緒方智絵里「私の特別な、あの人からの贈り物」 (101)

※「アイドルマスター シンデレラガールズ」のSS

※キャラ崩壊あり、人によっては不快感を感じる描写もあるかも

※決して変態的なプレイを……うん、健全な純愛物を目指してます

以上の事が駄目な方はブラウザバック奨励


タイトルあんまり関係無いかも





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一応、前作的なもの

緒方智絵里「私の特別な、あの人だけの贈り物」

緒方智絵里「私の特別な、あの人だけの贈り物」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1487022862/)


「まゆ……」


「プロデューサーさん……んっ」


都内にある高級ホテルの一室。


その室内で一組の男女が互いに互いを見つめ合う。


男は普段着慣れているスーツでは無く、きちっとした燕尾服を着用している。


それに対して女はこの部屋にいても遜色の無い、紅色のドレスを身に纏っている。


そして男が女の体を抱き寄せると、その唇にキスをした。


そっと触れるだけの優しいキス。数秒もすれば男は女から唇を離してしまう。


しかし、これは挨拶代わりの様なものである。


この後に二人がする事を考えれば、これは序の口と言えるだろう。


「うふふっ、まゆは嬉しいです。こうして、プロデューサーさんにキスして貰えるだなんて……」


女……まゆと呼ばれた少女はそう言うと、自分の指で先程キスされた自分の唇に触れて、恍惚な笑みを浮かべる。


まだそこに残る僅かな温もりに触れ、ご満悦だといった所であった。


「でも、それよりも嬉しいのが……今日という日に、まゆを選んでここに連れて来てくれた事です」


まゆはそう言ってから、男……プロデューサーのPの傍から離れると、室内の窓側の方にへと向かっていく。


近づく程に広がっていく窓の外の光景。


それはまさに、絶景と言ってもいい光景であった。


ホテルの最上階に近いこの一室から見下ろせる景色。


ネオンに照らされた都内の街並みは、幻想的とも思えてしまう。


「ここの部屋……まゆの為に、予約してくれてたんですよね?」


まゆがそう問い掛けると、Pは黙ったまま首肯して答えた。


「こんな立派な部屋……きっと高かったんじゃ……」


「そんな事は無いさ」


Pはまゆの言葉を否定すると、窓際にて佇むまゆに近づく。


そしてまゆの右肩にそっと手を乗せると、


「まゆが喜んでくれるのなら、安いものさ」


と、歯を見せる様にPはニカッと笑い、そう言うのだった。


「……ねぇ、プロデューサーさん」


「ん? どうしたんだ、まゆ」


「まゆ……あの言葉、聞きたいな」


「あの、言葉……?」


Pはそう言われてピンとこなかったからか、首を傾げてまゆに聞き返した。


「ほら、あれですよ、あれ。こういう所での、定番の言葉です♪」


「……あぁ、あれか」


そしてPは思い当たったのか、手を打ってそう言った。


それから服装を正すと、まゆに再び視線を送り、


「ごほんっ。あぁ、えーっと……ほら、まゆ。見てご覧。綺麗な夜景だろ?」


と、ぎこちない感じに告げるのだった。


「はい、そうですね。美しい景色です」


Pのわざとらしい言葉に、まゆはそれに続く様にそう言った。


「けど、さ。それよりも……」


「あっ……」


Pはそう言った後、まゆに向けて手を伸ばすと、その顎の先を右手で触れる。


その行為にまゆは特に嫌がる事無く、それを受け入れ、そして……


「まゆの方が、ずっと綺麗で美しいよ」


「プロデューサーさん……」


こういったシーンで定番とも言える様な言葉を吐くのであった。


照れや恥ずかしさからか、顔を紅潮させるP。


対して嬉しさのあまりに涙を目元に浮かべるまゆ。


それぞれが違った反応をして見せたのだった。


「やっぱり、こう……恥ずかしいな、この台詞」


「うふふっ、そうですかぁ? まゆはぁ……とぉっても、嬉しいですよ♪」


「そ、そうか?」


「はい♪」


「……なら、良かった」


まゆの満面の笑みを見て、Pは自分のした事が無駄では無かったと分かり、達成感が身を包む。


そして一安心とばかりにホッと一息吐いた。


「それで、その……プロデューサー、さん……?」


「何だ? 今度はどうしたんだ?」


「えっと、あの……これからの、事なんですけど……」


これからの事と言われて、Pはハッとしてまゆを見る。


まゆが何に対してそれを言っているのか、Pも分からない訳では無い。


それが今後のアイドル活動の事について言っている訳では無い事も、当然分かっている。


まゆは今から……自分達がする事について、聞いているのだった。


「そ、そうだな……」


Pは歯切れの悪い感じにそう言った。


こんな場所に連れてきているのだから、下心が無い事なんて無い。


この部屋に連れてくる前に、下の階で食事を取った。


高級ホテルらしい、普段は口にしない様なディナーに散々と舌鼓を打った。


けど、それが目的で無い事は知れていた。


全てはそう、この後の為の前菜でしか無いのだ。


「その……まゆは、いいですよ?」


「……えっ?」


Pが言いあぐねていると、まゆはそれよりも先に、Pを制してそう言った。


「今日、ここに呼ばれた時から……実は分かってました。プロデューサーさんがそういう事をしたいんだって……」


「ま、まゆ……」


「だから……今日は、今日だけは獣になっても、いいんですよ?」


まゆは震えながらも、Pの背中を押す様に、そう言うのだった。


そして受け入れても大丈夫だとばかりに、笑顔をその顔に浮かべた。


「い、いいのか……?」


「はい。プロデューサーさんの……好きに、して下さい」


「……まゆっ!!」


「きゃっ!!」


Pは目の前にいるまゆを力強く抱きしめる。


それからドレスの肩紐に手を掛けると、するりとそれを肩からずり落とす。


そして……


………………


…………


……


「はい、却下」


「そ、そんなぁ……」


事務所の事務室で仕事中のPは、目の前で自らの妄想をぶちまける少女……担当アイドルのまゆに対し、冷たくそう言った。


「せっかくの特別な日なんですから、そういう事をしても良いと思いますけど……」


「それは越権行為だから、許しません」


Pは腕を使って×サインを作ると、諦めようとしないまゆに淡々と告げた。


「もう、プロデューサーさんのいけず……」


「いけず、じゃない。駄目なものは駄目だ」


「でも……まゆちゃんの言う事も、分からなくは無いかな」


と、Pがまゆと話していると、隣から割って入る様にそう言って現れる人影が一つ。


「智絵里、お前もか……」


もう一人の担当アイドルでもある緒方智絵里。


彼女がPの為に淹れてきたお茶を携えて、直ぐ隣に立っていた。


「あっ、これ……どうぞ」


「お、おぉ、すまんな」


智絵里はそう言ってから、手に持つお茶の入った湯呑をPの机に置いた。


それにPはお礼を言ってから、早速とばかりに口をつける。


一口だけ飲むと、熱過ぎずもぬるくも無く、絶妙な温度加減のお茶がPの喉を潤していった。


「うん、美味い。ありがとうな、智絵里」


「あっ、はい。口に合って、良かったです」


Pが満足してそう言うと、智絵里は嬉しくなってにっこりと笑みを浮かべる。


「それで……何が分からなくは無いんだ、智絵里。というか……いつから聞いてたんだ?」


「途中ぐらいからですね。それで、えっと……分かるっていうのは、やっぱり……特別な日ですから、そう思うのも無理は無いって事です」


「うふふっ、流石は智絵里ちゃん。そう言ってくれて、助かります」


「だからって、あれは駄目だぞ」


「……でもぉ……まゆ、知ってるんですよぉ? プロデューサーさんと智絵里ちゃんが……バレンタインで似た様な事をしたのを」


まゆにそう指摘されて、Pは口を噤んだ。


その事を指摘されてしまえば、Pは何も言い返せなかった。


「な、何で、まゆがそれを……」


「あれ? プロデューサーさん、知らなかったんですか?」


意外だとそう問い掛けるのはまゆ……では無く、智絵里だった。


私は知ってましたよ、という表情でPを見つめている。


「智絵里は……知ってたのか?」


「もちろんです。だって、まゆちゃん……プロデューサーさんの携帯に、盗聴器を仕掛けてますから。あの時の会話は全部、筒抜けでしたよ?」


智絵里はクスクスと笑い、光が消え失せた暗い瞳でまゆを見る。


「そうだよね、まゆちゃん?」


そしてまゆに同意を求める様に、そう言った。


「……やっぱり、バレてましたか。うふふっ」


それに対してまゆは反省する訳でも無く、悪びれもせずにそう答えた。


「智絵里ちゃんが言った通り……あの時の会話は全部聞いてました。ずっと嫉妬しながら……ね」


「マジか……」


Pはそう言われて頭を抱える。


まさか自分の知らない内に、盗聴器なんてもの仕掛けられているとは思ってもみなかった。


ただ、それよりも……智絵里がその事に気づいていた事の方がPには驚くべき事だったが。


「だからぁ……まゆにも同じ様な事を、して欲しいなぁ……」


まゆはPに詰め寄ると、更に追い込む様にそう言った。


智絵里と同様の光の無い瞳は、Pの姿を捉えて離そうとしない。


「あっ、でも駄目だよ、まゆちゃん」


しかし、それを咎めるかの如く、まゆを制する様に智絵里はそう言うのだった。


「智絵里ちゃん……? 何が、駄目なんですかぁ? 自分だけが得する様な事をして、まゆには駄目って言う……これって……おかしくないですかぁ……?」


「ううん、おかしく無いよ。だって……まゆちゃんの要求は、根本的に間違ってるから」


「間違って、る……? 智絵里ちゃん……何が間違ってるんですかぁ……?」


憎悪と嫉妬の籠った視線を、まゆは智絵里にへと向ける。


普通なら恐怖か委縮、または怯えるかしてもおかしくは無い程の気迫。


けど、智絵里はそんなプレッシャーなんてそよ風の様にしか感じてなかった。


だから、堂々とした立ち振る舞いで、まゆの視線から逃げようとせずに、智絵里は立ち向かう。


「前にまゆちゃんも、プロデューサーさんとキス……したよね?」


そして智絵里は怪訝そうに、まゆに向けてそう問い掛けるのであった。


「えっ……は?」


予測した回答とは別の回答が返ってきた事で、拍子抜けしたまゆはポカンとした表情で智絵里を見つめる。


「いや、まぁ……そうだな」


Pは以前の事を思い返しつつ、頷きながらそう言った。


「私ね……ずっとまゆちゃんの事、羨ましく思ってたの。私はキスしてないのに、まゆちゃんはプロデューサーさんとしてたから……」


「は、はぁ……」


「だから、ね。これで私とまゆちゃんはイーブンって事。まゆちゃんがプロデューサーさんに求めるのは十分に越権行為になるって事なの」


智絵里の説明に、まゆは気が抜けた様にキョトンとして聞いていた。


自分がキスしたいが為に、あそこまでするのは十分に越権では無いのかとも思った。


「それに……バレンタインのお返しなんだから、最終的にはプロデューサーさんが決めないといけないんだから。私達が求め過ぎるのは、良くないと思うよ」


智絵里はそう言った後、視線をまゆから外し、Pにへと向ける。


それからにっこりと満面の笑みを浮かべて、


「……ですよね?」


と、短くだがそう尋ねた。


「お、おう、そうだな」


それを受けて、Pはここぞとばかりに頷く。


まゆと一線を越えてしまうルートを回避できるなら、幾らでも頷こうという心境だった。


「はぁ……分かりましたぁ。そこまで言うのなら……まゆ、待ってます」


「私もお返し……楽しみに、してますからね。ははっ」


こうして何とか最悪のルートを回避出来たP。


しかし、次に待つのは『期待している二人に何を送るか』という更なる難題。


それに何とか応えてみせようと、Pはもっと頭を悩ますのであった。


とりあえずここまで

最初に言っておきますが、今回も長いです

「しかし……どうしたものかな」


まゆと智絵里が帰った後、Pは一人、事務室で頭を悩ませていた。


何に対して頭を悩ませているか……それはもちろん、ホワイトデーのお返しの事である。


「ここは無難に……クッキーとかお菓子を……」


そう考えた所で、Pは頭を左右に振り、今出て来た考えを打ち消す。


そんなありきたりなものでは、二人の期待には応えられないからだ。


「なら、手作りとか……いや、二人共そんなものは求めていないだろうな」


想いの籠った手作り品。そんなもので済むのなら、ここまでは悩んではいない。


智絵里もまゆも……それ以上のものをPから貰ったり、時には奪い、採取しているからこそ、有力とも言えるものが全て、見劣りしてしまっている。


「旅行とか……どうだ? ……あぁ、駄目だ。この間の収録が確か、旅番組の収録だったから、被ってしまう」


次々と案は思い浮かぶものの、その度に否定する理由が浮かんでしまって、決まろうとしない。


最早、案なんて出尽くしてしまった……と、Pは頭を抱える。


と、その時である。


「おっす、Pちゃーん。何を悩んでるんだYO!!」


Pの背後に突然湧いて出て来たかの様に現れて、声を掛ける男が一人。


しかもそう言った後、男はPの背中に思いっきり張り手をかました。


「痛っ!? って、誰だ……!!」


理不尽なまでの一撃に、憤慨したPは勢い良く振り返り、その犯人の顔を確認しようとする。


「よう。元気にしてるかー?」


「あっ、Aさんでしたか……」


振り向いた先に立っていたのは、事務所の先輩プロデューサーであるAだった。


その顔を見たPは込み上げていた怒りをサッと鎮める。


Aの行いは理不尽な事には違いなかったが、それで先輩に対して手を挙げる訳にはいかなかった。


「それで、何かあったのか? 何やら悩んでいるみたいだったが……何か失敗でもしたか?」


けらけらと笑いながら、AはPに問い掛ける。


その表情から察するに、もし本当に失敗したのだったら笑い飛ばしてやろうという魂胆なのだろう。


と、PはAが声を掛けた理由についてそう予測する。


そしてその推測は的外れでは無く、本当に揶揄う為だけにAはやって来ているのだった。


「まぁ……色々とあるんですよ」


「何だ何だ。有能なPちゃんが色々とは……もしかして、これか?」


そう言ってから、AはPに向けて小指を立てる。


厳密に言えば違う……が、あながち間違ってはいない推測であった。


的を射た様な答えに、Pはその口を噤んでしまう。


「おうおう、図星か? 図星なんだな。という事は……さては、悩んでいるのはホワイトデーに関してだな」


「えぇ、まぁ……そんな感じです」


これ以上は隠し立ては出来ないだろうと悟ったPは、Aに肯定する様にそう言った。


それから『こうなったらいっその事、この人にでも相談してしまおう』


と、考えたPはAに向けてそれを口にする。


「ホワイトデーに何を返そうか……それが決まらなくて、迷ってるんですよ」


「そんなに迷うものか? そんなの、あれだろ。気持ちさえ籠ってれば、何だっていいんだよ」


「そんなに単純なものですかねぇ……」


そう言ってPはAの言葉を否定する。


そうであれば、ここまでは悩んでいないのだと、言ってやりたい心境にもなる。


しかし、先輩相手に強気にはなれず、それは心の奥底に仕舞っておいた。


「ちなみに……Aさんはホワイトデーのお返しとか、どんなものにしますか?」


「ん? 俺か? 俺はもう買ってあるからな……」


その返答に、Pは心底意外だと思った。


まだ本番当日まで猶予があるというのに、目の前の男はもう既に用意してあるというのだ。


日頃、面倒くさそうにしている割には、こういった事に関しては用意周到なのだろうか。


と、Pは心中でAに覚られない様にそう思うのだった。


「それで、何を買われたんですか?」


「ほとんどが義理だったし、彼女もいないからなぁ……大したもんじゃないぞ」


「へぇ……例えば?」


「そうだな……Pちゃんは俺の担当アイドルの事は、知ってるだろ?」


「あぁ、はい。もちろん、うちに所属しているアイドルですから、知らない訳がありません」


Aが担当しているアイドルは全部で三人いる。


一人目はAがずっと前から担当している橘ありす。


二人目は最近になって担当する事になった結城晴。


そして三人目は晴と同じ時期に担当する事になった櫻井桃華。


全員がまだ中学生にも満たない、幼い小学生。


その三人をこのAは一人で全員を担当しているのである。


「前々から思ってたんですが……Aさんって、ロリコンなんですか?」


「ちげーよ。別に好んでスカウトしてる訳じゃないぞ」


Pからの追及にAはじとっと睨んでそう答えた。


「晴と桃華は社長から頼まれて受け持っているだけだしな」


「じゃあ、ありすちゃんは?」


「ありすは……あいつがオーディションを受けに来た時に、そのオーディション担当が俺だったから、その縁が続いているだけだぞ」


「はぁ……そうだったんですか」


「それで、話を戻すが……まぁ、担当の三人から一つずつチョコを貰ったから、全員分一つずつしっかりと返す様に買ってあって……」


Aはそう言うと、携帯を取り出して何やら操作し出す。


「ちょっと待っててくれよ……」


手馴れた手付きで携帯を操作し、目的のものを探していく。


「おっ、あったあった。これだ、これ」


そうして見つけた画像を、AはPにへと見せる。


「まず、これが……晴へのお返しだな」


「これって……靴? レッスン用ですか?」


携帯に映っている画像には、小さめのサイズの靴が映っていた。


水色とかを基調とした、爽やかな色合いとデザインが特徴だった。


「サッカー用のグラウンドシューズだな。最近、サイズが合わなくなってきたとか言ってたしな。だから、これにした」


「……いきなり大したものが出てきたんですが」


「そうか? まぁ、次に行くぞ」


そう宣言してから、Aは携帯をまた操作して、次の画像を映し出す。


今度出てきた画像には、如何にも高級そうな感じがするティーカップが映っている。


「これは……桃華ちゃんへのお返しですね」


「そうだな。最初は紅茶にしようかと思ったけど、こっちの方が実用的だと思ってな」


確かに……と、Pは思って頷いた。


紅茶を送ったとしても、ありきたりな茶葉であれば送る意味なんて無い。


それ以上のものを、櫻井家では取り揃えているだろう。


だったら、ティーカップを送った方がまだ、実用的且つ有用的であるといえよう。


「けど、これって……見るからに高そうですけど……お幾らなんですか?」


「忘れた。というか、そんなんどうだっていいだろ。貰って喜んでくれれば、それで」


「何というか……大胆というか、大雑把ともいうか……」


「いいだろ、別に。ほら、次に行くぞ」


そうして画像を仕舞い、次の画像をAは表示する。


残る担当アイドルは橘ありすただ一人。


Aは彼女に何を送るのか……Pは興味津々だといった感じに、携帯の画面を見つめる。


そして……


「で、これが……ありす用のお返しの品だな」


そう言ってから画面に映し出される品物が映った画像。


そこには真ん中にポツンと、巨大な赤色の塊が鎮座して置いてあった。


「……何ですか、これ」


「……見て分からないか?」


分からないからこそ聞いているのだから、Pはこくりと首肯して答える。


それにAは『何でかなぁ……』と苦々しい表情で呟くと画像を指差して、


「イチゴだよ、イチゴ。イチゴの形をした抱き枕だ」


と、声高にそう言うのであった。


あぁ、そういえば……と、Pは言われてようやくそれがイチゴなのだと気づいた。


それによくよく見てみれば、緑色の何かが登頂部にあり、それがヘタなのである。


それを把握さえ出来れば、後はもう、イチゴにしか見えなかった。


「ありすちゃん……イチゴが好きなんですか?」


「好きだよ。自分でアレンジ料理を考えて作る程、好きだ」


「へぇ……何だか美味しそうですね」


そう言うPの脳裏には、イチゴを用いたスイーツの数々が思い浮かんでは消えていく。


味覚常識人であるPの思考の中には、奇抜なイチゴ料理など一切浮かんでこない。


だからこそ、そんな事を口に出来るのであった。


そしてその実態を知っているAは、面影を思い返すだけで表情を青くさせた。


「……知らないって、素敵な事なんだな」


「いきなり、どうしたんですか……」


「いや、こっちの話だ。気にすんな」


「はぁ……けど、Aさん。これのどこが大したものじゃないですか。十分に考えられてるものばかりじゃないですか」


「気のせい、気のせい。ただ適当に欲しそうなものを買っただけだっての」


Pからの指摘に、手をプラプラと振って何でもないとAは反論する。


追求した所で、どうせ同じ答えしか返ってこないだろう……


と、判断したPは引き下がり、聞くのを止めたのだった。


「とりあえず、俺のバレンタインのお返しはそんな感じだな。参考になったか?」


「うーん……微妙、ですね」


「微妙って、お前なぁ……」


「いえ、参考になったのは確かですけど……それじゃあ普通過ぎて、物足りないといいますか……」


「……普通のお返しで物足りないって……お前の彼女、相当だな」


Aの発言にPは「ははは……」と乾いた笑いで返した。


その指摘は間違いではないからこそ、何も言えなかった。


「そうなると……あれだな。他にも聞いて回ったらどうだ? もっと参考になる奴がいるかもしれないしな」


「そうですね……一応、そうしてみますか」


PはAからの提案に頷いて承諾する。


一人の意見よりも、二人、三人と聞いた方が、断然良い。


そう思っての行動であった。


とりあえず、出勤ですのでここまで

ホワイトデー終わりましたけど、書き終わるまで続けていきます

それではまた、書き溜めたら投下します

「それじゃ、そうだな……あいつなんか、いいかもな」


そう言ってAは事務室の隅に向けて指を差す。


それから指差した方角にへとPを伴って移動する。


「おーい、S氏。ちょっといいかぁ?」


「あっ、はい。どうかしましたか?」


Aが声を掛けたのはAの後輩であり、Pの同僚でもあるS。


この事務所では鷺沢文香を担当しているプロデューサーである。


AとPとは違い、真面目に仕事中だった彼は手を止めて、書類から二人にへと視線を移した。


「いやな、少し協力して欲しいんだ」


「協力ですか? 僕にできる事であれば、助力は惜しみませんが……」


「S氏はさぁ、バレンタインのお返しを渡す相手っているか?」


「バレンタイン……えぇ、いますけど。それが何か?」


Sの言葉にAは「おし、ビンゴ!」と言ってPの肩を軽く叩いた。


それをやられたPは「何するんですか!」と軽く顔を顰めて、迷惑そうな表情を浮かべる。


そして何が何だか分からないSは首を傾げて二人を見ていた。


「それで……もし、良かったら……お返しをどういうものにしたか、参考までに教えて欲しいんだけど……」


「はぁ……別にそれぐらいでしたら、構いませんが」


PがSにそう頼むと、Sは快く承諾してくれた。


幸先の良い出だしに、Pは心中でグッとガッツポーズを取った。


「で、ちなみにだけど、S氏はバレンタインにチョコは幾つ貰ったんだ?」


「僕ですか? 僕はですね……今年は一つだけでした」


「ひ、一つ!?」


「えぇ……嘘だろ」


Sがそう言うと、PとAは二人して驚きの声を上げる。


この事務所の中でも、Sは割と顔立ちは整っている方である。


優しい性格だからか、事務員の女性からも好感を持たれたりしていて、人気はあった。


それだから、一つしか貰っていないという言葉に、二人は衝撃を受けたのだ。


「いえ、嘘ではありませんよ」


しかし、二人の反応を見てか、Sは何でもないかの様にそう返した。


「いやいや、ちょっと待て。一つは幾ら何でも無いだろ、マジで」


「だから、本当ですよ。僕が貰ったのは、文香さんから貰っただけですから」


「いや、でも……ちひろさんが確か、俺以外のみんなに配ってたと思うけど……それはカウントしてる?」


「ちひろさんが……? そんな物、あったのですか? 僕は初耳なんですが……」


納得がいかないのか、Sはぶつくさと額に手を当てて考え出す。


「そういえば、何でPちゃんはちっひーから貰えなかったんだ?」


「まぁ、これにも色々と……事情があるんです」


Aからの問い掛けにPは曖昧にそう返す。


本当はその理由を知ってはいるが、それを口には出来なかった。


何故なら……担当アイドルの一人がそうならない様に関与していたからだ。


彼女から具体的な詳細を聞かされた時、Pは背筋が凍りつく様な思いだった。


だからこそ、PはAには言えなかった。


「そうですね……きっと、忘れられていたのでしょう。確か、その時期……文香さんと外出する事が多かったですので、渡しそびれてそのまま……といった感じなのでしょうね」


「外出? ロケか何かでか?」


「違いますよ。気分転換も兼ねて散歩に付き添って欲しいとか、相談事があるので話がしたいと言われて喫茶店に行ったりとか……休憩の合間とかの、私事での事です」


Sから説明を受けて、Pは『鷺沢さんって、割と積極的な人なんだな』と、意外そうに思い、感心する。


それに対してAは『あぁ、そういう事か……』と、察した様な表情をして聞いていた。


「……まぁ、それについては分かった。で、S氏は結局……ホワイトデーで何を返すんだ?」


「はい。お返しと言えるかどうかは分かりませんが……文香さんと出掛ける事になっているんです」


「出掛ける……って、どこに? 旅行……それか遊園地とか水族館とか?」


「図書館カフェという所みたいです」


Pからの質問にSはそう答えた。


図書館カフェとは文字通り、図書館とカフェが融合した施設の事である。


基本的には図書館内は飲食禁止の所が多い為、そう考えると珍しい施設だろう。


「実は以前から文香さんにそこに興味があると言われてまして。ですが、一人で行くのはどうも不安みたいなので……この機会に、お返しも兼ねて付き添おうと思っているんですよ」


「それって……ただのデートじゃあ」


「デート? いえ、とんでもない。そんな大層なものではありません」


Pの言葉にSは手を横に振り、否定する。


「そもそも文香さんと僕はそういった関係では無いですから、その範疇には当てはまりませんよ。ただの付き添いですしね」


「……その認識が、いつまで保てるんだろうなぁ」


Sの発言を聞いたAは二人に聞こえない程度の声音で、そう呟いた。


AがSを見る視線は少しばかり、憐みの色に染まっている。


彼にはSの周りに起きている事の全貌が、何となくではあるが見えているからだった。


「さて……僕のお返しについては以上になりますが……果たして、参考になったでしょうか?」


「うーん、そうだなぁ……」


Sにそう聞かれて、Pは考える。


正直に言うと、あまり参考にはならなかったからだ。


相手が興味を持っている所に連れて行く。その発想自体は悪くは無い。


だが、智絵里とまゆ相手であると、その案は所詮、下策でしか無いのだ。


何故なら、二人共……望んでいるのはPからの愛でしかないからだ。


それ以外には特に……


「……あぁ、そうか」


そこまで考えた所で、Pの頭に閃きが舞い降りる。


それは自分で思ってみても、中々の妙案だった。


これでいけばもしかしなくとも、二人はきっと……満足するに違いないだろう。


そう思ってPは成功を確信した表情をしてみせる。


「おっ、何か思いついたのか?」


Pの表情、そして反応を見て、Aはそう聞いてくる。


「はい、良い案が思いつきました」


そう言ってPはしたり顔でAにそう答えた。


「二人共、ご協力ありがとうございました。これで……何とかなりそうです」


「まぁ、良いって事よ」


「お役に立てたのであれば、何よりです」


Pは二人に礼を言うと、早速と行動に出る。


自分の席に戻るとパソコンを立ち上げ、ネットを使ってある物について調べていく。


それを探しながら、『期日までに間に合うのか』『智絵里やまゆに似合いそうな物はどれか』


と考えつつ、情報を漁っていく。


二人の喜ぶ顔が見たいが為にも、Pは事態解決に向けて奮闘していくのであった。


とりあえずここまで

ホワイトデーはもう終わったといのにこの体たらく……

自分の計画性の無さに呆れてしまうばかりです

何とか日曜までには完結を目指したいと思います

おっつおっつ
がんばって

後日。


それから日が経って遂にホワイトデーを迎えた。


「……よし、大丈夫だな」


Pは鞄の中身を確認してから、そう言った。


その視線の先……鞄の中には智絵里とまゆ、二人に渡す為のプレゼントが入っている。


ちなみにこの行為をPは先程から数分おきに行っている。


今日、事務所に出勤してから何度目か分からないこの行為。


そうでもしてなくては落ち着かないからだ。


この日の為に、最良のプレゼントをPは用意した。


渡す時のシミュレーションは何度も念入りに行い、万全の状態でもある。


しかし、それでも……不安はあった。


これを渡された時に、もしも……万が一に智絵里とまゆが拒否でもしたらと思うと、不安で仕方ないのだ。


「まぁ……何とかなるだろう、きっと」


Pは自分に言い聞かせる様に、そう口にする。


言い聞かせる事で自分を奮い立たせて、本番に臨める様にと、努めるのである。


そしてPは二度、三度と深く深呼吸をして自らを落ち着かせると、意を決して携帯をズボンのポケットから取り出す。


取り出した携帯を使ってメール機能を起動させ、それからアドレス帳を用いて智絵里とまゆのアドレスを探していく。


そうして見つけ出した連絡先に、Pは携帯に文章を打ち込み、それを送信する。


メールの内容はとても簡潔な内容である。


『渡したい物があるから、学校が終わったら事務所近くの喫茶店に来てくれ』


必要以上の情報は書かずに、それだけであった。


しかし、それだけであっても二人には十分である。


直ぐにその意味を察してか、一分に満たない時間で二人から返信が返ってくる。


智絵里からは『楽しみです』と短く一文が。


まゆからは『学校が終わり次第、直ぐに向かいます』という内容だった。


「とりあえず、まずは一安心だな」


Pはそう呟いた後、ホッと一息吐いた。


ただお返しのプレゼント渡すだけのイベントだというのに、Pはかなり精神を擦り減らしている。


それだけ智絵里とまゆに気を使っているという事である。


「さて、それじゃあ……時間が来るまでは仕事に集中するとしようか」


Pはそう言って携帯を仕舞い、目の前の仕事に目を向ける。


そしてそれに対して今度こそ、集中して取り掛かっていくのであった。


………………


…………


……


数時間後。仕事の切りの良い所でPは腕時計を見て時刻を確認する。


Pはそろそろ二人が学校が終わる頃合だろうと思い、席を立つ。


そして同僚に「ちょっと出掛けてくる」と告げて、プレゼントの入った鞄を持って、事務所から出て行った。


事務所を出てから歩いて数分。


距離にして五百メートルに満たない場所に、Pが言った喫茶店はあった。


Pはそこにへと足を踏み入れると、「いらっしゃいませ」と、笑顔を浮かべながら店員が出迎える。


その店員に案内されて、Pは店の奥の席にへと着いた。


店員は注文を尋ねてくるが、智絵里とまゆが来ていないので、Pは「また後で」と言って断る。


そして店員がPの下から立ち去った後、Pは鞄を開けて再度中身を確認する。


二人に渡す為のプレゼントは忘れておらず、しっかりと中に入っている。問題は何も無かった。


「後は……二人が来るのを待つだけだな」


Pはそう言うと、時間が来るまで暇潰しをしようかと、携帯を取り出す。


しかし、数秒後……Pはその手を止め、携帯を元の位置にへと戻した。


それは何故かというと、暇潰しをする必要が無くなったからだ。


携帯を仕舞ったPは、店の出入り口にへと視線を向ける。


視線を向けたのと同時に、扉が開いて中に人が入ってくる。


遠目で見ても分かる、トレードマークと言えるツインテールの髪型の少女。


間違い無く、それは智絵里である。


智絵里は店内に入ると店員の案内を受けずに、店の奥にへと進んでいく。


そして自力でPのいる席まで辿り着くと、


「お、お疲れ様です、プロデューサーさん」


と、言ってPに向かって挨拶をする。


「おぉ、智絵里も学校お疲れさん。意外と、早かったな」


「少しでも早く会いたくて、走って来ちゃいました。えへへ……」


Pの言葉に智絵里は笑みを零しながらそう返す。


それから智絵里はPとは逆、反対側の席にへと座る。


本当は隣に座りたいのだが、人目もある事や、まだ来ていないまゆに対しての配慮からか、そこにへと腰を下ろした。


「そうか……でも、まだまゆが来ていないんだ。だから、もう少し……」


「あっ、大丈夫ですよ」


『待っててくれ』と言おうとしたPの言葉を遮って、智絵里はそう言った。


「まゆちゃんなら、もう直ぐ来ます。今、そこの交差点を曲がった所ですから」


そう言いながら、智絵里は携帯を見つめている。


それから「二百メートル、百メートル、五十メートル……」と、小さく呟く。


それを見たPは『あぁ、そういう事か』と、理解した。


「そろそろ窓から、まゆちゃんの姿が見えますよ」


智絵里から告げられたPはそれに従い、窓にへと目を向ける。


すると、どうだろうか。


先程の予言通り、窓には少し駆け足気味のまゆの姿が見えた。


智絵里の予言……いや、そう言うのは少し、語弊があるかもしれない。


これは間違いなく、文明の利器……要は発信機のお陰であった。


「全く、いつの間に仕掛けたんだか……」


そうした智絵里による一連の行動を把握しながらも、Pは苦笑しつつそう言った。


事実を知った所で、Pは智絵里に注意はしない。


発信機が同じく、自分にも仕掛けられているのは知っているけれども、外したりはしない。


何故なら『もっとやってくれ』と、ばかり思っているのだからだ。


一応、補足しておくと彼はMでは無い。そういった被虐的嗜好でそう思っているのでは無いのだ。


ただ単に、彼はそういう事をしてくる女の子が好きなだけなのである。


だからこそ、Pは智絵里やまゆが自らに対して何をしてこようが、受け入れているのだ。


例え、二人によって監禁されようものでも、Pは喜んで受け入れる。


要するにPは、そう言った歪んだ性癖を持つ男なのであった。


「す、すみません、プロデューサーさん。お待たせしてしまいましたか?」


Pがそんな風に考えている内に、二人の下にまゆがやって来た。


急いできた為か息切れをしていて、まゆは肩で息をしていた。


「いや、そんな事は無いよ。智絵里もさっき来たばかりだし、俺もここに来てからそんなに経って無いからさ」


「そ、そうですか。なら、良かったです」


まゆはそう言うと、智絵里の横の席に腰掛ける。


それから荒れた息を整えて、ようやく落ち着けた様子であった。


「さて、それじゃあ全員揃った事だし、何か注文を……」


「待って下さい」


店員を呼ぼうとしてPは手を挙げようとするが、智絵里の一言で手を止めた。


「まずは先に……貰う物を貰っておきたいです」


そして智絵里は無邪気な笑顔を浮かべて、そう言うのであった。


「い、いや……それは注文をしてからでもいいんじゃ……」


「そうですよ、智絵里ちゃん。それはいくらなんでも、せっかち過ぎると思うけど……」


今回ばかりはまゆもPの意見に同意だった。


事務所であればまだしも、ここは外の喫茶店である。


来て注文もせずに居座るのは、失礼というものである。


「……分かりました」


結局、二人から言われた事で、智絵里はあっさりと引き下がった。


しかし、不満はある様である。


不満だとばかりに口を尖らせて、そっぽを向いて態度で表していた。


そんな態度を見せられて、Pの心は躍る。


可愛らしい仕草に堪らず、そう思ってしまうのであった。


そして三人は注文を済ませ、それが全て揃った所で、話を進める。


「えっと、それじゃあ……バレンタインのお返しなんだけど……」


「はい」


「えぇ」


そう切り出されると、智絵里とまゆは期待の眼差しでPを見つめる。


体をそわそわとさせて、まるで早くしてと言っている様であった。


「まぁ、色々と相談したり考えた結果……こういった物にしてみたんだ」


そう言ってPは鞄の中から用意していたプレゼントを取り出すと、二人の前に差し出した。


二人同時に差し出されたプレゼント……それは白くて小さい、アクセサリーケースだった。


「これは……?」


「えっと……中を、見ても?」


二人がそれを見ながらPに尋ねると、Pは首を縦に振った。


Pに許可を得た事で、二人はそっとケースを開ける。


「えっ……」


「嘘……」


そしてケースの中身を見て、驚嘆の声を上げる。


中に入っていた物……それは指輪であった。


智絵里には四つ葉のクローバーの指輪が。


まゆにはハートの指輪が。


それぞれの特徴に合わせた物が、ケースに入っているのであった。


「その……婚約とか、そういうあれじゃないけど……二人の想いに応えたくて、な」


「い、いいんですか……? こんな物を頂いて……えへへ」


「プロデューサーさん……まゆ、嬉しいです。大切にします」


Pからのプレゼントに感動してか、二人の目元には涙が浮かび上がっている。


それ程にも、喜んでくれたという事であった。


しかし、Pからのプレゼントはそれで終わりではなかった。


「それと、後……こんな物も用意してきたんだが……」


そう言って再び、Pは二人に向けて何かを差し出した。


それは銀色をした鍵状の……いや、鍵そのものだった。


「その……俺の家の鍵だから。今後はこれを使って入って欲しいんだ」


差し出された二本の鍵を、二人は唖然といった表情で見ている。


指輪を貰ってからのこのプレゼントは、流石の二人も思いはしなかった。


「二人が何とか侵入してこようと、ピッキングとか努力してくれるのは嬉しいんだ。けど……近所の人の目もあるから……な?」


Pがそう言うと、智絵里とまゆの二人は無言で素早く、それを受け取った。


二人はただただにっこりとした笑顔を浮かべ、ご満悦といった所である。


「まぁ、そういう事だから……これからはよろしく頼むな」


「はい、プロデューサーさん」


「分かりましたぁ」


智絵里のまゆの二人はPの言葉にそう言って頷く。


それからしばらく、三人で歓談を楽しみながら、一年に一度きりのイベントを終えるのであった。





終わり


とりあえず、何とか完結です

本当はもう少し早めに完結したい所でしたが、

風邪を引いて倒れてた為に、叶いませんでした

今度はもう少し、計画的に進めていこうと思います

しかし、ホワイトデーの話なのに、何で完結するのに一週間も掛かってるんだか……

今回はろくにプロットも立てて無かったので、右往左往としてたかもしれません

最後辺りなんて特に急過ぎた展開だったかも

それと一応……文香とか藍子とかのおまけを考えてたけど……もう無しでいいですかねぇ……

とにかく、一段落ついたので……凛の方も完結目指して、頑張ろうと思います

ここまで読んでくれた方々、ありがとうございます

それといつもながら智絵里PとまゆPの皆様方……本当に、すみませんでした


Pもまゆ、智絵里も似た者同士か…中々にPもネジが跳んでるな

ありすの幸せが粉々に粉砕されて笑った

このPになりたい

文香とか藍子も書けよ


二人を相手に血を見ず穏便に事を収めようとするなら、こういう手しか無いわな…

>>1です

色々と考えた結果、おまけを書いていこうかと思います

文香、藍子だけで無く、ありすも含めたおまけを近日中に纏めますので、

しばらくお待ち下さい

おまけ その1


時刻は夕方を過ぎた頃の事。


空高く昇っていた日は沈み、事務所内でもちらほらと帰宅者が現れ出している。


同僚のプロデューサーは既にいなくなり、自分の担当する仕事も全て終えている。


それなのにも関わらず、プロデューサーのAは何かをするでも無く、事務所の自分の席でただただ携帯を見つめて何かを待っていた。


「遅いなぁ……あいつ」


待ち合わせをしているのか、まだ現れぬその相手に対して呟く。


彼はかれこれ一時間程、その相手を待っている。


中々来ない事に腹を立てる事は無いが、それでも一人でひたすら待っているのは退屈ではあった。


欠伸を一つしてから、『あとどれぐらい待つんだろうな』とAは思案する。


それからトイレにでも行こうかと思い、Aは席を立った。


その時である。


