少女騎士「輝く想いは竜の唄」 (253)

これはいつかの夢の話
父と母が育んだ
二人が過ごしたずっと後
優しい声は母の唄……
煌めく風は父の唄……
輝く想いは私の唄……

まだ私が貴女に嫉妬していた頃
まだ貴女を知らなかった頃

これは未来、誰かが望んだアンコール
貴女を知る為の物語
私が貴女を想うための物語




少女騎士「父上ー!晩御飯ができません!」

騎士「出来ない!?どういうことだよ!?」

少女騎士「上手く作れないのです!手伝ってください!あわわ、鍋が爆発してしまうー!」

騎士「あれだけ教え込んだのに何故こうなった……」

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騎士「これをこうして……だな」コトコト

少女騎士「おお!流石です父上!」

騎士「俺はこれでも下手な方なんだぞ?それにあんまり火に近づきたくないし……」

少女騎士「そんな謙遜なさらないでください!父上の作るご飯は私は大好きです!」

騎士「……そういってくれると嬉しいよ」ナデナデ

少女騎士「えへへ~、父上の手……温かいです♪」

騎士「まったく、こんなんじゃいつまで経っても自立できないぞ?ホレ、出来たぞ」

少女騎士「いただきます!」

少女騎士「しかし、自立と言っても私は親元を離れるにはまだ早いかと」モグモグ

騎士「そりゃそうだが……早いうちから花嫁修業くらいはしておけ」

騎士「料理くらい作れなきゃ、嫁の貰い手なんて論外だぞ」

少女騎士「それでもいいです、父上の料理をずっと食べていたいので」モグモグ

騎士「なんだそりゃ、俺から一生集り続ける気か?」

少女騎士「何でもないです!甘えられるうちに甘えようと思ってるだけです!」

騎士「そっか、まぁそれならそれでいいけどさ」

騎士「でもなぁ……お前の母さんは料理かなり上手だったぞ?覚えて間もないはずだったのに……」

少女騎士「ムッ!」

騎士「どうした?」

少女騎士「父上は事あるごとに母上の話を出しますよね」

騎士「あー……マジか?」

少女騎士「マジです!比べられる私の身にもなってください!」

騎士「スマン、比べるつもりは無いんだが……」

少女騎士「私は母上の顔も覚えていないのに、いない人の話をされても困ります!」

騎士「……スマン」

少女騎士「生きているのかどうかも言ってくれないのは酷ですよ……」

少女騎士「もし生きているのなら……どうして一緒にいないんですか……」

騎士「まだお前には話せん」

少女騎士「……父上は、今も母上の事を想っているのですか?」

騎士「当たり前だ……俺がアイツを忘れることなんて絶対にない」

少女騎士「言い切るのですね……ハァ……」

騎士「じゃなきゃ毎回母さんの話なんて出さないしな」

少女騎士「時々思うのです、母上は私を捨ててどこかへ行ってしまったのではないかと」

騎士「そんなことはッ!」

少女騎士「……愛されていなかったのではないのかとも思ってしまいます」

騎士「それは違う!!」

少女騎士「父上はそればっかり……それ以上は話そうともしてくれない」

騎士「……時期が来たら話すつもりでいる。それくらい大切なことなんだ」

少女騎士「むぅ……とりあえずはそれで納得しますが」

少女騎士「父上はいつもどこか寂しそうな顔もしています。そのくらい常に母上の事を想っているのですよね」

騎士「まぁ……な」

少女騎士「私では……母上の代わりにはなりませんか?」

騎士「代わり?なんでだよ。お前はお前、アイツはアイツだ」

騎士「俺にとっちゃどっちも代えのきかない大切な存在だ」

少女騎士「そういうことじゃなくて……」

騎士「それに、母さんとお前は似ても似つかないからなぁ。見た目も性格も」

騎士「教えたわけじゃないのに妙に硬い喋り方だしな、お前は。母さんは別のベクトルでアレな喋り方だったが」

少女騎士「ムッカー!また比べましたね!!」

騎士「あ、ヤベッ」

少女騎士「もう父上なんて知りません!先に寝ます!おやすみなさい!!」

騎士「あ、ああ、おやすみ……明日は早くに出発するからよく寝とけよ」

少女騎士「わかりました!ふんっ!!」

少女騎士「スヤァ……」

騎士「寝るの早ッ!」

騎士「しかし……そろそろ話してやるべきかな、アイツの事」

騎士「ずっと黙ってきたしな」

少女騎士「スヤァ……」

騎士「……明日には目的地に着くだろう」

騎士「そこで全てを話そう……アイツのいる場所で、すべてを……」


――――――
―――

(目覚めて)

少女騎士(……)

(応えて)

少女騎士(……ここは……どこ?)

(ここは夢、貴女が見せる夢の中)

少女騎士(私の夢?)

(そう、そして……私が見せる夢の中)

少女騎士(あなたは誰?)

(私は……)






少女「そう!なんと、ワシはこの通り何の変哲もない女の子じゃ!」

少女騎士「結局誰!?」

少女「ぬっふっふ、驚いておるな?」

少女騎士「え、ええまぁ。軽く引っ張っておいて唐突な登場だったので」

少女騎士「というより、頭の中に語りかけてくるようなアレはなんだったんですか?」

少女「ぬ?あんなもの演出に決まっておるじゃろ」

少女騎士「演出!?何それ!?」

少女「ここはお主の夢の中じゃ、とりあえず何でもアリじゃ」

少女騎士「まったく理解が出来ないです」

少女「頭で考えるな!感じろ!」

少女騎士「はぁ……」

少女騎士「それで、あなたは何者なんですか?」

少女「何度も言わせるでない!通りすがりの女の子じゃ!夢の案内人じゃ!気にするでないぞ!」

少女騎士「気にするなって……状況が状況なだけにそうも言っていられないのですけど」

少女「まぁよい、時間も押しておる。人の時間は有限じゃ、目的のためにちゃっちゃと事を運ぶぞ!」グイッ

少女騎士「あ、ちょっと!引っ張らないで下さいよ!」

少女「これは夢、何でも有りの世界じゃ……お主の過去も未来も願望も……すべてを吐き出すとよい」

少女騎士(これは夢、夢の中……)

少女(そう、夢の中。だからゆっくり目を閉じて……あなたが想う景色を私に見せて……)

――――――
―――



月明かりが照らす夜
私は、その手を覚えている
小さくも暖かいその手は
私を抱き上げ、とても愛おしそうに頬を撫でる
私の額に口づけをすると
その手はそっと私を寝かせる

「産まれ……あり……」

「出会……り……う……」

「私は……あい……」

ノイズが走ったみたいにその声は遮られた
靄が掛かったようにその表情は見えなかった


――――――
―――



10

騎士「そろそろ休憩するぞ」

少女騎士「ダメです!もう一度お願いします!」


ギンッギンッ


少女騎士(ここは……)

少女(うむ、お主の過去のようじゃな)

少女騎士(あなたさっきから口調が安定してないですが)

少女(それこそ気にするな!そういう仕様じゃ!)

少女騎士(しかし、どうしてこんな過去なんかに)

少女(夢はその者の記憶の整理じゃ、だからこういったものも見れるのじゃ)

少女騎士(それじゃああそこで手合せしているのは……)



騎士「ストップ!いい加減にしておかないと体を壊すだけだ。お前はまだ幼いし、無理をする必要もない」

少女騎士「それではダメなんです。父上のように立派な騎士になるためには足りません!」

騎士「立派て……騎士は騎士でも俺はどこにも所属してないんだけどなぁ」

騎士「守るものがあってこその騎士だからな。俺を参考にしちゃダメだろ」

少女騎士「いいえ、父上は立派です!私をずっと守っているのですから!」

騎士「親が子を守るのは当然だろう」

少女騎士「ですから、私が強くなって今度は私が父上を守りたいんです!」

騎士「俺の立つ瀬がなくなるなぁ」

少女騎士「生半可な気持ちで騎士を名乗っている訳ではありませんので」

騎士「俺としてはお前には普通の子として育って欲しいんだけどな」ナデナデ

少女騎士「あ……えへへ~♪」

騎士「母さんも、それを望んでいるだろうしな」

少女騎士「また母上……」

騎士「ん?」

少女騎士「いえ、何でもありません。さ、稽古を続けましょう!何かあった時のために鍛えておかなければ!」

騎士「おいおい……」

少女騎士(うわぁ、聞かん坊ですね私)

少女(父の背を追うお転婆娘か、なかなか絵になるではないか)

少女騎士(オーバーワークはするなと再三言われていたのにこれですか……恥ずかしいなぁ昔の私)

少女(ワシからは何とも言えないが……お主の父はお主に同じ道は歩んで欲しくはないのではないか?)

少女騎士(まぁ、騎士になると言ったら普通に止められましたけど)

少女(それはそうじゃろう。可愛い可愛い一人娘が危険が付きまとうような職種を選べば気が気じゃないじゃろう)

少女騎士(父の背を見て育ったのです、ですから私がそれを継ぐのは当然かと)

少女(考え方が古いのぅ)

騎士「アホ、今日はもう終わりだ。自主練も禁止な」

少女騎士「そんな!私の楽しみを奪うのですか!」

騎士「楽しみなの!?そんなことしてる暇があったら料理くらい作れるようになろうな!?」

少女騎士「むぅ……父上が作ってくれるからいいじゃないですか」

騎士「俺がいつどうなるか分かったもんじゃないし、何より基本的に俺たちは自給自足の冒険者生活だからな」

騎士「だから、料理くらい作れないとやっていけないぞ」

少女騎士「その冒険者生活をしているにも関わらず、父上は私に一回も依頼を受けさせてくれたこと無いじゃないですか」

騎士「そりゃ……危ないだろう」

少女騎士「父上と一緒だったら危険ではありません!」

騎士「お前は俺の仕事を増やしたいのか……」

少女騎士(傍から見てると酷い我がまま……)

少女(うひゃひゃひゃ!傍から見てると喜劇じゃのう……少し安心した)

少女騎士(安心?)

少女(なに、こちらの話じゃ……さて)

少女(次の記憶に行こうかのう?)

少女騎士(ちょっと待ってください!人の過去を見るとかなんでこんな羞恥プレイをするんですか!?)

少女(んー……なんでじゃろうな?)テヘッ

少女騎士(テヘッじゃねーよ)

少女(さぁ目を閉じよ!とっとと次へ行くぞ!)

――――――
―――



私はその唄を覚えている
誰かが読み聞かせてくれたおとぎ話を覚えている
人と竜の恋物語

優しい声は竜の唄

私の大好きな物語
父の大好きな物語

読み聞かせてくれたのは誰?
私に教えてくれたのは……誰……

――――――
―――



3

少女(ぬぬ?随分ぶっ飛んだのう)

少女騎士(ぶっ飛んだ?)

少女(まあよい、あそこを見よ)

少女騎士(アレは……私?)

少女(おお、ちっこくて可愛いのう)

少女騎士(こんな昔……何歳くらいだろう)

少女(……ほかに誰かが居るみたいじゃのう)

騎士「こいつが……俺の子だ」

少女騎士「……?」

剣士「そうか……」

商人「……結局……会えなかったなんて……」

騎士「知らせるべき……だったな」

剣士「私たちとは連絡手段がなかったんだ、仕方あるまい」

商人「……」

少女騎士「……いぬ耳のおねーちゃん」

商人「狼ですよこれは!……なんでしょう?」

少女騎士「どーして泣いてるの?」

商人「ッ!」

商人「私……泣いて……ますか?」

少女騎士(こんな私の覚えていないようなことまで……夢の中が怖すぎます)

少女(……夢の記憶というものは、時にこういった何でもないような事も鮮明に思い出させる)

少女(……そうか、泣いたのか……)

少女騎士(でも、あのお姉さんたちはその後にも何度か会っているので覚えています)

少女騎士(凄く優しい人たちです、面白いものをいっぱい見せてくれますし)

少女(うむ、実に愉快そうな面々じゃ)

剣士「立ち話に突き合わせるのも悪いだろう、ほらコイツを持って行け」ヒョイッ

ウサギ「ギュウ!?」

少女騎士「わーい!ウサギさん、あそぼ」

ウサギ「ウキュウ!」

商人「あんまり遠くに行ったらダメですよー」グスッ

騎士「なんか悪いな」

商人「悪い事なんて無いですよ、何も……」

少女騎士(ちなみに、あのウサギさん。次に会ったときは見た目そのままにデカくなってました)

少女(割とどうでもいい情報じゃのう)

少女騎士(父は昔痛い目にあわされたといってお姉さんたちから逃げ回ってるみたいですけど……)

少女騎士(私にとっては、大切な人たちです)

少女(ふむ……そうか、それはよかった)

少女騎士(?)

