女王「起きなさい、私の忠実なる騎士よ」 騎士「よく寝た」(293)


騎士「何年振りだ?」

女王「は?」

騎士「いやごめん、こっちの話さ」

騎士「多分わかんないだろうし」

騎士「あ、でも一応聞いてみるかな」


騎士「ここは渓谷の国かい?」

女王「渓谷……?いえ……? ああ、そうか」

女王「それはこの国の前身の名です、今は大雪渓の国と呼ばれています」

女王「地図があります、渓谷の国はおよそこの辺りにありました」

女王「そして今この国の範囲はおおよそこの程度……」

騎士「へえ! また随分拡げたもんだなあ」


騎士「すると君は何代目になるんだろ」

女王「3代目を継いでもう5年になります、渓谷の頃から数えるなら7代目……」

騎士「7代目! そうかあ、そりゃ時間も経つわけだ」

女王「あの……それで」

騎士「ああ、大丈夫、心配いらないよ」

騎士「お務めはちゃんと覚えているよ」

女王「それでは……」

騎士「うん」

女王「我が忠実なる騎士よ、前史からの盟約により、その務めを果たしなさい」

騎士「仰せのままに、我が親愛なる主よ」


騎士「うわー、いい眺めだなー」

騎士「けど、すばらしく寒い」

騎士「おかしいな、こんなに気候の厳しい土地だったっけ?」

女王「建国以来、この辺りの土地は少しずつやせてきているそうです」

女王「私の母が幼い頃に、火の山も活動をやめたと聞きました」


騎士「……あんな所に海岸線、あったっけ」

女王「大地も小さくなっているそうです」

騎士「随分変わってるなあ、大変でしょう」

女王「隣国からしてみれば取るに足らない小国です」

女王「けれど、少しずつ国を奪われています」

女王「……国民は飢えています、だからこそ」


騎士「戦わなければならない」

女王「……!」

騎士「でしょ?」

騎士「その為に起こしたんでしょう、俺を」

騎士「力を貸すよ、なんなりと言って」


女王「ありがとう、ございます……」

騎士「うん、それにそれは俺にとっても必要なんだ」

女王「必要?」

騎士「俺はさ、戦わなければだんだん弱っていくんだ」

女王「そんな……」

騎士「まったくひどい契約でしょ?」


騎士「あっちが俺の部屋か」

騎士「しかしまあ、この城も随分きてるね」

騎士「修繕もできていないし、掃除も行き届いていない」

騎士「何より姫様のあの格好」

騎士「それでもまだ気を使っているんだろうけど、一国の主の身なりじゃないよなあ……」

騎士「これは大変そうだぞっ、と」


ギギギ

騎士「こんにちわー……」

騎士「使ってない部屋らしいけど」

騎士「まあ、そうだよなあ」

騎士「……凄いすきま風、扉もがたついているし」

騎士「まずは掃除でもするかな」


騎士「っと」


「!?」

騎士「甘い甘い、俺の首獲るんならもっと上手くやらないと」

騎士「ついでにその仮面の下も見せてねー」

「な、いつのまに……」

騎士「あれ!?」



騎士「お前、盗賊じゃん!え、何やってんの!?」

「盗賊……!?」

騎士「……ああ、そっか、人違いだよね」

騎士「ただの人間が100年も生きていることもなし」

密偵「……盗賊ではない……、が、私はこの国に代々仕える草の一族だ……」


騎士「なるほど、子孫って線があったか」

密偵「なるほど、と言われてもな」

騎士「いいのいいの、その方が親近感がわくから」

密偵「それでいいのかお主の生き方……」

騎士「色々考えてたら長生き出来ないからね」


密偵「しかしまあ、随分と腕が立つ事はわかった」

密偵「古の騎士という話、信用しよう」

騎士「何それ?ちょっと格好いいね」

密偵「笑い話ではない」

密偵「この国の者はみな心の内で祈って来た」

密偵「この国の前史を支えた古の騎士」

密偵「その者がいつか自分たちを救ってくれることを」


密偵「平民出でありながら一国を興した比類なき才女と一人の騎士」

密偵「その英雄譚を子どもの頃から聞かされて育った」

騎士「え、才女?」

密偵「この国の祖となった女王だ、よく知っているのだろう」

騎士「え、あー、そっか」

密偵「なんだ」

騎士「いや、まったくそうだったよ! うん! あいつは凄かったなあ!」

密偵「あいつと呼べる辺り、随分と近い間柄であったと見える」

騎士「まあね!」

騎士(ただの喧嘩っ早い脳筋姉ちゃんだったことは黙っておこう……)

騎士(可憐な少女の夢をむざむざ壊すこともあるまい……)

ひとまずここまで

>続き


---

従者「女王様!女王様!」

女王「どうしたのです、血相を変えて……」

従者「北の!平原の国の将軍です!」

従者「予告もなく、兵を率いてやってきました!」


将軍「はん、相変わらず寒々しい国だ」

将軍「この城もどうだ、国力のほどが見て取れる」

将軍「おや」


将軍「……これは、大雪渓の姫君……」

将軍「いや、今は雪の女王、でしたか?」

女王「何用です、正式な書面も交わさずに来訪とは」

将軍「これは失礼、順序を違えておりました」


将軍「こちら、我が平原の王より書簡を」

女王「貴方ほど地位ある方が直接、ですか」

将軍「何卒その向きを正しく認識していただけるよう……」

女王「……山を越えて来られてさぞお疲れでしょう」

女王「客間にご案内しなさい、粗相のないように」

「は、はい」


「では、こちらへ……」

将軍「お心遣い感謝致します、では……」

将軍(かつての興国も今はこの程度か)

将軍(む……)

騎士「……」

スッ

将軍(随分と矜持を理解している男だ)

将軍(この国の兵士は老いぼれか少年兵あがりの者しか残っていない筈)

将軍(このような男がまだいたのか)


将軍(面白い)


「女王陛下!」

女王「何事ですか、落ち着いてください」

「いえ、しかし!」

「平原の将軍と、あ、あの、新参者が!」


将軍「おや、これは女王陛下」

将軍「随分と豪華な見物客がおいでになられた」

女王「これは一体、何をしているのです!」

将軍「何、親善試合ですよ」

将軍「使うのも刃のない模造刀」

女王「き、騎士!」

騎士「……」コクッ

女王「しかし……!」

将軍「騎士殿はやる気のようだな」

将軍「では……手合わせ願おう」


騎士「……」スッ

将軍「む……」

将軍(隙がない)

将軍「これはなかなか面白くなりそうだ」

騎士「……ふっ」ヒュン

将軍(太刀筋はなかなか)


騎士「……1歩、2歩、3歩」スッ スッスッ

将軍「……むっ!」

騎士「1、2、3っ」フッ

将軍(これは避けねば……!)

騎士「はっ!」フワッ

……

将軍「……?」

騎士「……ん?」

将軍(私が上手く躱した……というより、やつの切っ先が思ったより伸びなかった感じだな)


将軍(……なんだこの男は)

将軍(確かに隙はない、身のこなしもいい)

将軍(勘も鋭い、恐らく眼がよいのだろう)

将軍(だがこの戦い方は)

将軍(経験による読みを頼りにした、老練な兵士のようではないか?)

騎士「どうした、御仁」

騎士「その程度では私は崩せないぞ」

将軍「ふん、存外よく喋る男だな!いいだろう!」

将軍「はぁっ! 」


……

騎士「ぐ、くっ……」

将軍「なんと、耐えきったのか」

将軍「しかし口ほどにもない」

将軍「剣術の心得は少しはあるようだが、身体が追いついていない」

将軍「これで終いだ、命拾いをしたな」

騎士「……」

将軍(所詮は片田舎の騎士、か)


女王「大丈夫ですか、騎士」

騎士「大事ないですよ姫様」

騎士「私も少し腕ならしをしたかったのでいい機会でした」

騎士「まあ押されっぱなしでしたけど」

女王「まだ目覚めたばかりということなのでしょう」

女王「息も随分と荒れて見えました」

騎士「はは、そうですね」


騎士「……やはりと言うべきか、なんというか」

女王「何か?」

騎士「いえ、何でもありませんよ姫様」

女王「そうですか、って……」

女王「先程から、あなた、姫様と……」

騎士「すみません、なんだかそちらの方がしっくり来るもので」

騎士「不快なようなら控えますが」

女王「い、いいい、いや、ではない、ですけど……」

騎士「ありがとうございます、姫様」ニコ


---

騎士「魔女?」

女王「ええ」

女王「孤島の遺跡にいるとされる方です」

女王「20年ほど前まで王宮に仕えていたらしいのですが……」

女王「何があったのか、突然行方をくらましたらしいのです」

騎士「その魔女を見つけ、戦力としたいということですか」

女王「ええ、その通りです、あなたであれば可能かと」

騎士「差し出がましいようですけど、もうお亡くなりでは?」


女王「いえ……、近年になり孤島周りの海流が変わり、ひどく荒れています」

女王「船が難破し、運良く孤島に流れ着いた者が何名もおります」

女王「その者達の証言では、何者かに命を救われたと……」

騎士「それが魔女じゃないか、ということですか」

女王「はい、ただ……」

騎士「?」


女王「流れ着いた者のうち女性は、それは手厚く介抱された、と言っていますが」

女王「男性の方は、それは手厳しい扱いだったとか」

女王「それでも助けて頂いていることに変わりはないのですが……」

騎士「……」

女王「どうされました?」

騎士「いえ、なんでも、では行って参ります」

女王「お願いします……お気をつけて」


魔女「……ふん」

魔女「また流れ着いたか……」

魔女「どれ、なんだ、男か……」

魔女「ちっ」


魔女「ほれ!とっとと起きるんだよ!」


魔女「……死んだか?」

騎士「その声、魔法使いか!」

魔女「なに……!?」

魔女「む……、お前は……」


魔女「性懲りも亡く生きていたか、騎士」

騎士「お前もな!」

魔女「お前、少し若返ってないか?」

騎士「そういうお前は少し老けたか!?はは!」


魔女「ほう」


………ぬわー!!

