貴音「天の川」 (157)




「逢いたい……」






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期待



───
─────



○○県 渓流



「よしっ!釣れたぞ!」

俺は今、学校の休みを利用して渓流釣りに来ている

そもそも就職も決まっていないのに、こんな事している場合ではないのだが……

「う~ん、少し小さいな……」


渓流釣りでは場所にもよるが、15センチ以下の魚はリリースするものだ

「次はお前のお父さんを連れてきてくれよ?」

そう言って俺は少し魚を川に戻そうとしていた



「何をしているのですか?」



驚いた。こんな場所と言ってはなんだが

およそこの場の雰囲気に合わない美少女がそこにはいた


「え?」

「何をしているのですか?」

「川で洗濯しているように見えるか?」

少女は少し悩んでいる様子だ

「魚を釣ってるんだよ」

「はて?私には釣った魚を逃がしたように見えましたが?」

少女はきょとんと大きな眼をぱちくりさせていた

宝石のような吸い込まれそうな瞳だ……


「小さい魚は逃がすのがルールなんだ」

「なるほど……」

そう言うと、少女は俺の横にしゃがみ込んだ
一体この子はなんなんだろう……

「何をしてるんだ?」

「待っています」

「は?」

「魚が釣れるのを待っています」


「危ないぞ?」

針をちらかせて言うが、動く気はないようだ
というか待つってなんだ?
俺は少女に気を遣いながらロッドを振った

「うーむ」

魚がかかるのを待つ間、俺は横にいる少女を見ていた……


長い銀髪に、切れ長で大きな瞳。背丈も結構高いかな?
そして出るとこは出ていて、締まるところは締まっている
雰囲気もどこかミステリアスな感じだ……
少女と言ったが年上にも見えるし、あどけなさも残っている