少女(さて、次に行こうかのう)

少女騎士(いつまで続けるんですか……)

少女(お主に見せたいものがある……それを引き当てるまでじゃ)

少女騎士(引き当てるって、狙って見えないんですか)

少女(人の記憶というものはそう単純なものではない、ワシもこういう風にしかお主に干渉できないのもそういうことじゃ)

少女騎士(どういうことですか)

少女(なに、ワシを信じて着いてこい。後悔はさせぬ)


――――――
―――



私は嫉妬していた
父は母を話題に出す時だけはとても優しい表情になる
私の知らない母
産まれてしばらくしていなくなってしまった母

私に語りかけてくれる時とはまた違う
一人の女性に対して見せる表情

私は父の愛を一身に受けたいがために騎士となった
騎士となって、愛する父を守るために……


そして、気高き生物のその背に乗る事を夢見て……


――――――
―――



6

少女騎士「お父さん……どこ……?」


少女騎士(森の中……)

少女(日も傾いておる、子供が一人で出歩いていい時間でも場所でもないのぅ)

少女騎士(依頼を受けた父上が帰らないので、怖くなって探しに来てしまったのでしょう……)

少女(その探しに来た本人が怖い目に合いそうな予感じゃが)

少女騎士(ええまぁ……この後に……)



魔物「グゥルルルルル……」

少女騎士「ヒッ!!」

魔物「ウゴゥ……」

少女騎士「や……」



少女(絶体絶命のピンチじゃのう、この後どうなると思う?)

少女騎士(ここに私がいるのでバッドエンドはあり得ませんが……)

少女騎士(この後、私は助けられるんです)

少女(流れからして父親か?)

少女騎士(いえ、違います……それは、今も私が憧れる、私が想う気高き生物の姿)

少女(気高き生物?)

魔物「ゴガオ!!」

少女騎士「キャーーー!!」


ガギンッ!!


魔物「グゥ!?」

竜人「……」

少女騎士「え……あ……」

竜人「テメェ!!人のむす」


プツン


少女(なんじゃ!?映像が途切れてしまったぞ!?)

少女騎士(あはは……私はここで気絶しちゃったんですよ)

少女(ええい!意気地なしの臆病者め!いいところだったではないか!)

少女騎士(まだ私は幼かったんですよ!?そんな言い方ないじゃないですか!)

少女(ふむ、映像が回復するまで待つか)

少女騎士(テレビ見てる感覚で人の過去を夢で見ないで下さいよ……)

少女(しかし、突然の謎の遭遇じゃのう)

少女騎士(はい、正直驚きました……伝説の存在であるドラゴンに助けられるなんて)

少女騎士(騎士になろうと思った理由の一つなんです)

少女騎士(一つは父を守る事……これは大前提です)

少女(娘に守られるなど恥ずかしいのう)

少女騎士(ホントは並んで戦っていたいって気持ちですけどね)

少女(それではもう一つは……)

少女(ぬっ、映像が回復するの)

少女騎士(もう一つは……)

騎士「おい!目を開けろ!!開けてくれ!!」

少女騎士「ん……うう……」

騎士「!!よかった……本当によかった……」ギュ

少女騎士「お父さん……」

騎士「なんでこんなところに来た!大人しく依頼所で待ってろって言ったじゃないか!」

少女騎士「……だって、お父さん、帰ってこなくて……心配で……怖くなって……」

騎士「……心配なんてしなくたって……俺はちゃんと帰ってくるから……」ナデナデ

少女騎士「えへへ……♪」

少女騎士「あ、魔物さんは……?」

騎士「ああ、魔物なら俺……いや、他の魔物が倒していったよ」

少女騎士「そういう事ってあるんだね……」

騎士「ああ……どうだろうな」

少女騎士「……竜」

騎士「え?」

少女騎士「私を助けてくれた魔物さん」

騎士「竜がお前を助けたのか?見間違えじゃないのか?」

少女騎士「絵本で見た……竜みたいだった……」

騎士「そう……か」

少女騎士(父上の言うとおり見間違いだったのかもしれません)

少女騎士(ですが、この時に私は……)

少女騎士(いつか竜の背に乗り、竜騎士として父上と共に生きてゆきたい……と)

少女(ふむ、ポピュラーな竜と言えば飛竜……ワイバーン辺りかのう)

少女(しかし、竜を飼うにしても大変じゃぞ?連れて歩くとなると国ごとに許可が必要じゃし)

少女(何より維持費が大変じゃ。種類によっては餌を選り好みする者もいるくらいじゃ)

少女(手なずけるのも長い年月が必要となる。他人に迷惑かけるとペナルティも酷いしのう)

少女騎士(夢の中なのに夢の無いようなことを述べないでください、泣いてしまいます)

少女(じゃが……お主の父も白々しいのう)

少女騎士(白々しい?何がですか?)

少女(知らぬのならそれでもよい、何か考えがあって話していないのであろう)

少女騎士(さっきから気になる事ばかり言っていますが……)

少女(……そのうち話す、次じゃ次!)

少女騎士(もう……)

――――――
―――

小休止
書き溜め終了

再開
書きためてないから超スローペースに



愛しています
ただそれだけです

感謝します
ただただそれだけです

あなた達に巡り合えて
あなた達を愛せて

私は

幸せでした

――――――
―――


1

少女(ッ!)

少女騎士(思ったんですけど、さっきから合間合間に入る謎の文章や数字はなんなんですか?)

少女(そんな……これは私の……)

少女騎士(どうしました?)

少女(……ふむ、夢の中が安定しておらぬようじゃ。別の誰かの思念も混ざり合っているみたいじゃのう)

少女騎士(私は前提である事柄が分からないんですけど。夢だの記憶だのと……)

少女(そのうち分かると言っておるじゃろ……ホレ、次の目標じゃ)


騎士「もう行くのか?」

仮面男「ああ、我々も立ち止まってはいられないのでな」

鎧少女「……お前は一人で大丈夫か?お前さえよければウチの国に……」

騎士「今まで散々世話になったんだ、そこまで迷惑はかけれねぇよ」

騎士「それに……この子は俺が一人で守っていかなければいけないからな」

鎧少女「赤ん坊……ホント、お前にそっくりだな」

仮面男「君と同じで、勇ましい子に育ちそうだ」

騎士「俺はかわいい子に育ってほしいんだけどなぁ」

少女騎士(あの赤ん坊が私……)

少女(まだ言葉も話せぬ赤子じゃのう)

少女騎士(10数年も前の事……父上はあまり変わっていないですけど)

少女(そりゃそうじゃろうな……ところで、あの二人組は知り合いかのう?)

少女騎士(いえ、私の知る限りではあったことが無いですね)

少女(では、連中とはこれで最後という事か……)


鎧少女「お前はどんな子に育つんだろうなー!」ヒョイ

鎧少女「父の跡でも継いでみるか?それとも母のように……お前の……母のように……」

騎士「……」

鎧少女「生きていくんだぞ?強く、優しく、元気に……」

仮面男「……行こう」

騎士「……達者でな」

鎧少女「……約束の女神として、お前たちのこれからに幸があらん事を……」

仮面男「何かあったら私たちの国を頼るといい。君は私たちの息子とも仲が良かったハズだ。きっと力になってくれるだろう」

騎士「ああ、出来るだけ自分で乗り切って見せるけどな!」

鎧少女「どうか幸せに……」


少女騎士(……あの人たちも泣いてた……)

少女(よっぽど何か思おうところがあるんじゃろうな……)

少女騎士(でも……)

少女騎士(この時からすでに、母上は居なかったのですね)

少女(……)

少女騎士(生きているのかどうかさえ分からないのに……)

少女(……お主の母はどのような者であったのじゃ?)

少女騎士(なんでそんなこと聞くんですか?)

少女(今後のお主の記憶の中に出てくるかもしれんじゃろう、予備知識が欲しいだけじゃ)

少女騎士(予備知識って……私は顔も見たことが無いのに)

少女(父から聞かされておるのじゃろう?さぁ言ってみよ?さぁさぁ)ジリジリ

少女騎士(にじり寄らないでください!話しますから!)

少女騎士(えっと……まず料理が上手い、人当たりがいい)

少女(うむうむ!それでそれで?)

少女騎士(可愛げがある、頭がいい)

少女(ほほほう?んでんで?)

少女騎士(頭いいと言っても基本馬鹿、世間知らず、口調がおかしい、ちっこい、口うるさい)

少女(……もうよい、聞きたくなくなった)

少女騎士(何ですかさっきから)

少女(と、言うよりも!そんな褒めたり貶したりではなくてもっと根本的なものをじゃの!)

少女騎士(それ以外知らないんです)

少女騎士(……必要以上に父上が言わないのです)

少女(言わない?なんでじゃ?)

少女騎士(時が来たら話す、と毎度毎度濁らされてばかりでしたから)

少女騎士(いっそ死別したと言ってくれればそれで納得するのですが……ずっと隠され続け)

少女騎士(大切な事、お前の全てにかかわる、と……これでいつも話を切り上げられます)

少女(ふむ……なるほど、余程知られたくは無いのじゃろうな)

少女騎士(私は父の本当の子じゃないとかでしょうか……ああ、なんか震えが止まらなくなってきた!)

少女騎士(あ!でも血の繋がりが無かったらなかったで父上と……うへへへ)

少女(父そっくりと言われておったところを見るに血はつながっておるじゃろう、あとお主の思想が危ないわ)

少女騎士(ひょっとしたら……母上は私を捨てて行ってしまったのではないかと考えたりもします)

少女(……)

少女騎士(私は望まれて生まれた子供ではなかった)

少女騎士(父上は子を望み、母上はそれを拒んでいたのかもしれません)

少女騎士(父上はそれを悟らせない為に、母上の話を避けているのではないでしょうか)

少女(お主は……)

少女(お主は、自分が望まれた子ではないと……言うのか?)

少女騎士(事実は分かりません……父上が話してくれない以上、私はそうと考えてしまうだけです)

少女(……ワシからは何とも言えんのう)

少女騎士(ご、ごめんなさい!他人のこんな話をされても嫌な気分になるだけですよね!)

少女(他人か……そうじゃのう、そんな話よりももっと明るい話題を出そうではないか!)

少女騎士(明るい話題?)

少女(うむ!数字も近くなってきたところじゃ!次へ行くぞ!)グイグイ

少女騎士(わっとと!押さないで押さないで!)


――――――
―――


ごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい


ごめんなさい

―――――
―――


4699

少女騎士(何が明るい話題ですか!?今度はホラーですよ!?ってか数字がぶっ飛びましたよ!?)

少女(……なぜじゃ……なぜこんなことが起こる!!)

少女騎士(え?……あれ、ここはさっきと同じ場所……)

少女(見るな!目を閉じろ!耳を塞げ!!)


竜「ごめんなさい……ごめんなさい……」

竜「私の為に……私のせいで……」

竜「形も分からない……焼け焦げてしまって……こんな姿に……」

竜「やっと巡り合えたのに……やっとあなたを愛せたのに……」


少女騎士(こんな町中に竜……それにこの惨状は)

少女(やめろ!思い出させるな!!)


竜の涙で心を洗い


少女騎士(え?)


汚れ無き血でその体を洗い


少女騎士(なに……頭の中に声が……)


大いなるその鱗ですべてを覆う


少女(やめろ……)


死した体は甦る、竜と成りて蘇る……
人の命弄びし秘術、竜と成りて蘇る……


少女(やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!)


――――――
―――


その日、彼の命が終わりを告げた

その日、彼の命が始まった

私は禁忌を犯してしまった

彼に永遠の時を与えてしまった

もう……長くは傍にいることが出来ないのに……


――――――
―――

小休止

再開

少女騎士(今のは一体……)

少女(……すまぬな、取り乱した)

少女騎士(アレはなんだったんですか?私の記憶じゃなかったみたいですが)

少女(どうやら別の者の夢の記憶まで引きずりだされたらしいのう……誰かは知らんが)

少女騎士(私の夢の中なのに他の人の夢まで見れちゃうんですか)

少女(なに、単純なイレギュラーじゃ。お主に近しい者の意識と混同したのじゃろう)

少女騎士(私に近しい……父上?でもあの映像の中には……)

少女(……次に行くぞ、今のは忘れよう)


――――――
―――


2087

少女(ぬ?また数字がぶっ飛んだのう)

少女騎士(1000単位で飛ぶっていったいなんなんですか……)

少女(さぁのう?ワシにはさっぱりじゃ!)ピュ~

少女騎士(下手な口笛でごまかさないでくださいよ)

少女(それよりもここは……随分高い山の山頂みたいじゃのう)

少女騎士(綺麗な景色ですね。でも私こんな高い山の登山経験なんてないですよ)



女騎士「かつて、一人の男と1匹の竜がいました」

女騎士「二人は恋に落ち、共にに生きると近い、そして……男は竜となった」

男「なんかありがちな展開だな……確か似たような話がおとぎ話にも無かったか?」

男「確かアレは……」

女騎士「……『煌めく風は竜の唄』」

男「そう、それ!」


少女騎士(何ですかコレは?)

