キノの旅SS短編 「営業力」 (33)

(説明及び注意)
・稚拙なのは承知でお読みください。お持ちのキノやエルメスのイメージと違う場合もございます。
・先の展開が読めてしまい面白くない方もいらっしゃることと思います。実力不足です。すみません。
・誤字脱字ありましたら申し訳ありません。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1418041380

「営業力・b」

「旅人さん、本当にありがとう。」
夕日がオレンジ色に空を染める頃、城壁の前で男が満足そうな顔で言う。

「いえ、構いませんよ。でも本当に良かったのですか?」

「そうそう、キノの料理をあんなに美味しそうに食べて後でどうなることやら。」

「そうだね、たぶん我々の国は近いうちに内紛が起こるだろうね。」

茶化すエルメスを無視した形で男がキノの問いに答える。

「何だ、心配して損したねキノ。」

エルメスに代弁されたキノは少しだけ驚いた表情で男に視線を向ける。

「そりゃあ、私だって実際食べるまではそんなこと考えてなかったよ。けど、あんなに美味いんじゃなぁ、時間の問題だと思うよ。」

「そうですか、それでも国に戻られますか?このまま近くの国に行くことも出来るのでは?」

「他に不満でもあればそれも考えただろうけど、運良く他に不満はないからね、それに、内紛が起きても一瞬さ、国民のほとんどは王族に味方しないよ。」


「ですが、そうならなかったら?」

「あんなに美味いんだから、誰だって一度食べたらまた食べたくなるさ。日常に食べてる人には分からないだろうけどね。」

「ねぇ、おっちゃん、ちなみに学校って行った?」

「学校?どうしてだい?行ってないよ。私にとっては会社の経営やいかに商品を売るかって勉強の方が大事だったからね。」


「なるほどね、ありがとさん。」

「それでは僕たちはそろそろ行きます。」

「あぁ、ありがとう。それじゃあ。」

キノssなんて珍しい期待




見送る男の姿が小さくなった頃、エルメスからキノへ投げかけます。
「ねぇ、キノ。『一度』があると思う?」

「さぁ、どうかな。彼の営業力次第さ。」


「営業力・a」

木々の生い茂る一本道を一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。
空はほとんど見えない。高い木々が両脇に並び、時折野生動物の姿も見える。
モトラドは、後輪の脇に黒い箱を、上に鞄を載せていた。さらに燃料と飲料水の缶をいくつも取り付け、寝袋と共にロープで縛っている。
運転手は、白いシャツと黒いベストを着ていた。鍔と耳を覆うたれのついた帽子をかぶり、あちこちが剥げかかった銀色フレームのゴーグルをはめていた。
腰を太いベルトで締めて、右腿には、ホルスターでリヴォルバー・タイプのパースエイダー(注・銃器。この場合は拳銃)を吊っていた。腰の後ろにもう一丁、自動式を横向きにつけている。


運転手が
「うん、情報通りだ。」
視線の先に見えてきた城壁と城壁よりも高い、国内の建物を見つめ口を開いた。
「どんな国だろうねぇ。」
モトラドが誰に言うでもなく呟く。
「さぁね、行ってみれば分かるさ。」


城壁の前まで来ると、門の脇にある小さなログハウスから散弾タイプのパースエイダーを方からかけた番兵が出てきたので挨拶を交わし、他の国でしてきたように希望を伝える。
「観光と補給で三日間滞在したいのですが。」
番兵は一通りキノとエルメスを見渡した後、明るい表情で、
「やぁ、旅人さん。滞在は許可できますが、いくつか条件がありますので確認を。とりあえず建物の中へ。」

促されログハウスの中に入ると、冬に使うのであろうストーブと、机や椅子だけが目に入る。番兵は真っ直ぐ机に向かうと一枚の紙をキノに手渡す。
「そちらに注意事項などがまとめてあります。了承いただけるならばサインを。審査はそれだけです。」
「分かりました。」


キノが渡された紙に印刷された文章に目を通す。そこには、この国では王族による政治が行われており、菜食主義であり、外部の人間であっても獣肉も魚肉も食べられないこと、また持ち込めないこと。
国民でなくとも、旅人や商人いかなる者も国内ではこの国の法が適応されることが書いてあった。
「質問させてもらってもいいですか?」
「はい、構いませんよ。」
「この国の法律についてですが-」
注意書きを読み終えたキノが、モトラドの持ち込みは出来るか、今まで訪れた国でしてきた過ごし方で問題ないかを確認していく。
「ありがとうございます。問題ありません。入国を希望します。」
「そうですか、歓迎します。我が国での滞在をお楽しみください。」


