勇者「何傭兵隊ですって?」
王様「萌え萌え美少女傭兵隊だ」
勇者「なんすかそれ」
王様「その名の通り、萌え萌えな美少女のみで構成された雇われソルジャーだが?」
勇者「雇われソルジャーはまあわかりますけど、それを美少女のみで構成する意味は」
王様「ガチムチ中年男傭兵隊の方がよかった?」
勇者「あ、いえ、萌え萌えの方でお願いします。美少女大好きです」
王様「うむ。そうだろうな。お前わしの息子だもんな」
勇者「えっと、その美少女ちゃん達と旅をするってことは、エロ展開みたいな感じのことも期待しちゃっていいんですかね」
王様「ん~どうだろな~。まあお前次第じゃないか? 相手に気に入られたらそういうこともあるかもね~」
勇者「はあ。んじゃまあ頑張ってみます」
王様「別室で待機してもらってるから、城を出る時に連れて行ってくれ」
勇者「わかりました。では父上、行ってまいります」
勇者「とは言ったものの、今まで剣の修行やらなんやかんやで忙しくて、女の子とつきあった経験なんて無いからなあ……」
勇者「正直、その美少女傭兵隊とやらとどう接していいものかまったくわからん」
勇者「いや、エロいことをするのが目的で旅をするわけじゃないからどうでもいいっちゃどうでもいいんだが……」
勇者「逆に嫌われて孤立しちゃったら最悪だよなあ。女って群れになったらなんか怖そうだし」
勇者「とはいえ一応俺の配下ってことになるわけだから下手に出すぎて舐められるのもアレだし」
勇者「まあ、最初はなるべく無難な対応を心がけて様子を見るか」
勇者「っと、この部屋か。『萌え萌え美少女傭兵隊御一行様』ってでっかく書かれた立て札が置いてある」
勇者「傭兵隊の皆さんはこれ見てどう思ったんだろ」
コンコン
勇者「お待たせしました。勇者です」
女の声「ふん、やっと来たわね。待ちくたびれたわ。さっさと入って来なさい」
勇者(うわなんか感じ悪いぞ大丈夫かこれ)
ガチャッ
勇者「あれ? 傭兵隊って、2人だけ?」
女「他のメンバーは後から合流するわ」
勇者「あ、そうなんだ(確かに2人ともめっちゃ可愛いな……傭兵って感じには全然見えん)」
女「あんたが勇者で、この国の王子? なんかいかにも育ちが良さそうでちょっと頼りない感じね」
勇者「……自己紹介は要らないようだな」
女「まあね。あんたのことは聞いてるわ。王子と思わず、1人の新米冒険者として扱ってくれと言われてるけど、それでいいのね?」
勇者「ああ、うん、それでいい。望むところだ」
女「こっちの自己紹介は必要?」
勇者「そうだな。まあ簡単にでいいよ。詳しいことは出発してから歩きながらでも」
女「じゃあ、あたしたちの属性だけ教えておくわ」
勇者「属性?」
女「そう、属性」
勇者「えっと、一応訊いておくけど、それは地水火風とかそういう……のじゃなさそうだな」
女「もちろん、萌え萌え美少女としての属性よ」
勇者「ああやっぱり」
女「まず、この『萌え萌え美少女傭兵隊』の隊長であるあたしからね」
勇者「あ、それ正式名称だったんだ。親父が勝手に言ってるだけかと思ってた」
女「あたしの属性は、ツンデレよ」
勇者「ああなるほど。確かにツンツンしてる。まあ王道だな。ありきたりとも言うけど」
女「はぁ? 何か文句あんの?」
勇者「無いですすいません」
女「ふん。ほんとにちょっと頼りない感じね。こんなんで大丈夫かしら」
勇者「まあ正直俺もちょっと不安だったりするけど」
女「でもそんなところが好き! 今すぐ結婚して!!」
勇者「デレるタイミングおかしくね!?」
女「なんてね。今のは嘘よ」
勇者「嘘かよ。いやそりゃ嘘だろうけどさ」
女「ふふん。残念だったわね。そんなに容易くデレるような安っぽい女だと思ったら大間違いよ」
勇者「いや別に本気にしてないしそこまで激安な女は見たことねえよ」
女「属性だけじゃなくて職業とかも言った方がいいかしらね」
勇者「職業は傭兵だろ?」
女「じゃなくて、あたしたち個人としての職種というか」
勇者「ああ、それはわかるからいいや。あんた魔法使いだろ」
魔法使い「なんでわかったの? あたしのこと調べた? ストーカー?」
勇者「違うよ。服装とか見りゃわかるって。そのとんがり帽子とか」
魔法使い「ああ、これね。どう? 似合う?」
勇者「似合ってるよ。でも傭兵という言葉から戦士っぽい集団を想像してからちょっと意外だ」
魔法使い「傭兵と言っても主な仕事はモンスター狩りだから」
勇者「ふーん。で、そっちの娘は? 見慣れない服装だけど、でっかい弓を背負ってるところを見ると弓兵、いや、狩人かな」
魔法使い「そうね」
狩人「……」
勇者「いやしかし、凄い美人だなこの娘。綺麗すぎて人間に見えないというか、まるで精巧な作り物みたいだ」
魔法使い「まあ、作り物なんだけどね」
勇者「人形かよ! 道理でさっきから微動だにしないと思ったよ! ってかなんで人形なんか持ってきたの!?」
狩人「……」フルフル
勇者「あれ、動いた」
狩人「……人形じゃない」
勇者「喋った。おい、人形じゃないって言ってるぞ」
魔法使い「さっきのは嘘よ。ふふん、引っ掛かったわね」
勇者「ぐっ……いや、そういうのやめようよ話進まねーから。で、この狩人ちゃんの属性は?」
魔法使い「ツンデレよ」
勇者「キャラかぶってんじゃねーか!」
魔法使い「というのは嘘で」
勇者「そういうの要らないっつってんだろーが! 話進めろよ!」
魔法使い「この娘の属性は、無口よ」
勇者「まあそうだろうとは思ってた。ツンデレに無口か。双璧だな」
魔法使い「狩人ちゃんはこう見えてもすっごい力持ちなのよ。我が傭兵隊の主戦力と言ってもいいわ」
勇者「小柄で華奢に見えるのに何故か怪力ってやつか。ふむ」
魔法使い「さて、自己紹介も済んだことだしそろそろ出発しましょうか」
勇者「ああ、そうだな」
魔法使い「思ったより時間がかかっちゃったわね。他のメンバーが待ちくたびれてるわ」
勇者「主に魔法使いちゃんのせいでな」
魔法使い「何よ、なんか文句あんの?」
勇者「あるけどめんどくさいから言わないよ」
魔法使い「あんたは城の外の地理には疎そうだし、街を出るまであたしたちが道案内してあげるわ。ついてきて」
勇者「うん、ありがとう」
魔法使い「べっ、別にあんたを案内してあげるんじゃないんだからねっ」
勇者「じゃあ誰をだよ。おかしいだろそれ」
狩人「……」テクテク
勇者「ほんとに喋らんなこの娘。別にいいけど」
魔法使い「もうすぐ僧侶ちゃんとの合流地点に着くわ」
勇者「傭兵隊のメンバー?」
魔法使い「そうよ。ほら、いたわ。あそこで手を振ってるのが僧侶ちゃん」
僧侶「来た来たっ。もうっ勇者くん遅いよ~。女の子を待たせちゃ駄目なんだからねっ」プンプン
勇者「うわなんか馴れ馴れしい。えっと、どうも、勇者です。これからよろしく」
僧侶「うん、よろしくねっ。えへへ、勇者くんといっしょに旅に出れてうれしいなー」
魔法使い「さて、問題です。この娘の属性はなんでしょう」
勇者「俺が当てんの? うーん……何だろうな。年下に見えるけどロリってほどじゃないし……」
僧侶「えへへー」
勇者「ノーヒントで当てろって言われてもな……他に属性ってどんなんがあるだろ。ヤンデレとかか?」
僧侶「違うけど、勇者くんがそうしてほしいならそうするよー」
勇者「いやそれはやめて。……うーん、わからん。降参だ。今会ったばかりでほとんど会話も無しじゃ無理だよ」
魔法使い「じゃあ正解を教えてあげるわ。僧侶ちゃんの属性は、幼馴染よ」
勇者「なんでっ!? まだそんな馴染んでないよ!?」
僧侶「えー? 相変わらず勇者くんは薄情だなー。でもそんなとこが勇者くんらしいねっ」
勇者「いや相変わらずとか言われてもそりゃ1分かそこらでは普通そんな変わんないよ!?」
僧侶「まあまあ細かいことは気にしなくていいから。これからいっしょにがんばろうねっ」
勇者「ああ。うん。なんでこの短時間でそんなに馴染んじゃってんのか知らないけど、よろしく」
魔法使い「これで全員揃ったわね」
勇者「ん? 1人加わっただけだけど、これで全部なのか」
魔法使い「そうよ。あんたも入れて4人もいれば充分でしょ?」
勇者「まあ充分だけど。いや、傭兵隊っていう言葉のイメージからなんとなく10人くらいいるのかと」
魔法使い「選りすぐりの美少女だけで構成された少数精鋭だから」
勇者「確かに僧侶ちゃんもめっちゃくちゃ可愛いな。でもなんで僧侶ちゃんだけ後から合流したんだ?」
魔法使い「それは、ほら、旅の途中で新たに仲間が増えたりするのって、なんか燃えない? だからここで合流することにしたの」
勇者「いやわかるけど、最初の街も出ないうちから全員揃うんだったら別にいいよ最初からでも」
魔法使い「で、旅の目的は何なの?」
勇者「ん? 何も聞いてないのか」
魔法使い「あたしたちが請け負った仕事はあんたの護衛と旅のサポートよ。それ以外は聞いてないわ」
勇者「親父もけっこういい加減だな……旅の目的は、武者修行だよ」
魔法使い「修行? 魔王を倒しに行くとかじゃなくて?」
勇者「うん、修行。『次世代勇者育成計画』ってのがあってな」
魔法使い「なにそれ?」
勇者「魔王とか竜王とかそんな感じの強敵がいつ現れてもいいように、勇者の血を引く者を予め鍛えておくんだとさ」
魔法使い「ふーん。じゃあ目的地とかは特に無いわけ?」
勇者「うん。とりあえず今日は、西の方にある町まで行ってそこで一泊」
魔法使い「……なんかつまんないわね」
僧侶「でも、途中で何かの事件に巻き込まれて、そこから大冒険が始まるかもしれないねっ」
勇者「どうだかな。そんなことよりまずは旅というもの自体に慣れないと。ほら、俺、世間知らずの王子様だから」
魔法使い「その点は心配しなくていいわ。戦闘だけじゃなくて生活面でもあたしたちがしっかり面倒見てあげるから」
勇者「そりゃ助かるな」
僧侶「何かしてほしいことがあったら遠慮なく言ってねっ。できるだけのことはするから」
勇者「えっと、じゃあ、朝起きる時に僧侶ちゃんが幼馴染っぽく起こしてくれたりとか?」
僧侶「うん、勇者くんがそうしてほしいならしてあげるよっ。でもその前にあたしがちゃんと起きられるかなー」テヘヘ
勇者「あ、なんかちょっと楽しくなってきた。やっぱり可愛い女の子っていいな」
勇者「よし、ここからはもう街の外だな。今から俺たちの冒険の旅が始まるわけだ」
僧侶「どんな大事件が起きるか楽しみだねっ」
勇者「大事件が起きるかどうかはわからんけど、魔物を倒したりしてしっかり実戦経験を積まないとな」
魔法使い「張り切るのはいいけどあまり無理はしないでよね」
勇者「うん。心配してくれてありがとう」
魔法使い「べっ別に心配なんか……あんたが死んじゃったら成功報酬が貰えなくなるってだけのことよ。勘違いしないで」
勇者「まあベタなやりとりはこれくらいにして、戦闘時の隊形とか考えとこうか」
魔法使い「隊形?」
勇者「うん、いつ戦闘になってもちゃんと対応できるようにさ」
魔法使い「まあいいけど」
勇者「えーと、まず、俺の武器はこの剣だろ。僧侶ちゃんが槍で、狩人ちゃんは弓、そして魔法使いちゃんは攻撃魔法か」
僧侶「勇者くんの剣、かっこいいねっ」
勇者「お、わかる? この剣ってさ、試作品なんだけど、この国のあらゆる武器製造技術の粋を集めた超高級品なんだ」
魔法使い「へえ。さすがに王子が使う剣ともなるとそこらで売ってるようなのとは違うってわけね」
勇者「今はただの新米冒険者だけどな。まあ伝説の勇者の血を引く者が使う武器でもあるってことで、やっぱそれなりの物をな」
魔法使い「で、何? 戦闘時の配置?」
勇者「そうそう。それぞれ得意な距離が違うわけだから、俺と僧侶ちゃんが前衛、他の2人が後方から援護ってことになるかな」
魔法使い「まあ、そういう戦い方をする時もあるかもしれないわね」
勇者「でも僧侶ちゃんは回復役だからあまり前に出さない方がいいかな。となると俺が1人で前に出た方がいいのか」
魔法使い「んー、まあ、臨機応変でいいんじゃないかしらね」
勇者「特に何も決めないで、その場の判断でってこと?」
魔法使い「まあそんな感じ……っていうか、実際に戦闘になった時って、」
狩人「隊長」
勇者「あっ狩人ちゃんが喋った」
魔法使い「何?」
狩人「敵」
勇者「おっ、早速戦闘か。敵はどこだ?」
魔法使い「……ああ、いたいた。あそこね。雑魚が1匹いるだけだけど、どうする?」
勇者「どうするって、そりゃ戦うさ」
魔法使い「あたしとしては、まずは我が傭兵隊の実力を見せておきたいところだけど」
勇者「ああそういうことか。いいよ。じゃあ今回は俺は手出しをしないから、倒してみせてくれ」
魔法使い「そう。じゃ、狩人ちゃん、やっちゃっていいわよ」
狩人「……」コク
勇者「ん? こんな距離で射るのか? 届くの?」
魔法使い「まあ見てなさいよ。我が傭兵隊のエースの力を」
狩人「……」グイッ
勇者「おお、かっこいい。弓を引いた姿もまるで絵画のような美しさだ」
狩人「……」ビシュッ
ヒュッ! ドスッ
勇者「うお、すげ……一撃で仕留めた」
僧侶「やったねっ。狩人ちゃん、とどめと矢の回収にいこっ」
狩人「……」コク
魔法使い「ふふん、どうよ?」
勇者「……凄いな。狙いの正確さも凄いけど、それ以前にまずあんな距離で仕留められるくらい強い弓を引ける筋力が凄いわ」
魔法使い「射程距離なら攻撃魔法より上よ。破壊力はあたしの魔法の方が上だけどね」
勇者「それも見てみたいな」
魔法使い「いいわよ。じゃあ、あの魔物の死体を攻撃魔法で吹っ飛ばしてみせるから」
僧侶「魔法使いちゃんがんばってー」
魔法使い「『爆裂』!!」ドガァン!!
勇者「うわあ、グチャグチャのグロ死体になっちゃった。殺傷力ありすぎだろこれ」
魔法使い「どう? これであたしたちの実力がわかった?」
勇者「うん。文句無しだ。ぶっちゃけ可愛いだけで強さはそこそこ程度なんじゃないかと思ってたけど、全然そんなことないな」
魔法使い「もちろん、僧侶ちゃんの回復魔法の実力もあたしが保証するわ」
勇者「ふむ。ということは敵が現れても狩人ちゃんと魔法使いちゃんがいれば遠くから一掃しちまえるのか。頼もしいな。はは」
勇者「……」
勇者「…………あれ? 俺いらなくね?」
魔法使い「いらないってことはないけど、少なくともこんな広い場所ではあんたのその最高級な剣の出番はないわね」
勇者「剣じゃあんな遠くに攻撃できないからなあ……」
魔法使い「なにちょっと凹んでんのよ。別に剣にこだわらなくても、あんたも攻撃魔法くらい使えるんでしょ?」
勇者「いや、魔法は使えないよ。俺が使えるのは剣だけ」
魔法使い「……なんで?」
勇者「いや、なんでと言われても。魔法の適性が無いからとしか」
魔法使い「勇者の血筋なのに?」
勇者「母さんの方に似ちゃったらしくて」
魔法使い「王妃様に?」
勇者「うん。俺の母さん、元女戦士だからね」
魔法使い「元ってことは、今は女でも戦士でもないのね」
勇者「いや戦士ではないけど女ではあるよ今でも」
魔法使い「でも、ほら……狭い場所での戦闘とか、剣の方が役に立つような状況だってあると思うし。適材適所ってやつよ」
勇者「うーん、まあ、そうか。そうだよな」
魔法使い「そうよ。だからそんな風に自分を糞の役にも立たないゴミ野郎と決めつけて落ち込んだりしないで、元気を出して頂戴」
勇者「喧嘩売ってんのか! そこまで自分を卑下してはいねえよ!」
魔法使い「えっ、そうなの? ごめんなさい、今のは悪気があったわけじゃなくて、わりとマジで慰めようとしてたわ」
勇者「なお悪いわ! いや、でも一応あれか、善意から出た発言ではあるわけで、けっこう優しいのか魔法使いちゃんは」
魔法使い「な、なによ。今頃気づいたの?///」
勇者「ふーん、そっか。慰めてくれてありがとうな」
魔法使い「べっ別にあんたを慰めたわけじゃないんだからねっ」
勇者「じゃあ誰を慰めたんだよ。さっきからちょくちょくおかしなこと言うなこの似非ツンデレ娘は」
魔法使い「似非ってなによ。変な言いがかりはやめてよ」
勇者「いや、わりと最初の方から思ってたけど、魔法使いちゃんって実はそんなにツンデレってわけでもないんじゃないか?」
魔法使い「うん」
勇者「あっさり認めた!」
魔法使い「ふっ、ばれちゃしょうがないわね。あたし、実はツンデレでもなんでもなくて真面目で素直ないい子よ」
勇者「……なんでそんなキャラ作りしてたの?」
魔法使い「だって、こんな個性豊かな美少女集団の隊長として、キャラが弱すぎたら示しがつかないじゃない」
勇者「そんなもんかねえ……別にそんな無理して演技なんかしなくても、自然体の方が楽でいいと思うけど」
魔法使い「でも、誰だって多少のキャラ作りはしてるもんじゃないの? 王族なら王族らしい威厳を持って、とか」
勇者「そりゃ俺だって公の場では王子らしい振る舞いをしなきゃとか思うけどさ……ツンデレとかそういうのとは違うだろ」
魔法使い「そうなの?」
勇者「そうだよ」
魔法使い「ふーん。じゃあやめるわ」
勇者「素直だなあ。じゃあひょっとして僧侶ちゃんの馴れ馴れしさとかもキャラ作りだったりするのか?」
僧侶「あたし? あたしは元からこんなんだよ?」
勇者「あ、そうなんだ。まあ確かに演技には見えないな。元々人懐っこい性格なのか。じゃあ狩人ちゃんの無口ってのは?」
魔法使い「あの娘があまり喋らないのは、ちょっと……事情があってね」
勇者「それ、俺が聞いてもいいような話?」
魔法使い「昔、魔物の群れに襲われて隠れていた時に、狩人ちゃんが声を出してしまったのが原因で、家族が殺されてしまって」
勇者「え……」
魔法使い「それがトラウマになって、それ以来喋れなくなったとかそういう重たい話じゃないから別に聞いてもいいわよ」
勇者「例え話かよ。いらねえよそんな長い例え話とか」
魔法使い「まあたいした事情ではないわ。狩人ちゃんはね、言葉があんまりわからないの」
勇者「アホなの?」
魔法使い「アホじゃないわよ。失礼ね」
僧侶「なんかねー、すごく遠い辺境の地の出身で、そこでは言葉がこことは違うんだって」
勇者「へえ、そんなところがあるのか。世界は広いな」
魔法使い「とはいえこっちで暮らすようになってからけっこう経ってるし、日常会話くらいなら難なくこなせるけどね」
勇者「ふーん。まったくわからないわけではないのか。そういやたまには喋るしな。どれくらいまでなら通じるんだろう」
魔法使い「本人に話しかけてみたら?」
勇者「そうだな。ちょっと話してみるか」
勇者「やあ、狩人ちゃん」
狩人「……」チラ
勇者「えーと、何を話そうかな」
狩人「……」ジッ
勇者「ん? 待てよ、言葉をあまり知らないってことは、セクハラし放題ってことじゃね?」
狩人「……」
勇者「なあ狩人ちゃん、おちんちんって知ってる?」
狩人「……」フルフル
勇者「そっかー知らないかー。ちょっと言ってみてくれる? おちんちんって」
狩人「……」
勇者「おちんちん」
狩人「////」スタスタ
勇者「あれ!? 赤くなった!? おい魔法使いちゃん、話違うぞ! わかってるみたいだよ!?」
魔法使い「いや、だから、日常会話くらいなら難なくこなせるって」
勇者「君ら普段どんな日常会話してんの!?」
魔法使い「……別にそんな話ばかりしてるわけじゃないけど、たまにはそういう話が出ることもあるわよ」
勇者「そうなのか……こんな美少女ちゃん達でもそんな話するんだな」
僧侶「ごく稀にだよ? いや、本当に」
魔法使い「っていうかセクハラとかやめなさいよ」
勇者「ああ、うん。そうだな。ちょっと謝ってくる」
魔法使い「行ってらっしゃい」
勇者「狩人ちゃん、さっきは変なこと言ってごめん。もう言わないよ」
狩人「気にしてない」
勇者「そうか。よかった。えっと、ちょっと話しないか?」
狩人「……」コク
