【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!」 (969)

ご覧いただきありがとうございます。

・こちらは『【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」』の続きとなっております。

・ここまでのお話、特記事項は、こちらをご参照ください(【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1392028470/))

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1401382574

建て乙です!

立て乙です

>>2さん、>>3さん

ありがとうございます。

こちらでのお話の更新は、一週間以内となります。

以下、あらすじ、まとめ情報等。

<あらすじ>

 科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する街。

 白糸台研究学園都市。

 現在、白糸台研究学園都市に在籍する高校生は約一万人。書類上、その全員が、同じ高校の、同じ部活に所属している。即ち、白糸台高校麻雀部。

 五月上旬。夏のインターハイに白糸台高校麻雀部代表として出場する一軍《レギュラー》の一枠を勝ち取るべく、学園都市各所でチーム編成が行われていた。

 超能力者《レベル5》の第一位――《通行止め》こと、花田煌。

 最高位の支配者《ランクS》――《超新星》こと、大星淡。

 転校生として学園都市にやってきた二人は、東横桃子、森垣友香、宮永咲を仲間に引き入れ、チーム《煌星》を結成する。

 ブロック予選を突破したチーム《煌星》は、本選へ進出。

 各ブロック予選を勝ち抜いた計52チームによる、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》。

 チーム《煌星》は、ベスト8の激突する三回戦へと、駒を進めた。

<ベスト8チーム一覧>

《チーム名》:リーダー、メンバー×4(名前順)

○A・Bブロック

《劫初》:弘世菫、天江衣★、荒川憩、エイスリン=ウィッシュアート、辻垣内智葉

《煌星》:花田煌☆、大星淡★、東横桃子、宮永咲★、森垣友香

《豊穣》:渋谷尭深☆、石戸霞、清水谷竜華、福路美穂子、松実宥

《逢天》:二条泉、姉帯豊音、神代小蒔★、松実玄☆、龍門渕透華

○C・Dブロック

《久遠》:竹井久、愛宕洋榎、新子憧、小瀬川白望、白水哩

《幻奏》:小走やえ、江口セーラ、片岡優希、ネリー=ヴィルサラーゼ、亦野誠子

《永代》:宮永照★、井上純、臼沢塞、染谷まこ、高鴨穏乃☆

《新約》:園城寺怜☆、愛宕絹恵、薄墨初美、鶴田姫子☆、原村和

(☆=レベル5、★=ランクS)

<レベル5一覧>

 序列:名前《通称》

 第一位:花田煌《通行止め》

 第二位:松実玄《ドラゴンロード》

 第三位:渋谷尭深《ハーベストタイム》

 第四位:鶴田姫子《約束の鍵》

 第五位:園城寺怜《一巡先を見る者》

 第六位:不明

 第七位:高鴨穏乃《原石》《深山幽谷の化身》

<用語一覧>

○レベル

 能力値。能力の強度を示す指標。

 無能力相当の0から、超能力相当の5まで。数値が大きければ大きいほど、正確性や確実性、他の能力と効果が競合した際の優先度が高い。

 特に、超能力《レベル5》は《絶対》の強度を誇る。

○ランク

 支配階級。個人の持つ確率干渉力の強さを示す指標。最高位のSから、最低位のFまで。

 確率干渉力とは、古典確率論を逸脱した現象を引き起こしうるエネルギー。能力者は、これを用いて能力を発動する。ランクが上位であればあるほど、その能力の強度に補正が掛かる。

 特に、支配者《ランクS》の確率干渉力(支配力とも)は、電磁場や気圧の乱れ等、周囲の環境に目に見えるほどの影響を及ぼす。

○ナンバー

 校内順位。個人成績が優秀な部員ほど数字が若い。対局をしないと変動しない。

 特に、上位九人は《一桁ナンバー》と呼ばれる。

○クラス

 軍。一軍《レギュラー》から、九軍まで。

 定期的に選別戦を行い、その成績に応じてチーム(のメンバー)を二~九軍に振り分ける。チーム編成時に他クラスの部員と組むか否かは自由。

 また、選別戦とは別に一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》を行い、そこで優勝したチームが、一軍《レギュラー》となる。

 なお、特定のチームに所属していない部員は、校内順位《ナンバー》によって相応のクラスに振り分けられる。

○パーソナルリアリティ

 自分だけの現実。確率干渉力の行使が可能な空間。全てのヒトがこれを有する。

 この空間内において、ヒトは古典確率論を逸脱した現象を引き起こすことができる。

 特に、確率干渉力が集中する特異点は、支配領域《テリトリー》と呼ばれる。

○牌の存在波・上書き

 伏せられた牌が何であるかは、牌を開くまで、波動関数として表現される。この波動関数を、牌の存在波と呼ぶ。

 牌の存在波は、牌を開いて観測した瞬間に収縮する。通常、牌の存在波は忠実に古典確率論に従う。

 能力者など一部の雀士は、確率干渉力に拠り、牌の存在波に一定の偏りを生み出すことができる。この状態で牌を開くと、高確率で特定の牌が現れる。これを、牌の上書きと呼ぶ。

○レベル6シフト計画

 絶対能力進化計画。レベル5の第一位――花田煌を絶対能力者《レベル6》に昇華させる計画。樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》の演算によって導かれた。

 花田煌が一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の《頂点》に立つことで、計画は完遂するらしい。詳細不明。

○花田煌さん

『こンなすばらなことはねェ! 捨て駒任されましたァ!!』でお馴染みの本SS主人公。

 学園都市に七人しかいないレベル5の第一位。《通行止め》。《絶対にトばない》。すばら。

○大星淡さん

『次は100回倒すってアワイはアワイは涙目でリベンジを誓ってみたりっ!』でお馴染みの本SSメインヒロイン。

 白糸台に五人しかいない最高位の支配者《ランクS》。高校100年生。可愛い。

○上埜さん

 私のくぁwせdrftgyふじこlp福路美穂子さんの想い人。

ご覧いただきありがとうございます。

わかりやすいかと思って書いてみましたが想像以上に恥ずかしいですね用語一覧。

次回は一週間以内に更新します。

では、失礼します。

 ――A・Bブロック三回戦・当日朝

菫「お……今日はまた随分と早いな、荒川」

憩「そういう菫さんこそ、まだ集合時間まで三十分ありますよ」

菫「目が覚めてしまってな」

憩「緊張ですか?」

菫「いや、普通に起きてしまっただけだ。そういう荒川こそ、緊張しているのか?」

憩「まさか。まったくいつも通りの時間に起きましたよ。ほんで、天気がええから日光浴っちゅーわけです。ウチ、規則正しい生活を心掛けてますから。目覚まし時計やって滅多に使いませんし」

菫「それはすごい」

憩「大したことやないですよ。日々自己検診して、その日の体調に合わせて食事や睡眠のコントロールをしとるだけです。
 人間はよくできた機械ですから、ちゃんと毎日メンテナンスしたれば、決まった時間に起きるくらいわけありまへん」

菫「ああ……そう言えば、練習中も、よく体温を測ったり脈拍を取ったりしていたな。あれも自己検診とやらの一環なのか?」

憩「そんなとこです。ま、《悪魔の目》の本来の利用法ってやつですね。
 なんもウチかて、心拍数から配牌の良し悪し見抜いたり、表情筋の変化からその人の触れとる牌を見極めたり、視線移動と瞳孔の収縮具合から手牌見透かしたりしとるばっかやありません」

菫「普段からそんなことしてたのかお前……」

憩「デジタル論で習う《デジタル読み》とは別物の、いわゆる《アナログ読み》っちゅーやつですね。
 似たようなことやってはる人もおりますよ。今日戦う《豊穣》の福路さん、それに、清水谷さんも得意なはずです」

菫「しかし、あいつらでも、さすがに山牌までは見通せないぞ?」

憩「確かに、山牌を見るのは、どうやら普通の人にはできひんみたいですね。ウチも、小走さんの研究室で『神経衰弱』の話を聞かされたときは、ホンマびっくりしましたから」

菫「神経衰弱……? それは、あのトランプを使うゲームのことか? 数字のペアを揃えて多いほうが勝ちという」

憩「それです」

菫「その神経衰弱について、小走が何か言っていたのか?」

憩「まず、よく切ったトランプを、伏せたまま4行13列に並べますやん」

菫「かなり几帳面な神経衰弱だな。まあ、いい。それで?」

憩「ここで、プレイヤーAが、まず適当に一枚捲ります。ハートの8が出たとしますね。
 ほんで、プレイヤーAは、そのまま別のところにある一枚を捲ります。すると、古典確率論やと、3/51でスペードかクラブかダイヤの8が出てきますでしょ?」

菫「ふむ」

憩「この確率を1にできるのが、超能力者《レベル5》やそうです。《二枚目を一枚目と同じ数字にできる》レベル5がおったなら、どの位置にあるカードを捲ろうと、それを一枚目と同じ数字に《上書き》して、《絶対》にペアを揃えられます」

菫「……ほう」

憩「次に、プレイヤーB。この人は、まず左上のカードを捲ります。すると、ハートのエースが出ました。
 ほんで、プレイヤーBはそのまま、ハートのエースのすぐ下にあるカードを捲ります。すると、それはスペードのエースでした」

菫「まあ、そういうこともあるんじゃないか?」

憩「まだまだ話はここからです。プレイヤーBは、次に、さっき捲ったスペードのエースのすぐ下のカードを捲ります。と、出てきたのはダイヤのエース。
 次に、ダイヤのエースの下……これがなんと、クラブのエースになっとるわけですわ」

菫「そ、そういうこともあるんじゃないか?」

憩「プレイヤーBは、その調子で、左上を起点に、一列捲っては隣の列に移り、上→下の順で捲り続けていきます。これ、全部捲り終わったとき、どうなっとると思いますか?」

菫「いや、ずっと捲ることはできないだろう。数字のペアができなかったら、その時点で自分のターンは終わってしまうのだから」

憩「ところがどっこい、プレイヤーBは最後まで捲れるんですよ」

菫「何がどうなってそうなるんだ……?」

憩「簡単なことです。4行13列に並べたトランプが、まるで七並べが終わったときみたいに、柄と数字が揃った状態で、きれーに順番に並んどるんですわ」

菫「……それは何かの手品か? よく切ったトランプを伏せたまま並べたんじゃなかったのか?」

憩「もちろんそうです。よく切って伏せたまま並べたんですよ。やのに、蓋を開けてみたら、七並べ状態になっとったんです。これ、古典確率論的には52の階乗分の1になりますね。
 菫さん、この結果をどう思います? イカサマでも手品でもなく、ただただ『自然と』こうなっとったら?」

菫「《奇跡》だな」

憩「『呼吸するように奇跡を起こす』――つまり、プレイヤーBはランクSっちゅーことです」

菫「……なるほどな。で、本題のプレイヤーCは、一体どんな悪魔的神経衰弱をやってみせてくれるんだ?」

憩「ははっ、実はですね、それが全然フツーなんですわ」

菫「は?」

憩「やってそうでしょう? ウチは《能力者》でも《支配者》でもあらへん。レベル0でランクFの無能力者です。
 二枚目を一枚目と同じ数字に《上書き》したりとか、まして《奇跡》を起こしたりなんか、できるはずないですやん」

菫「そうなのか……?」

憩「そうですよ。信じられへんようでしたら、今ここでトランプ買ってきてやってみましょか?」

菫「いや、お前がそう言うなら信じるが。ちなみに、小走とはしたのか? 神経衰弱」

憩「ええ、もちろんしましたよ。生まれて初めて」

菫「生まれて初めて?」

憩「まあ、最後まで聞けばわかります。あのとき、小走さんから神経衰弱のルールを聞いたウチは、『なるほど面白そうや!』ってテンション上がって、すぐにトランプを買いに走りました。
 その買ってきた新品のトランプを小走さんに渡して、よく切って伏せたまま並べてもらいました。で、勝負したんです」

菫「結果は?」

憩「小走さんの勝ちでしたよ」

菫「ふむ……」

憩「ほんで、悔しかってん、もう一回やりましょ! 言うたんです。で、新しいトランプ買いに行こー思たら、なんと小走さん、『これでいいじゃないか』とか言い出して、たった今使ったトランプをかき集め始めたんです。
 ちょいちょい、言いました。ウチは『神経衰弱』がしたいんですよ、って。今のと同じことするんやったら、別のトランプ使わへんと『神経衰弱』になりませんでしょ、って」

菫「お前……何言ってんだ?」

憩「同じこと、小走さんにも言われました。『麻雀牌ならともかく、トランプなんて二つも三つも要らないだろ』って。もうがっかりでしたわ。仕方なしにそのまま二回戦ですよ。ウチは『神経衰弱』がしたかってんのに」

菫「結果はどうなった?」

憩「どうなったもこうなったも、先攻のウチが最初のターンで52枚26ペア全部揃えて終了しました」

菫「…………はあ?」

憩「あっ、それも小走さんと同じリアクションですわ。いやー、あのときはホンマ、なんで驚かれたのかまったくわかりませんでしたね。
 逆にウチが『はあ?』でしたよ。『せやから新しいトランプ使いましょー言うたんです』って。そこで、小走さん、ようやっとウチの言いたいことをわかってくれはったんです」

菫「私はまだ一つも理解できてないが?」

憩「せやから、一回使ったトランプなんて、全部のカードの表と裏を見てもうたんですから、そのあといくら切ったり伏せたりしたところで、どれがどのカードか区別できるんですもん、『神経衰弱』になりまへんやんってことです」

菫「ちょ、ちょっと待て……? お前は何を言ってるんだ? 伏せても区別できる? トランプの裏の柄は全部同じだろ?
 それとも、お前と小走が使っていたトランプは、裏の柄が一枚一枚違う特別なトランプだったのか?」

憩「そうですね。裏の柄が一枚一枚違う『普通』のトランプでした」

菫「えっ……?」

憩「ただ、よくよく確認してみたら、どうやらウチ以外のヒトの目には、それが『同じ柄』に見えるそうなんです。
 ほんで、裏の柄が一枚一枚違うトランプっちゅーんは『普通』やないってことも、小走さんから教えてもらいました。
 そこで、やっと合点がいきましたわ。つまり、『普通』の人にとって、『普通』のトランプは、裏が全部『同じ柄』やから、一組のトランプで何度でも神経衰弱が楽しめるんやって」

菫「お前……」

憩「ウチの《悪魔の目》には、トランプの裏の柄は一枚一枚違って見えます。やから、神経衰弱で遊ぶには、そのたびに、裏しか見てへん新しいトランプを使わへんといけないんです」

菫「道理で生まれて初めて神経衰弱をやるわけだな……」

憩「わかりますか、菫さん? あの神経衰弱っちゅー遊びのルールを聞いたときの、ウチの衝撃がどれくらいやったか。
 世の中にはなんて贅沢な遊びがあんねん! 一組のトランプでたった一度しか楽しめない遊びやん! って目玉飛び出ましたよ」

菫「もしかして、お前とトランプをやるときは、『スピード』くらいしか同じ土俵で楽しめる遊びがないのか? というか、お前『ババ抜き』ってやったことあるか?」

憩「バ、ババ抜き……!? なんですか、それ!?」

菫「う、うん、なんというか、一組のトランプでたった一度しか楽しめない遊びだ。ジョーカーを押し付けあうゲームなんだが」

憩「あーっ! それ知ってますっ! 何人かで遊ぶやつで、ジョーカー持った人がオモロいリアクション取らへんとあかんっちゅーゲームですよね!?
 そっか……! あれも裏が全部『同じ柄』に見える人同士やないと成立せーへんのか!!」

菫「その理屈を推し進めていくと、山牌が見えるのも納得だな。いや、私にはどの牌の背も『同じ』にしか見えないが。
 ちなみに、先ほどの神経衰弱だが、麻雀牌でも同じことができるのか?」

憩「できますよ。一通り全ての面を確認した牌なら、百発百中で全ペア揃えられます。っちゅーか、毎朝やってます」

菫「毎朝?」

憩「日課なんですわ。朝起きて身だしなみを整えたら、何はともあれ自動卓の電源つけて、山牌を持ち上げるんです。
 で、一人で神経衰弱していくんですね。かれこれ一年以上続けてますが、ミスったことは一度もありません」

菫「逆に聞くが、お前のその《悪魔の目》に見通せない牌が、卓上に一つでも存在するのか?」

憩「まあ、実戦やとちょいちょい《上書き》が起こりますから、これ見えてた牌とちゃうやん! みたいなことがようあります。
 なんで、毎局、どんなに頑張っても確定できひん牌っちゅーんが、必ずどっかにあるんですわ」

菫「必ず? お前に見抜けない牌が? さっきのエピソードからすると信じ難いが」

憩「小走さん曰く、『卓上は《パーソナルリアリティ》のせめぎ合いで、空間そのものが不規則に揺らいでいて、牌自体も時々刻々と変化している』そうなんです。つまり、能力論的な《観測限界》があるんです。
 《位置と種類が確定できない牌が必ず存在する》――小走さんが中三のときに証明した《第一不確定性原理》です。この業績が評価されて、小走さんは研究分野の特待生をやっとるわけですね」

菫「あいつ中三でそんなことを……? だとしたら小走も相当な化け物じゃないか……」

憩「ま、そんなわけで、見えへん牌があるんは、そーゆー《原理》なんですわ。これはもう覆しようがありません。ウチの目も、さすがに物理法則の壁は超えられませんからね」

菫「人間の限界は軽々と超えるくせに、物理の壁は超えられんのか」

憩「物理超えたら人やなく神ですよ。そういうのはランクSとかレベル5の、それもごくごく一部の人だけができる――かもしれないことです。
 今回のトーナメントで言うなら、宮永照、最高状態の小蒔ちゃん、それに花田さんの三人だけでしょうね。つまり、《神の領域に踏み込む者》」

菫「一昨日の二回戦で、天江が言っていたことか」

憩「そういうことです」

菫「花田煌……それに、神代小蒔か。どちらも今日戦う相手だな」

憩「ま、別に物理の壁を超えたら勝ちっちゅーゲームやないですから、麻雀は」

菫「だな。っと……あれは、智葉か。ウィッシュアートと天江も一緒だな」

憩「ふふっ、たまにはこんなお喋りもええもんですな。ほな、三回戦、ちょちょいと突破したりましょーぅ!」

菫「ああ……そうだな」

 ――――

ご覧いただきありがとうございます。

更新予定分はもうちょっとあるのですが、私用のため一旦抜けます。

残りは12時間以内に書き込む予定です。

では、失礼します。

つまり憩ちゃんは毎局新品の牌を使い続けたら
相手の手配はその都度相手の様子を読み取ってわかるけど
流石に山牌はわからなくなるのかな


荒川さんすげえ…

しかし壁牌や他家の手牌が見えるならそれはもはや麻雀じゃないな。

なんと言うかつまらなそうだ…

ご覧いただきありがとうございます。

>>25さん

そうなります。荒川さん的に最も制限が掛かるのがネト麻で、概ね原村さんくらいの強さになります。

>>28さん

当SSの荒川さんのモチーフはラプラスの悪魔であり、決定論的な麻雀を打っていることになるので、その感想はごもっともなのですが、ご安心を。小走さんが不確定性原理を証明しています。

ちなみに、どこかで言っているのですが、荒川さんは、本気でやって一番になれなかったことが人生で一回もありませんでした。

なので、ナンバー2の現状は、面白いかつまらないかは別として、色々と思うところがあるようです。

 *

長々とすいません。次レスから密室でのほかほかラブシーン(導入部のみ)が始まります。

 ――温室

尭深「宥さん……」

宥「あっ、尭深ちゃん。あははっ……なんだか、試合のたびに温室でお話するのが、お決まりのパターンになっちゃったね」

尭深「ここに来れば宥さんに会えるのがわかっているんですから、それは寄りますよ」

宥「決勝の日の朝も、こうして二人で、ここにいたいね」

尭深「今日勝てば……いいだけです」

宥「そうだよね。それで、決勝でも勝って……一軍《レギュラー》になったら」

尭深「宥さんたちが卒業する直前――春季大会《スプリング》まで、一緒のチームでいられます」

宥「そうなったら、どんなに楽しいだろうね」

尭深「きっとものすごく楽しいですよ。だから、そうするんです」

宥「…………尭深ちゃん」

尭深「なんですか……?」

宥「必ず勝とうね。弘世さんたちにも、玄ちゃんたちにも、《煌星》の子たちにも……」

尭深「元よりそのつもりです。勝ちますよ。《絶対》に」

宥「……さすがだね。じゃあ、みんなのところに行こっか」

尭深「そうですね――と言いたいところですが、宥さん」

宥「なに……?」

尭深「その……そんなに強く抱き締められると、動けないんですが……」

宥「いつもの尭深ちゃんのほうが、もっと力、強いよ。たまにはいいでしょ……? 今日くらいは甘えさせて……」ギュ

尭深「……わかりました。私でよければ、お好きなように甘えてください」ギュ

 ――――

 ――――

玄「こーまーきーちゃーんっ!」ガバッ

小蒔「ふわぁあっ!?」

玄「うぅーっ!! 《豊穣》と対戦してから私のおもち発作が止まらないよーっ!!」ギュー

小蒔「だからと言ってなぜ私に抱きつくんですか!?」

玄「小蒔ちゃん以外の誰に抱きつけと……?」

豊音「あははー、クロがちょー失礼なんだけどー」

透華「《アイテム》を結成してから月に一度はこのやりとり。もう怒りすら湧いてきませんわ」

泉「っちゅーか、《豊穣》はホンマ偏差値高いですよね。ベスト8やと、次点で《煌星》やろか」

玄「《煌星》……約二名以外は今後が楽しみだよ……!!」ジュルリ

豊音「クロ、確か一年生の頃の《4K》の集いで、似たようなこと言って荒川さんと天江さんに瞬獄殺されたんだよねー? まったく成長が見られないよー」

玄「そ、そんなこともありましたね……。けど、実際、あの頃の私を一番ひどい目に遭わせたのは、憩さんでも衣さんでもなく、小蒔ちゃんですよ?」

小蒔「そ、その節は大変申し訳ございませんでした……! 玄さんはまったく悪くなかったのに、とばっちりを……」

透華「衣からも聞いたことがありますわ。いわゆる『小蒔プリン事件』と」

泉「なんですかそれ?」

玄「憩さんと衣さんが、小蒔ちゃんのおやつのプリンを悪ふざけで食べちゃったことがあってね。で、それに怒った小蒔ちゃんが……小蒔ちゃんが――」ガタガタ

透華「玄ー!? 目のハイライトが消えてますわよー!?」

豊音「イズミ、世の中にはね、知らないほうがいいこともあるんだよー?」

泉「はあ?」

小蒔「玄さん、お気を確かにっ!」

玄「ハァハァ……おもち、おもちが足りない……!!」ギラッ

小蒔「ひいいいいいい!?」ビクッ

泉「アホやっとらんと、全員集まったんやからさっさと控え室行きましょーよー」

透華「仕切りますわね」

泉「チームリーダーですからっ!」

豊音「頼もしいねー。麻雀もそれくらい頼もしいといいんだけどー」

透華「《豊穣》にトップ通過を許した最大の原因は泉ですものね。清水谷竜華は七割の力も出していませんでしたのに」

泉「け、決勝までには覚醒したりますよ!!」

小蒔「私はそんな強がる泉さんを応援していますっ」

玄「なら、決勝で宮永照さんの相手をするのは泉ちゃんで決まりだね」

泉「ははっ、宮永照! ええですね、スパーンと楽勝したりますわ!! ほんで、そのためにも!!」

透華「今日の三回戦を勝ち抜かなければいけませんわねッ!」

豊音「相手はどこも強そうだよねー。ちょー燃えるよーっ!!」

玄「お姉ちゃんと尭深ちゃんをどうにかしつつ、今回は憩さんと衣さんにも勝たないといけないのかぁ。これは大仕事だね、小蒔ちゃん」

小蒔「もちろん、他にも手強い方はたくさんいらっしゃいます。一戦一戦、一局一局、最善を尽くして打ちましょう」

泉「ほな……ブチかましてやりましょうかっ! あと二回勝てば優勝――皆さん、気張っていきますよー!!」

玄・小蒔・透華・豊音「おおおーっ!!」

 ――――

 ――――

煌「おはようございます。皆さん、ちゃんとお揃いですかね?」

淡「おうともよっ!!」

桃子「わかりにくいと思うっすけど、私もいるっすー!!」

友香「こっちも咲の確保オッケーでー!!」

咲「さ、さすがにこのタイミングで迷子になったりはしないよ。……たぶん」

煌「心身のコンディションはいかがですか?」

淡「二回戦のアレが嘘のよう!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「私もばっちりです」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子「ちょ!? 朝っぱらから暗黒物質溢れさせたり目からスパーク飛ばしたりしないでくださいっす!!」

友香「そのゴゴゴは対局まで取っておくんでー」

煌「まったく問題ないようですね」

淡「ま、さすがに問題アリで勝てる相手じゃないからね」

咲「ここが正念場だよっ」

桃子「周りはみんな上位ナンバーだらけ。大能力者だらけっすから」

友香「《逢天》のリーダーの人以外は、みーんな上級生でー」

煌「はて、皆さん、随分と弱気なのですね? 上位ナンバーや高位能力者や上級生には敵わないと?」

淡「まっさかー!!」

咲「二回戦の借りはきっちり返しますっ!!」

桃子「ステルス無双してやるっすよ!!」

友香「今度こそプラスで帰ってきますんでーっ!!」

煌「ええ、それでこそ、私の大好きな皆さんですよ。さあ……それでは気合を入れるとしますか。
 今日の三回戦、見渡す限り強敵ばかりですが、ここを超えないことには決勝へ辿り着けません。全力で頑張っていきましょう。チーム《煌星》――」スゥ

煌・淡・咲・桃子・友香「すばらああああっ!!」スバラッ

 ――――

 ――観戦室

塞「さて、席、空いてるといいけど……」

照「三回戦ともなると、朝から人いっぱいだね」

 ザワザワ ザワザワ

「おい……あれ、宮永照じゃないか!?」「《塞王》もいるわよ!」「チーム《永代》が早くも決勝の相手を偵察に」「さすが優勝候補……ッ!」「《頂点》の余裕!!」

 ドヨドヨ ドヨドヨ

塞「んー、こう騒がれると……偵察に集中できなくて困るなぁ」

照「そう?」

塞「……そっか。あんた意外とこういうの平気な人だっけ」

照「まあ、私、大体どこ行ってもこんな感じだから。とりあえず笑って手を振ってればいいんだよ」エイギョウスマイル

塞「ちょ、ちょっと! その笑顔心臓に悪いから止めてっ!!」

照「え?」エイギョウスマイル

塞「ぎゃー!!」

照「臼沢さん、さすがにそのリアクションは傷つくよ……」シュン

塞「ご、ごめんっ。けど、あまりにも普段と違い過ぎて」

照「菫にも同じこと言われた。そんなに違うかなぁ」

塞「あんた、ちゃんと自分のこと鏡で見たことある?」

照「圧倒的に照魔鏡を見る回数のほうが多いかも」

塞「これだから……」

 ザワザワ ザワザワ

塞「ん……? また誰か来たのかしら?」

照「あれは――」

やえ「よう、お二人さん」

照「小走さん……」

塞「《幻想殺し》じゃん。なんであんたがここに?」

やえ「なんでとは随分だな。決勝に行くつもりなのは、なにもお前らだけじゃないぞ」

塞「そりゃそうか。ってか、そっちの子が例の――」

ネリー「一足先に初めまして! ネリー=ヴィルサラーゼなんだよっ! 明日はよろしくね!!」

照「宮永照です。こちらこそ、よろしく」ペッコリン

塞「……で、小走、私たちに何か用なの?」

やえ「そう睨むな。水を差して悪いとは思っているさ。なに、お前らが来てるってざわめきがロビーにまで届いてきてな。
 ついては、もっと静かな場所を提供できるが、どうする?」

照「一緒に観戦しよう、ってこと?」

やえ「そういうことだ。私が普段から使っている研究者専用の観戦室がある。
 ここより広いし快適だし、牌譜のデータをリアルタイムで弄ったりもできるぞ」

照「それは助かるけど、いいの?」

やえ「いいに決まってる。というか、知っての通り、私は研究ばかりで実戦からしばらく遠ざかっていたからな。
 ほぼ全ての二軍雀士と対戦経験のあるお前が一緒なら、何かと生の情報を得られて好都合――と、そんな下心から誘っているに過ぎん」

ネリー「そうだったの!? 私はてっきり純粋な好意からだと思ってたよ!? みんなでわいわい見たほうが楽しいね、くらいの気持ちなんだと思ってたよ!?」

やえ「偵察をなんだと思ってるんだ。テレビ見に来たんじゃないんだぞ」

ネリー「ごめん、やえ。わりと遊び感覚で来てたよ」

やえ「今すぐ帰れ。帰ってセーラたちと練習してこい」

ネリー「ひどーっ!?」

塞「で、どーする、宮永? 小走はああ言ってるけど」

照「私は構わないよ。というか、一介の高校生雀士に過ぎない私が、能力解析が本職の小走さんより多くの情報を持っているとは思えないし。むしろ、色々解説してほしいくらい」

塞「み、宮永がいいならいいけど……」

照「というわけで、私たちのほうは、喜んで」

やえ「おう。有難い」

照「ところで、その研究者専用の観戦室って」

やえ「ん?」

照「お菓子の持ち込みは可?」

やえ「……相変わらずだな。ま、いくらでも好きなものを持ち込んでくれて構わんよ。冷蔵庫もあるし、ドリンク類も一通りある」

照「ありがとう。じゃあ、途中で売店に寄ってくれると嬉しい」

やえ「オーケー。臼沢のほうは? 何か欲しいものはあるか?」

塞「とりあえずは、何も」

やえ「……というか、お前今日、試合のときとかなり雰囲気違うな」

塞「モノクルのこと? あんなの、宮永以外のランクSが全員出てくる試合なんかに持ってこれるわけないでしょ。あれ、かなり高いんだからね?」

やえ「いや、それは知っているが、そうではなく……単純に、服装も化粧も決まってるなと思って」

塞「バッ……!? しーっ! しー!!」チラッ

照「?」

ネリー「青春してるねー、お姉さんっ!」

塞「ヴィルサラーゼさん? いい子だからちょっと黙っててね……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー「あれ……なんだろうこれ……まるで磔にされているような感覚……?」

やえ「対局室でもないのに本気を出すな、《塞王》」

塞「と、とにかく行きましょ! ぼちぼち先鋒戦の選手も集ま――って、エイスリンじゃん!? うわっ、これは見逃せない……!!」

照「……お菓子何にしようかなぁ……」

塞「宮永、ほら急いで!」ギュ

照「わっ」

 ――――

 ――《劫初》控え室

菫「各チーム二回戦とはオーダーを変えてきているようだが、やはり《豊穣》の先鋒だけは不動か」

憩「団体戦は先行逃げ切りが基本戦術ですから、チームで一番強い人を先鋒に置くんは、まあセオリーですわなー」

衣「あのえいすりんが珍しく自分からオーダーに口を出した。かの者は、それほどまでに戦いたい相手だったのか」

智葉「合同練習のときから意識しまくりだったからな。ここであいつに勝てば、ナンバー変動もありうる。
 お互い三年の最後の夏……決着をつけたいんだろうよ」

 ――《逢天》控え室

豊音「いきなりエイスリンかー。本当に大丈夫かなー、イズミ……」

透華「さらに、当然ながら、《豊穣》の先鋒はあの女ですのものね」

玄「死に物狂いで頑張ってもらうしかないよ」

小蒔「お、応援しましょうっ!!」

 ――《豊穣》控え室

竜華「おっ、《逢天》の先鋒は泉か! 残念、また遊びたかってんけどな~」

霞「先鋒戦、鍵になってきそうなのは、《煌星》のあの子かしら」

宥「東横さん……合同合宿でも、見破れたのは《新約》の原村さんだけ。荒川さんでも振り込むくらいだもんね。美穂子ちゃん、大丈夫だといいけど……」

尭深「福路先輩に任せて悪くなったことはありません。信じて見守りましょう」

 ――《煌星》控え室

友香「わおっ、《劫初》はいきなり天使様のご登場でー」

咲「借りを返すのは決勝になりそうだね、友香ちゃん」

淡「《豊穣》はミホコかぁ。ナンバー的には、ユーカのやられたお絵描き天使のさらに上」

煌「ふむ、《逢天》は覆面《I》――もとい二条さんですか。はたしてどうなることやら……」

 ――対局室

桃子「(今日の相手は《一桁ナンバー》二人……気を抜けば一瞬で点棒を持っていかれるっす。
 消えてからが勝負なんて甘いことは言ってられない。最初っから飛ばしていくっすよ!!)よろしくっす!」

 西家:東横桃子(煌星・100000)

泉「(無能力者と、全体効果系の大能力者、それに感応系の強能力者かいな。タイプがバラバラやん。
 きっちり予習はしてきたつもりやけど、同時に暴れられたら対応できるんか……?)よ、よろしくです」

 北家:二条泉(逢天・100000)

美穂子「(ウィッシュアートさん……個人では何度か対局しましたが、チームを背負って戦うのは、いつかの合同練習を除けば、公式だとこれが初。
 ま、いつものように勝たせていただきますよ)よろしくお願いします」

 南家:福路美穂子(豊穣・100000)

エイスリン「(ミホコ……ブチノメスッ!!)ヨロシク♪」

 東家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・100000)

『先鋒戦前半、まもなく開始です!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回まで少し空くと思われます。二週間以内には更新します。

では、失礼しました。

毎回乙
普通自動卓だと2種の牌を順番に回してるけど
傷があって一般人でもガン牌出来るとかじゃない限り基本的に毎回使われてる牌は同じなのかな
あと流石に毎局とはいかなくとも試合毎に牌が一新されるとしたら
たった一局では全ての牌が使われなくて表裏一通り確認するのは難しいし
憩ちゃんは何局目くらいから全部見通せるようになるんだろうか

>>49さん

個人的には、一試合中は先鋒戦から大将戦まで卓一つ牌二セットでずっと回していて、荒川さんは前の人の試合中にモニターで全牌チェックしているんじゃないかな、と思ってました。

或いは、対局室の下見と称して、一通り卓と牌を確認しているのかもしれません(これなら個人戦もばっちり)。

運営側も、さすがに『一度裏表を見ただけで何の牌か区別できるようになる』人間は想定していないはずなので、しようと思えば何らかの準備ができるかと思われます。

 ――(以下、本編とは一切関係のない落書き)――

憩「明日の試合で使う卓と牌なんですけど~、よかったら見せていただけませんか~。あ、もちろん触ったりとかはしませんよ~。ちょーっとだけ、一枚一枚さら~っと見せていただければ十分ですから~。え~、いや~、そこをなんとか~」

憩「あっ、運営さん、ちょっと肩こりに悩んでるんとちゃいますか~? ウチ、マッサージ得意なんですよ~。ささっ、そこ座ってください~」

憩「あ~、うん、これはかなり凝ってますね~。ここ、ここが気持ちええんでしょ~? どうですか~? あ~、でも残念やわ~。牌見せてもらえたらもっとサービスするんですけど~。牌見れへんみたいやし~。ウチこのあと予定詰まっとるからもう行かな~」

憩「あっ、ホンマですか~? おおきに~。すいませんね~、無理聞いていただいて~。は~い、じゃあそっちから順番に~。はい、はい、は~い、オッケーです~ぅ」

憩「ああ、わかってますよ~ぅ、マッサージの続きですね~。は~い、こちら、ウチの勤めとる病院のパンフレットです~ぅ。ここね、ここから会員登録していただいて~。は~い、そんな感じです~ぅ。初回は半額でお得ですよ~。各種コースもありますから~。ぜひぜひご利用ください~。ほな~」

 ――――

 ――観戦室

塞「ふー、間に合ったー」

ネリー「うおー!? 想像以上の広々空間!! そしてハイテク機器の数々っ!! っていうかキッチンとシャワールームと簡易ベッドまであるのー!? もうここに住もうよ!!」

照「お菓子、広げるから、みんな食べて」

やえ「お前ら、飲み物は何にする? 私は紅茶を淹れようと思うが」

塞「じゃあ、私もそれで。アイスにできるならアイスがいいわ。あとガムシロも」

照「私も紅茶。ストレート。ホットで」

ネリー「私はジュースがいい! キンキンに冷えたオレンジジュース!!」

やえ「あいよ」カチャカチャ

照「何か手伝う?」

やえ「ゲストは大人しく座ってろ。それより席順はどうなった?」

塞「起家から、エイスリン、福路、《煌星》の一年、《逢天》の一年」

やえ「ふむ」

ネリー「ももこは南三局までに消えられたらラッキーだねー」

塞「いきなり麻雀とは思えない単語が飛び出したわね。『消える』って何よ」

照「《ステルスモモ》さん。感応系の能力者で、捨て牌が見えなくなるんだとか。発動までに時間がかかるらしい。
 二回戦では、早い人で半荘の中盤、一番最後まで粘ってた荒川さんでも、前半戦のオーラスでは見失ってた」

塞「あの《悪魔》にも有効なの? これだから感応系は」

やえ「感応系に限らず、そもそも無能力者の荒川には、全ての能力が有効だよ」

照「けど、荒川さん、能力が効いてたはずなのに、後半戦で東横さんから二度も直撃を取ってた」

塞「捨て牌が見えないやつからどうやって直撃を取れんのよ……」

ネリー「ももこもびっくりしただろうねー。ま、《ステルスモード》の振り込みが初体験じゃなかったのが不幸中の幸いだったのかな?」

照「原村さん、だっけ?」

ネリー「そうそう。のどかってば、河とかがパソコンの画面みたいに見えるらしいよー」

塞「へえ……あの《デジタルの神の化身》、そんな特技があったんだ」

やえ「ネリー、お前さっきから口軽いな……開示する情報は選べよ?」

ネリー「大丈夫! 私たちチーム《幻奏》のことは一切喋らないからっ!!」

塞「現金なのね、ヴィルサラーゼさん」

ネリー「うん! 私、現ナマ大好きっ!!」

やえ「よし……出来た出来た。ほい、ご注文の品だ」カチャ

照「ありがとう。あ、いい香り……」

塞「うおっ、なにこれ。フツーに美味しいんだけど!」

やえ「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。お前らくらい違いのわかるやつが相手だと、こっちも腕の振るい甲斐があるってもんだ。どうにもうちのチームは味覚の大雑把な連中ばかりだからな」

ネリー「何か言った?」ゴクゴク

やえ「なにも」

『いち早く決勝の舞台に名乗りを上げるのはどのチームになるのか! A・Bブロック三回戦……ついに開幕です!!』

塞「っとっとっと! 始まった始まったぁー!」

照「配牌は普通だね」

ネリー「やえ的にはどうなの? この先鋒戦の本命は」

やえ「そりゃ福路美穂子だろ。当たり前のことを言わせるな」

塞「なによ、エイスリンだって負けてないわよ?」

やえ「無論、あの《最多》が強いのは重々承知だが、それでも序列ってもんがある。
 去年、ウィッシュアートと姉帯が転校してきて、上位ナンバー間で若干の順位変動があったが、福路より上は崩れなかった」

塞「そ、そりゃそうだけどさ」

やえ「ウィッシュアートが今の位置に上りつめて以降、宮永から始まってセーラで終わる《一桁ナンバー》の序列は、ぴくりとも動いていない。
 つまり、それだけあの並びには重みがあるってことだ」

塞「むむむむ……!!」

ネリー「合同合宿でもむちゃくちゃ強かったもんね、みほこ」

照「福路さんは、インターミドルの頃から活躍してた。麻雀を覚えてまだ二年も経ってないウィッシュアートさんより経験があるのは確か。数年後にはどうなっているかわからないけど」

塞「結局、今のところは福路のほうに一日の長があるってこと?」

やえ「一日で済めばいいがな。福路は《六道》を行く傑物の一人。《十最》に名を連ねるウィッシュアートがいかに才華を振り撒こうと、あいつの歩んできたこれまでを超えることは、一朝一夕にできることじゃない」

塞「福路美穂子……《マドウ》を極める無能力者かぁ」

ネリー「えっ? 無能力者《レベル0》なのに《魔導》なの?」

照「そっちじゃない」

ネリー「?」

やえ「ま、普通はそっちで解釈するよな。音を聞いただけだとなおさら」

塞「実際、牌譜を見ても何かの魔導《オカルト》を使ってるとしか思えないけどね、福路の場合」

照「でも、福路さんは本当にレベル0でランクFだよ。確率干渉に頼ることが一切ない、正真正銘の無能力者」

やえ「純粋な論理《ロジック》と仕掛け《ギミック》から成り立つ魔導《マジック》。
 荒川という《特例》を除けば、福路こそ無能力者の頂点に立つ雀士と言えるだろう」

塞「《最多》の大能力者であるエイスリンの一つ上。卓越した観察眼と磨き上げられた技術で場を制圧する……白糸台のナンバー6」

ネリー「《磨道》……!! なるほどねっ、道理で強かったわけなんだよ!!」

     美穂子『ロン。1300』

     桃子『……はいっす』

     エイスリン『!?』

塞「ってー!? いきなりエイスリンの親が流された!? なんで!?」

照「二条さん」

塞「へ?」

ネリー「あの子、さっきからわけのわからないところで鳴いてたよね。まるで運命から逃れるみたいに」

やえ「聞けば、二条はお前ら《永代》んところの染谷――あいつの後釜だそうじゃないか。
 だとすると、今の討魔《アンチオカルト》まがいの打ち筋は、その影響かもしれんな」

塞「そういえば、高鴨がそんなこと言ってたっけ。二条泉……染谷もどきが卓に混じってるのか」

照「ウィッシュアートさんは全体効果系。卓全体を俯瞰して歪めてくる染谷さんとは、すこぶる相性が悪い」

やえ「《破顔》――染谷まこ。元《刹那》メンバーで、あの《一向聴地獄》を持つ天江とやりあっていた無能力者。荒川もあいつの打ち筋は興味深いと評していたな。
 そんなのが卓に紛れ込んでいたら、ウィッシュアートもさぞ描き難かろう」

ネリー「ま、いずみのは、ちょっと討魔《アンチオカルト》というには拙過ぎるけどねー。だから、みほこに漁夫の利を取られる」

塞「そ、そっか! 二条泉……染谷もどきがエイスリンの絵を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して……! その混乱に乗じてあの《磨道》――!!」

照「他家の扱いが上手い福路さんらしい戦い方」

塞「ちょ、ちょちょちょ……そんなのってずるくない!?」

     泉『それや、チーッ!』

     エイスリン『……?』

塞「あっ……また!?」

やえ「加えて言うなら、二条の存在以外で、ウィッシュアートの不幸がもう一つだけある」

塞「な、なによ?」

照「席順」

ネリー「あーっ、そっか、みほこが下家!!」

     美穂子『ポンです』

     エイスリン『ッ!』

塞「ツモ飛ばされたー!?」

     美穂子『ロンです、3900』

     泉『はい……』

塞「エイスリンが何もさせてもらえない……!?」

やえ「だから言ったろう。本命は福路だと」

照「まあ、まだ始まったばかり」

ネリー「うん。あの人……えいすりん。さっきまでと曲調が変わった」

塞「頑張れっ! エイスリンー!!」

 ――――

 ――対局室

 東二局一本場・親:美穂子

美穂子(さてさて。連荘したいところではありますが、さすがに黙ってはいないでしょうね。《最多》の大能力者……《夢描く天使》――エイスリン=ウィッシュアートさん)タンッ

 東家:福路美穂子(豊穣・105200)

エイスリン「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・100000)

美穂子(二条さんの存在は予定外のラッキーでしたが、ウィッシュアートさんの支配を完全に塗り替えることまでは、どうやら今の彼女にはできないようですね)タンッ

泉「ポ、ポンやっ!」

 西家:二条泉(逢天・96100)

美穂子(転校してきたばかりの頃ならともかく、今のウィッシュアートさんなら、これくらいで絵筆を折られることはないでしょう)

エイスリン「」タンッ

美穂子(それに、チーム《劫初》には、同じ全体効果系の天江さん、支配を掻い潜る荒川さん、《一枚絵》を一刀両断にできる辻垣内さん……と役者が揃っています。
 鍛錬の相手には事欠かない。自身の弱点に対し、何らかの対策はしているはずです)

桃子「」タンッ

エイスリン「ポンッ!!」タンッ

美穂子(と、ツモ順を元に戻しましたか。今回は、私が下家……ポンでツモを飛ばせる優位性はあるものの、上家のウィッシュアートさんに牌を絞られると、チーでスラすことはできない。場合によっては、私のほうが不利になることもある)

エイスリン「……ツモッ! 1400・2700!!」ゴッ

美穂子(ふむ……門前でなかった分だけ、点数は下がっているようですね。
 今回は打点より速度を優先した、と。私の親を蹴りたかったんでしょう。悪くない判断です)パタッ

 美穂子手牌:二三23455②③④⑥⑦⑧ ドラ:5

美穂子「少しはやるようになりましたね、ウィッシュアートさん?」ニコッ

エイスリン「ウゼェ、ナメンナ、ブットバスゾ♪」ニコッ

桃子・泉「っ!?」ゾワッ

美穂子(ふふふっ……相手にとって不足なし、ですね。チームとしても個人としても、勝ち逃げさせていただきますよ、ウィッシュアートさん……!!)ゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン(ミホコ……ホーセキ、ミテーナ、ソノメ! ナミダニ、ヌレタラ、モット、キレイニ、ナルダローヨ……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(これが《一桁ナンバー》……!? 天使の笑顔と聖母の微笑が逆に恐いわっ! いや、関係あらへん! 止めたるっ!!)

桃子(二人だけの世界に入ってるとこ悪いっすけど、そんな簡単には独走させないっすよ……!!)

エイスリン:105500 美穂子:102500 桃子:97300 泉:94700

>>68

美穂子(と、ツモ順を元に戻しましたか。今回は、私が下家……ポンでツモを飛ばせる優位性はあるものの、上家のウィッシュアートさんに牌を絞られると、チーでズラすことはできない。場合によっては、私のほうが不利になることもある)

 東三局・親:桃子

桃子(でー子さんの話では、天使さん相手に普通に打つと、テンパイ止まりってことだったっす。
 きらめ先輩も、勝負どころが来たと思ったら、超新星さんや嶺上さんを相手にしていると思って、多少の危険を冒してでも切り込めって言ってたっすね)タンッ

 東家:東横桃子(煌星・97300)

桃子(今回は、ラッキーなことに改造制服さんが鳴いて場を乱してくる。多少は天使さんの支配が崩れてると思っていいっすよね。
 片目さんはその辺りを拾うのがめちゃめちゃ上手いっすけど、私だって、やってできないことはないはずっす)タンッ

桃子(幸い、《一桁ナンバー》二人が火花を散らしている現状では、私に対する視線はさほどでもない。
 おかげで、序盤からいい感じに集中できてるっす。このまま和了りを横取りしてやるっすよ!!)

エイスリン「ツモ、2000・4000!!」パラララ

桃子(は――? え、ちょ、まだ三巡目っすけど……!?)ゾワッ

泉(もーテンパイくらいさせてーなー!!)

美穂子(このスピード……毎回できるとは思いませんが、決してマグレではない。さすがの《最多》です。
 ま、大能力者《レベル4》であるウィッシュアートさんの速度と手数に、真っ向から挑もうなどとは、最初から思っていません。私は私で反撃の機会を待つとしましょう)

エイスリン(ミホコノヤロー、マダマダ、ヨユーッテカ。コノママ、ウツノハ、キケン、ッポイ。
 イイゼ……ソレナラ、コッチモ、モーイチダンカイ、アゲル……!!)

桃子(し、視線がさほどでもないっていうか、完全にアウトオブ眼中じゃないっすか!! 私の存在なんてあってもなくても関係ないって……!?
 確かに、さっきから一度もテンパイできてないっすけど……くっ――負けられないっす!!)

