【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!!」 (1000)

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・こちらは『【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」』の続きとなっております。

・ここまでのお話、特記事項は、以下をご参照ください。

【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」
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【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!」
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【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!」
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・以下、あらすじ等。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412589488

<あらすじ>

 科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する街。

 白糸台研究学園都市。

 現在、白糸台研究学園都市に在籍する高校生は約一万人。書類上、その全員が、同じ高校の、同じ部活に所属している。即ち、白糸台高校麻雀部。

 五月上旬。夏のインターハイに白糸台高校麻雀部代表として出場する一軍《レギュラー》の一枠を勝ち取るべく、学園都市各所でチーム編成が行われていた。

 超能力者《レベル5》の第一位――《通行止め》こと、花田煌。

 最高位の支配者《ランクS》――《超新星》こと、大星淡。

 転校生として学園都市にやってきた二人は、東横桃子、森垣友香、宮永咲を仲間に引き入れ、チーム《煌星》を結成する。

 ブロック予選を突破したチーム《煌星》は、本選へ進出。

 各ブロック予選を勝ち抜いた計52チームによる、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》。

 チーム《煌星》は、準決勝へと駒を進めた。

<ベスト8チーム一覧>

《チーム名》:リーダー、メンバー×4(名前順)

○決勝進出

《劫初》:弘世菫、天江衣★、荒川憩、エイスリン=ウィッシュアート、辻垣内智葉

《永代》:宮永照★☆、井上純、臼沢塞、染谷まこ、高鴨穏乃☆

○準決勝進出(二位以上、決勝進出)

《逢天》:二条泉、姉帯豊音、神代小蒔★、松実玄☆、龍門渕透華

《煌星》:花田煌☆、大星淡★、東横桃子、宮永咲★、森垣友香

《新約》:園城寺怜☆、愛宕絹恵、薄墨初美、鶴田姫子☆、原村和

《幻奏》:小走やえ、江口セーラ、片岡優希、ネリー=ヴィルサラーゼ、亦野誠子

○三回戦敗退

《豊穣》:渋谷尭深☆、石戸霞、清水谷竜華、福路美穂子、松実宥

《久遠》:竹井久、愛宕洋榎、新子憧、小瀬川白望、白水哩

(※ ☆=レベル5、★=ランクS)

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本日の更新は旧スレ(【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408597197/))で行います。埋まり次第こちらに移動します。

前スレ済まぬ。
テンション上がりすぎて妨害してしまった。
1レスパロディが減ってしまったよ…。

>>11さん

愛染谷隊長が天に立ったところで終わりなので大丈夫です。

 東一局・親:桃子

桃子(守備重視。リーチ禁止。おっけーっす。なら、なるべく役を作っておきたいっすよね。それならリーチに頼らず出和了りができる。まだまだ、私は死んでないっすよ。これで、どうっすか――!!)

 桃子手牌:⑥⑦234[5]67三三六七八 ドラ:三

桃子(タンピンドラ二赤一、ツモれば親ッパネ。五萬が入れば高め三色ツモで親倍。今回は配牌から赤があった。《赤口》じゃないなら、《先負》の可能性大っす。
 そうとわかってれば、それなりの手作りができる。私はネト麻なら《煌星》で最強っすから、これくらいは朝飯前っすよ!)

豊音「ツモだよー、300・500っ!」パラララ

桃子(ちょ……!?)

セーラ(ゴミ手やと? っちゅーか、なんやねん、その手牌――)

怜(直前に七索切っといてそのツモ。ごっつオカルトの匂いがするでー)

 豊音手牌:13456③④④④⑤五六七 ツモ:2 ドラ:三

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(超ノッポさんが直前に切ってるのは七索。断ヤオと平和と三面張を捨てて、二索ツモ。二索は七索切りする前から待ちに含まれていたから、《最悪》の悪待ちさんみたいな能力……ってわけではなさそうっすね。
 鳴いてないから《友引》でもなく、リーチ条件の《先負》や《先勝》とも違う。もちろん《赤口》でもない。それでいて、デジタル的にありえない打牌。
 ついに、お披露目ってわけっすか。五つ目の能力……!!)

セーラ(待ちが変わってへんってことは、手役を捨てたこと、打点を下げたことのほうに意味があるんやろか。これが五つ目――六曜で言えば《大安》か《仏滅》のどっちかや。
 安手と《大安》が字面的には近いけど、この一回やとなんともわからへんな……)

怜(都市伝説を信じるなら、たぶん、姉帯さんは全系統の能力を使える。まだ見せてへんのは全体効果系と感応系。ほな、これが新しい能力やとすれば、恐らく全体効果系や。
 自牌干渉と他家封殺の両方をいっぺんにやってのける、脅威の系統。うちはベースが無能力者やから、もし封殺効果に引っかかってもうたら、未来視が無意味になってまう。はよ謎解きせーへんと……)

セーラ「ほな、次は俺が親やんなー」コロコロ

桃子:24200 セーラ:117000 怜:124300 豊音:134500

 東二局・親:セーラ

セーラ(全体効果系っぽいけど、今のところは手を縛られとる感じはせーへんな。ツモ調子ええし)

 セーラ手牌:三四四五[五]六④[⑤]⑥4566 ツモ:六 ドラ:⑤

セーラ(姉帯はリーチ掛けてこーへん。鳴いてもいーひんし、赤ドラが見えとる。ほんなら、たぶんさっきと同じの使うとるんやろ。
 俺がこのまま和了れるんなら、それに越したことはない。せやけど、姉帯の仕掛けのヒントが得れるんやったら、それもそれでプラスや。とりあえず、タネがわかるまでは押していくで。
 ただし、先制リーチは恐いから保留っと)

豊音「ポンだよー!」タンッ

 豊音手牌:**********/三(三)三 捨て:一 ドラ:⑤

怜(うーん、さほど不自然なとこもなく、すんなり手は進んだんやけど、また姉帯さんに先越されたか。この局はここまで。どんまい、セーラ)パタッ

 怜手牌:1223344[5]79南南南 ドラ:⑤

セーラ(んー……ロジックがわからへんから、捨て牌が読みにくいな。あんま高くはなさそうやけど、どうやろか)タンッ

豊音「ロンだよー、1300」パラララ

セーラ「お、おう(なんやそれ……)」チャ

 豊音手牌:一二12399白白白/三(三)三 ロン:三 ドラ:⑤

桃子(三索ポンからの一索切りでそれ……チャンタ白一盃口を捨てて白のみっすか。見ようによっては、私の《ステルス》発動中でも出和了りできるような待ちを選んだ――とも取れる。けど、まあ、それだけじゃないっすよね)

セーラ(三萬ポンして三萬待ちの辺張なら、確かに、東横の捨て牌がどうなってようと出和了りができる。せやけど、それだけのために満ツモの可能性を捨てるのはありえへんやろ)

怜(明らかに不自然な打点の下げ方。次も安手やったら、ほぼ確定やろな。姉帯さんには安手で和了らなあかん《制約》的なもんがあると考えてええ。
 場の支配者に課せられた《制約》――それ即ち、この場のルールっちゅーわけや。ま、例外はありそうな感じするから、いつもいつも安いとは断定できひんけどなー)

怜「おっし、親番行くで~」コロコロ

桃子:24200 セーラ:115700 怜:124300 豊音:135800

 ――《逢天》控え室

玄「出たね、五つ目の《六曜》。逃げ切るにはもってこいの《大安》。私とは相性最悪だけど」

小蒔「逆に私には相性抜群ですね。弱い神様のときだと、能力の強度が勝れずに、完封されてしまいます。強い神様なら支配力で強引に突破できるんですけど」

泉「ほんで、透華さんの《治水》にはさして影響を与えない、でしたっけ」

透華「らしいですわね。わたくし自身は覚えていないですけれど。初めて豊音と対局したときに、目覚めてから、なにやらぎゃあぎゃあと言われましたわ」

玄「初めて対局したとき……もう半年以上前になるのか」

小蒔「そうですね。つまり、豊音さんと出会ってから、半年以上が経ったということです」

透華「《アイテム》が四人になってから、半年以上、ということですわね」

泉「最初は、どんな感じやったんですか?」

玄「豊音さんは、今と全然変わってないよ。初対面から、あんな感じだった」

小蒔「あの頃の私たちには、ぴったりでしたね。豊音さんが仲間に入ってから、随分と、私たちは変わったように思います」

透華「ですわね。豊音のおかげで今のわたくしたちがあると言っても、過言ではありませんの」

泉「そう言えば、三人やった頃の話は、聞いたことなかったですね。うちは四人の《アイテム》しか知らないんで、ちょっと興味ありますわ」

玄「聞いちゃう? 私たちが三人だった頃……どれだけ荒んでたか」

泉「荒んでたんですか!?」

玄「もしもだけど、豊音さんが加わらずに、私たちが三人のまま泉ちゃんと出会ってたら、泉ちゃん、小蒔ちゃんに喰ってかかったくらいで、私に肋骨の一、二本はポッキリされてたよ」

泉「物理攻撃してはったんですかー!?」

玄「治安維持に荒事は付き物だからね。大抵の人は、確率干渉の余波だけで制圧できるんだけど、中には、鈍感だったり耐性を持ってたりする人がいるから。身を守るために、多少は――って感じ」

泉「暴力沙汰は洒落になりませんよ。え、それ、ホンマに実話ですか? うちを脅かしてからかっとるんとちゃいます?」

透華「不本意ながら、事実でしてよ」

泉「え、じゃ、じゃあ……小蒔さんも、ですか?」

小蒔「あわ、う、えっと……」

玄「小蒔ちゃんが自発的に動いたことは一度もないよ。けど、相手側がね、畏れ多くもランクSの《神憑き》である小蒔ちゃんに不用意に触っちゃったりすると……というか、障っちゃったりすると、とんでもないことになるの。
 ランクSは膨大なエネルギーの塊みたいなものだから。本気の小蒔ちゃんや透華ちゃんに近付くっていうことは、原子炉とか溶解炉とか、そういうものの中に生身で飛び込むのと同じくらい危険なんだよね」

泉「皆さんがうちより先に豊音さんと出会っとってくれてホンマによかったですッ!!」

玄「うん……本当にね。豊音さんには感謝してもしきれないよ――」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――去年・冬・とある雀荘

玄「ツモ、16100オール」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「ひ、あ――」「ぁああぁあぁ」

「う、この、化け物がああああああ!!」ガタッ

玄「そういう物騒なものは……感心できないのです――」スッ

 ダァァァァン

「うがあぁあ!? 痛ああ、やめてッ!!」

玄「やめて……と言うですか? そう言われて、あなたは、やめなかったのでは?」

「わ、悪かったから……!! 私が悪かった――」

玄「そう。あなたは悪い。悪い子には、オシオキが必要なのです」グッ

 ゴキッ

「ぎいああああああああああ!?」

玄「適切な処置をすれば、後遺症なく治るはずなのです。それまでは、痛みの中で自分の行いを悔い改めてください。
 そして、間違っても、これ以上突っ掛かってこないこと。次は手加減しないのです」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「ひあぁあぁあぁぁ……」ガタガタ

玄(さて、あっちはどうかな――)

透華「……ツモ、1000は1900オール……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔「門前清一断ヤオツモ……4000・8000」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(トばしたかな。何人かは意識ごと飛んでるっぽい。ああ、でも――)

「ふ、ふざけてんじゃねえぞッ!!」ガタッ

玄「はーい、そこまで」グッ

「あ、が――?」

玄「ここでクイズなのです。支配力がものすごく強いと、確率干渉の余波でその人の周囲に異常な電磁場なんかが発生したりするわけなのですが、そこに普通の生物が飛び込むと、どうなっちゃうかわかりますか……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「ぉあ……うっ――!?」ゾワッ

玄「例えば……吐き気がしたり。それは、急激な電磁場の変化に、内臓が悲鳴を上げているサイン。
 あなたが今後も健康な身体で生きていたいと思うのなら、今のあの人たちには近付かないほうがいいのです。私のこれが可愛く感じられると思うのですよ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「ああぁ――」ガタガタ

透華・小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「」ブクブク

玄(ふむ、これで全員オチた――っと)ピッ

玄「あ、フジタさんですか。終わりました。はい。後片付け、お願いします。ちょっと何人かは治療が必要な感じなので、そちらも適当に手配してください。
 ……え? いや、ランクS級が二人もいるんですから、流血沙汰になってないだけマシだと思ってほしいのです。では、今日はこれで――」ピッ

玄(……仕方ない。仕方ないんだ。染谷さんみたいな不幸な人を生まないためには、こうするしかない……)

玄「さて……もう毎度のことだけど、あの魔物二人をどうやってお持ち帰りしたものかな」ゾクッ

透華・小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(……学園都市も、随分と寒くなってきたなぁ。お姉ちゃん、最近会えてない。元気にしてるといいけど……)

 ――アイテム隠れ家

 ピコ ピコ チー ツモ

玄(鳴き一通……実戦では《絶対》無理だなぁ。というか、まず四桁の点数で和了るのが無理だなぁ)ピコピコ

 コンコン

玄「はーい、どぞー」

 ガチャ

小蒔「あ、あのー……お勉強中ごめんなさい、玄さん」ソロソロ

玄「んー、どうかした?」

小蒔「そ、その、《アイテム》のお仕事のことなのですけど……」

玄「ああ、最近、ちょっと詰め込み過ぎだったよね。ごめん。小蒔ちゃんも憑かれ疲れちゃうよね」

小蒔「あ、いえ、憑かれるのは、もうそういうものなので、いいんですけど、その……」

玄「なに?」

小蒔「ちょ、ちょっと、ちょっとだけ、やり過ぎなんじゃないかな……と」

玄「…………」

小蒔「え、えっと! もちろん、私のことを守ってくださるのはとてもありがたいのですがっ!! 私も、こう見えて、護身術の類は心得ていますので、その……」

玄「その、なに?」

小蒔「わ……悪いことをしてる人たちとは言え、同じ高校生ですし、あまり力ずくで対処してしまうのは、お互いのためによくないのではないかな……と」

玄「まあ……小蒔ちゃんの言いたいことはわかるよ。私だって、別に好きで痛めつけてるわけじゃない。でも、やっぱり、向かってくる人には容赦できないかな」

小蒔「で、ですが……」

玄「あと、あまりこういうことは言いたくないんだけど、暴力は暴力でも、私の暴力は、普通の人間にできる範囲内の暴力だから。
 骨にヒビが入ったり関節が外れたり――それが、ものすごく痛いのは知ってるよ?
 でも、それは、病院に行けばちゃんと完治する。私たちは若いし、憩さんのとこの赤阪先生なら、まるで何事もなかったみたいに元通りにできる。
 けど……小蒔ちゃんと透華ちゃんは、そういう加減ができないから。ヒトの領域にいる私が間に入らないと、もっとお互いが傷つくことになる。
 小蒔ちゃんが《神憑き》の力を制御できるなら、話は別だけど……」

小蒔「そ、そうですよね、ごめんなさい……」

玄「いや、私のほうこそ……ごめん」

小蒔「あ……う…………」

玄「……ねえ、小蒔ちゃん」

小蒔「な、なんでしょう……?」

玄「辞めてもいいよ」

小蒔「え――」

玄「こんなこと、神に仕える小蒔ちゃんのすることじゃないと思う。優しい小蒔ちゃんのすることじゃないと思う。小蒔ちゃんだって、本音を言えば、やりたくないんでしょ?」

小蒔「わ、私はっ!!」

玄「染谷さんだって、とっくに退院して、もう身体はなんともないわけだから。
 代わりは、きっとフジタさんが適当な人を見つけてきてくれる。小蒔ちゃんが闇に身を染める必要は、今となっては、どこにもないと思うんだ」

小蒔「で、でも、それでは……」

玄「正直、小蒔ちゃんと一緒だと、色んな面でお仕事がしにくい――って言ったら、どうする?」

小蒔「……玄さん……」ウルウル

玄「ごめん、意地悪だったよね。あはは、憩さんの影響かな。《小悪魔》みたいなこと言っちゃった。忘れて」

小蒔「はう……」

玄「あ、えっと、辞めたほうがいいって部分は、忘れちゃダメだよ。よく考えて、小蒔ちゃん。あなたの《神憑き》の力は、何を守るためにあるのか。
 私は、少なくとも、学園都市の治安なんてものは、あなたの守るべきものではないと思ってるよ」

小蒔「はい……よく考えてきます……」

玄「うん。そうして。じゃ、私はデジタル論の勉強に戻るけど、いいかな」

小蒔「はい。お忙しいところ、失礼しました……」ペコッ

 タッタッタッ

玄(あー……小蒔ちゃんを泣かせるとか、本当に最低だ、私……)

 ――アイテム隠れ家

玄(しまったな……何人か逃げられちゃった。もう少し、やり方考えないと――)イタタタ

 ガチャ

透華「……おかえりなさいまし、玄」

玄「ふえ!? え、透華ちゃん? どうしたの?」

透華「それはこっちの台詞ですわ。わたくし、今日は《アイテム》の活動はお休みと聞いていましてよ。他の誰でもない、あなたから」

玄「え? じゃあ、なんでここにいるの?」

透華「あなたこそ、なんでここにいるんですの?」

玄「白糸台寮に帰るよりこっちのほうが近いから」

透華「ほう? あくまでシラを切るおつもりですのね。では、その、腹部の痣はどう説明するつもりですの?」

玄「ほえ? なんのことかな?」

透華「惚けないでくださいまし。どうしてもというのなら、上着をたくし上げて確認してもよろしいのですけれど、生憎わたくし、他人の衣服を無理矢理に引っぺがすような変態趣味は持ち合わせていませんの」

玄「えっと、ちょっと、そこで、転んだんだ」

透華「医者には診せましたの?」

玄「ううん。大した怪我じゃないから。一週間くらいで自然に治るよ」

透華「他にどこか怪我しているところは?」

玄「いや、そんなしょっちゅう転ばないよ、私」

透華「そう言えば、あなた、最近あの服を着ていませんわね。動きやすいし洒落ているからと、《アイテム》の活動用にわたくしたちと選んだ服――どこか、植え込みの枝にでも引っ掛けて、破れてしまったりしたんですの?」

玄「あー、うん。そうなんだ。一週間くらい前かな? お気に入りだったんだけどね、あはは」

透華「ちなみに、ニーハイをやめてタイツを履くようになったのは、寒さのせいですの?」

玄「いやあ、さすがに、最近の冷え込みは堪えるよね。お姉ちゃん、そろそろ炬燵の中で冬眠するんじゃないかな」

透華「ところで、救急箱の中の湿布と包帯が大分減っているのですけれど、買い足してきたほうがよろしくて?」

玄「あ、なくなっちゃってた? ごめん、じゃあ、お願いしてもいいかな」

透華「………………」

玄「………………」

透華「小蒔も薄々勘付いてましてよ」

玄「まあ、そうだよね」

透華「なぜですの?」

玄「同じ結果が得られるなら、三人より一人のほうが、効率がいいから」

透華「単騎待ちよりも三面張のほうが期待値が高いに決まっていますわ」

玄「あはは……さすが完全理論派《デジタル》の透華ちゃん」

透華「いい加減にしないと、一と智紀以外にも、色々とつけさせてもらいますわよ。あなただって、日常生活を四六時中見知らぬ他人に監視されるのは嫌でしょう?」

玄「そうだね。私は別にいいけど、お姉ちゃんのあんなおもちやこんなおもちを誰かに見られるのは許せないね」

透華「なら、単独行動はこれっきりにしてくださいまし。これが最後通牒ですの」

玄「……わかったよ。次のお仕事からは、前みたいに、三人でやる。それでいい?」

透華「よろしいですわ。では、玄、早速行きますわよ」

玄「へ? どこに?」

透華「決まっていますわ」ギュ

玄「っ――!」ズキ

透華「荒川憩のところへは、何かと行きにくいのでしょうから、わたくしの息がかかったところへ連れていきますの。無論、あなたに拒否権はありませんわ」

玄「ご、ごめん……」

透華「謝りたいのはこちらのほうですわ。ごめんなさい、玄……わたくしが至らぬせいで……」

玄「透華ちゃんは悪くないよ。私が勝手にやってるだけ」

透華「……玄」

玄「なに……?」

透華「次からは、三人で。ご自分で言ったのだから、ちゃんと守ってくださいまし。お願いですわよ」

玄「うん、わかってる……」

透華「じゃあ、行きましょうか。外に車を用意してありますの。さ、玄――」

玄(……ごめんね、透華ちゃん……)

 ――学園都市某所

玄(――ん……あ。えっと……なにがどうなったんだっけ、これ……)

「あー、起きた起きた」

玄(この前の仕事で始末し損なった人たちを見つけて……これは新しい仕事じゃないから――って一人でつけてったら、後ろから襲われたんだっけ……)

「ねえ、とりあえずつれてきてみたけどさ、どうするよー、こいつ」

玄(見える範囲だと……外傷はないっぽい。でも、あー……これ、さては何か盛られてるなー。最初に嗅がされたやつとはまた別物? んー、意識もまとまらないし、身体に力が入らないよ……)

「えー? 私、そういうの嫌だなぁ。後味悪いっていうか。センス悪いっていうか。頭悪いっていうか。要するに、偏差値低いイタズラは嫌いなの」

玄(どうしよう……小蒔ちゃんとか透華ちゃんとかお姉ちゃんに迷惑かかるのだけは嫌だなぁ。まあ、けど、そうならないように一人でやってたわけだから、そっちは心配しなくてもいいかな……)

「もっとさ、こう、目に見えるものじゃなくて、目に見えないものを壊したいじゃん? 例えば」

玄(せめて集中力さえ回復してくれれば、身体が動かなくても支配力で威圧できるんだけど……もうちょっと時間が掛かりそうな感じだよね)

「ドラを切らせる――とか」

玄(……は?)

「こいつ、よくわからないけど、なんかドラを切れない《制約》があるっぽいからさ。試してみない? ドラを切ったら、こいつは一体、どうなっちゃうのか。能力失ったりしたら最高に笑えるわよねー」

玄(マジか。その発想はなかったよ。私なら私みたいな可愛い女の子を薬漬けにしたら真っ先におもちを貪るというのに……。
 けど、私に対する嫌がらせとしては、お姉ちゃんに手を出すのと同じくらい効果的だ。まずい……けど、どうしたら……)

「じゃ、こいつを席につかせてーっと。はい、自動卓起動~」

 ガラガラ

「あ、じゃ、配牌はあなたが適当に取ってってー。えっと、ドラは一索かー。げ……三枚もあるの? 赤も二枚?
 え、じゃあ、なに? こいつこんな状態で牌を《上書き》してるわけ……? ちょっと想定外の化け物なんだけど……」

玄(私も驚いてるよ……配牌を手に取ったのは私じゃないのに。普通にデジタル場になると思ってた。さすがレベル5の第一位。全てのドラは私に集まる――なんて言ってる場合じゃないか)

「まっ、いっか。能力使えてるなら使えてるで。目的は、こいつにドラを切らせることだしね。配牌に五枚もドラがあるなら五回もドラ切りできるじゃん! やったね!」

玄(こいつら、あとで全員ブチコロシ確定。顔覚えとこ……)

「さ、第一打、握らせて。で、捨てさせて。ほらほらー」

玄(勘弁してほしいなぁ……ドラゴン復活の儀式は時間かかるのに。その間ドラは一枚も来ない。あの生き地獄みたいな対局を延々繰り返さないといけないのか……)

「んー? あれ、おかしいな。身体は眠ってるはずなんだけど。いいや、無理矢理、開かせちゃって。そうそう――」

玄(きっと、小蒔ちゃんにひどいこと言って、透華ちゃんとの約束を破った罰だよね……)

「あーもーっ! なんなのよ、往生際の悪い。いいわ、私がやる――!!」ガタッ

玄(ごめんなさい……小蒔ちゃん、透華ちゃん……お姉ちゃん……お母さん――)

 バァァァァン

?「そこまでだよーっ!! っとうッ!!」シュタ

玄(へ……? 誰? というか――え、でっか……こんな大きい女の子、私、初めて見たよ)

「な、なに!? なんなのあなた!?」

?「通りすがりの正義の味方だよーっ!!」ババーン

「は……?」

?「よくわからないけど、この場はなんか雰囲気がちょー悪いっぽい感じがする! だから、やめるんだよー、あなたたちっ!!」

「はあ!? 部外者は黙っててくれない!? こいつが私たちに何をしたか――」

?「ちょー知ったことじゃないよー!!」ヒュン

 バキャアアアアア

「」

玄(全自動卓を蹴り上げて破壊できる女の子なんて、私、初めて見たよ)

?「よくないものはよくないの! ダメなものはダメなの! わかったら、解散っ!! もう二度と悪いことはしないよーに!!」

「え、その――」

?「言っておくけど、私、ちょー強いよー? ちょー黒帯《オフェンスアーマー》だよー? あっ、こんなところに、麻雀牌が」スッ

 バキャ

「」

玄(素手で牌を砕ける女の子なんて、私、初めて見たよ)

?「……と、ちょーこんな感じ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「あ――うわああああああああ!!?」

 ダッダッダッ

?「ふう……あっ、突然で、すいません。大丈夫ですか?」

玄(この人……感覚を信じるならかなり強い能力者っぽいけど、白糸台校舎では見たことない……でも三軍《サードクラス》以下の人が発揮できるような支配力とも思えないし……っていうか気が抜けたら意識が――)クラッ

?「えぇー!? 大丈夫ー!? きゅ、救急車ああああ!!?」アワワワ

 ――アイテム隠れ家

玄「……というわけで」

豊音「姉帯豊音ですっ! 二軍《セカンドクラス》の二年生ですっ!! つい先日転校してきました!!」

小蒔「お、おっきいです……」

透華「……これは一体なんの悪ふざけですの、玄」

玄「いや、その」

豊音「話はクロから大体聞きました! 皆さんは、学園都市の平和を守るヒーローなんだとか!! で、私、ちょー強いから、何か手伝えることがあると思いましたっ!! 仲間に入れてくださいっ!!」ババーン

透華(玄……?)コソッ

玄(だって、ものすごい興味津々で聞いてくるから……)コソッ

透華(だからと言って、こんなどこの誰ともわからないような輩に、暗部のことをペラペラと――)

豊音「龍門渕透華さんですよねっ! 初めまして、姉帯豊音です!!」

透華「は、初めましてですわ」

豊音「うわーっ!? ちょー本物だー!! あの、サインもらってもいいですか!? サイン!!」キラキラ

透華「サ、サイン……!?」

豊音「はいっ! あの龍門渕財閥のご令嬢さんで! 学園都市でも屈指の完全理論派《デジタル》!! それに夏の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》での豹変!!
 龍門渕さんの対局は録画して何度も見ましたっ!! 学園都市に来る前からちょーファンでしたー!! 実物にお会いできてとっても嬉しいですっ!!」キラキラ

透華「ま、まあ、サインくらいなら/////」スラスラ

豊音「ちょーありがとーございまーす!! 一生の宝物にします!!」キラキラ

玄(ね。ずっとこんな感じだったんだよ。聞かれたら答えちゃうでしょ)

透華(まあ……何者かによる陰謀――という線はなさそうですわね)

豊音「あーっ! 神代小蒔さんも! お噂はかねがね! 初めまして、姉帯豊音ですっ!!」

小蒔「は、はいっ!! 初めまして!!」

豊音「早速なのですが、神代さんにもサインを――」

玄「あの、姉帯さん。ちょっとそのくらいで」

豊音「およ?」

玄「焦らなくても、小蒔ちゃんは逃げないですし、頼めば大体のことはしてくれます。土下座をすればおもちをむにむにさせてくれるくらい押しに弱いですから」

小蒔「一度もさせたことありませんよッ!?」

玄「なので、サインはあとで書いていただく感じで。それよりも――」

豊音「もー?」

玄「とりあえず、一局打ちましょう。話はそれからです」

豊音「……それは、つまり、お決まりのヒーロー試験ってやつかな?」

玄「そう捉えていただいても構いません。東風戦でいいですかね」

豊音「そこで、クロと神代さんと龍門渕さんに勝てば、私は《アイテム》の仲間に入ることができて、学園都市のヒーローになれる――ってことだよね!?」

透華「……ほう、このわたくしに勝つおつもりで?」ピクッ

豊音「勝たねばならないのならっ!」

透華「上等ですわッ! 玄、小蒔。座りなさい。二秒で片をつけて差し上げますのよ!!」

小蒔「あ、はっ、はい!」

玄(さて……お手並み拝見、かな――)

豊音「ちょーやる気出てきたよー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東一局・親:玄

透華「リーチですわー!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音「追っかけるけどー!?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(へえ……? いきなり飛ばしてくるなぁ)

透華(ふむ)タンッ

豊音「ロン、5200っ!」パラララ

玄(その手で追っかけたんだ。なるほど……追っかけリーチで一発を掴ませる限定封殺系の能力者、って感じかな)

透華(その手で追っかけですの? なるほど……素人ですわね!!)

小蒔(はわわ……!)

豊音「親番だよーっ!!」

玄:25000 豊音:31200 透華:18800 小蒔:25000

 東二局・親:豊音

豊音「ポン!」ゴッ

玄(あれ……? 追っかけは?)

豊音「チー!」ゴゴッ

透華(親が二副露……)

豊音「ポン!」ゴゴゴッ

小蒔(え? それ、今自分で捨てた牌じゃ――)

豊音「ポン!!」ゴゴゴゴッ

豊音「ぼっちじゃないよー……ツモ!! 1300オールッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(その手で裸単騎……しかも一巡でツモ和了り。自牌干渉系の能力かな。驚いた。この人、多才能力者《マルチスキル》なんだ)

透華(その手で裸単騎……!? 驚きましたわね、この輩、まさにド素人!!)

小蒔(はわわわ……!?)

豊音「一本場ー!!」

玄:23700 豊音:35100 透華:17500 小蒔:23700

 東二局一本場・親:豊音

豊音(ヒーロー試験だからねー。なんとしても勝たなくちゃなんだよー。出し惜しみはしない。というわけで……ここでダメ押しの《赤口》!!)ゴッ

玄(え……嘘、まだ能力持ってるの? 三つも能力持ってる人なんて、衣さん以外に初めて見た。しかも、ここまで限定封殺、自牌干渉、と来て、賽の目確定直後に発動してきたってことは、今度は配牌干渉……?)

豊音(…………あれ? 赤ドラは? んー? 変だな。まあ、でも、そういえば一局目から見かけないし、《アイテム》さんは赤ドラ抜きで打ってるのかな?
 まあ、それならそれでいっか。裏ドラ乗っけて親満和了るよー!!)

豊音「リーチ!!」ゴッ

透華「チー、ですわー!」タンッ

小蒔(え、えっと……)タンッ

豊音「ロン、いちま――」ウラドラメクリ

豊音(えー!? どうしてー!?)ガビーン

豊音「ううう……ごめんなさい、リーチのみ、2000は2300です……」

小蒔「は、はい?」チャ

玄(変な待ち……《上書き》をしてたわけじゃなさそうだから、感知系も複合してる? 裏ドラ見る前から点数申告してたってことは、その辺りが支配領域《テリトリー》ってことなのかな)

透華(明らかに不合理な待ちにした上に、裏ドラを見る前から点数申告!! 留まるところを知らないド素人ですのね!!)

小蒔(はわわわわ……!!)

豊音「あ……あのー、ごめんなさい。ちょっと確認したいことがあるんですけど、これ、赤ドラって抜きました?」

玄「ん? ああ、赤ドラなら、私のところに全部ありますよ」パラパラ

豊音「えー!? ま、待って、じゃあ裏ドラが見えてたのと違かったんだけど、それは――」

玄「あ、えっと、なんか、すいません。裏ドラも私が抱えてます」パラパラ

豊音「なんでー!?」ガビーン

透華「あら、あなた、わたくしと小蒔のことは知っていて、玄のことは知らないんですの?」

豊音「私の住んでたところは山奥の村だから、白糸台の校内戦は、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》みたいな大きな大会しか中継されないの。クロのことは見てないし、名前も聞いたことない……」

玄「ああ、そっか。私、夏は団体戦にも個人戦にも出てなかったから」

小蒔「あれ? 私も出ていませんでしたけど?」

豊音「神代さんは、荒川憩さんと天江衣さんが出てたときに、解説のプンスコの人が、名前だけ口にしてて。
 でも、言うだけ言ってそれ以上は何も説明してくれなくて。それがすっごい気になってたから、こっちに来てすぐ頑張って調べたの」

小蒔「なるほど」

透華「では……白糸台の《行ける伝説》。超能力者――という単語に聞き覚えは?」

豊音「もちろんあるよー! 《絶対》の超能力者! 第二位が《虎姫》の《ハーベストタイム》こと渋谷さんで、第三位が《新道寺》の《約束の鍵》こと鶴田さんだよねっ!
 で、第一位の人が《爆心》っていうチームのリーダーをして、渋谷さんや鶴田さんと一緒に《一試合一人一役満》っていう伝説をちょー成し遂げたって!!
 確か通り名が――《ドラゴンロード》!! 《全てのドラを集める》レベル5!!」

小蒔「えっと……そのレベル5の第一位――《ドラゴンロード》というのが」

透華「他ならぬ玄のことでしてよ」

豊音「うえええええええええええええ!?」

玄「あはは……」

豊音「サ、サインくださーい!」キラキラ

玄「ええ。対局が終わったらいくらでも」ニコッ

豊音「そ、そうだったよー……」ゾクッ

豊音(あれ……? 私、転校早々、もしかしてかなり凄い人たちと戦ってる……!?)

透華・小蒔・玄「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音「(わー! ちょー楽しいよーっ!!)二本場っ!!」ゴッ

玄:23700 豊音:37400 透華:17500 小蒔:21400

 東二局二本場・親:豊音

透華「」ゴッ

豊音(む? 龍門渕さんがダマで張ったかな。ちょっと高そうで嫌な感じ。なら――《先勝》……先んずれば即ち勝つッ!!)

豊音「追っかけてみー? リーチ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(えー!? 四つ目!? どうなってるのこの人……!!)

透華(ふむ……親リーの一発目に、このツモ。なんともスリリングでリスキー。ま、いいですわ。ちょっと回してみるとしましょう)タンッ

豊音(さすがにいいカンしてるねー? けど、門前を貫く限り、あなたは私を追っかけられない!!)

透華「ポン!」タンッ

豊音(え)タンッ

透華「チー!!」タンッ

豊音(ちょ)タンッ

透華「ロン、8000は8600ですわー!!」ゴッ

豊音(なんでそんなことができるのー!?)

透華「おやおや、この程度の打ち回しがなんだというんですの。まさか、この状況でわたくしが親リー相手に追っかけるとでも? ここは危険牌を抱えて鳴いて潰すのがデジタルというものですわ!!」

豊音(半分くらいオカルトだよー!! えー!? じゃあ、特に能力を見破ったとかではなく、無自覚に私の《先勝》を潰してきたの? すご過ぎるよー!!)

透華「では、わたくしの親番ですわねっ!!」

玄(ここは透華ちゃんに任せようかな)

小蒔(はわわわわわ……!?)

玄:23700 豊音:27800 透華:27100 小蒔:21400

 東三局・親:透華

豊音(でもでもっ! 私は負けるわけにはいかない!! 龍門渕さんはデジタル。常に最高効率を求めて打ち回す雀士。
 なら――こういう能力には対応できないはず。現状のトップは私! ここからあと二局……この《大安》で逃げ切るッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(五つ目ー!? 嘘!! えっと、なにこれ? 見る限り変わったところはなさそうだけど……能力が発動してるっぽいのに不自然さが感じ取れない不自然さ――まさか全体効果系!?)

豊音(ふっふっふ、安いよ安いよーっ!!)

透華「……ツモ、500オール……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音「安いよ安いよー!!?」ガビーン

玄(おっとー……? 姉帯さんが全体効果系の能力を発動したことで、同じく全体効果系の《治水》が発動した?
 で、透華ちゃんが和了ったということは、透華ちゃんの《治水》が姉帯さんの『何か』を《無効化》した? いや、でも……まだ断定はできないか……)

豊音(ええ? えっ!? どーなってるの!? 《大安》が《無効化》されたわけでもないのに、龍門渕さんに先を越された!?
 いや、いっぱい打ってればそういうこともなくはないけど、ちょっと意味がわからないよ? けど、これ、せめてもう一、二回試したい……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(はわ……だんだん、眠くなってきました――)ウト

玄:23200 豊音:27300 透華:28600 小蒔:20900

 東三局一本場・親:透華

透華「……ツモ、700は800オール……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(えー!?)

玄:22400 豊音:26500 透華:31000 小蒔:20100

 東三局二本場・親:透華

透華「……ツモ、500は700オール……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(わーん!?)

玄:21700 豊音:25800 透華:33100 小蒔:19400

 東三局三本場・親:透華

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(どうして!? 効いてるのに、効いてない!? え、じゃあ、もしかして、単純に私の場の支配より龍門渕さんの場の支配のほうが上ってこと……!?
 そっか……!! じゃあ、これが夏の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で見せたあれか!! なんていうか、直に打つとちょー冷たいっ!!
 確かに、あれなら、私の《大安》とは正面からは衝突しない。なら、当然、支配力の強い龍門渕さんのほうが先に和了っちゃうってことになって……えー!? どうしようっ!?)

玄(私と同卓してる《治水》モードの透華ちゃんは、リーチができずドラもないわけだから、はっきり言って打点はかなり低い。にしても、さっきから低過ぎる気がする。これは、姉帯さんの『何か』の影響なのかな?)

小蒔(はわ……わ……)ウト

豊音(マズいよマズいよー! 逆転されちゃったら《大安》は私に不利! かといって、たぶん同じ全体効果系で《リーチと鳴きを封じる》龍門渕さんの能力には、これといって対抗手段がない!
 《大安》でなんとか押さえ込めればいいんだけど、それにしたって、ドラがクロに独占されるこの場では、《大安》の効果的に、逆転は不可能! どうする――)タンッ

透華「……ロン、2000は2900……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音「えー……」

玄(五つのうち三つは、恐らくリーチと鳴きが《発動条件》。透華ちゃんの《治水》の支配下では使えない。で、配牌干渉系と感知系が複合したやつは、ドラ絡みの能力っぽいから、私相手では機能しない。
 今は五つ目――同じ全体効果系で対抗しようとしてるみたいだけど、相性が悪いのか効果が似てるのか、この場を打開するだけの力はないみたい。
 ここまで、なのかな? いや、この多才っぷりには十分びっくりしたけど……)

豊音「……ねえ、クロ」

玄「はい?」

豊音「ここで負けたら、私は《アイテム》の仲間に加われないばかりか、神代さんとクロのサインももらえないんだよね……」シュン

玄「(サインはあげられるけど……)えーっと、まあ、確かに、色々と厳しい感じですね」

豊音「わかった。じゃあ……ごめんなんだけど、使うことにする。私の――最後の能力……ッ!!」

玄(六つ目ー!? ここまで、限定封殺、自牌干渉、配牌干渉、感知、広域封殺(たぶん)、全体効果――この流れ的に、まさか全六系統を使いこなせるの!?
 だとしたら、最後の能力っていうのは……感応系――!!?)ゾワッ

豊音「この力……人間を相手にするときには使っちゃいけないって言われてるんだけど、今日の相手はちょっと人間じゃないみたいだから、いい、よね……」

玄「ち、ちなみになんですけど、その能力――名前はあるんですか?」

豊音「あるよ。私の力は《六曜》の力。そして、この禁断の力の名は――《仏滅》……ッ!!」

玄(《仏滅》……仏も滅する大凶日、か。聞くからに穏やかじゃなさそうだよね――)ゴクリッ

玄:21700 豊音:22900 透華:36000 小蒔:19400

 東三局四本場・親:透華

玄(こ、これは――!?)ゾゾゾ

豊音「あー……虚しい虚しい。嫌になっちゃうねー……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(なにこれ!? うわ――ちょ、本当にひどい……っ!! レベル4相当の強度を持つ感応系能力――確かに、人間に使っちゃいけない力だね……。
 虚しいっていうか嫌になるっていうか、そういう次元の話じゃないでしょ、これ。一体どうしろっていうの……?)

玄(《仏滅》――これを破るのは、私はもちろん、透華ちゃんでも不可能だ。この広い学園都市の中で、これにまともな対応ができるのは、恐らく、憩さんたち《三人》だけ。
 あと、能力的な相性で言えば、もう三人、これをどうにかできそうな人が思いつく……)

豊音「リーチ……ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(三人のうち一人は、姫子ちゃん。姫子ちゃんの和了りは《絶対》。なら、きっとこれを《無効化》できる。
 もう一人は、話で聞く《神憑き》状態の石戸さん。さほど苦もなく対応できるはず。そして、最後の一人は――)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(あれ、そういえば、さっきから寒気が止まらないっていうか――なにそのハイパー狂った捨て牌はー!?)ガビーン

 小蒔捨牌:⑥③⑤⑧②③⑥⑦④

玄(うん……この状態の小蒔ちゃんには、まったく関係ないよね、これ。ただ、いつも通りに、いつも通りの和了りに向かえばいい――)

小蒔「ツモ……純正九蓮宝燈……8400・16400」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(嘘だよおおおおおおおおお!!!)ゾゾゾ

玄(まあそうなるよねー……)

透華・小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(そんな!? 《大安》と《仏滅》が通じない相手なんて初めてだよっ!? なんなの!? どうなってるの!! この人たち本当に人間なのー!?)ゾクッ

玄(姉帯さんの能力と支配力に反応して、二人とも魔物化しちゃったか。和了られたショックなのか、ひとまず《仏滅》の効果は切れたっぽい。
 さて。姉帯さんが再起不能になる前に、さっさとこの対局を終わらせるとしますか……)パタッ

玄:13300 豊音:13500 透華:19600 小蒔:53600

 東四局・親:小蒔

豊音(わ……私……どうしたら……)ガタガタ

玄(ラッキー。ドラが小蒔ちゃんの色で中張牌だ。ごく稀にあるんだよね。これで、《九面》モードの小蒔ちゃんは《制約》のせいで《絶対》に和了れない。
 あとは、透華ちゃんの《治水》だけど、私なら、ドラで支配を一点突破して、その上で、透華ちゃんの支配領域《テリトリー》の外へ手を伸ばせる……)

玄「カン」パラララ

豊音(ドラ八ー!?)

玄(よし、テンパイ。あとは、流れに身を任せてツモれば――)

玄「っと……ツモ。ツモドラ八赤四――8000・16000です」パラララ

豊音「」

透華・小蒔「っ!」パチッ

玄「あっ、おはよう」

 一位:松実玄・+20300(45300)

透華「なー!? わたくしが三位ですのー!!? 一体何がー!!」

 三位:龍門渕透華・-13400(11600)

玄「あとで牌譜を確認するといいよ」

小蒔「はわわわ、いつの間にか二位になってます! けど、ああ、なるほど。最後はドラが私の色になっていましたか。道理で《九面》様だったのに勝てないはずです」

 二位:神代小蒔・+12600(37600)

玄「小蒔ちゃんがレベル5なら、《予備危険性の排除則》に従ってもっと厳密な住み分けが起こるんだろうけどねー」

豊音「う……うう……!!」ウルウル

 四位:姉帯豊音・-19500(5500)

玄・透華・小蒔「え?」

豊音「うわあああああああああん!! ありがとうございましたあああああああ!!」ポロポロ

玄・透華・小蒔(号泣ー!?)ガビーン

豊音「ぐずっ……!! 私……地元では負けたことなかったし……熊倉先生からも……ひっく……私くらい能力いっぱい持ってる人は学園都市にいないって……ひっく……褒めてもらってたのに……」

玄「あ、えっと、その、ちょっと相手が悪かったと思いますよ」

豊音「まさか《仏滅》が一瞬で破られるなんて……」

小蒔「ぶ、《仏滅》とは?」

玄「えっと、これこれうまうまな能力」

小蒔「それは……はあ、なるほど。ごめんなさい。残念ながら、あの状態の私にはあまり関係なかったみたいですね」

豊音「うわあああああああん!!」ダー

小蒔「はうっ!? すいません、けど、たぶん、私以外に破れる人は片手で数えるほどしかいませんよ!!」

豊音「片手で数えるくらいいるのー!? 学園都市は人間じゃない人たち多過ぎだよー!!」

小蒔「あははは……」

豊音「うぅぅぅ。龍門渕さんだって《大安》を《無効化》せずに連荘してくるし……」

透華「《大安》とは?」

玄「えっと、たぶん、まるまるくまぐまな――その、姉帯さんのクセ」

透華「ははあ、なるほど! 確かに、それはあの状態のわたくしに近い悪癖ですわね」

豊音「悪癖って言われたあああああああ!!」ダー

玄「まあまあ、そんなに気を落とさずに」

豊音「クロだって私の《赤口》を《完全無効化》してきたぁ……」

玄「それは仕方ありませんよ。私はレベル5の第一位――《ドラゴンロード》。ドラにまつわる能力者の最上位ですから」

豊音「もーっ、どーゆーこと!? 冷たくなった龍門渕さんは私の《先負》と《先勝》と《友引》と《大安》をまとめて封殺!
 神代さんは《仏滅》お構いなし! クロは《赤口》を《完全無効化》!! 三人とも普通じゃないよっ!!」

玄・透華・小蒔「それはそうです(わ)ね」ウンウン

豊音「深く頷かれたー!!」ガビーン

玄「あの……姉帯さん」

豊音「はいぃぃ」

玄「その、《アイテム》のことは、ひとまず保留ということで、それとは別に、一つ提案があるんです」

豊音「なに……?」

玄「よければ、時々でいいので、私たちと麻雀しませんか? 姉帯さんが入ってくれれば、ちょうど、四人になるので」

豊音「えぇぇ……? えっと、それは――」

玄「私たちとお友達になりませんか、ってことです」

豊音「本当にいいのー……?」ウルウル

玄「はい。姉帯さんと打って、すごく楽しかったので」

豊音「でも、私、今、負けて……みんなより弱いのに……」ポロポロ

玄「負けてしまったのは、たまたまですよ。東風戦一回でお互いを知ったと思うのは、早いと思います。ねえ、透華ちゃんと小蒔ちゃんは、どう?」

透華「大歓迎ですわ! 豊音っ!! あなた、秘めたる力はあるようですが、打ち筋はどこからどう見てもド素人!! わたくしがデジタルのなんたるかを教授して差し上げますわ!!」

小蒔「私もっ! 姉帯さんのようにたくさん持っている方には興味ありますっ!! 今日は憑かれて寝てしまいましたが、次は起きているときにお相手してくださいっ!!」

玄「という感じです。いかがですか?」

豊音「ちょー嬉しいよー!!」ポロポロ

玄「そうですか。それは……よかった――」

豊音「クロ! トーカ! コマキ! 不束者ですが……改めて、これからもよろしくお願いしますっ!!」ペッコリン

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

 東三局・親:怜

豊音(みんなと出会ってから、半年と少し経った。泉が加わってからは、三ヶ月くらいかな。もう何年も一緒にいた気がするよ。思い出いっぱい。学園都市に来て……本当によかった)タンッ

 南家:姉帯豊音(逢天・135800)

豊音(みんなとは、きっとこれからもお友達でいられると思う。けど、お祭りに参加できるのは、今のうちだけ。今日負けちゃったら、今日でおしまい。勝てば……勝ち続ければ、それが、私の卒業まで延びる――)

豊音(この大会が終わったら、三年生は公式戦を引退する。その例外が、一軍《レギュラー》。
 本人たちが希望して、なおかつ勝ち続ければ、春季大会まで一軍《レギュラー》として戦える。もっともっとたくさんのお祭りに、みんなと参加できるんだ)

豊音(去年の夏――私は山奥の村で、この白糸台の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の映像をモニター越しに見てた。全試合録画して、お気に入りの雀士の映像を……何度も何度も繰り返し見た……)

豊音(そのモニターの向こう側にいたスター選手たちとお友達になれて、十分嬉しかった。まさか、こうやって、あの頃夢見てた世界で戦うことになるなんて、それこそ、夢にも思ってなかったよ)

    ――全員、うちと一緒のチームで大会に出たらええやん!!

豊音(お友達いっぱい。楽しいこといっぱい。ちょー満足だった。そんな私に……イズミは、もっともっと楽しい場所があることを、教えてくれた……)

          ――表舞台で思いっきり暴れたろーや!!

豊音(時々思う。ここはきっと天国なんじゃないかなって。全部の楽しいことと、全部の嬉しいことが詰まってる楽園。上に行けば行くほど、どんどん広がっていく世界。どんどん深まっていく絆――)

      ――うちらが一軍《レギュラー》になんねん!!

豊音(《頂点》まで、あともうちょっと。勝ちたい。勝ってみんなと遊ぶんだ。今よりもっと高い場所で! 今よりずっと広い場所で!! そこにはきっと、笑って喜ぶみんながいるから――!!)

豊音(逢いに行くよ、天上までっ!! そこには理想の私たちがいるっ!! こんなところで止まれない!! まだまだ道は続いてる――負けるわけにはいかないよー……ッ!!)

豊音「ポンッ!!」ゴゴゴゴッ

桃子(追いつかれたっすか……!? それなりの待ちと打点の手を張ってるのに、なぜこうもかわされる――?)

 西家:東横桃子(煌星・24200)

怜(ツモのみ、白のみと来て、今度はそれか)

 東家:園城寺怜(新約・124300)

セーラ(また安そうやけど、あんま信じ過ぎんのもな……)

 北家:江口セーラ(幻奏・115700)

豊音(トーカの《治水》とは効果が正面衝突せず、コマキの弱い神様なら封殺できて、クロとの相性はかなり悪い。
 そんな私の《大安》――《一飜でしか和了れない場を生み出す》全体効果系の大能力ッ! 《ただしドラは飜数に入れない》!!)

豊音「ツモ、断ヤオドラ一赤一、1000・2000だよー!!」ゴッ

桃子(っつー……こっちは点棒が欲しくて高い手作ってるのに、全部のみ手で流される。真綿で絞め殺されてるみたいっすね)

怜(わざわざ喰い替えで門前を崩してからの、喰いタン。のみ手でしか和了れへん場を生み出す、この場では一飜の和了りしかできひん、とか、そんな感じやろか。
 つまり、リーのみか一盃口のみやったら、出和了りしかできひんわけやな。ツモろうと思たら、ツモのみか、門前崩して食い下がり一飜の役を狙わなあかん。
 純全帯や染め手、刻子系や七対子みたいな、二飜以上の手は全部封殺されてまう。手作りがかなり限定されてくるな……)

セーラ(姉帯は今、喰い替えするときに、赤を鳴き入れた。っちゅーことは、一飜縛りの場やとしても、ドラで手を高めることは可能なんやろな。
 まあ、確信には至らへんけど。ただ、ホンマにのみ手でしか和了れへん場を生み出しとるとしたら、逆転するのはかなりキツいで。
 広域封殺寄りの全体効果系……テンパイまではいけるけど、二飜以上の手を張ったら、そこからぴたりと縛られる。和了るためには、飜数を下げなあかん。特に断ラスの東横には絶望的な効果やんな)

豊音「次は私の親番だよー」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子:23200 セーラ:114700 怜:122300 豊音:139800

 ――《逢天》控え室

玄「と、まあ、そんなこんなで豊音さんと私たちはお友達になったわけなのです」

泉「殺伐というか、壮絶というか。それが豊音さんが出てきてから一気にギャグテイストな話になりましたね……」

小蒔「作戦会議を、隠れ家じゃなくファミレスでやろうと言い出したのは、豊音さんでしたね。そちらのほうが楽しそうだから、と」

透華「作戦起案と上役との連絡係――実務の大半を小蒔にやらせようと言い出したのも、豊音でしたわね。放っておくと玄が一人で全部やり始めるから、と」

玄「荒事も、私じゃなくて、豊音さんが率先してやってくれた。自分より背が高くて力持ちな女子高校生は学園都市にいないからって。
 豊音さん、卓と牌はいくつ壊したかわからないけど、人は一人も傷つけなかったね」

小蒔「あと、電子学生手帳を、もっと暗部のお仕事に使えるように改造しようと言い出したのも、豊音さんでした。戦隊ヒーローの必需品だって」

透華「他にも、お揃いの特製スーツだの、光線銃だの、魔改造清掃ロボだの、わけのわからないものを子供のようにねだってきましたわ」

小蒔「意見が割れたときは話し合い――これも、豊音さんの発案でした。
 豊音さんがそのことを言い出したときに、初めて、私は私の意見を押し通したことがなかったことに気付きました。全部……玄さんの言う通りにして、玄さん任せにしていたんです」

透華「それから、仕事中のランクSは一人まで、というルールを作ったのも豊音でしたわね。小蒔とわたくし、片方が豹変しているときは、片方は通常の意識を保つこと、と。
 それまで、わたくしは小蒔の支配力に引っ張られて意識を失いがちでしたが、それも、豊音がこのルールを提案したときに、やっと問題として認識できたんですの。
 小蒔が眠って、私が意識を魔物に奪われてしまったら、始末の全てを玄に押し付けることになる。それを、恥ずかしながらわかっていなかったんですわね、わたくしは」

玄「かくして、《アイテム》のゆるふわ化と、私の置き物化が進んでいったんだね。泉ちゃんだって、最初は小蒔ちゃんがリーダーだと思ったでしょ?」

泉「まあ……一番人間離れしてましたし、作戦会議仕切ってたんは小蒔さんでしたから」

小蒔「けど、いつだって、最後にゴーサインを出すのは玄さんだったはずです」

泉「そんなん言われないと気付きませんよー」

透華「玄も随分と丸くなりましたわ。本当に、信じられないくらい」

小蒔「豊音さんが仲間になってから泉さんに出会うまで、一度だけ、お姉さんの宥さんのことで、昔の玄さん――ブラック玄さんが出てきましたけれど」

透華「それも、豊音が身体を張って止めましたわ。豊音がいなかったら、あの連中は一生車椅子生活になってもおかしくなかったですわね。それくらい、あのときの玄は危険でしたわ」

玄「あはは……」

泉「泣く子も黙る《ドラゴンロード》って、そのまんまの異名やったんですね……。いや、ホンマ、《アイテム》が四人でよかったです」

玄「今は五人の《逢天》だよ、泉ちゃん」

小蒔「玄さんの言う通りです。豊音さんも、泉さんも、私たちに大きな変化を与えてくれました。
 かつて……染谷さんのことがあった直後、《アイテム》が結成されたときには、自分がこんな風になるなど、想像もできなかったです。あの頃は、ただ悲しかった――それが、今は、楽しい気持ちでいっぱいなんです」

透華「人間、変われば変わるものですわね。絹恵と誠子も随分と大きくなって、衣と純もすっかり明るくなって、わたくし自身も、以前より、多少は前進しましたわ」

玄「そして、これからも、変わっていくんだよね。決勝に行って、一軍《レギュラー》になって、外の世界で活躍して、さらには、私たちが変わるついでに、学園都市の在り方も変えていく――」

泉「ええですね、それ。きっとオモロいと思いますわ」

     豊音『ツモ、500オール!!』

泉「ほい来たー! 安いで安いでーっ! これぞ《大安》って感じですね!!」

玄「少しでも稼ぎたい東横さんは言わずもがな、普段はのみ手なんて滅多に和了らない江口さんも、場のルールには気付いたみたいだけど、今のところは後手に回ってるね」

小蒔「となると、やはり何かしてくるとしたら、園城寺さんでしょうか?」

透華「あの輩も、原村和同様、なかなかのデジタルですものね。たまにどうかと思うような打牌をしては結果オーライに助けられていますけれど」

泉「いやいや! どんなに相手が手強かろうと、豊音さんなら楽勝ですよっ! 頑張ってくださいっ!!」

     豊音『一本場だよーっ!!』

 ――対局室

 東四局一本場・親:豊音

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:姉帯豊音(逢天・141300)

桃子(一飜でしか和了れない場……三位と九万点離されているこの状況で、とんでもないことしてくれるっすね。
 否――ポジティブに考えるっす。《ステルスモード》で振り込みがない現状、私が点棒を失うとすれば、ツモで削られる場合だけ。その被害が一飜――例外のドラがあったとしてもせいぜい1000~2000点程度に収まる。
 残すところは、この東四局と南場。最少で五局。このまま安手縛りが続くなら、トビ終了のリスクはかなり下がったと見ていい。嶺上さんに繋ぐという使命は果たせる。もちろん、点を取ることを諦めたわけじゃないっすけど……!!)タンッ

 南家:東横桃子(煌星・22700)

セーラ(わざと手を安くせーへんと和了れへんのか。まるで階段を後ろ向きに駆け昇るみたいな強烈な違和感とやりにくさ。
 ほんでもって、姉帯以外は全員、能力的な《上書き》ができひん。これが北家の初美とかやったら、一点突破で役満和了れる気いするけど、さすがにレベル4の強度を誇る全体効果系能力を、レベル0の俺が真正面から破るのは無理があるやんな。
 この場のルールに逆らわんでも、二位の怜は射程距離。ドラが固まっとれば、喰いタンとか役牌のみとかでも満貫は見込める。支配に身を任せてみよか? それとも足掻いてみよか? いやー、わからんわー)

 西家:江口セーラ(幻奏・114200)

怜(一飜でしか和了れへん、か。戦略としては、ドラを固めて、鳴きの速攻。役牌のみ、喰いタン、或いは食い下がり三色や一通を積極的に狙う――が正解やろか。
 まあ、普通に進めていくと、場の中心におる姉帯さんが和了ってまう気もする。これやから全体効果系はずっこいでー)

 北家:園城寺怜(新約・121800)

怜(ま、せやけど、全体効果系能力者やって無敵やない。その最大の弱点は、自分自身はその場のルールに反するような打牌ができひん、っちゅーこと。
 ドラが絡む場合は例外やけど、この場の規則に忠実でないとあかん姉帯さんは、どうやってものみ手以外が和了れへん。はっきり言って、脅威はないと言っていい)

怜(この能力の厄介なとこは、姉帯さん自身にはないねん。逆転したいのに、高い手が作れへんっちゅー縛りプレイが何よりキツい。無理して支配に逆らおうとしたら、たぶん、ハマる。
 せやけど、支配に身を任せて安手を和了っても、それはそれで、姉帯さん的には大歓迎。どっちに転んでも、トップ《逢天》の優位は揺らがへん。大したもんやな、ホンマに)

怜(ただ……残念やったな。うちな、実は、のみ手作るのはむっちゃ得意やねん。和にぎゃあぎゃあ言われるまでは、和了率――打点度外視でとにかくテンパイすることを優先して打ってきた。
 門前特化で打点もほどほどの東横さん、高い手を好むセーラ、多才能力者《マルチスキル》の姉帯さん……この場の誰よりも、うちはツモのみの手を作ってきた。なんでかっちゅーと――)

 怜手牌:四五六①②③34567中中 ツモ:北 ドラ:一

怜(うちは《一巡先を見る者》――ツモのみを化かすのが十八番の超能力者! 見えたで、一巡先……!! 次巡で二索をツモれるっ!!)

怜(うちが改変せーへん未来で、うちはツモのみを和了る。これは、姉帯さんの支配には逆らってへん。ルール通りの一飜和了り。
 これが高い手を狙うと、封殺効果が働いて、100巡先を見ようと和了り牌は出てこーへんやろ。
 せやけど、ツモのみならどや? そら、ぼちぼちの確率で出てくるやんな。うちはなんもルール違反してへんもん。当然の結果や。必然の未来や。
 ここまでは読み通り……あとは、とにかく鳴かれへんことを祈る……!!)

怜「リーチッ!!」トッ

 怜手牌:四五六①②③34567中中 捨て:北 ドラ:一

桃子(出たっすねー……ツモ切りリーチ。あんま大きいのは勘弁っすよ)

セーラ(北は既に河に二枚。そら鳴けへんなー。ほんで、俺は上家に東横がおるからチーできひん。東横はそもそも鳴かへん。姉帯が動けへんかったら、この対局は次巡で終わりや。
 ま、しゃーない。ここは、トップとの点差が縮まるからええっちゅーことにして、怜に任せるか)

豊音(そう、だよね。やっぱ来ちゃうよね。いやー……参っちゃうよ。その正解に辿り着くにはもう少し時間掛かるかなーって思ってたんだけどな……!!)ゾクッ

怜(東横さんがおるこの場は、ズラしの鳴きが起きにくい。うちの得意技が出しやすいねん。ほんで、姉帯さんの一飜縛り能力とうちの得意技は、決して相性が悪いわけやない)

怜(よう見といてな、《最大》の多才能力者《マルチスキル》! これが感知系最強の能力者――レベル5の《一巡先を見る者》……その真髄ッ!!)ゴッ

セーラ(ここまでか――)パタッ

桃子(ここまでっす……)パタッ

怜(一巡先のツモのみを、一巡後の必殺に改変するっ!! うちの伝家の宝刀は――自分と違うて安ないで……ッ!!)ツモッ

怜「ツモッ! リーチ一発ツモ……裏二! 2100・4100や――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 怜手牌:四五六①②③34567中中 ツモ:2 ドラ:一・中

セーラ(一飜縛りのルールに則って最速の手作り。本来ならゴミ手でしかないその手を、リーチ一発と裏ドラで満貫に仕上げる。デジタル化する前の怜が最も得意としていた必殺技。これぞ《一巡先を見る者》やな)

桃子(なるほどなるほどっすね。ツモのみで且つ待ちの広い手を作れば、そこそこの確率で和了れる未来が見れる。それはこの場のルールを破ってないから。
 もし、未来視さんの能力値がレベル4以下だったら、超ノッポさんの全体効果系能力に封殺されて、リーチを掛けた瞬間に次のツモ牌が《上書き》される可能性があるっす。
 でも、未来視さんはレベル5。この人に見えた牌の情報を《上書き》することは《絶対》にできない。掟に捉われた未来を、掟破りの現実に塗り替える……さすが過ぎるっす)

豊音(ちょー親っ被り喰らっちゃったよー。園城寺さんのそのやり方は想定していたけど、それでもリーチ一発ツモ止まりだと思ってた。うーん……裏ドラも乗るときは乗っちゃうかぁ。
 満貫級の和了りを連発されると、《大安》の《制約》に縛られてのみ手しか和了れない私のほうが不利になってくる。というか、今ので、後半戦の個人収支で上を行かれた。また一歩詰め寄られたんだよー。
 公式戦では初めて披露する能力なのにな。みんな対応早過ぎ。残るは南場……出しちゃうか、ついに、アレを――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(ちょ――! 半端ない寒気っすけどッ!?)ゾワッ

セーラ(っ……!? あかん……この気配はかなりあかんやつや。北家の初美よりあかん。なんちゅーか、相当タチの悪い何かや。来るんか、六つ目。《六曜》使い――姉帯豊音の最後の力……!!)ゾクッ

怜(全系統を扱えるなら、次来るやつは、感応系。東横さんの《ステルス》はレベル3。対して、姉帯さんは大能力者《レベル4》。発動されたら、まず《無効化》はできひんやろ。
 感応系最強の能力は宮永照の《照魔鏡》で、その強度はレベル4。つまり、姉帯さんが今からやるつもりなんは、アレとほぼ同等の超弩級オカルト技っちゅーことになる。恐怖以外の感情が起こらへんで……!!)ゾゾゾ

豊音「……私のこの力は、人間相手には使っちゃいけないって言われてる。なんでかっていうと、人間には、この能力を打ち破る術がないから――」

桃子(打ち破る術がない……? 言い切ったっすね。ハッタリであってほしいっす……)

豊音「これが発動してしまえば、対応できるのは、クロ曰く、学園都市に六人だけ。ヒトじゃない《三人》。そして、《神憑き》のコマキと石戸さん。あと、常人の枠を遥かに超える変態だっていう、鶴田さん」

怜(言い方!! 確かに姫子と白水さんの変態度は人間を超えとるけどもっ!!)

豊音「だから……人間であるみんなには、先に言っておく。私の持つ禁断の力。《発動条件》は《その日が仏滅であること》。今日は使えても、二日後の決勝では使えない」

セーラ(ほな、今日ここを凌ぎきれば、ええっちゅーわけやんな。凌げるかは知らんけど……)

豊音「《制約》は二つ。《一日に一度しか使えない》。そして、《発動中に他家に和了られるとその効果を失う》」

桃子(使える日が決まってて、しかも日に一度しか使えなくて、他家に和了りを許したら効果が消える? めちゃめちゃ厳しいっすね)

豊音「その効果は――《人からあらゆる色と形を奪う》」

怜(は……?)

豊音「仏も滅する大凶日。形ある物は全て滅び、色あるものは全て灰に染まる。あー虚しい虚しい。嫌になっちゃうねー……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(おいおい――これはホンマのホンマにヤバいんちゃうか……!?)

豊音「あとはその身で確かめてねー……? 禁断の《六曜》! 感応系の大能力!! 《仏滅》――発動だよッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子・怜・セーラ(これは――!!?)ゾゾゾッ

桃子:20600 セーラ:112100 怜:130100 豊音:137200

 ――特別観戦室

     豊音『《仏滅》――発動だよッ!』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン「オワッタ、ナニモカモ……」ガタガタ

智葉「配牌を終えた途端に、全員の手が止まったぞ。理牌すらしないとは、どういうことだ?」

塞「そりゃ止まるでしょーよ。豊音のアレは、なんていうか、人間にどうこうできる能力じゃないの」

まこ「照は何か知っちょるんか?」

照「私、姉帯さんとは直接打ったことないから、わからない」

純「じゃあ、《塞王》様に解説を頼むしかないか。天使様は使い物にならねえようだし」

エイスリン「ウルセーゾ、ノッポ、クチハテロ」

憩「ほんで、なんなんですか? 姉帯さんの《仏滅》って」

塞「豊音が言った通りよ。《人からあらゆる色と形を奪う》感応系の大能力。
 これを喰らったとき、私と胡桃は三秒で勝ちを諦めて、シロはダルいって言ったきり動かなくなった。エイスリンに至っては、しばらくの間、牌を握れなくなったわ」

衣「色と形を奪うというのなら、色と形こそ能力の根幹であるえいすりんにとっては、確かに効果覿面だろう」

穏乃「具体的に、どうなっちゃうんですか?」

塞「豊音の《仏滅》が発動すると、卓上《セカイ》から色と形が失われる。豊音以外の全員が、牌に刻まれた絵柄――その色と形を、認識できなくなるのよ」

菫「は? もう一度言う。は?」

智葉「もうちょっと詳しく頼む」

塞「これは私の主観なんだけど、まず、《仏滅》が発動すると、視界全体から色が消えるのよね。世界がモノクロになるの。で、それだけでも十分オカルトなんだけど、恐怖体験はまだ始まったばかり。
 配牌を手に取るじゃない。開くじゃない。その瞬間に、あ、これは無理なやつだ、ってわかる。
 まずは、字牌。これは、全部、なんか灰色っぽいのっぺりとした牌――言うなれば白かしら。そういう風にしか見えなくなる。触っても、目の前まで持ってきても、何も変わらないわよ。
 要するに、七種二十八枚の字牌が、区別できなくなるわけ」

菫「何度もすまないな。は?」

憩「落ち着いてください、菫さん。感応系にそのツッコミ入れたらキリがありまへん。菫さんはなんや普通に受け入れてはりますけど、ウチに言わせれば、ナンバー1の《照魔鏡》かて『は?』です」

照「しょぼーん……」

まこ「数牌はどうなるんじゃ?」

塞「数牌は……まあ、多少マシ。色と形が奪われても、どうやら『数』っていう概念は残るらしいの。だから、『1』の牌や『2』の牌や『3』の牌があるなー……っていうのは認識できる。けど、それ以上はどうやってもわからない。
 要するに、数牌は『数』だけが認識できて、『色』の認識ができなくなるのね」

純「なんだよそれ……オカルトにしてもひど過ぎるだろ」

塞「だから、人間には使っちゃいけない禁断の力なの。
 六日間に一日しか発動の機会がなく、万が一誰かに和了られたら即効果切れ、さらに、発動した半荘が終わってしまえば、その日はもう使うことができなくなる。
 こんだけガチガチの《発動条件》と《制約》で縛られた力だもの。数牌と字牌が区別できるだけ救いがあるってもんよ」

穏乃「ああ……なるほど、納得です。だとすると、確かに、一色占有の能力を持つ神代さんと石戸さんには、あまり効果を発揮しませんね。
 『色』は認識できなくても、『数』は認識できる。ほな、一色牌以外をツモらないあのお二人なら、普通に門前清一で和了れます」

塞「豊音曰く、神代小蒔は本当に人間じゃないらしいわ。《仏滅》を発動して和了られたこと自体初めてだったのに、その和了りがよりにもよって、純正九蓮宝燈。さすがの神様よねぇ」

憩「あとは……鶴田さんやんな。小蒔ちゃんと石戸さんは、能力を《無効化》せずに相性で和了りをものにできる。
 対して、鶴田さんはきっと《仏滅》そのものを《無効化》してくるやろな。レベル5の《約束の鍵》による和了りは《絶対》や。それを阻むものは、片っ端から排除される。感応系能力も例外やない」

衣「あのおっきいのは、《三人》もその《仏滅》とやらを打ち破れると評していたが?」

憩「ウチは山牌見えるから、余裕やろ。ツモってきた牌は、たぶん、臼沢さんの言うような感じに『見える』んやろうけど、《悪魔の目》を通せばノーマルモードと何も変わらへん」

菫「まあ、荒川は東横から直撃が取れる雀士だからな……。智葉のほうは、本当にアレをどうにかできるのか?」

智葉「聞く限りでは、不可能ではないな」

エイスリン「ハ? ウソダロ!?」

智葉「ま、これ以上は企業秘密だ」

穏乃「照さんは?」

照「超頑張る」

まこ・純「これじゃけえ(だから)照は……」

塞「ま、豊音も言ってたように、決勝では使えないわけだから、私たちが警戒する必要はないんだけどさ」

智葉「それに、言っても感応系だからな。姉帯自身が点を稼げるかどうかは、偶然に拠るところが大きい」

憩「感応系の能力は、ツモを《上書き》できませんからね。どんなオカルト技を披露しようと、古典確率論からは逃れられへん。理論的に、無限に和了ることは不可能や。
 せやから、たとえ誰も何もできひんでも、運次第では、まあぼちぼちの被害で済むんとちゃいますかね」

衣「しかし、これでますますもって、《煌星》の闇色が窮地に立たされるな。何度か大きいのをツモられたら、本当にトぶぞ」

照「東横さん、頑張って。私は咲の勇姿を見にここに来たのだから――」

塞・まこ・純・穏乃「偵察は!?」

 ――対局室

 南一局・親:桃子

桃子(同じ感応系能力者として、こんなことを言いたくはないっすけど、無理ゲーにも程があるっす。数牌は『色』が認識できず、字牌は『形』が認識できない? どうやって和了れと?)

 桃子手牌(仏滅):2256778899字字字 ツモ:7 ドラ:3

桃子(和了ってる……わけないっすよね。これ、実際はどうなってるっすか?)

 桃子手牌:2②[⑤]六⑦七⑧⑧9⑨中北發 ツモ:7 ドラ:③

桃子(これで、もし、私の《ステルス》が《無効化》されていたとしたら、どうなっちゃうっすか? 私の今の持ち点は二万点ちょっと。普通の半荘でも、下手したらトぶ)

豊音「リーチッ!!」ゴッ

桃子(……マジっすか。えっと……超ノッポさん自身は、感応系ならデジタルで手を作っているはず。捨て牌を見ても、字牌処理して浮いたところを切ってる感じっす。なら、数牌ド真ん中よりは字牌のほうが通りやすい――っすよね?)タンッ

豊音「」ゴゴゴゴ

桃子(通った。でも、もし、私の《ステルス》が《無効化》されていたら……? 一撃で死ぬ可能性もある――)

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(お願いっす……当たらないで……!!)タンッ

豊音「ツモ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(っ――!?)ビクッ

豊音「2000・4000……!!」パラララ

 豊音手牌:一二三四六七八九45677 ツモ:[五] ドラ:③・東

桃子(セ、セーフっすけど……!! 親っ被り! 私の点数があと一万六千ちょい――!?)

セーラ(……東横の《ステルス》がそうなんと同じで、和了って手牌を晒すときは、一時的に効果が解除されるらしいな。いや、やからなんやねんって感じやけど……)フゥ

怜(これは参ったな。一応、和了ると一旦能力の効果が切れるようやから、未来でその様子を見ることができるうちは、振り込みはしない。せやけど、それはまったく本質的な解決になってへん)

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ「親番……行っとこかー」コロコロ

桃子:16600 セーラ:110100 怜:128100 豊音:145200

 南二局・親:セーラ

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

怜(東横さんもセーラも、恐らくは、この姉帯さんに対抗する術は持ってへん。姉帯さんの言う通り、一色占有の神様、絶対変態の姫子、それにヒトやない《三人》以外で対抗できる人類はおらへんやろ)タンッ

怜(それでも、諦めるわけにはいかへん。うちには超能力がある。東横さんとセーラには見えへんもんが見える。それを活かして、この場で何かできることを見つけな……)タンッ

怜(とりあえず、情報を整理。姉帯さんのこれは感応系や。本人はデジタルで手を進める。さっきは普通の順子手で和了っとったし、残り局数を考えても、和了率下げてまでセオリー外してくるとは考えにくい。
 普通に素直に手を進めて、広く受けて連続和了を狙うはず。やとしたら、字牌で待っとる確率は比較的低いやろ。
 気休め程度やけど、当たらずとも遠からずな傾向。まあ、配牌から染め手が狙えたりとか、例外はあるやろけどな……)

怜(それから、重要なんは、さっきの南一局。よくよく河を思い出すと、姉帯さんはリーチ後、セーラから出た和了り牌を見逃しとる。
 つまり、姉帯さんは、出和了りを控えとる――東横さんの《ステルス》を《無効化》できてへんのや)

怜(こっちとしては、色と形を奪われて、その上一人の捨て牌がまったく見えへんっちゅーありえない場になっとるわけやけど、東横さんのおかげで、姉帯さんの動きに制限が掛かっとる。この事実を、なんとか利用できひんもんやろか……)

豊音「リーチ……ッ!!」

怜(またリーチか……知っとったけど、ホンマどないしよ――)ツモッ

     ――ツモ、1000・2000ッ!!

怜(一発やと……? リーのみで助かったっちゃ助かった。ほんで、あー、見える見える。うちの手牌がどうなっとるのかも、姉帯さんが何で待っとるのかも、見えるで。せやけど、これ、いかんせん、席順がな――)

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

怜(姉帯さんはうちの下家。姉帯さんがツモるんは、うちが牌を切った直後。これが逆やったら、うちが牌切ってから姉帯さんのツモまでにラグがあって、それ次第では、鳴いてズラすこともできたんやろけど……)

怜(姉帯さんのツモを未来視で見てズラせるうちが、よりにもよって、姉帯さんの上家に座ってもうた。
 東横さんとセーラはうちの捨て牌を鳴けへんわけやから、ズラさせることはできひん。直後にツモられるから、ズラすこともできひん。詰んだで……)パタッ

豊音「ツモ、1000・2000ッ!!」パラララ

桃子(一発っすか……!!)

セーラ(怜がおるのに一発やと――? あ、そっかっ!? 怜は姉帯の上家やん! 未来視で姉帯のツモが見えても、身動きできひん!?
 しもた。怜の未来視とズラしスキルがあれば、最少被害で回せるかもって早合点しとったけど、この席順やとそれも無理なんか。ほな、ちょ、どないすんねん!?)

怜(マズい。年貢の納め時やで……)

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子:15600 セーラ:108100 怜:127100 豊音:149200

 南三局・親:怜

桃子(どうやら、超ノッポさんは私の《ステルス》を《無効化》できてないらしいってのは、わかったっす。
 ただ、振り込みの可能性が消えたとは言え、この点棒のなさ。そして展望のなさ。席についてるのも、正直つらいっす……)タンッ

セーラ(姉帯はツモ狙い。東横が見えてへんのか。姉帯は東横の上家やから、直撃はさほど警戒しなくてええんかな。
 怜のズラしスキルが封殺されとる現状、東横の存在はかなり重要や。こいつがおらんかったら、それこそ殺戮が始まっとったで……)タンッ

怜(東横さん……見えへんけど、自分には助けられとるで。この状態で出和了り可能やったら、ホンマに姉帯さんの独壇場になる。と――)

  ――チー!

怜(鳴いてくるんか。この状況やったら、リーチ掛けてツモしまくるんが一番稼げるはずやけど、配牌あんま良くなかってんやろか。それか、ドラで打点が保証されとる、とか。いずれにせよ、ここは止める。
 『色』はわからへんでも、『数』は認識できるから、チーやったら、『数』をズラせば鳴きは阻止できる……)タンッ

豊音(むー。鳴いて進めたいけど、園城寺さんが上家だからな。ま、けど、それはそれで、ツモ和了りをズラされない利点があるみたいだけど。この手、なんとか、海底までに和了りたいよね……)

怜(この『数』は止めて、ほんでもって……)

     ――ポン!

怜(っと、さっきとはまた別の『数』。しかもドラの『数』と一緒やんな。ドラ爆……その上で清一狙いとかやったら洒落にならへんで。
 ま、『色』が区別できひんから、染め手を警戒しようにも牌の絞り様があらへんのやけど。なんとか、できるだけ有効牌を切らへんように……)タンッ

豊音(ちょっと……手が重い……)タンッ

桃子(空気が重いっす……!)タンッ

セーラ(解決の糸口すら掴めへん)タンッ

怜(最少被害で……回す――)タンッ

 ――流局

豊音「テンパイ」パラララ

桃子・セーラ・怜「ノーテン」パタッ

桃子(門前清一ドラ二……!?)

セーラ(やりたい放題やないかっ!!)

怜(危な……一つでも鳴かれとったらアウトやったな。特にこのドラ。止めて正解やったわ)フゥ

豊音(園城寺さん、私が鳴く未来を見て悉く止めてたのかな。東横さんと園城寺さんの二人から鳴くことができないとなると、やっぱり門前でリーチ掛けるのが一番確実。こればっかりは運次第だけど、このラス親で稼ぐ!)

桃子(こ、このまま何もできずに終わるっすか!? というか、このラス親でトばされたら……いやいやっ!! 弱気になっちゃダメっす!!
 私の《ステルス》は効いてる。それを、どうにか、何かに繋げることができれば……)

セーラ(まったくええアイデアが浮かばへん。禁断の力っちゅーだけのことはある。『色』も『形』も奪われて、捨て牌見えへんやつおって、未来見えるやつがおる。普通の麻雀させてーなー)

怜(人間には打ち破れへん力――か。仏もほとほと滅入ってまう《仏滅》。うちの未来視の力を持ってしても、鳴かれへんよう牌を絞るんで精一杯。
 まあ、東横さんが絶賛《ステルス》中で、うちが牌を絞り続ければ、遠からずノーテン流局で中堅戦は終わると思うけど。ホンマにそれでええんやろか――)

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

怜(……そういえば、姉帯さんは、遠野の地――山奥の村から転校してきた、ゆーてた。ほな、麻雀を打てる人なんて限られてたんとちゃうかな。
 麻雀好きやのに相手がいないとなれば、麻雀大会の中継とかを見て気を紛らわすやろ。白糸台の校内戦も、大きなやつなら全国規模で放送される。きっと見てたに違いない。
 やとしたら……姉帯さんも、うちと同じなんかもしれへんな)

怜(モニターの向こう側。そこで活躍するスター選手、けったいな能力者、尋常やない実力者。《頂点》に立ち向かっていく多くの同世代の雀士……それは夢であり、憧れや)

怜(姉帯さんは今、夢の舞台で戦っとる。人間相手に使うな言われとる能力を解禁してまで、勝とうとしとる。ほな、うちも頑張らんとな。憧れの舞台で戦っとるんは、うちかて同じやん)

怜(うちは《求道》を止めぬ元無能力者。《求道》は《求憧》――求めることを止めない限り、いつか絶対に、うちはうちの憧れに届く。
 ほんで、ここで能力に屈するんはうちの憧れやろか?
 ちゃうやんな。まだまだここからや。相手が強ければ強いほど、遠ければ遠いほど、燃えるで。この中堅戦、残すところはこの姉帯さんのラス親だけ。どうにかこの手で捉まえてみせる……《絶対》に――!!)ゴッ

桃子:14600 セーラ:107100 怜:126100 豊音:152200

 ――《新約》控え室

絹恵「怜さん……!」

姫子「な、なんのどがんなっとっとですか、さっきから……!?」

初美「《人からあらゆる色と形を奪う》感応系の能力。でもって、姫様と霞なら打ち破れるときて、怜や他二人の、さっきからのあの妙な理牌。
 たぶんですけどー、字牌は全て同じに見えてて、数牌も『数』以外は認識できない――とか、そういった具合になってると思われるですー」

絹恵・姫子「SOA!!」

初美「《最大》は《在大》――大いに自在なるレベル4の多才能力者《マルチスキル》。姉帯さんなら、これくらいのオカルトはやってきてもおかしくないですー。
 学園都市にただ一人、全系統を使いこなす大能力者《レベル4》。ポテンシャルの塊なんですからー、あの人は」

絹恵「な、なあ、和! これはどないすればええの!? デジタル思考でええから、なんかアドバイスしてーな。こんな異常な対局、心引きちぎれてまうわ!」

和「私は何度も何度も何度も何度も言っているはずですが、最適効率で打っていけば、そこそこの確率でそれなりの期待値で和了れます」

姫子「ば、ばってん、初美さんの話やと、今の怜さんは『色』も『形』も奪われとうよ? 『数』以外は何も見えん。効率とか、そいな次元の話やかなと!」

和「ですから、私は何度も何度も何度も何度も言っているはずです。見えるとか、見えないとか、そんなオカルト――」

初美「ありえない……ですかー?」

和「ええ。その通りです」

絹恵・姫子「せやけど(ばってん)……」

和「信じましょう。私たちのエースを。怜さんは欠陥品ですが、やるときはやる頼もしい雀士です。
 大体、お二人して何をそんなにうろたえているのかわかりませんが、私にははっきりと見えますよ。怜さんが活躍する未来……あの人の背中に生えた、真っ白な翼が――」

絹恵「え、いや、いきなりノロケられても」

姫子「白い翼? どこにそんなん生えとう?」

和「ひ、比喩表現ですっ////!! あとノロケとかSOAッ!!」

初美「まー、和が大丈夫っていうなら大丈夫ですかねー。私は安心したですよー」

絹恵「うー! ようわからへんけど、頑張ってください、怜さんっ!!」

姫子「ファイトとですよー、怜さーん!!」

和(怜さん……オカルト思考に惑わされてはいけません。運も、特別な力も、私たちの世界には不必要。まして《意識の偏り》なんて不純物、存在してはならないのです。
 完全なる理論《デジタル》の美しさ。それを、怜さんは知っているはずですよね。さあ、見せてあげてください。あなたの力を……!! 存分に――!!)

絹恵「あ――」

姫子「む……!」

初美「おっとー?」

     豊音『ツモ、2000は2100オールッ!! 連荘続行だよー!!』

絹恵「ツ、ツモられた……けど、なんや、それはそれとして、怜さんの様子がおかしないか?」

姫子「なんで、あんな顔ば真っ赤にして……?」

初美「あー、そうですかー。とうとう飛び越えてしまうわけですかー。ヒトの領域――壁のこちら側からあちら側へと……」

和「ようやくお目覚めのようですね。おはようございます……怜さん――!!」

     怜『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

怜「いや~、この間の合宿は楽しかったなー、和」

和「怜さん、突然ですが、プレゼントがあります」

怜「えーっ? マジか!! 和がうちにプレゼント!? 久しぶりに予知せぬ未来が来たでー!! ん……せやけど、手ぶら? ハッ――まさか!? 和自身がプレゼント!! 私を好きにしてとかそういう!?」

和「SOA。形のないプレゼントなんです。今から怜さんの電子学生手帳にデータを送信しますから、開いて見てください」ピピピ

 ピロン

怜「おっ、来た来た。ほんで……え、何これ? A……F?」

和「はい。特別強化用ソフト――『AF』です」

怜「は?」

和「ネット麻雀を嗜む人間として、麻雀ソフトを一から作りたいというのは、当然の欲求かと思います。
 私はこれまで自作の麻雀ソフトをいくつか作ってきましたが、その技術を応用して、怜さんのオカルト思考を矯正するための特別強化用ソフトを開発しました」

怜「どういうこと?」

和「これは、私が普段から練習用に使っている麻雀ソフトを、怜さん専用に改造したものです」

怜「やから、どういうこと?」

和「怜さんは《一巡先が見える》などとわけのわからないことを言って、わけのわからない打牌をします。しかも、どんなに私がSOAと言っても、《一巡先が見える》と主張します。
 その頑固さは、軽く尊敬に値します。なので、こちらもアプローチを変えてみることにしたんです」

怜「んー?」

和「《一巡先が見える》――いいでしょう。それが怜さんの《絶対》ならば、他人の私に口を挟む権利はありません。オカルトは認めませんが、その《絶対》を信じるか信じないかは、怜さんの自由ですから」

怜「お、おう。おおきに」

和「なので、百万歩譲って、怜さんには《一巡先が見える》とします。そういうフィクション――そういう、麻雀とは全く別物のゲームが、どこかの世界にあったと仮定します。
 その仮定の上に作り上げたのが、この特別強化用ソフト――『AF』です」

怜「えーっと、つまり、あれか! 小走さんの《幻想殺し》と同じ、能力込みの麻雀ソフトってことか!?」

和「麻雀ソフトではありません。これは麻雀というゲームではないからです。『AF』と呼んでください」

怜「こだわるな……。ま、まあ、わかったわ。和は、自分のデジタル練習用の麻雀ソフトを基にして、うち専用の麻雀やない何か――『AF』っちゅー新しいゲームソフトを作ってくれたわけやんな?」

和「そういうことです。さて、この『AF』。ちょっとやってみればわかりますが、基本的なルールは麻雀と同じです。
 ただ、通常の麻雀と大きく異なる点が一つ。プレイヤーにだけ《一巡先が見える》のです」

怜「なるほどなるほど」

和「ま、ここからは、やって見せたほうが速いでしょう。私の電子学生手帳には既にインストールしてあるので、こちらでチュートリアルをしますね」ピピピ

 ピコンッ

和「はい、これがメニュー画面になります」

怜「おお、なんや全体的にピンクでフリフリしたデザインやな……!」

和「これは私の趣味ですので、文句は受け付けません。さて、では、一局打ってみましょう」ピピピ

怜「おっ、対局が始まった! 起親か。ん……けど配牌少なない?」

和「そういう仕様なのです。親でも子でも、配牌は十三枚からスタートするんですね。
 そして、第一ツモを含めた十四枚が、こちらの別ウィンドウ――『未来画面』に表示されます。この中から、捨て牌を選んでください」

怜「ほな、オタ風の西!」

和「はい、西を選択します。と、このように西の色が変わります。これを、『予定の捨て牌』と名づけますね。
 続いて、元の対局画面に戻って、実際に第一ツモを手に入れます。すると、こちらの『未来画面』に、『予定の捨て牌』である西を切った場合の他家の捨て牌、及び次巡のツモ牌がなんであるかが表示されます」

怜「ほむほむ」

和「ここで、予定通りに西を選ぶとしましょう。その場合、まず、『次の一巡後に何を切るか』を最初の西と同様に選んでおきます。何にしますか?」

怜「ほな、四萬でカバーできる一萬」

和「わかりました。これで、次巡の『予定の捨て牌』は一萬になりますね。で、また元の対局画面に戻って対局を進める、と」

怜「西切りやんな!」

 ピコ ピコ ピコ

和「はい、というわけで、表示された通りの一巡後になります。
 さて、ここで、また『予定の捨て牌』である一萬を切った場合の一巡後が、未来画面に表示されます。おっと、一萬は上家にロンされるようですね。どうしますか?」

怜「もちろん違うの切るわ。中にでもしとこかー」

和「はい、すると――」

 ピコ ポン ピコ

和「このように、表示されていた通りの一巡後にはなりません。無論、表示された情報は信頼していただいて結構です。一巡後にツモるはずだった牌は、ズレたなら、ズレた人のところへ流れます」

怜「あれ? こっちの未来画面? が暗くなってもーた」

和「『予定の捨て牌』を選ばなかった場合、この『未来画面』は二巡経過するまで回復しません」

怜「完璧な再現度やんっ!」

和「いかがですか、怜さん。この『AF』。楽しく遊べそうですか?」

怜「モチのロンや! っしゃー、そうと決まれば早速インストール! 連勝したるでー!!」

 ピコ ピコ ピコ ピコ

 ――――

 ――――

怜「クソゲーや! なんやこれ!! 全然勝てへんやんかー!!」ウガー

和「まだ一時間も経ってませんよ……」

怜「なんなんこのNPC! 強過ぎやろ!! うちは一巡先を見てんねんで!? ズラしても和了ってくる! 振り込み回避すると別のやつに直撃される! 和、これ、ホンマにNPCには未来見えてへんの!?」

和「《一巡先が見える》のはプレイヤーだけです。NPCは、ただ状況に合わせて最適効率の打牌をしているだけです」

怜「嘘や……」

和「ただ、まあ、そのNPCは私が練習用に使っているソフトの中でも最強――スペシャルハードモードのNPCなので、有り体に言えば、私と同じくらい強いということになります」

怜「ほ、ほな……うちは和三人に囲まれると、ボロクソに負けるんか……?」

和「怜さんのように非効率な打ち回しをする人に、常に最適効率で打っている私が勝つのは、当然とは言わないまでも、自然なことです」

怜「そんな……え? ほな、和は、自分の正当性と強さを証明するために、こんなクソゲー作ったん?」

和「クソゲーではありません。『AF』です。それと、私はそこまで自己顕示欲の強い人間ではありません。言ったはずです。これは、怜さん専用の特別強化用ソフトだと」

怜「は……?」

和「メニュー画面を見てください。通常対局モードの他に、デュプリケート対局モードというのがあるのがわかりますか?
 このモードは、自分が半荘を打ち終えたあとに、NPCがまったく同じ乱数で打つのですね。性質上、親の連荘はできません」

怜「自分の判断とコンピュータの判断を比較できるやつやんな。小走さんの《幻想殺し》でやったわ」

和「私のプログラマとしてのプライドのために言っておきますが、この『AF』のNPCは、小走博士のNPC《のどっち》より強いはずですよ。私自身が何年もかけて思考ルーチンを改良し続けて、今のこれになっているわけですからね」

怜「すごいな……」

和「というわけで、デモンストレーションとして、私がデュプリケート対局をやってみましょう。貸してください」

怜「どぞー」

和「では……やりますか――」スゥ

 ピコピコピコピコピコピコ

怜(打つの速……ッ!! やり込んでんなー!!)

 ――――

 ――――

 ピロリロリローン

和「ふう。ま、こんなもんですね。どうぞ、結果が出ました。ご覧になって結構ですよ」スッ

怜「はああああー!? 一致率100パーセント!? え、ほな、NPCとまったく同じ手順で打ったっちゅーこと!? 当然のように同じ結果……ほんでしかも断トツやと!?」

和「断トツは多分に偶然ですが、同じ手順になるのは必然です。このNPCは限りなく私に近いですから」

怜「色々信じられへん……」

和「さ、今度は怜さんの番です。さすがに今のスピードで全ての手順を覚えてはいないでしょうから、せっかくなので、私が打ったのと同じ乱数で打ってみてください。違いがはっきりわかると思いますよ」

怜「お、おう……わかった、やったるわ。こいつら相手でもやり方次第では断トツ取れる乱数なんやもんな。楽勝やでー!!」

 ピコ ピコ ピコ ピコ

 ――――

 ――――

怜「なんでええええ!? なんでまたラスなん!?」ウガー

和「何度も言ったように、怜さんが非効率な打牌をしているからです。それでは勝てるものも勝てません」

怜「まさに目に物見せられた気分や……」

和「ここのヘルプウィンドウで、その時々のNPC判断を見ることができます。例えばですが、この局面」ピッ

怜「一巡後にテンパイするんが見えたとこやんな。けど……あれ? NPCはテンパイに取らへん? なんで?」

和「ここは、期待値を考えるとこちらのほうがいいのです。詳しくは、このウィンドウの端に表示されている数字。 
 これが、私の愛読書である『デジタル解体新書第四版(著:熊倉トシ・瑞原はやり)』のページ数に対応しているので、該当箇所を熟読してください」ドサッ

怜「ぶ厚っ!? なんやこの辞書!!」

和「デジタル論の全てがここに詰まっている――と言っても過言ではない名著の最新版です。私は、これ以外のどんな麻雀指南書も読んだことがありません。これ一冊で事足りるからです」

怜「ほあ……」

和「あ、言い忘れていましたが、この『AF』は、麻雀ではないので、対局に勝つことが目的ではありません」

怜「え? ほな、なんなん?」

和「私が先ほどやってみせたこと。デュプリケート対局におけるNPCとの完全一致。無論、NPC判断を見ることなく、です」

怜「一致率100パーセントを達成しろっちゅーことか」

和「はい。それが、この『AF』というゲームの目的――クリア条件です。しかし、まあ、初めのうちは、逐一NPC判断と自分の判断を見比べてください。
 食い違っていたら、必ず参考書で確認。納得したら、次へ進む。だんだん慣れてきたら、閲覧回数を少なくする。それでも結果が芳しくないときは、またNPC判断を逐一確認……」

怜「先は長そうやな……けど、むっちゃオモロそうやん!」

和「頑張ってください。ちなみに、一致率100パーセントを達成すると、先ほどのピロリロリローンという電子音とともに、とある画像を見ることができます。同時に、『AF』が何を意味するかも――」

怜「画像!? それはもしや……和のえっろえろな!?」

和「さあ、それはどうでしょうね」ニコッ

怜「えっ? 嘘!! ホンマに!? プレゼントってそういうことなん!!?」

和「まあ、それで怜さんがやる気を出してくれるなら……」

怜「うおおおお!! やったる!! 《絶対》に見たる!!」

和「ちなみに、本選トーナメント開始までに達成できなかった場合、画像は自動的に削除されるようプログラムしてあります」

怜「ほな、それまでに見れれば永久保存できるわけやな!?」

和「ご自由にどうぞ」

怜「っしゃあああああああああ!!」ゴッ

 ――――

 ――――

 ペラ ペラ ペラ ペラ

和「怜さーん、施錠しますよ」

怜「あ……もうこんな時間か」

和「最近、『AF』の調子はどうですか?」

怜「あー、あれな。最近はあんまやってへん」

和「ほう」

怜「やって、どうやっても一致率が上がらへんねんもん。勝率も当然上がらへん。そもそも、NPC判断と自分の判断が食い違い過ぎてて、半荘一回打つのに何時間も掛かるし。やから――」

和「だから?」

怜「和のバイブル。このレンガ本。本選までに全部を頭に入れるんはさすがに無理やけど、丁寧なことに読者のレベルに合わせてどこの項目を読んでいったらええかの案内がついとる。
 とりあえず、小学生向けのとこは読み終わって、今、中学生向けのとこが読み終わるとこ。なんちゅーか、基礎が固まってく感じがするで」

和「なるほど。その辺りだと、ちょうど、私が中学生になる頃に読んでいた辺りですね。今の怜さんなら、きっとインターミドルでいいところまで行けるはずですよ」

怜「うち高三なんやけどな~」

和「地道に進んでいくしかないのです。しかし……安心しました。私が言うまでもなかったようですね。
 ひとまず、予選が終わるまでは、『AF』には触らなくていいと思いますよ。参考書の読み込みを頑張ってください」

怜「おうっ!!」

 ――――

 ――――

 ピコ ピコ ピコ ピコ

怜「おーっ!? やったー!! 初めてトップとったったでー!!」ババーン

絹恵「おお、怜さん。どないしました、そんなはしゃいで」

姫子「あれ、またやり始めたとですか? デジタル力ば鍛えるゲームとですよね、それ」

怜「和からのプレゼントや! ええやろー?」

絹恵・姫子「ほえ~」

怜「ほんで一致率は――え……50パーにも達してへん……なんで?」

和「おや、怜さん。どうかしました?」

怜「和ぁ、ようやくNPCに勝ったんはええんやけど、一致率が半分もいってへん」

和「それはそうでしょう。今の怜さんの修練度は、言うなれば数年前の私です。完璧とは言い難い。妥当な数値です」

絹恵「ふーん? ようわからへんけど、麻雀のゲームをしてはるんですよね?」

怜「平たく言えばそやな」

和「まったく違います。『AF』です」

姫子「なんにせよ、麻雀ない、勝っとうないよかとやなかですか? トップば取ったとですよね?」

怜「っ――!?」

和「ですから、『AF』は麻雀ではありません。勝つことは目的ではないのです」

絹恵・姫子「?」

怜「………………」

和「どうかしましたか、怜さん?」

怜「え、あ、いや、その……今のうちのデジタル力は、中学生一、二年の頃の和と、同じくらいなわけやんな?」

和「そうですね。ミスも多いですし、余計な情報に気を取られがちです。牌効率も理想からはほど遠い」

怜「せやけど、このNPCは、今の和と同じくらい強いんやろ? なんで中学生の頃の和が、今の和に勝てるん?」

和「はあ? 何を言ってるですか。一人だけ計算に組み込める情報が多いんですから、ある程度のデジタルの心得があれば、そこそこの確率で勝てますよ。当たり前じゃないですか」

怜「ある程度のデジタルの心得があればそこそこの確率で勝てる……やと……?」

和「いいですか、怜さん。何度も言うように、『AF』は麻雀ではありません。なので、必ずしも勝利する必要はない。というか、よほどのことがない限り、ほとんど全ての対局で勝利を収めることができます。
 なぜなら、プレイヤーは、一人だけ見えている情報が多いからです。最初からプレイヤーに有利な条件で戦っているんですから、勝つのは当然なことなのです」

怜「な、なあ、それって、つまり――」

和「つまり、今まで通り、勝敗に拘らず、一致率100パーセントを目指してください。参考書のほうも、まだ読み込めていない項目はたくさんありますよね?」

怜「せ、せやな……」

和「では、私は狩宿先輩に巡回の報告をしてくるので。一旦失礼します」タッ

怜「………………」

絹恵「どうかしたんですか、怜さん?」

姫子「どこか具合でん悪かとですか?」

怜「いや、なんでもあらへん――」

初美「やっほーい! ただいまですよーっ!! 巡回の途中でお菓子買ってきたですよー」

怜「な、なあ、初美!」

初美「ほえ?」

怜「絹恵も、姫子も!」

絹恵・姫子「はい?」

怜「ちょっと、一局だけでええから、打たへん? 東風戦でもええわ。ほら、最近、ガチのやつはやってへんかったやん」

絹恵「そら、怜さんは一人だけ別メニューやったからですやん。その、『AF』? とかいうんで」

姫子「対策会は一緒やったばってん、確かに、実戦練習は控えとったとですよね」

初美「なんかずっとピコピコやったり辞書眺めてたりだったですけどー、力試しがしたくなったですかー?」

怜「そ、そやねん! ほな、一局やろかー」

 ――――

 ――――

怜「………………」

絹恵「ほあー! ええ感じですね、怜さん。なんや、置いてかれてもーた気いするわー」

姫子「なんか、ちょっと和っぽか打ち方すっとですね。北家の初美さん相手に即リーとか」

初美「これが秘密特訓の成果ですかー? やりやがるですねー、怜」

怜「お、おおきに……」

和「戻りました。では、練習を――おや? 四人で打っていたんですか?」

絹恵「怜さんが打ちたいーゆーて。えらい強かったでー。和もきっと楽勝はできひんと思うわ」

和「ふむ……」

姫子「どげんしたと? なんぞ気に入らんことでんあっ?」

和「いえ、怜さんには、今後もこの調子で頑張っていただきたいと思います。引き続き、別メニューで特訓ですね」

初美「じゃっ、和も戻ってきたですしー、練習始めるですよー!」

絹恵・姫子「はーい!」

怜「…………」

和「どうかしましたか、怜さん? やはり、一人で別メニューはちょっと寂しかったですかね。すいません。気が回らなくて」

怜「あ、いや、それはええねん。『AF』もデジタル論の勉強もオモロい。ただ、なんちゅーか……びっくりしてん」

和「びっくり、というと?」

怜「東風戦……たった一回やけど、打って、トップ取って、絹恵も姫子も初美も、強うなったって言うてくれた。でも――」

和「なんですか?」

怜「うち、正直、今、流して打っとった。特に意識もせんと、ふわふわーっと、なんとなーくええ感じになるように打って……それだけで、いつの間にか勝っとった」

和「なるほど」

怜「なあ……和。自分、今のうちに、麻雀で勝てると思っとる?」

和「少なくとも、ネト麻なら、私のほうが圧倒的に良い成績を残せますよ」

怜「リアルなら?」

和「打ってみないとわかりません」ニコッ

怜「……わかった。うち、頑張るわ……!!」ゴッ

和「はい。その意気ですよ、怜さん――」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

 南四局二本場・親:豊音

怜(ふー……なんや、あまりにオカルトな状況に、軽く走馬灯や。ホンマ、悪夢もそろそろ見飽きたで。和の膝の上でもあらへんのに、ぐーすかぴーすか寝過ぎたわ。ぼちぼちお目覚めせなあかんよな……)

 北家:園城寺怜(新約・124000)

怜(和からプレゼントしてもろた、うち専用の特別強化用ソフト。麻雀によく似た何か。その名も『AF』。
 合同合宿終わってからずっとやり込んで、ほんの二週間前――覆面騒ぎが終わったくらいで、ようやっと達成した、一致率100パーセント)

怜(思い出すんや……あのときの感覚を。画面の中に落ちていくような、意識が分散して世界と溶け合うような、ただ理論だけと向き合うあの感じ……)

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:姉帯豊音(逢天・158500)

怜(和の『AF』特訓のおかげで、相当強くなった気はする。三回戦ではかなり戦えた。さっきの前半戦やって、あのセーラ相手に競り勝てた。せやけど、まだや)

怜(あのときのうちの意識は、もっと洗練されとった。余計なものが何一つない。計算と理論。効率と確率。何者にも侵すことのできない自由。至高の思考――)

怜(そこにあるのは、純然たる論理。必要なものは唯一それだけ。捨て牌が見えへん? 高い手を好む? 色と形が奪われる? ちゃうやん。ちゃうちゃう。あの純粋な世界では、それらの偏りは一切に排除される……)

怜(和……自分には感謝しとるで。和は、うちに、この世で最も美しいものの一つを見せてくれた。完全理論《デジタル》……惚れ惚れするわ。ホンマ、うちは自分が大好きやで、和ッ!!)ゴ

桃子(え――未来視さん、どうしたっすか?)

 南家:東横桃子(煌星・12500)

豊音(園城寺さんの顔が……熱でもあるみたいに赤い――)

セーラ(おい、もうオーラスやで。どえらいお寝坊さんやな、怜……!!)

 西家:江口セーラ(幻奏・105000)

怜(『AF』……それはとある熟語の頭文字や。白い翼。輝く天輪。和好みのフリフリの服――)ゴゴ

 フワッ

桃子・豊音・セーラ(羽ッ!!?)

怜(うちと一緒に戦ってくれるやんな、和。あらゆる《意識の偏り》を排除し、そこにただ一つ残る理論《デジタル》を武器にして戦う――これがホンマの守護天使《ゴールキーパー》! 自由な思考の守り神……!!)ゴゴゴ

桃子・豊音・セーラ(真っ白な……翼――!!)

怜「おおっ!? あははっ、なんや、これ! 嘘のようにすっきりやん! なあ、東横さん、姉帯さん――自分ら、どんな効果のどんな能力を使えるってー!?」ゴゴゴゴ

桃子「わ、私の《ステルス》は……私の触れた牌を、他人から見えなくする能力……」

豊音「私の《仏滅》は……人からあらゆる色と形を奪う能力――数牌は『数』以外見えなくて、字牌は『字牌である』としか見えない……」

怜「見える! 見えない! せやんな……そんな《意識の偏り》に捉われとるうちは、『AF』はクリアできひん!!」ゴゴゴゴゴ

セーラ(まるで怜やないみたいやな……完全に中身が別人やん。この気配の無さ、問答無用のオカルト否定……どこからどう見ても、これは原村和やで――)ゾクッ

怜「ほな言わせてもらおーか!! 見えるとか!! 見えないとか!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子・豊音「――っ!?」ゾワッ

怜「そんなオカルトありえへんッ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(これは、おっぱいさんと同じ――!? 《意識の偏り》を意識的に排除することで、感応系能力者との共振を防ぐ裏技……!!)

豊音(ちょーどっちがオカルトだよー!!)

怜「姉帯さんの《仏滅》――人間には使うたらあかん言うたっけ? 安心してや! 今のうちは、ヒトやない。こちらのエトペン使うてな、おまもり術式発動やッ! 天界から、ちょっくら天使を呼び寄せてん!!」

セーラ(外見は怜。中身は原村。絶対《オカルト》と理論《デジタル》の融合体。これが限りなくナンバー3に近いナンバー4とのシミュレーション結果を出した、怜の完全羽化状態――ッ!!)

怜「天使降臨《エンゼルフォール》!! 悪いな、うちからはハッキリ見えるで!! 捨て牌も! 色も! 形も! ついでに一巡先の明るい未来もなッ!!」

桃子(ってことは、この人とはガチ麻雀!? 否、こっちは《仏滅》状態で圧倒的不利!! しかもハネ直即死……!! くっ、耐え切るっす――!!)

豊音(私の《仏滅》と東横さんの《ステルス》を同時に《無効化》……!? ど、どういうことー!!?)

セーラ(あははっ、ダメや。笑ってまう。負けとるのに。やって、この神も仏も滅するような白黒の世界で……怜だけ色付いとるんやもん。いやはや大した天使様やで、ホンマに――!!)

怜「さて、ちょっと失礼して……」スゥ

桃子・豊音・セーラ(第一打で悩むクセ! 完全に一致!!)

怜「ほな、行かせてもらうわ――!!」ヒュン

 ――特別観戦室

     怜『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「菫、決勝で私をあいつと戦わせろ。斬りたくてうずうずしてならない」

菫「考慮しよう」

塞「私らはどうしようか?」

まこ「わしパス」

純「オレもパス」

穏乃「では、僭越ながら私がっ!!」

照「高鴨さんは相性悪いからダメ。井上さんか染谷さん、頑張って」

憩「エイさん、天使の通り名被ってますけど?」

エイスリン「ドーミテモ、テンシ、ワタシ。アレ、バケモノ」

衣「本当に人ではない何かのようだ。ただ、神や悪魔や天使とも違う。それこそ意識も感情もない機械のような……」

憩「感応系能力は人間と共振する力や。そら、機械相手に発動できるわけがあらへんよな。これはお見事やでー」

     怜『ロン! 5200の二本場は5800ッ!!』

     豊音『は、はいっ!!』

『中堅戦終了ー!! 《新約》園城寺怜、安定感のある打ち回しでトップ《逢天》に迫りますっ!!
 《幻奏》は後半失速しましたが、十分巻き返せる位置につけています。苦しいのは《煌星》! ここから立て直すことができるのか!?』

照「立て直すに決まっている。あの実況はどこに目をつけている。次は咲が出てくるというのに」

純「案外トぶんじゃねえの? 妹ちゃんは豆腐メンタルで逆境に弱そうだしなー」

照「お黙り」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純「」

まこ「お、純が照の支配力に押し潰されて気絶しよった」

塞「口は災いの元よね」

穏乃「けど、照さんの妹さんでもきっと苦戦しますよ。優希も和も強いですから」

菫「今しがたの園城寺を見てしまうと、原村もかなり人外な生き物ということになるよな」

智葉「原村は、強いかどうかは別として、世界的に見てもかなり珍しいタイプの打ち手だと思う。
 私は個人的には片岡のほうが好みだがな。もっと髪を伸ばして一つ結びにすれば最高だ」

エイスリン「ダマリヤガレ、コノ、クソヤロウッ!!」

衣「さとはの趣味はよくわからん」

憩「超絶知りたくもあらへんけど……」

『まもなく、副将戦を開始します――』

 ――――

咲「お疲れ、桃子ちゃん」

桃子「疲れたっす」

 四位:東横桃子・-24100(煌星・12500)

咲「淡ちゃんのおバカパワー、まるで役に立たなかったね!」

桃子「そんなことないっすよ。おかげさまで高い手ばっか張れたっす。超ノッポさんの能力がなければ、かなり稼げてたはずっすよ。
 あと、ハネ直即死のオーラスを生き残れたのも、超新星さんの悪運が効いたっす」

咲「いやいや、全部桃子ちゃんの実力だよ」

桃子「実力って……私は後半焼き鳥で終わったっすよ?」

咲「そうだね。でも、ちゃんと私に繋いだ」

桃子「仇……取ってくれるっすか?」

咲「友香ちゃんと桃子ちゃんは私の配下だもん。二人がやられた分は、当然、私が取り返す」

桃子「時々は超新星さんのことも思い出してあげてくださいっす」

咲「お断り。煌さんからよく言われてるもん。支配力は雑念があると乱れるって。だから、淡ちゃんみたいなおバカ的存在はなかったことにして、平常心で打つよ」

桃子「嶺上さんって本当に超新星さんのことが大好きっすよね」

咲「かつてない侮辱の言葉に心臓が止まるかと思ったよ桃子ちゃん……!!」

桃子「ハイハイっす」

咲「大体、淡ちゃんのことが大好きなのは、桃子ちゃんのほうでしょ?」

桃子「知らぬ存ぜぬっす」

咲「まっ、別になんでもいいけどさー」

桃子「余裕っすね?」

咲「余裕だよ。相手は同じ一年生。負ける気がしないかな」

桃子「頑張ってくださいっす」

咲「うん! それはもうっ! じゃ、行ってきますッ!!」ゴッ

 ――――

和「お疲れさまです。オーラスは文句なしでしたね」

怜「決勝では最初からあれ出せたらええんやけどなぁ」

 一位:園城寺怜・+17300(新約・129800)

和「なかなか難しいと思いますよ。けど……まあ、怜さんなら、できるかもしれませんね」

怜「任せとき。ほな、エトペン返すな。おおきに」ポフッ

和「どういたしまして」ギュ

怜「そこにも怜ちゃんパワーいっぱい溜めといたからな。勝負どころで使ってやー」

和「SOAですが気持ちだけは受け取っておきます」

怜「どや、自信のほどは」

和「別に。いつも通りに打つだけです」

怜「愚問やったか。ま、頑張ってな! ほなー」

和「あ、怜さん――」

怜「ん?」

和「その……あの……」ゴニョゴニョ

怜「へ? なんや聞こえへんけど――あっ!」

和「え?」

怜「わかったわ! さては緊張しとんのやろ!! ほな、そんな和にはこうやー!!」

 バサァ

怜「ほっほー、今日も今日とて」

 バキッ

怜「和……蹴りの精度が飛躍的に上昇したな……顎に爪先モロ来たで……」

和「自業自得ですっ/////!!」カー

怜「ほな、改めて。気張ってなー」

和「できる限りのことはします」

怜「行ってらっしゃい、和!!」

和「ええ、行ってきます――」ゴッ

 ――――

優希「お疲れだじぇ、セーラお兄さん!」

セーラ「疲れたも疲れたわ。幽霊おるし山女おるし天使おるしの超スペクタクル体験やったで」

 三位:江口セーラ・-3000(幻奏・105000)

優希「ネリちゃんとやえお姉さんは大笑いしてたじょ。誠子先輩は途中から何も喋らなくなったけどな!」

セーラ「目に浮かぶわー」

優希「あっ、そうだじょ、セーラお兄さん。手を出してくれないか!?」

セーラ「ほほう。こんな感じでええか?」スッ

優希「そ・う・だ・じょッ!!」ブンッ

 バチィィィィン

セーラ「いい振り抜き具合やな。さすが優希やで」ビリビリ

優希「セ、セーラお兄さんもなかなかやるな……!!」ビリビリ

セーラ「気合ばっちりやんな?」

優希「フルちゃーぢっ!」

セーラ「タコスは?」

優希「たらふく!!」

セーラ「やえの有り難いお言葉は?」

優希「耳タコス!!」

セーラ「本日の風向きは?」

優希「ずっと真東!!」

セーラ「完璧やんな! ほな、頑張りや!!」

優希「任せろだじぇーっ!!」ゴッ

 ――――

泉「お疲れさまです、豊音さん」

豊音「ちょー大変だったよー」

 二位:姉帯豊音・+9800(逢天・152700)

泉「せやけど、楽しそうで何よりでした」

豊音「まさか天使が降りてくるとは思わなかったよー。ちょーサインもらわなきゃねー!」

泉「そうですね。まっ、うちらのトップ通過を決めたあとで、ですけど!!」

豊音「あとは任せていいのかなー、イズミ?」

泉「なに言うてはるんですか。うちは《高一最強》ですよ? 副将戦は全員一年。ほな、結果なんて火を見るより明らかですやん」

豊音「うん! ちょーその通りだねっ!」

泉「豊音さんもまだまだ遊び足りないですよね? うちもです。もっともっと楽しいことしたい……」

豊音「ちょーその通りだよー」

泉「頑張ります。精一杯。見ててください」

豊音「……イズミ、ちょー大きくなったねー」ギュ

泉「おおきにです……」

豊音「決勝では尊敬する染谷さんが待ってるんだよね?」

泉「うちの倒すべき相手――宮永照も待ってます」

豊音「逢いに行こう……天上まで」

泉「当然ですわ」

豊音「じゃ、行ってらっしゃい!!」

泉「行ってきますッ!!」ゴッ

 タッタッタッ

泉(豊音さん、ありがとうございます。震え……和らぎました――)

 ガチャ ギィィィ

泉(ったく、まだ卓に着いてもいーひんのに腰が抜けそうやわ……この三人)

咲・和・優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(言わずもがなの化け物。白糸台に五人しかいないランクSにして、あの《頂点》の妹。大星淡と並ぶ今年の一年最強候補本命……《魔王》――宮永咲)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(ほんで、四月のエキジビジョンマッチでぶっちぎりトップを飾った《ゴールデンルーキー》。
 うちのクラスの対木、三組の南浦とかとよう一緒に名前が挙がる準魔物……《東風の神》――片岡優希)

優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(そして……忘れるわけがない。去年の《インターミドルチャンピオン》。うちの最大目標。こいつを抜きに今年の一年最強議論はできひんやろ。なあ……《デジタルの神の化身》――原村和ッ!!)

和「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(《魔王》に《神》に《守護天使》。人外魔境へようこそ、無能力者!! ハッ、むっちゃビビるわ! けど、やったる……ッ!!)ゴッ

優希「よろしくだじょ!」

 東家:片岡優希(幻奏・105000)

咲「よろしくお願いします」

 南家:宮永咲(煌星・12500)

和「よろしくお願いします……」

 西家:原村和(新約・129800)

泉「よろしゅうお願いしますわ――」

 北家:二条泉(逢天・152700)

『副将戦前半、開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

本編とはまったく関係ありませんが、前スレの最後に書き込んだブリーチパロの照さんの斬魄刀の能力――『斬りつけるたびに相手の痛覚を倍にする』且つ『千に砕けた鏡が全方位から対象を切り刻む』という本家・疋殺地蔵ばりの鬼畜設定を私はものすごく気に入っていて、咲さんが助けに来るまでの間に佐々野さんが五、六回ほど薄皮を斬られ泣き叫これ以上は語るまい。

そして、これも本編とはまったく関係ありませんが、どうやら私はSSで好きなキャラを涙目にしたがる傾向があるらしいです。ちなみに、一番好きなキャラは上埜さんで、二番目は咲さおっと片目を瞑った人とピンクい髪の人がいらっしゃいました。

では、失礼しました。生き延びることができたら、また近いうちに現れます。


姉帯さんも仏滅の影響を受けてたと思うけど、何故リーチ出来たんだろう?


これ、今すぐは無理でも後2年モモは実質レベル0で戦わなきゃいけない可能性も有るのか
和の無効化が教え広めることができる技術と分かった以上、和のデジタル論という名の感応系無効化カリキュラムが新たに出来ても不思議じゃないし

乙乙。
豊音自身は仏滅の影響は受けていないと思っていいのかね。
この能力は流石に反則だわ。
鬼畜すぎる。

>>92さん、>>94さん

>塞「豊音の《仏滅》が発動すると、卓上《セカイ》から色と形が失われる。豊音以外の全員が、牌に刻まれた絵柄――その色と形を、認識できなくなるのよ」

というわけで、姉帯さん自身は《仏滅》の影響を受けてないです。東横さんが自分の捨て牌見えるのと理屈は同じです。東横さんが下家にいてダマでも出和了り不可なのと、稼ぐために、ツモる前提でリーチを掛けていました。

>>93さん

『意識的に《意識の偏り》を排除する』技術は、辻垣内さんが原村さんを『世界的に見てもかなり珍しいタイプの打ち手』と評していたり、大星さんや薄墨さんが『原村さんみたいに打つのは難しい』とどこかで言っていたように、ノウハウがあれば誰にでもできる――みたいな何かではないです。技術というよりは、固有スキルといった感じです。

当SSの設定上は、原村さんに限られた固有スキルです。それが、愛ps力と本人の努力によって園城寺さんに伝授された形です。なので、師匠の原村さんは常時発動ですが、弟子の園城寺さんは、どんなに鍛えても清水谷さんの《無極点》くらいの頻度でしかできません。

ちなみに、当SSの咲さんは、槓材に限り東横さんの《ステルス》を《無効化》できますが、これは『《槓材を引き寄せる・見抜く》能力(《嶺上》)に原村さん補正が入ることで成立している』と設定しています。原村さん・園城寺さんと同様の理屈で見破っているわけではなく、あくまで槓材絡みの能力の延長、みたいな感じですね。

>>96
ありがとう
常時無効化は不可能だが無極点くらいの頻度で無効化することは努力次第では不可能ではないって感じの認識で良いのかな?
それとも愛補正が大きくて園城寺さん以外の人には無効化自体不可能って事?

相変わらずめっさ濃いな乙乙
ところで今日のニュース見て思ったんだが、皆既(部分)月食の夜はころたんの力どうなるんだろう

>>98さん

後者です。この固有スキルを、『原村さんから伝授』というルートで発現するためには、愛と努力と適正が必要です。作中で三拍子揃っているのは園城寺さんだけです。

設定上は、原村さんと同等の資質・才能を持つ人間なら、何かの弾みに発現するだろうと思われます。そして、その人から伝授される人も、場合によってはいるかもしれません。伝授された人(子)からさらに第三者(孫)へ伝授するのは、たぶん無理です。

原村さんと園城寺さんの二人以外に、このロジックで感応系能力を《無効化》してくる人は今後現れません。

 *

伝わるかどうかわかりませんが、作中での扱いとしては『るろうに剣心』でいう『二重の極み』に近いです。原村さんは全身で『二重の極み』が使えます。一方、園城寺さんは右手でしか使えません。が、原村さんには使えない『三重の極み』が使えます。そして、作中で『二重の極み』が使えるのは二人だけ(うろ覚え)です。

>>99さん

月の力に翳りを感じると思われます。

モモのステルスリーチが姉帯の先負と干渉すると

トヨネ「あ、テンパイできなら〜
追っかけるよ〜」

桃子「追っかけられたっす」

トヨネ「見えないけどそれロン一発だよ〜」

桃子「あの、まだ牌切ってないっすよ?」

トヨネ「ええ、じゃあじゃあチョンボなの・・」

みたいな展開もあったかもしれないのかな?

>>112さん

《先負》は《先制リーチ者に(自身の追っかけリーチの)一発を掴ませる》能力なので、先制リーチ者の捨て牌が見えないと、ご指摘されたように、姉帯さんにとって都合の悪い状況になります。それは困ります。ゆえに、中堅戦前半最終局で、姉帯さんは東横さんを見つけているわけです。

これと同じ理屈で東横さんのステルスを無効化したのが、初対局時の花田さんです。東横さんの捨て牌が見えないと自分がトぶ状況を意図的に作り出し、ステルスを無効化しています。

逆に、これと同じ理屈で無効化できるかと思いきやうまくいかなかったのが、ウィッシュアートさんの《一枚絵》です。ステルスがウィッシュアートさんの認識に干渉し、それが《一枚絵》の発動を阻害しました。ウィッシュアートさんは能力を発動しようと思ってもできなかったんですね。これは、東横さんVS姉帯さんと違い、能力同士の衝突ではなく、それ以前の問題です。

姉帯さんやウィッシュアートさんは『牌』に干渉する能力者で、東横さんは『人(の認識)』に干渉する能力者です。互いの系統(支配領域《テリトリー》)が違うので、効果が正面衝突したときにどうなるかは、蓋を開けてみるまでわかりません。

ご指摘された感じに近い例を挙げれば、東横さんが先制リーチ→姉帯さんテンパイ→《先負》が発動しているっぽいので追っかけリーチをしようか迷う→でも東横さんが見えない→追っかけリーチせず→直後に東横さんが姉帯さんの和了り牌を切る→姉帯さんにはそれが見えないからスルー。

といった具合で、『先制リーチ者に一発を掴ませる』《先負》の効果と、『捨て牌が消える』《ステルス》の効果が共存するというパターンも可能性としてはありました。《ステルス》と《仏滅》はこのパターンですね。互いに感応系同士ですが、打ち消し合うことなく、両者の効果が共存しています。

他、

東横さんVS降ろしてる石戸さん:東横さんは絶一門になる。石戸さんからは東横さんが見えないまま。

東横さんVS北家の薄墨さん:薄墨さんからは東横さんが見えない。東横さんが北か東を切っても、薄墨さんにはそれが見えないので鳴けない。

東横さんVS大星さん:角を曲がった直後に東横さんが和了り牌を切る可能性はある。でも、大星さんからはそれが見えないので出和了りせずツモを狙う。

東横さんVSキーあり鶴田さん:ツモキーなら無効化しない(する必要がない)。出和了りキーなら無効化してくる可能性大。

と、ステルスの扱いは大体こんな感じです。

 東一局・親:優希

泉(配牌は悪くない気ぃする。この点差やったら鳴いて断ヤオで十分や。片岡の起親流せるしな……)

 泉手牌:四六八八23447⑧⑧東中 ツモ:⑦ ドラ:東

泉(せやけど、たぶん、これあかんやろ――)タンッ

優希「ポン」タンッ

 優希手牌:九九②②④⑤⑧357/(中)中中 捨て:南 ドラ:東

優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(四枚目を待つこともなく、早速門前崩して役牌ポン。玄さんの言うてた通り、この準決勝の片岡は、速度特化に切り替えとる。追いつけるやろか)

 泉手牌:四六八八23447⑦⑧⑧東 ツモ:6 ドラ:東

泉(片岡はドラを固めて手を高める傾向がある。この東はかなり切りにくい。せやけど、こっちかて序盤でそこそこ手ができとる。抱えてモタつくくらいなら、押しとけ――言われとる。
 どうせ向こうは自牌干渉系能力者。しかも起親に限ってはレベル4相当。こっちが一枚二枚有効牌を止めたところで、放っておけばツモられる。ほな、行っとこか……!)タンッ

和「ポン」ヒュン

泉(そっちかーい!!)

和「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 和手牌:二三三七七3[5][⑤]⑨⑨/東東(東) 捨て:9 ドラ:東

泉(どうあっても打点は満貫以上。いや、うちのツモ増えたからええっちゅーことにしとこか。って、まあ……ツモ増えたかて有効牌引けな意味あらへんけど)タンッ

優希「」タンッ

泉「ポン!」

 泉手牌:四六八八234467/⑧⑧(⑧) 捨て:⑦ ドラ:東

優希「」タンッ

泉(うおっ、ツモ切り。張っとるんか!? いや、先に和了ったる!! さあ、来いや……ッ!!)

 泉手牌:四六八八234467/⑧⑧(⑧) ツモ:[五] ドラ:東

泉(来たでまさかの赤五……!! 流すためにあるかのような手やん!!)タンッ

優希「チー」タンッ

泉(げ――)

優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 優希手牌:九九九②②④⑤/(4)35/(中)中中 捨て:7 ドラ:東

泉(ツ、ツモればええんやろ、ツモれば……!!)

優希「何やらごちゃごちゃやってるところ、悪いな。のどちゃん、あと、泉ちゃんとやら」

泉(とやら、ってなんやコラー!!)

和(優希……)

優希「東場は私の庭。私の王国。東の風が吹く限り、私の加速は止まらない――」ゴッ

泉(うく……っ! これが起親の《東風の神》!! 玄さん曰く、起親の片岡は、能力値も支配力も三年生の《十最》の人らと互角。
 玄さんの姉さんや、小蒔さんの巫女仲間、それに三回戦で戦ったウィッシュアート先輩らと同格の能力者……同学年とは思えへんプレッシャー掛けてくるやんな――!!)ゾクッ

優希「ツモだじぇ、700オール」パラララ

 優希手牌:九九九②②④⑤/(4)35/(中)中中 ツモ:③ ドラ:東

泉(速っ!? 三回戦のスピード合戦では憧が制しとったけど、あれ、やっぱ加速が不十分やったんか……!! 完全にチューニング完了しとるやん!!)

和(まだまだ、始まったばかりです)

咲(……)

優希「この親……!! 流せるものなら流してみろだじぇ!! 一本場ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:107100 咲:11800 和:129100 泉:152000

 東一局一本場・親:優希

優希(とりあえずの一本目。のどちゃんも泉ちゃんも鳴いて仕掛けてきたけれど、今の私は完全速度特化。スピード勝負では、あの憧ちゃんにだって負ける気がしないじぇ)

優希(私のベストは二位以上でネリちゃんに繋ぐこと。あのネリちゃんが順位を落とすわけないのだから、それだけで私たちの決勝行きはほぼ決まり。で、そのための最大の障害は――)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(咲ちゃんはセーラお兄さん相手でも半荘一回で三万点近く稼ぐ正真正銘の化け物だじぇ。1000点スタート《プラマイゼロ》をやられたら、三位の私は超ヤバいじょ。
 のどちゃんはSOAでかわせるからいいとして、この起親が流れたら、私の《東風》はレベル3相当まで強度が落ちる。能力でも支配力でも咲ちゃんより格下。確実に殺されるじぇ)

優希(最低限、得意の東場では、咲ちゃんを抑え込む。咲ちゃんにはカンすらさせない。やえお姉さんの言いつけを守って、序盤から仕掛けまくる……!!)

優希「チーだじぇ!」タンッ

泉(また和了られてまうかな……?)

和(連荘狙い。まくらせはしません)

咲(……)

優希(これでいいんだじょ。私はやえお姉さんを信じる――)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

優希「じょ? 咲ちゃんの弱点? そんなものが存在するのか?」

やえ「弱点――というより、苦手分野、といった感じだろうな。あいつの力は、強度抜群な上に自由度が高いという厄介な性質を持っている。はっきり言って、何もかもが異常だ」

優希「咲ちゃんが普通じゃないのはなんとなく感じてるじょ。私は咲ちゃんと淡ちゃんと同じクラスだけど、なんというか、淡ちゃんはすごい強いランクSで、咲ちゃんはすごくおかしいランクSだじょ」

やえ「そうだな。あいつはどこかおかしい。こんなに能力解析が捗らないやつはそういるもんじゃない。本当になんなんだか」

優希「で、咲ちゃんの苦手分野っていうのはなんなんだじょ?」

やえ「ここに、宮永咲の各種数値データがある。ちょっと見てみてくれ。お前的に、どこが気になる?」

優希「符が幅広過ぎるじょ。30、40、50符の和了りと60、70、80符の和了りがほとんど同じくらい起きているのは、どう考えても不自然だじぇ」

やえ「そうだな。私はこれを、《プラマイゼロ》の《制約》だと思っている。つまり、《プラマイゼロ》発動中の宮永咲は、一半荘の中で、同じ符で和了ることができない」

優希「おお……言われてみれば!」

やえ「他に気になるところは?」

優希「カンし過ぎだじょ」

やえ「槓材を集める、或いは槓材の位置を感知する《嶺上》の能力だな。
 符の《制約》を守るために発現したのか、この能力があったから符の《制約》が生まれたのか。いずれにせよ、これは《プラマイゼロ》と切っても切れない関係にあるだろう。他は?」

優希「むー……カンしているわりには副露率が低いじぇ」

やえ「いいところに目をつけたな。そう。ここが宮永咲対策の突破口になるのではないか、と私は睨んでいる」

優希「じぇ?」

やえ「副露――ポン、チー、大明槓のいずれかをすると、門前が崩れるわけだ。さて、宮永咲の副露……その内訳を見てみよう。きっと驚くぞ」ピッ

優希「じょ……は? えっ!? これマジなのか、やえお姉さん!!」

やえ「《幻想殺し》で集計した公式データだ。信頼してくれ」

優希「咲ちゃん……一度もチーをしたことがない――?」

やえ「驚きだろう? 宮永咲の副露は、その全てがポンか大明槓。そして、ポンのうちほとんどは、加槓のための布石だ。
 要するに、宮永咲は、カン以外の目的で鳴きを入れることがほとんどない――ということになる」

優希「言われてみれば……咲ちゃんのチーは見たことないじぇ。何かズラすときも、全部ポンか大明槓だった気がするじょ」

やえ「さて、ここからは想像の時間だ」

優希「じぇ?」

やえ「宮永咲は、チーをしない。それはなぜか?」

優希「必要がないからじゃないのか? 咲ちゃんは門前でも十分速い。四、五巡目リーチとかザラだじぇ」

やえ「刻子・槓子を作りやすい能力者だからな。手牌のうち数面子が槓材として保証されている。支配力に拠る引きの良さも相俟って、門前でも速度が落ちることはそうそうない。ゆえに、チーは不必要。オーケー。さて、他に考えられるのは?」

優希「したくでもできない、とか?」

やえ「《制約》に近い何か――ということだな。恐らくは、符の《制約》の一側面だろう。鳴くと門前が崩れる上に、順子には符がつかない。
 すると、符の調整をするためには、残りの11枚でどうにかしなければならないことになる。やってできないことはないのだろうが、わざわざ自分から手を縛るような打ち回しはしないよな、普通」

やえ「チーをしない理由――必要がないから。できないから。これ以外に、何か、考えられる可能性は?」

優希「……したくない?」

やえ「そういうことだ。つまり、宮永咲は、チーして手を進めることを避けている——苦手としている可能性があるんだよ」

優希「もっと詳しくだじぇ!」

やえ「宮永咲の場の支配は、強度も自由度も異常なまでに高い。ゆえに、門前のままでも十分な打点と速度でもって和了れる。チーなどする必要がないし、手牌によってはチーした瞬間に《制約》で自らの首を絞めることになる。
 ゆえに、宮永咲は、基本的に門前で打つ。鳴く理由の大半はカン絡み。あいつは恐らく、大星と同じで、カンをすることで場の支配を強める性質を持っているからな」

優希「ふむふむだじぇ」

やえ「そして、姉曰く、宮永咲の《プラマイゼロ》は、辻垣内がその鎖を断ち切るつい数日前まで、ずっとあいつを縛り続けてきた。それまでは、ずっと《プラマイゼロ》でしか打ってこなかったのだ。
 つまり、下手をすれば、宮永咲は、《プラマイゼロ》を発現して以来、年単位でチーをしていない可能性さえある」

優希「しなくても《プラマイゼロ》にできて、しないほうが《プラマイゼロ》にしやすいなら、するわけないじょ」

やえ「だろうな。で、さらに大事な事実。あいつは《プラマイゼロ》から解放された三回戦。なんちゃってデジタルで半荘二回を打っていたが、ここでも、やはり、チーは一度もしていない」

優希「デジタル打ちなのに半荘二回でチー無しっていうのは、わりとオカルトだじぇ~」

やえ「その通り。デジタルで半荘二回チーしないというのは、なかなかあることじゃない。明らかに不自然だし、最高効率で打っていたとは言い難いよな。
 それは、宮永咲も頭ではわかっていたはずだと思う。デジタルの勉強もそこそこしているらしいのは、見てわかったからな。
 にもかかわらず、あいつはチーをしなかった。たとえ《プラマイゼロ》の鎖が断ち切られても、培ってきた感覚、染み付いた打ち方は、そう簡単には捨てられない、ということだ」

優希「でも、たとえチーしなくても、咲ちゃんはいい感じに打ててたじぇ?」

やえ「それはそうだ。あいつは基本的にチーをする必要がなく、むしろしないほうがメリットが大きい――そんな《プラマイゼロ》に縛られた状態で、今までずっと打ってきた。
 言ってしまえば、『門前で勝てる場を生み出す』ことに、あいつは長けていて、慣れているのだ」

優希「……わかってきたじぇ、やえお姉さん!」

やえ「三回戦でのあいつは、基本デジタルだが支配力は使っていた。自分に優位な場になるよう、能力に拠らない確率干渉をしていたのだ。
 そして、宮永咲にとって優位な場――それは間違いなく門前場だ。ツモ順がズレることなく、序盤は静かに進み、中盤過ぎてちらほらとテンパイする者が出てくる。リーチをしてくる者も現れる。
 しかし、宮永咲なら、そのタイミングでカンをすることができる。そして、カンを基点にして、より強力な場の支配を展開することができるわけだ。
 そこまで辿り着けば、出和了りするもよし、ツモるもよし、かなり思い通りの結果に持っていけるだろう。
 これが、宮永咲の必勝パターン。宮永咲が得意とする試合運びというわけだ」

優希「つまり、そういう風に打たせるな、ってことだじぇ!」

やえ「正解だ。宮永咲は、チーという、麻雀において非常に重要な選択の一つを、意識的にしろ無意識的にしろ、半ば放棄している。あいつはネト麻が苦手だが、それはチーに慣れていないせいも多分にあるのだろう。
 そんなやつが、場を支配する。強度も自由度も高い場の支配。当然、そこには、あいつ自身の打ち筋や性質が色濃く反映されるはずだな。
 門前場を得意とする宮永咲が支配する場。その抜け道、突破口――それが、チーを駆使した鳴きの速攻ではないかと、私は分析する」

優希「チーを駆使した鳴きの速攻――《久遠》の憧ちゃんがやってたやつか」

やえ「あの三回戦を経て、お前も鳴きの速攻には随分と強くなったはずだ。能力によるツモの偏りも、速度特化に切り替わっている。
 宮永咲の支配に対して鳴きが有効な手段になるなら、たとえランクやレベルはあいつのほうが上でも、東場では十二分に張り合えるはずだ」

優希「咲ちゃんはチーをしない。チーを避けようとする。そんな咲ちゃんの支配する場――打ち崩すなら、咲ちゃん自身には必要がなくて、たぶんやったこともないに違いない、チーを絡めた鳴きの速攻……」

やえ「つけ加えて言うなら、宮永咲の《嶺上》は、序盤で発動する傾向にある。大体六巡目くらいまでに、あいつは槓材を手に入れるんだ。
 パターンとしては、刻子或いは槓子を一つ以上揃えた状態から、中盤にかけてテンパイするって感じだな。で、テンパイしたら、揃えておいた刻子或いは槓子で、大明槓・加槓或いは暗槓をする、と」

やえ「カンはあいつの支配の基点であり、引き金であり、着火材。それをされたら、まず太刀打ちできない。なら、カンをさせなきゃいい。
 カンをさせないようにするには、どうすればいいか。槓材が揃わないように妨害すればいい。
 じゃあ、どうやって妨害するか。あいつが槓材を集めていると思われる序盤に、鳴いて場を乱す。
 系統はどうあれ、特定の牌を集める能力者にとって、鳴きによる支配領域《テリトリー》の揺さぶりは、常に有効だからな。
 もちろん、宮永咲の《嶺上》の強度は高い。ちょっとやそっとでは破れないかもしれない。でも、やらないよりはやったほうがいいに決まってる」

やえ「当然ながら、あいつはそういった鳴きが起こらないように、場を支配しているんだろう。しかし、さっきも言った通り、支配者である宮永咲自身がチーを嫌う傾向にあるのなら、そこに、支配の抜け道がある。
 さらにさらに、東場のお前なら、ある程度、宮永咲の支配に対抗して、チーが発生しやすい場——言うなれば順子場を生み出すことができる。速度特化の今なら、なおさらな」

優希「要点をまとめると、序盤から鳴きまくって、咲ちゃんがカンする間もなく速攻で和了ってしまえばいい、ということか!?」

やえ「そういうことだ。他の面子がどう動いてくるかはわからんが、少なくとも、東場のお前なら、単独で宮永咲に張り合えると私は踏んでいる。南場となると厳しいかもしれんがな」

優希「頑張るじぇ!」

 ——————

 ————

 ——

 ――対局室

優希(誰にも何もさせない。ゲームの半分を速度で制圧する。手を仕上げさせない。カンもさせない。咲ちゃんの得意分野で勝負したら咲ちゃんが勝つに決まってるんだから、そうならないように、抗う――)

優希「チー!」タンッ

優希(思い通りの卓上《セカイ》を生み出す支配者《ランクS》。でも、東場では好きにさせない。私は《東風の神》。ここだけは譲れないじぇ……!!)

