僕は今宵、悪役貴族に恋をする (232)
「あァン? お前ェ、女だったのかァ……?」
マズイマズイマズイマズイ。バレた。とうとうこの日が来てしまった。あれだけバレないように気をつけて日々を過ごしてきたのに。
女であることを隠し学園に通い、"婚約者"である悪役貴族の目を欺いてきた『僕』のこれまでの努力が水の泡だ。そんなの、イヤだ。
「ていうか、てめェ……写真で見た許嫁……」
「は、はあ? なにを言ってるのさ。僕は正真正銘、男だよ。変な言いがかりはよしてくれ。さては君、欲求不満なんじゃないの?」
慌てて否定するあまり、口を滑らせた。悪役貴族に対する侮辱。1番やってはいけないタブー。失言に気づいた時にはもう遅かった。
「あァ……そうだなァ。たしかに近頃は欲求不満かもしンねェなァ。なンだったら、てめェで解消してやろうかァ? あァン!?」
もうなんなのこの人。怖すぎる。泣きそう。
「待ちたまえ。さすがに見過ごせないな」
「あァん? チッ……優等生のお出ましかァ」
颯爽と現れたのは僕のクラスの委員長。純白の制服とマントを靡かせ、僕を背に庇い、悪役貴族に立ち向かう。よかったー助かった。
「あなたが欲求不満なら、恋人である私に解消する義務がある。浮気は絶対に許さない」
んん? なんだこの状況は。どういうご関係?
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1701698053
「ケッ……一度抱いたくらいで恋人気取りかァ? てめェなンざ、俺とは釣り合わねェよ」
「だから私は努力している。成績だってあなたに次いで学年次席だし毎日お弁当だって作っている。あなたは食べてくれないけど」
「炭が詰まった弁当なンざ食えるかァ!!」
「口ではそう言いつつも、あなたはその炭を花壇に撒いて、私の好きなお花の肥料にしてくれる。そんな優しいあなたを、私は……」
「勘違いすンじゃねェ! あの花は俺の許嫁が好きな花なンだよ!! まさかその許嫁が同じ学園に通ってるとは思わなかったがなァ」
「なに? ま、まさか! 君が彼の許嫁……?」
「ヒトチガイデスヨー?」
もうなんなのこの状況。修羅場ってやつだろうか。別に束縛するつもりはないから好きに恋愛して、僕との婚約を解消して貰いたい。
「やれやれ。これでは私はとんだ道化だな。浮気相手は私のほうだったとは……覚悟は出来てる。後は煮るなり焼くなり好きに……」
「ちょっと待てェ……魔が差して抱いちまったのは俺の落ち度だ。すまん……悪かった」
どうでもいいっての。ほっといてくれない?
「彼もこう言ってることだし、私が言うのもなんだが……許してやってはくれないか?」
「は?」
なに言ってんのこの女。虫が良すぎない?
「君が怒るのも無理はない。彼はたしかに良い殿方だ。彼以上の傑物は存在しない。だからこそ、今回のような諍いが生じてしまう。だからどうだろう? 独り占めするのではなく分かち合うというのは? そうするべきだよ」
「いや、僕はそもそもこんな奴いらないよ」
「はぁ~やれやれ。まったく素直じゃないな。君がそんなだから浮気されるんだぞ?」
あーイライラしてきた。殴りたい。心から。
「おい、お前ェ……そもそもなンで、そンな格好してこの学園に通ってんだァ?」
なんでも何も今みたいな状況に陥りたくないから。確かに僕の婚約者は顔立ちが整ってるので、こうなることは予想の範疇だったし。
「あァン? ほっぺた膨らんでンぞォ?」
触んなし。ツンツンすんなし。ほっとけし。
「チッ……安心しろォ。抱いたつっても最後までしてねェっての。当たり前だろォ?」
「知らないし。興味ないし。あっち行けし」
「やれやれ。本当に素直じゃないね、君は」
うるさいぞ、浮気女。どうせ土壇場になって怖くて腰が引けたんだろ。そもそもお前が僕の婚約者を誘惑したんじゃないのか? 絶対そうだ。そうに決まってる。でも残念でした。
「俺が愛してンのはお前だけだ。ンな当たり前のことなンざ、言わなくてもわかンだろ」
「……バカたれ」
知ってるし。言うなし。照れるし。アホめ。
くそ。だから嫌なんだ。どれだけ嫌っても。
どれだけ距離を置いても一言で落とされる。
「ンな格好してても、てめェはキレイだな」
「っ……もぉ」
最終的に。僕は今宵、悪役貴族に恋をする。
「あーあ……振られてしまったか。しかし、私は諦めないぞ。まだ我々は学生の身分。チャンスはいくらでもある……では、またな」
もう来んなし。てゆーか、震え声じゃない?
ちょっと泣いてるし。負けて悔しい癖にさ。
惨めすぎるから慈悲を与えたくなるじゃん。
「委員長。この先の学園生活で僕を守ってくれるなら……こいつの近くに居てもいいよ」
どのみちボディガードは必要だ。卒業するまでに孕まされたら困る。だから委員長が身代わりになってくれたらいい。卒業するまで。
「でも卒業したら……返してね」
「さて……約束は出来かねるな」
まあ、そういうものだろう。約束なんて当てにならない。破られるのが怖いから、僕はこれからも悪役貴族とは距離を置いて過ごす。
【僕は今宵、悪役貴族に恋をする】
FIN
おつおつ
何度か続けたら
僕は今宵、悪役貴族にうんこをする になるんだろ
クラスの変わり者が揉め事を起こして始まる一次創作 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1699519196/)
まだお前が立てたスレ残ってんだろ
クソスレ乱立すんな
最初に依頼スレに書き込んだらまとめサイトじゃ
その後の内容はまとめて貰えないんやで
単発のスカトロスレばかり投げてたせいで
そんな基本も知らないんやなあ
スカトロパイの実くんは暫くの間
毎日深夜にパクりまみれの薄くて痛い内容を投げ続けて自己満足に浸るんだろうねえ
「んぅ……あれ? どこいくの……?」
「あァン? なんだ、起きたのかァ。俺は毎朝走ってンだよ。お前はそのまま寝とけェ」
「うん……気をつけて。行ってらっしゃい」
「あァ……じゃあな」
朝、目が覚めると隣には誰もおらず室内を見渡すと僕の婚約者がジョギングに出かけるところだった。寝室を出る前に優しく頭を撫でてから額にキスしてくれた。幸せな気分だ。
「結婚したら毎朝こんな感じなのかな……」
そう独りごちて思わずにやける。そのまま二度寝しようとしてようやく僕は我に返った。
待て待て待て。なんだ今のは。夢か現実か?
「くかー……んふふ……まったく甘えん坊め」
「げ。委員長……なんでいるんだよ」
ベッドの反対側に何故か僕のクラスの委員長が寝ていた。いつもの凛々しさとはかけ離れた、だらしない笑みを浮かべている。どんな夢を見ているのやら。あ、おへそが出てる。
「ていうか、僕も何も着てないし……」
恐る恐る掛け布団の中を覗くとすっぽんぽんだった。何やってんだ僕は。最近こんな目覚めしかしていない。距離を置くって決めたのに。なんだかんだ婚約者の部屋に通ってる。
「これも全て、このポンコツ委員長が全然役に立たないせいだ。なんだよ、着痩せするとかさぁ。どこにそんな凶器隠してたんだよ」
委員長は意外と発育が豊かだった。鶏ガラみたいな僕とは雲泥の差だ。普段は高い位置で結んでいる黒髪もツヤツヤで魅力的だった。
「おはようごさいます、奥様」
「おはよ。まだ奥様じゃないけど」
「これは失礼しました、若奥様」
とりあえず服を着て寝室を出ると2人のメイドが出迎えた。この子たちは僕の婚約者が奴隷市場で仕入れてきた双子らしく判別が困難なほどによく似ている。てか誰が若奥様だ。
「お食事にしますか? お風呂にしますか?」
「若様からはもうしばらく寝かせるようにと言付かっておりますが……」
「もう目が覚めちゃったからさ。あいつって毎朝どのくらい走ってるの?」
「若様は1時間はお戻りになられません」
「ふーん。ちなみに朝食はもう出来てる?」
「申し訳ございません。すぐに取り掛かりますので、今しばらくお待ちくださいませ」
「ああ、いいよ。僕が作るから」
「ええっ!?」
「わ、若奥様が、直々に!?」
なんかめちゃくちゃ驚かれた。まあ、貴族の女の子は料理しないからね。まあ、この子たちの仕事を奪ってしまうから、本来ならば控えるべきなんだけど、たまにはいいだろう。
「君たちは寝坊助委員長を起こしてきて」
「かしこまりました」
「しかしあの方はどうも寝起きが悪く……」
「手荒でも構わないよ。ベッドから叩き落とせばいくら委員長でも起きるでしょ」
「仰せのままに」
恭しく手渡されたエプロンを巻いて、髪を結おうとして切ったことを思い出す。長かった髪が懐かしい。そう考えると、今の僕を許嫁だと認識できた婚約者はたいしたもんだな。
「ま、今回はそのご褒美ってことで」
「ふぎゃっ!?」
寝室から、寝起きの委員長の悲鳴が響いた。
「おォい、ちょっとツラ貸せェ」
お手軽にサンドイッチを作ってから同じ寮内の自分の部屋へと帰宅して、男子用の学生服に着替えてから登校した僕は、お昼休みに、いかにも悪役貴族な婚約者に絡まれていた。
「なに? 学園内では絡んで来ないでよ」
「てめェ……いつの間に料理なンざ……」
「ああ、あれ? あれは委員長が作ったんだよ。本人からそう聞かなかった?」
「ケッ。あの優等生が嘘をつけるわけねェだろォが。ハッハァ! 人選を誤ったなァ?」
つくづく使えないポンコツ委員長め。だったらあの双子メイドが作ったことにしとけば良かっただろうか。しかし、あの2人の手料理なんて食べ慣れてるわけで結局はバレたか。
「そもそも俺ァ朝は食わねェんだよ」
「あっそ。余計なことして悪かったね」
「あァン? ちげェなァ。そうじゃねェ」
何が言いたいんだと訝しむと抱きしめられ。
「最ッ高ォに美味かった。ありがとなァ」
「……バカたれ」
こいつは本当に。悪役貴族の癖に軽々しくお礼を言うなよな。暫くはこいつの部屋に行くつもりはなかったのに。朝食なんて、結婚するまではお預けのつもりだったのに。もぉ。
「そォいやあの優等生の弁当も少しはマシになってたが……あれもてめェの仕業かァ?」
「しーらない」
婚約者に炭を食べさせ続けるのは阻止した。
【僕は黎明、悪役貴族に餌付けする】
FIN
>>8
自演バレバレやぞ
文章が意味不明すぎるでw
「許嫁殿、これで本当に大丈夫なんだな?」
「うん、大丈夫。あとは焼くだけだからさ」
その日、僕と委員長は休日ということもありお菓子作りに精を出していた。個人的に普通のクッキーよりもサブレのほうが好きなのでバター多めの焼き菓子である。良い匂いだ。
「よし! 5時間くらい焼けば完成だな!」
「5時間焼けば立派な炭の出来上がりだね」
この通り、委員長は壊滅的に料理が出来ない。なので生地はもちろん僕が作り、委員長は形を整えただけだ。大きさにやたら拘り、巨大なサブレ1枚だけが、委員長の造形だ。
ちなみに僕はなんとなく、鳩の形に作った。
「楽しみだな。喜ぶ顔が目に浮かぶ」
「どうだか」
あいつの喜ぶ顔なんて、どうせ邪悪に決まっているだろうけど、悪党特有の無駄に爽快感がある笑い声は嫌いではないかも知れない。
「奥様、お迎えにあがりました」
「だから奥様じゃないってば」
「これは失礼しました、若奥様」
ちょうどサブレが焼き上がった頃、悪役貴族の使いである双子メイドが現れた。何度言っても奥様扱いするメイドたちに連れられて、焼きたてのサブレを手土産として、あいつの部屋に向かうと、当然のように呼ばれてもない委員長がついてくる。たいしたもんだよ。
「若様、若奥様とお客様をお連れしました」
「おォ、来たか。まァ、テキトーに座れェ」
悪の巣窟に足を踏み入れると、悪役貴族は読書をしていたようで本から顔をあげて僕らを出迎えた。いや、出迎えてない。しかし、小難しそうな本に目を通している姿を見ると、怠惰なのか勤勉なのか判断がつかなかった。
「今日はえーと、なんだったか……」
「サブレ」
「そう! サブレを焼いてきたんだ!」
「ハッ! 焼き菓子ってことは、まさか5時間も焼いて炭化してねェだろォなァ?」
「ギクッ! あ、はは……なんのことやら」
ご明察。だけど大丈夫。時間指定で焼いた。
「おォい、焼き菓子に合う紅茶を出せェ」
「かしこまりました」
「すぐにお出しします」
双子メイドがテキパキと上等な茶葉を取り出して紅茶を淹れる。すっきりとした香りと甘いバターの香りだけで、もう美味しそうだ。
「ほら、委員長」
「ほ、本当に私でいいのか? きっと許嫁殿がやってあげたほうが喜ぶと思うが……」
「いいから、やって」
サブレ作りを教える代わりに、委員長には司令を与えていた。内容は簡単で単純。手作りサブレを、僕の婚約者にあーんする役目だ。
「あ、あーん」
「あァン? 何のつもりだァ?」
「きゅ、急に振り向くな! あっ……」
意を決して、あーんを敢行した委員長だったが前のめりすぎたのか、振り向いた悪役貴族とサブレが接触。無駄にデカいサブレが割れてしまった。本当にポンコツ委員長で困る。
「あぅ……せっかく上手に出来たのに……」
「拾えェ」
「え? でも、床に落ちたぞ……?」
「いいからさっさと拾えェ!!」
言われるがまま、委員長が床に落ちたサブレを拾い集めると、そのひと欠片をつまんで口に放り込んだ。そのまま咀嚼して催促する。
「次だァ。もっとよこせェ!」
「あ、うん……えへへ、美味しいか?」
「あァ……そうだなァ。ハッハァー! てめェが作ったとは思えないくらい美味いなァ」
何もかもお見通しみたいな顔をして。思った通りの邪悪な笑みを浮かべて。僕の婚約者は委員長にあーんされてご満悦だ。むかつく。
「ぐぬぬぬ……!」
「お、奥様……?」
「お顔色が優れませんが……?」
僕の計画では委員長があーんするも婚約者は食べず、仕方なく僕があーんしてやる予定だった。サブレが割れるアクシデントがあったとはいえ、他の女の手から餌を貰うなんて言語道断。これは完全に浮気だ。だ、駄犬め。
「メイドちゃんたち、あーん」
「へ? お、奥様……?」
「わ、私たちにくださるのですか……?」
「僕はそもそも君たちのために作ったんだ」
待ても出来ない駄犬にお仕置きするためにメイドにご褒美を与える。この子たちはなんだかんだ甲斐甲斐しく僕の世話をしてくれる。
この部屋に来ると、まるで僕が主人のよう。
「ほら、遠慮しないで僕の隣にお座り」
「は、はあ……では、失礼します」
「お、仰せのままに」
素直にソファに座ったメイドたちにサブレを差し出して交互にあーんしてあげた。口が渇くだろうからついでに紅茶も注いであげる。
「美味しい?」
「はい! とっても!」
「でも、これは若様のために奥様が……」
「いーのいーの。僕らだけで食べちゃおう」
あんな駄犬は、床に落ちたのだけで充分だ。
「やれやれ。だから最初から素直に自分で食べさせてあげたら良かったのに……」
「なんか言った? 浮気女」
「そもそも許嫁殿が素直になれば……!」
「ほっとけェ、もっと近くに寄れェ」
「わわっ!」
口答えしてきた委員長を睨みつけると、駄犬が肩を引き寄せて膝に座らせた。そのまま抱き寄せて、邪悪に嘲る。あったまにきたぞ。
「メイドちゃん! もっとそばに寄って!」
「は、はい!」
「こ、こうですか?」
「もっと! 僕に抱きついて!」
「お、奥様……あったかい」
「いい香りがします……」
へへーん。こっちは両手に花だ。参ったか!
「チッ……掴まってろォ、河岸変えンぞォ」
「へ? うわっ! ど、どこに行くんだ!?」
「寝室に決まってンだろォがァ」
あいつめ。分が悪いと察したか、尻尾を巻いて逃げようとしてるぞ。しかも委員長をお姫様抱っこして、最後まで僕を挑発してきた。
「ハッ! てめェはそこでメイドと戯れてろ」
バタンと扉が閉まる。最低の駄犬だ。屑め。
「お、奥様……?」
「謝って許して頂いたほうが……」
「僕は絶対に謝らない」
そもそもあいつが他の女から食べ物を恵んで貰った時点で悪い。なのにアクシデントのせいで美談みたくなってるのがおかしいんだ。
「寝室に突撃する」
「ふぇええ!?」
「お、奥様、お考え直されたほうが……」
「君たちも連れていくよ」
「わ、私たちもですか!?」
「たしかに、若様よりいつ何時も奥様を最優先するように仰せ使っておりますが……」
余計なお世話だ。でも、嬉しいのが悔しい。
「じゃあ、僕の決定は絶対だね」
「はい……どこまでも」
「いつまでも、お供いたします」
「ならば、悪役貴族の寝室にいざゆかん!」
ドアを開けると委員長が全裸で縛られてた。
現行犯であり御用だ。悪役貴族を退治する。
緊縛委員長を押し倒している浮気者の背中にのしかかり、メイドちゃんたちが委員長をベッドの上から排除して、婚約者の首を絞め、メイドちゃんたちに必死に止められて、僕は泣き喚き、そこから先はよく覚えていない。
「んぅ……おはよ」
「おォ……起きたかァ。ハッハァ! てめェはこの俺よりも悪役貴族みてェだなァ!」
朝起きると僕は両脇に全裸の双子メイドたちを抱いていた。わざわざ確認するまでもなく僕も全裸である。よもや悪役貴族に悪役貴族呼ばわりされる日が来ようとは。世も末だ。
「肩とか首、ごめんね。痛くない……?」
「あァン? こンなのかすり傷だっての」
日課のジョギングに出かけるために着替えている婚約者の肩や首筋にくっきりと歯形がついている。言うまでもなく僕の歯形だった。
「この子たち、いい子だね……」
「どォやら気に入ったようだなァ」
両脇のメイドちゃんたちはすやすや寝てる。
結構無茶をした気がするけど最後までついてきてくれた。2人とも僕より発育が良いな。
「大事にしてあげなよ?」
「あァン?」
婚約者は何言ってんだこいつみたいな顔で。
「俺のもンはいずれ全て、てめェのもンになる。だからてめェが大事にしてやれ」
「うん……わかった」
朝だからだろうか。僕は素直に頷き従った。
「ハッ……やけに素直じゃねェか」
揶揄うようにくしゃくしゃと僕の短い髪を撫でる婚約者がたまらなく愛おしい。思わず袖を通したジャージの裾を引き、引き寄せて。
「ん……いってらっしゃい」
「ハッハァ! マラソンでも走れそうだなァ」
僕のキスには、42.195キロのパワーがある。
【僕は昨夜、悪役貴族を退治した】
FIN
最後ひっどいなあ
キロメートルとキログラムの区別もついていない池沼なん?
「ねえ、双子ちゃんたち、なんかあった?」
「だいたいてめェのせいだァ」
その日、双子メイドちゃんたちの様子がおかしかった。いつもは肩を寄せ合うくらいにくっついるのに、この日は距離が離れていた。
「僕のせいってどういうこと?」
「ケンカしたんだとよォ」
「ケンカ? なんで?」
「なンでも、てめェがどっちが好きかで揉めたらしいぜ。ハッ! モテモテじゃねェか」
どっちが好きって、どっちも好きだけど。でもまあ、モテることは素直に嬉しい。ただケンカはよくないから早く仲直りするべきだ。
「2人とも、ちょっとおいで」
「はい、奥様」
「なんでしょう、奥様」
機敏に僕の前にきたメイドたち。近頃はどっちが姉でどっちが妹かわかるようになった。
ひとまずはお姉ちゃんのほうから聴取する。
「妹ちゃんと何かあったの?」
「妹は奥様に甘えすぎなんです」
たしかに妹ちゃんのほうが甘え上手かもしれない。お姉ちゃんのほうは控えめというか、常日頃から我慢しているのだろう。手招く。
「お姉ちゃんも甘えていいんだよ?」
「ですが、私どもはあくまでメイドで……」
「建前なんかどうでもいいよ。君はきっと、お姉さんという立場だから妹ちゃんのことを思って遠慮してるんでしょ? 優しいもんね」
お姉ちゃんのほうはしっかりしている。立場や建前を重視しているのだろう。とはいえ、僕はやっぱり、平等に接するべきだと思う。
「僕に出来ることならなんでも言ってよ」
「なんでも……ですか」
「うん。遠慮はいらないよ」
するとお姉ちゃんはチラチラ妹を見ながら。
「ぎゅっと……抱きしめて欲しいです」
「お易い御用だよ。はい、ぎゅー」
「はぅ……ありがとうございます」
ぎゅっと抱きしめると、身体が熱かった。
「妹ちゃんもぎゅーする?」
「私はほっぺに口付けを……」
「ちょっと! いい加減にしなさい!」
「そうやって我慢ばかりして。お姉ちゃんだって奥様にちゅーして欲しい癖に」
「私は、たまに……気が向いた時にでも……」
素直な妹ちゃんと素直になれないお姉ちゃん。なんて可愛いんだろうか。でもケンカは良くない。だから僕は2人にキスをしよう。
「はい、これで仲直り」
「奥様……幸せです」
「お姉ちゃんを甘やかして頂き嬉しいです」
「僕のほうこそ懐いてくれてありがとね。君たちと一緒にいられてとても幸せ……ん?」
これにて一件落着と思いきや、ふと隣を見ると委員長と婚約者が口付けを交わしていた。
静かだなと思ったら、こいつら浮気してた。
「なにやってんの?」
「あァン? 見せもンじゃねェぞォ」
「許嫁殿の代わりにお勤めを果たしてる」
「へー。ふーん。まあいいけどさ」
この浮気者どもは完全に開き直っていた。
僕の隣でよくもまあそんな真似が出来る。
とはいえ、僕は大人なので気にしないぞ。
「あっ……そんな、服に手を入れたら……」
「どうせ脱がすンだから気にすんなァ」
馬鹿みたい。そんなんで僕は乗せられない。
「ひぅっ……お、奥様……手が……」
「もっとしてください……」
ああ、悪い手だ。恥ずかしがり屋のお姉ちゃんと積極的な妹ちゃんを無意識に弄ってしまった。いけないな。悪役貴族になっちゃう。
「先にベッドを借りるよ」
「好きにしろォ。俺らは先に風呂だァ」
婚約者を睨みつけて、ふんっと鼻を鳴らす。
すると奴はハッと鼻で笑ってきた。本当にむかつく。でも、何故かムラムラする不思議。
「おォい、寝ちまったかァ……?」
「……まだ起きてるよ」
「寝れねェんだろォ?」
「そっちこそ」
色々と終えたあとに、僕らは反省会をする。
みんな寝静まり、ようやく2人きりだから。
溜まりに溜まった鬱憤を、発散する時間だ。
「で? 委員長のキス、そんなに良かった?」
「てめェとのほうが格別に決まってンだろ」
「……したいならしてあげる」
「ハッ……こっちの台詞だァ」
ずっとしたかった。いつまでもしてられる。
僕はどうしても素直になれない。でもだからこそ、このひと時が格別に感じるのだろう。
「んっ……はぁっ……僕が支配したい」
「ハッハァ! てめェはそれだからたまらねェ……お前だけが、俺の理想的な許嫁だァ」
「あんっ……はあはあ……バカたれ」
いつの日か悪役貴族を犬みたいに従えたい。
【僕は深夜、悪役貴族とキスに耽る】
FIN
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、奥様」
「お食事はもう少々お待ちください」
この頃はわざわざ自分の部屋を経由するのが面倒で悪役貴族の部屋に直帰している。途中、何人かの下級生の女の子に告白された。
なのでその件でマウントを取ろうとしたら。
「おォ……帰ったかァ」
「ん? なんでお風呂上がりなの?」
婚約者は、濡れた髪をタオルで拭いていた。
「ハッ! てめェの帰りが遅いからだァ」
「あ、そう……そういうことね」
「お、お待ちください奥様!」
「寝室にはまだお入りにならないほうが!」
メイドたちの制止を振り切って寝室の扉を開けると全裸の委員長が疲れ果てて寝ていた。
まあ、予想通りさ。万年発情期の駄犬めぇ。
「浮気女の委員長は晩御飯抜きで」
「かしこまりました」
「仰せのままに」
メイドたちに指示を出して、ふんと鼻を鳴らして扉を閉めようとした直前。"ソレ"に目が留まった。委員長の証。純白の制服である。
「じゃーん! どう?」
「あァン? って、お前ェ、その格好……」
久しぶりの女子の制服。足がスースーする。
「かわいい?」
「チッ……言わなくてもわかンだろォがァ」
ほう。言わないつもりか。なら考えがある。
「よいしょっと」
「っ……てめェ、なンのつもりだァ?」
婚約者の膝に乗り、胸に片耳を当ててみる。
「心臓の音を聞いてるの」
「だァからァ、それになンの意味が」
「シッ……お黙り。静かにして」
ドクンドクンがドクドクと速くなってきた。
「……気がすんだかァ?」
「ん……もうちょっとだけ」
「俺ァ気が短けェんだよ」
顎を掴まれてキスされそうになったけれど。
「はい、ストップ」
「もがっ!?」
手のひらで婚約者の口を押さえて、囁いた。
「残念でした……バ・カ・た・れ」