エイスリン:113500 美穂子:100500 桃子:93300 泉:92700

 ――《劫初》控え室

菫「燃えてるな……ウィッシュアートのやつ」

智葉「だが、冷静さは失ってない。因縁の福路と、《逢天》の妙な一年……先制されてガタつくかと思ったが、持ちこたえた。
 転校当時から、あいつも随分と逞しくなったな」

憩「そらまー、ウチらと練習してきたんですから、逞しくもなりますよー」

衣「麻雀もそうだが、最初に会ったときより性格まで逞しくなっている気がするぞ」

菫「『ワタシ、フクジサンニ、カチタイ、デス』とか言ってた往時が偲ばれるな。今や見る影もない」

智葉「誰のせいだか」

衣「さとはが犯人だな」

憩「衣ちゃんも共犯やーん」

菫「どう考えてもお前ら全員の影響だろ」

智葉「ま、口の悪さはともかくとして……見ろ、あいつ、勝負を掛けるつもりだぞ」

     エイスリン『リーチッ!!』

菫「これは……ダマでもよかったような気がするが、なぜ敢えて他家に警戒されるようなことを?」

憩「それやと勝てへんと踏んだんでしょうね。いくら速度と手数で積み重ねても、福路さんは磐石鉄板の《磨道》……ナンバー的に格下のエイさんが普通に打つだけやと、いつどこでひっくり返されるかわかりません」

衣「無理が通れば道理が引っ込む――か。しかし、畢竟、無理はそうそう通るものではない。いとも容易く道理に呑まれる。
 それを承知で攻めるというのか……えいすりん」

智葉「チームとしては、福路との決着より決勝進出を優先してほしいところではある。
 あの手でリーチを掛けるのは勇み足が過ぎるな。今のあいつは、チーム《劫初》の先鋒としては不合格だ」

憩「やから、ガイトさん。ツンデレ発言するときにニヤニヤするのキモいからやめてくださいってー」

智葉「なら聞くが、荒川。お前は私にニヤニヤしながらデレろというのか?」

憩「………………おぅぇ」ウプ

智葉「おい」

菫「どんな絵を想像したんだ……」

衣「貴様ら、応援に集中せんか」

     泉『ポン!』

     エイスリン『ッ?』

     美穂子『ロンです、8000』

     エイスリン『……ッ!!』

憩「わあーっ!! もー、ガイトさんが不吉なこと言うからー!!」

菫「二条に鳴かせてズラし、即座に切り返す。さすがの《磨道》だな」

智葉「これでウィッシュアートのお仕置きポイントが累計9になったな。あと一つミスをしたらあいつを好きなようにできるのか。
 くくくっ……今度はどんな格好で辱めてやろうか……!!」

憩「お巡りさーん! こっちですーぅ!!」

衣「一昨日のすみれのお仕置きのときのけいのほうが犯罪的だったぞ」

菫「やめろ……思い出させるな……」ズーン

智葉「まさかもう一度見れるとはな。マジカル☆スミレの晴れ姿が」

菫「智葉……それに荒川も。ポイント10に達したときが、お前らの人生の終着点だと思えよ……!!」

智葉「私と荒川が一大会で十回もミスをするわけなかろう。なあ?」

憩「ロンオブモチですわ。もしウチのポイントが10まで溜まったら、そらもーいくらでも好きなだけお仕置きしてください。
 なーんでも言うこと聞いたりますよーぅ?」

菫「ぐぬぬぬぬぬ……!!」

衣「懐かしいかな。《刹那》の頃はよくこまきで遊んだものだ」

憩「ウチら五人でまともなミスするんは、通常モードの小蒔ちゃんくらいやったからなー」

菫「お前ら……!! あんな非人道的な仕打ちを、よりにもよって神代に強要していたのか!? よく石戸に殺されなかったなッ!!」

憩「えー? こまきちゃんかて喜んでましたよー? 巫女服と制服以外はあんまり着る機会があらへんから楽しーゆーて。
 ま、言われてみれば、撮り溜めたお宝写真がある日当然、謎の黒い炎に包まれて灰になりましたけど」

智葉「間違いなく石戸の呪術だな」

衣「もちろん、楽しんでばかりではなかったがな。こまきもあれで相当な負けず嫌いだ。お仕置きを受けるたびに、着実にミスを減らしていったぞ」

憩「言うても、最後の最後までお仕置きは続いたんやけどなー。それでも、決勝ではたったの15ポイント。お仕置き一回で済んだ試合はあれだけやった」

菫「まさに《悪鬼羅刹》の所業……《虎姫》時代の私でも、そんなスパルタではなかったというのに」

智葉「ま、荒川や天江くらい手加減が下手だと、どうしてもそういう鍛え方になってしまうのだろう。こいつらは敵を叩き潰す以外の打ち方を知らんからな」

菫「それはお前も同じだろうが、智葉」

智葉「いかにも。だが、お前やウィッシュアートには丁度よかろう? 壁は高いほど上り甲斐があるというタイプ、ひと思いに真っ二つにされたほうが伸びるタイプ……」

菫「まあ……あれだけボコボコにされて強くならないほうがおかしい」

智葉「だな。そして、同じようにして強くなるやつは……もちろん菫やウィッシュアート以外にもいるわけだ」

衣「さとは、何か気になることでも?」

智葉「まあな。おい、荒川」

憩「なんですかー?」

智葉「お前、手加減が下手なのは仕方ないが、潰す相手はよく選べよ」

憩「ななな、なんのことですかーぁ?」

智葉「惚けるな。あいつ、明らかに一昨日より強くなっているぞ」

憩「……まあ、元々、最高速度はエイさん並みでしたよ。多少のイレギュラーがあれば、半荘に一回くらいは先制することもあるかなと思ってましたわ。
 何せあの子は……このウチから直撃を取れるくらいなんやから」

智葉「速いだけなら、まだマシだったんだがな」

     桃子『……リーチっす!!』

菫「東横……!? ウィッシュアートと福路の一騎打ちに割って入るのか!!」

衣「あやつは一昨日の段階でもナンバー2のけいとナンバー10の《百花仙》相手に喰らいついていた。
 けいがあやつを強くしてしまったというのが本当なら、一時的とは言え、ナンバー7のえいすりんが遅れを取るのもむべなるかな」

憩「おっかしいなぁ……一日二日で回復できひんくらい、コテンパンのペチャンコにしたつもりやってんけど」

智葉「あいつもあいつで鍛えられているんだろう。同じチームの化け物どもに」

菫「敵は当然一人ではない、か。凌げ……ウィッシュアートッ!!」

 ――――

 ――対局室

 南一局・親:エイスリン

桃子(ほーら見たことっすか。二人だけの好きにはさせないっすよ。こっちは一昨日、あのナースさん――《悪魔》の餌食になってるっす。
 それを思えば、ちょっとテンパイができないくらい、いくらでも耐えられるっすよ……)タンッ

 西家:東横桃子(煌星・92300)

桃子(天使さんと片目さんは、確かに速くて強いっす。けど、速くて強いのは、ナースさんも天女さんも同じだった。
 なら、一昨日より速く強くなってるはずの私が……追いつけないわけがないっ!!)タンッ

桃子(でー子さん、悪いっすね。打倒《一桁ナンバー》……一足先にやっちゃうっすよ――!)

桃子「ツモっす! 3000・6000ッ!!」ゴッ

エイスリン(コイツ――!?)

美穂子(合宿のときより格段に強くなっている……? 二軍《セカンドクラス》の三年生に匹敵する手応え――もとい、見応え。
 どちらかというと速度重視の打ち手だったはずですが、《最多》のウィッシュアートさん相手ということで、打点を優先して切り込んできましたか。
 いいでしょう。あなたも私の敵と見なします、東横さん……!!)

泉(なっ……なんやとー!!?)ガビーン

エイスリン:98500 美穂子:106500 桃子:105300 泉:89700

 ――《逢天》控え室

透華「ふん……あの東横とかいう一年、なかなかやりますわね。学園都市屈指のデジタルであるわたくし、ネット最強とかいう《のどっち》、そこにあの《磨道》の福路美穂子も含めて、四つ巴でケリをつけたいところですわ!!」

玄「なんとなくだけど、私はそのカード、実現しないほうがいいと思うな。他ならぬ透華ちゃんのために」

透華「わたくしがあんな一年に遅れを取るとでもー!?」プンスコ

豊音「けどまー、東横さんの本領は消えてからだからねー。今の段階でこれなんだから、消えてこられたらトーカでも楽勝はできないと思うよー」

小蒔「そ、そんなことより泉さんが……!!」アワワ

透華「《一桁ナンバー》……あの《磨道》と《最多》の相手は、今の泉には少々荷が重いようですわね」

豊音「私たちのツテのなさが原因で、イズミに《一桁ナンバー》と戦う機会をあげられなかったのがちょー悔やまれるよー」

小蒔「ナンバー的に言えば、泉さんは、二回戦での清水谷さんより上の方と戦った経験がないですからね」

玄「《煌星》はお姉ちゃんや姫子ちゃんや小走さんたちと合同合宿をしてる。
 しかも、東横さんは、二回戦ではあの憩さんや《最愛》の利仙さんと戦ってる。この違いは大きいよ」

透華「それがどうしたんですのー!! 泉ーっ、そこですわー、ぶちかませですわーっ!!」

小蒔「泉さん……! どうか、最後まで頑張ってくださいっ!!」

豊音「イズミーっ! ちょーふぁいとー!!」

玄(うーん……まあ、トップと六万点差くらいで踏ん張ってくれれば上出来かなぁ)

 ――――

 ――対局室

 南二局・親:美穂子

泉(いやー……もう前半戦も半分過ぎたっちゅーのに、テンパイすらできひんとはな。想像以上に学年の壁が分厚い――とか思っとったら、同じ一年に先越されたっちゅーね)タンッ

 西家:二条泉(逢天・89700)

泉(せやけど、これは吉報やで! やって、うちは《高一最強》やもん! こないな無名の一年にできて、うちにできひんわけがない――!!)タンッ

泉(見とってください、小蒔さん、その他三名! うちかてやる時はやりますよ。心配ご無用、まだまだ押せ押せ、イケイケやっ!!)ツモッ

泉(ほーれどやぁ! ようやっと先制テンパイしたったでー!! 見とれよ《一桁ナンバー》……!! これが《高一最強》――二条泉の打ち筋やッ!!)ゴッ

泉「リー」

美穂子「ロン、7700です」パラララ

泉「」

美穂子(さあ、突き放しましたよ……ウィッシュアートさん!!)

エイスリン(ミホコ……ッ!!)

泉(まま、まだ……まだや! まだ終わってへん!!)

桃子(連荘はさせないっす……)

美穂子「一本場です」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン:98500 美穂子:114200 桃子:105300 泉:82000

 ――《豊穣》控え室

尭深「改めて思いますけど……福路先輩は強いですね」

竜華「なにを今更な~。まともにやりあって美穂子に勝てるんは白糸台に五人だけ。よほどのことがない限り、あいつは負けへんよっ!」

宥「私たちが最初に打ったクラス対抗戦でも、トップは美穂子ちゃんだったもんね」

霞「個人的には、美穂子ちゃんとウィッシュアートさん相手に張り合っている東横さんがすごいと思うわ。このまま終わればいいけれど」

     エイスリン『ロ、ロン! 1000ハ1300ッ!』

     美穂子『……はい』

宥「わっ、美穂子ちゃんが振り込んだ……! 強く出てるなぁ」

竜華「普段の美穂子やったら、今のは一度回して様子を見たかもしれへんな。
 せやけど、今回は、ウィッシュアートの手が低いんを見切って、ツッパることを選んだ」

尭深「ウィッシュアート先輩はダマでした。きっと、もっと手を高めてからリーチするつもりだったんでしょう。
 なら、押しで踏み込んだほうが、たとえ振り込むことになっても、最少の被害で済む」

宥「親の美穂子ちゃんが間合いに入ってきたと感じれば、ウィッシュアートさんは見逃せない……安手でも和了るしかないもんね」

霞「当然だけど、東一局からずっと、二人とも前に出ているわね」

竜華「ウィッシュアートにとって、美穂子は誰よりも倒したい相手。
 美穂子も、ナンバー的に格下しかいーひんこの先鋒戦で、できるだけリードを広げたいと思っとる」

宥「先のことを考えると……ちょっと恐い、かも」

尭深「というと?」

竜華「山崩しみたいなもんやろー?」

宥「そう」

尭深「ああ……」

霞「美穂子ちゃんとウィッシュアートさんは守りに入るつもりがない。
 今のスタンスのまま二人が削り合うとなると、この先鋒戦、どこかで大きく傾くときがくるでしょうね」

尭深「できれば私たちに有利なほうに傾いてほしいですけれど……」

     エイスリン『ツモッ! 1000・2000ッ!!』

霞「ふんふむ」

尭深「さすがに落ちてはくれませんか」

宥「ウィッシュアートさん……あの利仙ちゃんを押しのけて《一桁ナンバー》になったんだもんね……」

竜華「《最多》の大能力者――《夢描く天使》。美穂子やから抑えられとるっちゅーだけで、それ以外の誰かがあそこに入ったら、きっと無限に和了り続けるんちゃうやろか。正直、うちは調子ええとき以外は戦いたない」

宥「私も。止められる気がしないなぁ」

霞「さて、前半戦オーラスね。美穂子ちゃんは中盤からリードを守り続けているけれど、安心できる点差ではないわ」

尭深「福路先輩かウィッシュアート先輩、どちらかが和了ればそこで終了」

宥「攻めてくる、よね」

竜華「美穂子なら大丈夫やと思うけど……読めへんなー」

 ――対局室

 南四局・親:泉

エイスリン(ムー。ヤッパ、ツエーナ、ミホコノヤロー……)

 南家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・103800)

美穂子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:福路美穂子(煌星・111900)

エイスリン(ザマーネー。サトハ、ケイ、コロタン……ケイコ、ツケテ、クレタ、ミンナニ、ワラワレ、チマウヨ。
 ツカ、ナニヨリ、スミレノ、キタイニ、コタエ、ラレネー)

           ――お前を《十最》の最高位と見込んでのお願いだ。

エイスリン(スミレハ、ワタシノ、チカラヲ、カッテクレタ……)

      ――私に力を貸してくれ。

エイスリン(ワタシノ……ダイノーリョク……)

              ――宮永照を倒すために……!!

エイスリン(アハッ、スミレ! ヨエークセニ、コダイモーソー、ハナハダシイ! マジウケル!!)

     ――ウィッシュアート……私と共に《頂点》に立とう。

エイスリン(ケド、ソノユメ、ソノエ……!! コノメデ、ミタク、ナッチマッタ! コノテデ、カキタク、ナッチマッタ……ッ!!)

         ――やはり強いな、ウィッシュアート。また私の負けだよ。

エイスリン(ソレハ、チゲーヨ、スミレ。
 レンシューデ、イクラ、ワタシガ、カッテモ、スミレトノ、ショウブ、ナラ、サイショカラ、ツイテンダ。
 ハジメテ、ウッタ、アノ、タイキョク……アノトキ……)

               ――ロン、8000だッ!

エイスリン(イヌカレ、チマッタ。ウチヌカレ、チマッタ。
 スミレハ、コノマチデ、ハジメテ、ワタシニ、カッタ、アイテ。ワタシガ、ハジメテ、マケタ、アイテ。
 アア……ソウサ、ソウダヨ――!!)

    ――弘世菫だ。これからよろしくな、エイスリン=ウィッシュアート。

エイスリン(ホレタ、ワタシノ、マケダヨナ……ッ!!)

エイスリン「――リーチッ!!」

エイスリン(マクッテ、スミレニ、イイトコ、ミセル……!! ツイデニ、ナンバー、アゲテヤル!!
 カクゴ、シロヨ、ナンバー6……《マドー》――フクジミホコッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

美穂子(これはこれは……とても危険な感じですね。退いたら何もかも持っていかれそうです。なら――こちらも攻めるっ!!)

美穂子「チー!」タンッ

エイスリン(ズラサレタ――ケド、ソイツハ、ソーテー、ハンイナイッ!!)

美穂子「……ポンですっ!」タンッ

エイスリン(――! トバサレタ……!? マジカ、ミホコノヤロー、ムチャ、シヤガッテ……!!)

美穂子(もちろん、ただズラしたりツモを飛ばしたりするだけが目的ではありませんよ……! 無茶と無謀は違います。点数は低いですが、こちらも張りました――!!)ゴッ

エイスリン(ッ――コノカンジ、テンパイ、シテヤガル……!? アリエネーダロッ!!)タンッ

美穂子(さあ、捲り合いといきましょう――!!)タンッ

エイスリン(ハハッ……コイツ、マジ、ツエーヨ! ットニ、カナワネーナ……!!)タンッ

美穂子(ウィッシュアートさんの支配からは恐らく逃れた。ここからは純粋な古典確率論での捲り合い。無能力者の私でも、十分に勝機はあるはずです……!!)タンッ

エイスリン(……ッ!?)ピクッ

美穂子(ツモを見てウィッシュアートさんの手が止まった?)

エイスリン(スミレ、ワリー……)フゥ

美穂子(ここで直撃なら言うことはありませんが――)

エイスリン(コーハンセンハ、キット、カツカラヨ――ッ!!)

エイスリン「ツモ、700・1300」パラララ

美穂子(……っ!?)

『先鋒戦前半終了おおー!!』

美穂子(先を越されましたか。良形平和の三面張。安めで済んだのは幸いでしょう。ズラせなければどうなっていたことやら。
 しかし……こうもギリギリの勝負が後半戦も続くとなると、何かの弾みで上を行かれる可能性がありますね。後のことを考えれば、ここで《劫初》をできるだけ引き離しておきたい。
 これは……いよいよ私も賭けに出るしかありませんか……)

 一位:福路美穂子・+11200(豊穣・111200)

エイスリン(コレイジョウ、ハナサレル、ワケニハ、イカネー。ドーニカシテ、ヘコマセル……!!)

 二位:エイスリン=ウィッシュアート・+6500(劫初・106500)

桃子(終始ペースを握られっぱなしっすか。けど、プラスはプラス。どんな手を使ってでもいい……後半戦で巻き返しっす!!)

 三位:東横桃子・+2600(煌星・102600)

泉(これは――これはやべーっす! どえらいやべーっすわ! くっ、後半戦こそ……!!)

 四位:二条泉・-20300(逢天・79700)

 ――――

 ――観戦室

塞「うわーっ!? 届かなかったかぁー……」

照「惜しかった」

ネリー「まっ、これも運命なんだよ!」

やえ「ひとまず、前半戦は妥当な結果か。順位だけ見ればな」

塞「どういうことよ?」

照「《煌星》の東横さん」

塞「消えるってやつ? けど、前半戦は能力使えてなかったわよね」

やえ「よく点数を見ろ、臼沢。能力を使ってない能力者が、しかも一年のひよっ子が、全力の《一桁ナンバー》二人を相手にプラス収支だぞ」

ネリー「二回戦の牌譜は見たけど、《煌星》の人たち、合宿の頃に比べるとのきなみ強くなってるよねー」

照「咲は元から強いけど?」

塞「まあ……確かに、あの東横ってのは、《逢天》の一年と比べると、頑張ってるほうかなーとは思うけど」

やえ「ちなみに、合同合宿のとき、初日に東風の個人戦をしたが、そのときの結果でいうと、東横は、《煌星》の一年の中では四番手だった」

ネリー「二番手と三番手のあわいとさきは力を温存してのそれだから、ももこは《煌星》の一年生で断トツ最下位ってことになると思う」

照「なかなかになかなか」

塞「じゃ、じゃあ……なに? 《煌星》の一年四天王ってのは、最弱でもエイスリンや福路相手にぼちぼち戦えるってわけ?」

やえ「ぼちぼち程度で済めばいいけどな。後半戦は東横が本格的に《ステルスモード》に入る。まだ結果はわからんぞ」

塞「そ、それでもエイスリンと福路が負けることはないでしょ? なんたって《一桁ナンバー》よ、《一桁ナンバー》」

ネリー「それはそうなんだけどね~」

やえ「《煌星》の連中が本気で優勝するつもりなら、当然勝つつもりなんだろうよ。
 《一桁ナンバー》だろうと、《塞王》だろうと、学園都市の《頂点》だろうとな」

照「私は負けないけどね」

塞「わ、私もよっ!?」

『先鋒戦後半、まもなく開始ですっ!!』

ネリー「うわ……これはまた凄まじい」

やえ「どうかしたか、ネリー?」

ネリー「私の耳が正しければ、荒れるんだよ。この後半戦」

塞「恐いこと言わないでよ!?」

照「ウィッシュアートさんと福路さんは、前半戦よりさらに強く攻めに出る。東横さんは能力を使い始める。前半戦より不安定な場になるのは確か」

やえ「はてさて。勝利の女神は誰に微笑むのやら……」

 ――――

 ――対局室

エイスリン「(カチ、イガイ、イラネーッ!!)ヨロシク♪」

 西家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・106500)

美穂子「(後半も勝たせていただきます)よろしくお願いします」

 南家:福路美穂子(豊穣・111200)

泉「(どうにか勝ったる!!)よろしくお願いしますっ!!」

 東家:二条泉(逢天・79700)

桃子「(勝ちにいくっすよ……!!)よろしくっす!!」

 北家:東横桃子(煌星・102600)

『先鋒戦後半――開始です!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回は一週間以内に更新します。

では、失礼しました。

 ――《豊穣》控え室

竜華「後半か……前半のようにいけばええけど」

尭深「福路先輩は、恐らく前半の結果を良しとしていません。同じ展開にはならないと思います」

霞「東横さんも《ステルスモード》に入るわけだしね」

宥「霞ちゃん、さっきから随分東横さんを気にしてるけど、何かあった?」

霞「何かって……宥ちゃん、あの子、能力を使わずに前半戦をプラスで終えたのよ? 警戒するなというほうが無理だわ」

竜華「せやなー。《一桁ナンバー》の三年と卓を囲んだら、さっきの泉みたいにボコられるんが、大半の一年生の末路やもん」

尭深「東横さんは、実際、二回戦では、荒川さんと《最愛》の藤原先輩相手に、最後の振り込みまではプラスでしたからね」

宥「けど……東横さんって、確か、《煌星》の一年生の中ではまだまだな子だったよね?
 合宿のときは、《流星群》の森垣さんが一番アベレージが高かったような」

霞「あの頃と今と……あの子たちがどれだけ変わったのか。私たちはまだ完全には把握できてないわ。
 二回戦は相手が相手だったし、一回戦は流している感じだったからね」

尭深「福路先輩は……気付いていますかね」

霞「気付いてはいると思う。それに、もし仮に気付いていなくとも、すぐに気付くことになるわ」

宥「霞ちゃん? それってどういう――」

     桃子『ロンっす、5200』

     泉『は、はい……』

     エイスリン『!!?』

宥「えっ、東横さん……?」

竜華「門前で先制したやと? ウィッシュアートの支配はどうした?」

尭深「《ステルスモード》に入ると平均テンパイ速度が若干上がるのはわかっていましたけど、これは――」

霞「捨て牌と手牌が『見えない』ということは、美穂子ちゃんの《磨道》から逃れられるということ。
 そして、ウィッシュアートさんの表情を見る限り……彼女、どうやら《一枚絵》の世界からも抜け出しているみたい」

竜華「東横の《ステルス》は、ウィッシュアートの《一枚絵》を《無効化》できるっちゅーんか? レベル差に関係なく?」

霞「細かいことは私にもわからないけれど、世界には色々な能力があるし、そんな不思議があってもおかしくはないのかも」

竜華「はー……能力の相性ってわからへんもんやなぁ」

宥「じゃあ、東横さんは、美穂子ちゃんの《磨道》ともウィッシュアートさんの《最多》とも、かなり相性がいい、ってことになるよね?」

尭深「今の和了りを見る限りではそのようです」

霞「まあ……東横さんの《ステルス》は、あの利仙ちゃんでもツモで削るくらいの対策しか取れていなかった。
 能力そのものを真正面から攻略できるのは、たぶん、原村さんっていう例外を除けば、あの《三人》だけでしょうね」

竜華「宮永照、荒川憩、辻垣内智葉か」

宥「美穂子ちゃん、大丈夫かな……?」

霞「大丈夫は大丈夫だと思うわ。捨て牌と手牌が見えなくなる程度なら」

     桃子『……リーチ……』

尭深「これ……対局室の三人には聞こえてないんでしょうね」

竜華「せやろな。合宿のときに散々体験したわ」

宥「ふ、振り込まなければいいけど……」

霞「東横さんの下家に座らなかっただけマシね。上家に合わせていれば、ひとまず振り込むことはない」

     美穂子『ポン』タンッ

竜華「ん……美穂子のやつ、なんか妙なとこ鳴いたな」

 美穂子手牌:一二五六2478⑥白/(五)[五]五 捨て:八 ドラ:九

尭深「東横さんのリーチを警戒して速度を上げてきた? いや……でも、678の三色を見切ってますし、断ヤオを狙うなら一萬から切るはず。手を進めるための鳴きではなさそうですね」

竜華「東横警戒でオリるだけなら、上家に合わせて五萬を連打すればええのに、その五萬をあろうことかポン。これはひょっとして――」

宥「ああっ……! そっか、これ!?」

霞「あらあら、美穂子ちゃん。さては私以上に東横さんを警戒しているのね。直に打つと、こちらから見ている以上の脅威を感じるってことなのかしら」

尭深「どういうことですか、石戸先輩?」

霞「見ていればわかるわ。きっとびっくりするわよ。美穂子ちゃん、これから信じられないようなことするから。
 本当、相手は一年生だっていうのに……《一桁ナンバー》の三年生が親番でやるようなことじゃないでしょう、そんな――」

宥・竜華「やっぱり……っ!!」

     エイスリン『ロ、ロン……1000!』

     美穂子『はい』

     桃子『――ッ!!?』

竜華「大人げなーっ!? せやけど、めちゃすごー!!」

尭深「この差し込みは……芸術の域ですね」

宥「ほあああ……」

 東家・美穂子手牌:一二六2478③⑥白/(五)[五]五 捨て:五 ドラ:九

 南家・エイスリン手牌:一二三六七八八678⑥⑦⑧ ロン:五 ドラ:九

 西家・桃子手牌:九九123678④[⑤]⑦⑧⑨ ドラ:九

霞「ウィッシュアートさんが平和をテンパイしているとアタリをつけて、二条さんが五萬切りしたときの彼女の微妙な表情の変化を読んだ――ってところかしら。《アナログ読み》が得意な美穂子ちゃんらしいわね。
 ウィッシュアートさんの河には二萬が見えていたから、五・八萬を切り出していくことにした。
 それなら、五萬が通った直後だし、東横さんに振り込む確率はぐっと下がる。何より、この差し込みのすごいところは――」

竜華「東横の上家に座っとるウィッシュアートに差し込んだ、っちゅーのがヤバいな。あの席順やと、ウィッシュアートはダマでも常にフリテンの危険が付き纏う。あいつはそもそも出和了りができひんねん。
 せやけど、美穂子のポンと、捨て牌、それにドラ表示牌で、五・八萬が出尽くした。美穂子の差し込んだ五萬は最後の和了り牌や。ほな、フリテンになるわけがない。
 さらにさらに、美穂子は678の三色を外すために、八萬、五萬の順で切っとる。泉が五萬切って同巡フリテンになっとるから、ウィッシュアートはイチかバチかで高めを出和了りすることもできひんかったわけやな」

宥「差し込みの技術もそうだけど……美穂子ちゃんは、あのバラバラの手牌を見て、直撃と親っ被りの危険を冒すより、親番と千点を捨てることのほうが期待値が高いって踏んだ。私は、その思い切りがすごいと思うな……」

尭深「全てがすごいと思います……。これが白糸台に九人しかいない《一桁ナンバー》。あの弘世先輩でも超えられなかった壁の向こう側の世界……」

霞「まあ、とにかく、これでひとまず安心ね。私たちがあれこれ言うまでもなかったわ」

竜華「まあ……うちらん中で一番視野が広いんが、美穂子やからな。うちらに見えて、あいつに見えへんことなんてあらへんやろ」

尭深「なんというか、敵である東横さんよりも、私は味方の福路先輩のほうが恐くなってきました。宮永先輩や弘世先輩も恐かったですが」

宥「どういうこと……?」

霞「宥ちゃん、今さっき自分で言ってたでしょ。美穂子ちゃんは、『直撃と親っ被りの危険を冒すより、親番と千点を捨てることのほうが期待値が高いって踏んだ』って」

竜華「要するに、こっからが本番ってことや。ウィッシュアートも、東横も、泉も……全員まとめてぶっちぎるつもりなんやろ」

尭深「親番で稼ぐ予定だった点棒、それに差し込みの千点もこみこみで、終局までに全てを奪い返す――その目測が立ったからこそ、福路先輩は、今の一局、ウィッシュアート先輩に和了りを譲ったんです」

宥「じゃあ、美穂子ちゃん、ここで……っ!」

霞「そのようね。見て、ようやく《磨道》の本領発揮――美穂子ちゃんが開眼するわよ……!」

 ――――

 ――対局室

 東三局・親:エイスリン

美穂子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:福路美穂子(豊穣・110200)

泉(《磨道》開眼……!? さっきあんな化け物みたいな読みしといて、まだ上があるんかこの人――!!)

 西家:二条泉(逢天・74500)

桃子(そ……それでも、私のことは見えないはずっす……!! だからこその差し込みだったわけで。片目さん――もとい両目さん。警戒はするっすけど、おっぱいさんやナースさんみたいなことはない……まだまだ攻めるっす!!)

 南家:東横桃子(煌星・106800)

エイスリン(アイカワラズ、キレーナ、オメメ、ダコト! ツーカ、ソレ、ツマリ、タダ、メヲアケタ、ダケジャネーカ……!!)タンッ

 東家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・108500)

美穂子「ロン――」パラララ

泉(は?)

桃子(ちょ)

美穂子「――3900です」ゴッ

エイスリン(ニ……ニジュンメ――!?)ゾワッ

泉(積み込みかー!? 自動卓やけどーっ!!)

桃子(え、えっと……両目さんは一度しかツモってなくて、その直後、二巡目に親の天使さんから和了った。つまり、一巡目からテンパイしていた……。ダブリーかけてツモろうとか、そういう欲はないっすか!?)

美穂子(ここでダブリーをかけて和了れるなど、そんな思い上がりは、無能力者と断定された時点でとうに捨てています。
 何がどういう理屈で私にこんな手が入ったのかは後から考えるとして、ひとまず、これで差し込みの分は利子込みで返していただきました……)

エイスリン(オイオイオイ……!?)

美穂子(あとは親番で稼ぐはずだった分。これも利子つきで……きっちり返してもらいますよ――ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン(チョット、シャレニ、ナラネーゾ、コレハ……!!)

桃子(よ、よくわかんないけど止めるっす!!)

泉(さっきからテンパイが遠過ぎるわーっ!!)

泉:74500 美穂子:114100 エイスリン:104600 桃子:106800

 ――《劫初》控え室

菫「ウィッシュアートの能力が機能不全を起こしている……!?」

智葉「マズいな。この上なくマズい」

憩「二条さんと福路さんは無能力者《レベル0》やから、原因は……どう考えても《ステルス》さんやんな」

衣「姿が見えないというアレか? しかし、えいすりんは一昨日、色のない《神風》を捉えていたのだぞ?」

智葉「無色透明と暗黒は全くの別物だ。透明なら自由に色をつけることもできよう。だが……暗黒はあらゆる色彩を呑み込む」

憩「衣ちゃんが言うた、全体効果系能力を扱うコツ。断片の把握と、それらを俯瞰的に扱う構成力――ここに問題が起きとんねんな。
 抽象的な言い方をするなら、エイさんは対戦相手を『色』、ほんでもって、牌譜を『絵』と捉えとる。そこに、真っ黒な闇が入り込んできたっちゅーわけや」

菫「それは――」

智葉「最悪の場合……ウィッシュアートの《一枚絵》全体が、その闇に呑まれている可能性もある」

衣「……そう言えば、衣も似たような経験がある。いつかの合同練習……《鶴賀》のかおりとか言ったか。あの初心者と打ったとき――衣は海底で国士無双に振り込んだ」

憩「《一向聴地獄》も《掌握》も《満月》も、まとめてパーにされたあの奇跡の一撃か。ま、衣ちゃん、初心者と打つんは初めてやもんな。そら想定外の事態も起こるわ」

智葉「私は常々思っているが、わけがわからんものほど、恐ろしいものはない」

菫「し、しかし、ウィッシュアートに把握できていないのは東横一人なのだろう? なぜそれだけで、あいつの能力がこうも容易く掻き消されてしまうんだ……?」

智葉「菫、お前は冗談だけじゃなく、芸術も解さないのか?」

菫「失敬な――と言いたいところだが、正直、私は弓と麻雀以外は門外漢だ……」

智葉「まあ、私も言うほど詳しいわけではないがな。そう――言うなれば『画竜点睛を欠く』ってことだ。或いは『蛇足』のほうが近いか」

菫「どういうことだ?」

智葉「絵画ってのはな、部分部分に分けられるもんじゃないんだよ。全体で一つの完成品なんだ。
 だから、他がどんなに完璧であろうと、隅っこに染みが一つつくだけで、それは芸術品としての価値を根本から失ってしまう」

菫「あ……」

衣「全体効果系能力の最大の弱点だな。己の手の内に収まらない相手が一人でもいると……それが全てに影響を与えてしまう」

憩「まあ、能力が機能不全を起こすくらいやったら、ええ経験になったーで済むんやけど。いかんせん、今あっこには《磨道》さんがおる」

智葉「万全の状態だった前半戦でさえ、稼ぎ負けた。もし能力が使い物にならなくなったら果たしてどうなるか。しかも、今の福路は開眼している」

衣「前半戦の均衡……あれを、《磨道》が《最多》たるえいすりんを抑え込んだ結果と見る者もいるだろう。
 だが、衣はそうは思わない。あれは、えいすりんが《磨道》を抑え込んだ結果だ。ゆえに、前半戦は大差がつくに至らなかった」

菫「ウィッシュアートの能力が失われて……福路が野放しになるわけか……!!」

憩「加えて、あの様子やと、《磨道》さん的には、《ステルス》さんの存在はさほど苦にならんようですね……」

     美穂子『ロン、8000』

     泉『……!!』

菫「上家から出和了り……!? フリテンが恐くないのか!!」

憩「恐がっとると思いますよ。やからこそ、福路さんはダマで通して、今なんかは、中単騎で和了ったわけですね」

衣「字牌単騎なら、和了り牌は最大で三枚しかない。ゆえに、中盤以降で出てくるとしたら、その多くはツモ切り、或いは、対子や暗刻で抱えていたものを安牌として落とすときだな。
 今の場合は前者だった。中は、序盤にえいすりんが一枚切っていたから、《磨道》から見て、所在のわからない和了り牌は残り二枚。同巡フリテンになる確率はゼロではないが、かなり低いだろう」

憩「さらに言うと、振り込みと鳴きを考慮に入れへん《ステルス》さんは、浮いとる字牌を序盤に切ることが多いっちゅー傾向も、踏まえとると思います。実際、エイさんが中切った直後に、東横さんは手出しで中を切ってます」

菫「なるほど……」

憩「いや、けど、これはホンマにすごいですよ。福路さんは東横さんのこと……相当研究してはりますね。
 東横さんの平均テンパイ速度を押し引きの参考にしつつ、基本はツモ和了り。手牌によっては出和了りも視野に入れて、局ごとにほぼ最適な手を作ってますわ」

智葉「磨励に磨琢を重ねた《磨道》――錬磨にして百戦危うからず」

     桃子『……リーチっす!』

衣「えいすりんが何もできないままだと、《磨道》を止められるのはあの闇色だけということになるが――」

     美穂子『リーチです』

憩「ほえー!?」

智葉「これは――」

     美穂子『ロンです……7700』

     エイスリン『ナッ――!?』

     桃子『ちょ……!!』

菫「な、何がどうなっている……? ウィッシュアートから和了れる確信があったのか?」

智葉「どうだろうな。福路から見てウィッシュアートは下家。ダマならいつでも出和了りできるのだから、あいつを狙いたいだけならダマで待つ。
 リーチを掛けてきた第一の目的は、打点を上げることだろう」

衣「あの多面張なら、リーチからのツモ狙いで稼ぎに来るのはわかる。だが、いくらなんでも、一発でもないのにえいすりんから出和了りを取るのは正気の沙汰ではないだろう。フリテンになったらどうするつもりなのか」

憩「もちろんそやで……! いや、けど、これは……!! いやいや嘘やん……!? そっか、これ、あかんやつや!!」

菫「どうした?」

憩「福路さん……あの人、チョンボを払ってもええくらいの覚悟で打ってます。エイさんの能力がおかしくなったんを見て……『この先鋒戦で試合を決める』っちゅー結論に行き着いたんですわ」

菫「バカな……あの冷静な福路が、そんな暴走を――!?」

智葉「……冷静だからこそ、暴走しているんだろうな。あいつは《豊穣》で唯一の《一桁ナンバー》。押しも押されぬ不動のエース。
 本気で私たちに勝つつもりなら、ウィッシュアートが揺らいだこの機を逃すはずがない」

菫「いや、しかし、福路は無能力者。ウィッシュアートや天江とは違う。無限に和了り続けることは不可能のはず……!!」

憩「菫さん、その思考はあきまへん。それは自力でどうにかするんを諦めた人の考え方や」

菫「す、すまん……気が動転して……!!」

智葉「落ち着けよ、菫。お前の選んだ仲間をお前が信じてやらんでどうする。あれはここで福路に負けるような弱い雀士なのか? 能力を失ったくらいで敗北に甘んじるような愚図なのか?
 なら……いっそ過去に戻ってこい。そして、ウィッシュアートではなく福路に声をかけてくるんだな」

菫「…………悪かった」

衣「そう消沈するな、すみれ。ここでえいすりんが大敗を喫するのなら、それはそれで喜ばしいことではないか。
 この対局を終えたとき……えいすりんはきっとさらに強くなっているぞ。衣は今から楽しみでならないっ!」

菫「っとに、お前は……」

憩「菫さん、なーんも心配することなんてありませんよ。たとえエイさんがコケて、菫さんがコケて、ガイトさんがやらかして、衣ちゃんがコケても……なんも心配要らへん。ウチがなんとでもしますから」

菫「あ、荒川……?」

憩「やってそうでしょう? この三回戦に宮永照はおらん。ほな、この三回戦の《頂点》はウチや。
 たとえガイトさんや衣ちゃんが敵におったとしても、それは変わらへんし揺らがへん」

菫「それはそうだが――」

憩「なら、それでええやないですか。ウチは学園都市のナンバー2。誰が相手やろうと決して負けませんよ。ウチが負けるのは、ただ一人、宮永照だけですから……」

菫「…………」

憩「菫さん。どんなことがあっても、ウチは菫さんの味方で、最強の切り札です。菫さんは、ただ宮永照のことだけを考えとったらええんです。
 それ以外のアレコレは、ぜーんぶウチが片付けときますわ。やから心配無用。わかりましたか?」

菫「ああ……わかったよ。痛感した。私が、リーダーとして、いかに不甲斐ない人間かを……!!」

憩「もーっ、菫さんってば自分に厳し過ぎますわー!!」

菫「性分なもんでな」

憩「……ははっ、それ、前に別の人も同じこと言うてましたわ」

菫「だとしたら、そいつは相当な負けず嫌いだと思うぞ。私に似てな」

憩「確かに、お二人はよう似てますわ。似てほしくないとこまで、ぴったりそっくり」

菫「……?」

     美穂子『ツモ、1300オールッ!!』

智葉「……と、これで福路の四連続和了。《最多》の大能力者が聞いて呆れる。さっさとどうにかせんか、あの似非天使が……!!」

衣「《磨道》の……まさに執念。何がそこまであの者の心を焦がすのか――!?」

憩「ほな、菫さんっ! 応援しましょーぅ!! っちゅーか、もっと楽しみましょーよー。あんな悔しそうなエイさん、練習でもなかなか見れへんですやん! ホンマ貴重やわー」

菫「そ、そういう視点では見れないが……。と、とにかく頑張れっ! ウィッシュアート……お前ならできる――!!」

 ――――

 ――対局室

 南二局一本場・親:美穂子

エイスリン(スミレ――!! ワカッテル……《サイタ》ノ、ナニ、カケテ、ミホコノ、ヤローニハ、コレイジョウ、アガラセヤ、シネーヨッ!!)タンッ

 南家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・95600)

桃子(落ち着くっす。点差に惑わされるなっす。おっぱいさんの言葉を借りるなら……こんなのは一時の運。
 開眼したからパワーアップとかSOAっす。私は私の打ち方を貫くっすよ……!!)ユラッ

 西家:東横桃子(煌星・104500)

泉(や……やべーっす……!!)グルグル

 北家:二条泉(逢天・65200)

美穂子(ふう……我ながら、恐いくらいの引きの良さですね。無論、有意水準の内側の、単なる見かけ上の偏りであることは理解しています。私は私を弁えているつもりです……)

 東家:福路美穂子(豊穣・134700)

美穂子(だって、私はどんなに強くなっても、たとえ《頂点》に立っても……最高で最強の雀士にはなれないのですから。そうですよね……?)タンッ

美穂子(私は……もう二度と、無様な闘牌はしないと誓いました。弱い心に左右されないよう、技術を磨こうと決めました。
 全ては私に勝ったあの人のため……! あの人のために、私は学園都市の《頂点》に立つ……!!)タンッ

美穂子「リーチですッ!!」ゴッ

エイスリン・桃子・泉「っ……!?」ゾワッ

美穂子(それが……私があなたにできる唯一のこと。そうですよね……上埜さん――)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――三年前・インターミドル

『決まりましたー!! Cブロック三回戦――接戦を制し準決勝に駒を進めたのは……上埜久選手です!!』

久「お疲れ様。あなた、なかなかやるじゃない。いい勉強になったわ」

美穂子「いえ、私のほうこそ……! あの――今日はありがとうございましたっ!」

久「お礼を言いたいのはこっちよ。あなたみたいな強い人と打てて楽しかったわ。しかも勝っちゃったし。最高の気分♪」

美穂子「つ、次は負けません……たぶんっ!」

久「そうね、次やったらどうなることやら。って、あら?」

美穂子「な、なにか……?」

久「その右目……どうしてすぐ閉じちゃうの? とっても綺麗なのに」

美穂子「き、きれい……っ!?」

久「知ってる? 青いサファイアは赤いルビーと同じ素材の宝石なのよ」

美穂子「し……知りませんでした……//////」

久「じゃ、また機会があれば打ちましょう」

美穂子「あ、あの――!!」

久「?」

美穂子「その……頑張って下さい。準決勝……応援しています……!!」

久「ありがと、頑張るわ。あなたのためにもねっ!」

美穂子「わっ……そんな……/////」

久「大丈夫? 顔真っ赤だけど? もしかして熱でも――」ピタッ

美穂子「だ、大丈夫れすっ!! し、失礼しましたー!!」ダッダッダッ

 ――――

 ――――

美穂子「え――? ま、待ってください……それは……。あの、も、申し訳ありません。もう一度よろしいでしょうか……?」

「……先程、上埜久選手が諸事情で棄権されました。ルール上、二位の福路選手が繰り上げで準決勝進出ということになります。
 あとは、福路選手の意思次第となりますが……いかがなさいますか?」

美穂子「上埜さ――上埜選手は、今どちらに?」

「詳しいことは申し上げられませんが……上埜選手は既に会場を出られました」

美穂子「そんな……」

「……いかがなさいますか?」

美穂子「私……私は――」

 ――――

 ――――

『準決勝決着ーっ!! 上位三人の息詰る攻防戦、制したのはやはりこの人――!!』

美穂子(最下位……断ラス……!? そんな、私……上埜さん……)

利仙「(今一歩……いや、二歩三歩ですかね、及ばずでした。しかし、目的は果たしましたからよしとしましょう。
 くぅー! やっぱり生のいちごちゃんは格別に可愛かったですねっ! ボコボコに削られて涙目になるのがまた心苦しくも心躍るーっ!!)
 お疲れ様です。事情はお聞きしていますよ。できることなら、万全のあなたと戦ってみたかったです、福路美穂子さん」

美穂子「ふ……藤原利仙さん、でしたか。申し訳ありません。気の抜けた闘牌で……皆さんの勝負に水を差してしまって……」

利仙「お気になさらず。福路さんほどの雀士ならともかく、今の私では、何度打ってもあのお二人には敵わなかったでしょう。私はここまで来れただけで満足です」

美穂子「お気遣い……ありがとうございます」

利仙「また、どこかでお会いしましょう。そう……学園都市ででも」

美穂子「学園都市……白糸台のことですか……?」

利仙「ええ。インターミドルで活躍した選手の多くは、白糸台高校からお声が掛かると聞きます。私はいちごちゃ――気になる人が、進路を白糸台にしているそうなので、追い駆けるつもりでいます。
 福路さんはいかがですか? 三回戦の牌譜を見ましたが、あなたほどの雀士なら、推薦入試でも特殊入試でも合格できると思いますが……」

美穂子「私は――」ハッ

利仙「?」

美穂子(学園都市……そこでなら、もう一度上埜さんに会えるかも――!!)

利仙「福路さん……?」

美穂子「あ、あの……藤原さんは、学園都市についてお詳しいんですか?」

利仙「ええ。受験対策もばっちりです」

美穂子「その……私も、学園都市――白糸台高校、受けようと思います。よろしければ、この後、少しお話を伺えないでしょうか?」

利仙「そうですね……決勝を観戦しながらでよければ」

美穂子「ありがとうございます!」

 ――――

 ――二年前・春・白糸台校舎

美穂子(学園都市……本当に、来てしまいました……)

美穂子(二軍《セカンドクラス》の一年生の名簿に目を通しましたが、上埜さんの名前はどこにもありませんでしたね。同名の方なら、うちのクラスにいましたけれど……)

美穂子(上埜さん……上埜さんに会って、私はなんと言うつもりなんでしょうか。あんな……あんな無様な闘牌をしておいて……!)

美穂子(上埜さんも、きっとがっかりしたでしょう。自分の代わりに準決勝に出た雀士があんな体たらくでは。
 私は……上埜さんの活躍を踏みにじった。許して……くれないでしょうね……)

美穂子(上埜さん……ごめんなさい。私、きっと強くなってみせます。この白糸台で、誰よりも強くなって――今度こそ《頂点》に立ってみせます……!!)

美穂子(そして、いつか言ってやるんです。学園都市の《頂点》――白糸台高校麻雀部一万人の頂に上りつめたとき、『私より強い雀士がいる』と……!!)

美穂子(その人は……《悪待ち》が得意で、優しくて、美しくて――私の大好きな、世界で一番強い雀士なのだと!!)

美穂子(それが……あのインターミドルの準決勝で上埜さんの名を汚した……私にできる、唯一の贖罪です……)

洋榎「っちゅーことで!! ほな、一つよろしくです!! 新入生代表、一年一組、愛宕洋榎でしたーっ!!」ババーン

美穂子(入学式も終わりですか。このあとは……教室に移動。それから、自己紹介と諸連絡、放課後は自由参加のクラス内交流戦でしたか。
 五月のクラス対抗戦――今年からの試みだそうですね。そのメンバー編成のための交流戦なんだとか)

美穂子(私の麻雀がどこまで通用するか。腕が鳴ります……!!)ゴッ

 ――――

 ――――

美穂子(え――?)

久「竹井久です。よろしくお願いします」

美穂子(う……上埜さん――?)

 ――――

 ――放課後・クラス内交流戦

美穂子「あっ……あの、上埜さ――」

洋榎「ようーっ、竹井さーんっ! よかったらうちと打たへんかー!?」

久「愛宕洋榎さん、よね。入学式でも大暴れだった」

洋榎「それほどでもー! って、『も』ってなんや?」

久「去年のインターミドル。団体でも個人でも……あなた、大暴れだったじゃない。
 個人は決勝進出こそ逃したみたいだけどね。そうでしょう、かの有名な西の獣の一人――《姫虎》さん?」

洋榎「ほほう。このうちを関西最強と知って対局をオッケーしたんか? 自分……どこの誰や、名を名乗れッ!」ドーン

久「いや、あなたさっき竹井って呼んできたでしょ……?
 ま、これでも去年のインターミドルは個人でいいところまで行ったのよ。あなたとは反対側だったけどね」

洋榎「そーなん? おっかしーな、去年のインターミドルの個人は、準決勝の面子まできっちりチェックしたはずなんやけどなー」

久「それはそれはザルなチェックだこと。関西最強さんの目は節穴なのかしら? 決勝進出を逃すのも納得だわ」

洋榎「おおーぅ? わかったわかった。自分、よーっぽどうちの強さを体感したいらしいな?
 ええで。軽ーくカツーンと勝つつもりやったけど、ちゃんとそのドタマに残るよう、重ーくガツーンと勝たせてもらうわ!」ゴッ

久「それは楽しみ。で、他の面子はどうするの?」

洋榎「そやなー……ほな、あいつでどやっ!?」ビシッ

美穂子(っ――!)

哩「……なんや、さっきから煩かね。あと、人んこと指ば差すんはやめんしゃい」

洋榎「つれないことは言いっこなしやん、シローズぅ!」キャイヤイ

哩「きゃんきゃん鳴くな。ほんにやかましか小猫とね……」ハァ

洋榎「ああーんっ!? 誰が子猫ちゃんや! 確かにうちは可愛えけど、麻雀は太陽系最強やでっ!?」

哩「ハイハイ」

久「あと一人……か。ねえ、あの子なんてどう?」チラッ

美穂子(…………)

白望「ZZZZZ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

洋榎「ふむぅ……? 知らん顔やけど、なかなかオモロそーやん。竹井も見る目があるな? うちほどやないけど」

哩「あいは……小瀬川さんやったか。確かにインターミドルでは見たことなか人と」

洋榎「ほーれ、白いのっ! 寝とらんと起きーやっ! 打つで打つでー!!」ユッサユッサ

白望「うっ……? だ、誰……何? 今何時? っていうかダルいんだけど……」

洋榎「ほなっ! 対局ったら対局やー!!」

 ワイワイ ガヤガヤ

 ――――

 ――――

洋榎「なあー、クラス対抗戦のメンバーどーするー? うちは末原さんとかええと思うんやけどー」

哩「何言っとう。末原さんはもう自分のチームば組んどうやろ」

洋榎「横取りしようや~! 略奪愛しようや~!!」

哩「勝手にやっとれ。ああ、もう。洋榎では話にならん。二人はどうと?」

白望「ダルい……勝手にどーぞ……」グデー

哩「シロはそればっかやね……」

久「んー、うちのクラスだと、あの人がいいと思うけど……あの――そう! そこのあなたっ!!」

美穂子「っ!!」ビクッ

久「福路美穂子さんよね。初めましてっ!」

美穂子「……っ!?」

久「私、竹井久っていうの。よろし――って、ごめん、どうかした?」

美穂子「あ……いえ、その、なんでもありませんっ! えっと、は、初め……まして……」

久「大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど……?」

美穂子「い、いえ、そんなことは!! えっと、その、上――竹井さんたちは、クラス対抗戦、五人目はお決まりなんですか?」

洋榎「大募集中やで~♪」

美穂子「な……なら――! 私が入ってもよろしいでしょうか!?」

久「ちょうど今、こっちからその話をしようと思っていたところよ」

美穂子「願ってもない……!!」

哩「福路さん……やね? 私は白水哩と。よろしゅう」

美穂子「ぞ、存じております」

洋榎「やったら、当然うちのことも知っとるよなー?」

美穂子「もちろんです、愛宕洋榎さん!」

洋榎「せやろな。うちも自分のことは知っとるで、福路さん。お互いインターミドルでは一年の頃から常連やもんなー。
 去年は……なんや、ようわからんけど、ハライタでも起こしたん?」

美穂子「きょ、去年のあれは……その――」

久「?」

美穂子「しゅ、修行不足でした……! 私は……弱い。だから学園都市に来ました。もっと強くなるために……! ここで《頂点》に立つために――!!」

洋榎「おっ……! 銀河系最強の雀士であるうちを前にして、なかなかええ啖呵切るやん。見所あるで、自分」

美穂子「ま、負けませんよ……! 私は誰にも負けませんっ! 私に勝てる人は……この世にたった一人で十分です!!」

洋榎「ほう!? このうちがおると知ってナンバー1は諦めたか! わかっとるやん、福路さん。ますます見所あるで、自分っ!!」

哩「福路さん……? あんまりこんバカば付け上がらすようなことは言わんほうがよかよ?」

美穂子「い、いえ、別にそういうわけでは……。その、あっ、小瀬川さんも! よろしくお願いします。福路美穂子です」

白望「よろしくー……」

久「さあ、これで五人揃ったわね!! クラス対抗戦……やるからには優勝するわよっ!!」

洋榎「うちがおれば楽勝やろー!」

哩「そいはどうやろね。ド本命は二組やろ。あそこには去年のインターミドルのファイナリストの三人もおるけん」

美穂子「頑張りましょう。私、牌譜集めでもなんでもやりますっ!」

久「あらあら、そんな雑用は私がやるわよ。福路さんは麻雀に集中してちょーだい。期待してるわよー?」

美穂子「そ、そんな、私なんて……」

久「どうして? 福路さんは強いじゃない」

美穂子「わ、私は……あなたに――」

久「私?」

美穂子「な……なんでもありません。いつか、私が《頂点》に立ったときに、言わせていただきます」

久「ふーん? ま、よくわからないけど、お互い頑張りましょう。私たちはみんな、これからこの白糸台でずっと一緒に打つ仲間で、ライバルなんだから」

美穂子「そうですね……。あ、ところで、う――竹井さん」

久「なあに?」

美穂子「その……知っていますか? 青いサファイアと赤いルビー……二つは同じ素材の宝石なんですよ」

久「へっ? なーに、突然? 新手のジョーク? ぷふっ! 福路さん、しっかりしてそうに見えて、案外天然さんなのねっ!」

美穂子「あ……いえ、その……」

久「にしても、へえー、色は違うのに同じものなんだ。ためになること聞いちゃったわ。物知りなのね、福路さん」

美穂子「あ、あはは……それほどでも…………」

久「♪」

美穂子「……あの、竹井さん」

久「なにー、福路さん?」

美穂子「あっ、ご、ごめんなさい。なんでもなかったです」

久「えぇー? 変なのっ。けど、こんなに可愛いのに天然さんなんて、いいキャラしてるわね、福路さんって!」

美穂子「も、もうっ、竹井さんってば……////!」

美穂子(……いいんです、これで。上埜さんに謝罪するのは、私が《頂点》に立ってからにしましょう。
 それまでは……私と竹井さんは、学園都市で出会ったお友達。少し寂しいですけれど、《頂点》に立つまでの我慢です)

美穂子(見ていてください……!! いつか、いつか……もっともっと強くなって、私が証明してみせます――)

美穂子(上埜さん……あなたの最高と最強を――!!)ゴッ

久「じゃあっ、みんな! せっかくだから今日は遊びに行きましょうっ!! チーム結成祝いと必勝祈願よーっ!!」

 ワイワイ ガヤガヤ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

美穂子(あれから二年以上が経ちました。私は未だ、一度として、白糸台の《頂点》に立つことはできていません。上埜さんへの贖罪を果たせないまま、ここまで来てしまった……)

美穂子(今の私はナンバー6。ここが限界だとは思っていませんが、《頂点》に立つために超えなければいけない壁は、あまりに高い。
 特に上位の《三人》――中でも荒川さんは、全ての性能が私を上回っている上位互換とでも言うべき存在。そして、そんな荒川さんをも超える……宮永照――)

美穂子(けれど、チームなら……! 今の未熟な私でも、みんなの力を借りれば、《頂点》に立つことができるかもしれない……!! 一軍《レギュラー》だって立派な《頂点》なんですから!!
 もちろん、ナンバー1を諦めたわけではありませんけどね。なんて……こんな都合のいい考えはいけませんか? どうなんでしょう……上埜さん……)

美穂子(まあ……全ては、トーナメントで優勝してから、本人に聞けばよいことですよね。今、この場は、目の前の戦いに集中しましょう。
 《豊穣》のみんなのためにも、私自身のプライドのためにも……何より、上埜さんの名誉のために――)

美穂子(私は……勝たなければならないッ!!)ゴッ

美穂子「ツモです……!! 4100オールッ!!」パラララ

エイスリン(バッ――!?)