門をくぐると土を慣らした道の脇に木造の家が並ぶ。離れた位置に一際高い建物が一つ顔を出す。
「あれも木造だとしたら大したものだよ。是非見学したいね。」
「まずは、宿がいいな。今日は、シャワーを浴びて、白いシーツのベッドでゆっくり眠りたいよ。」
「言うと思ったー。」

二日目。いつも通りパースエイダーの抜き撃ちの練習をして、朝ごはんをたらふく食べて、エルメスを叩き起す。
「いつも通りだってさ。失礼だよね、ちゃんと起きてる時だってあるんだよ。」
「さぁ、どうだか。大体誰に言ってるのさ。」
「まぁまぁ、きっとこれぐらいの遊び心は許されるよキノ。」
「なんのことか分からないよ。もう行こう。」



「まいったなぁ。」
宿に帰ってくるなりコートも脱がずにベッドに飛び込むと天井を眺めながらぼやきます。
「あのね、キノ。一応言っておくと、人間は肉がなくても野菜だけで動けるかもしれないけど、モトラドはそうはいかないからね。」
「分かってるよ。分かってるから困ってるんじゃないか。」

宿を出たキノとエルメスはまずお城を見学に行きました。中には入れませんでしたが、お城の前に行くまでの間もエルメスは一人で唸っていました。
まず、お城は住宅の集まりとは離れた場所にありました。建物が見えなくなると、上り坂の傾斜が強くなり、途中に川が一つ。幅は住宅二軒分ほど。橋の幅はモトラド二台分。
何度か一本道のカーブを曲がると、やっとお城の全体が見えました。住宅一軒分よりも高く石が隙間無くびっちり敷き詰められたその上に飾りを付けた二階建ての木造のお城でした。
キノがどうして石が崩れないのか不思議に思っている横で、エルメスはやれ天然の要塞だとかなんとか言いながら石と木だけのお城に感心して、とにもかくにも観光を楽しみました。

問題はその後、燃料や携帯食料の補給をするため買い物に行った時でした。
この国では、自動車やモトラドが大変珍しく、燃料自体がこの国では造れないため、燃料がとても高価だったのです。



「次の国まで押して歩いてくれる?」
「それは嫌だなぁ。でも、エルメスを高く買ってくれる人がいるかも。」
「ひどいなぁ、大体それじゃ本末伝統ってやつだよ。」
「本末転倒?それもそうだね。」
「そうそれ!」
本当に困っているのか分からないような会話をしていた時でした。
コンコン-


ドアをノックする音が響きました。
「はい、なんでしょう。」
ベッドから降り、念のため腰のパースエイダーに手をかけて答えます。
「おくつろぎのところすみません。どうしても旅人さんにお会いしたいという方がいましたので勝手ながらお連れしました。」
「要件はなんでしょう?」
まだパースエイダーに手をかけたままです。
「旅人さん!お願いがあります!お礼は十分に致します!」
先ほどとは違う男の声が勢いよく返ってきました。
「キノ、お金持ちだといいね。」
「その前に僕に叶えられるお願いか分からないよ。」
小さな声で一言ずつ言葉を交した後、
「まず、あなたのお願いを僕が叶えられるかは分かりません。でも、話を聞いてみようとは思います。もしかしたら時間の無駄になるかもしれない。構いませんか?」
丁寧にドアの向こうに言葉をかけました。
「構いません!どうかお願いします。」
明るい声がすぐに返ってきました。

すみません。あと少しで終わりなんですが明日更新します。レスくれた方、読んでくれた方ありがとうございます。

期待

いったん乙、序盤良く解らなかったは例の並び順か

気になるところで切りやがって


キノがどうぞと促すと静かにドアが開いて中年の男が一人入ってきて深々と頭を下げました。
どうやら怪しい行動は無い様なのでここでやっと腰から手を降ろしました。
「私は×××と申します。この国で食品会社を営んでいます。」
テーブルにつくと男が自己紹介をしました。
「僕はキノ。こちらは相棒のエルメス。」
「どうもねー。」
キノ達も簡単に自己紹介。
「それで、お願いというのは?」
「大きい声では言えないのだけど、肉が食べたいんだ。」
「はぁ、肉ですか。」
「はい、旅人さんには理解できないかもしれませんが、菜食主義のこの国で生活してきた私には未知のものなんです-
男はそれから、ふとしたきっかけでどうして肉を食べてはいけないのだろうと疑問に思い、どうしても食べたくなったことや、自分は動物の狩り方が分からないし肉の調理も分からないのでキノの力を貸して欲しいことを話しました。
ついでとばかりに自分がどれだけ一生懸命仕事に取り組んできたかとか、中でも営業力には自信があるとか関係ないことまで話しました。