事務室の出入り口の扉が開き、中にへと入ってくる人影。


Aがそこにへと顔を向けると、扉の近くにはAが担当するアイドルの一人、橘ありすがそこに立っていた。


「お待たせしました、Aさん」


そして席を離れようとするAをそう言って呼び止めた。


「おう、ありす。ようやっと来たか。待ちくたびれたぞ?」


「すみません。仕度に少し……手間取ってしまって」


申し訳無さそうに目線を下げ、俯きつつありすはAに向けてそう言った。


そんなありすの姿を、Aはジッと見つめて観察する。


今日は平日の為、ありすは数時間前までは学校に行っていたはずである。


けれども、目の前にいるありすは学校に行っていた様な恰好をしていない。


要するに、お洒落をしているのだ。


チョーカーや指輪といったAがありすにあげた装飾品を身に着け、綺麗にめかし込んでいるのである。


服装も、普段は見ない様な気合の入ったもので着飾っている。


それを見れば、仕度に手間取ったのも十分に頷けた。


「まぁ、でも。良く似合ってるぞ、ありす」


だからこそ、Aはありすにそう言って褒める。


それから少し屈んで、ありすの頭を優しく撫でる。


綺麗に整えられた髪を崩さない様に、そっとでだ。


「あ、ありがとうございます。えへへ……」


褒められた事でありすは気を良くして、はにかんだ笑顔を浮かべる。


仕事や普段の日常では見せない顔。


Aだけの……恋人であり、婚約者に見せる、緩んだ顔である。


「それで……Aさん?」


「ん? どうしたんだ、ありす」


「メールで『事務所に来てくれ』とはありましたけど……今日は、どこに連れて行ってくれるんですか?」


ありすはAにそう言って問い掛ける。


そう。二人はこれからデートをする予定なのであった。


Aはその為に数週間前から計画を立てており、万全を期していた。


しかも、ありすの両親に対しても既に根回しは済んでいる。


ありすを夜に連れ回し、Aが追及される危険性は何一つ無かった。


「どこに、か。そうだな……ホテルとかは、どうだ? 街の夜景が一望できそうな感じのな」


「ほ、ホテル……ですか? そ、そんな……私、まだ……」


腕を組み、にやけた表情でAはありすにそう語り掛ける。


それに対して、ありすは顔を赤らめ、慌てた感じでそう言った。


「……まぁ、何てな。嘘だよ、嘘。まだありすをそんな所には連れては行かんよ」


「えっ、あっ……そう、なんですね。ふぅ……」


Aがそう言った事で安堵してか、ありすはホッと一息吐く。


しかし、どこかがっかりした感が否めない事を、Aの目からは見て取れた。


長い事、ありすを観察してきたAには、ありすの一挙一動から大体の考えている事を理解出来るのである。


「それに、もう予定は立ててあるんだな、これが。ありすの『為に』、良いとこのレストランを予約してあるから、これから向かうぞ」


Aはわざわざ『為に』という言葉を強調して、ありすにそう言った。


「私の、為……へへっ。ありがとうございます、Aさん。ありす……とっても、嬉しいです」


そうした為か、ありすは相当に喜んで反応した。


自分の為にそうしてくれた事を、心より嬉しく思っているのだ。


幸せそうにはにかみ、その笑顔をAに向けて見せるのであった。


「じゃあ、えっと……」


ありすはそう言うと、Aの横にへと移動する。


それからAに向けて自分の手を差し出して、


「あの……エスコート、お願いしますね」


と、少し不安げにそう言うのであった。


「あぁ、いいぞ。お安い御用だ」


それを待っていたとばかりに、Aは差し出された手をしっかりと握る。


自分とありすが離れてしまわない様に、ギュッと力強くでだ。


「えへへ……」


そんなAがありすには頼もしく見えるのか、安心してその手を委ねるのである。


Aはそんなありすの仕草を見て、微笑ましくて顔に笑みが浮かぶ。


それと同時に、心中で密かに、『良い調子だ』とほくそ笑んだ。


徐々に自分好みな感じになりつつあるありすの様子に、Aは満足しているのである。


しかし、Aが思い描いている完成図には、まだ程遠い。


ありすがまだ幼い分、手を出せていない部分が多いのだ。


とはいえ。Aはその事で焦りはしない。


決して焦燥感からか、誤って機を逸したり等という、愚行は犯したりはしないのだ。


何故なら、彼は『紳士』であるからだ。


まだ成長しきっていない少女を犯すという欲望は、万に一つも無い。


そういった事をしたくて、ありすが好きになった訳でも無い。


Aはただ単に、橘ありすという一人の女に恋焦がれている。それだけだった。


だからこそ、自分の手元にありすを置き、その行く末をコントロールできる様にと、企んでいる。


多少は歪んではいるが、これがAの愛の形なのであった。


「それじゃあ、向かうとするか、ありす」


「はい、Aさん」


ありすにそう声を掛けた後、二人は歩き出す。


それからAが運転する車に乗り、夜の街にへと消えていくのであった。






おまけ1 終わり


短いですが、終わりです

こんな感じで残りの二人も書いていこうと思います

それではまた、書き溜めたら投下していきます

これが光源氏計画ですか

おつ

これで桃香や他の子に手を出したらAは光源氏宜しく転落の末路だな…
Pとアイドルの関係色々と歪んでたりカオスだけど大丈夫なのかこの事務所?

おまけ その2


都内某所。


CGプロダクションから遠く離れた、ビル内の施設。


その中はほんのりと薄暗く、少数の電灯で室内を照らしている様は、陰気な印象を抱かせる。


更にはほとんどの者が口を開かずに、目の前の物事にへと集中している。


会話をしている場面も見受けられるが、それはとても静かなもの。


安い大衆酒場やファミレスの様に、平気で騒ぐ人物はここにはいないのだ。


図書館カフェ。


ここでは誰もが飲み物を飲みながら、洒落たBGMに耳を傾けつつ、静かに本を読んでいる。


そしてそれを利用している者の中に、プロデューサーのSと、鷺沢文香の姿もあった。


「…………」


「…………」


二人は向かい合う様に座り、黙々と手に持つ本の内容に目を通していく。


ただただページを捲る時に発するぺらっという音と、店内に流れるBGMだけが、二人の周りを取り巻いている。


これがAであれば、退屈そうに顔を歪ませるだろうが、Sと文香にとってはこれだけでも満足なのであった。


「……ふぅ」


文香は一息吐くと、読んでいた本をそっと閉じる。


中々の厚みのある本ではあるが、長い時間を掛けてそれを読み終えたのである。


そして内容に満足したのか、文香は顔をほっこりと綻ばせる。


「あの……プロデューサーさん……?」


「……はい、何でしょうか?」


文香に声を掛けられたSは、本から視線を離し、顔を上げてから眼鏡の位置を正すと、用件は何かと彼女に尋ねる。


「えっと、読み終えたので……この本、返してきます。なので、少々……席を外させて頂きます」


「分かりました。では、ごゆっくりどうぞ」


文香から言葉にSはそう返すと、再び視線を本にへと戻す。


話が佳境に入っているのか、Sは食い入る様に本を見つめ、離さないでいる。


それを確認すると、文香は本を持ち、席を離れて元の場所にへと返しに行った。


(それにしても……上手い具合に、事が運べました)