勇者「狩人ちゃんの故郷って、どのあたりにあるんだ?」
狩人「方角で言うと、向こう」スッ
勇者「あのかすかに見えてる山のあたりか?」
狩人「もっと遠い」
勇者「へえ……そんな遠いんだ。じゃああの山を越えて来たってこと?」
狩人「迂回した」
勇者「すごい長旅だったんだな」
魔法使い「ちょっと口を挟ませてもらうけど、あの山の向こう側に行くだけならそんな遠いって程でもないわよ」
勇者「そうなのか。旅に慣れてないもんで距離感とかよくわからなくてな」
魔法使い「狩人ちゃんの故郷はあの山の向こうの更にもっともっとずーっと先にある山岳地帯の村って聞いたわ」
勇者「ふーん、山岳地帯か。なんか寒そうなところだな」
魔法使い「そうでしょうね。じゃあわたしは引っ込むから会話を続けて。邪魔して悪かったわね」
勇者「いや、解説ありがとう。なあ狩人ちゃん、これは別にセクハラとかそういうつもりで聞くんじゃないんだけどさ」
狩人「……」コク
勇者「最初からずっと気になってたんだけど、なんで狩人ちゃんってパンツまるだしなの?」
狩人「これはパンツではなくズボン」
勇者「あ、そうなんだ」
狩人「そう」
勇者「ふーん……えっ、それはあれか? いわゆる方便というか、『パンツじゃないから恥ずかしくないもん!』的な?」
狩人「何を言ってるのかまったくわからない」
勇者「ああ、うん。俺にもわからんけど。でもそんな寒いとこから来たのになんでそんな薄着なんだ?」
狩人「わたしから見ると故郷が寒いのではなくここが暑い」
勇者「えっとつまり、向こうではもっと着込んでたけどこっちに来たら暑くなったから脱いだってこと?」
狩人「そう」
勇者「なるほど、そういうことか」
狩人「そう」
勇者「やっぱりそれパンツなんじゃないの?」
狩人「違う。これはズボン」
勇者「そうなんだ」
狩人「そう」
勇者「思ったよりちゃんと言葉が通じるんだな狩人ちゃんって」
狩人「大抵の言葉はわかる」
勇者「じゃあなんであまり喋らないんだ?」
狩人「言葉を間違えると恥ずかしいから」
勇者「……ああ、なんかわかる」
狩人「変な間違え方をすると後から思い出してもうわあああってなる」
勇者「なるほど」
勇者「なあ、魔法使いちゃん」
魔法使い「何?」
勇者「狩人ちゃんってめっちゃくちゃ可愛いな」
魔法使い「そうね」
勇者「そろそろ休憩にして昼飯食おうか」
魔法使い「そうね、ちょうどいい時間だわ」
僧侶「ごはん、ごはん♪」
勇者「あれから魔物の類は全然出ないな」
魔法使い「これくらいで普通よ。そんなに頻繁に出くわすようなら旅をする人もいなくなって宿屋なんかとっくに全部潰れてるわ」
勇者「そりゃそうだけど、なんか平和すぎて物足りないな」
魔法使い「平和なのはいいことでしょ。ま、この辺りで魔物が出なくなったのはあたしたちのおかげでもあるけどね」
勇者「魔法使いちゃん達みたいな魔物狩りの傭兵が狩りまくったからってこと?」
魔法使い「そうよ。あたしたちだけでも200匹以上は殺したわ」
勇者「へえ。それが多いのかどうかはよくわからんけど」
僧侶「勇者くんには判断の基準が無いからわかんないよねー」
勇者「俺が無知なだけだろうけど、あんまり多いって感じはしないな」
魔法使い「そう? でも魔物はその程度だけど、兎とかなら500か600くらいは殺したわよ」
勇者「弱いもの虐めか! 兎かわいそうだろ! 可愛い顔して酷いことするなあ!」
魔法使い「兎がかわいそう? なんで?」
勇者「いやだって兎は何も悪いことしてないし可愛いじゃん!」
魔法使い「あんたそれ本気で言ってるの? 世間知らずにも程があるわよ」
勇者「……違うってのか?」
魔法使い「兎は畑の作物を荒らす害獣なんだから、駆除するのは当然でしょ? よくそういう依頼がくるわ」
勇者「そうなの?」
僧侶「うん、そうだよ」
勇者「そうだったのか。知らなかった」
魔法使い「動物を可愛いと思う気持ちもわかるけど、これも生存競争よ。自然界の掟くらいはわかるでしょ?」
勇者「弱肉強食か。うーん、まあしょうがないのかな。作物を全部食われちゃったら人間が飢えて死んじゃうし」
魔法使い「兎自体が食べ物だしね」
勇者「兎ってうまいの?」
僧侶「うん、おいしいよ」
勇者「ちょっと食ってみたい気もするな」
魔法使い「かわいそうなんじゃなかったの?」
勇者「いや、よく考えたら俺別にそんなに兎好きでもないし」
僧侶「ここ数ヶ月は特に兎が異常なくらい大繁殖して忙しかったねー」
魔法使い「そうね。おかげでけっこういい稼ぎにはなったけど」
勇者「ふーん。傭兵の仕事っていろいろあるんだな。魔物狩りだけじゃないのか」
魔法使い「まあね。実態は武力を持った便利屋ってところかしら」
勇者「ふむ。でも、妙だな……」
魔法使い「何が?」
勇者「ここ数ヶ月で特に兎の数が増えたって言ったな? それは前年とかその前の年の同じ季節と比べても?」
魔法使い「そうね。年単位で見ても増加傾向にあるわ。ちなみに兎の繁殖期は人間と同じで季節を問わず年中無休よ」
勇者「なんでそんなに増えたんだろう。……なんか気になるな。ちょっと原因を調べてみようか」
僧侶「原因は、生態系の乱れとかそんなんじゃない?」
勇者「そうかもしれんけど、それならそれで、生態系がおかしくなった原因があるはずだよな」
魔法使い「まあ、そうね」
勇者「何か心当たりはないか? 最近、この辺りの環境に大きな変化があったとか」
魔法使い「うん、まあ、あるわよ」
勇者「あるのか。それはなんだ?」
魔法使い「要するに兎の天敵がいなくなったことによって数が増えたってことでしょ?」
勇者「そういうことになるかな。兎の天敵って何だろう」
魔法使い「肉食動物とか、肉食の魔物とかね」
勇者「えっ、ちょっと待て、じゃあつまり兎の天敵が減ったのって……」
魔法使い「あたしたちが魔物狩りをしたからね」
勇者「原因お前らかよ!」
魔法使い「魔物狩りで稼いで兎狩りでまた稼げるんだからいい商売よね」
勇者「……両方とも必要な仕事ではあるんだろうけど……なんか納得がいかんというか……」
魔法使い「原因と結果がはっきりしてるんだから納得できる理屈でしょ? 疑問が解決してよかったわね」
勇者「なんか事件の匂いがするかもとか思ってちょっとわくわくしたけど全然そんなことはなかった」
勇者「……相変わらず何も出ないな」キョロキョロ
魔法使い「まあ、あたしたちのテリトリーを出るまではだいたいこんなもんよ」
勇者「歩いてるだけって退屈だよなあ」
魔法使い「もう飽きたの? 出発した時はあんなに張り切ってたのに」
勇者「飽きたわけじゃないけどさ。なんか不思議なことでも起きないかなあ」
魔法使い「不思議なことって?」
勇者「超常現象的なこととかな」
魔法使い「変な絵本の読みすぎじゃないの? 超常現象なんて全部、目の錯覚とか法螺話とかそういう類のものよ」
勇者「そうかあ?」
魔法使い「よく自称超能力者とかいるけど、あんなのこっそり魔法を使ってそういうのに見せかけてるだけの詐欺師だわ」
勇者「うーん、そうなのかなあ」
魔法使い「そうよ。世の中の不思議なことなんて、大抵は魔法で説明のつくことばかりなんだから」
勇者「まあ現実はそんなもんかもしれないけどさ。なんか味気ない話だな」
勇者「……なんかいまいち釈然としない気がするのは俺だけ?」
勇者「でもさあ、子供の頃とか、星の世界を旅してみたいなあ、なんて空想しなかった?」
魔法使い「あたしはそういうのは無かったわね。星空を見るのは好きだったけど、綺麗だからというだけのことで」
勇者「夢の無い子供だったんだな。俺はよく、月くらいなら近そうだし行けるんじゃね? なんて思ってわくわくしてた」
魔法使い「あたしにだって夢はあるけどね。そういう非現実的な空想じゃなくて、将来の目標という意味でだけど」
勇者「へえ。魔法使いちゃんの将来の夢ってなんだ?」
魔法使い「もちろん、世界一の魔法使いになることよ」
勇者「そっか。壮大な夢ではあるけど、実現可能な目標でもあるな」
魔法使い「そうよ。この世界のどこかに必ず、世界一の魔法使いというのは実在するわけだから」
勇者「それに自分がなればいいわけだな」
魔法使い「そのために今までいっぱい努力をしてきたわ。子供の頃から、遊びたいのも我慢して、恋をすることも無く」
勇者「つまり処女ってことか」
魔法使い「そういうこと言わないのっ」バシ
勇者「いてっ。じゃあ、その前はどうだったんだ?」
魔法使い「魔法使いを志すようになる前ってこと?」
勇者「うん。その前の、もっと小さい頃の夢って何かあった?」
魔法使い「……白馬に乗った王子様が迎えに来て、素敵なお嫁さんになるんだーとか思ってたわね。でも本当に小さい頃だけよ」
勇者「あ、俺、王子だよ」
魔法使い「いや知ってるけど」
勇者「白い馬も持ってるよ。迎えに行ってやろうか」
魔法使い「そういうんじゃなくて、昔のあたしが思ってたのはもっとこう、おとぎ話的な……」
勇者「悪い奴にさらわれて、そこに王子様が颯爽と助けに現れるとか?」
魔法使い「そんな感じね」
勇者「じゃあちょっとさらわれてみてくれ。助けに行くから」
魔法使い「いやよそんなの。あんたが助けに来る前に誘拐犯にレ……ひどいことをされちゃうかもしれないじゃない」
勇者「うーん、それは俺も嫌だな。助けに行ってみたら囚われの美女は裸に剥かれてて手足を拘束されて、」
魔法使い「オブラートを剥がそうとするなっ」バシ
勇者「ごめんなさい。……なかなか上手くいかないな」
魔法使い「そりゃ、現実はおとぎ話や幼い子供の夢みたいに上手くは行かないわよ」
勇者「いや、女の子を口説くのは難しいなって。俺には向いてないのかな」
魔法使い「今の、口説いてるつもりだったの……?」
勇者「まあいいや。俺の目標も魔法使いちゃんと同じってことにしておこう。目指すは世界一の勇者だ」
魔法使い「競争率低いわね」
勇者「隣の国の王子とその妹くらいしかライバルいないからね」
魔法使い「そういえば、隣の国の王様はあんたの叔父さんだったわね」
勇者「うん。だからあそこの王子と王女、つまり俺のいとこ達も俺と同じく、勇者の血を引く者ってことだな」
僧侶「あっ、町が見えてきたよー」
勇者「おお、到着か。旅の初日は無事に終わったな」
僧侶「宿に泊まっておやすみなさいするまでが旅の初日だよっ」
勇者「そっか、その通りだな。明日の朝は僧侶ちゃんが起こしてくれるの?」
僧侶「あたしの方が早く起きれたらねっ」
コンコン
僧侶「勇者くーん、朝だよー。起きてるー?」
僧侶「まだ起きてないのかな? よーし、あたしが起こしちゃうぞっ」
ガチャガチャ
僧侶「……」
僧侶「鍵がかかってて入れない……」
勇者「ごめんって」
僧侶「……」ムスー
勇者「いや、眠ってたら鍵を開けられないから、僧侶ちゃんが来ても部屋には入れないってことに気づかなくてさ……」
魔法使い「まあ、だからといって鍵をかけずに寝ちゃったら無用心だしね」
勇者「うん、そこに関しては俺間違ってないよね?」
魔法使い「実際、今朝も性犯罪を未然に防げてるわけだしね」
勇者「そうそう、起こしに来た僧侶ちゃんをベッドに引きずりこんでってしねえよそんなこと」
魔法使い「あんたたまにセクハラ発言するから信用できないわ」
勇者「まあしたいかしたくないかで言えばしたいけど、僧侶ちゃんはまだ半分子供みたいなもんだしな。ちょっと罪悪感が」
僧侶「……」ムッ
魔法使い「子供扱いされて僧侶ちゃんがムッとしてるわ」
僧侶「あたし、こう見えても20歳なんですけど! ふくしの……大学? に通ってるんですけど!」
勇者「えっマジで?」
魔法使い「嘘に決まってるでしょ」
勇者「なんだ嘘か」
僧侶「うん」
勇者「ほんとは何歳?」
僧侶「15歳だよっ」
勇者「やっぱりそんなもんか。でもその年齢でも大人に混じって仕事してるんだからもう大人みたいなもんか」
魔法使い「並の大人よりはるかに優秀だしね」
僧侶「えへへ、照れるな~」ニコニコ
勇者「あっ機嫌直った。けっこう簡単だなこの子」
僧侶「ねーねー魔法使いちゃん、勇者くんって背が高くてかっこいいねっ」
魔法使い「そう? まあたしかに身長は高いけど、それだけじゃかっこいいとは言えないわね」
僧侶「顔もかっこいいと思うよ?」
魔法使い「顔も悪くはないと思うけど、でも見た目だけじゃね」
僧侶「優しそうだし、血筋も家柄も確かだし、お金も持ってるよ?」
魔法使い「たしかに性格も悪くないと思うし勇者の子孫だし社会的地位もあって裕福でもあるけど、それだけではねぇ」
勇者「それだけ揃ってたら充分じゃねーの!?」
魔法使い「あれ、あんたいたの?」
勇者「そりゃいるよ。お前らの護衛対象だよ」
魔法使い「存在感が無いから気づかなかったわ」
勇者「ひでえ」
狩人「わたしもいる」
魔法使い「狩人ちゃんは無口だけど可愛いからいいの」
勇者「えこひいきだ」
魔法使い「親の七光りだけで優遇されてる勇者よりましだわ」
僧侶「魔法使いちゃん酷いなあ」
魔法使い「コネメガネは黙ってなさい」
僧侶「眼鏡かけてないよ!?」
魔法使い「冗談よ。僧侶ちゃんも可愛いし有能だから好きよ」
勇者「俺だけ駄目なの?」
魔法使い「あんたも別に駄目ではないし嫌いでもないけど」
勇者「けど、何だ?」
魔法使い「男はやっぱり強くないとね」
僧侶「勇者くんも接近戦なら強いんじゃないの?」
勇者「うん、剣の腕には自信あるよ。狩人ちゃんには接近戦でも勝てるかどうか怪しい気もするけど」
魔法使い「そういう意味での強さもだけど、なんていうか、覇気みたいのがもうちょっと欲しいところね」
勇者「覇気というと、潜在的に持ってる能力を引き出すみたいな?」
魔法使い「いやそういうんじゃなくて普通の意味で。目標に向かってまっしぐらに突き進む強い意志とかね」
勇者「そういうのがあったら俺に惚れたりする?」
魔法使い「惚れるかもね。少なくとも共感はするわ」
勇者「なるほど。魔法使いちゃんは頑張ってるもんな。そういうところだけは尊敬するよ」
魔法使い「だけ? まあ、わかってもらえて嬉しいわ。なんか上から目線でいろいろ言っちゃってごめんね」
勇者「いいよ。……よし、魔法使いちゃんに惚れられるためにも高い志を持って突き進もう」
僧侶「なんかちょっと動機が不純な気もするねっ」
魔法使い「今日はこのまま北上して隣の国に行くんでしょ?」
勇者「他に行くところも無いしな。そこまでのルートは魔物とかよく出るのかな?」
魔法使い「あたしたちのテリトリーに入ってるから少ないとは思うけど、一応覚悟はしておいた方がいいと思うわ」
勇者「ふーん、こっちの方でも活動してるのか」
魔法使い「というより本拠地というか、あたしたちの受付所も隣の国の城下町にあるから」
勇者「あ、そうなんだ。じゃあ狩人ちゃん以外の2人はそこの出身ってこと?」
魔法使い「あたしはちょっと離れた場所にある村から移住してきたけど」
僧侶「今から行くところはあたしの地元だよっ」
勇者「へえ。じゃ、街についてからの道案内は僧侶ちゃんに任せるか」
僧侶「うん、まかせてっ」
魔法使い「あんたも行ったことくらいはあるんでしょ? 親戚が治めてる国なんだから」
勇者「うん、徒歩で行くのは初めてだけど、1年に1回くらいは行くな」
魔法使い「王様や王妃様といっしょに馬車に乗って、護衛を引き連れて?」
勇者「そうだよ。護衛の兵士が先行して露払いをしてくれてたから、魔物との戦闘もなくて平和で退屈な旅だった」
魔法使い「じゃあ、着いたらお城に行くの?」
勇者「そうだな。一応挨拶くらいはしておかないと。今日のうちにアポだけとっておいて宿に泊まって、翌日の朝かな」
勇者「着いた」
僧侶「着いたね。道案内は任せてっ」
勇者「ここに来るまでに魔物もチラホラと出たけど、接近される前に全部狩人ちゃんが倒しちゃったな。楽な旅だ」
魔法使い「もっと遠くまで行けば楽じゃなくなると思うけどね」
勇者「さて、まず城に行って、それから……」
魔法使い「まだ時間もあるし、あたしたちの受付所にも寄ってく?」
勇者「そうだな。そうしようか」
が、がお・・・
勇者「ふーん、ここで仕事の依頼を受けたりしてるのか」
魔法使い「そうよ」
女の子「勇者様ですね。こんにちは」
勇者「あ、こんにちは。この娘も魔法使いちゃん達の仲間?」
魔法使い「うん。戦闘要員ではないけどね」
勇者「へえ。さすがというか、この娘もめちゃくちゃ可愛いな」
魔法使い「あたしより?」
勇者「いや……同じくらいだと思うけど、ぶっちゃけこっちの娘の方がどストライクだ」
僧侶「ちょっとぶっちゃけすぎのような気もするねっ」
女の子「えへへ、勇者様にそう言っていただけるなんて光栄です」ニコ
勇者「やばい一目惚れしちゃいそう。この娘にも属性とかあるのか? 見た感じ、特に際立った特徴も無さそうだけど」
魔法使い「そうね。特徴が無いのがこの娘の特徴よ。属性は、モブ」
勇者「モブって」
魔法使い「特徴が無いということは欠点もないってことだから、可愛く見えるのも当然かもしれないわね」
魔法使い「あたしたちの留守中になんか依頼とかあった?」
女の子「いつもの兎狩りくらいですね。今はみんな出払ってるんで、同業者を紹介しておきました」
魔法使い「それでいいわ。他に何か変わったことは?」
女の子「特に無いですね。怪しげな新興宗教の勧誘がうざいから何とかしてくれ、とかいう依頼はありましたけど」
魔法使い「出払ってなくてもそういうのはあたしたちの仕事じゃないわね」
女の子「ええ、国営の相談所の方へ行くようにと伝えました」
勇者「なるほど、何でもやるってわけじゃなくてある程度仕事を選んではいるんだな」
魔法使い「宗教関係者はめんどくさいから関わりたくないしね」
僧侶「ええー」
魔法使い「いや、僧侶ちゃんのことじゃないから。変な新興宗教とかのことだから」
勇者「変な宗教とか敵に回したら僧侶ちゃんが必要以上に張り切っちゃいそうだから、そういう意味でも相手にしない方がいいな」
翌日
魔法使い「王様に挨拶に行くのはあんただけ?」
勇者「うん。お付きの者は別室で控えててもらうって感じかな」
魔法使い「なんかつまんないわね」
勇者「じゃあ王子には後で会わしてやるよ」
魔法使い「王子ってどんな人? かっこいい?」
勇者「正直いろんな面で俺よりハイスペックだな。イケメンで礼儀正しくて温厚な性格で、剣だけじゃなくて魔法も得意」
魔法使い「だったらあんたよりそっちを勇者として鍛えればいいのに」
勇者「次世代勇者育成計画の対象にはなってる筈だよ。歳は俺よりひとつ下だから、来年あたり修行の旅に出されるんじゃないか」
魔法使い「ふーん。じゃあ、その時にまたあたしたちにお呼びがかかるかもしれないわね」
勇者「いや、それはどうだろうな。まあどっちにしても、あいつに見初められて玉の輿になんてことは考えない方がいいかも」
魔法使い「そんなこと考えてないけど、でもなんで?」
勇者「だってあいつホモだもん」
魔法使い「……勿体無いわね」
勇者「勿体無いよなあ。あいつだったらめちゃくちゃもてるだろうに」
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王子「お久しぶりですね。前にお会いしてから半年くらいになりますか」
勇者「そんなもんだな。元気そうでなによりだ」
魔法使い「思ってた以上に美形だわ。おとぎ話に出てくる王子様そのものね」
勇者「俺も一応王子なんだけどなあ。白い馬も持ってるし」
王子「いえいえ、そちらこそ美人揃いで、羨ましい限りです」
勇者「これ社交辞令だから真に受けんなよ」
王子「ふふ、後半はともかく美人揃いというのは正直な感想ですよ」
勇者「そういやお前、妹いただろ?」
王子「はい? 妹ですか?」
勇者「うん、もう5年くらい会ってないけど、美男美女揃いの一家なんだから綺麗になってるんだろうな。元気にしてるか?」
