【咲SS】煌「ここが白糸台高校麻雀部ですか」 (667)

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・こちらは『【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」』の続きとなっております。

・ここまでのお話、特記事項は、以下をご参照ください。

【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」
【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」 - SSまとめ速報
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【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!」
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【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!」
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【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!!」
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本スレで完結予定です。

本日更新分は前スレで行います。

なるほど
おつおつ

立て乙です


最後の最後でスレタイをすばらにしたのな


期待

トンチ能力バトルと化した五部以降のジョジョ見てる気分

建て乙です
完結まであと少しとのこと、どんな終わり方をするのか楽しみ(個人的にはハッピーエンド期待してます)

頑張ってください

建て乙です
完結まであと少しとのこと、どんな終わり方をするのか楽しみ(個人的にはハッピーエンド期待してます)

頑張ってください

 ――《煌星》控え室

淡「よーし、ついに私の出番だなーっ!!」ババーン

桃子「期待してるっすよ、超新星さん」

友香「大変そうな卓だけど、頑張って」

淡「おうっ! 全てはこの《煌星》のエースに任せてくれたまえ!!」

桃子「超新星さん毎回それ言ってマイナスで帰ってくるっす」

友香「淡がまともにエースしてたのは予選決勝だけでー」

淡「他人の過去の傷を抉って楽しいのかね君たち!?」

桃子「そう思うならこれ以上傷を増やさないでくださいっす」

友香「勝ちさえすれば全部チャラでー」

淡「まったくもって」

桃子「信じてるっすよ」

友香「応援してる」

淡「ありがとう、モモコ! ユーカ!! 二人とも大好きだっ!!」ニパー

桃子・友香「どういたしまして」

淡「キラメ、準決勝の前の日に、自分の名前について話してくれたよね。だから、お返しにってわけじゃないけど、私が、人生で一番大切だって思ってるものの話をしようと思う」

煌「人生で一番大切なもの、ですか」

淡「うん。私にとって、それは、誰かとの『出会い』なんだ」

煌「ほう……」

淡「まあ、出会いって一口に言っても、色んな出会いがあるよね。いい出会い、悪い出会い、そのとき限りの出会い、とっても重要な出会い、とか、そういうの。
 でもさ、出会いって、始まりだから。それが良かったのか悪かったのかっていうのは、出会ってから時間が経ってみないとわからないよなーって、私は思うの」

淡「私は、キラメと出会えて、良かったって思ってる。かなり真面目に、運命の出会いだったなって思ってる」

淡「でも、それが、無数にある可能性の中で、最高の出会いだったのかって言われると、わかんないよね。私は《宮永照の後継者》としてスカウトされたわけだから、本来なら最初に出会うべきはテルだったのかもしれない。
 それに、サッキーとの出会いも色んな意味で衝撃だったけど、それが学園都市で最初の出会いでも面白いことになってたと思う。モモコや、ユーカや、スミレと最初に出会うっていう可能性もあった。
 でも、実際、現実では、私はキラメと出会った――」

淡「こうだったかもしれない、ああだったかもしれないは、考えると、きりがない。
 だから私は、その想像力の翼を、過去のどっかじゃなくて、今ここから、目一杯広げようと思うの。キラメに出会った今の私を、一番に大切にしようって思うの」

淡「ただ、どんなに思ってみたところで、想像してみたところで、キラメとの出会いがどんな未来になっていくのか――それは、出会ったときもそうだし、今も、どうしたってわからないんだよね」

淡「私は今に不満なんてないけど、いつか、出会わなければよかった、なんて思う日が来るかもしれない。もっと言っちゃえば、とっても悲しい別れが待ってるかもしれない」

淡「この出会いの先に何があるのかは、誰にもわかりっこない。だからこそ、この出会いを大切にしようって、私は思う。ありったけの想像力で、どんな可能性よりも最高の幸せを思い描こうって思う。
 そして、今は見えない未来――この出会いの先に、それが待ってるんだって、信じたい。信じて、そうなるように全力で頑張るの。そしたら、きっと、最終的にはそれを掴めると思うわけなのさ」

淡「……以上。お話、終わり」

煌「……淡さんらしい、すばらなお考えですね」

淡「うん……まあ、そーゆーわけだからね、キラメ」

煌「なんでしょう」

淡「私、頑張るよ」

煌「はい……頑張ってください」

淡「応援、よろしくね」

煌「もちろんですとも。私は、あなたの勝利を信じていますよ、淡さん」

淡「ありがと。やる気が100万倍になった」

煌「……行ってらっしゃいませ」

淡「そりゃもうっ!! 張り切って行ってくるよ!!」ゴッ

 ――《幻奏》控え室

ネリー「さってとー! ようやく私の出番が回ってきたねー!!」ババーン

誠子「頑張ってください、ネリーさん」

セーラ「楽しんでな~」

ネリー「うんっ! そりゃあもう!!」

やえ「実際のとこ、調子はどうなんだ。昨日の今日だろう」

ネリー「まー……さすがにあの準決勝は色々としんどかったよね。でも、昨日丸一日ゆうきと遊んだから。ばっちり回復したよ。不備も不安もない」

やえ「……そいつはよかった。本当に……悪かったな」

ネリー「ううん、こっちこそ、運命喪者《セレナーデ》——きらめのこと、やえに全部任せちゃって、申し訳ないなって思ってる」

やえ「それに関しては、お前が後ろめたく思うことなんて何一つないさ。そもそもが、《第二不確定性仮説》の証明のためなんだ。
 諸々積み重なっていはいるが、土台は至極個人的な理由。要するに、好き好んでやっているだけに過ぎん」

ネリー「……そうだね、やえは、最初っから研究研究って、そればっかりだったよね。私のことを囲ってくれたのも、運命奏者《フェイタライザー》に興味があったから。もっと言うと、私をてるにぶつけてみたかったから、でしょ?」

やえ「そうだな」

ネリー「研究のために」

やえ「ああ……《第三不確定性仮説》の証明のためだ」

ネリー「やえのそういうとこ、私は嫌いじゃないよ」

やえ「有難う」

ネリー「ドクター=コバシリ。とんでもない人と会っちゃったなって思ったよ。魔術世界の根幹、運命論の基本理念であるところの、《神の実在》の証明者」

やえ「だから、そんな戯けたものを証明した覚えはない」

ネリー「……そうだね。そうかもしれない――」

やえ「ん?」

ネリー「これは、運命論の申し子である運命奏者《フェイタライザー》が言うべきことじゃないのかもしれないけれど……一個人としての私は、神様なんてどこにもいないのかも、って思うようになってきてる」

やえ「おいおい、どうした急に」

ネリー「いやさ、学園都市に来てから、いっぱい色んな人と打ったじゃん? 特にこのトーナメントは本当に面白い。魔術師と魔術師じゃない一般人――能力者と能力者じゃない人がごちゃ交ぜで戦ってるんだもん」

やえ「まあ、ここは能力《オカルト》と科学《デジタル》が共存する街だからな」

ネリー「魔術世界では考えられないことだよ。秘匿《オカルト》と解析《デジタル》は相容れない。
 けど、学園都市はそうじゃなかった。能力者かどうかは関係なく、みんなが、一雀士として、覇を競ってる。それを見てるうちにね、こう、ふと気付いちゃったんだよ。これが真実なのかもって」

やえ「なんのことだ?」

ネリー「やえの《第一不確定性原理》は、《卓上には位置と種類のわからない牌が必ず存在する》ってやつだよね。どうやっても確定しない牌――私たち運命論者が《神の音》と呼んでいるものの実在を保証する原理」

やえ「そうだが、それがどうかしたのか?」

ネリー「この《神の音》ってやつね。これが証明されてるから、私たち運命論者はやえの証明を《神の実在》の保証としている。けど……《神の音》は、本当に《神の音》なのかな」

やえ「解釈問題に口を挟むつもりはないぞ」

ネリー「まあまあ、そう堅いこと言わずに、聞いてって」

やえ「ふむ……」

ネリー「《運命》とは《世界》そのもの。そこに人智を超えた領域があるのは、当たり前のこと。誰も全知にはなれないし、全能にはなれない。たとえ《悪魔》だとしてもね」

やえ「ああ。それに関しては今朝実証された」

ネリー「うん……まあ、だから、《運命》や《世界》が、人智を超えた存在――天上の神様のものだって考えるのは、よくわかるっていうか、つい最近までなんの疑いもなく信じてた。
 でも、実は、天上の神様とか、そういう見たことも聞いたこともない存在じゃなくて、もっと身近に、よくよく見知った全知全能の存在がいるんじゃないかって思ったの」

やえ「それはなんだ?」

ネリー「『みんな』」

やえ「……ほう」

ネリー「知っての通り、私には牌の旋律《こえ》が聞こえる。ほとんどの牌は、誰かの意思によって震えてる。その人固有の波形や周波数、波長が、牌に伝わって、一つの音を奏でる。
 けど、《第一不確定性原理》の証明するように、全てがそういう牌じゃない。音がうまく聞き取れない牌がある。誰が奏でているのかわからない音がある。運命論者は、それを、神様が奏でているんだって言う。
 でも、この街に来て、わかった。支配者と、能力者と、非能力者と、無能力者……色んな人が入り混じった学園都市――無数の音に満ちたこの世界で、誰の意思にも震えない牌なんて、あるわけないって」

ネリー「私はこのトーナメントでたくさんの旋律《こえ》を聞いた。誰もが、強い意思を持って、大きな声で叫んでた。勝ちたい、強くなりたい、前に進みたいって。
 そんな大合唱の中で、誰の意思にも共振しない牌なんて、あるわけがない。《神の音》――誰の音でもない牌。そうじゃなかったんだ。
 この世界……《運命》という名の旋律の中に、聞き取れない音があるとすれば——誰の意思かわからない牌があるとすれば——それは、誰の意思でもある牌なんだと思う。つまり、みんなの意思の牌だね」

ネリー「そう考えると、《運命》ってやつは、一から十まで私たちの意思が決めてるってことになる。確定も不確定も、そこにあるのは、人の想い。天上の神様とか、そういう見ず知らずの誰かの意図じゃない。
 意志を持って、声を上げて、何かを願う人の心が、《運命》を形にしていく。未来を作っていく。そうやって、誰か一人のものじゃないけれど、誰のものでもある世界が、これからも続いていく――」

ネリー「なーんて、メグたちに言ったら卒倒されそう。学園都市に毒されちゃったかな、私。どう思う、やえ?」

やえ「……そうだな。今まで聞いたどの解釈よりも、気が利いてると思ったぞ」

ネリー「えー? もー、解釈問題に興味ないのはわかるけど、もうちょっと感心してよー」

やえ「感心はしている。解釈問題はジョークと同じ。気が利いてさえいればなんでもいいし、むしろ気が利いていることこそ正義だ。そういう意味で、お前の解釈は、とびっきりに最高だ」

ネリー「あははっ、さすがやえ。そういうところが、たまらなく好き」

やえ「そりゃどうも」

ネリー「まー、そんなわけだからさ」

やえ「わかってる。祈ってるよ、お前の勝利を。私のその意思も、みんなの意思の一部となって、ほんの僅かに《運命》に影響を与える――と、そういうことでいいんだろ?」

ネリー「ばっちり!」

やえ「最高の一曲を聴いてこい、ネリー」

ネリー「うんっ! 特等席で聴いてくる!!」

 ――《永代》控え室

塞「だー……とうとう私の出番が来ちゃったかー」

純「トぶなよ」

まこ「死なんようにな」

塞「そう思うなら稼いでおきなさいよこの駄犬がー!!」

純・まこ「無茶言うな(言いよる)」

塞「っていうか……ここで試合終わったらマジごめん、宮永」

照「ま、臼沢さんなら、大丈夫でしょう」

塞「そー言ってくれると。じゃあ、行ってきますか」カチャ

照「……こっちこそ、ごめんね。それ――」

塞「なに言ってんの。あんたは《塞王》の力が必要だったんでしょ。私はそれに納得してチームに入ったんだから、文句なんてないわよ」

照「嫌だったら、無理しなくていいんだよ」

塞「いいったらいいの。あんたの力になれるし」

照「そっか……」

塞「……ねえ、宮永」

照「ん……?」

塞「楽しかったわ。短い間だったけど。またあんたとチーム組めて、戦って、ここまで来て」

照「うん……」

塞「だから、まあ、できることなら、もっとずっと一緒にいたいわけよ」

照「ありがとう」

塞「そのためには……勝てばいいのよね?」

照「……うん」

塞「……宮永って、嘘、つかないんじゃなくて、つけないのよね」

照「え――」

塞「あんた、嘘つくと、角が伸びる」

照「えええっ!?」

塞「なーんて。気にしないで。いいの。なんといっても、私は宮永の味方だからさ。止められないのよ。どっちにしろ。そんなのはもう、初めて会ったときから知ってるんだから」

照「うん……」

塞「入学式よりも一足先に……会ったのよね。《幻想殺し》の研究室でさ」

照「……そうだね」

塞「私はあんたを塞げなかった。私にあんたは止められない。わかってる。それが《絶対》。なら、私は、止めないわ。その代わり、ぎりぎりまで、あんたと一緒にいる」

照「ありがとう」

塞「こっちこそ、ありがとね。楽しかったわ。今まで」

照「私もだよ」

塞「その言葉が、何より嬉しい」

照「頑張って」

塞「頑張るわ。決まってるでしょ」

照「無理しないで」

塞「無理するわ。決まってるでしょ?」

照「そう……だよね」

塞「じゃ、行ってくるわね」

照「うん。行ってらっしゃい――」

 ――《劫初》控え室

憩「よーしっ! やっとウチの出番やなっ!!」

智葉「要らん世話かもしれんが、せいぜい気をつけろよ」

エイスリン「オーエン、シテルゼ、ケイ!!」

憩「おおきに~♪」

菫「調子はどうだ?」

憩「そらもーばっちりですわ!!」

菫「そうか。なら、私からは何も言うことはないな」

憩「……ほな、ウチから一つだけ、ええですか?」

菫「ああ。なんだ?」

憩「いや、まあ、大した話やないんですけどね。一つ、お願い事がありまして」

菫「ほう」

憩「この副将戦、トップ取れたら、一個、ウチのお願いを聞いていただけませんか?」

菫「お前の望みなら、大抵のことは今すぐにでも叶えてやるが?」

憩「ご褒美アリのほうが燃えるんで」

菫「ふむ……」

憩「っちゅーわけで、お願い事の内容は、勝ったら言いますね」

菫「ちなみに、二回戦や三回戦みたいに変な服を着せるとかじゃないよな? いや、どうしてもと言うなら吝かではないが」

憩「えっ! 吝かやないんですか!?」キラキラ

菫「すまん、やっぱり吝かだった」

憩「そんなー!? いや、まあ……そういう、形を伴う類のことやないんで、ええんですけど」

菫「そうか」

憩「約束しましたからね、菫さん」

菫「ああ」

憩「っしゃあー、ほな、行ってきますーぅ!」

菫「あ、荒川……」

憩「はいー?」

菫「えっと……いや、なんでもない。その……私の力になってくれて、有難う」

憩「……好きでやっとることですから」

菫「それでも、言わせてくれ。お前がいてくれて本当によかった。有難う」

憩「一緒に、一軍《レギュラー》になりましょうね、菫さん」

菫「もちろんだ」

憩「何事も、一番が一番ですからね」

菫「ああ。《頂点》以外に、興味はない」

憩「……必ず、トップ、取ってきます」

菫「頼りにしている」

憩「嬉しいです」

菫「……私は、お前を信じているからな、荒川」

憩「おおきにですっ! ほな――行ってきますわ!!」

 ――――

ネリー「ゆうきはトーナメントを勝ち上がるたびに顔が凛々しくなっていくなー」

優希「あちこち成長期なんだじぇ」

ネリー「よいことだ」

優希「ごめんな……《煌星》に遅れを取ったじょ」

ネリー「大丈夫。ゆうきがやられた分の十倍は取り返してくるよ」

優希「相変わらずネリちゃんは頼もしさが突き抜けてるじぇ」

ネリー「それほどでも! じゃ、よければ、私行くねー」

優希「あっ、ちょ、ちょっと待つじょ!!」

ネリー「んー?」

優希「え、えっと……負けた私がこんなことを言うのはどうかと思うのだが」

ネリー「全力で奏でたんだから勝ち負けは関係ないよ。好きなこと言って」

優希「わ――私は、ネリちゃんともっと遊んでいたい。だから……勝ってほしいじょ!!」

ネリー「うん」

優希「今日負けたら……明日には帰っちゃうかもなんだじぇ?」

ネリー「事と次第によってはどうなるかわからないけど。まあ、可及的速やかに強制送還だよねー」

優希「寂しいじょ」

ネリー「きっとまた会えるよ。それが運命なら」

優希「ネリちゃん……」ウル

ネリー「なんてねっ!! 安心していいんだよ、負ける気ないから!!」ババーン

優希「ネリちゃーんっ!!」ガバッ

ネリー「ここまで来たんだもん。みんなまとめて天上へ連れて行くよ! 全てはこの運命奏者《フェイタライザー》にお任せなんだよっ!!」ゴッ

 ――――

憩「お疲れー、衣ちゃん」

衣「すまない、二位に詰められてしまった」

憩「ま、点が減ったわけやなし、楽しそうな衣ちゃん見れてよかったで」

衣「そうだな。決勝に相応しい強敵だった……またあの者たちと打ちたいぞ」

憩「一軍《レギュラー》になれば、何度も打つことになるで。ディフェンディングチャンピオンとしてな。なんなら合同練習したってええ」

衣「それは心躍るっ!」

憩「ふふっ……衣ちゃんも、なんちゅーか、すっかり普通の雀士になってもーて」

衣「悪いか?」

憩「いーや。ええと思うよ。これからも、いっぱい色んな人と打って、色んな大会出て、勝ったり負けたりしよ」

衣「うん。そうしたい。とても楽しそうだ」

憩「ほな、きっちり一軍《レギュラー》にならんとな」

衣「……後は任せたぞ、けいっ!」

憩「おうっ! まっかせてーぇ!!」

 ――――

塞「……落ち着いた?」ナデナデ

穏乃「……はい。すいません、お見苦しいところを」

塞「いいのよ。ってか、あんた一年なんだから、もっと遠慮なく私らを頼りなさい」

穏乃「ありがとうございます」

塞「じゃあ、私、ぼちぼち行くけど」

穏乃「心許ない点数状況で申し訳ないです」

塞「七万もありゃ十分よ。あとは私と宮永でどうにかするわ」

穏乃「お願いします」

塞「……高鴨」

穏乃「はい?」

塞「ごめん、ちょっと緊張してきた」

穏乃「おやおや」

塞「よかったらでいいんだけど、あんたのすごパ分けてちょーだい」

穏乃「喜んでっ!!」スゴパッ

塞「ふー……」

穏乃「いかがです?」

塞「頑張れそうな気がするわ」

穏乃「それは重畳です」

塞「よしっ! そいじゃあ、ちょちょいとやってきますかぁー」

穏乃「応援してますっ!!」

塞「ありがと。まっ、やるだけやってみるわ!!」

 ――――

淡「おっつー、サッキー」ハイノミモノ

咲「別に疲れてない。余裕」アリガト

淡「トップの背中が見えてきたね。大活躍」ハイオシボリ

咲「獲得点数は準決勝とほぼ同じ」アリガト

淡「プラス5000点×2半荘。でも、後半戦はトップだった。《プラマイゼロ》じゃどうやってもなれないトップ」ノミモノモッテヨウカ?

咲「《プラマイゼロ》でも《プラマイゼロ》じゃなくても、一万点は一万点」ノコリノンデイイヨ

淡「でも本選初の区間賞じゃん」ワーイアリガトー

咲「順位より得点だよ。あと、チームとしてもトップまくれてないし」チョットスカーフマガッテルナオスネ

淡「まっ、私のお膳立てご苦労様ってことで」ハシッテキタセイカナ

咲「うわイラッとするー」アーモーカミモミダレテルナオスネ

淡「ここでトップまくって、ちゃんとエースらしいとこ見せるんだ!」クスグッタイー

咲「それは本当にそうしてよね。へっぽこにも限度ってものがあるんだから。決勝くらいはちゃんとしてもらわないと」ハイコレデヨシ

淡「もちろんだとも」ホカニヘンナトコナイ?

咲「お願いだからね。淡ちゃんがポンコツだと私までポンコツみたいに見られて困るの」アッマタアメナメテル!

淡「そうかな〜」ナメテナイヨ!

咲「そうだよ。淡ちゃんは一応私と同じ支配者《ランクS》で、一応私と二人で《煌星》のダブルエースってことになってて、一応私と同格ってことになってるんだから世間的に」イイヤ!コレハアメナメテル!

淡「一年生にランクSって私とサッキーしかいないしね」マタソーヤッテスキアラバホッペタプニプニスルー!

咲「そう。不本意ながら、世間的に私と淡ちゃんは同じくらい強いってことになってるの。不本意ながら」ワーヤワラカーイノビルー

淡「もー困っちゃうよねー、私のほうが強いのにー」サッキーダッテプニプニノクセニ

咲「あはっ、ポンコツに相応しいお目出度い脳みそ」モーマタソウヤッテプニプニガエシスルー

淡「はあ? じゃあ今ここで決着つけよっかー、妄想女?」ネーギュッテシテモイー?

咲「ふん! いくらでも受けて立ってあげるよ、暴走女!」ダメワタシカラスル

淡「……私、やっぱ、サッキーとは一生仲良くなれない気がする」アーセッカクスカーフトカミナオシタノニ

咲「うん、だって、私、淡ちゃんのこと、大っ嫌いだもん」ソレイツモイッテル

淡「うっし、憎まれ口一つ叩けないような結果を出してやる!」ガクシューシナイナサッキーハ

咲「せいぜい頑張ってよね。私が笑われない程度にはさ」ナニモカモアワイチャンノキューインリョクノセイ

淡「……ねえ、サッキー」サテソロソロジカンダネ

咲「……なに?」ジカンナラショーガナイ

淡「勝ってくるよ」ノミモノハオモチカエリデヨロシク

咲「当然でしょバカ」アーマタヒトクチブンダケノコシテー

淡「バカって言うほうがバカだもん」ワタシガンバルヨ

咲「バカって言うほうがバカとかバカの言うこと」オーエンシテル

淡「……じゃあ、行ってくるね……」カナラズカツカラ

咲「……うん、行ってらっしゃい……」シンジテルヨ

 ――対局室

淡「いざ尋常に勝負なんだよっ、ケイ!」ゴッ

 東家:大星淡(煌星・113400)

憩「たっぷり可愛がってあげるでー、大星さん」ニコッ

 北家:荒川憩(劫初・123800)

ネリー「っしゃあー、約束通りボコボコにするよ、さえ!!」ババーン

 南家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・91300)

塞「遺言があるなら今のうちに言っときなさい、クソガキ。すぐに何も言えなくしてやるからさ――」カチャ

 西家:臼沢塞(永代・71500)

『早くも火花が散っております!! 最高の形で大将に繋ぐのはどのチームになるのか!? 副将戦前半……開始です!!』

ご覧いただきありがとうございます。

行けそうな気がしたんですが集中が切れてしまったので、続きはまた明日にします。

では、失礼します。

おつ
塞がめっちゃ死地に向かうかのような台詞なのが気になるな、いや確かに死地のような卓だけど
やっぱ能力で倒れるのだろうか

塞は闘配ではいいとこなかったが、このままリアクション芸人で終わってしまうのか

頑張ってほしいが、能力的に上位互換っぽいネリーいるからどうなんだろう

おつ


憩vsネリーの勝敗が気になりますね
個人的には憩に勝ってほしいところだけど

乙です

おつおつ
咲淡の括弧外のやり取りめっちゃ微笑ましいww

 東一局・親:淡

ネリー(さーて!)

憩(さてさて)

塞(見事に曇ったわね――さあて……)フキフキ

淡「さてっ!! わかっていると思いますがぁー、行っちゃいますッ!! 起親でしかできない私の超必殺――開幕ダブリーだああああ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(キックオフシュートなんだよ!!)タンッ

塞(第一球ホームラン予告ってとこかしら)タンッ

憩(能力的なダブリー確定は、天和の可能性を自ら捨ててるってことやから、そういう意味ではさほど脅威やない)タンッ

淡(動揺なしっ! さすが決勝!! ま、起親だったのはラッキーかな。なんてったって――)タンッ

ネリー(私の強制詠唱《スペルインターセプト》は、その《詠唱》を生で一回ちゃんと聞かないと発動できない仕様なんだよね~。その辺りを踏まえての開幕ダブリーだとしたら、さすが過ぎる。
 《煌星》の参謀――もとい、きらめは、たぶん自動即興《エチュード》の仕組みと制限に気付いてるんだろうなぁ。展開如何では厄介なことになりそうだよ)タンッ

塞(山牌の角がどうのこうのって話なんだっけ? 賽の目は七――最速でやられるわね。ま、私は私のやることをしましょうか)タンッ

憩(ネリーさんが仕掛ける気配ないな。さては例の《無効化》は一回能力を食らってみーひんとできひんのか? ほんで、そこを見越したような起親開幕ダブリー……これは花田さんの指示やな。間違いない)タンッ

淡(ふむー? ネリーが大人しいのはキラメの読み通りだとして、ケイとサエも動いてくる感じしないな。ってことは……これまたキラメの予想はアタリか)タンッ

     ――副将戦、ネリーさんは魔滅の声《シェオールフィア》を使ってこないでしょう。

            ――強制詠唱《スペルインターセプト》は一度相手の《詠唱》を聞かなければならないようなので、少なくとも最初の一回は成功する見込みが高いと思われます。

   ――なので、最初のダブリーは親番で仕掛けるのが良いかと。起親なら理想ですね。

      ――そこからは、かなり政治的な戦いになります。

    ――切り札《カード》の使いどころには、お気をつけください。

淡(『高確率で成功する初回ダブリー』――これがカードの一枚目。一番有力で有効な切り札。これだけは外せない……)タンッ

憩「ポン」タンッ

ネリー(ふーん……?)

淡(大丈夫……このくらいの鳴きじゃ私の支配領域《テリトリー》は揺らがない)タンッ

塞(そんな鳴きでどうにかなるわけないでしょーが)タンッ

憩(確認完了――なるほどなるほどや……)

淡「カンッ!!」ゴッ

ネリー(んー、この音! エクセレントなんだよ!!)タンッ

塞(また曇った……割られないことを祈るばかりね)フキフキ

憩(早速ひっくり返されてもーたか)パタッ

淡「ツモ! ダブリー裏四——6000オールだよ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(比較的難なくトップ奪取! さあ、問題はここからだよっ!!)

ネリー(なるほど……こういうことなのね、やえ。これは――難しいなぁ……)

塞(親の連荘――はちょっと困るのよね。ま、だから何ができるってわけでもないんだけどさ)

憩(他の二人はどう動いてくるやろか。次の局が別れ道やな)

淡:131400 ネリー:85300 塞:65500 憩:117800

 東一局一本場・親:淡

ネリー(賽の目はピンゾロ。微妙なとこだけど、準決勝でくろ相手に引いてたラインを考えると――)

淡「」タンッ

ネリー(やっぱりねっ!)タンッ

塞(ダブリーなし! 有難いわ)タンッ

憩(うお……さり気にネリーさんが《絶対安全圏》を《無効化》しとる。大星さんがダブリーせーへんのも納得やわ。支配力に拠る《上書き》と、自分の腕で何とかするつもりなんか)タンッ

淡(山牌見える人が二人もいて、片方は能力を《無効化》してくる。私のダブリーは強いところと弱いところがはっきりしてるからね。行けそうなとき以外は行かないよっ!)タンッ

ネリー(トップ奪取したから、的になるようなことは避けるって判断なんだね。
 ま、チーム《煌星》の基本戦略は副将までの四人で点棒積み上げて大将のきらめでシャットアウトだから(それが出来てたのは一回戦だけだけど)、あわいがこの状況で堅い打ち方をするのは当たり前か。
 んー、この前半中にまくれるかなー)タンッ

塞(ただ攻めるだけなら、大星はたぶんダブリー連発したほうがいいはずよね。《無効化》とか山牌見えるとかいう化け物スキルを考慮しても、能力戦で打ち合ったほうが期待値は高いように私は思う。
 だから、ダブリーをしてこないのは、防御重視であり、様子見でもあり、リスク回避なんだわ。慎重なこって)タンッ

憩(ダブリーしてこーへんでも大星さんが支配者《ランクS》なんは変わらへん。
 ほんで、支配力に拠る《上書き》――場の支配を止めることは、無能力者のネリーさんやウチにはできひん。崩すか掻い潜るかの二択。
 ダブリーしようとしまいと、基本的に大星さんは有利なんや。支配者《ランクS》はみんなそう。常に攻める立場にある。この局やって、《絶対安全圏》内に張りそうやし。どないしよかなー)タンッ

淡(また難なく和了れそうな気がする――とか考えてるとネリーに直撃されそう。《絶対安全圏》は《無効化》されてるっぽいから、この巡目でテンパイもありえる。親だけど、無理はしない)タンッ

ネリー(よーし! 張ったんだよっ!!)タンッ

塞(あ……そういや、ヴィルサラーゼは《絶対安全圏》を《無効化》できるんだっけ。いや、まさか、もう張ってたりとかは……?)タンッ

憩「チー」タンッ

淡(ズラした? ってことは、ネリーが張ってるのかな。要注意……)タンッ

ネリー(まあ……すんなりツモらせてくれるとは思ってなかったけど)タンッ

塞(で、私が掴まされるわけね。ったく、この《悪魔》は)タンッ

憩(確定やんな……さて、問題はここからや――)タンッ

  淡「」タンッ

                    ネリー「」タンッ

        塞「」タンッ

                             憩「」タンッ

                淡「」タンッ

     ネリー「」タンッ

                          塞「」タンッ

            憩「」タンッ

                                  淡「」タンッ

                    ネリー「」タンッ

       塞「」タンッ

憩(一向聴――)

憩(普通に打つ限り、ウチが大星さんに負けることはありえへん。ネリーさんも、牌は見えとるようやけど、打ち筋のパターンは大体把握しとる。完全デジタルで打てば、演算力のあるウチのほうが強い)

憩(ネリーさんは、あくまで魔術世界――オカルト至上主義世界の《頂点》なんや。対能力者なら、間違いなくウチより強いやろ。ただ、観察・演算《デジタル》の究極形であるウチには、どう足掻いたって勝てへん。
 一千年分の知識の蓄積やったか――そんなもん、ウチの前ではさほど強みにならへんのやもん。
 やって、知識なんか、積み上げるまでもなく、《悪魔の目》を持つウチなら、今この現在から全てを演繹で知ることができるんやから……)

憩(知識と経験の権化――運命奏者《フェイタライザー》。《上書き》のない運命論の《頂点》にとって、観察と演算の権化であるウチは間違いなく天敵や。
 ネリーさんが決定論の申し子である限り、ウチという《悪魔》を祓うことはできひん。原理的に不可能なんや)

憩(翻って……ウチの天敵は誰やろ。宮永照は天敵やない。強いて言うなら匹敵や。ほなら、超能力者《レベル5》? いやいや、第一位から第三位が束になってもウチには勝てへんかったやん)

憩(二つの世界の《頂点》も、支配者《ランクS》も、超能力者《レベル5》も、ウチにとっては天敵やない。ウチの天敵……そんなもんが、もし、この世界におるとしたら、そいつはきっと、『扉』なんやろ――)

憩(ラプラスの悪魔と似た悪魔にマクスウェルの悪魔っちゅーのがおる。こいつは、一つの扉で仕切られた、室温の等しい二つの密室——その室内に満ちる空気の中から、速度の大きい分子と小さい分子を見分けることができる。
 ほんで、悪魔は、扉をええ感じに開閉することによって、速い分子と遅い分子を仕分け、同じ温度やった二つの部屋を、エネルギーを使うことなく、熱い部屋と寒い部屋にしてまうわけや。まあ、詐欺くさい存在やな)

憩(一切のエネルギーを用いずに、確率の偏りを引き起こす。ネリーさんの自動即興《エチュード》なんかまさにこれやろ。花田さんは、ウチも同じことができるゆーてた。
 確かに、なんの予備知識もなければ、ウチの和了りは確率を捩じ曲げてるように『見える』やろ。
 確率干渉力――エネルギーなんて、一つも使ってへんのに。やってそうやん。ウチはランクFでレベル0の無能力者なんやから)

憩(ほな、この詐欺的存在――エネルギー0の確率偏向を引き起こすマクスウェルの悪魔を抹殺する、単純明快な方法は、何か?)

憩(簡単や。そいつが詐欺に使うとる『扉』を、開閉できひんようにすんねん。エネルギーを用いない悪魔は、エネルギーを持ち得ない悪魔なんやから。鍵掛けて、コンクリで塗り固めて、その『扉』を――)

?「ロン」

憩「……はい」チャ

塞「3900は、4200よ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(塞いでしまえばええ――ガイトさんに井上さんをぶつけて、エイさんに染谷さんをぶつけて、衣ちゃんに高鴨さんをぶつけた……これが自分の采配の要っちゅーわけか、宮永照……ッ!!)

ネリー(トップのあわいを塞がずにけいを封殺しにいった――これで決まりだ。さえの最優先標的はけい。
 やえが、まともにやり合えば間違いなく負けるのは私って言い切った《特例》の《悪魔》を、《塞王》が閉じ込めてくれる。なら、私はそれを、敢えて止めようとはしなくていい……)

淡(やっぱりそっちを塞ぐんだ。そして、サエの標的がケイに固定されてる限り、ネリーは魔滅の声《シェオールフィア》を使ってこない。
 使ってしまえば、サエから《防塞》を奪うことになって、それによって《悪魔》が砦から解き放たれてしまうから……)

憩(《見つめた相手の手を塞ぐ》——封殺系最強の塞の王。《悪魔の目》の唯一の死角から、とんでもない刺客が送られてきたもんやな。ホンマ憎らし恨めしいことしてくれるやん……あのツノは……)ニコッ

塞(笑顔で睨むのやめてよマジ恐いから……)フゥ

憩(覚悟しいや……砦の王。この《防塞》が落ちたとき……自分、この世の終わりを見ることになるで――)

塞(突破する気満々ってわけね。上等。全力で塞いでやるわ。さァ――かかってくるがいいよ……! 《白衣の悪魔》ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡:131400 ネリー:85300 塞:69700 憩:113600

 ――《幻奏》控え室

やえ「やはり荒川を塞ぎに来たか」

セーラ「宮永は最初からこれが目的で臼沢を仲間にしとったっぽいな。あいつが能力使うのはこの決勝が初めてやし、相手が荒川っちゅーんもハマリ過ぎや」

誠子「宮永先輩はそういうところシビアですからね」

優希「ネリちゃん的にはラッキーなのか?」

やえ「魔滅の声《シェオールフィア》が使えないのがちと厄介だな。臼沢から《防塞》を奪わないためとは言え、支配者《ランクS》の大星が自由に打てるとなると、多少苦戦するだろう。
 強制詠唱《スペルインターセプト》は強力だが、万能ではないからな」

セーラ「ほな、現状、ネリーは大星一人を相手にすればええってわけか」

やえ「そうだな。荒川が横槍を入れてくるかもしれんが」

誠子「え、臼沢先輩に塞がれているのにですか?」

やえ「他家の和了りをズラしたり、打点を下げたりといったことは、塞がれていてもできる。
 そして、《悪魔》である荒川の動きは、運命奏者《フェイタライザー》であるネリーの感覚では決して捉えきれない。荒川はネリーの天敵なんだ」

優希「ネリちゃんの天敵……? じゃあ、やえお姉さん、もし、あの《悪魔》のお姉さんがモノクルお姉さんの能力を突破したら、何もかもアウトなんじゃないのか?」

やえ「何もかもアウトだ。荒川が自由になったらこの副将戦――この試合はその時点で終了する。
 それがわかっているから、宮永は臼沢を荒川にぶつけたのだし、私もネリーに魔滅の声《シェオールフィア》を使わないよう指示を出した」

セーラ「せやけど、どう見ても荒川は塞の砦を突破するつもりでいるで? あいつは全体効果系相手でも無双できる化け物や。臼沢の《防塞》かて、いつかは攻略してまうんとちゃう?」

やえ「……いや、それはない」

セーラ「へえ……?」

やえ「セーラ、お前は三回戦で、臼沢が凶悪だと言っていたな。それはその通りだと思うが、しかし、お前が恐れていたような事態にはならなかったと言い切れる。
 あのとき、臼沢は、たとえそれでチームが負けることになろうと、誰かを塞ぐことはしなかったはずなんだ」

セーラ「なんでなん?」

やえ「臼沢塞――あいつには恐ろしく強固なポリシーがある。『レベル0に対しては《防塞》を使わない』というポリシーがな」

誠子「え、じゃあ、今荒川さんに使っているのは……?」

やえ「ポリシーを曲げてでも勝たせたいやつがいるっていうのが、一つ目の理由。そして、荒川はレベル0でも《特例》であるというのが、二つ目の理由。
 この状況は、臼沢にとって《特例》中の《特例》なんだ。たとえ宮永の指示でも、荒川以外のレベル0に対しては、あいつは《防塞》を使わないだろう。三回戦でお前と愛宕に使わなかったのがいい証拠だ」

セーラ「確かにレベル0相手に能力使っとるとこは初めて見たけど……なんであいつはそんなポリシー持っとるん?」

やえ「あいつは『扉』だからだよ」

セーラ「ほーん……?」

やえ「レベル0は、その『扉』を開けることができない。塞の砦は落とせない。臼沢は誰よりもそのことを理解していて、且つ、『扉』であることがあいつの矜持なんだ。
 ゆえに、あいつは、レベル0に対して《防塞》を使わない」

セーラ「回りくどいで、やえっ! 簡潔に! わかりやすく!」

やえ「《見つめた相手の手を塞ぐ》——封殺系最強の塞の王。あいつの《防塞》は、レベル0には破れない」

セーラ「へ……?」

やえ「断言しよう。《特例》の無能力者――荒川憩は、この副将戦、ただの一度たりとも和了ることはできんよ。何をしようと、何があろうと、《絶対》にな……」

     ネリー『ツモ、1300オールなんだよっ!』

乙ー

 ――対局室

 東二局一本場・親:ネリー

憩(やっと形になってきたけど……あかんな。これは、本気であかん)タンッ

 憩手牌:①②③⑨⑨一三五八6789 ツモ:九 ドラ:南

淡・塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(配牌を五~六向聴にしてくる能力者と、こっちのツモ牌に干渉して手を塞いでくる能力者。
 配牌以降は普通に手が伸びるっちゅー《絶対安全圏》の抜け道と、配牌からそこそこ形になっとれば鳴いてどうにかできなくもないっちゅー《防塞》の抜け道が、補完されてなくなってもーてる。
 宮永照と花田さんが密約を交わしてたんちゃうかと疑いたくなるで、これは)タンッ

 憩手牌:①②③⑨⑨一三八九6789 捨て:五 ドラ:南

憩(ここで、七萬ツモれるはずなんやけど――)ツモッ

 憩手牌:①②③⑨⑨一三八九6789 ツモ:六 ドラ:南

憩(《上書き》か……封殺効果自体は、衣ちゃんやエイさん、それに龍門渕さんで体験しとる。ただ、あれは全体効果系――広域封殺や。限定封殺やとここまで縛られるんか。
 確かに、姉帯さんの追っかけリーチで掴ませる能力――あれがずっと続くんやもんな。そら全体効果系を相手にするときとは要領がちゃう、か。計算し直し――)タンッ

憩(と……また見えてたんとちゃう。《上書き》で裏目か。後出しじゃんけんみたいな能力やな)チラッ

 憩手牌:①②③⑨⑨一三八九6789 ツモ:四 ドラ:南

塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(情報が足りひん。臼沢さんがレベル0相手に《防塞》を使ったケースが一度としてないのが痛いな。これは《特例》も《特例》っちゅーことか。
 可能なら、ネリーさんにもう二、三局安手で和了ってもろて、その間にデータを集めたい。《防塞》を構築しとる理論《ロジック》が解析できれば、反撃に打って出ることができる)タンッ

 憩手牌:①②③⑨⑨一三八九6789 捨て:四 ドラ:南

憩(とりあえず、門前やとかなり無理っぽいのは今までの局でようわかった。あとは鳴きに対するリアクション。それで大体は見えてくるはずや……)

憩「ポン」タンッ

 憩手牌:①②③一三八九789/⑨⑨(⑨) 捨て:6 ドラ:南

憩(さて、ウチがモタついとる間に、あっちはなんや楽しそうなことになっとんな――)

淡・ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――

 ――――

淡(ネリーの強制詠唱《スペルインターセプト》。レベル4以下のあらゆる能力を《無効化》する能力。その力は、詠唱解析のために、一度能力を食らってみないと発動できない。さらに)タンッ

淡(強制詠唱《スペルインターセプト》で《無効化》できる能力は、一局につき一つだけ。二人が同時に能力を発動した場合、《無効化》できるのは片方の能力だけってことになる。
 まあ、ネリーはサエの《防塞》を止める気がないんだから、今は私をマークしていればそれでいいんだけど。でも、それもそれで、問題がある。だって、私は多才能力者《マルチスキル》だから)

淡(《絶対安全圏》と《ダブリー》と《カン裏モロ》。この三つのうち、強制詠唱《スペルインターセプト》が止められるのは一局につき一つだけ。
 前局は《絶対安全圏》を《無効化》してきた。そして、今回は、《ダブリー》を《無効化》してきた)

淡(つまり、《絶対安全圏》のほうは《無効化》できてないわけで、この局のネリーの配牌は五~六向聴になってる。そして、こっからもし私がカンしてリーチして和了れば、《カン裏モロ》も保証されるってわけ)

憩「ポン」タンッ

淡(おっと……どんな狙いがあるのかは計り知れないけど、ひとまずナイスポン。これで、戦える……っ!!)

淡「カンッ!!」ゴッ

 淡手牌:二三四八八[5]67③⑤/1111 嶺上ツモ:7 ドラ:南・一

ネリー(やっぱそう来るよねー……あちらを立たせるとこちらが立たず。ダブリーを止めても、こっちが悪配牌でモタついてる間にテンパイされちゃうんじゃ、あわいの優位性を崩すことはできない。けど、まあ――)

 ネリー手牌:2227999南南南/(白)白白 ドラ:南

ネリー(カン裏を乗せるためにはリーチを掛けなきゃいけない。加えてあわいの手は役ナシ。なら、それを見越して手を作っていけばいい。さて……《運命》はどう転がるかな?)

淡(リーチ、掛けられるけど、あっちは山牌が見えてるんだ。当然、私のカンも、それによって私が嶺上から何をツモるのかも、見えていたはず。素直に打つのはやめたほうがいいよね)タンッ

 淡手牌:二三四八八[5]677③/1111 捨て:⑤ ドラ:南・一

ネリー(ふーん……ま、それなら普通に和了るだけなんだけどさー)

淡(させないよ!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(っと……《神の音》があわいの味方をするのか。カンしたことで、場の支配がより強固になったんだね。これはちょっとマズいかもだよ)

淡(ネリーの弱点――というより、対応できない苦手分野。それは支配力に拠る《上書き》。テルやコマキにできたんだから……私にできないわけがないッ!!)

ネリー(《聖人》は……これがあるから困っちゃうよ。人間としての基本スペックに差があり過ぎる。
 魔滅の声《フェオールフィア》が使えれば、『型』を奪うことができて、こまきでもない限りその時点で《聖人崩し》が成立するんだけど、今回その手は使えない――)

淡(想いを……研ぎ澄ませ――!!)

ネリー(……ここまでだね)パタッ

淡「ツモッ! 1000・2000の一本付けだよ!!」ゴッ

 淡手牌:二三四八八[5]6778/1111 ツモ:6 ドラ:南・一

ネリー(やるじゃん、あわい)

淡(よし、親番流したよ!)

憩(流れてもーたか。強制詠唱《スペルインターセプト》も思うてたより万能やないらしい。困ったな。なんとか、ウチの親番までに解析を終えたいんやけど……)

塞(来たわね、親番。とは言え、荒川は塞いでるからいいとしても、大星とヴィルサラーゼはほぼ野放し。はっきり言って、私が単独で足掻いてどうにかなる相手じゃない。削られないこと第一で打ちましょう……)

淡:134400 ネリー:87100 塞:67300 憩:111200

 東三局・親:塞

淡(この局の強制詠唱《スペルインターセプト》は……《絶対安全圏》に使ったのかな。角が深いところにあるから、速度で潰しにくるってわけね。この賽の目じゃダブリーしないってことも見抜かれてる)

淡(サエがケイに付きっ切りな以上、私が今最大警戒すべき相手は、ネリー一人。ネリー的にも、トップの私を狙いに来るわけだから、ほぼ一騎打ち状態)

淡(知識と経験の権化――運命奏者《フェイタライザー》。《神の耳》と10万3千局の《原譜》を持ち、レベル4以下のあらゆる能力を封じることができて、レベル4以下のあらゆる能力を使いこなす、魔術世界の《頂点》)

淡(正直……ヤバい。こいつに勝てるイメージが……浮かばないよ――)

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(もし、サエとケイのあれこれがなくて、普通に魔滅の声《シェオールフィア》を使われていたとしたら、間違いなく、私はこいつに負ける。
 準決勝で私が役満かまされたはつみー先輩を、こいつは、ほとんど子供扱いしていた。私含むランクS級三人が束になってかかってもどうにもならなかった最高状態のコマキと、こいつは一対一でやりあっていた。
 あのサッキーがこの世でただ一人格上だと認めるテルに、こいつは一歩も引けを取っていなかった。
 予選からずっとプラス収支。三回戦ではテルを、準決勝ではキラメを相手にしながら、常にチームの勝利に貢献してきた《幻奏》のスーパーエース。
 こいつは……《本物》なんだ)

淡(私は……スーパー天才美少女高校生雀士だけど、だから、わかっちゃうんだよね。この世界には、本物と、偽物がいて、ネリー=ヴィルサラーゼは、言うまでもなく、本物の側なんだって――)

淡(比べて、私はどうだろう。二回戦からここまでずっとマイナス収支のへっぽこエースで、《神の領域》に踏み込むことができないランクSで、呪文一つで全てを奪われるレベル4のマルチスキルで、
 十年ぽっちの麻雀経験しかない自称高校100年生の私は……ガチで一千年分の《運命》を背負うこの《頂点》から、どんな風に見えるんだろう)

淡(わかってる。私はたった一人の特別じゃない。簡単に《完全模倣》されちゃうくらい、底が知れていて、中身が透けている、《偽物》だ。相対的には上のほうにいるんだろうけど、《頂点》には、遥かに及ばない)

淡(なにが《超新星》。なにが《宮永照の後継者》。ネリー=ヴィルサラーゼ……この《本物》の前では、私なんて、ちょっと生意気で、元気いっぱいで、可愛いだけの、ただのどこにでもいる高校一年生じゃんか)

淡(才能も、能力も、知識も、経験も、何一つ、《本物》には、敵わない――か)タンッ

ネリー「ロン、8000なんだよ!!」ゴッ

淡「っ……はい」チャ

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(参った……こんなに世界が違うもんか。マジで勝ち目が見当たらないよ。エースは勝つのが仕事なのに。どうする……どーんすんの、私……!?)

淡:126400 ネリー:95100 塞:67300 憩:111200

 東四局・親:憩

憩(大星さんとネリーさんは、放っておけばネリーさんが浮いてくるやろか。高いのツモられるとウチが削られるから、なるべく直撃で打ち合う感じで、《煌星》と《幻奏》の点数が平らになるよう調節せーへんとな。
 ツモられるにしても、点数は極力下げる。ほんで、あとでまとめてブチ抜く、と)

憩(まー……それもこれも、この《防塞》を突破してからなんやけど――)

塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(《見つめた相手の手を塞ぐ》限定封殺系の大能力——《防塞》。過去の牌譜からわかることは、臼沢さんがマークした相手は、和了れなくなるっちゅーこと。半荘一回で一度もや。
 《裏鬼門》の薄墨さんや《ニライカナイ》の銘苅さん、名立たる能力者を悉く焼き鳥にしてきた、封殺系最強の能力者――それが《塞王》)

憩(能力的なもんかもしれへんけど、何人かはテンパイまでは辿り着けとった。ウチは無能力者やけど、極論、テンパイしたいだけなら、裸単騎にしてまえばええ。それそのものはできるような気いする……)

憩「ポン」タンッ

憩(大星さんの《絶対安全圏》のせいでスピード出しにくいけど、今回は行けるように見える。
 限定封殺系の能力者なら、支配領域《テリトリー》は他牌――ウチのツモ牌や。龍門渕さんの《治水》と違うて鳴きを止められとるわけやない。他家の捨て牌を拾いまくれば、出し抜けると思うんやけど……)

憩「チー」タンッ

憩(これで……この半荘初のテンパイ。ここからどうなるか、やな)

 憩手牌:一一四五六八九/(一)二三/中(中)中 ドラ:①

憩(っと……ほーん、こういうことしてくるんか……)フゥ

 憩手牌:一一四五六八九/(一)二三/中(中)中 ツモ:⑧ ドラ:①

憩(《上書き》で掴まされた。テンパイ維持しようとすると振り込む。さすが『王』を名乗るだけのことはあるな。面倒この上ないで)タンッ

 憩手牌:一四五六八九⑧/(一)二三/中(中)中 捨て:一 ドラ:①

憩(臼沢さんの能力をどうにかせーへん限り、ウチは和了れへん。対局に勝てへん。ほんで、対局に勝てへんかったら、菫さんの力になれへん。菫さんの力になれへんウチなんて……存在価値ゼロやん)

憩(ナンバー1を倒すために、ナンバー1以外に負けへんナンバー2のウチを、菫さんは選んでくれた。この卓にナンバー1はいーひん。ウチは負けるわけにはいかへん。誰が相手やろうと、勝たなあかんねん)

憩(せやのに、この様や。有効牌をツモろうとすると《上書き》されて、鳴いてテンパイすると掴まされる。
 この扉は……無能力者のウチにはあまりに堅過ぎるで。《悪魔》であるウチの、ホンマにホンマの天敵――《塞王》)

塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(大体の事情は……顔見ればわかるで。レベル0を塞いだことがないっちゅー事実からも容易に推察できる。
 無能力者《レベル0》を塞ぐのは本意やないんやろ? よーやるわ。そうまでして守りたいんか、あのナンバー1を……)

憩(なんでや……あんなツノのどこがええんや……? 自分も……それに――菫さんも……ッ!!)

憩(見ればわかる! 《悪魔の目》を持つウチにはわかり過ぎるほど全部がわかるっ!!
 宮永照のことを話すときの菫さん――心拍数が、体温が、血圧が、表情が、視線が、ありありと心の声を語っとる!! あのツノのことが大好きで大好きで大好きでしょーがないって叫んどる!!
 ああ、そんなのはもう初めて会うたときからわかっとんねん……!! やからっ!! せめて……せめて、二番でもええから……想ってもらいたくて、傍にいたくて……!!)

憩(やっと隣に立つことができたんや……!! 一緒に《頂点》倒そう言うて、菫さんがウチを必要としてくれたんや!!
 やのに――!! ウチがどう足掻いても手に入れられへん一番を欲しいままにしときながら……!! 自分は、ウチから、二番である価値さえ奪っていくんか……!? ナンバー1――宮永照ッ!!)

憩(うっ……く――あかん、次巡にネリーさんがハネ満ツモる。ズラせへん……ほな、論理的に考えて、今のウチに出来る最善は差し込みや。ナメとるなぁ……またこのパターンか……)ギリッ

 憩手牌:四五六八九⑧⑧/(一)二三/中(中)中 ツモ:② ドラ:①

 塞手牌:六七八44678③④⑤⑥⑦ ドラ:①

憩(泣かへん……! この程度のことでは――ウチは泣かへんからなっ!!)

憩(どっかに必ず道はある。最後の最後までウチは思考を止めへん。今度こそ、大好きな人の力になるって決めたんや。笑ってやる……ニコニコ笑って……最後には勝つんやッ!!)タンッ

塞「ロンよ、2000」パラララ

憩「はいな」チャ

塞「……諦めなさいよ」

憩「……なんか言いました?」

塞「見てらんないって言ったの。あんたの、そういうの」

憩「自分にウチの何がわかるんですか……」

塞「いや、別に、あんたじゃあるまいし、なんでもかんでもはわからないけどさ。そんな風に……無理して笑わなくたって、いいんじゃないのかしら、って思っちゃうわけよ」

憩「そっちこそ……無理して塞がなくたってええんですよ」

塞「そいつはできない相談ね。これが私の存在証明だから」

憩「ウチかてそうです」

塞「ったく……あんな堅物のどこがいいのよ、あんたも、それに――」

憩「お互い様ですわ」

塞「……そーね。私ってほんとバカ。盲目。いや、たとえ頭と目が良くても、変わらないのかしら。あんたでさえその有様なんだから」

憩「軽口叩けるのも今のうちだけですよ」

塞「いや、無理だって。マジで」

憩「敵の言葉に耳を傾けるドアホがどこにおるんですか」

塞「あんたって頭良いくせに頭堅いわね。弘世にそっくり。なんていうか、ムズムズするわ」

憩「そっちこそ、中身テキトーなくせにええカッコしいなのが、宮永照そっくりです。はっきり言うて、ムカムカします」

塞「このっ……」

憩「ほな、張り切って南入しましょかッ!!」ゴッ

淡:126400 ネリー:95100 塞:69300 憩:109200

 南一局・親:淡

淡(親番だけど、角遠い。また地力でどうにかするコースかな。どうにかできるのかな?)

淡(私は能力や支配力だけの雀士じゃない。少なくとも、《煌星》なら、デジタルはモモコの次に強い。
 ただ、三回戦で一緒にテル対ネリーを見てたケイがちょいちょい言ってたけど、山牌見える相手にデジタルで勝てるわけがないんだよね……)

淡(うー、弱気になると来る牌が弱くなっちゃう。支配者《ランクS》の負の側面。ダメダメ。まずは己を支配するところから――)フゥ

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(どんなに頑張っても敵わない相手。どうやっても超えることのできない壁。向こう側とこちら側。覆しようのない実力差、か)

淡(思えば……)

淡(私は、キラメに、どれだけの重荷を背負わせてきたんだろう)

淡(つい数ヶ月前まで、地区代表にもなれないようなチームの、補欠ですらなかったキラメ。二軍《セカンドクラス》専用部屋でネト麻を打たせれば、R1300の激弱スコアを叩き出すキラメ。
 運命論なんて意味不明理論をすんなり丸呑みできるくらい、なんの下地もなかったキラメ。それでいて、頑張らないってことができなくて、期待されたら必死に応えようとするキラメ。
 すばらすばらって、何事も前向きに受け止めるようにして、いつだって強く正しくあろうとする……キラメ)

淡(でも……私は知ってる。キラメだって人間だもん。心が折れることだってある。辛いことも、苦しいことも、悲しいこともいっぱいある。でも、それを誰かに見せることはしないで、キラメは、一人でじっと堪えるんだよね)

         ——才能も実力もある皆さんに囲まれて、私なんか私なんかって思って、

     ——ただただ、急き立てられるように、義務感だけで理論を詰め込み、無理矢理に牌を握っていました。

                      ——正直、逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。

淡(キラメが、一度だけ、その本音を聞かせてくれたあの日。あれから、キラメは、一度だって弱音を吐かなかった。麻雀の勉強と、練習と、対策と、ずっと……まるでそうしてないと、全てが壊れちゃうみたいに。
 『絶対に負けない』――その言葉を繰り返してた。でも、それは、きっと、強がりだ。二回戦も、三回戦も、準決勝も、キラメはきっと苦しかったはずなんだ。私がへっぽこなばっかりに、キラメにはいつも厳しい戦いばかりさせてきた。
 ちっちゃいの、ケイ、クロ、たかみー先輩、コマキ、ヒメコ、ネリー……みんな、私じゃきっとどうにもならなかった相手だ。何人かは実際に負けてるし。
 そんな人たちを敵に回して、キラメは、負けなかった。キラメは私たちを導いてくれた。あの日の約束の通りに)

     ——ええ、わかりました。わかりましたとも!

                           ——私は《煌星》の花田煌――!!

           ——その名に相応しい雀士になってみせましょうッ!!

淡(私は……あまりにも不用意だったんだ。私ができもしないようなことを、私よりずっと弱いはずのキラメに強いるなんて。そのせいで、キラメは今も、とっても大事なことを言えずに、苦しんでる)

淡(私……キラメを追い詰めてばっかりだ。初対面のとき、その能力と心の強さに一目惚れして、無理矢理チームメンバーに引き入れた。
 私の我儘で一年生ばっかりのチームにしちゃって、学園都市に来たばかりで右も左もわからないはずのキラメに、年上だからリーダーをしないといけないって責任を押し付けた。
 私がそういう風にしたんだ。キラメが誰にも頼れない状況を作ったんだ。そりゃ……辛かったはずだよ)

淡(それでも、せめて、私がエースとしてしっかり結果を出せていれば、キラメの負担も減ったはずなんだ。
 なのに、私は、負けた。合同合宿で、キラメの負け分を取り返せなかった。こいつに負かされたんだ……)

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(私でも負けることがある――私が不甲斐ないせいで、私はキラメに、強くあることまで強いてしまった。そして、そのことで、一度、私はキラメを泣かせてしまった。
 捨て駒——もちろん、私はキラメをそんな風に思ったことはない。でも、それを、キラメが心から肯定できるくらい、私が圧倒的に強ければ、キラメをあそこまで追いつめることは……なかったのかもしれない)

淡(それで……それだけキラメを追いつめておきながら、私は言ったんだ。『私たちを導いて。夜空に煌めく星のように』――ひどいよね、私は、ひどいよ。
 チームをまとめる責任も、エースとしての重責も、勝利を掴み取る大役も、全部……キラメ一人に背負わせた。私は最低だ。準決勝……キラメにあんな勝ち方をさせてしまったのは、全部、私だ。私が悪いんだ)

淡(ごめんね、キラメ。私はあなたに頼り過ぎていたね。任せ過ぎていたね。ごめんなさい。本当にごめんなさい。
 私は甘えてしまうから。私には、例えば《虎姫》みたいな、最初から何もかも用意された場所のほうがよかったのかもしれない。
 あなたは頑張り過ぎるから、例えば《新道寺》みたいな、支えてくれる先輩や同級生がいっぱいいる場所のほうがよかったのかもしれない。
 私たちは、出会わないほうが……よかったのかもしれない——)

淡(かもしれないは、考え出したら、きりがない。今更何を言ったところで、私とキラメの出会いはなかったことにはできない。私の弱さが、キラメの抱える闇を大きくしてしまった今を、変えることはできない)

淡(それでもね、キラメ。私はあなたが大好きだから。この今を、より良い未来にしようって、いつかちゃんと幸せを掴もうって、思うの)

淡(そのために、私にできること。最後まで、諦めないこと。エースの責任を、果たすこと)

淡(敵は強いよ。ぶっちゃけ無理だよ。山牌が見えるって何さ。能力を《無効化》できるって何さ。いや、ネリーだけじゃない。ケイが普通に打てるようになったら私なんて秒殺だ。サエが狙いを私にしてきたら焼き鳥確定だ。
 私は今、キラメの戦略のおかげで信じられないほど有利に戦えてる。勝てない? 敵わない? バカ言ってるんじゃないよっ!!)

淡(こんなのっ!! キラメが今までどれだけのものを背負ってきたと思ってる!!
 キラメが今までどれだけ苦しかったと思ってる!! キラメが今までどれだけ泣きそうになってきたと思ってる!! こんな状況……キラメが味わってきた100万分の1の辛さもないっ!!)

淡(モモコと、ユーカと、サッキーと、四人で約束したんだ。キラメ一人に全部を背負わせるのはやめようって。今日の決勝は必ずトップでキラメに回すんだって。
 《煌星》のエースとして、私は最後まで全力で戦って、結果を――勝利を掴んでみせる……!!)

淡(合同合宿で負けた借りは、きっちり返すんだから……ネリー=ヴィルサラーゼッ!!)ゴッ

ネリー「ロン――7700なんだよ」カチャカチャパララ

淡「……っ! ……はい」チャ

ネリー「ふっふふーん! まだまだだね、あわい。強くなったみたいだけど、その程度じゃ私には勝てないんだよ!!」

淡「言ってくれるじゃん……。ま、力の差があるのは、初めて打ったときからわかってたけどね。いやホントすごい。運命奏者《フェイタライザー》。聞きしに勝るとはまさにこのこと」

ネリー「負けても泣いちゃ嫌だからねー」

淡「……安心して。それはない」

ネリー「ふーん?」

淡「私は後悔なんてしないししたくないって性質だけど、強いて、『これは後悔したほうがいいんじゃないかなー?』ってことを一つだけ挙げるなら、それは、あのときあなたに負けて泣いたことだよ」

ネリー「それはそれは」

淡「だから、同じことを繰り返すつもりはない」

ネリー「そっか。それは、いい心掛けだね。その意気やよしなんだよ。やっぱり笑顔は大切だもんね。その調子で、今日はこの運命を思いっきり楽しんでいってね、あわい!」

淡「……何か勘違いしてるっぽいから、言っておくけど――」

ネリー「む?」

淡「私は、あなたに『負けること』を繰り返すつもりはないって言ったんだよ」

ネリー「ほーう……? この私に勝つつもりかね!? 《頂点》でも《特例》でも《神の領域に踏み込む者》でもないあわいが? わからないね……一体どうやって?」

淡「あなたがわからないことを、なんで私がわかるのさ。一千年分の何かがあるんでしょ?」

ネリー「確かに……!! えっ、じゃあ、ノープランなの!?」

淡「まっ、そういうことになるよね!!」ババーン

ネリー「あわいって、もしかして、すっごいおバカなの?」

淡「……そうだよ。私はバカ。大切な人が苦しんでいることに……つい最近まで気付くことができなかった――本当にどうしようもないバカなんだよ……」

ネリー「あわい……?」

淡「なんでもない! まっ、そういうわけだから……覚悟してよね、頂点《ホンモノ》!!」

ネリー「もちろん。私は最後まで聞くつもりだよ。今はまだ後継者《ニセモノ》のあなたが、どんな運命を奏でるのか!!」

淡「上等じゃん……ッ!!」

ネリー「それじゃあ行っちゃおうかね。私の親番なんだよっ!!」

淡:118700 ネリー:102800 塞:69300 憩:109200

 南二局・親:ネリー

ネリー(親番。ここでトップのあわいを射程距離に入れたい。普段ならこのくらいの点差……って言えるところなんだけどね。やっぱり、プレッシャーが半端じゃないよ。学園都市のナンバー2――)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(あわいの《絶対安全圏》とさえの《防塞》をモロに喰らっておきながら、さえの能力の抜け道を探しつつ、私を牽制するとか。人間にできることじゃないんだよ。
 私は、あなたと同じで《運命》が見える。その中で最適なメロディを奏でてる。なのに、さっきから思うようにいかない。
 きっと解析されてるんだ。私の感覚を観察と演算だけでトレースして、瞬時に超越解を弾き出してる)

ネリー(てるは、なんで自分がけいに勝ててるのか不思議でならないって言ってたね。本当だよ。支配力や超能力でこの《悪魔》がどうにかなるの? いや……どうにもならなかったんだっけ……)

ネリー(去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》……個人戦決勝。てるとけいが初めて直接対決した対局。
 やえが見せてくれなかった――見ないほうがいいって言ってた――牌譜と映像を、昨日、ゆうきの部屋の機械で、検索してもらって、見たんだ)

ネリー(あれは……そう、確かに、私が見ちゃいけない一曲だったんだよ)

ネリー(まず、何がショックだったって、私じゃどう逆立ちしたってけいには勝てないんだってことが、はっきりわかっちゃったこと。
 いや、勝てないってことはやえに釘を刺されたけどさ。相性の問題じゃないじゃん。普通に確固たる力量差があるじゃん。
 だって、けいは、全力の私が100点差で及ばなかった学園都市の《頂点》――てるに、勝ってしまっていたんだから……)

ネリー(対局の大体の流れは、私とてるがぶつかった三回戦のときとほぼ同じだった。まずけいが連荘して、それをてるが止めて、《万華鏡》で連荘。南場の親で、てるがけいに《八咫鏡》を直撃。
 ここから、けいの様子が少しおかしくなるんだよね。たぶん、私が感じたショックと同じ類の衝撃を受けたんだと思う)

ネリー(けれど、私がそうだったように、けいもすぐに切り替えした。そこからは、またけいの連荘。ラス親だったけいは、とうとう、てると同点になるまで追い上げた)

ネリー(本物の《悪魔》みたいだった。今のけいからは想像もできない。笑ってなかったんだ。目に一杯に涙を溜めながら戦ってた。詳しい事情は知らないけれど、きっと、負けられない理由をたくさん抱えていたんだと思う)

ネリー(最後の一局は……とても静かに終わった。ノーテン流局。てるとけいの点数は同点のままけいの親が流れて、試合終了。上家取りで、勝ったのは、てるだった)

ネリー(でも、牌譜を見れば、誰だって気付く。けいにはテンパイできる道があった。裏目ってたんだ。点数を高める以外では決して裏目らないはずのけいが、私と同じで山牌の並びを把握できるはずのけいが、裏目っていた)

ネリー(それが『見間違い』に拠るものなのか、それとも他に理由があるのか。私にはわからない。映像は、試合が終わって、けいが泣き崩れたところで、途切れてた。その後どうなったのかは……わからない)

ネリー(でも、あの対局は確かにあって、それから一年の時が流れて、今現在の、この人がいる。
 あの決勝戦の同卓者だったさとはとすみれと一緒に、打倒てるを目標に戦っているあなたは……一体どれだけの想いを、その胸に秘めているんだろう)

ネリー(それに、やえもだよね。詳しい事情は知らないけどさ。てるにけいをぶつけたのってやえなんでしょ? 自らの理論の実証のために、無能力者を《頂点》に挑ませた。私をてるにぶつけたように)

ネリー(……いや、違うか。けいは《特例》なんだもんね。私とは違って)

ネリー(なんだかなぁー。そりゃまあ、根掘り葉掘り聞こうとは思わないけどさ。ちょっとくらい話してくれてもいいじゃんって思う。たとえ、それが、私に対する気遣いなんだとしても)

憩「ポン」タンッ

ネリー(って、まあ、こんな風にぐちぐち考えちゃうから、見るなって言ったんだよね。言っちゃえば私って部外者だから。ヘソを曲げられちゃ敵わないって思ったのかな?
 うん。実際、羨ましいやら悔しいやら妬ましいやら何やらっていうのは、あるよね。でも――)

ネリー「チー」タンッ

ネリー(dedicatus545――《献身的な子羊は強者の知識を守る》。知ることは、それが何であれ、私の力となり強さとなる。あの一曲は、聞いちゃいけないものだったけれど、聞いておいてよかったと思う。
 耳を澄ませば聞こえてくる。この《運命》……熱く切ない旋律の奥にあるものが――!)

憩「チー」タンッ

ネリー(もっと……っ!!)

ネリー「ポンッ!」タンッ

憩(……やるやんか、《神の耳》)パタッ

ネリー(それほどでも、《悪魔の目》)ツモッ

ネリー「ツモ、1000オールなんだよ!!」カチャカチャパララ

憩(んー……打点を下げるんで精一杯。ネリーさんやなかったらここまで手こずることもないんやけどな。ホンマ……宮永照も宮永照、花田さんも花田さん、小走さんも小走さんやで)フゥ

ネリー「(さあ、もっと聞かせてよ……!! あなたたちの想い《こえ》を!!)どんどん行くんだよ、一本場っ!!」ゴッ

憩(あかん……早いとこ、この最ッ低の状況をどうにかせんとな――)

淡:117700 ネリー:105800 塞:68300 憩:108200

 南二局一本場・親:ネリー

塞(どういう次元で駆け引きしてるのか知らないけど……本当によくやるわね。改めてこいつのデタラメさを思い知るわ。《白衣の悪魔》――荒川憩)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(私に塞がれていても、対局の主導権は荒川が握る。それゆえに、ヴィルサラーゼや大星がぶっちぎるリスクや、私がトぶリスクは回避される。
 っていうのは、まあまあ、作戦通りではある。あるけど、いや、まさか、実際にそんな離れ業ができるとは思ってなかったわ。
 すごいすごい。あんたは本当にすごいわよ、荒川。今のあんたなら、宮永にも勝てちゃうと思う。なんでもやっちゃいそうな気がするもん。弘世のためなら。本当になんでも。よっぽど入れ込んでんのねぇ……)

塞(そんなに、あんたは弘世のことが好きなの? そんなに、あいつを宮永に勝たせたいの?
 なんにも知らないって幸せよね。あんた、自分のしてることが、実際のとこ、どんだけ虚しいことなのか、わかってんの……?)

塞(私はね……知ってるわよ。おかしいと思ってたのよ。最初から。だって、私をチームに誘うとき、宮永は言ったんだもん)

    ——これから数ヶ月……私の傍に、いてくれる?

塞(高鴨を誘うときにも言ってたわね)

           ——これからよろしくね。短い間だけど——。

塞(それでいて、宮永は、優勝するつもりでいる。一軍《レギュラー》になるつもりでいる。
 一軍《レギュラー》になった三年は、引退せず、卒業ぎりぎりまで現役で打つのが慣例って、元一軍《レギュラー》のあいつが知らないわけないのに。なんで矛盾したようなことを言うのか――)

塞(だから、私、聞いたのよね。どういうことなんだって。いや、考えられる可能性はいくつかあったけどさ。できれば、何かの間違いや勘違いであってほしかった。
 なのに、宮永の口から出てきたのは、私が思いつく限りで、一番聞きたくない答えだったわ……)

   ――私、八月のインターハイが終わったら、海の向こうに留学する。

塞(いやいや……バカ言ってんじゃないわよ。マジやめときなって。迷うから。見知らぬ土地であんた一人とかリアル野垂れ死ぬから。考え直しなさいって――)

          ――菫にも、同じこと言われた。

塞(言うわよ。言うでしょ。誰だって同じこと言うわよ……!)

    ――菫と……臼沢さん以外には、まだ言ってない。

塞(いや、相談しなさいよ。打ち明けなさいよ。なんで黙ってたのよ。わっけわかんないッ!!)

          ――まだ、正式に決まったことじゃないから。

   ――八月のインターハイで、優勝することが、留学の条件なの。

塞(ホントわけわかんない……! なんなのよ、それ!? どうなってんのよ!! だって、言い換えればこういうことでしょ!?
 あんたはこの街を出ていくために一軍《レギュラー》になろうとしてる!! 弘世はそれを止めるために一軍《レギュラー》になろうとしてる!! そういうことじゃん!!?)

       ――結果的にだけど……そういうことになってる。

塞(結果的にじゃないわよ……!? どう考えたって、弘世はあんたをこの街に引き止めるためにあんたと敵対したんじゃない!!
 チーム《劫初》――笑っちゃうわよね! 私、調べたんだから。『劫』って、『去る者を力ずくで止める』って意味があんのよ……!?)

塞(それで、なによ。私は――弘世に勝つために誘われた私は――あんたが学園都市を出ていく手助けをしないといけないわけ?
 私はあんたの味方をしたい。あんたの力になりたい。けど、それで、あんたがどっか行っちゃうんじゃ……私、なんのために――)

憩「チー」タンッ

塞(あー……私……何をやってるのかしらね、ホント)

憩「ポン」タンッ

塞(あんたもよ、荒川。あんたの大好きな弘世は、大好きな宮永と別れたくないから、あいつに勝とうとしてんのよ?
 あんたそれでいいの? あんたそれで戦えるの? あんたは全てを知っても……弘世の力になりたいと思えるの……?)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(…………思えるんでしょうね。私と同じでさ――)

ネリー「ポン!」タンッ

塞(私はずっと宮永の味方でいたい。私は、あいつが望むなら望むままに力になってやりたい。そりゃ、離れ離れは嫌だけど。できることなら、一番近くに置いてほしい。一番に想ってほしいってのは……あるけど、さ)

塞(好きになっちゃったもんはしょーがないのよね。運命みたいなもんなのよ。初めて開かれちゃった相手なんだもの。
 三回戦で高鴨から《八咫鏡》の話を聞いて納得したわ。あいつが天照大神なら、私は天岩戸なんだって。私の《防塞》は、最初からあいつにこじ開けられるためにあったんだって。
 初対面よ、初対面。お互い名乗りあってすぐよ。びっくりしたわ。いきなり人の一番奥に踏み込んできて、ノックもなしにギギギとか。モノクルともども粉砕よ。あいつには、ホント、やられたわ――)

        ――ご、ごめん、どこか怪我してない……?

塞(これでいいのよ。私の力はあいつのためにあるんだから。迷いはない。最後の夏に、あいつと一緒にいることができて、あいつと一緒に戦ってる。十分じゃない。大満足。これ以上何を望むことがあるのよ……)

ネリー「ツモ、1000は1100オールなんだよっ!」カチャカチャパララ

塞(だー……親の連荘。ちゃっちゃと流れてほしいけど、こうやって安手の連荘を許してるってことは、この前半戦のうちに私の《防塞》を解析したいって気持ちがあるのよね。それとも、もう終わってたり?)チラッ

憩「…………」ニコッ

塞(こっわ……。ま、いいけどね。好きなだけ足掻きなさい。あんたが何をどうしようと、無理なもんは無理なんだから。無能力者に私の《防塞》は開けないのよ)カチャ

憩(……余裕やな。余裕過ぎる。準決勝観戦中の振る舞いを見ればわかる通り、臼沢さんのメンタルはごくごく一般人レベル。
 ウチが笑顔を見せればもっとビビるはずやのに。なんや、ウチの知らへん裏があるんか……?)

憩(《防塞》の論理構造は大体わかった。不完全領域も見えとる。ウチなら和了ることも可能や。幸いまだラス親が残っとるし、逆転もできるやろ。ただ、もし、見落としが――落とし穴があったとすれば……?)

塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(あかんな……嫌な汗出てきたで。心拍数も上がってきた。呼吸のペースも速い。全身の筋肉が強張って、手の震えが止まらへん……)

     ――ノーテンだ。

                 ――ノーテン。

       ――……ノーテン。

憩(ははっ……ウチがビビってどうすんねん。いや、まあ、理屈はわかり過ぎるほどわかるけどな。ええよ、ビビりたいなら好きなだけビビれ。
 感情なんて所詮ただの電気信号。身体反射に過ぎひん。こんなもん、条件付けられた危機回避の本能が、ウチの意思とは関係なしにアラートしとるだけやん)

憩(人間はよくできた機械。特定の条件が揃えばウチの身体がこうなってまうことくらい、わかっとる。わかっとるからこそ、一年かけて鍛えたんやんか。感情を制御する方法をな――)スッ

淡(来た、ケイのスーパー《悪魔》モード……!!)

ネリー(いよいよか。じゃあ、こっちも仕掛けていこうかねっ!)

塞(目力だけで人を殺せそうなとこも……弘世にそっくりよね)ゾクッ

憩(人間もパソコンも同じや。あんま熱くなり過ぎると、ソフトやなくてハードがクラッシュする。
 冷静にならんとな。最高のパフォーマンスをするためには最適な環境を整えなあかん。大丈夫……バイタルは良好。これなら戦える)

憩(人事は尽くした。あとは、思考するだけ。そうですよね、小走さん――)

ネリー「じゃ、二本場行っちゃうんだよ!!」コロコロ

淡:116600 ネリー:109100 塞:67200 憩:107100

 南二局二本場・親:ネリー

憩(ほんで、このタイミングでそれか。情け容赦なくやってくれるやん……運命奏者《フェイタライザー》)

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(理牌をしたらその合図――だっけね)

淡(来ちゃったかぁ、《実在する全ての能力を使える》力――《完全模倣》……自動即興《エチュード》)

ネリー(けいが例のクセを見せたら出し時……ってことで、遠慮なくやっちゃうからねー!!)タンッ

塞(どこのどいつが模倣されてんのかしら? 一打目じゃなんとも言えないわね)タンッ

憩「(ま、たぶんそやろとは思っとったけど、やっぱ衣ちゃんか。こらキッツいな)……失礼」フゥ

ネリー(さあ、どうするの、けい。逆転する気満々みたいだけど、能力的《オリジナル》なものにせよ擬似的《コピー》なものにせよ、その効果をモロに受けちゃうあなたは、この状況を打開する術を持たないはずだよ)

憩(《絶対安全圏》、《防塞》、《一向聴地獄》……鬼みたいなコンボ極めてくれるやん。演算しても演算しても和了りルートが見つからへん。しかも、放っておくとネリーさんが海底でトップまくってまう)

憩(三回戦で見る限り、大星さんなら衣ちゃんを止められなくもない。ただ、ネリーさんの完全模倣は、《神の耳》の応用技やから、ウチの《悪魔の目》と同じで、ほぼほぼどうあってもネリーさんの思い通りになる。
 大星さんは衣ちゃんに対抗できるけど、自動即興《エチュード》で現れた衣ちゃんには太刀打ちできひん。これをどうにかするんは、ウチの領分や)

憩(ただ、こちとら飛車角金銀落ちどころか、持ち駒ゼロの王将裸単騎で、しかも第一手から既に詰んどる状態。どうしようもあらへん。
 ネリーさんを止めながら、大星さんと臼沢さんを出し抜くのは、物理的に無理なんや。いくらウチが《悪魔》でも物理の壁は超えられへん)

憩(最高のタイミングでやってくれるやん。きっと小走さんの指示やろな。せっかく気を静めたっちゅーのに、それもお見通しっちゅーわけですか。ホンマに、敵わへんな、あの人には……)

        ――悪いが、勝たせてもらうぞ。容赦は一切ナシだ。覚悟しておけ。

憩(まだまだ。これくらいでは負けません。泣きませんよ。見せたります。ウチがあれから、どれだけ強くなったのか!)タンッ

淡(ふむむぅ……じゃあ、こっちも出そうか。切り札その三――)タンッ

ネリー(おっ……? あわい、ダブリーしないんだ)タンッ

淡(雰囲気的に、たぶんあのちっこいのを真似してる。で、ここで私がダブリーすれば、三回戦で一回やられたみたいに、私の和了り牌が海底に飲まれちゃうんでしょ? キラメ曰く、そういう《運命》。よくわからないけどさ)

淡(私がダブリーをすれば、その《運命》がより強固なものになってしまう。ま、たとえダブリーをしなくても、ネリーが和了る《運命》はそう簡単には変えられないらしいんだけど)

淡(自動即興《エチュード》に対抗できる人間は限られる。私はそっち側の人間じゃない。だから、ここは、自由度を保持しつつ、『そっち側の人間』に任せる――)チラッ

憩(ふーん……ウチと協力プレイでもしてくれるんか、大星さん……?)

淡(ケイ的に、ここでネリーに大きいのをツモられるのは困るはず。かといって、今のケイにはできることに限界がある。ここで私がケイにつけば、ケイは私を悪いようにはしない)

憩(いや、利用する気やな。花田さんが何か吹き込んだんか。ふん……まあ、ええわ。こっちもそんなに余裕があるわけやなし。有難く使わせてもらうで)

ネリー(何か企んでるみたいだけど、止められるもんなら止めてみろなんだよっ!!)

塞(この置いてきぼり感!! どいつもこいつも人外ばっか!! ああ、もう、どうしろって言うのよ……!!)

 ――《永代》控え室

穏乃「ネリーさんが例の《完全模倣》のモードに入りましたね。見た感じ、対象は天江さんだと思われます」

純「大星がダブリー掛けてりゃ、暗槓で東家のネリーが海底だったのか。だとすると、大星がダブリーしなかったのは英断だが……まあ、衣には関係ねえよな、そんなこと」

まこ「あれが衣なら、見るからに塞は苦しそうじゃが、どうにかなるんか、照?」

照「どうにもならないだろうね」

穏乃「ばっさりです!」

純「まあ塞だからな」

照「けど、状況は悪くない」

まこ「あまり信じられんのう……」

     ネリー『カン!!』

純「おおっ、海底コース……!」

     ネリー『リーチなんだよッ!!』

穏乃「ですが、これはズレると思います」

     淡『チー!』

まこ「こりゃあ……」

     淡『ロン、7700は8300!!』

     塞『マジで……?』

純「だーもー、手番が回ってこねえと思って最後の安牌切っちまうから」

まこ「そこも含めて憩の計算通りなんじゃろうが……まあ、こればっかりは仕方ないの」

穏乃「それで……この振り込みは、計算通りってことでいいんですかね、照さん」

照「うん」

純「へえ……?」

照「ネリーさんの《完全模倣》のタイミングも良かった。その対象が天江さんっていうのもなかなか悪くない偶然。
 そして、大星さんがダブリーせずに荒川さんの側に回ったのも、よくわかってる。一巡目の時点で、この結末は読めてた」

穏乃「『自分は和了れない』『放っておくとネリーさんが高打点ツモ』『大星さんがフリー』となれば、当然、荒川さんは大星さんをうまく誘導して塞さんを削りに行きますよね。
 荒川さんの目標は『区間賞』で『トップ維持』でしょうから、塞さんの《防塞》がネックになっている現状、塞さんを追い込んで《防塞》の対象を自分から他家に移せるなら、それがベストです。
 三回戦で、荒川さんは松実さんを集中的に削っていました。自分にとって都合の悪い能力者にダメージを与えるというのは、荒川さんの常套手段なんでしょう」

照「そういうこと。今までは、そんなに露骨には狙っていなかったけど、ネリーさんがあのモードに入ってしまった以上、悠長な打ち方はしていられない。放っておけばネリーさんが和了ってしまうから。
 あの状況なら、荒川さんは大星さんを使って臼沢さんを削ろうとする。そして、たぶん、この南三局もそう。大星さんかネリーさんのどちらかに臼沢さんを削らせて、《防塞》の標的を自分からズラそうとするはず。
 でも――」

純「でも?」

照「荒川さんは、二つ、重大なことを見落としている。一つ目は、どんなに削られようと、臼沢さんは、荒川さんを塞ぐのをやめないってこと。
 臼沢さんが荒川さんを塞いでいる理由は、一般的な期待値じゃ量れない。八割くらいは合理的な理由からだけど、残りの二割は不合理的な理由で、臼沢さんは荒川さんを塞いでる。
 『ダメージを与えて臼沢さんの狙いを逸らす』なんてやり方を選んだ荒川さんは、臼沢さんの覚悟を甘く見ているよ。たとえ、それでチームがトぶことになっても、臼沢さんは、荒川さんを塞ぐことをやめない」

まこ「なぜ――って聞くのは野暮なんかの?」

照「まあ、野暮を承知で答えれば、『私が頼んだから』なんだけど」

純「……憩の、二つ目の見落としってのは、なんなんだ?」

照「それは、荒川さんが、ラス親で逆転できると思ってること、かな」

純「まあ……わざわざ自分より上位の二人に塞を削らせようとしてるんだもんな。憩的には最終的にトップに立つつもりなんだから、ラス親で連荘を狙ってるのは間違いねえだろうが——」

まこ「どうしてそれが見落としになるんじゃ? あいつは算段がつかないことはしないけえの。間違いなく、憩は塞の《防塞》を見切っちょる。連荘の可能性は十分あるじゃろ」

照「臼沢さんの《防塞》を見切る……か」

穏乃「それ自体はできているのでしょうね。ただ——」

純「ただ……なんだ?」

まこ「なんぞ、わしらの知らん裏があるんか?」

穏乃「たぶん、見ていればわかると思います」

照「心配は要らないよ。荒川さんの連荘はないから。この前半戦は、次の南四局で終わる……《絶対》に、ね」

     ネリー『ロン、12000っすなんだよ!!』

     塞『っ……はい』

伏兵がいたか
さあ憩ちゃんどうなる

 ――対局室

 南四局・親:憩

憩(ほんで……自分はこの状況でまだウチを塞ぐわけか。能力由来の強情さは大したもんや。まるで玄ちゃんを相手にしとるみたいやな)

 東家:荒川憩(劫初・107100)

塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:臼沢塞(永代・46900)

憩(意地でもウチには和了らせへんつもりか。ホンマ困るわ。やって、和了れへんと勝てへんわけやん。勝てへんかったら、ウチを信じてくれとる菫さんを裏切ることになる。大好きな人を……裏切ることになる――)

       ——憩……。

                    ――待っ……行くな、憩……っ!!