優希「ポンッ!」ゴッ

和(ふむ――)ヒュン

優希「ロンだじぇ、5800は6100」パラララ

和「はい」チャ

泉(当然のように連荘しやがるやんなー)

優希「二本場っ!!」ゴッ

優希:113200 咲:11800 和:123000 泉:152000

 東一局二本場・親:優希

優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(三位との差はごく僅か。なんとしても連荘は阻止しなければなりません。まあ、私の感情で確率が変わるわけではありませんから、とにかく頭を働かせるしかありませんよね)ヒュン

泉「チーや」タンッ

泉(片岡の連荘。うちらとしては、そこまで困るわけやない。万が一、何かの拍子に宮永咲がトべば、トップのうちらは自動的に決勝進出が決まるわけやから。せやけど――)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(こいつがトんどる姿がこれっぽっちも想像できひん。どっかで何かしてくる。ほな、三位に盛り返されるんは勘弁やんな。
 ただでさえ、こいつら《幻奏》の大将は、あの玄さんが解析を諦めたほどの未確認生命体。射程距離に入らへんよう、この親を流さな)

優希「」タンッ

和「ポンです」ヒュン

泉(おっ! ナイス、ポン、小細工! 宮永咲のツモを飛ばした上に、うちにええ牌回してくれるなんて、原村もなかなか話がわかるやん!)タンッ

優希「チー」タンッ

咲「」タンッ

和「」タンッ

泉(っと、テンパイしたと思ったらこれやもんなぁ)

 泉手牌:一二三①②③⑨⑨13/(9)78 ツモ:[5] ドラ:③

 優希手牌:**********/(⑦)⑤⑥ ドラ:③

 優希捨牌:南北西16

泉(無難に華麗に店仕舞いっと――)タンッ

 泉手牌:一二三①②③⑨⑨3[5]/(9)78 捨て:1 ドラ:③

優希「ツモ、500オールは700オールだじぇ」パラララ

 優希手牌:67五六七八八八⑧⑧/(⑦)⑤⑥ ツモ:8 ドラ:③

泉(ふー……どないしよ、このプチ化け物。玄さんの言う通りに、宮永咲の苦手分野やと思われる鳴き場を作っとるものの、それで今度は片岡が止まらへん感じになっとる。
 まあ、三回戦ではあの憧と張り合っとったんやから、鳴きに強いんはわかっとったけど。いや、でも宮永咲対策は常時最優先事項やからな。考えなあかん。宮永咲を押さえつつ、こいつの親を流す方法を――)

和(なんの。この程度の偏り。心乱す必要はありません。いつも通りのことを、いつも通りに……)

優希「三本場だじぇ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:115300 咲:11100 和:122300 泉:151300

 東一局三本場・親:優希

優希(やえお姉さんの言う通り、ここまでは咲ちゃん大人しい。泉ちゃんは無能力者だから、もし咲ちゃん対策が効果を発揮しているなら、のどちゃんにSOAされない限り、東場は完全に我が物だじぇ……とか言ってたら――)

 優希配牌:②③④⑤⑤⑦⑧⑨999七八中 ドラ:四

優希(これはダブリーして九索カンしてカン裏乗っけてハネツモだじぇ? いやいや、私は淡ちゃんじゃない。ダブリーを掛けても和了れる保証はどこにもないじょ。
 リーチを掛けたら身動きができなくなる。ここは、自分のツモ運より、やえお姉さんの分析ぢからを信じるじぇ)タンッ

 優希手牌:②③④⑤⑤⑦⑧⑨999八中 捨て:七 ドラ:四

泉(んー……なんや、この妙な感じ)タンッ

優希「チー」タンッ

泉(お?)

優希「」タンッ

泉(これは……)

 泉手牌:二三四五六④45678中中 ツモ:④ ドラ:四

 優希手牌:**********/(①)②③ ドラ:四

 優希捨牌:七八⑤

泉(捨て牌キモ過ぎるやろ。ただ、引くには勿体無い絶好の一向聴なんやけどな。中は前巡に原村が切っとる。あるとしたら単騎。通りそうな感じはするけど……どうやろか)タンッ

優希「ロン、2000は2900だじょ」パラララ

 優希手牌:④⑤⑥⑦⑧⑨999中/(①)②③ ロン:中 ドラ:四

 優希捨牌:七八⑤

泉(はあ? どーゆーことやそれ……!?)

和(オカルトにも程があります)

優希(これがベストだったのかどうかはわからないけど、とにかくやえお姉さんの言った通りに打つじぇ。東場は序盤に一つ以上鳴きを入れて、場を引っ掻き回し、安くてもいいから和了り続ける)

泉(えっと……なんや、それ、ダブリーを掛けへんと、わざわざ確定もしとらへん一通にシフトしたんか? 速攻――早和了りが目的とちゃう。どう見ても、鳴きを入れたかったとしか思えへん。
 っちゅーことは、片岡も鳴き場を作ろうとしとるんか。宮永咲対策……やんな?
 ほな、対宮永咲に関しては、共同戦線を張れると思ってええやろ。原村がおるから諦めとったけど、味方が一人増えてくれるなら有難いで)

優希「四本場だじぇッ!!」ゴッ

優希:118200 咲:11100 和:122300 泉:148400

 東一局四本場・親:優希

優希(ここまで鳴けないまま一向聴。形はそんなに悪くないし、ドラが全部で三つ。これで和了れなかったら嘘みたいな手。だけれども……)

 優希手牌:二四六③④[⑤]⑨⑨23456 ドラ:⑨

咲「ポン」タンッ

 咲手牌:**********/三三(三) ドラ:⑨

優希(動いてきたな……咲ちゃん。なら、こっちも――)

優希「チーだじぇ」タンッ

咲(……)

 咲手牌:⑨⑨4[5]679六七八/三三(三) ツモ:三 ドラ:⑨

優希(咲ちゃんの鳴きはそのほとんどがカン絡み。その三萬――加槓したければすればいいじょ。
 けど、カンした瞬間、咲ちゃんの一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》は終わるじぇ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 優希手牌:二四③④[⑤]⑨⑨234/(7)56 ドラ:⑨

咲「」タンッ

和「リーチ」ヒュン

泉(いや、ブレへんな、ホンマ、原村は)タンッ

優希(ぐぬぬ。このテンパイを崩したら咲ちゃんにカンされる。けど、このテンパイを維持する限り、私はどうやっても和了れない。
 こっちがオカルトで身動きできなくなってるところに、ごく普通のリーチ。のどちゃんのSOAはある意味最強だじぇ)タンッ

咲「」タンッ

和「ツモです。1300・2600は1700・3000」パラララ

優希(それをされちゃうとだじぇー……)

泉(あんま高い手やなくて助かったで。さて……ひとまず片岡の起親が流れた。けど、まあ、東場は東場、要注意。ほんで、次は宮永咲の親。当然こっちも厳重注意。
 せやけど、オカルト対策に躍起になっとると、今みたいに原村が和了ってくんねんな。あっちを止めればこっちが出てきて、こっちを止めればあっちが出てくるっちゅー、このハマり具合)

咲・優希・和「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(なんとか、この化け物トリオを全員抑え込みつつ、攻撃に転じたい。ま、やれるだけやってみるしかあらへんよな……ッ!!)

優希:115200 咲:9400 和:128700 泉:146700

 ――《新約》控え室

姫子「よっしっ! さすが和! すごか普通の和了りとっ!!」

絹恵「片岡さんが宮永さん対策してくれるんは助かりますね」

初美「どれも和が見たら発狂しそうな手順ばかりですよー」

怜「小走さんのアドバイスもあるんやろけど、宮永さん相手にあんな無茶苦茶やれるんは、東場の片岡さんでこそやんな。南場になったらどうなるかわからへんで」

     優希『チー』

姫子「あ、また鳴いた」

絹恵「さっきからよう鳴きますね」

初美「東場はあの子にお任せですかねー」

怜「せやね。《東風の神》――疾風のように駆け抜けていく気がするわ」

     優希『ツモ、1000・2000だじぇ』

 ――《幻奏》控え室

ネリー「ゆうき、いい感じだねっ!」

セーラ「どこまで効果を発揮しとるんやろか。宮永の表情からはようわからへんな」

やえ「片岡があそこまで回転数を上げているのにも関わらず、わりと紙一重だったりするからな。ただ鳴き場を作るだけでは、やはり厳しいのかもしれない。今はいいが、南場が恐い」

誠子「私は、原村さんが何かの弾みに宮永さんをトばしそうで恐いです」

     優希『チー』

ネリー「向聴数変わらないね~」

セーラ「普通ならありえへん」

     優希『ポン』

誠子「お……」

やえ「上出来だぞ、片岡」

     優希『ツモ、300・500』

やえ「ふん……実に頼もしいじゃないか、《東風の神》」

 ――《逢天》控え室

豊音「試合展開としては悪くないのかなー?」

玄「普通の相手ならそうですね。断トツで、最下位チームが虫の息。けど、そこはなんといっても呼吸するように奇跡を起こすランクSですから。息の根がある限り、何をされるかわかりません」

     泉『チーや』

透華「テンパイですわね。和了れるといいのですけれど」

     優希『チーだじょ』

小蒔「あう、追いつかれました……!」

     優希『ロン、2000』

     泉『はい』

玄「さて……風向きが変わるね。泉ちゃん、本当に大変なのはここからだよ――」

 ――対局室

 南一局・親:優希

泉(来てもうたな、南場。せめて一回くらい和了って、多少貯金作ってから――と思うてたけど、結局、東場は片岡の独壇場。点数状況は厳しくなっていく一方や……)タンッ

 北家:二条泉(逢天・143400)

優希「」タンッ

 東家:片岡優希(幻奏・122300)

泉(南場になった途端、えらい大人しくなってもうたな、《東風の神》。さっきまでの鳴きの嵐が嘘のようや。序盤……過ぎてもうたで?)

咲「」タンッ

 南家:宮永咲(煌星・7100)

和「」タンッ

 西家:原村和(新約・127200)

泉(ここから宮永咲に暴れられたら、トップ陥落するかもしれへん。できることなら、攻めたいねん。守るだけで逃げ切れる点差やない。勝負掛けたい――んやけど……)

 泉手牌:二三四4[5]679⑦⑦南南南 ツモ:3 ドラ:南

泉(南ドラ三赤一……ダマで待っとったけど、三面張なら、リーチでハネ確させたほうがええよな? せやけど、この浮いてくる九索がなぁ。まだ場に一枚も見えてへんっちゅーのがどーにも恐いで)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(宮永咲の槓材は、若干やけど、ヤオ九牌であることが多い。玄さんは、符の《制約》がその原因の一つや、言うてた。
 ヤオ九牌を集めとけば、明刻の4符から暗槓の32符まで、時々によって調整の幅が広がるからな。
 ゆえに、生牌の中でも、ヤオ九牌の生牌は特に危険。序盤を過ぎたら宮永咲の手に槓材があると思ってええって玄さんは言うてた。捨てにくい。むっちゃ捨てにくいで)

泉(しかもな、玄さん、言うてたからな。宮永咲の本当の力。世にも恐ろしい仮説――)

泉(宮永咲は、槓材を集めるだけやない。カンを支配の基点にしとるだけやない。こいつは……狙って嶺上開花を和了れる可能性があるって)

 ——————

 ————

 ——

 ――透華対局中・《逢天》控え室

泉「狙って嶺上開花ー!? んなアホな!!」

玄「私もそう思ってるんだけど、着々と状況証拠は揃いつつあるんだよね。宮永さんは、恐らくは学園都市にただ一人しかいない、嶺上牌が支配領域《テリトリー》の自牌干渉系能力者である可能性が高い」

小蒔「あの《未開地帯》の《最高峰》をですか? あそこは、私でも透華さんでも衣さんでも霞ちゃんでも支配できない非常に特別な領域ですよ?」

豊音「というか、嶺上牌を支配領域《テリトリー》にしてる自牌干渉系能力者で嶺上開花を和了るって、つまり、あそこを自由に《上書き》しまくれるってことだよねー? ちょー恐いよー」

泉「何を根拠にそんなトンデモ仮説が出てくるんですか?」

玄「例えばなんだけど、こんな手があったとするよね。泉ちゃんなら、どうする?」カチャカチャ

 手牌(例):11123499二二二八九 ドラ:1

泉「ドラ三役ナシの辺張。状況にもよりますけど、まあ、リーチすると思いますよ」

玄「そう。普通はね。けど、少なくとも、私と宮永さんは、この手からリーチをしないんだよ」

泉「へ……?」

玄「この手牌は、小蒔ちゃんと透華ちゃんと豊音さんと一緒に、赤ドラ抜き麻雀をしたときの、実際の私の手牌。十巡目くらいだったかな。私はリーチを掛けずにダマで待った。なぜだと思う?」

泉「……あっ、ドラ表示牌の九索が二枚見えとるから、リーチ掛けると裏ドラ捲れへんやつに引っかかるかも——ってことですか?」

玄「そう。私がここでリーチを掛けると、遠からず一索で暗槓することになる。
 すると、カンドラ表示牌はたぶん九索になる。で、このとき、ドラ以外の牌は、全て私以外の誰かが一度は目にしているって状況だったの。
 つまり、ドラ表示牌になりうる牌が、残り一枚の九索しかなかったんだね。すると、リーチを掛けてから暗槓をした場合、私は和了れないことになる」

泉「裏ドラとカン裏が捲れなくなるから、ですよね。ほな、玄さん的には、一索引き込んでからの四索リーチを狙ってたんですか?
 それなら、裏ドラ表示牌は残り一枚の九索になるでしょうから、普通に和了れますよね」

玄「そうだね。でも、実戦では、そうならなかった。透華ちゃんが、ちょっとあとに九索を切ったんだよね」

泉「うわ……ほな、もう一枚もドラ捲れへんから、リーチ掛けられませんやん。役ナシやから、ツモるん待つしかないですね」

玄「本当にそうかな? 私には、透華ちゃんが最後の九索を切ったときに、別の道が見えたよ。そして、それをすることで、私は小蒔ちゃんから直撃を取った」

泉「直撃? 役ナシでリーチ掛けられへんのに……?」

玄「やり方は簡単。二萬大明槓からの、嶺上開花」

泉「ああっ!! そっか、ドラが一枚も捲れへんから、大明槓で後めくりのドラが捲れなくて嶺上っちゅー、あれですか!!」

玄「そういうこと。リーチを掛けると、大明槓ができなくなる。嶺上開花の責任払いで直撃っていう可能性を潰してしまうことになるんだね。
 まとめると、『自分自身のドラ支配から逃れる』と『大明槓からの嶺上開花の可能性を残す』っていう二つの理由から、私はこの手をダマにしたわけなのです」

 手牌(例):11123499二二二八九 ドラ:1

泉「ほあー」

玄「で、問題はここから。これと似たようなことを、宮永さんは過去にやったことがある」

泉「というと?」

玄「細かい部分は違うんだけど、概ね、似たような手牌だった。暗刻が二つあって、且つ、役ナシ。中盤くらいで、場を見る限り、和了り牌はまだ残ってる。
 宮永さんは、でも、ここからリーチを掛けることはしなかったんだね」

泉「それ、対局はどうなったんです?」

玄「この例で言うと、宮永さんは、ここから四枚目の一索を引いて、暗槓した」

泉「からの、リーチ?」

玄「ううん。からの、ダマ」

泉「意味がわかりません!?」

玄「で、まあ、ちょっとして七萬をツモって和了ったんだけどね。どういうわけか、宮永さんは、たまにこういう打ち回しを見せる。
 門前の役ナシから、暗槓、リーチは掛けずに、ツモ和了り。単純に、《プラマイゼロ》にするための点数調整か何かかな、と私は思ってた。わざとリーチを掛けずに、点数を下げてるのかなって。
 でもね……よくよく牌譜を見てみると、宮永さんがこういう形のテンパイをした直後に、他家から二萬が切られていたりするわけなのですよ」

泉「二萬……槓材ですか」

 手牌(例):11123499二二二八九 ドラ:1

玄「私は、条件さえ揃えば、ここから二萬を大明槓して《絶対》に嶺上開花を和了ることができる。そういう可能性を視野に入れているから、この手で私はリーチを掛けない。リーチを掛けると大明槓ができなくなるから。
 もちろん、私の場合、リーチを掛けるか否かの判断は、ドラの具合に拠るところが大きいんだけどさ。でも、宮永さんは、ドラを気にする必要はまったくない。なのに、この手からリーチを掛けない」

泉「まあ、不自然ですよね。リーチ掛けても、この手なら、暗槓はできるはずやのに」

玄「リーチを掛けても暗槓できるテンパイ形。ドラを気にする必要はない。なのに、役ナシの手をリーチせずダマ。
 その理由は点数調整以外に考えられない――と思っていたんだけど、私自身に置き換えて考えると、大明槓からの嶺上開花って可能性が僅かだけど残ってる。なら、宮永さんも或いは……と思うわけなのです」

泉「ふむふむ……」

玄「あとね、宮永さんのカン。あれ、自らカンした場合は《カンドラが乗らない》でしょ」

泉「そうですね」

玄「これ、たぶん、私以外の人はあんまり気にしてないと思うんだけれど、三回戦で《幻奏》のネリーさんが見せた三連槓からの嶺上開花。あれね、カンドラが一つも乗ってないんだよ」

泉「っ!?」

玄「私はこの学園都市で最もドラにうるさい《ドラゴンロード》。あれはね、私的に、とってもとっても気になるカンだったの。ちょっと、あの三倍満がどんな形をしていたか並べてみるね」カチャカチャ

 ネリー手牌:④④④⑤/③③③③/②②②②/①①①(①) 嶺上ツモ:⑤ ドラ:南・9・白・西

泉「何度見ても気持ち悪くなりますね、これ……」

玄「注目してほしいのは、この清一対々が、五連刻の形になってるってこと」

泉「へ……?」

玄「《カンドラが乗らない》という《制約》を持つカン使いが連槓をしたいと思ったとき、その《制約》による縛りを最小限に留めるには、この連刻の形がうってつけなんだよ」

泉「え……と――」

玄「五連刻の形から、数字の若い順に連槓をしていくとする。すると、たとえ四連槓まで続けたとしても、手牌の中でカンドラが乗る可能性があるのは、最初の一番若い数字の牌だけになるんだよ」

泉「え……あっ!? ホンマや! この形から四連槓すると、一筒以外はどうやってもカンドラにならへん!! 一つ前の牌が槓材になっとるから、カンドラになるはずがないんや……!!」

玄「そういうこと。私は、この五連刻を見て、とても不思議に思った。
 カンで有効牌を引き入れる――もし仮に、そんな能力があったとしたら、連刻の形は勿体ないんだよ。カンをするとドラが増える。ドラが乗れば点数がハネ上がる。刻子手なら尚更。

玄「でも、連刻の形からの連槓では、この通り、カンドラが乗りにくい。ネリーさんのこれは、あと一飜で数え役満になってたわけだけど、同じ清一対々なら、1・3・5・7・9って、一つ飛ばしに槓材を揃えればよかったと思う。
 それなら、連刻の形より、カンドラが乗る可能性はぐっと上がる。数え役満にしやすかったはずなんだよ。なのに、どういうわけか、実際は五連刻の形から連槓した」

玄「そこに必然性――理由があるとしたら、カンドラにまつわる何かなんじゃないか……と《ドラゴンロード》の私は思うわけなのです。
 そして、この学園都市で、カンドラと深い関わりがある能力者は三人。《全てのドラが集まる》私、《カン裏が乗る》大星さん、そして、《カンドラが乗らない》宮永さん」

泉「うおあ」

玄「三回戦で見せたネリーさんのあれは、よくわからないけど、誰かの力を模倣する力だと考えていいと思う。
 で、あの日、ネリーさんが模倣した対象は、この嶺上開花以外、全員が、私たちのよく知っている白糸台の誰かだった。
 なら、この嶺上開花の力を持つ人も、私たちのよく知っている白糸台の誰かだ――と考えるのが妥当だよね?」

泉「そ、そうですね」

玄「そして、この嶺上開花は、偶然か否か、カンドラが一つも乗っていない。もっと言えば、敢えてカンドラが乗りにくい形で連槓をしている。まるでカンドラが乗ることを避けるように。
 さらに、あの日、ネリーさんは、大星さん、衣さん、小蒔ちゃんの三人を模倣している。ランクSの宮永照さんに、同じランクSの雀士をぶつけているんだね。
 あの模倣能力がどれくらいネリーさんの制御下にあるのかはわからないけれど、この流れに宮永咲さんが含まれていないっていうのは、どうにも不自然だと思わない?
 けど、それも、この嶺上開花こそ宮永咲さんを模倣した結果なのだとしたら、色々しっくりくると思うんだよね」

泉「ほああああ……」

小蒔「すごいです、玄さん!!」

豊音「ちょー名推理だよー!!」

玄「《嶺上牌が必ず有効牌になる》。ちょっと信じられないけど、もし、宮永さんがそんな能力――《開花》とでも呼ぶべき力を持っていたとすると、宮永さんの独特の手作りに関しても、説明がつく」

泉「独特の手作り?」

玄「宮永さんは、さっきの例もそうなんだけど、赤ドラ抜きの私、それに大星さんのダブリーと、かなり近い手の作り方をするの。共通項は二つ。『特定の牌が四枚集まる』と『テンパイの多くが役ナシ』。
 赤ドラ抜きの私の場合は、役がなくても、リーチさえ掛ければドラと裏ドラでハネ満以上の打点になる。だから、自然と、手役を作るよりテンパイに持っていくことを優先して打ち回す。
 大星さんの場合は、ダブリー以外役ナシになっちゃうのはまあ《制約》なんだと思う。特定の牌が四枚集まるのも、当然、カン裏を乗せるため。そこには能力的な必然性がある」

泉「ふむ」

玄「宮永さんの場合は、ドラは関係ない。なのに、なぜか彼女は手役を重視しない。大星さんみたいに《制約》があるわけでもないのに、槓材+役ナシの手を好んで作る。とっても不思議だよね。
 そして、さっきも言ったように、役ナシの手を張ったとき、宮永さんは、手替わりをするでもなく、なぜかダマで通すケースが多々見受けられるんだよ。点数調整をするにしても、他にやり方はいくらでもあるのに。
 『特定の牌を四枚集める』カン使いが『役ナシの手』を『リーチしない』。ここに必然性を求めるなら、私は、答えは一つだと思うんだ」

泉「宮永咲が狙って嶺上開花を和了れる能力者やから……ですか」

玄「手役を重視しないのは、カンさえすれば嶺上開花で和了れるとわかっているから。役ナシなのにリーチを掛けないのは、大明槓からの嶺上開花を視野に入れているから。
 あと、宮永さんはたまに明らかに効率の悪い待ちをしたりするけど、それも、嶺上から有効牌を引いてこれる自牌干渉系能力者なら、さもありなんだよね。
 だって、嶺上牌を自由に《上書き》できるなら、古典確率論なんていくら無視したって構わないんだから。能力者は確率の壁を超えられる。和了り牌なんて、たった一枚でも残っていればそれで十分、ってわけ」

泉「な、なるほどです」

玄「以上のことから、宮永さんは自由に嶺上開花を和了れる、と私は思うのです。だとすると、大星さんのダブリーのように、カンするまでは比較的安全――という前提がひっくり返される。
 槓材を切った瞬間に、大明槓からの嶺上開花で直撃を取られる可能性が出てくるんだね。
 宮永さんの槓材は序盤で大体揃っちゃうから、中盤に入ったら、生牌は切らないほうがいいかもしれない。限界はあるけど、考慮に入れておいて。特に、ヤオ九牌が危険かな」

泉「その心は?」

玄「普通は大明槓なんて滅多にしないし、ヤオ九牌となるとさらに状況が限定される。でも、もし私が嶺上開花で和了れる能力者なら、むしろ、ヤオ九牌での大明槓を積極的に狙うと思う。
 符が高くつく上に他の数牌と絡みにくいヤオ九牌は、槓材に向いている。端っこが欠け落ちても、残りの手牌にあまり影響を与えないから。
 これが、ド真ん中だとそうはいかない。形によっては、リーチからの暗槓ができない場合も出てくる。似たような体験を、赤ドラ抜き麻雀でしてるから、私にはわかるんだ。
 あと、何より、今までのデータを見る限り、宮永さんの槓材は比較的ヤオ九牌に偏る傾向にある。これを警戒しないで何を警戒するんだって感じだよね」

泉「すごい分析力ですね……」

玄「まあ、実は、わりと結構前から、この『宮永さん嶺上使い説』、頭の隅っこのほうにあったんだよね。
 赤ドラ抜きの私と、宮永さんと、大星さん。私たちは王牌が支配領域《テリトリー》の能力者で、カンを戦術の要にしている。
 で、カンの戦術的価値って、ドラを増やせることと、嶺上牌をツモれることでしょ? まあ、衣さん相手のときは、海底ズラしにも使えるけど、基本的にはその二つ。となると――」

泉「あっ……そう言われると、確かに、自然と嶺上開花に行き着きますね。玄さんと大星淡はドラのためにカンをする。せやけど、宮永咲のカンはドラと無関係どころか《カンドラが乗らない》。
 ほな、あいつがカンする理由は、ドラを増やすことやなく嶺上牌をツモることのほうにある――と」

玄「もちろん、嶺上牌を自由に《上書き》できる能力者なんて見たことも聞いたこともないから、半信半疑どころか無信全疑な仮説だったけどね。
 宮永さんのカンは《カンドラが乗らない》けど、故意に他家に乗せてる風なときがあった。それに、《プラマイゼロ》には符の《制約》がある。
 符点調整、点数調整のためにカンとカンドラを利用してるんだって結論付けてしまえば、それで大半の不自然さは説明できる。
 でも……まあ、一昨日のネリーさんを見ちゃうとね」

泉「三連槓からの嶺上開花――宮永咲は、あれと同じことができるわけですか。えっ、ほな、うち今から、あんな化け物と打たなあかんわけですか!?」

玄「何を今更」

泉「目の前であんなことされたらショックで三日三晩寝込みますよ……」

玄「だから、それをさせないように、こうして対策を伝授してるんじゃない。いい? 宮永さんが槓材を集めてると思しき序盤は、ひたすら鳴いて場を乱す。中盤に入ってからは、ヤオ九牌の生牌に注意する。
 宮永さんが嶺上使いなら、カンをされた瞬間に即死するわけだから、こっちはとにかくカンをさせないように動くしかない。大丈夫。カンさえされなければ、むしろ泉ちゃんのほうが有利になるはずだから」

泉「それホンマですかー?」

玄「ホンマだよ。というわけで、ちょっと宮永さんの過去の牌符を並べるから、よく見ててね」

泉「は、はい――」

 ——————

 ————

 ——

 ――対局室

泉(カンされたら即死。ほな、カンさせなきゃええ。有効な対策は二つ。生牌を切らへん。ほんで、できることなら、鳴いてツモ順をズラす。それを徹底すれば、大明槓と暗槓の可能性を下げることができる)

 泉手牌:二三四4[5]679⑦⑦南南南 ツモ:3 ドラ:南

泉(言うても相手はランクSのレベル4やから、気休め程度の効果しかないかも――って玄さんは言うてた。せやけど、気休め程度でも効果のある策を授けてくれた玄さんのためにも、ここで不用意に九索を切るわけにはいかへん)タンッ

 泉手牌:二三四4[5]679⑦⑦南南南 捨て:3 ドラ:南

泉(あとは……できることなら鳴きたい。宮永咲は門前に強い。無理にでも場を乱さへんと、『普通に暗槓で嶺上開花される』らしいからな。
 いや、暗槓はまだええとして、普通に嶺上開花ってなんやねん。言葉のチョイスおかしいですよ、玄さん――)

優希「」タンッ

泉「ポ、ポンや!」タンッ

 泉手牌:二三四[5]679南南南/⑦⑦(⑦) 捨て:4 ドラ:南

泉(よしっ! とりあえず一つ鳴きを入れられたで!! まあ、この九索が宮永咲の槓材やとしたら、うちは和了れへんことになるんやけど……。
 とりあえず、待つしかないな。ヤオ九牌の生牌はまだ他にもある。今の鳴きで何かがズレたことを祈りつつ、耐えるで)

優希(ふむ。泉ちゃん、張ってるっぽいのに鳴いてきた。ズラし目的だじぇ? でもって、咲ちゃんのツモを回されてしまったか。バリ恐いところを掴まされたじょ)

 優希手牌:三三四[五]六七八④⑤⑥468 ツモ:① ドラ:南

優希(残り三枚の位置がわからないヤオ九牌。それは、咲ちゃんの槓材である可能性が高い。中盤に入ってからの生牌切りは、慎重に見定めるように、とやえお姉さんから言われているじょ)

優希(この一筒は本来咲ちゃんがツモる牌だった。咲ちゃんの捨て牌にある筒子は、二巡目で切った九筒だけ。一筒を暗刻にしている可能性は十分ある。仕方ない。とりあえずストップだじょ)タンッ

 優希手牌:三四[五]六七八①④⑤⑥468 捨て:三 ドラ:南

咲「」タンッ

優希(む……? 咲ちゃん、この局初めてのツモ切りだじぇ?)

泉(暗槓は来ーへん。止まった……んか? うちの無茶鳴きが効いたんか?)

和「ツモです。2000・3900」パラララ

泉・優希(なー(じょー)!?)

和(何やらSOAの気配がしますが、私には関係ありません。お好きなだけ非効率な打牌をしているといいですよ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(あかん!? 追いつかれる……!! くっそ、なんでこいつはこんな自由に打っとるんや、ホンマに!! 恐いもの知らずって恐いわっ!!)

優希(のどちゃん、まさか、このまま咲ちゃんをトばして勝ち抜けしちゃったりするか? 咲ちゃんに限ってそれはないと思ってたけど、のどちゃんはシズちゃんに対してもSOAってたじぇ。
 いやいや、でもあの咲ちゃんだじょ? いくらのどちゃんでもさすがに――ない、じぇ?)

咲「」パタッ

 咲手牌:一二①①①②③④[⑤][⑤]999 ドラ:南

咲「次は私の親番だね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉・優希(――っ!!)ゾワッ

優希:118400 咲:5100 和:135100 泉:141400

 南二局・親:咲

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(嶺上使い——宮永咲。門前場に強く、五~七巡を過ぎたらもう嶺上開花の構えに入っとると思え、やったな。カンさえさせなきゃ、嶺上開花はできひん。対策はそれに尽きる。
 さっきはしくじったけど、うまいこと槓材を止められれば、むしろこっちのほうが有利。なんでかっちゅーと、宮永咲のテンパイは、その多くが槓材+役ナシやからや。
 直撃を取られるとしたら、ほぼ間違いなく大明槓からの責任払い。タンピン系の手役に振り込むことは、まずないやろって玄さんは言うてた。つまり、生牌以外やったら、全然押せるっちゅーわけや)

泉(それでいて、嶺上牌を自由に《上書き》できる宮永咲は、明らかに効率の悪い待ちでテンパイしてたりする。つまり、カンされたら即死である反面、カンされない限り死ぬことがないねん。
 玄さんがいくつか牌譜を見せてくれたけど、和了り牌が残り一枚しかない単騎や辺張で待つことを、こいつは避けようとしーひん。ほんで、その残り一枚の和了り牌は、嶺上開花で和了るつもりなら、高確率で王牌に埋まっとるわけやな。
 ほな、カンされるまでは、ツモられる心配も振り込む心配も皆無っちゅーことになる)

泉(スジや字牌が比較的安全――とか、そういう通常の理屈でこいつに対抗したらあかんねん。スジや字牌が安全なのは、タンピン手。
 ほんで、宮永咲のタンピンは、三回戦で初めて出てきたくらい稀や。ほな、スジや字牌なんてアテになるわけがない……)

泉(対宮永咲で気をつけるんは、常に生牌。特にヤオ九牌。『宮永咲が誰かから直撃を取るときは必ず大明槓からの責任払い』――なんてアホみたいな仮定が成り立つとすれば、生牌以外は常時オール完全安牌っちゅーことになる)

泉(宮永咲を相手にしとるときは、大明槓にだけ注意すればええ。たとえ、門前キープで連続ツモ切りみたいな、テンパイ気配MAXな状態やったとしても、諸々の傾向から、ダマの直撃を受けることはほぼない。生牌さえ切らなければ押し放題や)

泉(とは言え、中盤過ぎたらいつ『普通に嶺上開花』されるかわからへん。宮永咲は『門前で勝てる場』を恒常的に生み出しとるらしいから、無茶鳴きでもなんでもええ——仕掛けまくる以外に勝機はない。卓上《セカイ》を支配するランクS相手に、手なりで打ったらあかんねん)

和「ポン」ヒュン

 和手牌:123678六八[⑤][⑤]/白(白)白 捨て:⑥ ドラ:三

泉(知ってか知らずか、やな。味方になったり敵になったり、こいつがおるとそれだけで計算が狂う。せやけど、計算が狂った場合、一番困るんは、非効率《オカルト》な打ち方をしとる宮永や。
 今のうちは、鳴きの比率を上げてる以外は、ごく普通のデジタルで打っとる。多少狙いをハズされても、軌道修正は楽々やで……!!)

泉「チー」タンッ

 泉手牌:4[5]6七八八③④⑤⑨/(⑥)⑤⑦ 捨て:⑨ ドラ:三

泉(ほんで、自分はどうやねん、宮永咲。ただでさえ、同じ牌が四枚揃うっちゅーんは、古典確率論的にそうそう起こることやない。しかも、こいつの槓材は多くて三つ。大半は一つや。
 要するに、その一つの槓材――四枚の同種牌。それを手に引き込めるかどうかが、こいつにとっての最重要事項。それがこいつにとっての麻雀。こいつの目指しとるゴールなんや。
 槓材揃えて嶺上開花。強大な支配力と、精密な能力使うて、こいつはその奇跡をものにするんやろ。せやけど、や!!)

泉「ポン」タンッ

 泉手牌:4[5]6七③④⑤/八八(八)/(⑥)⑤⑦ 捨て:⑨ ドラ:三

泉(宮永咲はランクSやけど大能力者《レベル4》。《絶対》の壁は超えられへん。玄さんみたいに、ズラされようと何されようと《全てのドラが集まる》――みたいな、鬼のような強度はないはずなんや。
 やからこそ、こいつは加槓や大明槓をする。ホンマのホンマに嶺上無双をしたいなら、全部暗槓したったらええねん。好きなだけ槓材集めて、連槓して、四槓子和了ればええねん。もしうちが宮永なら、そうするわ)

泉(それをしてこーへんってことは、それができひん、とも考えられる。少なくとも、過去の牌譜では、暗槓と明槓の比率はとんとん。こいつにもできることとできひんことがある――)

泉(大丈夫……ここまではかなり戦えてる。実際、カンは一度もされてへん。宮永は断ラスのくせにリーチもしてこーへん。それどころか、和了ってもいーひん。効いとるはずなんや。いける……無能力者でも、工夫と努力でこいつに勝てる――!!)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(とにかく頭を使え! 足掻くだけ足掻け! それが無能力者にできる唯一のことや。使えるものはなんでも使う。利用できるもんはいくらでも利用する。そうして初めて、うちはこの戦場で生き残れんねん……!!)

泉(ほな、今のうちにあるカードは何か。玄さんから仕込まれた対策。積み上げてきたデジタル打ち。能力論も運命論も、かじれるだけかじった。今のうちは、少なくとも、無能力者としては《高一最強》のつもりや。でもって――)

和・優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(この二人――原村和と片岡優希。こいつらも立派な切り札やん。東場は、片岡に独走された。それかて、見方を変えれば、こいつの上家にいるうちがアシストしてこその結果やと言えるやろ。
 原村もそうや。同じレベル0のこいつが自由に動けるんは、どう考えてもうちが宮永咲対策を徹底しとるからや。
 まあ、ちょっと個人的に納得いかへんことも多々あるけど、うちが宮永咲を抑えて、原村が宮永咲を削るんなら、それはそれで好都合。
 あの《原石》の支配さえ物ともしてへんかった原村なら、或いは、宮永咲をトばせるかもしれへん。そんなオカルトありえへんと思うけど、こいつのデジタルには諸々の偏りを吹き飛ばせる『何か』がある。うちとは違うて……な)

和「ツモです。1000・2000」パラララ

 和手牌:123678五六[⑤][⑤]/白(白)白 ツモ:七 ドラ:三

優希(またのどちゃんかー!?)

泉(副将戦開始時は22900点差やったのに、今はたったの1300点差。メゲるわ。せやけど、これでまた一歩、宮永咲が死に近付いた。原村なら――インターミドルでうちに競り勝ったほどの雀士なら――できるかもしれへん。
 うちが宮永咲を抑え続ければ、いよいよ濃厚になってくる。チーム《煌星》のトビ終了……)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(こちとら何の力もない無能力者。気持ちで負けたら、諦めたらそれで終わりや。チームのみんなのおかげでここまで来てん! これだけお膳立てされてん! やったる……やったるで――ッ!!)

和「親番、行かせていただきます」コロコロ

優希:117400 咲:3100 和:139100 泉:140400

 南三局・親:和

咲「」タンッ

泉「それや、カンッ!」パラララ

泉(さてさて……カンして二萬引けたんはラッキーやったけど、これはさすがに無理あるか?)

 泉手牌:①③⑤⑦⑦二三四九南/八八(八)八 ドラ:一・②

泉(いや、ぐちぐち考えるんはあとや。とりあえず、これで無茶鳴きを入れることには成功した。ついで嶺上牌を一つ食えた。断ヤオのみでもなんでもええから和了ったる。少なくとも、ドラ表示牌で一枚見えとる九萬と一筒は、宮永に当たることはない。
 南が生牌っちゅーんがちょっとアレやけど、もし、宮永咲の手が槓材+役ナシに偏っとるなら、役アリになってまう場風牌の南は、他の生牌より若干槓材である可能性が低いやろ。よって、押せるはず――って、げ……)

 泉手牌:①③⑤⑦⑦二三四九南/八八(八)八 ツモ:一 ドラ:一・②

泉(宮永から大明槓した直後に生牌のドラ。しかもヤオ九牌。うちが鳴きを入れへんかったら、宮永のツモっとった牌やし、どう考えてもアウトやろ、これ。
 しもたな……この一萬を切れるっちゅー根拠がない限り、喰いタンでは和了れへん。かといって、今から123の三色とか、染め手とかは現実的やない。手詰まり――やろか?)

泉(いやいや、ちゃうやん。こっからが腕の見せどころ。無能力者らしく泥に塗れていこーや。たとえうちの手が詰んでも、やり方次第でどうとでもなる。どこかに活路があるはずや……)チラッ

 和捨牌:北7四發[⑤]七

泉(純全帯――やろか。發より後に赤五筒手出しやから、筒子が①②③⑦⑧⑨とあって、一通を視野に入れとったんかもしれへん。
 せやけど、發切ったんなら、混一を目指すほど、手が筒子に偏っとるわけでもない。二面子+雀頭とか、あってもそれくらいやろ。
 ほんで、純全帯狙いの原村は、うちの八萬カン見て、七萬を落としてきた。ほな、きっとあるはずやんな。さっきまでその七萬とくっついとったと思われる、九萬が――)

 泉手牌:①③⑤⑦⑦二三四九南/八八(八)八 ツモ:一 ドラ:一・②

泉(一萬が宮永の槓材なら、うちの手は死んだも同然。でもって、この一萬を止めたところで、まだ生牌はぎょーさん残っとる。
 巡目的にも、ぼちぼち『普通に嶺上開花』が来る。っちゅーか、うちが鳴いてへんかったら、きっとこの巡目でやられとったやろし)

泉(ほな、ここは原村のアシストに回るんも悪くないやろ。首位陥落してまうんは悔しいけど、玄さんたちのおかげで、この点数状況がある。他家の支援っちゅー道を選ぶことができんねん。
 ここで意地張って一人でなんとかしようとするんは、玄さんたちを裏切ることになるやんな……)

    ――私の身体なんて……どうなろうと構いません。

泉(もう……あんな思いはしたくあらへん。うちに力がないせいで、うちが弱いせいで、誰かが傷つくところなんて見たくあらへん)

        ――悲しくても、辛くても、苦しくても、前に進み続けるしかないんだよ。

泉(強くならな。前に進まな。うちは最終的に宮永照や小蒔さんに勝たなあかんねん。ここで宮永咲に躓くようやったら、そんなん百年掛けても無理や。なんとしてでも、今ここで、こいつを屠ったる)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(っちゅーわけで、癪やけど、原村和。ここは自分に任せるわ。自分のことはそれなりに買っとるからな。有難く受け取っとけよ。ほんで、あとで牌譜見て、うちの美技に酔いしれるとええで……!!)タンッ

 泉手牌:①③⑤⑦⑦一二三四南/八八(八)八 捨て:九 ドラ:一・②

和(む……)

 和手牌:①②③⑦⑧⑨⑨⑨134九九 ドラ:一・②

和(カンドラが増えましたし、リーのみでもいいかと思っていましたが、九萬は二条さんが出した一枚が最後。門前で進めて悪形リーチを掛けるくらいなら、親ですし、鳴いてテンパイに取ったほうがいいでしょうか――)

和「ポン」ヒュン

 和手牌:①②③⑦⑧⑨⑨⑨13/九九(九) 捨て:4 ドラ:一・②

泉(よしよし、またツモ順ズレたで。これで、今度は片岡が宮永のツモを掴まされることになる。宮永は、原村のツモが回ってくんねんな。何かが変わってくれたらええんやけど、どーなんやろか)

優希「」タンッ

咲(……)

 咲手牌:111789一一一二[五]六七 ツモ:[5] ドラ:一・②

咲「」タンッ

 咲手牌:111[5]789一一一[五]六七 捨て:二 ドラ:一・②

和「ツモです。2000オール」パラララ

 和手牌:①②③⑦⑧⑨⑨⑨13/九九(九) ツモ:2 ドラ:一・②

優希(ちょ、またのどちゃん!? っていうか、咲ちゃん、どうしたじょ!!)

 西家:片岡優希(幻奏・115400)

和(それにしても、いつもはやたらとカンをしたがる咲さんが、ここまで異様に静かなのが少々気になりますね)

 東家:原村和(新約・145100)

咲(……)

 北家:宮永咲(煌星・1100)

泉(そこそこ読み通りや。ええ感じやん。原村にトップまくられたのはもう目を瞑るとして、何はともあれ、宮永の点数が、あと1100点――!!)

 南家:二条泉(逢天・138400)

泉(…………これは)

        ドクンッ

泉(これは……勝てるんちゃうか……?)


     ドクンッ


泉(次は一本場やから、なんでもええから直撃したれば、宮永咲をトばせる! 場合によっては、また原村のアシストをしてもええ! こいつが1300オール以上をツモればその瞬間に試合終了!! 二位抜けは悔しいけど、勝ちは勝ちやん……!!)



            ドクンッ



泉(いや、っちゅーか、うちがツモったってええやんな! 1300・2600をツモればええんやろ? タンピン作ってリーチしてツモればええだけやん! インターミドル時代から今まで何度もやってきたことやん!! 余裕やんっ!)




          ドクンッ




泉(玄さんが大星のカン裏を封じて、透華さんが森垣を削って、豊音さんが東横から直撃を取った……!! みんなのおかげで、この今がある!! ランクSの魔物を――崖っぷちに立たすことができとるっ!!)





     ドクンッ





泉(勝てるんや!! あと一押し!! ほんのちょっとでもええ!! この化け物を突き落とせるッ!! 無能力者のうちが!! 大能力者を!! 多才能力者を!! 支配者を!! この手で殺せるッ!!)






          ドクンッ






泉(ら……楽勝や!! ラン


        ク


     ――いっしょに


             S

                  ――麻雀

    の



   ――楽しもうよ?


                         魔物

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(っ~~~~~!!??)ゾゾゾッ

和(なんでしょう、空調のせいですかね。少し、肌寒いです――)ピリピリ

優希(咲ちゃんからタコス換算で一億個分の支配力を感じるじぇ……!!)ゾワッ

泉(あ……うぁ…………)カタカタ

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(あかん……こ――殺される…………!!)カタカタカタカタ

優希:115400 咲:1100 和:145100 泉:138400

 南三局一本場・親:和

咲「ダブルリーチ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(嘘だじぇ……)

和(なかなかの偶然ですね)ヒュン

泉(こ……こんなことが――!!)カタカタ

 泉手牌:一二三四[五]六七八九14白白 ツモ:1 ドラ:④

 咲捨牌:白

泉(異常過ぎる。ありえへん。宮永のダブリーもそうやし、うちに二巡目一通確定なんて勝負手が回ってきたのも、何もかもおかしい。これは偶然なんかやない。完全なオカルト。必然の奇跡。こいつは狙ってこの状況を作ったんや……)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(四索でリーチ掛ければ満貫確定。白は宮永の現物で残り一枚しかあらへんから、掴んだらまず出してくるやろ。一索はスジ引っ掛けになるし、このシャボ待ちは悪くあらへん。巡目が回ったとしても、まず読まれることはない)

泉(せやけど……この四索、ホンマに通るんか? ダブリー相手の二巡目に待ちを読もうとするんがオカルト行為なのはわかっとる。せやけど、この四索は危険過ぎるやろ。百パー振り込むに決まっとるやん)

泉(現物の白を切れば……振り込みは避けられる。それはわかっとる。ただ、それはホンマに雀士として正しい判断なんか?
 相手はダブリーで、しかも残り100点。当たったら事故っちゅーことで、己の都合で押し進めるんがセオリーやろ?
 現に、今までうちは、そうやって勝ってきた。原村ほど動揺ナシとはいかへんけど、ダブリーを掻い潜った経験くらい何度もある。
 ここで守りに入るような打ち方で、インターミドルを勝ち抜いたわけやない! うちは、いつやって全力前傾で戦ってきてん!!)

泉(ここで引いてもうたら、うちのこれまでを全否定することになる。あと1100点でトぶ断ラスが、悪足掻きも悪足掻きなダブリーかましてきた。こんなん、ひらりとかわしてまえばええねん。
 誰かがツモったらその時点でこいつはトぶ。何か仕掛けてこようにも、ダブリー掛けとるんやから何一つ身動きできひん。そんな案山子みたいなやつにビビってどうすんねん……)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(くっ……これが《牌に愛された子》の麻雀なんか……!? この四索は、間違いなくこいつの和了り牌や。そうやないと、この場の異常さを説明できひん。切ってテンパイに取ったら、その瞬間に直撃を受ける――)

泉(かと言って……四索を抱えて、現物の白で様子見たところで、こいつはきっとツモか何かで和了ってくるやろ。そんとき、うちは、耐えられるやろか……?
 これまで押し通してきた戦い方を捨てて、無様に逃げて、それでも結末を変えることができなかったっちゅー、その絶望に、うちは耐えられるやろか……?)

泉(無理や……耐えられるわけがあらへん。絶望感と敗北感を植えつけられて、何もかも、おしまいや。ほな、どうすればええ? 意地張ってリーチ掛けるか? 振り込むってわかっとるのに?)

泉(うちは……何を勘違いしとったんやろ。誰が誰を殺すって? 誰が誰に勝てるって?
 どうしようもないやん。こんなん。立ち向かっても、逃げても、分かれ道が、どっちも死に繋がっとる。この状況を意図的に作ったんか。作ったんやろな。ホンマ……こいつは人間やないで……)

        ――行け!!

                 ――恐れんなっ!!

     ――相手は瀕死やん!!

泉(ここで逃げることを選んだら……きっと、二度と戦えへん)

   ――直撃かツモで殺せんねん!!

            ――あとちょっとで勝てんねん!!

泉(ここは、振り込むとわかってても、立ち向かうのが、正しいはずや)

                   ――やったれ!!

      ――うちは《高一最強》!!

               ――うちならきっとできる!!

泉(それがうちらしさで、うちの麻雀で、うちのプライド……)

  ――戦えッ!!

                     ――逃げたらあかん!!

    ――諦めたら全て終わりやん……!!

泉(なんでや……手が……勝手に――!! 嫌やっ!! あかん……それだけは!! ホンマに……あかんて――)タンッ

 泉手牌:一二三四[五]六七八九114白 捨て:白 ドラ:④

泉(そ……んな……うち……何を…………)カタカタカタカタ

優希(のどちゃんはSOAで、泉ちゃんは現物か。参った。安牌ないじぇ――)タンッ

咲「ロン」ゴッ

優希「じょ……っ!!」ゾワッ

咲「ダブリー一発門前清一一盃口……16000は16300」

 咲手牌:1223344567888 ロン:1 ドラ:④・發

優希(どうかしてるじぇ……)

和(本当に大した偶然です)

泉(あははははっ!! やっぱ四索はアタリやった!! ほんで、一索は宮永の手に一枚! 片岡の手に一枚! 白が裏ドラ表示牌やと!? こんな絶望……!! これが人間のすることかッ!!?)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(ほんで、ああ……そういうことか。今の倍満で、宮永の個人収支がプラス4900点……25000点持ちの30000点返しで……《プラマイゼロ》――)

泉(これがランクS。これがレベル4。これがマルチスキル。これがあの宮永照の妹。これが《牌に愛された子》。あかん。ダメや。工夫次第でどうにかなるレベルを完全に超えてもうてる)

泉(カンできひんように立ち回ろうと、ぎりぎりまで追い詰めようと、全て無意味。うちがどれだけ身を削って、プライド捨てて、死ぬ気で頑張ったところで、こいつは、こんなにも簡単に、あっさりと、点棒を奪える。
 呼吸するように奇跡を起こす支配者《ランクS》……こいつにとって、うちの存在なんてあってないようなもんなんや。一息で消し飛ばされてまう埃と一緒……ゴミクズにも劣るちっぽけさ……)

泉(本気のこいつを前にして……うちには抗う術があらへん。端から勝負なんか成立せーへん。勝つのはこいつ。負けるのはうち。覆しようのない力の差。超えることができひん才能の壁。歯向かうこと自体が間違いなんや)

泉(なんでや……!? あんなに対策いっぱい教えてもろたのにっ! あんなに手を尽くしたのに! あんなに練習したのに!! ずっと——ずっと最強を目指して麻雀に打ち込んできたのに……っ!!)

泉(その結果がこれなんか!? 原村に負けへんようデジタルの勉強して! 染谷先輩を見習ってアンチオカルトの技術を覚えて! 小蒔さんや玄さんや透華さんや豊音さんからは数え切れへんほどのもんを貰って!!)

泉(ここまでしてもなお……!! うちとこいつには――無能力者と《牌に愛された子》には――こんな……どうしようもない力の差があるんか!? 世界……不平等過ぎるやろ――!!)

泉(なあ……宮永咲。ランクSの魔物。自分から見て……うちは一体なんなん? 無能力者ってなんなん? そこに何か意味はあるんか? 価値は? 存在意義は……?)

泉(古典確率論から抜け出すこともできず、強い支配力に晒されればそれだけで震えが止まらなくなって、ただ奇跡に恐れ戦くことしかできひんうちは……何を支えにして、なんのために牌を握ったらええんや……)

   ――あなたの目指す《頂点》は――天上に立つということは……これを超えるということです……。

泉(なあ、知っとるなら……教えてーな。《牌に愛された子》……)

           ――どうですか、泉さん? 今の私に勝てますか?

泉(小蒔さん……小蒔さんは、どんな気持ちで、うちと麻雀を打っとるんですか? 小蒔さんは、ホンマに、うちが小蒔さんに勝てると思っとるんですか? 小蒔さんは、今、どんな顔で、うちのことを応援してくれてはるんですか……?)

泉(わかりません。うち……どうしたらええのか、なんもわかりません。この状況に、何一つ希望が見出せません。勝てません。こんな化け物に勝てるわけないですやん……)

泉(今すぐ逃げたい。ここから消えたい。傷つきたくない。心折られたくない。
 今のうちにあるんは、そんな逃避の感情ばかりです。ラス親……四分の一の確率で、何度も何度も体験してきた。
 ここで逆転して勝ったこともあった。逆にまくられたことも。そのたびに一喜一憂してきた。いつもドキドキしたもんや。やのに、なんやろな、この、圧倒的な虚しさは――)

泉(ごめんなさい……小蒔さん、玄さん、透華さん、豊音さん。うちは……もう……)

咲・和・優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(もう戦えません……こいつらに……勝てる気がしません――)

優希:99100 咲:17400 和:145100 泉:138400

 ――《逢天》控え室

豊音「イズミ……」

透華「まるで和了る気がありませんわね」

     和『ポン』

玄「流しに来てるね、原村さん。まあ、この点差ならそうか」

小蒔「あ……泉さんが――」

     和『ロンです、2000』

     泉『……はい』

『副将戦前半終了!! 《インターミドルチャンピオン》――《新約》原村和がここまでトップを守ってきた《逢天》の牙城を崩しました!!
 三位の《幻奏》片岡は東場で優位を保つも踏ん張れず!! 四位の《煌星》は大きな和了りを見せましたがなかなか最下位から抜け出すことができません……!!』

玄「さてと。じゃ、ちょっといいかな、小蒔ちゃん」

小蒔「はい、泉さんのところですね!」

豊音「ちょーよろしくだよー」

透華「喝ですわ、喝ッ!!」

玄「任せて。派手にブチ込んでくるよ」ゴッ

小蒔「張り切って行って参りますっ!!」ゴッ

 ――――

泉(ああ……ダメや。最後も、原村に持っていかれた。普段ならあんな見え見えの食いタンなんぞに振り込まへんのに。親続けるんが恐くて……トップまくられたっちゅーのに、うちは……うちは何をやってんねん……)ヨロヨロ

 四位:二条泉・-16300(逢天・136400)

玄・小蒔「泉ちゃーん(さーん)!!」タッタッタッ

泉「玄さん……小蒔さん……あの、ホンマごめ」

小蒔「すごいですっ、泉さん!!」ガバッ

泉「ん……な――?」

玄「でかしたよっ、泉ちゃん!!」

泉「は…………?」

小蒔「玄さん、泉さんはどうやら、まったくピンときてないご様子です!」

玄「これだからヘタレ属性のモヤシっ子は面倒なのです。あのね、泉ちゃん。今の前半戦、泉ちゃんは、自分が何をしたか、正しく理解してる?」

泉「何をって……何もできてませんよ。あんだけ必死こいて宮永咲対策を徹底したのに、結局、ダブリーされて全部パー。条件は同じはずの原村にはやられたい放題。
 東場は片岡に一方的にボコられて……ラス親も、心折れて、焼き鳥のまま終了。最低の出来やって自覚はあります。ごめんなさい……」

玄「最低の出来? 自惚れも甚だしいよ、泉ちゃん。二回戦では清水谷さん、三回戦では福路さん相手に、泉ちゃんは一体どれだけ失点したと思ってるの?」

小蒔「どっちも毎局二万点以上削られてました!」

泉「すいません……」

玄「そんな泉ちゃんの失点が、今日は一万点台。これだけでもう快挙だよ」

泉「…………」

小蒔「く、玄さん! 泉さんは宮永さんの支配力に中てられてかなり憔悴しているようなので、ちょっと言葉を選んだほうがいいかもしれません!」

玄「えーっと、つまり、泉ちゃんは、ちゃんと強くなってるってこと。自信を持っていいんだよ。今日の泉ちゃんは、すごくいい働きをしてる」

泉「いい働き……? どこがですか? 宮永にはダブリーされる。片岡には東場無双される。原村にはまくられる。どこにええとこなんてありますか?」

玄「片岡さんが東場に強いのは、わかりきってたことでしょ。無能力者であれに対抗しようっていうのがそもそも無茶なんだから、全然よく戦えてたと思う。もっと一方的にやられてもおかしくはなかったんだよ。
 東場の片岡さんっていうのは、それくらいの化け物なの。こと東風戦なら《一桁ナンバー》と互角にやり合える力を持ってる。まともに抑え込めるのは、それこそ、あの《三人》じゃないとってくらいの、とんでもない《ゴールデンルーキー》なの」

小蒔「あと、原村さんについては、全く気にすることなんてないんですよ。トップはまくられましたが、三位との差はさほど詰まっていません。
 点数状況的に、原村さんの和了率が上昇する分だけ、私たちは逆転されにくくなります。多少収支で上を行かれたからなんだというのでしょう。
 ラス親での振り込みも、三位や四位から直撃を受けるよりはずっといいです。あの差し込みとも取れる振り込み――逆転を狙っていた片岡さんや宮永さんは、きっと、やられた! と思ったと思います」

泉「そうなんですかね……」

玄「それから、宮永さんのことなんだけど、これがもう、最高と言っていいくらいの封殺っぷりだったよ!」

泉「えぇぇ……?」

小蒔「あとで牌譜を確認してみればわかります。東場は片岡さんの貢献も大きかったですが、南場はもう泉さんの独壇場でした。
 生牌を抱えて宮永さんの大明槓を封じ、的確な鳴きで暗槓を封じ、あの方に一切の槓材を揃えさせることなく、泉さんはこの前半戦を乗り切ったのです」

泉「で、でも、あのダブリーは――」

玄「泉ちゃん、前半戦の宮永さんの個人収支、いくつだったかわかる?」

泉「プラス4900点です……」

小蒔「宮永さんは二位だったので、25000点持ちの30000点返しに置き換えると、《プラマイゼロ》ですね」

泉「はい……もちろん、そのことには、気付いてますよ」

玄「そこまで気付いててなんでしょげてるのか意味不明だよ……。あのね? 誰がどう見ても、あのダブリーは、宮永さんの苦肉の策でしょ? やりたくてやったわけじゃない。
 泉ちゃんがこれでもかってくらいにカンを封じにかかったせいで、宮永さんは思うように打てなかった。そして、東場の片岡さんとお構いなしの原村さんの活躍もあって、ついには点棒があと1100点のところまで追い込まれた。
 だから、仕方なく、嶺上開花を諦めて《プラマイゼロ》の力に頼った。一番支配力を使いやすいやり方――慣れている打ち方で、力任せに和了りをものにした。それだけのことだよ」

泉「せやけど、それって、たとえこっちがカンを封じて削っても、いつでも、好きなときに、あっちは《プラマイゼロ》使うて、思うがままに点棒を奪えるってことですやん。
 せっかく玄さんに仕込んでもらった対策のおかげで、トビ終了まであと一歩のとこまで追い込めたのに……あの支配力を前に、うちは何もできひんかった。みすみす《プラマイゼロ》にさせてもうた。
 あいつを相手取るには、うちはあまりに無力です。勝てる気がしません。実際、勝てへんかったです……完敗も完敗です」

小蒔「本当にそうでしょうか、泉さん。本当に、泉さんは宮永さんに勝てなかったのでしょうか? 本当に、宮永さんは、泉さんに勝ったのでしょうか?」

泉「どう見ても勝ってますやん。得意の嶺上開花を封じられても、余裕で《プラマイゼロ》のダブリーかまして、トビ回避して、プラス収支で終わってますやん……」

玄「泉ちゃん、本当に何を言ってるの? この点数状況で《プラマイゼロ》の力を使うなんて、そんなの、使った時点で負けを認めるようなものでしょ?
 《プラマイゼロ》を使ってしまえば、宮永さんは、高確率で個人収支がプラス五千点前後になる。或いは、裏技を駆使しても、たったの二万九千点しか稼げない。
 三位と十万点以上離されていたあの状況――二位と十万点以上離されているこの現状――宮永さんの《プラマイゼロ》が戦略的にベストであるはずがないんだよ」

泉「それは……」

小蒔「泉さん。泉さんは、宮永さんの支配力を前に、何もできなかったと言いました。確かに、あのダブリーを放ったときの宮永さんは、私でも息を飲むくらいの力を発揮していました。そう言いたくなるのも、無理ないことかと思います。
 ですが、《神憑き》の私にはわかります。あれは、決して、望んで力を使っていたわけではありません。
 支配力の流れや質は、その時その時の感情や意思に強い影響を受けますが、あのときの宮永さんから私が感じたのは、どうしようもない悔しさでした」

玄「あのダブリーは、もっと高めでツモることもできた。なのに、宮永さんは、倍満の出和了りを選んだ。しかも、一位の原村さんや二位の泉ちゃんじゃなく、三位からの直撃。
 あの状況で見逃すのが果たして最善かと言われると微妙だけど、いずれにせよ、高めツモを放棄した宮永さんは、《プラマイゼロ》に甘んじていたと思う。
 《プラマイゼロ》以外に、《プラマイゼロ》以上に、トビを回避する確実な方法が、あのときの宮永さんにはなかったんだよ。宮永さんは、明らかに追い詰められていたよ。切羽詰まっていたと思う」

泉「で、でも……たとえ宮永咲がどう思って、どう感じていようと、あのとき、うちが諦めたんは、変わりません。うちは勝ちを放棄しました。力の差に絶望しました。
 無能力者としても、雀士としても、《逢天》のリーダーとしても……自ら負けを認めてしまったうちは……最低です。慰めてもらう価値もありません……」ポロ

小蒔「い、泉さん……!?」

泉「ごめんなさい……玄さん、小蒔さん。うちは、もう、何もできる気がせーへんのです。戦える気がせーへんのです……」ポロポロ

玄(あー……ポッキリしちゃってるのか。まあ、あの支配力に晒されたら、身も心もボロボロになるよね。泉ちゃんは耐性あんまり強くないし。んー、こうなると、私じゃダメだ。私の言葉は、今の泉ちゃんには、届かない)

小蒔「い……っ!!」ウル

玄(うん。ここは、小蒔ちゃんになんとかしてもらおう)

小蒔「泉さんの……っ!!」ウルウル

泉「こ……小蒔さ――」

小蒔「泉さんのばかあああああああああ!!」ブンッ

 ペチーン

泉「…………へ?」ヒリヒリ

小蒔「そんな……っ!! そんなこと言わないでください!!」ブンッ

 ペチーン

玄(そうそう。その調子だよ、小蒔ちゃん)

泉「小蒔さ……ん……」

小蒔「泉さん!! どうしてしまったんですか!? はっきり言いますけど!! さっきの宮永さんは!! 私の《九面》様状態には及びません!! ランクSとしての純粋な支配力比べなら私のほうが上なんですっ!!」ブンッ

 ペチーン

小蒔「泉さん!! よく思い出してくださいっ!! あなたが、《九面》様状態の私と打って――直後に、一体なんと言ったのか!!?」ブンッ

 ペチーン

小蒔「泉さんは……! 泉さんの力は!! もちろん、ランクSの私から見れば、ほとんど無いも同然です!!
 衣さんが無能力者の方々をよくうぞーむぞーなどと言ったりしますが、確かに、それくらい力の差がありますっ!! 《神憑き》の私にはそれがわかり過ぎるほどわかります!!」ブンッ

 ペチーン

小蒔「でもっ!! それが何ですか!? 今更、力が有るとか無いとか!! そんな問題を持ち出すこと自体がばかばかしいですっ!!」ブンッ

 ペチーン

小蒔「三回戦のときに私は言ったはずですっ!! 忘れているならもう一度言います!!
 泉さんが勝てなかったのは!! ちょっと運に恵まれなくて!! 経験が足りなくて!! 頑張ろうという気持ちが空回ってしまっただけですっ!!」

 ポカ

小蒔「泉さん!! どうしてそんな顔をしているのですか!? 力の無さを呪ったところで!! それで何かが変わるのですか!?
 たとえどんなに力が無かったとしても!! 無いからこそ!! 泉さんは戦わねばならないはずです!! 全ての支配者と能力者に!! 立ち向かわねばならないはずです!!」

 ポカポカ

小蒔「泉さんが悲しくて辛くて苦しい思いをしているのは痛いほどわかります……!! ですから……私は応援します!! 全力で!! だって!! 泉さんは誰よりも強い雀士だからっ!!」

 ポカポカポカ

泉「小蒔さん――」

小蒔「泉さんには能力がありません!! 支配力がありません!! けど!! あなたは何よりも大切なものを持っているはずですっ!!
 それは私がずっと欲しかったものですっ!! 私が理想としていたものですっ!! だから、だから……っ!!」

 ガバッ

泉「あ、う……」

小蒔「いくら点棒を失っても構いません。力の差に絶望しても構いません。成す術なく敗北しても構いません。だから……どうか、戦うことだけは、前に進むことだけは、やめないでください……!!」ポロポロ

泉「ご……ごめんなさい……」

小蒔「わ、私こそ、何度もぶって、ごめんなさい。ほっぺた……痛かった、ですよね……?」ペタペタ

泉「いや、それは、全然、まったく。あんなへろへろの平手打ち……うちはスキルアウトの元リーダーですよ?」

小蒔「そ、そうでしたね……」ポロポロ

泉「あ、えっと、その――」

玄「泉ちゃん、小蒔ちゃんを泣かせるとはいい度胸してるね。これはオシオキ確定かな?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉「ひっ……!?」

玄「泉ちゃん、小蒔ちゃんの言ってることは、全部その通りだよ。泉ちゃんに力がないことくらい、私たちみんな知ってるよ。泉ちゃんが負けて帰ってくることくらい、覚悟してるよ。だけど、それがどうしたの」

泉「どうしたのって……」

玄「泉ちゃん、よーく考えて。泉ちゃんの、その無いも同然なちっぽけな力は、ヘタレたからっぽの頭脳は、幸運の一つも掴めないようなほそっこい手は、一体、何を守るためにあるのか」

泉「守る――」

玄「点棒なんていくらでもくれてやっていいよ。希望なんていくらでも手放せばいいよ。意地も称号も安いプライドも、勝利さえ、ぶん投げちゃっていいよ。
 でもね、泉ちゃん。この世には、たとえどんな絶望の中にあっても——絶望の中にあってこそ、守らなきゃいけないものがある。
 それを、私は、誇りと呼んでいる」

泉「…………」

玄「私には私の、小蒔ちゃんには小蒔ちゃんの、透華ちゃんには透華ちゃんの、豊音さんには豊音さんの、誇りがある。
 それは、きっと、一番根っこのところでは、みんな一緒だと思うんだ。そして、泉ちゃんだって、それを守りたいと、思っているはずだよね?」

泉「……はい」

玄「なら、どうすればいいか、わかるよね」

泉「…………はいっ!!」

小蒔「泉……さん……?」ウルウル

泉「すいません……小蒔さん。もう、大丈夫です」

小蒔「泉さん……」

泉「戦います。どんなに惨めでみっともない結果になっても。最後まで。うちは……小蒔さんを守るために戦うッ!!」

小蒔「い、泉……さんっ/////!!」カー

玄「ハイ、そこ。いちゃつくのは試合が終わってからにしてほしいのです」

泉「あはは……」

玄「っていうか、泉ちゃん、昨日の夜に約束したこと、まさか忘れてるわけじゃないよね?」

泉「はい。前後半戦、どっちかは、勝ってみせろ、ですよね」

玄「で、もう前半戦は終わってて、泉ちゃんはラスだったんだからね」

泉「わかってます……できる限りのことを、やります」

玄「よろしい」

小蒔「泉さん! 私は戦うあなたを応援していますっ!!」

泉「おおきにです」

玄「私の対策と、小蒔ちゃんの応援。それに透華ちゃんと豊音さんが作ってくれたリード。泉ちゃん、よかったね。そのぺったんこなおもちには入りきらないくらい、今の泉ちゃんは、たくさんのものをお持ちだよ」

泉「ちょっとでも返せるように、頑張りますわ……」

玄「モニターで見てる限り、前半戦はわりといい感じだった。後半戦は、もっと踏み込んじゃっていいと思う。それに、私が叩き込んだ宮永さん対策――まだ一つ、とっておきのが残ってるでしょ?」

泉「でしたね。使いどころは難しいですけど……なんとか、やってみます」

『副将戦後半、まもなく開始です。対局者は対局室に集まってください』

泉「……と、時間や」

小蒔「行ってらっしゃいませ……泉さん」

泉「きっと楽勝したります。せやから、待っていてください、小蒔さん」

小蒔「もちろんですっ!!」

玄「ファイトだよ、泉ちゃん」

泉「はい……っ!! ほな、行ってきますッ!!」ゴッ

 タッタッタッ

玄「……世話が焼けるよ、本当に」

小蒔「……本当に、応援のし甲斐がありますね」

玄「あとは、なるようになる、かな」

小蒔「泉さんなら、必ずや、やってくれます。私は信じていますよ。あの方の強さを」

玄「……そうだね」

小蒔「では、控え室に戻りましょうか、玄さん」

玄「うん。わかってる――」

玄・小蒔(頑張って(ください)、泉ちゃん(さん)……!!)

 ――対局室

泉(うちは……ホンマに、どうしようもないドアホやで。また小蒔さんを泣かせてもうた。何やってんねん。そうならへんように、頑張るって決めたやん。強くなるって決めたやん……)

 ガチャ ギィィィィ

泉(勝手に絶望して、勝手に負けた気になって、勝手に戦うことをやめて。気合が取り得の無能力者がなんてザマや。虚勢だけで勝てたら苦労せーへん。楽勝——言うだけならタダ。それも……せやけど、ここいらが限界やんな)

咲・和・優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(認めろ……今のうちは、逆立ちしたってこいつらには敵わへん。《高一最強》。笑かしてくれるやん。どこの世界に、焼き鳥断ラスの最強がおんねん。
 現実を見ろ。過去の成績に縋ってどうする。ここは麻雀の強さが全ての学園都市――白糸台高校麻雀部やろ)

泉(うちは、一年ながらに上級生と張り合えるような、ごく一部の特別なやつやない。化け物やない。ちょっと平均より小賢しくて自信過剰なだけの無能力者。旧第一位の超能力を持ちながら、驕らず努力してきた玄さんにボロクソ言われるんは当然や)

              ――点棒なんていくらでもくれてやっていいよ。

泉(うちは吠えることしかしてこーへんかった。《高一最強》やから。そう吠えてはええように食い物にされてきた。ここまでなんもええとこなし。
 あげく、ランクSがちょっと本気出してきたくらいで、尻尾巻いて逃げ出すような、救いようのないヘタレや)

        ――希望なんていくらでも手放せばいいよ。

泉(何をごちゃごちゃ迷う必要があんねん。ええやん。それで強くなれるんやったら。それで一歩でも前に進めるんやったら。それで一番大事な誇りを守れるんやったら……っ!!)

   ――意地も称号も安いプライドも、

泉(ええよ! 何も要らへん!! どうせ元からレベル0でランクFなんやから!! 何をカッコつけることがあんねん!! 認めて受け入れて理解しとけ!! うちはどうしようもなく――弱いッ!!)

             ――勝利さえ、ぶん投げちゃっていいよ。

泉(焼き鳥断ラス大歓迎っ!! うちは無能で無力な最底辺で構へん!! それで誇りを守れるんやったら!! 大好きな小蒔さんの笑顔を守れるんやったら!! ええやん!! 負け犬……ッ!! 上等ォ――!!!!)ゴッ

咲・和・優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(思い知らせたるで……勝ち組の人外ども。開き直った無能力者の悪足掻きがどれほどのもんか。
 負け犬は負け犬やけど、こちとら、牙くらいは生えとんで。己の弱さを認めても、戦うことを止めたわけやない。そこんとこ、勘違いせんといてや――)

泉「ほな、よろしくですッ!!」

 北家:二条泉(逢天・136400)

優希「後半もよろしくだじぇ」

 東家:片岡優希(幻奏・99100)

和「よろしくお願いします」

 南家:原村和(新約・147100)

咲「よろしくお願いします」

 西家:宮永咲(煌星・17400)

『副将戦後半、開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございます。

一時間くらいしたらまた戻ってきます。

では、一旦失礼します。

 東一局・親:優希

泉(気持ちを切り替えれば、なんかええことあるかもって思ったけど、そんなことなかったでっ!! ま、現実はこんなもんや。ええやん。これぞ無能力者らしい配牌や。なんや愛おしさすら感じるわ)

 泉配牌:二二三④2269東北白發中 ドラ:⑦

泉「(ま、何はともあれ……鳴けるし鳴いとこか)ポン」タンッ

 泉手牌:三④226東北白發中/(二)二二 捨て:9 ドラ:⑦

泉(前半戦の無茶鳴き。あれでええって、玄さんは言うた。つまり、鳴き自体はそこそこ宮永咲に効いとる。ほんで、玄さんは、もっと踏み込め、とも言うてたな……)

 泉手牌:三④226東北白發中/(二)二二 ツモ:四 ドラ:⑦

泉(前半戦は、鳴くにしても、少し手が形になるんを待っとった。けど、それやと、配牌から既にほぼ手が出来上がっとる東場の片岡には追いつけへん。そこをどうにかしようと思えば、つまり、もっともっと前に出なあかんねん。
 役なんて後付けでええんや。足はあっちのほうが速いんやから、フライング気味でスタートせーへんと先にゴールできひん。そもそも負けて当然の勝負。見切り発車したろーや。どうやって和了るかは、鳴きながら考えればええやろ。
 ほな、とりあえず、自風の北は一枚見えてもうたから、ここでさよなら、っと)

 泉手牌:三四④226東白發中/(二)二二 捨て:北 ドラ:⑦

優希「」タンッ

和「」タンッ

咲「」タンッ

泉(……おっと、中も死んでもうたか。しゃーない)タンッ

 泉手牌:三四④2268東白發/(二)二二 捨て:中 ドラ:⑦

優希「」タンッ

和「」タンッ

咲「」タンッ

泉(發も出てきた。ほんで、鳴けるとこ出てきたな。これも喰っとくか――)

泉「チー」

 泉手牌:三四④22東白/(7)68/(二)二二 捨て:發 ドラ:⑦

優希「」タンッ

和「」タンッ

咲「」タンッ

泉(お……? 宮永が四萬切りやと? さっきの二萬ポンで宮永のツモを食った直後に入ったんが四萬やったから、なんかあるな、これ。んー……ほな、こっちで、どーやろか)タンッ

 泉手牌:三三四④22東/(7)68/(二)二二 捨て:白 ドラ:⑦

優希「ポン」タンッ

和「」タンッ

咲「」タンッ

泉(ズラし成功。さて、役牌バックのつもりやったけど、ごちゃごちゃやっとる間に見えてきたな、食いタン)タンッ

 泉手牌:三三四②④22/(7)68/(二)二二 捨て:東 ドラ:⑦

優希「」タンッ

泉「ポン」タンッ

 泉手牌:②④22/三三(三)/(7)68/(二)二二 捨て:四 ドラ:⑦

優希「」タンッ

和「リー」

泉「ロン、1000」パラララ

和「はい」チャ

優希(ちょー!? まだ一本も積んでないじぇ!?)

 優希手牌:一二三234[⑤]⑥⑦⑧/(白)白白 ドラ:⑦

和(よくその手で一巡目から鳴こうと思いましたね……あの鳴きたがりの憧でもそんなことしませんよ)

 和手牌:五六六七七八23477⑤⑥ 捨て:③ ドラ:⑦

咲「」パタッ

 咲手牌:②②②[⑤]⑥⑦⑦⑨四四34[5] ドラ:⑦

泉(鳴きで場を乱して宮永のカンを防がなあかん。東場の片岡を速度で上回らなあかん。原村とはデジタルのガチ勝負せなあかん。やることいっぱい。パニクりそうや。けど……やっと自力で一つ和了れたで――)フゥ

 泉手牌:②④22/三三(三)/(7)68/(二)二二 ロン:③ ドラ:⑦

泉(やっす……千点棒一本て。こんなんもろてもリーチ以外に使い道ないで。辛うじて焼き鳥を回避しただけやん。こんなやり方がそう何度も通用するとは思えへんし、どうせすぐに取り返されてまう。また負けてまうわ)

泉(せやけど、この千点で、小蒔さんが笑ってくれるんなら、それでええやん。小蒔さんの笑顔のためやったら、うちはどんなことでもする。こんなうちを応援してくれる小蒔さんのためやったら……ホンマ、どんなことでも――)

和「次は私の親番ですね……」コロコロ

泉(よう見とってくださいね、小蒔さん……!!)ゴッ

優希:99100 和:146100 咲:17400 泉:137400

 東二局・親:和

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(まったまた……さっきからこいつは無制限に支配力を垂れ流しよって。口から内臓という内臓が飛び出しそうなくらい気持ち悪いで。放置しとくと、小蒔さんみたいに地和とか和了りそうやわ)

 泉手牌:一四四七七⑦⑦⑨678北北 ツモ:⑧ ドラ:一

泉(一向聴やけど、どーにも育つ気配のないしょっぱい手やな。普通にテンパイ目指すんなら、七筒切りやろか。それとも、一萬が重なるんを期待して、七対子ドラドラでも狙ってみるか。 
 いやいや。ちゃうちゃう。そやないやん。この副将戦、いついかなるときも、最優先事項は宮永咲対策。うちの和了りは二の次や。まだ一巡目やけど、ヤオ九牌の生牌は常に危険。ほんでもって、どっかで鳴きを入れなあかん。ほな――)

 泉手牌:一四四七七⑦⑦⑧⑨78北北 捨て:6 ドラ:一

泉(あ、と、は――)

泉「ポン!」タンッ

 泉手牌:一四四七七⑦⑦⑨78/北(北)北 捨て:⑧ ドラ:一

泉(この席順。うちは宮永の下家や。ポンならツモ順ズラせる上にツモを飛ばせる。っと、九筒は切ってもええんか。ほな、遠慮なく――)

泉「チー」タンッ

 泉手牌:一四四七七⑦⑦/(9)78/北(北)北 捨て:⑨ ドラ:一

泉(牌に愛された子。呼吸するように奇跡を起こすランクS。その言葉が事実その通りなんは、さっきのダブリーで嫌っちゅーほどわかった。ほな、うちにできることは何か)

泉「ポン」タンッ

 泉手牌:一四四七/⑦(⑦)⑦/(9)78/北(北)北 捨て:七 ドラ:一

優希「ポン」タンッ

泉(息つく暇を与えない。息継ぎも封じる。その息の根が止まるまで、どんな汚い手を使ってでもええから、首を絞め続ける。窒息させて、絶息させる。それ以外に、この魔物を殺す手段はあらへん)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉「ポン……ッ!!」ゴッ

 泉手牌:一/四四(四)/⑦(⑦)⑦/(9)78/北(北)北 捨て:七 ドラ:一

和(どういうことですか、それ……?)

泉(そのジト目やめてーや。うちかて狂ってるっちゅー自覚はあるわ。せやけど、他にやり方思いつかへんのやもん。できるんなら自分みたいにしとるわ。っちゅーわけで、ほな、トドメは任せたで――)タンッ

優希「ロンだじぇ、2000」パラララ

泉「はい」チャ

和(SOA……)

泉(あー……似たようなこと、《豊穣》の清水谷先輩が辻垣内先輩相手にやっとったっけ。いや、うちはあそこまで正しくできひんけど。何はともあれ、これで二局消費した。あと最少で六局。とことん追い詰めたる)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(うっあぁ……!! この支配力っ! 吐きそう! 頭おかしくなってまう!! ホンマに殺す気か!? ま、それはお互い様やけど……!!)

和(二条さんは副将戦が始まってからずっと咲さんを意識しているようですが、一体どういうことなのでしょう……。否、人は人。私は私。集中……集中――)スゥ

咲「次は……私の親番だね――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:101100 和:146100 咲:17400 泉:135400

 東三局・親:咲

和(そういえば、怜さんが言っていましたね。咲さんのカンには気をつけろ――などと意味不明なことを)ヒュン

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

和「槍槓?」

怜「せや。宮永さんは異常にカンすることが多い。加槓も、当然、普通の人よりは多用してくる。ほな、宮永さんがポンしたら、槍槓のチャンスが来たと思ってええっちゅーことやん」

和「意味がわかりません」

怜「和ならそう言うと思ってたで。ま、一応、頭の隅くらいには入れといてってだけや」

和「はあ……」

怜「ちなみに、宮永さんは二回戦で辻垣内さんから槍槓を喰らっとるで?」

和「まあ、そういうこともあるでしょう。たまには」

怜「四枚目が見えてへん牌を、誰かがポンで晒しとる。ほな、槍槓の可能性かて、考慮してもええんちゃう?」

和「まあ……ほんの少しは――」

 ——————

 ————

 ——

 ――対局室

和(狙って槍槓を和了るとか、そんなことを言っているから、《意識の偏り》を排除するのに時間が掛かるんです。大体、咲さんはここまで一度としてカンをしていません。怜さんの指摘は的外れもいいところ)ヒュン

和(咲さんがカンをしたがることは知っていますが、それと槍槓はまったく無関係。無論、私が槍槓を和了る可能性はゼロではありませんが、それはあくまで偶然の産物。狙って和了ったことなど一度としてありません)ヒュン

和(ああ、もう。怜さんのことを考えると集中が乱れますっ! 本当に困った人です、あの人は! 不要。排除。不要。排除……ッ!!
 というか、槍槓を狙え云々と言ったあとに、結局、手の平を返したみたいに、私は私のままでいいとかそちらの私のほうが好ましいとか意味のわからな――あああああ!!
 だから! 怜さんのことを考えてどうするですか、私! 今は試合中ですよ……!! 牌効率!! 期待値!! 計算理論計算理論――)

咲「ポン」タンッ

和(む――)

泉(と、マズったな。中張牌が槓材のときもあるんか。いや、まあ、そらあるよな。今回は鳴くチャンスもなくここまで来てもうた。二巡目で片岡がチーしたくらい。あかんかな。宮永の手……どうなっとんのやろ)タンッ

優希(咲ちゃんのポン……)

 優希手牌:2255四[五]六西西西/(③)④⑤ ツモ:1 ドラ:八

 咲手牌:**********/33(3) ドラ:八

優希(前半戦の倍直——あの感じで咲ちゃんに猛追されたら、私はたぶんまくられる。それなら、咲ちゃんがトばないことを信じつつ、《煌星》をこのまま蚊帳の外状態にして、ネリちゃんに望みを託したほうがチームのため……か。なかなか難しいところだじぇ……)タンッ

 優希手牌:1255四[五]六西西西/(③)④⑤ 捨て:2 ドラ:八

和(咲さんのポン、ですか)

 和手牌:246二三四五六七八②③④ ツモ:五 ドラ:八

 咲手牌:**********/33(3) ドラ:八

和(槍槓。もし成立したとすれば、ダマで満貫……)

   ――和は和のままでええよ。

             ――そっちの和のほうが好きやしなっ!

和(べっ、別に怜さんが好ましいと言ってくれるからじゃないですからね!? 狙って槍槓とかSOAってだけですからねッ!! これがデジタル的に正しいだけですからね!!)ヒュン

和「リーチです」チャ

咲「」タンッ

和「ロン」ゴッ

咲(っ――!?)ゾワッ

和「12000です」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 和手牌:46二三四五五六七八②③④ ロン:5 ドラ:八・五

優希(それマジかのどちゃん――)

 優希手牌:1255四[五]六西西西/(③)④⑤ ドラ:八

咲(…………)

 咲手牌:[⑤]⑥⑥⑥⑦⑦⑦444/33(3) 捨て:5 ドラ:八

泉(まあ、原村ならそやんな)パタッ

 泉手牌:78889四六八⑤⑨白白中 ドラ:八

和(これでいいんです。私には幸運も奇跡も必要ない。私は私らしく打ちましょう。怜さんが好ましいと言ってくれた私らしく――って!! だから! 怜さんは関係ありませんからっ!! 私がそうしたいからするんです!!)

和(……何はともあれ、現状、かなり理想的な試合展開ができています。今あるリードを守って、できることなら広げて、トップのまま姫子さんに繋ぐ……)

和(決勝へ行くのは、私たち《新約》ですッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:101100 和:158100 咲:5400 泉:135400

 ――《逢天》控え室

玄「残すは南場だね」

豊音「あれ? 今は東四局でイズミの親だけど?」

玄「すぐに片岡さんが和了って流れますよ。泉ちゃんもそのつもりで鳴かせてます。一応、ドラを抱えたり、三色にならないようズラしたり、少しでも打点を下げる工夫をしているみたいですけどね」

     優希『チー』

豊音「わっ、ホントだ!」

玄「東場の片岡さんと、ただでさえ無能力者な上に宮永さん対策でいっぱいいっぱいの泉ちゃん。
 あの二人の間にまともな勝負が成り立つはずもないですし、宮永さんがいつどこで大きいのを和了ってくるかわかりません。親なんて捨ててしまったほうが得です」

透華「親番を自ら捨てる――そのような暴挙に走って、泉に勝算はあるんですの?」

玄「勝算はね、やる前から分かっていたことだけど、ないよ」

小蒔「そこをなんとか!」

玄「今あそこで泉ちゃんが戦ってる相手は、支配者《ランクS》と大能力者相当《レベル3強》と学園都市でも一・二を争う完全理論派《デジタル》。
 要するに、小蒔ちゃんと豊音さんと透華ちゃんを敵に回しているのと同じ状態。勝算があると思う?」

豊音「ちょーないよー」

透華「皆無ですわね!」

小蒔「わ、私はそんな勝ち目のない泉さんを応援していますっ!!」

玄「まあ、でも、そんな絶望的な状況を、ちょっとだけ好転させる裏技がある」

小蒔「さすが玄さん! その言葉を待ってましたっ!!」

透華「わたくしと豊音と小蒔相手に泉が勝つ……? 一体どんなイカサマをさせるつもりなんですの?」

玄「えっとね、豊音さんに能力を使わないで下さいって頼み込む。そして、小蒔ちゃんのおもちを揉みしだいて起こす」

小蒔「そんな起こされ方をされたことは一度もありませんッ!!」

豊音「要するにどゆことー?」

玄「豊音さんが能力を使わない。小蒔ちゃんが支配力を使わない。こうなると、卓はデジタル場になりますよね?」

透華「そう言えば、練習で何度かやりましたわね。豊音と小蒔と泉のデジタル訓練として」

玄「そうなった場合、もちろん、有利なのは透華ちゃんだけど、それでも、ずっと透華ちゃんが一位になれるわけじゃない」

透華「たった半荘数回では、どんな強者も負け越すことくらいありましてよ」

玄「つまり、そういうこと」

小蒔「ほあ、え、えっと……」

豊音「あっ、そっか! 南場に入ったら、片岡さんは能力を使えないね!」

玄「その通りです」

小蒔「えっ? で、でも、宮永さんは私と違ってずっと支配者《ランクS》のままですよ?」

玄「そこだよね、問題は。けど、もし、宮永さんの支配力を封じ込めることができたとしたら、どうかな?」

小蒔「それは……確かに、卓上が古典確率論優位なデジタル場になりそうですけど、そんなことが可能なんですか?」

玄「この『やり方』のベースにある考え方は、小蒔ちゃんを起こす――小蒔ちゃんの《神憑き》を解除するのと、同じものなんだよ。
 小蒔ちゃんの《神憑き》が解除されるタイミングは、プリン事件のときや、三回戦で石戸さんにやられたときのように、外力が加わると、少し早まることがあるよね」

小蒔「そうですね……。けど、それは私が《神憑き》で特殊なランクSだからそうなのでは?」

玄「三回戦での、宮永照さんの連続和了。あれを、ネリーさんはわざと高めに振り込むことで、次局に止めていた。他には、今日の先鋒戦。小走さんが妙な連続ポンで大星さんの暗槓を封じていた。
 あと、風の噂だけど、衣さんが合同練習でチーム《鶴賀》の妹尾さんって人に海底牌で国士無双を直撃されたらしい。小蒔ちゃんの《神憑き》解除とこれらの例は、本質的なところでは、どれも一緒のことをしてる」

小蒔「ほあ……?」

玄「透華ちゃんがハノーヴァーから取り寄せてくれた討魔《アンチオカルト》の資料。私も読めるだけ読んでみた。この『やり方』は、そこで見つけたもの」

透華「ああ、なるほどですわ。討魔師《アンチオカルティスト》の中でも限られた者にしかできないという……アレですわね」

玄「そう、そのアレ」

豊音「どれー?」

玄「その話をする前に、少しだけ、ランクSについて再確認してみましょう。
 桁違いの確率干渉力でもって、能力に拠らない《上書き》を恒常的に引き起こし、自分に優位な場を卓上に生み出すことができる支配者。
 そんな小蒔ちゃんたちの持つ支配力は、あまりに強大で、制御するのは、困難を極めます」

小蒔「そうですね。霧島での修行があってこそ、今の私があるわけですから」

玄「この支配力の制御方法は、それぞれがそれぞれに確立してる。小蒔ちゃんがそうであるように、みんながみんな、かなり限定的で、強い縛りを自らに課している。
 なんの制限もなく強大な支配力を使うってことは、下手をすれば自身の命に関わるくらい危険なことだからね。
 支配者は誰もが、その強過ぎる力を、型に嵌めて、制限を掛けて、一定の流れに沿って使っている。
 それがゆえに、支配者《ランクS》の多くは多才能力者《マルチスキル》で、のきなみ支配領域《テリトリー》が広く、不思議な《制約》がついて回ってる」

豊音「宮永照さんは、二つ……じゃなくて、三つの鏡――能力を持ってるって話だっけ。
 《打点上昇》の《制約》が常にあって、連続和了の能力は、支配領域《テリトリー》が卓上のほぼ全域。で、能力の強度と支配力の強さが、段階的に上昇していくんだっけ。
 自由に和了ってるように見えるけど、確かに、『段階的に上がっていく』ってとこは、支配力の使い方が制限されてる気がするね」

小蒔「衣さんも、三つの能力を持っていますね。そのうちの一つ――《一向聴地獄》は全体効果系で、支配領域《テリトリー》が王牌を除く全域。あと、月齢と時間帯による《制約》があります」

透華「大星淡という輩も、三つの能力を持っているという話でしたわね。《絶対安全圏》と《ダブリー》は、全員分の配牌が支配領域《テリトリー》。
 さらに、暗槓をすることで場の支配を強め、王牌をも支配領域《テリトリー》に取り込み、カン裏を乗せる。ただし、自身の手は、ダブリー以外役ナシという《制約》がある――とのことでしたわね」

玄「小蒔ちゃんは言わずもがな、《制約》いっぱいだったね。そして、支配力のほぼ全てを、一色占有に傾けることで、安定を保ってる。
 今は意識的に《神憑き》状態になれる小蒔ちゃんだけど、その支配力を能力っていう型を通して使う場合、一色占有以外のことはまずできないと思う。
 あと、特定条件下でランクSとほぼ同等の支配力を発揮できるランクA強――石戸さんと透華ちゃんも、やっぱり、支配領域《テリトリー》が広く《制約》のキツい全体効果系能力を発動することで、支配力の流れを制御してる」

豊音「わー……列挙されてみると、ランクSって本当にちょーガチガチなんだねー」

玄「豊音さんの《仏滅》もそうですが、強い力ほど、扱いが難しく、制限が多いんです。これが暴走状態に入ると、プリン事件の小蒔ちゃんのようになってしまう。透華ちゃんも頑張り過ぎるとしばらく起きなかったりしますし」

透華「強過ぎる力の一側面ですわね」

玄「そういうこと。だから、よく勘違いされているように、ランクSだからと言って、『何でもできる』わけじゃない。むしろ、ランクSの人たちほど、できることに制限がある雀士はいないと言っていい」

豊音「おお……だんだんわかってきたよー!」

玄「ランクSの支配力。それは桁違いで、無尽蔵です。これを正面から抑え込むことは、同じランクSにしかできません。
 ですが、何度も言うように、この強過ぎる力は、絶妙なバランスを保って行使されています。なので、そのバランスを、型を、流れを、ちょっとでも揺さぶることができれば――」

小蒔「ランクSの支配力を封じることができる……!?」

玄「その最たる例が、不意打ちの直撃を取ったりすることで可能な、小蒔ちゃんの《神憑き》解除。《神憑き》を解除された小蒔ちゃんは、一切の能力と支配力を使うことができなくなる」

豊音「それを、宮永さんにもやっちゃえーってことだねっ!?」

玄「はい。この『やり方』が成功すれば、小蒔ちゃんの《神憑き》解除や大星さんの暗槓不発、それに衣さんの国士振り込みのように、強大な支配力を、その能力ごと、一時的に綺麗さっぱり雲散霧消させることができます。
 或いは、宮永照さんの不如意な打点上昇のように、能力という型を枷に変え、自身の支配力で自身を縛りつけるという方向に持っていくこともできます。
 さらに言うと、この『意図的に支配力の乱れを引き起こしてランクSを封殺する』技術に白糸台で最も長けている雀士こそ、学園都市最高の《原石》――高鴨穏乃さんであり、それが《ジョーカー殺しのスペードの3》と言われる理由の一つなんじゃないか、と私は分析しています」

透華「相変わらず、《悪魔》のような分析力ですわね、玄は」

玄「ま、私は《逢天》の参謀でオカルト担当だからね。これくらいはお茶の子なのです」

     優希『ロンだじぇ、1300』

     和『はい』

小蒔「はわわ! 南入しましたっ!!」

豊音「これで片岡さんの能力が切れる! あとは、ランクSの宮永さんを、その裏技でどうにかできれば……!!」

透華「卓上をデジタル場に変えることができますわね。それならば、原村はわたくしに匹敵する完全理論派《デジタル》ですけれど、勝負はたったの半荘一回、泉にもチャンスはありますわ!」

小蒔「私はとっておきを狙う泉さんを応援しています!! あ、ところで、玄さん。そのランクSを封じるとっておきというのは、名前があるんですか?」

玄「もちろん、あるよ。能力者封じと比べると、破格に難しいこの技術。討魔師《アンチオカルティスト》の中でも限られた人にしかできない、支配者封じ。さて、ここでクイズなのです」

豊音「おっ、クロクイズの時間だよ!」

小蒔「早押しですねっ!」

透華「わたくしは答えを知っているので何も言いませんわ」

玄「海外では、能力を《魔術》と呼び、能力者を《魔術師》と呼び、支配力を《魔力》と呼びます。
 では、学園都市で言うところの支配者《ランクS》――桁外れの《魔力》を持つ特別な存在を、海外では、一体なんと呼ぶでしょうか?」

豊音・小蒔「うむむむむ……!!」

玄「正解は、泉ちゃんがそれをぶちかましてから言うね」

豊音「ぶちかまさないと正解が聞けない!? ちょーもやもやするよー!!」

小蒔「頑張ってください、泉さんっ!!」

     咲『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

透華「……と、何か、来ますわね」ゾクッ

玄「好きなだけ仕掛けてくればいいよ、嶺上使い――宮永さん。でもね、泉ちゃんの持つ『槍』は、きっとあなたの心臓に届くよ……」

     咲『リーチ』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

透華・豊音・小蒔「っ――!!!?」ゾワッ

玄(泉ちゃん、ちゃんと約束は守ってよね……っ!!)

 ――対局室

 南一局・親:優希

咲「リーチ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:宮永咲(煌星・4400)

泉(来たか……東場は片岡が速く回してまうから、仕掛けてくるなら南場に入ってからやと思っとったで。原村の直撃でそっちも後がないわけやし)

 北家:二条泉(逢天・135400)

咲(…………)

泉(何を考えとるのかは、表情からはわからへん。うちのことが眼中に入っとるのか、入ってへんのか。ま、常識的に考えれば、うちを見とるわけがあらへんよな。
 宮永を削っとるのは主に原村やし、鳴き場を作れとるのは能力者の片岡の力が大きい。宮永的にいえば、その二人が厄介なんてあって、前半戦は焼き鳥、後半戦も未だ1000点の和了り一回のうちなんて、いてもいなくても一緒やろ)

泉(ええよ、それで。自分にどう思われようと、うちはうちの守りたいもんを守る。玄さんに仕込まれた宮永咲対策の目玉――いよいよお披露目や)

    ――支配者《ランクS》……白糸台に五人しかいない《牌に愛された子》。

泉(宮永照の国士無双十三面待ち。例えば小蒔さんの純正九蓮宝燈。例えば天江衣の海底一発。例えば大星淡のダブリーカン裏。あと……まだ見てへんけど、宮永咲の嶺上開花)

泉(そんなもん、狙ってできたことなんて一度もないわ。国士無双十三面待ちをテンパイしたことなんて一度もない。純正九蓮宝燈なんて和了ったら翌日に死ぬやろ。
 誰が十七巡目でリーチ掛けるか。誰がダブリーからのカン裏なんてコンボ決められるか。誰が嶺上開花なんて、意図的に和了れるかっちゅーねん……)

  ――あの人たちは、息を吸って吐くように、《奇跡》を起こす。

泉(無能力者のうちには、奇跡を起こすことはできひん。奇跡に抗うこともできひん。この世界は不平等や。持っとるやつは全部を持っとる。持ってへんやつは何一つ持ってへん。普通にやれば、普通に負けて、おしまいや)

              ――なら、こっちはその《奇跡》を……。

泉(せやから、勝とうとするんが間違っとるんや。抗おうとするんが間違っとるんや。宮永はリーチを掛けてきた。この全身の皮膚が裏返りそうな悪寒は、まさに本日の最高記録更新。倍ツモくらいは、さっきの要領で余裕やろ)

        ――利用しちゃえばいいんだよ。

泉(ええわ、倍満くらい、いくらでも、くれてやる……!)

  ――莫大な魔力を持ち、意のままに運命に干渉する、奇跡の存在。

泉(オマケでリー棒一本――今日自力で稼いだ唯一の点棒——なけなしの千点、これも、自分にくれてやるわ……ッ!!)

             ――海の向こうの世界では、支配者のことを、

泉「リーチ……!!」チャ

     ――《聖人》と呼ぶ。

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(自分の和了りを止めることは、うちにはできひん。自分の力に拮抗することやって、うちにはできひん。ランクSを抑え込めるのはランクSだけ。
 ほんで、この場にランクSは一人しかおらへんのやから、自分を抑え込めるのは自分だけっちゅーことになるな。ほな、自分を殺すには、自分を利用するしかないやん)

咲「ツモッ!!」ゴッ

泉(さあ、喰らえるもんなら喰らってみい、嶺上使いッ!! この『槍』は、きっと自分の心臓に届くで……!!)

  ――《聖人》の《魔力》の流れを外部から乱して自滅へと誘う。

咲「4000・8000……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

        ――この技術の名は、

泉(これが《聖人崩し》ッ!! 自らの魔力に潰されるとええで――《牌に愛された子》……!!)

咲「――!!」ハッ

和・優希(咲さん(ちゃん)……?)

泉(和了ったな、倍満を!! ここまでツモ和了りをしたやつはおらん。自分の失点は原村への12000振り込み。得点は、今の4000・8000ツモ。そこに、リー棒が一本ついてくると、点数状況は、どうなるか――!?)

咲「……!?」

泉(この後半戦、宮永の今の個人収支は、ぴったりプラス5000点。それでいて、順位は二位。即ち――《プラマイゼロ》や)

咲「っ……」

泉(ランクSの支配力の使い方には、それぞれに一定の型がある。宮永照なら打点上昇縛りの連続和了。小蒔さんなら一色占有からの門前清一。天江衣なら《一向聴地獄》からの海底一発。大星淡なら《絶対安全圏》からのダブリーカン裏。
 その型から逸脱した支配力の出力はほとんど不可能。裏を返せば、型にぴったり嵌めてまえば、どんなに支配力の出力を上げたところで――むしろ上げれば上げるだけ、そこから抜け出すことが困難になるっちゅーことや)

泉(宮永咲の最も長けている支配力の使い方。慣れている支配力の扱い方。それは、前半戦のダブリーを例に挙げるまでもなく、ほんのつい数日前まで呪いのように付き纏っていた《プラマイゼロ》や)

泉(この点数状況――完膚なきまでの《プラマイゼロ》。年単位で自分を縛り続けてきたであろうこの鎖。自力で断ち切るんは、《九面》状態の小蒔さんが一色牌以外をツモろうとするんと同じくらい無理難題のはずや。
 1000点スタートの裏技とか、多少は応用が効くみたいやけど、今、この土壇場で自分にそれができるんか……?)

泉(小蒔さんはよう言うてる。支配力は意思の力。その流れと質は時々の感情に左右される。想いを力に変換する――まさに奇跡のような力や。
 けど、反面、少しでも迷いや惑いがあると、自分の意図に反する結果を引き起こしてまうことがあるらしいな。
 能力――論理は何も裏切らへん。せやけど、感情は時に自分自身を裏切る。それゆえに、支配者《ランクS》に必要なんは、強く洗練された意識。
 平静を保ち、集中を持続し、己を支配する――そうして初めて、ランクSは卓上《セカイ》を支配することができる……ってな)

泉(ほんで、自分は、この状況で、心を乱さずに戦うことができるんか? チーム点数は断ラス。残り局数は最少で三局。三位との点差は七万。うちとの点差は十万以上。
 一番馴染んどる《プラマイゼロ》では、ここから一点たりとも点棒を奪えへん。ほな、《嶺上》や《開花》の力を使えばええやん——って感じもするけど……)

泉(ランクSはランクSであるがゆえに多才能力者《マルチスキル》。その能力は、豊音さんの《六曜》みたいに、自在に切り替えられるもんとちゃうらしい。
 全ての能力が密接に絡み合い、ランクSの強大な支配力の流れを、安定に導いとる。宮永照の《八咫鏡》には《打点上昇》の《制約》があり、それをクリアするために《万華鏡》の力がある。
 天江衣の《満月》は支配領域《テリトリー》が海底牌で、そこに難なく至るために《一向聴地獄》と《掌握》の力がある。
 大星淡の《ダブリー》は一巡目に鳴きが入ったら成立せーへんし、中盤過ぎひんと和了れへんから早和了りされても困る——ゆえに《絶対安全圏》で他家の配牌をバラバラにする。
 宮永咲も同じや。《プラマイゼロ》には符の《制約》があり、それをクリアするために《嶺上》の力があり、その《嶺上》の力をいかんなく発揮するために《開花》の能力がある。それで全ての調和が取れるようになっとんねん。
 まあ、やってできひんことはないとは思うけど、それかて、それなりの訓練が必要なはずや。今この場で急にやるんは、まず無理)

泉(今の宮永咲は、自身の強大な支配力と《プラマイゼロ》の鎖で身動きができひん状態にある。支配力と能力を使おうとする限り、その縛りからは抜け出せへん――点が取れへんことになる)

泉(幸か不幸か、宮永咲がこの《聖人崩し》を喰らうんは、これが二度目。二回戦で辻垣内先輩が既にかましとる。
 いや、あの人は本当に化け物やで。データもさほどない二回戦、初見で《聖人》の支配力の流れを読み取って、即座に崩しに掛かるとかホンマ信じられへん……)

泉(まあ、さておき。あの二回戦で、結局、宮永は《プラマイゼロ》から抜け出せへんかった。《プラマイゼロ》の型に嵌められた状態やと何をするにもしんどいっちゅーんを、体験して、理解しとるはずや。
 ほな、こいつがここから点を稼ぎたいと思えば、支配力と能力をシャットアウトするはずやんな。
 二回戦で《聖人崩し》を喰らったときにはできひんかった《プラマイゼロ》の意識的オフ――完全デジタル打ち。今のこいつのベストはそれ。
 プラスにせよマイナスにせよ、自身の点数状況がプラス5000点やなくなれば、そのときは、再び自由に動けるようになるわけやしな)

咲「…………」

優希(じょ、咲ちゃんから支配力を感じなくなった? 燃料切れだじぇ?)

和(咲さんの雰囲気が少し変わりましたね。合宿でのデジタル訓練のときのような感じ。オカルト思考を止めたのでしょうか。よい傾向です)

泉(さて……これで、ようやっと、古典確率論優位の場を作ることができた。能力に拠る《上書き》も支配力に拠る《上書き》もない、純然たる理論の世界。計算と論理が全ての麻雀――)

和「私の親番ですね」コロコロ

泉(うち待望のデジタル場や!! ほな、一年前に稼ぎ負けた借りを返すとしよか。
 たった数局でどっちが上かなんて決められへんけど、とりあえず、今日この場では何が何でも勝たせてもらうで、《インターミドルチャンピオン》――原村和ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:94400 和:152800 咲:22400 泉:130400

 南二局・親:和

和(東場なら負ける気がしないと豪語して無茶をする優希が、南場になって真っ当に打つようになり、咲さんがオカルト思考を止めた。ようやく麻雀らしくなってきましたね。さて――)

泉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(二条さんの集中力が高まったように感じます。どういうわけかここまでずっとらしくない闘牌をしている風でしたが、ようやく本気のあなたと戦えそうですね。
 咲さんや優希より、全力のあなたこそが、この副将戦で最大の障害だと私は思っていますよ。ここからは、一層厳しい戦いになるでしょう。気を引き締めなくては)

和(二条さん……あなたとは、去年のインターハイ、個人戦で戦いましたね。あれから、私は、あなたと戦う機会を待ち望んでいました。
 クラスが別々だったこと、私が風紀委員会に所属したこと、あなたがスキルアウト入りしてしまったことが重なって、ここまで直接対決が一度も実現せず、ずっと残念に思っていたんです。
 けれど、今、やっと、最高状態のあなたと戦うことができる……)

和(たった一度の大会で優勝したからといって、私が当時の中学三年生で一番強かったことにはなりません。しかし、インターミドルで、ある種の物足りなさを感じたのは事実です。
 少なくとも、ネット世界の上位ランカーは、もっと手応えがありました。当時の私は未熟で、ミスも多かった。それでも、運良く優勝できてしまった)

和(そんなインターミドル――二条さんとの対局は、しかし、強く印象に残っています。強気な打牌。貪欲に稼ぎに来る姿勢。あくまでトップを狙う打ち筋。その気迫に圧倒された覚えがあります。
 正直、一番打ちにくかった相手です。あなたと対局すると、あなたの力強さに心を揺さぶられて、ついつい無理な場面で勝負しそうになってしまいました。感情を抑えるのがどれだけ大変だったことか)

和(それでも、あのときは、たまたま、私のほうが多く稼ぐことができました。《インターミドルチャンピオン》――その栄光は嬉しくもあり、物寂しくもありました。
 ミスの多い、あまり上等とは言い難い、デジタル打ち。そんな私が優勝してしまってよかったのだろうか。私より、もっと最強の名に相応しい人がいたのではないか。
 表彰台に立ちながら、私は、そんなことを考えていました……)

和(そんな私の思い上がりを、粉々に打ち砕いたのが、あなたですよ、二条さん)

和(個人戦のあとに行われた、団体戦。何気なく観戦した、決勝。そこで、チームの主将として戦うあなたを見て、衝撃を受けました。
 個人戦のあなた――私と戦ったときのあなたは、その実力を十全に発揮していたわけではなかったと、すぐにわかったからです)

和(個人戦……そこで一度も感じることのなかった気持ちを味わいました。私は、悔しかった。ええ、それはもう、悔しかったですよ)

和(本当に強い雀士が、モニターの向こうにいました。たった一人で、ネット麻雀を打つときと同じ感覚で、漫然と牌を握っていた私とは違う。仲間のために戦う、チームを背負って戦う、強い人がそこにいました)

和(あのときの私に決定的に欠けていたものを、あなたは、当時、既に手にしていた。それで確率が変化するわけでも、効率が上昇するわけでもない。けれど、あなたは、強い雀士に不可欠な資質を、持っていたのです)

和(負けた、と素直に思いました。個人戦でたまたま稼ぎ勝ったからなんだと言うのでしょう。団体戦で活躍するあなたを見て、私はとても悔しく思いました。
 いつか、私も、あなたのように、強い雀士になって、互いに、チームの一員として、チームの勝利のために、卓上で真剣勝負をしたい――そう強く思いました)

和(でなければ、こんな、能力《オカルト》を科学《デジタル》するなどというわけのわからない街になど来ていません。
 白糸台はチーム制を採用している。インターミドルで活躍した雀士の多くは白糸台に進学する。そのことを知って、ここでなら、あのあなたと、戦うことができると、そう思ったから、私は学園都市に来たんです)

和(そして、今、やっと、あのときモニターの向こう側にいたあなたが、目の前にいる。個人戦のあなたじゃない。団体戦のあなた。
 インターミドルという大会で、唯一、私に敗北感を与えた雀士。《インターミドルチャンピオン》である私より、ずっと《高一最強》の名に相応しい打ち手)

泉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(二条さん……私は、あのときのあなたのように戦えているでしょうか。どうなのでしょう。
 チームの皆さんからは、何かと呆れられることの多い私ですが――断じて理論《デジタル》を捨てるつもりのない私ですが——それでも、チームのために戦いたいという気持ちは、私の真ん中にあります。
 チームの勝利に貢献したいという気持ち、みんなの期待に応えたいという気持ち、もっとチームの役に立ちたいという気持ちが……わかりにくいですが、ちゃんとあるんです)

和(自分では、あのときのあなたに、多少は近付けたと思っています。どうなのでしょう、二条さん。あなたの目から見て、私は、強い雀士でしょうか……?)タンッ

泉「ロン、12000!!」パラララ

和「……はい」チャ

泉(ん? なんや、今、一瞬、原村から人間らしさっちゅーか、動揺みたいなもんを感じたような気がするんやけど、気のせいやろか――)

和(……高めに振り込んでしまいましたか。否、過ぎたことを悔いて確率や効率が変わるわけではありません。もっと、もっともっと、集中しなくては……!!)

泉(ラス前に来て、トップ奪還。しかも原村からハネ直で、や。軽く踊りだしたくなるくらいに嬉しいわ。
 せやけど、ま、調子に乗ったところで運が向いてくるわけやない。デジタル場で大切なことは、とにかく計算。最後まで、集中していくで――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(この……プレッシャー。そして、集中力。インターミドルの個人戦のときとは比べ物にならない。やはり、あなたは団体戦でこそ輝く人なのですね。羨ましい限りです。
 憧や、同じクラスの森垣さんや東横さんや南浦さんも手強いですが、やはり、私にとっての《高一最強》は、あなたですよ、二条さん)

泉(デジタル場なら、認めたくないけど、どう考えたって一番強いんは原村和や。どうにか、せめて、偶然次第ではうちが勝ってもおかしくはない、くらいのステージまで持っていかな。
 大丈夫……インターミドルで稼ぎ負けたときから、うちはずっと原村和をぶっ倒すことを目標に打ってきてん。《逢天》結成からは、透華さんと一緒に最先端のデジタル論を勉強してきた。戦えるはずや……!!)

和(ふう……いけませんね、意識し過ぎています。ついつい熱くなってしまう。もっと落ち着いて対局に臨まなくては)ポムポム

   ――そこにも怜ちゃんパワーいっぱい溜めといたからな。

和(ふふっ、エトペン。いつも、私を傍で見守ってくれてありがとうございます。そうですよね。あなたが一緒なのですから、何を動揺することがありますか。私は、私らしく行きましょう……)

       ――勝負どころで使ってやー。

和(まったく、こんなときにあの人の戯言を思い出すなんて。どうかしています。エトペンに何らかの力を溜める? それを使う? そんなオカルトありえません)

 ポワワワワワ

枕神怜ちゃん(呼んだー?)

和「そんなオカルトありえませええええええん!!!?」ガタンッ

咲・優希・泉「っ!?」ビクッ

和「あ、し、失礼しました……//////」カー

咲「さ、サイコロ回すね?」コロコロ

優希:94400 和:140800 咲:22400 泉:142400

 南三局・親:咲

和(……SOASOASOASOASOA……)ブツブツ

枕怜(ちょいちょい、無視せんでやー。せっかくご要望にお応えして登場したんやから、もっと有難がってーなー)

和(……SOASOASOASOASOA……)ブツブツ

枕怜(ほな、早速やけど、未来――見せたるわっ!!)

 ポワワワワワ

枕怜(お、ダマのタンピンドラ二か。むっちゃ普通やけど、ま、和らしくてええんちゃう?)

和(……SOASOASOASOASOA……)ブツブツ

枕怜(なー、和ー、ちゃんとこっち見て)

和(SOAッ!!)ゴッ

枕怜(や――?)

 シュウウウウウ

和(……ふう、やっと消えましたか。まったく、対局中に幻覚と幻聴に襲われるなど、どうかしています。二条さんをまくり返さなければいけないというのに、私は何をやっているのでしょうか――)

 ポワワワワワ

枕怜(ホンマやでー。お願いやからそのSOAはもうやめてや? ふとももとエトペンに蓄積できる確率干渉力には上限があるんやか)

和(SOAッ!!)ゴッ

枕怜(ら――?)

 シュウウウウウ

和(……ふう、なんてしつこい幻覚と幻聴でしょう。この大一番に勘弁してほしいです。集中、集中……)

 ポワワワワワ

枕怜(いや、あのー、和さん? ホンマに、ホンマのホンマに、もう二度とSOAせんでね? 大体の電化製品がそうであるように、起動するんが一番エネルギー喰うんやからね? なあ、わかっ)

和(SOAッ!!)ゴッ

枕怜(と――?)

 シュウウウウウ

和(……SOASOASOASOASOASOASOASOA……)

 ポワワワワワ

枕怜(和! ちょっと!! これが最後やからな!! 次SOAされたら帰ってこれへんからなっ!!)

和(……………………)ジト

枕怜(あーあー、まったく。こんな無駄なやり取りにエネルギー消費してどうすんねん。大分縮んでもーたやんか。ま、もうラス前やし、オーラス分は残っとるから、今回はええとして、決勝では有効活用してや?)

和(ここから先は、私の独り言であり、決して対話ではありません)

枕怜(面倒くさいな、自分のそういうとこ……)

和(問一、あなたは何ですか?)

枕怜(枕神怜ちゃん! 自分に《最高点の和了りへ向かうルートを見せる》感知系のポータブルレベル5!!
 和のふとももとエトペンに蓄積されたうちら二人の確率干渉力がなんやかんやええ感じに具現化した愛の結晶! それがうちや!!)

和(意味がわかりません)

枕怜(やーかーらー、さっきルートが見えたやろ? あの通りに打っていくと、まんまその通りの和了りを和了れんねん。
 それは、点数状況とか諸々加味したベストとはちゃうけど、この場で和了りうる最高点の和了りや。ま、和了れへんときは何も見えへんのやけど)

和(意味がわかりません)

枕怜(ま、無理にわかろうとせんでもええんとちゃう? とりあえず、さっき見えた通りに打ってーな。そしたらチッチー和了れるから)

和(意味がわかりません)

枕怜(もー……)

和(大体、どんなオカルトか知りませんけど、『AF』をたった数回しかクリアしていない怜さんが、私に切る牌を指図するなんて、百年早いですよ)

枕怜(うっ、それを言われると反論できひん。せやけど! うちはレベル5やから! 見えた情報は《絶対》やで!!)

和(見えるとか見えないとか、そんなオカルトありえません)

枕怜(あかん。完全に人選を間違えた。こんなことなら、絹恵のふとももに注ぎ込んだほうがよかったやろか)

和(浮気者)

枕怜(いや、これは百人が百人、和が悪いって言うと思うで?)

和(何を言ってるですか……っと――)

和「ロン、7700です」パラララ

優希「……はい」チャ

枕怜(おお、さすがやな。って……あれ? 見えてた和了りと一緒……?)

和(偶然です。たまたまです)

枕怜(ええー? 嘘やー)

和(完全理論《デジタル》に誓って本当です。よくわかりませんが、怜さんが見せるのは『最高点の和了り』なのでしょう? なら、常に最高効率を求めている私が、そこへ辿り着くのは、ごくごく自然なことです)

枕怜(言われてみれば……確かにそやな。えっ? ほな、もしかして、うち、要らへんの?)

和(要不要については不要という結論が最初から出ています。私が今問題にしているのは、在不在についてです)

枕怜(ひどっ……)

和(……先ほど、具現化のエネルギーがどうこう、と言ってましたね)

枕怜(言うたで。ま、いくら和のふとももがムチムチ言うたかて、いくらエトペンが丸っこい言うたかて、そこに蓄積できる確率干渉力には限界がある。
 今回は、和のSOAで無駄なエネルギーを消費したせいで、もうほとんどエネルギーが残ってへん。うちの姿もすっかりちっこくなってもうたし)

和(エネルギーが尽きると、どうなるんですか?)

枕怜(そら、消えてまうに決まっとるやん。ま、とりあえず、残量全部使うて、オーラスの和了りルート見せたるわ。せやけど、見えた通りに打つかどうか、見えたもんを信じるかどうかは、和の好きにしてええよ。
 なんや、うちは邪魔みたいやし、さっさと退散して普通に控え室から応援するわ。ほな、ちょっと未来を――)

和(待ってください)

枕怜(ほえ? どうしたん?)

和(その、未来を見せるとかいう果てしなく意味不明な行為をすると、エネルギーを消費して、今の怜さんは存在を保てなくなるんですよね?)

枕怜(そらそうや。具現化もタダっちゅーわけにはいかへん)

和(なら…………です……)ゴニョゴニョ

枕怜(へ? 何? 聞こえへんけ)

和(未来なんて見せてくれなくて結構です……と、そう言ったんです)

枕怜(ふむー?)

和(要不要の結論は既に出ていると言ったはずです。見えるとか見えないとか、そんなオカルトは、私には不要なんです。そして、問題は、在不在だとも言いました)

枕怜(えっと……)

和(怜さん……私の正面、対面にいる雀士が誰か、わかりますか?)

枕怜(《逢天》の二条泉ちゃんやろ。二回戦で清水谷さんと戦っとった。トーナメントの成績は決してええとは言えへんけど、うちは気に入っとるで、この子)

和(私も、二条さんのことは、非常に意識しています。それこそ、平静を保てないくらいに)

枕怜(妬けてまうでー)

和(冗談ではなく、この人は、とても強いんです)

枕怜(わかっとるよ。インターミドルで一目惚れしたんやろ? 前に聞いたわ。それに、うちも、この子は強いと思う)

和(リアルの情報に惑わされないよう、私は、できる限りの訓練を積んだつもりです。
 しかし、二条さんとは、一年振り、団体戦では初の直接対決。緊張が抑えられないのです。正直、いつも通りに打てるかどうか、不安なんです……)

枕怜(そっか)

和(怜さん……私には、未来が見えるとか見えないとか、そんなオカルトは要りません)

枕怜(せやな)

和(そんなことに無駄なエネルギーを消費するくらいなら……消えてしまうくらいなら、いっそ、ずっとここにいてください……)

枕怜(それは――)

和(ここにいて、一緒に戦ってください。あなたが傍にいてくれるなら、私は、誰が相手でも最高の状態で打つことができます)

枕怜(……なるほどな)

和(怜さん、私にオカルトは要りません。あなたがいれば、それだけで十分なんです。未来なんて見せなくていい。口出しもしなくていい。あなたという、その存在だけを、今ここで、私に感じさせてください)

枕怜(わかった。ほな、うちは、ここにおる。エトペンの頭の上、和の胸にもたれて、ちょこんと可愛く座っとるわ。それでええ?)

和(この上なく)

枕怜(どや。勝てそうか?)

和(それは、やってみないとわかりません)

枕怜(ほな、できるだけ、勝てるよう、頑張って)

和(無論です)

枕怜(……なあ、和)

和(なんですか?)

枕怜(あ、いや、なんでもあらへん。対局に集中してーな)

和(お気遣いありがとうございます。ときに、怜さん)

枕怜(なに?)

和(私は、あなたのことが好きです)

枕怜(……うちも、和のこと、好きやで)

和(これからも、ずっと一緒にいてください)

枕怜(おるよ。もちろん。ずっと一緒や)

和(怜さん)

枕怜(なに?)

和(大好きです。あなたのことが。心から)

枕怜(ははっ、さっきも聞いたで、それ)

和(とても大切なことなので、聞き逃しのないように、繰り返してみました)

枕怜(おおきに。いつもと違うて、ちゃんと聞こえたで。それはもう、ばっちりはっきり)

和(よかったです。では、もう、オーラスが始まりますので、私は対局に集中しますね)

枕怜(ほな、見守っとる)

和(ありがとう……ございます――)スゥ

優希:86700 和:148500 咲:22400 泉:142400

 ――《新約》控え室

怜(その素直さは反則《オカルト》やで、和。普段が普段だけに、これは来るな……/////)カー

姫子「怜さん、どげんしたとですか、ニヤニヤして」

怜「なんでもあらへん。やっぱり、膝枕は世界を救うなって、それだけや」

初美「おいおいですよー。怜がまたおかしくなっちまったですよー」

絹恵「まあ、怜さんの対局はもう終わってますし、ええんとちゃいますかね。そんなことより和ですよ、和」

姫子「いつもにも増して真っ赤と」

初美「ガチで熱が出てるとかじゃないですかー?」

怜「ちゃうちゃう。あれは、単純に、慣れへんことして恥ずかしがっとるだけや」

絹恵「慣れへんこと? いつも通りにデジタル打ちしてますやん」

怜「ま、それはそやね」

姫子「怜さん? 何ば言っとうとですか?」

初美「どいつもこいつも一度ちゃんと荒川憩に診てもらえですよー」

絹恵「いや、姫子らと違うて、うちは心も身体も健康ですよ?」

姫子「私も健康と! 三回戦で哩先輩に入れてもらってからはむしろ心身ともに元気有り余っとっと!!」

初美「変態は少し黙りやがれですー」

     和『ポン』

絹恵「おっ、仕掛けていったな、和!」

姫子「ドラの固まっとうけん、和了れば満貫と!」

初美「特に身体に異常があるわけではないようですねー。なら安心ですー」

怜「大丈夫や。もし和の身になんかあっても、うちがすぐ傍におるから」

初美・絹恵「怜(さん)……?」ジト

怜「えっ? あ、いや、なんちゅーか、その、比喩や比喩! やから、その姫子を見るような目つきやめてー!!」

姫子「まっ、とにかく頑張りんしゃーい、和ー!!」

 ――《逢天》控え室

透華「やはり原村は強敵ですわね」

豊音「でも、イズミもちょー負けてないよー!」

     泉『チー!』

小蒔「一向聴ですっ!」

玄「役牌のみ。ドラは原村さんの手にあって、赤とも絡みそうにない。和了ったとしても2000点。しょっぱいにも程があるよ。ま、泉ちゃんらしいっちゃらしいか」

     泉『ポン……!』

透華・豊音「テンパイですわ(だよー)!」

小蒔「これで原村さんに追いつきました。あとは捲り合いですね!」

玄「こういうとき、偶然に支配されたデジタル場は心臓に悪いよ……」

 ――対局室

 南四局・親:泉

和(む――二条さんに追いつかれましたか。いや、しかし、ここは押せます)ヒュン

泉(ドラが見えてへん。それが原村のとこに固まっとったら、振った瞬間地獄行きやな)タンッ

和(まだ、押せる……)ヒュン

泉(ぬ、和了れへんか。せやけど、これは原村の現物や)タンッ

和(と、ここは――否、まだまだ)ヒュン

泉(際どいとこ来たな。やっぱ高いんか。せっかく二副露したったけど、危険牌が来たら、即時撤退やな)タンッ

和(両面へシフト)ヒュン

泉(手出し!? 待ち増えたんか。ま、せやけど、これで大体読めたわ。押しやすくなったで)

和(二条さんへの直撃は難しいかもしれませんが、ツモでも親っ被りで突き放せます)ヒュン

泉(これは……さっきまでならオリてたとこやけど、通るはず)タンッ

和(攻めて来ますね……)ヒュン

泉(はよ掴めや……)タンッ

和(二条さん――!)ヒュン

泉(原村和――!)タンッ

和(このオーダーには感謝しなければいけませんね……なぜなら――!!)ヒュン

泉(このオーダーには感謝せなあかんな……やって――!!)タンッ

和・泉(一年前のインターミドルからずっと……!! あなた(自分)と戦うこのときを!! 私(うち)は待っていたんですから(んやから)ッ!!!)

泉「ロンッ! 2000や!!」パラララ

和「っ……はい」チャ

和(二条さん……やはり、あまり高くはなかったのですね。ともあれ、やられました。仕方ありません。できることなら、次で取り返しましょう)

泉(原村のやつ……点数安いん見切ってゴリ押ししてきよって。寿命が縮まる思いやったで。さて、ま、何はともあれ和了ったわけやけど――)

和・咲・優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(悪いな、原村。ま、自分とは、これから何度も打つことになるやろし、今日のところは、これでお茶濁し。負け犬は負け犬らしく逃げさせてもらうで。どう考えても、これが一番、期待値高いからな)

泉(ただ、次はうちが勝つッ!! それだけはよう覚えとけよ、原村和!!)

泉「和了り止めや。ほな、お疲れ様っ!!」

和「――!?」

『副将戦終了ー!! 《新約》と《逢天》の一位争いが激化しています!! 他方、三位の《幻奏》は準決勝突破圏内から若干後退、《煌星》は大将戦に望みを託す形となりました!!』

和(他チームの方針にあれこれ言う権利など私にはありませんが、できることなら、もう少しだけ対局を続けたかったです。まあ、これは非常に個人的な意見ですけれど……)

 一位:原村和・+16700(新約・146500)

泉(死ねるで。へとへとや。せやけど、一応、約束は守りましたよ、玄さん。これで、あとは、小蒔さんが笑顔でバトンタッチしてくれればええんやけど……どうやろか)

 三位:二条泉・−8300(逢天・144400)

優希(前半戦も後半戦も東場ではプラスだったじょ。マイナス分は、全部、南場。これをどうにかしない限り、私に明日はないじぇ。んー……とりあえず、反省はタコス食べてからっ!!)