「不思議な子だな……」

「はて?」

少女が不思議そうな顔で首をかしげると
ロッドが大きくしなった


「うお!でかいぞ!」

俺は川に引っ張られながら、かかった魚と格闘をする

「よし!」

しかし引っ張りあげた瞬間に糸が切れてしまい
俺は尻もちをついてしまった


「いてて……」

「大丈夫ですか?」

少女はそっと手を差し伸べてくれた

「あ、ありがとう」

なんだこれ?凄いいい匂いがする!
それに女の子の手って柔らかいんだな……

「ふふっ」

「恥ずかしい所見せちゃったな……」

「いえ、とても楽しませていただきました」

そう言って少女は俺に微笑みかけた


「ではそろそろ私は失礼いたします」

「今度は釣れる所を見せるから!」

「ふふっ、楽しみにしております」

そう言って少女は去って行った
本当に不思議な子だったな……

「しまった!連絡先をちゃんと聞いておけばよかった!」


───




都内某所




「はぁ……このままだとまじでやばいぞ……」

もう卒業間近だというのにこのままでは不味い
就職浪人まっしぐらだ

「そこのキミ!何といい面構えだ。ピーンときた!キミのような人材を求めていたんだ!」

「え?」

突然全身が黒い人に声をかけられた
こうしてあっさりと就職先が決まったのだ


───




765プロ



「おっほん!諸君、この765プロに待望のプロデューサーがやってきたぞ!」

「は、初めまして!精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」

俺は大学を無事卒業し、この765プロに就職した
ここは芸能プロダクションであり、様々な個性のアイドルがいるらしい

「ふんっ!本当にこんなのがプロデューサーで大丈夫なのかしら?」

「い、伊織ちゃん!」

本当にやっていけるのか心配になってきたぞ……



「お先に失礼します!」

なんとか無事に初日の業務は終わった
と言っても殆ど顔見せ程度だったのだが……

この765プロのアイドルはまだデビュー直後で全員駆け出しである
そしてこれから全員でトップアイドルを目指していくのだ

「でも俺テレビ見ないから、そういうの疎いんだよなぁ……」

だが芸能事務所に入ったんだから勉強しないとな!
だけどその前に腹ごしらえと行きますか

「どこかいい店はないかなぁ……」


「あれはラーメンの屋台か……決まりだな!」

遠目に見えたラーメンの提灯に向かって歩いていくと
俺は信じられない光景を目の当たりにした

「おや?ご無沙汰しております」

銀色の髪のミステリアスな少女
間違いない。数か月前に逢ったあの時の女の子だ

「ど、どうしてここに?」


「夕餉の場所を探していた所、もしやと思い声をかけたのですが」

「俺もまさかこんな所で逢えるとは思ってなかったよ」

「ええ、まことに……」

こんな偶然があるとは思ってもみなかった
てっきりあの川近くの地元の子か、別荘に遊びに来ていた女の子だと思っていたからだ

そういえばこの子、夕餉って言ってたよな

「えっともう食べたのか?」

「いえ、まだですが……」

「なら……」



良スレの予感


女の子を誘うのもなんだが……

「らぁめん…ですか?」

「え!?知らないの!?」

「恥ずかしながら」

渓流で知らない男に話しかけたりで
浮世離れしていると思ったけど、まさかここまでとは……

「よし!おじさん二人ね!」




「何にする?って言ってもわからないのか」

「はい」

「じゃあラーメン二つで!」

「あいよ」

おじさんがそっけなく返事をして
ラーメンを作り始めた




「お待ちどう」

カウンターに二つのラーメンが並ぶ

「いただきます!」

「いただきます」

でもこの子に勧めといて不味いラーメンだったら申し訳ないよな
そう思いながらラーメンを啜ってみる

「う、美味い!」

大当たりだ。屋台のラーメンはあまり来ないけど
こんな美味いラーメンは初めてかもしれない



「どうだ?ラーメンの味は?」

なぜか俺は得意げに聞いてみる

「め、面妖な……」

あれ?震えてる?
もしかして口に合わなかったのか

「だ、大丈夫か?」

「こんな美味なものを食べたのは、生まれて初めてでございます!」

大げさだな……と思ったけどこのラーメンは確かに美味い
最初に食べたのがコレじゃあしょうがないよな


「ごちそうさま!」

「ごちそうさまでした」

「まいど」

いやぁ、美味かった
女の子と席を並べて食事
仕事の疲れが吹き飛ぶ勢いだ


「あの、奢っていただきありがとうございました」

「気にしなくていいよ。一応社会人だし」

とは言っても今日が初日だったのだが
それに女の子に奢ってもらう訳にもいかないし

そういえば女の子とは言うけど前見たときより大人びて見えるな
前は少女っぽい白いワンピースを着てたからか?

どちらにせよ今見るこの子は美人という方がしっくりくる気がする
765プロのアイドル達にも引けを取らないぞ


「そういえばお仕事は何をなさっているのですか?」

「えっと、芸能プロダクションで働いているんだ」

「芸能プロダクション?」

「765プロっていう所なんだけど……そこでプロデューサーをやっている」

「765プロ……」

待てよ?こんな美人を放っておくのは勿体無いよな?
スカウトっていう奴してみるべきではないか
まだ初日の新米だけど……


「そういえばまだ名前を聞いて無かったよな」

「まだまだ私も精進せねばなりませんね……」

「ん?」

「いえ、食事まで奢っていただいたのに名乗るのが遅れて申し訳ございません」

そういって彼女は答えた



「四条貴音と申します」





こうしてお互い挨拶をして別れた
もっとも、彼女がさっきのラーメン屋に入っていたのは気のせいだとは思うが……

四条貴音か……また逢えるといいなぁ

いや、とりあえず明日からの仕事に集中しないとな

「目指せトップアイドル!!」


───




働き始めてから何日かが経った

「プロデューサーさん、出前を取りますけど何か頼みます?」

「えっと、じゃあラーメンをお願いします」

「はい!」

「ありがとうございます。音無さん」

この事務員の人は音無小鳥さんといって18歳らしい
年齢の割には、なんというか色気があるよな……あと太腿とかたまらん

まぁ、とにかく自己紹介で18歳と言っていたのだからそうなのだろう


そういえばラーメンで思い出したけど、貴音は元気かな?




──



「四条貴音さんか…良い名前だな」

「ありがとうございます。それから貴音で結構ですよ?」

「そうか?じゃあそう呼ばせて貰おうかな」

「ふふっ、是非」


「では私はそろそろ失礼します。本日はありがとうございました」

「もう結構暗くなってきてるけど、家まで送ろうか?」

「ありがとうございます。ですが、私にはまだ少し野暮用がありますゆえ……」

「そうなのか?」

「はい。ではまた近いうちに」

「じゃあ、気を付けて」



「ん?近いうち?」



───







「プロデューサー!食事が届いてますよ!」

「え?あ!すまない律子!」

「しっかりして下さいね?」

いかんいかん。少しぼーっとしてたみたいだ

ちなみにこの子は秋月律子といって、俺と同じプロデューサーだ
元々はアイドルと事務員と学生という三足の草鞋を履いていたらしい

今は引退してプロデューサーに専念している
俺が入るまでは一人でプロデューサー業をやっていたというから凄い

「でも勿体ないよな」

「何がですか?」

「いや、独り言だよ」

元アイドルというだけあってやっぱり可愛いよな
あとスーツに隠れてるけど、絶対着やせするタイプだこれ……


「あのぉ……プロデューサー。お、お茶ですぅ」

「あぁ、ありがとう雪歩」

「は、はぅ……」

この子は萩原雪歩という

男が苦手で、近づくと緊張してしまうらしい
それでもなんだかんだでお茶を淹れてくれる

結構勇気あるのかな?

「うむ、美味い」

「親父くさいですよ?」

「まだ若いだろ?ねぇ音無さん?」

「そ、そうですね……さて、仕事仕事!」

「?」


「ねぇ、雪歩!これボクに似合うと思わない?」

「え?ま、真ちゃんには似合わないよ!」

「ピンクのフリフリで可愛いと思うんだけどなぁ。プロデューサーはどう思います?」

「そ、そうだな」

「ですよね!へへっ、やーりぃ!」

この子は菊地真という

デビュー間もないのに女性人気が凄く、真王子とか言われてるらしい
なんで女性人気なんだろう。こんなに可愛いんだけどなぁ?

