「幸せについて本気出して考えてみたんです」
「いきなりなんだ、泰葉?」
車を運転しながら私の突飛な発言に頬をほころばせてそう答える彼。
「…こういうこと…二人きりの時しか言えないと思って…」
私はゆるゆると進んでいくプロデューサーの車から窓の外を見て呟きます。
岡崎泰葉(16)
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「私が子供の頃から見てきた世界はそんなに夢と希望に溢れたものではありませんでした」
「子供の頃って……」
彼は少し不安そうな顔を浮かべます。
「…そんな顔をしないでください。もう簡単に挫けたりしませんから」
吹っ切れた訳じゃない。乗り越えられると思っただけ。
「私がかつて、子供の頃にイメージした私よりは多少見劣りはするかもしれません」
「案外…普通だし、常識的…ではないかもしれませんね」
「アイドルやってること自体そんなに普通でもないと思うぞ」
私が冗談を飛ばすと彼もそれに笑って応じます。
「ふふっ、でもそう悪くはないってことです」
「…それはなによりだ」
彼は赤信号と神妙な顔で睨めっこをしながらそう言います。
「もっとも子供の頃の私だったら今頃は大女優くらいにはなってるかも!」
「とか考えてるかもしれませんね」
今じゃ恐れ多くて言えません。
「いいんじゃないか?アイドルとして大成したら今度はそういう路線も…」
「いや…全然アリだろ…ふむ……」
そう言って片手を喉にやり、考えこむ彼。
「…青信号になりましたよ」
「っとっと…すまんすまん…」
彼はハンドルを持ち直して再び車を進めます。
「プロデューサーはアホですよね?」
「自分のプロデューサー捕まえていきなりアホはないだろ」
彼は嬉しそうに微笑みながら私にそう返します。
……なんでそんなに嬉しそうなんですか。
「ま、まぁ…そのアホのおかげで少し…私も…その……」
「多少は…まともに…なれたかもしれません」
蚊の鳴くような声でそう呟きます。
「…泰葉は最初からまともだったろ…?」
「そんな感性してるからプロデューサーはアホなんです」
「…でも、そんなアホだから一緒に居られたのかもしれませんね」
合点がいきました。
「流れていく景色のそこかしこに誰かさんが居て…」
「いろんなことを感じて…色んな人と触れ合って…」
「……いつの間にか私は笑顔になってて…楽しいことのそばにはいつもその誰かさんがいて…」
「幸せについて本気出して考えてみたら…」
「…皆おんなじ所に行きつくんですよ、誰かさんの所に…」
「…その誰かさんには俺も感謝しなくちゃな」
誰かさんは嬉しくてたまらないといったようにハンドルを握りしめます。
「つまんなかった事、嬉しい事、結局はトータルで半分になるって聞きますよね」
「…皮肉ですけど、私にとってつまんなかった事も必要なことだったんですよね」
「みんなキラキラ輝いていたけど…私には経験がありましたから…」
「それのお陰で私は皆についていけてます…そう考えたらそう悪いことばっかりじゃないですよね?」
そうやって考えられるようになれたのもきっと……。
「泰葉はいつだって輝いてるよ」
そう言ったきり彼は黙ってしまいました。
「…もうちょっと何かないんですか?」
「いやぁ、俺はアホだからなぁ……」
地味に根に持ってるようです。
「私だってそれなりに頑張ってるんです」
「も、もうちょっと…それなりに褒めてくれてもいいと思います…」
「…泰葉は可愛いなぁ」
そう言って彼はくしゃっと笑ったきりまた黙ります。
可愛いっていうのは褒めてるうちに入るのでしょうか?
…どちらにしても悪い気はしません。
「幸せについて本気出して考えてみたんです」
「さっきも聞いたぞそれ」
「何回も言いましたから」
何回も何回も繰り返して言おう。
彼にきちんと伝わるまで。
「意外に無くはないんですよ、幸せって」
「そうか?」
彼は微笑みを浮かべながら、私は一体何度目になったのか分からない、似たようなやりとりを繰り返します。
「…そうですね、石ころだと思って拾い上げてみたら宝石だったって感じでしょうか?」
「よく分からないぞ?」
「実は私も良く分かってません」
このやりとりがだんだん楽しくなってきてしまって自然と私は笑顔を浮かべていました。
「でも石ころだって蹴飛ばしていたものに今度は掌を返すみたいに今度は幸せだったのかもなんて言っちゃうと幸せに対して失礼かもしれませんね」
「…今なら丁寧に拾い上げて、集められるかもしれません」
「…良かったな」
そう言って彼は目的地で車停めてシートベルトを外します。
「誰かさんのお陰ですよ」
「…その誰かさんのお陰で私は幸せの種を手に入れました」
『泰葉』
「なんですか?」
「俺の幸せも同じ所に行きつくみたいだ」
「…そうですか」
「だから答え合わせしようか」
「ふふ、そうですね」
「…少しは合ってるといいですね」
私の答えと貴方の答えが合っていたら私の幸せの種は芽吹くのでしょうか。
浮かんだ姿が私であることを祈って。
……その姿がいつまでも消えないように。
END
見てくれた人ありがとうね。
泰葉ちゃんが再登場で前向きになりつつあって嬉しい。こういう娘好き。
タイトルと内容はポルノグラフィティの『幸せについて本気出して考えてみた』より。
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