 四位:片岡優希・−18300(幻奏・86700)

咲(…………)

 二位:宮永咲・+9900(煌星・22400)

 ――特別観戦室

菫「こちら《シャープシューター》! 援護は任せろ!」

智葉「指令は任せろ」

エイスリン「シレイ、ホサ、マカセロ!」

まこ「ほいで、最前線に立たされる鉄砲玉は、やっぱりわしらか」

純「下っ端は辛えぜ。ま、ここは一つ、《双頭の番犬》の力を見せてやろうじゃねえか」

まこ「ほうじゃの――《拒魔の狛犬》として、ここより先には一歩も行かせんぞ、照ッ!!」

照「邪魔」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ・純「ぐはっー!!」

憩「こちら医務班!! 猛犬二匹の戦闘不能を確認!! 増援願います!!」

智葉「天江、出撃《で》ろ」

衣「……仕方あるまい」

エイスリン「コロタン! イキテ、カエッテ、コイヨ!!」

衣「その期待には応えられそうにない。相手はこまきと同じ――ヒトではない『何か』なのだから」

穏乃「私もお供してよろしいですか、天江さん……」

衣「おお、《深山幽谷の化身》。心強いぞ!」

穏乃「私が《原石》の力で抑え込みます。その隙に、天江さんの《一向聴地獄》で、私ごとあの人を海の底に沈めてください――」

衣「っ!! 待て、しずの!! 衣より先に黄泉へ行くことは許さんぞ……!!」

穏乃「これしか世界を救う方法がないんです!! では、お先に……!!」ダダダダダダダダ

衣「くっ、その覚悟、天晴れ!! 想いは受け取ったぞ、しずのー!!」ゴッ

照「どいて」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃「そんな!! 私のすごパが!? うわああああ!!」バタッ

衣「これほどか……《頂点》――」ガクッ

憩「こちら医務班!! 海と山、陥落しました!!」

智葉「あとはお前しか残っていないぞ、《塞王》」

塞「……やればいいんでしょ、やれば」ハァ

菫「私が矢面に立つ。臼沢、お前は塞ぐことに全力を注いでくれ」

塞「《シャープシューター》が矢面? 死ぬ前に聞くジョークにしては、最低の部類ね」

菫「すまんな、私は冗談が苦手なんだ」

塞「気持ちだけ受け取っておくわ。じゃ、行きましょう」

菫「ああ……」

照「菫、臼沢さん――二人も私の敵に回るんだね……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫「薄々、こうなるんじゃないかと思っていた」

塞「宮永、あんたって本当にバカ」

照「ごめん。でも、私には、世界の全てを敵に回してでも、守りたいものがあるから……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫「問答は無用だッ! 喰らえ、《シャープシュート》!!」ゴッ

塞「こっちもよ、《防塞》……ッ!!」ゴッ

照「無駄」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫・塞「」

憩「こちら医務班!! 最後の砦、突破されましたー!! 敵はまもなくそちらへ到着します!!」

智葉「使えないゴミどもめ。私の手を煩わせるとは」

エイスリン「シレイカン……」

智葉「ウィッシュアート、私が倒れたそのときは、敵がここまで来る前に、この《背中刺す刃》で自刃しろ。
 間違っても敵討ちなど考えるな。余計な苦しみを味わうだけだ。いいか、それがお前の、補佐官としての最後の仕事だからな」

エイスリン「シレイカン……!!」ウルウル

智葉「さて、往ってくるか――」

照「……辻垣内さん……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「よう、宮永。元気そうだな」

照「そう言えば、二回戦のお礼が、まだだった」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「一つ、いいか」

照「何?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「あいつには……手を出さないでくれ」

照「約束はできない。立ち塞がる者は、全てゴッ倒す」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「なるほど。つまり、私がお前をここで殺すしかないわけか……」スラッ

照「たとえ《懐刀》でも、私は絶てない」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「知っているさ。だが、知っていても、殺らねばならないときというのが、ある」チャキ

照「お覚悟を」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「そんなもん……とうに済んでいるッ!!」ヒュン

照「じゃあ遠慮なく——《照魔鏡》ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 パキンッ

智葉「……無念――」パタッ

憩「ガイトさああああああああん!!」

エイスリン「サトハアアアアアア!! クッソ!! アノ!! ツノヤロウ!! ブッコロス!!」

憩「あ、あかん、エイさん!! ガイトさんとの約束を忘れたんですか!?」

エイスリン「シニン、アイテニ、ヤクソク、マモッテ、ドースンダヨ!!」

憩「やめてください、エイさん、無茶ですっ!!」

エイスリン「ンナコタ、ワカッテル! ソレデモ! ワタシハ! コノ《セナカサスヤイバ》ヲ! トドケナケレバ、ナラナイ!!」チャキ

憩「エイさん……」

照「そんな震えた手で、何を何に届けるつもりなのか」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン「コノ! ヤイバノ! キッサキヲ! テメェノ! シンゾウニ!! ダヨ!!」ダッ

照「笑止」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン「ッ!? サ……ト、ハ――」バタッ

憩「エイさあああああああん!! そんな!? みんな!! みんなやられてもうた……」

まこ・純・穏乃・衣・菫・塞・智葉・エイスリン「」

照「あとは、あなただけ。荒川さん」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「やっぱり、自分はヒトやないな、宮永照。こんな……みんな死んでもうてるやん……」

照「最初に、私の前に立つなと、警告したはず」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「そんなこと言われたかて、立たへんわけにはいかへんでしょ。放っておけば、世界が滅んでまうんやから」

照「あなたも、私の前に立つなら、容赦はしない」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「勘弁してくださいよ、ウチはしがない医務班です。あなたを止める力なんてありません」

照「《悪魔》の言葉は信じない」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「……まったく、こんな可愛い子に、本気で戦えっちゅーんですか、こないな化け物と。メゲたい。投げたい。つらいつらい——」

照「そのわりに、笑顔」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「まっ、茶番は終わり、っちゅーことで♪」ニコッ

照「いざ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ドスッ

照「なっ……?」クラッ

智葉「背中ががら空きだぞ、宮永――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照「そんな、なぜ……あなたの《懐刀》は折ったはず……」

智葉「ああ、確かに『刀』は折られたよ。だが、私には忠実なペットがいてな。新しい『刃』を私に届けてくれたんだ。お前を背後から刺すための、な――」

エイスリン「」ニヤッ

照「くっ……私を欺いたのかッ!!?」

智葉「やれ、荒川、トドメだ」

憩「まっかせてーぇ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照「うぐ……っ!! 嫌だ!! 私は行かなければならない!! 咲のところにいいいいいいいいい!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫「あ……荒川……照を……この部屋から出してはいかん……!!」ゼイゼイ

憩「わかってますーぅ。ほな、ちょっと眠らせますわー」トスッ

照「さ……き――」パタッ

憩「いやー、なんとか世界が滅ぶのは避けられましたねー」

智葉「実にくだらないことに七つもの貴い命を無駄にしてしまった」

まこ・純・衣・穏乃・菫・塞・エイスリン「」

智葉「ひとまず、死体の処理とバカの拘束を頼む、医務班」

憩「もー、ガイトさんってば人遣い荒過ぎですわー!」

照「……さ……き……」ZZZ

 ――――

 ――――

小蒔「泉さん……」

泉「ああ、小蒔さん。よかった、また泣かれたら今度こそ立ち直れへんとこでした」

小蒔「泉さあああああああん!!」ガバッ

泉「……すいません、トップ、まくられてしまいました」

小蒔「なんの! あとは全て、私にお任せくださいっ!!」

泉「お願いします」

小蒔「泉さんっ!!」

泉「なんですか、小蒔さん?」

小蒔「私はっ! 戦う泉さんを! 頑張る泉さんを! 思うように勝てない泉さんを! それでも立ち向かう泉さんを! 私をここまで導いてくれた泉さんを……!! とってもとっても好いておりますっ!!」ギュー

泉「……おおきにです、小蒔さん」

小蒔「勝って……共に天上に行きましょう」

泉「はい。そこで、うちが《頂点》に楽勝したればええんですよね」

小蒔「なんというか、泉さんは、いつも口ばっかりです!」

泉「自覚してますよ。せやけど、カッコつけていたいんですもん。好きな人の前では」

小蒔「泉さん……っ//////」

泉「今度という今度こそ、ちゃんと、本当にしてみせます。せやから、うちに、チャンスをください」

小蒔「はいっ! 決勝では! 楽勝してみせてください!」

泉「ほな、大将戦。応援してますよ、小蒔さん」

小蒔「ありがとうございます。私は私の応援をする泉さんを応援していますっ!」

泉「そしたら、うちは小蒔さんの応援をするうちを応援する小蒔さんを応援しますわ」

小蒔「な、ならっ! 私は私の応援をする泉さんを応援する私を応援する泉さ――とにかく頑張ります!!」

泉「そうしてください。ま、無茶だけはせんようにお願いしますよ」

小蒔「ちょ、ちょっとその約束は守れないかもです……」

泉「えっ、小蒔さん……?」

小蒔「でも……一番大切な誇りは、きっと守ってみせます。私は《神憑き》で、大能力者《レベル4》で、支配者《ランクS》で、泉さんのことを大好きな、神代小蒔ですから」

泉「心配は……不要で無用っちゅーことで」

小蒔「いかにも」

泉「小蒔さん」

小蒔「なんでしょう」

泉「行ってらっしゃいっ!!」

小蒔「はい! 全力以上で行って参りますッ!!」ゴッ

 ――――

姫子「お疲れ様とー、和」

和「ものすごく疲れました」

姫子「トップ浮上やけんね、本当にようやってくれたと」

和「いえ、そのことではなく、途中、ちょっと、想像を絶する事態に遭遇しまして」

姫子「怜さんのことやろ?」

和「っ――!?」

姫子「私にはわかっとうよ。二人が《絶対》の《契約》で結ばれとうて、ちょっと見ればわかっと」

和「……ご内密にお願いします……//////」

姫子「素直やなかねー」

和「すいません。まだ、実物を前にして、何らかのアクションを起こす度胸はないもので」

姫子「そいが和らしさなら、そいでよかと私は思う」

和「……姫子さんは、強いですよね」

姫子「麻雀が?」

和「メンタルが」

姫子「この……。ま、そいでないとレベル5なんてやっとれんよ」

和「さすがです。安心して、あとを任せることができます」

姫子「ばっちり任せんしゃい。三回戦に引き続き化け物だらけとばってん、どうにかこうにか決勝進出ば決めてみせっと!!」

和「頑張ってください。それと、その――」

姫子「なん?」

和「こんな約束をするのはSOAだとわかっているのですが、その……必ず、勝ってきてください」

姫子「何のSOAとっ! 私はレベル5の《約束の鍵》!! 誰のどがん約束でん、《絶対》に形にしちゃる!! やけん、安心して見ときんしゃい!!」

和「……姫子さんが大将で、心から、よかったと思います」

姫子「あいがと。怜さんの前でん、そいくらい素直になれっとよかね」

和「それは……っ/////」

姫子「ほいたら、行ってくっとよ!!」ゴッ

和「……行ってらっしゃい、姫子さん――」

 ――――

ネリー「いやいやいや! 苦戦したねー、ゆうき!」

優希「まったくだじぇ」

ネリー「さきの二度の倍満。一回目は直撃で二回目は親っ被り。あれはキツいよねー。私でも避けられないと思う」

優希「でも、咲ちゃんに勝てるくらいじゃないと、決勝では戦えないじぇ」

ネリー「それはそうだね!」

優希「ふう……タコスが足りないじぇ」

ネリー「やえが取り寄せてたよ」

優希「優しさが身に沁みるじぇ」ウルウル

ネリー「泣いて帰ると叱られるよー?」

優希「……わかってるじょ。次は――勝つ……!!」ゴシゴシ

ネリー「信じることをやめない限り、決して諦めない限り、神様は、必ずそこに至る道を用意してくれている。頑張って、ゆうき」

優希「ありがと。そして、ごめんな、ネリちゃん。一位・二位と六万点くらい離されてしまったじょ」

ネリー「何を言ってるの。私は魔術世界の《頂点》だよ? これくらい前半の東場でひっくり返せるって! しかも、私は南場に入っても失速しないっ!!」

優希「頼もし過ぎるじぇ、ネリちゃん」

ネリー「なんたって運命奏者《フェイタライザー》だからね!」

優希「……ネリちゃんは、向こうの世界から来たんだったか」

ネリー「そうだよ」

優希「じゃあ、いつか、そっちに帰っちゃうんだじぇ?」

ネリー「んー……そうなるのかな」

優希「知ってるか、ネリちゃん。一軍《レギュラー》になったら、インターハイに出なきゃなんだじぇ」

ネリー「らしいね」

優希「そのあとも、白糸台の大会に、いっぱい出なきゃなんだじぇ」

ネリー「みたいだね」

優希「いくらネリちゃんが帰るからチームを抜けたいって言っても、一軍《レギュラー》は、そんな簡単に解散しちゃダメなんだじぇ」

ネリー「大丈夫。言わないよ、そんなこと。一軍《レギュラー》のことは、やえから聞いてる」

優希「なら……勝ち続ける限り、ネリちゃんと、この学園都市で、ずっと遊べるんだなっ!」

ネリー「そうなるね」

優希「うおおおおお!! ますますやる気出てきたじょー!!」

ネリー「じゃ、ぱぱーっと勝ってくるから、応援よろしくなんだよっ!!」ゴッ

優希「がってんだじぇ!!」

 ――――

煌「……落ち着きましたか、咲さん?」ナデナデ

咲「……はい……ありがとうございます、煌さん……」

煌「それはよかったです」

咲「煌さん、初めて会ったときのこと、覚えてますか……?」

煌「もちろん。覚えておりますとも」

咲「あのとき、煌さんは、私の《プラマイゼロ》を、相手がどんなに強くても、半荘一回で5000点は稼げる、すばらな能力だって言ってくれました」

煌「はい。言いました」

咲「私は……それがとても嬉しかったんです。私の力を、そんな風に肯定してくれたのは、煌さんが初めてだったから。だから、私はこの力、煌さんのために役立てようって思いました……」

煌「ありがとうございます」

咲「でも……っ!! こんな結果になってしまうなら……こんな、こんな力――私は要らなかった……!!」

煌「咲さん……」

咲「《プラマイゼロ》!! 半荘一回で5000点を稼げるっ!! 違う!! 半荘一回で5000点しか稼げないっ!! 私は……すごく――悔しいっ!!
 二回戦で《プラマイゼロ》にできなかったことを悔しがってた私がまるでバカみたいです!! こんな、こんな――」

煌「咲さん、大丈夫です。大丈夫ですから、そんなにご自分を責めないでください……」ギュ

咲「ご、ごめんなさい……私、煌さんは大事な対局の前なのに……また……」ポロポロ

煌「構いませんよ。これもリーダーの務めですから」ナデナデ

咲「私……私、ダメですね……」

煌「そんなことはありませんよ、咲さん」

咲「でも!」

煌「咲さんは、ちゃんと私に繋いでくれました。非常に厳しい点数状況を乗り越えたばかりか、一万点も上乗せして、勝利への道を残してくれました」

咲「でも……っ!!」

煌「咲さん……私は、最初に会ったときに言ったはずです。咲さんの《プラマイゼロ》は、思いやりの能力だと。誰一人傷つくことのない結果を残せる、すばらな力だと」

咲「はい……覚えています……」

煌「対局の結果は、単なる結果でしかありません。ですから、そうやって、ご自分を傷つけるのはやめてください。私は、咲さんが優しい打ち手であることを望みます。他人に対しても、自分自身に対しても」

咲「煌さん……」

煌「ランクSの支配力——自他を傷つけうるその強大な力のベクトルを、ただ一点、ゼロに集約させる。こんなに美しい論理は他にありません。要らないなんて言わないでください。咲さんは、十分に、強く、魅力的な雀士です」

咲「……ありがとうございます」

煌「それに、二回戦ではできなかった、《プラマイゼロ》の意識的オフができていたではありませんか。南二局からオーラスまでの計三局、咲さんは完全デジタルで対応していました。
 咲さんは、能力や支配力も魅力的ですが、それに頼ることなく、最後まで打ち切ったのです。自信を持ってください。あなたは確かに、一雀士として、強くなっています」

咲「全部、煌さんのおかげです。煌さんが、感情任せに打つなって、釘を刺してくれなかったら……」

煌「ああ……そうですね。少しだけ、ひやひやしましたよ。《プラマイゼロ》の型に嵌められた状態で、もし、感情のままに支配力を全力全開にしていたら、恐らく、咲さんは再び《プラマイゼロ》の呪縛に捉われていたでしょう」

咲「自分でも、感じました。ちょうど……《プラマイゼロ》の能力を発現したときと同じ感覚でしたから」

煌「よく思い止まってくれましたね」

咲「淡ちゃんはおバカだからあれとして、友香ちゃんも桃子ちゃんも、勝つために戦っていましたから。
 それを思い出したら、寸前のところで、冷静になれたんです。あのとき、勝つために私にできる最善は、感情を暴発させることじゃないって」

煌「すばらです……」

『まもなく大将戦が始まります。対局者は対局室に集まってください』

煌「と、申し訳ありません。時間がきてしまいました」

咲「いえ、私のほうこそ、喚き散らして、すいませんでした」

煌「友香さんが紅茶を淹れて待っていますよ。あと、淡さんがお菓子を机の上いっぱいに広げていました。それと、桃子さんが、なにやら新しい踊りを披露すると息巻いていましたね」

咲「あははっ……みんな、本当に、もう……」

煌「それでは、私はそろそろ。咲さん、一人で帰れますか?」

咲「友香ちゃんから、対局が終わったら電話するように言われてるので、大丈夫です」

煌「すばら。では――」

咲「き、煌さん……あのっ」

煌「ご心配には及びませんよ。私は負けません。《絶対》にです」

咲「そう……ですよね」

煌「応援、よろしくお願いしますね」

咲「はい。行ってらっしゃいませ」ペッコリン

煌「ええ。行ってきます……」

 タッタッタッ

咲(煌さん……少し、思い詰めていたような。様子が……いつもと違ってたような)


     ドクンッ


咲(えっ……? なに、この感じ?)



              ドクンッ



咲(まるで、何か、《怪物》が目覚めようとしているような……)




        ドクンッ




咲(世界が閉ざされていくような――)





                 ドクンッ





咲(煌さん……煌さんは、私の《プラマイゼロ》を思いやりの能力だと言ってくれましたけど……)








                       ドクンッ








咲(なら、煌さんの《通行止め》は……?)











        ドクンッ











咲「煌……さん――」ゾクッ

 ――対局室

姫子「よろしくと!」

 南家:鶴田姫子(新約・146500)

ネリー「よろしくねっ!」

 北家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・86700)

小蒔「よろしくお願いします!」

 西家:神代小蒔(逢天・144400)

煌「よろしくお願いいたします」

 東家:花田煌(煌星・22400)

『大将戦前半、開始です!!』

ご覧いただきありがとうございました。

咲さんが末原さんに次は勝てないと言ってたのはこういうことなんじゃないかと思いつつ。

次は明日か明後日に現れます。では、失礼しました。

乙〜
枕神怜ちゃんがポータブルレベル5ってことはこれで見えた和了は絶対なのか
条件満たせば誰でも使えるっぽそうだけどAF同じくこのスレだとやっぱり和しか条件満たせないのかな?竜華が膝枕しても無理なんかね?
咲さんはお気に入りだからいじめてるんじゃない?きっと決勝では活躍するはず…

そういえば学年対抗戦は読んだけど、他にも闘牌系書いてんの?
書いてるのなら教えてください。

学年対抗戦は副将後半が面白かったな。

>>197で《聖人崩し》を喰らうのは二度目って言ってるけど、
ワハハも似たことをしてたから三度目なのでは?

やべえな……これ後々照さんも涙目になるとか言えねえな……。

 *

これはもう主観なのでツッコまれても困るんですが、私の目に映る咲キャラの強さや属性をスラムダンクに喩えれば、咲さんは三井、原村さんは流川、片岡さんは宮城、二条さんは清田くらいの感じです。

なので、誰かを特別強く書いたつもりも、誰かを特別弱く書いたつもりもないです。みんな可能な限りの最善を尽くして打ってます。

副将戦をスラムダンクに置き換えれば、宮城と清田が三井に試合開始早々ダブルチームを掛けて、流川は一人でやりたい放題して、最後に清田が流川と1on1して、おしまい。みたいなことが起きてます。

辻垣内さんが牧くらい。上埜さんは赤木。福路さんは神。愛宕さんは仙道くらいですかね。照さんは深津。弘世さんは河田。高鴨さんは桜木。沢北に相当するキャラクターは、このSSでは荒川さんが近いかと。

二回戦で辻垣内さん(牧)が一人でやってたこと+αを、二条さん(清田)と片岡さん(宮城)が二人掛かりでやっているだけです。その上で、照さん(深津)が『対策不可』と評価するオカルトキラーの原村さん(流川)を相手にしていたんです。一万点稼いでいることのほうが異常です。辻垣内さん(牧)でさえ清水谷さん(藤真)一人に徹底マークされたときは3900点しか稼げなかったんですから。

で、まあ、今回は終始徹底ダブルチームでしたけど、他にマークすべき相手がいれば、そっちの対応もせざるを得ません。そして、マークが緩めば、三井は普通に3P決められます。二回戦で牧相手に露呈したスタミナ不足も、克服しつつあるわけですしね。

天江さんだって百鬼さんに海底を奪われたことがあります。冷たい龍門渕さんだって最終的には直撃を受けています。照さんだって数えに振り込みました。大星さんのマジダブリーだって狩宿さんに流されます。咲さんだって同様です。相手が強ければ苦戦します。そして、あの三人は強いです。

 *

>>243さん

《絶対》です。能力の仕様は原作と変わりありません。設定上は清水谷さん相手にもできるはずですが、枕神怜ちゃんは一つの世界線につき特定の一人にしか与えられないので、原村さんに憑いた以上、もう他の人へは移りません。

>>254さん

書いたものリスト。

和「宮永さん、私のリー棒も受け取ってください」咲「う、うんっ!」
咲「え? どの学年が一番強いかって?」
咲「ノドカの牌」
景子「折れた刃は錆びつかない」

>>257さん

蒲原さんのあれは、《プラマイゼロ》の特性(自分以外の誰かを一位にしなければいけない)を利用していただけです。辻垣内さんや二条さんがやったのは、咲さんが目指していた本来のゴール(例えば1000点スタートプラマイゼロ)へ行かせずに、途中にある《プラマイゼロ》の溝に突き落とす詐欺技です。

 *

まあ、何はともあれ、本当の絶望はここからです。

 東一局・親:煌

姫子(さあ……始まった。最高の形でバトンば貰った。あとは、勝つだけと)タンッ

姫子(勝つために、どげんかせんといけん相手――なんば置いても、この人しかおらんやろ。どこぞ遠かとこからやってきたていう化け物……ネリー=ヴィルサラーゼ)

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(理牌せんと、なんば聞いとう知らんばってん、こいつはあん《悪魔》と同じことのできっとか。学園都市のナンバー2……一年前は、玄の指示で大量の《約束の鍵》ば持って対局に臨んで、そいでん、個人収支で上ば行かれた)

姫子(今日の私は、まるっきりのレベル0状態。一応、支配力はちょっとだけあっばってん、玄や絹恵ほどはなかとやし、限りなく無能力者に近か。どこまで……できっか――)タンッ

ネリー「ロン、7700」カチャカチャパラララ

姫子「はい……」

ネリー「♪」

姫子(そのカチャカチャば見ると、一年前のトラウマの蘇っと。いやいや、こいは、しんどか。山牌の並びのわかる人外に、ごく普通のデジタルで勝つ……? 絶望的過ぎっとよ)フゥ

    ――必ず、勝ってきてください。

姫子(わかっとうよ。わかっとう。大丈夫。相手の誰でん……約束は守る。《絶対》に――!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌:22400 姫子:138800 小蒔:144400 ネリー:94400

 東二局・親:姫子

小蒔(先ほどの和了り。一度も裏目ることなくテンパイに辿り着き、それでいて、見透かしたような待ちをしていましたね。その打ち筋はまさに憩さんのそれです。
 悔しいですが、通常状態の私にどうにかできる相手ではありません。否……たとえ《神憑き》の力を行使しても、勝てるかどうか)タンッ

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(鶴田さんも、花田さんも、憩さんとは対戦経験がある。しかしながら、この学園都市において、あの憩さんと最も卓を囲んできたのは、《4K》である私と玄さんと衣さんです。その差を活かしていきたいところですね)

小蒔「ポンです」タンッ

ネリー「?」

小蒔(向聴数の変わらない鳴き。自分でもちょっと理解に苦しむ打牌ですが、論理の権化のような存在である憩さんには、こういう、ちょっとよくわからない行為が、有効だったりします。
 点差的に優位なのはこちら。これで、少しでもネリーさんの調子を乱し、三回戦で憩さんが玄さん相手にやったような荒稼ぎを止めることができれば、勝機はあります。
 憩さんは無能力者。牌の《上書き》ができない。どんなに山牌の並びがわかっても、古典確率論に縛られている以上、和了れないときは和了れないはずなのです)タンッ

ネリー「ロン、5200」カチャカチャパラララ

小蒔「は、はい」チャ

ネリー「♪」

小蒔(……甘く見ていたわけではありません。当然のように、手強いです。いいでしょう。いずれにせよ、あなたや、憩さんを倒さないことには、一軍《レギュラー》になることはできない。天上に立つことはできない)

小蒔(ネリーさんにはこちらの能力を封じる術があるそうですからね。出し惜しみはしません。ここは、柔軟性のある《三面》様のお力を借りるとしましょう――)スゥ



     ドクンッ



ネリー・姫子「っ!!?」ゾワッ

小蒔「次は……私の親番ですね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌:22400 姫子:138800 小蒔:139200 ネリー:99600

 東三局・親:小蒔

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(やえのペテンで《制約》だらけだった能力をかなり自由にコントロールできるようになったっていう、一色巫女さん。
 昨日の今日だけど、さすがはつみやかすみが付き従うほどの《神憑き》。支配力の扱いが抜群に上手いね。安定して聞き心地のいい旋律だよ)タンッ

ネリー(一色独占の強度が、三回戦のときより劇的に低い。一色牌以外もツモるみたいだね。偏りの比率は、ゆうと同じくらい。門前清一ができるとしたら中盤から終盤にかけてって程度かな)タンッ

ネリー(偏りの比率が下がるのは、速度が落ちる反面、直撃を取られる可能性が上がるのが恐いよね。
 こまきの色が、ある程度、私のところにも回ってくる。最高状態だとほぼ独占状態だけど、今は、普通にこまきの色で面子作れちゃうんだよね。当然、掴まされることもある)タンッ

ネリー(んー……このまま行くとツモられちゃうかな? 《流れ》はあっちにある。どうにかしたいけど、今回の運命だと鳴いても効果は薄い。なら、正攻法で行ってみようかっ!)

ネリー「リーチなんだよっ!!」ゴッ

煌「」タンッ

ネリー(お?)

姫子「チー」タンッ

ネリー(よ?)

小蒔「」タンッ

ネリー「」タンッ

小蒔「ロンです、18000」パラララ

ネリー(へー……?)

煌・姫子・小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(私のリーチを見て即座にひめこへパスを出したきらめ。きらめの意図を察して喰い替えで鳴いたひめこ。
 で、こまきは瞬発的に支配力を行使して、本来はひめこのツモだった牌を自分の色に《上書き》。門前清一をテンパイ。で、こまきのツモが私に流れてきて、見事、掴まされたと)

ネリー(全員の技術水準が高い。その上、なんの相談も合図もなくぴしゃりと私を封殺してくるこの息の合い具合。ピンポイントで勝利のメロディを紡ぐとは、やってくれるねー?
 みんな二年生だし、てるとひさとはつみがやってたみたいな連携プレーは、簡単にはできないんじゃないかなって思ってた。でも……やっちゃうわけか。こんなにあっさり)

ネリー(ゆうきには東場でひっくり返せるって言ったけど、こいつはちょっと手こずりそうだね。予定変更。どんどん攻めるよ。なるべくさっさとまくっておかないと、あとが恐いからね――)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(レベル5の第一位、《通行止め》――はなだきらめ。世界を閉ざす《怪物》。運命奏者《フェイタライザー》の名において、あなたは、ここで私が葬るんだよ……!!)

小蒔「では、一本場、行かせていただきます」コロコロ

煌:22400 姫子:138800 小蒔:158200 ネリー:80600

 ――《逢天》控え室

泉「おおっ! 鳴きでツモ順ズレたのに支配力補正で有効牌を《上書き》!! 意識ありで《神憑き》の力を使う小蒔さんはホンマにすごいですね!!」

豊音「あれを当たり前のようにできるのは《最愛》の藤原さんくらいだと思ってたよー」

透華「ま、今回は小蒔の運が良かったですわね。しかし、油断は禁物でしてよ。あのネリーとかいう輩……三回戦のときから、まるで山牌が見えているかのような異常なテンパイ効率の良さを見せますの」

玄「決して裏目らない脅威のテンパイ効率。そして、全ての感知系能力と洞察技術を集約したような見透かした和了り。ネリーさん――というか憩さんとまともな勝負が成り立つ雀士は、学園都市に数人しかいない。
 《三人》の宮永照さんと辻垣内さん。それに、《三強》の衣さんと小蒔ちゃん。勝てる勝てないは別としても、あの面子の中では、小蒔ちゃんが一番有利なはずなんだよね。ただ、恐いのがな……」

     小蒔『っ……!?』

泉「あ――」

豊音「きゅ、急にコマキの色が来なくなったよー……?」

透華「っ! いけません、小蒔――!!」

     ネリー『ロンなんだよ、3900は4200』

     小蒔『はい……』

玄「原理不明の能力《無効化》――これが厄介だよね。レベル4以下のあらゆる能力に有効っぽいけど、あの面子だと、割を食うのは大能力者《レベル4》の小蒔ちゃん一人。
 ネリーさんは憩さんに近いけど、憩さん本人ではない。憩さんと戦い慣れている分、こういうところはかえって弱いよね。小蒔ちゃん、焦らなければいいけど」

泉「いや、でも、能力が《無効化》されることが『ある』っちゅーんは、対策会でばっちり予習済みです。小蒔さんなら大丈夫ですよっ!」

玄「そうだね。そうあってほしい」

豊音「がんばれー、コマキー!!」

透華「ぶちのめせですわー!!」

     ネリー『ロン、12000なんだよっ!』

     小蒔『はっ、はい』

豊音「うっ!? コマキー!! ちょー負けるなー!!」

透華「やられたらやり返せですわー!!」

泉「ホンマになんなんや、あいつ……!! くっそ、どうにか攻略法を――」

玄「何か気付いたことがあったら言って。小蒔ちゃんには、現時点でわかる限りの情報を持たせたし、考え付く限りの対策を仕込んだけど、私にも見落としはある。
 決勝で戦うときのためにも、ここで少しでもネリーさんのことを把握しておきたいからね」

泉「わかってますっ! ない頭フル回転させますわ!!」

 ――《新約》控え室

怜「相変わらずネリーさんのアレは意味不明やわー」

初美「支配力の扱いに関してはプロ中のプロである姫様にも有効ってことは、やっぱ能力のほうに何かしてるんですかねー。
 喰らった感覚としては、理路整然とした能力の論理回路に、なんか妙なもんを混ぜ込まれる感じでしたー」

絹恵「せやけど、ネリーさんのアレは、原理がわかっても、どうこうできるかどうかわかりまへんやん。個人的には、アレの対策に気を取られるくらいなら、怜さんか和をぶつけるんが一番早くて一番有効やと思います」

和「私でよければ、いくらでもSOAしますよ。皆さんが何をそんなに困っているのかわかりませんが、あんな結果オーライな打牌を繰り返す雀士など、私は全く恐くありません。
 無論、勝てるかどうかは偶然に拠るところが大きいですけれど」

絹恵「頼もしいな自分ホンマ……」

初美「点を取るよりは守るほうが得意と思われる花田さんが盛り返してくる可能性は低いと考えると、現状、決勝に行くなら二位通過が妥当ですかねー?」

怜「この前半戦でネリーさんにまくられるようなら、標的を《逢天》にする。
 ネリーさんの能力《無効化》と能力消滅呪文の被害を受けるんは、あの場で唯一のレベル4――神代さんだけや。そこに、なんとか突破口を求めるしかあらへん」

初美「能力封じられても、今の姫様がガチで支配力を使いこなしてきたら、たぶん、それもキツいと思うですよー」

怜「そんときはそんときや。姫子には、なんたって《絶対》の変態パワーがある。最終的にそれで一発逆転を狙ったらええ」

絹恵「変態パワーて……」

和「SOA」

     ネリー『ロン、5800は6100なんだよっ!』

     姫子『はい』

怜「宮永照が相手でもアホみたいに連荘しとったネリーさんが、この一回目の親でどんだけ積むんか……」

初美「やっぱここは素直に協力プレイですかねー」

絹恵「さっきは成功してましたし、一度あったことは何度でもって言いますからねっ!」

和「どこの世界の諺ですか、それ。いや、古典確率論的には真理ですけれど」

 ――《幻奏》控え室

セーラ「あいつの全力を見るんはこれで二度目やけど、ホンマ、宮永照、それに荒川憩以外の人類で拮抗できるやつはいーひんやろなぁ」

誠子「宮永先輩の対局を見ているときとほぼ同じ気分です」

優希「ネリちゃん、東場でひっくり返すって言ってたじょ」

セーラ「ふーん? いや、まあ、言うても、なかなかやるで、神代も鶴田も花田もな。さすがにこの親で一気にとは行かへんやろ」

誠子「いずれにせよ、この前半戦で逆転すると思います」

優希「お、また巫女お姉さんに一色牌が来なくなったじょ。《すぺるいんたーせぷと》か?」

セーラ「せやろな」

誠子「あの神代さんにも有効なんですからね……人外過ぎです、ネリーさん」

     ネリー『ロン、3900は4500なんだよっ!』

     小蒔『はい』

やえ「……ん?」

セーラ「どうしたん、やえ。なんか気になることでも?」

やえ「いや、調子よく上位の二チームから奪っていくな、と思って」

誠子「三位の現状で残り二万点と少しの最下位チームを狙うのは、危険な気がしますけど」

やえ「それはわかってる。ネリーが狙った相手から直撃を取れるやつなのも知っている。だが、本当にそれだけなのだろうか」

優希「特に不自然な感じはしないじぇ?」

やえ「だといいがな……」

 ――対局室

ネリー「♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(デタラメ過ぎっと、この生き物)

小蒔(人のことは言えませんが、同じ人間とは思えませんね)

姫子(決勝にこいつの上がってきたとして、怜さんか和なら最少被害で切り抜けられそうやと思うばってん、勝つのは困難やとも思う。
 私らの一軍《レギュラー》になるためのベスト……そいは、ここでこいつば敗退させること)

姫子(ほいで、あんたもそう思っとうやろ、神代さん――?)チラッ

小蒔(鶴田さん……玄さんは、今の点数状況なら、彼女を頼ってもいいと言いましたね。その力は玄さんが保証してくれています。利害が一致している間は、協定を結んでおくとしますか)フゥ

小蒔(《神憑き》――解除……)

ネリー(お……?)

小蒔(一色牌を占有すると、霞ちゃんの《絶門》様が特にそうであるように、基本単独で戦わねばならなくなります。
 鶴田さんと協力するのなら、能力は切っておいたほうが対応しやすい。能力を使わなければ、ネリーさんの《無効化》による不意打ちも防げますしね)

姫子(こん感じ、能力ばオフにしたんか。つまり、信じてよかてことやね、神代さん)

小蒔(花田さんも抱き込めればいいのですが、点数状況的にそれは望めません。ここは二人でどうにかしましょう、鶴田さん)

姫子(有難か。こいは玄の指示でんあっとやろ。そいたら、神代さん。ここは一つ、互いの目的のために、同盟ば組むとすっか)

小蒔・姫子(《幻奏》を(ば)ここで落として、私たちが決勝へ行く……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(へー……? ま、これくらいは想定内。上等なんだよ――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー「三本場なんだよっ!!」

煌:22400 姫子:132700 小蒔:137500 ネリー:107400

 東四局三本場・親:ネリー

姫子(さて、こん配牌)

 姫子手牌:一三[五]九九89[⑤]⑦⑧⑨北北 ツモ:二 ドラ:③

姫子(私は神代さんの上家やけん、チーばさせることのできる。ばってん、こいない、私のほうが手の速そうな気のすっ。最速最安で仕上げるけん、ここは私に任せんしゃい、神代さん)タンッ

 姫子手牌:一二三[五]九九89⑦⑧⑨北北 捨て:[⑤] ドラ:③

小蒔(第一打から赤五筒。私への支援……とはちょっと考えにくいですね。中張牌は中張牌でも、赤は私の打点を上げてしまいます。差し込みも考慮に入れているとしたら、徒に相方の手を高くしてしまうのは得策ではありません。
 もし、鶴田さんが私にチーかポンをさせようと思っているのなら、他に手ごろな牌はいくらでもあったはずでしょう。
 これは、つまり、和了り役は自分に任せてほしい――という意味だと受け取ってよいのでしょうか。第一打赤五筒……なら、比較的有効牌の読みやすいチャンタ系ですかね。だとすると――)

 小蒔手牌:四四⑥⑥⑦⑨23888北北 ツモ:5 ドラ:③

小蒔(私の手も、流すにはそれなりに都合のよさそうな手ですが、鶴田さんがチャンタを狙っているとしたら、あまり私の鳴けるところは持っていないかもしれませんね。
 チャンタ狙いの鶴田さんが、自身の下家にいる私に支援を求めている。即ち、ヤオ九牌のポンがしたい、と。なら……この辺りでいかがです?)タンッ

 小蒔手牌:四四⑥⑥⑦⑨235888北 捨て:北 ドラ:③

姫子「ポン」タンッ

 姫子手牌:一二三九九89⑦⑧⑨/北北(北) 捨て:[五] ドラ:③

小蒔(ふむ……)

 小蒔手牌:四四⑥⑥⑦⑨235888北 ツモ:[⑤] ドラ:③

小蒔(もう少し情報が欲しいですね。ひとまず、ここは、ネリーさんが動けないように、っと)タンッ

 小蒔手牌:四四[⑤]⑥⑥⑦⑨235888 捨て:北 ドラ:③

ネリー(うおっと、そいつは鳴けるわけないねぇ)

 ネリー手牌:①②⑦⑧二三七3669東西 ツモ:[5] ドラ:③

ネリー(どうなるかなー)タンッ

 ネリー手牌:①②⑦⑧二三七3[5]66東西 捨て:9 ドラ:③

姫子(あとはツモるだけ……ま、そう上手くいかんか)

 姫子手牌:一二三九九89⑦⑧⑨/北北(北) ツモ:④ ドラ:③

姫子(神代さんに差し込んでほしかばってん、さすがにこの巡目で待ちば読むんは無理があっとやろか)タンッ

 姫子手牌:一二三九九89⑦⑧⑨/北北(北) 捨て:④ ドラ:③

小蒔(さてさて)

 小蒔手牌:四四[⑤]⑥⑥⑦⑨235888 ツモ:九 ドラ:③

小蒔(チャンタでポンを求めているなら、九筒か九萬が有効牌になりそうです。或いは、もうテンパイしているとしたら、二・三・八索や七筒で差し込める可能性もあります。ふんふむ。もっと絞れないかよく考えてみましょう)

小蒔(鶴田さんは、第一打に赤五筒を切り、その次に、赤五萬を切った。私は、第一打の赤五筒を見て、鶴田さんが和了り役を希望していること、手役がチャンタであることを読み取りました。
 しかし、同じことを伝えるなら、赤五萬を切ってもよかったはず。この順番に、何か、鶴田さんの意図があるとしたら――?)

小蒔(普通、先に切った牌は、後に切った牌より、優先度が低いです。この場合、チャンタを目指す鶴田さんにとって、赤五筒と赤五萬の優先度は同程度のはず。
 しかし、ルール上、どちらを先に切るかを、選択しなければなりません。気分で選んでもまったく構いませんが、鶴田さんは今、私に自身の支援を要求している。捨て牌によって、何かを伝えようとしているはずなんです)

小蒔(赤五筒と赤五萬の違いは、ひとえに、色です。先に切った牌は、後に切った牌より、優先度が低い――その一般論に従えば、鶴田さんにとって、先に切った筒子は、後に切った萬子より、優先度が低い、ということになります)

小蒔(鶴田さんは今、筒子を必要としていない。どちらかと言うならば、萬子が欲しい。役はチャンタ。私に出してほしいのはポン材。
 だとすれば、この九萬切りで、鶴田さんが何らかの動きを見せるかもしれません。そうすれば、より有力な、新しい情報が掴めるかも……)

 小蒔手牌:四四[⑤]⑥⑥⑦⑨235888 捨て:九 ドラ:③

姫子(む――こいは……)

 姫子手牌:一二三九九89⑦⑧⑨/北北(北) ドラ:③

姫子「ポン!」

 姫子手牌:一二三9⑦⑧⑨/九九(九)/北北(北) 捨て:8 ドラ:③

小蒔(九萬ポン、からの、八索切り、ですか。なるほど――)

 小蒔手牌:四四[⑤]⑥⑥⑦⑨235888 ツモ:9 ドラ:③

小蒔(私から見て、八索は壁。そして、ネリーさんが第一打で切っている九索。そういえば、憩さんには、のちのちの危険牌を序盤に落とす傾向がありましたね。なら、ここは、これが正解なのでしょう)タンッ

 小蒔手牌:四四[⑤]⑥⑥⑦⑨235888 捨て:9 ドラ:③

姫子「ロン、1000は1900」パラララ

 姫子手牌:一二三9⑦⑧⑨/九九(九)/北北(北) ロン:9 ドラ:③

小蒔「はい」チャ

ネリー(なんだこの人たちすっげー!!)キラキラ

姫子(霧島の巫女で《神憑き》。白糸台に五人しかいないランクS。一色占有の大能力持ち。
 そん強さは三回戦での凄まじか暴れっぷりで十分わかっとったつもりやったばってん、デジタルでこん読みの鋭さ――完全に想像以上と……)

小蒔(能力や支配力だけでは、本当に強い方々に勝てないのは重々承知。《刹那》の頃に、起きている状態でミスをしては、よくからかわれました。
 まあ、色々な服を着るのは楽しかったですが、しかし、あのとき感じた悔しさを、私は忘れてはいませんよ。
 あれから……多少は上手くなっているつもりです。学園都市屈指の完全理論派《デジタル》である透華さんに指導を受けた身として、こういうときこそ、頑張らないといけませんよね)

ネリー(うん。やっぱり東場で逆転は無理だったねっ! おっけーい。じゃー、もう早速やっちゃいますかぁー!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(ん――このおぞましい気配は……?)ゾクッ

ネリー「はーいっ! スピーカー越しに聞いてるみんなは今すぐ耳を塞ぐよーに!! いっくよー……魔滅の声《シェオールフィア》!!


    ――j/zkb53ewkjd@


                ――8zkbyty



  ――0xx5.dyb4          ――7g94


      ――g@k]d@8ywy0

                        ――wzwewg


   ――ig84q@y     ――r.bsw@


                      ――3ewkp


     ――edy0f
                            ――ter.0x@」

小蒔「――――――っ!!?」クラッ

姫子(ちょ、神代さん!?)

小蒔(こ、これが初美ちゃんから《裏鬼門》を奪ったという破滅の呪文ですか……!? 能力者の根幹にある論理構造を無価値にする力、でしょうか。本当に、信じられないことをしますね、この方――)

ネリー(ふふーん。さすがに覚悟はしてたみたいだね。でも、キツいものはキツいでしょ。
 これでもう、あなたは一色牌を集めることはできない。どんなに強度が高くても、私の魔滅の声《シェオールフィア》に例外はない。私は、レベル4以下のあらゆる能力を奪うことができるんだよ)

ネリー「さあさあ、張り切って南入しようかねっ!!」ゴッ

煌:22400 姫子:134600 小蒔:135600 ネリー:107400

 南一局・親:煌

ネリー(でもってもちろん——自動即興《エチュード》起動なんだよ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(ここに来て、初めて理牌したな。ってことは、来るんか、あん無茶苦茶な力が)

小蒔(玄さんが言っていましたね。ネリーさんの、他の雀士を能力込みで模倣する力。理牌をするようになったらそれの合図だと。恐らくは、私たちがよく知っている方々が現れるとのことですが、果たして。
 しかし……それはそれとして、先ほどの能力を奪われたショックがまだ尾を引いていますね。偽《体晶》を使っていたときのような疲労感でいっぱいです……)タンッ

ネリー「ポン」タンッ

姫子(役牌ポン……? こいだけやとまだなんとも――)タンッ

ネリー「ポン」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(っ――!? しまった、私……なんてこと……!!)ゾワッ

小蒔(いきなり最恐……もとい《最凶》の大能力者が来てしまいましたね……)ゾクッ

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ネリー手牌:*******/東(東)東/(北)北北 ドラ:白

姫子・小蒔(初美さん(ちゃん)の《裏鬼門》――!!)

姫子(やってしまったと……!! 私たちのよく知っている誰か、それでいて北家――北ポンの時点で予測できたやろ!! 不用意過ぎっと、私!!)タンッ

小蒔(こればかりは仕方ありません。私と鶴田さんにとって北と東はオタ風牌。遅かれ早かれ、鳴かれていたでしょう。
 それに、牌を絞るとこちらは手が作れなくなります。むしろ、この序盤で初美ちゃんだと判明した益のほうが大きい。非常に助かりました。これで、心置きなく早和了りができます)タンッ

ネリー「どんどん来るですーなんだよ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(役満ば和了られたら、その時点で逆転……)タンッ

小蒔「チーです」タンッ

姫子(……! 神代さん――?)

小蒔(お任せください。私は初美ちゃんと数え切れないほど打ってきました。《裏鬼門》の特性は熟知しています。四喜和の出来上がる速度も、待ちのクセも、私なら手に取るようにわかりますよ)

姫子(心強かっ!!)タンッ

小蒔「ポンです」タンッ

ネリー「ロン――」ゴッ

姫子(え……)

小蒔(嘘、速過ぎます……! 否、これは――)

ネリー「8000なんだよ」パラララ

姫子・小蒔(混一……!!?)

ネリー(勘違いしてもらっちゃ困るよー? 私の力は能力のコピーじゃない。該当する雀士そのものの《完全模倣》。
 応用技だって駆け引きのレベルだって該当雀士とまるっきり同等なんだから、当然、相手によってはこうやって裏をかくことだってあるわけなのさ……)

姫子(確かに、初美さんが練習で何度かこういうことばしてきたばってん……まるでそいばそのまま再現されたような――)

小蒔(これもあまり人のことは言えませんが、信じ難いものを見せつけられましたね。真似や近似や擬似ではなく、《完全模倣》というわけですか。この調子で畳み掛けられると、目が回ってしまうかもしれません)

姫子「……親番、行くと!」ゴッ

煌:22400 姫子:134600 小蒔:127600 ネリー:115400

 南二局・親:姫子

ネリー(さーて、続いてはこの方のご登場なんだよっ!!)パタッ

姫子(は――配牌ば伏せ……!! まさか――!?)

ネリー(リザベーション……六飜縛り《シックス》なんだよ!!)ガガガガガガッ

姫子(哩先輩!!? い、いや、違う。身体のこれっぽっちも反応せん!! 模倣は模倣! 本物とは別物! ただ、打ち筋や雰囲気はそっくり同じ――そういう精密な機械やと考えて打てばよかと!)タンッ

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(くっ……わかっとうても、このプレッシャーは本物としか思えん。さっきの初美さんもそいやった。
 そいない、上等……!! 私は哩先輩に勝てるように練習ば積んできたっ!! あんたで試しちゃる!! 今の私の哩先輩に勝てっか否か――!!)タンッ

ネリー(お、身近な人が出てくると戦意を失う人もいるけど、やっぱりレベル5の絆は強いね。逆に燃え上がるのか。やっぱりひめこは素敵な変態さんなんだよ!)タンッ

ネリー(でも、悪いね。私の自動即興《エチュード》が《完全模倣》する対象は、そのときそのときの《運命》を制するのに最も適した雀士。
 つまり、今ここでまいるが出てきたということは、この山牌――運命は、まいるのために生まれた一曲だと言ってもいいんだよ)タンッ

ネリー(ひめこと本物のまいるが打ち合えば、当然、ひめこが勝つ局もあると思う。
 でも、そういう、ひめこが勝つような運命のときは、私の自動即興《エチュード》は決してまいるを模倣対象には選ばないんだよね)タンッ

ネリー(自動即興《エチュード》はレベル5と《特例》を除く古今東西の全雀士を《完全模倣》できる。でも、自動即興《エチュード》の本質は、《完全模倣》にはない。
 その運命の担い手として最も相応しい『奏者』を自動検索する――それこそ、運命奏者《フェイタライザー》の運命奏者《フェイタライザー》たる由縁)タンッ

ネリー(私が自動即興《エチュード》で奏でるのは、常に最適のメロディ。必勝の凱旋歌。模倣対象が誰であるかはさほど重要じゃない。
 そこのところを理解していないうちは、運命奏者《フェイタライザー》を止めることはできないんだよ……!!)タンッ

姫子(よし……っ! こいで、どうとッ!!)タンッ

姫子「リー」

ネリー「ロン、12000」パラララ

姫子(六飜縛り……! そいな……!? まくられた!!?)ゾクッ

小蒔(まさに怒涛の追い上げ。大将戦が始まったときは五万点以上の差があったというのに、もう上位三チームが横並びとは。まあ、これもあまり他人のことは言えませんが……)

小蒔(とまれ、これで、鶴田さんとの協力関係も切れてしまいましたね。ここから《幻奏》を敗退に追い込むのは、かなり困難だと予想されます。
 できることなら一位のままで前半戦を終えたいところですが、そう思い通りにいくでしょうか――)

小蒔「次は……私の親番ですね」コロコロ

煌:22400 姫子:122600 小蒔:127600 ネリー:127400

 南三局・親:小蒔

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(こん手……索子と筒子しか来ず、ネリーさんの捨て牌は私の手に一枚たりとも入ってこん萬子と字牌ばかり。初美さんや神代さんと同じ霧島の巫女――石戸先輩の《最古》の大能力か……)

小蒔(霞ちゃんの《絶門》様……三回戦で《神憑き》を解除されたときは、手も足も出ませんでした。参ってしまいますね。どうにか、先に和了れればいいのですが)

小蒔「チーです」タンッ

姫子(ツモ順ズレた! こいで、少しは足の止まるか……?)

小蒔(これが本当に霞ちゃんだとしたら、鳴き程度で支配が崩れることはないでしょう。霞ちゃんはランクA強。そして、《絶門》様は私の《七面》様、《八面》様と同格のとても強い神様ですから)

ネリー「」タンッ

姫子(うげ……ツモ切り萬子。強度抜群か。てか、ツモ切りない、まさかもう張っとう?)

小蒔(倍満親っ被りくらいは覚悟しないとですかね)タンッ

ネリー「ロンですなんだよ、8000」パラララ

小蒔「え――?」

姫子(字牌単騎……!? ピンポイントでトップ直撃ば狙ったんか?)

小蒔「は、はい……」チャ

小蒔(これは……とても妙です。霞ちゃんがこんな打ち方をしてきたことが、未だかつてあったでしょうか。
 初美ちゃんの混一は見たことはありますが、局の最初から《絶門》様を降ろした霞ちゃんが、この巡目で字牌単騎の混一? 私は知りませんよ、そんな霞ちゃん……)

ネリー(トップ……まくったけど、今の感覚は、何かおかしかったんだよ。少なくとも、三回戦で聞いたかすみの旋律と、このメロディには、確かなズレがある。
 どうなってるなんだよ……? 自動即興《エチュード》発動中の私は、該当雀士を《完全模倣》できる。本人とズレがあるなんて、原理的にありえないのに……)

小蒔(トップをまくられた上に三位転落ですが、何か……そんなこととは比較にならない、『何か』が、今まさに、起ころうとしているような気がします)

姫子(神代さんとネリーさんの様子が、ちょっとおかしかとね。なんぞ気になることでんあっ……? 今でん十分異常事態とばってん、まだ、何か起きっとや……?)

ネリー「次はオーラスだね――」コロコロ

煌:22400 姫子:122600 小蒔:119600 ネリー:135400

 南四局・親:ネリー

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(配牌六向聴。そいで、第一打を放つ前から、痛いくらいのプレッシャー。ここであいつの来るんか……!?)

小蒔(この感じは覚えがあります。三回戦で戦いましたね、《超新星》――大星淡さん)

ネリー「それでは!! お気付きの方も多いと思うけど、やっちゃおうかねー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子・小蒔(ダブリーの(が)来る――!!!?)ゾクッ

ネリー「行っくよー、ダブ















                    残


                    念


                    な


                    が


                    ら


                    そ


                    こ


                    か


                    ら


                    先


                    は


                    |


                    |












                            リー――?」

ネリー(……………………え? 待って、今、何が)

姫子(ちょ、花田さん、あんた、なん……なんばしとう!!?)

小蒔(これは……一体全体、どういうことなのでしょうか――)

煌「これは失礼。聞こえていませんでしたか? リーチした瞬間、ロンと言ったはずなのですが」

 煌手牌:二三四444678⑥⑦⑦⑦ ロン:⑧ ドラ:⑦

ネリー・姫子・小蒔「!!??」ゾゾゾゾ

煌「では、改めまして。ロン。断ヤオドラ三、8000です」

『…………っ!? えっと……た、大将戦前半、終了ううー!! 《幻奏》がトップに躍り出ました! 上位三チームが一万点差に収まる接戦となっております――!!』

煌の上がり、人和じゃないの?

ネリー(この……戦慄――)

 一位:ネリー=ヴィルサラーゼ・+40700(幻奏・127400)

姫子(は、花田さん? え? SOAとやろ? SOAとやろ……?)

 三位:鶴田姫子・−23900(新約・122600)

小蒔(一昨日に地和を和了った身でこんなことを言うのは憚られますが、これは、場に明らかな異常が起きていますね……)ゾクッ

 四位:神代小蒔・−24800(逢天・119600)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 二位:花田煌・+8000(煌星・30400)

>>295さん

採用されていません。次で触れます。

 ――特別観戦室

塞「あはっ! あははは! なにあれ!? ルールがルールなら人和よ!! いやー初めて見たわー!! あははは……」

まこ「塞、無理せんでええけえ。さすがに、これは全会一致で笑えない派の圧勝じゃ」

純「どうなんだよ、解析班」

憩「お手上げや」

照「匙投げです」

穏乃「皆目」

智葉「さっぱりだな」

菫「かくなる上は、小走でも連れてくるか……」

エイスリン「コロタン、ダイヨゲン、オオアタリ?」

衣「否――まだ序の口と見える。あの《怪物》はここから逆転するつもりだぞ」

塞「嘘でしょ!?」

憩「いや、衣ちゃんの言うてることは正しいですよ。花田さんの今の和了りは、明らかに狙ったものです。偶然やなく、必然の結果。それ即ち、《絶対》の意識的確率干渉――超能力《オカルト》です」

まこ「こ、根拠は?」

穏乃「三位と十万点近く離されている大将戦。その前半戦の、オーラスで子。もし、花田さんがレベル0なら、あそこで出和了り8000を選択するのは、ありえません」

純「なぜ?」

照「地和」

菫「ああ……そうか。配牌で張っていたのだから、8000など和了らずに、当然、役満の可能性を考慮に入れるはずだよな。
 仮に第一ツモで地和にならずとも、ダブリーを掛ければハネ満。恐るべきことに三面張だし、和了り牌は十分に残っている。期待値を考えれば、あの人和はありえない――」

智葉「能力的な『何か』であることは確定だな」イソイソガサゴソ

エイスリン「サトハ? ナニ、シテンダ?」

智葉「一応、いつでもあいつを殺せるようにしておかないとと思ってな」スラッ

衣「おおっ!! 紛うことなく真剣だなっ!! なかなかの業物とお見受けするぞ!!」

菫「智葉……? それは、えっと、冗談か?」

智葉「本気だ」

憩「……ほな、赤阪先生に電話しときます」

智葉「いかに《冥土帰し》といえど、首と胴が離れた人間を生き返らすことはできまい」

憩「ガイトさん……それは赤阪先生をナメてますよ。あの人はホンマモンの《魔女》です。首と胴が離れたくらい、余裕で治せます」

智葉「取り返しのつかないことになっても知らんぞ」

憩「生き物の命以上に取り返しのつかないものなんて、この世にありません」

智葉「……ふん。命拾いしたな、花田煌」イソイソガサゴソ

エイスリン「サ、サトハ? ミンナ、ドンビキ、シテルゼ?」

智葉「すまん。悪かった。ちょっと取り乱した。というわけで……ウィッシュアート。こっちに来い。抱かせろ」

エイスリン「」

智葉「嫌なら、穏乃に頼む」

穏乃「えっ/////」ドキッ

エイスリン「コノ、ロリ! カス! クズ!」ダキッ

智葉「ったく……こんなに恐怖を覚えるのは久しぶりだな――」ギュ

塞「私は違う意味で戦慄してるわよ。なんなのこの異様な絵面は。あんたエイスリンのどんな弱み握ってんのよ」

智葉「戦慄――そう、戦慄の旋律。甘美にして完備。運命想者《セレナーデ》……」

照「つ、辻垣内さん? 本当に大丈夫?」

智葉「私はぎりぎり大丈夫だ。というか、ヤバいのはお前だぞ、宮永」

照「え」

智葉「お前も薄々勘付いてはいるだろう。今回の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の裏にあるもの。
 花田煌の急な転校と、二つのルール改定――自由オーダーと不自然な勝ち抜け条件――から導き出される結論」

照「な、なんとなく」

智葉「このまま行けば、最後に喰われるのは、お前だ。学園都市の《頂点》――宮永照」

憩「ガイトさんは、さっきからなに言うてはるんですか? それに、ナンバー1も」

智葉「絶対能力進化《レベル6シフト》計画」

菫「さ、智葉……?」

智葉「学園都市に住む一万人の高校生雀士を生贄にして、花田煌を《神ならぬ身にて天上の意思に辿りつくもの》に昇華させる計画を、そう呼ぶ」

塞「ちょーい? あのー? 辻垣内さーん?」

智葉「要するに、私たちは全員、例外なく」

照「辻垣内……さん……?」

智葉「花田煌に殺されるための実験動物《モルモット》なんだよ」

 ――――

怜「姫子、落ち着いて、よう聞いてや。花田さんがガチヤバい」

姫子「え……ネリーさんではなく?」

和「あの人は、地和の可能性を捨てて満貫を和了りました。かつてないSOAを感じます」

姫子「そいで、私にどげんしろと?」

怜「とにかく、花田さんに対して何らかのアクションを起こすんは危険や。相手にするんは、ネリーさんと神代さんだけでええ。花田さんに触れたらあかん。ええか、《絶対》にやで」

姫子「は、はい……」

和「姫子さん」ギュ

姫子「へ? の、和?」

和「この世にオカルトなんてありません。何が起こったとしても、それは『偶然』です。そのことを、決して忘れないでください」

姫子「お、おう」

怜「姫子、うちらは、みんな、自分の強さを信じとる」

姫子「あ、あいがととです」

『まもなく大将戦後半を開始します。対局者は対局室に集まってください』

怜「それじゃ、姫子。頑張ってや」

和「応援してます」

姫子「よ、ようわからんばってん、やるだけやってみっと!! 全てはこのレベル5の《約束の鍵》に任せんしゃいっ!!」

怜「頼もしいな、姫子は」

姫子「そいはそいとですよ。私は《新約》の大将とですけん!!」

和「幸運を」

姫子「ありがとなっ! そいたら、行ってくる……!!」ゴッ

 タッタッタッ

怜「…………」

和「怜さん」

怜「なんや」

和「SOAなのはわかっているんですが……なんて言ったらいいのか、その……」

怜「ええよ、率直に言うてみ」

和「……恐いです」

怜「そやな、うちも恐い」

和「まるで、世界が閉ざされていくような感じがするんです。何もかもが断ち切られて、一人ぼっちで、冷たい闇の中に落ちていくような……」

怜「大丈夫、和は一人やない。うちがおる。初美も。絹恵も。姫子も」

和「そう……ですよね。ありがとうございます――」

 ――――

小蒔「地和を狙わなかった時点で、妙だとは思っていました。そちらから見ていて、何か他に気付いたことは?」

泉「すんません、それが、これといって……」

玄「とりあえず……花田さんの《通行止め》は、何らかの条件が揃ったときに、和了りを封じたり、テンパイを封じたりする力。
 私のこの分析は、間違っているとは思わないけれど、全てを説明しているわけじゃないってことだけ、頭に入れておいて」

小蒔「わかりました」

泉「小蒔さん、相手はレベル5です。何かされたら、無理なもんは無理。せやから――」

小蒔「大丈夫ですよ、三回戦のときのような無茶はしません。泉さんを泣かせるようなことはしないですから、ご安心ください」

玄「小蒔ちゃん、いい? 極力、花田さんとの衝突は避けて。ネリーさんと姫子ちゃんを追い抜くことを優先して」

小蒔「それが玄さんの指示ならば、従いましょう」

玄「よく言うよ、三回戦では勝手に偽《体晶》使ったくせに」

小蒔「それは、玄さんが私の懐に隠しておいた偽《体晶》をわざと見逃したからですよ。最終判断は私なんだな、と解釈しました」

玄「小蒔ちゃんって対局に臨むと人が変わるよね……」

小蒔「私は神に仕える身ですから。神事と普段で、線引きをするのは当たり前です」

玄「だってさ、泉ちゃん。どう思う、この小蒔ちゃんのあざとさ」

泉「アリですね」

小蒔「恐悦至極です」

『まもなく大将戦後半を開始します。対局者は対局室に集まってください』

泉「ほな、小蒔さん。うち、来てみたものの、あんま役に立てへんですいません。あとは、任せました」

小蒔「ありがとうございます。最後の対局に臨む前に、泉さんの顔が見れてよかったですよ」

玄「最終的には、小蒔ちゃんが納得できるように打ってくれれば、それでいいから。試合の結果がどうなっても、責任は私が持つ」

小蒔「玄さんは、相変わらずのお持ち好きですね」

泉「小蒔さん……幸運を」ギュ

小蒔「はい」

玄「私からも。透華ちゃんと豊音さんからの分込みで」ギュ

小蒔「心地よいです」

泉「じゃあ、小蒔さん」

玄「行ってらっしゃい」

小蒔「ええ。行って参ります――」

 タッタッタッ

玄「…………」

泉「玄さん」

玄「なに?」

泉「なんて言うたらええのか、ようわからんのですけど」

玄「うん」

泉「うち……恐いです」

玄「そっか」

泉「なんちゅーか、闇の中に突き落とされるっちゅーか、色んなもんがブチブチに途切れて、狭くて真っ暗なとこに閉じ込められるっちゅーか……」

玄「……無鉄砲以外に取り得のない泉ちゃんが、何を言ってるんだか」ポフ

泉「そう、ですね……らしくないこと言うて、すいません」

玄「さ、控え室に戻るよ。透華ちゃんと、豊音さんと、みんなで、一緒に小蒔ちゃんの応援をしよう」

泉「はい。そうしましょう」

 ――――

やえ「遅くなってすまん。ようやく、花田煌の能力がわかった」

ネリー「聞かせて」

やえ「花田煌――あいつは《トばない》。《絶対》に」

ネリー「……なるほどね」

やえ「正確には、25000点持ちの半荘で、トビ終了が起こらない、だな。他家のトビもあいつは止めることができるらしい」

ネリー「うん。わかった。わかり過ぎるほどよくわかった」

やえ「だが、これだとさっきの人和、それに――気付いているだろ? 花田の点数が、半荘一回で一度も、100点たりとも、減らなかった。その異常性を説明できない」

ネリー「後者は単純なんだよ。自分が0点しか持ってないって『想った』んだ」

やえ「……ふむ。宮永咲の1000点スタート《プラマイゼロ》と、理屈は同じなのか。『想う』――運命想者《セレナーデ》……そういうことなんだな」

ネリー「人和も、大体同じ要領だね。私が――というか、他家全員の持ち点が0点だって『想った』んじゃないかな。
 持ち点が0点じゃ、テンパイしても、リーチは掛けられない。リーチが成立して1000点を手放したら、トぶわけだから」

やえ「だとしたら、なぜ花田はお前から直撃を取ることができた? 他家の持ち点が0点なら、直撃を取った瞬間にそいつはトぶ。これは明らかな矛盾だろう」

ネリー「リーチが成立したら私がトぶ。そこから先は《通行止め》。ゆえに、《リーチを封じる》能力が発動した。だから、私は振り込んだ。これ、ロジックとして、そんなに変かな?」

やえ「その言い方だと……花田の『想い』に合わせて、《通行止め》の能力が、時々によって都合のいい形態に変化するかのように聞こえるが……?」

ネリー「甘美にして完備。そこから全ての能力が派生したと言われる伝説の系統。それが点棒操作系なんだよ。身も蓋もない言い方をすれば——『なんでもアリ』」

やえ「……どうかしている」

ネリー「同じことは、てるやさきの能力にも言えるんだよ。
 てるは、《48000点を奪う》ためなら、国士十三面待ちでも、九蓮宝燈でも、数え役満でも、或いは、天和だって、実現するかもしれない。
 さきもそうだね。《プラマイゼロ》を達成するためなら、さきは一・二・三・四型――どの運命創者《プレイヤー》にでもなれる。ゆうきが食らったダブリー門前清一なんかがその最たる例なんだよ。
 点棒操作系能力者にとって重要なのは、結果だけ。そこに至る道のりは、なんだっていいし、好きなように想い描くことができる。彼女たちは、ただ強くそれを『想う』だけで、自身の論理の枠内で、ありとあらゆる《運命》を実現できるんだよ」

やえ「後半戦は、一体、どうなる?」

ネリー「きらめがそれを『想う』なら、《絶対》に勝ち抜けるだろうね。そうじゃなきゃあの人和はありえない。そのために、きらめが何をしてくるのかまでは……わからないけど」

やえ「過程に関わらず、ただ『想う』がままの結果を実現する――だと? しかも、レベル5の強度で。それも、常時発動で。莫迦げている。何もかも。それじゃあ、この大将戦後半は一体なんのために行われるというのだ」

ネリー「まあ……二位決定戦、ってことで」

やえ「ふざけるなッ!!」

ネリー「……そう思うなら、やえ。殺すしかないよ。花田煌を。宮永照を。宮永咲を。彼女たちは、《決してこの世に現れてはいけない魔術師》なんだから」

やえ「……お前たちは、殺したのか?」

ネリー「ん……?」

やえ「その、過去にたった一人だけ存在したという、運命想者《セレナーデ》を」

ネリー「……そうだね。遠い遠い大昔、私たち魔術世界は、一人の運命喪者《セレナーデ》を殺したよ」

やえ「運命喪者《セレナーデ》――」

ネリー「きらめは、まだ、運命想者《セレナーデ》に留まってる。でも、その想いが絶望に変わるとき、きらめは史上二人目の運命喪者《セレナーデ》になる」

やえ「なったら、どうなる?」

ネリー「なったら、終わりだよ。世界の終わり」

やえ「だとしたら……この世界は一度終わっていることになるが?」

ネリー「うん。終わっているんだよ。ただ、そのことを知っている人間が、当時の記録――《禁書》を記憶している私しかいないってだけ」

やえ「私たちは、あいつをどうすればいい……?」

ネリー「わからない。誰にもわからないよ、そんなこと」

『まもなく大将戦後半を開始します。対局者は対局室に集まってください』

やえ「ネリー、勝ってくれ」

ネリー「もちろん、そのつもり」

やえ「花田煌のことは、ひとまず、決勝まで保留だ」

ネリー「うん。それでいいと思う」

やえ「悪いな、あとは頼んだ」

ネリー「頼まれた」

 タッタッタッ

やえ(花田煌――お前は、一体、今、何を想っているというんだ……)

 ――対局室

姫子「よろしくとです」

 南家:鶴田姫子(新約・122600)

小蒔「よろしくお願いします」

 北家:神代小蒔(逢天・119600)

ネリー「よろしくなんだよ」

 東家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・127400)

煌「よろしくお願いします」

 西家:花田煌(煌星・30400)

『大将戦後半、開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございます。

ちょっと休憩します。小一時間ほどで戻ってきます。

ちなみに、小走さんとネリーさんが後手に回っているのは、小走さんにとっての優先度が一貫して『花田さんの解析<試合に勝つこと』だったからです。ネリーさんも、運命想者については禁忌・禁書に絡むことなので、断片的なことしか伝えていません。朝比奈みくるの禁則事項と似たようなものです。気付いたらエンドレスエイトに入っていたのが、今です。

咲には雀士として成長してほしくて、支配力全開封印させる一方
自分はチームの勝利のために、できることを全力でやるのは
ある意味すばらっぽい選択とも言えるけど
原作と違ってぶっ壊れ性能だから他チームにとっては悪夢だな

ところで、すばらの支配力って今この時点でもFのままなん?

>>319さん

花田さんの支配力はFです。

バトル漫画でよくある喩えを引用するなら、支配力は水、能力はホースの口です。

ホースの先をつまめば水の勢いが増すように、たとえ支配力が1しかなくても、超能力という論理で、その水流を高密度に集約させることができます。ちょいちょい言ってる能力=論理の力というのがこれです。ランクSが能力を使わずに《上書き》できるのは、ダム並みの水量を誇るからです。

花田さんの場合、1の支配力を、限りなく0に近い超能力で、除していることになります。

 ――《新約》控え室

怜「あ」

絹恵「どうかしました、怜さん?」

怜「和や」

初美「あー……あの早打ちはそうですねー」

     ネリー『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和「よくわかりませんが、確かに私の仕草やクセの特徴をよく捉えていますね。あと、普通にデジタルで打てるんじゃないですか、ネリーさん。なぜそれを毎回やらないのです……」

怜「あ」

絹恵「今度はなんですか、怜さん?」

怜「花田さんの能力がわかった」

初美「あー……うええええええええええ!!!?」

絹恵「それホンマっすかー!!?」

怜「うん。あの人な、《絶対にトばない》んや」

和「超SOA」

絹恵「確かに、合同合宿では、断ラス一人沈みばっかやったのに、トビは一度もありませんでしたね」

初美「例えばですけどー、巴の原点キープみたいに、そういう風に打つのが上手い、ってのとは違うんですかー?」

怜「証拠ならあるで」

初美「なんですかー?」

怜「うち、あの合同合宿、最終日、一回目の練習試合。その先鋒戦で、一度だけ、未来視の《絶対》を破られとんねん」

絹恵・初美「ええええええええええ!!?」

怜「それがずーっと引っかかっとって、ずーっと考えとったんやけど、今、ようやっとわかったわ」

絹恵「詳しくお願いしますっ!」

怜「あの先鋒戦、うち、オーラスで、ダマで三倍満ツモれる未来が見えたんや。うちの未来視は、うちが未来を変えへん限り、《絶対》に現実になる。せやから、あのとき、うちは何も未来を変えんと、三倍満ツモを待った。
 やのに、現実には、福路さんにツモられて、うちの三倍満ツモは成立せんかった。うちの未来視が《絶対》やなくなったのは、実験対局以外では、あの一度きりしかあらへん。
 小走さんと福路さんは無能力者やから、原因は花田さん以外に考えられへん」

初美「けど、あれは団体戦で、100000点持ち。怜が三倍満をツモったところで、花田さんがトぶような点数状況じゃなかったですよー?」

怜「普通の半荘――25000点持ちやと、トぶねん。つまり、花田さんは、団体戦のときも、個人戦のときみたいに、25000点持ちやと思い込んで打っとるんやろな。
 細かくはデータを確認してみーひんとわからへんけど、二回戦、三回戦も、たぶん、そういう感じになっとるんやないかな」

絹恵「ようそんな器用なことしますね」

怜「宮永さんの《プラマイゼロ》かてそうやん。1000点持ちスタートやって思い込んで打って、初美にボロ勝ちしとったやろ?」

初美「合同合宿の四暗刻には軽くチビったですよー」

和「あの……三人とも、先ほどから何を荒唐無稽な話をしているのですか?
 よくわかりませんが、皆さんの会話を聞いていると、まるで花田先輩や咲さんが『思い込めば思い込んだように点棒の増減を操作できる』みたいじゃないですか」

絹恵・初美「っ――!!?」ゾワッ

和「あの、私、何か間違ったこと言いましたか?」

絹恵「い、いや――和は正しい……ッ! いつだって正しい!!」

和「はぁ……?」

初美「おい……怜、そういうことなんですかー? そういうことを言いたいんですかー?」

怜「わからへん。確証は持てへん。ただ、ちょっと、知ったらあかんことを知ってまったような気がする」

絹恵「ひ、姫子……!! あかん!! 早く対局止めましょう!? ごっつ嫌な予感がします……!!」ガタッ

初美「落ち着くですー、絹恵」

絹恵「せ、せやけど、初美さん――!!」

初美「姫子なら……大丈夫ですー。あいつは変態ですけどー、そんじょそこらの変態じゃないですからー」

     ネリー『ロン、3900ですなんだよ』

     小蒔『はい』

絹恵「それ大丈夫な理由になってますか!?」

怜「信じたろ。あいつの変態パワーを」

絹恵「何か別の言い方がありますやろ!?」

和「姫子さんは、必ず勝つと約束してくれました。だから、大丈夫です」

絹恵「和……」

和「姫子さんは、約束をきちんと守る人です。私は、姫子さんの強さを信じますよ」

 ――《幻奏》控え室

やえ「…………」

セーラ「おい、やえ、大丈夫か?」

優希「タコス食べるじぇ?」

誠子「体調が優れないなら、医務室に行きますか? なんなら、背負いますよ?」

やえ「いや、そういうんじゃない。ちょっと疲れただけだ」

セーラ「まあ、先鋒戦終わってからも、ずっと《幻想殺し》弄っとったもんな。ちょっとは頭休ませーや」

やえ「そうする」

誠子「――と、ネリーさん。今度は透華の《治水》ですか」

優希「オンパレードだじょ」

セーラ「強制的にレベル4以下をレベル0にしといて、全体効果系か。えげつないことしよる」

     ネリー『ロン、7700は8000……なんだよ』

     姫子『はい』

優希「着々と点棒が積み上がっていくじぇ」

誠子「それでもさほど苦しんでいる様子のない鶴田さんと神代さんと花田さん……私もあれくらいの精神力がほしい」

セーラ「いや、自分の精神力もわりとすごいと思うで?」

やえ「…………」

 ――《逢天》控え室

透華「で、わたくしの次は豊音ですの?」

豊音「ちょー《大安》だねー」

     ネリー『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉「安いのは助かりますけど、全体効果系を立て続けにパクられるんはしんどいですね。何回かに一回打ち破れればええ反則能力を、あんな次々と。前半戦からどんだけ一人で和了るつもりやねん、あいつ」

玄「あ、そっか。和了り過ぎだね、確かに」

泉「ほえ?」

玄「あの、ネリーさんの《完全模倣》の力。もしかすると、模倣云々は本質じゃなくて、和了ることに意味があるんじゃないかな」

泉「それは……えっと――」

玄「色んな人を《完全模倣》しているから連続して和了れる、ではなく」

泉「連続して和了るために色んな人を《完全模倣》しとる……?」

玄「お、少しは察しが良くなってきたね、泉ちゃん」

泉「えっと、ほな、発想が逆なんですね? あいつの《完全模倣》――その対象は、なんや、知っとる人が出てくるっちゅー以外にイマイチ法則性が見つかりませんでしたけど、そもそも、法則性はあらへんのですか?」

玄「そうだと思う。そのとき誰を《完全模倣》するかは、重要じゃないんだね。ネリーさんはたぶん、山牌の具合を見て、誰だったら勝てるかを選んでいるんじゃないかな」

泉「それ、山牌の並びの分だけ、コピーのストックがほとんど無限にあるっちゅーことですよね?」

玄「実際、たぶん、無限にあると思う。ああ、そっか。それで《無効化》や能力の《消失》を可能にしてるのかな……」

泉「コピーのストックが無限にある……あらゆる能力者の情報を、時々の山牌に合わせて即興で《完全模倣》できるほどの精度で持っとる。
 それを、なんやうまいこと利用して、普通はありえへんような《無効化》や《消失》を可能にしとる……?」

玄「恐らくは。で、ネリーさんが、ここまで一度もレベル5の超能力者を《完全模倣》してないのも、その辺りと絡んでいるのかも」

泉「超能力者の能力は、《無効化》も《消失》も《絶対》にせーへん。ほな、あいつは、《無効化》させたり《消失》させたりできる能力しかストックを持ってへん……とか?」

玄「アタリな気がするよ。だとすると、ネリーさんは知識の塊なのかもしれない。超能力者以外の雀士の情報を、ほとんど無限に持っていることになる。
 そして、山牌の並びを見て、その一局を制するのに最適な雀士を選んでる。つまり、やってることの本質は、憩さんモードのときと同じなんだ。無数にある勝ちルートの中から、いい感じなものを選んでいるに過ぎない。
 ただ、知識の塊であるネリーさんは、その無数にある勝ちルートの中から、『誰かが歩んだことがある』或いは『誰かが歩むことになる』道を嗅ぎ分けることができる。
 憩さんモードの時みたいに、オリジナルで新しい道を開拓するのではなく、過去に誰かが通った――或いは未来に誰かが通ることになる――和了りがほぼ保証されている既存のルートを行くんだ。道理で連続で和了れるわけだよ」

泉「えっと……せやから、あいつに勝つには」

玄「ちょっとモノマネが得意な学園都市のナンバー2を倒すのと、同じことだよ。憩さん――知識と論理――を、オリジナルの『何か』で出し抜くしかない」

泉「学園都市のナンバー2を出し抜く……レベル0状態で?」

玄「絶望的だね。憩さんの計算違いのほとんどは、能力に拠る《上書き》が原因で起こってる。完全デジタルで憩さんに勝つなんて、不可能だよ。
 純粋な演算力と観測力で憩さんを上回れる人類は、古今東西どこにもいないんだから」

泉「ほ、ほな、手詰まりってこと――いやっ! ちゃう!!」

玄「小蒔ちゃんは憩さんと張り合える数少ない雀士の一人。たとえ能力を失っても、小蒔ちゃんにはランクSの支配力がある。
 呼吸するように奇跡を起こす者。超常の頂上。その奇跡《オカルト》は、あらゆる論理《デジタル》を吹き飛ばす」

泉「宮永照がやってたことと同じことが、小蒔さんにもできるっ! ほな、イケイケやないですか!?」

     ネリー『ロン、1500は2100。安いよ安いよーなんだよ!』

     小蒔『はい』

泉「小蒔さんには、ええタイミングで奇跡を起こすよう、伝えてはるんですよね?」

玄「もちろん。宮永照さんがやって、それなりに有効だった。支配力による奇跡で和了りをものにする――その対策は仕込んである」

泉「光が見えてきたやないですか!」

玄「喜ぶのはまだ早いよ。憩さんは、小蒔ちゃんと衣さん――二人のランクSを敵に回しても勝てる《悪魔》。《4K》の集いのときだって、ちょいちょい奇跡は起こってたけど、わりと平気そうにしてた。
 いい勝負ができるっていう点では小蒔ちゃんが適任だけど、イチかバチかで殺しに掛かるなら、あの人の相手は私のほうがいいのかもしれない」

泉「ネリーさんと荒川憩――無能力者にはどう足掻いても真似できひんし侵せへん、《絶対》の超能力」

玄「まあ、三回戦で憩さんにコテンパンにされた私には、荷が重いと思うけどね」

泉「その辺は、この準決勝を抜けてから、考えましょっか! うちも対策手伝いますよ、玄さん!」

玄「ありがと。頼もしいよ」

     ネリー『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉「うお……手牌にヤオ九牌しかあらへん。今度は《飛雷神》か」

玄「《新道寺》の一年生の子だよね。姫子ちゃんがいるからかな。やっぱり、同卓者と近しい雀士が現れる傾向にあるみたいだね。《新道寺》メンバーのデータも持たせておいて正解だった」

泉「さすがに、ここで国士はあかんですよね?」

玄「うん。小蒔ちゃん、ぼちぼちやっちゃっていいよ……!!」

     小蒔『……』スッ

泉「《体晶》――という名の砂糖の塊!? 大丈夫なんですか!!?」

玄「いや、ごめんなんだけど……大丈夫じゃないよ。ただでさえ、能力の型を奪われている今は《聖人崩し》が成立していて、支配力の出力そのものができないって状態なんだから」

泉「え、ほな……そんな不安定な状態で《体晶》を使うっちゅーのは——」

玄「今は支配力の蛇口が閉まってる。《聖人崩し》のせいで捻って開けることはできない。なら、蛇口ごとブチ壊してしまえばいい——って、そういうこと。
 はっきり言って命に関わる。だから、ほんの少しでもダメだったら《絶対》に止めるように、お願いでも約束でもなく『命令』した。
 でも、もし安定を保てるようなら——」








               ドクンッ








泉「――っ!!!?」ゾワッ

玄「……この感じは、《八面》様相当かな。さて、具合はどう、小蒔ちゃん……?」

     小蒔『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴピッ

泉「ゴゴゴ状態の小蒔さんがカメラに向かって親指立てとるうううううう!?」

玄「よかった……大丈夫ってことだね」

泉「もっと他にマシな合図なかったんですかー!?」

玄「え? 可愛くない?」

泉「むっちゃ可愛えですけどおおおおおおおおおお!!」

玄「あ、そっか。可愛い姿を独り占めしたいわけね。泉ちゃんって結構独占欲強いんだ」

泉「独占欲に関して玄さんにごちゃごちゃ言われたくはないですわ!!」

玄「なにはともあれ、反撃開始だよッ!!」

 ――対局室

 東一局三本場・親:ネリー

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:神代小蒔(逢天・113600)

姫子(うあ……こいは、三回戦のアレか。能力は使えんはずとばってん、こん支配力ばフル活用してくっとなっと、神代さんの抜けてきよるやろか……)

 南家:鶴田姫子(新約・114600)

ネリー(支配者《ランクS》――もとい、《聖人》。それも、《神の領域に踏み込む者》。これは《八面》くらいかな。まだもう一つ上があるんだっけ。いやいや、畏ろしいにも程があるよ、こまき)

 東家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・141400)

小蒔「ロン」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(ちょあー!? まだ三巡目とやろ!?)ゾワッ

小蒔「2000は2900」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー「……はいとですーなんだよ」チャ

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(これはすごい……っつーか、信じられない。無茶苦茶にも程がある。
 一般に、《聖人》は自分の型以外で支配力を行使することができない。あのてるでさえ、《八咫鏡》――《打点上昇》の《制約》に沿う形で《奇跡》を起こしていた。そうせざるをえなかったんだ。
 なぜなら、そこを崩されると、ランクSは自身の支配力に押し潰されて自滅してしまうから。
 でも、こまきは今、一色支配っていう自身の型を、私の魔滅の声《シェオールフィア》によって奪われてる。にも関わらず、この抜群の安定感……)

ネリー(《神憑き》――幼い頃からの修行により、支配力の扱いに長け、その流れに敏感な人たち。いわば支配力のプロ。《聖人》の中の《聖人》。
 六女仙を従える霧島神境のお姫様……か。支配者、聖人として、小蒔は世界中の誰よりも上にいる。マジすご過ぎる。
 こんなの、だって、喩えるなら太陽でお手玉するみたいなもんだよ? ちょっとでも手が滑ったら火傷じゃ済まないよ? 軽くこの星が消し飛ぶよ? っていうか、そもそも太陽を素手でわし掴みにできるって何さ……)

ネリー(きらめがいつどこで何をしてくるかわからない現状、ここでこまきに逆転を許すと、私たちは決勝に行けないかもしれない。けど、ちょっと、これは思ってた以上だ。
 この奇跡は、私の中にある10万3千曲の《原譜》――そこに記録されている、あらゆる知識と論理を吹き飛ばす。たった一人で、古今東西全ての雀士の総体である私に張り合うとはね。てるといい、きらめといい、化け物しかいないよ、この街は)

ネリー(まあ……やるだけやってみるしかない、かぁー!)ゴッ

ネリー:138500 姫子:114600 煌:30400 小蒔:116500

 東二局・親:姫子

ネリー(今のこまきを倒せる雀士なんて、古今東西探しても、ほんの数人しかいないよね。自動即興《エチュード》がこの人を選ぶのは、必然な気がするよ。さあ、それじゃあ大決戦と行こうか――!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(え、なんそい……捨て牌が、萬子だけ? いや、まさか。まさかまさか。これ、卓に神代さんの二人おる……?)

ネリー・小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(目には目を、歯には歯を、こまきには……こまきをッ!!)

姫子(SOMY!! そいなオカルトもうやめてー!!)

小蒔(なるほど……今回は私、ですか。だんだんと、見えてきましたね。ネリーさんの《完全模倣》――その力の本質が)

小蒔(この方は、言わば、人真似が得意な憩さん。見かけ上、色々な雀士が入れ替わり立ち替わり現れますが、『その時々の山牌に合わせて自らの勝利に最適な道筋を選択している』という本質に変わりはない)

小蒔(憩さんは、その比類なき演算力で最適な道筋を選択します。しかしながら、この方は、恐らく、途方もない量の知識の蓄積に拠って、最適な道筋を選択している。その結果が、この《完全模倣》なのでしょうね)

小蒔(だとすれば、形式が違うだけで、つまるところは憩さんを相手にするのと同じ要領で戦えばいいということ。それがわかれば、十分です。存分に真剣勝負をしようではないですか。想いと力をぶつけ合い、楽しく麻雀をしましょう――)

小蒔「ロン、5200」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー「はい、なんだよー」チャ

ネリー(いやー、参っちゃうね、このお姫様。どーしたもんかなー)

姫子(割り込める気のせん!! が、なんとかしちゃるっ!!)

ネリー:133300 姫子:114600 煌:30400 小蒔:121700

 東三局・親:煌

ネリー(さーて……続いての雀士さんは――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(これは――なるほど、衣さんですか)

姫子(手の進まん!!?)

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(私に続いて衣さん。そういえば、玄さんが言っていましたね。三回戦で、ネリーさんは、宮永照さんに対抗するのに他のランクS雀士を総動員していた、と)

小蒔(ならば、私相手に私や衣さんをぶつけてくるのは、必然なのかもしれません。しかし、なればこそ、私は負けるわけにはいかない……)

小蒔(お見せしましょう、ネリーさん。模倣ではない、本物の支配者《ランクS》の力を。
 理論上どんなに同値の存在であろうと、いかに同等の力を発揮しようと、あなたは、断じて衣さんではありません。私が憧れ、理想とした、誇り高き雀士とは、別人なのです)

小蒔(ネリーさんの《完全模倣》は、玄さん曰く、レベル5以外の全てが対象とのこと。その中には、きっと、今の私を打ち倒しうる雀士がいるはずでしょう。しかしながら――)

小蒔(その《完全模倣》の力がどこまであなたの制御下にあるのかは存じませんが、こと此度に限っては、人選を誤りましたね、ネリーさん。
 私は、他の誰でもない、天江衣さんにだけは……! 出会ったその瞬間からずっと……!! たとえこの身が滅ぼうと――負けたくないと思っているんですよッ!!)

小蒔(衣さん、見ていますか……? 私は支配者《ランクS》ですから、同じ支配者《ランクS》の衣さんの誇りを、きっと守ってみせます!!)

ネリー(あ……これ、ヤバ――)ゾワッ

小蒔「ロン、8000ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(うあー。火に油になっちゃったかー)

小蒔(さて……首位、奪還させていただきましたよ。ネリーさん、あなたが憩さんに近しい存在なら、今の私が相手でも、どこかで逆転してくるとは思います。ですが、簡単にはやらせませんからね。
 玄さんが、透華さんが、豊音さんが、泉さんが、必死に積み上げた点棒。その誇りを――私は持てる力の全てを賭して守ります……!!)

ネリー(いいね……すっげーいいよ、こまき。ますます勝ちたくなってきたんだよ……!!)

小蒔「次は私の親番ですね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー:125300 姫子:114600 煌:30400 小蒔:129700

 東四局・親:小蒔

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(なるほど。力押しでは分が悪いと見るや、こういう搦め手を使ってくるわ■ですか。実に興味深い力です)

姫子(感応系もアリて……いや、もう、こいくらいでは驚かんよ。あー、ばってん、こいはどげん■っかな。私も怜さんみたいにSOAの使い方ば教えてもらうべきなんやろか。本当に、見えっとか見えんとか、■いなオカルト――)

ネリー(ちょー《仏滅》なんだよー!! ふ■ふっふー。さすがのこまきも一色占有能力ナシでこれを破る■は無理でしょー!?)

小蒔(困りましたね。《八面》様の支配力■考えれば、この手牌がたまた■和了り形になっているという《奇跡》もなくはない気■しますが……)タンッ


ネリー(あ■虚しい虚し■!! 嫌にな■ちゃう■だよー!!)タンッ


姫子(感応系な■、デジタ■■手ば作って■る。能力者本■は振り込■■心配のな■とやけ■、門前■張ればリ■■ば掛けてく■とや■。そ■ない—■)タンッ


小蒔(こ■以上の失■を避け■■めに、今■■ちに比較的■全であ■う字牌■抱■■おくの■■解ですかね。捨■牌を見■■り、ネリ■さん■ご■普■の■を作■■いるよう■見えます■■)タンッ




ネリー(一向■! な■■これ■ ヌル■ー過■る■■!)タンッ




姫子(順■■手ば進■とう■■に見え■……ダ■■あっと■たら、そ■■ろオリ■回った■うの■か■■ろか■)タンッ




小蒔(ん…■それ■し■も、こ■感■はなんでし■■か。■ほど■ら、■■、思■に靄■掛か■■■うな。し■し■《仏■》にそ■■うな効■■あ■たでし■う■■…)タンッ



         ――残念



ネリー(さ■■! 次■ら■で来■■れるか■■■!■)タンッ



                         ――ながら



姫子(ツ■切■…■ま■張■■な■か■ そ■■い■今の■■■無筋■『数』■■てと■か■■)タンッ





     ――そこから





小蒔(おか■い■■。■■感■。■半戦の終■■■あ■■同じ。と■う■■は、■さ■、花■■■が何■■■■るの■■■? し■■、■■、■■)タンッ







                   ――先は







ネリー「(よ■、■■っ! こ■■私■勝■■!)リ■■■■■■■■■

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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■          ■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 《通行止め》です ■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■          ■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(え……? 今、何が起こった? っていうか、あれ、意識が、一瞬、飛んで……っていうか――)ゾクッ

小蒔(頭が……くらくらします。これは、原因は、一つしか考えられませんよね。あなたなんでしょう? レベル5の第一位……)ゾワッ

姫子(は? なん、こいは? なんか、記憶の飛びよった? そいなオカルト? ちょ、待て、やけん、なんであんたはそげんこと……)ゾゾッ

煌「何度も申し訳ありません。自分ではきちんと発声しているつもりなのですが」

ネリー・小蒔・姫子(ま――た…………)クラッ

煌「では、改めまして」ゴ

ネリー(甘美にして完備……戦慄の旋律を奏でる者――運命想者《セレナーデ》……)ズキズキ

煌「ネリーさんのリーチ宣言牌」ゴゴ

姫子(こいが《煌星》の大将……《超巨星》!?)

煌「それは、残念ながら通りません」ゴゴゴゴ

小蒔(学園都市に七人しかいないレベル5の、第一位――)

煌「ロンです。役牌のみ、1300」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー・小蒔・姫子(《通行止め》ッ!!!?)ゾゾゾゾ

煌「これで、南入ですね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(ああ、ダメだ、運命が……《絶対》の名の下に閉じていく……)

姫子(えっと、花田さんのことは、刺激せんように……で、よかと?)

小蒔(これはなんでしょう。あまりに不可解です。仕方ありません。《神憑き》に動揺は禁物。支配力が暴発する前に、一度、《八面》様には眠っていただきましょうか――)

ネリー:124000 姫子:114600 煌:31700 小蒔:129700

 ――《幻奏》控え室

セーラ「またネリーのリーチ宣言牌で直撃やと……? っちゅーか、あいつ今《仏滅》やったんとちゃうんか? どないなっとん」

誠子「中堅戦でレベル4の姉帯先輩が東横さんの《ステルス》を《無効化》していたのと同じく、レベル5の花田さんが姉帯先輩の《仏滅》を《無効化》した……?」

優希「どういう理屈でそんなことが可能なのか」

やえ「…………動き出したか、《怪物》が」

セーラ「やえ、なんか掴んどるんか? 解説できるなら頼むわ。なんや、俺、麻雀観戦してて恐なるなんて初体験で、どないしたらええかわからん」

やえ「あまり詳細を明かしたくない。お前らは、知らないほうがいい」

誠子「こ、小走先輩……?」

やえ「まあ、細かいことを抜きにして、ごくごく抽象的な言い方をすればだな」

優希「ふむ」

やえ「今の花田煌は、先鋒戦の松実玄や、中堅戦の園城寺怜のように、自身の超能力――《通行止め》を、意識的に使いこなしているんだ」

セーラ「そ、そもそもその《通行止め》がなんやねん……」

やえ「自身に向いた攻撃のベクトルを無にする力、とでも言えばいいのだろうか」

誠子「花田さんから直撃を取ったりとか、ツモで削ったりとか、そういうことができない力……と解釈していいんでしょうか。確かに、そういう傾向は、これまでの牌譜の随所に見られますが」

優希「ってことは、《絶対》の防御ってことだじぇ? でも、なにゆえその力が攻撃に転化してるんだじぇ?」

やえ「攻撃転化――ああ、そうか。そういう使い方もできるのか……」

優希「じょー……?」

やえ「前半戦オーラスと今のネリーへの直撃は、防御の力を応用したに過ぎん。これが、片岡の言うように、意識的に攻撃転化してきたとすれば」

セーラ「すれば――なんや?」

やえ「あいつは、最高の能力者から、《最強》の能力者へと変貌する。歯向かう気も、逆らう気も起きない、《絶対》なる《最強》へとな」

誠子「それは……宮永先輩やネリーさんよりも、花田さんのほうが強くなる、と受け取っていいんですか?」

やえ「宮永だろうとネリーだろうと、理事長だろうと、そうなったあいつには《絶対》に勝てんよ」

優希「なんだじょその《一方通行》は……」

やえ「違うんだ。あくまで《通行止め》なんだよ。あいつは、自身に向いた攻撃のベクトルを無にできるだけ。反射も操作もできん。しかし、能力論には、こんな原則がある」

セーラ「なに?」

やえ「《予備危険性の排除則》」

     煌『ロン、2000です』

     小蒔『は……はい』

誠子「えっと……支配領域《テリトリー》の住み分けや、能力の《無効化》を説明するときに出てくる原則のことですよね。
 『能力はその効果をできるだけ保とうとする』或いは『能力はその効果を失うことを嫌う』っていう。それがどう攻撃転化に繋がるんですか……?」

やえ「花田煌——あいつは、『矛盾』の故事で言う『盾』だ。何物にも貫かれない盾。どんなに強い矛を突き立てても、破られることのない盾。が、それでも、万が一、ということがあるよな」

優希「あるのか? だって、あの人の盾は《絶対》だじぇ?」

やえ「そこなんだよ、問題は。普通、どんなに強固な盾――論理にも、対応できない領域や命題があるんだ。ゆえに、レベル4以下の能力は、《絶対》になりえない」

セーラ「まあ、せやろな……」

やえ「これは私の証明しようとしている《第二不確定性仮説》とも深く関係しているのだが、レベル5の能力――その論理そのものは、《絶対》じゃないんだ。
 どんな論理も、完全ではありえない。それはとうの昔に数学界で証明がなされている。
 だが、それでも、あいつらの超能力――論理は破られない。これがなぜなのか。私は、《予備危険性の排除則》によって、それが成立していると考えている」

誠子「《予備危険性の排除則》によって、論理の不完全性を埋めている……ってことですか?」

やえ「そういうこと。あいつらの超能力は、その能力が《無効化》されそうになると、《予備危険性の排除則》を能動的に働かせて、《無効化》の危機を事前に消し去るのではないか……と私は提唱している。《リジェクト効果》――と名付けているんだがな」

優希「む、矛盾の喩えで解説してほしいじょ!」

やえ「何物にも貫かれない盾。そんなもの、現実には存在しない。それを打ち破る可能性を持った矛は、探せばどこかにある。
 なら、その盾は、どうやって《絶対》を保てばいいのか。簡単だ。脅威となりうる危険性――その矛の先端が、自身に向いた、その瞬間に」

セーラ「おい、やえ――」

やえ「その矛を、完膚なきまでに打ち砕いてしまえばいい」

     煌『ロン、7700です』

     ネリー『……はい』

やえ「つまり、殺られる前に殺れってことだ。レベル5の《絶対》のカラクリ。能動的な《予備危険性の排除則》の発動――《リジェクト効果》。
 あいつらは、強力な能力を持っているから《無効化》されないのではない。自身の能力を《無効化》されないよう、あらゆる危険性を予め排除《リジェクト》することができるから、常に無敵であり、《絶対》なんだよ。
 それは、もはや論理《デジタル》や奇跡《オカルト》とも違う。いわば、問答無用の暴力《モンスター》ってとこだな」

優希「そ、そんな《怪物》、どうやって倒すんだじょ……?」

やえ「倒せない。言ったろ、そうなってしまえば、花田煌は《絶対》なる《最強》になると」

誠子「そんな……」

セーラ「せ、せやけど、やえはよう言うとるやん。《絶対》は《絶対》にあらへんって!
 あと、ネリーもなんやことあるごとに言うとるアレ! 信じることをやめへん限り、決して諦めへん限り、神様はどうのこうのっちゅー……!」

やえ「『麻雀に《絶対》は《絶対》にない』――第二不確定性仮説は、その名の通り、『仮説』に過ぎない。
 そして、ネリーのよく言っているそれは、あいつら運命論者の基本理念だが、残念なことに、数学的な保証は何一つない。要するに、今のところは、単なる妄信と大差がないんだ」

優希「や、やえお姉さん……私、あの人が恐いじょ」

誠子「私もです……」

セーラ「いや、いやいや! ふざけんなっ!! そんなん、やって……《絶対》に勝てへんとか……そんな――!? なんかやり方はあるやろ!?」

やえ「そうだな……それだよ、セーラ。その『想い』を、あいつは喰らう」

セーラ「は……?」

やえ「このまま行けば、この学園都市――世界が、あの《怪物》に喰い尽くされるだろう。この大将戦に勝てば、残るのは、宮永照ただ一人。あの《頂点》を決勝で一呑みにして、あの《怪物》は、真の《怪物》に昇華する」

セーラ「し、真の《怪物》って――?」

やえ「《神ならぬ身にて天上の意思に辿りつくもの》。私たち研究者の間で、まことしやかに噂される存在。超能力者を超える《神の領域の能力者》――絶対能力者《レベル6》のことだ」

セーラ「意味が……わからん……」

やえ「ああ、私も、とてもじゃないが、信じられんよ」

     煌『ロン、12000です』

     小蒔『はい……』

 ――《新約》控え室

怜「……なあ、初美」

初美「なんですかー?」

怜「初美、いつやったか、花田さんのことを《超巨星》や、言うてたな。他の四つを一つにしても足りひんような、とんでもないやつやって」

初美「言ったですねー」

怜「ほんで、花田さんってさ、見るからに、大星さんのことが好きやんな?」

初美「まあ、ベースは親愛の情っていうか、姉妹みたいな感じに見えますけどねー。あとは、憧れとか、そういう気持ちもあるんじゃないですかー?
 花田さんは、元々、外の世界にいたときは、そんなに強くなかったらしいですー。対照的に、大星さんはまさにスターって感じですからねー。色々惹かれるところはあると思うですよー」

怜「つまり、花田さんは、大星さんに惚れて、憧れて、《超新星》になろうとしとる《超巨星》ってことになると思わへん?」

初美「確かにですねー」

     煌『ロン、2900は3200です』

     姫子『は、はい』

怜「うち、勉強はからっきしで、そんなに天文学や地学に詳しいわけやないんやけど、《超新星》って、星の死に際の大爆発の輝きを指して、星や、言うてる……で、合うとる?」

初美「そうですよー。なので、《超新星》は、太陽みたいな恒星とはモノが違うわけなんですねー」

怜「ほんで、うちの頼りにならんへん記憶に拠れば、むちゃくちゃ質量の大きな《超巨星》みたいなんが、その一生を終えて《超新星》爆発すると、そのあとに、なんや、どえらいもんが生まれるんやなかったっけ……?」

初美「……今の花田さんが、『それ』だって言いたいんですかー?」

怜「まあ……あくまで比喩っちゅーか、ただ言葉を転がしてみただけやけどな。うちは、元々弱かってん、花田さんが大星さんに惹かれる気持ちがわかるんや。
 《超巨星》が《超新星》のように輝きたい――そう思うて、こないなことになっとるとしたら、見かけ上はどうあれ、肯定すべきことなんやないかな、って思うねん」

初美「怜はいいんですかー? 呑まれても。捉えられても。喰われても。そこにあるのは……圧倒的で圧殺的な真っ暗闇ですよー?」

怜「わからん。せやけど、否定してもうたら、それこそ終わりな気がすんねん」

     煌『ロン、3900は4500です』

     小蒔『はい……』

初美「……《超巨星》くらい質量の大きな星の中心核は、色々な過程を経て中性子の塊になったりするわけですけどー、これが星を構成してる諸々の物質を引き寄せてはばーんと弾き飛ばすわけですねー。こうして《超新星》爆発が起こるのですー」

怜「知識や技術や経験を呑み込んで、凝縮して、あるところで一思いにばーんと大解放するわけやんな」

初美「そうして《超新星》爆発が起こったあとには、核だった中性子星が残されるわけなんですがー、元が《超巨星》くらい大きな質量を持った星だと、その質量がトルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界を超えることがあるですー」

怜「輝きを放ったあとに残るんは、重い想い、と」

初美「こうなると、自分の重みを自分で支えることができなくなるんですねー。で、どんどんどんどん収縮していって、ついにはシュバルツシルト面より小さくなっちゃうのですー」

怜「想いが重過ぎて、自分でも支えることができひんのか……」

初美「すると、光すら抜け出すことができない奈落のような重力場がそこに生まれるわけですー。事象の地平面より内側は観測不能。こっちから見えるのは、天空にぽっかりと空いた、虚ろの闇――」

怜「ただ潰れてしまったっちゅーだけで、想いは確かにそこにあるはずやのにな。外側にいるうちらにはそれを知ることができひん。中心におるはずの本人も、そこからこっち側に出てくることができひん……か」

初美「これが、いわゆる一つのブラックホールと呼ばれる天体ですー」

怜「《超巨星》は《重虚星》――とでも言えばええんかな?」

初美「知らねーですよー」

怜「全てを呑み込む《怪物》。うちもレベル5やけど……一体、何が、花田さんの根幹にあるんやろ。潰れて原型なくなってまうような重みと虚しさ――何を抱えて打っとるんやろか、あの子は」

初美「……知らねーですよー……」

怜「まあ、そやな……」

     煌『ツモ、4000は4300オールです』

怜「と――和、絹恵の具合はどや?」

和「多少、落ち着いたみたいです」

絹恵「……すんません、ご迷惑お掛けしてます……」ヨロヨロ

怜「ええよええよ」

初美「絹恵、姫子はまだ戦ってるですー。絹恵も戦えですよー」

絹恵「はい……わかってます……っ!!」ウルウル

和「絹恵さん、こんなのは単なる偶然です。一時的な確率の偏りに過ぎないのです。大丈夫。姫子さんなら、きっとやってくれます」

絹恵「おおきに、和」

和「こんな……こんな偶然などに負ける姫子さんではありません。姫子さんがこのまま終わるとか、そんなオカルトありえません……」

     煌『ツモ、2600は3000オールです』

 ――《逢天》控え室

玄「まさか、花田さん……! 《予備危険性の排除則》を利用してこんなことを……ッ!? 《リジェクト効果》を使いこなすとか……そんな無茶苦茶な――」

透華「豊音! いつまで泣いてるんですの!? ちゃんと応援しなさいですわー!!」

豊音「あうー……だってええええ!!」ウルウル

泉「大丈夫です、豊音さん。小蒔さんならきっとやってくれます。あの小蒔さんですよ?」

豊音「むぅぅぅぅー!! 頑張れー、コマキーっ!!」

     煌『ツモ、1000は1500オールです』

豊音「あ……ぅぅ……」

透華「まったく……バカツキにも程がありますわね」

泉「……ほんで、玄さん。なんですか、その、《予備危険性の排除則》――《リジェクト効果》って」

玄「一口に言えば、やられる前にやっちゃえってことだよ」

泉「えーっと……花田先輩の力は、見る限り、守りに特化した『何か』なんですよね。直撃を喰らったり、ツモで削られたりっちゅーんを、《通行止め》する傾向にある。それで、やられる前にやれっちゅーんは――」ハッ

玄「直撃を喰らったり、ツモで削られたりすることを、《通行止め》する。《絶対》の防壁だよね。
 で、わかってると思うけど、小蒔ちゃんやネリーさん、あと、私と同じ元《爆心》でスーパー変態パワー持ちの姫子ちゃんも、三人が三人ともかなり高い攻撃力を持っている。
 その三人を同時に相手にして、花田さんは、ただ《通行止め》するだけで終わるのか、って話になるわけなのです」

泉「……似たようなん、ありましたね。二回戦。ランクSの天江衣と打っとった大将戦、後半戦の、オーラス。あれに近いことが起きとる……?」

玄「よく気付いたね。そう……あのとき、花田さんは、学園都市でも最高クラスの攻撃特化雀士――最多得点記録保持者の衣さんを相手に、最後の最後でハネ満の直撃を取っていた。
 それまで、《一向聴地獄》に嵌って、自力ではテンパイすることすらできてなかった人がだよ? ちょっと信じ難いよね」

泉「そうですよね。守りの力なら、同じ大将戦の前半オーラスみたいに、ノーテン流局になるんが自然な気がします。それが、よりにもよってカンドラモロの河底直撃なんて……アグレッシブにも程がある。
 その違いを生んだのは……もしかして、花田先輩のほうやなく、天江衣のほうやったりしますか?」

玄「そういうこと。衣さんはね、夜が深まれば深まるほど、出力できる支配力の最大値が増していくの。先鋒戦より大将戦、前半より後半のほうが強いんだよ。
 大将戦後半のオーラスなんていったら、もう最高潮も最高潮。衣さんの全力は、三回戦でも見たでしょ?」

泉「その力を受けて――防御の力が攻撃に転化した……」

     煌『ツモ、2000は2600オールです』

玄「そう考えれば、この連荘を説明できる気がする。小蒔ちゃん、ネリーさん、姫子ちゃん。三人の力が、花田さんの《通行止め》の論理で対応できる範囲を超えた——というより、わざと三人に踏み超えさせているような印象さえ受ける……。
 ガードを下げて打ち込ませてるって言えばいいのかな。けど、どんなにガードを下げようと、花田さんは、学園都市に七人しかいないレベル5——その第一位。
 僅かでも《無効化》の恐れがあれば、《リジェクト効果》が働いて、能力の性質に関わりなく、あらゆる危険性を排除できる。
 そうやって……本来は《絶対》の守りである《通行止め》を、問答無用の《絶対》暴力として使っている……」

泉「直撃を受けたり、ツモで削られたりしない――それらを実現する確実で手っ取り早い方法は、やられる前にやれ。つまり、削られる前に、自分で和了ってまえばええ……いや、せやけど、そんな――」

玄「これを……もし、何から何まで意図的にやっていたとすると、この世界のどこを探しても、花田さんに勝てる人がいなくなるよ。
 だって、ほんのちょっとでも花田さんに攻撃のベクトルを向けたら、その瞬間に《絶対》の反撃が来るんだから。
 私よりも上の強度で。私と同じく常時発動で。自分で言ってても、ちょっと何言ってるかわからないけど……」

透華「それで、玄。小蒔に打つ手はあるんですの?」

豊音「この点差なら、一発が出れば、トップに立てるよー!!」

玄「打つ手を探す、一発を出す、トップに立つ――そういう想いこそ、花田さんに喰われるだけ……なのかな……」

泉「く、玄さん……?」

玄「だって……そういうことになるでしょ? 《リジェクト効果》を利用した《絶対》防御の攻撃転化。もし、花田さんが、意図的にそんなことをしているとしたら――」

泉「した……ら……?」

玄「現状を打開したいとか、和了りたいとか、点を取りたいとか、トップに立ちたいとか、そんな、こっちの気持ちを、あの《通行止め》は、丸ごと呑み込んで、そのままこっちに叩き返してるってことになるんだよ……?
 前に進もうとする私たちの目の前に、全てを排除《リジェクト》する《絶対》の壁を置いて……私たちがぶつかってくるのをじっと待ってるんだ。
 強く衝突すればするほど、勝ちたいと望めば望むほど——反動で傷つくのは、私たちのほうなんだよ……」

     煌『ツモ、500は1200オールです』

透華「バ……バカバカしいですわ! 玄! ちょっと疲れているんではなくて!?」

豊音「コ……コマキはどうなっちゃうのー……?」

玄「わかりません……私にも、ちょっと、理解を超えることばかりで――」

泉「いや……!! 小蒔さんは!! やってくれますッ!!」

玄「泉ちゃん……」

泉「応援しましょうっ!! たとえどんなに絶望的な状況やって!! うちは……戦う小蒔さんを応援します!!」

透華「泉の言う通りですわっ!! 玄、分析と対策はもう試合後で結構ですの!! 今は、小蒔の勝利を願いましょう!!」

豊音「コマキー!! ちょーちょー頑張ってーっ!!」

玄「こ……小蒔ちゃん……っ!! ううううー!! そんなぽっと出の超能力者《レベル5》なんかブチコロシ確定だー!! 私のほうが強いもーん!!」ウガー

泉「く、玄さん?」

玄「なにっ!? 文句ある!!?」ギロッ

泉「いえ、まったく!!」

玄「やっちゃえー!! 小蒔ちゃーん!!」

泉「小蒔さーん!!! ふぁいとですー!!」

 ――対局室

 南三局八本場・親:煌

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:花田煌(煌星・98900)

ネリー(ついに、きらめが二位浮上。これが運命想者《セレナーデ》の奏でる戦慄の旋律。なんて言うか……なんも言えないって……)

 西家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・103700)

姫子(八本場て……いや、宮永照ば相手に六本場まで行ったネリーさんのおっとやし、あってもおかしかなかて、覚悟ばしとったばってん、こいは想定外と)

 北家:鶴田姫子(新約・98800)

小蒔(花田さんが満遍なく削ってくるおかげで、和了りさえすれば逆転は十分可能な点差です。
 ここまで、打っている感覚としては、火力の低い衣さんに近い。強制的に手を止められる。それを少しでも突破しようと動くと、和了られる。ただ、和了り方も、打ち回しも、あまりに自由過ぎます。
 まるで……それらは重要ではないと言わんばかりに)

 南家:神代小蒔(逢天・98600)

姫子(さっきから手の止まり具合の異常と。天江さんの能力と似とっとやろか? ただ、場の重さに反して、花田さんの手は平均的というか、軽かのが多い。なんともわからん)

小蒔(これがレベル5の力に拠るものなら、いかに私がランクSの《神憑き》といえど、抗うことはできません。
 私の色がドラのとき、どうあっても玄さん相手に純正九蓮宝燈が和了れなかったように、《九面》様の力でも、奇跡は起こらない。しかしながら……)

姫子(とりあえず、花田さんは、狙ってこいばやっとる。ばってん、こいなことができっとない、最初から、二回戦も、三回戦も、それに、この大将戦の前半も、苦戦なんかするわけのなか。好きなだけ点ば取ればよかったはずと)

小蒔(つまり、花田さんは、このように能力を扱うことが、実戦では初めてなのでしょう。能力を使いこなす――応用している。だとすれば、本来の使い方からは、若干ズレたことをしているに違いありません)

姫子(花田さんが、こがんやり方で能力ば使うのに慣れてなかとしたら、まだ、付け入る隙はあっ。レベル5の超能力は《絶対》。そいはよう知っとう。
 ばってん、超能力のほうやなく、レベル5自身――花田さんは、生きた人間。ミスもあっし、計算違い、手抜かりのあっかもしれん。まだ、諦めるには早過ぎっと)

小蒔(ただ、そうは言っても残り局数はあと僅か。早く見極めなければいけませんよね。どこかに……どこかに手掛かりがあるはず――)

ネリー(……ひめこもこまきも、まだまだ全然やる気みたいだね。でも、もう、遅過ぎるよ。きらめは二位になった。これ以上点を稼ぐ必要がない。このままの点数状況が続けば、勝ち抜けできる。なら、きらめがどうするかなんて、考えなくてもわかる)

ネリー(そうなると、ほぼ間違いなく、私たちは勝ち抜けできる。きらめの《通行止め》に逆らわなければ、失点することはない。現状で一位の私は、このまま傍観していれば、それでいいことになる……けど――)

ネリー(この運命……絶対の名の下に閉じた卓上《セカイ》。これを、運命奏者《フェイタライザー》の私が、傍観していいの? それって、つまり、魔術世界の全てがきらめに喰われたことになっちゃうんだよ?)

ネリー(魔術世界には原則的に存在しえない超能力者《レベル5》。それでいて、魔術世界では生まれたら殺せと言われている禁忌の運命想者《セレナーデ》。
 私がきらめに屈することは、運命論の、論理的敗北を意味する。それは……魔術世界の全ての雀士の存在価値を奪うことと同じ)

ネリー(信じることをやめない限り、決して諦めない限り、神様は、必ずそこに至る道を用意してくれている。
 てるの《八咫鏡》で、一度、真っ向否定されたけどね。でも、あれは条件発動型……《発動条件》を防ぐ道が存在するんだから、滑り込みセーフで、運命論の大原則は守れたと、私は解釈している。
 でも、きらめの《通行止め》は、困ったことに、常時発動型なんだよ……)

ネリー(条件を満たした一局だけじゃなく、半荘一回。その全てが、きらめの手中にある。なにそれ、つまり、《神様》ってことじゃん。それは……それはね、ダメなんだよ。見過ごせないよ)

ネリー(それこそあなたの思う壷なのはわかっている。けれど、私は、歩みを止めるわけにはいかない。魔術世界の全ての雀士の運命――無限の可能性を、私は……守らなくちゃいけないんだ……)

ネリー(私の自動即興《エチュード》。古今東西全ての魔術師と同価値の力。その中で、最高のカードの一つ。次で、それを引き当てて、あなたを斬る――)

ネリー「……ノーテン」パタッ

姫子「ノ、ノーテンと」パタッ

小蒔「……ノーテンです」パタッ

煌「ノーテンです」パタッ

ネリー(ほら……やっぱりこうなった。このまま、オーラスもノーテン流局で終えるつもりなんだ。それが一番想いやすいし使いやすいもんね。
 全員の持ち点を0点だと想って、自分はテンパイを目指さずに打てば、《絶対》にこの結果になる。次もきらめは同じことをする……)

ネリー(ふっざけんじゃねーよッ!! そんな《運命》は願い下げだ!! わかってる……なら、やることは一つなんだよ――)

姫子(ノーテン流局……こいは二回戦でやっとったと。つまり、花田さんは、二位になったけん、オーラスもノーテン流局で終わらせるつもりなんやね。
 なるほど……つまり、ごちゃごちゃ考える時間は終わりてことと。次のオーラスでどげんかせん限り、私らは《絶対》に決勝に行けん。そいない、やっことは一つと――)

小蒔(これは衣さん相手に見せたノーテン流局と同種のものでしょう。だとすれば、次も同じことをしてくるはず。それで、花田さんは準決勝を勝ち抜けられるわけですから。
 いいでしょう。そっちがその気なら、もう、様子見している暇はありませんね。ノーテン流局……その《絶対》に逆らう以外にこちらが勝つ道はない。ならば、もう、やることは一つしかありません――)

ネリー・姫子・小蒔(全力で《通行止め》を突破するッ!!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(悪いけど、きらめ! あなたの想い通りにはさせない!! 魔術世界の《頂点》――運命奏者《フェイタライザー》として、私は全ての《運命》を守るんだよッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(無謀なのはわかっとう。ばってん、ここで負けば認めたらなんもかんも終わりと!! 色々と背負っとうはこっちも同じ!! レベル5の《約束の鍵》として、私は全ての《約束》ば守るとッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(こんなところで止まるわけにはいかないのですっ! 私たちは天上へと逢いに行かねばならないのですから……!! 《神憑き》として、支配者として、大能力者として、私は全ての《誇り》を守ってみせますッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔「皆さん……お覚悟よろしいでしょうか。存分に戦いましょう――それぞれの守るべきもののためにッ!!」スゥ









            ドクンッ

 







小蒔「では……オーラスを始めます――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(出して来たね、《九面》!! でも、こっちも引けたんだよ。私の《完全模倣》で出せる最高のカードっ!! レベル5と《特例》を除く全雀士の中で最強の奏者の一人!! 無敵の《背中刺す刃》をねッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(さあて……そいたら、こっちもとっておきの切り札ば出さんとな。南四局数え役満キー——哩先輩のくれた最後で最高の鍵。積み棒のあっばってん、まあ細かかことはよかとやろ!! ここに《新道寺》と《久遠》と《新約》と——交わした《約束》ばぜーんぶくっつけるっ!!
 ほいっ、完成!! やってみるもんやねっ!! 都市伝説曰く、学園都市には『みんなの応援が力になる』なんて常識外れの能力者のおるらしいが、今の私はまさにそれ!!
 さしずめ《みんなとの約束が力になる》超能力者!! 今の私に叶えられなか《約束》はなか!!
 さあ、こいが私の超能力の集大成――!!! どうとや!? こん《約束の鍵》ば超える《絶対》の積み重ねが……花田さん一人の中にあっかッ!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー・姫子・小蒔(いざ尋常に……勝負ッ!!)

ネリー:103700 姫子:98800 煌:98900 小蒔:98600

 ――特別観戦室

智葉「最後は私か。ま、出るべくして出たという感じだな」

エイスリン「スガスガシイ、ホドノ、ウヌボレ!!」

塞「なんか対局室が神代VS天江VS大星VS石戸のときくらい荒れてる気がするんだけど……?」

穏乃「《神の領域に踏み込む者》と言われる、レベル5の花田さんと《神憑き》で支配者《ランクS》の神代さん。
 そこに、レベル5の中では唯一複数人が関与する能力者である《約束の鍵》の鶴田さんときて、とどめは、照さんと互角の勝負ができるネリーさんですからね。
 しかも、今は全員が全員とも最高戦力を発揮しています。荒れるのも当然かと」

憩「あー、なるほど。残りはナンバー1一人って、そういう意味ですか、ガイトさん」

智葉「そういう意味だ」

照「どういう意味でございますか……?」

憩「ここまで花田さんがおいしくいただいてきた相手。最初に食べたんは、まあ、大星さんやろ」

菫「……なるほど。だとすると、次は照の妹に手をつけたのか」

照「なん……だと……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「うるさい宮永。話の腰を折らないで」

照「すいません」シュン

まこ「ほいで、ようわからんが、次は誰じゃ?」

憩「たぶん、園城寺さんやと思う。《煌星》は《新約》と《豊穣》と《幻奏》と合宿しとるから、そのときやろ」

純「……そうか、なら、その次は穏乃だろ」

穏乃「覆面対決ですね」

憩「そーゆーこと。ほんで、本選――二回戦で、花田さんは衣ちゃんを食べた」

衣「ふん」

憩「三回戦では、玄ちゃん、渋谷さん、そしてウチや」

まこ「あー……ほうかほうか」

憩「で、小蒔ちゃんと、鶴田さんと、ネリーさん(ガイトさんモード)が、今まさに喰われようとしとる」

菫「超能力者《レベル5》と支配者《ランクS》。それに、《一桁ナンバー》の上位《三人》だな」

憩「この白糸台高校麻雀部には、雀力を表す四つの指標があります。軍《クラス》、支配階級《ランク》、能力値《レベル》、校内順位《ナンバー》。
 この四つの指標におけるトップランカーを、花田さんは、学園都市に来て以来、次々に食べとるっちゅーわけです。ほんで、未だ花田さんに食われず残っとるんが――」

塞「元一軍《レギュラー》――チーム《虎姫》のエースにして」

智葉「白糸台に五人しかいない最高階級《ランクS》の支配者の一人にして」

菫「常勝無敗のナンバー1」

憩「さらには、なんとレベル5の第六位やったことが最近一般に知れ渡った学園都市の《頂点》、全てにおいて最高の雀士――」

照「宮永照……!! 私のことか!?」

まこ「……なるほどの。恐いくらいの偶然じゃ」

純「偶然ならいいけどな」

衣「好物は最後に取っておくタイプなのだろう」

エイスリン「アイツ、ゲテモノ、グイ、ダッタカ!」

穏乃「つまり……照さんが花田さんの《通行止め》に屈したとき、その力は完全無欠の真なる《絶対》になるということですね」

憩「わお。責任重大ですやん。頑張ってください、ナンバー1」

照「そんな……」

智葉「少しは意地を見せろよ、科学世界の《頂点》。せめて、今あそこで戦ってる連中くらいにはな――」

 ――対局室

 南四局流れ九本場・親:小蒔

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(わかっていましたが、ここまで悉く封殺されると応えますね。私の支配力すら寄せ付けないとは……恐れ入ります)タンッ

ネリー(隙がない……あの《背中刺す刃》でも論理の不完全領域を見つけることができないなんて。
 さとはは、同じ運命想者《セレナーデ》のさきに対しては、《聖人崩し》をかました上に《プラマイゼロ》の鎖まで断ち切ってたのにね。とんでもないんだよ、この《通行止め》は)タンッ

姫子(こん止められ方は……高鴨んときとは違う。玄や尭深に近かと。超能力的な何か——なんやろね。ばってん……あの二人も、ここまでなんもかんもはできんやったと。本当に……こいはなんぞ)タンッ

小蒔(さて……いけませんね。このままでは、何も変わりません。もちろん、私の支配力がどれだけ強かろうと、《絶対》の壁はあまりに厚く高い――それは覚悟していました)

小蒔(それでも、これが私の持ちうる力の全てですから。幼い頃から修行を積んで手に入れた力。衣さんと引き合わせてくれた力。
 玄さんにとばっちりでひどいことをしてしまった力。小走博士に私自身のものだと断言された力。泉さんに人間扱いしてもらった力。私の……誇り――)

小蒔(花田さんは、あの衣さんを抑え込んだ。それに、大星さんと宮永咲さんにも揺らがされたことはないのでしょう。
 ですが……私はあなたと同じ《神の領域に踏み込む者》です。衣さんや大星さんや宮永咲さんには不可能でも、私なら、できるかもしれない……)

小蒔(信じましょう。全ては願うところから始まります。己を支配し、余計な感情をそぎ落とし、純粋に、純真に、イメージするのです。この《通行止め》――恐るべき防壁を突き破る『槍』を……)

小蒔(もっと強く。もっと鋭く。もっと硬く。もっと熱く。もっと誇らしく。もっと……もっともっともっともっと――ッ!!)

煌「」ビリッ

小蒔(楽勝してやりますよ、花田さん……!! 喰らえるものなら喰らってみてください!! これが私の……!! 剥き出しの戦う意思ッ!!
 私は戦います!! 必ずやこの《通行止め》を突き破ってみせます!! みんなの誇りを――この一本の『槍』に乗せて……!!)ゴッ

小蒔(これが《神の領域の力》……とくとご覧くださいッ!!)

小蒔「リーチっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー・姫子(通った!!?)

小蒔(あとは和了るだけです!!)

ネリー(さすが……《神の領域に踏み込む者》!! よくやってくれたんだよ、こまき!! やっと光が見えた!! これで、きらめの背中に、刃を突き立てることができる――!!)

ネリー「チーッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(テンパイ……あとはぶっすり刺すだけなんだよっ!!)

姫子(こいは神代さんのブチ抜いたんが効いとるんか……? まるでダムの決壊と! いかるっ! 今の私ない、あの《未開地帯》でん余裕で《上書き》できるはず!!)

姫子「カン!!」パラララ

ネリー(うおうっ、大明槓!!)

姫子(来た……!! こいで、通れば、まだ望みはあっ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(嶺上牌を手に入れましたね。鶴田さんも張りましたか)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(さあ、もう待ったなしですよ、花田さん!!)

ネリー(不用意な動きをしたら、その瞬間に心臓を貫くんだよ!!)

姫子(みんなの力ば……牌に伝えて和了っちゃる――!!)

小蒔・ネリー・姫子(勝つのは、私ッ!!)ゴッ

煌(…………)

小蒔・ネリー・姫子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(はて……?)

小蒔(誇りを――)タンッ

煌(おかしいですね)

ネリー(運命を――)タンッ

煌(全員の持ち点を0だと想っているので、リーチはできないはずなのですが……)

姫子(約束ば――)タンッ

煌(神代小蒔さん——《神の領域に踏み込む者》。なるほど……どうやら、あなたの起こす《奇跡》は、淡さんや咲さんや天江さんのそれとは一線を画すようですね)

小蒔・ネリー・姫子(私は……!!)

煌(だとすると、同じ《神の領域に踏み込む者》と言われる宮永照さんも、同様のことができるかもしれません。否、超能力に相乗させてくるなら、これ以上であることが予想されます。そのときは、こちらも全力を出さざるを得ない……でしょうか——。
 まあ、いずれにせよ、あの方と決勝で相対することになったときには、今回のような不手際がないよう、細心の注意を払って打つとしましょう……)

小蒔・ネリー・姫子(守るッ!!!!)ゴッ

煌(さて……非常に残念ながら、そこから先は《通行止め》です)

    ――はい、また私の勝ちっ! キラメの負け!

煌(私は、負けるわけにはいかない——)

          ――キラメは本当に弱いなぁ、私と違って。

煌(《絶対》に……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔・ネリー・姫子「っ!!??」ゾワッ

煌「ツモです。300・500に九本付けてください」パラララ

小蒔「――――」

ネリー「」

姫子「……っ!!」

『試合終了ー!! 波乱の大将戦後半!! 最下位《煌星》が猛追……っ!! 途中流局を除けば脅威の十二連続和了――大逆転でトップ通過を決めました!!
 二位はチーム《幻奏》!! 《新約》、《逢天》は惜しくもここで敗退となりました――』

 ――《煌星》控え室

『試合終了ー!! 波乱の大将戦後半!! 最下位《煌星》が猛追……っ!! 途中流局を除けば脅威の十二連続和了――大逆転でトップ通過を決めました!!』

桃子「…………」

友香「…………」

咲「…………」

淡「あー……モモコ、ユーカ、サッキー。ちょっと、聞いてほしいことがあるんだけど……」

友香「あ、淡……?」

咲「どうせ……なんかおバカなこと言うつもりなんでしょ」

桃子「ちゃんと聞くっすよ。なんっすか、超新星さん?」

淡「私はねっ!」

友香「うん……」

淡「私は!! 勝負に勝てば勝ち方なんて問わない!! そんな素敵哲学を持っているわけなのだがっ!!」

咲「知ってるよ、それくらい」

淡「でもっ!! どうせ勝つなら楽しく勝ちたいと思っているわけで!!」

桃子「……そうっすよね」

淡「モモコ! ユーカ! サッキー!」

友香「なんでー……?」

淡「強くなろうッ!!!!」

咲「……わかってるよ、言われなくても」

淡「キラメがあんな打ち方をしたのは!! あんな戦い方をしたのは!! あんな勝ち方をしたのは!! 全部!! 私たちが弱いからだ!!」

桃子「そうっすね……」

淡「キラメは私たちにたくさんのものをくれたっ!! キラメはちゃんと私たちを決勝へ導いてくれた!! だから、今度は私たちがキラメに返す番だと思うっ!!」

友香「うん……っ! その通りでー!!」

淡「決勝戦では!! いっそ!! 私とモモコとユーカとサッキーで!! 相手をみんなトばして優勝しちゃおうっ!!」

咲「あははっ。こんなに心から淡ちゃんの意見に共感したこと、今までなかったよ」

淡「とりあえず!! 今日!! 今!! この瞬間!! 私たちがやるべきことは!! 反省とかまあ色々あるけど!! それはさておきっ!!」

桃子「さておき……?」

淡「私たちを勝利へ導いた! 私たちの大将! 私たちのリーダー! 私たちの大好きなキラメに! 笑って!! 百点満点の笑顔でっ!! おかえりを言おう――!!
 だってっ! だって……!! キラメは、私たちの笑顔のために、勝ってくれたんだから……っ!!」ポロポロ

友香「って……淡が、泣いて、どうするんでー……」ウルウル

咲「友香ちゃんだって……ぐずぐず言ってるよ」ウルウル

桃子「まったく――はい、ハンカチ。しゃきっとしてくださいっす、三人とも」

淡「ありがと、モモコ、鉄の女」ゴシゴシ

桃子「そろそろ帰ってくる頃っすよ。みんな、大丈夫っすか?」

淡「っしゃあー! 任せろ! どうこれ!? 完璧でしょっ!!」ニパー

桃子「ま、ちょっと目が赤いっすけどね」

淡「嬉し泣き以外の何物でもないよ!!」

友香「淡はさすがでー」

咲「おバカだから。淡ちゃんは」

桃子「――と、足音が近いっす」

 ガチャ

煌「ただいま戻りました。いやはや、最後まで気が抜けませんでしたね」

 一位(総合一位):花田煌・+81300(煌星・103700)

淡「キーラーメー!!」ガバッ

煌「ほへっ?」

淡「キラメっ!! 大好き大好き大好きーっ!!」ギュー

煌「ありがとうございます」ナデナデ

咲「ちょっとー!? 淡ちゃん!! だからそれは試合で一番稼いだ人がやっていいやつでしょー!! へっぽこ役直エースの淡ちゃんにそんな権利ないよー!!」ガバッ

煌「おやおや」

桃子「おかえりなさいっす、きらめ先輩。ちょーカッコよかったっす!!」ガバッ

煌「照れますねぇ」

友香「やっぱり煌先輩は最高でー!!」ガバッ

煌「それを言うなら、皆さんも最高ですよ」

淡「そうだね! 私たちはっ!! 五人で一つの!!」

桃子・咲・友香「チーム《煌星》!!」

煌「息ぴったりですね。すばらです」

淡「キラメ!」

煌「はい、なんでしょう?」

淡「みんなで一軍《レギュラー》になろうねっ!!」

煌「そのつもりですよ。さて……皆さん、はしゃぐのもよいですが、先に簡易反省会をやってしまいましょう。席についてください。では、まず、先鋒戦――」

 ワイワイ スバラッ キャイキャイ スバラッ

 ――対局室

小蒔「――――」

 三位(総合四位):神代小蒔・− 48200(逢天・96200)

玄「…………」

泉「小蒔さん……」

小蒔「――い――ず――――」ヨロッ

玄「小蒔ちゃん、無理に喋らなくていい。動かなくていいから」ギュ

小蒔「ご――――め――――」フラッ

玄「泉ちゃん、後はお願いしていいかな」

泉「力、使い過ぎた感じですか?」

玄「それもあると思うけど、きっと、反動がすごかったんだと思う」

泉「反動……」

玄「クイズだけど、とっても走るのが速い人が、全速力で堅い壁にぶつかると、一体どうなっちゃうと思う?」

泉「わ、わかりませんけど、とりあえずその人を全速力で病院につれていきますっ!!」

玄「透華ちゃんが車を呼んでる。豊音さんも荷物まとめたらこっちくるから、二人で小蒔ちゃんを運んで。よろしくね」

泉「玄さんは……?」

玄「私はちょっと用があるから。落ち着いたらメールして」

泉「は、はい! ほな、失礼して……」ダキッ

小蒔「――――」

 タッタッタッ ガチャ

玄(さ、て。ちょっと、あっちのほとぼりが冷めるのを待とうか)

 ザワ

絹恵「姫子はようやったって……わかっとるから」ギュ

姫子「うっ、うあっ……ばってん――」ポロ

 四位(総合三位):鶴田姫子・−48900(新約・97600)

和「姫子さん……今回は、ちょっとだけ偶然が過ぎました。それだけのことです。姫子さんは何一つ間違ったことをしていません」ギュ

姫子「うあぁあぁあああ……!!」ポロポロ

怜「……和、絹恵。姫子のこと、頼めるか?」

絹恵「はい、大丈夫です」

和「姫子さん、行きましょう。歩けますか?」

姫子「ううぁぁうあうぅ……うぁぁ……」ヨロヨロ

 タッタッタッ ガチャ

初美「怜……白水さんが、まもなく来るそうですー」

怜「そっか。ほな、安心かな。姫子は芯の強い子やから……きっと大丈夫。さて。あとは――」

 ザワ

ネリー「っ…………!!」ポロポロ

 二位(総合二位):ネリー=ヴィルサラーゼ・+15800(幻奏・102500)

優希「…………」ギュー

やえ「…………おい、ネリー……」

ネリー「っ…………!!」フルフル

優希「やえお姉さん……今日はもう無理だじぇ。ネリちゃんは私が連れて帰る。それでいいか?」

やえ「……ああ、頼む。お前らは、先に帰っててくれ。困ったことがあったら、大抵のことはセーラか亦野がなんとかしてくれる」

優希「わかったじょ。じゃ、ネリちゃん。行くじぇ……」

ネリー「っ……」コクッ

 タッタッタッ ガチャ

やえ「……悪い。待たせたな」

玄「いえ。こちらこそ、急かしてすいません」

怜「いやー……えらいことになってもーた感じですね」

初美「やえ、単刀直入に、アレはなんなんですかー?」

やえ「私たちの常識の範囲外にいる何かだ。詳しくは言えない」

玄「私たちの常識の範囲外というと、ネリーさんと近い何か、とか?」

やえ「いや、違う。ネリーたちの世界においても、あいつは異物だ」

怜「決勝でも同じことが起きると思ってええんですか?」

やえ「ああ、その可能性が高い」

初美「宮永照ならどうにかできる系ですかー?」

やえ「いや……あいつでも、無理だろう」

玄「憩さんなら?」

やえ「無理だ。というか、荒川は、お前と一緒にあいつと直に打って、もう喰われているだろ」

玄「そう……ですよね……」

怜「これから、あの子はどうなってまうんですか? ずっとあの調子なんですか?」

やえ「悪化する危険性がある」

初美「ブラックホール説が濃厚ってことですかー」

やえ「ブラックホール……? ああ、《超巨星》は《重虚星》ってことか。そう、ちょうどそんな感じだな。
 その喩えでいくと、今日のアレは、まだ《超新星》爆発の段階。核である中性子星が自身に向かってくる諸々を吹き飛ばしただけだ。ここからどうなるかは、まだ読めない。しかし、高確率でそうなると思われる」

玄「もしかして……今年のルール改定も関係してます?」

やえ「そうだな。この状況は、ある程度、意図的に作られたものだ」

初美「穏やかじゃねーですねー」

怜「どないするつもりですか? 宮永照でも無理やとなると、もう、誰も残ってへんような気がしますけど」

やえ「なあに、そう心配しなさんな――」

玄「……本気ですか、小走さん? 《特例》――最強の無能力者である憩さんでも無理なんですよね?」

やえ「まあ……それはそうなんだがな」

初美「何か掴んでるですかー?」

やえ「いや、何も」

初美「せめて尻尾くらいはお願いですよー」

怜「……ほな、うち、藁をいただいていきますわ!」ギュ

玄「それじゃあ、私も藁で!」ギュ

やえ「お前らな……」

怜「小走さんは、なんたって、藁は藁でも、考える藁やから」

やえ「黙れ、迷言製造機」

初美「ぶっちゃけどうなんですかー?」

やえ「やるしかあるまい。雀士としても、研究者としても、あいつの《通行止め》は看過できん」

初美「じゃー私も藁いただきですー」ギュ

やえ「どいつもこいつも……」

玄「小走さん、私たちの誇りを、受け取ってもらってもいいですか?」

やえ「ああ」

怜「うちらの約束も、お願いします」

やえ「わかってる。お前らの幻想は、これくらいで壊れたりはしない。それを、私が、決勝で証明してやる」

初美「マジよろしくですよー。人手が要るなら貸すですからー」

玄「何か、私たちにできることがあったら言ってください」

怜「うちらでよければ、いくらでもお手伝いしますわ」

やえ「有難う。助かるよ」

玄「本当に、本当にお願いします……」

怜「周囲にとってもそうやし、たぶん、あの子自身にとっても、これはよくないことなんやと思います。どうにか、なんとかしたってあげてください」

初美「がつーんとやっちまえですよー、《王者》」

やえ「任せとけ。こちとらここの研究施設には十年以上前から世話になってる。対してあっちは学園都市に来て数ヶ月の転校生。片手で捻れるさ」

玄「……ありがとうございます」

怜「おおきにです」

初美「謝々ですよー」

やえ「話はついたな。何かあったら連絡する。というわけで、お互い、行くべきところへ行くとするか」

玄「では、お先に失礼します」ペコッ

怜「うちらも行くか、初美」

初美「はいですー。じゃ、やえ。またあとで」

 タッタッタッ

やえ(私もネリーのところに行かなければ。こうなったのは、あいつを大将に置いた私の責任。花田の解析を後に回した私の失態。勝つためとは言え、本当にあいつには酷なことをした……)

やえ(花田煌……お前が何かを抱えているのは、見ていればわかる。お前にはお前の譲れない想いがあるのだろう——それはそれで構わん。ただ、今日のアレは、ちょっと、こちらにとっては想定外過ぎたというだけだ)

やえ(が……それはそれとして、一つだけ、忠告しておくぞ、《通行止め》)

やえ(お前が世界の全てを閉ざせると想っているのなら……そんなものは幻想だ。その《絶対》はぶっ殺す。それこそ《絶対》に、な)

やえ(決勝を楽しみに待ってろよ、花田煌。ニワカは相手にならんということを、《王者》がその身に教えてやる——)

 ――特別観戦室

まこ「……終わったの」

純「ああ……終わったな」

塞「あの《怪物》を宮永が倒さないと、私らの優勝はないってわけね」

照「あれ? もう私が戦うことは確定?」

穏乃「えっと……? 以前、毅然とした態度で、学園都市の《頂点》として戦い勝つと言ってくれた照さんはどこへ?」

智葉「穏乃、お前は騙されている。こいつは元々こういうやつだ」

菫「まったくもっていつもの照だな」

憩「ま、花田さんまで回さずに終わらしたらええんとちゃいます? ウチでよければやったりますよー」

衣「それは妙案っ! 衣もやるぞっ!!」

エイスリン「ワタシモ! トバス!!」

照「待って。花田さんは不動の大将で、そこに私をぶつけて、なのに菫たちは副将戦までにトばすという。それは、つまり、私の出番が回ってこないということに?」

穏乃「そんなことには、私がさせないので、ご安心を。それより、照さん、真面目にお願いします」

照「私はずっと真面目なんだけど……」

穏乃「今の花田さんは、意識的に超能力を使いこなしています。恐らく、照さんでも、かなり厳しい戦いになることが予想されます」

照「う、うん」

穏乃「もちろん、花田さんが、自身の力をどう使うかは、花田さんの自由なので、そこに良し悪しはありません。ですが――」

照「その能力が暴走したら……だったよね」

穏乃「はい。あのときから感じている、黒い影のようなもの。今日、一層、その濃さを増しました。このまま行くと、本当に、とても危険なことになります」

照「危険なこと……」

智葉「穏乃の言ってることは概ね正しいからな。あいつの想いが絶望に変わるとき、この世界は終わる」

照「せ、世界……?」

穏乃「照さん、花田さんを止めることができる雀士は、もう、あなたしかいないんです」

照「…………」

穏乃「照さん……お願いです。学園都市を、世界を……守ってください」ギュ

照「高鴨さん……」

穏乃「私……恐いです。本当に。照さん……」

照「あう、えーっと」オロオロ

菫「おい、照。一年が震えてるんだ。なんとかしてやらんか」

照「そう……だね――」スゥ

穏乃「照……さん……?」

照「高鴨さん」キリッ

穏乃「は、はい……////」

照「ここにお菓子がある。一緒に食べよう」

穏乃「」

憩「はーい! オチつきましたーぁ!! ほな、皆さんっ! 帰りましょ帰りましょーぅ!!」

照「荒川さんは私のことが嫌いなの……?」ウルウル

憩「どちらかと言えば」ニコッ

照「」

塞「荒川ー!!? あんたマジぶっとばすわよー!!?」

憩「おおーぅ? やりますか? ほな、衣ちゃん! 身の程知らずの《塞王》に、夜やしちょっとゴゴゴしたってーぇ!!」

衣「任せろっ! ちょうどうずうずしてたところだったのだ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「ぎゃあああー!?」ガタガタ

まこ・純「やめんか(ろ)バカ」ナデナデ

衣「ふぁぁぁん撫でるなあああ集中が削がれるぅうううー!!」

塞「はぁはぁ……あんた、マジ、覚えてなさいよ、《悪魔》」

憩「もちろん。ウチ、完全記憶能力持ってますから」ニコッ

塞「この人外……ッ!!」

智葉「おい、荒川。くだらんことでムキになるな。いいから帰るぞ」グイッ

憩「えーっ?」

エイスリン「ケイ! ラシク! ネーゾ!」ポムポム

憩「むーぅ、すんません」

菫「では、私たちは先に失礼する。また明後日。決勝で。お互いベストを尽くそう」

塞「そーね。そうするわ」

菫「じゃ、行くぞ、お前たち」

憩「はいっ! 菫さーん! ウチ、ご飯食べ行きたいですーぅ!!」

菫「ああ。そう言うと思って、《虎姫》御用達の店を予約してある」

衣「たるたるはあるか!?」

エイスリン「ハヤク、イコーゼ!!」

智葉「落ち着け、ガキども」

 ワイワイ ギャアギャア

塞「さーて、それじゃ私たちも……って」

照・穏乃「」

塞「……ねえ、染谷、井上」

まこ・純「なんじゃ(だよ)」

塞「あと任せていい?」

まこ・純「無責任っ!?」

塞「だあー! もうっ、わかったわよ! やればいいんでしょ、やれば! ハイ! 宮永、高鴨、二人していつまでふざけてんのよ!!」ベシッ

照・穏乃「は……!!」

塞「はい、じゃ、宮永。あとテキトーに締めて」

照「えーっと」

まこ・純・塞・穏乃「…………」ジー

照「うん。その。あれ」

まこ・純・塞・穏乃「どれ?」

照「頑張ろう」

まこ「……」

照「大丈夫」

純「……」

照「みんなは強い」

塞「……」

照「そして、私は、もっと、すごく、それはもう、強いから」

穏乃「……」

照「何も心配は要らない。菫の言っていた通り。ベストを尽くそう。以上。解散」

まこ・純・塞・穏乃「ご飯は?」

照「うん。そう、ご飯。任せて。《虎姫》御用達のお店を予約してある」

塞「そこに弘世たちがいる可能性は?」

照「かなりあるある」

塞「さすがの引きの良さよね。宮永らしいわ。そいじゃーま! 者ども! 帰り支度開始ーっ!!」

まこ・純・穏乃「おーっ!!」

照「なんだろう、この統率力の差……」

塞「見た目の差じゃない? ほら、私、こんなだけど、外見は結構しっかりして見えるでしょ?」

照「私だって……」

塞「鏡見てから言いなさいよ」

照「毎朝ちゃんと見てるもん」

塞「でも、《照魔鏡》を見ることのほうが多い、でしょ?」

照「おっしゃる通りです」

塞「なーんだかなー。あの大将戦を見てこんなことを言うのは不謹慎だとは思うんだけど、今日は、楽しかったわ。いや、何度も死にそうになったけど」

照「そうだね。楽しかった」

塞「弘世がいたから?」

照「まあ、菫も、辻垣内さんも、みんな《初代》で一緒だったから。懐かし楽しかった」

塞「そっかーぁ」

照「臼沢さん?」

塞「ねえ、宮永さん?」

照「なに?」

塞「ううん。なんでもない」

照「そう?」

塞「はいはーい! 全員、出る準備できたかしらー?」

まこ・純・穏乃「はい!」

塞「じゃ、食べに行くわよー!!」

まこ・純・穏乃「はいっ!!」

塞「ほら、宮永、予約したのあんたでしょ。店の地図見せなさい。私が案内するから」ギュ

照「え、あ、うん……」

塞「さ、急いだ急いだー!」

照「わ、わかってるから、引っ張らないで――」

 タッタッタッ

照(それにしても、花田さん。《照魔鏡》で、どこまで見ることができるか)

照(世界が閉ざされる……辻垣内さんは何か心当たりがあるみたいで、たぶん、ネリーさんもそうだ)

照(あっちの世界と何か関係があることなのかな。いい機会だし、調べてみようか)

照(それと、高鴨さんの言ってた、『恐い』)

照(……そう言えば)

照(私も、一度だけ、感じたことがある)

照(麻雀を打って、対戦相手を、恐いと思ったことが、一度だけ)

照(見かけない制服を着た人――《最上》の大能力者……)

照(花田さんは、もしかして、あの人と、同じなんだろうか)

照(だとしたら)

照(なんとかしなきゃ)

照(あの人のように、手遅れになる前に――)

 ――――——

 ————

 ——

【準決勝結果】

<総合結果>

 一位:煌星・103700

 二位:幻奏・102500

 三位:新約・97600

 四位:逢天・96200

<区間賞>

 先鋒:松実玄(逢天)・+26900

 次鋒:龍門渕透華(逢天)・+16000

 中堅:園城寺怜(新約)・+17300

 副将:原村和(新約)・+16700

 大将:花田煌(煌星)・+81300

<役満和了者>

 数え×3:松実玄(逢天)

 大四喜:薄墨初美(新約)

<半荘獲得点数上位五名>

 一位:花田煌(煌星・大将戦後半)・+73300

 二位:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・大将戦前半)・+40700

 三位:龍門渕透華(逢天・次鋒戦後半)・+24200

 四位:松実玄(逢天・先鋒戦前半)・+19300

 四位:姉帯豊音(逢天・中堅戦後半)・+19300

<MVP>

 花田煌(煌星)

 ――理事長室

恒子「いやー、花田さんにはびっくりしたねー!!」

健夜「そう……だ、ね……」フラッ

恒子「え」

 ガターン

恒子「ちょおおおお!?」アワワワ

健夜「ごめ、ちょっと、貧血的なあれで」ヨロ

恒子「いや、頭打ったでしょ!? 待ってて、すぐ赤阪先生呼んでくるから」

健夜「ううん、いいの、大丈夫……」ギュ

恒子「そんなわけな――え……?」

健夜「どうかした……?」

恒子「すこやん……えっと、なんていうか、その……」

健夜「大丈夫……だから……ね」ギュ

恒子「すこやん…………?」

健夜「安心して……こーこちゃん。恐くないよ。私はあなたを傷つけたり悲しませたりしない。私はあなたを守るために在るの——だから……」スッ

恒子「ぁ――」フラッ

 パタンッ

健夜(ごめんね、こーこちゃん。もう少し……もう少しだから)ギュ

健夜(あとちょっとで、取り戻せるんだよ。こーこちゃんの本当の笑顔を。やっと陽の当たる場所に出られるんだ)

健夜(そのためなら、私はなんだってする。いつか必ず……こーこちゃんが自由に青空の下ではしゃげる世界を創るって、あの雨の日に、そう約束した……)

健夜(約束は果たすよ……私の命に懸けて、ね——)

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》決勝まで、あと二日]

ご覧いただきありがとうございました。

主人公は花田さんです。小走さんは原作の高鴨さんみたいなもんです。

では、また近いうちに。

乙ー
姫子さんの鍵の引継ぎは別に同じ日とか一度の試合でとかじゃないんだな
制約は哩さんが最後に対戦した局かな?