「てめェ……俺よりも性格悪いよなァ」
はーすっきりした。悪役貴族へのお仕置きを終えて膝から降りる。純白の制服の袖口を嗅ぐと、当然ながら委員長臭かった。すると。
「奥様、お風呂の準備は出来ております」
「どうか早急にお召し替えくださいませ」
「ありがと。さすが僕のメイドちゃんたち」
「はぅ……お褒めの言葉、恐悦至極です」
「奥様のために、これからも尽くします」
ポイポイっと下着まで脱ぎ捨て、チラッと婚約者を振り向くと口元を押さえて赤面していたので気分が良い。さ、お風呂お風呂っと。
「勝手に私の服を持ちだすな、許嫁殿」
「勝手に僕の婚約者に抱かれるな、浮気女」
広い湯船に浸かりリラックスしていると、目を覚ました委員長が殴り込んできた。当然ながら、浴室なので全裸である。デ、デカい。
「今日は許嫁殿の帰りが遅いのが悪い」
「満足そうに寝てた癖に……」
「どこかの許嫁殿のせいで服がなく、寝起きは最悪だったが……やれやれ。まあいいさ、水に流してやろう」
「うわっ……ちょっと近くにこないでよ」
「ふぅ~極楽極楽」
掛け湯をしてから湯船に浸かる委員長は、やたら近い。スベスベの肌が肩に触れる距離。
お団子にまとめた黒髪。うなじがやらしい。
「委員長……えっちすぎ」
「許嫁殿だって、なかなかではないか」
は? どこがだよ。僕なんてぺったんこだぞ。
「許嫁殿は知らないのだ」
「知らないって、何がさ」
「彼が私を抱く時は毎回許嫁殿の名を囁く」
「げほっ……は、はあ!? なんだよそれ!」
「それがまた堪らんのだ。ゾクゾクする」
ちょっとでも気の毒に思った僕が馬鹿だった。委員長はある意味すごい。えっちな委員長を求めてやまない男どもは大勢居るだろうけど当の委員長が求める背徳感はきっとあの悪役貴族にしか与えられない。数奇な運命。
「まあ……浮気相手が委員長で良かったよ」
「うむ! 私に感謝するがいい! あっはっは」
「なに笑ってんのさ……バカたれ」
その清々しい愚かさに免じ夕食を与えよう。
【僕は夕刻、浮気相手と湯船に浸かる】
FIN
「どうしたの、委員長? 具合悪いの?」
ある日のこと。今日は期末テストの答案が返ってきてクラスメイトは一喜一憂していた。
そんな中で、委員長は机に突っ伏している。
「うう……テストの順位が……」
「どれどれ……おお! また2番じゃん」
「母上に叱られる……どうしよう」
委員長はこんなんでも優秀だ。順位は2位。
ちなみに1位は入学してからずっと僕の婚約者である。こいつらいつ勉強してんだろう。
「2番じゃだめなの?」
「私の母上は厳しくてな……1番になれねーならさっさと国に帰ってこい!って怒るんだ」
委員長のお母さんかぁ。見ての通り、黒髪の委員長は外国からの留学生だ。東の帝国の人たちは黒髪が特徴である。強制送還は困る。
「お母様に僕からお願いしてあげようか?」
「それは本当か、許嫁殿!?」
「うん。委員長がいなくなったら大変だし」
まず間違いなく僕は秒で妊娠するだろう。それに委員長なしだとあいつとの距離感が掴み難い。そうした意味では良い緩衝材である。
「ならば早速、スマホでメッセージを……」
「すまほ?」
「ああ、この国では圏外だったな……では手紙にしよう。やはり持つべきものは友だな」
「別に、友達じゃないし……ま、いいけど」
とか言いつつも満更ではない。というかどのみち、手紙には友達を転校させないでくださいと書くほかないのだ。仕方ないなーもぉ。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、奥様」
「たのもー! 今日も邪魔するぞ!」
「若様がお休みなのでお静かに願います」
ポストにお手紙を投函して悪役貴族の巣窟へと帰った。道中、何故か委員長が手を繋いできて恥ずかしかった。僕がやめてって言っても仲良しは手を繋ぐものだとか言って離してくれないし。カップルだと思われるじゃん。
「あいつ、寝てるの?」
「はい。恐らくは勉強疲れかと」
「ふむ。それなら許嫁殿、私に妙案がある」
「お耳を貸さないほうがよろしいかと」
「このメイド……失礼すぎないか?」
「聞くだけ聞いてあげる。妙案ってなに?」
僕の忠実なるメイドたちに冷たくあしらわれて涙目の委員長の妙案とやらを聞くことに。
どうせろくでもない妙案だろうと思いきや。
「許嫁殿、これは素直になるチャンスだぞ」
「チャンスって何が?」
「彼が寝てる時なら素直になれるだろう?」
ふむ。なるほど、確かに……って、いやいや。
「そもそも、なんで僕がそんなことを……」
「彼は君のために1番を取り続けてるんだ」
「へ? なにそれ、どゆこと?」
「それが婚約の条件らしいぞ」
「そんなの初耳。君たちは知ってた?」
「はい……実はその通りでございます」
「若様からは口止めされておりました」
メイドたちに確認すると事実らしい。僕は別に1番じゃなくたっていいのに。でも僕のために頑張ってるなら、ご褒美をあげないと。
「でも、いきなり素直にって言ったって」
「なに、思いの丈をそのまま言えばいい」
「簡単に言うけどさ……まあ、頑張るよ」
「奥様、ご武運を」
「美味しいお食事をご用意しておきます」
僕はドキドキしながら寝室へと踏み入れた。
「おーい……寝てる?」
返事はない。僕の婚約者は学生服のまま、ベッドの脇のテーブルに突っ伏して寝ていた。
肩にかけられたタオルケットはメイドちゃんたちが用意したのだろう。そっと寝顔を覗き込むと、改めて、端正な顔立ちだと思った。
普段のような邪悪な笑みも、鋭い眼光も鳴りを潜めて、僕の婚約者は若干幼くも見えた。
「えーと……とりあえず、テストお疲れ様」
返事はない。これでいいのか。もっと何か。
「あとは……その……あ、ありがとう」
違う。僕が言いたいのは、そうじゃなくて。
「……好き」
思えば初めて言ったかも。込み上げてくる。
「僕はその、なかなか素直になれなくて……この学園に入学したのも、会ったこともない婚約者がどんな人か気になって……そしたらめちゃくちゃ怖そうで、女の子にモテモテで。だから僕は、結婚する自信がさ……すっかりなくなっちゃって。それでこんな格好して、陰から見てるしかなくて……ごめんね」
そんなつもりはなかったのに。言葉と共に涙も止まらなかった。寝てる人に言い訳したって、謝ったって意味ないのに。だけど僕は。
「ぐすっ……だけど僕は……素直になれない」
「ハッ……別に良いンじゃねェのかァ?」
「へ? は、はあっ!? お、起きてたの!?」
むくりと身を起こした悪役貴族。でもいつものように嘲笑うでもなく優しい眼差しで見つめてくる。そっと涙を拭う手つきも優しい。
「てめェが素直だろうが、素直じゃなかろうが……俺ァ、てめェを愛してる。だから、そンなどうでもいいことで泣くンじゃねェよ」
ずるい。卑怯だ。むかつく。全然上手くいかない。何がチャンスだ。ポンコツ委員長め。
嫌だ。優しくすんな。素直になりたいのに素直になれない自分が、嫌いでしょうがない。
「僕を……憐れまないで」
「ハッ! ちげェなァ。欲情してるだけだァ」
「……バカたれ」
本当に最低だ。僕はこんなに優しくされて、こんなことしか言えない。同情や憐憫を誘う涙は、枯れ果てることがない。悔しかった。
「……キスさせてよ」
「泣いてる女を抱くのは趣味じゃねェ。まずは飯が先だァ。その前に、顔ォ洗ってこい」
「……いじわる」
「ハッハァ! なンせ俺ァ悪役貴族だからな」
僕の婚約者は甘く優しい素敵な悪役貴族だ。
【僕は夕食後、悪役貴族にキスをせがむ】
FIN
ただただキモい中年童貞の妄想
ハルヒあたりで時間が止まってるんだろうな
それは若いという意味ではない
後戻りもできないが先に進む勇気もないという意味
「甘やかされてるだけじゃダメになる!」
僕の婚約者はとっても優しい。たぶん素直に甘えていれば無限に幸せを供給してくれるのだろう。だけどそれじゃあ幸せを見失ってしまう。そもそもあの悪役貴族は浮気者だ。昨夜だって委員長を抱いていた。浮気なんて大炎上の源である。人が背負う原罪と言っても過言ではない。だけど僕は寛大に、その痴態を見ながらメイドちゃんたちに慰められ……いや、そんなことよりも幸せは自分で掴む。
「奥様、甘いジャムはお嫌いでしたか?」
「バターやマーガリンもご用意してますが」
「僕は甘くてほろ苦いマーマレードが好きだから……って、そうじゃない。こほん。君たち何か欲しいものはある? 日頃のお礼がしたいんだ」
とある休日。朝食として焼いてくれたパンを食べながら、毎日甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるメイドたちにそう訊ねるも首を振り。
「奥様からは多くのものを頂いております」
「奥様と暮らすようになってから、私たちは毎日が楽しいですし、若様もお喜びです」
欲のない子たちだ。でも僕の気が済まない。
「委員長。城下行きの馬車を手配できる?」
「許嫁殿、まさか城下に"お出まし"するつもりか? もしもバレたら大騒ぎになるぞ」
あいつの許嫁だとバレてからも委員長は態度が変わらなかったからワンチャン僕の正体に気づいてないかと思ったけど違ったらしい。
「なんだ、知ってたの?」
「当然だ。そこで、私に妙案がある」
「また妙案?」
「ああ。さっと行って、ぱっと帰ればいい」
言いたいことはわかるけど、それが難しい。
「馬車でも行って帰るまでに夜になるよ」
「私が本国から乗ってきたバイクを使う」
「へーバイクかぁ……乗ってみたいかも」
「いけません、奥様」
「あまりに危険すぎます」
この国では、ほとんど見かけない乗り物だ。
お城にある何台かのクルマやバイクは全て、委員長の故郷である東の帝国からの贈り物である。あれ一度は乗ってみたかったんだよ。
「心配しなくても大丈夫だ。荷物を載せるための側車付きだから落っことすことはない」
「だったら安心だね。じゃあ、すぐ行こう」
「お、お待ちください、奥様」
「何かあったら若様になんと言えば……」
「へーきへーき。僕には秘策があるからさ」
というわけで、あいつがジョギングから帰ってくる前に、僕は委員長が駆るバイクの側車に飛び乗って、城下へと向けて走り出した。
「うわぁー! すごーい! はやーい!」
「きちんと舗装されていたらもっと飛ばせるんだがな。もう少し走れば道もマシになる」
バイクは最高だった。もっと流行ればいい。
「僕の国でも馬車なんかやめて、バイクやクルマで移動する人が増えないかなぁ」
「彼はそんな未来を目指しているようだぞ」
言われてみればたしかにあいつが読んでる本は工業系の難しい内容のものが多い。時折、こうしたバイクやクルマの雑誌も読んでる。
「あいつの実家、帝国のすぐ近くだからね」
「聡明な人だからな。彼が跡を継げば帝国との交易も盛んとなり著しく発展するだろう」
そんな未来を語っていると城下へと着いた。
「うむ! いつ見ても立派なお城だな!」
「まあね。周りは畑ばっかだけど……ん?」
天高く聳えるお城の天守閣を眺めていると、ドンドン!と花火が上がった。バレてんな。
何が妙案だよ。そもそも僕よりバイクのほうが目立ってんじゃんか。ポンコツ委員長め。
「委員長、あのお店にいきたい。城の連中が来る前にさっさとお買い物を済ませないと」
「了解した。裏口に停めるからな。店内に入るまで、ヘルメットは脱がないほうがいい」
「うん。わかった」
まあ、ヘルメットなんてなくても今の僕の短い髪で、正体に気づく人なんてほとんどいないだろうけど。学園でも全然バレてないし。
とはいえ、このお店の主人にはわかる筈だ。
ヘルメットのまま店内に入ると、驚かれた。
「ひぃっ! ご、強盗!?」
「む。失礼な。僕の顔を忘れたの?」
「許嫁殿、きっとヘルメットのせいだ」
「ああ、そっか。ごめんね、すぐ取るよ」
「へ? ま、まさか、そのお声は……?」
ヘルメットを脱ぐ。すると真っ青になった。
「こ、これは大変失礼いたしました! まさか店に直々に"お出まし"になられるとは……」
「今日はお忍びなんだ。騒ぎになると困る」
「はあ、なるほど……かしこまりました。それではお連れ様とご一緒に店の奥へどうぞ」
「うむ! くるしゅうないぞ!」
無駄に偉そうな委員長と店の奥に通された。
「よし、買い物終わり。さっさと帰ろう」
「本当に支払いは良かったのか?」
「払うって言っても受け取ってくれないんだから仕方ないよ。なんか僕がこのお店のアクセサリーをつけてるだけで宣伝になるんだってさ。それじゃあ、帰りも運転よろしくね」
「うむ! 安全運転でかっ飛ばすぞ!」
運転のお礼に委員長にはチョーカーを贈呈した。デザインはベルトが黒のレザーで正面のリングにトルマリンと真珠のペンダントトップが垂れ下がっている。とってもかわいいけど、何故か僕までお揃いのものを用意され、委員長はこれで一緒に調教プレイが出来るとはしゃいでいた。いや、しないから絶対に。
「双子ちゃんたちも、喜んでくれるかな?」
「もちろん。許嫁殿が選んだのだからな!」
無意味に自信満々な委員長。僕もたまにそういうところがある。きっと喜んでくれる筈。
真珠とトルマリンの石言葉は、円満と寛大。
「委員長はさ、僕に嫉妬したりしないの?」
「当然するがそもそも浮気者は私だからな。それに母上も妾として私を産んでいるので、その性癖が受け継がれたのだと納得してる」
「性癖って、受け継がれるものなんだ……」
「昨夜の許嫁殿も、随分興奮してただろう」
「な、なんのことかさっぱりわからないよ」
「あっはっは! 理解ある本妻で私は嬉しい」
バカたれめ。これも悪役貴族の妻の役目か。
怒ったり喧嘩したりしながらもそんな関係でいれたらいいなと思いつつ、僕は帰宅した。
「ただいまー」
「ああ、奥様! よくぞご無事で」
「心配しておりました!」
「よしよし……これは日頃の感謝の気持ち」
帰ったら抱きつかれて泣かれた。そんな彼女たちに贈り物を手渡す。小包を手にして揃って小首を傾げる彼女たちの涙を拭い促した。
「開けてみて。気に入るといいけど……」
「あ、はい……失礼します」
「はわ~かわいいイヤリングです」
双子メイドちゃんにはかわいいイヤリング。
赤いガーネットの石言葉は忠誠と真実の愛。
まるでウサギのおめめみたいに愛くるしい。
別々のものにするか最後まで悩んだけど、平等という観点から、まったく同じものした。
「つけてあげるね」
「あ、ありがとうございます」
「く、くすぐったいです……」
照れて真っ赤な2人につけると、想像通り。
「うん。とっても似合ってる。かわいい」
「ほんとですか? お姉ちゃん、見せて!」
「私も見たい……はぅ~……かわいいです」
鏡がなくても互いに見せ合える双子は便利。
「バイク初めて乗ったけど楽しかったよ」
「あァ……まァ、無事でなによりだなァ」
婚約者は少し元気ない。心配していたのだろうか。それとも、委員長のバイクに乗ってみたかったのだろうか。たぶんどっちもだな。
「はい、これ」
「あァン? 女からモノ貰う趣味はねェぞ」
「いいから、受け取って」
婚約者への贈り物はすぐ決まった。パッと見て、これだと思った。ロングのイヤーカフ。
箱から取り出しつけてあげると似合ってる。
これぞまさに悪役貴族って感じのアクセだ。
いろいろ種類があってチェーン付きもある。
「うん。思った通り、カッコかわいい」
「なンだそりゃァ……褒めてンのかァ?」
秘策である贈り物作戦は大成功と言えよう。
「見たらわかるよ。ほら、僕もお揃いだよ」
同じものをつけて見せると婚約者は笑って。
「ハッ! てめェがつけても可愛いだけだな」
「それって、褒めてるの?」
「当たり前だろォがァ。チョーカーも似合ってんな。 ハッハァ! 調教しがいがあるぜェ」
「ほらな、許嫁殿。私の言った通りだろ?」
「はあ。まったく……バカたれどもめ」
まるで耳を婚約者に齧られてるようで好き。
【僕は白昼、側車で城下にお出ましする】
FIN
長編で副題付ける場合、最初に表記するのが常識。
アスペ丸出しで自分ルール曲げられないのは
マジでみっともないだけなんだけどなあ。
「あァン? 俺の手で、なァにしてンだァ?」
「今、爪を黒く塗ってるからじっとしてて」
イヤーカフ悪役貴族は学園内でも評判らしく、城下のアクセショップは大層儲かっているらしい。僕らのチョーカーも流行り、真似をする生徒が続出し、双子メイドのイヤリングまでもが隠れ双子ファン達に好評な模様。
「できた! はい、次は左手ねー」
「お前ェ……俺をどうしてェンだよ」
僕的にもこの名ばかり悪役貴族に箔をつけるべく、日夜デコレーションに勤しんでいる。
爪を黒く塗るのにも全部なのか何本かだけなのか、はたまた片手だけにするべきか悩む。
「うーん。とりあえず片手だけにしとくか」
「ちょっと手ェ貸せェ」
「うわ! なにすんのさ!?」
「うるせェ。じっとしてろォ」
悩んだ末に片手だけのアシンメトリーを選択した僕の手を取り、悪役貴族は邪悪にほくそ笑みながら、ペタペタとマニキュアを塗る。
「俺が右手ならァ、てめェは左手だァ」
「ひどい……汚された」
僕の綺麗な爪が、悪に染まってゆく。しかも無駄に丁寧で上手。あ、そんな……ふーふーすんな。やめろよ。ゾクゾクするじゃんか。
「で? どうなの? 似合うの? 可愛いの?」
「ハッ! 上出来だなァ……感謝しろよォ」
「ふん。そっちこそ僕とお揃いにしたかった癖にさ。感謝して欲しいのは僕のほうだよ」
売り言葉に買い言葉を的確に返しながら、思わずにやけてしまう。手、繋ぎたいな。でも自分からは恥ずかしい。さっさと繋いでよ。
「あ……なんでポッケに手入れんのさ」
「あァン? なンでもいいだろォがァ」
「まったく……せっかく塗ってあげたのに」
ほんとこの駄犬はこれだから、と思いきや。
「チッ。ほらよォ……やる」
「へ? なに、これ?」
「開けてみてのお楽しみだァ」
ポッケから取り出した小箱。手品だろうか。
恐る恐る開けてみるとかわいいピンキーリングが入っていた。慌てて閉じて、確認する。
「ちょ、ちょっとこれ……どうしたの?」
「かっぱらってきたに決まってンだろォ」
「やっぱり!? すぐに返してこないと!」
「おォい! ンな嘘を信じンじゃねェよ!? ちゃんと買ったに決まってンだろォがァ!!」
買ってきたらしい。ということは、つまり。
「もしかして……僕のために?」
「あァ……当たり前だろォがァ」
プレゼントだ。僕への。やばい。嬉しすぎ。
「なンだよ……気に入らなかったのかァ?」
「え、な、なんで……?」
「いつもの"バカたれ"はどォしたンだァ?」
言えるわけない。言えるわけないじゃんか。
普通に嬉しい。とびきり嬉しい。ありえないくらいに嬉しい。胸が高鳴ってる。大好き。
「だ……」
「だァ?」
「あ、う……な、なんでもない」
あっぶない。そのまま大好きって言うところだった。いや、言ってしまえば楽になれたのかもしれない。飲み込んだ好意が暴れてる。
「チッ……難しいモンだなァ」
「へ? な、なにが……?」
「俺ァ、そンなモン買ったことねェからさ」
まさかの初プレゼント。嬉しさが更に倍増。
「気に入らなかったら……悪かったなァ」
「ちがっ……僕は、そうじゃなくて!!」
言わないと。嬉しいって。大好きって早く!
「ま、まあ……せっかくだし、貰っとくよ」
「ハッ! そいつァ、安心したぜェ」
「はあ~……もぉ」
ほっとすんな。自分にガッカリだよ、僕は。
「おォい、ついでだァ。てめェにもやるよ」
「え? もしかして……私にもくれるのか?」
「んん?」
おやおや? 同じ箱を委員長が受け取ったぞ。
「うわぁ~なんてかわいいんだ!」
「チッ……うるせェ。騒ぎすぎだァ」
「ありがとう。一生大事にするからな!」
「要らなくなったら売っぱらっていいぞォ」
「何を馬鹿なことを……ほら、つけてくれ」
「めんどくせェなァ……これでいいかァ?」
「うむ! 本当にありがとう。大好……」
「う、うわああああああああんっ!!!!」
「うわ! 許嫁殿!? どうしたんだ!?」
限界だった。色々と。僕は叫んで、暴れた。
「お、奥様、どうかお気をたしかに……」
「大丈夫ですよ……奥様が1番ですから」
「でも! おんなじピンキーリング!!」
「先に貰ったのは奥様です。重要ですよ」
「落ち着いてください、正妻の余裕です」
「あ、ああ……ごめんよ、僕のメイドたち」
メイドたちに宥められて、落ち着いた僕に。
「ハッハァ! そンなに嬉しかったのかァ?」
「くっ……! こんのっ、バカたれぇえ!!」
「ああ、奥様……」
「おいたわしや……」
そんな極めて無神経な台詞を吐いた駄犬に飛びかかり、第2ラウンドのゴングが鳴った。
僕は勇敢に戦った。最終的に、悪役貴族に寝室へと強制連行され、泣き疲れて、眠った。
「肩と首と手足の歯形、ごめんね」
「あァ……こンなのかすり傷だァ」
朝起きて、いつかのように謝った。だいたいこいつが悪いと思う。だけど過ぎたことだ。
ひと晩経ったら忘れてやるのがきっと悪役貴族の妻としての勤めなのだと自分に言い聞かせる。昨夜も今朝も、変わらず好きだから。
「昨日は言えなかったけど、ありがとね。とってもかわいくて、とっても気に入ってる」
「だったら噛むンじゃねェよ」
「ぐっ……ごめんなさい」
ぐっと堪えて謝ると、悪役貴族は嘲笑って。
「てめェは歯向かってきたほうが可愛いな」
「……バカたれ」
「ハッハァ! そうこなくっちゃなァ!」
ため息と共に僕は小指の紫水晶を見つめる。
アメシストは、僕の婚約者の瞳と同じ色だ。
石言葉には誠実が含まれている。それが嘘か本当かなんてこの妖しい輝きの前にはどうでも良くなる。どうにでもして欲しいくらい。
「気に入った。もう絶対に返さないからね」
「ハッ! だったらてめェは一生持っとけェ」
僕の小指の赤い糸は悪役貴族と繋がってる。
【僕は明朝、悪役貴族と仲直りする】
FIN
良ければ酉付けてくれ>>1だけ見たい
つけるわけねーじゃん
R板に行けと再三言われてもここでスカトロ怪文書の投下続けてた荒らしなんだから
この駄文製造機は人間の話を聞く知能なんか持ち合わせてねえよ
悪役要素も貴族要素も全く作中に無いのが凄い
口調が悪い只のチンピラを自分の理想に見立てて
脳内TSからの自慰とか人前に出したらいけないレベルよ
「さあ! 好きなだけ食べて飲んでくれ!」
その日、委員長が晩餐を用意した。メニューは帝国の郷土料理であるすき焼き。牛肉も帝国産のもので、わざわざ冷凍車という鮮度が悪くならない輸送手段で持ってきたらしい。
ちなみに調理したのは、双子メイドである。
「貰ってばかりでは帝国の名が廃ると、母上が送ってくれたのだ! さあさあ、遠慮せず」
「僕はそんなにお肉は好きじゃないし……」
「帝国の牛肉を甘くみるなよ? 許嫁殿はただでさえ痩せているのだからもっと肉を食え」
そこまで言うならとひとくち食べて驚いた。
「なにこれ……美味しすぎる。今まで僕たちが食べてきた牛肉は牛肉じゃなかったの?」
「あっはっは! そうだろう、そうだろう!」
「ほら、双子ちゃん。君たちもお食べ」
「ありがとうございます……これは確かに」
「ほっぺた落ちそうです~」
帝国の牛肉マジやばい。柔らかくて溶ける。
あとこのスープも美味しい。割下というらしいけどこのレシピは欲しい。甘しょっぱい。
「あァ……この酒もいけるなァ」
「さすがお目が高い。このお酒は上等だぞ」
「ハッ! いくらでも飲めそうだぜェ」
帝国のお酒はワインとは違い、透明でピリッと辛かった。冷えた状態でも美味しいけど、温めて熱燗にするとポカポカして良い気分。
「ただお酒は控えめにな! メインイベントはこれからだから、楽しみにしていたまえ!」
今夜は委員長と出会えて良かったと思えた。
「さて、諸君。いよいよメインイベントだ」
たらふくすき焼きをご馳走になり、委員長が女性陣を先導してほろ酔い気分でお風呂を済ませると、僕らの着替えがなくなっていた。
「僕らの着替えは?」
「諸君らにはこれを着て貰う!」
取り出したのは鮮やか模様で染められた布切れ。それを着るというのはどういうことか。
まさか、身体に巻き付けるつもりなのかな?
「着付けは得意だから安心したまえ」
「本当にそれ、服なの?」
「これは着物の一種で浴衣という、帝国の民族衣装だ。祭りの時や、寝巻きに着るのだ」
祭りは祭典だろう。なのに寝巻きにするの?