……


魔女「で、50年も前に姿を消したやつが今更なんの用向きだ」

騎士「いてて……、また力を貸してくれよ」

騎士「お前が、この国の現状を知らないってことはないはずだ」

魔女「断る」

騎士「なんでさ、遭難したやつらを助けてくれてるんだろ」

魔女「この島で死んでもらっては迷惑なだけだ」

騎士「いいや、俺の知っているお前はそんな風には思わない」


魔女「……空しいだけだ」

魔女「この国は、いまだ小さく弱い」

魔女「今は地の利に救われているが、いずれ周辺の大国に飲み込まれるだろう」

魔女「むやみに戦いを助長してどうなる」

魔女「人が傷つくのは……嫌だ」

魔女「20年前もそうだ、私には、いたずらに戦火を長引かせることしか出来なかった」


魔女「そうして私は全てを置いて逃げ出してしまった」

魔女「そうさ、ただの罪滅ぼしなんだ」

魔女「情けない話だ、けれどあの時私にはああするしか出来なかったんだ……」



騎士「今度は、俺がいる」

魔女「……!」

騎士「あの時は挨拶もせずにいなくなってすまなかった」

魔女「お前が……いなくなって……、すぐに女王も亡くなって……」

魔女「本当に、大変だったんだ……」

魔女「お前は……お前は……!」

騎士「本当に、すまなかった」

騎士「だからこの通りだ、力を貸してくれ、魔女」


ひとまずここまで
また書きためてきます

ありがとうございます
続きます


女王「お初にお目にかかります」

魔女「はじめまして……と言いたい所ですが、姫様、私はまだ姫様がおくるみに包まれていた頃を知っているのですよ」

魔女「姫様のお母様、お祖母様、ひいお祖母様には大変よくして頂きました」

女王「あの……非礼を承知でお聞きしますが」

魔女「どうぞ?」

女王「随分と、お若く見えるのですが……」


魔女「ふふ、所詮は仮初めの身体です」

魔女「実現したいイメージに身体の運用がぴったりと合わさることが、魔法の理想」

魔女「身体は出来るだけ全盛期の若いものがいい」

魔女「けれどこの姿は、強壮剤で強引に身体を動かしているようなもの」

魔女「私ももう実年齢では70を越えていますので」

魔女「そう遠くないうちにガタが来るでしょう」


女王「そうまでして何故……」

魔女「そんな顔をなさらないでください」

魔女「20年前の時点でもう私は一度死んでいるのです」

魔女「いま一度、私にこの国を守る機会をお与えください」

女王「……ありがとう、ございます」


騎士「あいつ、女性相手だと嘘のように優しいな」

騎士「そういえば、50年前も女官の部屋に忍び込んだことがあったっけ……」

騎士(まあ姫様には黙っておこう)

騎士(あんな感動的な雰囲気をむざむざぶち壊しにすることもあるまい……)


従者「あれ、お二人はどこへ……」

女王「古い知り合いの様ですから……積もる話もあるのでしょう」

従者「ははあ、なるほど」

女王「な、なるほど、とは?」ピク

従者「いえ、女王様のお耳に入れるようなことでは」

女王「そ、そうですか?」


女王「……」

従者「……」

女王「え、遠慮しなくてよいのですよ?」

従者「そうですか? いえね、お二人ともなかなかにあれじゃないですか」

従者「騎士様も美男とまではいかなくても、男らしい顔立ちですし振る舞いも紳士ですし」

従者「魔女様も見目麗しい美少女で、気品に溢れていて」

従者「それが今、運命の再会!」

従者「これはもう時間の問題ですね」

女王「ほ、ほほほ……」


騎士「人気のない所で話をといことですが、なんのことはない俺の部屋です」

騎士「まあ何もお構い出来ませんが……」

魔女「戯けたことをぬかすな、用件はこれだ」

騎士「何だ?その包み」

騎士「おっとっと、こら、投げんなよ!」

魔女「……」ジロ


魔女「お前の剣だ」

魔女「突然いなくなってから、ずっと保管しておいた」


騎士「え、うそ、ほんと?」

魔女「どう言って欲しいのだ……」

魔女「紛れもなくお前の物だ、曇りひとつない」

騎士「うわー、凄い!さすが鍛冶師が鍛え直してくれただけある!」

騎士「そうそう、これがなくちゃね!」スチャ

騎士「うーむ、しっくり来る」


魔女「……身体は以前と同じなのか」

騎士「うん、どうやらそうみたい」

魔女「難儀だな」

騎士「まあじきに馴染むさ、この国は必ず守るよ」

魔女「……そんなことを心配しているのではない」

騎士「ん?」

魔女「……知らぬわ」フイ

……

女王(むむ……)

……

密偵(ぬぬ……)


騎士「……」

騎士(なんだか扉の向こうと天井裏に気配がするけど反応せんでおこう……)

騎士(さわらぬ修羅場にたたりなし……)


---

騎士「はっはっ、はあっ」

密偵「どうした、もう息があがったか騎士殿」

騎士「はは、なかなか実戦となるとまだまだね」

密偵「そうかそうか、まだまだこれからだぞ!」

騎士「気合い入ってるなあ密偵!」


密偵(……しかし、なかなか懐に入れないのは事実だ)

密偵(特段身のこなしが早いようには見えないが)

騎士「ふっ!」

密偵「……」

密偵(ここで裏をつき、視線を躱して……その次で……)

騎士「はっ!」

密偵「くっ……!?」

密偵(これだ……!2歩手前で崩される!)


密偵(最小限の動きで未然に防いでいる……)

騎士「せあ!」

密偵「だが攻撃はここぞという所で大味だ」ギィンッ

騎士「がはっ」

騎士「……ははっ、まだまだ!」

……

密偵「流石に経験が違うな騎士殿は」

密偵「こんなに思う様にさせてくれない相手も久々だ」

密偵「しかしまだまだ私は捉えられないぞ」

騎士「かもね、またお願いするよ」

密偵「ああ、では私は戻る」


密偵(……ふう、紙一重だった……)シュッ

密偵(……)

密偵(……?)

密偵(いつから紙一重まで追い込まれていた?)

密偵(最初はまったく届いていなかった)

密偵(ほんの1時間ほどの手合いで順応したのか?)

密偵(いや、順応したという程度ではない)

密偵(まるで別人に変わってしまったかのような……)


……

騎士「はっ、がはっ、ごほっ……!」

騎士「またか、どうなってんだこの身体は……!」

騎士「ぐぅっ!」ドサッ

騎士「……」

騎士「すーっ……すーっ……」


魔女「物音が収まった」

魔女「……寝付いたようだな」

魔女「騎士……」

魔女「今度はどれだけ一緒にいられるのだろうな」


ここまでです、またお願いします

ありがとうございます、続きます

>58 蘇生ついては少し書いていきたいと思います


ーーー

士……騎士……

騎士……

……ダレだ

ダーレだ……

俺を、呼ぶのは……


「騎士!起きろ!」


騎士「はっ」

騎士「ここは……」

「大丈夫か?随分とうなされていたぞ」

騎士「お前は……女戦士か?」

女戦士「なんだどうした、まさか顔を忘れちまったなんて言やしないだろうな」

騎士「いや……なんでもない」

女戦士「しっかりしろよ」

女戦士「疲れが溜まってるのはわかってるけど、明日が正念場だぞ」


騎士「明日……?」

女戦士「なんだ、本当にどうしたんだ?」

女戦士「明日こそ、私たちの悲願の日」

女戦士「この土地に自由を取り戻す戦いの日じゃないか」

騎士「……ああ、そうだった、な、……」

女戦士「ほんとに大丈夫か?」

女戦士「まさか昨日食べた野戦鍋に当たったのか」

女戦士「確かに、私も少々腹の調子が……悪い、ような」


女戦士「熱はないか?どれ、測ってやろう」

騎士「!」

騎士「近い!ば、ばかやろう!」

女戦士「なんだ、いつものことじゃないか」

女戦士「……額の傷、残っちゃったな」

騎士「つっ~~!」

騎士「……明日に備えてまた寝るわ、おやすみ」

女戦士「?」

女戦士「ふふ、おやすみ」

ありがとうございます、夜にまた来ます


女戦士「騎士……見えるか」

騎士「ああ、綺麗な夕日だ」

女戦士「私はここに国を建てようと思う」

女戦士「誰もが蹂躙されずに生きることのできる場所だ」

女戦士「いつでも帰ってくることのできる……家のような国にしたい」

女戦士「手伝って……くれるかな」

騎士「何を当たり前のこと」

騎士「当然だろう?」


「女王様!騎士様!」

女戦士「うん、うん」

女戦士「この国も、少しずつよい方向に向かってきている」

女戦士「ここまで、長いようで短かった」

騎士「ああ……ほんとだな」

騎士「お前がまさか女王だなんて」


女戦士「なっ……!いいだろう!?やっぱり……駄目か?」

女戦士「不満か?私では……力不足だったか!?」

騎士「まさか」

騎士「かつての仲間が随分と遠い所に行っちまったなあって思っただけだ」

女戦士「そんな、そんなことは……!」

女戦士「だってお前は私の……」

……

それから……

それから、どうしたんだっけ


……

何も……見えない、真っ暗だ……

……ろ!

なんだ?酷く騒々しい

……起きろ!目を開けろ!

少女「例え死んでいても!目を覚ませ!」

少女「この!」

騎士「……いってえ!!!」

騎士「何すんだこの野郎!」


騎士「あれ……?」

少女「あ、あ、あ……」

騎士「女、戦士……?」

騎士「お前……、なんか若返ってないか?」

少女「お前は、騎士か!?」

騎士「ん?いや、そ……の筈だけど」

少女「ならば来い!」

騎士「おい、おいどこへ連れて行く気だ」

少女「すぐにわかる、今は一刻も惜しい!」


騎士「ここは……」

少女「静かに中に入れ」

騎士「……?」

騎士「……お邪魔します」

騎士「……」

「……?」

「誰か来たのかい?」


少女「ひいお祖母様!」

少女「ごめんなさい、うるさくしてしまって」

少女「起きていらしたのですか?」

「ああ、なんだか今日は少し調子が良くてね」

「誰か……一緒なのか、い」

「騎士……!?」

騎士「まさか」

騎士「女、戦士なのか」


騎士「50年……?」

女戦士「あなた、ある日突然いなくなって」

女戦士「私、ずっと探していたのよ」

女戦士「わずかな手がかりだって隣国まで行った」

騎士「それで……」

女戦士「1年前、ある場所で眠っていた貴方をようやく見つけた」

騎士「ある場所?」

女戦士「そう」


女戦士「あの大雪渓の頂き、その氷河の一部が崩れて」

女戦士「口を開けた天然の氷室……その奥の氷の中に貴方はいた」

女戦士「傷ひとつない……、とても綺麗だった」

女戦士「ごほっ、ごほっ」

少女「ひいお祖母様、少し横にならないと」

女戦士「ええ、そうね、ごめんなさい騎士」

女戦士「少し、休んでいいかしら」


少女「ここのところ、あまり意識がはっきりしていなかったの」

少女「ずっと仰っていた、貴方ともう一度会いたいって」


ーーー

女戦士「ごめん、ね」

女戦士「お迎えが来たみたい」

騎士「女戦士……」

女戦士「ね、約束してくれる?」

女戦士「この国を……、わたしと貴方が愛したこの国を……、守って」

騎士「ああ、ああ、必ず」

女戦士「うん」


女戦士「それから、ね」

女戦士「最後に、姫様って呼んで欲しいの」

女戦士「私だって、少しは憧れてたんだ」

騎士「……姫様」

女戦士「うん」

騎士「私の親愛なる姫様」

女戦士「……うん」

騎士「この国の未来を、我が剣に誓いましょう」

女戦士「……」

騎士「……女戦士?」


少女「ひいお祖母様!」

……!