憩(……落ち着け。感情に流されるな。ええから思考しろ。この状況からどうやって逆転するか。《防塞》を掻い潜って和了る――方法はある。道は見えとる……)

                       ——久しぶりだな、荒川――。

         ――そのことは……何度も言っただろう。

                                ——お前のせいではない。

憩(勝てばええだけや。そもそも勝って当たり前やん。負ける要素がない。ウチはナンバー2。宮永照以外に負けへん。負けるわけにはいかへん。勝たなあかんねん……たとえ、誰が相手であろうともッ!!)

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・120100)

憩(……ここで菫さんか。しかも《照準》がウチを向いとる。その《完全模倣》――対象が制御できひんって前情報がなかったら、問答無用で首絞めとるところやで。ネリーさん……自分、押したらあかんスイッチ押したな……)

憩(《絶対安全圏》? 《防塞》? 《シャープシュート》? それがなんや! その程度でウチを封殺したつもりか!? いくら重ね掛けされようと、所詮はレベル4の能力! 抜け道はいくらでもあるっ!!
 それを今から証明する!! 証明して、この運命を決定したるわ……!!)

憩「チーッ!!」タンッ

憩(覚悟せえよ。ウチが和了ったときが、この試合の終わるときや。自分らの全て……《悪魔》が飽くまで奪い尽くすで――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(けいの暗黒オーラがヤバい……けど、仕方ない。このタイミングですみれが出てきちゃったことも含めて、全ては《運命》だからね)

塞(ハッタリや虚勢じゃなくて、こっからガチで私をトばせる――その見通しが立ってるって感じね。やっぱこいつ人間じゃないわ)

淡(めちゃめちゃ恐い。何が恐いって、これだけ感情を剥き出しにしてるのに、これっぽっちもウネウネセンサーに引っかからないのが恐い。本当に、実体のない《悪魔》を目にしているみたいだ……)

 南家:大星淡(煌星・125900)

憩(想っても願っても祈っても、無能力者のウチには、望んだ通りの牌なんて来ない。それでええ。想って願って祈って望んだ通りになったら、それは神様やん。
 超常の力なんか要らへん。確率干渉力なんかゼロ同然で構わへんよ。そんなもんがあったら、ウチは小走さんの目に留まらへんかったんやから)

    ――ランクFでレベル0……そして《悪魔の目》か。

              ――私はお前のような《特例》を待っていたよ、憩。

       ――私と一緒に《頂点》を獲ってみないか?

憩(小走さんがおったから、初対戦で宮永照を崖っぷちまで追い詰めることができた。ほとんど勝ち同然のところまでいった。ウチの涙のせいで何もかも壊れてもーたけど……それが回りまわって、菫さんに声を掛けてもらえた)

    ――私一人では、照を倒すことはできない。

            ――お前の力が必要なんだ……ナンバー2、荒川憩。

       ――私と一緒に《頂点》を打ち倒そう。

憩(もう二度と……大好きな人の笑顔は曇らせない――!)

                  ——期待しているぞ……憩——私の《特例》。

      ――……私は、お前を信じているからな、荒川。

憩(今度こそ……大好きな人と一緒に《頂点》に立つんやッ!!)

憩「カンッ!」パラララ

 憩手牌:④④24[5]67/8888/(③)④[⑤] 嶺上ツモ:? ドラ:⑤・1

ネリー(うっお――そう来ちゃうのか!?)

 ネリー手牌:13444一二三[五]五①②③ ドラ:⑤・1

塞(迷いなく手を伸ばすのね……そんな高いところに――)

淡(嶺上牌を支配領域《テリトリー》にしてる能力者なんて、サッキー以外に思い浮かばない。たぶん、《塞王》さんでも無理でしょ)

憩(花田さんが《運命論》の解説で言うてたっけな。運命創者《プレイヤー》は一~四型に分けられる。配牌、自牌、他牌、王牌――臼沢さんは封殺系……典型的な三型や。
 王牌――支配領域《テリトリー》の《未開地帯》なら、《塞王》の力は及ばへん……!!)

塞(ちゃー……やっぱバレたか。そうなのよね。封殺系なら他家のツモ牌に干渉できる。けれど、三回戦で、同じ限定封殺系能力である豊音の《先負》が暗槓で破られていたように、嶺上牌は、また別口。
 あのとき、豊音の和了り牌はまだ残っていた。にも関わらず、嶺上牌で掴ませることはできなかった。《先制リーチ者に掴ませる》効果は、王牌までは及ばない。それは、私の《防塞》も同じなのよね)

憩(さあ……反撃の狼煙を上げよか……!!)

塞(でも、残念だったわね、荒川――)カチャ

憩「っ……!!!?」ゾワッ

 憩手牌:④④24[5]67/8888/(③)④[⑤] 嶺上ツモ:九 ドラ:⑤・1

塞(無能力者《あんた》に扉《私》は開けないのよ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(う、《上書き》やと……!? なぜ!? ありえへん。《防塞》の論理構造の中に王牌は含まれてへんかった。王牌に《塞王》の力は届かへんはずなんや!! そんな……論理の不完全領域を、一体どうやって――)ハッ

塞(……気付いたのかしら。けれど、遅いわ。遅過ぎる。何もかも)

憩(《予備危険性の排除則》――《リジェクト効果》!!? アホな!? あれが論理の不完全領域をカバーしたんか!? やって、それ……それができるっちゅーことは……!! くっ、何がどうなっとんねん――)タンッ

塞「ロンよ」ゴッ

憩(な……んやと――!?)クラッ

塞「平和一通ドラ一……7700」パラララ

 塞手牌:一二三四五六七八123⑧⑧ ロン:九 ドラ:⑤・1

憩(手牌が見えてたんとちゃう!? こんな……こんな暴力的な《上書き》……!! 花田さんや宮永照を相手にしとるんとちゃうで!?
 否――せやけど……状況証拠から考えて、それ以外の解が出てこーへん。そんな、嘘やろ……)ゾクッ

塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

『副将戦前半終了おおおおおー!! トップ《劫初》がまさかの三位転落!! 入れ違いに浮いてきたのはチーム《煌星》!! 《幻奏》の追い上げも凄まじいものがありますッ!!』

憩「…………臼沢さん」

塞「何よ」

憩「ちょっと信じられへんのですけど……臼沢さん――超能力者《レベル5》やったんですか……?」

塞「……厳密に言えば、ノーよ。学園都市に超能力者《レベル5》は七人しかいない。そこに私は含まれていないわ」

憩「なるほど…………ほな、つまり、あれですか――『レベル4強』」

塞「…………この状況でよくそこに辿り着けるわね。あんた頭おかしいんじゃないの?」

憩「論理的に考えてそれしか答えがないんやったら、それが正解ですやん」

塞「高鴨もいつだか似たようなこと言ってたわね」

憩「ははっ……まんまと騙されましたわ。レベル4強――限定条件下でレベル5相当の強度を発揮できる大能力者やって……? 完全に詐欺やん」

塞「まあ……確かに一般に広まっている情報じゃないわね。はっきりそうだと知ってるのは、宮永と《幻想殺し》だけよ。
 それから、私と強度測定したレベル5——《幻想殺し》の研究室で直接打った鶴田と園城寺なら、何かを察しててもおかしくはない、くらいね。
 あと、高鴨が……まあ、正式に強度測定をしたわけじゃないけれど、同じチームだし、あいつならすごパで何かしら見抜いてると思うわ」

憩「強度測定――ああ……わかってきました。そっか、『扉』――そういう意味やったんですか。理解しました。臼沢さん、自分は最強の封殺系能力者やない。言わば、自分は――」

塞「最強の大能力者《レベル4》……私は学園都市にただ一人しかいないレベル4強。レベル4以下のあらゆる能力で最高の強度を誇るのが、私の《防塞》ってわけ。
 私は《絶対》の境界線――能力者をあちらとこちらに仕分ける扉の番人。私を開いた能力者だけが、自らの能力を《絶対》と誇ることを許されるのよ」

憩「つまり――それが《塞王》の正体なんですね……?」

塞「ええ。《防塞》は《防才》であり《防災》――私は才華と災禍を振り撒く《十最》の王――《塞王》は《最王》なの。全ての能力者が行く道の先にある『扉』……一番奥の突き当たり——」

憩「《最奥》の大能力者……ッ!!」

塞「そういうこと。で、この《最奥》の扉をこじ開けられるのは、学園都市――ひいてはこの世界に七人だけなのね。
 例えば松実の嶺上開花、渋谷の地和、鶴田の《約束の鍵》、園城寺の予見した一発、宮永の《八咫鏡》、高鴨のすごパ――私が塞げないのは、超能力者《レベル5》による《絶対》の和了りだけ。
 それ以外の相手なら、私は《見つめて塞ぐ》ことができる。大能力者《レベル4》だろうと、無能力者《レベル0》だろうと、平等にね」

憩「……せやけど、臼沢さんは、超能力者《レベル5》には含まれへん。《絶対》に塞げるわけやない。ここ大事ですね。特定の条件が揃わなければ、自分はレベル5相当からレベル4に下る。
 《予備危険性の排除則》によって不完全領域をカバーする――《リジェクト効果》みたいな反則技は、できひんようになるわけや。ほんで、その条件は何か。大体わかりますよ。
 臼沢さん……自分は、『万全で全力』ならレベル5相当の強度を発揮できる――ちゃいますか?」

塞「よくそんなポンポン推論できるわね。まあ、そーよ。ずばりそう。ご察しの通り。『万全で全力』なら、私の《防塞》は《絶対》の強度を誇れる」

憩「ほな、疲れさせればええだけやんな。薄墨さんと打ったときなんか、北家一回でヘロッヘロになってましたやん」

塞「そうね……あれはしんどかった。っていうか、最初に宮永と強度測定したときなんか、もう思い出したくもない。盛大にげろったわ。薄墨のときもそう。何度吐きそうになったかわからない。
 けど、あんた、荒川――《悪魔の目》を持つあんたなら、わかるでしょ? 私、今、めちゃめちゃピンピンしてるわよ?」

憩「……そうですね。なんか、一戦終えて、緊張解けて、やっと肩温まってきたな~みたいな感じで、腹立つくらいに元気そうですわ。
 っちゅーことは、あれですか、自分の疲労度は、塞ぐ相手のレベルによって変わるんですか?」

塞「そゆこと。宮永や鶴田や園城寺を塞いだときは、ビル破壊に使われる鉄球みたいなので全身をぶっ叩かれた感覚だったわ。どこのダンプカーが突っ込んできたのかとね。殺す気かって思ったわよ。
 ホント……《幻想殺し》からの呼び出しは、死刑通告以外の何物でもない。レベル5の誕生は喜ばしいことなんでしょうけど、正直、四度目はあってほしくないわね。
 これがレベル4だと、多少常識的。時速150キロの剛速球を受け止めるような感じかしら。がっぷり四つで押し合うっていうか。うわキッツ死にたい、って思うけど、まあ、一、二回なら頑張れる」

憩「ほな、その喩えでいくと、無能力者《レベル0》を塞ぐのはどれくらいしんどいんですか?」

塞「何も感じないわ。無能力者《レベル0》なんて100回踏み潰してもまだおつりが来るわね。軽い軽い。言わば、紙風船みたいなもんよ」

憩「……なるほど。それで自分はレベル0に《防塞》を使ってこーへんかったんですか」

塞「《最奥》の扉は能力者《レベル1以上》を仕分けるためのものだもの。レベル0は対象外なのよ。いや、見ての通り使えないってわけじゃないんだけど……だって、使ったら私が勝っちゃうでしょ?」

憩「よく言いはりますね、マイナス収支ッ!!」

塞「ふん……。で、憎まれ口はおしまいかしら、《特例》の無能力者《レベル0》」

憩「……っ!!」

塞「荒川、悪いけど、あんたは次の半荘も和了れない。《絶対》に和了れないの。これはもう確定事項。っつーわけで、せいぜい点数調整に明け暮れるといいわ。あんたならそれくらい余裕でしょ?
 ただ、どんなに削られても私はあんたを塞ぐのは止めないから。そして、私がトんだらその時点であんたらの負けが確定するってこともお忘れなく。ま、こんなの計算の速いあんたには釈迦に説法なんだろうけどさ」

憩「……っ」

塞「《頂点》に立つのは——私たち《永代》よ」

憩「黙らんかい三下、《頂点》はウチら《劫初》のもんや」

塞「後半戦、よろしくね――」ザッ

憩「ふん……」ザッ

 ――――

憩(あぁ……ホンマ……なんやねんこのザマは……っ!!)フラ

 四位:荒川憩・−24400(劫初・99400)

憩(くっそ……今すぐ対策練り直さんとあかんのに……感情が邪魔をして思考がまとまらへん……落ち着け……冷静に——)スッ

やえ「苦戦しているじゃないか、荒川」

憩「えっ!? こ、小走さん!? なんで……!!」

やえ「さあ、なんでだろうな」スッ

憩「それは……」

やえ「プラシーボ――とは違うか、この場合」コポコポ

憩「この香り……」

やえ「まあ、飲め」

憩「……おおきにです」

やえ「…………どうだ?」

憩「…………おいしいです」

やえ「そっか。よかった」

憩「ずっと……この味を目指してたんですけど、うまくいかなくて」

やえ「だろうな」

憩「何から何まで完コピしとるはずやのに、どこがちゃうんやろって悩んでたんですわ。でも、やっとわかりました」

やえ「他人が淹れたものは、普通、自分で淹れたものより美味く感じるものなんだ。これは……理屈じゃない」

憩「ええ……そうみたいですね……」

やえ「少しは元気出たか?」

憩「よう言いますわ。ネリーさんに例の呪文使わへんように指示しといて」

やえ「己の欲せざるところ、人に施しまくれってな」

憩「……はい、その通りです」

やえ「まだ終わったわけじゃない。泣くなよ、荒川」

憩「もちろんですよ、あの時とはちゃいます」

やえ「なら、いい……」

憩「……あの」

やえ「……ん?」

憩「昔みたいに……憩って呼んでくれへんのですね」

やえ「…………恥ずかしくてな」

憩「ああ……ほなら、しゃーないですね……」

やえ「……大体、それを言うなら、相手が違うだろ?」

憩「……そーでした」

やえ「よかったら、また、前みたいにラボに遊びに来い」

憩「はい。そうします」

やえ「……じゃあ、私はこれで」

憩「ごちそうさまでした」

やえ「あまり他言するなよ、敵チームにこんなこと……これは《特例》なんだからな」

憩「心得てます」ニコッ

やえ「なら、いい――」タッ

憩(もう……なんも変わってへんなぁ、あの人……)

菫「あっ――荒川!」

憩「すすすす菫さん!? どないしました!?」

菫「あ……その、いや、お前が心配で……」

憩「……反論の仕様がない結果ですからね……」

菫「すまん……迷ったんだが……結局、来てしまった」

憩「ありがとうございます。変なこと言うようですけど、とても嬉しいです。ホンマに……」

菫「何か、私にできることはないか……?」

憩「……ほな、手……頭に乗っけてください……」

菫「こ、こんな感じか……」ポム

憩「はい。すごく……落ち着きます」

菫「去年も……似たようなことをした気がする」

憩「そうですね。菫さん、ウチのこと、泣き止ませようとしてくれました」

菫「泣き止んではくれなかったがな」

憩「まあ、あの時はダメージがダメージでしたし。ウチも未熟でしたから」

菫「今は……違うんだな?」

憩「はい。あれから、色々なことが変わりました。変わらないこともありますけど、変わったことのほうが多いです」

菫「私は……あの時よりは、お前の力になれているだろうか……?」

憩「ええ。それはもう」

菫「なら……よかった」ナデナデ

憩「くすぐったいです、菫さん」

菫「す、すまん。つい――」

憩「いえ、どうぞ、続けてください」

菫「な、なら……遠慮なく……」ナデナデ

憩「……菫さん、ごめんなさい。前半戦、負けてしまいました」

菫「そういうことも……あるだろう。構わんよ。お前には今まで多くのものをもらってきた」

憩「せやけど、この大一番でポカしたら、全部水の泡ですやん」

菫「それは――」

憩「気ぃ遣わなくてええですよ。何が格下には無敗の《三人》や。誇大広告。契約不履行。ウチは負けたらあかんかったのに……」

菫「オーダーを決めたのは私だ。責任は私にある」

憩「あはっ。過保護ですよ、菫さん。時には厳しく突き放さな」

菫「そ、そうなのか……?」

憩「そうなんです。っちゅーわけで、ウチのことは許さないでください。どうにかしろって命じてください」

菫「し、しかし、前半戦を見る限り、お前は《絶対》に和了れないのだろう?
 智葉も、能力論的に――物理的に不可能だと言っていた。いかにお前でも、物理の壁は超えられない。お前自身が言っていたことだ」

憩「それでも、どうにかしますよ。負かされっぱなしは《三人》の名が廃りますから」

菫「……敬天なる《愛人》――だったか」

憩「はい。ナンバー2のウチは《愛人》なんです。せやけど……せやから、勝たなあかんのですわ」

菫「……すまないな。私はお前を信じると言ったのに……」

憩「いえ、それについては、負けたウチが全部悪いんです。先に信頼を裏切ったんはウチですから。ごめんなさい。
 ただ、次は必ず勝ちます。あなたのナンバー2は、二度と、ナンバー1以外には負けません」

菫「……わかった」

憩「ありがとうございます。ほな、ぼちぼち行きますわ」

菫「……頑張れ、荒川」

憩「はい、頑張ります」

菫「応援している」

憩「よろしくです」

菫「じゃあ、またあとでな……」

憩「はい――」

憩(さあて……ほな、かつてないほどチャージできたところで、思考するとしましょかーぁ……)スッ

憩(――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――プログラミング……完了)

憩(……細かい調整は打ちながらやな。とりあえず、これでどうにか、戦える)

憩(物理的に無理――確かにそや。今のウチは《塞王》のせいで八方塞り。八方とは東西南北とその間の八方位のこと。将棋で言えば、王将の周り完全包囲状態。詰みも詰みや。
 せやけど……それならそれで抜け道はある。物理的に無理は、論理的に不可能と、同義やない。麻雀で勝てへんのなら、麻雀で勝負しなければええだけの話やん)

憩(これからやるのは麻雀やない。雀士・荒川憩とはサヨナラや。ええねん、どうせ元から《悪魔》やし。っちゅーわけで、やったるったらやったるで。神さえ殺すウチの本領……余すところなく見せたるわ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

愛人とか本妻が泣くぞ

 ――――

塞(あぁー、くっそ恐かった。これで後半戦が多少楽になればいいんだけど、どうなのかしら。凄んでみせたはいいものの、あいつの《悪魔の目》にどこまでハッタリが通用するのか……ま、普通に考えて、さっきのはバレバレだったわよね)

 三位:臼沢塞・−16900(永代・54600)

照「臼沢さん」

塞「うおいっ!? 宮永、いつの間に?」

照「臼沢さんが項垂れてる間に」

塞「そ、そう……」

照「お疲れかと思って。差し入れ。お茶とお菓子」スッ

塞「ありがと。対局中にいただくわ」

照「うん。それがいいと思う」

塞「で、何か作戦に変更でもあるの?」

照「あ、いや、そういうのはない。ただ差し入れ持ってきただけ」

塞「へえ~、珍しいこともあるわね。嬉しいけど。意外」

照「まあ……確かにあまりやらないね。いつもなら誰かにお願いする。迷うかもだし」

塞「私だから、心配して自ら来てくれたわけ?」

照「そういうことに……なるのかな。後半戦は、体力ギリギリだよね?」

塞「そうね。荒川にはああ言ったけど、ぶっちゃけ、どこまで保つかは未知数だわ」

照「切れたら、そのときはそのとき。大星さんのフォローに回るのが現実的かな」

塞「目標は南場の途中かしら。荒川がラス親じゃないことを祈るばかりね」

照「無理しないでね」

塞「だから、無理するっての。大丈夫、あんたにモノクル粉々にされた時に比べれば、こんくらい余裕よ」

照「臼沢さんは本当にイジワルだよね」

塞「そこが魅力でしょ?」

照「変なの」

塞「押し倒すわよあんた」

照「いやん」バッ

塞「? なんで鉄板隠したの?」

照「臼沢さん……嫌いっ!!」

塞「あははっ! 冗談よ、冗談」

照「もうっ……鳩尾にコークスクリューぶち込むよ?」

塞「すいません調子に乗りました」

照「……後半戦、いけそうですか?」

塞「いけるんじゃないかしら? わかんないけどね」

照「じゃあ、力……あげる」ギュ

塞「お、おぅ……びっくり。ありがと……」

照「高鴨さんが、これが効くって」

塞「あいつマジすごパ。すごいパーフェクト」

照「いけそう?」

塞「超いけそう」

照「よかった……」

塞「じゃ、そろそろ行くわね」

照「うん」

塞「差し入れもありがと」

照「うん……」

塞「じゃ、私はこれで――」

照「う、臼沢さん……!」

塞「なに?」

照「ごめん!!」

塞「えええっ、今!? いや、まあ、だから、別に気にしてないって」

照「な、なんでも一つ、お願い事を聞く……からっ!!」

塞「バッカねぇ。私の一番の願い事は、あんたには叶えられないわよ」

照「っ……」

塞「悪いけど、私はあんたの自己満足に付き合う気はないわ。ずーっともやもやしてなさい。一生。死ぬまで」

照「臼沢さん、イジワル……嫌い……」ムー

塞「そう? 私はあんたのこと好きよ」

照「…………ありがと」

塞「さて。もう終わりなら、行くけど?」

照「……頑張って、臼沢さん。応援してる」

塞「ありがと。まァ、らくしょーってことで」

照「うん、じゃあ――」タッ

塞(ははっ……あいつ、ホント意味わかんない……このタイミングで『ごめん』って。いや、『お願い事』で私を元気付けたかったのはわかるんだけどさ。嘘がつけなくて不器用とかもう――大好きだっての……)フゥ

塞(ここで負けたら、あいつは学園都市に残るけれど、インターハイには出られないわけだから、二度と、一緒に戦うことはできない)

塞(モチベもある。差し入れもある。体力もまだある。うん……十分でしょ……)カチャ

塞(泣くのはあいつを見送ってからでいい。今は……笑いましょう。二年かけて積み上げた《塞王》のイメージ通りに。不敵にね――)フッ

塞(それじゃーま……決着《ケリ》つけましょうか……ッ!!)ゴッ

 ――――

やえ「よう、苦戦してるようだな」

ネリー「よくわかんないけど、それけいにも言ったんじゃな~い?」

 一位:ネリー=ヴィルサラーゼ・+28800(幻奏・120100)

やえ「おっと、バレたか」

ネリー「バレたかじゃないよー。もう、やえはひっどい!」

やえ「そう言うな。お菓子持ってきてやったぞ」

ネリー「ふん、こんなもので私の機嫌を取ろうなんて千年早いんだよ」モグモグ

やえ「後半戦、いくつか注意すべきことをメモってきた。ま、臨機応変に頼む」スッ

ネリー「あいあいさ~」モグモグ

やえ「…………その」

ネリー「んー?」

やえ「感謝している」

ネリー「えー? どうしたの?」

やえ「最初は、運命奏者《フェイタライザー》に興味があっただけだった。三尋木先生にトーナメントに出ろと言われた時は、運命奏者《フェイタライザー》なら、荒川の代わりになるだろうという打算で動いた」

ネリー「それはわりと現在進行形でそうじゃん」

やえ「ああ……まあ、そうだな。それはそうなんだが――」

ネリー「えへへ! 私のこと、好きになっちゃったー!?」キラーン

やえ「いや、そういうのはない」キッパリ

ネリー「えぇー!?」

やえ「だが、ネリー――お前と過ごしたこの数ヶ月は、とても楽しかった」

ネリー「ふむむ……」

やえ「お前には感謝している。もちろん、セーラにも、亦野にも、片岡にも」

ネリー「まっ、ならいいんだけど!」

やえ「有難う……と、そろそろ時間だな。私は戻るとするよ」

ネリー「ちょいちょい! まだ言うことあるでしょ!?」

やえ「……ああ、そうだったな」

ネリー「さあ、かむかむ!」

やえ「ネリー」

ネリー「はいな!」

やえ「勝ってくれ」

ネリー「おうっ……! 任せとけッ!!」ゴッ

 ――――

咲「もー! 淡ちゃんは本当に悪運だけで生きてるよねー!!」プニプニ

淡「勝てばいいのさ、勝てば!」プニプニガエシ!

 二位:大星淡・+12500(煌星・125900)

桃子「とは言え、後半はいよいよヤバいんじゃないっすか? もうカード残ってないっすよね?」

友香「『最初だけ成功するダブリー』『支配力を使った和了り』『《劫初》の《永代》削りに便乗』……と、ここまで煌先輩の作戦でなんとか食いつないでる感じでー」

淡「君たちはデリケートという言葉の意味を知っているかね?」

咲「事実でしょ」デリケート?ココノコトカ!

淡「事実ですけどー」ワキバラクスグルナー!

桃子「まあ……チートが三人いるようなもんっすからね」

友香「淡だって十分チートのはずなんだけどなぁ」

咲「とにかく、どうすんの? 《塞王》さんは荒川さんに付きっ切りだから今回はいいとして、《悪魔の目》と《神の耳》――どうやって同時に出し抜くつもり?」コシマワリノダニク!

淡「正直こっちが聞きたいよー」プニカワイイデショ!

桃子・友香「うーん……」

淡「あれこれ考えたりやったりしてはみたんだけど……にっちもさっちもで、頭痛くなっちゃう。何かうまいやり方はないもんかなぁ」

桃子「差し込み」

友香「ベタオリ」

淡「まさかの逃げの一手!?」

咲「小物らしく小賢しく立ち回れば?」コチョコチョ

淡「そうしたいけど、ケイが心読んでくるんだもん」ラメー!

咲「右ストレート(ダブリー)でぶっ飛ばせばいいんだよ!」ワキワキ

淡「そうしたいけど、ネリーが《無効化》してくるんだもん」イヤー!

桃子「つくづく面倒な相手と戦ってるっすね」

友香「そこはせめて厄介な相手と言ったほうが……」

咲「あっ、そろそろ時間だね。じゃ、頑張って、淡ちゃん」ナデナデ

淡「丸投げ!?」フミュゥゥ

桃子「頑張ってくださいっす、超新星さん」

淡「お、おおう!?」

友香「淡なら、大丈夫でー」

淡「テキトーに言ってませんか君たち!?」

咲「まっ……冗談はさておき。具体的な作戦があったら、煌さんが指示出してるだろうし、私たちが集まったところで、ぐだぐだになっちゃうのは目に見えてたよね」

淡「じゃあなんで来たの!?」

桃子「なんでって、それは――」ギュ

淡「ふわわっ!」

友香「私たちにしかできないことをしに来たんでー」ギュ

淡「にゅうう……っ!」

咲「私は自分の欲望を満たしに来た」プニプニ

淡「もうっ……なんなのさ! このっ! みんな大好きだああーッ!!」ガバッ

桃子「頑張ってくださいっす、超新星さん……」

友香「淡なら……大丈夫でー」

淡「……うん、ありがと」

咲「淡ちゃんはバカなんだからバカなりにバカみたいなバカやればいいよバカ」

淡「ちょっと何言ってるかわかんない」

咲「想い《キモチ》で負けんなっつってんの、支配者《ランクS》」

淡「……りょーかい――」フゥ

桃子「きらめ先輩は、『信じてる』って」

友香「応えよう、私たち四人で」

咲「しっかりお願いね、へっぽこエース」

淡「っしゃああっ!! やったろーじゃんッ!!」ゴッ

 ――対局室

塞「よろしく」

 東家:臼沢塞(永代・54600)

ネリー「よろしくなんだよっ!」

 南家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・120100)

淡「よろしくね!」

 西家:大星淡(煌星・125900)

憩「よろしくお願いしますわ……」

 北家:荒川憩(劫初・99400)

『優勝候補が遅れを取っている点数状況!! 再びのトップ交代劇があるのか!? はたまた一年生二人がこのまま突っ走るのか!? 副将戦後半——開始だあーッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

また近いうちに。

では、失礼しました。

乙。

やはり《塞王》は《最王》だったか。《最奥》迄は予想してなかったけど。
元ネタの黒子と同じ立ち位置な訳ね。

しかし「《塞王》は《最王》」って自分で言うんかいww
いつも通りやえが言うと思ってたから笑った。
心で思ってるだけならまだしも、最初から声に出して言い始めたの塞が初めてじゃね。
と言うか、これで十最はたぶん出揃ったと思うけど、塞もまた十最の番外扱い受けてそう。

おつー
メタ的視点から見ると、照の見せ場を作る意味で塞さんこの調子でも悪くないな
反面、憩が稼げないと菫さんがヤバい
どうしたもんか

今更だけど
ネリー『ロン、12000っすなんだよ!!』
って桃子だよな…
口調的に。

乙でー。

おつー。相変わらず言葉遊びが面白い
果たして憩は塞を突破できるのだろうか
今後も展開気になるなあ


塞さんが限定的にレベル5になれるというのは、友香が限定的にレベル4になれるというあれと似たようなものなのかな


やはり憩ちゃんには1位になってほしいですね
ただし優勝してほしいのは永代

おっつ

大好きな塞さんが大活躍で嬉しいけど大好きな荒川さんが凹んでて悲しいわ
塞さんが唯一のレベル4強と言うのはいいね
レベル5が居たらそれによって塞さんには上書き出来ない牌と言うのが存在してしまい荒川さんの悪魔の目でそれを引っ張ると言う事も出来たけど
今の面子にレベル5は居ないから荒川さんのツモ牌はどう足掻いても塞さんに上書きされる事になる訳か

塞ぐロジックが作中でも明かされてないからよく分からんが塞ぐ時の牌の上書きは自動なんかね?
例えば塞さんが塞ぐ対象の聴牌を察知出来てなくても見てさえいれば勝手に上書きされて和了れないのか
この塞ぐと言うのはやっぱり流し満貫にも有効なのか

上書きが自動で流し満貫が駄目なら荒川さんが上がる手段はマジで一つしか無いような気がするわ

乙です


塞が持ってるから可愛いげがあるだけで、冷静に考えて結構なチート能力だよな
こだわりを捨てて三年間本気で研鑽してたら今頃一桁ナンバーに居ても驚かない
焼き鳥目指してるから無駄に体力失うだけで、シンプルな能力だけに応用技身に付けたらかなりエグいことになりそうだし

荒川さんが絡む話は面白くて好き

塞さん鬼畜能力やな
役割的に学園都市が人為的に作り出した能力者と言われてもおかしくないレベル

麻雀で自分だけ焼き鳥なことほど楽しくないものはないからなあ
しかもどんなにあがいても絶対の事項ってんならなおさら…
どんな背景でこんな鬼畜能力を発現したのか気になる


皆のチームメイトや好きな人を想う気持ちが感動的だわ

なるほど、よく作られてるなって事は憩が和了出来ないのは《絶対》
ノーテン罰符以外で加点するにはあれをすればいいのかな?厳密に言ったらあれ和了じゃないし……途中で気づいても止めれない可能性があり、憩なら意図的に出来そう

>>101さん

王は王であることを誇りにしているので、自ら王を名乗ります。小走さんと同じです。

>>103さん

そうです。ステルスネリーです。荒川さんは二回戦の通りステルス関係無しなので、臼沢さんが振り込むようコントロールしてます。臼沢さん的には「どーしろってのよ」状態です。

>>105さん

大体同じです。

ただ、森垣さんはどっちかっていうとレベル4の卵みたいなイメージで書いていたんですが、臼沢さんの場合は、レベル4の極限をイメージしてます。森垣さんの場合はレベル4相当=レベル4の認識で特に問題なかったのですが、臼沢さんの場合はレベル5相当=レベル5かと言われると、微妙です。

ネリーさんのスペルインターセプト・シェオールフィアは効きます(厳密には、『効く』だろうと小走さん・照さん・ネリーさんの三人がほぼ確信しているって感じです)。

定義的に、

・臼沢さんに塞げない能力者=レベル5
・ネリーさんにシェオールフィアされない能力者=レベル5

で、臼沢さんは、限りなくレベル5に近いレベル4です。なので、本来臼沢さんは《絶対》と口にするべきではないような気がしますが、まあ、この臼沢さんはちょっと中二病的なところがあるからいいかな……。

>>107さん

>塞ぐロジックが作中でも明かされてないからよく分からんが塞ぐ時の牌の上書きは自動なんかね?
>例えば塞さんが塞ぐ対象の聴牌を察知出来てなくても見てさえいれば勝手に上書きされて和了れないのか
>この塞ぐと言うのはやっぱり流し満貫にも有効なのか

原作で臼沢さんが他家のテンパイ気配を察知しているか否かの判断がつかないので、そこはぼやかしてます。イメージ的には、全自動で上書きしてる感じで書いてます。

・相手の有効牌ツモ率を下げる。
・テンパイすると掴ませる。

この二つが主な効果です。門前だとほぼテンパイできません。荒川さん以外のツモ牌と嶺上牌は臼沢さんのテリトリー外なので、本来なら、そこに抜け道が存在します。つまり、『差し込み』『嶺上開花』等は、レベル4状態の《防塞》には有効です。レベル5の《絶対》こと《リジェクト効果》は、準決勝の花田さん無双の通り、その抜け道を強引に潰します。流し満貫は和了扱いにしているので、塞がれると思います。

 *

臼沢さんの能力は、SS内ではふんわりと《見つめた相手の手を塞ぐ》能力としか言わないですが、臼沢さんが最後に言っていたように、体力が切れない限り、

>塞「荒川、悪いけど、あんたは次の半荘も和了れない。《絶対》に和了れないの。これはもう確定事項」

です。『相手を和了らせない能力』が表現としては一番近い気がします。『和了』と見做されるものは全て塞がれると思っていただければ。

 東一局・親:塞

塞(荒川がラス親になっちゃったかぁ。参ったわね。途中で体力が切れたら死亡確定じゃない。かといって、東場は塞ぐのをやめるとか、小細工して体力を温存したところで、こっちの点が減るだけ。
 ま、塞げなくなったときのことは、塞げなくなったときに考えましょ。今は……集中――)タンッ

ネリー(自動即興《エチュード》に頼り過ぎないように……とのことだったけど、けいが何かしてくるってことかな? この状況で? やえが言うんだから何か『ある』んだよね。めちゃくちゃ恐いんだよ……)タンッ

淡(うぐ……またダブリー《無効化》かぁ。地味に困るんだよね、これ。魔滅の声《シェオールフィア》と違って、強制詠唱《スペルインターセプト》は《完全無効化》じゃないから、役ナシの一、二向聴の中途半端な配牌が来る。
 最初からテンパイの形ができてるのは救いだけど、手を高めたり鳴いて仕掛けたりっていうのがやりにくい。やってできないことはないけど。
 うーん。これならダブリー封印して普通の配牌で打ったほうがいいのかなー? いや、けど、それやると《絶対安全圏》のほうを《無効化》されて百パー先を越されるんだよね……う~~)タンッ

憩「失礼――」スッ

塞(出た出た……《悪魔の目》)カチャ

淡(うおぅ、あっちもこっちも。何をするつもりなのかな――って、あれ?)

ネリー(ん……右目を隠して、左目を閉じた? どういうこと? それじゃ何も見えなくなっちゃうんじゃ……)

憩(花田さんとガイトさんから運命論の講釈を聞いといてよかったわ。情報をそっちに変換することで、今まで見切れなかった部分が見えるようになった。いや、聞き取れるようになった、っちゅーたほうがええのかな、この場合)

ネリー(なんか、見ようによっては……耳を澄ませているとも取れるけど、いやいや、マジで……?)

憩(《神の耳》レプリカ……悪くないで。よく見てよく聞いてよく考える。基本的なことやけど、大事やんな。
 ほんなら、ま、試運転といこか。《悪魔の目》+《神の耳》――《見えざる手》とでも言うたらええか。導いたるわ。より精密に、より正確に、ウチの望むほうへとな……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《劫初》控え室

エイスリン「ケイ、ダイジョブ、ソウカ?」

菫「思い詰めている様子はなかった。今も……落ち着いて対局に臨んでいるように見える」

衣「あれはかなり楽しんでいる顔だな。新しい玩具を手に入れたみたいだ」

智葉「バージョンアップした、ってところか。或いは、類似ソフトをインストールしたのか、休憩中に対策プログラムでも組んだのか」

エイスリン「ナニカ、ツカンダ?」

智葉「恐らくは。案外、あいつは個人戦より団体戦のほうが向いているのかもしれんな」

菫「ふむ……?」

智葉「ネリーの《神の耳》が『万知』の力だとすれば、荒川の《悪魔の目》は『万能』の力だ。
 二人がまともに衝突すれば、荒川が勝つだろう。有限のネリー《コピー》にはできないことが、無限の荒川《オリジナル》にはできるからだ」

衣「が、実際は、けいのほうが敗衄したわけだ」

智葉「そう……そこが荒川の唯一の弱点。あいつが『全能』ではなく『万能』に留まる理由。
 あいつは『未知』の事柄について対応する術を持たない。未知に由来する『不確定性』が、《悪魔》にとっては何より厄介な敵なんだな」

エイスリン「ダナ」

智葉「しかし、団体戦なら、一回勝負の個人戦と違って、半荘が二回ある。前半戦で未知に屈しても、後半戦で同じことは起きない。『未知』という『不確定性』から解放された《悪魔》に、もはや敵はないだろう」

菫「この状況で……あいつは何をするつもりなんだ?」

智葉「『何か』はしているようだぞ。荒川の反撃は既に始まっている」

エイスリン「マジカ!?」

衣「前半同様、攻めあぐねているように見えるが……」

智葉「同じじゃない。確実に『何か』している」

菫「荒川は今、何をしているんだ?」

智葉「それがなぁ……どうにもわからんのだ」

菫「え……?」

智葉「いや、やろうとしていることはわからんでもないのだが、なんというか、論理が理解できないんだ。思考がトレースできない。わけがわからないんだよ」

菫「な、なんだそれは?」

智葉「私の友人にハオというやつがいるが」

エイスリン「アノ、《マショー》カ!」

菫「突然だな……。それで、その友人がどうかしたのか?」

智葉「あいつは、私たちの馴染んでいる『麻雀』ではなく、大陸仕込みの『麻将』をベースにして『麻雀』を打つ。
 すると、時々、『麻雀』の論理に慣れている人間からすると、全く理解できない打ち方をすることがあるんだな。例としては、どんな状況でもリーチを掛けない――というのがわかりやすいか」

菫「あぁ……そうか。大陸の『麻将』にはリーチがないんだったよな、確か」

智葉「そう。そして、今の荒川は、それと似たようなことをしている。あいつは『麻雀』を打っていない」

菫「……『ルール』が違うのか……?」

智葉「そういうこと。ま、ハオに関しては、術式《ルール》が異なるだけで、魔術《ロジック》それ自体を理解することはそう難しくない。
 しかし、荒川のアレは、もう一段上だな。自ら新しい術式《ルール》を作り上げている。そして、それを土台に固有の論理《ロジック》を展開しているわけだ。一見すると普通の麻雀に見えるが、もはやまったく別の遊戯と化している。
 正直、私は今のあいつとは打ちたくないな。私は常々思っているが、わけがわからんものほど、恐いものはない……」

     憩『チー』

菫「この鳴きは……?」

エイスリン「《フェイタライザー》ノ、ツモ、ズラシ?」

衣「だが……違和感があるな」

智葉「普段の荒川なら、大星の捨て牌ではなく、二打前の臼沢の白を鳴いていただろう。どちらでもズラせた。
 なら、手が進み、なおかつ手役が確定するほうを選ぶはずだ。わざわざ手が後退して、なおかつ手役がなくなる鳴きを選ぶなど、理由《ワケ》が解らない。それこそ……《悪魔》のみぞ知る――ってところだな」

     憩『ポン……』

 ――対局室

憩「ポン……」タンッ

塞(鳴かれた……? ヴィルサラーゼの和了り牌でも掴まされたのかしらね。ま、親番が無傷で流れるならそれに越したことはないでしょ)タンッ

ネリー「チー!!」タンッ

淡(むー……さっき掴まされたっぽい危険牌がいつまでも切れないよ。困っちゃうな)タンッ

憩「チー」タンッ

淡・塞(三副露……!!)

ネリー(これは――)ゾワッ

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(ヤ……ヤバ過ぎる。けいが何をしているのか、まったくわからない。いや、正確には、『知らない』だね。10万3千曲の《原譜》――魔術世界一千年の蓄積の中に、類似するパターンが見当たらないんだよ)

ネリー(もちろん、けいなら、余裕で《原譜》を作曲できると思う。実際、前半戦ではちょこちょこ私の知識を凌駕する打ち回しをしてきた。でも……これは、なんていうか、もっと根本から違う気がする)

ネリー(いくらけいがユニークなメロディを奏でても、それは、三回戦のひさがそうだったように、ものすごく斬新な『アレンジ』に過ぎない。一千年分の蓄積の前で、まったくの『オリジナル』なんてのはありえない。
 もし、そんな旋律があるとしたら、それは……もはや、私の知っている『麻雀』じゃない)

ネリー(うぅ……けど、私は運命奏者《フェイタライザー》だから――私には『麻雀』以外の蓄積なんてないから――どうしたって、『麻雀』を打つしかないわけで……)

ネリー「ポン!!」タンッ

憩「ポン」タンッ

ネリー(っ……!!?)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(わ、わけがわからない……!!!)ゾクッ

塞(何がどうなってんだか)フゥ

淡(うにゅうう……ここまでかぁ)

塞・淡「ノーテン」パタッ

ネリー・憩「テンパイ」カチャカチャパララ

塞(とりあえず、親っ被りは避けられた、と)

淡(これで……残り最少七局、か。どうにかしなきゃね……!!)

ネリー「つ、次は私の親なんだよっ!!」コロコロ

憩「…………」

塞:53100 ネリー:121600 淡:124400 憩:100900

 ――《幻奏》控え室

やえ「荒川が完全に息を吹き返してしまったな」

セーラ「あー……やっぱり今のはそうなんか。ホンマすごいなあいつ」

誠子「えっ?」

優希「ど、どの辺りがだじぇ?」

やえ「見ていればじきにわかるよ」

セーラ「せっかくやし、二人で考えてみたらええんちゃうー?」

優希「よし! 謎解きするじぇ、誠子先輩!」

誠子「『荒川さんが何をしているか?』について、かぁ。優希は見ていてどう思った?」

優希「ネリちゃんのツモをズラすので精一杯――っていう風に見えたじぇ」

誠子「私もそう見えた。あと、臼沢先輩や大星さんにネリーさんの和了り牌を掴ませてもいたね」

優希「振り込ませようとしていたのか?」

誠子「もし、それが『目的』なら、どちらかが振り込んでいたと思うよ。前半戦で臼沢先輩を削ってたみたいに、『する』と決めたら『できる』人だから、荒川さんは」

優希「じゃあ……淡ちゃんたちの手を止めることが『目的』だった?」

誠子「そう考えるのが自然だと思う」

優希「ってことは、あのナースお姉さんは、ネリちゃんのツモと淡ちゃんたちのテンパイを妨害したかったわけだじぇ? で、裸単騎になるまで無茶鳴きをし続けた……と」

誠子「けどなぁ。普段の荒川さんだったらその途中で和了っちゃえる気がするんだよね」

優希「何を言ってるのか、誠子先輩。あのナースお姉さんはモノクルお姉さんのせいで『和了れない』んだじぇ?」

誠子「あっ……そっか。だから、和了りを放棄してまで他家の妨害に奔走してたのか。そうだよね。自分はどうやっても和了れないんだもんね」

優希「自分は和了れない。だから、他家にも和了らせない。なるほど、わかってきたじぇ! ずばり、ナースお姉さんの目的は『流局』だな!?」

誠子「おおっ、それだ! えっと……ってことは、荒川さんは、誰にも和了らせることなく、このまま副将戦を終わらせるつもりなんだね」

優希「これ以上点差を広げられないように、って感じか!」

誠子「或いは、チャンスが来るまで現状維持する気なのかも。親でテンパイ流局を続ければ、いつか臼沢先輩に体力の限界が来るかもだし」

優希「それなら地味だけどノーテン罰符で稼ぐこともできるじぇ!!」

誠子「極論を言えば、ここから一人テンパイを50回くらい繰り返せば《永代》をトばして勝てちゃうしね。さすがにそれはないと思うけど」

優希「んー? けど、誠子先輩。あのナースお姉さんは、『する』となったら『できる』人なんじゃないのか?」

誠子「えぇ? じゃあ優希は、ここから荒川さんが連続一人テンパイ流局を延々続けるつもりだって言うの?」アハハ

優希「『できる』なら『する』んじゃないのか? だって、それならナースお姉さんは『勝てる』んだじょ?」キョトン

誠子・優希「……………………」

     憩『ポン』

誠子・優希「るうええええええええええ!!!?」

セーラ「あははっ、自分らオモロいな~」

優希「ええっ!? マジか!! マジなのか!?」

誠子「本気で荒川さんの狙いは『連続一人テンパイ流局』なんですか!?」

やえ「『仮説』が立ったら、次は『検証』」

優希「けんしょーするじぇ、誠子先輩!」

誠子「う、うん!」

     憩『チー』

優希「ネリちゃんの有効牌を悉くズラしてるじぇ」

誠子「テンパイすらさせないつもりなんだと思う。一人テンパイ流局が『目的』なら、他家にテンパイされると困るわけだし」

     憩『ポン』

優希「む……けど、そのせいなのかなんなのか、今度は淡ちゃんが張ったじぇ?」

誠子「えっと、ネリーさんと大星さんが交互にテンパイする分には構わないんじゃないかな。二人テンパイ流局が続いても、《永代》がトぶ頃には荒川さんがトップに立ってる。問題は無い」

優希「確かに! というか、むしろトップにさえ立ってしまえば、モノクルお姉さん以外の三人テンパイを続けてもいいわけなんだな!?」

誠子「そうだね……それなら50回も続ける必要はない。半分以下の局数で《永代》をトばせるっ!!」

     憩・淡『テンパイ』

     ネリー・塞『テンパイ』

優希「役ナシ形テンだじぇ」

誠子「和了る気ゼロの二連続テンパイ流局。間違いない……かな」

誠子・優希「まさに《悪魔》の所業(だじぇ)ッ!!」

セーラ「これをされると、臼沢は当然止める術を持たへんし、ネリーも苦しいやろな」

やえ「そうだな。麻雀は効率よく点棒を稼ぐゲーム――何はともあれ『和了りを目指す』ゲームだ。
 状況によっては形式テンパイ流局を目指す場合もあるだろうが、東一局第一打から和了り度外視でテンパイ流局狙いなど、もはや私たちの知っている麻雀ではない」

誠子「ネリーさんは一千年分の知識と経験の権化……なんですよね。言わばコモンセンスそのもの。三回戦の竹井先輩がそうだったように、既存の『常識』を外れる行動には対処できない……」

やえ「なお悪いことに、荒川を封じ込めている臼沢はレベル4強――今のところは超能力者《レベル5》相当の強度を発揮している」

優希「あっ……! ネリちゃんの世界に超能力者《レベル5》はいないんだったな!? 《絶対》の考え方がないんだから、《絶対》に和了れない人がどう打ち回すかなんて、前例があるわけないじょ!!」

セーラ「和了りを目指してへんなら、臼沢の能力の網に引っかかることもほとんどあらへん。《防塞》の砦に直接手を出さず、間接的に兵糧攻めにしとる。これなら、砦を落とすことなく《塞王》を殺せる」

誠子「ま、待ってください! 荒川さんがテンパイ流局だけでトップに立つためには、現在トップの大星さんをまくらないといけません。
 ただ、大星さんのダブリー――配牌干渉系能力に対して、荒川さんは抗う術を持たない。これについては――」

優希「誠子先輩、淡ちゃんはこの後半戦、まだ一回もダブリーできてないじょ」

誠子「ネリーさんの強制詠唱《スペルインターセプト》……!! そ、そうですよね……この点数状況で、荒川さんがテンパイ流局狙いに来れば、ネリーさんは大星さんのダブリーを止めますよね。
 大星さんがノーテン罰符を受け取り続ければ、ネリーさんは荒川さんに詰められるだけじゃなく、トップと離されてしまうことになるんだから……」

やえ「それに、下手に大星にダブリーを許せば、悠々ハネ満を和了られる危険性がある。
 強制詠唱《スペルインターセプト》で封じているから大人しく見えるが、ランクSの大星を自由にしてしまえば、たとえネリーでも止めるのは容易ではない」

セーラ「宮永も神代も、ネリーが強制詠唱《スペルインターセプト》使うまではわりと楽々和了ってたもんな。それを思うと、魔滅の声《シェオールフィア》が使えへん現状はなかなか辛いな」

     憩『テンパイ』

     ネリー・淡・塞『……ノーテン』

優希「うお……親番来ちゃったじぇ」

誠子「どこまで続くんでしょう、これ……」

セーラ「やえ、得意のシミュレーションはせーへんの?」

やえ「できるわけがなかろう。今の荒川は、《神の耳》を持つネリーの打ち筋さえ掌握し、既存のあらゆる常識から外れた麻雀ではない『何か』を打っているんだぞ。
 そんなわけのわからん『何か』をプログラミングするほどの腕は私にはない。仮にあったとしても、それを実戦で実行できるほどの人工知能が、機械に備わっていない。
 まったくもってお手上げだよ。大した《悪魔》様だ。あいつの幻想《ホンキ》は殺せない」

セーラ「となると、対局の行く末は完全に荒川の裁量ってことか」

やえ「ああ。全ては《見えざる手》の導くままに、だな――」

 ――対局室

 東四局流れ三本場・親:憩

淡(マジでテンパイ流局を続けるつもりなの? いや、確かに、《防塞》はキラメの《通行止め》と違って『和了り』を阻止する能力。
 ノーテン罰符で点棒を得ることに関してはなんの制限も掛からない。これでもかってくらいに模範解答だけど……)タンッ

 北家:大星淡(煌星・124900)

憩「」タンッ

 東家:荒川憩(劫初・105400)

塞(理屈の上でそれしかないんなら、どんなに冗談みたいな答えでも、それを『やる』やつよね、こいつは。これをされると……はっきり言って、私にはどうしようもないわ。
 しかも、荒川が連荘を延々と続ければ、いつかどこかで私の体力が尽きる。そうなったら……試合終了のお知らせよね――)タンッ

 南家:臼沢塞(永代・50600)

ネリー(ヤバい! ヤバい!! ヤバいんだよっ!! 止め方がわからない……対抗手段が何一つとしてないッ!!)

 西家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・119100)

ネリー「ポンッ!!」タンッ

ネリー(手は進んだ。けど、これじゃダメなんだよね……?)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(私が今打っている麻雀は、『自ら先に和了る』っていう普通の麻雀だ。思考の基礎、最大目標が、『和了り』に設定されている。
 けいは……そのロジックを掌握した上で、一つ上の次元から対局をコントロールしている)

ネリー(チェスにでも喩えればいいのかな。前半戦で私たちが打っていたのは、普通のチェスだ。二次元64マスの中で32の駒を扱うごく普通のチェス。
 キングを獲る――点棒を奪う――ために、私たちは敵のキングをチェックメイトしようと――和了ろうと――する。このルールで戦う限り、けいに勝ち目はなかった。
 あわいの《絶対安全圏》によって全てのポーンを奪われ、さえの《防塞》によってルークもナイトもビショップもクイーンも奪われて、
 その状態で、私というあらゆる棋譜を知り尽くす《頂点》を相手にしなければならなかったんだから……)

ネリー(それが、今はどうなっているか。状況は何一つ好転していない。けいは変わらずキング単騎で戦っている。けれど……今のけいは、普通のチェスとは全く違うルールで駒を動かしている。三次元チェスとでも言うべきかな)

ネリー(キングは前後左右四斜の8マスへしか動けない――そのルールをけいは書き換えてしまった。二次元64マスの中に勝ち目がないから、そこに三つ目の軸を新たに加えて、三次元512マスのチェスを打ち始めたんだ。
 今のけいのキングの稼動範囲は、8マスじゃない。そこに上下移動も加えた26マス。二次元64マスに縛られた私たちにこのキングを獲る手段は無い。だって、本来のチェックメイトの概念が通用しないんだもん。
 たとえ私たちのルールではチェックメイトでも――キングの周囲8マスを全てこちらの駒で塞ぐみたいな完全包囲状態にしても――けいのルールでは、全然、詰みでもなんでもない。
 ただ、『上』のマスへ動けばいいだけなんだ。二次元《本来のルール》で打っている私たちは、けいのキングの影を踏むことしかできないんだよ……)

ネリー(あとは、簡単だよね。けいは、私たちの一つ上の次元から、悠々敵のキングの真上に歩いていって、ぷっちりと踏み潰せばいいだけ。障害は何一つとしてない。
 私たちは何をされたのかも理解できない……チェックメイトしたはずのキングが忽然とどこかへ消えて、かと思ったら、守りを固めていたはずの王様が、ワープしてきたキングに獲られるっていう、わけのわからないやり方で、『勝ち』を奪われる)

憩「チー」タンッ

ネリー(……これに対抗するためには、こっちも三次元チェスを打たなければならない。既存の常識を捨てて、上下方向に駒を動かしていかない限り、けいに触れることすらできないんだ)

ネリー(けどさ……相手は人類史上唯一無二の知性を持つ《悪魔》だよ? その本人が新たに考案したゲームで、定石も何も無いまったくのゼロから、たとえキング単騎とは言え《悪魔》に勝たなきゃいけないとか……無理ゲー過ぎるでしょ)

ネリー(しかも、けい自身が、ここまで数局で、この新しい『何か』に慣れつつある。実戦の中でプログラムを微調整しながら、完全に近い論理体系を創り上げている。本気で無茶だ。どーすんだこれ……)

憩「テンパイ」カチャカチャパララ

ネリー・淡・塞「ノーテン」パタッ

憩「1000オール、やな」ニコッ

ネリー・淡・塞「っ……!!」ゾワッ

憩「さあて……ほな、流れ四本場行ってみましょか」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(あわわわわ……!?)

塞(ちょっと、誰かなんとかしなさいよ!!)

ネリー(きらめとは恐さのベクトルが違うけど、その大きさは同じくらいな気がする。手の平の上で踊らされている……全身の震えが止まらないんだよ――)カタカタ

塞:49600 ネリー:118100 淡:123900 憩:108400

 東四局流れ四本場・親:憩

淡(人間じゃない人間じゃないと思ってたけど、本当に人間じゃなかったよ! 私やサエだけならまだしも、同じ山牌が見えるネリーまで手玉に取るってどういうことなのさ?
 いや、ネリーを見切った――ってことなんだろうけど……いやいや、マジで?)タンッ

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(ケイはテンパイ流局を狙ってる。なら、何はともあれ先に和了ってしまえばいい……んだよね? もちろん、今まで何度も和了りを妨害されてきたから、それが簡単ではないことはわかってる。でも――)タンッ

淡(私には支配力がある。ケイ的に一番読めないのは私の動きのはずなんだ。基本的には『論理的』に《上書き》する能力者のサエと、知識の枠の中で『効率的』に手を進めるネリー。
 ケイの《悪魔》の演算力なら、二人の動きを(想像を絶するけど)読み切ることができるんだよね。
 でも、言っちゃえば気分次第で起こる私の支配力に拠る《上書き》は、ケイにとっては最大のイレギュラー要素のはず……)タンッ

淡(ネリーにそれが有効だったように、同じく無能力者のケイにも、支配力に拠る《上書き》は有効。論理に対して、感情をぶつける。これは、なかなか悪くない解答だと思うんだけど……どうでしょ!?)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「ポン」タンッ

淡(ふんっ! ズラされたから何さ!! 支配者《ランクS》をナメてもらっちゃあー困るよ!!)ゴッ

憩「(ナメてへんよ――)カンッ!!」パラララ

淡「ッ……!!?」ゾクッ

淡(な、なんで……!!? これだけ想いを研ぎ澄ましてるのに、《上書き》し損なった!? 何かに弾かれた感覚がしたけど……私《ランクS》の《上書き》を弾ける『何か』って何さ!?)

憩(悪いな……大星さん。確かに自分の支配力はウチにとって最大の不確定要素や。ほな、当然、それに対して何の対抗策も練ってへんわけがないやろ)ニコッ

淡(ど、どういうこと!?)ゾクッ

塞(えっと、今、何が起こったわけ……?)

ネリー(ぱ……ッ!! ぱねぇええええええええ!!)ゾワッ

憩(確かに支配者《ランクS》の気儘な《上書き》を止める術は、無能力者《ウチ》にはあらへん。せやけど……)

ネリー(あ、ありのまま今聞こえたことを話すぜ!! けいはポンしたことで形式テンパイした! そっからカンして嶺上開花を狙った! 前半戦のオーラスにやってたことと、ほぼ同じアレですよっ! すると、何が起こるか!!)

憩(ウチが臼沢さんの支配領域《テリトリー》の外――不完全領域に手を伸ばせば、自動的に《リジェクト効果》が発動する。《防塞》の《絶対》を守るために問答無用の暴力的《上書き》が発生するわけや。
 ほんで、まあ、ウチの手は見事に塞がれるわけやな。せやけど、牌の種類や枚数かて無限やない。当然、ウチの和了り牌がどっかへ弾き出されれば、その分が山牌の並びに影響を及ぼす。
 要するに、牌の玉突き事故みたいなことが起こるわけやんな。これをちょちょっと応用すれば、本来どうしようもないはずの大星さん《ランクS》の《上書き》を妨害できるっちゅー寸法や)

ネリー(《リジェクト効果》の余波があわいの支配力に拠る《上書き》を妨害したんだ……!!
 私たち無能力者に支配者の《上書き》を止めることはできない! けど、超能力者《レベル5》なら話は別!! 支配者だろうとなんだろうと、その《絶対》には逆らえない!!
 マジすげえ!! 確かに理屈はわかるけども!! 前半戦で自分がハメられた《絶対》を利用するか普通!? 《悪魔》にも程があるよっ!!)

淡(なるほど! よくわからないというのがわかった!!)

塞(だー……手が進まないわー)

ネリー(うおっ!? っていうか、あわいの《上書き》を止めただけじゃない……! 私やさえの《流れ》にも影響が出てる!!
 これ、つまり、《リジェクト効果》による牌の変動をほぼ完璧に把握してるってことだよね? レベル5の《絶対》を計算の一部として組み込んでるってことだよね……!?
 む、無理無理!! こんな《悪魔》にどうやって勝てと!?)

憩(よし。これでこの局もいただき、っと!)

ネリー・淡・塞「……ノーテン」パタッ

憩「テンパイや。1000オール♪」カチャカチャパララ

塞(また荒川の親番かぁ)フゥ

淡(うにゅうう! 対策の仕方がわからないよー!!)

ネリー(本気でどうすんのだよコレ……)

憩「ほな、流れ五本場いこかー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞:48600 ネリー:117100 淡:122900 憩:111400

 ――《煌星》控え室

咲「だー! 淡ちゃんからバカ力を取ったら可愛いしか——何も残らないのにもー!!」

友香「淡の支配力でも出し抜けないなんて……」

桃子「えっと、今、何が起きたっすか?」

煌「支配者《ランクS》を止め得る力を有しているのは、あの場だと淡さん本人か臼沢さんの二人だけです。
 となれば、消去法で、臼沢さんの《防塞》による《絶対》が、何らかの形で淡さんの《上書き》を阻んだ――ということになるでしょうね。なかなか信じ難いことですが」

友香「説明してもらったのに混乱が増したんでー……」

桃子「どうすればいいっすかね、これ」

咲「わりとどうしようもないんじゃないかな」

煌「咲さんのおっしゃる通りです。はっきり申し上げますと、状況は悪くなることはあっても良くなることはありません」

友香・桃子「おっふ……」

煌「10万3千局の知識の蓄積を持つ運命奏者《フェイタライザー》ことネリーさんは、前半戦ではいかんなくその力を発揮していました。
 しかし、ネリーさんの『万知』は、荒川さん以上に『未知』への対応力が低い。どんなに大量の《原譜》を記憶していようと、それが有限である以上、『例外』は存在してしまうものです。
 もっとも、あんな例外的攻略法を編み出し実践できるのは、歴史上世界中いつどこを探し回っても、《特例》の荒川さんだけだと思いますが。
 とは言え、ああなってしまっては、もはや運命奏者《フェイタライザー》としてのネリーさんに成す術はありません」

煌「学園都市にただ一人しかいないレベル4強――《最奥》の大能力者こと臼沢さんの恐ろしさは、もう十分過ぎるほど伝わってきましたね。過去の牌譜を見ても、薄墨さんを始め、名立たる能力者の方々が完封され敗北してきました。
 そこでいくと、荒川さんの対応は貫禄ですね。和了れないなら、和了らない。テンパイすると掴まされるなら、海底間際までテンパイしない。有効牌が来ないなら、手役を捨ててでも鳴きにいく。
 能力《オカルト》を『破らない』という選択を取れるのは、無能力者《レベル0》の特権でしょう。能力者なら十中八九破りにいってしまう――それが自身の根幹を左右することだからです。
 今の荒川さんは、防塞《オカルト》をただの理屈《システム》として処理しています。こうなると、能力者としての臼沢さんに打つ手はありません。松実さんがそうしたように、『実力』で荒川さんに対抗する以外にないわけです」

煌「あとは淡さんに頑張っていただきたいところなのですが、先ほど見た通り、支配力に拠る《上書き》に対しても、荒川さんは手を打ってきました。
 それも、臼沢さんの《絶対》を利用してです。荒川さんの計算を出し抜かない限り、淡さんの《上書き》は失敗し続けるでしょう。
 そして、これは言い換えると、淡さんが支配力に拠る《上書き》に成功するときは、臼沢さんの《絶対》が消滅するとき――ということになりますね。そうなってしまったら、一巻の終わりです。
 いかに淡さんでも、『和了り』を選択肢に取り入れられるようになった荒川さんを止めるのは厳しいでしょう。ナンバー2――ナンバー1以外には決して負けない……敬天なる《愛人》。
 荒川さんが前半戦で遅れを取ったのは、ひとえに宮永照さんが臼沢さん《レベル4強》というとっておきの『未知』をぶつけたからです。荒川さんが正しく状況を把握した今、あの場に荒川さんの敵は存在しません」

友香「思っていた以上に詰んでますね……」

桃子「この試合が副将戦で終わらないことを願うばかりっす」

咲「淡ちゃん……ご愁傷様。わかってたけど」

煌「――と、思いますよね?」

友香・桃子・咲「えっ?」

煌「いやはや、さすがは荒川さん。心得ていますね。すばらです」

咲「ど、どういうことですか?」

煌「目に見える全て、耳に聞こえる全て、あらゆる事柄を疑ってかかりましょう。
 私たちが今戦っている相手――荒川憩さんという雀士は、なんといっても《悪魔》なのですから……」

     憩『テンパイ♪』

     ネリー・淡・塞『……ノーテン……』

 ――対局室

 東四局流れ六本場・親:憩

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:荒川憩(劫初・114400)

ネリー(いよいよ射程距離に入っちゃった。どーにかしないと……!!)

 西家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・116100)

淡(うー……ダブリーさえできればテンパイ流局地獄から余裕で抜け出せるのにー!!)

 北家:大星淡(煌星・121900)

塞(いやいや。いやいやいやいや。すごいすごい。大星はともかくとして、あのヴィルサラーゼまで手玉に取るとはね。本当に、あんたって心得てるわよね、荒川憩――)

 南家:臼沢塞(永代・47600)

憩(ふーん……澄ましとんなぁ。腹立つでー)

塞(弱いやつほど相手との実力差がわからない。敵の強さは自分が強くなって初めてわかる――なんて、勝負事の世界ではよく言われるけれど、それもまあ、良し悪しよね)タンッ

塞(荒川と同じで山牌の並びがわかるとかいうヴィルサラーゼや、卓上のほぼ全域を支配できる大星からすれば、この連続テンパイ流局――《悪魔》の所業に恐れ慄いて当然よね。
 私なんか、ぶっちゃけ、荒川すげーつえーみたいな小学生並みの感想しか湧いてこないわよ。わけがわからな過ぎて逆に恐くないってとこかしら)タンッ

塞(私はレベル4強だけど人外ではないからさ。ランクも別に高くないし、能力がなければ、そこら辺の普通の一般人と大差ない。
 はっきり言って、荒川がどれくらいすごいことやってんのか、まったくピンと来ないわけよ。
 私が恐いのは……もっと、支配力ゴゴゴとか、超能力ギギギとか、そういうの。さっきから、無能力者がちょこちょこ鳴いてんなぁー、くらいにしか感じない)タンッ

塞(私に言わせれば、こんなもん、ハッタリ以外の何物でもないわ。どんなに凄もうと、荒川は一局につき最大3000点しか稼げない。こっちは最大でも3000点のダメージしか受けない。それが五、六回続いたから何よ。
 大星、あんた、前半戦の東初を忘れたの? ダブリー一回でほぼ同じだけ稼いでたじゃない。あのとき、私は内心震え上がっていたわよ。それに比べりゃ、こんなのどうってことないわ)タンッ

塞(さも、『自分は世界の全てを掌握してます』、『全知全能です』みたいなツラしちゃってさ。私は知ってんのよ、荒川。あんたは所詮、大好きな先輩一人の気持ちさえ自分のものにできない、無力なガキなんだってことをね)タンッ

塞(あんたがどんなに粋がったところで、息巻いたところで、《幻想殺し》の証明した理論のせいで、『不確定性』を排除することは原理的にできないようになってる。それが物理の壁。《悪魔》の限界……)タンッ

塞(ビビることはないわけよ。相手は支配力も能力も持たないランクFのレベル0。花田煌や私じゃないんだから、こっちを和了りを延々潰すなんて芸当はできるわけがない。どっかでこのテンパイ流局地獄は終わる。はい。論破ァ~)タンッ

憩(臼沢さん……思っとったより冷静やん。しゃーない。ものっそい腹立つけど、そんなどうでもええパラメータは計算式の中に存在しない。今はただ思考しろ。私情は死情――感情なんて押し殺せ……)

憩「ポン」タンッ

ネリー・淡(ふゅっ!?)

塞(ふ~ん……よくわかんないけど、何かズラしたのね。お疲れ様。私のツモ増やしてくれてありがと)タンッ

ネリー(このまま行くと、またテンパイ流局……!)タンッ

淡(困っちゃうなー。またテンパイが遠いよ、もー)タンッ

塞(ふん。ちょっとテンパれない程度でテンパることなんてねーのよ。そりゃ、運が悪けりゃ、三回戦みたいに二半荘連続焼き鳥なんて死ぬほど残念な結果になるけどさ、そんな『偶然』……そうそう起こりはしない)タンッ

塞(高々数局こっちの動きを封じたくらいでいい気になってんじゃないわよ、《悪魔》。私は《塞王》……何百人何百局と『必然』で能力者を封殺し続けてきた砦の王よ。
 塞いだ数だけ、私は他人の根幹にある論理を打ち砕いてきた。宮永よりもあんたよりも辻垣内よりも、私は同じ白糸台高校麻雀部の仲間を再起不能にしてきたの。麻雀で他人の人生を狂わせてきたの。その自覚と矜持がある――)タンッ

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(ここで無能力者との我慢比べに負けてるようじゃ、あいつらに合わせる顔がないじゃない。《絶対》の扉を開けられずに散っていった数多の能力者どもに、申し訳が立たないじゃない。
 《防塞》発動中の私は超能力者《レベル5》以外に屈しちゃいけないの。そういう《塞王》としてのイメージをずっと積み上げてきたんだから。
 だって、そうじゃなきゃ、あいつらが報われないでしょ?
 自分の根幹にある、確率捩じ曲げるほどの譲れない想いを、完膚なきまでにへし折られたあいつら――そのへし折った相手がさ、ただ強い能力を持ってるだけのヘタレでしたーじゃ、カッコつかないでしょうが……)

憩(臼沢さんのこの底力はちょっと計算に入ってへんかったな。この人かて三年――それも、菫さんやガイトさんや宮永照と同じ、同学年最強チーム《初代》の一員。菫さんが恐れる石戸さんくらいのポテンシャルはある、っちゅーことか……)

憩「チー」タンッ

塞(私は学園都市にただ一人しかいないレベル4強。《絶対》を目指す全ての能力者が行き着く《最奥》の扉。私の根幹にある想いは、能力者でもないあんたに陥落させられるような、ヤワな砦《プライド》じゃないわけよ。
 こちとら伊達に『王』を名乗っちゃいない。あいつらが望むなら、たとえ《神の領域に踏み込む者》でも――宮永の《万華鏡》だろうが神代の《九面》だろうが――命を懸けて塞ぐ覚悟が……私にはある)

憩「(ふん……やっぱ自分は気に食わへんわ、臼沢さん――)カン!」タンッ

塞(さァ……王にひれ伏すがいいわよ。貢ぐがいいわよ。それがあんたにできる唯一のこと――跪いて足を舐めなさい、このド底辺《レベル0》ッ!!)タンッ

ネリー(ヤバい、このままじゃ……!!)タンッ

淡(うぬっ!! また《上書き》が何かに弾かれ――)タンッ

塞「ロン」ゴッ

淡「え……」ゾクッ

塞「5200の六本場は7000よ」パラララ

淡(嘘!? 私、ハメられたのー!!?)ガーン

塞(どーせこんなとこだろうと思ったわ。流局が無限に続くことはない。和了りで終わる『普通』の局がいずれ来る。大星もヴィルサラーゼも荒川にビビり過ぎなのよ。
 ま、そこも含めて計算通りなんだろうけど……ホント、人心を心得てるわよね、あんたって)

憩(『第一不確定性原理』がある以上、ウチにも物理的な限界はある。どうやってもテンパイ流局にできひん局は、悔しいけど、ある。そこで無理を通しても、こっちのリスクが高まるだけで益がない。
 その場合は、臼沢さんに言われた通り、チマチマ『点数調整』させてもらうで)

淡(もうううううケイの《悪魔》めええええっ!!)

ネリー(頭一つ抜けてた《煌星》が削られて、上位三チームの点数が並んだ。一人テンパイ流局一回でまくられるんだよ……)

憩(面倒なことに《リジェクト効果》はまだ働いとる。粘るやんか……《塞王》)

塞「それじゃ、南入するわよ――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞:54600 ネリー:116100 淡:114900 憩:114400

 南一局・親:塞

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(ヤバいぜマズいぜ詰んでるぜ。どうしたらいいもんかな? いや、どうしようもないって!)タンッ

ネリー(三回戦のてるの《八咫鏡》、準決勝のきらめの《通行止め》に続き、またこんな無力感を味わうことになるとはね! これが《特例》の強さ……私っていう、雀士対策模範解答全集に記述されていない、たった一人の例外。
 そんなもん、勝てるわけないでしょ! 論理的に無理でしょ!)タンッ

ネリー(さえの体力のこともある。ここは、けいの思惑に逆らわず、テンパイ流局を続けさせて、多少の失点は仕方ないと割り切って、息の根を止められる前に対局を終わらせてしまうのがいいのかな?)タンッ

ネリー(今のとこ、誰もテンパイできてない。私が和了れるメロディは聞こえてくるけど、これをこのまま奏でても、けいを出し抜くことはできない。
 なら、強引に行かないほうがいいのかな。けいの一人テンパイ流局なら、さえの親が流れて終局に近付くわけだし)タンッ

憩「ポン」タンッ

ネリー(う~……そんなん考慮してないっていうか、知識にないよ……)タンッ

塞「それ、ロンよ」

ネリー「は――?」

塞「7700」パラララ

淡(ネリーまで振り込んだー!? 牌が透けて見えるんでしょ!?)

ネリー(私が振り込んだー!? 牌の旋律《こえ》を聞き分けられるのに!!?)

憩・塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(どういうこと!? 何が起こったのか全然わからない!? なんでこんなメロディが――!? 聞いてないよっ!! 聞き取れなかったよ……って、まさか――)ゾクッ

憩(自分もウチと同じ。全てを知ることはできひん。『第一不確定性原理』の運命論バージョン――《神の牌》による観測限界。これを利用せーへん手はないよな……?)ニコッ

ネリー(バッ――!? ええぇ!? 私に聞き取れない《神の音》を把握されてるの!?
 だって、けいの《悪魔の目》は能力論ベースで、私の《神の耳》は運命論ベースじゃん!! 内容はほぼ同じものだけど互換性はないはずでしょ!?)

憩(甘い甘いわ甘過ぎる。ウチの演算力は万能やで。そら、《運命論》についてなんも知らへんかったら無理やったかもしらんけど、ニワカ知識は仕入れてある。
 自分の牌譜はよう見たし、生で体感することもできた。自分が山牌の並び――《運命》とやらをどういう風にデータ処理しとんのか……《神の耳》とやらの解析は休憩中に完了しとんねん)

ネリー(じゃあ、東一局のアレ――マジで私の《神の耳》と同じことしてたんだ。《悪魔の目》で見えた情報を、変換して、再処理することで、《神の耳》のレプリカまで生み出せるのか。
 ははっ、すっげ……道理でさっきから翻弄されっぱなしなわけだよ。《神の耳》+《悪魔の目》なんて、それ完全に《見えざる手》でしょ。
 《特例》の無能力者。ここまで性能《スペック》差があるとはね。さすがは……あのやえが惚れこんだ打ち手。これが運命――オリジナルの本命には敵わないのがコピーの宿命、みたいな?)

ネリー(この分だと、本当に何をやっても無駄だ。私の運命奏者《フェイタライザー》としての力は、《神の耳》による観測と《原譜》の知識を拠りどころにしている。
 《神の耳》がほぼ完全にトレースされてしまったとなれば、やえの言う通り、自動即興《エチュード》を発動させたところで、けいに抗うことはできない。
 で、強制詠唱《スペルインターセプト》と魔滅の声《シェオールフィア》は、そもそもレベル0のけいに威力を発揮しない、と。
 だー、お手上げ!! 私の負けだぜ、けいッ!!)

ネリー(が……ッ!! しかぁーし!! なんだよッ!!)ゴッ

憩(ん――?)ピクッ

ネリー(信じることをやめない限り、決して諦めない限り、神様は必ずそこに至る道を用意してくれている!! あなたは私の運命論魂に火をつけてしまったよ、けい!!
 言っとくけどね、運命論者の象徴で総体である運命奏者《フェイタライザー》……!! ネリー=ヴィルサラーゼはッ!! この世界の誰よりも……諦めが悪いんだからねっ!!?)

ネリー(『運命だから仕方ない』とか、『最初からこれが運命だったんだ』とか、自分の力の及ばない事象に対して、溜息混じりにそういう言い回しをする人はよくいるけどさ!!
 はあ!? ほざいてんじゃねーよ!! 運命ってのはなーあ!! 逃げる言い訳のためにあるんじゃねーんだよ!! 負け惜しみに使う言葉じゃねーんだよ!!
 なぜなら!! 《運命》とは即ち――立ち向かう理由だからだぜッ!!)

ネリー(私たち運命論者にとって……!! 運命とは信じるもの!! 切り拓くもの!! 自分の手で掴むもの!! 気に入らないなら変えるもの!! 逆境であればあるほど――私はめちゃめちゃ燃えるんだよっ!!)

憩(……妙なスイッチ押してもうたらしいな。全身に生気が漲っとる。去年宮永照相手にベソかいたウチ的に、この精神力は見習いたいものがあるな。
 論理的には完封しとるはずやけど、さて、何をしてくるつもりなんか……?)

ネリー(超次元の《見えざる手》が何さ!! あなたの描いた運命《シナリオ》の通りに世界が回ってるって……!? 知ったことかッ!! そんなくっだらねえ幻想は――私がこの手でぶっ殺すッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(ふむ……小走さん、なんやどえらい子を拾いましたね。ええですよ。全力で捻り潰します……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞:62300 ネリー:108400 淡:114900 憩:114400

 南一局一本場・親:塞

ネリー(見てろよ~……!! やるぜ~超やるぜ~!!)カチャカチャ

淡(っと……ネリーが理牌し始めた。ってことは、自動即興《エチュード》が来る? でも――)

塞(前半戦のときとは雰囲気違うわね。何をするつもりなのかしら)タンッ

ネリー「失礼なんだよ」スゥ

憩(目を閉じた――耳を澄ませとるのか。《神の耳》レプリカは、《神の耳》そのものではないからな。ウチも、ネリーさんがどんな『音』を聞いているのかまでは、わからへん。
 一体何を聞いて、どんな曲を奏でてくるんやろか……魔術世界の《頂点》――運命奏者《フェイタライザー》)

ネリー(知識と経験の総体である私の存在価値を根本からひっくり返すような『万能』の《悪魔》。歴史上、世界中、いつのどこにも存在しない――今、ここだけの、《特例》の作曲家。
 これほどの一曲は、きっと人生でそう何度も聴けるものじゃない。なら、光栄なる同卓者として、これを最高の一曲にしてやろうじゃん。
 今日のやえは、私に『奏でてこい』じゃなく、『聴いてこい』って言った。運命奏者《フェイタライザー》の私をオーディエンスに回すほどの打ち手……学園都市のナンバー2)

ネリー(この人を相手に、この人が指揮を執る曲を最高のものにするために、私に出来ることは何か。それは……きっと、この今を、楽しむことだと思う。全力で――全力以上で、ぶつかることだと思う)

ネリー(《運命》の行く末をただ一人に握らせていちゃダメだ。麻雀の何が面白いって、四人で打つところなんだから。奏で合わなきゃ。競わなきゃ。競争して競奏して協奏して……名曲はそうやって生まれるもんでしょ)

ネリー(あなたの手の平の上で踊らされてるだけじゃ、つまんない。最高とは言い難い。なら……ッ! いっそ踊ってやろうじゃん!! 性能《スペック》差はあるけども――だからこそ、力いっぱい噛み付いてやるのさ!!)

ネリー(私がこれほどまでに翻弄される理由は大体わかってる。合理的で効率的な全自動《オート》じゃけいに操られるだけなんだよね。つまり、最適な一曲ではなく、最高の一曲を……!!
 オッケー! そっちが《見えざる手》なら、こっちは普通に見えてる手で勝負してやるよ! 自ら! 直々に!! 手ずから奏でてやるよ!! 私の手で――私自身の力で――最ッ高の《運命》を掻き鳴らしてやる……!!)

ネリー(《原譜》をベースにしつつ、それ以外に記憶している雑多な曲調を混ぜ合わせる。練習曲《エチュード》をアドリブで魔改造して、ここでしか奏でられない本番曲《オリジナル》にする。
 もはや必勝の曲なんかじゃない! これから奏でるのは、ただの私の好きな曲!! ここでしか聴けない《幻奏》だ……ッ!!)