>>399さん

鶴田さんのアレは、厳密には、三回戦でぶっ放してた《約束の鍵》とは違うものです。

能力の内容的には《制約》のない《約束の鍵》みたいな感じです。数えでなくてもいいですし、ツモでもロンでも可です。何かしら逆転できる手をイメージして、そこに向かってました。

白水さんからもらった南四局数え役満キーを中核にした元気玉みたいなものだと思っていただければ。

すばらの口振りで少し気になったんだが
すばらのこれって準決で初お披露目で周りからの視点でもまだ扱い慣れてなくて云々っていう話が出てたけどさ
3回戦の場合は勝ち抜け条件が最後に満貫ツモ和了で良かったからそれで終われたけど
もしかして準決以前の段階でもやる必要性が無かったからしなかっただけで意図的に能力を使うこと自体は出来たのかな

>>405さん

一応、A・Bブロック三回戦終了後に、

>健夜「わからないけど、勝ち抜け条件が二位以上なら、それ相応の無茶をしたんじゃないかな。宮永さんはもちろん、花田さんも……まだ余裕があった気がする」

という意味深な発言があったりします。

あと、花田さんは、大星さんと咲さんと『耐久戦』——『どっちが先に煌さんをトばせるかゲーム。支配力使い放題。能力使い放題。なんでもアリの数時間』という練習をしていて、以前から強力な攻撃力に晒される機会がありました。

また、C・Dブロック三回戦での解説っぷりからもわかる通り、《第一不確定性原理》などの科学世界の知識、運命奏者《フェイタライザー》などの魔術世界の知識、ともに精通しているような描写があります。準決勝前に魔術書を読むシーンもあります。

などなどからご想像いただけると幸いです。で、それを想像した上で、

>煌「確かにその通りです。初めて戦うチームが相手だと、どうしても不確定要素が多くなってしまいがち。だからこそ、私たちは準決勝を経由することを選んだのです」

>菫「ほう……まるで三回戦を一位通過することもできた、と言っているように聞こえるが?」

>淡「そう言ったんだよっ! ね、キラメ?」

>煌「はてさて。それはどうでしょうか」

のくだりを読むと、わりと戦慄します。

そうか、オーラスでリーチ封じが発動しなかった理由が分かった。
これならリーチが来ても即直撃出来なかった説明がつく。
よく考え込まれてるな。
ただ、狙って出来るか、といわれると、それ相応の状況が必要だけど。

>>413さん

最終局で花田さんが直撃できなかったのは、

>ネリー(ほら……やっぱりこうなった。このまま、オーラスもノーテン流局で終えるつもりなんだ。それが一番想いやすいし使いやすいもんね。
 全員の持ち点を0点だと想って、自分はテンパイを目指さずに打てば、《絶対》にこの結果になる。次もきらめは同じことをする……)

という理由ですね。全員の持ち点を0点だと想って、花田さんが一向聴以下を保てば、ノーテン罰符で点棒移動が発生しないよう他の全員も一向聴以下になります。

この状態で誰かにテンパイされると、その時点の花田さんは一向聴以下なので、リーチ宣言牌を直撃することができません。

 ――決勝戦当日朝・白糸台寮(side-照)

照「うん……え、いや、それは、もう決めたことだから、うん」

照「花田さんのことは……うん、わからないけど、やってみるしかない。うん。あっちは第一位だけど、直接打ったことはないし……《照魔鏡》は感応系だし、たぶん、なんとか……」

照「それは心配要らないよ。私、強いから」

照「うん……じゃあ、また、対局室で。お互い頑張ろうね、菫……」ピッ

 コンコン

照「どーぞー」

 ガチャ

塞「おっはー、宮永。朝食、よかったら一緒にどう?」

照「私も、今、そっち行こうと思ってた」

塞「調子はいかが?」

照「いつも通り。ばっちり」

塞「すごいわね。私は目覚めた瞬間から胃が痛いわよ。あんた緊張とか気負いとかないわけ……?」

照「勝つのに最適な分くらいはあるよ。でも、それ以上は集中が乱れるから、なるべく持ち歩かないようにしてる」

塞「さいで」

照「朝食済んだら、一緒にお菓子選ばない?」

塞「そうね。消化がよくて、頭に栄養が行くやつが欲しいわ」

照「任せて。白糸台ナンバー1お菓子ソムリエとして、最高の一品をチョイスしてみせる」

塞「ありがたいわ」

照「じゃあ、食堂、行こっか」

塞「そうね……」

照「どうかした、臼沢さん?」

塞「いや。この夏に、またあんたと同じチームで戦えて、よかったなって」

照「私も、楽しいよ」

塞「嬉しいこと言ってくれるわね、いつも、あんたは」

照「そのつもりで言ってるから」

塞「敵わないわー」

照「私は学園都市の《頂点》だから。いくら臼沢さんが《塞王》でも、私には敵わないよ」

塞「知ってるわよ。思い知らされてるわよ。徹底的に。初めて会った初っ端の時点でね」

照「モノクル、ごめんね。今からでも、弁償するよ?」

塞「だから、それはいいって二年以上も言ってるでしょ。私はあんたに貸しを作っておきたいのよ。そのもやもやとした気持ちを、いつまでもいつまでも抱えてなさい」

照「臼沢さん、ちょっと、イジワル」

塞「別にいいでしょ、これくらい。あんた、ちょっと目を離すと、いつの間にか、どこかとんでもなく遠くに行っちゃうから」

照「私の迷子癖はそこまでひどくないもん」

塞「弘世が二年掛けて矯正して、最近、やっと一人歩きできるようになったのよね」

照「あう……」

塞「でも、そのせいで、あんたは、一人でどこへでも行けるようになっちゃった。お手引き係の私がいなくても。本当……弘世は余計なことしてくれたわ――」

照「臼沢さん……」

塞「なーんてね。じゃ、ご飯、行こ、宮永」スッ

照「う、うん……」ギュ

 ――決勝戦当日朝・白糸台寮(side-憩)

憩「おはようございますーぅ!」ガバッ

憩「うん。誤差五分。今日も完璧なお目覚めやでー」ノビー

 シャー ガラッ ザー

憩「うーん! さすが樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》!! 百発百中予報通りっ! 気温24度、湿度88パー! 蒸し蒸し夏の雨ですなーっ!」

憩「ほな、シャワー浴びてこよー」

 タッタッタッ シャワー

憩「ふーっ! さっぱり。やっぱり朝はええねー。新しい一日が始まるで! ほな、紅茶でも淹れましょかー」

 ヒュルヒュル コポコポ

憩「ふむむぅ……かなり近付いてきたはずなんやけど、やっぱ記憶と違うなー。何から何まで同じになるようやっとるのに。なんでやろ」

憩「しゃーない。また明日チャレンジやな。っちゅーわけで、ティータイムがてら、いつもの神経衰弱しましょかー。自動卓、起動!」

 ピッ ウィーン

憩「一筒。一筒。一筒。一筒。二筒。二筒。二筒。二筒……」

 タンッ タンッ タンッ タンッ タンッ タンッ

憩(……今日は決勝やな)タンッ

憩(あれから一年、か……)タンッ

憩(うちは衣ちゃんや小蒔ちゃんや玄ちゃんと違うて、最初からレベル100やったから、麻雀の強さはあのときと変わってへん)タンッ

憩(変わったのは、涙腺の強さと、戦う目的)タンッ

憩(今度こそ、あの《頂点》に勝つんや)タンッ

憩(二度と、あんな思いはしたくない)タンッ

憩(大好きな人の笑顔を……曇らせたくない……)タンッ

憩(もう、あんな別れ方をするんは、嫌や――)

 タンッ

憩「…………は? 嘘やろ?」

 プルルル プルルル ピッ

憩「あー……朝から、すいません。今、大丈夫ですか?」

憩「それはよかったです。ウチも、ちょっと一息いれてたところですわ。
 せやけど、いきなり息を飲むようなこと起こったんで、これはもう電話するしかないなって」

憩「そーゆーことです。あの、これ、ウチはどう受け止めたらええんですかね」

憩「事実起こったこととは言え、ちょっと信じられませんわ。やって、卓にはウチ一人ですよ? 誰の確率干渉もあらへんのですよ?」

憩「ウチの意思……?」

憩「あはっ、よくわかりますね。まさにそうです。そっか……ほな、決勝前に話す理由がほしかったんですかね。この一人神経衰弱――ミスったら即報告やったから」

憩「完敗ですわー」

憩「へ? なんですか?」

憩「それは……」

憩「……そんなん、謝ることちゃいますよ。全然ちゃいます。あのとき宮永照に負けたんは、全部ウチのせいです。
 ほんで、そのあとあなたから逃げたんも……ウチが弱かったからです。何もかも、ウチのせいなんですわ。ごっちこそ、ホンマに、ごめんなさい」

憩「……そうですね。その通りです」

憩「なんですか……?」

憩「……知ってますよ。ほんで、忘れませんよ。ウチには《悪魔の目》と完全記憶能力がありますから……」

憩「こっちこそ、おおきにです。おかげで、なんの憂いもなく、全身全霊で、決勝戦に臨めますわ」

憩「おおーぅ、恐い恐い。せやけど、その台詞、そっくりそのままお返ししますわ。たとえ宮永照が相手でも、花田さんが相手でも、あなたが相手でも、勝つのはウチらです」

憩「……あの」

憩「この、一人神経衰弱。《第一不確定性原理》の正当性を実証するためのものやったんですよね」

憩「ほな……あなたにとって、ウチはもう、用なしっちゅーことですか?」

憩「あははっ……すんません。ちょっと、不安の虫が、やかましゅうて。ぶっ殺してくれて、ありがとうございます」

憩「ええ。またあとで――」

 ピッ

憩(負けられへん理由が……また一つ、増えたで)スゥ

憩「ほな、張り切って行っきましょーぅ!!」ゴッ

 ――決勝戦当日朝・小走ラボ(side-やえ)

やえ(昨日一日で、なんとか集められるだけの材料は集めた。先生方にまで協力を仰ぐのはフェアじゃない気もするが、人脈もまたニワカには真似できん私の力。
 相手は《絶対》なる《最強》。魔術世界の総体であるネリーすらねじ伏せる《怪物》。対してこっちは無能力者。これくらいは許せ……)

 カタカタ

やえ(能力は能力者の根幹を成す論理。それがそういう能力であることには必ず理由がある。花田煌の《通行止め》も例外ではない。攻略しようと思えば、何はともあれその能力者について知らねばならない)

やえ(私の仮説が正しければ、超能力者の論理も完全ではありえない。それそのものを《無効化》することは可能なはずなんだ。
 だから、問題は《予備危険性の排除則》に拠る《絶対》――《リジェクト効果》をどうやって突破するか。合宿で渋谷の《ハーベストタイム》を聞いたネリーは……『わからない』『知らない』と言っていたが――)

やえ(論理の不完全領域を、強い想いによって覆い、そこを脅かす可能性を事前に潰してしまう。レベル5の精神力――《絶対》の源。それは思い出であり、実りであり、約束であり、未来であり、勝利であり、世界の力……。
 レベル5の心の真ん中にある譲れない《絶対》。花田煌の根幹にあるものが……果たしてなんであるのか)

やえ(その闇を照らし出す光となるかもしれないのが……この『星』)ペラッ

やえ(花田煌と大星淡――《超巨星》と《超新星》。あの二人が出会ったのは偶然ではないのだろう。互いに互いを引き寄せあった。或いは、引き合わせる思惑もあったのだろうか……)

やえ(この『星』の輝きなら、《超新星》になりたかった《重虚星》――花田煌を、闇から引っ張り出すことができるように思う)

やえ(ただ、困ったことに、今のところ確証できる材料が何一つないんだよな。仮説は仮説。文字通り、こんなのは机上の空論だ。不確定要素が多過ぎる……)

やえ(そして、ぼやぼやしていると、世界が閉ざされてしまうかもしれない。というか、そもそも『世界が閉ざされる』とはなんだ。一体何が起こるという——)

 プルルル ピッ

やえ「おう、岡橋か。二回戦以来だな」

初瀬『お世話になりました。先輩は、今日、決勝ですよね。頑張ってください。木村先輩たちと応援しに行きます』

やえ「有難う。大会が終わったら、また《晩成》のみんなで食事でもしよう」

初瀬『お小遣い溜めておきますね』

やえ「少しくらいなら出すよ」

初瀬『いえいえ、それには及びません。と、それで、お忙しいと思うので、いきなり本題なんですけど』

やえ「どうした?」

初瀬『先輩、最近は都市伝説チェックしてますか?』

やえ「いや、チームを結成してからは、そっちのことで頭がいっぱいで、ずっとほったらかしにしていた。何かあったのか?」

初瀬『はい。一昨日の準決勝見ました……大将戦、凄まじかったですよね』

やえ「まあな」

初瀬『あれを見て、ちょっと気になったことがあって……昨日寝る前に、やっと繋がったんです。的外れだったらごめんなさいなんですが、どうしても先輩に伝えておきたくて』

やえ「なんだ?」

初瀬『最近、学園都市に《神様》が出るそうなんです』

やえ「ふむ……?」

初瀬『ピンチになると助けてくれる《神様》。選別戦の頃からぽつりぽつりと話題になってて、私の周りにも、この一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で、《神様》に助けてもらったって、そういう子がたくさんいるんです』

やえ「具体的に、その《神様》は何をしてくれるんだ?」

初瀬『トびそうになった人を守ってくれるんです』

やえ「…………続けてくれ」

初瀬『点棒が尽きてくると、いくら危険牌を切っても振り込まなくなったり、運良く他家同士で打ち合いになったり、流局になったりするんです。
 中には、能力で狙い撃ちされそうになって、もうダメだ、と思った瞬間に、相手の能力に原因不明の《無効化》が起きて事なきを得た——なんてケースも……』

やえ「いつからだ。いつから、その《神様》は現れるようになった?」

初瀬『遡っていくと——どうも五月の上旬くらいからみたいです』

やえ「そうか……」

初瀬『気付いたのが昨日の夜なので、まだ検証はできていないんですけど、少なくとも、私の知る範囲、私の友達に聞く範囲で、この数ヶ月、個人戦でトんだ人の数、団体戦でトんだチームの数は、まったくのゼロです』

やえ「そう……か……」

初瀬『先輩……私は、これ、あの《通行止め》の人と、何か関係あるんじゃないかと思うんです。ご存じのことだったら、すいません。でも、どうしても、先輩に話しておきたくて……』

やえ「貴重な情報を有難う。不明にも、今の今まで知らなかったよ」

初瀬『大事な日の朝なのに、変な話をしてすいませんでした』

やえ「いや……本当に、感謝する。助かった」

初瀬『そう言っていただけると……。あの、先輩』

やえ「なんだ?」

初瀬『この街で……今、何が起きてるんですか? 私……その、恐くて――』

やえ「大丈夫。その恐怖は幻想だよ、岡橋」

初瀬『先輩……』

やえ「お前が今感じているそれは、必ず私が殺してやる。だから、何も気にするな。できることなら、私以外の誰にも言わないように。できるか?」

初瀬『はい……先輩がそう言うのなら』

やえ「よかった。じゃあ、今日は応援よろしくな。みんなにもそう伝えてくれ」

初瀬『はい。頑張ってください。では、朝早くに失礼しました……』

やえ「おう」

 ピッ

やえ(そういうことだったのか……予選の結果を集計したときに覚えた違和感。もっと突っ込んで対処すべきだったのか。まさか、とっくの昔に世界が閉ざされつつあったなんて――)

 カタカタ ピコン

やえ(……岡橋の言った通りだ。五月上旬――花田煌が学園都市にやってきたその日から今まで、少なくとも、公式戦ではトビ終了が起こっていない。
 選別戦も予選も、千以上のチーム、数千人の個人が街のあちこちで対局をしている。なのに、団体戦でトんだチームも、個人戦でトんだ人間も、まったくのゼロ。最もトビに近かったと思われるのは……これか。チーム《劫初》の予選決勝——三チーム0点での天江の和了り止め……)

 カタカタ ピコン

やえ(科学者としての態度を貫くなら、まだ断定はできない。私の目の届かないところで、トビが起こっている可能性も、当然あるからだ。プライベート対局や、練習対局等、誰かがどこかでトんでいるかもしれない。
 ただ……望みは薄いだろうな。少なくとも、私たち《幻奏》の練習では、トビ終了は起こっていない。《煌星》との合同合宿もそうだ。覆面対局は——と、これも、トビ終了ナシか……)

 カタカタ ピコン

やえ(……本選の団体戦においては、半荘一回の失点が一時的にでも25000点を下回った個人がいないという徹底ぶり。花田煌の対局に見られるのと全く同様のルールが、花田のいない卓でも敷かれている。
 こんなもの……『偶然』――古典確率論で説明がつくはずもない。それ即ち、意識的確率干渉――能力《オカルト》……)

やえ「は」

やえ「ははは」

やえ「ははははははは」

やえ「ははははははははははははははは」

やえ「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 ペチンッ

やえ「……ふぅ」ヒリヒリ

やえ(まったく……あと一歩でどうかしてしまうところだったじゃないか。危ない危ない。にしても……いや、本当に、これは参った。確かに、そういう視点で見れば、不自然な点はいくつもあったな……)

 カタカタ ピコン

やえ(C・Dブロック三回戦——《頂点》対決の個人収支……先鋒戦前半、宮永・+24800、ネリー・+24700、竹井・−24600、初美・−24900。同じく、先鋒戦後半——宮永・+24200、ネリー・+24100、竹井・−23900、初美・−24400)

 カタカタ ピコン

やえ(同じC・Dブロック三回戦なら、暴食の宴もそうだ。大将戦前半、セーラ・+24100、愛宕・+24100、鶴田・−24100、臼沢・−24100。
 それに——ああ、後半で愛宕が鶴田の三倍満に振り込んでいたのもそうか。あいつらしくないなとは思っていたが……それも、あのときの点数状況を見れば謎が解ける。
 あの時、24000点の直撃を受けても個人収支がマイナス25000点を割ることがなかったのは、愛宕だけ。鶴田の《絶対》による三倍満出和了りと、《神様》に拠る干渉——道理で避けられなかったわけだ……)

 カタカタ ピコン

やえ(或いは、A・Bブロック三回戦——ランクS激突もそうだな。副将戦後半、神代・+63000、天江・−16000、大星・−23000、石戸・−24000——)

やえ(細かく見ていけば……そういうシーンは無数にある。《神様》による干渉——トビ終了を《通行止め》にする《絶対》の点棒操作。
 個人なら25000点、チームなら100000点を超える失点が《絶対》に起こらない。個人なら75000点、チームなら400000点を超える得点が《絶対》に許されない)

やえ(限られた枠の内側で点棒のやり取りをする……閉ざされた麻雀。私たちは、この数ヶ月、ずっとそんな麻雀を打たされていたのか。
 一軍《レギュラー》を目指して……自由に覇を競っていたつもりだったんだがな。それらは全て幻想だったというわけか——)

やえ(だとすれば、昨日の大将戦なんか——ひいては準決勝そのものが——もう、やる前から結果は出ていたんじゃないか。
 花田は《リジェクト効果》によって一半荘最大75000点を稼げる。試合が大将戦まで進めば、よほど極端な点数状況じゃない限り、《煌星》が負けることはない。
 そして、《神様》によって個人・チームともにトビが起こらないよう干渉されていた以上、たとえどんなに苦しい展開が続こうと、《煌星》が途中でトぶこともない。《神様》の導きによって、《絶対》に大将の花田煌まで回る……。
 踊らされたもんだな。昨日の試合で《煌星》のトビ終了を意識しなかった者などいまい。今トばせば勝てる。今トばれるわけにはいかない。誰もがそういう『可能性』を考慮して打ち回していた。そこへ至る無限の道程が既に閉ざされていたとも知らずに……)

      ――いずれにせよ、あの天和は絶対にありえない。

やえ(ああ、そうか……ネリー、お前は、学園都市に入り込んだあの瞬間から、既に喰われていたんだな。なぜあのときに気付けなかった。運命論者の信じるものは『可能性』。なのに、あいつは私の天和をありえないと決め付けた。
 明らかに運命論者にあるまじき発言じゃないか。あいつらの世界に超能力者は原則的に存在しない。あいつらの世界に《絶対》はないんだ。
 それを、あろうことか、運命論の象徴である運命奏者《フェイタライザー》が口にしている。イカサマ云々に気を取られて、異常に気付くことができなかった。なんたる不覚)

やえ(花田煌が学園都市に来てから、私の知り得る範囲でのトビは、あのイカサマ天和だけ。しかし……それも、もう不可能なのかもしれない)

 カタカタ ピコン

やえ(恐ろしいことに……この《神様》、予選終了の時期を境に、ネット麻雀にも現れているようだな。
 機械も物質であり確率の元に動いている以上、能力に拠る干渉は受ける。しかし、白糸台のネト麻はデジタル論研究のための素材でもあるから、牌の存在波が純古典確率論的になるよう、そのサーバーは確率干渉遮断防壁――何重もの電磁防壁と、緩衝材である《不晶体》で守られている。
 が、それも《神様》によって突破されたということだ。驚くべきことに露見すらしていない。こんなふざけた規模の確率干渉……宮永や神代でも不可能だぞ。まして、ランクFの花田煌個人では到底不可能)

やえ(これが世界と共振するということなのか。この学園都市全体が、花田煌の支配領域《テリトリー》と化している。どの雀荘、どの卓、どのサーバーも、例外なく。こんな……こんなことが――)

 コンコン

やえ「……どうぞ」

 ガチャ

智葉「失礼。邪魔するぞ。……ネリーは?」

やえ「一昨日から片岡のところに預けている」

智葉「そうか」

やえ「で、何の用だ? 《通行止め》のことか?」

智葉「まあな。一応、お前の耳にも入れておけと。メグが」

やえ「《魔女狩りの王》か。こっちは完全に手一杯だが……まあ、聞こう」

智葉「一昨日の準決勝を受けて、魔術世界が戦争の準備を始めた」

やえ「なるほど……」

智葉「私に、ネリーを連れて学園都市から出るよう指示が来ている」

やえ「花田煌ごとこの街を焼き払おうというのか?」

智葉「私が指示に従えば、そうなるな」

やえ「で……お前はどうするつもりだ、《背中刺す刃》」

智葉「……荒川に釘を刺されてな。断ったよ。花田煌の命を絶つのは容易いし、それが確実なのも理解している。だが、それは、正しい道ではない」

やえ「だな。清水谷もきっとそう言うだろうさ」

智葉「ああ」

やえ「それで、魔術世界側はどうすると?」

智葉「少なくとも、決勝が終わるまで、あちら側は一切の干渉をしてこない」

やえ「世界が閉ざされることになってもか?」

智葉「この世の全ては天上の神の手の平の上。閉ざされてしまったのなら、それもそれで運命。
 呪うべきは花田煌でも運命喪者《セレナーデ》でもなく、その運命に抗えなかった我々の弱さだ――と言ったら、多少は理解を示してくれた」

やえ「そうか……」

智葉「ここで花田煌を殺しても、何百年後、何千年後かは知らんが、またいつか、あいつに代わる運命想者《セレナーデ》が現れる。
 私は、これは、業なんだと思う。かつて一人の運命喪者《セレナーデ》を亡き者にした報い。ここで負の連鎖を断ち切る以外に、真の意味で世界を絶望から守る術はない」

やえ「ふむ……」

智葉「……メグには、お前がなんとかするはずだ、とも言っておいたぞ、《幻想殺し》」

やえ「そのつもりではいる」

智葉「道は――可能性はあるのか?」

やえ「人事は尽くした。天命を待つしかない」

智葉「お前らしい解答だな」

やえ「負けられない理由も、着々と増えつつある。個人的な理由から、対人的な理由、そして、対世界的な理由まで」

智葉「……ということは、何か明白な事実を突き止めたんだな?」

やえ「ついさっき、な。戦慄したね……」

智葉「やはり……既に手遅れだったか……」

やえ「世界と共振し、世界を閉ざす運命想者《セレナーデ》——どうにも要領を得なかったが、ようやく私にもわかったよ。
 運命想者《セレナーデ》は、その支配領域《テリトリー》を、卓上《セカイ》から街《セカイ》へ、街《セカイ》からこの星全体《セカイ》へと、拡大していくことができる——そういうことなんだろう?」

智葉「いかにも。運命想者の甘美なる旋律は、この世の全ての人間と共振することができる。
 感応系能力者の中には、同系統の能力者の《パーソナルリアリティ》と共振し、その《意識の偏り》をトレースしてそのまま跳ね返す《能力反射》の力を持つ者がいるが、理屈はそれと似ている。
 この世の人間なら誰もが持っている自分だけの現実《パーソナルリアリティ》と共振し、その《意識の偏り》を自身と同値のものに塗り替え、強制的に《能力添加》をする。
 ここに系統の垣根、或いは雀士か否かの区別はない。運命想者《セレナーデ》の旋律は完備だからだ。
 言わば、自身の想いに他人を共感させ、その人間を自身の分身とするわけだな。共感は共感を呼び、いずれは世界全体が花田煌の支配領域《テリトリー》となる」

やえ「他人の《パーソナルリアリティ》を喰らって我が物にできる……か。世界の全ての人間が花田煌の端末と化せば、事実上、あいつは《絶対》に尽きることのない《世界の力》とやらを丸ごと扱えることになるだろうな。
 そんな規模で《通行止め》を発動されたら、それはもう、それが世界の理になる。そこから抜け出すことは誰にもできん。誰もその先へと進めなくなるわけだ。
 でもって、ネリー曰く、この世界は既に閉ざされているらしいじゃないか。それは、つまり——」

智葉「ああ。ひとたび世界規模の共振が起これば、それは、花田煌本人がこの世からいなくなっても、止むことはない。運命喪者《セレナーデ》の残響は、永久に世界を閉ざし続けるんだ」

やえ「本来あるべき可能性——運命を、永久に断絶し、世界から喪失させる……ゆえに、運命喪者《セレナーデ》、か」

智葉「花田煌が具体的にどう世界を閉ざしているのかは知らん。しかし、どういう類の喪失にしろ、あいつが運命喪者《セレナーデ》となれば、この世界にまた新たな《禁書》が誕生することになる」

やえ「……なるほど。目にしただけで発狂するとは、誇張でもなんでもなかったのだな。閉ざされた後の世界の人間が、閉ざされる前の世界の麻雀を見れば、そりゃ気も狂れるってもんだ。さっき身を以て体験したからよくわかるぞ」

智葉「これ以上、運命奏者《フェイタライザー》——ネリーに重荷を背負わせたくない。喪われた運命……《禁書》など、たった一冊で十分だ」

やえ「ああ、私も同意する」

智葉「頼むぞ、《幻想殺し》。お前がしくじると、世界が終わるばかりか、お前を推した私の面子が丸潰れになる」

やえ「後者は死ぬほどどうでもいい」

智葉「……ネリーと宮永と荒川以外で、公式戦で私に土をつけたのは、この広い世界で唯一、お前だけだ」

やえ「三年も前のことだろう。当時は誰もがどこかに幼さを抱えていた。今は違う」

智葉「だとしても、だ。かつて《王者》と呼ばれた者よ。思い知らせてやってくれ。あの新参の転校生に、この街の強さを」

やえ「……ああ、任せとけ」

智葉「用は以上だ。また試合会場で。ネリーにもよろしく言っておいてくれ。では、私はこれで失礼する」

やえ「おう、またな」

 タッ ガチャ

やえ(なんてこった……《通行止め》による世界規模の共振——新たなる《禁書》の誕生。それは……つまり、この世から『トビ終了』が永久に喪われるという解釈でいいんだよな。現象としても概念としても消えてなくなり、知ってはいけない《禁忌》となる、か。
 しかも、この世には既に、かつて喪われた《運命》があるだと……? わからない。思い当たるところもない。思いつきもしない。生まれてこの方、麻雀は自由で無限なゲームだとなんの疑いもなく信じてきた……。
 しかし、どうやら、それもまた幻想だったらしい。私が生まれる遥か以前から、本来あるべき何かしらの可能性が、閉ざされていた。で、ネリーだけが……『それ』を知っている、と。
 なんだこれは……オカルトにも程があるぞ。それでいて、能力論的にありえないことではないから性質が悪い)

やえ(運命想者《セレナーデ》……世界の全人類と共振できるほどの『想い』を持つ者。それが絶望に変わるとき、世界は閉ざされる。その残響が鳴り止むことは永久にない。
 だとすれば、花田煌の根幹にあるのは、普遍的で、いつの時代、どこの世界であろうと、ヒトなら誰しもが持ち、一人残らず共感する、恐ろしく強い『何か』ってことになるよな……)

やえ(その幻想を……私は殺さねばならんのか……)

やえ(ああ、いかんいかん。どうにも落ち着かない。紅茶でも淹れよう――)

 ヒュルヒュル コポコポ

やえ(ともすると、今日が一軍《レギュラー》を決める最終戦であることを忘れてしまいそうになる。できることなら、花田煌とは無関係な、他愛のない話をしたいものだが……)

 プルルル

やえ(ははっ……あいつめ、まるで計ったようじゃないか——)

 プルルル ピッ

やえ「おはよう」

やえ「ああ、大丈夫だよ。ティータイム中でな、ちょうどお喋りの相手がほしかったところだ」

やえ「ほう。さては、一人神経衰弱で見間違いが起きたか?」

やえ「受け止めるも何も、それが『原理』なんだよ。数学的に証明されているんだから、覆ることはない。ただ、お前は《特例》の《悪魔》だからな……もう五十年後くらいになると思っていたよ」

やえ「人は誰もが自分だけの現実《パーソナルリアリティ》を持っている。お前はランクFのレベル0で、その確率干渉力は、限りなくゼロだ。
 しかし、きっかりゼロには決してならない。お前の意思は、ほんの僅かだが、世界に影響を及ぼす」

やえ「例えばだが、見間違いの直前に、私のことを思い浮かべたりはしなかったか?」

やえ「《第一不確定性原理》VS《悪魔》。やっと決着がついたな。これで、晴れて原理の正当性は実証されたわけだ。《特例》を退けた以上、もう恐いものなどない」

やえ「……そう言えば、荒川。ネリーから聞いたんだが」

やえ「宮永の超能力――《八咫鏡》。あれに関して、私の分析は間違っていたというのが、つい最近わかった。悪かった。ネリーが耳を疑ったように、お前も目を疑ったんだろう?」

やえ「私の見立て違いで、お前に余計な動揺を与えてしまった。何もかも私が悪かったんだ。本当に……何もしてやれなくて、辛い思いをさせて、すまなかったな」

やえ「まあ……前向きに考えよう。あの過去があって、この今があると思えば、それもそれで悪くない」

やえ「……一つ、念を押しておくぞ、荒川」

やえ「お前は《特例》だ。お前という存在は、たった一人しかいない。過去にもいなかったし、未来に現れることもないんだ。それを、よく覚えておいてほしい」

やえ「よかった。有難う」

やえ「悪いが、勝たせてもらうぞ。容赦は一切ナシだ。覚悟しておけ」

やえ「楽しみにしている」

やえ「ん、なんだ?」

やえ「ああ……そうだな」

やえ「莫迦者。さっき言ったことをこの刹那に忘れたのか。これまでもこれからも、お前は私の《特例》だ。決まってるだろ」

やえ「じゃあ、また、試合会場でな」

 ピッ

やえ(負けられない理由が……また一つ、増えたな)フゥ

やえ「さて、そろそろ行くとするか――」ゴッ

 ――決勝戦当日朝・白糸台寮(side-淡)

 ピピピ ピピピ

淡「おはよーございまーすっ!」ガバッ

淡「む……さては今日は雨だな?」ウネウネ

淡「ねー、キラメー、あとで髪とかし——あれ? え? キラメがいない!?」アワワワ

淡「えーっと……あった、書き置き。ふむむうー、この雨の中を朝の散歩かぁ。変なフラグ立てなければいいけど、ま、決勝だし大丈夫かな……? とりあえず、シャワー浴びてこよー」

 タッタッタッ シャワー

淡「ふーっ、さっぱり! これならいい感じで打てそう!!」ゴッ

淡「うー、キラメ早く帰ってこないかなー」ウロウロ

淡「……む。こんなところに怪しげな魔術書。《ほうのしょ》がなんちゃらって言ってたよね、確か」ジー

淡「キラメは面白いって言ってたけど……ホントなのかな」ペラッ

 ハラッ

淡(およ? 封筒……? ああ、キラメの出したお手紙、お母さんからお返事が来たんだ。封も開けずに栞代わりに使うとか、キラメってば意外とそういうとこテキトーだよねー。ま、とりあえず、元のページに戻しておこっと……)ヒョイ

淡「…………ん?」

淡(宛名がキラメじゃないっていうか、差出人がキラメになってる? 『あて所に尋ねあたりません』? え? じゃあこれってキラメが出したのが戻ってきたってこと? でもお家のお母さんに出して届かないはずないよね? それとも、自分のおうちの住所間違えたの?
 あれ? ってかこの住所って魔窟だけど? え? キラメって中三のときに引っ越したんだよね……?)

淡(……そう言えば、この封筒と同じのを、前に見たことがある。ちょっと早く目が覚めたとき、キラメが机の前に立ってて、これを引き出しに入れてた。
 なんだか悲しそうな表情だったから、おはようとも言えずに、そのまま寝たフリしたけど……まさか――)

淡(…………ごめん、キラメ!)

 ガラッ

淡「うあ……!?」ゾクッ

淡(なっ、なにこれ!? 引き出しの中がお手紙でいっぱい……!! これも! これも! これもこれも!? 全部魔窟宛に出して送り返されてきたやつじゃん!! なんで!? どういうこと……)

淡(ジュンって読むのかな。この人、キラメのお母さん……なんだよね。
 キラメは……たぶん、引っ越す前の住所に、お母さん宛で手紙を書いて、でもそこにはお家がないか別の人が住んでるかしてて、手紙は送り返されてきて、それでも……ずっと、転校してきてから週一ペースで手紙を書き続けてる……?
 いや、違う……もっと古い消印のやつもある。これは去年……これは一昨年——ってことは、引っ越してからずっと、って感じなのかな。一体何がどうな――)

 コンコン

淡「あー!? ちょ、ちょっと待って!! いま生まれたてだからー!!」

煌『おやおや。わかりました。少し待ちますね』

淡「えへへ! ごめんっ、すぐ服着るー!!」

 サッ ガサゴソ

淡「どぞー」

 ガチャ

煌「失礼、間が悪かったですね」

淡「ううん、こっちこそごめんね」

煌「いえいえ、いつぞやのほうが驚きましたよ。何気なくドアを開けたら淡さんが私のベッドで」

淡「それはマジ忘れてー/////!!」

煌「完全に忘却すると、同様の悲劇が繰り返されることになりますが?」

淡「べっ、別にいつもいつもやってるわけじゃないもん! 気配感じたらやめてるもん!! 何食わぬ顔するもん!!」

煌「困った子ですねぇ」

淡「このお年頃ならフツーなのっ!!」

煌「……そうですね。淡さんは生い立ちも生い立ちですし、恋しくなりますよね。私でよければ、いつでも淡さんのマ」

淡「ぎゃー!! それ以上言わないー!!」

煌「失礼しました。淡さんの反応が楽しいので、つい」

淡「もうっ!! キラメ、最近、性格がたくましくなり過ぎだよ!!」

煌「素が出てきただけですよ。淡さん以外にはここまであけすけな態度は取りません」

淡「喜んでいいのやら悪いのやら」

煌「さて、それはそれとして、身支度が整っているようですし、食堂に行きますか」

淡「うん。そうだねっ」

煌「では――」

淡「あっ、キラメ……」

煌「……なにか?」

淡「二回戦の朝さ、キラメ、お母さんにお手紙書いてたでしょ? 私も書いたやつ。あれ、もう出した? お返事、来た?」

煌「ええ。その日に出して、一昨日に返事が来ましたよ」

淡「私のこと何か言ってた? 読みたいなーっ!」

煌「では、決勝が終わったあとでよろしいですか? ちょっと魔術書に埋もれていて、今探すと埃が立つかもしれません」

淡「ふむぅ。キラメ、本読むのはいいけど、ちゃんとこまめにお片付けしなきゃダメだよ」

煌「すいません。昔から、読み散らかしては母によく叱られました。掃除は好きなのですが、整理整頓が苦手なのです」

淡「そうだね。私がやってあげないと、キラメ、ひたすら本を積み上げていくもんね」

煌「淡さんのそういうところ、母によく似ています。とても助かっていますよ」

淡「キラメのお母さん……時間が出来たら、会ってお話してみたいなっ!」

煌「では、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》とインターハイが終わって落ち着いたら、私の里帰りについてきますか?」

淡「それちょー素敵! いいね、そーする!!」

煌「わかりました。……っと、あまり立ち話をしていると、朝食を慌てて食べることになってしまいます。行きましょう」

淡「はーい!」

 タッ パタンッ ガチャ タッタッタッ

淡(……そっか。あの手紙は、嘘をついてまで隠すくらいのことなんだ。あのキラメの嘘。しかも、素が出るくらいには心を許しているはずの、私に対して……)

煌「♪」

淡(それに……キラメってば、散歩に行ってたはずなのに、どこも雨に濡れてない。外には出てないんだ。じゃあ、さっき帰ってくるまで……どこで何をしていたの……?)

淡(……わからない。そして、思っていた以上に根が深そう。でも、きっと、キラメなら、いつか話してくれるはずだよね……? キラメを……信じよう。今は、試合に集中しなきゃ――)

淡「キラメ!」

煌「はい、どうかしましたか?」

淡「今日の決勝、勝とうねっ!」

煌「もちろんです。私たちは負けませんよ、《絶対》に」

淡「うんっ!!」

 ――試合会場・観戦室

洋榎「ちゅーわけでー!! 来たで、観戦!!」

憧「朝っぱらからうるっさいわね、あんた」

白望「眠い……ダルい……早く席着きたい……」

久「ふふっ。予定より早く開けてもらったから、まだ誰も来てないわよ。好きな席で見るといいわ。こういうときに、学生議会長って肩書きは便利よねぇ」

 バァン

初美「おいコラ竹井! 職権乱用するなですー!!」ゴッ

久「あら、おはよう。というか、なんで薄墨がこのタイミングで死霊を連れてやってくるるわけ?」

初美「もちろん席取りですよー。フライング開場は白水さんに聞いたですー」

憧「あっ……あの、風紀委員長さん。哩って、鶴田先輩の介抱してるんですよね。鶴田先輩は、その、大丈夫ですか?」

初美「……大丈夫じゃねーですよー」

憧「そう、ですか……」

 キャッキャッ ウフフ

姫子「ちょお……先輩、どこ触っとっとですかぁ///」モジモジ

哩「こうすっと、歩きやすかとやろ……?」サワサワ

姫子「そーとですけどぉ、あぁん、そこっ!」ビビクンッ

哩「どげんしたと、姫子? 変な声ば出して」サワサワ

姫子「先輩がぁっ、出させとっとですぅ……////」

 キャイキャイ

初美「あの通り頭が大丈夫じゃないですー」

憧「なるほど。よくわかりました」

 バタバタ

和「初美さんっ! 逃げないで取り締まってください!! あの方々は存在が公序良俗に反していますッ!!」

初美「レベル5の絆は《絶対》だから無理ですー」

和「SHAッ!! そんなヘンタイありえません!!」

憧「朝からやってるわねぇ。おはよ、和」

和「あ、憧ですか……」

憧「まあ、気持ちはわかるけど、あんま堅いこと言わずに放っとけばいいじゃん。あんなことがあった鶴田先輩が元気でいられるのは、どう見ても哩のおかげなわけだし」

和「そ、それはそうですが――」

久「おはよう、原村さん。三回戦ぶりね。元気してた?」

和「まあ……」

憧「ちょ、ちょっと、久、和に挨拶しながら私にイタズラしないでよ。こら、だからぁ、バカ……こんなとこで///」モジモジ

久「いいじゃない。あなた、これ、好きでしょ……?」サワサワ

和「SHAんんんんんんんんん!!」

怜「まーまー、和。そんな叫ばんとー」バサァ

和「」

 ザワザワ

姫子「あ、見てくださいとです、哩先輩。あんなところに露出狂のおっとです」

哩「こいなとこで……場ば弁えん変態とね」

 ザワザワ

憧「和、あんたって結構大胆なのねぇ……」

久「まあ、私は否定しないわよ。趣味は人それぞれだものね」

 ザワザワ

絹恵「あ、おはよー、お姉ちゃん。ん、和……?」

洋榎「絹、見たらあかん。あれは変態や」

 ザワザワ

和「……っ」ワナワナワナワナ

怜「いやー、どーも皆さん、お騒がせし」

 ドガシャアアア

怜「」プスプス

和「もう怜さんなんて知りませんッ!!」

初美「どいつもこいつも朝からうるせーですよー」

巴「まあまあハッちゃん。これも学園都市らしくていいじゃない」

初美「己の守るべきものに疑問を抱く今日この頃ですー」

 タッタッタッ

友清「姫子せんぱああああい!!」フライングアターック

姫子「ほあおあっ!? ちょ、こら、哩先輩の見とう前でなんばっすっとね!!」ゴンッ

友清「おお……こん痛み。姫子せんぱい、かなり元気になったとですね! よかったとですっ!!」

哩「ん、友清と狩宿のおるてことは――」

美子「哩……あんた、この間謝りに来たとき約束したことば覚えとうやろね……?」ゴゴゴゴゴゴゴ

仁美「ベスト8止まりやった哩は、今日一日《新道寺》専用のパシリと。そいたら、ちょっと喉の乾いたけん、私と美子と姫子と友清のジュースば買ってきんしゃい」ゴゴゴゴゴゴゴ

哩「うぐ……わかっとうばってん、私は姫子の――」

友清「行ってらっしゃいとです、白水せんぱい! 姫子せんぱいは私がお預かりすっとですけん!!」ニパー

哩「姫子ぉ……美子らのいじめるぅ……」ウルウル

姫子「哩先輩、ついでに、こん鎖つきのメイド服に着替えて来てくださいとです」ニコッ

哩「そ、そいで姫子の悦ぶなら……////」

美子「仁美、ダメと、なにやらせてもあの二人やとご褒美にしかならん」

仁美「もう慣れたと」

友清「まだちょっと引いてしまう私は《新道寺》失格とですか……?」

 ガヤガヤ

一「あれ……なんか、服、被った?」

智紀「鎖つきメイド服が被るとは」

未春「恐るべし、変態の街」

星夏「深堀先輩、私も何か、キャラ付けをしたほうが強くなれるんですかね?」

純代「いや、それはない」

華菜「あーっ! みんなーこっちだしー!!」ダッダッダッ

未春「華菜ちゃんっ!」

華菜「今日は福路先輩がクッキー焼いてくるって!!」

純代「聖母!」

星夏「では、早くお席を確保せねば!!」

 ザワザワ

久「ちょっと、薄墨、どこまで広まってんのよ」

初美「私は巴にしか言ってねーですよー」

 バァン

浩子「うちの情報網を甘く見ましたね、委員長! フライング開場くらいばっちりお見通しですわー!」

灼「立ち聞きしただけで偉そ……」

絹恵「あ、お姉ちゃん、浩ちゃんたち来たでー」

洋榎「そうか。ほな、ちょっとお手洗いに」

恭子「行かせませんよ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

由子「のよー」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

洋榎「おお、恭子に由子っ! 謝り参りぶりやな!」

由子「この人まったく反省の色が見られないのよー」

恭子「まあ、せやろとは思ってたわ。っちゅーわけで、《新道寺》に倣って、ベスト8止まりやった主将には罰としてこの際どいメイド服を着てもらいます」ババーン

洋榎「まあ別にそんくらいええけど、うちよりほら、漫のほうが似合うんちゃう?」ニヤッ

恭子「……なるほど。さすが主将はええこと言いますね」ニヤッ

漫「………………え?」

由子・絹恵「」ポンッ

漫「ええええええええええ!!?」

恭子「漫ちゃん、ちょっとお手洗いでお着替えしてこよかー」ワシッ

漫「なんでやあああああああ!?」ズルズル

 ガヤガヤ

玄「およよ、漫ちゃん……?」

透華「一、智紀! わたくしの席は確保してありまして!?」

一・智紀「こっちー」

豊音「わっ、シロだ! シロ、はい、起きた起きたー!!」ユッサユッサ

白望「豊音……」

豊音「クルミもつれてきたよ!」

胡桃「充電! 充電っ!」チョコン

白望「この理不尽さひさしぶり……」

久「おはよ。あなたたちも来たのね、《アイテム》」

玄「これはこれは竹井学生議会長。いつぞやはどうもなのです」

久「神代さんは大丈夫なのかしら?」

玄「今は石戸さんと一緒で、フライング開場のことを伝えたら、《豊穣》の皆さんと来ると」

久「そう。大事ないようでよかったわ」

泉「よう、憧。ここで会ったが百年目やで!」ゴッ

憧「今日は観戦でしょ……? あんたってホント生き急いでるわよね。和と同じで」

和「どういう意味ですか、憧!?」ボコボコ

怜「の……和……そろそろうちも限」

 ボコッ

怜「」

泉「原村ー!? 自分、なにしとん!!」

和「学園都市の風紀を守るために戦っています!!」

久「まあまあ原村さん。そのくらいにしてあげたら?」

和「言っておきますが、これが終わったら次は竹井会長の番ですよ!」メラメラ

久「勝ち気な子ねぇ。生意気盛りの子猫ちゃんには、こうしちゃうわよ~」ワキワキ

和「ふぁあん……っ!?」ビクッ

玄(いやらしさと親しさのちょうど境界を行くような大胆にして繊細なボディタッチ!!
 あのおもちを前にして、あえてセオリーを外し、確実に凝っているはずの首筋から肩にかけてを撫でるようにマッサージ!! これが《スクール》のリーダー……できるっ!!)

久「うふふ。こっちでお茶でもしながら科学《デジタル》と能力《オカルト》についてお話しない? 少なくとも、今のあなたよりはずっと文明的だと思うわ」

玄(セクハラ紛いの行為をした直後に不意打ちで知性と大人の落ち着きをアピール!! この絶妙な手練手管! 直情型ツンデレの原村さんには効果抜群なのですっ!!)

和「……いいでしょう。個人的に、あなたに言いたいことがたくさんあります。ちょっと向こうに行きますか」

憧・怜「えっ」

久「じゃ、そういうわけで、あとは頑張ってね、憧~」

憧「ひ、久ー!?」

玄「チーム間交流も大事なのです、新子さん。あなたのお話は泉ちゃんからよく聞いてるですよ。私でよかったら、お話相手になるけど?」

憧「《ドラゴンロード》……」

玄「玄でいいのです」

憧「……じゃあ、私のことも憧でいいわよ。敬語もナシで。初対面のアレがあるから、あんたのノデス口調は恐くてしょうがないの」

玄「わかった。よろしくね、憧ちゃん」ニコッ

憧(あれ……? 思ってたより可愛いぞ、この人……///)

久「憧~、浮気しちゃダメよ~」

和「竹井会長、余所見しないでください。ここの赤五切り! これについて論理的な説明を要求します」クイッ

久「はいはい、わかってるから引っ張らないで。和は寂しがり屋ね」ナデナデ

和「んなあっ……/////」

憧(久、あんた棚上げ過ぎるわよ……)

泉「大丈夫ですか、園城寺先輩」ダキオコシ

怜「おおぅ……二条さん。おおきに」ボロ

泉「ひどいやられようですね。っとに原村のやつは上級生相手に……!!」

怜「まあ、和はあれでええねん。それより、どっかにええ感じの枕とかないかな……?」

泉「医務室行けばあると思いますけど。あとは膝枕か。ただ、うちのはちょっと微妙ですよね」

怜「そやな」キッパリ

竜華「ほな、うちのでどうやろ、園城寺さん」ペタン

怜「え……!!? し、清水谷さん――!!??」

和「怜さああああああんッ!!」ガタッ

久「こら、邪魔しない」グイッ

泉「おはようございます、清水谷先輩」

竜華「おっは~。泉は三回戦ぶりやんな。準決勝、自分、カッコよかったで」ニコッ

泉「お、おおきにですっ!!」

憧「えっと、《正道》が来たってことは――」

玄「ご登場だね……!! 白糸台最強のおもち軍団――チーム《豊穣》ッ!!」

宥「あっ、玄ちゃ~ん」タッタッ

玄「お姉ちゃ~んっ!」ガバッ

憧「夏なのにマフラー!?」

玄「小蒔ちゃんは?」

宥「大分よくなったみたい。あっちにいるよ」

 ガヤガヤ

小蒔「ご心配をおかけしました」ペッコリン

霞「もう身体はなんともないみたい」

初美「何よりですー」

巴「一時はどうなることかと……本当によかったです」

小蒔「霞ちゃんと春ちゃんがつきっきりで看てくれたおかげです」

春「当然……」ポリポリ

初美「じゃあ、今日は姫様の快復を祝して、みんなで観るですかー。お菓子もいっぱいあるですよー」

霞・巴・春「賛成」

小蒔「ありがとうございますっ! あ、私、玄さんたちにご挨拶してきます」

 タッタッタッ

華菜「ささっ! 福路先輩、こちらですっ!!」ピコピコ

美穂子「ありがとう。あ、これ、みんなで食べましょう」

未春「わあっ! いい匂いです」

純代「ケーキまで……!!」ジュルリ

星夏「あっ、あの……っ」

美穂子「一年生の文堂星夏さんよね。二回戦での三暗刻、とても素敵だったわ」ニコッ

星夏「ありがとうございます!!」

美穂子「あ……と、ごめんなさい。ちょっとだけ、席、外してもいいかしら?」

華菜「どうぞどうぞー」

美穂子「失礼……」タッ

未春「あ……福路先輩――」

華菜「まーまーみはるん」ポム

 イツモカッチャウノヨネ ソンナオカルトアリエマセン

美穂子「あの……お話し中、すいません」

久「美穂子……」

美穂子「三回戦、残念でしたね」

久「……ええ、そっちもね」

美穂子「とても……見応えのある闘牌でした」

久「……三年も待たせちゃって、ごめんなさい」

美穂子「いえ、大丈夫です。待つのは慣れていますから。それで、あの、う、竹井さん……」

久「いいわよ、呼びやすいように呼んでちょうだい」

美穂子「…………では、久」

久「なあに、美穂子?」

美穂子「……おかえりなさい」ギュ

久「うん……ただいま。ありがとう」ギュ

美穂子「もう……どこにも行かないでくださいね……」ギュー

久「約束するわ」ナデナデ

美穂子「破ったら承知しませんから」

久「うん……。ねえ、美穂子」

美穂子「なんでしょう、久」

久「知ってる? 青いサファイアと赤いルビーって――」

美穂子「同じ素材の宝石なんですよね。知っていますよ。三年前、あなたに教えてもらったんです」

久「……相変わらず、あなたの右目は綺麗よね」

美穂子「あまり見つめないでください。泣いてしまいそうです……」

久「あら、それはそれで素敵だと思うわよ?」

美穂子「私は嫌です。久の顔がよく見れません」

久「……言うようになったじゃない」

美穂子「あなたが止まっていた間も、私は進んでいましたから……」

久「すぐ……追いつくわ」

美穂子「お待ちしています。では、また」ペッコリン

久「ええ、また――」

 ガヤガヤ

憧(っとにもー……遠いなぁ)フゥ

玄「お姉ちゃん、こちら、憧ちゃん」

宥「初めまして、松実宥です。覆面のときからファンでした……どじょうすくい、可愛かったです」

憧「それは思い出させないでー!?」ジタバタ

宥「わわっ」

灼「私も一緒に見てた。面白」ヒョイ

憧「灼!?」

灼「楽しそうだったので、来てみました。ご一緒しても?」

玄・宥・憧「どーぞー」

 ガヤガヤ

怜(あかん……緊張してなんも喋られへん……!!)カー

泉「大丈夫ですか、園城寺先輩?」

竜華「なんか熱っぽいな。具合悪いん?」ペタッ

怜(手ぇ気持ちええー……!!)

和「怜さああああああん!!」ガタンッ

浩子「和ァ! うっさいでー!!」ガ-

泉「あ、フナQ先輩。ちわっす」

浩子「ども~」

竜華「おろ? 鷺森さんはええの、浩子」

浩子「た、たまには引いてみるんもアリやないかと!」

竜華「ホンマ浩子はドヘタレやなぁ。ま、ええけど。ほな、今日はうちらとセーラの応援しよかー」

浩子「おおきにです。というか、園城寺先輩、ホンマ大丈夫ですか?」

怜「大丈夫やから話しかけんといて……////」

 ワイワイ

洋榎「よっ! 似合っとるで、漫」

絹恵(お姉ちゃん用やったはずやのにサイズぴったりですけど……?)コソッ

由子(つまりそういうことなのよー)コソッ

恭子「うん。完璧やな!」

漫「意味がわかりまへん……」ウルウル

 ワイワイ

哩「なんぞご用はあっとですか、ご主人様?」キリッ

姫子「も、もう一回お願いしますっ!!」ハァハァ

哩「仰せのままに、ご主人様」キリッ

姫子「あぁん、最高とです、哩先輩!!」ビビクンッ

友清「江崎せんぱい、安河内せんぱい、私、こん複雑な気持ちばどこにぶつけたらよかとですか?」

仁美・美子「麻雀」

友清「こいが去年の四強常連チームの強さの秘密やったとですか……!?」

 ワイワイ

豊音「ねーねー、サエとエイスリンが戦ったらどっちが勝つかなー?」

白望「そりゃエイスリンでしょ」

胡桃「即答!?」

豊音「あははっ、サエちょー言われてるよー」

 ワイワイ

初美「そういえば、春、《劔谷》はどうだったですかー」

巴「同じクラスの安福さんに誘われたんだよね」

春「鬼……」ポリポリ

霞「あらあら、やっぱり本選常連の伝統チームは厳しかった?」

春「鬼可愛がられた……/////」ポリポリ

小蒔「そこのとこ詳しくお願いしますっ!」ガタッ

 ワイワイ

透華「ところで、一と智紀は何ゆえ《風越》に協力したんですの?」

智紀「透華と衣と純が出るっていうから」

一「じゃあ、ボクらも出ようかって話になって、ちょうど《風越》さんが戦力に困ってるっていうから、知らない仲でもないし、まあいいかなって」

未春「おい、鎖。事実を捩じ曲げるな」ガタッ

華菜「あたしは行き場を失った国広と沢村が『チームに入れてー』って泣いて頼んできたってみはるんから聞いてるし?」

一「はあー!? なんでボクらが《風越》なんかに頭下げたことになってるわけ!?」ガタッ

未春「《龍門渕》の人数合わせがデカい口を叩くな、ボコボコにするぞ」メラッ

智紀「お山の大将が何か吠えている……」フン

純代「お……なんだ……やるか……?」シュッシュッ

星夏「と、まあ、終始こんな感じでして」

美穂子「みんな楽しそうで何よりね」ニコッ

 ワイワイ ガヤガヤ

尭深「…………」ポツーン

 ワイワイ ガヤガヤ

尭深「…………」ジワ

 ワイワイ ガヤガヤ

尭深「…………」ウルウル

玄「尭深ちゃん!? こっち来ていいよーっ!!」

宥「わ、私もさっきからそう言ってるんだけど、なんだか混ざっちゃいけないような気がするって聞かなくって……」

玄「なんで!?」

 ワイワイ ガヤガヤ

久「ふふっ。みんな収まるべきところに収まった、って感じかしら」

和「何を言ってるですか……?」

久「なーんでも。と、本来の開場時間になって、ぽつぽつ人も増えてきたわね」

ゆみ「よう、久。やけに早いな。相変わらず悪い学生議会長様だ」ニヤ

久「褒めても何も出ないわよ~」

和(南浦さんのいるチーム《鶴賀》)

揺杏「久さぁーん、ご無沙汰してま~す」ヒラヒラ

久「ごめんね、最近忙しくて。今度お茶でも飲みましょう」

和(真屋さんのいるチーム《有珠山》)

史織「竹井せんぱぁーい、また遊んでくださいねぇー」ヤァン

久「ええ、メールするわ」

和(水村さんはチーム《越谷》)

梢「あ……竹井会長……」モジモジ

久「元気そうね、よかったらまた学生議会室に遊びに来て」

和(安福さんのいるチーム《劔谷》)

利仙「あらあら、竹井さん。お久しぶりですね。いつぞやはどうも」ニコニコ

久「久しぶりって感じがしないわ、あなたとは」

和(対木さんのいるチーム《夜行》)

日菜「あ、会長。おはようございます」ペコッ

和(岡橋さんのいるチーム《晩成》。そして、あらゆるチームに知り合いがいる竹井会長……)

和「竹井会長」

久「なに?」

和「会長は、交遊関係が広いんですね」

久「交友関係と言ってくれる?」

『あー、あー、マイクテス! マイクテスっ!!』

久「お、この声は」

和「理事長の秘書をされている福与さんですよね」

『よしっ! 聞こえているなぁー!! モニターもばっちり映ってるなー!? おはよーぅ、お前らっ!!』

「「「おはよーございまーす」」」ワッ

『声が小さあああーい!!』

「「「おはよーございまーーす!!」」」ワワッ

『よくできました~』

 ワーワー キャーキャー

和「なんですかこのノリ……」

久「ああ、そっか。一年生は四大大会は初めてだものね」

和「夏季、秋季、冬季、春季の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》のことですよね。その通りです」

久「四大大会の決勝はずっとこのノリよ」

和「ものすごく疲れますね……」

『本日の実況・解説を担当しますはー、私っ! ふくよかじゃない福与恒子とぉー!!』

『すこやかじゃない小鍛治健夜です』

和「あ、理事長」

久「出たわね、アラフォー」

『はーい、今『アラフォー』って言った高校生諸君はすこやんの呪いによって二十年以内にアラフォーになりまーす!!』

『時の流れだよっ!?』

『それでは! 本日の最終決戦に臨むチームのご紹介と行きましょう!!』

『無視!? う、うん、紹介はするけども!!』

『学園都市に住む高校生雀士一万人中の五人!! 夏のインターハイに白糸台高校麻雀部の代表として出場する一軍《レギュラー》!! この一枠を目指してここまで勝ち上がってきた四チームの入場ですっ!! まずは――』

和「始まりますね、決勝戦」

久「ええ。始まるわ……」

 ――――——

 ————

 ——

 ————

煌「皆さん、心の準備はよろしいですか?」

淡・咲・桃子・友香「もちろんっ!!」ゴッ

煌「すばら。では、行きましょう――」

 ギィィィ

『まずは――今大会を嵐に荒らした台風の大目玉ッ!! 転校生二人に一年生三人!! メンバー全員が学園都市に来て数ヶ月と非常に若いチームですっ!! 勢いそのままに天上に輝く星となるか、チーム《煌星》!!』

桃子「ほあっ!? カメラのレンズがあっちこっちに……! こ、こんな目立つの初めてでちょっとテンパるっす!!」アワワワ

 先鋒:東横桃子

友香「ダークホース扱いの私らでこれなんだから、本命はもう前も見えなさそうでー」ピース

 次鋒:森垣友香

咲「ゆ、友香ちゃん。カメラに向かってピースするのはいいんだけど、なんていうか、隣で手を引かれているのを大写しにされる私の気持ちを察して……?」オロオロ

 中堅:宮永咲

淡「みんな表情が硬ーいっ! 見よ、これが《超新星》の笑顔だよっ!!」ニパー

 副将:大星淡

煌「すばらです」スバラッ

 大将:花田煌

『さて!! お次にご登場いただくのはこちらのチーム!! 各学年の有名どころが揃うも予選から何かと辛勝続き!! 今日はどの幻想をぶっ殺してくれるのかぁー、チーム《幻奏》!!』

セーラ「コラァ、理事長秘書ー////!! 毎回そやけど決勝だけ制服ってどういうことやー////!! 詐欺やろ詐欺////!!」カー

 先鋒:江口セーラ

誠子「私は似合っていると思いますよ……?」

 次鋒:亦野誠子

優希「はっ、しまった! 覆面のときのマント持ってくればよかったじょ!?」ガビーン

 中堅:片岡優希

ネリー「民族衣装の私に死角はないんだよっ!!」ババーン

 副将:ネリー=ヴィルサラーゼ

やえ(私が選んだメンバーとは言え後ろの連中が恥ずかしい……/////)

 大将:小走やえ

『続いてぇー!! 今大会の二大優勝候補!! そのシャープなほうの入場ですっ!!
 狙った獲物は決して逃さない殺し屋集団!! チーム結成から今に至るまで数え切れない雀士を再起不能にしてきました!! 新たなる天地開闢の時は近いぞぉー、チーム《劫初》!!』

智葉「天江のせいでえらい物騒な紹介をされているぞ」

 先鋒:辻垣内智葉

エイスリン「ドー、カンガエテモ、サトハノ、セイ!!」

 次鋒:エイスリン=ウィッシュアート

衣「衣はけいのせいでもあると思うっ!!」

 中堅:天江衣

憩「えー? ウチはちゃんと病院紹介しとるからセーフやろー」

 副将:荒川憩

菫(後ろがうるさいが、それはさておき。この派手なチーム入場……最初はひどく緊張したものだったな。あれから二年……初めて対局してから三年か。今日こそ私はお前に勝ってみせるぞ……照――!!)

 大将:弘世菫

『そしてぇー!! 今大会の二大優勝候補!! そのお菓子なほうの入場ですっ!!
 危なげのない試合運びで順調にここまでやって来ましたが、今日は果たして!? 永きにわたる無敗伝説に有終の美を飾るのかぁー、チーム《永代》!!』

純「毎度のことだが、あの実況はテキトーなことほざきやがって。お菓子なほうってなんだよ。いや、言いたいことはわかるけど」

 先鋒:井上純

まこ「まあ、リーダーがあれじゃもんなぁ」

 次鋒:染谷まこ

穏乃「わあ、制服ってちょっと不思議な感覚……」ソワソワ

 中堅:高鴨穏乃

塞(ノッポとメガネと初めての制服って! こいつらと一緒だとモノクル掛けててもカッコつかないじゃない!! っていうか何よりもチームリーダーが!! だあああ、私の積み上げた《塞王》のイメージが……!!)ウルウル

 副将:臼沢塞

照(おかしなほうってなんだろう……そんなに変わって見えるのかな)モグモグ

 大将:宮永照

『この四チームの中から新しい一軍《レギュラー》が決定しますっ!! 先鋒戦開始まであと三十分っ!! トイレとかまだの人は済ませちゃってねー!!』

 ――《煌星》控え室

桃子「出撃っす!!」

淡「爆撃だー、モモコ!!」

咲「突撃だよっ、桃子ちゃん!!」

友香「直撃一閃でー、桃子!!」

桃子「目撃はされないっすけどね、なーんて。ありがとっす、みんな」

淡・咲・友香「どーいたしましてっ!」

桃子「……それから、きらめ先輩」

煌「はい」

桃子「きらめ先輩は、私のことを見つけ出して、こんな大舞台にまで連れてきてくれました」

桃子「私は感応系能力者。力でゴリ押しされたら打ち勝てない隠し玉。チームの花形とは縁遠い打ち手っす」

桃子「そんな私が、二回戦ではナンバー2とナンバー10、三回戦ではナンバー6とナンバー7、準決勝ではナンバー9とナンバー3、4相当と戦って、この決勝ではナンバー3とナンバー9と戦うことになってるっす」

桃子「この鬼采配がどこまで意図的なものだったのかはわからないっすけど、どうせなら、全部狙い通りのオーダーだったと、信じたい」

桃子「きらめ先輩は、私の麻雀が好きだと言ってくれました。私が欲しいと言ってくれました」

桃子「だからこそ、きらめ先輩は、《一桁ナンバー》が激突する区間に、私を放り込み続けた……」

桃子「もしそうなら、こんなすばらなことはないっす」

桃子「きらめ先輩。私は、あなたの期待に応えたい。《煌星》のエースは超新星さんと嶺上さん。そこに異論や反論はないっす。でも――」

桃子「私は、きらめ先輩……あなたにとってのエースでありたいと思うっす」

桃子「決勝の大一番で、先鋒を任せてくれて、ありがとうございます。あなたが欲した雀士の力を、白糸台高校麻雀部一万人に、見せ付けてくるっす」

煌「……最後まで、見守っていますよ、桃子さん」

桃子「ちょー嬉しいっす。では、行ってきます……っ!!」ゴッ

 ――《幻奏》控え室

セーラ「ほな、一発かましてこよかー」

優希「がつーんとお願いだじぇ!」

ネリー「どかーんとやっちゃってー!」

誠子「よろしければ、景気付けにばしーんとやりましょうか?」スッ

優希「私も!」スッ

ネリー「じゃあ私もなんだよっ!」スッ

セーラ「おおきにっ!」バチーンバチーンバチーン

誠子・優希・ネリー「響くーぅ……っ!!」ビリビリ

やえ「懐かしいな、それ。《連皇》でよくやったっけ。罰ゲームに」

セーラ「せやな。前の試合でやらかしたやつが生贄になってくれた。主に初美やったけど」

やえ「当時の初美は《裏鬼門》以外はまだまだだったからな」

セーラ「なあ、やえ」

やえ「ん……?」

セーラ「世界が閉ざされるとか、そういうんは、俺ちょっとわからんから、力になれへんけど」

やえ「ああ」

セーラ「このチームが勝つためにできることは、なんでも、全力でやったる」

セーラ「俺、嬉しかってん。やえがまた戦場に戻るって決めたこと。そんとき真っ先に俺に連絡してくれたこと。
 元《連皇》メンバーなら、初美《ジョーカー》でも、巴《エース》でも、竜華《クイーン》でもよかったはずやのに、やえ《キング》は俺《ジャック》を選んでくれた」

セーラ「白糸台は、楽しいな。色んなやつがおって、そいつらが仲間になったり敵になったりする。《連皇》もオモロかったし、《千里山》も居心地よかった。この《幻奏》も、同じくらい最高や」

セーラ「えっと、せやから、つまりな、ジュニアやミドルの頃からずーっと麻雀やってきて、高校生最後の夏に、自分と一緒に戦えたことを、俺はホンマに嬉しく思うってこと」

セーラ「ありがとな、やえ」

セーラ「俺の持てる力、全部、自分にあげたる」

セーラ「てっぺんに立つ《王者》の姿が、俺は、もう一度見たいねん」

やえ「……そうか」

セーラ「っちゅーわけで、頑張ってくる」

やえ「待てよ、セーラ」スッ

セーラ「おっ、なんや、やえ、これ苦手やろ?」

やえ「構わんよ。今日は決勝戦。これがお前の流儀なら、一回くらいはやってやる」

セーラ「後悔するで~?」

やえ「いいから、さっさとしろ」

セーラ「ほな、遠慮なく――」

 ガバッ

優希「じょ!?」

ネリー「わっ!」

誠子「なんと」

やえ「……いきなりなんの真似だ。説明を要求する」

セーラ「深い意味はない。ちょっと不意を突いてみたかっただけや。やえのその、電流走ったような驚き顔、オモロいからな」ムギュー

やえ「ったく……負けたら承知しないからな」

セーラ「ああ、任せとき」パッ

やえ「……セーラ」

セーラ「ん?」

やえ「頑張れよ」

セーラ「もちろんっ!! むっちゃ頑張ったるわー!!」ゴッ

 ――《劫初》控え室

智葉「よし、殺ってくるか」

エイスリン「キリステ、ゴメン!」

衣「純は頑丈だからいくら斬っても構わんぞ!」

憩「東横さんもなっかなかですよ~」

菫「江口も清水谷に匹敵する獣だ。気を引き締めていけよ」

智葉「わかっている。ぬかりはない。それより、菫」

菫「ん、なんだ?」

智葉「とうとう、私にも荒川にもウィッシュアートにも天江にも勝てないままで、決勝まで来てしまったな」

菫「おま……少しは歯に衣着せろよ」

智葉「刃は抜き身でこそ美しい」

菫「『歯』と『刃』か。何が面白いのかさっぱりだ。で、私がお前らに勝てなかったから何だ」

智葉「私にも荒川にもウィッシュアートにも天江にも勝てない――その程度の雀力で、本気で宮永照に勝つつもりか?」

菫「本気だよ。可笑しいか?」

智葉「ああ、気を抜くと、声を上げて笑ってしまいそうなくらいに」

菫「不可能だと思うか?」

智葉「さあな。私はお前より強いが、それを断じることはできん」

菫「そうか……」

智葉「……三年前、インターミドルの個人戦決勝で、私たちは戦った」

菫「だな」

智葉「私は、お前と違ってあらゆる感覚が鋭い。東一局が終わって、《照魔鏡》を喰らった瞬間に、『ああ、こいつは全ての人の想いを背負う者なのだな』と理解できた。
 世界の《頂点》になるべくしてなる者。《神に愛された子》――運命奏者《フェイタライザー》と同種の何かだとすぐにわかった」

菫「で……逃げたわけか」

智葉「私は己の器を知っている。お前のように無鉄砲には生きられん。或いは、《幻想殺し》のように、現実と理想の狭間で足掻くのも無理だ。
 逃げてもいい、他人を欺き、己の心すら裏切ることになっても、私は無様に生き延びて、守るべきものを守らねばならん。それが、《背中刺す刃》であり、《懐刀》である、私の根幹にある想いだ」

菫「そうか」

智葉「私は無敵だが、最強ではない。ゆえに、ネリーと宮永と荒川に敗北し、それより下には勝利できる。私の刃は何物にも欺けん。それは真と偽を分かつためのものだからな」

菫「回りくどいやつだな、結局、お前は何が言いたい」

智葉「菫、お前は偽物だ。《頂点》の名を背負うにはあまりに弱い。おおよそ天上に立つ人間ではない。だが――」

智葉「『宮永照に勝つ』――お前のその想いが本物であることを、真実になることを、私は祈る。お前らの間に割って入るほど、私は野暮ではない。今日だけ騙されておいてやるよ。だから、頑張れ」

菫「ん? なぜお前の見送りで最終的に私が励まされている?」

智葉「ゆっくり話せるとしたら、今くらいだからな。言いたいことはさっさと言っておくに限る」

菫「まったく……」

智葉「……菫」

菫「なんだ、智葉?」

智葉「勝たせてやるよ。宮永照に。私と、ウィッシュアートと、天江と、荒川で、《シャープシュート》一回で宮永がトぶくらいに《永代》を削っておいてやる。だから、安心して、己の戦いに備えろ」

菫「……お前が味方でよかったよ」

智葉「有難う。私も、お前の味方をしている現状が、正しいと思っている」

菫「頼りにしている、智葉」

智葉「ああ、好きなだけ頼れ。では、行ってくる――」ゴッ

 ――《永代》控え室

純「だぁあー、先鋒かぁ。去年の準決勝を思い出すぜ」

まこ「照と白水と小走相手に、ボッコボコにされとったな」

純「うっせえ」

穏乃「頑張ってください、純さんっ!」

塞「あんま削られると副将の私がキツいんだから、少しは粘ってよね」

純「やるだけやってみるわ。まあ、さすがに去年ほどじゃねえだろ。なあ、照」

照「どうかな。もう一年も前だし」

純「そこは嘘でも頷いてくれよ」

照「私、嘘、つかない」

純「そーかよ」

照「……井上さん」

純「ん?」

照「楽しんできて」

純「ああ、そりゃもう」

照「私はあなたの力を必要だと言った。井上さんは、その私の要求に応えてくれた。きっとこの先鋒戦もそう。それで、十分。あとは、あなたの好きなように、打ってほしい」

純「まあ……ぶっちゃけた話をすりゃあ」

照「ん?」

純「なんでオレなんだろうなって、何度も思った。今も思ってる。これは、きっと、まこも同じ気持ちなんだろうけど」

照「うん」

純「オレは別に弱くはねえけどよ、一部の飛びぬけたやつとは違う。正直、弘世菫が衣と憩を味方につけたんなら、お前は小蒔と透華を仲間に引き込むべきだったと思う。
 オレはあいつらの番犬だった。対抗馬には決してなれねえ。手駒としては、明らかに格下だ」

照「まあ、そうだね」

純「この野郎……。ま、で、なんでオレだったのかなーってさ。考えてるうちに決勝まで来ちまった」

照「うん」

純「きっと、渋谷や亦野もそうだったんじゃねえかな。あいつらもそこそこ強えけど、オレらの学年は《三強》+透華より下にほとんど差がねえ。
 今年の本選に出場した二年の中では、松実がちょっと抜けてるくらいでよ。もちろん、花田煌は例外だが――」

照「うん」

純「そこんとこ、どうなんだよ、照?」

照「その答えは、自分で見つけないと、意味がない」

純「やっぱそうだよなぁ。いや、いい。言ってみただけだ」

照「頑張って」

純「おう、ありがとよ。お前と一緒に戦えて、よかったぜ。学園都市の《頂点》」

照「それほどでも」

純「じゃあ……ちょっくら遊んでくるとすっか――!!」ゴッ

 ――対局室

セーラ「ほな、よろしくなっ!」

 東家:江口セーラ(幻奏・100000)

智葉「よろしく」

 南家:辻垣内智葉(劫初・100000)

桃子「よろしくっす」

 西家:東横桃子(煌星・100000)

純「よろしく頼むぜ」

 北家:井上純(永代・100000)

『さあ、場決めが終わり全員が席に着きました! 一軍《レギュラー》の座を賭けた四つ巴のバトルロイヤル!! 合計十半荘の最初の一局――先鋒戦前半が……今、始まりますっ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

今週はちょっと忙しいので次は来週になるかもしれません。

では、失礼しました。

 東一局・親:セーラ

セーラ(平場でしかも起家かぁ。初っ端も初っ端やし、ちょっとくらいは他家の出方を伺いたいとこやねんけど、辻垣内がおるしな。スタートダッシュ決めとかな。最初でコケたら焼き鳥もありうるで)タンッ

智葉(江口とは個人戦で何度か打っている。井上と東横も決勝までに大分データが増えた。予想外の何かを隠し持っている可能性は低い。この東一局から全力で殺しにいかせてもらう)タンッ

桃子(俺々さんも極道さんも様子見ナシって感じっすね。この息一つ、瞬き一つもできないような緊張感。神経磨り減るっす。
 ま、でも、悪いことばかりじゃない。俺々さんとはこれが二度目の対局で、極道さんの対局は間近で二度見てる。初見なのはノッポさんだけ。
 二回戦で天女さんに削られナースさんにボコられたときよりは、ずっと落ち着いて打ててる。きらめ先輩様々っす)タンッ

純(《流れ》は今のところ辻垣内にある。が、そこまで頑丈なもんでもねえ。仕掛けるなら、もう少し手が出来上がってからにしたい。下手に動くと返り討ちにされるだけだろうからな)タンッ

セーラ(手は伸びとる。悪くあらへん。このまま素直に進めても和了れそうな気はする。せやけど、どーにもな。辻垣内の澄まし顔が気になってしゃーない。張っとるんかな……?)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(辻垣内智葉。竜華に輪をかけて常に正しく、俺の攻撃力と洋榎の守備力を併せ持ち、プラスアルファで能力戦に異常に強いっちゅー、ほとんど人間ではない何か)

セーラ(その強さの秘密が、《背中刺す刃》として海外で無双してた頃の経験。あの自動即興《エチュード》とかいうけったいなモードのネリーを相手に、トばへん程度には対抗できとったらしい。ついた異名が《千人斬り》)

セーラ(この、千っちゅー数字は誇張やなく、ネリーのアレで、ホンマに千を超える能力者(コピー)をぶった斬ったらしい。辻垣内が初見の能力にごっつい高い対応力を見せるのは、それが理由やとか。
 あのモードのネリーは、いわば姉帯もびっくりの多才能力者《マルチスキル》なわけやからな。そんなんと打ちまくれば、そらそうなるわ)

セーラ(あと……まんま《トリック・ブレード》とか言われとる、辻垣内の固有魔術。今は使えへんらしいけど、これがまた、トリックどころか相当なチート魔術やったとか。
 系統はナントカの二型――感応系。これがポイントやねんな。能力の効果もさることながら、感応系特有の、他人の《パーソナルリアリティ》や確率干渉の波動の変化に対する鋭さが、辻垣内の強さをさらに磐石なもんにしとる)

セーラ(《パーソナルリアリティ》や確率干渉の波動の変化っちゅーんは、つまるところ、意識の変化に等しい。心の声みたいなもんや。
 これが、まあ、対局中は卓上を飛び交っとるわけやけど、辻垣内は、これをかなりの精度で感じ取れるんやな)

セーラ(普通の完全理論《デジタル》ではありえへん読みやズラしができるんは、これが理由。やえは、非能力者――ひいては、高ランク雀士の上級スキルとか言うてた。能力《オカルト》に片足突っ込んだような技術、ってな)

セーラ(辻垣内や洋榎に見られる危険察知能力の高さは、他人の確率干渉の波動の変化に対する鋭敏性で説明できるらしい。
 リアル麻雀でしか得られへん情報――古典的な言い方をすれば、『気配』や『予感』。それらを加味して、相手の手牌を推測する。
 いわゆる、《オカルト読み》や。これは、支配力のプロである《神憑き》の連中や、《十最》やと小瀬川もかなり得意らしい。要するに、『カンがええ』『鼻が利く』連中やんな)

セーラ(せやから、あいつらは、ちょいちょい完全理論《デジタル》ではありえへん打ち回しができる。基本的に誰もがやっとる《デジタル読み》、或いは、荒川憩や福路のやっとる視線移動や理牌が云々みたいな、純粋な視覚情報だけで読み取れる《アナログ読み》とも、別物。
 竜華の《無極点》なんかは、ちょうどこの《オカルト読み》と《アナログ読み》と《デジタル読み》が全部融合したような化け物スキルやないか、って話や)

セーラ(この《オカルト読み》の弱点らしい弱点と言えば、確率干渉の波動が極めて微弱な無能力者相手には、あまり威力を発揮せーへんっちゅーこと。それに、牌の存在波と共振できる感知系能力ほどの精度はないこと。
 結局、ヤバイ気配や予感を察知してから、瞬時にどこまで深く読めるかは、本人の技量に拠る。素の実力が伴ってへんと、ほとんど使い物にならへん。むしろ感覚に惑わされて自滅する。せやけど、使いこなせれば、当然むっちゃ強い)

セーラ(いや、まあ、俺もある程度できるっちゃできるけどなー。とりあえず、辻垣内がそろそろ来る気がする。
 手牌が透けて見えるっちゅーことはあらへんけど、なんかわりと高そうなんツモられそうやわ。恐いで〜。っちゅーか、オイ、井上、ちゃんと仕事せーや)

セーラ「ポン」タンッ

 セーラ手牌:23466④⑤發發發/八(八)八 捨て:6 ドラ:2

智葉(ん……江口はどちらかと言うと門前が多いはずなんだがな。まったく違和感しかない鳴きだ)タンッ

 智葉手牌:234②③④④④二三三四四 捨て:8 ドラ:2

桃子(何かズラしたっぽいっすけど、それ以上のことはわからないっす。ひとまず、私のとこへは、俺々さんのツモが回ってきた。っていうか、極道さんも、たぶん張ってるっすよね……)

 桃子手牌:1234[5]689一一三白白 ツモ:[五] ドラ:2

桃子(幸い、二人の現物である一萬を切っても、和了りの可能性は残せる。消えるまでは、安全運転っす)タンッ

 桃子手牌:1234[5]689一三[五]白白 捨て:一 ドラ:2

純(だー……参ったな。っとに、これが本当にレベル0にできることかよ。ズル臭え)

 純手牌:五六八⑥⑦⑧7999北北北 ツモ:二 ドラ:2

純(辻垣内の握ってた《流れ》をオレに押し付けて、ちゃっかり新しい《流れ》を掴みやがって。この二萬は切れねえよな。仕方ねえ、大人しくオリとくか)タンッ

 純手牌:二五六八⑥⑦⑧7999北北 捨て:北 ドラ:2

智葉(この巡目で、場に一枚しか見えていない自風の北を手出し。暗刻落としだろうな。《流れ》を感知できる井上がベタオリと。ふむ――)チラッ

セーラ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉(ここまでか)パタッ

セーラ「ツモや、1300オール」パラララ

 セーラ手牌:23466④⑤發發發/八(八)八 ツモ:⑥ ドラ:2

桃子(うおぅ、意味不明っす。リーチを掛けなかったのは、親だからなのか、極道さんがいるからなのか、三暗刻まで見てたのか。俺々さんの火力を考えれば、むしろ助かった感じっすかね)

純(親の連荘。さっさと蹴らねえとなァ)

セーラ(これで挨拶は済んだ、っちゅー感じやろ。なあ……辻垣内?)

智葉(捻り潰す)

セーラ「(やれるもんならなっ!)一本場や」コロコロ

セーラ:103900 智葉:98700 桃子:98700 純:98700

 東一局一本場・親:セーラ

セーラ(確率干渉力を利用した非能力者の上級スキル。これはもちろん、防御技だけやなく攻撃技もある。それが、確率干渉力——支配力に拠る《上書き》や)タンッ

セーラ(普通、確率干渉力――意識の波動が、《パーソナルリアリティ》空間内で牌の《上書き》ができるほどのエネルギーを持つには、能力という論理に従って、波動を集約し、高密度の《波束》にする必要がある。
 誠子みたいな低ランク雀士やと、この方法でしか《上書き》ができひん。想いを力に変換するときに、ある一定の手順を踏まなあかんねん。
 ただ、素の確率干渉力が高い高ランク雀士の中には、その過程をすっ飛ばして牌を《上書き》できるやつらがちらほらおる)

セーラ(支配者《ランクS》は、この支配力に拠る《上書き》を、恒常的にやっとるらしい。ただ、もちろん、言うほど自由になんでもできるわけやなくて、基本的には能力に沿う形でやっとるらしいけどな。
 ネリーの自動即興《エチュード》を掻い潜ってきた、三回戦での宮永と、準決勝での神代は、これによって和了りをものにしとった。特に、神代のアレは、よっぽどの才能と努力がないとまず無理ってネリーは言うてたな)

セーラ(あとは、北家の初美が四枚目の東・北を引き入れたり、松実姉妹が意図的に赤牌やドラを引いたりする、アレ。能力っちゅー論理の枠組みの中で、支配力に拠る《上書き》をする……いわゆるランク補正もそやな。
 それから、準決勝で絹恵が龍門渕の支配下で先制テンパイできてたんも、これや。《治水》の論理の枠組みの中で、あいつは支配力に拠る《上書き》をやってみせた)

セーラ(やえ曰く、能力に拠る《上書き》は、論理的。一方、この支配力に拠る《上書き》は、感情的。前者のほうが圧倒的に精度が高いし、間違いがあらへん。
 後者は、本人の精神状態や集中力、その日の調子にも大きく左右される。困ったことに、悪いほうにも作用する。人間、放っておくと弱いほうに気持ちが傾きがちやから、精神的に波のあるやつなんかは、むしろ強い確率干渉力なんてないほうがええ。
 しかも、ええほうに作用したところで、それがそのまま場のベストにはならへん。これも、《オカルト読み》と同じで、どちらかと言えば、デメリットのほうが多いスキルや)

セーラ(これを強みにしようと思たら、洋榎みたいに迷いがなかったり、白水みたいに支えになるもんがあったり、竜華みたいに筋が通ってへんとあかんねん。
 《一桁ナンバー》の非能力者の中では、俺が一番これが得意らしいけど、おかげ様で、俺の成績には波がある。
 一年、二年の頃は、お世辞にも安定しとるとは言い難かった。普段は勝てるのに、大会やと緊張してうまくいかへんかったりな)

セーラ(まあ、要するに、気持ちを強く持っとればええことあるかもね、っちゅーことや。精神的にブレがない連中は、当然のように、素で強い。
 辻垣内、洋榎、白水、それに竜華や、末原や江崎もやろな。支配力に拠る《上書き》云々があろうとなかろうと、あいつらが実力者であることに変わりはあらへん。
 そこでいくと、俺はまだまだや。洋榎と遊ぶときか、《一桁ナンバー》落ちしそうなときくらいしか、最大値が出せへん。できるときはなんでもできそうな感じあるんやけど、いつもいつもとは、なかなかなー)

セーラ(まあ……とにかく、しっかり気張っていこか)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 セーラ手牌:③[⑤]⑥⑥⑥345678五五 ドラ:⑥

純(この《流れ》はヤバいな。断っておきたいが、動くに動けねえ。どうすっか……)タンッ

智葉「ポン」タンッ

 智葉手牌:**********/二(二)二 捨て:⑥ ドラ:⑥

純(ん……何のつもりだ? オレにはその鳴きで《流れ》が変わるとも思えねえが)

セーラ(ドラの六筒を切ってきたかぁ。それ鳴けば、俺は待ち倍増でハネ確。さて、何を狙っとるんかな。このナンバー3様は――)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ「ポン」タンッ

智葉「ロン、3900は4200」パラララ

 智葉手牌:四[五]六七七4[5]6②④/二(二)二 ロン:③ ドラ:⑥

セーラ「(なんでその手で六筒切れるんかなぁ~? いやー、恐いでホンマ)はい」チャ

 セーラ手牌:[⑤]⑥345678五五/⑥⑥(⑥) 捨て:③ ドラ:⑥

純(すげえ……いや、マジすげえ。鳴いてズラすだけでは江口の《流れ》を変えることはできなかったはずなんだ。それをドラ切りで一刀両断にしやがった。つか、人間業じゃねえって、それ)

桃子(相変わらず《一桁ナンバー》の駆け引きは異次元過ぎるっす。これで極道さんの親番。止めたい気持ちはあるっすけど、消えてない状態でどこまでやれるか……)

セーラ(ほな、流されたら、流し返すっちゅーことでッ!)

智葉「私の親番だな……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ:99700 智葉:102900 桃子:98700 純:98700

 東二局・親:智葉

セーラ(おし、張ったで~。これならそう悪くないやろ)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 セーラ手牌:2227888白白白/北(北)北 ドラ:四

智葉(ん――)ピリッ

 智葉手牌:②②③③④④⑤⑥⑦⑧東東東 ツモ:7 ドラ:四

智葉(さすがにこれは切れないな。放っておくとツモられそうだが、さて、どうしたものか)タンッ

 智葉手牌:②②③③④④⑤⑥⑦⑧7東東 捨て:東 ドラ:四

桃子(あれ? 東は大丈夫なんっすか? ふーん……なら、まだ追いつけるっすかね)タンッ

智葉「ポン」タンッ

 智葉手牌:②②③③④④⑤⑥⑦7/東東(東) 捨て:⑧ ドラ:四

桃子(わっかんねーっす。何もわっかんねーっす)タンッ

純(手品を見てるみてえだな)タンッ

セーラ(今度はどんな仕掛けを見せてくれるんやろか、辻垣内――と……)

 セーラ手牌:2227888白白白/北(北)北 ツモ:⑤ ドラ:四

セーラ(五筒はスジやけど、前局はそれで振り込んだ。一体さっき何を引いて東切りしたのかわからへんけど、辻垣内が筒子染めなんはほぼ間違いない。
 東切り東ポンがただのフェイントやと考えると、五筒待ちは普通にありうる。わざわざ点数下げてなんのつもりやと思うけど、ズラし目的やったんかもしれへん。
 まあ、ダブ東混一で親なら鳴いても打点はさほど下がらへん。赤ドラがあったら親っパネも余裕。アリっちゃアリやろ。
 東横か井上が東を止めとる可能性は高いから、鳴き戻しは苦もなくできると踏んだ。ほな、一手間掛けてズラし&直撃狙いは、なくもない)

セーラ(俺にオリさせたいんかな……? この五筒は元々辻垣内のツモやった。ってことは、掴まされた?
 まぁ、それならそれで、混一諦めて五筒単騎にしてもええけど。それかてハネ満やし。俺は辻垣内の上家やから、待ちが同じなら頭ハネできる)

 セーラ手牌:2227888白白白/北(北)北 ツモ:⑤ ドラ:四

セーラ(となると、ここは七索切り……? いや――)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(この半歩は、恐らく、間合いに入る。踏み込んだら、首が飛ぶやつやんな。一旦、現物にしとこか)タンッ

 セーラ手牌:227888⑤白白白/北(北)北 捨て:2 ドラ:四

智葉「ツモ、1000オール」パラララ

 智葉手牌:②②③③④④⑤⑥⑦7/東東(東) ツモ:7 ドラ:四

セーラ(ほーらー、言わんこっちゃないで。どこの園城寺怜や自分)

桃子(さっぱりっす)

純(《流れ》関係なさ過ぎだろ……。しかし、こりゃ、ちょっと、思ってた以上にマズい気がしてきたな。照や白水なんかは、強かったが、あいつらは《流れ》が強過ぎて太刀打ちできねえタイプだった。
 が、辻垣内は違う。《流れ》を引き寄せやすいタイプではあるが、それは飛び抜けて強いもんではない。むしろ、この卓でそういう傾向が一番強えのは江口だ。
 ただ……辻垣内は、一体何がどこまで見えてんのか、場の《流れ》と無関係に動いてきやがる。で、結果的には、それで和了っちまうわけだ。
 三回戦で白水と打ったときは、感覚のままに《流れ》を断ちまくってたら、辛うじてなんとかなった。だが、恐らく、こいつはオレの感覚を超越してくる。下手すりゃ逆にハメられる。
 かといってヒラで打って《一桁ナンバー》に勝てるわけがねえしな。あー……死ねるぜ)

智葉「一本場だ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ:98700 智葉:105900 桃子:97700 純:97700

 東二局一本場・親:智葉

純(辻垣内智葉――こいつ相手にどこまでズラしが有効なんだろうな。感覚自体は機能してる。《流れ》はちゃんと感じ取れてる。普通にいきゃ、そこから大きく外れることはねえんだ。が……見ての通り、こいつは普通じゃねえ)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(だが、黙ってるわけにもいかねえんだよなぁ。このまま行くとまた辻垣内が和了っちまう。感覚を信じるなら、この局の江口にはちょっと期待できなさそう。東横もオリ気味……)

純(まぁ、いい機会だ。先鋒戦で、オレはこいつと半荘二回を戦う。身の程を知るなら、早えほうがいいだろ。そいじゃーま、測ってみるとしようかね、オレとお前の距離をな――!)

純「ポン」タンッ

 純手牌:234五六②②②③⑤/(2)22 捨て:5 ドラ:②

純(さあ、どう動いてきやがる、辻垣内……?)

智葉「ポン」タンッ

 智葉手牌:五[五]六六六③④④[⑤]⑥/(⑦)⑦⑦ 捨て:⑥ ドラ:②

純(七筒ポンからの六筒切り、ねぇ。っと……)ゾクッ

 純手牌:234五六②②②③⑤/(2)22 ツモ:④ ドラ:②

純(張ったはいいが、両面に取るとヤバいか? 二・五・八筒は無スジ。振る可能性は高そうだな。なら、こっちにしとくか)タンッ

 純手牌:234五②②②③④⑤/(2)22 捨て:六 ドラ:②

智葉「」タンッ

純(あん? 四筒手出し……?)ツモッ

 純手牌:234五②②②③④⑤/(2)22 ツモ:③ ドラ:②

純(三筒……五萬切りなら一・三・四・六筒待ち。一筒は残り一枚だし、フリテンはさほど恐くねえ。
 問題は辻垣内だよな。七筒ポンからの六筒、四筒切り。何がどうなっていやがるのか。二・五筒待ちが本命だと思ってたが、この感じだと三筒も危ねえ気がする。現物は四筒だけだが、それだとテンパイが崩れちまう。
 《流れ》的には微妙だな。どうにも、ここが運命の分かれ道って感じだ。オレがいいのか辻垣内がいいのがはっきりしてくれりゃ、押し引き判断も楽なんだがな。
 さっきから、こいつは《流れ》の分岐点みたいなところに入り込んで、不意に気配を消しやがる。感覚をすり抜けてきやがるんだ)

純(まぁ、これでダメなら、勉強料ってことで)タンッ

智葉「ロン、5800は6100」パラララ

純(ちゃー……って、うっ、おぉ!?)

 智葉手牌:五[五]六六六③③④[⑤]⑥/(⑦)⑦⑦ ロン:五 ドラ:②

純(二・五筒待ちから、三筒ツモって五萬と三筒のシャボに手替わりだと? オレの両面搭子落としを狙ってきたってことか。っていうか、オレがテンパイ維持しようとしたら振り込むようになってやがるじゃねえか!)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(……なるほど、よくわかった。オレには荷が重い。こいつ、強過ぎる。ホント。マジで)ゾクッ

智葉「二本場だ」

セーラ:98700 智葉:112000 桃子:97700 純:91600

 東二局二本場・親:智葉

桃子(《一桁ナンバー》の俺々さんでも厳しくて、感知系能力者のノッポさんでもダメ。となると、運が向いてくるのをじっと待つしかない感じっすかね。
 相手はナンバー3。これくらいの連荘はあるあるっす。焦りは禁物。冷静に。安全に……)タンッ

桃子(っと。決勝戦、記念すべき、初テンパイ――)

 桃子手牌:一二三123355②③③③ ツモ:4 ドラ:二

桃子(五索切りで、一・二・四筒待ち。最高めの一筒なら平和三色ドラ一。《ステルスモード》なら即リーっす。いや、たとえ《ステルスモード》じゃなくても、これは即リーっす。ただ……)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(んー、まだ六巡目っすけどね。極動さんは三・七索を手出しで切ってる。既にテンパイしていたとしたら、五・八索辺りはわりと危険。
 なら、いっそ二筒切りリーチで、二・五索待ちとか? リーチドラ一。和了り牌は残り五枚で、うち二枚は極道さんに頭ハネされる可能性アリ。一発や裏ドラを無視すると、打点は出和了り2600の、ツモ4000。
 さすがに、テンパイしてると思しき親番の極道さんと勝負するには、無理がある……っすよね)

桃子(《ステルス》発動までは守備重視。攻めるとしたら、逃げ道を確保してから。ここは、一旦、現物っす)タンッ

 桃子手牌:一二三123455②③③③ 捨て:3 ドラ:二

智葉(ふむ……)タンッ

 智葉手牌:二三四[五]六七67④④⑤⑥⑦ 捨て:4 ドラ:二

桃子(お、四索は通るっすか! なら――)

桃子「ポン」タンッ

 桃子手牌:一二三12355②③/③(③)③ 捨て:4 ドラ:二

桃子(見た感じ、極道さんに一・二・三索と二・三筒は高確率で通る。いざとなったらベタオリは可能っす。逃げ道は確保できた。なら、ギリギリのギリギリまで、和了りの目を残すっすよ……)

純(東横の副露は珍しいな。張ってんのか? 安そうだし差し込めるもんなら差し込みたいとこだが、ちょっと読めねえ。
 が、オレなら差し込み以外のアシストができる。現状の東横の《流れ》はあまりにか細い。下がねえなら、上に変化するしかねえってことで、どうかな……!)

純「チー」タンッ

セーラ(おぅ~、頑張っとるやん。下級生。その調子やで)タンッ

智葉(……ふむ)パタッ

桃子「ツモっす。500・1000は700・1200」パラララ

 桃子手牌:一二三12355②③/③(③)③ ツモ:① ドラ:二

桃子(よし……っ! 親番、流れたっす!!)

純(さあて、反撃しなきゃだぜ……!!)

セーラ(させてくれればええんやけどな、どーやろか――)

智葉(相手にとって不足なし)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ:98000 智葉:110800 桃子:100300 純:90900

 ――観戦室

『ナンバー3の親を蹴ったのはなんと一年生――《煌星》東横桃子っ!! 親の和了り牌を止めてぴしゃりと一筒をツモりましたあああ!』

『そんな騒ぐほどのことじゃないよ!?』

ゆみ「理事長は相変わらず辛口だな……」

智美「あの巡目なら、私は五索で即リーだなあ」

睦月「私もです」

佳織「私は二筒でリーチしようと思っていたんですけど……?」

数絵「それだと三色同順と平和がつかなくなってしまうんですよ。それに、五索切りのほうが待ちが多いんです」

佳織「えっ? そっちは二筒単騎なんじゃ……ああっ! 違う、三筒を雀頭にすれば一・四筒待ちになりますねっ! 一筒なら三色同順で……平和もっ! なるほどなるほどです」

ゆみ「ただ、五索は、親の和了り牌かもしれない。三索をまず落としていて、後に七索を切っているから、3677→677→67の五・八索待ちはありうる――と読んだわけだ」

佳織「五索でリーチできないから……やっぱり、二筒でリーチ?」

数絵「二筒リーチだと、手役はリーチのみ。ドラが一つありますが、それだと期待値がかなり下がってしまいます」

佳織「一発や裏ドラは?」

智美「みんながみんな佳織じゃないぞ~。一発はほとんど期待できないし、裏ドラもまあ乗らないもんなんだな~」ワハハ

数絵「親がテンパイしているかもしれない。リーチを掛けてこないということは、何らかの手役が確定していると見ていい。打点も7700以上はあると思われます。振り込みのリスクと和了りの期待値を天秤にかけて、東横さんは一旦オリたんですね」

佳織「おお……」

睦月「けど、放っておくと、親はテンパイしているわけなので、ツモがいつ来てもおかしくない。恐いよね」

佳織「な、なんとかしなきゃ! でも、一旦手を崩して、しかも期待値的にリーチは掛けられないわけだから……」

ゆみ「だから、東横さんは三筒をポンしたわけだ」

佳織「123の三色同順……。あれ? 四筒が来てしまったらどうするんですか?」

数絵「フリテンになっても、ツモ和了りの可能性を残せば、親を流せるかもしれません。一向聴のままベタオリするよりはずっといいです」

佳織「危ないところを掴んでしまったら、どうするんですか? オリにくくなるから、不用意な副露はしないように、なんですよね?」

智美「もちろん、東横さんのポンは不用意じゃないぞ~。ちゃんと逃げ道を用意しているんだな~」

睦月「まず、三索は親の現物。それから、親は三筒を一度見逃しているので、そこから手替わりしていなければ、三筒も現物みたいなもの。それに、三筒が壁になってるから、二筒もそれなりに安全」

佳織「かべ……あ! 四枚見えてるやつですねっ! そっか、三筒が四枚見えてるから、①③の二筒待ちがない。あるとすれば、ば、ば」

数絵「シャボか単騎。あと、①③の二筒待ちみたいなのは、嵌張待ちと言います」

佳織「それです!」

ゆみ「それから、親は早々に三索を切っている。必ずしもそうではないが、まあ、浮いていた牌と見るのが自然だろう。
 だとすると、親の手牌に三索周辺はないことになる。実際、四索はツモ切りしているしな。ゆえに、一・二索もまあまあ安全と言えるわけだ」

佳織「そうすると……鳴いても、手牌の半分くらいが安全そうな牌になりますね! オリたくなったら、それを落としていけばいいっ!」

智美「落としている間に、現物も増えていくだろうしな~」

数絵「今回は、運よく一筒が先に来てくれました。結果的に、安い手ですが、親を流せたわけです」

佳織「危ないと思ったら無理はしない。逃げ道を用意してから、攻める。安くても、親の高い和了りを蹴ったと考えれば、実質の価値はとっても高い。おおっ! すごいです、東横さんっ!!」

数絵「まあ、こうして私たちでも解説できることなので、理事長の言う通り、そこまで騒ぐようなことではないんですけどね」

佳織「ほああぁ」

ゆみ「少なくとも、私は、東横さんと同じ手順で打つよ」

佳織「お揃いですねっ!」

ゆみ「自分が思い描いた通りに打って、しかも和了ってあの智葉の親を流してしまうのだから、東横さんの闘牌は見ていて楽しい」

数絵「私だってあのくらいはできます」

ゆみ「そうだな。南場の数絵なら、二筒切りリーチで一発ツモも可能だろう。そういう意味では、数絵のほうが期待値が高い」

数絵「そっ……そうですね、そうです……////」

『おおおおっとー!! 《永代》井上純っ!! 点棒箱を開いたぞ!! 仕掛けて行くのかぁー!!』

     純『リーチだ!』

『出ました先制のハネ確リーチっ! これが記念すべき決勝戦初リーチとなります!!』

『決勝戦初のリーチ和了になるといいですね』

透華「四巡目ハネ確三面張リーチ! この絶好機を逃すようなら、純はもう麻雀を辞めたほうがいいですわ!!」

一「だそうだよ、純くん。頑張って!」

智紀「《流れ》が来てるから仕掛けたんだろうけど……どうなるか……」

     セーラ『チー』

竜華「おっ、ええで、セーラ! これで辻垣内が掴まされた!! 振ってまえ振ってまえー!!」

浩子「まず振らへんでしょうけどねぇ。せやけど、ちょっとの間は足止めできます」

泉「あの人たち、どこまで狙って鳴いとるんですかね、ホンマ」

竜華「ま、怜なら余裕やろ~?」ニコッ

怜「は……はいっ/// よよよ余裕です……///」カー

竜華「も~ぅ、タメ口でええって、さっきから言うとるやんかー」ナデナデ

怜(あかん、ホンマ死ぬ/////)ポケー

     智葉『ポン』

和「っ……!!」ガルルルルル

久「和、嫉妬深い女は嫌われるわよ?」

和「勘違いしないでください! 欠陥品の怜さんが調子に乗って清水谷先輩に粗相をしでかさないか監視しているだけですっ!!」

久「それより、智葉の今のポン、どう思う?」

和「……ちょっとSOAの気配がしますが、先制リーチに対して危険牌が切れず、形式テンパイ狙いに切り替えたと解釈できなくもないですね」

久「江口さんのところに井上さんの和了り牌が行ったのだけれど、それについては?」

和「単なる偶然です」キッパリ

久「ふふっ、和、あなたって本当に可愛い」ナデナデ

和「い、意味がわかりません……っ/////」

     純・智葉・セーラ『テンパイ』

     桃子『……ノーテンっす』

星夏「東横さん、親だったのに無理せずオリ切りましたね。さすがです」

華菜(文堂オオオオオオ!? 福路先輩が三回戦で東横に振ったの忘れたのかしー!!)

未春(文堂……終わったな)

純代(グッバイ、文堂、フォーエバー)

美穂子「文堂さん」ニコッ

星夏「はい?」

美穂子「あとで屋上(の雀荘)に行きましょうか」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

星夏「」

     セーラ『リーチやっ!』

洋榎「おっ、やっとセーラらしくなってきたかー?」

絹恵「和了ればトップ。まあ、井上さんが何かしてくるかもやけど」

由子「あの背の高い子の鳴きは意味がわからないのよー」

     純『ポン!』

漫「あ……あの、末原、ぁうっ、先輩……っん、油性やないのはええんですけど、はぁぅ、その、水に浸しただけの毛筆はくすぐった……ひあん……っ!」モジモジ

恭子「末原先輩やなくてご主人様やろ? 漫ちゃんは覚え悪いなー。こらもっとオシオキせなー」フフフ

絹恵(止めなくてええんですか?)ヒソッ

由子(洋榎がいなくなったショックで、恭子の漫ちゃん遊びが悪化してもーたのよー)コソッ

洋榎(うちのせいなんっ!?)ガビーン

     セーラ・智葉『テンパイ』

     桃子・純『ノーテン』

憧「手堅いわねぇ」

玄「みんな基本はデジタルだから。こういうこともあるよ」

灼「三回戦の次鋒戦も、かなり堅い面子でしたよね」

宥「大変だったなぁ~」

尭深「……」

玄「尭深ちゃん!? いいんだよ、会話に混ざっても!! 尭深ちゃんも一緒に戦ったでしょ、三回戦!!」

尭深「……」ジワ

玄「お姉ちゃん、尭深ちゃんがさっきから何か変なのですっ!」

宥「た、尭深ちゃんはちょっと人見知りなとこあるから……」

尭深「……違うんです」

宥「え?」

尭深「宥さん……宥さんが、あったかそうで……」

宥「わ、私? う、うん。そうだね。玄ちゃんがくっついてくるし」

玄「このおもちは譲れないのです!」ムギュ

宥「憧ちゃんも寄り添ってくるし」

憧「だって、宥さん、いい匂いするんだもん」ピト

宥「灼ちゃんももたれてくるし」

灼「これ気持ちい……」フウ

宥「だから、あったかいけど、それがどうかしたの?」

尭深「……」ウルウル

玄「尭深ちゃーん!?」

     智葉『リーチ……』

豊音「とうとう辻垣内さんのリーチが来たよー!」

胡桃「即リーとか」

白望「流局続いて焦れたってことはないだろうから、脅しの意味もあるのかな……」

豊音「みんなにオリてもらえれば次は親番だしねー。ここまでずっとダマだったのになー。やっぱりあの人ちょー恐いよー」

胡桃「これ、どうなる?」

白望「いや、私に聞かれても……」ダルーン

     純『チー!』

仁美「お、また井上の無茶鳴きと」

美子「辻垣内さんのリーチば相手にようやっとね」

     純『……ポン!』

哩「流局に持ち込むつもりとやろか」ジャラジャラ

姫子「どげんかして止めんと差の開く一方ですけんね」ジャラジャラ

友清(鎖つきの首輪ばつけた白水せんぱいとその鎖の先ば持ってご満悦な姫子せんぱいが二人揃って普通に解説しとる……!?
 てか、江崎せんぱいと安河内せんぱいも全然いつも通りと!! こいが去年の四強の一角――全盛期のチーム《新道寺》ッ!!)ゾクッ

     智葉『テンパイ』

     セーラ・純・桃子『ノーテン』

春「また流局……」ポリポリ

巴「決勝だからこそ、派手な打ち合いになりにくい、って感じかな」

初美「リー棒三本、積み棒三本、合わせて3900点のボーナスですよー」

小蒔「安手でもいいから和了ってしまいたいところですねっ!」

霞「ふふっ。けど、恐ろしいことに、親は辻垣内さんなのよねぇ」

『またまた流局だー!! 重た~い場が続いておりますっ!! あまりの息苦しさに、私も息をするのを忘れていましたー!!』

『堂々と嘘つかないで!?』

 ――対局室

 南二局流れ三本場・親:智葉

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:辻垣内智葉(劫初・115300)

セーラ(供託3000点と、積み棒三本。和了れば3900点のオマケがもれなくついてくる。これを好機と見るか、罠と警戒するか……)

 北家:江口セーラ(幻奏・98500)

桃子(こんなの罠以外の何物でもないっす。私は誘いには乗らないっすよ。もちろん、黙って見てるつもりはないっすけど)

 南家:東横桃子(煌星・94800)

純(《流れ》はオレにある気がするんだが、どうだろうな。先制されると、またさっきみたいに寿命が縮まる思いをしねえといけねえわけか)

 西家:井上純(永代・88400)

智葉「」タンッ

セーラ(ほほっ、真ん中のドラをツモ切りかぁー)

桃子(五筒……)チラッ

 桃子手牌:344556③⑤[⑤]二二六八 ドラ:⑤

桃子(ポンしたいっすけど……極道さんと俺々さんは張ってるっぽくて、ノッポさんには筒子が危険。ちょっと見送りっす)ツモッ

 桃子手牌:344556③⑤[⑤]二二六八 ツモ:⑧ ドラ:⑤

桃子(安全第一……っと)タンッ

 桃子手牌:34556③⑤[⑤]⑧二二六八 捨て:4 ドラ:⑤

純(東横のやつ、五筒を鳴くかどうか迷ったっぽいな。まだ攻めるつもりはねえと。まあ、なんだかんださほど凹んでねえわけだから、その戦略は正しいんだろうが――)

 純手牌:①①②③④[⑤]⑥⑥⑦⑨發發發 ツモ:7 ドラ:⑤

純(東横が鳴かなかったことで、オレの《流れ》が悪くなったか……? 辻垣内のプレッシャーがそうさせたってことだよな。チッ、切りにくいな。どうしたもんか――)タンッ

 純手牌:7①①②③④[⑤]⑥⑦⑨發發發 捨て:⑥ ドラ:⑤

セーラ(さあて……)

 セーラ手牌:二三四[五]六七八九66北北北 ツモ:④ ドラ:⑤

セーラ(俺的にはまだまだ全然押せ押せなんやけど、東横と井上が引いてもうてるのがなぁ。冷静っちゃ冷静なんやろけど)タンッ

 セーラ手牌:二三四[五]六七八九66北北北 捨て:④ ドラ:⑤

智葉「」タンッ

 智葉手牌:①①⑦⑧⑨一一一七八九89 捨て:8 ドラ:⑤

セーラ(……あかんな。ドラの五筒切ってからの、手出し八索。789牌が初めてのお目見えやから、三色か、或いはチャンタ辺りもある気がする)

桃子「」タンッ

純「」タンッ

セーラ(んー)ツモッ

 セーラ手牌:二三四[五]六七八九66北北北 ツモ:7 ドラ:⑤

セーラ(だあー……キツいとこ来たなぁ。六索なら三色からはズレるやろけど、六・九索待ちの平和やったら当たる。辻垣内なら安め見逃しはせーへんやろ。どうにか、手替わりして和了れるとええけど――)

 セーラ手牌:二三四六七八九667北北北 捨て:[五] ドラ:⑤

智葉「カン」パラララ

 智葉手牌:①①⑦⑧⑨七八九89/一一一一 捨て:③ ドラ:⑤・⑨

桃子・純(暗槓……!!)ゾクッ

セーラ(……ふーん? 暗槓しといて、リーチ掛けへんの? 暗槓で他家にプレッシャーを掛けられるなら、わざわざリーチして千点棒を手放さへんでも同じ効果が得られるからええ、っちゅー感じかな?)

セーラ(となると、打点は高いけど、待ちはあんまよくないねんな。89の辺張やろか。やとすると、ますます七索は切りにくい。
 ただ、平和の可能性が消えて、役牌も持ってなさそうやから、チャンタ系なら六萬・六索は切れるやろ。ええ感じに有効牌が来てくれれば、俺にもまだチャンスはある……やけどなー)

桃子「」タンッ

純「」タンッ

セーラ(現物しか切ってこーへん。参ってまうで~)タンッ

智葉「」タンッ

 ――流局

智葉「テンパイ」パラララ

桃子・純「ノーテン」パタッ

セーラ「……ノーテンや」パタッ

セーラ(んー。場が重くなってきたことで、一・二年生が動きにくくなってもーたんか。
 ほな、俺がどうにかせんとあかんわけか、この化け物を。今なら4200点のデザートまでついてくる。しゃーない。ぼちぼちお腹空いたしなぁ、行っとこか――)

智葉「四本場だな」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(点棒おいしくいただくでッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ:97500 智葉:118300 桃子:93800 純:87400 供託:3000

 南二局流れ四本場・親:智葉

セーラ(ドラ二赤一で対子が四つ。放っておいてもまあまあの手に育ちそうな気はする)

 セーラ手牌:②②③⑦⑦⑧3[5]788八八 ドラ:8

セーラ(ただ、あんま悠長に待つわけにもいかへん。あの辻垣内を出し抜かなあかんねんから。
 東横も井上も堅い。自然とツモり勝負になってくるやろな。せやけど、仮に和了率で五分やったとしても、親の辻垣内のほうが期待値が高くなる。それはあかん)

セーラ(っちゅーわけで、ちょっと駆けずり回ってみよかー!!)

セーラ「ポン」タンッ

 セーラ手牌:②②③3[5]788八八/⑦(⑦)⑦ 捨て:⑧ ドラ:8

智葉(鳴いてきたか。捨て牌を見る限り、手役は断ヤオだろう。恐らくは、ドラをいくつか持っている)

 智葉手牌:34667788③③④④④ ツモ:3 ドラ:8

智葉(さて、果たして――)タンッ

 智葉手牌:33667788③③④④④ 捨て:4 ドラ:8

桃子(まだ消えられてないっすか……)タンッ

純(そこそこ手が出来てきたな)タンッ

セーラ「チー」

 セーラ手牌:②②③388八八/(6)[5]7/⑦(⑦)⑦ 捨て:? ドラ:8

セーラ(これで、一向聴――)ゾクッ

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 智葉手牌:33667788③③④④④ ドラ:8

セーラ(……前巡に手出しで四索切っとる。辻垣内なら、ありうる、やんな)タンッ

 セーラ手牌:②②③38八八/(6)[5]7/⑦(⑦)⑦ 捨て:8 ドラ:8

智葉(ドラ切りだと……?)タンッ

桃子(ん。俺々さん、オリたっすか?)

純(なら、辻垣内の気が江口に行ってる隙に、割り込めるかもしれねえな)タンッ

セーラ「(アホ。誰がオリるかッ!)ポンや!!」ゴッ

 セーラ手牌:②②③3/(八)八八/(6)[5]7/⑦(⑦)⑦ 捨て:8 ドラ:8

智葉(ドラの対子落とし。私の和了り牌を抱えたまま和了るつもりか? だが、それだと打点が上がるまい。まあ、4200点を加えればそこそこの収支にはなるだろうが、この空腹の野獣がそれで満足するとは思えん)タンッ

セーラ(察しの通り、食いタン赤一2000なんぞで刻む気はないで。ただでさえ、辻垣内との勝負は和了率が下がる。このワンチャンを活かさへんとマイナスにされてまうやろ。ほな、やり方は一つや)

智葉(仕掛けてくる気満々といったところだが、その状態からどうやって飜数を上げる? ドラはもうない。赤ドラを引き入れたところで、2000が3900に変わる程度。一体、何を……)

セーラ(単純明快。ドラがもうあらへんって? ほな、増やせばええだけの話やんっ!!)

セーラ「カンやッ!!」パラララ

桃子・純(加槓――!?)

智葉(……やってくれるじゃないか)

セーラ(これで、満貫確定やな……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 セーラ手牌:②②③3/(八)八八八/(6)[5]7/⑦(⑦)⑦ ドラ:8・⑦

智葉(《我道》は《我獰》——我が道を行く餓えた《狼士》。その道筋はどうにも読み難い。ったく、力任せに噛み付いてきやがって。よかろう――)

 智葉手牌:33667788③③④④④ ツモ:② ドラ:8・⑦

智葉(かっ捌いてくれるッ!!)タンッ

 智葉手牌:33667788③③④④④ 捨て:② ドラ:8・⑦

セーラ(二筒ツモ切り……?)ゾクッ

 セーラ手牌:②②③3/(八)八八八/(6)[5]7/⑦(⑦)⑦ ドラ:8・⑦

智葉(不用意な動きをしてみろ。その瞬間に腹をかっ斬って臓物を引きずり出してやる)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(やってくれるやんか、辻垣内。《無極点》モードの竜華を相手にしとるような見透かされ感。ええな。決勝らしくて燃えるわ!!)

智葉(ほう……鳴かなかったか。しかし、そこから何ができる――?)

セーラ(ここで和了ると決めた以上、どんなに険しくても、曲がりくねってても、俺は俺の道を行くで。今までそうやって勝ってきたし、これからもそうやって勝っていくつもりや。
 よう見とけ、《懐刀》——辻垣内智葉。自分ほど正しくないかもしれへんけど、これが俺の解答や……ッ!!)タンッ

智葉(二筒切り? まさかここにきてベタオリということもあるまい。だとしたら、まさか、江口、お前……)

セーラ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 セーラ手牌:②③33/(八)八八八/(6)[5]7/⑦(⑦)⑦ 捨て:② ドラ:8・⑦

智葉(とても正気とは思えん……)

 智葉手牌:33667788③③④④④ ドラ:8・⑦

セーラ(ははっ、手牌のうち三枚が辻垣内への危険牌。でもって、一筒をツモってもーたらフリテン。和了り牌の四筒は、たぶんやけど、ほぼ全て辻垣内に抱えられとるっぽい。ほんで、当然、敵は辻垣内だけやない)

純(っしゃあ、張ってやったぜッ!!)タンッ

セーラ(もはやベタオリに逃げることもできひん、と。せやけど、構へん構へん。やって、要するに、ただ俺が先に和了ればええだけの話なんやから。なんも問題ないやん。なんちゅーか、今は、ツモれる気しかせーへんし!!)ゴッ

智葉(相変わらず無茶苦茶なやつだな……)パタッ

セーラ「ツモや、2000・4000に四本付けてや~」パラララ

 セーラ手牌:②③33/(八)八八八/(6)[5]7/⑦(⑦)⑦ ツモ:④ ドラ:8・⑦

純(なっっっっんだそれ!?)

桃子(それで満貫かませるとか俺々さんマジ俺々っす……)

智葉(ドラを手放しておきながら、リー棒と積み棒も入れて12200点。『3900を三回刻むより』でお馴染みの江口らしい解答だな)

セーラ(残るは最少あと二局。もうちょい辻垣内に迫りたいとこやけど、ぼちぼち来てまうかな――《ステルスモモ》)

桃子「次は……私の親っすね」ユラッ

セーラ:109700 智葉:113900 桃子:91400 純:85000

 南三局・親:桃子

桃子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉(っと、この感じ。来たか、《ステルスモモ》。なるほどなるほど。さすが感応系。こちらの認識に干渉してくる能力者。
 捨て牌や姿が見えないばかりか、気配すら感じ取れん。荒川はよくこんなやつから直撃を取ったな……)タンッ

智葉(荒川は《特例》だから無視するとして、基本的に、これを打ち破るには能力《オカルト》を使うしかない。
 園城寺の未来視のように、未来で和了る東横の手牌を見て策を弄するか、或いは、姉帯の追っかけリーチのように、東横が見えないと都合が悪い状況を作り出して、上位レベルの能力でもって《無効化》するのもアリだろう)タンッ

智葉(ま、見えようと見えまいと、感応系は感応系。和了れないときは和了れない。先にツモってしまえばいいだけの話――だが、油断はできん。こいつの最高速は荒川やウィッシュアートに匹敵するのだから、この親番は要警戒だな)

桃子「ロンっす、5800ッ!!」ゴッ

智葉(ほう……愉快愉快)パタッ

セーラ「(ちゃー)はい」チャ

桃子「一本場っす」ユラッ

智葉(落ち着いてるな。一年に出せる貫禄ではない。二回戦で荒川と打ったことが、こいつの支えになっているのだろうか。
 荒川は学園都市のナンバー2。つまり、東横的に言えば、たとえ《一桁ナンバー》であろうと、ひいては、私であろうと、荒川よりはマシってことになる。ったく、本当に《煌星》の一年は小生意気なやつらばかりだよ)

智葉(さぁて……殺るか――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子「っ……!」ゾクッ

セーラ:103900 智葉:113900 桃子:97200 純:85000

 南三局一本場・親:桃子

智葉(東横が卓に混じっていても出和了りは可能だ。東横の下家に座っている井上なら、リーチを掛けない限りフリテンになることはない。或いは、地獄単騎かそれに相当する待ちなら、リーチや席順に関係なく出和了りできる)

智葉(だが、それは、あくまでそういう選択肢もある、くらいの意味しかない。敢えて出和了りを狙ったところで、振り込み無視の最速テンパイから即リーを仕掛けてきて、なおかつ振り込まない東横には、まず稼ぎ負けるだろう)

智葉(この卓にいる全員が能力に拠る《上書き》ができない以上、基本的には、古典確率論優位なデジタル場。効率良く打つのがベストなんだ。それに、そもそも出和了りが期待できるような面子でもないしな)

智葉(というわけで、ごくごく普通に攻めさせてもらう)

智葉「リーチ」チャ

 智葉手牌:②③④[⑤]⑥⑦⑧⑨四[五]六八八 捨て:⑥ ドラ:2

桃子(先制されたっすか。追いつきたいっすけど、ぬぅ、こんなの要らないっす!)タンッ

 桃子手牌:二二二六七八2467889 捨て:北 ドラ:2

純(チートイ張った――はいいんだが)チラッ

 純手牌:①④355四四九九白白發發 ツモ:3 ドラ:2

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(一・四筒——どっちもヤベェ気がする。何が恐えって、東横の能力の効果には個人差があるっつー事実だ。オレには見えてねえ。江口にも見えてねえのは、さっきの振り込みでわかる。だが、こいつはどうなんだ……?)

純(見えていようと見えてまいと、良形で高打点が見込めるんだったら、リーチは戦略的に正しい。
 親っ被りで振り込まない東横を削れるし、そもそも麻雀って点取るゲームだし、あと、東横のいるこの場でリーチからの出和了りはまずない――っていうこっちの隙に付け込める可能性もあるしな)

純(っていうか、見えてる見えてねえ問題を無視したところで、放っておけば辻垣内が和了っちまう。どうにか《流れ》を変えたい。変えたいが、上家に見えねえやついるしなぁ。
 ズラすにズラせねえ状況……これも加味して、辻垣内はリーチを掛けてきたんだろうよ。くっそ、憩じゃあるまいし、どーしろってんだ、こんな強えやつ――)フゥ

純「……ちょいと失礼」クルンッ

桃子(えっ、なに回ってるっすかこの人……?)

セーラ(気分を360度変えるっちゅーやつか。優希が練習で行き詰ったときに同じことしとったっけ)

純(ぐちぐち悩んだって力の差は埋まらねえ。だったら目ェ見開いて真ん前向きに行ったろうや。大丈夫……東横は姿が見えねえが、鳴かねえ。辻垣内は底が見えねえが、今は鳴けねえ。
 でもって、オレは《流れ》が見える。鳴ける。こんな好条件はそうねえだろうよ。《流れ》さえ引き込むことができれば、この勝負、オレの勝ち。東横と江口が張ってねえのは《流れ》でわかる。
 現状、クリアしなきゃいけねえ障害は一つ。辻垣内智葉。学園都市のナンバー3。こいつの和了りを阻止すりゃあいい。そのために、できること――)

純(基本に立ち返って、じっくり捨て牌読んでみっとすっかぁ。感覚を過信しちゃいけねえ。
 能力者としてじゃねえ、能力と素の実力含めた、オレ自身の持てる力……全部使って立ち向かわねえと、こいつとは戦いにならねえからな)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(んー……ここで、どうかなっと)タンッ

 純手牌:①④3355四四九九白白發 捨て:發 ドラ:2

セーラ「(ほーん。ま、贅沢は言ってられへんか)ポン」タンッ

 セーラ手牌:二三七八九999西西/(發)發發 捨て:8 ドラ:2

智葉(ほう……?)タンッ

 智葉手牌:②③④[⑤]⑥⑦⑧⑨四[五]六八八 捨て:西 ドラ:2

セーラ(おぅ~? なんや《流れ》変えてもうた感じか、これ?)

桃子(む――)ゾクッ

 桃子手牌:二二二六七八2467889 ツモ:⑦ ドラ:2

桃子(……大丈夫。極道さんに私の《ステルス》は効いている。効いているなら、振り込まない。
 いくら極道さんでも、気合や集中力だけでは、能力《ステルス》に拠る確率干渉を打ち消すことは論理的に不可能。きらめ先輩の分析を、私は信じるっす)タンッ

 桃子手牌:二二二六七八2467889 捨て:⑦ ドラ:2

智葉(元より出和了りするつもりはない)

純(…………来たぜ、俺の時代――ッ!!)ゴッ

 純手牌:①④3355四四九九白白發 ツモ:3 ドラ:2

純(鳴かせて若干揺らいだ辻垣内の《流れ》が、ここでいきなり掻き消えた!! 恐らくは東横が和了り牌を切ってフリテンになったんだ。なら……もう恐えもんはねえだろうよッ!!)タンッ

 純手牌:①④33355四四九九白白 捨て:發 ドラ:2

純(この機を逃したらあとがねえ……!!)タンッ

 純手牌:①33355[5]四四九九白白 捨て:④ ドラ:2

セーラ(ちょっと恐いとこやけど……)タンッ

純「(っ……! ここは外せねえだろ!!)ポンッ!!」タンッ

 純手牌:33355[5]四四九九/白白(白) 捨て:① ドラ:2

セーラ(ん〜? なんか、牌だけやなく別のモンも喰われたっぽいな、今)タンッ

智葉(それなりによく訓練された犬だな)タンッ

桃子(足踏みっす……)タンッ

純(っしゃあ——この《流れ》で来ねえわけがねえよなァ!!)ゴッ

純「ツモ! 3100・6100だ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 純手牌:33355[5]四四九九/白白(白) ツモ:四 ドラ:2

セーラ(ははっ、見事に獲物横取りされてもーた!)

智葉(……悪くない)

桃子(親っ被りキツいっす……)

純「(ざっとこんなもんよォ!!)次はオーラスだなッ!!」

セーラ:100800 智葉:109800 桃子:91100 純:98300

 南四局・親:純

純(この《流れ》でラス親。攻めたほうがいいのか、無理せず現状維持したほうがいいのか)タンッ

セーラ(配牌めっちゃええけど、どうなるかはわからへんよな)タンッ

智葉(ん、江口が良さそうだろうか。ダマなら席順的に私への出和了りはある。要注意だな)タンッ

桃子(《ステルス》発動してからマイナスになるわけにはいかないっす)タンッ

純(辻垣内にも東横が見えてねえってわかったことで、若干だが攻めやすくなった。東横の下家にいるオレなら、リーチを掛けねえ限り下家と対面からは出和了りができる。
 もっとも、東横がヤバくなったとき、上家に合わせてベタオリができねえっつーデメリットはあるがな。攻めたいなら、この上ない席順だろ)

純(今回の《流れ》は江口にある。配牌が良かったんだろうっつーのは、この序盤の数打を見てもわかる。辻垣内も江口を警戒してるっぽい。あんまデカいのは勘弁だよな)

セーラ(おっとっと。これはどうしたもんやろか)

 セーラ手牌:④⑥⑦⑦⑦444[5]6四五六 ツモ:7 ドラ:⑦

セーラ(三色捨ててもツモやったらハネ満。倍ツモ捨てるんは勿体ない気いするけど、和了れへんよりはマシやんな。七萬ツモるんを待ったろかー)タンッ

 セーラ手牌:⑥⑦⑦⑦444[5]67四五六 捨て:④ ドラ:⑦

智葉(江口の手が変化したか。待ちが増えた……といったところだろう)

 智葉手牌:②③③④④23467五七八 ツモ:三 ドラ:⑦

智葉(ふむ――)タンッ

 智葉手牌:②③③④④23467三五七 捨て:八 ドラ:⑦

桃子(一向聴……)タンッ

 桃子手牌:③[⑤]⑦⑨123五六七七八九 捨て:① ドラ:⑦

純(江口の現物か。振り込むことはねえが、ツモで削られるかもしれねえのがどうにもな……)タンッ

 純手牌:一二三35688⑧⑧⑨東東 捨て:④ ドラ:⑦

智葉「ポン」タンッ

 智葉手牌:③③23467三五七/④(④)④ 捨て:② ドラ:⑦

セーラ(おい~、待ち増やしたと思ったら飛ばされたで〜)

桃子(と……ありがたやっす)

 桃子手牌:③[⑤]⑦⑨123五六七七八九 ツモ:⑥ ドラ:⑦

桃子「……リーチ……」ユラッ

 桃子手牌:[⑤]⑥⑦⑨123五六七七八九 捨て:③ ドラ:⑦

純(これは……どうなんだろうな。今の《流れ》だと、遠からず江口にバカデカいのを和了られそうな気がする)

 純手牌:一二三35688⑧⑧⑨東東 ツモ:8 ドラ:⑦

純(それに、江口の強い《流れ》の影に隠れちゃいるが、さっきの辻垣内の鳴きで東横がうっすらと《流れ》を引き寄せたようにも感じる。追いつけるか……?)タンッ

 純手牌:一二三56888⑧⑧⑨東東 捨て:3 ドラ:⑦

セーラ(ん~、せやろな~、来てまうよな~)

 セーラ手牌:⑥⑦⑦⑦444[5]67四五六 ツモ:七 ドラ:⑦

セーラ(高め引けば倍ツモや……)タンッ

 セーラ手牌:⑥⑦⑦⑦444[5]67五六七 捨て:四 ドラ:⑦

智葉「チー」タンッ

 智葉手牌:③③23467/(四)三五/④(④)④ 捨て:七 ドラ:⑦

桃子(げ……一発消された)

 桃子手牌:[⑤]⑥⑦⑨123五六七七八九 ツモ:③ ドラ:⑦

桃子(その上、派手に裏めったっす)タンッ

 桃子手牌:[⑤]⑥⑦⑨123五六七七八九 捨て:③ ドラ:⑦

純(うげ……切りにくいとこ来やがったなァ)

 純手牌:一二三56888⑧⑧⑨東東 ツモ:5 ドラ:⑦

セーラ・智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(《ステルスモモ》様々ってことで、どーよ)タンッ

 純手牌:一二三56888⑧⑧⑨東東 捨て:5 ドラ:⑦

智葉(チッ……殺り損ねたか)パタッ

セーラ(強いとこ切ってきたな。まあ、親やし、気持ちはわかるけど)タンッ

純「ポン!!」

 純手牌:一二三56888⑧⑧⑨/東東(東) 捨て:? ドラ:⑦

純(九筒切りでテンパイ。ドラの七筒は江口が固めてるっぽくて、八筒はオレの手牌に二枚、河に一枚。あるとすれば、恐らくは単騎だろうな)

桃子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(鳴いたから一発は消えてるはずだ。元より引くつもりはねえ。頼むぜ、入学早々衣たちに目をつけられたオレの悪運。少しくらいは働いてくれよ……!!)タンッ

 純手牌:一二三56888⑧⑧/東東(東) 捨て:⑨ ドラ:⑦

純「……通るか?」

桃子「通らないっす。ロン、5200」パラララ

 桃子手牌:[⑤]⑥⑦⑨123五六七七八九 ロン:⑨ ドラ:⑦・7

『先鋒戦前半終了おおお!! 四者一歩も譲りません!! が、頭一つ抜けてきたのはやはりナンバー3――《劫初》辻垣内智葉ッ!! 後半戦も浮いてくるのか!? それとも三人が待ったをかけるのかあああ!!』

純(裏が乗らなかっただけマシか。しっかし、この《ステルス》。後半はどうすっかなぁ。江口や辻垣内に多少ブレーキがかかってるっぽいのは助かるんだが、そりゃあオレも同じだし……)

 四位:井上純・−6900(永代・93100)

桃子(やっぱり前半はプラスにできなかったっすか。でも、十分戦えてるっす。どうにか、後半戦でひっくり返す。《ステルスモモ》の独壇場はこれからっすよ)

 三位:東横桃子・−3700(煌星・96300)

セーラ(辻垣内の背中が遠ざかる一方やな。まくるのは難しいとしても、あんまり離されると今後に響く。まあ、ゆーても、俺には特別な奥の手があるわけやないからな。後半戦も頑張るだけやで!)