服のセンスはノーコメントで……


「あれ?」

「どうしたんですか?プロデューサー?」

「真!ちょっとその雑誌見せてくれ!」

「いいですけど」

「すまない!」


さっき真が見せてくれた隣のページを見て目を疑った

「あぁ、プロジェクト・フェアリーですか?」

律子が隣のデスクからそう言った

「プロジェクト・フェアリー?」

「961プロのユニットですよ。この子達とほぼ同期のライバルです!」

プロジェクト・フェアリー。三人組のユニットらしい
星井美希と我那覇響。そして四条貴音だ

「……貴音」

「プロデューサー?まぁ、とにかく覚えといてくださいね!」

「あぁ、覚えておくよ」

というより忘れようってのが無理な話だよな……

ぴよちゃん年齢鯖読んでるな…


「戸締りは大丈夫です」

「ありがとうございます!じゃあ飲みに行きましょうか!」

「あれ?音無さんは未成年じゃ?」

「小鳥さん?」

「おほほっ!冗談ですよ!そ、それではまた!」

「ったく……それじゃあ私も失礼しますね」

「あぁ、お疲れ」

なんだったんだ一体?
……とにかく帰るか


今日はなんか疲れたな……
やっと仕事にも慣れてきたところなのに
プロジェクト・フェアリーだもんな

「……」

それにしても腹が減ったな
何か食べていくか

「あ!あのラーメン屋は!」

あの赤提灯の屋台。間違いないぞ

……昼間もラーメンを食べた気がするけど


「おじさん一人ね!ラーメン大盛りで!」

注文して席に腰を下ろす
隣になんか見覚えのある姿が……

「おや?やはりまた逢いましたね」

確かに近いうちにとは言ってたけどさ
こんないきなりとは思わなかったよ

「貴音!?」

「ごきげんよう。プロデューサー」


「ここで何をしているんだ!?」

「はて?山で芝刈りをしているように見えますか?」

「いや、そういう訳じゃないけどさ……」

「らぁめんを食べているのですよ」

「見ればわかるよ!!」

相変わらず掴みづらい子だな……

そうこうしてるうちにラーメンが出来たようだ
とりあえず食べてからにしよう

「いただきます!」


「やっぱり美味いな!」

「ええ」

「何杯目?」

「まだ3杯目ですが」

「そうか」

……考えるのはよそう


「ごちそうさまでした!」

「まこと、美味でした」

今回も俺が払うことにした
給料日まで先が長い……

それよりも聞きたい事があったのだ

「貴音」

「はい?」


「961プロの四条貴音ってさ」

「おや?やっと知っていただきましたか」

「やっぱり貴音か……」

「私もあなたが765プロでプロデューサーをやっていると聞いて驚きました」

「まぁ、商売敵だもんな……。ん?まさか近いうちにってそういう意味だったのか?」

「いえ……」

「?」

「それは……トップシークレットです」

そう言って貴音は人差し指を口元に持っていき、そっと微笑んだ
……俺はその姿に思わず見惚れてしまっていた


───




あれから三か月程が過ぎて
俺もなんとか一通りの仕事はこなせる様になっていた

765プロのアイドル達もオーディションに受かるようになり
着々と仕事も増えていった

皆が皆、個性の塊だからな
当然の結果であろう

「プロデューサーさん!クッキーですよ、クッキー!」

「あぁ、ありがとう春香」

「いえ!あっ、お茶でも用意しますね!…ってうわっ!」

どんがらがっしゃーん

「……」

この子は天海春香といって、頭のリボンが似合う子だ
お菓子作りが得意で、よく作ってきて貰っている
何もない所でよく転ぶが、なぜか絶対にスカートの中は見えないのだ

「えへへ」

この世界の美希は最初から961なのか?


「あっ、プロジェクト・フェアリーだ」

春香がテレビを見ながらつぶやく

プロジェクト・フェアリーの勢いは最近とどまるところを知らない
仕事を覚えてきたからこそ、この凄さがわかる

「貴音か」

あれから貴音とは何回か顔を合わせている
あのラーメンの屋台がある日に、なぜか遭遇するのだ
とはいえ、たわいもない話をしているだけなのだが

「プロデューサーさん?」

いかんいかん
プロジェクト・フェアリーは倒すべき相手だ
私情は挟まないでおこう。四条だけに……

質問に答えてくれよ…






「おじさん、ごちそうさま!」

「まこと、美味でした」

今日も屋台で貴音と遭遇した
そして貴音と夜道を歩きながら話す

「もうすぐ七夕の時期ですね」

「七夕か」

「はい。星が沢山見れたら嬉しいのですが」

「いつも七夕は雨だからな」

>>46
小学生かよ…

>>48
大人(笑)かな?


