基本的に登場人物は「染谷まこ」と「僕」だけです。
その他の人物はぼかして書いてあることはあっても名前すら出ません。
この「僕」はいわゆるJon Doeです。
特定の誰かではないので好きに置き換えて読んでください。
話ごとに完全に独立しています。
同じ時系列の話もありますが、全部別世界の話と思ってもらって結構です。
変態性の高い話と普通の話がありますので、注意してください。
何か思いついた単語なりテーマなりを書いてもらえればネタにできるので喜びます。
ただし、変態と普通どっちの話になるかは気分次第です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1362583370
綴りを間違えるとか恥ずかしい。
×Jon Doe
○John Doe
@贈り物
僕は染谷先輩に近づくと、おもむろにスカートを捲り上げた。
「……何をしとるんじゃ」
僕は叫ぶ。
最近の盗撮犯罪の報道にはうんざりなんです!
どうして好きでもない女性のパンツを、こそこそと覗き見て、あまつさえ写真に収めたりするんですか?
僕は!好きな女性のパンツを!堂々と!記憶に、心に刻み付ける!
染谷先輩から与えられるものならば、両手に刺された千点棒の痛みすら愛おしい。
@土を隔てて
色褪せた世界の中で、唯一美しき色を保ち続けるこの桜。
綺麗ですね。
傍らに佇む染谷先輩はにこりと笑う。
白と黒の世界。
映える薄紅色。
知っていますか?
美しく咲く桜の木の下には人間の死体が埋まっているんだそうです。
人間の死体が、桜をより美しく咲かせるのだそうですよ。
傍らに佇む染谷先輩はにこりと笑う。
僕は懐から抜き身の短刀を取り出す。
本来であれば銀に輝くその刀身も、この世界にあってはただの白と黒であった。
切先を左胸へと向ける。
軽く触れさせるとそれだけで皮は裂け、黒い血が滲んだ。
怖くはなかった。
傍らに佇む染谷先輩はにこりと笑う。
僕もにこりと笑う。
倒れ伏した僕は、永久に染谷先輩と共に在れることを願い、この世界に別れを告げた。
@涙のわけは
僕は染先輩に近づくと、おもむろに胸を揉んだ。
一揉み毎に手の甲に五千点棒が突き刺されていくが、僕は構わずに揉み続けた。
僕の手が剣山の様になった時、ついには動かなくなった。
僕は痛みよりも、染谷先輩の胸を揉めなくなったことに絶望し、そっと涙を流した。
@届かぬ想い
僕がどれほど染谷先輩を愛しているか、その半分でも良い。
染谷先輩に伝えたい。
イイコトオモイツイタ!
僕は対局中の染谷先輩の前に飛び出すと、一糸纏わぬ姿にな僕のリーチ棒を指し示す。
見てください!これが僕の染谷先輩への愛の大きさです!
染谷先輩はこちらを一瞥すると、真顔のまま言い放った。
「なんじゃ、おんしのわしへの愛はその程度か」
違うんです、違うんです!
染谷先輩への愛はこんなもんじゃないんです!
僕はそう叫ぶと僕のリーチ棒を天へ届けと引っ張った。
引っ張って、引っ張って、引っ張り続けると、ついにはブツリとちぎれて取れた。
薄れ行く意識の中、染谷先輩のゴミを見るような視線を全身に浴び、僕は幸せの頂へと達した。
@いつか、あなたのために
僕は染谷先輩の前に立つと、両手を合わせ、深々と頭を下げた。
お願いします、お願いします、何も聞かずに僕のお願いを一つ叶えてください、お願いします。
土下座しかねない僕の勢いに染谷先輩は困惑する。
「とりあえず、そのお願いとやらを言うてみい?」
天使のような笑顔。
焦ってはいけない。
僕は誤解のないように一字ずつ区切ってゆっくりと伝える。
染谷先輩のおま
そこまで言ったところで僕の口は一万点棒で縫い付けられた。
何と勘違いしたのだろうか。
耳年増な染谷先輩も可愛い。
僕は渡せなかった安産祈願の御守を鞄にしまい、帰路へとついた。
@声が聞きたくて
対局中の染谷先輩へ近づくと、僕は叫ぶ。
染谷先輩からの愛の囁きを聞くことができないのなら、僕はこんな耳なんていらない!
僕は聴覚を失った。
@バレンタインディ
二月十四日、僕は女子から貰ったチョコが入った紙袋を手に部室へ向かう。
部室へ入ると、中にいるのは染谷先輩だけだった。
「そりゃあ、全部チョコか?」
染谷先輩は驚きに目を丸くしながら僕の手にある紙袋を指差す。
ええ、持ち切れないんで紙袋に入れてもらいました。
ひょいっと肩をすくめる。
「まあ、おんしは顔はええからのう」
でも、一番好きな人から貰えなかったら意味ないですよ。
僕の言葉に染谷先輩は何か言いたそうにもごもごと口を動かしたが、結局は何も言わずにため息が漏れただけであった。
無言のまま染谷先輩は鞄を漁ると、可愛いラッピングがされた小箱を投げてよこした。
「ぎ、義理じゃぞ?部活の先輩後輩じゃしの……」
そう言う染谷先輩の頬は、季節外れの桜に彩られている。
受け取った僕はというと、あまりの事態に思考が停止し、裏返った声で、家宝にしますと叫んだのみであった。
僕はこの特別なチョコを他のチョコと一緒になんてしたくなかったし、絶対に失くしたりもしたくなかった。
イイコトオモイツイタ!
僕はズボンごとパンツをずり下ろすと、僕のリーチ棒と下腹部の間にチョコを挟み、満足そうに一つ頷いた後、パンツとズボンを履き直した。
これでよし。
笑顔で染谷先輩を見ると、染谷先輩は顔を歪めて涙を流していた。
そして、そのまま何も言わずに部室から走り去ってしまった。
僕は悪くない。
@あなただけ見つめてる
対局中の染谷先輩へ近づくと、僕は叫ぶ。
染谷先輩を見つめることが許されぬのなら、僕はこんな目なんていらない!
僕は視覚を失った。
@かく語りき
恐るべきは僕の変態性である。
変態だから、染谷まこを愛するのか。
染谷まこを愛するから、変態なのか。
しかして真に恐るべきは、変態純愛全てを許容し、受け入れることができる染谷まこ、その人である。
「いや、受け入れとらんからな?」
@エイプリルフール
今日は四月一日、エイプリルフールだ。
だから僕は嘘をつく。
染谷先輩を愛する心に、嘘をつく。
最初は不審がっていた部員の皆も、真面目に部活をこなすだけの僕を見て、安堵の表情を覗かせた。
一欠けなら僕が入りますよ。
愛の叫びをするでもなく、真面目に打つ僕に染谷先輩が声をかける。
「おんし、何かあったんか?」
え?何がです?
普段であれば染谷先輩に語りかけられた耳を千切り取って家宝にせんばかりの僕が、素っ気なくそう返すと、染谷先輩は、なんでもないわと黙ってしまった。
さすがの僕も染谷先輩と同卓していると、染谷先輩への愛を抑えることが難しくなってきたので、疲れたので抜けますねと仮眠用布団に横になることにした。
気を紛らわせるために、特に興味もない本をめくり続ける。
禁断症状のせいか、登場人物が全部染谷先輩に見えてきた。
エッチなシーンがある本はないだろうか。
僕が本棚を漁っている間、染谷先輩はちらりちらりとこちらに視線を送っていた。
部活も終わって皆が帰宅すると、部室に残ったのは僕と染谷先輩だけになった。
帰り支度をしている染谷先輩に、鍵は僕がやりますからと声をかけ、登場人物が染谷先輩だけになった本からエッチなシーンだけを読む作業に没頭した。
染谷先輩は戸に手をかけたところでこちらを振り向いた。
「本当に、何もないんじゃな?」
そう言う染谷先輩に、ええ、とだけ答えた僕は、挨拶をしていなかったことを思い出した。
さようなら、染谷先輩。
それを聞いた染谷先輩は寂しげに顔を歪めて、何も言わずに部室から出ていった。
一人になった僕も、エッチなシーン探しは切り上げて、帰ることにした。
今日は、疲れた。
明日は今日の分も愛を叫ぼうと決意し、染谷先輩を思いながら帰路についた。
明くる日、僕の愛の叫びを受けた染谷先輩が、なんで昨日はと問うてきたので、エイプリルフールの件を説明すると、涙目でぼこぼこにされた。
僕は悪くない。
@優しさに包まれたなら
僕は叫ぶ。
悔しいんです、悔しいんです、染谷先輩はこんなにも可愛いのに、こんなにも努力しているのに、こんなにも一所懸命なのに!
認められないのが、悔しいんです!
僕はうずくまり、拳を地面叩きつけながらぽろぽろと涙をこぼした。
「ええんじゃ」
そんなぼくに染谷先輩は微笑みかける。
「わしは皆に認められんでもええ。おんしさえ、わかってくれておるなら、それでええんじゃ」
染谷先輩はそう言うと、ふっと両腕を広げる。
僕は縋るようにその腕の中へと飛び込んだ。
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩!
優しく抱かれ、ぽろぽろと涙をこぼしながら、叫び続ける。
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩!
目を覚ますと部室の仮眠用布団の上であった。
ずきりと全身が痛む。
日課である染谷先輩への愛の叫びをしていたら、ぼこぼこにされたんだった。
頬に手をやると濡れている。
夢を見ていた。
悲しい夢だったのか、嬉しい夢だったのか、今となっては覚えていない。
体を起こすと誰かの上着がかけられていたことに気付いた。
丁寧にたたんでテーブルの上に置く。
鞄からペンと紙を取り出し、ありがとうとだけ書いて上着にのせた。
ずきずきと痛む後頭部をさすりながら、僕はふらつく足取りで家路についた。
@疾走疾駆
僕は頭を抱える。
どうしたら僕の染谷先輩への思いが一欠片でも伝わるのだろう。
悩んで、悩み抜いて、思い至る。
イイコトオモイツイタ!
僕は校庭に出ると文化祭用の資材を使って、巨大なキャンプファイヤーを組み上げた。
躊躇なく火をつけると、服を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿になる。
荒々しく踊り狂い、火の周りをぐるぐると動きながら、染谷先輩への愛を高らかに叫び、一枚ずつ服を火にくべていく。
崇め、崇め、奉れ、奉れ、染谷先輩を、この地に降り立った女神を!
ふと気付くと遠くから近づくサイレンの音。
畜生、僕と染谷先輩を引き離す悪魔が来やがった!
僕は一糸纏わぬ姿のまま校門を飛び越え、走る。
どこまでも走り抜くんだ。
どこででも愛を叫ぶんだ。
僕は、風になった。
@ご褒美
染谷先輩は尽くすタイプだと確信した僕は、お願いしてみることにした。
お願いします、お願いします、何とか僕に尽くしていただくことはできないでしょうか、なにとぞ、なにとぞ、なにとぞ、なにとぞ。
あまりのしつこさに堪忍袋の緒が切れた染谷先輩は、僕に罵詈讒言の限りを尽くした。
思いもよらぬ、まさに僥倖と言うべき展開に、僕は幸せの頂へと達した。
それに気づいた染谷先輩は、さらに激しく僕を罵った。
僕は結局、都合三度幸せの頂へと達した。
僕は悪くない。
@あなたのために、できること
備品である麻雀セットから、一万点棒が一本紛失したらしい。
他の部員と共に、染谷先輩も一所懸命に探しているが見つからないようだ。
なんとか染谷先輩の力になりたい!
その思いで、必死に考えて、考えて、閃く。
イイコトオモイツイタ!
僕は染谷先輩の前に飛び出すと、一糸纏わぬ姿になり、染谷先輩への愛ではち切れんばかりの自分の僕のリーチ棒を指し示す。
ここにあります!お探しの一万点棒はここにあります!
染谷先輩はこちらを一瞥すると、真顔のまま言い放った。
「それは一点棒じゃろう」
違うんです、違うんです!
今から一万点棒になるんです!
僕はそう叫ぶとナニを天へ届けと引っ張った。
引っ張って、引っ張って、引っ張り続けると、ついにはブツリとちぎれて取れた。
薄れ行く意識の中、染谷先輩のゴミを見るような視線を全身に浴び、僕は幸せの頂へと達した。
@秘密
いつものベンチに腰掛ける。
僕が彼女の秘密を知ったのは三日前。
それでも僕は彼女の友人であり続けた。
染谷まこ。
今、彼女は僕の隣にいる。
僕が彼女の秘密を知ったのはちょっとしたことからで、それを知っても態度に変わりない僕に彼女は興味を抱いたようだ。
「おんしはわしから離れていったりはせんのか?」
うん。
「ほうか」
それから一ヶ月もした頃、僕は彼女から頼み事をされた。
彼氏の振りをしてくれ、と。
彼女はその外見から、非常に、男性に好意を持たれやすかった。
そういった輩を振り払うのにも疲れたのだろう。
僕は快諾した。
僕が彼女の仮初の彼氏となって、二ヶ月が過ぎようとする頃、学内に口にするのも憚られるような彼女の噂が広まった。
「すまんのう、ゆるしてくれ」
僕が噂に巻き込まれたことに罪悪感を覚えた彼女は、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
気にするなとだけ伝えて、僕は彼女の隣にい続けた。
僕が彼女に謝罪された日から三ヶ月が過ぎた頃、彼女は姿を消した。
僕に届いたメールは一言だけ。
「すまんかった」
電話をしてみるが、繋がらない。
アドレスは変えられており、メールはむなしく戻ってくるだけであった。
彼女の下宿先は引き払われており、学校にもすでに籍はなかった。
いつものベンチに腰掛ける。
僕が彼女の秘密を知ったのは半年前。
それでも僕は彼女の友人であり続けた。
染谷まこ。
今、彼女は僕の隣にはいない。
目を瞑ると彼女の姿が浮かぶ。
染谷まこ。
僕の愛しい人。
@なぞなぞ
上は緑、真ん中は水色、下も水色、その中は白、これなーんだ。
最初は取り合ってくれなかった染谷先輩も、127回目の問いかけでようやく放っておいたほうが鬱陶しいという事実に気づいたようで、なんじゃろうなと考え出した。
しばらく悩んでも答えは出なかったようだ。
「降参じゃ」
残念、答えは染谷先輩でした!
「……どうしてその謎々の答えがわしになるんじゃ」
上は緑、これは先輩の髪の色。
真ん中は水色、これは先輩のブラの色。
下も水色、これは先輩のパンツの色。
今日は上下セットの下着なんですね。
「……とりあえず下着の色を知っていることはあとで詰問することにしてじゃな。その中は白ってなんじゃ」
ほら、白って麻雀で白板ですよね。
だから先輩のパイ、痛いですよ、暴力は反対です。
「喧しい!ちゃんと生えとるわ!」
そう叫んだ染谷先輩は、勢いに任せて自分が何を叫んでしまったかを理解して、顔を真っ赤に染め上げて部室から走り去っていった。
僕は悪くない。
@ことば
1/8
僕が書生としてこの地に来てから、半年が過ぎた。
始めの頃は勉学に勤しむ事こそ我が本分とばかりに勉強していたが、気の合う学友が増えるにつれ、そんな気持ちは何処かへ飛び去ってしまった。
僕達の間で流行っているのは麻雀という、簡単に言えば絵合わせげえむなのだが、これが中々に奥が深い。
その深みに皆嵌ってしまい、麻雀は夜を徹して行われることも珍しくなかった。
さて、そんな僕達であるが書生という立場上、麻雀をしている姿ばかりを家主様に見せる訳にはいかない。
持ち回りで実施していたが、どうにもこうにも開催が難しくなった辺りで、雀荘へ行かないかとの提案が発せられた。
以前から興味はあったが金銭的な面で尻込みしていたのだ。
お金がかかるんじゃないか?
いやいや、そこは学生にも良心的な設定でな、四人組で行けば場代以外はかからんのよ。
であればと、早速その足で雀荘へと向かうこととなった。
ところで、その店の名はなんというんだい?