ネリー(それじゃあやっちゃいましょうかねー!! 運命奏者《フェイタライザー》の自動即興《エチュード》はしばし封印ッ!! ネリー=ヴィルサラーゼの手動即興《アレンジ》……ご静聴願いますッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(この雰囲気は……江口さんか? いや、でも、《完全模倣》とは全然ちゃうな。
 打ち筋そのものは、むしろ《神の耳》モードのネリーさんに近い気がする。それが、江口さん風になっとる? へえ……なるほど、確かに、これは読み難いな――)タンッ

ネリー(私が『全知』じゃないように、けいだって『全能』じゃない。最適を求める自動即興《エチュード》は論理的に解析することができても、荒削りの手動即興《アレンジ》は読み切れないはず。
 だって、そこにあるのは理屈じゃなく、好みだからっ!!)タンッ

憩(自動即興《エチュード》にオリジナルのアレンジを加えとるのか。確かに、個人の趣味嗜好を把握するのは時間がかかる。感情任せに《上書き》してくる支配者《ランクS》が厄介なのと同じやな。
 まあ、もちろん、感情だけで論理を打ち破ることはできひん。力関係的に、感情は論理に殺されるのが世の真理やねん。
 ただ……そこはなんといっても知識と経験の権化たるネリーさんや。好きなように奏でていても、好き勝手に奏でているわけやない。
 この人には、一千年分の蓄積っちゅー、とんでもなく強固な基礎がある。反復練習《エチュード》あってのアドリブ奏法。なかなかオモロいやん。九十九の努力と一の工夫――小走さんが好きそうな打ち筋やな)タンッ

憩(『万知』と『万能』……か。ネリーさん、ウチら、合体したほうがええのかも知れへんな。そしたら、きっと、小走さんが泣いて喜ぶと思うで。
 ランクFでレベル0――何の力も持たない無能力者が、全てにおいて最高の《頂点》に、真正面から勝つ。あの人の悲願を、ウチと自分の融合体なら、余裕で叶えられるんやから……)

憩(ただ、現実は非常やな、ネリーさん。ウチは《悪魔》で、自分は《神に愛された子》。相容れへんよな。ま、せやけど……それはそれでええのかもしれへん)

憩(ウチが勝てば、菫さんの悲願を叶えられる。自分が勝てば、小走さんの悲願を叶えられる。どっちに転んでも、ウチは大好きな人の笑顔を見れることになる。
 なかなか合理的やんな。一人より二人のほうが効率的や。論理的に考えて、な)

憩(せやけど、押し殺しているだけで、ウチにも感情っちゅーもんがある。小走さんには申し訳ないですけど、朝の電話で言うた通り、今のウチは菫さんの味方で、あなたの敵です。勝たせてもらいますよ……!!)

憩(《愛人》は《愛尽》――大好きな人のためやったら、大好きな人に牙を向くことも厭いません!! 今のウチはあなたの《特例》やなく、菫さんのナンバー2ですから……ッ!! ここは譲れへん!!!)

ネリー「リーチやでーなんだよッ!!」ゴッ

淡(うおっ、張ったの!?)

塞(よくやるわねぇ……)

憩「チーッ!!」タンッ

ネリー(このっ……!? あっちは《防塞》のハンデを背負ってるはずなのに互角!! 私の全力以上でも超えることができないのか、この《悪魔》は――!!)タンッ

憩(十分ええ線行っとるけどな、《神に愛された子》!! ただ、ウチらは互いに同じ無能力者《ランクFでレベル0》……!!
 ぶっちゃけ、確率干渉ナシの完全デジタルで《特例》のウチと並ぶとか、人類史上最高レベルの快挙なんやで、ネリーさん!!)タンッ

ネリー(だあああああ、くっそー!! なんだこの生き物ッ!! 強過ぎるって、マジ……!!!)

憩(そらお互い様やろがッ!!)

ネリー・憩「テンパイッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「(完全に蚊帳の外!!)ノーテン……」パタッ

塞「(とりあえず、親、流れたわね。終局まであと最少で三局……か)ノーテンよ」パタッ

憩(やるやん……ネリー=ヴィルサラーゼ――)ニコッ

ネリー(まだまだ!! こっからは私の親番――がんがん奏でてやるから覚悟しろなんだよ、あらかわけいッ!!)ゴッ

塞:60800 ネリー:108900 淡:113400 憩:115900 供託:1000

 ――《劫初》控え室

智葉「運命奏者《フェイタライザー》をただの一人の雀士にしてしまうとはな。《特例》の荒川の前では、さすがのネリーも人の子か」

菫「荒川は、麻雀のルールを書き換えてしまうことで、場を制圧していたんじゃないのか?」

智葉「まあ、荒川にもできることとできないことがある。あいつの論理がハマりにハマっていたのは、他の三人が最適や能力や支配の『型』に縛られていたからだ。
 機械的に処理できる敵を操ることは、荒川にとって造作もないこと。だが、今のネリーは自動《オート》を手動《マニュアル》に切り替えた。
 純然とした論理では勝ち目がないから、混濁とした心理の駆け引きに持ち込んだんだな」

     ネリー『ポンッ!』

     憩『チー!!』

智葉「無論、荒川の優位は揺らがないがな。突き詰めればレベル0同士の化かし合い。確率干渉に頼らず荒川を攻略することは、たとえ何千年と反復練習《エチュード》を積んでも、人類には不可能だ」

菫「この場合、私は荒川とヴィルサラーゼのどちらに驚嘆すべきなのか――」

エイスリン「ドッチモ、ヤベーヨ」

     ネリー『ポン……!!』

衣「ふむ……しかし、さとはの言う通りならば、この勝負も先が見えているということになるな」

智葉「ああ。いかにネリーでも、無能力者《ランクFでレベル0》の土俵で勝負する限り、《特例》の荒川には勝てん」

     憩『ポンや!!』

     ネリー『ポン——ヒットなんだよッ!!!』

エイスリン「イマノトコ、ゴブゴブ、ッポイ、ケドナ」

菫「恐ろしい執念だな……運命奏者《フェイタライザー》」

     憩・ネリー『テンパイッ!!』

     淡・塞『ノーテン』

衣「だが、この調子であの外つ国人の親番が続くなら、けいにとっては好都合だろう」

エイスリン「サエ、ミルカラニ、ゲンカイ、キテルゼ」

菫「あいつは……しかし、意地でも塞ぐと思うぞ」

智葉「《塞王》と《悪魔》の睨み合い……こればかりは、最後までどうなるか読めんな」

 ――《幻奏》控え室

セーラ「最初は俺、次は誠子と来て、今回は優希か」

誠子「荒川さんに対抗するなら、私よりもっと適任の雀士がいるような気がしたんですけどね。なぜ選ばれたのか……」

やえ「ただの好みだろうよ。《神の耳》で聞き取った最適のメロディを、自分好みの手動即興《アレンジ》で、最高のメロディに変換している。
 ゆえに、同卓者の誰かではなく、ネリー自身がよく知っている雀士が《完全模倣》の対象として選ばれる……と。
 まあ、ああなってはもはや《完全模倣》でもなんでもないがな。しかし、完全無欠でないことが、逆に完全無欠の荒川に対して有利に働いている。東場でもないのに片岡を選ぶ辺りが実に痛快だな」

優希「東場の私じゃなく南場の指タコスモード(数絵パワー付き)を選ぶとは、ネリちゃんはわかってるじぇ!!」

誠子「しかし……どうにも荒川さんの壁が厚いですね。臼沢先輩に塞がれているから、ネリーさんより自由度は低いはずなのに」

やえ「まぁ、そこはなんと言っても荒川だからな。仕方あるまい」

優希「むぅ~。いつも思うのだが、やえお姉さんは敵の肩を持ち過ぎだじぇ」

やえ「悪い悪い」

セーラ「まっ、そうヤキモチ焼くなや、優希。荒川だけはな。ホンマのホンマに《特例》やねん。自分かて、ネリーと《南風》がやり合ったら、《南風》の肩持つやろ?」

優希「うっ……数絵を引き合いに出すのはズルいじょ、セーラお兄さん」

誠子「えっと、立ち入ったことは聞かないほうがいいんですかね……?」

やえ「昔のことだ。別に構わんよ。荒川は……そう、私の研究――《幻想殺し》に大きく貢献してくれた。一時は助手みたいな感じだったな。ま、助手というには優秀過ぎたが」

セーラ「荒川は、やえの研究室によう出入りしとったんやんな?」

やえ「ああ。あいつには世話になったよ。何を隠そう、現在《幻想殺し》に登録されている雀士約三万人――そのプログラミングの何割かは、荒川の力を借りて出来上がったものだ。
 NPC《天江衣》なんかがそうだな。全体効果系は支配領域《テリトリー》が広く、プログラムを組むのが難しい。しかもあいつは支配者《ランクS》でもあるからな……面倒なことこの上なかった。
 が、荒川に相談したら、『チッチッチッ――ピコンッ!』と三秒であらゆる問題が解決した」

優希「三秒!?」

やえ「ああ。私の頭を三日三晩悩ませた問題が、たったの三秒だ。さすがに笑顔が引き攣ったね」

セーラ「あいつすごいな……。もうやえと一緒に研究者になってまえばええやん」

やえ「そうなっていたら、今頃『能力論』という分野が完結していたかもわからんな。
 けど、まあ、最終的に荒川は医学の道に進むことになった。今は《冥土帰し》の下で、夜な夜な人造人間《ホムンクルス》の創造に勤しんでいるらしい」

優希・誠子「ぶふうううううううっ!!」

やえ「ジョークだ」

誠子「《魔女》と《悪魔》が人体練成なんて……洒落になりませんよ」

セーラ「ん? 待って、最終的に赤阪先生のとこに行ったっちゅーことは、元々、荒川はそこまで能力論に興味があるわけではなかったん?」

やえ「能力解析やプログラミングは、あいつの好きなジャンルではあると思う。抜群に向いてもいる。が、本人的には、機械を弄るより人体を弄るほうが楽しいみたいだな」

セーラ「ほな、なんで荒川はやえのところに通ってたん?」

やえ「そもそもの発端は、荒川が白糸台高校の一般入試で全教科満点という史上二人目の快挙を成し遂げたところからだな」

優希「ええっ!? あの激ムズテストを満点!? しかも二人目なのか!?」

やえ「ちなみに、一人目は、お前ら一年三組の担任をやってる瑞原先生だぞ」

優希「はやりん先生ってそんなすごい人だったのか!?」

やえ「瑞原先生はデジタル論が専門でな。電子学生手帳のネト麻――あれのサーバー『Whirlwind』の管理者でもある。同分野の重鎮・熊倉先生が後を一任するくらいのとんでもないお人だ。ちゃんと敬語使えよ」

優希「人は見かけによらないじぇ……」

誠子「あの、それで、荒川さんは――?」

やえ「ああ、そうだったな。えっと、白糸台には三つの入試があるな? ペーパーテストのみの一般入試、そこに麻雀の実技試験を加えた特殊入試、それに特待――もとい推薦入試だな。
 私とセーラは特待だ。片岡と亦野は特殊入試だろう?」

優希「ペーパーテストのみで合格できる気がしなかったからな!」

誠子「そういう言い方すると、特殊入試の人がみんな勉強できないみたいじゃないか……」

優希「おお、確かに誠子先輩は勉強できる人だったじぇ! ん? じゃあなんで一般入試で受けなかったんだじょ?」

誠子「特殊入試で合格すれば、入学後の四軍以上配属が保証されているからだよ。白糸台高校――というか、白糸台高校『麻雀部』を目指す人なら、大半はこちらを受けるものなんだ」

優希「ほ~」

やえ「その通り。特に二軍《セカンドクラス》は、特待を除けばほぼ全員が特殊入試合格者だ。無論、一般入試合格者でも、入学前の測定で高い数値を出せば、二軍《セカンドクラス》配属は十分ありえる。
 が、これだと、無能力者《ランクFでレベル0》の荒川は引っかからない。どう考えても『普通』のやつじゃないことは成績を見れば明らかなのにな。
 学校側としては、可能なら二軍《セカンドクラス》として最高の環境――白糸台校舎で学んでもらいたい。が、ちょっとした問題があった」

セーラ「ああ、なるなる。それであいつは《特例》なんやな」

優希「ふむむー?」

やえ「例えばだが、同じパーフェクト合格者の瑞原先生は、特殊入試を受験していた。ゆえに、すんなり二軍《セカンドクラス》配属になった。あの人は実技試験も完璧だったらしいからな。この配属に異論を唱えるやつなどいない。
 しかし、荒川は一般入試合格者。実技試験をパスしていない――どころか荒川は当時麻雀のルールすら知らなかった――ランクFのレベル0の一般人だったわけだ。
 そんな、いわば『普通』の人間を、ただペーパーテストの成績が良かったからという理由で、白糸台高校麻雀部一万人の憧れである二軍《セカンドクラス》に配属する――なんてのは、過去に前例がなかったんだよ。
 この《特例》を許してしまうのは、白糸台の入試制度的にかなり問題がある。推薦入試や特殊入試をパスした生徒に示しがつかない。そこで、荒川を『普通』のやつから『普通じゃない』やつにすることにしたんだ」

優希「どうやってだじぇ?」

やえ「肩書きを変えることにしたんだよ。『一般試験合格者』から、『研究分野の特待生』にクラスチェンジすることにした。だが、そうなると、荒川にはどこかの研究室に所属してもらわねばならん。
 で、まあ、そのガイド役として白羽の矢が立ったのが、当時の現役で唯一の研究特待生――この私だったというわけだ」

セーラ「ほ~う。つまり、やえはあいつの研究室選びを手伝ったっちゅーことやな? 一般入試合格者の無能力者を、《特例》として二軍《セカンドクラス》に配属するために」

やえ「そういうこと。で、まあ、最終的に荒川は赤阪先生の研究室を選んだんだな。というより、荒川を受け入れられる度量を持っていたのが、赤阪先生だけだったと言ったほうがいいか」

セーラ「あははっ。さてはあいつ、どこ行っても『三秒』で問題解決してまったわけか?」

やえ「そうなんだよ……。荒川があちこちの研究室を訪問したあの一ヶ月で、どこの分野も十年分くらい前進したんじゃなかろうか……」

セーラ「春季大会《スプリング》期間中にそんなことがあったんか~」

やえ「で……まあ、それから必要な書類を作成するために、いくつかの試験を受けてもらって、晴れて荒川は『特待生』として二軍《セカンドクラス》配属が決定。そして……あのトンデモ入学式を迎えた、と」

誠子「途中で失神して何も覚えてないですけどね、あのときのことは。優希たちの代は、新入生代表が新子さんで本当に羨ましいよ……」

優希「?」

やえ「以上が、私と荒川が出会った経緯だな。そこから先のことは、お前たちも知っているはず」

セーラ「なるほどな~。っと――」

     ネリー・憩『テンパイ……ッ!!』

     淡・塞『……ノーテン』

誠子「私には二人の力が拮抗しているように見えるんですが、これ、分が悪いのはネリーさんのほうなんですよね」

優希「うー! 頑張れだじぇ、ネリちゃん!!」

セーラ「んー。この調子でネリーの親番が長引くようやと、臼沢の体力が心配やな……」

やえ「ああ……そうだな」

     憩『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(一年離れている間に……随分と強くなったな、荒川――)

       ――ウチがナンバー1になったら、《二人》が《三人》になるわけですよね?

          ――敬天愛人……ええ言葉ですね。ほな、明日の決勝が終わったら、そう名乗ることにしますっ!

 ――せやけど、なんか、《愛人》って、いかがわしい響きですね……////

    ――ま、やえさんの《恋人》はなんたって《幻想殺し》ですからね。そらウチは《愛人》の枠に入るしかないか~。

やえ(今でも……ことあるごとに、思い出すよ。思わずにはいられない……)

                  ――勝ってみせますよ、やえさん。任せといてください。

    ——負けられない理由もぎょーさんありますけど、

             ——ウチはあなたの《特例》で……《愛人》ですから。

       ——それが、ウチが勝たなあかん、ただ一つの理由です。

やえ(あの時、追い駆けて……抱き締めていれば――運命は変わっていたんじゃないかと……)

           ——……ノー……テン……。

やえ(なんて……わかっている。何度過去を繰り返しても、私はきっと、立ち尽くす以外に何もできない)

   ――やっ……え、さん……!!

              ――ウチ……っ! こんなはずやなかったのに——!!

やえ(《悪魔の目》にも涙――私はあいつの弱さに気付くことができなかった。あいつに『普通』の何たるかを散々講釈しておきながら、あいつの『普通』を――あいつも普通の高校一年生であることを――見抜くことができなかった。
 本当に……私はどうしようもない莫迦だったな)

       ——……ごめんなさいっ!!

やえ(そのツケが……これか。かつては同じ目標に向かって同じ道を歩んだあいつが、今は、超え難き障害として立ち塞がっている。自業自得だな。けど、どういうわけか、私は今、とても晴れやかな気分だよ)

     憩『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(荒川……お前に涙は似合わない。こうして——お前が心から笑っているところを見て、一年ぶりに再確認した。私は今でも、お前のことが世界で一番好きだよ、憩——)

 ――対局室

 南二局流れ四本場・親:ネリー

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・111900)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:荒川憩(劫初・118900)

淡(割り込みにくいよ……!!)

 南家:大星淡(煌星・110400)

塞(人外同士の駆け引きに割って入ろうとは思わないわよ、私は)

 北家:臼沢塞(永代・57800)

ネリー(じゃあこれでどうだ……!! 手動即興《アレンジ》――やえバージョンッ!!)ゴッ

憩(ま、江口さん、亦野さん、片岡さんと来て、小走さんが来ないわけがあらへんよな。満を持して――っちゅー感じか)タンッ

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(せやけど……ドジ踏んでもーたな、ネリーさん? これは誰にも言うてへんけど、ウチの趣味はな、大好きな人の牌譜や映像を片っ端から集めて記憶することやねん)ゴ

       ――私の打ち筋を《完全模倣》してどうするつもりだ……?

憩(さすがに10万3千局とはいかへんけど、地元の小さな大会から、インタージュニア時代、インターミドル時代、白糸台での公式戦、個人的に打ったのも含め、小走さんの牌譜は大量のストックがあんねん)ゴゴゴ

ネリー(っ……!? なにコレ――)タンッ

憩(こと小走さんの打ち筋に関してはな……断言してもええ、本人《オリジナル》よりもウチのほうが詳しいッ!!)ゴゴゴゴゴゴ

ネリー(まさか、読み切られてる……!?)タンッ

憩(たった三ヶ月一緒にいたくらいで調子乗んなや!! ニワカは相手にならへんよッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(やっべ、チョイスミスったー!!?)ガビーン

憩(よう見とけ、コピー人間……!! ほんでよーく完全記憶せーよ――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(う、くっ……!!?)タンッ

憩(これが《王者》の打ち筋やッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(~~~~~!!!)ゾクッ

塞「ロン……」ゴッ

ネリー(しまっ――!!?)

塞「8000の四本場は9200よ」パラララ

ネリー(ぐぬぬ……!! 親番で張り合った分が全部パーとか!?)

淡(またサエに和了らせた……ケイの立場的に、どう考えてもサエの味方するのは不本意なはずなのに)

憩(くっそ腹立つけどしゃーない。《劫初》のトップを磐石にすること、そして最大目標である《永代》との差を広げること――この二つを同時に達成するのが、ウチに課せられた使命やからな。適宜バランス見ながら調整するで……)

塞(チート三人に囲まれてても、荒川を塞ぎ続ける限り、点棒がどん底に落ち込むことはない。まったく役得よね。荒川様々よ。というわけで、ゴチになりま
















     ――あれ?









                      ――何かしらこれ?















          ――目の前が白い……?











    ――ああ、これ、『白』だわ。さっきツモ切りした白だわ。











          ――え? っていうか、なんで白が私の目の前にあんの?




     『さえ!! さえ、大丈夫!?』






              ――ああ、そっか……私……。








                      『あわわわ……!!?』


























   ――ぶっ倒れたのね。

塞「だぁ――つー……」クラッ

ネリー「さ、さえ!! 顔面から派手に行ったけど!?」アワワワ

淡「ほ、ほっぺに牌の痕ついてるよ!!?」アワワワ

塞「ははっ……悪いわねぇ。ちょっと……貧血ぅ? みたいな? 心配掛けてごめんなさいね……あははは、私は……うん、だいじょーぶ。っつーわけで……対局を続けましょうか――」チラッ

憩「おやおや~? 無理はあきまへんで~、臼沢さ~ん?」ニコッ

塞(こ……ッ!! こいつクッソ性格悪いいいいいいいいいいいいいいいいい!!!)ゾゾゾ

憩「あららら~? なんやお顔真っ青ですけど~? ホンマに大丈夫ですか~?」ニコニコ

塞(この《悪魔》――!! 今日見た中で一番いい笑顔しやがって……!!!)キッ

憩「ウチは保健委員ですから~。無理なときはちゃんと無理っちゅーてくださいね~?」ニコニコニコニコ

塞「べ、別に……何一つ無理なことなんてないわよ。ちょっとクラッと来たくらいで大袈裟ね……。っつーか、なに、荒川、ニコニコしちゃって。なんかいいことでもあった……?」

憩「なに言うてるんですか~? ええことなんて一つもないですよ~? ウチ今日ここまで焼き鳥ですよ~?」ニコニコニコニコニコニコ

塞「奇遇ね……私も、自慢じゃないけど、三回戦では二半荘連続焼き鳥だったわ……」

憩「そら散々でしたね~。ほな、そうならへんように頑張らんとな~。ラッキーなことにラス親やし~。気合入れて頑張らな~」ニコニコニコニコニコニコニコニコ

塞「…………ラス親ねぇ。まァ……せいぜいノーテン流局にはならないように頑張ったらいいんじゃないかしら? この――二番止まり」

憩「」ブチッ

ネリー・淡(ひいっ!?)ゾワッ

塞(ふん……いい顔になったじゃない。私はそっちの笑顔のほうがあんたらしくて好きよ。可愛い子ぶって猫被っても薄気味悪いだけ。だってあんたは天使《エイスリン》なんかじゃない。
 あんたはどこまでも――あくまでも……《悪魔》なんだからさぁ――)ニヤッ

憩「どーにも――ヒトの感情ってのはままならんなー……」ニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコ

塞「あらあら。これくらいの挑発でご乱心とはねぇ。人心掌握に長けた《悪魔》が聞いて呆れるわ~」

憩「言ってくれるやんか、ド三流。塞ぐ以外に能が無いゴミ雀士が」

塞「」ブチッ

ネリー・淡(こっちもっ!?)ゾワッ

塞「あんた……よほど泣かされたいらしいわね……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「はあ? 誰が誰を泣かすて? 身の程を教えたるわ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(あわい! 早くサイコロ振って!!)アワワワ

淡(わ、わかったよっ!!)アワワワ

淡「つ、次は私の親番ですよー……」コソッ

塞・憩(ぶちのめす……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡・ネリー(あわわわわ!?)アワワワ

塞:68000 ネリー:102700 淡:110400 憩:118900

 南三局・親:淡

塞(っつって……ま、あんだけ大層な啖呵切っといてアレだけど、荒川の言う通り、私には塞ぐ以外にできることなんてないのよね)カチャ

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(正直……体力がヤバいわ。この疲労感――加速度的に来るのよねぇ。無能力者《レベル0》相手とは言え、万全で全力の《防塞》を、半荘二回ずーっと続けたのは今回が初めて。
 通常時は四半分くらいの力で塞いで、モノクル使って相手の確率干渉力の変動を感知して、能力発動された時だけ、全力を出す。それがいつもの《防塞》の使い方。今回は何もかも《特例》。どうなることやら……)

塞(……しゃーない。ここで崩れたらマジで全部終わっちゃうものね。神代小蒔じゃないけれど――いただいておこうかしら、プラシーボ……)スッ

憩(む……甘い匂い――さては宮永照からの差し入れか……)

塞(ん……? 何かしら、袋の中にメモ紙――)カサッ





        『頑張って。無理はしないで』





塞(あははっ……あいつ――だから、いつになったら理解するのよ……)

塞(私は……ッ!! あんたのためなら!! いくらでも無理してやるって!! 何度も何度も何度も言ってるでしょうがああああ、もうっ!!)

塞(いや……わかってるけどね。それが宮永照とかいうやつだってことは。
 あいつはホント、ポンコツで、方向音痴で、お菓子大好きで、嘘が下手で、気遣い屋で、麻雀を打たせれば天下無敵な……私の大好きな人なのよ――)

塞(そして……なによ、これ。謎の丸い物体。団子状の何か。形も微妙に不揃いだし……どう考えても市販のものじゃないわよね。まったく……何が白糸台ナンバー1お菓子ソムリエ――これじゃパティシエでしょうに……)パクッ

憩「カンッ!!」パラララ

 憩手牌:一二二三三⑤⑦⑨88/西西西西 嶺上ツモ:? ドラ:8・七

塞(っと……だから、そのちょいちょい私の支配領域《テリトリー》外に手を出すやつやめてよね――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(ふん……有効牌引けず。まだ《リジェクト効果》が切れへんのか)タンッ

 憩手牌:一二二三三⑤⑦⑨88/西西西西 嶺上ツモ:② ドラ:8・七

塞(《塞王》の名に懸けて、あんたには最後まで《絶対》に和了らせないわよ……荒川)モグモグ

憩(ウチの《悪魔の目》は誤魔化せませんよ、臼沢さん。その差し入れも一時凌ぎの気休めに過ぎひん。じきにわかりますよ、自分はもう限界が来てます――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(くっそ……目がかすみやがるわね……。いやいや――何言ってるの、私……!! まだまだ余裕でしょッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(強がるやん――)タンッ

塞(まだまだ……)タンッ

ネリー「ポンッ!」タンッ

 ネリー手牌:134[5]67四四四[五]/(⑧)⑧⑧ 捨て:9 ドラ:8・七

憩(っと……この局はガイトさんを混ぜてきたんか)タンッ

ネリー(けいは知らないはずだよね……魔術世界で私とさとはが過ごした日々。メグやハオやミョンファと日が暮れるまで打ちまくったあの頃。思い出いっぱいのメロディ! 手動即興《アレンジ》——《背中刺す刃》バージョンなんだよ……!!)

憩(なるほど。確かに、魔術世界にいた頃のガイトさんを、ウチは知らへん。せやけどな……)

憩「もいっこ、カンや!!」パラララ

ネリー(っ!?)

塞(だから……ッ!! この――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(引けへん、か。ま、それならそれで、牌の並びがズレるからええねんけど……)タンッ

 憩手牌:一二二三三⑤⑦/8888/西西西西 捨て:9 ドラ:8・七・八

ネリー(このタイミングで二度目の《リジェクト効果》の余波!? どうして……!? 《背中刺す刃》を知らないけいには、このアレンジを見切ることはできないはずじゃ――)

憩(せやな。ガイトさんのほうは、ウチの知っとるのと微妙にズレがある。せやけど……さっき小走さんので、自分のアレンジの『好み』を逆算してん。
 多少元ネタを知らへんでも、アレンジするネリーさん自身の趣味嗜好が解析できとるんやから、ここまで来れば十分そっちの意図は読める。
 悪いけど、もうその新技の『不確定性』は、ウチを殺せるほどやなくなったで……)

ネリー(なんてこったい!!?)

憩(あとはこの《防塞》やけど――)

憩「ポン」タンッ

 憩手牌:二二⑤⑦/(三)三三/8888/西西西西 捨て:一 ドラ:8・七・八

塞(どうするつもりなのかしらねぇ)タンッ

ネリー(さえ、そこじゃないよっ!)タンッ

淡(これはかなりマズいのではないかい!?)タンッ

憩「もいっこ……カンやで!!」パラララ

 憩手牌:二二⑤⑦/(三)三三三/8888/西西西西 嶺上ツモ:? ドラ:8・七・八・?

塞(ッ――――!!?)ゾワッ

憩(えらい辛そうですね……臼沢さん――?)ニコッ

塞(まだ……っ!! このくらいで――)ギリッ

憩(粘りますねぇ……)

 憩手牌:二二⑤⑦/(三)三三三/8888/西西西西 嶺上ツモ:2 ドラ:8・七・八・?

憩(ほな、もっともっと苦しんでもらいましょうか!!)タンッ

 憩手牌:二二⑤⑦/(三)三三三/8888/西西西西 捨て:2 ドラ:8・七・八・⑧

塞(楽しそうにしちゃってまァ……っていうか、何をするつもりよ、こいつ——)タンッ

ネリー(いけない、このメロディは……)タンッ

淡(まさか、ケイってばアレを狙ってるの!?)タンッ

憩(気付いたんか。ただ、もう手遅れやけどな!!)タンッ

塞(よくわかんないけど……仮にわかってたとしても、捨て牌読む余裕がないわよ……)タンッ

憩「それ——カンッ!!」ゴッ

塞(しまっ……!?)ゾクッ

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 憩手牌:⑤/二二二(二)/(三)三三三/8888/西西西西 嶺上ツモ:? ドラ:8・七・八・⑧・?

塞(っていうか!! それ、和了られたら私の責任払いじゃない……!!? ざっけやがって、この《悪魔》!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「…………あはっ♪」ニコッ

ネリー(嘘……)ゾクッ

淡(ちょ!?)アワッ

塞「そんな……まさか、私の《防塞》が――」クラッ

ネリー・淡(ここで《絶対》が破られた……!?)ゾゾゾ

塞「――とでも言うと思ってんのかしらッ!!? ハッ、お生憎様ね!! 最強の大能力者《レベル4強》をナメんじゃないよ……!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー・淡(《塞王》様ああああああああああ!!)

憩「…………ふーん……」

 憩手牌:⑤/二二二(二)/(三)三三三/8888/西西西西 嶺上ツモ:中 ドラ:8・七・八・⑧・?

憩「ま、大明槓からの責任払いは免れましたけど、白糸台標準ルールでは、四槓子テンパイは四開槓とせず続行——。
 つまり、あなたは、これから海底まで数巡、他家の放銃も含めて、ずーっとウチの四槓子を塞がなあかんわけです。いや〜、働き者ですねぇ、《塞王》さんは」

塞「るっせーわよ、紙風船!! くだらないハッタリかましてないで、さっさと牌を切りなさい……!
 無能力者《レベル0》に私の《防塞》は破れない! 《塞王》の砦は落とせない! 《最奥》の扉は開けない!
 何度だって言ってやるわ……!! この副将戦、あんたは最後まで和了ることができない――《絶対》にねッ!!」

憩「…………その台詞、いつまで言えますかね――?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「さあね……! 少なくともあと五、六回くらいは言うつもりよッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(空気が重たい!!)

淡(あわわわわ!!)

憩「――っと、テンパイや」パラ

 憩手牌:中/二二二(二)/(三)三三三/8888/西西西西 ドラ:8・七・八・⑧・西

淡「ノーテン」パタッ

 淡手牌:①①②②③③六八56白白白 ドラ:8・七・八・⑧・西

ネリー「ノーテンなんだよ」パタッ

 ネリー手牌:134[5]67四四四[五]/(⑧)⑧⑧ ドラ:8・七・八・⑧・西

塞「……ノーテン」パタッ

 塞手牌:七八八八九③③[⑤]⑦⑧⑨發發 ドラ:8・七・八・⑧・西

憩「次はオーラス――流れ一本場。ウチのラス親や。まあ……少なくとも五、六本くらいは積むつもりなんで、皆さん、もうちょっとだけよろしく頼みますわ」コロコロ

塞「なによ、《悪魔》が遠慮しちゃって。らしくない。十本でも、二十本でも、好きなだけ積みたいだけ積みなさい。ずっと塞いでやるからさ――」

憩「へえ……ほな、百本積みますね」

塞「はあ? 何言ってんのあんた? 100とかそんな数字で喜ぶのは小学生と高鴨だけよ。っていうか、百本も積む頃には私がトんでるでしょうが」

憩「そっちこそ何言うてはるんですか? 自分がトびそうになったら四人テンパイ流局に切り替えますよ。当然ですやん」ニコッ

塞・淡・ネリー「っ……!!」ゾゾゾ

憩「ほんで……なんでしたっけ、臼沢さん? さっきなんか言うてはりましたよね? ウチの和了りがどうとか……」

塞「こ――この副将戦……!! あんたは最後まで和了ることができないっ!! 《絶対》ったら《絶対》よッ!!」

憩「あー……ええですね、その凛々しい顔。『私はドラを《絶対》に切らない!』言うてた超能力者《レベル5》を思い出しますわ」

塞「っ――!!?」ゾワッ

憩「三回戦や準決勝の玄ちゃんを見てたらわかると思いますけど、《絶対》の誇りとかいうんはね、何度か折れたほうが強くなるもんなんですよ」

塞「わ、私は」

憩「あ〜懐かしいですわ~。あんときもようカンしたんですよー? 手牌が全部ドラの一向聴からドラをツモって、涙をいっぱいに溜めた目で睨んできた玄ちゃん――むっちゃ可愛かったな~♪」

塞「こ、の《悪魔》……ッ!!」

憩「えー? ウチを恨むんは筋違いですよーぅ? 恨むなら、こうなることがわかってて自分をウチにぶつけた自分らのリーダー――宮永照を恨んでください」

塞「~~~~~~っ!!!」

憩「まぁ……あんま無理せんほうが心身のためですよ、《塞王》さん」

塞「っざけんじゃねーわよ、《悪魔》の囁きには耳を貸さないわ……!!」

憩「ふーん……? いや、まあ、そっちのスタンスがどうあれウチのやることに変わりはないんですけどね――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「受けて立とうじゃないの……!! 百本でも二百本でもねッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞:67000 ネリー:101700 淡:109400 憩:121900

ご覧いただきありがとうございました。

このあと用事があるので、続きはまた明日。さすがに百本は続かないですが、幕間やらなんやらで、ここから大将戦開始までそこそこあるので。

『華菜ちゃん奇跡の大逆転だし!!』を地でいく荒川さんに対し、あわあわ要員の大星さんに打つ手はあるのか。

では、失礼しました。

 ————

ところで、荒川さんと玄さんが打ってたのは《4K》の集いの一ヶ月くらいの間だけだったのに、『何度』か折ったみたいですね。玄さんも複数回ドラを切らされたって言ってましたね、そう言えば。

これは、あれですね。荒川さんが玄さんにドラを切らせたのは、玄さんの基礎雀力を向上させつつドラゴン復活の儀式を二人っきりでやりたい思惑があったからなんですきっと……。決して玄さんの瞳のハイライトを消して悦に浸りたかっただけではないんですたぶん……。

 *

憩「あはは〜、まーたドラ切ってもーたね、玄ちゃ〜ん」ニコニコ

玄「」

憩「もちろんちゃんと責任は取るで〜。ほな、今からウチとウチの家で一緒に二人麻雀な〜。夜通したっぷり可愛がってあげるで〜、でゅふふ……」ジュルリ

乙です

乙。

悪魔や悪魔がおる。

100本まで続かないのは《神様》の干渉ある時点で確定事項ですからね、
まあその他のことは一切わかりませんが

乙華麗
ガイトさんとドS対決させたい

乙です

点数状況を見てみると、役満にした時点で実はあがれる道を自ら塞いでいたという事実。
知らぬが仏とはこのことか

荒川さんドS過ぎ
ちゃちゃのんのファン辞めます

やっぱりこのss主人公がわからん…どこからどうみても主人公が菫じゃないですかこれ。淡の活躍はないんですね…

煌が殺されてハッピーエンド(?)にだけはならないようにしてください…

乙ー
蚊帳の外感のある淡ちゃんは煌ちゃんのために頑張れるのか

おつおつ
憩さんのニコニコが恐いwwwwwwwwwwwwww

乙。

淡の活躍と言っても頂点と同格の二人とその一人をド底辺扱いして見下せる真の化け物一人を相手にしてると考えれば、

十分一年生エースの活躍してると言えるんじゃないかな。この後一矢報いるフラグも立ってるし成功すれば120点でしょ。

おつ

あまり関係ないけど、原作憩ちゃんがどんなのか楽しみだな
まさか、このss並に強いことはないと思うけど

まじ憩さん悪魔ですわ

 南四局流れ一本場・親:憩

憩(ラス親。少なくとも五、六本は積みたい。なーんて言うたけど、もちろん、ぜーんぶハッタリや。んなことするわけないやん。リスク高過ぎるわ)フゥ

憩(後半戦が始まる前から目安は決めとる。このオーラス……ここで臼沢さんの体力が切れへんようなら、テンパイ流局一回で1000オールして、終局にする。
 どう計算しても、その先を読めへんのや。テンパイ流局を無限に続けることができひんのは東場の通り。ウチは《悪魔》ゆえに不確定性に弱いからな。当然やで)

憩(もちろん百本二百本と積みたい気持ちはある。一本積むたびに臼沢さんにさっきの台詞言わせて、一体何本目で折れるんか……絶望の涙が零れ落ちる瞬間を見れたら、最っ高に気分ええやろ。
 ほんで、体力の限界来たあとも、これ見よがしにボコスカ和了ってやんねん。もちろん、打点はわざと下げる。ほんで、全員の点棒がゼロになるまで何度も何度も和了ってやんねん。
 成す術なく点棒を毟られていく臼沢さん……《塞王》の砦を、心を、想いを……じっくりねっとり嬲り殺す。ああ……あかん、これ想像したら、ぞくぞくして集中切れてまうがな。
 はあ~、世界は広いなぁ。この手の玩具は玄ちゃんが至高やと思っとったけど、ハイライトの消えた臼沢さんもなかなか美味そうやんな。でゅふふ……涎出そうやで)

塞(さっきから悪寒がやべーんだけど……)ゾゾゾ

憩(いらん感情に流されるな。あくまで合理的に、効率的に、筋と理を貫き通すんや。《悪魔》は《悪魔》であるがゆえに契約に従順。菫さん……ウチの力の全ては、ただ、あなたの勝利のために――)

憩(ここからテンパイ流局に持ち込めば、チーム点数を副将戦開始時に戻せる。相対的にやけど、二位との差と、《永代》との差は、広げることができとる。
 前半戦での大失態をなかったことにはできひん。シミュレーションは後半戦が始まったときから今もずっとしとる。
 現状復帰――悔しいけど、腹立つけど、今すぐ泣いて菫さんに土下座したいけど……それが、ウチの理論上のベストやねん)

憩(まぁ……《塞王》の砦が落ちれば、話は変わってくるけどな。ただ、あれだけ脅したのに、この人、なかなかボロを見せへん。《絶対》が《絶対》でなくなる『瞬間』は、まだ来てへんのや。今の臼沢さんは限界ギリギリで踏ん張っとる。
 もちろん、目を離すつもりはないけどな。どんなに強がろうと、《悪魔の目》は騙せへん。意識的なもんやろうと無意識的なもんやろうと、その『瞬間』を見逃すウチやない。
 っちゅーわけで、最後まで、熱く見つめ合いましょうか、臼沢さん――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(この殺意に満ちた目……一年の頃、《初代》の練習で弘世に《防塞》かましたときを思い出すわ。穴が開くほど睨んできたわね、あいつも。当然、私は塞ぎきったわけだけどさ。っつーわけで、歴史は繰り返すものよ、荒川)

塞(あんたの脅しがハッタリだっつーのはお見通し。ここを塞ぎ切れば、この副将戦は終わる。こいつはそういうやつ。個人的な感情では動かない)

塞(それじゃあ……全力で塞ぐとしましょうか。牌を握るのも一苦労だけど……これが私の存在証明だから。
 あんたが弘世に《愛尽》するように、私も、初めて開かれた宮永に操を立ててるのよ。私の《最奥》には踏み込ませない……《絶対》にねッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(さてさて……手動即興《アレンジ》まで見切られた私に何ができる? たぶん、ここで《防塞》が落ちなければ、けいは連荘をするつもりがない。この一曲が最後のメロディ。私は……どんな旋律を聞きたいだろう)

ネリー(けいは私の『好み』を把握したらしい。まあ、やえアレンジのことがなくても、遅かれ早かれとは思ってた。あの拮抗は一時的なもの。わかってたよ。あっちは『万能』なんだからさ)

ネリー(エチュードもダメ。アレンジもダメ。まったく楽しませてくれるよねー? もう手札が一枚しか残ってないぜ。いやー、でもさすがにちょっと恥ずかしいなぁ。
 運命奏者《フェイタライザー》になってからこっち、久しく奏でてなかったよ。最強でも、最適でも、最高ですらない。言うなれば最初ってところかな。そう、つまり――私自身の麻雀だ……)

ネリー(みんなの旋律《こえ》はいっぱい聞いたからね。最後に、私の旋律《こえ》を聞いてよ。
 古今東西あらゆる雀士を《完全模倣》できる、魔術世界の象徴にして総体……運命奏者《フェイタライザー》――ネリー=ヴィルサラーゼの、唯一無二のオリジナルメロディ。
 ちょっと下手かもしれないけどさっ! 聞き惚れてくれちゃっていいんだよ!! これが私のありのまま……!! これが私のあるがまま……!! これが私のありったけだッ!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(うお……ネリーさんがまた違うモードに入りよった。まるで思惑が読めへんな。今までにない不確定っぷりやで。
 別に負ける気はせーへんが、こういう何しても心が曲がらへん人っちゅーんは、ホンマ苦手やで……)

ネリー・塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(相手にとって不足なし、や。ほんで、自分はなんや、ずーっと大人しかったけど、さすがにここで黙っとるような物分りのええ子ちゃうやろ? なあ、大星さん――)

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(っと、モノクルが……)フキフキ

ネリー(暗黒物質大展開……ここで来るんだ。いや、むしろどうして今まで何もしてこなかったってくらいだよ。何か考えがあるのか、それともただの暴走か――)

憩(ええやん。かかってこいや、《超新星》。菫さんの敵は全てウチが屠る。向こうの世界の宮永照も、宮永照の切り札も、そして、自分もや――《宮永照の後継者》……ッ!!)

淡(ふー……)

 淡配牌:七八九③④④④⑤1東東東南 ツモ:1 ドラ:一

淡(『神はサイコロを振らない。ただし麻雀は除く』――なんて、キラメが運命論の話で言ってたね。
 じゃあ、なにかな。このオーラス、賽の目が8になったのは、神様の仕業ってことになるのかな? 神様は私に何か恨みでもあるのかな? 最後の角がめちゃんこ深いところにあるんだけど!!)

淡(っていうのはさておき。ここからダブリーをすることはできる。っていうかするつもりで配牌揃えたわけだしね。
 キラメの言ってた通り、自動即興《エチュード》発動中のネリーは、強制詠唱《スペルインターセプト》を使えない。それは前半戦で確認できた。
 この後半戦も、なんかごちゃごちゃやってたけど、どうやら『理牌する』モードのときは強制詠唱《スペルインターセプト》を使えない仕様らしい。このオーラスもそう。ま、細かい理屈まではわからないけど)

淡(いやー、けどなー、強制詠唱《スペルインターセプト》どうのこうのをクリアしたところで、私がここからダブリーをして、果たして本当に和了れるの?)

淡(安全策をとって、ここまでダブリーは控えてた。けいが謎の技術で支配力に拠る《上書き》を妨害してきたからね。あの弾かれる感覚はキラメの《通行止め》に近かった。
 《絶対》の壁で止められたんじゃ、たとえダブリーでゴリ押ししても、結果は見えてる。で、どうしたものかなーと思っているうちに、オーラスが来ちゃった。そして、なんの解決の糸口も掴めてないってわけなのさ)

憩・塞・ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(……出会った頃、キラメは、ずっと負けてばっかりだったね。焼き鳥一人沈みばっかでさ。まあ、当時のキラメの雀力で白糸台の二軍《セカンドクラス》を相手にすれば、そうなるよ。力の差があり過ぎるもん。ちょうど、今の私と、この人たちの間にあるみたいな、絶望的な力量差がさ。
 夜空の星と、地を這う虫——って、キラメは喩えたね。途方もなくかけ離れた相手。そんな人たちに囲まれて、負け続けて……キラメは――それでも、強くなりたいって、私の力になりたいって……頑張ってくれたんだよね——)

        ——約束します。もう二度と、淡さんだけに無理はさせません。

     ――強くなりたいって思ったんですっ!!

             ——強くなって、堂々と淡さんの御傍にいたいと思ったんですっ!!

淡(キラメは……本当にすばらだよ。私なんて、ちょっと能力が《無効化》されたり場の支配が機能しなかったりしたくらいで、もーダメ。泣きそう。逃げたい。恐い。今すぐキラメに頭撫でてもらわないと、私、死んじゃう)

          ——もっともっと強くなって、

淡(だってさー!! 勝てないもんこんなの!! 相手人間じゃないもん!! 《悪魔》だもん!! ヤダヤダ!! 負けたくないのにっ!! 無理無理!! こんなの!! どうすればいいのか全っ然わからないよっ!!)

   ——淡さんたちと並び立つような、光り輝く星の一つに――私もなりたいっ!!!

淡(ねえ、キラメ……!! どうしたら私もあなたみたいに強くなれる……!? こんな……何も見えない真っ暗闇の中、一人ぽっちで……私はどうすればいいのかな……!!)

           ——とにもかくにも、歩き出してみるしかないのです。光を放つしかないのです。

   ——そのエネルギーが尽きるまで、光を放ち続ける。命の炎を燃やして、輝き続ける。

淡(なーんて……そうだよ……わかってる。キラメが教えてくれたんだ。光を放て。想いの炎を燃やして輝け――ってね。夜空に浮かぶ《超新星》のように……)

         ——諦めずに進み続ける限り、最後には全てうまくいく。

淡(できるよね、私。ううん。できなくても、やらなきゃいけない。私が今までキラメにどれだけの無茶を押し付けてきたと思ってる。この程度の絶望なんて可愛いもんさ)

    ――そう、信じる。信じて……煌めく。

淡(だから……さあ、希望を信じて、最後まで、前に進め――!!)スゥ

淡「行っくよー、ダブリーッ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 淡手牌:七八九③④④④⑤11東東東 捨て:南 ドラ:一

ネリー(今度は終幕ダブリーだね、あわい!!)

塞(このクソ疲れてるときにそのゴゴゴは堪えるわー……)フキフキ

憩(残念、これで一人テンパイはできひんようになってもうたな。さて……どうやって捻り潰したろか――)

淡(ここまで導いてくれてありがとう、キラメ。あなたが私たちにくれたものに比べれば、ほんの小さなものかもしれないけど、私……必ずトップで帰るから。
 信じて待っててくれたあなたに、最高の笑顔で繋いでみせるから。
 だから――最後まで見ててね! 勝ちたいと思う私を! 諦めない私を! 強く煌めく私の心を……っ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《煌星》控え室

     淡『行っくよー、ダブリーッ!!!!』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「淡さん……」

咲「ダブリー……したはいいですけど、賽の目は最低の8。臼沢さんの《絶対》を利用した荒川さんの妨害もありますし、どうやって和了るつもりなんですかね、あのおバカさんは」

煌「率直に申し上げますと、さっぱりわかりません」

友香「まさかの考えなしダブリーでー!?」

桃子「超新星さんならやりかねないと思ってたっすけど! 本当にやりやがったっす!!」

咲「淡ちゃんはどこまで行っても淡ちゃんだなぁー」

煌「そうですねぇ」

友香「こ、これ、大丈夫なんですか?」

煌「どうでしょう。私にもわかりかねます」

桃子「何か私たちの知らない必殺技があったりとか?」

煌「その類のものは、淡さんなら隠さずに披露すると思いますよ」

咲「残念だけど、友香ちゃん、桃子ちゃん。あれはどう見てもいつものダブリーだよ。能力的にも支配力的にも、特別なことは何もしてない」

友香・桃子「えー……」

煌「まあ、しかし、心配は要りませんよ」

友香「……淡は私たち《煌星》のエースだから――ですか?」

煌「ええ」

咲「三試合連続マイナス収支のへっぽこエースですよー?」

煌「反省すべき点は反省していただきました」

桃子「ここで勝ってくれなきゃ嘘っすよね……」

煌「なんと言っても決勝戦ですから」

友香「あわわわ……!! ヤバいんでー、淡!! ここでやらかしたら煌先輩にしばかれるんでー!!」

煌「しばっ……?」

咲「どっちに転んでも私は笑えるっ!!」

桃子「……マジ頼むっすよ、超新星さん……!!」

煌「信じて見守りましょう。大丈夫です。淡さんなら、きっと――」

友香・桃子・咲「頑張れっ! 《煌星》の(へっぽこ)エース!!」

煌(淡さん……信じて待っていますよ。あなたなら、どんな暗闇の中でも煌めくことができる――私の世界を光で満たしてくれたあなたなら……《絶対》に……)

 ――《幻奏》控え室

     ネリー『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ「ネリー……」

優希「あれは……もしかしてネリちゃんがネリちゃんをこぴーしているのか?」

セーラ「なんで自分自身を真似る必要があんねん」

誠子「ネリーさん本来の打ち筋……ってことですか。しかし、その、なんと言いましょう――」

     ネリー『ポンなんだよ!!』

やえ「ド下手クソだな。なんだあいつ。本体はニワカだったか」

優希「やえお姉さん!? 言葉選んでほしいじょ!!」

やえ「だが……選択は決して悪くない」

優希「ほえ?」

誠子「そうなんですか?」

やえ「例えば、亦野、弘世の《シャープシュート》は大能力で、ほぼ百中で直撃を取るが、《絶対》じゃない。たまに外れることがある。
 だが、それは、必ずしも相手が弘世の上を行っているときばかりじゃなかったはずだ」

誠子「は、はい……相手があまりに下手過ぎると、逆に当てられなかったりします」

やえ「そういうことだ。上回るにせよ下回るにせよ、『予想外』であることは、論理の隙間に滑り込む可能性がある。
 これがハマりにハマると、トッププレイヤーがニワカに遅れを取ったりするわけだな。無論、勝つ気のあるニワカに限るが」

セーラ「なるほど。ほな、ネリーにもワンチャンあるな!」

やえ「まあ、確率は恐ろしく低いだろう。しかし、これは――」

優希「うおおお!? ネリちゃんが張ったじぇ!!」

誠子「荒川さんの論理を抜け出した!?」

セーラ「信じるものは云々っちゅーあいつらしいな。こういう土壇場の底力はバカにできひんで~」

やえ「さあ……どうする、荒川。そいつはニワカもニワカだが、魔術世界の《頂点》に立つほど諦めの悪いニワカだぞ――!!」

 ――対局室

ネリー(しゃあー!! やってみるもんだねっ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ネリー手牌:[五]六七789北北南南/(②)②② ドラ:一

憩(無茶苦茶やってくれるやんか……。理屈も効率も度外視。聞こえとるはずの有効牌を嫌って、わざわざ自分から中身のわからん《神の牌》をツモろうとしたりな。まったく想定外にも程があるで)

憩(ネリーさん……自分には、さっきから驚かされてばっかりや。論理的に完封したったはずやのに、意地でも負けを認めへん。ウチにはどう足掻いても敵わへんことを心底理解していながら、それでも戦おうとする)

憩(この人は、チェックメイトされとるのに、『参った』をせーへんわけやな。詰まされた王将を、詰んどると知りながら、見捨てずに、一歩前に進める。そういう打ち方をしよる。
 C・Dブロック三回戦――先鋒戦で宮永照と戦うたとき、《神の耳》と自動即興《エチュード》で最適手を打ち続けたネリーさんが、一度だけ、ウチとは『違う』一打を『選んだ』ことがあった。
 それが、つまるところ、属性的には極めて近いウチらを分かつ、決定的な差なんやと思う……)

憩(宮永照の《八咫鏡》――あれを喰らったとき、ネリーさんの手牌は、去年のウチ同様、最終的に全てヤオ九牌になった。どう打っても役満回避ができひんように、詰まされたわけや。
 去年のウチは、情けないことに、詰まされた瞬間、泣きながら『参った』した。そのせいで、視界が滲んで、思考が鈍って、宮永照に勝つことができなかった……)

憩(対して、ネリーさんは、『参った』せーへんかった。負けが確定しとるはずやのに、どこへ進んでも奈落の底へ落ちるとわかっとるはずやのに、前を見て、未来を信じて、望むほうへと一歩踏み出した。
 ウチには理解できひんかったよ。国士十三面待ちをテンパイしとる相手に対して、手牌が全てヤオ九牌の状態から、ツモ切り以外の選択肢を取る――捨て牌を『選ぶ』人間がおるなんて……思ってもみなかった)

憩(何を切っても振り込むなら、ツモ切りでええやん。捨て牌を選ぶ理屈がわからへん。途切れて途絶えてありもしない勝利へのルートを歩む道理がわからへん。
 そら、まあ、他に削りたい相手がおるみたいな理由で見逃される可能性もあるやろ。宮永照がよそ見しとって運良く見落とされる可能性なんてのもあるかもな。
 限りなくゼロに近いけど……まあ、ゼロでないなら、自分の手を進めるために捨て牌を選ぶのも、わかるわ。ウチかてそうする。それは論理的な行動や)

憩(せやけど、ネリーさんのアレは、たぶん、そういうんとちゃう。やって、あのときのネリーさんは、明らかに振り込むことを確信しとったもん。ツモ切りしようと捨て牌を選ぼうと、振り込むことは重々承知しとったもん。
 やのに、それでも、ネリーさんは選ぶことを選んだんや。それはもう論理やない。《信仰》や。この世に不可能なことなんて何一つない、どんな状況でも決して希望を捨てない――そんな己の理念を体現するための、あれは、信仰的な行動や)

憩(《頂点》に立つ人間が備えとるべき資質――《信仰》。それが、《悪魔》のウチに欠けとるもんなのかもしれへん。それが、ナンバー1とナンバー2の差なのかもしれへん)

憩(去年……宮永照に上家取りで負けてから、ウチは、ナンバー1に勝つことをやめた。やってそうやん。勝たなあかん理由があらへんのやから。
 ほな、ナンバー2でええやん。二番でええやん。無理して一番になろうとすれば、また傷つくかもしれへん。やってできひんことはないのかもしれへんけど、それは、このオーラスで百本積もうとするんと同じや。
 リスクのほうが高い。損か得かで言えば明らかに損。プラスマイナスで言うたらはっきりマイナス。わざわざ危険を冒す道理がない。ゆえに、ウチは去年の夏以降、ずっとあのツノ相手に本気を出してこーへんかったわけや。
 と……まあ、ウチの行動は何から何まで理屈で片付けられんねんな)

憩(わかってみれば、簡単なこと。そら、勝てへんわけやで……)

憩(不思議なことなんて何一つない。一番であり続けようとする人間に、二番でええと割り切れる人間が、勝てるわけなかったんや)

憩(ウチの想いは、理屈に勝てへん。菫さんは宮永照のことが大好きで、宮永照は菫さんのことが大好き。ほんで、ウチは菫さんのことが大好き。
 ほな、ウチの最適は、ナンバー2として、ナンバー1を打倒せんとする菫さんの傍におることやん。やって、論理的に、ウチはどう足掻いてもナンバー1に勝てへんのやから)

憩(結局のところ、そこで『参った』せずに、一歩を踏み出せる強さが、ウチにはないねんな。論理的な行動しかできひん。理屈の枠を抜け出すための力が――《信仰》がない。
 理屈を無視して、ありのままの自分を、あるがままの自分を、ありったけの自分を、誰かにぶつけるっちゅーことが、ウチにはできひんのや……)

憩(そっか……これが、《頂点》とナンバー2の間にある、超えられない壁の正体やったんやな……)

憩(ははっ、やられたわ。参ったで……魔術世界の《頂点》)

 憩手牌:4[5]66四六八③③③[⑤]⑦⑦ ツモ:南 ドラ:一

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ネリー手牌:[五]六七789北北南南/(②)②② ドラ:一

憩(この勝負――ウチの負けや)

 ――《刧初》控え室

     憩『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫「荒川……」

衣「掴まされたな。これも《塞王》の力か」

智葉「だろうな。あの顔からすると、予定よりも面倒なルートに入ってしまったらしい。よくやるよ。臼沢も、それに、ネリーもな」

エイスリン「ココカラ、タテナオセルカ?」

智葉「さあな。私には山牌が見えるわけではないから、なんとも言えん。詰んでいるのかもしれないし、迂回路が残っているのかもしれない」

衣「状況がいいのか悪いのか、あの表情からだと判じかねるな……」

エイスリン「ムズカシイ、カオ」

菫「……恐らくだが、悪くはないと思う」

智葉「ほう……?」

衣「何か根拠が?」

菫「荒川は、考え事――演算中に、右手の小指が通常より数ミリくらい立つんだ」

エイスリン「コマカッ!?」

菫「あいつはまだ計算をやめていない。誤差とやらを修正しているんだと思う。それはつまり、道が途絶えたわけではないということ」

智葉「なるほど……それは――ふん、いいことを聞いた」

衣「まだけいは終わっていないということだなっ!」

エイスリン「ヤッチマエ、ケイ!」

菫(信じているぞ……荒川――!!)

 ――対局室

憩(――と、なんや、菫さんの声がしたような……)

憩(また心配かけてもうたかな? 不安にさせてもうたかな? まあ、客観的に見て、二人テンパイしとって、片方の和了り牌を掴まされとるこの状況は……ほぼほぼ詰んどるんやろけど)

憩(まだ生きる道はある。大丈夫ですよ、菫さん。ウチはあなたのナンバー2ですから。ナンバー1以外には……負けません――!!)

憩「ポンッ!!」タンッ

 憩手牌:4[5]66四六八③③南/⑦(⑦)⑦ 捨て:③ ドラ:一

ネリー(うおっとー……? 例によって聞いてないよ、それ……)ゾクッ

塞(ツモ増やされても……今はあんま嬉しくないわね。ったく、牌が重いったらないわ……)

淡(何をするつもりなのかわからないけど、振り切ってやるもんね!!)

憩(さぁ――最後の悪足掻きと行きましょか……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《永代》控え室

     塞『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照「臼沢さん……」

穏乃「ぎりぎりのぎりぎりを行ってますね」

純「ここまで来てくたばんなよ、《塞王》ッ!」

まこ「憩のラス親――ここが正念場じゃけえの……!!」

照「……高鴨さん、正直に言ってほしいんだけど、高鴨さんにはどう見える?」

穏乃「正直――無理だと思います」

純「うえええっ!?」

照「やっぱり。そうだよね……」

まこ「そんな……塞――!?」

穏乃「南三局の時点で既に限界を超えていました。もうこれ以上は持ちません。
 どころか、下手をすると、《絶対》が破られるだけじゃ済まないかもです。《防塞》の効果そのものが切れる可能性も――」

純「もしそうなったら……」

照「私たちの負けだよ」

まこ「さ……っ! 塞……!!」

穏乃「っ!? いけない――!! 荒川さんが」

     憩『カンッ!!』

純・まこ「あの《悪魔》……!!!」

穏乃「これは――」

照「…………」

 ――対局室

憩「カンッ!!」

 憩手牌:4[5]66四六八③③南/⑦(⑦)⑦⑦ 嶺上ツモ:? ドラ:一・?

ネリー(この加槓のためだったのか……!! っていうか、さえ、大丈夫!?)

塞(こっ……の、クソガキ……!?)クラッ

憩(これで《リジェクト効果》が――)

 憩手牌:4[5]66四六八③③南/⑦(⑦)⑦⑦ 嶺上ツモ:8 ドラ:一・?

憩(見えてたんとちゃう……《上書き》されたんか。ごっつーしぶといやんか、《塞王》……!!)

塞(だぁーからっ!! どんだけ揺さぶられようと、この砦は守りきるっつってんでしょッ! あんたに和了らせるわけにはいかないのよ……《絶対》にね――!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(虫の息のくせに……信じられへんようなプレッシャーかけてくるやんか)ビリッ

塞(超えさせないわよ、紙風船ッ!! 私の積み上げてきたこの二年間は、あんたの一年間よりも、ずっと重くてしつこいんだから……!!)

憩(神にも《悪魔》にも侵せへん《絶対》――か。なるほど……それもまた、一種の《信仰》かもしれへんな)フゥ

憩(この加槓で臼沢さんの体力ゲージがゼロになる見込みやったけど、外れてもうたな。まぁ……それならそれで、構へんのやけど――)ニコッ

ネリー(ぷ――お……っ!?)ゾワッ

 ネリー手牌:[五]六七789北北南南/(②)②② ツモ:1 ドラ:一・4

 淡手牌:七八九③④④④⑤11東東東 ドラ:一・4

ネリー(また《リジェクト効果》の余波……!? 使いこなしてんなぁー!!)

憩(自分の健闘もそこまでや。学園都市のナンバー2をナメたらあかん。ニワカの底力に屈するほど落ちぶれた覚えはないで)

ネリー「(それならそれで!!)——ポン!!」

憩(ま、当然、そうなるやろな。わかっとったで——)

ネリー(ふぁあんっ!?)

 ネリー手牌:[五]六七1789/南(南)南/(②)②② ツモ:④ ドラ:一・4

 淡手牌:七八九③④④④⑤11東東東 ドラ:一・4

ネリー(詰んだー!! ぐぬぬ……だが、それがどうした!! 運命奏者《フェイタライザー》はこの程度では諦めないんだよ!!)タンッ

 ネリー手牌:[五]六1789④/南(南)南/(②)②② 捨て:七 ドラ:一・4

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(見えとる限りは物理的に立て直し不可能なはずなんやけど……今のこの卓で一番読めへんのはネリーさんやからな。最後まで要警戒や。ほんで、大星さんのほうは――)

淡(あわわわわ……!?)

憩(山牌の最後の角の直前でカンして、角を曲がった直後に和了る。その論理《ロジック》に従えば、賽の目8で自分以外のカンが入るのは、きっと想定外のはず)

ネリー(ん、お……!? そっか、このあわいの和了り牌――本来なら海底にあったやつが押し出されて来たのか!!)

憩(賽の目8なら、角を曲がった先にあるのは海底牌とその直前の一牌だけ。ウチの加槓で海底牌が王牌に取り込まれた現状――ここから大星さんが暗槓をすると、その瞬間に角より先の道が途絶える。
 このオーラスは、ぴったり角のところで終局するんや)

淡(この《悪魔》ああああああああああああ!!)

ネリー(超おおおおおお抜け目ねえええええ!!)

憩(理屈の上でウチがすべきことは、あと一つだけ。それでチェックメイト。それまでは……ひたすら臼沢さんにプレッシャーを掛け続ける……)ニコニコ

塞(ふん――無能力者にいくら凄まれたって……私の体力ゲージは変わらないわよ)カチャ

憩(人事は尽くす主義なんで)ニコニコニコニコニコニコニコニコ

塞(そりゃあ……あんたらしいわねぇ……《愛尽》――!!)キッ

憩・塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(あの二人の意地の張り合いは……なんだか根が深そうというか、音が深いよね……)

ネリー(……それで、あなたはここでギブアップ? 音を上げちゃう? 私としては……音量《ボリューム》を上げてほしいんだよね。
 麻雀は四人で奏で合うもの。私とけいとさえは、さっきからこれでもかってくらい声を上げてるよ? あなたはどう……? 言いたいこと――言わなきゃいけないこと――いっぱい抱えてるんじゃない?)

淡(…………)

ネリー(あなたの想い《こえ》を聞かせてよ、あわい。どんな結果になるにせよ、それは、きっと、あなたの大切な人に届くはずだから――)

淡(……ちょっとあわあわしちゃったけど、大丈夫。まだ対局が終わったわけじゃない。キラメやみんなが見てるんだ。最後まで笑顔で打つよっ!!)キラーン

憩(大星さんも……まだ死んでへんか。うん、やっぱ念には念をやな――)ニコッ

淡(なんか警戒されてるっぽいけど、正直、理由はよくわからない。とにかく、私は私にできることをしよう。私にできること――この道を行くこと……)

淡(私がダブリーをするのは、信じたいからだ。ダブリー以外の選択肢――考えたらきりのない『かもしれない』と……戦うためだ)

淡(ルールは単純明快。和了れれば私の勝ち。和了れなければ私の負け。相手はたくさんの『かもしれない』。幻の可能性。心の弱いところから生まれてくる……無数の後悔の声——)

淡(そんなわけのわからないものに、私は負けたくない。だから私はダブリーする。ぐちぐちうるさい外野に向かって、声を大にして言う。『この今を一番にするんだ!!』『なんか文句あるか!?』って)

淡(私はこのダブリーを――出会いを、他の何よりも大事にしたい。どんな可能性より最高の結末にしたい。テルーでもスミレでも他の誰でもなく……みんなと出会ったこの今を、この現実を、私は、一番大切にしたいんだ)

淡(学園都市に来て……私はキラメと出会った)

      ——は――花田煌ですっ!!

淡(それからすぐに……モモコと出会って、ユーカと出会って、サッキーと出会った)

           ——学園都市では《ステルスモモ》のほうが通りがいいっすけどね。

  ——どうせ記憶されるなら、負かした相手ではなく、負かされた相手として覚えられたいですからっ!!

    ——私は……宮永咲。二軍《セカンドクラス》のレベル4でマルチスキル……ランクはS。

淡(何物にも代えられない——これが私の今なんだ! 私はこの《煌星》で《頂点》を目指したいっ! 夜空に煌めく五つ星――この五人で……一軍《レギュラー》になるんだっ!!)ゴッ

憩「カンッ!!」

 憩手牌:4[5]六八八③③/6666/⑦(⑦)⑦⑦ 嶺上ツモ:? ドラ:一・4・五

ネリー(またっ!? 今度は何が狙い? 私とさえは張ってないんだから、消去法で――)

淡(あわわわ……!? 準決勝でやえにポンされまくったときと同じ悪寒がするよっ!!)ゾクッ

憩(支配者《ランクS》は息がある限り《奇跡》を起こしてくる。角より先を消しただけやとまだ安心できひん。大星さんの支配の基点――槓材を潰すッ!!)

ネリー(そこまでするとはね……恐れ入るぜ)

憩(ウチに見えとる嶺上牌は三索。これをツモると海底の八萬で和了るルートに入る。本来の《防塞》のロジックでは防げへん和了りや。ゆえに《リジェクト効果》が発動する――と、この理屈は何度も使うてきた。
 ウチの有効牌が飛ばされる影響で、大星さんの槓材が明後日のほうに弾け飛ぶのは、計算済み。たとえどんなに支配力を巡らせても、この《絶対》には抗えへん……!!)

淡(っ……!! この――)

憩(これで大星さんの《奇跡》を潰したら……あとは海底でテンパイして終わり。この副将戦は――ウチの勝ちやッ!!)ツモッ

 憩手牌:4[5]六八八③③/6666/⑦(⑦)⑦⑦ 嶺上ツモ:3 ドラ:一・4・五

憩(え……?)

ネリー(あれ――?)

淡(どうしたの……?)

憩(《リジェクト効果》が働かない? なぜ……? 否、理由は考えないでもわかる――!!)バッ

塞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(こんなことが……!?)ゾクッ

塞(悪ぃ……わねぇ……荒川……!!)ニヤッ

憩(アホな……っ!? やって! やって……!! ウチは《悪魔の目》でずっと見てた――臼沢さんの限界はまだ来てへんはずやろ!?)

塞(ばぁーか……限界なら……さっきの加槓の時点でとっくに超えて……るわよ……)フラッ

憩(っ——!? ありえへん!! 全部ハッタリやったんか!? 《悪魔の目》に見落としなんて……!! 嘘やろ!? そんな……いつからや——)ゾクッ

塞(だから言ったでしょーが……あんたの一年間じゃ……私の二年間には敵わない、ってさ)

    ――臼沢さん、相談したいことがあるの。

塞(あれからもう……二年以上も経つのか……)

            ――私……好きな人ができた。

塞(悲しかったけどさぁ。悔しかったけどさぁ。この件に関して……私はあいつの前で泣き言を漏らしたことは一度もないわよ。
 思い通りにならなくてもいい。振り向いてもらえなくてもいい。あいつの味方でいるって決めたから。一番じゃなくても、二番でさえなくても、傍にいられるのなら、それで構わない……それで十分、大満足——そういうことにしておく——)

憩(くっそ……!! なぜや!! なぜ見抜けへんかったっ!!?)

塞(甘い甘いわ甘過ぎる……私は私の気持ちにずっと蓋をしてきた。心を塞ぐことには慣れてんのよ——)

憩(っ……!! やってくれるやんか、半死人がッ!!!)タンッ

 憩手牌:34[5]八八③③/6666/⑦(⑦)⑦⑦ 捨て:六 ドラ:一・4・五

塞(ははっ……ざっまァ……)パタッ

 塞手牌:222889一二[⑤]⑥白白白 ドラ:一・4・五

憩(い……いや、せやけど、《防塞》の効果が消えたんやったら、親を続ける期待値が大幅にプラスになる——!! 連荘続行さえできれば、《永代》を血の海に沈めることができるんや!!)

ネリー(当然のようにズラせないよねぇ……!!)タンッ

塞(っつーわけで……私にできるのはここまで。あとは頼むわよ。やりたいようにやっちまいなァ――《宮永照の後継者》……)

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(っ……! あかん……大星さんの暗槓が来てまう。今までの牌譜を見る限り、『それ』が可能かどうかは確定してへん。ウチにわかるのは、過去一度たりとも『それ』をしたことがあらへんっちゅーこと。
 そんな奥の手があるなら初めから使うてるやろし、さっきの反応を見ても切り札は残ってへんはずなんや……ただ――)

ネリー(能力は能力者の根幹をなす論理。それがそういう能力であることには必ず理由がある。
 もし、あわいの根幹にある論理がその飛躍と矛盾しないのなら――必然性と整合性を保てるなら――支配力補正で『それ』を実現する可能性はある。
 逆に、矛盾している場合はいくら頑張っても不可能だ。なぜなら、莫大な魔力を持つ《聖人》は、能力の型を崩して支配力を行使することができないから……)

憩(想いが強過ぎるゆえに、論理の型を外れると自滅する支配者《ランクS》。大星さんが『それ』を成功させるには、論理的であり感情的である必要がある)

ネリー(理屈抜きで感情のままに打つのでもなく、感情を殺して理屈だけで打つのでもない。自分の中の必然に従って、想いを力に変換する――それは《聖人》のあるべき姿なんだよ)

憩(ホンマにそんな離れ業をやってのけれるなら……確かに、自分は宮永照の後を継げるやろな——!!)

淡(…………さて、と)チャ

 淡手牌:七八九③④④④⑤11東東東 ツモ:東 ドラ:一・4・五

淡(ここで決めなきゃ色々終わっちゃうよね)

          ——頑張ってくださいっす、超新星さん……。

  ——淡なら……大丈夫でー。

       ——想い《キモチ》で負けんなっつってんの、支配者《ランクS》。

淡(みんなが信じて待っててくれてるんだもん。頑張らなきゃ)

   ——私は、あなたの勝利を信じていますよ、淡さん。

淡(大丈夫……まだ道は続いてる。私はまだ歩いていける)

淡(もちろん、この出会いの行く先に、何が待っているのかなんてわからない――)

淡(そこに待ち受けているのは、暗闇かもしれない。絶望かもしれない。悲しい別れかもしれない。けれど……)

淡(私は……やっぱり、前に進むよ)

淡(だって、止まってしまったら、失うことはないかもしれないけど、何かを掴み取ることもできないから)

淡(みんなの笑顔とか。幸せな未来とか。本当に大切な何かとか。そういう……キラキラ光る星みたいなの)

淡(……だから、恐くても、私は行くんだ)

淡(今はまだ見えない、角の向こうの、その先へ――)

淡(そして……いつか……)

淡(私は、胸を張って――超新星の笑顔で、こう言うんだ……!!)スゥ


         ――カン。


淡(キラメ……)



                    ――ツモ。



淡(いつも……ありがとね)






       ――ダブリー嶺上開花ツモ……裏四。






淡(大好きだよ――)








                  ――4000・8000は4100・8100。








淡(あなたと出会えて本当によかったっ!!)











      ――これで副将戦はおしまいだね。











淡「ありがとうございました……ッ!!」

『副将戦終了おおおおおお!! ダブルリーチに始まりダブルリーチに終わった二半荘!! 制したのは《超新星》——大星淡!! ダブリー使いの名に偽りなし!!
 現在トップはチーム《煌星》!! 一年生カルテットがちょー健闘しておりますっ!!』

淡(どうかな……みんな。私……ちゃんと《煌星》のエースになれたかな——)

 一位:大星淡・+12300(煌星・125700)

ネリー(うん……とってもいい一曲だったんだよ、あわい)パタッ

 二位:ネリー=ヴィルサラーゼ・+6300(幻奏・97600)

憩(こういうことをしてくるんやもんなぁ。《宮永照の後継者》……気に入らへんとこまでそっくりやん。あー……ちっくしょ――)ウル

 四位:荒川憩・−10000(刧初・113800)

憩(菫さん、ごめんなさい。ウチは、ウチ……)グッ

 バァァァン

菫「あ――」ダッ

憩「え……菫さ」

菫「荒川っ!!」ガバッ

憩「す、菫さん!? 何を」

菫「何も言わなくていい……!」

憩「っ……すいません、ウチ」

菫「何も言わなくていいと言ったはずだ……!!」ギュ

憩「……はい……」

菫「荒川……お前には、感謝してもしきれない。チームのエースとして、不甲斐ないリーダーを――私をずっと支えてくれた。
 それだけじゃない。お前が指摘してくれなければ、私は私のクセに気づくことができなかった。敵の分析もそうだな。カンの悪い私にもわかるように、お前はいつもわかりやすく解説してくれた。
 お前には……助けられてばっかりだ……」

憩「せ……せやけど――」

菫「あぁ、わかってる。お前がこの副将戦の結果に納得していないことはな。だから、この結果に対する責任はきちんと取ってもらおう。
 嫌とは言わせんぞ。お前のお仕置きポイントは十に達した。『なんでも言うことを聞く』――三回戦のとき、お前はそう言ったよな」

憩「はい……」

菫「荒川、そのままで聞いてほしい」ギュ

憩「…………」

菫「去年……私は、照に負けて泣いているお前を、泣きやませることができなかった。何を言っても、何をしても、私の想いはお前の心に届かなかったな」

菫「あのときから……ずっと考えていたんだ。お前が辛いとき、苦しいとき、私は、お前に何をしてやれるのか。どうすれば、お前の涙を止めることができるのか」

菫「今なら――共に戦ってきた今なら、あのときできなかったことが、できると思うんだ」

菫「ここで……勝てば――」

菫「この試合に勝てば、お前は泣き止んでくれる――そうだよな、荒川……?」

憩「……はい……っ!」

菫「そうか……よかった」

憩「ありがとうございます、菫さん――」

菫「いや、礼を言いたいのは私のほうだ。今までありがとう、荒川。あとは私に任せてくれ」

憩「はい……お任せします」

菫「必ず勝ってみせる」

憩「応援してます……ウチは何があっても菫さんの味方ですから。最後まで信じて待っていますから。
 だから……もし、菫さんさえよければ、苦しいとき……真っ先やなくてもええですから――ちょっとだけでもええですから――ウチのことを思い出してください」

菫「……わかった」

憩「おおきにです……」

菫「……一人で帰れるか、荒川?」

憩「は――いや、すいません。やっぱり、もう少しだけ、このままでもええですか?」

菫「あぁ、構わない。これでもリーダーだからな。頼ってくれ」ナデナデ

憩「ほな、お言葉に甘えて――」ギュ

塞(……見せつけてくれるじゃねーの。ったく、こっちは死ぬほどグロッキーだってのに、あいつはまた道にでも迷ってんのかしら……)

 三位:臼沢塞・−8600(永代・62900)

照「お疲れ様」ポムッ

塞「ちょっと……お団子は崩れるからやめなさいよ」

照「一度触ってみたかった」モニモニ

塞「ハァ……色気ないわねぇ、あんた」

照「どうせ鉄板ですよ」

塞「期待した私がバカだったわ……」

照「……立てる?」

塞「さぁ、どうかしらね――」フラッ

照「あ……っ」ダキッ

塞「……やればできるじゃん?」ニヤッ

照「やるときはやる私です」キリッ

塞「そうね……そういうとこ、大好きよ、宮永」

照「ありがとう」

塞「いーえ」

照「副将戦も……ありがとう」

塞「お安いご用よ」

照「あとは任せて」

塞「ええ、最初からそのつもり。私はいつも通り塞いで大将に任せるわよ」

照「さすが《塞王》。頼り甲斐がある」

塞「ありがと。その言葉だけで報われるわ」

照「……一人で帰れる?」

塞「あんたじゃないんだから大丈夫よ」

照「そっか」

塞「でも、体力回復するまでは、このままで……」ギュ

照「うん。大将戦が始まるまでなら。お好きなだけどうぞ」

塞「じゃ、遠慮なく」ギュー

 ――――

ネリー「で、なんでやえは廊下待ちなわけ?」

やえ「私は恥ずかしがり屋なんだ。知ってるだろ?」

ネリー「まぁ、気持ちはわかるけどね~」ムギュ

やえ「しかし、また区間二位か。魔術世界の《頂点》が情けない」ナデナデ

ネリー「……でも、三回戦でてるが勝ったときは、がっかり半分、ほっとしたの半分だったんでしょ?」

やえ「……まぁな」

ネリー「勝てる見込みは?」

やえ「やってみないとわからないさ」

ネリー「勝てると言わないあたりがまたリアルだね?」

やえ「私は無能力者だからな。『偶然』次第だ」

ネリー「うまくいくといいね……やえ――《王者》」

やえ「『元』だよ。しかも、もう三年も前の話だ」

ネリー「でも、さとはに勝ったってことは、あなたには《本物》の資質があるってことだよ。少なくとも三年前――てるにその座を奪われるまでは、あなたがナンバー1だった」

やえ「私は他人より完成するのが早かっただけだ。今はその他大勢の一人に過ぎない」

ネリー「謙遜しちゃって。学園都市では、本気で《頂点》に挑もうとする勇敢な雀士を、『その他大勢』って言うの?」

やえ「ニワカが知ったような口を聞きやがって。……そうだよ」

ネリー「へえ……?」

やえ「私はこの街の強さを信じている。本気で《頂点》に挑む勇敢な雀士が、《頂点》以外のその他大勢であることを、私は望む」

ネリー「……なるほどね」

やえ「とは言え……『王』の肩書きを持つ者はそう多くない。その点については、まぁ、普通じゃないな」ニヤッ

ネリー「うん」ニコッ

やえ「何か、他に聞いておきたいことはあるか?」

ネリー「きらめのことは……?」

やえ「そっちも同じだな。やってみなきゃわからん。ま、適当に相手してやるさ」

ネリー「あとは……すみれにも気を付けてね」

やえ「当たり前だろ」

ネリー「なんだかな~。やえは準備万端過ぎて見送り甲斐がないんだよ~」

やえ「何を言っている。ちゃんと助かってるよ。お前と話していると緊張がほぐれる」

ネリー「それ別に私じゃなくてもいいやつじゃーん」

やえ「そんなことはない」

ネリー「まったく。やえは普段と同じ調子で冗談を言うから困っちゃうんだよ」

やえ「そりゃあ悪かったな」

ネリー「……じゃあ、私たちの《運命》はあなたに託すんだよ、やえ」

やえ「あぁ、託された」

ネリー「みんなで祈ってるから」

やえ「有難う」

ネリー「必ず勝ってよ?」

やえ「そのつもりではいる」

ネリー「ふふっ、上等」

やえ「それじゃあ……ちょっくら証明しに行ってくる」

ネリー「不確定性仮説?」

やえ「違う。私たちの《幻奏》は誰にも殺されない――ってことをだ」

ネリー「……やっぱりやえは最高なんだよ」ニヤッ

やえ「当然だろう」ニヤッ

ネリー「っしゃあー! がつーんとやっちゃってよね、やえ!!」

やえ「もちろん――任せとけッ!!」ゴッ

 ――《煌星》控え室

『副将戦終了おおおおおお!! ダブルリーチに始まりダブルリーチに終わった二半荘!! 制したのは《超新星》——大星淡!! ダブリー使いの名に偽りなし!!
 現在トップはチーム《煌星》!! 一年生カルテットがちょー健闘しておりますっ!!』

咲「どうだああああああああ! これが《超新星》!! 同学年に二人しかいない支配者《ランクS》の実力だああああああああ!! もー淡ちゃんってばほっぺたぷにぷに可愛くて私と同じくらい強いとか最っっっっっっっっ高!!
 しかも嶺上開花だよ!? 私とお揃いだよ!? ちょー痺れるッ!! ちょー漏れたああああああああッ!!」ヤレヤレマッタクアワイチャンハアクウンダケデイキテルヨネ

桃子(嶺上さん……興奮し過ぎていつもと逆になってるっす)

友香(これ淡が帰ってきたら超いちゃつくんだろうなぁ)

煌「すばらが100では足りませんね……。さすがは淡さんです」スバラッ

咲「淡ちゃんは私と合わせて《煌星》のダブルエースですからねっ!」マァヘッポコニシテハヨクヤッタホウデスヨネ

煌「えぇ、その通りです。さて――」

桃子「出番っすね、きらめ先輩!」ガバッ

友香「私の力も使ってください、煌先輩!」ガバッ

咲「二人ともずるいっ! 私の力ももらってください、煌さん!」ガバッ

煌「すばらなお見送り――ありがとうございます。何か、私に言っておきたいことはありますか?」

桃子「最後はお願いしますっす。決めちゃってくださいっす」

煌「はい。お任せください」

友香「私たちは、みんな煌先輩を信じていますから。先輩の思うように打ってくださいでー」

煌「ありがとうございます。私なりに、最善を尽くして打ってきますね」

咲「全然お返しには足りませんけど……私たち、みんなの感謝の気持ちを、点棒に込めました。受け取ってくれますか、煌さん?」

煌「ええ、もちろんですよ。皆さんのすばらに応えられるよう、全力で頑張ります」

桃子「じゃあ、きらめ先輩……」

友香「幸運を」

咲「行ってらっしゃいませ」

煌「はい……行って参ります――」

 ――――

淡「キーラーメー!!」ダキッ

煌「お疲れ様です、淡さん。すばらくすばらでしたよ。《煌星》のエースに相応しい闘牌――見惚れてしまいました」

淡「でっしょー!?」キラーン

煌「桃子さんも、友香さんも、咲さんも……皆さん大変すばらでした。が、やはり、淡さんは格別にすばらですね。私も……淡さんのように強く輝きたいと、改めて、そう思いました」

淡「キラメは今でも十分輝いてるよ」

煌「いえいえ、私はまだまだです。まだまだ……もっと強くならなくては――」

淡「……そっか」

煌「何か……私に言っておくことはありますか?」

淡「じゃあ……繰り返しになるけど、一つだけ」

煌「はい」

淡「あのね、キラメ」

煌「なんでしょう」

淡「大将戦……何があっても、忘れないで。私たちは、五人で一つの、チーム《煌星》だから」

煌「……承知いたしました」

淡「なら、大丈夫だね」

煌「はい……」

淡「……キラメ、もう、対局室行く?」

煌「そうですね、そろそろいい時間かと思いますが――」

淡「キラメ……?」

煌「ぎりぎりまで……こうしていてもいいですか……?」

淡「もちろん……いいに決まってるじゃん」ギュ

煌「ありがとうございます……」ギュー

淡(……キラメって……こんなに華奢だったっけ……こんな……今にも折れてしまいそうなくらいに……)

淡(……話してほしい。痛いくらいに抱き締めてくる理由を。顔を見せてくれない理由を。身体中が強張って震えている理由を……)

淡(あなたの抱えている悲しみや恐怖を、全て取り除く力は、私にはないかもだけれど……でも、だって……力になりたいんだもん……あなたが私にそうしてくれたように。これは……我儘なのかな――?)