王子「えっと、それはどちらかというと僕の台詞なんですが」
勇者「えっ?」
王子「言ってなかったの?」
僧侶「うん」
勇者「えっ? あれっ?」
>>86
お膳立て
勇者「あっ! 僧侶ちゃんって、妹ちゃんか! そういえばなんか見たことある!」
僧侶「いつ気づくかと思って待ってたんだけどなー。勇者くんって薄情だなあ」
王子「あなたが最後に妹に会ったのは、まだ10歳くらいの子供の頃ですからね。しかたないですよ」
勇者「……知ってたの?」
魔法使い「うん」
勇者「言ってくれよ……そうか、悪いことしちゃったな……気づかなくてごめん」
僧侶「ちょっと悲しかったけど許すよっ。言わなかったのはちょっとした悪戯心だしねー」
魔法使い「フラグをバキバキに折りまくってる様が見ていて面白かったわ」
勇者「ガチで幼馴染だったのか。てっきりそれっぽい性格というだけなのかと」
僧侶「何回か会ったことあるってだけだけどね。えへへ」
勇者「じゃあ傭兵隊のメンバーって言ってたのは?」
僧侶「それはほんとだよ」
勇者「王女がなんで傭兵なんかになってたんだ?」
魔法使い「なんかって何よ。馬鹿にしてるの?」
勇者「あ、いや、すまん。そういうつもりじゃないんだ」
ローレシアか・・・
魔法使い「そう? ならいいけど」
勇者「で、なんで王女ともあろうものがこんな荒くれ者のゴロツキ連中の仲間になんかなってるんだ?」
魔法使い「さっきより酷くなってるわ」
僧侶「あたしも勇者の血を引いてるわけだけど、何でもできるお兄ちゃんと違って魔法の素質だけが飛びぬけてるらしくて」
勇者「俺とは逆ってことか」
僧侶「中でも回復魔法の才能があったってことで、5年前から修行の一環として教会にお世話になってたの」
勇者「なるほど。それで会わなかったんだな。で、それでなんで傭兵とは名ばかりのチンピラどもの手下なんかに?」
魔法使い「チンピラじゃないし荒くれてないしゴロついてもいないわよ。あんたわざと言ってるでしょ」
勇者「うん。冗談だよ」
王子「教会の仕事だけでは学べることが限られてますからね。父の意向で傭兵の仕事も体験することになったんです」
勇者「なるほど……俺たちより若いのにもういろいろ経験してるんだな」
王子「あなただって剣術はずっとやってたんでしょう? 今は修行の旅もしているわけですし」
勇者「まあそうだけどな。お前の方はどうなんだ?」
王子「それなりには。剣術、槍術、弓術、攻撃魔法、回復魔法、補助魔法と、まあいろいろと」
勇者「やることいっぱいあってたいへんだな。多才なのも良し悪しだな」
王子「今のところどれも中途半端で、器用貧乏ってところですかね。まあ、マイペースでやりますよ」
勇者「修行の旅とかは?」
王子「そのうちやるんじゃないですかね」
勇者「ガチムチ中年男傭兵隊とか引き連れて?」
王子「どちらかというと美形青年の方が好みですね」
勇者「ああそっち系なのか」
僧侶「それはそれで妄想が捗るねっ」
勇者「そこ、食いつかなくていいから。というか頼むから腐らないでくれ。せっかくの美少女なんだから」
僧侶「んー、勇者くんがそうしろって言うならそうするよっ」
王子「気に入られたみたいですね、妹に」
勇者「どうなんだかな。この子もけっこう何考えてんのか読めないとこがあるからなあ」
僧侶「あはっ、別にそんな複雑なことは考えてないよ。たぶん勇者くんと同じようなことだよ」
勇者「そうなのかなあ。まあ親戚だし似たようなもんなのかもしれんけど」
王子「www.youtube.com/watch?v=DEyHovaGd_A」
翌日
勇者「よし、今日は魔法使いちゃんの故郷の村を目指して進んでみるか。ここから遠いのか?」
魔法使い「そう遠くもないわね。通るルートによるけど、遠回りになる方から行っても夜までには着くわ」
勇者「道が二通りあんの?」
魔法使い「うん。こことの間にある湿地帯をつっきっていけばもっと早く着くわよ」
勇者「そっちは危険なのか? 魔物が多く出るとか」
魔法使い「そうでもないわね。ぬかるみがあって歩きにくいだけで、遭遇率は迂回路の方と変わらないわ」
勇者「そっか。じゃあ何事も経験ってことで、湿地帯の方から行こうか」
魔法使い「足場が悪いから戦闘のときは注意してね」
狩人「……」ビシュッ
ヒューン ドスッ
勇者「お見事。また一撃で仕留めたな」
狩人「これくらいの距離なら、余裕」
勇者「凄いよなあ、狩人ちゃんは。その分俺の出番が無くなるわけだが」
狩人「少し譲った方がいい?」
勇者「そうだな。旅にも慣れてきたし、実戦経験の方も積んでいかないと」
魔法使い「でもそれであんたに死なれたらあたしたち報酬を貰えないわね」
勇者「そりゃそうだけどさ。旅の目的は俺の武者修行なんだから、護られてるだけじゃ本末転倒だよ」
僧侶「じゃあ今日は狩人ちゃんと魔法使いちゃんをあたしたちが護ってあげよっか」
勇者「そういや僧侶ちゃんの立場がよくわからないんだけど、傭兵隊の一員でありながら護られる側でもあるってことなのか?」
僧侶「あたしにもよくわかんない。勇者くんの護衛というより、サポートメンバーかな?」
勇者「まあ回復役だからな」
僧侶「将来、魔王かなんかが現れたら勇者くんとあたしとお兄ちゃんで討伐隊を組むことになるかもしれないねっ」
勇者「そのための予行演習ってとこか」
魔法使い「その時が来たらあたし達も手伝ってあげるわ」
勇者「そりゃ心強い。また俺達の出番がなくなりそうだ」
僧侶「魔王も狩人ちゃんと魔法使いちゃんだけで倒しちゃうかもねっ」
勇者「……俺も弓を買おうかな」
僧侶「弓を?」
勇者「うん。弓があれば狩人ちゃんや魔法使いちゃんに譲ってもらわなくても攻撃に参加できるだろ」
僧侶「接近戦になったらどうするの?」
勇者「弓を投げ捨てて剣を抜く、かな」
魔法使い「剣と弓と矢を持ち歩いてたら重くない?」
勇者「そうだな。じゃあ普段は剣を魔法使いちゃんに預けておくか」
魔法使い「いやよそんなの。あたしは荷物持ちで雇われたんじゃないもん」
勇者「そういや魔法使いちゃんって武器持ってないから楽そうだな」
魔法使い「あたしには攻撃魔法があるからそんなのいらないの」
勇者「いいなあ、魔法使える人は」
魔法使い「羨むようなことじゃないわ。今こうして楽ができるのは、過去に苦労を積み重ねてきた結果なんだから」
勇者「魔法使いちゃんは偉いなあ。最初はただの似非ツンデレ娘かと思って見くびってたけど、今は尊敬してるよ」
魔法使い「ふふん、人は見かけによらないのよ。いい勉強になったわね」
勇者「確かにな。さて、魔法使いちゃんからはもう学ぶべきことも無さそうだし、今日は狩人ちゃんと仲良くして学ばせて貰うか」
魔法使い「えっ」
勇者「www.youtube.com/watch?v=VNrfQzejWwU」
勇者「やあ、狩人ちゃん。今日も綺麗だね」
狩人「照れる」
勇者「あはは、狩人ちゃんは可愛いなあ」
魔法使い「いやちょっと待ちなさいよ! なにそれ!?」
勇者「いや、冗談だって。ほんとに尊敬してるし、魔法使いちゃんも綺麗だよ」
魔法使い「ふん、勝手に言ってなさい。ばーかばーか」
勇者「ごめんって。でも狩人ちゃんからも学ぶべきことがあるのは本当のことだしな。ちょっと話しようぜ」
狩人「……」コク
勇者「狩人ちゃんの故郷ってどんなところなんだ?」
狩人「こことはかなり違う」
勇者「例えば?」
狩人「狩りや戦いは女の仕事」
勇者「へえ、ほんとに全然違うな。いや、今の俺も女の子に護られちゃってるけど」
狩人「わたしから見れば女が男を護るのは普通のこと」
勇者「狩人ちゃんって女の子なのにめちゃくちゃ強いけど、逆にそこでは男の方は弱かったりすんの?」
狩人「弱くはないけど男は貴重だから危険なことはさせない」
勇者「男が貴重?」
狩人「男は出生率が低いので数が少ない」
勇者「へえ……そんなとこもあるんだ。遠いってだけじゃなくて、人種が全然違うってことなのかな」
狩人「だから、男の最も重要な役目は、」
勇者「うん」
狩人「……」
勇者「……種付け?」
狩人「……そう」
勇者「つまり、一夫多妻が普通ってこと?」
狩人「そう」
勇者「なにそれ、男にとってはパラダイスじゃん! うわ超行きてえ!」
狩人「わたしが故郷に帰る時に、いっしょについて来る?」
勇者「余所者が行ってもいいの?」
狩人「歓迎されると思う。男は貴重だし、ましてあなたは勇者の血を引く者。血統は申し分ない」
狩人「www.youtube.com/watch?v=yzTx-_ykKNI」
勇者「そっか。うわ、どうしよう。マジで行っちゃおうかな。何人もの女の子に囲まれて毎日イチャコラできるのか」
狩人「今の状況とあまり変わらないのでは?」
勇者「……まあ確かに今でも美少女達に囲まれてるわけだけど」
狩人「……」コク
勇者「でも、あれだろ? 種付け的なことができたりするんだろ? 何人もの女の子と」
狩人「……そう」
勇者「狩人ちゃんとも?」
狩人「……互いにその気になれば」
勇者「その気になる可能性は?」
狩人「あなたのことをまだよく知らないので、はっきりとは言えないけど」
勇者「うん」
狩人「故郷に帰れば選択肢が少なくなるので、確率はわりと高いかもしれない」
勇者「行きてえええ! でもなあ……こっちでやるべきこと、やりたいことを捨てることになるし……」
狩人「王位を継ぐことなら、両親に頼んでもう1人産んでもらえばいいのでは」
勇者「そうしようかな。でもそれだけじゃないし……狩人ちゃんは将来はどうするの? さっき、帰るようなこと言ってたけど」
狩人「いつかは帰ることになると思う。まだ決めてないけど」
勇者「そっか、帰ったら故郷で誰かと結婚して、一夫多妻の生活ってことになるのか……うわ何だろこのNTR感は」
狩人「NTRとは?」
勇者「あ、いや、気にしなくていい。それより、こっちに永住する気とかはないの?」
狩人「実は迷ってる。ここにはここの良さもあって、帰りたくない気持ちもある」
勇者「そうなのか。ここの良さって、例えば?」
狩人「故郷の生活で培った身体能力の高さを生かして、わたしTUEEEEEってやるのが面白い」
勇者「……なるほど。帰りたくなくなるわけだ」
狩人「敵」
勇者「ん? あ、ほんとだ。こっちに向かってくる。1匹だけか」
狩人「あなたがやる?」
勇者「そうだな。じゃあ俺のかっこいいとこ見せてやるよ」
狩人「わかった」ニコ
勇者「あっ笑った。笑顔も可愛いなあ」
勇者「うおりゃあ!」ズバッ
敵「 」ドサッ
勇者「見た見た? かっこよかった?」
狩人「わりと」
勇者「惚れた?」
狩人「まだそこまでは」クス
勇者「また笑った。けっこうよく笑うんだな」
狩人「もっと無表情な方がよかった?」
勇者「いや、そんなことないよ。どんな表情も魅力的だ」
狩人「他に何か聞きたいことは?」
勇者「そうだな……なんでパンツまるだしなの?」
狩人「これはズボン」
勇者「あ、そうなんだ」
パンツじゃないもん
魔法使い「イチャついてるとこ邪魔して悪いけど、そろそろ湿原地帯に入るわ。足元に気をつけて」
勇者「ああ、うん。いや別にイチャついてはいないからそんなに妬かなくていいぞ」
魔法使い「妬いてないわよ」
僧侶「うわあ、地面がどろどろ~」
勇者「こういうとこって、地面から手が出てきて足を掴むような魔物が出たりしないかな?」
魔法使い「あたしはまだそういうのは見たことないわね」
勇者「そっか。でも一応警戒はした方がいいな」
魔法使い「それは勿論、常に警戒は怠らないようにしないとね」
ビチャ ビチャ グチャ グチャ
勇者「ほんとに下がぬかるんでて歩きにくいな」
魔法使い「そうね。だからこっちのルートを通る人はほとんどいないわ」
勇者「ふーん。ま、これも経験、経験っと」グッチャグッチャ
狩人「何か光った」
勇者「どこ?」
狩人「あそこ」
僧侶「何も見えないよ~?」
魔法使い「狩人ちゃんの視力は確かだから、何かあるのは間違いないわね」
勇者「行ってみようか」
魔法使い「汚れるから嫌」
狩人「わたしが見てくる」
勇者「道から外れると泥が深いから転ばないように気をつけろよ」
狩人「大丈夫。わたしの身体能力を舐めてはいけない」ビチャ ビチャ
魔法使い「そうね。あんた、まだまだ狩人ちゃんを甘く見すぎよ。この程度のぬかるみは目をつぶってても余裕で踏破できるわ」
ビチャッ ビチャッ ビチャッ バシャーン!
勇者「あ、こけた」
僧侶「魔法使いちゃんが変なフラグ立てるから……」
魔法使い「えっ、今のあたしのせい?」
勇者「救助に行ってくる」
魔法使い「行ってらっしゃい」
僧侶「www.youtube.com/watch?v=l4TG-epVTzc」
僧侶「二次遭難に気をつけてねっ。勇者くんならそんな失敗なんて絶対ありえないと思うけど」
勇者「おいフラグ立てんな」
勇者「おーい、大丈夫かー。今助けに行くからなー」
狩人「来なくていい。あなたまで汚れてしまう」
勇者「んなこと気にするなって。怪我は無いか?」
狩人「大丈夫。傷ついたのはプライドだけ」
勇者「そっか、よかった。立てるか? 手を引っ張ってやるよ」
狩人「ありがとう」
勇者「よっ……うわっ」ズルッ
狩人「きゃっ」
バシャーン!
魔法使い「あ~あ。何やってんだか」
僧侶「あたしのせいかな?」
勇者「はは……やっちまったな」
狩人「ごめんなさい。あなたまで巻き込んでしまった」シュン
勇者「気にするなって。これも経験……あ、光ったのはあれか」
狩人「何?」
勇者「手鏡だな。ほら」
狩人「古そうな鏡。でも泥を落とせば綺麗になりそう」
勇者「そうだな。はい、受け取って」
狩人「わたしに?」
勇者「見つけたのは狩人ちゃんだし、女の子に鏡は必要だろ」
狩人「必要だから、もう持ってる」
勇者「あ、そうか。でも……」
狩人「迷惑をかけたお詫びに、それはあなたにあげる」
勇者「いや、迷惑だなんて思ってないけど」
狩人「それをわたしだと思って大切にして」
勇者「映るのは俺の顔だけどな」
勇者「さあ、道に戻るか」
狩人「……」
勇者「どうした? どこか痛いのか」
狩人「失敗してしまって恥ずかしい」
勇者「狩人ちゃんってあんまり失敗とか無さそうだもんなあ。でもちょっとはドジッ子なところもあった方が可愛いと思うぞ」
狩人「慰めてくれてありがとう。……さっきのは、わざと?」
勇者「何が?」
狩人「わたしに気を使って、わざとあなたも転んだ?」
勇者「はは、まさか。そこまではしないよ」
狩人「そう。……でも、あなたが優しいのはわかった」
勇者「惚れた?」
狩人「まだ、そこまでは。でもなんだか、あなたといると……」
勇者「うん」
狩人「ホカホカする」
勇者「ああ、うん。いや、どうなんだろうなこれ」
狩人「何かおかしかった?」
勇者「いや、何も間違えてはいないんだけど、なんかすごく惜しい感じがした」
狩人「よくわからない」
勇者「俺もよくわからんけど」
狩人「頬が熱い。本当に惚れたかもしれない」
勇者「失敗して恥ずかしいからじゃないかな」
狩人「そうかもしれない」
勇者「本当だったら嬉しいけどね。さ、行こうぜ」ビチャッ ビチャッ
狩人「パンツが泥まみれになってしまった」
勇者「やっぱりパンツなんじゃねえか」
狩人「言い間違えただけ。これはズボン」
勇者「パンツとズボンの区別がつかなくなるくらい動揺してるってことか」
狩人「こんなこと初めてだからどうすればいいのかわからない」
勇者「洗えばいいと思うよ」
パンツ脱いだ
魔法使い「うわあ、酷い格好ね」
狩人「面目ない」シュン
勇者「でも戦利品はあったぜ」
魔法使い「その格好のまま村に入るのも何だし、着替えたら?」
勇者「予備の服持ってないよ」
狩人「わたしもない」
魔法使い「長旅なんだから着替えくらい用意しときなさいよ」
勇者「魔法使いちゃんの服貸してくれ」
魔法使い「あたしのをあんたが着れるわけないでしょ」
勇者「じゃあ狩人ちゃんに貸してやって」
魔法使い「貸してあげたいけどあたしも予備の服無いわ」
勇者「お前も持ってないんじゃねーか!」
僧侶「あたしも無いよー」
魔法使い「しょうがないわね。もう少し歩けば綺麗な水が流れてる場所がある筈よ。そこで洗うといいわ」
魔法使い「www.youtube.com/watch?v=lkHlnWFnA0c」
勇者「お、川だ」
魔法使い「ここで待ってるから、服着たまま水浴びでもしてきなさいよ」
勇者「悪いな。狩人ちゃん、行こう」
狩人「申し訳ない」
魔法使い「気にしなくていいわ」
僧侶「休憩も必要だしねっ」
ジャブジャブ
狩人「乾きかけてるから落ちにくい」カピカピ
勇者「着たままだと洗いにくいな。脱いで洗った方がいいかもな」
狩人「そうかもしれない」
勇者「脱いで洗った方がいいかもなー」チラッ
狩人「……わかった。わたしは後ろを向いているから遠慮しないで脱いで」クル
勇者「……ああ、うん」
狩人「……」バシャバシャ
勇者「脱いだけど、ここ結構深さがあって下半身は水面下で隠れてるから、こっち向いてもいいよ」
狩人「そう。……わたしも脱いで洗った方がいいかもしれない」
勇者「ですよね!」
狩人「後ろを向いていて」
勇者「ですよねー」クル
狩人「脱いだから振り向かないで」
勇者「わかってるよ。振り向きたいけど嫌われたくないから振り向かないよ」
狩人「それくらいで嫌いにはならないけど」
勇者「そんなこと言われたら振り向きたくなるじゃん。必死で我慢してるんだから誘惑しないでくれ」
狩人「そんなに見たい?」
勇者「すごく見たいです!」
狩人「わかった。恥ずかしいけど、そんなに見たいのなら」
勇者「えっマジで!? いいの!?」
狩人さんに狩られる勇者
狩人「わたしの気が変わらないうちに」
勇者「じゃあ遠慮なく!!」クルッ「って服着てるじゃーん!」
狩人「引っ掛かった」クスクス
勇者「はは……けっこうお茶目なとこもあんのね……」ガクーン
狩人「怒った?」
勇者「いや……打ち解けてきてくれたようで嬉しいよ……」
狩人「こんなに喋ったのは本当に久しぶり」ニコ
勇者「楽しんでもらえてるようでなによりだよ」
狩人「あ」
勇者「なんだ? こんな時に敵か?」
狩人「パンツが流れていった」
勇者「ズボンな。もうその手には引っ掛からないよ」
狩人「わたしのではなく、あなたの」
勇者「マジで!? うわっ、待てっ! ちょっ、狩人ちゃん俺の服持ってて!」バシャバシャ
狩人「いきなり泳ぎださないでほしい///」クルッ
勇者「くそ……狩人ちゃんのちょっとエロい悪戯のせいで水の抵抗が増してなければ追いつけたのに……」テクテク
狩人「元気付けてしまって申し訳ない」
勇者「まあパンツだけなら全部流されるよりはましか。ちょっとスースーするけどこれなら誰も俺がノーパンだとは気づくまい」
魔法使い「まったく、何やってんだか……ほら、これ、流れてきたから拾っといてあげたわよ」
勇者「おお、それは俺のパンツじゃないか。ありがとう」
魔法使い「早く受け取りなさいよ」
勇者「お礼にしばらく貸しといてやるよ」
魔法使い「いらないわよ!」ビュッ
勇者「うおっ」ビチャッ
魔法使い「っていうか脱いで洗ってたの? 狩人ちゃんに変なもの見せてないでしょうね」
勇者「うん、激しい攻防があったけどなんとか守り抜いたよ」
僧侶「狩人ちゃんが攻める側だったんだ……」
狩人「……」フルフル
勇者「うそうそ、心配しなくても何も見せてないし何も見てないよ」
魔法使い「ほら、先に進むわよ。早くそれはいちゃいなさい」
勇者「乾いてからはくからこのままでいいよ。行こうぜ」
狩人「敵」
魔法使い「3匹いるわね。どうする? あんたの分残す?」
勇者「俺はパンツはいてないからいいや。魔法使いちゃんやっといて」
魔法使い「戦闘だってのに緊張感無いわね……まあいいけど。『爆裂』!」ドガァン!