少女「ひいお祖母様の直系は私しか残っていないの」

少女「みんな、争いや病気で死んでしまった」

少女「私は……この国を守りたい」

少女「私を……助けてくれますか?」

騎士「この剣に誓いましょう、親愛なる姫様」

少女「ありがとう」

短いですがここまで、また書きためてきます

続きます


ーーー

騎士「……懐かしい夢を見ていた」

魔女「騎士、起きているか」

騎士「ああ、いま起きたところ」

魔女「話がしたい、出かけられるか」

騎士「……大丈夫、俺も丁度話があったんだ」


騎士「ぐあっ、寒!寒い!耳がちぎれる!」

魔女「氷漬けになっていたやつが言う台詞か」

魔女「足元に気をつけろ、裂け目に落ちたら助からない」

魔女「ちょっと止まってくれ」

魔女「松明を補充していこう、確かこの辺り……」

魔女「あった、……よし、まだ使えそうだ」

騎士「随分と勝手知ったる感じだな」

魔女「 はは、そりゃそうさ」

騎士「?」


騎士「ここが氷室……」

魔女「前回も、今回もお前はこの辺りで見つかった」

魔女「私も……何度も何度も足を運んだ」

騎士「……」

魔女「ちょうど半年前、定期の調査で国の調査団が訪れた」

魔女「お前は、傷ひとつない状態で、あの辺りにいた」

魔女「氷に亀裂などはなく……、どうやって入り込んだのかは結局わからずじまいだったそうだ」


騎士「……魔女、ひとつ確認していいだろうか」

騎士「これは重要な問題だ」

魔女「なんだ、あらたまって」

騎士「……俺は」

魔女「……ん」

騎士「見つかった時は、全裸だったのだろうか」

魔女「……」

騎士「……」

魔女「……余す所なく見せつけていたそうだ」

騎士「う、うわあああ!」

魔女「はあ」


---

魔法使い「氷室はいま立ち入り禁止だよ」

魔法使い「崩落があったんだよ、しばらくは無理だろうね]

騎士「仕方ない、か」

姫騎士「折角何かわかると思ったのですが……」

魔法使い「ああ、姫様!しょんぼりなさらないでください!」

騎士「どれ、茶でも入れようか」

魔法使い「待て」

魔法使い「そこから動くな、円の外に出るのは禁止」

魔法使い「私の研究室を穢すんじゃない」


魔法使い「これは最大限の譲歩だ、わかるだろ?」


騎士「わかってたまるか」

魔法使い「あ!お前!」

騎士「はっはっはっ」

魔法使い「待ちやがれ!」

姫騎士「随分と打ち解けて……」

魔法使い「打ち解けてない!」
騎士「打ち解けてねぇ!」

魔法使い・騎士「「ぐっ……!」」

姫騎士「ほんと気が合いますね」


騎士「はっ、ほっ、せやっ!」

騎士「……?」

魔法使い「どうしたこの無頼者」

騎士「なんだよトゲのある言い方だな、いや、なんかさ変なんだよ」

騎士「身体が思ったように動かないというか」

騎士「身体の淀みがなくなったというか……」

魔法使い「調子がいいのか悪いのかどっちなんだ」

騎士「駆け出しの頃に戻った感じだ」

魔法使い「何だそりゃもっと噛み砕け」


騎士「まあ言ってみりゃ、身体に染み付いていた体術や剣術……」

騎士「記憶以外のありとあらゆる経験がさっぱり消えちまった、そんな感じだな」

魔法使い「ますますわからん」

魔法使い「蘇生したことと関係があるのか?」

騎士「わからんが……、こりゃ鍛錬が必要だな」

騎士「まあいい機会だし、現代剣術でも覚えてみるさ」


---

騎士「紅茶でよかったか」

魔女「ああ、ありがとう」

魔女「……うん、騎士の入れた茶は美味しいな」

魔女「身体の調子はどうなんだ」

騎士「まったく相変わらずだ」

騎士「50年前に覚えなおした剣技は身体がすっかり忘れてるし」

騎士「お前が教えてくれた魔法もさっぱりだ」

騎士「どうにも身体の動きが追いついてこない」


魔女「じじくさい泣き言を言うなよ」

騎士「そりゃ泣き言のひとつやふたつやみっつくらい言うわ」

騎士「あんなに血反吐吐いて身につけたのに」

魔女「お前さ、いま幾つだっけ?」

騎士「覚えてる限りなら……35?」

魔女「……やっぱり詐欺だよなあ」

騎士「俺はお前の方が十分詐欺だと思うぞ」

魔女「ほほう」


ぬわー!


---

魔法使い「き~さ~まぁ~~!!!」

騎士「待て!待て!落ち着け!」

姫騎士「わ、わ、何ですか、どうしたのですか!」

騎士「姫様!ちょ、ちょっとどいて!」

姫騎士「えっ、えっ?ひゃあっ」

騎士「ほっ、はっ、とうっ!」

姫騎士「ま、窓から外へ……ここそれなりに高いのですが……」


魔法使い「戻ってこい~!」

騎士「はっはっは!そいつは難儀なお願いだ!」

騎士「姫様あとは任せたー!」

姫騎士「え?え?」

魔法使い「ひ、ひめさま……」

魔法使い「傷心の私をお受け止めください!」

姫騎士「て、丁重にお断りです!」

魔女「そんな殺生な!」


姫騎士「ちょっとそこにお座りなさい」

魔法使い「は、はい」

姫騎士「事情はだいたいわかりました」

姫騎士「騎士があなたの湯浴み中に入って来たと」

魔法使い「はい、それもまあ悪びれもせずに堂々と……」

……
騎士『よっ、魔法使い!今日こそは仲良くしてもらうぜ!』
……

魔法使い「そして言うにことかいて……」

……
騎士『お、おんな、だと……!?』
……


姫騎士「はあ、それはそれは……」

姫騎士「あの、まあ、勘違いしていたのであれば、交流を深めようとしたのでは……」

魔法使い「それにね、姫様、知ってます?あいつの歳!」

姫騎士「いえ、そういえば……ひいお祖母様のお話より少し若いような……」


騎士『とし? いくつだっけな……覚えてる限りでは……』

騎士『さ、さんじゅう、かな?』


姫騎士「多少若作りでも見た目20代前半くらいかと……」

魔法使い「とんだ詐欺やろうですよあいつは!」

姫騎士「でも……そんな話をするくらいには仲良くなったのですね」

魔法使い「い、いいえ!そんな!研究対象として面白いってだけです」

魔法使い「それに姫様の頼みですし……」

姫騎士「ふふ、ありがとう」

ひとまずここまで、またお願いします

ありがとうございます、続きです


---

騎士「あの時は焦ったなあ……」

魔女「まあ私も研究に没頭して、男か女かわからんような風貌をしてたからな……」

騎士「……理由はそれだけじゃないけどな」

魔女「なんか言ったか」

騎士「いや、お前は昔から女性には優しいなあって」

魔女「ああ、男より女がいいな」

騎士「さらっと言うな、そういうことを!」


---

「本陣の設営が概ね完了しました」

「兵の配置も上々……」

姫騎士「ご苦労様です……」

「ひ、姫様!」

姫騎士「何事です!」

「伝令か! 報告しろ!」

「台地の国が、侵攻を開始したと……!」


姫騎士「そうですか……」

姫騎士「皆さん、まず落ち着きましょう」

姫騎士「大丈夫です、この日の為に準備をして来たのですから」

姫騎士「我々の、力なら…… 」カタカタ

姫騎士(震えが……)


騎士「姫様」ソッ

姫騎士「騎士……!」


騎士「ゆっくり、深呼吸して」

騎士「大丈夫」

騎士「落ち着いたか?」

姫騎士「……はい」

騎士「そうか、よし」

騎士「西の方角に微かだが、灯りが見えた」

騎士「やつら、山岳地帯の地の利がこちらにあることを逆手に取って、坂落としで挟撃するつもりだ」

騎士「そうなれば……山頂付近で逃げ場の少ない俺たちが不利になる」


騎士「幸い別動隊はそんなに多くなさそうだ」

騎士「奇襲さえなければ、この布陣を崩さない限りこちらが有利だ」

騎士「……俺が迎え撃つ」

騎士「奇襲部隊のさらに背後をつく」

騎士「その為にはより迅速に動く必要がある」

騎士「3人だ」

姫騎士「騎士、それでは!」


騎士「これは好都合だ、出鼻を挫いて、さらに立て直す暇を与えない」

騎士「本陣には、軍師も魔法使いもいる」

騎士「大丈夫、……お任せください、姫様」

姫騎士「騎士……」

姫騎士「……わかりました」

姫騎士「命じます、本陣をなんとしても防衛しなさい」

姫騎士「そして……、生きて帰って来て下さい」

騎士「はい、この剣に誓って」


騎士「お前らは陽動だ」

騎士「無理はするな」

「はいっ」

「騎士様も御武運を……」

騎士「ああ、任せておけ」


隊長「……む」

隊長「伏兵か?」

隊長「あちらさんも似たことを考えていたか」

隊長「しかしこちらに割ける戦力は多くないはず」

隊長「追え、確実にしとめろ」


「ぐあっ!」

「うわああ!」

隊長「ちっ、思ったより戦力が整っていたか」

隊長「ここはいい、手伝ってやれ」

隊長「しかし山道というのは思ったより険しいな」

隊長「こんな土地を奪って何になるのか」

隊長「む、本営は動き始める頃か……急がねばな」

「ぎゃ!」
「があ!」

隊長「!」

隊長「まさか……この急斜面を駆け下りて……!?」

騎士「悪いな!こっちにも大事なもんがあるんでね」


騎士(よし、奇襲は成功した!)

騎士(あと……7人ほどか!)

騎士「はっ、思ったより少し多いか!」


隊長「単身乗り込んで来るとは……」

隊長「奇襲は見事だが、浅はかだったな」

隊長「囲め、逃がすなよ」

隊長(さて……あちらは)


ドシャアッ

隊長「……」

騎士「はっ、はあっ、はあっ」

「ぐっ、くそおお!」

騎士「はあっ!」

「ぐあ!」


隊長「……ふっ」

隊長「やるじゃないか」

「お、お下がりください!」

隊長「俺も加わる、すぐに終わらせるぞ」


隊長(腕は……なかなか立つようだが)

隊長(まだまだ荒削りに見える)

隊長(しまいだ!)

騎士「……」ギリッ

騎士「はっ!」

「がはっ」

隊長「ぬうっ!」

隊長(なんだこれは!)

隊長(一刻、一刻ごとに奴の動きが速く……!)

騎士「おおおっ!!」

隊長「ちいっ!」

……


姫騎士「戦況は……?」

「こっちは抑えました!」

「奴さんはもう総崩れだ!」

「我々の勝利です!」

姫騎士「けが人の搬送を急いでください!」

姫騎士「……騎士」

ガサッ


姫騎士「っ、残党!?」

「はは、は!甘く、見たなあ!」

「俺の最期に付き合ってもらおうか!」

「ひ、姫様!」

「この距離じゃあ……!」

姫騎士「う、うああああ! 」ギィン!

「はっ、よく耐えたなあ!」

「だがこれで、終わりだ!」


ズグッ!