少女(夢は必ずしも過去を見せるとは限らん)

少女(それは未来であったり願望であったり……意味のないモノであったり)

少女騎士(意味のないモノを見ることの方が圧倒的に多いですけどね)

少女(あくまで記憶の整理じゃしのう。眠りが浅いとよく見る、などとも言うが、実際どうなんじゃろうの)

少女騎士(それではこれは……)


男「あれって実話だったか?種族を直接変えるって、昔の技術じゃ不可能だろ」

男「今でも批判されてる事なのにな」

女騎士「実話かどうかは本人たちでなければわかりませんが……」

男「竜も、今じゃペットとして取り扱われてるくらいだからなぁ。野生でなんか見た事無いぞ」

女騎士「それは品種改良を重ねて行った種族でしょう。今でも純粋な竜はこの世界に存在しています」

男「俺も勇者なんて肩書きを持っている以上は一度は見てみたいね、その純粋な竜とやらを」

女騎士「ふふっ、いつか見れますよ。私が見せます」


男「まるで居場所を知ってるみたいな言い方だな」

女騎士「ええ、確かな証拠はここにありますから」

男「?」

女騎士「行きましょう、勇者殿。我々の旅路はまだ歩き始めたばかりです」

男「急かすなよ、ゆっくり行こうぜ」


少女騎士(なんだろう、この感覚)

少女騎士(あの女の人、まるで……)

少女(まるで自分を見ているみたいか?)

少女騎士(はい……変ですね、私まだ子供なのに)

少女(さっきも言ったが、時に夢は未来をも見せる。いつかこうなる可能性もあるという事じゃろう)

少女騎士(未来……)

少女(こういう未来も有りか……しかし、竜のおとぎ話と言えば『優しい声は竜の唄』じゃろう!)

少女(なんじゃ、あのパクリのようなタイトルは!)


少女騎士(あ、そのおとぎ話知ってるんですか!?)

少女(当たり前じゃ!あの本の作者のファン第一号じゃぞワシは!)

少女(我が子にも読み聞かせた……大好きな物語じゃ)

少女騎士(え゛!?お子さんいるんですか……)

少女(なんじゃ、何か言いたげじゃのう)

少女騎士(いえ、私と歳がそう変わらなさそうなのにと思いまして)

少女(フフン!こんなプリチーな姿のワシを孕ませるとんでもないロリコンも世の中にいるという事じゃ!)フリフリ

少女(ま、実年齢はお察しじゃが)

少女騎士(年齢……ひょっとして、さっきから出てきている数字って年齢とか……ですか?)

少女騎士(いえ、それじゃあ仮に未来だとしても1000単位とかありえませんよね。私人間ですし)

少女(何かの拍子に魔族化するという事も考えられるぞ?)

少女騎士(それはやだなぁ)

少女騎士(せめて、父上と同じくらい生きられればそれでいいです)

少女(お主……それだと、とてつもなく長生きしそうじゃのう)

少女騎士(え?なんでですか?)

少女(よいよい、パスじゃ!次行くぞ!)

少女騎士(案内人なのに滅茶苦茶ですね……)

――――――
―――

短いけど小休止

ふむ、興味深い

切ないけど、良かったな少女

再開

sagaにしてトリつけろよ私


確かにそこにあった歴史

父と母が築き上げてきた歴史

私へ繋がる歴史

儚くも美しいその夢は

輝く想いへ変わるから

――――――
―――


13

少女(教会についたぞ!)

少女騎士(周りに誰もいないのに何を言ってるんですか)

少女(分かる人には分かるのじゃ!)

少女騎士(それにしてもここは……)

少女(見覚えがあるのかのう?)

少女騎士(はい、それも最近……)

ガチャ

少女(誰かが入ってきたみたいじゃ)


少女騎士「……いるのは分かっている!出てこい!!」

「……ほう、私を見つけることが出来るとは……ガキの癖になかなかやるようだな」

少女騎士「かつて世界を混沌に陥れた『影』……!父上はその残滓を追っている!」

少女騎士「私だって弱くは無い、その残滓程度なら一人で狩って見せる!」

「面白い、やって見せろ。この私に対して!!」


少女(『影』じゃと!?生き残りがまだ存在しておったのか!)

少女騎士(知っているのですか?)

少女(十数年前……お主が生まれる少し前くらいじゃのう)

少女(国同士の大きな……いや、小さな戦争とでも言うべきか。が、あったのじゃが)

少女騎士(その片方の国を、『影』がトップを操り乗っ取ったと……父上から聞かされています)

少女騎士(戦争については詳しくは知らないみたいですが)

少女(お主の父はその戦争には直接的には関わっておらぬハズじゃ)

少女(真相は……もっと複雑な話になるが、お主は知る必要はないじゃろう)

少女騎士(えー、敵を知るにはなんちゃらホイって言うじゃないですかー)

少女(馬鹿者、本来お主やお主の父が関わってはいけないような恐ろしい相手じゃぞ)


少女騎士「覚悟!!」

「なまっちょろいわッ!」

ガキンッ

少女騎士「刃が通らない!?」

「やはりヒヨッコが……そんなナマクラでは私に傷もつけられん!」グッ

少女騎士「うぐっ!?」

「忌々しきこの場所を消し去ってからとっととこの地を去ろうと思っていたが……」

「私の存在を知り追っている者がいるとなると話は別だ……全員始末するか」

少女騎士「くそっ!離せ!!」


少女(弱ッ!行き着く暇もなくあっさり捕まっておるではないか!)

少女騎士(ちょっと調子に乗ってました)

少女(当たり前の結果じゃのぅ。『影』を叩くには強力な魔法をぶち込むか、魔法で強化した武器か、あとは神器くらいしか対抗策がないからのう)

少女騎士(私は魔法関係は壊滅的です……母上は魔法が使えていたとのことなので、おそらく父上の遺伝のせいで)

少女(生まれ持っての得意不得意はある、それを補うように鍛錬を積めばいいじゃろう)

少女(さてこの後どうなる事やら)ポリポリ

少女騎士(スナック菓子を食べ始めないでくださいよ……どこから出したんですか)


「お前を餌にしてその父を呼び出すとするか……フフフ、体を乗っ取ってやるのも面白そうだ」

少女騎士「私の体を乗っ取ってどうするつもりだ!」

「乗っ取るのはお前じゃなくてお前の父親の方だが……まぁ、それも面白そうだ」

「親子で殺し合いか……私が関与したものではなかったが、かつて私の本体を殺した勇者がそんなことをしていたなぁ!」

少女騎士「ゲスが……ッ!」


「みつけた」


少女騎士「!?」

「誰だ!」

魔法使い「久しぶりに強い反応があったと思ったらこんなところに」

少女騎士「どなたですか!?」

「……魔王の側近か」

魔法使い「魔王様は両名とも、もうこの国にはおられません、この国は十数年前から勇者様が指揮しております」

「その魔王共の息子……奴にも借りがあったな」

魔法使い「貴方みたいなちっぽけな存在が残っていても邪魔なだけなのでとっとと排除します」

「一人で出来るのか?こちらには人質もいるのだぞ?」

魔法使い「そちらこそ、大した力もないくせによく言いますね。あと、人質はどうでもいいです」

少女騎士「酷い!」

魔法使い「それに、私、一人じゃないですから」

「何を……」

イヤッホーゥ

少女騎士「……謎の声が聞こえるんですけど」

「……しまった、外か!?」

魔法使い「気が付いてももう遅い」

勇者「オラアアアア!窓の外からダイレクトアタックじゃああ!!」ガシャーン!!

少女騎士「ステンドガラスぶち破って侵入してきた!?」

勇者「そこへ一撃入れつつも人質を回収っと!」ズサァ

「ぬぅ!」

少女騎士「うわ!いつの間にか抱きかかえられてる!?」

魔法使い「もうすぐ30になる人の言動には見えませんね」

勇者「母さんの血のおかげで若く見えるからいいだろう?」

勇者「それはそれとして……片付けるぞ」

魔法使い「了解です、国王様」

「二人相手では分が悪い……人質も無し、逃げられもしない……か」

勇者「お前、変に潔い所だけはどれだけ時間がたっても変わらないんだな」

「いずれまた『影』は生まれ出、その時まで消えるだけだからな」

「私という個は消えても、全が消えるわけではない」

「その時まで……呑気にくら」

勇者「はい、ご苦労さん」ザシュ

「ちょっ」

ジュウ……

少女騎士「……最後まで聞かなくてもよかったんですか?」

勇者「アレの話なんて聞く価値なし、倒す度に同じようなこと言ってくるし」

魔法使い「お疲れ様です国王様、私、いらなかったですね」

勇者「そんなことは無い、お前がいなかったら注意が向けられなかったし人質も助けられなかった」

少女騎士「え、でもさっき人質はどうでもいいって……」

魔法使い「そう言ったのはフリです。助ける気でいました」

勇者「偶然二人で来てたからうまく行ったけど……一人だと骨が折れてただろうな」

少女騎士「ありがとう……ございます」

魔法使い「……相手が『影』とわかっていて何故挑んだのですか?」

少女騎士「それは……」

魔法使い「勝てる、とでも?」

少女騎士「……自惚れていました」

勇者「今後はこういったことは止めておきな、お前が相手をしたのは想像以上の存在だ」

勇者「あのくらいなら俺一人でもどうにかなるけど、あれ以上に大きい奴だと俺だけじゃどうにもならない時がある」

魔法使い「偶にいるんです、そういうのが」

少女騎士「ごめんなさい……私の鍛錬が足りないばかりに……」

勇者「人の話聞いてたか!?関わるなって言いたいんだよ!?」

少女騎士「父上が手を引かない以上、私が目を背ける訳にはいかないのです!」

魔法使い「父親……あぁ、あの方ですね」

勇者「仕方ないっちゃ仕方ないんだけど……自分の娘をこんな風に育ててるのかアイツは」

少女騎士「父上を知っているのですか?」

勇 者 の 年 齢 間 違 え た

勇者「知っているも何も……」

バンッ!!

騎士「ここか!?ここにきてるのか!?」

少女騎士「ち、父上!?」

魔法少女「来ましたね」

騎士「ここで何してんだお前は!危ない事に首を突っ込むなって何回言ったら分かるんだ!」

少女騎士「私と父上は一心同体、父上の戦いは私の戦いでもあります。ですので、私が父上に変わり『影』を倒そうと」

騎士「バカかお前は!?」ガンッ!!

少女騎士「っ!?痛い!?なんでゲンコツなんですか!!」

騎士「当たり前だ!俺の心配事を増やさせるな阿呆!!」

騎士「俺にはお前しかいないんだ、お前を失いたくないんだ……わかってくれよ……」ギュッ

少女騎士「父上……」

勇者「久しぶりだな、ヴェイド」

騎士「あー、お前か。こんな場所で何やってるんだ?」

勇者「こんな場所って……ここ俺ん家の近くなんだけど」

騎士「そういえばそうだっけ?」

少女騎士「父上、この方たちに助けてもらったんです」

騎士「結局『影』と交戦してたのか……よく無事だったもんだ」

魔法使い「規模が小さいモノでしたから何とかなりました。娘さんが暴走しないように躾けておいてください」

騎士「スマン……」


少女騎士(本当に……愚かですね、私は)

少女(まだ自分にそう言えるだけマシじゃろう)

少女(本当に愚かなのは学ばない者の事を言う、お主は賢い)

少女(これからいろんなことを知ってゆけばいい、その都度父に諌められるのもいいじゃろう)

少女(親子の関係というものはそういうものじゃ)

少女騎士(……なんだろう)

少女(なんじゃ?)

少女騎士(あなたって、私にすごく優しく言い聞かせてくれますよね?)

