岡崎泰葉「21世紀のピグマリオン」 (143)
深く愛された人形には、魂が宿るそうです。綺麗なお洋服を着せられて、親身に話しかけられて、大切にされた人形は、人間になることができる。
でも、人という器に愛がそそがれすぎると、魂がよそへ飛び出だして、人形になってしまう。わたしはそれを、痛いほど知っています。
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両親は私を愛して、可愛がっていました。きっと自慢の子だったのでしょう。だから、近所では我慢ができなくなって、日本中に私を見せようとした。そしてテレビ局の人も、ドラマや映画の監督も、写真家の人も、出版社の人も、私をいっぱい愛してくれました。彼らなり、思い通りに。
私はそれに応えようと努力しました。子どもの心を殺して、何も考えないように。
首が縦の運動に慣れた頃には、「岡崎泰葉」というラベルつきの人形が出来上がりました。ただ頷けば、それなりの成功ができることを知った、可愛らしいけど小狡い人形です。
無邪気な子どもという価値がなくなったから、私は周りに勧められるままアイドルに転身しました。
そこで私は、Pさんに出会いました。人形達の王様に。
「経験が長くても手は抜かないから安心してくれ」
初めて会った時のPさんは9歳のアイドルを肩車しながら、そう言いました。それからレッスンのこと、お仕事のことを話している間も、いろんなアイドルが入れ違いにPさんにまとわりついたり、絡んだりしていました。
顔がかっこいいわけじゃないし、どうしてこんなに人気者なのだろう。私は不思議でした。子どもならまだしも、大人の女性達までがPさんに集まっている。
仕事ができる、人付き合いがうまい、それだけでアイドルの信頼を得られるはずがない。私は経験から、それがわかっていました。
アイドルの大半は、自分が世界で一番可愛い、美しいと信じています。
だからお仕事がうまくいっても、プロデューサーのおかげだとは思いません。
優しくされても、それを当然のように受け止めるでしょう。
アイドルは世界で一番ワガママで、しかもそれが許される人種なのです。成功している限り、ですが。
そんな彼女達に気に入られるのは、簡単なことじゃありません。
私がPさんの魔法に気づいたのは、水着モデルの仕事をした時でした。
私が着せられたのは、薔薇のような飾りがついた白いチューブトップのビキニ。露出面の広さと、胸を大きくみせる効果で評判の水着でした。
普通の大人だったら、卒倒するするかもしれない。たかだか16の子どもが、こんないやらしい水着をつけて…。
でも私の親は普通じゃないし、私だって16歳だけど無垢な子どもじゃない。だから、お仕事だと割り切って我慢できる。
笑顔のまま。カメラさんが私のどこを見ていようと、私の写真がどんな風に利用されるか知っていても。岡崎泰葉はそういう女の子だ。
「いいよぉ、泰葉ちゃ〜ん。次はもっと大胆なポーズいってみよう!」
カメラさんに言われるがまま、私は色んな体勢を取る。
猫のように四つん這いになって、お尻を突き上げたり。両腕を絡ませて胸を寄せて、ウィンクしたり。
だけど頭の中では、「白い薔薇の花言葉ってなんだったかな」なんて考えていました。
仕事に取り組むことはできるけど、この仕事に向き合うことはできなかったから。
撮影も終わりに近づいて、とうとう最後の一枚を撮るとき。Pさんがカメラさんに口を挟みました。
「最後は、岡崎の好きなポーズで撮ってくれませんか」
私はぎくりとしました。好きなように。それは、私が一番困る注文です。
「岡崎」
Pさんが私に声をかけてきました。私は笑ったまま、ひどく無表情な声で「はい」と答えました。
「どんなポーズでもいい。今、岡崎が望む姿を見せてくれ」
かあっと、緊張で顔が赤くなるのを感じました。どうしよう。
私はとっさに、Pさんとカメラさんに背を向けました。ここから、逃げ出してしまいたい。
けれど、それはできない。やってはいけないことだ。
両親も事務所も、これまでの岡崎泰葉も裏切ることになってしまう。
心臓が、いままでにないくらい早く動いてる。その鼓動に合わせるように身体が震える。
瞳が熱くなる。何か、何か言わないと。
私がやっと振り向いたとき、パシャっと、フラッシュが焚かれました。
「今の表情は…」
カメラさんが驚いた顔で、写真を確認していました。私は怖くなって、そこに座り込みました。
ぐずぐず考えている間に全てが終わってしまった。
アイドル失格。きっとみんなが失望する。
経験者なんて調子のいいことを言って、この有様。都合が悪くなると、ただの女の子に戻ろうとするの?