ええと、確か、天の頂、だったかな。
2/8
店名が書かれた看板。
天の頂と読める。
ここが目的の雀荘であるようだ。
思っていたよりも、もだんな佇まいに尻込みしたが、意を決して入店する。
「いらっしゃいませ」
店員から声がかかる。
ああ、すみません、四人で場を借りたいの、です、が。
僕の言葉はしりすぼみに消えていく。
視線は店員へと固定されて動かない。
洋装で白いふりるは、噂に聞くどれすかとも思ったが、だんすに用いるにしてはずっと落ち着いている。
黒を主体にところどころにあしらわれた白いふりる、裾の長いすかあとはふんわりと広がっている。
3/8
「この服ですか?」
僕の反応は珍しいものではなかったようで、彼女は慣れた様子であった。
「これはめいど服と言うのですよ。西洋の女中さんの制服だそうです」
幾分照れたような彼女の笑顔に僕は目眩を覚える思いであった。
お名前は、そんな気の利いた言葉が出てくるはずもなく、盗み見るように胸元を覗くと、そこには染谷との刺繍が施されていた。
「では、簡単に当店のご利用方法をご説明いたしますね」
簡単に説明を受け、卓についたが、気もそぞろ。
そんな状態でまともに麻雀ができるわけもなく、その日は僕の一人負けとなった。
なるほど、噂になるだけあって書生の懐にも優しい値段設定で、毎日毎夜とはいかないが、頻繁に足を向けれるものであった。
となれば僕達は足繁く通い、彼女に見惚れながら麻雀を打つ僕が負け続けるという日常ができあがった。
4/8
「麻雀、あまりお強くないのですか?」
僕達の間では負けた者がゲーム代を持つという取決めができており、となれば当然負け続けている僕が精算の担当となる。
常連となっていた僕達のその取決めはすでに彼女の知るところとなっており、毎日精算をする僕を見かねてそう声をかけたのであろう。
いえ、あの、弱くはないと思うんですが、今は調子が悪いというか……、いえ、やっぱり弱いんでしょうね、すみません。
しどろもどろな僕に彼女は少し驚いた様子を見せたあと、くすくすと笑い出した。
透明な鈴音のような、綺麗な笑顔であった。
「よろしければ、お手伝いいたしましょうか?」
彼女のその提案に、僕は一も二もなく飛びついた。
是非、お願いします。
勢い余って差し出してしまった手を、引っ込めようかと逡巡していると、彼女はすっと僕の手をとった。
「染谷まこと申します。よろしくお願いしますね」
彼女に教えてもらえるようになってから、僕の一人負けはなくなった。
それも当然のことで、彼女を探して視線を彷徨わせ、卓上に集中できないということがなくなったのだ。
なにせ、彼女はきちんと指導できるようにと、暇を見つけては僕の側に来てくれる。
勿論、そればかりではなく、彼女の教え方は非常にうまく、僕がどんどんと上達していったということもある。
彼女は打ち手としてもかなりの腕前なのではなかろうか。
5/8
彼女といえば、郷里は遠く広島なのだそうだ。
国訛りが抜けぬらしく、標準語で話そうと努めてはいるものの、ふとした拍子に出てくるそうな。
国訛りが出ると慌てて標準語で言い直す彼女は可愛らしく、それを指摘したときに、ぷくりと頬を膨らませ拗ねる素振りを見せる様などは、もはや筆舌に尽くし難い。
彼女の指導を受けるようになり、半年が過ぎようという頃、僕はある決心をした。
彼女を店の外へ誘おうと、はいからに言うのであれば、でえとに誘おうというのである。
これまで異性を誘った経験などなく途方に暮れた僕は、すっかり僕の恋心を知るところとなっていた友人達に助言を求めてみたのだが、誰もがそういった経験はないとのことであった。
当たって砕けろとの皆の囃子に煽られ、勢いに乗って天の頂へと来てみたものの、彼女を前に、ええとあのそのなんでもないですを繰り返す置物と化した次第であった。
そんな僕を彼女は苦笑しながら見守っていたのだが、閉店が迫ろうというときに僕のところへ来ると、ほんのりと頬を染め、こう尋ねたのだ。
「あの、明日、お時間ありますか?」
まったくもって不甲斐なくも、初でえとの約束を取り付けた僕は、お洒落したくもどうしたら良いか皆目見当もつかず、結局入念に寝癖を直しただけで待ち合わせ場所へと向かった。
彼女はめいど服は着ておらず、小奇麗な和装となっていた。
尋ねてみると、あれはお店のお洋服ですからところころ笑った。
「似合いませんか?」
滅相もない。
慌てふためき、その装いが十二分に彼女に似合っていることを言葉を尽くして伝えると、彼女はまたころころと笑った。
最近できたという洋風の茶屋で軽く腹ごしらえをし、ふらりふらりと街を歩く。
6/8
いくつかの店を冷やかし、評判の庭園を散策していると、雲に朱が混じり始めた。
もう夕暮れも近い。
「お話があります」
天の頂にて下宿している彼女を送り届ける帰り道、彼女は深刻そうな面持ちとなっていた。
「私、近日中に実家へ帰るんですよ」
そう、なんですか。
彼女が今日僕を誘ってくれたのは、この話のためだったのだろう。
「もともと、そういう約束だったんです」
実家に戻って、何を?
「特に何をというわけではないのですよ。でも、いずれ親が決めた相手へと、……嫁ぐことになるのでしょうね」
7/8
どくんと心臓が跳ね上がる。
彼女が、誰かの元へ。
鼓動は際限なく速く強くなり、耳に痛いほどだ。
そう、なんですか。
下手な相槌を打つだけで、気の利いたことが言えない自分が今は恨めしい。
彼女はそれ以上何も言わなかった。
きっと僕の言葉を待っているのだ。
でも、僕は何も言葉にできなくて、ただ黙って彼女の少し後ろを歩くだけ。
そのまま沈黙に満ちた帰路を続け、天の頂の目の前まで来ても、僕は何も言えなかった。
「ここまでで、結構です」
そう言った彼女は、それではまた、とゆっくり歩いていった。
天の頂へと入る直前、彼女はくるりとこちらへ向き直り、寂しげな笑顔を見せた。
「わし、おんしのことが好きじゃったわ」
その言葉を残し、彼女はそのまま店の中へと消えていった。
8/8
後日、友人達と天の頂へと足を運んだが、すでに彼女は郷里へと旅立っていた。
僕は彼女を思い出す。
最後に見せたあの寂しげな笑顔は、きっと僕の心を見抜いたからなのだ。
僕は彼女がどこぞへと嫁ぐと言ったあの時に、言うべきだったのだ。
あなたが好きですと、僕と一緒になりましょうと。
だが、僕は、書生である自分を考えてしまった。
書生として勉学を収め、いずれは学問で身を立てる未来と、彼女に手を差し伸べる今を比べたのだ。
彼女が最後に国訛りで、なんら飾ることなく僕に告げた最後の言葉、その心中を思うと、僕は何かに押しつぶされそうになりうずくまった。
だが、あの時、彼女に何を置いても手を差し伸べることができなかった僕には、彼女を失って泣く権利などない。
彼女が幸せであるよう、祈るだけ。
僕に許されるのは、ただそれだけなのだ。
@ 幸福な日々
僕はひょっとして染谷先輩に好かれてはいないんじゃないかという衝撃の事実を思い立ち、いてもたってもいられなくなって、ベランダで日向ぼっこをする染谷先輩のもとへ向かった。
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩!
染谷先輩は僕のこと好きですか?
僕の問いかけに、染谷先輩はあんぐりと口を開ける。
「今までのおんしの所業を思いだせい」
それが染谷先輩の答えのようであった。
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩、僕は染谷先輩のことが好きで好きで全てを理解したいと思ってはいますけど、基本的に馬鹿なので簡潔に言ってもらわないと何も理解できません。
僕の言葉で頭を抱えた染谷先輩は、難しい顔になり、
「好きではないわ」
そう告げた。
僕はその言葉で雷に打たれたように、びくりと身を一つ震わせると、そのまま動けなくなった。
ただ、ぽろぽろと涙をこぼし続けた。
僕のただならぬ様子にぎょっとした染谷先輩は、難しい顔にさらに苦虫を噛み潰したような顔をブレンドさせた不思議な表情を見せた。
「好きではないが、……まあ、嫌いでもないわ」
その言葉で僕の体は全てから解き放たれた。
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩!
叫びながら染谷先輩の胸めがけて飛びつくと、染谷先輩は、うわっと一言発し、僕を避けた。
僕はそのまま、ベランダから地面まで落ちることとなり、結果、入院した。
僕の病室には、僕のことを嫌いではない染谷先輩が数日に一回の頻度でお見舞いに来てくれる。
僕は幸せだ。
@選択肢
僕は警報の鳴る街を歩く
危険の接近を報せているが、僕は気にすることはない。
なぜなら、僕こそが、接近する危険そのものなのだから。
僕の歩み、腕の動き、視線ですら、僕の全ては破壊へと繋がる。
後ろを見ると、そこは廃墟。
生きるものは何も無い、瓦礫の山だ。
前を向き直り歩みを続ける。
全てを壊す。
それこそが、今の僕の生きる意味だ。
ふと、目の前に一人の少女が現れる。
染谷まこ。
僕の最愛の人。
「もう、よすんじゃ」
染谷先輩は震える声で言う。
僕はかぶりを振って自分の意思を伝える。
「もう、十分じゃろう」
染谷先輩は手を僕に差し出す。
「わしを、わしの全てをおんしに捧げる。だから、……だからもうこの世界を許してやってはくれんか?」
僕は、
ピピッ
A:染谷先輩の手を取る
B:世界を壊す
ピッ
B:世界を壊す
すみません、染谷先輩。
僕はもう止まれないんです。
僕は世界を
がばりと跳ね起きると、僕は頭を壁に叩きつける。
馬鹿か、お前は!
染谷先輩と世界なら、比べるべくもなく染谷先輩だろうが!
あのまま染谷先輩の手を取っていたら、僕のリーチ棒でリーチを、ひょっとしたらダブルリーチをしてもらえたかもしれないんだぞ!
馬鹿め、馬鹿め、やり直せ、選択肢からやり直せ!
頭を壁に叩きつけ続けると幾度目かで僕の意識は薄らいできた。
これでやり直せる。
僕は薄っすらと笑みを浮かべながら、そっと意識を手放した。
病院のベッドで目を覚ますまで、僕が夢を見ることはなかった。
@狂気狂気アンド狂気
八月二日、雲一つない快晴、眩い日差しで目を覚ます。
いつもより、少し早く起きた僕がテレビをつけると、占いのコーナーだった。
今日の運勢、ラッキーアイテム、目を引く内容でもないのだろうが、起きるのが遅くあまり見る機会がない僕には新鮮だった。
さて、ご飯を食べて学校へ行こう。
懸命に食べようとするけど、どうにもうまくいかない。
ああ、そうか。
お尻には歯がついてないのだ。
ジューサーでドロドロにして流し込む。
ブーツと、手袋と、念のためにゴーグルをつけ、傘をさして外へ出る。
今日も暑いな。
服は勿論着ていないため、貼るカイロは地肌に付けることにした。
しかし、傘をさしているとブリッジでは歩き辛い。
首に巻いていた荒縄を解き、それで傘を僕のリーチ棒に括りつけると両手が自由になった。
これは良い。
僕は意気揚々と歩き始める。
ぽたりと朝ご飯が垂れて、地面に染みを作った。
学校が見えてこようかというあたりで、見目麗しい、絶世の美少女を見つけた。
この世界に舞い降りた天使、世界一大美女の染谷先輩だ。
やあ、おはようございます。
僕の挨拶に、染谷先輩は笑顔でおはようと言いかけて固まったかと思うと、僕の胸倉を掴もうとして服を着てないことに気づき、首を掴んで物陰に引きずり込んだ。
痛いですよ、何をするんです。
「痛いですよ、じゃないわ!おんし、その格好はなんじゃ!」
ああ、これですか。
朝の占いで言ってたんです。
人と違うことをすれば好きな人に構ってもらえるって。
僕がそういうと、染谷先輩は悲しそうに眉尻を下げ、小さくかぶりを振った。
理由はわからないけれど悲しそうな染谷先輩を元気付けようと、僕は精一杯の笑顔を作って言う。
でも、占いって当たるんですね。
好きな人と、こうして朝からお話できる。
それを聞いた染谷先輩は顔を手で覆い、ぽろぽろと涙を流した。
ああ、どうか泣かないで。
僕もぽろぽろと涙を流しながら、そう願った。
@素直な言葉
染谷先輩、染谷先輩、もし僕が三人に増えたらどうします?
「死ぬ」
死ぬほど嬉しいって意味だろうか。
@誕生日
今日は五月五日、染谷先輩の誕生日だ。
全身全霊をもって御祝いをしなければならない。
勿論、授業など受けてはいられない。
僕は朝から大量の荷物を部室に運び込む。
これらは貯金を切り崩して揃えた。
染谷先輩のためなら、安いものだ。
部室を盛大に飾り付け、豪華な料理を並べる。
次は、ケーキの準備だ。
僕は一糸纏わぬ姿になると、僕のリーチ棒に蝋を垂らしていく。
垂らして、垂らして、垂らし続けると、ついには天井に届かんばかりの高さになった。
満足した僕は、形を整え、一万点棒を模して飾り付ける。
これでよし。
すでに僕のリーチ棒からは、じんじんとした嫌な痛み以外は何も感じられなくなっていたが、染谷先輩が喜ぶ姿を思えば、それはどうでも良いことだった。
最後に全身にスポンジと生クリーム、色とりどりの果物を乗せ、部室の真ん中に横たわる。
さあ、準備は整った。
日が暮れ、夜の帳が降りる頃、僕はようやく今日がこどもの日で、国民の祝日で、学校が休みだということに思い至った。
ハッピーバースディ、染谷先輩。
あなたが幸せでありますように。
僕はにこりと笑い、横たわったまま、静かに涙を流し続けた。
@新世界
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩は赤ちゃんプレイに興味はあります?
「……」
ああ、僕が赤ちゃんのほうです。
「……」
いえ、染谷先輩が望むのなら、染谷先輩が赤ちゃんのほうで良いですよ。
「……」
僕の場合、おっぱいは出せないんで、僕のリーチ棒からミルクを吸ってもらうことになりますけど、勿論、僕は望むところです。
「……」
突き刺さり続ける侮蔑の視線に、僕は新しい何かに目覚めそうだった。
@役満
僕は染谷先輩の眼鏡が少し汚れていることに気づいた。
染谷先輩、染谷先輩、眼鏡が汚れていますよ。
そう声をかけ、僕がぺろりと染谷先輩の眼鏡から汚れを舐め取ると、染谷先輩は、ひぃっと小さく悲鳴をあげて、涙目になりながらティッシュで眼鏡を拭い始めた。
僕が舐め取ったから、もう汚れは付いていませんよ。
僕が言っても、染谷先輩は涙目のまま眼鏡を拭い続け、他の部員達からは罵声と共に牌を投げつけられた。
備品は大切にしなきゃ。
そう言いながら投げつけられた牌を拾い集めると、国士無双ができあがっていた。
今日は良いことがありそうだ。
@星に願いを
期末テストがもう間もなくという頃、僕は染谷先輩と一緒に勉強しようと思い立った。
染谷先輩、染谷先輩、一緒に期末テストの勉強をしましょう。
「学年が違うじゃろ……」
大丈夫ですよ、僕だって先輩に教えてあげられることもあります。
訝しげな顔をする先輩に、僕だってやればできるってところを見せるチャンスだと思い、服を脱ぎ捨て一糸纏わぬ姿になる。
ほら見て、よく見て、地理の時間だよ。
僕は僕のリーチ棒とサイコロを指し示し、スカンジナビア半島と叫んだ。
ここがノルウェー、ここがスウェ
僕は数え切れないほどの点棒が突き刺さった僕のリーチ棒とサイコロをなんとかパンツの中に仕舞い込み、一人試験勉強を始めた。
窓の外は一面の星空。
何気なく見ていると、流れ星が一つ。
染谷先輩がテストで良い点数が取れますように。
@大切な欠片
1/4
ロン、僕が手配を倒すと、彼女は言った。
「そりゃあ、嫌味か……」
どういうことです?
手配を見る。
何の変哲もない役牌混一。
僕が首を傾げていると、彼女はぽつりと呟いた。
「紅孔雀」
ああ、そういうことですか。
「わしが一番好きな役の対極じゃ」
そういえば彼女の一番好きな役は緑一色だった。
わざとじゃないですよ。
笑いながらそう言うと、ほうか、とだけ、くすりと笑いながら彼女。
「おい、点数申告くらいせんか」
ああ、すみません、ええっと……。
……待ってくださいね、……あれ?
それが気づいた切っ掛け。
始まりはきっと、もっとずっと前。
それから、僕は時間を忘れ、思い出を忘れ、そして彼女以外の全てを忘れた。
2/4
彼女が泣いている。
僕はどうしたら良いかわからない。
「大丈夫じゃ、心配せんでええ。おんしの面倒くらいわし一人でも大丈夫じゃき……」
不安そうな僕に彼女はそう微笑む。
でも、今の僕にも彼女が大丈夫じゃないことはわかるんだ。
僕は言葉を紡ごうと、必死になって言葉を集めて、ぼろぼろと言葉がこぼれていって、それでもがんばって、がんばって言葉を紡いで。
僕を、施設に入れてください。
そう彼女に伝えた。
彼女は肩を震わせ、静かに涙を流した。
僕と彼女は学生時代に同じ部活に入っていて、その部活仲間達と約束していたそうだ。
僕がもう一度、施設に入ることを願ったら、叶えてあげよう、と。
最後の願いを叶えてあげよう、と。
僕が彼女にそれを願ったのは、これで十一度目だったそうだ。
3/4
施設に入った僕は、施設に置かれていた全自動雀卓が指定席となった。
座るのは四人だったり、三人だったり、二人だったり、僕一人だったり。
てんでばらばらにツモったり、捨てたり。
点数はおろか、役すらもなく、何もかもがでたらめで、好きな牌を集めては、笑う。
そんな日々だった。
ある日、僕の頭は珍しくはっきりとしていた。
気分よく麻雀をしていると、対面に女性が座った。
やあ、久しぶりの対戦相手だ。
じゃらじゃらと牌をかき混ぜ、手を進めていく。
揃った。
僕が誇らしげに手配を倒すと、女性は笑顔でどれどれと僕の手を見る。
「……緑一色」
女性がそう呟くと、僕の口から言葉が漏れた。
僕の大好きな人が、好きだった役です。
漏れた言葉の意味は、僕にはわからない。
女性は輝くような笑顔を見せ、ほうか、と頷いた。
4/4
しかし、その女性は改めて僕の手を見て顔を曇らせた。
「少牌……しとるの」
しょうはい。
「ええと、牌が足りないってことじゃよ」
そう、足りないんです。
僕から大切な何かが欠け落ちて、僕はその欠片を探すべきなのに、何が欠けたのかもわからないんです。
また僕の口から自然と漏れ出た言葉を、今度はなんとか理解しようと、僕は目を瞑って頭の中で反芻してみることにした。
目を開けると、対面に女性が座っている。
女性は手で拭うこともなく、流れるに任せて涙を流している。
僕はどうしてその女性がそこに座っているのか、どうして泣いているのか、わからなかった。
何もわからないまま、ただ緑色の牌を集め続けた。
@身も心も
僕はもっと、もっともっと、染谷先輩を理解したい。
そう願った僕は、考えに考えて、考え抜いた。
イイコトオモイツイタ!