魔法使い「もうすぐ村が見えてくる筈よ」
勇者「多少のハプニングはあったけど無事に到着しそうかな」
狩人「そうでもない。尾けられてるかもしれない。一定の距離を保って足音がついてくる」
勇者「えっ」
魔法使い「振り向かないで。狩人ちゃん、数は?」
狩人「……1匹……四足歩行……敵意は感じない」
勇者「敵意は感じない……?」
僧侶「馬に乗った旅人とかかな?」
狩人「……もっと小さい動物……たぶん、犬」
勇者「www.youtube.com/watch?v=zH0sMmy_-ZI」
魔法使い「野良犬かしら? 振り向いてもよさそうね」クル
僧侶「あっ犬だ。可愛い~。おいでー」
勇者「おとなしそうな犬だな。遠慮がちに近づいてくるところを見ると、噛み付いたりはしなそうだ」
僧侶「飼い犬かな?」
狩人「何か言いたそうにしてる」
僧侶「家に帰りたいのかな? 村に連れて行ってあげよっか」
魔法使い「そうね、まあいいんじゃない?」
勇者「そういや俺、前から1回試してみたいことがあってさ。犬って、鏡見せたらどうなるのかな」
魔法使い「それは……やっぱり、他の犬かと思って吠えるんじゃない?」
僧侶「えー、でも、匂いが無いから他の犬とは思わないんじゃないかなあ」
勇者「どっちだろうな。鏡あるし、試してみよう。ほら犬、これ見てみ」
犬「……」
ボンッ
女の子「あ……きゃあっ!」パッ
勇者「犬が裸の女の子になった!?」
犬っ娘参上!!
魔法使い「なっ……ちょっ、勇者、向こうを向いてなさいっ!」
勇者「何これ!? どういうこと!?」
女の子「あっあのっ、わたし、犬じゃないですっ。そこの村の住人でっ」
勇者「なんでさっき犬だったの!?」
魔法使い「いいからあんたはこっち見んなっ!」
村娘「あのっ、事情をお話しする前に、できれば何か着るものを……」
魔法使い「勇者、あんたそれ脱いで貸してあげなさいよ」
勇者「嫌だよ。これ脱いだら俺が全裸になるじゃん。魔法使いちゃんがそのマント貸してあげなよ」
魔法使い「嫌よ。これ脱いだらあたしが全裸になるじゃない」
勇者「嘘っ!?」
魔法使い「まあ嘘だけど」
勇者「なんでそんな嘘ついたの? マントくらいいいだろ、貸してやれよ」
魔法使い「寒いから嫌」
勇者「寒くねえよ」
魔法使い「あたしは余分な脂肪がついてないから寒いの。僧侶ちゃん、そのなんか変な前掛けっぽいやつ貸してあげて」
村娘さんじゃったか・・・Orz
僧侶「その言い方だとあたしは太ってるみたいじゃない!? あたし太ってないよ!?」
勇者「どっちでもいいから貸してやれよ」
僧侶「でもこれだけ着ても横から見えちゃうし、これ取るとあたし、全身タイツみたいな変な格好になっちゃうし……」
勇者「あ、変な格好っていう自覚あったんだ」
魔法使い「狩人ちゃんは……脱げるものないわね」
狩人「無理」
勇者「俺のパンツでよければ貸すけど」ヒラヒラ
村娘「せっかくですけど、それはちょっと」
勇者「じゃあどうするんだ。裸のままじゃ村に入れないぞ」
魔法使い「裸じゃなくて馬鹿には見えない服を着てるんだって言い張るのはどう?」
勇者「根本的な解決にはなってないような気がするな」
僧侶「そんな服が本当にあったとしても、馬鹿な人は裸見放題ってことになっちゃうねっ」
勇者「なあ、魔法使いちゃん、前に自分で素直でいい子とか言ってなかった?」
魔法使い「だから素直に嫌って言ってるのよ」
勇者「いい子なんだろ?」
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魔法使い「わかったわよ。ほら、このマントを使って」
村娘「ありがとうございます……えっと、あの……前に村に住んでた、魔法使いさん、ですよね?」
魔法使い「そうよ。久しぶりね、村娘ちゃん」
勇者「悪いやつにさらわれそうになって、咄嗟に変化の杖を使って犬に化けて逃げ出した、か……」
魔法使い「犯人の心当たりは?」
村娘「ありません。でも最近、変な新興宗教の人たちがうろついてるという噂を聞いたことがあるので、その人達かもしれません」
僧侶「むー、そんな強引な勧誘をするなんて許せないねっ」
勇者「まだそいつらと決まったわけじゃないけどな。その変化の杖とやらが狙いだったのかもしれん。貴重なアイテムなんだろ?」
魔法使い「身代金目当ての誘拐とか、あるいはこの娘の体自体が目的だったとか」
僧侶「邪神の生贄とかにするつもりだったのかもしれないよっ。もしそうだったら絶対に許さないからねっ」
勇者「僧侶ちゃんはちょっと落ち着け」
魔法使い「まあ何にしても、これはあたしたちの仕事ではないわね。人間相手となると専門外だわ」
勇者「バックに魔物がついてるとかもありそうだけどな」
僧侶「こうして関わったのも何かの縁だし、あたしたちで犯人をつかまえようよっ」
魔法使い「そうは言ってもねえ。連続誘拐事件とかなら次もあるかもしれないから、僧侶ちゃんを餌にして囮捜査もできるけど」
僧侶「あ、あたし!?」
村娘「あの……実は、この村では今までにも何件か誘拐事件や誘拐未遂事件が起きてて……」
魔法使い「それを早く言いなさいよ。で、あんたがさらわれそうになったということは、まだ犯人は捕まってないのね」
村娘「はい」
勇者「たぶんだけど、犯人はこの村の住人ではないよな?」
魔法使い「なんでそう思うの?」
勇者「こんな小さい村なら、怪しいやつが住んでたらバレバレじゃん」
魔法使い「ふむ。世間知らずのあんたにしてはまともな推測ね」
勇者「俺も狭い世界で生きてたからわかるんだよ」
僧侶「魔法使いちゃんもこの村の出身だから、ここのことはよく知ってるんだよね?」
魔法使い「しばらく離れてたからその間のことは何も知らないけどね」
勇者「当時からの住人の中に、怪しいやつはいなかったか? 自分以外で」
魔法使い「そうね、あたし以外には特に変な人はって何言わせんのよこのアホ勇者」
勇者「ははっ。ま、今日はもうこんな時間だし、詳しく調べるにしても明日の朝からかな」
翌日
勇者「さて、まずは武器屋に行こう」
僧侶「武器屋さんに何か手がかりが?」
勇者「いや、弓を買ってみようかなって」
僧侶「なーんだ」
魔法使い「でも、誘拐犯が武装してるかもしれないし、その線から何か掴めるかもしれないわね」
勇者「というわけで魔法使いちゃん、道案内よろしく」
魔法使い「別にいいけど、剣も弓も矢も全部自分で持ちなさいよ。あたしは荷物持ちなんて嫌だからね」
勇者「わかってるって。なあ狩人ちゃん、弓買ったら練習につきあってくれないか」
狩人「……」コク
僧侶「勇者くんって弓の練習はしたことないの?」
勇者「無いよ」
魔法使い「上手くなるまでに時間がかかりそうね」
僧侶「でも勇者くんなら力もあるし、すぐに上手くなるかもねっ」
勇者「どうだろうな。剣を振るのとは使う筋肉が違うような気もするし」
狩人「……」コク
勇者「さすがに狩人ちゃんのレベルには追いつけそうな気が全然しないけどさ。何事も経験ってな」
狩人「近くの動かない的に当てるだけなら、すぐにできるようになると思う」
勇者「そっか。そういや狩人ちゃんの弓って変わってるな。なんでそんなにグニャグニャ曲がってるんだ?」
狩人「この方が強い」
勇者「ふーん。武器屋にこういう弓も売ってるかな」
魔法使い「たぶん普通のしか無いと思うわ」
勇者「そっか。まあ普通のでいいや」
武器屋「初心者でも扱いやすい弓か。まああるにはあるけど」
勇者「あまり攻撃力は無い?」
武器屋「そうだな。攻撃力が高い弓は引くだけじゃなくて引いた状態を保持するのにも力がいるからな」
僧侶「たしかに腕がプルプル震えてたら狙いをつけにくそうだねっ」
魔法使い「だったらクロスボウにすればいいんじゃない?」
武器屋「クロスボウか。確かに狙いをつけるのに力は要らないし、地面に伏せた体勢でも使えたりとか、利点も多いんだが」
勇者「だが?」
武器屋「あまりおすすめはできないかな。大規模な集団戦ならともかく、あんたらのような少人数のパーティではね」
魔法使い「発射するのに時間がかかって使い勝手が悪い、と?」
武器屋「そういうことだな。ま、普通の弓の方が扱いに熟練を要するから、一長一短ってところではあるが」
勇者「ふーん。じゃあどうしよう、やっぱり普通の弓か」
武器屋「ああ、そういえば……」
勇者「ん?」
武器屋「たまに遊びに来る発明好きの姉ちゃんが変わった弓を作ってたな。個人で使うならああいうのもいいかもしれん」
勇者「へえ、面白そうだな。どんなの?」
武器屋「口で説明するより現物を見せてもらった方が早いな。譲ってもらえるかはわからんが、行ってみたらどうだ?」
魔法使い「そんな人いたっけ? あたしも知ってる人?」
武器屋「ああ、魔法使いちゃんは知らないだろうな。わりと最近になってから移り住んできた人だから」
僧侶「最近になってから……怪しい……」
武器屋「最近と言っても数年前くらいだよ」
勇者「ああ、そういえば、忘れるところだった。なあ、最近、見慣れないやつが武器買いに来なかった?」
武器屋「いや、あんたら以外に余所者は来てないな」
勇者「そっか。じゃあ、その発明家のお姉さんとやらのところに行ってみるか。場所はどのあたり?」
武器屋「魔法使いちゃんなら知ってると思うが、福引所のとこの坂を上ってった先に家があるだろ。そこに住んでる筈だ」
魔法使い「知ってるも何も、そこあたしが前に住んでた家だわ」
武器屋「そうだったっけ。ああそうそう、魔法使いちゃんの一家が村を出た後、空いた家にあの兄妹が引っ越してきたんだっけか」
魔法使い「ふーん、あの家にね。じゃ、そろそろ行くわ。いろいろありがとね」
武器屋「おう、またいつでも遊びに来てくれな」
勇者「いい人だったな。黙って自分のとこの弓を売った方が儲かるだろうに」
魔法使い「まあ、あたしの知り合いだしね」
勇者「あの坂の上かな?」
魔法使い「そうよ」
僧侶「あそこに誘拐犯の隠れ家が……」
勇者「いや違うから。たぶん」
魔法使い「家が見えてきたわ。懐かしいわね」
勇者「あ、すごい美人というほどでもないけどそこそこ綺麗な女の人がいる。あの人がそうかな?」
魔法使い「こんにちは」
女「はい、こんにちは。なんかちょっと失礼な発言が聞こえてきたような気がしますけど、たぶん気のせいですよね」
勇者「たぶん気のせいです。武器屋のおっさんから聞いてきたんだけど、あなたが発明家のお姉さん?」
女「いえ、発明家ではないですね、わたしは」
勇者「ありゃ、人違いか。道を間違えたのかな?」
魔法使い「自分が住んでた家を間違えるわけないでしょ」
女「ん? 前にここに住んでた方ですか?」
魔法使い「そうだけど、ここに来たのはそのこととは全然まったく何の関係もないわ」
女「ふむ。武器屋さんの紹介と仰いましたね。でしたら心当たりがあります。立ち話も何ですから、中へどうぞ」
女「お茶を淹れますから、ちょっと待っててくださいね」
勇者「いえ、おかまいなく」
女「あ、そうだ。みなさんスイカはお好きですか?」
魔法使い「うん、好きよ」
僧侶「あたしも好きー」
勇者「スイカってなんだ?」
狩人「わたしも好き」
魔法使い「でもなんで? くれるの? 季節外れだと思うけど」
女「ちょっと待ってください。今、ひとりだけ返答がおかしい人がいました」
勇者「誰だ?」
魔法使い「あんたよ」
僧侶「勇者くん、スイカ知らないの?」
勇者「知らない。スイカ? 何それ? おいしいの?」
僧侶「うん、おいしいよ……」
勇者「あ、食べ物なんだ」
僧侶「あー……どっちかというと庶民的な食べ物だし、勇者くんは食べたことないかもねっ」
女「その人、王子様かなんかですか?」
勇者「うん、俺、王子だよ」
女「そうですか。じゃ、裏の井戸で冷やしてあるスイカを取りに行きますから、王子さんは手伝ってください」
勇者「あれ、信じてない?」
女「信じないこともないですけどね。お忍びで旅行中といったところですか。あ、お嬢さん方はそのまま座ってお待ちください」
勇者「ひょっとしてあまりいい印象持たれてない? なんか気に障るようなこと言ったかな」
女「いえ、そんなことはないです。わたし、あなたのようなそこそこかっこいい男の子は好きですよ。さ、行きましょう」
勇者「この紐を引っ張ればいいの?」
女「ええ。それを下に引けば井戸からスイカが上がってきますから」
勇者「ふーん。あ、これ滑車ってやつか。便利なもんだな」カラカラ
女「ええ、便利ですよね滑車って。発明した人はとても賢い人だったんでしょうね」
勇者「あ、ひょっとしてお姉さんが滑車を発明したの?」
女「失礼ですね。そんな歳に見えるんですか? 滑車なんてわたしが産まれるよりずっと前からありますよ」
勇者「ありゃ、違ったか。ごめんなさい」
女「というか、わたしは発明家じゃないって言ったじゃないですか」
勇者「そうだっけ。お、上がってきた。これがスイカか。絵本で見たことあるような気がする」
女「では戻りましょうか。落とさないように気をつけてくださいね。割れちゃいますから」
勇者「はいはい。けっこう重いなこれ」
女「ほとんど水分ですからね」
勇者「発明家じゃないとすると、お姉さんは何なの?」
女「あとで、お嬢さん方もいるところで説明しますよ」
勇者「商人?」シャクシャク
商人「はい。と言っても兄の手伝いをしてるだけで、なかば趣味のようなものですけどね」
魔法使い「ふーん。それでこういう季節外れのスイカとか、珍しいものが手に入るってわけね」シャクシャク
商人「まあそんなところです」
狩人「おいしい」シャクシャク
勇者「うん、うまいなこれ。じゃあ、どっかに店を持ってんの?」
商人「いえ、店は持ってないです。卸売り専門ですから」
勇者「卸売りってなんだ?」
商人「えっと、商売の仕組みを1から説明した方がいいんですかね?」
勇者「あーいや、めんどくさいからそれはいいや。そのうち自分で勉強しとくよ。今日はお兄さんは?」
商人「仕事中ですね。わたしは、サボリです」
勇者「ふーん。ところで俺達ってここに何しに来たんだっけ」
魔法使い「弓でしょ?」
勇者「そうだった。武器屋のおっさんが、面白い弓があるって言ってたんだけど」
商人「ええ、ありますよ。わたしが作りました」
僧侶「商人ちゃんが作ったの? 発明家じゃなくて商人なのに?」
商人「武器を作るのが趣味なんです。っていうかちゃんづけですか。別にいいですけど」
勇者「20代なかばくらいの人みたいだし、商人さんって呼んだ方がいいんじゃないか」
商人「おっと、これは藪蛇でしたね。わたし、17を過ぎてからは歳とるのやめてますから商人ちゃんでもいいですよ」
魔法使い「でも、お兄さんも商人なら呼び名がかぶっちゃうわね。なんて呼べばいいのかしら」
商人「いえ、普通に名前で呼んでいただければ。そういえば皆さん、親しそうなのになんで職種で呼び合ってるんです?」
狩人「スイカのお姉さんと呼べばいい」
商人「スルーですか。いや、それはやめてください。なんか巨乳キャラみたいじゃないですか。まあ小さくはないですけど」
僧侶「うーん、商人ちゃんは商人ちゃんで、お兄ちゃんの方をお兄ちゃんって呼べばいいんじゃないかなっ」
商人「ちなみにわたしの名前、メアリーっていうんですけど」
魔法使い「僧侶ちゃんがお兄ちゃんって呼んだらあのホモ兄貴と区別がつかないじゃない」
商人「またスルーされちゃいました。聞こえてないんですかね。えっと、わたしの姿は見えてますか?」
狩人「商売男さんと商売女さん」
商人「やめてください。意味が変わってきちゃいます。それなら男商人と女商人でいいじゃないですか。わざとですか」
勇者「そんなことより商人さん、よかったらその弓、見せてくれないか」
商人「あ、結局そこに落ち着きましたか。まあ何でもいいですけど。ええ、じゃ、お見せしますから隣の部屋へどうぞ」
魔法使い「ここは前に書庫にしてた部屋ね」
商人「今はわたしの趣味の部屋にさせてもらってます」
僧侶「わあ、武器がいっぱいあるねっ」
商人「あくまでも個人的な趣味ですから、実用性があるかどうかは怪しいものですけどね」
勇者「いろいろあるけど、剣が多いな」
商人「ええ、武器なら何でも好きですけど、中でも特に剣が好きですね」
勇者「なんで剣が好きなの?」
商人「特に深い理由は無いですけど、強いて言えば、技が多彩なところですかね」
勇者「まあ確かに」
商人「例えば弓の場合、突き詰めて言えば狙って当てる、それだけですよね。そこが面白いところでもあるとは思うんですけど」
勇者「うん」
商人「剣の場合は基本的な攻撃動作だけでもその軌道は様々ですし、更には敵の攻撃を捌いたり、間合いを詰めたり離したり」
勇者「うんうん」
商人「槍とかと比べてもリーチが短い分、使い手の技量の比重が高くなる傾向がありますよね。そこに魅力を感じます」
勇者「なるほど」
商人「なんて、素人が本物の剣士さんを相手に語っちゃって恥ずかしいですね。“神に説教”って感じですか」
勇者「いや、俺も剣士であることに多少の誇りは持ってるから、そんな風に言ってもらえるのは嬉しいよ」
商人「そうですか。よかったです」
魔法使い「使い手の優劣に因るところが大きいのがいいと言うなら、武器を持つことすら不要な魔法使いに勝るものはないけどね」
商人「それはそうですけど、わたしの趣味は武器を作ることなので、その範疇での好みに理由付けするなら、ということです」
僧侶「あっ、この剣、面白いねっ。持つところがすごく長いよ」
商人「ああ、それは長巻ですね」
勇者「長巻?」
商人「ええ。遠い過去の時代に、異世界で使われていた武器です。これは古い文献を基に再現したレプリカです」
勇者「へえ、異世界の武器か」
商人「はるか遠い昔、今よりも魔法の研究が盛んだった時代には、異世界への扉を開く魔法もあったという話はご存知ですか?」
勇者「うん。俺の爺さんも異世界の武器を使ったことあるって言ってた。古いものだったからすぐ壊れちゃったらしいけど」
僧侶「でもそれで悪いやつをやっつけたんだよね、あたしたちのお爺ちゃん」
商人「? こちらの方も?」
勇者「ああ、うん、俺の従妹だよ」
商人「つまり、王女様ということになるんですかね? そうとは知らず、失礼しました」
僧侶「えへへ、今は一般人として扱ってくれていいよ~」
魔法使い「今更だけど、こんなに気軽に王子だ王女だと名乗っちゃっていいのかしらね」
勇者「なるべく隠しといた方がいいのかもな。でも商人さんはいい人そうだから大丈夫だろ」
商人「そういっていただけると光栄ですね。さて、古い文献を基に再現してみた武器は他にもありまして」
勇者「それが件の弓ってこと?」
商人「はい、正解です。ですからわたしが発明したわけではありません。では、こちらのドアから次の部屋へどうぞ」
魔法使い「そこは倉庫にしていた広い部屋ね」
商人「先程は剣と比べると面白味に欠けるような言い方しちゃいましたけど、弓は弓で面白いんですよね。これがそうです」
狩人「変な弓」
勇者「……あ、これ滑車か」
商人「はい。偏芯滑車を使った高性能な弓です。コンパウンドボウといいます。先程の長巻よりかなり後の時代のものですね」
魔法使い「随分と複雑な構造ね。こんなの実戦で使えるの?」
商人「仰る通り、複雑すぎて耐久性や整備性、量産性に欠けるので、弓兵の制式装備にできるようなものではないと思います」
勇者「冒険者の個人的な装備としては?」
商人「どうですかね。ちょっと重すぎるような気もしますけど、使えないこともないんじゃないですか」
狩人「射てみてもいい?」
商人「いいですよ。試射用の巻藁がそこにありますから、どうぞ」
狩人「まず自分の弓で」ビシュッ ズバーン!
勇者「うお、巻藁を貫通して後ろの板に刺さっちまった」
商人「ああ、その板は矢が逸れても壁を傷つけないようにと置いたものですからご心配なく」
狩人「次はこっちの変な弓で」ビシュッ ズボッ!
