騎士「これが……私?」仕立屋「よくお似合いです姫さま」(99)


騎士「 うん、いいね」

騎士「 軋む鋼の音、香しい皮の匂い……うん、やっぱいい!」

仕立屋「ええ姫さま、よくお似合いですとも」

騎士「やだなあ目が笑ってないよ」

仕立屋「かように無骨なお召し物が姫さまの絹のごときお肌に……!ああこの仕立屋、死んでお詫びを」

騎士「待って」


騎士「それにもう姫様じゃないよ、国は無くなったし」

仕立屋「ぐすっ、……いえいえ、それでもいずれは」

騎士「お家再興!?」

仕立屋「もちろんですとも」

仕立屋「その為に今は布石をひと積みふた積み……」チクチク

騎士「そのお針子仕事も布石のひとつ?」

仕立屋「当然です」ニコッ

仕立屋「国を興すもまずは資金集めからですよ」

騎士「それまで生きてるかなあ私」


仕立屋「さあさっ、出来ました」バッサァ

仕立屋「明日から王宮勤めでしょう」

仕立屋「これを……」

騎士「何を縫っていたかと思えば」

騎士「ウェディングドレス!?」


仕立屋「さあ!王子をかどかわしてこの国を手中に収めるのです!」

騎士「あ、お家再興ってそういう方向性?」


仕立屋「まあまあ、何はともあれ、そのような鎧など脱いで、こちらを着てみてください」

騎士「ええー」

仕立屋「ちょっとだけ!お願いします!」

騎士「しょうがないなあ」


仕立屋「さ、髪も結い上げましたよ、鏡をどうぞ」

騎士「ん……」

仕立屋「いかがですか?」



騎士「……これが…………私?」

騎士「とはならないからね、もう脱いでいい?」

仕立屋「ま、まだとっておきのヴェールが!」

騎士「はー、慣れないドレスは肩こるね」

仕立屋「後生です、姫さまぁー!」

騎士「だからもう姫さまじゃないってばー」


翌日 王城

王「もうこの国には慣れたかな?」

騎士「はい、祖国を追われた私に対する数々のお心遣い、感謝が尽きません」

騎士「さらには騎士という身分まで頂いて……」

王「なに、そなたの国とは古くからの付き合いだ、そなたしか救うことが出来ず……すまなかったな」

騎士「いえ……本来ならば私も処刑されていたところです、この命あるだけでも」

王「そうか……」

王「もう少し落ち着いたら、また一緒に食事をしよう」

騎士「はい、楽しみにしております」


廊下

騎士「はあ、緊張した……」

騎士「やっぱりああいう雰囲気は慣れないなあ」

騎士「うーん……」

ドカッ

??「きゃっ!」

騎士「……えっ?あっ!ご、ごめんなさい、考えごとをしていて!」

??「い、いえ……」

騎士「立てますか?さ、手を……」

??「ありがとうございます、……いたっ」

騎士「足をくじいたの?わ、もう腫れ始めてる!」

??「だ、大丈夫ですよ、冷やしておけば……いつっ……」

騎士「無理しちゃ駄目だよ、どこまで行くの、送るよ」

??「すみません……」


王子の執務室

騎士「……ここ?」

??「はい」

騎士(うわー……)

騎士(よく見れば綺麗なドレスを着ているし、もしかしてかなり身分の高い方?しまったなあ……)