僕はこんなこともあろうかと用意していた染谷先輩と同じメーカーの下着を身に着ける。
そして、こんなこともあろうかと用意していた染谷先輩とお揃いの制服を着た。
まだ、これじゃ足りない!
大丈夫、こんなこともあろうかと用意しておいた染谷先輩を模して作ったカツラをかぶり、染谷先輩と度数まで同じに合わせたメガネをかける。
うん、完璧だ。
僕は部室の真ん中に仁王立ちする。
何度か他の部員が部室に入って来たが、僕の姿を見て何も言わずにドアを閉めて去っていった。
しばらく待つと、部室に染谷先輩が入ってきた。
僕は声高に叫ぶ。
わしは緑一色が好きじゃきい!
染谷先輩は、何も言わず、ただ、一粒の涙をこぼして、去っていった。
僕は跪き、天上からもたらされたその甘露にそっと口づけをした。
@普段の行い
試験期間中、部活は休みなのだが、部室に忘れ物をしていたことを思い出し、部室棟へ足を向けた。
部室へ入ると、当然のごとく誰もいなかった。
どこへ置いたかな、そんなことを呟きながら探していた時、僕はそれを見つけてしまった。
これは染谷先輩の……。
ごくりと唾を飲み込む音が部室に響き渡った。
僕は一糸纏わぬ姿となり、僕のリーチ棒で白一色をツモる作業を始めた。
幸せの頂まであと一向聴となったとき、部室に誰かが入ってきた。
染谷先輩だ。
「そりゃ、わしの牌譜か?」
染谷先輩は試験勉強の息抜きに昔の牌譜を見直そうと思ったらしく、部室に牌譜を取りに来たそうだ。
どうやら僕の作業には気づいていないようだ。
どうぞと渡すと、染谷先輩は、おうと受け取り、
「ほいじゃあ、試験期間後にまたのう」
と帰ってしまった。
幸せの頂に達することはできなかったが、一糸纏わぬ姿でいることについて、何も言われることはなかった。
いつも一糸纏わぬ姿でいることが功を奏したのだろう。
侮蔑の視線を向けてもらえなかったことを少し残念に思いつつ、僕は家路についた。
@別れ
僕は道端で一つの蕾を見つけた。
ある暑い日、蕾は強い陽射しを浴びて、萎れていた。
僕はこの体で陽射しを遮った。
蕾は涼やかに揺れた。
ある風の日、蕾は強い風に煽られて、折れんばかりになっていた。
僕はこの体で風を遮った。
蕾は軽やかに揺れた。
ある雪の日、蕾は多くの雪に積もられ、埋まりかけていた。
僕はこの体で雪を遮った。
蕾は嬉しげに揺れた。
ある雨の日、蕾は恵みの雨を甘受していた。
僕は蕾の隣で共に雨を浴びた。
蕾は楽しげに揺れた。
ある日、蕾は美しい花を咲かせた。
僕はその美しさを心に刻み、旅立った。
花は悲しげに揺れた。
花の名は、染谷まこ、と言った。
@another
私は彼がまだ来ていないことを確認して、皆に提案した。
いつも彼にしてやられているので、少しでも良いからやり返したい。
ロッカーに隠れて、彼が来たら驚かせてやろうと思うのだが、どうだろう。
皆の賛成を受け、私はロッカーに隠れた。
しばらくすると、廊下を走る音と共に、染谷先輩との叫び声が響いてきた。
「染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩、……あれ?染谷先輩?」
後輩の一人が、まだ来ていないよと言うと、そんなはずは……、と言いながら、鼻をひくつかせ始めた。
その場で匂いを嗅いでいたかと思うと、真っ直ぐにこのロッカーへ向かって歩いてきた。
なんで!?
私が焦っていると、別の後輩が面子が足りないから入れと彼を誘った。
彼はしばらく私の入っているロッカーを見つめていたが、向きを変え、麻雀卓へと歩いて行った。
ほっと一息ついて、彼の様子を窺う。
彼は麻雀を打ちながらもちらちらとドアの方に視線を向け、時折、
「染谷先輩、まだかなあ」
と呟いていた。
何度か足音がして、その度に後輩の誰かが、染谷先輩じゃない?と言うが、彼はその度に、あれは染谷先輩の足音じゃないよと返していた。
彼の耳はどうなっているのだろうか。
やがて彼も諦めたのか、対局に集中しだした。
談笑を交えながら行われる感想戦。
穏やかな時間が流れていた。
さて、そろそろとロッカーを出ようとしたが、ふと止まる。
私が出ていけば、彼はいつもの彼に戻るだろう。
それは、この素敵な部活の雰囲気を壊すことになるのではないだろうか。
結局、私は彼がお疲れ様でしたと部室を出ていくまで、ロッカーから出ていくことはなかった。
ロッカーから出て窓の外に目をやると、ちょうど彼は校門から出ていくところだった。
後輩達がどうして出て来なかったんですか、と聞いてくる。
私は先ほど思ったことを口にする。
私が彼の暴走の引き金となって、部活の皆の邪魔になっているのではないだろうか。
後輩達は顔を見合わせると、笑い出した。
そんなことは気にしないで良いですよ。
そうですよ、悪いのは彼ですし。
それに直接こっちに被害がこないなら、面白いですし、気にしてませんよ。
笑いながらそんなことを口々に言う。
それなら良いけれどと私が答えていると、廊下を勢いよく走る音と共に、染谷先輩との叫び声が響いてきた。
「染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩の声がした!」
輝くような笑顔の彼がドアを開け、部室へと飛び込んできた。
「まったく……、おんしの耳はどうなっちょるんじゃ」
彼の笑顔につられ、私も笑顔になって、そう言った。
@有無を言わさず
イイコトオモイツイタ!
僕はぼこぼこにされて部室の外に叩き出された。
@愛の雫
染谷先輩、染谷先輩、こんにちは染谷先輩!
ある夏の日、僕が部室にいくと染谷先輩がペットボトルでジュースを飲んでいた。
近くに座り、僕もジュースを飲む。
今日も暑いですね、おう、との会話を楽しんでいると、僕のジュースが空になった。
染谷先輩、染谷先輩、僕はこの容器いっぱいになるくらい、先輩からの愛の雫を溜めたいです。
僕がそう言うと、染谷先輩は、なんじゃそれはと笑った。
「わりゃあ、詩人にでもなるつもりなんかの」
具体的には、愛液ください。
僕はぼこぼこにされて部室の外に叩き出された。
@麻雀部の矜持
ある日、僕が校舎を出ると、遠くに染谷先輩の姿があった。
染谷先輩、染谷先輩といつものように駆け寄ろうとしたとき、どこかから、あっと叫び声がした。
見ると、高校球児達の夢が詰まった白球が、世界遺産、人間国宝すら真っ青な人類の至宝であらせられる染谷先輩を撃ち抜かんとする狂気の弾丸と化し、迫りくるところであった。
僕は危ないと叫ぶ間も惜しんで、一糸纏わぬ姿になると、染谷先輩のもとへ飛び込んだ。
野球部はバットでボールを打ち返す。
では、麻雀部は?
そうだね、その通りだ。
麻雀部は、リーチ棒で打ち返す。
僕は大切な僕のリーチ棒を失ったけれど、何も後悔はない。
僕の愛しい染谷先輩が、無事でいるのだから。
僕は染谷先輩に微笑みかけ、意識を手放した。
やっと来たか!
@明晰夢
1/
「ええかげんに起きんか」
染谷先輩の声で目を覚ますと僕の部屋だった。
枕元の時計を見ると、まだ登校にはだいぶ早い時間。
どうして染谷先輩がここにいるんだろう。
「朝御飯はできとるけえ、はよ着替えて来んさい」
はいはい、夢ですね。
どうせ、夢なんですね。
どうせ夢ならと僕はそっと染谷先輩に近づき、優しく抱きしめる。
「な、なんじゃ?」
染谷先輩は一瞬びくりとしたが、振りほどこうとはしなかった。
僕がおはようございますと言うと、おはようと返してくれた。
2/
朝御飯は和食だった。
とても美味しいですと言うと、そりゃ良かったと照れたように笑った。
夢の中でも学校には行かなければならないのだろうかと教科書を鞄に詰めていると染谷先輩が呆れたように笑った。
「今日は祝日じゃぞ。あるんは部活だけじゃ」
今日も良く晴れている。
玄関を出ると、僕は染谷先輩にそっと手を差し出す。
染谷先輩は不思議そうな顔をしていたが、僕の意図に気づくと頬を染め、そっぽを向いた。
僕が手を差し出したままにしていると、やがてそっぽを向いたまま、僕の手を握った。
3/
良い天気ですね、そうじゃな、風が気持ちいいですね、おう、可愛い猫がいますよ、そうじゃな。
どこか上の空の染谷先輩は、落ち着かない様子で、たまにちらりと握り合った手を見ていた。
僕と染谷先輩が手を握ったまま部室に入ると、空気がざわめいた。
どうせ夢だし僕は気にしなかったが、染谷先輩は可愛らしいトマトのように真っ赤になった。
4/
染谷先輩は、もうええじゃろと手をほどく。
少し名残惜しかったが、せっかくだし、夢の中でしかできないことをしてみることにした。
現実では、照れてしまうものね。
頭を撫でたり、肩を抱いたり、優しく見つめたり。
普通に麻雀をしたり、穏やかに感想戦をしたり、並んで他の部員の対局を観たり。
5/
一人の部員が言った。
いつも今日みたいな様子なら良いのにね。
そんなこと、照れくさくてできないよ、と言うと、じゃあ今日はどうして、と問うてきた。
だって夢だもの。
僕の言葉に首を傾げる。
あれ?
染谷先輩も不思議そうな顔でこちらを見ている。
これって夢ですよね?
6/6
「おんしは何を言うとるんじゃ」
夢ではないらしい。
僕は今日の自分の行動を振り返り、茹でダコも真っ青なほど顔を真っ赤にすると、ひああ、と悲鳴をあげて部室から走り逃げた。
ちょっと昔の話だけれど、僕に真面目に部活をやらせたかった染谷先輩が、部内対局で十勝したら一つお願いを聞くと言った。
その日のうちに十回連続東場で全員をとばして十勝した僕は、染谷先輩に一日一緒にいてくださいと言ったそうだ。
叶うはずはないだろうと思って忘れていた。
誰か僕を殺してくれ。
@フェルミ推定
では、本年度の「染谷まこを愛する会」への入会課題である「日本において一年間に染谷まこは何回思考されているか。またその思考回数に対する貴方の思考回数の割合を述べなさい」について、僕の解答を発表させていただきます。
まず、前提として、僕以外は貴会員ではなく一般人であること、思考起因は僕以外は本編単行本のみであると仮定させていただきます。
現在、10巻までの発行部数を350万部といたします。
単行本購入者は全巻揃えると考えますと、単行本の購入者数字は35万人となります。
次に単行本一冊につき、染谷まこがどれだけ描かれているか、活躍しているかを考えます。
初登場及びメイド服姿がある1巻を5%、入浴シーンがある7巻を5%、全国で活躍した9巻を6%、その他の巻を2%としますと、平均して単行本一冊につき、3%と算出されます。
これを「染谷数」とします。
入浴シーンがある巻を5%にした理由ですが他にも入浴シーンが描かれている人物がいたため、印象が僅かに薄れたとしてその値に設定しました。
僕としては100%に設定したいところでしたが、私情を挟むべきではないと判断いたしました。
次に、単行本を読む頻度ですが、一ヶ月に一度全巻を読み直すと仮定いたします。
読み直した当日に全巻、すなわち10冊について思考するとし、日を追うごとに8冊、5冊、1冊と減少するとします。
読み直した当日は一冊につき5回思考するとし、これについても日を追うごとに4回、3回、2回と減少するとします。
上記より、読み直当日の単行本に対する思考は50回なり、以降、32回、15回、2回となります。
合計し、単行本購入者一人あたり、一ヶ月に99回思考していることとなります。
この結果に「染谷数」を用いて染谷まこが思考される回数を算出いたしますと、2.97回となります。
購入者数は35万人ですので、全体では一ヶ月につき10,335回思考されていると考えられます。
これを年間にしますと、124,740回となります。
続いて僕についてですが、学生ですので200日が通学日、165日が休日とします。
僕の染谷先輩、……失礼しました、染谷まこについての思考回数は、それぞれ平均で通学日は10分に1回、休日は5分に1回です。
これに日数を掛けますと、通学日は28,800回、47,520回、合計で年間の思考回数は76,320回になります。
以上より、全体の思考回数に僕の思考回数を加え、201,060回が一年間に染谷まこが思考された回数になります。
また、これに対する僕の思考回数の割合は38.0%です。
以上となります。
御静聴いただきありがとうございました。
>>53
携帯で打ってそのまま投稿したら字が抜けたりしててひどいものだった。
@フェルミ推定
では、本年度の「染谷まこを愛する会」への入会課題である「日本において一年間に染谷まこは何回思考されているか。またその思考回数に対する貴方の思考回数の割合を述べなさい」について、僕の解答を発表させていただきます。
まず、前提として、僕以外は貴会員ではなく一般人であること、思考起因は僕以外は本編単行本のみであると仮定させていただきます。
現在、10巻までの発行部数を350万部といたします。
単行本購入者は全巻揃えると考えますと、単行本の購入者数は35万人となります。
次に単行本一冊につき、染谷まこがどれだけ描かれているか、活躍しているかを考えます。
初登場及びメイド服姿がある1巻を5%、入浴シーンがある7巻を5%、全国で活躍した9巻を6%、その他の巻を2%としますと、平均して単行本一冊につき、3%と算出されます。
これを「染谷数」とします。
入浴シーンがある巻を5%にした理由ですが他にも入浴シーンが描かれている人物がいたため、印象が僅かに薄れたとしてその値に設定しました。
僕としては100%に設定したいところでしたが、私情を挟むべきではないと判断いたしました。
次に、単行本を読む頻度ですが、一ヶ月に一度全巻を読み直すと仮定いたします。
読み直した当日に全巻、すなわち10冊について思考するとし、日を追うごとに8冊、5冊、1冊と減少するとします。
読み直した当日は一冊につき5回思考するとし、これについても日を追うごとに4回、3回、2回と減少するとします。
上記より、読み直した当日の本編単行本に対する思考は50回となり、以降、32回、15回、2回となります。
合計し、単行本購入者一人あたり、本編単行本に対して一ヶ月に99回思考していることとなります。
この結果に「染谷数」を用いて染谷まこが思考される回数を算出いたしますと、2.97回となります。
購入者数は35万人ですので、全体では一ヶ月につき10,335回思考されていると考えられます。
これを年間にしますと、124,740回となります。
続いて僕についてですが、学生ですので200日が通学日、165日が休日とします。
僕の染谷先輩、……失礼しました、染谷まこについての思考回数は、それぞれ平均で通学日は10分に1回、休日は5分に1回です。
これに日数を掛けますと、通学日は28,800回、休日は47,520回、合計で年間の思考回数は76,320回になります。
これらにより、全体の思考回数に僕の思考回数を加え、201,060回が一年間に染谷まこが思考された回数になります。
また、これに対する僕の思考回数の割合は38.0%です。
以上となります。
御静聴いただきありがとうございました。
面白かった
乙乙
@花瓶
ある日、備品室の掃除をしていた時のことだ。
その備品室には麻雀部のものだけではなく、校内でいらなくなったものが押し込まれているのだが、その中に大きな花瓶があった。
緑がかった色で、波打つような模様は美しく、最近染谷先輩に構ってもらえていない僕は、だんだんとそれが染谷先輩に見えてきた。
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩はどうして服を着てないの!?
一緒がいい!? ねえ、一緒がいい!?
脱いだよ、ほら! 一糸纏わぬ姿だよ!
あ! ここに! ここに染谷先輩のイーピンがあるよ! イーピンがあるよ!
ああー! 2個ある! あああー! 染谷先輩のイーピンが2個ある!!
ポン、……違う! チーだ! ねえ、チーしていい!? 2個ともチーしていい!?
白は……? ねえ、白は!? 白はどこなの!?
まさか! まさかまさか!! そっちも發で緑一色!? 緑一色なの!? やったー!!!
ああー、白も發もなかったとしてもタンヤオ! タンヤオだ!
違う違う違う! イーピンだもん! イーピンだもの!
ああー、ピンフー! ピンフー!! イーピンがあってもピンフはできるよー!!!
入り口でがたりと音がした。
知っているよ、どうせ染谷先輩なんだろう?
どこから? と問うと、染谷先輩って叫んでいるところから、と。
最初からだった。
その事実に興奮して新世界の到来を予感したが、染谷先輩はそれから一週間、僕と目も合わせてくれなかった。
久しぶり過ぎて加減がわからない。
もっと抑えていた気もするし、もっと飛ばしていた気もする。
自分の欲望に従おう
@胡蝶の夢
ある日、一匹の蝶を見かけた。
緑碧の美しい蝶だった。
ああ、きれいな蝶だな、と見ていると、その蝶はなんとも危なっかしい。
あっちへふらふら。
こっちへふらふら。
孵化したばかりなのだろうか、飛び方が覚束ないようだった。
しまいにはふらりふらりと大きな蜘蛛の巣に引っかかってしまった。
こういったときに、蝶を助けるのは蜘蛛を殺すことになるからやめなさいと言ったのは誰だったろうか。
それは確かに正しいことではあるけれど、僕は蝶を助けることにした。
蝶はやはりふらふらと飛んでいく。
何気なくついていくと、前方のベンチに染谷先輩が見えた。
染谷先輩、染谷先輩、……染谷先輩?
