鷺沢文香「本の旅に、想いを添えて」 (14)
これはモバマスssです
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初めて読んだのは、絵本でした。
まだ幼く文字が読めなかった頃、母に寝室で読んでもらった絵本。
語り手である母の声を通して、画かれた絵を通して。
私は初めて、自分以外の世界を知って。
内容は今思い返せば拙いものですが。
子供騙しと言っても差し支えないくらい、子供っぽい内容でしたが。
それでも、私は確かに愛を感じ。
当時は何度も母にねだって読んでもらい。
そこから、でした。
自分が暮らしている世界とは全く違う、遠くの物語を知って。
もっと、もっと知りたくなって。
全ては……そこから、始まったんです。
次に手にしたのは、昔話でした。
文字を自力で読めるようになって、少しずつ文の意味が分かるようになって。
初めて、自分一人で読んだ本。
それは、絵本以上に不思議な世界が広がっていて。
海外の童話の様な、少し暗いエンディングを迎える話も。
報われないお話も、素敵な終わり方をするお話も。
日本の昔話の様な、作者不明のおとぎ話も。
スッとするお話も、後に引きずってしまいそうなお話も。
その全てが、私をより強く文字の世界に引き込んで。
どんな終わり方でも、お話の世界に引き込まれて。
たくさんある本を、図書館で借りては読んで、返しては借りて。
もっともっと、文字の世界に触れたくなってゆきました。
次に読んだのは、新聞でした。
リビングのテーブルの上に、朝と夕方いつも乗っていた新聞紙。
朝起きるのが楽しみで、学校から帰るのが楽しみで。
それを読んで、私は私の過ごす世界の事を知り始めました。
新聞と言うのは、とても素晴らしいものです。
本と同じで、自分がその地に赴く事なく世界を知れるのですから。
今までに読んだ昔話や絵本程素敵な終わり方をするものばかりではありませんが。
それでも記事の一つ一つが、現実に起こりうる物語で。
もちろん、その全てが真実だと言うわけではありません。
けれど、全てが本当ばかりで偽りの全く無い真実だけの物語なんて。
誰かの主観の混ざっていない、客観的なストーリーだけなんて。
それもまた、つまらないものですから。
小学生に上がってから読み耽っていたのは、小説でした。
ラブストーリー、ミステリー、ホラー、その他膨大な数の分類。
読んでも読んでもきりがなく。
自分一人で読み切れる量なんてたかが知れていて。
そんな大き過ぎる本の世界を実感する事で。
私は尚更幸せになりました。
私が生きている限り、ずっと新しい物語に出逢えるのだと。
どれだけ読んでも、際限なく広がってゆく世界の全ては手に入らないのだと。
小説の主人公や登場人物に感情移入したり、息が詰まりそうな張り詰めた空気のサスペンスを楽しんだり。
私が成れないからこそ、遠くの世界の、別の世界の住人に憧れて。
けれど、この頃からでしょうか。
私は些か、私が住んでいる世界の事を蔑ろにし始めていたのかもしれません。
自分が動く事なく、沢山の世界に触れられてしまう。
だからこそ、尚更自分は動かなくなっていって。
自分は物語の登場人物になんて成れない、と思っていて。
だからこそ、どんどんと本の世界に入り込んで。
当たり前……ですよね。
物語の主人公になれる様な人物は。
私が読んでいて憧れる様な人物は。
それ相応に、その為の努力をしていたのですから。
キラキラしている面だけを見ていては。
活躍している、輝いている面ばかりが写される本を読んでいては。
気付けない事ばかりで、当然私は気付けなくて。
遠い世界に憧れる事すらも忘れ、ただその世界に気分だけ浸るだけでした。
更に成長し、叔父の古書店の手伝いを始めてから手に取ったのは、学術論文でした。
一つのテーマを突き詰めて、理論立てて結論を出す。
それもまた、私の心をくすぐって。
今まで読んでこなかったジャンルなだけに、また幼心を取り戻した様に読みふけりました。
今まで読んできた文字の世界の中で、最も現実的な構成。
科学に基づいた検証、納得のいく締め。
私が一時期没頭していたのは、今私がいる世界と同じ場所のものだったからかもしれません。
異世界の不思議な法則でも御都合主義の恋愛小説でもなく、実際にこの世界での文章展開だから。
古書店のレジで暇を持て余している間は、論文と小説とを交互に読んで。
別の世界を旅しては、またこの世界に戻ってきて。
著者の苦労に、積み重ねた努力に思いを馳せてみたりして。
いったりきたりとふわふわした感覚が心地よかったのを覚えています。
新しく私が手を伸ばしたのは、年代記でした。
年代毎の出来事が纏められた編年史。
そんな歴史書は、当然ながら過去に起こった物事で。
より、近さを感じていて。
流れを知った上で読む史実は、一つ一つを見る以上に面白いもので。
現実なのに遠くの世界の様な感覚で。
どんな思いで、かの人物達が行動していたのか、など。
後から答え合せで読む感覚が、気持ち良くて。
けれど、やはり。
同じ世界な筈なのに、私とは違う、と感じていました。
私には歴史に名前を残せる様な、文字で纏められる様な大きな事なんて出来ませんから。
近くて遠い、と言う感覚は、少し胸に刺さりました。
遠くの世界に憧れながらも、絶対に不可能なんだと理解してしまっていて。
私は自分から動こうとなんてしていなくて。
ただ一人、この古書店の奥で。
一人でページを捲り、世界を巡り。
そんな日々の繰り返しが、ずっと変わらず続いていくものだと思っていました。
いえ、他の選択肢を知らなかったんです。
ずっと、そうして過ごしてきたのですから。
そもそも、他の道を知らなかったのですから。
……はい、そうです。
貴方がこの古書店に入って、扉を開けて、新しい風を連れてきて下さるまでは。
文字の世界だけを旅していた私を。
現実の世界で羽ばたかせてくれた貴方が来て下さるまでは。
憧れるだけの存在から、憧れられる場所に立たせてくれて。
眩しいと思っていた存在にまで、私を輝かせてくれて。
もちろん、文字の裏に隠された努力や苦しさを知る事にもなりましたが……
どんな時も、ページを捲る様に、貴方が背中を押してくれましたから。
まだ読んだ事のなかった世界を、読む事がなかっであろう世界を。
私は文字より先に、自分で経験出来てしまいました。
文字ですら知らなかった、知る事がなかったであろう世界を。
私は読むよりも先に、自分で知ってしまう事が出来ました。
……少し、長くなってしまいましたね。
紅茶のおかわりは、如何ですか?
……そうですね、すっかり暗くなってしまいましたし……もうしばらくしたら食事に……
え、今は何を読んでいるのか、ですか……?
……ふふっ、料理本です。
これもまた、貴方と出会わなければ手を伸ばさずにいたものだと思います。
私を変えて下さった貴方へ。
私の……私達の、新しい世界への旅立ちに。
私の想いを、添える為に
お付き合い、ありがとうございました
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乙です
おつおつ、しかしシャンプー書いた人間と本当に同一人物なのかとw
あぁなるほど、あの曲を元にしてるのか
俺も好きだからよく合うと思う
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