勇者「貫通はしなかったな。巻藁に完全に潜り込んだくらいか」
僧侶「反対側から矢のさきっちょが飛び出してるよ。狩人ちゃんの程じゃないけどけっこうすごいねっ」
商人「わたしでもなんとか引ける程度に作ってありますからね。まあそんなもんです」
勇者「ふーん。狩人ちゃん、どうだった?」
狩人「すっごい楽」
勇者「へえ。まあ狩人ちゃんの力なら大抵の弓は楽なんだろうけど」
狩人「違う。引いたときの感覚が普通の弓とはあきらかに別物。これなら力が無くても扱える筈」
魔法使い「面白そうね。あたしでも引けるかな? やってみていい?」
勇者「やめたといた方がいいぞ。魔法使いちゃんじゃどこに矢が飛んでくかわからん」
魔法使い「うるさいわね。矢は番えないで引いてみるだけよ。それならあたしにもできるでしょ?」
狩人「たぶん」
魔法使い「じゃあ、ちょっと貸して。よいしょっ……んっ……」
勇者「引けてないじゃん」
魔法使い「うるさ……んふっ……んぎいいっ……」
僧侶「魔法使いちゃんがんばれー」
魔法使い「んふううっ! んほおおおおっ!」
勇者「力みすぎてうんこ漏らすなよ」
魔法使い「はぁ、はぁ、はぁ……無理だわこれ」
狩人「思った以上に力が無かった」
商人「引き始めの重いところを過ぎれば楽なんですけどねえ、これ」
魔法使い「ふん。弓なんか引けなくてもいいのよあたしは。魔法の方がずっと強いんだから、こんなのいらないわ」
勇者「逆切れすんなよ。ま、俺なら充分使えそうだな。なあ商人さん、この弓、譲ってもらえないか?」
商人「んー、いいですけど、趣味で作っただけですから、あまり耐久性はないと思いますよ」
勇者「そっか。まあ壊れたら壊れたでいいや。この旅の間だけでももてば練習にはなるだろうし。商人さん、ありがとう」
商人「いや、ただでお譲りするとは言ってませんよ?」
勇者「ああうん、もちろん代金は払うよ。いくら出せばいいんだ?」
商人「そうですねえ、これは別にお金儲けのために作ったわけでもないですし、500Gほどいただければ」
魔法使い「そんなもんでいいの? 珍しいものなのに、随分安いわね」
商人「安いですか。じゃあ5000Gで」
勇者「ちょっ、余計なこと言うなよ! 高くなっちゃったじゃん!」
魔法使い「えっ? あ、ご、ごめん」
商人「いや、冗談ですよ?」
勇者「なんだ冗談か。よかった」
魔法使い「ちょっとやめてよ、本気にしちゃったじゃない」
商人「ふふっ、魔法使いさんってなんだか可愛いですね」
勇者「そうなんだよ。こう見えても意外と根は素直でいい子でさ」
魔法使い「褒められてる気がしないわ」
僧侶「これで勇者くんも遠距離攻撃ができるようになって戦力アップだねっ」
勇者「まだこれから練習しなきゃだけどな」
魔法使い「上手くなるまでは今まで通り狩人ちゃんとあたしを主戦力にすればいいわ」
勇者「よし、じゃあ、弓も手に入れたことだし」
狩人「わたしもそれ欲しい」
勇者「えっ」
商人「ひとつしか無いですよそれ」
勇者「えっと、じゃあ交換してやろうか?」
魔法使い「あんたのために使いやすい弓を求めて来たのに、それじゃ意味無いでしょ」
勇者「そっか、そうだな。悪いけど我慢してくれ」
狩人「わかった」
商人「時間がかかってもいいならもうひとつ作ってもいいんですけどね」
勇者「そうしてもらおうかな」
商人「でも熟練した人が使うのならシンプルな構造の武器の方が信頼性が高くて使い勝手がいいかもです」
狩人「わかった。わたしはこれでいい」
勇者「狩人ちゃんも素直でいい子だな。それにたまに見せる笑顔も素敵だし意外にお茶目なところも可愛らしいな」
狩人「照れる」
魔法使い「あたしより褒め言葉が多いわ」
勇者「じゃあそろそろ行くか」
僧侶「その前に商人さんにも聞いておこうよ」
勇者「ああそうか。商人さん、最近怪しいやつを見かけたとか、何か変わったことはなかった?」
商人「怪しい人ですか。確かに最近、そういう話は聞きますね。村の外から来てるみたいです」
勇者「どの辺りから来てるかわかる?」
商人「そこまでは。でも軽装らしいので、そう遠くではないようです。どこかに隠れ家でもあるんじゃないですか」
勇者「ふむ……方角だけでもわかればな」
商人「お役に立てなくてすみませんね」
勇者「いや全然そんなことは。来てよかったよ。いろいろありがとう」
商人「いえいえ、わたしも久しぶりに趣味について語りあえて楽しかったですよ。またいつでも遊びにいらしてください」
僧侶「うん、また今度スイカ食べに来るねっ」
商人「いえ、そういつもスイカがあるわけじゃないです。まあその時あるものを何かしらお出ししますけど」
勇者「商人さんもいい人だったな。この村はいい人ばかりだ」
魔法使い「あたしも含めてね」
僧侶「でも外から悪い人が来てるんだよね……」
勇者「どうしよう、手分けして聞き込みでもするか」
魔法使い「あんたの弓の練習は?」
勇者「それもしなきゃいけないんだけどな」
魔法使い「あんたは狩人ちゃんと弓の練習してれば? ここはあたしの地元だし、聞き込みは僧侶ちゃんと2人でもできるわ」
勇者「いいのか? 2人だけだと危ないかも」
魔法使い「あたしも僧侶ちゃんも強いから平気よ。むしろ狩人ちゃんをあんたと2人きりにする方が危険かもね」
勇者「別に変なことはしないよ。嫌われたくないもん」
狩人「わたしの方がするかもしれない」
勇者「大歓迎です」
魔法使い「狩人ちゃんも変な冗談はやめなさい。悪い影響受けてるんじゃないの?」
勇者「人は人と影響を受けあって成長していくものさ」
魔法使い「悪影響じゃ意味無いけどね。じゃ、夕方にまたこの場所で落ち合うわよ」
勇者「大丈夫だとは思うけど気をつけろよ。お菓子あげるからとか言われても知らない人にはついて行っちゃ駄目だぞ」
魔法使い「子供扱いすんなっ。僧侶ちゃん、行こ」
僧侶「むしろそういう怪しい人が現れてくれた方が目的が達成できちゃうねっ」
勇者「さて、また狩人ちゃんルートに入ったわけだが」
狩人「ルートとは?」
勇者「いや、なんでもない。気にしなくていいよ」
狩人「わたしの故郷には、『一石一鳥』という諺がある」
勇者「どういう意味?」
狩人「1つの石で狙うべきなのは1羽の鳥。同時に多くの目的を持つより、ひとつのことを確実に成し遂げた方がいいということ」
勇者「なるほど。弓の練習、誘拐犯の捜査、美少女3人同時攻略とかあれこれやるより、狩人ちゃんの攻略に専念しろと」
狩人「そこまでは言ってないけど」クス
勇者「じゃ、どういう意味で言ったんだ?」
狩人「『一兎を追う者は二兎を得る』という諺もある」
勇者「さっきのとは逆だな」
狩人「逆じゃない」
勇者「なんで?」
狩人「1匹の獲物を追うのに集中し確実にしとめることによって、次の獲物を狙う余裕ができる」
勇者「なるほど、さっきのと同じことを言ってるわけだな」
狩人「だいたい同じ」
勇者「つまり、どういうことだってばよ?」
狩人「なんとなく思い出しただけ。あなたにどうしろとか言うつもりはない」
勇者「うーん……剣も弓もなんて考えずに剣の腕を上げることに専念しろと言ってるようにも聞こえるなあ」
狩人「諺は絶対じゃないし、どうするかはあなたが決めればいい」
勇者「そうかもしれないけどな」
狩人「ごめんなさい。余計なことを言ってあなたを惑わせてしまった」
勇者「いや、思ったことは何でも言ってくれていいよ。情報の取捨選択を学ぶのも修行のうちだ」
勇者「どうだった?」
魔法使い「収穫は無くもないけど、微妙なところね」
勇者「少しは情報が得られたってことか」
魔法使い「うん。怪しいやつは西の方から来てる説と、南の方から来てる説の二通り」
勇者「二方向に絞られたわけか。けっこう大きいんじゃないかそれ」
魔法使い「全員に聞いたわけじゃないし、明日も聞き込みをしてみるつもりだけど」
僧侶「明日になったら北から説とか東から説も出るかもしれないねっ」
勇者「それだと振り出しに戻っちまうな」
魔法使い「あんたの方はどうだったの?」
勇者「まあそれなりにな」
狩人「上達が早い。見直した」
勇者「惚れ直した? まいったな///」
狩人「それも少しあるかも」クスッ
勇者「えっマジで?」
狩人「……」ニコ
魔法使い「えっなにそれ? あんたたち今日1日でそんなに仲良くなったの? なんで?」
勇者「別に今日1日でってわけじゃないけど」
魔法使い「いやでも出会ってからそんな経ってないわよね? なんでそんないい雰囲気になってるわけ? ありえなくない?」
勇者「落ち着け魔法使いちゃん。別につきあってるとかじゃないよ。ただもうほとんど夫婦に近いくらい意気投合してるだけで」
狩人「そこまでは行ってない」
魔法使い「狩人ちゃん、本当のところどうなのよ?」
狩人「本当のところは、好感を持っているくらいの感じ」
魔法使い「ふーん。別にいいけど、狩人ちゃんって異性に対してあんまり免疫が無いんだから、急ぎすぎちゃ駄目よ」
勇者「魔法使いちゃんはあるんだ? 免疫」
魔法使い「そういえば無いわねあたしも。って茶化さないでよ」
勇者「というか一番免疫が無いのは俺のような気もするけどね」
魔法使い「なんか心配だわ。そんな浮ついた気持ちで大丈夫なのかしら」
狩人「練習はとても真剣にやってた」
勇者「そのうち成果を見せてやるよ」
魔法使い「……一応ちゃんとやってはいるみたいね」
僧侶「女の子にかっこいいとこ見せたいーって思って頑張ってるんじゃないかな」
勇者「確かにそれがモチベーションの源になってる感はあるな。僧侶ちゃんはよくわかってるな」
僧侶「親戚だからわかるのかな?」
勇者「うむ、勇者の血を引く者同士、何か通じるものがあるようだ」
魔法使い「そんな大層なものじゃないような気がするわ」
魔法使い「さて、今日もあんたたちリア充チームとあたしたち喪女チームに分かれて活動開始ね」
勇者「僻みっぽい言い方すんなよ」
狩人「リア充、とは?」
勇者「俺にもわからん。とりあえず流しとけ。なあ魔法使いちゃん、もう村の外に調査に行ってみてもよくないか?」
魔法使い「西と南の二手に分かれて?」
勇者「うん。分散して村から出るのはちょっと危険かもしれないけど、やばそうなら無理しないで引き返してくればいいだろ」
僧侶「午前中は西、午後は南みたいに固まって行動する手もあるねっ」
魔法使い「往復の時間を考えるとそれじゃあまり遠くまで行けないわね」
僧侶「じゃあ、今日は西で明日は南とか」
勇者「できればあまり時間をかけずに早めに解決しちまいたいんだよな。また被害者が出ないうちに」
魔法使い「たしかにそれはあるわね」
勇者「じゃあまた二手に分かれよう。チーム分けはどうする?」
魔法使い「あんたは狩人ちゃんといっしょがいいんでしょ?」
勇者「いや……そういうのは抜きにして、真面目に編成を考えようよ」
僧侶「勇者くんも遠距離攻撃ができるようになったから、編成の自由度が増してるねっ」
勇者「まだ付け焼刃もいいところだけどな。ゆっくり時間をかけて射るだけならまだしも素早い連射なんて無理だし」
魔法使い「だったらやっぱりあたしと狩人ちゃんは別のチームに分かれて、あんたか僧侶ちゃんのどちらかと組むことになるわ」
僧侶「むー、勇者くんとは別かあ。あたしのターンはなかなか回ってこないね」
勇者「最初にフラグへし折っちゃったしな」
僧侶「まあいいよ。あたしはあたしで魔法使いちゃんと百合フラグでも立てるから、勇者くんは勇者くんでがんばってねっ」
勇者「おいやめろ。兄妹揃って同性愛に走られたら王家の後継者がいなくなるだろ」
魔法使い「なんかやっぱりあんたたちって性格似てるわよね。勇者の子孫ってみんなこんなんなのかしら」
勇者「んじゃまあ、いつも同じ組み合わせというのも何だし、今回は俺と魔法使いちゃん、狩人ちゃんと僧侶ちゃんで組むか」
魔法使い「あんたがそれでいいって言うならそれでいいけど」
勇者「よし、行くか。俺たちは西な」
僧侶「あたしと狩人ちゃんは南だね」
勇者「狩人ちゃんは強いから大丈夫だと思うけど、慎重にな。無理はするなよ」
狩人「わかった。あなたも気をつけて」
勇者「無事に帰って来れたら結婚しよう」
狩人「それはまだ早い」
勇者「死亡フラグも回避されたことだし、出発しようか」
魔法使い「相変わらず緊張感が無いわね。余裕があるとも言えるけど」
勇者「向こうは僧侶ちゃんがいるけど、俺たちは回復手段が無いからダメージを受けないように気をつけないとな」
魔法使い「初歩的な回復魔法ならあたしも少しは使えなくもないわよ。でもその前に攻撃魔法で吹っ飛ばしてやるから」
勇者「攻撃は最大の防御ってやつか。頼もしいな。でも魔物相手ならともかく誘拐犯は人間だし、なるべく殺したくはないな」
魔法使い「そうね。相手の全貌もわかってないからいろいろ吐かせたいしね」
勇者「隠れ家とかありそうな場所に心当たりはないか?」
魔法使い「そうね……たぶん、水があるところの近くじゃないかしら」
勇者「なるほど。それはどのあたりだ?」
魔法使い「川が流れてるのは、向こうの方ね」
勇者「よし、行ってみるか」
魔法使い「……正直に言うとね」
勇者「うん?」
魔法使い「あんたや狩人ちゃんの気持ちもわかるのよね」
勇者「どういうこと?」
魔法使い「やっぱり、なんていうか……異性と親しく接するのって、楽しいわよね。浮かれ気味になるのもわかるわ」
勇者「ああ、うん。えっ、魔法使いちゃんにもそういう相手いるの?」
魔法使い「あたしは魔法一筋でやってきたから今までそういう相手はいなかったけど。でもあんたと話してるとなんか楽しいわ」
勇者「俺のこと好きなの?」
魔法使い「嫌いではないわね」
勇者「好きというほどでもないってことか。でも楽しいんだ?」
魔法使い「あんたはどうなのよ。こうしてあたしといっしょにいる時って」
勇者「うん、楽しいよ」
魔法使い「そう、よかったわ。まあそれと同じような感じよ」
勇者「いや、同じではないだろ? 俺、魔法使いちゃん大好きだぞ」
魔法使い「節操がないわね。女の子に向かって大好きだなんて軽々しく言うもんじゃないわ」
勇者「でもほんとだよ」
魔法使い「あたしが大好きなら、狩人ちゃんは何なのよ」
勇者「狩人ちゃんは第一夫人だな」
魔法使い「なにそれ」
勇者「魔法使いちゃんは第三夫人かな」
魔法使い「一夫多妻を目指してるのはわかったけど、なんであたしが第三なのよ」
勇者「間に僧侶ちゃんがいるからな」
魔法使い「あたしが一番下ってことね。ふーん」
勇者「いや、一番ガードが堅そうだからってだけで、順位に深い意味はないよ」
魔法使い「ふん、勝手に言ってなさい」
勇者「怒った?」
魔法使い「別に」
勇者(22)
魔法使い(17)
僧侶(15)
狩人(18)
勇者「魔法使いちゃんって思ったよりまともだよな。最初は変な奴かと思ってたけど」
魔法使い「あれは……あたしもちょっと舞い上がってたというか、変なテンションになってたのよ」
勇者「報酬の高い仕事だから?」
魔法使い「報酬も悪くはないけど、そんなことより、あたしもやっぱり冒険の旅への憧れみたいなものがあってね」
勇者「うん、わかるよ。俺もそうだし、たぶん他の2人もな」
魔法使い「今までの努力の成果を発揮してみたいって気持ちが強かったのよね。それは今でも同じだけど」
勇者「なんか期待してたより地味な旅になっちゃって悪かったな」
魔法使い「あたしが勝手に期待してただけだから。それにまだこれからどうなるかわかんないでしょ」
勇者「そうだな」
魔法使い「ふふっ」
勇者「何だ?」
魔法使い「あんたは思ったより変な奴だったわ。最初はもっとまともかと思ってたけど」
勇者「……人間ってある程度つきあってみないとわからんもんだな」
魔法使い「ほんとにね。でもまあ、嫌いじゃないわ」
勇者「そっか。よかった」
勇者「あれ、前から人が歩いてくる。村の人かな」
魔法使い「……?(誰よアイツ……見ない顔ね……)」
勇者「知らない奴か?」
魔法使い「知らないわ。なんか奇妙な装飾の杖を持ってるわね。気をつけて、魔法を使ってくるかもしれない」
男「おう、何だお前ら? こんな所で何をしてる?」
魔法使い「……攻撃魔法の射程距離内に入ったわ」ヒソヒソ
勇者「通りすがりの冒険者だ。あんた、向こうから歩いてきたようだけど、この先には何があるんだ?」
男「ああ、何もねえよ。こっちには何も無い。引き返しな」
勇者「そうか、何も無いのか。何かあるかと思って来てみたんだけどな。無駄足だったか」
魔法使い「どうする?」ヒソ
勇者「怪しいな。捕まえて何か吐かせたいところだけど」ヒソヒソ
魔法使い「いったん引き返して他の2人と合流した方が……」ヒソヒソ
勇者「そうだな……逃げられちまうかもしれないけど、ここは慎重に」ヒソヒソ
魔法使い「そうね、何も無いのなら引き返すわ。教えてくれてありがとうね」
男「あー、ちょっと待ちな」
勇者「なんだ?」
男「その前に金目のものを置いていって貰おうか」
魔法使い「……あんた、盗賊?」
盗賊「盗賊ですが何か?」
勇者「ビンゴか?」ボソ
魔法使い「かもね」
盗賊「おら、さっさとしな。身ぐるみ全部とは言わねえ。おとなしく言うことを聞けば金も少しは残してやるよ」
勇者「ああ、金をやってもいいが、その前に聞きたいことがある」
盗賊「駄目だ。金を置いてさっさと消えな」
勇者「……変だな」
魔法使い「何が?」
勇者「魔法使いちゃんがいるのに金しか要求してこない。誘拐犯なら……」
魔法使い「あたしを捕らえて売り飛ばそうとする、とか?」
盗賊「おい、何をゴチャゴチャ言ってやがる」
魔法使い「どちらにしても、おとなしく従う義理も無いわね。……『火炎』!」
盗賊「うわっ、何だこの女、いきなり攻撃魔法ぶちかまそうとしてきやがった」
魔法使い「あ、あれ? 魔法が……『爆炎』!」
盗賊「無駄だぞ。つーか殺す気か。こえー女だな」
魔法使い「なんで!? なんで魔法が使えないの!?」
勇者「どういうことだ……?」
盗賊「『魔封じの杖』。こいつを持ってる限り、俺に魔法は通じねえよ」
魔法使い「なにそれ……そんな反則的なアイテムが……」
盗賊「さて、俺を殺そうとしたってことは、殺される覚悟もあるってことだよな?」
勇者「魔法が効かないなら……!」ビシュッ
盗賊「ふん」バシッ
勇者「矢を杖で払った!?」
盗賊「どうしても殺されたいらしいな。じゃあこっちからも行くぜ」ダッ
勇者「くっ……! 接近戦なら!」バッ スラリ
盗賊「おらぁ!」ビュッ! バキッ!
勇者「ぐっ……! 速いっ……! このっ!」ブンッ
盗賊「おっと」ヒラリ
魔法使い「なんで……雑魚っぽい奴だと思ったのに、こいつ、強い……!」
勇者「てやっ! おりゃあ!」ブンッ ブンッ
盗賊「遅い」バキッ! ドスッ!
勇者「このぉおおおっ!」ブンッ!!
盗賊「っと、危ねっ。そろそろ終わらせるか」ドスッ!!