??「王子?私です、入ります」


「ああ、入ってくれ」


王子「どうした?少し顔色が優れないようだが……それに貴女は……」

??「すみません王子、私も不注意でぶつかってしまいまして、この方がここまで肩を貸してくださったの」

騎士「え、そ、そんな、悪いのは私で!」

??「いえ、私も悪いの、ずっと下を向いて歩いていたものだから……」

騎士「そんなそんな!」

??「ああ迷惑をかけてしまったわね、ほんとうにごめんなさい」

騎士「いえいえ!か、顔をあげてください!」


王子「ちょっとちょっと、二人とも落ち着いて、何があったか教えてくれないか」


…………

王子「そっか……まあそういうこともあるさ、うん」

??「王子……」

王子「でも困ったねえ」

??「はい、この足では少し難しいかもしれません」

騎士「何か、あるんですか?私に出来ることならなんでも言ってください!」

王子「……そっか、そうだ、貴女は北方の雪国の……」

騎士「はい、王子にはまだお目にかかっていませんでしたが」

王子「それなら……彼女の代わりが務まるかもしれない」

騎士「代わり、ですか?」


騎士「それで、一体どんなことを?」

王子「なんのことはない、私の外交のお供さ」

騎士「外交……一体何用でどちらへ?」

王子「ちょっとね、ここ数年ほど、大陸にある国々を回ってるんだ」


王子「彼女は分家の令嬢でね、私の旅に着いて来てもらっている」

令嬢「及ばずながら、お手伝いさせて頂いております」

王子「今度行く予定だったのは、深緑の国、渓谷の国、溶鉱の国、どれも小国ながら、確かな力を持った国々だ」

王子「旅の期間はひと月ほど、明後日には出発するので、そのつもりで」

騎士「あ、明後日ですか……わかりました」


王子「あ、そうそう!君はドレスなんかどういうのが好みかな?」

騎士「は?ドレス……ですか?いえ、ドレスはちょっと……あまり好き……ではないというか」

王子「外交といえば、もちろん王族貴族とのパーティーもあるからね、むしろそれが君にとっては本番かもね、宜しく頼むよ」

騎士「んなっ……!」

令嬢「貴女様であれば、きっと礼儀作法、立ち振る舞い、王族の方々との交遊なども問題ないかと思います、どうか宜しくお願いしますね?」

騎士「は、はは……頑張ります……」


騎士の家

騎士「それで……つまりそういう訳なんだけどさ」

仕立屋「……」グググッ

騎士「聞いてる?」

仕立屋「……もちろんですよ姫さま!この仕立屋、やる気が漲ってはち切れんばかりです! 」グッ、ググッ、グイーッ

仕立屋「まさか初日から王子とお近付きになるとは……しかも二人で逃避行! 」ノビー

仕立屋「姫さまも口ではやる気のないそぶりをしながら……さすがの行動力」

仕立屋「わたくし、感激致しました!」

騎士「や、他にも何人か一緒に行くし、そういうんじゃないから!」

騎士「それに……、さっきからどうしたの?それ、なんの準備運動!?」

仕立屋「何って……これから三日三晩、全力でドレスを仕立てませんとね!」

仕立屋「支度金も出るなんて、これはいい素材が調達出来ますよ!」

仕立屋「い、やー!燃えて来ました!」

騎士「ちょ、ちょっと……」


仕立屋「……深緑の国では、木漏れ日に煌めく、深いエメラルドグリーンのドレス」

仕立屋「渓谷の国では、そうですね、透き通るような淡いブルーのドレス」

仕立屋「溶鉱の国、少し難しいですが、煤けた大地にも艶やかさを添える、クリムゾンレッドなんかどうでしょう」

騎士「あの」

仕立屋「はっ!もうこんな時間、早速布地を調達してきますね!それと私の部屋には立ち入らないようお願いします!」

仕立屋「では!」シュタッ!

騎士「ああ行ってしまった……」


翌日

騎士「仕立屋が部屋から出てこない……」

騎士「おーい、お城に行ってくるよー」

騎士「食事は置いておくからねー……」

騎士「……いってきまーす」



騎士「帰ってきたよー……」

騎士「……食事には手をつけているようだけど」

ズガガガガガッ!

ドッカンドッカン!