「しつもーん。」
「なんだいエルメスくん。」
「聞いてるとこの国は結構な徹底ぶりで菜食主義を通してるみたいだけど、おっちゃん国の外に出れるの?キノは持ち込めないよ?」
「それは僕も気になりました。」
「それが、最近可能になったのさ。城壁の内側の木々をお城の周り以外はほとんど建材や薪のために切ってしまって、何故か城周りの木は切っちゃいけないらしくて、業務用の許可があれば外に出れるんだ。」
「なるほどねー。」
「理解できました。最後に、用意するお肉の種類は僕が決めます、これは、危険な狩りは避けたいからです。あと、僕はあまり料理が得意ではありませんが、構いませんか?」
「やってくれるのかい!?もちろん構わないよ!お礼はそうだな、エルメスくんの燃料はもう買ったかい?」
「おっちゃんビンゴ!」
エルメスが嬉しそうに大きな声をあげ、中年の男は不思議そうな顔を浮かべます。
「燃料が高価で困っていたので助かります。報酬はそれで構いません。」
「それはよかった。出国の予定は?」
「明日です。間に合いますか?」
「明日!?今からすぐに手続きに行くよ!こんなチャンスはなかなか無いからね。この国では旅人も珍しいんだ。」
それから明日の朝から燃料の買出しに行き、お昼に出国、夕方に城門前で別れるという日程を組むと男は嬉しそうに、何度もお礼を言いながら部屋を出て行きました。


「キノ、運がいいね。」
「エルメスもね。安心したらお腹がすいたよ。」
「はいはい、それじゃぁ食堂にレッツゴーだね。」
「レッツ・・・?まぁいいや、行こうか。」

食堂の入口で宿泊客であるという受付をして、テーブルにつくとまもなくしていくつもの料理が運ばれてきました。芋を蒸した後潰して、丸めて焼いたものや、スープ。一口サイズにカットした野菜のソテー。焼きたてのパン。
キノはそれを美味しそうに黙々と食べました。スープはおかわりできたので二回しました。デザートもしっかり食べました。スイートポテトでした。


「よくあれだけスープを飲んだあとにお茶が飲めるよね、お腹がそのうち破裂するんじゃない?」
「あぁ、幸せだよ。お茶を飲んだらシャワーを浴びてゆっくりベッドで眠って-
キノが幸せに浸っていると一人の老婆が近づいて来ました。
「おやおや、旅人さんかい?これは珍しい。相席してもよろしいかね?」
「えぇ、どうぞ。僕はキノ。こちらは相棒のエルメス。」
「どうもねー。」
「キノさんにエルメスさんね。素敵な名前だわ。でも、この国は特別なものは何もないし、つまらないでしょう?」
老婆が遠慮気味に訪ねます。
「いいえ、今日お城を見に行ってきたのですが、興味深かったです。あのような形のお城は初めて見ました。」
「そうそう、それにね、お城までの道のりも考えられているよ。攻めにくいように出来てるんだよ。」
キノとエルメスがそう感想を述べました。


「あらあら、それは良かったわ。あのお城については学校で習うのだけど、エルメスさんの言うように攻めにくいの。キノさんが持っているようなパースエイダーが沢山あれば、別でしょうけどね。」
「ハンドパースエイダーくらいなら大丈夫だよ、もっと飛距離があって強力なものなら別だけど、あんな広くもない曲がりくねった一本道じゃ、大勢がパースエイダーを使うには不向きだよ。」
「それは、守る側も同じじゃないか。」
「キノらしくないね、相手よりも高い位置から一方的に狙えるんだよ、お城からは。弓しかないとしても勝てるさ。言わなかったけど、道の両脇の森にはたくさん仕掛けがあったし、攻める側は迂回も難しいよ。」
「まぁまぁ、エルメスさんは学校の先生になれるわね。すごいわ。」
「まぁねー。」
「なるほど、確かにそうだね。」
ひとしきりやりとりを続けていると、嬉しくなったのか老婆が語り始めました。
「あのお城は誇りですよ。運良く今まで他の国に責められることはなかったし、エルメスさんが言うように強力な兵器が無ければ守りきれると思うの。この国自体が高地にありますからね。
 この国では小さい頃から家の手伝いをする者もいるから、強制ではありませんが、費用は国が出すのでできる限り皆が学校に行って学ぶのよ。」
「ねぇねぇ、国民が王に反乱を起こしたこともないの?起こしても勝てないかもだけどさ。例えば、野菜以外も食べさせろ!とか言ってさ。」
「まぁ、反乱ですって!ありえないわ。それに野菜以外って肉でしょう?これも考えられないことよ。」
予想外の質問だったのか老婆の返答に力がこもりました。


