やえ「部室が散らかってる……」 (16)
良子「おーす」ガラッ
やえ「おはよう良子。良いタイミングで来たわね」
良子「ん?何かあるのか」
やえ「午前練が始まる前に部室の掃除をしましょう」
良子「俺らがか?メンバー外の下級生にさせれば良いだろう」
やえ「確かにそう考えるのが一般的かも知れないわ」
やえ「でもここは晩成高校。何でも下に押し付けていたらただの強豪と変わらない」
やえ「気づいた人間がそれをやることで押し付けの関係でない人間性が磨かれる。そして、その姿勢を自ら示してこそ真の王者たる晩成高校のレギュラー組に相応しいというもの」
やえ「そうは思わないかしら」
良子「いや、確かにごもっともだが……どうしたんだ急に」
良子「指導者みたいだな」
やえ「い、いいじゃない別に。年末だし気を引き締めているの」
良子「ほう」
良子「ま、それもごもっともだな。ならひとつやりますかね」
やえ「うん。そうでなきゃね」
紀子「……」ガラッ
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良子「紀子、良いタイミングだ」
紀子「……何がだ」
やえ「練習開始前に、部室の掃除をしようという話をしてたの」
紀子「掃除を?……確かに部室は乱雑としているが、この具合では人数が足りないのでは無いか」
やえ「確かにそうね。でも散らかり具合が気になってしまって」
やえ「一緒にやってくれない?」
紀子「……」
紀子「……構わない。どのみち早く来過ぎたからな」
やえ「ありがとう」ニコッ
紀子「そうなれば早速着手するか。どこから手を付ける」
やえ「うーん……」
良子「あの本棚なんか埃かぶってるからちょうど良いんじゃないか。場所も移動しようぜ。前々から邪魔だと思ってたんだ」
やえ「そうね……」
やえ「そうしましょうか。それじゃ早速埃を取りましょう」
紀子「うむ」
良子「よしきた!」
日菜「おつかれさまー」ガラッ
パタパタパタ
日菜「……?」
日菜「みんな、なにしてるのー?」
良子「おう日菜。やえの提案でな」
やえ「練習開始前に部室を掃除しようと思って」
日菜「部室の掃除?」
やえ「ええ。日菜ももし良ければ手伝って欲しいんだけど」
日菜「う、うん……」
日菜(何か大事なことをみんなして忘れてるような……)
日菜(……まいっか!)
日菜「おっけーい、やりましょうー」
やえ「ありがとう」
日菜「それでみんな本棚に集中してるのねー」
やえ「まあ、そういうこと」
日菜「そしたらわたしは、モップがけや雀卓の掃除でもしましょうかねー」
やえ「頼むわ」
日菜「では、掃除さいかーい♪」
一同「おーっ」
イソイソ
良子「……ん?」チラッ
良子「こんなところに卓球のラケットがあるじゃねえか!」
やえ「良子、そんなに時間ないんだから余計なものを見つけないでくれる?」
良子「ああ、悪い……しかし全然気付かなかったな。玉もちゃんとある」
紀子「そのようなものに手を出すとは幼稚な」
良子「何?これでも卓球の腕にはちょいと自信があるんだぜ」
紀子「……そういう輩に限って大したことが無いのはよくある話だ」
良子「試すか?」
紀子「……ふんっ、貴様ごとき」
良子「まさか逃げるわけじゃないよな?天下の丸瀬様ともあろうお方が」
紀子「……後悔するなよ」ガタッ
良子「そうこなくっちゃな」
良子「台はないから雀卓の上な」
紀子「良かろう……二秒で片付けてやる。来い」
良子「卓球は時間制じゃないけどな!」カコッ
紀子「ふっ……!」カコッ
良子「らぁ!」カコッ
カコッカコッカコッカコッ
やえ「あ……あんた達……」フルフル
やえ「いい加減にしなさい!!」ゴーッ
良子「!?」ビクッ
紀子「!?」ビクッ
やえ「時間ないって言ってるでしょう!?急いでくれないと困るんだから!」
良子「す、すいません……」
紀子「……済まない」
日菜「ふふっ、ひさびさにやえちゃんのカミナリを拝めたわー♪」
やえ「まったく……」
やえ「とにかく、埃は取り終わったから、運ぶわよ」
良子「まじかよ、早いな……」
やえ「これはちょっと重いから、日菜も加わって貰って良い?」
日菜「りょうかーい」ササッ
紀子「よし……」キッ
良子「ちょっと待て。どのあたりに運ぶ?」
やえ「うーん……」キョロキョロ
やえ「あそこ、反対側の空きスペースにしよう」
良子「よっしゃ、了解」
やえ「それじゃいくわよ」
やえ「せーの!」
やえ「んしょんしょ……」
日菜「んしょんしょ……」
紀子「ぐっ……」
良子「け、けっこう重いな……」
やえ「そ、そうね……」
良子「……あっ、ちょっとタンマ!」ヒョイッ
やえ「!」
良子「ピンポン玉が転がってたよ。危ない危ない……」
やえ「は、はやく……!もって……」プルプル
良子「悪い悪い……あっ」スルッ
良子「しまった、ピンポンが雀卓の下に入っちまった」
良子「よいしょっ、と……中々取れないな……」