「百聞は一見にしかずだ。まず袖を通して、前で合わせて、丈を調整しながら腰紐を締めれば……ほーら完成だ! うむ! かわいいぞ」
「奥様……本当にお綺麗です」
「とてもよくお似合いです」
「本来ならもっと沢山紐を使って、外出時の着崩れを防ぐのだがな。寝巻きなら簡単だ」
パパッと着せられた。生地がサラサラで着心地が良い。でも大股を開いたら合わせ目から足が見えてしまいそう。これが慎みの秘訣か。ていうか、ちょっと待って。おかしい。
「委員長、僕まだ下着をつけてない」
「ああ、これはそういう仕様なのだ」
「へ? どゆこと?」
「下着をつけたら透けるし、生地に下着の線が浮かぶからな。ほーら浴衣双子の完成だ」
説明しながら双子の着付けを終えた委員長。
「2人とも似合ってる。すごくかわいい」
「本当ですか!? お姉ちゃん、見せて!」
「本当にかわいい……でも少し恥ずかしい」
「あと、これはお前たちのご主人様に頼まれて用意した髪飾りだ。帝国では髪飾りをかんざしと言うんだ。これからも精進したまえ」
「わ、若様から……恐悦至極です」
「たんぽぽの髪飾り……光栄です」
双子ちゃんたちの浴衣の柄は紺地に白い百合の花が咲き乱れていて、一見すると派手に見えるが、一歩下がると落ち着いて上品にも見える。はにかむお姉ちゃんと、笑顔な妹ちゃんとのコントラストで双子の魅力が満点だ。
それにしても髪飾りなんて、悪役貴族も粋な計らいを。僕もまた髪が伸びたら欲しいな。
「うむ! 絶景だな!」
「委員長もさっさと着たら? 風邪引くよ」
「おっと、忘れていた。しかし許嫁殿はなんというか……慎ましい身体で着物がよく似合って羨ましいな。私は胸がデカすぎて……」
「黙れ、バカたれ」
あの牛肉いっぱい食べたら僕だってきっと。
マラソンのくだりを出しちゃってる時点で非現実やファンタジーの世界にはできないんだよなあ
それも具体的に42.195とか出しちゃってるんだから
「刮目せよ! 壮観だろう!」
「ハッハァ! 悪役貴族冥利に尽きるぜェ!」
それなりに待たされたであろう悪役貴族は艶やかな僕たちの装いに上機嫌だった。酒瓶が何本も転がっているので酔っているらしい。
「ちょっと、飲みすぎだよ」
「あァン? いいじゃねェかァたまには」
「明日あたま痛くなってもしらないよ」
「そんときァ、てめェに介抱してもらうさ」
注意するも、何故か嬉しそう。普段の邪悪な笑みではなく、なんとなく甘い微笑み。もしかして甘えているのか。悪役貴族が。僕に。
「どうだ! 私の浴衣は!」
「ハッ! 馬子にも衣装たァこのことだなァ」
委員長の浴衣の柄は意外にも桃色の生地で、東の帝国に咲き誇ると言われる、桜の花びらが散りばめられていた。惚れ惚れしちゃう。
「そうだろう? 脱いだらもっとすごいぞ?」
「ハッハァ! そいつァ楽しみだなァ」
脱がなくてもすごいじゃん。それに比べて。
「あァン? なァにしょぼくれてンだァ?」
「ふん。どうせ僕はちっちゃいもん……」
「ああ、奥様。それが奥様の良さです」
「偉い人にはわからない希少価値です」
「はあ……同情するなら僕に胸をくれ」
せめて、双子ちゃんたちくらいあればなぁ。
「こっち来て、もっとよく見せてみろォ」
「うわ! ちょ、ちょっと、歩きにくいんだから、あんま引っ張らないで……ああっ!?」
つんのめって、悪役貴族の胸に飛び込んだ。
「白地にひまわりたァ……てめェらしいな」
ひまわり柄はかわいい。気に入ってるけど。
「……どうせ僕はお子様だもん」
「あァン? ガキにはそンな色気出せねェよ」
色気なんてないし。でもちょっとだけなら。
勇気を出そう。まだちょっと酔っているし。
ちょっとだけなら頑張れる。今にみてろよ。
「実は僕ね……今、下着つけてないんだ」
「っ……てめェ、酔いが醒めんだろォが」
「ど、どう……? 脱がせたくなった……?」
「チッ……ンなこと、言わせンじゃねェよ」
チラリと悪役貴族の顔を見上げると耳まで真っ赤だった。僕も恥ずかしくて同じように真っ赤だろう。それでも悪戯心は湧き上がる。
「今夜は甘えていいよ……バ・カ・た・れ」
そう囁いて、真っ赤な耳たぶを噛んでやる。
「てめェ……ホント良い性格してるよなァ」
「ん? 参った? 降参? 負けを認めるの?」
「いつだって俺ァ……てめェに参ってるよ」
「えへへ……僕の勝ち」
よし勝った。恥ずかしかったけど僕の勝ち。
浴衣のおかげでもある。それとお酒のせい。
今夜の僕は酔ってるということにしとこう。
【僕は今夜、悪役貴族に酔い痴れる】
FIN
「あァ……クソが……あたまが割れそうだァ」
「だから言ったのに……バカたれ」
昨夜酒池肉林の限りを尽くした悪役貴族は翌朝、絶賛二日酔いに見舞われていた。日課であるジョギングにすら行けない様子。せめてもの救いは、今日が休日だったことだろう。
「奥様、お水を持って参りました」
「ありがとう。こいつは僕が診とくからお仕事に戻っていいよ。朝食が出来たら呼んで」
「かしこまりました。若様をよろしくお願いします。何かありましたらお呼びください」
たんぽぽの髪飾りが可愛らしい双子メイドちゃんから吸い飲みを受け取りそれを口元に運んでやるも、どうもやりづらい。仕方ない。
「ほら、僕の膝にあたまを乗せな」
「うう……悪ぃなァ」
「はい、お水飲んで」
膝枕をしてお水を飲ませると薄目を開けて。
「てめェ……ドエロい格好してンなァ」
「ばっ……バカたれ! ジロジロ見るな!」
言われて浴衣の着崩れに気づいた。メイドちゃんたちもひと声かけてくれたら良いのに。
慌てて襟を正しながら、紫水晶の瞳を塞ぐ。
「おォい。手ェ、どけろ……何も見えねェ」
「だから見るなってば。そもそも見るに値するようなものは、持ち合わせてないし……」
「てめェの価値をてめェで決めンじゃねェ」
「……そんなこと言っても、見せないから」
「チッ……それならァ、寝るしかねェなァ」
「たまには二度寝も悪くないよ。おやすみ」
「あァ……ありがとなァ……愛してるぜェ」
そう言って悪役貴族は寝た。僕の膝の上で。
「今朝は随分と優しいではないか、許嫁殿」
「あ、委員長。起きてたの?」
「朝からラブラブで羨ましいぞ」
声のほうを見やるとベッドの上で横たわる半裸の委員長が頬杖をかいていた。僕よりもドエロい格好だ。委員長は悪役貴族を膝枕する僕を羨ましげに眺めながらこう訊ねてきた。
「そう言えばこれまで訊かれたことはなかったが、私と彼との馴れ初めに興味ないか? 」
「興味ない」
「本当に聞かなくていいのか? もしかすると、意外な事実が判明するかもしれないぞ」
「委員長。僕はそれなりに理解しているよ」
僕のことを愛してると言う婚約者がどうして悪役貴族のように他の女に手を出したのか。
その理由に僕は薄々勘付いている。だけど、きっとそれは、僕が知るべきことではない。
「帝国から来た委員長に、こいつがどんな条件を出されて付き合うことになったかなんて、僕が知るべきことじゃない。だから訊かないし、聞かない。何も言わなくていいよ」
「ほう……さすがのご慧眼と立ち回りだな」
「僕に嫌われようとしたって無駄だよ。こいつが傍に置くってことは委員長には害はないって証明だから。僕は、婚約者を信じてる」
それが妻の役目だ。それでも僕は妻として。
「だけどこれからも嫉妬はする。ヤキモチは焼く。僕はこいつを好きだし委員長もこいつが好きなんだから、遠慮せずにやり合おう」
「あっはっは! 勝てる気がまるでしないな」
「なに笑ってんのさ……バカたれ」
委員長の清々しい大笑につられて微笑むと。
「奥様、朝食のご準備ができました」
「わかった。委員長、今だけ貸してあげる」
婚約者を委員長の膝に乗せて僕は釘を刺す。
「朝食を食べ終わったら返して貰うからね」
「さて、それは約束できかねるな」
「だったら委員長は朝食抜きだよ」
「まったく……許嫁殿には敵わないな」
「えへへ……僕の勝ち」
部屋を出る前に、婚約者の額にキスをした。
【僕は朝イチで、浮気相手を打ち負かす】
FIN
スカトロ怪文書への罵倒は散々無視してきたのに好意的な>>48の要望には応えて酉は付けてるの草
これが「お前の駄文は見たくないのでNG入れとくから酉付けろ」とかだったら無視してるんだろなぁ
おかげで不快なゴキブリをNG入れれるようになったな
マジで行動パターンがちゃおラジの頃から
全く進歩していないの草も生えんわ
「奥様、ご入浴の準備が整いました」
「ありがと。じゃあ、すぐ入っちゃうね」
「脱いだお洋服はこのカゴの中にどうぞ」
その日、僕はいつも通り、忠実なる双子メイドちゃんが沸かしてくれたお風呂に入るべく、服を脱いで洗濯カゴに放り込んでいた。
「ん?」
靴下まで脱いで、最後にパンツを脱ごうとしたその時、シャッ!っと、目にも留まらぬ速さで妹メイドちゃんの手が動いた。正直、僕でなければ見逃しちゃうくらい素早かった。
「妹ちゃん、ちょっといいかな?」
「な、なんですか……?」
「ポケットの中身、出してごらん」
犯行現場を目撃した僕は、怒ってないことを示すために努めて優しく促した。すると、妹メイドちゃんのポッケから靴下が出てきた。
「靴下、片方だけになったら困るでしょ?」
「いえ、実は……」
「え?」
なんともうひとつの靴下の片割れが現れた。
僕ですら二足目は見えなかった。そのことに戦慄しながらも、咳払いをして仕切り直す。
「こほん。あのね、妹ちゃん。僕は別に怒ってるわけじゃないんだ。ただちょっとだけ想像してみて欲しい。もしも妹ちゃんが1日履いた靴下を、僕が嗅いでいたらどう思う?」
「奥様を不快にさせたくはありません……」
話せばわかる優しい子だ。ほっと安心する。
「うん。そうだね。僕も今、同じ気持ちさ」
「奥様の靴下は、全く不快ではありません」
「あの……ええと。妹ちゃんにとってはそうかもしれないけど僕としては妹ちゃんに1日履いた靴下を嗅がせるのは如何なものかと」
「むしろ嗅げと、お命じになってください」
「そんな、悪役貴族じゃないんだから……」
「いい加減にしなさい!!」
妹ちゃんの圧に負けて、後半しどろもどろになってしまった僕の代わりに、もう我慢の限界とばかりにお姉ちゃんメイドが怒鳴った。
「奥様に嫌われたらどうするの!?」
「まあまあ、そう怒らずに。僕は全然気にしてないからさ。むしろ詮索して悪かったね」
「奥様、本当に申し訳ありません。妹の不始末は姉の責任。なんなりと処分を頂きたく」
「いやいやそんな大事にするつもりは……」
お姉ちゃんメイドはちょっと固い考えの持ち主で、仕事の上では素晴らしいけれど、そんなに厳しくすると妹ちゃんが泣いてしまう。
「ううっ……嫌いに、ならないでください」
「大丈夫だよ。嫌いになんてならないから」
「もうこんなことしないって約束しなさい」
「う、うわあああんっ」
お姉ちゃんの追撃で涙腺が決壊してしまう。
ポロポロと大粒の涙が溢れる。泣いている妹ちゃんは可哀想で、たんぽぽの髪飾りも今日は元気がなかった。思わず駆け寄って、抱きしめる寸前に、妹ちゃんは爆弾発言をした。
「うっ……ぐすっ……お、お姉ちゃんだって……奥様が使い古して捨てた歯ブラシを拾って、夜中にこっそり使ってるくせに……」
「そ、それは言わない約束でしょ!?」
「んん?」
これは驚き。お姉ちゃんメイドの秘め事か。
「ううっ……いっつもお姉ちゃんに歯ブラシ貸して貰って悪いから、だから今日はお姉ちゃんのぶんも靴下を狩ろうって思ったのに」
「あれほどひとつだけにしなさいって言ったのに……馬鹿な子。奥様、本当に申し訳ありません。この責任は全て姉である私に……」
ダメだこの双子。いや、とっても良い子たちなんだけど僕への執着が強すぎる。きっと甘やかしすぎたせいだろう。大事にするって難しい。僕は悩みに悩んで苦渋の決断をした。
「暫く僕は、自分の部屋で過ごすべきかな」
「そ、そんな……それだけはお考え直しを」
「す、捨てないでください! なんでもします! だから私たちを捨てないでください!」
「ん? 今、なんでもするって言った?」
「へ? お、奥様……?」
「なぜ、まるで若様のような笑みを……?」
一緒にいると似てくるんだよね。まったく。不本意なことに。僕は悪役貴族のように邪悪に笑って、双子メイドたちへ沙汰を下した。
「君たちは罰として、寝るまで委員長と手を繋いで仲良くなること。これは命令だよ」
「お、奥様、それだけはご勘弁を……!」
「どうか、奥様の手で私たちに罰を……!」
「なんでもするって言ったよね?」
この機会に双子メイドたちと委員長の不仲を解消してしまおう。妻としての僕の役目だ。
ニッコリ邪悪に微笑むと双子たちはたじろいで背後から忍び寄る魔の手に全く気づいていない。委員長が双子2人を同時に捕獲した。
「無論、私は構わないぞ! ほーら捕まえた」
「きゃあっ!?」
「さ、触らないでください!」
「そんなつれないことを言うな。実はずっと許嫁殿と君たちの関係が羨ましかったんだ」
「あ、あなた様は奥様の敵です!」
「あなた様のせいで奥様がどれほど……!」
「知らんな。ほーら、こちょこちょこちょ」
「やめっ……手を入れないでください!」
「やだ! 奥様がいい! 奥様以外はイヤ!」
うーむ。さすがに止めるべきだろうかと、本来の主人である悪役貴族のほうに目を向けると、奴はこの目を背けたくなるような惨状をものともせず読書に耽っている。すごい集中力だなと感心していると、ふと目が合った。
「躾はァほどほどになァ」
まったく、悪役貴族の癖に優しいんだから。
「委員長、手を繋ぐ以上のことは……ん?」
これ以上は危険と判断して委員長の刑を中止しようとしたその時。洗濯カゴの中にそれを発見した。僕は神速で掴んで背中に隠した。
「またつまらぬものをくすねてしまった」
今のは速かった。世界新記録かもしれない。
双子メイドたちはまだまだだ。僕クラスになると自分がくすねたことすら認識出来ない。
気がついたらそこにある。そんな現象として自然に溶け込む。故に誰も気づかないのだ。
「ていうか、僕ずっとパンイチじゃん……」
そう言えば、今の僕はパンツ一丁だった。乙女としてこの格好はありえない。何か着るものはないかと探すと、大きめのシャツがあった。きっとブカブカだろうけど、大は小を兼ねると言うし、ためしに着てみるとやはり僕には大きかった。けれどなんとも言えない心地良さを感じ、垂れた袖口をくんくんする。
「えへへ。まるで抱きしめられてるみたい」
「現行犯だ! 捕まえろ、双子メイドたち!」
「え? なになに!? なんで逮捕されんの!」
我に返ると双子メイドたちに捕まっていた。
「奥様、今のはいけませんね」
「近頃、若様の洋服が減ってると思ったら」
まったく意味がわからない。濡れ衣である。
「若様、どうか奥様に寛大なるご沙汰を!」
「奥様は若様を思うがあまりに、罪を犯してしまいました。これは愛ゆえの罪なのです」
「よォし……沙汰をくだす。連れてこォい」
パタンと本を閉じた悪役貴族が判決を下す。
「罰として、てめェの下着を俺によこせェ」
「い、異議あり!」
「異議は却下とする。優等生、出番だぞォ」
「よし! どれ、早速私が脱がしてやろう!」
「ちょ! まさか今穿いてるのを取るの!?」
「ハッハァ! 当たり前だァ。鮮度が違ェ!」
「鮮度ってなんだよバカたれぇええっ!!」
その場で僕のパンツは悪役貴族に奪われた。
【僕は夕刻、悪役貴族に裁かれた】
FIN
怪文書ゴキブリやら自演スカトロマンやら呼ばれていたが
こいつの核心を突いていた呼び名は「青葉予備軍」だな
あの青葉だって最初はハルヒにハマッてそこからクリエイターを目指したけど
才能もなけりゃまともな努力もしてこなかったから箸にも棒にも引っかからず
最後は「京アニが自分のオリジナルをパクッた」という恥ずかしい妄想を拠り所に凶行に走って……
こいつも自己愛とみじめすぎる現実のギャップを何番煎じか分からない駄文では埋められなくなって
最後は「あのタイプのキャラに『フハッ』と言わせるのは俺のパクリだ!許せん!」と
言いがかり被害者モードで出版社に凸するかもしれん
絵に描いたような「駄目な作品の見本」を
ここまで量産できるのが逆に凄い
マジで青葉の作品タイトルの方が
遥かにこいつよりは面白そうだもん
「ハッハァー! 最ッ高ォだぜー!!」
「うむ! だいぶ上達したではないか!」
最近、悪役貴族は帝国から輸入したバイクを買い、寮の周辺で乗り回すようになった。気持ち良さそうに縦横無尽に駆け回っている。
委員長はバイクの教官として見守っていた。
そんな2人を僕とメイドは部屋の窓から眺めている。バイクはメイドたちに不評らしく。
「あんな危険な乗り物で遊ぶなんて……」
「奥様、そろそろ注意するべきかと」
「別にいいんじゃないの? 僕もバイクは楽しかったし。今度君たちも乗せて貰いなよ」
「何かあってからでは遅いんです!」
「見ててハラハラします……」
「まあまあ。何事も危険はつきものだよ」
メイドたちの非難を、やんわりと受け流す。
バイクはたしかに危険な乗り物かもしれないが、馬よりも速く爽快でとてもいいものだ。
「やはり騎乗のセンスが抜群だな!」
「当たり前だろォ! 俺に乗りこなせねェじゃじゃ馬なンざ、この世には存在しねェ!!」
「うむ! 今晩も期待しているぞ!」
「あァ! 足腰立たなくしてやンよォ!」
よく言うよ。やたら上に乗せたがる駄犬のくせにさ。乗りこなしてんのはこっちだっての。さらっと浮気の約束すんなよな。まあ、子供みたいに目を輝かせる悪役貴族を見てると、そんな小言を言う気力も失せるけどさ。
「やはりあの方は好きになれません」
「今も若様と2人であんな楽しそうに……」
未だにメイドたちと委員長の仲は悪い。というよりも僕の代わりに怒っているのかもしれない。そんなことは僕の望むことではない。
「いいかい、君たち。もしも僕とあの悪役貴族が結婚して、第二夫人として委員長を迎えることになったら、頻繁ではないにせよ、委員長を家に残して外出することがある筈だ。その時には、君たちはメイドとして委員長に従わないといけないんだよ。わかるかい?」
「そんなの嫌です……」
「家のことは私どもにお任せください」
「もちろん君たちのことは信用してる。だけど僕は君たちに責任を負わせたくない。何かあった時に君たちのせいにしたくないんだ」
僕はメイドたちに甘い。だから何かあった時に遠慮なく叱れる委員長が必要だ。もちろん何も起きないよう双子メイドたちにはくれぐれも目を光らせて貰うけど責任は委員長だ。
何かあったら委員長せいなら、心置きない。
「奥様はお優しすぎます……」
「奥様に叱られてみたいです……」
このようにメイドたちがどんどんおかしな趣味に目覚めかけているのでその点においても委員長のような第三者が必要不可欠なのだ。
ていうかあいつ、調子に乗ってスピード出しすぎじゃない? そのうち、きっとコケるぞ。
「気をつけろ! その辺りは砂利が多い!」
「ハッ! 楽勝ォ楽勝ォって、うわっ!?」
言ってる側から砂利で滑って転んだ。思わず身を乗り出す。大丈夫だろうか。あ、起き上がった。良かった。心配させんなバカたれ。
「お、奥様! 早く助けにいきましょう!」
「わ、若様がお怪我を!」
わかってる。逸る気持ちを抑えて、命じた。
「君たち、早く助けに行ってあげて」
「お、奥様は……?」
「奥様も行きましょう!」
「僕はここで待ってるから早く連れてきて」
「奥様……わかりました。お任せください」
「早急に、若様を奥様の前にお連れします」
いま僕が助けに行けばこの部屋は誰もいなくなってしまう。それは良くない気がした。この考えはもしかすると、先進的な東の帝国では古臭い考えかもしれない。だけど僕は、本能的に残るべきだと思った。何故だろうか。
「僕が待ってるから早く帰れ……バカたれ」
たかがバイクで転んだだけ。大袈裟だとは思うけど、良い機会かもしれない。心構えだ。
これから先、肉体的にではないにせよ、あいつが傷を負って帰ってくることがあるかもしれない。とても辛いことがあって、やるせない気持ちで帰ってくることがあるかもしれない。心身ともに疲れ果て、クタクタになって、おまけにボロボロになったあいつの帰りを、僕はいつまでもじっと待ち続けるのだろう。もしかしたら、僕が待つ家に帰りたいという一心で、何かを成し遂げられるかもしれない。ならばそれが妻の役目だと僕は思う。
「なにやってんのさ、バカたれ」
「面目ねェ……」
双子たちに両脇から支えられながら悪役貴族は帰ってきた。肘や膝に擦り傷はあるものの見た感じは軽傷だ。僕は触診して確かめた。
「身体は? 大丈夫なの? 骨折れてない?」
「こんなのかすり傷だァ……痛つつ」
「双子ちゃんたち、どう?」
「恐らくは、大丈夫かと」
「頭も打っておられなく、幸いでした」
委員長が用意していた肘当てや膝当てをかっこ悪いからと着用拒否していたバカたれだけど、ヘルメットだけは被っていて良かった。
「申し訳ない……私の責任だ」
「委員長……なんて顔してんのさ」
真っ青な顔をした委員長が泣きながら語る。
「私は調子に乗っていたのだ……最近は毎日が楽しくて上手くやれていると……しかし、私は……いつも、行き当たりばったりで……母上からも「てめーはスマートじゃねえ!」と言われていて……これでも、上手くやろうとしたのだ。母上のように何でも見透すことの出来ない私でも、頑張ればきっと……でもダメだった。失敗した。許嫁殿の大切な人に怪我をさせてしまった……本当に申し訳ない」
反省はしているのだろう。でも僕は怒った。
「お母様と自分を比べんな! バカたれ!!」
委員長のお母様はきっとすごい人なのだろう。劣等感を抱かざるを得ないくらいの超人なのかもしれない。でもそんなの関係ない。
委員長は僕を嫉妬させるくらい、魅力的だ。
それなのに、自分は大したことないみたいに言われると、僕の沽券に関わる。腹が立つ。
「お、おォい……そんなに責めるこたァ……」
「黙れ! これは僕の仕事だ! 邪魔すんな!」
口を挟んだ悪役貴族を一括して僕はキレた。
「委員長は委員長でしょ!? 自分なりに出来ることをやった結果なら胸を張れ! 目を逸らすな! 僕に怒られても顔を上げて澄まし顔で押し通せ! それが出来ないなら出てけ!!」
「ああ……わかった……本当にすまなかった」
僕に怒られて、打ちひしがれた顔をして、委員長が部屋から出ていく。扉が閉まって、僕の怒りは、突っ立ってる木偶の坊に向いた。
「なにボサっと突っ立ってんのさ!?」
「あ、あァ? てめェがさっき黙れって……」
「何かあった時に庇ってやれない女と浮気すんな! さっさと追いかけろよバカたれ!!」
僕が惚れた男はそんな情けない男ではない。
「あァ……畜生ォ……わァってるよォ!!」
最低限の手当てをして、傷だらけで、悪役貴族は委員長を追いかけに部屋を出て行った。
その情けない背中を見送るのも妻の仕事だ。
「よし。こんなもんかな」
「お見事です、奥様」
「どうぞ、次のご命令をくださいませ」
正直バカたれって言いすぎて喉が痛い。怒るのは体力がいる。疲れたけどもうひと仕事。
僕は気合いを入れ直して双子たちに命じた。
「2人が帰ってくるまでに晩御飯を作る。今日は僕が厨房に立つから、手伝って欲しい」
「かしこまりました」
「仰せのままに」
さて。それじゃあ、腕に縒りをかけようか。
「よォ……連れて帰ったぞォ」
「……恥を忍んで帰宅を許して頂きたい」
丁度、料理が出来上がったタイミングで悪役貴族と委員長が帰ってきた。2人の乱れた着衣を見て怒りが湧き上がる。そうでもしないと委員長を連れて帰れなかったのかもしれないけど、そんなの僕の知ったことではない。
「遅い! 何をしていたか言ってみろ!」
「浮気してたに決まってンだろォがァ!!」
「委員長は!? 何してたの!? 言って!」
「う、浮気してた……な、何か文句あるか」
その開き直りっぷりに思わず笑ってしまう。
「はあ。文句なんて山ほどあるに決まってんじゃん。でもひとまず、ご飯にしよう。腹が減っては喧嘩も出来ないからね。今日はね、委員長の好きな肉じゃがだよ。お母様から貰ったレシピ通りに作ったから、食べてみて」
先日のすき焼きを頂いた際、委員長のお母様に割り下のレシピを手紙で教えてもらった。
その際に"肉じゃが"という委員長の好物のレシピも頂いた。どうやらこの肉じゃがも割り下で作れるらしい。味見したけど美味しかった。そんな肉じゃがを見て委員長は泣いた。
「許嫁殿……私はこの恩を、生涯忘れない」
「このくらいこの先何度だってある。そのたびに喧嘩して仲直りしよう。さあ、お食べ」
「ああ……美味い……母上よりも、美味しい」
泣きながら肉じゃがを食べる委員長に、僕は何も言わなかった。委員長がいなかったらきっと、素直になれない僕は悪役貴族と上手くやれなかっただろう。こうして今、僕が偉そうに奥様面していられるのも委員長のおかげだ。その感謝を料理に込めて、僕は伝えた。
「どう? 怪我は? 痛む? 腫れてない?」
「大丈夫だァ……色々、ありがとなァ」
結局、あれからずっと委員長は泣き止まず、なんとか寝かしつけてから、改めて悪役貴族に怪我の具合を訊ねると、奴は殊勝な顔をして僕に感謝した。そんな情けない婚約者の耳元で、僕は言い聞かせるようにこう囁いた。
「乗りこなしてるのは僕だってわかった?」
「よォくわァったよ。これからも頼むなァ」
「……怪我が治ったら、また乗ってあげる」
「ハッ! なら、さっさと治さねェとな」
「それまで、安静にしとけ……バカたれ」
早く治してくれないと僕が欲求不満になる。
【僕はこの日、妻の心構えを理解した】
FIN
バカがバイク乗り回して転んだのを手当てしました。
そもそもこの一行で説明できるようなチンケな内容を
どれだけ頑張って膨らまそうとしても無駄だから。
あと青ババくんでも分かるように指摘しとくと
貴族ってのは平民がいなければ成立しないんだぞ?
今のところ悪役貴族が自分を悪役貴族と思い込んでいる
在日の底辺にしか見えないんだけど。
ちゃおラジ君もそうだったけど薄っぺらいんだよな
wikiやあらすじや他人の描いたSSやらで知った浅い知識で得意になるだけならいいが
その程度の理解でSSなんて書いちゃうから怪文書と呼ばれるんだよ
実際二次ネタばかり書いてた奴がオリジナル書こうとすると陥りがちなんだが
作品の世界観や主要人物の説明を元ネタが如何にしっかりとやっていたのかを思い知るんだよな
こういう元ネタへのリスペクトが皆無な奴は根本的にその辺分かっていないせいで
読み手が全く感情移入とか支持とかができない自己投影丸出しのゴミみたいなキャラを量産することになる
スカトロマンのやってた二次創作はストーリー性のお粗末なお人形遊びだったが
少なくともキャラの最低限の形は保っていた
他人の作ったキャラを勝手に使ってるんだから当たり前なんだけどな
今はおよそキャラとも呼べない何かが気持ち悪くうごめいているだけ
人の形を成してもいない泥人形遊び。いや、スカトロマンなんだから糞人形遊びか
バイクに乗ることを心配されるようなお子ちゃまなんて
文字通り三流以下の悪役貴族なんだよなあ
こんな馬鹿の何処に惹かれる魅力があるのか
「ただいま戻ったぞ」
「あ、委員長、おかえりって、ええっ!?」
その日、ふらっとどこかへ出かけた委員長の長い黒髪が、僕と同じくらい短くなって帰ってきた。びっくりすると、委員長は笑って。
「これは私なりのケジメだ。どうだ許嫁殿。短髪もなかなか似合うだろう?」
「いや……正直、違和感しかない」
「あっはっは! なに、じきに見慣れるさ!」
快活な委員長が更に溌剌となって、高笑いに磨きがかかった気がする。半ば呆然としていると、僕と同じく固まっている双子メイドたちのもとに委員長は歩み寄り、声をかけた。
「君たち、少し時間はあるか?」
「は、はあ……どうしましたか?」
「な、なんでしょう……?」
「私は君たちと話がしたい。これから一緒に風呂にでも浸かりながら、ゆっくりとな」
「えっ……でもまだ、お昼すぎですし……」
「い、一緒にお風呂は、ちょっと……」
嫌そうな顔をする双子たちに拒否られながらも、委員長は食い下がる。両手を上げて、無害であることをアピールしながら約束した。
「安心したまえ。指1本、触やしないさ」
「ほ、本当ですか……?」
「ああ、本当だとも」
「嘘だったら奥様に言いつけますよ……?」
「構わない。私は嘘はつかん」
双子たちがこっちを見たので頷いておく。
「わ、わかりました……」
「で、では、浴室へどうぞ……」
「ありがとう。では許嫁殿、先に湯を貰う」
「あ、うん……ごゆっくり」
唖然としながら見送って、ふと悪役貴族に目を向けると、奴はぽかんと口を開けながら委員長を凝視していて、なにやら発情している匂いがした気がした。まったくこの駄犬め。
「なに見惚れてんのさ。いやらしい」
「ちげェよ。そうじゃなくてだなァ」
「どうせ夜が待ち遠しいだけでしょ」
ようやく怪我が完治した悪役貴族の見え透いた劣情を指摘するも、どうやらそれは邪推だったらしく奴は真面目な顔で考えを述べた。
「だから違ェっての。俺ァただ、あいつもいつか、てめェみてェになンじゃねェかって思っただけだァ。別に悪い意味じゃねェぞォ」
「ばっかみたい……委員長は、委員長だよ」
短髪でも、本質は変わらない。僕とは違う。
「髪を切っても……僕が僕であるようにね」
「たしかに髪の長さなンざ……関係ねェか」
僕がもし少しでも変われたなら、それはきっと髪の長さのせいではない。この先、また髪が長くなったとしても今の僕はあり続ける。
「なァ……こっちに来たらどうだァ?」
「っ……そっちこそ、こっちに来たら?」
呼ばれてドキドキしながら、意地を張る僕。
髪を切っても伸びても、きっと変わらない。
たぶん少しの歩み寄りで変われるのだろう。
「チッ……しゃあねェなァ」
「面倒くさそうにこっちくんな、バカたれ」
とか言いつつも僕は嬉しさが隠しきれない。
最近、表情が上手く制御出来ない。嬉しかったらそれを隠せない。その変化が愛おしい。
「あァン? キスしたそォな顔してンぞォ?」
「は、はあ? それはこっちの台詞だし……」
「この瞬間は……あいつに感謝しねェとな」
奴に唇を奪いながらそう言われて、僕は委員長の心遣いに気づいた。きっと僕らを2人きりにしてくれたのだろう。悪役貴族との長い口付けを何度も交わしながら、僕は少しでも委員長たちが長風呂であるようにと祈った。
【僕は昼下がり、悪役貴族とキスに耽る】
FIN
帝国から購入したバイクとか悪い意味でのトンデモワード良く書こうと思えるな
本人はオリジナル書いてるつもりなんだろうがギアスの世界観パクってるのバレバレだし
前回はハルヒのパクりだしでこれじゃオリジナルじゃなくてオシリアナルやん
「お姉ちゃん、そろそろ交代してよ!」
「10分間で交代って決めたでしょ? まだ2分34秒しか経ってないから、我慢なさい」
現在、僕の膝はお姉ちゃんメイドに占領されていた。こうして定期的なスキンシップしてあげないとまた靴下事件や歯ブラシ事件のようなことが起きるので必要不可欠な触れ合いだ。双子じゃんけんに勝利して先着を勝ち取ったお姉ちゃんメイドは僕の胸元にほっぺたをくっつけてスリスリしている。かわいい。
「奥様、重くないですか……?」
「全然重くないよ。何時間だって平気さ」
「ああ、奥様……ずっとお傍にいたいです」
「ずっと傍にいて貰わないと僕が困るよ」
「ううっ……時間を飛び超えたいです……」
きゅっと抱きついてきたお姉ちゃんメイドを僕も抱き返す。妹ちゃんがそんな僕たちを凝視しながら爪を噛んで悔しがる。かわいい。
「本当なら2人同時に乗せたいところだけど僕がチビだから我慢させちゃってごめんね」
「はあ……奥様も双子なら良かったのに……」
もしも僕が双子だったらどうだろう。仲良く出来るだろうか。恐らく無理だ。何故ならば僕の婚約者は双子ではないからだ。きっと血で血を洗う、骨肉の争いに発展するだろう。
僕には確信がある。だってほら、目の前で。
「その髪……俺のせいで悪かったなァ」
「気にするな。私が許嫁殿に憧れた結果だ」
「ハッハァ! てめェはてめェで魅力的だァ」
「あっ、こら、だめ。許嫁殿が見てる……」
「アイツも見せつけてんだから、構うなァ」
双子ではないにせよ、僕と同じくらい髪が短くなった委員長が婚約者の膝に乗って、純白のスカートから伸びる艶かしい生足を撫でらている。それは男子生徒用のズボンの僕には出せない魅力だ。たとえ脱いだとしても僕の足は棒切れみたいに肉付きに乏しいけれど。
「私は許嫁殿よりも足が太くて申し訳ない」
「あいつにはあいつ、てめェにはてめェの魅力があンだよ。だからァもっと自信持てェ」
「そうか……気に入ってくれたなら嬉しい」
本当に双子じゃなくて良かった。キレそう。
「あっ……い、いけませんっ、奥様……!」
「ごめんよ。あいつが僕を挑発するんだ」
「あぅ……でしたら……仕方ありませんね」
「はい! 交代! お姉ちゃん、代わって!」
「まだ5分46秒しか経ってないでしょ!?」
気がつくと、無意識に僕のいけない手がお姉ちゃんメイドを弄り回していた。白タイツがサラサラしていて触り心地は抜群。そして妹メイドちゃんと喧嘩をし始める。かわいい。
「許嫁殿……そろそろ交代の時間だ」
「あれ? 委員長、早くない? もういいの?」
「ああ……これ以上は足腰が立たなくなる。それに私は学んだのだ。やりすぎは禁物と」
そのわりには切なそうな顔をしている。そんな我慢してまで僕に譲る必要はないのに。なにせこちらもこれからが良いところだし。まあ、交代するのはやぶさかではないけれど。
僕はお姉ちゃんを膝から降ろし立ち上がる。
「お、奥様! 私の番は!?」
「ごめんね。すぐ戻ってくるから待ってて」
「ううっ……はい……お待ちしております」
しゅんとした妹メイドちゃんの頭を、委員長が優しく撫でている。お姉ちゃんメイドも仕事のことやらを委員長に相談している。少しずつ打ち解けている様子だ。頑張れ委員長。
「で? さっきのなに? さすがに触りすぎ」
「そっちこそ、ベタベタしやがってよォ」
「まさか嫉妬したの? ヤキモチ焼いたの?」
「ケッ。それはてめェのほうだろうがァ」
ひょいと膝に乗って、いつも通り悪役貴族と口論をする。お互い嫉妬し合って、内心はムラムラして仕方ない。伸びてきた手を払う。
「なに勝手に触ろうとしてきてんの?」
「あァン? 俺が触ったら悪いのかァ?」
「触らせてくださいってお願いしろ」
「触ってくださいって言いやがれェ」
火照った顔を突き合わせて僕らは睨み合う。
「ふん。僕のことが好きなくせに」
「当たり前だァ。てめェはどォなんだァ?」
「っ……ひ、卑怯だぞ、バカたれ」
知ってる癖に。僕が言えないことを。好きだって。あの狸寝入りしていた時以降、僕は言えてない。それを知った上で挑発してくる。
「俺はてめェが好きだ。てめェのその生意気そうなツラも、てめェの細くてあったけェ身体も、てめェが罵詈雑言と共に吐き捨てた吐息すらも、全部俺の物にしてェと思ってる」
「あ、う……なに言ってんだよ、バカたれ」
悪役貴族は歯に衣着せない。乱暴な口調で思ったことをそのままストレートに僕にぶつけてくる。そのたびに僕の心臓が跳ねて、身体は熱くなり、脳内が支配されていく。嫌だ。
「その瞳で見つめないで……」
「あァン? どォしてだァ?」
「だって目、逸せなくなる。おかしくなる」
小指のピンキーリングを、親指で弄るのが癖になった。悪役貴族の紫水晶の瞳が、僕を捉えて離さない。支配されたくないと抗った。
「ハッハァ! てめェは勘違いしてんなァ?」
「へ? か、勘違いって、なんのこと……?」
「目を逸らせねェのは、俺のほうなンだよ」
僕の瞳にそんな魔力があるなんて知らない。
だけどもしそれが事実なら僕も奴を支配しているということになる。嬉しい。にやける。
「その瞳に映ってる自分の顔を見たくない」
「あァ、それなら簡単だァ。目を閉じろォ」
「っ……さっさとしろ、バカたれ……ぁむっ」
そうして僕らはようやくキスをする。たっぷりと時間をかけて瞬きをする間に終わるような刹那の時を共有する。最近キスばっかしてんな。でも全然飽きない。終わりは突然に。
「時間だ。妹メイドがお待ちかねだぞォ」
「ふん。もっとしたい癖に……強がんな」
「ハッ! お互い様だァ……また今度なァ」
また今度が待ち遠しい。時を飛び超えたい。
【僕は刹那、悪役貴族と時を超える】
FIN
このバカはずっと同じところで足踏みしてるだけなんだよな
本人は前進してるつもりなんだろうけど
試しに3年前に自分で書いた怪文書を見返してみるといい
一切の進歩がないことが分かるから。いや、このバカには分からんか
今は毎日怪文書を投下することしかこだわってないものな
そもそも自身で書いたゴミみたいな内容や形式を延々「セルフでパクってる」だけだからな
最近合点がいったが二次ネタもまとめサイトとかからパクれるような作品が無いと
一切書くことができないという。だからこういう匿名の掲示板で当時盛り上がっていた
アイマスとかハルヒとかを元にしないとゴミみたいなクオリティのものでさえ作ることすらできない
今流行ってるブルアカや原神とかここで全然書かれないからパクることもできないというね
普通に笛吹きとかいけば大量の作品があるのに。まあこいつの腐った脳みそじゃロクに検索すらできなそうだけど
向上心が無い構ってちゃんとか見たことも聞いたこともない珍獣じゃねーか
何が目的で延々とゾット帝国以下の文章みたいなゴミを量産しつづけるんだ?