淡(わかんない。私はどうしたらいい……? キラメのために……今、私に何ができる……?)

煌「……淡さん」

淡「なに、キラメ……?」

煌「淡さんは……暖かいですね。心が安らぎます」

淡「うん……ありがと」

煌「ずっとこうして一緒にいたいです」

淡「ずっとこのまま一緒にいようよ」

煌「そうできれば……どんなによかったか――」

淡「キラメ……?」

『大将戦、まもなく開始です!! 対局者は対局室に集合だああっ!!』

煌「すいません……時間が来てしまいました。行きますね」パッ

淡「う、うん……行ってらっしゃい」

煌「では――」

淡「っ……キラメ!」

煌「はい、なんでしょう?」

淡「私、キラメのこと……大好きだからっ!!!」ニパッ

煌「……私もですよ」ニコッ

淡「みんなも同じ気持ちだからね!!!」

煌「はい……嬉しいです」

淡「私たちみんな、キラメのことすっごい応援してるから!! だから――」

煌「わかっております。あとのことは、全て私にお任せください」

            ――私の手をすり抜けて、

淡「ねえ、キラメ……」

     ——キラメの背中が、

煌「では」タッ

         ——どんどん遠去かっていく——。

淡「待っ——」

    ――もしも……夜空に煌めく星が、絶望と孤独の闇に呑まれてしまったら?

             ――『虚しく冷たい闇の中を生きる一人ぽっちの星……』

        ――触れることも、見つけることも、できなくなってしまったら……?

  ——『私たちは、そうすることでしか、誰かと繋がることができない』

               ——私はどうやってあなたを掴まえたらいいの……?

淡「キラメ……」

ご覧いただきありがとうございます。

チマチマ更新で申し訳ないです。また日付が変わる頃に戻ってきます。

明日・明後日で完結させる予定なので、駆け足してます。

もう少しだけお付き合いください。

では、失礼しました。

乙ー

乙ー


悪魔の公式戦初敗北か
そう言えばエイスリンがこのトーナメントでナンバーを上げようとしてたからナンバー2陥落は確定として、
一桁ナンバーじゃない相手に最下位だとどれくらいナンバー落ちたりするんだろう?
まぁ、天敵卒業で幾らでも戻せるから一時的なものだとしても気になる

おっつ

塞ぐロジックとかについて聞いた者だけど回答サンクスでした
個人的には荒川さんはノーテン罰符でチマチマ稼いで最後に上がって終わると思ってた
と言うのも塞がれた状態でも荒川さんは鳴いて聴牌出来てたって事はもしかして槍槓でなら上がれるんじゃないかな?思った訳で。
この場合は運命論とかでどうやっても槍槓は出来ない様になっちゃうのかね?


>>222
公式戦で一回ラスなだけでナンバー下がるって厳しすぎじゃない?

乙です
思ったことだけど、咲がカン材の位置が分かるなら、カンする前に一発狙いのリーチをしないのは何故でしょう?
プラマイゼロ関係で出来ないのが分かってるからしないということなんでしょうか

おつー、
なんか煌の発言がすごい意味深だなぁ、
どうも魔術書の知識から自分が運命想者《セレナーデ》、
それも運命喪者《セレナーデ》に近い存在ってことに気づいてるっぽいんだよな。
なにする気なんだ、本当に

乙乙
チマチマなんかじゃないよもー更新かなり頻繁な部類だありがたい

あわあわに助言をば
どれだけ暗く深い闇であろうと、その隅々まで照らし出す光あれば、そこは新たな世界となるんだよ


和了れないなら流し満貫くるかな?とか思っていたがさすがになかった

毎度乙
>>225
リーチ後一巡目の牌で暗槓して嶺上開花で和了しても槓は副露だから一発はつかないけどそれとは別で
槓材が和了牌でもある聴牌形の場合に
一発で引いてきた槓材で暗槓せずに自摸和はなぜしないの?ってこと?
それなら確かに聴牌時の手牌が限定的だけど実際できるとしたらどうなんだろうね

乙です。
照と咲…
やはり似た者姉妹だなぁw

咲がカン材でリーチしないのはリスキーだからってのもあるんじゃないかな
そのケースだと多分ほとんどの場合は和了牌が1枚しかないから一発消しで鳴かれた時点で終わってしまう

間違えた
カン材でリーチじゃなくてカン材が和了牌でのリーチね

おつー

もう完結しちゃうのが残念だな
展開にwktkが止まらないよ

乙です

>>222さん

あー、どうなんでしょう。私の中では、太陽系の諸惑星間の距離に喩えると、ナンバー1は太陽、ナンバー2は水星、ナンバー3は木星、ナンバー4以下は外惑星のイメージだったので、エイスリンさんと福路さんは直接対決でナンバー入れ替わりもありえなくないですが、ナンバー2の座はちょっとやそっとじゃ揺らがない気がしますね。

 *

>>223さん、>>228さん

槍槓も流し満貫も『和了り』なので、『和了りを塞ぐ』ために《リジェクト効果》でその『可能性』が排除されますね(花田さんの《通行止め》がトビ終了の可能性を排除しているのと同じロジックなので、何をしようとどう足掻こうと絶対に無理です)。

ただ、槍槓はカン絡みなので、論理の隙間に入り込む可能性があり、レベル4状態の《防塞》なら和了れる可能性があると思います(咲さんの槍槓差し込みが天江さんの《一向聴地獄》を破った原作のアレのイメージです)。

>>225さん

>思ったことだけど、咲がカン材の位置が分かるなら、カンする前に一発狙いのリーチをしないのは何故でしょう?

ほむ……?

 例手牌:23444一二三①①①白白 嶺上牌:X ドラ:?

こういう手を想定すればよいのですかね?

この手で、次に①が来るとわかっている場合。咲さんはリーチすると思います。嶺上牌Xが1の場合、リーチ→カン→ツモで、リーチ嶺上ツモですね(リーチ後にカンしているので、一発はつきません)。或いは、嶺上牌Xが白なら、同様にして、リーチ嶺上ツモ白です。

このタイプのリーチは、原作のVS豊音《先負》で実際にやっていたと思います。

次に、この手で、次に4が来るとわかっている場合。咲さんはリーチしないと(私は)思います(リーチをすると、4で暗槓できなくなるからです)。リーチ掛けずに、4をツモって、暗槓、嶺上から1をツモり、嶺上ツモですね。

槓材=和了り牌のケース。原作中でこのタイプの和了りに近いのは、天江さんから責任払いを取った数えかと思われます。

 *

次巡にツモれるとわかっている槓材が、和了り牌でもある場合、咲さんは基本リーチしないと思います。リーチすると、次巡にツモれる槓材で暗槓できなくなるからです(リーチ後の暗槓は、待ちが変わらない場合のみ可です。暗槓材=和了り牌の場合、暗槓すると必ず待ちが変わります)。

リーチしても暗槓できる牌姿なら、リーチはすると思います。その場合、槓材≠和了り牌になるので、一発はつかないですね。

 *

なお、SS中では、こんな和了りをさせたりしました。この場合、槓材の四が来ることがわかっていたので、五切りからの四ツモで和了ってます。

 咲手牌:四四四五六北北/(二)一三/(九)七八 ツモ:四 ドラ:八

 *

なんか見当違いのこと答えてたらすいません。

 ――副将戦終了直後・実況室

恒子「さあ! いよいよ決勝戦も大詰め!! 大将戦は各チームのリーダー同士の激突となります!! 現在トップはなんと一年生中心のチーム《煌星》!! 小鍛治理事長はこの状況をどう思いますか!?」

健夜「偶然や状況に助けられた部分もありますが、一年生四人がよく頑張ったと思います」

恒子「超☆上から目線いただきました!!」

健夜「なんというか、少し……予定外ですね」

恒子「ふむ……? 予定外?」

健夜「あ、いや、《煌星》が大将戦開始時点でトップだったのは、本選では一回戦だけだったから。てっきり今回も準決勝みたいな試合展開になるものとばかり。
 まぁ、ここまで来れば、点数状況はあまり関係ない――か」

恒子「すこやん……?」

健夜「ううん。こっちの話」

恒子「よくわかりませんが、謎のコメントをいただきました! さすがアラフォー!! ミステリアスです!!」

健夜「アラサーだよ!?」

恒子「ではっ! CM入ります!!」

健夜「……ふー」クタッ

恒子「お疲れ様だね、すこやん。頭痛いのはどう? まだ大将戦が残ってるけど……」

健夜「あんまりいいとは言えないけど……この大将戦だけは、ちょっと外せないから」

恒子「あんまり無理しないでね……?」

健夜「わかってる――っと」ガタッ

恒子「どこか行くの? トイレ?」

健夜「いや……なんか外が騒がしい気がして。実況中に変な音入るといけないから、静かにするよう頼んでくる」

恒子「それくらいなら私が――」

健夜「いいよ、こーこちゃんは座ってて。外は何かと危ないから」

恒子「う……うん」

健夜「じゃあ、CM明けまでには戻るね――」

恒子「行ってらっしゃい……」

 タッタッタッ ガチャ パタンッ

恒子(外……今日は雨らしい。このビルは窓がないから、本当のところはわからないんだけど……)

恒子(ビルの外……か。しばらく出てない気がする。理事長室も実況室も私の部屋も、全部このビルの中にあるから。
 温泉も結局行けなかったもんなぁ。夏なんだし、もっとすこやんと一緒に色んなとこ遊びに行きたい。山とか海とか。炎天下、白い入道雲と、抜けるような青空――)

恒子(あれ……? 空――最後に見たのはいつだっけ……?)

恒子(え……なんだろう、これ……何か大事なことを忘れてるような――)

恒子(雨――あの日も雨で……私は、すこやんと……)

恒子(ダメだ……大事なことだったはずなのに、思い出せない……)ズキッ

恒子「……早く戻ってきてよ、すこやん――」

 ――窓のないビル前

 ザー

晴絵「そっちはどうでした?」

咏「ダメっすね~ぃ。入り口どころか、切れ目一つないっすよ、この建物」

晴絵「地下通路がないのは音波測定で確認済み……となると、完全にただの箱ってことになりますよね」

咏「おっかしーっすよねぃ。だって、私、理事長室で小鍛治さんと話した記憶あるっすよ」

晴絵「私もです。ただ……よくよく思い出してみると、この建物に入った記憶と、この建物から出た記憶が曖昧なんですよね。小鍛治さんに案内されて出入りしたってところまでは覚えているんですけど……」

咏「こっちの認識に干渉してくる――記憶の改竄も余裕ってわけっすねぃ。知らねーっすけど」

晴絵「……私、ちょっと気になって、愛宕先生や熊倉先生に聞いてみたんですが」

咏「何をっすか?」

晴絵「『先生が学生だった頃の白糸台の理事長って、誰でしたか?』って」

咏「ほほーぅ……それで、なんて返ってきたっすか?」

晴絵「『三十手前の女性だった――それ以外のことは思い出せない』そうです。
 言われてみると、私も……在学当時の理事長のことは、年齢に関することしか記憶に残ってないです」

咏「あー……それ、私もっすね。戒能ちゃんとかどーなんだろ」

晴絵「たぶん、期待はできないと思います」

咏「っすよね……。さて、ここからどうしましょうか?」

晴絵「とりあえず、この中に入らないことには小鍛治さんと話ができません。出入り口がないなら、壁を壊してみるしかないでしょう」

咏「うおっ、過激派っすね、伝説《レジェンド》! けど、壊すって、どうやって? このビル、隕石が直撃しても壊れないらしいっすよ、知らねーっすけど」

晴絵「支配力でどうにかなりませんかね?」

咏「えーっと、それ、私がやるんすか?」

晴絵「そりゃ、私より三尋木先生のほうがランクが上ですから」

咏「でっすよねぃ~。知ってたっすよ」パチンッ

晴絵「責任は私が取るんで、得意の《怒涛》で風穴を開けちゃってください」

咏「ふぅ~……いよいよバトル漫画じみて来たっすね。知らねーっすけ――どッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

晴絵「…………どうですか?」

咏「ビクともしね~っす」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

晴絵「三尋木先生でもダメなのか……」

健夜「あの……二人はそこで何をしているのかな……?」

晴絵・咏「ッ!!!?」ゾワッ

健夜「四大大会の決勝中は実況室に缶詰になるから、私とこーこちゃんに用がある場合は、前日までに済ませるか試合後に回すように――って、今回も通達したはずだけど……?」

咏「あ……えっと――」

晴絵「……緊急事態なんですよ、小鍛治さん」

健夜「ふーん……私の私有物に破壊行為をするほどの?」

晴絵「はい」

咏(伝説《レジェンド》、かっけェ!! 赤土先生って恐いもんとかねーの!?)

晴絵「小鍛治さん、今すぐ決勝戦を中止にしてください」

健夜「どうして?」

晴絵「《レベル6シフト》計画に重大な欠陥が発見されました。このまま花田煌が絶対能力者に進化すると、その過程で世界が閉ざされてしまいます。安全性が証明されるまで、計画は無期限凍結してください」

健夜「世界が閉ざされるから、計画を凍結――か。それはできない相談だね」

晴絵「なぜですか?」

健夜「世界を閉ざすことが、《レベル6シフト》計画の本当の目的だからだよ」

晴絵「え……」

健夜「こんな中途半端な時期に、花田さんを無理矢理学園都市につれてきたのはなんのためだと思っていたの?
 この夏を逃したら、《頂点》である宮永照を含めた七人のレベル5が、公式戦に揃わなくなってしまうからだよ?
 そして、この決勝戦で、ついに花田さんは宮永照と対決する。あの子が《頂点》を呑み込めば、世界は閉ざされ、幻の絶対能力者《レベル6》が誕生する。全て計画通り。凍結する理由はどこにもない」

晴絵「ちょ――ちょっと待ってください!? 世界を閉ざすことが『計画通り』? だとしたら、レベル6を生み出すために作られたこの街は――」

健夜「そう……この白糸台研究学園都市は、世界を閉ざすために、私が作った街だよ」

晴絵「小鍛治さんが作った――!? いや、だって……!! 白糸台高校の歴史だけでも百年以上あります!! この一帯が研究都市として発展し始めた時期となれば、そのさらに前になって……」

咏「……赤土先生、それを言い出したら、この街は能力《オカルト》を科学《デジタル》する街っすよ。とことん遡っていくと、能力の起源である一千年前に行き着くんじゃねーっすか? 知らねーっすけど」

晴絵「一千年……前――」

咏「っつーか……小鍛治さん、あなた今いくつなんっすか……?」

健夜「私はアラサーだよ」

咏「その『サー』って、もしかして『thirty』じゃなくて『thousand』の頭文字なんじゃねーっすか……? 知りたくもねーけど……」ゾクッ

健夜「あはは。面白いこと言うね、三尋木先生は――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

晴絵・咏「!!!!」ゾゾゾッ

健夜「話は変わるけど、学園都市の天気予報って、百発百中だよね。どうしてだと思う?」

晴絵「世界最高のコンピュータである樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》が演算ではじき出しているから……じゃないんですか?」

健夜「残念ながら、違うんだよね。赤土先生は担当が数学だから知っていると思うけど、カオス理論ってやつがあるでしょ?
 どんなに高度なコンピュータを駆使しても、有限値でしか計算できない以上、初期値鋭敏性の問題をクリアできない。
 つまり、天候を百パーセントの確率で言い当てることは、たとえ樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》の演算力をもってしても、ヒトにはできないってこと」

咏「ヒトにはできないことが……どうしてできてるっすか……?」

健夜「海の向こうの世界には、『賽の目から本日の天気に至るまで、この世のありとあらゆるものは、天上の神の手の平の上にある』――なんて常套句があるけれど、まあ、そういうことかな」

晴絵「どういうことですか……?」

健夜「ヒトにはできないことも、神様ならできるよね」

咏「小鍛治さん……神なんてこの世にいねーっすよ。知らねーっすけど」

健夜「知らないことを断言するのは感心しないな、三尋木先生。現に、学園都市の天気予報は百発百中なんだよ?」

咏「じゃあ……答えは一つじゃねーっすか。そんなもん、全ては『偶然』っすよ」

健夜「逆だよ。全ては『必然』。学園都市の天気予報が百発百中なのは、天気予報が百発百中になるように、毎朝欠かさず私が確率干渉しているからだよ」

晴絵「小鍛治さんの朝は確率干渉から始まる……!!?」

健夜「天気と言えば、ほら――私、傘持ってないけど、雨に濡れてないよね」

晴絵・咏「……っ!!!?」ゾクッ

健夜「ところで、また話は変わるけれど、『トンネル効果』って知ってるかな」

晴絵「し、知ってますけど……まさか――!!?」

健夜「そのまさか。私くらい確率干渉力が強いと、古典確率論的にゼロでない事柄なら、大抵のことは実現できちゃうんだよね」

咏「ちょ――!! はあ!? トンネル効果を応用してこのビルから出入りしてるってことっすか!?
 っつーか仮に可能だったとしても、それはそれで別の問題が発生するっしょ!? よく知らんけど!!」

健夜「えっと、他には、そう、エントロピーの話とかどうかな。紅茶に砂糖を入れると、砂糖が拡散して、時間が経てば経つほど両者は混ざり合うよね。
 で、一度混ざり合ってしまったら、エネルギーを加えない限り、それを紅茶と砂糖に再分することはできないわけだけど――」

晴絵「できる……っていうんですか? 小鍛治さんの確率干渉力なら……」

健夜「意外と簡単だよ? 紅茶の分子と砂糖の分子の熱運動――古典確率論ではランダムであるそのベクトルに、ちょっと干渉してやればいいだけなんだから。
 支配者《ランクS》じゃない赤土先生には無理だけど、三尋木先生なら、コツを掴めばできるんじゃないかな」

咏「マジっすか……」

健夜「ま、なんでこんな話をしたかっていうとね。ほら、人間――ひいては生物って、外部からエネルギーを取り入れて、自身のエントロピーを一定以上に保つ性質を持った『何か』と定義付けられるでしょ?
 紅茶と砂糖を世界と自己に言い換えれば、ヒトっていうのは、世界の中に生み落とされた自己――その形を、世界と同化しないよう保とうとする『何か』ってことになる。
 この場合、世界と同化して溶け合うことが、自己の崩壊――つまりは生物学的な死なんだね。けど、これもやっぱり、確率に支配された事柄であることに変わりはない。
 つまり、世界の中にありながら、自己の形を一定に保ったままでいることは、そんなに難しいことじゃないんだよね」

晴絵「む、無茶苦茶を言わないでください!!」

健夜「無茶苦茶じゃないよ。生物だろうと非生物だろうと、つまるところは素粒子の集合体であって、その挙動が確率に支配されている以上、確率を支配してしまえば、大抵のことは不可能ではなくなる――っていう、ただそれだけのこと。
 天候を操ったり、雨避けをしたり、壁抜けをしたり、千年くらい生きたりすることは、理論的に可能なんだよ」

咏「いや……確かに、私らランクSは呼吸するように《奇跡》を起こせるっすけどねぃ。それにしたって、限度ってもんがあるっしょ。
 少なくとも、私らヒトが確率干渉力を行使できるのは、自分だけの現実《パーソナルリアリティ》空間内だけっす。紅茶と砂糖くらいの規模ならまだしも、世界と自己なんてのは――」

健夜「あ、ごめん、言ってなかったね。私の自分だけの現実《パーソナルリアリティ》――というか支配領域《テリトリー》って、この世界全体なんだ」

咏「……超知りたくなかったっすねぃ、そんなこと――」

晴絵「……というか、小鍛治さん。どうして私たちにそんな話を……?」

健夜「冥土の土産話にでもどうかな、と思って」ニコッ

咏・晴絵「っ……!!!!」ゾゾゾ

健夜「あっ、いや、冗談だよ?」

咏「笑えねーっすマジ!!」

晴絵「けど、まるっきり冗談ってわけでもないですよね……?」

健夜「うん。ちょっと前後不覚になったり、気絶したりっていうのは、まぁ、あるよね」

晴絵「……こんなことを言っても無駄かもしれないですけど、この状況で私たちに何かあれば、間違いなく小鍛治さんに疑いの目が向きますよ……? きっと、改竄するのにも手間がかかるんじゃ……」

健夜「そうだねー……じゃあ、こんなのはどうかな。雨の中を歩いていた二人に、『偶然』雷が落ちてきて、『奇跡』的に外傷はなく一命は取り留めたけれど、ショックで記憶が多少飛んでる――っていうのは?」

晴絵「もしそんなことになったら、私のトラウマリストに雷と小鍛治さんが追加されますね」

健夜「その辺は大丈夫。責任持って、嫌なことは、全部、忘れさせてあげるから……」ゴゴ

咏「っ……!! マジやべーっす、赤土先生!! 逃げましょうッ!!」ガシッ

晴絵「逃げるってどこに逃げるんですか? 小鍛治さんの支配領域《テリトリー》は世界全体なんですよ……?」

咏「それは――」

晴絵「どうせ散るなら……潔く散りましょうよ、三尋木先生」ニヤッ

咏「伝説《レジェンド》パねえええええええええっす!!」

健夜「赤土先生のそういうとこ……私、好きだよ」

晴絵「ありがとうございます」

健夜「どういたしまして。それじゃ――」スッ

晴絵(どうしよう。カッコつけてみたけど、今すぐ実家に帰りたい)

咏(しまった。ノリでこの場に残ってみたけど、雨の日に屋外で気絶したら、着物が汚れるじゃんよ……)

 ゴロゴロ

健夜「さよなら」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

晴絵・咏「っ!!!!」ビクッ

?「は~い〜、そっこまで~♪」ババーン

晴絵・咏「…………え?」

健夜「なんの用かな……赤阪先生」

郁乃「えぇ~? そりゃ~、私はお医者さんやから~、誰かが危ない目に遭うてたら助けに入らへんと嘘ってもんやろ~?」

健夜「……どういうつもりか知らないけど、私の邪魔をする気なら、たとえあなたでも容赦はしないよ、《冥土帰し》」

郁乃「つれないこと言わへんでよ~。私とすこやんちゃんの仲やんか~」

健夜「…………」

郁乃「それと~、ええの~? ぼちぼち大将戦始まるやろ~? こんなとこで遊んどらんと~、はよこーこちゃんのとこ戻ってあげな~」

健夜「わかってるよ、言われなくても」タッ

郁乃「ほなな~」ヒラヒラ

晴絵「あっ――ちょ、小鍛治さ――」ダッ

 ガンッ

晴絵「痛ああっ!? ってー!! 壁ッ!? あの人本当に壁抜けしやがった!!?」ガビーン

郁乃「え~? 赤土先生は壁抜けできひんの~?」

晴絵「できませんよ!? ええ!? 赤阪先生はできるんですか!!?」

郁乃「できるよ~? っちゅ~か~、すこやんちゃんに壁抜け教えたの~、私~」

晴絵「《冥土帰し》の《魔女》……!! あなたもあなたで何者ですか!!?」

咏「いや、今は《魔女》の正体より、小鍛治さんっす。赤阪先生、小鍛治さんとはどういう関係なんっすか……?」

郁乃「私はお友達やと思っとるんやけど~、すこやんちゃんがどう思っとるかは~、わからへんな~」

咏「知ってることがあるなら……教えてほしいっす」

郁乃「ん~、ほな~、立ち話もあれやし~、どっか雨凌げるとこ行こか~」

晴絵・咏(よく見たら……この人も傘持ってないのに濡れてない……!!)ゾクッ

 ザー

郁乃「♪」フラフラ

 ――試合会場

美穂子「久、華菜から報告がありました。《風越》担当地区は、住民の避難が完了したとのことです」

久「ありがと。助かるわ」チュ

美穂子「/////!!?」ボンッ

久「日菜、《晩成》担当地区のほうはどうー?」

日菜「もうちょっとかかります」

哩「久、《新道寺》担当地区は完了と」

久「あり~」

恭子「《姫松》担当地区もオッケーです、会長」

梢「《劔谷》担当地区も終わりました」

史織「《越谷》担当地区も大丈夫でぇ~す」

久「みんな優秀ね~。ありがと~」

憧「…………」

久「やっぱり、持つべきものは伝統チームとのパイプよね。一人と仲良くなれば、もれなく100人近い手駒が手に入る。どうかしら、憧? 勉強になるでしょ?」

憧「ちなみに、どうやって『仲良く』なったわけ……?」

久「企業秘密♪」

もう一年後だったら淡も正面から戦えたんだろうな、ただでさえ一年なのに途中入学で経験がさらに少ないんだよな淡はまあそれは煌にも言えることだが

次の年は荒川さんとか煌とか小牧とか抜きん出でた化物どもとそれに匹敵する透華や衣だけでなく咲や淡といった連中もさらに実力が上がってくると考えると次の一桁ナンバーは更に格差ができそう

和「竹井会長、実況室へのハッキングに成功しました。CM中の数分ほどですが、放送中の映像を差し替えることができます」

久「グッドタイミングね。藤原さーん! 出番よー!!」

利仙「出番だそうですよ、いちごちゃん!! さっ、このカメラに向かって、台本通りにお願いしますっ!!」フンス

いちご「(い、いちごちゃん……!?)と、突然ですが、白糸台高校学生議会からのお知らせです。先ほど、樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》から緊急地震速報が――」

利仙『もっと笑顔で!!』カンペ

久「ゆみ、避難所マップのほうは?」

ゆみ「今アップロードするところだ。佐々野さんの放送と同時に問い合わせが殺到すると思うのだが、むしろ、その対応のほうが大丈夫なのか?」

初美「風紀委員会のネットワークと人材をフル活用してるですー。万単位でさばいてやるですよー」

久「和、佐々野さんの放送が終わったら、録画映像を学園都市中のパソコンにバラまきなさい。見逃す人間が一人もいないように、派手に頼むわよ」

和「任せてください。噂に聞くレベルアッパー事件が子供の遊びだったと思えるくらいのサイバーテロを仕掛けてやりますよ」フフフ

久「電網恢恢――っと。あとは美穂子みたいなアナログ人間さんたちだけど……二条さん、進捗状況はいかがかしら?」

泉「山間地区と過疎地区の住民は、ジャックした無人バスでリスト通りに拾いました。あと二十分もあれば、一般居住地区の避難所への輸送が完了します」

和「二条さん、無免許運転は犯罪ですよ?」

泉「必要なのはカードやない、技術や」

久「松実さん、都市部の闇に潜むネズミちゃんたちは?」

玄「地下通路から裏路地、廃屋、廃墟と、片っ端から魔改造清掃ロボを走らせているのです。聞く耳のある人なら、避難勧告に従ってくれるかと」

久「聞く耳のない人は?」

玄「えっと、それは――」

霞「聞く耳を持ってくれるように、私が『おまじない』を施しておいたわ」ニコッ

久「あら素敵」

和「会長、実況室との接続が断たれました。パブリックビューイングの乗っ取りはここまでです」

久「十分よ。あとはさっき言った通り。接続可能な端末に片っ端からハッキングして頂戴」

和「承知しました」

久「恭子、避難勧告の放送、せっかくだから佐々野さんのやつに差し替えてくれる? ゆみの声だと、ちょっと硬いから」

ゆみ「おい」

恭子「もうやってますわー」

ゆみ「恭子まで……」

洋榎「久~、医療機関と行政機関は掌握したて、はやりんが~」

久「え、早っ!? あと三十分はかかるかと思ってたけど――」

白望「久……CMが終わった。あと五分で賽が投げられる……」

久「時間きっかり、っと。さて、チームの命運と世界の運命を決する大一番――できることならハッピーエンドを迎えてほしいけれど、どうなのかしらね……」

 ――学園都市・某所

 ザー

初瀬「よし、あとは木村先輩に……『B-82地区、住民の避難完了しました』――送信っと」ピコンッ

『――の指示に従って避難してください。ご協力よろしくお願いします。繰り返します。白糸台高校学生議会からのお知らせです。先ほど――』

初瀬(あの放送が流れてから、人の流れが格段にスムーズになった。さすが佐々野先輩。
 あー……いいなぁ、アイドル雀士。ま、私は無理だけどさ。でも、新子さんならきっと――。うん。この一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》が終わったら、私、憧ちゃんファンクラブを作るんだっ!!)エヘヘ

 ザー

初瀬(ん……あれ――)

?「…………」

初瀬(あんな人……さっきまでいたっけ……? っていうか……傘も差さずに、空を見上げて……何をしてるの?
 あまり見ない制服だけど、中学生には見えないから、白糸台生よね。この辺りの住民はリストでチェック済みだから、どこかの地区から流れてきたのかな――)

トンネル効果ってたしか本当に通り抜けるんじゃなくて 
消えたあとに改めて現れるとかそんな感じだったよな

さすがすこやん、なれないルールで過密スケジュール敵地で最低成績が2位とかいう化物はわけが違うわ


初瀬「あっ、すいません。あなた――白糸台の生徒ですよね? 私は学生議会の――」タッタッタッ

?「…………」

初瀬「(あれ、聞こえてないのかな?)あの……」

?「…………」クラッ

初瀬「あ、危な――」スッ

 フッ

初瀬「い……? え――? ええええっ!?」

初瀬(倒れこんだと思ったら消えた!!? 嘘、どこ行ったの……!!? ここにいたはずなのに、何の感触もない――姿も見えない……)アワワワ

初瀬(よ……よくわかんないけど、とにかく、孤立する人が出るのはまずい。具合も悪そうだったし……っていうか倒れてたけど――。近くのみんなに探してくれるよう頼まなきゃ。
 えっと……『目撃情報募集』『発見次第確保』……『肩口くらいまでの黒髪ストレート』『困り顔』……それから制服が……『丸襟にグレーのリボン』――)ハッ

初瀬(丸襟に……グレーのリボン……? それに、突然現れて突然消えた――『神出鬼没』……? ちょ、ちょっと待って……!? じゃあ、もしかして、今のがあの伝説の――)

初瀬「……正体不明《カウンターストップ》……?」ゾクッ

 ザー

 ――実況室

恒子「大将戦、まもなく開始です!! 対局者は対局室に集合だああっ!!」

健夜「対局開始まで、五分を切りましたね」

恒子「ハイ、というわけで! 小鍛治理事長、見所はどの辺りですか!?」

健夜「なんと言っても、最下位にいる《頂点》こと宮永さんがどう仕掛けてくるかだと思います。
 他の三人としては、連携して抑えたいところですけれど、勝敗が決まる大将戦なので、先鋒戦などと違い、思惑がかみ合う可能性は低いでしょう」

恒子「宮永照以外で、理事長が注目している選手はいますか?」

健夜「そうですね……やはり、宮永さんとは初対決となる、花田煌さんでしょうか」

恒子「超大型転校生の一人、花田煌! レベル5の第一位ということですが、あまり能力の内容に関する話を聞きませんね。
 生徒の間では、すこやんをボッコボコにした《怪物》とまことしやかに噂されています。ぶっちゃけどうなんですか? 負けたんですか!?」

健夜「そんなわけないでしょ。ま、想い通りには打たせてくれなかった、くらいかな」

恒子「さすが理事長! 伊達に四十年間無敗を貫いていません!!」

健夜「アラサーだよ!?」

恒子「はい! オチがついたところで、ついにその時がやってまいりましたああ!!
 白糸台高校麻雀部の一軍《レギュラー》――その一枠を巡る夏の風物詩!! 長かった一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》も、残すところあと二半荘!!」

健夜(……長かったね……本当に長かった……)

恒子「一万人の想いを乗せた最終戦が、まもなく始まろうとしています!! 栄冠を手にするのは果たしてどのチームになるのか!?
 夏の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》――本選決勝大将戦……!! 最後の一人が今! 対局室に姿を見せましたあああああ!!」

健夜(いよいよだ。世界は閉ざされて、全てが終わる。そこから先が《通行止め》なのが……とても残念だけどね……)ズキ

 ――対局室

『一万人の想いを乗せた最終戦が、まもなく始まろうとしています!! 栄冠を手にするのは果たしてどのチームになるのか!?』

やえ(ふぅ、ようやくか――)

 ガチャ

照「と……ここまでかな」

塞「……みたいね」フゥ

 ギィィィィィ

菫「もう時間か……」

憩「名残惜しいですわ――」パッ

 パタンッ

『夏の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》――本選決勝大将戦……!! 最後の一人が今! 対局室に姿を見せましたあああああ!!』

塞(へえ……これが《煌星》の大将――世界を閉ざすとかいう《怪物》……)ゴクリッ





     煌「みなさんお揃いですね。すばらです」ゴ





やえ(随分待たせてくれたな、花田煌――)





     煌「真打ちは……後から登場するって」ゴゴゴ





憩(ウチらが警戒すべきチームの一つとして、その眼前に立ってみせる——有言実行やね、花田さん……)





     煌「弘世さんたちには三回戦でボコボコにやられましたが」ゴゴゴゴゴ





菫(なんだこの怖気は……? あのときとはまるで別人じゃないか、花田煌)ゾクッ





     煌「なんにせよ、今日の日は負けませんよ……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ





照(これが学園都市に七人しかいないレベル5……その第一位――)ビリッ





     煌「《絶対》に」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ





やえ・菫・憩・照・塞(《通行止め》……ッ!!)

憩「……ほな、ウチはこれで」

菫「あぁ、またな、荒川……」

塞「じゃ、あとはよろしく、宮永」

照「うん……気を付けて帰ってね」

やえ「……よう、花田」

煌「これはこれは、小走さん」

やえ「一昨日はうちのネリーが世話になったな」

煌「とんでもない。小走さんが淡さんを手厚くもてなしてくださったので、その分のお返しをさせていただいただけです。すばらにはすばらで返すのが、私の流儀ですからね」

やえ「ニワカが言うようになったじゃないか」ニヤッ

煌「お褒めに与り光栄です。合宿のときよりは手応えがあるかと思いますので、なにとぞよろしくお願いします」ペコッ

やえ「それは楽しみだな……」

煌「……場決めは終わっていますか?」

やえ「あぁ。私の上家がお前の席だよ」

煌「では、失礼します――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(底のない深淵を覗き込んでいるかのようだな。いや、しかし、敵は花田煌だけではない。荒川が慕うかつての《王者》。それに……)チラッ

照(去年も一昨年も、あなたはいつだって隣にいてくれた。横顔を見上げてばかりだったから、どうにもまだ……あなたの顔を正面から見るのは慣れないな)

菫(敵として打つのは一年振り……チームとしても個人としても、負けるわけにはいかない。決着をつけよう、照ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:弘世菫(劫初・113800)

照(うん……受けて立つよ、菫)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:宮永照(永代・62900)

やえ(やれやれ。二人だけの空気を作りやがって。私も一応……三年前のインターミドル——その個人戦決勝で、お前らと直接対決してるんだがな――)

照(もちろん覚えてるよ。二年後――去年の夏に、自身の理想形である荒川さんをぶつけてきたことも含めて)

やえ(《特例》の荒川でも《頂点》のネリーでもできなかったことをしようというのは……いくらなんでも無茶だと思う。だが、元はと言えば私が奪われたものだからな。私自身で取り戻すのが筋なんだろうよ……)

   ――わっかんねーかな? 《王者》が負けっぱなしでいいのかよ、って言ってんだ。

やえ(いいわけがないじゃないですか……っ! さあ、還してもらうぞ、宮永!! 三年前からお前が借りパクしたままの――《王者》の称号をなッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:小走やえ(幻奏・97600)

照(悪いけど、小走さん。私の王座は《永代》だよ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(三年前のインターミドルでは、私ではなく辻垣内さんがここにいた。去年の一軍決定戦では、私のところに辻垣内さん、小走さんのところに荒川さんがいたんでしたね)

煌(因縁の対決ですか……すばらです。想いが行き交っていますね……)

煌(しかし、残念ながら、そこから先は《通行止め》……)

煌(……私は……負けられない……)

    ——ごめんね。スバラ……。

煌(もう二度と……負けるわけにはいかないのです)

            ——ごめんね……キラメ

煌(《絶対》に——)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:花田煌(煌星・125700)

『時間いっぱい!! 待ったナシ!! 一瞬たりとも見逃すな――!! 大将戦前半……開始だああああ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

続きはまた明日。

では、失礼します。

 *

>>255さん

はい。すこやんファンタジー、略してSFなので、良い子の皆さんは真似しないほうがいいと思います。

おつです

照がラス親か
前半オーラスでラス親の照が無双して後半オーラスでラス親の煌が無双する感じかね

続き楽しみにしてます


そういやなんで白糸台は塞の能力を最低限の扉の役割で留めてたんだろうね?
理論上可能なら能力戦における体力・耐久力向上の研究でもなんでも立ち上げて照、焼き鳥計画を実現させるために動いても不思議じゃ無いのに
やつぱり成功したら《絶対》以外の全ての才能の価値が無に帰す危険性があるから、
監視下に置いて意図的に抑制してたとかなんとか辺りが近いのかな?

乙。

スコヤんこえ〜。
菫さん、決着をつけようとか、そうゆう寝言は一桁入りして言って下さい。
決着以前に、格が四つぐらい違うと思います。
いや、菫は好きなキャラだよ?
でもちょっと照に勝ってる姿が想像できなくて…。


いやいやすこやんの真似何ぞ出来るか!
2cmの板一秒に一回ぶつかって50年続ければ確率的には1回出来るって聞いたことあるわw

朝の一幕で煌が雨の中外に散歩に行ってぬれてなかったのって、すこやんと同じことやったってことか。
え、なにそれ化け物じゃん。
もしかしたら、壁抜けとかもやろうと想えば同じようにできるんじゃ

服装が違うすこやんが同時に存在してる…
アラフォーやりたい放題だな

すこやんこんなまわりくどいことしなくても
自分で世界を閉ざせばよかったんじゃね?テリトリー世界全体なら


サーティとサウザンドは上手いと思った

>>266 さん

元ネタでも御坂さんみたいにレベル5に『なる』人はいるんですが、このSSのレベル5は『発見』されるパターンばかりなので、臼沢さんには、たぶん、何か資質とかそういうのが足りてないんだと思います。特に抑制とかはしていないと思われます。

或いは、もし、『扉であること』が臼沢さんの根幹であった場合、どれだけ開発しても臼沢さんは扉のままですね。

照さんに関しても、臼沢さん自身、照さん=天照大神、臼沢さん=天岩戸と認識しているので、どうあっても開かれる運命にあったんだと思われます。

というか、もしかしなくても、臼沢さんは、照さんに『世界で初めての超能力者《レベル5》』の称号を与えるために生まれてきたのかもしれません(メタ的にはそういう役割のキャラクターです)。そりゃ惚れますわ。

全然関係ないですが、『去年《治水》モード・龍門渕さんと対戦して他家をトばしたのは《シャープシューター》菫さん』とした設定……意外と的を射ていたんですね菫さんだけに。一人でによによしてます。

では、始めます。

 ――《劫初》控え室

智葉「始まったか……」

エイスリン「スミレ、チーチャ!」

衣「《頂点》が様子見に回るという東一局の親。確実に射貫いておきたいところだな」

憩「準決勝を見る限り、花田さんからは点が取れないっぽい。ほんで、《シャープシュート》が《頂点》に通じた例はあらへんそうやから、まぁ、ここは必然的に小走さん狙いでしょうね」

智葉「花田煌から一点たりとも点棒が奪えないのならば、ツモ和了りは封じられたも同然。菫が出和了り特化の能力者で助かったのかもしれないな。花田煌に《照準》を合わせない限り、あいつは比較的いつも通りに打てる」

衣「ツモ和了りができない場……か。となると、すみれはあの《頂点》と正面から撃ち合うことになる」

エイスリン「ノゾム、トコロダゼッ!」

憩「《万華鏡》は、最初のうちは強度がそれほどでもありません。《最終》の大能力者こと菫さんの《シャープシュート》なら、能力戦では互角以上にやり合えます」

智葉「点数状況的にも、追い上げなければならない宮永のほうが不利だろう。お膳立てした甲斐があったというものだな」

憩「まあ、欲を言えばトップで繋ぎたかったですけどね……」

エイスリン「キニスンナ、ケイ!」

衣「むしろ、二位で回ったことで、すみれの集中力がかつてないほど研ぎ澄まされているぞ。衣に勝負を挑んできた時以上の気迫だ。勝利も敗北も、全ての要素がすみれにとってよい方向に働いている」

憩「そら……《愛人》冥利に尽きるっちゅーもんやなぁ」

智葉「さて、言っているうちに手が形になってきたな。が、クセがなくなったとは言え、《幻想殺し》なら、状況的に自分が狙われていることには気付いているはず。
 これは……対宮永の前の肩慣らしにはちょうどよかろう。かつての《王者》を射貫けないようでは、打倒《頂点》など夢のまた夢だぞ、菫――」

エイスリン「イコロセ、スミレ!!」

衣「む……待ちを片寄せた。いよいよだな!!」

憩「菫さん……っ!! 頑張ってください!!」

 ――対局室

 東一局・親:菫

菫「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(ふん……《王者》に弓を引くとは。偉くなったもんだな、《シャープシューター》――弘世菫……)

やえ(しかし、困ったな。自牌干渉系能力者の松実宥ならともかく、無能力者の私では、《シャープシュート》を避けたところで何がどうなるわけではない。せいぜい流局が関の山だ。
 宮永が様子見に回るこの東一局で少しでも稼いでおきたいのは、こちらも同じ。ここを譲りたくないという気持ちは多分にある。しかし、意地を張り合っても泥沼に嵌るだけ)

やえ(その場合、この東一局は互いに牽制の局――という結果になってしまう。私と弘世の立場からすれば、仕掛けておきたかったはずの局で、仕掛け損なったということになるな。
 対して、宮永は悠々《照魔鏡》を発動。意地を張り合って動けなかった私たちを尻目に、怒涛の連続和了に突入――この展開は面白くない)

やえ(花田煌を除けば、支配者《ランクS》である宮永を抑え込めるのは、無能力者の私ではなく、大能力者の弘世のほうだ。弘世と宮永の点差が広ければ広いほど、弘世の圧力は増し、宮永の動きに制限がかかる)

やえ(例えばだが、後半戦オーラス間近で、弘世がトップ、僅差で私、そして、一~二万点差くらいの開きがあって、最下位に宮永という試合展開なら、それなりにマシってもんだろう。
 弘世は、トップを守るために全力で宮永を封殺しに掛かる。宮永は弘世をまくることに尽力する。で……私は、その隙を伺う、と。全ては運次第だが、宮永がトップにいる場合より、圧倒的にまくれる可能性は高いはずだ。
 もちろん、花田煌の出方次第では、試合展開どうこうの次元の話ではなくなってくるのだが……それはそれ――)

やえ(となると、ここは潔く射貫かれておくべきか。トップと二万点差の三位……それでいて最下位にいるのが宮永。実質ラスみたいなもんだ。これを、純粋な地力だけで埋めるのは、かなり厳しい。
 博打に博打を重ねて、やっと勝負が成り立つ。《頂点》のいる卓で勝利しようというのは、それくらいの無理難題だ。たとえ十万点差があったとしても、まくられるときはまくられる……)

やえ(……よかろう。少しでも、私たちが勝利する可能性を引き寄せる。この東一局はお前にくれてやるよ、弘世)

菫(ふむ……ある意味、照以上に心理が読みにくいな。どこまで遠くを見据えているのか。
 《幻想殺し》――小走やえ。照が公式戦に初めて姿を見せた三年前、あのインターミドルの決勝まで、長きに渡って王座に君臨し続けた雀士。
 愛宕と江口と清水谷――中二の春に《西方四獣》の直接対決を制したことから、そのもの《獅王》とも言われていたな。
 インタージュニア・インターミドルと言えば即ちこの人――私たちの世代の、全小・全中《王者》の代名詞。
 《王道》を見聞した無能力者……それが、私の知る、小走やえという打ち手だ――)

菫(かつての《王者》。智葉曰く、照が現れるまでの仮初の王。無論、侮るわけではないが、お前を超えないことには……照に触れることもできん。全力で殺させてもらうぞ、《幻想殺し》……!!)

やえ(《最終》は《殺終》――その殺戮に終わりはない。狙った獲物に終焉と終末を齎すまでこいつは矢を放ち続け、たとえ射貫いても、またすぐに次の獲物を見つけ出す。
 三回戦で松実宥を射殺していたからな。この白糸台で未だに殺されていないのは《三人》くらいだろう。宮永、辻垣内、それに荒川も……とんでもないやつに目をつけられてしまったもんだな)

やえ(こと諦めの悪さに関しては、ネリー以上かもしれん。しかも、それが能力者としてのこいつの根幹にある。愚直という言葉がここまで似合うやつもそういないだろう。愉快なやつだ……)

やえ(さて――)チラッ

 やえ手牌:四五六④⑤⑥⑦⑧45566 ツモ:⑨ ドラ:③

菫「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 菫手牌:三四[五]③③③[⑤]⑥⑦2345 ドラ:③

やえ(弘世は今親だからな。一応、少し削っておくか)タンッ

 やえ手牌:四五六④⑤⑥⑦⑧⑨5566 捨て:4 ドラ:③

菫(む?)

 菫手牌:三四[五]③③③[⑤]⑥⑦2345 ツモ:7 ドラ:③

菫(いや、まだまだ……)タンッ

 菫手牌:三四[五]③③[⑤]⑥⑦23457 捨て:③ ドラ:③

やえ(ドラ……か。まあ、こんなものだろう)

 やえ手牌:四五六④⑤⑥⑦⑧⑨5566 ツモ:7 ドラ:③

菫(何を考えている、《幻想殺し》……?)

やえ(不思議そうな顔をしているな。なに、お前と同じだよ、弘世。私は……いつだってチームの勝利のことしか考えていない――)タンッ

 やえ手牌:四五六④⑤⑥⑦⑧⑨5567 捨て:6 ドラ:③

菫「ロン、12000」パラララ

 菫手牌:三四[五]③③[⑤]⑥⑦23457 ロン:6 ドラ:③

やえ「はい」チャ

やえ(この借りは後で必ず返してもらうぞ……《シャープシューター》)パタッ

菫(違和感はあるが、貰えるものはもらっておこう。これで……トップは私。《通行止め》の動きは読めんが、このトップを守り続ければ、私の勝ちだ)

照(菫との差が広がった。これは少し困るかも……というのは、後で考えるとして。今は――)ゴゴ

やえ(感応系最強の大能力――《照魔鏡》。私はそこにどう映っているのだろうか。気になるところではあるな)ゾワッ

菫(もはや慣れ親しんだ感覚だな。まあ、今更見られて困るようなものなどない。私はお前を倒す――照……!!)ゴッ

照(《照魔鏡》――発動……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(能力解析の専門家として、正直、この能力が欲しいと思ったことは何度もある……)ビリビリ

照(小走さんは……相変わらずの《王者》……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(強いて以前から変わったところを挙げるとすれば、クセのあるなしくらいか)ビリビリ

照(実はあのクセ……私も知らなかったんだよね。さすが荒川さんだよ。よし……じゃあ、いよいよ問題の花田さんを――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「…………」

照(あー……これ、そっか、《絶対にトばない》――って、私と咲、それにあの『丸襟にグレーのリボン』の人と同じやつか。
 それもとびきり危険。高鴨さんの言った通り、かなりマズいことになってる。世界が閉ざされるってそういうことなんだ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(うーん……どうなんだろう。もうちょっとで、何か見えそうな気がするんだけど……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

                         ――おやおや。

照(あれ……は――大星さん……? いや、違う……年がずっと上だ。なんだろう……まるで大人になった大星さんみたいな……よく見えない……もうちょっとだけ近くで……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

       ――覗き見は感心しませんね。

照(ん……あれ……なに、この悪……寒――)ビリッ

              ――残念ながら、そこから先は《通行止め》です。

照(っ……!!? しまった――踏み込み過)ゾワッ

 パリィィィィィィィン

照「っ……ぁ――?」クラッ

菫「ッ!!? 照……!! どうした!!?」ガタッ

やえ(おいおい……まさか《照魔鏡》が《無効化》されたとか言うんじゃないだろうな――?)ゾワッ

菫「て、照!! 大丈夫か……!?」

照「だ……だいじょ……ぶ……」クラクラ

菫(どう見ても大丈夫ではないが……!! こんな照は初めて見る。これは……お前がやったのか、《通行止め》!!?)

やえ(自覚しているのかいないのか……いよいよ本物の《怪物》じみてきたな、花田煌――)

煌「宮永さん……ご気分が優れないようでしたら、小休止を入れましょうか?」

照「あ……いや、そこまでじゃ……ないから。少し、その、驚いただけ。麻雀を打つのに支障はないよ……」

煌「そうですか。それは……よかったです」

菫「お、おい、照――」

照「私のことは気にしないで……本当に大丈夫だから。サイコロ、回して……」

菫「あ、あぁ……わかった。えっと、その、一本場だ」コロコロ

照(これは……なんていうか、ごめん……高鴨さん……)ズキズキ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(ちょっと……想像以上だ……この人……)ゾクッ

菫:125800 煌:125700 やえ:85600 照:62900

 ――《永代》控え室

穏乃「照さん――?」

塞「ちょっと……今、何が起こったの? わかる、高鴨?」

穏乃「……はい。恐らくですが、照さんの《照魔鏡》が《無効化》されました」

純「どうしてそんなことが起こるんだよ……照のあれは感応系だぞ……?」

穏乃「東横さんの《ステルス》がそうであるように、たとえ感応系能力でも、条件が揃えば、上位能力による《無効化》は能力論的に十分ありえます。
 ただ……この場合、一体どういう条件が揃ったのかはまったく見当もつきませんが……」

まこ「照もかなり狼狽しちょる……本当に大丈夫なんかの」

穏乃「大丈夫は……大丈夫だと思います。多少の動揺はあったみたいですが、その辺りの切り替えに関して照さんの右に出る人はそういませんから」

塞「ま、まぁ……ひとまず、普通に見てていいってことよね? ここから連続和了が始まるかな~、みたいな感じで」

穏乃「そうですね。花田さんが準決勝のときのようなことをしてくるなら、弘世さんか小走さんへの直撃という形でしか和了れない——という縛りがつくでしょうけど……ただ、それでも、ネリーさんのときほど苦戦はしないはずです」

純「去年の準決勝で言えば、まあ、小走が鳴きやら差し込みやらで妨害してくるかもってとこだな。あとは……弘世がどれだけ照にプレッシャーを掛けてくるか」

まこ「最初の一和了目は能力を使えんっちゅうことじゃけえ、《シャープシュート》の標的になったら、さすがの照もちとやりにくいじゃろな」

塞「そうね。この点数状況なら、弘世は、直撃を取るまで行かなくても、睨み合いで流局に持ち込めれば十分なわけだし、ひたすら宮永狙いで来られたら、かなり手こずりそう。
 って……まあ、この点数状況を作ったのは私たちなんだけどさ……」

純「試合が終わったら全員土下座だな」

まこ「ほんに不甲斐のうて申し訳ないの……」

穏乃「インターハイで挽回しましょう。照さんも、きっとそれを望んでいるはずです」

塞「そう、ね。とにかく、今は応援に集中しましょうか!!」

穏乃「はいっ! って、あ――」

純「ん?」

まこ「お……?」

     照『ロン、1000は1300』

     やえ『はい』

塞「これは……差し込んだようにも見えるけど、なんのつもりかしら」

純「弘世の親を流したかった?」

まこ「そうしたいだけなら、自分から速攻で流しに行く気がするが」

穏乃(小走さん……さては照さんの《八咫鏡》を花田さんの《通行止め》に――っていうか、ちょっと待った。これ……そんな……)

 カタ カタ カタ カタ

穏乃(やっぱり……微かにだけど、地面が揺れてる……)ゾクッ

塞「……高鴨? どうしたの、顔真っ青だけど……?」

穏乃「み、皆さん……ちょっと、落ち着いて聞いてください――」

塞「高……鴨……?」

 ――《幻奏》控え室

セーラ「躊躇いなく差し込みに行ったなぁー。いやー、わからん。どういうことやねん」

優希「ネリちゃん、《神の耳》で何かわからないのか?」

ネリー「残念だけど、私の《神の耳》は《悪魔の目》ほど万能じゃないんだよ」

優希「かくなる上は――困ったときの誠子先輩だじぇ!」

誠子「さすがに小走先輩の思惑を全て見抜くような洞察力は私にはないよ」

優希「そこをなんとか!」

誠子「うーん……なんて言えばいいんだろう。今の先輩は、《幻想殺し》の目をしているような気がする」

優希「ふむふむ?」

セーラ「……試しとる、っちゅーことか?」

誠子「そうですね。パソコンでシミュレーションをしているときの雰囲気に近い気がします」

ネリー「げっ……ってことは、やえってば、早くもてるを生贄の祭壇に上げるつもりなのかな?」

優希「じょ……それ、その、よくわからないけど、なんか世界がとんでもないことになっちゃうアレなんじゃなかったのか?」

ネリー「ま、まあ……ここまで来たら、きらめのアレはもはや時間の問題だろうからね。でも、えー……もっと心の準備がしたかったかも」

誠子「恐らくですが、先輩は、『不確定要素はできる限り先に取り除いておこう』という戦略に沿って打っているのかと」

セーラ「チームの勝利と世界の運命を天秤にかけとるっちゅーことか……ようやるわ、あいつ、ホンマに……」

優希「な……なんだか、ちょっと寒くなってきた気がするんだじぇ……」ブルッ

ネリー(どちらも超能力者《レベル5》の運命想者《セレナーデ》――逃れようのない《絶対》完備の旋律。
 やえの振り込みで、運命の螺旋が回り始めたんだ。これは……もう誰にも止められないんだよ……)

     照『ロン、1600』

     菫『っ……はい』

優希「うっ……寒気が増したじぇ」カタカタ

セーラ「俺もや。なんや、震えが止まらへんな……」カタカタ

誠子「っ……!? いや、違います、これ――」ガタッ

 カタ カタ カタ カタ

ネリー(世界が震えている……二人の想いと共振してるんだ。てるときらめの衝突まで……あと六曲か……)ゾクッ

 ――試合会場

久「ふぅー。なんとか間に合ったわね……!! 住民の避難は無事完了しました!! みんな、ひとまずお疲れ様!!」

 ワーワー ワーワー

久「けど! 本番はこっからだからねっ!! 千年に一度の大災害!! はっきり言って何が起こるかまったく未知数!! とにかくベストを尽くしましょう!! この街は私たちが守るのよっ!!」

 ワーワー ワーワー

久「いつ何があるかわからない――みんな、気を抜かずに」

洋榎「久、ちょい、演説ストップや!!」

久「っと……来たわね。それで、いいお知らせ? 悪いお知らせ?」

洋榎「自分にお似合いのほうやで」

久「凶報《バッドニュース》ってこと。オーケー。それこそ待ってましたよ。聞かせなさい」

洋榎「気象台からの通達――つい十五分程前から、学園都市を震源に、震度0の微地震が発生中やそうや。これが不思議なことに、いつまで経っても止まる気配があらへん。現在進行形で揺れとる」

久「へえ……それはそれは――」ゾクッ

 カタ カタ カタ カタ

久「まぁ……こっちは元々地震を想定して動いているんだからね。震度7くらいまでなら想定内よ」

初美「おい、《最悪》、こっちも良くない知らせですー」

久「はいはい、何かしら?」

初美「避難を完了した一般住民からの問い合わせ――ちょうど、これも十五分前くらいから、『寒気』『頭痛』『眩暈』などの症状を訴える人がちらほらと現れているようですー」

久「了解。和、電子連絡網はどうなった?」

和「間もなく構築完了します」

久「オーケー。それじゃあ――百鬼さん」

藍子「はいっ!」

久「保健委員会のマニュアルに、確率干渉の余波に中てられた人の応急処置法が書かれたものがあるはずよね? そのデータをゆみのパソコンに転送してあげて」

藍子「わっかりました! 今すぐに!!」ピピピッ

久「ゆみ、文面と体裁は任せるから、いい感じに仕上げて、電子連絡網で各避難所にそれを送って頂戴」

ゆみ「承った。と……誰か、確率干渉の余波に弱い人は――」

いちご「ちゃ、ちゃちゃのんでよければ!!」

ゆみ「助かる。実体験と照らし合わせて、気になったことがあれば言ってくれ」

久「はい、他」

 ドォォォォォン

久「っと……大きいのが来たわね――」グラッ

 ザワザワ ザワザワ

久「はぁーい!! みんな作業の手を止めない!! 呆けてる暇はないわよー!!」パンパン

白望「久……今の――宮永さんが弘世さんに2000を直撃した瞬間に揺れた。偶然かもしれないけど……」

久「ひゅう! 麻雀って恐いわね!!」

洋榎「久、震度が上がったで!」

久「みたいね。もうじっとしてなくても揺れを感じるわ」

初美「竹井、今の揺れで怪我人が出たですー。五件」

久「重傷者は?」

初美「一件、陶器破損、流血ですー」

久「怪我人のいる避難所のデータを二条さんに転送。二条さん、最寄のスキルアウトメンバーに病院までの輸送をお願いして。二輪はNG。四輪で、且つ、速度はあまり出さないようにね」

泉「了解っす!!」

久「恭子、これからも断続的に強い揺れが来ると予想されるわ。注意喚起のメッセージを電子連絡網で回して」

恭子「お任せや」

洋榎「久、はやりんから直通、発電所関係!!」

久「憧、私と交代。美穂子は憧のフォローね」

憧「お、おうよっ!」

美穂子「そう気負わなくて大丈夫ですよ、新子さん」

白望「憧……また宮永さんが和了――」

 ドォォォォォォォン

憧「~~~~っ!?」クラッ

白望「今度は小走さんに3900直撃……これで四和了目……」

洋榎「憧ちゃん! また震度上昇!! 止む気配なしや!!」

初美「竹井代理、今ので昏倒者が出たですー。十五件」

泉「憧、さっきの怪我人の件、メンバーの現在位置と避難所がかなり離れとる。メンバー到着から病院輸送まで三十分以上かかる見込み」

和「憧、報告です。今の揺れで二つの避難所とオフラインになりました」

憧「ふゅっ……あう、え、と――!!」アワワワ

美穂子「落ち着いてください、新子さん。一つ一つ対処していきましょう。あなたが無理だというのなら、久の代理は私が務めますが?」

憧「じょ、冗談……っ!! 久の留守を任されたのは、あんたじゃなくて私なんだから――!!」キッ

美穂子「なら、相応の仕事をしてください」ニコッ

憧「っ……わかってるわよッ!! まず、風紀委員長!! 十五件を軽いのと重いのに分けてくんない!? 基準は頭を強く打ったかどうか、または出血の有無! それ終わったらまた声かけて。よろしくぅ!!」

初美「はいですよー」

憧「泉、時間は掛かってもいいから車を走らせといて! で、船久保先輩! 怪我人の出た避難所とここをビデオで繋げてください!! あとは――百鬼先輩、車の到着まで、応急処置の指示! よろしくぅ!!」

泉・浩子・藍子「はいっ!」

憧「で、あとなんだっけ、オフライン?」

和「はい。恐らくはハード的な問題が発生したのだと思われます。揺れが原因で、向こう側の端末に不具合が出たのかと」

憧「オーライ。じゃ、やり方はあんたに任せるから、十分以内に復旧して。必要なものがあったら言ってくれると」

和「わかりました。とりあえず、該当避難所に誰かを派遣したいです」

憧「泉、聞いてた!? プリーズ、アッシー!!」

泉「よう聞いてへんかったけど、原村のパシリすればええの!?」

憧「そういうこと! あとは二人でどうにかして!!」

泉・和「了解(です)」

憧「風紀委員長、昏倒者のほうはどうなった?」

初美「幸い重傷者はいなかったようですー。末原さんの注意喚起が間に合ったみたいですねー」

憧「上等!」

恭子「新子、ええか?」

憧「はいはい!」

恭子「住民への注意喚起なんやけどな。地震と、頭痛等の確率干渉の余波的なやつの、二つ。今、ゆみと佐々野さんと藤原さんに、要点まとめたもんを音声に録ってもろてる。
 ほんで、完成したら、ループにしてスピーカーに流そうと思てんねんけど、ええかな?」

憧「さっすが恭子! ナイスアイデア! やっちゃってー!!」

哩「憧、報告と」

憧「ほい来た、なに?」

哩「保健委員の配備、完了と。主要な避難所に委員ば配置したけん、今後、軽傷者の対応は現地判断でんよかと思う。
 ばってん、医療機関とのパイプはこっちにあるけん、そこんとこはうまく使い分けんしゃい」

憧「だって、風紀委員長、聞いてた!?」

初美「聞いてたですよー。怪我人・病人対応は風紀委員会と保健委員会で連携して、うまいことやっとくですー。手に余る案件が来たら報告するですねー」

憧「サンキュ。マジ頼むわ!」

久「っと、お待たせ。美穂子、憧はどうだった?」

美穂子「まあまあでした」

憧「ええ!? あんたフォローじゃなくて監視役だったの!?」

美穂子「私が献身するのは久だけです」

久「ふ~ん。じゃ、引き続きここは二人にお願いしようかしら。憧、やれる?」

憧「モ、モチ! やってやるわよッ!!」

久「オーケー。じゃ、私は向こうで渋谷さんの淹れたお茶を飲んでるから、何かあったら呼んで」

憧「ちょおー!? この緊急事態でなに余裕ぶっこいてんの!?」

久「真に有能なトップとは、働かずして結果を出すものなのよ。或いは、組織が十全に機能している状態では、トップは暇を持て余しているもの――とも言うわ」

憧「言わんとしていることはわからないでもないけど……! え、じゃあ、久は働かずに何をするわけ?」

久「責任を取る」

憧「くっそ! 悔しいっ!! 超ときめいた!!」

久「というわけで、頑張ってね。未来の学生議会長さん」

憧「言われなくても……!!」

和・泉「憧、連絡網、復旧しました(たで!)」

憧「っしゃ、ありがと! あんたらがいてよかったわ、泉、和!!」

和・泉「ど、どういたしまして……////」

美穂子(……実際のところ、どうなのでしょう。私には、この混乱が、ほんの序の口に思えて仕方がないのですが)コソッ

久(そうね。さっきから……頭痛もひどくなってきてるし……)ズキ

美穂子(遠慮なくお休みになってください、久。いざという時に、きっと、あなたの《最悪》の力が必要になります。それまでは、私と新子さんでなんとか繋いでみせましょう)

久(それじゃあ、お言葉に甘えて。なにとぞ憧をよろしく頼むわよ。大事な大事な後輩なの。仲良くしてあげてね、美穂子)

美穂子(そうですね……善処はしてみます――)

 ガタガタ

ザワザワ

ガタガタ

ザワザワ

ガタガタ

                   ザワザワ

           ガタガタ

>>292

  ガタガタ

       ザワザワ

            ガタガタ

      ザワザワ

    ガタガタ

                   ザワザワ

           ガタガタ

 ――対局室

 東四局一本場・親:照

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:宮永照(永代・71700)

やえ(あと三和了で《八咫鏡》の《発動条件》が満たされる。《打点上昇》の度合いは、普段の《万華鏡》よりは緩い。
 ま、《通行止め》によってツモが封じられ、且つ、私と弘世から25000点以上奪うことができないのだから、当然そうなるだろうとは思っていたがな)

やえ(無制限に削られる心配がないというのは、ある意味展開の予測が立てやすくて助かる。宮永の《八咫鏡》と花田の《通行止め》が間違いなく衝突するとわかっているのも大きい。
 方や《絶対に48000点を奪う》能力。方や《絶対にトばない》能力。まさに矛と盾じゃないか。
 どちらの《絶対》が勝るのか……肩書きを信じるなら花田だが、宮永は他のレベル5と強度測定をしたことがない。序列はアテにならん。実際のところは、やってみないとわからない――)

 北家:小走やえ(幻奏・80400)

やえ(あとはその時を待つばかり。弘世以外の三人がそれを望んでいる。しかも、うち二人は『想う』だけで結果をコントロールできる点棒操作系能力者。衝突は必然で起こる)

やえ(しかし……それはそれとして、この嫌な感じがどうにかならんものか……)

 カタカタ カタカタ

やえ(微かだが、地面が揺れている。対局室の耐震性能を考慮すると、外では震度2~3程度の揺れが発生していると思われる。それも、止む気配がない。
 前局と前々局に宮永が和了ったとき、どんと大きいのが来ていたが……さすがに偶然では片付けられないよな。
 世界と共振すれば、《世界の力》を手中にすることができるわけで、《世界の力》が別名《地脈》と呼ばれていることを考慮すれば、まあ、任意で地震くらい起こせるのか。ったく、ヒト一人が扱っていいエネルギー量じゃないぞ……)

やえ(加えて、この頭痛……これも原因は花田と宮永にあるんだよな。主に花田……《能力添加》と辻垣内は言っていた。自分だけの現実《パーソナルリアリティ》への干渉――それは、催眠や暗示とも言い換えられる。
 極論、人格をまるっきり別物に塗り替えてしまうことも可能なわけだ。認識、意識、記憶――その辺りにも干渉できるのだろう。
 知らず知らずのうちに、或いは、知っていても抗う術なく、自己を書き換えられてしまうかもしれない。これは……まさに『恐い』の一言だな)

やえ(運命想者《セレナーデ》の旋律が完備ならば――あらゆる能力者の重ね合わせのような存在ならば――花田は感応系能力者にも『なれる』わけだ。
 最強の感応系能力者である《照魔鏡》こと宮永でさえレベル4止まりなんだから、レベル5の感応系能力者なんて、想像したくもないな。
 冗談ではなく、支配領域《テリトリー》が世界全体で、且つ、《絶対》の強度で他人の認識・意識に干渉できる能力者が誕生したら、そいつは神と言って差し支えない存在だろう)

やえ(理論上、花田煌は、世界を閉ざすことで、全人類の思考を《絶対》の名の下に統制することができる。いくらでも他人を思いのままにできるのだ。殺すしかない――と言いたくなるのもよくわかる。
 これについては、対策はない。花田煌の人格を信頼する以外にどうしようもない。ただ、困ったことに、こいつは確かにいいやつではあるはずなんだが……何らかの絶望と孤独を抱えていることも、また確かなんだよな……)

やえ(とは言え、先延ばしにしたところで、問題が解決するわけでもない。思っていた以上に根が深いようだしな。
 憶測でしかないが、この学園都市がレベル6の運命喪者《セレナーデ》を生み出すために作られた街だと仮定すれば、問題の根本は花田煌ではなく、この街の存在そのもの――理事長にあることになる。
 ならば、問題が表面化して、数多くの人間が解決に向けて動いているこの今に、できる限り禍根を取り除くのが、合理的で効率的だろう)

やえ(さて……ぼちぼちか。ふん――この辺りでどうかな、っと)タンッ

照「ロン、5800は6100」パラララ

やえ「はい」チャ

 カタカタ カタカタ

菫(また《幻想殺し》が照の連続和了のアシストか。智葉が殺気立っていた《通行止め》の問題と関係があるのだろう。
 なにやら照が和了るたびに地震が起きているようだし、気のせいか頭が痛くなってきた。一体何がどうなっているのか……)

照(さっきから……和了るたびに地面が揺れる。まるで私のせいみたいだけど、まるっきり濡れ衣ってわけでもないから、言い訳できない……)

やえ(っ……また一段と来たな。対局中に気を失わないようにしなければ――)ズキズキ

煌(《八咫鏡》発動まで……あと二つ、ですか……)パタッ

菫:122200 煌:125700 やえ:74300 照:77800

 ――実況室

恒子「またまた宮永照だあああ!! これで五連続和了!! 《永代》が《幻奏》をまくって三位浮上ですっ!!」

健夜「宮永さんは本当に安手の連荘が上手いですね」

恒子「尖ったコメントありがとうございます! 言われてみると確かに、平均に比べて打点が低い気がしますね。何か理由でもあるのでしょうか?」

健夜「それだけ、相手が手強いということだと思います」

恒子「なるほど! 見た目以上に苦戦しているわけですね!!」

健夜「決勝戦ですから。去年の個人戦決勝でも、宮永さんは荒川さん相手に細かく刻んでいました。それと似たような感じですね」

     照『ロン、6800は7400』

     菫『……はい』

恒子「六連続和了あああああ!! 宮永照が止まりません!! 《シャープシューター》弘世菫から、そのお株を奪うような鮮やかな直撃です!!」

健夜「これは致し方ないですね。恐らく、次も狙われるのは弘世さんだと思います」

恒子「ほほう? トップの《煌星》ではなく?」

健夜「花田さんはかなり守備に偏った打ち方をしますから、点差がある状況で無理に狙っても、かわされてしまう可能性が高い。宮永さんも、その辺りは弁えているようですね」

恒子「ちなみに、《煌星》花田煌は、準決勝で被弾ゼロの十二連続和了という信じられないような成績を残しています!
 この大将戦も、ここまで放銃はありません。どころか、開始時点から点数を減らしていませんね!」

健夜「一年生四人で稼いで、花田さんでシャットアウト――《煌星》は理想の試合展開ができていると思います」

恒子「となると、《煌星》がこのまま逃げ切る可能性が高いということですか?」

健夜「もちろん、他のチームはそれを阻止しようとするはずです。どこかで仕掛けなければならない」

恒子「そこが勝負の分かれ目ということでしょうか?」

健夜「はい。優勝を目指すなら、誰にとっても、避けては通れない道です」

恒子「つまり――その《通行止め》を突破できるか否かが、トップを狙う三チームの明暗を分けるということですね!?」

健夜「逆に、《煌星》にとっては、他の三チームを《通行止め》できるか否かが、運命の分岐点ということです」

恒子「どうやら大将戦は《怪物》転校生VS三年生という構図になっているようです……!! 宮永照の連続和了によって二位以下の点数状況は大きく変わってきましたが、トップ《煌星》はまるで微動だにせず!!
 トップに鎮座するのは学園都市に七人しかいないレベル5の第一位――花田煌!! この《通行止め》を前に他家はどう動いていくのか!!? 対局は東四局三本場に突入です!!」

健夜(……ねえ、こーこちゃん……)コソッ

恒子(えっ? なに? 私、何か変なこと言った?)

健夜(あ、いや……そうじゃなくて……手……)

恒子(て?)

健夜(ちょっと……頭がくらくらして……手……握っててもいいかな……)

恒子(も、もちろんいいけど――)

健夜(ありがと……)ギュ

恒子(……すこやん、本当に、具合悪いなら、休んでもいいんだよ?)

健夜(ごめんね……心配かけて。でも、お願いだから、ここにいさせて。私は……最後まで、こーこちゃんと一緒にいたいの……)

恒子(すこやん……?)

健夜(……こーこちゃん……)

恒子(何……?)

健夜(……前に温泉行こうって話をしたけど……せっかく行くなら、露天風呂がいいよね。あと……海とか山とか、夏の空の下で……思いっきりはしゃぐのもいいよね……)

恒子(う、うん! 私も、すこやんとどっか遊びに行きたいって思ってたんだっ!! 二人で夏休み取って、遊びまくろうよ!!)

健夜(うん……そうだね……きっと楽しいと思うよ――)

恒子(ねっ、すこやん! 約束っ! 大会が終わったら、二人でどっか行こう……!?)ギュ

健夜(…………)

恒子(ど……どうして、何も言ってくれないの、すこやん……?)

健夜(……私には、まだ、果たしてない約束があるの……)

恒子(え……?)