良子「ん……?」ガサッ
良子「これは……」
日菜「りょうちゃん……はやく……!」プルプル
紀子「ぐぐぐ……」プルプル
やえ「も……もう、むり……」プルプルプルプル
ガラガシャーン
日菜「ああー……」
紀子「ぐう……」
やえ「……」
やえ「や、やってしまった……」
やえ「良子!なにやってるの?ピンポン玉なんて後で良かったのに……」
やえ「……って、何、その雑誌?」
良子「……ウィークリー麻雀トゥデイ。大分昔の号だな」
やえ「……ちょっと見せて」
良子「ああ」
やえ「……」パサッ
良子「雀卓の下に隠れてたんだ」
やえ「……」パラパラパラ
やえ「……!」
やえ「阿知賀女子の事が載ってる……」
良子「だな。俺もそこにびっくりしちまって、支えるの遅れちまった。すまん」
やえ「……」
やえ「……つまり、我々晩成が唯一インターハイ出場を逃した年」
良子「ということになるな」
日菜「……」
紀子「……」
やえ「……」
やえ「当時の雑誌を雀卓の下に隠しておくなんて、先輩方も……」
やえ「……」
やえ「……なかなか怖いことするじゃない」フフッ
日菜「……たしかに、思い詰めた女性のようだねー♪」
紀子「似た気質ではあろうな」
良子「そういうもんか……?」
紀子「ああ。そんなところだと思うぞ」
良子「ふーん……」
やえ「偶然にも、先輩方の無念の形を見つけてしまった」
やえ「もとより負ける気は微塵もないけど、夏……」
やえ「ますます負けられなくなったわね」ニヤッ
良子「ああ!」
日菜「だねー」
紀子「……そうだな」
やえ「……と、インターハイへの決意を新たにしたところで」
良子「……!」
紀子「……」
日菜「……」
やえ「……倒した棚、直しましょうか」ズーン
良子「……そうだな」ズーン
イソイソ
由華「お疲れ様です!」ガラッ
由華「……?」
やえ「ああ由華、お疲れ様」イソイソ
良子「お疲れ!まずいな、もうそんな時間か」
日菜「みたいねー」
由華「あ、あの……」
やえ「ん?」
やえ「どしたー」
由華「今日は全体練習の後に部室の掃除をするという予定と把握していましたが、掃除が先になったのでしょうか……?」
やえ「えっ」
日菜「そうだよ!今日は最後に大掃除をする予定だったんだー!なんか忘れてると思ってたけど、それだー!」ガバッ
良子「……そうだっけ?」
紀子「……恐らく、な。お前はまた年末独特の空気が気になって忘れているのだろう」
良子「お前だって覚えてなかったじゃねーか!」
良子「……ん、てことは、俺らがやってたことは……?」
やえ「……無駄だった、とか続けないように」ビシッ
良子「あ、ああ……」
やえ「……でも、私の勘違いから始まったのは確かね。ごめん、みんな」ペコッ
良子「い、いや、いいよ」
日菜「楽しかったしねー♪」
紀子「そういう事だな」
由華「……?」
やえ「由華、とりあえず予定は何も変わってないから安心して」
由華「は、はい……」
やえ「……あと」
由華「?」
やえ「……申し訳ないんだけど、この棚の片付けを手伝ってくれると嬉しい」カァァァ
由華「……」
由華「……はいっ!」
ワイワイ
やえ「改めて、練習後に全員で大掃除をしてみたけど」
良子「やっぱりあっさりと終わるな」ニヤッ
やえ「だ、だからごめんって……!」
良子「いや、からかっただけだから、気にするな」
やえ「もう……」
やえ「……でも、今年もいろいろあったかな」
日菜「そうねー」
紀子「新チームは、上手く来ているように感じる」
良子「そうだな。部長姿もすっかり板についているしな」
やえ「い、いや……」カァァァ
やえ「……でも、良い感じなのは確かだと思う」
やえ「下にも良い逸材がいてくれたし」
由華「……!」クシュン
由華「……」チラッ
やえ「」ワイワイ
良子「」キャッキャッ
由華(先輩たち、何を喋っているのかな……?)
やえ「私達は、次の夏もインターハイに出る。これは確信しているわ」
良子「……ああ。そうだな」
日菜「まあ、まだ冬だし気が早い感もあるけどねー」
やえ「ま、まあ、確かに……」
やえ「……と、とにかく、皆、今年はありがとう。来年も宜しくね」
紀子「……うむ」コクッ
日菜「もちろんー♪」
良子「……ああ!」ニヤッ
やえ「……よし、集合!」
ザッ
やえ「これで今年の練習を終わります。皆さん……」
やえ(インターハイ……確かに気が早いかもしれないけど)
やえ(私は絶対に出なければならない……晩成の誇りにかけて)
やえ(……そして、私の誇りにかけて)
やえ(でも今は、まずここまでやってきたことを思って……支えてくれた皆に感謝して……)
やえ(……来年を迎えましょうか)
やえ「……良いお年を!」
カンッ
短いですが終了です
支援ありがとうございました
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