本を返却しにいく道中、文香は内心でそう思っていた。


誰にも気づかれない様にほくそ笑んで、今の状況にご満悦という感じである。


(これも全て……日々の成果の賜物と言うべきですね)


文香の脳裏に、一冊の冊子が思い浮かばれる。


それは文香とSとの間で交わされている交換日記。


数ヶ月前に文香が提案し、それ以降、続けられる様になったものだった。


何故、二人が交換日記を交わす様になったか……それは文香がSと結ばれる為である。


名目上は不安や心境を吐露したい。しかし、言葉にして話すのは難しい。


と、そう言って文香はSに話を持ち掛けた。


しかし、それは飽く迄建前であり、実際の所は大きく違う。


文香は交換日記を用いて、Sの変革を狙っているのである。


以前、文香はSの何でもない言動に翻弄され、相当に苦しんだ。


挙句の果てに、文香の好意に対して、Sは何の反応もしなかった。


だからこそ、その先にへと文香は進もうとするべく、策を練ったのだ。


自分がされた様に、何でもないかの様に装い、言葉巧みに誘導する。


そうした努力を経て得たものが、今の現状なのであった。


(あの人は全く気づいていませんが……Sさんは既にもう、私の掌の上で踊っている様なものです……)


その言葉通り、文香とSの取り巻く環境は、ここ数ヶ月で大きく様変わりしている。


一つは、呼び方である。


前まではSは文香に対し、『鷺沢さん』と名字で呼んでいた。


文香に限らず全員に対して。Sはある程度の距離を置いて、接していた。


しかし、文香が交換日記に、


『友人に他人行儀にされて、少し寂しく思っている』


『ありすちゃんとAさんは名字や名称では無く、名前で呼び合う様になってから、関係が強まった』


『そういった信頼関係を見ていると、私も羨ましく思ってしまう』


と、例を挙げる様に書くと、Sは直ちにそれを取り入れた。


より良い信頼関係を結べるように、と文香に提案したのである。


Sのいう信頼関係が仕事上の関係であるのは、文香は分かっていた。


しかし、それでも良かった。


何であれ、自分の事を名前で呼んでくれるのなら、一歩前進した様に思えたからだ。


そこまでに辿り着くのに半月は要したが、その甲斐もあり、今ではSは文香の事を名前で呼ぶ様になっている。


それからもう一つ。自分の身内に対する繋がりである。


Sが逃げられない様にする為、文香は身内……自分の叔父を利用した。


『彼と会って話して欲しい』と、まるで自分の恋人を紹介する様に叔父に告げた。


対してSには『叔父が自分の活動に疑問を持っている』と伝える。


それぞれに違う内容で伝えたのなら、普通は話は噛み合わない。


しかし、何故だか話は成立してしまう。そうなる様に文香が誘導したからだ。


結果として、Sは『心配や不安はあるでしょうが、文香さんは責任を持って僕が導きます』と叔父に告げ、叔父もSのその言葉に安心する。


文香の思い描いた描いた通りの結果となったのである。


こうして着実と、Sの知らない所で、外堀は埋まりつつあった。


その事実に、Sはまだ何一つ、気づいていない。


(こうして今日という日に……Sさんを独占出来るのも、私が頑張ったからですね……)


バレンタインデーでSが一つしかチョコを貰えず、それでお返しを渡す相手が文香だけになったのも、彼女が関与していたからだった。


周囲に働きかけ、そうならない様に仕組んだのである。


中には割とSに対して好感を持つ者がいて、苦労する事もあった。


しかし、何とか『説得』したお陰で、思い通りに事は進む。


だからこそ、義理の一つも貰えず、文香からの本命のみを貰う事となった。


ちなみに、Sはそれを義理だと思っている。


どんなに想いを籠めても、Sの目には義理にしか映らなかった。


(まぁ、でも……今日はこうしてここに、連れてきてくれましたし……良しとしましょう)


文香はそう思いつつ、持っていた本を返し、次に読む本をその手に取った。


(まだまだ取り掛かったばかりですし……気長にいきましょう。じっくりと……ね)