「月は毎晩のように見ているのですが……」

確かに貴音って月が似合うよな
特に理由とかは無いんだけど

「星は数えるほどしか見たことがありません」

「星ね」

「一度でいいので、天の川を見てみたいものです」

見たことが無いなんて意外だな
雑誌に天体観測が趣味って書いてあった気もするけど


「じゃあ、行こう」

「え?」

「天の川。七夕の日に天の川を見に行こう!」


───




7月7日、晴れ

上手い事休みの取れた俺たちは、最初に出会った渓流に来ている

「貴音!見てみろよ!」

「お見事です!」

「前に言っただろ?釣れるところを見せてやるって!」

「ええ」

貴音はくすくすと笑う
なんだかんだ言ってもまだ十代の女の子だもんなぁ





「このような色々な体験が出来て、驚いております」

アウトドアが趣味だったからな
喜んで貰えたなら満足だ

「プ、プロデューサー!この魚は大変美味でございます!」

結局一匹しか釣れなかったけどな……
貴音はバーベキューに舌鼓のようだ

「てかどれだけ食べるんだよ……」

「はて?」


食事も終わったし、だいぶ暗くなった
そろそろ頃合いかな……

「貴音」

「なんでしょうか?」

「目を瞑ってくれ」

「え!?あ、あの……突然何を?」

「いいから」

「なんというか……心の準備がまだ……」

「?」

「そ、その……初めてなので優しくしてください……」

そう言って貴音は目を瞑った
初めてなのは前に聞いたって


俺はこの間に焚火の火と、ランプの光を消した

「貴音」

「は、はい」

「目を開けていいぞ」

「え?」

なぜか驚いていたが
貴音はゆっくりと目を開いた


「わぁ……」

貴音は空を見上げて
表情は満面の笑みに変わっていく

「あなた様」

「俺?」

「ありがとうございます」

喜んで貰えたのかな?
それなら来た甲斐があったものだ



俺と貴音は並んで腰かけた



「私の故郷では月は見えても、星はこのように見えませんでした」

「ん?」

「そして、こんなに素晴らしいものを19年間気付かずに過ごしておりました」

「……たかが19年じゃないか」

「え?」


「7月7日はまた来るし、天の川はずーっと無くならないからさ」

「あなた様……」

「来年もきっと見える。一緒に見るって約束しよう」

「はい!」



「なんで泣いてるの!?目にゴミが入った!?」

「あなた様はいけずです……」


───




あれから、さらに月日が流れた
765プロのアイドル達はさらに有名になっている

「ちょっと亜美!早く行くわよ!」

「うあうあ→待ってよ!いおりん!」

「あれ?あずさは?」

「また迷子だYO!」

律子がプロデュースした竜宮小町は今や、
プロジェクト・フェアリーに迫る勢いなのかもしれない


「もうしっかりしてよ!」

水瀬財閥の令嬢で、水瀬伊織
自分の力でトップアイドルになって家族を見返したいらしい
踏まれたい

「あらあら~?」

大人の色気がむんむんの、三浦あずさ
運命の人を探してアイドルになったらしい
よく迷子になるが、探すのはもうお手の物だ

「あずさお姉ちゃん!どこに行ってたのさ!」

双子のアイドルの妹で、双海亜美
いたずら好きで二人揃うと手に負えない
意外にエコが趣味らしい


この竜宮小町の躍進もあってか、
今度大きなライブを開くことになった

……言っておくが俺のプロデュースした子達もちゃんと売れている



「兄ちゃん!遊ぼうYO!」

「仕事中だ!」

双子のアイドルの姉で、双海真美
亜美より少し思春期に差し掛かっている
せくちーしだれ梅



「プロデューサー。少し聞きたいことがあるのですが……」

この子は如月千早といって、歌に対してとてもストイックだ
CDの売り上げも竜宮と対をなす
だがもう少し、食への関心を持たせた方がいいな
今度ラーメンに連れて行こう


「プロデューサー!いつものやりましょうー!」

「おう!いいぞ!」

「うっうー!いきますよー!ハイ、ターッチ!」

「「イェイッ!!」」

この子は高槻やよい、大家族の長女だ
見る人全員を幸せにしてくれる元気いっぱいの女の子だ

さて、竜宮を除いたら全員いるかな
ライブ開催について説明しなきゃな






「凄いよ雪歩!」

「うん!」

「ライブですよ、ライブ!」

「開催はクリスマスなのね」

「ゆきぴょんの誕生日じゃん!」

「おめでたいですー!」


みんな嬉しそうだな
頑張ってきたもんな……
ってしみじみしてる場合じゃなかった





「あー、ライブまで律子並みにビシバシ行くから覚悟しとけよ?」

「そんなのキョーボーだYO!」

「横暴だろ?とにかく俺がずっと付っきりで見るからな」

「え?」

なんだ?みんなの目の色が変わったぞ
なんか後ろに炎が見える
地雷踏んだか?