そのモチベーションはどうやって維持してるんだマジで
>>97
最近の作品に関してはwikiや渋の百科事典とかの
情報量が多かったり複雑だったりでスカトロが
安易にパクれないのも大きいと思う
「ああ、こんな姿を奥様が見られてる……」
「どうだ? なかなかに良いものだろう?」
「たしかに……これは想像以上です……はぅ」
「あっはっは! そうだろう、そうだろう!」
僕は一体、どこで教育を間違えたのだろう。
好奇心旺盛で積極的な妹メイドちゃんは、委員長に頼んで、僕の目の前で痴態を晒していた。どんどんおかしな趣味に目覚めている。
「なんて、はしたない……妹がすみません」
「いいんだよ。お姉ちゃんは興味ないの?」
「私は奥様一筋ですから、興味ありません」
お姉ちゃんメイドは痴態を晒す妹ちゃんを恥じているようだけど、きっと違う理由で顔が真っ赤になっている。たぶん無意識だろうけど僕の手を握りながら、妹ちゃんが喘ぐ姿をガン見していた。僕は優しくその手を離し、そっと背中を押して促して、耳元で囁いた。
「君も僕にかわいいところを見せておくれ」
「っ……そんな……奥様はいじわるです……」
「恥ずかしがらずに、ほら、行っておいで」
「ううっ……これは奥様のためですからね」
「おや? 君も来てくれるとは、嬉しいぞ!」
僕に唆されて、お姉ちゃんも委員長のもとへ向かった。嬉しそうに彼女を迎える委員長。
勘違いしないで頂きたいがこれは別に僕の趣味ではなく、単に委員長との仲を深めて貰いたいだけである。それにしても良い眺めだ。
「ハッ! 良い趣味してんなァ」
「どの口が言うんだよ、バカたれ」
目の保養をしていると、お風呂あがりの悪役貴族が邪悪に嘲笑い、当然のごとく僕の隣に座った。いつもはこいつと僕の髪は双子メイドたちが拭いて乾かしてくれるのだが、彼女たちは今、手が離せない。というよりも手がつけられないことをしている真っ最中なので悪役貴族は濡れた髪を、自分で拭いていた。
態度次第では僕が拭いてやってもいいのに。
「僕に拭いてくださいって言ってみれば?」
「あァン? 言ったら拭いてくれンのかァ?」
「別に……そんなつもりは更々ないけどさ」
僕がそう言うと悪役貴族はタオルを手渡し。
「てめェが拭け。くれぐれも丁重になァ」
「仕方ないから拭いてあげる。感謝しなよ」
「ケッ。常日頃から感謝してるだろうがァ」
悪役貴族の髪を拭きながら委員長とメイドたちの触れ合いを眺めて、僕はふと自覚する。
満たされている。僕は今、とっても幸せだ。
それを自覚すると、目の前の悪役貴族に抱きつきたくなった。抱きついて、耳元で「僕は今、幸せだよ。ありがとね」って言いたい。
けれど素直じゃない僕は言えず、代わりに。
「俺ァ今、幸せだァ……ありがとなァ」
「っ……なに言ってんのさ……バカたれ」
悪役貴族に言われて、涙が込み上げてくる。
僕が言いたいのに。口から出るのは罵倒だけで、情けない気持ちと同じくらい、嬉しい。
きっとこの世でこいつだけだ。僕みたいな女を愛してくれる男は。ずっと一緒に居たい。
「僕に拭いてくださいって言ってみれば?」
「あァン? 言ったら拭いてくれンのかァ?」
「別に……そんなつもりは更々ないけどさ」
僕がそう言うと悪役貴族はタオルを手渡し。
「てめェが拭け。くれぐれも丁重になァ」
「仕方ないから拭いてあげる。感謝しなよ」
「ケッ。常日頃から感謝してるだろうがァ」
悪役貴族の髪を拭きながら委員長とメイドたちの触れ合いを眺めて、僕はふと自覚する。
満たされている。僕は今、とっても幸せだ。
それを自覚すると、目の前の悪役貴族に抱きつきたくなった。抱きついて、耳元で「僕は今、幸せだよ。ありがとね」って言いたい。
けれど素直じゃない僕は言えず、代わりに。
「俺ァ今、幸せだァ……ありがとなァ」
「っ……なに言ってんのさ……バカたれ」
悪役貴族に言われて、涙が込み上げてくる。
僕が言いたいのに。口から出るのは罵倒だけで、情けない気持ちと同じくらい、嬉しい。
きっとこの世でこいつだけだ。僕みたいな女を愛してくれる男は。ずっと一緒に居たい。
「俺みてェなろくでなしと結婚出来るのはてめェしかいねェ。これからもよろしくなァ」
「ぐすっ……だから……なんで言うのさ……」
「あァン? てめェなんか鼻声じゃねェか?」
「っ!? こ、こっちを見るな、バカたれ!」
振り向こうとした婚約者に泣き顔を見られたくなくて、慌ててタオルを顔に被せて、そのまま抱きしめる。こんな形でしか抱きしめられない自分が嫌になる。堪らなく愛おしい。
「おォい……息ができねェよ」
「ふん……僕が人工呼吸するから安心しな」
「あァ? そォいう問題かァ?」
窒息するまで、僕は悪役貴族を、離さない。
【僕は寝る前、悪役貴族を窒息させる】
FIN
自分の中では雄大な世界観の中で色々なエピソードを経て
主要キャラが深い仲になっているんだろうけど
スカトロくん以外からすれば誰よりもこの主人公に全く魅力が無いんだよな
そもそも転生でもしなきゃ自分の相手が「悪役」であるかなんて分かるわけねーじゃん
語り口調もありがちな痛々しいダメな主人公の典型的そのものだもの
帝国があって城があって牛肉料理が名物まではまあ分からんでもない
天守閣とか書いちゃう辺りが実にバカ丸出しで笑えない
バカというか恥知らずなんだろ
だからこんなものをチラシの裏でやらずにここで投下できてしまう
「てめェ、なんか顔赤くねェかァ……?」
「おや? たしかに……風邪か? 許嫁殿?」
「別に……平気だし……ケホケホッ」
風邪引いた。きっとお風呂あがりに毎日えっちなことばかりしているせいだろう。身体が怠くてベッドから起き上がれない僕の異変にいち早く気づいた悪役貴族は自分の額と僕のおでこをくっつけてきた。近い。熱上がる。
心配そうにこちらを伺う委員長に見られて余計に恥ずい。きっと40℃を突破している。
「熱あンなァ……喉はどうだァ?」
「熱なんかないし……喉も痛くないし……」
「口開けろォ……赤く腫れてンじゃねェか」
「やはり風邪のようだな。薬を手配しよう」
顎を掴まれて強制的に口を開けさせられて、中を見られた。酷い。悪役貴族め。僕の身体を好きに出来ても、心までは奪われないぞ。
委員長はガサゴソと自分の荷物から風邪薬を探している。帝国の薬はよく効くと評判だ。
「てめェは今日、学校休めェ」
「全然行けるし……元気だし……」
「ダメだァ。大人しくしてろォ」
「そうだぞ、許嫁殿。無理は禁物だ」
「行けるもん……平気だもん」
有無も言わさぬ2人に対しむっとしてると。
「おォい、メイドどもォ! ちょっとこォい」
「はい若様、お呼びですか?」
「まさか奥様がご懐妊ですか!?」
そんなわけない。たしかに奔放な性生活を謳歌しているけれど委員長が大量に取り寄せてくれた東の帝国の"魔法の風船"のおかげで妊娠は免れており、月のものもこないだ来たばかりだ。僕は重めなので、その節は双子ちゃんたちに甲斐甲斐しく世話を焼いて貰って助かった。なんにせよ委員長のおかげで卒業まで僕が妊娠する心配はなく、感謝している。
「風邪が治るまでこいつを見張ってろォ」
「ダメだよ……移したりしたら困るから」
メイドたちに指示する悪役貴族に待ったをかける。ただでさえ、彼女たちは忙しいのに、僕や委員長が来てからは仕事が増えている。
そんな彼女たちに、風邪を移したら大変だ。
「自分の部屋で寝てるから、誰も来ないで」
「そんなザマで部屋まで行けンのかァ?」
「許嫁殿、無理はしないほうが……」
懐疑的な悪役貴族と心配そうな委員長の不安を払拭するべく、僕はベッドから身を起こし、3秒間だけ耐えたのち、再び倒れ込んだ。
「ほらみろォ。無理すンじゃねェよ」
「言わんこっちゃない。絶対安静だぞ」
なんて不甲斐ない。でも絶対移したくない。
「……運んで」
「あァン?」
「僕を早く、部屋まで運んで」
恥を忍んで悪役貴族に頼むと、奴は呆れて。
「こンな時まで意地張りやがって……」
「そんな僕が好きなんでしょ……?」
「あァ……好きだ。だから運んでやる」
ひょいと軽そうにお姫様抱っこする婚約者。
「お、落っことすなよ? 丁重に扱うんだぞ」
「わァってるよォ。ぜってェに落とさねェ」
委員長はハラハラしているけれど、僕は不思議と安心していた。きっとこいつなら安全にどこへでも連れて行ってくれる。根拠はないけど、そんな信頼と共に、僕は身を委ねた。
「奥様、お食事はここに置きますね」
「ありがと……置いたらすぐに帰りなよ?」
「そんな……私たちは奥様と共に……」
「ダメ。これは命令。わかった?」
「はい……わかりました」
「ううっ……仰せのままに」
悪役貴族に部屋まで運ばれて、久しぶりに自分の部屋のベッドに寝かされたあと、奴と委員長が一緒に学校へと向かうと、それと入れ替わりで双子ちゃんたちが作った食事を持ってきた。そのままお世話をしそうだったので、僕にしては強く言い聞かせて帰らせた。
「……静かだな」
久しぶりに1人になった。前はこれが当たり前だったのに、何故か寂しく感じてしまう。
僕は弱くなったのだろうか。目を閉じると、心細くて、不安で、心配事ばかりを考える。
「僕は、上手くやれてるのかな……?」
あいつの許嫁として上手くやれているのだろうか。ある日突然、愛想を尽かされたりしないだろうか。お前なんか嫌いだと言われて、婚約破棄されて、それでも僕は意地を張り、こっちこそせいせいしたとか言って、そのまま卒業して、僕は誰とも結婚出来ずに、一生独りで孤独に生きていくのだろうか。嫌だ。
「ぐすっ……そんなの……嫌だ……」
「ん? なにが嫌なのだ、許嫁殿?」
「へ? あれ? い、委員長、なんで……?」
「おや? 許嫁殿、泣いているではないか。可愛い顔が台無しだぞ。ほら鼻をかみたまえ」
気がつくと、委員長がベッド脇の椅子に腰掛けていた。泣いてる僕に気づいた委員長は、ポケットから桜模様のハンカチを取り出し、優しく涙を拭い、そして僕に鼻をかませた。
「どうだ? すっきりしたか?」
「ありがと……ごめん、ハンカチ汚して」
「あっはっは! そんなこと気にするな!」
溌剌とした高笑いで我に返る。何故いるの?
「委員長……授業はどうしたの?」
「そんなもの、サボったに決まっている」
「優等生なのに、そんなことしていいの?」
「許嫁殿の一大事とあれば構うことはない。ああ、そうだ。許嫁殿に、これをあげよう」
優しい微笑みを浮かべた委員長が何やら鞄から手渡した。ひとつは帝国のよく効く風邪薬が入った小瓶。もうひとつは紐のついた紙。
「薬、ありがと……あと、これはなに?」
「ああ、それは帝国製の高性能マスクだ」
「マスク……?」
「ああ。感染のリスクを下げ、それでいて呼吸を妨げない魔法のマスクだ。これを付けてさえいれば、誰が来たって平気だろう?」
帝国はすごいな。じゃあ、すぐにつけよう。
「ああ、その前に……まずはメイドたちが作ってくれた食事を食べて、薬を飲みたまえ」
「でも、委員長に風邪移しちゃう……」
「黙って食べれば問題ない。さあ、口を開けたまえ。私は不器用だから溢したらすまん」
小匙に食事少し乗せ、不器用ながらも丁寧に僕の口に運ぶ委員長。まだほんのりと温かいチキンスープは美味しかった。委員長の優しさと双子メイドたちの温もりで流れた涙がしょっぱい。移したら悪いから言えないけど、ありがとうの代わりに、泣きながら食べた。
「うむ! 全部食べれたな。偉いぞ! あとはゆっくりと眠って休めば、すぐに良くなるさ」
きっと1人だと食べきれなかった。全部食べれたのは委員長のおかげだ。委員長は薬を飲ませたあとに、そっとマスクをつけて、手のひらを僕の目の上に乗せて、子守唄を歌う。
綺麗な歌声だ。帝国語の響きが、心地良い。
「ねえ、委員長……その歌、なんて曲?」
「昔、帝国で流行った【ハロ/ハワユ】という曲だ。私が小さい頃、風邪を引いて寝込んでいたり、母上に叱られて泣きべそをかいてる時に、父上がよく歌ってくれたのだ。この歌声だけは父上譲りでな。帝国で有名な歌い手である96猫に似ていて私の数少ない自慢だったりもする。もしやうるさかったか?」
「ううん……もっと歌って欲しい。お願い」
「お易い御用さ。心を込めて歌わせて頂く」
委員長はすごいな。美人で頭が良くて、隠れ巨乳でスタイルも良くて、愛想も良くて、素直で優しくて、おまけに歌も上手いなんて。
それにしても委員長のお父様か。どんな人なんだろう。きっと、素敵な人なんだろうな。
「委員長には、敵わないや……」
「嫌味を言う元気があるならもう安心だな」
「別に、嫌味なんかじゃないし……」
「私は私だと言ったのは許嫁殿ではないか。同じように許嫁殿には許嫁殿の魅力がある」
そうだろうか。僕に魅力はあるのだろうか。
「少なくとも、私は許嫁殿に憧れて髪を切ったぞ。少しでも、許嫁殿に近づきたくてな」
「そんな……誰だって髪くらい切れるよ……」
「そうではなく、気持ちの話だ。許嫁殿と肩を並べてやっていくという私の決意なのだ」
並ばれて比較されたら困る。僕は勝てない。
「僕なんて……どうせ……かわいくないし」
「ふむ? どうやら体調が悪くて弱気になっているようだな。今は何も考えず休むがいい」
委員長の柔らかな手のひらを涙で濡らしながら心地良い歌声に耳を傾け、僕は何も考えずに眠りにつく。そして起きたら、奴がいた。
「よォ……目が覚めたかァ?」
「おはよ……いま何時?」
「昼過ぎってとこだなァ」
もうお昼すぎか。薬のおかげかぐっすり眠れたらしい。朝よりは体調が良くなっていた。
それよりも、何故こいつがここに居るのか。
「授業はどうしたの?」
「ハッ! サボったに決まってンだろォがァ」
委員長に続いて悪役貴族までサボタージュ。
「1位取り続けないといけないんでしょ?」
「安心しろォ。俺が出てねェ授業は優等生がノート見せてくれるってよォ。ハッハァ! 持つべきものは、気が利く浮気相手だぜェ!」
寝起きで最低な台詞を聞かされて頭がクラクラする。あんな素敵な委員長を、あくまでも浮気相手として扱う悪役貴族に腹が立った。
「委員長を……大切にしてあげて」
「なら、第二夫人に格上げだなァ」
それでも第二夫人。なんでだ。わからない。
「僕のどこがそんなにいいの……?」
「沢山ありすぎて言葉では言い尽くせねェ。強いて言うならこの俺に歯向かってくるところが1番のお気に入りだなァ。そもそもてめェみてェな上玉、世界中どこを探したって見つかりやしねェよ。瞬く間にメイドを従え、心酔させるカリスマ性! この前、俺がバイクでコケたの時も痺れたぜェ! てめェは妻としての在り方と覚悟を示し、俺のせいで自信を喪失しちまった優等生を叱咤激励して、本来いがみ合う筈の浮気相手に憧憬すらをも抱かせたァ! この俺に口を挟む余地すら与えず、反論すら許さねェなンざ他の誰にも出来やしねェ! 俺ァ、心底てめェに惚れちまってる。今日だって片時もてめェのことを考えなかった時間はねェ。てめェさえいれば俺ァ、他の何もかも全て失っても構わねェとさえ……」
「む、無責任なことを言うな、バカたれ!!僕に全てをくれるって言ったじゃんか!?」
委員長も、双子メイドちゃんも、居なくなったら困る。かけがえのない存在だ。その全てを失ってもいいなんて、そんなの許さない。
「あァ、悪ぃ。撤回する。てめェが欲しいもんは全部俺が与えてやる。てめェのために全部守ってやる。もちろんてめェのこともな」
「僕より皆を優先してはくれないの……?」
「それは無理だなァ。最優先はてめェだァ」
そこは頑なに譲らないらしい。なんでだよ。
「僕は本当に許嫁として相応しいの……?」
「あァ。当たり前だァ」
「僕はちっともかわいくない……」
「てめェはとびきりかわいいだろうがァ」
「スタイルだって良くない……」
「ハッ! それがどォしたァ?」
「歌も上手くない……」
「ンなこと、どォでもいいんだよォ」
「だって! 僕はっ……素直じゃないっ!!」
「チッ……落ちつけェ。水を飲めェ」
叫んだら喉が痛かった。悪役貴族が吸いのみを口に咥えさせる。怒ったせいで熱が上がったのか、吐き出す気力ももなく飲み込んだ。
「悪ぃなァ……俺ァ見舞いには向いてねェ」
「……だったら、さっさと帰れ。バカたれ」
「わァったよ……でも、これだけは言わせろォ。てめェがどれだけ自分を否定しても、俺が肯定してやる。てめェがどれだけ自分を嫌っても、俺はてめェを好きでいつづける。それは当たり前のことで、だから、てめェは俺の許嫁なんだよ。それだけは理解しとけェ」
言い聞かせるようにそう言って、婚約者は。
「あァ、そうだ……帰る前に、動くなよォ」
「は? え? なにするつもり……むぐっ!?」
マスクを取られてキスをされ、僕はキレた。
「な、なに考えてんだよ! 移るでしょ!?」
「あァン? 俺はただてめェの風邪を貰ってやろうとしただけだァ。文句言うんじゃねェ」
「バカたれ! さっさと帰れ! もうくんな!」
「ハッハァ! 来るなって言われても来るに決まってンだろォが。言うことを聞く筋合いはねェ。なンせ俺ァ、てめェの婚約者だからなァ……また必ず来るから大人しく寝てろォ」
そう捨て台詞を吐いて、僕の婚約者は立ち去った。本当にあのバカたれには困った。何が僕の風邪を貰うだ。頭がおかしい。でもきっと、あいつが風邪を引いたら、僕も同じことをするだろう。医学的にとか、理屈とかは関係ない。そのくらい愛しているから。そこでふと、テーブルに置かれた花瓶に気づいた。
「僕が好きなミモザの花……」
悪役貴族は僕が好きな花を花壇で育てているらしい。きっとこの幸せを運んでくれる黄色い花は奴の仕業だろう。ミモザの花言葉は"密かな愛"。素直になれない僕はこの恋心を直接は言えないままでいる。それでもいいと、そんな僕が好きだとあいつは言う。素直になれない僕を好きなあいつに嫌われたくないから、だからこの先もずっと秘めたる恋をするのだろう。ミモザは苗木のうちは鉢植えでも育てられるけど成長すると大きな木になる。
そこまで成長してしまえば、もう折れない。
たとえ密かな愛だとしても、必ず成就する。
それまで、風邪など引いてる場合じゃない。
「あんなキスじゃ足りないよ……バカたれ」
もっと長くて深いキスのために早く治そう。
【僕は昼過ぎ、悪役貴族に見舞われる】
FIN
>>118みたいな日本語っぽい何かとか
自分で「人に見せるのも人に言わせるのも駄目」って
微塵にも思わないのかね
「僕のどこがそんなにいいの……」
「沢山ありすぎて言葉では言い尽くせねェ。強いて言うなら……」
奴がすぅ、と一呼吸してから語りだす。
「この俺に歯向かってくるところが1番のお気に入りだなァ。そもそもてめェみてェな上玉、世界中どこを探したって見つかりやしねェよ。」
(歯向かうっていうか、単に意見してるだけなんだけど。)
というかこいつの上玉の定義って何?
それだけヒートアップしているのか…そう思っていると、奴が更に言葉を続けてくる。
「瞬く間にメイドを従え、心酔させるカリスマ性! 」
そこはむしろ、メイドさん達に信頼どころか心配される君が駄目なんじゃないかな?