色んな声が私の中で渦を巻いて、私はそこに吸い込まれそう。
気持ちが悪い。胃袋が、きゅっと持ち上がるのを感じて、私は口元を押さえました。
どうにか堪えて立ち上がると、Pさんが私の肩にタオルをかけて、更衣室まで連れ添ってくれました。
汗ばんだ水着をゆっくり剥ぎ取っていると、すぐ外にいるPさんが言いました。
「最高の表情だったよ」
皮肉ではなく、本当にそう言っているように聞こえました。
でも私は、「申し訳ありませんでした」とだけ返して、口をつぐみました。
あのカメラさんが、きっと何か言ってくる。
ふざけるな。なんだあの姿は。こっちも仕事でやっているんだから、ちゃんと協力しろ。
そしたら大問題になる。
写真を掲載する出版社は、私のことを使い物にならないアイドルだと思うし、他のアイドルも、事務所だって危ないかもしれない。
私のせいで。私はタオルに顔を埋めて、少しだけ泣きました。
けれどその後、カメラさんも、出版社も何も言ってきませんでした。
私は得体の知れない不安がますます強くなって、Pさんに尋ねました。
「あの、この前のお仕事のこと…」
「どれ?」
「白い、水着の撮影です」
つっかえながら、でも私は怯えずに言えました。失敗を失敗だと受け止めて、前に進まなくちゃいけないから。
「ああ。初稿が刷り上がってるよ」
プロデューサーは引き出しから封筒を取り出して、私に渡しました。
自分で確認しろ、そういうことでしょうか。
たしか、私の写真は真ん中くらいのページに。そう思って中身を取り出すと、あの日の私と目が合いました。
一ページ目、つまり表紙で。
「えっ。ええ!? なんで!?」
白い背中を向けて、潤んだような瞳で振り返っている私。最後に撮った、あの写真です。
「カメラマンさんがさ、“あの表情が堪らなかった”って出版社にかけあったんだよ」
私は自分でも信じられなくて、撮影の日と同じように、ぺたりと座り込みました。
「やっぱりうまくいったな」
Pさんはいたずらっぽく、そう言いました。
岡崎繋がりでCV中村悠一で再生されるなこのP
Pさんの魔法は、アイドルの魅力を引き出すこと。それは当然のようだけれど、難しいこと。
だって、私達のやりたいようにやらせて、普通は成功できない。
芸能界の表面は華やかだけど、中はおそろしいほど冷たく打算的で。
どうすればファンが付くのか、どうすればファンが喜ぶのか。
事務所は、そういうことを全部計算した上でアイドルを演出する。
16歳の女の子の心や考えなんか、入り込む余地がないはずなのに。
なのにPさんは、私たちに向き合ってくれる。そして、導いてくれる。
縛るんじゃなくて、包んでくれる。守ってくれる。
みんなが夢中になっても、しょうがない。私はそれが頭だけじゃなく、心でも分かりました。
ちょろ崎泰葉
その時は。
須賀京太郎様の嫁候補にセクハラしてポケモン警察に捕まる展開早よ
先輩のえっちなみずぎ写真はよ
絵だと痩せぎすなイメージを受けるけど3Dだと結構むっちりしてるんだよな
興奮する。
岡崎先輩もジョジョ読むのか
私はそれから、「私らしく」と向き合わなければいけませんでした。
私らしく話す。私らしく歌う。踊る、ポーズを決める。
いままでの岡崎泰葉にはいらなかったものなのに。今更どうしろと言うの?