お昼寝中のようで、ぴくりとも動かない。
僕は隣に座ると、何をするでもなく蝶を見ていた。
蝶は染谷先輩の周りをしばらくふらふらと飛んでいたが、いつの間にかいなくなっていた。
んん、と可愛らしい声がして、染谷先輩が目覚めた。
おはようございます、それともこんにちはでしょうか、と声をかけると、染谷先輩は、ありがとうと言った。
その理由はわからなかったけど、僕はどういたしましてと染谷先輩に笑いかけた。
改めて読むけどやはり鬼才だわ
何か次元の違いを思い知らされる
@夏には凍らせて
最近染谷先輩は麻雀の調子が悪い。
特にリーチをかけてもツモれず、しまいには追っかけリーチに振り込むばかりであった。
こういうこともある、と力なく笑う染谷先輩。
僕にも染谷先輩のためにできることはないだろうか。
考えて、考えて、考えて、閃いた。
イイコトオモイツイタ!
僕は対局中の染谷先輩の横に立つ。
染谷先輩は最初は不審がっていたが、東一局、東二局とただ黙って見ているだけの僕だったので、そのうち気にしなくなった。
そして、南一局、染谷先輩に勝負手が入った。
早い順目でのドラ頭高め三色の良形三面張。
染谷先輩が点棒入れから千点棒を取り出そうとした瞬間、僕は一糸纏わぬ姿になり、僕のリーチ棒を点棒入れに乗せる。
リーチ棒です、染谷先輩のためのリーチ棒です!
本当は一万点棒だけど、染谷先輩のためなら千点棒になろうとも構わない!
染谷先輩が勢いよく点棒入れを閉めたせいで、挟まった僕のリーチ棒にはチューペットのようにくびれができてしまった。
いつか、吸ってもらえる日は来るんだろうか。
染谷先輩は痙攣する僕をよそに、見事三順後にツモあがった。
@当然のごとく
染谷先輩、染谷先輩、もし僕と結婚したらどうします?
「離婚する」
質問の仕方が悪かったのだろうか。
@ちゃんと聞いて
染谷先輩、染谷先輩、もし僕と結婚したら子どもは何人欲しいですか?
「離婚する」
違う、そういうことじゃない。
あぁ、ここだったのか
相変わらず狂ってる(褒め言葉)
狂気の塊だわ
何だこれは!(誉め言葉)
@白と白と黒
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩は僕との結婚式で着るなら白無垢とウェディングドレスのどちらが良いですか?
「喪服」
結婚してくれるなら、もうそれでも良いです。
@選択ミス
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩はRPGなら魔法使い系が似合いそうですね。
「ザキ」
それは回復呪文じゃないです。
@紳士として
下校途中に染谷先輩を見かけた。
染谷先輩は眼鏡にゴミがついてしまったようで、拭きながら歩いていたのだが、そんな調子なので電柱にこつんとぶつかってしまった。
眼鏡を拭く可愛らしい染谷先輩を見守っていた僕はぎょっとしたのだが、染谷先輩は怪我もないようで、電柱に向かってしきりにごめんなさいと頭を下げていた。
染谷先輩は眼鏡をかけ、それが人ではなく電柱だと気づいたようで、恥ずかし気に頬を染め上げると、周囲をきょろきょろと見回し、僕と目が合った。
こういう時は笑わないのが礼儀だと僕は思ったのだけれど、あまりにも可愛らしい様子だったので、少しだけ笑ってしまった。
ぶひゅふー、ぷすくすぷすくす。
で、で、電柱に! 電、電、電柱に!?
ごめ、くゅりゅぷしゅー、ごめんなさ、あひゃは。
染谷あはあはあは、染谷せんぱひゃひゃー。
人と、げらっげらっげらっ、人と、ひ、と、と、まちが、ぷすー。
間違えたー! 間違えたー! けたけたけた。
相手は、電柱なのに、な、の、に!
電柱なのにあはははははははははははははは。
擬人化! 電柱を擬人化!
暗喩法、比喩法、擬人法!?
なんで? な、ん、で、な、の!?
国語の時間なの? 今って、おひょほー、国語の時間なの? ねえ?
あはははははははははははははは。
ふぅ……。
うひゃひゃははははははは。
あはははははははははははははは。
次の日、染谷先輩は口を聞いてくれなかった。
今回ばかりは、僕が悪かった。
@初めてあなたに
その日、僕は掃除当番だった。
早く染谷先輩に会いたい一心で素早く掃除を終わらせ、部室へ向かおうとすると、同じクラスの女の子に声をかけられた。
今から少しだけ時間もらえるかな、そう聞いてくる彼女に、染谷先輩に早く会いたいから駄目と答えようとして、その染谷先輩から言われたことを思い出した。
社交性は大事だよ、染谷先輩がそう言うならば。
少しだけならね、そう答えた。
ここでは言い辛いからと体育館裏に連れて行かれた僕が染谷先輩のことを考えていると、彼女は僕に小さく告げた。
好きです、貴方が好きです、良かったら、お付き合いしてください、そう告げた。
僕は咄嗟にありがとうと返し、どのように答えたら僕が染谷先輩以外目に入らないことが伝わるだろうかと思案していると、あ、でもとその子は言う。
でも、返事は今じゃなくて良いの、がんばって好きになってもらうから、一週間後に返事を、お願いします。
そう、わかったよと返すと、じゃあまた明日と帰ってしまった。
さあ、困ったぞ。
僕は部室へ行っても思案顔で、うんうんと唸るばかり。
染谷先輩は言ったのだ、女の子には優しくしなさい。
僕が彼女を振るのは女の子に優しくすることに反するのではないだろうか。
でも僕は染谷先輩以外はそういう対象に見れなくて。
断るなら早い段階じゃないと期待を持たせてしまって残酷だと聞いた。
優しく断るのって
ああ、どうしたら良いんだろう。
「今日は、おとなしいんじゃな」
染谷先輩の言葉に、そうでしょうかと返すと、染谷先輩はなにやら落ち着かない様子。
あの、その、わしも掃除当番で、たまたまな、単なる偶然で、聞くつもりもなく……。
ごにょごにょと何かを言ったかと思うと、
「……なんでもないわ」
離れていってしまった。
とにかくこんな調子では染谷先輩に全力で構われに行くこともできないので、明日、すっぱりと断ることにした。
翌日、ごめんなさいと告げた僕に、彼女は悲しそうに微笑みながら、気にしないでと言った。
そう言われることは知っていたもの、でも一週間くらいは夢を見させて欲しかったな。
彼女が僕に、ばいばいと言ったので僕も、ばいばいと返した。
こんな僕でごめんなさいと、心が痛んだ。
部活が始まると、染谷先輩、染谷先輩といつものようにいつものことをしにいったが、どうにも染谷先輩の反応が悪い。
つれない感じであまり構ってもらえることもなく、部活が終わってしまった。
部活が終わって後片付けをしていたら、僕と染谷先輩だけになった。
僕は嬉しくなって、染谷先輩、染谷先輩と声をかけた。
「もう、ええじゃろ」
染谷先輩は、
「おんしは、おんしを好いとう子とそうしたらええ」
泣き出しそうな笑顔で、
「わしは、おんしのことは好いとらんけぇ……」
そう言った。
染谷先輩、染谷先輩、僕は染谷先輩が社交性を持てといったら人付き合いもします。
染谷先輩、染谷先輩、僕は染谷先輩が女の子には優しくしなさいといったら思いやりを持って女の子に接します。
でも。
それは聞けません。
僕は染谷先輩じゃないと駄目なんです。
染谷先輩が本当に僕が嫌で、嫌で、嫌で、たまらなく嫌で、どうしようもなく嫌で。
そうだというなら諦めます。
心の中に染谷先輩を描いて、それだけで生きていきます。
でも、そうではないというのなら。
ああ、僕は、染谷先輩に言ってなかった。
何もかもを伝えたつもりで、何も伝えていなかった。
僕は染谷先輩のことが——。
次の日、染谷先輩は僕に、とても優しかった。
僕が嬉しくなって染谷先輩に微笑みかけると、染谷先輩も僕に優しく微笑みかけてくれた。
@贈られた言葉
その日、私は掃除当番だった。
壊れた箒を取りに、体育館裏の倉庫へ向かっていると、前方に彼の姿が見えた。
見知らぬ女の子と一緒だ。
歩いていく方向は同じ。
彼らも体育館裏に行くらしい。
てっきり目的は同じく倉庫だと思っていたのだが、彼らはその少し手前で立ち止まった。
私はなんとなく隠れてしまった。
好きです、貴方が好きです、良かったら、お付き合いしてください、女の子が彼に告げた。
ありがとう、と優しい笑顔で微笑んだ彼と、真っ赤になった彼女はそのまま黙ってしまった。
破れんばかり心音は自分の胸から響いていた。
沈黙を破ったのは彼女のほう。
あ、でも、返事は今じゃなくて良いの、がんばって好きになってもらうから、一週間後に返事を、お願いします。
「わかったよ」
また優しい笑顔で微笑んだ彼に、じゃあまた明日と言った彼女はこちらに向かってくる。
私はとっさにその場から走り去ってしまった。
部活になって、彼はいつものように私のところに来ることはなく、なにやら思案顔だった。
今日はおとなしいんだね、そう声をかけても、
「そうでしょうか?」
と、やはりいつもの彼ではなかった。
話を続けるか、少し迷ったが、さっきのことを聞いてみることにした。
あの、その、私も掃除当番で、たまたま体育館裏の倉庫に用事があってね、本当に単なる偶然であの場面に出くわして、話の内容は聞くつもりはなかったんだけど、聞こえちゃって……。
そんな感じのことを何とか彼に言ってはみたが、彼にはうまく伝わらず、私も何を言ったらいいのかわからなくなってしまって、なんでもないよとその場を離れてしまった。
部活が終わって彼が帰った後にそれとなく皆と話していたら、どうやら彼が非常にもてるらしいことがわかった。
あの熱烈な染谷先輩っぷりがなかったら、今頃彼女の10人や20人はいたかもとの声に何故か私の心は痛んだ。
この痛みは、彼のことが好きで報われない誰かのための痛みなのか、それとも。
自分が何をどうしたら良いのかわからないまま、次の日の部活を迎えた。
彼は昨日とは打って変わって、染谷先輩、染谷先輩といつもの調子だったが、私は頭の中がぐちゃぐちゃで、彼にどう対応したかもわからない有様だった。
部活が終わって後片付けをしていたら、いつのまにか彼と二人きりになっていた。
「染谷先輩、染谷先輩」
私は自分が何をどうしたら良いのかわからないまま、口を開いた。
もう、いいよ。
彼は、
貴方は、貴方を好きな人と、そうしたらいいよ。
悲しそうな笑顔で、
私は、貴方のことは好きじゃないから……。
私の言葉を聞いていた。
少しの時間が流れたあと、彼が口を開いた。
「僕はもともと人付き合いは少なかったけど、染谷先輩が社交性を持ちなさいって言ってくれたから、人付き合いができるようになりました」
「女の子が苦手だったけど、染谷先輩が女の子には優しくしなさいって言ってくれたから、女の子に優しく接することができるようになりました」
「でも駄目なんです、それだけは聞けません」
「僕は僕を好きな人じゃなくて、染谷先輩が良いんです」
「染谷先輩が僕のことを嫌いだと言うのなら、諦めます」
「でも、僕は染谷先輩じゃないと駄目だから、他の子とは付き合ったりはできないんです」
「もし、染谷先輩が僕のことを嫌いでないのなら」
そこまで言った彼は、はっと何かに気づいた様子で、薄っすらと涙を浮かべた笑みで。
「僕は、自分の気持ちを染谷先輩に伝えていなかった」
「態度で表すだけじゃ駄目で、言葉にしなくちゃ駄目だったんだ」
「僕は染谷先輩のことが——」
次の日、私は彼と手を繋いでみた。
私が彼に微笑みかけると、彼も優しく私に微笑みかけてくれた。
キュンキュンした、畜生
酉つけっぱなしだった…ごめんなさい
@あなた元気になあれ
今日は染谷先輩の元気がない。
どうしたんですか、大丈夫ですかと問うても、
「なんでもないけえ、気にせんでええ」
そう言うばかりであった。
僕は染谷先輩を元気づけるために、自分に何ができるかを考えに考えて考え抜いて、閃いた。
イイコトオモイツイタ!
僕は、何があったかわかりませんが思いつめないで、染谷先輩に元気がないとみんなさみしいです、そんなことを言いながら、気づかれぬように一糸纏わぬ姿になると、そうっと染谷先輩の背後に回り込み、僕のリーチ棒をゆっくりと染谷先輩の頭に乗せた。
ちよんまげ。
馬乗りになってぼこぼこにされる中、染谷先輩が元気になって良かった、心の底からそう思えた。
ちょwwwちょんまげwwwww
@僕の女王様
染谷先輩、染谷先輩、一緒に王様ゲームをやりましょう、まず間違いなく僕はエッチな命令をしますけど。
「あっちに行け」
命令はクジを引いて王様になってからです。
@ポジティブ
染谷先輩、染谷先輩、過去に戻ってやり直したいことってありますか、できれば僕絡みで。
「出会い」
もう一度出会いたいって、ロマンチックですね。
@キリンにはなれない
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩は動物は好きですか?
「ほうじゃな、割りと好きじゃぞ」
それは良かったと僕はズボンごとパンツを脱ぎ捨てた。
昨日、気づいたんです、象に似てるなって。
ほーら、お父さん象ですよ。
染谷先輩はかつてない冷たい視線を僕に向けると、言い捨てた。
「それは赤ちゃん象じゃわ」
僕はその言葉に傷つくよりも、染谷先輩の冷たい視線にこの上なく興奮し、幸せの頂へと達した。
@レモンよりも甘く
教室で学友と話していると、お前って本当は染谷先輩に嫌われてない? 普通あんなことされたら嫌いになるよ? と言われた。
部室で部員と話していると、貴方って本当に染谷先輩のこと好きなの? 好きな人に普通あんなことできないよ? と言われた。
その日は奇跡的に染谷先輩と一緒に下校できたのだが、その言葉達が僕の頭の中をぐるぐるぐるとうるさく回っていまいち上の空となっていた。
「今日はどうしたんじゃ?」
染谷先輩は僕のそんな様子に気づいたようでそう尋ねてきた。
僕は今日言われたことを話そうか迷って、結局話すことにした。
僕の話を聞いた染谷先輩は、そうか、とだけ言って、それきり二人との何も話さずに重苦しい気持ちで岐路へと着いた。
それではまた明日、僕が帰ろうとすると、染谷先輩に呼び止められた。
なんでしょうと振り向くと、柔らかな衝撃と甘い香りがした。
「おんしは、本当に馬鹿じゃな」
染谷先輩はそういうと、また明日、と帰っていった。
その後姿に、僕も本当に——、と呟いて、軽やかな気持ちで帰路へと着いた。
@あなたを暖めたくて
ある日、部室に行くと染谷先輩が寒そうにしていた。
カイロありますけど使いますか、僕がそう聞くと、
「んー、それならお願いしようかのう」
と手を差し出してきた。
僕は一瞬で一糸纏わぬ姿となり、僕のサイコロ袋を染谷先輩の掌に乗せた。
そのまま握りつぶされた。
悪くない気分だった。
@一撃必倒
僕がジュースを飲んでいると、
「美味しそうじゃな」
と染谷先輩。
一口飲みますかと差し出すと、僕とジュースを幾度か見て、
「まあ、おんしが、その、間接……とか気にせんのなら、もらおうかの」
と照れたように言った様があまりにも可愛らしかったので、ジュースを口に含むと有無を言わさず染谷先輩の口に流し込んだ。
鋭くも鮮やかなハイキックを食らった僕はその場に崩れ落ちた。
ナイスキック。
@レモンよりも甘く
教室で学友と話していると、お前って本当は染谷先輩に嫌われてない? 普通あんなことされたら嫌いになるよ? と言われた。
部室で部員と話していると、貴方って本当に染谷先輩のこと好きなの? 好きな人に普通あんなことできないよ? と言われた。
その日は奇跡的に染谷先輩と一緒に下校できたのだが、その言葉達が僕の頭の中をぐるぐるぐるとうるさく回っていまいち上の空となっていた。
「今日はどうしたんじゃ?」
染谷先輩は僕のそんな様子に気づいたようでそう尋ねてきた。
僕は今日言われたことを話そうか迷って、結局話すことにした。
僕の話を聞いた染谷先輩は、そうか、とだけ言って、それきり二人とも何も話さずに重苦しい気持ちで岐路へと着いた。
それではまた明日、僕が帰ろうとすると、染谷先輩に呼び止められた。
なんでしょうと振り向くと、柔らかな衝撃と甘い香りがした。
「おんしは、本当に馬鹿じゃな」
染谷先輩はそういうと、また明日、と帰っていった。
その背中に、僕は間違いなく染谷先輩が——、と呟いて、軽やかな気持ちで帰路へと着いた。
基本的に推敲とかしないで投下してるけど、誤字脱字表現が気に食わないのが多いのはこういう系統の話ばっかり。
何者かによるそんな話は書くなと言う働きかけだろうか。
書いてくれるなら「イチゴ」でよろしく
>>86
@甘党の必需品
部室に行くと染谷先輩が大粒の美味しそうな苺を持ってきていた。
親戚が送ってきてくれたらしい。
練乳が欲しかったら用意しましょうか、とズボンに手をかけた瞬間に振り下ろすタイプのローキックを食らった。
腹巻の中に常備している携帯タイプの練乳を取り出そうとしただけなのに。
いったい何を勘違いしたのだろうか。
@医者はどこだ
染谷先輩の胸を揉まないと死んでしまう病にかかってしまいました。
染谷先輩にそう言ったら、はいはいと受け流された。
本当なのに。
一週間ほどで、僕は立ち上がれないほどに衰弱してしまった。
「大丈夫か? なんの病気なんじゃ?」
染谷先輩の胸を揉まないと死んでしまう病にかかってしまいました。
そう答えると、染谷先輩は、ふざけてる場合かと僕を叱った。
さらに一週間ほどで、とうとう僕は呼吸もままならない有様となり、あとは死を待つばかりとなった。
「どうして、どうして……」
傍らで泣く染谷先輩に、
染谷先輩の胸を揉まないと死んでしまう病にかかってしまいました。
最後の力でそう呟いて、僕はゆっくりと目を閉じた。
再び目を開けた時には、僕の体調はすっかり良くなっていて。
はてどうしたものだ、と思っていると夕焼けよりも紅い染谷先輩が側にいるのに気づいた。
おはようございます。
「おう」
助けてくれてありがとうございます。
「……何の話かわからんわ」
僕は、そうですかとだけ答えて、それ以上は何も聞かないことにした。
@パーはまだついていない
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩はどうしてそんなに可愛いの?