ガィーンガィーン

グシャアアアアア

騎士「……およそ服を作ってる音じゃない気がするんだけどなぁ」


出発当日 早朝

シーン……

騎士「も、物音ひとつしない」

騎士「ちょっと、仕立屋?生きてる!?」

騎士「……開けるよ!?」

ギイイイィィィ


騎士「仕立屋?」

ガッ

騎士「あたっ」

騎士「なんだろ、大きな固まりが……新しいマネキンか……な」

ズルリ

仕立屋「  」

騎士「ひっ!」

騎士「ちょっ……!」

騎士「ちょっと、白目向いてるじゃない!」

騎士「起きて、起きて!仕立屋ー!」


数時間後

仕立屋「……まったく面目ございません」

仕立屋「我を忘れて没頭してしまうなど……醜態を」

騎士「や、生きてるならいいんだけどね……」ゲッソリ

騎士「それで、納得いくドレスは出来た?」

仕立屋「え……、ええ!それはもう!会心の出来です!」

騎士「よかったね、私も楽しみにしてるよ」

仕立屋「……と、いうことは、姫さま……私のドレスを着てくださるので?しかも楽しみ、と?」

騎士「あんなに一生懸命作ってもらったら、そりゃそうね」


仕立屋「ひ……ひめ、さま……」ブワワッ

仕立屋「わ、わたしは、もう、祖国を追われてからこの時まで、いまほど生き残ってよかったと思うことはありません~!」

仕立屋「……うわあああ!」

騎士「うん、うん、よしよし、お互い生きててよかったね」

騎士「お父様、お母様、姉様がた、私と仕立屋は元気でやってますよ、どうか天国から見守っていてくださいね」

仕立屋「うわあああ~!王様、お妃様~!」ズビー

騎士「あ、このやろ!私の服で鼻をかんだな!」

仕立屋「ず、ずびばぜん~!う、うわあああ~!」ズビビー

騎士「……やれやれ、まったくもう」


城門前

騎士「すみません、お待たせしました」


王子「いや、定刻より早いくらいです、……そちらの方は?」

仕立屋「……」

騎士「ええと、私の仕立屋です、今回のドレスも彼女が用意を」

騎士「是非旅に同行して私の身支度をしたいと」

騎士「腕は確かです、ほかにもお役に立てるかと」

王子「なるほど……それは有り難い、歓迎しますよ!」

王子「ところで……」

騎士「?」

王子「彼女は、こう、随分帽子を深く被っているね!前は見えるのかな? 」ヒソヒソ

騎士「あ、あはは、少し事情がありまして……」


仕立屋「うう……目が腫れて開かない……」

今回はここまでにします、またよろしくお願いします。

ありがとうございます、続きになります


道中 馬車の中

パカッパカッパカッ

ガタゴトガタゴト

王子「……なるほど、それで、仕立屋殿はなんとか国を脱出できたと」

仕立屋「はい……身一つで命からがら」

王子「そして、他国に留学されていた騎士殿と合流されて、わが国へ、というわけか」

騎士「ええ、昔から親交が深いと聞いておりましたので……」

王子「しかし、私の記憶が確かなら、お会いした姫君達の中には貴女はいなかったかと……」

騎士「ええその通りです、確かに私は王の血を引いておりますが……」


騎士「私の母は下女でしたので」」

騎士「14歳を過ぎた頃より、ずっと他国に出されておりました」

騎士「まあおかげで難を逃れた、ともいえるかもしれませんが」

王子「そうか、いや、失礼」

王子「それに今回もまだ心の傷も癒えぬままに、連れ出してしまった、本当に申し訳ない」

騎士「構いませんよ、むしろこうしてお役に立てるのが嬉しいです」

王子「そう……か、はは、いや、そう言ってもらえると助かる!」

騎士「ふふっ、本当ですよ?」


仕立屋(……ああ、お似合いですよお二人とも!)

仕立屋(これはまさしく私のシナリオどおりに!)

仕立屋(この旅で姫さまにはなんとしても王子のハートを!)

仕立屋(この先……各国で行われる3つのパーティー)

仕立屋(そこに私の渾身のドレスを纏った姫さまがあらわれる……)

仕立屋(王子の好みはどこかわかりませんが、必ずやどれかは心に響くはず!)


仕立屋(仮に……王子が駄目でも)

仕立屋(各国の太子がおりますし!)

仕立屋(この、二段構えの隙のない作戦!)

仕立屋(姫さま、貴女は必ずや私が幸せに致します!)


仕立屋「……うふっ、うふふっ、うふふふふ」

王子「帽子で顔が見えないけれど、なんだか笑っているようで何より!」ヒソヒソ

騎士「……何やら不穏な気配が」


騎士「そうだ……ひとついいですか?」

王子「なんだい?」

騎士「この外交の目的は……なにかお聞きしてよろしいでしょうか」

王子「聞きたいかい?」

騎士「できれば」

王子「……人をね、探しているんだ」

騎士「その方が、どこかの国にいると?」

王子「ああいや、なんというか、人材、と言った方が正しいかな」

王子「いや、人材というとちょっとおかしいかな……ううん」


騎士「人材……」

仕立屋「……」

仕立屋(王子が他国へ出かけてまで探す人材……?……はっ!)