「私らしく」、はとても苦しい。何も考えず、全部誰かに委ねたい。
あの写真が評判になって、アイドルのお仕事は増えたけれど、私はそう思いました。
どうしよう。最近、ため息が増えました・・・。
「私らしさって、何なのかな」
ある日、私は他のアイドルに尋ねてみました。
「岡崎先輩もそういうこと考えるんだね」
「先輩って、同い年ですよ?」
「大先輩だよ。特に、私達新参アイドルにとってはね」
加蓮ちゃんは真剣な顔で言いました。先輩というよりは、ライバルを見るような眼差しでした。
「岡崎泰葉らしさ。何だろうね~」
「そういうこと考えちゃう、真面目なとこじゃない?」
塩見さんがふいと現れて言いました。
「私達は、“私らしさ”なんて考える余裕ないけど。泰葉大先輩と違って」
「やめてくださいよ、塩見さんまで」
「そっちこそ、“周子ちゃん”でいいんだよ?」
塩見さんは、意地悪な笑顔を見せました。でも、嫌な気持ちにはなりません。彼女は、そんな魅力を持った持ったアイドルです。
「何の話だよ?」
そこへ今度は、奈緒ちゃんがやってきました。
すると加蓮ちゃんは、奈緒ちゃんに言いました。
「突然ですが質問です。奈緒が考える、“奈緒らしさ”とは?」
「はぁ?」
あっけにとられる彼女をよそに、加連ちゃんはカウントをはじめました。
「はい10,9」
李衣菜が来るのかと思ったが違った
「えっ、ちょっと…」
「8,7,」
「私らしさって、そんな突然…」
奈緒ちゃんは驚きながらも、首を傾げながら考えています。
私が思うに、こういうところが彼女らしさなのでしょう。友人の悪ふざけをまっすぐ受け止めてしまう、正直な子。
悪友の方がその正直さを感謝しているかは分かりませんが。
「3」
「おい、おかしいだろ!」
「2,1」
カウントが終わる寸前、奈緒ちゃんが慌てて言いました。
「アっ、アニメ!」
その答えに、加蓮ちゃんも塩見さんも声をあげて笑いました。
「ぷっ…くくく」
「あはははっ! こういうことだね」
「どういうことだよう!?」
真っ赤になっている奈緒ちゃんを手で押さえながら、塩見さんはまた意地悪そうに笑いました。
「ようするに…まあ、ようするにさ。好きなよう、楽しくやればいーんじゃない?
Pも、私らがそうすることを望んでるんだし」
私の楽しいこと。
寮で新しく組み上げたドールハウスを眺めながら、私は考えました。
24分の1スケール、346プロダクションアイドル課。
そこには所属アイドル達を模したミニチュアが、おもいおもいの格好でくつろいでいます。
お仕事を楽しくなんて、ありえない。お仕事は真剣にやるものだ。
ハウスの中にいる銀髪のドールを小突くと、彼女は寝そべっていたソファーから滑り落ちました。
「ふふっ…」
私の楽しいは、こんな程度。
私の芸能人としてのキャリアは11年。けれど、アイドルとしては駆け出し。
その齟齬が表面化したのは、バラエティのお仕事でした。
子役・キッズモデルのうちは、当たり障りのない言葉が許されるし、落ち着いて話しているだけでも喜ばれました。
でも、アイドルに求められるのは「岡崎泰葉らしさ」。視聴者が望む「岡崎泰葉」。これは私らしさと微妙にちがう、繊細な問題でした。
言うなれば、思考する人形にならなければいけないのです。ドラマツルギー…でしたか。とにかく、私には難しい。
この前も、ある方に言われました。
「いい子やなぁ~」
その中に含まれている意味が、決して褒め言葉でないのはすぐに分かりました。むこうは、“若い”アイドルにはわからないだろうと思って、言ったのかもしれませんが…。
346プロダクションのアイドルの子達は、私のことを尊敬してくれます。
私からすれば、こういうことに悩まず、のびのびと仕事をする彼女達が羨ましい。
そして、それを下支えするPさんもすごいと思う。尊敬している。
けれど私はまだ、Pさんのことを信じていません。あの撮影の日の、どうしようもない息苦しさが、私と彼の間に横たわっているのです。
本当に私の気持ちを汲んでくれるなら、「私の好きなように」させないで欲しかった。
それが岡崎泰葉にとっての、情けない本音です。
でも、このままじゃいけない。けりをつけないといけない。
私は頭を悩ませて、悩ませて、答えを出そうとしました。
一丁前に「アイデンティティ」と題された本を読み漁ったり、プロダクション内の、特に個性的なアイドル達と交友したり、突然“がらでもない”ことをしてみたり、自分なりに手を尽くしました。
どこかで妥協すればよかったのに、私はこの苦痛と正面から向かい合いました。
ひょっとして、私ってマゾヒストなのかも…。
私がまったく16歳の女の子らしい、自分探しにうつつを抜かしている間。