少女(ああ、優しくしているつもりじゃ)

少女騎士(……なんででしょうか)

少女(なんでじゃろうの……)


勇者「それよりさ、お前。親父たちの行方を知らないか?確かお前も奥さんも仲良かったろ」

騎士「アイツらか……もう十年以上会ってないぞ。帰ってきてないのか?」

勇者「ああ……そうか、知らないなら知らないでいいんだ」

魔法使い「史上最強のあの二人組の事です、死にはしないでしょうけど心配ですね」

少女騎士「最強……そんな人と知り合いなのですか、父上?」

騎士「お前も会ったことあるだろう、仮面被った……って、その時はまだ赤ん坊だったな」

勇者「何か足取りが分かったら連絡くれ。いや、そうでなくても連絡くれよ、友達なんだしさ」

騎士「おう、近くを通ったら連絡入れるつもりだったんだけどな」

少女騎士「明日にはここから出発する予定ではありませんでしたか?」

騎士「……」

勇者「……」

少女騎士「?」

騎士「子供ってさ、正直だよね」

勇者「おい、否定しろよ」

騎士「ハハッ、俺ってウソつけないから誤魔化さないようにしてるんだ!」

勇者「クソトカゲめ……」

魔法使い「国王様、トップなのに人種差別発言はやめてください」

少女騎士「トカゲ?」

騎士「気にするな気にするな、あのオジちゃんちょっと頭悪いだけだから」

勇者「オジちゃん言うな!俺はまだ20代……」

騎士「え?お前俺と同い年だろ?もう30超えてるだろ」

魔法使い「さっき30手前と言ったな、スマンありゃウソだ」

勇者「俺って長寿の種族だから年齢とか気にならなくなるんだよね……」

騎士「無理やりミスを誤魔化してきたな」

騎士「……ありがとな、大切な娘を守ってくれて」

勇者「例を言われるほどの事じゃない、大人が子供を守るのは当然のことだ」

魔法使い「片親でいろいろと大変でしょうけど、頑張ってください」

騎士「ああ……」


……


少女騎士「父上、あの方たちは一体誰だったんですか?」

騎士「俺の友人の子供、そして俺の友人でもある」

騎士「……お前の母さんの恩人でもある」

少女騎士「母上の……」

騎士「お前が生まれる前からの付き合いだ、アイツらにはお前が小さい時に会ったんだけど……覚えてないか」

少女騎士「はい……あちらは私の事を覚えていてくださっていたのに、申し訳ないです」

騎士「よっぽどインパクトが無い限り人間っていうのはすぐに忘れちまうもんだ」

騎士「そう、お前は人間でいいんだ……」


少女騎士(私は人間でいい)

少女(そう、あなたは人間でいい)

少女騎士(どういうこと?)

少女(どういうことだろうね?)

少女騎士(わからない)

少女(だって何も教えられてはいないから)

少女騎士(どうして教えてくれないの?)

少女(時が来たらすべてが分かる)

少女(全て、彼の口から語られる)

少女(私を信じて)

少女騎士(貴女を信じる)

少女(そう、そっと目を閉じて……)

少女騎士(……)




少女(……いや、やめておこう)

少女騎士(……っ!私は何を……)

少女(ここは夢の中、精神世界みたいなものじゃ。少しトリップさせて同調させようとしたが……それはちょっと卑怯じゃのう)

少女騎士(夢の中怖すぎですよ!!)

少女(そんな手を使わなくても……ワシはお主を導こう)

少女騎士(お願いしますよ!洗脳とかやめてくださいね!)

少女(分かっておるから、そんな怯えた目をするでない……)


――――――
―――

小休止
もっとペース上げなきゃ

再開


俺は間違いなく幸せだった

お前と出会えて、お前と過ごして

例え人間じゃなくなったとしても
俺は後悔していない

お前との出会いが俺を変えた
何かに従って、何の意味も無いまま生きている俺を変えてくれた

ずっと傍にいたかった

お前の傍にいたかった……


――――――
―――

見てる-よ


17

少女(……また、違う者の夢の中に入り込んだようじゃ)

少女騎士(さっきの声は……父上?)

少女騎士(傍にいたかったって……母上の事?)

少女(さてのう……気になるのなら、お主の父の夢の記憶でもみるがよい)

少女(ちょうど始まるころじゃ)


騎士「お前ってさ、やたらと何か話したがるよな?」

竜「ふむ、常に喋っておらぬと気が済まない性分でのう」

騎士「厄介なことで……」

竜「人と話すこと自体が滅多にないのじゃ。こうしてお主と語らいをするのが楽しくて仕方がない」

騎士「俺は好きでこんな場所に居ついてる喋ってるワケじゃないけどな。仕事じゃなかったらとっとと家に帰りたい」

竜「そういうでない、年寄りを労わらんか!」

騎士「へーへー、分かってるよ」


少女騎士(父上……かなり若いけど。と、さっきの竜……)

少女(イレギュラーばかり起こるとワシも気が気ではなくなりそうじゃ)

少女騎士(気が気でない?)

少女(最後に持って行きたい話を中盤で持ち出されても困るじゃろう、という話じゃ。)

少女(ここの場面ではまだお主には伝わらないからよかったが)

少女騎士(……少しだけ、変な事考えてますけどね)

少女(ぬ?)

少女騎士(あの竜……ひょっとしたら……)


騎士「話すだの語るだのは別にいいけど……俺はお前とお友達になりに来てるワケじゃないからな?」

竜「そんなもん知っておる。ワシの監視以外でこんなところに来る物好きなどおらん」

騎士「分かってるなら少しは遠慮してくれ。俺にとってどうでもいい知識をベラベラと長ったらしく一方的に聞かされるのは正直つらい」

竜「むぅ……そしたらつまらないではないか」

騎士「詰まる詰まらないじゃねーだろ、壁に向かって一人で喋ってろ」

竜「お主、粗暴じゃのう」

騎士「……」

竜「……」

騎士「……」

竜「……では、一人で壁に向かって話すとしよう」

騎士「……」

竜「昔々、あるところに一匹の竜がいたそうじゃ」

騎士「……」

竜「竜の名は『セルフィナ』、かつてこの世界に存在した風の名前」

竜「竜は悪い悪魔どもに騙されて、長い間洞窟の中に一人閉じ込められていた」

竜「そんなある日、悪魔たちを倒して回る極悪非道の勇者『ヴェイド』が魔王を討伐しに来たのじゃ」

騎士「おいちょっと待て!?そんな話じゃなかっただろそのおとぎ話!?」

竜「んー?」

騎士「勇者は普通に魔王を討伐しに来ただけだぞ?そんな極悪設定無いっての!」

竜「そうじゃったかのう?今ワシの目の前にいる騎士殿は、その勇者と同じ名前をしておるくせに」

竜「その勇者のかけらも感じない態度をワシにぶつけておるが……はてさて、名前負けもいいところじゃのう」

竜「それに、壁と話していろとヒトに言っておいて、それをこんな安い手で自分から話しかけてくるとは、情けない」

騎士「何かあるとすぐに突っかかってくる……だからお前と話すのが嫌なんだよ!」

竜「突っかかるのはお主じゃろう!ならばそれこそお主一人で壁に向かって返答するとよい!」

騎士「何だそれ!?お前からケンカ売ったんだろ今のは!俺の名前についてはご法度だよ、昔からそれでからかわれてたんだからな!」

竜「からかわれるのがなんじゃ!お主はそんな立派な名前を貰っておいてこんな性格じゃ!そりゃ周りから何か言われても言い返せぬよの!」

騎士「好きでこんな名前になったワケじゃねぇ!この名前だって元を辿れば全部お前のせいだろ!」

竜「だーかーらー、全部他人に擦り付けようとするその根性が気に入らんのじゃ!」

竜「それに、ワシは今まで自分のしてきたことに誇りを持っておる!」

騎士「住民の期待を無視して生贄を逃がし続けてきたことがか!?」

竜「当然じゃ!ワシは贄など初めから要求なぞしておらなんだし、それに期待に応えられるような能力も無いわ!」

騎士「結局お前も、おとぎ話の竜みたいな物じゃなくて、現実のハリボテの竜って事かよ……」

竜「……助けられる命があるのなら、それを助けるのは当然じゃろう」

竜「ワシが生贄の者達を逃がし、その者達が命を繋ぎ」

竜「そして……竜のおとぎ話に感銘を受けたその者達の想いを受け継いで」

竜「その名を授かったお主が……ワシの下に現れた」

騎士「……元を辿ればお前に行きつく」

竜「そう、因果は巡り、お主と出会った」

竜「じゃからワシは……ワシの行ったことを間違いだと思ったことは無い」

竜「こうしてお主とケンカしながら過ごす毎日も、退屈しのぎにはちょうど良い」

騎士「俺は不快だよ」

竜「本当に嫌なら上司にでも言って代理を立てればよかろう」

騎士「そりゃ駄目だ、まだお前を虐め足りない」

竜「うむ、一方的に虐め倒されているのはお主じゃがのう」

騎士「云十倍にして返すつもりだからな、今は準備期間だ」

竜「ふふっ、おもしろい返答をする奴じゃ」

騎士「割と本気だぞ?」

竜「ではその倍返しに期待しておくかのう……それもまた楽しみじゃ」

騎士「うるせー」

竜「あと、先ほどは言い過ぎたな。お主が自分の名前にコンプレックスを持っているのを知っていたのにのう」

騎士「それも含めて言い返すからいい、気にするな」

竜「素直になれない奴じゃのう」

竜「……でものう、ワシはお主の名前、好きじゃぞ?」

騎士「お世辞か?」

竜「世辞などお主に言ってもメリットが無かろう……本心じゃ」

竜「それどころか、その名を持つ者がお主で良かったとも思える」

騎士「何故に?」

竜「さての……ワシにも分からん」

騎士「こんなオオトカゲに褒められても全然嬉しくないな……」

騎士「せめて可愛い女の子に言われるのなら話は別なんだけどなぁー」

竜「……そうか、やはりそっちの方がよいか」

騎士「どうかしたか?」

竜「今度面白いものを見せてやる……ま、ワシの気分が乗った時じゃからいつになるかは分からんが」

騎士「なんじゃそりゃ」


少女(……口やかましい連中じゃ)

少女騎士(……あの竜、ひょっとして貴女ではないのですか?)

少女(……どうしてそう思う?)

少女騎士(声は……わかりにくいですけど、雰囲気がとても似ているんです)

少女(喋り方かのぅ?だとしたら的外れじゃ、これはワシの本来の口調ではない)

少女騎士(いえ、だから……雰囲気ですよ)

少女騎士(何というか……煩わしいとか、鼻に突く感じというか、小うるさいとか)

少女(失礼大爆発じゃのう)

少女騎士(でも、相手に対して優しさが感じられるんです)

少女騎士(貴女も、あの竜も)

少女(……)

少女(……別に、お主がどう思おうがワシの知ったことではないが)

少女騎士(母上……)

少女(ッ!!)

少女騎士(そうだ!この父の夢の中を追っていけば、母上にたどり着くんじゃないでしょうか!?)

少女(そ、そうか、それもそうじゃのう!お主の母がこの者の夢の中に出るかもしれんのう!)

少女騎士(このまま夢の記憶を遡ったりは出来ないんですか?)

少女(むぅ、流石にそれは出来ん。あくまで夢の中じゃから、お主の父が母との記憶を夢に見る必要がある)

少女(こっちも脳みそ弄ってる訳ではないからの。それに、今この者の夢の中にいること自体がありえぬことじゃ)

少女騎士(私の夢の中には入ってきて散々操作してるじゃないですか……)

少女(それはそれ、出来てしまったのだから仕方が無かろう)

少女騎士(でも……はぁ、母上の事が知れると思ったのですが、そう都合よくはいかないのですね)

少女(世の中そんなものじゃ)

少女(……お主は)

少女騎士(はい?)

少女(お主は自身の母の事をどう思っておる?)

少女騎士(母上のこと……)

少女(そう、お主が推測する母側の感情ではなく、お主が思う母じゃ)

少女騎士(私は……)

少女騎士(嫌いです)

少女(……)

少女騎士(理由はどうあれ、父と私の目の前にいないのです)

少女騎士(私を愛してくれなかったことも……父を一人にしたことも……私にとっては許せない事です)

少女(そうか……都合よくはいかないか……)

少女(……もしも)

少女(もしも……母が生きていたとしよう

少女(その母が目の前に現れたら、お主はどうする?)

少女騎士(まず折れる直前まで腕を捻じ曲げた後、ゆっくりと一枚ずつ爪を剥がしていきます)

少女(なにそれこわい)

少女騎士(でも、実際はそんな事どうでもいいです)

少女(お主は今人の腕を再起不能にさせた事をどうでもいい事と言うたか?)

少女騎士(本当は、話を聞きたいんです)

少女騎士(父上との間に何があったか、どうして私が生まれたのか)

少女騎士(どうして私を捨てたのか、そして……)

少女騎士(私を……愛していたのか、と……)

少女(……)

少女(寂しいのじゃな、お主は)

少女騎士(……実際に対面したら、どうなるんでしょうね)

少女騎士(突然怒りが込み上げてくるか、感動の再開を喜ぶか)

少女騎士(それとも、その人を母と実感できずに、何も感じないか)

少女(……長い期間あっていないのに加え、お主は母の顔も覚えておらぬ。3番目が一番濃厚じゃな)

少女騎士(……でも、それが一番嫌です)

少女騎士(もし私が母上に会って、何の感情も湧かないようなら……相手だって同じハズですから)

少女(……なかなかヘビーな話じゃ)

少女騎士(……次に行きましょう!こんな話をしていても気分が落ちていくだけです!)