桃子(まだ止まらないっすか……!!)

泉(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい)

美穂子(上埜さん……決勝でお会いしましょうね――!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉:61100 美穂子:147000 エイスリン:91500 桃子:100400

半荘の途中ですが、ちょっと長いので分割させていただきます。

続きは明日か明後日には更新します。

ご覧いただきありがとうございました。

では、失礼しました。

 ――観戦室

塞「と、とんでもないことになってきたんだけど……?」

照「小走さん、一つ解説を」

やえ「いや、まあ……全て偶然だろ。そうでなきゃ――」

ネリー「《運命》なんだよ。全ては」

塞「宮永……こいつ本当にあんた以上の情報を持ってるわけ? 信用してよかったわけ?」

照「ま、まあ……小走さんは能力解析が専門で、福路さんは無能力者なわけだから仕方ないというか、私も、これは偶然だと思うし。
 あっ、それに、ウィッシュアートさんの能力と、東横さんの能力の衝突は、ばっちり解説してくれた」

塞「それはそうだったわね。いきなり嬉々としてパソコン弄り出したときは、かなりマッド入っててビビったわ」

ネリー「面白いよねー、やえの幻想殺し《イマジンブレイカー》。NPC《エイスリン》とNPC《ステルスモモ》を戦わせたら、現実と全く同じ状況になるんだもん」

やえ「伊達に金はかけてない」

塞「で、小走博士様はこの対局の今後をどう予想するわけよ」

やえ「まあ、さすがにここで試合が終わるということはあるまい。福路はよくも悪くも無能力者の《頂点》。無能力者の《特例》である荒川もそうだが、古典確率論に縛られている以上、連荘は遠からず止まる」

照「福路さんも、それはわかっていると思う。だからこそ、たとえ何万点差がついても、浮き足立ったり、崩れたりせずに、終局まで堅実に打ち切るはず」

塞「隙がないって恐ろしいわー……」

ネリー「ま、みほこは強いもんね。運命が味方してくれようとくれまいと、みほこは常に最善を尽くす。
 だから、もしみほこに勝とうとするなら、その誰かは、自分の限界を超えなくちゃいけないってことになるんだよ」

やえ「そもそもナンバー的には福路が本命なんだから、この結果は至極妥当なんだ。ウィッシュアートと東横のアレコレがあろうとなかろうと、な。
 それをひっくり返したいなら、ネリーの言うように、一瞬でも一点でもいい、磐石鉄板の《磨道》を貫く何かをやってのけるしかない。そして、あの場で一番その可能性を秘めているのは――」

塞「《ステルスモード》に入っているっていう、東横?」

やえ「あのな……臼沢。お前、自分で言ったんだろうが。あの場で福路の次に強いやつは誰だ」

塞「そりゃエイスリンでしょ!!」

やえ「そういうことだ。《十最》で最高位のナンバーを持つ《最多》の大能力者――《夢描く天使》……エイスリン=ウィッシュアート。
 たとえその力を失おうと、あいつが諦めない限り、あいつの幻想《ユメ》は終わらない」

照「全面的に同意」

ネリー「まっ、私はそれでもみほこ推しだけどねーっ!」

塞「エイスリン、ふぁいとぉー!!」

 ――対局室

 南二局二本場・親:美穂子

エイスリン(ボコスカ、ボコスカ、アガッテクレ、チャッテ、マァ!!)タンッ

 南家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・91500)

エイスリン(シカモ、アガルゴトニ、スキガ、ナクナッテ、イキヤガル。コンナン、ドーヤッテ、タオセ、ッツーノ……!!)タンッ

エイスリン(ノーリョク、ツカエネーシ。ツモ、ワリーシ。《ステルス》、ミエネーシ。ミホコ、パネーシ。マジデ、ドースッカナ――)タンッ

エイスリン(ミンナ、ナラ、コンナトキ、ドースンダロ。ヨシ! ノーナイニ、ヤツラヲ、ショーカンダッ!!)ポワワワ

衣(イメージ)『そもそも支配者たる衣が有象無象の下等生物などに遅れを取るわけがないっ!!』

憩(イメージ)『んー、とりあえず山牌の具合を見てから考えますわー』

智葉(イメージ)『くだらん。正面から斬り捨てればよかろう』

エイスリン(………………)

衣(イメージ)『どうした、えいすりん? なぜ無能力者などにてこずる道理がある? あんな塵芥ども、支配力で圧倒してしまえばイチコロだろうっ!』

憩(イメージ)『えー? 全然、一つ一つ違いますやん。ほら、例えばこれとこれ。こっちのほうが0.01ミリほど薄いのわかりますーぅ?
 あっ、これなんかわかりやすいですよ。横にエイさんの指紋がばっちりついとりますわー』

智葉(イメージ)『いいか? まず、刀は両手で持て。足は肩幅より少し広めに開き、半身になる。あとは簡単だな。人間はいつか必ず瞬きをする。その刹那のうちに、相手の間合いに踏み込み、首を刎ねるだけでいい』

エイスリン(ヤクニ、タタネーナ、アノ、ジンガイ、ドモッ!! ワタシハ、シハイリョク、ソンナニ、ナイ! ヤマハイ、ミエナイ!! ヒト、コロサナイ!
 ットニ……ツカエネー。ヤッパ、ココハ、スミレダナ! スミレナラ――!!)ポワワワ

菫(イメージ)『まず、弱気になってはいけない。心を強く持つのだ。そして、頑張る。全力を振り絞る。もうダメだ……などと思っているうちは、限界ではない。とにかく、最後の最後まで諦めないことだ!』

エイスリン(オオッ! ヤッパ、スミレハ、イイコト、イウゼ! デ! グタイテキニ、ドースルヨ!? ノーリョク、ツカエネー、ワタシガ、ドウヤッテ、ミホコヲ、タオス!?)

菫(イメージ)『それは、まあ、ケースバイケースというのか。私はお前ではないから、なんとも言えないが。まあ、死に物狂いで頭を使えば、妙案の一つや二つ自然と浮かんでくるだろう。だから……うん、頑張れ!!』

エイスリン(コンジョーロン、カヨ!! ミョーアン、ウカバネー、カラ、キイテンダロー、ガヨ!!
 ワタシダッテ、ガンバッテルヨ!! ケド、ウマク、イカネーカラ、コマッテン、ダローガー!!)

菫(イメージ)『頑張ってもうまくいかない……か。ま、そういうこともあるよな。というか、私の場合はそういうことばかりだ。どれだけ頑張っても敵わないやつがいる。
 逆に聞きたいくらいだ。私はどれだけ頑張れば、あいつを倒せるようになる?』

エイスリン(シラネーヨ!! ガンバリ、ツヅケリャ、イツカ、ドーニカ、ナルカモナッ!!)

菫(イメージ)『そういうことだ、ウィッシュアート。誰にだってうまくいかないことがある。思い通りにいかないことがある。
 これはなにも、麻雀に限ったことじゃないはずだ。例えば、お前、絵が描けなくなったときはないのか?』

エイスリン(……アルヨ。ナンカ、ナニ、カイテモ、ウマク、イカネー、トキ。キニ、イラネー、トキ。ペンヲ、ミルノモ、イヤニナル、トキ……)

菫(イメージ)『それでも何かを描きたいと思ったとき、お前はどうした?』

エイスリン(………………)

菫(イメージ)『とっくに答えは出ているのだろう? なにを私たちに相談する必要がある。大丈夫。私たちはお前を信じている。好きなように夢を描け、ウィッシュアート』

エイスリン(……エイスリン……)

菫(イメージ)『ん?』

エイスリン(ノーナイ、イメージ、クライ、チョットハ、デレテ、クレテ、イーダロ?)

菫(イメージ)『ああ、そういうことか。それがお前の望みならば、叶えよう』

エイスリン(イツモノ、タノムゼ、ノーナイ、スミレ!!)

菫(イメージ)『エイスリン……キミの瞳にシャープ☆シュートッ!!』キラッ

エイスリン(フォー! モーレツゥ!!)ビビクンッ

菫(イメージ)『ふふふ。こんな妄想をしていると本物の私にバレたら、お前、たぶんシャープシュート(物理)で殺されるぞ?』

エイスリン(……ホンモウ……ダヨ……)

菫(イメージ)『また困ったときは呼んでくれ。たとえ世界の裏側にいても、私はお前を助けに飛んでくる。では、さらばだ!!』キュピーン

エイスリン(アー……ヤッベ。ヒサシブリニ、ユメノ、セカイ、ダイブ、キメチマッタ……)

エイスリン(テカ、ソレ、ナンテ、ゲンジツ、トーヒ? バカ、イエ、ワタシハ、ユメミル、テンシ! ユメミル、カギリ、ワタシハ、マケネー!
 ダッテ、ワタシ! ユメヲ、ゲンジツニ、エガキダス、チカラ! モッテルカラッ!!)

エイスリン(ノーリョク、ネートキ、ユメ、カケネー? マックラ、ヤミニハ、ユメ、カケネー? チゲーダロ! チゲーヨナ!
 ワタシハ、イツデモ、ユメ、カケル! ワタシハ、ドコデモ、ユメ、カケル! ワタシハ、リソーヲ、オイ、カケル……!)

エイスリン(ダカラ、ワタシハ、ツエーンダ――ッ!!)ゴッ

エイスリン(カイテヤルヨ! イクラデモ! カイテカイテカキマクル!! ベソ、カイテ! ハジ、カイテ! モガイテ、アガイテ、ミットモナク!!
 ソースリャ、ウラモ、カケンダロ! ミホコノ、ネクビヲ、カケンダロッ!!)

エイスリン(パッチリ、リョーメデ、バッチリ、ミトケ……!! コレガ、ワタシノ、エガク、ユメ……!! コレガ、ワタシノ、ゼンリョクダ――ッ!!)

美穂子(なんでしょう……これ……? ウィッシュアートさんの捨て牌が妙――)ゾワッ

エイスリン「…………ツモ!! 4200・8200ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

美穂子(っ――!! 倍満ですか!? これは能力……? いや、違いますね。能力を使っているときのウィッシュアートさんの和了りは、もっと一本道。こんな、それこそ池田さんのような、複雑な張り替えはしない)

美穂子(私を削るためとはいえ、能力が使えない状態で、これほどの底力を発揮してくるとは。いえ、もちろん、そういうこともあるとは思っていましたけれど……)

美穂子(点差はおよそ三万。有効に使いましょう。ウィッシュアートさんには悪いですが、あなたにはもう、悪足掻きさえさせません――!!)

エイスリン(チットハ、ドーヨー、シロヨ、カワイクネーッ!! アー、モー、ワカッタヨ……!! マクッテ、ヤレバ、イインダロ!?
 ヤッテヤル……サイゴマデ、キィ、ヌクナヨ、ナンバー6――ッ!!)

泉:56900 美穂子:138800 エイスリン:108100 桃子:96200

 ――《劫初》控え室

菫「ウィッシュアート……!! よくやったッ!!」

憩「これは……池田さんと二回戦で当たっとったんが効を奏したんかな? いつも和了りへ一直線なエイさんらしからぬ、泥まみれな和了りやでー」

智葉「点棒は点棒だ。綺麗も汚いもない」

衣「これでえいすりんの親番。反撃のチャンスだっ!」

菫「そうだな! ウィッシュアート……頼むぞ――!!」

智葉「……熱くなっているところ悪いが、私は、これ以上あいつに福路をどうこうできるとは思えん。素の実力が違い過ぎる。ここから原点で帰ってくれば御の字だと思っていたほうがいい」

憩「片や磐石鉄板の無能力者、片や大能力の翼をもがれた瀕死の天使ですからね。今の一発が出ただけでも、拍手喝采もんの奮闘や。
 ホンマ、あんな飛車角金銀落ちみたいな状態で、よく福路さんに満貫級のダメージを与えられましたわー」

菫「お前らは鬼か」

智葉「だが事実だ」

憩「これが現実です」

衣「まだ終わったわけではない。結論を出すには早かろう」

菫「天江の言う通りだ。今のウィッシュアートがみすみす最後の親番を手放すわけが――」

     泉『ロ、ロンっ! えっと――2600です!!』

     美穂子『はい』

     エイスリン『……ッ!!』

菫「差し……込み――ッ!?」ゾッ

智葉「な?」

憩「これが福路さんですわ。《磨道》は《磨瞳》――丹誠なる鍛錬と丹念なる訓練によって磨き上げられたあの人の瞳に、死角はあらへん」

菫「そんな……」

憩「……ただ、ですわ」

衣「む。どうした、けい?」

憩「福路さんの《磨瞳》は、確かに隙がないように見えます。少なくとも、今のエイさんには太刀打ちできひんくらいには。
 せやけど……あの右目は、ウチの《悪魔の目》には及ばへん。そのことを、きっと、ウチと戦ったあの子は理解しているはずです」

菫「おい……それは、まさか――」

憩「《ステルスモモ》――あの子はまだ死んでません。ウチに凹まされてもメゲへんかったほどの図太い神経した一年生……このまま消えっぱなしの空気で終わるとは、ちょっと思えないですわ」

 ――対局室

 南四局・親:桃子

桃子(そこで差し込みとか、本当に両目さんは隙がないっすね。全力で打ってるのに、ミスらしいミスはしてないはずなのに、引き離される。
 白糸台の三年生……あの超新星さんや嶺上さんでも、一昨日は大苦戦していた)

 東家:東横桃子(煌星・96200)

桃子(まして、今私の目の前にいるのは、白糸台に九人しかいない《一桁ナンバー》。テンパイするのも大仕事っす。
 まあ、それくらい、練習でいくらでも体験したっすけどね……)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

桃子「ぬぎゃー! まーた一人沈みっすかーっ!!」ジャラジャラ

咲「今回は友香ちゃんがトップかぁ。私は《プラマイゼロ》で三位に滑り込むのがやっとだったよ」

友香「ツモがよかっただけでー」

淡「私がいる場で五巡目リーチだもんねっ。ユーカってば引き良過ぎー!」

桃子「うーっ、私だって五、六巡目でテンパイならたまにできるのにっすー。自牌干渉系はずるいっすー!」

淡「いや、桃子の能力のほうが断然ずるいから! 桃子がいるせいで角曲がってもツモしかできないっ!」

友香「私もツモ狙いしかできないんでー」

咲「私は和ちゃん直伝の桃子ちゃん破りがあるから、大明槓で直撃が取れるんだよね」エヘヘ

桃子「だあああ……私の独壇場が遠いっすー……!!」

煌「……桃子さん」

桃子「うぅー、なんっすかー……?」

煌「淡さんや咲さんや友香さんに――勝ちたいですか?」

淡・咲・友香「!?」

桃子「か、勝ちたいっすよ! これ以上ボコられるのはゴメンっす!!」

煌「なら、ここは一つ、こんな手を使ってみるのはいかがでしょう。先日、能力論の参考書で、感応系の章を読んでいたときに思いついたのですけれど――」ゴニョゴニョ

桃子「ふむふむ…………ああっ!! それは……言われてみればやったことないっす!! チャンスがあってもスルーしてた……けど、もし、きらめ先輩の言ったようになるのなら……!!」

煌「私なりに検討してみましたが、理論上は可能なはずです」

桃子「あ、ありがとうございますっす! 次……チャンスが来たら、やってみるっす!!」

煌「ええ。きっと、これは桃子さんの武器になってくれると思いますよ」

淡「えーっ!? キラメ! 一体桃子に何を吹き込んだのー!?」

煌「見てのお楽しみです」

桃子「ふっふっふっ……三人まとめて、私の必殺技の実験台になってもらうっすよー!!」

 ――――

 ――――

咲「ふわっ!? え――そんな、嘘……!!」

友香「これはびっくりでー……!!」

淡「いいっ! めちゃめちゃいいよ、モモコッ!!」キラキラ

煌「ひとまず、可能であることは確かめられましたね。すばらです」

桃子「わ……私がトップ! やったーっす!! ついに私の時代が来たっすねーっ!!」

煌「あとは使いこなすだけですよ、桃子さん。時と場合によっては相手にプラスに働くこともあります。今までやったことがないというなら尚更、使いどころは慎重に選ばねばなりません。
 幸い、うちにはエキスパートがいらっしゃいますし、私もできる限り参考資料を集めます。本選に間に合うよう頑張りましょう」

桃子「何から何までっす……! 必ずものにしてみせるっすよー!!」

淡「いいなぁ~、桃子ばっかり! キラメ! 私には何か必殺技ないのー!?」

友香「淡はダブリーカン裏以上のどんな必殺技を身につけるつもりでー……?」

咲「煌さん、私も必殺技ほしいですっ!」

桃子「嶺上さんは嶺上があるじゃないっすか……」

淡・咲「それとこれとは別なのっ!!」

煌「もちろん、何か思いついたらすぐに言いますよ。切り札は多いほどいいですからね。皆さんも、気付いたことがあれば、どしどし意見を出してください」

淡・咲・友香・桃子「はーい!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

桃子(現状は三位。しかも、一昨日大負けしたチームと、合同合宿のときから格上だとわかってるチームが、一位と二位にいる。決勝にいけなければ元も子もない。今やらずにいつやるっすか)

桃子(そもそも、好きなときに狙ってできるようなものじゃないっすからね。しかも、たとえ私にこんな裏技があるとバレても、対応できる人は限られる。
 きらめ先輩からはゴーサインが出てるっすから、出し惜しみする理由は一つもないっす。なら、一発かましてやるっすか……!!)

桃子(両目さんは恐ろしく強い。天使さんも、能力使えなくなったっぽいのに、両目さんの爆連荘を止めて原点復帰。さすが三年生は格が違うっす。
 ただ……別格の相手と戦うのは、何も今が初めてじゃない!!)

桃子(私は《煌星》の一年生でぶっちぎり最下位の四番手。あの三人に勝てるとしたらネト麻くらい。必殺技を身に着けた今でも、リアルでは十回に一回勝てればいいほう……)

桃子(これでも弱くはないって自負はあるっすけどね。ただ、弱くはないくらいじゃ、太刀打ちできない。だって、あの三人は明確に強いっすから。普通に今年の一年三強って言ってもいいくらいっすから。
 《原石》さんや《神風》のヤバ子さん、それにおっぱいさんや南浦のポニ子さんを考慮に入れても、私は、あの三人が今年の一年生の三強だと思うっす。
 要するに、二年後の《一桁ナンバー》最有力候補! 私は……そんな人たちと毎日打ってきたっす……!!)

桃子(十回に一回しか勝てない。なら……その一回を、ここに持ってくればいいだけの話っす! 相手は格上……全力で打っても最善を尽くしても勝てないのはナースさんで体験済み。けど、それでも勝ちたいと願うなら!!)

桃子(限界を……超えていけ――ッ!!)

桃子「リーチっす!!」ユラッ

 ――《劫初》控え室

     桃子『リーチっす!!』

衣「リーチ一通か。悪くはない。悪くはない、が」

菫「出和了りで7700。リーチ巡目と打点を見る限り、いつもの東横といったところか」

憩「《一桁ナンバー》の三年生二人を相手にいつも通りの打牌ができてるっちゅーだけでも、一年生としては十分やと思いますわ」

智葉「しかし、あの顔は、生意気にもここから逆転できると思っているやつの顔だな。何か……ここからひっくり返せる算段が――」ハッ

衣「――っ!? あやつ……そんな、一切の迷いなく!? あの手馴れ具合……さては二回戦では牙を隠していたな……!!」

菫「こ……こんなことが――!?」

智葉「……これは驚いたな。私か荒川以外でアレにまともな対応ができるのは、こちらのブロックには一人としていまい。福路も決して例外ではないぞ」

憩「まあ……玄ちゃんには無意味でしょうけどね。なるほどその手があったか。ほんで、偶然とは言え、このタイミングの良さ。やとするとエイさんのあれも……」フンフム

菫「あ、荒川?」

憩「いや、まあ、とにかく、かなりヤバイ感じですね。これはひょっとするとひょっとしますよ――」

 ――《豊穣》控え室

宥「み、美穂子ちゃんっ!!」ガタッ

竜華「……これはあかんかもな」

尭深「考えもしませんでした……こんなこと――」

霞「あの様子を見るに、これが初めて、というわけではないのでしょうね。きっと、練習で何度も試したに違いないわ……」

 ――《逢天》控え室

豊音「うわーそんなのってアリ!? ちょー思いつきもしないよー……!!」

透華「非常にいい判断ですの。東横桃子……やはりわたくしの目に狂いはなかったですわね」

玄「すごい……このギリギリの状況で、ここしかないってとこで、切り札を出してきた。
 格上が相手でも、点棒がマイナスでも、冷静さを失ってない。場の勢いに飲まれてテンパってる泉ちゃんとは雲泥の差」

小蒔「敵ながら感服の至りです! 私も見習わなければいけませんね……!!」

 ――観戦室

やえ「……なるほど、理屈は通っている。東横の支配領域《テリトリー》は、あいつが《触れた牌》。ならば、この応用法は非常に有効だ。
 まともに対応できるのは《三人》、或いは、能力的に松実玄か。いや、しかし、よく思いついたな」

ネリー「きっと、こんな裏技テクでどうにかしないとどうにもならないくらい、ももこの普段打ってる相手が圧倒的に強いんだろうね~」

照「まあ咲がいるくらいだから」

塞「う、嘘でしょ……? こんな、支配者《ランクS》でもなければ、大能力者《レベル4》ですらない、ただの一年が、こんな――」

ネリー「結果によっては、その認識を改めなきゃなんだよ。ももこはただの一年じゃない。その実力は……《一桁ナンバー》に匹敵するほどだってね」

やえ「ネリーの言う通りだな。そして、それ以上に恐るべきことがある」

塞「へ、へ……? これ以上何があるってのよ?」

照「裏」

塞「ドラ?」

やえ「バカ言ってないで考えてみろ、臼沢。ウィッシュアートの《一枚絵》が《ステルス》によって機能不全に陥ったこと。或いは、《磨瞳》の福路を出し抜くためにあるかのような技を東横が隠し持っていたこと。
 何もかもが上手くいき過ぎていると思わないか? 本当にこれは偶然の産物なのか? たまたま東横の能力がいい感じにハマっただけなのか?
 否――そうじゃないだろう。裏で糸を引いている『誰か』がいると見るべきだ」

塞「この展開が仕組まれたものだっていうの……? ナンバー7のエイスリンとその一つ上の福路を、一年使って同時に手玉に取るとか……どんな《怪物》が裏に潜んでるっつーのよ、あのチーム《煌星》は……」ゾクッ

 ――《煌星》控え室

淡「っしゃあー! ついに出たねー、モモコの必殺技が!」

煌「最高のタイミングでやってくれました。もうすばら以外の言葉が出てきません」スバラッ

淡「あれを初めてやられたときはホントびっくりしたよ! 何かしてくるってのはわかってたのにさ、わかってても、どーにもならなかった。キラメも厄介な武器を仕込んでくれちゃったもんだよ。ねっ、サッキー?」

咲「当たり前なんだけど、いざって時が来るまで全然気付けないからね、桃子ちゃんの《ステルス》。そりゃびっくりもするよ。あれはまさに必殺技。だって防ぎようがないもん」

友香「桃子はその能力の特性上、リーチはできても、他家の捨て牌を鳴くことはできない。けど、でーっ!!」

煌「たった一つだけ、他家の捨て牌に頼らず、且つ誰にも気付かれず、《ステルスモード》で鳴く手段があるんですね。
 桃子さんのマイナスの気配は……手牌や捨て牌を巻き込むだけではありません」

淡「モモコが《触れた牌》――その全てがモモコの支配領域《テリトリー》になるッ!! それはたとえあの《未開地帯》でも、例外じゃない!!」

 ――対局室

 南四局・親:桃子

美穂子(さて、そろそろ東横さんがリーチを掛けているかもですかね。どうしたものでしょう。差し込めるものならいくらでも差し込みますが、ウィッシュアートさんも二条さんもノーテン……)

 西家:福路美穂子(豊穣・136200)

美穂子(東横さんはラス親ですから、和了っても、当然止まらないでしょう。この親……東横さんの力を思えばこそ、切れるときに確実に切っておきたい)

美穂子(幸い、こちらはダマでハネ満確定。待ちも広い。海底までのどこかでは和了れるでしょう。しかも、ツモなら倍満まで見れる……)

美穂子(東横さん……速度がある分、打点は森垣さんに比べると低い。親であることを考慮に入れても、せいぜい高くて7700。ここは押しでしょう。
 多少のリスクは致し方ない。ここで私が稼がなくて……誰が稼ぐというのです――ッ!!)タンッ

桃子「そいつは通らないっす、ロン……リーチ一通――」ユラッ

美穂子(くっ……! しかし、7700なら想定内。大丈夫、東横さんは感応系。ベースはレベル0。私と同じで毎回張れるわけではない。
 ウィッシュアートさんが能力を使えない現状、私なら、次の一本場でこのダメージを取り返すことが――)ハッ

美穂子(ま、待って……! 一つ、二つ、三つ――手牌が……東横さんの手牌が少ないっ!? な、何が起こって――)

桃子「ドラ4――ッ!」ゴッ

美穂子(そ、そんな……いつの間にっ!? この私が見落としていた……? 違う! これは東横さんの《ステルス》――! それを応用して……!?
 こんな、私、期待値の計算を間違えて……このリーチが7700程度で済むはずがなかったのに――)ゾワッ

エイスリン(ウワ……ソレ、マジカ――ッ!?)ゾッ

泉(も……もうなにがなんだか……)

 桃子手牌:13456789②②/四四四四 ロン:2 ドラ:⑦・四・?・?

美穂子(暗槓――!? しかもカンドラモロッ!! こんなの、見えてさえいれば間違いなく回避できたのに……!!
 《ステルス》の効果で暗槓とカンドラ表示牌が認識できないようになっていた!? 完全にやられました……っ!!)

桃子「っ――!! 裏、乗った……!!」

美穂子(う、上埜さん――!!)

桃子「〆て24000っす!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

美穂子(親、倍……!? まともにこんなダメージを喰らうのなんていつ以来……いや、それよりも、点数が――)

泉:59500 美穂子:112200 エイスリン:108100 桃子:120200

桃子(きらめ先輩直伝――《ステルス暗槓》、初お披露目っすね。リーチの発声やリー棒に気付かれないのなら、カンの発声や晒した牌も、同様にして気付かれない……なんて、思ってもみなかったっす)

桃子(私の暗槓は気付かれない。カンドラが捲られたことにも気付かれない。仮に気付かれたとしても、私が触れたカンドラ表示牌と晒した四枚は、《ステルス》の効果で誰も見ることができない)

桃子(暗槓による一連の動作で、私は王牌に手を伸ばす。それによって、山の頂上一帯に、私は私のマイナスの気配を届けることができるっす。大半の人は、嶺上牌が減って海底がズレていることにさえ、ぎりぎりまで気付けない)

桃子(もちろん、カンをするリスクは多いっす。今回はたまたまカンドラに味方してもらえたっすけど、使いどころは難しい。そもそも門前で槓材が揃うことが、嶺上さんでもない限り、半荘に一回あるかないか……)

桃子(ただ、初めて見せた技とは言え、これで、私の《ステルス暗槓》は、《一桁ナンバー》にも通用するってわかった。きらめ先輩の言った通りっす……これは私の武器になるッ!!)

桃子(まあ……なんにせよ、こんな裏技に頼らず、もっと地力でどうにかできるようにならないとっすね。
 私の素の実力はまだ……《一桁ナンバー》の三年生には及ばない。今日の結果はきらめ先輩の指示があってこそ。ここが私の、限界超えの、限界っす……)フゥ

桃子「ラス親続行……と言いたいとこっすけど、今回はこれで和了り止めにするっす」

美穂子(――っ!!)

桃子(そう……今回は、っす! 次の機会までに私は――もっともっと強くなる……!!)

『先鋒戦……終了ー!! 《煌星》東横桃子……オーラスでトップの《豊穣》から親倍を直撃ッ!! それまでの苦しい展開をひっくり返しましたー!!』

桃子(ひとまず……勝ちは勝ちっす。この結果が実力によるものだと思えるほど、私はのぼせ上がっちゃいないつもりっすけど……これで少しはみんなの助けになるはず。あとは頼んだっすよ、みんな――!!)

 一位:東横桃子・+20200(煌星・120200)

エイスリン(マイッタナ……ワタシガ、サンイ……? ミホコガ、ニイ? コトバガ、デテコネー……)

 三位:エイスリン=ウィッシュアート・+8100(劫初・108100)

美穂子(なんということでしょう。油断はしていなかった。判断は間違っていなかった。
 東横さんのことだって、私はできる限りの警戒を払っていたつもりです。こんな……全く想定外の一撃など、滅多にあることではありません。
 上埜さんや《三人》以外で、ここまで私に敗北感を与える雀士がいたとは。それも、下級生に。未だ現実として受け止められませんね……。
 いずれにせよ、まだまだ修行が足りないようです。《頂点》のなんと遠いことか。ですが、私は諦めませんよ。私は戦い続けます。上埜さん……いつか、堂々と、あなたの前に立つまで……私は――)

 二位:福路美穂子・+12200(豊穣・112200)

泉(な――なにもできひんかった……)ガタガタ

 四位:二条泉・-40500(逢天・59500)

 ――――

 ――――

咲「桃子ちゃーんっ! すごいよー! トップだよ!」

桃子「たまたまっすよ、たまたま」

咲「うん! 確かにやたら運がよかったね!」

桃子「……嶺上さんはもっと歯に衣着せてくださいっす」

咲「そんな奇抜なファッションはちょっと嫌かなー」

桃子「さておき。次鋒戦、大丈夫っすか? きらめ先輩印の分析によると、あの《逢天》の人、たぶん嶺上さんの天敵っすよ」

咲「去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》のあれね……ま、でも、たぶん今回は大丈夫かな」

桃子「何か、豹変してこないって確信があるっすか?」

咲「いや、向こうの出方は関係ないの。私のほうの問題」

桃子「?」

咲「桃子ちゃんが頑張ってくれたおかげだよ。ま、見てればすぐわかると思う」

桃子「まあ……何をするつもりかわからないっすけど、十分気をつけて。あの《逢天》の人もヤバそうっすし、そんなヤバい人を相手に、他家を狙い撃ちできる人もいる。
 さらにさらに、嶺上さんが《豊穣》で一番やりにくいって言ってた人まで」

咲「そうだね。できるだけ頑張ってくる!」

桃子「よろしくっす」

咲「任せてっ!!」ゴッ

 ――――

 ――――

宥「お疲れ……美穂子ちゃん」

美穂子「宥さん、出迎えありがとうございます。まったく……最後の最後でやられてしまいました」

宥「あれは仕方ないよ……」

美穂子「ああ……悔しい。次戦うときはボコボコにしてやります、あの消える一年」ゴッ

宥「み、美穂子ちゃん……?」ビクッ

美穂子「これは失言。というわけで、二位でバトンを渡すことになって、本当に申し訳ないと思っています。
 だから……できることなら、名誉挽回のチャンスをいただきたい。決勝では、必ず一位で戻ってきます」

宥「……わかってる。私、なんとかするよ」

美穂子「幸運を」

宥「ありがと……じゃあ、行ってくる――!」ゴッ

 ――――

 ――――

菫「大分やりこめられたな、ウィッシュアート」

エイスリン「メンボク、ネー……」

菫「マイナスだったわけではない。《逢天》の二条、《煌星》の東横と、お前に不利なイレギュラーが多かった上に、あの福路が半ば捨て身で暴れていた。むしろここまでよく耐えてくれた」

エイスリン「スミレハ、ハイシャニ、アメーナー」

菫「ま、まあ……控え室に帰ったらあの化け物三人組からどんな罵倒が待っているかわからん。ここで私が厳しい言葉を掛ける意味はさほどないだろう」

エイスリン「アイツラ! ノーナイ、デハ、ヤクタタズ、ダッタ、クセニ! リアルデ、ツエーカラ、ハラタツ!!」

菫「脳内?」

エイスリン「ナ、ナンデモナイ、デス!!」

菫「まあ、よくわからんが、次でどうにかひっくり返してみせるさ」

エイスリン「スミレ、ヨエーンダカラ、ムチャ、スンナ」

菫「そいつはできない相談だな。弱さ強さは関係ない。どの道、私は無茶をする」

エイスリン「ナンデダヨ……」

菫「それ以外に戦い方を知らんからだ」

エイスリン「ハハッ! ソンナ、ブキヨーナ、スミレガ、ハジメテ、アッタ、トキカラ、スキ、ダゼ!!」

菫「おま――そんな大きな声で、なにを……っ////!?」

エイスリン「ウソ、ピョン!」

菫「嘘なのか……」

エイスリン「ダイスキッ!!」

菫「……そっか。ありがとな、ウィッシュアート」

エイスリン「タノムゼ、スミレ!!」

菫「ああ、頼まれたッ!!」ゴッ

 ――――

 ――――

透華「いーずーみー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉「ひいいい! すんませーん!!」ガタガタ

透華「ちょっと! どこへ逃げるつもりですの!? こっち来なさいですわ!!」

泉「うぅぅぅぅぅ……」トボトボ

透華「まったく……本当に泉は仕方のない子ですわね」ギュ

泉「えっ……? と、透華さん……?」

透華「光栄に思いなさい。自慢じゃないですが、わたくし、今まで他人に胸を貸したことなんて一度もありませんのよ」

泉「え、それは……貸すほどないからでしょ?」

透華「ないことはないですわ! これくらいが上品でベストなんですわ!! 玄と小蒔は無駄に肥え過ぎなんですの!! というか何か不満でも!?」

泉「いえ……不満なんて、とんでもない。こんな……こんなことしてもらう資格ないですよ。ごめんなさい、うち……ずっと皆さんの足引っ張ってばかりで……」

透華「決勝で宮永照を倒してくれれば、それで全てチャラになりますわ。今は、わたくしたちにお任せなさい」

泉「せ、せやけど、透華さん……次鋒戦の相手は、去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で、透華さんがやられた人ですよ?」

透華「断じてやられていませんわ! 向こうが尻尾巻いて逃げやがっただけですの! わたくしは決してあんな女に負けたつもりはありませんわよ!!」

泉「チームは敗退しましたやん……」

透華「フン……それはそうでしたわね。ただ、言っておきますけれど、泉」

泉「な、なんですか……?」

透華「わたくしが去年のわたくしのままで止まっていると思いまして? バカも休み休みですわ。弘世菫がなんですの。わたくしはもう……誰にも何にも負けませんわッ!!」ゴッ

泉(ひぃ!?)

透華「さあ、イッツショータイムッ!! わたくしの一人舞台の始まりですわよ!!」ゴッ

 ――――

 ――対局室

宥「よろしくお願いしますね」

 東家:松実宥(豊穣・112200)

透華「よろしくお願いしますわ」

 南家:龍門渕透華(逢天・59500)

咲「よろしくお願いします」

 西家:宮永咲(煌星・120200)

菫「よろしく」

 北家:弘世菫(劫初・108100)

『次鋒戦……まもなく開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回は一週間以内に更新します。

では、失礼しました。

 ――観戦室

やえ「今回、弘世菫は次鋒。そこに龍門渕透華……決勝進出を懸けて、再びあの二人が激突するのか。興味深いカードだと思わんか、宮永?」

照「そうだね。懐かしい……去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の、準決勝」

塞「ああ……あったわね、そんなこと。観客席で見てたわ」

ネリー「何があったの?」

やえ「宮永と弘世菫、それにうちの亦野……チーム《虎姫》は、去年のこの大会で、今は《逢天》の次鋒である龍門渕透華が率いていたチーム《龍門渕》と戦っているんだ。その副将戦で、弘世と龍門渕が激突した」

照「結果は、菫が最下位のチームをトばして、私たちが間接的に《龍門渕》に勝った」

塞「けど……あの副将戦はなぁ。あの弘世が他家をトばすしかないくらい、龍門渕透華がヤバかったのよねー」

ネリー「あの金髪の人?」

やえ「そう。で、その龍門渕透華の従姉妹で、弘世菫に敗退を決められたせいで出番を奪われたチーム《龍門渕》の大将が……白糸台に五人しかいないランクS、去年のこの大会の最多得点記録保持者――天江衣というわけだ」

ネリー「ええっ!? だって、今はそのすみれと同じチームじゃん、あのころもって人!! 去年負かされた相手と、今年は一緒のチームにいるの!?」

照「それを言うなら、私のチームの井上さん」

塞「あいつも、龍門渕透華や天江衣と同じチーム《龍門渕》の一員で、宮永のいたチーム《虎姫》に負けてるのよね」

ネリー「ふあー……因縁だらけなんだよー」

照「うん。それに」

やえ「それに、チーム《豊穣》の松実宥も、弘世にとっては無視できない相手のはずだ。
 その上、あいつの最大目標である宮永……お前の妹も同じ卓にいる。あの三人を相手に、弘世は一体何を思うのか」

照「う、うん、そうだね」

『《劫初》弘世菫――彼女にとっては因縁深い相手が揃っています! 果たして《シャープシューター》はどんな闘牌を見せるのか!? 注目の次鋒戦……まもなく開始ですッ!!』

塞「あらあら、実況にまでこの言われよう。で、この次鋒戦、小走博士様の本命は誰になるのかしら?」

やえ「難しいな。仮に、去年の龍門渕が出てくると、宮永咲は相性的に苦しいかもしれん。そこでいくと、一時的とは言え、去年その龍門渕の隙を突いた弘世に分があるか?
 しかし、そんな弘世が三年になって完封されかかったのが、あの松実宥なわけで……松実宥は合同合宿で宮永咲に痛い目を見ている、と」

塞「四竦みってわけか。ね、宮永的にはどうなの?」

照「個人的には咲に頑張ってほしい」

塞「弘世を差し置いてそれって……もしかして、宮永って」

照「妹を愛していますが何か?」

塞「いや、いいんだけどさ……」

ネリー「おっ! これは……先制パンチはあの人かっ!!」

やえ「手牌を赤熱の炎で染める常時発動型の自牌干渉系能力者。《最熱》の大能力者――松実宥だな」

     宥『ツモです……700オール』

塞「安っ! 上位三チームはわりと接戦だってのに……手数で攻めて逃げ切るつもり?」

照「ただの様子見かもしれない。もしくは、主導権を掴みたかったのかも」

やえ「先制は宮永咲かと思ってたが、なかなか読めんな」

ネリー「んー、運命がこんがらがってる……混戦になりそうだよー」

 ――対局室

 東一局一本場・親:宥

宥(まずは先制。狙うのはトップ。頑張ってくれた美穂子ちゃんや、あとに続くみんなのためにも、できる限り上を目指す――)タンッ

 東家:松実宥(豊穣・114300)

透華(まだまだ試合は始まったばかり。さくっと和了って親番ゲットですわ!)タンッ

 南家:龍門渕透華(逢天・58800)

咲(ツモの偏りを利用した足の速い打牌。二回戦で桃子ちゃんが戦った《百花仙》さんと同じ、常時発動型の自牌干渉系能力者。
 安定して強くて、弱点らしい弱点がない。合同合宿のときも思ったけど、やっぱり松実さんを崩すのは難しいなぁ……)タンッ

 西家:宮永咲(煌星・119500)

菫(松実さん……半荘二回を速攻で逃げ切るつもりか? 福路がそうだったように、もっと荒稼ぎに来るかと思ったが、随分と余裕だな。
 まあ、その余裕こそが彼女の安定の源だが……しかし、私だって黙ってはいないぞ……!!)タンッ

 北家:弘世菫(劫初・107400)

 ――八巡目

宥(ん……)

 宥手牌:六七七八八九④[⑤]⑥⑦⑦⑧⑨ ツモ:九 ドラ:七

宥(平和にしたいけど、九萬は涸れてる。六萬は残り二枚。まだ河には見えてないけど、ドラ傍だから、たぶん面子で抱えられてるよね。なら、一盃口を確定させて、筒子の変化を見ていったほうがいいかな……)タンッ

 宥手牌:七七八八九九④[⑤]⑥⑦⑦⑧⑨ 捨て:六 ドラ:七

透華(ふむ……また親に先を越されそうですわね。他二人も危険そうですし、ここは鳴いてみるとましょう)

透華「チーですわ」タンッ

 透華手牌:3567888四五六/(六)七八 捨て:5 ドラ:七

咲(龍門渕さんが動いてきた。それに、また松実さんが和了りそう)

 咲手牌:②③③④④⑤[5]6677四[五] ツモ:五 ドラ:七

咲(けど、こっちも張ったよ……)タンッ

 咲手牌:②③③④④⑤[5]6677五[五] 捨て:四 ドラ:七

菫(龍門渕が鳴いた? 松実さんの連荘を警戒しているのか)

 菫手牌:三三三五六七③④[⑤]⑥北北北 ツモ:⑧ ドラ:七

菫(まあ……和了らせなどしないがな……!)ギロッ

 菫手牌:三三五六七③④[⑤]⑥⑧北北北 捨て:三 ドラ:七

宥(う、四萬に続いて三萬……狙いは私だから……ここは――)

 宥手牌:七七八八九九④[⑤]⑥⑦⑦⑧⑨ ツモ:⑨ ドラ:七

宥(こっちでどうですか……!)タンッ

 宥手牌:七七八八九九[⑤]⑥⑦⑦⑧⑨⑨ 捨て:④ ドラ:七

透華(松実宥が弘世菫を警戒している……? ま、現物ですからわたくしが弘世菫に振り込むことはありませんけれど。ふん、次でツモってやりますわ!)タンッ

 透華手牌:3567888四五六/(六)七八 捨て:⑧ ドラ:七

咲(この局もちょっと後手になりそうかな……)タンッ

 咲手牌:②③③④④⑤[5]6677五[五] 捨て:三 ドラ:七

菫(松実さん……避けられたか。ま、だろうと思ってはいたがな)

菫「……ポン」タンッ

 菫手牌:五六七③④[⑤]⑥北北北/(三)三三 捨て:⑧ ドラ:七

咲(どういうこと……?)

透華(自分が直前に捨てた牌を鳴いて戻した……?)

宥(待ちを変えたの? どうして……あ)

 宥手牌:七七八八九九[⑤]⑥⑦⑦⑧⑨⑨ ツモ:③ ドラ:七

宥(こういうことなんだ……さっき、七筒切って三面張にできてれば、これで和了れていた。
 んー……射掛けてた構えを解いたのなら、待ちも変わってるよね。なら、この三筒はちょっと切れないかな……)タンッ

 宥手牌:七七八八九九③[⑤]⑥⑦⑦⑧⑨ 捨て:⑨ ドラ:七

透華(松実宥に回り道をさせた、ということですの?)タンッ

咲(間に合わないかな……?)タンッ

菫「ツモだ……1400・2700」パラララ

 菫手牌:五六七③④[⑤]⑥北北北/(三)三三 ツモ:⑥ ドラ:七

咲(え、なにそれ――? えっと、ああ、そういうこと……!)

透華(松実宥に狙いを定めて、かわされたと見るや即座に張り替え。デジタル的にはどうかと思いますけれど、なかなか興味深いことをしてくれやがりましたわね)

宥(弘世さん……《シャープシュート》を足止めに使うなんて。前に打ったときから強くなっている……)

菫(松実さん……一度負けた相手に、二度もやられる私ではないぞ……ッ!)ゴッ

宥:111600 透華:57400 咲:118100 菫:112900

 ――《逢天》控え室

泉「げ、芸が細かい……!!」

豊音「ちょっとでもしくじると地獄行きだよー」

玄「お姉ちゃんも弘世さんも駆け引きの次元が高いなぁ」

小蒔「なんの、この局は透華さんが親ですっ! しかも絶好のテンパイ!!」

     透華『リーチ、ですわ!』

泉「おおっ! やったってください、透華さん!!」

玄「点差が点差だから、ダマでもよさそうなところを、リーチかけてきたね」

豊音「三人ともベタオリだよー」

小蒔「待ちは広いです。ツモれば問題はありません!」

 ――《豊穣》控え室

     透華『……テンパイ』

     宥・菫・咲『ノーテン』

尭深「堅いですね」

竜華「リーチ掛けたらまず出してこーへんやろなー」

美穂子「龍門渕さんならツモってくるかと思いましたが、そううまくはいかないようですね」

霞「宥ちゃんは我慢強いから、こういう堅い場は得意だろうけど、稼ぐとなると大仕事ね」

     透華『一本場ですわ!』

竜華「んー、この局も静かな局になりそうやで」

美穂子「宥さんは弘世さんを警戒しているからダマ、弘世さんも能力的にダマ。龍門渕さんも、先ほどのベタオリを受けて、恐らく次はダマで来るはず」

尭深「宮永さんも、リーチ率はさほど高くないですもんね」

霞「にしても、これはちょっと静か過ぎるんじゃないかしら……?」

 ――《劫初》控え室

智葉「静かだな」

憩「そうですね。さっきのリーチで龍門渕さんが暴れ出すかと思いきや。待ちが赤い牌やったんがあかんかったのかもですね。
 次もリーチ掛けてきたら面白くなりそうやけど……」

衣「とーかは目立ちたがりだが、基本スタイルはあくまでデジタル。場が堅いなら堅いなりの打ち方をすると思うぞ」

エイスリン「ハヤク、《シャープシュート》、ミタイ!」ワクワク

智葉「それはそれとして、ウィッシュアート。茶のおかわりはまだか」

エイスリン「……イマ、オモチ、イタシテ、ヤリマスヨ、ゴシュジンサマ!!」ガチャガチャ

智葉「そうそう。やればできるじゃないか」

憩「いやー、さっすがガイトさんですわー。エイさんのお仕置きポイントが溜まるんを見越して、まさかメイド服を用意しているとは! しかもこんな際どいの!!」

衣「よく似合っているぞ。堕天使メイド、えいすりん!!」

エイスリン「ウッセー////! テメェラ、ミンナ、クタバレ!!」

智葉「おい、ウィッシュアート。肩が凝った。揉め」

エイスリン「テメェ……サトハ、オボエテロヨ……ッ!!」モミモミ

智葉「堕メイド、口の聞き方には気をつけろよ? いま私の機嫌を損ねると大変なことになるのはお前だぞ? わかったら私の足元に跪いて謝罪しろ」

エイスリン「モ……モーシワケ、ゴザイマセン、ゴシュジン、サマ……」ペッコリン

智葉「よし、そのまましばらくじっとしていろ。ちょうどフットレストがほしいと思っていたんだ」

エイスリン「グヌヌヌヌ……!!」

憩「ガイトさん、やりたい放題ですねー」

衣「いや、一昨日のけいのほうがひどかったぞ……?」

智葉「さて、不覚にもお仕置きに夢中になってしまった。対局はどうなったかな……と」

     咲『ポン』

智葉「ん……?」

     咲『ツモです。1100・2100』

憩「どうかしました、ガイトさん?」

衣「何か気になることでも?」

エイスリン「オイ、ゴシュジン――」

智葉「おい、誰が動いていいと言った、堕メイド。罰として人間の言葉を禁じる。今後『にゃあ』以外の言葉を発するな」

エイスリン「ニャ、ニャア……」

智葉「そのまま四つん這いで私の足に頬ずりしてみろ」

エイスリン「ニャア……」スリスリ

智葉「ふふふ……悪くないぞ……」

憩「ガ、ガイトさん……?」

智葉「あ、すまん、なんの話だったか?」

衣「さ、さとはがえいすりんのお仕置きに夢中でポンコツと化している……だと……!?」ゾワッ

智葉「そんなことより、荒川。私の鞄に猫耳が入っている。ちょっと持ってきてくれ」

憩「神様ーぁ!! ウチらの凛としたガイトさんを返してくださーいっ!!」

エイスリン「ニャア……」

 ――観戦室

ネリー「四人の個人収支がプラマイ3000点以内。ここまで満貫以上の和了りはゼロ。差がつかないねー」

やえ「全員攻めたい気持ちでいっぱいなんだろうが、だからこそ確実に取りに行こうとする」

塞「龍門渕は……今回はダマで通すのね」

照「堅実」

     透華『ロン、5200ですわ』

     宥『……はい』

やえ「にしても、さっきのあれはなんだったのか……」

ネリー「どうかした、やえ?」

やえ「いや、もう少し見てから言う。いまいち意図が掴めん」

塞「さて……最初にこの膠着状態を抜け出すのは誰になるのかしら」

照「予測困難……」

 ――対局室

 東四局・親:菫

宥「リーチです」チャッ

 南家:松実宥(豊穣・103300)

透華(リーチを掛けてきましたわね? それほどの待ちと打点――有力なのは、捨て牌からして、萬子の染め手で多面張。厄介ですわね……)タンッ

 西家:龍門渕透華(逢天・62500)

咲(萬子警戒……と見せかけて、ってこともありうるけど、どうだろう。どっちにしろ、今回はちょっとオリかな……)タンッ

 北家:宮永咲(煌星・122400)

菫(あまり親で大きいのを食らいたくない。仕方あるまい。少しだけ、踏み込んでみるか――)

 東家:弘世菫(劫初・110800)

菫「チー」タンッ

菫(松実さんが萬子で待っているとしたら、能力的にツモる確率が高い。一発など決められては敵わん。ズラせるときにズラしておいたほうがいいだろう……)

宥(…………)タンッ

 ――流局

咲・透華「ノーテン」パタッ

菫「(親……流れたか)ノーテンだ」パタッ

宥「テンパイです」パラララ

 宥手牌:一二三四[五]六七八九九中中中 ドラ:九

透華(これは……想像以上にとんでもない手を張っていましたわね)

咲(どう和了っても倍満、高めなら三倍満。和了られなくて本当によかったよ……)

菫(一発ツモなら数えもあったか。赤熱の炎……一つ間違えただけで灰にされてしまいそうだ)

宥「…………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

宥:106300 透華:61500 咲:121400 菫:109800 供託:1000

 南一局流れ一本場・親:宥

透華(先ほどの松実宥を見る限り、この場……堅いからと言って守りに入ると、一瞬で叩き落とされそうですわね。
 まあ、いずれにせよ、役がないからリーチを掛けざるをえないのですけれど)

透華「リーチ、ですわ……!」ゴッ

咲(こ、このプレッシャー! 危険信号。一応、一発消しておこっと)

咲「ポ、ポン」タンッ

菫(照の妹のポンか。場に四枚目が見えているから槓材ではない。だとすると一発消しか?
 カンをしてこない間はひとまず押せると踏んでいるが、あまり信じ過ぎるのもな……)タンッ

宥「ロンです。3900は4200」パラララ

菫「む……!」

 宥手牌:一一一二三四五六七八九99 ロン:9 ドラ:⑧

透華(は……? なんですの、それ?)