そして全員が口を揃えて言った

「がんばりますっ!!!」







「はぁ……」

「どうしたんだ貴音?ため息なんかついて」

「なんでもありませんよ。響」

「なんか恋してる乙女って感じなの」

「な、何を言っているのですか!美希!」

「なんか貴音かわいいの!」


「キミ達ぃ、ちゃんと話を聞いていたのかね?」

「聞いてなかったの」

「……」

「あはっ☆」

「まぁいい。結果を残せば文句はない」

「自分達は完璧だからな!」

「では本日は解散だ。あと貴音ちゃんだけ少し残ってくれたまえ」

「わかりました」


「なぜ残されたのかわかるかね?」

「いえ」

「最近どうも調子が良くないみたいじゃないか」

「そのような事はありません」

「確かに素人目から見ればわからないだろう」

「……」

「しかし我々のようなプロが見れば一目瞭然だ」

「……何が言いたいのですか?」


「……まぁ、いいだろう。今後も最高のパフォーマンスを見せてくれたまえ」

「わかりました」

「ウィ。お疲れ様」

「失礼いたします。黒井殿」




「……黒井だ」



───







「店主殿。らぁめんを大盛りでお願いします」

「あいよ」

「ありがとうございます」



「久しぶりだな貴音」

「あ、あなた様!」


「よう」

「お久しぶりですね」

「座れば?」

「はい」



なんでこんなに嬉しそうなんだ?
どれだけラーメン食べたかったんだよ……


「最近は忙しいのですか?」

「年末にライブがあるからな。そのレッスンやら事務処理とかで休む暇がないよ」

「そうですか」

「それにうちの子達に結構付っきりだからな」

「む?」

「なんで膨れてんの?」

「なんでもありません!」


「そういえば貴音と現場で会った事ないな」

「確かにそうですね」

「美希や響は結構会うんだけどなぁ」

「そ、それはまことですか!?」

「ああ。それにうちの子とも仲が良いみたいだぞ?もちろんライバル意識はあるみたいだけど」

「それは私もよく彼女達とは談笑いたしますが……ではなくてですね!」

「ん? あぁ、でもフェアリーに負けるつもりはないぞ?」

「そ、それは私達も同じでございます!……あ、店主殿おかわりをお願いします」






「そろそろ寒きなってきたし、送るぞ?」

「お気持ちはありがたいのですが、大丈夫ですよ」

「そうか?」

「ええ。ここから近いので」

「じゃあ、気を付けて」

「あなた様もどうか」



俺もすっかりスカウトとか忘れてたな
他の事務所に所属してるからどっちにしろ無理だったけど



「……」






「ウィ。私だ」

「旦那!言われた通り尾行しましたが、面白いものが撮れましたぜ!」

「そうか。では先に私に見せるのだぞ」

「へい!わかってますって!」

ドリカムか

お姫ちんって18じゃなかった?
1年後なのか

>>76
SSの時間軸がSPぽいからそう考えたら17じゃないか?