他のアイドル達はめきめきと頭角を表していました。
美嘉さんのいるLiPPS。
新田さん、アナスタシアさんのラブライカ。
木場さん率いるハードメテオライツ。
そして、加蓮ちゃん奈緒ちゃん・・・あと、渋谷さんのトライアドプリムス。
どれも、魂が揺さぶられるような魅力を持ったグループです。
岡崎泰葉、お前は指をくわえて見ているだけか。
私は自分探しを一旦保留して、レッスンや仕事に関わるリサーチに打ち込みました。
ずいぶん体力もつきました。お仕事も、新規ファンも少しずつ増えていきました。
それでも差は広がっていきました。空の星くらいに、絶望的なまでの遠さが。
加蓮ちゃんと奈緒ちゃんは、以前と変わらず接してくれます。
それが残酷な仕打ちのように感じるのは、私の嫉妬でしょうか。
これは期待
事務所の中で、私は先輩としての体面を保つのに必死でした。
自分よりお仕事を貰っているアイドルにアドバイスをしたり。
自分よりファンが高いアイドルの相談に乗ったり。
羨望や焦り、苛立ちを隠すのには昔以上に苦労しました。
ですが「先輩」という地位は、 アイドルとして半端な、一人の人間としても未熟な私を包んでくれる生命維持装置でもありました。
これがなければ、岡崎泰葉は事務所でも、芸能界でも呼吸ができません。
まるで、内側に棘のついた鉄の鎧の中で、必死にもがいているみたい。
私の中には、次第に鬱屈とした感情が溜まっていきました。
ミニチュアを小突いているだけでは、我慢できなくなるほどの。
「岡崎、ユニットが決まったよ」
Pさんは自分のことのように、嬉しそうな声で言いました。
一方の私は、“岡崎先輩“と“駆け出しアイドル”の二重生活に疲れきっていました。
しかしそれは表情に出さず、企画書を受け取りました。
「これはPさんの意向ですか?」
中身をざっと眺めてから、私は尋ねました。不満の矛先を見つけるために。
「いや、違うけど・・・」
Pさんは不思議そうな顔で、私を見つめました。
少し見つめあった後、私は無言で事務室を出ました。
そして日課のレッスンをこなした後、寮には戻らず、街へ出かけました。
星のようにまぶしい、桜色の衣装をミニチュアに着せるために。
リトルチェリーブロッサム。 まばゆい2つの蕾と、それと・・・一体なんだろう。
立案者の浅慮を、私は恨みました。
気に食わん、白紙に戻せ。
そう言えるだけの気概も功績もなく、私は言われるがままユニットを結成することになりました。
メンバーは、9歳と12歳の少女。
この2人のために、私が教育係兼保護者を求められていることは、容易に想像がつきました。
小学生中学年と高学年。それも女の子。さらにアイドル。
自分も通ってきた道ですが、周りの大人にとっては面倒な時期にはちがいありません。
初めてのユニットとしての顔合わせ。
桃華ちゃんは年齢の割に礼儀正しく、大人びていました。
ですが、薫ちゃんの方は少し勝手が違いました。
決して自分勝手ということはないのでが・・・。
「泰葉ちゃんのいうこと、ちゃんときくよー!
せんせぇがそうしろっていったから!」
彼女は事務室の中で、一番Pさんに依存しています。
そのせいで度々問題を起こしていましたが、年齢のせいで、咎める人もいませんでした。
期待
さらに悪いことに。
いえ基本的にはよいことなのですが、薫ちゃんは才能に満ち溢れていました。
同じ頃の私とは比べ物にならないくらい。
物覚えがよく、歌やダンスのための体力もある。
そして何より、周りに毒されない「龍崎薫らしさ」がありました。
いわゆる天才という人間です…私が苦手な。
ユニットとしてのデビュー曲は、春の木漏れ陽のような、穏やかで優しい曲調でした。
ダンスも歌に合わせゆったりしていて、そこまで難しいものではありません。
薫ちゃんも桃華ちゃんは、歌詞と踊りは一通り覚えてくれました。
ですがユニット曲に関して、私達の間で衝突が起こりました。
薫ちゃんの声とダンスは、溌剌としていて気持ちいい。
でも元気が有り余っていて、曲には合わない。
私はそう指摘しました。もちろん、優しい口調で。
ですが薫ちゃんは「せんせぇが、薫らしくやれって言ったんだもん!」と返してきました。
私は頼るように桃華ちゃんを見ました。
年齢の近い彼女だったら、薫ちゃんを説得できるかもしれない、と。
ですが桃華ちゃんは「Pちゃまがそうおっしゃっているなら…」、と薫ちゃんの肩を持ちました。
「Pさんは…神様じゃないよ。歌やダンスのことなら、トレーナーさんか私の言うことをきいて」
私はそう言い返しました。
薫ちゃんはここで黙ってしまいました。“せんせぇ”の言いつけが効いているのでしょう。
しかし桃華ちゃんは、