咲(四・七萬が出てきたら役ナシのその手で、リーチしなかったの? 基本ツモ狙いだった? いや、それならリーチ掛けるよね。というか――)

菫(そこまで萬子を集めておいて染めない……だと? 捨て牌を見る限り、途中までは明らかに染め手気配が濃厚だった。
 ついさっきやっと見えた萬子で張ったかと思ったが……その裏を掛かれたか。先ほどのような高打点の手にすることもできたろうに……いや、しかし、これは――)

宥「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

透華(先ほどのリーチ混一……あれがフェイクだったとでも言うんですの? 前局とほぼ同じような捨て牌にすることで、わたくしたちの思考を染め手警戒へと誘導した……)

咲(さっき大きいのを和了れれば、それでよし。和了れなければ和了れないで、倍確の染め手っていうインパクトを隠れ蓑に、萬子以外の待ちでダマテン。
 前局の幻影を次局の和了りに繋げる。結果的に、さっきのノーテン罰符やリー棒も合わせて、個人収支をプラスに戻した)

菫(来る牌がわかっていて、自分の和了れる手役の範囲を把握しているからこそ、大局を見た策が取れる。これが《最熱》の大能力者か――)

宥「二本場です」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

宥:112500 透華:60500 咲:121400 菫:105600

 南一局二本場・親:宥

咲(点数こそ動いてないけど……松実さんが恐い。これ以上親を続けられても困るし、なんとかして流す……!)タンッ

菫(松実さんだって楽に打っているわけじゃない。だからこそ、あの手この手で揺さぶりに来ている。実際、今のトップは照の妹だしな……)タンッ

宥「……」タンッ

透華(要するに、焦れたほうの負けですわ。《最熱》……その陽炎の揺らめきに惑わされてはいけません。わたくしはわたくしのプレイスタイルを貫く――!)タンッ

咲(えーっと……これは何が正解なのかなっと。うん、こっち……!)タンッ

菫「ロン」

咲(わ――!)

透華(ちょ)

菫「……7700は8300だ」パラララ

 菫手牌:四五六七八34[5]66③④⑤ ロン:九 ドラ:6

咲(リーチ掛ければ高め倍満、ツモならどこでもハネ満になる手。安めの見逃しをしないなら、リーチ掛けてくれればよかったのに)

透華(待ちも悪くありませんし、和了り牌だって場に見えていない。和了率やチームの総得点を考慮しても、ここは素直にリーチでよかったような気もしますけれど……)

菫(和了り牌……確かに、河にほとんど見えていない。この巡目なら、山に大量に残っているように思える。思えるが――)

宥(……弘世さん……)パタッ

 宥手牌:三三三[五]六六六九九九中中中 ドラ:6

菫(去年その力をまざまざと見せ付けられた龍門渕透華より、あの照の妹より、私はあなたをこの場の最重要危険人物と見ている。あなたは……あの渋谷が、《虎姫》が解散するやいなや頼ったほどの人物だ。
 智葉や荒川を相手にしていると思って、私の持っている全てをぶつける。松実宥さん……あなたに勝って、私は更なる高みを目指す――ッ!!)

宥(弘世さん……かつて、私はあなたに憧れを抱いていました。一年生のときから、あの宮永さんの隣に堂々と立っているあなたを見て……なんて強い人がいるのだろう、と)

宥(けど……そんな憧れの、雲の上の人と、頑張れば並び立つことができると教えてくれたのは、他ならぬ、あなたと同じチームにいた尭深ちゃんです)

宥(弘世さん、最後に、こうしてあなたと戦えてよかった。尭深ちゃんが見ている前で……戦えてよかった――)

宥(弘世さん。あなたが一年かけて育てた尭深ちゃんを、私はいただいていくつもりです。嫌とは言わせません。必ず認めさせます。
 あなたや、それに宮永さんにも勝って……私は堂々と、尭深ちゃんを貰い受ける……!!)

宥(さあ、勝負です……弘世さん。私の《最熱》――真っ赤に燃えるこの想い――あなたに貫くことができますか……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

宥:112500 透華:60500 咲:113100 菫:113900

 ――《豊穣》控え室

尭深「あんな気迫に満ちた宥さん……見たことがないです」

竜華「そら気合も入るっちゅーもんやでー」

美穂子「気分的には恋人の実家に殴り込むようなものですからね」

霞「それもあるし、そもそも宥ちゃんは《最熱》の大能力者……おっとりして見えるけれど、その心は誰よりも熱く燃えているわ」

尭深「《最熱》……実際、どうなのでしょう。相性的には」

美穂子「それは弘世さん? それとも、宮永さんの妹さん?」

竜華「はたまた……龍門渕透華との相性のことか?」

霞「従姉妹である天江さんと戦ったときは、宥ちゃん、かなり辛そうだったけれど。
 むしろ、その《冷たい》龍門渕さんを近くで見たことがある尭深ちゃんの意見を聞きたいわ」

尭深「あ、いや、近くで見たといっても、モニター越しですし、たった数局だけですし、なかなか……」

竜華「宮永や弘世はなんて言っとったー?」

尭深「宮永先輩は、天江さんと同じくらいな気がすると言っていました。
 直に対局した弘世先輩は、本気の宮永先輩ほどではないけれど、《三人》と《三強》以外ではまず勝てない、と評していましたね」

美穂子「ランクS相当……と思っていいんでしょう。天江さんや大星さん、それに宮永さんの妹さんと対局経験があるのが幸いですね」

竜華「なるほどなぁ。せやけど、その《冷たい》のって、そんなほいほい出てくるもんともちゃうんやろ?
 それに、去年の牌譜や二回戦を見る限り、うち的にはデジタル龍門渕のほうが強いような気ぃすんねんなー」

霞「うーん。できることなら、今後のために、この三回戦で見ておきたいのよねぇ……。ただ、今のところ、二回戦同様、豹変の兆候はないみたい。残念だわ」

     透華『ツモ、1000オールですわ!』

美穂子「配牌が悪いと見るや即食いタン。とても普通です。とても普通で……普通に強い」

竜華「白糸台にデジタル打ちはぎょーさんおるけど、基本それなりに能力《オカルト》を考慮に入れるんが、学園都市流のデジタルや。
 せやけど、あの龍門渕透華は、オカルト無視の完全理論派《デジタル》」

尭深「オカルトを意識しないという点では、原村さんに近いものがあります」

霞「それが弱点にならずプラスに働くっていうのが、不思議よね」

美穂子「まあ……龍門渕さんのデジタルは、それそのものがちょっとオカルト寄りな気もしますけれど」

竜華「そこが原村との最大の違いやんな。龍門渕はたまにデジタルからブレるときがある。せやけど、それもまた強みになっとるからオモロいで」

尭深「デジタルか、冷たいほうか。どのモードで来ても、宥さんには頑張ってもらうしかありませんね」

 ――対局室

 南二局一本場・親:透華

透華(手強い手強い、ですわ。先ほどの和了りも、あと一巡遅ければどうなっていたかわかりませんわね)

 東家:龍門渕透華(逢天・63500)

宥・菫「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

透華(この感じ……去年の準決勝と同じかそれ以上。実に心躍りますわ。相手が強ければ強いほど、倒し甲斐があるというもの――)


          ピシッ


透華(――と、またですの? わたくしは今とても楽しいのですわ……邪魔をしないでくださいまし……)



                    ピシッ



透華(去年のトーナメント……あのときも楽しかったですわ。一が《新道寺》の二年相手にやらかして……わたくしと衣で慰めましたわね。必ずまくり返すから――と)





      ピシッ





透華(それが、あと一歩というところで、気付いたら試合が終わっていた。衣たち曰く、《冷たい》わたくしが暴れていたとのことでしたけれど……あっっっんな屈辱的なことは生まれて初めてでしたわ!!)

透華(わたくしは……わたくしは必ず勝つつもりでしたのに!! 一のため、みんなのため、できる限り点を稼いで衣に繋げるつもりでしたのに、ふざけるのも大概にしくされですわ! この――《魔物》がッ!!)

   ――透華は悪くないよ。ボクが……ボクがもっとちゃんと戦えていれば。本当に……ごめんね……。

透華(そんなことはありませんわ、一。あれはわたくしが悪かったんですの。自分の中に棲む《魔物》に負けた……わたくしが悪かったんですわ。
 だから、お願いだから……泣かないでくださいな。そんな風に自分を責めないでくださいな――)

       ――ごめんなさい、うち……ずっと皆さんの足引っ張ってばかりで……。

透華(もう……二度とあんな思いはしたくありませんの。わたくし……龍門渕透華の名に懸けて、大切な仲間に涙を流させるような――そんな不甲斐ない闘牌はいたしません……!!)

     ――せやけど、透華さん……次鋒戦の相手は、去年、透華さんがやられた人ですよ?

透華(泉……本当に、それは大勘違いですのよ。わたくしが負けたのは、弘世菫ではありません。弱いわたくし自身ですの。
 けど、わたくしはもう去年のわたくしではない。わたくしはもう誰にも何にも――わたくしの中に棲む《魔物》にだって――負けませんわッ!!)ゴッ

宥・菫「っ!?」ゾワッ

透華(楽しいショーはこれからでしてよ!! 《魔物》の出番などございません!
 この舞台の主役はたった一人――このわたくし! 学園都市屈指のデジタルこと龍門渕透華ッ! その華麗なる闘牌……とくとご覧あれですわッ!!)ツモッ

透華「ツモ……! 2100オールですわっ!!」ゴッ

菫(二連続……!! 龍門渕、やはりお前も大人しくはしていないか――!!)

宥(龍門渕さん……去年のことがあるからかな。この三回戦では、二回戦以上の気迫を感じる。私も……負けてられないっ!!)

透華「まだまだ連荘でしてよ、二本場っ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

宥:109400 透華:69800 咲:110000 菫:110800

 ――《劫初》控え室

智葉「…………おかしい」

憩「何がですか? 際どいメイド服着たエイさんに猫耳と尻尾までつけてさらには後ろ手に手錠までかけて生足への頬ずりを強要しとる今のガイトさんの頭ですか?」

エイスリン「ニャア……」スリスリ

衣「えいすりんも嫌なら嫌と言えばいいのに……」

智葉「大丈夫。こいつはこれで悦んでいるのだ」

エイスリン「ニャ!?」

憩「で、ガイトさんの脳みそ以外で何がおかしいんです? ま……ウチも一つ気になることがありますけど――」

 ――観戦室

照「…………おかしい」

塞「何が?」

やえ「妹のことだろ」

ネリー「さきがどうかしたの?」

塞「別に普通に見えるけど……? 高め三色のタンピンドラドラ。ダマにしてるのは、さっき弘世にやられた意趣返しってとこかしら」

照「咲はタンピンなんて滅多に和了らない」

やえ「それがどういうわけか、さっきからタンピンを基本にして手作りをしている。しかも、未だに一度として」

照「槓材が手に入ってない」

塞「普通そうそう入らないわよ……」

ネリー「でも、確かにさきのカン率からすると、異常事態だよねー。そこんとこどーなの、やえ?」

やえ「……ま、姉の前で妹の情報を隠しても仕方ないか」

照「私は咲のことならなんでも知っている」

やえ「これは私なりの推測で、正解かどうかはわからんが、とりあえず、宮永咲は《槓材が寄る》《槓材の位置がわかる》などといった能力を有していると思われる。
 あいつのカン率は、明らかに古典確率論を逸脱しているからな。それ即ち、意識的確率干渉――能力《オカルト》。便宜上、私はその能力を《嶺上》と呼んでいる」

塞「なんでそんなわけのわからない能力を発現するのよ……。っていうか、宮永妹ってカンドラが乗らないんでしょ? なら、カンして得することなんて、そんなに多くないんじゃない?」

照「う、うん、それはそうなんだけどね」

やえ「宮永咲には、宮永――お前の《打点上昇》と似た《制約》があるんだろ?
 お前が一回の連続和了内において同じ点数で和了ることがないように、宮永咲は、半荘一局のうち、同じ符で和了ることがない」

ネリー「へー……あっ! そっか、それでカンが必要なんだ!」

塞「符の調整のためのカン……ってこと? それが《制約》? なんの?」

やえ「もちろん《プラマイゼロ》の《制約》だろうな。あいつの力はイマイチ解析が捗らんが、とにかく、宮永咲の《プラマイゼロ》と《同じ符で和了ることがない》傾向は、不可分のものだと私は見ている」

照「概ね正解」

ネリー「カンが使えないと、例えば字一色四暗刻単騎の出和了りで70符が限界になるのかな? 役満は符が関係ないけど」

やえ「白糸台の標準ルールだと、最大110符まで可能。そこに到達するには、カンが必須条件となる」

塞「なるほどねー」

照「けど、今の咲は、たぶんカンをする気がない」

塞「えっ? じゃあ、能力を封印してるってこと?」

ネリー「ああっ! もしかして、だから今日のさきは恐くないのかも!?」

照「どういうこと……?」

ネリー「あ、いや、その、こっちの話……!! えっと、それで、やえ! 今日のさきは力を封印しているの? してるよね?」

やえ「どう見てもしているだろうな。となると、宮永咲の《プラマイゼロ》は、意図的に封印できる力だった、ということになる。
 だが、個人的には、とてもじゃないが信じられん」

塞「なんで? 能力って簡単にオンオフできるものでしょ?」

やえ「基本的にはそうだ。能力とは意識的確率干渉の局所展開。意識的である以上、オンオフが自在でないわけがない。
 ただ、一口に意識と言っても、そのあり方は様々だ。ゆえに、意識的に能力を解除できない・したくない能力者というのも、いるにはいる。
 宮永咲の《プラマイゼロ》は、解除『したくてもできない』力――もはや体質と言っていいくらい、あいつに染み付いた力だと思っていたんだがな……」

照「私の知る限り、咲は《プラマイゼロ》に目覚めてから一度も《プラマイゼロ》以外になったことがない」

塞「あれ? でも、たまに半荘一回で三万くらい稼いでるときなかった?」

やえ「あれは1000点スタート《プラマイゼロ》と言って――ま、詳しい解説は宮永にしてもらえ。
 とにかく、あれも、結果はどうあれ《プラマイゼロ》の力を行使していることに変わりはないんだ」

塞「そんな呪いみたいな」

ネリー「いや、呪いよりもっとおぞましい『何か』だよ、あの音は……」

照「ネリーさん?」

ネリー「な、なんでもないんだよーっ!」アワワワ

やえ「さておき、だ。宮永咲の《プラマイゼロ》――その呪縛とも言うべき力を、一昨日、恐らくは宮永咲の人生で初めて、ぶった斬ったやつがいる」

照「辻垣内さん……!」メラメラ

ネリー「じゃあ、今のさきは、《プラマイゼロ》から解放されてるってことだ」

塞「へえ。だから、《制約》である符の調整をしなくて済んで、まるで普通のデジタルみたいにタンピン中心で攻めてるってわけね」

やえ「そうなるな。そうなるが……果たして、その程度の認識でいいものかどうか」

ネリー「どういうこと、やえ?」

やえ「私には……まるで遊んでいるように見えるんだよ。《プラマイゼロ》という強力な呪縛から解放され、純粋に麻雀を楽しんでいるように見える。なんと言えばいいのだろう……まるで、鳥籠を出た鳥のように」

塞「なら、今の宮永妹は……自由に空を飛び回ってるってこと?」

やえ「いや……それが、たぶん、そうではないんだ。あいつはまだ地面にいる。飛び立ってすらいない」

照「…………」

やえ「まるで自分の羽の大きさを確かめるように、自分の翼の強さを確かめるように――言わば、空を飛ぶための準備をしている。それも、この次鋒戦を目一杯使って」

塞「準備って……それ、手を抜いて打ってるってこと?」

やえ「否、手加減しているのとは違うだろう。宮永咲は確かに全力で打ってるはずだ。実際――」

     咲『ロンです、12600』

     透華『なっ……!?』

照「山越。高め狙い。咲大好き」

塞「一年が生意気なことしてくれるじゃない」

やえ「見ての通り、宮永咲は宮永咲なりに勝とうとして打っているんだ。決して手加減をしているわけではない。ただ、多少制限を設けているだけで」

ネリー「制限?」

やえ「クラス選別戦のときのチーム《煌星》は、大星、森垣、東横の三人が、能力を温存していた。完全デジタルで打つ訓練をしていたんだ。
 だが、宮永咲だけは、その間ずっと《プラマイゼロ》だった。当然、カンもしている」

塞「他の三人と違って、能力を意識的にオフにできなかったから」

やえ「そう。だから、合宿のときの宮永咲は、ネット麻雀が死ぬほど下手だった。力を使わないで打つことにまったく慣れていなかった。
 そのツケが……二回戦で辻垣内に《プラマイゼロ》を崩されたとき、モロに出ていた」

ネリー「だから、今は敢えて能力を使わないで、デジタルで戦っている、と」

やえ「さすがに完全デジタルではないと思う。試合に負けないよう最低限の支配力は使っているはずだ。
 でなきゃ、合宿当時にデジタルド素人だったあいつが、昨日の今日で、ここまで戦えるようになるはずがない」

     宥『ロンです。1300』

     菫『はい……』

照「肩慣らし」

やえ「まさにそう。今の宮永咲は、《プラマイゼロ》から解放されて、未だかつてないほどに自由の身となっている。その強大な支配力を、《プラマイゼロ》以外のことに、いくらでも使えるような状態にある。
 それは喜ばしいことなんだろうが、実際に打つとなると――」

ネリー「ああ……そうだよね。扱いきれるわけがない。あの莫大な魔力――ランクSの支配力を、能力の型を失った状態で使ったら、自滅するのは目に見えてる」

塞「で、慣らしてるってわけか。能力を使わずに、なんちゃってデジタルで試運転をしている、と。ははっ、随分と余裕じゃない」

照・やえ「それ」

塞「な、何よ……っ!? 急にハモって!!」

照「たぶん、咲一人だったら、こんな風にはならない。もっと無茶苦茶になると思う。小さい頃……《プラマイゼロ》を覚える前みたいに、それはもう場をぐちゃぐちゃに引っ掻き回してたと思う。
 だからこそ、私は咲が《プラマイゼロ》を覚えてから、それを断ち切ることはしなかった。
 辻垣内さんは、本当にとんでもないことをしたんだよ。あの人が斬ったのは咲じゃない。あの人は、咲を縛る鎖のほうを、断ち斬った――」

塞「こ、恐いこと言わないでよ……。まるで猛獣が檻から解き放たれたみたいじゃない」

照「だって実際そうなんだもん。だから、私、辻垣内さんにちょっとお説教しようと思った。三回戦は大変なことになるよ、って。
 けど、まさか、こんな落ち着いた咲が見られるなんて……」

やえ「きっと、オールフリーで打たせたら手がつけられなくなると、気付いたんだろうな。
 だからこその、デジタル縛り。支配力の扱いに慣れさせることを第一の優先事項にしたんだ。《煌星》の中の誰かが、宮永咲にそう指示を出した」

ネリー「慣れさせる……か。つまり、そういうことだよね?」

やえ「ああ。その指示を出した人間は、この三回戦、ダブルエースの一人である宮永咲が稼がなくとも、勝ち抜けると踏んだ。
 この次鋒戦を捨ててでも、宮永咲を万全に仕上げたほうが益があると判断したってわけだ。全ては――」

照「決勝で勝つために」

やえ「そういうこと。誰だか知らないが、東横のことといい、デジタル宮永咲といい、ニワカにしては味のある参謀がいるようだな……あのチーム《煌星》には」

塞「不気味ねぇ……」

ネリー「事実、《煌星》は暫定トップだしね。っていうか、さき本人も、なんだかんだで普通にトップだし」

照「咲に不可能はない」

     宥『ツモです。500・1000』

『こ、膠着状態ーっ!! 次鋒戦前半……順位は変わりません!! まさに均衡!! 後半はこれが崩れるのか否かー!!』

やえ「トップは宮永咲で+1900点。次いで松実が+500点、弘世が+400点。龍門渕は一人だけマイナスだが、たったの-2800点か。思っていた以上に動かなかったな」

ネリー「後半はもうちょっと傾いてほしいかなー。あんまり試合が動かないと見ててつまんないよー」

やえ「偵察しろよ?」

塞「ま、宮永妹警戒ってわかっただけでも収穫かしら。案外、後半戦では飛ばしてきたりするんじゃない?」

照「んー。たぶん、今のままいくと思う」

やえ「龍門渕透華も例のモードに入らないようだしな。強い支配力を持つ二人がデジタルに徹している。
 この均衡を最初に破るのは松実宥か、それとも同じ大能力者の弘世菫か」

照「菫には悪いけど、後半戦も、たぶん、場をリードするのは松実さん」

ネリー「そうだね。ゆうは引き寄せてる感じがする。前半戦の最初から、じわじわとゆうの《流れ》がよくなってるもん」

照「松実さんの意思に、赤い牌が応えてる」

やえ「こらお前ら、あまりオカルト用語で話をするな。松実がいいという根拠を教えろ。能力論的な根拠を」

塞「いいじゃん、小走。どうせすぐに結果がわかるわよ。それより、ぼちぼちお腹すいてこない? みんな、お昼はどうするの?」

やえ「ここも選手用の控え室と同じくルームサービスを利用できるから、好きなものを頼んだらいいんじゃないか?」

塞「わお。ブルジョア」

ネリー「やえはお金いっぱい持ってるんだよっ!」

照「ゴチになります」

やえ「誰も奢るとは言ってないが……?」

 ――対局室

咲(ふう……ひとまず、削られずに済んだ。和ちゃんの自作麻雀ソフトでいっぱいデジタル練習した甲斐があったよ……)

友香(やっほー、咲)ヒョイ

咲(わ!? 友香ちゃん……? どうしたの?)コソッ

友香(伝令でー)コソッ

咲(ああ、二回戦のときに桃子ちゃんが淡ちゃんのとこ行ってたね。私の担当は友香ちゃんなんだ)

友香(お姉さま参上、ってね!)キラーン

咲(ふふっ、ありがと。それで、煌さん、何か言ってた?)

友香(いい感じだからその調子で、だって)

咲(そう? なら……よかった。途中で沈みかけたときはよっぽど嶺上しちゃおうかと思ったけど、我慢して頑張った甲斐があったよ)

友香(あと、それとは別件でもう二つ)

咲(二つも? 一つ目はなに?)

友香(松実先輩が、後半戦は加速してくるかもだそうでー)

咲(ああ……確かに、ちょっと雰囲気が変わってたような。モニターで見てると、どんな風だった?)

友香(松実先輩の意思に赤い牌が応えてる、って煌先輩は言ってたよ。高く和了りたいときには高い手が、速く和了りたいときには速い手が入ってきてるって。
 実際、最後は速攻でシャットアウトしてたよね? まるで助走みたい、って話でー)

咲(なるほど。あ、そういえば、一回役満級の手を張ってなかった?)

友香(混一の高め四暗刻が一回あった)

咲(それが、漫然と赤い牌が集まってきた結果じゃなくて、ある程度コントロールされてそうなってる……ように見えるってことね?)

友香(咲は理解が早いなー)

咲(まあね~)

友香(最悪、最下位になったら、支配力を三割まで出していいってさ)

咲(それでも三割なんだ……煌さんは慎重だなぁ。ま、わかった。それで、二つ目はなに?)

友香(弘世先輩についてなんだけどね。次鋒戦が始まるとき――)カクカクシカジカ

咲(……うん、わかった。色々ありがと。煌さんや桃子ちゃん……あと一応淡ちゃんにも、よろしく言っておいて。できるだけ頑張るよ)

友香(お願いで~)タッ

咲(さ、て……そろそろ時間か――)フゥ

菫「後半戦もよろしく……」

宥「よろしくお願いしますね」

透華「よろしくですわ」

咲「よろしくお願いします」ペッコリン

咲(後半戦はラス親。ま、できる範囲内でできることをやろう。煌さんがその調子でっていうんだから、これでいいんだ。このまま全力デジタルで頑張るよっ!!)

 北家:宮永咲(煌星・122100)

透華(さあっ! 後半戦こそは稼ぎますわよー!! このまま最下位に甘んじてたまるものですか!!)

 南家:龍門渕透華(逢天・56700)

菫(後半戦も気を引き締めていこう。一位と二位の背中は近いが、あまり意識してもかえって悪影響だろう。平常心で打つ……!)

 東家:弘世菫(劫初・108500)

宥(……勝つんだ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:松実宥(豊穣・112700)

『次鋒戦後半……開始です!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回は一週間以内に更新します。

では、失礼しました。

>>1ってもしかして、
咲「どの学年が一番強いか?」みたいなタイトルのSS書いた人?
人違いだったらごめんなさい。ところどころ文体とかキャラの使い方に似た雰囲気があったから。

>>222さん

そうです。荒川さんはほぼそのまま設定を引き継いでいますが、それ以外はあの時限りのつもりです。

以下、書いたものリスト。

和「宮永さん、私のリー棒も受け取ってください」咲「う、うんっ!」
咲「え? どの学年が一番強いかって?」
咲「ノドカの牌」
景子「折れた刃は錆びつかない」

読んでいただいた方はありがとうございます。ご察しの通り、雰囲気やキャラクターの使い方は、どのお話もこのお話も概ね同じです。合う・合わないは少なからずあると思います。なにとぞご容赦ください。

ご覧いただきありがとうございます。

一日に一気にっていうのが量的に大変なときは、数日に分けて投下していくことにします。いずれにせよペースは今まで通り一半荘/一週間くらいです。

その場合、こういう前置き・後書きは半荘一回の区切りで入れます。

それ以外のときは、sageったらその日の分が終わったと思ってください。

以下、本編です。

 ――対局室

 東一局・親:菫

宥(宮永さん……それに龍門渕さんも、弘世さんも。みんな前半はデジタルで打ってた。
 色々と対策は考えてきたんだけどね。龍門渕さんが《冷たい》モードに入ったとき用に持ってきたホッカイロ……今回は、出番はなさそう)タンッ

 西家:松実宥(豊穣・112700)

宥(能力も良し悪しなんだよね。確率を偏らせると、どうしても打ち方が偏ったものになって、クセが強く出ちゃう。
 それは、時として弱点になる。能力者でも、完全デジタルで打ったほうがいい場面っていうのが、当然、ある)タンッ

宥(けど……私は、自分の能力が好きだから。勝てないときも辛いときも、落ち込んだときも、何にも自信が持てなくなったときも、赤い牌は、いつだって私のところに集まってきてくれた。私を暖めてくれた……)タンッ

宥(尭深ちゃんのおかげで、能力に自信が持てるようになってから、どうしてか、それまでより、触れた牌が熱を持っているように感じた。手牌が赤く燃えているように見えた)タンッ

宥(そのときになって……やっと、わかったんだ。能力を使いこなすっていうのがどういうことか。想いを力に換えるっていうのがどういうことか。一年生の頃に、利仙ちゃんが言ってたことの意味が――)タンッ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――二年前・春

利仙「ツモです。6200オール」パラララ

胡桃「くっ」

宥「わぁ……」

いちご「だあーっ! またトばされた……! 相変わらず強いのう、利仙のそれ」

利仙「ふふっ、伊達に去年のインターミドルで準決勝まで行ったわけではありません」

いちご「《花散る里の天女》――まさかこうして同じチームになるとは思ってもみんかったわ」

宥「いちごちゃん、インターミドルでは三回戦で利仙ちゃんに負けたんだっけ」

胡桃「というか、練習でも、私たち誰一人利仙に勝ててない」

利仙「最終的には、皆さん全員、私といい勝負ができるくらいには強くなってもらいますよ。
 クラス対抗戦……優勝は難しいとしても、せめて決勝までは行きたいですからね」

いちご「本気で言っとるんか?」

利仙「本気も本気です。私だって、何も個人的な趣味ばかりでメンバーを集めたわけではありません。きちんと勝算を持って選んだのです」

 ガラッ

「藤原ー。言われてたやつ終わったぞ。主な同学年雀士の傾向と対策。こんなんでよかったか?」ドサッ

利仙「仕事が早いですね。助かります」

「なーに。アタシの能力は《発動条件》に他家が絡んでくるからな。とにもかくにも敵の打ち筋を分析しねえことには始まらねえ。こんなのはそのついでだよ」

利仙「ありがとうございます。頼りにしてますよ、我らがブレーン」

「そこはエースと呼んでほしいところだがなァ」

利仙「そういうことは、一度でも私に勝ってから言ってください」

「けっ、敵わねえな。《百花仙》様にはよ」

利仙「では、早速その傾向と対策をご教授願います。あなたのことです、きっと一人一人に合わせた対策案を作ってきてくれたのでしょう?
 まずは、佐々野さんと鹿倉さんの二人からお願いします」

「あいよ。っつーわけだ、佐々野、鹿倉。宮永照から《六道》、果ては霧島の巫女に至るまで選り取り見取りだぜ。
 気になるやつがいるなら言ってくれ。なければ一組の連中から順番に話していく」

胡桃・いちご「はーい」

利仙「では、松実さん。私たちは、ちょっと隣の対局室に行きましょうか。対策会を邪魔してはいけませんからね」

宥「えっ? あ、う、うん……」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――別室

利仙「さて……松実さん」

宥「は、はい」

利仙「先ほど、私は勝算を持ってメンバーを選んだと言いましたね?」

宥「そうだね」

利仙「その勝算――私たちチーム《一期》がクラス対抗戦を勝ち上がる鍵になるのが、他ならぬあなたなのです。松実宥さん」

宥「ええっ!? け、けど……私、大会の経験ないし、あんまりうまくないし、能力だって、ちょっと萬子の染め手が人より作りやすいくらいで……」

利仙「私もまともな大会に出たのは去年のインターミドルの一回だけですよ。技術だって、二軍《セカンドクラス》の中では平均以下でしょう。
 けれど、そんな私が、インターミドルの準決勝まで行けたのは、なぜか」

宥「能力? それに、支配力……?」

利仙「そうです。幸運なことに、私は生まれながらに《神憑き》。遺伝的に確率干渉力が強く、その扱いに長けた家系なのです。そんな私が、なんの因果か大能力を発現しました」

宥「強いわけだよね……」

利仙「お言葉ですけれど、松実さんも能力値《レベル》や支配階級《ランク》は私と同等のはずです。
 だからこそ、松実さんは、ジュニア・ミドルと一切の大会に出てこなかったにも拘わらず、学園都市から声が掛かった」

宥「じゃ、じゃあ……利仙ちゃんは、私の能力を買ってくれたの……? 嬉しいけれど、でも、自信ないなぁ……」

利仙「大丈夫です。そのために、私がいるんですから」

宥「えっ……?」

利仙「松実さん、あなたの能力は、私の能力とよく似ています。常時発動型の自牌干渉系能力。ツモの偏りを引き起こす力。
 私の場合は《筒子及び四五六牌》。松実さんの場合は《赤い牌》ですよね」

宥「う、うん」

利仙「しかも、松実さんは、私より引き寄せられる牌の種類が多い――支配領域《テリトリー》が広いんです。つまり、私より松実さんのほうが、能力の応用に幅があるんですよ」

宥「そうなのかなぁ……?」

利仙「そうなのです。ま、百聞は一見に如かず。私たちの能力がどれほど有用なのか。ちょっと実演してみせましょう」ピッ

 ガラガラガラガラ ウィーン

宥「え、今から二人麻雀するの?」

利仙「いえ、私が一人でやりますから、松実さんは見ているだけで結構です。とりあえず、このように適当な配牌を用意しますね」カチャカチャ

 利仙手牌:二五六六八①③⑥⑦⑦⑧東南

宥「ま、まあ、悪くないというか、普通の配牌だね」

利仙「重要なのはここからですよ。では、話をわかりやすくするために、少々本気を出しますね……」ペラッ

宥「え――本気って……? というか、利仙ちゃん、その、紙? なに?」

利仙「これは先日隠し撮りしたいちごちゃ――実家の赤山に代々伝わる《神憑き》の神通力を高める有難いお札です」

宥「すごいっ!? そんなものがあるんだね……!!」

利仙「意識の波動の重ね合わせ――《波束》のエネルギーの大きさは、意識的確率干渉力の強さに比例します。意識的、というくらいですから、当然、その強さは集中力に左右されます。
 このお札そのものは、ただの紙切れでしかありません。しかし、これを持っているという事実によって、私の意識は研ぎ澄まされていきます。
 結果、支配力の出力を飛躍的に上昇させることができる……ッ!!」ゴッ

宥「!」ピクッ

利仙「と……失礼。一瞬ですが、確率干渉の余波で、私の周囲の磁場が乱れてぞわりとしたり、気圧の変化で寒気が襲ったりするかもしれません。
 が、あまり驚かれないように。高ランク雀士同士の対局ではよくあることです。では……行きますよ――」ゴゴゴ

宥(ひぃっ!?)ゾワッ

利仙「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

宥「(な、なにこれ!? 寒気が止まらない……!!)利仙ちゃん……大丈夫なの……?」ガタガタ

利仙「私は大丈夫ですよ。しかし……いかんせん、この状態を長時間持続するとなると、今の私ではなかなか辛いものがあります。
 ので、手短にお話ししますね。日に何度もできることではないので、よく聞いてください」

宥「う、うん、頑張る……!」

利仙「まず、先ほどの配牌をもう一度見てください」

 利仙手牌:二五六六八①③⑥⑦⑦⑧東南

利仙「例えば、無難に手広く構えたい場合。私はここから、こんな風に手を伸ばします」ツモッ

宥「あっ……」

利仙「どんどんツモります。わかりますか……?」

宥「す、すごい……! 四・六萬、四・五・六筒――たった五巡で!?」

 利仙手牌:四五六六六③④⑤⑥⑥⑦⑦⑧

利仙「断ヤオ平和、高め一盃口の三面張……悪くないでしょう?」

宥「う、うんっ!」

利仙「では、不要牌を除きまして、もう一度最初から」カチャカチャ

 利仙手牌:二五六六八①③⑥⑦⑦⑧東南

利仙「今度は、鳴きを絡めつつ打点も下げたくないとき。私なら、こんな風に対子を増やすことができます」ツモッ

宥「わ、わわ……! 赤五萬、三・六・八筒……!!」

 利仙手牌:五[五]六六八③③⑥⑥⑦⑦⑧⑧

利仙「あらあら……勢い余って七対子をテンパイしてしまいましたね。ま、そうなる前に鳴いて対々にするもよし、このまま七対子で和了るもよし。いずれにせよ断ヤオと赤一で四飜は確定です。
 また、鳴かずに暗刻手を目指したい場合。あの配牌からだと、同じ要領で、私なら最速五巡で、五・六萬と六筒の三暗刻を作ることが可能です」

宥「なんでもありだね……!」

利仙「最後に、高打点の手がほしいとき。っと……そろそろ限界なので最大出力で行きますね。これが《百花仙》――私の十八番ですッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

宥「ふわぁっ!?」ゾゾゾッ

 利仙手牌:二五六六八①③⑥⑦⑦⑧東南

利仙「まずは――これ……ッ!!」ツモッ

宥「あ……赤五筒っ!!」

利仙「さあ、どんどん《上書き》しますよ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

宥「こ、こんな……普通の配牌だったのに、九巡で――!?」

 利仙手牌:②②③③④④[⑤]⑥⑥⑦⑦⑧⑧ ツモ:[⑤]

利仙「大車輪――門前清一断ヤオ平和二盃口赤二ツモ……数え役満ですね」フゥ

宥「り、利仙ちゃん、いつもこんなことしてるの……?」

利仙「いえ、さすがの私も、今の集中力を半荘一回持続するのは無理ですよ。
 あと、そもそも卓上は四人分の意思が衝突するわけですから、よほど力の差がない限り、特定の一人が場を支配することは稀です」

宥「そうなんだぁ……」

利仙「ですが、もちろん意識はしています。《筒子及び四五六牌》――この十五種類の牌をどうやって扱えば、その場の最善となるのか、常に考えるようにしています」

利仙「配牌や点数状況、相手の能力や打ち筋などを考慮して、速度なのか火力なのか、鳴くのか門前なのか……戦略の立て方は無数にあります。
 その戦略に沿って、自分の意識を――能力を、できる限り制御する」

利仙「条件発動型のような一点突破こそできませんが、私たちの常時発動型能力は、応用範囲が広く、対局全体の流れを作っていくことができるんです」

利仙「いいですか、松実さん。漠然とツモを偏らせるだけでは勝てません。明確な意思と目的を持って、能力に使われるのではなく、能力を使いこなすのです」

宥「使いこなす……かぁ」

利仙「松実さん。あなたは、ご自分の能力を、ちょっと人より萬子の染め手が作りやすい程度と謙遜していましたが、そんなことはありませんよ。
 今私がやってみせたことは、訓練次第で、あなたにもできるはずなんです」

利仙「順子が多いときは広く構え、対子が多いときは同じ牌を重ね、染め手が狙えそうなときは思い切って清一に持っていく。
 さらに、あなたは役牌である中を戦略に取り入れることができる。それは、字牌が支配領域《テリトリー》にない私には、決してできないことです」

宥「私の能力って、そんなに色々なことができるんだ……考えたこともなかった……」

利仙「ま、とは言え、私は幼い頃から《神憑き》として神通力――支配力を行使する修行を積んできました。
 松実さんが私と同じくらい支配力の扱いに長けるには、それなりの時間がかかるかと思います」

宥「そ、そうだよね……」

利仙「ですが、先ほども言ったように、支配力を扱うのに必要なのは、集中力と洗練された意識。つまるところ『強い想い』なのです。
 気持ちが十分に高まっている状態なら、自然と、牌が想いに応えてくれます。そうなれば、結果はあとからついてくるでしょう」

宥「気持ち……強い想いかぁ。利仙ちゃんは、いつもどうやって気持ちを高めてるの?
 その、小さな頃からやってたっていう《神憑き》の修行を思い出して、とか?」

利仙「それもありますが、一番は、やはり愛ですかね」

宥「あ、あいっ!? あいって、あの愛だよね?」

利仙「いわゆる一つのLOVEです」

宥「利仙ちゃんの口からラブなんて単語が出てくるなんて……!! え、それは、その、つまり、好きな人がいるってこと……?」

利仙「ええ。《最愛》の人がいるんです。私の元気の源。頑張っているその人の姿を見ると、私ももっと頑張らなくては、と思える。
 麻雀を始めたのも、麻雀を続けているのも、あの人への愛があればこそです」

宥「意外だなぁ。利仙ちゃんは、もっとクールな人だと思ってたよ」

利仙「ご期待に副えなくてごめんなさい。けれど、これが私ですから」

宥「ううん、全然。とっても素敵なことだと思う」

利仙「ありがとうございます。まあ、そんなわけで、松実さんも、愛する人が傍にいれば、きっと強い心を持てるようになると思いますよ」

宥「愛……かぁ。身近な人なら、やっぱり玄ちゃんだなぁ。あ、妹なんだけどね。一つ下の」

利仙「ほう。妹さんがいらっしゃるのは初耳ですね。妹さんも麻雀を嗜むのですか?」

宥「うん。玄ちゃんも、私と同じで、ちょっと偏った麻雀を打つんだ。でね、それが、とっても強いの。
 すごいんだよ。私が何をしても、玄ちゃんの能力は揺るがないの。自慢の妹なんだぁ」

利仙「大能力者《レベル4》である松実さんが何もしても……揺るがない能力……?」ゾクッ

宥「どうかした、利仙ちゃん?」

利仙「あ、い、いえ……。その、玄さんですか。一つ下で、しかも能力者なら、来年の新入生の中に混じっているかもしれませんね。そのときは、ぜひご紹介してください」

宥「うんっ。紹介するよ」

利仙「では、対策会に合流しましょうか。支配力の訓練は、普段の練習のあとに、二人でやりましょう。
 可能なら、図書館で能力論の本を探してみてください。多少数式がゴチャゴチャしていますが、私が説明したようなことは、一通り載っているはずです」

宥「何から何までありがとう、利仙ちゃん」

利仙「いえいえ。全ては、クラス対抗戦でできる限り勝ち上がり一回でも多くいちごちゃんの勇姿を――決勝に行くためですから」

宥「クラス対抗戦かぁ。利仙ちゃん、私、頑張るよっ!」

利仙「ええ。頼りにしていますよ、松実さん」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

宥(結局、私は、利仙ちゃんと同じことができるようにはならなかった。けど、利仙ちゃんが付きっ切りで特訓してくれて、戦い方に幅が生まれた。
 そのおかげで、私は入学した頃よりずっと強くなれて、《豊穣》のみんなと仲良くなることができたんだ……)

        ――さすがに決勝ともなると皆さん強いわねぇ。守りきるので精一杯だったわ。

    ――次は負けへんでー、福路美穂子っ!

           ――私としても、この点差では勝った気がしません。すぐにでも再戦を申し込みたいところです。

   ――あら、なら私も混ぜてほしいわ。今度の日曜なんてどうかしら。

         ――私は大丈夫ですよ。あなたはいかがです、松実さん?

  ――なーにきょとんとしとんねん。松実さんには一発もろたからなっ! 借りはきっちり返させてもらうで~。

     ――来てくれるなら、私のとっておきを見せてあげるわよ、松実さん。

宥(美穂子ちゃん、竜華ちゃん、霞ちゃん……みんな強くて、しっかりしてて、私の成績が落ち込んだときも、いっぱい励ましてくれた。
 みんながいてくれたから、私は二軍《セカンドクラス》に残れたんだ。そして、学年が上がって……)

          ――お姉ちゃんっ! 元気だった?

   ――あのね、私の能力、本当にレベル5だった! しかも、序列はなんと第一位なのですっ!

宥(玄ちゃん……玄ちゃんは、私と違ってちゃんとしてたなぁ。クラス対抗戦ではリーダーまでしてた。
 チーム《爆心》……白糸台の伝説になったあのチーム。そう……そして、その副リーダーだったのが――)

      ――渋谷尭深です。えっと、玄さんにはいつもお世話になっていて……。

  ――松実……先輩……。

             ――あ、え、えっと……ゆ、宥さん……///

宥(その年の夏。尭深ちゃんは、私に見せてくれたんだ。能力の強さ――能力に《絶対》の自信を持つことの強さを……)

   ――大・三・元炸裂だーぁ!! 《虎姫》中堅、《ハーベストタイム》こと渋谷尭深っ! 《姫松》・《千里山》両エースの猛烈な追い上げをオーラスで一蹴ううう!! 一年生ながらに玉座を守りきりましたー!!

      ――見てみてっ! おねーちゃんっ、尭深ちゃんがアップで映ってるよーっ!!

宥(尭深ちゃん……そっちから、私のこと、ちゃんと見えてる? 私ね、今、たぶん、あのときの尭深ちゃんと同じ顔してると思うんだ……)

宥(ちょっと緊張してて、不安もあったりで、どきどきで、それでも、自分の力に自信を持って……最後まで打つ)

宥(ねえ、尭深ちゃん。去年、私は、観客席から、優勝した尭深ちゃんの笑顔を見てたんだよ。
 表彰台で、あの弘世さんの隣に並び立つ、照れて顔を赤くした尭深ちゃんを、見てたんだよ……)

宥(そのときなんだ。私が自分の気持ちに気付いたのは。私が傍にいたいと思う人が誰なのか。私の好きな人が誰なのか。
 だって、私、並んでる弘世さんと尭深ちゃんを見て、弘世さんに嫉妬したんだもん。
 弘世さんは強くていいなぁって。私もいつかもっと強くなって、表彰台で、あなたの隣に立っていたいなぁって。そう思ったんだよ……尭深ちゃん――)

宥(だから……私、頑張るね。あと二回勝てば夢が叶うんだもん。あのときの私には、見ていることしかできなかった。
 けど、今の私は違うっ! 尭深ちゃんと一緒のチームで、こうして戦ってる……!!)

宥(尭深ちゃん……一緒に行こうっ! 白糸台の《頂点》まで、一緒に――!!)

宥「ツモです、300・500……っ!」パラララ

透華(あーっ!? わたくしの倍満がー!!)

菫(染めるでも三色を揃えるでもなく、ピンポイントで順子を揃えての早和了り。しかし、ゴミ手というのが気になるな……)

咲(うーん……速さを優先するにしても、松実さんなら赤ドラで簡単に点数を高められたはずなのに。それをしなかったってことは――)

宥(うん、思ってた通りの手応え。今なら、あのときの利仙ちゃんと同じことができるかな。名付けて《熱愛》の大能力者……なんちゃってね。
 大丈夫。尭深ちゃんが見てくれている限り、私は、負けないっ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫:108000 透華:56400 宥:113800 咲:121800

 ――《豊穣》控え室

尭深「また宥さんが和了りましたねっ!!」

美穂子「前半戦の終わりから、これで三連続。手は安いままですが、それがかえって恐ろしいですね」

竜華「ノッてきた宥を抑えきることはなかなかできひんからな。サシでやり合うとしたら、美穂子以上の《一桁ナンバー》を連れてこーへんと無理やろ」

霞「一年生の頃から比べると、私たち四人の中で一番強くなったのは、間違いなく宥ちゃんよね。入学当時はまったく無名で、二軍《セカンドクラス》の中ではそんなに成績がいいほうではなかった。
 そんな宥ちゃんを入学早々発掘するなんて、本当、利仙ちゃんはいい仕事をしてくれたわ……」

     宥『ポンです』

尭深「中ポン! 特急券……すごい、宥さんの加速が止まりません……!」

霞「中なら少し待っていれば手に入るのにね。でも、その少しが明暗を分けることを、宥ちゃんはよくわかってる」

竜華「これはこの局もいけるやろっ!」

美穂子「中のみですけどね。はてさて、一体何を狙っているのやら」

     宥『ロンです。1000』

     咲『は、はい』

尭深「四連続……! 宥さんが最高過ぎて涙が出てきました。しかも次は親番です。一体どこまで和了り続けるんでしょう……」

竜華「ま、ほかの三人はそれを全力で阻止しようとするやろーけど。さーて、最初に宥に待ったを掛けにくるのは誰やー?」

美穂子「そんなのあの人に決まっているでしょう。間違いありません。全身全霊をもって殺しにきますよ」

霞「白糸台の一軍《レギュラー》として活躍するようになってから、外の世界でも通じる《シャープシューター》の名が広まって、ともすると忘れられがちだけれど、彼女もまた才華を振り撒く《十最》の一人だものね」

尭深「あの人に狙われたら最後……進む道の先に待っているのは終末と終焉。
 元チーム《虎姫》リーダー、弘世先輩。狙った相手を射ち落とす《最終》の大能力者……ッ!! 複雑な心境ですが、とにかく頑張ってください、宥さんっ!!」

 ――観戦室

やえ「この局は《最熱》と《最終》の一騎打ちになりそうだな」

塞「弘世、目が恐いわよ……」

ネリー「おっ、すみれ、ドラの九筒を残して八索を落としてきたね。三色確定ドラ一赤一だけど待ちは激減。何が狙いなのかなー?」

照「わかりきったこと」

 菫手牌:444[5]67五六七⑤⑥⑦⑨ 捨て:8 ドラ:⑨

塞「で……ここで松実がテンパイ、っと」

 宥手牌:三四四五六七八九⑥⑦⑨⑨⑨ ツモ:⑤ ドラ:⑨

やえ「平和ドラ二で5800――そのためには九筒を捨てなければならない。が、そちらを選ぶとあいつの親番は終了する」

塞「切れるわけがないわよね。ま、ここは四萬落としてツモを狙うしかないでしょ」

 宥手牌:三四五六七八九⑤⑥⑦⑨⑨⑨ 捨て:四 ドラ:⑨

 菫手牌:444[5]67五六七⑤⑥⑦⑨ ドラ:⑨

照「睨み合い」

ネリー「けど、ツモれる可能性がある分、ゆうのほうが有利だよ。すみれは和了り牌をゆうに握られてるから」

やえ「弘世は松実の様子を見て第二射に移るしかないだろうな」

塞「松実としても、出和了りできないのは辛いとこだろうけど。ま、待ち悪くないし打点もあるしいいんじゃない……って、赤五筒を残して、テンパイを崩したわね」

 宥手牌:三四五六七八九⑤[⑤]⑦⑨⑨⑨ 捨て:⑥ ドラ:⑨

照「萬子が多いし、松実さんなら、ここから暗刻手に移っていくこともできる。菫の和了り牌を抱えたまま、三暗刻にでもするつもりなのかな」

ネリー「あそこから三暗刻だと、ドラ三赤二で打点がとんでもないことになりそう。ますますすみれは苦しいね」

やえ「ふん……弘世、分が悪いと見るやドラを捨てて待ちを変えたか」

 菫手牌:444[5]67五六七④⑤⑥⑦ 捨て:⑨ ドラ:⑨

照「松実さんは……」

 宥手牌:三四五六七八九⑤[⑤]⑦⑨⑨⑨ ツモ:[⑤] ドラ:⑨

塞「ひとまず、弘世の現物である九筒で様子を見たわね」

 宥手牌:三四五六七八九⑤[⑤][⑤]⑦⑨⑨ 捨て:⑨ ドラ:⑨

塞「んー。せっかくのドラ三赤二だったんだし、三・六・九萬のどれかを落として、六・七・八筒待ちでテンパイに取ってもよかったような気もするけど。ってか、さっき五筒切ってなければ和了れてたんじゃない?」

やえ「そういうことは宮永咲の手牌を見てから言ってくれ」

 咲手牌:四五六七八⑥⑦⑧22789 ドラ:⑨

塞「いつの間に!?」

ネリー「ついさっき」

照「くっ、黙っていればいけると思ったのに……」

やえ「ま、松実は臼沢ほどチョロくないってことだ」

塞「やかましいわよ!」

ネリー「あっ、ゆうが――」

照「お」

塞「げっ……うわ、そういうことしちゃうわけ。顔に似合わず攻撃的よね、あの《最熱》は!」

 宥手牌:一三四五六七八九⑤[⑤][⑤]⑦⑨ ツモ:⑧ ドラ:⑨

ネリー「一通確定でフリテン解消。これなら出和了りができるっ!」

照「ただ、直前に菫も張り替えてる」

 菫手牌:444[5]67五六七⑤⑥⑦⑧ ドラ:⑨

塞「裏目上等……どうしても松実から直撃を取りたいらしいわね、あいつ」

やえ「松実は――ふむ、テンパイより一通の目を残すことを優先したか」

ネリー「チャンスを待つつもりだね」

照「正解」

塞「穴が埋まった……! これで松実もテンパイっ!! けど、これって――」

 宥手牌:一二三四五六七八九⑤[⑤][⑤]⑧ ドラ:⑨

 菫手牌:444[5]67五六七⑤⑥⑦⑧ ドラ:⑨

ネリー「ドラ表示牌とさきの手牌に八筒が一枚ずつ。で、五筒は持ち合ってるから、二人はまたまた綱引きだね」

塞「こうなると、弘世と松実以外にチャンスが広がるわけよね」

照「咲とか咲とかね。って……おのれ、菫のやつ、構えを解きおったか」

     菫『チー』

 菫手牌:444[5]五六七⑥⑦⑧/(8)67 捨て:⑤ ドラ:⑨

やえ「八索を鳴き戻したな。あの鳴きを見て三・五・六索を出してくるやつはいないと思うが、ツモれる可能性は十分にある」

ネリー「一方のゆうは――」

塞「張り替えた……!?」

 宥手牌:一二三四五[五]六七八九⑤[⑤][⑤] 捨て:⑧ ドラ:⑨

塞「けど、五萬は弘世と宮永妹が押さえてるのよね。今のままじゃ、松実はやっぱり和了れないことになる」

やえ「なら、切り開くしかあるまいよ。和了りへの道を、自分の能力《チカラ》でな」

ネリー「おお……っ!! ゆうもゆうで一度捨てた四萬を引き戻したっ!!」

 宥手牌:一二三四四五[五]六七八九[⑤][⑤] 捨て:⑤ ドラ:⑨

 菫手牌:444[5]五六七⑥⑦⑧/(8)67 ドラ:⑨

照「そして咲が三索掴まされた……」ズーン

塞「龍門渕もオリ気味ね。となると、ここは弘世と松実の捲り合い。能力で萬子を引きやすい分、松実のほうが有利なのかしら」

ネリー「和了り牌の残り枚数的に言えば、すみれのほうが有利なんだよ!」

やえ「だが……海の底は目前だ」

     宥・菫『……テンパイ』

     咲・透華『ノーテン』

ネリー「決着つかずーっ! いやぁ、二人ともよくやるよねー!!」

塞「《最熱》VS《最終》――実力伯仲、勝負は引き分け。ま、上位ナンバーの《十最》同士だもんね。正面からぶつかれば五分で互角の結果になるのは妥当かー」

やえ「五分で互角……? さあて、そいつはどうかな」

塞「え?」

照「もし、この結果を見て、菫が臼沢さんと同じことを思っているとしたら、オーラスまでのどこかで、きっと痛い目を見る」

塞「どういうこと……?」

ネリー「さえ、二人の和了りの最終形。その点数を比べてみるといいよ」

 宥手牌:一二三四四五[五]六七八九[⑤][⑤] ドラ:⑨

 菫手牌:444[5]五六七⑥⑦⑧/(8)67 ドラ:⑨

塞「えっと、弘世が断ヤオ赤一で2000。松実は――え……平和一通赤三……い、18000!? 高め一盃口ツモなら24000じゃない! 親と子って差はあるけど、それにしたって……!?」

やえ「睨み合いが始まった時点での点数を比較すると、さらにわかりやすいな。最初に射の構えに入ったとき、弘世の手は三色赤一ドラ一で8000。
 対して、松実は素直に進めば平和ドラ二の5800、或いはツモドラ三で12000。飜数的には、出和了り可の四飜手を張っていた弘世のほうが上だった」

照「菫は、松実さんの動きに合わせて、ドラを切ったり三色を崩したりしなければならなかった。
 反対に、松実さんは、菫の狙いをかわしながら、ドラの代わりに赤ドラを引き寄せ、なおかつ一通を確定させた」

ネリー「さっきの一局……表面上は、すみれが先手を打ってゆうの和了りを止めていたように見えたけど、実際は逆。場をリードしてたのはずっとゆう。
 すみれはゆうの変化についていくので精一杯だったんだと思うよ。結果、二人の飜数には、最大四倍の開きができた」

塞「じゃ、じゃあ……なに? 松実は……弘世の妨害があることも計算尽くで、手を進めてたってこと? 最初から、松実にはこの和了り形が見えてたっていうの?」

やえ「たぶん、松実は倍満を和了るつもりだったんだろうな。流局までもつれたのは、弘世の意地だ」

塞「その言い方だと、まるで松実のほうが圧倒的に強いみたいな感じだけど?」

照「現時点では、どう見てもそう。松実さんは、あの場の誰よりも上を行ってる」

塞「マジでか……」

ネリー「ま、さっきはそういう《流れ》だったし、引き続き《流れ》はゆうの手にあるけど……へえ、あの人はそういうのお構いなしなんだ」

     透華『…………』ゴゴゴゴゴゴ

塞「ツモで満貫。点差的にはリーチを掛けたいところよね」

照「まだ高めに移れる可能性がある。中盤までに倍満が見えたら、きっと仕掛けてくると思う」

やえ「親の松実は……今のところ回してはいるが、ノーテン親流れも考慮しているように見える。
 最下位のチームを相手に無理する必要もないって判断か……否、それだけではなさそうだな」

ネリー「あれは何か狙ってるっぽいね。すごいよ。普通はノッてるときに引いたらそのままずるずる落ちていっちゃうものなのに、ゆうの場合は、その引きが溜めになってる」

照「……また流局」

     透華『……テンパイ』

     宥・菫・咲『ノーテン』

塞「んーっ! じれったいっ!!」

やえ「松実以外の三人もそう思っているだろうな」

ネリー「焦ったらそれこそ思うツボなんだろうけどねー」

照「次は咲の親番だ」ワクワク

>>251修正

塞「んー。せっかくのドラ三赤二だったんだし、三・六・九萬のどれかを落として、六・七・八筒待ちでテンパイに取ってもよかったような気もするけど。ってか、さっき六筒切ってなければ和了れてたんじゃない?」

やえ「そういうことは宮永咲の手牌を見てから言ってくれ」

 咲手牌:四五六七八⑥⑦⑧22789 ドラ:⑨

塞「いつの間に!?」

ネリー「ついさっき」

照「くっ、黙っていればいけると思ったのに……」

やえ「ま、松実は臼沢ほどチョロくないってことだ」

塞「やかましいわよ!」

ネリー「あっ、ゆうが――」

照「お」

塞「げっ……うわ、そういうことしちゃうわけ。顔に似合わず攻撃的よね、あの《最熱》は!」

 宥手牌:一三四五六七八九⑤[⑤][⑤]⑦⑨ ツモ:⑧ ドラ:⑨

ネリー「一通確定でフリテン解消。これなら出和了りができるっ!」

 ――《逢天》控え室

泉「だあーっ! 透華さんは間違ったことしてへんのにっ! なーぜ和了れへんのやー!!」

玄「透華ちゃん自身がよく言ってるけど、半荘二回くらいじゃ、たとえノーミスでも大負けする可能性がある。ここは我慢だよ」

豊音「ノーテン罰符が入ったし、リー棒を出さなかったから無駄な失点もしてない。トーカはちょー落ち着いてるよー」

小蒔「あっ! 透華さん、配牌からドラの役牌が三枚……!! この局は行けるんではないでしょうかっ!」

玄「透華ちゃん、鳴いて仕掛けるつもりかな。んー、できればいいけど……」

泉「え、何か問題でも?」

玄「うん。だって、チーとポンなら、ポンのほうが優先だから」

     透華『チ』

     宥『ポンです』

豊音「わー……透華の辺張が潰された……? 速攻で仕掛けたいのにとんだ回り道だよー」

小蒔「逆に、宥さんは今ので手が進みましたね。これは……一旦搭子を崩さねばならない透華さんでは追いつけませんか……」

泉「って……! またそんな安っいの!?」

     宥『ツモです。300・500の二本場は500・700』

玄「またお姉ちゃんの和了り。なのに、点数はほとんど動いてない……?」

泉「ま、まあ、そら安手で場を回したらそうなりますやん」

玄「それが異常事態なの。お姉ちゃんの平均打点は、私ほどじゃないけど、一般的な数値よりは高い。そんなお姉ちゃんが、さっきから30符1翻の手しか和了ってない」

豊音「点数度外視で、場を回すことに専念してるとか?」

玄「仮にそうだとしても、お姉ちゃんなら、速さをそのままに赤ドラで手を高くしたりできます。実際、弘世さんとの睨み合いの中ではそうしていました。
 なのに、それをしていない。速度重視だとしても、これは……」

小蒔「なにか、安手に拘る理由がある――ということでしょうか?」

玄「うん。たぶん。まだわからないけど」

     宥『ロン、1300です』

     透華『ぐぬっ……はいですわ』

泉「またー!? もう半荘も半分以上過ぎたで!!」

豊音「半荘半分過ぎたのに、ここまでユウ以外が全員焼き鳥」

小蒔「えっと……ああっ、本当です!!」

玄「ずっとお姉ちゃんのターンだよ。そして、とうとうチームトップに立った」

泉「完全試合《パーフェクト》でも狙っとるんですかね……?」

玄「ううん。お姉ちゃんはそういうのに拘る人じゃないよ。どこかで誰かが和了ってくるとは思ってるはず。
 だから、このまま安手で回し続けることはないと思うんだけど……。一体何を狙ってるの……お姉ちゃん……」

 ――《劫初》控え室

智葉「危険だな」

憩「それは、際どいメイド服&猫耳&尻尾&手錠&目隠しなエイさんをソファーの上に仰向けにさせて『動くな』と命じたあげく試合そっちのけで延々と猫じゃらしの先っちょでその柔肌を撫で回し続けているガイトさん、っちゅうこの構図のことですか?」

エイスリン「……ッ/////」フルフル

衣「えいすりん、大丈夫か? 真っ赤な顔で全身を小刻みに震わせているが?」

智葉「ふふっ……堕メイド。あと五分間だけ耐えたら、やめてやってもいいぞ?
 ただし、動いたり声を上げたりしたらお前の負けだからな。次のお仕置きに移らせてもらう」

エイスリン「ニャン!?」

智葉「さーて、じゃあ今からな。ほらほら、今度はこっちだぞ――」コチョコチョ

エイスリン「……ッ!!」プルプル

衣「えいすりん……そんな、歯を食い縛って耐えんでも。さとはも耳は反則であろうに」

憩「あかんこの人ら早くなんとかせんと……ってーぇ!! ちょっと目を離した隙に松実さんの手がえらいことに――!?」

 ――対局室

 南二局・親:透華

咲(松実さん……もう終盤に差し掛かろうってところなのに、未だ河に萬子が一枚も見えない)タンッ

 西家:宮永咲(煌星・117600)

菫(しかも、最後の捨て牌は手出しの中。次も中だとすると、手牌がとんでもないことになっていそうだな……)タンッ

 北家:弘世菫(劫初・108000)

透華(萬子が切りにくいですわね。せっかくのラス親ですけれど、ここは慎重に行きますわ)タンッ

 東家:龍門渕透華(逢天・56100)

宥「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:松実宥(豊穣・118300)

 ――流局

咲「(ふう……ツモられなかったのはよかった、のかな?)ノーテンです」パタッ

菫「(果たしてテンパイを崩してでも萬子を抱えたのは正解だったのか否か)ノーテン」パタッ

透華「(さあ、その手を開いてごらんなさいな。わたくしに親番を捨てさせるほどの手がいかほどのものか――!!)ノーテン」パタッ

宥「ノーテンです」パタッ

咲・菫・透華(は――!?)ゾクッ

咲(え? え……? テンパイじゃなかったの? 明らかに大きいの張ってたよね?
 あのプレッシャーでノーテンってことはないと思うんだけど……何がどうなってるの……?)

菫(あの松実さんが萬子を一枚も切っていない状況でノーテンだと……? ありえないことはないのだろうが、いくらなんでも不自然過ぎる。
 しかし、ノーテン罰符を捨ててまで、わざわざ手牌を隠すメリットとはなんだ……?)

透華(仮にノーテンというのが真実なら……コケ脅しでわたくしたちの足を止めるのが狙いだったとでも?
 あそこまで門前清一を匂わされたら……こちらも相当の手でなければ押すことはできませんものね。けど、本当にそれだけですの……?)

宥「流れ一本場。次は私の親番ですね……」コロコロ

菫:108000 透華:56100 宥:118300 咲:117600

 ――《逢天》控え室

玄「お姉ちゃん!?」ガタッ

豊音「門前清一12000……ユウってば張ってたのに手牌を晒さなかったよー? ちょー恐いんだけどー……」

泉「せ、せやけど、ノーテン罰符が取られへんかっただけマシやったんとちゃいますか……?」

小蒔「せっかく得意の門前清一を揃えたというのに、一体何が狙いなのでしょう」

玄「門前清一……? あ――そっかっ! お姉ちゃん、そんな……なんてことを――!!」

小蒔「何かわかったんですか、玄さん?」

玄「今の一局が、能力によるツモの偏りの最終調整だったんだよ。この後半戦最後の親番――最初から、お姉ちゃんはずっと、ここに合わせて能力を加減してたんだ……!!」

泉「ど……どういうことですか!? なんや、さっぱりですわ!」

玄「泉ちゃん、この次鋒戦のお姉ちゃんの手を思い出して。放っておけば手が萬子に染まるお姉ちゃんが、ここまで一度でも、萬子の門前清一になった?」

泉「それは……ありませんでしたけど」

玄「そうだよね。で、今の局はどうだった?」

泉「そ、染まってましたね。配牌は染め手を狙えるようなもんやなかったですけど、そっから三回に二回くらいは萬子を引いてきて……終盤に入ったくらいで張って、そこからは、まあ、見ての通りですわ」

玄「そうだよね。三回に二回くらい萬子を引けるなら、たとえ配牌に萬子が数枚しかなくても、終盤までには門前清一が出来上がるよね」

泉「そらまあそうでしょう」

玄「じゃあ聞くけど、もし配牌もツモもほとんど一色牌に偏っていたとしたら、一体どれだけの速度で門前清一テンパイに辿り着けると思う? 泉ちゃんなら……知ってるはずだよね?」

泉「び、びっくりするくらい序盤にテンパイできます……!!」

玄「そういうことなんだよ。何から何まで、お姉ちゃんの思惑で場が動いてるっ! 連続の安手も、今手牌を晒さなかったのも、全部……このときのために――!!」

 ――観戦室

やえ「なあ、臼沢。もし仮に、お前があの場にいたとして、この松実の親番……一体何を考える?」

塞「ええっ? いや、わかんないけど、まずさっきのノーテンについて考えちゃうわよね。今はモニターで見てるからいいけど、あの場にいたら、ホントわけわかんないから」

ネリー「どぼーん!!」

照「臼沢さん、一回死んだ」

塞「はあー!?」

やえ「じゃあ、あのノーテンについては、『染め手のテンパイを匂わせて他家の足を止めるのが目的だった』と結論付けたとしよう。
 さあ、次にお前は何を考える?」

塞「えっと、まあ、とりあえず松実の親番を止めるわよ。また安手で連荘されたら面倒だし」

ネリー「ぼがーん!!」

照「臼沢さん、二回死んだ」

塞「なんなのよーっ!?」

やえ「安手での連荘――それ以外に、思いつく限りの脅威を挙げてみろ」

塞「んー……そりゃまあ染め手の大きいのでしょ? さっきだって、終盤には門前清一を張ってた。中盤くらいまで様子見て、萬子が出てこないなーと思ったら、オリるか回すかするわよ」

ネリー「ちゅどーん!!」

照「臼沢さん、三回死んだ」

塞「えー!? これも違うなら……あっ、染め手と見せかけて実は染まってませんでした的なっ!?」

ネリー「ぼぎゃーん!!」

照「臼沢さん、四回死んだ」

塞「な、なによ! 大体、なんであんたら全員そんなに松実を警戒するわけ?
 ここまでずっと速く安く回して場をリードしてきたやつが、何かやってくる――と思ったらノーテンだったのよ? 落ち目が来たか! と思うでしょ!?
 今までの和了りからして、速い分には安いんだから、こっちも序盤から積極的に仕掛けるか、もしくは、安手を和了られる分には仕方ないと割り切って、門前清一を警戒しつつ深いところで火力勝負すればいいだけじゃない!!」

照「どんがらがっしゃーん」

塞「宮永までー!!?」

やえ「面白いように松実の手の平で踊ってるな、お前」

塞「バ、バカにしてー!? じゃあ、あんたらだったらどうするわけ!?」

やえ「ひたすら上家に合わせ打つ。そして捨て牌が増えてきたら現物」

ネリー「できるなら鳴いて《流れ》を乱す。できなければ、覚悟する」

照「そして……どんなことがあっても、萬子だけは切らない」

塞「へ……?」

やえ「ここまで用意周到に布石を置かれたんじゃ、もはや俎上の魚だよ。じたばた足掻くだけ傷が深くなる。
 どうやってあいつに勝つかは、とりあえず、あいつの好きにさせてから考えればいい」

塞「はあ? いや、だって、さっきあんた、『一体何を考える?』って私に聞いてきたわよね? なのに、考えるのはあとからでいいって……どういうこと?」

ネリー「考えさせることも、ゆうの思惑の一つなんだよー」

やえ「度重なる安手。明らかにテンパイなのにノーテン申告。完全試合《パーフェクト》ペースで迎えた最後の親番。今の松実を前にして、何も考えるなというほうが無理だよな。
 しかし、その考え――迷いが、かえって思考に靄を生む。それでは、本質を捉えることはできん」

照「そもそも、もう何かを考える段階じゃないんだよ。松実さんは、今の南二局で全ての調整を終えた。
 細工は流々、あとは仕掛けをご覧じろ。なんらかの対策を打つには遅過ぎる。
 なのに、ここから何ができるか――なんて考えても、まったくもって意味がない」

塞「な、何かをするなら……もっと前にどうにかしなきゃいけなかったってこと……?
 け、けど、そんな手も足も出ないような状況ってよっぽどでしょ? いくらなんでも遅過ぎるってことはないんじゃ――」ハッ

やえ「臼沢……お前、あの松実の配牌を見て、同じことが言えるか?」

塞「ちょ、こんな……ありえないでしょ――!?」

     宥『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《豊穣》控え室

美穂子「なるほど……これは敵いませんね。あの場にいたらと思うとぞっとします」

竜華「さっきの一局くらいでなーんかヤバいなー思たけど、まさかここまでとは。鳴いてズラす以外の対策が思いつかへん。ま、それも焼け石に水やろな」

霞「《最熱》も《最熱》。あれほど真っ赤に燃えられては、熱が引くのをただじっと待つしかないわね」

尭深「ゆ、宥さんが……!!」

     宥『ロンです――』

美穂子・竜華・霞・尭深「っ!!」ゾワッ

 ――対局室

 南三局流れ一本場・親:宥

宥「ロンです――」パラララ

透華(三巡でそれ――!? ど、どれだけツいてますのー!?)

咲(ちょ、そっか……そういうこと――!? やられたよ……!!)

菫(まさか……! こんな、一度ならず二度までも――ッ!?)

宥「門前清一……18000は18300」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫「は、はい……」

咲(配牌からツモまで、ほとんど萬子しかない。それは速いわけだよ)

透華(しかも、ご丁寧に、第一打で不要な萬子を落として染め手臭を消してやがりましたわね……?
 振り込んだのがわたくしでなかったのはただの偶然……完っ全に術中に嵌っていましたの……!! とんだ屈辱ですわー!!)

菫(遅過ぎた……何もかも。安手の速攻ばかりを続けてこちらの目を欺き、門前清一を晒さないことによってこちらの思考を鈍らせ、且つ、自身の能力の変化――萬子だけを寄せるように能力を調整したことも、悟らせなかった。
 そこに、三巡目の門前清一。この局、第一打から店じまいが正解だったというのか――!?)

宥「……二本場です……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(マズい……! 一気に離された。しかも今ので矛を収める気配がない。なんとかしなきゃ。支配力に頼っちゃダメ。頭使って……頑張るっ!!)

菫(まだ……まだだっ! 今は自分の甘さを悔いても仕方がない。松実さんは強い――それは最初からわかっていたことだ。これ以上好きにはさせんぞ……!!)

透華(っていうかー!! 完全試合《パーフェクト》目前ですのー!? ナメんなですわ!! ちょっとツいてたくらいで調子づくなですわっ!! 松実宥――今に凹まして差し上げますッ!!)

宥(油断しないで……最後まで逃げ切る――!!)

菫:89700 透華:56100 宥:136600 咲:117600

 ――《豊穣》控え室

霞「さてさて、さすがの宥ちゃんね。トップ独走よ」

美穂子「さっきヘマした私としては、なんとも複雑な心境です」

尭深「あ、あれは仕方ないですよ……。福路先輩が振り込んでしまったのはたまたまですし、東横さんの手があんなに高くなったのもたまたまです」

竜華「たまたまかぁ。せやけど、自分のプレイスタイルを崩さへんやつは、そのたまたまを引き寄せやすい。今回の龍門渕透華みたいにな」

霞「結局、最後までデジタルを貫いたわね。本当に強い子だわ」

     透華『いらっしゃいましッ!! ツモ、4200・8200ですわー!!』

尭深「龍門渕さん……あの人はもうなんていうか、さすがです。さすがは《福笑》と《龍門渕》のリーダーを務めていた雀士。私も頑張らなくては……」

美穂子「親っ被りですか。個人収支でまくられましたね。こういう突発的な力強さがあるから、龍門渕さんは恐いです」

霞「けれど、残るはオーラスだけ。たとえ勢いに乗られても、今からでは稼げる点数に限界がある」

竜華「安手で回したのが効いとるやんな。抜け目ないで~」

尭深「と、このまま行くと、最後は宮永さんが締めくくりそうですかね」

霞「親のツモなら《劫初》との差は縮まらない。無理に突っ張ることもないわ」

     咲『ツモ、2000オールです』

竜華「おーっ! やるやんやるやん。東横といい宮永咲といい、今日のチーム《煌星》は安定しとんなー」

美穂子「合宿のときに比べると、精神的な隙が随分減っていますね。特にこの三回戦はそれが顕著です」

霞「それだけ、唯一の二年生である花田さんが、リーダーとして力を発揮しているということよね。
 彼女が一年生の子たちの支えになってる。精神的にもそうだし、戦略的にも」

尭深「今回……宮永さんにデジタルの指示を出したのも、花田さんでしょうしね」

竜華「公式戦では初めて見たけど、宮永咲のデジタルもなかなかええ感じやんか。宥や弘世相手にほとんど失点しとらへん。結構なお手前やったな」

     咲『ラス親……続行しますっ!』

竜華「およ?」

尭深「てっきり、東横さんがそうだったように、宮永さんも和了り止めするかと思ってましたが……」

美穂子「宮永さんの表情からすると、独断ではなさそうですね」

竜華「ほな、これも花田煌の指示か」

霞「ここまでの打ち回しを見る限り、宮永さんに与えられた役割はデジタルで繋ぐことのはず。それは十分に達成している。デジタルを崩すわけでもなさそう。わからないわね……一体何を狙っているのかしら――」

 ――対局室

 南四局一本場・親:咲

宥(ラス親続行? ちょっと意外かも。宮永さんがデジタルでも十分強いのは打っててわかった……でも、だからこそ、ここは失点のリスクを避けて、確実に次に繋げるものだと思ってたのに……)

 北家:松実宥(豊穣・126400)

透華(よし! ですわっ!! これでトップとの差を詰めるチャンスが広がりましたわね。最後にもう一発ブチかましますわよーっ!!)

 西家:龍門渕透華(逢天・70700)

菫(照の妹、何が狙いだ? まあ、私としては非常に有難いが。このままでは終われん。必ず一矢報いる……ッ!!)

 南家:弘世菫(劫初・83500)

咲(これで……いいんですよね? 煌さん――)

 東家:宮永咲(煌星・119400)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

煌「次に、弘世菫さんですね。ま、内容は二回戦の前の対策会で話したこととほぼ同じです。復習しますか?」

淡・咲・桃子・友香「大丈夫でーすっ!!」

煌「すばら。では、新情報を一つだけ追加します。赤ペンでしっかりメモしてください。この、弘世菫さん。なんと、とあるクセをお持ちなのです」

淡「クセ?」

煌「ええ。昨日、淡さんと戦っているのをモニターで見ていて、気付きました。きっかけはちょっとしたことだったんです。弘世さん……あの方の視線は、それなりにあちこち動きます。
 なのに、どうしてか、なんとなく、そのとき狙っているのが誰なのか予想できる。
 その『なんとなく』の正体を見極めようと注意して観察してみた結果、このクセの発見に至ったわけですね」

桃子「超新星さんが大崩れして大混乱だったあの先鋒戦の間にそんなことを!?」

友香「さすが煌先輩でー!!」

咲「くっ、しまった……! 私は淡ちゃんの悔しがる顔ばかり見てたよ……!!」

淡「サッキー、それは遠まわしな告白? それともド直球で喧嘩売ってる?」

煌「はい、ではモニターを見てください。そして、弘世さんの右手にご注目。
 はいっ! 今のところです! 数ミリほど動きましたね? この動作のあとに視線を向けた相手が、弘世さんの狙っている相手になります」

淡「細かっ!?」

煌「では、何も質問がなければ先に進みましょう。次はですね――」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

咲(煌さん……一体どれだけのデータと睨めっこすれば、あんな詳細な分析ができるんだろう。
 一体どれだけの時間を、あの人は、私たちのために費やしてくれたんだろう……)

   ――弘世先輩についてなんだけどね。次鋒戦が始まるとき、実況の人が言ってたんだ。弘世先輩、どうやら松実先輩とも因縁があるみたい。

  ――で、ネットで調べてみたら、三年生の最初に松実先輩に完封されかかったことがあったみたいなんでー。

    ――煌先輩、その場でそのときの映像を検索してチェックし始めて。

      ――すると、どうやら松実先輩は弘世先輩のクセに気付いてるっぽい、ってのがわかったんでー。

   ――けど、その後、弘世先輩はクセを治してない。なのに、ちゃんと二軍《セカンドクラス》で好成績を収めてる。

     ――つまり、みんな弘世先輩のクセの存在を知らないんでー。知っているのは、たぶん松実先輩と、咲のお姉さんくらいだろうって。

  ――で、クセがそのままってことは、本人も気付いてないってことになるよね。けど……どっこいそうじゃなかったらしい。

    ――煌先輩、何か思い出したみたいで、大慌てで《劫初》の予選決勝の映像をチェックし出して……。

   ――ま、煌先輩は『蛇足かもしれませんが』って言ってたけど。問題の二人が同卓してるから、伝えてくれってことでー。

咲(無駄にはしませんよ。蛇足なんてとんでもない……! 煌さんが掴み取った、貴重な一握の情報……必ず活かしてみせます――ッ!!)ゴッ

宥(これは……宮永さんに注意したほうがいいのかな?)

透華(和了ってやりますわよ! 和了ってやりますわよーっ!!)

菫(照の妹……事情はわからんが、感謝するぞ。これで、私も奥の手が使える――!!)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

菫「は……? 私にクセだと?」

憩「あ、やっぱり知らへんかったんですね。ま、無理もありませんか。そもそも、菫さんにクセがあるって知っとる人が限られてますから」

菫「どういうことだ?」

憩「ウチ、ちょくちょく菫さんの映像を見るんですよ。あ、その、まあ、深くはツッコまんでください。
 ほんで、例の松実さんに負けた対局。あれ、松実さんの視線移動が、なんや妙やったんですわ」

菫「それが、私のクセと何か関係があるのか?」

憩「大アリです。松実さん、あの人は、菫さんのクセを見抜いてはるんですよ。そのクセっちゅーんはかくかくしかじかなんですけど。
 せやから、松実さんはあのとき、菫さんの《シャープシュート》をかわせたっちゅーわけです」

菫「し、知らなかった……」

憩「ちょっと今、軽くウチに《シャープシュート》してくれます?」

菫「こ、こうか――?」ピクッ

憩「それですそれです!」

菫「言われてみれば! なんてことだ。照にも指摘されたことがなかったぞ……!!」

憩「敢えて言わへんかったのかもしれませんね。それが菫さんの能力にとって必要な動作かもしれませんから。けど、もしそうやないんなら――」

菫「クセを逆手に取れるっ!!」

憩「そういうことです。今のとこ、知ってるっぽいのは松実さん。あとは、宮永照も可能性はあるでしょう。
 ほんなら、その二人のチームと当たるときは、一回くらいは裏をかけるかもしれません」

菫「となると、練習が必要だな。まずは、クセを治しても《シャープシュート》ができるかどうか確かめねばなるまい。もしできると確定したら、予選で一回くらいは試してみるか……」

憩「ガイトさんにも意見聞いてみましょ。たぶん、ええアドバイスをくれるはずです」

菫「ああ、そうだな。有難う、荒川。さすが《悪魔の目》。こんな細かいクセにまで気付くとは」

憩「いえいえ。こんなん、ウチやなくても、気付く人は気付きますよ。現に松実さんは気付いたわけですし」

菫「しかし、お前たち以外は誰も気付かなかった。自慢じゃないが、私はほとんどの二軍《セカンドクラス》雀士を射貫いたことがある。
 未だに射貫けないのは、照や智葉、それにお前や松実さんくらいだよ」

憩「そんなことありまへん。ウチも、それに松実さんも、菫さんにはばっちり射貫かれてますわ」

菫「そうなのか? 覚えがないが……」

憩「まっ、とにかく練習してみましょーぅ!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

菫(今こそ練習の成果を見せてやる。これが最初で最後――今後、私はクセを見せることは一切ないだろう。
 クセありの《シャープシュート》も、クセを逆手に取った《シャープシュート》も、これで見納めだ……!!)ゴッ

咲(うっ……狙いは私っぽい。けど、これ――)

宥(弘世さんのクセ……白糸台で、宮永さんを除けば、たぶん私だけが知ってるクセ。《豊穣》のみんなにもまだ言ってない。私だけの、秘密――)

  ――げっ、胡桃にも有効なんか。あの《シャープシュート》っちゅーんは!

            ――テンパイ気配の有無は関係ねえのか。厄介だな。

     ――あら、どうかしましたか、松実さん……?

宥(弘世さん。初めてその闘牌を見たときから、あなたは私の憧れの人でした。
 あなたのように強くなりたいと思って、ずっと、あなたのことを見つめてきました……だからこそ――!!)

宥(ここで勝って、私はあなたを――憧れを超えていきます……っ!!)タンッ

菫「そ、それだッ!!」ゴッ

宥(え――)

菫「ロン、8300……!!」パラララ

宥(ひ、弘世さん――!? そんな……!!?)

菫(松実さん……!! やっと!! やっとあなたを射貫くことができた!!)

宥(まさか……!? こんな――宮永照さんではないはず!! なら、誰――? 私以外の、一体誰が……!?)

『次鋒戦終了ー!! 《豊穣》松実宥、安定した打牌で場をリードし続けましたが、最後に一矢報われる形となりました。結果、区間賞は《逢天》龍門渕透華!! 学園都市屈指のデジタルはやはり強かったー!!』

咲「(よしっ! トップ死守だよ!!)お疲れ様でした」ペッコリン

 三位:宮永咲・-800(煌星・119400)

透華「(ぐぬぬ……もっと差を詰めたかったですわ!!)お疲れ様ですの!!」

 一位:龍門渕透華・+11200(逢天・70700)

菫「(最後にどうにか食らいついたが……この収支では皆に顔向けできんな)お疲れ様……」

 四位:弘世菫・-16300(劫初・91800)

宥「あ、あの……弘世さん……っ!」

 二位:松実宥・+5900(豊穣・118100)

菫「ああ、松実さん。お疲れ様」

宥「お、お疲れ様です……」

菫「えーっと……なにか?」

宥「あ、いや、その、最後……弘世さん、クセ、気付いてたんですね。ずっと治ってなかったのに。もしかして、誰かから……?」

菫「む……! さすが松実さんは鋭い。いかにも。あれは予選が始まる前だったか。同じチームの荒川に指摘されてな」

宥「荒川さん――そっか。そうですか……わかりました。ありがとうございます」ペコッ

菫「こちらこそ、有難う。今度こそはと思っていたが、またやられたよ。いい勉強になった」

宥「い、いえ……勝負は、その、私の負けです」

菫「まさか。あの門前清一を食らったときは、本当に頭が真っ白になった。あなたはやはり強い人だ」

宥「私は――」

菫「またどこかで。決勝か、或いはもっと別の機会か。次は私が勝つからな……覚えておいてくれ!」

宥「は、はい……」

宥(荒川さん……そっか。あなたは、私と違って、強いんだね。秘密にしなかったんだね。打ち明ける勇気があったんだね。
 私には……とても無理だったよ。だって、あんな細かいクセ、気付くってことはつまり――)

宥(負けたなぁ……! 完敗だよ、荒川さん。やっぱり、私のこの気持ちは、憧れ止まりなんだ。
 うん……でも、いいんだっ。私は、弘世さんに相応しいのは、あなただと思うよ。あの宮永照さんよりも、きっと……)

宥(でも、試合には負けないよ。私は私の好きな人と、あなたたちに勝つ……!! 勝って……最後まで一緒にいるんだっ!! そうだよね、尭深ちゃん――っ!!)

 ――――

 ――――

友香「お疲れ、咲。能力使わなくても上級生相手にトップを守りきっちゃうんだからさすがでー」

咲「トップを守れたのは煌さんのおかげだよ。私は何もしてない」

友香「いやいや、デジタル咲も良かったよ」

咲「ありがと。ま、ちょこちょこ支配力使ってたけどね」

友香「謙遜しちゃってー。煌先輩も褒めてたよ。牌効率も期待値計算もばっちりだって。いつの間に練習してたのか不思議がってたんでー」

咲「ふふふ、《新約》の和ちゃんにデジタル論の参考書とか練習ソフトとか色々教えてもらったんだ。
 私だって、いつまでも能力や支配力だけの雀士って思われたくないもんね」

友香「それは煌さんに? それとも、淡に……?」

咲「えへへ、なーいしょ!」

友香「おーっ? 咲は友香お姉さまに隠し事をする気でー?」

咲「姉妹の間にも超えてはならない一線というものがあるんだよ、友香ちゃん」

友香「でっ……なんか言葉に重みが?」

咲「じゃ、友香ちゃん。行ってらっしゃい。このままトップキープよろでーっ!!」

友香「がってんっ! まっかせろでーっ!!」

 ――――

 ――――

豊音「トーカー! ちょーお疲れーっ!!」

透華「きぃー!! まくれませんでしたわっ!!」

豊音「なかなか無茶を言うねー? トーカは宮永さんの妹さんと三年生の上位ナンバー二人相手に、五万点差をひっくり返すつもりだったんだー」

透華「何万点差だろうとごぼう抜きしてやるつもりでしたわよっ!」

豊音「あははっ、それデジタル派の言うことじゃないよー。ちょーうけるー」

透華「笑い事じゃありませんわー!!」

豊音「まーまー。三位との点差を半分以上詰めたんだから、トーカは十分仕事したって。あとは私たちオカルト派に任せてよー。っていうか、トーカずるいよー」

透華「なにがずるいんですの?」

豊音「トーカにばっかりいいカッコさせないよー? ってことー」

透華「フン、ですわ。豊音、わたくしより目立つつもりなら、あなたもわたくしの敵でしてよ?」

豊音「えー!? そんなこと言わないでよー。私、団体戦は初めてなんだよー? みんなのためにいいとこ見せたいよー。仲間のピンチを救ってヒーローになりたいよー!」

透華「ま、わたくしの活躍が霞まない程度に暴れてらっしゃいな」

豊音「おっけー。じゃあ、ちょー大暴れしてくるよーっ!!」

透華「ちょ!? あなた、ちゃんとわたくしの言うこと聞いてたんですの!?」

豊音「もちろん聞いてたよー? 大丈夫、私がちょー大暴れしたくらいじゃ、トーカの活躍は霞まないよー。
 だってさっきのトーカちょーカッコよかったもーん。あの倍ツモはちょー痺れたなー」

透華「そっ、それはそうでしたわね!! よろしいですわ、豊音っ!! とことん暴れてやりなさい!!」

豊音「やったー!!」

 ――――

 ――《劫初》控え室

菫「………………なんだこの有様は!!?」

憩「えーっと、それは、際どいメイド服&猫耳&尻尾&手錠&目隠しなエイさんの口にロリポップを出し入れして悦に浸ってるガイトさんの残念な有様のことでええんですよね?」

菫「それ以外に何があるッ!!」ゴッ

衣「おおっ、一喝っ! 帰還を待ち望んでいたぞ、すみれ!!」

菫「智葉! それにウィッシュアート!! いい加減にしないか、この痴れ者どもがッ!!」

智葉「ったく、帰ってくるなりぎゃんぎゃんと……。これくらいの絵面がなんだというのだ。一昨日のお前と荒川のほうがアウトだったぞ」

菫「その話を蒸し返すなー!!」

智葉「ふん。ま、けど、よかったじゃないか。今夜も荒川にたっぷり可愛がってもらえるぞ? なあ、一人沈みの《シャープシューター》」

菫「ぐぬぬぬぬ…………!!」

憩「まあ、松実さんのアレは事故みたいなもんですよ。ちょっと今回は運がありませんでしたね」

菫「荒川……励ましてくれるのは嬉しいが、口の端から涎が垂れているぞ」

憩「おおっと! これは失礼をば!! すんません……今夜のお仕置きタイムのことを考えていたらつい」ジュルリ

菫「またあの恐怖の数時間を耐えねばならんのか……」

智葉「さてと。では、ウィッシュアートのほうはこれくらいで勘弁してやろう。あまりやり過ぎると決勝の楽しみが減ってしまうしな」

エイスリン「ニャニャニャニャニャ!?」

衣「えいすりん? 『にゃあ』はもういいのだぞ?」

エイスリン「ッ……////」

智葉「どうした、ウィッシュアート? そんなに私のペットになりたいのなら、週一くらいでかまってやるが?」

エイスリン「ウッセー、カス! チョーシ、ノンナ! テカ、ケッショーデハ、ヘマ、シネーヨ!! イイカラ、ハヤク、コレ、ハズセ!!」ガチャガチャ

智葉「っとに……お前、その顔でその喋り方は本当にやめたほうがいいぞ」ガチャガチャ

衣「それはそうと、さとは。次は貴様の出番であろう。いつまでも遊んでいないで、気構えを正したほうがよいのではないか?」

智葉「わかっている。っと、これでよし。なかなか愉快だったぞ、ウィッシュアート。せっかくだから、そのメイド服はお前にくれてやる。部屋着にでもしろ」

エイスリン「コンナ、ヒモ、ミテーナ、フク、ニドト、キルカッ!!」

智葉「そいつは残念、と。では、ちょっと行ってくるとしようか……」

エイスリン「……オイ、サトハ」

智葉「ん、どうした?」

エイスリン「テメェ、ココマデ、シテ、ヤッタ、ンダカラ、マケタラ、ショーチ、シネーゾ」

智葉「お前と一緒にするな。荒川じゃないが、この三回戦に私以上のナンバーを持つ敵はいない。負ける理由がないな」

エイスリン「ナライーケドヨ……」

智葉「じゃ、行って――」

憩「ちょ、ちょい待った! ストップです、ガイトさん!!」

智葉「なんだ、もうあまり時間がないぞ?」

憩「いや、けど、二回戦の超新星さんの例もあります。ガイトさんのことは信頼してますけど、一応、不安の芽は摘んどきたいですわ」

智葉「……なんのことだ?」

憩「とぼけないでください。ガイトさん、なんや……初めて見ましたわ。その心拍数、体温、血圧、呼吸ペース、瞬きの回数、発汗、体内水分率――緊張してはりますでしょ?」

智葉「この《悪魔》め……やはりお前の目は誤魔化せんか。いつから気付いていた?」

憩「いや、先鋒戦終わったくらいからずっと気になってましたけど。てっきり、エイさんのお仕置きに興奮してそないなっとると思ってました」

智葉「私をお前のような変態と同列に見るなよ……?」

菫「お、おい、智葉……お前が緊張だと? 本当にそうなのか?」

智葉「私だって人間だ。いつもいつも機械みたいに打てるわけではない。相手によっては昂ぶりが抑えられなくなることもあるさ。無論、対局室に入るくらいには明鏡止水だがな」

衣「……それほどに手強い相手がいるのか、この中堅戦には」

智葉「少なくとも、あいつと打って本気にならなかったことは、過去一度としてない」

エイスリン「マジデ、ダイジョーブ、ナノカ?」

智葉「心配無用。さっきも言った通り、負ける理由は見当たらない。まあ、あくまで完璧に打ってそうだ……というだけだがな。
 今まであいつと斬り結んで、一体いくつの死線を越えてきたか。思い出すだけでも冷たい汗が背筋を伝う」

憩「えっと、それは麻雀の話ですよね……?」

智葉「さて、どうだろうな。牌を握り点棒のやり取りをすることと、刀を握り命のやり取りをすることに、さほど違いはないように、私は思う。
 要するに喰らい合いなんだよ。生きるか死ぬか……獣同士の縄張り争いと何も変わらん」

菫「獣――《西方四獣》……か」

智葉「おお、その呼び名も懐かしいな。中三のインターミドルで初めて打ったとき、その爪に肉を引き裂かれ、腸を抉られたのは、いい思い出だ」

菫「南の《姫虎》に並び立つは、荒々しくも気高い北の《妃竜》――」

智葉「清水谷竜華……あいつとこれから死合おうというのだ、緊張しないほうがおかしかろう?」

 ――――

 ――――

竜華「おっつかれさーん、宥っ! いやー、よかったでー? 尭深も控え室でメロメロになっとったわー!」

宥「りゅ、竜華ちゃん……っ! そんな、恥ずかしいよ……////」

竜華「さすがは《最熱》の大能力者やんなっ。《最熱》は《偲熱》――その力の源は熱く人を思う心! そら強いわけやでー!」

宥「ま、まあ……トータルでは龍門渕さんに持っていかれちゃったけどね」

竜華「構へん構へん。一位との差は詰まっとるし、三位との差は開いとる。不満なんてあらへんよ」

宥「そう言ってくれるとありがたい……」

竜華「ホンマ、ここまでええペースで来とるからな。うちで崩れへんように頑張るわ」

宥「竜華ちゃん……大丈夫? 中堅戦には辻垣内さんが出てくるけど……」

竜華「ま、うちは辻垣内とはそれなりに対戦経験がある。その分だけ他の二人よりは有利なはずや。それに――」

宥「……?」

竜華「ま、見とればわかるわ。任せとき。宥と美穂子の活躍……無駄にはせーへんよ。折り返しのうちが、きっちり後半組に繋いでみせる」

宥「うん……お願いだよ、竜華ちゃん」

竜華「ほな、応援よろしくなーっ!!」

宥「頑張って、竜華ちゃんっ!」

 タッタッタッ

竜華(ふう……っと。さすがに緊張するわ。辻垣内との対局はいつもそうや。一つのミスも許されへん。ひたすらに正しい道を進み続けるしかない)

竜華(そこまでやって初めて、あいつの背中が、遥か遠くに少しだけ見える。手が届いたことは、もちろんあらへん。三年前のあのときから、ただの一度もや……)

竜華(決勝ではオーダー変わるかもやし、あいつと打つんもこれが最後かもな。辻垣内智葉……セーラや洋榎とは違った意味で、たぶん、一生忘れられへん名前――)

竜華(ああ、そうや。忘れられるわけがあらへん。きっちりかっちり覚えとるわ。三年前のインターミドル――あれから何度も何度も斬り合うたもんな、辻垣内智葉……ッ!!)

竜華(覚悟しいやっ! 今日は腕の一本や二本では済まさへんで――ッ!!)ゴッ

 ギィィィィィ

友香「あっ、清水谷先輩。今日はどうもよろでー!!」

豊音「やっほー、清水谷さん。一昨日はうちのイズミがお世話になったよー」

竜華「おーっ、みんなよろしくなー! ここで会うたんも何かの縁っ! 楽しくやろうやー!!」

 ギィィィィィ

智葉「と……私が最後か。場決めは終わっているか?」

竜華「今さっき終わったでー。自分はうちの下家や」

智葉「そうか。なら、さっさと親を決めてしまおう。対局開始も近い」

竜華「ほなっ、サイコロ回すでー」

 コロコロ

竜華「……なあ、辻垣内智葉。今、何考えとる……?」

友香「?」

 コロコロ

智葉「……たぶんお前と同じことだ、清水谷竜華……」

豊音「?」

 コロコロ

竜華「せやろなー。つまり、自分を――」

智葉「そう。つまり、お前を――」

竜華・智葉「どうやって殺すか……ッ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香・豊音「っ!!?」ゾゾゾッ

竜華「ここで会うたが百年目ッ! 楽しく殺ろうや、辻垣内智葉……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:清水谷竜華(豊穣・118100)

智葉「安心しろッ! お前と殺るのはいつも楽しいぞ、清水谷竜華……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:辻垣内智葉(劫初・91800)

友香(こ、恐ーっ!! 洒落にならないくらい恐ーっ!!)ガタガタ

 西家:森垣友香(煌星・119400)

豊音(ちょーその筋の人だよー! 生で見るの初めてだよー!)ゾクゾク

 南家:姉帯豊音(逢天・70700)

『中堅戦――開始ですっ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回は一週間以内に更新します。R指定描写はありません。ご安心ください。

では、失礼しました。

 ――観戦室

ネリー「あーっ! さとはだー!! やえ、さとはが出てきたよっ!?」

やえ「そりゃ選手なんだからどこかでは出てくるだろう」

ネリー「しかも死合モードに入ってる!! すごい、そんなに強い人があそこにいるんだっ! これは見ものだよーっ!!」

照「ネリーさん、辻垣内さんと知り合いなの?」

ネリー「さとはは中学三年生になるくらいまで海外にいたんだよ。私はそのときのお友達」

塞「じゃあペラペラなの?」

ネリー「なにが? 札束?」

やえ「くだらないこと言ってないで試合に集中しろ。辻垣内はもちろんのこと、他の三人も要注意人物だからな」

ネリー「りゅうかとゆうかは普通に強かったもんねー。あと、あの背の高い人が、能力いっぱい持ってるんだっけ」

塞「豊音はこの白糸台で《最大》の能力数を誇るレベル4の多才能力者《マルチスキル》よ。初見で勝てるやつはまずいないわ」

ネリー「ほほーぅ?」

照「小走さんはどう思う、この中堅戦」

やえ「まあ、辻垣内がトップで抜けるのは確定事項だとして」

ネリー「さとはに斬れないものはないからね」

照「二位予想が聞きたい」

やえ「実績、実力、ナンバー――そのいずれにおいても、あそこにいる面子で辻垣内に次ぐ雀士は、清水谷だと思う。が、しかし、だ」

塞「《最大》の豊音が来ちゃうー?」

ネリー「ゆうかもいい音出してるよー?」

やえ「正直に言えば、わからん」

塞・ネリー「ええーっ!?」

やえ「宮永はどう思うんだ?」

照「私は……私も、わからない」

やえ「ふむ。だとすると、恐らく、辻垣内もまだ量りかねているだろうな。この中堅戦、誰がどう動いて、どんな結果になるのか――」

塞「それは、辻垣内がコケるかもしれないってこと?」

やえ・照・ネリー「それはない」

塞「な、なによっ! 綺麗にハモってくれちゃって!!」

照「本気の辻垣内さんに勝てるのは、学園都市に二人だけ。つまり私と、荒川さん」

ネリー「さとはが私たちと一緒にいた頃なんか、たった一人しかいなかった」

やえ「清水谷だって例外じゃない。実際あいつはこれまで、一度として辻垣内に勝てたことがないんだ。だが、だからこそ」

塞「なに……?」

やえ「清水谷竜華……あいつがここでどんな打ち回しを見せるのか、予想できない。あいつの出す《解答》がどんなものなのか、想像もできない」

ネリー「んー。けど、いくらりゅうかでも、さとは相手に百点満点のプレイはできないんじゃない?」

照「ううん。それは違うよ、ネリーさん」

ネリー「ほえ?」

塞「清水谷……あいつは確かに、これでもかってくらい非の打ち所がない麻雀を打つのよね。もちろんあいつだって負けるときは負けるんだけどさ。
 けど、たとえ負けた試合でも、あいつの選択は――歩んだ道は、いつだって正しい」

照「相手が辻垣内さんでも……ううん、辻垣内さんだからこそ、清水谷さんは、この上なく正しい《解答》を見せてくれる。
 それがどんな《解答》なのかは、対局が終わってみないとわからないんだけれど」

やえ「清水谷竜華――《正道》を知る非能力者。あいつは道を違えない」

ネリー「なにそれすっげー気になるけどー!?」

 ――対局室

 東一局・親:智葉

智葉(さて、清水谷の出方を伺いたいところだが、せっかくの親。様子見に徹するというのも慎重が過ぎよう。
 森垣も姉帯も能力者だ。一発があるという点においては、清水谷以上に注意すべき相手。殺られる前に殺っておくか……)タンッ

 東家:辻垣内智葉(劫初・91800)

豊音(うわー……ちょーサドンデスな感じだよー。能力の使いどころは選ばないとねー。
 辻垣内さんとは直接打ったことないけど、他の、私と似たような能力者と打ってる牌譜は見た。みんな真っ二つにされてたっけ。二の舞はごめんだよー)タンッ

 南家:姉帯豊音(逢天・70700)

友香(《神風》さんの次は《最大》の大能力者さんと同卓かぁ。煌先輩印の分析によると、追っかけリーチで先制リーチ者を刈れるんだっけ。リーチが《発動条件》の私とは相性激悪。
 まっ、やり方次第ってことでー。咲がデジタルであれだけ頑張ったんだ。私もやれるだけやってみる!)タンッ

 西家:森垣友香(煌星・119400)

竜華「チー」タンッ

 北家:清水谷竜華(豊穣・118100)

智葉(一巡目から仕掛けてきたか……)タンッ

豊音(どういうつもりなのかなー?)タンッ

友香(姉帯先輩がいる場でリーチはできないから、門前より鳴いて手を進めたほうが期待値が高いって計算でー?)タンッ

智葉「……ポン」タンッ

豊音(わお。辻垣内さんが鳴き主体に切り替えてきた……? 判断速過ぎだよー。んー、これは先負は使えなさそう。友引で追いつけるかなー? それとも、まだ三回しかツモってないけど店じまいしたほうがいいかなー?)タンッ

竜華「ポン」タンッ

友香(でっ?)

