鷺沢文香「奏さんは……キスのご経験が……?」速水奏「」 (27)


※登場キャラ……速水奏、鷺沢文香
※短め
※基本デレステ準拠 ちょっと独自設定あり
※奏SSR実装おめでとう


※速水奏
http://i.imgur.com/ezeui5B.jpg
http://i.imgur.com/22FUwzn.jpg

※鷺沢文香
http://i.imgur.com/hwXf0mt.jpg
http://i.imgur.com/acQrAA8.jpg


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1452392364






――プロデューサーさんが、本当にキスしてきたとしたら……どうでしょう?





「ありがとう、文香。今日は、本当に助けられたわ」

お仕事から帰ってきて、プロダクションの休憩スペースで一息ついたとき、
奏さんが私に声をかけてきました。



「……あれが、助けとなったのでしょうか……?」
「それは、もう。あの瞬間、私は何も言えなかったから……」

お仕事は、化粧品メーカーの宣伝でした。
奏さんと私は、新製品のイメージキャラクターという仕事をいただいており、
今日そのお披露目の会見を行ってきました。



奏さんは、新作のルージュのイメージキャラクターを務めております。
彼女がキスについてよく言及するので、
それに合わせてプロデューサーさんが取ってきた仕事とのことです。

お披露目の会見では、ルージュに引っ掛けた趣向なのか、
芸能記者の方から奏さんへ、

『奏さんのファーストキスの思い出は?』

という質問が投げかけられました。



私が、その質問を奏さんのすぐ横で聞いてから、数秒。

奏さんの声が聞こえないのを不審に思った私が、顔を向けてみると、
奏さんは、マイクを前にしたまま絶句していました。



奏さんは私より二つ年下ですが、
普段でも仕事でも、私より落ち着いて堂々と振る舞える方です。

そんな彼女が、記者さんの質問に何も返せないまま……何があったのでしょうか。



……いいえ、何はともあれ、同じ事務所で同じ仕事を並んで受けた仲間。
奏さんが困っているなら、こんな私でも、何か助け舟を出さねばなりません……。

そこで、意を決した私が横合いから口を挟んで――



『そ、それ以上は……どうか、ご容赦ください……。
 奏さんの、美貌の秘訣は……隠し事を抱えることでありますから……』





「あの時は、本当に何も言えなくて……文香がフォローしてくれなかったら、どうなってたことか」
「フォロー……あれは、フォローしたと言えるでしょうか……」

……あとで、プロデューサーさんから映像を見せてもらったところ、
私はしどろもどろで、ただでさえ声量の乏しい声は消え入りそうで、
顔はリンゴのように真っ赤になっていました。

こんな有様だったせいか、司会の方から、
『どちらが歳上なのか分からない』と言われてしまいました。

それで会場にクスクス笑いが漏れて、雰囲気が変わったので、
結果としては奏さんの絶句を流したことになったのでしょうが……。



「私が咄嗟に言った『美貌の秘訣は隠し事』というのは、もともと奏さんの受け売りで……
 馴染んでいない言葉だから、舌がうまく回りませんでした……」

勝手に他人から言葉を使われて、気を悪くしたのでは……と奏さんを見ると、
彼女は私の危惧を一笑に付しました。

「いいの。あなたが言って正解だったと思うわ。
 これが同じ台詞でも、私が澄ました顔で『秘密よ。秘密を抱えるのが、美貌の秘訣だもの』
 とか言い出したら『この生意気な小娘が』ってなっちゃうもの」



「……私のたどたどしい言い方が、功を奏したということでしょうか……」
「そういうこと。もしかして、あれは文香の計算のうちだった?」
「そんな……計算ではありません。偶然です……ただ、そのような芸当ができれば……
 私も、アイドルとして、もっと幅広く活動できるでしょうか……」

私よりもトークを得手とする奏さんから、
こういった褒められ方をするのは、不思議な気分です。







「普段からキス、キスなんて言っておきながら、あの有様じゃあ……
 プロデューサーさんに、呆れられちゃったかな」

奏さんは、まだ少し深刻さを顔に残していました。

「……もしかして、キス未経験者だと、何かアイドルとして支障が生じるのでしょうか……」
「いや、それは聞いたことがないけれど……」
「ならば……安心ですね」

私の言葉に、奏さんは決まり悪気な様子で首を横に振りました。



「私は……プロデューサーさんに、キスがどうとか、そんな話をよくしていたでしょう。
 なのに、ファーストキスについて聞かれたら、絶句って……無いよね、本当に。
 今まで虚勢張ってたんじゃないかって、思われちゃうかなぁ」