姫騎士「っ……?」


騎士「姫、様」

姫騎士「き、騎士……!」

騎士「怪我は……ありませんか? 」ボタッボタタタタッ

姫騎士「騎士ぃ……!」


騎士「……」ギロ

「なんだあ貴様!」

スラン

「き、きさっ、まままっ……」

「げふっ」

ドサ

騎士「……」

「な、何が起こった……?」

「相手の兵士が、一瞬で」

姫騎士「騎士、あなた、腕をっ……!」

騎士「なに、かすり傷です、へいちゃらですよ」

姫騎士「こんな時に冗談はやめてください!誰か!」

今と昔を交互に書いてるんですがわかりにくいですかね?
ひとまずここまで、またお願いします

ありがとうございます、続きます


……

魔法使い「戦っていた時のことを覚えているか」

騎士「……覚えていると言えば嘘になるな」

騎士「斜面を駆け下りて、二人を相手した」

騎士「それから、少しずつ身体に力が戻ってきて」

騎士「一人、また一人相手にするたびに、力が漲るのを感じた」


騎士『もっと……もっとだ…』


騎士「いつのまにか……頭よりも先に、はるかに速く身体が動いていた」

騎士「誰を、何人叩き伏せたのか……ほとんど覚えていない」

騎士「飽きれるほどに台地の国の兵士を倒して……」

騎士「そうして姫様の声が聞こえた」

騎士「腕で剣を受けたときも、まだ曖昧だった」

騎士「意識がはっきりした時にはもう相手は倒れていたよ」


魔法使い「記録官によれば、相手の約二割に至る兵力をお前が制圧したそうだ」

騎士「はは、ほんとかよ……ごほっ」

魔法使い「すまない、調子が悪そうだな」

騎士「いや、なんだか酷く疲れちまったんだ」

騎士「ちょっと、休んでくるわ……」

魔法使い「ああ、悪かったな、まだ傷も癒えてないのに」

騎士「はは、お前に心配されるなんてな……」


魔法使い「記録官によれば、相手の約二割に至る兵力をお前が制圧したそうだ」

騎士「はは、ほんとかよ……ごほっ」

魔法使い「すまない、調子が悪そうだな」

騎士「いや、なんだか酷く疲れちまったんだ」

騎士「ちょっと、休んでくるわ……」

魔法使い「ああ、悪かったな、まだ傷も癒えてないのに」

騎士「はは、お前に心配されるなんてな……」

二重になってしまいました、すいません


魔法使い「昔……ずっと北の大地にいたという騎士団」

魔法使い「不退、そして不死身の集団」

魔法使い「騎士をなぞらえて、そう呼ぶ者もいる」

魔法使い「寓話かと思っていたが……」

ゴトッ

魔法使い「?」


魔法使い「おい、騎士っ、おい!」

騎士「わるい……、なんだか、身体中がひどく軋むんだ……」ギシッミシィッ

魔法使い「なんだこれは、本当に人間の身体の出す音なのか」

騎士「うぐっ……ぐっうう」

魔法使い「くそっ、気を失ったか!」

魔法使い「……ちっ!」

魔法使い「おい!お前は私が必ず助けるからな!」

魔法使い「だから死ぬな!姫様を悲しませるな!」

魔法使い「おいっ、騎士……!」


ーーー

魔女「腕を見せてみろ」

魔女「……傷は跡形もないな」

魔女「そもそも初めからなかったかのように」

騎士「前回もそうだったんだ」

騎士「……なくしたのは経験、だけじゃなかったんだ」

騎士「この茶も、随分好きだったと記憶にはあった」

騎士「けれど飲んでみて、さほど美味くは感じなかった」


騎士「技も、癖も、傷も、嗜好に至るまで、みんななくしちまった……」

騎士「あるのはただ、この記憶だけだ……」

騎士「なあ魔女……」

騎士「俺の顔をしたこの身体は……、一体誰の身体なんだろう」

魔女「何を馬鹿なことを」

騎士「……きっと俺はただ眠っていたんじゃなかったんだよ」

騎士「これは記憶だけ引き継いだ……、別の人間なのかもしれない」


騎士「見た目の年齢が安定しないのもその証拠じゃないか?」

騎士「記憶だって本当は……随分欠けてるんだ」

騎士「大事な記憶……、あんなに、一緒にいたのに」

騎士「残った記憶さえこれじゃ」

騎士「俺は……ほんとに俺なのか?」

魔女「騎士……、お前は……」


---

騎士「ごほっ、ごほっ」

騎士「ぐっ……、かはっ」

騎士「はっ…はっ…、はっ……」

騎士「すー……すー……」

姫騎士「騎士!騎士!」

魔法使い「少し……落ち着いたようです」


魔法使い「戦い中で騎士は一時的に人の範疇を超え、理性をなくしました」

魔法使い「そしてその変化がきっかけとなったのかもしれません」

魔法使い「……少しずつ、騎士の身体は変化しており、精神も衰弱しつつあります」

魔法使い「このままではいずれ騎士は、騎士でなくなるでしょう」スッ

姫騎士「それは……?」

魔法使い「本来……人を活かす為に使うものではありません」

魔法使い「それに、世が世なら禁忌とされるものかもしれない」


魔法使い「……生命活動を不活性化する魔法です」

魔法使い「うまくいけば、変化を抑えることができるかもしれません……」

魔法使い「一方で、ひとつ間違えれば、今度はこの魔法が騎士を蝕むことになるでしょう」

魔法使い「それだけ扱いも難しい……、致死性の毒を死なない程度に与えるようなものです」

姫騎士「それでも……考えがあるのでしょう?」

魔法使い「……はい」


魔法使い「『ともに生まれ、ともに死のう』」

魔法使い「互いに対価を差し出し合い、共有する」

魔法使い「はるか昔、人と精霊の時代のやり方です」

魔法使い「魔力を共有すれば、おそらく……はるかに安定した魔法が可能でしょう」

魔法使い「ただし、古い魔法には感情……互いの想いが強く関係します」

姫騎士「得心がいきました、私が……適任ということですね」

魔法使い「はい……勝手な認識ながら、そのように思っています」

騎士「こほっ、はっ、はっ」

魔法使い「騎士、目を覚ましたか」


騎士「やめろ……、やめてくれ」

魔法使い「聞こえていたのか」

姫騎士「いいえ……」フルフル

姫騎士「騎士、それでは貴方が死んでしまいます」

姫騎士「貴方は私を救ってくれたのです、自らも省みずに」

姫騎士「今度は私が貴方を助けます、命を懸けて」

姫騎士「だから貴方も私を信じて下さい」

騎士「姫、様……」

姫騎士「魔法使い、もう準備は整っているのでしょう?」

魔法使い「はい」

姫騎士「始めましょう、きっと悩んでいる暇なんてないのです」

…………

……


魔女「……身体の調子はどうだ?」

騎士「発作はあるが……安定はしている」

魔女「姫様は……お前がいなくなって、しばらくして亡くなられた」

魔女「それでも魔法は、お前を生かし続けている」

魔女「お前が、姫様の魔力を根こそぎ持っていったんだろう……」

騎士「……」ギリ

魔女「お前の中に、姫様が生きているんだ」


魔女「お前は騎士だよ」


魔女「それに、例えお前が記憶をすべてなくしてしまっても」

魔女「私が……お前を覚えている」

魔女「女戦士様が……ずっと覚えていた」

魔女「そしてお前が守ったこの国が覚え続けている」

魔女「不安になんてなることないさ」

魔女「……それに、だな」

騎士「?」


---

魔法使い「姫様からは魔力を、対価として騎士へ」

魔法使い「代わりと言っては何ですが、騎士からは何を対価としましょう」

魔法使い「心臓ですか、若さですか?」

魔法使い「ささ、意識がない内に、煮るなり焼くなりお好きな様に」

姫騎士「ええ? こちらの都合でよいのですか?」

魔法使い「なんとかなるでしょう、ただなるべく本人に強く関係したものがよいのですが」


姫騎士「では……記憶というのはどうでしょう」


魔法使い「記憶、ですか」

姫騎士「私にはもう身寄りがいません」

姫騎士「騎士の中にある、彼とひいおばあさまの記憶……」

姫騎士「どんな風にこの国を想っていたのか」

姫騎士「誰を愛し、どんな風に生きたのか」

姫騎士「身勝手な願いかもしれない、ずいぶん酷いやり方かもしれないけれど」

姫騎士「この国を守って行くのに、少しだけ、強さが欲しいのです」

姫騎士「……やっぱり、わがままでしょうか?」

魔法使い「……いえ、ふふふ」

姫騎士「?」

魔法使い「やっぱり貴女は、私の大好きな姫様です」


魔法使い「それでは……」


---

魔女「契約が途切れて、お前が姫様の魔力を持っていった様に」

魔女「姫様はお前の記憶を持っていったんだろう」

魔女「……姫様を……私を、恨むか?」

騎士「……そんな、そんな訳ないだろう」

騎士「女戦士が亡くなってから、姫様は出来るだけそのことを口にしないようにしていた」

騎士「だから俺も自然と……話題に出す事も少なかった」


騎士「思い出を……語ってやれないのが心残りだった」

騎士「……そうか、姫様は知る事ができたんだな」

魔女「ああ、とても嬉しそうだった」


魔女「……昔話が過ぎたな」グス

騎士「柄にもなく泣いているのか」

騎士「鬼の目にも……」

魔女「はははっ」


……ぬわー!


魔女「発作で済んでいるとはいえ、まだお前の身体はどうなるかわからない」

魔女「平原の国との戦いは……おそらく、50年前のものよりはるかに規模が大きいだろう」

魔女「今度こそお前は……、理性を取戻せずに壊れてしまうかもしれない」

騎士「この国を守れるなら、それもいいかな」

魔女「馬鹿言え、私を引張りだしたんだ、死ぬまでしっかりきりきり働くんだ」

魔女「これを身につけていろ」

騎士「なんだこれ、楔?」

魔女「魔法の楔さ」


魔女「お前が我を忘れて、どうしようもなくなったら……それを打ち込む」

魔女「そこに込めてある魔法で、お前を凍結させる」

騎士「……逆に一発で死なないか、それは」

魔女「お前なら大丈夫……なにせあの氷室から生還したんだから!」

騎士「まさかそれを確認させる為にここへ?」

魔女「なんとなくいけそうな気がしてこないか?」

騎士「いや、凍っちゃうのは、ちょっと……」


魔女「大丈夫、死なないように解凍もしてやるから」

騎士「……いやー、それなら安心だなあ」

魔女「だろ?そうだろ」

騎士・魔女「「はっはっはっ」」

騎士「……」ニコ!

魔女「……」ニコニコ!