 二位:江口セーラ・+800(幻奏・100800)

智葉(ペースは問題なく掴めているが、少々稼ぎ足りん。東横の《ステルス》のこともある。次の半荘はもっと攻めたほうがいいだろうか。ま、いずれにせよ、私は私の本分を全うするだけだがな――)

 一位:辻垣内智葉・+9800(劫初・109800)

 ――実況室

恒子「というわけで、前半は理事長の大予言通り辻垣内さんがトップとなりました。やっぱりアラフォーは予想もアラフォーですね!」

健夜「どういう意味!?」アラサーダヨ

恒子「約40パーセントの確率で当たる」

健夜「わりと微妙!!」

恒子「後半戦はどうなると思いますか?」

健夜「んー、やっぱり辻垣内さんがトップかなぁ」

恒子「ほほう?」

健夜「《一桁ナンバー》の上位《三人》――彼女たちは、白糸台の中でも特別な雀士だから」

恒子「なぜ、三人が特別なのか?」

健夜「常にトップしか取らないからだよ。あの《三人》は、白糸台に来て、公式戦で格下ナンバー相手に上を行かれたことが一度もない」コレユーメーナハナシダヨ

恒子「驚異的な戦績ですね」

健夜「つまり、辻垣内さんは、ナンバー1の宮永さんとナンバー2の荒川さん以外には、負けないってこと。ま、今までそうだったからといって、次の半荘がそうだとは限らないけれど」

恒子「なるほど。アラフォーともなると色んなことを知っていますね!」

健夜「あ、それとね、こーこちゃん」アラサーダヨ

恒子「なに?」

健夜「三人じゃなくて、《三人》だよ」

恒子「ほう?」

健夜「今の白糸台では、大能力を持つ上位ナンバーを《十最》と呼んで、大能力を持たない上位ナンバーを《六道》と呼ぶ。
 そして、格下ナンバーには決してトップを譲らないナンバー1とナンバー2とナンバー3を――」

恒子「《三人》と呼ぶ……んだよね?」キュピーン

健夜「う、うん。そう」シッテタノニ!?

恒子「さあ! アラフォーのありがた~い薀蓄を聞いている間に、後半戦の開始が迫ってきましたあああ!!」

健夜「アラサーだよ!!」

恒子「格下相手に無敗を誇る《三人》の一人――辻垣内智葉を前に、他家はどう戦うのか!? 注目の先鋒戦後半……まもなくスタートですっ!!」

 ――対局室

セーラ「後半もよろしくな!」

 東家:江口セーラ(幻奏・100800)

桃子「……よろしくっす……」ユラッ

 南家:東横桃子(煌星・96300)

純「ああ、ヨロシク」

 西家:井上純(永代・93100)

智葉「よろしく——」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:辻垣内智葉(劫初・109800)

『先鋒戦後半、開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございます。

ちょっと小休止しまして後半戦に行きたいと思います。

では、また後ほど。


セーラが江崎の名前を挙げてたけど、江崎仁美も何か特別のものを持ってるのかな

お待たせしています、すいません。なんか文字が頭に入ってこないと思ったら熱が出てました。続きはまた後日にさせてください。申し訳ないです……。

>>537さん

去年のベスト4常連チームの人たちを、

《虎姫》:照さん(支配者)、弘世さん(大能力者)、亦野さん(強能力者)、渋谷さん(超能力者)

《姫松》:愛宕姉妹・末原さん(非能力者)、上重さん(大能力者)、真瀬さん(無能力者)

《千里山》:江口さん・清水谷さん(非能力者)、船久保さん(無能力者)

《新道寺》:白水さん・江崎さん(非能力者)、安河内さん(無能力者)、鶴田さん(超能力者)

という風に設定しているので、非能力者のくくりで名前が挙がってます。当SSの江崎さんは、新道寺のレベル0では白水さんに次ぐ打ち手と本人や周りが語っていたりします。なので、姫松で言うと、末原さんくらい頼りになる人ということになります。あと、去年の決勝の中堅戦で江口さんと江崎さんは対戦しています。

江崎さんは二回戦で天江さん相手に3900オールとかやっていますが、そのときに支配力に拠る《上書き》をしています。原作の池田さんのそろ混ぜみたいなものです。能力ナシで《一向聴地獄》の支配に逆らって和了っているので、かなり頑張ってます。

 *

ワンピースに喩えると、

支配者=覇王色持ち

非能力者=覇気使い(武装色・見聞色)

能力者=悪魔の実(全体効果系=ロギア、配牌・自牌干渉・封殺系=ゾオン、感知・感応系=パラミシア)

無能力者=ゴッド・ウソップ

くらいの感じです。《一桁ナンバー》に非能力者・無能力者が多いのは、能力者には必ず弱点(カナヅチ等)があるがゆえです。ネリーさんの魔滅の声は海楼石ですね。

仮に天江さんをクロコダイルだとするなら、覇気で殴るのが非能力者、水をぶっかけて殴るのが無能力者です。江崎さんは前者です。末原さんは迷いましたが、愛宕さん(ゾロ)、末原さん(サンジ)、真瀬さん(ナミ)のイメージだったので、非能力者にしました。

 *

では、失礼しました。治ればまた明日。

じゃあ衣をエネル(ゴロゴロ)としたら
咲さんはルフィ(ゴムゴム)ってことだな

 東一局・親:セーラ

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(背中は見えとるのに手が届かへんこの感覚……懐かしいな。ヒトやない《三人》。宮永がお日様で、荒川が《悪魔》やとしたら、辻垣内は人外と人の境界線上におる門番や。俺や竜華や洋榎が行き着く先に待っとる誰か)

セーラ(三年前まで、そこに立ってたんは、やえやったな。もうかれこれ十年くらい前になるんやったか。地元の学園都市支部みたいなとこ――俺や竜華や洋榎にとっては麻雀教室やった――に、洋榎のおかんと一緒にやってきたんや)

セーラ(当時は白衣は着てへんかったけど、変な装置をあれこれ弄り回して、何かの測定をしとった。聞けば、母親が学園都市勤務で、姉が現役の白糸台高校麻雀部やったらしい)

セーラ(ほんで、一局だけでもどうやって、俺らみんなで誘った。ぶっちゃけ強そうな雰囲気はなかったけど、普段から白糸台高校麻雀部の二軍《セカンドクラス》を相手にしとるっちゅー、その実力に興味があってん)

セーラ(結果は、俺と洋榎がトばされて終わりやったな。竜華も、二位は二位でも焼き鳥やった。当時のやえは、恐ろしく強かったんや。ただ、やえ曰く、完成するんが誰よりも早かっただけ、らしいけど)

セーラ(やえは小三の時点で強さ95やった。俺らと初めて打ったときは90くらい。四、五年前にはもうそれが100になっとった。
 ほんで、それは今も変わってへん。要するに、あいつは、極端に早熟な雀士やったんや。そういう意味で、最初から強さ100の荒川憩とは、気が合ったんやろ)

セーラ(まあ……せやけど、当時の俺らから見れば、単純に、めちゃめちゃ強いやつおるで! って感じやった。ラスボスみたいなもんや。
 やから、言ったんや。大会に出て来いって。俺らが自分を倒したるから、玉座で待っててくれってな)

セーラ(西には四匹の獣がいる――なんて言われ方するようになるまで、そう時間はかからへんかった。やえは、ジュニアのタイトルを総ナメ。俺らも俺らでやりたい放題遊んだ。
 初めて全国決勝の舞台で四人が揃ったんは、俺らが六年生のときやったな。最後に揃ったんは、中二の春やった)

セーラ(そして、学年が上がって、中三の夏。三年前のインターミドル。俺と洋榎と竜華の全員が立てへんかった決勝のステージで、やえは玉座を降りた。降りて、二度と戻ってくることはなかった。けど、それも今日までの話……)

セーラ(あの三年前のインターミドルから、打倒《王者》を合言葉に遊んできた俺らの目標は、大きく変わった。
 《覇道》を行く洋榎は、新たな覇者――宮永照を目指して。《正道》を行く竜華は、真偽を分かつ刃――辻垣内を目指して。ほんで、俺は……俺は、どこに行けばええんかわからなくなった)

セーラ(やってそうやん。俺は、勝ちたいとか、己を磨きたいとか、理想とか、そういうんはあんまあらへんのやもん。
 麻雀は楽しいから打っとる。勝てばより楽しい。やから勝ちたい。やから強くなる。俺にあるのはそれだけや)

セーラ(それから、あっち行ったりこっち行ったりやったなぁ。スカート履きたくないとか、やえともう一度遊びたいとか、竜華たちと一軍《レギュラー》になりたいとか、洋榎にだけは負けたくないとか――紆余曲折や)

セーラ(そのせいで、調子崩すこともあった。去年の《千里山》のときがそうや。三年生が引退して、一年の秋からメンバーに選ばれて……しばらくの間は、空回りっぱなし。先輩方にいっぱい迷惑かけてもーた。あれはホンマに申し訳なかったな……)

セーラ(あのとき……何やっても裏目裏目で凹んでたとき、久しぶりに会うたやえは、俺の愚痴を聞いたあと、呆れ半分で言うてくれた)

     ――何を言い出すかと思ったら、

          ――セーラはセーラの好きなように打てばよかろう。

セーラ(好き……好きね。俺は麻雀が好きや。小さい頃からずっと一緒に遊んできた洋榎や竜華が好きや。自分より強いやつと打つんもごっつ好きや)

       ――お前の目指すものは、お前にしか決められない。

   ――お前の居場所は、お前にしか決められない。

セーラ(もちろん、やえのことも大好きやで……)

    ――そりゃ、たまには、迷うことや悩むこともあるだろう。

       ――しかし、その迷走も含めて、お前にとって大事なことは、

セーラ(俺は、もう一度、《王者》の晴れ姿が見たいねん。やえが《頂点》に返り咲くとこが見たいねん。やえ一人で無理なんやったら、いくらでも力になったるから。一緒に一軍《レギュラー》になったろうや——)

  ――今も昔も、楽しむこと……全力で駆け抜けていくことだろう?

セーラ(《千里山》の目標はトップを取ること――俺はそれに共感した。そらそやろ。二位を何度も刻むより、たった一度でええ、一位になったほうが楽しいに決まっとるやん)

セーラ(去年は俺の力不足でダメやった。やから、今年こそ。今年こそ一位になんねん。一軍《レギュラー》になんねん。
 この最後の夏、隠居しとった元《王者》を引き連れて、俺は《頂点》まで駆け抜ける。やえから電話をもらったとき、そう決めたんや)

セーラ(俺は俺の道を行く。決勝戦。相手にとって不足なし。最高や! 最高に楽しいで、今……!!)

セーラ「リーチッ!!」ゴッ

 セーラ手牌:三四五34[5]③④⑤⑥⑦⑧西 捨て:② ドラ:①

桃子(親リー……ツモられたくないっすけど)タンッ

純(こりゃどうなんだろうな……)タンッ

智葉(二筒手出し、か)

 智葉手牌:667788三三三④⑦⑧⑧ ツモ:西 ドラ:①

智葉(西は井上の河に一枚見えている。江口の捨て牌は、見るからにタンピン系。この巡目で、ドラでもないオタ風牌で待つというのは、まずありえないように思う。
 しかし、江口には、リーチを掛ける前からテンパイ気配があった。このリーチ、何かしら、裏があると見ていいだろう)

智葉(江口が西で待っているとしたら、シャボか単騎。シャボで出和了りをするなら、実質の和了り牌が残り一枚の西、という限定的な状況でなければ、出和了りすることはできないだろう。
 単騎なら、江口から見て、居所のわからない西が場に二枚あることになるから、出和了りはできない。東横が今さっき西を切った可能性は、ゼロではないからだ。少なくとも、私なら、出和了りはしない。だが、こいつなら――?)

セーラ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉(東横のいる場でリーチを掛けるとき、出和了りを狙うなら、私は地獄単騎、またはそれに相当する待ちで待つ。しかし、それはそういう手が入った場合に限る。久じゃあるまいし、自ら好き好んで確率の悪い待ちにはしない。
 ゆえに、基本的に、私はツモる前提でリーチを掛ける。前半戦の南三局一本場のように、他家から和了り牌が出ても、東横の捨て牌が未確定な以上、出和了りはしない。
 或いは、三回戦の福路のように、チョンボを払ってもいいと割り切ることもできないだろう。反則要素の付き纏う道は正しくないからだ。まあ、この辺りは多分に感性の問題だがな……)

智葉(ただ、何にせよ、江口は、福路でもなければ、私でもない。こいつなら、ありえるかもしれない。
 ツモる前提でリーチを掛けているから出和了りをしない、ではなく、ツモる前提でリーチを掛けているからこそ出和了りができる――という無茶苦茶な論法で、西単騎リーチをしてくるかもしれない)

智葉(ツモる前提でリーチを掛ける。つまり、いずれはツモる。ゆえに、位置の確定していない残り二枚の西のうち、一枚は自分のツモるところにあるはずだ。
 よって、自分がツモるより先に河に西が見えたら、それを出和了りしても、フリテンにはならない――などと……)フゥ

智葉(とても正気とは思えないがな。こいつ以外の誰がそんなことをするだろう。逆に言えば、こいつなら、それくらいのことはやってくるってことだ。これは切れん)タンッ

 智葉手牌:667788三三三⑦⑧⑧西 捨て:④ ドラ:①

セーラ(うおっと。辻垣内のやつ、まさかこの状況で西を止めたんか? 信じられへんことするやん。洋榎でも竜華でも微妙なラインやで)タンッ

智葉(私を誰だと心得る。あまり《三人》をナメるなよ)タンッ

セーラ(ふーん……直撃は無理やったか。仕方あらへん。ツモで勘弁したるわ)

セーラ「ツモや、4000オール」パラララ

 セーラ手牌:三四五34[5]③④⑤⑥⑦⑧西 ツモ:西 ドラ:①・9

桃子(悪待ち……? いや、また違う意図がある感じっすけど、まるでわからないっす)

純(理解の遥か外にいる生き物だなぁ)

智葉(さて、まくられてしまったが……まあ、まだまだこれから)

セーラ(せやな。まだまだ楽しい時間は続くでっ!!)

セーラ「一本場や!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ:112800 桃子:92300 純:89100 智葉:105800

 東一局一本場・親:セーラ

セーラ・智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(人外どもが自由に打ち回しやがって。《頂点》に近付くととんでもねえやつがいる――わかっちゃいたつもりだが、こうも力の差を見せ付けられるとな。やる気が出てくるってもんだぜ)タンッ

純(《流れ》は比較的悪くねえ。まあ、東横の《ステルス》が発動している今、オレの感じ取っている《流れ》のままに対局が進むとはとても思えねえけどな。引きはいい。ツモれるもんならツモりたいが……)タンッ

智葉「リーチ」チャ

純(六萬リーチね。江口は一発目はとりあえず現物。東横が何を切ったのかはもちろん見えねえ。辻垣内の《流れ》は……細いな。放っておいても平気か? で、どーするよ。これ――)

 純手牌:三五六七七[⑤]⑥⑦56788 ツモ:九 ドラ:四

純(辻垣内の捨て牌にある萬子は、リーチ宣言牌の六萬だけ。ドラの四萬が固まってて、五・八萬待ちとか、そんな感じか? 或いは、スジ引っ掛けの二四嵌張で三萬待ちとかな)

純(いや、つーか、この巡目でそんな正確に待ちを読むとか、マジ無理だって。リーチ宣言牌が萬子だったっていうだけで、筒子も索子も上のほうは万遍なく危ねえ。
 567の三色をキープしたまま、八索対子落としとかで回すこともできるだろうが、八索が安全だって根拠はねえ。オリるなら、現物の六萬だが、《流れ》を信じるなら、今回はオレが有利なはずなんだ)

純(それに、前半戦を見る限り、辻垣内は出和了りをするつもりがない。東横がいる場でリーチを掛けてきたってことは、ツモ狙いなんだろうよ。なら、押しても問題はねえ……と思う)

純(が……さすがに一発目から踏み込むほどの度胸はねえぜ。相手は人外。用心するに越したことはない)タンッ

 純手牌:三五六七七[⑤]⑥⑦56788 捨て:九 ドラ:四

純(三色赤一嵌張待ちで押すのはキツい。せめて、倍の打点はほしいところだ。だから、来てくれよな……!!)ツモッ

 純手牌:三五六七七[⑤]⑥⑦56788 ツモ:六 ドラ:四

純(いい子ちゃんだぜ、六萬。だが、はたして、こいつはオレを倍ツモへ導く天使様なのか。それとも、甘い顔して地獄へ引きずり込む荒川憩なのか。どっちだろうなァ……)タンッ

純「リー」

智葉「ロン」

純(チッ……悪魔のほうだったか。つか、出和了りだと――?)

智葉「5200は5500」パラララ

 智葉:一二三三[五]六七234[5]67 ロン:三 ドラ:四・東

純(赤がなければリーのみで、しかも実質地獄単騎。道理で《流れ》が細いわけだぜ。手順を考えるなら、一二三[五]六六七234[5]67で六萬待ちテンパイだったところに三萬が入ったって感じか?
 チンタラしてると東横が張ってくるかもしれねえからな。なら、和了り牌は残り一枚でも、出和了り可能な三萬待ちでリーチしたほうが期待値が高いと踏んだ、と。実際、オレが一発で振ってりゃ、8000だったわけだしな)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(こいつをまくれる未来が見えねえっての。ま、仕切り直していこーか!!)

セーラ:112800 桃子:92300 純:83600 智葉:111300

 東二局・親:桃子

純(で、《流れ》に身を任せてすっげー手を張ったはいいんだけど、ここでこれはどーよ)ハァ

 純手牌:一一一二二二[五]六七七八八八 ツモ:一 ドラ:五

純(まず、辻垣内の一索チーからの赤五索切りが、解せねえ)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 智葉:二三四四四①②③44/(1)23 ドラ:五

純(まあ、恐らくは、江口のあのキモ過ぎる捨て牌に対して、何らかの保険を掛けておいたってとこだろうな。辻垣内は、江口の上家なわけだし)

セーラ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 セーラ手牌:九①⑨19東南西北白白白發 ドラ:五

純(一萬が切りにくい上に、暗槓もしにくい。どうする? ここまで来て、辻垣内に差し込めってか? いや、だが、しかし、でも、けど……ああ、わっかんねーってっ!!)タンッ

 純手牌:一一一一二二二[五]六七八八八 捨て:七 ドラ:五

桃子「ロンっす」

純(おいおいおいッ!?)ゾワッ

セーラ(んー、こればっかりはなぁ)フゥ

智葉(親の連荘、か)パタッ

桃子「リーチ赤一裏一……7700」パラララ

 桃子手牌:12388②③④[⑤]⑥⑦七七 ドラ:五・④

純(悪いな、塞。せめてプラスで終わりにしてえとか思ってたけど、生きて帰れるかどうかもわかんねえわ、これは)

智葉・セーラ・桃子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(こいつらガチ強えよ……ッ!!)

桃子「一本場っす」ユラッ

セーラ:112800 桃子:100000 純:75900 智葉:111300

 東二局一本場・親:桃子

桃子(原点復帰……悪くないっす。特に、極道さんの動きをある程度制限できてるのが大きいっすね。前半戦ほど無双されてる感じはしない。
 俺々さんは相変わらずごりっとツモってくるっすけど、それだって、多くてあと二回くらいのはず。この親で稼げるなら、逆転は十分可能)タンッ

桃子(だんだん手が形になってきた。これならリーチ掛ければ親満は見れる。ツモればその瞬間にトップ。能力を破られない限り、振り込みのない私なら、一位で先鋒戦を終えるのも無理じゃないはずっす――)タンッ

純(東横が順調に来てる気がするな。こいつが《流れ》を味方にしてるときは参るぜ。手の施しようがねえからな)タンッ

智葉「ポン」タンッ

 智葉手牌:34[5]6788②③④/(⑥)⑥⑥ 捨て:1 ドラ:2 

純(ん――?)

セーラ(どういうつもりなんやか)

 セーラ手牌:②③④[⑤][⑤]⑥⑦六七八678 ツモ:2 ドラ:2

セーラ(……ま、念のため)タンッ

 セーラ手牌:③④[⑤][⑤]⑥⑦六七八2678 捨て:② ドラ:2

桃子(ツモ調子いいっす)

 桃子手牌:22556四五[五]七七八八九 ツモ:7 ドラ:2

桃子(ちょっと怪しいとこっすけど、私は……振り込まない)タンッ

 桃子手牌:22567四五[五]七七八八九 捨て:5 ドラ:2

純(そろそろ東横がヤベェか? 辻垣内の鳴きも恐えし。ここはベタオリか)タンッ

智葉「ツモ、1000・2000は1100・2100」パラララ

 智葉手牌:34[5]6788②③④/(⑥)⑥⑥ ツモ:2 ドラ:2

セーラ(いやこいつはホンマに)パタッ

純(打ち筋が恐ろしくフレキシブルなやつだなぁ。こいつに出来ねえこととかあんのか……?)

桃子(一通も見えていたはずなのに、私が親だからなのか、加速して流しに来た。しかも、さらっとドラをツモってくる辺りが憎いっすね)

桃子(《ステルスモード》に入っても、まだこれだけ差があるっすか。私の能力で動きに制限が掛かってるのは今のを見てもわかる。それでもなお、突き放される。それも、極めて正攻法で)

桃子(私は感応系。ツモの偏りはあくまで古典確率論に従う。稼ごうと思うなら親で連荘するのが一番っす。でも、そうはさせてくれない。
 いくら最高効率で打っても、三、四回に一回しか和了れないっす。今みたいに流されるのはキツい)

桃子(普通に考えれば、《ステルスモード》の私はまず負けないっす。でも、この人たちは、極道さんを筆頭に普通じゃない)

桃子(今まで私は、基本的に、自分を曲げずにここまで来た。きらめ先輩に好きだと言ってもらった打ち方で、勝ったり負けたりしてきたっす。でも――)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(ふん、上等っす。勝つためなら、何度だって、私は限界を超えてやるっすよ。だから、ちゃんと見ていてくださいね、きらめ先輩……っ!!)

セーラ:111700 桃子:97900 純:74800 智葉:115600

 東三局・親:純

桃子(というわけで……お見せしちゃうっすよ。これが私の限界突破――必殺、《ステルス暗槓》っす!!)

桃子「……カン……」ユラッ

 桃子手牌:一二三九九②②678/東東東東 捨て:七 ドラ:7・九

桃子(リーチは既に掛けてるっす。カンドラも乗った。和了り牌はまだ場に見えてない。行けそうな感じがするっすけど……どうっすかね?)

智葉(む……? 場の空気が微かに乱れたような。何か起きたのか――ああ、そうか……)

 智葉手牌:234567③[⑤]⑦⑦⑦⑧⑨ ドラ:7・?

智葉(海底がズレている上に、カンドラ表示牌が捲られていて、しかもそれが見えない。なるほど、これが福路の《磨瞳》を出し抜いた《ステルス暗槓》か。
 体験するのは初めてだが、やはり、私と荒川と宮永以外にどうにかできるものではないな。カンのいい江口も、《流れ》が見えるという井上も、暗槓の事実にまったく気付いていない。
 ギリギリ、愛宕なら、違和感を覚えるかもしれない。だが、初見では、いかにあいつでも海底間際まで何が起きてるのか理解できないだろう。この応用技を思いついたやつは、本当にとんでもない武器をこいつに与えた)

桃子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉(暗槓を仕掛けてきたということは、既にリーチが掛かっているのだろう。ドラによっては倍満級の和了りもありうる。速度重視でテンパイ即リーを基本とする東横にはなかなか出せない火力だ)

智葉(が、相手が悪かったな――)ツモッ

智葉「カンッ!!」パラララ

セーラ・純「っ!?」ピクッ

セーラ(おぅ、なんやえらい声がデカいやん。らしくない……)

純(なんだってんだ――?)

桃子(う、嘘っす……!!)ゾワッ

智葉(騙し合いや化かし合いで私に勝とうなど、千年早いぞ、一年)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 智葉手牌:三234567③[⑤]⑨/⑦⑦⑦⑦ 捨て:⑧ ドラ:7・?・一

セーラ(七筒暗槓で八筒を手出しやと? ちょっと意味がわからへん。わからへんが……ほう、なるほど。そういうことか)

純(よくよく見てみたら、カンドラが既に一枚捲られていやがる。ってことは、東横もいつの間にかカンしてやがったのか。《ステルス暗槓》ね。
 だとすると、東横はリーチを掛けていて、ドラによってはとんでもねえ手になってる可能性がある。親だが、《流れ》はよくねえ。ここはオリか)

セーラ(これはオリるしかあらへんやろ。幸いっちゅーか、辻垣内の七筒暗槓が壁になっとる。とりあえず、井上と辻垣内に合わせつつ、安牌増えるん待つか)タンッ

桃子(なんてことっすか……)タンッ

純(東横が既にリーチを掛けているとしたら、ここ数巡で河に見えた牌は、安牌ってことになるよな。辻垣内の河に見えてるやつを中心に、なんとか凌ぐぜ……!!)タンッ

智葉(《ステルスモード》の東横は最速効率でテンパイして即リーする。即リーゆえに、さすがに地獄単騎とまではいかなくとも、いつもいつも良形とは行かない。
 《ステルス》の特性からも、東横は、若干出和了りに頼る嫌いがある。だが、こうして暗槓している事実が明るみに出て、他家が全力でオリに回れば、いかに捨て牌が見えなくとも、東横の和了率は激減するだろう)タンッ

桃子(八筒に続いて九筒……私の《ステルス暗槓》を他家に気付かせるために、⑦⑧⑨の一面子を殺してまでカンしたってわけっすか。
 私の暗槓がバレれば、自ずとリーチしていることもバレる。いくら私でも、ベタオリで完全安牌ばかり切ってくる相手から直撃を取るのは、不可能っす。けど、ツモれば――)タンッ

智葉(ツモればいい……まあ、それは、その通りだがな)タンッ

純「ポンだ」

桃子(ええ……っ!?)

純(よし。この《流れ》のままなら、流局コースだろ)タンッ

智葉(忘れるなよ、東横。この場にいる誰よりも、感知系能力者の井上は、お前の天敵だ。こいつが私の側につけば、たとえ姿は見えずとも、お前を封殺することなど容易い)タンッ

桃子(こんな……! 私の《ステルス暗槓》が、こんないとも簡単に……!?)タンッ

智葉(さて、大分安牌も増えてきたな)タンッ

桃子(っていうか、極道さん、オリてるわけじゃない!? 私の《ステルス暗槓》を他家に気付かせたのは、警戒の目を私に向けて、自分が和了るためっすか……!?)タンッ

智葉(ま、一度テンパイを崩しておいて、張り替えで和了ろうというのは、無理があるだろう。それに、江口も井上も、そこまでバカじゃない)タンッ

セーラ(井上の河に見えとるやつでもええけど……それやと辻垣内に当たる可能性もあるからなぁ。くわばらやで~)タンッ

純(合わせて打つなら、辻垣内に合わせねえとな。いつどこで斬られるかわからねえ)タンッ

桃子(くっ……海の底が――)

智葉(ふん、これまでか)タンッ

セーラ(これで、流局)タンッ

桃子「(だー……やられたっす!)……テンパイ」パラララ

 桃子手牌:一二三九九②②678/東東東東 ドラ:7・九・一

智葉「テンパイ」パラララ

 智葉手牌:三三345678②③/⑦⑦⑦⑦ ドラ:7・九・一

純「(よくやるぜ、本当に)ノーテン」パタッ

セーラ「(ノーテン罰符くらいあげたったらええのに、抜け目ないで~)ノーテン」パタッ

桃子(予備知識アリとは言え、初体験で私の《ステルス暗槓》を瞬間察知、直後に自ら暗槓を仕掛けて他家に警戒を促し、私の和了り牌を止め、ノッポさんの能力を利用しつつその親を流し、最後にはちゃっかりノーテン罰符までもらっていく――これが白糸台で三番目に強い人の麻雀っすか……!!)

純(異次元レベルの駆け引きもそうだが、この能力戦における対応力もさすがだよなぁ。《照魔鏡》持ちの照と同じかそれ以上――乱麻を断ち濫魔を絶つ《懐刀》。
 つくづく思い知らされるぜ。こいつはヒトじゃねえ。抜き身の刀そのものなんだってな)

セーラ(格下ナンバー相手に決してトップを譲らない《三人》。その一人、辻垣内智葉。真偽を断じる境界線。英雄なる《欺人》にして《欺刃》――)

智葉「さて、次は私の親番だな」

桃子(次はブチ抜くっす!!)

純(親っ被りかましてやるぜ……ッ!!)

セーラ(ほっほぅ。よう頑張るなぁ、一・二年生。さて、この可愛い後輩たちをどうするつもりなんか、我らがナンバー3は?)チラッ

智葉(無論、斬る――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ:110200 桃子:98400 純:73300 智葉:117100 供託:1000

 ――《煌星》控え室

     智葉『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「《ステルス暗槓》も通じないのー!?」アワワワ

友香「三回戦の清水谷先輩がいかに正しかったかがわかるんでー」

咲「あの人相手にあんなことができるのは清水谷さんだけだよ……」

煌「点数調整が得意な咲さんが言うのですから、そうなのでしょうね」

淡「でもでもっ! モモコは振らないし、速いし!!」

咲「門前では、だよね」

友香「振り込み度外視の最高効率。同じ順番で同じ牌が来れば、桃子はあの荒川先輩よりも高速でテンパイできる。でも、その理屈は、互いに門前で手を進めるときに限るんでー」

     智葉『ポン』

淡「ダブ東鳴かれた! もー、セーラってば! ちょっとは牌を絞るとかさー!!」

友香「江口先輩は、そういうの気にして後手に回るくらいなら押し切りに行くってタイプだから」

咲「むしろ、鳴いて辻垣内さんの打点が若干下がってツッパりやすくなったなー、くらいに思ってると思う」

煌「配牌から桃子さんの手にあった自風の西対子。既に河に二枚切れてしまっているので、少々形が窮屈ですね」

     智葉『チー』

淡「うぬぬぬ……っ!!」

煌「門前特化の桃子さん、高打点を好む江口さん、鳴きで《流れ》を操る井上さん――その三人全員を、鳴きを有効に使うことで、まとめて掻い潜り、突き放していますね。
 配牌時点では、どちらかと言えば、辻垣内さんは出遅れていました。それが、いつの間にか誰よりも和了りに近いところにいる……」

     智葉『ツモ、2000は2100オール』

咲「強いね」

友香「強いんでー」

淡「強いけどー! わかってたけど!」

煌「辻垣内さんも点差ほど余裕があるわけではありません。全力で挑み続けることです」

     智葉『二本場……』

 ――《幻奏》控え室

ネリー「あははっ! やっぱさとはは強いんだよ!」

誠子「江口先輩でもプラスを保つのがやっとですか」

優希「なんとか一発逆転する方法はないんだじぇ?」

やえ「そんなものがあったらあいつは《三人》とは呼ばれていない。ナンバー4以下の雀士がありとあらゆる手を使ってあいつに挑み、悉く散っていった」

優希「そんなだじぇ……」

ネリー「まあ、基本は正攻法かなぁ。そこから、応用技、騙し技、裏技を織り交ぜて駆け引きに持ち込んで、最後の最後はやっぱり正攻法――みたいな。要するに、全力で打てば、ギリギリ勝負が成り立つかな、くらい。
 今は決勝だからね、みんないい感じに喰らいついてると思う。私の記憶にある中でも、せーらたちは善戦してるほうなんだよ」

     セーラ『リーチや!』

優希「おお! さすがセーラお兄さんっ! 先制したじぇ!!」

誠子「この上ない正攻法ですね」

やえ「対して、あの《欺人》はどんな解答を見せてくれるのか」

     智葉『……』タンッ

優希「ド真ん中だじょ!?」

誠子「当たってます……けど、これ」

ネリー「当ててるんだよ!」

優希「けど、桃ちゃんが既に切ってるからフリテンだじぇ!」

誠子「手牌を倒したらチョンボですが……」

やえ「ま、こんな見え見えの誘いに乗るセーラではあるまい」

     セーラ『……』

優希「さすがセーラお兄さん!」

誠子「でも、だとすると、辻垣内先輩の目的は何なのでしょうか?」

ネリー「じゅんに鳴いてもらいたいんじゃないかな。今のさとはの手じゃ追いつくに追いつけないだろうし」

     純『ポン!』

やえ「東横の存在によってリーチからの出和了りが半ば封じられ、井上の鳴きによってツモる《流れ》が乱される。この先鋒戦でリーチ和了をものにするのは、かなり難しいだろう。
 東横と井上の存在によって、辻垣内自身もここまで何度か和了りを潰されている。この局、辻垣内は、自らの手を見限って、その抑止力のベクトルがセーラに向くようにしたんだろうな」

ネリー「手数より打点で攻めるタイプのせーらには、効果抜群の作戦だよね~」

誠子「あ、流れますね――」

     セーラ・桃子『テンパイ』

     智葉・純『ノーテン』

やえ「ま、辻垣内の親が流れただけマシと考えよう」

誠子「ぐずぐずの配牌、江口先輩のリーチ、それに東横さんの見えない脅威――それらを全て掻い潜って、1500点の失点で踏ん張れるのは、さすがですね。攻めも守りも隙がない……」

ネリー「私的には、親番のさとはを受けに回すくらいのプレッシャーを掛けられるせーらとももこを褒め称えたいかも」

優希「いい勝負をしてるのはなんとなくわかるじょ。でも、今のままだと離されていく一方だじぇ?」

やえ「そこなんだよな。後半になって、点差がある程度開いてきたことで、辻垣内が主導権を握ったままになっている。
 今の局だって、攻めていたのはセーラだが、場を動かしていたのは辻垣内だ。誰かがこれをどうにかしないと、形勢は覆らん」

誠子「もちろん、江口先輩もそうしたいと思っているんですよね……?」

やえ「ああ。だが、セーラは、そういうのがものすごく苦手だ。一人で勝手に突っ走るタイプだからな」

優希「相性激悪だじぇ」

ネリー「やっぱり拮抗しようと思ったら《正瞠》のりゅうかじゃないとダメかなー」

やえ「まあ、なんだかんだセーラはプラス収支で帰ってくるとは思う。が、それだけでは、辻垣内が独走する可能性がある。井上と東横がどれだけ殻を破れるかに期待だな」

 ――《劫初》控え室

憩「安定のガイトさんですわ~」

菫「東横が《ステルスモード》に入ってもお構いなしだな」

衣「だが、それなりに苦戦しているようにも見える」

エイスリン「コロタン、ニ、オナジ」

憩「ま、決勝戦ですからねー」

     桃子『……リーチっす……』

菫「と、来たか」

衣「今回もさとはの手はバラバラだな」

     セーラ『リーチやでーッ!』

エイスリン「コレハ、オリルダロ」

憩「東横さんのリーチも気配なくてキツいけど、やっぱ江口さんのリーチは強烈ですわ。ぜーんぶ逆転手なんですもん。これはガイトさんも放っておけへんでしょ」

     智葉『……』タンッ

     純『ポ、ポンだ!』

衣「お! またじゅんがいいように使われているぞ!!」

エイスリン「サトハ、ノッポノ、シモチャ! サシコメル!」

菫「あの智葉が差し込みをしなければならないほどの相手、か」

     純『ロン、1000は1900』

     智葉『はい』

エイスリン「ドヤガオ、ヤメロ!!」

菫「普段と全く同じ表情に見えるが……?」

憩「にしても、さっきから番犬がガイトさんのペット過ぎるなぁ。どう思う、衣ちゃん?」

衣「面従腹背に決まっているだろう」

憩「せやろな~」

菫「井上か?」

憩「ええ。さっきから、《流れ》スイッチみたいな扱い受けてますけど、どこかで必ず噛み付いてきますよ。
 ガイトさんのことを、自分の力では敵わへん雲の上の相手やと認めた上で、虎視眈々と一撃入れるチャンスを伺ってるんですわ」

エイスリン「ワルアガキ?」

衣「その通りだが……どちらかと言えば、それこそじゅんの本領だと言える」

憩「井上さんほど躾のなってない番犬は学園都市にいません。染谷さんは視野が広い分そのへん弁えてますけど、井上さんは、ちゃう。《刹那》の頃に何度牙を剥かれたかわかりませんわ」

衣「無論、さとはなら斬れるだろう。だが、首を刎ねたくらいでは、じゅんは止まらない」

憩「《双頭の番犬》は首が二つあるからなー」

菫「……まあ、それでも、智葉が遅れを取ることはあるまい」

憩「ええ。それはそうです」

エイスリン「サトハハ、サトハ、ダカラナ!」

衣「ははっ、だそうだぞ、じゅん! 少しは意地を見せてみろっ!!」

     純『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――対局室

 南二局・親:桃子

純(この刀野郎、ナメた真似してくれるじゃねえか。いや、差し込みでも点棒は点棒。有難くもらってやるけどよ)

 南家:井上純(永代・74600)

 純手牌:④⑤⑥⑦⑧⑨⑨2345白白 ドラ:4

純(この《流れ》だと、東横が良さそうだな。さてはリーチ掛かってんのか? 巡目的にはありうる。江口と辻垣内はたぶん張ってねえだろうな)

智葉(流せるものなら自力で流したかったが、ここまで来るとさすがに間に合わないだろうか。残り二枚の西……闇の中に埋もれてしまったのだとすると、この手を生かすのは難しい)

 西家:辻垣内智葉(劫初・121000)

 智葉手牌:二二三四五④⑦6688西西 ツモ:白 ドラ:4

智葉(江口のアシストに回るのは論外だ。間違いなく逆転される。仕方あるまい。そう何度も使いたくない手ではあるが、犬を餌付けするとしよう)タンッ

 智葉手牌:二二三四五④⑦6688西西 捨て:白 ドラ:4

純(む……。まぁ、《流れ》的にも、ここは鳴くしかねえか。東横が白を捨ててたら手が死んじまう)

純「ポン」タンッ

 純手牌:④⑤⑥⑦⑧⑨⑨234/白白(白) 捨て:5 ドラ:4

智葉(東横は常に危険だが、火力がない分、親さえ流せば大勝はされない)タンッ

 智葉手牌:二二三四五④⑦[5]668西西 捨て:8 ドラ:4

セーラ(んー、ほな……)

 北家:江口セーラ(幻奏・107600)

 セーラ手牌:112999白南南南/中(中)中 ツモ:① ドラ:4

セーラ(こいつは使えへんか)タンッ

 セーラ手牌:112999①南南南/中(中)中 捨て:白 ドラ:4

桃子(ノッポさんテンパイっすか? 困ったっすね。今和了られるとリー棒まで持っていかれる。せめて二本くらいは積みたいんっすけど……)タンッ

 東家:東横桃子(煌星・96800)

 桃子手牌:567①①五五[五]東東發發發 捨て:4 ドラ:4

純(っと――)

 純手牌:④⑤⑥⑦⑧⑨⑨234/白白(白) ツモ:③ ドラ:4

純(まんまとツモらされた感じだな。ここを逃すと次はいつ和了れるかわかんねえ。百点でも点棒はほしいとこだけどよ)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(気に入らねえなァ。気に入らねえよ。オレはお前に仕えた覚えはねえぜ、辻垣内。番犬には番犬の通すべき意地ってもんがある。餌さえくれりゃあ誰でもいいってわけじゃねえんだよ)スッ

智葉(……和了らない、か――)

純(わかるぜ。東横の親が続くのは避けたい。が、自分の手は良くねえ。なら、高打点で一発逆転してくるかもしれねえ江口より、安手のオレをアシストしたほうが正しいってんだろ?
 確かにな。もうリーチは掛けられねえ、ドラが固まってるわけでもねえ、江口みたいにイチかバチかのカンもできねえ。こっからどうやって手を高くすりゃあいいんだよ……)

      ――染めやすそうなら染めていくがのう。

純(奇遇だな、まこ。オレもそれしかねえと思ったぜッ!!)タンッ

 純手牌:③④⑤⑥⑦⑧⑨⑨34/白白(白) 捨て:2 ドラ:4

智葉(よかろう。ならば望み通り殺ってやる……)タンッ

 智葉手牌:二二三四五④⑦[5]66西西西 捨て:8 ドラ:4

セーラ(なんや俺のおらんとこで盛り上がっとんなー)タンッ

 セーラ手牌:11999①東南南南/中(中)中 捨て:2 ドラ:4

桃子(早く和了りたいっす……!)タンッ

 桃子手牌:567①①五五[五]東東發發發 捨て:八 ドラ:4

純(おおぅ? こりゃあ意外と悪くねーんじゃねえの?)

 純手牌:②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑨4/白白(白) 捨て:3 ドラ:4

智葉(やっと形になってきたな)タンッ

 智葉手牌:二二三四五⑥⑦[5]66西西西 捨て:④ ドラ:4

セーラ(一筒はスジやけど、河に一枚も見えてへん。ちょっとこわこわやで~)タンッ

 セーラ手牌:1999①東東南南南/中(中)中 捨て:1 ドラ:4

桃子(くっ……)タンッ

 桃子手牌:567①①五五[五]東東發發發 捨て:1 ドラ:4

純(はっはー! こりゃ《流れ》っての来ちゃってんのかァー!?)タンッ

 純手牌:①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑨/白白(白) 捨て:4 ドラ:4

智葉(あまり調子に乗るなよ、駄犬がッ!!)

智葉「チー」タンッ

 智葉手牌:二二三四五⑥⑦西西西/(4)[5]6 捨て:6 ドラ:4

純(っつおぅ……ドラ二つかよ――)ゾワッ

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(いやいやいや! 気持ちで引いたら負けだろうが……よッ!!)ツモッ

 純手牌:①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑨/白白(白) ツモ:[⑤] ドラ:4

純(……腐れヤベェとこ引いちまったな、オイ。さっきのチーで《流れ》変わったっぽいからな。《ステルスモモ》のことがあるとは言え、不用意に危険牌を切るのはいただけねえ。
 だあー……せっかく白混一の高め一通三面張まで辿り着いたのに、そりゃねーって……)フゥ

純(ああ、そうさ、わかってんだよ。一回和了り拒否したくらいじゃ出し抜けねえことくらい。こいつは憩や照と並び称される人外。人の枠に収まったまま勝てる相手じゃねえ――)スゥ

純(だが、それがどうした!? 限界なんて踏み倒せばいいだけだろッ!! 枠なんて超えていけばいいだけだろッ!! 何も難しいことじゃねえ!! そんくらい誰もがやってらァ……!!)タンッ

 純手牌:①②③④⑤[⑤]⑥⑦⑧⑨/白白(白) 捨て:⑨ ドラ:4

智葉(ほう……)

 智葉手牌:二二三四五⑥⑦西西西/(4)[5]6 ドラ:4

純(この街は面白えよな。単純に強えやつがいる。消えるとか摩訶不思議な能力持ったやつがいる。さらには人間じゃねえやつまでいる。そんな特上と特殊と特別に囲まれちゃあ、まあオレ如きじゃ手も足も出ねえよ)

純(けど、そんなオレを必要だって言ってくれるやつとか、強いって言ってくれるやつとか、そういう酔狂なのもいたりするわけで……)

純(一部の特別なやつじゃねえくせに、大部分の有象無象でもねえってのが、自称中堅雀士の悩ましいとこだよな。強さの矛を誇ることも、弱さの盾に立て籠もることもできねえ。隙間と狭間でもがくしかねえのさ)

純(なんて、大抵はうまくいかねえもんだが……今回は、どうやらそうでもなかったみたいだぜ――)

純「ツモ! 3000・6000だッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 純手牌:①②③④⑤[⑤]⑥⑦⑧⑨/白白(白) ツモ:[⑤] ドラ:4

桃子(また人が親のときに……っ!! 仕方ないっす、切り替え切り替え!!)

セーラ(やるやん、井上)

智葉(闘争と逃走の双頭といったところか。ちょこまかと、攻めるばかりでなく引くときは引く。《流れ》を感じ取れるがゆえなのか、本来そういう性質なのか。思っていた以上に底が見えん。やられたな)

純「(さァ、この流れで原点復帰してやるよ……!!)次はオレのラス親だな!!」ゴッ

智葉(覚悟しろよ、番犬……二度目はないぞ――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ:104600 桃子:89800 純:87600 智葉:118000

 ――《永代》控え室

塞「っしゃあああああ!! よくやった、井上!! 惚れ惚れしちゃうわー!!」ヒャホーイ

穏乃「純さんらしい男前な和了りですねっ!」

まこ「あいつはようやりよる、本当に」

照「すごく頑張ってる」モグモグ

塞「そのまま逆転しちゃえばいいわっ!! 井上、あんたならできる! あんたはやればできる賢犬よー!! 押して押して押しまくりな――」

     純『ポン!』

     智葉『ロン、7700』

     純『お、おう……』

塞「いや、そこは引いておきなさいって。これだからバカ犬は嫌いなのよ」チッ

穏乃「塞さん!? 手の平返すの早過ぎです!!」ガビーン

まこ「五巡目ダマなんて読めんじゃろ。純はあの中ポンでテンパイじゃったわけじゃし」

照「それを断ち斬ってこその、辻垣内さん。上家の井上さんから直撃を取るために、テンパイ間際まで中を抱えていたんだね」モグモグ

塞「ふー、頭冷えてきた。辻垣内、そうよ、あいつは宮永や《悪魔》と同じ《三人》。英雄なる《欺人》にして《欺刃》――辻垣内智葉だったわ。天地がひっくり返っても、井上にどうにかできる相手じゃない」

穏乃「味方からこの言われ様!?」

まこ「いや、まあ、妥当な評価じゃあ」

照「その辻垣内さんの、ラス親」

塞「鳴いて流しちまえばいいのよーっ!!」

穏乃「前局はそれをしようとして余剰牌を狙われたわけですが……?」

塞「さっきはさっき! あいつは非能力者なんだから、弘世と違って一人を狙い撃ちなんてそうそうできないはずだわ!」

まこ「まあ、じゃけえああして――」

     智葉『チー』

照「誰よりも早くツモろうとしているんだろうね」

塞「もーあいつってばマジ面倒!!」

     桃子『……リーチっす……』

まこ「お、来よったの、《ステルス》」

穏乃「まだ山の半分も行っていません。十分に速いと思うのですけれど」

照「遅い」

     智葉『ツモ、700オール』

塞「あいつ……敵に回すと本当に鬱陶しいわね」

照「んー、でも、辻垣内さんは、どちらかっていうと敵に回してこそ意味がある人だと思う」

塞「へ?」

照「辻垣内さんの本質は、欺く刃というより、欺かれざる刃なんだ。辻垣内さんは、辻垣内さんであることで、なんていうんだろう……相手を試している」

穏乃「ほむむ」

照「辻垣内さんは、人と人じゃないモノを分かつ境界。だから、私や荒川さん、それに神代さんや花田さんもかな――みたいな人の領域を外れる存在は、辻垣内さんに勝てる。
 辻垣内さんの刃は、人には厳しいけど、人じゃないモノは驚くほどすんなり通してくれるんだよ。三年前に初めて打ったときからそうだった。辻垣内さんは、私の《照魔鏡》を感じ取った瞬間に、私を試すことをやめた。
 自分が刃向かうべき相手じゃない、って思ったんじゃないかな。私みたいな存在が世界にはいるってことを、知っているみたいだった。たぶん、ネリーさんと同類の何かだと思われたんだと思う」

塞「え、じゃあ、なに? 辻垣内は、人の中から人じゃないモノを仕分けるために麻雀を打ってるわけ?」

照「あ、いや、そうじゃないんだよ。辻垣内さん的には、たぶん、人じゃないモノとの対局にはあまり興味がないんだと思う。
 どちらかと言えば、自分を越えることができない相手――人間と打つのが、辻垣内さんは好きなんだと思う」

塞「ドSだから弱い者イジメが好きってこと?」

照「臼沢さん、辻垣内さんに歪んだイメージを持ち過ぎだよ……」

塞「えっ? ああ、ごめん」

照「えっと、辻垣内さんはね、人と人じゃないモノの境界。つまり、人が人のままで行き着く最高点の一つを自ら体現しているの。
 だから、辻垣内さんに勝とうと思ったら、その人は、自身の可能性を全て引き出さないといけない。
 今の白糸台では、愛宕さんと園城寺さんが、辻垣内さんに一番近いところにいる。自身の潜在能力をフルに使って戦える、数少ない雀士。特に、園城寺さんは、完全羽化状態なら、辻垣内さんに並ぶと思うよ」

まこ「確かに……あの園城寺は科学《デジタル》と能力《オカルト》の究極融合体みたいなもんじゃけえの」

照「究極――そうだね。誤魔化しのない全力って言えばいいのかな。辻垣内さんの刃は、何人たりとも欺けない。だから、勝つためには、偽らざる己で立ち向かうしかない。
 そうやって、辻垣内さんは、相手に問いかけているんだと思う。あなたの限界は――到達点は、本当に今いるそこなのか……って」

塞「あー……なるほどね。道理で私と辻垣内じゃウマが合わないはずだわ。限界、行き着く到達点、その境界線として、向かってくる相手を全力で捻り潰す――なにこれ、完全に同属嫌悪じゃない」

照「そうなるのかも。辻垣内さんも、臼沢さんと同じで、可能性の扉。突破するには、それをこじ開けるしかない……」

まこ「あそこにいる三人は、何度かそれを開けちょるようにも見えるけどの。それも、まだ、奥があるっちゅうことか」

照「うん。全然。まだまだ。もっと強くなれるよ。井上さんも、江口さんも、東横さんも」

塞「じゃあ、井上にはもう二、三回死ぬ気でやってもらわないとよね!」

穏乃「純さんっ! ふぁいとです!!」

まこ「やる気はまだあるようじゃけえ、純ならやってくれるじゃろ」

照「うん。そうだね――」

 ――対局室

 南四局一本場・親:智葉

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:辻垣内智葉(劫初・128800)

セーラ(ええ加減に止めへんとな~)タンッ

 南家:江口セーラ(幻奏・103900)

桃子(こんなときに手が微妙っす。どうしたらいいっすかね……)タンッ

 西家:東横桃子(煌星・88100)

純(ヤベえな。南場に入った頃に沈んでた分、ここに来て、ちょっと辻垣内の《流れ》が洒落にならねえことになってやがる。ラス親のために力を溜めてたっつーのか?)タンッ

 北家:井上純(永代・79200)

智葉「リーチ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 智葉手牌:①①⑤[⑤]⑧⑧8899東東北 捨て:南 ドラ:北

セーラ(親リー来てもーたかぁ。しゃーないな、っと!)

セーラ「ポンや」タンッ

 セーラ手牌:二二四[五]六23456/(南)南南 捨て:三 ドラ:北

セーラ(テンパイしたけど、辻垣内のツモを喰ってもーた。これは次が恐いで~)

桃子(手ができないっす……)タンッ

 桃子手牌:124[5]89[⑤]⑥一一五九九 捨て:⑨ ドラ:北

純(うっげ――)ゾクッ

 純手牌:13579②③③③③⑦⑧⑨ ツモ:西 ドラ:北

純(くっそ、江口が鳴いたことで、東横の悪い《流れ》に巻き込まれちまったか? この西……江口の河に一枚、ドラ表示牌に一枚。あるとすれば地獄単騎)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(辻垣内の河にはヤオ九牌が少ない。手順も普通じゃねえ。しかも、南切りリーチと来た。普通の手じゃねえだろうな。恐らくは、七対子とか。だとすると、西地獄単騎は余裕であるじゃねーか……)フゥ

純(挽回したいが、ひとまず振り込まねえことを最優先だ)タンッ

 純手牌:13579②③③③③⑧⑨西 捨て:⑦ ドラ:北

智葉「」タンッ

セーラ(ツモられはせーへんかったけど……ほらあー! 言うたやんかー!! ごっつ切りにくいとこ来たで――)

 セーラ手牌:二二四[五]六23456/(南)南南 ツモ:北 ドラ:北

セーラ(北……俺と井上が一枚ずつ切っとる。あるとすれば地獄単騎。捨て牌普通やないし、まあ十中八九ここやろな。
 北はドラやから、最低でもリーチドラドラ7700。これが仮に七対子やとして、赤とか持ってたらインパチ喰らってまうことになる。しかも裏乗ったら親倍や。対してこっちはダブ南赤一……勝負できるような手ちゃうで)タンッ

智葉(江口と井上はオリたか。ま、そのための地獄単騎リーチだからな。あとは……東横がどう動いてくるだろうか。井上が東横を警戒していない風だから、《流れ》は悪いんだろうが――)

桃子(う、く……)

 桃子手牌:124[5]89[⑤]⑥一一五九九 ツモ:1 ドラ:北

桃子(いっそ、流し満貫でも狙ってみるっすか? 私の捨て牌を鳴くことは誰にもできないっすから、人より少しだけ完成させやすいっすけど。
 まあ、私のごく一般的なツモ運じゃ、あと一、二枚足りないくらいで終わるのが関の山っすよね)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(極道さん……待ち悪そうっすけど、ツモるつもりっすか? 私の手が悪いのを見抜いてるっすかね。いや、けど、この人は、どっかの誰かさんみたいに、私のことお構いなしでリーチ掛けてくる人っすよね)

     ――行っくよー、ダブリー!!

桃子(《ステルスモード》の私を相手に連続ダブリーなんて、出和了りを放棄するようなものなのに……いっつもいっつもツモって勝っちゃうっす。本当に、私にあの人は、眩し過ぎるっすよ)

桃子(決勝戦……先鋒戦後半オーラス。とうとう、ここまで来ちゃったっすね。全力で打ってるのに、勝てない。点棒が増えていかない。
 思えば、私がプラスだった三回戦は、きらめ先輩直伝の《ステルス暗槓》が大当たりしたってだけで、基本、私は《一桁ナンバー》相手にずっと劣勢だった。この結果は、普通に、妥当っすよね)

桃子(もう、手持ちのカードはないっす。《ステルス暗槓》すら通じない相手。私の存在と無関係にリーチで和了れる相手……この人を相手に、私は――)

智葉「テンパイ」パラララ

セーラ・純「ノーテン」パタッ

桃子「……ノーテンっす」ユラッ

智葉「連荘続行。二本場だ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(ダメっす……勝てる絵が浮かんでこない。こんなの……だって、どんな手を使えばいいっすか? もうっ、あの人は肝心なとこは私任せで……!! ぶちかませとか!!)

桃子(私……! 私はここから、何ができる!? どうしたらいいっすか、ねえ、超新星さん――)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――決勝戦前日・夜

淡「ぱんぱかぱーん! というわけで、今日の一年生会議を始めます!! 議題は決勝戦で控え室の席順をどうするかについてです! とりあえず、いつも通り私がキラメの隣ってとこから進めていきましょう!! よろしいですか!?」

咲「よろしくないでーす!! いつも通り煌さんと淡ちゃんの間に私が入るってとこから進めたほうがいいと思いまーす!!」

淡「だーかーらー!! サッキーには特別にキラメの反対側をあげるって言ってるじゃんかー!? なんでサッキーは毎回私とキラメの間に割り込もうとするわけ!?」

咲「淡ちゃんへの嫌がらせだよっ!!」ゴッ

淡「悪意が直球デッドボールだよ!?」ガビーン

友香「これもー結局最後まで平行線でー」

桃子「収拾つかないんで、いつも通り『きらめ先輩のポジション取りに合わせて気分次第』でいいと思うっす。それより『きらめ先輩の対局中の席順』を決めようっす」

淡「はい! モモコさんから新しい議題が提案されました! じゃあ、私真ん中取ったー!」

友香「私は端っこでいいんでー」

咲「じゃ、私、友香ちゃんの隣取ったー!」

桃子「私は余ったところでいいっす」

淡「えーっと、今のをまとめると、書記の友香さん、どうなる感じですか?」

友香「こうでー」カキカキ

 ――座席表――

 友・咲・淡・桃

   モニター

 ―――――――

淡「えー!? 私、サッキーの隣やだー!! モモコ、私と代わってよー!!」

桃子「別にいいっすけど……」

咲「やったね、友香ちゃん! おバカが端に行ったよ! 私と一緒に真ん中で見ようっ!」

友香「うん、いいんだけど、それってつまり——」カキカキ

 ――座席表――

 桃・友・咲・淡

   モニター

 ―――――――

咲「うんっ! 最高の席順だね!!」

淡「どこがー!? 最悪の席順でしょ!? ねっ、ユーカとモモコもそう思うよね!?」

友香「いや、私は別に」

桃子「まあいいんじゃないっすか」

淡「えー!?」ガーン

咲「二人とも話がわかるーぅ♪」

淡「なんてことだ……」

桃子「あ、そろそろ時間っすね」

友香「寮に帰らなきゃでー」

咲「ほら、淡ちゃん議長! さっさと閉会して!!」

淡「ううぅ……時間になりましたので、本日の一年生会議はここまでにします……。以上、解散……」ウルウル

咲・友香・桃子「お疲れさまでしたー」

 ――帰り道

淡「モモコー!! 裏切り者ー!! なんでサッキーの言う通りにしたのー!?」ウワーン

桃子「誰かが大人にならないといけないっす、超新星さん」

淡「にしてもさー!! あれじゃサッキーばっかり得してるー!! っていうかなぜいつもいつもサッキーは私の妨害をしてくるのー!? ねえ、モモコ! どう思う!? サッキーは私のことが嫌いなのかな!?」

桃子「さてどうっすかねぇ」

淡「ぶぅ、興味なさげー」

桃子「……そんなことないっすよ」

淡「んー?」

桃子「正直……超新星さん的にはどうなんっすか?」

淡「ほ? 何が?」

桃子「一年生の中で、誰が一番好きっすか?」

淡「おおぅ……なかなか難しい質問だね」ムー

桃子「やっぱり、嶺上さん?」

淡「いや、それはない」キッパリ

桃子「それじゃあ、《二大巨星》の相方のでー子さん?」

淡「ユーカは……そうだね、お互い、リーのみ上等、裏乗っけてなんぼってとこがあるから、似たもの同士って感覚かな。
 隣人で友人っていうか。馴染みの遊び相手っていうか。好きっていうよりは、親しい、近しい、かな」

桃子「じゃあ、消去法で、好きなのは、私?」

淡「おおっ! そうなるね!! やったね、私たちは運命の二人だよ!!」ムギュー

桃子「暑苦しいっす」ベシッ

淡「ひーどーいー!」プンスコ

桃子「具体的に、私のどこが好きっすか?」

淡「……見えないけど、そこにいるところかな」

桃子「え――」

淡「モモコは《ステルス》してるから、姿は見えない。けど、確かにそこにいる。私は、消えてるモモコも好きだし、和了って姿を見せたときのモモコも好き。
 鋼メンタルなところも好き。気が利くところも好き。ツッコミできるところも好き。協調性のあるところも好き。いい匂いがするところも好き。抱き心地がいいところも好き。あと、笑顔が、好き」

桃子「…………」

淡「キラメが桃子を見つけてくれて、よかったって思う。あの教室乱入の一件がなかったら、私はきっと、モモコと出会ってなかった。
 ユーカやサッキーとは、まあ、ゆくゆく出会ってたと思うんだ。でも、モモコだけは違う。私一人じゃ存在も知らないまま白糸台を卒業してた。
 モモコと一緒にいると、本当に、運命はよくできてるなーって、なんだか胸がいっぱいになるよ」

桃子「……口説いてるっすか?」

淡「さてどうだろね~ん♪」

桃子「……私も、超新星さんのこと、好きっすよ」

淡「ほへ?」

桃子「プリンメンタルで、あんまり気が利かなくて、天然ボケっていうかただのおバカで、協調性ゼロなところは、まあ、置いておくとして」

淡「モモコってたまに言葉のナイフ振りかざすよね」ウルウル

桃子「でも、いい匂いがして、抱き心地がよくて、笑顔が素敵なところは、大好きっす。あと、眩しいところ」

淡「超新星のように?」

桃子「超新星のように」

淡「さすが私!」ピカーン

桃子「私は、誰にも気付かれずに、見つからずに、意識されずに、ずっとここまで来たっす。だから、あの、超新星さんのダブリー」

淡「無敵のダブリーね!」

桃子「世の中には、こんなにも目立ちたがりで頭の悪い能力を手に入れちゃうキング・オブ・おバカみたいな人が存在するんだって、衝撃を受けたっす」

淡「ぐっさー!?」

桃子「だって、そうじゃないっすか。ダブリーなんて、狙い撃ちしてくれって言ってるようなもんっす。無防備過ぎるっす。不利な要素が多いっす」

淡「ごめん、私、モモコに何か悪いことした……?」ウルウル

桃子「いや、一般論っすよ。超新星さんの能力は、ダブリーせずに、槓材になる暗刻を持ったままいい感じに門前で進めて、角が来るまでにテンパイ、角で暗槓、嶺上牌でリーチ、一巡以内に和了り――みたいな使い方がいいと思うっす。
 それなら、リーチ一発裏四で、ダブリー裏四と同じ火力が出せる。いや、《ダブリーのみ》の《制約》にも引っかからないから、他の役と複合できて、むしろ火力は上がるっす。
 あと、リーチするまでは普通に進められるわけっすから、対応力や柔軟性も高くなる。どうっすか?」

淡「あなた天才ですか!?」キラキラ

桃子「私は凡人っすよ。ちょっと影が薄いだけの一般人っす。超新星さんとは違うっす」

淡「ふむー?」

桃子「あ、いや、くさくさしてるとかじゃなくて。なんていうか、キャラじゃないっすよ。天才とか、そういう、眩しいのは、私には」

淡「でも、私の眩しいところが好き、って言ってたじゃん、さっき」

桃子「だからっす。だからなおさら、私は影でいい」

淡「うーん……?」

桃子「強い支配力で相手を圧倒するとか、派手な能力で大量得点とか、エースとしてチームの勝利を決めるとか、そういうのは、超新星さんに任せるっす」

淡「任せてくれたまえ!」ババーン

桃子「私は、目立てなくても、誰にも見向きされない地味っ子でも、きらめ先輩や、チームのみんなの力になれれば満足なんっす。みんなが私のことを見てくれれば、それだけで十分なんっすよ」

淡「えー? もったいなくなーい?」

桃子「まあ、単純に、不特定多数の他人に注目されるのに慣れてないってのもあるっす」

淡「んー……まあ仕方ないのかな? でも、残念。私はもっと皆に見てほしい。知ってほしい。こんなに強い雀士がいるんだぞって! 私のモモコはすっげーんだぞって!!」

桃子「勝手に私の名前に所有格をつけるのはやめてくださいっす。なんっすか、『私のモモコ』って」

淡「んーとね、私のモモコは、めっちゃ麻雀強くて、誰が相手でも物怖じしなくて、どんな状況でもポジティブ思考で、決めるとこはがつーんと決めてくれる、超カッコいい雀士だよ!」

桃子「それほとんど別人じゃないっすか……?」

淡「私にはそう見えるんだもん。心の眼的なやつで見えるんだもん」

桃子「……そうっすか」

淡「なんだかなぁ。私のモモコの勇姿を学園都市中に見せつけてやりたいのに! こう、ばばばーんと! 巨大スクリーンで!! っていうか私が見たいっ!!」

桃子「…………」

淡「見たいのになー」

桃子「………………わかったっす」

淡「え?」

桃子「一回だけなら、いいっすよ」

淡「えええ!? マジで!?」

桃子「マジっす」

淡「じゃあ、明日の決勝戦ね!! なんか、やり方は任せるけど、とにかくぶちかまして!! 私のダブリーカン裏モロよりすっげーやつ!!」

桃子「指示がアバウト……」

淡「大丈夫! 私のモモコに不可能はないっ!!」

桃子「……嬉しいっす」

淡「ねえ……モモコ」

桃子「はい、なんっすか、超新星さん」

淡「私、モモコが大好きだよ」

桃子「私も、超新星さんのことが、大好きっす」

淡「だから、一緒に一軍《レギュラー》になろう! それで! キラメが卒業するまで――したあとも! ずっと一軍《レギュラー》として! 勝ち続けようっ! ってなわけで、今後ともよろしくね、モモコ!!」

桃子「ええ、こんな私でいいのなら」

淡「いいに決まってるじゃーん!」ダキッ

桃子「だから暑苦しいっす」ベシッ

淡「減るもんじゃないしー!」ギュー

桃子「私の体力とかその他色々なゲージが減るっす」ゲシッ

淡「あははっ、変なモモコー!」

桃子「超新星さんに言われたらおしまいっす」

淡「どういう意味ー!?」ガビーン

桃子「ぷふっ……! その顔マジやめてっす、腹筋ヤバイっすから!!」フルフル

淡「こう?」バビーン

桃子「あっはっはっは!!」

淡「ちょっと笑い過ぎじゃないですかー!?」

桃子「だ、だって、超新星さんが変顔するからっ!!」

淡「むぅー!」プクー

桃子「むくれるのも、可愛いっすね」モニ

淡「か……っ/////!?」

桃子「嘘っす」

淡「嘘なのー!?」ガビーン

桃子「嘘っす。超新星さんは可愛くて麻雀も強いスーパー天才美少女雀士っすよ」

淡「他人に言われるとすごくおバカっぽいねその肩書き……」

桃子「何を今更」

淡「えぇー?」

桃子「……超新星さん」

淡「ん?」

桃子「ありがとうっす」

淡「どういたしまして」

桃子「超新星さんの私に近づけるよう、頑張るっす」

淡「うん。頑張って」

桃子「ちゃんと、見ててくださいっす」

淡「もっちろん、見てるよ! むしろ見せつけてよ! 目に焼きつくくらいに! 私の――最高のモモコをッ!!」

桃子「期待しててくださいっすね」

淡「とーぜんっ!!」キラーン

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

 南四局二本場・親:智葉

桃子(見せつける——っすか。簡単に言ってくれるっすよね。本当にあの人は困っちゃうっす。
 さっきの流し満貫は悪くない解答だと思ったっすけど……極道さんの《懐刀》に弾かれたのか、一枚足りなかった。じゃあ、他にどうすればいいっすか……?)

 西家:東横桃子(煌星・87100)

桃子(いい手が入っても、先に速攻で流されてしまう。リーチできても、《流れ》を乱されたりして、逃げられる。《ステルス暗槓》は見切られた。流し満貫もダメ。
 フリテンも上手く回避される。振り込みはしないけどツモで削られる。あらゆる面で、《ステルスモモ》を攻略されてるっす。
 まあ、嶺上さんの《プラマイゼロ》を初見でぶった斬るような人っすから、これくらいは朝飯前なんっすかね)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:辻垣内智葉(劫初・130800)

桃子(きらめ先輩調べでは、昔は《千人斬り》とか呼ばれてて、あの無限コピーさんを相手に、ガチで千を超える能力を斬って捨てた経験があるんだとか。そりゃ能力戦に強いわけっす)

桃子(そして、何より恐ろしいのは、牌ではなく人――認識《パーソナルリアリティ》に干渉する感応系能力者すらも、この人にとっては敵にならないということ。
 というか、むしろ、この人の《欺刃》は、感応系能力者を殺すためにあると言ってもいい……)

桃子(魔法名《Fallere825》——《背中刺す刃》。運命操者《コンダクター》二型に属する大魔術師。その固有魔術……《トリック・ブレード》)

桃子(同型の魔術師の詠唱と共振し、内容を解析、自ら同値の詠唱を紡ぐことで、自身に対する魔術の効果を打ち消し、且つ、同様の効果をそのまま相手に向けて跳ね返す、《魔術反射》の大魔術)

桃子(つまり極道さんは、一般に『一度発動されると有効な対処法がない』とされる感応系の能力を、《無効化》し《反射》できるという、おっぱいさんもびっくりの超チート能力者だったってわけっす)

桃子(私の《ステルス》も超ノッポさんの《仏滅》も例外じゃない。唯一、感応系最強と言われる嶺上姉さんの《照魔鏡》だけは、強度的に刃が立たないかもってくらいで、それ以外の感応系能力者にとっては、天敵以外の何物でもない……)

桃子(っていうのを、きらめ先輩から聞かされていて、正直、ずっとビビってたっす。
 こっちの世界に移ったときに魔術は失ったらしいっすけど、能力の礎となる本人の根幹が変わっていないなら、案外、無理すれば使えるのかも――というきらめ先輩の予想。それは、たぶん、合ってるっす)

桃子(感応系能力者は、他人の《パーソナルリアリティ》と共振できる。だから、なんとなく、わかるっす。極道さんが、私の《パーソナルリアリティ》と共振してるってのを、ひしひし感じるっす)

桃子(でも、この人は……私の能力を《反射》してこない。するつもりがない。《反射》すれば、私の能力を《無効化》した上で、私に《ステルス》の効果を跳ね返すことができるのに……)

桃子(それが……なぜなのか。ここに来て、ようやく理解できたっす――)

智葉「リーチ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(リーチ――ノッポさんの河に一枚見えてるドラの南を曲げてきた。鳴いて一発を消されるのを警戒したっすかね。ズラされなければツモれる自信があるってことっすか)チラッ

 桃子手牌:234[5]678⑥⑥⑦⑧南南 ドラ:南

桃子(東四局流れ一本場では、自風対子の西を鳴けずに後手に回った。《ステルスモード》の私は鳴きができない。速攻、一発ズラし、他家との協力等々、少なからずできないことがある。
 極道さんはそのデメリットを的確に突いてくる。ここまで何度もやられたっす)

桃子(わかってるっすよ。力の差は嫌ってほど感じてるっす。今だって、この人は、門前でも、私より遥かに速く高い。なんて……なんて強い人っすか……!!)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(私の《ステルス》を《反射》しないのは、見せつけるためなんっすよね? 学園都市のナンバー3――その全力を目に焼き付けろってことなんっすよね? 白糸台の三年生は逃げも隠れもしないってことなんっすよね?
 そりゃそうっすよね……消えてしまったら、見せつけるも何もないじゃないっすか。モニターの向こうの誰かじゃない。肝心の、直に対局してる、対面の後輩……一年生の私に、その《欺刃》の強さと美しさを見せられないじゃないっすか――)

桃子(いいっすよ!! 最高じゃないっすか!! これが白糸台で三番目に強い雀士!! こんな人とガチで戦えるのが決勝戦!! 私はきっと問われている……!! 私の限界、到達点、偽らざる全力を――)

桃子(上等ッ!! 全部まとめて――超えてやるっす……!!)

桃子「そのドラッ!! ポンっす!!!」ゴッ

 桃子手牌:234[5]678⑥⑥⑦⑧/南(南)南 捨て:? ドラ:南

セーラ・純(……っ!? 東横の《ステルス》が――)

智葉(最後の最後で自ら闇の衣を脱ぎ捨てたか。その意気や良し。だが……)

 智葉手牌:②②④④⑤[⑤]⑥四五六456 ドラ:南

智葉(まだ、それだけでは正解の半分だ)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(わかってるっすよ!! こっちは超新星さんのダブリーカン裏モロを越えなきゃいけないっすから、満貫くらいじゃ止まらない!! 全員よーく見とけっす――)スゥ

桃子「ここからは……ッ!! 東横桃子の独壇場っす!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 桃子手牌:234[5]678⑥⑥⑧/南(南)南 捨て:⑦ ドラ:南

純(ハッ、面白ェ!! やれるもんならやってみろよ、東横ッ!!)タンッ

智葉(いい表情をしているじゃないか、東横桃子……)タンッ

セーラ(ええやん、東横! ラストに一発かましたれやッ!!)タンッ

桃子「チーッ!!」タンッ

 桃子手牌:4[5]678⑥⑥/(1)23/南(南)南 捨て:⑧ ドラ:南

桃子(超新星さん……!! 見てるっすか……!?)

       ――こんなに強い雀士がいるんだぞって!

智葉(見事――)タンッ

     ――私のモモコはすっげーんだぞって!!

桃子「ロンッ!!」ゴッ

         ――見せつけてよ!

桃子「一通南ドラ三赤一――!!」

              ――目に焼きつくくらいに!

桃子「12000は12600……!!!」

     ――最高のモモコをッ!!

桃子「これで先鋒戦終了っす!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

『決まったあああああああ!! 《煌星》東横桃子!! 得意の門前スタイルを捨て去り直撃一閃ッ!! 原点復帰で先鋒戦に幕を下ろしました!!』

桃子(どうせなら二位浮上くらいしときたかったっすけど……まあ、やれるだけのことはやったっす。私はここまで。あとは、みんなに託すっすよ)

 三位:東横桃子・+1700(煌星・101700)

純(一年が美味しいとこ持っていきやがってよ。おかげ様でオレは一人沈みだぜ。だあああ悔しいッ!! けど、ちくしょう、面白かったぜ……!!)

 四位:井上純・−21800(永代・78200)

セーラ(いやー、最後はどうなることかと思ったけどな。まさか東横が戦闘機から降りて直に殴りに来るとは。ええもん見れたわ~♪)

 二位:江口セーラ・+2900(幻奏・102900)

智葉(危ない危ない。好みのタイプだったら惚れていたかもしれん。いきなり姿を見せてあの笑顔は卑怯だぞ、東横――)パタッ

 一位:辻垣内智葉・+17200(劫初・117200)

 ――《煌星》控え室

淡「しゃああああああ!! 最高だああモモコおおおおお!!」

友香「ぶちかましでー!!」

咲「あの辻垣内さんからハネ直取るなんて……!!」

煌「すばらです」スバラッ

 ガチャ

桃子「ただいま帰ったっすー」ユラッ

淡「はっ!? モモコの匂い!! いつの間にかドア開いてる!! さてはここかー!!」ガバッ

桃子「正解っす」ウオップ

淡「モモコー!! 愛してるーぅ!!」ギュー

桃子「ありがとっす」

咲「やったね、桃子ちゃん!」

桃子「三位っすけどね」

友香「謙遜しちゃってでー、このこのー!!」

桃子「まあ、正直、個人的にはかなりいい気分っす」フフン

煌「桃子さん――」

桃子「……きらめ先輩」

煌「文句なしの100すばらですよ」

桃子「ありがとうございます……」

煌「桃子さんと一緒に戦えて、心からよかったと思います」

桃子「……ちょー嬉しいっす」

煌「あとは私たちにお任せください」

桃子「はいっ! お願いします……!!」

煌「では、次鋒――友香さん。準備はできていますか?」

友香「もちでーっ!!」ゴッ

咲「頑張って、友香ちゃん!!」

淡「モモコに続けえー!!」

桃子「天使さんにリベンジっす!!」

友香「おうよっ!!」

煌「友香さん、何か不明なことや、不安なことはありませんか?」

友香「不明なことは何一つ! ま、ちょっとだけ不安はありますが!」

煌「それも友香さんの強さだと思いますよ」

友香「煌先輩はなんでも良いように言ってくれるから、甘えちゃいますでー」

煌「事実ですから」キリッ

友香「そのキメ顔はずるいです……/////」

煌「ご所望とあらば、眼鏡を掛けて髪を下ろしますが?」キラーン

友香「いえいえ、そこまで煩わせるわけには。えっと……煌先輩!」

煌「はい。なんでしょう」

友香「私は……見た目はこんなんですけど、わりと涙もろかったり、浮き沈みが激しかったりするわけなんですが――」

友香「ここまで来る途中、何度も、挫けそうになりました。二回戦なんか、ウィッシュアート先輩にやられて、もうダメだって思いました。準決勝だってボロボロで、私、何やってるんだろうって……」

友香「そんなとき、いつも、支えになってくれたのは、煌先輩でした」

友香「煌先輩が、ずっと、前向きに私の背中を押し続けてくれたから、私はここまで来れたんです」

友香「なんて言って感謝したらいいのか、もう、わからないくらいです。だから、麻雀で、この気持ちを伝えたいと思います」

友香「次鋒戦……ありったけの力で、頑張りますからっ!」

友香「少しでもプラスにして帰ってくるので、どうか、応援よろしくお願いします」ペッコリン

煌「……はい。心から、友香さんの勝利を祈っていますよ」

友香「ありがとうございます。あっ、それと、淡――」

淡「おっ、どうしたのかなかな!?」

友香「淡は私の天敵で、そんな淡が味方だから、私は無敵ってことになってるんだけど」

淡「うん」

友香「私は、あなたの好敵《ライバル》でありたいと思ってる」

淡「ほうっ!」

友香「私は、あなたに負けないくらい強いんだってことを、証明してくる」

淡「いいじゃん! しちゃってちょーだいなッ!!」

桃子「じゃあ、その判定……嶺上さんにしてもらう、ってのはどうっすかね?」

友香「も、桃子――!?」

咲「……いいよ、引き受けた」

淡「えー? サッキー贔屓しそー!」

咲「しないって。真面目に選ぶよ。淡ちゃんか、友香ちゃんか。それで、いいんだよね、友香ちゃん?」

友香「……う、うん」

咲「やるからには、淡ちゃんに勝つつもりなんでしょ、友香ちゃん」

友香「も、もちでーッ!!」

咲「頑張って。私も、個人的には、友香ちゃんを応援してるから」

淡「モモコ! やっぱりサッキーは審判に向いてないんじゃないかな!?」

桃子「ちょっと黙っててくださいっす、超新星さん」

友香「淡っ!」

淡「はい!?」

友香「淡は私を《煌星》に誘ってくれた! そのこと、後悔させはしないからっ!! でも、それとはまた別に、きっと後悔させてやるんでー!!」

淡「完膚なきまでによくわからないけどわかった!!」

桃子「ふぁいとっす、でー子さん!」

咲「淡ちゃんみたいなヘマしたら許さないよ!」

煌「ご健闘を」

友香「はいっ! 行ってきます……!!」ゴッ

 ――――

まこ「お疲れさん。派手に沈んだのう」

純「オレにしちゃ踏ん張ったほうだろーよ」

まこ「塞はご立腹じゃあ」

純「あいつ三回戦の焼き鳥大失点を棚に上げやがって……」

まこ「まあ、わしが取り返す言うて宥めてきたがの」

純「ありがとよ。助かるわ」

まこ「照の宿題のほうはどうじゃ?」

純「んなもん考えてる余裕なんかねえよ。ただ、まあ、楽しかったから、今は、細けえことはいいや」

まこ「純らしいのう」

純「お前は……けど、楽しいだけじゃダメなんだろ?」

まこ「まあ、ほうじゃな」

純「ここが学園都市の《頂点》だぜ。見たいっつってた景色……しっかり見てこいよ」

まこ「ああ……見てくる」

純「あと、それから、ついでに――」

まこ「カタキ、じゃろ? 任せんしゃい。ばっちりとっちゃるけえの、相棒」

純「頼もしいぜ、相棒。なにとぞよろしくなっ! 気張って行ってこいや!!」

まこ「ああ、行ってくる……!!」ゴッ

 ――――

誠子「お疲れ様サマです」

セーラ「すまんなー、あんま稼げへんかったわ」 

誠子「なんの、先輩にばかり荷を背負わせはしません。トップ、掴まえてみせますよ」

セーラ「おお? なんや頼もしいやん」

誠子「いえ、まあ、内心はかなり不安ですけど……」

セーラ「自信持てや~」

誠子「どうにも、こういう性分なようです」

セーラ「ははっ、ほな、もうそのヘタレは一生治らへんな」

誠子「変わりたい気持ちはあるんですけどね。でも、やっぱり、私は味方に恵まれているだけなんだなって思ってしまいます。
 《福笑》も、《虎姫》も、《幻奏》も、チームを勝利に導くのは、決まって私以外の誰かでした」

セーラ「んー、ま、別にええんちゃう?」

誠子「え? そ、そうなんですか……?」

セーラ「やって、結局、団体戦っちゅーんは、チームが勝つかどうかやから。ほな、必ずしも誠子自身が勝利を決める必要はあらへんやん。
 極論、俺は、《幻奏》が勝てるんやったら、俺自身は補欠でもええと思っとるよ。俺以上の人材をやえが見つけてきたんやったら、どーぞどーぞでチェンジしたるわ」

誠子「意外です……江口先輩は、自分で勝つのが好きなんだと思っていました。ほら、《我道》って言いますし」

セーラ「もちろんそらそうや。けど、そういう俺個人の欲求を満たしたいだけなら、個人戦に出ればそれで事足りる。チーム戦の楽しさはまた別腹や。団体戦はみんなで勝つから楽しいんやん」

誠子「なるほど……」

セーラ「変な話やけど、俺は、他人の力は、自分の力やって思っとんねん。それがチームやって思っとる。
 誠子は、自分で勝ちを決められへんって言う。せやけど、誠子のチームには、いつも勝ちを決められるやつがおったんやろ? ほな、それはもう、誠子が勝ちを決めてるんと大差ないやん」

誠子「ひ、飛躍しましたね」

セーラ「人一人にできることなんて高が知れてんねん。さっきやって、最後に東横が辻垣内を削っとったけど、ああいうんは俺にはできひん。
 せやけど、結果的に一位との差は詰まった。ほな、これも、俺の力って考えてええやんな」

誠子「まあ、東横さんが辻垣内先輩の一発目を掴まなかったのも、高め一通を狙えたのも、江口先輩が一索を鳴かせたからですもんね」

セーラ「ん? ああ、あの安牌切ったらええ感じになったやつな」

誠子「えっ、狙ってたんじゃないんですか?」

セーラ「誰がそんな荒川憩とか福路みたいなことできるか。ちゃうちゃう。運が良かっただけ。ま、それも立派な俺の力やけどな~」

誠子「なんていうか……江口先輩のそういうとこ、すごいです」

セーラ「おおきに~」

誠子「……他人の力、ですか」

セーラ「おう。ま、せやから、いつも味方に恵まれる誠子は、俺から見れば、ごっつー強い雀士やで。
 そらまあ、自分とサシで打てば、いくらでもボコボコにできるけど、ほんでも、去年、《千里山》は《虎姫》に一度も勝てへんかった。
 やから、俺は、誠子のことを、強いと思う。宮永照が自分を選んだんは、そういうとこを見抜いとったからやと思うで。ホンマ、羨ましい」

誠子「江口先輩……」

セーラ「自信持てへんのやったら、無理に持たんでええ。不安なままで、ヘタレなままで、どーにかこーにか打ってきたらええやん。
 準決勝のとき、自分は言うてたな。優希みたいに突破力があって、俺みたいに得点力があって、やえみたいに対応力のある雀士になりたい——って。せやけど、そんなもん、別に一人でなんもかんも手に入れる必要はないやろ。
 突破力が足りひんなら優希からもらえばええ。得点力が足りひんなら俺のツモ運分けたる。対応力が足りひんのやったらやえと一緒に相手の研究すればええ。
 このチームにいる限り、俺らの力は誠子の力や。好きなだけ持ってけ。好きなだけ使え。そしたらきっと、十割ネリーでも、宮永でも、弘世でも、十分張り合えるわ。俺が保証する」

誠子「そんなもんですかねぇ」

セーラ「そんなもんやで」

誠子「……《虎姫》時代に、宮永先輩に聞いたことがあるんです。どうして、私をチームメンバーに選んだのかって。宮永先輩なら、もっと強い人を仲間にできたんじゃないですかって」

セーラ「ほんで、その答えは自分で見つけろ、とか言われたんやろ?」

誠子「えっ、あ……はい。その通りです」

セーラ「ま、俺も、同じように答えるからな~」

誠子「え……? じゃあ、江口先輩も答えを知ってるんですか?」

セーラ「当然。こんなん白糸台の常識やで」

誠子「そうなんだ……」

セーラ「難しいことやあらへん。普通のことや。あまりに単純自明なことやから、改まって聞かれるとぱっと言葉にならへんってだけで、正解そのものは、自分らみんな体現しとる」

誠子「そう……ですか――」

セーラ「っと、ちょっと喋り過ぎてもーたな。行けそうか、誠子?」

誠子「……はい。おかげ様で。頑張ります」

セーラ「おう、頑張ってや」

誠子「江口先輩」

セーラ「なに?」

誠子「ありがとうございます」ペッコリン

セーラ「なーに、これも先輩の務めやで!」

誠子「私も、いつか、先輩みたいにカッコいい上級生になりたいです」

セーラ「大丈夫、誠子は十分ええ先輩しとるよ。次鋒戦終わったら優希に聞いてみるとええ」

誠子「あははっ、ヘマできませんね」

セーラ「そやから頑張るんやろー?」

誠子「おっしゃる通りです。……あれ、ということは、江口先輩も?」

セーラ「ま、あんま威張れるような収支ちゃうけどな~」

誠子「何から何まで、ありがとうございます」

セーラ「ええってことよ。ほな、行ってらっしゃい」

誠子「……はい、行ってきます!!」ゴッ

 ――《劫初》控え室

 ガチャ

智葉「ただいま戻った」

憩「おつですーぅ。ガイトさん、ハネ直なんていつ振りですかー?」

衣「さとはにしては稼ぎが足りないのではないか?」

エイスリン「ザマア、ネーナ!!」

菫「お前らそれがトップ帰還した仲間に掛ける言葉か……?」

智葉「事実だから仕方あるまい。悪いな、菫。先鋒戦で《永代》と十万点差つけるつもりだったんだが」

菫「いや、今でも十分だよ……」

智葉「ま、しかし、安心してくれ。私が取り損ねた分は、私の下僕が取り戻す」

エイスリン「ダレガ、ゲボクダ、ゴラァ!?」クラエスケッチブック

智葉「ふん」パシッ

菫「仲睦まじいのは結構だが、そういうのはプライベートでやってくれ」

エイスリン「チ、チガ!? スミレ、ゴカイダ!!」アワワワ

智葉「そうだぞ、菫。ウィッシュアートと私は確かに一線を越えてはいるが、こいつが本当に好きなのはお前だ」

菫「」

エイスリン「オマ……サトハ////!! チョット、ダマッテロ、カス!!」

憩「菫さん、しっかりしてください。今のはガイトさんジョークです」

菫「ジョークだと……!? なるほどっ! 一瞬真に受けてしまったではないか!!」

智葉(ほら、ウィッシュアート。菫の鈍さはあの通り筋金入りだ。どうせ相手にされんから当たって砕けてこい)コソッ

エイスリン(ワ、ワァーッテルヨ! イイカラ、テメェハ、ヒッコンデロ!)コソッ

エイスリン「ス、スミレ……!」モジモジ

菫「おう、なんだ。ウィッシュアート」

エイスリン「ワタシ! ハジメテ、アッタ、トキカラ、スミレノコト……!!」

菫「大好き、なんだよな?」

エイスリン「エェ……/////!?」

菫「三回戦のときに、お前、自分で言っていたじゃないか。もちろん、私もお前のことが大好きだよ。とても大切に思っている。今後とも、よき友人として付き合っていこう」

エイスリン「」

智葉(ほらな)ニヤッ

エイスリン(コイツ、ニブイッテ、レベルジャ、ネーゾ……!!)ズーン

菫「どうした? 私の顔に何かついているか?」

エイスリン「スミレ!」

菫「ん?」

エイスリン「オマエ、バカダロ!!」

菫「」

エイスリン「スミレ、アタマ、ワルイ! マージャン、ヨワイ! チョット、ミタメ、カッコヨクテ! メンドーミ、ヨクテ! ヤサシクテ! ミンナ、マトメルノガ、ウマイ、ダケノ、ポンコツ! デモッ!!」

エイスリン「ソンナ、スミレガ!! ワタシ、ダイスキ!! ダカラッ!!」

エイスリン「カタセテヤルヨ!!! ワタシハ、スミレト、チガッテ、ツエーカラナ!!! ッツーワケデ――」

エイスリン「ザコモブヲ、ボコリニ、イッテクル!!!!」ゴッ

 ガチャ タッタッタッ

智葉「……荒川、菫はどうなっている?」

憩「あー、これ完全に瞳孔が開いてますね~」

菫「」

衣「すみれ、しっかりしないか」ゴッ

菫「は――!? い、今、何か、ウィッシュアートの口からとんでもない暴言の数々が吐き出される夢を見たのだが……!!」

衣「その、すみれが見た『夢』というのは、これのことか?」ヒョイ

菫「ウィッシュアートが智葉に投げつけていたスケッチブックか。これは……私たちと、優勝カップ――」

衣「一目瞭然だろう?」

菫「……ああ、そうだな」

衣「さとはとけいと衣の悪影響で随分と喋りが達者になってしまったが、あやつの心根はチームを結成した日から変わっていない。照れ隠しの罵詈雑言に惑わされるなど、すみれはまだまだ人心の把握が甘いな」

菫「まったくもって。これからも精進する」

衣「ふん、手間のかかる大将だ」トテトテチョコン

菫「……えっ? 天江? なんの真似だ?」

衣「手間賃として、次鋒戦の間、すみれは衣の椅子だ!」

憩「ちょー!? 衣ちゃん、ずっこい!! そこはずっとウチの指定席やったやろー!?」

菫「今まで誰一人として座らせたことなどないぞ……」

智葉「荒川、すまんが、いつもの紅茶を淹れてくれないか?」

憩「ガイトさんは自由過ぎますッ!!」

『よい子のみんなー、用は済ませたかぁー!? まもなく次鋒戦が始まるぜー!!』

菫「っと、ウィッシュアートは大丈夫だろうか。お前ら曰く、染谷とは相性が悪いとのことだが……」

衣「その通り。だが、案ずるな。きっと最後にはえいすりんが勝つ!」

『対局者はそろそろ場決めして席に着いてくださいねー!!』

 ――対局室

エイスリン「ヨロシク♪」

 東家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・117200)

まこ「よろしくの」

 南家:染谷まこ(永代・78200)

誠子「よろしくお願いします」

 西家:亦野誠子(幻奏・102900)

友香「よろでーっ!」

 北家:森垣友香(煌星・101700)

『次鋒戦前半――開始ですっ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

また近いうちに。

では、失礼しました。

 東一局・親:エイスリン

エイスリン(ジャーマ、テハジメニ、サンレンチャン、クライハ、シトキテーヨナ)タンッ

 エイスリン手牌:二三七3468①③南白白中 捨て:西 ドラ:9

エイスリン(ナニモ、ナケレバ、ナナジュンメ、デ、ザンク)タンッ

 エイスリン手牌:二三四七3468①③白白中 捨て:南 ドラ:9

エイスリン(《リューセーグン》ハ、メンゼン、ナラ、オイツカレ、ネーダロ)タンッ

 エイスリン手牌:二三四七3468①①③白白 捨て:中 ドラ:9

誠子「ポン」タンッ

友香(っと、役牌ポン。今の亦野先輩は三副露じゃなくても和了ってくるかも。要注意でー)タンッ

エイスイン(《フィッシャー》、ヤクハイ、ナイテクル。ソイツハ、ワクノ、ウチガワ、ダゼ)タンッ

 エイスリン手牌:二三四四3468①①③白白 捨て:七 ドラ:9

エイスリン(アト、ニジュン――)タンッ

 エイスリン手牌:二三四四34[5]6①①③白白 捨て:8 ドラ:9

エイスリン(ツギデ、テンパイ)タンッ

 エイスリン手牌:二三四四34[5]①①③白白白 捨て:6 ドラ:9

エイスリン(キタ)

 エイスリン手牌:二三四四34[5]①①③白白白 ツモ:② ドラ:9

エイスリン(コレデ、ドーヨ……!!)タンッ

 エイスリン手牌:二三四四34[5]①②③白白白 捨て:① ドラ:9

まこ(んー……?)カチャ

 エイスリン捨牌:西南(中)七86①

まこ(ここまで全部手出し。その上で、嵌張搭子を落としてからの、端っこ。順調に手を進めとるんじゃろうな。張っちょるなら、萬子の低いとこはわりと危なそうかのう)チラッ

 まこ手牌:1234567一二三四②③ ドラ:9

まこ(一・四・七索と一・四筒が入ってきたら、一・四萬が溢れる。うん……この辺りかの)フゥ

まこ「チー」タンッ

 まこ手牌:123456一二三四/(①)②③ 捨て:7 ドラ:9

エイスリン(チョ――!?)

誠子(染谷さんが動いてきた……)

 誠子手牌:44[⑤][⑤]⑤⑥五六八九/中(中)中 ツモ:④ ドラ:9

誠(これなら、もう三副露を待たずにテンパイに取れるけど、どうなるかな?)タンッ

 誠子手牌:44④[⑤][⑤]⑤⑥五六八/中(中)中 捨て:九 ドラ:9

友香(ドラを活かしたいけど、これは素直に攻め過ぎでー?)

 友香手牌:二[五]六七九④④⑥⑦⑧899 ツモ:三 ドラ:9

友香(ひとまず、一向聴)タンッ

 友香手牌:二三[五]六七④④⑥⑦⑧899 捨て:九 ドラ:9

エイスリン(マッ……ズ――!!)タンッ

 エイスリン手牌:二三四四34[5]①②③白白白 捨て:7 ドラ:9

まこ「お、ツモじゃ。300・500」パラララ

 まこ手牌:123456一二三四/(①)②③ ツモ:四 ドラ:9

誠子(わりと良形の一向聴から、鳴き三色のみの片和了りって)

友香(ゴミツモ程度でウィッシュアート先輩の親が流れたのは大助かりでー)

まこ(ちと安いが、ウィッシュアートの親番を蹴ったと思えばじゃの。親さえ蹴ってしまえば、いくら《最多》の大能力者でも、多くて六回しか和了れん。今のところは過去の牌譜と大差ない。そう簡単にはやられん……)

エイスリン(コノ、メガネ……!! ドーナッテヤガル!?)

まこ「さて、わしの親番じゃの」コロコロ

エイスリン:116700 まこ:79300 誠子:102600 友香:101400

 東二局・親:まこ

まこ(配牌はそこそこ……)

 まこ配牌:二二[五]八④⑥135567東西 ドラ:二

まこ(ドラが二つに赤一つ。親じゃけえ、ドラを頭にして食いタンピンピンロク。ダブ東入ってドラポンできればハネ満。タンピンドラ二赤一でリーチ掛ければ裏ドラで親倍も見えてくるじゃろ)

まこ(と、ま、皮算用はこれくらいにして。全てはウィッシュアートの出方次第じゃ。こいつは衣と同じ全体効果系……自身の手牌と他家の手牌の両方に干渉できる脅威の能力者。卓の顔を作る側の人間――)

エイスリン「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(こいつの描く理想は、わしらにとっては絶望以外の何物でもない。《夢描く天使》相手に、夢は見んほうがええじゃろな)タンッ

 まこ手牌:二二[五]④⑥135567東西 捨て:八 ドラ:二

まこ(さあ、どっからでもかかって来んさい、能力者……!!)ゴッ

エイスリン(チッ……コノ、レンズゴシノ、シセン。サトハト、オナジ。コレダカラ、メガネハ、メンドクセー。アト、メガ、イイ、ヤツモ、ニガテ、ダナ)

 エイスリン手牌:四八①②③[⑤][⑤]⑥⑥23西西 ツモ:4 ドラ:二

エイスリン(ノーリョク、ゼッコウチョウ、ナンダガ――)タンッ

 エイスリン手牌:四①②③[⑤][⑤]⑥⑥234西西 捨て:八 ドラ:二

まこ(八萬……第一打が中張牌のときのウィッシュアートの和了率・和了巡目はどんくらいじゃったか。こりゃあ恐いの)

 まこ手牌:二二[五]④⑥135567東西 ツモ:1 ドラ:二

まこ(ほいじゃあ、ま、怪しいところは早めに処理じゃ)タンッ

 まこ手牌:二二[五]⑥1135567東西 捨て:④ ドラ:二

エイスリン(コノ……ワカメガネ。サイショカラ、エガイテタノト、テジュン、チゲーシ)

 エイスリン手牌:四①②③[⑤][⑤]⑥⑥234西西 ツモ:④ ドラ:二

エイスリン(ヒッカキ、マワサレル、マエニ! ソッコーデ、ケリ、ツケルッ!!)タンッ

 エイスリン手牌:①②③④[⑤][⑤]⑥⑥234西西 捨て:四 ドラ:二

まこ(ドラ付近をノータイムで手出し。もしかして、もう張ったんか……?)

 まこ手牌:二二[五]⑥1135567東西 ツモ:3 ドラ:二

まこ(八萬、四萬が出てきたのは手牌の端じゃった。もう萬子はないと見てええじゃろか。憩か福路ならもっと的確に《アナログ読み》できるんじゃろうが……)タンッ

 まこ手牌:二二⑥11335567東西 捨て:[五] ドラ:二

エイスリン(ココデ、アカ……?)

誠子「」タンッ

まこ(お、九筒通った。少し恐いが、親で大きいのツモられるんも嫌じゃしな)

友香「」タンッ

まこ「ポン!」タンッ

 まこ手牌:二二115567東西/3(3)3 捨て:⑥ ドラ:二

エイスリン(ハア!?)

誠子(っと、じゃあ、この七筒はちょっとキープで)タンッ

エイスリン(……コレハ、カキナオシ、ダナ)

 エイスリン手牌:①②③④[⑤][⑤]⑥⑥234西西 ツモ:⑥ ドラ:二

エイスリン(ダカラ、ドーシタ。コレクライノ、ズラシ、サトハト、ケイデ、ケイケンズミ。マダマダ。ワタシノ、ユメハ、オワラネー……)タンッ

 エイスリン手牌:②③④[⑤][⑤]⑥⑥⑥234西西 捨て:① ドラ:二

まこ(一筒? 妙なとこ切ってきた……さては手を高くしちょるんか? さっさと終わらせんと被害が大変なことになりそうじゃの。索子か東が来てくれれば追いつけそうじゃが――)

 まこ手牌:二二115567東西/3(3)3 ツモ:⑤ ドラ:二

まこ(ま、無能力者なんてこんなもんじゃろ)タンッ

 まこ手牌:二二115567東西/3(3)3 捨て:⑤ ドラ:二

エイスリン(カナラズ、マンガン、イジョウニ、シアゲル)

 エイスリン手牌:②③④[⑤][⑤]⑥⑥⑥234西西 ツモ:四 ドラ:二

エイスリン(ズラシタ、コト、コーカイ、サセテ、ヤルヨ……)

 エイスリン手牌:四②③④[⑤][⑤]⑥⑥⑥234西 捨て:西 ドラ:二

まこ(こりゃあさっきのズラしの前と後で顔が一新しちょるなぁ)

 まこ手牌:二二115567東西/3(3)3 ツモ:西 ドラ:二

まこ(どうじゃろ、間に合うか……?)タンッ

 まこ手牌:二115567東西西/3(3)3 捨て:二 ドラ:二

エイスリン(イイヤ、マニアワネーヨ。ソノ、ドラ、トイツ、オトシデ、オマエノ、オヤハ、オワリダ。サア、コイ、サンマン――)

友香「」タンッ

まこ「ポンじゃ!」タンッ

エイスリン(ゲッ!!?)

 まこ手牌:1167東西西/5(5)5/3(3)3 捨て:二 ドラ:二

まこ(にしても……今の五索切りは違和感があるの)

エイスリン(ワカメガネ、ダケジャ、ネーノカ!?)

友香「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 友香手牌:五六六七八九66889⑦⑧ ドラ:二

友香(二回戦でウィッシュアート先輩と戦ったときは、能力戦で打ち合うことばかりを考えていた。三回戦も準決勝も、私は単独でしか動いてない。でも、それだと、レベルが上の三年生には押し負ける……。
 着実にウィッシュアート先輩が和了りへの道を進んでいて、リーチを掛けるのも難しい今は、染谷先輩のサポートに回ったほうが被害が少ないはずでー)

誠子(《煌星》の一年生は全員が基本門前の単独プレイ――っていうのは小走先輩の分析だけど、先鋒戦の東横さんや、今の森垣さんを見ると、この決勝ではその限りじゃないらしい。
 これが、先輩が危惧していた一年生特有の不確定要素か。で、私はこの三萬をどう処理したらいいのやら……)タンッ

友香(これでウィッシュアート先輩の足が止まればいいんだけど)タンッ

エイスリン(ナ……メンジャネーヨッ!!)ゴッ

 エイスリン手牌:四②③④[⑤][⑤]⑥⑥⑥234西 ツモ:二 ドラ:二

エイスリン(ワタシハ、レベル4!! コレクライハ、キアイデ、タテナオセル!!)タンッ

まこ「それもポンじゃあ……!!」タンッ

 まこ手牌:1167/(西)西西/5(5)5/3(3)3 捨て:東 ドラ:二

エイスリン(……ッ!? イヤイヤ、カンケーネー!! モッペン、《ウワガキ》シテ、ツモリャ、イインダロ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(経験上……ここまで歪んだ顔を元に戻せるのは、衣たちランクS級の全体効果系能力者だけじゃが、どうなる――?)

エイスリン(!!?)

 エイスリン手牌:二四②③④[⑤][⑤]⑥⑥⑥234 ツモ:8 ドラ:二

エイスリン(……オボエテロヨ、ワカメガネ……)ギリッ

 エイスリン手牌:四②③④[⑤][⑤]⑥⑥⑥2348 捨て:二 ドラ:二

まこ「(寒気がするのう……)ツモじゃ、1000オール」パラララ

 まこ手牌:1167/(西)西西/5(5)5/3(3)3 ツモ:8 ドラ:二

誠子(決定打になったのは西ポンか。染谷さんは、局の最初から染め手を選択肢に入れていた。ドラが三つもあって食いタンにはもってこいだったはずなのに、オタ風牌を抱え続けた……)

友香(なら、第一打の時点で、既にウィッシュアート先輩の《一枚絵》が狂わされていたってことでー? いやいや、これは真似できる気がしない)

エイスリン(メガネ、ゴト、フミツブスッ!!)

まこ「一本場じゃあ」コロコロ

エイスリン:115700 まこ:82300 誠子:101600 友香:100400

 東二局一本場・親:まこ

エイスリン(ワカメガネ――モトイ、ソメヤマコ。イチネンマエニ、コロタント、ケイト、チーム、クンデタ、コマイヌ)タンッ

エイスリン(アイツラハ、ナンテ、イッテタカ……)ポワワワ

衣(イメージ)『まこはじゅんと同じで、目を離した隙にちょろちょろするが、所詮は無能力者! 本気の衣を出し抜くことなど不可能な有象無象ならぬ有犬無犬! ゆえに、えいすりんなら楽勝だっ!!』

憩(イメージ)『あー、確かに染谷さんはちょっと読みにくいとこありますね。衣ちゃん相手でも比較的頑張れる雀士です。
 せやけど、染谷さんが衣ちゃんにまともに勝てたことは一度もありませんから。ま、エイさんなら楽勝ですよー』

エイスリン(ラクショウ……ソウ、サッキハ、ワケワカンネー、コト、サレタ、ケド、コンカイハ、ココマデ、エガイタ、トーリ)タンッ

まこ「」タンッ

エイスリン(ケハイ、ネーノガ、キモイ、ケド、ベツニ、モンダイハ、ネー……ハズ)

誠子「ポン」タンッ

 誠子手牌:白白中中/七七(七)/(2)22/(八)八八 ドラ:2

エイスリン(《フィッシャー》ノ、サンフーロ。コレモ、エガイタ、トーリ)

友香「リーチでー!」タンッ

 友香手牌:4456四五六④⑤⑥⑧⑧⑧ ドラ:2

エイスリン(《リューゼーグン》ノ、リーチ。コレモ、ガクブチノ、ウチガワ)

 エイスリン手牌:①②③1235[5]一二三八九 ツモ:九 ドラ:2

エイスリン(ココマデ、パーペキ! ツギデ、ワカメニ、マンガン、ブチアテル!!)タンッ

まこ「チー」タンッ

エイスリン(――――!?)ゾワッ

 まこ手牌:**********/(八)六七 捨て:二 ドラ:2

エイスリン(マテ、マテマテ!? オマエ、サッキ、パーワン、ステテタダロ……!!? ココデ、カキナオシ、トカ!!)

まこ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

誠子(またこのパターンか。どうにも掴まされたっぽい)

 誠子手牌:白白中中/七七(七)/(2)22/(八)八八 ツモ:九 ドラ:2

誠子(んー、参った)タンッ

 誠子手牌:九白白中/七七(七)/(2)22/(八)八八 捨て:中 ドラ:2

友香(あちゃちゃ……)

 友香手牌:4456四五六④⑤⑥⑧⑧⑧ ツモ:中 ドラ:2

友香(正直、染谷先輩の鳴きは、井上先輩よりオカルトでー)タンッ

 友香手牌:4456四五六④⑤⑥⑧⑧⑧ 捨て:中 ドラ:2

エイスリン(コ、コンナコトガ――)ゾクッ

 エイスリン手牌:①②③1235[5]一二三九九 ツモ:4 ドラ:2

エイスリン(アリエネーダロ……!! ツカ、サトハ!! オマエ、コイツニ、メガネ、カシタリ、シテネーヨナ!?)

      ――ゆえに、えいすりんなら楽勝だっ!!

                 ――ま、エイさんなら楽勝ですよー。

エイスリン(アノ、ツカエネー、ジンガイドモ……!! テメェラ、キジュンデ、モノ、イイヤガッテ!!)タンッ

まこ「ロン!」ゴッ

エイスリン(ッ!!? オイ、コロタン! ケイ! マジ、ドーナッテンダヨ、コノ、メガネ――)

まこ「3900は4200じゃ!!」パラララ

 まこ手牌:3335三四[五]發發發/(八)六七 ロン:5 ドラ:2

エイスリン(クッッッソツエージャネーカ……!!!!)ゾワッ

まこ「二本場っ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン:111500 まこ:87500 誠子:101600 友香:99400

 東二局二本場・親:まこ

まこ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(前局……ウィッシュアート先輩がいる場で、亦野先輩が三副露してて、私がリーチしてて――完全に能力戦だったのに、鳴き一つでその全てをかわした。信じられないことするんでー、この人)タンッ

友香(染谷先輩がウィッシュアート先輩を抑えるなら、私が能力で染谷先輩を削ればわりといい感じになるかと思ったけど、そう甘くはなかった。やっぱりいつも通りじゃダメでー。考えて、工夫しなきゃ)タンッ

友香(この局は、染谷先輩が立て続けに和了ったおかげなのか、ウィッシュアート先輩の支配が若干緩くなってる。このチャンスを活かしたい。まあ、それは亦野先輩も同じだろうけど……)タンッ

友香(いっし、テンパイ!)

 友香手牌:六七八677④⑤⑥⑦⑧東東 ツモ:8 ドラ:西

友香(リーチ行っちゃうんでー? 安めリーのみ。でも、私なら高め一発ツモで裏乗せてハネ満は見込める。いつもなら即リーまっしぐら。
 けど……染谷先輩の動きが読めない。それに、亦野先輩も、まだ門前を保ってる。軽々には動けない。東もまだ河に見えてないし、ここは、ちょっと、ダマで――)タンッ

 友香手牌:六七八678④⑤⑥⑦⑧東東 捨て:7 ドラ:西

まこ(森垣が張った……? それに、亦野がさっきからずっとツモ切りじゃ。準決勝で愛宕相手に似たような顔で戦っちょった。放っておけんのう)カチャ

まこ「チー」タンッ

誠子(ん……?)

 誠子手牌:③③⑤[⑤]5599一一東西西 ツモ:[⑤] ドラ:西

誠子(ハネ確は嬉しいけど、染谷さんの鳴きのあとだと、あまり素直に喜べないな)タンッ

 誠子手牌:③③[⑤][⑤]5599一一東西西 ツモ:⑤ ドラ:西

友香(――っと。こういう感じになるわけでー……)

 友香手牌:六七八678④⑤⑥⑦⑧東東 ツモ:東 ドラ:西

友香(四筒と五筒ならどっちのほうがいいんだろ。どっちも、亦野先輩の河に一枚ずつ見えてる。五筒のほうは、残ってるのが赤二枚だから、四筒のほうが出易いかな。私の河には一・七筒があるから、引っ掛けになっちゃうけど……)タンッ

 友香手牌:六七八678④⑥⑦⑧東東東 捨て:⑤ ドラ:西

エイスリン「」タンッ

まこ「」タンッ

誠子「」タンッ

友香「ロン、5200は5800」パラララ

誠子「(っと――ダマもある……か)はい」チャ

まこ(おう……ようやく決勝らしゅうなってきたかの)

友香(地味だけど収支回復でーっ!)

誠子「次は私の親番ですね」コロコロ

エイスリン:111500 まこ:87500 誠子:95800 友香:105200

 東三局・親:誠子

エイスリン(ヤベーナ、ヤベーゾ、ヤベーッテ……!!)タンッ

友香「チーでー!」タンッ

 友香手牌:七八九⑦⑦⑧⑧⑨發發/(二)一三 ドラ:②

エイスリン(《リューセーグン》、ナイテクル! イミフ!!)タンッ

誠子「リーチ」チャ

 誠子手牌:[⑤]⑥⑥⑦⑦⑧567一一發發 ドラ:②

エイスリン(《フィッシャー》、リーチ、カケテクル! ナゼ!?)

まこ「ポンじゃ」タンッ

 まこ手牌:[五]六七八345678/2(2)2 捨て:四 ドラ:②

エイスリン(ワカメガネ、ワケワカメ――!!)ゾワッ

まこ・友香・誠子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン(コノ、ワタシガ、テンパイスラ、デキネー、ダト……?)

 エイスリン手牌:②③④一三五五六六七七八8 ツモ:8 ドラ:②

エイスリン(……ワタシ、ダッテ、チャント、デジタル、ベンキョー、シタ。フツーニ、ウツ、コトハ、デキナクモ、ネーガ)タンッ

エイスリン(ミホコニ、ボコラレタ、ミテーニ、ノーリョク、ナシデ、カセグ、ノハ、シンドイ)タンッ

エイスリン(コノママジャ、スミレニ、イイトコ、ミセラレナイ。ダガ、ドースリャ、イイ? コンジョーロン、ダケジャ、ゲンカイガ、アルゼ)

エイスリン「……ノーテン」パタッ

まこ・友香・誠子「テンパイ」パラララ

エイスリン(トヨネノ、《ブツメツ》トカ、トーヨコノ、《ステルス》ノトキ、ミテーダナ……)

誠子「流れ一本場ですね」コロコロ

エイスリン(マルデ、ヤミノ、ナカニ、イル、ヨウナ――)

エイスリン:108500 まこ:88500 誠子:95800 友香:106200 供託:1000

 ――《劫初》控え室

衣「なかなか苦戦しているな、えいすりん」

菫「染谷ばかりか、亦野と森垣も変則打ちで対抗している。やりにくいはずだ」

憩「エイさんの《一枚絵》の中では、他家は比較的自由に動けます。もちろん、普通ならエイさんのほうが速いんですけど、今の――染谷さんが二索ポンして四萬切ったみたいな、不合理な待ちの寄せ方をされるとキツいわけですね。
 いくらエイさんが《上書き》で有効牌を引き続けようと、テンパイに取ったら直撃を食らうわけですから、身動きが取れなくなってまう」

智葉「菫の《シャープシュート》があいつに対してそこそこ有効なのと同じ理屈だな。《一枚絵》は合理的で最短最速ゆえに《最多》――それは理想かもしれないが、現実はもう少し複雑だ。
 ウィッシュアートは心根が真っ直ぐ過ぎる。だからこそ、根性の腐った荒川は《悪魔》で、穢れを知らないあいつは《天使》なわけだが、それでは戦場で生き残れん」

憩「ガイトさん、ツンデレ発言でノロケるのは、キショいですが、百歩譲って目を瞑ります。ただ、ウチを引き合いに出すのはやめてください」

智葉「私的にはお前を褒めているつもりなんだが?」

憩「そんなことはわかってます。せやけど――」チラッ

菫(ああ、なるほど……だからウィッシュアートの連荘は荒川の連荘より胃が痛くならないのか……)フンフム

憩「あの通り、ガイトさんジョークが通じひん人がおるので」

智葉「お前のそういう透けた猫を被りたがるところ、実に私好みだよ」

憩「あの……ガイトさん、土下座でもなんでもするんで、ちょいちょいウチを口説きにかかるのやめてくれませんか?」トリハダ

智葉「ほう、『なんでも』――?」ニヤッ

憩「誰か助けてくださーい!!」ウワーン

     まこ『ツモ、500・1000の一本付けでよろしゅう!』

智葉「お前も大概潔癖だよな」

憩「まあ、ナースですから」

智葉「《白衣の悪魔》……その白さは、穢れを受け付けない白さだな。対して――」

憩「《夢描く天使》……エイさんの白さは、白地のキャンパスっちゅーことですか?」

智葉「そう。あいつの白さは、色を――穢れを受け入れる白さなんだよ。朱に交われば赤くなる。あいつのためにあるかのような慣用句だ」

憩「このチームに入ってエイさん変わりましたからね~」

智葉「ああ、着々と私好みの色に染まってきている」

憩「エイさん逃げて超逃げてー!!」

智葉「お前好みでもあるはずだぞ、荒川」

憩「ウチをガイトさんみたいな変態と一緒にせんでください」

智葉「よく言う。いいか、ウィッシュアートが好きなのは菫だ。あいつは菫のためにこのチームにいる」

憩「そうですね」

智葉「菫の根幹にある想い、信念――それは、『どんなに回り道をしても、遠回りをしても、目標に向かって進み続ければ、いつか必ずそこに届く』というものだ」

憩「ええ、《シャープシュート》は、狙い撃ちのために敢えて《待ちを片寄せ》ますからね」

智葉「目的のために手段を選ばないという点が、非常に私好みだ。真っ直ぐで届かないなら回り道をする。それでも届かないなら遠回りをしてみる。迂遠だが、あいつはそうやって、《最終》的に獲物を掴まえるんだ」

憩「目的のためなら全てを騙す英雄なる《欺刃》――ガイトさんとも近いですもんね」

智葉「そう……そこでいくと、ウィッシュアートは、菫の真逆にいるわけだな」

憩「《最多》は結果であって、エイさんにとって重要なのは《理想を描く》ことですからね。和了りは目指すべき目標であって果たすべき目的ではない。
 和了りという結果のために、自分の『理想』を曲げることはしない——それがエイさんです」

智葉「短距離走に喩えればいいんだろうな。あいつは和了りというゴールに向かってひたすら真っ直ぐに駆け抜ける。そのスピードを素で上回れるのは宮永かお前くらいだ。私だって、純粋な駆けっこではあいつに敵わん。
 だが、あいつは、言ってしまえば、ただ走るのが速いだけなんだな」

憩「最速は最強ではないってことですよね。ゴールテープを切ったもん勝ちなら、何も、スピード勝負に持ち込む必要はないわけですから。
 ガイトさんみたいに前を行くエイさんの背中に刃を突き刺してもええし、東横さんみたいにスタート前からエイさんに目隠しをしてもええし、福路さんみたいに、他の走者を誘導してエイさんを妨害してもええ」

智葉「場外乱闘、反則、ラフプレー……あいつの理想の世界に、その手の泥臭い概念はないからな」

憩「エイさんが学園都市に来て最初に負けたんが菫さんっちゅーんも、頷けますよね。
 短距離走でいうなら、菫さんは、走っとる途中で急にレーンの外に飛び出して、いそいそと洋弓を構えて、エイさんがゴールテープ目前まで行ったところで、死角から脳天ズドン。その死体を踏み越えて悠々ゴール。
 でもって、ゴールしたと思ったら、振り返って、心配そうな顔で手を差し伸べて、『すまん。痛かっただろう』ですから。これは惚れますよ」

智葉「本人は『ココロ、イヌカレタ、ショーゲキノ、デアイ』って言ってたな」

憩「その後も、エイさんは菫さんに射貫かれっぱなしですからね。衣ちゃんの《一向聴地獄》より、菫さんの《シャープシュート》のほうがエイさん的にはキツいらしいですから、よっぽど能力的な相性が悪い――もとい、精神的な相性が良いんでしょう」

智葉「つまり、ウィッシュアートは、真っ直ぐ最速で走る以外のことができんわけだ」

憩「一応、三回戦では福路さん相手に紆余曲折で倍ツモ和了ってます。ただ――」

智葉「あれは、二回戦で戦った《砲号》という《モデル》がいたからこそ、できたことなんだよな」

憩「はい。エイさんのオリジナルの画風は唯一、最速最多。それ以外の絵を描くには、他人の打ち筋を模写するしかないんです。
 池田さんと打ってたときにガイトさんが言うてましたね。『色々なタイプの雀士と打ったほうが、エイさんのこれからに繋がる』――まあ、それはそうなんですけど……」

智葉「そのロジックでは、ウィッシュアートが染谷に勝つことはできん。だろう?」

憩「はい。染谷さんは、実家が雀荘で、麻雀歴の浅いエイさんとは年季が違う――頭の中にストックしてある牌譜の桁が違うんです。プラス、染谷さんは、その知識を実戦に活かす打ち方に特化した雀士ですから。
 一度エイさんの《一枚絵》が見切られれば、経験の差がある以上、形勢をひっくり返すんは難しいでしょうね」

智葉「宮永の人選と采配を褒め称えるべきだろうな」

憩「ガイトさんに井上さんをぶつけたのも含めてですね」

智葉「天江に穏乃をぶつけてきたのも含めてだ」

憩「ホンマあのツノは憎いことしますわー」

智葉「《照魔鏡》を持つあいつらしい」

     まこ『ツモじゃ、300・500』

憩「ほんで、ガイトさんはどう見るんですか、この状況。染谷さんだけやなく、亦野さんはツモ順ズラせるから門前派の能力者と相性ええですし、森垣さんはエイさんと対戦経験があります。
 でもって、三人とも、地力と経験値はエイさんより上です」

智葉「さあな。私が個人的に調教したが、それをモノにできるかどうかは、あいつ次第だ」

憩「何したんですかガイトさん……」ドンビキ

智葉「抽象的に言えば、徹底的に穢した」

憩「ウチらの天使になんてことをー!!!?」ガビーン

智葉「具体的に言えば、二人麻雀で焼き鳥にし続けた」

憩「な、なるほど……」

智葉「あと、夜に罰ゲームと称して全身を」

憩「いや聞きたないです!!」

智葉「まあ……要するに、だ。この状況を、仮想的にではあるが、あいつは既に経験している。
 白糸台最高の和了率を誇る《最多》の大能力者――あいつが実戦で味わったことがない和了率ゼロを、私が全力でその身に叩き込んでやった。喩えるなら、焦らしプレイだな」

憩「その喩えは要りません!!」

智葉「つまり、今のあいつは、お預けを食っていることになる。私との個人的な対局から、ここまで、あいつは一度も和了れていない。
 それはもう徹底的に寸止めしてやったぞ。リーチ宣言牌で直撃したりダマで張った直後にゴミツモしたりと、あの手この手でイジメてやった。
 終いには『モウアガラセテー』だの『ハヤクサシコンデー』だのとおねだりする始末だ。二人麻雀でわざと相手に点棒をやるバカがどこにいる。あいつは麻雀をなんだと思っているんだ」

憩「ガイトさんこそ麻雀をなんだと思っとるんですか……」

智葉「ま、そういうわけで、そろそろキマってもいい頃だと思うんだよ」

憩「ドSですねぇ」

     まこ『ロン、2600』

     友香『はいでー』

憩「っと、差し込みで親番が流されてもーたか」

智葉「あの顔……頬を真っ赤に染めて、目に涙をいっぱいに溜めて、和了りたいのに和了れなかった恥辱に身体を震わせて……染谷を睨んでいる。ちくしょう。なぜあそこに座っているのが私じゃないんだ」

憩「赤阪先生ー!! 早くこの人に脳移植したってー!!」

智葉「お前は見たくないのか?」

憩「何がですか……」

智葉「あの《天使》が、ただ己の欲望を満たすために、衆人環視の中で、乱れに乱れて、みっともない姿を晒して、無様に和了りを貪るところを」

憩「言い方がアレですけど、もちろん、見たいですよ」

智葉「感謝しろよ、荒川。この次鋒戦でウィッシュアートが和了ったとき、あの天使様は、お前らが未だかつて見たこともないような恍惚の表情を浮かべるはずだぞ。大事なモノがスクリーンに大写しだ。最高のショーだとは思わんか?」

憩「……さすがガイトさんですね」

智葉「だろう」

憩「ウチも早く見たくなってきましたわ。ガイトさんが大事にしとるエイさんの……光り輝く天使の笑顔が」

智葉「なに、すぐに見れるさ。我らが天使の覚醒は近い――」

 南二局・親:まこ

エイスリン(アガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイアガリタイ――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・107600)

エイスリン(サトハノ、ヤロー、コレヲ、ミコシテ、ヤガッタノカ。チクショウ。ハメラレタ。ジラサレ、スギテ、キンダン、ショウジョウ、デソウダゼ……!!)

エイスリン(ワカメガネニ、ワタシノ、ノーリョク、キカネー。ココマデ、アガラレ、マクリ。《エイダイ》ノ、オイアゲハ、ヤバイ。イッタン、ノーリョク、キッテ、ミルカ)フゥ

まこ(お……? なんじゃ、顔が変わったの。さては能力使うのやめたんか?)

 東家:染谷まこ(永代・95500)

エイスリン(ワカメガネハ、ノーリョク、ナシノ、ワタシヲ、シラネーハズ。ノーリョクノ、『カタ』ガ、ナクナレバ、コイツノ、イウ、タクジョウノ、『カオ』ハ、ベツモノニ、ナル)

まこ(強いて言えば三回戦の後半――ウィッシュアートの能力が機能不全を起こしていたときと近い、んか? もう少し見てみんとわからんの……)タンッ

エイスリン「ポン!!」ゴッ

まこ(うおっ……!? 鳴いてくるんか。わら得意なのは門前じゃろ)タンッ

エイスリン(ヨシッ! ワカメガネ、ダシヌイタ! コレデ、イケル! ヤット! ヤット!! アガレ――)

誠子「……ポン」ゴッ

 南家:亦野誠子(幻奏・94400)

エイスリン(ンナ――ッ!!?)ゾワッ

誠子(恐らくは、染谷さんに対抗するために能力をオフにして、自身があまりやったことのない鳴き麻雀で勝負してきたんでしょう。
 確かに、見せたことのない顔を見せるのは染谷さんに有効。形振り構わず和了りを目指す姿勢は、正しいと思います。が――)

誠子「……ポン!!」ゴゴッ

エイスリン「(コイツ……!!)チ、チー!!」タンッ

誠子「ポン!!!」ゴゴゴッ

エイスリン(シマッ――!!?)

誠子(甘く見られたものですね。腐っても私は元一軍《レギュラー》。約一年間、最高の環境で鳴き麻雀の訓練を積んできました。付け焼刃の鳴きとは鍛え方が違います……)

エイスリン(ソンジョ、ソコラノ、ナキジャ、ネエ!!)

誠子(牌の奪い合いで負けるわけにはいかないのですよ。河から自在に牌を釣り上げる……私は白糸台の《フィッシャー》ですからッ!!)ゴゴゴゴッ

誠子「ツモ、2000・4000!!」パラララ

友香(鮮やかでー)

まこ(ウィッシュアートの支配がなくなれば、一点突破できる自牌干渉系が有利か。無能力者のわしゃあ、能力者の確率干渉を根本から断ち切る術を持っちょらんけえの。ズラせるとこが出てこん限り、この手の和了りを止めるのは難しい……)

誠子(副露場で私の上を行こうなんて一年早いですよ、ウィッシュアート先輩)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン(ヤルジャネーカ、スミレノ、パシリ……!!)

誠子「さあ、私のラス親です」コロコロ

エイスリン:105600 まこ:91500 誠子:102400 友香:100500

 南三局・親:誠子

エイスリン(フーロガ、ダメナラ、メンゼンデ、ウチオトセバ、イインダロ!! ッテ、イイタイ、ケド――)チラッ

友香「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン(ワカッテル。フーロニ、ツヨイ、《フィッシャー》。ソレニ、メンゼン、リーチニ、ツヨイ、《リューセーグン》。
 ナクカ、ダマルカ。ドッチニ、シロ、ワタシハ、カクシタダ)

エイスリン(ツカ、ソレ、イゼンニ、ノーリョク、キッテルト、ハイパイ、ガチワリーナ……)フゥ

 エイスリン配牌:二八九②⑥289南北白發中 ツモ:西 ドラ:5

エイスリン(アガレル、キガ、シネー。マジ、ドースッカナ――)タンッ

 エイスリン手牌:二八九②⑥289南西白發中 捨て:北 ドラ:5

友香(染谷先輩が安手で回してくれるから、そこまで削られてはいないけど、だんだんチーム点数が平らになってきた。この辺りで和了って、抜けておきたいんでー)タンッ

友香(ウィッシュアート先輩の能力が切れたおかげもあって、配牌もツモもいい感じ。中盤までには無理なくテンパイできる気がする。そうすれば、リーチして能力が使える)タンッ

友香(気をつけるのは、亦野先輩と染谷先輩の鳴きかな。ぎりぎりまで二枚切れの字牌を持ってるとか? それなら、リーチ宣言牌では鳴かれない。
 ただ、そのために牌効率が下がるのも本末転倒な気がするんでー。私のリーチ宣言牌が鳴かれなくても、一巡以内にどこかで鳴きが起こればツモ順はズレるわけだし)タンッ

友香(それに、染谷先輩は、ある程度巡目が回れば、一向聴や二向聴でも、こっちの手の進みを感じ取って卓上を歪めてくるらしい。
 他の多くの人がそうであるように、リーチが来て能力が《発動》したから鳴くんじゃなくて、私がそろそろ和了りそうかなーって雰囲気を掴んで、鳴いてくる。なら、やっぱりテンパイまでは最速で進めたほうがいいはず)

エイスリン「ポン!」タンッ

まこ(役牌ポンか。なんだか苦労しちょるようじゃの。まだ二向聴くらい……それより、この局は森垣が調子よく進めているように見える)カチャ

友香(いっし! 張ったんでー!!)

 友香手牌:①②③⑦⑧⑧三四五六七八九 ツモ:六 ドラ:5

友香(期待値を考えれば当然の八筒切り。七筒も八筒も河に見えてないから、鳴かれる可能性は同じくらい。なら、普通に両面で待つ……? いや、ちょい待ちでー)

友香(私はリーチ条件で和了率を上昇させることができる。だから、待ちの数が半分になっても、それなりの確率で和了れる。この巡目なら、平和でもリーのみでも、一発ツモなら打点は確実に満貫以上。
 七筒切りと八筒切り——プラスのリターンはほぼ同じ。だから、考えるべきは、マイナスのリスクのほう……)

友香(染谷先輩はツモ切りが多かった。よほど配牌が良かったとかじゃない限り、たぶんまだ張ってない。ウィッシュアート先輩も苦しそうな感じ。問題は亦野先輩かな)

誠子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 誠子捨牌:白①九④東31(中)六

友香(まず、役牌の白を早々に切ってるっていうのが、ポンで手を進める亦野先輩のセオリーから若干外れてる気がする。考えられるのは、配牌の時点で断ヤオ対々が見える手牌だった、とかかな。
 ただ、それにしては、私が切ったドラの五索を鳴かれなかったのが少し不自然。というか、これ釣られちゃうかなーと思って切ったとき、それとなく表情を観察してたんだけど、亦野先輩、ちらっと手牌に目をやってたんだよね)

友香(わざと鳴かなかったんだとすると、亦野先輩の闇聴はありうる。断ヤオか、或いは他の役――対子が多いなら七対子とか一盃口とか――で虎視眈々と出和了りを狙ってるかもしれない)

友香(まあ、七・八筒はどっちもそこそこ危険だけど、スジってことで、どうですかね……)タンッ

友香「リーチでー!」クルッ

 友香手牌:①②③⑧⑧三四五六六七八九 捨て:⑦ ドラ:5

誠子(む――)チラッ

 誠子手牌:⑦⑨[5]56677一二三七七 ドラ:5

誠子(わりと考えてからリーチしてたけど、もしかして和了り牌を抱えられた……?)

まこ「ポン!」タンッ

 まこ手牌:二三四五3567⑥⑧/⑦(⑦)⑦ 捨て:1 ドラ:5

まこ(かなりの無茶鳴きじゃが、ただでさえ顔がまずい上に能力発動じゃけえの。一発は勘弁じゃあ)

誠子(残念……ツモ切り現物)タンッ

友香(和了れずでー)タンッ

エイスリン(チュンノミ、リャンシャン、ショウブトカ、ムリゲー!)タンッ

まこ(さて、と)ツモッ

 まこ手牌:二三四五3567⑥⑧/⑦(⑦)⑦ ツモ:六 ドラ:5

まこ(森垣の能力的に言うと、この六萬は高確率で和了り牌なんじゃろ。萬子は捨て牌に見えちょらんけえ、ありそうなところで、三・六・九萬待ちかの?)

まこ(ほいじゃと、まあ、八筒を切ってもかわせそうじゃが……うーん。今の顔は過去の森垣の牌譜とは一致せんような気もする。あと、亦野もなんだかんだ恐いの)

友香・誠子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(勝負手っちゅうわけでもないけえ、あまり踏み込むのは得策じゃないじゃろ。引き続き現物で様子見じゃ)タンッ

 まこ手牌:二三四五六567⑥⑧/⑦(⑦)⑦ 捨て:3 ドラ:5

誠子(ふむ)タンッ

友香(ん……染谷先輩、七筒ポンなら余剰牌で八筒――とか思ったけど、止められた感じでー? もし、私の一発を食って、六萬のほうが染谷先輩にいったなら、萬子を警戒して筒子は緩くなるかなーと期待したけど……)

友香(いやいや。それを言ったら八筒は亦野先輩に頭ハネされてたかもでー。元より出和了りに頼るつもりはない。自力でツモればいいだけのこと――)ゴッ

エイスリン・誠子「」ピクッ

友香(ズラされても、ちょっと巡目が回っても、能力の効果は生きてる。煌先輩に《通行止め》されているわけでもない。集中すれば、引けるはずでー……!!)ツモッ

友香「(ほら、この通りッ!!)ツモ、2000・3900」パラララ

 友香手牌:①②③⑧⑧三四五六六七八九 ツモ:⑧ ドラ:5・六

エイスリン(マクラレタ……!?)ゾワッ

誠子(やられたなぁ)パタッ

まこ(大した一年じゃのう)フゥ

友香「それじゃ、オーラス行きましょうかでー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン:103600 まこ:89500 誠子:98500 友香:108400

 南四局・親:友香

エイスリン(ツーカ、オーラス!? ナニモシテネーゾ、ワタシ!! コノママジャ、ヤキトリ!! 《サイタ》ノ、ダイノーリョクシャ、キイテ、アキレル!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(今度はウィッシュアートの配牌良さそうじゃが)タンッ

誠子(能力再発動したんですかね。それだと染谷さんに持っていかれそうで困る……どこかで割り込まなきゃ)タンッ

友香(ラス親、《一枚絵》が場を支配してるなら、速攻で攻めたいけど、不慣れな鳴きでガードを下げるのは愚策でー?)タンッ

エイスリン(カンガエロ、ワタシ。アガル、タメニ、ドースリャ、イイノカ――)

エイスリン(………………)ムイーン

エイスリン(ヤベエ! ワカラネー!? ヒトガ、コキュウ、スルヨウニ! ワシガ、ヒショウ、スルヨウニ! アタリマエニ、アガッテキタ、カラ、アガリカタ、ワカラナイ!!?)ガーン

エイスリン(ムカデニ、アルキカタヲ、タズネタラ、イッポモ、ウゴケナク、ナッタ、テキナ、アレカ!!?)