「おんしは何を言うとるんじゃ」
染谷先輩は可愛いの!
染谷先輩は可愛いの!
そう言いながら床を転げ回る僕を見ていた染谷先輩は、他の部員に向き直ると、こめかみの辺りで指をくるくると回していた。
@やっぱりポジティブ
染谷先輩、染谷先輩、僕と一緒に出かけるならどこに行きたいですか?
「出かけない」
家で一緒にゆっくりするのも良いですね。
@理解が早い
染谷先輩、染谷先輩、裸の王様って知ってますか?
両目を突かれかけた。
まだ何も言ってないですよ。
@あなたを感じたくて
対局中の染谷先輩へ近づくと、僕は叫ぶ。
染谷先輩を抱きしめてその温もりを感じることができないのなら、僕はなにも感じることができなくなっても構わない!
僕は皮膚感覚を失った。
@傑作ミステリ
唐突に、染谷先輩に好かれていないんじゃないかと思ってしまった僕は、部室に行くと、対局中の染谷先輩に近づいて叫ぶ。
いやあああぁぁぁ! 染谷先輩に好かれていないだなんて、そんなのいやあああぁぁぁ!!
僕は染谷先輩に好かれたいんだ! 好かれたいんだ!!
いやあああぁぁぁ!
そして誰もいなくなった。
@部室で夜明かし
どうしても染谷先輩の胸を揉みたくなった僕は、土下座して頼み込むことにした。
お願いします、お願いします!
どうか胸を揉ませてください!
なにとぞ、なにとぞ、なにとぞ!
染谷先輩が胸を揉ませると言ってくれるまで、僕はここを動きません!
朝日が眩しい。
徹夜した体には、よく沁みる。
@袋小路
染谷先輩に、僕は染谷先輩を見るだけで僕のリーチ棒が棒テン即リー全ツッパ状態になるんですと言ったら、激しく罵られた。
罵声プレイですね、興奮します。
そう言ったら、染谷先輩は罵るのをやめ、僕の方を見ることもしなくなった。
放置プレイですね、興奮します。
そう言ったら、染谷先輩は薄っすらと涙を浮かべ、
「どうしたらええんじゃ……」
と呟いた。
僕はその涙に興奮し、やはり僕のリーチ棒は棒テン即リー全ツッパ状態となった。
@お弁当
四校合同合宿の日、僕は気合いを入れて染谷先輩のためにお弁当を作った。
我ながら力作だ。
染谷先輩、染谷先輩、お弁当楽しみにしててくださいね!
そう言う僕に染谷先輩は、わかったわかったと苦笑し、他の部員達もくすくすと笑っていた。
いざ渡そうという時、他校の部長さんが、よろしかったら皆さんでこれを、とお弁当を差し出してきた。
染谷先輩も含め皆が微妙な空気となったので、これはいかんと僕はそのお弁当を受け取った。
ありがとうございます、代わりと言っては何ですがこのお弁当をどうぞ。
「良かったんか?」
お弁当ならまた作れますし。
勿論、食べてくれますよね?
「楽しみにしとくわ」
ええ、期待しててください。
「ところで、どんなお弁当だったんじゃ?」
そう聞いてくる染谷先輩に、一段目がハートを散りばめた染谷先輩のキャラ弁で、二段目が染谷先輩ラブと飾り細工が入ったおかず、三段目が果物でこれにもハートやラブの文字を散りばめてあります、と答えたら真っ赤な顔で僕の胸倉を掴み、涙目になって、取り返してこんか! と言い出した。
できるわけ無いでしょう。
@代わりに僕が
染谷先輩が数日間部活を休むらしい。
染谷先輩がいない部活は僕にとっても皆にとっても辛く悲しいものとなってしまう。
僕には耐えられそうもないので、一計を案じた。
僕はこんなこともあろうかと用意していた染谷先輩と同じメーカーの下着を身に着ける。
そして、こんなこともあろうかと用意していた染谷先輩とお揃いの制服を着た。
さらに、こんなこともあろうかと用意しておいた染谷先輩を模して作ったカツラをかぶり、染谷先輩と度数まで同じに合わせたメガネをかける。
うん、どこから見ても染谷先輩だ。
心身ともに染谷先輩になりきった僕は、染谷先輩としてありとあらゆる事を実施した。
数日後、部活に来た染谷先輩にぼこぼこにされた。
僕は悪くない。
@どうせろくでもない
染谷先輩、染谷先輩、世界の中心で愛を叫ぶって知ってます?
「やめろ」
まだ何も言ってないです。
@僕の中では少ないほう
染谷先輩、染谷先輩、そういえば僕は染谷先輩の携帯アドレスを知らないです。
「教えておらんし、教える気もないわ」
どうしてですか? 無駄にメールとか送ったりはしませんよ?
僕は平日は10分に1回、休日は5分に1回くらいの頻度で染谷先輩のことを考えていますからその度にメールを送ったりするかもしれませんけど、それ以上に送ったり、いたずらメールをしたりはしませんよ。
教えてもらえなかった。
@ただ心配で
ある日、染谷先輩が倒れたと聞いた。
僕はあらゆる能力を駆使し、染谷先輩を探し出して駆けつけた。
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩が倒れたと聞きました、大丈夫ですか!?
扉を乱暴に叩きつつ叫ぶ僕に、染谷先輩が答える。
「単なる貧血じゃったけえ、心配せんでええ」
良かったと胸を撫で下ろす僕に、染谷先輩から声がかかる。
「ところで、ここは女子トイレなんじゃが?」
ご褒美です!
ぼこぼこにされてトイレの窓から放り出された。
僕は悪くない。
木山先生スレを彷彿とさせる
気になったのでググったらそれらしいのがあったので読んでみた。
自分のSSは割りと一般的なようで安心したよ。
ところで、染谷まこオンリーで100までいけたし、ちょっと長いのを書こうと思ってたら上司に海外出張を言い渡されてしまった。
音信が途絶えたら、誰か代わりに染谷まこSSをよろしく頼む。
一般……的……?
海外からは書けんのか?
もしくは音信が途絶えそうな地域なのか
フリーのWifiスポットも探せばありそうかな。
でも、海外から書き込みってできるんだっけか……。
@おじいさんの時計
最近染谷先輩の声が速すぎてうまく聞き取れない。
動きも妙に速いなと思っていたのだけれど、どうも染谷先輩だけではなく世の中がみんなそうらしい。
ははあ、と思って知り合いのおじいさんの家に行ったけれど、あいにくと留守だった。
窓から覗くとおじいさん自慢の時計がくるくるくるくると針を回している。
ああやっぱりと思った僕は窓を叩き割って部屋の中に入った。
どこかにネジがあったはずだけど。
あちこちひっくり返してようやくネジを見つけた僕は時計に差し込んでぐるりと回した。
針の動きはだんだんだんとゆっくりになっていった。
やあ、これでもう大丈夫だ。
僕はようようと染谷先輩のもとへ向かったのだけれど、何かおかしい。
何がおかしいかは染谷先輩のもとへ辿り着いてわかった。
動きが完全に止まってしまっている。
ネジを回し過ぎたようだ。
今なら染谷先輩におさわりし放題だけれど、罵られなかったら楽しみは半減だ。
もう一度おじいさんの家に戻ってネジを少しだけ回したら、ようやくすっかりと元通りになった。
染谷先輩、染谷先輩、ようやく普通に話せますね。
「そうじゃな。最近のおんしはのんびりと喋りすぎてて何を言っとるのか聞き取れなかったわ」
@三つの願い
1/2
《こんばんは》
夜中にふと目を覚ますと、見知らぬ人男が枕元に立っていて、にこやかに挨拶をしてきた。
こんばんは、どちら様ですかと返すと、私は悪魔ですとのこと。
《昼間は助かりました。いや、身に覚えは無いでしょうが、あなたのお陰で私は自由になれました》
はあ、そうですか、それは良かったですね。
《そこで私はあなたにお礼がしたい。どんな願いでも三つまで叶えてあげましょう》
なんでも、ですか?
《なんでも、です》
にこやかに頷き、富でも名誉でも朽ちぬ躰でも、なんでもです、とのこと。
それならばと僕は願った。
染谷先輩が幸せでありますように。
染谷先輩の望みが叶いますように。
そして僕が染谷先輩のために願ったことを染谷先輩は気付きませんように。
首を傾げて悪魔が尋ねる。
《最後の願いの意図がよくわかりませんが?》
僕がそう願ったことを知れば染谷先輩は負い目に感じるかもしれないでしょう?
《なるほど。まあ良いでしょう、あなたの願いは叶いました》
本当に叶ったのかは染谷先輩に聞かないと確認のしようがないので、明日聞いてみようと布団に潜り込んでも、悪魔はにやにやと笑いながらまだそこにいた。
まだ何かご用ですか、と尋ねると、にやにやとした笑いを濃くする。
《あなたの願いは叶えましたが、それがどのような結果をもたらすか、わかりますか?》
染谷先輩が幸せになるのでしょう?
僕が尋ねると、悪魔はにやにやにやにやと。
《勿論、叶いますとも。幸せは他者との相対比較によって。望みは他者の没落によって。あなたの願いを気付かれぬことはあなたを忘れることによって》
2/2
難しくてよくわかりません、と返すと、少し拍子抜けした様子の悪魔。
《ですから、他者が不幸になった結果、その人と比較して染谷先輩とやらは幸せにみえるのです。他者が駄目になることで競う相手がいなくなった染谷先輩とやらの望みが叶う世界となったのです。あなたの願いに染谷先輩とやらが気付かないのはあなた自身を忘れるからです》
はあ。
《ええと、わかってます? あなたは染谷先輩とやらを幸せにするために、全人類の不幸を願ったのですよ? しかもあなた自身は忘れ去られるのです》
なんだ、そんなことか。
僕は染谷先輩が幸せであればそれで良いんです。
他は、別にどうでも。
僕の言葉にぎょっとした悪魔は、僕の目を覗き込む。
《全人類の中にはあなたも含まれているんですよ? それに幸せになった染谷先輩とやらはあなたを覚えてすらいない》
だから、僕は染谷先輩が幸せであれば他はどうでも良いんです、勿論、僕も含めて。
悪魔はじっと僕の目を見つめていたが、さっと顔色を変えると、
《この悪魔!》
と一声叫びどこかへ消えてしまった。
翌日、染谷先輩を見かけて挨拶をしようとして思い出した。
もう僕のことは覚えていないのだ。
そんなことを考えていると、染谷先輩が声をかけてくる。
「おはよう。ぼうっとしてどうしたんじゃ?」
あれ、おかしいな。
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩は僕のことを覚えていますか?
「なにを言うとるか。おんしほどインパクトがあるやつをそうそう忘れるか」
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩の望みは叶いましたか?
「はあ? んー、欲しかったメイド服は手に入らんかったし、叶ってはおらんな」
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩は今、幸せですか?
「なんの宗教じゃ……。そうじゃな、朝からおんしに変な質問ばかりされておるし、幸せではないかもな」
いたずら気に、にやりと笑った染谷先輩は可愛らしく、僕は朝から幸せな気分になった。
実際>>1が海外在住のスレもありますし
Aislinnイッチとか
会社の通信機器をいくつか持たされるようなので、なんとかなりそうです。
でも、会社のやつから僕のリーチ棒がとか書き込んでたら社会的に死ぬかもしれない。
いや、いけるか?
お前のまこ愛はそんなものなのか?このスレを見る限りそんなことはないと思うがな
@SとMと心温まる話
1/6
いつものように染谷先輩に愛を叫んでいた時のことだった。
ふとした拍子に手が染谷先輩に当たってしまい、謝ろうとしてそれに気づいた。
まさかと思う。
そんなはずないと思う。
だけど……。
僕は幾分か乱暴に染谷先輩の両肩を掴み、じっと染谷先輩の目を覗き込んだ。
「な、なんじゃ?」
僕の目を見返す染谷先輩。
染谷先輩の瞳に浮かんでいたのは戸惑いと、……。
僕の心臓がどくんと跳ねる。
これから起こることを期待するかのように、どくんどくんと、跳ねる。
僕は掴んでいたその手のままに染谷先輩の上着を背中に落とした。
肘の辺りで止まった上着は、さながら拘束着のようだ。
「なにをするか!」
叫ぶ染谷先輩の瞳に浮かぶ色。
それはやはり戸惑いや驚きだけではなかった。
おい、聞いているのかとの声を、人差し指を唇に当てることで遮る。
なにを、すると思います?
僕の言葉に、染谷先輩の喉がこくりと音を立てる。
それを合図に指を滑らせる。
唇から顎へ。
顎から喉へ。
喉から鎖骨へ。
鎖骨から、柔らかな膨らみへ。
あ……、と染谷先輩の口から声ともつかない声が漏れた。
僕の目は、染谷先輩の目を覗き込んだまま。
染谷先輩の目は、僕の目を見たまま。
僕の指は、滑らせたまま。
「や、やめ……」
指が染谷先輩の膨らみの先端へと達すると、僕はそこを強めにつねり上げる。
「ひぃ、ぁ……」
染谷先輩の口から漏れた声音に現れたのは、瞳に浮かぶのと同じ、情欲の色。
やめるんですか?
僕の言葉に染谷先輩は黙ったまま。
ただ、羞恥と情欲に染まった顔を見せるだけ。
つねり上げていた指を離すと、染谷先輩の瞳には物欲し気な色が加わった。
それを見た僕は、再び指を滑らせる。
「ぁ、ん……」
先端を越えるとき、染谷先輩の口から色声が漏れたが、気にせず下を目指す。
胸から腹へ。
腹から臍へ。
臍から……。
僕の指がスカートで止まる。
どうしますか、染谷先輩?