健夜(遠い遠い昔にね……こーこちゃんと交わした約束があるんだ。それを実現するまで、新しい約束はできない……)

恒子(その約束って――)

    —―こーこちゃん……約束するよ。

         ――何千年かかってもいい……いつか必ず、創ってみせる……。

恒子(雨が——降っていた——)

            ——こーこちゃんが普通の女の子として生きていける世界を。

   ——こーこちゃんがどの世界の誰からも危害を加えられない世界を。

       ——こーこちゃんが自由に青空の下ではしゃげる世界を。

恒子(冷たい雨が——)

           ――この命に懸けて……。

恒子(あれ——なんで……私、急に――)ポロポロ

健夜(泣かないで……こーこちゃん。もうちょっとだから。もう少しで……全てが終わるから。それまでは……笑っていて――)スッ

恒子「あ……」フラッ

健夜「…………」フゥ

恒子「」スゥスゥ

健夜「……こーこちゃん。ちょっと、こーこちゃん」ユサユサ

恒子「……ん? あれ!? 私、実況中に寝てた!?」ガバッ

健夜「もう、しっかりしてよ」

恒子「うわっ、恥ずかしい////! なんで起こしてくれなかったの!?」

健夜「えぇ!? 私のせい!?」

恒子「はいっ! というわけで、小鍛治理事長の怠慢により実況が一時中断していましたこと、大変深くお詫び申し上げます!!」

健夜「責任転嫁も甚だしいよ!?」

恒子「責任を嫁に転じると書いて、責任転嫁です!!」

健夜「えっ! 私、こーこちゃんの嫁!?」

恒子「旦那のほうがよかった?」

健夜「う、うん、それはまあそ――違う!! 今問題にしていたのはそこじゃない!!」

恒子「ではではっ! 盛り上がってきたところで、対局の模様を見ていきましょうー!!」

健夜(……こーこちゃん……どうか……いつまでも元気でいてね……)ギュ

 ――《劫初》控え室

 ガタガタ ガタガタ

憩「揺れ……収まりませんねぇ」ギュ

衣「まるで巨大な《怪物》が近くで足踏みしているかのようだな。この世の終わりとはよく言ったものだ」ギュ

エイスリン「ムリムリムリ! ジシンダケハ、ムリ!」ギュー

智葉「……おい、暑苦しいぞ、お前ら」

憩「まったまたー、ガイトさんたらツンデレなんやから~。超ご満悦な顔しとるやないですか~」

智葉「まあ、ウィッシュアートは無論のこと、天江もお前も私のストライクゾーンだからな。このまま死んでも悔いはないくらいには満ち足りている」

憩「きんもーっ!!」

衣「さとははどうにも気が多いようだが、具体的にストライクゾーンとはどの辺なのか?」

エイスリン「イコクフウ、ロリ! ヒクロカミ! ツルペタ! ポニテ! アト、ジブンヨリ、マージャンガツヨイ!」

憩「要するにネリーさんやないですか……」ドンビキヤワー

智葉「『押しに弱い』『受け属性』も大事だな。眼鏡はあってもなくてもイケる。コスプレも大好きだ」

憩「もうガイトさんの前でナース服着るのやめよかな……」ゾワワ

智葉「残念だが、荒川。私に言わせれば、全裸に布を纏った時点でそれは例外なくコスプレだ。着ていれば萌える。着ていなければ燃える。それだけのこと」

衣「さとはが重度の変態であるということがよくわかった」

憩「あ……そういえば、ガイトさんって海外で《千人斬り》って呼ばれてはったそうですね?」

智葉「聞きたいのか? 私の全盛期の武勇伝を」

エイスリン「モウ、シンジャエヨ、オマエ!!」

衣「参考までになんだが、えいすりんは、さとはのどこに惚れたのだ?」

エイスリン「カオ! アト、カラダノ、アイショウ!」

憩「エイさあああああん!! イメージッ!! 自分のイメージ守って発言してくださあああああい!!」

衣「二人にはどこか遠いところで幸せになってもらおう」

 ガタガタ ガタガタ

智葉「ふん……くだらない話で乗り切るには限界があるな……」フゥ

憩「……逆に余計な体力と気力を使ってもーた感がありますね。ホンマどうにかなりませんか……この寒気……」ゾクッ

衣「虚空の暗闇に投げ出されたかのような……絶望と孤独。二回戦で直接あやつと打ったときより、さらに色濃く感じられる……」ビリッ

エイスリン「マジ……ドーナッチマウンダヨ、コレ。スミレハ……ダイジョブナノカ……?」カタカタ

智葉「まぁ……こと精神面に関して言えば、菫は私たちの誰よりも強い。ここはあいつの胆力を信じるしかなかろう……」

憩「むしろ、心配なのはあのツノですよ。花田さんは準決勝で小蒔ちゃんとネリーさんと鶴田さんの心をズタズタにしました。
 あの三人で耐えられへんかったショックに、あのドヘタレが耐えられるわけがありません」

衣「それは……まさに世界の終わりだな。実態はどうあれ、あのナンバー1は衣たちの世界の《頂点》なのだから」

憩「……気に喰わへんなぁ……」

エイスリン「……アト、ヒトツ、ナンダヨナ?」

憩「はい……《八咫鏡》――まだ花田さんが召し上がってへん超能力の発動まで、あと一和了です」

智葉「《幻想殺し》の個人収支がマイナス23000点を超えているから、菫から直撃を取ることになるだろう。
 元々、花田との相乗効果で止めようがなかったが、ことここまで来てしまえば、《万華鏡》の強度はレベル4の中でも最上級……菫がどれだけ抵抗しようと、まもなくその時が来る」

エイスリン「ミテルコト、シカ、デキネーノガ、ツライゼ……」

衣「信じて祈るしかあるまい。戦ってもいない衣たちが負けを認めてしまえば、それこそ、取り返しがつかないことになる」

憩「菫さん――」

 ガタガタ ガタガタ

 ――《永代》控え室

 ガタガタ ガタガタ

穏乃「寄らば大樹の陰という諺がありますが」

純「おい、穏乃。お前、それでこの状況を正当化できると思ってんのか?」

塞「井上、あんた、ふとももが硬いわよ! 筋肉質過ぎ! 気持ちよくもなんともないわ!」

純「団子捻り潰すぞこの野郎……」

まこ「穏乃に肩車、塞に膝枕か。上も下も大変じゃのう、純」

純「そう思うならどっちか引き取ってくれ」

まこ「わしにはそんな甲斐性はないわ。ま、穏乃の言う通り、寄らば大樹ってもんじゃろ。大丈夫、わしゃ大人しく座っちょるけえ、純は二人の面倒を見とればええ」

純「チッ……しゃーねえなァ」

まこ「頼もしいのう」

純「っつーか、もうこうなっちまったら、二人も三人も変わりゃしねえよな」スッ

まこ「純……?」

純「おら、まこ、遠慮すんなよ」グイッ

まこ「なにす――っ/////!?」ボフッ

純「オレたちは二人で一つだろ。今更恥ずかしがってんじゃねえよ」グッ

まこ「バッ……この、男女が……っ/////!!」カー

穏乃「腕力にものを言わせてまこさんを抱き寄せる純さん、男前です!!」

塞「やっば……私が女だったら惚れてるわ」

純「ダチならこんくらいフツーだろ。なァ、まこ?」

まこ「ほほほほ……ほうじゃのっ/////!!」

穏乃「……しかし、いよいよ、本格的にマズいことになってきましたね」

塞「この寒気……花田と対局したときにあんたが言ってた、黒い影みたいなものってやつなの……?」

穏乃「はい……そういうことです。皆さん、先ほどから、震えが止まらないかと思いますが――」

純「オレらどころか、世界そのものまで震えてるけどな……」

穏乃「端的に言えば……この現象は、花田さんの想いが世界と共振することで起こっています……」

まこ「世界っちゅうのは……つまり、この星と……わしらヒトを含めて全部、っちゅうことでええんか?」

穏乃「そういうことですね。言い方を変えれば、私たちは今……花田さんの想いに共感して、花田さんの想いを共有しているんです」

塞「ん……ねえ、高鴨、それ、つまり、この震えって花田の――」

穏乃「ええ、そうです。今私たちが感じている、この……言いようのない寒気……絶望……孤独――これらは全て、花田さんの抱えている想いの断片なんです……」

純「これが……あいつの抱えている闇の一部だっつーのか……?」

穏乃「はい」

まこ「そりゃあなんちゅうか……やるせないのう……」

穏乃「そうなんです……もっと、早くに、どうにかできていれば、こんな……ここまでひどい状態にはならなかったはずなのに……」

塞「……どうかしらね。どっちみち――って感じがするわ、私は……」

純「……なあ、花田煌は今……一体何をやってんだ……?」

穏乃「私のすごパと原理は似ています。自身と他者と世界の三つを繋ぐ力……私の場合は最終的に世界の力に主導権を委ねる形になりますが、花田さんの場合は、他者と世界を自身に引き寄せるようです。
 私が混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》を展開するのに対し、花田さんは、花田さんの自分だけの現実《パーソナルリアリティ》の拡張をするわけですね。
 これを突き詰めていくと、いずれは世界全体が花田さんの支配領域《テリトリー》になります」

塞「イカれてる……」

穏乃「その言い方はあんまりですよ。そもそも、花田さんの想いが、全てのヒトが共感し得る完備性を有しているゆえに、こうなっているわけですから。つまり、これは一種の《信仰》なんです。
 意識的・無意識的に、こうして共振している私たちは、例外なく、花田さんの思想の支持者になっているってことです。狂っているとか、おかしいだとか、何が悪い、誰が悪いという次元の話ではありません。
 花田さんの抱えている闇は……私たちみんなの心にあるものなんです。だからこそ普遍的で……強い……」

塞「……悪い、失言だったわ」

純「なあ……穏乃。それで、オレたちは、どうすりゃいいんだ……?」

穏乃「照さんを信じましょう。まだ、全てが終わったわけではありません。照さんの《絶対》が花田さんの《絶対》を打ち破れば……この暴走を止めることができるはずです」

まこ「打ち破れなかったら……?」

穏乃「……受け入れるしかないでしょう。新しい世界の在り方を。私たちが望むと望まざるとに拘わらず、閉ざされた状態が世界の『普通』で『標準』になります。
 というか……私たちが認識していないだけで、過去にそういうことが『なかった』という保証は、どこにもないわけですしね……」

塞「……《八咫鏡》発動まで、あと一和了ね」

穏乃「ほぼ間違いなく、《発動条件》は達成されると思います」

純「頼むぜ……照……」

まこ「声は届かんが……わしらはみんなわれを応援しちょるけえの」

塞「宮永――」

 ガタガタ ガタガタ

 ――《幻奏》控え室

 ガタガタ ガタガタ

誠子「あのー……皆さん?」

ネリー「まあまあ、せいこ! 三副露(物理)だと思って!」ギュ

優希「困ったときの誠子先輩だじぇ!」ギュ

セーラ「いや~、さすが元一軍《レギュラー》は抱き心地がちゃうな~」ギュ

誠子「ネリーさんと優希はいいですけど……江口先輩の振る舞いが甚だしく意外ですね」

セーラ「アホッ! 俺の中身は超乙女やで! やえとか洋榎とか竜華の手前ではカッコつけとるけど、ぶっちゃけ《西方四獣》の中では俺が一番乙女度が高い!!」

誠子「乙女は『餓えた《狼士》』とか『獰々たる我』なんて通り名で呼ばれませんよ……」

セーラ「俺が広めた名前ちゃうもんそれ!! 俺かてホンマは『姫』とか『妃』のほうがよかったんやもん!!」

誠子「でもスカートは嫌なんですよね?」

セーラ「当たり前やん、こんなヒラヒラ! はしたない! 破廉恥や!」

誠子「花も恥らってますねぇ……」

ネリー「っていうか、せいこはよく平気だね?」

誠子「別に平気ではないですけど……初めて冷えた透華と打ったときとか、初めて十割宮永先輩と打ったときとか、初めて十割ネリーさんを見たときとか……私の人生、恐怖体験には事欠かないので」

優希「なんだかちょっと可哀想だじぇ!」

誠子「なんて言えばいいんですかね……この寒気は、『知っている』んです。慣れている――とまではいかないですけど。
 実際、ネリーさんと優希と出会ったとき……《虎姫》が解散した日は……ちょうどこんな感覚でした」

セーラ「……絶望と、孤独か」

誠子「はい……なので、これは、私の個人的な意見なんですが――」

優希「なんだじぇ?」

誠子「ネリーさん曰く、今私たちが感じているこの絶望や孤独は……花田さんの想いの断片だそうですけど」

ネリー「うん。そうだね」

誠子「こんなことを言うのは花田さんに失礼だと思うんですが……花田さんの想いの根源にあるのは……『弱さ』なんだと思います。
 だから……弱い私には……花田さんの気持ちがわかるというか、受け入れやすいというか」

セーラ「ほほぅ……」

誠子「自分の弱さに絶望することなんて……しょっちゅうですよ。《虎姫》の解散だって、私に力があれば、止められたかもしれない。けど、無力な私には……何もできなかった。
 強くあろうと努力はしているつもりです。強くなりたいとも思っています。それでも……現実、私は宮永先輩や弘世先輩には遠く及びません。私は弱いんです。
 弱いから……大切な人が自分から離れて行ってしまったときに……黙って見ていることしかできない。
 花田さんも、きっと、自分の無力さを呪ったことがあるんだと思います。これは……その当然の帰結だと、思うんですよね。だから、恐いですけど……理解できないわけではない。むしろよくわかります……」

ネリー・優希・セーラ「ふむ……」

誠子「こんなことを言うと怒られそうですが、皆さんは、強い側の人間――『一人で前に進める』側の人間ですから、ピンと来ないかもしれません。
 ですが、弱い側の人間――『立ち止まってしまう』側の人間からすれば、こういう絶望と孤独に襲われることは……そんなに珍しいことではないんです」

セーラ「ちなみに……誠子の独断と偏見でええんやけど、その――弱い側の人間とかいうのは、例えば、この決勝で言うと誰なん?」

誠子「私と……あとは、染谷さんも、きっとそうだと思います」

ネリー「《煌星》にはいる?」

誠子「森垣さんがひょっとすると……くらいですかね。まあ、私は、対局中にレベルアップする彼女を弱いとは思いませんが」

優希「それじゃあ、花田先輩は――」

誠子「この想いをずっと一人で抱え続けてきたんじゃないかな。ただでさえ、花田さんはチームで唯一の二年生なわけだし、とても責任感のある人だから。
 私みたいに……弱さをさらけ出すことは、あんまりしなかったんだと思う……」

優希「……なんて言ったらいいかわかんないじょ……」

セーラ「まぁ……多かれ少なかれ、人にはそういう部分があるやんな」

ネリー「『弱さ』――それがきらめの完備性の正体……なのかな」

誠子「……そうですね……それも、もっと……私たちの根源に関わるような『弱さ』じゃないかと……」

 ガタガタ ガタガタ

 ――《煌星》控え室

 ガタガタ ガタガタ

咲「ね、ねえ……淡ちゃん……?」ギュ

淡「なに、サッキー?」ギュ

咲「その、ちょっとだけ……一回だけでいいからさ……」

淡「なにかな?」

咲「……抱かせて?」

淡「ダメ!」

咲「はうぅぅぅ……」シュン

友香「咲、あんまり我儘言うなら、私と場所交代でー」ギュ

咲「わ、わかってるけどぉ……」カタカタ

桃子「嶺上さんは堪え性がないっすね。手は繋いでるんだからいいじゃないっすか。しかも、両手に星状態で。
 端っこの私と超新星さんが耐えてるんだから、嶺上さんも根性見せてくださいっす」ギュ

咲「私にお見せできるような根性があると思うの……?」

 ガタガタ ガタガタ

咲「む……無理ぃぃぃ……」ウルウル

淡「泣き言やめて、サッキー。もう一生ほっぺたぷにぷにさせてあげないよ」

咲「淡ちゃんのイジワル……っ! バカ!」

友香「まぁ……咲の気持ちはよくわかるけども」

桃子「でも、これがケジメなんっすよね?」

淡「うん。みんな……今、すっごい震えてると思うけど」

咲「空前絶後のカタカタだよ……」カタカタ

淡「大将戦に行く前のキラメも……同じくらい震えていたんだ」

咲「っ…………」ギュ

淡「細かいことはよくわからないけど、私は、これはキラメからのSOSだと思うの」

友香「…………」ギュ

淡「キラメは……きっと、ずっと寂しくて、悲しくて、苦しかったんだ。それを、私たちを不安にさせないようにって、黙ってた。私たちがもっと強ければ……話してくれたかもしれない――とても大事なことを……」

桃子「…………」ギュ

淡「私は、これは、キラメがずっと言いたくて言えなかったことなんだと思う。だから、目を背けずに、耳を塞がずに、みんなでキラメの想いのたけを聞こう。ちゃんと、キラメの本音と向かい合おう。
 もちろん……私も、恐いよ。けど……それがどうしたっていうのさ。キラメは、ずっと一人で、これと戦ってたんだ。
 今、ここで私たちが逃げてしまったら、キラメはまた一人ぼっちになっちゃう。それだけは……やっちゃいけないことだ」

咲「……わかった。煌さんのためなら、私、根性絞り出す……」

友香「よく言ったでー、咲」

桃子「宣言したからには、実行してくださいっすよ……? たぶん、そろそろ来るっす――」

咲「っ……お姉ちゃん――」

     照『ロン、7700は8600』

     菫『はい……』

淡・咲・友香・桃子「っ……!!!?」ゾワッ

     照『』ギギギギギギギギギギギギギギギギギ

淡「《八咫鏡》……!! どうなの、サッキー、これ、どんくらい強いの!?」ビリビリ

咲「これを打ち破れる生き物なんてこの世に存在しないと思ってたよ……!! 煌さんと出会うまではね!!」ゾゾッ

友香「《神の領域の能力者》同士のぶつかり合いってことでー……ッ!!」

桃子「っていうか! このギギギもヤバいっすけど、なんかもう一つヤバい音が鳴ってるような――」

 ドドドドドドドドドドドドドドド

淡「……っ!? み、みんな!! 一旦フォーメーションKは解除!! 窓の近くと倒れそうなものの近くに行っちゃダメ!! 超デカいのが来るよ!!」

桃子「私、ドア開けて廊下に出るっす!!」ダッ

咲「私、机の下にもぐる!!」ダッ

友香「ティーセットはもうしまったから――私はベンチの下に潜るんでー!!」ダッ

淡「よし、じゃあ、私は……!!」

咲「なに突っ立ってんの、淡ちゃん!! 机の下!! 私の隣が空いてるでしょ!!」

淡「これがキラメの想いなら――」

 ドドドドドドドドドドドドドドド

淡「私は全力で受け止めるッ!!!」ババーン

咲・友香・桃子「ちょ――」

 ドォォォォォォォォォォォン

 ――試合会場

 ドドドドドドドドドドドドドドド

久「落ち着いて!! 各自速やかに決めておいた場所へッ!!」

 バタバタ バタバタ

憧「ひ、久も早くこっちに!!」バッ

美穂子「新子さん! 久の指示に従いなさいっ!!」ガシッ

憧「ちょ――」

久「ごめんなさいね、憧! そこは私が入るには狭すぎるわ! だって豊穣の女神がいるんだもの!!」

美穂子「久/////」ポッ

憧「あんたバカァ!? こんなときまで色ボケしてんじゃないわよ!?」

久「限りあるスペースは有効に使いましょうって話よ! 大丈夫、私は《最悪》らしく、《災厄》と添い遂げることにするからっ!!」ダッ

憧「は――」

初美「ちょおお!? ぎゃー!? おいコラ竹井ィ!! 入ってくんなですー!! ここには一人分のスペースしかないですよー!!」ゲシゲシ

久「こうすればギリ収まるでしょ!!」ギュー

初美「ふっざけんなですー!!」ジタバタ

憧「意味わかんない……!!」

美穂子「薄墨さんと一緒なら、久は霞さん一人を敵に回すことになります。薄墨さん以外の女の子と一緒なら、久とその女の子は、学園都市全体を敵に回すことになります。
 両者を天秤に掛けて、久は前者を選んだんでしょうね」

憧「久の存在が面倒くせー!!」

美穂子「まったく残念です。私を選んでくれれば、敵などいくら湧こうと一人残らず抹殺してあげたんですが……」

憧「あんたも大概狂ってるわね!?」

美穂子「しかし……さすがは《悪待ち》の久ということでしょうか。霞さん一人を敵に回すくらいなら、学園都市全体を敵に回したほうが、遥かに苦しみが少なかったというのに」

憧「え――?」ゾワッ

霞(ふふっ。竹井さん……この騒動が終わったら、あなたには未だかつてこの世の生物が体験したことのない地獄の苦しみを味わってもらうわよ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔「霞ちゃん!? なぜ今『恐ろしいもの』を降ろそうとしているんですか!?」

 ドドドドドドドドドドドドドドド

久「っ――!! みんな、来るわよッ!!!」

 ドォォォォォォォォォォォン

久「きゃあっ!?」ゴロッ

初美「おま――竹井!! 抱くならちゃんと抱いとけですー!!」バッ

久「ごめ――」ハッ

初美「おいっ! 何やってるですかー!? 早く掴まれですよー!!!」

久「……その必要はないかも」

初美「は――?」

久「揺れが……止まった……?」

 シーン

憧「久――」

久「ストップ!! みんなそのまま!! まだ何があるかわからないわッ!!」

 ザワ ザワ

久(どういうこと……? 震度7級の地震が起こったはずよね? 確かに一度大きく揺れた。なのに、その残振すらなくぴたりと揺れが止まった。大きいのが来る前からの揺れも収まってる。
 ありえないわ……膨大なエネルギーが震動として開放されたのに、それが一瞬でどこへともなく消えるなんて……否、物理的に言って、エネルギーは保存するはず。決して消失はしない。形態を変化させて、必ずどこかに……まさか――)ハッ

久「シロ! 対局室の様子は!?」

白望「……え……っと……」

久「どうしたの!?」

白望「ごめん……これは――自分の目で見たほうがいいと思う……」スッ

久「は……なに……これ――」ゾワッ

 ――対局室

 東四局四本場・親:照

菫(なんだ……アレは……)ゾクッ

 バチバチッ

照(プラズマ――)ビリッ

 バチバチッ

やえ(…………オーケー。こういうときこそクールにいこう。卓の上空にプラズマが発生したからなんだと言うのだ。
 仮に、あそこに渦巻いているエネルギーが解放されたとしても、核実験にも耐えられるこの対局室なら、外への被害は最小限に抑えられる。問題があるとすれば、私たちの肉体が跡形も無く消し飛ぶことくらいだ)

 バチバチッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:花田煌(煌星・125700)

やえ(先ほどの大きな揺れが不自然にぴたりと止まったところから察するに、その時開放されるはずだったエネルギーがあそこに収束したということだろう。《世界の力》の形態が震動から光熱へと変化したんだな。
 そして……ゆくゆくは、あのエネルギーが確率干渉力としてこの卓上に降りてくるわけだ。なんのことはない。用いられる確率干渉力の桁が違うだけで、これは普通の麻雀だ)

 北家:小走やえ(幻奏・74300)

やえ(麻雀なら……何も恐れることなどない。今親で連荘をしているのが、どこの誰だと心得る。全てにおいて最高の雀士。人類史上ただ一人しかいない最高階級《ランクS》の超能力者《レベル5》。科学世界の《超天》だぞ。
 懐かしいな。この規模のプラズマを見るのは人生で二度目。今回は止めたりしない。遠慮は要らん。見せてやれよ、宮永照。
 学園都市のナンバー1――大観なる《大人》にして天照らす《大神》――かつてとある研究所を丸々一つ灰にしかけたお前の……本気の《神の領域の力》をな――!!)

照(それじゃあ……天岩戸開きといこうか……)ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ

 東家:宮永照(永代・93800)

やえ(おい、弘世。わかっていると思うが、間違っても矢など飛ばすなよ。わりとマジで死ぬからな)

菫(そのようだな……。いや、まあ、さすがの私もここに割って入るほど命知らずではないさ――)ゴクリッ

 南家:弘世菫(劫初・106200)

照「……サイコロ……回すね……」ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ

やえ(宮永と花田の能力は、論理的に完全な矛と盾。理屈では決着がつかない。ならば、あとはレベル5同士の《絶対》のせめぎ合い――《リジェクト効果》による殴り合いで全てが決まることになる。
 ネリー曰く、点棒操作系能力である《八咫鏡》は天和すら可能にするそうだからな。配牌を手に取るところから確率干渉が行われるわけだ。衝突は、賽の目が出たその瞬間に起こるだろう。果たして――)

菫(出目は――ピンゾロか……!!)

照(花田さん……お覚悟ッ!!!!)ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ







































煌(いやはや――さすがにこれはちょっとマズいかもですね……)ビリッ

照「」ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ

煌(《思い出が集まる》。《実りを収穫する》。《約束を守る》。《未来を創る》。《世界の力と同化する》。《絶対》にも色々な形がありましたが、基本的に、能力同士の衝突が起こるのは、ごくごく狭い領域でのことでした。
 《トばない》範囲でなら、ドラを集めたり、オーラスで特定の牌を回収したり、和了りを引き継いだり、未来を見たり、世界の力を利用したりしていただいて、まったく差し支えなかったですし、その想いまで排除するつもりはありませんでした)

煌(しかし、この《八咫鏡》だけは、そうではない。なにせ、《自分の点棒を守る》と《他人の点棒を奪う》ですからね。これが矛盾でなくてなんでしょう。
 覚悟はしていましたが、まったく話し合いの余地がありません。どちらかがどちらかを完全否定《リジェクト》する以外に、決着のつけようがない……)

煌(準決勝のオーラスでは、神代さんの力量を見誤ったばかりに、徒に人の想いを踏みにじってしまいました。
 すばらくない。大変すばらくないです。できることなら、誰も傷つけずに終わらせたかったのですが……しかし、こうなってしまっては、致し方ありません。手心を加えられるのはここまでです)ゴ

照(ん――)ビリッ

煌(こういうやり方はあまり好みではないんですけれどね。私は《絶対》に負けるわけにはいかない。大変申し訳ありませんが……ここは力押しさせていただきます――)ゴゴゴ

照(え……?)ゾワッ

煌(これでもまだ想いが足りないというのなら……もっと掻き集めるだけです……)ゴゴゴゴゴゴ

照(そ……んな――)

やえ(おいっ! どうした、宮永!?)

菫(照……!?)

煌(世界中に溢れる想いを……この卓上に注ぎ込みましょう。強く、重く……神にも悪魔にも侵されないように、圧縮…………圧縮…………想いを圧縮――――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(こんな、闇が……)カタカタ

煌(宮永さん……ここから先は《通行止め》――侵入は禁止です。お願いです……これ以上は本当に危険ですから……這入ってこないでください……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(っ……!! これ以上は……また鏡が割られる……!! けど――私がここで呑まれたら、誰がこの闇を照らすのか……!? ここだけは譲れない……《絶対》にッ!!)ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ

煌(くっ……本気《すばら》には――本気《すばら》で返さねばなりませんか……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(花田煌……なんだ……その『黒い』のは……? 大星の溢れさせる暗黒物質とも近いような気がするが……あいつのとは違い……その中に一片の光も見出せない……)ゾクッ

やえ(大星はクセのあるロング……暗黒物質が放射状に広がっていたが……ビッグテールの花田だと――左右に細長く広がって――まるで『黒い』翼のようだな……)

煌(あぁ……やはりこうなってしまいましたか。ここまで来てしまっては……もう後戻りできませんね――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(点棒を奪われたくない。振り込みたくない。トびたくない。どんな人でも、多かれ少なかれ、想っていることです。人は失うことをひどく恐れる生き物ですからね)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(誰だって、何かを奪われるのは嫌でしょう。傷つくのは嫌でしょう。それによって、苦しんだり、悲しんだり、したくないでしょう。
 そんな……ごくごくありふれた想いを……私は力に換えることができる――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(う…■……くっ…■■…光■…■……■■)



          ――残念ですが



菫(花■の黒■何■が■…みる■る■大に…■■…)



                        ――ここから先は



やえ(まず■…■■考が……意識■闇に呑■■始■た■■)



      ――《通行止め》です。



煌(ごめ■なさ■■…淡■■。■別れ■時が来た■うで■■…)



             ――侵入は許可されていません。



照(花■さ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■ロン■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■3800■■■■■■■■■■■■
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 ――学園都市・某所

 ドドドドドドドドドドドドドドド

郁乃「あ~……この感じ~。一千年振りやな~」ビリッ

晴絵「なんですかこれ……頭がどうかしてしまいそうです……」ズキズキ

咏「指の先からちょっとずつ齧り取られていくような最低の感覚っすね……」ズキズキ

郁乃「ごめんな~? 一応結界的なものは張っとるんやけど~、そのせいで~、侵食の速度が落ちて~、丸呑みやなくて嬲り殺しみたいな感じになってもうてるんよ~。
 でも~、今意識飛ばれると~、お喋りできなくなってまうから~」

晴絵「小鍛治さんのこと……」ズキズキ

咏「ぶっちゃけそれどころじゃないような気もしますけどねぃ……」ズキズキ

郁乃「ま~、確かに今更感はあるな~。やってあの子もうこの世界から消えてもうたわけやし~」

晴絵「は――?」

咏「消えるって……そんな幽霊じゃあるまいし……」

郁乃「幽霊なんよ~。亡霊なんよ~。やから~、こうして本懐を遂げた以上~、すこやんちゃんが現世に留まる理由はあらへんっちゅ〜か~。むしろ本懐を遂げてまうと消えざるをえないっちゅ~か~」

晴絵「……話を……聞かせてください……」

郁乃「もちろん~。そのためにこうしてお茶しとるわけやからね~」

咏「よろしく……お願いします……」

郁乃「は~い〜。それじゃあ始めましょか~。神話でも都市伝説でもなく~、ほんのつい一千年前に実際にあったこと~。
 世界で最初の魔術師~。甘美にして完備なる旋律を奏でた原点にして源泉〜――戦慄の小夜曲《セレナーデ》と呼ばれた女の子の話を〜」

 ――試合会場

和(っ……一体……今の眩暈はなんだったのでしょうか――)ズキズキ

和(史上空前のオカルト気配を感じ……咄嗟にSOAしてみましたが……いやはや、こんな偶然があるものなんですね……)

 シーン

和(皆さん一様に気を失っている……起きているのは私だけでしょうか。とりあえず――)ギュ

怜「」

和(……心臓は動いていますね。呼吸もしています。目立った外傷もない。いや、怜さんは人より身体が頑丈なのでサンプルとしては不適切ですかね。一通り見回っていきましょう……)タッ

 タッタッタッ

和(ふむ……ひとまず、皆さん命に別状はないようで何よりです。さて、そうとわかれば、この甚だしく偶然極まりない状況を是正しなければなりませんね。まずは――)

久「」

和「会長、会長。起きてください」ユサユサ

久「っ……や……みが……」ウウウ

和「SOAッ!!」パァン

久「――!?」ハッ

和「ふぅ……よかった。気が付きましたか」ホッ

久「のど……っつ――っ! なにこれ……!? ほっぺたがすごく痛いわ!!」ヒリヒリ

和「すいません。なにやらオカルトにうなされていたので、つい力いっぱい引っ叩いてしまいました」

久「さすが薄墨の後継者ね……まぁ、おかげで目が覚めたけれど」

和「おはようございます、会長」

久「……状況を説明してくれるかしら……?」

和「見ての通り、皆さん気を失っているようです。ひとまず、命の危機がないことは、先ほど確かめました」

久「ありがと……。えっと、いつからこの状態……?」

和「花田先輩が咲さんのお姉さんから直撃を取ったくらいからですかね。急に眩暈に襲われました。どうやら意識が飛んでいたらしく、目を開けたらこの状態になっていました」

久「……っ! そうよ、対局はどうなったの――?」

和「む……そういえば、なぜかモニターの類が全て消えていますね。起動してみます」

久「お願いするわ……」

和「ふー……」ピピピッ

久「……和は、大丈夫なの?」

和「大丈夫、と言いますと?」ピピピッ

久「頭、痛かったりしない? 寒気がしたり……ひどく寂しかったり――」

和「私はそれなりに健康体です。また、この試合会場の空調の設定温度は適切です。それに……今は、多くの友人が――気を失ってますけど――この場にいます。会長が仰るような状態になる理由がありません。
 もし、仮に、そんなような感じがしたとしても、それは単なる気のせい――取るに足らないことです」ピピピッ

久「まったく……堅いわね、あなた。少しは自分を騙しなさいよ、和」ナデナデ

和「なんのことやら――と、映りました」ピコンッ

久「対局は……続いているのね。南一局――弘世菫の親番。積み棒はなし」

和「この状態になってから、さほど時間は経っていないようですね。……む?」

久「どうかした?」

和「いえ、こちらのウィンドウ――実況室を映したものなのですが……理事長秘書の福与さん――彼女が突っ伏している原因にはひとまず触れないでおくとして――の、隣なんですが……」

久「何か気になることがあるの?」

和「気になることが『ある』というか、『いない』というか」

久「いない――」ハッ

和「さっきまで解説者の席に座っていたはずの理事長の姿が、画面内に見えないんですよね。福与さんが倒れて……誰かを呼びに行ったのでしょうか」

久「……そうなるのかしらね……」

和「だとしたら、少々不自然ですね。福与さんを起こそうとした形跡がありません。
 私が安否を確認したこの場の方々を見ていただければわかりますが、気絶して突っ伏している人がいたら、普通は上体を起こして仰向けにします。というか、この状態なら、まず不安定な椅子から降ろします」

久「つまり、どういうことだと言いたいの?」

和「……それを断じるには、今は情報が足りません」

久「……オーケー。ひとまず、福与さんと理事長の件は後にしましょう。今は、この集団昏倒のほうを先に片付けないとね。学園都市中がこの状態だとすれば、時間が経てば経つほど困ったことになるわ」

和「はい。私も、その優先順位に異論はありません」

久「じゃ、手分けして皆を起こしましょう。まずは、最初にいたメンバーから。和はそっち、私はこっちね!」タッ

和「承知いたしました」タッ

 ――《煌星》控え室

 ピピピ ピピピ

淡「は――!?」ガバッ

淡「み、みんな起きてっ!!」ゴッ

咲「む――」ピクッ

桃子・友香「っ……!?」ゾワッ

淡「大丈夫!? 生きてる!?」アワワワ

咲「なんとか……」ズキズキ

友香「私は大丈夫だけど――はっ!? 大変でー!! なんか桃子の気配が幽霊みたいに薄いような気がするっ!!」ゾクッ

桃子「元からっす!!」ユラッ

淡「よかった……大丈夫みたいだね……」

 ピピピ ピピピ

桃子「対局はどうなったっすか……?」

友香「南一局……煌先輩が宮永先輩から直撃を取ったあの瞬間から――十分も経ってないみたいでー」

咲「お姉ちゃん……そっか。本気のお姉ちゃんでも無理だったんだ……」

淡「キラメが勝った――ってことでいいんだよね……?」

 ピピピ ピピピ

桃子「あの、さっきからピピピが気になるっすけど、誰っすか?」

友香「私じゃないんでー」

咲「淡ちゃん、鳴ってるの淡ちゃんのだよ」

淡「えっ!? もー、誰!! こんなときに――」ピッ

咲「なに? 誰から?」

淡「メール…………キラメから」

桃子「えっ? きらめ先輩は今対局室にいるんだから、電子学生手帳は持ってないはずじゃ――」

淡「予約送信されてる。今日の朝に送ったメールが、今届くように設定されてたみたい」

友香「……内容は……?」

淡「件名は『皆さんへ』――本文は……『このメールが届く頃――私は私でなくなっているかもしれません』……って」

咲「ど、どういうこと!?」

桃子「続きは!?」

淡「本文はここまで。代わりに、映像データが添付されてる……」

友香「ビデオレター……ってことでー?」

咲「淡ちゃん、早く開いて!!」

淡「わ、わかってるよ!!」ピピピッ

桃子「さ、再生したら、机の上に置いてくださいっす……!!」

淡「う、うん……よし、ダウンロード完了。じゃあ、行くよ――」コトッ

咲・桃子・友香「っ……」ゴクリッ

煌『あー、あー。皆さん、おはようございます。と……こんばんは――のほうがいいですかね』

淡(個室に雀卓——寮の対局室だよね。そっか……朝出てったの、これのためだったのか……)

煌『この映像を皆さんが見ている今……私はどうなっているでしょうか? いつも通りでしょうか? それとも、《怪物》と化してしまっているでしょうか?
 何分、文献を読んでも不確かなことが多く、予想がつきません。
 しかし、万が一ということもあります。こんな形でお伝えすることになって、大変恐縮なのですが……皆さんに、聞いてほしい話があるのです』

煌『私の能力――《通行止め》について、聞いていただきたいのです』

煌『えっと……何から話していいものやら。まだうまく整理できていないので、順序がごちゃごちゃしてしまうかもしれません。ご了承ください』

煌『まずは……とても大事な、パーソナルなところから……』

煌『能力は能力者の根幹を成す論理――私の根幹にある想いについてです』

煌『この話をするとなれば、避けて通れないのが、私の……母の話です』

煌『ところで、私はこれから、母のことを彼女の名前で呼びます。少し不自然に感じるかもしれませんが、母がそう呼べと言ったことなので、私にとってはこれが自然なのです』

煌『母の名は――そう……淡さんに、字面が少し、似ています』

煌『あ、いえ……実は、字面だけでなく、見た目も淡さんそっくりなんです。面影を重ねていたことは……否定しません。
 でも、どうかお気を悪くされないでください。私にとっては、母も淡さんも、どちらもそれぞれに魅力的で、同じくらい大切な人なんです』

煌『っと……すいません。名前の話でしたね。私の母の名は、漢字一文字。潤沢の『潤』と書きます』

煌『幼い頃から、よく『ジュン』と読み間違えられたそうです。正しくは、音読みではなく、訓読みなんですね。
 由来は、母の目を見れば一発でわかります。満遍なく父似の私の中で……唯一、母から受け継いだこの両目と同じ――キラキラと潤んだ瞳』

煌『私の母は……花田潤《ウルミ》――旧姓を、諸星と言います』

淡(諸星……ウルミ――)ドクンッ

煌『さて……それでは、潤さんの話をしたいと思います。私の母――今は夜空の星となった……私の大好きな人の話を――』

ご覧いただきありがとうございます。

しばし、休憩します。

乙です
ここで遊星か

乙です

乙です。

おつです

照…

乙やで。

《獅王》《王道》を見聞した無能力者
か。
やえさんカッコイイ!

乙乙です
諸星ウルミぐぐったがなるほどそう来たか


まだや照はまだ頑張れるはずや

 ――学園都市・某所

郁乃「ま〜、呼び方・称号は色々あるんやけど〜、ここでは『すこやんちゃん』に統一しよか〜。すこやんちゃんはな〜、すごいんやで~。
 《聖人》〜――ランクSっちゅ~んはもっと以前からチラホラおってんねんけど~、その確率干渉力を《魔術》という普遍的な論理の型に嵌めて使うたのは~、人間やとすこやんちゃんが初めてやったんよ~。
 この《魔術》〜、ごっつい発明でな~。そこまで確率干渉力がない人でも〜、論理の力を借りると意識の波動を高密度の波束に集約することができて~、古典確率論を超えられるんやで~。便利~。
 魔術が広まる前はな~、ごくごく一部の選ばれた人間やないと古典確率論を抜け出すことができなかったんよ~。それこそ〜、平均して一時代に数十人しかおらん《聖人》だけやってん~。それも今よりずっと不安定な形でな~」

郁乃「すこやんちゃんはその根幹に完備なる論理を構築しとったからな~、その旋律が世界と共振して~、そこからあらゆる魔術が派生してん~。
 この辺りを詳しく知りたければ《法の書》をご参照なんやけど~、あ~、ごめん~、あれ今は《禁書》やったわ~」

郁乃「っちゅ~わけで~、すこやんちゃんの登場で魔術世界は急速な進歩を遂げてな~。せやけど~、困ったことが二つあってん~。
 一つは~、すこやんちゃんが強過ぎたこと~。もう一つは~、運命論の基本理念とすこやんちゃんの存在が相容れなかったこと~」

郁乃「まず~、すこやんちゃんの強さなんやけど~、これがヤバ~い〜。ホンマヤバ~い〜。超ヤバ~い〜。
 《点棒の流れのベクトルを操作する》点棒操作系の大能力者《レベル4》で支配者《ランクS》~。一言で言えば~、ヤバ~い〜」

郁乃「ほんで~、運命論っちゅ~んは唯一神の理論で~、人や世界は~、神様の手の平の上にあるっちゅ~考えでな~、《神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの》っちゅ〜、神様みたいな人間の存在は~、かな~り問題になったわけなんよ~」

郁乃「すこやんちゃんは強いけど~、人やから神様やない~。せやけど~、すこやんちゃんは現に生涯無敗やったし~。あろうことか~、卓上外~、自分がおらへん対局の点棒の流れすら~、支配領域《テリトリー》にしとったんやな~。
 すこやんちゃんはなんたって完備なる点棒操作系で~、あらゆる魔術師・能力者の生みの親やから~、世界の全てがすこやんちゃんの支配領域《テリトリー》になったんは必然なんやけど~、これが運命論者には受け入れられへんかったわけや~。あの子たちの言う神様はすこやんちゃんやないからな~」

郁乃「あとはも~、衝突するしかないやんな~。どこで誰がどんな麻雀を打とうと~、その点棒の流れには~、常に何らかの形ですこやんちゃんの影が付き纏う~。
 ちょうど今~、花田ちゃんがそうなっとるようにな~。あの子たちの想いは~、場合によってはこっちの意識にまで這入ってくるし~。
 これをどうにかするには~、すこやんちゃんの存在を抹消するしかあらへんかったのよ~。いわば宗教的な対立やね~。運命論と~、すこやんちゃん教は~、どちらかがどちらかを完全否定《リジェクト》するしかなかってん~」

郁乃「で~、ある日~、ついにバーンしたわけやね~。せやけど~、困ったことに~、すこやんちゃんは~、あの通りの《聖人》っぷりやから~、物理的に殺すことができひんかったんよ~。確率干渉力~、万能~」

郁乃「仕方がないから~、運命論者の子たちは~、すこやんちゃんと仲良しの女の子を人質に取ったわけや~。それが~、何を隠そう~、こーこちゃ~ん」

郁乃「こーこちゃんがな~、ホンマええ子でな~。すこやんちゃんを庇って~、自ら死を選んだ~。自分のせいですこやんちゃんが殺されるくらいなら言うてな~。ほんで~、その瞬間や~、世界が閉ざされた~」

晴絵「……具体的に……どうなったんですか……?」

郁乃「ところで~、赤土先生と三尋木先生は~、ダブル役満とかトリプル役満とかって聞いたことある~?」

咏「そりゃあるっすよ。字一色四暗刻とか、純正九蓮宝燈とか、二つ以上の役満が複合したり、同じ最終形でも難易度に差があったりするときに、そういう言い方をするっすよね? それ、今の話となんか関係あるっすか?」

郁乃「大あり~。ほんで~、さらに質問やけど~、ダブル役満とかトリプル役満とかって~、何点~?」

咏「子なら32000点、親なら48000点っす」

郁乃「そうね~。それが世界の常識~。せやけど~、せっかくダブル・トリプルの珍し~役満を和了ったんやったら~、もっと点数欲しな~い〜?」

晴絵「いや、珍しかろうとなんだろうと、麻雀の点数は、子なら32000点、親なら48000点で《打ち止め》なんですから、仕方ないじゃないですか」

郁乃「そうね~、そうなんやけど~、仕方のないことなんやけど~、でも~、『誰が』『いつ』『どこで』そんな決まり事を作ったの~?」

咏「し、知らねーっすけど……」

郁乃「ダブルなら役満の倍の点数~、トリプルなら役満の三倍の点数~、そういうルールでも~、別に麻雀っちゅ~ゲームは矛盾なく成立できるんちゃう~?」

晴絵「い、いや! でも、《打ち止め》なものは、《打ち止め》なんです! そんな子供の屁理屈みたいな道理は通りませんっ!!」

郁乃「そ~。そういうことなんよ~。子なら32000点~、親なら48000点~。そこで打ち止め《カウンターストップ》にせ~へんと~、そもそも麻雀というゲームが成り立たへん~。つまり~、そういう世界になってもうたわけ~」

晴絵・咏「はあ……?」

郁乃「要するに~、あてつけっちゅ~わけよ~。今の閉ざされた世界では~、たとえ宮永ちゃんが死ぬまで麻雀を打ち続けても~、その総獲得点数は~、すこやんちゃんがたった一回の親番で稼いだ分さえ超えられへんやろな~」

晴絵「え、えっと、赤阪先生……?」

郁乃「ま~、これも《禁書》の話やから~、無理に理解する必要はあらへんよ~。とにかく~、すこやんちゃんは~、もう二度と自分より稼げる人間が現れへんように~、世界を閉ざした~。
 平たく言えば~、世界中の点棒の流れを限定してもうてん~」

咏「限定……されてたんすか。これでも私は火力が高いほうなんっすけど、全然そんな感覚なかったっすねぃ……」

郁乃「まあそういうものやろね~。さて~、ここで~、やっと私の出番が来るんやけど~」

晴絵(というか、色々とあなたは何者なんですか!? っていうのは突っ込まないほうがいいんだろうなぁ……)

咏(どう考えても目の前にいるコレは人間じゃない『何か』だよねぃ。世界って知らねーほうがいいこと多いな……)

郁乃「すこやんちゃんが~、こーこちゃんの死体を抱えて~、私のとこに訪ねてきたんやね~。生き返らせてほし~、言うて~」

郁乃「ま~、私も~、事情が事情やし~、こーこちゃんを《冥土帰し》するんは吝かではなかってんけど~、一つ問題があってん~」

郁乃「やって~、結局~、すこやんちゃんと運命論者の対立は解決してへんのやから~。こーこちゃんを《冥土帰し》しても~、また同じことが起こるだけやん~。
 すこやんちゃんは~、運命論者にとっては~、世界を閉ざした張本人で~、唯一神への叛逆者~、魔術世界の根幹を部分的に破壊した大罪人~、そらも~、死をもって償え状態~、世界のどこにも居場所がの~なってもうてる~」

郁乃「ほんで~、こーこちゃんは~、そんなすこやんちゃんの唯一の弱点~。完全にとばっちりやけど~、運命論者からすれば~、すこやんちゃんよりこーこちゃんのほうが扱いやすいのは事実~。
 やって~、すこやんちゃんは《聖人》やから実質手出しができひんわけやけど~、こーこちゃんを捕まえて~、ひどい目に遭わせれば~、それですこやんちゃんにダメージを与えられるんやから~。
 も~な~、すこやんちゃんとこーこちゃんは~、世界に目をつけられてんねんから~、自由なんてない~。二度とお天道さんを仰げへん~。二人の行き着く先には〜、どう足掻いても絶望しか待ってへんかったのよ~」

郁乃「そんなん不幸やんな~。当人のすこやんちゃんならまだしも~、こーこちゃんはごくごく普通の女の子で~、ただすこやんちゃんのファンやっちゅ~だけで巻き込まれた一般人なわけやから~。
 わざわざ《冥土帰し》して~、一生日陰で生きていくことを強いるとか~、それに~、万が一運命論者に捕まってもうたら~、死ぬより辛い苦しみを味わうことになるかも~、そんなん可哀想過ぎるやろ~」

要はこの世界の現状って、完全にその1000年前の運命論者達の自業自得のとばっちりじゃないか

晴絵「でも……福与さんは今、生きてますよね……?」

郁乃「そらま~、私かて~、あのままこーこちゃんを死なせてまうんは~、それもそれでどうかと思ってん~。やから~、《冥土帰し》するにあたって~、すこやんちゃんに~、一つ条件を呑んでもろたんよ~」

咏「どんな条件……っすか?」

郁乃「こーこちゃんが普通の女の子として生きていける世界~。こーこちゃんがどの世界の誰からも危害を加えられない世界~。こーこちゃんが自由に青空の下ではしゃげる世界~。
 そんな世界を何千年かかってもええからいつか必ず創る~、って約束を~、他ならぬこーこちゃんと交わしてくれるなら~、こーこちゃんを《冥土帰し》したる~、って言うた~」

郁乃「すこやんちゃんは~、その条件を呑んだ~。ほんで~、私は~、細かい術式は秘密やねんけど~、すこやんちゃんの命を代価に〜、こーこちゃんを《冥土帰し》した~」

晴絵「え!? 小鍛治さんの命って、それは――」

郁乃「せやで~。かくして~。始祖の大魔術師~、史上一人目の運命喪者《セレナーデ》は~、世界に殺されてん~。享年二十七歳~。三十年にも満たない短過ぎる人生やったな~」

咏「ちょ――っと待ってくださいねぃ。えっと、それじゃ、私らが小鍛治さんだと思ってるあの人は誰なんっすか……?」

郁乃「やから~、あれは亡霊やって言うたやん~」

晴絵「あ、あの、エントロピーに干渉して生物を云々というのは――」

郁乃「それは~、すこやんちゃんがこーこちゃんに施しとった延命措置~」

咏「わっかんねー! 本気でわっかんねーっすよ!?」

郁乃「ほな具体的に言うで~。赤土先生や三尋木先生が知っとる『小鍛治健夜』っちゅ~存在は~、
 世界を閉ざした《打ち止め》の残響から再構築したすこやんちゃんの根幹を成していた論理とか~、あとこーこちゃんの中にあるすこやんちゃんとの思い出や絆とか~、
 そういう~、すこやんちゃんの自分だけの現実《パーソナルリアリティ》の成立に必要な要素を詰め合わせて~、うまいことそれっぽい形にしたもの~。言わば肉体を持たない分身ってとこかな~。
 あ~、確か~、レベル5の園城寺ちゃんが~、似たようなことやってたはずやで~。
 学園都市風の言い方をするなら~、こーこちゃんという補能力者を媒介にすこやんちゃんが能力を発動することで生まれた確率の偏り〜――つまり確率干渉力というエネルギーの一形態やねんな~」

晴絵「エネルギーの一形態って……。本人が死んで、能力だけが一人歩き……? まさに亡霊ですね……」

咏「聞くからに不安定な存在っぽいっすけど、よく一千年も形を保ってられたっすね」

郁乃「ま~、すこやんちゃんは世界を閉ざした時点で《世界の力》を我が物にしとったからな~、これは《絶対》になくならへんもんやし~、エネルギー切れを起こすことはあらへん~。運命喪者《セレナーデ》の残響が永続するんと大体要領は同じ~。
 あと~、能力~、つまり魔術は論理《システム》やからね~。たとえ肉体や意思が消失しても~、一度構築した論理そのものは朽ち果てることがないっちゅ~わけよ~。
 魔術《システム》と魔力《エネルギー》さえあれば~、例えばこの星の生命が数十億年という比較的そこそこの時間ずっと細胞分裂し続けとるように~、その存在を保持することは十分可能やねん~。
 あのすこやんちゃんは~、何も特別なことがなければ~、こーこちゃんとのリンクが切れへん限り~、そのまま在り続けることができるんやね~」

晴絵「…………待ってください。赤阪先生――さっき、小鍛治さんは『消えた』って言いましたよね……? なぜですか? いつまでも在り続けることができるんですよね? 消える理由はどこにもない気がしますが――」

郁乃「そらもちろん~、論理《システム》を破壊されたから消えたんやで~。或いは~、《世界の力》の供給も断絶されたかもわからんな~」

咏「破壊――断絶……まさか、花田煌の《通行止め》っすか――?」

郁乃「正解~。花田ちゃんの通行止め《新システム》は~、言うなれば《点棒の流れのベクトルを無にする》やから~、《点棒の流れのベクトルを操作する》すこやんちゃんの打ち止め《旧システム》とは相容れへんのやね~。
 やって~、すこやんちゃんは~、この世界の歴史上~、誰よりも点棒を奪い~、誰よりも多くの他者をトばしてきた超攻撃特化雀士なんやから~。《絶対》防御の花田ちゃんの論理とは正面衝突するに決まっとるやん~」

晴絵「え、えっと、なぜここで花田煌が出てくるんですか? 小鍛治さんの話をしていたんですよね?」

郁乃「そうよ~。全ては~、すこやんちゃんの計画通り~。《レベル6シフト》計画はまもなく完遂~。
 論理《デジタル》を喰い尽くし~、あとは風前の灯の奇跡《オカルト》を呑み込んだら~、花田ちゃんは絶対能力者《レベル6》に進化する~。世界は再び閉ざされる~。これにて一件落着~」

咏「す……すいません。一つもわかんねーっす……」

郁乃「ほなおさらいするで~? ええか~? そもそも〜、魔術世界にとってすこやんちゃんの存在が問題やったんは~、すこやんちゃんが世界のあらゆる点棒の流れに干渉し~、ついには閉ざしてもうたからやんな~?」

晴絵「点棒の流れを限定した……んですよね?」

郁乃「そゆこと~。ほんで~、花田ちゃんが世界を閉ざせば~、世界のあらゆる点棒の流れが《通行止め》になる~。すこやんちゃんが《打ち止め》にした世界を~、漏れなく隅々まで解体して~、元よりさらに限定的に閉ざす~。
 そうなったら~、も~、すこやんちゃんとこーこちゃんの存在は問題にならへん~。問題の対象が花田ちゃんに置き換わって~、すこやんちゃんとこーこちゃんはまるで無関係の第三者になる~」

郁乃「どころか~、花田ちゃんは~、大魔術師やったすこやんちゃんより二段階上の絶対能力者《レベル6》~、正真正銘の《神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの》~。
 運命論の理念は完全崩壊~。架空の唯一神なんておらへん~。やって花田ちゃんが『それ』なんやもん~。魔術世界の存在意義は失われて~、運命論という理論も〜、運命論者という存在も〜、この世から消えてなくなる~。
 つまり~、こーこちゃんに危害を加える人間も~、理由も~、綺麗さっぱり消え去ってん~。こーこちゃんは自由の身~。晴れて~、こーこちゃんは一千年前のいざこざから開放されてん~」

郁乃「ほんで~、花田ちゃんの《通行止め》が世界を閉ざした影響で~、すこやんちゃんという論理《システム》が解体されれば~、亡霊はこの世を去り~、確率干渉力でずーっと止めとったこーこちゃんの生き物としての時間が動き出す~。
 今や~、こーこちゃんの敵はもうどこにもおらへん~。すこやんちゃんという憑き物《オカルト》も落ちた~。一千年の時を経て~、こーこちゃんは普通の女の子に戻れたんや~。めでたしめでたしやろ~」

晴絵・咏「………………」

郁乃「ま~、おかげ様で世界は一千年前よりさらに大変なことになってもうたけど~、元はと言えば~、魔術世界がすこやんちゃんを殺した~――一般人のこーこちゃんに手を出した~――のが罪の始まりなんやから~、これは世界が背負うべき必然の罰~、自業自得ってことになるな~」

晴絵「あの……赤阪先生……」

郁乃「ん~?」

晴絵「その……小鍛治さんと福与さんのことは、大分……事情がわかってきました。ですが、花田は――あいつはこれから一体どうなってしまうんでしょうか……?」

郁乃「どうなるんやろね~。難しい~。ランクSのすこやんちゃんならまだしも~、ランクFのあの子がどっぷり《世界の力》に浸かったら~――《世界の力》を通して世界中の人の想いと共振したら~――あの子は~、ただそこに在るだけの神様《システム》みたいなもんになってまうのかもね~」

咏「ど、どういうことっすか……?」

郁乃「もう『人間』としては生きていけなくなるかも~、っちゅ~こと~」

晴絵「そんな……」

郁乃「ただでさえ~、あの子の想いは絶望と孤独の中から生まれたもの~。ほんで今のあの子は世界と共振しとるから~、つまり~、世界中の絶望と孤独とリンクしとるとも言い換えられるわけや~。
 それを凝縮して力に変換した結果~――《頂点》の宮永ちゃんさえ凌駕する《絶対》を手にしたわけやけど~、それはどう考えても人一人の手には余るもの~。想いの重みに潰されて〜、二度と暗闇の中から戻ってこれへんかもな~、あの子~」

晴絵・咏「…………」

郁乃「すこやんちゃんも~、ホンマに~、とんでもない置き土産を遺してくれたもんやな~」

晴絵「…………その……花田は、現在進行形で世界を閉ざしているんですよね? あいつは……《通行止め》は、一体世界をどう閉ざしてしまうんですか?」

郁乃「今~、対局室では~、南二局流れ一本場が終わるとこや~」

咏「流れ一本場っすか……?」

郁乃「そう~。東場オーラスで花田ちゃんが宮永ちゃんから直撃を取って~、南入して~、南一局は~、ノーテン流局で終わってん~」

晴絵「ノーテン……流局――」ゾクッ

郁乃「ほんで~――あ~、今~、南二局流れ一本場が終わったで~。ノーテン流局~。次は~、南三局流れ二本場やな~」

咏「それ……つまり……」ゾワッ

郁乃「ご察しの通り~。花田ちゃんの《通行止め》によって閉ざされた世界では~、誰も《トばない》~――誰も点棒を奪われない~。つまり~、『点棒の移動が起こらない』んよ~」

晴絵「点棒の移動が起こらないって……!?」

郁乃「言うたやろ~? すこやんちゃんが閉ざした世界を~、漏れなく隅々まで解体して~、さらに限定的な世界に閉ざすて~。
 『信じることをやめない限り、決して諦めない限り、神様は、必ずそこに至る道を用意してくれている』っちゅ~運命論の基本理念を~、完全否定《リジェクト》する絶対神《システム》~。それが花田ちゃんの《通行止め》や~」

咏「そんなことが……」

郁乃「遠からず~、麻雀は『点棒を奪い合う』ゲームから『ノーテン流局を繰り返す』ゲームになる~。
 サイコロを回して~、牌をツモって切って時に鳴いて~、海底が来たら~、全員が手牌を伏せる~。この一連の『作業』が~、これからこの世界の『麻雀』になんねん~」

晴絵「そ――そんな!? 役は!? 和了りは!? いくらなんでもずっとノーテン流局が続くなんてありえない……ッ!!!!」

郁乃「ありえない~? なに言うとんの~、赤土先生~? レベル5~――否~、レベル6の確率干渉は《絶対》や~。『役』も『和了り』も~、『点数計算表』も『点棒』も~、無論『トビ終了』も〜、まもなく~、その手の概念は世界から消えてなくなる~。
 どんだけ知恵を絞ろうと~、能力を使おうと~、支配力を使おうと~、点棒の移動が起こるような結果は出せへん~。っちゅ〜かそもそも『点棒の移動』なんて概念を認識できひん〜。
 《天上の意思》が~、そんな誰一人として《絶対にトばない》世界を望んどるんや~」

咏「それ……じゃあ、一体私らは……その『作業』の何を楽しめばいいっすか……?」

郁乃「え~、そらま~、牌に触るのが楽しいんとちゃう~? お喋りしながら~、ツモっては切って~、半荘戦ならオーラスまできっちりぴったり八局打ち切る~。
 手の運動にはなるやろ~。案外~、これを機に~、つい一千数百年前まで流行っとった手積み卓が復刻するかもやんな~」

晴絵・咏「っ……!!」ガタッ

郁乃「おろ~? どこ行くの~?」

晴絵・咏「し――試合会場!!」

郁乃「行ってどうするん~? っちゅ~か~、私の結界を出てまうと~、がつ〜んとキツいのが意識に直接来るで~? 今は学園都市一帯に~、花田ちゃんが掻き集めた世界中の絶望と孤独の想いが渦巻いてんねんから~」

晴絵「それでも……放ってはおけませんから」

咏「赤阪先生、貴重なお話、超ありがとうございました」

郁乃「い~え~、楽しいティータイムやったよ~。ほな~、頑張って~」

晴絵・咏「失礼しますッ!!」ダッ

 ダッダッダッ

郁乃(あらら~。雨避けをするわけでもなく~、傘を差すわけでもなく~)

 ザー

郁乃(すこやんちゃんとこーこちゃんと極東に引っ越して一千年~。ホンマ~、退屈せ~へんわ~、この街は~)

 ――実況室

  ――こーこちゃんへ。

  ――もう、声は届かないと思うけれど、聞いてください。

恒子「むにゃむにゃ……」スゥスゥ

  ――こーこちゃんにはとっても感謝しています。今までありがとう。長い間……待たせたね、ごめん。でも、やっと、こーこちゃんが自由に遊べる世界になったんだよ。

  ――これからは、好きなように生きていいんだよ。好きなこといっぱいやって。好きな人いっぱい作って。こーこちゃん若いからねっ! きっと、新しい世界でも、楽しいこと、たくさん見つけられると思うんだ。

  ――私のことは、忘れていいから。私はこーこちゃんと一緒にいられて満足だったけど、こーこちゃんにとってこの一千年間は……ずっと閉じ込められたままで、きっと退屈なものだったよね。

  ――記憶も身体も一年ごとにリセットして、何年も何年も、前の年と同じことを繰り返させてた。温泉に行く約束も、遊びに行く約束も、結局、私は一回も果たしてあげられなかった。

  ――でも、これからはそうじゃない。こーこちゃんが日の当たらないところに隠れてなきゃいけない理由は、全部取り除いたから。青空の下で、思いっきり羽を広げて、飛び回ってください。

  ――こーこちゃん、大好きだよ。

  ――私は、こーこちゃんの笑顔にずっと救われてきた。ありがとう。ずっと私のファンでいてくれて、ありがとう。私を助けてくれてありがとう。長い間、私のことを想い続けてくれて、ありがとう。

  ――名残惜しいけれど、これで、お別れだね。あっ、ビルの窓や扉は元に戻しておいたから、安心して。

  ――私は天上から見守ってるから。晴れの日に外に出ると、こーこちゃんにいいことがあるように、神様に話つけとくよ。

  ――さよなら、こーこちゃん。新しくなった世界で、自由に、幸せに、生きてください。健やかに、たくさん笑って、生きてください。

  ――じゃあ、そろそろ、私はいなくなります。

  ――バイバイ。元気でね、こーこちゃん……。

恒子「っ……!? 待って――ッ!!」ガバッ

 シーン

恒子「え……あれ……私――っ」ズキ

恒子(私、また実況中にウトウトしてたの……? えっと――今は、南三局の二本場……点数があんまり動いてないから流れ二本場かな……)クラクラ

恒子(実況……しなきゃ。それが私の仕事――四大大会の決勝は……ふくよかじゃない私と■やかじゃない■■■■の仕事なんだから……)ズキ

恒子(え……? なに、これ……? 何か……大切なことを忘れているような――)

               ドクンッ

恒子(隣の席……まるでついさっきまで誰かがいたみたい……。でも、誰かって、誰? それに、この気配は――この……手に残ってるあったかい感触は――?)

       ドクンッ

恒子(だ、誰かがいたはずなのに……っ!! とても大切な人!! なのに……どうして……!? 思い出せない――名前……■■■■……)

          ――涙が……嗚咽が……こみ上げてくる。

恒子「う……っ、うあぁ……!!」ウル

            ――でも、実況しなきゃ!

   ――だって、私はいつも、この日をとっても楽しみにしていて!!

     ――今日だって、ここまでずっとわいわい楽しくやってきて……!!

恒子「あぁああ……うぁ……っ」ウルウル

        ――なのに……どうしてこんなに悲しいの? 寂しいの?

  ――あなたはどこへ行ってしまったの……?

               ――どうして思い出せないの?

恒子「■■■■……っ! ■■■■――あぁぁあああ……!!」ポロ

     ――大好きな人の名前が声にならない……。

恒子「うあぁぁ――」ポロ

       ――■■■■!!

                   ――返事をしてよ、■■■■!!

              ――■■■■! どこに行っちゃったの……!?

    ――帰ってきてよ! お願いだから……■■■■!!

恒子「あぁ……うああぁあぁぁああああぁああ!!」ポロポロ

 ――対局室

 南三局流れ二本場・親:やえ

煌・菫・やえ「ノーテン」パタッ

照「……ノーテン……」パタッ

照(次は……オーラス。だけど、このままじゃダメだ。花田さんも、菫も小走さんも……みんな目に意思の光がない――)ズキズキ

照(世界中の絶望と孤独が学園都市に渦巻いている……確率干渉の余波に対する耐性――自分だけの現実《パーソナルリアリティ》が強固なランクS、
 或いは、他人の意識の偏り《オカルト》と共振しにくいタイプの原村さんみたいな人、高鴨さんみたいに《世界の力》の加護を得ている人、
 あと……荒川さんやネリーさんみたいな完全記憶能力を持つ人なら……この想いの奔流の中でも……ギリギリ自分の意思を保っていられるのかな)

照(それ以外の人は、きっと、自己防衛のために意識をシャットダウンするはず。外部からの強い働きかけがなければ、落ち着くまで眠ったままだろうな。
 世界が完全に閉ざされて、新しい在り方が安定した頃に、何も無かったかのように目覚める。そこは……目覚める以前とはまるっきり違う世界だけれど、それを認識することは……たぶん、できない――)

照(この混濁した世界――花田さんの能力が進化の過程で不安定になっている今……ここを逃したら、もう、世界の誰も、この異変を異変と認識できなくなってしまう。
 意識も記憶も改竄されて……新しい世界で……牌をツモって切るだけの『作業』を麻雀と呼ぶようになってしまう……)

照(でも……《八咫鏡》を破壊された私には……もはやこの《絶対》に抗う力はない。《最強》の能力者――逆らう気さえ起きない《無敵》の存在。今の花田さんは《天上の意思》を司る《神様》そのものなんだから……)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(それでも……私は学園都市の《頂点》として戦うと決めた。なんとかするって約束した。世界は限りなく終わってしまったけれど、むしろここから何かを始めてやる。諦める……わけがない――!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫:106200 煌:129500 やえ:74300 照:90000

ここのすこやんはアレイスターというより元ネタが同じなクロウ・リードに近いね

 南四局流れ三本場・親:照

照(まだ……私は全ての手札を切ったわけじゃない。三つの《鏡》は――私の論理《デジタル》は全部壊されてしまったけれど、私には、奇跡《オカルト》が残ってる。
 準決勝オーラスの、神代さんのリーチ。あれは、確かに、花田さんの《通行止め》に揺らぎを与えていた。
 まぁ……けど、神代さんも結局は弾かれたわけだから、私の最後の抵抗も、傷一つつけずに終わるとは思う。今の花田さんは《世界の力》を我が物にしているしね)

照(でも、たとえ可能性がゼロでも、できることが残っている限りは、なんだってやってやる。いや、残ってなくても、どうにかして何かする。
 ちょうど、ネリーさんが私の《八咫鏡》に対してそうしてきたように。私たちは何があっても《絶対》に止まらない。それが……私たち《頂点》の在り方――理屈でも感情でもない《信仰》だ)

照(私の必殺技は通用しなかった。それでも、私は白糸台高校麻雀部一万人の《頂点》だから。みんなの想いを——《信仰》を――きっと守ってみせる……)スゥ

照(喰らいたければ喰らうがいいよ、《最強》。あなたがどんなに強くても、私たちの《信仰》までは、《絶対》に殺せない……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照「リー■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■ロン■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■1900■■■■■■■■■■■■
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煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照「っ――ぁ……!!」グラッ

照(反動が――すごい――けど……ここで気を失うわけにはいかない。意識を繋ぎ止めろ、私……っ!!)ギリッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(世界は……『ノーテン流局が繰り返す』方向に書き換えられつつある。そんな中で、《奇跡》を封殺するためとは言え、論理《システム》の基点である花田さんが世界の理を破れば……どうなるか――)

菫・やえ「っ……!?」パチッ

照(一時的とは言え、《通行止め》が揺らげば、花田さんの統制もまた同様に揺らぐ。
 これでいい……《最強》の花田さんに勝つっていう《奇跡》は無理だったけど、菫や小走さんを目覚めさせるくらいの《奇跡》なら――起きたみたいだね。
 まだまだ……勝負はここからだよ、花田さん。私との一騎打ちは、あなたの勝ち。でもね、まだ後半戦が残ってるってこと……そして、麻雀は、四人でやるゲームだってことを……お忘れなく――)パタッ

 一位:宮永照・+25200(永代・88100)

菫(なっ……あの『黒い』のに呑まれたと思ったら、いつの間にか前半戦が終わっていた……!?
 否――しかし、目覚める瞬間に光が差した――照の声が聞こえた気がした。お前が私の意識を闇から引き戻してくれたのか……?)

 三位:弘世菫・−7600(劫初・106200)

やえ(東場オーラスの宮永と花田の衝突から記憶がない――が、この点数状況を見れば、概ね何があったのかはわかる。感謝するぞ……科学世界の《頂点》)パタッ

 四位:小走やえ・−23300(幻奏・74300)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 二位:花田煌・+5700(煌星・131400)

さすが照

俺たちの…
いや俺の照

 バァァァァァン

淡「キラメえええええええええええええ!!!!」ダッ

照(大星さん……それに、咲も――)

やえ(……四人全員で来たか)

淡「キラメ――」スッ

 バチンッ

淡「あぐっ……!!?」ビリビリッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「何……今の――」ゾクッ

 ダダダダダダダダダダダダ

穏乃「わっ!! ちょっと出遅れましたか!! 大星さん、今の花田さんに触れてはいけませんッ!!」

淡「シズノ……!?」

咲「どういうこと、穏乃ちゃん!?」

照「え、えっと、今の花田さんは――」

穏乃「照さん、大丈夫です。私が説明しますので、休んでいてください」

照「う、うん……」クタッ

桃子「で……原石さん、なんなんっすか、さっきの。超新星さんがきらめ先輩に触れようとしたら、弾かれたように見えたっすけど」

友香「なんとなくわかるような気もするけど……」ゾクッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃「……今ここにいる花田さんは、花田さんであって、花田さんではありません。花田さんの形をした確率干渉力の塊です」

淡「は……?」

穏乃「正確に言えば、そこに『在る』のは、《世界の力》を纏った花田さんの肉体です。花田さんの意識は、その中にはありません。
 呼びかけても声は届きませんし、接触を試みようとしても、近付き過ぎれば、自分だけの現実《パーソナルリアリティ》ごと呑み込まれてしまいます」

咲「支配力のブラックホールみたいなもの……ってこと……?」

穏乃「そんな感じです。高密度の確率干渉力と圧縮された想いが、花田さんの形をして、今そこに在るんです。ランクS以外の人間は、絶対に触れないでください。無論、ランクSでも、一線を踏み越えれば確実に呑まれます」

淡「そんな……っ」

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「キ、キラメ!? 嘘でしょ!! 返事してよっ!? ねえ――」スッ

友香・咲「淡(ちゃん)!!!?」

桃子(しまっ……!! 間に合わな)

 バァァァァァン

塞「だぁ――からッ!! じっとしてろっつってんでしょうが、クソガキ……ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「なっ――――」ピタッ

桃子「っ……捕まえたっす!!」ギュッ

友香・咲「そのまま離さないで!!」

塞「ったく……手間かけさせんじゃねーわよ、一年……」ハァハァ

純「お疲れさん。やっぱ便利だな、塞のそれ」

まこ「そんなオカルトありえてよかったのう」

照「みんな……」

 バァァァァァン

憩「菫さあああああああん!! ご無事ですかあああああ!?」ダッ

菫「荒川――それに……」

エイスリン「スミレ! イキテルカ!?」

衣「ふむ――どうやらしぶとく耐えたようだな」

智葉「悪運の強いやつだ……」ヤレヤレ

 バァァァァァン

ネリー「がーん!? 四番手!!」

優希「ネリちゃんが差し入れのお菓子を早く決めないからだじぇ!!」

誠子「違うよ……二人がお菓子かタコスかで揉めたせいだよ……」

セーラ「……ひとまず、意識は戻ったみたいやな、やえ」

やえ「ふん――ま、《奇跡》的にな」

憩「さて」チラッ

ネリー「さて」ゴクリッ

塞「さぁて……」ゾクッ

淡「キラメ――」

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「……どうするんですか、ホンマ。花田さんが人間やめようとしてますよ……」

塞「宮永、どうだったの?」

照「超頑張ったけど……やられた」

ネリー「さっきのオーラスで《奇跡》も呑み込まれたからね。デジタルもオカルトも完全に閉ざされちゃったんだよ――」

穏乃「照さんの《奇跡》による揺さぶりもあって、今は若干不安定のようですが……遠からず、通行止め《システム》と世界の力《エネルギー》の均衡が訪れて、安定状態に入るでしょう。そうなったら、本当に本当のおしまいです」

智葉「《神ならぬ身にして天上の意思に辿り着くもの》……か。しかし、神ならぬヒトの身で《天上の意思》を司るのは、どうやら無理らしいな――」

エイスリン「ドーユー、コトダヨ?」

智葉「花田の足元を見てみろ」

衣「……っ!? あの『黒い』のは――」ゾクッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫「……東場オーラスで照から直撃を取ったときの『黒い』翼と同質のもの……か?」

やえ「ネリーか荒川……何かわからんか?」

ネリー「……あれは、きらめの掻き集めた想いの断片なんだよ。世界中の絶望と孤独が――《世界の力》によって具現化した『何か』って感じかな」

憩「実体はないみたいですね。確率干渉力の一形態――高密度のエネルギーの塊です。ヒトの身で触れてええもんやないのは確実でしょう」

咲「……っ!! エネルギーの塊なら――支配力で弾き飛ばせたりしませんかねッ!?」ゴゴゴッ

照「咲、やめなさい。逆効果。それに、万が一エネルギーが暴発したら、この街が吹き飛ぶ」

咲「じゃあ、お姉ちゃん、手伝ってよ!! 私とお姉ちゃんが協力すれば不可能なことなんてこの世にないでしょ!?」

照「……よし、わかった」ガタッ

純「わかるな! 座ってろ、この妹バカ!!」ワシッ

桃子「あの……気のせいっすか、きらめ先輩に纏わりついたこの『黒い』の……どんどん範囲が広がっているような……」ゾクッ

憩「気のせいやないよ。今の侵食ペースやと、ちょうど半荘一回分くらいの時間で、花田さんの全身がその『黒い』のに呑まれる」

友香「そ……んな――」ペタンッ

まこ「どうにかならんのか……?」

穏乃「……私には無理です。花田さんの《通行止め》は、私とすごパのリンクを断ち切ることができますから」

菫「智葉……お前はまだ直接打ってはいなかったはずだが――」

智葉「打たずともわかる。私の《欺刃》に《本物》は斬れん」

エイスリン「ツカエネー、ナマクラ!!」

衣「こやつはまだ……とーかとは対戦していないはずだが――」

憩「衣ちゃん、全力の小蒔ちゃんであかんかったんやから、龍門渕さんでも無理や」

セーラ「先生方はどや?」

誠子「しかし、花田さんは理事長すら捻じ伏せる《怪物》ですよ……?」

優希「ネリちゃん! タコスを食べるとパワー百億倍になるまじゅつとかないのか!?」

ネリー「あったら準決勝のときに使ってたんだよ」

塞「まぁ……宮永でダメだったんだから、普通に考えて、もうどうにもならないでしょ……」

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「……っ!! キラメ……!!! どうしてキラメが――!!!?」ウル

咲「淡――ちゃん……」

淡「だって……キラメは――煌めきたかっただけなのに……ッ!!!!」ウルウル

友香「淡……」

淡「嫌だっ!!! 認めない!!!! こんな結末は認めないっ!!!! モモコ、離してッ!!!!」ポロ

桃子「何するつもりっすか……超新星さん――」

淡「わかんないよ!!!? でも黙って見てるわけにはいかないでしょ!!!? なんで――こんな『黒い』の……!!!! こんなわけのわからないものにキラメがどうにかされていいのッ!!!!?」ポロポロ

咲・友香・桃子「………………」

淡「私はッ!!!! キラメと!!!! みんなと!!!! 幸せになるんだから——ッ!!!!!」ポロポロ

淡「そのために――私たちは出会ったんだからぁああぁぁあ……っ!!!!」ポロポロ

淡「うあぁぁ……!! あぁあ……っぁああぁぁぁあぁあああぁぁあ……!!!!」ポロポロポロポロ

やえ「…………泣くな、莫迦者」ガタッ

淡「ふぇえぇぇえっぇ…………?」グズ

やえ「涙は視界を滲ませる。涙は思考を鈍らせる。まだ全てが終わったわけじゃない。そんな似合わんもんは引っ込めて……笑ってろよ、《超新星》」

淡「う……ぐっ……ヤエ……?」ウルウル

やえ「まあ……そう心配しなさんな」スッ

淡「これ……写真……キラメと――」

やえ「お前にやるよ。持っとけ。きっと、それがお前らと花田を繋げてくれる」

淡「う、うん……」ギュ

やえ「さて……と」フゥ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ「……おい、宮永」

照・咲「何(ですか)?」

やえ「姉のほうだ。お前……支配力はあとどれくらい残ってる?」

照「多少回復できたから……《奇跡》一、二回分くらいかな」

やえ「よければ、私を花田のところまで連れて行ってくれないか?」

照「連れて行く……っていうのは――?」

やえ「今の花田煌は、不安定だが運命喪者《セレナーデ》。《世界の力》と世界中の人間の想いを一緒くたにして、巨大な自分だけの現実《パーソナルリアリティ》を生み出している。
 要は、《世界の力》という媒介の中で、花田と全人類の想いがリンクしている——ってことなんだろう?」

照「そんな感じだね」

やえ「なら、《世界の力》を通じて、私の意識とこいつの意識を直接繋げることは、決して不可能ではあるまい。
 ただ、残念なことに、私はランクFでオカルト感覚ゼロだからな。世界の力の奔流の中を自由に泳ぎ回って花田の想いを見つけ出す——なんて芸当はできない。
 そこで、お前の出番というわけだ。ランクSで最強の感応系能力者であるお前なら、世界中の想いが渦巻くこの場でも、ピンポイントで、花田に私の想いを届けられるだろう?」

照「……うん、たぶん。やってできないことはないと思う。けど、本気なの?」

やえ「何がだ?」

照「花田さんは《最強》。私の力が一切通じなかった《怪物》だよ。そんな《絶対》の存在に、ごく普通の無能力者である小走さんが立ち向かって、何ができるの?」

やえ「何って……まぁ、とりあえず、お喋りでもしてくるさ」

照「お喋り――」

やえ「《最強》とか、《怪物》とか、《絶対》とか、そんな肩書きに惑わされて、本質を見失っては、なるものもならん。
 私たちは、まだ、花田煌の想い《こえ》を聞いていないんだ。まあ、どうやらチームメンバーは……その限りではないらしいが――」チラッ

淡「……ヤエ……」

やえ「とにかく、本当の花田煌に会わないことには何も始まらんだろう。宮永、お前は、私をあいつのところまで案内してくれれば、それでいい……」

照「……わかった。承ったよ」

やえ「恩に着るぞ」

ネリー「勝算はあるの、やえ?」

やえ「さあな」

憩「お喋りして、これはどうにもならへんってなったときは、どないするんですか?」

やえ「そんときは――まぁ、いい感じの右ストレートを一発お見舞いしてやるさ」

淡「あの、ヤエ……」

やえ「大星……いいから、お前は全力で笑ってろ。花田は今、闇の中にいる。お前が導きの光になってやれ。輝くのは得意だろう、《超新星》?」

淡「わ……わかった――」ゴシゴシ

やえ「よし。そうと決まれば場決めでも……」

菫「あ、す、すまん……《幻想殺し》、私にできることは――?」

やえ「ない」

菫「」ガーン

やえ「というか、お前にはお前のやるべきことがあるだろう、弘世。構うことはない……時が来るまで、黙々と弓弦の張り具合でも調整しながら待ってろよ。
 レベル6が誕生しようと世界が閉ざされようと、お前の標的は、最初からただ一人。……違うか?」

菫「それは…………違わない、な」フゥ

やえ「よし。わかったら対局者以外は出ていってもらお――」

 バァァァァァン

晴絵「お、遅かった……!!?」

咏「こ、小走ちゃん!! どうなってる!!?」

やえ「赤土先生と三尋木先生――えっと、こっちは予想通りヤバいことになってますが……そちら――理事長のほうはどうなったんですか……?」

咏「理事長はねぃ……その、なんつーか、消えた、らしい。知らんけど」

やえ「…………だとすると、理事長秘書の福与さんが心配ですが」

晴絵「そっちは……呼びかけたら、瑞原先生がなんとかしてくれるって——」

 ピロリン

晴絵「瑞原先生からメール――これ……鳥の絵文字? えー!? こんなときまであの人……!!」

やえ「……よくわかりませんが、誰かが動いているのなら、大丈夫そうですね」

咏「そんで……小走ちゃん。花田ちゃんのことなんだけど」

やえ「あぁ、すいません。『トビ終了が起きない』どころの規模ではないみたいですね。読み違えました」

咏「言うまでもなかったかい……さっすがだねぃ」

やえ「ですが、いいタイミングでいらっしゃってくれました。あとは、学生議会長あたりが来てくれると、話が早いんですが――」

 バァァァァァン

憧「呼んだ!? 学生議会長見習いの登場よっ!!」ババーン

穏乃「憧!!?」

やえ「おう、ちょうどいい。頼みがあるんだ。竹井に伝えてもらってもいいか?」

憧「モチ! そのために来たからねっ!!」

やえ「上等。じゃあ、言うぞ。手段は任せるから、今寝てる連中を全員叩き起こしてくれ。白糸台高校麻雀部一万人だけじゃない。学園都市23万人――全員だ」

咏「ちょ――待って、小走ちゃん。《魔女》曰く、今は学園都市中に絶望と孤独が渦巻いてるとか……」

やえ「だからこそ……です。三尋木先生」

咏「っつーと……?」

やえ「確かに、私も現在進行形で頭が痛いです。けど、それがなんですか」

咏「単純に危なくねー?」

やえ「お言葉ですが、今、ここに、誰よりもその絶望と孤独に苦しんでいるやつがいるんです。
 つい数ヶ月前に転校してきたばかりの――私たちの新しい仲間が、闇に呑まれようとしているんです」

咏「…………なるほどねぃ」

やえ「仲間の危機に寝ているような薄情者は、この街にはいないと――私は信じてますよ。ちょっとくらいの絶望や孤独に苛まれるのがなんだと言うんです。
 《通行止め》だか運命喪者《セレナーデ》だか《最強》だか《怪物》だか知りませんけど……この街は、学園都市は、そんなもんに呑み込まれるほどヤワじゃない――。
 見せてやりましょう。聞かせてやりましょう。私たちの強さを。
 《天上の意思》? 神様《システム》? くだらない!! そんな幻想《ニワカ》は相手にならんよッ!!」

やえ「私たちの大切な仲間が一人、真っ暗闇の中に囚われています。このまま行くと闇に圧し潰されてしまう。救い出すためには、導きの灯が必要なんです。夜空に煌めく星のように――無数の光が必要なんです」

やえ「三尋木先生、赤土先生、それに、新子。学園都市中の人間に、伝えてください。願えと。祈れと。絶望と孤独の中にあって希望を見失うなと。その想いは、きっと、花田煌に届くはずです」

咏「そりゃあいいねぃ……! わかったよ、こっちは任せといて、小走ちゃん!!」

憧「こっちも上手いことやっとくわ!!」

やえ「頼りにしてますよ。と――」チラッ

智葉「大丈夫……メグには私から伝えておく」

やえ「ありがとよ。さて……花田、聞こえていないとは思うが――」

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ「お前はこれから……二つの世界を同時に味方に回すことになる。誰一人としてお前を見捨てることはしない。《絶対》と世間話でもしながら大人しく待っていろ。それから――大星っ!!」

淡「な、なんだい!?」

やえ「私にできるのは花田の《絶対》を殺すところまでだ。これから私は――私たちは——ごちゃごちゃと花田煌に呼びかける。無数の光で激励の信号を送る。
 だが、最終的に、あいつをこっちに引っ張り戻すのは、お前たちの役目だ。お前たちにしかできない。最後の導きは任せたぞ」

淡「もちろん!! 最高の笑顔でキラメを導くよ!!! なんたって私は《超新星》だからねっ!!!!」

やえ「あぁ――お前はあいつの超新星《ラストオーダー》だよ」

淡「わかってるじゃん……っ!! ヤエ!!」

やえ「ふん、《王者》なら当然のこと」

照「…………話はまとまったみたいだね。それじゃあ、小走さん、菫、あと花田さんも——場決めをしようか」

菫「これが一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》――最後の半荘か」

やえ「全ての想いに決着《ケリ》をつけよう。お互い、心残りのないようにな」

淡(…………キラメ――)チラッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(今度は私があなたを導く番。どんな暗闇の中でも輝いてみせる。あなたの潤んだ目に留まるように……)

桃子「超新星さん――」ギュ

淡「わかってる……」タッ

淡(キラメ……すぐに、みんなでそっちに行くから! もう少しだけ待っててね……!!)

 ――実況室

『マモナク、大将戦、後半、ヲ、開始、シマス。対局者、ハ、席、ニ、着イテ、クダサイ――』

恒子「……ひっぐっ……■■■■……ぅうぁあ……」ポロポロ

 ガチャ

恒子「■■■■っ……!!!?」バッ

?「えっと――こ、こんばんは~」オズオズ

恒子「え…………? あなたは――白築先生……」

慕「ご、ごめんなさい。急にお邪魔してしまって。はやりちゃんからメールをもらって、びゅーんと飛んできました……」

恒子「瑞原先生からメール……? 飛んで……? ど、どういうこと……?」

慕「ど、どういうことなのかは、実は私もよくわかっていなくて……けど、それはそれとして、福与さんは……どうして泣いているんですか……?」

恒子「あぅ……これは――」

慕「……私でよければ、話を聞きますよ」

恒子「……■■■■――その……大切な人が……」ウル

慕「大切な人が……」

恒子「大切な人が……突然――いなくなってしまって……!!」ウルウル

慕「…………なるほど」

恒子「私……っ!! 悲しくて――寂しくて……!! しかも……どうしてかわからないんですけど……その人のこと思い出せなくて……!! 名前も呼べなくて!! 大切な人のはずだったのに……!! 私……どうしたらいいのか……」ポロポロ

慕「それは……そうですね。泣いたらいいと思います——」

恒子「ぁあぁあぁああううあぁあ……!!」ポロポロ

慕「……思い出せなくても、名前を呼べなくても、大切な人は、大切な人。その人の代わりは世界のどこにもいないんですよね……。その人がいなくなった悲しみを癒すことは……誰にもできない。ごめんなさい……お力になれなくて……」

恒子「ひぐっ……ひっく……あぁぁあ……■■■■……」ポロポロ

慕「…………」

『繰リ返シ、マス。マモナク、大将戦、後半、ヲ――』

 ――対局室

照「最後まで……よろしくね」

 東家:宮永照(永代・88100)

やえ「もちろんだ。よろしくな」

 北家:小走やえ(幻奏・74300)

菫「こちらこそ、よろしく頼む」

 西家:弘世菫(劫初・106200)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:花田煌(煌星・131400)

『大将戦、後半、ヲ、開始、シマス――』

ご覧いただきありがとうございました。

特にイレギュラーがなければ、明日で完結です。

では、失礼しました。

超乙
やべえ泣きそう

乙です

乙です


照さん頑張ってくれー

おつです

おつおつ

乙です。もう完結かあ
おもしろいからもっと続いてほしいけど
引き延ばしはやぼな望みだよな
楽しみにしてます

乙乙
確率干渉で魔術世界を滅ぼしちゃえばという発想はなかったのかすこやん

てか淡って照やサトハとの戦闘経験はないよね?
煌を覚醒させるためにワザと同じ中途入学にして意識させるように同部屋に押し込んだのかな?

超おつかれさま

盛り上がってるところに、素朴な疑問なのですが、
ネリーはランクFだったと思うけど、つまり《聖人》じゃないんだよね。
《聖人》にして《フェイタライザー》という存在は果たして在り得るのか。
かつ、《聖人》にも照・小薪のように《神の領域》とそれ以外がいるけど、
《神の領域》の《フェイタライザー》なら、照より強い?

>>382さん

>てか淡って照やサトハとの戦闘経験はないよね?

ないです。

>煌を覚醒させるためにワザと同じ中途入学にして意識させるように同部屋に押し込んだのかな?

一応、

>やえ(花田煌と大星淡――《超巨星》と《超新星》。あの二人が出会ったのは偶然ではないのだろう。互いに互いを引き寄せあった。或いは、引き合わせる思惑もあったのだろうか……)

みたいな示唆はありますが、そんなにがっちりとは設定してません(ふわっとしか決まってない状態で最初のほうは書いてたので……)。

>>385さん

《聖人》は『型』があるので、たぶん、運命奏者《フェイタライザー》さんみたいな真似はできないと思います。

ネリーさんは古今東西あらゆる雀士を完全模倣できますが、それは、ネリーさんが『形無し』の無能力者(ランクFでレベル0)だからできることです。

この辺うまく伝わっているか自信がないんですが、支配者・能力者は、それぞれにクセがあります。そして、そのクセは、支配者・能力者である限り、抜けることはありません。A、B、C……と無数にある選択肢の中から、支配者・能力者は、そのクセのせいで、必ず選べない選択肢が存在してしまいます。無能力者には、そういう縛りが一切ありません。

作中で何度か言っている、『ランクSだからなんでもできるわけじゃない。むしろランクSほどできることに制限がある存在はない』みたいな台詞は、こういう意味です。聖人、神の領域など、強い力ほど、トレードオフで犠牲にしているものが多いのです。

可能性の理論こと運命論の象徴である運命奏者《フェイタライザー》は、なので、全ての選択肢を平等に手に取れる無能力者じゃないとなれないんだと思われます。

今気づいたけど照さん前半 25200だったんだな
さすが照

前に失われた物は複合約満の点数だったか

面白いけど若干拍子抜け感が

すこやんの稼いだ点数的にそれだけじゃなく青天トビなしぐらいだったんじゃない

 ——学園都市・某所

 ザー

郁乃「ん〜——およ〜……?」

?「お久しぶりですね、《冥土帰し》——《西の悪い魔女》」

郁乃「アリーちゃ〜ん〜。どないしたのこんなところに一人で〜? 花田ちゃんでも殺しに来たん〜?」

アレクサンドラ「まあ、少なくとも観光に来たわけではありません」

郁乃「ふ〜ん〜?」

アレクサンドラ「《背中刺す刃》には静観すると言いましたけれど、私にも私の守るべきものがありますから」

郁乃「ま〜、若い子たちが頑張っとるんやし〜、判断はもう少し待って〜な〜」

アレクサンドラ「そのつもりですよ」

郁乃「お茶でも飲む〜?」

アレクサンドラ「えぇ、失礼します」

郁乃「せっかくやし〜、すこやんちゃんも呼びたいね〜」

アレクサンドラ「よしてください。彼女のことは、諦めました」

郁乃「え〜? なんでも欲しがるアリーちゃんらしないな〜。ちょっと見ない間に大人になったん〜?」

アレクサンドラ「そんなところです。私は人間ですから。どんなに望んでも、手に入らないものはあります」

郁乃「私にはわからへんな〜」

アレクサンドラ「……でしょうね」

郁乃「あ〜、そう言えば〜、あの日も雨やったな〜」

アレクサンドラ「そうですね。どうにも……なかなか止まない雨です」

郁乃「予報やと〜、明日も雨なんやて〜」

アレクサンドラ「そうですか——」

 ザー

とうとう最終話か

 ――対局室

 東一局・親:照

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(じゃあ……覚悟はいい、小走さん?)

やえ(あぁ。可能なら、安全運転で頼む)

照(善処する――)ゴゴゴ

菫(話は聞いていたが、何をするつもりなのかはさっぱりだな……)

やえ(おおぅ……これはなかなか――)ゾワッ

照(どうする? やめとく?)ゴゴゴゴゴ

やえ(構わん。やってくれ)

照(わかった……じゃあ、行くよ……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(っ!? お、おい、二人とも――)ゾクッ

やえ・照「」

菫(……二年間一軍《レギュラー》として白糸台の最先端を走ってきたと自負していたが、対局中に他家全員が意思なき人形と化すとは……麻雀とは実に奥深いものだな……)ゴクリッ

やえ「」タンッ

照「」タンッ

煌「」タンッ

菫(……とりあえず、《天上の意思》とやらが働いているのか、三人とも、一定のペースで牌をツモっては、それらしいところを切ってくる。前半戦で気を失っていた間……私はこんな感じだったのか?)タンッ

やえ「」タンッ

照「」タンッ

煌「」タンッ

菫(うむ……本当に《幻想殺し》の言う通りだな。私にできることはなさそうだ。ならば……花田の無事を祈りつつ、後の戦いに備え、自身のコンディションを高めることに尽力するとしよう――)フゥ

 ——試合会場

 ガヤガヤ ザワザワ

美穂子「……久らしいですね」

久「ん? 《幻想殺し》の案に乗ったこと?」

美穂子「今回ばかりは、事の規模が規模ですから、もっと慎重に動くかと思っていました」

久「そうしたいのは山々なんだけどね。判断材料が少な過ぎて。軽卒だったかしら?」

美穂子「はい」

久「ごめんなさい」

美穂子「いえ、責めているわけではありません。というか、後になって久の決断にあれこれ口を挟むくらいなら、最初から全力で止めますよ」

久「そうよね。いつもありがと」

美穂子「自信のほどはいかがです?」

久「どうかしらね……今回のは、さすがに私の手には負えないわ。正直、不安でいっぱいよ」

美穂子「……なるほど」

久「けれど、まぁ、できる限りのことは、するつもり」

美穂子「えぇ……それがいいと思います」

久「で、それも終わったら、あとは待つしかないわよね」

美穂子「見るからに時間がかかりそうですしね……」

久「それでいて、タイムリミット付きよ。どう考えても、うまくいかない可能性のほうが高いわ」

美穂子「何を今更。だからこそ、久はそちらに賭けたんじゃないですか」

久「とびきりに《最悪》でしょう?」

美穂子「とびきりに最高です」

久「信じて——祈って——待ちましょう……」

美穂子「いくらでも待ちますとも。私も……待つのは慣れっこですからね——」

     菫『……ノーテンだ』

     煌・やえ・照『ノーテン』

 ――――

やえ「真っ暗だな。星も何も無い宇宙空間——とでも喩えればいいのだろうか」

照「いや、ここには確率干渉力が満ちてるから、力場的なものがある。その認識は少し違う」

やえ「なるほど。ちなみに、高鴨の《原石》の力とは、これに類するものでよかったのか?」

照「大雑把に言えばそうなるね。でも、違うところはたくさんある。
 例えば、この場に満ちてる世界の力。今は、花田さんの想いと一体化していて、力の流れがシンプルになってるけど、本来の世界の力は、もっと力の流れが複雑」

やえ「さっぱり感じ取れんが……。で、本来と比べて、今はどうなっているんだ?」

照「力がただ一点――花田さんに向かって流れていて、流れ着いた先で、凝縮して、中心のエネルギー量がとてつもないことになってる」

やえ「ふむ……ということは、流れに乗っていけば、花田のところに辿り着けるのか?」

照「そういうこと。でも、身を任せ過ぎて、一線を越えてしまうと、ランクFの小走さんは一瞬で存在を圧し潰されて死ぬよ」

やえ「おい、今、死ぬって言ったな? わりとはっきり死ぬと言い切ったな?」

照「あっ、いや、でも、大丈夫」

やえ「何がだよ……」

照「無能力者の小走さんは、そもそも一線――《通行止め》に対して、踏み込むことすらできないから、大丈夫」

やえ「私は今からその《通行止め》を突破しようとしているわけだが?」

照「おっとっと」

やえ「『おっとっと』じゃない。文字通り、一歩間違えればあの世行きだったじゃないか。何か、他に注意事項みたいなものがあるなら、今のうちに全部教えてくれ」

きたー!!!
今日で終わりとは名残惜しいが…
照がんばれ!!

照「命に関わるのは、それくらいだと思う。普段から、人は《世界の力》とリンクしているわけだから、この空間自体に何か害があるわけじゃない。ただ、そうだね、万が一があるといけないから――」スッ

やえ「……なんだ『それ』は?」

照「《照魔鏡》の欠片。ここに、私の支配力を込めておく。お守りに持ってて」キラキラ

やえ「の、能力論的に言うと、どういう状態なんだ……?」

照「小走さんの自分だけの現実《パーソナルリアリティ》と私の自分だけの現実《パーソナルリアリティ》の間に契約《プロトコル》を設けて両者を連結した。
 一時的に、小走さんと私を主能力者と補能力者の関係にしたんだね。これによって、補能力者である私の支配力を、主能力者である小走さんに送ることができる。
 藤原さんと佐々野さんの関係に近いかな」

やえ「プ――契約《プロトコル》だと……!? というか、佐々野と藤原が主能力者と補能力者!?
 それに――その、主能力者と補能力者は自分だけの現実《パーソナルリアリティ》が連結してるってのは本当なのか!? つまり、鶴田は――」

照「ああ、鶴田さんね。準決勝の鶴田さんは本当にすごかったよ。あんなにたくさんの人と契約《プロトコル》を結べるのは、世界中探しても鶴田さんくらいだと思う」

やえ「う……くっ、聞きたいことが多過ぎる……!! お前、この試合が終わったら、私の研究室に来い!!」

照「この試合が終わったら、私、インターハイの準備がしたいんだけど」

やえ「それは私も同じだッ!! その合間の時間に話を聞かせてくれ!! というか、お前!! 他にも私が知らないことを知っているんじゃないだろうな!?」

照「かもしれない。例えば、赤阪先」

やえ「待てッ!! それは言わなくていい!!」

照「そう言われると言いたくなっちゃうな……」ウズ

やえ「おのれ……《照魔鏡》――こんなに無能力者であることを恨めしく思ったことはないぞ……」

照「まぁ、赤阪先生のことみたいに、知らないほうがよかったこととか、あと、相手の知られたくないこととか、そういうところまで隈なく見えちゃうのは、難点だけどね」

やえ「…………花田煌はどう映った?」

照「大人になった大星さんみたいな人が見えた。あれは、きっと、花田さんのお母さん――なんだよね?」

やえ「……あぁ、そうだよ」

照「それで、もう亡くなった人なんだよね……」

やえ「そういうことだ」

照「…………花田さん、泣いてた」

やえ「…………そうか」

照「小走さん――《幻想殺し》」

やえ「おう、なんだよ、《頂点》」

照「花田さんのこと、よろしくお願いします」ペッコリン

やえ「任せとけ」

照「一年生の頃……覆面ブームで愛宕さんと直接対決した日の帰りに、私は、見慣れない制服を着た人に出会った」

やえ「……もしかして、『丸襟にグレーのリボン』の制服か?」

照「そう……《最上》の大能力者――正体不明《カウンターストップ》の能力を持った不思議な人。私たちは、それから、一局だけ打った」

やえ「……ほう」

照「あの人の麻雀には、想いや意思がなかった。論理《システム》と、必要最低限のエネルギー。ただそれだけの存在。
 私は、あの人が、恐かったよ。『ヒトじゃない』ってこういうことなんだって思った。哲学的ゾンビって言えば、この恐さが通じるのかな」

やえ「あぁ、言いたいことは大体わかる」

照「あの正体不明《カウンターストップ》の人は、元からそういう感じの存在だったみたいだけど、花田さんは、違う。私たちと同じ人間。
 それが、今、あの人と同じ、想いや意思を持たない神様《システム》になろうとしている。これは、絶対に阻止しなければならない。何より誰より、花田さんのために」

やえ「……そうだな」

照「さて……着いたよ」

やえ「私にとっては先ほどまでと変わらない真っ暗闇だが……否――」ゾクッ

 ドドドドドドドドドドドドドドド

やえ「これ……こんなところに、花田はいるのか?」

照「早く連れ出さないと、手遅れになる。たぶん、近くにいると思うから、《照魔鏡》の欠片で照らしてみて」

やえ「わかった。ここまで案内してくれたこと、感謝する。有難う」

照「いえ。当然のことをしたまでです」

やえ「また、対局室で」

照「うん。あと、一応、戻りながら《照魔鏡》の欠片を落としていくから。何かあったとき、帰りの目印にどうぞ」

やえ「帰り――か。そういえば、あまり考えてなかったな」

照「正直、どうなるのか、まったくわからない。小走さんの《幻想殺し》が成功するにしろ失敗するにしろ」

やえ「ま、その辺りは臨機応変に行くしかないか」

照「危険そうなときは、可能なら、迎えに来る」

やえ「至れり尽くせりだな」

照「今小走さんに棄権されると、ものすごく困るからね」

やえ「ははっ、そりゃそうだ」

照「……じゃ、また。幸運を」

やえ「あぁ。助かったよ。ありがとな」

照「どういたしまして――」

 フッ

照魔鏡がレベル5だったらと思わずにはいられないな

やえ(ふむ……さて、あまり悠長にはしていられん。まずは花田を見つけないとな――)ピカッ

やえ(……と)

やえ(本当にすぐそこにいやがった。しかし……こちらには気付いていないようだな。背を向けて、背を丸めて、膝を抱えて、俯いて……)

       ――…………花田さん、泣いてた。

やえ(光を当てても気付かないなら、声を掛けてみようか。否――)

やえ(せっかく宮永から支配力を借りているわけだし、ちょっと使ってみるか。こんな体験はなかなかできることじゃないからな)

やえ(ここから先は《通行止め》――踏み込めば、ランクFの私は死ぬそうだが、今は宮永から持たされたお守りがある。さて、一体どうなるのかな――とッ!!)ゴッ

 バチンッ

やえ「っ~~~~~~~~~~!!!?」ビリビリッ

やえ(なんだこれ!!? 身体が引き裂けるかと思ったぞ!!! ん!!? そういや三回戦の神代がそんなようなことを言ってたような――えっ、じゃあ、何か!!?
 ランクSの支配力合戦というのは毎回こんな体力勝負なのか!!? これをあんな楽しそうにやってたのかあいつら!!? 人間としての強度《スペック》に差があり過ぎるだろ……!!)

やえ「…………というのは、さておき――」

煌「はて……どなたですか……?」フラッ

やえ「よう、花田。私だ」

煌「小走さん……? 無能力者のあなたがどうやってここに――?」

やえ「宮永に協力してもらってな。どうにかこうにか」

煌「……そうですか」

やえ「あまり顔色がよくなさそうだが?」

煌「こちらは、少々、身体が――気が重いのです」

やえ「なるほど」

煌「それで……なんのご用ですか? 大変申し訳ありませんが、この状況をどうにかすることは、当の私にもできませんよ。成す術ないとはこのことです。遠からず、自我を保つこともできなくなるでしょう……」

やえ「ちなみに、遺言は受け付けないぞ」

煌「いえ、それはもう済ませてあるので、小走さんのお手を煩わせたりはしません」

やえ「……そうか」

煌「あの……小走さん――」

やえ「なんのご用か――と、聞かれれば、一言で済む。私はお前とお喋りをしに来た」

煌「ふむ……」

やえ「机と椅子と紅茶があればいいんだがな」

煌「そのくらいでしたら――」パチンッ

 ポンッ

煌「どうぞ、お掛けになってください」

やえ「…………お、おう」ポス

煌「なんということはありません。ここは確率干渉力の海――物質世界ではありませんから。記憶にあるものなら、大抵のものは、認識に干渉して『ここに在る』と錯覚させることができます」

やえ「感応系能力的なものか。なるほど……」カチャ

煌「いかがですか?」

やえ「……これ、お前の記憶から引っ張ってきたものなんだよな? いつどこで飲んだんだ?」

煌「C・Dブロック三回戦の偵察をしていたときに、荒川さんにご馳走していただいたものです。小走さんのお口には、こちらのほうが合うかと思いまして」

やえ「大したやつだな……お前は」

煌「恐れ入ります。と、お喋りということでしたね。私でよければ、お付き合いいたしますよ。ただ、あまり時間は取れませんが」

やえ「あぁ。わかっている」

煌「さて、話題は何がいいでしょうか。無難なところで、明日の天気の話などはいかがです? 予報では引き続き雨だそうですが――」

やえ「そうだな……この街の天気予報が百発百中である事実の不自然さについてお前と議論を交わすのも悪くなかろうが――ここは一つ、身の上話、なんてのはどうだ?」

煌「おやおや。随分と単刀直入に来ましたね」

やえ「非礼は詫びよう。だが、お互い時間がないわけだからな。必要以上に回り道をするのは合理的でも効率的でもない」

煌「しかしながら――」

やえ「そう。一方的に押しかけてきて、いきなりお前の根幹に触れさせろ――というのは、フェアではないよな。だから、まずは、そう……私の話から始めようと思う。乗ってくれるか、花田煌?」

煌「……そういうことであれば、お受けいたしましょう」

やえ「有難う。では、早速、昔語りといこうか。あれは……ほんのつい三年前のことだ」

煌「もしかしなくても、インターミドルの個人戦決勝で、小走さんが宮永さんに《王者》の座をお譲りになったお話でしょうか」

やえ「残念、不正解だ」

煌「はて。では、どういったお話を?」

やえ「もちろん、インターミドルの個人戦決勝で、私が宮永に《王者》の座をお貸しになった話だよ――」

 ――《劫初》控え室

     煌・やえ『ノーテン』

     菫・照『……ノーテン』

衣「次は東三局流れ二本場——だが、まだまだ掛かりそうだな」

憩「どうなんやろな、これ。時間が経てば経つほど小走さんが不利になってくるんとちゃうか……?」

エイスリン「サムケ……ヒドクナッテ、キテル、モンナ」カタカタ

 ガチャ

智葉「ふぅ……」

憩「おかえりなさい、ガイトさん。あっちの人らはなんて?」

智葉「魔術世界総出で、祈りの歌を歌うとよ」

エイスリン「ラッサイラッサイ!」

衣「よくわからんが、共に戦ってくれるということでいいのか?」

智葉「まぁ、元はと言えば、あちらの世界のつけるべきケジメのようだからな、この件は」

憩「なら、なおさら今ここで解決しときたいですね」

智葉「そうだな。と……お前ら、もうくっつくのはやめたのか?」

衣「……あの《通行止め》に呼びかけるというのなら、これがあるべき姿かと思ってな」

智葉「ふむ?」

憩「花田さんが孤独と戦っとるっちゅーなら、ウチらも同じ土俵に立たな、フェアやないですやん。
 今感じとるこれが花田さんの想いなら、小走さんがそうしとるように、サシで向き合うべきかと」

智葉「……なるほどな」

エイスリン「オイ、サトハ――」

智葉「おっと、ウィッシュアート。それ以上私に近付くなよ。押し倒して滅茶苦茶にするぞ」

エイスリン「コノ、ジョーキョーデ、ナニ、ハツジョー、シテンダヨ、テメェ!?」

智葉「私は寂しがり屋なんだ。知ってるだろう?」

憩「粟立つキモさッ!!」ゾワワ

衣「一軍《レギュラー》になったら、すみれに嘆願してさとはをチェンジしてもらおう」

智葉「そんなことより、荒川かウィッシュアート、茶を淹れてくれ。なんだか無性に飲みたくなってきた」

エイスリン「フリーダム!!」

憩「あっ、エイさん、ウチがやりますよ。人数分淹れますね」

エイスリン「サンキュ!」

衣「大儀」

智葉「飲み終わる頃までに決着していれば上々か……」

憩「どうですかね……花田さんはガードが恐ろしく堅いですから。なかなか長い戦いになりそうな気いしますよ――」

 ヒュルヒュル コポコポ

 ――――

やえ「と、本題に入る前に、多少、私の人となりについて語っておこうか。私が競技麻雀を打つようになったきっかけ、とかな」

煌「そんなに明確な転機があったのですか? てっきり、小走さんは物心ついた時から麻雀を打っていたものとばかり」

やえ「麻雀を打つようになったのは——そう……お前の言う通り、物心ついた時から、いつの間にか打っていたよ。ばかりか、家事を手伝う感覚で能力論の実験に参加したりな。
 私の家は、母が学園都市の研究者で、麻雀が共通言語みたいなもんだったんだ。牌を触らない日などなかった。だから、かえって大会や麻雀教室とは縁遠かったってわけだ。
 大会に出たり、家族以外の誰かと技術を競いたいと明確に思うようになったのは、もう少し後……今から十年前のことだ」

煌「十年前と言いますと——」

やえ「私が小二のときだ。ちょうど、セーラたちと会った時期とも重なる。
 そこから、私は本格的に麻雀の勉強を始めて、一年後、初めて公式戦に出た。地元の大会——低学年の部だな。優勝したよ」

煌「ほう……それは知りませんでしたね」

やえ「まぁ、そんなに大きな大会ではなかったからな。どういうわけか私の牌譜を蒐集していた荒川くらいしか知らんだろう。
 が、あいつも、私が今から話す『きっかけ』については知らないと思うぞ」

煌「《王者》誕生秘話……ということですか。一体、十年前に何があったんですか?」

やえ「なに、そんな込み入った話じゃない。憧れの人が、大会で思わぬ敗北を喫したのを目の当たりにした——それだけのことだ」

煌「憧れの人、とは?」

やえ「私の十コ上の姉だ。当時、白糸台高校麻雀部の三年で、チーム《晩成》のリーダーをやっていた」

煌「十年前の白糸台と言いますと……チーム《慕思》が一軍《レギュラー》だった世代ですね。確か、野依先生や、赤土先生も同年代のはずです」

やえ「まさにそう。赤土先生——伝説《レジェンド》こそ、私の姉を下した人物だよ」

煌「それはそれは……」

やえ「チーム《晩成》……実に40年間、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の本選に出場し続けている伝統チームだ。
 しかし、その歴史の中で、たった一度だけ、本選出場を逃した年がある。それが、私の姉がリーダーを務めていた十年前——伝説《レジェンド》爆誕の年だったのさ」

やえ「姉は……私の目標というか、理想そのものだった。雀士としての私の、原点にして原典。言うなれば、先代の《王者》さ。
 私は、彼女の意思を継ぐために、競技麻雀を始めたんだ。ゆくゆくは白糸台に進学し、《晩成》のリーダーとして、チームを一軍《レギュラー》に導くつもりでいた。
 インタージュニアも、インターミドルも、私にとっては、そのための準備のつもりだった。大会に出れば、セーラたちとも遊べるし、一石二鳥だったんだな」

やえ「ただ、きっかけは、きっかけ。時が経てば、その分だけ積み重なるものがある。中学生になる頃には、私は《王者》として麻雀を打つようになっていたよ。
 まぁ……そりゃ、インタージュニアで優勝し続けたわけだからな。姉を目標に競技麻雀を始めた私は、いつからか、私自身が周囲の雀士の目標になっていたんだ。
 もちろん、悪い気はしなかったさ。同世代の先端を行くということは、白糸台で一軍《レギュラー》になるという目標と一致する。
 《王者》と呼ばれるのも、誇らしかった。ま、その実態は、ただ他人より完成するのが早かったというだけのことなんだがな。それでも、単純に、結果が出る——努力が報われるのは、嬉しかった。
 なんだかんだ言ったところで中学生だからな。世界の広さを知らずに、浮かれていたのさ、私は……」

やえ「そして、三年前。ついにそのときが来るわけだが……ところで、花田——お前は、私のことをどれくらい知っているんだ? 三年前のあれは、牌譜まで見たのか?」

煌「ええ、もちろんですとも。三年前のインターミドルに限らず、全小・全中《王者》――《王道》を見聞した無能力者と名高い小走さんの牌譜は、数多く拝見させていただきました。
 十万点持ちの団体戦だと、何も想わなければ、私はほぼ無能力者みたいなものですからね。教材として使用するのは、もっぱら小走さんと福路さんの牌譜だったのです」

やえ「おぉ……なんだか照れるな……」

煌「特に、白糸台での——《幻想殺し》としての小走さんの牌譜には、大変お世話になりました。
 福路さんの《アナログ読み》は、牌譜を見ただけだと魔導《オカルト》と区別がつかないことも多々ありますが、小走さんの牌譜は、十分な情報を持って見れば、一打一打の意味を過不足なく読解することができます。
 逆に、小走さんの打ち回しから、私がまだ得ていない情報を逆算することもできました。例えば、宮永さんの《万華鏡》の仕組みに気付いたのは、去年の準決勝先鋒戦の牌譜を眺めていたときでしたよ」

やえ「おま——さらりととんでもないことをぬかしやがって。直に打ったわけでもないのに宮永の《万華鏡》のカラクリを見抜くとは」

煌「同じことを、荒川さんにも言われました。しかし、今ご説明した通り、半分くらいは小走さんのおかげなんです」

やえ「謙遜するな。全てはお前の努力の結果だよ」

煌「勿体無いお言葉です、《王者》」

やえ「さて……だとすると、説明の手間が省けるな。三年前のインターミドルの個人戦決勝が、どんな有様だったのか」

煌「東一局で辻垣内さんが弘世さんから直撃を取りましたね。そこから、宮永さんの連続和了が始まって、止まることなく、そのまま対局が終了しました」

やえ「そうだな。本当に……あれには参ったよ。宮永が能力を使ったのは決勝が初めてだった。データがなければ対策の立てようがない。
 もちろん、必死に抵抗を試みたさ。鳴きによる支配領域《テリトリー》の揺さぶりといった、培ってきたあらゆるノウハウを総動員した」

やえ「で、ようやく突破口が開けそうになった、宮永の八連続和了目。そこで……トドメの《八咫鏡》だ」

やえ「当時世界にただの一人も確認されていなかった超能力者《レベル5》、魔術世界の禁忌である点棒操作系能力者、《神の領域》の支配者《ランクS》と、ヒトじゃない要素を挙げればキリがない。
 対して私は、そこそこ頭が回るだけで、心も身体もごく普通の一般人。ランクFでレベル0の無能力者。しかも、まだいたいけな中学生だったんだからな?」

や「名実共に同世代最強の雀士として臨んだ最後の夏。不落の《王者》、西の獣の《獅王》として、勇んで向かった決勝の舞台——。
 そこで、お前、一方的に七連荘されて、最後に国士無双十三面待ちに振り込んで、トビ終了だぞ? ジョークにもならない。ぴくりとも笑えない話さ」

やえ「着々と……理想に——姉に近付けていると思っていた。なんの疑いもなく、このまま私の時代が続くものだと思っていた。
 全中《王者》として白糸台に推薦入学し、チーム《晩成》に入り、姉の果たせなかった一軍《レギュラー》の夢をこの手で掴む——その日は、遠からずやってくると信じていたんだ。
 なのに……まだ白糸台に入ってもいないのに、あんなあっけなく、あっさりと、終わってしまうなんてな……」

煌「……私が見た限りでも、あれはやり過ぎだったように思えます。白糸台での宮永さんの振る舞いからすると、ちょっと不自然ですね。
 恐らくですが……当時の宮永さんは、《発動条件》を満たした《八咫鏡》を、任意に止めることができなかったのではないでしょうか」

やえ「よくわかったな。そうなんだよ。だから、大人しくあいつの《万華鏡》に殺されておけば、私はあんな悲惨な目に遭わずに済んだんだ。
 後々、宮永とその話をしたら、あの野郎、七連荘すれば誰かしらトぶはずだと思って能力を使ったとのたまいやがった。私の抵抗は予想以上だったってな。腹が立ったから、その場でほっぺたをつねってやったね」

煌「となると……宮永さんが《八咫鏡》の制御ができるようになったのは、小走さんのことがきっかけだったのですかね?」

やえ「そうらしい。私を殺しかけたことで、自分の能力が相当ヤバいもんだという自覚が芽生えたんだとか。事実、あいつが《八咫鏡》を使うと、毎度ロクなことが起きない。
 私を殺しかけ、臼沢を壊しかけ、荒川を泣かした。そこでいくと、ネリーはさすがの《頂点》だったことになる」

煌「宮永さんの《八咫鏡》には……私も参りましたよ。この決勝が初対決でなければ、破られていたのは、私のほうだったと思います」

やえ「……そうまでして、トびたくなかったのか?」

煌「……はい。《八咫鏡》による役満を許してしまえば、誰かがトんでしまいますからね。点棒を奪われてしまう。大切なものを失ってしまう。この選択を、私は後悔していません」

やえ「なるほど……。つまり、それがお前の根幹にある想い——というわけか」

煌「『それ』とは、具体的に——」

やえ「《絶対にトばない》——ひいては、あらゆる点棒の流れを断絶する《通行止め》の根幹。奪われたくない、失いたくない、という、どんな人間も多かれ少なかれ抱いている普遍的な想い。つまり……」

煌「つまり?」

やえ「花田煌——お前は『負けたくない』んだな……?」

 ——《幻奏》控え室

     菫・照『ノーテン』

     煌・やえ『ノーテン』

ネリー「うぅ……焦らすねぇ、やえは」

誠子「これで東三局流れ二本場が終了。半荘の三分の一以上が過ぎたことになりますね」

セーラ「花田に纏わりついたあの『黒い』のも……大分広がってもうてるな」

優希「やえお姉さん……お願いだじょ……」ウル

ネリー「泣かないで、ゆうき」

優希「うぐっ……タコスが足りない——」モグモグ

誠子「……もし、万が一、小走先輩が花田さんを連れ戻せなかった場合、どうなるんでしょうか?」

セーラ「花田は無事や済まへんやろな」

誠子「世界のほうは……?」

セーラ「わからへん。ただ、まぁ、たとえどうなっても、生きていればそれで十分やろ」

誠子「生きていれば——っつ……!」ズキ

優希「どうかしたか、誠子先輩!?」

誠子「……わかんない……けど、なんだろう、踏み込んじゃいけないところに踏み込んだような——」

ネリー「きらめの想いと……何かしら関係があるのかも」

誠子「私の思考が、花田さんの根幹に近付いた、ということでしょうか?」

ネリー「たぶん。実際、今私たちがいるここは、きらめの自分だけの現実《パーソナルリアリティ》の内側——支配領域《テリトリー》なわけだから」

誠子「じゃあ、このまま思考を続けていけば……」

セーラ「誠子、それはやえの仕事や。じっとしとられへんのはわかるけど、俺らには俺らのすべきことがあるやろ」

誠子「そう……ですね」

優希「……誠子先輩、タコス食べるか?」

誠子「うん。食べる……」モグモグ

セーラ「ええか、誠子。万が一のことなんて考えんと、やえを——それから、花田のことも……信じたろうや。最後の最後までな」

誠子「……はい」

優希「だじぇ!」

ネリー「願え。祈れ。絶望と孤独の中にあっても、希望を見失うな——か」

セーラ「ん……?」

ネリー「……信じることをやめない限り、決して諦めない限り、私たちは、必ずそこに至る道を生み出せる……」

セーラ「どないした、ネリー? なんや、いつもとちょっと言い回しがちゃうやん」

ネリー「そうだね……本当は、『神様は必ずそこに至る道を用意してくれている』って続くんだけど。ほら、今、私たち、神様《システム》を相手にしているわけで」

セーラ「なんか、そんなようなもんらしいな——」

ネリー「だから、ね。やえが言ってたのって……みんなの力を信じろってことなのかなって。
 たとえ《天上の意思》がそれを拒んだとしても、私たちには、《運命》を切り開く力がある……って」

セーラ「……あぁ。それは、俺もそういうことやと思うで。間違いあらへん」

ネリー「うん……。ありがと、せーら——」

 ————

煌「……ここまで来て黙秘するのは、すばらくないでしょうね」

やえ「ということは——」

煌「はい。小走さんのご指摘の通り……私は『負けたくない』んです」

やえ「……どうしても、負けたくないか?」

煌「ええ、《絶対》に」

やえ「負けて這い上がるという選択肢は?」

煌「這い上がるも何もありません。なぜなら、負けたら、その時点で、全て終わりだからです」

やえ「私は現に、宮永に負けたわけだ。絶望した。競技麻雀の世界から逃げて、研究に没頭した。麻雀をやめることはしなかったが、三年もの間ほぼずっと……人ではなく機械だけを相手にしてきた。
 姉のことだってそうだ。私は去年、チーム《晩成》の補欠として一度だけ公式戦で打ったが、本当に必要最低限の仕事しかしなかった。私は自分で自分の理想を裏切ったんだ。
 雀士としても、人間としても、終わりに終わっている。これより下があるのかっていうくらいのドン底さ」

やえ「だが、それでも、私は今、ここにいるぞ。負けても、絶望しても、堕ちるところまで堕ちても、やり直すことはできるんだ。
 私のこの主張は……何か間違っているか?」

煌「……それは、小走さんが強いからできることです。可能性を信じ、決して諦めることなく、困難に立ち向かうことができる、すばらな心をお持ちだから、できることです」

やえ「そんなことを言うなら、お前のほうがよっぽど」

煌「買い被りですよ。できる限りのことはしてきたつもりですが、必ずしも、だから私が強い、ということにはなりません。
 私は、小走さんと違い、敗北に涙することしかできない。奪われてしまえば、立ち尽くすことしかできない。失ったものを取り戻そうにも、そのための力がない。
 私は弱いんです……それはもう、どうしようもなく——」

やえ「だから……お前は、この世界ごと《通行止め》したのか……?」

煌「そういうことになりますね。一度でも負けてしまえば、全てが終わり。ならば、一度も負けなければいいのです。奪われなければいいのです。失わなければいいのです。
 そういう世界なら、私のような弱い人間でも、絶望に涙せず生きていくことができます。
 絶望の中にあっても希望を見出せるのは、絶望の淵にあっても何かを守ろうと戦えるのは、強い側の人間です。
 弱い側の人間は、ひとたび絶望の底に堕ちてしまえば、二度と、そこから這い上がることはできません。
 そして、これは、とても大事なことですが、この世界は、強い人間より、弱い人間のほうが圧倒的に多いんですよ」

煌「人は、今ここにない『何か』を求めるより、今ここにある『確か』を守ろうとする生き物なんです。
 それが、人が本質的に抱えている『弱さ』なんだと、私は思います」

煌「もちろん、反論したければ、ご自由にしてくださって結構です。しかし、どんな論理を展開したところで、結論は出ているんです。私がここにこうしているのですから」

煌「世界は私を選びました。宮永さんの想いではなく、私の想いに、より強く共振しました。
 《点棒を求める》能力者である宮永さんと、《点棒を守る》能力者である私。
 『勝ちたい』と『負けたくない』では、『負けたくない』のほうが強いということが、能力論的に実証されてしまっているんです」

煌「私はここまで……多くの人の『勝ちたい』という想いを呑み込んで、『負けたくない』という自身の想いの糧にしてきました。
 海底を和了って己の強さを誇示しようとした天江さん。トップ通過を果たそうと最適手を求め続けた荒川さん。
 誇りを貫こうとした神代さん。約束を果たそうとした鶴田さん。可能性を捨てようとしなかったネリーさん。
 そして、《頂点》として戦い抜いた宮永さん」

煌「誰一人、私の《通行止め》を破ることはできなかったのです。それだけではない。ことここに至っては、世界中の全ての人が、私の支持者です。
 それは、あなたも例外ではありませんよ、小走さん。
 私がこうなっているということは、あなたも、心のどこかで想っているはずなんです。
 『負けて絶望するくらいなら、いっそ勝てなくてもいい』――と。
 それが、『全員ノーテン流局』という、世界の出した結論です」

煌「私のこの主張は……何か間違っていますか?」

やえ「……甘ったれるなこの大莫迦者が、と吐き捨ててやりたいね」

煌「感情的に言えば……まぁ、そうですね。大いに同感ですよ。
 私だって、強くなりたかったんです。淡さんのように輝きたかったんです。夜空に煌めく星のように、チームを一軍《レギュラー》へと導く灯火になりなかったんです。
 その結果……こうなったわけですね。このまま点棒の移動が起こらなければ、トップの私たちが優勝します。《煌星》が一軍《レギュラー》になれるんです。淡さんたちを導くという――あの日の約束を果たすことができるのです。
 ただ、当初思い描いていたものとは、まるで違う形になってしまったというだけで。『感情は時として人を裏切るが、論理はそうではない』――これはまさに、その戒めの通りの結末です」

やえ「…………まったく。ぐうの音も出ないとはこのことだな」

煌「ええ、そうでしょうとも……」

やえ「お前の主張は正しい。正し過ぎるくらいだ——」

煌「では……名残惜しいですが、これでお喋りはおしまい、ということですかね」

やえ「そうだな、お喋りはおしまいだ。というわけで——第二ラウンドと行こうじゃないか」ガタッ

煌「はて……?」

やえ「元々、お喋りだけで済ませるつもりはなかったよ。お前の主張がどんなものであろうと、その論理が正しくて、能力論的に実証されているのは、全てその通り。
 ただ……悪いが、その程度のことで、私も譲るわけにはいかんのでな。ここからは、論理も感情も信仰もナシだ。正面切って殴り合いをしよう、花田煌」

煌「穏やかではありませんね……」

やえ「それはお前も同じだろう、超能力者《レベル5》。《絶対》の論理と《絶対》の論理が衝突したとき、互いの主張に矛盾が生じたとき、お前はいつだって、相手の論理を暴力で排除《リジェクト》してきたはずだ。
 特に、宮永との一騎打ちなんか、話し合いすら成立してなかったろ。譲り合いも、落としどころもない。お前がどんな理屈を振りかざそうと、『勝ちたい』と『負けたくない』の勝負は、殴り合いで決着をつけた。
 この事実は重いはずだぞ」

煌「確かに、小走さんのおっしゃる通りです。しかし、勝てば官軍、負ければ賊軍。《リジェクト効果》による殴り合いの末、勝利したのは私です。この事実は、重いどころか、もはや覆りません」

やえ「まあな」

煌「それに、もっと重い事実があります。超能力者《レベル5》である私と殴り合いができるのは、同じ超能力者《レベル5》だけです。
 互いに互いを排斥《リジェクト》することでしか決着をつけられない《絶対》同士でなければ、そもそも、勝負が成り立ちません。
 そして、宮永さんを下した今、私は《最強》の存在——何人たりとも私の《絶対》を破ることはできないのです」

やえ「わかってるさ。《絶対》を殺せるのは《絶対》だけ。そしてお前は、今や名実ともに、学園都市に七人しかいないレベル5の第一位。《最強》の《絶対》だ」

煌「ええ。ですから、いくら小走さんが殴り合いをしたいとおっしゃっても、あなたは、私に触れることすらできないのです」

やえ「触れることすらできない――さて、そいつはどうかな?」

煌「……虚勢ではなさそうですね。どんな裏技を使うおつもりですか、小走さん――?」

やえ「裏も表もない。単純なことさ。《絶対》を殺せるのは《絶対》だけ。《絶対》に触れられるのは《絶対》だけ。なら、これからお前と殴り合いをするつもりの私もまた――《絶対》なんだよ」

煌「わかりませんね。臼沢さんのような、限定的な《絶対》――ということもないでしょう」

やえ「もちろん、そんな大層なもんじゃない。知っての通り、私はランクFでレベル0。荒川やネリーのような特別な才能もない。種も仕掛けもない、まったくの一般人だよ。
 しかし、だからこそ、何の力も持たない無能力者の私だからこそ、『それ』を主張することに意味がある。
 最底辺の、苦し紛れの、言い訳がましい、負け惜しみのような、証明もされていない論理《セオリー》――」

煌「……なるほど。《第二不確定性仮説》ですか」

やえ「ああ。《絶対》の《絶対》なる否定。『麻雀に《絶対》は《絶対》にない』という主張。お前の《最強》の《絶対》とは、どうしたって相容れない」

煌「確かに……それは殴り合い――完全否定《リジェクト》――をする以外に、決着のつけようがないですね……」

やえ「お見せしよう……学園都市に七人しかいないレベル5の第一位――《通行止め》。これが私の《幻想殺し》――《最弱》の《絶対》だ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《永代》控え室

     菫・照『ノーテン……』

     煌・やえ『ノーテン』

まこ「東場終了……じゃというのに、目立った動きはないのう」

穏乃「そうですね。なかなか……気を強く持つのも大変です……」

純「……おい、穏乃、別に無理しなくていいんだぞ?」

穏乃「いえ……お構いなく」

塞「ホント手のかからない一年ねぇ、あんた」

穏乃「一人でいることには慣れてますから」

まこ「……ほうじゃの。そういう時間も大切じゃ」

純「頭を冷やすにはちょうどいいわな。まァ、ずっと一人は、ちと寂しいけどよ」

穏乃「えぇ……」

塞「なんつーか、むずむずするわ……そういうの。
 一人でいてもどうせロクなことなんてないんだから、うじうじ悩んでないで、さっさと誰かに相談すりゃいいのよ」

まこ「さすが世話焼き係」

純「お節介ババァらしいな」

塞「あんたら、塞ぐわよ。気道を」

まこ・純「殺す気か!?」

穏乃「塞さんは……そういう能力者ですもんね。《防塞》は《防才》であり《防災》……それは、強過ぎる個性――才や災を封じる力ということです。
 つまり、《塞王》こと塞さんは、能力者を孤立から守る砦の王である、と」

塞「へえ……そういう考え方をしたことはなかったわね。
 その喩えでいくと、私が塞げないレベル5は、砦の外側にいるわけだから——孤立してるってことになるわけ?」

穏乃「ええ、その通りだと思います。《絶対》を謳うということは、それ以外の全てを排斥するということですから。ただ――」

塞「なに?」

穏乃「本気で孤立したいと思っている人なんて、どこにもいないはずだ——って、私は思うんです。
 レベル5の《絶対》と、レベル6の《絶対》は、そこを越えるか否かに違いがあるのかもしれません」

塞「ふぅん……?」

穏乃「一人は独りとは違うってことです。孤立していること、孤高であることは、孤独であることには直結しません。
 レベル5の人たちは、みんな、どこかで、それを理解している——。
 《絶対》によって他者を一切に排斥できるのは、どんなに孤立しても毅然と誇っていられるのは、自身が真に孤独ではないことを知っているからだ……と。
 だから、花田さんも、きっと――」

塞「なんかごちゃごちゃと難しいこと言うわねあんた」

穏乃「一人の時間が長かったですから」

塞「さいで」

穏乃「……たぶんですけど、小走さんも、私が今言ったのと似たようなことを考えていると思うんです。そこに何らかの突破口を求めている……」

塞「それはそれは——」

穏乃「とにかく……間に合うことを祈るばかりです」

 ――――

やえ「三年前……あのインターミドルの決勝で宮永に敗北したとき、私は絶望した。
 この世界はどうしようもなく不平等で、持っているやつは全てを持っている。宮永照――科学世界の《頂点》。そのもの国士無双だな。
 この点については、お前も同意見だろう? あんなデタラメなやつにどうやって勝てと言うんだ」

煌「そうですね。まるで天運が味方しているかのようです。この後半戦……私が世界を閉ざしたことで、ぴたりとも点棒が動かなくなった世界――この状況で、宮永さんは起親になったわけですからね。
 上家取りのルール上、半荘一回単位で見れば、勝つのは宮永さんです」

やえ「『神はサイコロを振らない。ただし麻雀は除く』……仮にそういう神がいるとしたら、そいつは宮永照が大好きなんだろうな。どうあってもあいつを勝たせようとする」

煌「ええ、時折、そうとしか思えないような麻雀を打ちますよね、宮永さんは」

やえ「……悔しくないか?」

煌「……先ほど言ったはずです、小走さん。私は弱く、あなたは強いと。そこで悔しいと思えるのは、強い側の発想ですよ。
 この世界には、宮永さんや淡さんのように、神々しく輝く人が、少数ながらも確かに存在していて、私のようなちっぽけな存在は、どう逆立ちしたって——たとえ世界を閉ざすほどの力を手にしたところで——そういう方々には敵わない。
 弱い私にとっては、それが自明の理なのです。そもそも勝てるとは思っていないわけですから、悔しいとは感じません。
 まぁ……こう言ってしまうと、誤解を招きそうですがね。
 例えばですが、この決勝戦。私の《通行止め》が宮永さんの《八咫鏡》に排斥《リジェクト》されて、それによってチームが敗北したら……無論、それはとても悔しいですよ」

やえ「だろうな」

煌「っと——申し訳ありません、話が逸れましたね。
 小走さんは、私と違い、誇り高き《王者》であらせられる。《塞王》たる臼沢さんもそうですが、『王』とは、己の守るべきもののためなら、時として神にすら叛逆するもの。
 三年前の敗北は……さぞや、悔しかったものと推察します」

やえ「ああ……そりゃあもう、さぞや悔しかったよ。ふざけるな。どうしてなんだ。こんなことがあるはずがない——って思った。
 敗北という絶望の中で……《幻想殺し》が誕生した瞬間だったな」

煌「と、言いますと?」

やえ「『《頂点》にはどう足掻いても勝てない』『人にはどうやっても超えられない壁が存在する』――宮永に負けて、私の中にふつふつと湧き上がってくるそんな《幻想》を、一つ残らずぶっ殺すと……あの時、私は心に誓ったんだ」

煌「……なるほど」

やえ「この辺りは、可能性の理論である運命論と相性がよかった。私は唯一神などこれっぽっちも信じちゃいないが、あいつらの基本理念には共感できた」

煌「それが、後の《第一不確定性原理》の証明へと繋がったわけですか」

やえ「そういうことだ。『どんなに正確で精密な測定を実行しようと、どんなに強い支配力や能力を行使しようと、全ての牌の位置と種類を確定することはできない』。
 これが《幻想殺し》の最初の一歩。ま、残念なことに、今のところは、そこから先へは進めていないんだがな。ただ、足踏みしていた私のところに、とんでもない《特例》が転がり込んできた」

煌「荒川さんのことですね」

やえ「そう……《悪魔の目》を持つ《特例》の無能力者——荒川憩。
 あいつは私の理想そのものだったよ。私は、つまるところ、『無能力者が宮永照に勝てる』ことを証明したかったわけだからな。
 なんのことはない、荒川が宮永に勝てば、その時点で、私の悲願は達成される。
 『無能力者が宮永照に勝てる』既成事実さえあれば、理論は後付けでいい。証明されるのが私の死後でも構わないとさえ思った」

煌「しかし、荒川さんは、宮永さんを上回ることができませんでした」

やえ「……あぁ、その通りだ」

煌「……あの時期から、小走さんの研究は、少し方向性が変わりましたね」

やえ「アプローチを変えたんだよ。《頂点》どうこうは一旦脇に置いて、宮永の《八咫鏡》――あれがどうにかならんものかとな。
 松実と渋谷と鶴田のおかげで、超能力者の《絶対》を目にする機会が飛躍的に増えた。結果、《予備危険性の排除則》から、《リジェクト効果》を提唱するに至ったわけだ」

煌「私の調べた限りでは、その《リジェクト効果》に係る論文が、最新のもののはずです」

やえ「そう。さてここから――と思っていたところに、今度は運命奏者《フェイタライザー》が降って湧いた。ネリー=ヴィルサラーゼ――魔術世界の《頂点》」

煌「ネリーさんもまた、学園都市の測定では、ランクFのレベル0。あちらの世界の超魔術師は、こちらの世界の無能力者。
 ネリーさんが宮永さんに勝てば、荒川さん同様、その実態はどうあれ、『無能力者が宮永さんに勝てる』ことの実証になります。ですが――」

やえ「結果はご存知の通り。100点が遠かったんだな」

煌「決め手となったのは、やはり、《八咫鏡》でしたね。対能力者の観点で言えば、運命奏者《フェイタライザー》であるネリーさんは、明らかに荒川さんより上ですが、魔術世界には原則的に超能力者《レベル5》が存在しえない。
 さらには、宮永さんの《八咫鏡》は、魔術世界の《禁忌》である点棒操作系能力。それでも100点差まで迫ったネリーさんは、さすがとしか言いようがありません」

やえ「だが、どれだけ善戦しようと、負けは負けだ。事実、『万能』の荒川も、『万知』のネリーも、宮永に勝つことができなかった。
 となれば、残された道は一つしかあるまい」

煌「小走さん自ら……三年越しのリベンジ、と」

やえ「ああ。だから、困るんだよ、花田煌。お前が世界を閉ざしたままだと、私はまたあいつに負けちまう」

煌「申し訳ありません。しかし、こればかりは、本当に、どうしようもないのです」

やえ「言ったろ、どうにかする――と」

煌「……殴り合い、ですか」

やえ「そういうことだ」スッ

煌「何をするおつもりですか……? やめてください。そんなことをしても、あなたが傷つくだけで——」

やえ「傷つく!! 傷つくねぇ——上等じゃないか……!! お前は何もわかってない!! このニワカが……ッ!!」ゴッ

 バチンッ

やえ「っ~~~~~~~~!!!!」ビリッ

煌「何やら支配力的なものを使っているようですが——無意味です。今すぐにやめてください」

やえ「無意味……!! 無意味だって!? 知ったような口を聞くなッ!!!!」ゴッ

 バチンッ

やえ「っ――!! 花田煌……!! 『負けたくない』お前にはわからないだろうな!! 本気で『勝ちたい』と願った人間が――それでも勝てなかった《頂点》以外のその他大勢が――どんな絶望と孤独の中で戦っているのか……!!!!」ゴッ

 バチンッ

やえ「能力がないからどうした!? 支配力がないからどうした!? 才能がないからどうした!? 天運がないからどうした!? 偽物だからどうした!? なあ、答えろよ……《最強》!!」ゴッ

 バチンッ

やえ「どんな理論を証明したところで、私は無能力者!! それは変えられない!! 『無能力者が宮永照に勝てる』ことと『私が宮永に勝てる』ことは別物だ!!
 それに——もう嫌ってほどわかってるんだ……!! 《王道》は《王童》——私の成長は中三でとうに止まっている!! どれだけ知識と経験を積んだって、私はこれ以上強くなることができないっ!!
 でもな……ッ!! それでも足掻いてんだよ!! もがいてんだよ!! 限界なんてクソ食らえと強がってんだ!! お前はそれを無意味だと言うのか!!?」ゴッ

 バチンッ

やえ「無能力者でもその他大勢でも努力して強くなろう!! 頑張っても頑張っても頑張っても頑張ってもどうにもならんが――それでも『勝ちたい』!!
 負けっぱなしじゃ終われないんだよ!! どうしてもあいつに一発かましてやりたいんだよ!! だから私は今ここで戦ってるッ!!!!」ゴッ

 バチンッ

やえ「正直に言ってみろ、花田煌!! お前から見て――こんな私は間違っているのか!?
 宮永が《頂点》に君臨するこの世界で、全盛期を過ぎた私がもう一度《王者》として返り咲きたいと願うのは、分不相応なのか!?
 万能とも万知とも程遠いごく普通の無能力者!! 何も持たない私が!! 全てにおいて最高の存在に勝ちたいと願うのは――いけないことなのかよ……!!?」ゴッ

 バチンッ

煌「……やめて……ください……」

やえ「やめろと言われてやめるやつがどこにいる……!? いいから答えろよ、《最強》!!
 《頂点》に挑み続ける私は間違っているのか!? 弘世は間違っているのか!? 荒川は!? ネリーは!? 《頂点》以外の雀士はみんな無意味だっていうのかよ……!!!?」

煌「そんなことは……ありません。勝ちたいと願うのは間違っていない……でも、でも――ダメなんです……」

やえ「なぜ!? 何がダメなんだよ……!!? 言ってみろ!!!!」

煌「……傷つくだけです。苦しいだけです……辛いだけ……悲しいだけなんです……」

やえ「はあ!? ふざけてんのかお前!? そんなことでお前は私たちの『勝ちたい』を呑み込んできたのか!!?
 負けて傷つく!? 苦しい!? 辛い!? 悲しい!? そんなくだらない理由で諦めるのかよ……お前はッ!!!?」

煌「私はふざけてなんか……っ!! くだらなくなんか……ないです……ッ!!」ゴッ

やえ「――――!!!?」クラッ

煌「言ったはずです!! 負けたら全て終わりなんです!! 奪われたものは取り戻せない!! 失ったものは返ってこない!!」

やえ「……たった一度……負けたくらいが――なんだって言うんだよ……」ズキズキ

煌「それは……っ!! だから――っ!!!」

やえ「だから――なんだよッ!!?」ゴッ

煌「っ……!!」

   ——はい、また私の勝ちっ!

煌「だ、だから――!!」

           ——キラメの負け!

煌「たった一度でも失ってしまえば――!!」

   ——キラメは本当に弱いなぁ、私と違って。

煌「喪った人は……!!!」

      ——じゃあ、いい子にしてたら、もう一回ねっ!

煌「二度と帰ってこないって言ってるんですよッ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ「っ――――!!!」クラッ

煌「私が強ければ……!! 私に力があればッ!! 何も喪わずに済んだかもしれないのに!!! なのに――私は……どうしようもなく弱くて……負けてしまった――喪ってしまった……」

やえ「花……田――」フラフラッ

煌「もう二度と……あんな想いはしたくない。だから……たった一度たりとも、私は負けるわけにはいかないんです。私は……大切な人を喪うのは……もう嫌なんです――」

やえ「……ウルミ……」

煌「――っ!!!?」

やえ「……対戦相手のことを調べるのは……基本中の基本だろ……そう驚くなよ……」ズキズキ

煌「どこまで……ご存知なのですか――?」

やえ「誤解を恐れずに言えば……どこまでもご存知だよ。私の人脈という人脈をフル活用して調べ上げたんだ。
 お前の母親……花田潤――旧姓、諸星潤。父親を早くに亡くしたお前は、ずっと彼女と二人で暮らしていたんだってな。
 しかし、その諸星潤も……二年前——お前が中三のときに、持病が悪化して他界した。それがきっかけで、お前は父方の実家に引き取られた。
 で、お前はそれから――今も――昔の家に、母親宛てで、手紙を送り続けているそうじゃないか……」

煌「そんなことまで……」

やえ「他には……こんな話もあるぞ。諸星潤は……外の世界の公式戦で一度としてトップを逃したことがない白糸台高校麻雀部の歴史上、最も苦戦したと言われる対外試合――その大将戦で、《千里山》の愛宕雅枝と打ち合った雀士であるとかな……」

煌「……っ!? 潤さんが……愛宕先生と――?」

やえ「私も驚いたよ……。言っておくが、諸星潤と縁があるのは愛宕先生だけじゃないぞ。お前の母親は、その大将戦で、松実姉妹の母親と、宮永姉妹の母親と、同卓している……」

煌「な……!?」

やえ「愛宕先生からこの話を聞いて……私は合点がいった。どうして理事長が、なんの実績もなかったお前のところにピンポイントで出向いたのかな。
 例えば、姉帯やウィッシュアートを見つけてきたのは熊倉先生だ。対して、松実姉妹と宮永姉妹については、理事長が直々にコンタクトを取っている。
 私の言いたいことはわかるな……?
 なんのことはない……お前も松実姉妹も宮永姉妹も、生まれたその瞬間から、学園都市に目をつけられていたんだよ。その結果……今のこの状況があるわけだな」

煌「そう……だったんですか……」

やえ「松実の母親も、宮永の母親も、相当な力を持っていたそうだ。当然、お前の母親――諸星潤もな」

煌「……ええ、そうです。潤さんは……それはもう、強かったですから……」

やえ「諸星潤……字牌使いの大能力者《レベル4》――」

煌「七星《セブンスター》……と、潤さんは言っていましたね。《配牌にある字牌を引き寄せる》自牌干渉系能力です」

やえ「役牌の速攻から役満、或いはベタオリまで自由自在。攻守ともに隙の無い、強いなんて言葉が生温いほどに強い能力だな」

煌「おっしゃる通り……潤さんは、それはもう、とにかく強かったです。いつだって光り輝くような麻雀を打っていました。
 しかも……潤さんは手加減という言葉を知りませんでしたからね。常に本気の真剣勝負。一切容赦なしです。勝てたことなんて一度もありません。いつも私のトビ終了でした……」

やえ「…………最期の一局も……そうだったらしいな……」

煌「そうなんです。そうなんですよ……潤さんは、本当に――」

やえ「お前は……東一局で……役満を直撃されて……トんだ」

煌「そう――そうです……全部……私が弱いから……っ」ポロ

          ——あはは……キラメは弱いなぁ、私と違って——。

煌「あのとき……私がトばなければ……っ」ポロ

     ――キラメのトビ終了で……おしまいだね。

煌「私は……潤さんと……大好きな人と、麻雀を――もっと続けることができたのに……」ポロ

                   ――ごめんね……キラメ、これが最期なの。

煌「私が弱いばっかりにッ!! 私に力がないばっかりにッ!! 全てが一瞬で終わってしまった――!! 私はもっと潤さんと麻雀を打っていたかったのに!!! 全部……私がトんだのがいけないんです……!!!」ポロポロ

      ――もう一回はないのよ……。

煌「でも――もう潤さんはいない……っ!! どこにもいない!! 私がトんだせいで喪われた一局は――私と潤さんの最期の一局は……二度と返ってこないッ!!!!」ポロポロ

             ――本当に……ごめんね……キラメ……。

煌「私はもう――あんな風に大切な人を喪うのは……《絶対》に嫌なんです…………!!!!」ポロポロ

 ——《煌星》控え室

咲「なに……っ、これ——」ポロポロ

友香「涙が——」ポロポロ

桃子「う……この……っ!!」グッ

淡「みんな……!! 泣いちゃダメだからね!!」ゴッ

桃子「ちょ、超新星さん……!?」

淡「わかるでしょ!? キラメが泣いてるの!! 私たちまで一緒になって泣いてどうするのさ!?」

咲・友香「っ…………!!」

淡「準決勝が終わったとき、強くなろうって決めたでしょ!! ここで泣いたらダメ!! それじゃキラメを支えられない……!!」

桃子「超新星さんは——ホッント……こういうときだけ……!!」

淡「と、とにかく!! そういうわけだから!! みんなわかった!?」

桃子・咲・友香「わかった……!!」

     菫・照『……ノーテン……』

     煌・やえ『ノーテン』

咲「っ……あと三局とか——!!」

友香「で、でも、何かが変わろうとしてるんじゃ……!? だからこその、今のこれなわけでー!!」

桃子「もう一押し——ってことっすかね!! だったら、ここからが正念場っす!!」

淡「大丈夫だよ……っ!! 私たちの光はちゃんとキラメに届く!! 最後には何もかもうまくいくんだから!!」

淡(ねえ……あなたもそう思うよね——ウルミッ!!)グッ

 ――――

やえ「…………言いたいことは、今ので全部か、花田煌」

煌「……はい……これは……くだらないこと……でしょうか……」

やえ「……くだらない――は取り消す。だが……やはり、お前の話を聞いていると、どうにも『違う』という気がしてならない」

煌「それは……あなたが――」

やえ「強い側の人間だから……か? しかし、お前が言ったように、私もお前の想いに共振した一人だ。お前と同じ『弱さ』を抱えている。
 一方で、お前は、お前が自身をどう評価していようと、レベル5の第一位。お前は力を欲して、その通りの力を得た。これが『強さ』でなくてなんだと言うんだ」

煌「とても……そんな風には思えませんけどね……」

やえ「…………なあ、花田煌」

煌「……なんでしょう」

やえ「ちょっと……涙を拭って、周りをよく見回してみてほしい……」

煌「周り……ですか……はて――」ゴシゴシ

やえ「私は……悪くない眺めだと思うのだが、どうだろうか」

煌「……これは……どういうことでしょうか……?」

やえ「先生方や学生議会の連中に頼んでな。学園都市中の人間に伝えてもらったんだ。『願え。祈れ。絶望と孤独の中にあって希望を見失うな』――と。その成果だと思われる。細かいことは、私もよくわからん。だが……綺麗だろ?」

煌「そうですね……どこもかしこも……見渡す限りの星空――まるで宇宙の中にいるようです……」

やえ「せっかくのロマンティックな光景だ。希望の星、意思の光、想いの灯火……と、まあ、これはそういったものだと解釈しようじゃないか」

煌「素敵な解釈ですね……すばらです……」

そうか淡の元々の名前と
淡の元々考えられてた能力か

やえ「……あのな、花田煌」

煌「……はい……」

やえ「このまま行くと、世界が閉ざされるわけだ。で、そうすると、『点棒の移動が起こらない』世界になる。そして、『トビ終了』の概念が喪失する、と」

煌「…………はい」

やえ「それは……過去に起こった『トビ終了』の事実まで消失してしまうということだよな。つまり、私たちの記憶から『トビ終了』に関わる部分が失われて……二度と戻ってこない、と」

煌「そう……ですね……」

やえ「例えば、私は、三年前に宮永にトばされて負けたことが、今ここで戦う理由の一つになっている——」

やえ「そういうやつは……他にもたくさんいる。トビ終了に限らず、負けた悔しさを糧にしているやつはたくさんいる。というか、ほとんどみんなそうだろう」

やえ「お前自身だってそうだ。『負けたくない』——その《絶対》を支えに、ここまで戦ってきたんだろう? その想いを失ってもいいのか?
 というか……諸星潤との対局はいつもお前のトビ終了だったんだろう? 世界が閉ざされれば、その過去も、全て消えてなくなっちまうんだぞ? お前はそれでいいのか……?」

煌「………………」

やえ「これは——決して、お前を咎めているのではない。なぜなら、こうなった責任は全人類にあるからだ。むしろ、私としては、謝罪したいくらいなんだよ。
 お前は……私たちの抱える『弱さ』のせいで、こんな闇の中に囚われている。ばかりか、このまま行くと、お前は存在自体が消滅し、意思のない神様《システム》として、未来永劫世界を閉ざし続けるハメになる……」

やえ「そして……さらに性質の悪いことに、たとえ今のこの状況がなんとかなったとしても、お前が運命想者《セレナーデ》である以上、何度でも、同じことが起こりうる。
 例えば——こんな例えばは想像したくもないだろうが——もし、何らかの事情で大星淡が帰らぬ人となったとき……お前は、また今回のように世界を閉ざさないと言い切れるか……?」

煌「そんな——そんなの……《絶対》に無理に決まっています……」

やえ「ああ……そうだろうよ。だからこそ、お前には、ここで、変わってもらわねばならん……」

煌「何を……するおつもりですか——?」

やえ「花田煌――これから、お前に、世界中から希望の信号《エール》を送る。というか、最初からずっと送っている。この光がそれだ。
 世界中の人間と共振している今のお前なら、少し意識をそちらに向けるだけで、私たちの想い《こえ》が聞こえるはずだ。耳を澄ませてみろ。手始めに、《王者》の有難いお言葉はいかがかな……?」

煌「」ドクンッ

    ――どんなに強い能力を持っていようと、どんなに強い支配力があろうと、やり方次第でどうとでもなる……!!

            ——お見せしよう、これが《王者》の逆襲だッ!!

やえ「そうそう。その調子だ、花田煌。自分の目で見て、自分の耳で聞いて、よく確かめてみろ」

                    ——最後の夏まで……全力を尽くして上を目指す。

    ——ナメんじゃないわよ。こっちにもプライドくらいあるわッ!

 ——約束は守りますよ。あなたを雲の上へと連れて行くのは、東横さんの《ステルス》ではない。私の《南風》ですっ!

           ——心地よい重責だよ。卑怯者の私にはちょうどいい。これだけ色々なものを背負わされては、逃げることもできんからな。必ず勝って帰ってくる。

      ——私だって頑張るんだ。これ以上離されてたまるか!

やえ「この世界は……本当に弱い人間のほうが多いのだろうか?」

  ——大丈夫。どんなに勝ち目がなくたって、前に向かって進み続ける限り、神様はきっとチャンスをくれる。

     ——諦めることはいつでもできる。終わらせることはいつでもできる。 だからこそ、可能性が消えないうちは足掻いてやろうじゃないか。

         ——私は私のベストを尽くしましょう。

              ——姫子せんぱいに『強かね』って言われた私のままで、強くなりたかとですっ!!

      ——私は私にできることばすっ……そいがチームのためと!

   ——われが強いのは知っちょるが、この声が聞こえちょる限り、ちゃちゃのんは止まらんけえの!!

       ——リーチ……///////

                        ——そろそろまぜろよっ!!

         ——みんなが見ててくれるなら……私はどこまでも強くなれるよーっ!!

    ——どがんことされても、負けの決まらん限り、私は希望ば捨てん。

やえ「私は、そんなことはないと思ってるよ。私は……人間の『強さ』ってやつを信じてる……」

   ——尭深ちゃん……一緒に行こうっ! 白糸台の《頂点》まで、一緒に――!!

             ——オイタが過ぎるわよ……小蒔ちゃん……!!

      ——最後まで一緒ですよ……宥さんっ!!

                 ——けど……だからって、諦めるわけがないじゃないのッ!!

  ——うん……憧よりは稼いでくる……。

        ——やけん……受け取れ、姫子――! こいが最後で最高の《リザベーション》!

    ——夏の祭りの終わりらしく、派手な花火で締めようやー!!

やえ「どんなにひどい負け方をしても……或いは幾度となく負けても——」

    ——私は……もう二度と、無様な闘牌はしないと誓いました。弱い心に左右されないよう、技術を磨こうと決めました。

       ——全ては私に勝ったあの人のため……! あの人のために、私は学園都市の《頂点》に立つ……!!

                   ——私は……勝たなければならないッ!!

    ——うちは自分に勝てへん……! なら、勝てなくてもええわ! 負けっぱなしで三年間を終えてもええわ!

          ——勝ちはあげるで、辻垣内。うちと自分の勝負は、全戦全勝で自分の勝ちや。白星もってけ泥棒や……っ!!

  ——せやけどな、辻垣内ッ!! たとえ勝負に負けようと、うちは試合に勝ったるで……!!

やえ「心と身体に深い傷を負っても——」

     ——じゃが……それでも、ここは戦場じゃけえ――。

        ——覚悟は決まっちょる。わしにどれだけ力がなかろうと、わりゃあらにどれだけ力があろうと、もう一度ここに戻ってくると決めたんじゃ――!

   ——勝つことを諦めるわけにはいかんじゃろ……ッ!!

やえ「悲しい別れに涙しても——」

      ――絶対に先輩たちに勝とうな……絹恵!!

  ――どがん辛かことのあっても、苦しかことのあっても、二人で乗り越えると!!

            ――約束と……ッ!!

      ——怯むな……!! 前を見ろッ!! 戦え――!!

   ——負けられへん! 負けたくあらへん……!! やってそうやん!? 今!! ここで!! お姉ちゃんがいなくなったあの日からずっと!!

        ——全てはこの人らに勝つためにっ!! この試合に勝つために!!

    ——必死で練習してきたんやからッ!!

やえ「五体がバラバラになりそうなほどの苦しみを覚えても——」

      ——私の身体なんて……どうなろうと構いません。

  ——私は支配者《ランクS》で大能力者《レベル4》ですから。

             ——無能力者《レベル0》の泉さんの誇りを、きっと守ってみせます。

やえ「絶望に抗うための力がなくても——」

     ——ええやん。

           ——それで強くなれるんやったら。それで一歩でも前に進めるんやったら。

  ——それで一番大事な誇りを守れるんやったら……っ!!

             ——何も要らへん!! どうせ元からレベル0でランクFなんやから!!

       ——負け犬……ッ!! 上等ォ――!!!!

やえ「理不尽に何かを奪われても——」

    ——またあの時みたいに、勝負とは全然関係のないところで、《頂点》への道が途絶えてしまうかもしれない。

           ——けど、それでも――前に進もうって、私は決めたから……っ!!

      ——立ち止まったりなんかするもんですか。

  ——今度こそ、ちゃんと最後まで駆け抜けてみせる――高過ぎて眩し過ぎる《頂点》に向かってね……!!

やえ「大切な人を喪っても——」

            ——私は私の超能力を誇りに思っています。

   ——いなくなったお母さんが傍で見守ってくれているようなこの力が、とっても好きです。

       ——あのときから、驕ることも呪うこともなく、私はずっと思い出《ドラ》と一緒に歩いていますよ……。

                  ——ナンバー1への道を――。

やえ「どんなことがあっても、どんな状況でも、私たちは、胸を張って前に進める。何度だってやり直せる。己の弱さに打ち克てる」

        ——しゃんとするですーしゃんと! 一年生の模範になるように……しゃんとするですーッ!!

  ——勝つためなら、いくらでも戦いましょう。正面から向き合いましょう。我が身に巣食う、この《魔物》と。

              ——行きましょう……! 私は、私らしく——ッ!!

       ——こんなところで止まれない!! まだまだ道は続いてる――負けるわけにはいかないよー……ッ!!

    ——うち、やったりますから。メゲんと頑張ってみますから。この手が憧れの清水谷さんに届くまで……絶対に――!!

ナンバー1は新旧どっちも母親への想いが能力の根幹にあるんだな

やえ「そんな事例はこの通り……星の数ほどあるんだ」

  ——ここで和了ると決めた以上、どんなに険しくても、曲がりくねってても、俺は俺の道を行くで。

     ——私はまだ、正しい道を歩いているのだと。私はまだ、お前に追ってきてもらえる私でいるのだと。自信と確信を持って、私はまた、前へ進むことができる……!!

   ——ぐちぐち悩んだって力の差は埋まらねえ。だったら目ェ見開いて真ん前向きに行ったろうや。

        ——ワタシハ、イツデモ、ユメ、カケル! ワタシハ、ドコデモ、ユメ、カケル! ワタシハ、リソーヲ、オイ、カケル……! ダカラ、ワタシハ、ツエーンダ――ッ!!

   ——大丈夫。一人じゃなんにもできない私は、一人なんかじゃないんだから。なんとかなるって信じてみる。それが、きっと、私の強さになると思うんだ――。

                 ――どんな逆風にも負けない強さを……っ!! 数絵が教えてくれた!!

          ——大事なことはただ一つ。己の道は、己で決める……ッ!!

    ——だって、そっちのほうが、《絶対》に楽しいからっ!!

             ——なぜなら!! 《運命》とは即ち――立ち向かう理由だからだぜッ!!

  ——私は……ッ!! あんたのためなら!! いくらでも無理してやるって!! 何度も何度も何度も言ってるでしょうがああああ、もうっ!!

      ——涙は視界を滲ませる! 涙は思考を鈍らせる!! まだ負けたわけやない。泣くな……! 笑えッ!!

   ——チームとしても個人としても、負けるわけにはいかない。決着をつけよう、照ッ!!

     ——喰らいたければ喰らうがいいよ、《最強》。あなたがどんなに強くても、私たちの《信仰》までは、《絶対》に殺せない……ッ!!

煌「あぁ————」

やえ「花田煌……私は、この《通行止め》を受け入れることができない。全力で拒絶《リジェクト》させてもらう」

やえ「なぜなら、『トびたくない』から『全員ノーテン流局』にするというこの論理は、突き詰めていけば、『死にたくない』から『全員不死身』にするってことになるからだ」

やえ「確かに、それなら、人は二度と誰かを喪わずに済むだろう。強かろうが弱かろうが、誰一人として絶望に涙せずに済む世界になるだろう。
 でも、それで、本当にいいのか……?」

やえ「敗者がいるから勝者がいる。負けがあるから勝ちが価値を持つ。失う悲しみがあるから得る喜びがある。私たちの生命も、それと同じだ」

やえ「死があるから、生が煌めく」

煌「…………っ」

やえ「誰だって死にたくないし、大切な人を喪うのは嫌だ。人間が本来的にそういう『弱さ』を抱えていることは認めよう。
 しかし、だからと言って、それに圧し潰されてしまうのは、ちょっと違う……と、私は思うんだ」

       ——上等ッ!! 全部まとめて――超えてやるっす……!!

やえ「だって、そうだろう? 死ぬことを――喪うことを恐れて立ち止まってしまったら、それは、本当の意味で生きていることにはならないじゃないか」

  ——これでやっと追い駆けることができる!! この道を――どこまでも真っ直ぐにッ!!

やえ「或いは、『死んで絶望するくらいなら、いっそ生まれてこなければよかった』——なんて主張もあるだろうな」

     ——勝っても負けても得るものがある——そんな真剣勝負がしたい……ッ!!

やえ「だが、幸か不幸か、私たちは生まれてきた。こうなったらもう帰れない。もう変えれないんだ。だって、現に、私たちは生きているんだから」

         ——この出会いの行く先に、何が待っているのかなんてわからない――。

やえ「この《一方通行》の生命の先に、死が待っているのは知っている。そこから先が《通行止め》なのも承知の上。そりゃあ……恐いさ。絶望と孤独に囚われないほうがどうかしている。でもな——」

     ——そこに待ち受けているのは、暗闇かもしれない。絶望かもしれない。悲しい別れかもしれない。けれど……。

やえ「だからこそ、私たちは、自らの意思で、前に進むんだよ」

            ——私は……やっぱり、前に進むよ。

やえ「歩いたり、走ったり、休んだり、誰かと出会ったり、別れたり、そういうのを繰り返して、私たちは、死ぬまで生きるんだよ」

  ——だって、止まってしまったら、失うことはないかもしれないけど、何かを掴み取ることもできないから。

やえ「そのための『強さ』を、誰もが、この世に生まれた時点で既に持っている」

        ——みんなの笑顔とか。幸せな未来とか。本当に大切な何かとか。

やえ「生き物ってのは生きるために生まれてくるんだから……当然だろ?」

   ——そういう……キラキラ光る星みたいなの。

やえ「だから——なあ、花田煌……」

                 ——だから、恐くても、私は行くんだ。

やえ「そんなところで立ち止まってないで、未来に向かって歩き出せ」

      ——今はまだ見えない、角の向こうの、その先へ――。

やえ「辛いことも、苦しいことも、悲しいことも、傷つくことも」

   ——キラメ……。

やえ「生きていれば数え切れないほどにあるだろうが……」

                ——いつも……ありがとね。

やえ「それも含めて——」

           ——大好きだよ――。

やえ「人生ってのは……楽しんだもの勝ちの祭りみたいなもんなんだから」

       ——あなたと出会えて本当によかったっ!!

煌「…………っ!!」

やえ「…………これが、お前へ送る私たちの想い《オーダー》だ。どうだ、花田煌。少しは前向きになれそうか?」

煌「……小走さんの——皆さんの——おっしゃることは……よくわかりました……っ」ポロ

やえ「……そいつは良かった」

煌「ですが……っ!! 今——私の前に、道はありません……!! どこもかしこも《通行止め》……私はここから一歩も動けないんですっ!! 私は前に進めない!!
 どんなに行きたいと想っても……!! 願っても望んでも祈っても——そちら側には《絶対》に戻れない……!! もう、だって……私の世界は閉ざされてしまったんですから……っ!!」ポロポロ

やえ「…………まぁ、そう悲嘆なさんな」

煌「そんなこと——」

やえ「何度も言ったはずだ、どうにかする——とな」

煌「……ですが、さっきのようなことをいくら繰り返しても……私の《通行止め》は破れませんよ。どんな支配力や能力を使っても——《絶対》に無理なんです……」

やえ「さっき——? あぁ……いや、お前、あんなのはパフォーマンスに決まってんだろ。私は支配力や能力なんて使わない。使うわけがない。無能力者が無能力者のままで超能力者をぶっ殺すことに意味があるんだからな。
 大体、嫌だろ? 希望を掴み取るのに、いちいち支配力《キセキ》や能力《マホウ》を必要とする世界なんて。
 麻雀と同じだ。十分な研鑽と、十分な研究。あとは、右手が一本あれば十分なんだよ」

煌「それは——」

やえ「さて、それじゃあいくぞ? 覚悟はいいか?」

煌「えっ……えぇ? あの、小走さん——?」

やえ「私は能力者じゃないのでよくわからんが、能力を《無効化》されるというのは、随分と堪えるらしいな。
 いや、そりゃ自身の根幹を成す論理を破られるわけだから、無理もないか。ましてお前はレベル5の第一位。《絶対》を殺されるなんて、死ぬほど辛いに違いない——と、まあ、そういうわけだから……」

煌「あ、あの——」

やえ「歯を食いしばれよ、《最強》」ゴ

煌「…………っ!!?」ゾクッ

やえ「私の《最弱》は——」ゴゴゴ

煌(何……を……)

やえ「ちっとばっか響くぞッ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 パキィィィィィィィン

煌「な……っ!!? そんな!!? あ——ありえません!!! 私の《通行止め》が……どう……して――」

やえ「…………解説してやろうか?」ニヤッ

煌「お、お願いします——!!」

やえ「決め手になったのは……宮永の《照魔鏡》が《無効化》されたことだな」

煌「え……?」

やえ「本来、点棒の移動と無関係な宮永の《照魔鏡》は、お前の《通行止め》の論理とは独立に存在している。それが《無効化》されたということは、取りも直さず、《リジェクト効果》が発動したということだ。
 では、もう少し突っ込んで、なぜ《リジェクト効果》が発動したのかを考えてみよう。
 《リジェクト効果》とは、能動的な《予備危険性の排除則》——《絶対》を保持するために、本来の論理ではカバーできない領域にまで立ち入って、《無効化》の危機を事前に消し去ろうと働くもの。
 つまり、お前の《通行止め》は、《照魔鏡》を、《絶対》を揺るがす脅威と見做したってことになるな」

煌「それは——」

やえ「わかるか? 要するに、お前の《通行止め》には、《照魔鏡》で見られては困る『何か』があったってことだ。一目瞭然の、とんでもなく明白な『何か』がな。
 それを見られたら、《通行止め》を《無効化》される恐れがある。ゆえに、《リジェクト効果》によって、本来の《通行止め》の論理ではありえない《照魔鏡》の《無効化》が起きた——と」

煌「見られては困る——『何か』……」

やえ「宮永の《照魔鏡》が《リジェクト効果》に拠る《無効化》を食らったのは、今回が初めてなんだが、おかげ様で、かなり希望が持てたよ。
 そういう『何か』があるはずだ——という私の仮説の左証として、やっとそれらしくふさわしい現象が起きたんだからな」

煌「まさか、では……これが《第二不確定性仮説》なんですか——!?」

やえ「ご明察。これが《絶対》の《絶対》なる否定――《リジェクト効果》を突破するための《最弱》の《絶対》。目下私が研究中の《第二不確定性仮説》。別名を、パスコード仮説という」

煌「通行許可証《パスコード》……!!? そんな——聞いたこともありませんよ!!?」

やえ「そりゃ当然だろ。仮説の概要はまだ私の頭の中にしかない上に、別名に至っては、今この瞬間に思いついたんだから」

煌「なんと……」

やえ「まぁ、命名については閑話休題。肝心の内容を一口に言えば、『《リジェクト効果》で排除できないメロディが必ず存在する』——という仮説だな」

煌「『《リジェクト効果》で排除できないメロディ』……では、これは、この旋律が……私の《通行止め》の通行許可証《パスコード》——」

やえ「《配牌にある字牌を引き寄せる》自牌干渉系能力者。配牌に三元牌が揃っていれば、大三元。四風牌が揃っていれば、四喜和。
 さて、それじゃあ、三元牌と四風牌――七つの字牌が全て配牌に揃っていたときは、どうなるだろうか」

煌「これが……その答え、ですね——」

やえ「そう。諸星潤が最も多用した役満。七つの字牌が全て配牌に揃っていたとき、どんなに遅くとも七巡で、諸星潤はこの和了りに辿り着く。
 即ち――字一色七対子。
 聞けば……諸星潤が最期に和了ったのも、これだったそうだな……」

煌「……ええ、そうです……」

   ——世界で一番強くてカッコいい能力!

煌「これはまさしく……潤さんの大好きだった……大七星——」

               ——それが私の七星《セブンスター》なのだから!!

煌「確かに……私にこれを拒絶《リジェクト》することはできませんね。それこそ……《絶対》に……」

やえ「自己矛盾を防ぐための機構——とでも言えばいいのだろうか。
 《リジェクト効果》は自己に対するあらゆる脅威を排除するが、その『自己』の定義が曖昧だと、場合によっては自分で自分を排除することになり、
 《リジェクト効果》そのものが自己に対する脅威に含まれてしまう——という七面倒臭いパラドックスに陥ってしまうことになる。
 ゆえに、『自己』の明確な定義——《リジェクト効果》の排除対象から逃れるための『何か』が必要になってくるわけだ。
 《リジェクト効果》は、その『何か』に従って、対象が『自己』なのか『他者』なのかを識別しているんだな」

煌「その『何か』が……通行許可証《パスコード》……」

やえ「そういうことだ。《リジェクト効果》は、通行許可証《パスコード》を持つ者を『自己』と認識し、排除対象から外す。
 だったら、話は簡単だな。お前がお前自身を定義している許可証《パス》——お前が《絶対》に拒絶できない和音《コード》を、どうにかして突き止める。
 で、とことん調べた。さんざんお喋りをした。想いと想いをぶつけ合った。これだけやって何も掴めないようなら、私はとんだニワカだろうよ。研究者としても、雀士としても、お前の先輩としてもな」

煌「いやはや……すばら——本当にすばらです。《第二不確定性仮説》の実証……すばらの一言に尽きます。一体どのような論理でこれが成り立っているのか——論文の発表が待ち遠しいです……」

やえ「なに……さほど複雑な仕組みじゃないさ。要するに、お前が母親との思い出を忘れたくなかったっていう——ただそれだけの話だよ」

煌「そう……ですね。ええ……その通りです――」

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

やえ「ふむ。もう《通行止め》は開けたわけだし、そろそろお迎えが来るはずなんだがな……」

煌「はて——?」

やえ「わかってるだろう? お前へ送る超新星《ラストオーダー》さ」

 キラッ

煌「あ……光が」

淡「キラメええええええええ!! 私だよッ!!」ババーン

煌「ええっ!? あ、淡さん!!? ど、どうやって!!!?」

淡「なんかこう——いい感じに!!!」

煌「……敵いませんね、淡さんには」

淡「私に不可能はないのだよんっ!!」

煌「そうですね……。ええ、そうでしょうとも……」

淡「じゃ、キラメ!! 何はともあれ、一緒にみんなのところへ帰ろっか!!」スッ

煌「はい……ありがとうございます。そうしま」

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

淡「うわっぷ!?」グラッ

やえ「っと、なんだってんだ……あ——?」ゾクッ

淡「嘘……でしょ……」

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

淡「キラメが……消えた――」

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

 ――対局室

 南二局流れ五本場・親:煌

やえ「ロン」

照(小走さんが——)

菫(花田から直撃を取った……!?)

煌「」

やえ「」

菫「……お、おい。なに固まっているんだ、二人とも。それに、小走——ロンしたのなら手牌を」

照「待って、菫。よく見て」

菫「何……が——」ゾワッ

照「花田さん……」

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

菫「ど、どういうことだ、照!? 《通行止め》を破れば元通りになるんじゃなかったのか!?
 なぜ、この『黒い』のが消えない!? ばかりか……むしろ、侵食の勢いが増しているような——」

照「……《世界の力》が暴走している」

菫「は……?」

照「能力《システム》が消えたことで……《世界の力》の流れの制御が失われた。想いとエネルギーを一点に集約させ過ぎたんだ……」

菫「わ、私にもわかるように言ってくれ! 花田はどうなる!? 世界や小走は!?」

照「《世界の力》は……基本的に、均一になろうとする性質がある。世界を閉ざす《通行止め》も破られた。待っていれば、いずれ世界は元に戻る。小走さんも無茶しなければ大丈夫なはず……」

菫「花田は——どうなる……?」

照「花田さんは……このままだと、帰ってこれない。その『黒い』のに呑まれて……存在が消えてなくなる……」

菫「そんな——」

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

 ――――

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

淡「あわわわ……!! もー、何がどうなってるのさ!?」アワワワ

やえ「おい、大星。落ち着け。まずは状況を——」

淡「仕方ない――かくなる上はッ!!!」スゥ

やえ「ちょ、おま」

淡「サッキーーーーーーーーーーー!!!!」ゴッ

やえ「っ————!?」キーン

咲「呼んだ!!!?」パッ

淡「呼んだ!!!!」

咲「何が起きてるの!?」

淡「キラメ! 消えた!! 助ける!!!」

桃子「何やらかしたっすか、超新星さん!!」ユラッ

淡「いや私の――えええっ!? モモコ!? なんで来たの!?」

友香「私もいるんでー!!」ゴッ

咲「ごめん、淡ちゃん!!! 私一人じゃ迷子になるって言われて反論できなかった!!」

淡「けど、ランクSでもないのにこんなとこ来たら――」

桃子「自分の想いくらい自分で守れるっす。私は鉄の女っすよッ!!」

友香「煌先輩のピンチなら、たとえ火の中闇の中でー!!」

淡「うにゅにゅ……!!」

咲「淡ちゃん、お姉ちゃんからテレパシー。『高密度に圧縮された《世界の力》と想いが」

淡「長い! もっと短いセンテンスで!!」

咲「煌さん!! 闇の中心!! 超ヤバい!!」

桃子「中心――っていうのは……」ゾクッ

友香「この……さっきから身体が引きずり込まれそうになるほうってことでー?」ゾワッ

 ドドドドドドドドドドドドドド

淡「みんな、フォーメーションK!! 手を繋ぐよ!!」スッ

咲「うんっ!!」ギュ

友香「でー!!」ギュ

桃子「っす!!」ギュ

淡「私があの中に突入して、キラメを見つけてくる。確保したら言うから、引っ張り上げて」

咲「淡ちゃん……けど、これ以上中心に近付くと友香ちゃんと桃子ちゃんが――」

やえ「ったく、行き当たりばったりかお前ら!! 少しは考えて動け!!」キラキラ

淡「そんなこと言われ——って、ヤエ、なにそのキラキラ!?」

桃子「硝子の破片みたいに見えるっすけど」

友香「なんか支配力が込められてるっぽいような……」ビリッ

咲「ちょ、待ってください。それ、まさか——!?」

やえ「宮永が帰りの目印にと置いていった《照魔鏡》の欠片だよ。あいつの支配力がここに込められているらしい。集められるだけ集めたから、お守り代わりに持っていけ」

桃子「嶺上姉さん、なんでもありっすか!!」

友香「えっ、でも、いいんですか、帰りの目印持ってきちゃって……?」

やえ「案ずるな。目印などなくとも、《王者》は常に己の帰るべき場所を知っている」

桃子「超意味わからないっすけどかたじけないっす!!」キラキラ

友香「有難く頂戴しますんでー、《王者》!!」キラキラ

やえ「同じものを、私も一つ持っている。もし闇の中で迷いそうになったら、この光を標にしろ」キラキラ

桃子・友香「了解っす(でー)!!」

淡「っしゃあー! 準備完了ってことでいいのかな、みんな!!?」

咲「ばっちり裸足だよ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香「いつでも来いでー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子「しんがりは任せろっす!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「それじゃあ突入作戦開始!! 気合入れて行くよ――せーのっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡・咲・友香・桃子「すばらあああああああああああああああ!!!!」ゴッ

 ――――

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌(意識が……底のない暗闇の中へ落ちていくような感覚。圧縮し過ぎた世界の力と想いに引き寄せられ、呑み込まれたのでしょうか。
 マズいですね。《通行止め》の論理は破られたので、世界が閉ざされることは防がれたと思われますが、このままでは……私は自ら掻き集めた想いに圧し潰されて……存在が消えてなくなってしまう――)

                   ――キラメ!

煌(はて……この想い《こえ》は――)

     ――大好きっ!!

煌(潤さん……走馬灯みたいなものでしょうか……私の記憶の中の……潤さん……)

                  ――これで、キラメの負け……。

煌(ああ……あのときも……ちょうどこんな風に……絶望と孤独に呑まれましたね――)

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

潤「ツモ、大三元ッ!」ババーン

煌「わあああああ!!」キラキラ

潤「ロン、小四喜ッ!!」ババーン

煌「わああああああああ!!」キラキラ

潤「ツモ、字一色ッ!!!」ババーン

煌「わあああああああああああああ!!」キラキラ

潤「これでトドメだよっ!! ツモ、大七星《セブンスヘブン》ッ!!!!」ババーン

煌「わあああああっ!! でました! ひっさつ・せぶんすへぶん!! すばらしいです!! 潤さん!! かっこいいですっ!!」キラキラ

潤「ふっふふーん、当然! 世界で一番強くてカッコいい能力! それが私の七星《セブンスター》なのだから!! とゆーわけで、はい、また私の勝ちっ! キラメの負け!」ババーン

煌「はいっ! わたし、またトんでしまいました!!」

潤「キラメは本当に弱いなぁ、私と違って」ナデナデ

煌「えへへへ!!」ギュー

潤「にしてもな~、おっかしーなぁ。ツユコもマサエも――それにあの憎きツノ女も――全員化け物が化け物を生んでるはずなのに。
 これは、あれかな? キラメにも妹が必要なのかな? いやー、でも相手がいないしなー」ムムム

煌「潤さんっ! 潤さん! もういっかい! もういっかいうちましょう!!」

潤「ごめんね、キラメ。今日はこれでおしまい。私、これからちょっとお出かけしなきゃなの」

煌「じゃあ! またかえってきたら! もういっかいおねがいします!」

潤「じゃあ、いい子にしてたら、もう一回ねっ! 私が帰ってくるまでに、ちゃんと宿題終わらせておくよーに!」ナデナデ

煌「だいじょうぶです! よしゅう! ふくしゅう! ぜんぶおわらせてから、まーじゃんしてますから! ほんをよんでおとなしくまっています!」

潤「真面目!? キラメ、超真面目!! 私と違って!!」ガーン

煌「では、潤さん! おわすれもののないように! いってらっしゃいませ!」

潤「は~い、行ってきますっ! ……と、危ない、保険証忘れるとこだった――」アワワワ

 ――――

 ――――

煌(潤さんは……どんなときも明るく元気でしたね)

煌(中学に上がるときに、病気の話を聞かされましたが――薄々気付いてはいましたが――なかなか信じがたかったです)

煌(夜空に浮かぶ無数の星々を一纏めにしたような、光り輝く麻雀を打っていた潤さん……)

煌(七星《セブンスター》の炎が消えることなんて……あるわけがないと思っていました――)

 ――――

 ――――

潤「ロン——大七星《セブンスヘブン》……32000……」パラララ

煌「ぁ……」

潤「あはは……キラメは弱いなぁ、私と違って——」

煌「う……あぁぁ——」

潤「キラメのトビ終了で……おしまいだね」

煌「う――潤さん……っ!! 違う……! 違うんです!!」

潤「違わないよ……どこからどう見ても、これで、キラメの負け……」

煌「それは——えっと、その……!! 本当はこんなはずじゃなくて――も、もう一回っ!! もう一回だけ――」

潤「ごめんね……キラメ、これが最期なの。もう一回はないのよ……」

煌「そ……んな……」ポロ

潤「本当に……ごめんね……キラメ……」

煌「わた……私――なんで……っ」ポロポロ

潤「………………」

 ――――

 ――――

煌(何度思い出しても……自分の力の無さが嫌になりますね……)

                ――キラメ……。

煌(あぁ……でも……そうです……そうでした……)

   ――ちょっと……こっちに来なさい。

煌(潤さんは……あのとき――)

 ――――

 ――――

潤「キラメ……ちょっと……こっちに来なさい」

煌「は――はい……」

潤「ごめんね……キラメ」ギュ

煌「潤さ――」

潤「私は超強いから……どうしたって……相手を叩きのめす以外の打ち方ができないの。
 でもね……これが――この輝きが私だから。たとえ最期の一局だろうと……それを曲げることはできない……そんなのは私じゃないから……」

潤「ごめんね……キラメ。わかってたのに――こんな風になっちゃうって、私、わかってたのに……だって――キラメは私と違って弱いんだから……」

潤「でもね、キラメ……よく聞いて。キラメは私と違って弱い。けど、私はあなたの麻雀が大好きなの。
 弱くても、力がなくても、何度負けても、煌めきを失わないあなたの麻雀が好き。どんな状況でもひたむきに前に進もうとする……あなたの麻雀が好き」

潤「あなたの麻雀は……私と違って、きっと、想うように勝てる麻雀じゃない。でも、あなたは、想うように勝てなくても、へこたれない。どんな苦難や逆境を前にしても……笑顔でいられる……」

潤「そんなキラメの麻雀はね……きっと、この世界にいるいっぱいの弱い人たち――想うように勝てない人たちの、希望の光になると思う。それは、とても、素晴らしいこと……」

潤「キラメ……私はあなたが誇らしいわ。あなたは、私と違って弱い。だからこそ、人の『弱さ』や痛みに敏感な……優しい子に育ってくれた。キラメ、大好きだよ。心から、あなたを生んでよかったと思う……」

煌「潤……さん……っ」ポロポロ

潤「……ねえ、キラメ。どうして私が、大三元でも四喜和でも字一色でもなくて……大七星を好きなんだかわかる?」

煌「え……っと――」

潤「私の七星《セブンスター》は……そりゃあもう、めちゃめちゃ強くて、安い手も高い手も速攻も役満も自由自在の超イケてる能力……。
 でもね、大体どう打っても、必ず刻子が一つ以上和了り形に含まれちゃう。字牌が集まるんだから当たり前だよね。けど……大七星だけは……そうじゃない。この大七星だけは……私の好きな形で和了れるのよ」

煌「好きな……形……」

潤「そう。夜空に輝く七つ星――それを、七つで一つにしようとすると、必ず、この形になる。つまり……七対子。私の一番好きな役……」

煌「え、七対子が一番……? どうして……」

潤「それは……ふふっ。簡単なこと。あのね、キラメ、知ってるかな。七対子って、牌を二個ずつ揃えるから――ニコニコとも言うのよ」

煌「ニコニコ――」

潤「そう……ニコニコでキラキラの輝く星。それが大七星——私のためにあるような最高の和了りでしょ……? これがね……もう、私は大好きなのよ。
 たまたま字一色になってるから役満扱いなわけだけど……別に、点数が1600点でも、私はこの大七星《セブンスヘブン》を必殺技にする……」

煌「……潤さんらしいですね……」

潤「ううん、私だけじゃないよ。キラメも、同じ」

煌「私……?」

潤「あのね……キラメ。私は、麻雀を打っているときのあなたの顔が好きなの。私と同じウルウルの瞳をキラキラに輝かせて……負けて凹んでもニコニコの笑顔でいられる、あなたが好き。私はあなたが……大好き」ナデナデ

煌「わ、私も……潤さんが大好きです……!」ポロポロ

潤「ほーら……言ってるそばから泣かないの。キラメ……どうか、いつだって笑っていて。あなたは私の大七星――ニコニコでキラキラの……煌めく星なん……だ――」フラッ

煌「う、潤さん!?」

潤「っ……! あぁー……ずっと一緒にいたかったのになぁ……っ! ごめんね、キラメ――」ギュー

潤「私がいなくなっても……笑って生きて。輝き続けて。どんなに寂しくても、一人ぽっちでも、真っ暗な闇の中でも……決して煌めきを失わないで。光を放ち続けるの、キラメ……」

潤「そうすれば……いつかきっと、あなたの煌めきは、誰かに届く。素敵な出会いがある。だって、そうやって、私はあなたに巡り合えたんだもの。だから、あなたもきっと……うまくいく……」

潤「今は一人でも……いつか、あなたの世界には、必ず光が差す。それこそ……超新星みたいな、目も眩むような光が、あなたの絶望と孤独を吹き飛ばしてくれる……。
 だから……信じて、キラメ。私たちは……生まれるときも死ぬときも一人の……どうしようもなく寂しい存在だけれど――みんなが煌めき続ける限り、光を放ち続ける限り、誰も闇に呑まれることはないわ。
 夜空に煌めく星々のように……それぞれがそれぞれの導きの灯火となって、明るい世界をつくる――それでみんなが繋がっていられるようにできてるの……」

潤「……キラメ……あなたと出会えてよかった……幸せだった……キラメ……大好き……」

潤「あなたならきっと大丈夫……どんな暗闇の中だって……あなたならきっと煌めける……私はあなたの『強さ』を信じてる……だから、負けないで、キラメ……」

潤「絶望と孤独なんかに負けないで……キラメ。私の大好きなキラメ……きっと全てはうまくいくから……ニコニコのキラキラの笑顔で……ずっと……きら……め――——」

煌「潤さ――潤さん……っ!! あああぁあ……なんで……っ!! なんで――!!?」ギュ



         ――……だから、負けないで、キラメ……。



煌「……私……私は――負け……ない――」ギュー





    ――負けないで……キラメ。





煌「私は……っ!! もう……二度と――!!!」グッ













                ――キラメ……大好き……。













煌「《絶対》に負けないッ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――

煌(……そうです……私はもう二度と負けない……あのとき……そう心に決めました……)

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌(……ならば……ここで私がすべきことは……一つですよね……)

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌(光を――放つ……)ゴ

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌(たとえ闇の中に一人であっても——)ゴゴ

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌(強い心で……ニコニコのキラキラの笑顔を絶やさない……っ!!)ゴゴゴ

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌(そうして輝き続ければ——煌めき続ければ——いつかきっと……!!!)ゴゴゴゴ

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌(想いは誰かに届くから――!!!!)ゴゴゴゴゴ

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌「私は……負けない!!」ゴゴゴゴゴゴゴ

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌「もう二度と……っ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌「こんな……絶望と孤独なんかに――私は負けないッ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

煌「《絶対》に――!!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

                ――……っ!! 見つけたぁーっ!!!

煌(っ――!? この……神々しい光は――)

       ――キラメえええええええええええ!!

煌「淡さん……!!」

    ――そこにいるんだよねっ!!? 聞こえてるよね!!!?

煌「ここにいますっ!!! 聞こえています!! 淡さんっ!!!」

       ――うぐっ……!! ちょっと、サッキー!! 支配力が足りないよっ!!!

           ――淡ちゃんこそいつものバカ力はどうしたの!!!?

  ――超新星さん!! ヤバいっす!!! これ以上は引き返せなくなるっす!!

       ――いだだだだ!!? 引っ張らないで!! 私の身体が千切れるんでー!!!?

煌「み、皆さんまでっ!!!?」

   ――キラメ!! ごめん!! ちょっとこっちも色々あれこれ!!

煌「大体わかりました……!!!」

         ――私に向かって手を伸ばしてっ!! 思いっきり伸ばして!!

煌「はい――!!」

     ――あとちょっとー!!! うがー!!! 伸びろ私の腕ええええええ!!!

煌(あと――少し……!!! あと少しで、淡さんに――《超新星》に手が届く……っ!!!)

      ――キラメっ!!! 頑張って!!! 私たちも頑張るからっ!!!!

煌(出会った頃はあんなに遠かった淡さんに――今は……ここまで近付くことができた……!!!)

         ――うぬぬぬっ!!! 掴んでみせるっ!!!! 私はキラメと幸せになるんだから……っ!!!!

煌(あと――ほんの、一歩……前に進むだけで……ッ!!!)

   ――キラメええええええええええええええッ!!!

煌(私は……あなたの隣に――!!!!)

                ――来おおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!

煌「淡さああああああああああああああああん!!!!」
















































淡「掴まえたあああああああああああああッ!!!!」ギュ

煌(届い……た――)ギュ

淡「よしっ! あとは帰るだ――」ハッ

煌(淡さん……?)

淡(あの人が――諸星ウルミ……)ドキッ

潤「」ニコニコ

淡(えーっと……その、初めまして! 大星淡と申しますっ!! いつもキラメさんにはお世話になっています!!)

潤「」ニコニコ

淡(さて……早速ですが!! キラメさんをくださいッ!!)

潤「」ニコニコ

淡(大丈夫だよ!! 私たち必ず幸せになるから!! ずっと見守っててね、マ――おかーさんっ!!)

煌「淡さん……? どうかされましたか――?」

淡「いつか話すっ!! とゆーわけで、っしゃああああああー!! 全員全速力で帰還ッ!!!!」ゴッ

咲「全力でゴッ戻るよッ!!!」ゴッ

友香「お手を離さないようにでー!!」ゴッ

桃子「限界突破でぶっちぎるっす!!!」ゴッ

煌(あぁ……皆さん。ありがとう……ございます――)

淡・咲・友香・桃子「すばらあああああああああああああああああ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ドドドドドドドドドドドドドドドド

 ドドドドドドドドドド

 ドドド

 ド

 ——————

 ————

 ——

 ————

淡「……こ……ここまで来れば……《絶対安全圏》でしょ……」ハァハァ

咲「……淡ちゃんのそれは……《大体安全圏》だから……信用ならない……」ハァハァ

友香「……というか……なんか……最初よりドドドが減ってるような……?」ハァハァ

桃子「……言われてみれば……かなり無茶したはずなのに身体が軽いっす……」ハァハァ

煌「……あれだけ濃かった闇も晴れて……まるで夜明けのようですね……」ハァハァ

やえ「おう。無事で何よりだな、チーム《煌星》」

煌「小走さん……」

やえ「宮永から伝言があった。お前らが暴れ回ったのも手伝って、《世界の力》が自然状態に戻りつつある。凝縮していた想いも拡散したらしい。
 このまま待ってれば、それぞれいい感じに戻れるそうだ」

淡「やったね!!」

やえ「というわけで、私は散策しながら帰るとするよ。それじゃあな――」

煌「こ……小走さん――」

やえ「ん、どうかしたか?」

煌「このたびは……ありがとうございました」

やえ「なに、当然のことをしたまでだ。他の連中もそう言うだろうよ」

煌「しかし、本当に……皆さんには多大なご迷惑を」

やえ「何が迷惑なもんか。お前だって、目の前に道を違えそうなやつがいたら助けるだろ?」

煌「っ……本当に……ありがとうございます……!!」ペッコリン

やえ「どういたしまして。じゃあ……花田。また対局室で」

煌「はい……また――」

 タッタッタッ

淡「……キラメ」ギュ

煌「淡さん……」ギュ

桃子「よし――あとは、これで完成っすっ!!」ギュ

煌「桃子さん――」ギュ

淡「うん……これでフォーメーション《煌星》の完成だよ!」ババーン

咲「ちょうど、桃子ちゃんから時計回りに決勝のオーダー順になってるね」ギュ

友香「でっ! 本当だ!? まさか淡はここまで計算して――」ギュ

桃子「ないっすないっす」ギュ

煌「これ……は……」

淡「キラメ! まさか忘れてないでしょーね!? 私の言ったこと!!」

煌「は――はい……っ」ポロ

淡「つまり! こういうことだよ、キラメ!!」

咲「私たちは!」

友香「五人で!」

桃子「一つの!」

煌「チーム《煌星》——」ポロポロ

淡「キラメは一人じゃないよ。私たちはみんな、キラメの味方。どんなときも傍にいるから。辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、恐いこと……これからは、遠慮なく言ってください。
 私たちはまだ一年生で……キラメから見たら、ちょっと頼りないかもしれないけど。でも、五人集まれば、きっと、どんな困難も乗り切れると思うの。だって、私たち、みんなすばらだもん!」

煌「はい……すばらです……!」ポロポロ

淡「泣かないで。すばらなときは笑ってよ……キラメ」

煌「ええ……そう……ですね――」

 ポワワワワ

淡「わっ!? 身体が消えていく……!!」

咲「一件落着ってことで?」

友香「まだ試合終わってないんでー」

桃子「最後まで応援してるっす、きらめ先輩」

煌「ありがとうございます。全力で……打ってきますね」

淡「頑張って、キラメ!!」

煌「絶対に……勝って帰りますから……」

淡「……うんっ! 信じて待ってるよっ!!」ニコッ

煌「はい……待っていてください――」ニコッ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――実況室

恒子「……うぅっ……ひっく……」ポロポロ

慕「…………」

恒子「……■■■■……なぁ……んでぇ……」ポロポロ

慕「……あの……そのままでいいので、ちょっと聞いてください――」

恒子「ひっぐ……白……築……ひっく……先生…………?」ポロポロ

慕「大切な人がいなくなった悲しみは……決して消えないです。どれだけ時間が経とうと、悲しいものは悲しいですから……」

慕「けど……それでも、私たちは、生きていかなければなりません。生きて……またたくさんの大切な人と出会います。それは、時には別れることもあって、また同じ悲しみを抱えることも……少なくないです」

慕「生きているだけで……悲しみは次々と降り注いできます。別れはいつも不意に訪れます。そのたびに立ち止まってしまいそうになります。喪った人、帰ってこない人を、待ち続けてしまいそうになります——」

慕「でも……私たちは、生きているから。悲しい別れはたくさんあるけれど、楽しい出会いも同じくらいたくさんある。そうやってなんとか歩いていくしかないんです」

慕「悲しくても、辛くても、苦しくても、私たちは、前を向いて、胸を張って、生きていかなくちゃいけないんです」

恒子「……でも……それは……そうですけど、私……」ウルウル

慕「はい……そこで、ちょっと、想像してみましょう」

恒子「えぇ……?」

慕「想像して……考えてみるんです。いなくなった……大切な人のことを。その人が、あなたの前からいなくなるときに、何を思っていたのかを——」

恒子「何を……思っていたか……」

慕「あなたにとっての大切な人なら……きっと、その人にとっては、あなたが大切な人だったはずです。あなたがその人を大切に思うのと同じくらい、その人もあなたを大切に思っていたはずです」

慕「大切な人は——しかし——色んな理由で……いなくなってしまうことがあります。その理由の全て——その人の抱えている想いを、何から何まで知ることは、とても難しいことです」

慕「けれど……少なくとも、その人は、あなたを悲しませるためにいなくなったわけでは、ないはずです」

慕「あなたの大切な人は、きっと、あなたともっとずっと一緒にいたかったんです。あなたともっと生きていたかったんです。あなたが今、大切な人と、そうしたいと願っているように」

慕「もう一度……言いますね。あなたの大切な人がいなくなったのは、決して、あなたを悲しませたかったからではありません。できることなら、あなたとずっと、笑っていたかったんです。だから……ね——」ギュ

恒子「ぇ……?」

慕「だからね……福与さん。いっぱい泣いたあとは——もっといっぱい笑おうよ」ニコ

恒子「白……築……先生……」

慕「悲しみは消えないよ。だから何度泣いたっていい。でもね、それより多く、笑うの」

慕「だって、あなたの大切な人は、きっと、キラキラ笑うあなたが好きだったはずだから」

慕「あなたが、あなたの大切な人を、本当に大切だと思うなら、雨の日は、時々でいい」

慕「それよりも、好きなことを思いっきりやったり、日が暮れるまで遊んだり、たくさん友達を作ったり、そういう——楽しいことを見つけて、晴々と笑うの」

慕「そうやって、あなたの笑顔を、いなくなった大切な人に届けてあげるの。そっちのほうが、きっと、大切な人も喜んでくれる。ね、だから——」

恒子「でも……私……■■■■がいないと——」ウル

慕「大丈夫……あなたは、一人じゃないから」ギュー

恒子「白築……先生……」

慕「恒子さん……私には、あなたの悲しみを取り除くことはできない。でも、涙を拭うことくらいは、できる」

慕「泣くだけ泣いたら……一緒に、楽しいことをしようよ。好きなことをしようよ。ね?」

恒子「好き……な……」

慕「恒子さん……よかったら、私に教えてほしい。あなたが好きなこと、楽しいと思えることは、どんなこと?」

恒子「私が……楽しいと思えること……」

慕「うん。あなたが、一番キラキラしているときは、どんなとき……?」

恒子「私が……一番……キラキラしているのは——」

 ――対局室

 南二局流れ五本場・親:煌

煌・やえ「っ……!」パッ

菫(ふー……よかった。戻ってこれたか……)パタッ

 南家:弘世菫(劫初・106200)

照(おかえり……)パタッ

 北家:宮永照(永代・88100)

やえ(おっと……私がロン発声をしたところで対局が止まっていたのか。恐らく、《通行止め》を《無効化》した瞬間に、《天上の意思》とやらが消えたんだろうな。となると――)

菫「……《幻想殺し》、いつまでそうしているつもりだ。ロン発声をしたのなら、速やかに手牌を倒して点数申告。対局の基本的なマナーだぞ」

やえ「失礼、ちょっとばかし世界を救いに行っていた。許してくれ」

照「そういう事情なら……仕方ないね」

やえ「さて、大分待たせたようで済まなかったな。というわけで、花田煌。お前のそれは通らない。点棒を献上する準備はできているか?」

煌「……はい、もちろんですとも、《王者》」

やえ「それじゃあご開帳。字一色七対子……32000の五本場は、〆て33500だ」パラララ

 やえ手牌:東東南南西西北北白白發中中 ロン:發 ドラ:四

煌「(夜空に輝く七つ星……必殺・大七星《セブンスヘブン》。もう……二度と見ることはできないと思っていました――)……はい……」チャ

 東家:花田煌(煌星・97900)

やえ「ぴったりだな。しかと受け取ったぞ」ジャラ

 西家:小走やえ(幻奏・107800)

煌「……あの、皆さん――モニターで見ている方々も――このたびは大変ご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。それから……本当にありがとうございました……」ペコッ

やえ「……はて、なんのことだろうか。私はお前から謝罪されるような心当たりはないし、特に感謝されるようなことはしていないが?」

煌「え…………」

菫「小走の言う通り。私たちは、ただお前と麻雀を打っていただけだ。迷惑をかけられた覚えも、謝られる理由もない。あと、礼は対局が終わってからでいいぞ」

煌「……皆さん……」

照「モニターで見てる人たちも……たぶん、ただ決勝戦を見ていただけで、特別なことは何もしていないと思うよ……」

煌「いや……しかし――」

菫「あぁ、そうそう。校外試合に出場すると、よく驚かれるのだ。何を隠そう、学園都市の麻雀は、外の世界より数十年くらい先に進んでいてな。転校してきたばかりでは、まあ、少々面食らうことも多いかもしれん」

やえ「早く慣れろよ、転校生。対局中にプラズマが発生したり、突如として黒い翼が出現したり、世界が閉ざされそうになったり――それくらいの異常現象は、学園都市ではよくあることなんだ」

照「この街は……面白いよ。人が突然現れて消えたり、本物の《魔女》がふらふらしてたり。あと、トーナメントで勝ち上がると、ちょくちょくヒトじゃない人と対局することになる。私とか」

煌(なる……ほど……ここが――)

菫「改めて、よろしく頼む。私はこの白糸台高校麻雀部の主将を務めている、三年の弘世菫だ。新たな仲間として、大いに歓迎するぞ」

やえ「私は同じく三年の小走やえ。かつて《王者》と呼ばれたこともあったが、今は立派なその他大勢の一人だよ。以後、よろしくな」

照「私は、この学園都市にいる高校生雀士一万人の《頂点》。宮永照。三年。短い間だけど、わからないことがあったらなんでも聞いてね」

煌「…………私は、花田煌と申します。不束者ですが、なにとぞ、よろしくお願いいたしますっ!!」ペッコリン

菫「よし。では、挨拶もすんだところで、再開するか」ジャラジャラ

照「うん。そうしようそうしよう」ジャラジャラ

やえ「おい、何をぼけっとしている、花田煌。普通の半荘ならハコ割れだが、これは十万点持ちの団体戦。対局はもうちょっとだけ続くぞ」ジャラジャラ

煌「はい……!」ジャラジャラ

やえ「……最後まで、よろしくな。一緒に麻雀を楽しもう」ニコッ

煌「は……はいっ!!」

菫「よし、私の親番。南三局だな」ピッ

照「まくる……!」ゴッ

やえ「僅差過ぎて安心できんなぁ――」フゥ

煌(役満直撃でラス転落……25000点持ちならトビ終了――否っ! まだ終わっていません……!!)グッ

菫・照・やえ・煌(勝つのは……私ッ!!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照:88100 煌:97900 菫:106200 やえ:107800

 ――学園都市某所・パブリックビューイング前

『大変お待たせいたしましたあああっ!! 諸事情により実況が中断したこと、深くお詫び申し上げます!! ここからはノンストップでお送りいたしますので、最後までお付き合いください!!』

『お付き合いくださいっ!!』

『というわけで、実況は私!! ふくよかじゃない福与恒子です!!』

『解説は! えっと、飛び入りゲストの――忍び込んできた白築慕です!!』

『『よろしくお願いします!!』』

『さて、ゲストのしののんは、二十年前にチーム《慕思》のリーダーとしてインターハイに出場した経験をお持ちですが――』

『はいっ! みんなで力を合わせて優勝しました! 今年も、私たちのときと同じくらい白熱した試合で、とても見ごたえがあります!』

閑無「いや、ツッコめよ!!」ガビーン

杏果「慕ちゃんらしいというかなんというか」

悠彗「ねえ、そんなことよりさ、さっき見かけた執事みたいな人と金髪の男の子って、付き合ってるのかな」ワクワク

閑無「ん? ああ、付き合ってるんじゃねーの?」

悠彗「え? ん?」

杏果「私も普通に付き合ってるのかなって思ったけど。何か気になることでもあったの?」

悠彗「ん? え?」

閑無「どうした?」

杏果「悠彗ちゃん?」

悠彗「ど、同性同士だけど——」

閑無「は? 同性同士で恋人で何か問題でもあるのか?」

悠彗「えっと、子供ができない——」

杏果「同性でも異性でも子供は作れるわよ? iPS細胞で」

悠彗「え……?」

閑無・杏果「?」

悠彗(おかしい! 求めていた時代が来たはずなのに……なんなのこのコレジャナイ感は……!?)ムイーン

閑無・杏果(変な悠彗(ちゃん)……)

ご覧いただきありがとうございます。

休憩後、もうちょっとだけ続きます。

では、失礼します。

一旦乙

おっつ

みんないいヤツらだなー
感動したわ
煌の能力がどうなったのかわからんけどとりあえず今の時点で一番不利なのは照になるのか
点数的にも能力的にも

一旦乙、ふぃー大詰めですにゃあ
>>466のツユコってやっぱり宮永母?

松実さんの母親です

き、きっと照さんには
もう一つ鏡があるんだよ

>>492
ありがと
読み進めてく間にツノ女のこと忘れてた

 ――対局室

 南三局・親:菫

やえ(あと二局、か。点数状況は想定よりずっと良好。宮永とは19700点差。このまま行けば、ラス親でハネツモされてもまくられない。あとは、二位の弘世だが……こちらは心配なかろう。
 《王者》の背中を《シャープシューター》が守ってくれる構図というわけだ。白糸台《最終》の傭兵――12000点で雇って正解だったな。
 さあ、弘世。お前と獲物を阻むものは何一つなくなった。存分に殺し合うがいい。どちらが生き残るにせよ、状況は私にとってそう悪いものにはならない。特等席で見物させてもらうぞ……)タンッ

 南家:小走やえ(幻奏・107800)

照(小走さん……前半戦の東初で菫に振ったときは、一体どんな裏技で取り返すつもりなのかと思ってたけど、さっきの大七星が計算に組み込まれていたんだね。
 あの12000点がなければ、今頃小走さんの一人浮きになっていた。そうなると、小走さんは私と菫と花田さんの三人を相手にしなければいけなくなる。でも、この点数状況なら、菫は最下位の私に狙いを定める。
 だって、私を《シャープシュート》すればトップに立てるわけだから。あと、私に背を向けて守備が得意な小走さんや花田さんを狙うより、逆転のために無理を強いられる私を狙ったほうが、射貫ける公算が高いしね。
 支配力の残量はほぼゼロ。前局の和了りを引き継ぐ《万華鏡》は当然ながら使えない。親番が回ってこないから、連続和了をするにしても、二回が限度。
 この状況で、《最終》の大能力者こと菫を出し抜かないといけないのか。そして、優勝するためには、さらにその先にいる《王者》の首を獲らないといけない。んー……まぁ、やるだけやってみよう)タンッ

 西家:宮永照(永代・88100)

煌(トップの《幻奏》とは9900点差。二位の《劫初》が僅差でその後ろにつけている以上、直撃でトップに立つにはハネ満が必要。ツモなら、満貫一回でまくることができます。
 しかしながら……割って入るのは非常に憚られますね。射線に入らないよう気をつけなければ……)タンッ

 北家:花田煌(煌星・97900)

菫(初めて出会ってから、三年。そのうち二年間は、共に戦った。公式戦で直接対決したのは、三年前のインターミドルの準決勝と決勝……それから、去年の個人戦の都合三度だけ。
 ただ、そのどちらも、お前の対面にいたのは――対面していたのは……私ではなかったな)タンッ

 東家:弘世菫(劫初・106200)

菫(私にとって、お前は最初から倒すべき敵であり射貫くべき的だった。しかし、お前にとって私が倒すべき敵となったのは――お前が私を『敵』として見てくれたのは……きっと、これが初めてなのだろう。
 それを……今、ひしひしと感じる……)

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(まったく……照――お前、よくそれで、私のことを『目付きが恐い』『視線だけで人を殺せる』などと揶揄してくれたもんだな。鏡見てみろよ……本当に――気を抜くと腰まで抜けてしまいそうだぞ……)

菫(これがお前と私の《最終》戦――全力で討ち取ってやるから覚悟しろよ、宮永照……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《劫初》控え室

      菫・照『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「ようやく向き合うところまで達したか、菫」

エイスリン「ツノダ! ツノヲ、ブチヌケ、スミレ!!」

衣「今までの戦いは、全て今この《最終》の瞬間のためにあったわけだからな。打倒《頂点》――成し遂げてほしいものだ」

憩「……せやね。ホンマ、がつーんと射貫いて、何もかもうまくいってほしいわ」

智葉「……そうだな」

エイスリン「ダンダン、テガ、カタチニ、ナッテ、キタゼ……!」

衣「《頂点》のほうもだな。衝突の時は近い――」

憩(……菫さん。ええ感じですね。見たこともないくらい集中してはる。目の前の相手だけを――見つめてはる……)

      菫『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(これでええねん。ウチは幸せや。大好きな人が、大好きな人と、見つめ合うとる。想いと想いをぶつけ合うとる。ナンバー2の《愛人》としてできる限りのことはやった。もう思い残すことはあらへん)

憩(菫さん……ウチは、いつだってあなたの味方です。ウチは無能力者やけど、どうやら、ウチの意思もほんのちょっとだけ世界に影響を与えるそうですからね。祈ります……全身全霊、あなたの勝利を――)

憩(最後まで一緒にいますよ、菫さん。きっとあなたの力になります。この想い、どうか、受け取ってください……)

憩(菫さん、ウチはあなたのことが大好きです。あなたのナンバー1がどこの誰でも、ウチのナンバー1はあなたですから。勝ってほしいです。勝って――幸せになってほしいんです。ホンマに。心から。そう祈っています)

憩(涙なんか一滴も零しません。ウチは笑って祈ってます。菫さん、あなたの戦いに……最高の終わりが訪れますように――)

 ――《永代》控え室

      照・菫『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純「ここで弘世を返り討ちにできなかったら……点数状況的には、かなりキツいか」

まこ「睨み合いでテンパイ流局になれば、親は弘世じゃし、逆転のチャンスは何度でも回ってきそうじゃが……」

穏乃「照さんと弘世さんが睨み合いで身動きが取れなくなった場合、チャンスが回ってくるのは、ノーマークの小走さんと花田さんです。
 特に、小走さんは……傍観の体を取りながら、虎視眈々と照さんの隙を伺っているように見えます。実質二対一ですね」

塞「ここで弘世との勝負に決着をつけて原点近くまで復帰するのが、理想的な試合展開ってわけね」

穏乃「というより、それ以外の展開になったら、ほぼほぼアウトです」

純「……実際、どうなんだ? 照と弘世の一騎打ちは」

穏乃「まだ序盤なのでなんとも言えないのですが……ここまでの手の進め方を見る限り、弘世さんは特に変わったことはしていないですね」

まこ「ほうじゃの。わしの目にも、過去の《シャープシューター》の牌譜とそう違いはないように見える。照は一度も射貫かれたことがないそうじゃから、このまま行けば――テンパイ流局が濃厚じゃろ」

純「三回戦で松実と弘世がやり合ってた感じに近い、ってことか。だとすると――支配力の残量次第だが――理屈をブチ破れる照なら、返り討ちも十二分に可能って気がするが……」

穏乃「そうですね。そう願いたいです」

塞「……ふーん」

まこ「塞はどう思う? わら《初代》であの二人と一緒じゃったんじゃろ?」

塞「宮永と弘世……そうねぇ、もちろん宮永が勝つと思ってるけど――」

まこ「けど?」

塞「…………なんでもない。私は、宮永が勝つと思ってるわ。信じてる。祈ってる。願ってる。マジで」

まこ「……ほうか」

純「っと、弘世が待ちを片寄せた――ぼちぼちか」

穏乃「そうですね……」

      照『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(宮永……あんた的には、どっちが幸せなのかしら。弘世の的であり続けることと、弘世に射貫かれること。どうにも……その辺りが、わからないのよね、あの二人……)

塞(宮永は弘世のことが大好きで、弘世も同じ気持ち。でも、弘世は――頭ガチガチの堅物だから――宮永に想いを伝えるとしたら、麻雀で射貫くって形を取ると思う。で、まあ、今まさにそういう状況になってるわけだけど)

塞(私はさ……宮永。あんたが幸せなら、それでいい。弘世に射貫かれることが、あんたにとってのハッピーエンドなら、私はそれを応援したいし、肯定する。
 一軍《レギュラー》とか、《頂点》とか、そういうのは、最優先じゃなくても構わない。私にとって大事なのは、他の何より、あんたの気持ちだから)

塞(ま、なんつーか、好きにやっちゃいなよ、宮永。私は、何があってもあんたの味方。全力で力になってやるわ。だから……望むことを望むようにやってちょうだい。なんて、私が言うまでもないことだろうけどさ)

塞(頑張って……宮永。私、祈ってるから……どうか、お幸せに――)

 ――対局室

菫「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(赤五索に続き、赤五筒……待ちを片寄せたか。にしても赤ドラを二枚も切り捨てるとはまた不自然な。今のところは意図が読めん。さて、これに対し宮永はどう動くか――)タンッ

照(む……)ピリッ

 照手牌:二三四八八八⑥⑧⑧⑧588 ツモ:6 ドラ:3

照(なら、こっち)タンッ

 照手牌:二三四八八八⑥⑧⑧⑧568 捨て:8 ドラ:3

煌(弘世さんが強いところを切ってきて、宮永さんが捨て牌に迷った。睨み合いが始まりましたか……)タンッ

菫(かわされた、か)チラッ

 菫手牌:②②②②③④⑤⑦67778 ドラ:3

菫(わかっていたことだ。ただ《シャープシュート》をしても、《照魔鏡》で私の能力の詳細や打ち筋のクセを把握している照は、射貫けない……)

菫(三回戦で松実さんと再戦して、気付かされたことは多い。一射目から二射目に移るときに、どうしてもできてしまう隙。そこが埋まらない限り、私は、永遠に敵を射貫くことができないのだ、と)

菫(あの三回戦……私は、松実さんに置いていかれた。張り替えに張り替えを重ねて追いすがったが、その過程で、私は火力を失い、逆に松実さんは手を高めた)

菫(あの牌譜を見て、私は思った。まるで照と私のようじゃないか――と)

菫(照は……私が一歩進む間に、二歩も三歩も先に行ってしまう。三年前の時点で、天と地ほども離れていたのに、それから、差は縮まるどころか、広がった。
 二年間……一軍《レギュラー》として共に戦い、痛感させられた。時々刻々と、私はこいつに置いていかれていると。一歩近付けば二歩、二歩近付けば四歩と、遠ざかっていく……背中――)

菫(しかも……こいつ、私が敵対した直後に、とんでもないことを言いやがった。『夏が終わったら海の向こうに留学する』とな。本当に……一体どこまで行く気なんだよ、お前……)

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(この《最終》戦を逃せば、私とこいつの再戦は、いつになるかわからない。しかも、こいつは時間が経てば経つほど私から遠ざかってしまうわけだから……再戦する頃には、もはや、その距離がどうなっているか、想像もつかない)

菫(……今ここで、決着をつけるんだ。頼れる仲間のおかげで、本来なら途方もなく離れているはずの照と私の間に、橋が架かった。
 追いかけても追いかけても、手が届かなかった《頂点》が……私の射程内に――目の前にいる)

 菫手牌:②②②②③④⑤⑦67778 ツモ:⑦ ドラ:3

菫(照は私の狙いに気付いて、八索を切ってきた。恐らくは、対子落とし。松実さんから反撃を受けたときも、似たような形だったな。
 通常の《シャープシュート》では、ここから二射目に移るときに、どうしても隙ができてしまう。
 が、それではダメなんだ。二年間一緒にいてよくわかった。ひとたび照が動き始めれば、私にこいつは掴まえられない。ひらりと私の手をすり抜けて、あっという間に遠くへ行ってしまう。
 止まれ、待て、行くな――と、いくら叫んでも無駄。いつもいつも……私はこいつに置き去られてばかりだった――)

菫(ならば……!! 離れていくとわかっているのなら!! 最初から逃さなければいいッ!! 首根っこを掴み、腕を捻り上げて――!! どこへも行き去ることのないよう……力ずくで止めるッ!!!)ゴッ

照(菫……何を――)

菫(見せてやろう……照。これが私の三年間の答えだ。お前を射貫くために編み出した《最終》の《シャープシュート》――かわせるものならかわしてみろッ!!!!)

菫「カンッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 菫手牌:③④⑤⑦⑦67778/②②②② 嶺上ツモ:? ドラ:3・1

照(暗槓……!!)ビリッ

やえ(……ほう、面白い)

煌(通常のツモと嶺上牌……一巡の間に有効牌を二枚引き入れることで、《シャープシュート》の隙である二射目への移行を即時に行う――なるほど、すばらです)

菫(言っておくが、ただ張り替えが速いだけではないぞ。この張り替えによって……私の一射目をかわし、一旦回しに入った獲物――その逃げ場を奪うッ!!)ゴッ

 菫手牌:③④⑤⑦⑦67778/②②②② 嶺上ツモ:8 ドラ:3・1

菫(身じろぎ一つでもしてみろ、照。その瞬間に――私はお前を射貫く……ッ!!)タンッ

照(これは――)

 菫手牌:③④⑤⑦⑦77788/②②②② 捨て:6 ドラ:3・1

 照手牌:二三四八八八⑥⑧⑧⑧568 ドラ:3・1

やえ(六索切り……恐らくは、宮永の八索対子落としを封じたのだろう。通常のツモだけを頼りにしていたのでは、この対子落としにはついていけなかったはずだ。そこで嶺上牌の出番――ということか。
 待ちを片寄せ、狙った相手から直撃を取れるような有効牌を引き寄せる自牌干渉系能力を発動している今の弘世なら、一時的にあの《最高峰》を支配領域《テリトリー》にすることもできよう。なかなか考えたな。
 しかし……これだけでは、宮永の動きを完全に封じたとは言い難いような気もする。まして《シャープシュート》――直撃を取るとなると、暗槓によって手牌が限られてしまったその状態からでは……)タンッ

照「チ」

菫「カンッ!!」ゴッ

照(菫……!!?)ゾワッ

菫(させると思うか、照……!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(これは……)

煌(おやおや――)

 東・菫手牌:③④⑤⑦⑦88/777(7)/②②②② ドラ:3・1・白

 南・やえ手牌:3344599三四[五]六七七 ドラ:3・1・白

 西・照手牌:二三四八八八⑥⑧⑧⑧568 ドラ:3・1・白

 北・煌手牌:111二三③③④④⑤白白白 ドラ:3・1・白

やえ(花田が序盤に九索を切っているから、私から見て、七索と九索が壁。それでいて、八索対子落としで回しに入った宮永と、その宮永の八索に《照準》を定めた弘世。弘世がシャボ待ちなら……宮永の手は詰んだことになる。
 そして、そうか……あの赤ドラ切りの意図がようやく掴めたぞ――)

煌(弘世さんの暗槓と大明槓によって、ドラが増えました。それによって、私の手が一瞬で逆転手に化けました。小走さんの手がどうかまでは読み切れませんが、門前で進めているところを見る限り、それなりの手のはずです。
 対して、弘世さんの手は、恐らく断ヤオのみ。50符1飜――2400といったところ。赤ドラを二枚も切ってみせたのは、つまり、『自分の手は安い』と宮永さんに知らしめるため……)

菫(状況から見て、お前の手が詰んだことには、小走と花田も気付いただろう。これだけカンドラを増やせば、二人ともそれなりの手になっているはず――もはや攻めを躊躇う理由などない。
 リーチを掛けてくる可能性もある。普通に対局が進めば、遠からず、どちらかが高打点の手をツモることになるだろう。
 現在二位である私は、たとえここから小走か花田がツモり、親っ被りを受けることになっても、ギリギリ逆転の目は残る。無論、そうなる前に私自身がツモるという選択肢だってある。
 しかし、お前の立場からすれば、どうだ……? 今のお前にとっての最善――最も期待値の高い道――それは……)

照(辿り着けてもテンパイまで。和了不可能の詰んだ手牌。一方で、小走さんと花田さんは、カンドラの恩恵をモロに受ける。ダマでも和了られれば軽く満貫は超えてくるよね。リーチを掛けられたら、さらにハネ上がるかもしれない。
 これが荒川さんなら、副将戦みたいに四人テンパイ流局とかに持っていけるんだろうけど、私にあんな離れ業はできない。
 どちらかと言わずとも、私は、他家お構いなしで自分が和了り続けるタイプの打ち手。けど、和了りは菫によって完全に封じられてしまった。
 小走さんと花田さんに大きいのをツモられてオーラスに突入したら、二位の菫はまだいいけど、最下位の私は、ものすごい困る。
 なら、必然――私の取るべき選択は――親の菫への差し込み……か)

菫(私の手は断ヤオのみの2400点。《永代》とトップチームとの差が、現状から3200点差ほど開いてしまうことになるが、小走や花田にツモられる場合ほど、致命的な状況にはならない。親の私に差し込めば、連荘でもう一度南三局が来るわけだしな)

照(この状況……私にとって最も被害が少ない道――確実にリスク回避できる道は――菫から射貫かれること。和了り牌はわかり過ぎるほどわかってる。この浮いた八索を切れば……それで終わり――)

菫(《最終》判断をお前に委ねる――これが、私がお前を《シャープシュート》するために導き出した答えだ。
 照……お前はなんだって想いのままにできる。私がいくら矢を放とうと、お前が『かわす』ことを望む限り、私にお前は掴まえられない。
 なら、その想いのほうを、書き換えてやればいい。私に『射貫かれる』しかないと、お前に想わせることができれば、それは間違いなく達成される。
 お前がこの卓上《セカイ》を隅々まで支配していることを、私は誰よりも知っている。だから、想え。望め。私に射貫かれることを。
 逃げ場はどこにもない。身動き一つ取れない。これ以上対局を続けてもより深く傷つくだけだ。だから、照――)

照(菫……)

菫(無条件降伏しろ。『参った』と言え。そうすれば、一瞬で、痛いと感じる間もなく、私がお前を殺してやるから……)

照(菫は……本気なんだね。本気で、この試合を、この一局を、私との《最終》戦にするつもりなんだね。わかってた。わかってたよ……)

やえ(私が宮永なら……間違いなく差し込む。それがチームのためだ。ここで弘世に射貫かれても、敗北には直結しない。
 最少被害でこの場を切り抜け、もう一度やってくる南三局と、オーラスに、望みを繋ぐ。それが最善のはずだが――)タンッ

 やえ手牌:3344599二三四[五]六七 捨て:七 ドラ:3・1・白

照(小走さんが……張ったかな――)

 照手牌:二三四八八八⑥⑧⑧⑧568 ツモ:4 ドラ:3・1・白

照(私……私は……)タンッ

 照手牌:二三四八八八⑧⑧⑧4568 捨て:⑥ ドラ:3・1・白

煌(カンドラがモロ乗りした以上……もう三暗刻を目指す必要はありませんね)

煌「チー」タンッ

 煌手牌:111二三③③白白白/(⑥)④⑤ 捨て:④ ドラ:3・1・白

菫(おい……照……!? どうした? なぜ差し込まない!? 私が七筒をツモる可能性に賭けているのか? 他家同士で打ち合いになる可能性に賭けているのか?
 しかし、それはどう考えてもこの場の最善ではない……!! チームを敗北に近付けるだけの愚行だろう!?)

照(菫……菫は……本当に……全然わかってないよね――)ゴゴゴ

やえ(宮永……?)

煌(はて……)

照(私の想いを利用するつもりなんだろうけど……千年早いよ、菫。だって、菫は、私の想いを全然わかってないもん。
 私は……私はね、菫。本当の本当のところでは、あなたに射貫かれるくらいなら……一軍《レギュラー》になれなくてもいいって……そういうことを想ってるんだよ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(照……ッ!?)ゾクッ

照(私はね……菫。気付いてないと思うけど、実は、あなたのことが大好きなんだよ。でもね、あなたは……そうじゃない。知ってるよ。二年間ずっと……一緒のチームで、傍にいたんだから……)

   ――お前はやはり、最高の友人で、最高の敵で、最高の仲間だよ、照。

照(菫にとって、私が『特別』なのは……私がまだあなたに射貫かれていない『的』だから。その的の中でも一番の《頂点》だから。それだけ。そこが失われてしまえば、あなたにとって、私は特別ではなくなる。
 もちろん、菫は優しいから、私を友人として大切に想ってくれると思う。でも……私はそれじゃ満足できないんだよ。
 私はあなたの『特別』でいたい。ずっとずっと見てもらいたい。追いかけてもらいたい。あなたの心の真ん中に……いつまでも居座っていたい――)

照(今ここであなたに射貫かれてしまったら、私はもう、二度と、あなたに、こんな風に見つめてもらうことができなくなる。
 そんなのは……《絶対》に嫌。何がなんでも嫌。他のどんなものを捨てたって構わない。嫌なものは嫌なんだもん。《最終》戦なんて断固拒否。私とあなたは永久に戦い続ける。私たちの殺し合いに終わりはないんだよ……)

照(――なんて、ワガママだよね、私。聞き分けがない駄々っ子。子供みたい。わかってるんだ。自分でも。あなたの好みとは正反対だって。
 でも、私は、こういうやり方でしか、想いを形にできないから。だから、参ったなんて言わないよ。一生言わない。死んでも言ってやるもんか)

照(麻雀で勝ち続ける限り、私はあなたの『特別』でいられる。だから、勝つ。何がなんでも勝つ。射貫かれるなんてもっての他。
 菫……これがあなたの敵の本当の姿だよ。これが私――宮永照。あなたは私の想いを量り間違えた……)

菫(何をするつもりだ……照――)ゾクッ

照(菫……あなたの想いに対する、宮永照としての、これが私の応えだよ。あなたの敵――宮永照は、あなたにだけは《絶対》に降伏しない。掴ませない。射貫かせない。あなたを置き去りにして走り続ける——!!)

照(だって!! 私は……!! 菫に――あなたにっ!! ずっとずっとずーっと……一生追っかけてもらいたいんだもんッ!!! 見てもらいたいんだもんッ!!! それくらいあなたが大好きなんだもん!!! なんか文句あるか!!!?)

照「カンッ!!」ゴッ

煌(ここで大明槓ですか――)タンッ

菫(まさか、お前――この期に及んで……!!?)タンッ

やえ(……どうにもな。こいつの考えてることはよくわからん。が、さすがは《頂点》か)パタッ

照(ごめんね、菫……!! けど、許してほしいっ!! 私はあなたの《特例》ではないかもしれないけれど、だから、せめて……特別でいることくらいは、許して――!!!!)

照「もいっこ——カン……ッ!!」パラララ

菫「なあっ!!!?」ガタッ

 東・菫手牌:③④⑤⑦⑦88/777(7)/②②②② ドラ:3・1・白・西・一

 南・やえ手牌:3344599二三四[五]六七 ドラ:3・1・白・西・一

 西・照手牌:二三四4568/⑧⑧⑧⑧/八八八(八) 捨て:⑨ ドラ:3・1・白・西・一

 北・煌手牌:111二三③③白白白/(⑥)④⑤ ドラ:3・1・白・西・一

照「四開槓――この局は……これで終わりだね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(こんなことが……っ!?)

照「四開槓流局は、親続行。次は南三局一本場だよ。菫、早くサイコロ振って」

菫「照……お前は――」

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(お前は……どうしてお前はそんなにも強い? 何がお前にそこまでの力をもたらす? 私になくてお前にあるものとは何だ……!?)グッ

菫(くっ……しっかりしろ、私。弱気になるな。ただ流局になっただけじゃないか。もう一度――否、何度でも……《シャープシュート》し続けて……私は照を――)

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(……ここぞとばかりに……プレッシャーを掛けてきやがって……)ゾワッ

      ――菫さん――。

菫(……荒……川――?)

      ——応援してます……ウチは何があっても菫さんの味方ですから。

菫(荒川……お前は……私がここで負けたら……きっと泣くだろうな……)

               ——最後まで信じて待っていますから。

菫(私は……勝って帰るんだ。勝って……あいつの涙を止める。私は泣いているあいつを見たくない。私は……あいつを笑顔にしてやりたい……)

          ――その人を笑顔にするためなら……。

菫(あぁ……そうか……)

   ——どんなに苦しい状況でも、誰が相手でも、勝てる気がする、

菫(あれは……そういうことだったんだな、照――)

 ——————

 ————

 ——

 ――二年前・一軍《レギュラー》部室

照「今日は散々だったね……菫」

菫「そうだな……先輩方には迷惑をかけてばかりだ。もっと練習に励まなくては……」フゥ

照「頑張って」

菫「逆に——というのも変だが……お前は今回も絶好調だったな、照」

照「まぁね」

菫「常勝無敗……智葉もそうだが、どうにも人間業とは思えん。お前のその力の源はどこにある? どうしてお前はそんなにも強いんだ?」

照「私が勝ったら……笑ってくれる人がいるから、かな」

菫「ほう……」

照「その人を笑顔にするためなら……って思うと、どんなに苦しい状況でも、誰が相手でも、勝てる気がする」

菫「ふむ……」

照「……うん」

菫「ん——それだけ、か……?」

照「え? うん。なんで?」

菫「あ、いや、なんだろう……お前の超人的な強さの秘訣にしては——言い方は悪いが——ごく普通の一般論のような気がしてな」

照「本当に大切なことは、シンプルなものなのですよ」

菫「わからんなぁ」

照「菫は、どうして白糸台がチーム制を採用しているのか、考えたことある?」

菫「いきなりだな。えっと……単純に、白糸台は部員が多いからじゃないのか?
 一万人もいるんだから、部員を管理するという意味でも、チーム単位で強さ比べをして一軍《レギュラー》を決めたほうが、選別効率がいいように思うぞ。
 あとは、同地区出身者が集まる伝統チームのように、数百人単位のコミュニティの中で、伝統名を背負う看板チームを決めるシステムも出来上がっているわけだし……」

照「んー……ちょっと聞き方があれだったかな」

菫「どういうことだ?」

照「えっとね。白糸台には、軍《クラス》とは別に、校内順位《ナンバー》の制度があるよね。
 だったら、わざわざチーム単位でトーナメントなんかせずに、最初から、ナンバー1からナンバー5を一軍《レギュラー》にすればいいと思わない?」

菫「あぁー……」

照「外の世界では、そっちのほうが普通。戦略やチームバランスを考慮して敢えてそうしないケースもあるけど、基本的には、部内で一番強い五人が一軍《レギュラー》に選ばれるもの。
 そっちのほうが、他の部員だって納得できる。レギュラーの五人は、レギュラー以外の部員より強いわけだから。でも、白糸台では、ほとんどの場合、そうはならない。
 そのせいで……ほら、この間も、菫、下位クラスの上級生に絡まれて——返り討ちにしてまたファンクラブ会員を増やして——たよね。
 ナンバー1からナンバー5を一軍《レギュラー》にすれば、そういう問題は起きない。
 一万人もいるなら、なおさらそう。チーム制は、どうしても部員間に摩擦を生む。この街の治安があまりよくないのも、元を辿ると、チーム制に原因がある」

菫「言われてみると……そうだな。少なくとも、私なら、今日の私のような輩が一軍《レギュラー》の名を背負っていることに、心からは納得できん。突っかかりたくもなる、か」

照「けど、私が一軍《レギュラー》であることは、文句ないよね?」

菫「おま……いや、まぁ、その通りだが……」

照「仮に——」

菫「む?」

照「仮に、私が二人に分身したとするね。で、私とナンバー2〜ナンバー5で組んだチーム《五指》と、チーム《虎姫》が対戦する。これ、どっちが勝つと思う?
 もっと言うと、チーム《五指》の私と、チーム《虎姫》の私。同卓したら、どっちが勝つと思う?」

菫「また突拍子もないことを……。普通に、そんなのは状況次第、運次第じゃないのか?」

照「まだまだだね。この場合、チーム《虎姫》の私が勝つんだよ。何度やっても。絶対に」

菫「そんなものなのか……?」

照「そんなものなんだよ」

菫「うーん……」

照「あのね、菫」

菫「ん?」

照「強い人なんて……この世界のどこにもいないよ」

菫「それは——」

照「いるのは、強くなる人」

照「強くなれる人」

照「人は誰かのために強くなる」

照「傍にいる大切な誰か——その人を笑顔にしたいと願うとき、初めて、人は強くなれる」

照「だから」

照「白糸台高校麻雀部は、チーム制を採用しているんだ」

菫「……ふむ……」

照「ねえ、菫。仮になんだけど」

菫「おう、またか。なんだ?」

照「チーム《五指》とチーム《虎姫》が戦って、菫が、チーム《五指》の私と同卓することになったら」

菫「ひどいオーダーミスだな、それは……」

照「仮定の話だから。で、もし、そうなったら、菫は――」

菫「ん?」

照「菫は……私に勝ってくれる?」

菫「それ以外に試合に勝利する手段がないのであれば——そうだな。どうにかして、お前を倒すさ」

照「……うん」

菫「それが、どうかしたのか?」

照「いや……なんでもないよ」

菫「はあ……?」

照「……なんでもない……」

菫「大丈夫か? なんだか顔が赤いぞ?」

照「な、なんでもないって!」

菫「そうなのか……? と、さて。それじゃあ今日の試合の検討でもするか——」

照「手伝うよ」

菫「いつもありがとな。だが、いいのか、こんな遅くまで」

照「菫には強くなってもらわないと。これからずっと一緒に一軍《レギュラー》をやっていくんだから」

菫「そう……だな。私も、お前を射貫くくらいに強くなって、堂々と一軍《レギュラー》を名乗りたい」

照「射貫かせないよ?」

菫「射貫くさ。いつか必ずな」

照「やれるものなら」

菫「この……ったく、今に見ていろよ——」

 ――――――

 ――――

 ――

照さんが乙女でかわいい!頂点かわいい!

 ――対局室

 南三局一本場・親:菫

菫(照……お前は……ずっとこんな想いで……戦っていたのか……)タンッ

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(道理で――強いわけだな……)タンッ

    ――菫、言われた通り……勝ってきたよ。

             ――これで私たち《初代》が学年最強チームだね。

菫(照……)タンッ

       ――菫、点差いっぱいつけてきたよ。褒めて褒めて。

  ――これからは一軍《レギュラー》になるんだね、私たち。

菫(いつか、私も……)タンッ

    ――任せて。勝ってくるから。

            ――勝つよ、勝つに決まってる。

菫(お前のように……)タンッ

   ――ねえ……菫。

               ――絶対に勝って帰ってくるから……。

     ――いつもみたいに、笑って待っててね――。

菫(強く――)タンッ

照「ロン……ッ!!」ゴッ

菫「……っ!!」

照「タンピン三色――7700は8000」パラララ

やえ(……7700、か)パタッ

煌(すばらです)パタッ

照「……菫……?」

菫「ん……どうした?」

照「なんで……笑ってるの……?」

菫「……笑って――いたのか? そんなつもりはなかったんだが……」

照「そう……」

菫「どうにも……その、あれだ。お前が和了ると――つい、クセで、な……」

照「……そっか。そうなんだ……」

菫「……ああ、そうなんだよ――」

照「次で、最後だね」

菫「そうだな」

照「絶対に私が勝つ」

菫「いや、勝つのは私だ」

照「ううん、私」

菫「私だ」

照「私だよ」

菫「私だ」

照「私」

菫「私だ」

照「…………」

菫「…………」

照「私だって言ってる!」ガタッ

菫「なんと言われようと私だ!」ガタッ

照・菫「この分からず屋……っ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(いやはや、仲睦まじい限りですね。すばらです)スバラッ

やえ(なんでお前らチーム解散したんだよ……)ハァ

照「菫は本当に何一つわかってない!! 頑固!! 堅物!! 石頭!! 鈍感!! バカ!!」

菫「お前のほうこそ、いい加減にその子供じみた態度はやめろ!! 大人になれ、照!!」

照「~~っ!? 菫なんて大っ嫌い!! もう知らないっ!!」

菫「私もお前の相手など飽き飽きだ!! 愛想が尽きたぞ!!」

照「…………っ!!」ジワ

菫「な……なんだよっ!?」タジッ

照「…………バカ……」ウルウル

菫「バ――バカだよ、どうせ……」スッ

照「菫……?」

菫「みっともないから、こんなところで泣くんじゃない。まったく……しばらく目を離していたらこの様か。本当に手間のかかるやつだな、お前は」フキフキ

照「あうぅ……一人でできるもん……」

菫「お前が一人でできるのは菓子を食うことくらいだろうが……ほれっ!」ベシッ

照「…………菫、嫌い」ムー

菫「そうかよ」

照「嘘。好き。超好き」

菫「……あぁ。私もお前のことは大切に思っている」

照「知ってる」

菫「なら言わせるな。は、恥ずかしい……」

照・菫「…………/////」

やえ「お楽しみのところ申し訳ないが」

照・菫「誰がッ!?」

やえ「……まだ対局は終わっていないぞ」

照「わ、わかってる」ガタッ

菫「……失礼した」ガタッ

やえ「さーて……ま、点数状況は見ての通りなわけだが――」

照:96100 煌:97900 菫:98200 やえ:107800

やえ「ラス親は、トップの私。ゆえに、次のオーラスで全てが決まる」

照「そうだね」

菫「オーラスもオーラスだ」

煌「お互いベストを尽くしましょう」

やえ「ところで、まさかとは思うが、お前ら、ここから私をまくれると思っているのか?」

照・菫・煌「もちろん(です)」

やえ「ほう……ならば、その《幻想》は殺してやらねばなるまい――」ニヤッ

照「どいてもらうよ、小走さん。その王座は私のだ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫「こうなった以上はお前が私の『敵』だ。覚悟しろよ、《幻想殺し》」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「小走さんには色々とすばられましたからね。お返しはきっちりとさせていただきます。《絶対》に……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ「口の減らないニワカどもが――よかろう……《王者》が相手になってやるッ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《幻奏》控え室

誠子「始まりましたね……オーラスが」

セーラ「やえは気負いや気合いがあんま顔に出るタイプやないけど、さすがにピリピリしとるな。普段より捨て牌を選ぶ時間が長い」

優希「トップのやえお姉さんは、全員から狙われているわけだじぇ」

ネリー「他家の勝利条件は、概ね満貫ツモだね。直撃狙いなら、すみれときらめは5200あれば十分。で、ハネ確しちゃえば、誰でも、どう和了っても、まくれる」

誠子「微妙なラインですね。警戒すべきは、弘世先輩の《シャープシュート》でしょうか?」

セーラ「能力戦の駆け引きなら、やえはお手の物や。ほんで、弘世のアレは、最悪ベタオリで回避できる。
 狙いに気付かれて流局に持ち込まれたらアウトなわけやから、《シャープシュート》の《照準》がやえを向くことはあらへんやろ」

優希「花田先輩はどうなんだじぇ……?」

ネリー「やえの《幻想殺し》でハコ割れを起こした時点から、《通行止め》は絶賛《完全無効化》中。無能力者状態だね」

誠子「ただ、花田さんは無能力者状態で堅実に打てる人ですからね。それに、二回戦、三回戦、準決勝と、花田さんは《煌星》の大将としてオーラスで試合を決めてきました。
 もちろん、それらは多分に能力的な和了りでしたが、状況に呑まれる――みたいなことはないでしょう。むしろ、花田さんは、あの四人の中で最も大将としての経験値が高い。場合によっては一番厄介な相手かもしれません」

セーラ「あとは……ま、宮永やけど――と、なんや、手が止まったな」

優希「来そうだじぇ……!!」

ネリー「これは――ここで大きく《流れ》が変わるかもなんだよ」

誠子「弘世先輩……っ!!」

     菫『…………』

 ――対局室

 南四局・親:やえ

菫(ここが運命の分かれ道――と言ったところか)フゥ

 菫手牌:[⑤]⑥⑦三三三四六七2345 ツモ:五 ドラ:⑧

菫(普段の私なら、ここから四萬を切り、七索をツモり、三萬を切る。即ち、こうだ――)

 菫手牌:[⑤]⑥⑦三三五六七23457 ドラ:⑧

菫(《照準》は、その直後に照から零れてくる、六索)チラッ

 照手牌:③④⑥⑦⑧五六六22566 ドラ:⑧

菫(《シャープシュート》――断ヤオ三色赤一。8000……)スッ

 菫手牌:[⑤]⑥⑦三三三五四六七2345 捨て:? ドラ:⑧

菫(いやいや、そうじゃない。そうじゃないだろ、私)グッ

菫(狙い通りに照から直撃を取ったとして、それがなんだと言うのだ。それではトップには届かない。照には勝てるが、優勝はできない。目標を見失うな。大切なものを履き違えるな。私は荒川に……勝って帰ると言った――)スッ

 菫手牌:[⑤]⑥⑦三三三四五六七345 捨て:2 ドラ:⑧

菫「リーチだ」チャ

やえ・煌「……っ」

照(菫……まさか今……私から《照準》を外したの……?)

菫(何を驚いている……この状況でこの手牌なら、誰だってツモ狙いでリーチを掛けるだろう? 五面張のどこを引いても、トップをまくれるんだぞ?
 そもそも、《シャープシュート》さえほとんど通用しないこの面子を相手に、出和了りなど期待できないしな……)

照(なんで……なんでそっちに行っちゃうの――?)

菫(悪いな……照。お前を裏切って、傷つけて、それでもお前を倒すと意気込んで――ここまでやってきたはずなのに。最後の最後で相手をしてやれなくて……不甲斐ない私ですまない……)

照(本当だよ……菫は……本当に……)

菫(……笑ってほしいやつがいるんだ……私はそいつの笑顔が見たいんだ……どうしても……どんなことをしても……)

照(……バカ……)

菫(あぁ……私はバカだよ……)

照(……菫……大っ嫌い……)

菫(……すまない……)

照(嘘……大好き。超好き……)

菫(私も……お前のことは大切に思っている)

照(……知ってる。一番は別の人だってことも、知ってるんだから……)

菫(……敵わないな、お前には)

照(それはそうだよ。だって私は……ナンバー1なんだから……)

菫(……いつか必ず射貫いてやるからな……照……)

照(……もう……射貫かれてるよ……バカ菫……)

 ――《劫初》控え室

憩「菫……さん……? どうして――」

智葉「常識的に考えて、この状況であの手牌ならリーチを掛けるだろう」

憩「い、いや、せやけど……!?」

衣「ツモるかトップ直撃で衣たちの勝ちになるのだ。何の問題もないではないか」

憩「やけど……せっかく宮永照を射貫く絶好のチャンスやったのに……」

エイスリン「ケド、ソレジャ、ユーショー、デキナクネ?」

憩「そ――それはそうですけど……いや……全く意味がわからへん……」

智葉「……わからないのなら、試合が終わったあとで菫に直接聞いてみればいい」

衣「試合後どころか、一軍《レギュラー》になれば、話をする時間はたっぷりあるぞ」

エイスリン「イマハ、トニカク、オーエン、シヨーゼ!」

憩「そ、そう……ですね。すいません……」

智葉「菫のリーチで、場が動きそうだな」

衣「……なるほど、ここで仕掛けてくるか——有象無象の『王』」

エイスリン「《イマジンブレイカー》!!」

憩「小走さん……」

     やえ『…………』

 ――対局室

やえ(弘世がリーチ、か……)

 やえ手牌:②②23444七八九西西西 ツモ:九 ドラ:⑧

やえ(弘世は二回戦で大星のダブリーを破っていたからな。先制リーチは控えていたが、これで《シャープシュート》の脅威はゼロになった)

やえ(弘世は恐らくツモ狙いだろう。《シャープシュート》を途中で打ち切りにしていたとすると、こいつの過去の牌譜からして、多面張である可能性が高い。ツモり合いになると、この手牌では若干分が悪いか)

やえ(堅い面子であることは確かだが、当然ながら、今は全員ともツッパってきている。三人のうち一人は先制リーチを掛けてきた。その上、私は誰から出和了りしても勝ち。ここでリーチを躊躇う理由は――ほとんどない)

やえ(拭い去れない不確定要素……しかし、『麻雀に《絶対》は《絶対》にない』というのが私の持論。
 不確定性が消えないのは、それはもう、そういう原理なのだ。そこを含めて期待値を計算しても、やはり、ここはリーチを掛けるべきだろう)

やえ(――などと、もっともらしく理屈を整理してみたが……)ガチャ

菫(む……)

煌(おやおや)

照(……来る……)

やえ(最初から心は決まっている。迷いはない。なぜなら、これが《王者》の打ち筋だからだ――)タンッ

 やえ手牌:②②23444七八九西西西 捨て:九 ドラ:⑧

やえ「リーチ」チャ

やえ(《王者》は媚びない。諂わない。高みに立って待つだけだ――次代の『王』が現れるのをな……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(……リーチ、掛けましたね――?)

やえ(あぁ……こうしてほしかったんだろう? 遠慮は要らんぞ。全力で遊んでやるから、かかってこい――花田煌……ッ!!)

煌(すばらっ!!)ゴッ

 ――《煌星》控え室

桃子「っしゃあ! トップから二本目のリー棒が出たっすよ!!」

友香「っ……! キラメ先輩が追いついた!! リーチを掛ければ、ギリギリ勝利条件クリアでー!!」

     煌『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 煌手牌:②③④[⑤]⑤⑥999二三中中 ツモ:⑤ ドラ:⑧

咲「さすが煌さん……テンパイしないことには逆転不可能っていうのはまぁその通りだけど、この土壇場で、まさか他家のリー棒に頼る道を選ぶなんて――」

淡「満ツモ条件……私はずっと、自力だけでまくるにはどうしたらいいかって目で見てた。けど、私の選択では、ここでテンパイに辿り着くことはできなかったよ。あと、もしかしなくても、キラメのあの打ち筋は――」

友香「振り込み度外視の最速テンパイからの即リー……《ステルスモモ》打法。あれが煌先輩の、一番練習してきて、一番自信のある打ち方だから……それを信じたってことでー」

桃子「きらめ先輩ちょーかっこいいっす!!」キャー

咲「あとはリーチ掛けてツモるだけだねっ!!」

友香「リーチ……!! でっ、ちょっと待った、そう言えば、煌先輩って今……」

淡「うん……ハコ割れしてるんだよね。その想いを引き摺ってたら――ってことでしょ?」

桃子「そ、そっか。きらめ先輩的には……今、点棒が空っぽなわけっすもんね……」

咲「トんでると想ってる状態から、さらに……点棒を手放す――」

     煌『…………』

咲「いやいやっ!! でも、煌さんならきっと……!!」

桃子「きらめ先輩……!! 頑張ってっすー!!」

友香「煌先輩っ!! 大丈夫でー!! 私たちがついてますんでー!!」

淡「キラメならやってくれるに決まってるよ――!! なんたってキラメは……っ!!」

淡・咲・友香・桃子「私たちの大将だからッ!!!!」スバラッ

 ――対局室

煌(我ながら随分と細い道を選んだものです……)

 煌手牌:②③④[⑤]⑤⑥999二三中中 ツモ:⑤ ドラ:⑧

煌(リーチを掛けてツモれば逆転。どうにかこうにかここまで辿り着きました。ですが、ここから先は――)

             ――ここから先は《通行止め》です。

煌(もはや能力的な制限はありませんが、ここで点棒を手放すということに、ものすごく心理的な抵抗があるのは事実……)

煌(……なんて、そんなことは、百も承知でしたよ。わかっていました。わかっていて、この道を選んだのですから)

煌(大丈夫です。私は……一人じゃない――)

煌(淡さん、桃子さん、友香さん、咲さん……みんながついています)

煌(喪うことは恐いですけれど……)

煌(そこで立ち止まってしまったら——)

煌(本当に大切なものは……掴めない)

煌(さあ……行きましょう……っ!)

煌(強く――生きましょう……!!)スゥ

煌「リーチですッ!!!!」ゴッ

 煌手牌:②③④[⑤]⑤⑤999二三中中 捨て:⑥ ドラ:⑧

菫(花田……お前――)

やえ(いやはや、すばら――しいじゃないか)

照(花田さん……)

煌(ツモれば優勝――やってやろうじゃないですか!! 夜空に煌めく星のように、私は淡さんたちを勝利に導く……!! 《絶対》にですッ!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《永代》控え室

純「いいねえ!! クライマックスらしくなってきたじゃねえか……ッ!!」ガタッ

まこ「じ、じっとしてられん!!」ソワソワ

穏乃「はい! うずうずしますっ!!」ウズウズ

塞「目の前に立つのやめてよあんたら。モニターが見えないじゃない……」ハァ

純「なんでお前はそんな冷めてんだよ!?」

塞「私は普通にクソ疲れてんのよ……」グッタリ

まこ「じゃが、状況的に照はかなり追い込まれちょる! わしらが応援せんで誰が」

塞「追い込まれてるぅ? あんた、染谷、眼鏡の度が合ってないんじゃないの?」

穏乃「実際、照さんは今、見るからにへとへとですよ?」

塞「みたいね。けど、まァ……いいから大人しく見ときなさいって。三回戦の日の朝に宮永から言われたでしょ。一軍《レギュラー》らしい行動を心掛けるように、ってさ」

純「塞……」

塞「大丈夫よ。宮永は嘘をつかない。あいつが『私たちは一軍《レギュラー》になる』って言ったんだから、それはそうなるの」

まこ「われの時折見せるその自信はなんなんじゃ……」

塞「別に。大したことじゃないわ。こんなの、白糸台の人間なら、誰だって知ってることじゃない」

穏乃「と……言いますと?」

塞「宮永はこの街の《頂点》。あいつの勝利を信じるのに、これ以外の理由が必要かしら?」

純・まこ・穏乃「おぉぉ……!!」

     照『…………』

塞「ここで負けるようなやつを私たちは《頂点》とは呼ばないのよ。さァ……おかげ様で舞台は整ったわ。粋に素敵に決めちゃってよね、宮永——」

 ――対局室

照(臼沢さん……もしかして……今頃、私のことすごい持ち上げてくれてる……?
 いや、私はいいんだけど……なんていうか、臼沢さんって、たまに、『それ言ってて恥ずかしくないの?』って台詞を平気で言うよね。
 うん……イメージ作りって大変だな……)

照(なんだかなぁ……結局……散々な大将戦だったなぁ。花田さんには《絶対》を破られるし、小走さんにはおいしいところを持っていかれるし、それに――)チラッ

菫「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(菫は……ひどい。そりゃ、留学のことを黙ってた私も私だけどさ。普通に、この最後の夏も、一緒だと思ってた。最後まで仲間として過ごせるもんだと思ってた。
 なのに、いきなり『お前は私の敵だ』とか言い出して。いや、菫と私の関係の根本がそこにあるのはわかってたけど。でもさぁ……それならそれで、ちゃんと責任取って最後まで私のこと見ててよ。もー……菫のバカ……普通に張っちゃったよ……)

 照手牌:③④⑥⑦⑧四五六22566 ツモ:7 ドラ:⑧

照(あとは……ツモるだけ。たぶん、菫と花田さんも、そうだよね。こうなってくると、出和了り可能な小走さんが圧倒的に有利かな。困った困った……)タンッ

 照手牌:③④⑥⑦⑧四五六22567 捨て:6 ドラ:⑧

照(菫の想いには……菫の敵として、宮永照として、応えた。これは個人的な話。今すぐ泣き出したい気分だけど……それは、試合が終わってからでいい。
 今は……他にやることがある。《頂点》として……みんなの想いに応える。今まで戦ってきた……全ての人の想いに――)

照(私は今まで多くの人に勝ってきた。すると、みんな決まって言うんだ。『次は私が勝つから、それまで他の人に負けるな』って。私は、いつも『うん』って応えてきた。その言葉を、嘘にしたくない……)

照(みんなが私に勝とうと望む。それでいて、みんな、自ら私に勝つことを望む。その時が来るまで、私に勝ち続けることを望む。私はそれに応え続ける。これが《頂点》のロジック。全ての人の勝ちたいという想いの象徴。信仰の中心)

照(正直……重過ぎる想いだけどね。ま、なんとか頑張って、ここまでやってこられた。これからも、背負って歩き続けるつもり。
 だって、私が勝てば、みんな笑ってくれる。『次こそは』って言って、笑顔でまた遊びに来てくれる……)

照(で、その『みんな』の中に……私の一番大切な人も入ってるんだから。それは、やる気も出るってものですよ)

照(というわけで――勝たせてもらうよ、小走さん、花田さん、菫……)

照(みんなの勝とうとする意思が、前に進もうとする想いが、いつだって、私の背中を押すんだ。このオーラスだってそう。誰か一人でも勝ちを諦めていたら、この道は開けなかった――)

照(今日はありがとう)

照(また……機会があれば、打とうね)

照(楽しみに待っているから)

照(あなたたちの挑戦を)

照(これからもずっと……)

照(私は――)

照(頂点《ここ》で待ってる……ッ!!!!)

照「ツモ!!」ゴッ

菫(照……っ!!)

照「タンピンツモドラ一……!!」パラララ

やえ(その手牌……そうか……)

照「1300・2600……っ!!」

煌(……すばらです……)

照「これで試合終了だね……みんな、本当に、今日はどうも――」スゥ

照・菫・やえ・煌「――ありがとうございましたッ!!!!」

『大将戦決着ううううう!!!! 長きに渡る一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に幕が下ろされましたああ!!!!
 激しい戦いの末っ!!!! 一軍《レギュラー》の栄冠を勝ち取ったのは――《頂点》率いるチーム《永代》いいいいいいい!!!!』

ヤッターーーー!!!!!!!
照さんが勝ったーーーーー!!!!!!!!!

テルー!

永代が優勝かー!

 ——学園都市・某所

 ザー

郁乃「試合〜、終わったみたいやね〜」

アレクサンドラ「えぇ。さすがは運命奏者《フェイタライザー》に打ち勝った雀士ですね。テル=ミヤナガ——欲しい……」

郁乃「ええ〜? せやけど〜、宮永ちゃんは〜、レベル5の点棒操作系能力者やで〜? 魔術世界の二大禁忌やで〜?」

アレクサンドラ「禁忌なら、なおさら手元に置いておきたい」

郁乃「も〜、そうやってあれもこれもやから〜、一番を逃すんやで〜?」

アレクサンドラ「それは言わないでください」

郁乃「ところで〜、《打ち止め》の残響が消えたな〜」

アレクサンドラ「はい。キラメ=ハナダの《通行止め》によって、一度《システム》が破壊されたわけですからね」

郁乃「追いかけ回す相手も〜、口実も〜、消えてもうたね〜」

アレクサンドラ「そう……ですね」

郁乃「あれ〜? 駄々こねへんの〜?」

アレクサンドラ「もう子供じゃありませんから……」

郁乃「ふ〜ん〜?」

さすがー

本当にみんなが攻めて立直したのをきっちり頂点として破った結果の勝ちなんだな
照にもこれを書く構成力の>>1にも脱帽

皆が自分の納得出来る勝ちを目指してリー棒を置いたから開けた道か

優勝永代かー!!!!
煌星負けたの残念…

アレクサンドラ「……ん——?」

郁乃「どしたの〜?」

アレクサンドラ「いえ、雨足が不自然に弱くなってきたな……と思いまして。これは、あなたが?」

郁乃「いいえ〜?」

アレクサンドラ「だとすると……」



 バチンッ



アレクサンドラ「停電……? それに、この……旋律は——」

郁乃「さ〜て〜」ガタッ

アレクサンドラ「《冥土帰し》?」

郁乃「アリーちゃん〜」

アレクサンドラ「は、はい」

郁乃「今度は〜、うまくやるんやで〜?」

アレクサンドラ「え……?」

郁乃「ほな〜。私はこれから職員会議やから〜。もう行かな〜」

アレクサンドラ「待っ——つわけない、か……」フゥ

 ポツ ポツ

アレクサンドラ(世界は開かれた。運命想者も絶望から脱した。私がここにいるべき理由は今や何一つない。帰ろうか……否——)

 ポツ ポツ

アレクサンドラ(小夜曲《セレナーデ》——この甘美な響きを、もう少しだけ……)

 ――試合会場

久「終わったわね……決勝戦」

美穂子「ええ。決勝らしい、いい試合でした」

久「夏もそろそろ終わってしまうわね……」

美穂子「せっかくですから、残り少ない夏休みを利用して、どこかへ旅行というのはいかがです?」

久「そうねぇ……それもいいのだけれど、ひとまずは、今のこの興奮をね、今日この日のうちに開放したい気分よ」

美穂子「それは……お誘いと受け取ってよろしいのでしょうか?」

久「こんな蒸し暑い夏の夜は、そう……ひんやりと冷たい――濡れたサファイアを抱いて眠りたいものね」

美穂子「知っていますか、久……? 冷めて見える青いサファイアは……熱く燃える赤いルビーと、同じ素材の宝石なんですよ……」

久「ちょっとくらいなら火傷してもいいわ……一夏の記念に、ね」

美穂子「ふふっ……ちょっとでは済ませませんから――」

憧「くぉらぁー!! そこのメスどもがー!! 発情してる暇があったら働けー!!」アクセク

泉「お祭りって後片付けのほうが大変やねんな……!!」アクセク

和「とにかくタスクをこなしていくしかありません――」アクセク

久「あらあら、怒られちゃったわ」

美穂子「事後処理程度で久の手を煩わせるとは、使えない子たちですね」

憧「グーか!? グーで殴られたいのか!?」

泉「福路先輩のことは放っとけ、憧! さっきの機械オンチっぷり見たろ!?」

和「あの人に限って言えば、正直いても邪魔になるだけです」

美穂子「」ブチッ

久「美穂子、どーどー」

美穂子「久……申し訳ありませんが、ちょっと席を外させてください。何人か躾のなってない子供がいるようなので、教育してきます」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧・泉・和「っ!?」ゾワッ

美穂子「わ……私だって! その気になればぱそこんくらい!! 使えるんですからねー!!」スッ

久「や、やめなさい、美穂子――」



 バチンッ



憧・泉・和「停電したー!!!!」ガビーン

 ドヨドヨ ドヨドヨ

久「み……美穂子……」

美穂子「ちっ、ちが! 久! これは違うんです!!」アワワワ

久「う、うん、そうね……とりあえず、あなたの仕事はこっちで私とお茶をすることだと思うわ」

美穂子「久ぁぁぁっぁあああぁ……!!」ウワーン

久「おー、よしよし」ナデナデ

憧「どーすんのよこれー!? 電子学生手帳も圏外になっちゃったけど!?」アワワワ

泉「和、どうにかできひんのか!!」アワワワ

和「私は電力がないと何もできません!!」アワワワ

久(復旧を待つしかないかしらね……はてさて、今夜は眠れるのかしら)

 ワーワー ワーワー

久(お祭り騒ぎはまだまだ終わらない、か)

 ワーワー ワーワー

久(お祭りなら、最後まで楽しまなきゃね――)

 ワーワー ワーワー

久「っしゃー、みんなーっ!! 一難去ってまた一難よー!! こうなったら夜通し付き合ってもらうからね!! 明日のことも大切だけど、今はこの《最悪》と戯れましょう!! よろしくーぅ!!」

 キャーキャー ワーワー キャーキャー

久(最後の夏——最悪で最高の夏をありがとう。本当に……この街に来てよかったわ!!)