「あの、差支えが無ければその理由を教えていただけませんか。」
「うんうん、知りたいね。」
「えぇ、いいわ。」
一度興奮を落ち着かせるように息を吐いたあと老婆が話し始めます。
「簡単なことよ、攻めにくい以前に、この国の民は王様を尊敬しているし、慕っているわ。政治は民のことを考えてくださるし、今まで何度も民の声に耳を傾けて法を改善してくれたの。
 ちなみにこのことも学校で教えてくれるのよ。だから、反乱なんてありえないことなの。」
「なるほどねー。じゃあ肉は?」
「山の動物達、川の魚は私たちにとって仲間なの。彼らを私たち人間と同じに扱うべきだとこの国では考えているの。なぜなら、同じようにこの山や森、川の水の恵みで
 同じように生きているのですもの。学校で先生が必ず言うわ、あなたは隣にいる友達を殺してその肉を食べようと思いますか?ってね。そう言われると皆納得するのよ、
 獣肉や魚肉を食べようなんて考えはありえないってね。他の国がどうであれ、この国ではそれが当たり前のこと。」


老婆のゆったりとした説明が終わると、今度はキノが口を開きます。
「僕はもちろん、この国のあり方に異議を立てるつもりはありません。ですがもし、この国の人や旅人が肉を食べたいと言ったらどうなりますか?」
「そうね、旅人の場合は強制的に国外追放と永久的に再入国が認められないくらいで済んだはずだわ。この国の人間の場合は・・
そこで一度悲しそうにため息をつき、そのまま続けます。
「たまに、いるのよ。決まって学校に行ってない人だけれどね。でも、家のために働いてきた人が多いからまずはそういった人にも学校でするような話をするの。牢屋の中での特別授業を。
 十分に考えを改めたと判断されれば解放される。大抵の人はここで自分の愚かさを後悔して考えを改めるわ。」


「『大抵』ってことは、そうじゃない人もいたんだ?」
エルメスが遠慮なく質問をぶつけます。
「誰にも話さないと約束出来るかい?」
「はい、お約束します。」
「この国では重罪人であってもその人個人の罪であって、家族には影響が出ないように考えられていてね、教科書にも載っていないから、これは学校では習わないけれど、今までに一人だけいたんだよ。
もう何十年も前、その頃はまだ旅人が自分で食べる分の肉の持ち込みを許されていたから、50年近いかしら。食品会社の社長さんだったわ。
 すごいやり手の社長さんで、商品を売るのが得意で本人も誇りを持っていたし、それでいて鼻にかけることもなくて人に好かれるいい人だった。それなのに、突然皆に肉がいかに美味しいか
 なんてことを語り始めたのよ。皆が驚いたわ。この人に限って何を言い出すんだってね。でも、彼は特別授業を受けても後悔どころか牢の中でも肉は美味しいとか素晴らしいとか語り続けたのさ。
 もう、年寄りしか覚えていないことだよ。」


「それでその人は?」
「この国の最高刑は死刑だよ、殺人でも無ければそうならないけれどね。」
「なるほど、良く分かりました。」
「あぁ、そろそろ帰らないと孫が心配するね。キノさん、エルメスさん突然すまなかったね。」
「いえ、大変興味深いお話でした。楽しかったです。」
「それは良かったわ。それじゃあごきげんよう。」
「ええ、ありがとうございました。」
それが最後のやり取りで老婆はゆっくりと食堂を出て行きました。





「キノ、どうするのさ?」
「明日かい?予定通りさ。」
「そうだね、モトラドは走ってなんぼだよ。」




―おしまい―

読んでくれた方々ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたとしたら幸いです。
そのうちまたキノSSを書きたいと思っています。
文章力や構成の力量は無いので満足行くものを提供できる保証はありませんが、シズの方が読みたいとか、
シズ一行とキノ達両方出る方が良いとかありましたら参考にしたいと思っています。

ありがとうございました。

乙、面白かったよ
次も期待してる

乙ー

bを読み返したくなるこの感じ好き

乙です
エルメスの言い間違いやキノの大食い等々シリーズのお決まりもしっかりあって、原作好きなのが伝わってきたよ。

乙です

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