僕の声に染谷先輩は、びくりと身を震わせるが、何も答えない。
僕は染谷先輩の耳に口を寄せると、強めに耳朶を一噛みしてから、どうしますか、と再度問うた。
染谷先輩は何も答えない。
僕もそれ以上は何も言わない。
染谷先輩のものなのか、僕のものなのか、獣のような荒い息遣いが、響くだけ。
やがて何かを観念したように、こくりと喉を鳴らしてから、染谷先輩が口答えた。
「————」
2/6
がばりと身を起こすと、そこは僕の部屋。
隣には勿論、染谷先輩が寝てなんかいやしない。
ぎしりとベッドを軋ませて起き上がり、窓際へ向かう。
窓の外には綺麗な丸い月が、寒空に映えている。
僕はその月に願う。
僕はどちらかと言うといじめられるのが好きなので、次はそういう感じでお願いします。
そうして僕は暖かな布団へと潜り込んだ。
3/6
いつものように一糸纏わぬ姿になって、染谷先輩に愛を叫んでいた時のことだった。
ふと気づく、染谷先輩の様子がいつもと違う。
染谷先輩は何も言わずに、僕をじっと見つめている。
僕の鼓動が高鳴った。
とても冷たい、氷のような視線。
突き刺さり続ける染谷先輩の視線に、僕は自然と姿勢を正してしまう。
ぼくが気をつけの姿勢を取ったところで、染谷先輩が口を開いた。
「誰の許しで、そんな姿になっとるんじゃ?」
えっと、その、と僕が答えようとすると、染谷先輩の爪先が僕の股間にめり込んだ。
息もできずにうずくまる僕に、染谷先輩の声が降ってくる。
「誰が答えてええと言った?」
僕は何も言えずにうずくまったまま。
「……答えてええぞ」
お許しが出たが、僕はまだ呼吸もままならない。
僅かな時間が流れた後、頭に衝撃を受ける。
見なくてもわかる。
僕の頭が染谷先輩に足蹴にされたのだ。
「答えてええと、言ったが?」
はい、僕が、勝手に、こうしました。
「なんのためにじゃ?」
染谷先輩に、喜んでもらおうと……。
染谷先輩は再びがしりと僕を足蹴にし、冷たい静かな声で囁くように話す。
「わしが、そんな粗末なモノを見て喜ぶと、おんしはそう思ったんか?」
僕は何も答えられない。
「立て」
はい、と返事をし、痛みを堪えて何とか立ち上がる。
染谷先輩を見ると、冷たい声音とは裏腹に頬は上気し、微かに荒い息は情欲を窺わせた。
それを見た瞬間に、僕が感じていた痛みは快楽のそれへと取って代わった。
「誰がそうしろと言った? おんしは見せたかったのだろう?」
立ち上がった僕は自然と手を前で組んでいた。
染谷先輩はこう言っているのだ。
その手を、どけろ、と。
おずおずと気をつけの姿勢をとると、染谷先輩の視線が僕のそこへと向けられたのがわかった。
ふうん、と染谷先輩の声が響いた。
「誰がそうしろと言った?」
ああ、わかります、おっしゃる意味はわかります。
「蹴られ、嬲られ、罵倒され、それでおんしはそうしておるんか?」
ごめんなさい、ごめんなさい、僕にはどうしようもないのです。
染谷先輩の薄く開いた口から這い出た舌が、ちろりと唇を舐めたのが見えた気がした。
「まあ良い。今日のわしは気分がええ。……手か足、選ばせてやろう」
え、と僕が呆けた声を出すと、染谷先輩は手を伸ばし、がりっと僕の胸を引っ掻いた。
薄く滲んだ血を、染谷先輩は蕩けた瞳で見つめている。
「手か足、だ。三度目は言わんぞ。察しの悪いやつは、いらん」
染谷先輩の意図に気づいた僕は、これから訪れるであろう爛れた悦びを思い、身を震わせた。
荒々しく響く獣を思わせる息遣いは僕のものなのか、それとも染谷先輩のものなのか。
一瞬の沈黙の後、僕は答えた。
————。
4/6
がばりと身を起こすと、そこは僕の部屋。
隣には勿論、染谷先輩が寝てなんかいやしない。
ぎしりとベッドを軋ませて起き上がり、窓際へ向かう。
窓の外には綺麗な丸い月が、寒空に映えている。
僕はその月に感謝を伝える。
ありがとう、ありがとう、あれぞ正に僕の見たかった夢。
僕は白い息を散らしながら、いつまでも、いつまでも、月に感謝を捧げた。
翌朝、僕は風邪を引いていた。
5/6
「まったくおんしは。なんで風邪など引くのか……」
お見舞いに来てくれた染谷先輩はため息しきりだ。
今日はちょっとした用事があって、それに染谷先輩に付き合ってもらう約束をしていたので当然と言えば当然か。
「昨日まであれほど元気だったのに、何をしたらそうまでひどい風邪を引けるのやら」
その言葉に、風邪の原因を話すか話すまいか迷ったが、結局話すことにした。
夢を見たんです。
「夢? どんな夢じゃ?」
最初の夢だと僕が染谷先輩をいじめてました。
ああ、勿論、性的にです。
「……勿論の意味がわからん」
目が覚めて、僕は月に願ったんです。
次は僕が染谷先輩にいじめられる夢が見たいって。
ああ、勿論、性的にです。
「もうそれはええわ」
眠ると夢を見ました。
僕が染谷先輩にいじめられる夢です。
目が覚めた僕は、月が願いを叶えてくれたものと思って、一晩中、月に感謝を捧げました。
僕の話を聞き終えた染谷先輩は大きなため息を一つ。
「おんしという奴は……。心底、阿呆と思うわ」
それきり黙ってしまった。
長いこと、沈黙が支配していたが、やがて染谷先輩が口を開いた。
「……おんしは、いじめるとかいじめないとか、そういうのを抜きに、普通に付き合いたいとか思わんのか」
僕は迷わずに答えた。
思います。
僕は染谷先輩とお話をしたい、手を繋ぎたい、腕を組みたい、部活をしたい、下校したい、勉強したい、買い物に行きたい、ご飯を食べたい、休日にはデートをしたい、普通の高校生のようなお付き合いがしてみたいです。
一気に捲し立てた僕に、染谷先輩は目を丸くしてきょとんとしていたがやがて、そうかと呟いた。
僕がベッドに寝たままそっと染谷先輩に手を伸ばすと、染谷先輩は優しく握ってくれた。
そして、空いた手で僕の頭を撫でてくれた。
嬉しくなって僕が染谷先輩に微笑みかけると、染谷先輩も微笑み返してくれた。
しばらくして、撫でていた手で僕の目を閉じさせた染谷先輩は、
「風邪を移したら許さんからな」
と言ったあと、僕の唇に何かを触れさせた。
目を閉じる寸前に見えた染谷先輩は、風邪を引いたかのように頬を朱に染めていた。
6/6
がばりと身を起こすと、そこは僕の部屋。
手に暖かさを感じ、見るとそこには優しく微笑みながら手を握ってくれている染谷先輩。
ぎしりとベッドを軋ませて起き上がろうとすると、まだ寝ておれ、と染谷先輩に窘められた。
視線を向けると、窓の外には綺麗な丸い月が、寒空に映えている。
僕はその月に願う。
この幸せな時間がいつまでも続きますように。
そうして僕は暖かな布団へと潜り込んだ。
某ジッパーの人のように本当の覚悟ができた僕は、もう誰にも負けない。
そう思いながら甘い話を書いたらこうなった。
覚悟の方向性を間違えた。
1/6
いつものように染谷先輩に愛を叫んでいた時のことだった。
ふとした拍子に手が染谷先輩に当たってしまい、謝ろうとしてそれに気づいた。
まさかと思う。
そんなはずないと思う。
だけど……。
僕は幾分か乱暴に染谷先輩の両肩を掴み、じっと染谷先輩の目を覗き込んだ。
「な、なんじゃ?」
僕の目を見返す染谷先輩。
染谷先輩の瞳に浮かんでいたのは戸惑いと、……。
僕の心臓がどくんと跳ねる。
これから起こることを期待するかのように、どくんどくんと、跳ねる。
僕は掴んでいたその手のままに染谷先輩の上着を背中に落とした。
肘の辺りで止まった上着は、さながら拘束着のようだ。
「なにをするか!」
叫ぶ染谷先輩の瞳に浮かぶ色。
それはやはり戸惑いや驚きだけではなかった。
おい、聞いているのかとの声を、人差し指を唇に当てることで遮る。
なにを、すると思います?
僕の言葉に、染谷先輩の喉がこくりと音を立てる。
それを合図に指を滑らせる。
唇から顎へ。
顎から喉へ。
喉から鎖骨へ。
鎖骨から、柔らかな膨らみへ。
あ……、と染谷先輩の口から声ともつかない声が漏れた。
僕の目は、染谷先輩の目を覗き込んだまま。
染谷先輩の目は、僕の目を見たまま。
僕の指は、滑らせたまま。
「や、やめ……」
指が染谷先輩の膨らみの先端へと達すると、僕はそこを強めにつねり上げる。
「ひぃ、ぁ……」
染谷先輩の口から漏れた声音に現れたのは、瞳に浮かぶのと同じ、情欲の色。
やめるんですか?
僕の言葉に染谷先輩は黙ったまま。
ただ、羞恥と情欲に染まった顔を見せるだけ。
つねり上げていた指を離すと、染谷先輩の瞳には物欲し気な色が加わった。
それを見た僕は、再び指を滑らせる。
「ぁ、ん……」
先端を越えるとき、染谷先輩の口から色声が漏れたが、気にせず下を目指す。
胸から腹へ。
腹から臍へ。
臍から……。
僕の指がスカートで止まる。
どうしますか、染谷先輩?
僕の声に染谷先輩は、びくりと身を震わせるが、何も答えない。
僕は染谷先輩の耳に口を寄せると、強めに耳朶を一噛みしてから、どうしますか、と再度問うた。
染谷先輩は何も答えない。
僕もそれ以上は何も言わない。
染谷先輩のものなのか、僕のものなのか、獣のような荒い息遣いが、響くだけ。
やがて何かを観念したように、こくりと喉を鳴らしてから、染谷先輩が答えた。
「————」
1/6の最後に誤字があったので再投下
誤:染谷先輩が口答えた。
正:染谷先輩が答えた。
@策士策に溺れる
最近、染谷先輩の反応が鈍い。
僕が何をしても放置される。
そこで僕は一計を案じた。
人だかりができていると人はそれが気になってしまう。
野次馬根性というやつだ。
そこで今回、僕は染谷先輩だけではなく皆にも聞こえるように大きめな声を出すことにした。
一糸纏わぬ姿になった僕は、ブリッジをして、手の代わりに頭で支えることで両手を自由に使えるようにした。
僕は叫ぶ。
ねえねえ、見て見て!
これなーんだ?
うふふ、答えはね、うふふふふ。
ここをこうして、こうやると……、お花!
うわあ、すごおい!
綺麗な……、お花!
それにね、それにね、こんどはここをこうして、こうすると……、お花が二つ!
綺麗に並んだお花が……、二つ!
うわあ、すごおい!
うふふふふ、まだまだ終わらないよー?
そこにこうすると……、蝶々!
うわあ、すごおい!
可愛らしい……、蝶々!
うふふふふ。
そのまま三時間ほど続けたが、誰も見に来ることはなかった。
僕の作戦がどうしてうまくいかなかったのか、いまだにわからない。
@眼精疲労
染谷先輩をできる限り見つめていたくて、染谷先輩にあったら目をひん剥いて瞬きしないことにした。
不気味がる染谷先輩も可愛い。
しばらくしてドライアイで目が見えなくなった。
後悔はしていない。
@遺憾ながら
今日は他校との練習試合だ。
「おかしなことはするんでないぞ」
わかってますよ、染谷先輩に恥をかかせるわけにはいきませんし。
僕はひたすら真面目に取り組んで、他校の子にもできる限り親切にした。
その結果、何人かにアドレスを聞かれたので、答えていたら染谷先輩が少し不機嫌になった。
嫉妬だと良いなと思いながら、他校の子との話を適当に切り上げて、染谷先輩、染谷先輩と抱きつきに行ったらひらりとかわされた。
染谷先輩は笑っていて、僕も笑った。
そのまま二時間ほど抱きつこうと飛びかかり続けたら、いい加減しつこいと殴られた。
理不尽だ。
@恥ずかしいの境界線
染谷先輩、染谷先輩とエア染谷先輩に向かって染谷先輩とのやり取りをシミュレートしていたら、染谷先輩に見られた。
恥ずかしい、穴があったら入りたい。
そう言ったら、染谷先輩は笑っていた。
できれば染谷先輩の穴に入りたい。
そう言ったら、染谷先輩にぼこぼこにされた。
恥ずかしいやら痛いやらで良いご褒美だった。
@本当にわざとじゃない
とてつもない偶然の結果、今僕の手の中には染谷先輩の胸がすっぽりと収まっている。
染谷先輩は呆けた顔をしている。
動かしたら揉んでしまいそうで、離れることもできない。
いつものように僕を叩いてくれたらその勢いで離れられるのに。
そう思って染谷先輩を見ると、声もなく泣いていた。
ぽろぽろと静かに流れる涙。
違うんです、本当にわざとじゃないんです。
虚しく響く僕の言葉。
かつてない罪悪感の中、僕は何もできないまま時間だけが痛々しく流れていった。
@繋がってない話
染谷先輩、染谷先輩、僕は染谷先輩の緩くウェーブがかった髪がとても好きなんです。
そう伝えたら、染谷先輩は嬉しそうに笑った。
ところで、話はまったく変わるんですけど、僕はワカメが好きなんです。
そう伝えたら、染谷先輩は涙目で走り去って行った。
好きなものを好きと主張するのって、本当に難しい。
@理由の一つ
普段、真面目に部活をしない僕だけど、麻雀が嫌いなわけではなく、むしろ好きな部類なので、染谷先輩がいる場合でも真面目に部活をすることがある。
そうすると大抵は勝ってしまうのだけど、普段真面目にやってない負い目もあって、ひどく罪悪感を感じることがあるのだ。
そのようなことをあるとき染谷先輩に言ってみたら、笑いながらこう言うのだ。
「わしはそういう理不尽なところも好きじゃぞ」
勿論、好きというのが麻雀の事だとはわかっている。
でも僕はさっきまでの罪悪感はすっかり薄らいで、やっぱり染谷先輩が好きだなあと、そう思うのだ。
@よくわからない気持ち
部室にあったメモ用紙になんとなく書いてみた。
染谷先輩、好きです。
後日見てみると文字が増えていた。
あなたが染谷先輩しか見てなくても、私はあなたが好きです。
僕はそのメモ用紙を取ると、四つにたたみ、胸ポケットに入れた。
@察しが良すぎるあなた
染谷先輩、染谷先輩、染谷先輩は紅茶とコーヒーどっちが好きですか?
「落ちは言わんでええぞ」
そんな殺生な。
@策士またも策に溺れる
「おはよう、……と、すまん、人違いじゃった」
うまくいった。
染谷先輩にドッキリを仕掛けるために昨日の夜から変顔をし続けて顔を変えた甲斐があったというものだ。
ところでこれはどうしたら戻るんだろう?
三日後、元の顔に戻るまで、染谷先輩には気づいてもらえなかった。
一時間で何個書いて投下できるかと思ったら10個だった。
短い話なら12個くらいいけると思ったけどなかなか難しい。
相変わらずの威力で安心した
海外でも頑張ってな
面白いよ乙
おつー
@気のきく男
「柔らかい布を持っとらんか? 眼鏡を拭きとうてな」
待ってくださいね。
ええと、ああ、ちょうどありました。
はい、どうぞと渡すと、ありがとうと受け取った染谷先輩の動きが止まる。
「一応聞いとくぞ。これは誰んじゃ」
勿論、染谷先輩のですよ。
僕は染谷先輩以外の下着には興味ありませんから。
ぼこぼこにされた挙句に下着は没収された。
良かれと思って渡したのに。
親切を仇で返すとはまさにこのことだ。
@残数100/206
出会い頭に染谷先輩の胸を揉んだら骨を折られた。
もう一度揉んでみると、やっぱり骨を折られた。
どうやら一揉みで一本と交換のようだ。
しばらく揉み続けたが、ついには地に倒れ伏してしまった。
大丈夫、まだあと百本は骨が残っている。
すべての骨が砕けた足で何とか立ち上がる。
諦めちゃ、駄目なんだ。
最後の一本まで、僕は戦う。
染谷まこメインのSSが増えたら良いと思って投下しているのに、一向に増える気配がない。
これはいったいどうしたことなのか。
サッカー少年がイチローを尊敬することはあっても野球を自らやることはないのと一緒だよ
なにやってもこれの二番煎じになりそうだからじゃないかな?
いやどうあがいてもこれの2番煎じは無理だろwwww
貴方に勝てる逸材が存在しないから……かな
@言い得て妙
きゃあ!
部室で着替えていると、突然染谷先輩が入ってきた。
「おっと、着替え中だったか。すまんすまん」
慌てて出ていく染谷先輩。
待たせては悪いと僕も着替えを急ぐ。
もう良いですよ。
声をかけると、すまんなと改めて謝りながら染谷先輩が戻ってくる。
「……よくよく考えてみれば、いつも自分から脱いどるのに、きゃあはないじゃろ」
納得がいかなそうな顔でそんなことを言う染谷先輩。
自分から一糸纏わぬ姿になるのと、意図せず着替えを見られるのは全然違いますよ。
「そういうもんかのう」
ほら、女性だって水着姿は見られても良いけど下着姿は見られたくないでしょう?
「……その例えは正しいのか?」
@禁句
僕は気づく。
圧倒的な閃き。
染谷先輩、染谷先輩、よくよく考えてみれば水着姿の女性は下着姿の女性とニアリーイコールじゃないですか。
「その話は続くんか」
そう考えると水辺って痴女祭りじゃないですか?
「……」
染谷先輩の侮蔑の視線が心地良い。
@策士またまた策に溺れる
染谷先輩、染谷先輩、海でもプールでも良いから一緒に泳ぎに行きましょう。
「この流れで、はいと言うと思うたのか、このたわけ」
染谷先輩をデートに誘える完璧な流れだったはずなのに。
@ご褒美でしかない
でも、そのうち僕に水着姿を見せるときが来ますよ。
じゃあもう見せちゃいましょうよ。
僕の言葉に来んことを祈るわと否定的な染谷先輩。
「よしんばそんな日が来たとしても、パーカーを羽織って水着など見せんわ」
下着姿にパーカーってドエロスじゃないですか?
足蹴にするのはやめてください。
喜んじゃいますよ。
@普通がいい
染谷先輩、染谷先輩、パーカーを羽織ってて良いんで海かプールに行きましょう。
僕のストレートなお誘いに、染谷先輩はなんとも複雑な表情を見せる。
「こんな誘われ方で受けられるわけなかろうが。おんし、誘う気ないじゃろ?」
滅相もない。
……あれ?
その言い方だと最初から普通に誘ったらデートしてくれたってことですか?