俺は出会ったのが普通に18才で1月に誕生日を迎えて19才になったと思ってるけど。

作中1年以上経ってるっぽいし

>>75の通りだったら>>78がしっくりくる


───




「こらっ!ハム蔵ダメだぞ!」

「ふふっ」

「今日の貴音は昨日とは違って楽しそうだね!」

「そのような……いえ、そうかもしれませんね」

「美希!手伝ってくれー!」

「眠いからパスなの。あふぅ……」








「これが昨日の写真ですぜ、旦那」

「こ、これは!貴音ちゃんと忌々しい765プロの三流プロデューサーではないか!」

「へい」

「どういう関係なのだ?」

「詳しい事はわかりやせんが、仲睦まじそうなのは確かでしたぜ」

「ふむ……あの貧乏事務所は最近調子に乗って、どうしたものかと思っていたのだが……」

「どうしやすか?」

「この写真を上手い事利用して……そうだ!この手でいこう!」

「お?」

「はーはははっ!見ていろよ高木!!」


───




765プロのライブが目前に迫っている中
突然に事件は起きたのだ



「おはようございます!」

「あ、プロデューサーさん!社長からお話があるそうなんですけど……」

「社長が?なんだろう?」

「私も詳しい事はちょっと……とりあえず社長室へお願いします」

「わかりました。ありがとうございます音無さん」








「おっほん、来たかね」

「おはようございます。それで話というのは?」

「うむ。実は今度発売の週刊誌なんだが」

「週刊誌ですか?」

「どうやら君と961プロの四条貴音くんの事のようなんだ」

「な!?」


迂闊だった……
人気絶頂のアイドルが男と会っている
しかも他社のプロデューサーだ
やましい事はないが……週刊誌には恰好のネタだ



「それで……内容というのは?」

「キミが何か強引な手を使って四条くんを引き抜こうとしているという内容だね」

「そんなことは!!」

「落ち着きたまえ」

「くっ……」

「それを含めて765プロ自体が不正を行っているという事らしい」

「そんなバカな話がありますか!」




「大体犯人の目星は付いているよ」

「え?」

「犯人は961プロの黒井だろう」

「961プロですって!?」

「うむ。実は彼とは昔からの知り合いでね……少し確執もあったのだよ」

「……」

「それにキミと四条くんの関係を詳しく知らないが、恋愛関係に絡めてこなかったようだ」

「それは……」

「自社のアイドルのスキャンダルでは無く、被害者として利用するみたいだね」

支援


「とりあえずこの件は私に任せておきたまえ」

「すみません……俺の所為で……」

「確かに今回はキミが切っ掛けだったが、いずれ何かしら理由をつけて仕掛けてきたはずだ」

「それでも……責任を」

「おっほん!」

「!?」

「では今回の罰として、なんとしてもライブを成功させて貰おう!」

「社長……」

「これは社長命令だよキミ?」


「それにキミはアイドル諸君に心配をかけたいのかね?」

「そんな事はっ!!」

「ではよろしく頼んだよ?」

「……はい!!」




───




「なぜ週刊誌に記事が載っていないのだ!!」

「あっしにもサッパリです」

「高木の奴め小癪な真似を!」

「とりあえずあっしは失礼しやすね」

「二度と顔を見せるんではない!!」



「私だ。貴音ちゃんを呼びたまえ!」






「何かご用でしょうか?黒井殿」

「……どうやら765の三流プロデューサーと逢引きをしているようだね」

「そのような事は」

「隠しても無駄だ。本来ならば今日の週刊誌に……まぁ、いい」

「……」

「今後は奴との接触を禁ずる」

「な!?」

「立場を弁えたまえ!普通に考えてスキャンダルだ!」

「……」

「話は以上だ。行きたまえ」

「……失礼します」




「忌々しい765プロめ!」

「これで貴音ちゃんのネタはもう使えないだろう……」

「ならば予てからの通り、例のプロジェクトを進めるとしよう」

「くくくっ、私のフェアリーに小細工などいらん!」

「見ていろよ高木!実力の違いを見せてやる!!」

「はーはははっ!!」



───



───




あれから961プロの妨害は無い

例の写真は高木社長のおかげで公開されることは無かった
感謝してもしきれない

迷惑をかけた分、俺はこの事務所の為に頑張ってきた
もちろんアイドル達と二人三脚だ



そしていよいよ765プロのオールスターライブのに日がやってきた


「みんなの頑張りのおかげでここまでこれた!ありがとう!」

「これもプロデューサーさんが来てくれたからですよ!」

「え?」

「最初は頼りなかったけどね→」

「うぐっ」

「でもみんな感謝してるんですよ~?やっぱり私の運命の……」

「あずさ!あ、あんたこのタイミングで!」

「?」

「亜美!真美!あずさの口を塞ぐのよ!」

「抜け駆けですよ!抜け駆け!」









「と、とにかくみんな一応アンタには感謝してるわよ!」

「わたしもお兄ちゃんが出来たみたいかなーって!」

「私もこうやって歌える機会を貰って……ありがとうございます」

「みんな……ありがとう……」

「プ、プロデューサー殿!?」

「なんで泣きそうなんですか!?」

「なんか嬉しくて……」

「ライブはこれからだYO!」



「そ、そうだよな!みんな頑張ってこい!!」





「じゃあ、みんな準備はいい!?」

「ええ!」

「もちろんっしょ→」

「へへっ!当然!」

「が、頑張りますぅ」

「うっうー!元気いっぱいですよー!」

「アンタ達!この伊織ちゃんの足を引っ張るんじゃないわよ!」

「うふふっ」

「りっちゃん早くしてYO!」

「なんで私まで……」




「それじゃあ行くよ!765プロ~!ファイトッ!!」

「オーーーッ!!!」




もう伏目がちな 昨日なんていらない

今日これから始まる私の伝説

きっと男が見れば他愛のない過ち

繰り返してでも──






「素晴らしいじゃないか、彼女たち」

「社長……」

「短い期間で良くやってくれた。ありがとう」

「みんなのおかげです!特に社長にはご迷惑を……」

「あれくらいの事はこの業界にいれば珍しくはないからね。大した事ではないよ」

「……」

「それにキミ達にはまだまだ上に行って貰わないと行けないからね」

「……はい!」



───




「雪歩!誕生日おめでとう!」

「み、みんな!ありがとう!」



無事にライブも終わり、今は事務所で雪歩の誕生会だ
……あれだけ動いたのにどこにそんな力が残っているのだろう


「誕生日&クリスマスケーキですよ、ケーキ!」

「ほら雪歩!あ~ん!」

「あ、あ~ん」

「まるで恋人みたいね真と萩原さん。……あっ」



「……」


ざわ・・・
    ざわ・・・



「あれ?皆どうしたんだ?」



「……プロデューサーさん」

「ど、どうしたんですか音無さん?」



なんでこんなに静まり返ってるんだ?
まさか俺なんかやらかしたのか!?



「プロデューサーさんは彼女とかいないんですか?」

「え?」



「クリスマスだし、この後は誰かと何か予定があるんじゃないかと思いまして……」



『あなた様』

……彼女、か
貴音とは恋人って訳ではないが
写真の件以降一度も逢っていない

逢いたくないと言えば嘘になるが……
もうこの子達や社長に二度と迷惑をかける気はない
下手をすれば俺の所為で、今日この場も……


「ははっ、残念ながらそういう人はいませんよ」

「そ、そうなんですか?じゃあこの後でも……」

「あらあら~小鳥さん」

「グラスが空ですね!向こうでお酌しますよ!」

「ちょ、ちょっと!あずささん!律子さん!引っ張らないでくだ──」

「な、なんだったんだ……」





なんであんな事を聞かれたかわからないけど……



「せっかくライブも大成功したし、雪歩の誕生日なんだ!パーッとやるぞみんな!!」

「おっ!兄ちゃんいいこと言うね→!」

「といっても明日も仕事はあるから程々にな!」

「うあうあ→言ってることがめちゃくちゃだYO!」



よし!気持ちを切り替えて頑張っていくぞ!
目指せトップアイドル!!