魔法使い「勇者!!」
勇者「ぐ……う……」ドサッ
盗賊「……ふぅ。さっきのは危なかったな。けっこうやるじゃねえか。だが上手いだけだな。速さが足りない」
魔法使い「そんな……何なのよあんた……」
盗賊「盗賊だっつってんだろーが。杖持ってるからって魔法使いとでも思ったか? 甘ぇよ。人は見かけによらないってな」
勇者「……」
盗賊「あれ、殺しちまったかな? 悪く思うなよ、そいつが中途半端に強えもんだから手加減ができなくてな。はは」
魔法使い(魔法は使えないし、どうすれば……勇者が投げ捨てた弓……駄目、あたしの力じゃ引けない……)
盗賊「さて、こっちの姉ちゃんも痛い目にあわしとくか。文句はねえよな? そっちから先に手ぇ出したんだからな」
魔法使い「それは……あんたが金を出せとか……」
盗賊「だが殺そうとしたのは事実だよなあ? ま、その綺麗な顔がちっとばかし不細工になる程度で許してやるよ」
魔法使い「そんな……殺そうとまでは……」
勇者「待て……その娘に手を出すな……」
盗賊「おっと、生きてたか」
勇者「やるなら俺をやれ……その娘の分も俺が受けてやる」
盗賊「いいのか? 男には手加減しねぇぞ。つーかそれ以上やったらマジで死ぬぞお前」
魔法使い「駄目っ。駄目よそんなの!」
盗賊「じゃあどうすんだ? 喧嘩売られて黙って引き下がれってか? やだね。許して欲しけりゃ裸になって土下座でもしろよ」
魔法使い「そんな……」
盗賊「それも嫌なら、そうだな、やっぱりこの男殺しとくか。恨まれて仕返しにでも来られたらめんどくせえしな」
魔法使い「待って! やるわ。やるから」
勇者「魔法使いちゃん……やめろ……」
魔法使い「……」スルッ パサ
盗賊「全部脱げよ。下着もだ」
魔法使い「……全部脱いだわ。これで満足?」
盗賊「震えてるな。俺が怖いのか」
魔法使い「誰があんたなんか。寒いだけよ」
盗賊「気の強い女だな。気に入った。土下座はもういいからお前、服持ってついて来い。俺の女にしてやる」
魔法使い「なっ……」
盗賊「こういう気の強い女を屈服させてみたかったんだ。ほら、来いよ。たっぷり可愛がってやるから」
魔法使い「いやっ! 離してっ!」
勇者「やめろ……やめてくれ……その娘に酷いことしないでくれ……金なら出すから……」
盗賊「あ? 金だ? ふん、じゃあ10万G出しな」
勇者「……」
盗賊「どうした? この女なら10万くらいの価値はあるだろ」
勇者「……いや、5万くらい?」
魔法使い「ちょっと!」
盗賊「おいお前なに値切ってんだよ。立場わかってんのか?」
勇者「あ、いや……違うんだ。5万くらいしか持ち合わせが無いんだ。それで許してくれ」
盗賊「ふーん。……いや、駄目だ。俺が10万と言ったら10万だ。出せないならこの女は連れて行く」
勇者「……俺の剣もやる……10万どころじゃない価値がある筈だ」
盗賊「この剣か。……まあいいだろ」
勇者「そうか……よかった」
盗賊「いいか、わかってるだろうが一応言っとくぞ。ここでお前を殺して金も剣も女も全部奪うことだってできるんだからな」
勇者「わかってる……それはわかってる」
盗賊「負けた相手が俺のような優しい奴でよかったな。せいぜい神様にでも感謝しろ。仕返しとか考えるんじゃねえぞ」
勇者「ああ……すまない。感謝する」
盗賊「俺とここで会ったことも村の連中には言うなよ。じゃあな」スタスタ
魔法使い「……」
勇者「ぐ……情けねえな。体が動かない」
魔法使い「あいつがいなくなったから回復魔法を使えるはずだわ。待ってて、すぐに治してあげるから」
勇者「先に服を着ろよ。その後でいい」
魔法使い「馬鹿なことを言わないで。治療が先よ。本当に重傷だわ。あたしが連れて行かれてたらあんた死んでたわね」
勇者「……ごめん」
魔法使い「謝らないで。あたしだって……あたしの方が悪かったわ」
勇者「……」
魔法使い「これでとりあえずは大丈夫かしら……ごめんね、あたし回復魔法は得意じゃないから」
勇者「……」
魔法使い「大丈夫? えっ? 死なないでよ? これであんたが死んじゃったら、あたし……」
勇者「あ、いや、すまん。ちょっと見蕩れちまってた。魔法使いちゃんの体、綺麗だな」
魔法使い「なっ……馬鹿じゃないの!? あんたほんとに今の状況わかってる!?」
勇者「ごめん、ちょっと現実逃避してたかも」
魔法使い「服着るから向こうを向いてて」
勇者「もう見ちゃったから今更だけどな」
魔法使い「うるさい。こっち見んな」
勇者「……あんな見ず知らずの奴にまで裸見られて、恥ずかしい思いさせちまって悪かったな。ほんとにごめん」
魔法使い「もう済んだことだし、連れてかれてもっと酷いことをされるよりましだわ。あいつに感謝しようとは思わないけど」
勇者「あいつ、ほっといたら俺が死ぬのをわかってたから、魔法使いちゃんを連れてかなかったのかな」
魔法使い「……かもね。そうだとしたらそんなに悪い奴でもないのかもね」
勇者「誘拐犯とは関係なかったのかな……」
魔法使い「わからないわ」
勇者「……帰るか」
魔法使い「立てる?」
勇者「うん」
魔法使い「弓と矢を持ってあげるわ」
勇者「すまん」
魔法使い「気にしないで。回復魔法が完全じゃないから」
勇者「やべえフラフラする」
魔法使い「頑張って。僧侶ちゃんと合流できれば治してもらえるわ」
勇者「うん」
魔法使い「あっ。弓、壊れてる」
勇者「そっか。武器が無くなっちまったな」
魔法使い「あってもその体じゃ戦えないわよ。でも魔物が出たらあたしが護ってあげるから」
勇者「うん……ありがとう」
僧侶「はい、終わったよっ」
勇者「ありがとう、助かった」
狩人「無事に回復してよかった」
僧侶「大きい音が聞こえたから急いで来てみたら勇者くんが倒れてたからびっくりしたよー」
魔法使い「無理してここまで歩かせちゃったからね。攻撃魔法で音を出すことをもっと早く思いつけばよかったんだけど」
僧侶「たいへんだったねえ」
魔法使い「まったく、プライドがズタズタだわ。魔法を封じられて何もできなかったし、無様に命乞いまでするはめになって」
勇者「面目ない……そっちはどうだったんだ?」
僧侶「うん、なんか変な魔物がいっぱいいて、無理っぽかったから逃げ帰ってきちゃった」
狩人「あれはちょっときつい」
魔法使い「魔物が……?」
僧侶「あんなところに誘拐犯がいたとしても、魔物にやられちゃうんじゃないかな」
勇者「そうか……狩人ちゃんと僧侶ちゃんも危険な目にあわせちゃってたんだな。すまん。俺の判断が甘かった」
僧侶「勇者くんのせいじゃないよ」
勇者「いや、二手に分かれて戦力を分散させたのは失敗だった。事前に狩人ちゃんにも忠告されてたのにな」
僧侶「狩人ちゃんに?」
勇者「うん。同時に複数のことをやろうとしないでひとつのことに集中しろと。急ぎすぎてかえって遠回りをしちまった」
狩人「そこまで考えて言ったわけじゃない。気にしないで」
勇者「うん……。いろいろ反省点があるけど、何より駄目なところは剣であいつに負けたことかな。俺には他に取り柄が無いのに」
魔法使い「あんたはまだましよ。攻撃魔法を使えない相手なんてあたしはどう戦えばいいのよ」
勇者「相性ってもんがあるからな……あんな反則的アイテムを持ってる奴以外との戦闘で頑張ってくれればいいよ」
僧侶「とにかく頑張って修行して今より強くなるしかないねっ」
魔法使い「これからどうするの?」
勇者「剣と金が無くなっちゃったからいったん国に帰るよ。で、もう一度出直す」
魔法使い「そうね……」
勇者「まず壊れた弓を商人さんに返して、それから来た道を引き返そう」
僧侶「じゃああたしの国のお城で誘拐事件のことをお父さんに相談してみようかな」
勇者「そうだな。それから俺の国に戻って」
僧侶「あ、あたしはその間、自分の国にいていい?」
勇者「ん? まあいいけど。さすがにあの辺りの道なら人数が減っても危険なことは無いだろうしな」
僧侶「その間にあたしも修行しとくよ。お兄ちゃんとかに手伝ってもらって」
勇者「そっか。じゃあ俺も再出発前に1週間でもいいから時間を貰って鍛えなおそうかな」
魔法使い「1週間程度でどこまで変わるのかは知らないけど、やらないよりましかしらね」
勇者「俺に足りないのは速さだってわかったから、基礎から鍛えなおそう。狩人ちゃん、よかったらつきあってくれないか」
狩人「告白されてしまった///」
魔法使い「つきあってくれってそういう意味じゃないわ」
勇者「魔法使いちゃんもつきあってくれ」
魔法使い「あたしも? 剣の修行に?」
勇者「いや、結婚を前提として。第三夫人だけど」
魔法使い「……ふふっ。あんたが世界一の剣士になれたら考えなくもないわ」
勇者「マジで? うわぁ頑張ろう」
僧侶「さっきは凹んでたけど、勇者くんも魔法使いちゃんも元気が出てきたねっ」
勇者「ああ。いつまでも落ち込んでられないからな。俺達の戦いはこれからだ」
僧侶「あたしのターンが回ってくるのもこれからかな?」
商人「これなら簡単に修理できますから、今日中にでもお渡しできますよ」
勇者「あーいや、もう弓はいいや。まずは剣の方を極めないと」
商人「そうですか。あまりお役に立てなくてすいませんね」
勇者「いや、初歩レベルとはいえ弓も使えるようになったんだからいい経験にはなったよ」
商人「ええまあ、何事も経験しておいて無駄にはならないかもしれませんね」
勇者「『新しい武器を手に入れてパワーアップだぜ!』なんて浮かれてたのが今となっては恥ずかしいけどね」
商人「ふふっ。そういうパワーアップイベントは普通、強敵に負けた後とかにあるもんですよ」
勇者「ありゃ、順序が逆だったか。はは」
商人「もしよければ弓のかわりに、わたしが作った剣を持っていってもらってもかまいませんよ」
勇者「いいの? そりゃ助かるな。剣も金も無くなっちゃったからな」
商人「あまりたいしたものではありませんけどね。新しい剣を手に入れるまでの繋ぎにでも」
勇者「たいしたものではないのか。パワーアップイベントじゃないんだな」
商人「趣味で作ってるだけですからね」
勇者「俺が選んでもいい?」
商人「ええ、勇者さんが使いやすいものをどうぞ」
勇者「これかな」
商人「ごく普通の剣ですね」
勇者「まあ基本に忠実にな」
商人「では、お嬢さん方のところへ戻りましょうか」
勇者「うん」
商人さん「魔法使いさん、気丈に振舞ってはいますけど、内心はかなり傷ついてるかもしれませんね」
勇者「そうだな」
商人「優しくしてあげてください」
勇者「うん、そうする。いろいろありがとう。商人さんってほんといい人だな」
商人「いえいえ、王子様や王女様と仲良くしておいて損は無いですからね。それだけです」
僧侶「狩人ちゃん、イチゴおいしいねっ」
狩人「おいしい」モグモグ
王子「妹の修行につきあえと。ええ、短期間ならかまいませんよ」
勇者「忙しいのに、悪いな。あと誘拐事件のことも」
王子「そちらは父の方から手を回して村の警備を強化することになると思いますから、大丈夫でしょう」
勇者「そっか、よかった。んじゃそろそろ行くわ」
王子「もう発たれるのですか? よろしければ城の浴場で旅の疲れを癒していかれては」
勇者「ありがたい申し出だが、お前にガン見されながら入浴してもかえって精神的疲労が増すからな」
王子「心外ですね。純粋な善意でお勧めしたのですが」 チッ
勇者「おいお前今舌打ちしたな?」
王子「さて、なんのことでしょう」
僧侶「じゃああたしは久しぶりにお兄ちゃんといっしょにお風呂に入ろっかなっ」
勇者「じゃあ俺も」
魔法使い「駄目よ。ほら、行くわよ」
僧侶「また迎えに来てねー。お兄ちゃん、お風呂入ろっ」
王子「もう子供じゃないんだからひとりで入りなさい」
僧侶「ええー」
勇者「惜しかったなあ。僧侶ちゃんの裸見れるチャンスだったのに」
魔法使い「いやらしいわね。男ってみんなこうなのかしら」
勇者「うん、だいたいみんなこんなもんだと思うよ」
魔法使い「ふーん。ならしょうがないのかもね」
勇者「そうそう。だから魔法使いちゃん、後でいっしょにお風呂に入ろう」
魔法使い「あたしの裸はもう見たからいいでしょ」
勇者「何度でも見たい」
魔法使い「嫌よ。っていうかあんなことがあった後なんだから、あたしに気を使ってそういう発言は慎みなさいよ」
勇者「いや、変に気を使うのもかえってよくないかと思ってな」
魔法使い「それはまあ、腫れ物に触るような扱いされるのも嫌だけど」
狩人「むしろ何度も裸を見せまくればいい。そうすればたいしたことじゃなかったと思えるようになる」
勇者「なるほど。さすが狩人ちゃん、素晴らしいアイディアだ」
魔法使い「素晴らしくないわよ。そんなに見たいなら狩人ちゃんに見せてもらえば?」
狩人「恥ずかしいから嫌」
勇者「嫌だってさ」
魔法使い「そう。だったら諦めなさい。っていうか自分は嫌なことをあたしに勧めてたのね」
狩人「所詮は他人事」
勇者「そういうクールなところもいいなあ」
魔法使い「えっなに、狩人ちゃんの言うことは全肯定なの?」
勇者「そうだが?」
魔法使い「いくら好きだからといっても、そういうの、狩人ちゃんのためにもならないと思うけど」
勇者「そうか、駄目なところは駄目とビシッと言わなきゃな」
魔法使い「イエスマンな男なんて、魅力を感じないわよ。少なくともあたしはそう」
勇者「なるほど、勉強になるな。じゃあさっそく魔法使いちゃんの駄目なところを指摘してやろう」
魔法使い「なんであたしなのよ。まあいいけど」
勇者「うーん、いや、無いな」
魔法使い「結論早っ。いや無いなら無いで別にいいけど」
勇者「あんな献身的な姿見せられちゃうとなあ。もう惚れずにはいられないよ」
魔法使い「相変わらず無節操ね。複数の目的を同時に持つのは駄目なんじゃなかったの?」
勇者「それを言われるとなあ。じゃあもう、今はどちらとも愛を育むのを中断して強くなることに専念しようかなー」チラッ
魔法使い「そう言われるとちょっと惜しい気もしちゃうあたり、あたしもちょっと毒されてきてるのかしら」
狩人「わたしの故郷には『朱に交われば朱色になる』という諺がある」
勇者「そんな感じだな。こっちには『類は友を呼ぶ』ってのもあるぞ」
魔法使い「それはちょっと違うんじゃない?」
勇者「そうかな。でも萌え萌え美少女をウリにした傭兵なんて、惚れさせる気満々だろ」
狩人「これは痛いところを突かれた」
魔法使い「痛くないわよ。別に雇い主と恋愛関係になるところまで業務に含まれてるわけじゃないんだから」
勇者「ふーん。まあ何でもいいや。今はもう傭兵と雇い主とかじゃなくて、大事な仲間だと思ってるからな」
狩人「では仲間としてひとつ要望が」
勇者「おう、なんでも言ってくれ」
狩人「わたしは弓の方はもうあまり伸びしろが無いと思うので剣の訓練をしたい」
勇者「ああ、いいよ。確かにもう弓はほとんど極めちゃってるだろうしな。素早い狩人ちゃんと稽古すれば俺の鍛錬にもなるだろ」
魔法使い「あたしは……やっぱり、魔法一筋で行くしかないわね」
勇者「力が全然無いもんなあ。頑張って世界一の魔法使いを目指してくれ」
……
……
……
勇者「さて、短い間の鍛錬だったけど少しは強くなったような気もするし、張り切って出発しよう」
魔法使い「あたしは魔力のキャパシティが少々上がった程度かしら」
狩人「わたしは剣の扱いが少し上手くなった。勇者から剣も譲り受けた」
勇者「商人さんから貰ったその剣、個人的な趣味で作ったわりにはけっこうよくできてるよな」
狩人「軽くて扱いやすい」
勇者「軽……くはないような気もするけどまあ軽いか。狩人ちゃんの感覚なら」
魔法使い「あんたも王様から新しい剣貰えてよかったわね。今度は無くさないように気をつけないとね」
勇者「うん、前のは試作品だったけどこれは完成版だからな。ぶっちゃけ勇者の俺よりこの剣の方が貴重なものだったりする」
魔法使い「ふーん。あたしには剣のことはよくわからないけど、量産できるようなものじゃないってことかしら」
勇者「そうだよ。だから万一俺が死ぬようなことがあっても、この剣だけは何としても持ち帰ってくれ」
魔法使い「……その剣だけを持って王様や王妃様の所に行く役目はちょっときつそうね。そうならないようにして頂戴」
勇者「うん。魔法使いちゃんに救ってもらったこの命、無駄にはしないよ」
僧侶「勇者くん、久しぶりだねっ」
勇者「おお、僧侶ちゃん。会いたかったぜ」ギュウ
僧侶「わっ、いきなり抱きしめたりして、勇者くんどうしたの? 会えない時間が愛を育てちゃったのっ?」
勇者「いや、僧侶ちゃんが相手なら少々セクハラまがいのことをしても親戚同士のスキンシップで済まされることに気づいてな」
僧侶「なるほどっ。じゃああたしも親戚同士のスキンシップにみせかけて勇者くんにセクハラするよっ」
勇者「おい尻を撫でるな。まさか兄貴の方が変化の杖かなんかで僧侶ちゃんに化けてるんじゃないだろうな」
僧侶「うへへ、ばれちゃいましたか。さあ僕といっしょにお風呂に入りましょうか」
勇者「おいやめろ。いや、中身があいつでも見た目が僧侶ちゃんならアリといえばアリか?」
魔法使い「馬鹿やってないでさっさと行くわよ。僧侶ちゃんも変なノリにつきあわなくていいから」
僧侶「はーい。勇者くん行こっ」
勇者「ああ。……ほんとに僧侶ちゃんだよね?」
僧侶「あはっ、あの鏡に映したら正体を現すかもねー」
勇者「……一応試しておこう。あれどこにしまったかな」ゴソゴソ
勇者「僧侶ちゃんはどんな修行を?」
僧侶「主に攻撃魔法だねっ」
勇者「攻撃魔法?」
僧侶「うん。あたしって勇者の子孫だから、本来なら武器も魔法も使えなきゃいけないんだけどさ、」
勇者「耳が痛いな」
僧侶「武器はあんまり得意じゃないから、せめて魔法は回復も攻撃もできるようになりたいなって」
勇者「ふむ……狩人ちゃんの弓と同じで、回復魔法を既に高いレベルでマスターしてるのなら次のステップに進むのもアリか」
僧侶「勇者くんは?」
勇者「俺はまだ剣を頑張ってる途中。次のステップに進むのはまだ先だな。で、成果の程は?」
僧侶「頑張ってはみたんだけど、期間が短かったからねー。まだ実戦で使えるようなレベルじゃないねっ」
勇者「そっか。魔法って難しそうだしな」
僧侶「ちょっと残念だけど、続きはこの旅が終わってからまたやることにするよ」
魔法使い「そうね。攻撃魔法も使えるに越したことはないけど、僧侶ちゃんの魔力は回復のために温存しておきたいし」
僧侶「攻撃魔法って難しいねえ。でも魔力を効率よく使う練習にはなったから、無駄ではなかったかな」
魔法使い「あたしには回復魔法の方が難しく思えるわ。魔法の種類によっても適性の違いがあるってことね」
僧侶「また誘拐事件の捜査するの?」
勇者「うん。村の警備を強化してもらった筈だから新たな被害者は出てないと思うけど、犯人が捕まったという話も聞いてないし」
僧侶「捕まったんならあたしのところに報せが来るはずだから、まだだね」
魔法使い「今度は4人揃って調査に行くわけね」
勇者「うん。で、たぶんだけどさ、西の方はハズレだと思うんだ」
魔法使い「たしかにあの盗賊は人攫いって感じではなかったわね。成り行きで連れて行かれそうになったけど結局は開放されたし」
僧侶「南の魔物がいる方なのかな?」
勇者「魔物を手懐けて隠れ家を護らせてるとかな」
魔法使い「あるいは、逆に魔物が人間を使役してる可能性もあるわ」
勇者「魔物相手なら思う存分暴れられるな」
魔法使い「前回の鬱憤晴らしも兼ねて攻撃魔法で吹き飛ばしてやるわ」
勇者「よし、頑張ろう。改めて約束するよ。もう二度と魔法使いちゃんを泣かせるようなことはしない」
魔法使い「前回も別に泣いてはいないわよ」
勇者「そうだっけ。辛い目にあったのによく泣かずに我慢したな。魔法使いちゃんは強い子だ。偉いぞ」
魔法使い「子供扱いされてるみたいで嫌だからそういう言い方はやめて」
勇者「いやいや、ほんとに偉かったぞ。ほら、ご褒美に飴やるよ」
魔法使い「やめてってば。飴はもらうけど」
狩人「わたしも欲しい」
僧侶「あっ、あたしもー」
勇者「よしよし、みんないい子だな。ほら、おいしい飴だよー」
魔法使い「シリアスムードが台無しだわ。あたしたちってなんでこうなるのかしら」コロコロ
勇者「いいんじゃね? 似合わないんだよ、そういうの」
魔法使い「……かもね」
商人「ええ、あの後は誘拐事件は起きてません」
魔法使い「そう、よかった……とも言い切れないのが辛いとこね。既にさらわれてしまった被害者のことを考えると」
商人「そうですね。殺されたか売られたか……でも助け出せる可能性も無くなってはいません。希望を捨てるのはまだ早いですよ」