「ところで……文香は、あまり驚かないのね」
「奏さんに、キスの経験が無かったことについて、でしょうか」
「ええ……もしかして、あなたは……見抜いていた、とか」

そう問いかけてくる奏さんの顔を見てみましたが、
『見抜いていた』『いなかった』どちらの答えを望んでいるか、私には測りかねました。

だから、ただ思っていたことを奏さんへ告げるのみです。



「私は、そのような眼力を持ちあわせておりません……ただ、推測しただけです」
「……“推測した”……?」

私は奏さんについて、プロデューサーさんから少し話を聞いたことがあります。

「あなたはプロデューサーさんにスカウトされたことについて、
 “私の空虚な世界を変えてくれた”と、そう仰ったそうですね……?」
「……そ、そうね。そんなようなこと、言った覚えがあるわ」



そこから、私は簡単な理屈を一つ立てました。

「……だとすれば、仮に奏さんにキスの経験があったとしても、
 それは奏さんにとって空虚なものであった、ということになります。
 それなら、経験済みでも未経験でも大差ありません。言葉に詰まるのも道理です」

奏さんは、瞬き数回分の間きょとんとした表情をしておりましたが、
やがて喉から滲み出るような淡い笑みを浮かべました。



「……いかがですか。笑ってしまうぐらい、単純でしょう」
「でも……ぐうの音も出ないわ。あまりにすっきり片づけられちゃって、気持ちいいぐらい」







「……そんな奏さんを口説き落としたのですから、
 プロデューサーさんは、よほど奏さんに根気強く声をかけたのでしょうね……」

私が口にした言葉は、軽い気持ちから出たものでした。
が、それを聞いた奏さんは、わずかに表情をしかめました。

「……ねぇ、文香」
「……なんでしょうか」
「あなた、知ってて聞いてない?」

奏さんは、また意味深な言い方をしました。

「……存じません」
「本当?」

「もし、奏さんが話したくないのであれば、敢えては聞きませんが……」
「その言い方だと『できれば聞きたいわ』って風に取れるけど」
「……ええ、それはもう」

私を見つめる奏さんの面には、はにかみが見え隠れしていました。

いつも凛々しい彼女が、珍しくそんな表情をしているせいか、
私はもっとこの話題で話したい、と思っていました。










「私、海岸で一人黄昏れてたところに、プロデューサーさんから声をかけられて……
 親にもろくに相談しないまま、友達にも黙ったまま、その日の内に事務所へ行ってたわ……」
「……それは、意外ですね……」

他人の一目惚れを否定した奏さんが、自分は出会った当日にスカウトへ応じる、
というのは、かなり興味深い矛盾でした。



「プロデューサーさんと出会ったあの日は……私、ひどく嫌なことがあって、
 誰にも邪魔されたくなくて、海風が肌を刺す冬の海辺にいたの」
「奏さんは、海がよくお似合いですものね……」
「それって、褒めてるのかしら」
「もちろんです」



「……そんな寒々しいところにポツンといた私に、プロデューサーが声をかけてきた。
 最初、私はプロデューサーさんをナンパだと思ったの。それで虫の居所が悪かったのもあって、
 めいっぱいつれなくしてあげた。『怒らせても構わない。どうにでもなれ』って、捨て鉢になってた」

あの奏さんが、捨て鉢に……となると、相当のことがあったのでしょう。

それもそれで気になりますが、彼女に話す気が無い……と見えたので、
私はその点については流すことにしました。




「プロデューサーさんは、動かなかった。
 私が、いくらひどい言葉をぶつけても、『立ち去って』って言っても、全然。

 そして、プロデューサーさんは返事の代わりに、名刺を一枚渡してくれた。

 それで初めて、アイドルにスカウトされてると気づいた。
 この人は、遊びでやってるんじゃないんだって」



「奏さんは、その時のプロデューサーさんの真剣さに絆(ほだ)されて……?」
「あ……いいえ、まだ……相手もお仕事だって分かったから、とりあえず感情的になるのはやめたわ。
 でも、私はアイドルなんて柄じゃない、って思ってたから」