少女(うむ、気を取り直してゆくぞ!)

――――――
―――

小休止
見てる人がいて安心したり


見てるよ

乙!

頑張って

主の作品にすっかりファンだわ
頑張ってください

再開

あるじってなんだよwwwwwwwwwwwwww


空っぽの俺にすべてをくれた
空っぽのお前にすべてを与えた

それは終わりではない、始まりだ
それは歩みを止めた訳じゃない、歩き始めたんだ

お前と出会うことで
お前と過ごすことで
お前と別れることで


俺と、彼女が歩き始めたんだ


セラ……セルフィナ……

ガラスの海で、きっとまた……

――――――
―――


13

少女騎士(父上……?)

少女(なにやら意味深なことを言い残していたのう)

少女騎士(セルフィナ……おとぎ話の竜の名前……)

少女(美しい名じゃ、とても……)

少女騎士(何のことなんだろう)

少女(む?それよりも見てみぃ、さっきと同じ数字になっておる)

少女騎士(あ、本当だ)


少女騎士「父上、私たちではどうにもならないのですか?」

騎士「残念だが、武力じゃ解決できない事もある」

少女騎士「奴隷市……こんなものが本当に存在していたなんて」

騎士「しかも俺の故郷の近場の町でか……ここら辺はそれなりに裕福だからありえないと思っていたんだが」

騎士「しょうがない、ボーッと突っ立っててもどうしようもない。見なかったことにして離れよう」

少女騎士「……放っておくのですか?」

騎士「……」

少女騎士「私にはできません。目の前で行われている非人道的なこの行為を」

少女騎士「それを目にして離れるなど……。私のこの感情は間違いなのですか?」

騎士「決して間違いではない。俺だってこんなもん無くせるのならなくしてやりたい……が」

騎士「どうしようも無いんだ。俺では変えられないほど大きいことだ」

少女騎士「行動を起こさなければ変えることはできません!」

騎士「この規模の大きさだ、国が黙認しているとしか思えん」

騎士「それを敵に回すのは無理だ」

少女騎士「それでは……たとえ強くなったとしても、助けることが出来ないものがあるということではないですか」

騎士「その通りだ、どの分野に対してでも強いだけでは成しえない事もある」

騎士「……努力すれば誰でも勇者にだってなれる、必死で死ぬ気でやれば英雄にだってなれる」

騎士「けれど、世界を変えることが出来る奴なんてのは、本当に一握りの才能を持った連中だけなんだ」

騎士「それは俺でもお前でもない。そんな器じゃない」

少女騎士「父上……今の父上は最高にカッコ悪いです……」

騎士「俺もそう思う……」

騎士「……俺が独り身なら、ここで暴れてやってとっとと逃げるって事もやってたかもしれないけどな」

騎士「今はそんなことできねぇ、守りたいモノを手元に置いている以上な」

少女騎士「……私、ですか?」

騎士「そうだ、家族を守るので精一杯だから、他の連中なんて見てられねぇ」

少女騎士「分かりました、今はそれで納得しておきます」

騎士「ああ、いい子だ……」ナデナデ

少女騎士「今は撫でられてもあまり嬉しくありません……」

騎士「おっと、そいつは悪かったな……」

騎士「世界を変えられる奴か……あの二人ならこの状況でもどうにかしちまうんだろうな。あ、そうだ」

少女騎士「どうしましたか?」

騎士「いや、頼れるものは頼らせてもらうか」

少女騎士「?」


……

二人で暴れようぜぇ?


少女騎士(つい最近……一週間くらい前の話です)

少女(おお、随分と新しいの)

少女騎士(奴隷市が栄えていた町があったのですが)

少女騎士(そこでの事ですね)

少女(このご時勢、人身売買などまだやっておるのか)

少女騎士(今この国は人手不足でこういったものは需要が大きいようです)

少女騎士(父上の故郷の近くなのに嘆かわしいことです)

少女(呆れたものじゃ、それで国家ぐるみか)


少女騎士「父上ー、どこいったんですかー?父上ー?」

少女騎士「……目が覚めたら父上がいない。まだ夜中なのに」

少女騎士「むぅ、宿に一人娘を置いていくなんて酷いですよ。連れ去られたらどうする気ですか」

少女騎士「……なんだろう、外が騒がしいなぁ」

少女騎士「……父上に外に出るなとは言われていないので行ってもいいですよね?」

少女騎士「よし!装備も準備もオッケー!出発!」タッタッタッ

少女騎士「さっきの奴隷市の方から人が逃げていっている……これは一体」


「化け物だ!市場の方で化け物が一匹で飛んできたんだ!」

「食われたくなきゃ逃げろ!」

「奴隷共を突き出してきた!沢山いるんだから囮にくらいはなるだろう!」


少女騎士「化け物……魔物?こんな町中に一匹で来るなんて、よっぽど強い種族出なければ返り討ちにあうだけなのに」


「竜だ!間違いない!あれは竜だった!」


少女騎士「竜!?」

少女騎士「ちょっと待ってください!竜ってあの竜ですか?ドラゴンですか!?」グッ

「な、何だよ!離せガキが!」

少女騎士「竜が人を襲っているんですか!?そんな筈は……だって竜は!」

「竜が心優しいなんて物語の中だけでの話だろう!あいつらは魔物だ!他と同様に俺たちを敵視しているに決まっている!分かったら離せッ!」バッ

少女騎士「……そんな……」

少女騎士「……確かめなきゃ」ダダダ

少女騎士(私にとって竜は、心優しいものの象徴でもありました)

少女騎士(過去に竜が私を助けてくれたように、きっと全ての竜がそうなんだと思い込んでいました)

少女(友好的なものもいればヒトを敵視しておるものもいる)

少女(種と個は違うものじゃ、お主のそれは思い込みじゃ)

少女騎士(それは承知しています、でも今回の事はそれとまた違うんです)

少女(違う?)

少女騎士(そのとき私が出会った竜は……)


「お、お前!言葉が通じるんだろう!?助けてくれ!金ならいくらでも積むし奴隷なら好きなだけ食ってくれても構わない!」

竜人「……」

「か、金なんて要らないよな……ハハハ、ホラ奴隷を持っていけよ!全部やるから!」

竜人「テメェの声を聞いていると耳が腐る、黙れ」

「む、むぐ」バッ

竜人「とりあえず、殺されたくなきゃそこの奴隷を入れてある折の中に入れ。もちろん中身は出せ」

「は、はいぃ!」

竜人「喋るな、ゲスが」

「むぐっ!」バッ



少女騎士「……ッ」


少女騎士(奴隷を売り出していたその場所は、見るも無残にバラバラ)

少女騎士(その人が仕切っていた地区一帯で竜が大暴れして、客も奴隷も逃げ惑う地獄絵図)

少女(ふむ、天罰が下ったのではないか?)

少女騎士(きっと人為的なものですよ。あの竜は、かつて私を助けてくれた竜)

少女騎士(その姿を見てビックリしたんです。そして彼が行っていた事にも)


「竜ッ……」

竜人「ん?奴隷か、なにやってんだ逃げろ」

「え?」

竜人「食われる展開ても期待してるのか?悪いが俺はカニバリストじゃあねぇんでな」

「あ、ありがとうございます!」ダダダダ

竜人「……」

「ど、奴隷を解放してなんのつもりだ!お前の目的はなんだ!?」

竜人「あ?テメェは黙っていろと言っただろ?檻の中にいるからって安全じゃないんだぜ?」

竜人「……ま、一応目的くらいは答えておいてやる」

竜人「人 助 け だ !それ以外に理由は無い」

「馬鹿げている……」

竜人「何とでも言え。あと、テメェのお仲間も捕まえて終わりにするつもりだが」

「こんなことをしても人助けになどならないぞ」

「この奴隷市でどれだけの働き手が回っていると思っているんだ。貴様のような竜では想像もつかないレベルだ!」

「国が黙認しているんだよ!これで分かるだろう、どれだけ奴隷が重要視されているかを!」

竜人「テメェのよぉー」

竜人「その臭い口から喉を通って」

竜人「肺までの距離を、俺の爪を使ってゆっくり引き裂いていったら面白いことになると思わないか?」

「ッ!?」

竜人「口閉じて黙ってろ、これが馬鹿げていることなんて俺にだって分かってんだよ」


少女騎士(いやぁ、いろんな意味で恐怖でしたね)

少女(何だかさっきのお主の爪剥がしに通ずる言い回しである気がするが……)

少女騎士(でも、人助けが目的って言ってて安心したんです)

少女騎士(ああ、私を助けてくれた彼はやっぱり私にとっての英雄だったんだなぁって思えましたから)

少女(うむ、奴は英雄気質っぽいのう)


竜人「さて、んじゃあ残りの連中を……」

「フフッ……」

ザッザッ


少女騎士「ッ!危ない!!」

竜人「ん?……ッ!?なんでアイツがここに!?」

「死ね!竜め!!」ブン!

竜人「ッ!?おっと!」バッ

「チッ、外れたか。親父さん、逃げた奴隷はあっちの屋敷に連れ戻しましたぜ」

「ああ助かる!出来ればそいつも始末してくれるとありがたいんだが」

「あいよ、今仲間がこっちに向かってるんで総出で掛からせてもらいますよ」

竜人「……何モンだ」

「用心棒ってとこだな」

竜人「オーガか、こりゃ手ごわそうだ」

少女騎士「竜が危ない……でも、私が出て行っても足手まといにしか……」


「こいつ一匹だけですか?屋敷には最低限しか見張りを置いてこなかったですが」

「ああ、それでいい。こいつを始末できればそれで終わりだ」

竜人「……」


少女騎士「屋敷……だったらせめて!」ダダダ


竜人「阿呆がッ!アイツはどこに向かってるんだ!」バッ

「おっと!逃げようとしても無駄だぜ!」グッ

竜人「クソッ!離せ!テメェに構ってる暇は無いんだよ!」


……


少女騎士「ここが奴隷たちが集められた屋敷……」

少女騎士「直接戦えないのなら、他に出来ることが私にだってあるハズ」コソッ


「化け物退治に宛がわれなくてよかったぜ」

「俺たちはこうして捕まえた奴隷を見張っているだけでいいからなぁ」

「混乱に乗じて何人か新しいの連れてきたんだが……」

「そりゃ不味くねぇか?つれてくる奴隷は国外からって決まりがあったろ?」

「黙っておけば誰も気がつかねぇよ」


少女騎士「……」 


半端だけど小休止

この作品でいうのもなんだが林檎ちゃんが一番好き

再開
林檎ちゃん謎の人気


少女(感心出来んな)

少女(父がいたら……父の手を煩わせるのが目に見えておるじゃろうに、なぜお主は自分から首を突っ込むのじゃ)

少女騎士(……見も知らぬ他人の為に力を振るっている竜がいたんです)

少女騎士(本当なら同じヒトである私が、彼らの目を見た私がやらなければいけない事だと思ったんです)

少女(お主に何かあったら私は……いや、ワシは悲しむ者がおると思うが)

少女騎士(例えそうだとしても、私は騎士です。守らなきゃいけないものがあるんです)

少女(……)


「ん?なんだ?」

「どうした?」

「なんだか煙っぽくないか?」

「お……おい!?下の階から物凄い煙が上がっているぞ!」

「何だ!?何が起こった!?」

「火事!?こんな時に!様子を見てくるぞ!」

「煙が濃くて前が見えん!!」


少女騎士「商人のお姉さんから護身用で貰っておいたスモークグレネードが役に立ちましたね」


少女(騎士とは何だったのか)

少女騎士(使えるものは何でも使え、守りたいものはどんな手を使っても守れ、手放したくない物は卑怯な手を使ってでも手放すな)

少女騎士(父上からの教えです)

少女(真っ向から騎士道精神をかなぐり捨てておる……)

少女騎士(ですが、それで守れるものがあるのなら何度でも捨ててやりますよ)

少女(……うむ、そういうのは嫌いではないぞ)