エイスリン(トカ、イッテル、ウチニ、イーシャンテン。マ、ノーリョク、ツカエバ、コンナモン、ダロ!!)キラーン

 エイスリン手牌:②④⑥⑦⑧23457南南南 ドラ:②

エイスリン(ツギデ、サンピン、ツモッテ、チーソー、キッテ、ツモ。マンガン、イタダキ、ダゼ……)

友香「」タンッ

まこ「ポンじゃ」タンッ

エイスリン(ア"――!?)ゾワッ

誠子(む……これは、要らない)タンッ

エイスリン(サンピーン……!!)ガーン

 エイスリン手牌:②④⑥⑦⑧23457南南南 ツモ:七 ドラ:②

エイスリン(アガリタイ! アガリタイ! ワタシ、ナニカ、ワルイコト、シタカ!!? ナンデ、スナオニ、アガラセテ、クレネーンダヨ!!! ワタシノ、シッテル、マージャンジャ、ネーゾ!!)

エイスリン(コノ《イチマイエ》ハ、モウ、ダメダ。カキナオシ!! ヤリナオシ!! ダイジョーブ!! マダ、ヤマハ、ハンブン、イジョウ、アル!! ツギノ、イチジュンデ、ハリカエル……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 エイスリン手牌:④⑥⑦⑧23457七南南南 捨て:② ドラ:②

まこ(ドラ切り? 張り替えちょるんか? ほうじゃとしたら、数巡足止め……? いや――)タンッ

誠子(手が進まない……が、私なら、鳴いてどうにかできる。釣り糸に牌がかかるのを待とう……)タンッ

友香(まだ二向聴。ウィッシュアート先輩は全体効果系――天江先輩ほどではないにしろ、自身に他家を追いつかせまいと地味に働く封殺効果が厄介でー)タンッ

エイスリン「チ」

まこ「ポンじゃ!!」タンッ

エイスリン(ワカメガネ、ゴラアアアアアアア!!!)

 エイスリン手牌:④⑥⑦⑧23457七南南南 ドラ:②

まこ(そいつはほっとけないのう……!!)

 まこ手牌:*******/6(6)6/1(1)1 ドラ:②

エイスリン(テメェー!! ワカメガネ!! ダレノ、キョカ、トッテ、ワタシノ、《イチマイエ》ヲ、ワカメイロニ、ソメテンダ、ブッコロスゾ!!)ギリッ

まこ(能力発動中のウィッシュアートは基本門前。鳴こうとしたっちゅうことは、形振り構っとらんっちゅうことじゃろ。無茶してくる能力者が恐いのはよう知っちょるけえの)

エイスリン(クッソ! アガリタイ!! アガリタイノニ!! ジャマ、バッカ、シテクンジャ、ネーヨ!! イヤ、ジツハ、ソーユー、ゲーム、ラシイケドナ、マージャンッテ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 エイスリン手牌:④⑥⑦⑧23457七南南南 ツモ:七 ドラ:②

エイスリン(ローソー、カレタ。ココカラ、ドンナ、リソーヲ、エガク? アカウーソー、ツモ、スーピン、キッテ、テンパイ? アカウーピン、ツモ、ウーソー、キッテ、テンパイ――?)タンッ

 エイスリン手牌:④⑥⑦⑧2345七七南南南 捨て:7 ドラ:②

まこ(妨害するたびに新しい絵を描いてくるんか。こりゃあ、わし一人じゃ限界があるの。どうしたもんか。んー……ここかいの?)タンッ

誠子「ポン」タンッ

エイスリン(ホワアアアアアアアアイ!!!?)

 エイスリン手牌:④⑥⑦⑧2345七七南南南 ツモ:八 ドラ:②

エイスリン(モウ……オネガイ、ダカラ、テンパイ、サセテ……クダサイ……。マンガン、トカ、ヨクバラナイ、カラ、ダブナンデ、イイカラ、アガラセテ、クダサイ……)ウルウル

    ――おっ、いいな、その表情。実にそそる。

エイスリン(トデモ、イウト、オモッタカ、ボケェ!! コレクライジャ、ワタシ、ナカナイモン!! メゲナイモン!! エイスリン、ツヨイコ!! テンシハ、オチナイ、カラ、テンシッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 エイスリン手牌:④⑥⑦⑧234七七八南南南 捨て:5 ドラ:②

まこ(つおっ、また……顔がコロコロと――)

エイスリン(キヤガレ……!! ローワン!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(亦野が一副露。これ以上は鳴かせたくない。わしの手牌はおかげ様でバラバラ。ほいじゃあ、この一手で……どうかいの!!?)タンッ

友香「ポン」タンッ

エイスリン(ラメエエエエエエエエ!!!!)

 エイスリン手牌:④⑥⑦⑧234七七八南南南 ツモ:中 ドラ:②

エイスリン(モウ、ヤダ!! コイツラ、キライ!! アガリタイノニ!! アガラセテ、クレナイ!!
 イイカゲン、フツーノ、マージャン、シタイ!! ワタシガ、ムゲンニ、アガリ、ツヅケル!! ソンナ、フツーノ、マージャン!! ナノニ、ドーシテ……!!)ウルウル

エイスリン(イヤ!! マダダ!! アキラメンナ!! ローワン、ダメナラ、チューワン!! ツギデ、ツモレバ、イーンダロッ!!)タンッ

 エイスリン手牌:④⑥⑦⑧234七七八南南南 捨て:中 ドラ:②

誠子「ポン」タンッ

エイスリン(――――!!!?)クラッ

まこ・誠子・友香「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン(コンナ……バカナ……コトッテ……アルカヨ……!!)ウルウル

 エイスリン手牌:④⑥⑦⑧234七七八南南南 ツモ:中 ドラ:②

エイスリン(イーシャンテン、カラ、ミウゴキ、トレナイ! ジブンデ、ジブンヲ、シバッテル! ドコゾノ、ヘンタイジャ、アルマイシ!! ワタシニ、キンバク、エム、ゾクセーハ、ネーゾ!!)

エイスリン(ヤラレル、ヨリ、ヤル、ホウガ、スキ! アガラレル、ヨリ、アガル、ホウガ、スキ! ギャクサツ、レンチャン、テンシ、エイスリン!! ソレガ、ワタシ、ダローガ……)フゥ

エイスリン(……オチツケ。レイセイニ、ナレ。コノバ、コノ、タクジョウ、ワタシノ、ノーリョク、キキスギル、ホド、キイテル。ダカラ、ズラサレルト、ユーコーハイ、ナガレル。フヨウハイ、マワッテクル)

エイスリン(コイツラノ、レベルハ、ワタシ、ミマン。ワタシノ、ノーリョク、《ムコーカ》、デキナイ。ワタシノ、エガイタ、《イチマイエ》、ヌリカエ、ラレテル、ワケジャネー)

エイスリン(ヌリカエテ、《ムコーカ》シテクル、ヤツラ――シロ、トヨネ、スミレ、コロタン――オナジ、レベル4ト、タタカウ、トキトハ、ヨーリョー、チガウ。
 ノーリョクノ、キョウドヲ、カクリツ、カンショーリョクデ、ソコアゲ、シテモ、イミガネーンダ)

エイスリン(コイツラハ、ワタシノ、エガク、リソーヲ、ヌリカエ、ラレナイ。タダ、ズラシテル、ダケナンダ。ワタシノ、オモワク、トハ、チガウ、ホウニ……)

エイスリン(パワー、ショーブジャ、ネーンダナ。テクニックノ、モンダイダ。ソーナルト、ケイケンチ、ヒクイ、ワタシニハ、キツイ。コタエ、ワカラナイ。リソー、パット、イメージ、デキナイ。ナラ――)

エイスリン(シコーサクゴ!! エガイテ、モガイテ、アガキマクル……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(……また顔が変化した? じゃが……こいつは知らんのう――)タンッ

誠子(河が静かになったような……)タンッ

友香(なんだろう。ウィッシュアート先輩が……二回戦のときとも三回戦のときとも違う感じでー)タンッ

エイスリン(……ダメダ……コレジャネー……)カキカキポイッ

まこ(な、なんじゃあこりゃ……? ぐちゃぐちゃじゃ)タンッ

エイスリン(……コレモ……チゲー……)カキカキポイッ

誠子(場が重くなってきた)タンッ

エイスリン(……コレ……オシイ……)カキカキポイッ

友香(できることならラス親連荘したい、けど――)タンッ

エイスリン(……コレハ……ヤリスギ……)カキカキポイッ

まこ(ウィッシュアート……まさか一巡ごとに絵を描き直しとるんか?)

エイスリン(……コンナカンジ……? イヤ、モウチョイ……)カキカキポイッ

誠子(この巡目、振り込みが少し恐いかな?)タンッ

エイスリン(……アア……マタ……! コレジャ、ネーンダッテ……!!)カキカキポイッ

友香(嫌な予感がするんでー)タンッ

エイスリン(……っ!? イマ、ナンカ、ツカメタ、カモ……!!)カキカキポイッ

まこ(テンパイ、できずか)タンッ

誠子(間に合わなかった)タンッ

友香(残念でー)タンッ

まこ・誠子・友香「ノーテン」パタッ

エイスリン「……テンパイ」パラララ

『次鋒戦前半終了おおおー!! 《永代》染谷まこの活躍でチーム点数が平らに戻ってきました!!
 そして、なんと!! あの白糸台最高の和了率を誇るエイスリン=ウィッシュアートに未だ和了りがありません!! 公式戦での焼き鳥は初・体・験!! 後半で逆襲なるかー!!?』

まこ(それなりに思うように戦えたが……なんじゃろうな、オーラスのあの顔が、どうにも焼きついて離れん)フゥ

 一位:染谷まこ・+10300(永代・88500)

誠子(《劫初》が凹んでくれたのは助かるけど、《永代》が上がってくるんじゃどっちもどっち。自力でリードを作らないと……)

 三位:亦野誠子・−5400(幻奏・97500)

友香(戦えたは戦えた。でも、染谷先輩がウィッシュアート先輩を抑えるのに便乗したって感じ。私の実力では勝ってない。これじゃあ三回戦のときと変わらないんでー。もっと、淡や……咲のように、強くなりたい……!!)

 二位:森垣友香・+5700(煌星・107400)

エイスリン(………………………………デキタッ!!)ニヤッ

 四位:エイスリン=ウィッシュアート・−10600(劫初・106600)

エイスリン(ミテロヨ、ワカメガネッ!! ソノ、ワカメイロ……テメェノ、チデ、クレナイニ、ソメアゲテヤルゼ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――

智葉「というわけで、屈辱に歪んだ顔を見に来てやったぞ」

エイスリン「ウッセ、ボケナスッ!」ペンデダーツ

智葉「ふむ……思っていたより元気だな。ようやく掴めたか?」パシッ

エイスリン「……マーナ。コーハンハ、ゼンハンミタイ、ニハ、ナラネーヨ」

智葉「頼もしい」ペンカエスゾ

エイスリン「デ、イウコト、ソレダケカ?」ドーモ

智葉「そうだな。それだけ自信があるのなら、私から言うことは特にない。好きなだけ和了れ」

エイスリン「オウヨ。アノ、ワカメガネ、ネダヤシニ、スル……!!」メラメラ

智葉「あまりやり過ぎるなよ。天江と荒川が後にいることを忘れずに」

エイスリン「ワリーケド、ワカメ、ヤキツクス、マデ、ワタシ、トマラナイ」メラメラ

智葉「そう恐い顔をするな。綺麗な素材が台無しじゃないか――」スッ

エイスリン「…………シアイチュウ、ハツジョウ、キンシ」ペシッ

智葉「つれないな。お前だって疼いて仕方ないのだろう?」ニヤッ

エイスリン「アレダケ、アガリ、トメラレ、タラ、ワタシジャ、ナクテモ、ハッキョー、スル」フゥ

智葉「そんな天使様に出血大サービス。眼鏡を外してやろう」カチャ

エイスリン「ソコマデ、ヤルナラ、カミ、ホドケ」

智葉「仰せのままに」パサッ

エイスリン「……サトハ、ビジン、クソムカツク」

智葉「世界で一番美しいのはこの私だからな」

エイスリン「ホレボレ! ウヌボレ!」

智葉「私は美しく麻雀も強い。ゆえに、私の隣に立とうというのなら、それなりに美しく強くなければならないわけだ」

エイスリン「ケイトカ、コロタントカ、シズノトカ、《トンプーノカミ》トカ、《フェイタライザー》、ミテーニ?」

智葉「そんなところだな」

エイスリン「ワタシハ、ドーダ?」

智葉「お前は美しいよ。だが、まだ、強くはない」

エイスリン「フン! ハッテン、トジョー、ナンダヨ!!」

智葉「麻雀も身体もな」

エイスリン「ダマレカスッ!!」ペンデダーツ

智葉「だが、真に大切なのは――」パシッ

エイスリン「ア?」

智葉「心の強さだ。他は後からついてくる」ペンカエスゾ

エイスリン「ソーカヨ」ドーモ

智葉「私は、お前の真っ直ぐな心が大好きだ。正しく言えば、愛してる」

エイスリン「……ソーカヨ////」

智葉「私の本質は《Fallere825》――『欺くこと』だから、なおさらな」

エイスリン「……ゴキタイニハ、ソエネーカモ」

智葉「ん?」

エイスリン「ワタシ、スッカリ、サトハ、イロ。スミカラ、スミマデ、マックロケ。テンシ、ナンカジャ、ナイカモナ」

智葉「清廉潔白な天使様に興味はない。純白は淡白。白々しくて面白くない。ならばいっそ真っ黒でいいさ。穢れこそ色彩。そんなお前を、私は望む」

エイスリン「《ギジン》ノ、エーユー、イロヲ、コノム?」

智葉「そういうことだ」

エイスリン「チャクチャクト、チャクショク、サレテイク、ワタシ……」

智葉「もう十分ゲージは溜まっただろ。そろそろ私に見せてくれよ、ウィッシュアート。《最多》は《彩多》――お前の描く理想――極彩色の夢ってやつをな」

エイスリン「イワレナクテモ……ッ!!」ゴッ

『次鋒戦後半がまもなく始まるぞー!! 対局者は対局室に!! それ以外の良い子はモニターの前に集合だあー!!』

智葉「一応、形だけは忠告しておく。油断はするな。敵はそれなりに強い」

エイスリン「ワタシヲ、ヤキトリニ、スル、ヤツラダゼ? ヨエー、ワケガネー」

智葉「お前の勝利を祈っているぞ」

エイスリン「イノッテロ!!」

智葉「じゃあ、私はこれで」

エイスリン「オイ、チョ、マテ!!」

智葉「何か……?」

エイスリン「メガネ! カミ! モトニモドシテ、カエレヨナ!!」

智葉「……仕方のないやつめ」カチャサッ

エイスリン「ヨシッ!」

智葉「まったく、独占欲の強い天使様だ」

エイスリン「サトハハ、ワタシ、ダケノ、モノ!!」

智葉「お前が私だけのものであるように、な」

エイスリン「ソンナトコ! ジャ、イッテクル!!」

智葉「おう、頑張れよ――」

エイスリン「マカセトケッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――

友香「咲……よく一人で来れたんでー」

咲「桃子ちゃんに電話でナビゲートしてもらってなんとか」

友香「前半、どうだった?」

咲「ぶっちゃけ、全然かな」

友香「やっぱりかぁー……」ズーン

咲「私のジャッジは厳しいよ、友香ちゃん!」

友香「比較対象が淡だしね」

咲「まあ淡ちゃんはバカだけどバカだけにバカだから」

友香「残るは後半……ただ、ウィッシュアート先輩が、何かしてきそうな感じがする」

咲「うん。あの人、オーラスですっごいごちゃごちゃ描いてた。何かを掴んだとしたら、ちょっとマズいかも」

友香「二回戦や準決勝の二の舞だけは勘弁でー」

咲「やられても決して恥じることはないと思う。ウィッシュアートさんは大能力者《レベル4》でしかも全体効果系。
 準決勝の龍門渕さんがそうだったように、そもそも、下位レベルの友香ちゃんが正面からぶつかって勝てる相手じゃない。あの手この手で立ち回って、現状維持できれば御の字――くらいのスペック差がある」

友香「ぐっさりと言ってくれる……」

咲「ごめん。桃子ちゃん曰く、私って、性格がいいらしいから」

友香「私は好きでー。咲のそういう、なんだろう、ざっくばらんなところ」

咲「どーせ私は友香ちゃんみたいにお淑やかじゃないですよーだ」ツーン

友香「私たち、中身が逆ならちょうどいいのかな?」フフフ

咲「かもね」ニコッ

友香「にしても……能力値《レベル》か。大能力者《レベル4》――咲と淡のいるところ」

咲「友香ちゃんだって、四巡目くらいまではレベル4相当でしょ? ダブリーなら私と淡ちゃんと互角以上なわけで」

友香「でも、ウィッシュアート先輩の支配下で四巡以内にテンパイできたことはない。正直、かなりやりにくいんでー」

咲「それはそうなんだけどね……まあ、どうにかするしかないよ。大丈夫。私は友香ちゃんを信じてる」ギュ

友香「咲……」

咲「淡ちゃんに負けちゃダメだよ、友香ちゃん」

友香「……うん」

咲「《流星群》に願ってるから。友香ちゃんがリーチを掛けるたびに、私、願ってるから」

友香「……ありがと」

咲「頑張って」

友香「頑張る……!」

『次鋒戦後半がまもなく始まるぞー!! 対局者は対局室に!! それ以外の良い子はモニターの前に集合だあー!!』

友香「あのね、咲っ!」

咲「ん、なに……?」

友香「ちゃんと勝つからっ! 私、ちょー頑張るから! どんなことになっても……最後まで願っててほしいんでー!!」

咲「……うん。そのつもりだよ」

友香「っしゃあー、やる気出てきたあー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「ふふっ。燃えてる友香お姉さまも、カッコよくてステキだよ」

友香「ありがとっ! じゃあ、行ってくるんでーっ!!」

咲「行ってらっしゃいでーっ!!」

 ――対局室

まこ「(いよいよ後半。やっと登ってきた《頂点》の景色、じいちゃんにも見せちゃろう……!!)よろしゅう!」

 西家:染谷まこ(永代・88500)

誠子「(江口先輩から託された点棒……きっちり上乗せして、優希に繋ぐんだ!!)よろしくです!」

 南家:亦野誠子(幻奏・97500)

友香「(色々とにかく勝たなきゃでー!! 《煌星》の一員として、私も夜空に煌めいてみせるっ!!)よろでー!!」

 東家:森垣友香(煌星・107400)

エイスリン(サーテ、ゼンハンハ、ヨクモ、ヤッテクレタナ、テメェラ……!! テンボウ、サシダス、ジュンビハ、デキテンダローナ!! アア!?)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ・誠子・友香「っ!!?」ゾワッ

エイスリン(ゴクジョウノ、アート、ミセテヤル!! 《サイタ》ノ、ダイノーリョクシャノ、ホンキ……シカト、ソノメニ、ヤキツケロッ!!)

 北家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・106600)

エイスリン「ゼンイン、ヤキトリノ、ケイニ、ショス!! ッツーワケデ、ヨロシクゥ!!」ゴッ

『いきなりトンデモ発言が飛び出しましたああああ!! 天使が荒ぶってるぞー!! 果たして結果やいかに!? 次鋒戦後半――スタートですっ!!!』

ご覧いただきありがとうございました。

花田さん、お誕生日おめでとうございます。

次回は来週のどこかになります。

では、失礼しました。

 東一局・親:友香

友香(全員焼き鳥の刑か……二回戦で焼き鳥にされかけた身としてはあまり笑えないんでー)タンッ

 友香手牌:①④⑧23一四六六七南發中 捨て:北 ドラ:⑨

誠子(配牌の段階ではこれといって妙なところはない。同じ全体効果系の透華と戦った経験が活かせればいいんだけど……)タンッ

 誠子手牌:②⑥⑥⑦38三五東南南白中 捨て:西 ドラ:⑨

まこ(どんな仕掛けをしてくるんかの。新しいことをされると素で戦うしかなくなるけえ、早く見極めたいとこじゃな)タンッ

 まこ手牌:③④⑤⑨49一二四四[五]九西 捨て:北 ドラ:⑨

エイスリン(サイクハ、リューリュー。コレデ、ダメナラ、ワタシ、マージャン、ヤメテモ、イーゼ)タンッ

 エイスリン手牌:③⑤二六七2267789東 捨て:北 ドラ:⑨

友香(やたらめったら手が縛られるとか、そういう極端な感じはしない。手応えはほどほど。前半とそんなに変わらない)

 友香手牌:①④⑧23一四六六七八發中 捨て:南 ドラ:⑨

誠子「ポン」タンッ

 誠子手牌:②⑥⑥⑦3三五東白中/(南)南南 捨て:8 ドラ:⑨

誠子(まず一つ。問題なく鳴けた)

まこ(まあ、こんなこともあるかの、って感じのポンじゃ。ごくごく普通。ウィッシュアートも想定内じゃろ)タンッ

 まこ手牌:③④⑤⑨489一二四四[五]九 捨て:西 ドラ:⑨

エイスリン(ヨユーデ、ウチガワ)タンッ

 エイスリン手牌:③④⑤二六七2267789 捨て:東 ドラ:⑨

友香(親だし門前を崩すのも吝かではないけど、今のところは鳴いて加速できるような手じゃない)タンッ

 友香手牌:①④⑧⑨23四六六七八發中 捨て:一 ドラ:⑨

誠子(牌がもっと縦に重なってくれればやりやすいんだけど……)タンッ

 誠子手牌:②⑥⑥⑦三四五東白中/(南)南南 捨て:3 ドラ:⑨

まこ(ウィッシュアートの動き次第ではズラしが必要になってくる。ゆくゆく鳴くことを考えて手を作らんとのう)タンッ

 まこ手牌:③④⑤⑦⑨89一二四四[五]九 捨て:4 ドラ:⑨

エイスリン(ジャ、カルーク、ツモルト、シマショーカ!)タンッ

 エイスリン手牌:③④⑤六七22567789 捨て:二 ドラ:⑨

友香(ウィッシュアート先輩、なんかお菓子を前にした淡みたいに目がキラキラしてるけど、もしかしてもう張ってる系でー?)タンッ

 友香手牌:①④⑧⑨23四六六七八發中 捨て:西 ドラ:⑨

誠子(裏目った……ま、そういうこともあるよね。いいんだ。両面搭子くらい。私には、四つの対子と一つの順子があれば、それで十分なんだから)タンッ

 誠子手牌:②⑥⑥⑦三四五東白中/(南)南南 捨て:7 ドラ:⑨

まこ(んー……)カチャ

 まこ手牌:③④⑤⑦⑨89一二四四[五]九 ドラ:⑨

 エイスリン捨牌:北東二

まこ「(念には念を、じゃな)チー」タンッ

 まこ手牌:③④⑤⑦⑨一四四[五]九/(7)89 捨て:二 ドラ:⑨

エイスリン(ヒュゥ♪ ヤッパ、タダモンジャ、ネーナ、コノ、ワカメガネ――)ツモッ

 エイスリン手牌:③④⑤六七22567789 ツモ:6 ドラ:⑨

エイスリン(ダガ、アメーナ。テメェノ、ソレハ、モウ、キカネー……)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 エイスリン手牌:③④⑤六七22667789 捨て:5 ドラ:⑨

まこ(む――手出し……手を高めちょる……んか?)

友香(ウィッシュアート先輩のツモが流れてきた。八萬――とりあえず、確保)

 友香手牌:①④⑧⑨23四六六七八八發 捨て:中 ドラ:⑨

誠子(東が重なってドラが来れば、一面子落とすことになっても、染めたほうが高くていいよね……)タンッ

 誠子手牌:②⑥⑥⑦三四五東白白/(南)南南 捨て:中 ドラ:⑨

まこ(789の三色が見えてきたのはええが、四・五萬が切りにくいのう)タンッ

 まこ手牌:③④⑤⑦⑨四四[五]九九/(7)89 捨て:一 ドラ:⑨

エイスリン(♪)タンッ

 エイスリン手牌:③④⑤七226677889 捨て:六 ドラ:⑨

まこ(手出しで六萬……? それ面子じゃったんと違うんか?)カチャ

エイスリン(♪)タンッ

まこ(ほいで六萬に続いて七萬じゃと……!? 何がどうなっちょる――)ボヤー

 エイスリン捨牌:北東二5六七

まこ(よくある平和手から、高め狙いか何かで五索切りしたように見えた。わしの感覚が正しければ、678の三色か一盃口辺りで手が良くなったっちゅう感じじゃ。
 そこからじゃと、まあ十中八九断ヤオが複合してくる。ほんの数巡で平和のみがとんとんと高くなっていく顔……じゃが、まさかの両面搭子落とし。
 自風と場風を真っ先に落としちょるけえ染めに行ってるパターンでもないの。なんじゃこりゃ……何が起きちょる……)チラッ

 まこ手牌:③④⑤⑦⑨四四七九九/(7)89 ドラ:⑨

まこ「(間に合うか……?)チー!」タンッ

 まこ手牌:③④⑤⑦⑨四四/(八)七九/(7)89 捨て:九 ドラ:⑨

エイスリン(コレデ、シマイダ――!!)タンッ

まこ(ほあ……!? な、何が……どうなって……)ゾワッ

 エイスリン捨牌:北東二5六七9

まこ(しかも――こりゃあしくったかのう)フゥ

 まこ手牌:③④⑤⑦⑨四四/(八)七九/(7)89 ツモ:中 ドラ:⑨

まこ(安牌が……ない。筒子は見えちょらんし危ないか? その捨て牌で四萬待ちっちゅうこともないじゃろうが……いや、平和じゃったはずじゃけえ、一・四萬待ちはあってもおかしくないかの?
 っちゅうか、そもそも四萬切るとテンパイ維持できん。中……じゃとすると、地獄単騎になるが――)ムー

まこ(だあああ、ごちゃごちゃ考えてもわからんもんはわからん。ただ、感覚のままに打って逆に嵌められたらしいことだけは確か。ウィッシュアートの《一枚絵》に何らかの変化が起きちょるんじゃ)

まこ(それが何かわからんと、今度もずっとこの調子。こいつは能力者。この食い違いを意図的に必然的に引き起こしちょる。ネタがわからんうちはやられっぱなしになること請け合いじゃ)

まこ(ええじゃろ。腹括っちゃる。これで振ったら鑑賞料じゃあ。学園都市の《頂点》――まだ見たことのない景色。《夢描く天使》……結局、前半戦は一度もその絵を見れんかったけえの)チラッ

エイスリン「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(《最多》は《彩多》――われの描く極彩色の夢っちゅうんが、どれほどのもんか! この一打で見極めさせてもらう……!!)タンッ

エイスリン「ロンッ!」パラララ

 エイスリン手牌:③④⑤222667788中 ロン:中 ドラ:⑨

エイスリン「1300……ッ!!」ゴッ

友香・誠子(ついに……!!?)

まこ(んじゃそりゃあ!!? ドラでもないのに地獄単騎で一盃口のみじゃとっ!!? わらタンピン一盃口はどうしたんじゃ!!? マズい!!! せっかく振ってみたものの、まるで意味がわからん!!!!)

エイスリン(ヤバイ!! ヤバイ!!! ナンカ!! デテルウウウウウウウ!!)ウェヒヒヒ

まこ(ほんでなんじゃその危ない笑顔はー!!?)

誠子(相当ストレス溜まってたんだろうな……)

友香(何はともあれ、気を引き締めなきゃでー!!)

エイスリン「キメテ、ヤッタゼ、マズ、ヒトツゥ!! マダマダ、コンナ、モンジャ、オワラネーカラナ!! ッシャァ、ツギィィィ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香:107400 誠子:97500 まこ:87200 エイスリン:107900

 ――《劫初》控え室

衣・憩「来たあああああああ!!!」バンザーイ

智葉「やっと一つだな」

菫「染谷の鳴きが入ってからのウィッシュアートの手順——あれは明らかに非効率《オカルト》だったな。
 素直に進めればタンピン一盃口だったところを、わざわざ両面搭子を落として、一盃口のみの中地獄単騎。何がどうなっているんだか」

憩「まあ、単純に、縦に重ねたんでしょうね」

智葉「誤解を承知で前時代に横行した言葉を使うなら、『対子場』ってやつだな」

衣「衣は好きだぞ、といとい!」

菫「え……なんだ、わかってないのは私だけか……?」

衣「大丈夫っ! 衣もよくわかってない!!」

憩「まあ、『順子場』『対子場』っちゅーんは完全な古典オカルト用語なんで、気にせんでください。今のでわかるんは、エイさんの《一枚絵》は、染谷さんに鳴かれる前と後のそれぞれで違う絵になっとったっちゅーことです」

菫「今のでわかるのか!!?」ガーン

智葉「四人全員のツモを見ていくと、染谷の鳴きの前後で、牌の入り方が変化しているのがわかる。染谷が鳴く前は、全員の手が横へ横へと広がっている。鳴いた後は、それが縦に重なるようになっているんだ」

憩「まさに順子場と対子場ですね。染谷さんが鳴いた後は対子場になった。ほな、タンピン一盃口の五・八萬両面待ちは、横に受けとるから、和了れへんことになります。
 せやから、雀頭を暗刻にして、横に広がっとった順子をまとめて一盃口にして、最後は中の地獄単騎で待ったわけです。対子場の字牌単騎は、両面待ちよりよっぽど和了りやすいですからね」

菫「順子場や対子場といったオカルト以上に、お前らの分析力がオカルトだ……。ということは、あれか? 今のウィッシュアートは、順子場と対子場を描き分けて戦っているということなのか?」

智葉「ハァ……」ヤレヤレ

菫「呆れたような溜息をつくなー!!」

憩「東一局で順子場と対子場が現れたのは、単なる偶然です。エイさんの進化の本質はそこやありません」

菫「もう本質まで見抜いたのか!?」ガーン

憩「もちろんですよ~」

菫「……お前ら《三人》は本当に人外だな……」

智葉「それを言うなら宮永の《照魔鏡》はどうなる。あんな超弩級オカルト技を発現するなど、もはや有機生命体じゃないぞ、あいつは」

菫「まあ、照は照だから、いいんだよ」

     エイスリン『ロン、2000!』

     友香『でっ……!?』

衣「いいぞー、えいすりーん♪」ヒャホーイ

憩「さて、あのツノの話はさておき、今は、エイさんのアレです。いや、ホンマに、アレはかなりえげつないですよ。衣ちゃんの《一向聴地獄》くらいあかんやつですわ」

衣「それが本当ならば、まこは焼き鳥決定だな!!」

菫「私はそもそもウィッシュアートが何をやっているのかも理解していないのだが……」

智葉「これも誤解を承知で言えば、あいつは『迷彩』をかけているんだな」

菫「迷彩……? それは、確かに、捨て牌を読むのが得意な染谷に有効に思えるが……それだと、『真っ直ぐ理想に向かう』というウィッシュアートの根幹からズレてしまうんじゃないのか?」

憩「わざと迷彩をかけとるわけやなく、結果的に迷彩になった、っちゅーだけなんです。鳴く前と後でがらりと顔が変わってまうから、連続した捨て牌として読むと、大混乱してまうんですね。
 東一局の例で言うと、鳴く前の捨て牌だけを見れば、ごく普通の平和手です。実際、染谷さんの鳴きがなければ、エイさんは真っ直ぐ和了ってましたよ。そこに関しては、今までと同じ——『真っ直ぐ和了りに向かって』ます」

菫「ふむ」

衣「つまり、もはやエイスリンの力は《一枚絵》ではないのだな?」

智葉「概ねそういうことだ」

菫「どういうことだ……?」

憩「今までのエイさんは、基本的に一通りの絵――牌譜――しか描いていませんでした。それは、対戦相手の打ち筋や癖をほぼ把握しとれば、まあまあの精度で現実にそうなります。
 せやけど、中には、どうやっても動きの読めへん敵がおる。それどころか、エイさんの描いた絵を見抜いて、ここしかないっちゅータイミングで歪めてくる雀士までおる。まあ、つまり、染谷さんのことですけど」

智葉「今までのウィッシュアートは、ある《一枚絵》がダメになったら、それを捨てて新しい《一枚絵》を描き直していた。ゆえに、自身の感覚を超越する者に遅れを取っていたのだ。
 いちいち新しい《一枚絵》を描いていたんじゃ間に合わない。なら、ズラされることを前提とした絵を描けばいい」

菫「天江の《一向聴地獄》でいうところの、海底コースみたいなものか? 無理に鳴きを入れても、結局は手の平の上という」

衣「たぶんだが、全体効果系能力者としては、今のえいすりんのほうが衣より正確性が上だと思う。衣の《一向聴地獄》はあやつの《一枚絵》ほど厳密じゃない。
 不可解な鳴きへの対処を、大部分のところで、衣は感覚的にやっている。だが、それは、衣の支配力があってこそ可能な力技であって、ランクSではないえいすりんには無理だろう」

憩「せやね。衣ちゃんのアレは圧倒的問答無用感がすごい。石戸さんの《絶門》が、中盤まではどう足掻いても絶一門崩せへんのと大体同じですわ」

菫「なるほど。よくわかった」

衣「だとすると、えいすりんはけいに近いのではないか? 鳴きの可能性を全て考慮に入れて、その分だけ絵を描いているのだろう?」

憩「んー、それも、ちょっとニュアンスがちゃうかもね。さすがのエイさんも、全ての可能性を潰すのは無理や。衣ちゃんかて感覚でカバーしきれへんとこがあるやろ? それと一緒」

智葉「ただ闇雲に《一枚絵》を重ねているだけではない、ということだ。あいつもお前と同じで、どちらかと言えば感性で場を支配するタイプだからな。荒川のように何から何まで計算尽くで――とはいかん」

菫「なんだか……また混乱してきたぞ。聞けば聞くほど迂遠な印象を受ける。『真っ直ぐ理想へ向かう』というのは変わっていないんだよな?」

憩「もちろんです。短距離走の喩えで言うと、まず、エイさんは、正面に見えるゴールに向かって、真っ直ぐ走り出します。
 せやけど、走っとる途中で、染谷さんとかが妨害してくるわけですね。鳴きでツモをズラしてきます。
 すると、真っ直ぐ走っていたエイさんの進行方向が、最初に目指していたゴールとはズレてまう」

智葉「それでも真っ直ぐ走ってゴールを目指したい――となれば、新たなゴールを予め用意しておけばいい」

憩「途中で目指す方向がズレることがあるなら、ズレたその先にも、別のゴールを置いとく。これまでみたいに、ズレるたびに、止まって新しいゴールを見つけてスタートからやり直し、っちゅーひと手間は要らへん。
 エイさん自身は、ひたすら最速で真っ直ぐに走り続けとります。列車と線路に喩えたほうがよりわかりやすいですかね。今までのエイさん特急は、ズラされたら即脱線事故でしたけど、その『ズラし』を、路線の『切り替え』として処理しとるんです」

菫「そうか……その目指すゴールのズレ、路線の切り替えが起こるから、場が鳴きの前後でがらりと変わるわけだな?」

憩「そういうことです。東一局のあれは、最初のゴールが平和で、ズレたほうのゴールは一盃口やったんですね。
 ほんで、エイさん自身は、手牌が『そうなる』ように確率干渉します。平和なら横に伸びるように、一盃口なら縦に重なるように、っちゅー感じで。結果的に、支配元であるエイさんの手牌の変化と連動して、場の表情も一変する、と」

衣「百面相か。まこは卓上の顔を自分好みに歪めようとする。だが、今のえいすりんは、歪められると即座に裏の顔を見せるのだな。ますますまこには止められまい」

菫「だが……それでも、やはり、不慮の鳴きというのはあるんじゃないのか? ズレた先にゴールを用意できていなかったり、切り替えのない箇所で方向転換を強制されたりといった――」

憩「もちろん、ありますよ。ウチなら初見で見抜けます。ガイトさんはどうです?」

智葉「私は……そうだな。斬るコツを掴むまでに少しかかるかもしれん」

菫「というと?」

智葉「私の場合は、荒川と違って山牌は見えない。だが、特に能力者と打っていると、『ああ、これはマズい』『そろそろツモられる』といった《オカルト読み》の感覚が強く働く。
 私と染谷ではベースにある判断材料やアンテナの向いている対象が違うが、表面上は、ほぼ同じタイミングで『悪い予感』が来るだろう。恐らくだが、そろそろ鳴くぞ」

     まこ『ポン!!』

菫「本当だ!?」

智葉「この感覚は、少なくとも、今までのウィッシュアートには有効過ぎるほど有効だった。実際、今の鳴きも、あいつの進路をズラすことには成功している。
 だが、それすらも額縁の内側ということだな。今のあいつは、こちらの鋭い『感覚』を逆手に取っているんだ」

菫「今までと何が違うんだ……?」

憩「『鳴かれとる』んやなく『鳴かせとる』んですよ。そこがエイさんのえげつないところで……今のエイさんは、意図的に、ガイトさんや染谷さんが『悪い予感』を覚えるように能力を使っとるんですわ。
 『そろそろ和了るで~♪』っちゅー気配を、他家にこれでもかっちゅーほど匂わせとるんです」

衣「ほほう……!」

憩「線路の喩えで言えば、切り替えポイントをあからさまにアピールしとるんですね。
 『ここでズラさへんと和了ってまうで~♪』っちゅービビッドなアクセントを《一枚絵》の中に描き込むことで、嫌でもそこに目が行くようにしとるんです」

菫「強く働く『悪い予感』――園城寺の未来予知とも近いか。誰だって、和了られるとわかれば、ズラしに掛かるだろう」

憩「ええ。しかも、ここ数局を見てわかる通り、ズラさなければ、普通に和了られますからね。せやけど、たとえズラしたところで、また違う絵が現れるだけなんですわ」

菫「……なるほど。えげつない」

憩「それは一見何の変哲もない《一枚絵》なんです。今までエイさんが描いてきたもんとほとんど変わりません。
 ある程度見る目のある人は、その《一枚絵》をズラせるポイントを簡単に見つけることができます。やから、ズラそうとする。
 すると――あら不思議。ズレたことで、同じ《一枚絵》が、まったく違う《一枚絵》に見えてくる。
 たった一つの《一枚絵》が、角度を変え、視点を切り替えることで、いくつもの『解釈』を持ってくる……」

菫「まさに抜け目ない《一枚絵》だな。否――もはや《一枚絵》ではないんだったか」

憩「そうですね。純真無垢やったエイさんが、ウチらと交わってすっかり傍若無人で悪逆無道になってまいました。これは、諸悪の根源であるガイトさんにちなんで、こう呼ばなあきませんね――」

智葉「ほう……どう呼んでくれるんだ?」

     エイスリン『ツモッ! 700・1300!!』

憩「その名も《騙し絵》――ルビをつけるなら騙し絵《トリック・アート》ですわ。いかがです、欺刃《トリック・ブレード》のガイトさん?」

智葉「うまくオチをつけたじゃないか」

憩「エイさんがオチるとかホンマ洒落になりませんから。責任取ってくださいね」

智葉「無論。しかし、まあ、杞憂だと思うぞ」

菫「智葉?」

智葉「モニターに映るウィッシュアートの顔を見てみろよ、さすがは《破顔》の染谷まこと対戦しているからだろうか……あれこそ現世に舞い降りた天使に他ならない」

憩「わおっ! 特大級のノロケ来ましたね……っ!!」ゾゾゾッ

衣「さとはがちょっと気持ち悪いが、えいすりんは確かに楽しそうだっ!!」

菫「まあ、あいつが笑顔なら、それに越したことはない」

智葉「さあて……愚かなる下界の人間どもは殲滅あるのみ。天使様による大粛清の始まりだ」

 ――対局室

 東四局・親:エイスリン

エイスリン「♪♪♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・112600)

 エイスリン手牌:②④[⑤]⑥⑧578四五七白中 捨て:西 ドラ:四

友香(三連続和了で親番……デジャヴでー!!)タンッ

 南家:森垣友香(煌星・104700)

 友香手牌:①③④[⑤]一二368東南西發 捨て:北 ドラ:四

誠子(染谷さんが鳴いても崩れない……となると、やっぱり、同じように見えて、《一枚絵》がまったく別物になってるんだ)タンッ

 西家:亦野誠子(幻奏・96800)

 誠子手牌:[五]六七4899⑧⑧⑨⑨西白 捨て:北 ドラ:四

まこ(《騙し絵》でも見てるかのようじゃのう。一見すると今までのウィッシュアートの《一枚絵》と同じじゃけえ性質が悪い。歪め方がわかり過ぎるほどわかる。
 じゃが、それは誘い……かと言って、歪めないと普通に和了られるのは確実。…………おおぅ、これは詰んだか?)タンッ

 北家:染谷まこ(永代・85900)

 まこ手牌:27一三四五①③④⑤發發中 捨て:南 ドラ:四

エイスリン(トメラレル、モンナラ、トメテ、ミヤガレ……!!)タンッ

 エイスリン手牌:②④[⑤]⑥⑧5678四五七中 捨て:白 ドラ:四

友香(幸い火力が低い。まだ新しい能力の使い方に慣れてないのか、染谷先輩のプレッシャーが効いてるのか。たぶんどっちもあると思う。けど、そのハードルを越えられたら、待っているのは地獄だ。
 この親番……連荘させればさせるだけ、ウィッシュアート先輩の熟練度が上がってしまう。なんとしても食い止めなきゃ……!!)タンッ

 友香手牌:①③④[⑤]一二3468東南發 捨て:西 ドラ:四

誠子(なんだか、ツモがいい。赤五萬、五索って、真ん中が次々入ってくる。けど、これ、よくない傾向だよね。
 全体効果系能力者は特定の『場』を生み出すことに長けてる。私に真ん中が寄ってきてるってことは、支配者であるウィッシュアート先輩にも、同じように真ん中が寄ってるってことになるような……)タンッ

 誠子手牌:[五]六七45899⑧⑧⑨⑨白 捨て:西 ドラ:四

まこ(四筒の次は六索……こりゃあまるで四五六牌を寄せるとかいう《百花仙》じゃの。ここまで全員字牌しか捨てとらん。ツモが中張牌に偏っちょる可能性がある。
 じゃとすると……このパターンで一番危険なのは親の断ヤオツモ。ドラが一枚あればそれだけで2000オール。二枚あれば3900オール。平和や三色が複合してきたらハネて6000オールもある。……ったく、なんちゅうことを――)タンッ

 まこ手牌:267一三四五①③④⑤發發 捨て:中 ドラ:四

エイスリン(タンピンツモドラ一赤一……4000オールマデ、アト、ミッツゥ♪)タンッ

 エイスリン手牌:②④[⑤]⑥⑧55678四五七 捨て:中 ドラ:四

まこ(いかんいかんいかん……!! カウントダウンが始まっちょる!!)

友香(んー……ここまで赤五筒、四索、赤五索か。ツモが良過ぎる)

 友香手牌:①③④[⑤]一二3468東南發 ツモ:[5] ドラ:四

友香(これは、かなりの赤信号でー? 私のツモが良くて、ウィッシュアート先輩のツモが悪いなんて状況はありえない。このツモの良さは、ウィッシュアート先輩のお零れに過ぎない)

友香(このまま行けば、真っ先にゴールテープを切るのはウィッシュアート先輩。でも、果たして、これは正解なのか……?)タンッ

 友香手牌:①③④[⑤]一二34[5]68東南 捨て:發 ドラ:四

まこ「(助かる……!!)ポン!!」タンッ

 まこ手牌:67一三四五①③④⑤/發(發)發 捨て:2 ドラ:四

エイスリン(オッフゥー! ナイス、キョーリョク、プレイ!! ダガ――)ゴッ

 エイスリン手牌:②④[⑤]⑥⑧55678四五七 ツモ:⑦ ドラ:四

エイスリン(ヨウコソ、《トリック・アート》ノ、セカイヘ!! バカシテ、ダマシテ、アザムクゼ!! メェ、マワサネー、ヨーニ、ツイテコイヨッ!!)タンッ

 エイスリン手牌:②④[⑤]⑥⑦⑧55678五七 捨て:四 ドラ:四

友香・誠子・まこ(ドラ切り――!!?)ゾワッ

エイスリン(マンナカ、タンピン、オモテノ、カオ! サテ、ウラノ、カオハ、ナンデショー、カ!?)

友香(ツモが真ん中に寄ってたと思ったら、今度はピタリと辺張が入った……?)

 友香手牌:①③④[⑤]一二34[5]68東南 ツモ:三 ドラ:四

友香(三萬は中張牌だけど、ちょっと不自然。手自体は進んだけど……)タンッ

 友香手牌:①③④[⑤]一二三34[5]68東 捨て:南 ドラ:四

誠子(おっと、辺張が入って一向聴……)

 誠子手牌:[五]六七45899⑧⑧⑨⑨白 ツモ:⑦ ドラ:四

誠子(なんだろう。この捻れた印象。透華の冷徹な《治水》とは違う。ウィッシュアート先輩の支配は目まぐるしく変化してるというか、一つの絵がいくつもの性質を持っているというか。
 わかるのは、このままじゃいけないってこと。でも、どうしたら……?)タンッ

 誠子手牌:[五]六七45899⑦⑧⑧⑨⑨ 捨て:白 ドラ:四

まこ(う、おっ……!? 急に端っこが来よった)

 まこ手牌:67一三四五①③④⑤/發(發)發 ツモ:1 ドラ:四

まこ(こりゃあ、さっき二索を切ったんは失策じゃったか? ウィッシュアートはツモがズレた直後に真ん中のドラを見切った。ほいたら、もう中張牌は入ってこんっちゅうことか……?)

まこ(歪ませようとすると、予め用意されちょった裏の顔が浮かび上がるっちゅうカラクリか。じゃとしたら、さっきまでの捨て牌は無視したほうがよさそうじゃの。新しい対局が始まったと思って読むんじゃ……!!)カチャ

エイスリン(オ……?)

まこ(場の支配者であるウィッシュアートがドラの中張牌を第一打で見切った――と考えるんじゃ。その直後の、一索ツモ。これには重要な意味がある。補足要素として、役牌はもうほとんど死んだ。ウィッシュアートの手には数牌しかない。
 つまり……こいつはこれから、手牌を真ん中じゃなく端に寄せるつもりなんじゃろう。ほいで、その余波で、こっちの手牌も端に寄る――と)

まこ(なら、こんなのは持っていても仕方がないッ!!)タンッ

 まこ手牌:17一三四五①③④⑤/發(發)發 捨て:6 ドラ:四

エイスリン(……スゲーナ、コノ、ワカメガネ。ココマデノ、キョクデ、ワタシノ、《トリック・アート》ノ、シクミ、リカイ、シタノカ?
 デ、コノ、イチジュンデ、ワタシノ、シコンダ、ウラノカオ、ミヌイタ……?)

まこ(全体効果系能力者は卓上の全体に影響を及ぼす。能力者の意図、場のルールのヒントは、そこかしこに転がっちょる。三局も見れば十分じゃ。簡単には振り落とされてやらんけえの……!!)

エイスリン(オモシレェ……!! ソウ、コナクッチャ、ツブシ、ガイガ、ネーゼ!!)

 エイスリン手牌:②④[⑤]⑥⑦⑧55678五七 ツモ:⑨ ドラ:四

エイスリン(テンシノ、エガオヲ、ユガメテミロ、ソメヤマコッ!!)タンッ

 エイスリン手牌:②④[⑤]⑥⑦⑧⑨55678七 捨て:五 ドラ:四

まこ(上等じゃあッ!!)タンッ

 まこ手牌:1一一三四五①③④⑤/發(發)發 捨て:7 ドラ:四

エイスリン(アト、ヒトツゥ!!)タンッ

 エイスリン手牌:②③④[⑤]⑥⑦⑧⑨55678 捨て:七 ドラ:四

まこ(させるか……!!)

まこ「ポンッ!!」タンッ

 まこ手牌:三四五①③④⑤/(一)一一/發(發)發 捨て:1 ドラ:四

エイスリン(――――ッ!!?)

まこ(どうじゃ……!? これでまた顔が変わるはずじゃろ。もう端場は終わった。薄い辺張なんかで待ちようもんなら、そう簡単に和了れんはず!!)

エイスリン(ヤルジャネーノ……!!)タンッ

友香(ここで一筒ツモか。困ったなぁ。筒子は現物以外当たる気しかしない)タンッ

 友香手牌:①①②④[⑤]一二三34[5]68 捨て:③ ドラ:四

誠子(どうかな)タンッ

 誠子手牌:[五]六七4599⑦⑦⑧⑧⑨⑨ 捨て:⑨ ドラ:四

まこ(支配が崩れちょるとしたら、捲くり合いになる。まだ可能性はある――)タンッ

 まこ手牌:三四五①③④⑤/(一)一一/發(發)發 捨て:七 ドラ:四

エイスリン「ツモォ♪」

まこ(な……んじゃと!!?)ゾワッ

エイスリン「1000オール!!」パラララ

 エイスリン手牌:②②④[⑤]⑥⑦⑧⑨55678 ツモ:② ドラ:四

友香(二筒と五索のシャボ……薄いところをピタリと引いてきた。染谷さんが二度も鳴いたのに、まだ支配下にあったんだ)パタッ

誠子(残念。間に合わなかった)パタッ

まこ(どういうことじゃ……? わしがズラした時点で裏の顔は歪んだはず。端場は終わったはずなんじゃ。なのに、どうしてそんな端に近いところをツモれる? それとも、わしの考えは間違っちょったんか……?)

エイスリン「フシギ、ソーダナ、ソメヤマコ!」

まこ「お、おう、ほうじゃな……」

エイスリン「ワタシ、ココロ、ヤサシイ、テンシ! ダカラ、トクベツニ、キョカスル! ソメヤマコ、ジブンノ、コノアトノ、ツモ、ミテミロヨッ!!」

まこ「…………ほいじゃあ、お言葉に甘えて、失礼――」スッ

まこ(亦野から鳴いてズラしたあとのわしのツモ……はたしてどうなっちょるんか)メクリッ

まこ「ッ……これは――!?」ゾワッ

エイスリン「ソメヤマコ、ソレ、スキ、ダロ?」ニヤッ

まこ(六萬、九萬、八萬、九萬……!? しばらく萬子ばかり引くことになっちょったんか!! さっきのツモも七萬じゃったし、つまり、こりゃあ――)

エイスリン「イッショクバ!!」キラーン

まこ「……なるほどのう。端に近いけえツモれたんじゃなく、筒子じゃけえツモれたっちゅうことか。顔の下には別の顔があって、その顔の下にも別の顔がある……こりゃあ一本取られたの。持ってけ、千点棒じゃあ」チャ

エイスリン「ツイデニ、カンソー、キカセロヨ。ソメヤマコ、テメェハ、イマノ、ワタシヲ、《ハガン》、デキルカ?」ニコニコ

まこ「わらもう十分笑顔じゃろ……」

エイスリン「ツマリ、デキネーッテ、コトダナ!!?」ニパー

まこ「正直……かなりしんどいの」フゥ

友香・誠子(染谷先輩(さん)が溜息交じりに天を仰いだー!?)

エイスリン「アハハハハッ!! キイタカ!? ワタシノ、エガオハ、ムテキ、サイキョウ!!」ババーン

まこ「ああ……その顔は反則じゃあ。ったく、天使様がこんな下界に何しに来よった?」

エイスリン「ゴミソージ♪」キュピーン

まこ・友香・誠子「っ……!!」ゾワッ

エイスリン「スミレノ、ジャマスル、ゴミクズドモ!! チリ、ヒトツ、ノコサネーゾ!! イックゼー……イッポンバッ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ・友香・誠子(笑顔と暴言のギャップがひどい……!!!)ゾゾゾ

友香:103700 誠子:95800 まこ:84900 エイスリン:115600

 ――《永代》控え室

塞「エイスリーン!? ちっくしょー!! 最高のエンジェルスマイルであんな……っ!! さては辻垣内!? それとも《悪魔》!! 《修羅》!? 私たちの天使《エイスリン》を穢してんじゃないわよおおお!!」

純「口の悪さもうそうだが、能力の悪質さがハネ上がったぞ。それまで一つの《流れ》しか描いてなかったやつが、鳴きを想定していくつもの《流れ》を用意してやがる。
 しかも、前の《流れ》が次の《流れ》の伏線になってて……オレなんか完全に手玉に取られる自信があるぜ。あんなもん、無能力者のまこにどうにかできんのか……?」

穏乃「まさにまこさんを殺すために進化したような能力ですね。百面相の《騙し絵》――まこさんは感覚通りに打つと間違いなく焼き鳥にされます。
 でも、感覚を捨ててデジタルで打っても、相手は全体効果系……必然で最速の和了りをものにしてくる。どっちにしろ焼き鳥は不可避ですか」

照「すごい」

塞「私は染谷云々よりエイスリンが変わってしまった現実を受け止めるのに時間が掛かるわ……」

純「しっかし、こりゃあどうすりゃいいんだ? 和了れるヴィジョンが見えねえぞ」

穏乃「打開策が見つからないうちは、他家のアシストに回るのがベターだと思います。ウィッシュアートさんの《騙し絵》は、《一枚絵》と同じで速度重視。打点は基本的に考慮に入っていません。
 だからこそ、点数が五割増しになる親番を続けさせるのは、非常に危険です。二度あるウィッシュアートさんの親番……これを蹴れれば、致命的な点差はつきません。
 まこさんは前半で稼ぎましたし、うまく立ち回ればトータルでプラスは十分可能かと」

照「ざっつらいと」

純「他家のアシストか。ただ、まこ一人が亦野か森垣をアシストするくらいじゃ、どうにもならなそうな気がするなァ」

穏乃「そうですね。ウィッシュアートさんは全体効果系の大能力者《レベル4》ですから。レベルが対等でない以上、三対一じゃないと話になりません」

純「全体効果系——衣や透華と同じ系統なんだもんな。辻垣内でさえ、《流れ》によってはテンパイできねえ局があったが、あいつらはそうじゃねえ。放っておくと無限に和了り続ける。マジで脅威的だぜ」

穏乃「ただ、強力な能力ゆえに、応用したり改良したりするのは難しいはずなんですけどね。
 まこさんと対戦するのは初めてのはずなのに、ウィッシュアートさんは前半戦の間にきっちり立て直してきました。相当な下地がないとできないことだと思います」

塞「まぁ……《劫初》で辻垣内と荒川と天江と弘世と打ってたんなら、相当な下地の一つや二つはできるでしょーよ。ただエイスリンを穢したことは絶許……っ!!」メラメラ

純「照的にはどーなんだ、この後半戦」

照「みんな、もうちょっと周りを見たほうがいいと思う」

純「ふーん……?」

照「ウィッシュアートさんの《騙し絵》は、能力としての完成度がすごく高い。美しい論理だと思う。見ていて楽しい。あれは、イメージ力に優れたウィッシュアートさんじゃないと描けない」

塞「宮永先生のベタ褒めいただきました!!」

照「でも、全体効果系能力者は、誰もが皆、同じ弱点を抱えている。レベル5の松実さんや鶴田さんも例外じゃない」

純「松実がドラを切れねえとか、透華がリーチできねえみたいに、自身が自身の支配する場のルールから外れられねえことか?」

照「《制約》やそれに準ずる《意識の偏り》的なもの由来の隙は、どんな能力者にも多かれ少なかれある。そうじゃなくて、もっと、大事なこと」

穏乃「ふむふむ」

照「この白糸台高校麻雀部で、『それ』が最も得意な雀士が、あそこにいる。ただ、本人も、周りも、まだそれに気付いていない。気付かない限り、ウィッシュアートさんの和了りは、無限に続く」

塞「無限て……あんたの見立ては百発百中なんだから少し言葉を選びなさいよ」

純「まあ、突破口があるっつーなら安心だな。とりあえず、ここで試合が終わることはねえってことだろ?」

照「んー、どうかな」

     エイスリン『ツモ、700ハ800オール!!』

塞「高鴨おおお! こうなったらもうあんただけが頼りだからっ! 私のために稼いでよね!? 副将戦でトビ終了とかになったら、私、二度と牌が握れなくなるわよ!!」

穏乃「全力で頑張るつもりではいます」

純「さて……一体どんだけ毟り取るつもりなんだろうな、あの天使様はよ」

 ――対局室

 東四局二本場・親:エイスリン

エイスリン「♪♪♪♪♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・118000)

 エイスリン配牌:①[⑤]⑧⑨99一一三六八九九東 ドラ:3

エイスリン(マダ、トマルキ、ナインデ、ヨロシクゥ!!)タンッ

 エイスリン手牌:①⑧⑨99一一三六八九九東 捨て:[⑤] ドラ:3

まこ(いきなり赤五じゃと……!?)カチャ

 北家:染谷まこ(永代・84100)

友香(うーん、これは――)

 南家:森垣友香(煌星・102900)

 友香手牌:二四四五七九③④[⑤]⑥346 ツモ:⑨ ドラ:3

友香(配牌は三向聴。真ん中に寄ってて、ドラが二つ。345か456の三色が見える。いい手ではあると思うけど、最初のツモが九筒か。幸先は良くなさそうでー)タンッ

 友香手牌:二四四五七九③④[⑤]⑥346 捨て:⑨ ドラ:3

誠子(どうだろうなこれ……)

 西家:亦野誠子(幻奏・95000)

 誠子手牌:①⑦⑦三五六八56西西北北 ツモ:9 ドラ:3

誠子(自風を含む対子が三つ。両面搭子が二つ。副露して和了るにはもってこいの手ではある。
 でも、今のままだとさすがに安いから、ドラが入るのを待つか、伸びそうだったら染め手を狙っていくか、対子が増えてくれば対々にしたいところ。
 ただ……いい加減ウィッシュアート先輩を止めないとマズいよね)タンッ

 誠子手牌:①⑦⑦三五六八56西西北北 捨て:9 ドラ:3

まこ(こりゃあ端場かの)カチャ

 まこ手牌:一[五]七八2478⑧⑧南白中 ツモ:1 ドラ:3

まこ(ウィッシュアートが狙っちょるのは恐らくチャンタ系。なら、今の場は真ん中がむしろ薄くなる。追いつけるかはわからんが、とりあえず、こいつはあっても邪魔なだけじゃ)タンッ

 まこ手牌:一[五]七八1278⑧⑧南白中 捨て:4 ドラ:3

エイスリン(イマントコ、タイオー、デキテルノハ、ソメヤマコ、ダケダナ)タンッ

 エイスリン手牌:①⑧⑨99一一一三八九九東 捨て:六 ドラ:3

友香(手は進んだけど安いとこ。うー……贅沢は言ってられないかな)タンッ

 友香手牌:四四五七八九③④[⑤]⑥346 捨て:二 ドラ:3

誠子(ウィッシュアート先輩の捨て牌が見るからにヤバい。でも動くに動けないなぁ)タンッ

 誠子手牌:⑦⑦三五六八九56西西北北 捨て:① ドラ:3

まこ(どうにかせんと……)タンッ

 まこ手牌:一二七八1278⑧⑧南白中 捨て:[五] ドラ:3

エイスリン(チャンタ、サンショク、ツモ、オヤマン!)タンッ

 エイスリン手牌:①⑧⑨799一一一八九九東 捨て:三 ドラ:3

まこ(くっ……こがなん、どうしろと……!!)

まこ「そ、それ、ポンじゃ!」タンッ

 まこ手牌:一二七八1278白中/(⑧)⑧⑧ 捨て:南 ドラ:3

まこ(役牌バックでも断ヤオのみでもええ。動きながら和了っちゃる!)

エイスリン(ゴクロー、サン。イミ、ネーケドナ)

 エイスリン手牌:①⑧⑨799一一一九九東東 捨て:八 ドラ:3

まこ(っ!? これ……まさか――)ゾワッ

友香(恐いところ引いたけど……こっちも一向聴。無限に和了れる全体効果系能力者相手に様子見をしても、削られていくだけでー!)タンッ

 友香手牌:四四五七八九②③④[⑤]⑥34 捨て:東 ドラ:3

誠子(河から釣り上げるまでもなく自風牌が飛び込んできたか。追い風になるのかな。どうだろう)タンッ

 誠子手牌:⑦⑦三五六八九6西西西北北 捨て:5 ドラ:3

まこ(やっぱり……今度は字牌場か!?)

 まこ手牌:一二七八1278白中/(⑧)⑧⑧ ツモ:中 ドラ:3

まこ(端場の次に字牌場……チャンタ狙いから字牌が重なるんか。もしダブ東なんて重ねられたら、余計に手が高くなるじゃろうが!)タンッ

 まこ手牌:二七八1278白中中/(⑧)⑧⑧ 捨て:一 ドラ:3

エイスリン(アラ、ヨットイ!)タンッ

 エイスリン手牌:①⑧⑨99一一一九九東東東 捨て:7 ドラ:3

まこ(こ、こりゃあ……とんでもないのが来る……)カチャ

まこ「ポン!!」タンッ

 まこ手牌:七八1278白/中(中)中/(⑧)⑧⑧ 捨て:二 ドラ:3

まこ(これで、少しは――)

エイスリン(ダカラ、ムイミ、ダッツーノ……!!)ゴッ

 エイスリン手牌:①⑨⑨99一一一九九東東東 捨て:⑧ ドラ:3

まこ(八筒じゃと!? ここまでヤオ九牌が一度も見えちょらん。端場から、字牌場と来て、今度は刻子場にでもなったんか? じゃとすると、あの手、一体どんな偏り方をして……)ゾゾゾ

エイスリン(スーアンコー、マデ、アト、フタツ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(刻子場になったんなら、どんなに安く見積もっても、チャンタ三暗刻ツモ。最高で四暗刻もありうる。
 なんてことじゃ……鳴きでブレんどころか、わしが鳴くことでより高い手に変化できるような絵を描くとは。信じられんのう)

まこ(……じゃが、役満が見えてきたのは、かえっていい傾向かもしれん。ズラすごとに高くなるよう描かれた《騙し絵》。じゃとすれば、麻雀の点数は役満で打ち止めじぇけえ、これ以上は高くならん。
 もう一度ズラすことができれば、下がることはあっても、上がることない!!)

誠子「」タンッ

 誠子手牌:⑦⑦三五六八九西西西北北北 捨て:6 ドラ:3

まこ「チー!」タンッ

 まこ手牌:七八12/(6)78/中(中)中/(⑧)⑧⑧ 捨て:白 ドラ:3

エイスリン(オット……コノ、シツコサ、クセニナルゼ)

 エイスリン手牌:①⑨⑨99一一一九九東東東 ツモ:① ドラ:3

エイスリン(ジャ、チートイデ!)タンッ

友香(手が進まないんでー……)タンッ

 友香手牌:四四五七八九②③④[⑤]⑥34 捨て:9 ドラ:3

まこ(こ、こりゃあ)

誠子(ふむ)タンッ

 誠子手牌:⑦⑦三五六八九西西西北北北 捨て:1 ドラ:3

まこ(端場に戻ったんか……? なら有効牌を――ちぃ、裏目か……)

 まこ手牌:七八12/(6)78/中(中)中/(⑧)⑧⑧ 捨て:二 ドラ:3

エイスリン(ホイ、ット)タンッ

 エイスリン手牌:①①⑨⑨199一一九九東東 捨て:東 ドラ:3

まこ(混老七対子ってとこかの。四暗刻や清老頭にならなかっただけマシじゃろか。ツモられれば親満。役満がチラついたことを考えれば、頑張って足掻いたほうかのう……?)

友香(かすりもしないっ!)タンッ

 友香手牌:四四五七八九②③④[⑤]⑥34 捨て:⑨ ドラ:3

誠子(ドラ……っていうのはさておき、なんだろう、ちょっと違和感があるなぁ)タンッ

 誠子手牌:⑦⑦三五六八九西西西北北北 捨て:3 ドラ:3

まこ「チー!!」タンッ

 まこ手牌:七/(3)12/(6)78/中(中)中/(⑧)⑧⑧ 捨て:八 ドラ:3

まこ(いやいや! 和了られるのが当然みたいな思考は無能力者をデクにする!! そう簡単に思い通りにはさせんぞ、能力者……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン(……オージョー、ギワノ、ワリイ、メガネダゼ)ツモッ

 エイスリン手牌:①①⑨⑨199一一九九東東 ツモ:5 ドラ:3

エイスリン(シャーネェ……)タンッ

 エイスリン手牌:①①⑨⑨599一一九九東東 捨て:1 ドラ:3

友香(うむむむ……)タンッ

 友香手牌:四四五七八九②③④[⑤]⑥34 捨て:1 ドラ:3

誠子(いやはや)

 誠子手牌:⑦⑦三五六八九西西西北北北 ツモ:五 ドラ:3

誠子(これで差し込めたりは――?)タンッ

 誠子手牌:⑦⑦三五五六八西西西北北北 捨て:九 ドラ:3

まこ(惜しい……)

 まこ手牌:七/(3)12/(6)78/中(中)中/(⑧)⑧⑧ ツモ:[5] ドラ:3

まこ(ツモが中張牌になったか。恐らくじゃが、ウィッシュアートの打点はかなり下がったはずじゃ。ここに来てヤオ九牌を連打しちょるのがその証拠。じゃが、テンパイはしちょるはずじゃけえ、ここで気を抜いたら殺される――)カチャ

まこ(うん。ここは……こっちじゃな)タンッ

 まこ手牌:[5]/(3)12/(6)78/中(中)中/(⑧)⑧⑧ 捨て:七 ドラ:3

エイスリン(サスガニ、カワシテ、キヤガルカ)

エイスリン「ツモ、1600ハ1800オール!!」パラララ

 エイスリン手牌:①①⑨⑨599一一九九東東 ツモ:5 ドラ:3

友香(うっお……染谷先輩が鳴いてなければ役満まであったのか。私がテンパイを諦めてれば、七萬で差し込みの可能性は残されていた。けど、それは……あー、うー……悩みどころでー)

まこ(抗えてはいるが、決定打にはなっちょらん。ウィッシュアートの上家に座っちょる現状、ズラしても、鳴くことでこいつのツモを増やしてしまう。確率干渉のできん無能力者《レベル0》のわし一人にはこれが精一杯じゃ。
 悔しいが、止めるとなると、能力者である森垣か亦野との連携が必要不可欠になってくるんじゃがのう――)

誠子(あー……違和感の正体はこれか。うん、やっぱり、そうだ。ウィッシュアート先輩の七対子は最善じゃない。
 もし仮に、この七対子がウィッシュアート先輩の描いた通りの結末なら、この《騙し絵》とでも言うべき能力も、完璧じゃないってことになる。
 全体効果系の大能力者《レベル4》……透華級の大物釣りか。骨が折れそうだな)

エイスリン「サンホンバ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香:101100 誠子:93200 まこ:82300 エイスリン:123400

 ――《幻奏》控え室

ネリー「これはビューティホーな能力だねー!!」

セーラ「ウィッシュアートは才華を振り撒く《十最》の最高位やからなー」

やえ「騙し絵《トリック・アート》といったところか。また一つ愉快な能力がこの世に現れたな。こんな簡易プログラムでは満足できん。早く解析して本格的なプログラミングに移りたい」ウズウズ

優希「そんなことより誠子先輩は大丈夫なのか!?」

ネリー・セーラ「せいこ(誠子)次第だね(やろ)」

優希「何か秘策があるんだじぇ!?」

やえ「副露して和了る」

優希「いつもの誠子先輩だじぇ!!」

ネリ「せいこはいつも通りでいいんだよ。全体効果系能力者と戦うときは特に」

セーラ「あー、確かにせやな」

優希「そ、そうなのか……?」

やえ「全体効果系能力者には、共通の弱点がある。亦野はその弱点を攻めるのにもってこいの雀士なんだ。実際、準決勝で龍門渕透華に決定打を与えたのはあいつだったろう?」

優希「けど、あれは、虎妹のお姉さんがアシストしてくれたからだって、誠子先輩は苦笑いしてたじょ?」

セーラ「それそれ。それこそ誠子の最大の強みやんか」

優希「?」

ネリー「アシストしてもらえること。そのアシストを活かせること。これは誰にでもできることじゃないんだよ。せいこは、他家を支配するでもなく、他家を利用するでもなく、他家と共に闘うことができるんだ」

優希「共闘か!」

やえ「そう。そして、それは全体効果系能力者に最も有効な手段となる。なぜなら、全体効果系能力者は、誰もが常に単独で戦っているからだ。
 天江も、石戸も、龍門渕も、姉帯も、鶴田も、松実も、ウィッシュアートも、全体効果系能力を発動している間は、基本的に一人なんだよ。それが、あいつらに共通する弱点だ」

セーラ「ま、強い力を持つやつにありがちなジレンマやな。自然と三対一の構図になってまう。それが弱点やとわかってても、力を行使する限り、他家同士の結束を促すことになってまうんや」

ネリー「私も三対一はよく体験するけど、なかなか大変なんだよー」

優希「でも……あのお絵かきお姉さんの力は、三対一でどうにかできるものなのか? やえお姉さんもネリちゃんも絶賛のすごい能力なんだじぇ?」

やえ「まだまだ分析力が足りないな、片岡。さっきの二本場、あんなわかりやすいミスに気付かなかったのか?」

優希「えええ?」

やえ「ウィッシュアートは、染谷の三つ目の鳴きを受けて、こんな手になったわけだが――」

 エイスリン手牌:①⑨⑨99一一一九九東東東 ツモ:① ドラ:3

やえ「ここから、あいつは一萬を切って七対子に向かった。結果的にはそれで和了れている。最初から、それが描いた通りの完成形だったのだろう」

優希「隙がないじぇ……」

やえ「本当にそうか? あの状況でこの手は七対子が最善だったのか? なあ、セーラはどう思う?」

セーラ「あの状況やったら、俺はこの手を七対子にはしない。対子が重なるんを待つ。或いは、どれか出たら鳴くわ」

優希「じょ……?」

セーラ「この手で七対子に行ってもーたら、最大でも七対子混老や。リーチ掛けても出和了りやと満貫にしかならへん。下手すると七対子のみになってまう。
 対々にすれば、どんなに安くなっても対々混老ダブ東でハネ満。ツモれば三暗刻が複合して倍満。さらにさらに、ツモがよければ四暗刻も見れる。七対子にするんは勿体ないで」

ネリー「実際、えいすりんが一萬切って七対子に向かった直後、ゆうかが九索をツモ切りしてる。で、次巡のゆうかのツモは九筒。
 えいすりんは、一萬の暗刻を崩さなければ、ゆうかの九索を鳴いて、次巡に九筒をツモって和了れてたんだよ。みすみす倍満のメロディを逃してる。
 まあ、九索・九筒は既にどっちも河に一枚ずつ見えてたから、残り枚数を考えると七対子って判断もなくはないと思う。
 でも、えいすりんは全体効果系。他家のツモ牌も自分の支配下に置いている。ゆうかが九索をツモること、次巡に九索をツモることは、分かっていたはずなんだ。なのに、えいすりんはそれをスルーした――」

やえ「まあ、見逃した、見落としたというよりは、見送らざるをえなかったと解釈するほうが正しいだろうな」

優希「?」

やえ「点数や期待値を度外視して考えてみようじゃないか。『対々』から『七対子』にシフトした――この事実には、非常に重要な意味がある。そして、それこそが、ウィッシュアートの《騙し絵》の不完全さの表れなのだ」

優希「むむむむ……」

やえ「『対々』と『七対子』。共に二飜役であるこの二つは、しばしば天秤に掛けられる。そのとき、判断の基準になる事柄は何か。亦野の立場になって考えてみるとわかりやすいかもしれないな」

優希「っ……! 副露か!!?」

やえ「ご明察」

優希「対々は副露しても和了れる食い下がりなしの二飜役! 七対子は一盃口や平和と同じ門前オンリーの二飜役!! そういうことだじぇ!! ……どういうことだじぇ?」

やえ「ウィッシュアートは対々ではなく七対子を選んだ。副露して和了れる二飜役より、門前でしか和了れない二飜役を選んだんだ。
 つまり、《騙し絵》発動中のウィッシュアートは、《一枚絵》のときと同様、基本的には『門前でしか和了るつもりがない』ということになるんだよ」

優希「ほあああああ……」

やえ「これも、基本単独プレイの全体効果系らしい選択だと思う。他家の捨て牌を拾うまでもなく、ウィッシュアートは門前でテンパイできて、自力でツモ和了りできる。
 だが、それは、門前でしか和了れないという見方もできるな。他家の鳴きを想定した《騙し絵》は、その緻密さゆえに、自身の鳴きに対して強い制限が掛かっているのだ。
 全体効果系能力者は、自身の場の支配に反する打牌をすることができない。ウィッシュアートは、あのとき、たとえ倍満を逃すとわかっていても、森垣から鳴いて対々を和了るという選択を取れなかったんだろうよ」

優希「緻密な場の支配と単独プレイの門前派――咲ちゃん対策を思い出すじぇ。だとすれば、やっぱり鳴きは有効なのか……!?」

やえ「そう。協力プレイの副露派――亦野は、ウィッシュアートの対極にいる雀士なんだ。あいつならやり方次第で《騙し絵》の支配を崩すことができるかもしれん。
 ウィッシュアートの支配は、自身の鳴きに対して盲目だった。なら、他家の鳴きに対しても、対応できない領域はきっとある。巧妙に隠されていて見えないだけなのだ。だが、我らが亦野誠子はなんと言っても」

優希「白糸台で最高クラスの副露ぢからを持つ雀士だからっ!!」

やえ「そういうこと。河から牌を自在に釣り上げる白糸台の《フィッシャー》――他家との共闘に優れ、抜群の副露センスを持つ元一軍《レギュラー》。ここはあいつの腕を信じよう」

ネリー「せいこならやってくれるんだよ!」

セーラ「やってもらわへんと困るわ」

優希「頑張れだじぇ、誠子先輩っ!!」

やえ(亦野……宮永や弘世が見ているぞ。ちゃんと答えを出してみろ。想いを伝えてみろ。大丈夫、お前は強い雀士だ。きっとできるはずだぞ――!!)

 ――対局室

 東四局三本場・親:エイスリン

エイスリン「♪♪♪♪♪♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

誠子(六連続和了されたことで、ようやくだけど、私にもウィッシュアート先輩の《騙し絵》の仕組みが見えてきた。ウィッシュアート先輩は、鳴きでツモ順がズレるごとに、目指す和了り形を変化させている。
 平和から一盃口とか、タンピンから一通とか。さっきは、チャンタから、対々、七対子に変化していった。この局は逆……なのかな。対子手から順子手にシフトしてるっぽい)

誠子(ここまでの和了りから、基本門前で、ズレる前の和了り形は即放棄してるのがわかる。対々の倍満ツモを放棄して七対子にシフトしたり、そのあとも、染谷さんの鳴きで即座に混老を捨てたりしてた)

誠子(それが隙になるかというと、微妙なところ。ウィッシュアート先輩の支配を崩さない限り、先輩は有効牌をツモり続ける。対して、こっちはそうじゃない)

誠子(ズレると場の表情が一変するのが難しい。真ん中周辺が入ってくる場、端に近いところが入ってくる場、字牌が入ってくる場、横に伸びる場、縦に伸びる場、萬子か筒子か索子の一色に偏る場――と、大雑把に分けてそんな感じかな。
 平和で進めてたのに急に縦に重なり始めたりとか、断ヤオで進めてたら字牌ばかり来てみたり、もう面子が固まった色が流れてきたり。染谷さんはその流れについていけてるみたいだけど、私はまだ翻弄されてる)

誠子(でも、少しずつ、見えてきた。見分けられるようになってきた。本物と、偽物を)

まこ「ポン!」タンッ

誠子(こちらの目を欺く疑似餌。散りばめられた撒き餌。まるで本当に絵の中から飛び出してきたみたい。でも、違う。それはそう見えるように描いただけのトリック——偽物だ)

エイスリン「ツモ、1300ハ1600オール!!」

まこ(だあー……!! 止められん!!)

友香(少しずつ場の変化には慣れてきた。でも、一向聴止まりじゃどうしようもない。困った困ったでー)

エイスリン「ヨンホンバ、イッテ、ミヨーカッ!!」

誠子(……これ以上親番を続けさせるわけにはいかない。《騙し絵》の中から本物を釣り上げるんだ。できるはず……信じてみよう――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香:99500 誠子:91600 まこ:80700 エイスリン:128200

 東四局四本場・親:エイスリン

エイスリン「♪♪♪♪♪♪♪」タンッ

 エイスリン手牌:2345[5]67①②③[⑤]⑨東 捨て:中 ドラ:四

友香「」タンッ

 友香手牌:1124①②④一二二三東白 捨て:8 ドラ:四

誠子(透華は、私には私にしかない魅力があると言った。宮永先輩は、私の力が必要だと言った。小走先輩は、私を強い雀士だと言った。
 一方で、私なんかどこにでもいる平凡な雀士だと言って殴ってきた人もいた)

 誠子手牌:一一三六八8①①東西白白中 ツモ:九 ドラ:四

誠子(結局のところ、強いとか弱いとかいうのは本人の気の持ちようでしかないっていうのが、今の私の答え。でもって、そんなどうでもいいことに悩むくらいなら、練習して、結果を出さなきゃ、って思う)タンッ

 誠子手牌:一一三六八九8①①東西白白 捨て:中 ドラ:四

まこ「」タンッ

 まこ手牌:一二六七八九12489⑨西 捨て:中 ドラ:四

エイスリン「」タンッ

 エイスリン手牌:2345[5]67①②③③[⑤]⑨ 捨て:東 ドラ:四

友香「」タンッ

 友香手牌:11234①②④一二二三白 捨て:東 ドラ:四

誠子(本当に大事なことは、強いことではなくて、強くあろうとすることなんだと思う。戦い続けること。前に進み続けること。
 自分は弱い、力がない――そう言って立ち止まってしまうのは簡単だ。でも、小走先輩はそれを許してはくれなかった。私の手を引いて、この決勝の大舞台――逃げ場のない戦場につれてきてくれた)

 誠子手牌:一一三六八九8①①東西白白 ツモ:7 ドラ:四

誠子(やらなきゃいけないことがたくさんある。ウィッシュアート先輩の連荘を止めること。優希に繋げること。宮永先輩や弘世先輩や尭深に今の私の全力を見せること。試合に勝つこと。
 強さ弱さは関係ない。私は今、チーム《幻奏》の一員として、ここにいる。なら、何はともあれ、戦わなきゃ――)

 誠子手牌:一一三六八九78①①西白白 捨て:東 ドラ:四

まこ「」タンッ

 まこ手牌:一二三六七八九1289⑨西 捨て:4 ドラ:四

エイスリン「」タンッ

 エイスリン手牌:2345[5]67①②③③④[⑤] 捨て:⑨ ドラ:四

友香「」タンッ

 友香手牌:11234②④一二二三四白 捨て:① ドラ:四

誠子(鳴ける。たぶんここでズラさないと和了られる。でも……違うんだ。これは偽物――)ツモッ

 誠子手牌:一一三六八九78①①西白白 ツモ:九 ドラ:四

誠子(私は釣る側の人間です。そう易々と釣れると思わないことですね、ウィッシュアート先輩……)タンッ

 誠子手牌:一一三六八九九8①①西白白 捨て:7 ドラ:四

まこ「チー」タンッ

 まこ手牌:一二三六七八九12西/(7)89 捨て:⑨ ドラ:四

エイスリン「」タンッ

 エイスリン手牌:345[5]667①②③③④[⑤] 捨て:2 ドラ:四

友香「」タンッ

 友香手牌:11234②④一二二三四白 捨て:8 ドラ:四

誠子(……戦い続けることは、けれど、とても難しいことだ。私は何度も迷ったり、立ち止まったりしてきた。逃げ出したくなることもあった。でも、だからダメかって言うと、きっと、そうではないんじゃないかな)

 誠子手牌:一一三六八九九8①①西白白 ツモ:九 ドラ:四

誠子(いつもいつも、調子よく釣れるわけじゃない。丸一日ヒットせずに、ただ釣り糸を垂らしているだけで日が暮れるなんてのは、よくあること。でも、その時間は、無為じゃない。無意味じゃない。そう――信じたい)タンッ

 誠子手牌:一一三六八九九九①①西白白 捨て:8 ドラ:四

まこ「」タンッ

 まこ手牌:一二三六七八九12西/(7)89 捨て:七 ドラ:四

エイスリン「」タンッ

 エイスリン手牌:45[5]6677①②③③④[⑤] 捨て:3 ドラ:四

友香「」タンッ

 友香手牌:11234②④二二三四四白 捨て:一 ドラ:四

誠子(おっと……また偽物が釣り針を突いてきた。条件反射で釣り上げたくなる。けど、雑魚に用はないんだ。今は、我慢……)ツモッ

 誠子手牌:一一三六八九九九①①西白白 ツモ:西 ドラ:四

誠子(むぅ。この辺りで……いかがでしょう)タンッ

 誠子手牌:一三六八九九九①①西西白白 捨て:一 ドラ:四

まこ「チー」タンッ

 まこ手牌:一七八九12西/(7)89/(一)二三 捨て:六 ドラ:四

エイスリン「」タンッ

 エイスリン手牌:5[5]6677①②③③④④[⑤] 捨て:4 ドラ:四

友香「」タンッ

 友香手牌:11234②④二二三四四白 捨て:4 ドラ:四

誠子(うまくいってた時期も、そうでなかった時期も、きっと、全てが私の力になってる。そう信じてみよう。戦い続けることは、前に進み続けることは、とても大変なことだから。
 特に、私みたいな一人じゃ何もできない雀士は、開き直るくらいがちょうどいい)

 誠子手牌:一三六八九九九①①西西白白 ツモ:四 ドラ:四

誠子(高ランク雀士は想いを力に変換する。高レベル雀士は論理を力に変換する。なら、そのどちらでもない私は、何を力に換えればいい――?)タンッ

 誠子手牌:三四六八九九九①①西西白白 捨て:一 ドラ:四

まこ「」タンッ

 まこ手牌:一七八九12西/(一)二三/(7)89 捨て:五 ドラ:四

エイスリン「」タンッ

 エイスリン手牌:5[5]6677②②③③④④[⑤] 捨て:① ドラ:四

誠子(……ようやく本物のお出ましかな。このまま出てこないんじゃないかってヒヤヒヤしたけど、待った甲斐があった。よし、うん、あとは、とにかく頑張ろう――)

誠子「それ……ポンですッ!!」ゴッ

エイスリン・まこ・友香「っ!!??」

誠子(待望のポン――!! さあ、大物釣りといこうかッ!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 誠子手牌:三四八九九九西西白白/①(①)① 捨て:六 ドラ:四

エイスリン(……イヤナ、トコデ、ナカレタナ……)

まこ(ふー……)カチャ

 まこ手牌:一七八九12西/(一)二三/(7)89 ツモ:5 ドラ:四

まこ(随分と待たせてくれたのう、《フィッシャー》。わら勝算はあるんじゃろうな……?)タンッ

 まこ手牌:一七八九25西/(一)二三/(7)89 捨て:1 ドラ:四

友香「ポン」

エイスリン(コレハ――?)

友香(お願いしますんでー……亦野先輩ッ!!)タンッ

 友香手牌:234②④二二三四四/1(1)1 捨て:白 ドラ:四

誠子「(任せとけ――なんて強気なことは言えないけど、私なりに精一杯)ポンッ!!」ゴゴッ

 誠子手牌:三四九九九西西/(白)白白/①(①)① 捨て:八 ドラ:四

まこ(こいつも……どうぞ持ってきんさいッ!!)タンッ

 まこ手牌:一五七八九25/(一)二三/(7)89 捨て:西 ドラ:四

誠子「(有難く……!! これでヒット!!)ポンッ!!!」ゴゴゴッ

 誠子手牌:四九九九/西西(西)/(白)白白/①(①)① 捨て:三 ドラ:四

エイスリン(コイツラ……ハジメカラ、グル、カヨ……!!)

誠子・まこ・友香「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン(デンコー、セッカノ、トリオウチ。《フィッシャー》ノ、ノーリョクデ、ワタシノ、《トリック・アート》、ヤブル、ツモリカ? ダガ――)

まこ(ふん……)カチャ

 まこ手牌:一五七八九25/(一)二三/(7)89 ツモ:四 ドラ:四

エイスリン(ゴチャゴチャ、ナイテル、ウチニ、ツモジュン、モトドーリ。
 《フィッシャー》、レベル3、ワタシ、レベル4。イクラ、《フィッシャー》ガ、サンフーロ、シタトコロデ、ツギノ、ワタシノ、アカウーピン、《ウワガキ》、デキナイ)

誠子(わかっていますよ、ウィッシュアート先輩。レベル3の私がいくら能力を発動したところで、レベル4のあなたに掴ませることはできない。あなたの支配に逆らってツモることもできない。
 だから、最初から、能力で勝負するつもりなんてありません)

まこ(頼んだ!)タンッ

誠子「(頼まれた!)カンッ!!」ゴゴゴゴッ

エイスリン(ハ――?)

誠子「」タンッ

 誠子手牌:*/九九九(九)/西西(西)/(白)白白/①(①)① 捨て:四 ドラ:四・③

誠子(私は準決勝で透華と戦っています。レベルが上の全体効果系能力者と対等の立場で捲くり合いをしようと思うなら、その支配領域《テリトリー》の外に手を伸ばさなければいけない。
 この嶺上牌は、あなたには、どうやっても読めない――それはもう透華で証明済みです)

エイスリン(……チッ、ズレタンジャ、ツモレネーワナ)チラッ

誠子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン(《トリック・アート》、ミズビタシニ、シタ、クライデ、オモイアガッテンジャネーゾ、スミレノ、パシリッ!!
 コレガ、トーレバ、ツギデ、ワタシガ、ツモッテ、オワリダ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

誠子(すごい気迫……さすが大能力者《レベル4》。弘世先輩が宮永先輩を倒すために選んだ仲間。《十最》の最高位。一騎当千の《一桁ナンバー》。《夢描く天使》――エイスリン=ウィッシュアート先輩。
 たった一人で他家全員を蹂躙できる、脅威の全体効果系能力者……)

誠子(対して、私はなんだろう。せっかく《発動条件》を満たしたのに、自らそれを放棄した。もはや私は強能力者《レベル3》じゃない。支配力なんてないも同然。ナンバーだって三桁の地味な打ち手。
 わかってる。私自身に大した力なんてないことくらい。私は一人じゃ何もできない。けど、それがどうした——)

誠子(私は一人じゃ戦えない。私は一人じゃ勝てない。私は一人じゃ……私を信じることさえできない。だったら……ッ! もうそれでいいじゃないか!!)

誠子(自信がないなら、私に期待してくれるみんなのことを思い出せばいい!! 力がないなら、色んな人から分けてもらえばいい!! 一対一で勝ち目がないなら、他家に助けてもらえばいい!!)

誠子(私は一人じゃなんにもできない!! 一人じゃろくろく手も進まない!! リーチ一発ツモでカッコよく和了れたりなんかしない!! 知ってるよ!! だから私は誰かの捨て牌を鳴くんじゃないか!!)

誠子(無力で一人じゃなんにもできない私は……!! 人呼んで白糸台の《フィッシャー》!! 誰かの力を自分の力に変換する雀士ッ!! 味方の力は私の力!! 敵の力だって私の力だ!!)

誠子(ウィッシュアート先輩が私の鳴けるところを切ってくれたから、森垣さんと染谷さんが私の手牌を的確に読んでくれたから、私は今、テンパイできて、ウィッシュアート先輩に一発当てるチャンスを掴むことができてる……)

誠子(ここまで来たらあとは簡単だ。天の上にいる誰か――偶然の力を私の力にしてしまえばいい。
 大丈夫。一人じゃなんにもできない私は、一人なんかじゃないんだから。なんとかなるって信じてみる。それが、きっと、私の強さになると思うんだ――)

エイスリン(ダイジョーブ!! ワタシ、ツヨイ!! ナンデモ、デキル!! ダカラ——カツッ!!)タンッ

まこ(どうじゃ……!?)

友香(ここで決められなければ五本場突入でー!!)

誠子(あははっ……なんだかなぁ。本当に……私は、どうしようもなく、弱いや……)フゥ

エイスリン「ッ――!?」

誠子「ロンです。混老対々西白――12000は13200……」

 誠子手牌:⑨/九九九(九)/西西(西)/(白)白白/①(①)① ロン:⑨ ドラ:四・③

誠子(ぜーんぶ他人任せ。自力では何一つできてない。まあ、でも、カッコくらいはつけとこう――)

エイスリン「ヤルジャネーカ……マタノセーコ」ニヤッ

誠子「ええ。私、強いですから」ニヤッ

エイスリン「ミエスイタ、ツヨガリ!! テメェ、タマタマ、チョクゲキ、トッタ、クライデ、チョーシ、ノンナ、カス!!」

誠子「お望みとあらば、二度でも三度でも釣って差し上げますよ?」

エイスリン「ジョートォー!! ワカメ、トモドモ、シズマセルッ!!」ゴッ

誠子(あれ? 言うだけならタダ――と思ったけど、これは高くつくかな……?)ゾワッ

友香(ようやく南入。けど、特に私の置かれている状況が好転したわけではない。どうしたものか……)

まこ(仕切り直しじゃあ。なんとか反撃しちゃるけえ、覚悟しんさい、能力者……!!)

エイスリン「マグレハ、ニドモ、オキネーゼ!! ナンバモ、ワタシガ、アガリ、ツヅケル!! サメネー、アクムヲ、クレテヤラァッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香:99500 誠子:104800 まこ:80700 エイスリン:115000

ご覧いただきありがとうございます。

しばし休憩します。

 南一局・親:友香

友香(この親番でどうにかできれば……と思ったけれど、そもそもどうやってどうにかするんでー?)タンッ

 友香手牌:一三七九②⑥⑨16東南白中 捨て:北 ドラ:②

友香(淡と戦ったときと同じだ。配牌とツモが悪いと、私は何もできなくなってしまう。リーチを掛けられなければ私の能力は使えない。
 たとえリーチができても、終盤に入ってしまえば、私のリーチは限りなく古典確率論的《デジタル》なリーチになってしまう)

友香(それじゃあ、リーチを捨てて副露してみるのはどうでー? でも……染谷先輩や亦野先輩みたいには、今の私にはできないんだろうな。勉強と経験が圧倒的に足りない)

友香(なら、私は一体どうやってこの人に勝てばいい? 姉帯先輩の《先負》とそこそこやりあえたから、四巡目までにリーチできれば、この《騙し絵》を破ることができるかもしれない。
 でも、ウィッシュアート先輩の支配する場では、基本的にウィッシュアート先輩に先んじてテンパイすることはできない。どんなにツモの流れを読んで、牌効率を上げても、出せるスピードには限界がある)

友香(今の私にできること。ダメ元で鳴きを入れてみるか、ダマで手順をアレコレして和了るか、支配の傷を見つけ出してリーチするか。前半は、そのやり方で戦えた。二回戦と同じやり方だ。
 けど、この後半は、ウィッシュアート先輩の能力が進化して、それもできないようになってしまった。焼き鳥まっしぐら。私は、二回戦のときと何も変わってない……)

友香(いや、違うな。私は、向こうで淡に負けたときから、何も変わってない――)

       ――行っくよー、ダブリー!!

友香(《絶対安全圏》で序盤のリーチを封じられた。中盤以降にリーチしても、ランクSの支配力で強引に封殺された。一発目で掴まされることさえあった。私のリーチは、まったく通用しなかった。
 《超新星》の放つ神々しい光の前で、《流星群》の放つ閃光は、あまりにちっぽけで、儚い。数を打っても当たらない。一夜の瞬きが、常世の輝きに叶うはずがないんだ……)

友香(どうしたら……!! どうすれば、私は淡みたいに輝ける――!!?)タンッ

エイスリン「ロンッ!!」ゴッ

友香(あ――)ゾワッ

エイスリン「8000……!!」パラララ

誠子(この速度と手数でその打点かぁ)

まこ(まるで照と打っとるようじゃ……止め方がわからん)

エイスリン「トットト、ツギッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

誠子「では、親番……行かせていただきます」コロコロ

友香(こんな……これじゃ二回戦や準決勝の二の舞じゃないか。でも、私……私は、どうしたら――)

友香:91500 誠子:104800 まこ:80700 エイスリン:123000

 ――《煌星》控え室

淡「ユーカ……!!」アワワワ

咲「淡ちゃん、邪魔、どいて」

淡「でもユーカがー!!」

桃子「はーい、いい子っすから座ってくださいっすー」ワシッ

淡「あーうー……」ズルズル

煌「難しい局面ですね。攻めようとした結果の振り込みですから、それそのものは全く問題ありません。しかし、これで、後には退けなくなりました」

桃子「やられた以上は点棒を取り返さないと、ってことっすよね。その気持ちが焦りにならないといいっすけど……」

     友香『リーチでー!!』

煌「ふむ……」

淡「やっちゃえー、ユーカー!!」

     エイスリン『ツモ、500・1000!!』

桃子「やっぱり引いてくるっすか……」

淡「ユーカは大丈夫なの!?」アワワワ

咲「淡ちゃん、うるさい。五分でいいから息止めて黙ってて」

淡「うむっ!! ……………………ぷはっ!? 苦しいよ!? 五分も息止めてられないよっ!?」

咲「ちっ」

淡「モモコ、サッキーが私を謀殺しようとしてくるー!!」ウワーン

桃子「超新星さんが騒いでるのが悪いっす。でー子さんの今のリーチは、いいリーチだったっす。ツモられたのは仕方ないっすけど、でー子さんは何も間違えてないっす」

淡「えっと……」

煌「友香さんは、この手から赤五萬を切ってリーチしました」カチャカチャ

 友香手牌:三三三四四[五]②③123中中 ツモ:① ドラ:1

煌「ちなみに、そのときのウィッシュアートさんの手牌はこうです」カチャカチャ

 エイスリン手牌:555777③④[⑤]二二二三 ドラ:1

淡「赤を残して両面に受けたら高めに振り込んでた……!!」

煌「左様です。友香さんは、決して焦っているわけではありません。それに、東場では一度も辿り着けなかった門前テンパイに、南場に入ってから二連続で行き着きました。少しずつですが、前進しているのです」

淡「そっか……」

咲「友香ちゃんは淡ちゃんと違って周りが見えてるし慎重だし頭いいしいざとなれば他家と連携だってできる。友香ちゃんの素敵リーチを、淡ちゃんの考えなしダブリーと一緒にしないで」

淡「モモコ先生、サッキーさんはなぜユーカを褒めつつ私を貶そうとするのでしょうか?」

桃子「嶺上さんは色々と素直になれない人なんっす」

咲「桃子ちゃん!? 変なこと言わないで!!」

淡「ふむー?」

咲「と、とにかくっ! 友香ちゃんは大丈夫! 友香ちゃんならできるっ!! 私たちは願ってればいいの!!」

淡「願う……」

煌「友香さんの力は《流星群》――星降る夜に、叶えられない願いはありません。数多の流星《リーチ》に祈りましょう。友香さんの勝利を」

淡「……うんっ、わかった!!」

桃子「でー子さんなら勝ってくれるっす。やってくれるっす!」

咲「当たり前だよ。友香ちゃんは必ず勝つって約束してくれたんだから――」

     友香『リーチでー……ッ!!』

咲(ずっとずっと勝ちたいって願ってきたんでしょ……!! あとちょっとなんだよ、友香ちゃん!! ダメでもいいから……そこから一歩踏み出すことを恐れないでっ!!)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――決勝戦前日・夜

咲「ねー見たー!? あの淡ちゃんの悔しがる顔!! 最高じゃない!? いやー、やっぱ淡ちゃんには涙目が似合うよねー!!」ルンルン

友香「ノーコメントでー」

咲「むー。友香ちゃんももっと毒吐いて生きていこうよっ! 私一人が嫌なやつみたいになるじゃん!」

友香「そう思うなら普通に接すればいいのに……」

咲「やだよ。淡ちゃんって思考が単純だから、普通に仲良くしたら、『あ、サッキーって私のこと好きなんだ!』って勘違いして、超笑顔で抱きついてくるでしょ。鬱陶しいもん、そんなの」

友香「さいでー」

咲「……もしかして、友香ちゃんも、私が実は淡ちゃんのこと好きみたいに思ってる?」

友香「えっ? 違うの?」

咲「違うよッ!! もー、なんなの!? 桃子ちゃんもそうだけどさ!! 私は淡ちゃんなんてこれっぽっちも好きじゃないからね!?」

友香「へ、へえ……」

咲「隙あらばベタベタしてくるとか! お菓子大好きとか! ちょっと好意を見せるとすーぐデレデレ笑ったりとか! 恥ずかしげもなく好き好き言ってきたりとか! あと何より、私と同じくらい麻雀が強いとか!!
 《宮永照の後継者》!! 本当にそう!! 淡ちゃんはお姉ちゃんそっくり!! 無理!! 手一杯!! お姉ちゃん一人でもキツいのに!!」

友香「えっと……咲ってお姉さんに会いに学園都市に来たんじゃなかったっけ?」

咲「そ、それは……////!! その、ほら、テレビでインターハイ見たら! なんかお姉ちゃんがキリッとした真人間になってたからっ!!
 じゃあ会ってもいいかな~って思っちゃっただけ! 実際は何も変わってなかった!! 騙されたよ、ホント!!」

友香「…………」

咲「あっ! 今、私のこと面倒臭いって思ったでしょ!?」

友香「……ごめん」

咲「いやー! 謝らないで!! 心が張り裂けるっ!!」

友香「変な咲……」

咲「私は変じゃないもん……お姉ちゃんのほうが変だもん……」ウルウル

友香「おーおー、よしよし」ナデナデ

咲「えへへ……友香ちゃん、優しい。大好き」ギュ

友香「棚上げ過ぎる……」

咲「何か言ったー?」ギュー

友香「なーんにも」

咲「あー……友香ちゃんとくっついてると安心するー」ギュー

友香「……咲は、私のこと、好きなの?」

咲「好きだよ? なんで?」

友香「あ、いや……。じゃあ、煌先輩は?」

咲「尊敬してる」

友香「桃子は?」

咲「羨ましい」

友香「淡は?」

咲「大嫌い」

友香「ふ、ふーん……」

咲「友香ちゃんは?」

友香「でっ、私?」

咲「煌さんのこと好き?」

友香「もちろん、好きでー」

咲「桃子ちゃんは?」

友香「好き」

咲「私は?」

友香「好き」

咲「淡ちゃんは?」

友香「淡は……複雑」

咲「嫌いなんだ!?」キラキラ

友香「いや、好きか嫌いかで言えば断然好きだよ」

咲「ちぇー」

友香「でも、なんだろう、淡はなぁ……難しいんだ」

咲「向こうにいた頃に何かあった?」

友香「何かっていうか、一言にすると、ボロ負けしただけなんだけど」

咲「相性悪いからねぇ。でも、それなりに善戦したんでしょ?」

友香「あれを善戦と言っていいのか……。確かに、最後まで私は必死になって打ったよ。ダマで回してみたり、鳴いてみたり、あの頃の私なりに、できることはやったつもりでー」

咲「さすがだね」

友香「そうなのかな……」

咲「ん?」

友香「例えばなんだけどさ、咲が、嶺上開花を封じてくる、自分より格上の能力者と戦ったとするよね。それこそ、煌先輩とか」

咲「うん」

友香「そのとき、咲はどうやって戦う?」

咲「まあ……練習だったら、嶺上和了れるまで無限にカンすると思う。っていうか、耐久戦では似たようなことしてたし。
 でも、実戦だったら、取り返しがつかなくなる前にやり方を変えてみるかな。チーム戦ならなおのことそうすると思う」

友香「そうなんだ。ちょっと、意外」

咲「そう? 普通じゃない?」

友香「いや、そこは、意地でも嶺上で和了るって言うのかと思った」

咲「ん? いや、最終的には意地でも嶺上で和了るよ?」

友香「で……? えっと、チーム戦でも?」

咲「当たり前でしょ」

友香「勝算がなくても?」

咲「誤解を恐れずに言えば、うん」

友香「それで、チームが負けることになっても……?」

咲「誤解を恐れずに言えば、うん」

友香「ほー……」

咲「ちなみに、淡ちゃんもそう言うと思うし、そうすると思うよ」

友香「どうして……って聞いてもいい?」

咲「ざっくり言えば、それが私だからかな」

友香「私――」

咲「例えば、それが私の人生の、最期の一局だったとするよね?」

咲「当然、私は、嶺上開花を狙うよ」

咲「あとは、私が負けたらこの星が消し飛ぶみたいな責任重大な一局だったとしても」

咲「私は、嶺上開花を狙うよ」

咲「……まあ、とか言って、実際は全然逆のことするかもしれないけど。昨日の準決勝みたいに。だから、あくまで極論を言えば、って話。思考放棄でも、能力依存でもなくてさ、そういう雀士だから、私って」

咲「なんなら、和ちゃんに同じ質問してみるといいよ。和ちゃんなんか、それで宇宙が滅ぶことになっても、SOAするよ。保証するよ」

友香「……強いね、咲は」

咲「ありがと」

友香「……私は」

咲「ん……?」

友香「私は……どうすればよかったのかな」

咲「と、言いますと?」

友香「格上の能力者が相手で、何度もリーチを掛けて、全部ダメで。だから、あれこれやってみて、ぎりぎり喰らいつくことができて、門前で勝負手が入って――あのとき、私はどうすればよかったのかな……」

咲「……結局、どうしたの?」

友香「ダマにした」

咲「それで?」

友香「和了れた。その局は」

咲「ふんふむ」

友香「で、次の局に、意地でリーチ掛けたら、直後に淡がツモって、他家がトんで、試合に負けた」

咲「難しい状況だったねぇ」

友香「咲なら……どうしてた?」

咲「へ? わかんないよ、そんなの」キョトン

友香「え……?」

咲「だって、私、友香ちゃんじゃないもん」

友香「な、なるほど」

咲「あと、たとえ思考実験だとしても、淡ちゃんごときに追い込まれている私を想像したくない」

友香「さすがの《魔王》様でー……」

咲「っていうのは、まあ、冗談だけど。……あのね、友香ちゃん」

友香「は、はい」

咲「友香ちゃんがどうするのかは、友香ちゃんにしか決められないんだよ」

友香「うん……」

咲「どうありたいか。どうあるべきか。何を信じるか。何を選ぶか。それを決断するのは、最終的に、自分自身。どんな状況でも、それは変わらないよ。
 もちろん、私は、チームメンバーとして、できる限りのことをするつもり。でも、私が友香ちゃんに代わることはできない。その逆も同じ」

友香「……咲は」

咲「うん」

友香「咲は、やっぱり、淡のことが大好きなんだね」

咲「飛躍!? どういうこと!? どんなロジックでそんな結論が出てきたの!!? 三段論法ならぬ三段飛ばし論法だよ!!?」

友香「ごめん……」

咲「なんなの、この、私が淡ちゃんを好きって風潮。とんだ風評被害だよ。虫唾が走るよ」

友香「でも、意識はしてるでしょ?」

咲「そりゃあ、私の意識の八割くらいはどうやって淡ちゃんのプライドをへし折るかに傾けられてるからね」

友香「じゃあ……咲の中で私が占める割合って、最大でも二割くらいなんだ」

咲「……まあ、そういうことになっちゃうのかな」

友香「どうしたら、その割合を増やせる……?」

咲「淡ちゃんと、同じくらい、麻雀が強ければ、かな」

友香「……そっか」

咲「……ごめん」

友香「咲が謝ることじゃないよ。私のほうこそ、変なこと言って、ごめん」

咲「ホントだよ」

友香「……もし、もしも、私が、淡に勝てるくらい強くなったら……?」

咲「うん……?」

友香「そのときは、ちゃんと、私を見てくれる……?」

咲「……うん」

友香「嘘……じゃない、よね?」

咲「私、嘘、つかない」

友香「……わかった」

咲「……私は、真っ直ぐ強い友香ちゃんが、好きだよ……」

友香「ありがとう。私、頑張るよ」

咲「頑張って……あ――」

友香「ん……?」

咲「流れ星……」

友香「でっ? どこどこ?」

咲「もう消えちゃった」

友香「そっかぁ……残念。明日の決勝でみんなの役に立てますようにって、お願いしようと思ったのに」

咲「それなら大丈夫だよ」

友香「なんで?」

咲「私が願っておいたから。友香ちゃんが勝てますように——って」

友香「……ありがと」

咲「いえいえ」

友香「……咲って、嘘、つかないんじゃなくて、つけないんでしょ?」

咲「え——?」

友香「咲、嘘つくと、角が伸びる」

咲「えええっ!?」

友香「でも……嬉しい。とっても」

咲「そ……っか」

友香「……必ず、勝つから」

咲「約束ね」

友香「うん。……ねえ、咲」

咲「なに?」

友香「ちゃんと、私を見てて」

咲「もちろん、見てるよ。一つの見逃しもないように。全部。見てるから」

友香「願ってて」

咲「うんっ! 当然でしょ!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

 南三局・親:まこ

友香(来い……ッ!! くっ――ダメか。ウィッシュアート先輩の生み出すツモの流れに反するところは引けない。能力の強度の次元《レベル》が違うから……それはわかってるけど――!!)タンッ

 西家:森垣友香(煌星・89000)

誠子(リーチを掛けてるのに、森垣さんがツモれない。けど……こればっかりはどうにもな。三回戦の東横さんとウィッシュアート先輩の衝突は異例であって、基本的にレベルの差は覆らないんだから)タンッ

 北家:亦野誠子(幻奏・103800)

まこ(もう鳴けん……引き伸ばすのもこれが限界じゃあ。南無三――)タンッ

 東家:染谷まこ(永代・80200)

エイスリン「ツモ! 400・700!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香「……っ!!」

誠子(これでウィッシュアート先輩の親番。リーチで攻めてきてる森垣さんをアシストしたほうがいいのか。自分で行ったほうがいいのか……)

まこ(森垣のリーチ……この局も通じんかったか。ウィッシュアートの支配する場で門前テンパイするのは大したもんじゃが、レベルが格下じゃけえ、単発の正面衝突じゃと決定打にならんのう。
 リーチ狙いなら、森垣の協力は期待できそうにない。じゃとすると、やはり亦野と連携して止めるしかないか……?)

友香(またリー棒分余計なダメージ。これ以上傷を広げたくないのなら、オーラスは染谷先輩に差し込んだほうがいいのかな。いや、でも――)

友香(咲と約束したんだ。勝ってみせる。超えてみせる。ウィッシュアート先輩も、淡も、何もかもッ!!)

エイスリン「イクゼ、オーラス!! アンシン、シロ!! アガリヤメハ、シネーカラ!! ツヅケルッ!! イキノネヲ、トメルマデ!!!」ゴッ

友香(願いを、力に換えてやる……っ!!)

友香:88600 誠子:103400 まこ:79500 エイスリン:128500

 南四局・親:エイスリン

友香(オーラス……集中して行こう)スゥ

 友香手牌:447③⑥三五六七西北白中 ツモ:4 ドラ:⑧

友香(いきなり対子が暗刻になった。縦に重なる場って考えていいのかな。なら、オタ風だけど、字牌は残しておいたほうがよさそう)タンッ

 友香手牌:444③⑥三五六七西北白中 捨て:7 ドラ:⑧

誠子「」タンッ

まこ「」タンッ

エイスリン「」タンッ

友香(よし、読み通りでー!)タンッ

 友香手牌:444③⑥五六七西北北白中 捨て:三 ドラ:⑧

誠子「」タンッ

まこ「」タンッ

エイスリン「」タンッ

友香(いい感じでー。でも、ウィッシュアート先輩はもっといい感じなんだよね……)タンッ

 友香手牌:444③⑥五六七西西北北中 捨て:白 ドラ:⑧

誠子「」タンッ

まこ「」タンッ

エイスリン「」タンッ

友香(十分重ねさせてもらった。これ以上は欲張らずに、っと――)タンッ

 友香手牌:444③⑥五六七西西西北北 捨て:中 ドラ:⑧

まこ「ポン!」タンッ

エイスリン「」タンッ

友香(これで、また変わるかな……?)

 友香手牌:444③⑥五六七西西西北北 ツモ:1 ドラ:⑧

友香(端に近いところ。一筒が来てくれればテンパイなんだけど)タンッ

 友香手牌:1444③五六七西西西北北 捨て:⑥ ドラ:⑧

誠子「」タンッ

まこ「」タンッ

エイスリン「」タンッ

友香(そう都合よくはいかないか。でも、悪くない。八萬が入ってくれば四・七萬待ち。そこから横に伸びる場になれば、今度こそツモれるかも)タンッ

 友香手牌:1444五六七九西西西北北 捨て:③ ドラ:⑧

誠子「」タンッ

まこ「」タンッ

エイスリン「」タンッ

友香(……っと、重なった)

 友香手牌:1444五六七九西西西北北 ツモ:1 ドラ:⑧

友香(北は一枚切れ、一索はまだ見えてない。和了り牌はあと三枚、か。どうする? 八萬が入るのを待つ? いや、端場が続く保証もない。たぶんだけど、そろそろ染谷先輩が鳴きそうな気がするし)

友香(……能力を使うときに、迷いは禁物。信じること。強く想うこと。願いが論理を通して確率に干渉する――それが私の流星群《オカルト》)

       ——私が願っておいたから。友香ちゃんが勝てますように——って

友香(咲だって願ってくれてる。なら、何を迷うことがある!! 数多の流星に願いを込めて……!! 行け、私ッ!! )

友香「リーチでー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 友香手牌:11444五六七西西西北北 捨て:九 ドラ:⑧

誠子(7三白中⑥③九——すごい手順で切ってるなぁ。待ちはあんまり良くなさそうだけど、場の変化に対応できているからこそ、門前テンパイまで辿り着けてる。さて、どうなるか――)タンッ

まこ「チー!!」タンッ

友香(――!!?)ゾワッ

まこ(すまんの、森垣。こうせんと親が和了ってしまうんじゃ……)カチャ

エイスリン「」タンッ

友香(ここでウィッシュアート先輩のツモが回ってくるのか!? 掴まされる可能性もある……!! どうにか《上書き》を!!)ゴッ

 友香手牌:11444五六七西西西北北 ツモ:① ドラ:⑧

友香(っ……!! いや、これは……ウィッシュアート先輩が直前に切ってる。染谷先輩が鳴かなければ、きっとこの一筒で和了られてたんだ。
 ウィッシュアート先輩が、私が一筒を掴まされるのをわかってて手替わりしたのは、役ナシ手だったからなのか、それとも、私のリーチとは無関係にツモるつもりだからなのか……)タンッ

 友香手牌:11444五六七西西西北北 捨て:① ドラ:⑧

友香(これで、たぶん、端場は終わった。でも、字牌が流れてくる場とか、ツモが一色に偏る場になれば、まだ勝機は――)ツモッ

 友香手牌:11444五六七西西西北北 ツモ:四 ドラ:⑧

友香(……!? 横に伸びる場……か!!)タンッ

 友香手牌:11444五六七西西西北北 捨て:四 ドラ:⑧

友香(どうして……どうしてツモれない!? 支配を一点突破できるのが自牌干渉系の強みじゃないの!?
 いや、そうだ! ウィッシュアート先輩はレベル4だけどランクSじゃない! ランクは互角のはずでー……!! なら、確率干渉力で能力に補正を掛ければ……!! 今度こそ――)ツモッ

 友香手牌:11444五六七西西西北北 ツモ:3 ドラ:⑧

友香(~~~~っ!!? なんで!? 何が足りない……!! 淡のダブリーなら!! 咲の嶺上開花なら!! この支配をきっと突破できる!! なのに……どうして私のリーチにはそれができない……!?)タンッ

 友香手牌:11444五六七西西西北北 捨て:3 ドラ:⑧

誠子(くっ……)タンッ

まこ(……終いじゃあ)タンッ

エイスリン「ツモ、500オールッ!!」パラララ

友香(どう……して――)クラッ

エイスリン「レンチャン、ゾッコウ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(勝てないのか? レベルの差は超えられないのか? 強能力者《レベル3》は大能力者《レベル4》に敵わない――それは能力論の大原則だけど……)

友香(じゃあ、私はウィッシュアート先輩に一生敵わないの? 淡にも? 咲にも? そんな……だって、私の《流星群》は叶える力なのに――叶わない願いはないはずなのに……)

友香(点棒……こんなに減らしちゃった。三局連続リーチ。全部不発の無駄打ち。私だけの点棒じゃないのに……私が弱いから——)

      ――ツモッ! ダブリーツモ……裏四、3100・6100!!

友香(本当に何も変わってない。淡に負けたあのときから、ずっと、淡に勝ちたくて、頑張って、頑張って頑張って頑張って――なのに、最終的に突き当たるのは同じ壁……次元《レベル》の差)

友香(リーチ使いがダブリー使いに勝とうとするのが間違ってるのかな。私はこれからもずっと淡に負け続けるのかな。
 もちろん、打ち回しの技術は上がってる。ダマなり鳴きなり、工夫をすればいい勝負が出来ると思う。でも、正面切って、想いと想いをぶつけ合ったら……負けるのは私なんだ。麻雀も、プライベートも――)

       ——……ごめん。

友香(やだ……っ!! 嫌だっ!! 負けたくない!! 勝ちたい!! ちゃんと私の想いを受け取ってほしいっ!! この願いだけは譲りたくない……!! 私は――淡に勝つんだッ!!)

               ——天敵って、敵だから天敵なんだよ。

   ——味方にしちゃえば……むしろ無敵だよっ!!

友香(そうでー……何も変わってないことなんてない。あの頃は天敵だった淡が今は味方にいる。桃子がいる。煌先輩がいる。そして、咲が見てる……)

友香(私一人じゃ、あのときみたいに、ここで折れてた。その弱さは変わってない。でも、今は支えてくれる人がいる。見守ってくれている人がいる。一緒に願ってくれる大切な仲間がいる)

友香(どうありたいか。どうあるべきか。何を信じるか。何を選ぶか。次の一局で決めるんだ。みんなからはたくさんの力をもらってる。あとは、決めるだけ――)

       ——……私は、真っ直ぐ強い友香ちゃんが、好きだよ……。

友香(見ててね、咲! 私、頑張るから……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香:87100 誠子:102900 まこ:79000 エイスリン:131000

 南四局一本場・親:エイスリン

友香(ヒントはある。さっきのウィッシュアート先輩の見逃し。こちらの手牌にまで干渉してくる全体効果系能力者のウィッシュアート先輩なら、次巡で私が掴まされるのを分かっていたはずなんだ。
 なのに、先輩は、手替わりして自らツモることを選んだ。一筒待ちのままでツモ切りリーチを掛けていれば、一発で私から直撃を取れたのに)

友香(咲と淡にも似たような傾向がある。二人は槓材+役ナシの手を好んで作るけど、それはなぜなのか。
 役の組み合わせはたくさんあって、それを可能にするだけの支配力を、あの二人は持っているはずなんだ。なのに、咲は嶺上開花のみで和了り、淡はダブリーのみ以外のダブリーをしない)

友香(それが自身の弱点になりうると知りながら、能力者は敢えて非効率なことをする。咲も淡も、それが原因で準決勝は大苦戦した。咲は槓材を流されて、淡はカン裏を封じられて。
 槓材を流されれば、嶺上のみの手なんてなんの役にも立たなくなる。カン裏が乗らなければ、ダブリーのみの淡はツモ三翻が火力の上限になってしまう。
 それはそういうものだから――と思って、あまり気にしていなかったけれど、これって、実はとても重要なことなんじゃないだろうか)

友香(つまり、強度の高い能力を発現している人たちは、能力を使う以外の選択肢を、端から考慮に入れていない……)

友香(淡の能力を、桃子は途中までダマで進めて角が来たらカンしてリーチすればいい……なんて言ってたけれど、それは、できるかどうかは別として、淡自身ではどうやっても出てこない発想なんだと思う)

友香(大能力者《レベル4》全般に見られる傾向――それは、能力への強い拘り。ありとあらゆる選択肢を平等に天秤にかけられる無能力者とは真逆。
 能力は《意識の偏り》であり、自身を決定する『型』であり、自分の根幹をなす論理。この次鋒戦のウィッシュアート先輩なんてまさにそうじゃないか)

友香(前半戦、ウィッシュアート先輩は、染谷先輩に《一枚絵》を破られて、焼き鳥になった。それに対する先輩の解答は——『《一枚絵》がダメなら《騙し絵》を描けばいい』。
 能力を使わないという選択肢もあった。実際、何度かそれで打ってた。でも、最終的に能力を捨てることはしなかった。まさに執念でー)

友香(決断とは断絶を決意すること。強い能力者は能力以外の選択肢を取れないから隙がある――っていうのは、レベル0側の考え方だけど。
 でも、能力者側から見ると、それは違った意味を持ってくるんじゃないかな。隙ができることを承知で能力以外の選択肢を取らない。だからこそ、能力者は強くあることができる――とか)

友香(多くの可能性と引き換えに手に入れる力。他の全てを擲って、たった一つを選ぶ決断。その覚悟の強さが……能力者の格を決めているのだとしたら……?)

友香(私は、能力を選択肢の一つとして戦う能力者が、強い雀士だと思ってる。それは正しいと思う。
 けど、そのステージに立つためには、一度、能力以外の選択肢を全て捨てなくちゃいけないのかもしれない。
 その上で、一度捨てた選択肢を、拾い集める。いつか、その拾い集めた選択肢を再び手放すことになるかもしれないのを、覚悟の上で)

友香(あれもこれもじゃダメなんだ。咲や淡と対等になるためには、決断しなきゃいけない。あれだけこれだけ。私だけの私。私らしい私。咲が好きだと言ってくれた――真っ直ぐ強い私)

友香(私の四巡以内リーチがレベル4相当の強度を持つのも、この理屈なのかもしれない。
 四巡以内にテンパイするときの私は、ダブリーなんかそのものそうだけど、リーチ以外の選択肢をほとんど考えずにテンパイに辿り着く。
 真っ直ぐ手を進めてリーチ——その迷いのなさこそが、私の《流星群》の強度を決めている……)

友香(決断するんだ。リーチ以外の選択肢は要らない。リーチ以外の手役も要らない。どんなに配牌が悪くても、ツモが悪くても、状況が悪くても、巡目がいくら回っても、リーチ以外には何も要らない。
 回り道を探すな。逃げ道を探すな。戦え。ぶつかれ。真っ直ぐ進め。たとえ次元《レベル》の壁が私の行く手を阻んでも……!!
 だって!! この壁の向こうで待ってる……!! 淡が!! 咲が!!)

友香(レベル4のウィッシュアート先輩が支配する《騙し絵》の世界。この世界でリーチ和了をものにしたとき、私はきっと大能力者《レベル4》になってる。
 とんでもない《制約》がつくかもしれない。《発動条件》が無闇に厳しくなるかもしれない。
 それでもいい。今は勝ち以外要らない。他の全てを捨てることになっても構わない。世界を塗り替えろ。限界を踏み倒せ。障害を打ち破れ。私も、淡や咲のように……強く――!!)ゴッ

 友香手牌:一二三四四五⑤⑤西西西白白 ツモ:三 ドラ:⑧

友香(淡に負けたあのときに、私は一度、折れた。勝ちたい願いをリーチに込めるっていう、私の根幹を曲げた。
 それは雀士としては正しかったのかもしれない。でも、能力者としては、やっちゃいけないことだったんだと思う)

友香(あくまで能力で勝つことを選んだウィッシュアート先輩に、能力戦で正面から挑もうとするなら、私も、私の能力を、心の底から信じてあげなくちゃダメだ。覚悟を決めろ、私……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ・誠子「ッ――!!?」ゾワッ

エイスリン(ナンダ、コノ……カンジハ――?)ビリッ

友香(夜空に流れる星の軌跡のように、私は真っ直ぐ強くなる。それが私の《流星群》。もう二度と、私は私を曲げない。この想いを曲げたくない。だから、そう……私が曲げるのは――リーチ宣言牌だけッ!!)

友香「リーチでー!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 友香手牌:二三三四四五⑤⑤西西西白白 捨て:一 ドラ:⑧

誠子(四度目のリーチ……!! このプレッシャーは……けど、今までの森垣さんのリーチや、それに、灼の筒子待ちリーチとは違う感じがする。私と同じ強能力者《レベル3》の気迫じゃない。
 それこそ、弘世先輩の《シャープシュート》や、竹井先輩の《悪待ち》、それに、小瀬川先輩の《マヨヒガ》のような……!
 ウィッシュアート先輩の連荘は止めたい……かといって、今の森垣さんに素直にツモらせるのはかなり危険だよね。だとしたら、ここは、こういうのも、一つの手かも――)タンッ

 誠子手牌:************* 捨て:白 ドラ:⑧

友香(一発目で差し込み――!!? これは……けど、これを和了ってしまったら、三回戦で清水谷先輩に差し込んでもらったときから何も成長してないことになる。
 それに、この強烈な違和感。ダメなんだ。ここで出和了りを選ぶのは、私の根幹にある想いと食い違う。ここで決断を曲げてしまったら、対局は終わるけれど、私の願いは叶わない。
 ごめんなさい、亦野先輩。それは全力で見逃します……ッ!!)

誠子(ええっ!? 和了らないの!?)

まこ(こりゃあ……いくら待っても意思は変わりそうにないのう。まあ、それくらい気骨のある能力者のほうが、こっちも打ってて楽しいけえ、大歓迎じゃが)ツモッ

まこ(対子場、字牌場と来て、トドメの一色場。ここまで一つも鳴きは入っちょらん。欲しい牌を手に入れるために場を好き勝手コントロールしよって。ほんに化け物じゃのう、この天使様は。
 しかし、どうしたもんかのう、この手牌。ま、明らかに誘いじゃが、ここまで来たら行けるところまで行っちゃる……)タンッ

エイスリン(《リューセーグン》ノ、リーチ。マルデ、トヨネノ、《ソガイ》、クラッテル、ミテーダナ……)タンッ

まこ「ポンじゃ!!」

 まこ手牌:***********/66(6) 捨て:? ドラ:⑧

エイスリン(……ナイタナ?)ニヤッ

まこ(ふう……脊髄反射で鳴かずにはいられんかったが、こりゃあどう考えても罠じゃろな。
 満月の夜の衣を思い出すのう。朱に交われば赤くなる――か。わら、塞から聞いてたんと違うて、すっかり悪の道に染まったようじゃの。なんちゅうか、参った。わしの負けじゃ)フゥ

まこ(ほいたら、ええもん見せてもらった礼じゃあ。この無様な光景を胸に刻んでおけ……能力者ッ!!)タンッ

 まこ手牌:**********/66(6) 捨て:3 ドラ:⑧

エイスリン(ハ――? ナンデダヨ……!!?)ゾクッ

まこ(わしゃあ顔無し形無しの無能力者。わりゃあらと違って《制約》もない。譲れない想いも、曲げられない信念もない。じゃけえ確率には干渉できん。じゃが、それゆえに、こういうことも平気でできるんじゃ)ニヤッ

エイスリン(ソレナラ、ベツニ、ツモル、ダケダ!! ゼンイン、マトメテ、ブットビヤガレ……!!)ゴッ

誠子(どうだ……!?)

まこ(いやぁ……無理じゃて。わらツモれんよ。わしが鳴いたことで、われんとこには森垣の一発目が行く。さっきまでなら話は違ったかもしれん。じゃが、今の森垣は……あれじゃ、面構えが変わった)

エイスリン(マサカ!? 《リューセーグン》、レベル3!! ワタシ、レベル4!! ナンデ、《ウワガキ》、デキナイ……!!?)タンッ

誠子(ツモ切りの白……!?)

まこ(特大級の星を降らせちゃれ、森垣ッ!!)

友香(和了り牌四枚のうち二枚が切られた! 一発も消えた!! それでも……!! 和了るッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン(ナニカ、クル――!?)ゾワッ

友香「カンッ!!」ゴッ

 友香手牌:二三三四四五⑤⑤白白/西西西西 嶺上ツモ:? ドラ:⑧・九

誠子(ツモが萬子か筒子か索子のどれか一色に偏る流れだったのに、そうなってない!? ウィッシュアート先輩が掴まされた一発も字牌の白だった——これってつまり、自牌干渉系の森垣さんが、全体効果系であるウィッシュアート先輩の支配を、《発動条件》の成立によって一点突破したってことになるんだから……)

まこ(格上の能力者相手に、打ち方を工夫して戦うんじゃなく、次元《レベル》の壁のほうを壊して勝ちにいく、か。実に能力者らしい答えじゃのう。こりゃあ真似できんわ)

エイスリン(ワタシノ、《トリック・アート》、《ムコーカ》!? 《テリトリー》ノ、《サイコーホー》ヲ、《ウワガキ》……!? ソンナ、コトガ、デキルノハ――)

友香(レベル4以上の能力者くらいでしょうね……!! 嶺上牌の《上書き》はダブリーのときにしかできなかった!! いつでも自由にできる咲との間には確かに壁があった!!)

友香(でも、そんな壁……もうどこにもない!! これでやっと追い駆けることができる!! この道を――どこまでも真っ直ぐにッ!!)

友香「ツモッ!! リーチ嶺上開花ツモ赤一……!!」パラララ

誠子(良かった! 思ってたより高くない……!!)ホッ

エイスリン(ビ、ビビラセンナヨー!!)ドキドキ

まこ(さあて、そりゃどうかの――)ゾクッ

友香「裏四――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

誠子・エイスリン(カン裏(ウラ)ー!?)ゾゾゾッ

友香「4000・8000は……4100・8100でーッ!!」

 友香手牌:二三三四四五⑤⑤白白/西西西西 嶺上ツモ:[⑤] ドラ:⑧・九・八・西

『次鋒戦終了おおおおー!! 前半戦は《永代》染谷まこ、後半戦は《劫初》エイスリン=ウィッシュアートが場をリードするも大差がつくには至らず!!
 チーム得点では、トップ《劫初》が他チームとの差を若干広げる結果となりましたあああ!!』

誠子(《煌星》に抜かれたかぁ。あーもーどうして私は……って、やめやめ。結果は結果。これも私だ。毅然としていよう。
 プラスで繋ぐことはできなかったけど、それ以外の余計なマイナス要素を優希に押し付けるわけにはいかない。胸を張れ……私っ!)

 三位:亦野誠子・−4100(幻奏・98800)

友香(っしゃああああああ!! 淡!! どうだ見たことかでー!! これでもうあなたは私の天敵じゃないっ!! これからは対等な好敵《ライバル》!! 麻雀も、プライベートも、負ける気ないんでー、よろっ!!)

 二位:森垣友香・+1700(煌星・103400)

まこ(白を和了り拒否して赤五筒をツモったんか。純白の淡雪を掴むより、真紅の花を咲かせることを選んだ、とでも言うべきかの。それに、森垣以外の手牌――)カチャ

 まこ手牌:1223388發發發/66(6) ドラ:⑧・九

 エイスリン手牌:1155777999中中中 ドラ:⑧・九

 誠子手牌:②②④④⑧⑧⑧東東南南北北 ドラ:⑧・九

まこ(緑に紅に黒――よくもまあこんな絵を描いたもんじゃ。まさに極彩色の夢。あやうく惑わされるとこじゃった。よりにもよって、わしの一番好きな役満を餌に使ってくるとはの。
 よっぽど夢を見たくなったが……わしゃあ絵に描かれたモチに手を出す趣味はないけえ。いつか、自力でモノにしちゃる……)フゥ

まこ(じいちゃん……見ちょるか? 世界には、こんなとんでもない景色を狙って描ける人間がおるらしい。そんなやつに、人の助けを借りて立ち向かうやつやら、正面から真っ直ぐ勝ちにいくやつものう。
 まあ、けど、できることなら、もうちょっとだけ付き合うてくれんか。今回は無様に散ったけえ、わしゃ納得いっとらん。
 次こそは、わしが勝っちょる景色を見せちゃる。わしの一番好きな役満を和了っちょるとこを見せちゃるけえの。
 まだまだ。本当の《頂点》はこんなもんじゃない。求めていけば、もっと素晴らしい景色があるはずじゃ。今回のでそれがようわかった。
 じゃけえ、そのときまで……もう少し、よろしくの、じいちゃん――)カチャ

 四位:染谷まこ・−3300(永代・74900)

エイスリン(トリマ、コーハンハ、《サイタ》ノ、メンモク、タテタダロ。ケド……ダー!! アガリタリネー!! エガキタリネー!! テンボウガ、タリネーゾー!!)