ここであっさりと『でも、私はアイドルなんて柄じゃない』と考えられる……
そこから、奏さんがこの手のスカウトを断り慣れていることが察せられます。

「……そこでも、断ったのですか」
「ええ。はっきり言うのが礼儀と思って、スカウトに応じる気はありませんって、そう言ったの」






「それでも、プロデューサーさんは粘ってきた。
 いつの間にか黄昏は終わり、あたりも暗くなってて……
 プロデューサーさんったら、こんな鼻持ちならない女子高生に、いつまでも立ち話して……」

私は、夜陰に包み込まれた奏さんを思い浮かべました。

もしかして、プロデューサーさんが奏さんに、夜をイメージした衣装や仕事を多く取ってくるのは、
口説き落としたシチュエーションを踏まえているのかもしれません。



「私、大人びているとよく言われるけど、実は見た目より少女趣味なの。
 ファーストキスとか、映画みたいな恋愛とかに夢見ちゃったり……
 
 だから……誰かに、特別な目で見てもらいたいって思ったりも、する」

そして奏さんが、しばしば『期待に応えたい』という言葉を口にするのは、
この少女趣味が根幹にあるのでは……とも、私は考えました。







「私が拒絶して、それにプロデューサーさんが食い下がるたびに、
 『ああ、この人はもしかしたら……』って気持ちが、少しずつ大きくなって……

 ……月が登り始める前に、私は根負けしちゃった。3時間ぐらいだったかな?

 たったそれだけで、この人の下でアイドルに……なんてやる気出しちゃうなんて。
 私って、軽いわね。自分が前にフッちゃった男の子を笑えないわ……」

奏さんは、言葉では自虐していましたが、
表情はむしろ誇らしささえ感じさせる微笑を浮かべていました。



「それにしても……本当に、プロデューサーさんは……粘り強いにも程があるわ。
 高校生の私と違って、とっても忙しいのに、あんなに時間使って……」
「…………」



「……私がプロデューサーさんの立場だったとしても、たぶん食い下がってますね」
「それは……また、どうして?」



「奏さんが……口でいくら拒絶していても、足がその場を立ち去ってなかったのでしょう。
 それで、脈が残っていると分かりますもの」
「…………」











「そういえば奏さんは、この間プロデューサーさんと宣材写真を撮影に行った時、
 一番自信のある顔だ、って言って、キス顔を見せたそうですね……?」
「…………」



「奏さんは、口よりも行動で本心を語る方のようですから……それは、つまり」
「いや、文香、ちょっと待って」



「プロデューサーさんが、本当にキスしてきたとしたら……どうでしょう?」
「…………っ」










「ふふ……奏さんの真っ赤な顔、見ることができました」
「……人を弄ばないでちょうだい、文香」



「お仕事の時は、私だけあなたに赤面を見られてしまいましたから……
 これでおあいこ、ですね」
「…………もうっ」




(おしまい)




※『Hotel Moonside』歌:速水奏(試聴)
https://www.youtube.com/watch?v=kU5ii7DAyxU

※『Bright Blue』歌:鷺沢文香(試聴)
https://www.youtube.com/watch?v=67bgK3LMkD4

CD好評発売中 みんな買おう聞こう!
Hotel MoonsideはLIVE版も人気です







●過去作(奏) 今回とつながりはないですが、よろしければ

速水奏「ルージュになりたい」 ※百合注意
速水奏「ルージュになりたい」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419079429/)

速水奏の場合【R-18】
速水奏の場合【R-18】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429456490/)




●過去作(文香) 同上

鷺沢文香「百薬の長でも草津の湯でも」
鷺沢文香「百薬の長でも草津の湯でも」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426413589/)

文香「もしも美嘉さんが」志希「あたし達のおねえちゃんだったら!」
文香「もしも美嘉さんが」志希「あたし達のおねえちゃんだったら!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436714850/)

文香「包容力が欲しい?」志希「うん!」美嘉(えっ?)
文香「包容力が欲しい?」志希「うん!」美嘉(えっ?) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439724231/)

モバP「15年ぶりの鷺沢文香」
モバP「15年ぶりの鷺沢文香」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451754190/)






南無八幡大菩薩、我が国の神明
日光の権現、宇都宮、那須の湯泉大明神、千川ちひろ大明神
願はくは奏をむかへさせたまへ
これを損ずるものならば、筆折り廃業して、人に再び担当を名乗るべからず
いま一度本国へむかへんとおぼしめさば、この矢はづさせ給ふな




ご報告


http://i.imgur.com/fzqOQbX.jpg
http://i.imgur.com/bHgRvNU.jpg
http://i.imgur.com/FDsHoYg.jpg


千 川 ち ひ ろ 大 明 神

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom