※登場キャラ……速水奏、鷺沢文香
※短め
※基本デレステ準拠 ちょっと独自設定あり
※奏SSR実装おめでとう
※速水奏
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※鷺沢文香
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●
――プロデューサーさんが、本当にキスしてきたとしたら……どうでしょう?
●
「ありがとう、文香。今日は、本当に助けられたわ」
お仕事から帰ってきて、プロダクションの休憩スペースで一息ついたとき、
奏さんが私に声をかけてきました。
「……あれが、助けとなったのでしょうか……?」
「それは、もう。あの瞬間、私は何も言えなかったから……」
お仕事は、化粧品メーカーの宣伝でした。
奏さんと私は、新製品のイメージキャラクターという仕事をいただいており、
今日そのお披露目の会見を行ってきました。
奏さんは、新作のルージュのイメージキャラクターを務めております。
彼女がキスについてよく言及するので、
それに合わせてプロデューサーさんが取ってきた仕事とのことです。
お披露目の会見では、ルージュに引っ掛けた趣向なのか、
芸能記者の方から奏さんへ、
『奏さんのファーストキスの思い出は?』
という質問が投げかけられました。
私が、その質問を奏さんのすぐ横で聞いてから、数秒。
奏さんの声が聞こえないのを不審に思った私が、顔を向けてみると、
奏さんは、マイクを前にしたまま絶句していました。
奏さんは私より二つ年下ですが、
普段でも仕事でも、私より落ち着いて堂々と振る舞える方です。
そんな彼女が、記者さんの質問に何も返せないまま……何があったのでしょうか。
……いいえ、何はともあれ、同じ事務所で同じ仕事を並んで受けた仲間。
奏さんが困っているなら、こんな私でも、何か助け舟を出さねばなりません……。
そこで、意を決した私が横合いから口を挟んで――
『そ、それ以上は……どうか、ご容赦ください……。
奏さんの、美貌の秘訣は……隠し事を抱えることでありますから……』
●
「あの時は、本当に何も言えなくて……文香がフォローしてくれなかったら、どうなってたことか」
「フォロー……あれは、フォローしたと言えるでしょうか……」
……あとで、プロデューサーさんから映像を見せてもらったところ、
私はしどろもどろで、ただでさえ声量の乏しい声は消え入りそうで、
顔はリンゴのように真っ赤になっていました。
こんな有様だったせいか、司会の方から、
『どちらが歳上なのか分からない』と言われてしまいました。
それで会場にクスクス笑いが漏れて、雰囲気が変わったので、
結果としては奏さんの絶句を流したことになったのでしょうが……。
「私が咄嗟に言った『美貌の秘訣は隠し事』というのは、もともと奏さんの受け売りで……
馴染んでいない言葉だから、舌がうまく回りませんでした……」
勝手に他人から言葉を使われて、気を悪くしたのでは……と奏さんを見ると、
彼女は私の危惧を一笑に付しました。
「いいの。あなたが言って正解だったと思うわ。
これが同じ台詞でも、私が澄ました顔で『秘密よ。秘密を抱えるのが、美貌の秘訣だもの』
とか言い出したら『この生意気な小娘が』ってなっちゃうもの」
「……私のたどたどしい言い方が、功を奏したということでしょうか……」
「そういうこと。もしかして、あれは文香の計算のうちだった?」
「そんな……計算ではありません。偶然です……ただ、そのような芸当ができれば……
私も、アイドルとして、もっと幅広く活動できるでしょうか……」
私よりもトークを得手とする奏さんから、
こういった褒められ方をするのは、不思議な気分です。
●
「普段からキス、キスなんて言っておきながら、あの有様じゃあ……
プロデューサーさんに、呆れられちゃったかな」
奏さんは、まだ少し深刻さを顔に残していました。
「……もしかして、キス未経験者だと、何かアイドルとして支障が生じるのでしょうか……」
「いや、それは聞いたことがないけれど……」
「ならば……安心ですね」
私の言葉に、奏さんは決まり悪気な様子で首を横に振りました。
「私は……プロデューサーさんに、キスがどうとか、そんな話をよくしていたでしょう。
なのに、ファーストキスについて聞かれたら、絶句って……無いよね、本当に。
今まで虚勢張ってたんじゃないかって、思われちゃうかなぁ」
●
「ところで……文香は、あまり驚かないのね」
「奏さんに、キスの経験が無かったことについて、でしょうか」
「ええ……もしかして、あなたは……見抜いていた、とか」
そう問いかけてくる奏さんの顔を見てみましたが、
『見抜いていた』『いなかった』どちらの答えを望んでいるか、私には測りかねました。
だから、ただ思っていたことを奏さんへ告げるのみです。
「私は、そのような眼力を持ちあわせておりません……ただ、推測しただけです」