魔法使い「身代金の要求とかも無いらしいから、こっちから探し出して乗り込むしかないのよね」
商人「王様の計らいで警備士の方に巡回していただいてるのは助かりますけど、村の外の捜査にまでは手が回らないですし」
魔法使い「だからといって他を手薄にしてまでこの村に人員を割くことも要求できないからね」
商人「この小さい村にしては大事件ですけど、人口の多い中央の街の治安維持に比べたら瑣末な問題でしょうしね」
勇者「ま、そこで俺達の出番ってわけだ。なんか伝説の勇者の子孫にしてはやることのスケールが小さい気もするけど」
商人「ふふ、まだ修行中の身ですからね。小さなことからコツコツと、です」
勇者「で、その半人前の勇者を助けるために、商人さんがなんかいいアイテムを授けてくれちゃったりするのかな?」
商人「おや、弓や剣を格安でお譲りしただけではご不満ですか。半人前の未熟者なのに贅沢な方ですね」
勇者「いや、勿論感謝してるよ。いつか恩返しをしなきゃな」
商人「村のために戦っていただくだけで充分お釣りが来ますよ。でも、そう都合よく便利なアイテムが出てくると思います?」
勇者「無いっすか」
商人「まあ、あるんですけどね」
勇者「えっあるの? どんなの?」
商人「勇者さんではなく、魔法使いさんにです」
魔法使い「あたしに? あたしは武器は使えないわよ」
商人「わたしが趣味で作ったものではなくて、買い取ったものです。ですから少々値が張りますけど、それでもよければ」
魔法使い「いくら?」
商人「そうですねえ。本来なら10万G程いただいてもいいくらいの価値があるものですが」
魔法使い「あたしと同じ値段だわ」
商人「はい?」
魔法使い「どこかの誰かは5万に値切ろうとしてたけど」ジト
勇者「それしか持ってなかったんです勘弁してください」
商人「よくわかりませんけどスルーしときましょうかね。まあお金の話より先に現物をお見せしましょうか。これです」
魔法使い「指輪?」
商人「はい、指輪ですね。『祈りの指輪』というマジックアイテムです」
勇者「なんかすごい効果があんの?」
商人「ええ。これは異世界の武器の模造品なんかと違って正真正銘、過去の高度な魔法技術そのものによって作られてますからね」
魔法使い「で、これをはめるとどうなるの?」
商人「これをはめて祈りを捧げると指輪にチャージされている魔力が流れ込み、使用者の魔力が回復します」
魔法使い「へえ……凄いじゃない」
商人「ただし中古品なのでこの指輪にどの程度魔力が残っているかはわかりません」
勇者「じゃあ、ちょっと使っただけで空になっちまうかもしれないのか。再チャージとかは?」
商人「できません。正確に言うと本来はできるのかもしれないですけど、その方法がわかりません」
魔法使い「ふむ……というかまったく残ってない可能性もあるんじゃないの?」
商人「いえ、魔力を使い果たしたら砕け散る筈ですから」
勇者「賭けだなあ、これ。賭け金はいくら?」
商人「そうですねえ。まあこれは昔は大量生産されていたらしくて、そう珍しいものでもないですし」
勇者「じゃあ安いのかな」
商人「とはいえ今後は徐々に数が減っていくわけで、投機目的で買う人が増えれば価格が跳ね上がる可能性が高いですし」
勇者「じゃあ高いのかな」
商人「でも将来的に魔法技術の進歩によって再び同等のものが作れるようになれば、価値が暴落する可能性もありまして」
魔法使い「安くしといて。あたしもう3日間何も食べてないくらい貧乏だから」
商人「嘘ですよねそれ。まあでも、お友達価格ということで1000Gでいいですよ」
勇者「そんなもんでいいの? 安すぎない?」
商人「じゃあ1万で」
魔法使い「ちょっと! 弓の時のしかえしのつもり!? あれはあたし、悪気はなかったんだからね!」
勇者「ははっ、冗談だよ」
商人「魔力がフルチャージされたままの状態で残されてた可能性も無いわけじゃないですからね。お買い得ですよ」
勇者「本来なら10万なんだろ? めっちゃお買い得じゃん」
商人「いえ、それも冗談ですよ? そんな高いわけないじゃないですか。少々吹っかけても3000Gくらいのもんですよ」
勇者「ありゃ、騙された」
商人「さすがに王子様ともなるとちょろいですね。カップ麺の値段とか知らないでしょう」
勇者「まずカップ麺が何だかわからん」
商人「旅人用の携帯食料ですよ。カップの中に乾燥させた麺と……ってそんなことはどうでもいいですね。指輪の話しましょう」
僧侶「勇者くんは世間知らずだから詐欺師に騙されないように気をつけなきゃねー」
魔法使い「あれ、僧侶ちゃんいたの?」
僧侶「いつのまにかあたし影の薄いキャラになってる!?」
勇者「さっきからブドウ食べるのに夢中でひとことも喋ってなかったからな」
僧侶「えへへ、狩人ちゃん、おいしいね」
狩人「おいしい」モグモグ
魔法使い「うーん……1000か……」
商人「おや、迷ってますね」
魔法使い「迷ってるっていうか……あたし、1000Gも持ってないわ」
勇者「俺の護衛の契約で前金貰っただろ?」
魔法使い「その前金が1000Gだったのよ。で、もういくらか使っちゃったから」
勇者「安っ! 俺の命安っ! えっ、俺、そんなもんなの!?」
魔法使い「いや、その1000Gは旅の支度金みたいなもので、成功報酬は10000Gだけど」
勇者「それでも3人分合わせて33000か。魔法使いちゃんの1/3の値段なんだな俺の命って」
商人「えっと、話進めていいですかね」
勇者「あっはいすいません。いや、1000Gくらい俺が払うよ」
魔法使い「いいの? じゃあ成功報酬が入ったら返すわ」
勇者「そんなんいいって。あ、でもこの指輪を買ってあげるのに深い意味は無いよ。婚約指輪は後でまた別のを贈るから」
魔法使い「まだ誰もあんたと婚約するとは言ってないでしょ。指輪は貰うけど」
勇者「だめだよ指輪貰うなら婚約だよ」
商人「縁談を進めてるとこ邪魔して悪いですけど、こちらの話も進めてもらっていいですかね?」
勇者「あっはいすいません買います」
商人「一応言っときますけど、この値段だとわたしは赤字なんですからね。すぐ壊れちゃっても恨まないでくださいね」
勇者「それは勿論。ところで今日はお兄さんは?」
商人「仕事中ですね」
勇者「いつ来ても商人さんは家にいてお兄さんはいないんだな」
商人「いやいやいや、人をヒキニートかなんかみたいに言うのはやめてください。たまたまです。わたしだって仕事してます」
勇者「なんだそうか。遊んでるだけかと思ってた」
商人「というかわたしは趣味の合間に仕事も家事もちゃんとやってるんですから、むしろ褒められてもいいくらいです」
勇者「趣味がメインなんだ……」
商人「まあ仕事の方もなかば趣味でやってるわけなんですけど、家事は真面目にやってますからいいお嫁さんになれますよわたし」
勇者「ふむ、第四夫人の候補としてリストに入れておくか」
商人「ええまあ、賞味期限あまり残ってないですけどそれでもよければお安くしときますよ」
勇者「商人さんは親切だよなあ」テクテク
僧侶「親切すぎて怪しい……味方と見せかけて実は黒幕かも……あるいは商人さんのお兄さんがラスボスとか……」
勇者「いやそれは無いって。あんないい人を疑うなよ」
僧侶「勇者くん、捜査に私情は禁物だよっ」
勇者「そりゃそうだろうけど」
魔法使い「ひょっとしたら武器屋のおじさんや村娘ちゃんとかも犯人の一味だったりしてね」
僧侶「むっ。それはありそうだねっ。村ぐるみの犯行とかね。邪神の祟りと称して毎年誰か1人が死に、1人が消えるとか……」
勇者「それだと魔法使いちゃんも怪しいってことにならないか?」
僧侶「犯人の1人が何食わぬ顔であたしたちの中に潜り込んでるとか……あり得る……」
魔法使い「ちょっとやめてよ。あたしは犯人じゃないからね」
勇者「今自首すればまだ罪は軽くて済むぞ」
魔法使い「違うってば」
勇者「正直に白状しないとおっぱい揉むぞ」
魔法使い「ふん、やれるもんならやってみれば? そんな度胸無いくせに」
勇者「いや、あるよ」モミッ
魔法使い「ひゃあっ!?」
僧侶「うわあ、勇者くんやらしー」
魔法使い「このっ……!」ゲシッ
勇者「ふぐっ!?」
僧侶「わっ、勇者くん大丈夫!?」
魔法使い「ふん、当然の報いよ」
勇者「ぐ……うう……」
僧侶「いや、魔法使いちゃん、そこは駄目だよ……」
魔法使い「えっなに、そんなに痛いの?」
僧侶「何があってもそこだけは絶対に攻撃しちゃ駄目ってお兄ちゃんが言ってた……」
魔法使い「え……ご、ごめん、あたし知らなかったから」
狩人「潰れたかもしれない」
魔法使い「どうしよう……これで勇者の血筋が途絶えちゃったら、あたし……」
僧侶「あたしもいるから途絶えないけどね」
魔法使い「暢気なこと言ってないで早く回復魔法かけてあげてっ」
僧侶「むー、こんな形であたしの活躍の場が来るとは思わなかったよ」
勇者「いや、大丈夫……大丈夫だから……」
魔法使い「ほんとに大丈夫なの? ごめんね、そんなに痛いだなんてあたし知らなくて」
勇者「いや、今のは俺も悪かった」
魔法使い「……そうよ、元はと言えばあんたが悪いんじゃない」
勇者「売り言葉に買い言葉ってやつで、つい、な。俺けっこう負けず嫌いだから」
魔法使い「っていうかあんた狩人ちゃんには絶対そんなことしないでしょ」
狩人「されたことない」
勇者「まあ確かに、言うだけならともかく体に触ったりするのはな。キャラ的に魔法使いちゃんの方がやりやすいというか」
狩人「少し羨ましい気もする」
勇者「えっ狩人ちゃんにもやっていいの?」
狩人「潰れてもよければ」
勇者「マジで潰れそうだからやめとこう」
僧侶「ねーねー勇者くん、あたしはー?」
勇者「なんか胸とか触っても『ん? なに?』みたいな感じでほとんどノーリアクションで返されそうだよな僧侶ちゃんは」
僧侶「じゃあちょっと触ってみて」
勇者「いいの?」
僧侶「うん」
勇者「えいっ」ツン
僧侶「いやん///」
勇者「可愛いー!!」
魔法使い「そこのアホ2人、いつまでもアホなことやってないでさっさと行くわよ」
僧侶「むー、勇者くんのせいであたしまでアホキャラ扱いになってきちゃったよ」
勇者「類は友を呼ぶってやつだろ」
魔法使い「いい加減真面目にやりなさいっ」
勇者「ん、そうだな。ここからはシリアスモードで行こう」
僧侶「いつまで続くかな?」
狩人「敵」
勇者「お、なんか変なのが2体いるな。まだこっちに気づいてないみたいだ。そこの木の陰に隠れて様子を見よう」
魔法使い「見たことのない魔物ね。人形みたいな……」
僧侶「前に狩人ちゃんといっしょに見たのはあれと同じやつだよっ。その時はもっといっぱいいたけど」
魔法使い「たぶんゴーレムの一種ね。主の命令に従って魔法で動く人形よ」
勇者「つまり命令してるやつがいるってことか」
魔法使い「そうね。一度命令すればずっとその通りに動き続けるから、命令したやつが近くにいるとは限らないけど」
勇者「んじゃまあ、倒して先に進むとするか」
魔法使い「おそらく胴体の中心辺りに動力源の魔力の塊がある筈だから、そこを狙って」
勇者「それって狩人ちゃんの弓で破壊できるようなものなのか?」
魔法使い「魔力そのものに矢でダメージを与えることはできないけど、魔力を封入してる器のようなものがある筈だから」
僧侶「魔法使いちゃんが持ってる指輪みたいなもんだねっ」
魔法使い「もっと大きいものだと思うけどね」
勇者「2体いるけど、狩人ちゃん、やれるか?」
狩人「たぶん」
魔法使い「あたしの魔法ならまとめて吹き飛ばせるけど」
勇者「あまり大きい音を出したくないからな。魔法使いちゃんの出番はもうちょっと後だ」
魔法使い「そうね。敵の本拠地をつきとめてから思う存分暴れることにするわ」
勇者「弓で駄目だったら剣で切り刻んでやろう。よし、狩人ちゃん、やってくれ」
狩人「……」コク
ヒューン ドスッ ヒューン ドスッ
ドサッ ドサッ
勇者「お見事。意外とあっさり倒せたな」
僧侶「一応とどめさしておくねっ」
僧侶「前はもっといっぱいいたんだけどなあ」テクテク
勇者「ふむ……どういうことだろう」
魔法使い「さっきは気づかれる前に一方的に倒せたけど、一度にたくさん来られたら4人いてもけっこう厄介かもしれないわね」
勇者「とにかく先に……おっ、なんか建物が見えてきた」
魔法使い「こんな所にこんな建物が……?」
勇者「前は無かったのか?」
魔法使い「見たことも聞いたことも無かったわ。いつの間にこんな……教会みたいな……?」
僧侶「教会とは違う……なんか、禍々しい雰囲気を感じるよ」
勇者「邪教……か?」
魔法使い「建物の周囲に人の気配は無いようね」
勇者「中にいるかもしれないな。扉の所まで行って中の様子を窺ってみるか」
魔法使い「見える? 誰かいる?」
勇者「いる。ローブを纏った怪しげな奴が数人……」
僧侶「邪教徒だね、たぶん」
勇者「祭壇みたいのがあって、邪神像っぽい感じのでっかい石像があって、その前に、あれは……祈祷師?」
魔法使い「教祖かなんかじゃない?」
勇者「かもな。どうする? 突入するか」
狩人「待って」
勇者「なんだ?」
狩人「囲まれた」
僧侶「人形たちが!」
勇者「うわっいっぱいいる」
魔法使い「いつの間に……あたし達がここに来ることが事前に察知されてた?」
僧侶「来る途中どこかから監視されてたのかも……」
勇者「やべえな」
魔法使い「囲みを突破するか、いっそ建物の中に突っ込むか……」
勇者「前者の方がリスクは低そうだな」
魔法使い「攻撃魔法は?」
勇者「まだ使うな。狩人ちゃん、やるぞ」
狩人「弓と矢を持ってて」
魔法使い「うん」
勇者「よしっ、行くぞっ」ダッ
狩人「……」タタッ
勇者「とりゃあ!」ブンッ!
狩人「はっ!」ビュッ!
ブンッ! バシッ! バキッ! ドスッ!
勇者「よし、行けるぞっ」
狩人「道が開いた」
魔法使い「僧侶ちゃん、行くわよっ」タタッ
僧侶「うんっ」タタタ
勇者「さて、退路は確保したわけだが」
魔法使い「あたしたちと建物の間に人形の群れが……」
僧侶「あっ、扉が開いて中から人が出てきたよっ」
邪教徒「……」ゾロゾロ
勇者「……こうなっちまったらもう腹を括るしか無いな」
祈祷師「破壊神に刃向かおうとする愚か者共か」
勇者「破壊神……だと……?」
祈祷師「貴様らがどう足掻こうとも破壊神の御降臨は止められないのだよ」
勇者「何言ってんだこいつ……? やべえ会話が噛み合いそうな気がまったくしねえ」
祈祷師「間も無く我が神は御降臨される。貴様らのような愚か者共の血肉でも供物として捧げればお喜びになろう」
勇者「供物……生贄ってことか……? こいつら、攫った人達を……!」
祈祷師「踊れ」
カタ カタ カタ カタカタ カタカタカタカタカタカタ…
勇者「何だ? 人形達が……」
魔法使い「なにこれ!? 魔力が……!」
僧侶「魔力が吸い取られる……!?」
魔法使い「人間が持ってる魔力を吸い取って動力源にしてるの!?」
勇者「何だって……おい、攻撃魔法だ! 吸い尽くされる前に使っちまえ!」
魔法使い「わ、わかったわ。『爆裂』!!」
ドガァン!!
魔法使い「『爆炎』!!」
ボウンッ!!
魔法使い「駄目だわ、もう魔力が」
勇者「いや充分だ。あとは俺達がやる」
狩人「……」コク
勇者「うりゃああ!」ザシュッ!
狩人「……ふっ!」ザンッ!
魔法使い「そうだ、指輪を」
勇者「まだ使うな! 他にも人形が残ってるかもしれん!」ブンッ ザシュッ!
邪教徒「……」ザザッ
勇者「くっ、人間か」
狩人「躊躇してられる状況じゃない。割り切って」
勇者「仕方ないか……!」
ザンッ! ズバッ!
祈祷師「ぐぬ……これほどとは……貴様ら、何者だ!」
勇者「ただの新米冒険者(修行中)と、名も無い傭兵だ! ただし超優秀で萌え萌えな美少女のな!」
祈祷師「くっ……馬鹿にしおって……!」ダッ
僧侶「あっ、建物の中に逃げ込むよっ」
勇者「逃げ場の無い建物の中に……? 追うぞ!」
魔法使い「何か策があるのかもしれないわ。気をつけて」
勇者「観念しろ! もう逃げ場は無いぞ!」
祈祷師「くくく……もう勝ったとでも思っているのか……?」
勇者「無駄な抵抗はやめろ。降参して罪を償え」
祈祷師「罪? 罪だと? 償うのは貴様らの方だ。……目覚めよ! 人間の村を、街を、破壊しつくせ!」
ズズズズズズズズ……
勇者「なっ……」
祈祷師「邪魔する者はすべて殺せ! くはははははは!!」
魔法使い「邪神像が!!」
僧侶「う、動き出したよ!?」
ズシン ズシン
祈祷師「はははははははははははははは!!!」
ズシン ブンッ!!
祈祷師「ぐびゃっ!!」
勇者「うお、石像が祈祷師を殴り殺しやがった……」
魔法使い「ちょっ、これ、洒落にならないわ。建物の外に逃げてっ」タタッ
勇者「はぁ、はぁ……まさか……破壊神が降臨した……?」
魔法使い「はぁ、はぁ、はぁ……違うと思うわ……ゴーレムよ、あれも」
勇者「あのでっかいのが……」
バキッグシャッ! ガラガラッ! ズシン ズシン
僧侶「建物から出てきて歩いてくよっ!」
魔法使い「命令されたからね。村や街を破壊し尽くせと」
勇者「……超やべえじゃん」
僧侶「あの祈祷師まで殺すなんて……まるで、破壊神そのものだね……」
魔法使い「石像の進路に突っ立ってたからね。『邪魔するものはすべて殺せ』とも言ってたから」
勇者「命令した主人を殺しちまったってことは、どうなるんだ?」
魔法使い「さあ……すべての村や街を破壊しつくすまで止まらない、とか」
勇者「完全に破壊神じゃん」
僧侶「魔法使いちゃんの村が壊されちゃうよ……どうするの?」
魔法使い「どうするって、それは……」
勇者「止めるしか無いな……俺達で」
盗賊「あれ、何やってんだお前ら」ヒョイ
勇者「お前は!」
魔法使い「あの時の盗賊!」
盗賊「おいおい、仲間を連れて仕返しに来たってのか? 今度は容赦しないぜ?」
勇者「そんなんじゃないよ。あれ見てみ」
盗賊「……石像だな」
勇者「うん。石像だ」
盗賊「なんで動いてんだ?」
勇者「えっと、詳しい説明は省くけど、あれ止めないと村が破壊されちまうんだ」
盗賊「へえ。迷惑な話だな」
勇者「まったくだな」
魔法使い「ちょっと、のんびり話し込んでる場合じゃないわよ!」
勇者「そうだった。なあ魔法使いちゃん、あれもゴーレムなんだよな」
魔法使い「そうよ」
勇者「ちょうどいいや。盗賊、お前あれ止めるの手伝え」
盗賊「なんで俺が」
勇者「あれ魔法で動いてるんだろ? 止められるんじゃないか? お前が持ってる『魔封じの杖』なら」
盗賊「うーん……」
勇者「なあ、やってくれよ。村が破壊されたらお前も稼げなくなって困るだろ」
盗賊「いや、俺がここにいるのは、大きい街の方で仕事した後、ほとぼりが冷めるのを待ってるだけだから、別にそんな困らんよ」
勇者「そっか……いや、そう言わずに頼むよ。村が破壊しつくされたら次はまた別の村か街がやられちまうんだぜ」
盗賊「なるほど、それは困るな」
勇者「だろ」
盗賊「いや、でもなあ。俺まだ死にたくねえし。お前らがなんとかしろよ」
勇者「お前俺より強いんだから大丈夫だろ」
盗賊「うーん……でもたぶん無理だぜ。攻撃魔法なんかを封じるようにはいかねえよ。あれを動かしてる魔法とは原理が違う」
勇者「そうなのか? 魔法使いちゃん」
魔法使い「たしかに、魔法技術の性質がまったく違うわね。少なくとも杖を持って近づく程度じゃ無理だと思うわ」
勇者「そうか……でも一応やってみてくれよ。どうしても嫌なら杖を貸してくれるだけでもいい。後でちゃんと返すから」
魔法使い「時間の無駄よ。そんな悪党が手助けしてくれるわけないわ」
盗賊「悪党か。違えねえけど、これでも俺は優しい方なんだがなあ」
勇者「じゃあ頼むよ」
盗賊「ふん。まあいいや、一度手に入れたもんを他人に貸すのも嫌だしな。でもあんま期待すんなよ」
勇者「やってくれるのか」
盗賊「ああ、俺は優しい盗賊だからな。それに」チラ
魔法使い「?」
盗賊「そっちの姉ちゃんには綺麗なおっぱい見せてもらったしな」ニヤ
魔法使い「なっ……」
盗賊「じゃあ行ってくる」
勇者「駄目だったら俺達がなんとかするから、そのままどっかに行っちゃってくれ。お前がいると攻撃魔法使えないから」
盗賊「あいよ」タッタッタッ
魔法使い「……あたし、あいつ嫌い! 石像に潰されちゃえ!」
僧侶「ツンデレ?」
魔法使い「違うわよ!!」
勇者「フラグ立ちかねないシチュだよなあ。いや、それじゃNTR展開になっちゃうから俺が困るけど」
盗賊「おっと」ヒラリ
ブンッ! ブンッ!