騎士「てめえっ!この人でなし!」

魔女「あ、このやろなんだその言い草は!」

魔女「これでも必死に考えてやったんだぞ!」

魔女「さっきまでべそかいてた癖に!」

騎士「う、うるせー!」

………


女王「……昔、この地はいわば流刑地でした」

女王「山々と断崖絶壁に囲まれた、天然の監獄」

女王「国を追われた人々は、この地で身を寄せ合った」

女王「そうして貧しいながらも土地を切り開いていったのです」

女王「私の生まれ育った場所は紛れもなくこの地です」

女王「この地を……守りたい」

女王「皆さん、力を貸してください」

ひとまずここまで、またお願いします
たぶんもう少しで終わりです

ありがとうございます、続きます


密偵「騎士どの、魔女どの、私たちは東の沢から……相手の側面を叩く」

密偵「どうか、無事で…… 」シュッ

騎士「姫様」

魔女「我々も配置に着きます、どうかご無理をなさらず」

女王「ええ、あなた方も」

女王「さて……」


「我が国の布陣は滞りなく」

将軍「よろしい」

将軍「おい、爺さん」

将軍「あんたが耄碌していないことを祈るよ」

「老兵を捕まえてそりゃないじゃろ」

「……間違いなかろ」

「やつ一人にわしのいた部隊は壊滅させられたんじゃから」

「忘れられる訳ないわい」

将軍「そうかそうか、……はっ!」

将軍「つまらない戦だと思っていたが、どうにか退屈しないで済みそうだ」

将軍「今度は全力を出してもらおう……」


騎士「ここから相手の補給路を叩く」

騎士「古い水路だ、おそらく俺しか知らない」

「はいっ」

「やってやりましょう騎士どの」

「我が国に勝利を」

騎士「……50年前より大きくなったとはいえ、やはり資源の限られた国だ」

騎士「兵士の練度を考えれば、あの時と同等」

騎士「……いや、戦場が拡散している分、苦しいかもしれないな」

騎士「だが……」


将軍「話が本当ならば、奴は随分と兵法にも長けていると考えられる」

将軍「手合わせで感じた印象は間違いではなかった」

将軍「何せ二度も騎士として国の隆盛に関わる争いを経験しているのだ」

将軍「その戦略は……並の軍略とは比較できんだろう」

将軍「つまり、奇策だ」

将軍「通常の軍略の裏側、そこにやつはいる」


「ここは……」

将軍「古い、坑道だ」

将軍「爺さんどもの話を聞き出しておいてよかったな」

将軍「裏をかくとすればここしかない」

将軍「我が国の測量院は優秀だ」

将軍「水路、索道の類はすべて地理条件より検討をつけている」

将軍「だが坑道だけは地図がなければ不明なことが多い」

将軍「故に奴らが先手を取れるとすれば……」


騎士「よし、少し休憩にしよう」

騎士「といってもほんの半刻ほどだけど」

騎士「確かこの先を抜ければ……」

「騎士殿、ここは」

「わずかに、光が射している……」

騎士「ああ、ちょっとした感動だろう?」

騎士「天然の大空洞さ」


将軍「……む」

「水の音が……聞こえますね」

「地図にはありませんが……どこかに通じているのでしょうか」

将軍「少し見てくるか……」


「将軍様!」

将軍「どうした」

「地下空洞です!……いえ、地底湖です、こんなところに…」

将軍「なるほど……」

将軍「隊を編成し直すぞ」


将軍「随分広いな」

将軍「地底湖か……」

「わずかですが風の流れがあります」

「この奥でどこか外部に通じているものかと」

「湖の水はひどく低温」

「地下水であればもう少し高い温度で安定していると思いましたが……これは」

将軍「あの雪渓から流れ込んでいるのだろう」

将軍「ふふ、ますますもって当たりのようだな」

「そのようですね」

将軍「先を行くぞ、別働隊はそのまま行かせろ」


従者「寒いですね」

騎士「雪渓の深部から水が流れ込んでいるんだ」

騎士「結構しんどいだろう」


「そういえばお前は……騎士殿を目指していると聞いたが」

「しかしこの時代では……」

従者「ええ、ええそれは!」

従者「騎士という身分は解体されてしまいましたが……」

「身分が目的ではなく?」

従者「ええ、私が目指すのはその精神です」


「騎士様がおられた100年前より、もう少し前、強く気高い騎士の時代があったと聞きます」

従者「彼らと王との関係は、国の象徴であり、力でした」

従者「今は確かに、物量と資金がものを言う兵士と傭兵の時代かもしれません」

従者「そうなれば国力の乏しい我が国にはなす術がない」

従者「私はこの国を建て直したいのです」

従者「私の愛する国を、敬愛する女王様とともに……」

「……そっか」


騎士「その気持ちはきっと本物だよ、俺もその時代のことは文献でしか知らないけど」

従者「騎士様!」

騎士「帰ったら剣の稽古をつけてやるよ」

従者「ほ、本当ですか!約束ですよ!」

「はは、よかったなあ従者」

騎士「ああ……?」

「どうされました?」

騎士「何か聞こえないか」

騎士「風に混じって気配がする」


「敵兵ですか……?」

騎士「わからない、だがこの道を来るとは……」

騎士「ちっ」

騎士「俺と動く二人以外は、合図をしたら真っ先に右奥の坑道を行け」

「騎士殿は……」

騎士「なに、前と変わりはないさ」

騎士「ここで俺が迎え撃つ」

騎士「坑道は少々複雑だ、いいか、一回で覚えるんだ……」


……

……


……

騎士「行け!」

「ご武運を……!」



騎士「お前がここに来たのか…… !」

ザリ

将軍「……は、やはりここにいたかっ」


騎士「お前ら二人には悪いけど、なんとか付いてきてくれるか」

「任せてください」

「当然です!」

騎士「よし……行こうか!」


将軍「五人ほど残して残りを追え、逃がすなよ」

将軍「さて……」

将軍「貴様……、この時代の人間ではないらしいな」

騎士「知らないな、実際に今ここにいるんだから、その言い方は正しいのかな」

将軍「ふ、相変わらず口が回る男だ」

将軍「まあいい、今度は出し惜しみはさせんぞ」

騎士「なんのことだか……」ガァン!

将軍「はっ、なかなかいいではないか」


将軍「こっちはいい、向こうの2人を相手しておけ」

「はっ」

騎士「ちっ、乱戦にはしてくれないか」

将軍「後でゆっくり囲い込んでやるさ」


騎士「それはどうも!」ギャリリッ!

将軍「む、刃が軋んでいる……!」

将軍「随分質のいい剣を使っているな!」

騎士「家宝の剣を鍛え直してもらった特注品でね! 」ギィン!

将軍「腕の方も前とは随分違うではないか!」

将軍「やはり手を抜いていたか 」ギリギリ

騎士「手を抜く?」

騎士「そんな器用なことできる訳ないだろ! 」ギン!

騎士「必死に修行したさ……!」

騎士「さすがに三回目ともなると幾分楽だったよ!」


………

……

「女王様!やはりわが国が押されています!」

「平原の国は扇形に展開しております」

「いまだ均衡を保っていますが、左右から回り込まれればひとたまりも……!」

女王「……騎士……魔女……」

女王「あなた方は必死で私達に力を貸してくれている」

女王(ここで私が立ち上がらなければ)

女王(一体何のための女王でしょう!)

女王「…… 」キッ

女王「本陣を前線に進めます!中心を押し上げなさい!」

女王「そして……、別働隊に合図を送りなさい」

女王「ここからが正念場です!」

女王「行きましょう、我が国の明日の為に!」

「おお!」


魔女「む、合図か……」

魔女「行こうか、恐らく戦局が決まるのはほんのひと時だ」

魔女「こちらにも時間がない」

魔女「とどのつまり、本隊に割く筈の兵力を等分に別働隊に配置しただけ」

魔女「……女王の捨て身の作戦だ」

魔女「作戦とも言えぬ、これは賭けだ」

魔女「だからこそ……必ず成功させる」

魔女「失敗は許されない」

魔女「騎士も密偵も上手くやってくれ……!」


「分隊長殿!」

「き、奇襲です!」

「奇襲?」

「この展開であれば多少の兵力など……」

「いえ!これは!」

「一個大隊です!やつら……およそ兵力の三分の一を裏で動かしていました!」

「馬鹿な!兵力の規模もそうだが、そんな数に我らが察知できないなど……」

「奴らの現れた方角は……かの大雪渓、永久氷河で往来は出来ない筈です」

「我らの知らぬ抜け道が?」

「地理情報は数年前に網羅していた筈だが……!」

「応戦する!ここが崩れれば戦局が傾く!」


密偵「上手く行きました……!」

「よし! みなよく耐えた!」

「一年前に崩れたのは表層だけではない」

「見えない部分、内側でも氷解が起きているとの見方は当たりだった」

「天然の氷の抜け穴……」

密偵「随分と身体に酷な作戦です」

密偵「しかし……これで!」


……

騎士「が、はっ」

将軍「どうした、そんなものか?」

将軍「爺さんの話では鬼気迫る強さということだったが……」

騎士「はっ、はっ……」

騎士「馬鹿、言ってんじゃねえ」

騎士(こいつは……強過ぎる)

騎士(むしろここで足止め出来ていることが有難いくらいか)

将軍「まあいい、私も遊んでばかりはいられんか」

将軍「終いだ」


騎士(あと、あと少しのあいだだけ……)

ギィン!ガッガッ!

将軍「はっ、まだ力が残っていたか」

将軍「さあ、いつまで持つかな」


騎士「くっ……身体が動かない」

騎士(……?)

騎士(何を、やっている)

騎士(馬鹿、やめろ、来るんじゃない……!


従者「う、うわああああぁ!」

将軍「むっ!」

騎士(こいつ、剣と盾を同時に……!)