「チクショウ、目がイテェ」

「前がまともに見えねぇし、ゲホッ!煙がキツ過ぎる」

ガタガタ
バンッ

「!?誰だ?今誰か部屋の扉を開けたか!?」

「俺じゃねぇ!他の誰かだ!」

「誰かって誰だ!?」


少女騎士「皆さん部屋の前の連中は私が止めます!姿勢を低くして息を止めて真っ直ぐ突っ切ってください!」


「女の声!?」


ガタガタガタ

「クソッ!なんなんだよ!?」

「奴隷たちが逃げてるのか!?マテお前らぁ!」

少女騎士「悪いが大人しくしていて貰うぞ」ガスッ

「うっ」

「やられたのか!?どこに居やがる!!」

少女騎士「そんながむしゃらに動いたところで!」ドスッ

「うう……」

少女騎士「持っててよかったガスマスク」

「なんじゃそりゃ……」ガクッ

あ、コレ>>150>>152の後ろに持ってきた方がよかったな

少女騎士「よし、全員逃げたな……それでは私も」

「う、ぐすっ」

少女騎士「?他に誰かいるのですか?」

「怖いよ……動けないよ……」

少女騎士「小さい女の子!大丈夫、私が一緒に行きます。だから頑張って逃げましょう」

「お姉ちゃん……」

少女騎士「ホラ、私の手を握って」

「うん……」

「死んで?」

少女騎士「え?」ドスッ

「キャッハッハ!油断大敵~。私がか弱い女の子に見えたのかいお嬢ちゃん?」

少女騎士「グ、うう……これは……一体……」

「私、ここを取り締まってる幹部。お分かり?奴隷の見張りしてただけなんだけど?」

「あ、姉御……すみません、全部逃げられました……」

「構いやしないよ、入口から出るときに罠が作動するようになってんだ。それに全員捕まってるだろう」

「ゲッ!?俺ら知らされてませんよ!?」

「お前たちに話すとゲロッちまいそうだからねぇ、引っかかったらそん時はそん時さ」

「ひでぇなぁ……」

「さて……このお嬢ちゃんをどうするかだけど」

「そいつは俺たちに預けてくれませんかねぇ?」

「さっきの一発は痛かったんだぜ?」

少女騎士「……足がふら付いているぞ?大の大人がこんな子供にしてやられているんだ、お笑いだな……グッ!?」

「調子こくなガキが!今から立場を分からせてやろうか!」

「散々嬲った挙句川にでも捨ててやるよ!」

「なぁ姉御?いいよな?」

「……」

「あれ?姉御?」

グシャ


竜人「……テメェら……」


「え?あ……」

「あ、姉御!!」

少女騎士「竜……」

「ヒッ!?化け物!!」

「用心棒の兄貴と何人か仲間が加勢しにいったハズなのに……どういうこった!?」

竜人「物の数にもならん……オーガは手こずると思ったが……」

竜人「私情が挟まった!!あんな奴を相手にしている暇なんてなかったから速攻でケリ付けてきたに決まってんだろボケェッ!!」

「う、うあああ!!」

「ヒィィィィィ!!」

竜人「その命をもって償え!!人のむす」


プツン


少女(ま た か)

少女騎士(言うまでもないですが、ここで気絶しました)

少女(まったく、またいいところで切れおって)

少女騎士(何を期待しているんですかあなたは)

少女(そりゃもうグッチョグチョでドロッドロな臓物飛び交う絵面をじゃな)

少女騎士(そんなスプラッターなものは無いですよ!?)

少女(ぬ?この流れはそうではないのか?)

少女騎士(もうちょっと先を見ててください……ほら、始まりますよ)

少女騎士「あ……」

騎士「目ェ覚めたかバカ娘……」

少女騎士「父上……っ!!連中は!?」

騎士「あっちを見ろ」



リザード兵「ほら、キリキリ歩け」

「話せコンチクショウ!!」

「竜コワイ……竜コワイ……」

「クソッ!なんだっていうんだよ!気絶してたと思ったら手錠付きだなんてさ!」

エルフ「アンタたち、自分の立場分かってる?」

騎士「お前を襲った奴らはあの通り全員お縄だ」

少女騎士「……父上」

騎士「悪い」


パシンッ


少女騎士「ッ!」

騎士「……今回ばかりは俺も怒らせてもらうわ」

騎士「目を離した俺も悪いが……どうしてお前はこう何度も何度も変なことに首を突っ込む」

少女騎士「……」

騎士「黙るな、なんとか言え」

少女騎士「……」

騎士「埒が明かないぞ」

少女騎士「助け……たかった……」

騎士「何をだ?」

少女騎士「奴隷の人たち……を……」

騎士「……安っぽい正義感で自分の命を軽んじるな」

少女騎士「……」

騎士「お前のそれは勇気じゃない、無謀なだけだ」

騎士「自分に出来る事、とでも思ったのか?お前にはそんな実力は無い」

騎士「町中で化け物が暴れているってだけでも逃げるなり隠れるなりすればよかっただろう」

少女騎士「竜が……」

騎士「……?」

少女騎士「竜が……暴れていると……聞いたから……」

少女騎士「竜を……放ってはおけなかった……」

騎士「どうしてだ?」

少女騎士「私の……中の……英雄だから……」

騎士「助けになりたかった……か?」

少女騎士「うん……」

騎士「……俺にも責任あり……だな」

勇者「シケた面してるんじゃねぇぞ?」スタスタ

魔法使い「国王様、事後処理中です、抜けないでください」

騎士「来るのがおせぇよ……」

勇者「連絡あったの数時間前なんだけど……立場上すぐ来れるわけないでしょうが」

少女騎士「……」

勇者「……お前の親父な、言うまでもないけど、お前の事大好きなんだよ」

少女騎士「……ッ」

騎士「おい、変なこと言うな」

魔法使い「国王様に会話させてあげてください」

勇者「お前の身に何かあってみろ、悲しむのはここにいる大男だ」

勇者「何が正しいか、何が間違っているかを見極めるのはいい、でもな」

勇者「騎士である前に、お前はコイツの娘なんだ」

勇者「お前だって親父の事、大好きだろ?」

少女騎士「当たり前です」

勇者「ああ、それでいい……それが分かるのなら、心配だけは絶対にかけるな」

少女騎士「……」

勇者「……おいおい、なんか不服そうだな」

少女騎士「そうではありません……ただ」

勇者「ただ?」

少女騎士「言われるのなら……父上に言われたかったです」

勇者「……お、おう」

魔法使い「出しゃばりましたね」フッ

勇者「笑うなよ……」

ミテル-ワ

騎士「……お前が騎士になるって時点で俺は反対だったんだが」

騎士「次に命の危険があるようなら……本当に、俺はお前をどこかに閉じ込めてでも守るようにする」

少女騎士「……分かりました……もう……私は剣を……」

騎士「だが、一つの事を貫き通す姿勢は……嫌いじゃない」

少女騎士「え?」

騎士「せめて一人立ちするまでは……お前を見守っていくつもりでいるんだ」

騎士「そこからは、騎士を目指すなりなんなり勝手にすればいい……けど」

騎士「それまでは……頼む、もう……こんな真似はしないでくれ……」ギュッ

少女騎士「ちっ父上?」

騎士「何度も何度も心配かけさせてよぉ……俺には……もうお前しか……いないから……」

少女騎士「父上……泣かないで……ください……」

勇者「ホントにこの言いつけ守ると思う?」

魔法使い「さぁ?私には他人のそういったものは分かりかねます」

勇者「また何かやらかしそうな気がしないでもないけど……」

魔法使い「その度に親が紛争するんですね、よく知ってます」

勇者「なんで知ってるのさ?」

魔法使い「貴方の父親もそうだったからですよ」

勇者「ぬぅ……」

トコトコ

騎士「ん……奴隷の子か?ちゃんと保護するから、あっちのテントに行ってな」

「おねーちゃん」

少女騎士「……はい?」

「ありがと!」ニコッ

少女騎士「あっ……」


タッタッタッタ


少女騎士「……父上、私は……」

騎士「間違ってはいない、そう、間違ってはいないんだ。お前のやったことは」

騎士「その行動は、貫き通せば英雄にだってなれる」

騎士「……裏を返せば独善的な行為にも取られる」

騎士「それも、忘れるなよ……」

少女騎士「今回はたまたまこういう結果になった……ですよね?」

騎士「ああ……」

勇者「ハイッ!そこまでそこまで!重い空気を吹き飛ばすぞ!」

騎士「そうだな、説教は宿に戻った後でも出来る」

少女騎士「oh...」

勇者「それでさ、法廷での証言で他国の王である俺がこの場にいた説明、どうしようか?」

魔法使い「それなら、お忍びで遊びに来ていたところ、たまたま魔物の侵攻に立ち会ってしまい、その後、あろうことか奴隷市にてどさくさに紛れて奴隷と一緒に捕獲されたところを部下に助けられた」

魔法使い「という筋書きでどうでしょう」

勇者「まぁそれでいいか」

騎士「いいのかよ……」

少女騎士「父上、この方々はどうしてここへ……」

騎士「俺が呼んだんだよ……言ったろう?世界を変えられることができる奴が居るってことを」

少女騎士「それが……この人たち?」

騎士「正確には違うが……ま、それに近いな」

騎士「だから、俺たちには出来ないことをしてもらった。根本的に、すべてを変える為に……」

少女騎士「私たちには出来ない事……」


少女騎士(私は……自分の無力さを知っています、自分の弱さを知っています)

少女騎士(だから余計に……こうなってしまうのですね)

少女(さっきお主を賢いと言った言葉を撤回したい、何同じ事繰り返しておるのじゃ)

少女騎士(……何も言い返せません)

少女(のう、お主は結局どうしたいのじゃ?)

少女(父を守りたい、竜に跨りたい、そんなものではなく)

少女(お主は、どうありたいのじゃ?)

少女騎士(ありたい……)

少女(こんな話をまだ子供のお主にするのは変な話じゃが……)

正直書いてて少女騎士にイライラし始めた

>>176
は?少女騎士かわいいじゃん。[ピ---]

少女(騎士という肩書は父の背を追ったもの)

少女(それは借り物じゃ、決してお主の意思ではない)

少女騎士(……)

少女(答えは無くてもいい。じゃが、いずれは見出さねばいけない事じゃ)

少女騎士(まだ……わかりません)

少女(よい、それでよい)

少女(さて、この件でお主の事は大体把握したが……)

少女(む?まだ続きがあるのか)


……

少女騎士「父上……」

騎士「ん?もう説教は終わったぞ、ゆっくり休め」

少女騎士「……私は、父上の旅路の邪魔なのですか?」

騎士「どうした突然?」

少女騎士「今回の事も、教会の件でのことも……私が調子に乗らなければすべてもっと早く終わっていたはずです」

騎士「お前はまだ子供だから許されてるだけであって、もう少し大きかったら張り倒してる」

少女騎士「……はい」

騎士「難しいよな、こういうのって」

少女騎士「難しい?」

騎士「父親も母親も一人で両立しなきゃいけないって事、なるべくそうしてきたつもりだけどさ……」

騎士「アイツなら、こういう時どう接してたんだろうな……」

少女騎士「……私には、父上がいればそれでいいです」

騎士「お前はいつもそういうが……こういうのってやっぱり、母親も必要になるんだよな」

少女騎士「再婚でもするおつもりですか!?」

騎士「しねぇよ、絶対に」

騎士「……なぁ、母さんの事、知りたいとは思わないか?」

少女騎士「……話してくれるのですか?」

騎士「いや、まだだ……まだ、あと少し」

少女騎士「……?」

騎士「聞きたそうだって顔をしてるから、お前の意思は分かった」

騎士「今は眠りな、ゆっくりと」

少女騎士「はい……おやすみなさい」

騎士「ああ、おやすみ……」


少女(母ならこの時、どんなことを言ったのじゃろうな)

少女騎士(それを知る術はありません、ここにはいないのですから)

少女(……そうじゃのう、ここにはいないのう)

少女(もし、この場に居ることが出来たら……どうなっていたのじゃろうな)

少女(お主はどう思う?どうして欲しい?)

少女騎士(どうも……決して叶う事のない、『もしも』の仮定なんて、意味がありませんから)

少女(ここは夢の中、その『もしも』が起こりうる世界じゃ)

少女(次へ行こう、また何か違うものが見れるかもしれん)

少女騎士(……貴女は、私に何を求めているのですか?)