 一位:エイスリン=ウィッシュアート・+5700(劫初・122900)

>>740

 四位:亦野誠子・−4100(幻奏・98800)

 三位:染谷まこ・−3300(永代・74900)

 ――――

優希「お疲れ様だじぇ!」

誠子「出迎えありがとう。ごめんね、三位になっちゃったよ」

優希「なんの! 誠子先輩がいなかったらお絵かきお姉さんがもっと独走してたじょ。この点差なら東初でひっくり返せる。あとは私にお任せあれだじぇ!!」

誠子「なんていうか、優希って絵に描いたようにいい後輩だね……」シミジミ

優希「誰と比較しているのか?」

誠子「わかんないけど、なんかこの、先輩として立ててもらえる感じ……これ、すごく、いい……///」

優希「私は別に先輩なら誰でも立てるわけじゃなく、誠子先輩だからこそなんだじぇ?」

誠子「やめて……!! これ以上私に優しくしないで……!! なんかダメになる気がするっ!!」

優希「む、難しいじぇ……」

誠子「ああ、私……いいのかな、こんなにいい後輩といい先輩に囲まれて……」

優希「誠子先輩がいい人だから、自然と周りにそういう人が集まるんだじょ」

誠子「ぐはーっ!! 嬉しいこと言わないで!! 泣いちゃう……!!」

優希「なんか今日の誠子先輩はいつになくハイだじぇ……」

誠子「ごめん、ちょっと、まだ対局の熱が冷めてないみたい」

優希「熱戦だったからなっ!」

誠子「ありがと……。優希のほうは、どう? 中堅戦、自信のほどは」

優希「正直に言うと……かなり微妙だじょ。シズちゃんと咲ちゃんには一回負けてるし、天江先輩は去年の最多得点記録保持者。というか、こんな化け物卓に私をぶち込むとは、やえお姉さん容赦なさ過ぎだじょ」

誠子「それだけ期待されてるってことだよ」

優希「できる限り応えるつもりではいるじぇ。セーラお兄さんと誠子先輩から受け取ったバトン――きっちりネリちゃんに繋いでみせる」

誠子「うん。大丈夫、優希ならきっとできるよ。優希は強いもん」

優希「そう言ってもらえるとだじぇ///」

誠子「応援してるから。困ったら、私たちのこと思い出して。優希は一人じゃないから。それに、いっぱいいっぱい練習したし」

優希「うん……頑張ってみるじょ!」

誠子「なんか、月並みなことしか言えなくてごめんね」

優希「何をおっしゃるじぇ! 誠子先輩の有難いお言葉のおかげで勇気百倍だじょ!!」キラキラ

誠子「はうぅぅぅ……!! 優希……私たち、もう一緒にいないほうがいいのかもしれない……!!」

優希「このタイミングでフラれるとは思ってなかったじぇ」

誠子「ごめん……優希、私そろそろ控え室に行くね。これ以上優希と二人きりだと……あらぬ気を起こしそう……」

優希「よくわからないが、誠子先輩が相手なら、私は別に何をされても嫌がらないじょ?」

誠子「優希……!! 私は優希のこれからの学園都市生活が心配だよ……っ!! 変な先輩に捕まっちゃダメだよ!!」

優希「この数ヶ月で出会った上級生の中では今の誠子先輩が断トツで変だじょ……」

誠子「ま、まあ、何はともあれ、行ってらっしゃい」

優希「応っ!! 誠子先輩のカタキは、私が必ず取ってくるじぇ!!」ババーン

誠子「優希いいい!!! もう我慢の限界!! お前って本当に可愛いなあああああ!! ほっぺたもにもにさせろー!!」ガバッ

優希「じょおおおお!? どうした誠子先輩!? ご乱心か!? ちょ、ほわわわわわ!!」

 ワーワー ギャーギャー

 ――――

穏乃「お疲れ様です!」

まこ「すまんのう、こっぴどくやられたわ」

穏乃「ウィッシュアートさんの《騙し絵》はさすがに相性が悪過ぎましたね」

まこ「本当は難なく勝てる予定じゃったんじゃが……まさか能力を進化させてくるとは思っちょらんかった」

穏乃「けど、あの後半戦、和了率80パーセント超のウィッシュアート先輩の稼ぎが常識の範囲内に収まったのは、どこからどう見てもまこさんの成果です」

まこ「ジタバタしてなんぼじゃけえの、無能力者なんてのは」

穏乃「見たいとおっしゃっていた景色は、見れましたか?」

まこ「ほうじゃのう……オーラスは確かにこの上ない景色じゃった。絶景じゃあ。感動したわ。
 じゃが……他人に見せられているようじゃ、わしもまだまだ。せっかくじゃけえ、もっと上を目指してみようと思う」

穏乃「……なるほど。では、ますます負けられませんね。一軍《レギュラー》になって、《頂点》に居座って、一緒にたくさんの素敵な景色を見ましょうっ!!」

まこ「楽しそうじゃのう、穏乃」

穏乃「はいっ! それはもう!!」ウキウキ

まこ「わりゃあ頼もし過ぎるのう……」

穏乃「だってこれから麻雀を打つんですよ!? しかもすっごく強い人たちと!! 楽しくないわけがありません!!」

まこ「わしゃあ天江と打つアレを麻雀じゃと思ったことはないんじゃが……」

穏乃「その点は大丈夫です。なんと言っても私、ジョーカー殺しの名を売り込んでここにいるわけですからっ!!」

まこ「照の妹のほうも、問題ないんか?」

穏乃「照さんからいただけるだけの情報はいただきました。あとは、やってみるだけですね」

まこ「《東風の神》は?」

穏乃「もう三回戦の頃の優希ではなさそうなので、これもやってみないとわかりません。何はともあれ、全力で迎え撃ちます」

まこ「ほいじゃあ、もう、わしが言うことはなんもないかの」

穏乃「そんなことありませんっ! 頑張れって言ってほしいです!! あと、ぜひぜひ頭を撫でていただけると!!」

まこ「っとにわりゃあ……よしっ! 頑張りんさい!!」ワシャワシャ

穏乃「にゅううう……ありがとうございますッ!!」

まこ「あとは頼むの、山の主様よ」

穏乃「お任せあれ!!」ゴッ

 ――《煌星》控え室

桃子「おおおおお!! でー子さんやりやがったっす!! まさか対局中にレベルアップするなんて!! 見せ付けてくれるっすねー!!」ヒャッハー

咲・淡「」ポカーン

 ガチャ

友香「たっだいまでーっ!!」ゴッ

咲・淡「ごめんなさい」

友香「帰ってきた途端に謝られたー!?」ガビーン

咲「ごめんね友香ちゃん私もう《魔王》なんて名乗ったりしないよむしろ友香ちゃんに《魔王》の称号あげるよ私なんて配下でいいよすいませんすいません麻雀楽しませてすいません……」ブツブツ

淡「ごめんねユーカ私もうユーカの天敵なんて大それたこと言わないよむしろユーカが私の天敵でいいよ私なんて獲物でいいよすいませんすいません《二大巨星》とか並び称されてすいません……」ブツブツ

友香「こ、これは一体……」ゾワッ

煌「お疲れ様です、友香さん。桃子さんに引き続き、文句なしの100すばらですよ」

友香「ありがとうございます、煌先輩っ!! えっと、ところで、淡と咲は何事があったんでしょうか……?」チラッ

咲・淡「っ……!!」ビクッ

煌「わかりかねますが、オーラスで友香さんが嶺上開花を決めてカン裏を乗せたらこうなりました」

桃子「支配領域《テリトリー》が脅かされて気が気じゃないんだと思うっす。ほら、でー子さん、前に練習でダブリー嶺上カン裏決めたときあったじゃないっすか。あれと同じっす」

友香「あー……そう言えば、しばらく寄り付いてもらえなかったような。そっか、今の私はレベル4だから、何巡目でリーチしても、槓材さえあれば咲と淡を同時に制圧できるのか……」

淡「ユーカ様ー!! カン裏だけは!! カン裏だけはお見逃しをー!!」ウワーン

咲「友香お姉魔王さま!! 嶺上だけは!! 嶺上だけはご堪忍をー!!」ウルウル

友香「あははっ! やなこったでー!!」ニコニコ

淡・咲「そんなあああああ……!!」

友香「ふっふっふ。今まで散々ボコボコにされた借りを、ついに返すときが来たようでー……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「ユ、ユーカ! やるならサッキーをとっちめるといいと思うんだ!! ほら、サッキーってばユーカのこと配下扱いしたり麻雀楽しませたりしてたじゃん!! 私でよければ協力するからっ!!」

咲「友香お姉さま!! やるなら淡ちゃんをボッコボコにすればいいと思うんだ!! ほら、淡ちゃんの涙目ってそそるでしょ!? 漏れるでしょ!? 昨日までの天敵を明日から食い物にできるなんて最高のシチュでしょ!?」

友香「んー、私的には、どうせなら二人まとめておいしくいただきたいかなぁ」ジュルリ

淡・咲「あわわわわ……!!」カタカタカタカタ

友香「なーんちゃって!」ガバッ

淡・咲「ふほぁっ!!?」

友香「ありがとう……淡、咲。二人がいたから、私、頑張れた……」ギュー

淡・咲「ユーカ(友香ちゃん)……」

友香「それで、例の、勝負の件なんだけどね」

咲「あっ、それならもちろん友香お姉さまの――」

友香「もうちょっと、判定を待ってほしい」

咲「……友香ちゃん?」

友香「私はまだ、二人と同じステージに立っただけ。やっとスタート地点に立っただけ。
 だから、ゴールはもう少し先でいい。私は今に満足したくない。ちゃんと、肩を並べるところまで進んで……それから、選んでほしいかな、って」

咲「……うん。わかった。友香ちゃんがそうしたいなら、私、待ってる」

友香「ちゃんと追いつくから、安心して」

咲「願ってるよ。そのときが来るまで」

友香「ありがと……というわけで、淡!」

淡「ひょあ! なにかな!?」

友香「私と淡の勝負は、これからが本番でーッ!!」

淡「お、おう!! よくわかんないけど、勝負と名のつくものなら受けて立つっ!!」

友香「まずはガチ勝負からかな! 一軍《レギュラー》になってからインターハイまでの間に、いい加減はっきりきっちり一人に決めるんでー! 《煌星》のエースが誰なのか!?」

淡「ほほう……? なんだか、大能力者《レベル4》になったからって調子に乗って言いたい放題三昧じゃないかね、ユーカくん」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「そうだね……ここまで堂々と喧嘩を売られたからには、買わないと《魔王》の名が廃っちゃうよ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香「望むところ……!! 二人まとめて相手にしちゃったりするから覚悟しろでー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子「じゃあ、まあ、私は隅っこのほうで大人しくしてるっす。ただ、別にオリるつもりはないんで、闇討ちされても文句言わないでくださいっすよ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「皆さん、お楽しみのところ申し訳ありませんが、まだ試合中ですよ?」

淡・咲・友香・桃子「はーい♪」

煌「さて、咲さん。調子のほどはいかがですか?」

咲「今すぐ脱ぎたいです!!」

友香・桃子「え……?」ドキッ

淡「うわー、サッキーってば破廉恥さんなんだー!!」

咲「どういうこと!? ってか、耐久戦のときからいっつも脱いでたでしょ!?」

友香「咲……? そういう趣味が?」

桃子「嶺上さん……? これ、カメラで中継されてるっすよ?」

咲「……っ////// ち、ちが、そういう意味じゃないから!!」

淡「聞いてくださいよ、モモコさん、ユーカさん。サッキーってばね、私とキラメと打ってると、興奮してすーぐ脱ぎたがるの!!」

友香・桃子「わー//////」

咲「誤解!! じゃーもー、わかった、ここで脱ぐ!!」ヌギッ

煌「おやおや」

咲「はいっ! こういうこと!!」ハダーシ

友香・桃子「靴下……」

煌「そのまま対局室へ?」

咲「もうなんかそういう気分になってきました。床、綺麗なんで、いいかなって」ペタペタ

煌「いけませんよ。ささ、靴下を履き直してください」

咲「え? あ、はい……わかりました」ハキハキ

淡「ん〜? 最初からスーパー《魔王》モードでよくなーい?」ウネウネ

煌「切り札はぎりぎりまで取っておくものです」

咲「煌さんのそういうところ、尊敬してます。煌さんと巡り合うことができて……私、本当によかったです」

煌「光栄です」

咲「というわけで、そんな煌さんに、私と巡り合えてよかったって、思っていただけるよう、全力で頑張ってきます」

煌「ありがとうございます。心から、ご健闘をお祈りしていますよ」

咲「任せてください。全部……ゴッ倒しますッ!!」ゴッ

 ――《劫初》控え室

衣「さて! 衣の出番だなっ!!」ピョン

エイスリン「ワタシノ、ブンマデ、トバシチマエー!!」

憩「気いつけてや、衣ちゃん。相手みんなそこそこやるでー?」

智葉「ま、好きなように打ってこい」

衣「あいわかった!!」

菫「天江……存分に暴れてこい。敵はきっと、お前の欲求に応えられる強者のはずだ」

衣「うんっ! さっきから物々しい気配をビリビリ感じるぞ! それも複数!!」ルンルン

菫「楽しそうで何よりだ」

衣「すみれのおかげだ。すみれはちゃんと、約束を守ってくれた。この大会で、衣はたくさんの遊び相手と出会えた。この決勝でも、また新しい面子と真剣勝負ができる。すみれには、感謝してもしきれない」

菫「それはこちらの台詞だよ。お前を選んで本当によかった。ありがとう、天江」

衣「……そういえば、なぜ衣だったのか、聞いていなかったな。どうして衣だった? あの《頂点》を屠るのに、ランクSが一人手駒に欲しかったからか?」

菫「戦略面の話をすれば、そういうことになるな」

衣「だが、《頂点》を除いて、白糸台にランクSは四人いる。A強も含めれば六人だ。因縁の深さで言えば、かつて共に戦ったという《絶門》、或いは、直に敵対したとーかでも良かったように思う」

菫「その理由は簡単だよ、天江。私と照のいたチーム《虎姫》……去年の一軍《レギュラー》の座を最も脅かしたのが、お前だったからだ」

衣「衣はすみれたちとは直接打ってないぞ? すみれが《晩成》をトばしたせいでな」

菫「まさにそれだ」

衣「んー?」

菫「あのとき、私が龍門渕透華に立ち向かわなかったのは、龍門渕を恐れたからではない。そのあとに控えていたお前を恐れたがゆえに勝負を避けたのだ。
 あのとき私は、本気で負けると思った。この副将戦で試合を終わりにしなければ、大将戦でお前に逆転されると思った。
 ひいては、決勝でも、同じことが起こるだろうとな。決勝では準決勝よりさらに勢力が拮抗する。トビ終了は滅多に起こらない。ほぼ確実に大将まで回る。
 そうなったとき、《龍門渕》の天江衣は、間違いなく抜けてくるだろうと確信した」

衣「ま、衣が有象無象に負けるはずないからなっ!」

菫「ああ、そうだな。そうだろうよ。天江衣という存在は、それほどに脅威だったのだ。あのとき、《虎姫》と《龍門渕》の勝負が大将戦までもつれていれば、勝者は《龍門渕》だったろう。
 負けるかもしれない――と思ったことは何度もある。《姫松》も《千里山》も《新道寺》も強かった。対龍門渕透華以上に苦しい対局もあった。だが、はっきり『試合に負ける』と思ったのは、チーム《龍門渕》と戦ったあのときだけだ。
 つまり、お前は、私の頭の中で、照を擁するチーム《虎姫》に勝っているんだよ。私にとっての天江衣とは、ランクSとして、団体戦で照に打ち勝った唯一無二の雀士。照のチームを倒すのに、お前を選ばないわけがない」

衣「実にすみれらしい堅実な理由だ」

菫「まあな。私は照と違ってカンが働かない。だから実績を重んじる。その点から言っても、去年の最多得点記録保持者であるお前は、申し分ないというわけだ」

衣「おお! 退屈しのぎに塵芥どもを絶望させた甲斐があったというものだなっ!!」

菫「この化け物め……。いや、しかし、それでこそ、私の見込んだ天江衣だよ」

衣「ありがとう、すみれ!」

菫「礼を言われるとなんだか複雑だな……。私は去年、卑怯にも、お前から準決勝と決勝の舞台で戦う機会を奪った。それを、一年越しに返しているだけだ。しかも、全部、私の都合で」

衣「それでも良い。その強かさに胸を打たれたから、衣はすみれの下についたのだ。この力――全てをすみれの勝利のために捧げよう」

菫「文字通り、身に余る光栄だ」

衣「では、ちょっと遊びにいってくるっ!!」

菫「油断せず、気を引き締めてな」

衣「委細承知ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――対局室

優希「よろしくだじぇ!」

 東家:片岡優希(幻奏・98800)

咲「よろしくお願いします」

 南家:宮永咲(煌星・103400)

衣「よろしくっ!」

 西家:天江衣(劫初・122900)

穏乃「よろしくお願いします」

 北家:高鴨穏乃(永代・74900)

『ここが要の中堅戦!! トップのチーム《劫初》からは去年の最多得点記録保持者のご登場だあー!! 迎え撃つは一年生三人!! まずは前半——スタートですっ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

牌譜ミスありそうだな……。

また近いうちに。では、失礼しました。


能力が進化するのは王道だけど、激アツだな
今のでー子がダブリーしたらレベル5相当になるのかな?

中堅戦は胸が厚く……ならねえか
胸が熱くなる組み合わせだな

乙乙。

誠子のランキング3桁だったのかよ。
元一軍として、せめて2桁であった欲しかったわ。
そりゃやっかみも食らうわ。

咲のお姉さま呼びのせいで、友香って背が高いと思っていたら、咲と同じ155と知って驚いた今日この頃。

おつ

劫初は常に他家が複数で対策やらしてなんとか抑えてこの得点って事を考えるとやはり総合力では頭一つ抜けてるんだな
作中で無双した衣とこのSSでは不遇の咲には期待してる

>>760さん

残念ながら、ならないです。

森垣さんのレベルアップは、今までのダブリー〜四巡目リーチのときの強度を、五巡目以降でも発揮できるようになった、くらいの感じです。元々が『レベル3強(限定条件下でレベル4相当)』で、その『限定条件下で』というただし書きが取り払われた=晴れてレベル4。みたいなイメージをしていただければ。

>>764-765さん

これはネタバレですが、この中堅戦の途中で、玄さんが観戦室からログアウトします。

>>768さん

元一軍《レギュラー》リーダーで本人も相当な実力者である弘世さんが『自分より強い雀士』を集めたのが《劫初》ですからね。ナンバー2(最強の無能力者)、ナンバー3(最強の非能力者)、ナンバー7(最高位の大能力者)、ランクS(去年の最多得点記録保持者)——このマジ具合。しかも、一方的に《虎姫》解散宣言したその日の時点で、既にメンバーの根回しをほぼ終えていたという。

あと、一応、トーナメント表的に、

《劫初》=Aブロックシード(予選成績一位)で、その対角が、

《永代》=Dブロックシード(予選成績二位)で、あとは、

《久遠》=Cブロックシード(予選成績三位)、この対角が、

《豊穣》=Bブロックシード(予選成績四位)です。

シードチームは、一・四位、二・三位同士が三回戦で当たるような仕組みになっています。シード以外の並びはクジです。

>>767さん

>155

この中堅戦だと、咲さん(155)が断トツで背高いです。順に、片岡さん(143)、高鴨さん(139)、天江さん(127)。

煌星メンバーだと、咲さん=森垣さん=東横さん(155)で、少しだけ大星さん(156)が高く、そして、なんと一番ちっちゃいのは花田さん(151)です。これは萌えます。

>3桁

これは脳内設定なのですが、そもそも二桁ナンバーの二年生というのが、片手で数えるくらいしかいないです。

一桁は荒川さん一人で、二桁となると、多治比さん(出てませんが)、龍門渕さん、玄さん、百鬼さん、とこの辺りになります(神代さん・天江さんは番外)。一年生で二桁入りできるのは、原村さん、咲さん、大星さん、対木さんくらいでしょう。

つまり、上位ナンバーはほとんど三年生ってことになります。というのも、新子さんが鷺森さんと打ったときに言っていますが、『外の世界で打つ一年間と、学年都市で打つ一年間は、密度が全然違う。外の世界で言うところの数年分の麻雀経験を、この人たちは去年一年間で積んで』いるので、二軍《セカンドクラス》の三年生=二年間学園都市で学び続けて生き残った人たちとなり、設定に沿って考えていくと、上位はほとんど三年生で占められることになってしまうのです。

或いは、二桁ナンバー=都道府県個人予選一・二位かそれに準ずる成績を残した人たち、という見方もできます。原作で言えば、福路さん、小走さん、荒川さん軍団等がそれに相当します。

SSの最初のほうで三尋木さんが小走さんを『ガチで打てば校内順位《ナンバー》は100位以内に入れるくらい、そこそこ強いっしょ』と評してます。一桁と二桁の境界線は藤原利仙さん、二桁と三桁の境界線は小走さん、くらいだと思ってください。

このSS内の対局で言うと、『弘世さん・宥さん・龍門渕さん・咲さん(三回戦次鋒)』『小走さん・薄墨さん・玄さん・大星さん(準決勝先鋒)』くらいの水準で鎬を削るのが、二桁ナンバーの世界です。

要するに、一桁に負けず劣らず、二桁も大概人外です。一・二年生でここに飛び込めるのは、上記の通り、よっぽどのよっぽどな人たちだけです。

 ——以下、だらだらと——

井上さんが『オレらの学年は《三強》+透華より下にほとんど差がねえ。 今年の本選に出場した二年の中では、松実がちょっと抜けてるくらいでよ』と言っていて、先鋒戦中に『中堅雀士』を自称しています。

この中堅雀士のカテゴリの中では、亦野さんは上のほうだと私は思っていて(合同合宿一日目の東風戦順位:亦野さん>愛宕さん>鶴田さん>渋谷さん>花田さん)、《虎姫》・《千里山》・《姫松》・《新道寺》の二年生の中では、個人戦のアベレージが一番高いのは亦野さんじゃないかなと設定してます。

(三回戦)
>やえ「《三強》以外の二年で荒川を止められるやつがいるとすると、誰になるだろうな」
>照「可能性が高い順で言うと、能力使用時の鶴田さん、冷たい龍門渕さん、デジタル龍門渕さん、誠子かな。あとは、染谷さんと井上さんが二人で協力すれば、いつかは止められると思う」
>ネリー「おおっ! 我らがせいこがランクイン!!」
>照「席順にもよるけれどね」

(準決勝)
>智葉「愛宕は三回戦を経て二段階くらい上った気がするな」
>照「まだまだ……うちの誠子のほうが上だもん」

それから、件の『ナンバーだって三桁の地味な打ち手』という発言ですが、これはもう本当に謙遜も謙遜で、例えば、白糸台高校麻雀部のその他大勢代表である三家リーチのモブ先輩は、

>「アタシはひたすら上を目指した。せめてナンバーが300……いや、500でもいい。白糸台高校麻雀部一万人の中の、一握りの人間と呼ばれる存在に――アタシもなりたかった!」

と言っていて、実際、彼女は不正な手段を使ってまでナンバー上げに躍起になっていました。そして、亦野さんは『一握りの人間』です。三桁は三桁でも、きっと100位台です。どんなに調子が悪くても300位より下にはならないかと。

亦野さんがやっかまれた最大の理由は、『ナンバーが三桁だから』ではなく、『レベルが3だから』です(学園都市は能力値《レベル》優位の考えが強い上に、相方の渋谷さんがレベル5という状況)。

ただ、それとは別に、彼女の自身を過小評価し過ぎる性格にも、多少の問題があったんだと思います。亦野さんをチームに誘うときに小走さんが『お前が殺すべき幻想はただ一つ。『亦野誠子は弱い』などという、お前自身のくだらん思い込みだ』と言っていますが、このSSにおける彼女のウィークポイントは、とにかくこれに尽きます。

なので、そんな亦野さんが、一桁ナンバーで、レベル4で、全体効果系能力者で、あの弘世さんがあの照さんに勝つために選んだ仲間であるウィッシュアートさんに対して、『カッコくらいはつけとこう』と笑顔で強がってみせたのは、つまり、そういうことなんだろうと、私は思ってます。

>>769
つまり我らがちゃちゃのんは2桁と言うことですね

おお、誠子のランクに対して長々と説明ありがとう。

しかし、生意気を言わせてもらうが、一応原作には「白糸台のナンバー5はそこらの県代表エースを凌ぐ」とある。
そして殆どの県において、「県代表エース」=「県個人戦上位1位2位」だろう。
例に挙げた美穂子ややえはむしろ少数派。
原作でもこのssでも、誠子が彼女らに勝てるとは思わないし、やえを100位の壁に設定するのなら、誠子は相対的には原作より弱体化したように感じるな。
あと個人的に、上位ナンバーってのは、十番台、精々二十番台ぐらいと思っていたのだが、もしかしてもっと範囲が広い?
怜と豊音以外の<十最><六道>メンバーは、軒並み20位以内と思っていたけど、30にすら入ってなかったりする?

あとレベル優位の考え方ってことは、生徒の殆どは能力者だったり?

まぁ相対的に弱くなって三桁なんだろうな亦野さんは……原作でいう県代表のエース達はこのssでは白糸台に来て原作より鍛え上げられて二桁ナンバーにいるのかな?
亦野さんも原作と比べるとこのssの亦野さん野方が強いと思うけど……

せめて咲が出る中堅戦を早く読ませてくれー
週末から1ヶ月ほど北京に出張だから読めなくて困る…

>>770さん

その可能性はなくもない気がします。でも、チーム《夜行》での扱いを見る限り、佐々野さんは三桁なんだと思います。

>>773さん

なんと……。すいません。私も早く終わりにしたいのですが、もうちょっと咲さんパートに愛を注がせてください。

>>771さん、>>772さん

「県代表エース」=「県個人戦上位1位2位」——これが、このSSの設定では、成り立っていないですね。

二軍《セカンドクラス》は全体で400人くらいいて、そのうち三割が個人戦オンリーの打ち手です。この数字がどこから出てきたのかというと、全国を52地区に分けた場合の、

団体戦:52チーム×5人=260人

個人戦:52地区×上位3人=156人

で、団体・個人で重複している打ち手は20〜30人程度とし、合わせてまあ400人くらいか、という計算で出てきてます。

つまり、『団体戦で全国区の打ち手』と、『個人戦で全国区の打ち手』が、原作ほど重複していないんです(宮守、永水などの描写を見る限り、原作では「県代表エース」=「県個人戦上位1位2位」なんだと思います。私も、原作のインターハイ(団体・個人とも全て)に出ている打ち手を競わせたら、亦野さん・渋谷さんは100位以内に入ると思います。そうでないと、白糸台の評判=千里山に荒川さんと愛宕さんがいれば云々という評価と合わないですしね)。

原作にも出てきていない、SS内でも存在を明示していない、けれど、かなり強い。

数字上、この白糸台には、そんなダークマターみたいな打ち手がごろごろいることになっています。なので、亦野さんの『三桁』が、相対的に弱く見えるんだと思います。

同じことは、上位ナンバーにも言えて、私も最初は10〜20位台くらいのつもりで書いていたんですが、このダークマター理論を考慮に入れると、ご指摘の通り、意外とそうでもないかも……ということになります。上位ナンバー=50位より上で切磋琢磨している人たち——くらいの認識のほうがいいのかもですね。まあ、そこまでかっちりとは決めていませんが。

ただ、ダークマターはダークマターなので、都合上、一桁などで名前の挙がるキャラは、既知のキャラクターで埋めています。ここは明らかに歪みがありますね。

一桁以下の上位ナンバーを、『上位ナンバー』という言葉でぼかしているのは、ダークマターに触れるのを避けるためです。このダークマター理論を突き詰めていくと、大星さんの『完全デジタルでナンバー50位より下は敵じゃない』発言や、二軍内における一年と三年の人数比など、気になるとこはいっぱいあります。

この辺りは、強さ議論とは関係ない、お話の設計上の問題です。全てをかっちりさせようとすると、どうしても破綻する部分が出てくるので、遊び部分として残してあるんです。

 *

能力者の比率までは考えてないですね。ぼんやりと、元ネタと同じくらいの比率かなと思っていましたが、そもそも元ネタの比率を私は知りません。

レベル優位なのは、学園都市が『能力者の街』だからです。今絶賛問題になっている『レベル6を生み出すこと』を至上目的とする街なので、レベルが高ければ高いほど、研究対象としての価値が高いんです。小走さんがどこかで言っていますが、赤ドラ有りなどの標準ルールは、『特殊な力を持つ打ち手を選り分ける』ことを目的としています。

ただ、同時に『高校生雀士』の街でもあります。『麻雀の強さが全ての白糸台高校麻雀部』なんてフレーズもあります。強い=正義なんです。

かように、『能力者の街』と『高校生雀士の街』の要素が共存しているので、『強い』=『高レベル』『高ランク』とする風潮が生まれるんだと思います。実態がその限りではないのは、一桁ナンバーのレベル0比率や、『《六道》六人分の戦力=《十最》十人分の戦力』という姉帯さんの発言からもご察しです。

喩えるなら、『貴族』=『偉い』と、『貴族』=『お金持ち』から、『お金持ち』=『偉い』と連想してしまう感じでしょうか。亦野さんは『一軍』=『強い』。でも、『強い』=『高レベル』『高ランク』と連想している大部分の人たちにとっては、『中レベル』『低ランク』の亦野さんをイコール『一軍』として見るのに抵抗がある——といったような感じですね。

まあ咲は小さいだけでまだ胸あるもんな
猿にタコスは胸がないから玄さんが
誰かのおもちの狭間に逃げるのは仕方ないね

てか荒川さんは巫女と海底には負けたことあるのでは?公式戦のことなのかな?

>>778さん

照さんと荒川さんと辻垣内さんが無敗なのは、公式戦です。練習では、相手に合わせたり(例えば、亦野さんは、十割照さんと一度しか打ったことないです)、むしろ敢えて無理して負けたりして、自他の研究を重ね、本番で確実に勝てるよう調整しています。

荒川さん・天江さん・神代さんは、三人とも互いにその強さを認め合う関係で、プライベート対局の戦績は概ね互角ですが(トップ率一位:天江さん、ポイント一位:荒川さん、鬼畜度一位:神代さん)、こと『本番での勝負強さ』については、荒川さんが抜けているというのが三人の共通認識です。

>健夜「常にトップしか取らないからだよ。あの《三人》は、白糸台に来て、公式戦で格下ナンバー相手に上を行かれたことが一度もない」コレユーメーナハナシダヨ

 東一局・親:優希

優希(やえお姉さん、曰く――)

咲・衣・穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(シズちゃんの《原石》の力はもうちょっとあとにならないと発動しない。咲ちゃんのカンが鳴きの速攻でそこそこ牽制できることは準決勝の通り。
 あとは天江先輩の《一向聴地獄》――これが当座の問題だってことだじぇ)

優希(東初の私はレベル4相当。全力でぶつかれば、きっと和了れる。全体効果系能力の支配下でも、同レベルの自牌干渉系能力者なら、一点突破で有効牌を引くことができる。相性はそう悪くない。らしいじょ)

優希(ただし……とやえお姉さん。天江先輩は支配者《ランクS》。能力の強度に支配力の補正が掛かってる。同じレベル4の能力でも、高ランクの雀士が使えば、その効果がより一層強化される。ゆえに――)

優希(門前では、ほぼ間違いなく封殺される。私の活路は河にある。天江先輩の支配を出し抜いて、咲ちゃんにカンさせず、鳴きの速攻で圧倒する。
 ネリちゃん曰く、私の速度特化チューニングはもう完璧。なら、行けるはずだじょ)

優希(東の風を捉まえて――凧のように舞い上がる。私は沈められないじぇ! 高く翔ぶ……誰よりもッ!!)

優希「チー!!」ゴッ

 優希手牌:1234⑤⑥⑨⑨發發/(9)78 捨て:⑧ ドラ:一

咲(うっ。ここで……?)タンッ

衣(気配は無も同然。ドラがあるわけではなさそうだな。どころか、まだ役も確定していないように見える。なら、この發はくれてやるまい)タンッ

優希「ポン!」タンッ

 優希手牌:1234⑥發發/⑨(⑨)⑨/(9)78 捨て:⑤ ドラ:一

咲(チャンタか、一通か、役牌か……)タンッ

衣(小癪な)タンッ

穏乃(んー……六索)タンッ

優希「」タンッ

咲(五筒、六筒の搭子落とし。この六索は……直前に高鴨さんが切ってるんだけどなぁ。いかがでしょうか)タンッ

優希「ロン」ゴッ

咲「わ」

優希「1500だじぇ」パラララ

 優希手牌:12345發發/⑨(⑨)⑨/(9)78 ロン:6 ドラ:一

穏乃(速さを追求しつつ、鳴くことそのものも目的のうちって感じかな。ただ、別に打点を見捨ててるわけでもない。隙あらばチャンタ發ドラドラくらいは視野に入ってたと思う。東初の優希はやっぱり強い)

咲(ドラと發が重なってくればこの八倍の点数になってたのを考えると、今の振り込みは正解だったのかな。なんか高鴨さんに誘導されたみたいで悔しいけど……いや、というか、優希ちゃんもそうだけど、こっちもな――)チラッ

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 衣手牌:四[五]六4[5]6④[⑤]⑥⑦⑧⑨發 ドラ:一

優希(かなり際どいところを渡った気がするじぇ……。けど、ひとまず和了れることはわかった。この東初で積めるだけ積む!!)

優希「一本場だじぇ!!」ゴッ

優希:100300 咲:101900 衣:122900 穏乃:74900

 ――《幻奏》控え室

誠子「地雷の埋まった平原を駆け抜けるようなと言いましょうか……」

セーラ「まあ、相手は支配者《ランクS》や。同じ人間やと思って打たへんほうがええやろ」

ネリー「あのころもって人の何が恐いって、出和了りを好むところだよね」

やえ「宮永や神代は基本ツモだからな。慎重に打てば直撃は避けられる。大星や宮永咲に関しては、気をつけるべきポイントが明確だから、これも避けようと思えば避けられる。だが、天江はそうじゃない」

誠子「和了り形にも、手役にも、これといって制限はないですもんね。それで、あの全てを呑み込むような場の支配——からの、速攻&高打点、時々、海底。手がつけられないとはこのことです。
 ランクS級の打ち手をぶつけるか、ジョーカー殺しの高鴨さんをぶつけるか、それ以外の対策が思いつきません」

セーラ「実際、《永代》と《煌星》はそうしとるやんな。三回戦でも、天江の相手は全員ランクS級やった。そやないと、二回戦みたいな一方的な収支になってまう。宮永よりもネリーよりも稼ぐとか、ホンマ化け物やで、あいつ」

やえ「片岡は私たちの中で最高のレベルとランクを持つ雀士……あいつでダメなら、私でもセーラでも亦野でもダメなんだ。ここはやってもらうしかない」

     優希『チー!!』

ネリー「がんばれー、ゆうきー!!」

     優希『ツモ! 700は800オールだじょ!!』

セーラ・誠子「よしっ!!」

ネリー「またしても崖っぷちを全力疾走! けど、和了ったもん勝ちなんだよっ!!」

やえ(調子は決して悪くない。が、今回は相手が相手。いつまで凌ぐことができるか……)

     優希『二本場だじぇ!!』

 ――対局室

 東一局二本場・親:優希

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:天江衣(劫初・122100)

優希(うくっ……なんなんだじょ、この人。準決勝で咲ちゃんが鬼ダブリーしてたけど、あのとき感じたタコス一億個分の支配力――それをこんな序盤から大放出? 支配力の出てくる蛇口が壊れてるんじゃないのか……?)タンッ

 東家:片岡優希(幻奏・102700)

優希(前半戦の東一局からこれって……後半オーラスまで保つ確信があってやってるとしたら、無尽蔵なんて言葉じゃ足りないじょ。
 喩えるなら、津波VS水鉄砲。こんな化け物と……私はこれから半荘二回を打たなきゃなのか――)タンッ

優希(いやいや、弱気は禁物だじぇ。私がここで魔物相手に踏ん張れなければ、チームが負ける。そんなのはゴメンだじょ……)

穏乃「」タンッ

優希「チー!!」

優希(シズちゃん……局数稼ぐためにアシストしてくれてるのか? まあ、そうだったとしても、それを受け取り拒否できるほど余裕があるわけじゃない。
 敵からのタコスでもタコスはタコス! 腐らせるくらいなら、皿まで食い尽くすじぇ!!)タンッ

衣「疾風怒濤――」ゴゴゴ

優希(じぇ……っ!!?)ゾゾゾッ

衣「《東風》は疾く荒れ狂い厄介だと聞いていたが……とんだ微風《そよかぜ》だな」ゴゴゴゴゴゴ

優希(まさか!? 門前で!!? まだ三巡目だじょ!!!)

咲(嘘だよ……)ゾワッ

穏乃(すご過ぎる)ゾクッ

衣「ロン、16600」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 衣手牌:二三三四四②③④234[5]5 ロン:二 ドラ:5

優希「ぁあ――」クラッ

衣「片腹大激痛。まるで話にならないぞ、《東風の神》!!」ゴッ

優希「っ……!!」ビクッ

衣(……さてさて、これで折れるのならこやつはもはや敵ではないが)

優希「」スゥ

穏乃・咲(優希(ちゃん)……?)

優希「たああああああああああああこすっ!!!」ゴッ

衣(む……これは《砲号》――?)ビリッ

優希「タコスが足りないじぇッ!!」パクッ

衣(ほう……切れかけた糸を食べ物で繋ぎ止めたか。力の差は理解しているだろうに。さとはが目を掛けるのもわかる気がする。こやつ、楽しめる——)

穏乃(うん、そうでなくっちゃね)

咲(まだまだ。始まったばかり……)

優希(倍直がなんだじぇ!! ランクSがなんだじぇ!! これくらいはやえお姉さんのパソコンで体験済み。えぬぴーしー《天江衣》とは何度も打ってそのたびに凹みまくったじぇ!!
 別に凹んだっていいっ!! だって取られたら取り返せばいいだけなんだから……!! タコスがある限り、私は何度でも蘇るじょッ!!)パクパクパク

衣(全力で捻り潰す――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:86100 咲:101100 衣:138700 穏乃:74100

 東二局・親:咲

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(うーん。これはこれは……)タンッ

優希(じょー! 速度特化の私が身動きできないとかっ!! やっぱり東初以外は厳しいのか!?)タンッ

咲(手が進まない……私が親のときに困っちゃうなぁ)タンッ

衣(この《一向聴地獄》の中で貴様らはどう動く? 海底まで見定めさせてもらうぞ……)タンッ

穏乃(さて……三巡目倍満直撃から一転、海底狙い。この緩急のリズムは、照さんの《打点上昇》と同じで、きっと天江さんなりの間の取り方なんだと思う。
 《制約》というほど縛りがあるわけではないんだろうけど、天江さんは、こうやって打つのが一番得意なんだ。長けていて、慣れている。
 なので、ここで海底を和了られると、とっても困ったことになる。きっと次の局も流れを掴まえる。リズムに乗ったランクSにはまず勝てない。というわけで、すごパはまだ使えないけど、これを崩す……)タンッ

穏乃(《一向聴地獄》――他家の手を一向聴以下に留めておきながら、自身は自在に高打点の手を和了るっていう、学園都市で最も悪名高い全体効果系の大能力。
 特に海底狙いのときは、その逃れようのなさ、極端なツモの悪さ、喰らう打点の高さ等々があいまって、一撃で他家を絶望の淵に突き落とす恐ろしさがある)タンッ

穏乃(けれど、ウィッシュアートさんについて照さんが指摘していた通り、全体効果系能力者には共通の弱点がある。圧倒的な力に拠る孤高な単独プレイ——それは、全体効果系能力者の強さであり、弱さでもある)タンッ

穏乃(そして、能力者自身の弱点は、そのまま能力の弱点になる。天江さんの《一向聴地獄》は、運が良ければ、ちょっとの工夫で崩すことができるんだ。
 まあ、物理的に無理な場を生み出されてたらアウトなんだけどね。その傾向は、牌譜を見る限り、龍門渕さんの《治水》ほどではない。確率的には五分五分な気がするけど……何はともあれ、仕掛けてみなければ始まらない――)タンッ

優希「チ、チーだじょ!!」タンッ

衣・咲(え……!?)

穏乃(よかった、成功)ホッ

優希(おかげ様で手は進んだけど、シズちゃん、特に確率干渉をしている風ではなかったじょ。何がどうなってるんだじぇ?)タンッ

咲(謎だらけだよこの人……)タンッ

衣(支配者《ジョーカー》殺しか。一体何をした?)タンッ

穏乃(能力は論理――そこには必ず不完全領域がある。どんな論理にも、対応できないところがあるんだ。《一向聴地獄》はレベル4。《絶対》じゃない以上、探せばどこかに崩す道がある)

穏乃(《一向聴地獄》は、《全員が和了りに向かっている》という仮定の上に成り立っている。
 面子を崩さないとか、配牌で見えた和了り形を目指すとか、配効率を最適化しようとするとか、全員がそういうルールを守って、初めて有効に機能する能力なんだ)

穏乃(《一向聴地獄》は、全員が門前の単独プレイ――つまり支配者であり十七巡目リーチからの海底一発を狙う天江さん自身の思考だ――で動いたときに、その効果が最大になるよう設計されている。
 なら、崩し方は簡単。和了りに向かわない。単独プレイもしない。第一打から、誰かのアシストをするつもりで動く。
 一人でずっと和了り続けるつもりの全体効果系能力者には一生ありえない思考で、手を進めていけばいい。それだけで、《一向聴地獄》の前提が――支配が――崩れる)

穏乃(私が優希にパスした牌は、どう見ても私の手には不必要な牌だった。でも、私に不必要だからといって、優希に不必要とは限らない。私はここまで、できる限り優希に合わせて打ってきた。
 おかげ様で私の手はバラバラだけど、どうせ普通に打ったら天江さんが海底を和了る。すごパが使えない今の私には、それに抗う術がない。なら、一番期待値が高いのは、優希のアシストに回ること)タンッ

優希「ポン!!」タンッ

咲(また……?)タンッ

衣(2000程度。断ヤオドラ一か。見事に出し抜かれたな。なるほど……途中まで《原石》と《東風》の捨て牌がほぼ同じ。最初から、自らの和了りを放棄し、《東風》のアシストに回るつもりで打っていたのか。
 確かに、そういう手順で打つ輩は、衣の想定の範囲外だな)タンッ

穏乃(天江さんが海底コースを引き戻すために自ら動くとしたら、優希からポンをするか、私から大明槓をするかしないといけない。けど、ここまで来て、みすみす鳴かせるつもりはありません。絞るだけ絞ります)タンッ

衣(小賢しい……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希・咲「――!!」ゾワッ

衣「ツモ、3000・6000だ!!」パラララ

優希(海底じゃないのかー!?)

咲(力技すっご……)

衣(その程度の策略で衣を出し抜いたつもりか。これが支配者《ランクS》――卓上《セカイ》は常に衣の手中にある!!)

穏乃(ハネツモか。んー……さすがに強いなぁ。まあ、でも、それはそれ――)パタッ

衣(ふむ……? 動揺なし、か)

穏乃(最大の目的は果たしました。速攻からの海底――その緩急のリズムを崩すことができれば十分なんです。
 この局で海底を和了られたら、もっと点棒を奪われていた上に、次の局も天江さんが流れを手にしてしまう。それが考えうる限り最悪のパターン。そうならなかっただけで、私は私の仕事をした。
 天江さんは去年の最多得点記録保持者……あの照さんよりも稼げる人。これくらいの失点は想定内ですよ)ニコッ

衣(《原石》……つくづく妙な打ち手だな。底が見えない……)

穏乃(今日の山は一段と高く険しい。じっくりしっかり登らせていただきます——)

衣「衣の親番だなっ!」コロコロ

優希:83100 咲:95100 衣:150700 穏乃:71100

 東三局・親:衣

衣(ふむ……開始早々、支配力の流れに僅かな違和感があるな。少なくとも万全ではない。
 さては、これがさとはが気をつけろといっていた《聖人崩し》とやらなのだろうか。平たく言えばランクSのペースを乱す技術なんだとか)タンッ

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦78六八白 捨て:西 ドラ:3

穏乃(天江さんの親は流しておきたい。インパチなんて連続で和了られたら終わりだ)タンッ

 穏乃手牌:六七八九4557⑧⑧⑨⑨⑨ 捨て:九 ドラ:3

優希(ふう……)

 優希手牌:3334[5]8③③⑤一五南西 ツモ:6 ドラ:3

優希(シズちゃんがさっきアシストしてくれたのが効いてるのか。ドラいっぱいでそれなりの手だじぇ。それとも、これも支配のうちなのか――)

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(さっきは言いたい放題言ってくれたな。私の《東風》が微風かどうか……!!)タンッ

衣(ん――?)ビリッ

優希(その身で確かめよだじぇッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 優希手牌:3334[5]68③③⑤一五南 捨て:西 ドラ:3

衣(ふん……こやつに追い風を吹かす意図もあったのか。衣の支配に傷が出来れば、その隙間から《東風》が吹き込むと読んだ。これが《原石》の大局を掴む力。衣の親を安く流すつもりか?)タンッ

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦⑧78六八 捨て:白 ドラ:3

穏乃(安いかどうかは保証しません。優希の風を抑えるには、今の私ではすごパが足りませんから)タンッ

 穏乃手牌:六六七八九455⑧⑧⑨⑨⑨ 捨て:7 ドラ:3

優希「チーッ!!」ゴッ

 優希手牌:3334[5]③③⑤一五/(7)68 捨て:南 ドラ:3

衣(8000程度か。ドラを固めているのだろう。黙っていると翔け抜けていきそうだな。なら……)

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦⑧78六八 ドラ:3

衣「(こちらも速度を上げるまでッ!!)チー!!」ゴッ

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑦⑧78/(七)六八 捨て:⑥ ドラ:3

穏乃(どっちも高そう。個人的には、優希が天江さんを撃ち落してくれるのが理想なんだけど……)タンッ

 穏乃手牌:六六七八455⑧⑧⑧⑨⑨⑨ 捨て:九 ドラ:3

優希(向こう親で張ってるっぽいけど、まだ引き下がる気はないじぇッ!!)タンッ

 優希手牌:3334[5]③③⑤五五/(7)68 捨て:一 ドラ:3

咲「カンッ!!」パラララ

衣「っ……!!」ゾワッ

優希・穏乃(来た……! 咲ちゃん(宮永さん)のカン!!)ゾクッ

咲「」タンッ

穏乃(ツモ切り――?)

優希「ポンだじぇ!!」タンッ

穏乃(これは……)ゾクッ

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(この怖気……《通行止め》に近い感じを受ける。衣やこまきや大星淡に比べると、こやつはかなり異質だな。
 さておき、何をしてくるかと思ったら、大明槓ツモ切りか。これは見覚えがある。二回戦でさとはに掴ませていたアレだな。それが証拠に、対面の手が――)

優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 優希手牌:3334[5]③③/五五(五)/(7)68 ドラ:3・3

衣(あの大明槓ツモ切りがなければ、《東風》は五萬を鳴けず、この巡目では満貫一向聴のままだった。ここで衣がドラを切っても振ることはなかったのだ……)

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑦⑧78/(七)六八 ツモ:3 ドラ:3・3

衣(まったく厄介なことを)タンッ

 衣手牌:②②②[⑤]⑥⑦⑧378/(七)六八 捨て:[⑤] ドラ:3・3

穏乃(このぞわぞわ感……カンドラが表ドラと重なったけど、狙い通りなんだよね。困ったな。順位的に、この削られ方はキツいものがある)タンッ

優希(なんだか思惑が入り乱れているようだけれども……ッ!!)ゴッ

優希「(私が和了れるなら良し!!)ツモだじぇ、4000・8000!!」パラララ

 優希手牌:3334[5]③③/五五(五)/(7)68 ツモ:6 ドラ:3・3

穏乃(うーん、ごっそり。二人同時は難しい)パタッ

衣(一度も和了れず親を流された上に、倍ツモを被らされたか)パタッ

優希(私のアシストに回ったってことは、咲ちゃんもそんなに楽してるわけじゃないってことだじぇ。東場は押せ押せだじょ!!)

咲(ふぅ……)パタッ

 咲手牌:[五]七八九789⑦⑨北/(一)一一一 ドラ:3・3

優希:99100 咲:91100 衣:142700 穏乃:67100

 ――《幻奏》控え室

やえ「確定だな」

誠子「何がですか?」

やえ「宮永咲、嶺上使い説」

ネリー「マジで!? ええっ、マジで!!?」ガタッ

やえ「どうした……? そもそも、お前が三回戦であんな偉業をやってのけたのが、この仮説の発端なんだぞ?」

ネリー「いや、けど……そっか。ありえない話じゃないのか……」

セーラ「なんか根拠はあるん?」

やえ「さっきの局を検討してみるとわかる。特に支配者《ランクS》は必然でしか打たないからな。どれ、ちょっと並べてみようじゃないか」カチャカチャ

 衣配牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦78六八西白 ドラ:3

 穏乃配牌:六七八九九4557⑧⑧⑨⑨ ドラ:3

 優希配牌:3334[5]8③③⑤一五南西 ドラ:3

 咲配牌:一一[五]七八九789⑦⑨南北 ドラ:3

やえ「これが東三局の全員の配牌。ここから紆余曲折あって片岡が倍ツモを和了るが、そこに至るまでの山牌の並びはこのようになっていた」カチャカチャ

 山牌:⑨6一⑧六七⑧五西366

やえ「まずは、天江の必然を見てみよう。一巡目だ」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦78六八西白 捨て:西 ドラ:3

 穏乃手牌:六七八九九4557⑧⑧⑨⑨ ツモ:⑨ 捨て:7 ドラ:3

 優希手牌:3334[5]8③③⑤一五南西 ツモ:6 捨て:西 ドラ:3

 咲手牌:一一[五]七八九789⑦⑨南北 ツモ:一 捨て:[五] ドラ:3

やえ「さっきの東三局――その結末を変えたのはここだ」

誠子「えっ!? 最初も最初じゃないですか!? えっと、今のところ、実際と違う手順で打ってるのは高鴨さんと宮永さんですけど……」

やえ「その通り。どちらも重要な食い違いだが、この場面で注目して欲しいのは、高鴨の選択だな」

 穏乃手牌:六七八九九4557⑧⑧⑨⑨ ツモ:⑨ ドラ:3

やえ「ここから、実際の高鴨は七索を残し九萬を切った。同じ一向聴ではあるが、受けの広さや期待値を考えると、疑問が残る一打だな」

誠子「そうですね……。少なくとも私ならノータイムで七索を切ります。三・五・六索、九萬、八筒のどれかが入ればテンパイ。
 しかも、三つある対子のうちどれか一つが暗刻になれば、四索切りでツモり三暗刻を狙えます。或いは、対子が増えてくれば七対子も見れる。
 先輩の言う通り、受けの広さを考えても期待値を考えても、七索切りのほうが良いですよね」

セーラ「その必然を嫌ったのがミソってことやんな。ほんで、天江の必然やと、このあとどう進むん?」

やえ「こんな感じだ」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦78六八白 ツモ:⑧ 捨て:白 ドラ:3

 穏乃手牌:六七八九九455⑧⑧⑨⑨⑨ ツモ:六 捨て:4 ドラ:3

 優希手牌:3334[5]68③③⑤一五南 ツモ:七 捨て:南 ドラ:3

 咲手牌:一一一七八九789⑦⑨南北 ツモ:⑧ 捨て:南 ドラ:3

やえ「三巡目」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦⑧78六八 ツモ:五 捨て:五 ドラ:3

 穏乃手牌:六六七八九九55⑧⑧⑨⑨⑨ ツモ:西 捨て:西 ドラ:3

 優希手牌:3334[5]68③③⑤一五七 ツモ:3 捨て:一 ドラ:3

 咲手牌:一一一七八九789⑦⑧⑨北 ツモ:6 捨て:6 ドラ:3

やえ「四巡目――ここで親の天江が六索をツモり、六筒切りで断ヤオ三色赤二テンパイ。ダマで12000。で、他家はこの状態。宮永以外は一向聴だ」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑦⑧678六八 捨て:⑥ ドラ:3

 穏乃手牌:六六七八九九55⑧⑧⑨⑨⑨ ドラ:3

 優希手牌:33334[5]68③③⑤五七 ドラ:3

 咲手牌:一一一七八九789⑦⑧⑨北 ドラ:3

やえ「ここから片岡に四萬でも掴ませれば、まあ無理なく和了れるだろうな。或いは、もう一枚残っている七萬を自力でツモれば、6000オールだ」

セーラ「魔物やな~」

誠子「二巡目に切られた高鴨さんの四索、あとは、三巡目に切られた天江さんの五萬と優希の一萬――天江さん以外が鳴くチャンスは全部で三回ありましたけど、どれも悪手です。普通は鳴きません」

やえ「打点を重視した門前の単独プレイ――支配者である天江に近い打ち方をすると、自然と場が天江のものになるようになっていることがよくわかる」

セーラ「で、宮永咲の必然は、これとはまたちゃうんやな?」

やえ「ああ。よく見ててくれよ。まずは一巡目――」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦78六八西白 捨て:西 ドラ:3

 穏乃手牌:六七八九九4557⑧⑧⑨⑨ ツモ:⑨ 捨て:7 ドラ:3

 優希手牌:3334[5]8③③⑤一五南西 ツモ:6 捨て:西 ドラ:3

 咲手牌:一一[五]七八九789⑦⑨南北 ツモ:一 捨て:南 ドラ:3

誠子「宮永さんの手順は実際のものと同じですね。この配牌で赤五萬を残すという謎の第一打……」

やえ「さて、二巡目だな」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦78六八白 ツモ:⑧ 捨て:白 ドラ:3

 穏乃手牌:六七八九九455⑧⑧⑨⑨⑨ ツモ:六 捨て:4 ドラ:3

 優希手牌:3334[5]68③③⑤一五南 ツモ:七 捨て:南 ドラ:3

 咲手牌:一一一[五]七八九789⑦⑨北 ツモ:⑧ 捨て:北 ドラ:3

セーラ「宮永の赤五萬へのこだわりが異常やな。チャンタ三色確定の満貫を捨てて、出和了り40符3飜の5200。
 天江の必然やと、まあ普通にチャンタ三色の北待ちにしとった。せやけど、宮永咲にとっては、この赤五萬単騎が必然なんやな?」

誠子「もしかして、次巡の天江さんの五萬切りに狙いを定めてます?」

やえ「それもまた、宮永咲が考慮していたルートの一つかもしれない。だが、天江の《掌握》の性能的に、かわしてくる可能性が高いだろう」

誠子「となると——」

やえ「まあ、見ていればわかるさ。宮永咲の必然では次の三巡目で対局が終了する。では、行くぞ」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦⑧78六八 ツモ:五 捨て:八 ドラ:3

 穏乃手牌:六六七八九九55⑧⑧⑨⑨⑨ ツモ:西 捨て:西 ドラ:3

 優希手牌:3334[5]68③③⑤一五七 ツモ:3 捨て:一 ドラ:3

やえ「断ヤオ狙いの片岡から一萬が零れた。宮永咲はこれを大明槓する。と――」

誠子「ああっ、そうか! 嶺上牌は……!!」

 咲手牌:[五]七八九789⑦⑧⑨/(一)一一一 嶺上ツモ:五 ドラ:3

セーラ「おお、五萬か!! 嶺上開花三色赤一、5200の責任払い。打点はそうでもあらへんけど、これ、やられたほうはむっちゃビビるやろなー」

やえ「ちなみに、宮永咲の和了り牌である五萬は、天江と片岡の手に一枚ずつあるから、実質、この嶺上牌が最後の一枚だ」

誠子「和了り牌の数や打点を度外視して、宮永さんが赤五萬を手に残した必然の理由――それが、この嶺上開花の結末だったわけですか」

ネリー「マジかー……マジで嶺上使いなのかー……」

やえ「また、ここで宮永咲が大明槓からの嶺上開花を決めないと、天江が六索をツモってテンパイする場に戻ってしまう。
 天江の打点は、天江の必然に比べると三色が消えて多少下がってはいるが、それでも断ヤオ赤二。3900オールくらいは平気で和了ってくるだろう。
 状況証拠的に、あいつがここで嶺上開花を決めるつもりだったのは、ほぼ間違いない」

セーラ「宮永と天江の支配合戦もそやけど、俺はとりあえず、やえの分析力にひれ伏すわ」

誠子「本当ですよね……」

やえ「こんなのは慣れだよ。荒川なら予備知識ナシでもコンマ一秒で気付く――というのは閑話休題。
 さて、この天江の必然と宮永咲の必然を踏まえて実戦を振り返ると、非常に面白いことになっていたのがわかる。まず、一巡目」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦78六八西白 捨て:西 ドラ:3

 穏乃手牌:六七八九九4557⑧⑧⑨⑨ ツモ:⑨ 捨て:九 ドラ:3

 優希手牌:3334[5]8③③⑤一五南西 ツモ:6 捨て:西 ドラ:3

 咲手牌:一一[五]七八九789⑦⑨南北 ツモ:一 捨て:南 ドラ:3

誠子「ポイントは高鴨さんの七索残し、なんですよね?」

やえ「そう。天江の必然にも宮永咲の必然にも無かった手順だ。これが次の巡目で――」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦78六八白 ツモ:⑧ 捨て:白 ドラ:3

 穏乃手牌:六七八九4557⑧⑧⑨⑨⑨ ツモ:六 捨て:7 ドラ:3

 優希手牌:3334[5]68③③⑤一五南 チー:7 捨て:南 ドラ:3

 咲手牌:一一一[五]七八九789⑦⑨北 ツモ:七 捨て:七 ドラ:3

セーラ「高鴨が第一打で手放さへんかった七索を、優希がチーか。これは大きいな」

やえ「この時点で天江と宮永咲の支配はともに崩れる。だが、やつらも黙ってはいない。まず動くのは天江。片岡の加速を感じて、宮永咲のツモ切りした七萬を鳴き、高め三色断ヤオ赤二をテンパイ」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦⑧78六八 チー:七 捨て:⑥ ドラ:3

 穏乃手牌:六六七八九455⑧⑧⑨⑨⑨ ツモ:⑧ 捨て:九 ドラ:3

やえ「また、ここで、片岡と天江の鳴きが入らなければ宮永咲の手に入っていたはずの八筒が、高鴨に流れる。
 八筒は天江の手に一枚、高鴨の手に三枚。宮永咲の789三色はこの時点で死んだ。宮永咲は嶺上開花を断念。片岡のフォローに回る」

 優希手牌:3334[5]③③⑤一五/(7)68 ツモ:五 捨て:一 ドラ:3

 咲手牌:一一一[五]七八九789⑦⑨北 カン:一 嶺上ツモ:五 捨て:五 ドラ:3・3

やえ「嶺上牌は五萬。北切りなら三色テンパイに取れるが、八筒は天江と高鴨に抱えられているから出てこないのは先に述べた通り。ゆえに、宮永咲は嶺上牌ツモ切り。
 で、その五萬を片岡がポン。カンドラモロ乗りの倍満をテンパイ」

 優希手牌:3334[5]③③⑤五五/(7)68 ポン:五 捨て:⑤ ドラ:3・3

 咲手牌:[五]七八九789⑦⑨北/(一)一一一 ツモ:西 捨て:西 ドラ:3・3

やえ「そして、天江がドラの三索を掴まされる。高打点の気配を感じ取って、現物の赤五筒で回し打ち。あとはもうご存知の通り――」

 衣手牌:②②②[⑤][⑤]⑥⑥⑦⑧78/(七)六八 ツモ:3 捨て:[⑤] ドラ:3・3

 穏乃手牌:六六七八455⑧⑧⑧⑨⑨⑨ ツモ:6 捨て:六 ドラ:3・3

 優希手牌:3334[5]③③/五五(五)/(7)68 ツモ:6 捨て:⑤ 捨て:一 ドラ:3・3

やえ「と、片岡の倍ツモで終了。
 高鴨目線で言えば、天江と宮永咲の支配を崩したものの、宮永咲のカンによって、小場を作る思惑は外され、チーム得点が派手に沈む結果となる。
 天江目線で言えば、手痛い親っ被りだな。自身の必然では最低でも12000の得点を見込んでいた分、この結果には忸怩たるものがあるだろう。
 宮永咲目線で言えば、自身の和了り目が潰された状態で、トップとの点差を4000点詰めたことになる。片岡にまくられはしたが、相対的に、後が恐い《永代》を沈めることもできた。まあ及第点の対応だろうな。
 で、片岡目線で言えば、まさかの倍ツモだ。これは、なんというか、笑いが止まらんな」

誠子「天江さんと宮永さんの必然でいくと、優希が振り込む確率はかなり高かったわけですからね」

セーラ「麻雀はホンマオモロいなー」

ネリー「んー……」

>>800

 優希手牌:3334[5]③③/五五(五)/(7)68 ツモ:6 ドラ:3・3

 ――《劫初》控え室

智葉「んー……」

憩「どうしました、ガイトさん?」

智葉「いや、宮永妹以外の全員がポニーテールなら最高だと思っていた」

エイスリン「ロリペド!! ホロベヨ!!」

菫「冗談はいい。お前から見て、天江の調子はどうだ?」

智葉「普通に好調だと思うぞ。穏乃が和了りを放棄してまで抑えにかかるくらいだからな。
 ただ、まあ、この東ラスは片岡が意地を見せるだろう。天江以外は片岡のフォローに回るつもりのようだし」

     優希『チーだじぇ!』

憩「高鴨さんの滅私奉仕……迷いが見えへん。後で取り返せる自信があるからこそやんな。これは恐いでー」

智葉「恐いというなら、宮永妹のほうが――」

     咲『カン』

菫・エイスリン「――!!?」ゾゾゾッ

智葉「ふん……またツモ切りか。で、それを片岡が鳴く、と」

     優希『ポン!!』

菫「照の妹も、片岡についているのか?」

智葉「そう見える。恐らくだが、宮永妹はあの速攻モードの片岡とあまり相性が良くないんだろう。片岡の上家にいる穏乃が片岡を全面フォローしているのも効いている。
 要するに、ランクSとしてのあいつの場の支配が、今は若干崩れているんだ」

     衣『ポンだ!!』

智葉「対して、天江はあの通り、片岡の影響はさほど受けない。場の支配は上々。もし私が宮永妹の立場なら、悪条件で天江と片岡の二人を相手に回すより、南場に期待を掛けたほうが有益だと判断する。
 そのためには、うまいこと場をコントロールして天江を削る、或いは、東場を最少被害で回す――後者は穏乃と思惑が一致しているから、成功率は高い。
 天江への放銃を避けつつ、片岡に鳴かせて、安手をツモらせる。それなりにベターな選択だ」

     優希『ツモ、1000・2000だじょ』

菫「なんというか……支配者《ランクS》同士らしい闘牌だな。全て必然で打っている」

エイスリン「トコロデ、《マオー》ノ、カン、オカシクネ?」

憩「ええ、アレは明らかにおかしいですよ。さっきから嶺上で有効牌を引いてます。もっと言えば、さっきの東三局もこの東四局も、片岡さんのチーがなければ嶺上開花で和了ってました」

菫「照の妹は嶺上牌が支配領域《テリトリー》の自牌干渉系能力者――これで確定か」

エイスリン「トコロデ、《マオー》ノ、カン、オカシクネ?」

憩「ええ、アレは明らかにおかしいですね。さっきから嶺上で有効牌を引いてます。もっと言えば、さっきの東三局もこの東四局も、片岡さんのチーがなければ嶺上開花で和了ってました」

菫「照の妹は嶺上牌が支配領域《テリトリー》の自牌干渉系能力者――これで確定か」

エイスリン「コロタン、ダイジョーブカ?」

智葉「どうだろうな。嶺上牌から有効牌を引いてくる――《開花》とでも呼ぶべき能力を宮永妹が持っているなら、《向聴数と打点がわかる》という天江の《掌握》がまるで役に立たないことになる」

憩「しかも、王牌は衣ちゃんの支配領域《テリトリー》の外ですからね。《開花》を発動されてもうたら、妹さんの確率干渉を止める術があらへん。やられたい放題や」

菫「嶺上使い、か。天江にもいたのだな。天敵と呼ぶべき相手が――」

エイスリン「アノ、ツノ、マジ、ニンゲンジャネーヨ……」

憩「あの《未開地帯》の《最高峰》を恒常的に支配領域《テリトリー》にしとる能力者――小走さんも見たことあらへんのとちゃいますかね。ガイトさんはいかがです?」

智葉「神話で聞いたことがあるくらいだ。一千年前の始祖の大魔術師が嶺上開花を好んで和了っていたとな。
 以降、魔術世界の歴史において、聖なる《神域》を完全支配する魔術師――《嶺上開花で和了る》固有魔術を発現した者は、一人も見つかっていない」

菫「一千年に一人の逸材……あの照の妹なら、ありえない話でもないのか」

智葉「ちなみに、三回戦で自動即興《エチュード》モードのネリーが嶺上開花を和了ったとき、私は、真っ先に始祖の大魔術師を思い浮かべたし、それ以外の人物など考えられなかった。
 《神域》――《未開地帯》の《最高峰》を支配するとは、それほどの偉業なんだよ」

憩「あー……それでネリーさんはあんなに目を丸くしてたんですね。ウチは、あの《完全模倣》のラインナップを見て、真っ先に妹さんを思い浮かべましたけど」

菫「そんな早くから当たりをつけていたのか?」

憩「『白糸台の誰か』『宮永照から直撃を取れる』『カンが絡む能力者』の共通部分に含まれる雀士なんて、妹さん一人しかいませんからね。あと、宮永照の表情から珍しく動揺の色が見て取れましたし」

エイスリン「《アクマノメ》、ココロ、オミトーシ!!」

憩「おおきにです。ま、もう一人のほうは見抜けへんかったですけどね」

菫「もう一人?」

憩「一緒に見てた花田さんですよ。ネリーさんが嶺上開花を和了ったあと、ウチ、それとなーく花田さんの表情を伺ってたんです。
 知ってか知らずか、『あの宮永照さんから直撃を取るのに、我らが《煌星》のメンバーの力を使っていただけるとは』って言うたんですよ。
 それが大星さん一人を指すのか、大星さんと妹さんの二人を指すのか、どっちにしろ真実を言うてて、真実を言うてる顔しとる。
 その時点で、こっそり詮索するんは諦めましたわ。何がそうさせるんやってくらいの隙の無さです。花田さんは、ホンマのホンマに《怪物》ですよ」

智葉「…………!?」ガタッ

エイスリン「ホワオ!? ドーシタ!?」

智葉「まさか……いや、しかし、偶然の一致にしては……」ブツブツ

憩「ガ、ガイトさん……?」

智葉「なあ……誰か、この街の都市伝説に詳しかったりしないか?」

菫「私はその手のは明るくないな」

エイスリン「ワタシモ」

憩「古いのやったらそれなりに。最近のはさっぱりですけど」

智葉「問題ない。私が白糸台に入学した頃に耳にした都市伝説だからな。記憶が曖昧だから、ちょっと確認したいんだ」

憩「なんですかー?」

智葉「うろ覚えなのだが、『嶺上開花を和了る』能力者――がいたような気がするんだが……」

憩「ピコン! 検索終了です。惜しいですよ、ガイトさん。正確には、『嶺上開花で四槓子を和了る』です」

菫「なんだその化け物は……」

智葉「そいつはなんと呼ばれている?」

憩「こいつはですね、えっと、かなり息の長い都市伝説ですね。驚くなかれ、白糸台の創立当初からその存在が囁かれとります。
 ま、モデルが不特定多数いるタイプの、伝承系のカテゴリに含まれる都市伝説ですね」

智葉「なんでもいい。そいつはなんと呼ばれている?」

憩「それが、歴史が古いんで、通称・呼称が大量にあるんです。『神出鬼没』で『無敗』の雀士。その打ち筋は『変幻自在』。時として『嶺上開花で四槓子を和了る』ことさえある。
 対局はほとんどが『トビ終了』。《十最》の番外――もとい元ネタで、『《最上》の大能力者』とも呼ばれ」

智葉「違う……そういうのではなくて、そのものズバリの名称だ」

憩「あっ、ほんなら、これのことですかね。そのものズバリどころか、何一つ指し示してませんけど」

智葉「構わん、きっとそれが正解だ」

菫・エイスリン「……?」

憩「神出鬼没で変幻自在な《最上》の大能力者。名前も素性もわからへんその雀士は、シンプルに、こう呼ばれています――








































                                   ――正体不明《カウンターストップ》」

 ――対局室

 南一局・親:優希

優希(うぅー、南場に入った途端にこれか……)ゾクッ

 東家:片岡優希(幻奏・103100)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:宮永咲(煌星・90100)

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:天江衣(劫初・141700)

優希(シズちゃんは完全に沈黙しちゃったから、自力でどうにかするしかない。……自力でどうにかできるのか?)

衣・咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(あ、圧力がすごいじょ!? 『どきどき魔物だらけの中堅戦! (和了り牌)ポロリもあるよっ!』ってネリちゃんは言ってたけど、冗談じゃないじぇ!!
 淡ちゃんと咲ちゃんと遊びで打ってたときは、大体東風戦でやってたからな……南場でコレはこわこわだじぇ……)タンッ

咲「カ」

衣「ロン! 12000!!」ゴッ

優希(じょー!? 今、私、二度死んだ!! 二度死んだじぇー!!?)ゾワワ

衣(……倍満を和了るつもりだったんだがな。宮永咲——カンに気をつけろということだったが、しかし、今のは感覚の外にあった。この巡目では捨て牌から槓材を読むのにも限界がある。そして、次はこやつの親番か……)

 衣手牌:2234[5]③④[⑤]四[五]六七八 ロン:九 ドラ:2

咲(うっかり……大明槓じゃ頭ハネできないよね。私はカンをクッションにして和了るから、速攻&高打点を連発する天江さんと正面から点棒の奪い合いをするのは、分が悪いのかな? まあ、けど、ゴッ飛ばせばいいだけだよね……)

 咲手牌:22③④[⑤]⑥⑦⑧九九九南南 ドラ:2

穏乃(わー……中堅戦が始まってから何度目になるかわからないけど、また塞さんのモノクルが砕け散った気がする。ともすると照さんの《照魔鏡》にヒビが入りそう。ってことは、ようやく本物を生で見れるのか……)ビリッ

衣(生牌に気をつけろ――だったな。海底狙いで腰を据えて打つのは危険だ、とも。さて、どうしてくれよう……)

優希(くったくただじぇ!!)

咲「次は私の親ですね……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:91100 咲:90100 衣:153700 穏乃:65100

 南二局・親:咲

咲(長かった……本当に長い道のりだったよ……)

咲(一回戦までは温存、二回戦はあの人斬りさんの人の妨害、三回戦は温存、準決勝は散々、ずーっとずーっとずーーーーっと寸止め!! もーたくさんっ!!)

咲(ダブリーバカの淡ちゃんが羨ましくなる末期症状まで出る始末! 本当にバカってバカらしくバカでいいよね!!
 親で一打目曲げればいいだけなんだからっ!! 角が来たら全自動でカンして和了ればいいんだから!! あーもーあのキラッキラの笑顔を思い出すだけで腸煮えくり返る……!!)メラメラ

咲(……いや、まあ、それも、もう過去の話だよね……)フゥ

咲(ねえ……お姉ちゃん、見てる? 見てるよね。私、白糸台に来て、よかったよ。いや、お姉ちゃんが何一つ変わってなかったのは残念だったけど)

咲(やっとここまで来たんだ。お姉ちゃんが《頂点》にいる山の天辺。素敵な仲間三人とおバカ一人と一緒に辿り着いた天上。世界で一番高い場所)

咲(もう助走も調整も肩慣らしも要らない!! 最初から……全力全開十分咲きだよッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 咲手牌:2222③③③③六七八八八 ドラ:四

衣(ふむ……五萬じゃない、か——)ビリッ

 衣手牌:二二三四四[五]六4[5]6④[⑤]⑥ ツモ:八 ドラ:四

衣(感覚を信じるなら、しずのと《東風》は張っていない。《頂点》の妹も同様。2000点以下の安手の一向聴。ここで八萬を捨てることに、一切の問題はない。無論、八萬が生牌であることは承知しているが……)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(知恵の回る有象無象なら、ここで二・四萬切りを選ぶのだろう。もしこやつが嶺上開花を狙って和了れるのなら、生牌切りは愚の骨頂。下の下の策だ。理屈はわかる。よくわかる。だが……それはそれ、これはこれ……)

衣(支配者《ランクS》は必然で麻雀を打つ。この槓材も例外ではない。こやつは選りにも選って衣に掴ませてきた。傲岸不遜、唯我独尊——まるで鏡を見ているようではないか)

衣(よかろう……《頂点》の妹——宮永咲)ゴゴゴ

咲(む——?)ビリッ

衣(望み通り……この一打で見極めさせてもらうとしよう。貴様が衣の遊び相手に相応しい者か否か。力と想いをぶつけ合うのに足る兵か否か……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(びっくりするほど回す気ゼロ——うん、そうだよね。やっぱ、ランクS同士はこうでなくっちゃ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(では……そろそろ始めるとしようか)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(この感じ……耐久戦を思い出すよ)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣・咲(ルール無用の真剣勝負《なぐりあい》——負けたと思ったほうの負けッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(この人たち支配力で会話してる!? スーパー異次元バトル!! ついていけないじょー!?)ゾワワ

穏乃(二人とも楽しそうで羨ましいなぁ……)ウズウズ

衣(さあ、これが欲しいんだろう——!?)タンッ

 衣手牌:二二三四四[五]六4[5]6④[⑤]⑥ 捨て:八 ドラ:四

咲「(その通りだよ!!)カン!!」ゴッ

 咲手牌:2222③③③③六七/八八八(八) 嶺上ツモ:七 ドラ:四・?

衣(やはりか……!! 安手の一向聴から大明槓!! けいの危惧していた通りのことが起きるのなら、ここで終わることはない。むしろここからが真骨頂。淵底の向こうから牌を掠め取っていく敵——衣の感覚をすり抜けてくる相手……!!)

咲「もいっこ、カン!!」ゴゴッ

 咲手牌:2222六七七/③③③③/八八八(八) 嶺上ツモ:七 ドラ:四・中・⑦

衣(衣は《他家を一向聴にする》力と《他家の向聴数と打点がわかる》力を持っている……そんな衣の支配下で和了りをものにするのは、同じ支配者《ランクS》でもそれなりに難しいことだ。
 とーかやこまきも然り。三回戦で戦った《絶門》や大星淡もそうだった。しかし、こやつがもし、本当に、嶺の上から自由に有効牌を引いてくることができる能力者なら——)

咲「もいっこ……カンッ!!!」ゴゴゴッ

 咲手牌:六七七七/2222/③③③③/八八八(八) 嶺上ツモ:? ドラ:四・中・⑦・發

衣(大明槓と連槓を駆使すれば、《一向聴地獄》の支配に逆らわずに衣から直撃が取れる。その上こやつは、カンで手を変化させることで、安手を一瞬で化かすことができる……!!)

咲「ツモ――」パラララ

 咲手牌:六七七七/2222/③③③③/八八八(八) 嶺上ツモ:六 ドラ:四・中・⑦・發

優希(これが《魔王》の真の姿なのか……!!)ゾゾゾッ

咲「断ヤオ対々三暗刻三槓子……」

穏乃(白い花びらが見える)ポー

咲「嶺上開花――24000の責任払いですッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(テンパイ気配のない安手の一向聴から三連槓で親倍直撃だと……!? 覚悟はしていたが信じ難い!! 衣の感覚がかえって仇になる。これがダブリー使いと双璧をなす《煌星》の嶺上使い――宮永咲か……!!)

咲「一本場っ!!」ゴッ

衣(いいっ!! なんだこやつ!! すっごく面白いぞ……!!)キラキラ

咲(ちょ、これ私の公式戦初嶺上だよ!? 親倍だよ!? それなのに笑顔って……!? あーもーどっかのおバカさんじゃないんだから、もう少しあわあわしたりとかさー!!)

衣(相手にとって不足無し!! そうと決まれば即刻返り討ちだっ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(ふん、上等——ゴッ倒すよ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:91100 咲:114100 衣:129700 穏乃:65100

 ――《永代》控え室

『決まった嶺上開花おおおおお!! 《煌星》宮永咲!! 責任払いで《劫初》の独走に待ったをかけましたー!!』

照「どうだあああああ!! 見たかああああああ!! これが正真正銘ええええ!! 本物の咲だああああああ!! この世に一人しかいない私の妹だあああああ!! ひゃっふうううううううう!!」ピョンピョン

塞・まこ・純「」

照「ねえねえ、見た見たー!? 私の咲のちょーカッコいいところ見たー!? あの天江さんから倍直だよっ!? 去年私よりも稼いだあの天江さんからだよ!? あの菫が仲間に引き込んだあの天江さんからだよ!? 
 すごいでしょ!? 素敵でしょ!? 可愛いでしょ!? 愛しちゃうでしょ!? ちゅっちゅしてぎゅーってしたくなっちゃうでしょ!?
 でもダメッ!! 咲は私の妹だから誰にもあげないのっ!! えへへ、羨ましいだろー?」ルンルン

塞・まこ・純「」

照「……ふう。みんな気絶しているのをいいことについはしゃぎ過ぎてしまった。どうしよう、起こしたほうがいいのかな……」

塞・まこ・純「」

照「うん。そっとしておこう。そして私は心置きなく咲の応援をしよう」

     咲『一本場っ!!』ゴッ

照「いいぞー!! 咲ー!! 積んじゃえ積んじゃえー!! 打点も上げちゃえー!! 昔手取り足取り教えた通りに左手で雀卓の角を掴んで右手に風雷を纏ってコークスクリュー嶺上ツモしちゃえー!!
 え、やだっ、それってお姉ちゃんとお揃いじゃない!? 咲ってばもう本当にお姉ちゃん大好きっ子なんだからー!!
 でもでもっ!! 残念でした!! だって私のほうが咲大好きだもーん!! 大大大大だぁーい好きだもーん!! わーい!! 頑張ってー、咲ー!!」ヒャホーイ

 ――対局室

 南二局一本場・親:咲

咲(お姉ちゃん……テンション振り切って周りの人にドン引きされてなければいいけど……心配だな)タンッ

衣(先ほどの親倍……断ヤオのみでしかなかった手を、三連槓することで、対々三暗刻三槓子嶺上開花――七飜も上乗せしてきた。
 同じことを狙ってできるのならば、どんなに安手気配しかなくとも倍満くらいは平気で和了ってくると考えたほうがよいだろう)タンッ

穏乃(席順的にも点数的にも優希をアシストしていきたいんだけど……さすがに南場は大変かな。
 鳴きの速攻が活きたのは能力の追い風があってこそ。支配者《ランクS》二人を相手にレベル0状態で和了るのは至難の業。《一向聴地獄》が効いてるから差し込みもできない。うーん……)タンッ

優希(天江先輩と咲ちゃんも恐いけど、シズちゃんから微塵も焦りが感じられないのがもっと恐ろしいじぇ。後でどれだけ稼ぐつもりなのか……)タンッ

咲(《東風》が切れたのと《一向聴地獄》のおかげで、南場に入ってから、優希ちゃんが大人しい。変なとこで鳴きが入らないのは助かるよ)タンッ

衣(順調に進めているようだな、嶺上使い。恐るべきことに18000の気配……捨て牌からすると筒子の門前清一か?
 三回戦であの外つ国人が和了っていた三倍満に近い手を張っているとすると、この上なく危険だが――)タンッ

穏乃(宮永さんのところにどんどんすごパが集まっていく。どうにかしなきゃ。んー……この辺?)タンッ

優希(おっ、シズちゃんから待望の献身オーラが!? だが、しかし、惜しいっ!!)タンッ

咲(さあ、トップまくって煌さんに褒めてもらうぞー♪)タンッ

衣(全ては思いのままに——という顔をしているな、嶺上使い。なるほど……貴様は確かに強い。衣の感覚をこのような形で無力化してくる相手など初めてだ。《嶺上》と《開花》――やり方次第ではこまきさえ出し抜き得る稀有な力だろう)

衣(とは言え、衣だって十分強いぞ。衣が力を使えばみんなテンパイできない。衣だけが高い手を自由に和了れる。
 もし仮にテンパイされたところで、衣なら相手が張っているかどうかがわかる。どれくらいの点数なのかもわかる。回避するのも潰すのもちょちょいのちょいなのだ)

衣(衣に勝てるのは、《三人》、《4K》、《牌に愛された子》……そういった選ばれた者たちだけだと思っていた。少なくとも、去年の大会では、こまきを超える打ち手とは出会えなかった)

    ――思い上がりも甚だしいぞ、《牌に愛された子》。

衣(あの満月の夜……屋敷で相見えたすみれの、あの真剣な目が忘れられない。自らの敵なら神さえ殺すと言わんばかりの……文字通り射貫くような視線——)

                  ――お前は世界の広さを知らない。

    ――この街の強さを知らない。

衣(支配者も、能力者も、非能力者も、無能力者も……衣より強い雀士など五万といると、すみれは豪語した)

      ――白糸台高校麻雀部の主将として、この《シャープシューター》が、お前に麻雀の楽しさを教えてやる。

衣(もちろん、対局は衣の勝ちだった。すみれ如きにどうにかできる衣ではない。そんなのは、もう、会った瞬間からわかっていた。だから言ってやったんだ。
 『思い上がるな? それは衣の台詞だ。有象無象の下等生物が衣に勝てるわけないんだから!』と。
 そしたら……すみれは笑顔で頷いたのだ——『そのようだ』と言って)

衣(あんなに笑ったのは久しぶりだった。お腹を抱えて転げ回った。開き直りでも負け惜しみでもない。すみれは単純に、衣が己より遥かに強いことを喜んだんだ)

           ――私程度に手こずる雀士などこちらから願い下げだ。

  ――天江衣、お前の力を見込んで頼みがある。

      ――私と共に戦ってくれ。宮永照を倒すために。

衣(勝負はすみれの勝ちだった。あんな頼まれ方をされて、断れるわけがない。まんまと嵌められた。してやられた。すみれは確かに強かで――強い雀士だった……)

衣(有象無象の中でも、すみれはそこそこ強いほうだろう。才能も衣ほどではないけどあるほうだろう。努力は誰よりもしているだろう。
 けれど、それでも、けいがよく言うように、超えられない壁というものは、確固として存在する)

衣(その事実を誰よりも理解していながら、すみれは、超えられない壁にぶつかり続けている。ずっと負け続けている。学園都市の《頂点》に、勝ち目のない戦いを挑み続けている。
 この上なく愚かなことだ。衣にすら手も足もでない分際で夢を見るな。あやつは——宮永照は——あのけいですら絶望に涙したほどの化け物なのだぞ……? さとはだって自分には無理だと言っていたじゃないか)

衣(なのに……なぜなのだ。それでも、すみれは諦めない。負けることから、絶望することから、すみれは決して逃げようとしない。断じて歩みを止めようとしない——)

衣(それがすみれの強さで、すみれ以外の有象無象も、同じほどの覚悟を持って麻雀と向き合っているのなら、まさに、すみれの言う通り。
 この街には、衣より強い雀士が五万といる。あの《砲号》などもきっとその五万のうちに含まれるのだろう)タンッ

衣(そういう意味で、衣は、たぶん、弱い雀士なんだ。そして、それは、貴様も同様なのではないか……? 嶺上使い――宮永咲)

衣(己の強さを、己の力を、衣も貴様も、信じて疑わない。この卓上《セカイ》を支配することなど呼吸するようにできると思っている。この小さな箱庭の支配者を気取る。この街《セカイ》の広さと強さを知らずに……)タンッ

優希「っ……!! それ、ポンだじょ!!」タンッ

 優希手牌:3444⑥⑦⑦三四五/六(六)六 捨て:七 ドラ:2

咲(天江さんが優希ちゃんの手を進ませた……?)タンッ

衣(嶺上使い……世間知らずの貴様に一つ、とても大事なことを、教えてやる)タンッ

穏乃(ふむ……)タンッ

優希(げ――)ゾクッ

 優希手牌:3444⑥⑦⑦三四五/六(六)六 ツモ:① ドラ:2

優希(こんなことだと思ったじょ……現物ッ!!)タンッ

 優希手牌:444①⑥⑦⑦三四五/六(六)六 捨て:3 ドラ:2

咲(ん――)ピクッ

 咲手牌:①①①②②②②③③③③④⑤ ツモ:⑧ ドラ:2

咲(天江さんは……うん、序盤に五筒を切ってる)チラッ

衣(衣は貴様より一年早くこの街にやってきた――)

咲(門前の天江さんはタンピン系の綺麗な手を張る傾向がある。スジなら……通るよね?)タンッ

衣「(先輩だぞっ!!)カン!!」ゴッ

咲(えっ……!?)ゾクッ

衣「ツモ! 嶺上開花……断ヤオ赤二――7700は8000の責任払いだッ!!」パラララ

 衣手牌:4[5]6三四五[⑤]⑥⑦⑦/(⑧)⑧⑧⑧ 嶺上ツモ:④ ドラ:2

咲(私の和了り牌――もとい嶺上牌が読まれたの……!? あ、そっか、清一だから――)

衣(しかと心に刻んでおけ、一年生! 場の支配とはこうやるのだっ!!)

咲(むぅー……門前場なら大体狙い通りに引けるし掴ませられるから展開が読みやすい――っていうのは、あっちも同じなのか。
 駆け引きの勝負になってくると、嶺上一択の私より、支配領域《テリトリー》が広くて、手役や待ちの形に制限がない天江さんのほうが柔軟性があって有利なのかな。
 今の……一筒止められて嶺上の四筒を持っていかれた時点で、私の手はほぼ手詰まりになっちゃったし。
 やられたな。ダブリーバカの淡ちゃんが相手なら確実に決まってたのに。なかなかどうして、ままならないよ)

優希(天江先輩……高め三色を崩して私に鳴かせたのか。まんまと咲ちゃんの槓材を押し付けられたじぇ)

穏乃(能力の相性的には宮永さんが有利だけど、ランクS同士で互いに必然で打つなら、一年分の経験値の差で、実戦の駆け引きは天江さんのほうが上――って感じなのかな)

衣「よーしっ! 衣の親番だぁー!!」コロコロ

咲(やられたら——ゴッやり返す!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(生猪口才——やってみろッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(死ねるじぇ!!)ゾゾゾ

穏乃(これは大変だ……)フゥ

優希:91100 咲:106100 衣:137700 穏乃:65100

 ――《煌星》控え室

淡「キラメ先生、いかがですかな、本日のサッキーくんの出来は?」

煌「良いと思いますよ。ただ、思っていたより相手方が冷静です。《永代》は宮永照さんがいるので仕方ないとしても、天江さんと片岡さんにはもう少し動揺してほしかったですね。
 やはり、三回戦のネリーさんの嶺上開花――あれがいただけませんでしたか」

桃子「まあ、どんな能力《オカルト》も対策《デジタル》するのが学園都市流っすから、これは避けては通れない洗礼っすよね」

友香「あ、そっか。データが少ないって意味では、私たちって今までかなり有利に戦ってきてたんだ」

淡「うちのチームは全員能力者で、公式戦にもあんま出てないからねっ! さぞや対策しにくかったろう!」

煌「ちなみに、準決勝で小走さんが薄墨さんの大四喜を頭ハネしなかった理由が、まさにそれですよ」

淡「な、なんだってー!?」

煌「或いは、桃子さんが《ステルス》を捨てうる可能性や、友香さんがレベルの壁を超える可能性を、考慮してのことだったと思います」

桃子「周到っす……」

友香「能力バトルも楽じゃないんでー」

淡「でも、未知数って意味なら、やっぱシズノが断トツだよね!」

桃子「みたいっすね」

友香「ちなみに、私たちの中では桃子が一番相性いいんでしたよね?」

煌「そうですね。堅実なデジタル派である桃子さんなら、いい勝負ができると思います。普通に攻めればそれなりに和了れるはずですし、高鴨さんは決して高火力タイプではないので、大きく削られることもありません。
 ジョーカー殺しであり、スペードの3。高鴨さんにも得手不得手はあります。どちらかと言えば守るほうが専門でしょう」

淡「どれくらいになったら動き出すかなー?」

煌「それについては、大変困ったことに、もう動き出しています」

淡「え」

     穏乃『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――対局室

 南三局・親:衣

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(ラス前。ここで来てしまったか……シズちゃんのターンが)タンッ

咲(これ……《無効化》とも微妙に違うよね。煌さん言う通り、能力じゃなくて支配力に何かされてる感じがする。それに、自分だけの現実《パーソナルリアリティ》のほうも具合が変……)タンッ

衣(動き出したか、《深山幽谷の化身》。かつて味わったことのない感覚だな。強いて言えば、さとはの《欺刃》に近いのか? なんと摩訶不思議な……)タンッ

穏乃(視界良好――)タンッ

優希(前向きに考えるじょ。シズちゃんの打点はそこまで高くない。ランクS二人に暴れられるよりは、まだ安心だじぇ。私は支配者じゃないし、対戦経験がある。気休め程度の差だけど、むしろこの状態のほうが攻めやすいはず……)タンッ

咲(んー……わかんないなぁ。何かいるのは感じる。でも、わりと行けそうな気がするんだけどなぁ)タンッ

衣(一打ごとに何かの気配が濃くなっていく。得体が知れない。ずるずると不安定なままで打つのは危険だな。とにかく一度、試したい)タンッ

穏乃(いつでもどうぞ……)タンッ

優希(だー! そもそもテンパイできないじょー!!)タンッ

咲(さて――)チャ

 咲手牌:一二三四五六七八九⑤中中中 ツモ:中 ドラ:發

咲(《深山幽谷の化身》……お姉ちゃんが切り札に選んだ一年生。レベル5の第七位――学園都市最高の《原石》。どれほどのものか……)スゥ

咲「カンッ!!」ゴッ

優希(じょー!! 鳥肌っ!!)ゾワワ

衣(気炎万丈。申し分ない闘気だが、果たして――)ビリッ

穏乃(………………)

咲(………………へえ)

 咲手牌:一二三四五六七八九⑤/中中中中 嶺上ツモ:3 ドラ:發・1

咲(楽しませてくれるね……っ!!)タンッ

優希(不発!? あのタコス一億個分の支配力をどうやっていなしたんだじぇ!!?)

衣(こやつ……)タンッ

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(支配力の出力を上げた瞬間に何かの気配が膨れ上がった。跳ね返したり拮抗したりって感じじゃない。
 なんだろう、もっととてつもなく大きなエネルギーがこの場の底にあって、その流れの中に私の力が取り込まれちゃったっていうか……)タンッ

衣(世界そのものを相手取っているようなものなのだろうか。だとすると、その力は掛け値なしに無尽蔵なのだろう。
 支配者《ランクS》の《奇跡》とは似て非なるものだ。ごくごく身近にある自然の力。最初から最後までそこに在るもの。《絶対》に霧消しないエネルギー)

衣(しずのの《原石》の力は卓上に収まるものではない。もっと大きな何かだ。衣も、嶺上使いも、《東風》も、しずの自身も、その何かの中に含まれている。
 ゆえに、しずのも完全にコントロールできるわけではない。だが、こやつが利用しているのがそのもの《世界の力》だとするなら、物量は圧倒的。力任せでは勝てない――)

衣(――かどうかは、やってみないとわからないだろうっ!!)ゴッ

咲(あ、そうか、私が暗槓したから……)ビリッ

優希(天災は!! 十七巡目頃にやってくる!! うぐぐぐ……溺れ死ぬじょ!!)ゾクッ

衣「リーチッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 衣手牌:①④⑤⑥111南南南發發發 捨て:⑧ ドラ:發・1

優希(どんな手かはわからない! がっ! 和了られたら即死間違いなしなんだろうなっ!!)タンッ

咲(海底撈月――私が無理だったんだから、普通に無理だと思うけどな……)タンッ

穏乃(………………)

衣(………………ふん)

 衣手牌:①④⑤⑥111南南南發發發 ツモ:⑨ ドラ:發・1

衣(最後まで楽しめそうだなッ!!)タンッ

穏乃「ロンです」

優希(なにー!?)ガーン

咲・衣(だろうね(な))

穏乃「河底のみ、1600です」パラララ

 穏乃手牌:一一一234567⑨北北北 ロン:⑨ ドラ:發・1

衣(《通行止め》に喰らった河底とはまるで異なる印象だな。二回戦のあやつのカンドラモロは本当に心が凍えた。それに、三回戦でけいやくろの和了り牌を根こそぎ抱えていたのも、明らかに常軌を逸していた。
 だが、しずのは違う。一つも恐くない。まるで大自然の摂理を目の当りにしたような感覚。何かを捩じ曲げられたのではなく、かくあるべき姿に正されたとでも言えばいいのか……)

咲(とりあえず、王牌周辺が私たちの支配領域《テリトリー》じゃなくなっちゃったのはわかった。天江さんの《満月》も、私の《開花》も通じない。淡ちゃんの《カン裏モロ》も当然無理。
 ただ、煌さんの《通行止め》とは感触が違うんだよね。高鴨さんはレベル5だけど、《絶対》の種類が煌さんとは違うっぽい。そこに何かの突破口があればいいんだけど……。
 んー、こうなってくると、能力や支配力よりは素の実力がモノを言ってくるのかな? デジタル派の和ちゃんや新子さんは三回戦で高鴨さんに勝ってたし。うまいこと折り合いをつけて打たないとね)

穏乃(得意技を破られたのに、二人とも落ち着いてる。照さんだって初対戦ではちょっとびっくりしてたくらいなのに。となると、ここから逆転するのはさすがに厳しいかな? んー……やるだけやってみよう)

衣・咲・穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(マ、マズいじぇ……!! 南場に入ってから完全にリアクション要員になってるじょ!! うー!! 頑張るっ!!)

穏乃「では、ラス親、行かせていただきます――」コロコロ

優希:91100 咲:106100 衣:135100 穏乃:67700

 ――《劫初》控え室

智葉「すまんな、ちょっと出てくる」タッ

 パタンッ

エイスリン「アイツ、ジュンケツカラ、ヨース、オカシーゾ」

憩「花田さん関連の何かなんですかね。詳しいことはわかりませんけど」

菫「また斬る(物理)だの殺す(物理)だの言い出さなければいいが――」

 ――《幻奏》控え室

誠子「高鴨さんのラス親……でも、三回戦のときは、後半の南場で優希が和了っていました。やり方次第でどうにかできませんかね」

セーラ「俺の見る限りでは、けっこうチャンスやと思うで。高鴨が天江と宮永咲の能力・支配力を無にしてくれるなら、素の実力がモノを言ってくる。今の優希なら十分戦えるやろ」

ネリー「ふあー……」ポケー

やえ(宮永咲の嶺上開花からネリーの様子がおかしいな……)

 プルルルル

やえ「っと、失礼。ちょっと出てくる」タッ

誠子・セーラ「?」

 ――――

やえ「どうした。試合中だぞ?」

智葉『すまん。お前は知っておいたほうがいいんじゃないかと思ってな』

やえ「今度はなんの話だ……?」

智葉『ところで、ネリーの様子はどうだ? おかしくなってないか?』

やえ「ん、ああ、そうだな。宮永咲が嶺上開花を和了ってから、なんと言えばいいのか、ぽけーっとしている」

智葉『なるほどな』

やえ「おい、一人で納得するな。とりあえず、簡潔に頼む」

智葉『始祖の大魔術師――と呼ばれる魔術師がいた。魔術世界では誰もが知っている、一千年前に実在した伝説の大魔術師だ。魔術《オカルト》の起源でもあると考えられている』

やえ「一千年前……能力《オカルト》の起源でもあるな。そうか、魔術世界にはそういう伝説が……。それで、そいつがどうかしたのか?」

智葉『始祖の大魔術師は、嶺上開花を好んで和了ったと伝えられている。以降、一千年間、《嶺上開花を和了る》という固有魔術を発現した者は、こちらの世界では見つかっていない』

やえ「ああ、それでネリーの様子がおかしいのか。嶺上開花の能力が、始祖の大魔術師――魔術世界の伝説と同義なら、知識の塊である運命奏者《フェイタライザー》のあいつが見惚れるのも頷ける」

智葉『ああ……私も驚きを隠せないくらいだよ。だが、恐らく、ネリーの感情はもう少し複雑だろう』

やえ「どういうことだ?」

智葉『宮永咲は、嶺上使いであると同時に、運命想者《セレナーデ》でもある。《プラマイゼロ》の点棒操作系能力者。あいつの《嶺上》と《開花》の能力は、その力と切っても切れない関係にある。合っているだろう?』

やえ「ああ。支配者は支配者であるがゆえに多才能力者《マルチスキル》だからな。符の《制約》を介して全ての能力は繋がっている」

智葉『点棒操作系能力者である宮永咲が嶺上開花を得意としている――この事実が、魔術世界の伝説、ひいては学園都市の闇を紐解く鍵になる』

やえ「なに……?」

智葉『一千年前に実在した、魔術《オカルト》の起源――嶺上開花を得意とした始祖の大魔術師。ところで、一千年前の魔術世界には、もう一人、重要な魔術師が登場する』

やえ「まさか――」

智葉『甘美にして完備――全ての魔術がそこから派生したと言われる戦慄の旋律を奏でた、運命想者《セレナーデ》。世界を閉ざし、世界に殺された、今のところは歴史上ただ一人の運命喪者《セレナーデ》だ』

やえ「始祖の大魔術師と、運命喪者《セレナーデ》が、同一人物だと言いたいのか……?」

智葉『一千年前、世界で最初の魔術師《オカルティスト》――運命想者《セレナーデ》が現れた。
 誰の手も届かない《神域》を完全支配するほどの完備性を持つ旋律――それは、世界と共振し、同時多発的に固有魔術《オカルト》に目覚める者を生み出した。こう考えて、特に矛盾は起きないように思う』

やえ『なるほど……運命喪者《セレナーデ》が世界を暗黒に染め上げるように、運命想者《セレナーデ》は世界に光を与えることができるのか。
 その光を受けて、ある者は赤く染まり、ある者は青く染まる。その色が固有魔術となり、世界に無数の色――無数の魔術《オカルト》、ひいては能力《オカルト》を生み出した。
 なら、そいつは、オカルトの原点にして源泉、ってことになるな』

智葉『この事実が正しいとすれば、ネリーはそれを知っていることになる。あいつの脳内には、始祖の大魔術師の《原譜》も、運命喪者《セレナーデ》の《原譜》もある。両者の旋律が同一であることに気付かないわけがない』

やえ「なら、一千年前の魔術師たちは、自分たちの生みの親を殺したことになるんだな……?」

智葉『そういうことになる。まさに自業自得だな。この世界は最初から呪われていたんだ』

やえ「で、一千年の時を経て、科学世界の《頂点》の妹であり運命想者《セレナーデ》である宮永咲が、《開花》の固有魔術を使って、伝説の始祖の大魔術師が得意とした嶺上開花を和了ってみせたと。これは相当に複雑な心境だろうな……」

智葉『さて、問題はここからだ』

やえ「おう」

智葉『始祖の大魔術師と運命喪者《セレナーデ》が同一人物だとすると、さらに多くの事実が符合する。ここからは、ネリーではなくお前の領分だ』

やえ「学園都市の闇……か」

智葉『始祖の大魔術師――その一生のうちに獲得した点棒を全て積み上げれば、遥か天上にまで届いたと言われる、生涯無敗の雀士。
 その桁違いの得点能力に因み、彼女の固有魔術は《カウンターストップ》と呼ばれている』

やえ「待て、《カウンターストップ》だと……!? それは、どういう字を当てる!?」

智葉『残念ながら、現代にはその音しか伝わっていない。だが、同様の音を持つ言葉が、学園都市の都市伝説にあるのだろう?』

やえ「ああ……《最上》の大能力者――正体不明《カウンターストップ》。白糸台の創立当初からその名が通っている、伝承系の都市伝説だ。キーワードだけが一人歩きして、モデルが不特定多数いるタイプの……」

智葉『聞けば、そいつは『嶺上開花で四槓子を和了る』そうじゃないか。
 まあ、これだけの数の雀士が集まって毎日のようにそこかしこで麻雀を打っていれば、四槓子なんて古典確率論的にいくらでも起こるだろう。且つ、最後は必ず単騎待ちで嶺上牌を引く四槓子は、嶺上開花と複合しやすい。
 で、そんな『偶然』が起こるたびに、面白半分にその名が呟かれ、世代を超えて語り継がれていく――正体不明《カウンターストップ》とは、そういう都市伝説なんだろう?』

やえ「お前の言う通りだ。私はあれをずっとその様に解釈していたが……」

智葉『仮に、特定のモデルがいると考えると、どうなる……?』

やえ「嶺上開花を得意とし、桁違いの得点能力を有していたという《カウンターストップ》――始祖の大魔術師と、歴史上ただ一人の運命喪者《セレナーデ》、
 さらに、白糸台に古くから伝わる正体不明《カウンターストップ》が、全員同一人物だと……?
 『得点能力』と『トビ終了』……『完備なる旋律』と『変幻自在の打ち筋』……そして『嶺上開花』……確かに、符合は多い。否、しかし、運命喪者《セレナーデ》は殺されたのだろう?
 死人が学園都市をうろうろしているという発想はさすがに科学的じゃない。奇妙な一致ではあるが、やはり、正体不明《カウンターストップ》は不特定多数が関与する都市伝説と解釈するのが妥当だ」

智葉『不特定多数……か。そこなんだがな、《幻想殺し》。一つ、素朴な疑問をぶつけてもいいか?』

やえ「ああ」

智葉『正体不明《カウンターストップ》は、『神出鬼没』の存在で『変幻自在』な打ち筋なんだよな? それが、なぜ、白糸台の創立当初から、百年以上も綿々と一つの都市伝説として成立しているんだ?
 『嶺上開花』や『トビ終了』といったキーワードは、多様な『偶然』を繋ぎ合わせるには少々弱い鎖だと私は思うのだが……』

やえ「ああ……そのことか。いや、もう一つ、『制服』という重要なキーワードがあるんだよ。正体不明《カウンターストップ》は、いつも決まった制服を着ている」

智葉『どんな制服だ? 特徴は?』

やえ「『丸襟にグレーのリボン』」

智葉『…………《幻想殺し》、私は都市伝説には疎いが、この街の制服事情にはそれなりに詳しい。古いカタログのデータも全て手元にあるし、暇さえあれば眺めている。
 そんな私が断言しよう。そのような特徴を持つ制服は、過去から現在に至るまで、白糸台のどこにも存在しない』

やえ「っ——!!?」ゾクッ

智葉『お前の言う『伝承系』という言葉の意味は概ねわかる。そういう特徴を持つ『制服』が白糸台の創立当初からあって、それを着た誰かが『嶺上開花で四槓子を和了る』機会があって、その事実が広く伝播した。
 そして、その伝説にあやかろうと模倣者が次々現れ、古典確率論に従って同様の偶然が起こる――その連鎖が正体不明《カウンターストップ》という都市伝説となり、今も息衝いている、と。
 私も、そう考えるのは、とても自然なことだと思う。だが、しかし――』

やえ「そんな……」

智葉『現実問題として、そういう特徴を持つ『制服』は、存在しない。
 だとすると、その『丸襟にグレーのリボン』というあまりにも具体的な情報は、一体どこに起源を持つ? なぜ、ありもしない『制服』が雑多な事実を繋ぐ鎖として機能している?
 正解は一つだろう……《幻想殺し》。特定の『誰か』がいるんだよ。この街に存在しないはずの『制服』を着た誰かがいるんだ。
 そいつが『神出鬼没』に現れては、『変幻自在』の打ち筋で、時として『嶺上開花で四槓子を和了り』、『トビ終了』で決着する対局を長きに渡って量産し続けてきた——無論、ありえないとは私も思うが』

やえ「ありえない……話ではないのかもしれない……」

智葉『何か、補強するような事実が?』

やえ「学園都市にはこんな都市伝説もあるんだ。この街には……『一千年の時を不老不死のまま生きる化け物がいる』と。だとすると――」

智葉『一千年前に魔術世界を追われた運命喪者《セレナーデ》の亡霊——始祖の大魔術師が、正体不明《カウンターストップ》の《最上》の大能力者として、この科学世界を徘徊していることになるな。
 そいつは、今、この瞬間も、どこかで嶺上開花を和了って、ひたすらに点棒を積み上げているのかもしれんぞ……』

やえ「これは——しかし、さすがの私も理解が追いつかん……!! 死人が徘徊!? バカな!! 何がどうなっている……!!」

智葉『花田煌のこと、その裏にある思惑、そして、魔術世界の闇と科学世界の闇の奇妙な一致――私たちが思っていた以上に、今回の件は、根が深いものなのかもしれん……』

やえ「ったく……大事な決勝だというのに、魔術世界やら都市伝説やら、外野がごちゃごちゃとうるさくて敵わんな」

智葉『悪いな、あれこれ押し付けてしまって。だが、花田煌の裏に一千年前の運命喪者《セレナーデ》が潜んでいるのだとしたら、ますますもって、お前の使命は重大になってくる』

やえ「……いや、構わんさ。どの道やらねばならんのだから」

智葉『私の用件は以上だ。また何か気付いたことがあれば連絡する』

やえ「助かるが、大将戦が始まったら対応できんぞ」

智葉『ああ、わかってる。じゃあな――』

やえ「ああ……」

 ピッ

やえ「………………」

やえ(いやいや、呆けてどうする。えっと……試合状況は、っと。ふん、高鴨が700オールで連荘続行か)ピピッ

やえ(正体不明《カウンターストップ》……一千年前の運命喪者《セレナーデ》……学園都市の闇――《レベル6シフト》計画……)ピピッ

 プルルル

やえ「……あ、もしもし、三尋木先生、今お時間大丈夫ですか? ええ……あ、いや、それはそうなのですが、ちょっと花田煌のことで新情報が――はい……」

やえ「ええ――ええ……はい。ありがとうございます。では、そちらは先生方にお任せします。私は……ちょっと、花田煌で手いっぱいなもので。はい。ありがとうございます。ええ、はい、では――」

 ピッ

やえ(疲れたな……紅茶でも淹れるか――)フゥ

 ――対局室

 南四局一本場・親:穏乃

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:高鴨穏乃(永代・69800)

優希(およよ……? さっきの局もそうだったが、なんかいい感じに手が形になっていってないか?)タンッ

 南家:片岡優希(幻奏・90400)

咲(《一向聴地獄》が《無効化》されかけてる……? 全体効果系だから、山の深いところを押えられただけでも結構影響が大きいのかな。私はまだぎりぎり《嶺上》で槓材が来てくれてるけど……)タンッ

 西家:宮永咲(煌星・105400)

衣(これがしずのの言うところのすごパか。今は山の深くだけで済んでいるが、局数が重なれば重なるほど侵食が進みそうだな。このままではいずれ《完全無効化》される。そうなる前に手を打たねば)タンッ

 北家:天江衣(劫初・134400)

穏乃「」タンッ

優希(ネリちゃん曰く、シズちゃんのすごパは、別に自分に有利な《上書き》を起こしているわけではないらしい。感応系能力者か感知系能力者を相手にする感覚で打てば、それなりに戦えるとのことだったが……)タンッ

咲(高鴨さんは決して攻撃が得意なわけじゃない。他の人には見えてない何かが見えているだけで、和了りはいたって普通の形で、普通の速度。
 滅多にリーチを掛けないみたいだから、打点だってそこまで高くない。全然攻めていいんだ。だから、ラス親を流すのは、そんなに難しくないはず)タンッ

衣(んー……この《掌握》の感覚もれっきとした能力だから、一体いつまで使い物になるのかわからないな。とりあえず、しずのが張ったのはわかった。2000程度の安手。放っておいても問題はないか? 否――)

衣(局数を重ねるごとにしずのの支配が強まるのなら、ここで徒に連荘させるのは危険だ。しずのは決して稼げる打ち手ではない。チーム得点も断ラス。なら、こうされると苦しいはずだろう)タンッ

優希「ポンだじぇ!」タンッ

穏乃(天江さん……?)

咲(鳴かせたのかな。高鴨さんのツモを飛ばしたかったとか? となると、このツモをそのまま切るのはちょっと恐い)タンッ

衣(ふん、これで貴様の親は終わりだ、しずの!)タンッ

優希「ロ」

穏乃「ロン、2000は2300」パラララ

衣「む……!」

優希(頭ハネー!?)

咲(頭ハネもそうだけど……天江さんがすごい。分が悪いと見るや、迷いなく差し込みにいった。
 そういえば三回戦でも淡ちゃんのダブリーに差し込んでたっけ。《修羅》とか呼ばれて、普段はあんなワンマンな打ち方するのに……)

衣(ふん……こういうこともあるか。衣の感覚で《掌握》できるのは向聴数と打点だけだからな。支配の及ばない相手の待ちを読むのは困難を極める。なかなか、けいのように自由自在にとはいかないか)

穏乃「(危なかった。でも、なんとかなった。まだまだ……もう少し和了らせてください)連荘続行します」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:90400 咲:105400 衣:132100 穏乃:72100

 南四局二本場・親:穏乃

穏乃(全体効果系能力者の天江さんが他家のアシストを選択肢に入れて打ってくるとなると、止めるのは難しい。
 でも、少しずつ、天江さんの支配は崩せてる。いずれは能力も機能しなくなる。この前半戦のうちに、登れるだけ登ってみよう……)

優希(《一向聴地獄》の縛りが緩くなってきてるのなら、自力でも和了れるはずだじぇ。南場だけど頑張る!!)タンッ

咲(高鴨さんの侵食がもっと進んでくれば、さすがの天江さんも差し込みとかそういうのは難しくなってくるのかな。
 能力や場の支配が機能しなくなって、純粋に捨て牌しか情報がなくなったら、自身の支配力を当然あるものとして打ってきた私みたいな支配者《ランクS》には、かなり厳しい戦いになる。
 私もデジタルは淡ちゃ——和ちゃんを見習って勉強したけど、一点読みとか、そういうのができる域には達してない。死ぬほど悔しいけど、ぎりぎり場の支配が及ぼせる今のうちに、この前半戦は終わりにする)タンッ

衣(ん、嶺上使いが何かしているか? 出和了りなら60符2飜――3900程度。三暗刻だろうか。まあ、こやつの場合、あまりこの感覚は信用できないのだが……)タンッ

穏乃(宮永さん……?)タンッ

優希(よーしっ、張ったじょ、高い手!! 私の時代が来る予感がするじぇ!!)タンッ

咲(天江さんとの点差は三万点くらいある。この前半戦の収支トップは今のところ天江さん——って、いや、正直、点数状況に関係なく、これはもう二度とやりたくなかったんだけどね……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(あ……私の時代が来ない予感がするじぇ)ゾクッ

衣(嶺上開花を狙うつもりか? だが、それはもう無理だとわかったろう)

穏乃(っ……!! 違う、これは――)

咲「カン!」パラララ

 咲手牌:111①①①五六七八/東東東東 嶺上ツモ:④ ドラ:⑨・7

咲(うっ、さり気なく狙ってみたけど、やっぱり嶺上は無理か。仕方ない。やっぱ、こっちで)タンッ

 咲手牌:111①①①④五六七/東東東東 捨て:八 ドラ:⑨・7

衣(80符2飜――5200。暗槓によって打点が少し増えたが、手役は変わらず三暗刻だろう。衣の支配領域《テリトリー》の外にある嶺上牌で単騎待ち……直撃が恐いな。ひとまず現物)タンッ

穏乃(このモードの宮永さんと打つのは初めてだけど…この支配領域《テリトリー》の展開具合は明らかに異常だ。
 照さんの《八咫鏡》や花田さんの《通行止め》と同じ完備性。うーん、この巡目だし、ちょっと止められないかな)タンッ

優希(うぬぬぬ……来ないじぇ……)タンッ

咲(うん、深いところで勝負しなければ、場の支配はまだそれなりに有効っぽい。あと、これをやるのが、高鴨さん相手には初めてっていうのも効いてるのかな)

 咲手牌:111①①①④五六七/東東東東 ツモ:③ ドラ:⑨・7

咲(うー……失点するよりはマシ——と正当化してみても、やっぱり納得できないなぁ、こればっかりは……)タンッ

 咲手牌:111①①③④五六七/東東東東 捨て:① ドラ:⑨・7

衣(点数を下げた……? どうなっている。それでは役ナシ。ツモなら70符1飜だが……いや、待て、こやつが次で70符1飜をツモると――)タンッ

穏乃(そうですか……あなたはこういう山でもあるんですね、宮永さん……)パタッ

優希(シズちゃん? 目と手牌を伏せて……? はっ! さては私のツモを予見して――ってそんなことなかったじぇ!!)タンッ

咲「ツモです。ツモのみ70符1飜――600・1200は、800・1400」パラララ

 咲手牌:111①①③④五六七/東東東東 ツモ:② ドラ:⑨・7

『前半戦終了おおおお!! 《劫初》・《煌星》の上位二チームがまた一歩リードを広げました!! 《幻奏》・《永代》はここからどう動くのか!? 試合は後半戦へと入りますっ!!』

衣(ヤオ九牌の三暗刻――どんなに点数を下げても50符2飜の3200。積み棒の600点を加えるとその範囲を超えてしまう。かといって、三暗刻を崩せば役ナシ。ツモのみでは40符1飜1500の2100。それでは逆に足りない……)

 一位:天江衣・+8400(劫初・131300)

穏乃(強いて言えば、三暗刻を崩してリーチでもよかったのかな。それならツモで40符2飜2700の3300。
 けど、ぴったり決めるならやっぱり70符1飜600・1200の二本付けだ。それに、宮永さん的には、カンで場の支配を強めたほうがそれを達成しやすいしね)

 三位:高鴨穏乃・−4200(永代・70700)

優希(じょ……咲ちゃんの個人収支が――!? そうだった。咲ちゃんにはこれがあったな! 伝家の宝刀を抜いたのか……本当に、面白いくらい簡単にやってくれるじょ!!)

 四位:片岡優希・−9200(幻奏・89600)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 二位:宮永咲・+5000(煌星・108400)

衣・穏乃・優希(《プラマイゼロ》……!!)

穏乃(前半戦で《プラマイゼロ》のカードを切ってきたか。これは大きい。足掛かりさえできれば、登るのはそう難しくない。後半戦は、もう、《プラマイゼロ》もさせません……)

衣(稼ぎ足りないが、点数状況は悪くない。問題はしずのだな。しずのの侵食が進む後半戦をいかにして乗り切るか。その正体は少しずつ見えてきた。支配者《ジョーカー》殺し……決して勝機がないわけではないはずだ)

優希(翻弄されっぱなしの半荘だったじぇ。ただ、シズちゃんが咲ちゃんと天江先輩を抑え込んでくれるおかげで、戦いやすい状態にはなってる。あとは……うん、全力でぶつかるだけだじょ!!)

咲(………………)

『ではっ、ここで十五分の休憩に入りまーす!!』

 ――観戦室

久「天高く、風の吹きては花が舞い、月の満ちては山顕れる――風花山月ね」

和「は?」

久「試合はここで折り返しになるけれど、和的にはどうかしら?」

和「Aシードの優勝候補――《刧初》が順調に来てますね。他チームは独走を防ぐので精一杯という印象です。対するもう一つの優勝候補――《永代》は、ここが踏ん張りどころかと。
 大将戦には咲さんのお姉さんが控えていますから、僅差で回れば勝ちが見えます。穏乃がここで《刧初》に迫るのか離されるのか――重要な局面だと思います」

久「つまり、和の中での優勝候補は、順当に《刧初》か《永代》なわけね」

和「三回戦を一位通過してますし、予選の成績も頭一つ抜けていますからね」

久「なるほど。ちなみに、この中堅戦はどう思う? あなた、片岡さん、宮永さん、高鴨さんと対戦経験があるでしょ?」

和「私の打った感覚では、優希と咲さんと穏乃は、三人とも同じくらい強いです。その力は拮抗しているように思います」

久「中堅戦の区間賞予想は?」

和「偶然にも左右されますが、強いて誰か一人に絞るなら、去年の実績もありますし、唯一の二年生である天江先輩が、前半同様抜けてくるかと」

久「さっきの話と総合すると、あなたの中で今一番優勝に近いのは《劫初》ってことになるわね」

和「現時点でトップですからね、優位は優位だと思います。個人的には、もちろん、同じ一年生に頑張ってほしいですが」

久「ちなみに、和は誰が本命なの? 片岡さん? 宮永さん? 高鴨さん? 或いは、二条さん? それとも、まさかの憧?」

和「なんの話ですか……」

久「だって、愛しの園城寺さんは三月で卒業しちゃうでしょ?」クスクス

和「卒業……できるんですかね、怜さん……」ハァ

久「え? 軽口のつもりだったんだけれど、そんなにマズいの?」

和「あの人は、二年生の秋まで病欠が多く、その分の単位を今補習で取り直しているんです。が、いかんせん勉強嫌いで……普通の意味での補習も珍しくない状況——まったく頭が痛いです」

久「そう……」ズキ

和「……会長? どうしました?」

久「あ、いや、ちょっと頭痛が移ったのかしら……」

和「医務室、行きますか?」

久「んー……そういうのじゃない気がするのよね」

和「……偶然かもしれませんが」

久「ん?」

和「今朝、初美さんと怜さんも、頭痛がすると言っていたんですよね」

久「へえ……?」

和「特に、怜さんは、私の知る限り貧血一つ起こしたことがありません。人一倍健康には気を遣っていて、実際誰より健康な人のはずなんですけど……」

久「ふーん――」ガタッ

和「どこか行かれるんですか? もう後半が始まりますよ?」

久「ちょっとね、お手洗い」

和「なぜこのギリギリのタイミングで……? まあ、荷物は見てますね」

久「ありがとっ」タッ

 ――――

 プルルル ピッ

久「ハロー、ヤスコ♪」

靖子『なんだよ、久。今忙しいんだ』

久「《レベル6シフト》計画のことで?」

靖子『っ……!?』

久「わっかりやすいわね~、ヤスコ。そっかぁ、じゃあ、やっぱり今日はXデーなのね。《神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの》が誕生するってわけか。よかったわね、計画通りに事が運んで。
 出し抜いてやるつもりだったのに……結局、私は《逢天》や《新約》を生贄の祭壇に上げるだけ上げて、道半ば。本当……そっちとしてはしてやったりなのよね。悔しいわー」

靖子『…………』

久「ま、それはそれとしてさ。ちょっと聞きたいことがあるの。サンプルは少ないんだけれど、何人かの生徒が原因不明の頭痛を訴えていてね。これ、計画と何か関係があるの?」

靖子『原因不明の頭痛……!? なんだそれは、詳しく教えてくれ!』

久「(あら……? 何か様子が変ね)……詳しくは私もわからないわ。ただ、私もサンプルの一人なんだけど、なんていうのかしら――頭……思考というか、意思というか、そういうのが蝕まれているような――」

靖子『そう……か……』

久「ヤスコ? ねえ、どうしたの?」

靖子『久……勝手なのはわかってんだが、お前に頼みがある』

久「いいわよ」

靖子『そうかそうだよなこんな虫がい――えっ!? いいのか? いつになく聞き分けがいいな!!』

久「声聞けばマジかマジじゃないかくらいの区別つくわよ。知らない仲じゃないんだし。その代わり、それなりに情報は頂戴。じゃないと何をするにしても動きにくいから」

靖子『ありがとう、久。今度カツ丼奢ってやる』

久「いいから、早く情報を寄越しなさい。あなた忙しいんでしょ」

靖子『ああ、そうだな。ええ……何から話せばいいのか――』

久「キーワードだけでもいいから口に出して。そこからは私が必要に応じて誘導するから」

靖子『とりあえず、もう隠しても仕方ないが、《レベル6シフト》計画というのがあって』

久「計画に何かイレギュラーがあったのね? それで、計画はどうなったの?」

靖子『重大な事実が隠されていてな。世界規模でヤバいことになってる。計画は即時中止――にしたいんだが、責任者である理事長とコンタクトが取れない。
 三尋木先生主導で何人かの教職員が動いているが、計画の中止……つまるところ決勝戦の中止はできそうにない』

久「どうして? 何人かでこの試合会場に乗り込んできて、『中止だー!』って言えばいいだけなんじゃないの?」

靖子『信じ難いことに、『それ』を実行しようとすると、例外なく、『あれ? 今なにしようとしてたんだっけ?』状態になるんだよ』

久「えっ? なにそれ恐い」

靖子『三尋木先生は、『こっちの認識に干渉してるんじゃねーの? 知りたくもねーけど』って言ってたな』

久「えっと……そのことと、この頭痛は、何か関係あるの?」

靖子『ありそうな気もするが、実際のところは全くわからない。少なくとも、私は何度か『あれ?』状態になったが、今のところ、頭が痛くなったりとか、そういう身体的な変調はないな。
 だから、お前のその『原因不明の頭痛』――これは、理事長絡みではなく、《レベル6シフト》計画の『弊害』みたいなもんなんだと思う。
 断片的な情報しかないから決定的なことはわからないが、謎の意思阻害現象同様、こっちの認識——《パーソナルリアリティ》に何らかの干渉がなされているんじゃないだろうか』

久「対局でもないのに、不特定多数の人間の自分だけの現実《パーソナルリアリティ》へ干渉……? 理事長のほうもだけど、常識が通用しないにも程があるわね。ちなみに、弊害って他にもあるの?」

靖子『……私は今、『Whirlwind』——学園都市最大のサーバー施設に来ているんだが、そこの確率干渉遮断防壁が、完膚なきまでに破壊されている。そうなったときに作動するはずの警報装置も含めて全て』

久「それは……誰がなんのためにそんなことをしたのか――って見当ついてる?」

靖子『目的はサーバーの乗っ取りだ。それと、誰が――か。お前、都市伝説にはそこそこ詳しいよな? トビから守ってくれる《神様》ってわかるか? そいつが電脳世界にまで干渉した結果、こうなっているらしい』

久「あー……三回戦で洋榎が見たって言ってたわ、その《神様》。《レベル6シフト》計画の弊害だったのね、気付かなかった――そっかぁ……。
 えーっと、じゃあ、ヤスコの今いるサーバー施設と同じようなことが、個人の《パーソナルリアリティ》にも起きてるってこと?
 この頭痛はそのせい……確率干渉遮断防壁――《パーソナルリアリティ》という個の殻が破壊されつつある。
 だとすると、最終的にサーバー――自我の乗っ取りみたいなところまでいっちゃうのかも。ただの類推だけど、どうかしら?」

靖子『それを肯定できるだけの根拠も否定できるだけの根拠もない……が、個人的には、今のお前の説にかなり納得してしまって、背筋が凍った』

久「はぁ……思ってた以上にヤバいみたいねぇ」

靖子『今、この街――この世界は、千年に一度レベルの未曾有の大災害に見舞われている。既存の常識は役に立たない。だからお前の力が必要なんだ、久。《最悪》を力に変えられるお前がな』

久「詳細不明の大災害――オーケー。わかった。つまり、どうにかして、いい感じに、その危機に備えればいいのね?」

靖子『お前ってホント有能な!』

久「余計な混乱を起こさず、学園都市23万人の現在の動向を把握し、緊急連絡網を構築、問題が発生した場合は教職員と連携して速やかに対処する――と、こんな感じのことをすればいいのかしら?」

靖子『できるのか?』

久「私を誰だと思っているの? 白糸台校舎の学生議会長にして暗部組織《スクール》のリーダーよ?
 つまり、この街に存在する学生組織は全て、表裏ともに私の息がかかってる――私には一万人の手駒がいるってこと。
 まあ任せなさい。学生代表として、この街の人たちは一人残らず私が守ってみせるわ」

靖子『具体的にはどうやるつもりだ?』

久「学園都市には各種災害対策マニュアルがある。それをベースに動いていきましょう。えっと、《レベル6シフト》計画の山場というか、一番ヤバい時っていつ頃になるの?」

靖子『花田煌と宮永照の衝突が、計画の最終段階らしい』

久「大将戦ね。それなら——今から四時間後くらいでいいかしら。そのタイミングで、震源地白糸台の直下型地震が起こると樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》が予報した。速やかに避難を開始してください。
 うん、シナリオはこれでいいわね。
 とにかく、孤立する人を出さないように動く。公共施設に住民を集めて、いつ何が起きても対応できるように連絡系統を整える。どう? 悪くないでしょ?」

靖子『相変わらず最悪に最高だな、お前』

久「ありがと。というわけで、早速だけど、マニュアルに沿って対策本部を作ってちょうだい。三十分でよろしく。その間に、私は一万人を動かせるようにしておくわ。
 そこからは――まあ、学生と教職員で、いい感じに連携していきましょう。個人的なリクエストを言っておくと、我らが学生議会顧問のはやりんが本部にいてくれると、何をするにもスピードが出て助かるわ。たぶんだけど、そこにいるでしょ?」

靖子『わかった。瑞原先生は、そう——お前の言う通り目と鼻の先だ。すぐに話をしてみるよ』

久「よろしく。じゃあ、また三十分後に」

 ピッ

久「さーて……まずは大駒を揃えなきゃよね――ふふっ、みんな近くにいるから助かるわ」ピピピッ

久(凶報はいつだって突然――にしたって、とんだ《バッドニュース》ね。千年に一度の大災害?
 こんな《最悪》……さすがの私も今回はちょっと自信ないわ。でも……まあ、きっと、なんとかなるはず。だって、私には頼れる仲間がいるもの――)

 ザッ

恭子「緊急案件ってなんですか、会長」

ゆみ「よっぽどのことと見えるが」

洋榎「逆によっぽどやなかったらしばくでー」

哩「さっさと片付けて姫子へのご奉仕に戻りたか」

白望「ダルい……」

久「みんなありがと。それから」

初美「しゃーねー来てやったですよー」

久「ご協力感謝するわ。さて、あとは見習いの子が一人――」

憧「学生議会長見習い(自称)――私ならここにいるわっ!!」ドンッ

久「これで全員揃ったわね……と言いたいところだけど、目の錯覚かしら、ちょっと揃い過ぎてない?」

和「次期風紀委員長(自称)、原村和。なかなか戻ってこないので迎えに来てみたら、何の悪巧みですかこれ」ハイニモツデス

玄「《アイテム》リーダー、松実玄なのです。怪しげな気配を察知して来ました。何かお手伝いできることがあれば」

泉「元スキルアウトリーダー、二条泉です。よくわかりませんが、人手が要るならいくらでも貸します」

久「ありがと。それから――」チラッ

美穂子「私です。なんなりと」ニコッ

久「上等ね。後々声を掛けるつもりでいたけれど、あなたたちが最初からいてくれるなら心強いわ!」

恭子「ほな、会長、早速ですが、説明お願いします。こんだけの面子集めて……今から大覇星祭でも始めるつもりですか?」

久「そうね、そうならどんなに良かったことか。残念だけど、あまり楽しい系のことじゃないわ。ついさっき、プライベートで急な依頼があったのよ。それも超特大級」

初美「もしかして花田煌関連ですかー?」

久「やけに察しがいいじゃない。ま、問題の中心にいるのは彼女よね。ただ、彼女に関する予備知識はこれといって必要ないわ。ここまでで何か質問ある人?」

恭子・ゆみ・洋榎・哩・白望・初美・憧・和・玄・泉・美穂子「特に」

久「オーケー。じゃあ、本格的に行きましょう。スイッチ切り替えてね。ここからは、みんな大好きお仕事の時間よ――」

 ――対局室

優希「後半もよろしくだじぇ!」

 東家:片岡優希(幻奏・89600)

衣「よろしくっ!」

 南家:天江衣(劫初・131300)

咲「よろしくお願いします」

 西家:宮永咲(煌星・108400)

穏乃「最後までよろしくお願いします」

 北家:高鴨穏乃(永代・70700)

『下位チームが追い上げるのか、上位チームが突き放すのか!? 今後の戦況を占う大事な一半荘!! 折り返しての中堅戦後半——開始ですっ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

また近いうちに。

では、失礼しました。

新スレ立てました。

【咲SS】煌「ここが白糸台高校麻雀部ですか」
【咲SS】煌「ここが白糸台高校麻雀部ですか」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1415117509/)

 *

今日はこちらで更新します。

 東一局・親:優希

優希(東初……が、まったく力を感じず。三回戦と同じだじぇ。最初から南場のようだじょ)タンッ

衣(《一向聴地獄》ももはや風前の灯。《深山幽谷の化身》を封殺できるほどの効果は期待できまい。この状況では海底など夢のまた夢だな)タンッ

咲(マっズ……槓材の揃いが悪くなってきてる。ますます嶺上が和了りにくいよ。本当になんなのかな、この人)タンッ

穏乃(後半……稼がなきゃ。頑張っていこう)タンッ

優希(能力がうまく機能しないってだけで、ツモや配牌が悪いわけではないのが不思議だじぇ。シズちゃんの支配が存在するのなら、もっとシズちゃんに都合のいい場になっていいと思うのだが)タンッ

衣(《深山幽谷の化身》の力は、恐らく、偏らせる力ではない。あらゆるものが混濁した場を生み出す。支配者とそうでない者、能力者とそうでない者の境界を曖昧にして、一緒くたにする。それゆえに――)タンッ

咲(恒常的に確率を偏らせて打っている支配者《ランクS》は、慣れた打ち方をすると痛い目を見る。逆に、普段から古典確率論に縛られて打ってるデジタル派は、比較的いつも通りに打てる)タンッ

穏乃「」タンッ

優希(ならば、答えは簡単だじょ!)タンッ

衣(有象無象みたいに打つ!)タンッ

咲(山が深くなるにつれて、視界に靄がかかる。この見えない感じは、ネト麻のそれに近い)タンッ

穏乃(みんなデジタルで打つようになった。確かに、私のすごパ対策として、能力に頼らないっていうのは正解。でも、それは、本質とは少しズレる)タンッ

優希「」タンッ

穏乃「ロン、1300です」パラララ

優希「おおぅ……」ゾクッ

咲(んー? 優希ちゃんは、私や天江さんに比べればデジタルでもいける雀士のはずなのに。まあ、正しく打っても振り込むことはいくらでもあるんだろうけど……)

優希(シズちゃん気配なさ過ぎだじぇ。東初……一本も積めずに流れた。どうすればよかったのか。どうすればいいのか。難問だじぇ)

衣(ふーん……)

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(衣の海底、嶺上使いの嶺上、《東風》の東初。支配領域《テリトリー》の侵食が着々と進んでいるようだな。そればかりか、このままいくと、自分だけの現実《パーソナルリアリティ》まで侵食されてしまいそうだ)

衣(山牌――毎局違った貌を見せる山、か。衣は支配者《ランクS》。元来、山を生み出す側の人間だ。衣は衣の世界を卓上に展開する。
 だが、それは今、しずのの力によって阻害されている。霞がかった視界で、足元もおぼつかない状態で、手探りで前に進まなければならない)

衣(今まで通りに打っては勝てない相手。思い通りに打たせてくれない敵。右も左もわからない深い山の中。頼りになるのは、己が身一つ……)

衣(…………いいだろう。それはそれで、楽しめそうだ――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:88300 衣:131300 咲:108400 穏乃:72000

 東二局・親:衣

衣「(さて……なんとも言いがたい配牌が来たものだ)……失礼するぞ」フゥ

 衣配牌:二五五九九①③268東西白發 ドラ:2

衣(配牌から長考するなど生まれて初めての体験だな。支配者《ランクS》として必然の麻雀ばかり打ってきたから、こういう感覚はまるで知らない。先が見えない。力が頼りにならない。まるで原始に還り、赤子にでもなったかのようだ)

衣(ひとまずオタ風の西を切って様子を見ようか。浮いているドラを手放そうか。それなら二萬を先に切るべきだろうか。字牌が重なれば混一対々も見えてくる。
 ダブ東なら鳴いて仕掛けてもよかろう。いっそ五萬対子を手放してチャンタ。123の三色も見れる……)

衣(選択――道とは、かくも無数にある。必然で麻雀を打ってきた衣は、つい最近までそれを知らなかった。麻雀の奥深さを、すみれたちは教えてくれた。自分で選ぶ楽しさを教えてくれた)

衣(迷ったっていいのだ。間違ったっていいのだ。挑んでもいいのだ。逃げてもいいのだ。賢く立ち回ってもいいのだ。愚かに倒れ伏してもいいのだ。大事なことはただ一つ。己の道は、己で決める……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(これは……天江さんが、場に順応してきてる……?)

衣(《深山幽谷の化身》……貴様は世界そのものなのだろう。運命そのもの。そこに在る山牌そのもの。大いなる力の流れと同化し、他家をその流れの中に引き込む打ち手――)

衣(そこに必然はない。かといって、偶然で全てが決まるわけでもない。言うなれば、自然だ。自ら然りと決断できる者――無数の選択肢の中にあって己を見失わぬ者だけが、この山の頂へと登り詰めることができる)

衣(かつての衣なら、成す術なく立ち往生していただろう。必然しかなかった衣は、それを奪われれば、一歩も前に進めなくなる。
 だが、生憎と、今の衣は、以前の衣ほど、弱くはない。すみれのおかげで、世界の広さに触れることができたのだからな……)

衣(山中霧中――どこに進めばいいかわからない。だからなんだというのだろう。構うものか。己を信じて一歩目を踏み出すんだ。いっそ夢中で駆けてみよう。だって、こんなに、楽しいんだからっ!!)タンッ

衣(たかかもしずの!! 深き山の主よ!! そこで悠然と見ているがいい……!! この山を! この運命を! この世界を!! 今ここにいる貴様を……衣は全力で攻略するっ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(いいですよ……勝負ですっ、天江さん!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(何が起きているのか……!?)

咲(天江さんから感じる支配力の質が変化した。なんて言えばいいのか……誰かを圧倒しようとか、世界を変えようとか、そういうんじゃなくて、まるで何かを探しているような――)

衣(しずのは何かの大きな力の流れの中に自らを同化させている。それゆえに、人には見えないものが見えるのだ。
 効果は感知系能力や感応系能力のそれに近いのだろうが、『能力』と言ってしまうのは違うだろう。なぜなら、それは論理《リクツ》ではないからだ)タンッ

衣(しずのが掴んでいる何かは、人の手に収まるような、論理の型に嵌められるようなものではない。必然でも偶然でもない自然を捉える――しずのはその感覚を山歩きで培ったのだろう)タンッ

衣(だが、衣だって、しずのが山歩きをしている間、ただ呼吸をして時をやり過ごしていたわけじゃない。山あり谷あり自分の人生を歩んできたんだ。要領はそれと同じ。難しいことじゃない。誰もがやっている)タンッ

衣(……支配力を媒介にして、牌を伝う力に触れ、世界の深淵――この場の深くへと意識を向ける。しずのにできるんだから、衣も、真似事くらいはできるはず……)タンッ

穏乃(天江さんがとんとんと登っていくのを感じる。すごい。今回は……ちょっと止められなさそう――)

優希「」タンッ

穏乃「ロ」

衣「ロン。白赤一、3900だ」パラララ

 衣手牌:四五六①②③[5]67西白白白 ロン:西 ドラ:2

優希(また二度死んだじょー!?)

穏乃(参りました……)パタッ

 穏乃手牌:一一④④⑧⑧2233西中中 ドラ:2

衣(うん。今の感じは悪くない。まあ、所詮は二番煎じなのだろうが……)

穏乃(《掌握》——感知系の大能力を持つ天江さんだからできることなのかな。感覚的にやっていただろう《オカルト読み》を意識的に発展させたんだ。焦りは禁物だけど、あまりゆっくりはしていられないな……)

衣(む――)ビリッ

穏乃(さらに登らせてもらいますよ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(ほう……? なんだ、こやつ、本当に底が見えんな……)ゾクッ

衣「一本場だ!!」

優希:84400 衣:135200 咲:108400 穏乃:72000

 ――《永代》控え室

純「おお……衣のやつ、楽しそうだな」

まこ「場の支配は穏乃に封じられとるはすなんじゃがのう。ありゃあなんでもアリか」

塞「ふん、まだ息があったのね、あの《修羅》。早いとこやっちまってよ、高鴨!」

照(咲の嶺上が見たい……って言いたいけど言えない)ウズウズ

純「なあ、照よ」

照「ん」

まこ「もう決勝じゃし、そろそろネタバラシしてくれてもええじゃろ?」

照「何が?」

塞「高鴨の《原石》の力よ。あいつは一体なんなの?」

照「なんなのと言われても。高鴨さんのあれは、私にもよくわからない」

純「よくわからない、ねぇ」

まこ「そこをなんとか」

塞「得体が知れないやつは応援しにくいのよ」

照「んー……どう言ったら伝わるのかな。えっとね、高鴨さんは、自身の確率干渉力を媒介にして、世界の力の流れと自分の意識を同化させることができるんだよ」

塞「え? ん? は?」

照「ほらぁそういう反応するぅー」

純「塞、お前黙ってろ」

まこ「大丈夫じゃ、照! わしらは聞くぞ! その……なんじゃ、世界の力の流れっちゅうのはなんなんじゃ?」

照「はい、いい質問ですね。まず、この世界には、《世界の力》というエネルギーが絶えることなく脈々と流れておりまして」

純「ほう」

照「それを《龍脈》と呼ぶか、或いは天使の力《テレズマ》と呼ぶかは、個人にお任せします。とりあえず、この世の全ては、そういう、大きな力の流れの中にあるということを受け入れていただければ」

まこ「ふんふむ」

照「その大きな力の流れは、ありとあらゆるところで、ありとあらゆるものと、リンクしている。当然、今ここにいる私たち人間もそう。
 私たちに宿るエネルギー――ここでは特に確率干渉力に話を絞ろうか――は、自分だけの現実《パーソナルリアリティ》空間内において、その大きな力の流れと呼応し、互いに影響を与え合う。そうやって世界は回っている」

塞「ど、どうしたの、宮永……? 古典オカルト系の本の読み過ぎでおかしくなっちゃった?」オロオロ

純・まこ「話が進まないから(んけえ)黙って受け入れろ!」ガシッ

塞「むぐぐぐ……!?」

照「全ての人の《パーソナルリアリティ》は、世界の力を介して、一つに繋がっている。シンプルに、人と人、人と世界は、常にどこかで共振し合ってるって言えばいいのかな。
 ランクSは、特に周囲に強い影響を与えるね。もちろん、無能力者の人だって、僅かだけど世界に影響を及ぼすし、ちゃんと輪の中にいる」

照「高鴨さんの力は、大きく分けて三つ。
 ①相手の《パーソナルリアリティ》と共振して個人の確率干渉力の流れを掴む力。
 ②自らの確率干渉力を媒介にして自身の意識《パーソナルリアリティ》を《世界の力》の流れと同化する力。
 ③自身が同化した《世界の力》の流れの中に、同じく自身が共振した相手を《パーソナルリアリティ》ごと引き込む力。
 この三つの力を段階的に行使していくことを、高鴨さんは『登る』って言う」

照「高鴨さんは、最終的に、自分の《パーソナルリアリティ》と、《世界の力》の流れと、相手の《パーソナルリアリティ》――自身と世界と他者を全部まとめて一つにすることができる。
 卓上を中心に、そんな特殊空間を作り出すのが、高鴨さんの力の本質。ちなみに、私はその特殊空間を、自分の中でこっそり、高鴨山《スゴパ・マウンテン》と呼んでいる」

純「なるほど、調和空間《ハーモニック・スペース》か」

まこ「ほんで、その開放区域《ボーダレス・フィールド》っちゅうのはなんなんじゃ?」

塞「混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》ねぇ」

照「……これ以上は話さない……っ!」ジワ

純「冗談だよ、冗談! いいじゃねえか、高鴨山《スゴパ・マウンテン》!! オレはイカしてるネーミングだと思うぜ!!」アセアセ

照「…………ごめん、他人の口から聞いたら、ちょっとないかもって思えてきた」

純「ぶっとばすぞお前」

塞「で、その高鴨の生み出す混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》ってのは、具体的にどんな感じのものなの?」

まこ(わらそれ押すんか!? 明らかに無スジド真ん中じゃろ!?)