「トレーナーさんはともかく、岡崎さんと私達は対等ではなくて?」
と反論しました。
生意気と思いましたが、桃華ちゃんの意見は正論でした。
芸能界はともかく、アイドルとしての経験は3人とも同じです。
そして、2人は私の子役時代を知りません。
私は痛いところを突かれ、結局その日は張り詰めた空気のまま解散になりました。
この三人でシリアスな流れは貴重だ
プロデューサーが神様。
桜色のドレスを着たミニチュアをつつきながら、私は考えました。
Pさんのプロデュースの能力は文句のつけようがない。
だけど、Pさんはあくまでプロデューサー。
歌やドレスに関してはトレーナーさんに譲るだろうし、芸能経験に関しては私の方が長いくらい。
あの2人はまだ、ものの分別がついていないのでしょう。私はミニチュアの顔をぎゅうと潰しました。
翌日のレッスンも、気まずい空気のまま進みました。
目立ったミスこそないものの、ユニットとしては最悪の状況です。
私はいたたまれない気持ちになって、休憩時間にPさんにメールを送りました。
「Pさん。いますぐレッスンルームに来ていただけませんか」
結局はPさんに頼ることになって、私はもやもやした気持ちになりました。
Pさんが来ると、威勢良くレッスンしていた2人が固まりました。
明らかに怯えている。その姿は父親に叱れらるのを怖がる、9歳と12歳の少女のように見えました。。
アイドルではなく、本当に。
「お前達、岡崎を困らせてないか?」
Pさんが尋ねると、桃華ちゃんは黙っていましたが、薫ちゃんは涙を浮かべて首を横に振りました。
「薫。俺との約束、覚えてるか」
Pさんは優しく薫ちゃんに言いました。でも薫ちゃんは、うっ、うっと呻くだけで、まともに話しません。
「“岡崎の言うことをよく聞いて、レッスンをがんばるんだぞ”。俺はそう言ったよな」
薫ちゃんは、ゆっくり頷きました。
「それと、“せんせぇに嘘はつかない”って薫は言ってくれたよな」
Pさんがそう尋ねると、薫ちゃんは声をあげて泣き出しました。
それ以上Pさんは薫ちゃんを追及せず、彼女を優しく抱きかかえました。
「俺は怒っているわけじゃないだ。ただ、少し悲しい。分かるだろ、薫。
お前に嘘をつかれるとつらいんだ」
Pさんは薫ちゃんを宥めながら、レッスンルームの出口まで彼女を抱えて歩きました。
私も同じように叱られたのを思い出して、昨日の気持ちはどこへやら、薫ちゃんに同情しました。
出口の直前で、Pさんは振り返りました。
「桃華、“期待してる”よ」
その言葉を聞くと、桃華ちゃんはさあっと青ざめました。
私はなにか恐ろしいものを見た気持ちになりました。
Pさんはずっと優しい表情だったけれど、それが余計に、彼を得体のしれない存在のように思わせました。
Pさんがいなくなった後、私は桃華ちゃんに尋ねました。
「Pさんがこわい?」
「いいえ」
桃華ちゃんは青ざめたまま首を横にふりました。
「わたくしはPちゃまに嫌われるのがこわいのです」
薫ちゃんも、たぶん同じなんだろう。私はそう思いました。
後日から、2人とも私の言うことをよく聞くようになりました。
あの日のことが嘘だったように、2人はいつもの“龍崎薫”と“櫻井桃華”に戻っていました。
いや、もしかすると。私は恐ろしいことを考えつきました。
あの怯えていた2人こそが、本当の薫ちゃんと桃華ちゃんだったのではないかと。
惹き込まれる
少女という原石を、アイドルという芸術品に仕立て上げる。
それがプロデューサーの仕事であって、情熱。
それは一方で、少女達の人間性を破壊してしまう。
アイドルという存在を愛して、愛するあまり人間的な欠点を許せない。
文句を言う舌は抜く。醜い表情を浮かべるような皮膚は剥がして、張り替える。自分に逆らうような骨は削って抜いて、無機質なものに取り替える。
内臓も脳味噌も、理想のものに作り変える。
ああまったく。
そう考えると、私の周囲の大人は優れたプロデューサーの集まりでした。
自分達の娘を手放し、私を芸能界に送り出した両親。
台本の覚えが悪いと、何度も私を叱りつけたドラマ監督。
体型が崩れると言って、私に菓子と脂肪分の摂取を禁じたカメラマン。
利口なイメージのために、漫画とテレビを私から取り上げたマネージャー。
目指す方向性は違えど、やっていることは変わらない。
専門家たるPさんは、まさに一級品の芸術家ということなのでしょう。
一切の抵抗を許さずに、いえ、“少女達の方が望んで”その魂を差し出すのですから。
その所業は芸術家どころか、魔王と言ってもいいかもしれません。
かつて少女だった人形達に囲まれる王様。
つまるところ、346プロダクションはPさんのドールハウスでしょうか。
いえ、ひょっとすれば世界さえも?