 ――《劫初》控え室

『一軍《レギュラー》の栄冠を勝ち取ったのは――《頂点》率いるチーム《永代》いいいいいいい!!!!』

智葉「《頂点》……届かなかったか」

衣「どうにか……勝たせてやりたかったんだが……」

エイスリン「ココマデ、カ……」

憩「菫さん――」

 ガチャ

菫「……ただ今戻った……」

 三位(総合三位):弘世菫・−17900(劫初・95900)

菫「……皆、その――」

智葉「はい、そこまでだ」スラッ

衣「真剣!? いつの間に!!」

菫「……腹を切れとでも言うつもりか?」

智葉「そんなわけなかろう。ちょっと口封じをしたかっただけだ」チャキ

菫「あまり変わらないではないか……」

智葉「菫、今となっては、全て終わったことだ。これは団体戦――結果は結果として、五人全員で受け止めよう。お前一人が責任を感じることはない。というか、お前のしかめっ面など見たくない。お前らも同意見だろう?」

衣「無論だっ!」

エイスリン「アタリキヨォ!!」

菫「そう……か……」

智葉「私たちは、みんな、お前のことが好きで集まった仲間だ。最終的に、お前が笑顔でいてくれるなら、それでいいんだよ」

菫「……有難う……みんな――」

智葉「で、それはそれとして、菫」

菫「む……?」

智葉「宮永にはまた逃げられたが、お前が射貫くべき的は、もう一つあるはずだ。遠回りをするのもここまで。いい加減、はっきりさせろ。このバカ」

菫「ぐぬ……っ」

憩「……? ガイトさ」

菫「荒川っ!!」

憩「は、はい!?」

菫「そ、その……必ず勝ってくると言っ」

智葉「前置きはいい」スラッ

菫「~~~~っ!! えっとだな!! 試合の結果は結果なのだが――それはそれとして、この大会が終わったら……お前に言うつもりだったことがある!!」

憩「菫……さん……?」

菫「と……!! そ、その前に!! お前にお仕置きをせねばなるまいっ!! 私の言うことをなんでも聞いてくれるんだよな!?」

憩「……は、はい……」

菫「で、では……その、下……下――」

憩(ししししし下!? 下ってどの下!!?)アワワワ

菫「下の名前で呼んでもいいかッ!!?」

憩「ほ、え……?」

菫「ど……どうなんだ……? い、嫌なら無理にとは言わないが――」

憩「嫌っちゅーか……むしろ、それは……」

衣「けいっ! 細かいことはいい!! はいかイエスで答えるのだ!!」

憩「そら……もちろん――はい……」

菫「ほ、本当か……!?」

憩「……はい。どうぞ、お好きなように……」

菫「……け……憩……」ポツリッ

憩「っ……/////」ボンッ

エイスリン「ヒュゥー! ケイ! マッカ!!」

憩「か、からかわんといてください、エイさん!! 人が悪いですよ!!」

智葉「仕置きなんだから辱めてやらんとなぁ。……で、菫、続きだ」

憩(ちょ……なんやこの異常事態!? 心臓がもたへんで!!?)バクバク

菫「さ、さあ、というわけで、荒川!! ――じゃなかった、憩ッ!!」キリッ

憩「ひゃ、ひゃいっ!!?」

菫「わ、私は!! お前のことがっ!!」

憩「ウ、ウチのことが――?」

菫「……っ!! ~~~~~~/////!!」

智葉「おいおいどうした? 狙った獲物は逃さない《シャープシューター》様?」ニヤニヤ

衣「的は目の前だっ! 早く仕留めろ!!」ニヤニヤ

エイスリン「ハートヲ、ブチヌイテ、ヤレヨ!!」ニヤニヤ

憩「え……? 皆さん、何言うて――えぇ……?」

菫「憩ッ!!」ゴッ

憩「はいっ!!?」

菫「私はお前のことが好きだっ!!!」

憩「ッ――――」

菫「お前さえよければ……ずっと一緒にいてほしいっ!!!」

憩「い……いや!!? いやいや!!? いきなり何言うてはるんですか!!? 冗談はやめてください!!! 菫さんが好きなのはあのツノですよね!!?」

菫「バッ――誰が誰のことを好きだと!!??」

憩「やって!! 菫さん、あのツノの話するときはいっつも胸高鳴ってますやん!!? あのツノと一緒におるとき超ドキドキしてますやん!!?」

菫「確かに照のことをものすごく意識はしているのは否定しないっ!!! あいつは私の麻雀人生の《最終》目標で!!! たった一人の《頂点》で!!! 世話の焼ける大切な仲間だからな!!!
 だが――断言しよう!!! 好きとかそういうのではないッ!!! はっきり言って好みのタイプではないのだ!!!」

憩「いやいやいやいや!!!? ほな普段のあのイチャコラはなんですか!!!? さっきの大将戦やってそうです!!! めちゃめちゃええ雰囲気で涙を拭ってあげてましたやん!!!?」

菫「あれは……ちがっ!! 憩!!! お前の目は節穴か!!!?」

憩「ふ――ッ!!? 節穴!!!? ウチの《悪魔の目》を節穴って言いましたか今!!!?」

菫「あぁ……言ったぞ!! 信じられん……ッ!! まさかそんな世にも恐ろしい勘違いをされていたとはな!!!!」

憩「いや!! っちゅーか!! あのツノのことは置いておくとしても!!! そもそも、菫さんはウチと一緒のとき、そんなドキドキしてませんやん!!!!」

菫「大会中に色恋に現を抜かすなどもってのほか!! あと、まるでそれが目的でチームに誘ったみたいで、バレたら死ぬほど恥ずかしいだろう!!! だからずっと抑えてきたんだ!!! それも見抜けていなかったのか!!?」

憩「なぁあ――――!!!?」

菫「憩……っ!! 私はお前が――」



 バチンッ



智葉「お、また停電か」

エイスリン「コロタン?」

衣「冤罪だっ!」

菫(憩……!!)ガシッ

憩(ふぁあっ!!? 菫さん、何を――////)

菫(まだ……お前の返事を聞いていない……)

憩(ウ、ウチは……)

菫(私はお前のことが好きだ。ずっと一緒にいたいと思っている。お前は……どうなんだ……?)

憩(ウチは…………)

菫(………………っ)

憩(…………ウチも……菫さんのこと、大好きです。ずっと一緒にいたいです。せやけど、菫さんは宮永照のことが――)

菫(だから……照のことは誤解だ。なぜわからん)

憩(せやけど、ウチにはそう見えるわけで……)

菫(……じゃあ、もういい。目を閉じろ。もっとも、この状況では関係ないか――)グッ

憩(ちょ、え……すみ――んっ!!?)

菫(………………わかったか……////?)

憩(え………………その……////)

菫(わ、わからんのなら……わかるまで何度でもするぞ……////)

憩(それは…………っ////)

菫(…………あのな、憩)

憩(は、はい……)

菫(私は、この世界の誰よりも、お前のことを大切に思っている)

憩(菫……さん――)

菫(誰がなんと言おうと、お前が私のナンバー1だ。わかったか……?)

憩(…………はい……わかっ――いや…………わかりません!)

菫(こ、この《悪魔》!?)

憩(わかりませ~ん! 全っ然! わっかりませ~ん!!)

菫(…………目を閉じろ)

憩(もう閉じてますよ……)

菫(これからも……よろしくな、憩――)

憩(はい……こちらこそ――)

 ――――

照「…………」

 一位(総合一位):宮永照・+41400(永代・104300)

塞「……で、あんたは控え室にも帰ってこないで、何やってんのよ」

照「…………」ジワ

塞「あーあぁ。まったく、優勝を決めたやつの顔じゃないでしょ、それ……」ハァ

照「…………」ウルウル

塞「ハイハイ。わかったから。こっち来なさいって」チョイチョイ

照「…………」ヒシッ

塞「まったく……弘世はひっどいやつよねぇ。宮永はこんなに想ってるのにさァ」ナデナデ

照「…………」コクコク

塞「ま……とりあえず、好きなだけ、泣きなさいよ」ギュ

照「…………」ウルウル

塞「遠慮しないの。涙を全部出さないと、すっきり笑えないでしょうが」ギュー

照「…………」ポロポロ

塞「夏が終わるまで、いっぱい、楽しいことしましょうね。インターハイで優勝して、井上と、染谷と、高鴨と、祝勝会ってことで、海とか行ったり。なんなら、弘世たちとか、妹さんたちも、みんな誘ってさ」

照「…………」ポロポロ

塞「一緒にいられる時間は……もうあんまり残ってないけれど、だからこそ、この夏は、うんざりするまで遊びましょ」

照「…………」コクッ

塞「……一人で立てる?」

照「…………」コクッ

塞「ちゃんと笑えそう?」

照「…………」コクッ

塞「どれ、見せてみなさい」

照「…………」エイギョウスマイルッ

塞「そっちじゃないわよ!!」バシッ

照「…………」ジワッ

塞「わ、わわ!? ごめん、ちょっとびっくりしたのよ!! っていうか、今のは明らかにあんたが悪いでしょ!?」

照「…………」プイッ

塞「この……っ。はい、いいから、仕切り直し。普通の笑顔まで、三、二、一、どうぞ」

照「…………」ニコッ

塞「……大丈夫そうね。ハイ――じゃあ、者ども!! 出てきなさいッ!!」

えんだあああああああああ

いやああああああああああ

 バッ

純「よくやったなァ、さすが照だぜ!!」

まこ「お疲れさんっ、照!!」

穏乃「とても素敵でしたッ!!」

照「…………」アワワワ

塞「ほら、リーダー! しっかりしなさい! シメの一言!!」

照「…………」スゥ

純・まこ・穏乃・塞「…………っ」ジッ

照「みんな」

純・まこ・穏乃・塞「はい!」

照「まずは……ありがとう」ニコッ

純・まこ・穏乃・塞「こちらこそ、ありがとうございました!」

照「みんなのおかげで、私たち《永代》は、一軍《レギュラー》になることができました」

純・まこ・穏乃・塞「マイナス収支で申し訳ない!!」ペッコリン

照「それは……まあ、今後の課題ということで、全員で取り組んでいきましょう」

純・まこ・穏乃・塞「はい!」

照「……さて、晴れて、私たちは一軍《レギュラー》になったわけですけど」

純・まこ・穏乃・塞「そーですね!」

照「本当の本番は……これからです。白糸台高校麻雀部の代表として、一万人――ううん、過去の先輩方や未来の後輩たちも含めた、とてもとても多くの人の想いを背負って、私たちは戦うことになります」

純・まこ・穏乃・塞「……はいっ!!」

照「インターハイでは、白糸台の一軍《レギュラー》として、どこの誰に見られても恥ずかしくない麻雀を打ちましょう」

純・まこ・穏乃・塞「頑張りますっ!!」

照「よろしい。では――かいさ」

純・まこ・穏乃・塞「いいえ、打ち上げ!!」

照「……そうだね。《虎姫》御用達のお店を予約しておきました。明日は閉会式があるので、ハメを外し過ぎない範囲で、楽しみましょう」

純・まこ・穏乃「はーい!」

塞「ところで、そこに弘世たちがいる可能性は?」

照「かなり、あるね」

塞「だそうよ、者ども!! なんたって勝ったのは私たちだからねっ!! あのいけ好かない化け物軍団を煽りに煽ってやりましょう!!
 あんたたち三人はアレかもしれないけど、私は荒川より順位が上だったもんねー!! あの《悪魔》の傷に塩を塗って泣かせるのが今から楽しみだわーッ!!」ヒャッハー

照「臼沢さん……楽しみ方が畜生以下だよ……」

塞「えっ? そう?」

照「そういうところが――いや、なんでもない……」

塞「? 変な宮永。ま、いいけど――」ギュ

照「おっと……」ギュ

塞「ほら、案内するから地図見せなさいよっ!」グイッ

照「うん、わか」



 バチンッ



純「ちょ……おいおい、暴れてんのはどこのバカ《ランクS》だァ?」

まこ「衣かのう?」

穏乃「いや、これは――」

塞(宮永、宮永)コソッ

照(何?)

塞(私、今回、かなり頑張ったわよね)

照(うん。そうだね)

塞(ご褒美……ほしいなァ?)

照(じゃ、じゃあ、お菓子――)

塞(あんたじゃないんだから……そんなもんで誤魔化されないわよ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(な……なぜ今《防塞》を……!?)ゾワッ

塞(ふふふっ……あんた、花田と本気でやり合って、そのあと弘世相手にも随分無茶したみたいじゃない。高鴨曰く――『へろへろ』。
 こんなチャンスはそうないわよねぇ。いやぁ……応援そっちのけで回復に専念した甲斐があったわァ……)ニヤッ

照(う……臼沢さん……? 私の動きを塞いで一体何をするおつもりでございますか?)ビクッ

塞(何って……そりゃ、決まってるでしょ……?)スッ

照(ッ!!!? や……う、臼沢さ――私、その……っ!!!!)

塞(ええい! 観念しなさいッ!! あんたなんかっ!! あんたなんかこうなんだからー!!!)ゴッ

照(わああああああああああああああ!!!?)

毎度毎度疑われるコロタン可愛い

 ――対局室

やえ(オーラスの宮永……《打点上昇》の《制約》から逃れていた。支配力と能力を完全にシャットダウンした――ということだろう)

 二位(総合二位):小走やえ・+6600(幻奏・104200)

やえ(支配者《ランクS》の支配力と能力は切っても切れない関係にある。支配力を出力しようと思えば、安定のために、必ず能力という論理回路を通さねばならない。
 霧島神境の姫たる神代と違って、宮永には、能力をオフにした状態で支配力だけを使うなんて真似はできない。
 だから、このオーラスは、正真正銘、これっぽっちも、あいつはオカルトを使っていないわけだ……)

やえ(支配力の出力が途切れれば、《上書き》はもちろん、カンや危険察知能力といった《オカルト読み》の感覚も遮断される。支配者《ランクS》にとっては暗闇の中をさ迷うようなものだろう。
 高鴨の《原石》の力で鍛えたのか? 否……高鴨の作り出す特殊な場では、むしろその《オカルト読み》の感覚に頼ることになるはず。だからこそ、花田の件で、私はあいつに案内役を頼んだわけで。
 だとすれば、これは……普段からネト麻か何かで鍛えていたのか、土壇場のぶっつけだったのか……)

やえ(ラス前に弘世から7700を取っていたあいつが《制約》に従えば、次は最低でも8000……ツモれば勝ち。
 ただ、《万華鏡》は能力の強度において、和了回数の影響を受ける。たった一回の積み重ねで、スムーズに8000の和了りに移行できるかどうかは、微妙なところ。無理な連続和了はかえって支配が崩れ、足枷になる。
 ゆえに、宮永がオーラスで完全デジタルを選択するという可能性は……考慮はしていた。ただ、その状態からまくられる可能性は低いと思っていたがな。いわば、無能力者状態で、全ては『偶然』に左右されるのだから――)

やえ(宮永以外の全員からリー棒が出れば、5200ツモであいつにまくられることはわかっていた。私のリーチは失策だったか?
 否……私がリーチを掛けなければ、宮永はリーチを掛けていただろう。その場合、花田が詰むことになるが……まあ、それはそれ。
 宮永か弘世にツモられたらまくられるわけだから、出和了りのできない私のほうが不利なのは明白。結局は、リーチを掛けることになる)

やえ(或いは……四家立直で流局、オーラス一本場という可能性もあったか。
 その場合は、点差状況がそのままに、供託にリー棒が四本。勝利条件が引き下がる上に、宮永の《万華鏡》がリセットされ、あいつが支配力を自由に使えるようになってしまう。
 そうなれば……私の勝率はほとんどゼロだろうな……)

やえ(まったく……検討すればするほど、溜息しか出てこない。勝利を掴み取るために、支配力《キセキ》も能力《マホウ》も手放す――希望を掴み取るために闇の中に自ら身を投げる――とはな。
 空っぽの手を望むほうに伸ばすのは、無能力者の専売特許だと思っていたが……よりにもよって全てを持っているやつが、その『全て』を放り投げて、同じことをするのかよ。で、それで勝っちまう、と。相も変わらずデタラメなやつだな……宮永照――)フゥ

やえ(あぁ……100点が……遠いなぁ……)

 バァン

優希「お迎えに参上したじぇ!!」ババーン

セーラ「お疲れやで、やえっ!!」

誠子「お荷物も全てお持ちいたしました!!」

ネリー「やっえええええええええー!!」ドヒューン

やえ「ぐぼっ!?」

ネリー「ちょ、全員の手牌が晒されてる!! もしかして検討してたの!? やえは本当に解説の鑑だね!!」

やえ「性分なもんでな……」

優希「根をつめるのはよくないじぇ、やえお姉さん! タコス食べるか!?」

やえ「あぁ。ラボに帰ってからいただこう」

誠子「飲み物など、いかがです? おしぼりもありますよ?」

やえ「有難う」フキフキ

セーラ「やえ、凝っとるところとかないかー?」ワキワキ

やえ「バッ、やめろ! お前、その殺人マッサージで初美がどうなったか忘れたのか!?」

セーラ「え~?」

やえ「……さて、それじゃあ、ラボに帰って打ち上げでも――」



 バチンッ



優希「じょ!? 停電!!」

セーラ「どこぞの支配者《ランクS》が暴れとるんやろー? 学園都市ではよくあることやな」

誠子「十分もすれば復旧しますかね――って、慣れてしまっている自分が悲しいです……」

やえ(停電か。有難い――)

ネリー(どうして?)

やえ(誰にも見せるわけにはいかんだろう……《王者》の涙は)

ネリー(……そうだね……)

やえ(なぁ、運命奏者《フェイタライザー》――ネリー……)

ネリー(なに?)

やえ(お前ら運命論者の理念的に、これはアリなのかナシなのかわからんのだが……)

ネリー(ふむ……?)

やえ(また……ちゃんと歩き出すから。決して諦めるわけじゃない。可能性を捨てるわけじゃない……だから――)ギュ

ネリー(や、やえ……?)ドキッ

やえ(少しだけ……立ち止まることを許してほしい……)ギュー

ネリー(……うん。わかった……)ギュ

やえ(……どうして……どうして私じゃなくて……あいつなんだ……)

ネリー(……やえ……それは――)

やえ(……私は……歩くことに疲れたよ……ネリー……)

ネリー(……うん。そうだね……お疲れさま。今は……ゆっくり休んで、やえ……)ナデナデ

やえ(……あぁ……そう……今は、な――)

 ――《煌星》控え室

 ガラッ

煌「ただいま戻りました」

 四位(総合四位):花田煌・−30100(煌星・95600)

淡・咲・友香・桃子「お帰りなさいませ!!」

煌「がっつりやられてしまいました。皆さん、お強い。完敗です――」

煌「なんと言えばいいのでしょう……私は、ひたすら負けたくない一心で――ずっとここまでやってきました」

煌「しかし、この大将戦が終わって……今――強く、想うんです……」

煌「『勝ちたい』……と」

煌「皆さんのために……勝ちたい。勝ちたかった……っ」ウル

煌「試合が終わってから……こんな風に想うなんて。私……大切なことに気付くのが――遅過ぎましたね……」ウルウル

淡「そんなことないッ!!」ギュ

煌「淡さん……」ギュ

桃子「全然! そんなことないっすよ、きらめ先輩!!」ギュ

煌「桃子さん……」ギュ

咲「フォーメーション《煌星》、再び!」ギュ

友香「もう慣れたものでー!」ギュ

煌「咲さん……友香さん……」

淡「あのね、キラメ!!」

煌「はい……」

淡「遅過ぎるなんてことはないよっ!! あるわけない!! だってそうでしょ!? 私たちの道は――まだまだ先に続いてるっ!!」

煌「……っ。はい……」

桃子「きらめ先輩、大丈夫っす。まだ……その、たった一回——負けただけっす! そりゃ悔しいっすけど! 辛いっすけど! でも、得るものもいっぱいあったっす!!」

煌「はい……っ!」

咲「私たちも煌さんも、まだまだ強くなれます!! 色んな大会に出て!! 次の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》――秋季大会《オータム》までに、どこの誰よりも強くなればいいんですっ!!」

煌「はい……っ!!」

友香「私たちは一年生で! 煌先輩は二年生!! あと一年間も一緒に戦えるんですよっ!! 私たち《煌星》の輝きは、ここで終わりなんかじゃありませんっ!!」

煌「はい……っ!!!」

淡「キラメっ!!!」

煌「はいッ!!! なんでしょうか……!!?」

淡「私たちは、最後までキラメと一緒にいたいっ!! ずっと一緒に戦っていたい!! このチームで!! これからも一軍《レギュラー》を目指したいっ!! キラメは――どうかな!?」

煌「もちろん決まっています……っ!! このチーム《煌星》は!! 最高のメンバーが集まった最高のチームですっ!! 私も皆さんと――最後まで一緒にいたいです!!!」

淡「要らない子とかいない!!?」

煌「いませんッ!!! 私たちは五人で一つのチーム《煌星》ですから!!」

淡「わかってるじゃん、キラメ!! でっ!! リーダーのキラメは私たちチーム《煌星》をどうしてくれちゃうのかなー!?」

煌「もちろんっ!! 持てる力の限り、私が皆さんを導きましょう!! 夜空に煌めく星のように――!!!」ゴッ

淡「ッ……!! キラメー!!! ちょー大好きいいいいい!!!」ガバッ

桃子「きらめ先輩いいいいい!! どこまでもついて行くっすー!!」ガバッ

咲「煌さああああん!! 漏れましたあああああああ!!!」ガバッ

友香「これからもよろしくお願いしますでええええ!!」ガバッ

煌「すばっ!!!? 皆さん、そんな一斉に――あわわわっ!!!」



 バチンッ



桃子「停電っす!?」

友香「さてはまた淡でー!?」

淡「違うよっ!! サッキーが漏らしたせいじゃないの!?」

咲「わ、私じゃないよ!!?」

淡・咲・友香・桃子「ま、でも、いいかそんなことは!!」キュピーン

煌「すばっ……?」

淡「キラメー!! 100すばらのご褒美ちょーだい!!」ギュー

桃子「順番的には先鋒の私からっすよね!!」ギュー

友香「煌先輩!! 私はレベルアップボーナスが欲しいんでー!!」ギュー

咲「わ、私はピタリ賞ってことでどうですかね!!」ギュー

煌「あわわわわ……っ!!! み、皆さん、どうか落ち着いて――」

淡・咲・友香・桃子「これが落ち着いてられますかー!!」ゴッ

煌「すばばばばばばばばば!!!?」

淡「今夜は寝かさないよ、キラメ!!」

桃子「ちょー可愛がるっすよ!!」

咲「ゴッ撫でくり回します!!」

友香「眼鏡サービスもよろでー!!」

煌「ひゃああ!? ちょ、そこは――あわわわわ!! ダメです!! 皆さんっ!!! ひ、ひとまずっ!! 落ち着いて!! いつものように次に向けて簡易反省会を――」アワワワ

淡「キラメ!!」

煌「は、はいっ!?」

淡「キラメ、すごくかっこよかったよ!! 本当にお疲れさま!!」

煌「淡さ――」

     ——今は一人でも……いつか、あなたの世界には、必ず光が差す。

淡「キラメはとってもとってもすばらだったから!! 最高に素敵だったから!!」

         ——それこそ……超新星みたいな、

淡「だから――今はただ、私たちと一緒に笑おうよっ!!」

   ——目も眩むような光が、

淡「……それがすばらってもんでしょ?」

      ——あなたの絶望と孤独を吹き飛ばしてくれる……。

煌「……はい……この上なくすばらです――」

淡「だったら、今日はもう、あとのことは私たちにぜんぶ任せて。悲しむ暇もないくらい、悔しがる隙もないくらい――全力で、笑わせて、楽しませてあげるから……」ギュ

煌「……ありがとうございます……」ギュ

淡「これから先、あなたがどんな闇に呑まれても……必ず私が照らし出す。私はあなたの超新星《ラストオーダー》――そのことを、ずっと覚えていてね」

煌「もちろん……淡さんの輝きを忘れるはずがありません――」

淡「……私も、あなたの煌めきは一生忘れないよ……キラメ」

煌「あなたと出会えてよかったです、淡さん」

淡「うん……。きっと、幸せになろうね」

煌「はい……絶対に、です……」

淡「これからも、よろしくね――」

煌「ええ……よろしくお願いします――」

【決勝戦結果】

<総合結果>

 一位:永代・104300

 二位:幻奏・104200

 三位:劫初・95900

 四位:煌星・95600

<区間賞>

 先鋒:辻垣内智葉(劫初)・+17200

 次鋒:エイスリン=ウィッシュアート(劫初)・+5700

 中堅:宮永咲(煌星)・+10000

 副将:大星淡(煌星)・+12300

 大将:宮永照(永代)・+41400

<役満和了者>

 大七星:小走やえ(幻奏)

<半荘獲得点数上位五名>

 一位:小走やえ(幻奏・大将戦後半)・+29900

 二位:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・副将戦前半)・+28800

 三位:宮永照(永代・大将戦前半)・+25200

 四位:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・次鋒戦後半)・+16300

 五位:宮永照(永代・大将戦後半)・+16200

<MVP>

 宮永照(永代)

 ――窓のあるビル・実況室

慕「……試合、終わったね」

恒子「最後まで付き合っていただき、ありがとうございました」フカブカ

慕「あっ、い、いいよ。そんな。こちらこそ、解説やらせてもらって楽しかったです。飛び入りだったのに、ありがとうございました」フカブカ

恒子「どういたしまして……と」クタッ

慕「……これから、どうするんですか、恒子さん?」

恒子「……できることを、したいことを、やろうかなと」

慕「……うん。私もそれがいいと思う」

恒子「まずは……明日の閉会式の打ち合わせ。先生方と――」

慕「あっ、そうだね。試合が終わったら、職員会議だったっけ」

恒子「……■■■■――理事長が……いなくなっちゃったから。まずは、その代理を立てるところから、ですかね……」

慕「そうだね。うーん、閑無ちゃんとか、こういうの好きなはずだけど……」

恒子「石飛新理事長……学園都市に《革命》が起きますね」

慕「うんっ! 閑無ちゃん、レボってるから!!」キラーン

恒子「あははっ、ですね。……と、じゃあ、会議室に移動しますか。お茶淹れたりしないと――」ガタッ

慕「私も手伝うよっ!」

恒子「ありがとうございます」



 バチンッ



慕「わっ、停電!?」

恒子「……珍しいですね。この建物はそういうのに強いはずなんですけど」

 ダダダダダダダダダダ

 バァァァァァァン ピカッ

理沙「っ……!!」

慕「の、野依先生?」

恒子「どうかされました?」

理沙「……っ!! ――!! ~~~~~!!」プンスコ

恒子「えーっと――」

慕「何だか『とてつもないもの』がこの建物に向かっているそうです。安全なところに避難したほうがいいみたいですね」

恒子「え!? なぜわかったんですか!?」

理沙「っ!! っ……!!」プンスコ

慕「恒子さん、他の先生方が足止めしているそうですが、まるで歯が立たないようです。急いでこの建物から出ましょう」ダッ

恒子「は、はいっ!?」ダッ

 ――窓のあるビル・ロビー

 ダダダダダダダダダダ

恒子「白築先生、意外と足速いんですねっ!!」ハァハァ

慕「言われてみれば、私、小学生の頃、麻雀の大会に出たくて12キロほど全力疾走したことがあります!!」

恒子「それもう麻雀どころじゃなくなりませんか!?」ハァハァ

慕「いえ! 運よく決勝まで行けました!! とても楽しかったです!! と、恒子さん、出口が見えましたよ――もうちょっとです……!!」

恒子(あれ……そう言えば――私、この建物の外に出るのっていつ振りなんだろう……)ハァハァ

理沙「ッ!!?」

慕「っ……!! 止まってください、恒子さん!!」ガシッ

恒子「へ……?」フラッ

?「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

理沙「っ…………」ゾクッ

慕(これは……?)ピリッ

恒子「え……っと――」ハァハァ

理沙「!!」バッ

慕(私たちの後ろに隠れてください、恒子さん。確率干渉の余波に中てられてしまいます)バッ

恒子(えっ? え!? なにが起こってるの!?)アワワワ

?「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

慕「(白糸台の生徒……だよね?)あなた……どこの校舎の、何年何組の子かな。学生がこの建物に入るには、担任の先生と校舎長の許可が必要――というか、この時間だと、ごめんなんだけど、特別な事情がない限り入れないの」

?「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

慕「(無反応?)……えっと、よかったら、電子学生手帳を見せてもらえる?」

?「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

慕(声……聞こえてないのかな……)

理沙(せ……制服……っ!!)コソッ

慕(え――?)

 ダダダダダダダダダダ

晴絵「し――白築先生……っ!! そいつに話しかけても無駄ですっ!!」ハァハァ

咏「話通じないっす!! 知らんっすけど!!」ハァハァ

慕「赤土先生に三尋木先生!? どうされたんですか、そんなボロボロになって――」

晴絵「の――野依先生!!! 野依先生ならわかりますよね……!? 覚えてるでしょ――十年前のこと!!」

野依「っ……」

慕「ど、どういうこと、野依先生?」

 タッタッタッ

閑無「うおっ、なんだよ、これ!? ってか誰だこいつ!?」ビリッ

悠彗「すっご……ドリアンをバカにされたときの慕みたいな——」ビリッ

杏果「職員会議――どころの話ではなさそうなのは確か……」

はやり「はや……っ!?」ドキッ

晴絵「瑞原先生も……!! ちょうどよかった!! あいつが現れたんですっ!! 十年前の夏に私たちが打った――」

郁乃「正体不明《カウンターストップ》~♪」ババーン

晴絵「うわあっ!? どこから湧いてきました!!?」

閑無「……なあ、杏果。正体不明《カウンターストップ》って?」コソッ

杏果「わりと有名な都市伝説の一つよ。白糸台に現れる正体不明の雀士……言われてみれば、『丸襟にグレーのリボン』――噂通りだけど……」チラッ

?「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

晴絵「……化け物みたいに強いんです。十年前——夏の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》が終わったあと、私は、瑞原先生と野依先生とこいつと打って……それから、まともに牌を握れるようになるまで随分時間がかかりましたよ……」

悠彗「十年前って……どう見ても、あの子、高校生だけど?」

晴絵「そこなんですが……本藤先生。私たちが打ったときも、こいつ、高校生だったんですよ……」

慕「そうなの、野依先生?」

理沙「っ……」コクッ

閑無「そうなのか?」

はやり「はや~」

杏果「へえ……」

咏「いやぁ、わっかんねー。わっかんねぃことだらけ、学園都市」

晴絵「というか、赤阪先生! 何か知ってるなら教えてくださいっ!!」

郁乃「言うても~、私にも~、この子の正体はわからへんのよ~」

晴絵「えー!? 赤阪先生でもわからないってどんだけですか!?」

?「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

郁乃「いや~、正確には~、正体を定義できひんってことなんやけど~」

咏「ど、どういうことっすか……?」

郁乃「どういうことなのか〜、それを〜、確かめるために〜、この子は〜、ここに引き寄せられたんやろね〜」

晴絵「言われてみれば……あんなに頑に真っ直ぐ進んでいたのに、さっきからずっと止まったままですね。一体何がどうなって——」

郁乃「こーこちゃ~ん~?」

恒子「えっ!? はい!!」

郁乃「ちょっと~、隠れてへんで~、出てきて~」

恒子「は、はい……?」オズオズ

郁乃「ね~、こーこちゃ~ん、あの丸襟にグレーのリボンの子~、誰やと思う~?」

恒子「誰……って――」ハッ

?「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

恒子「あ……え……?」

    ――こーこちゃん、

恒子「どう……して――」

         ――大好きだよ。

恒子「……っ!! すこやん!!!」










































健夜「…………こーこ、ちゃん……?」

恒子「すこやんっ!! すこやんすこやんすこやん!!!」ダッ

健夜「わっ――」

恒子「すこやん……っ!!!」ガバッ

健夜「こーこちゃん……? あれ? 私――」

郁乃「は~い~♪ 正体はすこやんちゃんでした~」

晴絵「なぁああああああッ!?」

健夜「《冥土帰し》……これはあなたが……?」

郁乃「ちゃうちゃう私の《冥土帰し》は《反魂》の《術式》やけどこれは《転生》の《術式》でしかも《亜種》やし《色識》もちゃうし《階位》も《弐》やね〜」

咏「わっかんねーこと言い過ぎっすあなた!!」

郁乃「すこやんちゃんの固有魔術~、《カウンターストップ》は~、原点にして源泉の大魔術~、あらゆる魔術《ロジック》を生み出した完備なる論理~。
 逆に言えば~、学園都市みたいに~、大量の能力者がいて~、あらゆる能力《ロジック》が狭い範囲で重ね合わさる特殊空間では~、それぞれがそれぞれを補完し合って~、完備なる《カウンターストップ》を再構築し得る~、みたいな~」

晴絵「は…………?」

郁乃「元のすこやんちゃんの論理〜――すこやんちゃんが世界を閉ざした残響から再構築した論理《システム》は花田ちゃんによって解体されてもうたけど~、そもそもこの街には正体不明《カウンターストップ》っちゅ〜形で同値の論理《システム》が再構築されていたんやね~。
 花田ちゃんの影響が消えたことで~、一時的に解体されていた正体不明《カウンターストップ》の論理《システム》が~、学園都市に住む無数の能力者によって再々構築~、そこに元のすこやんちゃんの残滓が引き寄せられたんやろね~。
 あとは~、こーこちゃんとのリンクがあれば~、すこやんちゃんの自分だけの現実《パーソナルリアリティ》の成立に必要な要素は揃う~。
 ほんで〜、学園都市中の能力者の自分だけの現実《パーソナルリアリティ》を通して《世界の力》からエネルギーを汲み取れば~、《転生》完了~。ま~、結果だけを言えば~」

健夜「……言えば?」

郁乃「学園都市の理事長ことすこやんちゃんが十歳若くなって帰ってきました~」

晴絵・咏「ええええええー!!?」

恒子「マジ!? じゃあリアルアラサーすこやんってこと!!?」

健夜「セブンティーンだよ!!!?」

慕「よかったね、恒子さん!!」

恒子「は、はい!!」

健夜「あっ……でも、論理《システム》と世界の力《エネルギー》ってことは、結局、実体はないんだよね、これ……?」

郁乃「え~? すこやんちゃん~? 実体欲しいの~?」

健夜「……その言い方だと、まるで実体が『ある』みたいだけど?」

郁乃「ふふふ~。憩ちゃんと共同製作中の~。ぴっちぴちの人体《ホムンクルス》~。あるで~。中にぶち込むもんがなくて困ってたとこやねん~」

健夜「それは、でも——」

郁乃「あなたも普通の女の子に戻れるってことやで~。すこやんちゃん~」

健夜「……そっか……」

郁乃「というわけで~、こーこちゃ~ん~」フラフラ

恒子「え!? はい!!」

郁乃「これ~、私の研究室で製作中の~、人体《ホムンクルス》のカタログ~、好きなの選んでええよ~」スッ

恒子「こ……これは……!!? つまり、その——」フルフル

郁乃「恒子ちゃん好みのすこやんちゃんの外見《カラダ》を選んでええっちゅ~こと~」

恒子「マジすかあああああああ!!!!?」キラキラ

健夜「えっ!? 待って!!? なにそれ!!?」

郁乃「体型~、髪の色~、その他~、あ〜んなところやこ〜んなところまで~、各種カスタマイズできるで~、時間もらってええならオーダーメイドで造ったるわ~」

恒子「オーダーメイド!!? 私がすこやんの身体を隅から隅までオーダーメイド!!!?」

健夜「ちょ!!? 普通でいいからね!!? 無難なのでいいから!!! 健康体ならそれでいいから!!!!」

恒子「否!!! 瑞原先生を超えるアイドル雀士にするッ!!!」

はやり「はやっ☆」

郁乃「ま~、身体のことは~、今すぐやなくてもええから~。とりあえず~、再会を祝したらええんちゃ~う~?」

健夜「そう……だね」

恒子「すこやん……」

健夜「あ……えっと。その、こーこちゃん……ごめん、ね」

恒子「……ううん、いいよ。細かいことはよくわからないけど、私は、すこやんにまた会えて嬉しい。それだけでいい」

健夜「……ありがと。でも、何か、その、お詫びがしたいなって――」

恒子「じゃあ、温泉行こう!」

健夜「……うん」

恒子「海とか山とか、色んなとこに遊びに行こうっ!!」

健夜「…………うん」

恒子「あとは――そうだ! 麻雀! 麻雀を打ってほしい!!」

健夜「麻雀……?」

恒子「うん。私、すこやんの麻雀……好きだったから。それで、なんだか、ずっと……すこやんが打ってるところを見てないような気がして……」

健夜「……わかった。それくらいなら、今すぐにでも――」ゴッ

晴絵(ひいっ!!?)ゾワッ

理沙・はやり「っ!!」ビリッ

健夜「えーっと、職員会議まで……もう少し時間あるよね」

慕「三十分くらいは!」

健夜「うん。それだけあれば、十分過ぎるね――」ニヤッ

晴絵「ちょ、ちょっと、小鍛治さん!? な、何を……」カタカタ

郁乃「今から遡ること〜、ほんのつい一千年前〜、海の向こうにとある無敵の雀士がいました〜」

閑無「無敵……?」ピクッ

郁乃「甘美にして完備なる旋律を奏でた〜、原点にして源泉〜、始祖の大魔術師〜。嶺上開花を好んで和了り〜、その得点能力の高さは文字通り桁違いやったっちゅ〜」

悠彗「桁違いって……いや、麻雀の点数は役満で——」ハッ

郁乃「花田ちゃんの《通行止め》によってすこやんちゃんの《打ち止め》の残響が掻き消された今なら〜、きっと〜、みんなにも理解できるはず〜」

杏果「これ……は……」

郁乃「麻雀には〜、かつて〜、和了りの点数が《打ち止め》になることなく〜、一定の計算式によってどこまでも上昇するというルールがあったんやね〜。せやろ〜、すこやんちゃ〜ん?」

健夜「そう……このルールで私が麻雀を打つと、困ったことに、いつもいつも自動卓の点数表示限界を超えちゃうんだよね」

咏「点数表示のほうが《打ち止め》——」ゾクッ

郁乃「天候を操るほどの超絶なる《魔力》を持つ《運命想者》〜、その一生涯に獲得した点棒を積み上げれば〜、抜けるような青空を超えて遥か天上にまで届いたっちゅ〜戦慄の小夜曲《セレナーデ》〜、
 ことすこやんちゃんの固有魔術は〜、その『とあるルール』に因んで〜、こう呼ばれる〜」

健夜「青天上《カウンターストップ》——《点棒の流れのベクトルを操作する》大魔術だよ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

晴絵・理沙・はやり「!!?」

郁乃さん完全にマッドサイエンティストですやん…

郁乃「ちなみに〜、取り決めにもよるけど〜、青天上《カウンターストップ》のルールにはトビ終了があらへんからね〜?」

晴絵「弱者に優しくないですね!?」

郁乃「そうやね〜、すこやんちゃんと青天上《カウンターストップ》の麻雀を打って〜、再起不能《オーバーキル》にならへんかった子が何人おったかな〜。
 点棒も〜、プライドも〜、戦う意思さえも〜、カンストするまで奪われ続ける〜、いわゆる一つの生き地獄〜。廃人になる覚悟ができた子から〜、名乗りを上げるとええで〜」

咏「伝説《レジェンド》! ここは一つ、ビシッとキめちゃってください!!」グッ

晴絵「いやいやいやいやいや!! 私はまだ死にたくないですよ!!」アワワワ

慕「わあ〜、楽しそうです! あっ、でも、十年振りの対局を邪魔しちゃ悪いですからね、お先にどうぞ、野依先生!!」

理沙「!?」

悠彗「私、パス。杏果は?」

杏果「私もちょっと……閑無、無敵同士、せっかくだから打ってきたら?」

閑無「んー、とりあえず瑞原相手にどれだけ打てるのかを見てからだな。瑞原に負けるようなやつなら、わざわざ私が相手にする必要もねーし」

はやり「はやー!?」

健夜「決まった?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

晴絵「……っ!! や、やってやりますよ!! 十年前のトラウマを拭い去るために!!」ゴッ

咏「伝説《レジェンド》、マジリスペクトっす!!」キラキラ

晴絵「だから!! 瑞原先生、野依先生!! 私を一人にしないでください……!!」ウルウル

理沙「伝……説……っ!!」

はやり「は〜やや〜」

健夜「面子は揃ったね。というわけで、こーこちゃん!!」

恒子「うんっ!!」

健夜「応援よろしくね!!」

恒子「もちろんっ! 私はすこやんファンクラブ会長だからね!!」

健夜「ありがと。よーし、それじゃあ一千年振りに本気出しちゃおっかなぁー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

晴絵・理沙・はやり「——!!?」ゾワッ

健夜「♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

恒子(すこやんが……今から麻雀を打つんだ)

恒子(何度も見た……声援を送った……)

恒子(すこやんは、いつだって、空を突き抜けるくらいに点棒を積み上げて——)

恒子(あ——外……雨がやんだのかな。雲が開けて……)

郁乃「綺麗やんな〜?」ヒョコ

恒子「えっ、あ、ええ。はい……」

慕「学園都市は夜でも明るいから、こんなときでもないと、なかなか見れないよね!」ヒョコ

恒子「はい——そ、そうですね……」

恒子(……満天の星……どこまでも続く空……長い間……見てなかったような気がする……)

健夜「そうだっ、こーこちゃん!」

恒子「ん? なーに、すこやん?」

健夜「明日の天気は何がいい?」

恒子「何って……そんなの決まってるじゃん!」

健夜「だよねっ!」

恒子「夏と言ったら、青い空!!」

健夜「空と言ったら、白い雲!!」

恒子「明日天気に!?」

健夜「してあげるっ!!」

恒子「私の心も!?」

健夜「晴れ模様っ!!」

恒子「好きの気持ちが!?」

健夜「青天上《むげんだい》っ!!」

恒子「よっしゃあー! 今夜は寝かさないぞ、すこやん!!」

健夜「とことん付き合うよ! セブンティーンだからねっ!!」キュピーン

恒子「はっ!? 私のほうが年上だと……!!?」ガーン

健夜「ふっふっふ……十代のパワーを思い知るがいいよ、こーこちゃん!!」ジリジリ

恒子「わわっ、ちょ、待って!? なんか急に恥ずかしくなってきた!! え!? すこやん(17)とか!? えっと、私、心の準備が――」

健夜「もんどーむよおおおおおっ!!」ガバッ

恒子「わあああああああああああああああ!?」

 ドタバタ キャーキャー ドタバタ

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》、全試合終了]

南無(-人-)











 ——————










 ————










 ——










 ——1年後









 ————

淡「キーラーメー!!」タッタッタッ

煌「これはこれは。どうされましたか?」

淡「どうされましたか、じゃないよっ! キラメってば一人になるとすーぐ変なフラグ立てるから! 見張りに来たの!!」

煌「ははっ、そんなこともありましたね」

淡「笑い事じゃないよ!?」

煌「ご心配をおかけして申し訳ありません」

淡「ホントだよ。起きたらキラメがいなくって、『ちょっと散歩してきます』なんて書き置きを見つけたときの私の気持ち、全身で表現してみせようか!?」

煌「はて。どんな感じなのですか?」

淡「こーんな感じっ!!」ガバッ

煌「おやおや。ここは屋外ですよ?」

淡「こんな朝早くに出歩いてる人なんて誰もいないよ」ギュー

煌「仕方ありませんねぇ」ナデナデ

淡「ねえ……キラメ。覚えてる? この道——」

煌「覚えていますよ。初めて出会った通りですね」

淡「そうそう。私が悪いやつらに絡まれてるところに、キラメが白馬に乗って現れて、そのまま私をさらっていったんだよね」

煌「少々記憶が美化されているようですが?」

淡「私にはそう見えたのっ!!」

煌「左様ですか」

淡「それから、次の日にはモモコとユーカと打って、週末にデートして、そこでサッキーと会って」

煌「チームを組みましたね。あれからもう一年以上も経つのですか」

淡「そう……やっと! やっと夏が来たんだよ、キラメ!!」

煌「夏のインターハイ——そこに白糸台高校麻雀部の代表として出場する一軍《レギュラー》を巡って、また戦いが始まるわけですね」

淡「そう! で、今日はその予選決勝っ!! 今年は私たち《煌星》がシードをいただくよっ!!」

煌「まるで勝つことが決定事項みたいな言い方ですね」

淡「なに言ってるの、キラメだって、負ける気はこれっぽっちもないくせに」

煌「それはどうでしょう」

淡「だって、キラメ、もう本選の対戦相手の研究始めてるじゃん」

煌「おや、バレていましたか」

淡「同じ部屋にいるんだから、そりゃわかるよ。で! キラメ的にはどうなの!? 私たちは決勝でどこを倒せばいいわけっ!?」

煌「まるで決勝に行くことが決定事項みたいな言い方ですが……まあ、質問にはお答えしましょう。本命は、やはりチーム《永劫》ですね」

淡「やっぱりね……そこしかないって思ってたよ」

煌「去年の二大優勝候補——《永代》と《劫初》の混合チーム。リーダーの荒川さんは押しも押されぬ白糸台のナンバー1。そこに、天江さん、井上さん、染谷さん、高鴨さん……と実力者が揃っています。
 しかも、高鴨さん以外の四人は、かつてチーム《刹那》として学年最強の座を手に入れた経歴をお持ちです。当然ながら、チームワークも抜群。
 言わずと知れた、秋季大会《オータム》からの三季連続一軍《レギュラー》チーム——最有力優勝候補です。ここを崩すのは大仕事ですよ」

淡「他には他にはっ!」

煌「あとは、チーム《逢遠》ですかね。《逢遠》は《合縁》——まさか、あの新子さんと二条さんが麻雀において手を取り合うとは、私も予想できませんでした」

淡「あの二人、今年同じクラスになったけど、まるで私とサッキーみたいに仲悪いんだよ! なんで一緒のチームになったのかさっぱりだねっ!」

煌「なるほど。よくわかりました」

淡「あとはー!?」

煌「《虎姫》、《千里山》、《姫松》、《新道寺》など……やはり歴史のあるチームはいずれも層が厚く強敵です。あとは……そう、新生《鶴賀》も面白いですよ。
 淡さんたちの学年が誇る《三風》——《東風》の片岡さん、《南風》の南浦さん、《神風》の対子さんが一堂に会しているのですから。いやはや、今年は予選で当たらなくて本当によかったです」

淡「ふふっ……さすがキラメ。なかなか演出を心得ているよね。まさかあのスーパーチームを最後に持ってくるとは。で、今年の目玉はどこのチームなの!?」

煌「ご察しの通り、チーム《幻奏》ですよ。異例の予選免除でAシード。残り三つのシード枠を逃すと、本選の二回戦でいきなり激突する可能性もあります」

淡「ずっこいよね!」

煌「まあ、あの運命奏者《フェイタライザー》——ネリーさんを公式に学園都市に迎えるのですから、これくらいの特別措置は当然でしょう」

淡「でもでも……噂では、ネリーよりヤバいのがいるんでしょ?」

煌「そうなのです。なんでも、年齢詐称《カウンターストップ》——《歳上》の大能力者と呼ばれる《正体不明》の雀士が、あのネリーさんを措いて《幻奏》のチームリーダーを務めているそうなのですね。
 この方が……私の調べたところによりますと、それはもう人知を超えた打ち手らしいのです。淡さんや咲さんでも、苦戦は必至かと」

淡「ぞくぞくするよねー! ハオとミョンファってのも、そこそこやるみたいだしさ! あと、すっごい不思議なんだけど、なんでそんな超オカルト軍団の五人目がノドカなわけ?」

煌「警護のためですよ。原村さんは風紀委員長で、警備員《アンチスキル》の重役でもありますから」

淡「魔術師チームなんかに入って発狂しなければいいけど、ノドカ」

煌「しかしながら、志願したのは原村さん本人だそうですよ」

淡「そうなの? なんで?」

煌「原村さんは警備員《アンチスキル》——能力を持つ生徒と持たない生徒と教職員による三位一体の治安維持組織——その発起人の一人ですからね。
 同志である二条さんや新子さんを見習って、彼女なりに能力《オカルト》への見識を広げようとしているのだと思われます」

淡「いや、それきっと、逆だと思う。どう考えても能力《オカルト》根絶のために殴り込みを掛けてるんだと思う」

煌「なんにせよ、異文化交流はよいことです。あの原村さんが魔術師の方々と同じチームとしてやっていけるのなら、科学世界《デジタル》と魔術世界《オカルト》が共存する日も、そう遠くないでしょう。宮永照さんも、あちらの世界ではすっかり人気者だそうですしね」

淡「ああ、テルーね! あっちでも無双してるらしいっていうのは、サッキーから聞いてるよっ!」

煌「ちなみにですが、つい先日、弘世さんがあちらの世界のプロ試験に合格したそうです。来月からは宮永さんと同じリーグで、覇を競うのだとか」

淡「スミレもほとんどストーカーだよね〜」

煌「卒業後も麻雀を続けているのは、宮永さん、弘世さん。それに、こちらの世界では、愛宕さん、福路さん、江口さんくらいですかね。あとは皆さん、少なくとも今のところは、麻雀とは離れた生活を送っているようです」

淡「……ねえ、サトハが行方不明って本当なの?」

煌「ああ……そのようですね。しかし、ウィッシュアートさんもご一緒だそうなので、心配は要らないでしょう。なんでも、魔術世界でも科学世界でもない、第三世界でご活躍中なのだとか。
 親しいご友人のところには、定期的に絵葉書が届くそうですよ。私は、一枚だけですが、荒川さんにちらりと見せていただいたことがあります」

淡「どんなだったの?」

煌「とてもこの星のどこかとは思えぬ景色を背に、一糸まとわぬ謎の黒髪美女が微笑んでいる絵が描かれていましたね。まあ、詳しいことは、私にもわかりかねます」

淡「ほあ〜」

 ピロンッ

煌「おっと……なにやら緊急ニュースのようですね。ふむふむ……ほほう、これは面白いですよ」

淡「なーに?」

煌「小走さんの《第二不確定性仮説》の検証が完了したそうです。証明に間違いはなかったとのこと——つまり、《第二不確定性仮説》が、晴れて《第二不確定性原理》となったんですね」

淡「おおおおおおお!?」

煌「本当に……これはすばらの一言に尽きます」

淡「え、えっと、《第一不確定性原理》ってのは、山牌の確定性の否定なんだよね。『全ての牌の位置と種類を確定することはできない』——」

煌「そうです。魔術世界では《神の実在》の証明として有名ですね。そして、《第二不確定性原理》は——」

淡「絶対の絶対なる否定……『全ての能力は無効化できる』」

煌「その通り。俗に通行許可証《パスコード》原理とも呼ばれていますね」

淡「あれ? でも、確か第三くらいまであるんじゃなかったっけ?」

煌「ええ、ありますよ。しかし、そちらはまだ仮説の段階——小走さんが現在メインで取り組んでいるテーマで、証明はされていません。目下研究中です」

淡「山牌の確定性の否定、絶対の絶対なる否定と来て、今度はどの《幻想》をやっつけるつもりなの、ヤエは?」

煌「《第三不確定性仮説》は『《頂点》の否定』と呼ばれています。どんなに強い支配力を持っていても、どんなに強い能力を持っていても、誰か一人がトップであり続けることは決してできない——という主張ですね。
 言い換えれば、『可能性の肯定』です。この世界の人間は、誰であっても、十分な研鑽と研究によって《頂点》に立つことができる。
 『信じることをやめない限り、決して諦めない限り、人々は、必ずそこに至る道を生み出すことができる』——ということですね……」

淡「ふあー……それはすばらな原理だね。よくやるよ、本当に」

煌「はい。証明が待ち遠しいです」

淡「みんな……歩いてるんだね。自分の道を」

煌「そうですね……」

淡「私たちも、行こっか」

煌「ええ。そろそろ集合時間になります。遅れるわけにはいきません」

淡「……ねえ、キラメ?」

煌「なんですか?」

淡「その髪……いつになったら切るの?」

煌「……一軍《レギュラー》になったら——ですかね。願掛けのようなものです。かれこれ一年も伸ばしっぱなしになってしまいました」

淡「似合ってるから、一軍《レギュラー》になっても、そのままでいたらいいと思う」

煌「ありがとうございます。では、逆にこちらからお尋ねしてもよろしいでしょうか」

淡「どうぞ〜」

煌「もう髪は伸ばさないのですか?」

淡「んー、なんかなーっ! 一度短くしちゃうと、そういう気分にならないんだよねっ! 伸ばしたいなーって思うときもあるんだけどー」

煌「そうですか」

淡「短いの、変かな?」

煌「そんなことはありません。とてもよくお似合いですよ」

淡「ふふっ、ありがと」ギュッ

煌「おっとっと、もう行きますよ。そんなにくっつかれては歩けません」ナデナデ

淡「ちょっとくらいいーじゃんっ! ねー、キラメー、いいでしょー!?」

煌「いけません。本当に遅刻してしまいます」

淡「もーっ!!」

煌「さ、行きますよ」

淡「ぐぬぬぬ……かくなる上は、実力行使っ!!」ガバッ

煌「すばっ!?」ヨロッ

淡「ふっふふーん……逃がさないよー、キラメッ!!」キラーン

煌「ダ、ダメですってば。こんな道の真ん中で……!」アワワワ

淡「問答無用だよっ!」ジリジリ

煌「ちょ、ま、待ってくださいっ!? そこから先は《通行止」

淡「押しとおーるッ!!」

煌「はむう——っ!!?」

淡「——ぷはっ!! よーしっ!! めちゃめちゃ気合入ったああああ!!」ゴッ

煌「やれやれ……困ったものです」

淡「とか言ってー! 嬉しいくせにっ!!」

煌「はて。なんのことやら」

淡「もうっ! キラメってばホント素直じゃないっ!!」

煌「すいません。白状します。とっても嬉しかったですよ」ニコッ

淡「ならばよろしいっ!!」ニコッ

先生!ロング煌とショート淡の参考画像はないんですか!?

煌「さて、本当に時間が迫ってきました。急がねば」

淡「わかってるよいっ!」

煌「では、お手をよろしいですか?」スッ

淡「素敵にエスコートしてよねっ!」ギュ

煌「行きましょう、淡っ!!」

淡「キラメとなら、どこまでも!!」

煌「これからも!!」

淡「この道をっ!!」

煌・淡「ずっと一緒にっ!!」

     <槓>

乙でした!!!

ご覧いただきありがとうございました。

『【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」』は以上で完結です。

一つだけ。

伏線をぶん投げた花田さんと大星さんの関係についてですが、諸星さんが通院していた頃に筋ジストロフィむにゃむにゃで遺伝子マップがむにゃむにゃでそれが海外でむにゃむにゃのためにクローンむにゃむにゃされたのが大星さんであるという裏設定があるのですが、まあ二人が幸せならそれでいいかなって私は思ってます。

 *

以下、過去に書いた咲SSです。どれも麻雀してます(本SSに比べると粗いですが)。

和「宮永さん、私のリー棒も受け取ってください」咲「う、うん!」(原村さんが咲さんにリー棒を受け取らせるお話です)
咲「え? どの学年が一番強いかって?」(原村さんが咲さんの花園を見るお話です)
咲「ノドカの牌」(原村さんが咲さんを胸に抱くお話です)
【咲SS】景子「折れた刃は錆びつかない」【越谷女子】(高鴨さんにハネ満以上のダメージを与えたお話です)

ご興味のある方は、よろしければどうぞ。雰囲気は大体どれも一緒というか、特に上三つは、このSSのプロトタイプです。

 *

というわけで、長い間お付き合いいただき、誠にありがとうございました。

感想などあれば、一千字でも二千字でも一万文字でももれなく読みます。ぜひ。

では、すばらな年末を。

一年近く乙でした。
2014年度の最高の作品でした!

超大作お疲れ様でした。
間違いなく咲ss史上に残る名作、最初から最後まですばらでした!

作者の咲愛に心底感動した
すばら!

乙です ほんとにお疲れ様でしたそれ以外に言葉がみつからない


最初からリアルタイムで追っていた作品でしたのでこう完結をみると何とも言えない気分です
闘牌だけでなくキャラの読み込みや心理描写能力考察などとてもよくできていて引き込まれるようでした

作者が咲という作品を大好きだってってことがよく伝わってきました 

乙!
類を見ない長編の大傑作だった
本当にすばらとしか言えない

あとその作品の他に阿知賀編準決勝の途中からの予想闘牌SSやってませんでした?

完結乙です


とっても読み甲斐があって面白かったデス!
ただ一つ……日々の楽しみの一つがなくなってしまうのはとてもすばらくないことですね…
なんか目から水が出てきましたがとにかく乙でした!

各個の能力、既存から派生オリジナルまで、
良く練り込まれていたし、キャラクターの性格と
麻雀の打ち筋とかも違和感なくすんなりと受け入れられた。
≪咲≫についての深い考察だけでなく所々で≪禁書≫していながら
その≪禁書≫シナリオを発展させたり砕いたりしただけなのに、
この話にとても馴染んでて原作を想起させながらも
この作品だけの独自の世界観として楽しませていただきました。
キャラクターそれぞれの心情や信条にも感動させて貰いました。
ずっと楽しみに読み続けただけに終わってしまって少し寂しく思います。
ここまで本当にお疲れ様でした。
次回作の予定とかなんかあるんかな?
何はともあれ、
乙でー。

お疲れ様でした。長い間追い続けてきて良かったと心から思います。素晴らしい作品をありがとうございました!

それにしてもこの世界は麻雀云々よりも、異性愛が閉ざされた世界である可能性が…

お疲れ様でした。長い間追い続けてきて良かったと心から思います。素晴らしい作品をありがとうございました!

それにしてもこの世界は麻雀云々よりも、異性愛が閉ざされた世界である可能性が…


今まで読んだ麻雀のSSで一番設定が練り込まれてて最高にすばらだった!
どのキャラも背景があって、イキイキしてて、いやー凄いとしか言いようがない

すこやんが復活してハッピーエンドだったけど、
その後も、煌達がこの世界で麻雀を打ち続けていく姿が簡単に想像できる、本当にすばらな作品でした

とても面白かったです。
欲を言えば竹井さんのその後を知りたいです…

完結乙です
最近の楽しみだったので完結したのは寂しいですが……
次回作があればぜひ読みたいです



前の世界は麻雀で閉ざされたと予想してたけど違ったかー
能力とか麻雀で測るのは世界の変わらぬルールだったか
ともかく妙に凝ってて楽しめた。いいSSだった


俺の日課がまた一つなくなったか…
過去の咲ssで文字通り一番完成度が高く面白い作品でした。
次回作にも期待します!

お疲れさまでした!
設定がよく作り込まれていて、読みごたえがありました。
とてもおもしろかったです。
すばら!

あえて言うと、完結間近でシノハユチームが活躍したのに(ゾクゾクした)、
智葉とネリーを除く臨海と有珠山メンバーにほとんど出番がなかったこと
がちょっと残念かな。
ないものねだりだけど。

お疲れ様でした!!
とにかく面白かったです(小並感)
それはもう原作がどうでもよくなるほどに!咲-saki-という作品への愛がこのSSを読んでてひしひしと感じられて楽しく嬉しく読ませていただきました。楽しみが一つなくなるのは残念ですが新しい作品を書くのならまた是非読ませていただきます!

ssの小走先輩はカッコよすぎ

完結おつかれさまでした!
ほんとにどの咲キャラも魅力的に
書かれていて、より咲が好きになりました
こんな素敵な作品に出会えて嬉しいです

そしてやはり部キャプが大正義?
久憧も初美や和との組合せも
久好きの私はとても嬉しいCPでした!

終わってしまうのが惜しいくらいにこのssが大好きでした
本当に色々凝ってて更新される度に毎度ワクワクしました
こんなに面白い作品を読ませてくれてありがとうございました
すばら!!

てか知りたいことがあまりにも多すぎる

まず煌のお母さんと淡って結局どんな関係だったんだクローンとかそんな感じか?

経験を積んだ淡や煌たちのチームの1年後はどんな状況なのかナンバーとか経験値による実力アップのとことか

アイテムがどうなったのかとか深くつくりすぎてるからどう変化したのか 結果的にどうなったのか知りたいことだらけだよ

本当にお疲れさまでした
咲「え? どの学年が一番強いかって?」
も相当面白かったけど今回はそれ以上
咲ssでここまで作り込まれてるものは初めてみました
作者の咲という作品に対する愛が凄すぎると実感しました
モブはともかくこれだけのキャラクターの個性を保つ文章を書ける力に感激です
もし次回作があるのなら楽しみにしております

本当にお疲れさまでした!

もう最初から最後まで面白くてこうして無事完結したことをただただ嬉しく思っております

ちょっぴり寂しさも残りますが、今後も期待しております!!


良い最後でした、面白かった

ただ一つ贅沢が言えるなら、

>やえ「ただ、お前たち本人は、そうじゃないはずだ。能力は能力者の根幹をなす論理。それがそういう能力であることには、必ず理由がある。確率を捩じ曲げるほどの強い想いが、お前らの中にはあるのだろう?」

これを見たときに真っ先に思い浮かんだのが原作の合同合宿でマホと打ったシーンだったので、

本編はプラマイゼロが焦点だったけどこれを掘り下げた咲も機会があれば見てみたいなぁ、と

なんかこの設定と相性良さそうな感じするじゃないですか?w

ちょー乙
設定から文章量、内容すべてがヘビーだった
後にも先にもここまで凝った咲ssはおそらく出てこないだろうな
最後まで楽しく読ませていただきました

終わったのか…本当にお疲れ様でした
超大作の咲SSはいくつも読んだけどこれも本当に面白い。終わってしまうのがすごくもったいないくらいだ。よければ次も面白い作品書いてください

あとついでにこの作品の登場人物の続きを断片的にでも知りたい

お疲れ様でした!
過去の作品のテイストも入ってて、読んでてとても楽しかったです!
煌が主人公のssでここまで大きなssは初めて読みましたし、ここまで内容の濃いssも初めてでした。
本当にお疲れ様でした!

こんなに凝った話初めて見ました
お疲れ様でした

超おつでした
凄まじく練り込まれた設定、文章、表現に感動しました
VIPに立った1スレ目から見てましたが、どの学年が~スレの>>1と同じ人ということで凄い期待をしてましたがここまで長編になるとは思っていなかったです
禁書目録とうまくリンクさせ、能力者と無能力者たちの戦いに展開が読めずとてもwktkしました
全てのキャラにスポットを当てて活躍させるのもとてもすばらでした
なにより好きなすばらちゃんとやえさんが活躍してたのが最高でした

楽しみがひとつ減ってしまったのが残念でなりません
またハイクオリティーな咲SSを書いて下さい
また1スレ目から読み返しています。
とてもすばらでした

小走先輩が自らの手で第三不確定仮説を証明することを祈ってます
完結したのが嬉しくもあり、終わってしまうのがさみしくもあります

本当にお疲れ様でした

超乙!!!!

私が初めて感想を書き込んだssがこんな大作でちょーうれしいです
照がかませになるssが多い中このssでは最強のまま終わって良かったです

お疲れ様でした

すこやん転生復活して、生涯無敗・学園都市の都市伝説でも無敗・対局はほとんど飛び終了
そのまま引き継いでるっぽいけど、
これと照だとどっちが勝つんだろ?

終わっちゃったか・・・
vipにスレ建ってなんか凄いのきたなと思って追っかけてたけど
すっかり日課になってたから終わって寂しくなるな
本当に凄く楽しませてもらった
ありがとう お疲れ様

乙です!

2スレ目から読み始めた後発組ですが、4カ月楽しませてもらいました。
特に9月後半からの怒涛の更新ラッシュのおかげでソシャゲも引退できたりと素晴らしい副作用もありました。
このSSの影響で、原作の千里山が敗退するとかおかしいにも程がある!とか原作に対しての不満も出てきましたが(だって《六道》の半分が居るんだよ!)、
原作は原作・二次創作は二次創作と脳味噌切り替えて生きていきます。
小出しにする設定に、考察してレスして、それに対して答えて貰ったり、凄く嬉しかったです。
《王童》の「どう」がまた別の漢字に変わる未来を期待しています。

たくさんたくさん乙!
今度の1軍決定戦は煌が能力維持してないとすこやん抑えるの無理なんじゃ(^_^;

キャップが阿知賀に転校するやつは別の人だったんか
>>1のだとばかり思ってた

あれは清澄sageだけど咲じゃなくて和だからちがうだろ

超乙した!

わ。たくさんありがとうございます。ちょっとでも楽しめていただけたのなら幸いです。

>>600さん、>>630さん

>阿知賀編準決勝の途中からの予想闘牌SS

>キャップが阿知賀に転校するやつ

私ではないですね。咲で書いたのは上に挙げたのだけです。

確かに、二つ目の福路さんが阿知賀行くやつは、書いてるテーマも、チーム結成→トーナメントというお話全体の流れも近いですね。参考にしてるところも多いです。

>>604さん

異性愛も同性愛と同じくらい普通にあります。世界観的に、そもそも両者が区別されていないですね。

ちなみに、なんとなく、花田さんの『父』は男性だったと思います。

>>607さん

竹井さんと薄墨さんと臼沢さんが、同じ国立大学の法学部に入って、それぞれ、最悪の弁護士、最凶の検察官、そして塞王の裁判官を目指しているというくだりがありましたが、会話の流れの都合で、カットしました。

久「あーでもないこーでもない!」

初美「あーでもないこーでもない!」

塞「静粛に」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美・久「ぎゃー」

このくらいまでは妄想しました。

>>612さん

シノハユメンバーは、ぽっと出しやすいポジションだったので、遊びで出しました。本藤さんなんて、投稿当日に台詞書き込んでます(そのせいで稲村さんの台詞が減った……)。

『大切な人が突然いなくなった』福与さんを救う役割としての白築さんが、もうハマり過ぎてハマり過ぎて、後付けとは思えない存在感。思わず筆が走りましたね。

そして、敬語からタメ口に移行すると同時に名前呼びする、白築さん(27)。

>慕「恒子さん……私には、あなたの悲しみを取り除くことはできない。でも、涙を拭うことくらいは、できる」
>慕「泣くだけ泣いたら……一緒に、楽しいことをしようよ。好きなことをしようよ。ね?」

この禁断感。白築さんの主人公としてのポテンシャルに戦慄しました。普通にSS一本書けますね、これは。

小鍛治さん復活プロットがなければ、たぶん福与さんは白築さんに喰われてましたね。本当に戻ってきてよかったよ小鍛治さん……。

 *

臨海と有珠山は、そうですね、組み込めなかったですね。プロット組んで書き始めたのが辻垣内さんに侮る気持ちが残っていた頃というのもありますが、一番大きいのは、まだキャラクターを把握できてないことでしょうか。

どう見せると映えるのかのイメージが固まらなかったので、中途半端に出すよりは引っ込めたままのほうが良いかなと思いました。特に臨海メンバーは未だに謎です。

>>614さん

三回戦の《久遠》を書いている途中で、『これ最終的に竹井さんは福路さんとくっつく感じになって、新子さんは愛宕さんとくっつくルートに入るかな』と思った時期もありました。

ただ、このSSのモチベとして、『カップリング新境地の開拓』という自己目標があったので(なので主要チームのメインカプはなるべく本編で関係性が薄そうな二人にしました)、SSとしては、一応、久憧ルートが正規のつもりです(このカップリングはいずれ清澄が決勝に行けば自然と流行るはず。それに久尭も……いいじゃないか!)。

>>616さん

>まず煌のお母さんと淡って結局どんな関係だったんだクローンとかそんな感じか?

元ネタをご存知ならクローン云々はイメージしやすいかと思いますが、そうでないと、ちょっと唐突な感じしますよね。最初のほうははっきり決めずに書いてたので、矛盾してる箇所があるかもしれませんが、今現在頭の中にあるイメージとしては、

①諸星さんインターハイで活躍。
②持病のため医療機関・研究機関に関わることしばしば。
③(まあ色々あって)遺伝子マップ提供。
④本人の知らないところで、人為的に『強い能力者』を生み出す研究開始。
⑤諸星さんの遺伝子マップからクローン体を製造。
⑥花田さん生誕の一年後、大星さん誕生。
⑦研究所の施設で育つ大星さん。
⑧『自分がモロボシウルミなる人物のクローン体である』という事実だけは知っている。恐らく写真で見たことくらいはあるのではないかと……(まあ鏡見れば外見は想像つくでしょうが)。
⑨このモロボシウルミを、施設育ち(両親不在)で母性愛に植えていた大星さんは、自分の中で『ママ』と呼んでいて、いつか会えるのなら会いたいと思ってたりする。
⑩大星さん成長。実験的に外部の大会などに出る(森垣さんと対戦)。
⑪花田さんのレベル6シフト計画の着火材として学園都市へ。

という感じです。なので、年齢的には大星さんは花田さんの妹的存在ですが、遺伝的には母娘の関係ということになります。それでいて、大星さんは花田さんにママ属性——母性を求めているので、立場的には、母娘逆転してます。諸星さんが大星さんの存在を認知していたかどうかは不明です。まあ、完全に裏設定です。

この辺かっちりさせちゃうと、『この一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で花田さんをレベル6化するより確実な方法が他にいくらでもあったんじゃ……?』とか、そういった設定上の不都合が大量に出てくる予感がしてるので、むにゃむにゃさせてます。

ちなみに、大星さんや森垣さんがいた海外、それに照さんが留学する海外は、アメリカの西海岸をイメージしています。環太平洋地域=科学世界、環大西洋・欧州・ユーラシア=魔術世界、という勢力図になっていて、大星さんは学園都市の息がかかった研究施設で生まれ育ちました。

照さんは、最初は科学世界の勢力圏である西海岸で活躍し、高校卒業後、(迷子になっているうちに)魔術世界の勢力圏である東海岸に行き着いて、なんとなく流れのままに魔術世界で活躍してます。

>経験を積んだ淡や煌たちのチームの1年後はどんな状況なのかナンバーとか経験値による実力アップのとことか

とりあえず、ナンバー1は荒川さんです。ナンバー2・3に、神代さんと天江さんがいます(この二人は、この夏以降、積極的に公式戦に出るようになりました。二人の順位はちょいちょい入れ替わります)。

一桁ナンバーのどこかに、玄さんと龍門渕さんがいます(個人的には、個人戦決勝で、少なくとも一度は《4K》対決が起きていてほしいと思っています)。

他、なんだかんだで、《一桁ナンバー》は新三年生主体のつもりですが、これは個人的な好みが入っているので、上記以外はどういう風になっていてもいいです。

《煌星》は、原作でいうと、臨海か永水の立ち位置に近いチームですかね。

ただ、《永劫》と対戦すると、咲さん・大星さんのダブルエースが、高鴨さん・天江さんと相殺してしまうので、荒川さんの分だけ《永劫》が鉄板なんですね。

花田さんの《通行止め》は、小走さんのそげぶ以来、SS初期の25000点持ち想定で効果が固定されています。なので、点数状況によっては、荒川さんキラーになる可能性はありますが……まだその時は来ていないようですね。

>アイテムがどうなったのか

暗部組織は全て解散してます。一応、アイテムのテーマの一つに、『誰もが安心して暮らせる街作り』というのが挙がっていた気がしますが、その辺りを回収するのが、警備員《アンチスキル》の発足です。

学生議会長・新子さん、風紀委員長・原村さん、元スキルアウトリーダー・二条さんの三人、それから、瑞原先生(学生議会顧問)・三尋木先生(黄泉川先生ポジ)・藤田先生(元暗部担当)などの人たちが主となって、治安改善活動に取り組んでいます。教職員の協力が得られたのが大きいですね。

花田さんの一件で、学園都市に雨降って土固まる的なことが起きたと思っていただければ。花田さん事件と、警備員《アンチスキル》の活動によって、急速に、『禁書』の世界観から、『咲』の世界観にシフトしていってます。

最大の闇である小鍛治さん問題が解決し、レベル6シフト計画も無に帰されたので、もはや禁書のダークな世界観を引きずる理由がないんですね。秘密主義だった研究はオープンになり、能力者と無能力者の間の確執はなくなる、と。

窓のないビルも窓のあるビルになりましたし、理事長も平和主義者の赤土先生とかになっている気がするので、名前の通り晴れやかな街になっているのではないかな……と。

同じスクエニ系の漫画で言えば、ソールイーター(ノット)のデスシティくらいのノリが近い気がします。多少は諍いも起こるでしょうが、あまり陰惨だったり陰湿だったりはしない、という、あのさっぱりとした感じ。

>>619さん

咲さんに関する掘り下げは色んなところで色んな形で行われていますが、私はもうとにかく原作を待ちます。

>>629さん

小走さんの《王道》は、第三が証明されたときに、《王答》になる気がします。

 *

ところで、団体戦は《永代》が優勝しましたが、設定的に、個人戦もやっているんですよね。一切触れていませんが。

まず、《永代》・《劫初》のメンバーは、団体戦に集中するため出ていません。あと、《煌星》も団体戦で手いっぱいのため、誰も出ていません。

団体戦では早期に敗退したため消化不良だった《豊穣》・《久遠》周りの因縁回収は個人戦で! と私は思っています。

まず、準々決勝で、宥さん・玄さん・渋谷さん・石戸さんのカード。これを、おもち覚醒した玄さんが制します。

一つ上がって(準決勝・一位抜け)、園城寺さん・清水谷さん・原村さん・玄さんのカード。これを園城寺さんが制します。

あとは、福路さん・竹井さん・藤原さん・薄墨さんのカード。これを福路さんが制します。

そして、愛宕姉妹・末原さん・江口さんのカード。これを洋榎さんが制します。

もう一つ、哩姫・小瀬川さん・姉帯さんのカード。これを白水さんが制します。

決勝は、愛宕さん・白水さん・園城寺さん・福路さん。

結果。一位:園城寺さん、二位:愛宕さん、三位:福路さん。

白水さんは、ここで勝っていれば、プロの道に進んでいたかもしれません。

園城寺さんについては、無能力者で下位クラスからスタートして、レベルアッパー事件、原村さんとの出会いを経て、個人戦でのVS清水谷さん、そして、個人戦トップ代表者、からのインターハイ優勝……という超成り上がりストーリーを妄想してます。『モニターのこちら側から向こう側の憧れへ』という彼女のお話の、これがゴールです。なので、園城寺さんはプロにはなりません。

江口さんは愛宕さんに(個人としては)負け越す形になったので、プロで続きをやろうと誘うでしょう。ゆえにプロの道に進みます。

福路さんは、『竹井さんへの贖罪のためにナンバー1になる』というモチベが、竹井さんと直接対決することで、より前向きな形に昇華されて、プロになる、という感じです。『竹井さんのため』に打っていた福路さんが、少しずつ、『自分自身のため』に打つ楽しさを自覚していき(或いは、『自分自身が楽しむこと』を許せるようになり(罪悪感から抑圧していた……とかそういうアレ))、両者がいい感じに融合していい感じのプロになる——と、そんな妄想をしています。

愛宕さん、江口さん、福路さんが卒業後も麻雀を続けているという設定は、この辺りのイメージから来ています。

 *

あと、これまだ張ってなかったので張ります。完全版です。

ちなみに、このSSとは一切関係ありませんが、私はかつて『部首異能バトル』のオリジナルの小説を書いたことがあります。漢字字典眺めるの好きです。

《三人》(ナンバー順)

大観なる《大人(神)》:宮永照

敬天なる《愛人(尽)》:荒川憩

英雄なる《欺人(刃)》:辻垣内智葉

 *

《十最》(名前順)

《最(在)大》:姉帯豊音

《最(祭)古(固)》:石戸霞

《最(彩)多》:エイスリン=ウィッシュアート

《最(塞)奥(王)》:臼沢塞

《最(災)凶》:薄墨初美

《最(採)深》:小瀬川白望

《最(罪)悪》:竹井久

《最(殺)終》:弘世菫

《最(斎)愛》:藤原利仙

《最(偲)熱》:松実宥

 ——番外——

《最(歳)上》:小鍛治健夜

 *

《六道》(名前順)

《覇道(堂)》を敷く非能力者:愛宕洋榎

《我道(獰)》を駆ける非能力者:江口セーラ

《求道(憧)》を止めぬ元無能力者:園城寺怜

《正道(瞠)》を知る非能力者:清水谷竜華

《伝道(導)》を貫く補能力者:白水哩

《磨道(瞳)》を極める無能力者:福路美穂子

 ——番外——

《王道(童・答)》を見聞した無能力者:小走やえ

 *

そして、言わぬが花なのはわかっていても、言いたくなってしまう。《塞王》=《最奥》、《久遠》くらい気合入れて考えたのが、以下の二つです。

・運命想(喪)者《セレナーデ》=小夜曲=『小』鍛治健『夜』

・《初代》(照・菫・智葉・塞・霞)+《刹那》(憩・衣・小蒔・純・まこ)=《永代》+《劫初》=《永劫》

《永劫》はともかくセレナーデにノーヒントで気付けた人はいまい……。

 *

小走さんの『見聞』は、もちろん、ネリーさん(耳)と荒川さん(目)から来てます。

 *

まあでもやっぱり一番はやっぱり《久遠》かなぁ……。もちろん《煌星》のシンプルさもお気に入りですが。

改めて乙。

やっぱり《六道》強えな。
《王答》を見聞した無能力者か。
やえだけ過去形だったのは気付かなかったなぁ。
おまけに「答えを見聞した。」で唯一、意味が通じそう。
「憧を止めぬ。」の怜も意味通じるかな。
まぁ《六道》の括りで見たら、中学以前の実績が断トツのやえはむしろ《六道》に入っているのがおかしいし、
その座を奪った怜は開花してからの《六道》入りで、最初は自称とはいえ、何故入っているのか謎…というか本当に入っているのかこいつって感じだからこの二人は別格なんだね。

しかし言葉遊び凄いなぁ。巧いなぁ。
セレナーデは普通に過去の人としか考えてなかったからすこやんのフルネームと結び付かなかったよ。


番外個人戦が見たい!

お疲れ様でした。
やえさんがカッコよく描かれている
SSは至宝です!
咲「え? どの学年が一番強いかって?」も
書かれているとは!!!

後日談やサイドストーリーとか
もっとこの世界の物語を
読みたいですね!!(期待)

すこやんは《》内の()を無くしてもぴったりな気がww

補足も乙
そういえばやえさんは決勝の後テルーにちゃんと色々聞けたのかな
パスコード原理の証明に役立ってたりとか

厨二心がくすぐられる補足でしたsage

書いた部首異能バトルを教えてもらいたい
ちょっと興味があるw

年齢詐称《カウンターストップ》——《歳上》の大能力者と呼ばれる《正体不明》の雀士
だれだよこんな噂流したやつは、こんなんがすこやんの耳に入ったら学園都市壊滅の危機きちゃうだろうが

噂を流したのがこーこちゃんだとしたら
レジェンド当たりが八つ当たりされるぐらいで問題ないだろ

>>635こんなこと書かれてたら結果がわかってても怜の個人戦も見てみたくなってしまう。

また最初から読み返してくるわ

すこやんの得点能力と平均打点についてだけど。
通常のルールでも得点能力は九面の最強降ろした姫様以上平均打点は玄ちゃん以上だろうけど。
青天井ルールだとどれくらいの差がでるんだろう?
教えて欲しい

平均打点が玄ちゃん以上だと仮定して単純に30符8翻を青天井で計算すると
子のロン和了で122900点,親で184400点
玄ちゃんと違ってすこやんは平和が作りづらいみたいな制限もなさそうだけど
三暗刻とか符が上がりやすい手の場合
例えば8翻でも40符になるだけで
子のロン和了で163900,親で245800と馬鹿みたいな点数の上がり方をする
とりあえずこれだけで十二分に青天井のヤバさが分かると思うがどうだろうか

青天井点数計算機
http://www.mahjong.org/tensu/aoten-calc.html

で計算したところ、すこやんが当たり前にあがっていたという、ダブル役満(親)で
64,424,509,500
らしい。
644億2450万9500点だってさ。
そりゃカウンターも止まるわ。

天地創造が青天井で何点だったっけ?

140符105翻
908溝6519穣5024𥝱3594垓8349京9283兆6857億6135万1700点

だってさ。
90865195024359483499283685761351700って何だよ。
桁もう数える気にもならねえよ。

まぁこれはイカサマしまくりだからな。
流石にこれは超えまいよ。

三家立直さんはナンバーどれくらいの人まで勝つ可能性が
あるのだろうか

レベル3だからそれより上の人には無理だと思う
例えばレベル4の淡、友香には無理
桃子はレベル3だからステルスリーチしてても上がれるかもしれない

あの人レベル4じゃなかったっけ?条件厳しいぶん強力で、発動したら塞さん以外には破られなかった云々

可能性云々なら、誰にだって勝てるだろう。

実際の実力のみなら、ナンバー1000位に入れるか否か、じゃないか。

やっと追いついたー

ところで1って、照「小蒔! 衣! 咲が合格したぞ!」の作者さん?

読みなおしてみたら何で咲がこんなに嶺上開花和了に苦戦したのか分からなくなってきたわ

続き見たい

超大作お疲れ様でした。
咲-Saki-大好きだけど麻雀のことサッパリわからない自分ですが、この作品楽しみに拝読させていただいてました。
分け隔てなく全てのキャラクターの心理描写を丁寧に書かれていてそれはもうすばらでしたが、終盤の方で、1人の女の子として生々しくドロドロと悩む憩さんが頭一つ抜けて魅力的でした。(読解力がないので菫さんが告白してきた時は驚きましたW)終盤のやえさんも素敵でした。煌と淡が美しく物語を閉じていたので、各キャラクターの後日談は、こんな風によろしくやっているのかな~と想像して楽しむことにします。
本当に乙&すばらでした!

ここで検索しても見つからないがいつこれ終わったの!?

自分で探せよ

調べたらここがなぜか自動スクロールされてただけだったすまん

超乙です。
途中からROMって見てましたが本当に面白かったです。
今後も期待してます。

落ちだけが気になって頑張って読んだ
このSS読むと、取捨選択っていうのはほんとに大事なんだなってことがよく分かる
ほぼ全員に見せ場らしきものを作って、脳内設定を注ぎ込みまくって、結局強い強いってSS中で言われてるやつのほとんどが強い印象残らなくなるという
初期の咲は明らかなやられキャラやモブが多かったけど、それこそが爽快さや面白さを生み出すファクターの一つだったんだよね

この作者ってちょっとでも突っ込まれると凄まじい長文で必死になって説明するよね
しかも完全に自分の脳内設定オンリーで
毎度のようにその調子なんですごく見づらい

あと上でも言われてるけど取捨選択がまったくできてない
だいたい全員の見せ場見せ場が延々続く
ついでに解説役が万能の天才すぎ
その癖咲を弱体化させるから叩かれる
叩かれると「自分は咲をスラダンだと三井レベルだと思ってます!」とか逆ギレ
面白い部分もちょこちょこあるのになんだかなあ

>>666
評論家気取りの方かな?

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月23日 (金) 21:48:48   ID: 2UuQWzav

好きなキャラがめちゃくちゃな設定で書かれると読んでて辛いな

2 :  SS好きの774さん   2015年08月27日 (木) 12:20:25   ID: Wnq2DW2k

面白い!すごい内容がよく出来てて読み耽ってしまった。

3 :  SS好きの774さん   2015年11月19日 (木) 17:10:42   ID: KFP0lRsY

名作だー。
このサイズの分量をしっかり構想練って完結させるのは本当に凄い。というかありがたい。
いやートルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界がさらっと登場するssなんて初めて見た。いろいろと面白いssでした。
お疲れさまです。次のssを楽しみにしてます。
長文失礼。

4 :  SS好きの774さん   2018年07月16日 (月) 13:18:58   ID: aKfERrNH

こいつの書く咲って便利屋にされてばかりだな

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