「この前、俺がバイクでコケたの時も痺れたぜェ! てめェは妻としての在り方と覚悟を示し、俺のせいで自信を喪失しちまった優等生を叱咤激励して、本来いがみ合う筈の浮気相手に憧憬すらをも抱かせたァ!」
……旦那、いや、仮にも貴族……うん、更にそれ以前の1人の男としての在り方や覚悟が足りていない方が駄目なんだと思うよ。
それにいがみ合うって分かってるなら最初から浮気相手なんか作るなよ。
心の中でげんなりする僕を尻目に、まだまだ奴の言葉は止まらない。
「 この俺に口を挟む余地すら与えず、反論すら許さねェなンざ他の誰にも出来やしねェ! 俺ァ、心底てめェに惚れちまってる。今日だって片時もてめェのことを考えなかった時間はねェ。てめェさえいれば俺ァ、他の何もかも全て失っても構わねェとさえ……」
「無責任なことを言うなバカたれ。前にも僕に全てをくれるとか言っておいてさあ……」
そこは失うんじゃなくて捨てるって表現だろう。大体君の為なら何もかも……とか言うなら、その気持ちに気づいた時点で色々直してほしいんだけど。
そう思いつつ、更に続きそうな話に割り込んでおく。
「というか僕以外の全てを失うってことは、委員長やメイドちゃん達もいなくなっちゃうんだけど?」
委員長も、双子メイドちゃんも、居なくなったら困る。かけがえのない存在だ。その全てを失ってもいいなんて、そんなのは勘弁してほしい。
「あァ、悪ぃ。撤回する。てめェが欲しいもんは全部俺が与えてやる。てめェのために全部守ってやる。もちろんてめェのこともな」
「うーん、そういうところだよね。」
そこは『僕を守る>僕を守るために他の全部を守る>僕の欲しいものをくれる』であってほしいんだけどなあ。
「僕より皆を優先するみたいな言い方だけど……?」
「そうじゃねえ。最優先はてめェだァ」
一応そういうつもりみたいだけど、それなら今の状況を作り出さないでほしかったけどなあ……。
こんな感じかなあ
改めてチンピラの発言の支離滅裂っぷりと、それを完璧に理解する主人公の脳の頭ちゃおラジっぷりが際立つなこれ
ちゃおラジも他作者から盗用したり無断借用したりオリジナリティの欠片もなかったが
投稿回数にだけは拘ってたな。数しか誇れるものがなかったんだろう
チリは積もってもゴミの山にしかならないのにな
他に同期のクソスレ並べてみると
【FGO/SS】本当はあったFGOハロウィン2023
【FGO/SS】本当はあったFGOハロウィン2023 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1699194788/)
安価「転生系小説」
安価「転生系小説」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1701562131/)
「安価で小説かくお」
「安価で小説かくお」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1702253254/)
があるかな
投稿数だけならここが一番多いな、投稿数だけは
最初にきちんと合わない人にブラウザバック進めているだけでも
FGOの奴がまともに見えるの凄いな
続ければ続けるほど世界樹にもキャラの言動にも展開にも
矛盾が増えていくという点は面白いんだよなあ
「沢山ありすぎる」の根拠がたった数回分のエピソードとか失笑ものだし
「あァン? てめェ、なに読んでんだァ?」
「昔、悪役貴族から貰った求婚のお手紙」
「あァ!? てめェまだ持ってたのかよ!」
委員長から貰った帝国の高性能マスクのおかげて誰にも移すことなく、すっかり風邪が治った僕はその晩、皆が寝静まったあと、昔、悪役貴族から貰った手紙を部屋から持ち帰り月明かりに照らし読んでいた。懐かしいな。
「失くしたり捨てたりするわけないじゃんか。これは僕にとって初めての求婚の手紙なんだから。あ、勘違いすんなよ!? 別に僕は大事にしてるわけじゃないんだからね!?」
嘘である。なんならこれは帝国の印刷技術の粋を集めたコピー機でコピーした複製品であり、原本はお城の部屋に額縁に入れて飾るくらいに、大切に、厳重に、保管されている。
年頃になってからは立場上、こんな僕でも各地から求婚の手紙が届くようになったが、これは僕がまだ10歳にも満たない幼い頃に貰った初めての求婚のお手紙だから当然である。
「ンなもん、さっさと失くすか捨てちまェ」
「嫌だ。これは僕のものだ。口出しすんな」
人の思い出を踏み躙る悪役貴族をひと睨みしてから、もう何度読んだとも知れない文面に目を通す。内容は単純で明快。幼い文字で。
"てめーにほれた。おれとけっこんしろ"
これを幼いこいつが書いたと思うと、はあ。
「あァ? なンだよ、その顔はァ」
「時の流れは残酷だなと思ってさ」
「どォいう意味だァ……あァン!?」
きっとこれを書いた時にはまだ可愛げがあっただろうに。どうしてこうなった。そう言えばこの時のことを訊いたことはなかったな。
「どうしてこの手紙を書こうと思ったの?」
訊ねると、悪役貴族貴族は嫌そうに語った。
「あれはてめェの誕生日に城で開かれたパーティーでのことだァ。まだガキのてめェが会場に"お出まし"した瞬間、俺ァクソ親父に頭を掴まれて強制的にお辞儀させられたンだよ。俺ァ誰かに頭を下げるなンざ死んでもお断りな性格だからなァ……あの時の屈辱は忘れられねェ。ンで、どうにかこうにか親父の馬鹿力に抗って、てめェをひと目見た瞬間、俺ァ惚れた。遠くて顔がハッキリ見れたわけじゃねェが、そンなの関係ねェ。なにせ、この国のどの貴族の家にもてめェの写真は飾られてるからなァ。まァ、流石に直近の近影は出回ってねェが。ただ言えるのは実物のてめェは写真よりも100万倍、魅力的だったてェことだァ。ンで、俺ァ領地に戻ってすぐに親父が書いたお招きのお礼の手紙の束の中に、その拙い手紙を忍び込ませたってェわけだ」
なるほど。どうやってこの見る者が見れば不敬極まりないとも取れる手紙が僕の元へと届いたのかずっと不思議だったけど、こいつは幼い頃から悪知恵が働く子供だったらしい。
「当時は考えなしで愚かな真似をしたもンだと思ったがァ、後悔はしてねェ。おかげで意中のてめェの目に留まったわけだからなァ」
「良かったじゃんか。僕の目に留まってさ」
悪役貴族が忍び込ませた手紙は宰相が届けてくれた。その結果、僕がお城から出奔することになった時には泣いて後悔していたけど。
「てめェはなんで俺の求婚を受けたんだ?」
「こんな手紙を送ってきたのは悪役貴族だけだったから……どんな人か気になっただけ」
年頃になってから届いた山ほどの求婚の手紙はどれも定型文や歯の浮くような文面ばかりで、まるで興味が持てなかった。だから僕は1番最初に貰った、直球ど真ん中のこの素敵な手紙の差し出し人にしか興味はなかった。
気になったから僕は悪役貴族が通う学園に潜入調査することにした。正体を隠すため従者も付けずに単身乗り込んだ僕は愕然とした。
「まさかこの手紙をくれたのがこんな悪役貴族なんて、僕のときめきを返して欲しいよ」
「あァン? そンな手紙でときめいたのか?」
「む、昔の話だから! 今はガッカリだし!」
反射的に否定すると、悪役貴族は頭を掻き。
「これでも俺なりに頑張って好成績を残したり、毎朝ジョギングをしてそこらの貴族よりもマシな身体作りをしてきたンだがなァ……チッ。なかなか上手くいかねェもンだぜェ」
「そ、そんな嘘を真に受けんなバカたれ!」
「あァ? なら、ホントはどォなんだァ?」
「え、えっと……そ、それは……その……」
落ち込んだ悪役貴族に慌てて嘘だと言うと、いきなり窮地に立たされた僕。たしかにガッカリした面もあるが、それでも僕は今、こいつと結婚してもいいと……いや、こいつ以外と結婚するつもりはない。愛しているから。
「ケッ。今に見てろよォ? 学園を卒業する頃には、てめェを俺以外と結婚する気なんかなくなるくらいに惚れさせてみせるからなァ」
「ふ、ふん……せいぜい頑張ってみれば?」
もう惚れてますなんて言えないのが苦しい。
「あァ……頑張るから1番近くで見てろォ」
「はあ……仕方ないから、見ててあげるよ」
こいつはきっと僕がもう頑張らなくてもいいと言っても頑張り続けるのだろう。僕のために。僕が欲しい全てのものを与えるために。
「病み上がりなンだからそろそろ寝るぞォ」
「病み上がりって……もう大丈夫だってば」
「お袋は俺がまだガキの頃に病気で死んじまった。またてめェの弱った姿を見たらそン時のことを思い出しちまって悪夢でうなされそうだ。だから頼むから、さっさと寝てくれ」
「そっか……うん。わかったよ。もう寝る」
納得して今日だけは素直に目を閉じる間際。
「……お見舞いの時、追い返してごめんね」
「ンな些細なこともう覚えてなンかねェよ」
「お花も……ありがとね………嬉しかったよ」
「花なンざいくらでもくれてやるから寝ろ」
「うん……おやすみ」
「あァ……おやすみ」
手紙をくれた幼い悪役貴族に感謝して眠る。
【僕は微睡の淵、幼い悪役貴族に感謝する】
FIN
スカトロくんのオシリアナルが駄目な点
①世界観が無茶苦茶
委員長の故郷である、黒髪が特徴的な東の帝国ではバイクや車どころかスマホもあって、浴衣やすき焼きまであるのならほぼ現代日本みたいな地域だろう。しまいにはマスクやコピー機まで出てきてるし。
……で、未だに主人公達の国は道路もあまり整備されておらず馬車が交通手段、おまけに奴隷市場まであるような格差社会が残っているとか。
客観的に考えたら現代日本の近郊に中世の文化レベルの国が存在するとか、冗談も大概にしてほしい。そんな格差があるならば普通は文化の高い国がそうでない側を統治下に置く。
そういった無理な設定を更に無茶苦茶にするが如く、わざわざ優秀な女子が留学してくる意味が全くもって謎。普通優秀な奴はよりレベルの高い学びを求めて、留学ってするものよ?やってることが全くのあべこべ。
学園と城下町が離れているのも全くもって意味不明だが、極めつけはどうして東の帝国じゃない方の国の城に「天守閣」があるのか。こっちが実は江戸期の日本?かと思ったらクッキーやサブレ作っててもう何が何だか分からねえよ。
スカトロくんのオシリアナルが駄目な点
②書いてる奴が学園生活をまともに送っていない半生なの丸出しな日常描写
男が延々女4人のハーレムで好き勝手やってるだけの展開。それも学園内の寮で……と思いきや、珍しい筈のバイクを使用しても他の寮生とかが見に来る様子とかも一切無し。
あと風呂場のサイズが意味不明なことになっている。双子に手を出さずにいたならば大した大きさじゃない筈なのにいきなり女子を侍らせても平気なサイズになってるし、もしこれが寮の共同浴場とかなら他の寮生も入ってこないとおかしいんだけどな。
というか委員長とか氏名が「委 員長(イ・インチョ)」ってことなんじゃないのかってレベルで、名前に見合ったことやらないどころか職務放棄して男の部屋に入り浸るダメっぷり。
教師やモブの学生とかも全く出てこないし、学校生活とか行事とかをロクに書くことのできない奴が誤魔化して書いてるのが丸分かり。
舞台を学園じゃなくて貴族同士の領土や覇権争いみたいにしていれば、まだほんの少しでもマシだったんじゃないか。
スカトロくんのオシリアナルが駄目な点
③登場人物の魅力が全く無い
メンヘラ池沼な主人公と、男が1人なのに「悪役」にされる奴。
そもそも男装がバレていなかった頃は意にも介していなかった相手に向かって、仮にも付き合ってる相手がいる横でいきなり「愛してる」「キレイ」という言葉を投げる男と、散々男を悪役貴族と銘打ってまで避けていながらその言葉で即墜ちする主人公。
いや、どちらもガイジ極まりすぎていて開いた口が塞がらない。
その悪役貴族の「悪役」要素もここまで「主人公が悪そうだと感じたから、口調が悪いから」とかいう下らなすぎる理由しか無いのがもうね。というか「悪じゃない役」の貴族どこだよ。むしろ主人公からすれば当初の委員長も悪役だろうが。
主人公も男の許嫁で、一応学園に入学できる程度の能力がある以外の情報全く無いし、性格も詰まるところ男を崇拝するだけの尻軽なビッチになってるしで、こいつの方が余程脇役の悪役にふさわしいんだよなあ。男に対する呼び方が悪役貴族だったり婚約者だったりコロコロ変わる様も頭おかしいとしか思えない要素だし。
何よりどう見ても世界観のパワーバランスとして「委員長の婿養子に男、その許嫁だった主人公が妾」にならないと国際問題になる程国のレベルが違ってることを誰よりスカトロくんが理解していない無知っぷり。
スカトロくんのオシリアナルが駄目な点
④不適切な内容を実力の無い奴が書こうとしている
意図的に延々不快なスカトロ要素を書き続けたような奴だし、根本的な目的として何か閲覧者に不快もしくは不適切な内容を意図的に書き続けるのが目的の可能性が高い。
そういう視点で考えた時、「VIPで書くには不適切な性的描写」を書こうとしているっぽいのが分かる。
ただまあ、ここまで一切そういう意見がないのも、「せいぜい地上波でも普通に流れることのあるような事後の様子」とかしか書かれていない(おまけに童貞感丸出しの薄っぺらさ)上、みんなが「こいつにまともなエロなんて書けるわけがない」って思われている点も大きなポイントかもしれない。
というか露骨に感じられるようなレベルの性的描写書いたところで、みんな文句言うどころか「あざーっす」ってなるだけなのをスカトロくんは理解しているのかな?
……じゃあこのカスみたいながまともな作品になる為に必要だったものは?
それを考えてみても多すぎて書ききれないけど、そもそもとしてスカトロくんが自分へのプライドを捨てて、作品へのプライドを持つことだよね。
あまりにも皆がけなすから、逆に良い部分もあるんじゃないか?と思って見てみたら、むしろ良い部分皆無で悪い部分ばかりが下痢便のように止まらない、想像以上のゴミでした。
ID:VMJO2mNfOも>>1と同レベルの頭おかしい奴だろ、自分はマシだと思ってる分悪質かも
面白くもないオシリアナルって造語を本人はウケてると勘違いしてるのか連呼したり、説得力ゼロの読む気になれない長文を垂れ流すとか>>1と共通してるわ
加えて他人が立てたスレでそれらを連投する恥知らず、厚かましさなら>>1を上回ってるだろうねぇ
駄文スカトロマンはマゾなだけだ
「ボクの垂れ流した怪文書がみんなに罵倒されてるぅ!」でビクンビクンしてるだけだから
真面目に相手にするだけ時間の無駄なんだよ
基本はシカトしときゃいい。去年のクリスマスのようにな
自己愛の強いコイツには無反応が一番堪える
>>1には八幡「新はまち劇場」【俺ガイル】Part4 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1701770306/)を読んでどこを改善すべきかしっかり自己分析してもらいたい
他所のクソスレ読めば自分のスレもクソだと実感するだろう
>>137
いや>>1の自演じゃないぞ
別のスレじゃ書き手が本文そっちのけで反論する場合もあるけどここは一気に書き溜め投下してトンズラする
多分誰が自演かって言い争う人狼ゲームもどきを高見の見物で眺めてるだろ
「委員長、なにしてんの?」
「見ての通り、耳かきをして貰っている!」
その日、悪役貴族の巣窟に帰宅して部屋着に着替えたら委員長がお姉ちゃんメイドに耳かきをされていた。当然のように膝枕である。
サラサラの白タイツに頭を乗せてご満悦だ。
「ふうん……気持ちいい?」
「ああ、最高だ! 私は不器用なので耳かきは下手くそなのだが、この子はとても上手い」
「だってさ。褒めて貰えて良かったね?」
「お、奥様、これは浮気などではなく……」
ちょっと嫌味っぽく囁くと、お姉ちゃんメイドが狼狽してかわいい。ああ、いけないな。そんなに僕の悪戯心を刺激しないでおくれ。
「君は誰のメイドなんだい?」
「わ、私はもちろん、奥様の忠実なメイドでございます。ですが……メイドとして、この方に対しても同様に忠義を尽くす所存です」
「うん……100点満点の答えだね。良い子」
僕の意地悪にもめげずに模範解答をしたお姉ちゃんメイドの頭をよしよしと撫でた。すると、なにやらウルウルと瞳を潤ませている。
「ん? なにか僕に言いたいことがあるの?」
「恐れながら……奥様の御手に口付けを……」
「ああ、いいとも……許そう」
僕が手の甲を口元に差し出すとおずおずとキスをするお姉ちゃんメイド。その触れ合いを頭上で見せつけられた委員長は不貞腐れて。
「許嫁殿はどんどん悪役貴族に染まってる」
「……僕のせいじゃないし」
これは全て婚約者である悪役貴族の影響だ。
「奥様も耳かきをしますか?」
「僕は昨日、自分でしたばかりだから……」
「なら、ちゃんと出来たか見てやるよォ」
妹メイドちゃんが耳かきを片手に訊ねてきたのでそう答えると、その耳かきを強奪して、悪役貴族が邪悪な笑みを浮かべて、ちゃんと耳掃除出来てるか確かめると抜かしてきた。
「やだよ。悪役貴族に膝枕されるなんて」
「たまにはいいだろォがァ」
「でも、恥ずかしいし……」
「あァン? そンなに耳ン中が汚ェのかァ?」
「き、汚くなんてないし! 見てみなよ!!」
失礼極まりない悪役貴族の膝に頭を乗せて、見せつける。奴はそっと僕の耳に触れ、中を覗きこんだ。妹メイドちゃんまで覗いてる。
「たしかに、キレイなもンだなァ」
「奥様はお耳もお美しいです……」
「耳が美しいってなんだよ……もぉ」
なんだこれ。めちゃくちゃ恥ずかしい。あとくすぐったい。声が出そうになる。女の子みたいな高い声なんて僕には似合わないのに。
「あっ……そ、そんなに奥まで挿れないで」
「まだ全然入り口だぞォ?」
「こ、これ以上は無理……もう入んない」
「なンだ、痛てェのかァ?」
「い、痛くはないよ……むしろ……はぅっ」
「奥様……えっちすぎます。ああ、鼻血が」
何故か鼻血を流す不思議な妹メイドちゃん。
「よォし、次は左耳だァ」
「もうやだ! 耳かきをよこせっ!」
あまりの羞恥に耐えきれなくなった僕は起き上がり、悪役貴族からいけない棒を奪い取った。この棒のせいで僕は女の子になるんだ。
「ほら、次は悪役貴族の番だよ」
「俺も昨日掃除したばかりなンだが……」
「ちゃんと耳掃除出来たか僕が見てあげる」
「チッ……しゃあねェなァ」
渋々僕の膝に頭を乗せる悪役貴族。復讐だ。
「おォい! どこまで突っ込むんだよ!?」
「ふん。まだまだ。僕の気持ちを思い知れ」
「痛ェっての! 全ッ然気持ちよくねェ!!」
「はい、次は左耳ねー」
文句を聞き流してコロンと首の向きを変えると奴の顔が僕のおへそを向いた。するとモゾモゾ顔を埋め、鼻先で器用に部屋着の裾をめくり、次の瞬間、僕のおへそに電撃が走る。
「ちょっと! 僕のおへそを舐めんな!」
「ちょうど良い位置にあったからなァ」
「やめろバカたれ! この変態悪役貴族!!」
「ハッハァー! 最ッ高の褒め言葉だぜェ!」
「はあー……おふたりのメイドで幸せです」
念の為、毎日おへその掃除をしといて良かった。僕らの喧嘩を眺めている妹メイドちゃんは鼻血を流しながら何故か幸せそうだった。
【僕は帰宅後、悪役貴族に女の子にされる】
FIN
「あ、カフスのボタンが取れかけてるよ」
「え? あ……申し訳ございません。ご指摘されるまで、まったく気づきませんでした」
お姉ちゃんメイドの袖口のカフスのボタンが取れかけていた。慌てて恥じ入るようにそれを隠すと、委員長がこちらにやって来た。
「どれ、私が付け直してやろう」
「そんな、自分でやりますので……」
「へえ。委員長、お裁縫出来るの?」
「不器用ゆえ出来栄えは保証しかねるがな。妹ちゃん、裁縫道具を持って来てくれ」
「はい。かしこまりました」
妹メイドちゃんから裁縫道具を受け取り、外したカフスのボタンをチクチクと修繕する委員長。少々粗い仕上がりだけど付け終えた。
「すまないな。きっと君が自分で直したほうが、綺麗に付けられたかもしれないが……」
「いえ、そんな……ありがとうございます」
「なに、気にすることはないさ。裁縫もたまにやらないと更に下手くそになるからな!」
たまにどころか僕などやったことすらない。
「たいしたもんだよ、委員長は」
「許嫁殿は料理が得意ではないか」
「あれは、まあ……学園に来てからすることもなかったし、暇つぶしに覚えただけだよ」
従者もつけずに単身乗り込んだ僕は、当初は花嫁修行のつもりで料理を覚えた。しかし、婚約者に振る舞う機会はなかなか訪れることはなく、他にすることもなかったので、お城のシェフから貰ったレシピを片っ端から作っていたら、それなりに上達したに過ぎない。
「いいか、許嫁殿。将来、夫となる男の胃袋を掴むことは重要だ。帝国では昔から夫婦が結婚するにあたり、結婚式の場で人生における"3つの袋"について説く慣習があるのだ」
「人生における3つの袋? 何それ知りたい」
先進的な帝国の慣習ならきっと為になる筈。
「ならば教えよう。3つの袋とは、胃袋と、堪忍袋と、そして1番重要なのは玉袋だ!」
なるほど。僕は挙手して委員長に質問した。
「胃袋と堪忍袋はわかるけど、玉袋って?」
「ソレはだな、許嫁殿の婚約者の……」
「第二夫人様。ソレ以上は困ります」
「ソレは、奥様にはまだ早すぎます」
興味津々な僕に解説する委員長を何故か双子メイドたちが止めに入る。なんだろう、玉袋って。僕の婚約者に関することらしいけど。
「なにを今更。毎晩見ているではないか」
「奥様はアレが何かをご存知ないのです」
「奥様はアレを未だ直視出来ないのです」
「しかしアレこそがもっとも重要な……」
「アレに関しては第二夫人様の取り分です」
「奥様に代わって丁重に取り扱いください」
「ふむ……それは構わないが、私は許嫁殿と2人で力を合わせもっと気持ち良くだな……」
なにやら委員長とメイドが真剣な顔で話し合いを始めたら。僕は蚊帳の外だ。なんだよ皆して僕を除け者にしてさ。玉袋が気になる。
「ねえ、悪役貴族。玉袋ってなんのこと?」
「あァン? いきなり何言ってやがンだァ?」
「お、奥様! それを若様に訊くのは……!」
「わ、若様! どうか夢のある返答を……!」
「あっはっは! 許嫁殿は大胆不敵だなぁ!」
悪役貴族は騒ぐ僕らを見てため息を吐いて。
「玉袋ってのは玉のようなガキが生まれるために必要なもンで、俺が大切に保管してる」
「へえ! そっかなるほど! それは大切だね」
「さすがは若様……お見事です」
「奥様の夢が更に広がりました」
「うーむ……モノは言いようだな」
しかしそんな大切な物を預けるのは不安だ。
「悪役貴族、それは僕が預かっておくよ」
「てめェ……無茶を言うンじゃねェよ……」
「お城に保管しとけば、絶対に安全だよ」
なんなら幼い悪役貴族から貰った求婚のお手紙の隣に保管しておいてあげよう。そうすれば盗難の心配もなく、将来困ることはない。
「いいかァ、玉袋ってのはなァ……俺の手を離れたその瞬間に、効果がなくなンだよォ」
「そうなんだ……絶対に失くさないでね?」
「てめェ……俺をおちょくってんのかァ?」
「わ、若様、どうかお怒りをお鎮めに……」
「奥様には、まったく悪気はないのです!」
「メイドたち、君たちは許嫁殿を甘く見すぎだ。許嫁殿、そろそろ無知のふりはやめろ」
なんだ、バレてたか。委員長はさすが鋭い。
「僕と委員長以外に女作ったら没収だよ?」
「チッ。やっぱおちょくってやがったかァ」
「玉のような赤ちゃんは僕らのものだから」
「ハッハァ! 今すぐ産ませてやろォかァ?」
「ふん。お断りだよ。卒業までは我慢しな」
まんまと騙された婚約者とメイドを嘲笑う。
「バカたれども。僕を子供扱いしすぎだよ」
「お、恐れ入りました、奥様……お赦しを」
「奥様は大人の女性であらせられます……」
「うむ! さすがは私が憧れた許嫁殿だな!」
堪忍袋の緒が切れたら僕は玉袋を没収する。
【僕は無知のふりをして、悪役貴族を脅す】
FIN
長門有希「言語だけが意思疎通のツールではない」
長門有希「言語だけが意思疎通のツールではない」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1692536812/)
怪文書ってので↑のスレ思い出したわ
怪文書って言葉を使われて以降、フハッの人()の肩を持つキチガイが怪文書を連呼してたんだよな
本人の自演かもしれんがw
「うう……母様……」
「んぅ……どうしたの……?」
「嫌だ……死ぬな……くそっ……母様……」
「また怖い夢を見てるの……?」
悪役貴族はたまに悪夢にうなされる。いつも寝ぼけて僕を抱きしめるので、こうして夜中に起こされる。僕は抱き返して頭を撫でる。
夜中に起こされてもちっとも嫌じゃないのが自分でも不思議。僕にも母性があるらしい。
「お母様にはなれないけど僕が傍にいるよ」
「ああ……救えない……死んじまう……」
「大丈夫、大丈夫。死なないから安心して」
「母様……」
しばらく抱きしめてあげると、安心したように寝息を立て始めた。悪役貴族はお母様を病気で亡くしている。きっと、その時の記憶がフラッシュバックするのだろう。可哀想に。
「生きていたら、ご挨拶に伺えたのに……」
悪役貴族のお母様は有名だ。"悪役夫人"の異名を持ち、茶会よりも宴席でこそ、その猛威を振るったと聞いている。もちろん当時僕はまだお酒が飲めなかったため、人づてに耳に入る情報しか知り得ないが、にわかには信じられない伝説がいくつも残っている。曰く、酔った勢いで宰相の頭に酒をぶっかけたり、飲みすぎて宰相の靴の中に嘔吐したり、宰相の髪の毛を毟ったりと、やりたい放題だったらしい。現在、宰相の髪の毛が薄いのは悪役夫人のせいだとよく愚痴っていた。そんな宰相も、悪役夫人の葬儀の際には涙を流して悲しんだ。宰相の涙なんて、その時と、僕がお城を出奔した時しか見たことはない。きっとそれだけ、慕われていた人だったのだろう。
「僕の国も東の帝国と同じくらい医療が発達していれば……助かったかも知れないのに」
「……ああ。彼も、同じことを言っていた」
「あ、ごめん、委員長。起こしちゃった?」
「謝る必要はない。私も彼を支えたいのだ」
ひとりごちると委員長が目を覚まして語る。
「先代大帝の御尽力により、帝国は極短期間のうちに飛躍的に発展した。この国で暮らす者からすると、突如急成長した帝国は不気味で、脅威に感じるのだろう。そのせいで医療支援をはじめとした様々な援助、更には国交までもが滞ってしまうのも仕方ない話だと、私は帝国出身の者として理解している。無論、帝国に侵略や侵攻の意図や計画などは存在せず、それは先代大帝が退位した今でも変わらないのだが、それでも未だにこの国は帝国に対して積極的に関わろうとはしない。君の婚約者は母親を病で亡くした際、そんなこの国を変えたいと思ったらしい。その目的のために学園に入学してから勉学に励み、帝国からの留学生である私とも関係を……むぐ」
お喋りな優しい口をそっと手で塞いでおく。
「ストップ。さすがに喋りすぎだよ委員長」
「だがしかし許嫁殿には聞いて欲しいのだ」
口から手を離すと、反論されたので諭した。
「前にも言ったでしょ。どうしてこいつが委員長と付き合うことになったかなんて、僕は興味ない。僕が知る必要のないことだから」
「しかし君も彼の許嫁殿であるならば……」
そうとも。僕は許嫁だから知る必要はない。
「僕はこいつの許嫁だから、どんな理由であろうとこいつのすることを支える。委員長や双子メイドちゃんに手伝って貰いながらね」
どんな困難だろうと皆がいればきっと平気。
「やれやれ。やはり許嫁殿には敵わないな」
「一緒にこいつを支えていこうね、委員長」
「無論だ。きっとそのために私はこの国へ来たのだと、今ではそう信じて疑っていない」
力強く頷く第二夫人のおかげで僕は心強い。
「ありがと。そろそろ寝よう。おやすみね」
「ああ、おやすみ。優しくて素敵な許嫁殿」