従者「がはっ!」

将軍「小賢しい、邪魔をするな!」

従者「くぅっ!」

騎士「くそっ、動け!動け!」

将軍「さらばだ!」

騎士「おおお!」


ズガッ

将軍「むっ!」

騎士「…… 」

将軍「貴様!」

従者「き、騎士様!」

騎士「……はっ、はっ、はっ」

将軍「いいぞ、いいではないか」

騎士「に、げろ」

騎士「早く逃げろ!」

従者「は、はい!」


将軍「逃がしたか」

将軍「まあいい、これからが面白くなるとこ、ろ……?」

騎士「……ご期待には添えませんがね」

ドドド……

騎士「あいつらは逃げられたか……」

ドドドドドォ……

将軍「水流が強く……?」


騎士「おおっ!」

将軍「なっ、き、貴様!まさか!」

騎士「おおお!」バッ

将軍「ちいい!」

フワッ

騎士「悪いなあ、ちょっと付き合ってもらうわ」

ザーン……


………


女王「地鳴りが……」

「女王様!作戦は成功です!」

「二大隊が敵陣翼部を崩しました!」

「あとは騎士殿の部隊が……まだ……」

女王「そうですか……」

女王「それではあと数刻の後、本陣を分け、挟撃を仕掛けます!」

女王「配置へつきなさい!」

「はい!」


……


騎士「がはっ!ごほっ!はっ、はっはっ……」

騎士「助かった……のか」

騎士「いつっ……」

騎士「こりゃしばらくまともに動けそうにないな」

騎士「……?」

騎士「あいつ……」

騎士「……しょうがない」


……

将軍「む……」

将軍「ここは……」

将軍「そうか、奴と水流に飲まれて……」

将軍「剣……、盾も……ないか」

将軍「奴は……流されたか」

将軍「しかしこれは私も助からないかもな」

将軍「ごほっ」

将軍「……?」

将軍「灯り?」


将軍「無様だな……」

将軍「しかしまあ奴を止められたのであれば、後はあの方が……」

将軍「ごほっ、ごほっ」

将軍「くっ、身体が思うように動かん」

将軍「こんな所に誰かいるのか」

将軍「……」


……

魔女「駄目か」

魔女「最後の最後で、押し切れない」

魔女「地力の差か……」

魔女「騎士……駄目だったのか?」

「魔女殿……」

魔女「はは、こんな時なのに感傷的になって、どうもいかんね」

魔女「さあ次の作戦だ!火矢の準備を!」

魔女「20年前と同じようにはいかないよ」

ここまでです、また宜しくお願いします

ありがとうございます、続きます


………

騎士「起きたか」

将軍「貴様……生きていたか」

騎士「悪いが剣は捨てさせてもらった」

騎士「それと鎧、仮面も外した」

将軍「見たのか」

騎士「ああ」

将軍「ふ、そうか……」

騎士「お前は……」

将軍「まあ待て、腰を降ろさせてくれないか」

将軍「なに、無駄な抵抗はせんよ」


将軍「見ての通りだ」

将軍「私はもう男か女かも、よくわからない」

将軍「……人かどうかも怪しいものだ」

将軍「かれこれ、200年は生きているように思う」

将軍「まあ昔の記憶は……今やほとんどないがな」


……

将軍「随分と長い間、彷徨っていた気がするよ」

将軍「そしてある時、平原の国の前身にたどり着いた」

騎士「それをここまで興したのはお前か」

騎士「不思議だな、一所に留まるようなやつではないように見えるのに」

将軍「何故だろうな、私にもいまいちわからん」

将軍「ただ……ふと、一国が滅びていくのが忍びなく思えたのだ」

騎士「他の国を落としても、か」

将軍「まあそういうな、国に属するとはそういうことだ」

騎士「……責めるつもりはないさ」


騎士「俺も……ずっと昔、100年くらい前の人間さ」ガン、ガン

騎士「……ここなら掘れそうだな」ガン

騎士「自分がなぜ今こうしてここにいるのか、わからない」ガリガリ

将軍「……そうか」

将軍「ここで出会ったのも何かの縁かもしれんな」

将軍「……ごほっ」

将軍「おい、ちょっとこっちへ来い」

騎士「なんだ、ちょっと待て、どこかに道がないか探してるんだ」

将軍「いいから、早く来い」

騎士「なんだよ、急に……」


将軍「これを」

騎士「なんだそれ、……何かのエンブレムか」

将軍「私の唯一の持ち物だ……これをやる」

将軍「何故かわからないが、とても大事なものだったように思う」

騎士「何を言ってる」

騎士「……助けてやるから、大事に持っとけ」

将軍「……ふ、そう、だな……何を言ってるんだろうな私は」

騎士「まったくだ、……さーてと、あっちに行ってみるか……」


ガン、ガン、ガン

ガン、ガン、ガッ

ガリガリ、ガリガリ

ガリ……カン、カン、ガァン……

騎士「い、いちち……」

ガン、ガン、ガン

ガン、ガン、ガッ

騎士「……おい、寒くないか?」

将軍「……大丈夫だ」


ガン、ガン、ガン

ガン、ガン、ガッ

将軍「……なんだか少し懐かしい」

騎士「ん?なんか言ったか……?」

ガン、ガン、ガン

ガン、ガン、ガッ


ガリ……カン、カン、ガァン……

騎士「ふう、少し休むか」


騎士「おい、大丈夫か……」

将軍「う……あ……」

将軍「……き……し」

騎士「なんだ?」

将軍「……せ、い、きし、さま……」

騎士「……おい?」

将軍「……」

騎士「……今、なんて……」

騎士「おい!」


…………


「なんだ?」

密偵「急に風が……」

「火矢です!平原の国の陣を取り囲むように!」

密偵「これは、魔女殿か!」

密偵「平原の国側が風下になって……兵団を追いたてています!」

「……いまだ!」

「ここが勝負所だ!攻め落とせ!」

「はい!」

「おおっ!」


密偵「……あれは!」

「どうした!報告しろ!」

密偵「騎士殿の部隊です!」

密偵「ひいふうみい……、どうやら無事のようです!」

「よし、ただちに合流し、敵本陣を落とす!」

「最後まで気を抜くな!伏兵に気をつけろ!」


…………

騎士「行くわ」

騎士「ぞんざいな墓だけど、許せよ」

騎士「結局お前が何者だったのか……わからなかったな」

騎士「そしてこのエンブレム……もらっていくな」

騎士「せいきし、聖騎士、か……」

騎士「お前は、昔、王国に仕える騎士だったのかもな」

騎士「さて……もう少し出口を探すか」


………

「……女王様!」

「この戦、我々の……勝利です!」

「敵本陣は完全に沈黙しました!」

女王「そうですか……!」

女王「……兵を分け、怪我人の救護に当たらせなさい」

「は!」

女王「制圧の後、平原の王に書簡を入れます」

女王「あくまで休戦条約が目的です」

「は、遅滞なく進めます」

女王「……お願いします」


「女王様、収容進んでおります」

「我が国の損失は3割、それでも……少なくない人数です」

女王「怪我人の救護を急いでください」


女王「……騎士」


「お呼びですか」


女王「……騎士?」


女王「あなた、無事で!」

騎士「ええ、なんとか生き延びることができました」

騎士「おかげでまたこうして、女王様にお仕え出来ます」

騎士「さ、前線は危険です、こちらへ……」

女王「……」

騎士「……いかがしました、女王様」

女王「あなた、は……」

騎士「どうされました、さ、行きましょう」


女王「騎士は……騎士は私を、姫様と呼びます」

女王「貴方は……何者ですか!」

騎士「……」

騎士「……はっ、なるほどなるほど」

騎士「まさかそんなに仲がよろしいとは」

女王「面を取り顔を見せなさい!」

騎士「やれやれ」

ガチャ、ガチャ

「……ご機嫌麗しゅう、お姫さま」

女王「貴方、は……」


………

騎士「はっ、はっ、はっ、くそっ、敵陣のど真ん中か!」

騎士「……ん?」


騎士「敵の兵士の……遺体か」

騎士「ちょっと拝借させてもらうな」

騎士「小さいかな」

騎士「えもいわれぬ香り……」

騎士「……ええい迷ってる暇はない、南無三!」

騎士「いてっ、いちち」

騎士「ええい押し込め、このっ、このっ」


………

将軍「五年ぶりですか、こうして対面するのは」

将軍「あの幼い姫君が、随分立派になられたものだ」

女王「何を言って……貴方は先日書簡を」

将軍「……ああ、奴は私の影武者ですよ」

女王「影武者……!」

将軍「仮面は外さなかったでしょう」

将軍「古くからいる王国に仕える兵士でね」

将軍「なかなか腕が立つし、知識も豊富」

将軍「私も忙しくなってきたのでね、代わりに出掛けさせても十分に役割を果たしてくれる」


将軍「しかしいまここにいないということは……どこかで死んだか」

将軍「あれでなかなか惜しい人材だったが」

「女王様!」

「お下がりください!」

将軍「ふっ、お喋りが過ぎたか」

将軍「まあいい」

将軍「はっ!」

「ぐあっ!」
「がはあ!」


女王「……くっ!」

将軍「詰めが甘かったですね、それも読み通りですが」

将軍「すぐ終わらせて差し上げましょう……」

フワッ……ギィン!

女王「!」

将軍「まだ雑兵がいたか」


密偵「……女王様への無礼な行い、許せん!」

将軍「はは、いいだろう」


…………

魔女「ぜーっ、ぜーっ」

「魔女殿……」

魔女「気にするなよ、好きでしたことさ」

「しかしあんな大掛かりな魔法を使われては……」

魔女「風をひとつ起こすのも大変なんだねえ」

魔女「はは、ちょっとだけ、疲れたかな……」

魔女「本陣に戻るよ、最後まで気をつけないと」

魔女「ぜーっ ……」

ドサッ


魔女「くそ、あと少しなんだよ……」


魔女「動け、動けよう……」

魔女「もう少しだけ、私に力をくれよう……」

魔女「もう、あんなことは嫌なんだよ……」

魔女「なあ……!」


ザッ……

魔女「……ああ」

魔女「今度は、来てくれたのか……」

魔女「……待ちくたびれたよ」


…………

将軍「はっ、なかなかやる!」

密偵「くそ、この男……微動だにしない!」

将軍「一撃が軽いのだよ 」ガァン!

密偵「ぐはっ」

女王「密偵!」

密偵「ぐ……ぐ、ひゅーっ……ひゅーっ」

将軍「さて……、おや」

将軍「貴女が剣を持って戦うのですか」

女王「……」カタカタ……ギュッ


将軍「それもまたいいでしょう」

将軍「しかし……賢いとは言えない」

将軍「剣を納めなさい」

将軍「そしてこの国を……素直に開け渡すといい」

将軍「無益な争いは無用」


女王「貴方は……そもそもこの国を見下しているのでしょう」


女王「……自分がわざわざ赴く必要はない」

女王「……わざわざ正面からぶつからずとも、小国など頭を崩せばそれまで」

女王「……国力の差は歴然、そもそも初めから争いにもならない」

女王「といったところでしょうか」

女王「冷えきった……大局観ですね」


将軍「……」

将軍「仕方ない」

将軍「あまり手荒な真似はしたくないが……」

将軍「ん……?」

将軍「ほう、ここまでたどり着いたものがいたか」


兵士「……」

女王「くっ、新手とは……」

将軍「丁度いい、お前にやらせてやろう」

将軍「小国とはいえ女王だ、昇進も固いだろう」


兵士「……」

ザッ

ザッザッ

女王「くっ……!」

ザザザッ!


将軍「!」

ガァン!

ンン……


将軍「貴様……何者だ」

女王「貴方は……」

兵士「名を……名を呼んでくださいますか」


兵士「姫様」

女王「!」


女王「……き、し、騎士!」

兵士「はい」

女王「私の……忠実なる騎士!」


騎士「はい、姫様」

騎士「必ず貴女を守ります」

騎士「俺のこの手が届く限り……必ず!」

今回はここまでです、またよろしくお願いします

ありがとうございます、続けます


将軍「なるほど、お前が影の言っていた騎士か」

騎士「影……?」

将軍「……? 倒してきたんだろう?将軍という名を冠した、私の影武者を」

騎士「あいつか!影武者……!?」

将軍「まあしかし……」

将軍「奴は本気だったか?」

将軍「私より少し劣る程度には腕があったと思っていたが」

騎士「……ちっ」


騎士(こいつ……言ってることに嘘はない!)

騎士(……まだ身体がうまく動かない)

騎士(今の俺では……駄目だ)

騎士(もっと……速く、速く!)


将軍「む……」

将軍「これか」

将軍「耄碌したジジイの戯言など……とは思ったが」

将軍「確かにこれは脅威だ」

将軍「ふん、まだ甘い……」ズガァッ!

ギシッミシィッ

騎士「ぐっ……」

女王「騎士……!」


騎士(速く! もっと強く!)

騎士「……お、おお!」

ギシッミシシ!

騎士「知った、ことかぁ!」

将軍「はっ、はは!」

将軍「捨て身か!面白い!」

騎士「ぉあああ!」


……

騎士「はっ、はっ……」ポタ、ポタ

将軍「みくびっていたか……」ボタ、タッ…

騎士「がああっ!」

騎士(もっ、と、もっと、だ!)

将軍「まだ速くなるか! だが!」ギャリイイイン!

密偵(鎧を身に着けているのに、なんという身のこなしだ……!)

将軍「はあっ!!!」


騎士「…………ごふっ」

将軍「……ふふふ、ははっ」

将軍「まだこの大陸に、骨のある奴がいて嬉しかったよ」スッ

女王「騎士ぃ!」

将軍「……終わりだ!」


……チリッ

将軍「む!?」

ゴオオウゥッ!

将軍「なに!?」


騎士「魔、女!」

魔女「騎士!行けぇっ!!!」


……………

騎士「はーっ、はーっ、はーっ……」

将軍「くっぐふっ……」

将軍「ふ、ふふ、ふ」

将軍「まあ、これもひとつの結末、か」

ドサ

騎士「…………」

騎士「はっ、はっ、はっ!」

騎士「はっはっ……」

騎士「ごふっ、ごふっ」

密偵「騎士殿!」


騎士(いてぇ……)

騎士「ぐはっ、はっ!」ボタッボタタ


フラッ、フラッ

魔女「騎士……」

魔女「この楔、使うぞ……」

ドスッ

騎士「ぐっ……」

女王「魔女、それは……」

騎士「……ま、じょ」

魔女「なんだい不安か? はは、あれはものの例えだよ……」


魔女「なに、少し眠るだけさ」

騎士「くっ……!」

魔女「……またな」


魔女「よし……眠ったか」

女王「騎士……」

魔女「ふは、間抜けな顔ですねえこいつ」

魔女「さ、姫様……帰りましょう」

女王「ええ、ええ」

女王「誰か、手を貸してください!」


ドサ

女王「……魔女?」


………………

…………

……

女王「調印式は無事終わりました」

女王「これでもう、ただ奪われることはない」

女王「これから少しずつこの国をよくしていきます」

女王「ありがとう、魔女……」

女王「貴女が守ってくれたのです」

女王「そして……」


「騎士殿はあれから眠り続けています」

「魔女の遺した解呪の法も試しましたが……」

女王「……そうですか」

女王「この部屋は……厳重に封印しておきましょう」

女王「いつか、また騎士が目覚める時まで」ギイィ……

「はい……」

「……!?」

「女王様!騎士殿が……!」

女王「騎士が、いない?」

女王「さ、探してください!」

「そうだ、あの氷室へ!」


「女王様!」

女王「何事です!」

「せ、雪渓が……次々に融解し始めているとの報告が!」


ーーーーー
ーーー


聖騎士「……よーし、今日から騎士を名乗ることを許そう」

聖騎士「そして、同じく、君は女騎士だ]

聖騎士「二人、切磋琢磨してこれからも頑張っていくように、いいね」

騎士「はい!」
女騎士「はい!」

聖騎士「いい返事だ!」

聖騎士「よし、じゃあこれからあの夕日に向かって走ろうじゃないか!