難攻不落のSの心を落とすべく、今日も文香は人知れず、暗躍する。


全てはSが自分だけを見て、自分だけを想い、自分の事で埋め尽くす為。


その為の策略や戦略を考えながら、文香はSのいる席にへと戻っていくのであった。





おまけ2 終わり


短いですが、終わりです

残るは藍子だけになりましたので、頑張って書いていきます

それではまた、書き溜めたら投下していきます

とりあえず乙
藍子編楽しみ

ふみふみこええええ……
おっつおっつ

S君文香に生殺与奪権握られてたか
にしても色々と吹っ切れた文香は恐ろしいな…

おまけ その3


三月十五日。ホワイトデーの翌日。


既に日は空高く昇り、昼頃を迎えていた。


普通であれば、昼食を食べているか、もしくはその前であり、準備をしているぐらいの時間帯。


「……ん」


そんな中、CGプロダクションのプロデューサーの一人、Hは自室の布団の中で目を覚ます。


この時間帯に目を覚ましたのは、彼が今日、休みだからである。


会社に無理を言って、十三日から今日まで、ある目的の為に連休を取ったのだ。


「今、何時だ……?」


Hは乱雑に頭を掻きつつ上半身だけを起こすと、途端に頭痛がズキズキと苛む。


続けて、言い表せない倦怠感と疲労感が、彼を襲う。


十分に睡眠を取り、起きたばかりだというのに、考えられない事である。


その原因を探るべく、未だ眠気から覚めない頭をフル回転させ、昨日、何があったかを思い出そうとする。


しかし、Hはある違和感を感じた。


それは、手を置いている布団の感触。


触れている部分が、いつもの感触とまるで違っていた。


厳密に言うと、何故だか濡れているのだ。


湿っているのでは無く、濡れている。


明らかに何らかの液体が掛かり、布団を汚しているのである。


漏らしてしまったのか、と考える前に、Hはその原因を瞬時に悟る。


Hは直ぐ様、自分の横にへと、視線を移す。


そこには人がいた。人が横たわっていた。


毛布を掛けて寝ている様に見えるが、実際にはぐったりとしていて、気絶している様にも思える。


辛うじて聞こえる、ヒューヒューという呼吸音で、死んではいない事だけは把握できた。


「あ、藍子……?」


Hは恐る恐るその横たわっている担当アイドル、高森藍子の名前を呼び、その肩を揺すった。


しかし、藍子は起きない。


揺すっても体をだらんと弛緩させて、起きる気配を感じさせない。


「藍子……? お、おい、藍子……?」


反応が無いのを見て焦ったのか、Hは更に強く揺すって藍子を起こそうと試みる。


だが、それでも藍子は起きなかった。


何度も何度もHが揺すっている内に、振動からか、藍子に掛かっていた毛布がはだける。


はだけた事で、そこに隠れていた部分がHの目に映る。


それは、藍子の日に焼けていない白い地肌。


そして、慎ましく膨らんだ小さな胸。


目に見える何もかもが、生まれたままの姿である。


そう、藍子は衣服を何一つ、身に着けていなかった。


毛布を全て引き剥がせば、下も履いていない事も確認できる。


そして部屋の隅を見てみれば、藍子が着ていたはずの衣類が散乱していた。


何故、何で藍子は、こんなあられもない姿になっているのか。


原因は、Hにあった。というよりも、Hがこうしたのだ。


昨夜に夕食を食べた後、世話を焼きに来た藍子に襲い掛かり、そして、朝までじっくりと犯したのである。


詳細な経緯がどうだったかは思い出せないでいるが、間違いはない。


今も感じる倦怠感と疲労感が、それを証明していた。


「ん……んぅ」


そしてようやく、藍子が目を覚ます。


まぶたがピクリと動き、それからゆっくりと開いていく。


開いた後、藍子は寝ぼけ目でぼんやりと、Hの顔をジッと見つめる。


「藍子……あぁ、良かった……」


藍子が目を覚ました事で、Hはホッと一息を吐いた。


もしかしたら、目を覚まさないのではないか。


そんな不安もあったからこそ、安心してそうしたのだ。


「おはよう、藍子」


Hは堪らず、そう言って声を掛ける。


昨日の事について、何よりも真っ先に話したかったが、まずは挨拶だ。


そう思っての行動である。


藍子はそれに対し、挨拶を返そうと口を開く。


「……お、は……ゲホッ、ゲホッ!」


だが、しかし。その言葉は最後まで紡がれずに、途中で途切れてしまう。


藍子は苦しそうに喉を押さえて、激しく咳き込んでしまった。


「お、おい……大丈夫か……?」


Hはそれを見て、心配そうな表情をして、藍子に向けて手を伸ばす。


けれども、その伸ばした手を、Hは途中で止めてしまう。


いや、止めてしまったのだ。藍子の、ある部分を見てしまって。


その部分は、藍子の首回り。


その周辺に、赤い痣の様なものが出来ているのである。


しかも、それはキスマークの様な、局所的なものでは無い。


首回りを覆う様に、赤い痣が出来てしまっているのだ。


そして、Hはその原因も知っていた。


それを見た事で、思い出してしまった。


昨夜の行為中に、Hは何かを藍子に言われて、頭に血が上ってしまった事を。


黙らせようとするも、藍子は一向に話すのを止めなかった事を。


それから無理矢理止めてやろうと、藍子の首に手を伸ばした事を。


首を絞められた藍子が、苦悶の表情を浮かべた事を。


他でもない、自分自身が、その痣を作ってしまった張本人だという事を。


何もかも全て、思い出したのだ。


「あ、あぁ……あああ……」


Hは戦慄し、その顔は見る見る内に青褪めていく。


それから両手で頭を抱えて、天井を見上げる。


取り返しのつかない事をしてしまった、という表情である。


藍子に襲い掛かり、彼女の初めてを奪い、そして苦しめた。


今まで犯した罪も合わせれば、到底言い逃れの出来るものでは無い。


彼はこの時、完全なる犯罪者と成り果てたのだ。


「お、俺は……俺は……」


罪悪感からか、胸が強く締め付けられる。


自業自得だとはいえ、その痛みは相当なものだった。


痛みから、Hは胸を押さえてうずくまった。


「……ぷ、ろでゅー、さー、さん」


そうしていると、藍子がHの傍に寄って来る。


いつの間にか、表情は苦悶のものから、穏やかなものにへと戻っている。


Hが昨夜の事を思い出している内に、咳は止まっていた。


「あ、藍子……すまない……俺はお前に、何て事を……」


「……」


「本当に、すまない……許して、むぐっ」


藍子に向けてHは謝罪しようとした。


しかし、その口は謝罪をする前に塞がれてしまう。


藍子の、唇を以てしてで。


両手でHの顔を掴み、舌は入れずに、唇同士を触れ合わせる。


数秒掛けた後、名残惜しそうに、藍子は自分の唇を、Hの唇から離した。


「……おはよう、ございます。プロデューサーさん」


キスを交わした後、藍子はにっこりと微笑んで、そう言った。


先程言う事の出来なかった、挨拶の続きを言ったのである。


「えっ、あ、あぁ……おはよう」


挨拶をされたので、Hは当然の様にそう返す。


しかし、直ぐに『そうでは無い』と思い、首を振った。


「その……藍子。昨日は、すまなかった」


Hはそう言うと、床に手を置き、頭を藍子に向けて下げる。


所謂、土下座をしたのだ。


「いきなり襲って悪いと思っている。何か、昨日は、その……色々と、我慢が出来なくて……」


「……」


「だから、ごめん、藍子。本当に、すまなかった……」


床に頭を擦り付ける様に、Hは深く頭を下げる。


Hの胸中は、藍子に対する申し訳無さで一杯であった。


「……顔を、上げて下さい。プロデューサーさん」


そんなHに対し、藍子は静かに、そう言った。


Hはそれに従い、床に付けていた頭をゆっくりと上げていく。


徐々に開けていく視界の中。Hが捉えたのは、優しく微笑む、藍子の顔だった。


「別に、謝らなくても……いいですよ」


その上、藍子はHの行いを許すべく、そう告げるのである。


「い、いや、だって……」


「だって……じゃないです。プロデューサーさんが、謝る事は無いんですから」


「な、何で、そんな……」


「前に、言ったじゃないですか。性欲を満たしたいのなら、私が満足させるって。だから、気に病む事はありません。私から言った事なんですしね」


そう言ってから、また藍子はHに微笑みかける。


それからHの肩に手を伸ばし、そっと抱き寄せ、自分の胸の中にHの顔を埋めさせた。


「ちょっと痛かったし、苦しかったりもしましたけど……でも、嬉しかったです。プロデューサーさんと、こうして結ばれて」


「あい、こ……うっ、うぅっ……」


藍子の体に触れ、体温を感じ、そして優しさが身に沁みた事で、Hの瞳から涙が浮かび上がる。


そして藍子の胸の中で、むせび泣くのであった。


「よしよし……大丈夫、ですからね」


藍子はそんなHを見て、まるで母親が子をあやす様に、Hの頭を優しく撫でる。


Hはそれを嫌がらずに、素直に受け入れる。


全てを藍子に委ねて、ただただ甘えるばかりだった。


「……どうです? 落ち着きましたか?」


「……うん」


「ふふっ、それじゃあ……落ち着いた所で、シャワーでも浴びてきて下さい。私もプロデューサーさんも、汚れに汚れきってますから」


確かに、とHはそう思った。


昨夜の好意のせいで、お互いに、お互いのですっかりと、汚れているのである。


「それなら……先に、藍子から……」


「私は後でもいいので。先に、入って下さい」


「……それなら、分かったよ。先に、入ってくるよ」


「はい、どうぞ」


Hはそう言って立ち上がり、浴室に向けて歩き出す。


藍子はHが浴室に入るのを、座ったまま見送った。


「……さて、と」


Hがいなくなったのを確認すると、藍子も立ち上がって移動する。


向かったのは、自分の荷物が置いてある部屋の隅。


荷物の前に立つと、藍子はしゃがみ込み、荷物の中身を漁っていく。


がさごそと漁っていくと、その中から目当ての物を見つけ、それを取り出す。


取り出したのは、小瓶だった。


それも何のラベルも無く、飾り気が無く、中身の入っていない小瓶。


いや、中身は入っていたが、それは藍子が既に使ってしまい、無くなっている。


「高い買い物だったけど……そのお陰で、助かっちゃった」


藍子はまじまじと小瓶を見つめた後、それに向けてこう言うのであった。


「ありがとう、夕美さん」


そう言った後、小瓶をビニール袋に包み、更に外側をその辺にあった紙で覆う。


藍子はそれを、ごみ箱の奥深くに、隠す様に捨てた。


その上に昨夜に出た生ごみを包んだものを置き、掘り返さない様にする。


これで、藍子の隠蔽工作は完成した。


ごみ箱を眺めつつ、藍子はニヤリとした笑みを浮かべる。


まるで、自分の企てが上手くいったかの如く、そうした笑みだった。


そうとも知らずに、Hは呑気にシャワーを浴びる。


藍子に対し、罪悪感を感じつつ、また、感謝もしながら。


自分の知らぬ所で、見えない手で首を絞められているのにも関わらず、である。


ホワイトデーは終わったが、彼の苦悩の日々はまだまだ続く。


時に自分で自分の首を絞め、時に藍子に追い詰められて、Hは窮地に立たされていくのであった。






おまけ3 終わり

以上で、おまけも終了です

蛇足感が否めないですが、長々と失礼しました

ようやくこっちを完結させられたので、凛の方も頑張って完結を目指します

それでは、依頼を出してきます

ここまで読んでくださった方々、ありがとうござました

乙、面白かった
あと夕美について語られる日が来るのだろうか…

乙、夕美から何買ったんですかね
夕美編があるなら藍子に匹敵する展開になりそう

夕美編はプロットあるって言ってたしな
これまでのあれこれを回収するとなると相当に闇が深そうでゾクゾクすr…不安だ

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