優しくて素敵な第二夫人とともに僕は眠る。
【僕はたまに、夜泣きの悪役貴族をあやす】
FIN
「むう……」
「どうした許嫁殿。まるで親の仇を見るように私の胸を凝視するなんて……興奮するぞ」
僕がお風呂に入ろうと服をポイポイ脱いでいると、委員長もおもむろに服を脱ぎ始めた。
どうやら一緒にお風呂に入るつもりらしく、下着姿となった委員長は現在、普段制服の下に隠された巨乳を白日のもとに晒している。
恥じらいがない癖に興奮してる彼女に問う。
「どうやったら、そんなにデカくなるの?」
「これは恐らく遺伝だ。母上もデカいのだ」
「そっか……本人の努力次第じゃないんだ」
現実に直面した僕を、メイドたちが励ます。
「お、奥様はまだまだ発展途上です!」
「膨らみかけの蕾こそが、正義です!」
いつまで膨らみかけの蕾なんだ。咲きたい。
「ねえ、ちょっと触っていい? もしかしたら何かしらご利益があるかもしれないし……」
「ふむ……だがしかし、こちらだけ触って貰うのも忍びないので、僭越ながら私も、許嫁殿の膨らみかけのかわいい蕾ちゃんを……」
「蕾ちゃんって言うな、バカたれ」
「これは失敬。ならばその"シンデレラ・バスト"にこの私のハンドパワーを差し上げよう」
なにが蕾ちゃんだ。誰がシンデレラ・バストだ。なんだよハンドパワーって。そんな僕の憤りは、手のひらの感触により吹き飛んだ。
「ふぁ……なにこれ、すっごい。柔らかい」
「あっはっは! お気に召してくれたか?」
「これはいけない。思わず収穫したくなる」
「許嫁殿のも小さいながら美味しそうだぞ」
舌なめずりをする委員長。えっちすぎるよ。
「あ、こら! つまむな! 顔を近づけるな!」
「ふむ。どれひとつ、味見をしてみようか」
「やめろバカたれ! な、舐めるのもダメ!」
僕らがわーきゃー騒いでるとメイドたちが。
「奥様方! 私のもご賞味ください!」
「わ、私のも、もしよろしければ……」
なんて良い子たちだろう。献身に報いたい。
「じゃあ、今日は皆でお風呂に入ろっか?」
「「「わあい!」」」
僕の提案に喜び勇んで浴室へと向かう女性陣たち。そして僕は、仲間はずれで部屋に1人だけ取り残された悪役貴族をせせら笑った。
「ふん。残念だったね、女に生まれなくて」
「ケッ。俺が女だったら、てめェらなンか比べモンになんねェくらい、良い女だっての」
つい想像してしまった。女の子の悪役貴族。
いや、それはもはや悪役令嬢である。乱暴な口調と粗雑な振る舞い。そして旺盛な性欲で片っ端から男どもを寝所に招き……あわわわ。
「あァ? なんだァてめェ。顔が赤ェぞォ?」
「き、気のせいだし! 別に悪役貴族が悪役令嬢になって毎日えっちなことしてる姿なんて妄想してないし! なに考えてんのさ!?」
「なに考えてんだって言いてェのは俺だァ」
僕の全否定に悪役貴族は溜息を吐いて呟く。
「てめェがなに考えてんのか、わからねェ」
「あ、う……ご、ごめん」
「あァン? チッ……なンでそこで謝んだよ」
「だ、だって……悪役貴族が呆れるから」
悪役貴族からしたら、僕は理解不能で情緒不安定な奴に見えるのだろう。愛想を尽かされてもおかしくない。僕がしゅんとしてると。
「ハッ! なに考えてンのかわかんねェからこそ、俺ァてめェのことが気になンだよ。いつか洗いざらい全部、吐かせてやるからなァ」
「ふん……あんまり、僕を待たせないでよ」
ふわっと気持ちが軽くなる。嬉しくなった。
「ンなことより、てめェ……」
「え? なに? どうかした?」
「目に毒だから、さっさと風呂に行けェ」
「へ? ……あっ」
言われて気づく。僕は今、パンイチだった。
「きゃあ!? も、もっと早く言ってよ!?」
「ハッハァー! なるべくじっくりと、てめェの"蕾ちゃん"とやらを見たかったからなァ」
「つ、蕾ちゃんて言うなっ! バカたれ!!」
今更、僕の貧相なヌードなんて見飽きただろうに。なのに何故か突然発情するから困る。
悪役貴族が劣情を催すスイッチが知りたい。
【僕はいつの日か、蕾を花開かせたい】
FIN
「ちょっと。まだ足りない。やめないでよ」
「このままシてたら朝になっちまうっての」
言われて気づく。すっかり夜も更けていた。
「はあ……もぉ」
「あァン? どォかしたのかァ?」
その夜、僕はいつも通り、お互いに悪態を吐き合う儀式を終えたのちに、悪役貴族とキスをした。けれどこのままでいいのだろうか。
このキスはとても気持ちがいいけれど、心の距離は縮まらない。それが僕はもどかしい。
「なンだよ、やっぱりおかわりかァ?」
「そうじゃなくて……もっとこうさぁ」
「ハッキリ言わねェとわかンねェぞォ」
わかってる。だけど僕は、素直になれない。
「……もっと僕のことを煽って」
「はァ? どォいう意味だァ?」
「僕を罵って、もっと苛つかせて」
本能的にそんなおかしなことを口走ってしまった。羞恥と後悔が襲ってくる。こ、こんなのまるで僕が変態みたいじゃん。顔が熱い。
一応、ちゃんと理屈らしきものはある。素直になれない僕は、悪役貴族に反抗することで言いたいことを言える。しかし伝わらない。
「てめェはホント、わけわかんねェなァ」
「あ、う……き、嫌いにならないで……」
「なるわけねェだろォが。ンで、てめェは俺にどォして欲しいンだ? わかるように言え」
嫌われたくなくて、僕はわかるように言う。
「僕のダメなところを指摘して欲しい……」
「そりゃ無理だ。ダメなところなンざねェ」
「うう~……だ、だったら、悪役貴族が自分自身のダメなところを、僕に言ってみてよ」
これもきっと本能だ。意味不明なお願いだ。
この提案に関しては僕自身もさっぱり意味がわからない。それでもなんとなく言いたいことが言える気がしていた。妻の直感である。
「そうだなァ……まず俺ァ、とにかく口が悪ぃ。それにてめぇという許嫁がいるのに他の女に手を出しちまうような最低な糞ヤローだ。あと酒癖もお袋に似て悪ぃな。自他共に認めるドスケベでいつもてめェをやらしい目で見ちまう。1番最悪なのは、てめェの気持ちをわかってやれねェところだ。だから、嫌わないで欲しいってのはこっちの台詞……」
「そんなことないっ!! ふざけんなっ!!」
気づくと僕は叫んでいた。全てを否定する。
「口が悪くても悪役貴族は優しい! 委員長に手を出したのも悪役貴族なりに考えがあってのことでしょ!? お酒を飲み過ぎるのを制御するのは僕の役目だし、やらしい目で見られるのは女として嬉しい! 悪役貴族はいつも僕のことを理解してくれる! だからっ……ぐすっ……それはダメなところじゃないっ!!」
ダメなのは僕だ。自分で言わせた癖に、全部否定するなんて。でもこうでもしないと肯定してやれない。そんな自分が情けなくて、卑怯な涙が出てきた。嫌だ。泣くな。止まれ。
「あァ……畜生……また泣かせちまったなァ」
悪役貴族はその涙を自分のせいだと捉える。
「俺が悪かった……だからもう泣くなァ」
「悪役貴族は悪くない……僕が全部悪い」
なにも悪くない。悪いのは僕で、ダメなのも全部僕だ。それなのに悪役貴族は紫水晶の瞳で見つめてそっと僕の涙を拭い、こう諭す。
「てめェは俺の許嫁で、俺のもンだ。だから、てめェの悪いところも全部、俺のもンで、俺のせいなンだよ。わかったかァ?」
わからない。言葉じゃ全然何も伝わらない。
「わからない……わからないからキスして」
「ハッハァー! その発想は俺と同じだなァ」
弱気な僕を鼓舞するように、卑怯な涙を笑い飛ばすように、邪悪に嘲笑った悪役貴族は僕の顎を持ち上げて、首を傾ける。早くしたいと急かす、逸る気持ちを抑えながら、囁く。
「僕から目を逸らさないで……見つめてて」
「あァン? 前は見るなって言ってたろォが」
「もういい……もうおかしくなってるから」
「おかしくなってんのは俺のほうなンだよ」
「僕に反論すんな……バカたれ……ぁむっ」
悪役貴族のキスは、僕がびっくりしないように、怯えて怖がらせないように、いつも優しい。それが物足りなく感じてしまうのはきっと僕に負い目があるからで、もっと乱暴に、血が出るくらいに唇を噛んで、僕を懲らしめて欲しいとさえ思うけれど、優しい悪役貴族は僕を傷つけたり、痛がることをしてくれない。だけどきっと僕らはそれでいい。それがいいんだ。キスをしながら確信する。誰がなんと言おうと、これが僕たちの在り方だと。
「はあ……まだ足りない。もっとしたい」
「ハッ……いつまで経っても寝れねェな」
その夜、少し悪役貴族との距離が縮まった。
【僕はその夜、悪役貴族と距離を縮めた】
FIN
「あー……恥ずい」
朝起きて、昨晩の自分の言動を思い返して悶えるのが日課になった。おかしい。こんな筈ではなかったのに。悪役貴族に僕が女で、しかも許嫁であるとバレたあの夜、教室にお弁当箱を忘れた僕は悪役貴族の体操服が椅子にかけてあるのをたまたま発見して、ちょっと着てみようと思い立ったのが大失敗だった。
どうして上着を脱いでワイシャツの上から着ただけで満足せずに、素肌に着てみようなんて愚かなことを思いついたのか。変装用のダサいデカメガネを外して、肌着を脱ぎ捨てたその時、体操服を取りに来た悪役貴族と鉢合わせて、女だということがバレてしまった。
「だって仕方ないじゃん……経験上、シャツの上からじゃ何の意味もないってわかるし」
それ以前もあいつが体操着を忘れた時に、たびたび拝借していたのは秘密だ。お弁当箱を忘れて取りに戻ったのは全くの偶然であり、断じて、体操服目当てだったわけではない。
僕は決して常習犯ではないったらないのだ。
「寝起きなら、素直になれるのになぁ……」
今朝もちゃんとジョギングに出かける悪役貴族に行ってらっしゃいを言えた。でも夜は全然ダメだ。昨晩は我ながら頑張ったほうだと思う。代わりにすごく恥ずかしかったけど。
「昨晩は随分とお盛んだったな、許嫁殿」
「ふぇっ!? ま、まさか聞いてたの!?」
「隣であんなに激しくされたら丸聞こえに決まっているだろう。妹メイドなんてその光景をガン見しながらモゾモゾしはじめて、姉メイドに口を押さえて貰って喘ぎ声を出さないようにしていたくらいだぞ。私も興奮した」
なんてこったい。僕は妹メイドちゃんのオカズにされていたらしい。キスに夢中で全然気づかなかった。恥ずかしくて赤面しながら絶句している僕を見て委員長は高笑いをして。
「あっはっは! 許嫁殿と知り合った当初はこんな素直じゃない天邪鬼が相手ならすぐに私が正妻になれると踏んでいたのだがな。今となっては私にも許嫁殿の良さがよくわかる。その奥ゆかしさは私には持ち得ない魅力だ」
「ふん……僕は奥ゆかしくなんかないやい」
気恥ずかしさを誤魔化すために口を尖らせて拗ねて、ふと気になった。あの夜、委員長はどうして教室を訪れたのか。訊いてみよう。
「そう言えば今更だけど僕が女だってバレた夜、どうして委員長はあの教室に来たの?」
「あの晩、私は遅くまで図書室で勉強していてな。そろそろ帰ろうかと思ったその時、教室へ向かう彼を見かけた。そこで私は閃いたのだ。教室で致したら気持ち良さそうだと」
「訊いて損したよ! このバカたれ委員長!」
何が優等生だ。純白の制服を返上しておけ。
「我ながらバカな思いつきだったと思うが、そのおかげで今があるというなら感慨深い」
「美談みたいにまとめるなよ……バカたれ」
とは言いつつも感慨深いのは僕も同じだ。ただ単純に身バレしただけなら僕は悪役貴族の部屋に通うこともなく学園をやめていたかも知れない。委員長に対抗して、ノコノコと悪役貴族の巣窟に通った結果、今があるのだ。
「奥様方、朝食のご用意が出来ました」
「昨晩は大変、興奮させて頂きました」
朝から甲斐甲斐しく僕らの世話を焼いてくれるお姉ちゃんメイドも、ちょっぴりえっちで困り者の妹メイドちゃんも、あの夜があって今、こうして関わってくれている。感謝だ。
「ありがとう。君たちに出会えて、僕は嬉しいよ。でも、あいつとのキスを盗み見られるのは恥ずかしいから、今後は控えるように」
「奥様……いやらしい私を罵倒して下さい」
「はあ……何を言ってるんだか……バカたれ」
「ありがとうございます! 今夜も期待してますのでもっともっと乱れてくださいませ!」
「まったく……本当にどうしてこうなった」
怒られて嬉しがる妹ちゃんも可愛いけどね。
「委員長もありがとね。出会えて嬉しいよ」
「やれやれ。その素直さを彼に見せたまえ」
「今は無理だけど……そのうち、きっとね」
第二夫人の諫言をいつの日か聞き入れたい。
【僕は朝方、あの夜を回想し、感慨に浸る】
FIN
「奥様、奥様。私の告白を聞いてください」
「ん? どうしたの、妹ちゃん。顔赤いけど」
「実は本日、私は下着を穿いてないんです」
その日は休日で僕は委員長から貰ったお化粧道具でメイクに挑戦していた。すると妹メイドちゃんが僕の耳元で爆弾発言をしてきた。
「……ここにお座り」
「はい。かしこまりました」
ひとまずリップを塗り終えてから、僕は妹メイドちゃんを隣に座らせた。思わず彼女のスカートを凝視してしまいそうになるのをぐっと堪えながら、咳払いをしつつ、説教した。
「いいかい。君も女の子なんだからそんなはしたないことをしたらいけないよ。だいたいそんなことに一体なんの意味があるのさ?」
「スリルが味わえます。それと奥様の反応を伺うのが楽しみでした。あわよくば奥様にお叱りを頂けるかとワクワクしておりました」
ダメだこのメイド。早くなんとかしないと。
「あのね……僕の気を引きたいのはわかるけどそんなことしたらダメ。穿いてきなさい」
「それなら奥様に穿かせて欲しいです……」
何言ってんだこの子。でもそのくらいなら。
「はあ……わかったよ。パンツ持って来て」
「やったぁー! 今すぐにお持ちしますね!」
何やってるんだろう僕は。すぐ戻って来た。
「それでは、こちらをお願いします!」
「ちょ、なんだよこれ! 紐じゃん!?」
「はい! 帝国の下着を、第二夫人様に取り寄せて頂きました! まだ新品未使用品です!」
こ、こんなのおかしい。解けたら丸見えだ。
「まだ君には早いよ。別の下着にしなさい」
「ですが、せっかく穿かせて頂くのに……」
「僕はこんな下着を穿いたことないし穿かせたこともないんだから、無茶言わないでよ」
「ならば、この私の出番というわけだな!」
お手上げな僕を見かねて委員長が進言する。
「許嫁殿に代わり私が穿かせてしんぜよう」
「委員長はこの下着をつけたことあるの?」
「無論だ。なんなら奇遇なことに、実は今、私もパンツを穿いてない。ノーパンなのだ」
「バ、バカたれがここにもう1匹いた!?」
「帝国にはノーパン健康法という画期的な健康法があってだな……許嫁殿、そんなに疑わしい眼差しで睨むな。興奮する。わかったわかった。ひとまず穿かせるからそう怒るな。この紐パンは本格的でな。飾り紐ではなく本当に結んであるので解けると大惨事になる」
「えへへ。実は私もどうやってこれを穿くかわからなかったんですよね……助かります」
そんなもんを買うなよ。委員長は慣れた手つきでスカートの下から穿かせている。不器用なくせに、こうした作業だけは得意らしい。
「よーし、出来た! うむ! とても可愛いぞ」
「ほんとですか!? 奥様、どうでしょう?」
「ああ……うん。たしかにかわいいけど……」
「けど、なんですか?」
「君には黒より白のほうが似合うと思うよ」
あまりにえっちすぎるので所感を述べると。
「でもほら、お姉ちゃんだって黒ですよ?」
「きゃあっ!? いきなりなにをするの!?」
マジかよ。てことはお子様は僕だけなの?
「そんな……お姉ちゃんメイドの裏切り者」
「わ、私は決して裏切るような真似は……」
「ふん……どうせ皆して僕の下着は子供っぽいって嘲笑ってたんでしょ。はいはい。どーせ僕はお子様だよ。化粧しても意味ないさ」
委員長に教わりながら、ちょっとでも大人っぽくなれるように努力しているのが馬鹿みたいだ。僕は下着なんてまったく無頓着だし。
「許嫁殿も上手に化粧出来てるではないか」
「テキトーだよこんなの。拘りもないしさ」
「ん? なんだァ、てめェ……そのツラはァ」
僕が拗ねていると読書していた悪役貴族が顔を上げて化粧に気づく。奴は席を立ってこちらに歩み寄り、値踏みするように見定めた。
「わ、笑ったら僕はキレるぞ。そして泣く」
「笑わねェよ。ちょっと見惚れてただけだ」
「あ、う……そ、それで、どうなのさ……?」
「悪くねェ。てめェは元が良いから薄化粧程度で充分だなァ。そのリップも似合ってる」
めちゃくちゃ嬉しい。挑戦して良かったよ。
「ただし、キスをしづらいのが難点だなァ」
「せっかく化粧したのに我慢出来ないの?」
「ハッ! 俺は我慢なンざ大ッ嫌いなンだよ」
困った奴め。僕の苦労を少しは理解しろよ。
「気が向いたら、またお化粧してあげる」
「ンなことより、女らしい服を着やがれ」
「ふん……誰が悪役貴族のためなんかに」
チラリと委員長に目をやると何やら頷いた。
「ちょうど、帝国から取り寄せた衣装があるのだ。私にはどうしても似合わないので、許嫁殿に贈呈したいのだが……着てみるか?」
「先進的な帝国の衣装なら……着てみたい」
「あいわかった! メイドたち手伝ってくれ」
「はい、かしこまりました!」
「仰せのままに、第二夫人様」
委員長が用意した服は淡い青色のシフォンプリーツキュロットスカートというもので、構造上、僕の子供下着が見えることのない素晴らしい代物だった。パステルイエローのブラウスと合わせると、女の子感がマシマシだ。
「ど、どうかな……?」
女の子の格好を悪役貴族に披露すると突然。
「おォい! メイドどもォ!!」
「はい! 若様!」
「なんなりとご下命を!」
「しばらくこいつと寝室にこもるから邪魔すんなよォ!! 優等生ェ、てめェも付き合え」
「はっ! かしこまりました。仰せのままに」
「やれやれ……巻き添えで役得をするとはな」
僕と委員長の肩を抱き、寝室へ向かう悪役貴族に深々と一礼するお姉ちゃんメイド。対照的に妹メイドちゃんは涙目で懇願してきた。
「そんなぁ……若様ぁ……見学だけでも……」
「あァ言ってるが、てめェらどうだ?」
「私は無論、構わないぞ! 興奮マシマシだ」
「ぼ、僕も……仲間はずれは可哀想だから」
「ハッハァー! なら全員、寝室に来ォい!」
「「わあい!」」
その後、僕らをめちゃくちゃにする様子をメイドたちに見せつけた悪役貴族は、やはり正真正銘の悪役貴族なのだと改めて実感した。
【僕は休日、女の子感をマシマシにする】
FIN
「いいかァクソども。この公式はなァ……」
悪役貴族は意外と人望がある。所謂、不良たちのまとめ役で番長として君臨していた。こうしてたまに教壇に立って学園中から集まったチンピラたちに勉強を教えてあげている。
「赤点取りやがったらぶっ飛ばすかンなァ」
「うす! ありがとうございやしたッ!!」
「閣下がお帰りだ! 道を開けやがれっ!」
ガラの悪い連中が作った花道を悪役貴族は肩で風を切って歩く。箔をつけるために僕が持たせたステッキがいかにも悪役貴族らしくて良い感じだ。杖材は強靭な樫で、純銀で杖頭にあしらわれた獅子と鴉の意匠はこの国の貴族であるなら誰でも知っているもので、僕の婚約者であることを示している。城下の杖職人を褒めてあげたい。
「あァン? なァに見てやがンだァ?」
「別に……さっさと帰って来てね」
「あァ……先に部屋で待ってろォ」
物陰からこっそり眺めていたら見つかってしまったので、そそくさと逃げる。僕みたいな善良な生徒が関わっていたらおかしいから。
「はあ~……カッコ良すぎるよ」
あれが僕の婚約者だなんて。最高に素敵だ。
「おかえりなさいませ、若様」
「上着とステッキをお預かりいたします」
悪役貴族が帰ってきたのは日が沈んでからだった。何やら花束やら贈り物の箱を沢山抱えている。それを見て、僕はまたかと呆れた。
「今日も女の子たちに群がられたの?」
「あァ、そのせいで帰りが遅くなっちまった。いらねェって言っても、不要なら捨ててくれって色んなもンを持たせやがって……」
悪役貴族はモテる。学園のゴロツキが善良な生徒に迷惑をかけないように目を光らせているおかげで、助けられた女の子たちは多い。
「くんくん」
「あァン? なに匂い嗅いでンだァ?」
「浮気の匂いがしないかと思って……」
念の為にチェックするとシロ。ほっとする。
「そンなに心配なら、てめェが露払いしろ」
「へ? 僕が? なにそれ、どういう意味?」
「てめェが女の制服で隣にいれば解決だろ」
たしかに僕が女生徒として悪役貴族の隣に立てばこいつを慕う女の子たちは諦めるかもしれない。だけどそれは出来ない。何故なら。
「正体を明かしたらこの学園にいれないよ」
きっと大騒ぎになる。だって、ただでさえ。
「それに……悪役貴族の許嫁がこの学園にいたら、余計な敵が増えるかも知れないしさ」
「ハッ! ンな雑魚ども蹴散らしてやンよォ」
立場上、僕と結婚したい貴族は多い。悪役貴族と僕が婚約してることは知れ渡っているので、様々な嫌がらせを受けた結果、こいつは今のような振る舞いを身につけたのだろう。
「僕のせいで苦労をかけてごめんね」
「俺が望んだ結果だ。謝ンじゃねェ」
僕と悪役貴族の関係には、しがらみが多い。
「委員長が彼女として露払いしたらどう?」
「出来ることならばそうしたいが、一介の留学生にすぎない私如きが貴族の令嬢を追い払うことは難しい。力になれずに申し訳ない」
委員長は学年次席だし、きっとその美貌で周囲を威圧は出来ると踏んだが、それでも立場上、貴族令嬢を追い払うのは難しいようだ。
「まあ、僕は気にしてないから大丈夫だよ」
「ホントかァ? 無理してねェだろうなァ?」
そもそもこんなのこの学園に入学してからすっかり慣れた。許嫁としての自信を喪失した過去はあれども今は婚約者と同棲してるし。
「あっ……またこのようなモノを……」
「なんて、無礼な……許せませんっ!」
何やら贈り物の仕分けをしているメイドたちが騒がしい。まさか贈り物の中に小賢しい貴族が嫌がらせ目的で何か混ぜたのだろうか。
「どうしたの? 何が入ってたの?」
「これは奥様はご覧にならないほうが……」
「こんな穢らわしいもの早急に燃やします」
そう言われると気になる。覗き込んで後悔。
「なんで……女の子の下着が入ってんだよ」
丸めて小包に収められた下着。新品ではなく着用した痕跡が見て取れる。怒りが湧いた。
婚約者がモテるのは僕としても鼻が高いし、悪役貴族が慕われているのは嬉しい。妖しく輝く紫水晶の双眸の魔力に抗えず、あわよくば一夜限りでも悪役貴族に抱かれたいという劣情を抱く者もいるだろう。だけどこれはやりすぎだ。許嫁として、許せない。
「なに考えてんだよ! 頭おかしいでしょ!」
「お、奥様のお怒りはごもっともです……」
「一部の貴族の方の性癖は歪んでいるので時折こんなものも混ざってますが、我々がきちんと処分していますので、ご安心ください」
怒り心頭な僕をメイドたちが宥めるけれど。
「あーイライラする。学園取り潰そうかな」
「それは困る。本国に強制的に送還される」
「あ……ごめんね、委員長。軽率だったよ」
僕らしくない。基本的に権力を使うことはしたくなかった。物心がついてから何度もそれで失敗しているのだ。僕の顔色ひとつで奏上してくる大臣たちの首が飛ぶ。何か疑問を口にすると大問題に発展する。挙句の果てに、腹を切るだの馬鹿なことを言い始めるのだ。
せっかくそんな窮屈なお城から出奔したのに癇癪でこの学園生活を台無しにしたくない。
落ちつけ。クールにいこう。深呼吸すると。
「俺のせいで嫌な思いさせた悪かったなァ」
「悪役貴族は悪くない。これは僕の……あ」
僕の問題だと言いかけて僕は名案を閃いた。
「ちょっと待ってて。委員長、ついて来て」
「何か考えがあるのだな? 無論、協力する」
僕は委員長を連れて寝室に入り、すぐ戻る。
「お待たせ。はい、これ」
「あァン? なんだァ、こりゃあ……?」
「それは我々の下着だ!」
脱ぎたての下着をあげると悪役貴族は一瞬ポカンとしたあと、まるで地の底を震わすように低い笑い声を喉の奥から鳴らし、吠えた。
「クックックッ……ハッハァー!てめェらはホント面白れェことを考えやがンなァ! おォいメイドどもォ! 酒を持ってこォい! 今日はとことん飲むぞォ! 最ッ高の気分だぜ!!」
目には目を。下着には下着を。貴族令嬢の下着には見向きもしなかった悪役貴族は僕らの下着を握りしめて、拳を突き上げ、大喜びではしゃいでいた。スースーする価値はある。
「見事な振る舞いだな、許嫁殿」
「ふん。このくらい朝飯前だよ」
獅子と鴉の僕らにかかれば、造作もないさ。
【僕は激怒して、悪役貴族に下着をあげる】
FIN
「おいで」
「あァン? なンのつもりだァ……てめェ」
あの下着事件で僕の独占欲が大きくなった。
僕と委員長だけでこの悪役貴族を独占する。
何されても平気なようにこいつを支配する。
僕は考えた。悪役貴族との接し方について。
いつも喜ぶのは僕だけ。それだと、ダメだ。
様々な方面からのアプローチを、脳内で山程シミュレーションしてみた。最終的に僕が導き出した結論はたまに甘やかすことだった。
「別に照れなくていいから……早くおいで」
「てめェ、いよいよイカレちまったかァ?」
ふん。とっくの昔に悪役貴族にイカレてる。
両手を広げて僕がおいでと繰り返すと悪役貴族は怪訝そうな顔で警戒している。野良犬並みの警戒心を解くために、僕は手を繋いだ。
「ほら、こっちにおいでってば」
「チッ……なんなんだっつーの」
繋いだ手を引き寄せると僕の胸に収まった。
「よーしよーし……良い子、良い子」
「おォい……俺ァ、動物じゃねェぞ」
抱きしめて頭を撫でてあげる。僕の胸の中で悪役貴族はモゴモゴと文句を言う。口調とは裏腹に体温が上がっていて耳まで真っ赤だ。
思った通り、素直になれなくても大丈夫だ。
所有物のように扱うと支配欲は満たされた。
こちとら何度も夜泣きする悪役貴族をあやしているのだ。今更、照れる必要なんかない。
「これから僕がおいでって言ったら来てね」
「いちいちてめェの許可が必要なのかァ?」
「ぎゅっとして欲しい時はお願いしなさい」
「俺ァ、てめェのペットか何かなのかァ?」
まさしくこれは飼育というペットの扱いだ。
「良い子にしてたら、なんでもしてあげる」
「てめェに与えられるだけなンざ御免だァ」
まあ、そうだろう。僕には強い味方がいる。
「はい。今度は委員長の番だよ」
「うむ。では、お預かりするぞ」
「あァ? 優等生まで何を……もがっ」
委員長とバトンタッチ。彼女の豊満な胸に顔を埋める悪役貴族にイラッとするけど、僕だけではこの駄犬は満足しない。僕の平らな胸では大して心地良くないからだ。僕に足りない巨乳成分を委員長から定期的に補給させる。不甲斐ない思いはすれども、それでも、他所の貴族令嬢なんかよりは100倍マシだ。
「ふふ。まるで授乳してる気分だ……」
「バカたれ。母乳なんか出ないでしょ」
アホなことを抜かす委員長を睨みながら、僕は両脇に双子メイドたちを侍らせる。お姉ちゃんメイドの脚を膝に乗せて白タイツに包まれた太ももを撫でながら、妹メイドちゃんの最近急成長している胸に、頬を擦りつける。
そうするとドロドロした気持ちが洗われる。
「協力してくれて助かるよ……ありがとね」
「はぅ……私も奥様に授乳したいです……」
「んっ……存分に、我々を愛でてください」
これこそが導き出した結論。桃源郷である。
「あ、どうやら委員長終わったみたいだね」
「はい。今宵はまた一段と……」
「あんなにお乱れになって……」
「君たち、委員長を浴室まで運んであげて」
「かしこまりました」
「仰せのままに」
事が終わった委員長をメイドたちに任せる。
「どうだった? 僕に管理されるのは」
「チッ……ムカつくが、悪くはねェな」
「これから僕がずっと飼ってあげるよ」
満足そうな悪役貴族に腕枕をさせて、囁く。
お前は僕のものだと。僕が全て支配すると。
それが悪役貴族のためになると、洗脳する。
「僕に支配されたらきっと幸せになれるよ」
「それでも俺ァてめェの想像を超えてやる」