少女(答えは進めば分かる……あと少し……)


――――――
―――


――――――
―――


少女騎士「あれ?何も見えてこない……」

少女「来たか……終点じゃ」

少女騎士「終点……」

少女「長いようで短いようで。ま、お主の事が分かったから良しとするか」

少女「……夢で見た事は置いておこう、今はお主と語らいがしたい」

少女騎士「私とですか?」

少女「うむ……お主と二人でじゃ」

少女騎士「話すと言っても何を……」

少女「そうじゃな、まずはお主の父の話が聞きたい」

少女騎士「父上の事ですか?」

少女「ああ、どんなことでもいい、お主が想う父を語ってみよ」

少女騎士「はい」

少女騎士「父上は……とても優しいです」

少女騎士「強くて優しくて、私はいつも守られています」

少女騎士「優しいだけでなく、私が間違いを犯せば叱ってくれます」

少女騎士「そして、いつも抱きしめてくれます。私はそんな父上に……」

少女「恋でもしておるか?」

少女騎士「えへへ……」

少女「まったく、将来有望じゃのう」

少女騎士「母上にゾッコンなのは知ってますけど……でも、勘違いさせる父上が悪いんですよ」

少女「いやぁ、お主の何かが歪んでいるのがよく分かるのじゃが」

少女騎士「あとは……ちょっと泣き虫ってところですね」

少女「泣き虫とな?」

少女騎士「はい。たまに、夜になると月を見て涙を流している時があります」

少女騎士「その時……よく聞こえないですけど、唄を唄っているのです」

少女「唄……」

少女騎士「聞き覚えのある歌詞から始まって……でも、知っているものとは少し違う」

少女騎士「『優しい声は竜の唄』、そのおとぎ話をモチーフにした唄を」

少女「……そうか、月を見て唄っているのか」

少女騎士「不思議ですよね?」

少女「ああ、不思議じゃのう。不思議を通り越して不気味じゃ」

少女騎士「そうなりますよね……」

少女「……他はどうじゃ?お主を取り巻く者達は」

少女騎士「取り巻く……そうですねぇ」

少女騎士「さっき見た着物の商人お姉さん達は……」

少女騎士「本当のお姉さんみたいに可愛がってくれますよ」

少女騎士「商人のお姉さんは、面白い道具を見せてくれる度に父上が怒鳴りつけてますけど」

少女騎士「剣士のお姉さんは、私に稽古をつけてくれます。ちょっと厳しいですけど、それでも真剣に私に向き合ってくれます」

少女騎士「あとはウサギさん!あの子は会うたびに大きくなってるんですよ!」

少女騎士「抱き心地もすごく良くて、よく一緒に寝てもらっます」

少女「お主はその者達の事が大好きなんじゃな」

少女騎士「はい!」

少女「……どこか、お主はどこか父と旅して印象に残った場所はあるのかのう?」

少女騎士「場所ですか?……えっと」

少女騎士「雪です!辺り一面の白銀の世界!」

少女「雪か……アレは神秘的じゃな、ここら辺では見ることは無いからの」

少女騎士「北をずっと行った国なんですけど、もうとても綺麗で」

少女騎士「地面をギュッて踏むたびに足跡が付いて、それが点々と続いていくんです」

少女「ああ、ワシもよくやった。綺麗な雪の絨毯を自分の足跡だらけにするのが楽しくてな」

少女騎士「分かります!自分だけの印ですからね!」

少女騎士「別の場所では打って変わって海!」

少女「ワシはアレは飲める物だと思っていたのじゃがのう」

少女騎士「私も、父上からワザと教えられないでいたので初めて海に入った時に大変な目に合いました……」

少女「フフッ、お主の父は意地が悪いのう」

少女騎士「まったくですよ!」

少女騎士「そして、その帰りに立ち寄った店で食べた卵焼きがとても美味しかったのを覚えています」

少女「ほほう?お主の父はパスタでも食ったか?」

少女騎士「あれ?なんでわかったんですか?パスタを食べたと思ったら悶絶してましたねぇ」

少女「食ったのか……」

少女騎士「そして明日……私が目覚めたら、父の故郷に行くことになっています」

少女「故郷……それはどんなところじゃ?」

少女騎士「私はそこで生まれたらしいんですが……ぶっちゃけ覚えてないですねぇ」

少女「生まれたときを覚えておったら驚異的じゃ」

少女騎士「父上曰く、大切なものがそこにあるみたいです」

少女「……」

少女騎士「何かは教えてはくれませんけど、きっと見せてくれるんじゃないかと思います」

少女「……もしかしたら、お主の母がいるかもしれないのう」

少女騎士「ちょっと……やめてくださいよ、私とうとう殺人を犯してしまいますよ」

少女「物騒じゃのお主!?」

少女騎士「まぁ、もしかしたら居るかもって思うだけですけどね。父から何も聞かされてはいないので実際は分かりません」

少女「……のう、もう一つ聞きたいことがあるのじゃが」

少女騎士「何ですか?今ならなんだって話せてしまう気がします!」

少女「……ワシは、お主自身の事が聞きたい」

少女騎士「私の事ですか?さっきの夢の中で見た通りですよ、美化していなければ脚色もしていない、アレが私です!」

少女「いや、過去の記録よりも、お主が思うお主を聞きたい」

少女騎士「えー、なんか試されてるみたいですけど」

少女「難しく考えるな、話したいことを話しておくれ」

少女騎士「それじゃあ遠慮なく」

少女騎士「可愛くて愛らしくて、誰からも好かれていて気立てが良くて!」

少女「うむ、そうじゃのう」

少女騎士「お茶目で優秀で……」

少女騎士「……一度決めたら真っ直ぐな頑固者で、意地っ張りで」

少女「うむ、それもじゃ」

少女騎士「甘えん坊で、我が儘で……」

少女騎士「本当は」

少女「本当は?」

少女騎士「寂しがり屋で、父上よりももっと泣き虫で……」

少女「ああ、それこそ可愛らしいではないか」

少女騎士「……どうしてあなたは私のいう事すべてに賛同してくれるのですか?」

少女「理由などない、甘やかしたいだけじゃ」

少女騎士「どうしてあなたは……私の事を聞いたんですか?」

少女「十数年分の穴を埋めたかっただけじゃ」

少女騎士「どうして……そんなに優しいで……私に語りかけるんですか」



少女「いままで、貴女にそうしてあげられなかったから」

少女騎士「……」

少女「……そんな顔をするでない、どうした?ワシにお主の笑顔を見せてくれ」

少女騎士「なんでそんな意地悪をするんですか……」

少女「お主が可愛くて仕方がないからじゃ」

少女「ホレ、もう始まるぞ」

少女騎士「始まる?」

少女「ああ、一人の少女の物語が始まる」

――――――
―――



0


「産まれた……私の……私たちの……」

「セラ!無事か!!生きてるか!?」ガタンッ

「バカが!いきなり入ってくる奴が居るか!?」

「我々男性陣は立ち入り禁止だよ、とりあえず外に出ようか」グイグイ

「離せクソ仮面!!俺は自分の妻の安否と子供の顔が見たいだけだ!!」

「後で見せる、引っ込んでろ」

「大体お前!出産に立ち会ったこととかあるのかよ!?そこが心配で心配で仕方なかったんだよ!」

「当たり前だ!女神をなめるな!昔の部下達から何度も何度も立ち会えと言われ続けた結果、一人でもこういう事が出来てしまうようになったんだよ!」



産まれてくれてありがとう……


少女騎士「これは……」

――――――
―――


0


「へへっ可愛いなぁ……俺たちの子かぁ」

「サルのような変な顔しておるのう」

「やめてやれよそういうこと言うの……」

「しかし……ちゃんと人の形で産まれたのう」

「リザードマンの見た目で出てきたら流石にビビるっての」

「……この子は、ちゃんとワシらの下に生まれ出でてくれた」

「どんな姿をしていようと、その事実があれば十分じゃ」

「……そうだな」



出会ってくれてありがとう……



少女騎士「……私は今まで……」


――――――
―――



0


「ねぇ……貴女はこれから、どんな人生を歩むのかな?」

少女騎士「……」

「シィル……私の可愛い、私の大切な娘」

少女騎士「はい……」

「今だったら……優秀な魔法使い!」

少女騎士「私は父上に似てしまったので魔法は使えませんよ……」

「ん……私と同じくらい魔法使えるか分からないしね」

「それじゃあ……一国の勇者!」

少女騎士「私はそんな器じゃありません……」

「勇者はお飾りな場合が多いけど、それでも大変だもんね」

「……やっぱり、お父さんと同じ……騎士になってみる?」

少女騎士「……」

「ううん、本当はなんだっていい」

「あなたが健やかに育ってくれれば、私はそれでいい……」



私は……あなたを……

――――――
―――


少女「シィル」

少女騎士「……おかしいですよ……あれだけ私の前に現れたら酷い目に合わせるって言ったのに」

少女「えへへ……私はなんにも聞いてない♪」

少女騎士「いざこんなことになったら……胸が苦しくて……」

少女「シィル、目を瞑って」

少女騎士「……なんですか」

少女「いいから、私を信じて」

少女騎士「はい……」

少女「そう……じっとしてて……」

――――――
―――


0


「ごめんなさい……」

「あなたの成長を見守れなくて」

「私の物語はここで終わってしまう……でも」

「あなたに……あなた達に全てを繋ぐ事が出来た」

「決して忘れないで……私の事を」

「私は……あなたを……」


チュッ


少女騎士「あ……」



月明かりが照らす夜
私は、その手を覚えている
小さくも暖かいその手は
私を抱き上げ、とても愛おしそうに頬を撫でる
私の額に口づけをすると
その手はそっと私を寝かせる