やめて、痛い、ぽかぽか叩かないでください。
こういう形式じゃなくても良いんだ。
イチャってラブってコメってるような話でもシリアスな話でも、染谷まこメインが見たい。
SS速報を検索かけても染谷まこ物が三つで、そのうち二つが自分って状況が悲しい。
すでに2つ作ってる時点で驚き
@手先が器用でよかった
最近、染谷先輩は大会に向けて猛練習をしている。
邪魔をするわけにはいかないので、僕は一計を案じた。
すぐに作業に取り掛かり、二晩かけて染谷先輩にそっくりな人形を作り上げた。
揚々と人形と手を繋いで部室に行くと、染谷先輩が引きつった顔でそれはなんじゃと聞いてきた。
染谷先輩人形です。
染谷先輩の邪魔にならないように大会まではこの子に構ってもらいます。
昨日の夜なんて十回もしちゃいました。
答えた瞬間に頭を人形でフルスイングされた。
人形に嫉妬したのだろうか。
@冷静に考えてみた結果
もし僕の記憶が十秒しかもたないとしたら、僕はその十秒をすべて染谷先輩に使う。
そうすれば僕の記憶はすべて染谷先輩でいっぱいになるから。
染谷先輩にそう伝えると複雑そうな顔をされたので、勿論、すべてエッチな記憶ですと言い足すと、安心して嫌悪の表情で見てくれた。
最近、自分のマゾっぷりに拍車が掛かかっている気がする。
@ダメ絶対
染谷先輩、染谷先輩、ぼうっとしてどうしたんです?
「おんしが入部した時のことを思い出してな」
おい、やめろ、やめてください。
これだけ愛されてると作者も本望でしょう(白目)
準備に手間取っているので、投下は海外行ってからになりそう。
友人とチャットしてたら咲の中で好きなキャラの話になった。
1位:染谷まこ
2位:鶴賀の部長に間違われるけど部長じゃない人
3位:鶴賀の影が薄すぎる人
4位:鶴賀のプロ雀士カードを集めている次期部長の人
地味なキャラが多い上に鶴賀率が高すぎるというありがたい突っ込みをいただいた。
他にもダルい人とか八尺様とかなにもかもがわっかんねえ人とか挙げたんだけどね。
圧倒的な1位への愛を除きさえすれば>>1と語り合えそう
流石にここにぶつけられてる愛のレベルには到底付いていけそうにないけども
ワ「このくらいでは泣かないぞ」
ワカメが可愛く思える不思議
>>157
もう少しでこちら側に来れるよ!
ワハハの人も結構好きだけど、四人挙げてって指定だったので……!
某先輩スレも終わったし、友人からリクエストもあったのでそのうち鶴賀の話もスレを立てて投下するかもしれない。
ちなみにその友人は「可愛いと思うキャラはいっぱいいるけど、付き合うなら風越のとてもとてもふくよかな人」だそうです。
3位と4位は同じ人じゃないですか?(すっとぼけ)
書き込みテスト。
入国審査に引っ掛かりそうになるとか泣きそう。
@確認は大事
染谷先輩、染谷先輩、ちょっとお願いがあるんですけど聞いてもらえます?
僕がそう尋ねると、染谷先輩はわしにできることなら、と応じてくれた。
「難しいことか?」
いいえ、簡単なことですよ。
「ほうか、なら言うてみい」
僕を罵ってみてください。
「……」
最近、染谷先輩に罵られてほんのり喜んでいる自分がいる気がしまして。
いっちょ本格的に罵られてみたら実際のところどうなのかわかると思ったんです。
「……」
さあ、いつでもいいですよ。
どんとこい!
罵ってもらえなかった。
罵られはしなかったけれど、染谷先輩の見下げ果てた視線を全身に浴びた僕は、興奮のあまり幸せの頂へと達した。
大丈夫、僕が罵られて喜ぶ趣味を持っているかはわからなかったんだ。
僕はまだ変態じゃない。
@意図せず
夕日に照らされた部室で、朱に染まった染谷先輩を見た瞬間、世界が静止したかのような錯覚を覚えた。
窓際に佇む、染谷先輩。
ドアを開けたまま動かない僕に気づいた染谷先輩は、不思議そうな顔をしている。
「どうしたんじゃ?」
声をかけられても、僕はまだ動けなかった。
僕が動いたら、この世界が壊れてしまいそうで。
染谷先輩は、朱に染まったまま。
僕を見つめて、はてと首を傾げる。
そのあまりにも可愛らしい仕草に、僕の口から勝手に言葉が零れ落ちた。
——。
僕から零れたのはただ一言。
それを拾い上げた染谷先輩は、なにを言うとるか、と僕から視線を逸らし窓の外を見ている。
何も言わずに、夕日よりも朱いまま、窓の外を見続けていた。
@生涯不敗
染谷先輩が麻雀を打ちはじめたので、一糸纏わぬ姿になって近づく。
染屋がこちらに気づいたのを見計らって、僕のイーピンと僕のサイコロと僕のリーチ棒にクリップを挟む。
クリップには紐を結び、天井につけたフックを通して手に持つ。
これで準備はできた。
良いですか、染谷先輩?
このクリップは染谷先輩の点数と連動しています。
染谷先輩が五千点減らすごとに紐を一本引っ張ります。
そうすると、クリップがばちんと外れるって寸法です。
ちなみにどこのクリップが外れても僕は喜びます。
僕を早々に喜ばせるもよし。
存分に焦らすもよし。
すべては染谷先輩次第です!
その日の染谷先輩は鬼のように強く、一度も点数を減らすことはなかった。
皆が帰ったあと、一人寂しくクリップを外すと僕のイーピンは完全に潰れていた。
僕は負けない。
@僥倖
買い物に出かけた僕は、偶然、染谷先輩に出会った。
こんにちは、染谷先輩。
「おう。おんしも買い物か?」
ええ、前から欲しかった本が馴染の本屋さんに入荷したので、受け取りに行くところです。
染谷先輩もお買い物ですか?
「暇じゃったし、秋物を買っとこうかとな」
それから、染谷先輩と一緒に僕の本を受け取りに行って。
二人で染谷先輩の服を選んで。
時間があったので映画を見て。
晩御飯を食べて解散となった。
楽しい一日だったと布団に入った僕はふと気づく。
あれ、今日のこれってデートじゃないか?
その晩は身悶えして一睡もできなかった。
染谷先輩は、本当に、罪な女である。
@女心と秋の空
僕が用事があって部活に遅れて行くと、いたのは染谷先輩だけだった。
どうやら他の皆もまだ来ていないようだ。
「遅かったの」
染谷先輩が顔を綻ばせる。
だいぶ一人で待っていたのだろうか。
気の利いたことを言って染谷先輩の好感度を上げようと思った僕は、にこりと笑みを浮かべて言った。
あっれええぇー?
染谷先輩、寂しかったんですか?
寂しかったんでちゅかー!?
あたち一人じゃ寂ちいでちゅーってなもんなんですかあー?
いやー、僕が来ただけでその喜びよう。
あれ? ひょっとして期待しちゃってます?
僕が一糸纏わぬ姿になるの、期待しちゃってます!?
染谷先輩は本当に変態さんだなぁ。
そんな変態さんに、はい、ご褒美ですよ。
僕のリーチ棒!
あなたのお待ちかねのリーチ棒!!
良いんですよ?
喜びのあまりに犬のように駆け回っても、良いんですよおおぉぉぉ!?
染谷先輩は無表情のまま、何も言わずに部室から出ていってしまった。
おかしいな。
自分がされたら悦ぶことをしただけなのに。
結局、何が間違っていたのかわからないまま、僕は部室をあとにした。
@落ちはない話
その日は僕にとって、とても悲しい日だった。
染谷先輩を見た瞬間に、何もかもに堪えられなくなった僕は、本当はいけないことなのだけれど、染谷先輩に縋り付いた。
一瞬、ぎょっとした染谷先輩だったけれど、僕が染谷先輩を抱きしめたまま、ただぽろぽろと涙を零しているのに気づき、今日だけじゃぞ、とそっと僕を抱きしめ返してくれた。
理由も聞かずに、僕の頭を撫でてくれた。
僕の嗚咽だけが響く部室で、染谷先輩の優しさに包まれて、ぼくはただ泣き続けた。
今日、国際線に乗った人の中で、染谷まこについて考えていた人ランキングがあったとしたら、BEST10入りする自信がある。
オンリーワン
もう海外なのか
不慣れな環境に戸惑うかもしれんが頑張ってな
おお海外からも書き込めたか
お前がいかなる条件でもナンバーワンでオンリーワンだよ
ある意味最強のオンリーワンだな
追いつこうとしたら背後に回ってるくらいのオンリーワン
遅れて到着した同僚が初日からカードを含めて全財産スられた。
まじやばい。
時差ぼけ調整でオフを貰えたから、フェルメールのデルフトの眺望を見に行ってみた。
まじやばい。
絵画に詳しないけど、もう、ぱっと見であれはやばい。
やばいしか言葉が出ないくらいやばい。
そんな凄いものを見ても変態染谷まこSSを書いてる俺の頭も、ちょっとだけやばい。
投下はまた後日。
では出勤してきます。
デルフトの眺望ってことはオランダ?
仕事とはいえ裏山
海外旅行は財布複数にしろとあれほど…
@理解の外側
染谷先輩、染谷先輩、ついに僕もオカルト能力に目覚めました。
僕の言葉に染谷先輩は訝しげな目でこちらを見る。
「どんな能力なんじゃ?」
手牌を晒すたびに一枚脱いでいきます。
心底呆れたような顔をしていた染谷先輩も、その様を想像したのか、くくっと小さく笑う。
最終的には一糸纏わぬ姿になります。
裸単騎ですから。
ついには染谷先輩はけたけたと笑い出してしまった。
いや、自分で言っておいてなんですが、そこまで面白くないでしょう?
僕には染谷先輩の笑いのツボが理解できない。
@小動物可愛い
その日、僕が染谷先輩に声をかけると、露骨にびっくりされた。
「何をするつもりじゃ!?」
挨拶をしただけですけど。
「……それならええんじゃ。おはよう」
おはようございます。
それで、今日はホワイトデイじゃないですか。
お返しを持ってきました。
僕が鞄からラッピングされた小箱を取り出すと、染谷先輩は、ばっと大袈裟に距離をとる。
染谷先輩?
「受け取った瞬間に脱ぎだしたりせんじゃろうな?」
しませんて。
「脱がんでも何かしら奇行をしたり……」
しませんてば。
結局、受け取ってもらえた。
お返し自体は喜んでもらえたけど、そんなに警戒しなくても良いのに。
挙動不審な染谷先輩も可愛い。
@そりゃそうだ
ふと思い立って、染谷先輩のお腹を摘んでみたところ、脳天にかつてない衝撃を受けた。
「何をするか!?」
痛いです。
いやあ、急に胸を揉んだりするのもマンネリかと思いまして。
そんな摘めるほどお肉もなかったですし、そこまで怒ることないじゃないですか。
「そういう問題じゃない! 乙女の腹を摘むなど胸を揉むよりたちが悪いわ!」
そういうことなら、もみもみっと。
改めて胸を揉んでみたところ、ぼこぼこにされ、ベランダに吊るされた。
染谷先輩の嘘つき。
オランダですよ。
時差8時間とか許せない。
出張期間2ヶ月って言われてたけど、なんか雲行きがおかしい。
有名な美術館が改修等でほとんど見れないことに絶望した。
良い物を見すぎてちょっとスランプ気味になったので、文章練習用にスレ立てました。
そっちと並行になるのでペースは落ちそう。
乙
改装中ってことでマウリッツハイス美術館展とかこの前日本でしてたもんね
新しいのの名前は?教えてください
>>180
案外すぐ見つかるぞ
abcで検索かけると見つかると思います。
上司「問題が早く片付きそうだから日本に戻ってきて。同僚がスられたカードの手続きとかもあるし」
僕「え、いつ戻るんですか?」
上司「航空券が手配でき次第」
僕「……」
二ヶ月分の大荷物の半分も開けてないのに戻れとか言われたよ。
こっちで昨日一日しか仕事してない。
まあ、ただで観光旅行ができたと思えば良いか……。
abcのやつ面白いコンセプトだな
頑張れ
@甘露
今日は少し汗ばむ陽気。
これなら大丈夫かな。
僕は麻雀を打つ染谷先輩の横にしゃがんで待機する。
染谷先輩はもはや僕の相手をするのは時間の無駄と悟っているらしく、とくに何も言わずに麻雀を打ち続ける。
「リーチ」
染谷先輩が高らかに宣言する。
千点棒を置くために開いた脇から、きらりと覗く輝かしき露。
今だ!
僕は素早く染谷先輩に近づき、脇汗をちろりと舐めた。
呆然とする染谷先輩をよそに僕は叫ぶ。
甘くない!
染谷先輩の脇汗なら豊潤なる甘さを誇ると思ったのに!
まあ、でもこれはこれで素晴らしいです。
次の瞬間、女子部員全員から、女の敵とぼこぼこにされた。
染谷先輩の脇汗は甘いという夢を壊されたのは僕の方なのに。
僕は悪くない。
@誠心誠意
染谷先輩、染谷先輩、僕は今、どうしても染谷先輩の胸が揉みたいんです。
染谷先輩は形容しがたい眼差しを僕に向けるが、今日という今日は僕も本気なのだ。
額よ割れよと言わんばかりに地面に叩きつけながらお願いし続けると、ついには染谷先輩が口を開いた。
「一度、だけじゃぞ……」
夕陽に照らされながら、それでもなお羞恥に染まった顔を見せながらそう言う染谷先輩に、僕はすっかり満足してしまった。
なんか満たされたんでもう大丈夫です。
じゃあ、お疲れ様でした。
呆然と佇む染谷先輩に手を振り、僕は揚々と帰宅した。
次の日、染谷先輩は完全に僕をいないものと扱った。
今度こそ、僕は悪くない。
休憩中に適当に書いてみたけど、いまいち普通の話しか書けない。
個人的にはイカれすぎてるよりかはほどほどのほうが現実味があるようにかんじる
相変わらずすばらです
@くしけずり
ある日、部室へ行くと、染谷先輩だけであった。
他の人はどうしたのですかと話しながら、誘蛾灯に寄せられる羽虫のように、僕はいつの間にか染谷先輩の間近に立っていた。
何気なく手を伸ばすと、そこには柔らかな染谷先輩のきれいな髪。
染谷先輩は一瞬びくりとしたが、何かを言うでもなく、僕の手を振り払うでもなく。
僕はそれをいいことに、幾ばくかの後ろめたさを感じつつも、染谷先輩の髪を手櫛で梳いていく。
ウェーブがかった髪は、手に引っかかることもなく、柔らかな手触りだけを残す。
ふわりと動くたびに、鼻をくすぐる優しい香りが伝わってくる。
静かな時間だった。
静寂を破ったのはかちゃりとした静かな音。
僕の手が染谷先輩の眼鏡のツルに当たってしまったのだ。
染谷先輩、眼鏡を取ってもらえますか。
染谷先輩は少しだけ間をおいて、眼鏡を外した。
ありがとうございます、とだけ言って、僕は幸せな作業に戻る。
しばらくされるがままであった染谷先輩が口を開いた。
「……わしの髪を梳いても面白くなかろう?」
もっとさらさらでストレートな、例えばあの子の髪の方が良いのじゃないか、染谷先輩はそんなことを言う。
僕の手はぴたりと止まる。
少し悲しくなって、語句を強めてしまった。
僕はこの髪が良いんです。
染谷先輩じゃなければ、駄目なんです。
染谷先輩は何も返さなかった。
僕はその美しい髪に一つくちづけをし、また梳き始める。
染谷先輩はそれでも何も言わず、僕に身を任せるだけであった。
とても、幸せな時間だった。
超変態求愛をされて困ってる染谷まこも好きなんです。
でもまだリハビリ中なので、しばらくこういう系統が増えるかもしれない。
うん
お好きにどうぞ
こちらはただ読ませてもらってるだけだし
まさか、まこのSSで陰茎の硬度が少しばかりとはいえ上がるとは思いませんでしたよ…
@おひさしぶりさようなら
おうい、と声をかけてきたのは、よくみると高校時代の学友であった。
今は何をしているのかと問えば、物書きの端くれとのことであった。
何か良い話のネタはないか、との彼に、残念ながら思いつかないと返すと、にやりと笑い、彼。
曰く、この近くに幽霊屋敷があるとの噂。
曰く、そこには火事で焼け死んだ女の霊が出るとの噂。
曰く、彼自身も探しているが、どこにもその幽霊屋敷が見つからないとのこと。
君はこの辺りに詳しいだろう?
一つ僕を助けると思って、協力してはくれないか。
そんなことを言う彼に、怖いから嫌だと返すと、後生だと拝み倒され、結局は相応の謝礼と引き換えに受けることとなってしまった。
「そんで、久しぶりに会ったかと思えば、おんしの小遣い稼ぎの手伝いとはな」
そんなこと言わないでくださいよ、染谷先輩。
高校時代、馴染みのあった雀荘に足を運び、最愛なる染谷先輩を見つけた僕は、旧友からの依頼を一通り話す。
「怖いと言っておったのに、謝礼をちらつかされて引き受けるとはな」
現金だけに?