───



都内某所 スタジオ



「うっうー!ありがとうございましたー!」

「お疲れ様でしたー!」



「お疲れ様!伊織、やよい!」

「あ!プロデューサー!」

「アンタ遅いわよ」

「すまん!少し道が混んでてなぁ」

「まぁいいわ。行きましょ」


「お!やよいと伊織じゃないか!おーい!」



「あっ!響さん!こんにちはー!」

「はいさい!って765の変態プロデューサーも一緒かぁ」

「誰が変態だ!!」

「あら?間違ってはいないんじゃないかしらぁ?」

「お前らなぁ……というか響も仕事か?」

「当たり前だぞ!今日は……」




「響?そちらにいらしたのです──」



「おーい!貴音ー!こっちだぞ!」

「貴音さん!こんにちは!」

「久しぶりね」

「え、ええ。ご無沙汰しております」



「……」

「……」



「うー?プロデューサー?」

「どうしたんだ?……あっ!二人は初対面なのか!」


「じ、実はそうなんだ!ははっ」

「……四条貴音と申します」

「765プロのプロデューサーです」

「以後お見知りおきを」

「こ、こちらこそ」



「どこかに行ったと思えば……こんな所にいたのかね」


「あっ!黒井社長!」

「黒井殿……」

「先に車を待たせてある。早くしたまえ」

「しかし……」

「社長命令だ。それにこのままだと三流のオーラが染み付いてしまうからな」

「なんですって!?」

「わかりました……参りましょう響」

「う、うん……じゃあなみんな」


「……伊織とやよいも先に車で待っていてくれ」

「わかったわ。行きましょうやよい」

「……うん」


「キミが噂の765プロのプロデューサー君かね?」

「はい」

「最近は新進気鋭の敏腕プロデューサーと名高いそうではないか」

「……用件はなんでしょうか?」

「おやおや、ご挨拶じゃないか」

「……」




「まぁ、いいだろう。あまりうちのアイドルに近づかないで貰えるかね?」

「変な事は何もしてません」

「そうかな?下手に週刊誌に撮られでもしたらどう責任を取るのだね?」

「そ、それはあなた達が!」

「おや?何の事かはわからないが、証拠でもあるのかね?」

「ぐっ……」


「さて、セレブな私は忙しいのでこれで失礼するよ」

「……」

「そうそう!貴音ちゃんから一つ伝言があったのだ!」

「……貴音が?」

「ウィ。“もう二度と自分の前に姿を現さないでくれ”とな」

「……本当にそう言ってたんですか?」

「当然だろう?では今度こそ失礼するよ。アデュー」




「貴音……」







─────
───




あれから半年以上の月日が流れた

俺も働き始めて1年以上が経ち、忙しい日々が続いている

765プロのアイドル達は昨年末のライブの影響もあってか
今やお茶の間で見ない日は無い程の売れっ子だ





「あー忙しい!」

「嬉しい悲鳴じゃないですか」

「確かにそうですけれでも!あっ!」

「どうしたんですか音無さん?」

「気分転換にラジオ付けていいですか?」

「仕事中ですよ!」

「律子さ~ん!堅い事言わずに~!」

「はぁ……しょうがないですねぇ」

「ありがとうございます!」


「それじゃあポチッとな」

「小鳥さん!ちゃんと手は動かしてくださいね!」

「わかってますよ!」

「プロデューサーもですよ!」

「ははっ、すまんすまん」



「む!プロジェクト・フェアリーじゃないですか!」

「今度は海外進出するらしいですよ」

「負けてられないわね……」

「……」

「プロデューサーさん?」

「な、なんでもないですよ!はははっ」

「だから手を動かす!!」

「は、はい!」

「とほほ……」








「それでは四条さん。インタビューを始めさせていただきます」

「よろしくお願い致します」

「まず四条さんは今度のラジオの公開録音を最後に、しばらく海外に拠点を移すと伺っていますが」

「ええ」



「ウィ、私がお答えしましょう。元々プロジェクト・フェアリーは海外での活動を視野に入れたプロジェクトでして」

「な、なるほど」

「まずは先に貴音ちゃんの海外ソロデビューをはじめとした───」




──




「昼のインタビューは全部社長が答えてたぞ」

「そうでしたね」

「てかもう少ししたら貴音は一足先に海外か~」

「すぐに合流するではありませんか」

「そうだけどさ~」


「貴音ちゃん」

「おや?黒井殿」

「今後について少しミーティングだ」

「わかりました」


「それじゃあ自分は先に帰るね!」

「はい。お疲れ様でした」





「──で以上だ」

「はい」

「今夜は雨が激しいからな。気を付けて帰るように」

「お気遣いありがとうございます」

「では失礼するよ。アデュー」

「お疲れ様でした」





「酷い雨ですね……」





「あなた様……星が見えません……」





─────
───





7月7日



「千早ちゃん。今日の貴音さんのラジオって日本で最後の仕事なんだっけ?」

「確かそうだったと思うわ」

「四条さん凄いですぅ!」

「ゆきぴょんはお姫ちんのファンだかんね→」

「えへへ。で、でも同時にライバルですぅ!」



「……」

「どうしたの伊織ちゃん?」

「な、なんでもないわ」


「アンタ達~?そろそろ良い時間なんだから帰りなさいよ?」

「それじゃあお先に失礼しますね!」

「小鳥さんはまだ仕事残ってるでしょう!」

「ピヨ……」



「それじゃあお先に失礼しますー!」

「お疲れ様!気を付けてな~?」

「はーい!」







「……」

「貴音?台本に目を通さなくて良いのか?」

「ええ」

「そっか」

「ねぇねぇ!ここから見る景色凄いの!」

「高層ビルだからな~」



「貴音ちゃん。そろそろ本番の時間だぞ」

「わかりました」





「なぁ貴音」

「はい?」

「このままじゃダメだと思うぞ」

「え?」

「1年以上一緒にやってきたんだ。貴音がずっと無理してきたってわかるぞ」

「うん!貴音はもう少し素直になった方がいいと思うな?」



「貴音ちゃん。早く準備したまえ!」



「それじゃあ美希たちはもう行くね?」

「頑張るんだぞー!」



「……」








「それじゃあサクッと終わらせちゃいましょうか」

「ラジオつけていいですか?」