照「具体的にと言われると、『よくわかんない』に尽きる。
 高鴨さんの混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》は、ベースが《世界の力》の流れだから、規模も次元も違い過ぎて、私たち一個人の感覚では、決まった法則みたいなものを捉えることはできない」

純「ふーん、まさに混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》だな」

まこ(純!? なぜわれもそっち側にー!?)ガビーン

塞「宮永の言葉でいいから、混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》がどう『よくわかんない』のか聞きたいわ」

照「うーん……難しいなぁ。混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》の中では、自他や公私の概念が複雑に混ざり合うんだよね。
 私があなたであなたは世界だったり、私が世界で世界はあなただったり、私が私であなたはあなただったり、世界が私で世界はあなただったりするの」

塞「禅問答……?」

まこ「じゃが、わら穏乃と打っちょってもわりと平気な顔で和了ったりするじゃろ? 攻略法みたいなんはあるんか、その、か……かお」

塞「混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》」

まこ「の中で戦うにはどうしたらええ?」

照「決まった法則がないから、決まった攻略法もまた、ない。ベースにあるのは世界の力の流れで、それは個人の所有物ではない。誰か一人の思い通りにはならない。
 世界の力の流れに乗っていれば、すんなり和了れるし、流れに反しているときは、どうにもならなかったりする」

純「けど、混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》を展開すると、決まって穏乃がペースを掴むよな?」

照「それについては、どちらかというと、高鴨さん以外がペースを乱されているのが大きいんだと思う。
 自他が曖昧で、世界の力の流れが対局の行方を大まかに決定している混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》の中では、知っての通り、個人の支配力や能力がうまく機能しなくなる。
 能力や支配力を行使するための自分だけの現実《パーソナルリアリティ》が徐々に一つに溶け合って最終的には個人のものじゃなくなるんだから、ごくごく当たり前なんだけどね」

照「これは、誤解を恐れずに言えば、『自分勝手』なことができなくなるってこと。
 自分だけの現実《パーソナルリアリティ》の境界がなくなって、みんなと世界が一つになっているから、物事を一人の意思で決めることができないの。
 特に、能力や支配力を使って自分優位な打ち方をしてきた人たちは、まずそこで、みんな躓く」

照「片岡さんで言うなら、東初ではまず和了れない。南場ならわりといける。
 前者の場合は、混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》内なのに、自分だけの現実《パーソナルリアリティ》内と同じ感覚で打っちゃうから、どうしても、ズレや食い違いが出ちゃう。
 後者の場合は、違う。そこにある超現実《リアル》に対して必死になる。単純に頑張ろうとする。混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》の中では、そういう打ち方のほうが、和了りをものにしやすい」

まこ「じゃとすると……穏乃自身も、そこまで自在に打ち回せるわけじゃないんか? 支配者や能力者の区別のない、平等な場になるっちゅうか」

照「それもまた微妙に違う。特に、『平等』を古典確率論優位な『デジタル場』と同じニュアンスで使っているとしたら、痛い目を見る。偶然ではない。必然でもない。あれは、いわば、自然な場。
 それに、高鴨さんは、自身の意識を世界の力の流れに同化している。他人には見えないものが見えているし、ほんのちょっとだけ世界の力の流れに干渉したりもしている。
 条件は決して五分じゃない。平等か不平等で言うなら、不平等。普通に高鴨さんが有利」

     衣『ツモ、500は600オールだ!』

塞「って、また天江が和了りやがったわね。いや、打点はいつもの十分の一になってるけどさ」

照「天江さんは《掌握》っていう感知系の大能力を持ってる。元来、《オカルト読み》が得意で、牌を伝う確率干渉力の流れに敏感——辻垣内さん、愛宕さん、清水谷さんと同系統の鋭さを持つ雀士なんだね。
 混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》のベースにあるのは、何度も言うように、世界の力の流れ。
 高鴨さんほどではないにしろ、場の力の流れに敏感な天江さんは、それに触れることができているみたい」

純「コツを掴んできたってことか。だとすると、この親でごっそり稼ぐんじゃねえのか?」

照「それが自然なことなら、そうなるかもね。でも、たぶん、そうはならないと思う。今の二連続和了で、若干だけど、天江さんの心に隙が生まれた。
 ずっと一人で和了り続けるつもりの全体効果系能力者――支配者《ランクS》の地が出てきちゃってる。そういう必然、自分勝手な意思は、世界の力の流れの中では、押し流されてしまうことのほうが多い」

まこ「本当にようわからんのう……」

照「だからずっとそう言ってる」

塞「とりあえず、場の流れに敏感なやつは、和了れる確率が高いってわけね?」

照「確率論を持ち込むことはオススメしない。例えばだけど、三回戦でデジタルに強い新子さんが善戦してたのは、偶然ではなく、それが自然なことだったからだよ」

塞「大混乱《カオティック》!」

照「新子さんの場合は、高鴨さんより地力が高いのもそうだけど、外部とのリンクがいい方向に働いた」

純「外部とのリンク……?」

照「混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》の中では、世界の力の流れを感じ取れない限り、進むべき方向――指針を定めるのが難しい。そんなとき、外部にいる誰かの存在が、重要な意味を持ってくる。
 目標や道標となるものが、混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》の外側にあれば、指針を失わずに済む。その方向が世界の力の流れと合致すれば、自然と、和了れる。ズレていたら、自然と、和了りとはズレたほうにいってしまう」

    穏乃『ツモです。1000・2000に二本付けてください』

照「ほら、天江さんの親が流れた。とっても自然だね」

純・まこ・塞「うーん……よくわからない(ん)」

照「まあ、なんというか、麻雀そのものなんだと思うよ」

純「というと?」

照「努力が報われたり報われなかったりする。思い通りになったりならなかったりする。うまくいったりいかなかったりする。決まった法則はない。決まった攻略法もない。
 信じて、迷って、願って、想って、選んで、和了って、和了られて、流れて、勝って、負けて、やがて、終わる。結果は誰にもわからない。誰の思い通りにもならない」

まこ「なるほどのう」

照「必勝法のあるゲームなんて、つまらないでしょ?」

塞「うおい! あんたがそれを言いますか!?」

照「私のことは置いておいて。つまるところ、高鴨さんの混沌とした超現実《カオティック・ハイ・リアリティ》は、楽しんだ者勝ちの遊び場なんだよ」

純・まこ・塞「ほほぅー」

     穏乃『ツモです、1300・2600』

 ――対局室

 東四局・親:穏乃

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:高鴨穏乃(永代・81200)

優希(デジタルで打ってはいるものの、ここまでかすりもしないじぇ。いい加減点数もやばい。だが、一体どうしたらいい……?)タンッ

 南家:片岡優希(幻奏・81300)

衣「チー!」タンッ

 西家:天江衣(劫初・133500)

衣(後付け狙いで見切り発車など、初体験じゃないのか!? 悪くない選択だと思うが、さてはたして……!!)

咲(天江さんの目が輝いてるなぁ……。確かに、試合でさえなければ、私ももっと駆け回りたい気持ちはある。初めて淡ちゃ――煌さんと打ったときみたいな感じ。損得度外視で思いっきりぶつかってみたい)タンッ

 北家:宮永咲(煌星・104000)

咲(天江さんは、私と違って現状の点棒に余裕があるから、思い切った打牌ができる。それは、たぶん、それなりに有効な対抗策だ。
 私は……ダメだな、まだ迷ってる。このよくわからない場で、それは一番やっちゃいけないことだって、わかってるんだけど)

咲(とりあえず、《プラマイゼロ》で点数調整してきたおかげなのか、私も少しずつ、ここでの戦い方がわかってきた。力の流れの中に意識を委ねることで、ぼんやりとだけど、見えてくるものがある。
 けど、高鴨さんは、もう一段上のことをやってるっぽいんだよなぁ)

咲(力の流れは一定じゃない。水の流れや大気の流れと同じで、大まかな方向性はあるけれど、あちこちが常に不規則に揺らいでいる。それを、高鴨さんは、ちょっとずつ、自分に有利になるよう、絶妙な力加減でコントロールしてるんだ)

咲(普通に打てば、高鴨さんが勝ってしまう。和ちゃんレベルのデジタルスキルか、《一桁ナンバー》級の地力がないと、まともに対抗できない。
 お姉ちゃんもとんでもない人を味方にしたなぁ。まさに学園都市最高の《原石》だよ)フゥ

咲(親の連荘はさせたくない。点差が詰まってくればくるほど不利になる。ここは差し込むしかないかな――)チラッ

衣(お、やっとか?)

咲(もう中盤だし、役牌バック――張っててくれればいいんだけど)タンッ

衣「(悪いな、嶺上使い。これで、ようやっとテンパイ)ポン!」タンッ

穏乃「ロンです、7700」パラララ

衣「っと……やるじゃないか」チャ

穏乃「それほどでもです」

優希(ついに逆転されてしまったか……)

咲(んー、自分の和了りを見切るのが遅過ぎたのが敗因かな。もっと早くにパスしておけばよかったよ)

衣(さて。相手は親だというのに、つい楽しくなってはしゃぎ過ぎてしまったな。それもそれで一手だと思ったが……今回はしずののほうが早かったか。難攻不落。この《深山幽谷の化身》を如何にせん)

穏乃「(まだ親を止める気ないですよ……)一本場です」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:81300 衣:125800 咲:104000 穏乃:88900

 東四局一本場・親:穏乃

穏乃(後半に入ってからは、悪くないペースで打ててる。相性がいいんだから当たり前なんだけど)タンッ

穏乃(残すはこの親と南場だけ。すごパ異常なし。三位浮上したけど、もうちょっと頑張りたい。私なら、できるはず)タンッ

穏乃(照さんに拾っていただいてから三ヶ月。毎日が楽しかった。一人で山を駆け回っていた頃からは考えられない。学園都市に来て、本当によかったと思う。それもこれも……照さんのおかげだ――)タンッ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――五月・第21学区・山中

穏乃(すっかり暗くなっちゃったな。明日学校だから、そろそろ帰らないとだよね)フゥ

穏乃(あー……でも今夜は満月なんだよなぁ。もうちょっと、こうして――ん……?)

穏乃(嘘、人の気配……? しかも複数。人のことは言えないけど、夜の山を歩き回るのはとんでもなく危険なことなのに……ちょっと様子を見てこよう)

 ガサガサ

?「ねぇー、もう明日にしないー? マジヤバいって、遭難するって、いや、してるって現在進行形で」

?「大丈夫。私のツノツノセンサーがこっちを示している。振動も強くなってきている。間違いない。目標は近くにいる」ビリビリ

?「あんたのそのツノは何の素材でできてるのよ……」

?「というか、ここまで迷い込んでしまったら、私たちは自力じゃ帰れないよ」

?「えええ!? 木に印とかつけてないの!? お菓子の食べかすとか道に落としてないの!?」

?「私は常に前だけを見て生きている」

?「ふざけんじゃないわよー!?」

?「なんて、冗談。心配しないで。いざとなったら、菫に助けを求めればいい。私の電子学生手帳には、現在地の座標を菫の電子学生手帳に送信するアプリが搭載されている。私はこの二年間、そうやって窮地を乗り越えてきた」

?「あんたそんなことやってるから弘世に見捨てられたんじゃない?」

?「…………うえええええええんん!!!」ポロポロ

?「ええええええ!?」アワワワ

?「やだよおおおお!! 菫えええええ!! 一人にしないでよおおお!! お菓子もほどほどにするからああああ!! もう道に迷わないからあああ!! ダメなところ全部直すから私のこと嫌いにならないでよおおおお!!」ビエーン

?「ちょっとー? 宮永さーん……?」オロオロ

?「菫の……っ……えぐっ……ばか……ひどいっ……ぅぅぅぅ……」ポロポロ

?「え、えっと! その! 私がっ! 今は! いるから……っ!! 泣くな!!」ギュッ

?「臼沢さん……」

?「わ、私は弘世みたいにぐちぐち言わないわよ! あんたがお菓子食べるなら、私も一緒に食べるわ! あんたが道に迷うなら、私も一緒に迷ってやる!!
 良いとこもダメなとこも、全部、あんたらしくていいと思うから! 私はいつまでもあんたの味方だからねっ!!」

?「ありがとう……でも、一緒に迷うのはお互いのためにやめたほうがいいかもね……」

?「ああ、うん、それはそうよね……おかげ様で絶賛遭難中だし」

?「ごめん、迷惑かけちゃったね。臼沢さんの言う通り、また明日にする」

?「そうね。今度は私も相応の準備と覚悟をしてくるわ。っつーわけで、早いとこ弘世に救難信号を出しましょう」

?「うん…………あ」

?「ん?」

?「……圏外だ……」

?「…………」

?「…………」

?・?「うわああああああああん!!」ビエーン

穏乃(ど、どうしよう。面白いからつい見ちゃってたけど、そろそろ声を掛けたほうがいいよね……)

穏乃「あーれれー!?」ザッ

?・?「っ!?」ビクッ

穏乃「おおっ、人の声がすると思ったら本当に人がいた! いやー、こんな月夜の晩に登山とは風流ですね! まさか同志に出会えるなんて! なんて素敵な夜でしょう!」

?・?「…………」

穏乃「あっ、もしよかったら、こちらに来ませんか? 私のとっておきの場所があるんですっ!」

?・?「…………」

穏乃「あ、といっても、私はそろそろ帰ろうかと思っていたので、あまり時間は取れませんが。でも、せっかくですし、これも何かの縁ということで、少しお話でも! よろしければ、お菓子と飲み物もありますよ! いかがです?」

?「い、いかがです、だってよ~!?」

?「ん~、そこまで言わちゃあ、断れないよねぇ~」

?「二人もいいけど、三人ってのもまたオツよね!」

?「そうだね。まさか、私たち以外に、夜の山の趣を知っている者がいるとは。学園都市はやはり広い」

?・?「というわけで、ご一緒しましょう!!」

穏乃「わあっ、ありがとうございます! 嬉しいなあ! あ、申し遅れました。私、一年の高鴨穏乃と申します! 趣味は山歩きです!」

照「私は三年の宮永照。なぜ山に登るのかと問われたら、そこに山が在るからと答える。生粋の山ウォーカーです」キリッ

塞「同じく三年の臼沢塞。地元が山奥のほうでね。山は、まっ、家の庭みたいなもんよ」フフン

穏乃「(よし、これで二人確保。あとはあっちの人だ)あっ! そちらの方も! よければご一緒しませんか!? 一人より四人のほうが楽しいですよっ!!」

照・塞「ッ!?」バッ

?「ぼっちじゃないよー」ヌー

塞「え、なんで……!?」

穏乃「初めまして。一年の高鴨穏乃と申します」ペコッ

豊音「三年の姉帯豊音です。えっと、地元では山ガールって呼ばれてました」ペコッ

塞「豊音ー!? なんであんたがここにいるの!?」

豊音「えへへー、二人と同じだよー。こんな月夜の晩は、やっぱり山に登りたくなっちゃうよねー」

照「ふふっ……姉帯さんも通ですな」

塞「そ、そうね! 通よね! 今度はシロたちと一緒に来ましょうね!」

穏乃「では、皆さん、どうぞこちらです。ついてきてください」

照・塞・豊音「はいっ! どこまでもついていきます!」

 ――下山中

穏乃「あ、やっぱり、ご本人だったんですね。並々ならぬ気配だったので、すぐわかりました。本当に嬉しいです。こんなところであの宮永照さんにお会いできるなんて」

照「そういう高鴨さんは、《深山幽谷の化身》の高鴨さんなんだよね。わかるよ。私のツノツノセンサーがそう言っている」ビリビリ

穏乃「はい、その高鴨です。でも、まさか、出会う前から名前を覚えていただけているとは思ってもみませんでした。本当に光栄です」

照「いえいえ。あ、それで、高鴨さん……」

穏乃「なんでしょう?」

照「実は高鴨さんに折り入ってお願いがあるんだけど」

穏乃「奇遇ですね、私もです。あ、そこ、足元、木の根っこに気をつけてください」ピカッ

照「わっ、あ、ありがと」ヒョイ

穏乃「それで、私にお願いというのは?」

照「あ、いや、高鴨さんから、どうぞ」

穏乃「では……お言葉に甘えて。その、初対面でいきなりこんなことをお願いするのは失礼かと思うのですが――」

照「いいよ。何でも言って」

穏乃「私を宮永さんのチームに入れていただけませんか?」

照「それは……」

穏乃「試験があるというなら喜んで受けます。雑用でもなんでもします。私を宮永さんのチームに入れていただきたいんです。
 実績はないも同然なので、あまり大きなことは言えないのですが……『ジョーカー殺しのスペードの3』なんて言われ方もする私——学園都市最高の《原石》という切り札《カード》は、きっと、手元にあって困るものではないと思うんです」

照「…………」

穏乃「もちろん……無理なら無理とおっしゃっていただいて構いません。あ、ただ、そのときは、せめて一局だけでも打たせてほしいんです。お忙しいとは思いますが、都合はいくらでも合わせますので……」

照「…………」

穏乃「……ダメ、でしょうか……?」

照「あ、いや、ごめん。ちょっとびっくりしてただけ。えっと……高鴨さんは、その、私のチームに入りたいの? どうして?」

穏乃「なぜ山に登るのかと問われれば、そこに山が在るからと答えます――あ、つまり、その、私が白糸台に来たのは、そこに白糸台があったからです」

照「ふむ……?」

穏乃「宮永照さん――この白糸台の《頂点》。私の登るべき山の天辺にいる人……あなたと会うために、私は学園都市に来ました」

照「それは……私を倒したい、ってこと?」

穏乃「そんな畏れ多い。登頂と踏頂は違います」

照「ふんふむ……えっと、高鴨さんの言葉でいいから、率直に言ってみて」

穏乃「わかりました。その、お気を悪くしないでくださいね。これから、ちょっと変なことを言います」

照「構わないよ。どうぞ」

穏乃「白糸台高校麻雀部――この山はとっても楽しそうです。登り甲斐がありそうです。後ろのお二方も、すっごく強そうでわくわくします。
 で、私は考えました。どうすれば一番この山を楽しめるだろうと。そして、あなたに行き着いたんです」

照「うん」

穏乃「《頂点》のあなたと一緒なら、この街で一番高いところにいるあなたと一緒なら、きっと、最高に楽しいだろうって思いました。思いっきりはしゃげると思いました。
 大好きな麻雀を通してあなたと言葉を交わすことができれば、どんなに幸せだろうと思いました。あなたと遊びたいというのは、そういう意味です」

照「……そっか」

穏乃「《頂点》――宮永照さん。私をお傍においてください。きっとあなたの力になります」

照「うん。いいよ。一緒に遊ぼう、高鴨さん」

穏乃「っ……!! ほ、本当ですか!?」

照「私、嘘、つかない」

穏乃「いいいいいやああああったああああああ!!!」ヤッホー

照「わわっ」

穏乃「あ、あのっ!!!」

照「は、はい」

穏乃「もしお嫌でなければ、下の名前でお呼びしてもいいですか!?」キラキラ

照「お……お好きなように」

穏乃「きたああああああああああああああああ!!!」テッルー

照「え、えっと、高か」

穏乃「照さんッ!!」ゴッ

照「はい」

穏乃「たくさん打ちましょうねっ!! 同じチームですもんね!! これから一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》まで!! 毎日いっぱい遊んでくださいっ!!」キラキラ

照「う、うん、じゃあ、山を下りたら少し打とうか。他のメンバーの紹介も兼ねて」

穏乃「ありがとうございますっ!!」

照「…………高鴨さん」

穏乃「はい、なんでしょう!?」

照「これからよろしくね。短い間だけど――」

穏乃「……はいっ!! こちらこそ不束者ですが!! よろしくお願いします!!」ペッコリン

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

穏乃(塞さんに聞いた話だと、自分からチームに入れてほしいと願い出たのは、《永代》メンバーの中で私だけだったらしい。
 まあ、元々、照さんは私を誘うつもりであの場所に来たってことだけど、先にお願いしたのは私だ。照さんは、実績のない私を、初対面の私を、拾ってくれた――)

穏乃(照さんと打つ毎日は本当に楽しかった。照さんはいっぱい遊んでくれた。それだけじゃない。大会で、色んな山を、照さんは私に登らせてくれた。今だってそうだ)

咲・衣・優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(登って登って、ここまで来た。《頂点》まで、あと少し。白糸台には楽しいことがたくさん待ってる――私のその期待に、照さんは応えてくれた。期待以上のものをくれた)

穏乃(私が今こんなに楽しいのは……こんな高いところまで来れたのは、全部、照さんが私を迎え入れてくれたから。
 だから報いる。『きっとあなたの力になる』――自分の言葉を嘘にはしたくない。相手は強い。そんなのわかってる。けど関係ない。私の全てをぶつけてやる)

穏乃(照さんは《頂点》——白糸台の《最高峰》! 譲らない! 譲れない! この《永代》の山だけは――!! 《絶対》に……ッ!!)

咲「カンッ!!」ゴッ

穏乃(――っと、また塞さんのモノクルが砕け散った気がする……)ゾクッ

咲「っ……!!」

穏乃「……残念だけど、宮永さん」ゴゴゴ

咲「なにかな、高鴨さん……!」ゾクッ

穏乃「そこはもうあなたの支配領域《テリトリー》じゃない」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「ふん……! そんな脅し文句に怯むランクSは淡ちゃんくらいだよッ! 私をあんなおバカさんと一緒にしてもらっては困るな!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃「それは、どういう――」

咲「こういうこと! リーチッ!!」ゴッ

 咲手牌:六七③③⑤⑥⑦567/⑧⑧⑧⑧ 捨て:4 ドラ:③・南

優希(嶺上牌ツモ切りリーチ! なんていうか、普通だじぇ!!)

衣(本来の嶺上使いなら、リーチを掛けて暗槓、或いは、暗槓して嶺上テンパイ即リーチといったところか。
 能力を前提として打つわけでも、能力を見限って打つわけでもない。こやつなりに落としどころを探しているのだろう。悪くはないと思うが――)

穏乃「それは通りません……!!」ゴッ

咲(っ……! だから、ホントなんなのこの……!!)ゾクッ

穏乃「ロン、3900は4200」パラララ

 穏乃手牌:333[5]二三四七七七④⑤⑥ ロン:4 ドラ:③・南

咲「はい……」チャ

穏乃(二位の背中も見えてきた。勝たせてもらいますよ、《絶対》にね……!!)

衣(これ以上親を続けさせてたまるかっ!)

優希(ふー……どうにか頑張らなきゃだじぇ……)

咲(嶺上牌で振るとかさいあくっ――って言いたいけど。焦るな。焦れるな。焦がれるな。それこそ相手の思う壺)フゥ

咲(……嶺上を狙うのはやっぱりリスクが高いかもしれない。今の……カンドラが向こうに乗らなかったのは不幸中の幸いだけど、そもそも、カンしなければ振り込みは避けられた。いっそダマでもよかったんだ。
 ダメだ。まだ、心のどっかに、嶺上で和了れるはずだっていう妄信がある。自分だけの現実《パーソナルリアリティ》さえ侵食してくる相手に、無策で猛進しちゃダメだ。勝てるわけがない)

咲(かといって……能力をまるっきり手放すのも、また正解とは違うっぽい。高鴨さんは、煌さんじゃない。決して、自分だけの現実《パーソナルリアリティ》を丸呑みにしてくるわけじゃないんだ。
 高鴨さんの支配下でも、私の意思は生きてる。想いは力になってくれてる。現に、高鴨さんはそうしてる。意思の力で何かの流れに干渉してる。少なくとも完全デジタルでは打ってない。例えば和ちゃんなら、さっきの手はリーチを掛けてる)

咲(偶然でも、必然でもない、自然。厄介な人がいたもんだよ。まったく……あっちこっち片付けなきゃいけない問題が文字通り山積みだね――)

穏乃「では、二本場行きましょうか」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(負けてたまるか……ッ!!)ゴッ

優希:81300 衣:125800 咲:99800 穏乃:93100

 東四局二本場・親:穏乃

咲(高鴨さんの《原石》の力は、能力や支配力を一切合切に殺すものじゃない。煌さん曰く、《龍脈》——《世界の力》っていうとてつもなく大きくて《絶対》に消えない力が、個人の力を押し流しているだけなんだとか)

咲(その力の流れの源泉は、困ったことに、王牌にあるらしい。『すごパ』とかいうのがそこに渦巻いてる。山の深いところでの勝負は不利。仕掛けるなら、序盤)

咲(槓材も、三つは無理でも、一つ、ギリで二つくらいまでなら、集められる。《嶺上》は主に序盤が支配領域《テリトリー》だから、今のところは、《完全無効化》はされていない。これはとっても助かる)

咲(高鴨さん対策は、お姉ちゃんの《照魔鏡》対策と似た部分があるって、煌さんは言ってた。相手の自分だけの現実《パーソナルリアリティ》と共振して、《意識の偏り》を解析することに長けてるんだね)

咲(《意識の偏り》――これは厄介だ。これがないってことは、機械と同じってこと。和ちゃんでもない限り、どんな人にでもある。だって、《意識の偏り》って、要するにその人の《個性》なんだから)

咲(能力《オカルト》は個性《パーソナルリアリティ》なくして存在できない。特にこの学園都市では、それは大いに重視・尊重されている。
 けど、その個性が、この場では必ずしもいい方向には作用しない。特に、高鴨さんに登られちゃってる——読み切られちゃってる場合は、アウト。お姉ちゃんの《照魔鏡》と似たようなことをしてるなら、予想を超えていかないと……)

咲(ただ……けど、それもそう何回も通じるわけじゃないんだけどね。前半戦オーラスの私の《プラマイゼロ》や、さっきの東二局の天江さんみたいに、新しい一面を見せることで、一時的に高鴨さんの上を行くことはできる。
 けど、それも、その場しのぎでしかない。そういう新しい個性《パーソナルリアリティ》も、ゆくゆくはすごパに侵食されちゃうわけだから。
 まあ、別に高鴨さんのすごパをゴッ倒せば勝ちってわけでもないし、その場しのぎを無限に続けられるなら、全然いいんだけどね)

 咲手牌:一三四四四五五六七八東北北 ドラ:八

咲(そう言えば……対人戦で『これ』をやるのって、いつ以来だっけかな――)

咲「チー」タンッ

 咲手牌:一三四四四五五六北北/(九)七八 捨て:東 ドラ:八

衣(ん、鳴かれた……?)

穏乃(宮永さんの打ち方が変わったかな……)タンッ

優希(天江先輩とシズちゃんは『へえ、そういうこともあるのか』みたいな反応で済ましているが、私はやえお姉さんにデータを見せてもらったから知ってる。
 これは、たぶん、咲ちゃんの記念すべき学園都市初チーだじょ。なかなかに驚天動地だじぇ)タンッ

衣「」タンッ

咲「もいっこ、チー」タンッ

 咲手牌:四四四五六北北/(二)一三/(九)七八 捨て:五 ドラ:八

穏乃「」タンッ

優希「」タンッ

衣「」タンッ

咲「ツモ、2000・3900は2200・4100です」パラララ

 咲手牌:四四四五六北北/(二)一三/(九)七八 ツモ:四 ドラ:八

優希(四・七萬・北待ち……? 七萬は純カラで、北は私がさっき一枚切ったから残り一枚だじぇ? よくそんな薄いところを一巡でツモった――いや、そっか。なるほど、そういうことをするのか、咲ちゃん!)

衣(嶺上使いの最後の手出しは五萬。一通確定の意味でも、待ちの数でも、四萬切りが妥当だったはず。なのに、こやつは敢えて待ちを悪くした。高めの四萬をツモれると確信していたのだ。なぜなら……)

穏乃(四萬が槓材だから、ってことだよね。私のすごパの影響をモロに受ける嶺上牌――《開花》の能力で勝負するのではなく、影響の少ない序盤に、槓材を揃える《嶺上》の能力を応用して仕掛けてきた。
 それに、私の知らない宮永さんのチー。あれで大きく場が動いたんだ。たぶん、あそこで鳴かれなければ、私はいい感じに和了れていた気がする……)

咲(これで、また一つ、私のほうが優れているという証拠が増えた。ダブリーバカの淡ちゃんと違って、私の引き出しは多いんだよ。なんたって私は《煌星》の真のエースだからね。
 ふふんっ、淡ちゃん、今頃控え室で私のすばらな打ち回しに歯軋りして悔しがってるに違いない。そのかわい——ぶっさいくな顔を想像で補うしかないのが残念だよ)

咲(とにもかくにも、残すは南場。友香ちゃんや桃子ちゃんがあれだけ頑張ったんだから。ここで仕事をしないでいつ働く。私はエース。エースの仕事は勝つことだ。たとえ、相手が誰だろうと……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希「(ぼ、ぼちぼちどうにかしなきゃだじぇ!)南入だじょ!!」

優希:79100 衣:123600 咲:108300 穏乃:89000

 南一局・親:優希

優希(じぇー……前半戦の東場が終わってから何もできてない。ラス転落。これはキツいじょ)

優希(三回戦からずっとマイナス続き。しかも相手はずっと一年生だったじぇ。今日も天江先輩以外は一年生。学年は言い訳にならない。
 もちろん、レベルやランクも言い訳にできないじぇ。無能力者のやえお姉さんは準決勝でレベル5とランクSと《神憑き》を相手にプラスだった。どうにか……しなきゃだじぇ!!)

 優希配牌:一四四九②④⑧367東西北白 ドラ:北

優希(南場らしい微妙な配牌。けど、むしろイケイケな気がするじょ。チームに誘われる前によくやった数絵との特打ち——あれに比べれば、まだ望みはあるほう。
 だって、三回戦でそうだったように、シズちゃんの支配下でも、南場でも、和了れるときは和了れるのだから!!)

優希(私だって頑張ってきたんだじぇ。シズちゃんのすごパが優勢の今、支配者《ランクS》二人と私の間にそこまで差があるとは思えない。きっとできるはず。信じろ……全速前進ッ!!)タンッ

 優希手牌:一四四九②④⑧367東北白 捨て:西 ドラ:北

優希(風になるじぇ!!)ゴッ

衣「さて……」ゴ

優希(えええー!!?)ゾワッ

衣「遊びは終わりだ、塵芥ども」ゴゴ

咲(っ……!! この、吐き気――!?)ゾクッ

衣「何者も……月には手が届かないと知れ――」ゴゴゴゴ

穏乃(マズいな。すごパが弾かれる……)ビリビリ

衣「御戸開きといこうかッ!! ポン――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(鳴きの速攻!? はあ!? そんな!? そういう支配者《ランクS》スキルはシズちゃんのすごパで封印されてたんじゃないのか!?)

咲(この支配力……今の天江さんは、さっきまでの天江さんとはまるで別人だ。一時的に高鴨さんの支配を脱して、自分だけの現実《パーソナルリアリティ》の大半を取り戻しかけてる。もう二、三局くらいはこの状態じゃないかな。
 ラス親の直前でギアを切り替えてきたのか……困っちゃうな。海底はさすがに無理だとしても、鳴きの速攻なら序盤で片が付く。高鴨さんのすごパの影響を受けにくい。天江さんの火力を考えれば、五、六万点は一瞬で持っていかれる……)タンッ

穏乃(これは……純さんとまこさんが言っていた満月時の天江さんですか。もちろん今日は満月でもなければ、時間帯も昼下がり。
 三回戦で《九面》モードの神代さんと相対したときに、《制約》の鎖を自ら断ち切る術を体得した、ということですかね。
 東場の親が流れてから、『力を溜めて』いて、それを解放した……と。私が頂上だと思っていたところは、ほんの中腹に過ぎなかったみたいですね。
 とは言え、天江さんであることに変わりはないので、今まで登ってきた分を足掛かりに頂上を目指すことは可能です。遠からず、すごパで支配を崩すことはできる。ただ、いかんせん、この山は険しい――)タンッ

衣「ポン!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(人の形をした絶望が目の前にいるじぇ!!)

咲(速過ぎる——っていうか、これは高鴨さんの領分でしょ! なんとかしてよ!)

穏乃(いや、全力でやってるんだけど、そんなにすぐは登れないって……)

衣「ツモ――」ゴッ

優希・咲・穏乃「!!」ゾワッ

衣「4000・8000だ……ッ!!」パラララ

優希(なんなんですかこの化け物……!!?)ガタガタ

咲(……弱ったな。相性的には私か高鴨さんが止めなきゃなんだろうけど、高鴨さんは時間かかりそうだよね——?)

穏乃(はい。時間かかります)

衣「さあ……次は衣の親番だなっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:71100 衣:139600 咲:104300 穏乃:85000

 南二局・親:衣

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(強気を保つのにも限界ってもんがあるじぇ……)

咲・穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(みんな楽しそうだな。私は楽しくないじぇ。全然勝てなくて和了れなくてつまんないじぇ。東場は終わった。断ラス。シズちゃんの支配で身動き取れず。そこに天江先輩がまさかの最終形態。ここから私に何ができるというのか)

優希(何もいいアイディアが浮かばない。万策尽きた。精神崩壊。ライフゼロ。私にはもう何も残されていないじぇ……)フゥ

         ――と、思うときが後半の南場あたりで来るだろう。

優希(ははっ……さすが過ぎるじぇ、やえお姉さん。私の絶望も想定内か)

    ――さあ困った。打つ手がない。だが、果たして本当にそうだろうか?

優希(本当にそうだじょ。この絶望的状況をひっくり返すとか、どこにそんな起死回生の手があるというのか)

      ――いいや、手はある。すぐ手の届くところにある。手近に手元に手頃な手がな。

優希(何言ってるのか……やえお姉さん。天江先輩も咲ちゃんもシズちゃんも、言葉遊びで勝てるような、半端な相手じゃないんだじぇ……?)キュッ

    ――大丈夫。よく見てみろ。

優希(今の――手触り……)

          ――自分の手をよく見てみろ。

優希(ああ……そうか、そういうことなんだじぇ……やえお姉さん――)

                 ――そこにお前の大好きなものがある。

優希(本当にあった……こんなところに――ちゃんと私の手の中に――私の大好きなアレが……)

      ――ニワカ卒業記念の奥の手だ。大事に使え。

優希(そうだじょ……鳴かれても調子狂わないように誠子先輩に鍛えてもらった。稼ぎ合いで打ち負けないようにセーラお兄さんに鍛えてもらった。
 格上相手でも立ち回れるようにネリちゃんに鍛えてもらった。デジタルでも頑張れるようにやえお姉さんに鍛えてもらった。それだけじゃない――!!)

    ――南場で苦しくなったら、心の中で私を呼んで。

優希(どんな逆風にも負けない強さを……っ!! 数絵が教えてくれた!!)

               ――あなたのいる対局室まで、観戦室から風を届けてみせる。

優希(練習は嘘をつかないッ!! ずっと牌を握ってきたあの時間は消えない!! ちゃんとこの手の中にあるっ!!)

        ——《南風》はいつでもあなたの味方よ。

優希(みんなが――生きてるッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(暖かい風……まるで《南風》のようだが——)ビリッ

咲(優希ちゃんの雰囲気が変わった?)

穏乃(この感じは覚えがある……三回戦で、後半戦の南場に優希が盛り返してきたあれだ。ただ、あのときよりも、さらにはっきりと、優希の意思が伝わってくる。しかも、すごパがそれに応えてる。これは私もマズいかな――)ゾクッ

優希「それだじぇ……!!」ゴッ

衣(な……に――?)

優希「ロン、12000だじょ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(高鴨さんの切った和了り牌が見逃されてる……!?)

穏乃(トップ狙い――これは助かった……)

衣(まるで気配が感じ取れなかった……世界の力の流れがこやつを後押しし、衣の自分だけの現実《パーソナルリアリティ》の展開を阻害したというのか……?)

優希(南の風が私の味方をしてくれたみたいだな。ここまで読み通りなら、やえお姉さんはお天気お姉さんにでもなったほうがいいじょ。
 ま、何はともあれ、貴重な追い風。一気に畳み掛ける――誰よりも強い風になるじぇ!!)ゴッ

優希:83100 衣:127600 咲:104300 穏乃:85000

 ――《煌星》控え室

友香「咲のラス親だけど……」

桃子「タコスさんが調子あげあげなのが厄介っすね」

淡「スーパー《魔王》モード使うならラス親かなって思ってたけど、ちょっと厳しいのかな。どうなのでしょう、キラメ先生」

煌「そうですね……天江さんが振り込んだ事実は重く見るべきだと思います。三回戦で片岡さんが盛り返してきたとき、高鴨さんはオリに徹していました。あれと似たような状態だとしたら、今の片岡さんを止めるのは難しいでしょう」

友香「世界の力の流れが見えるっていう高鴨さんの出方に合わせるのが無難ですかね?」

煌「高鴨さんは、恐らく受けに回ると思います。黙っていればラス親になれるわけですから。なので、高鴨さんに合わせてしまうのは、少々もったいない気もしますね。とても微妙なラインですが」

淡「あと、あのちっこいのもまだ生きてる。また倍ツモとかされたらたまんないよ」

桃子「ここは速攻で流して、次局で仕掛けるのが理想っすかね。それなら、タコスさんと海底さんの勢いを殺した上で、改めて親番で切り札を出せる」

友香「速攻と来たかでー」

淡「速攻はユーキとちっこいのの得意分野で、サッキーの苦手分野だもんなー、きっつそー」

     衣『ポンだ!』

友香「で」

桃子「あ」

     優希『ロンだじぇ、12000!!』

     咲『っ……はい』

淡「疾っえー……いや、ちっこいのに振り込まなかっただけマシなのかな?」

桃子「海底さんの鳴いた白、タコスさん、随分ぎりぎりまで取っておいたように見えたっすけど」

友香「テンパイと同時に天江さんに役牌を鳴かせることで、咲の警戒がそっちに向くよう仕向けた?」

淡「先に切ってたらちっこいのにペース持ってかれてたかもだしね。さっきの山越といい、駆け引きしてるなー」

煌「月に叢雲、花に風――これは片岡さんがお見事でした。切り替えていきましょう。まだ対局が終わったわけではありません」

桃子「オーラス……後がないっす」

友香「ついに来るんでー、咲の最終形態」

淡「本当にギリギリになっちゃったけど、やるしかないでしょ!!」

     咲『脱いでも……いいですか――?』

     優希・衣『っ!!?』

友香「でっ……!!?」ゾクッ

桃子「これが――」ゾゾゾッ

淡「うん……スーパー《魔王》モードだよっ!!」ウネウネ

     咲『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子・友香「人間じゃないっす(んでー)……!!」カタカタ

淡「でも、単純に出力の最大値を比べるなら、コマキのほうが上だよ。私のウネウネセンサーによれば、今のサッキーの支配力は大体さっきのちっこいのと同じくらい」ウネウネ

桃子「ま、まあ……十分過ぎるんじゃないっすか? 海底さんと同じ要領で原石さんを出し抜けるなら、ここから数局は嶺上さんのやりたい放題ってことっすよね」

友香「世界の力の流れによっては思い通りにいかない部分も出てくるかもだけど、少なくとも、さっきまでの天江先輩を見る限り、自牌はわりと支配が効くっぽい。ツモで大きいのを狙っていく感じでー?」

淡「だと思う。ただ、ツモはツモでも嶺上ツモ狙いでいく気がする」

桃子「マジっすか? 海底さんでさえ、海底は避けて速攻で勝負してたっすよ?」

友香「咲の支配力の出力が上がって、高鴨さんの影響を逃れたとしても、王牌周辺にすごパが満ちてることに変わりはないはずでー?」

淡「そうなんだけどね。あそこまで支配力の出力を上げちゃうと、子供の頃からやってたっていう《プラマイゼロ》か《嶺上》・《開花》以外のことはできないんだよ。
 飛行機に喩えればいいのかな。車や電車じゃ制御不能になるくらいの速度を出しても、飛行機なら、むしろ速度を上げれば上げるほど安定できる。
 ただし、それは綺麗な形の『翼』があってこそ。サッキーにとっての翼は嶺上開花で、私の場合はダブリー。それを失ったら安定は保てないし、下手したら機体が空中分解する。
 ちなみに、準決勝のコマキは、翼も何もない生身の身体で音速超えのアクロバット飛行かますみたいな無茶苦茶なことをやってた。あれはホント神業」

桃子「なるほどなるほどっす」

友香「勝算は?」

淡「私はいけると思うよ。サッキーのランクSとしての強みは、支配力の出力の最大値より、その力を狭い範囲に集約できることにある。
 例えば、ランクS同士の支配領域《テリトリー》を比べると、コマキは一色牌36枚、ちっこいのは王牌以外の全てで122枚、私は配牌から最後の角周辺まで+カン裏で約100枚くらい。
 対して、サッキーは槓材+嶺上牌で、最少でたったの5枚。というか、槓材さえ揃っちゃえば、実質は嶺上牌だけで、たったの1枚。
 《プラマイゼロ》で点数調整するときもそうなんだけど、あの強大な支配力を、針の穴を通すみたいなコントロールで扱えるのが、サッキーの凄いところ」

桃子・友香「ふむふむ」

淡「私やあのちっこいのが、面や線で圧し伸べるように流れるように支配力を使っているんだとすれば、サッキーは、点で穿つように支配力を使う。岩の割れ目から花が顔を出すみたいなイメージかな。
 サッキーが常に《未開地帯》の《最高峰》を支配領域《テリトリー》にできているのは、これが理由。ま、精密な分だけ崩されやすいって弱点はあるんだけど、ピタリと決まりさえすれば、それはもう無類の強度を発揮する。
 サッキーが本気で……限界まで意識を研ぎ澄ませば、たとえ王牌に謎の力が満ちていたとしても、深い山の主がそこにいたとしても、私は、嶺の上に花は咲くと思う。
 だって、それこそがサッキーの強さで、カッコよさで、魅力なんだから」

桃子(これ録音して嶺上さんに聞かせたいっす)

友香(咲が(いろんな意味で)発狂しそうでー)

煌「淡さんは、時々、私たちの知らない咲さんを知っているような物言いをされますよね。練習はいつも五人でやっているはずなのですが、はて……この差はどこから来るのでしょう?」

淡「えっへへー、ひみつ!」

煌「おやおや」

淡(ま、実際はただちょくちょくチャットしてるだけなんだけどっ! でも、あれはなぁ……みんなに知られるわけにはいかないんだよね。ログも何も残してない。私とサッキーだけの、内緒の話——)

 ——————

 ————

 ——

 ——決勝戦前日・深夜・煌&淡部屋

淡(うにゅー……眠れない)ゴロゴロ

 ピカピカ

淡(んむ……メッセージ受信……サッキーかな——)タン

     さき@嶺上:起きてる?

淡(やっぱり)

     あわあわ:起きてるよ。

     さき@嶺上:煌さんは?

     あわあわ:寝てる。

     さき@嶺上:ブレないなぁ。

     あわあわ:すごいよね。

     さき@嶺上:ねー。

     あわあわ:それで? どうしたの?

     さき@嶺上:緊張して眠れない。

     あわあわ:そっか。私も。

     さき@嶺上:不安。

     あわあわ:私も。

     さき@嶺上:明日さ、

     あわあわ:ん。

     さき@嶺上:大将の煌さんに、

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:トップで回すのが目標、

     あわあわ:そだね。

     さき@嶺上:で、

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:オーダー、

     あわあわ:私、副将。

     さき@嶺上:私は中堅。それで、

     あわあわ:相手?

     さき@嶺上:うん。私は、天江さんと高鴨さんと優希ちゃんだろうって。

     あわあわ:勝てそう?

     さき@嶺上:わかんない。

     あわあわ:そっか。

     さき@嶺上:でも、

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:桃子ちゃんは辻垣内さんと江口さん。友香ちゃんはウィッシュアートさん。相手、一桁ナンバー。

     あわあわ:稼ぐのはキツいと思う。

     さき@嶺上:わかってる。だから、煌さんにトップで回すには、

     あわあわ:私たちで点を取る。

     さき@嶺上:そう。

     あわあわ:自信ない?

     さき@嶺上:正直、ない。

     あわあわ:私も。

     さき@嶺上:どうする?

     あわあわ:勝つ。

     さき@嶺上:どうやって?

     あわあわ:わかんない。

     さき@嶺上:そうだよね。

     あわあわ:そうなのです。

     さき@嶺上:ねえ、

     あわあわ:なに?

     さき@嶺上:私、

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:点数状況如何ではさ、

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:プラマイゼロしたほうがいいと思う?

淡(………………)

 ——同時刻・咲部屋

咲(………………)

     あわあわ:しないほうがいいと思う。

     さき@嶺上:なんで?

     あわあわ:そう言ってほしそうだから。

     さき@嶺上:よくわかってるね。

     あわあわ:わかるよ。

     さき@嶺上:昔ね、

     あわあわ:ほう?

     さき@嶺上:小さい頃、

     あわあわ:ほうほう?

     さき@嶺上:家族麻雀してたの。お年玉を賭けて。

     あわあわ:みたいだね。

     さき@嶺上:最初は負けっぱなしで、

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:勝ったら勝ったで怒られて、

     あわあわ:理不尽。

     さき@嶺上:そう。ホントそう。

     あわあわ:わけわかんないね。

     さき@嶺上:いや、でも、たぶん、あれ、

     あわあわ:どれ?

     さき@嶺上:お年玉は口実で、つまるところ、私の型作りだったんだと思う。

     あわあわ:あー、支配力のね。

     さき@嶺上:プラマイゼロ覚えてからは、怒られなくなった。

     あわあわ:なるほど。

     さき@嶺上:まあ、だからね、

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:はっきり言って、全然いい思い出ないの。プラマイゼロ。煌さんは、思いやりの能力って肯定してくれたけど。

     あわあわ:キラメはなんでも前向きに言ってくれるから。

     さき@嶺上:もちろん、それで救われた部分はいっぱいあるんだよ。

     あわあわ:そうだろうともさ。

     さき@嶺上:煌さんのおかげで、私は私の居場所を手に入れることができた。

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:プラマイゼロでもみんなの役に立てるんだって自信をもらった。

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:麻雀の楽しさにいっぱい触れることができた。

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:もっと麻雀で勝ちたいって思えるようになった。

     あわあわ:良いこと尽くし。

     さき@嶺上:なのに、

     あわあわ:プラマイゼロが邪魔するわけだ。

     さき@嶺上:そう。ノーマルだろうと1000点スタートだろうと、プラマイゼロはプラマイゼロ。勝ちでも負けでもないっていう本質に、違いはない。

     あわあわ:けど、どうあっても、そうなっちゃうと。

     さき@嶺上:うん。気持ちが弱ってくると、特に。

     あわあわ:お年玉のエピソードからして納得。そこしか逃げ場がなかったんだもんね。

     さき@嶺上:そうなの。

     あわあわ:避難場所みたいなものか。

     さき@嶺上:そゆこと。

     あわあわ:その癖どうにか治すために、三回戦は温存したのにね。

     さき@嶺上:準決勝で追い込まれて逆戻りっていうね。

     あわあわ:でも、一線は守った。

     さき@嶺上:そうだけど、あー、ダメ、思い出すと死にたくなる。

     あわあわ:テルーはなんか言ってた?

     さき@嶺上:お姉ちゃんには相談してない。

     あわあわ:なんで?

     さき@嶺上:微妙な顔されるってわかってるから。

     あわあわ:ふむ?

     さき@嶺上:お姉ちゃんは、たぶん、私に、強くなってほしかったんだと思う。

     あわあわ:嶺の上に咲く花のように?

     さき@嶺上:そう。でも、私は、結局、勝ちも負けもないプラマイゼロに落ち着いちゃったから。

     あわあわ:あー。

     さき@嶺上:ただ、お姉ちゃんは、荒れてた頃の私を知ってるから、

     あわあわ:型のない頃ね。

     さき@嶺上:そう。だから、プラマイゼロを断ち切ってくることはしなかった。

     あわあわ:どんなものでも型は型だからね。無闇にそこを崩すと、最悪、三回戦のコマキみたいな暴走状態になっちゃうかもだもん。危ないよ。

     さき@嶺上:うん。あと、そもそも、当時の私は、麻雀、嫌々打ってたし。遊びとか、楽しいとか、そういう感覚なかった。ただただ辛いだけの儀式。

     あわあわ:それは切ない。

     さき@嶺上:お姉ちゃん的には、きっと、私に競争相手になってほしかったんだと思う。

     あわあわ:本気で楽しく遊べる相手ね。

     さき@嶺上:そう。なのに、私は、麻雀を好きになれなくて、勝ちも負けもしないプラマイゼロの形に、自分を仕上げた。

     あわあわ:聞く限りは、仕方なかったように思えるけど。

     さき@嶺上:それでも、お姉ちゃんの期待を裏切ったのは、事実。

     あわあわ:まあ、そうなっちゃうか。

     さき@嶺上:それがどれだけお姉ちゃんを悲しませたのか。失望させたのか。孤独にさせたのか。今ならわかる。

     あわあわ:私と巡り合ったから。

     さき@嶺上:うん。

     あわあわ:コロモとコマキもそんな感じだった。コロモとトーカ、コマキとかすみー先輩も、たぶんそう。ランクSには、本気で打ち合える相手が、身近に一人は必要。

     さき@嶺上:わかってる。本当なら、お姉ちゃんにとって、私が、そういう存在にならないといけなかったんだ。

     あわあわ:今からでも遅くないよ。

     さき@嶺上:そうだね。まあ、だから、いい加減、プラマイゼロは、卒業したいわけ。

     あわあわ:そうね。

     さき@嶺上:プラマイゼロが私の根幹にある限り、私は、本当の意味での勝ち負けを知ることができない。

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:勝ち負けの意味を知らないままじゃ、いつまでも本当の真剣勝負ができない。

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:真剣勝負ができないままじゃ、麻雀を心から楽しむことができない。

     あわあわ:できるようになるよ。きっと。大丈夫。

     さき@嶺上:ありがとう。

     あわあわ:気持ちが後ろ向きになると、昔の辛かったことを思い出して、プラマイゼロに逃げちゃうんでしょ?

     さき@嶺上:そんな感じ。

     あわあわ:なら、前向きに楽しめば、うまくいくよ。

     さき@嶺上:前向きに楽しめば、か。

     あわあわ:厳しい?

     さき@嶺上:私のメンタル硬度、知ってるでしょ?

     あわあわ:やわくて脆い、おとーふメンタル。

     さき@嶺上:天江さんとか、一睨みされただけで即漏れする自信あるよ。

     あわあわ:よっわ。

     さき@嶺上:人のこと言えないでしょ。

     あわあわ:やわくて甘いプリンメンタルね。

     さき@嶺上:ふぁー。

     あわあわ:ふぉー?

     さき@嶺上:とりあえず、少し、楽になったよ。

     あわあわ:そいつはよかった。

     さき@嶺上:ありがとう。

     あわあわ:いえいえ。いつものことです。

     さき@嶺上:みんなには内緒だよ?

     あわあわ:わかってる。

     さき@嶺上:魔王としての、体面がね。

     あわあわ:わかってるって。

     さき@嶺上:頂点の妹としての、体裁がね。

     あわあわ:うん。

     さき@嶺上:あと、煌星のエースとしての、面子。

     あわあわ:それ大事。

     さき@嶺上:勝とう。

     あわあわ:もちろん。

     さき@嶺上:誰が相手でも。

     あわあわ:やっつけよう。

     さき@嶺上:それがエースの仕事だから。

     あわあわ:その通り。

     さき@嶺上:じゃあ、私、そろそろ落ちるね。

     あわあわ:うん。おやすみ。また明日。

咲(………………)

 ——————

 ————

 ——

 ――対局室

 南四局・親:穏乃

咲(淡ちゃん……余計なこと言ってなければいいけど——)

 北家:宮永咲(煌星・92300)

咲(とうとう後半もオーラスまで来ちゃった。前半戦は結局《プラマイゼロ》しちゃったし、現状点数は凹んでるしで、あらゆる面で、もう後がない。ここで決めなきゃ嘘だよね)スゥ

咲「脱いでも……いいですか――?」

優希・衣「っ!!?」

咲(何もかも終わらせる……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(支配力が膨れ上がった……? 靴下を脱いで窮地を脱す、か。全力を見せてはいないと思っていたが、まさかこのような方法で切り替えを行うとは。面白い。嶺の上に花が咲くか――見物させてもらおう)

 西家:天江衣(劫初・127600)

優希(天江先輩も咲ちゃんも、私のタコスセンサーの感知領域を超えているじぇ。支配力がタコス換算で表現できない。咲ちゃんのツノツノセンサーと淡ちゃんのウネウネセンサーが羨ましいじょ)

 南家:片岡優希(幻奏・95100)

咲(ん……?)ビリッ

穏乃「」ゴゴ

 東家:高鴨穏乃(永代・85000)

咲(この……感覚は……)

穏乃「」ゴゴゴゴゴ

咲(っ……!? まさか!? どうして? この状態の私を高鴨さんは知らないはず!! なのに――)

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(私の自分だけの現実《パーソナルリアリティ》が……回復しない……!?)ゾクッ

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(視界に靄がかかったままだ。特に嶺上のほうは何も見えない。どうして? 人が変われば山も変わる。こちら側に変化が起これば、高鴨さんはそれに対応するために少しの間足踏みするはず。
 煌さんの分析は、私の感覚とも一致していた。実際、天江さんや優希ちゃんはそれが出来てた。なのに、なぜ私だけはうまくいかない――)ハッ

穏乃(簡単なことですよ、宮永さん。私は、この山――全力のあなたを知っているんです。既に登っている――登らせてもらった。教えてもらったんです)

咲(さてはお姉ちゃんか……!!? 煌さんと淡ちゃん以外でこの私を知っているのは、学園都市にお姉ちゃんしかいない!!!)

穏乃(小さい頃。宮永さんが一番麻雀を打っていた頃。それは、つまり、照さんと宮永さんが一緒に打っていた頃ですもんね)

咲(本気の私と似たようなことをやって事前に高鴨さんをチューニングしといたってこと!? ったくもー……!! 相変わらず、お姉ちゃんの愛は重たくてしつこくて嫌になっちゃうなあ――)

咲「カンッ!!」ゴッ

穏乃(無駄です!!)ゴッ

咲「……っ!?」ビリッ

穏乃「もう一度言いますよ、宮永さん。そこはあなたの支配領域《テリトリー》じゃない」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「さすがお姉ちゃんのツノツノセンサー……これがレベル5の第七位――支配者《ジョーカー》殺しなんだね」

穏乃「はい。これが切り札《ジョーカー》殺しです」

咲「っ……ゴッ倒すよ!!」

穏乃「やれるものなら――ツモ、500オールです」パラララ

咲「——っ!!」

衣(む……いかん、この感覚――月も再び山の向こうへと沈んだか)

優希(風が止んでしまったじぇ……)

咲(こんなことって……っ!?)

穏乃「連荘続行……一本場です」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:94600 衣:127100 咲:91800 穏乃:86500

 ――《永代》控え室

照「私は咲のことならなんでも知っている。咲の行動パターンなど一千年前からまるっとお見通し。この絶対的お姉ちゃん力――今頃咲は私にメロメロのはず。計画通り」キラーン

塞「どう考えても敵意のベクトルしか向かないと思うわよ」

照「えええー!? なんで!?」ガーン

純「この大舞台、せっかくギリギリまで取っておいた切り札を殺されたとあっちゃ、下手したら一生恨まれるかもな」

照「いっ……しょう……!!」クラッ

まこ「まあ、ベクトルがたとえプラスに働いたとしても、その場合、どっちかっていうと裏にいる照より目の前の穏乃のほうに惹かれるんじゃないのか?」

照「そんな!? 咲が高鴨さんを通して私を見る!! お姉ちゃん強いすごいカッコいいってなる!! そして私の胸に飛び込んでくる!! この完璧な計画のどこに欠陥があったのか!?」

塞「強いて言えばあんたのそのパッパラパーな頭よ」

照「臼沢さん、私のことは、探さないで」ダッ

塞「こら」ゴッ

照「うぐっ……身体が……磔にされたように動かない……!!」

純「便利だな、塞のそれ」

まこ「さて、そんなことより対局じゃが――」

     穏乃『ツモ、1000は1100オールです』

塞「よしっ! さすが高鴨マジすごパ! すごい私がパラダイス(点棒的な意味で)!!」

純「どんだけ積むつもりなんだろうな」

照「ラス親になった場合、最大三本までって言ってある」

まこ「ほう?」

照「高鴨さんのすごパは決して万能じゃない。世界の力の流れは常に流動していて、高鴨さんも全てをコントロールできるわけじゃないから。私が高鴨さんと打った感覚的に、それくらいが限度」

塞「そこら辺も抜かりないってわけね。やるじゃん、宮永。強いわすごいわカッコいいわ。なんなら今すぐ胸に飛び込んでもいいくらい」

純「もう塞が照の妹でいいじゃねえか」

照「臼沢さんは丸団子一族。宮永家はトンガリ角一族。残念ながら私たちは相容れない」

まこ「種族の差かぁ。大変じゃのう、塞」

塞「黙りなさい、ワカメ一族」

純「何はともあれこれで二本場。最大でもあと二局で中堅戦は終わりだ」

まこ「どうなるかのう……」

照「最後までわからない」

塞「ここまで来たんだから負けんじゃないわよっ、高鴨!!」

 ――《煌星》控え室

友香「咲が靴下を脱いで全力を出すのが見抜かれていた……」

桃子「嶺上姉さんだから予測可能だったってわけっすよね」

煌「ええ」

淡「けど、予測できても封じるまでには普通に時間掛かるんじゃないの? 山を知ってるのと登るのは別物でしょ?」

煌「宮永さんは咲さんのお姉さんであり、能力・支配力的な共通要素は多くあります。加えて、あの方は本質を見抜く《照魔鏡》をお持ちです。咲さんをよく知り咲さんに限りなく近い存在――姉妹山とでも言うべきでしょうか。
 高鴨さんは宮永さんと同じチームでずっと一緒に打っていました。高鴨さんと咲さんは形の上では初対戦ですが、高鴨さんにしてみれば、よく見知った相手ということになるのかもしれません。
 というか、そうなるように、宮永さんがこの決勝に向けて調整を施したのでしょうね。全力の咲さんを誰よりも知る相手……迂闊でした。
 てっきり、高鴨さんは対天江さん用のカードなのだとばかり……宮永さんにとって何よりのジョーカーは、天江さんでも淡さんでもなく、妹の咲さんだったんですね……」

淡「サッキーから聞くテルー像からすると、その点は納得かも。テルーは基本サッキーのことしか考えてないらしいから」

友香「あー……」

桃子「けど、スーパー《魔王》モードは不発でも、反撃のチャンスが皆無ってわけじゃないっすよね?
 原石さんが連荘続行するなら、タコスさんが流れを掴んでいたみたいに、どこかで嶺上さんのターンが回ってくる可能性はあるはずっす」

煌「それはその通りです。なので、恐らく、次かその次くらいで和了り止めすると思いますよ。目安にしているのは点数か局数か――いずれにせよ、なんらかのリミットは設けているでしょう」

桃子「付け入る隙なしっすか」

友香「ジョーカーとジョーカー殺しで試合の要所を押さえる……《永代》の必勝パターンでー」

淡「まあ、でも、サッキーならなんとかしてくれるでしょ。へーきへーき」

桃子「根拠は? 手段は?」

淡「さっぱりだね。それでもなんとかしてくれる。私にはわかるのさっ!」

友香「……なにゆえでー?」

淡「支配者《ランクS》は、想いを力に変換する。想いと想いをぶつけ合う。互いにマジで一局打てば、相手のことは大体わかるんだ。私は本気のサッキーと何度も打ってきた。本音のサッキーと何度も衝突してきた。
 だから、わかる。サッキーがこのまま終わるはずない。風が吹いても、月が落っこちてきても、そこがどんなに高い山でも、関係ない。嶺の上に花は咲く。咲くったら咲く!!」

桃子(ノロケ全開っすか……!!)

友香(妬けちゃうんでー)

煌「淡さんから見て、今の咲さんはどう映りますか?」

淡「んー、どうだろう。たぶん楽しんでるんじゃないかな。まくられそうなのに笑ってるし。今までのサッキーなら完全涙目コースなのにさ」

煌「なるほど……なら、きっと——」

     穏乃『ツモです、2000は2200オール』

淡「さっ、ここで止められたら私の出番ってわけだけどっ!!」

     穏乃『連荘続行……三本場です』

桃子「続いたっす!」

煌「次はないでしょうね」

友香「じゃあ、これがラストチャンス……!?」

淡「っしゃあー、負けるなー!! やっちゃえー、サッキー!!」

 ――対局室

 南四局三本場・親:穏乃

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:高鴨穏乃(永代・96400)

優希(奥の手も奥の手だったタコさんパワーまでも、すごいパワーに吸収されてしまったか。恐るべし山の主だじぇ。制限とかそういうのは無いのか?)

 南家:片岡優希(幻奏・91300)

衣(しずのは次くらいには連荘を止めるだろう。点差的には静観するのも一策か? しかし……親番に入ってからの三連続和了――打点が徐々に上がっているのが気にかかる)

 西家:天江衣(劫初・123800)

咲(高鴨さんは打点が高いタイプじゃないけれど、常に低いわけじゃない。例えばだけど、ここで高鴨さんがインパチを和了ったとすると、《劫初》と《永代》が並ぶ。
 よくわからないけど、《打点上昇》ですごパを溜めてたりするのかな。お姉ちゃんじゃないけど……そろそろ大きいのが来る気がするよ)

 北家:宮永咲(煌星・88500)

穏乃(これが最後の山……地に足つけて、一歩ずつ――)タンッ

優希「チー」タンッ

 優希手牌:三三四六九③④⑤68/(2)34 捨て:一 ドラ:南

穏乃(序盤から鳴いてきた……)

優希(シズちゃんの平均和了巡目はそんなに速くない。一発逆転したいけれども、欲目を出して勝てる相手じゃないのはわかってるじぇ。ここは速攻で流すッ!)タンッ

穏乃(吹き抜ける風――そうだね。優希ならそうだよね。さて、この鳴きを受けて天江さんはどう動くかな……)

衣(《東風》は速攻狙い。しずのと深いところで捲り合いをするのは分が悪いのだから、当然か。ならば衣も鳴いて足を速めてみるか? 否、感覚が頼りにならない現状、不用意に前に出るのは危険……親満直撃なら並ばれる。
 流すのは《東風》に任せよう。南場はレベル0として戦ってきたこやつの純粋な技量は、衣より上だ。四位に安手を和了られる分には仔細なし。衣はゆっくりと進ませてもらう)タンッ

穏乃(月が満ちるのを待つ、か。腰を据えて打たれるのは、ちょっと恐いな。無駄かもしれませんが、少し揺さぶっておきます)タンッ

 穏乃手牌:⑥⑦4[5]88二三三四[五]六七 捨て:南 ドラ:南

衣(生牌のドラ……誘っているのか?)チラッ

 衣手牌:四六六567③⑧南南發中中 ドラ:南

穏乃(鳴きますか? 鳴きませんか?)

衣(鳴けば手が進むし、ドラの南なら他家に圧力を掛けることもできる。だが、《東風》か嶺上使いならまだしも、世界の力の流れに通じているしずのにその手の威嚇が通用するとは思えない。鳴くか、鳴かぬか――迷うな……)

穏乃(さあ、どうしますか……?)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(大いに迷わせてくれるじゃないか、楽しませてくれるじゃないか、《深山幽谷の化身》よ。いいだろう。その真の姿を見極めてやる。鳴きはしない。このまま奥深くへと分け入って、直に貴様を捉えてやる……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(歓迎しますよ。ようこそ、幽邃の地へ)タンッ

優希(牌を絞られているのか? むー……心なしかツモ牌も重たくなってきたじぇ)タンッ

衣(しずのの気配が濃くなってきたな。この靄の中では能力も支配力も完全に使い物にならない。自分だけの現実《パーソナルリアリティ》さえ失われたか。となると、頼れるのは五感と思考のみ。足元に気をつけつつ、進む……)タンッ

穏乃(さて、あとは……あなただけですよ、宮永さん――)チラッ

咲(高鴨さん……?)

穏乃(照さんから、多少、事情は聞いています。色々あったみたいですが……今はいかがです? 麻雀……心から楽しめていますか?)ニコッ

咲(む……これは、アレかな? 和了れるもんなら和了ってみろ的なアレかな? この状況で私に勝てますか的なアレかな? へえー……随分と、余裕だね――)ゴッ

穏乃(あれ……? なんか勘違いさせちゃった?)ビリッ

咲「……高鴨さんは、ここからトップに並べると思ってるの?」

穏乃「えっと……できればそうしたいと思ってますよ。難しいかもですけど」

咲「ふーん……」

穏乃「今日は、私、皆さんと打てて本当に良かったです。こんな高いところで、こんなに強い人たちと卓を囲んでいる――できることなら、もっと遊んでいたいです」

咲「遊ぶ――」

穏乃「はい」

咲(……そう言えば……)

穏乃「宮永さんも、天江さんも、優希も――」

咲(初めて会ったときのどっかのおバカさんも……)

穏乃「みんなで一緒に遊びましょうっ!!」

     ――ねー! もっと遊ぼうよーっ、宮永咲!!

咲(同じこと言って子供みたいにはしゃいでたっけな——)

穏乃「♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(《プラマイゼロ》を覚えてから……色々あって、お姉ちゃんとお母さんが家を出ていった。自動卓は押し入れにしまわれた。もちろん私は麻雀を打たなくなった。好きな本を読んで過ごした)

咲(中一のとき、お姉ちゃんがインターミドルで優勝した。それからちょっと後になって、白糸台に推薦で受かったことを知らされた。私も白糸台を受けてみようかなって、ぼんやり思った)

咲(お母さんや、お姉ちゃんのこと。ずっと引っかかってたもやもやをどうにかしたかった。そのために……すごく嫌だったけど……もう一度麻雀をしてみようって決めた。麻雀を通してなら、きっとお姉ちゃんと言葉を交わすことができるはずだから、って……)

咲(入学して、早速クラスの人たちと打った。《プラマイゼロ》に気付かれて煙たがられるようになった。私とは打ちたくないって言われた。
 それはもっともだと思う。私自身が麻雀を楽しいと思って打っていなかったんだから。だって、私が打つと『どうせ《プラマイゼロ》にしかならない』んだもん……)

咲(仕方ないから、気晴らしに街を歩いた。本屋巡りをした。変な人たちに声を掛けられた。ちょっと悪ノリして何人か病院送りにしているうちに、《魔王》なんて呼ばれるようになった)

咲(馴染めなかった。虚しかった。友達なんて一人もできなかった。まるで勝ち負けのない《プラマイゼロ》。何も得られず、何も失わない、平坦な日々。真剣に勝ちを目指す人たちの中にあって、いてもいなくても同じ私……)

咲(そんなときだ。ショッピングモールで煌さんと出会った。そして――)

          ——あなた――誰?

                     ――私は……大星淡。

    ——今のうちに好きなだけ吼えてなよ。すぐに泣かせてやるからさ!!

             ——打つよ!!

咲(なんだこいつって思った。馴れ馴れしくて、鬱陶しくて、負けず嫌いで、しつこくて、態度デカくて、図々しくて、底抜けのおバカで、
 学園都市にたった一人……私と同学年の支配者《ランクS》――初めて出会った、本気の想いをぶつけられる相手、本音の自分をさらけ出せる相手――)

     ――じゃあ、サッキーね! よろしくぅー!!

咲(私と同じ支配者《ランクS》。私と同じレベル4のマルチスキル。私と同じ王牌が支配領域《テリトリー》の能力者。私と同じカンで場の支配を強める打ち手。《カンドラが乗らない》ところまでそっくり同じ……)

         ――今この瞬間から、私たちは友達だよっ!!

咲(ホントなんなんだこいつって思った。一目見た瞬間からあっこれヤバいなって思ってたけど、打ち合っているうちに確信に変わった。本気で想った。ああ、私は、こいつのことが、心の底から――)

    ――これからもずーっとお友達でいてね、サッキー!!

咲(大っっっっっっっっっっ嫌いってねッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 咲手牌:①①①②③③④北北北白白白 ツモ:① ドラ:南

咲(角の手前で槓材が揃うなんて、まったく縁起の悪い。けど、これ、カンをする手かって言われるとかなり微妙だよね。
 二・三・五筒待ちの三面張で満貫確定。高めツモなら倍満の好手。なんでリーチでハネ確をしないんですかって和ちゃんにSOAされそう。
 まあ、理由は単純明快で、この手でリーチを掛けたら、一筒の暗槓と、大明槓ができなくなって、嶺上開花の可能性を自ら下げることになるから嫌だなーって、本当に……ただそれだけのことなんだけど)

    ――そこはあなたの支配領域《テリトリー》じゃない。

咲(嶺上牌が支配領域《テリトリー》じゃなくなったことは何度もある。煌さんの《通行止め》でツモが封じられたとき、王牌は完全に煌さんの支配下にあった。
 でも、今まで何度かカンしたけど、明らかに感触が煌さんのときとは違う。高鴨さんの《原石》の力は厳密な能力《オカルト》じゃない。だとすると、あの靄の向こうの嶺はどうなってる……? わからない……何も見えない――)

咲(……なんだか、裸足なのもあいまって、本当に子供の頃みたい。すごく小さかった頃。能力が発現するより前。型なんてもちろんなくて、自分だけの現実《パーソナルリアリティ》さえあやふやで……本当に……ぴったり同じ感じだよ……)

       ——みんなで一緒に遊びましょうっ!!

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(《原石》……まだ自分が何者なのかもわかってない。形を整える前の歪な原型。磨けば光る可能性)

     ——まだ起きてる?

           ——起きてるよ。なーに?

咲(もし私が今、まだ整っても磨かれてもいなかったあの頃――《原石》のようになっているのなら……もう一度、一から自分の形を作ることができるのなら……私はどんな私を望むだろう——)

     ——私たちってさ。

          ——うん。

     ——ランクSで、レベル4で、マルチスキルの、牌に愛された子なんだよね。

          ——スーパー天才美少女雀士とも言うね。

     ——なのにさ、

          ——うん。

     ——思うようにいかないことばっかり。

          ——そうだね。

     ——私たちって弱いのかな?

          ——うん。たぶん弱いんだと思うよ。

咲(お父さんと、お母さんと、お姉ちゃん——家族とだけ打ってた子供の頃。麻雀は楽しいものでもなんでもなくて、ただただ嫌な儀式で、強要されるがままに打ってた……)

     ——でも、

          ——ん?

     ——私は、淡ちゃんの強さを知ってる。

          ——そだね。私もサッキーの強さを知ってるよ。

咲(そうしているうちに、いつしか私は、勝ちも負けもしない《プラマイゼロ》を望むようになった。得ることと失うことの両方を拒絶した。
 いてもいなくても同じ原点《ゼロ》の私。そういう形に、私は私の型を——《原石》を仕上げた。一緒に頂点《トップ》を目指して遊ぶつもりだったお姉ちゃんは……きっとすごくがっかりしたよね……)

     ——だったらさ。

          ——うん。

     ——証明し合おう。

          ——ほむ?

     ——お互いに、お互いの強さを、保証し合うの。

          ——ほほう。

     ——私が誰かに勝てば、私と同じくらい強い淡ちゃんも、その誰かに、同じようにして勝てるってことになる。

          ——私が誰かに勝てば、私と同じくらい強いサッキーも、その誰かに、同じようにして勝てるってことになるわけだ。

咲(でもね……お姉ちゃん。今は、違うんだよ。家族以外とも打つようになって、実際に勝ったり負けたりするようになって、私は変わった。
 今ならはっきり、心から思える。強くなりたいって。誰かの力になりたいって。私に麻雀の楽しさを教えてくれたみんなのために——勝ちたいって……)

     ——そうやって、

          ——うん。

     ——これからずっと、

          ——うん。

     ——証明し続けていこうよ。

          ——私たちの強さを。

     ——煌星のエースの強さを。

          ——最高。

咲(今の私は《プラマイゼロ》じゃ満足できない。何も残らない麻雀なんて打ちたくない。ここ《ゼロ》から一歩を踏み出したい——)

     ——だから、必ず勝ってよね、淡ちゃん。

          ——もちろん、勝つよ、サッキーのために。

     ——うん、私も、淡ちゃんのために勝つから。

          ——それは安心だ。

     ——私も。

          ——だって、サッキーは強いもん。

     ——淡ちゃんも、強いよ。

咲(桃子ちゃんや友香ちゃんや煌さんや——)

          ——じゃあ、

     ——うん。

          ——今度こそ、おやすみ。

     ——おやすみ、また明日。

          ——ねえ、サッキー。

     ——なに?

          ——信じてるよ。

咲(どっかのおバカさんみたいに……!! 私も強い雀士《プラス》になりたいッ!! 心の底から麻雀を楽しみたい!! 勝っても負けても得るものがある——そんな真剣勝負がしたい……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 咲手牌:①①①①②③④北北北白白白 捨て:③ ドラ:南

穏乃(宮永さん……やっぱりリーチは掛けてこない、か)

 穏乃手牌:⑤⑥⑦4[5]88三三四四五[五] ツモ:白 ドラ:南

穏乃(あと、一歩。《頂点》はすぐそこ。壮観絶景。ちらりと雪まで降ってきた。そう言えば……こんなに高いところまで来たのは、初めてかもしれないな)

穏乃(麻雀と、山の天気と、秋の空。私だって、全てが見えるわけじゃない。わからないことはたくさんある。この世に必然なんてない。予想外のことが起きる。けど、それはまるっきりの偶然じゃない。
 無数の意思がそれを起こす。自然とは、そういうものなんじゃないかって、私は思う。そういう世界で、私は遊びたいと思う。そういう運命を、私は受け入れたいと思う)

穏乃(だって、そっちのほうが、《絶対》に楽しいからっ!!)タンッ

 穏乃手牌:⑤⑥⑦4[5]88三三四四五[五] 捨て:白 ドラ:南

穏乃「和了りますか、宮永さん?」

咲「和了れないよ。高鴨さん、わかってて言ってるでしょ」

穏乃「ええ。でも――」

咲「うん、カンするよっ!!」ゴッ

 咲手牌:①①①①②③④北北北/白白白(白) 嶺上ツモ:? ドラ:南・?

優希(大明槓!? 嶺上開花は封じられているんじゃないのか!?)

衣(嶺上使い……何のつもりだ?)

穏乃「先ほども言いましたが、宮永さん。そこはもうあなたの支配領域《テリトリー》じゃないですよ」

咲「うん、わかってる。ここは私の支配領域《テリトリー》じゃない。でもさ、高鴨さん」

穏乃「なんでしょう」

咲「ここは――あなたの支配領域《テリトリー》でもないんでしょ?」

穏乃「……ええ、それが正解です。みんなの遊び場ですからね、この山《セカイ》は!」ニコッ

咲「やっぱりね! だろうと思ったよッ!!」ゴッ

 咲手牌:①①①①②③④北北北/白白白(白) 嶺上ツモ:[⑤] ドラ:南・?

優希・衣「ッ!!?」

穏乃「それを踏まえて、もう一度お聞きしますね。和了りますか?」

咲「どうだろね! わかんない!! 面白いっ!! だから——もいっこカンッ!!」パラララ

 咲手牌:②③④[⑤]北北北/①①①①/白白白(白) 嶺上ツモ:? ドラ:南・二・①

優希(えええっ!? 咲ちゃんの手にカンドラが乗った!!?)

衣(ならば、これは真に能力や支配力とは無縁の――)

咲「……昔お姉ちゃんに教えてもらったんだ。嶺上開花――その役の意味は、『山の上で花が咲く』って」

穏乃「咲く――同じですね、宮永さんのお名前と」

咲「うん……でね、そのとき、お姉ちゃんは『森林限界を超えた高い山の上、そこに花が咲くこともある』とも言ったんだけど、今ちょうど、そんな感じだなって思った」

穏乃「と言うと?」

咲「『咲くこともある』ってことは……『咲かないこともある』ってことなんだよね」

穏乃「はい、それが自然というものです」

咲「でも、大事なのは、咲くか咲かないかじゃない――違う?」

穏乃「そうですね。私も、一番大事なことは、他にあると思いますよ。照さんはなんと?」

咲「『おまえもその花のように強く』って言ってた」

穏乃「素敵なお姉さんがいて、羨ましいです」

咲「お姉ちゃんって外面だけはいいからなぁ。年下には特に」

穏乃「そこも含めて素敵な先輩です」

咲「楽しかったよ、高鴨さん」

穏乃「同い年ですし、穏乃でもいいですよ」

咲「じゃあ、穏乃ちゃん」

穏乃「なにかな、咲」

咲「今日は、本当に、楽しかった。よかったら、また一緒に遊んでほしい」

穏乃「私も、すごく楽しかったよ。こちらこそ、また一緒に遊んでくれると嬉しい」

咲「うん、約束」

穏乃「絶対ね」

咲「次は私が勝つから」ニコッ

穏乃「いくらでも受けて立つよ」ニコッ

咲「というわけで……お待たせしました」パラララ

 咲手牌:②③④[⑤]北北北/①①①①/白白白(白) 嶺上ツモ:[⑤] ドラ:南・二・①

咲「ツモ……」

穏乃(綺麗な……花……)

咲「混一北白ドラ四——」

穏乃(森林限界を遥かに超えた山の頂——冷たい風が吹きすさび、粉雪が舞う、月の表面のように荒れた大地——こんなに高いところでも……こんなに高いところだからこそ、あなたは強く咲こうとするんだね……)

咲「赤二……」

穏乃(お聞きしていた通り、とても素敵な妹さんでしたよ、照さん)パタッ

咲「嶺上開花――24000の三本場は24900、責任払いです」

穏乃「はい」チャ

『中堅戦終了おおおおおお!! 二転三転したものの順位変わらず!! 依然トップはチーム《劫初》!! ただ《煌星》が追い上げてきているぞ!! 《幻奏》・《永代》もギリギリ踏みとどまっています。まだまだ結果は読めません!!』

咲(ぬあー!! 三連槓さえできれば数えだったのに……!! でも結果オーライ!! これで煌さんにいっぱい褒めてもらえるよっ!!)

 一位:宮永咲・+10000(煌星・113400)

優希(最後の最後までやえお姉さんにおんぶだっこか。まだ……まだできることはあったはず――だがっ!! 今日は泣かない!! 笑ってバトンタッチ!! それが負けた私にできる唯一のことだじぇ……!!)

 四位:片岡優希・−7500(幻奏・91300)

衣(稼ぐことは叶わなかったか。支配者《ランクS》とは名ばかり。世界はかくもままならん――が、だからこそ楽しめるのだろう。実に晴れやかな気分だ。衣をここに連れてきてくれたこと——感謝するぞ……ありがとう、すみれ)

 二位:天江衣・+900(刧初・123800)

穏乃(あと一歩のところでやられちゃったなぁ……。二本場で止めておけば——いや、同じ状況なら、何度でも、私はこうする気がする。
 今回は宮永さんにやられちゃったけど、次は私が勝つ。そのために、もっと……強くならなきゃ!!)

 三位:高鴨穏乃・−3400(永代・71500)

ご覧いただきありがとうございました。

いつもと区切り違いますが、今日はここまでです。このスレもここまでです。適当に埋めていただいて構いません。

次回からは新スレ(↓)で更新します。

【咲SS】煌「ここが白糸台高校麻雀部ですか」
【咲SS】煌「ここが白糸台高校麻雀部ですか」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1415117509/)

では、寝ます。

おつ
深夜に覗いてみたら更新真っ最中だったからずっと見てたよ
敬語しずのは可愛いなやっぱ

ずっと思ってたんだけど照チームだけ流れを変える、能力を抑えるとかに対能力に特化した構成なのは照の思想的なものが反映されているのかな?
相性の良し悪しがあまり無くて安定してる、対策が難しいなどの理由もあるんだろうけど照の麻雀に対する思想やお話の根幹にも何か反映されてる気がする
まぁなんにせよ続きを楽しみにしてます



ガイトさんが優希と相性が悪いと言ってたりして泉が南場で見せた無能力者による対咲完全攻略法が何故か無かった事になってるな

対策放棄した特殊な打ち手二人が居たから漁夫の利を得て勝てたって感じでもやもやする

結局、この咲は古典確率論の鳴きで嶺山・開花を封じられ、聖人崩しで再び呪いに縛られかけた準決勝のような戦い方に対して何か打開策は見つけられたのか?

>>935さん

照さんの人選は、対《劫初》を想定したものです。《劫初》以外のチームなら、照さんが先鋒戦で他チームとン万点差つけるので、染谷さん・井上さんと繋いで、臼沢さん・高鴨さんでシャットアウト余裕です。

《劫初》は弘世さん以外が一人で試合を決められる(一局で何万点も稼げる)人たちの集まりなので、勝つためには、他チームをトビから守りつつ化け物に仕事をさせない技術・能力を持った人が必要です。ゆえに、封殺寄りのメンバー構成になったわけですね。

《劫初》が原作の白糸台(攻撃特化)だとしたら、《永代》は原作の阿知賀(スコアラー玄さん&堅実派四人)に近いと思います。

>>936さん

>ガイトさんが優希と相性が悪いと言ってたりして泉が南場で見せた無能力者による対咲完全攻略法が何故か無かった事になってるな

東場の片岡さんと咲さんの相性が悪い設定になっているのは準決勝のときからそうです。準決勝でも、決勝戦でも、速度特化の《東風》片岡さんを相手に、咲さんは一度も和了れていません。

二条さんの咲さん対策は、別になかったことになってるわけじゃないです。

この中堅戦の面子で言えば、二条さんがやった咲さん対策と同じことを、片岡さんは『技術的にできない』、天江さんは『技術的にできない・能力的にする必要がない』、高鴨さんは『能力的にするまでもない』、と、こんな理由でやってないだけです。例えば、染谷さんがここに混じっていたら、二条さんみたいな打ち回しをしたかもしれません。

あと、そもそもの問題として、点数状況的や能力の性質的に、あの場では、天江さん対策>咲さん対策です。咲さんを完全封殺してしまうと、トップの天江さんが抜けてしまいます。前半、高鴨さんがまだ動き出していない時点までで、天江さんが大きく削られたのは、片岡さんの倍ツモと咲さんの倍直です。どちらも、咲さんがある程度自由だったからこそできたことです。咲さんは能力的に天江さんキラーなので、むしろ、泳がせておいたほうがメリットが大きいんです。

対策があることとすることは別です。あることとできることも別です。

>対策放棄した特殊な打ち手二人が居たから漁夫の利を得て勝てたって感じでもやもやする

天江さんはランクSなので、咲さんとは正面からガチンコで殴り合えばよく、そうやって戦うことを選んだだけです。ランクSは高速飛行するジェット機みたいなものなので、下手に小細工して戦うと、むしろ調子崩します。力で押し切ったほうがいいんです。

高鴨さんは存在そのものがランクSキラーなので、咲さんに対しても天江さんに対しても、普通に打つだけで善戦できます。対策をするまでもなく、それ以上のことが、高鴨さんにはできるんです。

>結局、この咲は古典確率論の鳴きで嶺山・開花を封じられ、聖人崩しで再び呪いに縛られかけた準決勝のような戦い方に対して何か打開策は見つけられたのか?

咲さんに限ったことではなくて、このお話の中の全ての能力者と支配者は、能力者であるがゆえ、支配者であるがゆえのウィークポイントを抱えています。鳴き・聖人崩しは、そこを攻めるための普遍的技術です。もちろん誰でもいつでもできるわけではありませんが。

弱点を攻められたとき、どうやって対処するのかは、時々によります。もう一回同じことをされたとき、咲さんがどう打ち回すのかは、そのときになってみないとわかりません。

>>942
こう説明された上で読み返してみるとやっぱりランクSの中で咲だけ異常に脆いって結論しか見えないんだよね
まず、咲以外の聖人崩しがレベル5の穏乃相手以外で想像できないってのが一つ
照や神代なんかはあらゆる手を尽くして封じにかかっても支配力でやりたい放題って感じだったし
鳴きに関しても衣が顕著だがたとえ鳴けても崩すまでには皆かなり苦労してて、鳴くだけで簡単に致命傷になる咲との差は不自然に見えた
準決勝、やえが咲は面前場を作ってると予想してたがそれに反してあっさり鳴けてたのも疑問だったし
今回淡が点と面の話してたが、これらの咲の不自然さは点に大半の支配力使ってる分その他のあらゆる状況で咲以外のランクSと同じ様には力を行使出来ないとか解釈しとけば良いの?

>>947さん

>こう説明された上で読み返してみるとやっぱりランクSの中で咲だけ異常に脆いって結論しか見えないんだよね

そうです。脆く儚く書いています。なぜかというと、花は容易く手折れるからです。花はあっけなく散るからです。そんな脆くて儚い花が、森林限界を超えた山の上に、強く咲く。そういう美しさを持つ咲さんを書きたくて、私はSSを書いてます。

千年に一人の嶺上開花能力者であるというのが強さで、鳴きによって完封されてしまったというのが脆さですね。ただ、お話を読んでいる私たちは、咲さんの嶺上開花=当たり前なので、この作中のキャラクターたちが感じるほどには、嶺上開花するという事実が強く見えないんですよね。だから、弱さにばかり目が入ってしまうんだと思います。これはまあ設定が悪くて見せ方が下手ですね。


>まず、咲以外の聖人崩しがレベル5の穏乃相手以外で想像できないってのが一つ

ランクSの人たちは、自身の『想い』をそのまま卓上に反映します。聖人崩しは、突き詰めれば、ランクSの『思惑を外す』ことに尽きます。たぶん、咲さんが点棒操作系で、その能力自体が特殊で、それを聖人崩しという特殊技をぶつけているのが、スムーズに類推できない原因だと思います。これもまあ見せ方の問題ですね。

一応、照さん=打点上昇の制約を逆手にとって連荘を止める。神代さん=《神憑き》解除。大星さん=ポンで飛ばされ暗槓できず。天江さん=妹尾さんから国士直撃。という事例を挙げています。ランクSは、全てを想いのままに動かしているがゆえに、想いもよらぬことに対して、隙が大きくなるのです。そうやってランクSを攻略するスキルを総称して、《聖人崩し》と言っています。この対極にいるのが原村さんで、彼女はどんなことをされても崩れず、SOAを貫きます。『全てを想いのままに動かしている』なんて必然《オカルト》が、彼女の麻雀には存在しないからです。


>照や神代なんかはあらゆる手を尽くして封じにかかっても支配力でやりたい放題って感じだったし

照さんが自由に見えるのは、照さんの『型』=《八咫鏡》がレベル5で、《絶対》に奪われないものだからです。『型』が奪われない以上、致命的な事故はそう起きません。飛行機の喩えで言えば、照さんの翼は《絶対》にもがれないんです。

照さん以外——天江さん、大星さん、咲さんは、ネリーさんの魔滅の声《シェオールフィア》を喰らった時点で翼を失い、墜落確定です。神代さんだけが例外で、それは下記。

神代さんが自由に見えるのは、『型を奪われても支配力を行使できる唯一のランクS』と設定したからです。下地になっているのは霧島での修行、そして、三回戦でのプラシーボ騒動です。

三回戦のアレがなければ、準決勝の神代さんは、ネリーさんに魔滅の声《シェオールフィア》を喰らった時点で、『普通の頑張り屋さん』として戦う以外の術がなくなっていました。実際、三回戦で石戸さんに《神憑き》解除をかまされたときは、『普通の頑張り屋さん』に戻ってしまい、にっちもさっちもいかなくなっています。だから、自らの命を危険に晒してまで、《体晶》を使用したんです。結果、《制約》を逃れ、自由度が上がり、準決勝での無双に繋がっています。

ただ、そんな神代さんでさえ、花田さんの豹変に対して、一時的に《八面》様を引っ込めるという対処を取っています。《八面》様を引っ込めた時点で、神代さんは支配力の出力ができなくなっています。準決勝後半の最後のほうの咲さんと、陥っている状況は変わりません。あのとき、神代さんは、《八面》様を引っ込めないと支配力が暴発して『自分の身が危険だ』と思ったから、引っ込めました。準決勝の咲さんも、支配力を引っ込めないと『プラマイゼロに囚われる』と思ったから、引っ込めたんです。同じことです。


>鳴きに関しても衣が顕著だがたとえ鳴けても崩すまでには皆かなり苦労してて、鳴くだけで簡単に致命傷になる咲との差は不自然に見えた

天江さんは、鳴きにさほど弱くない設定にしてます。これは、原作の海底コースのくだりに由来しています。咲さんは、その通り、鳴くだけで致命傷になります。これは、私がそういう設定にしたから、そうなっているだけです。

中堅戦の前半でごちゃごちゃ小走さんが牌譜を弄り回す一局がありますが、あの中で、天江さんの手を、断ヤオ系の順子手にしましたが、あれは、『受け入れが広い=有効牌を鳴きで流されてもリカバリーできる』ことを表現したかったからです。

対照的に、咲さんの789三色嶺上開花は、『和了り牌があと一枚しかない五萬単騎=カンしない限り和了り目がない欠陥』『一つ鳴かれただけで嵌八筒が流れて789が死ぬ=リカバリーが利かない脆さ』ことを表現したつもりです。

そういう差を意図的に作ってます。大本にあるのは、強さと脆さを併せ持つ嶺の上の花という、私の中の咲さん像です。

天江さんは、逆に、はちゃめちゃに強靭で強大な月のイメージで書いています。なので、一つ二つ鳴かれたくらい、どうってことありません。しかし、その強さゆえに、天江さんは、月のように孤独なんです。

その孤独さが、天江さんの弱さであって、だからこそ、件の牌譜を弄り回す一局では、高鴨さん・咲さんのアシストを受けた片岡さんに、天江さんは倍満を被らされているんです。

>>947さん

>準決勝、やえが咲は面前場を作ってると予想してたがそれに反してあっさり鳴けてたのも疑問だったし

咲さんが作る門前場は、咲さんが作っているので、咲さんが想定できない鳴きは発生します。中堅戦でも、前半戦の東初で、

     >優希「チー!!」ゴッ

       優希手牌:1234⑤⑥⑨⑨發發/(9)78 捨て:⑧ ドラ:一

というチーが入りますが、咲さんの想定の中に、ここでチーという『選択』は存在しません。咲さんは、この手で、こんなチーをしない、したことがない、という風に設定しました。

天江さんの《一向聴地獄》を高鴨さんが崩すくだりで、『能力者本人と同じ思考で四人が打ったときにその効果が最大になるよう設計されている』みたいなことを言ってますが、理屈はそれと同じです。能力者本人・支配者本人とかけ離れた打ち方をされると、支配が崩れ、想定外のことが起こってしまうんです。

牌譜をごちゃごちゃ弄り回す一局も、高鴨さんの明らかにセオリーを外した選択が、天江さん・咲さんの想定を上回り、それゆえに二人の必然が崩されました。ああいったやり方なら、鳴けるんです。

ウィッシュアートさんの《騙し絵》を亦野さんが破っていたのも、ほぼ同様のロジックです。ウィッシュアートさんは、混老対々を嫌って、門前手の七対子にシフトしました。鳴かずに自力で有効牌をツモって和了る——それがウィッシュアートさんの必然の選択だからです。しかし、亦野さんは、他家の捨て牌に頼る道を選択しました。その結果、ウィッシュアートさんが放棄した副露からの混老対々で、一発かませているのです。

準決勝での二条さんの鳴きも、かなり無茶苦茶な鳴きとして書きました。役ナシ裸単騎をやって原村さんにジト目されてたりしてます。そんな無茶鳴きまで想定して門前に偏る場を生み出すのは、咲さんに限らず、不可能です。できるとしたら、そのもの《鳴きの発生しない場を生み出す》龍門渕さんくらいです。ただ、《治水》でさえ、『和了り牌を河に流せば誰かが拾える』という抜け道があったように、完全ではありえません。


>今回淡が点と面の話してたが、これらの咲の不自然さは点に大半の支配力使ってる分その他のあらゆる状況で咲以外のランクSと同じ様には力を行使出来ないとか解釈しとけば良いの?

ちょっと違います。天江さんや大星さんは豪快に、咲さんは繊細に、支配力を使っている。だから、咲さんのほうが、外力による影響を受けやすい——みたいなニュアンスです。数値・ステータスの振り分けの問題ではないですね。

卓上がお風呂で、そこに支配力という水が満ちているのを想像してください。大星さんはそこに渦——回転を生み出します。天江さんは振幅の大きな波——満ち引きを生み出します。対して、咲さんは、嶺上の一点に、インパルスみたいな極端な矩形波を生み出すことができます。これが、咲さんの特異性、希少性のイメージです。

あとは、全体効果系能力者としての天江さんとウィッシュアートさんの対比が、近いですね。天江さんは、ウィッシュアートさんの《騙し絵》を、《一向聴地獄》より『正確性』『厳密さ』が上だと評価しています。また、照さんも、『能力としての完成度がすごく高い』『美しい論理』と絶賛しています。それゆえに縛りがキツかったり、脆い部分があったりするのは、次鋒戦の通りです。

また、咲さんの《プラマイゼロ》を、花田さんが『美しい論理』と評価していますが、これは照さんがウィッシュアートさんに対して言ったのとほぼ同じ意味です。

この『美しい』を、私は、飴細工、硝子細工、ステンドグラスが『美しい』というのと同じ感覚で使ってます。咲さんの場の支配は、飴細工の花のように繊細であると設定してます。

これはもう完全にイメージの話なんですが、天江さんの強さは、潮の満ち引きから来ているので、全てを押し流して押し潰す支配者って感じで書いています。これは、そのもの『面』っぽいです。

咲さんは、大星さんが言っていたように、岩間に咲く花のイメージで書いてます。『点』です。その花を、手折ったり、踏みにじったりすることは、潮の満ち引きを止めることに比べれば、そう難しくないことだと思います。そういうイメージの違いから、天江さんのほうが揺さぶりに強く、咲さんのほうが弱い、という書き方をしています。

あ、そう言えば、『型』って連呼するだけで一度も明言していませんが、支配者にも個性があります。様々な能力に様々なメリットデメリットがあったように、支配者にも、支配者であるというだけで、何らかのメリットデメリットがあります。咲さんは、ランクSの中でも、特に強さ・弱さの差が激しい、極端に繊細な性質を持つキャラクターとして書いてます。咲さんが大星さんをことあるごとに『おバカ』『単純』などと言っているのも、その辺りからきているのかもしれません。

なるほど、飴細工って言われると確かにとは思うな
咲さんは槓材(同じ牌4枚)が絡むってなると、相手からも読まれやすいし崩しやすいよな
その点あわあわはダブリーと足止めだから、(暗槓するとはいえ)あがりの形に制限はないから、力押しできちゃうね

この作品で「嶺上開花」って超特別な技で、それが使える咲さんはすごい、超魔王!みたいな扱いだけど
「嶺上開花」は特別ってだけで、勝負する中では超強い技ってわけではない。
そういう理解でいいのかな?

学園都市で経験を積めば、咲さんもあわあわも他の上級生みたいに、能力の使い方が上手くなっていくんだろうな・・・超みてえ

どのキャラも活躍させようとしてほぼ全ての試合が点数平らだな、いや別に不満ってわけでもなんでもないけど

>>952
不満と言うか設定付けすぎた反動と言うかギャップが他キャラに比べて大きすぎたというのは有ると思います

神話の力、常勝無敗の力、呼吸をするように奇跡を起こす力、セレナーデ

1桁ナンバー相手に快進撃をみせた他の煌星1年がことある毎に持ち上げる魔王モード

中でも致命傷になったのは作中で行われた1年生3強候補についての話でしょう

準決勝で戦ったのがここで候補にすら上がらなかった1年生3人じゃなかったらここまで荒れることは無かったはずです

特に和以外の2人は咲とは対照的にことある毎に弱さばかり強調されてましたから尚更だと思います

>>951さん

そうですね。能力としてチートなのは、姉帯さんの《仏滅》とか、神代さんの《九面》とか、その辺りだと思います。嶺上開花は、《カンドラが乗らない》ので、三連槓以上しないと火力もそうそう出せないですし、四枚の槓材のうちどれか一枚でも絞られたりズラされたりするとリカバリーが利かなくなるので、むしろ使い勝手は悪いと思いますっていうか、そんな感じで書いてます。

>衣「《嶺上》と《開花》――やり方次第ではこまきさえ出し抜き得る稀有な力だろう」

とあるように、嶺上開花は、『強さ』ではなく『希少性』が飛び抜けて高い能力です。『出し抜く』というのも重要なポイントですね。

この世界では、嶺上牌を恒常的に支配領域《テリトリー》にしている魔術師・能力者が一千年間不在(且つ、唯一そうだった人の牌譜は《禁書》扱い)だったため、『嶺上牌で手が進む』ことは、『ありえない』というのが、コモンセンスです。

>>949で『能力者本人・支配者本人とかけ離れた打ち方をされると、支配が崩れ、想定外のことが起こってしまうんです』と書きましたが、つまり、世界中のあらゆる能力者・支配者にとって、『嶺上牌を《上書き》する』というのは、『想定外』なわけです。能力=論理の話で言えば、『支配領域の最高峰』と呼ばれる嶺上牌は、常に『抜け道』であり、誰にとっても『不完全領域』なんです。

そういう例は、ここまでの対局で数多く書いてきました。

・霜崎さんの《強制延長》が嶺上開花で大星さんに直撃。(二回戦先鋒戦)
・百鬼さんが嶺上開花で天江さんに直撃。(二回戦大将戦。これは原作そのまま)
・東横さんのステルス暗槓が福路さんの期待値計算を狂わせる。(A・B三回戦先鋒戦)
・森垣さんが暗槓で姉帯さんの《先負》を出し抜く。(A・B三回戦中堅戦。これも原作そのまま)
・玄さんが『ドラが増えないゆえの嶺上開花』で荒川さんに倍満直撃。(A・B三回戦大将戦)
・竹井さんが嶺上開花で照さんに数え直撃。(C・D三回戦先鋒戦)
・薄墨さんが嶺上牌を上書きすることでネリーさんに小四喜直撃。(C・D三回戦先鋒戦)
・ネリーさんが咲さん模倣で照さんに三倍満直撃。(C・D三回戦先鋒戦)
・亦野さんが嶺上牌単騎で《治水》龍門渕さんに直撃。(準決勝次鋒戦)
・玄さんがドラ暗槓で《治水》龍門渕さん・《九面》神代さんを出し抜く。(アイテム回想)
・亦野さんが嶺上牌単騎でウィッシュアートさんに直撃。(決勝戦次鋒戦)

能力バトルとしての咲さんの『嶺上開花』は、原作におけるVS天江さん、VS石戸さん・姉帯さんのように、『他人のロジックの穴を突く』という点が、最高にクールでクレーバーだと思っています。

なので、カン・嶺上開花という『選択』を、このSSでは『万人の想定を超えるもの』として書いています。荒川さん・照さん・ネリーさん等々、SS中最強クラスの人外でも、『嶺上開花』は基本的に『想定外』の『選択』なんです。なぜなら、『嶺上牌を自由に《上書き》できる人間なんて存在しない』というのが、『世界の常識』だから。

上で挙げた例では、誰もが工夫を凝らして、応用技、限定技、奥の手として、嶺上開花(または嶺上牌)を戦術に取り込んでいます。万人にとって想定外であり、万人にとって論理の不完全領域である支配領域《テリトリー》の《最高峰》には、それだけの価値があるんです。

そこを、恒常的に支配領域《テリトリー》にし、カンさえできれば好きなように《上書き》できる咲さんは、ものっそい希少種で、ものっそい非常識な存在なんです(伝わってないと思いますが)。というわけで、設定上は、咲さんの《嶺上》《開花》は相当なジョーカーということになっています。ただ、対局に勝てるか否かは、まったく別の話です。

(咲さんの嶺上開花については、小走さんでさえ、準決勝時点では、咲さん嶺上使い説に思い至ってません。あの準決勝で、唯一その正解に辿り着いて、その上でガチガチに対策を組んだのが、何を隠そう、玄さんですのだ)。

>>953さん

決勝なので、全員の技術水準が高い=拮抗って感じで書いてます(弘世さんがどこかで『決勝なら勢力が拮抗する』みたいなことを言ってます)。

戦術的な話をすれば、『《永代》が《劫初》の独走を抑える』というバイアスが常にかかっているので、大量得点が起きにくくなっています。

メタ的なことを言うと、個人収支がマイナス25000点に近付いてくると、《神様》が対局の行方に介入してくるので、それによってお話に余計な要素が入るのを避けるために、平たい戦いにしています。

まあ、もちろん、《神様》は常に点棒の行方に干渉しているので、その影響から逃れることは、誰にも絶対にできないんですけどね……。

>>955さん

もうまさにそれですね。

>神話の力、常勝無敗の力、呼吸をするように奇跡を起こす力、セレナーデ

神話の力は無敗の力ですが、それは正体不明《カウンターストップ》の能力がそうであるだけで、咲さんの嶺上開花が無敗の力なわけではないんですね。とても誤解を招きやすい。

『《正体不明》が得意としていたのが嶺上開花』で、『嶺上開花の能力を発言した人間が一千年間生まれていない』という事実から、『嶺上開花』の『希少性』がすごいってだけの話なんです。

要するに、このSSにおける咲さんは、強キャラではなくレアキャラの属性のほうが強い——ということなんですが、これが全然伝えられていない。

あと、呼吸をするように奇跡を起こす力と、点棒操作系《セレナーデ》の理不尽さは、私の中では、準決勝の門前清一ダブリーがそれに相当するんですが、これもやっぱり、誰にも伝わっていない。

あれは、咲さんがプラマイゼロの能力と莫大な支配力を用いて必然で引き起こしているわけですが、門前清一は神代さんの《九面》レベルの理不尽で、ダブリーは大星さんレベルの理不尽で、しかもそれを、天江さんの十七巡目リーチの如く一発で和了っているんです。理由はシンプルで、『プラマイゼロにするため』です。こんな理不尽で強力で絶大な支配は他に類を見ないです。

このプラマイゼロモードの咲さんは、麻雀というゲームをやっていません。点棒掴み取りゲームをやっています。この咲さんのプラマイゼロ由来の門前清一ダブリーと、照さんの《八咫鏡》の国士は、形式上麻雀をしているだけで、その実態は、相手の点棒箱を勝手に開けて、自分が欲しい分だけ点棒を強奪しているのと、何も変わらないです。これは花田さんの《通行止め》もそうです。全員の点棒箱を預かって、誰もゼロ未満にならないよう常時徹底管理してます。

この理不尽さが、『生まれたら殺せ』と言われる点棒操作系能力者の理不尽さです。そして、それを門前清一ダブリー一発という形で具現化できるのが、ランクSの支配力です。

二条さんの目に、あのときの咲さんは、「なんか必死に対策してるみたいだけど、別に嶺上開花にこだわらなければ、私はいつでもあなたたちの点棒箱に直接手を突っ込んで自分の収支を+5000点にできるんだよね。トばせると思った? あはは、残念でした〜(魔王の笑み)」と映っています。本当に本当に本当に、こんなひどいことってないんですよ。

(しかも、あのときの二条さんは、個人収支を見ていただけるとわかるんですが、《神様》の干渉で直撃回避をしているんですよね。攻めようとしたはずなのに逃げてしまったのは、《神様》に導かれていたからです。点棒箱に直接手を突っ込んでくる相手と戦いながら、点棒状況を管理するためにその行動・選択・自由意思を侵食してくる《神様》の干渉を受けたわけですから、そりゃ心も折れますよ)

>1桁ナンバー相手に快進撃をみせた他の煌星1年がことある毎に持ち上げる魔王モード

《煌星》は、メンバー全員が門前派の能力者なので、門前に強い咲さんは、わりと難なく勝てます。ゆえに、森垣さんと東横さんは、咲さんを強いと言うわけですね(この言い回しに他意はないです)。ちなみに、《煌星》内での成績は、大星さん・咲さん>東横さん・森垣さんと、はっきり差があるという脳内設定になってます。

>特に和以外の2人は咲とは対照的にことある毎に弱さばかり強調されてましたから尚更だと思います

弱さの中の強さ、強さの中の弱さ、みたいな話を、私が書きたがるせいですね。

二条さんと咲さんの場合、準決勝は、それまで弱さばかりを見せていた二条さんが強さを見せるパートで、それまで強さばかりを見せていた咲さんが弱さを見せるパートなので、むしろ、それまで弱く書かれていたこと、強く書かれていたことが、逆フラグになっています。

どちらの肩を持つか、どちらに感情移入するかで、印象は大分変わると思います。私は、読んでわかる通り、二条さん目線、原村さん目線で書いているので、そんなにダメージ受けないです。というか、二条さんと原村さんは第五主人公・第六主人公なので、ここでがっつり書かないでいつ書くんだくらいの気持ちで書きました。咲さんの弱点についても、これでもかってくらいごちゃごちゃ設定を晒しました。

作中でも、ジャイアントキリング的な展開はわりと書いているので、あれくらいはお話的に余裕で許容範囲内だと私は思っています(というか、そもそも咲さんは二位で、数字の上では普通に勝ってます)。二条さんのストーリーを追っていけば、彼女の究極目標は《頂点》こと照さんにあったので、その妹である咲さんが二条さんにとってのラスボスになるのも、自然な流れだと思います。咲さんの格付けも、そのための前フリみたいなものだと処理すれば、原作の大星さんVS高鴨さんの構図とそう変わらないと私は思っているんですが、いかがでしょう。

 *

あと、これも誤解を生んでいる原因だと思いますが、SS内で強調されている咲さんの『強さ』は、概ね、『ポテンシャルの高さ』『得体の知れなさ』であるってことです。

咲さんは、まともに対人戦をするのが、《煌星》に加入してからです。ブランクがものすごいある上に、『競技麻雀』については、はっきり言ってド素人です。ネト麻なんか作中最弱です。あと、何より、実績がゼロなんです。

この観点から言えば、インターミドルで活躍した原村さんや二条さん、それに《ゴールデンルーキー》と呼ばれる成績を残した片岡さんのほうが、断然上です。

《魔王》扱いも、SS内では《プラマイゼロ》という『非常識』、点棒操作系という『一般常識では説明できない禁忌』に由来する異名です(そのプラマイゼロ自体が咲さんにとっては弱点という設定になっているので、ハリボテもいいところですよね)。

『魔物』扱いも、単純に『支配力の数値が飛び抜けている』という機械的測定結果に由来するものです。それそのものはものすごい才能ですが、その支配力を出力するための論理回路が、プラマイゼロなので、これもやっぱり宝の持ち腐れということになってしまいます。

 ——ぐだぐだと咲さんについて語る——

ぶっちゃけたことを言ってしまえば、話の都合上、咲さんに大量得点させないっていうバイアスを掛けていたことは、否定できないです。咲「カン、カン、カン、カン、四槓子!」みたいなことをされると、バランスブレイカーになってしまうので。作中最強のバランスプレイカーである主人公・花田さんの仲間というのも、咲さんの不遇化を加速させていたような。

だからというかなんというか、咲さんのお話の焦点を、このSSではプラマイゼロに絞りました。得点的には最大でも一試合11000点なので、原作に比べれば、活躍していない感じはすると思います。

一応、

初期:プラマイゼロ=過去の嫌な思い出=麻雀嫌い=自己嫌悪

中期:プラマイゼロ=花田さんにすばらと言われる=チームの役に立てる=麻雀楽しい=自己肯定

後期:プラマイゼロ=呪縛=自身の弱点=チームに迷惑をかける=自己懐疑

決勝:脱プラマイゼロ=麻雀って楽しいね!=自己の再構築

という感じで、家族という閉じた輪から、白糸台という一種の社会に出て行き、麻雀を通じて、多くの人と触れ合い、信頼できる仲間を得、その人間関係の中で、自身の過去——根幹・起源である《プラマイゼロ》と向き合うことで、自己形成していく……という話にしたかったつもりです。

他の多くのキャラクターは、『麻雀での勝利=自己の成長』って形式で書いています。が、そういうわけで、咲さんについては、麻雀での勝利に焦点を当てず、『自身の能力(過去)との折り合い=自己の成長』として書いています。

なので、原作のように、『雀士として活躍する』って要素が、少なく(というかほぼ無に)なっています。そういう視点で見ると、正直、物足りないとは思います。これはもうプロットが悪いですね。

煌がチームの中心だと思ってたんだが実際の中心は淡なんだな
もしも煌でなくて末原さんとか加治木とかでも決勝までいけるかどうかは置いておいてチームとしてはまとまるだろうな
他の1年もモコとかアコとか実力がある1年ならなんやかんやでチームに混じれるだろうけど淡無しだとうまくいかなさそう

 *

これは原作考察の話です。

《プラマイゼロ》の力が、咲さんにとって、咲さんの過去(両親の別居・照さん関連・車椅子の少女関連)と密に絡み合っているって見解は、私はそう外れていないと思っているんですが、どうでしょう。

咲さんのプラマイゼロは、原村さん視点、竹井さん視点、末原さん視点で、咲さんの『超人的な場の支配』『強さ』の象徴として描かれています。

ただ、咲さん自身は、プラマイゼロって、あんまり好ましいものだと受け止めていないように思えるんですよね。『私が打つといつもあんな風になっちゃうんです』からの『私は麻雀それほど好きじゃないんです』って一巻の台詞が、その根拠です。

それを、『麻雀は勝利を目指すものよ』と言って、『1000点スタート』によって咲さんに『勝つ楽しさ』を教えたのが竹井さん(このSSだと花田さん・大星さん)です。これによって、咲さんは、『麻雀=それほど好きじゃない』から、『麻雀=楽しいもの』にパラダイムシフト(?)したわけです。

ところで、咲さんのプラマイゼロって、『手加減』『手を抜く』の象徴であるように言われることが多い気がするんですが、私は、これにちょっと異を唱えたいです。気になるのは、一巻の以下のやり取り。

>京太郎「でももう勝つことの楽しさも知ったんだし、プラマイゼロで打つ必要もないんじゃねーの?」

>咲「う…うん。それは…そうなんだけど………」

ってのがあります。この『そうなんだけど………』は、文脈的にどこにどう繋がるのでしょうか。その後の国士見逃し事件を経て、『私、みんなにも楽しんでもらいたくて——』の台詞に繋がると解釈するのが妥当でしょうか。そう見ると、だから、原村さんは『プラマイゼロ』=『手加減』と見做して、プンスコしてる、ということになります。

ただ、『プラマイゼロをすること』と『みんなにも楽しんでもらいたくて』って、咲さんの中でイコールな事柄なんですかね。そもそも、咲さんが麻雀を『楽しい』ゲームだと認識したのは、竹井さんによって『勝つ喜び』を教えてもらったからで、家族麻雀でプラマイゼロしていた当時は、麻雀は『お年玉を巻き上げられる嫌な儀式』でしかなかったんです。

咲さんが家族麻雀で《プラマイゼロ》を覚えたのは、『お年玉を巻き上げられないようにしつつ、勝って怒られるのを避けるため』であって、『お母さん・お父さん・照さんに楽しんでもらうため』ではないんじゃないかな、と思います。

>>960さん

近そうなところで言うと、阿知賀女子で言うところの高鴨さんが、大星さんで、姫松で言うところの末原さんが、花田さんですね。

大星さんは、《煌星》は花田さんを中心に回っていると思っていて、

花田さんは、《煌星》は大星さんを中心に回っていると思っている気がします。

>>962続き

なので、『プラマイゼロで打つ必要もないんじゃねーの?』『そうなんだけど………』と『私、みんなにも楽しんでもらいたくて——』の間には、文脈として飛躍があるような感じがします。

『みんなに楽しんでもらいたい』から『手加減』する。これはオーケー。でも、『みんなに楽しんでもらいたい』から『プラマイゼロ』する、は、ちょっと違うと思うんです。正確には、『手加減』するなら『プラマイゼロ』が一番しやすい。よって、『みんなに楽しんでもらいたい』から『手加減』してその結果『プラマイゼロ』になった——と解釈するのが妥当ではないかなと。

『プラマイゼロ』が『全ての牌がわかっていても困難なこと』『超人的な場の支配に拠って可能な技術』だとするなら、これほど『手加減』『場のコントロール』に向いている力もありません。ただ、『みんなに楽しんでもらいたい』と『プラマイゼロ』の間には、『手加減』というクッションを除いてしまえば、文脈的に直接のリンクがない。ゆえに、

>京太郎「でももう勝つことの楽しさも知ったんだし、プラマイゼロで打つ必要もないんじゃねーの?」

>咲「う…うん。それは…そうなんだけど………(私、みんなにも楽しんでもらいたいから、これからも時々手加減《プラマイゼロ》するよ)」

という風に解釈するのは、若干不自然な気がするんです。

咲さんはプラマイゼロによる接待麻雀が得意で、それが照さんのプライドを傷つけて仲違いした——という話はSSとかでよく見かける設定ですが、咲さんが接待麻雀をし始めたのは、清澄で『友達』を見つけて、なおかつ、『麻雀で勝つことの楽しさ』を知った以後のことであって、そもそも咲さんは接待麻雀なんか得意でもなんでもないし、したこともない、と私は思うんです。『麻雀で勝つ』=『喜ばしいこと』って実感が、咲さんにはなかったんですから。

片岡さんという新しい友達が出来て、麻雀で勝つことは楽しいことなんだって体験して理解した。だから、片岡さんを勝たせて楽しませてあげたいと思って(友達にプレゼントする感覚ですね)、じゃあどうやって勝たせればいいのか——と手段の話になったときに、プラマイゼロを応用して順位をコントロールしてみたらうまくいった……と考えるのはいかがでしょうか。

これが、全力の真剣勝負を望む原村さんの反感を買います。友達を侮辱されたみたい、と言われてしまいます。これは、咲さんにとっては予想外のパンチだったと思うんです。なぜなら、『わざと勝たせる』=『侮辱』って発想は、咲さんの中にはなかっただろうからです。

清澄入学後の一局が、『家族以外と麻雀を打つのが初めて』で、『家族麻雀ではずっとプラマイゼロ』だった咲さんが、インターミドルチャンピオンであるところの原村さんが言う『全力で打つ』『真剣勝負』の意味を、あの時点で理解できているわけがないと思います。咲さんが片岡さんに『勝たせた』のは無邪気な善意で、それは、しかし、競技麻雀をしている雀士からすれば、侮辱以外の何物でもない。こういうところに、咲さんと原村さんの麻雀観の違いがあると思います。

話が逸れました。なので、プラマイゼロ=接待麻雀、プラマイゼロ=手加減、という等式は、いつもいつも成り立つわけではないと思うのです。咲さんは、あくまで、『片岡さんに楽しんでもらいたい』、長野個人戦は『竹井さんに最後の夏を楽しんでもらいたい』と願って、それを達成する手段として、プラマイゼロを用いただけなんじゃないかと思うんです。

プラマイゼロは、あくまで、家族麻雀で『負けないように勝たないように』して会得した力で、『手加減するために』『手を抜くために』覚えた力ではない、と私は思います(むしろ全力でプラマイゼロにしていたでしょう)。

原村さんが『手を抜くな』と咲さんを責めたのは、『プラマイゼロ』の結果を責めたわけではなく、咲さんの『片岡さんに勝たせたいから国士を見逃す』というその心理を責めたのです。個人戦のプラマイゼロも、『竹井さんに勝ってほしいから自分は身を引く』という心理を是正しただけで、『プラマイゼロをやめろ』と言っているわけではないと思うんです。

これが、VS末原さんでプラマイゼロしたときに、原村さんが咲さんを非難しなかった理由なんじゃないかな、と。プラマイゼロ=手加減という認識では、どうして全国大会の舞台で手を抜いたのか、と原村さんは非難すると思います。というか、そもそも咲さんは『全部ゴッ倒す』つもりで、『本気で勝とうとして』打ってるんですから、手加減なんてするわけないんです。

なのに、咲さんは末原さん相手にプラマイゼロをしている。私は、『片岡さんに楽しんでもらいたいから』『プラマイゼロした』のと同じで、『二回戦突破するため』に最善を尽くそうとして『プラマイゼロ』したんじゃないかと思ってます。手段として、用いているわけですね。それも、『子供の頃の打ち方でしか見えなかったです』という、消極的な理由で。

あと、たぶん、VS夢乃さんでも、咲さんはプラマイゼロしてると思われます。『消極的な理由でプラマイゼロをする』ことは、咲さんあるあるだと思うんです。そして、それは手加減ではないはずです。なぜなら、麻雀で手加減をすると、大好きな原村さんに嫌われてしまうからです。

なので、『咲さんには、相手が強い(末原さん)・精神的に追い込まれる(夢乃さん)等の理由によって『プラマイゼロ』を消極的に選択する傾向がある』というのは、そう悪くない予想だと思うわけです。ゆえに、件の須賀くんとの会話は、

>京太郎「でももう勝つことの楽しさも知ったんだし、プラマイゼロで打つ必要もないんじゃねーの?」

>咲「う…うん。それは…そうなんだけど………(慣れた打ち方をするとプラマイゼロになっちゃうんだもん)」

くらいに解釈するのが良いのではないかなと。これが、このSSにおける、『追いつめられるとプラマイゼロしちゃう咲さん像』に繋がっています。

考察続き。

ただ、そうすると、パワーバランス的に、VS天江さんとVS末原さんを比較して、前者は勝利し、後者はプラマイゼロしたことから、末原さんのほうが強いってことになります。それは、原作内における評判とは合致していません。『龍門渕の天江衣』と言えば、全国最強クラスの化け物、照さんと並び称される魔物です。末原さんも、あの愛宕さんが『だからこそ強い』と言うくらいですから相当な手練なのでしょうが、『去年の最多得点プレイヤー』を超える肩書きは持っていません。

じゃあ、咲さんが末原さんを手強いと言った理由はなんなのか。私は、『相性が悪い』からだと考えています。

で、具体的に、どういう点で、『相性が悪い』のか。私は、『鳴き』『順子場』が、その相性の悪さを生み出していると考察しました。ゆえに、SSでもそういう設定になっています。以下、つらつらと。

 *

咲さんの『嶺上開花』は、天江さんの能力にとって、完全なる天敵です。これはもう原作の描写からして明らかです。《一向聴地獄》のロジック、及び天江さんの支配領域《テリトリー》的に、嶺上使いの咲さんは、そりゃあもう相性悪いです。SSでもこの辺りは触れました。

また、同じことは、VS石戸さん・姉帯さんにも言えます。咲さんは、多くの門前オカルト系雀士に対して無類の強さを発揮しています。これを、SSでは、『嶺上開花』=『想定外』『非常識』=『あらゆる能力の不完全領域』という形で書きました。

で、咲さんが『鳴きに弱い』という発想は、この『門前オカルト系雀士に対して無類の強さを発揮する』という傾向を、反転させることによって導いています。

細かく見ていきます。まず、咲さんが無双モードに入るときですね。VS天江さん、VS東横さん(アニメ個人戦)、VS南浦さん(アニメ個人戦)、VS石戸さん(絶一門)、VS姉帯さん(先負)における闘牌を見ていただくと、基本的に、『門前場』になっていることがわかります。逆に、鳴きが絡むと咲さんは苦戦することが多い点もちらほらと見られます。

天江さんの《一向聴地獄》は、『鳴くチャンスもほとんどない』重たい場を生み出します。オーラスで咲さんが数えを和了ったときが、門前場の傾向が最も顕著で、加治木さんは国士、池田さんは四暗刻、咲さんは門前清一、天江さんは平和です。

石戸さんの絶一門も同様で、あの場では、石戸さんの対面と上家しか鳴くことができません。姉帯さんの《先負》はリーチ条件なので、これも門前以外にありえません。

対して、末原さんの『超早和了り』は、鳴き絡み(正確には東一局と東二局が鳴き手。東三局は2600なのでたぶん門前)でした。咲さんは、あのとき1000点スタートを想定していたはずですが、『超早和了り』モードの末原さんに削られて、ハコ割れを起こしています。で、咲さんの反撃の狼煙となった嶺上開花は、末原さんのリーチ宣言牌をカンしている=末原さんが鳴いていない局で起こっています。

あと、アニメ版をどれくらい信用していいものかわかりませんが、恐らく、VS東横さん・竹井さん・沢村さんの一局は、咲さん史上かなり苦戦した一局だと思います。竹井さんが、咲さんのカンを封じるために、順子場を作ったやつですね。端を発しているのは、竹井さんの鳴き(うろ覚え)です。竹井さん・東横さん・沢村さんの三人が、足の速い順子手で場を回すことで、咲さんに槓材が揃わなくなり、咲さんは凹みます。

この一局で咲さんの反撃が始まるのが、東横さんが《ステルス》に入ってからです。つまり、東横さんが順子場作りをやめて、鳴くことのないステルス麻雀を打ち始めてからなんです。ここで、場が門前場に戻った=咲さんの支配が回復した、と私は解釈しています。鳴き場に弱く、門前場に強い、という傾向が一番顕著なのは、この一局な気がします。

また、そう考えると、その後のVS南浦さんで、わりと難なく勝っていたのも、頷けます。なぜなら、南浦さんは『リーチで裏を乗せる』のを得意とするタイプ——門前系オカルト雀士だからです。『南場で私の支配を上回るのか……』的なことを南浦さんは言っていますが、咲さんと門前で支配合戦して勝ったオカルト雀士は、たぶん一人もいません。

VS天江さんのラスト、咲さんは四連続和了しますが、あのとき、(恐らく)咲さん以外誰も鳴いてないです。天江さんの作り出す重たい場、逆転手を狙う加治木さん・池田さん、と、場が門前に偏る条件が揃っています。これが、私は、咲さんの一番得意とする場、支配しやすい場なんじゃないかな、と思うわけです。

この四連続和了、天江さんの海底で止められますが、そのとき、天江さんはポンしてます。無論海底コースに入るためのポンなんですが、これは、咲さんに対して、かなり有効なポンだったんじゃないかなと思います。あそこで鳴きを入れたことで、ノりにノッていた咲さんの支配が崩れ、場の支配権が咲さんから天江さんに移ったのではないか、と。で、咲さんが天江さんに逆転の数えを直撃する次局が門前場だったのは、前述です。

咲さんが鳴きに弱いとすると、亦野さんにも可能性が見えてきたというわけか

かように、咲さんの闘牌を眺めて行くと、無双するときは大体門前場、或いは門前系能力者相手って傾向が強い気がするのです(例えば、姉帯さんの友引。あれを咲さんは破ってないです。友引を封じたのは石戸さんの絶一門で、それによって、副露場から門前場に戻ってます。で、『やりたい放題』になります)。

そして、苦戦する時は、鳴き(順子)絡み、速攻派で足の速いタイプの打ち手相手になっているように思えます。こじつけと言われればそれまでですが。

咲さんは、原村さんのことを『すごい』、末原さんのことを『手強い』と言っています。で、ここまで挙げた諸々の描写から、咲さんにとって厄介な相手というのは、鳴きを巧みに使って足の速い麻雀を打つ現代デジタル派=新子さん・原村さん・末原さんみたいな打ち手なんじゃないかと思うわけです。ゆえに、SSで設定したように、速度特化モードの片岡さんなんか、相性最悪だと思うんですよね。鳴きの速攻を、デジタルではなくオカルト補正で仕掛けてくるんですから。

そして、これ結構大発見じゃないかなと私は個人的に思っているんですが、咲さんは、原作で一度もチーの描写がないんです。私なりにアニメとかも含めてチェックしてみましたが、一巻のルーフトップで『上家の牌を拾っている』シーンが、唯一、チーしてる(かもしれない)箇所です。牌の絵柄が書かれていないため、チーかポンか不明です。

で、まあ、『鳴きの速攻に苦戦する傾向』と『チーの明確な描写がないこと』をSSに落とし込んで、あの設定が出来上がっているわけですね。末原さんのポンで槓材が流れてしまった原作の描写や、順子場を作られて槓材が揃わなくなったアニメ個人戦の描写を見ていると、咲さんのカンや場の支配は、天江さんのあの理不尽な場の支配に比べると、ずっと繊細だと思うのです。

あと、照さんも、チーの描写ないような(?)。どうだったか……。印象的に、基本門前だったような気がします(なのにあの速度)。なので、これは妄想甚だしいですが、私は、宮永家=門前オカルト派なんじゃないかなと思っています(原村さんのことを、咲さんは『家族が相手の時と違った感じで難しかったし』と評しています。この『難しい』と、末原さんに対する『手強い』は、ほぼ同じ意味なんじゃないかなと思うのです)。

咲さんの一番打っていた時期、雀力の基礎になっているのは、間違いなく家族麻雀です。清澄に来て初めて家族以外と麻雀を打ったんですから、家族以外の麻雀に触れてから、咲さんはまだ三、四ヶ月しか経ってないわけです。

宮永家の麻雀が門前オカルト派だったのなら、それに慣れている咲さんにとって、原村さんのようなデジタル派の鳴き麻雀は、限りなく未知で、対応しにくいものだと思うんです。つまり、対処の仕方がわからない、慣れない相手、ということになります。この辺りが、咲さんのウィークポイントになっていると、私は思います。当然、このウィークポイントは、家族麻雀絡みなので、プラマイゼロとも深い関わりがあり、諸々は全て繋がっていると予想します。

ちなみに、>>958で触れましたが、当SSでの《煌星》は、ダブリー使いの大星さん、リーチ使いの森垣さん、ステルスの東横さん、そのステルス打法を叩き込まれた花田さんと、全員がもれなく門前派です。

SS内で、咲さんが鳴きの速攻にやたらめったら苦戦したのは、ここにも一つ、原因があります。《煌星》内で実戦練習をする限り、鳴き麻雀の上級者と打つ機会がないわけですね。同様に、ご存知の通り全員がもれなく能力者なので、原村さん・龍門渕さんに代表されるデジタル派の上級者と打つ機会もまた、少なかったわけです(《煌星》で一番デジタルが強いのは東横さんですが、どこかで明言している通り、東横さんのデジタルは、一般より副露率が低いです)。

咲さんが準決勝で苦戦した背景には、そういうのもあります。

 *

で、なんだっけ、そう、プラマイゼロです。

当SSでは、『逃げ場所』『避難場所』という単語を使いました。負けるのも嫌。勝つのも怒られるから嫌。だから咲さんは、勝ちも負けもしないプラマイゼロに逃げ込んで、じっと、嫌な儀式である家族麻雀の時間をやり過ごしていた——と設定しました。

私は、プラマイゼロは、咲さんの辛い過去の象徴だと思うわけです。その過去は、原村さんたちに出会って、勝つ喜び、麻雀の楽しさを知った時点で、上書きされてもいいはずです。なのに、原作の咲さんは、まだそれに縛られています。

>京太郎「でももう勝つことの楽しさも知ったんだし、プラマイゼロで打つ必要もないんじゃねーの?」

>咲「う…うん。それは…そうなんだけど………(慣れた打ち方をするとプラマイゼロになっちゃうんだもん)」

みたいな感じで。

このSSの準決勝で、《煌星》断ラスから咲さんまさかのプラマイゼロという阿鼻叫喚の展開を書きましたが、それに類する展開、つまり、『咲さん本人にとってのプラマイゼロがどういう位置づけにあるのかを明確にする』シーンは、きっと原作のどこかであるはずです。プラマイゼロは間違いなく咲さんのパーソナリティの根幹に関わる要素だからです。

私は、SS内で、プラマイゼロの位置づけを、『弱さ』『呪縛』『辛い過去の象徴』としました。咲さんは、嫌々麻雀を打っていた時期に、雀士としての自分の型を、本来あるべきではない形に作り上げてしまった。特殊な状況、負の感情の中から生まれたプラマイゼロは、『勝ちも負けもしない』ための能力であり、『勝ちたい』『真剣勝負をしたい』と、心から麻雀を楽しもうと思ったときに、枷にしかならない。でも、そのプラマイゼロこそが咲さんの起源で、根幹で、原点である——と。

原作でも、プラマイゼロは、ある種の矛盾を孕んでいると思います。原村さんに出会って、麻雀を楽しいと思えるようになったのに、嫌々麻雀を打っていた頃の癖が抜けない、どころか、その『癖』が、団体戦では時として戦略的な武器となる、ばかりか、竹井さんはその『癖』を利用するよう指示を出している(1000点スタート)。

勝つために、勝ちも負けもしないために得た力を使うという、この歪み。麻雀を楽しいものだと教えてくれた麻雀部の仲間のために、麻雀を嫌なものだと印象づけた家族麻雀で得たスキルを使うという、この捩れ。

SS内において、この歪み・捩れを正すことは、咲さん自身にはできない設定になっています。咲さん自身の型——根幹は、幼少期の時点で、勝ちも負けもしないプラマイゼロに確定してしまっています。1000点スタート等で見かけ上『勝てる』ことはあっても、本質的な解決にはなりません。

また、無理矢理に外力を加えて型を崩そうとすると、支配力の制御が失われて、暴走状態に入ってしまいます(下手すると死にます)。ゆえに、照さんは放置せざるをえなかったわけです。でもって、大っ嫌いな相手である大星さんからは、何度も全力で打ち合ったにもかかわらず、『サッキーはどうせプラマイゼロにしかならない』なんて言われる始末です。

咲さんは、幼少期に、お年玉を得もしないし失いもしない方向へと歩んでしまったために、今現在も、麻雀を通して、勝つ楽しさや負ける悔しさといった精神的なものも含め、何かを得失することができない状態にある。どうにか改善したいけれど、プラマイゼロの道を選択したのがあまりにも昔のことで、今となっては道を引き返すこともできない。強大な支配力を持つ支配者であるがゆえに、道を踏み外すこともできない。

なんでしょうね。喩えるなら、虐待を受けて育った子供が大人になって、心から大切だと思える人に出会えて、この人と一緒に幸せな家庭を築きたいと願ったときに、過去のトラウマが原因で一歩を踏み出せない——みたいな状態です。これを根本から是正するのは、困難を極めます。

そこで、高鴨さんの出番というわけです。

高鴨さんは、捩じれた矛盾と厄介な過去を抱えた咲さんとは対照的に、『麻雀楽しい! だから打つ! みんなで遊ぶ!!』と、超シンプルな行動原理で動いています。

SS内では、高鴨さんも咲さんも、照さんに会うために白糸台に来ているのですが、高鴨さんの場合は『大好きな麻雀を通してあなたと言葉を交わすことができれば、どんなに幸せだろうと思いました』で、咲さんは『お母さんや、お姉ちゃんのこと。ずっと引っかかってたもやもやをどうにかしたかった。そのために……すごく嫌だったけど……もう一度麻雀をしてみようって決めた。麻雀を通してなら、きっとお姉ちゃんと言葉を交わすことができるはずだから、って……』という具合になっています。

で、高鴨さんの《原石》の力。これは、どの程度伝わっているのかわからないですが、要するに『相手のパーソナルリアリティを原始状態にする』力です。

高鴨さんは、自身の確率干渉力を媒介にして、世界と、自分と、相手を、まとめて一緒くたにします。その際に、対戦相手の自分だけの現実《パーソナルリアリティ》を解体します。それゆえに、能力・支配力が機能しなくなります。しかし、それは《無効化》ではありません。相手の根幹を叩き折るのではなく、相手の根幹——パーソナルを、原石の状態、自然状態、《意識の偏り》のないニュートラルな状態に、均しているだけなのです。

この高鴨さんの原石の力を、咲さんにぶつけます。咲さんの自分だけの現実《パーソナルリアリティ》が解体されます。すると、必然的に、プラマイゼロという咲さんの根幹も、ニュートラルな原始状態に回帰するわけです。プラマイゼロを覚える前、自身の型を作る前、まっさらだった幼少期に、擬似的に戻れるわけです。

ここで、高鴨さんが、『一緒に遊びましょう』と声をかけるんですね。このとき、咲さんの自分だけの現実《パーソナルリアリティ》は、世界の力と溶け合って、限りなくニュートラルな状態になっています。もっと言ってしまえば、『初めて麻雀という遊びに触れたその瞬間』の状態です(相手をその状態にするのが、高鴨さんの《原石》の力です)。

誰もが可能性の塊で、磨かれても整ってもいなかった原石の頃。当然、プラマイゼロの呪縛なんてありませんし、同様に、嶺上開花で和了れる保証もありません。

で、生牌を切った高鴨さんは、咲さんに、『(嶺上開花で)和了りますか?』と問うわけです。要するに、ニュートラルな——原石化した自己《パーソナルリアリティ》を、どういう形に再構築しますか? と訊いています。

そして、咲さんは、嶺上開花の可能性に賭けて、カンするわけです。プラマイゼロで点数調整をするためではなく、勝つために、嶺の上に手を伸ばします。で、まあ和了るんですが、和了ったこと自体はさほど重要ではなく、擬似的に過去に戻った咲さんが、プラマイゼロではなく、プラスを望んで、過去の選択とは違った方向に一歩を踏み出した、というのが、咲さんで一番書きたかったシーンです。

これが、私の考察する、咲さんと高鴨さんのマッチングです。天江さんにとって、咲さんという『天敵』が、孤独を解消する(恐らくは世界に唯一の)相手だったのと同様に、咲さんにとって、高鴨さんという『天敵』が、矛盾を解消する世界に唯一の相手なんじゃないかな、と思うのです。

プラマイゼロの視点から、原作の咲さんの『これから』を妄想したのが、このSSの咲さんです。二条さんとの準決勝は、末原さんとの二回戦をトレースした上で、プラマイゼロを『弱点』として表面化させています。それを、決勝で高鴨さんをぶつけることにより、解消しています。

このように、咲さんのお話はプラマイゼロを中心に回っています。プラマイゼロが根幹にある限り、どんな手段でどんな結果になろうと、それは咲さんの中で勝ちでも負けでもないという設定にした上で、本当の意味で勝った・負けたと感じられるのは高鴨さんとぶつかる決勝だけというプロットになっているので、基本的に、咲さんの勝ち負けや収支は、お話の本質に関わりません。

原作だと、咲さんの勝ち負けがお話を大きく左右するので、勝った負けたは大きな見所になります。強い弱いも重要なファクターです。ただ、このSSの咲さんは、主人公ではないので、チームの勝敗を担うのは他のキャラクターに預けています。

なので、まあ、繰り返しになりますが、読んでいると物足りなく感じると思います。ただ、私は書きたいことを書いたので、これで咲さんを書くのは四度目ですが、今回はわりと満足しています。

>>968 さん

亦野さんは、『協力プレイ副露派』という属性にしたので、『単独プレイ』の支配者《ランクS》、全体効果系能力者、及び、森垣さん等の『門前派』能力者に対して、比較的相性がよく、切り札となる可能性を秘めています。

ただし、『協力プレイ』が前提なので、一対一では敵いません。他の二人が、どれくらい亦野さんをサポートできるかにも拠ります。

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