「……“推測した”……?」
私は奏さんについて、プロデューサーさんから少し話を聞いたことがあります。
「あなたはプロデューサーさんにスカウトされたことについて、
“私の空虚な世界を変えてくれた”と、そう仰ったそうですね……?」
「……そ、そうね。そんなようなこと、言った覚えがあるわ」
そこから、私は簡単な理屈を一つ立てました。
「……だとすれば、仮に奏さんにキスの経験があったとしても、
それは奏さんにとって空虚なものであった、ということになります。
それなら、経験済みでも未経験でも大差ありません。言葉に詰まるのも道理です」
奏さんは、瞬き数回分の間きょとんとした表情をしておりましたが、
やがて喉から滲み出るような淡い笑みを浮かべました。
「……いかがですか。笑ってしまうぐらい、単純でしょう」
「でも……ぐうの音も出ないわ。あまりにすっきり片づけられちゃって、気持ちいいぐらい」
●
「……そんな奏さんを口説き落としたのですから、
プロデューサーさんは、よほど奏さんに根気強く声をかけたのでしょうね……」
私が口にした言葉は、軽い気持ちから出たものでした。
が、それを聞いた奏さんは、わずかに表情をしかめました。
「……ねぇ、文香」
「……なんでしょうか」
「あなた、知ってて聞いてない?」
奏さんは、また意味深な言い方をしました。
「……存じません」
「本当?」
「もし、奏さんが話したくないのであれば、敢えては聞きませんが……」
「その言い方だと『できれば聞きたいわ』って風に取れるけど」
「……ええ、それはもう」
私を見つめる奏さんの面には、はにかみが見え隠れしていました。
いつも凛々しい彼女が、珍しくそんな表情をしているせいか、
私はもっとこの話題で話したい、と思っていました。
●
「私、海岸で一人黄昏れてたところに、プロデューサーさんから声をかけられて……
親にもろくに相談しないまま、友達にも黙ったまま、その日の内に事務所へ行ってたわ……」
「……それは、意外ですね……」
他人の一目惚れを否定した奏さんが、自分は出会った当日にスカウトへ応じる、
というのは、かなり興味深い矛盾でした。
「プロデューサーさんと出会ったあの日は……私、ひどく嫌なことがあって、
誰にも邪魔されたくなくて、海風が肌を刺す冬の海辺にいたの」
「奏さんは、海がよくお似合いですものね……」
「それって、褒めてるのかしら」
「もちろんです」
「……そんな寒々しいところにポツンといた私に、プロデューサーが声をかけてきた。
最初、私はプロデューサーさんをナンパだと思ったの。それで虫の居所が悪かったのもあって、
めいっぱいつれなくしてあげた。『怒らせても構わない。どうにでもなれ』って、捨て鉢になってた」
あの奏さんが、捨て鉢に……となると、相当のことがあったのでしょう。
それもそれで気になりますが、彼女に話す気が無い……と見えたので、
私はその点については流すことにしました。
「プロデューサーさんは、動かなかった。
私が、いくらひどい言葉をぶつけても、『立ち去って』って言っても、全然。
そして、プロデューサーさんは返事の代わりに、名刺を一枚渡してくれた。
それで初めて、アイドルにスカウトされてると気づいた。
この人は、遊びでやってるんじゃないんだって」
「奏さんは、その時のプロデューサーさんの真剣さに絆(ほだ)されて……?」
「あ……いいえ、まだ……相手もお仕事だって分かったから、とりあえず感情的になるのはやめたわ。
でも、私はアイドルなんて柄じゃない、って思ってたから」
ここであっさりと『でも、私はアイドルなんて柄じゃない』と考えられる……
そこから、奏さんがこの手のスカウトを断り慣れていることが察せられます。
「……そこでも、断ったのですか」
「ええ。はっきり言うのが礼儀と思って、スカウトに応じる気はありませんって、そう言ったの」
●
「それでも、プロデューサーさんは粘ってきた。
いつの間にか黄昏は終わり、あたりも暗くなってて……
プロデューサーさんったら、こんな鼻持ちならない女子高生に、いつまでも立ち話して……」
私は、夜陰に包み込まれた奏さんを思い浮かべました。
もしかして、プロデューサーさんが奏さんに、夜をイメージした衣装や仕事を多く取ってくるのは、
口説き落としたシチュエーションを踏まえているのかもしれません。
「私、大人びているとよく言われるけど、実は見た目より少女趣味なの。
ファーストキスとか、映画みたいな恋愛とかに夢見ちゃったり……
だから……誰かに、特別な目で見てもらいたいって思ったりも、する」
そして奏さんが、しばしば『期待に応えたい』という言葉を口にするのは、
この少女趣味が根幹にあるのでは……とも、私は考えました。
●
「私が拒絶して、それにプロデューサーさんが食い下がるたびに、
『ああ、この人はもしかしたら……』って気持ちが、少しずつ大きくなって……
……月が登り始める前に、私は根負けしちゃった。3時間ぐらいだったかな?