背筋が冷たくなる想像。けれども、それはアイドル達にとっは理想の楽園。
ただ1人Pさんだけがいれば生きていける。
だからこそ、またアイドル達はPさんを異様に恐れるのでしょう。
彼に見捨てられれば、人間でもなく、アイドルでもない“なにか”として楽園を追われることになるのだから。
岡崎泰葉だけがPさんの人形じゃない。
芸術家以下の人間達が、それぞれ都合のよく捏ね上げた不細工な泥人形。
中途半端に魂が残っていて世界がひどく息苦しい。
ああ、だからこそ。私は実感しました。
この楽園を壊したい。その感情こそが、“岡崎泰葉”なのかもしれないと。
ユニットのデビューCDの初動は1200枚。
駆け出しアイドルとしてはまずまずですが、346の基準では落第寸前です。
346は他の事務所とは比べものにならないほど、育成と広告にお金をかけています。
したがって、アイドルからは利息つきで利益を回収しなければなりません。
さらに言えば、上層部の人間は『岡崎泰葉』を過剰評価して、発行枚数を上乗せしていました。
皆様は私のことを、成功が約束されたアイドルとでも思っていたのでしょうか。
プロダクション内での風当たりは、少し厳しくなりました。
薫ちゃんと桃華ちゃんは、基本的にPさんとしか口をきかないので、気にしていませんでしたが。
他のアイドル・・・特に加蓮ちゃんは、
「ごめんね。
私達が人気過ぎて、ハードル上がっちゃったね」
と勝ち誇った表情で、私に言いました。
「トライアドプリムスは本当に凄いですね。
ハンデがあるのに、2人ともよく頑張ってる」
私はそう言い返しました。
加蓮ちゃんは一瞬無表情になりました。
痛いところをつかれたのでしょう。
泰葉ちゃんのこういう目線と路線、ほんと好き
ssとしては数は少ないけどほんと好き
しばらく、加蓮ちゃんは深淵のような瞳で私を見つめました。
私はにこりと微笑んで、見つめ返しました。
私は嬉しかったのです。
入院生活のせいで、他のアイドルよりも体力がない。
必死にトレーニングに打ち込んで、体力をつけようとして、それでも2人に追いつけない。
その引け目を他人に見せまいと、強気に振る舞っている加蓮ちゃん。
その加蓮ちゃんの、生の感情にふれているような気がして。
それじゃあ加蓮ちゃんは、本当の岡崎泰葉をいま見つめているのでしょうか。
なんて素敵なこと…。
「私ね、加蓮ちゃんのこと好きだよ。ううん、今もっと好きになった」
私がそう告げると、加蓮ちゃんにふっと表情が戻ってきました。
ぎこちない笑顔。
いろんな、どろっとした感情が煮詰められている時の。
「私も好きだよ、岡崎“先輩”」
「両想いですね。ハグでもしてあげましょうか?」
「ははは」
加蓮ちゃんは私の両手をかわして、レッスンルームに向かいました。
ドキドキしながらまってる
私は思いつきました。
人形の王国を壊すためには、
人形を人間に戻してしまえばいいんだって。
ほたるとモバPが兄妹設定のドロついたSSを思い出した
内容というか、このドロつきが似てる?