「やかましいわ。……なにか入用なんか?」
ええ、実はつい先日、子どもが産まれまして。
「ほうか! そいつはめでたいのう」
ありがとうございます。
染谷先輩そっくりの可愛い女の子ですよ。
「はいはい。そうかぁ、おんしにも子どもがのう……」
感慨深げな染谷先輩。
「そんならこんなところで油を売っておらんと、はよう帰りんさい」
追い立てるように、しっしと手を振られた。
それでは、染谷先輩。
また来ます。
立ち去ろうとする僕に、染谷先輩は何かを聞きたそうな様子。
しばし、逡巡の後、口を開いた。
「今日のわしは、どうじゃった?」
昔と変わらぬ、可愛らしい染谷先輩でしたよ。
僕の言葉に照れた様子の染谷先輩は、にっと笑い、またの、と手を振った。
家に帰ると妻が起きていた。
「おかえり」
ただいま、染谷先輩。
それを聞いて、呆れた様子の妻。
「おんしはまだ染谷と呼ぶか。……店跡に行っておったのか?」
僕が言い間違えるのは、毎回あそこに寄った帰りだと知っている妻は、そう尋ねてくる。
ご明察です。
「おんしも物好きじゃのう」
染谷せ……、まこさんもたまに行くじゃないですか。
「まあ、わしの場合は元実家じゃしな」
夜泣きに備えてわしは寝るぞ、とのまこさんに、おやすみなさいと声をかけたあと、メールにて旧友に明日会おうとの約束を取り付ける。
彼の満足する話かはわからないけれど、まあ、少なからず謝礼はもらえるだろう。
まこさんと子どもに何を買ってあげようかと思案しながら、僕も寝ることにした。
見直してみたらわかりづらいな、これ……
どういうことだってばよ…
雀荘自体が幽霊ってのを書きたかったんです。
行数制限に引っかかって、描写を削ったのがまずかった。
説明が必要になる文章とか恥ずかしい!
解ったそういうことか
�
@派閥
染谷先輩は時折、とある部員の大きな胸をちらりと見ている。
染谷先輩、染谷先輩、大きな胸が羨ましいんですか?
「……デリカシーって知っとるか?」
聞いたことはあります。
染谷先輩の胸も別段小さくはありませんよ。
まあ、大きくもないですが。
「一言余計じゃわ」
染谷先輩の胸は形も良くて、僕はとても素敵だと思います。
僕の言葉で染谷先輩は真っ赤になって、褒めているつもりでもそれはセクハラじゃぞ、と叫ぶ。
「……ちなみに、胸は大きいのと、小さいの、どっちが好みじゃ?」
伏目がちに聞いてくる染谷先輩はとても可愛らしくて、僕は正直に答えた。
胸はどうでも良いです。
女性はお尻です。
染谷先輩は引いていた。
僕は何も間違えていない。
@話題選びは慎重に
染谷先輩、染谷先輩、最近アニメ化もした奇妙な冒険活劇があるじゃないですか。
あれに出てくる側に立つものの中で、一つもらえるとしたらどれが良いですか?
「男子はそういう話好きじゃのう。ぱっとは思いつかんな」
僕は隠者の紫が良いんです。
「渋いところ選ぶんじゃな」
もし、隠者の紫をもらえたら、僕は毎日毎日、少しでも時間があれば染谷先輩のパンツを念写し続けるんです。
何枚も何枚も、角度を変えて何枚も。
そして、念写したものを模写するんです。
模写して写生するんです。
おっと、写生ですよ?
勘違いしてはいけませんよ?
写生ですからね。
そして僕はそれらを使って巨大なモザイク画を作るんです。
勿論、染谷先輩ですよ。
染谷先輩のパンツで形作られた巨大な染谷先輩……。
あ!
どうせなら、本物のパンツも使っちゃいましょうか!
気づいたら、染谷先輩はおらず、すでに帰宅したようであった。
少年漫画の話はマニアック過ぎたか。
自分で書いておいてなんだけど、僕はこいつほど、どうしようもないやつを知らない。
え、書いてる作者の方がどうしようもないだって?
僕はまだ一線を越えてない。
僕はまだ、大丈夫、のはず……。
これで越えていないならどうやったらその一線は越えたことになるんだろうか
これで越えていないならどうやったらその一線は越えたことになるんだろうか
超えちゃいけないラインは乙武さんが決めること
>>1って最近ブログ始めた?
勘違いならすまん
作ったばかりなのに、どうやったら辿り着けるか知りたい。
グーグル先生も教えてくれないレベルなんですけど……。
是非ともURL教えてください
URLは落ち着いたらでお願いします。
今は体裁を整えようといろいろ試している段階なので。
と言っても基本的には投下したやつの加筆修正を載せるのがメインだからあんまり面白くないかも。
メモっぽいの残そうとしたら文末に書くよりはコメント欄に投稿って形式のほうが読みやすいでしょうか。
@ささやき
そっと抱きしめて、優しく囁くと効果覿面だと聞いた僕は、早速、染谷先輩に試してみることにした。
染谷先輩、と一声かけて、そっと抱きしめる。
染谷先輩は、んっ、と軽く息を吐いただけで特に嫌がる素振りもなく、されるがままになっている。
僕は染谷先輩の耳朶に一つくちづけをしてから、優しく、あらん限りの淫語を囁いた。
染谷先輩はふっと体を沈ませたかと思うと、全身のばねを使って鋭く跳ね上がると同時に、左フックを的確に僕の肝臓に抉り込ませた。
僕は地獄の苦しみを味わいながら、染谷先輩の塵芥を見るような視線を久しぶりに楽しんだ。
今日も冴えてますね
この緩急が良いな…
たまらん
「おんし」が土佐弁だと知ったこの衝撃。
助けて、染谷先輩。
おぬし、は「にしゃ」らしいな。
出入りの業者さんに広島出身の人がいたから聞いてみたら、二人称は、「あんた」、「われ」辺りを使うらしい。
「にしゃ」もなんですかね。
「おんし」も使う人はいるけど、四国から流れてきた人に多いから、純粋な広島弁じゃないそうな。
方言って難しいなぁ。
そんなわけで、染谷先輩の言葉遣いがちょっと変わるけど気にしないで。
雰囲気が出てれば良いよね、うん。
ガラの悪い人が目下に向かって「お前」と言う感じで言うようです
関東で対人で「お前」とは言わないようにあまり聞かないかも
「にしゃ」って語感だとそんな感じしないけどガラが悪い言葉なのね。
「われ」とか「わりゃ」も任侠映画に出てくるから有名だけど、ガラが悪いって言ってました。
言い合いとか喧嘩の時は咄嗟に出ちゃうらしいけど。
おどりゃクソ森のおどりゃはてめぇって言ってるのと同じなの?
広島弁でググるとwikipediaに広島弁解説が載ってるよ
意味は特に無いに等しくて喧嘩してるときの威嚇用だとか
同じ言葉でも地方で全然意味が違ったりして、方言は面白いですね。
@仲直り
染谷先輩と喧嘩をしてしまった。
と言っても今回ばかりは本当に僕は悪くない。
染谷先輩はようやく勘違いをしていたことに気づいた様子で、先程からしきりに謝っている。
僕としても染谷先輩のそんな姿を見るのは心苦しいので、笑って許すことにした。
ぐへへへ。
おう、おう、ガキの使いじゃねえんだ。
それで誠意を見せてるつもりかい?
本当に悪いと思ってるなら、乳の一つでも生で揉ませんかい。
ぐへへへ、うひゃひゃひゃひゃ。
絶交された。
ここに投下した話をそのままブログに持っていったら、いくらなんでもそれはないだろうと友人に叱られた。
たまに、お前は僕のお母さんか、と言いたくなる。
仕方ないからいろいろ手直ししているのだけれど、そうなると途中を飛ばしてしまった某先輩の話の完全版とか、京まこの続きとかが置けなくなってしまう。
悩み多き年頃である。
>>222
そんな友人早々いないから大事にするんだぞ…
良い友人だな…
それはよく言われる。
@あまりにも卑怯
染谷先輩、染谷先輩、僕は染谷先輩以外の女性に興味はありません。
それを聞いた染谷先輩は、ちょっと待っておれと言い残し、どこかへ行った。
しばらくすると戻ってきて、その手には一冊の本が握られていた。
クラスメイトにちょっとエッチな本を借りてきたらしい。
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、もじもじしている染谷先輩。
「ほれ、どうじゃ?」
などとその本を見せてくる様子はこの上なく可愛くて、僕のリーチ棒は途端に聴牌即リー全ツッパ状態となった。
少なからぬ侮蔑を込めた視線を向けてくる染谷先輩。
ちょっと待って?
それは卑怯でしょう?
@多くの星が見える条件は
今日は僕の誕生日だった。
染谷先輩に誕生日プレゼントは何が良いか聞かれたので、染谷先輩の携帯番号が良いですと答えると、たいそう複雑な顔をしていたが、ついには教えてくれた。
それだけで良いのかと尋ねてくるので、じゃあ今日は一緒に下校してくださいとお願いすると、快諾してくれた。
帰り道、薄暗くなった空に多くの星が煌めいていた。
染谷先輩、ちょっと先に行ってください。
訝しがる染谷先輩を先に行かせると、携帯を取り出し、知ったばかりの番号に電話をかけた。
『……はい?』
染谷先輩、こんばんは。
『どうして電話なんじゃ?』
染谷先輩は微かに笑いを含んだ様子で問うてくる。
あんまりにも嬉しかったものですから。
笑いながら、そうかい、と染谷先輩。
見てください。
星明かりに映える花が可憐ですよ。
『どれじゃ? ……ひょっとしてわしはもう通り過ぎとるんじゃないか?』
くすくすと染谷先輩。
ああ、それもそうですね。
僕も笑いながら。
月がとても綺麗ですよ。
染谷先輩からも見えますか?
『……ああ、見えとるよ。死にそうな程、綺麗な月じゃわ』
それは良かったです。
あ、今鳴いた鳥ってなんです?
結局、別れ道までそんな具合であった。
ああ、今日は楽しかった。
ベッドに入り、寝ようとした時に思い出す。
危ない危ない、忘れるところだった。
染谷先輩に電話をかける。
さして待たされずに染谷先輩は出てくれた。
『はい?』
……ハァハァハァ、今、何色のパンツ履いてるの?
教えてくれるかな?
ハァハァハァ……。
着信拒否された。
題も含めて、久しぶりにきれいな流れだった。
@自分のため
ばちんと頬がなった。
じんじんとした痛みがゆっくりと拡がってきたが、僕は染谷先輩に見惚れるのみであった。
「どうしてじゃ!?」
染谷先輩が掴みかかってくる。
あまりの勢いに、僕は堪らず転んでしまった。
染谷先輩は転んだ僕の胸倉を掴んだまま馬乗りになって、どうして、なぜ、と繰り返している。
「わしのためか……?」
搾り出すような声。
僕はかぶりを振って答える。
強いて言えば自分のためですかね?
普段と変わらぬ僕の呑気な声に、染谷先輩はまた一つ頬を張った。
あいたた、と頬をさすろうとした僕の手を遮り、染谷先輩が両手で僕の顔を挟み込む。
染谷先輩?
僕は途中までしか声を発することはできず、静かに流れる時間の中で、ただ染谷先輩の温もりを感じるだけだった。
長いような短いような時間の後、染谷先輩は唇を離す。
「……切れてしまったな」
僕の頬を撫でながら。
先ほどの平手で僕の唇は切れて、どうやら薄っすらと血が滲んでいるようだ。
ぼうっとしていた僕は、その言葉にはっと我に返る。
たいしたことはないですよ。
唾でもつけておけば治ります。
僕の言葉にようやく染谷先輩は、それでも辛そうな、笑みを見せてくれた。
僕もつられて笑むと、染谷先輩はまた顔を近づけてきて。
その可愛らしい舌で僕の切れた口端をぺろりと舐めた。
あっと思う間もなく、そのまま可愛らしい舌を僕の口唇に割り込ませてくる。
時折響くぴちゃりとした水音以外、何もかもが止まってしまったこの世界で、僕はただ望外の幸せを甘受するだけであった。
>>228
流れはキレイかもしれんがオチはキレイじゃねーぞwww
むしろ緩急が付いてて別の意味で綺麗…かも
いいオチ
きれいなだけが人生じゃないんだね。
あ、良いこと言った。
そう、時には汚いこともしないと、お金がなくなるよね。
僕にできる汚いお金儲けってなんだろうと考えてみたけど何も思いつかなかった。
世の中のあくどい人たちは何気にすごいのかもしれない。
見習いたくはないけれど。
@つみなひと
今日はエイプリルフールなので、染谷先輩に嘘をついてみることにした。
染谷先輩なんて好きじゃない、考えただけで心臓が止まりそうになる台詞であるが、言われた染谷先輩はきっと驚いてくれるだろう。
部室に行くと、見目麗しい美少女がいるなと思ったら、それは果たして染谷先輩であった。
早くも、さきほどの台詞の出番のようだ。
染谷先輩、染谷先輩、僕は染谷先輩なんて、染谷先輩なんて……、大好きです!
言えなかった。
染谷先輩は、少し驚いた顔をしたかと思うと、こちらに歩み寄り、そのまま僕を優しく抱きしめてくれた。
僕が狼狽えていると、染谷先輩は僕の頬にキスをして、微笑みながら、こう言ったのだ。
「今日はエイプリルフールじゃ」
え?
戸惑う僕を置き去りに、今日は部活は休むから皆によろしく、と染谷先輩は帰ってしまった。
残されたのは、染谷先輩台詞の意味を理解できずに悩み続ける僕だけ。
後日、染谷先輩を問いただしても、そんなことあったかのう、などとはぐらかされるばかりであった。
@夢の中へ
夢の中で、僕と染谷先輩は優しいキスをしていた。
ひょっとしてこれは正夢かと思った僕は、部活に行くなり染谷先輩を抱きしめた。
「と、突然、なんじゃ?」
染谷先輩は真っ赤になって戸惑っていた。
僕が顔を寄せると、小さく声を発しただけで、さして嫌がりもしなかったが、あわや唇が触れ合うというところで、ここが部室で、みんなの前だということを思い出したようだった。
「こ、こら! よさんか! みなの前じゃぞ!」
そんなことを言いながら僕の胸をそっと押す様があまりにも可愛らしかったので、僕もついつい照れ隠しをしてしまった。
おうこら、カマトトぶってんじゃねえぞ!
よだれ垂らして欲しがらんかい!
次の瞬間、激烈なストマックブローをくらった僕はよだれとともに胃液を垂らしながら、夢の中へと帰るはめになった。
@天使さま
《おはようございます》
ある朝、目が覚めると枕元に見知らぬ女の子が立っていて、にこやかに挨拶をしてきた。
おはようございます、どちら様ですかと返すと、私は天使ですとのこと。
《今日はあなたに愛を届けに参りました》
はあ、どういうことでしょうか。
《あなたの左手の小指をご覧なさい。赤い糸が結ばれているでしょう?》
見ると、確かに昨晩まではなかった糸が僕の小指から伸びている。
《その糸を辿り、運命の相手に出会ったならば、あなたのこれからは愛に満ちた素晴らしきものとなるでしょう》
糸は染谷先輩の家の方向に伸びている。
僕は揚々と糸を辿りだした。
しばらく行くと、そこには染谷先輩。
染谷先輩、染谷先輩、おはようございます。
「おう、おはようさん」
運命の相手に出会ったはずなのに、何も起こらない。
これはどうしたことだと染谷先輩をみると、その左手の小指には赤い糸なんて結ばれていやしない。
用事を思い出したので帰ります、染谷先輩にそう告げると、僕は急いで家に帰る。
天使さま、僕の運命の相手であるところの染谷先輩に赤い糸が結ばれていませんでしたよ?
僕の質問に、天使さまは優しく答えてくれた。
《あなたの運命の相手は、染谷先輩とやらではありません。器量好しで、気立ても良く、とても裕福な女性です。あなたが最も幸せな日々を過ごせるであろう人物を選ばせて頂きました》
もし、僕がその女性と出会ったらどうなるのですか?
《あなたも、その女性も、たちまち互いを最も愛するようになるでしょう》
それを聞いた僕は台所へ向かうと包丁を取り出し、えいやと左手の小指を切り落とした。
《なんてことを!?》
しかし、赤い糸は消えず、薬指に移っただけであった。
仕方ないと僕が手首から先をごとりと落とすと、ようやく赤い糸は消えた。
《あなたは自らの幸せが惜しくないのですか!?》
薄れ行く意識の中で、僕は答える。
僕が好きなのは染谷先輩です。
僕は染谷先輩だけを愛するのです。
それだけが僕の幸せなのです。
《……愛が重すぎる》
天使さまの呟きを聞いたのを最後に、僕の意識は闇へと落ちた。
目を覚ますと僕の左手は無事で。
赤い糸が体のどこにも付いていないことを確認した僕は染谷先輩に会いに行く。
染谷先輩、染谷先輩、こんばんは。
「こんばんは。どうしたんじゃ、突然呼び出して?」
僕は染谷先輩が好きです。
「……うん」
僕は染谷先輩を愛しています。
「……」
だから、僕は幸せです。
真っ赤になって固まっていた染谷先輩は、何かを言おうとしばらく口をもごもごとさせていたが、結局は諦めたようだった。
しばらくの沈黙の後、染谷先輩は照れた様に微笑んでくれた。
「わしも、多分、幸せじゃわ」
気分は最終回
>気分は最終回
つまりまだ本編自体は続いて行くのか良かった
気分でよかった
なんとなくきりが良い話になったからいったん締めて別なの書こうと思ったんだ。
とりあえず、締めます。
今書いてるのに満足したら似たようなスレを全キャラ対象で立てるかもしれない。
ではまたどこかで。
おつ
最後の最後で酉ミスった!
次回何か書くときは多分この酉です。
名残惜しいけど乙
>>1の書くものは色々とすごかったから次も期待して待ってる
超乙
全キャラ対象期待してるでー
タイトル通り1000まで行って欲しい思いはあった
そんなあなたにタイトル詐欺MADを 乙
http://www.nicovideo.jp/watch/sm19462370
染まってない!
全然わかめ色に染まってないよ!?
5月5日は染谷まこが生まれたことを記念して国民の祝日だよ。
ここかVIPのどっちかにスレ立てすると思うからよろしく。
なんで>>245と酉が違うんだろう
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