智葉(一歩出遅れただけでこれか)タンッ

豊音(むーん……困ったことに二人に共通の安牌がないよー。なら、ここは素直に親の安牌にしとこっと)タンッ

竜華「ロン、3900」パラララ

 竜華手牌:二234②③④/8(8)8/(二)三四 ロン:二 ドラ:④

友香(うっそ、断ヤオドラ一三色ほぼ確定の二向聴……その好配牌を一巡目から鳴いたの? 待ちも悪いし、打点も下がる。私なら一生ありえなさそうな打ち方でー)

智葉(私の現物で地獄単騎……私が即座に鳴き主体に切り替えることも計算の内か。序盤から副露をする者が二人いたら、当然、親である私に対する警戒のほうが優先されるからな)

豊音(逃げるために最速のギアに入れてきてるー? この点差で? まだ試合が折り返してもいないのに? なーんかあやしーよー)

竜華「…………」

智葉:91800 豊音:66800 友香:119400 竜華:122000

 東二局・親:豊音

竜華「ポン」タンッ

智葉(この局も早々に鳴き……既に三副露。しかも――)タンッ

 竜華手牌:****/⑧(⑧)⑧/北北(北)/(⑨)⑦⑧ ドラ:8

 竜華捨牌:[五]六88

豊音(ドラを三つも切り捨ててそれって……筒子が捨てにくいよー)タンッ

友香(筒子の混一が本命だけど、赤五筒は私が一枚持ってる。役牌の暗刻ともう一枚の赤を持ってたとしても、満貫が限度。
 手牌が残り四枚だから、待ちだってそこまで多いわけじゃないはず。鳴いて速攻……ともまた違うような感じでー)タンッ

竜華「ツモ、500・1000」パラララ

 竜華手牌:①④⑤⑥/(⑨)⑦⑧/北北(北)/⑧(⑧)⑧ ツモ:① ドラ:8

豊音(なにその混一のみ? 鳴くにしても、ドラを残して食いタンのほうが速いし高かったんじゃ……)

友香(意図がさっぱりなんでー)

智葉(ふむ……)パタッ

 智葉手牌:②②④[⑤]⑦⑦三四五34[5]6 ドラ:8

智葉(清水谷の手牌に、私の有効牌である二・三・六・七筒はほぼない。姉帯か森垣の手の内にある可能性が高いだろう。序盤から混一を匂わせることで、筒子の切り出しを躊躇わせ、私が鳴いて追いつくのを防いだのか)

智葉(速さを追求しつつ、私の妨害をしようというのか? だが、打点を下げて回したのでは元も子もあるまい。
 こんな綱渡りのような和了り……そう何度もできないことは、お前だってわかっているはず。何を考えている、清水谷竜華……)

竜華「…………」

智葉:91300 豊音:65800 友香:118900 竜華:124000

 東三局・親:友香

豊音(んー……清水谷さんの意図はよくわからないけど、打点が低いならこっちから攻めてもいいのかなー?)タンッ

友香(親だし連荘したいけど、また速い場になると厳しいかもでー)タンッ

竜華「」タンッ

豊音「ポンッ!」タンッ

友香(ふあっ!? 姉帯先輩が鳴いた……! これ……もしかして――)タンッ

智葉(……ふむ)チラッ

 豊音手牌:**********/七(七)七 ドラ:三

智葉「」タンッ

豊音「チーッ!!」タンッ

友香(二副露!? 間違いない、裸単騎で和了る能力でー……!!)タンッ

竜華「」タンッ

智葉(姉帯……直前に四筒を落としていたところから見るに、恐らくはこれも鳴けるのだろうが……)タンッ

豊音「チー!!」タンッ

智葉(……鳴いたな?)

豊音(うっ? あれ? 出てきたから鳴いたけど、これ――もしかしてちょーしくじった……!?)アワワワ

 豊音手牌:三四中中/(①)②③/(4)23/七(七)七 ドラ:三

智葉(姉帯……お前の裸単騎で和了る能力は、四副露が《発動条件》なのだろう? つまり、四副露までは自力で他家の捨て牌を拾わねばならんというわけだ。そして、その四副露の間に、何か一つでも手役を作らねばならん、と)

豊音(ちょーポカしちゃったよー!? 一筒を鳴いたら断ヤオにならない! 三色にもならないっ!! それでもって――)

友香(あの三副露……ここからもう一つ鳴いて和了るとしたら、役牌以外に手役がないっ! 姉帯先輩は今北家だから、東・北・白・發・中を捨てなければ能力の発動を封じることができるんでーっ!!)

豊音(ま、待って待って!? 大混乱だよー……!? お、落ち着いて考えよー……!!)

豊音(いつもなら、中を先に鳴いて役を確定させるところを、辻垣内さんが早々に鳴けるところを切ってくるもんだから、脊髄反射でチーしちゃって、この状態になった……)

豊音(っていうか、もし先に中を鳴いてたら、きっと、辻垣内さんは私が鳴けるところは切ってこなかったよね。ここまで私の手牌を見透かしてたんだから、牌を絞るくらいはしゃくしゃく余裕でできるはず――)

豊音(逆に、中を鳴いていない間は、私が鳴けるところをバンバン切ってくる。で、それを素直に鳴くと、こんな風に手詰まりを起こす……)

豊音(鳴かなかったら《友引》は使えない。鳴いても《友引》に辿り着かせてもらえない。
 なにこれ……? 要するに、辻垣内さんが上家にいるこの半荘では、対々以外の役ではどうあっても《友引》で和了れないってこと……? とんだハメ技だよー!?)

智葉(さあ……ここからどう戦うつもりだ、《最大》? お前の能力のことを差し引いても、その三副露を見て生きている役牌を切ってくる間抜けなど白糸台には存在せんぞ)

豊音(こ、こんな……隙がないとか強いとかいうレベルじゃないよー!? 白糸台のナンバー3――辻垣内智葉さん。《懐刀》は《快刀》……その刃は乱麻を断ち濫魔を絶つだっけ? 切れ味抜群過ぎるよー!!)

智葉(ひとまず姉帯の足を止めることはできたか。さらに言えば、これでリーチを掛けても追いかけられることはない。清水谷の出方次第では鳴かないと間に合わんかもしれんが……果たして、どうなるかな)

豊音(ううぅぅぅー!! どうしよう……どうしたら――)ムイーン

竜華「」タンッ

豊音(へ――?)

友香(えっ、清水谷先輩……? 何を――)

智葉(ここで手出しの中切りだと――!?)

豊音「そ……それポンッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 豊音手牌:三/中(中)中/(①)②③/(4)23/七(七)七 ドラ:三

友香(し、清水谷先輩っ!? どういうことですか!?)タンッ

竜華「」タンッ

智葉(清水谷……当然ズラせるところは切ってこない、か)タンッ

豊音「ぼっちじゃないよーっ!! ツモッ!! 1000・2000……!!」ゴッ

 豊音手牌:三/中(中)中/(①)②③/(4)23/七(七)七 ツモ:三 ドラ:三

友香(あんまり高い手じゃなくてよかった……。っていうか、清水谷先輩、一体なんのつもりでー?)

豊音(あ、和了れたけど……清水谷さんの思惑がまったくわからないよー?)

智葉(森垣や私に和了られるくらいなら、最下位のチームに和了られたほうがマシという判断か? いや、しかし――)

竜華「…………」パタッ

智葉:90300 豊音:69800 友香:116900 竜華:123000

 ――《劫初》控え室

憩「今のは……ガイトさん、鳴かせへんかったほうがよかったかもですね」

菫「智葉が姉帯の能力を潰しにかかるところまで、清水谷は計算していたということか?」

憩「たぶんそうでしょうね。姉帯さんが最初に鳴いたんは、清水谷さんの捨てた七萬。ほんで、その時点で、清水谷さんは手牌に中を持ってました」

菫「智葉が姉帯を三副露にさせたとき、最後の一副露を自らアシストするためか」

憩「先に中を鳴かせて役が確定してもーたら、ガイトさんが牌を絞って姉帯さんは四副露に辿り着けませんからね」

衣「だが、あの《正道》はなにゆえ《最大》に和了らせたのか……?」

憩「それまでの二局と比べて配牌悪いんを見て、この局は自分が和了れへん――って判断して、
 ほな、ガイトさんや《流星群》さんに和了られるくらいやったら、最下位チームのアシストに回ったろー思てあないなことした……っちゅーんが、一般的な解釈やとは思うけど」

エイスリン「ナニカ、ホカニ、オモイ、ツクカ?」

憩「今のところはなんとも。せやけど、次は清水谷さんの親番。ここでどう動くかで、大体意図がわかると思います。たぶん、ガイトさんも、この一局で見極めるつもりですわ」

菫「手遅れにならんといいが……」

憩「まあ、ガイトさんに負けはありえへんのですから、そんなに心配――」ハッ

衣「どうした、けい?」

憩「これは……どういうことや、清水谷さん……!?」

菫「お、おい、何か見えたのか?」

憩「親番になった途端……清水谷さんの表情が硬くなったんですわ。配牌は決して悪くあらへん、視線移動も牌効率を必死に考えとる人のそれです。やのに、まるで誰かに振り込んだときみたいに、顔が強張っとる……。
 それに、血圧も体温も不自然に低い。これから親番に臨む人の――戦いに挑もうって人のコンディションやありません。なんちゅーか、むしろ、勝負に負けた人みたいな……」

エイスリン「ズイブン、ヨワキ、ダナ、《セードー》」

憩「確かにガイトさんに勝つんは無理やろうけど、それかて、清水谷さんならやり方次第で追いすがることもできるはずやのに。これは……けど、もうそういうことやんな」

衣「《正道》の思惑が掴めたか、けい」

憩「真意はわからへん。わからへんけど、掴めたには掴めた。ウチの《悪魔の目》で見る限り、清水谷さんの出した《解答》は、きっとこれで合うてると思う」

菫「一体……清水谷は何をするつもりなんだ?」

憩「清水谷さん……あの人、この対局、わざと負ける気でいますわ」

菫「そ、そんなバカな――」

    竜華『リーチ』

エイスリン「トヨネガ、イルノニ、リーチ!?」

衣「これは……けいの言う通りなのだろうか」

菫「まさか!? あの清水谷が自ら負けを選ぶなど……!!」

憩「《正道》を知る非能力者――あの人は道を違えへん。なら、きっとこの道は正しいんやと思います。
 思いますけど……ちょっとまだ、にわかには信じられませんわ……」

 ――対局室

 東四局・親:竜華

竜華「リーチ」

 東家:清水谷竜華(豊穣・122000)

智葉(先制リーチだと? どういうつもりだ。《最大》が《背向》と呼ばれているのを知らんわけではあるまいに……)タンッ

 南家:辻垣内智葉(劫初・90300)

豊音(よ、よくわからないけどテンパイできたよー!?)

 西家:姉帯豊音(逢天・69800)

豊音「追っかけるけどー! リーチ!!」ゴッ

友香(追っかけリーチで先制リーチ者から直撃を取れる力。姉帯先輩の代名詞みたいな能力だけど、何か、弱点や特別なかわし方があるんでー? だとしたら、参考にしたいところだけども……)タンッ

 北家:森垣友香(煌星・116900)

竜華「」タンッ

豊音「ロ、ロンだよー! 5200っ!!」パラララ

竜華「はい」チャ

友香(えええ!? 普通に振り込んだー!?)

豊音(何かをされた感覚はない……いつも通りの《先負》の手応えだったよー?)

智葉(なぜ自ら親番をドブに捨てるようなことを? もはやわざと負けるつもりで打っているとしか思えん。
 だが、負けるつもりだろうとなんだろうと、清水谷は《正道》を知る非能力者。こいつのやることに間違いはない。何かあるんだ。負けながらに勝つ方法が……)

竜華「…………」パタッ

智葉:90300 豊音:76000 友香:116900 竜華:116800

 南一局・親:智葉

智葉(清水谷の真意は未だに掴めんが、それはそれとして、私は私の仕事をしないとな。荒川ではないが、菫を勝たせてやりたいのは私も同じ。あいつは私たちのリーダー……なら、支えてやるのがメンバーの務め……!!)タンッ

豊音(ううう……辻垣内さんの親がまた来ちゃったよー。《友引》でさくっと流したいのに、全然鳴けるとこ切ってくれないよー)タンッ

友香(おーっ! ここで配牌一向聴!! 姉帯先輩が門前を崩さない限りリーチは掛けられないけど……やっと回ってきたテンパイのチャンス! 辻垣内先輩の親は私が流すんでー!)

竜華「」タンッ

豊音「ポンッ!!」タンッ

智葉(鳴かせた……?)

友香(鳴いたっ!!)タンッ

竜華「」タンッ

豊音「それもポンだよーっ!!」タンッ

智葉(私にツモらせないつもりか……)

友香(二副露――まだまだ押せるんでー!!)タンッ

豊音「ポン!!」タンッ

智葉(姉帯……対々で裸単騎にするつもりだな。それなら、私の捨て牌に頼らず鳴くことができて、且つ、私のツモを飛ばすことができる。先ほどの意趣返しのつもりか)

豊音(あと一つだよー……!! 今度こそ辻垣内さんの好きにはさせない。ここは私が和了るっ!!)

友香(――ッ!! いっし……張ったぁー!!)

友香「リーチでーっ!!」ゴッ

豊音(え)

智葉(森垣のリーチ――《流星群》。リーチ条件で和了率と打点を上げるレベル3相当の自牌干渉系能力だったな。清水谷……姉帯に鳴かせたのは、森垣のツモを増やすためでもあったのか。
 さて、どうする。レベル3とは言え、《発動条件》を満たされてしまうと、止めるのは容易いことではない。一応、脅すだけ脅してみるか――)

智葉「……ポン!!」ゴッ

友香(でっ!?)ゾクッ

智葉(これで一発は消してツモもズラした。一瞬でも気を逸らしてみろ、即座に首を斬り落としてやる。《流星群》の森垣友香――その器を量らせてもらうぞ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(こ、殺されるっ!? 首筋にひやりと冷たい感覚――これが濫魔を絶つ辻垣内先輩の《懐刀》……!!
 いやいやっ!! 動揺するな! 集中を切らすな!! これくらいで意識の《波束》を乱してたまるか……!!
 あんなに特訓したんでー! たとえ相手が辻垣内先輩でも、私ならできるッ!! ここは必中の――ツモ和了り……ッ!!)ツモッ

友香「っ……ツモでー!! 2000・4000!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(うー……あと一つ鳴けてたら《友引》発動で支配領域《テリトリー》ごと押し潰すこともできたのにー!!)

智葉(怯まない、か。一年のくせに大したやつだ。東横もそうだったが、こいつも大概化け物慣れしている。
 こちらが格上であるほうが、こいつにとってむしろやりやすいのだろう。練習で大星や宮永妹を相手にするのと同じ感覚で打てるわけだからな)

友香(よ、よし……!! 和了れたっ!! 私一人の力じゃないけど……それでも、私の力がなければこのツモは成立しなかった。たとえ相手が学園都市のナンバー3でも、やり方次第で戦えるっ……!!)

智葉(っと……調子付かせてしまったか? どいつもこいつも……クソ生意気なやつが揃っているじゃないか、チーム《煌星》。まったく楽しませてくれる)

智葉(しかし、清水谷……お前は何を考えている。姉帯の能力を利用し、森垣の能力を利用し、お前自身はひたすらその補助に回るつもりか?
 確かに、私に能力者の確率干渉を根元から断ち切る術はない。能力者をうまく操って私を削ろうというのは間違った判断ではないが……正しいとも少しズレている気がするな)

智葉(清水谷、こいつの《正道》はこんなものじゃないはずだ。私の《懐刀》でも切れぬ《解答》……私に本気を出させるこいつの正しさは、この程度ではないはずだ)

竜華「…………」パタッ

智葉(清水谷……その目の先には何が見える。行く道の先には何がある。意地でも吐かせてやるぞ。覚悟しろよ――!!)

智葉:86300 豊音:74000 友香:124900 竜華:114800

 南二局・親:豊音

竜華「ポン」タンッ

智葉(役牌……また早和了りで逃げ切ろうというのか、清水谷)

豊音「ポンだよーっ!!」ゴッ

智葉(と、姉帯もか。今の親はこいつ。仕掛けてくるのは当然。さて、先に動いた清水谷は、これをどう処理するのか)

竜華「チー」タンッ

智葉(あくまで速度で攻めようというのか? だが、そんな単純な策に二度も三度もやられる私ではないぞ……)

智葉「チー」タンッ

豊音(うえっ? ま、まさか、もう張ってるなんてことは――)タンッ

智葉「ロン、3900」パラララ

豊音(は、速過ぎるよーっ!? それ、普通に門前で張ってたのに……私や清水谷さんの動きに対応できるように、ダマにしてたんだ。この人マジヤバいよー……)

友香(けど、門前でツモられたら、その倍以上の点数になってた。鳴いて速くなった分だけ、火力が落ちたんだ。 
 今の鳴き、清水谷先輩、わざと辻垣内先輩の鳴けるところを切ったような。この感じ……咲の点数調整と似ている気がする。だとすると――)

智葉(む……なんだ、この違和感は。まるで、私が清水谷に和了らせてもらったかのような……?)

智葉(……今の鳴き、姉帯も私も清水谷の捨て牌を拾った。鳴かされた、と見ていいだろう。なら、こいつは姉帯と私の手を意図的に進めたことになるが……否)

智葉(そもそも、最初に動いてきたのは清水谷だった。清水谷が先に門前を崩したから、姉帯も鳴き主体に切り替えた。そして、その二人の動きを見て、私も仕掛けたわけだが――)

智葉(私が仕掛けようとした直後に、清水谷から私の鳴けるところが切られた。これが果たして偶然なのか……? 私はこいつに仕掛けさせられたのか?
 だとしたら、清水谷……そのポンとチー、本当に早和了りのための鳴きだったのか? お前の手は今どうなっている――?)

竜華「…………」パタッ

智葉:90200 豊音:74000 友香:121000 竜華:114800

 ――《豊穣》控え室

宥「りゅ、竜華ちゃんの手牌……めちゃめちゃだよ……」

 竜華手牌:二五4②⑥南發/(⑨)⑦⑧/發(發)發 ドラ:①

美穂子「元々あった面子を崩して鳴きを入れました。手が進まないどころか、喰い替えのルールに引っかかって、むしろ手が遅くなっています」

霞「というか、そもそも鳴いて速攻って手じゃないわよね、あれ」

尭深「目的は……早和了りを狙っていると見せかけること――」

美穂子「先ほどまでの打ち回しの伏線もあります。他家からは、あたかも竜華さんが速攻を仕掛けてきたように見えるでしょう」

宥「姉帯さんは竜華ちゃんの鳴きを見て、辻垣内さんは竜華ちゃんと姉帯さんの鳴きを見て……動いてきた。けど、それって全部……」

霞「竜華ちゃん発信で事が進んでる。辻垣内さんの和了りも、竜華ちゃんの思惑通り」

尭深「事情を知らなければ、わけがわからないですよね。清水谷先輩は、姉帯先輩、森垣さん、辻垣内先輩と、これで三人全員のアシストをしたことになる」

宥「そろそろ……気付くかな?」

霞「辻垣内さんは気付いたと思うわ。まあ、もう遅いけれどね。前半戦は竜華ちゃんの完全勝利で終わるわよ」

美穂子「他家三人へのアシスト――共通点は、アシスト対象が、全員親ではなかったということ」

尭深「それが証拠に、ここまで一度も積み棒が使われていません。最少の局数で場が回っています」

霞「けど、場を早く回すことだけが、竜華ちゃんの目的じゃないのよね。辻垣内さんは、そこまで見抜けるかしら? 見抜けたとして、今から何か手が打てるかしら……?」

 ――《劫初》控え室

菫「点数調整?」

憩「ウチも時々やるんですけど、ほっとくとツモで大きいのを和了りそうな人に、わざと鳴かせて低いのを和了らせるんです。清水谷さんが今やってみせたんは、そういう類のテクニックですわ」

衣「だが、いくら打点を削ごうと、他家に和了らせては、自分の得点になるまい」

憩「せやな。勝つためにやるとなると、使いどころが難しい。けど、清水谷さんは今、勝つ気がない。負ける前提で打っとるんや。負けてもええから、この中堅戦を最速で回すことに徹しとる」

エイスリン「ソノ、ココロハ?」

憩「清水谷さん……あの人、ガイトさんに仕事をさせへんつもりなんですわ。普通に打ったら、ガイトさんは鬼の如く無双し始める。けど、局数が少なければ、その無双にも限度が出てくる」

菫「実際、智葉はここまで一度しか和了れていないしな。二度の親番も既に流されてしまっている……」

憩「しかも、その一度の和了りも、清水谷さんによって打点を下げられとります。この搦め手は苦しいですよ」

衣「しかし、そうとわかれば火力を維持したまま和了ればいいだけではないのか? いっそ役満でも和了ってしまえばいいのだ」

憩「誰も彼も衣ちゃんと同じにしたらあかんよ。ガイトさんは非能力者。そうそう確率干渉に頼ることはできひん。
 その上、あっこにはリーチを封じる能力者がおって、さらに清水谷さんは基本鳴き主体の速攻で攻めてくるんやで? そんな状況でどうやって役満級の火力を出すねん」

エイスリン「デ、デモ、サトハノ、ヤローナラ……!」

憩「確かに、本気のガイトさんなら、リーチに頼らず、清水谷さん以上の速度で、倍満級の和了りをもぎ取ることができるかもしれません。そういう人やってのは、ウチも知ってます。
 けど……もちろん、清水谷さんかてそれは重々承知のはず――」

菫「何か、智葉の反撃を封殺する策があるとでも……?」

憩「ありますよ。簡単なことです。ガイトさんがその刀を抜く前に、自ら地獄の淵へ身を投げればええんですわ」

     竜華『リーチ』

エイスリン「マタッ!? ツーカ、アノテ――!!」

衣「空聴リーチ!?」

菫「信じられん……」

憩「空聴やろうとフリテンやろうと、リーチすれば姉帯さんの能力が発動します。能力が発動してまえば、ガイトさんかて思うようには打てません。当然、火力を捨ててでも、無理するしかない」

     豊音『追っかけるけどー……? リーチ!』

     智葉『……ポンだッ!』

エイスリン「ズラシタ!!」

菫「これで姉帯の支配領域《テリトリー》に綻びが生まれればいいが……どうなる……!?」

衣「案ずるな。この鳴きで、さとはのツモが《正道》に行く! 掴ませることもできようっ!!」

憩「いや、関係あらへんよ。姉帯さんが和了ろうとガイトさんが和了ろうと、森垣さんの親は流れる。この前半戦はあと一局で終わるんや」

     智葉『……ロン、2600』

     竜華『はい』

菫「も、もう次がオーラスか!?」

エイスリン「アノ、モブメガネ! ナニモ、シテネージャネーカ!!」

衣「オーラスまで来てさとはの獲得点数がたったの三千点……? これが《正道》の狙いだったのか……!!」

憩「いや……まだまだ。こんなもんやないはず。清水谷さんは、あのガイトさんが認める数少ない雀士。このラス親で、きっと世にも恐ろしいことしてくるで……」

 ――対局室

 南四局・親:竜華

竜華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:清水谷竜華(豊穣・111200)

智葉(自分の身を擲ってでも私に仕事をさせないというのか……! しかし、お前との点差は既に一万点ほど詰めた。私なら、このオーラスで追いつくこともできよう。当然、このままで終わるつもりはないのだろう、清水谷……!!)タンッ

 南家:辻垣内智葉(劫初・94800)

豊音(私の能力を利用して辻垣内さんに和了らせない作戦……? 最下位の私たちになら点数を取られてもいいってこと? それはいくらなんでも考えが甘いんじゃないかなー?)タンッ

 西家:姉帯豊音(逢天・73000)

友香(トップの私たちとしては……他のチームが辻垣内先輩を抑えてくれるのは有難い。けど、さすがに辻垣内先輩がやられっぱなしってのも有り得ないと思う。咲との対局でさえ、この人は底を見せていなかったんだから……)タンッ

 北家:森垣友香(煌星・121000)

竜華(さて、そこそこ思う通りに打てたやんな。どや……辻垣内? これがうちの《解答》や。この中堅戦、最後の最後まで、自分には何もさせへんよ。たとえうちが負けることになっても……や)タンッ

      ――お前……北の《妃竜》とか言ったか。名はなんという。

竜華(そうや……やって、うちは自分に勝てへんのやから。インターミドルのとき、自分、言うたもんな。今でもよーく覚えとんで)

  ――よく覚えておくぞ、清水谷竜華。

                ――お前には、本気を出さねば勝てんとな。

竜華(あのときは、なんや、ふざけたことをぬかすドアホがおると思ってんけど)

           ――そして、よく覚えておくがいい、清水谷竜華。

   ――お前には、本気を出しても勝てない相手がいるとな。

竜華(あれから三年間……何度も何度も斬り合うて、わかったわ。確かに、うちは自分に勝てへん。どんなに本気で斬りかかっても、どれだけ正しい道を選んでも、自分に勝つことはできひんのや。せやろ……辻垣内智葉――)

       ――そいつは……名を、辻垣内智葉という。

竜華(うちは自分に勝てへん……! なら、勝てなくてもええわ! 負けっぱなしで三年間を終えてもええわ!
 勝ちはあげるで、辻垣内。うちと自分の勝負は、全戦全勝で自分の勝ちや。白星もってけ泥棒や……っ!!)

竜華(せやけどな、辻垣内ッ!! たとえ勝負に負けようと、うちは試合に勝ったるで……!! それがうちの《解答》や!!
 チームのためなら、うちはここで死んでもええ……! いくらでも自分の《懐刀》に腹貫かれたる――ッ!!)

竜華(ほんでもって、冥土の土産に貰っていくで……? うちが本気を出しても勝てへん相手――その名が刻まれたこの刀。
 三年間の思い出と一緒に、抱きかかえて死んだるッ!! うちはうちの《正道》に殉じたるわ……!!)

竜華(辻垣内……自分と打つんはホンマに楽しかったで。それも、もうあと半荘一回で終わりかもしれへんと思うと、なんや寂しいわ。
 本音を言えば、このままずっと自分と卓を囲んでたいわ。たった八局で終わりになんかしたないわ……)

竜華(ま、言うてもホンマに命が終わるわけやなし。卒業しても、どっかで遊ぼうや。どうせまた負けるんやろけど、やっぱうちが勝てへんからこその、辻垣内智葉やから。
 自分はそのまま、いつまでもうちの遥か先を歩んどってくれればええ。うちが道を違えんための……道標としてな――)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

竜華(おっとっと。ちょっと感傷に浸り過ぎたわ。まだ終わってもいーひん、っちゅーかこれからが本番やのに。
 辻垣内智葉――学園都市のナンバー3。《一桁ナンバー》ですらないうち一人じゃ、抑えるにも限界がある)

竜華(それに、敵は辻垣内だけやない。最下位の姉帯かて、うちの思惑を良しとはせんはずや。二人同時に暴れられたら、今のうちに打つ手はない。せやけど……せやけど、や)

竜華(この場で……うち以外にもう一人、この状況を望む人間がおる。せやろ? 自分には期待しとるんやで? なんや、ちょっと見ーひん間に、えらい強うなったもんな……)チラッ

友香(……清水谷先輩……)

竜華(森垣友香、自分がうちの切り札や。自分がおらへんかったら、うちはこの正解に辿り着けへんかった。自分がおったから、うちはここまで思い切ることができたんや。やから、頼むで……)

友香(この点数状況、対戦相手――私が取れる最善の策はなんでー? 何をすれば、チームの勝ちに繋がるんでー……?)

竜華(さあ、《流星群》。ええ子やから、今だけちょっと手ぇ貸してや? 二人で力合わせて、この澄ましたナンバー3を驚かせたろうや。そんくらいええやろ? うちら、合宿では洗いっこした仲やんな……?)

友香(……わかりました、清水谷先輩。先輩は、正しい。圧倒的に正しいです。その《正道》――このオーラスだけは、一緒に歩ませていただきます……!!)タンッ

竜華(そう――それが真に正しい《解答》や……ッ!!)

竜華「チーッ!」ゴッ

智葉(な、に――?)タンッ

豊音(あれ……今、《煌星》の子が鳴かせたように見えたけど……?)タンッ

友香(これで、いかがでーっ!)タンッ

竜華(ビンゴッ! またまた大正解やっ!!)

竜華「チー!!」ゴゴッ

智葉(清水谷……!! トップの森垣を抱きこんだのか――!?)タンッ

豊音(ま、マズいよー!!)タンッ

友香(……お願いですから、あんまり高いのは勘弁ですよ?)

竜華(任せとき。この手の調整は得意やねん。自分んらんとこの宮永咲ほどやないけどな――!!)ツモッ

竜華「ツモ、2000オール!!」パラララ

智葉(この……点数――!?)

豊音(アンビリーバボーだよー!!)

友香(うわ……私、とんでもないことの片棒を担いじゃったんでー?)

竜華「和了り止め。中堅戦前半は、これにておしまいやっ!」

『電光石火ああああーッ!! 中堅戦前半、たった八局で半荘が終わりましたー!? し、しかも……各チームの得点が――』

智葉(清水谷……これが負けながらに勝つというお前の《解答》か。なんて正しい――狂気すら感じるぞ……!!)

 一位:辻垣内智葉・+1000(劫初・92800)

豊音(真っ平らだよー!? これを狙ってやったの……? っていうか、後半戦もこの調子でこられると、最下位の私たち的にちょー辛いんだけどー!!)

 二位:姉帯豊音・+300(逢天・71000)

友香(最少の局数に、最小限の点数移動。合同合宿のときも似たようなことしてたけど、あんなの全然本気じゃなかったんだ。まさか、辻垣内先輩がいる卓でこんなことができるなんて……)

 三位:森垣友香・-400(煌星・119000)

竜華(前半戦はまずまずや。後半戦はさすがに同じようにはいかへんやろ。ま、同じようにやる気はさらさらないけどなっ!!)

 四位:清水谷竜華・-900(豊穣・117200)

 ――観戦室

照「これはすごい」

やえ「ああ、これはすごい」

ネリー「いやー、これはすごいっ!!」

塞「清水谷竜華……なによ、あいつ、こんな化け物だったの……?」

照「偶然もあるとは思うけど」

やえ「最後の切り札として森垣を選ぶあたりがさすがだな。《正道》は《正瞠》――あいつは目の付け所が違う」

ネリー「ゆうかもナイスアシストだったよね。さとはもびっくりしてるだろうなー。
 私の知る限り、さとは相手にあんなことをした人もできた人も、りゅうかが初めてだもん」

塞「これで、清水谷――っていうか、《豊穣》の方針は見えたわね。《劫初》が三位に落ち込んでいる今は、トップの《煌星》に追いつくことよりも、《劫初》に追いつかれないことに全力を注ぐと」

照「石戸さんは防御が得意だし、いざとなったらアレがある。尭深は《ハーベストタイム》があるから、よほど大失点しない限りオーラスで立て直せる。今ある二万点差で、ここから逃げ切れると踏んだ」

やえ「現状を維持すれば、場合によっては、自分たちが決勝に行きつつ、《劫初》をここで敗退させることができる。無論、今後の状況次第では路線変更するかもしれんが、今のところは悪くない作戦だろう」

ネリー「けど、いいのかなー? 守りに入って抑えられるほどさとはは弱くないのに」

やえ「それを言うなら、ネリー。お前こそ、清水谷を甘く見ているんじゃないのか? あいつが守りに入ったくらいで隙を見せるとでも?」

ネリー「おっ……本当だ。りゅうかの音がさらにキレを増した……!?」

やえ「《正道》の意味を履き違えてもらっては困るな。守ろうと攻めようと、勝とうと負けようと、そんなのはあいつにとって問題じゃないんだ。
 清水谷は常に正しい。ゆえに、あいつは揺らがない」

照「後半戦は……たぶん、目的は同じでも、手段を変えてくる。辻垣内さんは対応できると思うけど、他の二人は大丈夫かな」

塞「一体次はどんな化け物っぷりを見せてくれるのよ、あの《妃竜》様は……」

 ――対局室

竜華(お……今度はうちが起親で辻垣内がラス親か。ひっくり返るんは席順だけやとええけどな)

 東家:清水谷竜華(豊穣・117200)

豊音(むむむ……負けられないよー!!)

 南家:姉帯豊音(逢天・71000)

友香(ここが試合の折り返し。必ずトップのまま繋ぐんでーっ!!)

 西家:森垣友香(煌星・119000)

智葉(前半のようにはいかんぞ――と言いたいところだが、どうせ前半のようにやる気はないのだろう? いいさ……お前が何をしてこようと、私はそれを叩き斬る……!!)

 北家:辻垣内智葉(劫初・92800)

『中堅戦後半……開始です!!』

ご覧いただきありがとうございました。

辻垣内さんはサラシに長ドス、清水谷さんは袴に長刀のイメージです。

ちなみに《極道》の二つ名は当SSには登場しません。

次回は一週間以内に更新します。

では、失礼しました。

 ――《逢天》控え室

透華「きぃー!! 豊音は何をやっているんですのー!? そんな地味な女などとっとと始末しておしまいですわー!!」

玄「できるものならやってるよ……」

小蒔「《懐刀》さんと《正道》さん……お二人ともお強い」

泉「せ、せやけど、現状維持なんて守りに入った作戦、豊音さんならがつーんと打ち破ってくれますよっ!!」

玄「だといいんだけど……ちょっと後半戦も厳しそうだね」

透華「ん? あ? ああーっ!?」

     竜華『ロン、11600』

     豊音『えー……?』

泉「豊音さーん!!?」

小蒔「こ、これは……!!」

玄「隙がないにもほどがあるよ。んー、困っちゃうなぁ」

泉「解説を要求しますっ!!」

小蒔「く、玄さん!」

透華「玄、説明しておやりなさい!!」

玄「ん、あ、うん。えっとね、泉ちゃん。こんな言葉を知ってる?」

泉「なんですか……?」

玄「『攻撃は最大の防御』」

泉「えーっ!? じゃ、じゃあ、清水谷先輩は、守ると言いつつ実際は攻めてきてるってことですかー!?」

玄「まあ、当たり前だよね。攻めないで抑え込めるような雀士じゃないもん。辻垣内さんも、豊音さんも」

     竜華『ツモ、2600は2700オール』

泉「げーっ!? やからなんでそんなことができるんー!!?」

玄「清水谷さんは押し引きの判断がすごく上手い人なんだよ。《無極点》って言ってね。相手の手の良し悪しを、捨て牌以外の生の情報から読み取ることに長けてるの。結果だけ見るなら、憩さんと似たようなことをやってる」

泉「あの《悪魔》と同じことができるんですか……!?」

玄「いや、憩さんの《悪魔の目》はベースが観察と演算で、清水谷さんの《無極点》は感覚と感性だから、厳密に言うと同じことをしてるわけじゃない。
 憩さんの《悪魔の目》が常に百点を出す機械的な何かだとすると、清水谷さんの《無極点》は、平均が七十点の生物的な何かっていうか、そんな感じ」

泉「じゃあ、《悪魔》よりはまだマシっちゅーことですか?」

玄「んー、どうだろうね。清水谷さんの《無極点》は集中の具合で精度に波があるってだけで、最高状態だと突き抜けて百二十点くらいまで行くから。
 憩さんの読みはデジタルとアナログの融合技で、オカルトは一切関与しない。だから、憩さんと同じくらい目と頭が良ければ(そんな人類憩さん以外に存在しないけど)誰でもできる。福路さんの《磨瞳》も同じタイプ。
 対して、清水谷さんの読みは、デジタルとアナログとオカルトが全部融合した独自の秘奥義なんだよ。これの何が強いって、対応できない相手がいないってとこ。
 クセのない理論派《デジタル》も、クセだらけの能力者《オカルト》も、クセを利用する実戦派《アナログ》も、清水谷さんは正しく見抜く。最高状態の《正瞠》からは、誰も逃れられない」

泉「ほ、ほえー……」

玄「今回の場合、自分の配牌と、他家の様子を見て、この局は押せると清水谷さんは判断した。だから、手の進め方に迷いがない。当然、自然に対局が進めば、豊音さんや森垣さんに先んじてツモれる。
 あと、辻垣内さんの和了り牌を抱えたりもしてたね。たぶん、自分の余剰牌が狙われてる気配を察知したんだと思う。《一桁ナンバー》以外であれを回避できるのは、清水谷さんくらいだと思うよ」

泉「…………前々から思ってたんですけど、玄さんって、意外と分析派ですよね」

玄「えーっ!? 意外とってなにっ!? 透華ちゃんがデジタルのスペシャリストなら、私はオカルトのスペシャリストなんだよー!! これは自慢だけど、花田さんが来るまでは学園都市最高の能力者だったんだからー!!」

泉「す、すんまへん。なんか、玄さんの普段のイメージと参謀ポジションって実態にギャップがあって……」

玄「失礼しちゃうのですっ!!」プンスコ

小蒔「玄さんは憩さんの一番弟子みたいなところがありますからね。いわば《小悪魔の目》をお持ちなのです」

玄「まあ、あれだけ何度も泣かされたら誰だって強くなるよ」

透華「で、玄。いかがですの? 豊音は勝てそうですの?」

玄「そこまではなんとも。けど、もう出し惜しみはしないみたい。できれば決勝まで見せたくなかったけど、仕方ないか。
 豊音さん、いよいよ使うみたいだよ。公式戦ではまだ見せたことがない残り四つの力――そのうちの一つを……」

 ――対局室

 東一局二本場・親:竜華

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:姉帯豊音(逢天・56700)

竜華(む? 姉帯の雰囲気がちょっと変わったか……? 何かの能力を使うてるっぽい。けど、過去の牌譜に類似するものがないな……どーしたもんやろ)

 東家:清水谷竜華(豊穣・136900)

智葉(白糸台で《最大》の能力数を誇るレベル4の多才能力者《マルチスキル》。天江の能力数が三なのだから、追っかけリーチと裸単騎の二つで終わるわけがないとは思っていたが……ここで三つ目を出してくるか)

 北家:辻垣内智葉(劫初・90100)

友香(なーんか嫌な感じがするんでー。姉帯先輩――《最大》の大能力者。煌先輩曰く、少なくとも四つ……最大で六つないし七つの能力を持っているとか。本命は六つって話だったけど、あくまで目安って言ってたからなー……)

 西家:森垣友香(煌星・116300)

豊音「……リーチ……」

友香(うっ、先制リーチ……? ズラさないと和了ってきたりするのかな。なんとなくリーチそのものは普通な気がするけど。とりあえず、鳴けるわけでもないし、ここは一旦様子見でー)タンッ

智葉(リーチそのものは能力じゃなさそうだな。通常のリーチよりは警戒しつつ、先に和了る……)タンッ

竜華(なんや高そうな感じやなー。ツモられるんは嫌やけど、振り込むんはもっと嫌やし……ここはツッパったらあかんとこかな……?)タンッ

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《煌星》控え室

     豊音『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「これ……あのでっかい人の三つ目の能力なのかな?」

煌「同じことがもう一度起きれば、確定かと」

桃子「そういえば、あの超ノッポさんの能力数、きらめ先輩は四から六ないし七って言ってたっすけど、何を根拠にその数字が出てきたっすか?」

煌「下限のほうは簡単です。あの方は白糸台で《最大》の能力数を誇るレベル4のマルチスキル。
 なら、その能力数は、淡さんと咲さんの能力数である三以下ではない。ゆえに、最低でも四つの能力を持っていると言えるのです」

淡「上限のほうは?」

煌「上限は、実は都市伝説が根拠なので、信憑性は低いです」

咲「どんな都市伝説ですか?」

煌「学園都市には『全系統の能力を使う多才能力者がいる』という都市伝説です」

淡「えーっと……自牌干渉、配牌干渉、封殺、全体効果、感知、感応、それに――」

咲「点棒操作。七系統ですね」

煌「はい。そして、姉帯さんのよく知られた能力である追っかけリーチと裸単騎は、封殺系と自牌干渉系。ならば、残りの系統は五つですから、合計で七つになるというわけです」

桃子「ん……六ないし七っていうのは、どういう意味っすか? 今の話だと、普通に七って感じで、六を付け足す理由がないような気がするっすけど」

煌「それなんですが……実は、自分や咲さんがそうだったので、特に意識はしていなかったのですが、どの能力論の参考書を読んでも、《点棒操作系》なる系統についての記述がないんです。
 まるで、そんな系統は存在しないと言わんばかりに」

淡「え? じゃあ、サッキーの《プラマイゼロ》は、みんななんだと思ってるわけ? そういう性癖だと思われてるわけ?」

咲「やだなそれ……」

煌「全体効果系能力の応用、とでも思われているのでしょう。弘世さんの《シャープシュート》や対木さんの《神風》と同じく、複数の能力の合わせ技……と、そういう解釈もできなくはないかと思います。
 まあ、そんなわけで、《全系統》と言えば一般的には六系統なんです。だから、六を付け足したんですね」

桃子「なるほど。それで、本命が六ってわけっすね」

煌「いえ、それはまた別の理由がありますよ」

咲「別の理由? なんですか?」

煌「姉帯さんは転校生でして、学園都市に来たのは比較的最近――去年の冬のことなのです」

淡「ふむふむ?」

煌「で、姉帯さんは転校する前、どうやら東北地方のとある山村にいたそうなんですね。なので、ちょっとその村について調べてみたんです」

桃子「やることが刑事レベルっすね」

煌「気になると止まらなくなる性分でして」

咲「それで、何かわかったんですか?」

煌「わかったというほどわかったことはありません。非常に小さな村でして、ネットから得られる情報はごく僅かでした。
 ただ、どうやら姉帯さんのご出身であるその村――その地域一帯では、『六曜』信仰が盛んらしい、というのがわかったんです」

淡「ろくよう……?」

咲「何かの本で読んだことがあります。日々の吉兆を占う古典オカルト。先勝、友引、先負、仏滅、大安、赤口――」

煌「よくご存知ですね、咲さん。すばらです」

咲「一すばらゲットッ!! 淡ちゃんってば無知ーっ!!」

淡「わ、私は帰国子女だから……!!」

桃子「言い訳は見苦しいっすよ、超新星さん」

煌「さて、ここからは想像の時間です。追っかけリーチで先制リーチ者を刈る能力。そして、四副露して裸単騎で和了る能力。
 どことなく……そのイメージに近い単語が、この六曜の中に紛れていると思いませんか?」

咲「えっと……先んずれば即ち負ける――《先負》ですね!!」

桃子「あとは……凶事に友を引く――《友引》もっす!!」

煌「ええ。そして、この局の姉帯さんの配牌――少々能力めいたものでしたが、これも、どことなく近いイメージの単語がありますよね?」

淡「……《赤口》っ!?」

煌「そうです。この度の姉帯さんの配牌。四つの赤ドラが全て手牌にありました。これがもし仮に能力によるものだとすれば――」

咲「淡ちゃんの《大体安全圏》と同じ……配牌干渉系能力!!」

淡「大体言うなー!!」

     豊音『……リーチ……』

 豊音手牌:112344[5]6[⑤][⑤][五]六七 捨て:6 ドラ:③

桃子「っと……リーチかけてきたっすよー? リーのみ赤四。ツモか一発でハネるっすね」

咲「もし姉帯さん六曜説が正しければ、これが《赤口》――《配牌で全ての赤ドラを引き寄せる》能力……?」

煌「……否、それだけではないかもしれません」

淡「え? なんで?」

煌「例えばですが、配牌で赤四を引き込む能力が手に入ったら、皆さんはどうやって使いますか?」

桃子「ダマで平和赤四。《ステルスモード》なら、とにかくテンパイして即リーっす」

淡「ダブリー赤四裏四かなー」

咲「嶺上開花ツモ赤四ですかね」

煌「ちょっと淡さんと咲さんの意見は一般的ではないので無視させていただきますね」

淡・咲「えーっ!?」

桃子「当然っす」

煌「普通の人なら、桃子さんが言ったように、受けが広く速度のある順子手にしますよね。
 或いは、鳴いて食いタンを仕掛けるか。いずれにせよ、赤四がある時点で、打点が満貫を下回ることはありません。わざわざリーチを掛けるまでもなく、です」

桃子「けど……超ノッポさんはリーチをかけてきた」

煌「そうですね。そして、ただリーチを掛けてきただけではありません。姉帯さん……あの方、あの手で一索と五筒のシャボにしましたね? どこか不自然ではありませんか?」

 豊音手牌:112344[5]6[⑤][⑤][五]六七 捨て:6 ドラ:③

淡「えーっと……あ!」

咲「わかりました! 六索でリーチしてますっ!!」

煌「すばら」

咲「二すばらゲットー!!」ガッツポ

淡「ずっこい! 私も気付いたのにっ!!」

咲「へっへー、先に言ったのは私だもーん!!」

桃子「六索切りリーチ……確かにちょっと引っかかるっすね」

煌「ええ。一索でリーチを掛けていれば、一盃口がついて出和了りハネ満になるあの手で、姉帯さんは六索を切り、出和了り満貫止まりの一索と五筒のシャボに取りました」

淡「真ん中の五索は出てこないって判断?」

煌「だとすると、五筒も零れる見込みは低いでしょうね。すると、あのシャボ待ちは一索に頼ることになります。
 が、一索は既に河に一枚見えている。ヤオ九牌であることを考慮しても、残り一枚の一索が、残り三枚の五索より出易いかは、微妙なところだと思います」

咲「そもそも、一索を切って一盃口を確定させちゃえば、赤四があるからダマで満貫。今の手と同じ打点だった。
 なのに、姉帯さんは、敢えて役ナシのほうを選んで、他家に警戒されるのも承知でリーチを掛けてきた」

桃子「不自然な打牌……何かの能力……?」

煌「桃子さんもお気付きの通り、この手の不自然な打牌は、多くの場合、何らかの能力が絡んでいる可能性が高いです。能力の《発動条件》や《制約》に起因する不自然さですね。
 しかし、姉帯さんのあの六索切りリーチは、そのどちらでもないように思えます」

咲「能力は既に発動してますし、仮にリーチが《制約》だとしても、わざわざ打点を下げるのは意味不明……」

煌「恐らく、あのリーチそのものは、《発動条件》でも《制約》でもないのだと思います。では、あの不自然さは一体どこから来ているのか。少し考え方を変えてみましょう。
 この白糸台には、《発動条件》や《制約》とは無関係に、不自然な打牌をする方々がいますね?
 一見非効率のようでいて、結果的にそれが最も有効な一打となる――普通の人には見えない何かが見えているような打ち方をする方々が……」

淡「そっか、感知系能力者……!! 《未来視》の人とか、《超音波》の人とか!!」

煌「はい。ですから、姉帯さんのあのシャボ……ダマの一盃口でもよいところを、リーチのみで仕掛けてきた理由。配牌干渉の赤四とはまた別の一面を秘めているような気がするのです」

咲「《赤口》は赤四だけじゃ終わらない、ってことですね? あの状態からさらに何らかの仕掛けがあるかもしれないと……」

煌「友香さんが振り込まないことを祈るばかりですが、どうでしょう。じわじわと安牌が減ってきましたね。最後までオリきれるかどうか……」

淡「ユーカー! 耐えてーっ!!」

咲「あ――」

桃子「ちゃー……」

     豊音『ロンだよー』

     友香『っ!?』

煌「これは……致し方ありませんね……」

 ――対局室

豊音「ロンだよー」パラララ

 豊音手牌:112344[5]6[⑤][⑤][五]六七 ロン:1 ドラ:③・?

友香「っ!?」

友香(あ――赤四っ!? っていうかそのシャボはなんでー!? 六索残しておけばダマで満貫……打点が同じならそっちでよかったんじゃ――)

智葉(赤四だと……? 能力めいているな。ツモで何かしていた様子はないから、有力なのは配牌干渉か。さらに、そのリーチと待ち……仕掛けは赤四だけではなさそうだな。恐らく――)

竜華(可哀想やけど、これはかなり大きいで。満貫で済むならそのリーチはありえへん。流局まであとちょっとやったのにな……)

豊音「裏ドラめくるよー」クルッ

友香(ちょ!!?)