おしまい
ちょっち時代劇で忙しいから
本田未央「憎悪剣 辻車」
【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1495368262/)
木村夏樹「美城剣法帖」
【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_ - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1495809965/)
一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」
【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1496064989/)
あと前作
安斎都「ドレスが似合う女」
安斎都「ドレスが似合う女」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492357011/)
おわり!?これで!?
は???
あらしじゃねーの?
ID一致。ガチっぽい
頼むから続けて
すまぬ。
終わらせ方がわからなくなってしまった。
SSなんだから好きに書いて好きに終わらせりゃいいじゃん
途中で他の書いてるからだよ無能作者
>>85
誠に申し訳ありません。有能読者殿。
w
終わり悪いから全部無駄
というかどんな話にするか考えずに書き始めてんの!?
すまぬ…本当にすまぬ…
今速報開いてびっくり。
楽しみにしていたのですが……
時間かかっていいから続き書いてほしい
>>88
読者様の大変貴重な時間も全部無駄になりましたね。
本当に申し訳ありません。
まぁ待つんでhtml化依頼は待ってほしいっていうか
このスレに全く興味なくなったならしょうがないけど
まだ未練が>>1の中でも残ってるならいつになってもいいから書いてくれよ
あわよくば時代劇と並行させてほしい
時代劇SSも前作の都SSも結末書いてないだろww
今更まとめ方にこだわらなくても、ここまで書いたんだから書ききっちゃえば?
1ヶ月2ヶ月単位で放置されてる長文SSなんてザラなんだから
とりあえずトリップつけてくれ
いや逆にもう「この作者はまた途中で止めてしまうかも知れない」って先入観もちたくないから酉つけないでくれ
途中で止めるかも知れないって覚悟して読むから酉付けてくれ
>>94
スレは新しく立てると思う。
それにしてもこんなに読んでいる人がいて
びっくり
作者が煽ってて草
>>99
書き直しがある、ってことですか?
>>101
これにくっつける形になると思う。
思いつけばだけど…
>>102
よろしくお願いいたします。
>>102
お、マジか
気長に待ってるので忘れた頃にでも続き読めたらいいなーって
時代劇の方もみてくれると嬉しい。
にっくき敵かもしれないけど。
設定ありきで始めてもいいよ、ただ着地は決めてくれよ、というやつよ
島本せんせえの最終回論で最終回が一番つまんねーでいいんだってあったけど
あれだって幕は引けよって意味でもあるしな
醜い煽りを見せてしまって、すまん。
でも無料で書いてるから、頭に来ることはある。
本当にすまん
煽っちゃダメなんてルールがあるんですか??
ルールではなくマナーです
作者が頭にくるように、読者も唐突な打ち切りで頭にくるって事ですね
楽しみに待ってたものなら尚更
マナーねwwwwじゃあ雑談に晒すような行為はマナー違反ではないとでも?マナー違反をするような輩に対して無抵抗でいろって方が無茶苦茶だろ
あれって抵抗だったのか
火に油注いて燃やそうとしてるようにしか思えなかった
マナー違反されたからマナー違反していいわけでもあるまい
煽った時点で同レベルだよな
>>114
それな
諸事情で中断します、再開時立て直すかも
くらいにとどめておけば良かったものを
そうだよな・・
本当にすまん
SSやめたほうがいいのかな…
正直ネットやめた方がいい性格ではあると思う
頭にきたから煽るとかホントにやめたほうがいい
すぐにカーッとして煽っちゃうし、
消費者に対する心遣いも足りてないしな。
とりあえず構ってちゃんはやめた方がいいと思う
魔美パパのようにはいかないもんだ。
この時点でネットに書き込んじゃいけないタイプっていうのが嫌というほど伝わってくる
「1は悪くない、やめなくていいよ、続き書いて」とか言われるのを期待して書き込んでるんだろうな
気持ち悪い
掲示板で短時間に連投するのはやめて
推敲するがいい
超マジレスするけど書きたいもの書くだけ書いて反応見ないのがいいと思う
作品と人間性は関係ないからな
自由なんよね
煽っちゃいかんという縛りはないし