「またですか?私はいいですけど」

「プロデューサーさんは?」

「お任せしますよ」

「じゃあ遠慮なく!」






「夕立や 一かたまりの 雲の下」



「皆様こんばんは。四条貴音です」



「この放送を最後に、日本の皆様とは一先ずお別れと──」






──




『──それでは聞いて下さい。オーバーマスターです』



「……」

「あら?もうこんな時間じゃない」

「なんとか終わりました!」

「プロデューサー殿は?」

「俺か?もう少しだけ残っていくよ」

「あまり無理しないで下さいね」

「ありがとう律子」


「じゃあお先にあがりますね」

「ラジオはどうしますか?」



「……切って大丈夫ですよ、音無さん」



「わかりました!ではお先ですー!」

「お疲れ様でしたー!」

「気を付けて下さいね!」



「……」



「……さて仕事仕事!」






「──以上が私の幼い頃からの夢でした」



「それでは最後にもう一つお手紙を紹介したいと思います」


「こんばんは貴音さん」

「私は小さい頃から都会に住んでいます」

「貴音さんは今、どんな景色が見えますか?」



「私の目の前には今、天の川が見えます」

「……天の川と言っても、空にでは無く」

「足元にどこまでもどこまでも広がるネオンやライトの流れ」



「都会の天の川は」

「この夜景です」




「都会に住んでいる私には、本当の星なんか」



「……」



「……いりません」




「なぜなら、ここから見る夜景は」

「本当の星よりも」

「綺麗…」



「……綺麗だからです」



「私は7月7日に、天の川を」

「ずっと見たいと思っていました」



「その夢が叶って」

「……こんな素敵な天の川を見ることが出来て」

「私は」



「私は今……」




「おい!貴音ちゃんはどうしたのだ!」

「わ、私に言われましても!」

「貴音ちゃん!次は〝本当に幸せです”だぞ!」



「なぜ台本を閉じるのだ!!」

「黒井社長!落ち着いて下さい!」




「……違います」



「……本当の天の川は、此の様ものではありません」








「やぁ、お疲れ様」

「お疲れ様です。高木社長」

「まだ事務処理が残っていてね。少し失礼するよ」

「あ!コーヒー淹れます!」

「丁度良かったよ。知人から良い豆を貰ってね、私が淹れよう」

「そんな!悪いですよ!」

「私のコーヒーが飲めないというのかね?」

「……いただきます」








「待っている間もなんだから、ラジオでもつけてくれないかね?」

「社長までラジオですか?では少々お待ちを」

「すまないね」



『──ます』



「……チャンネルが音無さんが聞いていた時のままでした。替えますか?」

「そのままで頼むよ」

「……はい」



『……本当の天の川は、此の様ものではありません』






「私が見た天の川は」

「このような作り物ではなく」



「本当の天の川なのです」



「……あの方は言いました」

『7月7日はまた来るし、天の川はずーっと無くならないからさ』





「……あの方と約束しました」

『来年もきっと見える。一緒に見るって約束しよう』






「私は……その方と約束したのに……」



「ずっと思っていました……」



「ずっとずっと思っていました……」


「逢いたい…」



「逢いたい…」



「あの方に……」






「逢いたい……」











ガチャ!!

バタン!!




「……行ったようだね」



「若いというのは素晴らしいな」


気が付いたときには俺は走り出していた

階段を降り、事務所の前に出た時だ
大きなリムジンが目の前に止まった


「プロデューサー!乗りなさい!」

「い、伊織!?なんで!?」

「うるさいわね!いいから早くしなさい!」


「新堂!○○ビルまでお願い!」

「ど、どうして!?」

「アンタと貴音が過去に何かあった事くらいわかるわよ!」

「え!?」

「前にスタジオで鉢合わせしたでしょ?あの態度で気づかない方が変よ……」

「……まじか」

「それにラジオを聞いてたのよ!一応ライバルだしね」



「とにかく急ぐわよ!」




社長わざとラジオつけさせたのか…カッコいいな
これが本当の大人





「もう!なんでこんな時に渋滞してるのよ!」

「申し訳ございません、伊織お嬢様」

「もう少しなのに!」



「ごめん伊織。助かった」



「ちょっと!もう少しっていっても走れる距離じゃないわよ!」

「それでも行かなきゃ」

「……底なしのバカね。今度全部説明して貰うわよ?」

「ああ!」




伊織の言う通り
走れる距離じゃなかったな

……それでも俺は



「使え」

「え?自転車?ってラーメン屋のおじさん!?」

「いいから使え」

「……ありがとうございます!」

「また二人で食べに来い」

「はい!!」






「……」



「……黒井殿」



「ふんっ」



「……!」

「ありがとうございます!」


「あ!四条さんどこへ!」

「やかましい!」

「えぇ!?」



「ラジオの前の皆様、少々お騒がせしました」

「ここからはアイドル業界ナンバー1のナイスミドル貴公子、黒井崇男のオールナイトニッポンを放送いたします」



──




「はぁ……はぁ……」



「はぁ……」












「……貴音」



「……」



「……何してんだよ?」



「……川で洗濯をしているように見えますか?」







「逢いたかった……」





─────
───




数年後 ○○県 渓流

7月7日、晴れ



「今年もこうしてあなた様と見る事が叶いました」

「来年も一緒に見ような」

「はい。ですが2人きりは最後かも知れません」

「え?」

「ふふっ♪」






おわり




ドリカムの「7月7日、晴れ」と同タイトルの映画が元ネタです

面白かった、なんだかんだで黒ちゃんイケメンだから好き
この黒ちゃんなら貴音とかを見捨てることはしないだろうから恋愛を許してくれそう

乙、ラーメン屋の親父カッコ良すぎてワロタ

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