仕立屋(そ、そーれーはー!まーさーかー!?)


王子「目的はいずれ教えるよ、それまでは秘密ということで」

仕立屋「お、王子!お嫁さんならこれここに!」

騎士「ちょ、ちょっと仕立屋!?」


仕立屋「いいですよう姫さま!ちょっと剣が趣味とか、
……お胸がさっぱりなくてあんまりドレスが似合わないとか、ありますけど!」

騎士「うわああああ!仕立屋!」

王子「お胸がさっぱり……ふむ」

騎士「王子!」

仕立屋「スレンダーな体型に合ったドレスは私が作れますゆえ!どうかどうか~」

王子「考えさせてくれ!私も少しばかり好みが……主に胸のあたりで!」

仕立屋「パッドもたくさん入れますゆえ~~~!!!」

王子「そ、それは国家予算をやり繰りせんとな……!」

騎士「二人して胸元を見つめたまま会話しないで!」


+++深緑の国 +++

パーティー当日 大広間入り口

騎士「うう、やっぱりドレスは着慣れないなあ」

騎士「腰回りもこんな親の仇のように締め上げなくたって」

騎士「それに……この、胸!ちょっと、盛り過ぎじゃない!?」

仕立屋「ふ、それもこれも王子を射止めるため!」

騎士「あ、まだ続いてたのね、それ」

仕立屋「当然ですとも!」

仕立屋「さあ、会場へ入りましょう」


ザワザワ……

「あの方は……?」

「相手国の騎士様らしいよ」

「へえ……お美しい」

「あのグリーンのドレスがまた華を添えていますね」


仕立屋(お、おおお!いい感じです!)

騎士(うわー……見られてる見られてる)

仕立屋「姫さま!もっと背筋を伸ばして、胸を張ってください!」ヒソヒソ

騎士「ない胸は張れません」

仕立屋「もう!謝りますから~!」


王子「騎士殿、やあなんとお美しい」

騎士「王子、お待たせしました」

王子「おお、これが仕立屋殿のドレスですか」

王子「ふむ、綺麗なものですねえ」


仕立屋(……当たり障りのないコメントですね)

仕立屋(これは……王子にあまり響きませんか)

仕立屋(それではこの国の太子様は……)


??「おお、そなたが騎士か」

仕立屋(王様……でしょうか、随分と威厳のあるお爺様……)

騎士「は、お初にお目にかかります」

??「よい、さあ顔を上げてくれ」

??「ようこそ深緑の国へ、私がこの国の第一王子、緑太子だ」


仕立屋「ひぇ!?」

騎士「!?」

緑太子「どうかされたか?」

仕立屋「あ、い、いええ、失礼致しました……」

緑太子「はっは、構わんよ、可愛らしい侍女だな」

仕立屋「お褒めに預かり光栄です……」


仕立屋(うわあうわあ!緑、太子!?王子様!?)

仕立屋(だって明らかに齢60は超えてらっしゃる!)

仕立屋(ひ、ひええ……どういうこっちゃ……)


緑太子「しかし、なんとも王子は羨ましいな、こんなに美しい方を連れているとは」

緑太子「いや、本当にお美しい…… 」ジッ

騎士「ありがとうございます」 ニコッ


仕立屋(……ああああっ!)

仕立屋(いや、狙い通りですけど!ですけど!)


緑太子「是非、一度私と踊ってはくれませんか?」

騎士「喜んで」 ニコッ


仕立屋(ああ、事が上手く進んでる!?)

仕立屋(姫さま!?まさかおじさまが趣味ですか!?)

仕立屋(ああもう、喜んでいいやらわるいやら!)


「緑太子と騎士様……素敵なダンスね」

「ああ悔しいが……やはり緑太子の貫禄には敵わん」

「緑太子も奥様に先立たれてずっとおひとりだったけれど……」

「俺は応援するよ!」


仕立屋(あああ外堀も着々と)


緑太子「さ、少し夜風に当たりましょうか」

騎士「ええ」

仕立屋(いやー!)

王子(仕立屋殿、さっきから表情がコロコロ変わってるなあ、面白い子だ)


翌日

騎士「は?嫁ぐ?誰が?どこへ?」

仕立屋「昨晩はお楽しみでしたね」

騎士「ええ?私が緑太子にってこと?」

騎士「いやあ、さすがにお父様以上の年齢の方は……」

騎士「社交辞令だってば」

騎士「あ、でも、確かにちょっと素敵だったかなあ、渋いロマンスグレーの太子様」

仕立屋「うう……姫さまにはもう少し歳の近いお方がお似合いかと思います」

騎士「はは……、あ、でも次に行く渓谷の国の青太子はなんか若い美青年らしいよ」

仕立屋「なんと!……さすが姫さま!情報収集抜かりなし!やっぱりやる気なんですね!」

仕立屋「くわー!また燃えて来ましたよ!」

騎士「ほどほどにね……」


出発の日

王子「緑太子、それではまた……」

緑太子「おう!またいつでも来るとよい!
うちの国王ももう90を超えて、いつあの世に行くかわからんでな」

王子「またまた、素晴らしくご健勝だったじゃないですか 」

騎士「それではまた、パーティーではありがとうございました」

緑太子「こちらこそ楽しめたわい、……その」

騎士「なんでしょうか?」

緑太子「いや、なんでもないわい、達者でな!」


道中 馬車の中

王子「仕立屋殿は……より一層深く帽子をかぶってるね」

騎士「なにか……昨晩は一睡も出来なかったようで」

仕立屋「うう……目の下の隈がひどい」


王子「いや、しかしお二人ともお綺麗でした」

王子「ドレスに身を包んだ騎士殿もさることながら、仕立屋殿もまた可愛らしく」

仕立屋「へ?……いいいえええ!?そんな、わた、私は姫さまのお付きですので、可愛いとか、そんな」

王子「いやいや、本当に、上品な装いだったよ」

王子「あれも仕立屋殿が自分で?」

仕立屋「は、はあ……、私には、あれぐらいしか、取り柄がありませんので……」

王子「なるほど、素晴らしい特技だね」

仕立屋「はあ……ありがとうございます……」

仕立屋(……次からは少し地味な方にしよう)


+++渓谷の国+++

王子「私は少し大臣と話して来ます、近くに庭園があるので、そちらで待っていてください」


庭園

仕立屋「ふはー!綺麗ですね、ね、姫さま!」

騎士「大陸いち水の綺麗な国だったかな?素敵な庭園だね」

仕立屋「ほー!ほほー!創作意欲が掻き立てられます!」

ブワッ

仕立屋「わ!風で帽子が……!」


騎士「……よっ!」

パシッ

騎士「やったー!つかまえ、た……って、おおお!?」

ザッパーン


仕立屋「あ、ああ!姫さまが噴水に!」

仕立屋「だ、大丈夫ですかー!?」


??「おい」

仕立屋「は?」

??「あんただよ、あんた」

??「見ない顔だな、城への客か?」

??「貴族……?それにしては身なりが、新しく入った下女か?」

仕立屋「わ、わたしは……」


騎士「仕立屋ー、どうしたの」

仕立屋「ひ、姫さま……」

騎士「あれ、その子は……?」

騎士(……随分と身なりのいい、貴族の子どもか?)

??「お前達が今晩パーティーに招待されている客人か」

騎士(やはり貴族か)


騎士「はは、すみません、このようなお見苦しい格好で」

騎士「騎士と言います」

??「はっ?騎士だって?あんたが!?」

騎士「ええ、見えませんか?」


??「いや……深緑の国を訪問していた臣下の報告では、それはそれは美しい姫君と聞いていたからな」

??「あいつめ……何を見ていたんだか」

騎士「んなっ……」

??「こんな風に噴水に飛び込むような」

??「粗野で、髪はボサボサで」

??「肩幅が広くて」

??「色黒で」

??「おまけにまったく胸のない」

??「男のような女、いや、実は男か?」

騎士「な、なな……」

仕立屋「ちょ、ちょっと、あな、貴方は!」


「たーいし……青太子……」

??「ちっ、もう探しに来たか」

??「今晩のパーティーは……まあ怖いもの見たさで楽しみにしてるわ」

??「さらばだ!」

シュタッ

「あっ!青太子!見つけましたよー!」


騎士「あいつが……青太子?」


ポツーン……

騎士「……」

仕立屋「……」

騎士「……仕立屋」

仕立屋「……はい姫さま」

騎士「こんな男女でも綺麗になれるかしら」

仕立屋「私を、誰だとお思いですか?」

仕立屋「どスレンダーな姫さまでも魅惑の腰つきにして見せた私ですよ?」

仕立屋「私の手にかかれば、容易いことです!」

騎士「よろしい!」


仕立屋「おのれ青太子、たとえ本当のことだとしても、なんたる暴言を」


仕立屋「姫さまへの無礼千万許せません!」

騎士「色々ツッコミたい所だけど、とりあえずは奴だ!」

騎士「いくよ、仕立屋!」

仕立屋「はい、姫さま!」

ガシッ!

騎士「……くっくっくっく……」

仕立屋「……うっふっふっふ……」


王子「……やあ、いたいた」

王子「お待たせしまし……た……?」


騎士・仕立屋「「わっはっはっはっはー!青太子、子どもと言えど、許すまじ!」」


王子「……何があったんだろう、騎士殿はずぶ濡れだし」


パーティーの夜 大広間

騎士「……」

ザワザワ

青太子「おい、あの美しい姫君はどこの誰だ?」

側近「誰って……あ、こちらへ来ますね」


騎士「ご機嫌麗しゅう、青太子」

青太子「なんと美しい、名をお聞きしたいがよろしいか?」

騎士「……いやですわ、昼に庭園でお会いしたばかりだと言うのに」

青太子「庭園で……?」


青太子「はっ」

青太子「ま、まさか……あの……」

青太子「な、なに~!?あれが!?嘘だろ~!?」

騎士「うふ、ごめんあそばせ」

シズシズ

仕立屋「姫さま、お見事です!」

騎士「仕立屋、やってやったわ!」

キャッキャッ

王子「……ほんとに何があったんだろうか、青太子は顔面蒼白だし」

今回はここまでになります、またよろしくお願いします

ありがとうございます、続けます


〈 数日後 出発の日 〉

王子「それでは、いい返事をお待ちしております」

青太子「ああ、すまないがもう少し預からせてもらいたい」

騎士「青太子、ありがとうございました」

青太子「いや……その、俺も、すまなかった」

騎士「はは、構いませんよ、確かにあのずぶ濡れ姿はあんまりでしたし」



騎士「それでは……」

青太子「……あ、騎士、……殿!」

騎士「……なんでしょうか!?」

青太子「いや……、達者で!」

騎士「青太子もご健勝の程を!」


青太子「……」

青太子「……王子からは騎士殿の話も聞いたが……」

青太子「……亡国の姫君、か」

青太子「彼女はいま心の内で、何を想っているんだろうな」



〈 道中 馬車の中 〉

パカッパカッパカッ

ゴトゴトゴト

王子「パーティーの時は二人して、してやったり!てな顔していたからヒヤヒヤしたけど」

王子「終わりの方には青太子と談笑もしていてホッとしたよ」

王子「何かあったのかい?」

騎士「まあなんというか、青太子とは境遇が近いものがあったので、そこから勝手ながら親近感というか、あの生意気さ加減も可愛く見えるというか……」

王子「ああ、そうだね……」


王子「青太子には、兄王子たちが何人かいたんだけど、みな流行病で亡くなられてね」

王子「妾の子で、いうなれば城の外に出されていた彼に白羽の矢が立ったんだ」

騎士「はい、そのように聞きました」

王子「まあ彼は太子になる前から有名人だったけどね」

騎士「と、いいますと?」

王子「彼は魔法に才があってね、城に呼ばれる前は、研究機関の誇る天才少年てな具合だったのさ」

騎士「なるほど……」


仕立屋(……パーティーの夜)

仕立屋(姫さまはとっても積極的にドレスを着ていられました……)

仕立屋(皆様にもこれでもかと言わんばかりに笑顔を振りまいて……)

仕立屋(あの!あの感じがいつも続けばよいのですが……)


~~~
〈 渓谷の国 パーティーの翌日 〉

騎士「あーうー」

仕立屋「ひ、ひめさま……そのお顔は」

騎士「ふっ」

騎士「私の笑顔はもう空っぽだよ」

仕立屋「無表情にも程があります!」

騎士「顔がひきつって動かないのさ……」

仕立屋「無理をさせて申し訳ありませんでしたー!」

騎士「私も乗り気だったし、気にしないでよ」ニヤリ

仕立屋「引きつった笑顔がなんとも怖い!」

~~~


仕立屋「あまりご無理もさせられませんかね……」

仕立屋「ふう、お国再興というのも大変です」


ゴトゴト……ゴト


仕立屋「あれ……?馬車が止まった、もう着いたんでしょうか……?」

王子「さ、申し訳ないけどここからは歩きだ、馬車が入れないんでね」


……ゴオオオオ

……オオオォォォ

仕立屋「……」

仕立屋「……王子、これは」

王子「さあさっ、ここからはちょっと険しい山道だよ!」

王子「溶鉱の国は土地のほとんどが山地なんだ」

仕立屋「は、はは……」


…………

仕立屋「ああ、天国が見える」

仕立屋「王様、お妃様……かような笑顔、私にはもったいなく……」

仕立屋「うふふ、うふふ」


騎士「……仕立屋ー!もうちょっともうちょっと!」

仕立屋「はひ……」 ドサッ

騎士「はい、よく頑張った!」

仕立屋「う、うう…… 」


王子「さ、ここまで来れば城下町までもう少しだね」

騎士「王子はこのあたりには来た事がおありで?」

王子「溶鉱の国の第一王子、赤太子は私の古くからの友人でね」

王子「互いの国へ留学もしたし、よくお互いに剣の腕を競いあったよ」

王子「この国自体が剣技が盛んな国でね」

王子「国民から貴族まで、みな己の腕を磨いている」

王子「私の方はもうからっきしだが、赤太子の武名は大陸でも有名だ」


王子「この数年は会えていないが……立派に国をまとめていると聞く」

騎士「そうですか、凄い方なんですね」


仕立屋(……こ、れ、は……、これは……)

仕立屋(……これは!期待大です!) ガバッ!

仕立屋(きっと王子と歳も近いでしょうし、剣が好きなんて、姫さまとも趣味が合う!)

仕立屋(ここは勝負のかけどころですね!)ゴゥ!

騎士「……何やらまた燃え上がってますね」

王子「本当だね、……はは、面白い子だなあ」


+++溶鉱の国+++


王子「え?赤太子が行方不明?」

執事「そ、お、なんです~!もう一週間も……!」

王子「一体何が……」

執事「それが……行方不明になった炭坑夫を探しに炭坑の奥へ」

執事「それも危険だからとお一人で……!」

執事「崩落が何度かあって、他の誰も近寄れなくて……」

王子「あいつはもう……変わってないなあ」


〈 炭坑の入口 〉

王子「ここか……」

執事「ああ、ご無事でしょうか……」

……ン

騎士「……?王子、何か聞こえませんか」

王子「え?……本当だ、何か……石を砕く様な……」

……ガーン、ガーン……

仕立屋「お、音が近づいてきます!」

……ガーン  ドガァァァァ!