煽り返しちゃいかんという縛りもない
話はすごくシンプルで
「煽りが煽りだとわからないように自身の精神を再プログラム」すればいい
やろうと思えばすぐにできる。
「ゴキブリが湧いてきたから問題になった」ってなったときに
関係者全員が「ゴキブリを見てもなんとも思わない」ようにすれば問題が問題でなくなるのと同じ。
で、書きたいんでしょ?私たちは読みたい。それで話は終わってるんですわ。
時間できたら書いて。以上。
読者と馴れ合って失敗するのはよくあるミスだから気にするなよ
俺も昔やって痛い目に遭ったさ
読者が全員自分が思ってるような話の通じる善人とは限らないんだから、
適度に距離をとって付き合う方がいい。作者としてスレを立てた時は、
言いたいことは全部SSの中で言おう
(だからあんまり喋りすぎると台無しになるって言ったのに)
まあ話は面白いのだから変に反応したりとか気にせず書いてほしい
今同時に他のシリーズやっててそっちが忙しいから
という紛れもない本音なんだろうけどそれ言っちゃあねえ…
こちらとしてはそっちはいいからこっち書いてよと思うし
むしろそっちなんか読むもんかと思う
別に作者のファンってわけじゃないんだから
まぁ、なんだ
すごい素直すぎる人なんだな、って
なんだろ無料だから文句言われると腹がたつって言ったり、読み手を消費者って言ったり妙なプロ意識があるんだよなあ
時代劇の方を読んでとか誘導してるけどこのSSが読みたくて開いたのであって同じ作者の他のSSが読みたいわけじゃないんだ
作者のファンじゃなくてこのSSの読者なんだから
×妙なプロ意識がある
○無駄にプライドが高い
仮にだろうと妙だろうと、プロ意識が欠片でもあるなら投げ出さずに完結させるでしょ
>>133
それはプロの中でも本物の人らであって、この人は「いい終わり方にしなきゃ!思いつかないからボツ!」みたいな悪いプロだと思うの
つまりただのss書きってことか。そこらの連中と一緒だな。
まぁこのまま続けても駄作にしかならないと思ったんならこれでいいんじゃない?書き上げる実力がなかったってことなんだから、仕方ないよ。「続き書けるけど他の書くわ」ってんなら、もっとやりようがあった筈だし。
つまるところ嘘松並みのかまってちゃんなんだよな、うん。
まったくの謎理論でワロタ
ただのSS書きって、そりゃそうだろ。逆にそうじゃないSS書きってどんな奴なんだよww
なめこやれふてぃみたいに同人販売まで行ったら神SS書き(笑)なのか?
神とは思わんが話をちゃんと完結させて体裁を整えて製本屋に発注して受け取って自分で売るという姿勢には尊敬する
大まかな流れも考えず始めて途中他のも手を出してそっち優先させるからって投げ出すのとは比べられない
普通は何も言わずにエタらせて、しれっと新作書くからなww
この作者がバカ正直に全部言っただけで、有名どころでもこの手のSS作者はゴロゴロいる
神だと崇めたり尊敬するのは構わんが、それを相手に押し付けて裏切られたら叩くのは
どうだろう?
いや別に押しつけるつもりはない
ただあちらはご立派だなと
ただのss書きに本気で続き書けって言ったり、逆に書き手が無料で見せてやってるっていうのはおかしいんじゃないかって思っただけで。ちょっと拗らせてるけど、普通のss作家なのにさ。
でも確かに拗らせてない人たちと一緒にするのは間違いだったね。すまない。
>>140
んにゃ
こちらもこの作者さんを貶めるつもりはない
書けないから終了ってのもまあまああることだし
ただ自分が楽しみにしてた話を「別の話で忙しいから」「そっちをよろしく」って言われたらもうなんていうか…
まあなんでも良いけど、続きを思い付いたら書いてくれると嬉しいな
【最悪のSS作者】ゴンベッサこと先原直樹、ついに謝罪
http://i.imgur.com/Kx4KYDR.jpg
あの痛いSSコピペ「で、無視...と。」の作者。
2013年、人気ss「涼宮ハルヒの微笑」の作者を詐称し、
売名を目論むも炎上。一言の謝罪もない、そのあまりに身勝手なナルシズムに
パー速、2chにヲチを立てられるにいたる。
以来、ヲチに逆恨みを起こし、2018年に至るまでの5年間、ヲチスレを毎日監視。
自分はヲチスレで自演などしていない、別人だ、などとしつこく粘着を続けてきたが、
その過程でヲチに顔写真を押さえられ、自演も暴かれ続け、晒し者にされた挙句、
とうとう謝罪に追い込まれた→ http://www65.atwiki.jp/utagyaku/
2011年に女子大生を手錠で監禁する事件を引き起こし、
警察により逮捕されていたことが判明している。
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