貴音「天の川」 (157)




「逢いたい……」






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○○県 渓流



「よしっ!釣れたぞ!」

俺は今、学校の休みを利用して渓流釣りに来ている

そもそも就職も決まっていないのに、こんな事している場合ではないのだが……

「う~ん、少し小さいな……」


渓流釣りでは場所にもよるが、15センチ以下の魚はリリースするものだ

「次はお前のお父さんを連れてきてくれよ?」

そう言って俺は少し魚を川に戻そうとしていた



「何をしているのですか?」



驚いた。こんな場所と言ってはなんだが

およそこの場の雰囲気に合わない美少女がそこにはいた


「え?」

「何をしているのですか?」

「川で洗濯しているように見えるか?」

少女は少し悩んでいる様子だ

「魚を釣ってるんだよ」

「はて?私には釣った魚を逃がしたように見えましたが?」

少女はきょとんと大きな眼をぱちくりさせていた

宝石のような吸い込まれそうな瞳だ……


「小さい魚は逃がすのがルールなんだ」

「なるほど……」

そう言うと、少女は俺の横にしゃがみ込んだ
一体この子はなんなんだろう……

「何をしてるんだ?」

「待っています」

「は?」

「魚が釣れるのを待っています」


「危ないぞ?」

針をちらかせて言うが、動く気はないようだ
というか待つってなんだ?
俺は少女に気を遣いながらロッドを振った

「うーむ」

魚がかかるのを待つ間、俺は横にいる少女を見ていた……


長い銀髪に、切れ長で大きな瞳。背丈も結構高いかな?
そして出るとこは出ていて、締まるところは締まっている
雰囲気もどこかミステリアスな感じだ……
少女と言ったが年上にも見えるし、あどけなさも残っている

「不思議な子だな……」

「はて?」

少女が不思議そうな顔で首をかしげると
ロッドが大きくしなった


「うお!でかいぞ!」

俺は川に引っ張られながら、かかった魚と格闘をする

「よし!」

しかし引っ張りあげた瞬間に糸が切れてしまい
俺は尻もちをついてしまった


「いてて……」

「大丈夫ですか?」

少女はそっと手を差し伸べてくれた

「あ、ありがとう」

なんだこれ?凄いいい匂いがする!
それに女の子の手って柔らかいんだな……

「ふふっ」

「恥ずかしい所見せちゃったな……」

「いえ、とても楽しませていただきました」

そう言って少女は俺に微笑みかけた


「ではそろそろ私は失礼いたします」

「今度は釣れる所を見せるから!」

「ふふっ、楽しみにしております」

そう言って少女は去って行った
本当に不思議な子だったな……

「しまった!連絡先をちゃんと聞いておけばよかった!」


───




都内某所




「はぁ……このままだとまじでやばいぞ……」

もう卒業間近だというのにこのままでは不味い
就職浪人まっしぐらだ

「そこのキミ!何といい面構えだ。ピーンときた!キミのような人材を求めていたんだ!」

「え?」

突然全身が黒い人に声をかけられた
こうしてあっさりと就職先が決まったのだ


───




765プロ



「おっほん!諸君、この765プロに待望のプロデューサーがやってきたぞ!」

「は、初めまして!精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」

俺は大学を無事卒業し、この765プロに就職した
ここは芸能プロダクションであり、様々な個性のアイドルがいるらしい

「ふんっ!本当にこんなのがプロデューサーで大丈夫なのかしら?」

「い、伊織ちゃん!」

本当にやっていけるのか心配になってきたぞ……



「お先に失礼します!」

なんとか無事に初日の業務は終わった
と言っても殆ど顔見せ程度だったのだが……

この765プロのアイドルはまだデビュー直後で全員駆け出しである
そしてこれから全員でトップアイドルを目指していくのだ

「でも俺テレビ見ないから、そういうの疎いんだよなぁ……」

だが芸能事務所に入ったんだから勉強しないとな!
だけどその前に腹ごしらえと行きますか

「どこかいい店はないかなぁ……」


「あれはラーメンの屋台か……決まりだな!」

遠目に見えたラーメンの提灯に向かって歩いていくと
俺は信じられない光景を目の当たりにした

「おや?ご無沙汰しております」

銀色の髪のミステリアスな少女
間違いない。数か月前に逢ったあの時の女の子だ

「ど、どうしてここに?」


「夕餉の場所を探していた所、もしやと思い声をかけたのですが」

「俺もまさかこんな所で逢えるとは思ってなかったよ」

「ええ、まことに……」

こんな偶然があるとは思ってもみなかった
てっきりあの川近くの地元の子か、別荘に遊びに来ていた女の子だと思っていたからだ

そういえばこの子、夕餉って言ってたよな

「えっともう食べたのか?」

「いえ、まだですが……」

「なら……」




女の子を誘うのもなんだが……

「らぁめん…ですか?」

「え!?知らないの!?」

「恥ずかしながら」

渓流で知らない男に話しかけたりで
浮世離れしていると思ったけど、まさかここまでとは……

「よし!おじさん二人ね!」




「何にする?って言ってもわからないのか」

「はい」

「じゃあラーメン二つで!」

「あいよ」

おじさんがそっけなく返事をして
ラーメンを作り始めた




「お待ちどう」

カウンターに二つのラーメンが並ぶ

「いただきます!」

「いただきます」

でもこの子に勧めといて不味いラーメンだったら申し訳ないよな
そう思いながらラーメンを啜ってみる

「う、美味い!」

大当たりだ。屋台のラーメンはあまり来ないけど
こんな美味いラーメンは初めてかもしれない



「どうだ?ラーメンの味は?」

なぜか俺は得意げに聞いてみる

「め、面妖な……」

あれ?震えてる?
もしかして口に合わなかったのか

「だ、大丈夫か?」

「こんな美味なものを食べたのは、生まれて初めてでございます!」

大げさだな……と思ったけどこのラーメンは確かに美味い
最初に食べたのがコレじゃあしょうがないよな


「ごちそうさま!」

「ごちそうさまでした」

「まいど」

いやぁ、美味かった
女の子と席を並べて食事
仕事の疲れが吹き飛ぶ勢いだ


「あの、奢っていただきありがとうございました」

「気にしなくていいよ。一応社会人だし」

とは言っても今日が初日だったのだが
それに女の子に奢ってもらう訳にもいかないし

そういえば女の子とは言うけど前見たときより大人びて見えるな
前は少女っぽい白いワンピースを着てたからか?

どちらにせよ今見るこの子は美人という方がしっくりくる気がする
765プロのアイドル達にも引けを取らないぞ

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