「あ……なんでまだ元気なんだよバカたれ」
いま終わったばかりなのにもう回復してる。
こんなの想定外だ。結局、悪役貴族は僕の思い通りにはならない。その反抗的な眼差しにゾクゾクした。もっともっと、好きになる。
無意識に、小指の指輪を口元に引き寄せる。
僕はあの夜から悪役貴族に夢中で恋してる。
小指の指輪に口付ける僕を、奴は口説いた。
「てめェが俺を満たすつもりなら、俺もてめェを満たしてやるよ。それが夫婦だろォ?」
「ふん……余計なお世話だよ……でも、まあ」
「あァン? 今夜は自分で服を脱ぐのかァ?」
「僕を満たすのは悪役貴族の役目だからね」
「ハッハァー! 望みどォり満たしてやるよ」
終わったら今度は僕がメイドに運んで貰う。
【僕はついに、悪役貴族の洗脳を開始した】
FIN
「よーしよーし……良い子、良い子」
「ケッ……動物扱いすンじゃねェよ」
この前に洗脳してから、悪役貴族と僕の間でアイコンタクトが交わされるようになった。
勉強の合間や読んでる本から顔を上げた際に悪役貴族は紫水晶の瞳でこちらを見つめる。
それが合図で、僕はおいでと手招きをする。
こちらに来て膝立ちになった奴を僕は抱く。
「ん? あァ……すまん。今、気づいた」
「気づくのが遅いんだよ……バカたれ」
逆に僕が悪役貴族を見つめて、その視線に気づいた奴がこちらを呼ぶこともある。その際には、かなり根気よく見つめる必要がある。
僕は悪態を吐きながら奴の腕の中に収まる。
「もう僕がいないと生きていけないね」
「ハッ! たしかにそうかも知れねェな」
こいつには僕が必要で、僕にはこいつが必要だった。最近、僕は変に焦って、早く結婚したいとか、早く子供が欲しいなどと考えるようになっている。僕はたぶん、この幸せが突然壊れてしまうことを恐れているのだろう。
落ち着かない僕は委員長に相談をしてみた。
「委員長はさ、怖くなったりとかしない?」
「ん? もう少し具体的に言ってくれないか」
「たとえばある日突然、関係が壊れるとか」
「許嫁殿が彼を手放すとは思えないし彼もまた絶対に許嫁殿を手放すことはないだろう」
「いや、委員長だって、僕らには必要だよ」
「どうだろうな。私なんていなくても……」
「必要だよ。委員長が居てくれないと困る」
悪役貴族を失うことを恐れるのと同じく、委員長や双子メイドたちを失うのを僕は恐れている。この前の下着事件で僕は考えなしに学園を取り潰そうなんて口走った。その時に止めてくれたのは委員長だ。委員長は僕が誰でどんな立場であっても客観的に指摘してくれる貴重な存在だ。しかし、帝国からの留学生である委員長はいつ帰国してもおかしくない身の上だから余計に喪失するのが怖かった。
「嫌なことがあったら、いつでも言ってね」
「あっはっは! 心配はご無用だ! 双子メイドたちともすっかり打ち解けて、なにより正妻殿がこれほど気にかけてくれるのだから、何も不満はない。むしろ今、帝国に戻れと言われても戻りたくないくらい居心地がいいぞ」
委員長は着実に第二夫人としての立場を確立している。双子メイドちゃんたちも近頃は率先して委員長と関わろうとしてくれている。
「しかし、やはりというか、君と婚約者の絆には敵わないと痛感するな。よくもまあ、言葉も交わさずに、意思疎通が出来るものだ」
「僕と悪役貴族は喋ると喧嘩しちゃうから」
「だから互いに目で語り合う術を身につけたというのなら、私としては羨ましい限りだ」
ここまで洗脳するのに僕はかなり頑張った。
「僕と委員長の間にだって絆はあるよ。チョーカーとピンキーリングもお揃いだしさ。髪型も一緒で、同じ奴のことが好きじゃんか」
「私はバイク事件の際に、許嫁殿には生涯忘れぬ恩が出来たからな。それも絆と言える」
「そんな昔のこと……もう忘れちゃったよ」
過去を水に流すも、委員長は首を振りつつ。
「どうか忘れてくれるな。あの一件があったからこそ、今の私はここに在るのだからな」
そう頑なに言われてしまっては仕方ないな。
あの件で僕が委員長を責めたのは、在り方についてであって、それはたしかに、忘れるべきではないのだろう。僕も含めてだけどさ。
「もしも帝国に帰っても絶対連れ戻すから」
「あっはっはっは! 国際問題に発展するぞ」
構わない。きっと、宰相がなんとかするさ。
基本的に権力を使わない僕だけど、いざという時には思う存分使う。だって家族だから。
そのために僕が出来ることはなんでもする。
「今のところ帰国命令は出ていない。それに私には私の意思がある。心配せずともいい」
「さっきからすごく良い台詞なんだけどさ」
「ん? なんだ? どうかしたのか、許嫁殿?」
「目隠しされて縛られたままだと台無しなんだよね。最近どんどん過激になってない?」
「あっはっは! 許嫁殿には出来ないプレイをこなすのが第二夫人としての役目なのだ!」
目隠し緊縛委員長が、全裸で高笑いをする。
ガッカリだ。悪役貴族だってそんなにキツく縛ってないんだから自分でほどけるのにさ。
まあ、そんなところも委員長の良さだけど。
「ほんとに委員長が第二夫人で助かったよ」
「今度、許嫁殿も一緒に縛られてみたまえ」
「バカたれ。僕は普通に愛されたいんだよ」
このプレイをあの夜されていたら今はない。
【僕は時折、悪役貴族と視線で誘い合う】
FIN
「てめェは俺に何も訊いてこねェよなァ?」
「はあ? そんな薮から棒に、なんのこと?」
「双子メイド共のことだ。気になンだろ?」
とある深夜。皆が寝静まったあとに、いつも通り悪役貴族と反省会をして、僕がパジャマの前のボタンを留め直していると、ふいにそんなことを悪役貴族が口にした。身構える。
「突然なに? この子たちがどうかしたの?」
「こいつらの過去や経緯に興味ねェのか?」
「この子たちは大好きだけど、過去や経緯については、詮索したくないと思っているよ」
「ケッ。てめェはホント、良い女だよなァ」
この子たちが昔、奴隷市場で悪役貴族に買われたらしいということは1番最初に聞いた。
訳ありだということは、なんとなくわかる。
ただ根掘り葉掘り訊く気にはなれない。きっとそれはこの双子にとって辛い記憶だから。
「俺の視点からすると、単純な話だァ。ただ泣き喚いてる双子の奴隷を両方まとめて買い取った。ただそれだけのシンプルな話だァ」
「ふうん。きっとその双子たちが泣き喚いていた理由は、それぞれ別の客に買われそうになってお互いに離れ離れになりたくなかったからみたいな、そんなところじゃないの?」
「まるであの場を見てたかのようだなァ?」
見なくてもわかる。双子をまとめて買うような金持ちは悪役貴族しかいなかったのだ。この子たちが今こうして、同じところで働いているのは、彼女たちの願いだったのだろう。
「この国には奴隷が欠かせねェ。てめェなら当然、それがどうしてか知ってるよなァ?」
「誰に訊いてるのさ。僕の国の産業は農業が主体だからね。奴隷を働かせないと大陸の食糧庫としての生産力は確保出来ない。とはいえ一概に、必ずしも、この子たちがそんな農奴になっていたとは限らないけれどさ……」
なにせこの可愛らしさだ。農奴ではなく、愛玩用として買われていたかも知れない。もちろんそんなことは違法だが、可能性は高い。
努めて冷静に話したつもりだけど悪役貴族は見抜く。上機嫌でこちらの胸中を理解した。
「ハッハァー! やっぱりてめェも、そんなこの国のやり方が気に食わねェようだなァ?」
「当たり前じゃん……何が言いたいのさ?」
「俺ァいつか、この国の奴隷共を解放する」
それは悪役貴族の夢で絶対に叶えるという意思を感じた。この夜僕は、これまでのように委員長を通して断片的な情報を得るのではなく悪役貴族に直接、願望を打ち明けられた。
「じゃあ、僕は何をすればいいかを教えて」
「ハッ! てめェは何もすンな。俺の隣で見てろォ。てめェの国が変わっていく様をよォ」
思わず勇み足になった自分を恥じ入る。なんてはしたない。夫の前を先導しようとするなんて。悪役貴族に呆れられてしまったかも。
「ごめんなさい……余計なこと言って」
「あァン? 俺に遠慮すンじゃねェよ」
妻になる者として、行き過ぎた発言に関してはいかに僕であろうと素直に謝った。反省して、落ち込んでいる僕を悪役貴族は抱き寄せて、気にするなと頭を撫でながらこう諭す。
「てめェは立場上、直接あれこれ国政に口出し出来ねェだろォからなァ。てめェがやりたくても出来ねェことは俺がやってやる。てめェが叶えたくても叶えられねェ願いは、全部俺が叶えてやる。だから、よォく見てろォ」
「うん……わかった。この目に焼き付ける」
立場上、僕が奴隷制度に口を挟むと、国政が乱れてしまう。僕の望みを叶えるために、僕に気に入られたい連中が手段を問わずに、めちゃくちゃなことをやり始めるだろう。その結果、国民が飢えて、飢饉が発生する未来は想像に難くなかった。悪役貴族なら安心だ。
「悪役貴族なら何も心配ない。信用してる」
「ハッ! 俺がめちゃくちゃなやり方で、この国を大混乱に陥れるとは思わねェのかァ?」
「思わない。だって悪役貴族はこの子たちに一度も手を出してない。悪役貴族はこの子たちに奴隷の烙印を押していない。そんな悪役貴族なら、きっと、より良い未来を作れる」
この子たちの身体は清くて、生まれたままだった。焼きゴテや刺青で奴隷の烙印を押されていない。メイドとして、保護されている。
そんな優しい婚約者を僕は信じて疑わない。
「僕こそ、知らず知らずのうちにこの子たちを愛玩用にしてしまっていないか、不安になるよ。その時は悪役貴族に注意して欲しい」
思い当たる節は多い。僕なりに愛情をこめて可愛がってるつもりだけど、捉えようによってはセクハラかもしれない。もしそうなら僕のほうがよっぽど悪役貴族になってしまう。
「余計な心配してンじゃねェよ。俺ァこいつらを買った時に、てめェらは将来、俺の妻に仕えることになると言った。そン時は俺よりも妻のことを優先しろってなァ。だが、メイドの仕事を辞めたけりゃいつでも辞めていいとも言っている。離れ離れにすることなく、別な仕事を斡旋してやるとも言った。それでもこいつらは今、ここに居て、てめェに仕えている。それはこいつらの意思だから、邪推すンな。てめェに侮辱されたら悲しむぞォ」
僕が直接根掘り葉掘り訊かなくて良かった。
そうしていたらきっと、彼女たちの意思を侮辱してしまっていただろう。ただ優しいだけではダメなのだ。彼女たちにとって、尊敬されるような奥様にならないと。燃えてきた。
「僕はこの子たちや悪役貴族に相応しい妻になりたい。いや、絶対になってみせるから」
「俺もてめェに相応しい旦那になるぜ」
「ふん。格好良すぎだよ……バカたれ」
今宵は僕から悪役貴族に誓いのキスをする。
【僕は夜半、悪役貴族に誓いのキスをする】
FIN
「何か僕に直して欲しいところはある?」
「奥様……? 突然なにを仰るんですか?」
「私たちは奥様に不満なんてありません」
その日の朝。朝食を食べ終えてからのこと。
単刀直入に僕は双子メイドたちに問いかけてみた。本当は自分でダメなところに気づいて直すべきなんだろうけど、あらかた自分でもダメなところはわかっているのに直せないのが僕なので、双子たちにビシッと言って貰えれば変われるんじゃないかと期待していた。
しかし、困惑する双子から、僕への不満を引き出すのはなかなかに骨が折れそうだった。
「些細なことでもいいんだ。僕はもっともっと、君たちに相応しい奥様になりたいんだ」
「そんな……奥様は素晴らしいお方ですし」
「むしろ変わって欲しくなんてありません」
ちょっと堅苦しいな。砕けた調子でいこう。
「えーでも僕、最近君たちにセクハラしすぎじゃない? すこし控えたほうがいいかな?」
「いいえ。そんなことは断じてありません」
「奥様に毎晩愛でられるために我々は日々、仕事に励んでいるのです。お忘れなきよう」
どうも美化されすぎてる。現実の僕は違う。
「でも僕も人間だからね。自分自身でさえ、嫌なことを数えたらキリがないくらいだよ」
「全てを含めて私たちはお慕いしています」
「奥様のメイドとして日々尊敬しています」
うーむ。押してダメなら、引いてみようか。
「僕に尊敬できるようなところあるかな?」
「もちろんです。まずそのお美しさだけで、恥ずかしながら我々はひと目惚れしました」
「奥様の作るお料理は味もさることながら、愛情がこもっていてとっても美味しいです」
「奥様は若様の妻としての在り方を、私どもに示してくださいました。あの日のことを思い出すと我々は日々やる気が漲ってきます」
「奥様は奴隷だった私たちを、憐れんだり」
「変に気を遣うことなく、接してくれます」
「そんな奥様のお優しさに我々は尊敬して」
「その振る舞いに我々は憧れを抱いてます」
となると、これまでの僕の立ち居振る舞いや双子たちへの接し方は完璧だったということになる。そんなことありえるのか? 僕は自分に対して、自信を持てない。理由は明白だ。
「いや、僕なんて全然だよ。1番直したいのは素直になれないところなんだけど、悪役貴族はそのままでいいって言うんだ。君たちはその点についてどう思う? 意見を聞かせて」
「若様がそうお望みなら、焦ることはないかと存じます。きっと一緒に過ごせば、無理なく素直になれる瞬間が訪れることでしょう」
「無理してご自分を変えてしまえば若様はきっとお悲しみになります。ご自愛ください」
この子たちもありのままの僕でいろと言う。
悪役貴族を悲しませるのは、たしかに嫌だ。
当初の目的とは違い恋愛相談になってきた。
「君たちには常に素直でいられるんだけど、なかなか難しいね。僕は恋をするのが初めてだから、感情が上手く制御出来ないんだよ」
「そうしたところも、奥様の魅力なのです」
「若様もきっとそこがお気に入りな筈です」
鵜呑みにするのは危うい。何せ悪役貴族だ。
「そうかなぁ。あいつはちょっと趣味が変わってるから単に面白がってるだけかもよ?」
「よろしいではありませんか。若様の変わったご趣味に合う女性は奥様と、あとは恐らく、第二夫人様以外存在しないでしょうし」
「そのほうが余計な虫がつかずに済みます」
なるほど。考えかた次第かもね。納得した。
「ありがとう。君たちと話すと元気が出る」
「勿体なきお言葉。感謝感激、感無量です」
「もしよろしければご褒美をくださいませ」
「ちょっと! 対価を望むなんてやめなさい」
「お姉ちゃんは真面目すぎ。きっと大丈夫」
喧嘩を始めた双子たちを宥めて望みを訊く。
「もちろんいいとも。何が望みなんだい?」
「やったー! じゃあじゃあ、いま履いてる靴下とそれからお使いの歯ブラシを……むぐ」
「こら! お黙り! 奥様、大変失礼しました」
「むー! むー!」
靴下と歯ブラシは、中毒性があるので却下。
あと単に恥ずかしいし。妹メイドちゃんがこれ以上、道を踏み外さないようにしてあげるのも奥様の勤めだ。僕は委員長に目配せをして、もともと用意していた贈り物を手渡す。
「じゃあ僕らから君たちに、これを贈ろう」
「奥様、これは……?」
「いったい、なんですか……?」
双子の手のひら乗る機械。不思議な形状だ。
知識のない僕では説明の出来ない魔法の品なので、あとは委員長に詳しく解説して貰う。
「これは許嫁殿に頼まれて、帝国から取り寄せた"トランシーバー"だ。太陽光で発電出来る充電器もセットで用意した。この国では携帯電話は使えないが、トランシーバーならば問題なく使える。無論、電波が届く距離には限りはあるがこの寮周辺くらいならば何かあった時にすぐさま連絡を取り合えるだろう」
「はえ? とらん、しーばー……?」
「これで、奥様方とご連絡を……?」
「論より証拠だ。許嫁殿、話しかけてみろ」
促されて、僕は教わった手順で通話をする。
《あー、あー、どう? 聞こえるかな?》
「ふあっ!? す、すごいです、これ!」
「奥様のお声が手元で……興奮します!」
お姉ちゃんメイドまで飛び上がって驚くとは思わなかったけど、妹メイドちゃんは相変わらずだな。反応が良くてとても嬉しくなる。
「これからこれを使って言いたいことや、報告したいことがあったらいつでも言ってね」
「りょ、了解しました! あ、それなら……」
「早速ですが、お耳に入れたいことが……」
「この距離で? なんだい? 言ってごらん?」
なんだろうと機械に耳を傾けると囁かれた。
《《これからもずっとお慕いしています》》
それは、どんな贈り物よりも嬉しい真心で。
思わず泣きそうになった。なんて良い子たちなんだろう。僕には勿体ないくらい、素晴らしいメイドたちだ。溢れ落ちそうになる涙を堪えて、僕は毅然と、奥様として振る舞う。
感謝を労いに変え、より尊敬されるように。
「了解。これからも慕われるように頑張る」
《どうぞ、ありのままで魅了してください》
《第二夫人様にも、一層の忠誠と、尊敬を》
「うむ! 大義である! これからも頼むぞ!」
「僕より奥様らしいじゃんか……バカたれ」
やたら偉そうな委員長に破顔して、憧れた。
【僕は朝食後、改めて双子たちに感謝する】
FIN
「こちら僕、こちら僕。そろそろ帰るよー」
《かしこまりました。お待ちしております》
この"トランシーバー"はとても便利だ。寮に着く前に事前に帰宅を知らせられるので僕が帰ると紅茶やお菓子が既に用意されている。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、奥様」
「妹ちゃんは?」
《はいはーい、奥様。お風呂掃除中でーす》
「お疲れ様。いつもありがとね」
《いえいえー! ちゃちゃっと終わらせます》
身につけたトランシーバーから伸びるイヤホンによって直接耳に音声が伝わり、袖口に仕込んだマイクのおかげで仕事や作業に支障することなく意思疎通や確認が可能となった。
「すみません、奥様。妹がご無礼を……」
「いーよいーよ。なんかこの機械を使うと話しやすい気がするし。僕としても気楽だし」
メイドたちは僕の前だとやや緊張するのか、どうもかしこまってしまう。機械を通しての声だけのやり取りは僕としても楽しかった。
「お姉ちゃんも、もう操作には慣れた?」
「はい、第二夫人様のおかげでなんとか。ですが私は奥様と直接お話しするほうが……」
「おかえりなさいませ奥様! お風呂掃除完了世界新記録です! 褒めて愛でてください!」
「あ! ちょっと!? お風呂掃除している間は、私と奥様の時間って決めたでしょ!?」
「もう終わったもんねー! 残念でしたー!」
妹ちゃんは今日も元気だな。あ、紅茶美味しい。茶葉変えたのかな。あーでも、ミルクとハチミツを垂らしたらもっと美味しいかも。
「奥様、その紅茶はお気に召しませんか?」
「ああ、いや。ミルクとハチミツをね……」
「わかりました! すぐにお持ちしますね!」
僕が自分で取って来ようかと腰を上げる前にびゅんっ!と妹ちゃんがキッチンへと向かうとすぐにトランシーバーから通信が入った。
《お姉ちゃん、ハチミツどこー?》
「この前買って戸棚に入れておいたでしょ」
《えー? 戸棚の何段目ー?》
「たしか3段目だったと思うけど……」
《あっ! あったあった! 持っていくねー》
このように仕事の面においても極めて実用的である。帝国のお屋敷の使用人や護衛官が、この機械を常用しているのも納得の性能だ。
「まったく。この機械はとても便利ですが、どんどん妹が横着になるのではと不安です」
「便利なことはいいことだよ。わざわざ時間や手間暇をかけたい気持ちはわかるけど、君たちは忙しいし、僕との時間を作るためだと思って、お姉ちゃんにも活用して欲しいな」
「ああ、奥様……そのような隠されたご配慮にも気づかず、愚かなこの私をお赦し……」
《ちなみにお姉ちゃんは本日、紐パンです》
「よ、夜まで内緒って約束したでしょ!?」
紐パンかぁ。お姉ちゃんメイドがあれを穿いてるなんてえっちだなぁ。今度、僕も穿いてみようかな。よし、あいつに訊いてみるか。
「あーこちら僕。悪役貴族は紐パン好き?」
《帰って早々何言ってやがンだてめェ……》
「早く答えな。僕に紐パン穿いて欲しい?」
《そうだなァ……脱がせるのが楽しみだな》
「バカたれ。委員長に頼んどく。じゃあね」
メイドちゃんたちのついでに物欲しそうな顔をする悪役貴族にトランシーバーを恵んでやったら、奴は大はしゃぎで喜び、この頃は書斎にこもって予備機を分解して調べている。そんな機械オタクの悪役貴族に対しても気兼ねなく話せるのは便利だ。顔を突き合わせると喧嘩してしまう僕にとって非常に助かる。
さすが帝国の発明品だ。委員長によると、帝国ではこの機械が更に便利になったものを、国民のほとんどが日常で使ってるとのこと。
「いやーほんと帝国ってすごいよね」
僕が帝国を誉めると委員長が得意げな顔で。
「それを言うなら"ぱない"だぞ、許嫁殿」
「へ? ぱない? なにそれ、帝国語?」
「半端ないの略だ。短縮して"ぱない"だ」
「へえー帝国は日常会話も先進的だね」
言葉すらも新しいなんて。若者である僕らの感受性とっては刺激になる。参考にしたい。
良い機会だし帝国の文化を勉強してみよう。
「他には変わった言い方みたいなのある?」
「うーん、そうだな……たとえば、エグすぎてレベルが違うことを"エグち"と言ったり、落ち着くことを"チル"と言ったり、ありがとうございますを"あざまる水産"とか言ってたりするかな。会話の中でその説があり得る場合は"説あるコアトル"で、見た目が良ければ"ビジュ完璧"とか。許嫁殿の"好きピ"などはまさにビジュ完璧なイケメンと言えるな」
なにそのワード集。めっちゃ気分アガるわ。
「共感した時はハイタッチでうぇーい!だ」
「う、うぇーい?」
「うむ! ほら、メイドたちも、うぇーい!」
「「うぇーいでございます」」
「ああ……尊いな! 私だけで独り占めするのは申し訳ないから、彼にも聞いて貰おう!」
「「「うぇーい!」」」
《うるッせェなァ……作業の邪魔だァ》
「この慈しみ、わかりみが深くないか?」
《わかるかァ! そンなもン!》
うは。なんか楽しい。委員長は勢いづいて。
「いいか? こうやって、Vサインを下に垂らせば、ほーら、"ギャルピース"の完成……」
《おォい、優等生ェ……地が出てンぞォ》
「君も書斎にこもってないで出てきたまえ」
《あとで行くから、ほどほどにしとけェ》
「あ、マズイそうだった。君たち、今のは忘れてくれ! 何事もやりすぎは禁物なのだ!」
「「「うぇーい!」」」
「ああ、私としたことが手遅れだった……」
帝国の先進的な日常会話は学園で流行った。
【僕は帰宅早々、ギャル語を覚えた】
FIN
「うぇーい! 悪役貴族、チルしてる?」
「苛つくからやめろォ……その喋り方」
「じゃあ、息してる?」
「当たり前だろォがァ」
悪役貴族はこの頃、狭い書斎にこもり、予備のトランシーバーを分解しては組み直す作業を繰り返してる。何やら各部の寸法を測ったり、色んな検査記録を取ったりしていて、難しそうな作業なのに、なんだか楽しそうだ。
「それ、予備なんだから壊しちゃダメだよ」
「あァ……わかってる」
「わかりみ深い?」
「あァ……深ェ深ェ」
作業してる時は集中しているのか生返事ばありで僕はつまらない。別に相手にされないから拗ねてるわけじゃない。ただちょっとくらい構うべきだ。だって僕はこいつのお嫁さんになるんだから。別にわがままではない。僕はおもむろに背後から抱きつき耳を噛んだ。
「あむ」
「うォい!? 耳を噛むんじゃねェよ!?」
「耳も息してるかなって思って」
「てめェ……酔っ払ってンのかァ?」
「んー……ちょっとだけね」
たまには僕だってお酒を飲むさ。別に構って貰えない寂しさを紛らわせるためじゃない。ちょっとだけなら健康にも良いんだからね。
「悪役貴族のぶんもあるよ! 飲む?」
「あァ……この作業が終わってからなァ」
「むー……僕のお酒が飲めないのかよぉ」
「チッ……わァッたよ。ほら、酒を注げ」
「ふん……素直に僕に従ってればいいのさ」
悪役貴族がお気に入りの帝国の透明なお酒を小さいカップに注いであげた。晩酌をしてあげるなんて亭主思いの奥さんだよ僕は。
「ほら! ぐっといって! ぐーっと!」
「あァ……美味ェ。次だァもっと寄越せェ」
「まったく、仕方ないなぁ……もぉ」
おかわりを注いであげて、とりあえず満足。
ようやく作業をやめた悪役貴族の膝の上に滑り込んで、バラバラになったトランシーバーの部品を手に取りながら、質問をしてみた。
「これ分解してどうすんの?」
「内部の構造を理解してンだよ」
「なんのために理解するの?」
「解放した奴隷たちが仕事に困ンねェように、工業製品の工場が沢山必要だからなァ」
「ふうん。理解できた? 趣き深い?」
「全部は無理だ。だが、一部だけなら俺でもわかる。たとえば、この音が鳴る仕組みは人体における鼓膜や声帯と同じ仕組みで……」
悪役貴族が説明を始めるが、僕にはちんぷんかんだ。ただ楽しそうに語る悪役貴族を眺めていると、僕まで楽しくなる。いつもの不機嫌そうな表情ではなく、子供みたいに機械に夢中になっている悪役貴族はかわいかった。
「悪役貴族のその顔、嫌いじゃないよ」
「あァン? どんな顔してた?」
「まるで機械に恋してる顔」
すると悪役貴族は何故か赤面して、呟いた。
「俺が恋してンのはてめェだ、バカたれ」
「あー! 悪役貴族が僕の台詞取ったー!」
僕の決め台詞なのに。でも、こうして客観的に言われてみると、あんまり嫌じゃない。悪役貴族も同じだろうか。僕にバカたれって言われても、全然気にしてないし。変な感じ。
「悪役貴族はさ、僕がほんとは悪役貴族のことを嫌いじゃないってこと……知ってた?」
「そォなのか?」
「はあ~……わかりみが浅すぎ。なんでわかんないかな。これだから、鈍感悪役貴族には困るんだよ。あのね、僕はほんとはね……」
今なら言える気がする。無理せず素直になれる気がする。お酒の勢いでなんて誠実ではないかもしれないけれど、それでもこの胸の高鳴りを飲み込んだままなのは、いい加減にしんどかった。僕は今宵、お酒の力を借りてでも、全て悪役貴族に言ってしまいたかった。
「僕はほんとは、悪役貴族のこと……ぁむ」
キスされて邪魔された。僕の好きという気持ちが吸い出されて、代わりに悪役貴族の好きという気持ちが入ってきた。なにすんだとか、せっかく言えそうだったのにとか、そんな憤りが霧散していく。腕を背中に回して、足で腰を固定する。悪役貴族のいけない手が僕のパジャマのボタンを外したり、お尻や太ももをいやらしく触る。こっそり穿いてきた紐パンの紐がほどかれても気づかないふりをする。長いキスで息が苦しくなって、息継ぎをすると、悪役貴族の吐息が混ざって頭がクラクラした。そしてまたキスをされる。他にも色んなことをされている気がする。したければ好きにすればいいと思う。なんでも、好きにして欲しかった。だって大好きだから。
「んぅ……おはよ」
「ハッ! 二日酔いは平気そォだなァ?」
朝目が覚めるとベッドの上で、確かめるまでもなく僕は全裸で寝ていた。幸い、あの程度の飲酒で二日酔いにはならず、スッキリ爽快な目覚めである。昨夜のことをぼんやりと思い出すにつれ、羞恥と自分への失望に襲われた。もう少しで言えたのに、僕のバカたれ。
「……僕に言ってよ」
「あァン? 言うって、何をだァ?」
「僕に、バカたれって……言って」
「なんだ、そのことか……お安い御用だァ」
鼻まで布団を引き上げて、赤面した顔を見られないよう隠しながら、僕がそうお願いすると、悪役貴族は何故か安心したようにほっと息を吐いてから、そんな意味深な様子に疑問を抱く間も無く、邪悪に嘲笑い、罵倒した。
「ハッハァー! なンだァ? 俺にバカたれって言われて気持ち良くなっちまったのかァ?」
「ちがっ……そんなんじゃないし……ていうかそもそも! バカたれって言うほうがバカたれだし! このっバカたれバカたれバカたれ!」
「ハッ! 支離滅裂だなァ……そろそろジョギングに行って来る。じゃあな……バカたれ」
「ふん……行ってらっしゃい。気をつけて」
やはりバカたれと言われても、嫌じゃない。