盗賊「せーのっ」バッ 「おらぁ!!」ドコンッ!!
グラ ズシン ズシン
盗賊「でもそんなんじゃだーめっ、てか。まあしょうがねえな」
勇者「うお、杖で殴りつけたら石像がちょっとだけどよろめいた。やっぱすげえなあいつ」
僧侶「でも止まらないね……」
勇者「じゃあ、そうだな。魔法使いちゃん、指輪で魔力の回復だ」
魔法使い「うん……」パアアア
勇者「指輪の魔力が残ってたら僧侶ちゃんにも回してやって」
魔法使い「うん……」
勇者「なんだ、元気無いな」
魔法使い「うん……ちょっと、自信ない」
勇者「なんで?」
魔法使い「あたしの攻撃魔法じゃ、たぶんあの石像には……」
勇者「そんなのやってみないとわかんないだろ」
魔法使い「でも、あんな大きさのゴーレムじゃ、胴体の中心までダメージが通らない。それにたぶん、表面にも魔力の障壁が」
勇者「とにかくやってみようよ。凹むのは失敗してからでもいいだろ」
魔法使い「……そうね。わかった。やってみる」
勇者「よし、頑張れ」
魔法使い「いくわよっ」
盗賊「おーい、やっぱ駄目だったわ」タッタッタッ
魔法使い「なんで戻って来んのよ!!」
盗賊「いや、一応報告をだな」
魔法使い「そんなの見りゃわかるわよ! 今から攻撃魔法使うんだからさっさとどっか行っちゃって!!」
盗賊「へいへい。じゃあな」スタスタ
魔法使い「まったく、あいつ、何しに現れたのよ。時間の無駄なだけじゃない」
僧侶「フラグ折っちゃったね」
勇者「うん、よかったNTRにならなくて」
魔法使い「……言っとくけど、あんなの全然あたしの好みじゃないから。あれならあんたの方がずっと好きだわ」
勇者「えっマジで? やった」
魔法使い「好きといっても、あれよりはましってだけだからね。勘違いしないで」
勇者「はいはい」
魔法使い「そうよ。あたしに相応しい相手なんてそういるもんじゃないわ。あたしは世界一の魔法使いになるんだから」
ズシン ズシン
魔法使い「あたしを舐めるんじゃないわよ。あんなゴーレムなんか……『爆裂』!!」ドガァン!!
ズシン ズシン
魔法使い「このっ! 倒れろっ!『爆裂』!!」ドガァン!!
ズシン ズシン
魔法使い「倒れろっ! 倒れなさいよっ! 『爆裂』!!」ドガァン!!
ズシン ズシン
魔法使い「『爆裂』っ!!」ドガァン!! 「『爆裂』っ!!」ドガァン!!
ズシン ズシン
魔法使い「あんなっ……石像なんかっ……」
ズシン ズシン
魔法使い「あんな……うっ……ぐすっ……」ポロポロ
ズシン ズシン
勇者「お、おい、泣くなよ」
魔法使い「なんでよ……なんでこんなんばかりなのよ……」ポロポロ
勇者「泣くなって。強い子なんだろ?」
魔法使い「頑張ったのに……頑張ってきたのに……」ポロポロ
勇者「……そっか。悔しいよな。子供の頃から、遊びたいのも我慢してずっと努力してきたのに」
僧侶「魔法使いちゃん……」ギュ
勇者「魔法を封じられたり、魔力を吸い取られたり、攻撃魔法をまともに食らっても平気な敵が出てきちまったり」
魔法使い「ううう……!!」ポロポロ
勇者「期待に胸を膨らませて冒険の旅に出たのに、相性の悪い敵ばかり出てきちゃったらなあ」
僧侶「勇者くん、もうかなり村に近づいて来ちゃったよっ」
勇者「でもまあ、適材適所だ。ここは俺にまかせろ」
僧侶「勇者くんがやっつけるの?」
勇者「できるかどうかはわからんけど、なんとかするしかないだろ」
商人「なんとかなりますかね?」
勇者「うわっ! びっくりした。何してるんすか商人さん、こんなとこで」
商人「そっちが何してるんすか、ですよ。女の子泣かしちゃって」
勇者「ああ、うん。ちょっと、無力感味わわせちゃって」
商人「ふむ、それはなんとかしなきゃですね。男の子の役目ですね」
勇者「えっと、状況の説明は要る?」
商人「まあ見ればだいたいわかりますよ。ゆっくり説明してる時間も無さそうですし」
勇者「うん。で、商人さんがここに現れたってことは、なんか便利なアイテムでも持ってきてくれたとか?」
商人「残念ながら、そう都合よくはいきません。ただ単に通りかかっただけです。仕事中です」
勇者「ほんとに仕事してたんだ……」
僧侶「勇者くん、そんなこと話してる場合じゃないよっ。人形達が来たっ」
勇者「うわっ、まだ残ってたのか。こんな時に……」
ヒューン ドスッ
勇者「あれっ、誰かが人形を矢で倒してる。あれ誰だ? 持ってるのは……コンパウンドボウ」
商人「兄です」
勇者「ああ、あれが」
狩人「……」ビシュッ
勇者「よし、人形達はお兄さんと狩人ちゃんに任せていいな」
商人「わたしはお役に立てそうにないので見学してますね。便利なアイテムも無いですし」
勇者「ん。じゃあ自前のを使うとするか」
商人「ほう、自信有り気ですね。……その剣ですか?」
勇者「うん。自信は無いけどね。……おい、そろそろ目を覚ましてくれよ」コンコン
『う~ん、あと5分……』
勇者「駄目だ。時間が無いんだ」
『……まだ魔力のチャージが1割程度なんだけどなぁ』
勇者「けっこう時間かかんのな。まあしょうがないだろ。ほら、出番だ」
魔法使い「剣と、会話してる……?」
勇者「ああ。この旅の間にこいつを目覚めさせることになるとは思ってなかったけどな」
商人「ほほう、興味深いですね。武器マニアの血が騒ぎます」
勇者「……でもなんつーか、人間って無力なもんだよなあ。こういう武器とかに頼らないと、できることは多寡が知れてる」
商人「おっと、それは聞き捨てならないですね。その武器だって、人間の叡智の結晶でしょう?」
勇者「そっか。そうだな。無力なのは俺だけか。武器持ってない魔法使いちゃんだって俺なんかよりずっと凄いしな」
商人「まったく、そんな魔法使いさんを泣かせちゃったりする勇者さんは無力ですねえ」
勇者「ほんとにな。この剣使っても勝算は半々ってとこだろうし」
商人「無力な勇者さんはまあそんなもんでしょうけど。……僧侶さんなら、どうです?」
僧侶「勇者くん、もう村の近くまで……えっ、あたし?」
勇者「……はは、商人さんは凄いな。何でも知ってるんだな」
商人「いえ、なんとなく言ってみただけなんですけど、何か核心を突いちゃいましたか?」
勇者「どうだろな。僧侶ちゃん、指輪で魔力をチャージだ」
僧侶「えっ、う、うん」パアアア
勇者「一応できたんだろ? あれ」
僧侶「うん……でも、前にも言ったと思うけど、実戦で使えるレベルじゃ……あっ、指輪壊れちゃった」
勇者「あれ、壊れちゃったか。じゃあもう後が無いな。でも僧侶ちゃんならできるさ」
僧侶「あんまり威力無いと思うよ?」
勇者「ん、まあでも充分だろ。俺もこの剣でやるし」
僧侶「そっか、うん、あたしたちならできるねっ」
勇者「勇者だからな」
僧侶「うんっ」
勇者「狩人ちゃんと魔法使いちゃんも手伝ってくれ。俺のかっこいいとこ見せてやるから」
狩人「……」コク
魔法使い「……」
勇者「たぶん惚れ直すんじゃないかな」
魔法使い「……うん。見てる」
勇者「よし、じゃ、魔法使いちゃんはあいつの足止めのために、攻撃魔法で地面を掘り返してくれ」
魔法使い「わかったわ」
勇者「狩人ちゃんはその後、あいつの目の前でうろちょろして囮になってくれ。危険な役目だけど、狩人ちゃんならできるだろ」
狩人「余裕」
勇者「転ばないように気をつけろよ」
狩人「……慎重にやる」
勇者「僧侶ちゃん。自分のタイミングでいいからな。よく狙って、一発ぶちかましてやれ」
僧侶「うんっ」
ズシン ズシン
僧侶「もう村は目の前だね……」
勇者「おい、起きてるか? もう5分経ったぞ」
『10分って言わなかったっけ』
勇者「言ってない。ほら、もう限界だ」
『わかったよ。うん、いつでもいいよ』バチッ バチッ
商人「剣が光って、火花が……」
勇者「ああ。これこそ過去から現在までに至る、この世界の叡智の結晶――完成版『雷剣』。その真の力、本邦初公開だ」
魔法使い「『爆裂』! 『爆裂』! 『爆裂』!」ドガァン!! ドガァン!! ドガァン!!
狩人「……」タタタタッ
ブンッ!!
狩人「……ふっ!」ヒラリ
僧侶「すぅ……」パァァアアアア
商人「僧侶さんの体から光が……」
僧侶「…………」バチッ! バチバチッ!
僧侶「『雷撃』っ!!」
ドゴオオオン!!!
ビキッ!!
魔法使い「石像の表面に亀裂が!」
勇者「行くぞ雷剣!」
『あいよっ』バチバチッ
勇者「うおおおおおおっ!」タタタタッ バッ!
勇者「必殺! ライトニングスパーク!!」ガシュッ!!
ドッゴオオオオン!!!!
魔法使い「なにあれ……凄っ……」
商人「…………止まりましたね、石像」
勇者「ふっ。勝った」
僧侶「……」フラッ
魔法使い「僧侶ちゃん!」トサッ
勇者「どうした? 大丈夫か?」
魔法使い「急激な魔力の放出で眩暈を起こしたみたい。慣れない魔法を使うとたまにあるのよ。一時的なものだから大丈夫」
商人「しばらく安静にしておいた方がよさそうですね。わたしの馬車から毛布を」
商人兄「取ってくる」
商人「あ、兄さん。お願いします」
狩人「勇者」
勇者「おう、狩人ちゃん、お疲れ」
狩人「見てた。かっこよかった」
勇者「惚れ直した?」
狩人「……」コク
勇者「えっマジで?」
狩人「……」コク
勇者「じゃあキスしてくれよ」
狩人「恥ずかしい」
勇者「誰も見てないさ」
狩人「…………」チュ
勇者「やった」ニヘ
商人「まあ、見てるんですけどね」
魔法使い「……」
商人「魔法使いさんとかめっちゃ見てるんですけどね」
魔法使い「……」
商人「妬けちゃいますねえ」
魔法使い「……別に、あいつのことそこまで好きじゃないし」
商人「そうですか。わたしは好きですけどね。でもまだ子供っぽいというか、ちょっと思いやりに欠けるところがありますかね」
……
勇者「なんか今夜は興奮が冷めなくて眠れそうにないなあ。ちょっと夜風にあたりながら散歩でもするか」テクテク
魔法使い「……」ムスー
勇者「やあ魔法使いちゃん、どうしたんだそんなところで1人で物思いに耽ったりして」
魔法使い「……別に」
勇者「いやあ、今日は疲れたよなあ。明日は1日休養して、明後日になったら帰るとするか」
魔法使い「そうね」
勇者「修行の旅ももうすぐ終わりか。ま、それなりに収穫はあったかな」
魔法使い「そうね」
勇者「……えっと、ほら見て、綺麗な星空だよ」
魔法使い「そうね」
勇者「ほら、月も綺麗だ。まるで魔法使いちゃんのようだ」
魔法使い「あたしあんな丸顔じゃないわ」
勇者「……じゃあ、えっと、三日月くらいかな」
魔法使い「しゃくれてもいないわよ」
勇者「……何か言いたそうだな」
魔法使い「……そうね。言いたいことは山ほどあるわ」
勇者「言いなよ。全部聞いてやるよ」
魔法使い「あんたに愚痴ってもしょうがないし」
勇者「愚痴でもなんでも、言いたいことは言った方がすっきりすると思うぞ」
魔法使い「……」
勇者「……いや、まあ、次の機会に頑張ればいいじゃん」
魔法使い「次の機会っていつよ」
勇者「いや知らんけど」
魔法使い「……納得いかないわ……なんで回復だけじゃなくて攻撃魔法でも僧侶ちゃんの方が上みたいな感じになってるのよ」
勇者「いや、そんなことないから。敵と魔法の種類による相性の問題だからさ」
魔法使い「わかってるけど……だからこそ納得いかないというか」
勇者「まあ確かに、美味しいとこ持ってかれた感はあるよな」
魔法使い「あたしが努力の成果を発揮する機会って、この先あるのかしらね……」
勇者「あるさ、きっと。とか言いたいところだけど無責任なことも言えんしな。先のことはわかんないよ」
魔法使い「一生無いかもしれないのよね……」
勇者「おいおい、そんなネガティブになるなよ。魔法使いちゃんらしくないぞっ」
魔法使い「あたしらしさって、何?」
勇者「それは……そうだな、真面目で、素直で」
魔法使い「いい子?」
勇者「うん」
魔法使い「全然いい子じゃないわ。村娘ちゃんにすぐマント貸さなかったし」
勇者「そういうこともあったけど、俺のためにいろいろやってくれたじゃないか。時には命まで救ってくれて」
魔法使い「そんなこともあったわね」
勇者「あの時の献身的な姿は一生忘れないよ。うん、魔法使いちゃん、この旅に凄く貢献してるじゃん。落ち込む必要ないよ」
魔法使い「そうね……って、えっ、なに? あたしの一番の活躍の場って、裸になって無様に命乞いしたあの時ってこと?」
勇者「えっ、いや……そうなる……のか?」
魔法使い「納得いかないわよそんなの!」
勇者「いやでも、魔法使いちゃんのおかげでいい勉強になったよ。真の思いやりっていうのかな。ただ優しいだけじゃなくて」
魔法使い「……まあたしかに、あんたって相手を甘やかすばかりで、それを優しさと履き違えてるような感じがしたわ」
勇者「魔法使いちゃんがいたから気づけたんだ。相手が本当に必要としてることをしてあげなきゃ駄目なんだって」
魔法使い「……今もお世辞を言ってご機嫌をとろうとしてるだけのように見えるけど」
勇者「いや……そんなことは……」
魔法使い「でも、そうね。不器用で下手糞だけど、落ち込んでるあたしを慰めようとしてくれてるのよね。それは嬉しいわ」
勇者「そうか、よしじゃあ結婚しよう。今後は魔法使いちゃんが落ち込んだときはいつも傍にいて慰めてあげるぞ」
魔法使い「……じゃあそうしてもらおうかしら」
勇者「えっマジで? 結婚してくれるの?」
魔法使い「結婚は……んー、別に、してもしなくてもいいというか……まあ、子種だけくれればいいわ」
勇者「こ、子種!? 何言ってんの!?」
魔法使い「そうよ……あたしは魔法しか使えないからこんなことになったけど、あんたとの子供なら……」
勇者「両方の素質を受け継いで、魔法も剣も使える、魔法戦士に育てられる、とか?」
魔法使い「うん」
勇者「いやそれはどうだろう……俺だって、親父は剣も魔法も得意だけど、元戦士の母さんの方だけに似ちゃったからな……」
魔法使い「でもあんたと狩人ちゃんの子では魔法の適性がある可能性は低いけど、あたしの子なら両方いける確率は高いと思うわ」
僧侶「ねーねー、じゃああたしと勇者くんの子供は?」ヒョコ
勇者「僧侶ちゃん!?」
僧侶「勇者の血を引く者同士の組み合わせだよ。なんかすごく強そうだねっ」
魔法使い「また美味しいところを掻っ攫おうとしてる……!? 僧侶ちゃん……恐ろしい子……!」
僧侶「今までに両親が勇者の血を持ってた例ってあるのかな? ひょっとして史上最強の勇者が生まれたりとか!?」
魔法使い「くっ……負けないわよ! あたしの子の方が絶対強くなるんだから!」
勇者「なんなのこの争い。わけわかんない。親のエゴってやつ? まだ産まれてもいないのに?」
狩人「……」
勇者「あ、狩人ちゃん」
狩人「負けない……」グッ
勇者「対抗意識燃やしてるっ!?」
僧侶「なんてね、今は魔法使いちゃんのターンみたいだからね、引っ込んでおくよ。狩人ちゃん行こっ」
狩人「……」コク
勇者「あれ? もしかして親父が言ってた『次世代勇者育成計画』って俺の次の世代ってこと? これで計画通りってことなの?」
魔法使い「王様の思惑なんて知らないけど、何でもいいわよ。あんただってあたしと、その……できたら嬉しいでしょ」
勇者「魔法使いちゃんと……」ゴクリ
魔法使い「でも、体は奪えても心までは奪えないけどね」
勇者「まだ何かご不満があるんでしょうか」
魔法使い「だって、今のままのあんたじゃ、全部好きにはなれないもん」
勇者「何が足りないんでしょうか」
魔法使い「やっぱり男には覇気みたいなもんが無いとね。夢に向かってまっしぐらに突き進むような」
勇者「夢か。夢なら俺にもあるんだけどな」
魔法使い「どうせ一夫多妻でイチャコラ新婚生活とかそんなんでしょ」
勇者「いや、そんなんじゃないよ。もっと壮大な夢だ。子供の頃からの」
魔法使い「あの綺麗な星の世界を旅してみたいとか、そんな非現実的な空想は駄目よ」
勇者「それも違う。もう少し現実的だな。それでもちょっと前までは無理かなとか思ってたけど、今なら突き進めそうな気がする」
魔法使い「そう。だったら聞かせて。あんたの夢は何?」
勇者「うん。俺、国を作りたい。国を作って、親父や叔父さんにも負けないくらい立派な王になりたい」
魔法使い「作る? 建国するってこと? 王位を継ぐんじゃなくて?」
勇者「ああ。俺が作る、新しい国だ。もちろんひとりじゃそんなことは無理だけど、みんなにも協力してもらってさ」
魔法使い「みんなって、あたしたち3人のこと?」
勇者「他にも、商人さんとか、いろいろ。親父や叔父さんの支援もいるだろうし、多くの人に助力を求めることになるけど」
魔法使い「でも、その中心にいるのはあんたってことね」
勇者「うん。国をひとつ作って治めていくのは、大変なことだとはわかってる。でもやりたいんだ」
魔法使い「そう……面白いじゃない。乗ったわ。大丈夫、できるわ。人を集めて、それぞれの得意分野を生かして、協力しあえば」
勇者「適材適所ってやつだな。よし、やろう。これから忙しくなるな。何年かかるかわからないけど、必ず実現してみせる」
魔法使い「そうね、その夢が実現したら……その時は、あたしも自信を持って言えるかもしれない。あんたが好きって」
勇者「そうなったら嬉しいな。頑張ろう」
魔法使い「でもそれじゃ、今のあんたの国と僧侶ちゃんの国はどうなるのよ」
勇者「どうなるって?」
魔法使い「あんたと僧侶ちゃんが新しい国に行っちゃったら、あのホモ王子しか残らないじゃない。王家の血が途絶えちゃうわ」
勇者「それは、まあ、俺には3人も妻がいるわけで、俺達の子供達の誰かにそっちの王位を継いでもらえばいいんじゃないかな」
魔法使い「ふふっ、何それ。随分勝手な話ね。親のエゴだわ」
勇者「……まあ、なるようになるよ。考えなきゃいけないことは山ほどあるけど、ひとつずつ、確実に、乗り越えて行こう」
魔法使い「そうね。じゃあ、最初は何から手をつければいいかしら。とりあえず国の名前でも考えておく?」
勇者「うん、それはもう考えてある」
魔法使い「どんな名前? 教えて」
勇者「ムーンブルクって、どうかな」
魔法使い「ん、まあ、いいんじゃない?」
おわり
このSSはフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係ありません
ご愛読ご支援ありがとうございました
支援は本当にありがたかった
さるさんやべえな
この場を借りて前作を紹介しときます
今回はちょっと長くなっちゃったけど、これはもう少し短くまとまってて読みやすいと思うんで、気が向いたら読んでみてください
今回の話ともちょっと繋がってるっぽいような感じになってなす
勇者「一人旅の方が楽でいいよな」
勇者「一人旅の方が楽でいいよな」 - SSまとめ速報
(http://www.logsoku.com/r/news4vip/1334112204/)
では
ああ人形の件に関してはあれだ
すいませんでした
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