たったそれだけで、この人の下でアイドルに……なんてやる気出しちゃうなんて。
私って、軽いわね。自分が前にフッちゃった男の子を笑えないわ……」
奏さんは、言葉では自虐していましたが、
表情はむしろ誇らしささえ感じさせる微笑を浮かべていました。
「それにしても……本当に、プロデューサーさんは……粘り強いにも程があるわ。
高校生の私と違って、とっても忙しいのに、あんなに時間使って……」
「…………」
「……私がプロデューサーさんの立場だったとしても、たぶん食い下がってますね」
「それは……また、どうして?」
「奏さんが……口でいくら拒絶していても、足がその場を立ち去ってなかったのでしょう。
それで、脈が残っていると分かりますもの」
「…………」
●
「そういえば奏さんは、この間プロデューサーさんと宣材写真を撮影に行った時、
一番自信のある顔だ、って言って、キス顔を見せたそうですね……?」
「…………」
「奏さんは、口よりも行動で本心を語る方のようですから……それは、つまり」
「いや、文香、ちょっと待って」
「プロデューサーさんが、本当にキスしてきたとしたら……どうでしょう?」
「…………っ」
●
「ふふ……奏さんの真っ赤な顔、見ることができました」
「……人を弄ばないでちょうだい、文香」
「お仕事の時は、私だけあなたに赤面を見られてしまいましたから……
これでおあいこ、ですね」
「…………もうっ」
(おしまい)
※『Hotel Moonside』歌:速水奏(試聴)
https://www.youtube.com/watch?v=kU5ii7DAyxU
※『Bright Blue』歌:鷺沢文香(試聴)
https://www.youtube.com/watch?v=67bgK3LMkD4
CD好評発売中 みんな買おう聞こう!
Hotel MoonsideはLIVE版も人気です
●過去作(奏) 今回とつながりはないですが、よろしければ
速水奏「ルージュになりたい」 ※百合注意
速水奏「ルージュになりたい」 - SSまとめ速報
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速水奏の場合【R-18】
速水奏の場合【R-18】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429456490/)
●過去作(文香) 同上
鷺沢文香「百薬の長でも草津の湯でも」
鷺沢文香「百薬の長でも草津の湯でも」 - SSまとめ速報
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文香「もしも美嘉さんが」志希「あたし達のおねえちゃんだったら!」
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モバP「15年ぶりの鷺沢文香」
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451754190/)
南無八幡大菩薩、我が国の神明
日光の権現、宇都宮、那須の湯泉大明神、千川ちひろ大明神
願はくは奏をむかへさせたまへ
これを損ずるものならば、筆折り廃業して、人に再び担当を名乗るべからず
いま一度本国へむかへんとおぼしめさば、この矢はづさせ給ふな
なんという魔性のふみふみ
奏がどっかのカリスマみたいにハリボテに見えてきた
乙!
乙です。
すごくいいと思います
与一乙
何連回すか知らんが
あんたが廃業しないよう祈ってやるよ
乙!
ご報告
http://i.imgur.com/fzqOQbX.jpg
http://i.imgur.com/bHgRvNU.jpg
http://i.imgur.com/FDsHoYg.jpg
千 川 ち ひ ろ 大 明 神
大明神に感謝し一層多くのお布施をしなさい
宴、宴ぞ
今宵、蒼翼に導かれし者が歓喜に打ち震えておるわ
乙
あなたの描く文香は素晴らしい。
乙&おめでとう
廃業しなくて良かった
次の作品も楽しみにしてるぜ
乙
すんばらしい
乙
今回のSSも楽しませてもらいました
唐突な那須与一は卑怯
乙
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