豊音「残念――日が悪かったねー……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 豊音手牌:112344[5]6[⑤][⑤][五]六七 ロン:1 ドラ:③・1

友香(う、裏三ッ!!?)ゾワッ

豊音「リーチ赤四裏三……16000は16600だよー!!」ゴッ

友香(マ……ジ、でー……?)クラッ

豊音(《赤口》――公式戦では初お披露目だよー。《配牌で赤ドラを寄せる》配牌干渉系能力と、《裏ドラを見抜く》感知系能力の複合技。六曜の中で最も高火力な私の三つ目の力だよー)

豊音(まあ……いつもなら裏ドラを気にせず食いタンとかでさくっと満貫和了るんだけどねー。今回は相手が相手だから、《赤口》の裏バージョンで無理してみた。高めが出てきたのはラッキーだったよー)

豊音(トップを浮かせちゃったのはあれだけど、二位と三位は射程距離。《赤口》まで解禁した以上、もう後には引けない。このまま大逆転して決勝へゴーだよー!!)

竜華(結果的に一人浮き。これは嬉しい誤算や。ま、嬉しくない誤算もどっかであるかもしれへんし、あんまり喜んでもいられへん。
 姉帯が辻垣内の手を焼かせるくらいに暴れてくれるんなら楽なんやけど、そうはいかへんやろなー……)

辻垣内(姉帯が何をしてくるのか読めないのが厄介だな。公式戦で一度も見せたことのない能力を出してきたってことは、こいつもこいつで必死ってことだ。面白い……ならばもっと足掻いてみろ……!!)

友香(やっばー、これ、頭くらっくらする。今の裏三――向こうで初めて淡と打ってカン裏モロ食らったときのトラウマが蘇った。いやいや、これはなかなか大変なことになっちゃったんでー……!!)

竜華:136900 豊音:73300 友香:99700 智葉:90100

>>358

智葉(姉帯が何をしてくるのか読めないのが厄介だな。公式戦で一度も見せたことのない能力を出してきたってことは、こいつもこいつで必死ってことだ。面白い……ならばもっと足掻いてみろ……!!)

 東二局・親:豊音

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(これ……もしかしてまたさっきのやつ……?)タンッ

智葉(だとしたら、あの手の中に全ての赤ドラがあるってわけか)タンッ

竜華(裏ドラまで含めて一個の能力やとしたら、中張牌を捨てても鳴かれることはないような気もするけど、どーやろ)タンッ

豊音「チーッ!!」ゴッ

友香(鳴くのもアリなんでー!?)

智葉(鳴いてきたということは、リーチ条件で《裏ドラを乗せる》自牌干渉系能力――ではないのだろうな。
 先の和了り……一索をわざわざ残したところから考えても、《裏ドラを見抜く》感知系能力が正解のようだ。
 となると、さっきの倍満は奥の手も奥の手だったらしい。ま、赤四だけでも十分に脅威だがな)タンッ

竜華(赤四なら、雀頭が赤五筒で確定、赤五萬・赤五索含みが二面子。残り二面子は自由や。食いタンなのはわかっとるんやけどなー……序盤やとなかなか絞るんも限界あるでー)タンッ

豊音「チーッ!!」ゴッ

友香(あれ……これ、そう言えば裸単騎の能力とは――)

智葉(裸単騎との重複は――ありえないだろう。それができたらこいつは多才能力者《マルチスキル》ではなく多重能力者《デュアルスキル》ということになってしまう)タンッ

竜華(能力論の授業で聞いたことがある。能力は、複合させることはできても、重複させることはできひんって。
 理論的に不可能とされる多重能力者《デュアルスキル》……いくら《最大》の姉帯かて、それはないやろ)タンッ

豊音(《赤口》表バージョン! 要するにただの食いタン赤四だよー! 止められるもんなら止めてみろだよーっ!!)タンッ

友香(と……これ以上は鳴いてこないみたいでー? ってことは、逆に今張ってる可能性が高いってこと? 食いタンならヤオ九牌は当たらないと思うけど……けど――)チラッ

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(げ……現物っ!!)タンッ

智葉(なかなか勘がいいな……森垣友香。姉帯に振り込んで動揺しているかと思ったが、それなりに冷静じゃないか)タンッ

 智葉手牌:11223345678②② ドラ:②

竜華(さて……ま、背に腹は変えられん、か――)タンッ

智葉(清水谷――!?)

豊音「ポ――」

智葉「ロンだ……7700」パラララ

 智葉手牌:11223345678②② ロン:6 ドラ:②

智葉(流局や和了で姉帯の親が続くより、私に安めを和了らせて場を回したほうがいいという判断か。ふん、あとで牌譜を見るのが楽しみだな。清水谷、お前の手――今度は一体どうなっている……?)

竜華(構へん構へん。7700くらいくれてやるわ。うちと自分の点差は最初と比べてさほど変わってへん。そんなことより、これ以上姉帯に調子づかれるほうが困るわ)パタッ

 竜華手牌:33999中中中②②③③④ ドラ:②

豊音(こ、この二人……能力者じゃないのに強さが異次元過ぎるよーっ!!)

竜華:129200 豊音:73300 友香:99700 智葉:97800

 東三局・親:友香

豊音(いいよー。とことんやるって決めたんだ。《先負》、《友引》、《赤口》に続いて……解禁しちゃおうかな――《六曜》の四つ目……《先勝》!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉(お、また雰囲気が変わったな。愉快愉快。海外にいた頃を思い出すぞ。さあ、次はどんな能力を見せてくれる……?)

豊音「追っかけてみー……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 豊音手牌:一一七八九789⑦⑧⑨北北 捨て:9 ドラ:一

豊音「リーチッ!!」ゴッ

友香(えっ、ちょ、また新しい能力!? 対策が追いつかないんでー!!)タンッ

竜華(へえ……また違う能力使うとるんか。追っかけリーチで先制リーチ者から一発が取れる姉帯が、逆に先制リーチ。さっきは感知系っぽいドラ爆やったけど、今回はそれとも別物みたいやな。さてどないしよかー)

豊音(私の《先勝》は《先負》と同じ封殺系――《他家に追っかけリーチをさせない》能力。私がリーチをかけたときにテンパイしていなかった人は、そのあと門前でテンパイすることができない。さらにっ!)

智葉(ふむ……ここでドラを引いたか)

 智葉手牌:三三四四五五六七八④[⑤]⑦⑦ ツモ:一 ドラ:一

豊音(私がリーチした時点でテンパイしていた人にも、その効果は及ぶ。たとえテンパイしていても、私の《先勝》が発動すれば、追っかけリーチは成立しなくなる。
 つまり! さっきからテンパイしてたっぽい辻垣内さんの手に入ったそれは、私の和了り牌なんだよーっ!)

智葉(封殺、自牌干渉、配牌干渉に感知ときて、二つ目の封殺か。しかも今度は限定封殺ではなく広域封殺……能力の系統数でも《最大》のようだな。なるほど、確かにこれでは追っかけられんな)タンッ

豊音(よしっ……!! 辻垣内さんのテンパイは崩したよー! あとは和了り牌が出てくるのを待つだけ。誰にも追っかけられないのがわかってるから安心だよー)

智葉「チー」タンッ

豊音(ふあっ!? それ、さっき掴ませた私の和了り牌が混ざってるけど……)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 智葉手牌:四四五六七八④[⑤]⑦⑦/(二)一三 ドラ:一

豊音(ま……まさか、初見のはずだよねー? こんな瞬時に《先勝》の効果をそんな深くまで……? いやいやっ、ありえないよー!?)

智葉「チー」タンッ

 智葉手牌:四五六④[⑤]⑦⑦/(九)七八/(二)一三 ドラ:一

竜華(面子を落としてのチー……どう見ても狙いは鳴き一通。せやけど、鳴く前と比べて点数は下がってるっぽいやんな。これは……姉帯の能力に対抗しとるっちゅーことか?)

友香(つ、辻垣内先輩……もしかしてもう姉帯先輩の新しい能力を見破ったんでー? 私なんて先輩がどんな能力を使ってるのかもわかってないのに……)

豊音(う、嘘だよこの人……! 存在がズルだよー!!)

智葉(大方、他家全員の追っかけリーチを封じる能力なのだろう? テンパイしていないやつは門前で手が進まなくなり、テンパイしてるやつは和了り牌を掴まされる、と)

智葉(なんのことはない、追っかけリーチなどしなければいい。ただ鳴いて和了りを目指せばいいだけだ。しかも、和了り牌が一つわかっているわけだから、それなりに強く攻められる)

豊音(くっ……なら、先に和了れば……!!)

智葉(そんなに力んでも確率は変わらんぞ、姉帯。封殺系なら、自牌干渉系と違ってお前自身の和了率は古典確率論に従う。和了りたいのなら、最初からもっと待ちの広い手でリーチを掛けるべきだったな)

豊音(初見の能力の効果を一巡もしないうちに見抜いて、即座に対応――逆に仕掛けた私を追い込むって……!? こんな人がいるんだ……!!
 いや、辻垣内さんはナンバー3なんだから、この人に勝てる人があと二人もいるの!? 信じられないよーっ!!)タンッ

智葉「ロン、3900」パラララ

豊音「は、はい……」チャ

智葉(これで四つ。《最大》の大能力者というくらいだからもっとあるのだろう? 温存なんてしてないで景気よく使ったらいいじゃないか。
 かつて向こうの世界で《千人斬り》と呼ばれた私の腹は、この程度では満たされんぞ。さあ、私にお前の全てを斬らせろ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(マズいよー。《大安》は状況的に使えない。《仏滅》は発動条件的に使えない。今の私に残されていた手は、この《先勝》で最後だったのに、それも通じなかった。どうしよう……どうすれば――)

   ――この状況でわたくしが親リー相手に追っかけるとでも? ここは危険牌を抱えて鳴いて潰すのがデジタルというものですわ!!

     ――ん? ああ、赤ドラなら、私のところに全部ありますよ。あ、えっと、なんか、すいません。裏ドラも私が抱えてます。

  ――それは……はあ、なるほど。ごめんなさい。残念ながら、あの状態の私にはあまり関係なかったみたいですね。

豊音(…………そうだよね。トーカだって初見で無自覚に《先勝》を破ってきた。クロは《赤口》を《完全無効化》してくるし、コマキなんてもう人間じゃない……っ!!)

豊音(そうだよ。どうすればいいかってー? いつも通りでいいんだっ! いつものみんなとの対局みたいに、能力使ったり使わなかったり色々やって、思いっきり楽しんで打てばいいんだよっ!)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(一旦仕切り直し……!! この人ちょー強いっ! 思ってた以上! これがナンバー3――あの《懐刀》の辻垣内さんなんだっ! 私は今そんなすごい人と対局してる……! ちょー楽しくなってきたよー!!)

竜華:129200 豊音:68400 友香:99700 智葉:102700

 東四局・親:智葉

友香(っていうか、三位転落でー。辻垣内先輩……清水谷先輩に徹底マークされてて、姉帯先輩に見たことのない能力を使われて、それでも着実に点を積み重ねてる。
 どうやったらこの境地に立てるのか。今の私とはステージが違い過ぎて参考にならないんでー)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(そんな辻垣内先輩が、ここでとうとう親になった。清水谷先輩じゃないけど、できることなら流したい。ただ、前半戦のときと違って三位になっちゃったし、本当にそれでいいんでー……?)

豊音「チーッ!!」ゴッ

友香(姉帯先輩……!? こ、これは――)タンッ

豊音「ポン!!」タンッ

友香(え、えっと……これはどっちの能力でー? 赤ドラを集めるほう? 裸単騎のほう?)タンッ

智葉「チー」タンッ

友香(つ、辻垣内先輩も動いてきた……!?)

竜華(うちの手じゃどうにもならへん。ここは姉帯に頑張ってもらう――)タンッ

豊音「それチーだよー!!」タンッ

友香(ど、どうするんでー!? 裸単騎の能力? それとも赤ドラの能力? 見えてるところからだと判別できない……。
 というか、ここはアシストが正解なんでー? 点数状況的に自力で頑張るのが正解なんでー? でー……っ!!)タンッ

豊音(うっ、そこじゃないよー……!!)

竜華(ダメや……私にできるアシストはここまで)タンッ

豊音(あと一つで《友引》が使えるのに――)タンッ

智葉「ロン。2900だ」パラララ

豊音「はいだよー……」チャ

友香(辻垣内先輩――!? し、しまった……私が姉帯先輩のアシストをしていれば、辻垣内先輩の親を流せたかもだったのに。たった一巡判断に迷っただけで……こんな――)

豊音(清水谷さんが上家だから《友引》でいけると思ったんだけどなー。辻垣内さんの切り返しが速過ぎる。森垣さんからもっと鳴ければなぁ。副露を増やしつつ辻垣内さんのツモを減らせたんだけど……)

竜華(前半戦では様子見メインやった辻垣内が、完全に攻めに回ったな。騙し騙しで凌ぐんもそろそろ限界。走り出した辻垣内を止めるとなると、三人で連携せなあかん。
 けど……いくら森垣が強くなったゆーても、さすがに美穂子や霞レベルやないもんな。ここはうちと姉帯でどうにかするしかないか……)

智葉(この親はそう簡単に手放してやらんぞ。チームのトップを磐石にするまで、私は和了り続ける――!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(どうすんでー、私!? 辻垣内先輩を止めるために、私に何ができる……? 清水谷先輩みたいにうまく立ち回ることもできない。姉帯先輩みたいに複数の能力で撹乱することもできない。何か私にできることは……!?)

友香(こういうとき、練習ではどうしてた? 私はどうやって……淡や咲に勝ってたんでー――?)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

淡「ツモ! 3000・6000っ!!」パラララ

桃子「またー? そのダブリーは玉数制限ないっすかー」

友香「ないない。向こうにいた頃からもう通算何ダブリーしたか数えるのもバカらしいんでー」

咲「わ、私だって、手牌の数と嶺上牌に制限がなければ無限に連槓できるんだから!!」

淡「あはっ! 負け惜しみにしか聞こえないよ、サッキー? いいから6000点ちょーだいっ!」

咲「ふ、ふんっ、だ! これで私は《プラマイゼロ》だもん! 淡ちゃんは私の手の平の上で踊ってればいいんだよー!!」

淡「勝負に勝てば勝ち方なんて問わない! それが私の哲学だよっ!!」ババーン

咲「く……! っていうか、友香ちゃん! どうしてもっと早くテンパイしてくれなかったの!? 張りさえしてくれれば、私がカンドラでハネ満にしてあげたのにー!!」

友香「申し訳ございませんでー、《魔王》様。配牌が五向聴だったもんでー」

咲「もー、淡ちゃん! それ使うのやめてよー! 私は別にいいけど、私の配下たちが困ってるから!!」

桃子「嶺上さんは人の上に立つならもっと人の心を学んでくださいっす」

淡「何言ってるの、サッキー? そんなの嫌に決まってるじゃんっ!!」

咲「なに、負けるのが恐いの!?」

淡「そうだけどなにかー?」

咲「へ、へえー……? やけに素直だね。そんなに私に削られるのが恐いんだっ!!」

淡「いや、サッキーはカンで手が進むんだから、別に私が《絶対安全圏》使ってようと使ってまいと関係なく私を削れる――っていうか、そんなのは一つも恐くないよ! どーせサッキーは《プラマイゼロ》にしかならないんだしー!」

咲「な、なにそれ……この世に私の嶺上開花より恐いものがあるっていうの? それはそれでカチンとくるんだけど!!」

煌「ふむ。では、淡さん。ちょっと《絶対安全圏》を使うのをやめてみましょうか」

淡「えーっ!? やだやだ! 負けたくないっ!」

煌「では、こうしましょう。淡さんが《絶対安全圏》を使わずにトップを取れたら、今夜はちょっとサービスしますよ」

淡「しゃあー!! じゃ、やろっか、みんな!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「さ……サービス!? 煌さん!? 淡ちゃんに何をサービスするんですか!?」

煌「寝る前に御髪を梳かすサービスです」

桃子「はいっ! 私も何かご褒美がほしいっす!!」

煌「では、桃子さんがトップを取れたら、御肩をお揉みしましょう」

桃子「おお……! またきらめ先輩の絶妙マッサージが受けられるなんて……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「煌さん、私もっ!」

煌「では、咲さんがトップを取れたら、今日一日私が咲さんのお姉さんになりましょう」

咲「これは本気出さなきゃなー……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香「煌先輩、私もでー!!」

煌「友香さんがトップになれたら……そうですね。なんでも一つ、お好きなことをして差し上げますよ」

友香「萌えるでーッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――

 ――――

淡「うわーん!? やっぱ勝てなかったじゃん!! もーっ!!」

咲「こんなのってないよ……」

桃子「ちゃー……敵わないっすねー」

煌「友香さん、こんな感じでよろしいですか?」パサッカチャ

友香「お似合いです!! やっぱり煌先輩は眼鏡をかけるべきです!! そして髪を下ろすべきです!!」

淡「おっふ、まるで別人」

咲「知らないお姉さんがいるよ」

桃子「これはこれで……」

友香「どうですか!? 今後ずっとこれでいきませんか!?」カガミ

煌「ふむふむ。確かに、こんな私もすばらですね」

友香「じゃ、じゃあ――!!」

煌「申し訳ありません、ちょっと眼鏡と髪の毛が邪魔で集中が削がれてしまいます。麻雀をやるには向かなそうですね」

友香「でー……」ウルウル

煌「ですが、たまにならいいですよ」

友香「煌先輩ーっ!!」

煌「さて……それでは、このままもう何局かやってみましょう。皆さんも、この状況で誰を一番警戒すべきかわかったと思います。次は簡単にやられてはいけませんよ?」

淡「上等っ! ユーカ、座りなよ!!」ゴッ

咲「覚悟してね、友香ちゃん! 麻雀楽しませるよっ!?」ゴッ

桃子「闇討ちにはお気をつけっすー……!!」ユラッ

友香「へっへーん! まとめてかかってくるがいいんでーっ!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

友香(でー……追い詰められるとすぐにあーでもないこーでもない考えちゃうのは、私の悪いクセなのかな。
 そうだ。私は《正道》でも《最大》でもない、《流星群》の森垣友香……あの淡と並び称された私の強さは――速攻&高打点ッ!!)

友香(使いどころは運任せだけど、この場に天敵の淡はいない。自分の力を見限るには速過ぎる。先輩たちの強さを羨むのは、自分の力を出し切ってからにしよう。私の《流星群》には……まだ上がある――)

友香(っていうか、これくらいであわあわ慌ててたら、いつまで経っても淡に勝てないままでー。やってやるったらやってやるっ!! さあ、辻垣内先輩!! 先輩の親、必ず私が止めてみせますよ……!!)

智葉「……一本場……ッ!!」

竜華:129200 豊音:65500 友香:99700 智葉:105600

 ――《煌星》控え室

煌「友香さん、吹っ切れたようですね。大変すばらです」

桃子「でー子さんはちょっと自分を過小評価する癖があるっすよね。超新星さんの《絶対安全圏》さえなければ、私たち一年生四人の中で一番強いのに」

咲「リーチは麻雀の基本。で、友香ちゃんはリーチさえ掛けちゃえば、ほぼ確実に和了れる。しかも、巡目によってはリーのみが面白いように高い手に化けたり。
 真っ直ぐ強いって素敵だよね。いちいち角を曲がらないと和了れないどっかのひねくれ者とは大違い」

淡「いちいち符を調節しないと和了れなかったどっかのぺったんこさんには言われたくないなー。
 けど、ま、ユーカが強くて素敵っていうのはその通り。なんたって、向こうでこの私と《二大巨星》と並び称された雀士だからねっ!」

咲「へえーっ! それはすごいね!! 淡ちゃん、あの友香ちゃんと並び称されてたんだっ! 私、今、ちょっとだけ淡ちゃんのこと見直しちゃったよーっ!!」

桃子「実際、どうだったっすか、向こうでの戦績は。直接対決で超新星さんが勝ったらしいってのは、最初の頃に聞いたっすけど」

咲「能力の相性に救われたんだね。ホント、淡ちゃんってば無駄に悪運だけは強いから……」

淡「相性も悪運も私の実力の内なのさ! で、モモコの質問の答えだけど、総合成績ではユーカのほうが上だったよ。だから、サッキーの言ったことは実際真実なんだよね。
 『あの無敵の《流星群》に匹敵する《超新星》が現れた』とか。直接戦うまでは、そんな言われ方してたし」

桃子「なるほど。まあ、いつだかの《絶対安全圏》なし練習を思えば、容易に想像できるっす」

咲「すごかったよね、なんの縛りもない友香ちゃんの《流星群》。本当に星が見えたもん」

淡「私がユーカの天敵だっていうのがよくわかったでしょ?」

桃子「そうっすね。超新星さんの能力は、いわば大気圏みたいに、でー子さんの《流星群》から私たちを守ってくれてた。いざなくなってみると、いやー、星が雨あられのように降ってくる降ってくる」

咲「普段だと、最速でも五巡目リーチが限界だもんね。淡ちゃんと打ってるときの友香ちゃんは、平均打点が8000点以下。けど、四巡目以内のリーチが解禁されると……」

淡「倍満級の和了りが当たり前になってくる。中でも極めつけだったのが――」

淡・咲・桃子「ダブリー嶺上開花ツモドラ四裏四赤一」

桃子「《リーチ巡目が速ければ速いほど打点と和了率が上昇する》能力――とは言え、ダブリーのみが二巡目で数え役満ってマジどんだけっすか」

咲「赤で五筒開花されるしね……」カタカタ

淡「カン裏だけじゃなくカンドラもモロだったしね……」カタカタ

桃子「超新星さんのせいで感覚麻痺してるっすけど、ダブリーって、古典確率論的にはそれなりの確率で誰にでも入る役なんっすよね。それを一瞬で数えに仕上げるでー子さんはマジ化け物っす」

淡「でも、あのユーカのダブリーの本当の恐ろしさは、数え役満にしてきたことのほうじゃないんだよ。むしろ、その数え役満にした、やり方のほう」

咲「うん……あのダブリー嶺上開花ツモドラ四裏四赤一、なにがありえなかったって」

淡・咲「カン裏(嶺上牌)が私の《上書き》してたやつと違う」

桃子「超新星さんと嶺上さんは大能力者《レベル4》……その二人の支配領域《テリトリー》にあった牌を、レベルが下のはずのでー子さんが《上書き》してみせた」

咲「効果が競合したとき、下位レベルの能力は上位レベルの能力を《無効化》できない。それが能力論の原則。それを、友香ちゃんの《流星群》は突き破ってきた」

淡「つまり、そこがユーカの能力値が《レベル3強》ってなってる理由なんだよね」

桃子「でー子さんの能力は、リーチ巡目が速ければ速いほど、打点や和了率だけじゃなく、その強度も上昇する。大体……三、四巡くらいが境界っすか?」

咲「うん。少なくとも、ダブリーは完全にレベル4――その中でも上のほうの強度があったよ。あれを止められるのは、たぶんお姉ちゃんのところにいる噂の《塞王》さんくらいなんじゃないかな」

淡「五巡目を過ぎてくると、ユーカの能力の強度はレベル3相当に落ち着いてくる。だから、レベル4である《神風》とか、今戦ってるでっかい人の追っかけリーチには、対抗できない」

桃子「けど……もしダブリーか、二、三巡目の超高速リーチができれば――」

咲「《最大》の大能力者――レベル4の姉帯さんの追っかけリーチに、振り込まずに済むかもしれないっ!!」

淡「勝負してみる価値は……あるよねッ!!」

     友香『リーチでーっ!!』ゴッ

淡・咲・桃子「っ!!」ゾワッ

煌「惜しくもダブリーには至りませんでしたが、それでも二巡目。手役はリーチのみです。今のところは……ですけどね」

 ――対局室

 東四局一本場・親:智葉

友香「リーチでーっ!!」ゴッ

 北家:森垣友香(煌星・98700)

智葉(二巡目リーチ……否、それはそれで構わん。配牌やツモによっては十分ありえることだ。そうではなく……この感じ、前半戦で一度だけあったこいつのリーチとはまるで強度が違う。レベル4相当といったところか)タンッ

 東家:辻垣内智葉(劫初・105600)

竜華(はー……巡目が速いほど能力の強度が上がるんは合宿のときから知っとったけど、ここまで劇的に変わるもんか。この子がダブリーしたらどないなことになるんやろ。一度見てみたいわ)タンッ

 南家:清水谷竜華(豊穣・129200)

豊音(むー、私がいるのに先制リーチ? この巡目ならテンパイできないと思ったのかな? 残念……私の《先負》には《先制リーチが入ると有効牌が入る》自牌干渉系の能力も複合しているんだよねー。おかげ様で張ったよー!!)カチャ

 西家:姉帯豊音(逢天・65500)

豊音「追っかけるけどー……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(き、来た……!!)ゾクッ

豊音「リーチッ!!」ゴッ

友香(姉帯先輩の追っかけリーチ……私のレベル的には、本来、勝ち目がない。けど、今の私のリーチはレベル4相当の強度がある!
 たとえ《無効化》はできなくても、むざむざやられたりはしない。やり方次第では――放銃を回避できるんでーっ!!)

友香「カンッ!!」ゴッ

豊音(――ッ!? 私の和了り牌……掴ませたのに、暗槓で握りつぶした!? こんなかわし方が……!!)

友香(みんなと練習してきて本当によかったと思う。私一人じゃ、こんなやり方は思いつかなかった……!!)

豊音(っていうか……カンドラが!?)ゾクッ

竜華(モロ乗ったなー。そっか、この子、速ければ速いほど打点も上がるんやっけ。姉帯の能力に対抗しつつ、自身の能力の効果を最大限に発揮する。暗槓は一石二鳥の手ってわけか。よう考えとるな)

友香(嶺上開花――は、さすがに無理だったか。王牌は支配領域《テリトリー》の《未開地帯》。その《最高峰》を《上書き》するほどの強度を発揮するには、私の場合だと、やっぱダブリーするしかない。
 けど、まっ、次でツモればいいんでーっ!!)タンッ

智葉(姉帯の能力を振り切ったか。能力の強度は五分五分かやや姉帯のほうが上だった。これは森垣の作戦勝ちだな。
 ま、それはそれとして……このままだと大きいのをツモられそうだな。どうにかズラしたいところだが――)タンッ

竜華(悪いけど、うちは出さへんで? 森垣の和了りは間違いなく大きい。災難やったな、辻垣内。そのまま指くわえて親っ被りしとけ)タンッ

豊音(うー……強いよーっ!! 辻垣内さんや清水谷さんだけじゃない。この子――《流星群》の森垣友香っ! 試合終わったらサイン頼んじゃおーかなー!?)タンッ

智葉「ポン」タンッ

豊音(わっ!? ズレた!?)

友香(甘いんでー……辻垣内先輩。前半戦のリーチとは能力値の次元《レベル》が違う。鳴いてズラしたくらいじゃ、今の私は止められない――!!)

智葉(わかっているさ。この手の自牌干渉系能力は嫌というほど見てきた。ここまでされたら、レベル0の私にお前の和了りを止める術はない。だが、私はできることはやっておく主義でな)

竜華(おっと……赤引いてもうた。辻垣内め、ホンマ往生際の悪いやっちゃでー)タンッ

豊音(さあ……どんな和了りを見せてくれるのかなー?)タンッ

友香(来い――ッ!!)ゴッ

友香「……ツモッ!! リーチツモドラ四――裏四ッ!! 4100・8100でーっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(おおお……リーのみが一瞬で倍満に!? ちょーカッコいーよー!!)

竜華(本当ならこの赤をツモって三倍満やったんか。この《流星群》の能力……連発されたら手がつけられへんな)

智葉(親を流された上にかなり削られたな。単純だがいい能力だ)

友香(いっし、なんとかさっきの倍直分は取り返したっ!! 残るは南場……できるだけのことをやって、淡に繋ぐ……!!)

竜華:125100 豊音:60400 友香:117000 智葉:97500

ご覧いただきありがとうございます。長いのでここで分割します。続きは明日にでも。

以下、補足。

 ――――

レベル○強・ランク○強:通常時の数値は○。特定条件上でその数値が一段階上昇する場合、『強』を添える。

今のところ、『強』の記述があるのは、

ランクA強:龍門渕さん

レベル3強:森垣さん、片岡さん、南浦さん

です。

毎度乙
マルチスキルで能力の複合は出来るけど重複させるデュアルスキルは無理よってのがよう分からん
出来ればもう少しだけ掘り下げてもらえると有難い

>>388さん

○マルチスキルとデュアルスキルの違い

マルチ・デュアル云々という文言は元ネタに由来していて、ウィキ曰く、

・(一人が複数の能力を扱うことは)脳への負担が大き過ぎるため実現不可能とされている→デュアルスキル

・約一万人の脳で構成される脳波ネットワークを「一つの巨大な脳」として扱うことで、 一人(個人の脳)では負荷が大き過ぎて不可能だった複数能力の使用を実現→マルチスキル

だそうです。

が、当SS内でのマルチ・デュアルの意味するところは元ネタとは別物で、まず、

・同じ公理系から導かれた定理(能力)同士は同時使用できる→複合

・異なる公理系から導かれた定理(能力)同士は同時使用できない→重複

というイメージから出発しています。

で、ここから、

・内容(効果)の異なる定理(能力)を二つ以上所持している→マルチスキル

・公理系(土台)の異なる定理(能力)を二つ以上同時使用できる→デュアルスキル

と分類しています。マルチスキルとデュアルスキルは問題にしているポイントが異なっているので、これが混乱の元かと思われます。

そして、二つ以上の公理系を所持しているタイプの能力者は、作中では姉帯さんだけです。他の能力者は、みな一つの公理系の上に一つ以上の定理(能力)を所持しているタイプです。

 ――以下、本編とはなんの関係もない落書き――

豊音(先勝・とりあえず行動するよ!)「つまり、多重人格ってことなのかなー?」

豊音(友引・協調性が第一! みんな友達だよ!)「なるほどー。同時に二つの人格が現れたら大変だもんねー」

豊音(先負・疑い深くて慎重だよ!)「どうなのかなー。違う人格同士が頭の中で話し合ってたり、主格の下にいくつかの人格が共存してたりするパターンだってあるよー?」

豊音(友引・協調性が第一! みんな友達だよ!)「あー、私(先負)の言うことも一理ある気がするよー」

豊音(赤口・ちょっと気性が荒いよ!)「あー、もー、わかんないよー!!」ガッシャーン

豊音(友引・協調性が第一! みんな友達だよ!)「まーまー落ち着いてー、私(赤口)」

豊音(大安・良くも悪くもおおらかだよ!)「もーなんでもいいんじゃないかなー?」

豊音(先勝・とりあえず行動するよ!)「よくないよ! ちょー気になるよー!」

豊音(友引・協調性が第一! みんな友達だよ!)「ねーねー、私(仏滅)はどう思うー?」

豊音(仏滅・なに考えてるかわからないよ!)「………………」ZZZ

豊音(赤口・ちょっと気性が荒いよ!)「私(仏滅)がちょー寝てるよー!」ガッシャーン

豊音(先負・疑い深くて慎重だよ!)「いや、これは寝たふりかもしれないよー」

豊音(友引・協調性が第一! みんな友達だよ!)「困ったなー。なかなか話がまとまらないよー」

豊音(大安・良くも悪くもおおらかだよ!)「まーなんでもいいんじゃないかなー」

豊音(先勝・とりあえず行動するよ!)「あっ、ごめん! 私そろそろリーチしに行かなきゃ!! みんな、またあとでねっ!!」ビューン

 ――――

豊音「はっ! 変な夢見たよー! 六人の私がいたよー!」

泉「バレーボールのチーム組んだら世界狙えそうですね」

 ――観戦室

塞「これが《流星群》の森垣友香……速い上に高い上に即ツモって卑怯過ぎない?」

照「ダブリーだとたぶん二巡目で数えを和了るんじゃないかな」

塞「もし戦うことになったら全力で塞ぐわ」

やえ「見たところ、三、四巡目以内のリーチだとレベル4相当の強度があるようだな。塞ぐときは覚悟して塞げよ、《塞王》。あいつのダブリーはきっと《最凶》の初美級にしんどいぞ」

塞「滅入るわー……」

ネリー「ゆうかの頑張りで、また展開がわからなくなったね」

やえ「今のところ、個人収支トップもチームトップも清水谷か」

塞「で、その清水谷の親番。わりと配牌はいいっぽいけど、東一局みたいに攻めるのかしら」

照「どうかな……」

     竜華『リーチ』

ネリー「おおっ! これはもしかして……!!」

やえ「最初に稼いだ貯金をここで使うのか」

     豊音『リーチだよー』

塞「また親番を捨てて、豊音の能力を利用した差し込み。徹底してるわねー。せっかくチームトップになったっていうのに、少しは冒険してみるとかないわけ?」

     豊音『ロン、5200!』

照「辻垣内さんが笑ってる……」

やえ「笑うしかあるまいよ」

     竜華『ポン』

ネリー「今度はさとはのツモを飛ばしに来たっ!! あの手この手だねー!!」

     竜華『ポン』

塞「あいつ……完全に和了る気ないでしょ。ただの嫌がらせとしか思えないわ。最高。もっとやりなさい」

照「清水谷さんがポンで辻垣内さんの足止めをしたおかげで、森垣さんが追いついた」

     友香『リーチでーっ!!』

     智葉『チー』

塞「今日の森垣のリーチの中では一番遅いわね。ズラされても和了れるように練習はしてきたみたいだけど、この巡目だとなかなか辛いのかしら」

ネリー「微妙なところだけど、今回はさとはのほうが上を行きそうかな。ま、ゆうかのツモまで回ればの話だけど」

     友香『ロ、ロンっ! 5200』

     竜華『はい』

やえ「辻垣内がズラしてくれば自ら差し込む。辻垣内がズラさなければ放置してツモを和了らせる。森垣がリーチを掛けた時点で、この南二局は終わってたってことだな」

照「森垣さんは、清水谷さんの差し込みを見逃してツモを狙ってもよかったかもしれない。
 個人的には、清水谷さんを見逃さなかった今の判断は、森垣さんの置かれている状況的に、正しかったと思う」

やえ「難しいところだな。《塞王》様的にはどうだ?」

塞「私は……やっぱ、今のはちょっといただけないと思っちゃうわね。自牌干渉系能力者なら、何があろうと気合でツモ狙っとくべきよ。《流星群》――真っ直ぐ強くていい能力なのに勿体無いことしてるわ」

やえ「有難いお言葉をいただきました」

照「さすが封殺系最強は若い子に厳しい」

塞「若さは関係ないわよ……っていうのはさておき、試合のほうは南三局まで来たわね」

ネリー「さとは、完全に蚊帳の外だね。これはラス親まで我慢かなー?」

やえ「あいつがそんな大人しいやつかよ」

ネリー「あはっ、確かにっ!」

     智葉『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「あいつ……よくもまあ能力も使わずあんな綺麗な手を……」

照「このまま行くと、辻垣内さんが和了りそうな気がする。清水谷さんも、ちょっと今回は動くに動けなさそう」

やえ「ここで辻垣内に和了られると、清水谷が今まで必死に積み上げたものが全部パーになるだろうな。かなり洒落にならないオーラスが来るぞ。清水谷のほかに、それを理解しているやつがいるや否や」

     豊音『ポンだよーっ!』

塞「え、豊音っ!? 追っかけリーチするつもりで一向聴をキープしてたんじゃないの!?」

ネリー「さとはの様子を見て変えてきたんだね。ここまでずっと能力を主体に攻めてたのに、一番の得意技を自ら放棄した。これはさとはにも予想外だったんじゃないかなー?」

     豊音『ロン、1000ッ!!』

     竜華『はい』

塞「っしゃ! よくやったわ、豊音! 辻垣内、いい気味!!」

     智葉『……』

ネリー「あははっ! さとはのあの顔ー! まるで玩具を取り上げられた子供みたいっ!!」

塞「どう見ても標的を逃した殺し屋の顔でしょ」

やえ「何はともあれ、オーラスだな。現在の後半戦の収支は……全員がプラマイ五千点以内か。個人戦なら西入だ。清水谷は本当にいい仕事をしている」

照「でも……辻垣内さんがこのまま終わるはずないよね」

ネリー「うん。ここで終わったら、あそこに座ってるさとはは偽物なんだよっ!」

     智葉『ツモだ……ッ!』

 ――対局室

 南四局・親:智葉

智葉「ツモだ……ッ!」

豊音・友香「っ!?」ゾッ

竜華(いや、これは――)

智葉「500オール。連荘続行だ」

友香(500オール!? そんな!? 殺気的には50000オールくらいだったのに!!)

豊音(火力を捨てたのかなー……? 清水谷さんもわりと速そうだったし、ここは安手でも連荘を狙うって感じ?)

竜華(ところがどっこい、ちゃうんやなー。これは、いわば剣道でいう『攻め』や。剣先をこちらに突きつけて、隙を伺っとんねん。 
 この『攻め』が達人級やからこそ、辻垣内の『打突』は百中で一本を取れる。懐かしいわ……あのときも、こうやって真っ二つにされたんやっけ――)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――三年前・インターミドル・Bブロック三回戦

竜華「……うちが本気を出しても勝てへん相手? 自分がそれやっちゅーんか」

智葉「ああ。清水谷竜華……お前は確かに強い。だが、私はもっと強い」

竜華「辻垣内智葉……随分言うてくれるやんな。ただの強がり、ってわけやなさそうやけど」

智葉「私はそれなりに己の器を知っている。その上で、誇張も謙遜もなく、私はお前より強いと言っているのだ」

竜華「オモロいやん。そこまで言うなら、見せてもらうで。自分の強さっちゅーやつをな……ッ!!」

 ――――

智葉「ツモ。500オールだ」パラララ

竜華(なんや……あれだけ言うといて安手の連荘狙いやと? ラス親はラス親やけど、点差わかっとるんか……?)

智葉「連荘続行。一本場――」

竜華(手牌がええのか悪いのか。攻める気があるのかないのか。いまいち考えてることが読めへんな。この静けさは、言うだけのことがあるっちゅーか、明らかに堅気のやつとはちゃう……)

智葉「リーチ」チャ

竜華(と――ここで曲げてきよったか。点数不明の序盤のリーチ……ベタオリするんはちょっと芸があらへんよな。向こうは親やし、誰かが和了らへん限り、この南四局は終わらへん)

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

竜華(こいつ……誘っとるんか? わざと隙を見せて、うちに打ち込ませようとしとるんか? ふん、オモロいやん……!!)

竜華(ええで。その誘い、乗ったるわ。辻垣内智葉……確かに、自分はただもんやないんやろ。ついこの間まで海外にいたっちゅー話やけど、なんや、同い年とは思えへんくらい、どえらい修羅場くぐってきたような風格があるわ)

竜華(せやけど、うちかて、春の大会では決勝まで行った。この最後の夏も同じ面子で決勝しようなって、四人で約束した。
 『西には四匹の獣がいる』――誰が言い出したか知らんけど、うちはそのうちの一人や。全中ベスト8常連としてのプライドっちゅーもんがある……!)

竜華(辻垣内智葉、いざ尋常に――死合おうやッ!!)

竜華「リーチ……ッ!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

 南四局一本場・親:智葉

竜華(捲り合いになって……うちが辻垣内の倍満に振り込んだんやっけ。二年の夏のインターミドルが終わって、先輩らが引退してから、秋、冬、春、夏と、個人戦で準決勝に行けへんかったのはあれが最初で最後やったな)

 南家:清水谷竜華(豊穣・112200)

智葉「リーチ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:辻垣内智葉(劫初・98000)

竜華(あれから三年……お互い、根っこのところでは、なーんも変わらんな。自分もうちも、心の真ん中にあるんは強者としての矜持。
 どんだけ冷静に、沈着に、正しく正しく積み上げても、最後の最後だけは、サシの斬り合いで白黒つけたくなってまう)

竜華(ええで、辻垣内。その誘い、乗ったるわ。やっぱ、うちと自分の勝負はこうやないとな……!!
 刀の代わりに牌を握って、命の代わりに点棒懸けて、ただ真っ直ぐに己が敵を見据え――斬るッ!!)

竜華(堪忍やで……《豊穣》のみんな。この一回だけや。ちょっとだけうちの我儘を許してーな?)

竜華(せやけど、心配は要らんで。三年前と同じ轍は踏まんわ。うちかて、あれからずっと、うちなりの道っちゅーもんを探してきてん。
 《正道》――そこから外れるような真似はせーへんよ。うちは知っとる。これもまた、正しい道なんやって)

竜華(ほな、気張って行こか。辻垣内の姿は見えとる。遥か遠くで……今は、少しだけ、うちのほうを振り返って、微笑んどる。大丈夫。この道で合うとる。これがうちの進むべき《正道》やッ!!)

竜華「リーチ……ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(し、清水谷さんも……!? 辻垣内さんの火力を削ごうと思って《赤口》にしてみたけど、これは――)タンッ

 西家:姉帯豊音(逢天・67100)

友香(割り込める雰囲気じゃない。ここは大人しくベタオリが正解でー?)タンッ

 北家:森垣友香(煌星・121700)

智葉(誘いに乗ってきたか……いいぞ、それでこそお前だよ、清水谷竜華。私が本気を出さねば勝てない敵。色々なやつがいるこの世界で、唯一、私と正面から刃を交えることができる剣友――同じ道を歩む者だ)タンッ

竜華(さーて、やってもーたでー!? ホンマにリーチかけてもーたでー!? 負けることがわかってて、どーしてやってまうんかな? いや、それが正しいからやけど……っ!!)タンッ

智葉(清水谷……お前は、どんなに本気を出そうと私には勝てん。なのに、お前はいつだって、本気で私を追ってきたな。突き放しても突き放しても、ふと振り返れば、お前はいつもそこにいた)タンッ

竜華(だああっ、悔しいわ……!! 最後の最後までこれか! ホンマに、麻雀の神様っちゅーんは血も涙もないな!!)タンッ

智葉(感謝しているぞ、清水谷竜華。私は、お前のおかげで、胸を張ってこの道を歩むことができる)タンッ

竜華(辻垣内智葉……やっぱ、自分は強いわ。強過ぎるわ……!!)タンッ

智葉(私はまだ、正しい道を歩いているのだと。私はまだ、お前に追ってきてもらえる私でいるのだと。自信と確信を持って、私はまた、前へ進むことができる……!!)タンッ

竜華(辻垣内智葉……本気の本気で打ったんやけどな! また勝てへんかったわ――!!)タンッ

智葉(悪いな、清水谷竜華。今回も私の勝ちだ――!!)タンッ

竜華「それや……ロン、2000は2300」パラララ

智葉「ああ……」チャ

『中堅戦終了ーっ!! 接戦を制したのはやはり辻垣内智葉ー!! しかし、点数にはほとんど変化なし!! 順位も変わりません!! トップは引き続きチーム《煌星》です!!』

竜華(狙ったように最安め。ま、どうせ高めは抱えとんのやろー? あとで牌譜確認するまでもないわ。ホンマこいつには敵わんで)フゥ

 三位:清水谷竜華・-2600(豊穣・115500)

智葉(私がなんの保険もなくリーチを掛けるわけがなかろう。とは言え、捲り合いに負けるつもりはなかったんだがな――)パタッ

 一位:辻垣内智葉・+3900(劫初・95700)

智葉「楽しかったぞ、清水谷竜華。お前とは、またいつか、どこかで死合いたいものだ」

竜華「またいつかどこかでやと? 五日後の決勝でもう一回勝負や。次こそはうちが勝ったるからな。首洗って待っとけよ、辻垣内智葉」

豊音(ふー……参った参っただよー! もっと戦えると思ったんだけど……。うーっ! 決勝では負けないんだよーっ!!)

 四位:姉帯豊音・-3600(逢天・67100)

友香(け、結果オーライでー? 内容は踏んだり蹴ったりだったけど。でも、先輩たちの本気を間近で体感できた。これがきっと次に活きる――いや、活かすっ!
 なにはともあれ役目は果たした! 後はばっちり頼むでー、淡っ!!)

 二位:森垣友香・+2300(煌星・121700)

 ――――

 ――――

淡「ユーカー!!」ダキッ

友香「でっ!? ちょ、淡!?」アワワ

淡「ユーカ! 超すばらっ! めっちゃすばらだよーっ!!」ムギュー

友香「自力で和了れたのは二回だけだったけどね。それも限りなく偶然に助けられた感じでー」

淡「勝てばいいんだよ、勝てば!!」

友香「ま、私にしてはよくやったほうって自覚はあるんでー。あとはエースに託す。そうでしょ、淡」

淡「お任せあれ――と言いたいところだけどねー……」

友香「……さすがの《超新星》も、同卓者全員がランクS級ってのは緊張するんでー?」

淡「うん……あのちっちゃいのと、ちっちゃいのよりとんでもないって噂の巫女さん。
 それに、キラメ印の調査では、かすみー先輩もランクA強――限定条件下でランクS相当の支配力を発揮できる雀士。負けるとは微塵も思ってないけど、多少の気負いがあるのは事実」

友香「なのに、控え室では強がってきちゃったわけでー?」

淡「みんな気付いてたと思うけどね。笑って見送ってくれた」

友香「つまり、淡の緊張をほぐすのは私の役目ってことか」ナデナデ

淡「ふぁにゅあああ……!? これがサッキーの言ってたユーカお姉さまのナデナデ! 癖になっちゃうーっ!!」

友香「ランクSシスターズは手が焼けるんでー」

淡「……ありがと、ユーカ。おかげで最初から飛ばせそうだよ」

友香「これくらいでよければ、いつでも」

淡「ふう……じゃあ、マジのマジのマジで行ってこよっか――ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香「わっ!? ちょっ、淡、いきなりそれやるのやめてって!! リアルに手が焼けるから……っ!!」ビリビリ

淡「てへっ! ごめんね、ユーカお姉さま!」

友香「ま、いいってことでー。それで淡が勝てるなら、お姉さまは何も言わないよ」

淡「ユーカ……私、頑張るねっ!」

友香「信じてるんでー、《超新星》」

淡「ありがとう、《流星群》。《二大巨星》の名に懸けて――《煌星》のエースの名に懸けて……私は勝ぁーつ!!」ゴッ

 ――――

 ――――

智葉「……っと、この歩く異常現象。あまり磁場を乱すのはやめろ、平衡感覚が崩れる。そして周囲の分子をプラズマ化するな。制服が焦げたらどうする」

衣「それはできない相談というもの。衣は今から神殺しへと赴くのだ。準備運動はしっかり済ませておかないとな」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「これで準備段階とは……呆れた支配力だな」

衣「今ならさとはの刃も弾けようて」

智葉「ぬかせ、化け物。刃毀れ一つ起こさんよ」

衣「……その言葉、全力のこまきを見ても同じことが言えるか?」

智葉「……どうだろうな。見てみないことにはわからん」

衣「ふん、さとはらしい賢明な答えだな」

智葉「……天江、敵は神代だけではないぞ。忘れるな、お前が今から行く処は、常世の法が行き届かぬ《魔物》の巣窟だ」

衣「案ずるな、魔窟は衣の庭も同然。かえってそちらのほうが遊びやすいというもの」

智葉「っとに……まさに《修羅》だよ、お前は。ま、頑張れ。微力ながら、お前の勝利を祈らせてもらう」

衣「有難い。では、行ってくるぞ……!!」ゴッ

智葉「おう、行ってこい!!」

 ――――

 ――――

霞「お疲れ様、竜華ちゃん」

竜華「おーう、霞。疲れたわー。ちょっと胸貸してやー」

霞「お好きなだけどうぞ」

竜華「ふあー……極楽やわー」ムギュー

霞「ふふっ。なら、こんなのはどう?」ドギューン

竜華「ぷぉおお!? 霞、またなんちゅー技を――」ツー

霞「あら……大丈夫? ちょっと刺激が強過ぎたかしら」

竜華「どーやろ。もしかすると、ちょっと触れてもーたのかも。油断して密着し過ぎたわ」フキフキ

霞「ごめんなさい……ちゃんとしまえてなかったのね」

竜華「いや、まあ、仕方ないやろ。相手が相手やし、むしろもっと出してええねんで?」

霞「対局でもないのにそんな真似をしたら、霧島にいる祖母上様に雷を落とされるわよ。修行が足りない、ってね」

竜華「せやけど、いざとなったら使うんやろ……それ」

霞「ええ、もちろん――」ゴゴ

竜華「……おい、漏れとんで」ゾクッ

霞「失礼。二回戦では出してあげなかったから、ちょっと気を抜くとすぐこれなの。きっと小蒔ちゃんに会いたくて仕方ないのね」

竜華「ホンマ……霧島の巫女はどいつもこいつも化け物ばっかりやな」

霞「私なんてまだ可愛いほうよ」

竜華「……せやな、霞は可愛えで」

霞「あら。こんなところで告白?」

竜華「独白や。聞き逃したってー」

霞「はいはい。なら、いつか自白するまで待つとしましょうか」

竜華「ほな……あとはよろしく頼むで、霞っ!」

霞「《魔物》の調伏ならお手の物よ。専門分野……行かせてもらうわ――」ゴッ

 ――――

 ――《逢天》控え室

豊音「ただいま戻ったよー」

小蒔「豊音さん、お疲れさまですっ!!」

豊音「うん。すっごく疲れたよー」

透華「豊音ーっ!! どうしたんですのー!? 始まる前に目立つなとは言いましたけれど、凹めとは言ってませんのよー!?」

豊音「ごめんだよー……」

玄「《仏滅》が使えればよかったんですけどね。まあ……決勝でも使えないのはわかってますから、なんとか、今のままで勝てるやり方をみんなで考えましょう」

豊音「いつもありがとうだよー、クロ」

泉「ごめんなさい……豊音さん。うちがヘマしなければ、《大安》で逃げ切ることもできたはずやのに……」

豊音「ううん。イズミのせいじゃないよー。私が甘かった。決勝ではプラスになれるように、一緒に頑張ろうっ!」

泉「はい……! 頑張りましょうっ!!」

小蒔(玄さん玄さん)コソッ

玄(なに、小蒔ちゃん?)

小蒔(ちょっと、ご相談があります。よろしいですか?)

