初の目的が達成されたし10話って区切りが良いし、おわりってことで。


連載は終わりですが、また不定期でこのシリーズやるかも。それまでは単発SSを投稿していきたいと思っています。土曜日の朝10時に。
このシリーズを読んでくださった皆さん、ありがとうございましたっ! それではっ!

この生チョコ作るのは3回目なのですが、ラム酒1本全部投入したのは初めてです。うまいけど超酒臭い。
なお作ったチョコは妹と母親にあげたので、もう手元に無いです。

とうとう終わってしまったか…
乙でした

書きたくなったら戻ってきてくれ

>>118
たぶん半年以内にまたやる(断言)
8弾でありすとちゃまが同時デビューとかした日には、速攻で書き上げるぜ!

>>120
【ロゼ・マドモワゼル】と共に始まり、【バレンタインスウィート】と共に終わる。
まぁ、毎月連続投稿が終わりなだけですけどね。1期完みたいな。だって夏に海・水着回がやりたいもん。

>>121
大丈夫! 書く気はいっぱいあるもんよ!
定期更新が一旦終了だから、まだまだやる気はあるもんよ。2人共CDデビューしてねぇしな!!
とりあえず今月中に来月中には、これと関係無い単発モノは投稿するつもりなのん。

>>57
笑うわ

>>123
本当はお店の棚にある状態のストロベリーエッセンスを撮って、集中線入れてババーン! ってやりたかったけど
お店の撮影許可が下りなかったぜ……

このチョコ食ったPの反応ってどんななんだろうな。
レシピの倍量とか明らかにヤバそうだが。

>>125
ロッテのRummyとかBacchusを1箱一気食いしたような感じ、かな?
酔っぱらいはしないけど、食った瞬間に頭がカァッー! ってなる。

ちひろ…ホワイトデーのお返しをわざわざいいって…どうしたんだよ…

>>127
このSSのちひろさんは良いちひろさん。鬼でも悪魔でも無い。
アニメの千川さんに多少毒付けた感じ。

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