執事「岩壁が崩れて!?」


ガラガラ……

赤太子「……お? おおお!?」

赤太子「おい、ようやっと出られたぞ!しっかりしろ!」

「うう……助かった……の、ですか?」

赤太子「そのようだ!うわっはっは!久方ぶりの日光は眩しいなあ!」


王子「赤太子!」

赤太子「……?眩しくてよく見えんが、誰だ?」

王子「私だ!王子だ!」


赤太子「……王子だと!?なんだどうした、奇遇だな!」

王子「奇遇だな、じゃない!お前はまた無茶をやって……」

赤太子「わっはっは!これが俺の性分だ、仕方なかろう!」

執事「あああ赤太子~!ご無事で~」

赤太子「おう!心配をかけたな!」

ワイワイ

仕立屋「……」

仕立屋「逞しく、精悍な顔つき」

仕立屋「関係ない私ですら飛び込みたくなる広く厚い胸板!」

仕立屋「屈託のない笑顔、そしてこの度量……」

仕立屋「……こ、これは!この方なら……!」ワナワナ


〈 数日後 練兵場 〉

騎士「はっ!やっ!」


騎士「……ふう、ドレスもいいけど……やっぱり剣を振ってるのが性に合ってるなあ」

騎士「しかしなんだか妙に視線を感じるんだよなあ」

騎士「なんだろう、うーん…… 」ヒュンヒュン


貴族A「おい、あの騎士殿は剣技に長けているらしいな」

貴族B「ああ、なんと素晴らしい、強い女性は素敵だな」

貴族B「彼女が来てから兵士達の間では彼女の噂で持ちきりだ」


貴族B「誰か連れ合いの方がいるのだろうか」

貴族A「いや……侍女達の噂によれば、この旅で婿を探しているらしいぞ」

貴族B「なに!それは本当か!」

貴族A「ああ、どうやら騎士どのと一緒にいる仕立屋からの情報らしい、確かだ」

貴族B「う、うむむむ!実にいいことを聞いた!」

貴族A「……隙あり!」

貴族B「ぬお!お前、騎士道精神はないのか!」



騎士「……なーんかちょっと熱っぽい視線だなあ」

騎士「……私と手合わせでもしたいのかな?」


赤太子「……おお、そこにいるのは騎士殿か」

騎士「赤太子、身体はもうよろしいのですか?」

赤太子「うわはは!たっぷり食べてたっぷり寝たからもう何ともないわ!」

騎士「そうですか、よかったです」

赤太子「パーティーも延期してもらったし、心配をかけたな!」

赤太子「……それはそうと、騎士殿はなかなかの剣の腕前と見える」

騎士「はは、留学中はずっと剣を学んでいたもので」

騎士「おかげでこのようなついぞ女らしくない風体ですが」

赤太子「はは、健康的でよいと思うぞ」

赤太子「どうだ、ひとつ俺と手合わせしてみないか、俺も身体を慣らしたくてな」

騎士「私でよろしければ、喜んで」


………

王子「あれ?騎士殿は?」

仕立屋「姫さまは練兵場の方へ」チクチク

王子「そうか……仕立屋殿は何をやってるんだい?」

仕立屋「わたしですか?私は……リーサルウェポンの用意を……」ヌイヌイ

王子「はは、なんだいそれ」

仕立屋「大変重要なのです」


王子「仕立屋殿はなぜその仕事を?」

仕立屋「え?姫さまではなく、私のことですか?」

仕立屋「ええ、ええと……私は……その」

仕立屋「……姫さまが、私のつくる服がよいと、おっしゃってくださったので」

王子「騎士殿が?」


仕立屋「姫さまが留学で国を出られる前、まだ私が見習いだった頃のことです」

仕立屋「たまたま私がつくった服を見て、いたく気に入ってくださって……」

仕立屋「それから姫さまのお召し物を沢山作らせて頂いて……」

仕立屋「だんだんと……大事な仕立てを任されるようになりました」

仕立屋「だから今の私があるのは……姫さまのおかげなんです」


仕立屋「その後、国で反乱があって、私は命からがら国を逃げ出しました」

仕立屋「そしてなんとか留学先の姫さまにお会いすることができた」

仕立屋「そしたら姫さまはこう仰って下さったんです……」


~~~

仕立屋『ひ、姫さま、国が、王様が、お妃さまが……』

騎士『うん』

仕立屋『私には何もできず、ただ、ただ、逃げ出して参りました……!』

騎士『うん、うん』

騎士『辛かったね、仕立屋が無事でよかった』

騎士『大丈夫?お腹空いてるでしょ、何かあったかい物を食べよう?』

~~~


仕立屋「ご自分もお辛いでしょうに、まず何よりも私の心配をしてくださって……」

仕立屋「……姫さまにはなんとしても幸せになって頂きたいんです」

仕立屋「私のできることと言えば、服を縫うことくらいですが……」


王子「そうか、うん」

仕立屋「はっ、す、すみません、気付けばなんともペラペラと無駄話を……」

王子「いや、はは、二人とも凄いね」

王子「それにて、仕立屋殿の気持ちはとても尊いと思うよ」

仕立屋「……い、いえ、私は……」


バターン

赤太子「わっはっは!いやー楽しかった!」

騎士「あっはっは!こちらこそ!」

赤太子「こんなに達者な輩はそうそうおるまいよ!」

騎士「赤太子こそ、加減していたのでは!?」

赤太子「そんなことないぞ、いや、必死だったわ!」

騎士「またまた、ご謙遜を!」


王子「おお、すっかり意気投合してるね」

仕立屋「ひ、姫さま~!ドロドロじゃないですか~!御髪もこんなに乱れて~!」

騎士「あ、かすり傷」

仕立屋「いやー!誰か、誰か腕のいい医者をー!」

今回はここまで、また宜しくお願いします。

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