「産まれくれてありがとう」

「出会ってくれてありがとう」

「私は……あなたを……」




「愛しています」


少女騎士「ッ……」

少女「私の事……覚えていてくれたんだね」

少女騎士「なんで……今まで忘れて……」

少女「夢は記憶の整理、今思い出せたことはきっと……それは時期を待ってたんじゃないかな」

少女騎士「あなたの想いも知らずに……私はあなたを恨んでいた……嫉妬していた……」

少女「いいよ、傍にいてあげられなかったんだから。そうなって当然」

少女騎士「今なら思い出せる……あのおとぎ話は……あなたが聞かせてくれた」

少女「『優しい声は竜の唄』」

少女騎士「私も、父上も大好きな物語……」

少女「そう、私の大好きな物語……あなたに好きになって欲しかったから、ずっと読んでいた」

少女「セルフィナ……私はおとぎ話のヒロインと同じ名前。忘れないで、覚えていて」

少女騎士「それが……あなたの……」

少女「……そうだ!もう一個だけ、いいモノ見せてあげる」

少女「私の夢が見せる物語」

少女「『もしもの未来』」


――――――
―――


少女騎士「母上!料理が出来ません!」

竜少女「お主……もう何度教えていると思っているのじゃ」

少女騎士「えへへ……母上の料理を食べたいから私は覚えなくてもいいじゃないですか」

竜少女「この我が儘娘が!お主だけ飯を抜くぞ!」

少女騎士「えー」

騎士「あんまり待たせないでくれ……俺腹減ってるんだけど」

竜少女「ちょっと待っておれ、そろそろこのバカ娘と決着をつける」

少女騎士「フフフ……とうとう雌雄を決する時が来たようですね母上!」

竜少女「雌雄を決するかどうかは知らんが今日のお主の飯はもうないという事実だけは揺るがん」

少女騎士「そんな殺生な!私が何をしたというのですか!」

竜少女「何もせぬから怒っておるのじゃ!!」

少女騎士「申し訳ありませんでした」ドゲザー

竜少女「まったく、分かったらとっとと手伝え。ゆっくりでいいから覚えて行け」

少女騎士「……はい♪」

竜少女「ヴェイド、お主もゴロゴロしておらんで食器でも並べろ」

騎士「えー」

竜少女「今お主の飯抜きが確定した」

騎士「ヘイッ!働かさせていただきます!」

竜少女「親子そろってそっくりじゃのう……フフッ」

――――――
―――


少女「夢は過去と未来、そして願望を映すもの」

少女「私が見たこの夢も……願望でありながら、ありえたかもしれない『もしもの未来』の話」

少女騎士「えへへ……みんな、笑ってましたね」

少女「とても幸せそうで……」

少女騎士「……母上……お母さん」

少女「……うん」

少女騎士「お母さんは、私の事を……」

ギュッ

少女「こうしてあなたを抱きしめて実感できる……私は間違いなく、あなたを愛しています」

少女騎士「お母さん……」


「セルフィナ……、そろそろだよ」


少女「ぬ……?いかん、もう時間か」

少女騎士「え……」

少女「いい夢をみれたの、そろそろ目覚める時間じゃ」

少女騎士「……行ってしまうのですか」

少女「ああ、ワシはワシの場所へ帰る。お主はお主の場所へ帰るだけじゃ」

少女騎士「また……会えますか?」

少女「その時は、ガラスの海で会う事になるがのぅ」

少女騎士「ガラスの海……?」

少女「詳しい事はヴェイドに聞け、ワシからは以上じゃ!」

少女騎士「……母上」

少女「うむ」

少女騎士「ありがとうございました」

少女「うむ!すべてのものに感謝じゃぞ!」

少女騎士「……はい!」

――――――
―――


竜少女「……行ったか」

巫女「結構頑張ったね」

竜少女「うむ。しかし、年齢から頭の中に検索をかけるとなると13年の記憶だけでも相当な量になるのじゃのう」

巫女「数千年生きてるあなたはそういう感覚がマヒしてると思うけど?」

竜少女「イレギュラーも多々あったが……とてもいい夢を見れた」

巫女「彼女が望んだから夢で干渉することが出来た」

竜少女「ああ、ワシも話していて本当に嫌われていたり拒まれたりしたらどうしようかと思ったが……よかった」

巫女「うん、セルフィナ嬉しそうだもんね」

竜少女「……では帰るか、ワシらの場所へ」

――――――
―――


――――――
―――



少女騎士「ん……」

騎士「お、起きたか。飯出来てるぞ」

少女騎士「おはようございます……」

少女騎士「んー……あれ?」

騎士「どうした?」

少女騎士「何か……大切なことを忘れている気がするんですけど……」

騎士「大切なこと?」

少女騎士「夢を見ていた……ような気がするんです」

騎士「夢か……そういや俺も、昔の夢を見てたな」

少女騎士「昔の夢?」

騎士「ああ、母さんと喋ってるだけの夢だったなぁ。ケンカしてたっけか」

少女騎士「母上と……」

騎士「おっと、禁句だったな」

少女騎士「いえ、気にしてはいませんよ」

騎士「お?どういう心境の変化だ?」

少女騎士「何でしょうね……不思議とムカつかないんですよ」

騎士「今までムカつくほどだったのかよ……」

少女騎士「あの……父上が良ければ出いいんですが」

少女騎士「母上との思い出を聞かせてはくれませんか?」

騎士「あらま、本格的におかしくなってるな。熱でもあるのか」

少女騎士「……ただの気まぐれです。それとも、いつもみたいにまだ早いと言いますか?」

騎士「……いや、そろそろ話そうかと思ってたところだ」

騎士「飯を食ったら出発しよう、夕方には目的地に着くハズだ」

騎士「そこで全部話すよ」


――――――
―――


ガヤガヤガヤ


少女騎士「目的地とはこの町ですか?」

騎士「んにゃ、もっと行った場所にもう一つ村がある。そこで一旦俺の目的は終わりだな」

少女騎士「父上の目的……?」

騎士「ああ、お前を母さんに会わせることだ」

少女騎士「いっ生きているのですか!?」

騎士「行けばわかる……お前は顔も見たくないだろうけど、そこはさ……」

少女騎士「いえ、興味があります。主にどうやって弄り倒そうかですが」

騎士「連れて行かない方がいいのかコレは……」

少女騎士「それにしてもこの場所……」

騎士「見覚えがあるか?」

少女騎士「はい、幼い頃にここの通りを見た覚えがあります」

騎士「まだお前は……1歳くらいだったか?の時だが、覚えてるもんなのかなぁ」

騎士「そういや、ここでアイツらと別れたっきり、どこかへ消えちまったんだよな……」

騎士(そして、この場所で俺は一度……)

少女騎士「父上?」

騎士「あ、ああスマン。昔を思い出して俺の右上半身に眠る暗黒のハムスターが疼いてしまった」

少女騎士「訳わからない事言ってないで行きますよー、私もとっとと事を済ませたいので」

騎士「今日のお前なんか冷たい……」


――――――
―――


少女騎士「父上、もう日が落ちかけてますが……」

騎士「まぁまて、この辺だったハズなんだけどなぁ……」

少女騎士「あの、明日にしませんか?まさか村を素通りするとは思ってなかったんですけど」

騎士「お、あったあった!なんで巧妙に入口が隠されてるんだよったく……」

少女騎士「ここは……?」

騎士「この先に母さんの家がある、入るぞ」

少女騎士「家!?これってどう見ても洞窟じゃ……ちょっ!父上!」

少女騎士「普通の洞窟にしか見えないのですが……」

騎士「先に進んで行けば分かるって」

少女騎士「そうですか……あれ?」

少女騎士「何か人工物の石碑のようなものがありますね……パックリ割れてますけど」

騎士「ああそれな、忌々しい。好きなだけ割っていいぞ」

少女騎士「遠慮しておきます」

騎士「着いた……お、すげぇ事になってる」

少女騎士「やっと着いた……って、なんですかここは?」

騎士「見ての通り、ドーム状に空いた空洞だ。そこそこの大きさの竜なら普通に暮らせるくらいの大きさだ」

少女騎士「中央の天井に大きい穴が開いてますね」

騎士「ああ……あそこから見える月はすっげぇ綺麗だぞ」

少女騎士「……ちょうどその下に……剣?」

少女騎士「剣が二本……地面に……」

騎士「……母さんが使ってたものだ」

騎士「ご丁寧に、その周りに花まで咲き誇って……日も当たるし雨も当たるから、ちょうどよく育つんだろうな」

少女騎士「これじゃあまるで……お墓……」

騎士「かつて……」

騎士「かつてこの場所に、一匹の竜がいたんだ」

少女騎士「竜……」

騎士「世間知らずで頑固者で意地っ張りで、でも甘えん坊で寂しがり屋で泣き虫で……」

騎士「……その竜の名前は」

少女騎士「セルフィナ……」

騎士「っ!?」

騎士「お前……なんで……」

少女騎士「アレ……私、なんでおとぎ話の竜の名前なんて……」

騎士「あ、ああ……そっちね……」

少女騎士「そんな竜が実在していたという事ですか?」

騎士「……確かにそこに存在していた、ここに居たんだ……間違いなく」

騎士「その竜は封印を解かれ、いつか夢見た大空へ飛び立っていった」

騎士「一人の騎士を連れて」

少女騎士「……」

騎士「でも、アイツはここに戻ることを決めた」

騎士「……俺と出会ったこの場所で」

少女騎士「……その竜は……」

騎士「……お前の母さんな、実は……」


「あああーーーー!!何やってるんですかあなた達は!!」


騎士「ファッ!?」

少女騎士「何事ですか!?」

巫女「何事じゃないですよ!ここは竜神様がいた神聖な場所なんですよ!一般人は立ち入り禁止です!」

少女騎士「……父上、まさかこの人が母上……ッ!」

騎士「訳ねぇだろ!?どう見てもお前より年下だぞ!?」

騎士「ってか一般人立ち入り禁止ってどういうことだよ……」

巫女「知らないんですか?ここは竜神様を祀る場所、巫女である私以外は入っちゃいけないんですよ!」

騎士「そんなのいつ決まったんだよ……俺が村にいたころはそんな風習なかったぞ」

巫女「最近出来たんです!私はかつていたと言われている竜の巫女様に代わって2代目としてここの清掃を任されています!」フフン

少女騎士「竜の巫女……?」

巫女「光栄なことです!私のご先祖様がここの竜神様に助けられて、そうして命をつなぎ私が今こうして巫女をしているのですから!」

騎士「先祖が竜神に助けられた……そうか、それじゃあお前も俺と同じ……」

巫女「え……あなたのご先祖様も?」

騎士「ああ……そうか、面白いもんだな……こうしてアイツが救った命が巡ってくるなんて……」

巫女「むぅ……だとしたら大元は同郷の人ですか……本当は見学はお金取るんですけど、今回は見逃してあげます」

騎士「金取るのかよ!?」

少女騎士「あの!」

巫女「はい?どうなさいました?」

少女騎士「聞かせてください、ここの竜神様の話を!」

巫女「お!乗ってきましたねぇ!分かりました!1から10まで竜神様の素晴らしさを全部マルッと教えてあげます!」

巫女「まずはこっちに来てください!こっちには初代巫女様が寝泊まりしたと言われている部屋が……」

少女騎士「おお、こんなところが扉になっているんですね……」



騎士「ったく、変な茶々が入っちまった」

騎士「……まぁいいか、アイツがここに存在していた証はこれからも続いていくって事で」

キキッ!!

騎士「お、久しぶりだな。元気してたか?」

キキッ!

騎士「悪いな、俺よりもお前の方があいつとの付き合いが長いもんな」

騎士「……これからも、この場所を守り続けてくれ」

キッ!

巫女「そしてこれが竜神様が残したと言われる剣二本!」

少女騎士「……あれ?さっき父上が母上の使っていた剣だと言っていた気がしたのですが……」

巫女「聞き間違いでしょう、多分。人間が竜神様を孕ませたとかとんでもないですよ」

少女騎士「地獄絵図ですね」

騎士「……」

巫女「実はこの剣、よく見ると首飾りが掛かっているんです」

少女騎士「本当だ……アレ?でもペンダントじゃなくて……」

巫女「チェーンに指輪がかけられているんですよ」

巫女「竜神様の残した秘宝なんて言われてますけど……ま、よく分からないんでアレですが」

騎士「……」

巫女「こんなところですね!どうです?竜神様がますます好きになったでしょう!」

少女騎士「元々竜には好感を持っていますので、こういう竜もいるんだなと勉強になりました」

少女騎士「私にとって竜は……こう、キラキラ輝いてて……それでいて……」

巫女「神聖な存在ですからね!そうだ!あなた達旅の方ですよね?よかったら今日は家に泊まっていきませんか?」

騎士「いいのか?見ず知らずの人間を招いても」

巫女「同郷と竜神様好きに悪い人はいません!」

騎士「ハハッ、そりゃ参ったな……お言葉に甘えさせてもらうか」

巫女「それじゃあレッツゴー!です!」グイッ

少女騎士「ああちょっと……」

騎士「先に行ってな、後から村の方でアンタの家を聞いて尋ねるよ」

巫女「それは構いませんが剣に触らないでくださいねー!」

騎士「分かってるよ」

……

巫女「いやぁ、外も暗くなっちゃいましたねぇ」

少女騎士「月が出て星が出て……綺麗な空ですね」

巫女「山の中の村ですから、空気が澄みきっていて空がよく見えるんですよ」


ウォーン


少女騎士「……何か聞こえませんか?」


ウォーン


巫女「ホントですねぇ、ここら辺は魔物も出ないんですけど」

少女騎士「あ……」

巫女「どうしました?」

少女騎士「空……見てください」

巫女「…………ああああああ!!!竜神様だ!!竜神様が空飛んでる!!」


ウォーン


巫女「村のみんな呼んできます!!うおおおお!!私の毎日の祈りが届いたあああ!!」ダダダダ


ウォーン


少女騎士「唄ってる……とても優しい声……」


その日、十数年ぶりにその村に竜が現れた

既にいなくなっていたと言われている竜とは違う竜であったが、村はお祭り騒ぎとなった
きっとその竜は、そこにいた竜の為に唄っていたのだろう


優しい声を煌めく風に乗せ
私は、その唄声を……輝く想いを胸に


私がこの時見た夢を思い出すのはこれからずっと後の話
全ての真実を父から告げられたずっと後の話

例えすべてを知っても、私は変わらない

あなたを知ったからこそ、今の私がいる

二人から受け継いだこの気高き血は、決して変わりはしない


全てのものに感謝します
父と母との出会いに感謝します

私を産んでくれてありがとう
私と出会ってくれてありがとう

私を愛してくれて……ありがとう




少女騎士「輝く想いは竜の唄」 おわり

優しい声より短くなると思って書いたら変なことになった挙句長くなった
騎士と竜少女の話はちょうど中間の話を書いて終わりになります

コレと吟遊詩人以外はなるべく過去作見なくても話が分かるように気を付けて入るけどそろそろ同じ世界観は潮時か

お付き合いしていただいた方がいましたらどうもありがとうございました


面白かったし泣いた
次回作も楽しみにしてます


次も楽しみに待っとります


最近の楽しみ 次回作期待しています


いつも面白いです

全部同じ世界観でお願いします

定食屋って続いてたのか、作風割と好きだったんだよね
追いついたら終わってたけど(

結構見てる人いてびっくりした

世界感は俺も同じにして欲しい

世界観変わったら泣く

>>239
あんたはわかってる

ちょっと泣いちゃった
次も楽しみにしてる

林檎ちゃんがでたら何でもいいよ

俺も林檎ちゃんに出て欲しい

林檎ちゃん主人公もっかいやってほしい

わかってるやつ多すぎwwwwww

最近の楽しみだわ
作者の方の更新早いから嬉しい

結局未来でもパスタはまずいままなんだな定食屋

ほとぼり覚めただろうからこっそり書く
林檎ちゃん主人公はやらない
アレで話が終わってるから

あと、某所で言われてたけど、指輪の奇跡は今回の夢を見た事じゃない
それは次回へ持越し

あと、理由も書かずに糞と一言言われるとへこむ
失礼

>>248
そうか・・・残念すぎる(;_;)
せめて出番だけでもふやしてほしぃ
次回作書き始めたらURL貼ってくれると嬉しいです
楽しみに待っています

メインやらないだけで出るには出る
その代り定食屋勇者は今回で退場のつもり
次作書き始めるころには多分ここのHTML化が終わってるハズなのであしからず

失礼

>>250
そうですか・・・
楽しみに待っています。 頑張ってください

HTML化が終わった後と言ったな、スマンありゃウソだった

男「座敷童がいる毎日」座敷童「……」
男「座敷童がいる毎日」座敷童「……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378739292/)

>>252
待ってましたぁ!

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