【僕はほろ酔い、悪役貴族に罵倒される】
FIN
「あれ? 2人とも、なにその格好……?」
その日、いつものように僕は衣擦れの音で目をました。寝ぼけ眼を擦って、いつも通り、ジョギングに出かける悪役貴族を見送ろうとした僕の目に、見慣れたジャージ姿ではなく貴族としての正装をした婚約者と、同じく見慣れない軍服姿の委員長が飛び込んできた。
「あァ……ちょっと、出かけてくる」
「出かけるって、どこに……?」
「帝国だ」
質問に応じたのは委員長で、つまりその軍服は帝国軍のものだとわかった。どうしてそんな格好で悪役貴族と出かけるのか。何もわからない。それについて訊ねるべきかも判断出来ない。余計なことを言って、悪役貴族を困らせたくないと思う反面、何も説明せず僕を置き去りにしようとする2人に憤りを覚えてしまう。僕はどうするのが正解なのだろう。
考えてもわからない。無意識に僕は呟いた。
「……置いてかないで」
「……すぐ戻ってくる。てめェは待ってろ」
「安心してくれ。道中の安全は保証しよう」
僕を安心させるために頭に置いた悪役貴族の手が強張っているのがわかった。いつもの余裕ぶった表情もなく、緊張してる様子。帝国に行くというなら、留学生である委員長がなんとかしてくれるとは思うけど、それでも僕は心配だった。委員長を信用していないわけではなく、悪役貴族に対して不安だった。こんなに急に帝国を訪問するつもりではなかった筈だ。策を持たず、勝算もなく帝国に行って、果たして、成果を得られるのだろうか。
「僕が……悪役貴族の代わりに行くよ」
「……あァン?」
部屋を出る間際、そう申し出ると、悪役貴族はゆっくりと振り返った。紫水晶の瞳に浮かぶのは、困惑と失望。奴は静かに怒ってる。
「てめェ……なァに言ってやがンだァ?」
「大事な用事なんでしょ? なら僕が行く」
「っ……出しゃばってンじゃねェッ!!」
思えば、初めて怒られたかもしれない。悲しくて、辛くて、泣きそうになった。ここで泣いたら、悪役貴族は帝国に行かないでくれるだろうか。それは否だろう。きっと嫌な思いを抱えさせたまま送り出すことになる。既に賽は投げられたのだ。真っ向から衝突した。
「メイドちゃんたちあいつを足止めして!」
「はい、奥様!」
「仰せのままに!」
「ハッ! こいつらに何が出来る? てめェらがまとめてかかって来ても、振り切って……」
ガシャンと、悪役貴族愛用の手錠とベッドの柵が繋がれた。なんて無様。こんな奴が僕の夫になるなんて。焦った様子の駄犬に囁く。
「すぐ帰って来るから良い子にしてなさい」
「てめェ! 邪魔すンな! 俺の仕事だ!!」
「ふん。そのザマで、何が出来るってのさ」
情けない。これでは帝国に行ったところで何も成せずに尻尾巻いて逃げ帰ってくるのがオチだ。パジャマを脱ぎ、メイドたちが用意したいつもの男子生徒用の学生服に袖を通す。
「てなわけで、委員長、僕が一緒に行くね」
「本気なのか? きっと大問題になるぞ」
「なんとかなるよ。道中、よろしくね」
「奥様、ご武運を」
「若様のことは我々にお任せください」
「うん。任せたよ。うぇーい」
「「うぇーいでございます」」
先進的な挨拶をしてから部屋を出る間際に。
「ちょっと待てェ!! 話をさせろォ!!」
「うるさい。文句は帰ってから聞いたげる」
悪役貴族に引き留められたけどスルー。双子メイドに足止めされる男の言葉なんて聞く価値はない。というのは建前で、帝国へいく理由だの目的だの込み入った話をされたら、僕の決心が鈍るかも知れないと思ったからだ。
「それじゃあ、委員長。行こうか」
「よし。ひとまずバイクに乗ってくれ」
久しぶりに委員長のバイクの側車に乗り込んで、ヘルメットを被る。すると何やら改良されていて、中にスピーカーが仕込まれているようだ。トランシーバーを手渡されて、委員長はヘルメットから出ている線へと繋いだ。
《あーあー。聞こえるか、許嫁殿》
「うん。感度良好。どしたの、これ?」
《道中長いからな。目的と理由を説明する》
バイクが走り出して、簡単に概要だけを説明された。なんでも委員長の腹違いのお兄さんが結婚するらしく、その披露宴の会場に悪役貴族は潜り込もうとしていたらしい。つまりは密出国と密入国。どちらも大罪で、まして貴族の子息がそんなことをしたら怒られるだけでは済まないだろう。ほんと困った奴だ。
出しゃばって正解だ。悪役貴族が投獄されたら危うく幸せな生活が壊れるところだった。
「彼のこと、怒っているか?」
「別に。きっとその披露宴の会場であいつは帝国のお偉いさんにこの国との国交について直談判するつもりだったんだろうってのは理解できるし、あいつなりにチャンスだと思ったんでしょ。まあ、僕とメイドちゃんに潰されるような浅はかな計画を立てたことは反省して次に活かすべきだと思うけど……ん?」
所感を述べると、学園から花火が上がった。
《よォ……聞こえてるかァ?》
「……この花火は悪役貴族の仕業?」
《そのバイクや、このトランシーバーとやらは、たしかに便利だがなァ……古くせェやり方も、なかなか捨てたもンじゃねェぞォ?》
何が言いたいのだろう。すると遥か前方で。
「あ……向こうでも花火が」
《ハッハァー! てめェらが次の町に辿り着く前にこの花火が上がったことは伝わンだよ》
なるほど。狼煙の伝達速度は僕らより速い。
「それで? 僕らを次の町で捕まえるの?」
《そうしてェのはやまやまだがなァ……ハッキリ言って、今の俺じゃ帝国に行っても無駄足だろうからなァ……今回はてめェに任す。狼煙が上がった他所の領地や町には事前に通過の許可を取ってある。捕まる心配はねェ》
任された。嬉しくなり、つい頬がゆるんだ。
「ふん。僕なら悪役貴族より上手くやるし」
《あァ、てめェはこの国にとって外交上の切り札だからなァ。それでも最初からてめェを利用しようとしなかったのは、俺のつまらねェプライドと意地にすぎねェと理解しろォ》
「プライドを守って、意地を張り続けたいのなら、次からはもっと上手くやることだね」
《あァ……言われなくてもわァッてるよォ。だがなァ、これだけは言わせて貰うぜェ?》
通信限界が近づいてきた。ノイズ混じりで。
《結婚したら、そンな勝手は許さねェぞ》
「ふん……わかってるよ……僕の旦那様」
わかってる。結婚したら、僕はちゃんと家を守る。その覚悟はもう出来てる。だけど、結婚する前の今だからこそ出来ることがある。
だから悪役貴族にもわかって欲しい。待つことの辛さを。もう無謀な事をしないように。
応答の返事は返ってこない。声が聞きたい。
「引き返すか?」
「ううん。早く行こう。早く帰れるように」
「うむ! ならば安全運転でかっ飛ばそう!」
僕らはいくつもの町や領地を、何事もなく通過した。この国では珍しいバイクだけど、道中一度も止められることなく素通り出来た。どうやらこのルートの領地を治めているのは、悪役貴族が勉強を教えているチンピラ貴族の家系らしく、安全に国外に出るための算段はあいつなりに立てていたことが窺えた。
道すがら広大な畑で過酷な労働を強いられる奴隷たちをこの目で見て、必ずや成果を持ち帰ると決意し、国境に向かってひた走った。
「そろそろ国境だ!」
「あ、委員長。ちょっと停まって」
国境の町までたどり着いて停車する。町の中心には悪役貴族の実家があった。立派なお屋敷の前で僕はヘルメットを脱ぎお辞儀した。
「よし、行こう」
「もういいのか?」
「事前に訪問を知らせてないからね」
きっとこの町の人たちは何も知らない。お屋敷の人たちは、狼煙によって悪役貴族が帰ってきたと思っているかもしれないけど、代わりに来たのは僕だ。一応、ヘルメットは脱いで挨拶したけど、髪の短い僕の正体に気づく者はいないだろう……などと、思っていたら。
「なんだ? 騎士たちがぞろぞろ出て来たぞ」
「へ? な、なんで……? 僕、なんかした?」
「若君の花嫁とお見受けする! 我ら騎士団が国境にお送り致す! これは若君の命令だ!」
騎士団長と思しき人にそう言われ、ざわめく民衆から僕らを守るように、騎士団は国境までの道のりを警護してくれた。もしかすると悪役貴族は事前に、僕が代わりにこの国境の町にやってくる可能性について手紙にでも書いて送り、根回ししていたのかも知れない。
「この先は、私の仕事だ」
「うん。お願い、委員長」
国境を守る帝国兵に、委員長は極秘任務だと告げたが確認に手間取った。さすがにヘルメットは脱ぐ必要があると思ったのだが、最終的に半ば強行突破のような形で押し切った。
「問題になったら委員長はどうなるの?」
「なに、許嫁殿と彼に養ってもらうさ!」
あっさりと委員長は、僕らに人生を捧げた。
「さあ、許嫁殿。ようこそ帝国へ!」
「はえー……これが帝国の都市かぁ」
立ち並ぶ摩天楼は、どれも僕の国のお城より大きかった。舗装された道路を行き交う、沢山の車やバイク。トランシーバーよりも高性能な通信機器を片手に道ゆく人々。まるで異世界に迷い込んだような気分に陥る。高い建物ばかりだからか、上ばっかり見てしまう。
「ちょうど真正面。目の前に聳える、インペリアル・タワーが兄上の披露宴の会場だ!」
「ちなみに披露宴の開催は明日? 明後日?」
「本日だ! なんならもう始まってるぞ!」
「うぇえ!? 僕ら遅刻してんじゃん!?」
「安全な出国のための通達と、根回しに手間取ってな。ギリギリになってしまったのだ」
それはわかるけど。こっちにだって準備が。
「よーし到着だ! それでは行こうか!」
「ちょっと待って! こんな格好で!?」
「生憎着替えなど持ち合わせていない! ここまで来たのだ! あとは当たって砕けろ……」
猪突猛進な委員長が扉に手をかけたその時。
「ちょっと待ちな」
「は、母上……?」
委員長によく似た美人が忽然と現れた。母上って、どうみてもお姉さんにしか見えない。
これが東の帝国に住むという美魔女なのか。
「てめーが帰国したって連絡が、あたしに来ないわけねーだろ。んで? そのツレは?」
「いや、その……この男の子は私の友達で」
「このっ、バカむすめ! 吐くならもっとマシな嘘をつけ! この子は男の子じゃないし、ただの友達でもないだろーが! 正直に言え!」
「うう……彼女は、とある貴族の許嫁で……」
「ま、言われなくても全部お見通しだがな」
「なら何も聞かずに通してくれたって……」
「黙れ。母親に帰国の挨拶もなしは許さん」
叱責したお母様は嘘のように鎮まって一礼。
「失礼しました。お初にお目にかかります」
「委員長のお母様ですか? お姉様ではなく? どう見てもお姉様にしか見えないのですが」
「……めっちゃいい子だ。脳汁が出まくる」
「へ? あ、あの……脳汁ってなんですか?」
「いえ……どうかお気にならさずに。道中、お疲れでしょう。どうぞこちらの部屋へ。着替えもご用意しております」
先導するお母様に委員長が待ったをかける。
「待ってくれ母上! 我々には目的が……!」
「その目的とやらを達成するために必要なことをこの子はちゃんとわかってる。それをわかってねぇのはてめーだけだ。バカむすめ」
さすがに言い過ぎだと思って、口を挟んだ。
「委員長は僕にとって大切な存在です」
「私の娘は恋敵には役不足でしたか?」
「いいえ。恋敵より、もっと素敵な関係になれました。今ではかけがえのない存在です」
見透かす瞳のお母様の眉尻が優しく垂れた。
「なんだ、上手くやれたみてーだな?」
「そんな、私は別に、上手くなんて……」
「さっすが、あたしの娘だな! 偉い偉い」
わしゃわしゃと委員長の頭を撫でるお母様。
「とにかく時間がねえ。着替えて、会場の連中の度肝を抜くぞ! 勝機はそれしかねえ!」
僕も全く同じ考えだった。委員長のお母様はまるで全てを見透かしているかのように、今の僕に必要なものを用意していた。それは、昔の僕が持っていたもの。長い髪のウィッグと豪奢なドレス。ティアラを頭に乗せれば、そこには『僕』ではなく、学園に潜入する前の『私』が居た。僕ではなく私なら、帝国の披露宴会場でもきっと成果を残せるだろう。
「さあ、行って存分に暴れてきな」
「はい。無論、是非もありません」
会場の扉が開かれる。今宵、私が臨席する。
「失礼。お初にお目にかかります」
「うん? なんだい、君は……?」
まっすぐ新郎の席へと向かい、優雅に一礼。
見た目は美しい女性だけど新郎の服を着てるから新郎だろう。今はひとまず気にしない。
ガタンッと誰かが立ち上がる音。見ると、僕の国の宰相が真っ青な顔で口をパクパクしていた。人差し指を口に立てて、静かにするようにジェスチャーすると、広い額にびっしり汗を浮かべながら、コクコク頷き沈黙した。
改めて、新郎に向き直る。真っ直ぐに目を見て堂々としていれば多少の無礼は問題ない。
僕は帝国語で、今の自分の立場を説明した。
「訳あって名乗れませんが……私は今宵、ある貴族の妻になる者として、ここに居ます」
明言は避けたものの、僕の正体に気づいた帝国貴族たちがどよめいた。怪訝な顔をする者や、困惑する者。仕舞いには、拝む者まで。
「どういうことだ? あれは隣国の……」
「ご病気で静養中ではなかったのか?」
「よもやこの場に"お出まし"するとは……」
「まさかこの目で拝む日が来るとは……」
「なんたる僥倖……ありがたやありがたや」
そんな中、新郎だけは悠然と頬杖をついて。
「へえ……面白い余興だ。君の話を聞こう」
その一切動じぬ姿はまさしく次代の皇帝たる者に相応しく、隣に座る、彼の奥さんと思しき背の低い女性もまた、恐らくは僕と同じくらいの年齢だとは思うが、落ち着いていた。
いや、よく見ると僕のほうを見ずに、新郎のみに熱い視線を注いでる。きっと結婚相手にうっとりしているだけだろう。幸せそうだ。
「まずはこの度のご結婚、おめでとうございます。帝国の弥栄はこれにて安泰であるとお察しします。しかし、帝国の隣の国の未来はどうでしょうか? なんら発展の兆しもなく、古い価値観に縛られた我が国の在り方を、必死に変えようと私の夫はあがいております」
「ふうん、なるほど。それは大変そうだね」
手応えは皆無だ。新郎は興味がなさそうだ。
「それを言うために、君はここに来たの?」
「……夫の名代として駆けつけた私に話せるのはここまででごさいます。あとは、私たちの結婚式の際に、夫から直接、お話を聞いてくださるよう……よろしくお願い致します」
話題を変えて、ダメ元でそうお誘いすると。
「難しい話かと思ったら結婚式のお誘い?」
「はい。今宵はただそれだけでございます」
「それなら、断る理由はないね。喜んで出席させて貰おう。わざわざご足労、感謝する」
「ありがとうございます。では失礼します」
首の皮一枚繋がった。一礼し立ち去る間際。
「君はとある貴族の妻だと名乗ったね。なら奥さんとしての君もそんな感じなのかい?」
「それは、ううん……僕はいつもお転婆さ」
「ふ……ふふふふ! 面白い! 気に入ったよ」
いつもの口調でペロリと舌を出してみせると新郎は目を丸くして、そして大笑いをした。
何が彼のツボだったかは定かではないけど、お腹を抱えて笑ってる。まあ、とりあえず。
「君たちの結婚式を楽しみにしてる」
「うん。御臨席を心待ちにしてるよ」
なんとかなった。やはり正直が1番らしい。
「よし、任務完了。帰ろう、委員長」
「しかし、記者たちに囲まれて……」
バシャバシャと目が眩むような閃光が走る。
「スクープだ!」
「号外を出せ!」
「歴史が動くぞ!」
なんだかすごく騒いでいる。囲まれてる。
「ど、どうしよう、委員長」
「大丈夫。私から離れるな。合図で走れ」
何故か、目を閉じてる委員長。次の瞬間。
「スマートにってのは、こうやるんだよ」
会場の照明が消えた。暗闇の中、走り出す。
「行くぞ、許嫁殿!」
「わ、わかった!」
なんとか入り口に辿り着き。別れのご挨拶。
「それでは、ご機嫌よう。帝国の紳士淑女の皆さま。次は、私の国でお会いしましょう」
呆然としている宰相にひらひら手を振り、あとを任せて、僕は会場をあとにした。悪役貴族のお母様に鍛えられた彼なら、大丈夫さ。
「ふぅーやれやれ。なんとかなったな」
「たく。あたしの娘のくせに無様だな」
「先程は助かった。さすがは母上だな」
「ていうかてめー、そのかわいくない口調で話すのやめろって何度も言ってんだろーが。髪もずいぶん短くしやがって。そんなんじゃ嫁の貰い手が見つかんねーぞ。せめてその口調だけでもあたしが教えたギャル語で話せ」
「余計なお世話だ! 私は母上と同じく妾になると決めたのだ! 他に選択肢もないしな!」
「あたしは妾じゃなくて愛人だっつーの!」
控室に戻り着替える。委員長とのやり取りで頭痛を堪えるかのように額の古傷をゴシゴシと擦っているお母様に、改めてお礼をした。
「ありがとうございました。いろいろと」
すると、委員長のお母様は口調が変わった。
「こちらこそ、色々とありがとうございました。娘は貴女様と出会えてようやく自らの在り方を理解したようです。心からの感謝を」
いやいやそんな顔を上げてと僕が言う前に。
「僕からも感謝するよ。ありがとう」
綺麗な人がそこにいた。にっこりと微笑み。
「どうか僕の娘を幸せにしてあげてね」
「はい! 必ずや、僕が幸せにします!」
反射的に身請けすると、委員長は首を振り。
「やれやれ。こうなっては是非もない、か」
満更でもない委員長の頭をその人は撫でて。
「いいかい? 「ありがとう」と「ごめんなさい」さえ素直に言えれば、ずっと仲良しで居られるよ。それを忘れず、幸せになってね」
僕はきっと生涯その金言を忘れないだろう。
「せっかくだし観光でもしていくか?」
「でも悪役貴族が心配してるだろうし……」
「ああ、確かに。噂をすればなんとやらだ」
「ん? どうしたの委員長……って、げ!」
街中の大きな動く絵画に映る、国境の映像。
そこには精強な騎士団が並んでいて、その1番先頭に完全武装の悪役貴族が佇んでいた。
今にも攻め込んで来そうな臨戦態勢である。
「な、なにやってんだよ……あいつ」
「早く止めなければ戦争になるぞ!」
「あのバカたれ! 行こう、委員長!」
すぐに国境に戻って、悪役貴族と対峙した。
「あーこちら僕、こちら僕。聞こえてる?」
《ようやく来やがったか。無事なのかァ?》
「もちろん無事だよ。全部、上手くいった」
《そうかァ。それはなによりだ……本当に》
トランシーバーで報告すると、いきなり悪役貴族が膝から崩れ落ちた。ギョッとして固まる僕に無線での通信が届く。泣き声だった。
《俺ァ……心配で……気が狂いそうだった》
「な、泣かないでよ……委員長、どうしよ」
「行け、許嫁殿。一刻も早く、彼のもとへ」
駆け出す。悪役貴族のもとに。一刻も早く。
「泣くほど、僕に会いたかったの……?」
「あァ……会いたかった。死ぬほどになァ」
バカたれという台詞の代わりに抱きしめた。
「それは、僕のことが好きだから……?」
「そうだ。好きで好きでたまらねェからだ」
今なら。今なら僕は言える。勇気を出そう。
「僕も、悪役貴族のこと……好きだよ」
ようやく言えた。堰を切ったように溢れた。
「好き好き大好き。愛してる。僕はずっと、これからも、悪役貴族に恋して、愛するよ」
そんな僕の告白を悪役貴族は鼻水を垂らして聞き終えて、嬉しそうに、噛み締めるようにニヤリと邪悪に嘲笑して、吠え散らかした。
「ハッハァー! ようやく洗いざらい吐きやがったなァ! 死ぬ気で馬を走らせた甲斐があったぜェ!よォし、てめェら! 凱旋だァ!!」
「もぉ。僕に勝って凱旋すんな、バカたれ」
勝ち鬨をあげる悪役貴族に僕は負けたけど。
そんな鼻水垂らして喜ばれても愛しいだけ。
負けても全然悔しくない。そんなことより。
「悪役貴族、勝手なことしてごめんね。結婚前の最後の冒険だと思って許して欲しい。それと僕を迎えに来てくれて……ありがとう」
ありがとうとごめんなさいは素直に言う。これからそう心がけよう。そうすればきっと未来永劫この幸せが崩れることはないだろう。
「てめェ……また良い女になったようだな」
「許嫁殿の武勇伝は、この私が聞かせよう」
「優等生ェ、てめェもたまに役に立つなァ」
「い、委員長! 恥ずかしいからやめてよ!」
「あっはっは! 今更何を恥ずかしがるのだ」
余談だけど、この僕らの恥ずかしい会話は帝国で生中継されていたらしく、大層盛り上がったようでドラマ化や映画化されたらしい。
しばらく帝国旅行は恥ずかしくて行けない。
【僕はようやく、悪役貴族に愛を告げた】
FIN
今まで散々ルール無視してスカトロ荒らししてたカスが
今さら酉つけて駄文書いた所でなぁ
普通ならここでは「恥ずかしくて書けない。」だろうけどそこが恥知らずの恐ろしさ
《奥様、奥様! 大変です!》
「んー? どうしたの?」
《坊っちゃまとお嬢様が喧嘩してます!》
あれからしばらくの時が流れた。約束通り結婚式に臨席してくれた帝国青年に晴れ姿を見せつけ、正式に帝国との国交を樹立した僕と悪役貴族は、双子の兄妹を授かった。僕は身体が小さいせいか、難産で、結構やばかったけれど、委員長のお母様が大勢の医者と共に産婆として駆けつけてくれて、おかげでなんとか無事に元気な赤ちゃんを産んだ。そんな双子たちはスクスク育ち、基本的には仲が良いけど、たまにこうして喧嘩したりもする。
メイドちゃんたちにトランシーバーで呼ばれて駆けつけると、悪役貴族に似た息子と、僕に似た娘が取っ組み合いの喧嘩をしていた。
「こらこら。喧嘩はダメ。仲良くしなさい」
「こいつがおれのメイドを取った!」
「お兄ちゃんには僕がいるでしょ!?」
どうやら、喧嘩の原因は双子メイドらしい。
見目麗しく大人の女性へと成長を遂げた彼女たちは、数え切れぬほどの求婚を拒み続け、頑なに未婚を貫いており、今も忠実なメイドとしてこの家で暮らし、働いてくれている。
「お手数をおかけして申し訳ありません」
「平等にお世話をしているのですが……」
「いやいや、気にしなくていいよ。いつも面倒を見てくれてありがとね。助かってるよ」
誰に似たのか、息子のほうは独占欲が強く、同じく誰に似たのか、娘のほうは癇癪持ちなので、僕みたいにキレてしまったのだろう。
「こんな時は君の出番だね。ちび委員長」
「うむ! まかされよう! いってくりゅ!」
喧嘩の仲裁に小さな委員長を差し向ける。美しい黒髪の幼女は、ぴょんと第二夫人の膝から降りて、僕の子供たちにお説教を始めた。
ちなみに委員長は安産で、すぽんと産んだ。
「お兄ちゃんなら妹にやさしくするのだ!」
「けっ……なんでおれがこいつなんかに……」
「うう~ひどい! お兄ちゃんのばかたれ!」
「こらこら。妹ちゃんもお兄ちゃんのことをもっとそんけーしたまえ。きみはいつもおいしいお菓子をわけてもらっているだろう?」
客観的かつ中立に、双子たちを諌めている。
「さすが委員長の娘……しっかりしてるね」
「そんなことはないさ。私たちの夜の営みをこっそり覗いている、マセたエロむすめだ」
それはいけない。まだ早い。気をつけよう。
「お菓子はいいけど、双子メイドはやらん」
「そんなうつわがちいさい男は、双子メイドちゃんたち両方と結婚なんてできないぞ?」
「お兄ちゃんと結婚するのは僕だもん!!」
僕の娘はお兄ちゃんが大好きだ。実の兄を見つめるその瞳には僕が悪役貴族を見つめるような熱っぽさが見て取れる。将来が心配だ。
良いタイミングで悪役貴族みたいな男の子と出会えればいいけど、あんなにかっこよくて優しい男性が今後、現れるかはわからない。
あとこれは余談だけど、帝国青年の花嫁は、もともと彼の世話係だった使用人らしい。40歳を超えていると聞いて驚いた。委員長のお母様も然り、帝国は美魔女だらけの魔境だ。
何が言いたいかというと、それと同じように未婚の双子メイドちゃんを僕の息子が娶る可能性もある。というか、そうなって欲しい。
「やれやれ。喧嘩するほど仲が良い、か」
「僕の娘……どうしてこうなったのやら」
「そっくりではないか。実に微笑ましいぞ」
「でも、さすがに血の繋がった兄妹は……」
《おォい……そろそろ帰るぞォ》
「あ、はーい! そろそろパパが帰って来るってさ! 喧嘩はおしまい! 皆、迎えに行って」
「「「はあい!」」」
解放奴隷たちが組み立てたトランシーバーで帰宅を告げる悪役貴族。僕が促すと子供たちは喧嘩をやめて手を取り合い、駆け出した。
「お兄ちゃん、早くパパをお迎えにいこ!」
「あ、まてよ! はしるな! ころぶぞ!」
「父上ー! 本日もおつとめ、ご苦労様!」
玄関の扉が開いて、悪役貴族が姿を見せた。
「よォ……チビども。いい子にしてたかァ」
「「「いい子にしてたー!」」」
「ハッ! てめェらはホントかわいいなァ」
悪役貴族は夢を実現するために日々邁進している。豊富な食料や鉱物資源を輸出して外貨を稼ぎ、帝国から農業機械を輸入することで人手を減らし、農作業から解放された農奴たちは工場で働かせて養い、彼らの暮らしはどんどん豊かになっている。帝国の医療技術も積極的に取り入れ、金銭的に余裕が出来た元奴隷たちの烙印は最新の形成外科治療により綺麗に取り除かれ、徐々にではあるが彼らはもう身も心も奴隷ではなくなってきている。
「おかえりなさい。今日もお疲れ様」
「あァ……今日もくたびれたぜェ」
「子供たちは今日も元気一杯だぞ!」
「ハッハァー! そいつは何よりだなァ!」
「パパ! 抱っこ!」
「おれも! おれもー!」
「わたしはかたぐるまをしてほしい!」
「なら全員まとめてかかってこォい!」
「「「わあい!」」」
今日も仕事で疲れたのだろう。改革を進める僕の旦那は既得権益を貪る連中から、この国の資源を帝国に売り払い、奴隷に施しを与え、伝統を軽んじる売国悪役貴族だと、忌み嫌われて蔑まれている。そういう視野が狭くて自分が正義だと信じて疑わないバカたれ共にとってはたしかに大悪党かもしれないけれど、僕らにとっては優しくてかっこいい素敵な旦那様であり、そんな悪役貴族のことが大好きで、愛してる。毎日くたくたになって帰ってくる悪役貴族は、委員長の娘を肩車して、双子を両腕に抱きかかえながら、僕らにむけて幸せそうに微笑み、こう問いかける。
「俺ァ幸せだ。てめェらも今、幸せかァ?」
幸せそうな旦那を見ると僕らも幸せになる。
誰になんと言われようとも悪役貴族がやっていることは間違ってないし、どんなに辛い思いをして帰ってきても家には僕らがいて、全面的に味方になってあげる。それが家族だ。
「幸せだよ……そんなの当たり前じゃんか」
「うむ! きっと子供が増えれば、もっと幸せになれるだろう! だから、今宵も頼むぞ!」
「ハッハァー! 言われなくても孕ませてやンよ! てめェらに手を出さねェ夜はねェ!」
「子供の前で何言ってんのさ……バカたれ」
そんな文句を鼻で笑い悪役貴族は約束した。
「もっともっと幸せにしてやるからなァ!」
この先もっともっと幸せになることを僕らは信じて疑わない。そして僕らも、この素敵な悪役貴族のことを支えて、もっともっと幸せにする。時にぶつかり合い、何度喧嘩したって、ずっとずっと未来永劫、幸せに暮らす。
【僕は未来永劫、悪役貴族と幸せに暮らす】
FIN
前作
クラスの変わり者が揉め事を起こして始まる一次創作
クラスの変わり者が揉め事を起こして始まる一次創作 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1699519196/)
その前のうんこまみれもちゃんと載せろよな
まあHTML化依頼スレで「終わりました」って書いてる奴全部こいつだけど
道のど真ん中にぶちまけられたゲロみたいな作品
作品とも呼びたくないけどな
現実と空想の区別が付いてないバカが異世界モノ書こうとすると
恐ろしいものが出来上がる良い例よな
今からでも子ども向けの漫画版読むだけでも良いから日本や世界の歴史勉強しろ
最後まで世界観の見えてこない粗末な怪文書だったな
よく一次創作なんてほざけたもんだ。零次創作だよ
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