聖騎士「と、その前に……」

聖騎士「輝かしい二人の未来に乾杯!」

「「乾杯!」」

ひとまずここまでです、またよろしくお願いします

ありがとうございます、最後のパートになります


………

女騎士「剣と魔法の連撃……!」

騎士「あれだけの軍勢をこの人数で……!」

「前線に立つのは始めてだったか」

「そうさ、俺たちは不敗の騎士団」

「そしてこれからはお前らもその一員なんだ」

「期待してるぞ?」

騎士「はい!」

「よし、いい返事だ!」

「少ししたら儀式があるんだったな」

騎士「儀式はどのようなことを……」

「どうだったっけな、まあものの数刻よ」

「まあ肩の力を抜いて、気楽に構えればいいさ」


おお、ん……おお、ん……

「汝……騎士に祝福を授けよう」

騎士「はっ……!」

「精霊との契約だ」

「心を……差し出しなさい」

「さすれば其方は強靭な力を得ることが出来よう……」


女騎士「どうだった?」

騎士「ん?」

女騎士「儀式のことに決まってるでしょ!」

騎士「いや、あっさりと終わったけど」

女騎士「そうなの?」

女騎士「そうなのかあ、なんだか私は随分長く感じた」

女騎士「精霊様と会話したんでしょ?」

騎士「いや……?」


女騎士「えー、騎士ったら寝ぼけてたんじゃない?」

女騎士「あんなに神聖な空気、初めてだったよ」

騎士「うーん……」

女騎士「なんだよもう、騎士は相変わらずだなあ」

女騎士「変わらないね、士官学校で出会った時から」

騎士「そうかなあ」


「……して、昨今の情勢は」

「はっ、われわれの同盟よりさらに海原を北へ抜けた大陸……そこに不思議な部族が現れたと」

「彼らは……各地の王国を次々に制圧しているとのこと」

「北の大陸の次は……おそらく」

「なるほどな、確かに脅威だ」

「精霊の庇護にある我が聖都が先陣に立ち、都市同盟を守らなければな」

「なあ、聖騎士」

聖騎士「ははっ」

聖騎士「我ら精霊の騎士団が同盟の矛となり、敵を打ち砕きましょう」

「期待しておる」

聖騎士「有り難き御言葉」


「さあお前らの初陣だ!しっかりやれよ!」

騎士「敵は……かの小国の残党か」

騎士「同盟に加わらない反抗勢力はみな流刑地送りになった筈だけど」

騎士「同盟も……まだ一枚岩ではないのか」

「おい騎士!気を抜くな!」

騎士「はっ……!」

騎士「くっ……!やられる!?」

騎士「くっそおおお!」

フッ

「なに!?」

スラン

「……がふっ」ドサ

騎士「はっはっはっ……」

騎士「これが……精霊の加護なのか」


聖騎士「そうだ」

騎士「聖騎士様」

聖騎士「我らは精霊の助けを借りて、人の力をはるかに超えた力を扱うことができる」

聖騎士「精霊に心を捧げ、代わりに力を得る」

聖騎士「『ともに生まれ、ともに死のう』」

聖騎士「人の心はもろい」

聖騎士「万の時を生きる彼女らなくしては、力に溺れ、じきに狂ってしまうだろう」

聖騎士「だからちゃんと会話して、絆を深め合うんだ」


騎士「絆を……ですか」

聖騎士「そう!」

聖騎士「愛し愛され夫婦のように寄り添うんだ!」

聖騎士「いいぞ~うちの子は!」

騎士「う、うちの子……聖騎士様は想像力が豊かですね」

聖騎士「え?そう言われると照れるなあ、いやいや!想像力があるって言っても、破廉恥なことは考えてないぞ!うん!」

騎士「はは……」


カァンカァン

女騎士「ねえ」

カァンカァン

騎士「なんだよ?」

女騎士「もういいよ危ないよ、助けを待とう?」

騎士「……」

カァンカァン

女騎士「ねえってば!」

騎士「お前、こういう場所苦手なんだろ」

女騎士「……うん」


騎士「聖騎士様と約束したんだ」

カァンカァン、ガァン

女騎士「どんなことを?」

騎士「いてて……沢山の人は守れないけど、せめて自分の周りの人は守りきるって」

女騎士「そっか……あんた家族を……」

騎士「心配すんな、俺が助けてやるからさ」

カァンカァン……

「……おーい……、生きてるかー……?」

……


「え~、天にまします……」

……ウンタラカンタラ

…アーダコーダ

「それではみなさん、ご唱和ください!」

「騎士、女騎士、入団一周年おめでとー」

「「おーめーでーとー」」

「それではそれでは!」

「頂きます!」

「「頂きます!!!」」


ワイワイ

女騎士「はー、もう一年なのか、早いなあ」

「お前らは今度まとまって休暇をもらえるんだろ?」

「故郷にでも帰るのか?」

女騎士「へ?ああ、いえ……帰りません」

「なんだ、遠いんだっけか、あれ?でも王都だったんじゃなかったか?」

騎士「副総長……女騎士は」

女騎士「いいのよ、騎士」

「うん?」

女騎士「私の帰る故郷、いえ、国は……もうないので」


「……あーっ、そっか、あの併合された国の出か」

「なるほど、それで出身が聖都ってことね……」

「いや、すまん、悪かった」

女騎士「いいんです、本来なら王家の一員として処刑される筈だったところを……恩赦頂いたのです」

女騎士「それに皆さんの仲間に入れてもらえた」

女騎士「こんな会まで、……私は胸が詰まる思いです」

「なにぃ!?胸が詰まる!?」

「てめぇ、どんだけ喰わせてんだ!」

「ば、馬鹿やろう!なに聞いてたんだ!」

「うるへい!酔っ払いなめんなよ!……うぷ」

「どんだけ弱えんだ!ほら、外行くぞ!」

ギャーギャー

騎士「行ってしまった……」

女騎士「……あははっ、はは、おかしい」

騎士「だな、ははっ」


「あの二人……、いい感じですねぇ」

「初々しくって、素敵」

聖騎士「なに、君の美しさだって格別さ」

聖騎士「月も恥じらって雲に隠れてしまうだろう」

「聖、騎士さま……」

聖騎士「でもまあ」

聖騎士「うちの精霊ちゃんは特別可愛いけどね!」

聖騎士「月?いや太陽でさえ隠れてしまうかも」

「……」

「う、うちの精霊くんだってそれはもう格好可愛いんですぅ!」


ギャーギャー

「はっは、いやはや、なんとも楽しいですな」

「……え?ああ、北の……」

「問題ないでしょう」

「入江の都市には相応の騎士が居たはず」

「それにあそこはいわゆる要塞都市です」

「まあ我らの出番となるとすれば……」


……

「……大陸の北端、入江の都市が落ちたと」

「馬鹿な……まだ数日と経っていない」

「同盟からの派兵も間に合わず」

「以後、城壁は固く閉ざされたままです」

「あの場所は海上交通の要……このままでは」

「わかっておる」

「一刻も早く奪還する必要がある」

「……騎士団を向かわせるのだ」

「ははっ」


騎士「聖騎士様、自ら赴かれるのですか」

聖騎士「ああ、しばらくの間、留守を頼むよ」

騎士「お気をつけて……」

「はは!なんだ、一丁前に心配してんのか!?」

騎士「僭越ながら」

「こーいつー!大人になりやがった!」

「……安心しろよ、負けやしねえって」

聖騎士「お前は楽にし過ぎだ、少しは緊張感を分けてもらうといい」

「そんな!そりゃねえですよ!」

「はっは!総長のおっしゃる通りだ!」

「ははは」


聖騎士「これをお前に預けよう」

騎士「これは……聖騎士様のエンブレムではないですか」

騎士「こんな、こんなも大事なものを、いけません」

聖騎士「そうだ、とても大事なものだ」

聖騎士「代々の聖騎士がそれを継承してきた」

聖騎士「命よりも重い、我らの誇りだ」

聖騎士「だからこそ、ここでお前に預ける」

聖騎士「意味はわかるな?」

騎士「……はっ!」

騎士「ご武運を……!」

聖騎士「おう、任せとけ」


……

聖騎士「あれが……入江の都市だ」

「随分ひっそりとしてますな」

「総長!門が開け放たれています」

聖騎士「何……罠か?」

聖騎士「みすみす罠にかかりに行くこともない」

聖騎士「だが、これを逃がす手もないだろうな」

聖騎士「入江の都市は難攻不落の自然要塞」

聖騎士「陸からの攻略は諦めていたが」

聖騎士「……二手に分けるか」


聖騎士「市民は……いないのか」

「不気味ですねえ、これは」

聖騎士「平時は同盟でも指折りの商業地だった」

「……今回はいまいち相手の正体がわかりませんな」

聖騎士「北の大陸……か」

聖騎士「む……」

「気配があります、少し先、民家の陰」

聖騎士「よし、行くぞ……」


「ん、お前は別隊の従士じゃないか」

「なんだ、入江からの侵入は上手くいったみたいだな」

「他のやつはどうした?」

「……?」

聖騎士「離れろ!」

ゴッ!

ズズ、ン……

「なっ……!建物を両断するとは……!」

聖騎士「あいつの眼、普通ではない」

聖騎士「何があったかわからないが、心してかかれ」


ガガガッガッ!

ズゥ、ン……

「ぐっ!これは……!」

「……いいわ」

「精霊様、私に力をお貸しください」

「はっ!」

「であぁっ!」

ギィン!ギィン!

「ふっ! 」

クラッ

「……?」

「なに?視界が……!」

「意識が、薄れる……!」

「精霊くん!精霊くん!」

「これはなに!? 飲み込まれ……」


「おい!?」

「どうし、た……」ザクッ……

「ご、ふ……」

「な、何をしている!」

「あいつ!敵と味方の区別がついてねえ!」

「おい、どうしちまったんだ!」

「ぐ、見境ねえ、しかも強え!」

聖騎士「く……仕方ない」

聖騎士「……?」

聖騎士「精霊の声が、聞こえない……?」

聖騎士「待て!何かおかしい!」


……

「壊滅した……?」

「は、はい」

「多くの者が正気を失い……総長が足止めを」

「私は一人逃がされ……」

「申し訳ありません」

「……よい、少し休め」

「はっ……」

騎士「……」


女騎士「どこ行く気よ!」

騎士「決まってるだろう」

女騎士「話が本当なら……敵う訳ない!」

女騎士「むざむざやられに行くなんて!」

騎士「俺に居場所を与えてくれたのは総長だ」

騎士「そして団員のみんなは俺の家族も同然だった」

女騎士「そんなの……そんなの私だって同じよ!」


騎士「お前は残っているといいさ」

騎士「俺は俺の誓いを守る……」

女騎士「わからずや!勝手にしろ!」

騎士「悪いな」



女騎士「……」

女騎士「あれ……なんで?」

女騎士「聖騎士様の、エンブレム……?」

女騎士「私に、置いて行った……?」



女騎士「あの馬鹿!」


………

騎士「ここか……」

騎士「あ……れは」


騎士「副総長!」

騎士「ご無事で……!」

「お、お……騎士か」

騎士「他の皆は……?」

ギク

騎士「せ、い、きしさま……!」


騎士「副総長が、これを!?」

「なんか意識が朦朧として……はっきりしないんだわ」

「俺がやったのか……?」

「ぐ……ぐぅ」

「お、おああ!」

「逃げろ……!」

騎士「副総長!」


女騎士「あれは」

女騎士「騎士と……副総長!」

女騎士「騎士が一方的にやられて!」

女騎士「二人は何をしてるの!?」

女騎士「もう!」

女騎士「……精霊様、お願いです」

女騎士「私に力をお貸しください……」


騎士「駄目だ、いなすだけで精一杯だ!」

騎士「副総長!目を覚ましてください!」

騎士「お願いします……!」

「おおお!」

ギィン!

騎士「……女騎士!」

女騎士「戦いなさい!何故逃げているの!」

騎士「わからないけど、精霊の力が……」

女騎士「呼びかけなさい!」

騎士「呼びかけるって……」


女騎士「う、うわああ!」

女騎士「もっと力を!精霊様!」


ーーーまだ残っていたか

ーーーこいつはもらっていく


女騎士「……え」

女騎士「あ、ああ」

女騎士(意識、が……)


騎士「女騎士!?」

スッ、ジャキ

騎士「うっ!? なにを!」

女騎士「な、なに……?」

女騎士「だ、だめ、よ……」

女騎士「騎士、早く逃げて……」

女騎士「う、うわあああ! 」

騎士「……!」

バガ、ン……!


女騎士「ごふっ、かはっ……」

騎士「自分自身を……!」

フラッフラッ

騎士「どこへ行くんだ女騎士!待っ……

「ああああ!」

騎士「くっ!」

騎士「……精霊!応えてくれ……!」


ーーー仕方ありませんね

ーーー奴に見つからないように、一瞬だけですよ

騎士「力が……!」

「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」


「あ、アアアア!!!」

騎士「だ、あありゃああっ!!!」


………

「報告です」

「申せ」

「信じがたい話ですが」

「司祭によれば、我らが聖都の精霊の加護が、失われたと……」

「聖騎士をはじめ、団員は精霊の力添えを借りて、人ならざる力を扱っていました」

「そしておそらく彼らは精霊の補助のないまま、力を使おうとした」

「対価として差し出していた、心を、持っていかれたのでしょう」

「そんな、馬鹿なことが……」

「入江の都市からひとり、騎士が戻っています」

「……通せ」


騎士「僭越ながら、申し上げます」

騎士「都市に残っていた……狂戦士は私が倒しました」

騎士「そして、我が騎士団は、3名を残し全滅した、と思われます」

「3名とは……お主と、あの逃げ延びた者、他は」

騎士「私の同僚が……生きていると思われますが、現在行方不明です」

「……そうか」

「よい、よくぞ生きて戻った」

「今は休め、……あの都市は封鎖する」

騎士「はっ……有り難きお言葉」


騎士「……」

騎士「……」

騎士「……女騎士、どこへ行ったんだ」


それから……

俺は……彼女をあてもなく探し続けて……

道中で力尽きて、死んだ……



そして……

……そして?

……そして、とは?

今日はここまでです、次回で最後になります

途中で一カ所飛びました
>258 と >259 の間


騎士「俺には初めからよくわかっていないんだ!」

騎士「精霊?対話?」

騎士「わからないまま、力を使っていた……」

騎士「みんなには!精霊が見えているのか!?」

女騎士「それってどういう……きゃあっ!」

騎士「女騎士!」

騎士「くそっ、どうしたら……」

騎士「精霊? いるなら答えてくれ!」

ありがとうございます、最後の更新になります


…………

俺は、死んで……そして、

100年後に……、辺境の都市で、新たな人生を生きた……

奴隷階級に生まれ、親友だった盗賊と、屋敷を逃げ出した

各地を転々とする中で……女戦士と出会った


女戦士「お前が騎士か」

女戦士「私は……あの流刑地だった土地の人々を解放したい」

女戦士「過去の因習がいまも続き、その子孫達は搾取され続けている」

女戦士「お前に手伝って欲しい」

女戦士「一緒に、来てくれないか」


それから……女戦士が国を興して

そうか

渓谷の国でクーデターを起こそうとした集団と戦って……


「ひいぃ!ば、けもの……!」

「た、助けてくれええ!」

騎士「……がはっ」

騎士「ごふっごふっごふっ」

騎士「がああっがあっ!」

騎士(何もわからない!俺は、どうなった!?)

騎士(突然、何かに意識が飲まれて……)


ーーーやはりこうなりましたか

ーーー転生しても狂化の因子は残ると

ーーーこの時代では、私の力も及ばないようですね

騎士(誰だ……?)

ーーーしかし、貴方は数少ない私の尖兵

ーーーここで失う訳にはいきません

騎士(何を言っている……?)

ーーー今度は記憶を引き継いでみましょう

ーーーさすがに身体能力までは維持できませんが……

ーーー今の私にもう力はないので、どこからか魔力を借りてきましょうか

ーーーしばし眠りなさい


~~~

「起きろ!」

「死んでいてたとしても目を覚ませ!」

誰だ?

ああ、君は……姫騎士か

魔力を持っていってしまって、すまなかった

……俺は何故君と離れたんだっけ

~~~


姫騎士「どうですか騎士、その後の体調は」

騎士「姫様のおかげです、痛みもない」

騎士「なんとお礼を言って良いやら……」

姫騎士「い、いいえ、私こそ色々と頂いているので……」

騎士「何か……あげましたっけ?」

姫騎士「騎士は……随分と情熱的なのですね」

騎士「は?すみません、話がよく……」

姫騎士「ひーめーさーまー」

姫騎士「あら!魔法使いが呼んでいますね!」

姫騎士「それではまた後で!ごめんあそばせ!」

騎士「…………はて」


城下町

騎士「久々の外出だし、何か買って帰ろうか」

騎士「……ん?」

騎士「……」

騎士「おい」

騎士「お前は……何者だ」

騎士「その訛り方……隣国の」

「……へえっ、随分耳がいいんだねい!」

騎士「やはり……間者か!」


「知ってるぜ!お前の話も!」

「この国の建国者である女戦士の右腕であり、親友であり、恋人だったおとこ!」

「クーデターを人知れず未然に防ぎ、ふたたび国を救ったおとこ!」

騎士「なに……?クーデター?」

「知ってるぜ知ってるぜ!裏の情報網はすげえんだ!」

「だからあんたがいまこの国になくてはならない奴だってことも!」

「……お命頂戴!」

………

「ぐふ……」

騎士「はっ、はっ、はっ」

騎士「……」

騎士「こいつは……何を……」

騎士「俺は、50年前、何をしていた……?」


~~~

ああ、そうか

思い出したんだ、前に死んだ時のことを

このままではいずれ、誰かを傷付ける……

俺は姿を消した

そうして……孤島で一人、死んだ

……魔女は、俺の居場所を突き止めていたのか

~~~


---まったく、今度はおとなしく余生を過ごすと思ったのですが……

---記憶をすべて引き継いだのが問題でしたか

---なんにせよ、あなたをずっとこのままにしてはおけない

---あなたという存在が消えてしまう

騎士(あんたは……あんたは誰なんだ)

---わたしは……生命の女神

騎士(女神……?)

---今度こそきっちり生きてくださいね

---あなたは来るべき時まで、この世界を生きなければ

---しばし眠りなさい、転生の日まで

騎士(おい……!何を言って……)


~~~

それで、それ、で

ここは……どこだ

氷の……中?

ここは……霊峰?

聖騎士様に、教えてもらったような

精霊たちはみな、この山から産まれると……


そしてまた、俺はこの時代に転生した

記憶は所々かけていて

大事そうな所がぼんやりとしている

姫様の魔力を……もらっていたから

暴走することもなかった、けど

~~~


魔女「え?なんだって?」

魔女「もうちょっと穏便な方法はないか?」

魔女「氷漬けはさすがに嫌か」

魔女「わかったわかった!」

魔女「まあ考えてやらんこともないよ」

魔女「ただし約束はちゃんと守ってもらうよ」

魔女「え?約束なんかしたかって?」

魔女「……教えんよ、自分で思い出せ」


~~~

……俺、また抑えられなくなって

今度は、魔女が……眠らせてくれた

あいつは……今度は自分の魔力をぜんぶ俺にくれたのか

……馬鹿やろう……

女騎士……

女戦士……

姫騎士……

……魔女

俺は……君たちに……


……もういいか

考えるのはよそう

なんだか酷く眠い……

~~~


………………………

………………

………



~~~!

だれだ

~~~!!

うるさい……

~~~!

眠らせてくれ……


……し

誰かを呼んでいるのか

し……き……し……

……騎士

俺の……名前……

……騎士! ……騎士!騎士!

俺を呼んでいるのか……



女王「……起きなさい!私の、騎士ぃ!」


騎士「……姫、様?」


女王「……騎士!」

騎士「姫様……」

女王「よかった、本当によかった……! 一体どこにいったのかと!」

騎士「ここは……?」

女王「大雪渓の跡地です」

女王「雪渓が溶け、大きな湖になったのです」

女王「貴方は湖の淵で倒れていました」

騎士「はは、これはまた壮大な……これじゃほとんど海じゃあないですか……」

女王「ええ、何が起きたのか……」


騎士「……長い夢を見ていました」

女王「夢?」

騎士「ええ、懐かしくて悲しい……」

騎士「そして暖かかった……」

女王「そうですか……」

女王「身体はどうですか?」

騎士「大丈夫ですよ」

女王「よかった……、立てますか?」

騎士「ええ」

女王「帰りましょう、あなたの守ってきた国へ」


---そう、今度こそ命を全うしなさい

---あなたには近い未来、やるべきことがある

---その時まで、転生を繰り返し、生き続けてもらいます

---私もさらに尖兵を集めましょう

---……北の大陸に産まれた、魔王

---精霊を盗んだ彼が、再び姿を現すその時まで


ーーーしかしあの魔女とやら、霊峰に蓄えられた魔力を全て騎士に注ぎ込もうとするとは……

ーーーそしてあのエンブレム、あれは精霊と騎士の契約の象徴

ーーーあれが仲立ちとなったのでしょうか

ーーーおそらくこれより先、騎士が力に溺れ、狂うことはないでしょう

ーーー霊峰の魔力を転生に利用していたのですが……また考えなければいけませんね

ーーーまあ、それはまた先の話……


一人の女王と、一人の騎士が氷の解けた山道を登って行く

湖面に太陽が煌めき、二人を照らす

一陣の風が吹く


女王「きゃ……」

騎士「おっと」

騎士「姫様、お怪我はありませんか?」

女王「ありがとう、ございます」

騎士「露で滑りやすくなっています、さ、お手を」

女王「ええ」


騎士「風が気持ちいいですね」

女王「本当、こんな風はいつの日以来かしら」


騎士「ああ、そうだ……」

騎士「姫様に言い忘れていたことがありました」

姫騎士「あら、なんでしょう?」

騎士「姫様……」

女王「はい」

騎士「おはよう、ございます」

女王「……ええ、おはよう、よく眠れましたか?」



女王「起きなさい、私の忠実なる騎士よ」 騎士「よく寝た」

end.

最後に誤記がありました。姫騎士→女王
文中、わかりにくい部分が多々ありました、また気をつけます。

補足です
・各時代の人物
<精霊の時代> 100年     50年      <現代>
  女騎士    →  女戦士 → 姫騎士 → 女王

以上になります。お付き合い頂きありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月08日 (火) 00:57:24   ID: Ypi-dBzW

内容が全くみえてこない

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