玄(え……? う、うん。いいけど……)

小蒔「では……皆さん! 副将戦、行って参ります。応援よろしくお願いしますねっ!」

豊音「ちょー応援するよー、コマキ!」

透華「頼みましたわよ、小蒔!」

泉「小蒔さん、頑張ってください……!!」

小蒔「ええ……頑張ります。死力を尽くして頑張りますとも――」

 ――――

 ――――

玄「……で、相談ってなに、小蒔ちゃん。まさかとは思うけど、この間のアレを使うなんて言わないよね?」

小蒔「うっ……やはりお見通しでしたか」

玄「当たり前だよ。小蒔ちゃんとは一年生の頃からの付き合いだもん」

小蒔「一年生……そうです。私たちが決勝に行くためには、ここから、あの衣さんと憩さんを倒さねばならないのです」

玄「一位じゃなくても、決勝には行ける。私と小蒔ちゃんならできるよ。憩さんと衣さんには及ばないかもしれないけど、《豊穣》と《煌星》なら、ここからでも追い抜ける」

小蒔「……ですが、玄さん」

玄「ダメなものはダメ。《アイテム》のリーダーは私だよ。《逢天》の参謀も私。どっちの立場としても、そんな許可は出せません」

小蒔「で、でも、玄さん……っ!!」

玄「小蒔ちゃん……あのとき、試しにって言って、一回だけ使ってみたとき、どうなったか覚えてるよね?」

小蒔「ご、ご迷惑をおかけしました……」

玄「豊音さんも透華ちゃんも……泉ちゃんも、あれを見たら、きっとダメって言うと思うよ」

小蒔「そ、そうですよね……ごめんなさい……」

玄「まったく……小走さんは一体何を考えて――」

小蒔「いえ……! 博士は私の相談に乗ってくれただけでっ!」

玄「それにしたって、専門でもないのに、明らかに無認可のものを――うん。やっぱり、それ、没収」

小蒔「え、ええぇっ!? ですが……!!」

玄「小蒔ちゃん、私の言うことが聞けないの……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔「ひぃぅっ!?」ビクッ

玄「はーい。じゃあ、今から入念に身体検査しまーす。大人しく両手を挙げてくださーい」

小蒔「ひゃんっ!? ふみゃ!! そんなところまで!? く、くすぐったいですっ!!」

玄「よし、これで全部かな。……む?」

小蒔「な、なんですか?」

玄「おもちの膨らみ方がいつもと違うような……。小蒔ちゃん、ちょっとおもちも調べるね」ワキワキ

小蒔「どさくさ紛れにご自分の欲求を満たすのはやめてくださいっ!」

玄「……小蒔ちゃん」

小蒔「……な、なんですか?」

玄「……無理しちゃダメだからね、《絶対》に」

小蒔「……わかっています」

玄「ならよろしい。では、行ってらっしゃいなのですっ!」

小蒔「はい、行って参りますっ!!」ゴッ

 タッタッタッ

玄「………………」

泉「あ、あの」

玄「わっ!? 泉ちゃん? いつからそこに?」

泉「い、いえ、ついさっきですけど、まだ小蒔さんおるかなー思て」

玄「小蒔ちゃんなら、ちょうど今行ったところだよ」

泉「みたいですね」

玄「うん……」

泉「……やっぱ、点差……厳しい感じなんですか……?」

玄「ん? えっ?」

泉「玄さん……それに、小蒔さんも。思いつめた顔しとるから、うち……その、なんて言うたらいいか――」

玄「あー、いやいや、違う違う、そういうんじゃないよ。こんな吹けば飛ぶような点差あってないようなもんだし」

泉「そうなんですか……?」

玄「うん。だから、泉ちゃんが気に病むことなんて、何一つないんだよ」

泉「……すいません」

玄「いや……むしろ、謝るべきは私のほうなんだ」

泉「え……?」

玄「ごめんね、泉ちゃん。全部、悪いのは私だから。だから……責めるなら私を責めて」

泉「玄さん……?」

玄「じゃあ、控え室戻ろっか」

泉「は、はい――」

 ――――

 ――観戦室

塞「モノクル持ってこなくて本当によかった……!!」ガタガタ

ネリー「うー……耳鳴りがするんだよー……」ズキズキ

やえ「私はまったく何も感じないが……どうなんだ、宮永。この副将戦はどれくらいヤバい?」

照「《照魔鏡》にヒビが入るレベル」ビリビリ

やえ「あの人外どもめ……」

『ふ、副将戦……まもなく開始ですッ!! 観客席にお座りの方は確率干渉の余波にご注意を! ご気分が優れないと感じたら、すぐお近くの係員にお申し付けください……!!』

塞「対局が始まったら死人が出るんじゃないの、これ……」

やえ「さすがにそれはないだろう。あの対局室は、確率干渉力遮断のために全面電磁防壁で囲われていて、単純な強度面においても、核実験程度なら余裕で耐えられるレベルの安心設計が施されている」

塞「やけに詳しいわね、あんた」

やえ「まあ、『本気で本気の支配者《ランクS》を隔離しようと思うならこれくらいは』と施設部に掛け合ったのが、何を隠そう、私だから」

ネリー「やえが万能過ぎるよっ!」

やえ「かつてランクSの魔物様の取り扱いを誤って研究所を一つ潰しかけたことがあってな。以来、念には念を入れるようにしているんだ」

照「ホントすいません」

塞「ただそこに在るだけで、周囲の環境に目に見えるほどの影響を与える桁違いの確率干渉力。呼吸するように《奇跡》を起こす者。《牌に愛された子》……ランクSの魔物かぁ」

ネリー「古代の魔術師とか呪術師とか祈祷師とか陰陽師とか霊媒師とか……所謂《オカルト》と呼ばれた存在は、みんなこの支配者《ランクS》だったって説が有力なんだよね」

やえ「超常の頂上――世界を己の思うがままに支配する者。時代が時代なら崇め奉られもするだろうさ」

照「なんか、その、すいません」

やえ「まあ、高みの見物と行こうじゃないか。きっと楽しいぞ。今のあそこはこの世と隔絶した異次元空間――目玉が飛び出るような異常現象がたくさん見られるに違いない」

塞「目玉どころか違うものまで飛び出しそうな気がするけど……うっ、また吐き気が……」ガタガタ

照「臼沢さん、大丈夫? 確率干渉の余波が辛いなら、私が相殺しようか……?」ゴゴ

ネリー「痛っあーっ!! ちょっと、てるー!? これ以上変な音混ぜないでよっ!! 鼓膜弾け飛ぶからっ!!」

照「生きててすいません……!」ウルウル

塞「げ、元気出して、宮永っ!」アワワ

やえ「さて……お待ちかねの《ランクS》激突――魔物大戦の始まりだな」

 ――対局室

小蒔「よろしくお願いします」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:神代小蒔(逢天・67100)

衣「よろしく!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:天江衣(劫初・95700)

淡「よろしくねっ!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:大星淡(煌星・121700)

霞「よろしくお願いしますね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:石戸霞(豊穣・115500)

『ふ、副将戦前半――開始ですっ!!』

体晶(っぽいもの)
使ったら確実に死人出ませんか?

ご覧いただきありがとうございました。

次回、『南南西より信号きたるの巻』、一週間以内に更新します。

では、失礼しました。

>>424

ま、麻雀で人が死ぬとかそんなオ(ry

夢は自給自足。

 *

【ド素人】過度な期待はしないでください【注意】

・滝神(高鴨さんと小鍛治プロは相手にならんよ!)。


・みーゆー。


・3SK。


・つのまる。

あれ?淡ちゃんも咲さんも能力は好きなように重ねて使ったり1つだけ使用したりと縦横無尽に暴れてない?

>>433さん

要点だけを言うと、『デュアルスキル云々が問題になってくるマルチスキルは作中で姉帯さん一人だけ』で、『大星さんたちのあれはあれが自然なあり方』という感じです。

 ――以下ごちゃごちゃと――

>>393

・同じ公理系から導かれた定理(能力)同士は同時使用できる→複合

・異なる公理系から導かれた定理(能力)同士は同時使用できない→重複

であり、

・内容(効果)の異なる定理(能力)を二つ以上所持している→マルチスキル

・公理系(土台)の異なる定理(能力)を二つ以上同時使用できる→デュアルスキル

と書きました。そして、

・二つ以上の公理系を所持しているタイプの(多才)能力者は、作中では姉帯さんだけ。

・他の(多才)能力者(大星さんたち)は、みな一つの公理系の上に一つ以上の定理(能力)を所持しているタイプ。

とも書きました(そもそもの問題として>>393の説明がわかりにくかったらすいません)。

 *

大星さんたちの能力はふわっと同時使用されていますが、彼女たちの能力は全て同じ公理系(土台)の上に成り立つものなので、《公理系の『異なる』能力の同時使用》には該当しません。

ゆえに、デュアルスキルの定義からは外れ、あくまで『複合』の範囲内ということになります。

ただ、大星さんたちの能力は個々の効果が特徴的なので、便宜上、弘世さんのような複合技使いではなく、複数能力持ち(マルチスキル)という扱いを受けます。

他、何人かマルチスキル及びマルチスキルに準ずる能力者が登場しますが、能力の『重複』が問題になるのは、『二つ以上の公理系を所持しているタイプのマルチスキル』である姉帯さんだけです。この意味で、姉帯さんはかなり珍しいタイプのマルチスキルと言えます。

 *

また、おっしゃっていただいた大星さんたちの能力が云々についての設定は、ものっそい後のほうで触れる機会があります。今お答えできる範囲だと以上のような感じになります。

 ――対局室

 東一局・親:小蒔

小蒔(衣さんと霞ちゃんはよく知っている相手……しかし、《超新星》――大星淡さん。あなたとは初お手合わせですね。この配牌もその能力によるものなのだとか。そして、玄さんが言うには、この一巡目で――)タンッ

 東家:神代小蒔(逢天・67100)

衣(ひとまず、こまきも石戸とやらも《神憑き》の力は使っていない様子……となれば、警戒すべきは《超新星》か。
 二回戦でのすみれとの戦いを見る限り、衣ならねじ伏せることもできよう。無論、あれが万全で全力だったのならば……の話だが)タンッ

 南家:天江衣(劫初・95700)

淡(初っ端からこんなドキドキするなんて、サッキーと初めて打ったとき以来かな。さて、配牌は一向聴なわけだけど――)

 西家:大星淡(煌星・121700)

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(《一向聴地獄》――これを破れる人はなかなかいないと思う。けど、私とあなたはレベルもランクも対等。
 なら、あとは相性の問題だよね。全体効果系と自牌干渉系……一点突破ができる分だけ、私のほうが有利のはず――ッ!!)ツモッ

衣(む……この気配。さては張ったか。まさか一巡目で衣の支配から飛び出す輩がいるとはな――!!)

淡「行っくよー、ダブリーッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(衣さんの《一向聴地獄》を振り切った……!? これが大星淡さん――!!)

衣(面白い……だが、まだダブリーができただけ。衣の支配力と貴様の支配力……勝負はこれからだっ!!)ゴッ

霞(あらあら……東一局の一巡目からこの大騒ぎ。みんな元気ねぇ)タンッ

 北家:石戸霞(豊穣・115500)

 ――《煌星》控え室

桃子「出だし好調っ! 今日の超新星さんには期待できそうっすね!!」

咲「どうだろうね。今回は角がちょっとだけ深いところにある。ダブリーができただけでは安心できないかなぁ」

友香「天江先輩の能力は……神代先輩と石戸先輩には効いてるっぽい。淡に追いつくとしたら天江先輩だけだろうから、ぶつかるとしたら一騎打ちでー」

煌「それでも、きっと淡さんなら大丈夫でしょう」

桃子「何か根拠が?」

煌「もちろん、淡さんはこのチーム《煌星》のエースだからですよ。他にどんな根拠が必要というのです?」

友香「あははっ、煌先輩の言う通りでー! ここで負けるようなやつを、私たちはエースとは呼ばないっ!!」

咲「ふっふっふっ……いよいよエース交代かな? どうかなー? 楽しみだよっ!!」

桃子「超新星さん、やっちまえっすーっ!!」

煌「さあ、淡さん。今こそ存分に輝いてください――」

     淡『カンッ!!』ゴッ

 ――対局室

淡「カンッ!!」ゴッ

霞(ここは現物、と)タンッ

小蒔(仕掛けてきましたね。衣さん……どうするおつもりですか……?)タンッ

衣「チーッ!!」タンッ

小蒔(海底コース……!! なるほど、力には力、ですかっ!!)

衣(やつの気配は3200程度。まあ、ここから手を跳ね上げてくるのは百も承知。
 だが、それを知っていても、これほどの支配力……ッ! 真正面からぶつかってみたくなるのが《修羅》の性というものだ――!!)

淡(お待ちかねっ! 最後の角を曲がったよー!!)タンッ

霞(ここも様子見……)タンッ

小蒔(カンした直後は、非常に危険――でしたよね)タンッ

衣(遠からず海の底が見えてくる。ここで退くつもりはない。さあ……どうなるッ!?)タンッ

淡「それだよっ、ロンッ!!」ゴッ

小蒔(こ、衣さんっ!?)

霞(ふんふむ……カンをすることで場の支配を強めることができるのね。それも、あの天江さんに掴ませるくらいに……)

衣(良い良い――!! こまきだけではない。この副将戦、貴様との勝負も十二分に楽しめそうだな、《煌星》のダブリー使い――大星淡ッ!!)

淡「ダブリー……裏四ッ! 12000!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔:67100 衣:83700 淡:133700 霞:115500

 ――《劫初》控え室

エイスリン「コロタン、ヤラレヤガッタッ!?」

菫「一昨日の私はあれに勝ったのか……」

智葉「戯けたことを。後半戦ではやられていただろうが。私たちの完全試合をふいにした罪は重いぞ」

憩「まっ、罰はたーっぷり受けてもろたんですから、過ぎたことはええですやん」

     淡『ダブリーッ!!』

エイスリン「ムゲンニ、アガルキ、カヨ、アイツ!」

菫「和了率100パーセントを叩き出すお前が何を言う」

憩「せやけど、普通に進めば、今回は衣ちゃんが勝つと思いますよ」

智葉「自ら鳴かずとも、相手が勝手に海底を譲り渡してくれるのだからな」

     淡『カン!!』

 ――対局室

 東二局・親:衣

淡「カン!!」

霞(あら……いいのかしら? カンをすると海底がズレるわけだけれど)タンッ

小蒔(先ほどの衣さんは自ら門前を崩しました。けれど、今回は、不動のままに支配力を行使することができます……)タンッ

衣(一度和了れたからといって二度目があるとでも……? 小手調べの牽制戦に打ち勝った程度で衣の力を見切ったつもりか。
 思い上がりも甚だしい……頭が高いぞ、《超新星》――ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(げえー!! なにこれ……私の星が沈んでいくっ!? 炎も光も呑まれて――全てが引きずり込まれていく……深くて暗い海の底に……!!)ゾワッ

衣(この状況……貴様は正しく理解しているか? 衣は今親なのだ。つまり、貴様がダブリーとカンを続ける限り、海底は自動的に衣のものになる上、海底で和了っても衣の親が流れることがない……!!)

淡(やっべー……!! じゃあ、かすみー先輩と巫女さんが《一向聴地獄》にハマってる現状、私のダブリーとカンがこのちっちゃいのを止められなければ、ずっと親で海底を和了られ続けるってこと!?
 かといって、ダブリーとカンを使わないで、この《一向聴地獄》を抜け出すのはなかなかしんどい。どちらを選んでも……行き着くのは地獄の底ってわけ――ッ!!)

衣(これが闇の現というものだ、《超新星》。真なる夜の支配者は貴様ではなく衣……星影が月光に勝る道理はない。
 衣の月が夜空にある限り――貴様の星が放つか細い光など、あって無きが如く!!)

淡(角を曲がったのに、この感触……!! まるで深海に手を突っ込んだみたいに、牌が冷たくて重いっ!! 私の支配領域《テリトリー》がちっちゃいのの支配力に押し潰されてる……!?)

衣「リーチッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(ダブリーVS十七巡目リーチとか何それ!?)タンッ

霞(来てしまったわね……)タンッ

小蒔(ここまでのようです――)タンッ

衣「ツモ……ッ!! リーチ一発ツモ海底裏々――6000オール!!」ゴッ

淡(これが《修羅》――!? 去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の最多獲得点数記録保持者……天江衣っ!!)

霞(これで最高状態ではないというのだから、大したお月様よね。さすがは小蒔ちゃんと対等に渡り合う二年《三強》の一人。やってくれるわ)

衣「止められるものなら止めてみろ……!! 一本場ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(やっぱり……衣さんは……すごい……です――)ウト

小蒔:61100 衣:102700 淡:126700 霞:109500

 東二局一本場・親:衣

淡「まだまだやっちゃうよー……!! ダブリーッ!!」ゴッ

衣(こやつ……局によって支配領域《テリトリー》に若干の変動があるな。
 先の二局は比較的衣と近い山の深くだったのに対し、今度はそれが山の中腹辺りにズレた。どこに仕掛けがあるのかはわからないが――それもそれで面白いッ!!)

淡(今回は賽の目が七! 角が近いもんねーっ! そっちが私を沈めるのが先か、私が大爆発するのが先か――さっきので勝ったつもりになるのは、ちょーっと速いんじゃないかなー!?)

衣(《超新星》……速い巡目での勝負になってくれば、こちらの配牌が重い分だけ自らのほうが優位だと踏んだか。ふん、それこそまさに早合点。衣の力は海底だけではない――!!)

衣「ポンッ!!」ゴッ

淡(鳴いてきた!? 黙ってれば海底になるのに、私の狙いに気付いて速攻スタイルに変えてきたんだ……!! いいじゃん――それでこそ《魔物》!! 潰し甲斐があるってもんだよ……っ!!)

淡・衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞(お星様にお月様――二人とも、目の前の相手に夢中なのね。ランクS同士熱くなる気持ちもよくわかるけれど……)

霞(でも、気付かないのかしら? あなたたちの手、きっと萬子が一つ二つしかないんじゃない? 実を言うと、私の手もそうなのよね――)タンッ

衣「(これで……テンパイだッ!)ポン!!」タンッ

小蒔「ロン……」パラララ

淡(なんと!?)

霞(だから言ったのに)

衣(っと……遊戯に興じられるのもここまでか――)ゾクッ

小蒔「……門前清一断ヤオ赤一……16300……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 小蒔手牌:二三四四四四[五]六六六六七八 ロン:二 ドラ:3

淡(ちょっとちょっと……私がいるのにツモ七回でその手牌になるってどーゆーことー?
 いや、捨て牌は字牌だけだから、配牌もツモも萬子だらけだったってことなんだろうけど……)ゾゾゾッ

衣(この手牌……今日の戦いに合わせて《九面》を調節してきたな。さてはくろの入れ知恵か。久方振りに背筋が凍えたぞ。
 相性の良し悪しなどではない。《一向聴地獄》が効果を発揮できていないということは、純粋な力勝負で衣が負けたということ。
 満月の日以外でこれを抑え込めたことはないが……如何にせん)

霞(これで二度寝をされたら私でも手がつけられなくなる。小蒔ちゃんには悪いけど、まだヒトの領域にいる間に片をつけさせてもらうわ)

淡(この支配力は……スーパー《魔王》モードのサッキーとどっちが上なんだろう。
 ひとまず、レベルのほうは、私の《絶対安全圏》が一応効果を発揮してたんだから、4は4はでも中くらい。
 一色牌をツモり続ける常時発動型の自牌干渉系能力だっけ。どーしよっかな……)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔:78400 衣:86400 淡:125700 霞:109500

 ――《逢天》控え室

豊音「おおーっ!! コマキが眠ったー!!」

泉「いよいよ降臨っちゅーわけですか、《九面》の神々がっ!!」

透華「それも、満月時の衣並みのヤバ神ですわ!!」

玄「この三回戦で強い神様ばっかり出るように調節した甲斐があったよ」

泉「神様ローテーション、でしたっけ?」

玄「そう。小蒔ちゃんの《九面》は降りてくる順番が決まってる。弱い神様から順番に降りてくるんだよね」

豊音「今の神様はどれくらい強いのー?」

玄「あれは《七面》――強いほうから数えて三番目の神様です」

透華「強くなるに従って、支配力と能力値が飛躍的に上昇するんでしたわよね」

玄「うん。あと、神様によって打ち方がちょっとずつ変わる。ちゃんと見分け方があるから、霧島の人たちと、衣さんや憩さんは、あれがどれくらい強い神様かわかってるはずだよ」

泉「見分け方……? みんな門前清一しか和了らへんですやん。一体どこに違いがあるんです?」

玄「えっとね――」

 ――《劫初》控え室

菫「テンパイの形?」

智葉「なるほど。では、《九面》という通り名から推察するに、今のあいつは上から数えて三番目というわけか」

エイスリン「エーット……イマノ、アガリハ――」

憩「いわゆる七蓮宝燈なんですわ。四枚抱えの牌があるから、実質的には純正九蓮と同じで、同色牌ならどれが出てきても和了れるっちゅーあれです。待ちで言えば、七面張になりますね」

菫「人生で一度も見たことがないぞ……」

憩「ウチと衣ちゃんと玄ちゃんは、ローテーションのたびに見てましたよ。ホンマ目がチカチカしましたわ」

智葉「強い神ほど待ちが多くなり、支配力と能力値も向上するというわけか。上に行けば行くほど手がつけられなくなっていきそうだな」

憩「いや、一応、それなりに対策が取れなくもないんですわ。さっきは配牌から無駄ヅモなしで完成形に辿り着きましたけど、今回はそうやない。
 たぶん、ガイトさんはわかると思いますよ。小蒔ちゃんの強力過ぎる一色支配……《九面》の弱点――」

     小蒔『ツモ……門前清一……3000・6000』

菫「一度捨てた一索で和了った……?」

エイスリン「マタ、チーレン、ダナ」

智葉「……なるほど。そういう《制約》があるのだな。つまり、あれは七蓮宝燈でしか和了れないと」

憩「イエス。小蒔ちゃんの降ろす神は、能力はみんな一緒で一色支配。和了る役はひたすら門前清一。
 ほんで、弱い順から、待ちを一面、二面と増やしていって……最後の神様は必ず九面張――純正九蓮を和了るっちゅーわけです」

菫「それで《九面》の神なのか。その最高位は必ず純正九蓮を和了る……とても敵う気がしないな」

智葉「いや、逆だな。今の局の七蓮のような面倒な《制約》があるなら、私的にはむしろ最高位の《九面》のほうがやりやすい」

エイスリン「ナンデ?」

憩「今の小蒔ちゃんのフリテンが、その理由ですよ。要するに、小蒔ちゃんは、その時降ろしている神様によって、和了れる門前清一の形が限定されるんです」

智葉「最高位の《九面》なら、フリテンになろうがなんだろうが、純正九蓮の形を作るまでは決して和了らない。そういうことになるのだろう?」

憩「そうです。実際、小蒔ちゃんの九蓮は、そのほとんどがフリテンツモでした。一旦九面張やない九蓮を和了って、フリテンになるんも構わんと純正に不必要な牌を切って、ほんで、次の一巡でぴたりと和了る――と。
 せやから、《神憑き》状態の小蒔ちゃんの平均和了速度は、思うてるほど速くないんです。配牌次第では、十分先手を取ることができます。
 ま、とは言え支配力補正がありますし、配牌が小蒔ちゃんに味方したときなんかは、五巡目純正九蓮とかアホみたいなことされますけどね」

菫「いずれにせよ同じ人間とは思えん……」

憩「ははっ、やから衣ちゃんも言うてましたけど、小蒔ちゃんは人間やないですよ。
 今はまだ……ぎりぎり衣ちゃんの手が届くとこにいますけど、ここより上は、完全にヒトの領域から飛び出ます」

智葉「となると、今のうちに隙を突いておきたいところだな」

菫「天江もそう思っているだろう。神代の特性を理解しているならなおさらな」

憩「ええ。それに……ウチら以上に、小蒔ちゃんの特性に詳しい人があっこにはおります。何か仕掛けてくるとしたら、たぶんこの親番でしょう」

エイスリン「カスミ……!?」

     霞『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「おお……あいつの《神憑き》を見るのは久しぶりだな。相変わらず禍々しいの一言」

菫「一年の最初にあれを見せられたときは……この世に照より恐ろしいものがあるのかと、世界の広さを思い知ったものだ。
 何が恐ろしかったって、石戸があれを霧島で一番『可愛い』と思っている点だ」

憩「可愛さの欠片もないですやん……あんなん。《九面》の小蒔ちゃんや《悪石の巫女》の《最凶》さんに勝るとも劣らないおぞましさやっちゅーのに」

菫「おま、荒川……っ! 口に気をつけろ!!」

智葉「あいつに呪殺されたくなかったら、今の言葉は一生心にしまっておけ」

エイスリン「カスミ……アイツハ、トニカク、イロイロ、ヤベエッ!!」

 ――対局室

 東四局・親:霞

霞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:石戸霞(豊穣・106500)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:神代小蒔(逢天・90400)

衣(霧島の巫女……さとはやすみれが気をつけろと言っていた奥の手か。小蒔の《九面》が《九門》なのに対し、こやつの力はその例外――《絶門》の神。
 ランクS指定ではないらしいが、この感じ……とーかのそれと同程度か。つまり、衣でも遅れを取る可能性が十分あるということ。心して掛からねばなるまい……)タンッ

 西家:天江衣(劫初・83400)

淡(うっわー……ついに絶一門になっちゃったかー。これ、巫女さんの影響もあるんだろうけど、かすみー先輩の雰囲気が変わってからこうなったってことは、きっとそっちなんだよね)タンッ

 北家:大星淡(煌星・119700)

淡(かすみー先輩に関しては、データが少なかったけど、巫女さんの能力とか都市伝説とかもろもろから、同質の一色支配能力だろうってキラメは言ってた。
 けど、この感じ……たぶん自牌干渉系じゃなくて全体効果系だ。この人の力は、ツモを一色牌に偏らせるだけじゃない。そこに他家を絶一門にする力も加わってる……)

淡(巫女さんのほうは、やり方次第では直撃も取れそうな感じだった。この人は、あくまで自分のツモを一色に染めるだけ。
 その影響で、こっちの手は絶一門も同然になるけど、完全な絶一門にはなっていなかった。でも、かすみー先輩は違う)

淡(牌の数的に中盤以降は崩れるんだろうけど、この支配力だもんなぁ……鳴きでズラしてどうにかなるとは思えない。序盤のうちは、どうあってもこっちの絶一門は解けないんだろうね)

淡(で、かすみー先輩は一色で手を進める、と。これは《絶対安全圏》の効果なんてあってないようなもんだよ。どう考えても超速テンパイされるじゃん。困ったな。賽の目によってはダブリーしても無駄打ちになっちゃうよね……)

淡(巫女さんの変なクセみたいなのが、かすみー先輩にもあれば、ちょっとは付け込めるのかな? あとは、サッキーなら、嶺上使って色々できそう。この場で王牌を支配領域《テリトリー》にしてるのは私だけっぽいし)

淡(とか考えてる間に、巫女さんとかすみー先輩の手から、いよいよ筒子がお目見え。ここまで全部字牌だから、一応《絶対安全圏》は効いてるっぽい、と……)

淡(んー……こっちは萬子と索子ばっかり。たぶんちっちゃいのもそう。これ、巫女さんとかすみー先輩の手牌は一体どんな具合になってるわけ――?)

霞「ロン……」ゴッ

淡(ご開帳……ってぇー!? マジ……どういう神経してるんだって、その手牌――!!)ゾクッ

霞「門前清一一盃口赤一……24000」パラララ

 霞手牌:①①②②②④④[⑤]⑤⑥⑥⑨⑨ ロン:⑨ ドラ:東

衣(一・九筒待ち……なるほど、こまきの七蓮を逆手に取ったのか)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 小蒔手牌:②③③③③④[⑤]⑥⑦⑦⑦⑦⑧ 捨て:⑨ ドラ:東

霞(小蒔ちゃんに今憑いているのは《七面》様。なら、七蓮宝燈の形を作るために、配牌に一・九牌が混ざっていれば、どこかで必ずそれを落とさないといけない。
 悪いわね、小蒔ちゃん。私の《絶門》様には、小蒔ちゃんの《九面》様みたいな《制約》はないのよ。《七面》様なら、このモードでどうにかできると最初からわかっていたわ。
 そして、これは経験則だけど、今の直撃のショックで、眠りが覚めてしまうんじゃないかしら――?)

小蒔「……っ!! あ、お、おはようございま――」ハッ

霞「……おはよう、小蒔ちゃん」ニコニコ

小蒔(っ!?)ゾワッ

霞「では、一本場行こうかしら……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(か、霞ちゃん……!? そんなっ! 《七面》様が憑いていたはずなのに、点棒が増えてないどころか減ってる……!? しかも霞ちゃんが《絶門》様を降ろして――こ、これは……!!)

霞(さあ、ここからどうやって戦うつもり? 一度起きたら、二度寝までにはそれなりの時間がかかる。普通の頑張り屋さんに戻ってしまった今の小蒔ちゃんに、ここから何ができるかしら?
 相手は《神憑き》状態で互角の天江さんに、今年の一年生で一、二を争うくらい強い子、それに《絶門》様を降ろした私。これは大変なことよね……小蒔ちゃん――?)

小蒔(霞ちゃん――もしかして、私が眠りから覚める頃合を見計らって《神憑き》の力を……?
 出和了りの衝撃で私の目覚めを早める狙いもあったんですよね。あの霞ちゃんならそれくらいしてくるはずです。
 と、というか、どうしましょう――!? 普通に打っていては、次の《八面》様が降りてくるのは後半戦のどこか……! こ、こんな、私――!!)ガタガタ

小蒔:66400 衣:83400 淡:119700 霞:130500

 ――《豊穣》控え室

宥「霞ちゃん……同門の後輩さん相手になんてことを……」アワワ

美穂子「完全に神代さんを潰すつもりで打ってますね。能力の《制約》を逆手に取って親倍を直撃、
 さらにあの子の《神憑き》を半ば強制的に解除して、無力になったところを、自身の持つ最高の攻撃力で脅しにかかる。あらゆる意味でヤバいです」

尭深「いつだったか、弘世先輩が石戸先輩を苦手だと言っていた理由がわかった気がします」

竜華「むっちゃ霞らしいやん。誰が言ったか《最古》の大能力者――古代の凶神を身の内に宿し、その手練手管は老獪にして老熟。
 『学園都市には一千年の時を不老不死のまま生きる化け物がおる』なんて都市伝説があるけど、うちは霞がそれやと思うわー」

尭深「清水谷先輩……それ、石戸先輩の前で言ったら呪殺されますよ……」

宥「それに、ダメだよ、竜華ちゃん。霞ちゃんの通り名に触れるときは、お口に気をつけないと。ちゃんと『古』いにお『口』をつけなきゃね」

美穂子「《最固》の大能力者……まあ、勝てるのであれば、どちらでも構いませんが」

尭深「現状、《神憑き》でなくなった神代さんは、点数状況的にも脅威ではない。となると、やはり恐いのは天江さんですよね――」

     衣『ロン、12300ッ!!』

     霞『……はい』

竜華「鳴きの速攻。字牌待ち。あの配牌から、《神憑き》状態の霞相手にようやるわ」

美穂子「神代さんの影響が消えて、大星さんの《絶対安全圏》と天江さんの《一向聴地獄》が、霞さんにとって無視できないものになっていますね。
 あの二人の能力が原因で、《絶門》本来のスピードが活かしきれていません」

竜華「んー……神代の《神憑き》が解けたことで、天江がまた自由に動けるようになったんか。
 天江の親番を蹴ったんは神代やったし、こうなると、神代を放置しといたほうがよかったかもわからんなー」

尭深「いや……そうは言ってもあの状態の神代さんを野放しにはできませんよ」

宥「誰一人として野放しにできないよ、あそこにいる四人は……」

尭深「ただ、点数状況だけ見ると、南入するというのに、対局開始からぴくりとも動いていませんね」

美穂子「ちなみに、ここまでダブリー、海底、七蓮、七蓮、門前清一、花鳥風月です」

宥「偶然じゃないのがまたなんとも……」

竜華「せやけど、ここまではまあ想定内や。神代は霞の年の功でいてまえる。勝負のポイントは大星と天江を抑えられるかどうかやった。
 ここで二人をどうにかできひんようなら、それはもう仕方あらへん。トップ通過は諦める方向に作戦変更や」

美穂子「霞さん、神代さんのこともあるからと、狩宿さんと滝見さんを待機させているそうです。場合によっては、後半戦は《最古》より《最固》で行くでしょう」

尭深「この前半戦の結果次第ですね」

宥「天江さんが抜けてくるかな」

竜華「さあて……どうやろね――」

 ――対局室

 南一局・親:小蒔

小蒔(配牌五向聴……有効牌もほとんど引けません。今の私にはなんの力もない。
 神様に頼らず打てるようになろうと、透華さんや泉さんから理論《デジタル》の手ほどきは受けました。しかし、そんな付け焼刃が通じる相手は、この場にはいません……)

 東家:神代小蒔(逢天・66400)

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:天江衣(劫初・95700)

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:大星淡(煌星・119700)

霞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:石戸霞(豊穣・118200)

小蒔(息一つするたびに、牌一つツモるたびに、気力がごっそりと削り取られていきます。
 私が《神憑き》の力で多くの人をそうしてきたように、強大な支配力でもって、その身も心も破壊する。今の私に、抗う術はありません)

小蒔(支配者《ランクS》――私たちは、決して、よく言われるような《異常現象を引き起こす人間》などではありません。
 私たちは、私たちそのものが異常現象。強大な力の塊。人間の姿形をした化け物。本来なら、一般の方々と交わるべきではないのです……)

小蒔(私たちはみんな、本能的に、他人とは違うことを理解しています。衣さんは力を使う相手を選びますし、霞ちゃんは《神憑き》の力を抑え込む技を心得ている。
 それらは全て、化け物ながらに、ヒトと交わるための処世術)

小蒔(けれど、私は二人のように力を制御することができません。私は純粋なる依代。天上の力を常世に顕現させるための媒介に過ぎない。そこに私の意思は存在しません。
 《神憑き》状態の私は神様そのもの。異常そのもの。力そのもの。化け物そのものなのです……)

小蒔(もちろん、そんな私を知っていても、霞ちゃんたちや、衣さん、憩さん、玄さん……それに《アイテム》の皆さんも、私とお友達でいてくれます)

小蒔(でも、それは、普段の私とお友達なのであって、《神憑き》の私は――霞ちゃんたちにとっては、あくまで畏怖すべき神様で、衣さんたちにとっては、あくまで討滅すべき大敵なんですよね……)

         ――もう一回やッ!!

小蒔(……けれど、そう――泉さん。あなたは違いましたね)

             ――うちが自分に勝つまでは終わらへんからなっ!!

小蒔(《九面》様……私の宿す中で最高位の神様と打って……)

     ――所詮は同じ人間やん!!

小蒔(それでもあなたは……私を『同じ人間』だと言ってくれました)

小蒔(無論、泉さんがそういう意図で言ったのではないことは、わかっているのです。けれど、やっぱり、嬉しかった。
 ただの依代でしかない私を、天上の神様そのものである私を、一人の人間として対等に見てくれたのは、あなたが初めてだったから……)

小蒔(泉さん――泉さんは、《神憑き》状態の私を、下手だと言いましたね。変な話かもしれませんが、実は、私もそう思っているんですよ)

小蒔(配牌とツモを一色牌に偏らせる力を持ちながら、ツモ和了りを拒否してまで、決まった和了りの形を作ろうとするあの打ち筋。
 牌譜は数え切れないほど見ました。その上で言わせてもらいます。あんなのは……珍しもの好きな素人さんのやることです……!!)

小蒔(私だって、いっぱい勉強したんです!! 牌効率だって、期待値の計算だって、門前清一の待ちを素早く正確に把握することだって、ちゃんとできるようになりました……!! なのに――!!)

小蒔(なのに、あの神様たちは……私の身体を使って、あまりにも拙い麻雀を打ちます。私はそれが悔しい。私なら……私だったら、あの力を、もっと上手に使えるのに!!)

小蒔(何より悔しいのは……そうやって、頑張って、必死に練習して手に入れた私自身の力より、あの神様たちの力のほうが、圧倒的に強いということ)

小蒔(みんなが強いという私は、《神憑き》の私。対して、起きているときの私は、曰く『普通の頑張り屋さん』。《刹那》の頃も、試合のたびにミスをしては、チームのみんなにからかわれましたっけ)

小蒔(衣さん、憩さん、玄さん……一年生の最初に私と遊んでくれたみんな。私は、みんなのことが羨ましかったんです。
 支配力、演算力、超能力――強大な力と、強固な意思を併せ持つ、真に強い雀士である、みんなのことが……)

小蒔(《三強》だ《4K》だと言われていましたけれど、《神憑き》の力に使われるだけの私なんて、いくらスコアの上で互角に張り合おうと、みんなの足元にも及びません。私には……力しかない――)

小蒔(泉さんは……逆ですね。強い意思だけを持つ雀士。支配力も能力も持たず、特別な才能があるわけでもない。勝ちたいと願えば、とにかくがむしゃらに頑張るしかない……)

小蒔(それでも……どんなに頑張っても、勝てないときがあります。壁はあまりに高い。《頂点》はあまりに遠い。
 けど、泉さんは……それを知りながら、未だ最強を目指すことを止めない。私は、そんな泉さんを、応援していきたい。できる限り、ずっと――)

小蒔(ここで負けてしまったら、泉さんから、《頂点》に挑む機会を奪うことになります。そんなのは、嫌です。私は泉さんが学園都市の《頂点》に立つところを見たい。
 否――私は、泉さんと一緒に、学園都市の《頂点》に立ちたいんですっ!!)

小蒔(ごめんなさい、玄さん。私は、これから、約束を破ります。でも……わかってほしい。これが、誰でもない、私の意思なんです。
 神様でも魔物でも化け物でもなく、神代小蒔という人間の……譲れない想いなのです……!!)

衣「リーチッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(十七巡目――相も変わらず、気迫に満ちたリーチですね。惚れ惚れするような闘牌。衣さん、同じ支配者《ランクS》として、あなたのように打てたらと、何度思ったことか……!!)

衣「ツモ……ッ!! 4000・8000だ!!」パラララ

小蒔(親っ被り……トップまで、あと六万点ですか……)フゥ

衣「……どうした、こまき」

小蒔「えっ?」

衣「『えっ?』ではない。対局中に嘆息とは、まさか、あまりの大差にもう負けた気でいるのではあるまいな? あまり衣を失望させてくれるなよ、こまき!!」

小蒔「こ、衣さん……」

衣「トーナメント表を見たときから、衣とけいはこまきとくろの敵として打つのをずっと楽しみにしてきたのだ。何万点差になろうと諦めることは許さんぞ。
 《神憑き》の力でもこまき自身の力でもいい……全力で立ち向かって来いっ!」

小蒔「……衣さん。あなたは、やはり、素敵な雀士ですね。一年生の頃から、ずっと、あなたは私の理想でした」

衣「ふん……衣の中に貴様の理想を見るのは勝手だが、現実もきちんと見よ。今の中途半端なこまきでは、決して衣には勝てないぞ」

小蒔「そうですね。わかっています。わかっていますとも――」スッ

衣「……こまき? なんだ、その丸薬は……?」

小蒔「なんと説明したらいいのか……神様を降ろすためのお薬――ですかね」

衣「睡眠導入剤……か何かか? 強制的に意識を落とすことで、不規則な《九面》の降臨を制御しようと……?」

霞「小蒔ちゃん……ちょ、ちょっと待って。それは――」

小蒔「心配しないで、霞ちゃん。ぶっつけ本番ってわけじゃないから」

霞「こ、小蒔ちゃん……?」ゾクッ

小蒔「では、少し失礼して――」ゴクンッ








              ドクンッ








小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣・淡・霞「ッ!!?」ゾワッ

衣(これは……!? 一体何が起きて――)

              ――衣さん……。

衣「な……なんだ、こまき……!?」

    ――ちょっと、いくつか、衣さんの誤解を正しておきますね。

衣「こ、こまき……?」

          ――まず、私は、これっぽっちも諦めてなどいませんよ。

衣「ま、まあ……そうだろう。そうであってもらわないと困るッ!!」

      ――それから……五、六万点程度の差を、大差だとも思っていません。

衣「こ……まき――」

            ――そして、最後にもう一つ……。

衣「な、なんだ……?」

   ――《神憑き》の力は……他ならぬ、私自身の力です。

衣「なん……だと……」

       ――では、死力を尽くして……否! 死力以上で頑張りますッ!!

衣「――ッ!!?」ゾゾゾ

霞(な……なに、これ……!? 《八面》様が降りている気配はするけれど、何かが違う。こんな小蒔ちゃん、私は知らないわ……!!)

淡(これはヤバい。どれくらいヤバいかっていうと、マジヤバい。え? っていうか本当に何がどうなってるわけ……!?)

衣(この支配力――間違いなく《神憑き》の力!! だが、しかし、なんだこの違和感は……!?)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔:58400 衣:111700 淡:115700 霞:114200

 ――《逢天》控え室

玄「小蒔ちゃん……!!」ガタッ

泉「玄さん……? え、あの――ひょっとして、対局が始まる前に何かおかしかったんは、小蒔さんのアレと関係あるんですか……?」

透華「あの……睡眠薬、ですの? 小蒔があんなものを使っているところなど、わたくしは見たことありませんわよ」

豊音「何か知ってるのなら、説明してほしいんだよー……クロ」

玄「…………ごめんなさい。本当なら、もっと早くみんなに話すべきだったよね……」

泉「く、玄さん……?」

玄「あれは睡眠薬なんかじゃない……《能力体結晶》――通称《体晶》」

泉「なんですか、その、《たいしょう》っちゅーんは……?」

玄「小蒔ちゃんの《神憑き》の力を……一時的に暴走状態にする薬だよ」

泉・透華・豊音「!!!?」ゾワッ

 ――対局室

 南二局・親:衣

衣(こまきの《九面》――今は《八面》か。弱点はわかっている。この状態のこまきは八蓮宝燈しか和了らない。そのほとんどがフリテンツモで、且つ、和了巡目もさほど速くない……)タンッ

 東家:天江衣(劫初・111700)

淡(さっきの感じから類推すると、たぶん出和了りされることは滅多になくって、和了ってくるとしたらツモだけ。しかもわりと遅いはず。
 とは言え、さすがにこの状況でダブリーをぶっ放すのは自殺行為だよね……)タンッ

 南家:大星淡(煌星・115700)

霞(やってくれるわね、小蒔ちゃん。私の《絶門》様をここまで抑え込むなんて。この手の重さ……天江さんの《一向聴地獄》の効果じゃないわよね。一色牌が《八面》様のほうに引っ張られているんだわ。
 となると、清一まで持っていくのはまず無理。混一で追いつければいいのだけれど……)タンッ

 西家:石戸霞(豊穣・114200)

小蒔「」タンッ

 北家:神代小蒔(逢天・58400)

衣(一打目に三筒……ひとまず、これで出和了りされることはないと見ていい。
 最終的には八蓮の形になるのだから、何か一つでも切った時点で、フリテン確定。あとは、とにかくこまきより先に和了れば……!!)タンッ

淡(げっ。ものっそいナチュラルに《絶対安全圏》が《無効化》されてるんだけど。
 さっきの神様のときは効いてて、今は違うってことは、支配力も能力の強度も上がったんだ。いやいやいや。さっきのだって十分化け物級だったよ……? それより上ってどんだけ……)タンッ

霞(おかしい……異常事態よ、これは――)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞(八蓮宝燈の和了り形は全部で六種類しかない。3か7を四枚抱えるのが二パターンずつと、4か6を四枚抱えるのが一パターンずつ。
 つまり、三筒を捨てた以上、八蓮宝燈をテンパイするためには、四・六・七筒のどれかを四枚抱えなければならない。
 でも、どういうわけか、それらが一枚ずつ私の手牌にあるのよね……)

霞(一色牌の支配領域《テリトリー》争いで私の《絶門》様を圧倒していることから考えても、今の小蒔ちゃんは、間違いなく《八面》様を降ろしている。
 その支配力と能力値は、この場の誰よりも上。そんな《八面》様が、この第一打の時点で、八蓮宝燈聴牌が不可能な状態に陥っている……?)

霞(ありえないわ……それこそレベル5の超能力者に何かされない限り、《八面》様がそんな不手際を起こすことはありえない。小蒔ちゃん……あなたは今、一体どうなっているの――?)

 ――《劫初》控え室

憩「あかん……! あかんあかんあかん!! それはあかんで小蒔ちゃん……っ!!!」ガタガタ

菫「お、おい……荒川……? 大丈夫か?」

智葉「お前がそんな取り乱し方をするのは珍しいな。本当に大丈夫か?」

エイスリン「ケイ、ワタシノ、テ、ニギットケ」ギュ

憩「お、おおきに……エイさん。ちょっと落ち着きましたわ……」フゥ

菫「どうしたんだ、荒川。あの神代はそんなに危険なのか……?」

憩「危険とかそういうレベルやないです。小蒔ちゃんがあの状態になってもうたら、抗える人間はこの世におりません。
 下手すると、この副将戦で試合が終わります」

智葉「それほどなのか……確かに、支配力も能力値も、さっきの七蓮のときから飛躍的に上昇しているようだが――」

憩「支配力? 能力値? そんな次元の話ちゃいますよ。ガイトさんなら、今の小蒔ちゃんの不自然さ、気付いてはるでしょ?」

智葉「……気付いてはいる。だが、私はお前ほど神代に詳しいわけではない。あの不自然さの原因がどこにあるのかまでは、さすがに推測の域を出ん」

憩「ほな、推測でもええです。その推測の範囲内で、ガイトさんが思いつく限り最悪の状態はなんですか? あれは、それですわ」

智葉「バ、バカな……っ!!?」ガタッ

エイスリン「オ、オイ! フタリ、ダケデ、ハナシ、ススメンナ!!」

智葉「……ウィッシュアート。八蓮宝燈の全六パターンを思い浮かべてみろ」

エイスリン「エー……」

憩「その六パターンのうち、四枚使う可能性のある数字は、どれとどれとどれとどれですか?」

エイスリン「3、4、6、7ダナ」

智葉「それらが、河と石戸の手牌に一枚ずつ散在しているのはわかるな?」

エイスリン「ソレガ、ドーシタ?」

憩「つまり、今の小蒔ちゃんは、どうやっても八蓮宝燈聴牌に辿り着けません」

エイスリン「ケ、ケド、ソレクライ――」

憩・智葉「ありません(ない)」

憩「今の小蒔ちゃんの支配力と能力値は、あの場の誰よりも上です。《超新星》さんの《絶対安全圏》も、衣ちゃんの《一向聴地獄》も、石戸さんの《絶門》も、小蒔ちゃんの八蓮宝燈聴牌を阻む要素にはなりえません」

菫「今の神代が……八蓮宝燈の神じゃないという可能性はないのか?」

憩「それもないですね。衣ちゃん含むランクS二人とランクA強一人を相手に回して、その全員を制圧できるほどの支配力と能力値を発揮しとるあれは、間違いなく《八面》の神様です。
 つまり、必ず八蓮宝燈を和了る神様なんですわ」

菫「その『必ず』が……崩れているのか」

憩「いいえ。崩れとるんやないんです。崩しとるんですよ」

エイスリン「ハ……?」

智葉「八蓮宝燈は非常に珍しい和了り形だが、手役的に言うと、リーチやツモ、それにドラなどを除けば、複合する可能性がある役は、断ヤオ、一通、一盃口。
 このうち、断ヤオはパターンによっては最初から複合不可となる。また、一通や一盃口は、八面張という特性上、安めが先に出てくる確率のほうが圧倒的に高い。
 要するに、点数的な観点から見れば、八蓮宝燈はただの門前清一とそう期待値が変わらん――ハネ満止まりの手に過ぎんということになる」

菫「十分だと思うが……」

智葉「十分? トップと六万点近い差があるんだぞ。12000程度で満足していいのか? もっと高めを狙おうとは思わんのか?」

菫「もちろん、私があの場にいて、倍満や三倍満が見れそうだとなったら、仕掛けていくだろう。しかし、神代は今《神憑き》の状態なのだから――」ハッ

憩「……わかりましたか、菫さん。そういうことですよ」

エイスリン「ダカラ、ドーユー、コト、ダッテ!?」

憩「簡単なことです。誰やって、あんな一色手が入ったら高めを狙いますでしょ?
 せやから、高めを狙っとるんです。それだけです。ホンマに、ただそれだけのことなんですわ」

     小蒔『ロン……24000』

     衣『!!!?』

菫「さ、三倍満……!!」ゾワッ

エイスリン「ハ!? パーレン、シカ、アガラネー、ンジャ、ネーノ!?」ガタッ

憩「《八面》の神様なら、そうですね。せやけど、今あっこで打っとるんは、神様やない」

エイスリン「ナラ、ダレガ――?」ゾクッ

憩「小蒔ちゃん自身ですよ。他に誰がおります?」

菫「ま、待て、荒川……!! 今の神代は、天江や大星や石戸すら圧倒する支配力と能力値でもって、一色牌を引き寄せているんだぞ!?
 そんなやつが、何の《制約》もなく自由に打っているというのか……!!?」

憩「その通りです。大正解ですわ」

菫「あ、ありえん……!! 今の神代は配牌もツモも全て一色に染まっている!! その状態で好き勝手打てるだと!? そんなやつにどうやって勝てというんだ!!」

憩「そうですね……勝てませんでしたよ。ウチと衣ちゃんと玄ちゃんが、三人がかりで死ぬ気で対抗しましたけど、南入することすら不可能でした」

エイスリン「ソ、ソンナノ、モウ、カミデモ、ナンデモ、ネーダロ……!!」ガタガタ

憩「そうです。今の小蒔ちゃんは……《鬼神》やあらへん」

     小蒔『……リーチ……』

菫「リーチ!? い……いくらなんでもひど過ぎるッ!!」

エイスリン「サンジュンメ! リーチ! メンチン!! イカレテルッ!!」

智葉「今のあいつには私でも敵う気がしないな。この畜生と吐き捨てる以外に何ができよう」

憩「まさにド畜生ですよ。これがプリンの代償……ウチと衣ちゃんと玄ちゃんを蹂躙して嬲殺しにした小蒔ちゃんの裏の顔――」

     小蒔『リーチ一発ツモ門前清一……4000・8000』

菫・エイスリン・智葉「!!!?」ゾワッ

憩「《鬼畜》モードです……ッ!!」

 ――対局室

 南四局・親:霞

淡(待て待て待て待てぇーい!! はあ!? つまり、そーゆーことなの!? 一色支配なんて有り得ないことしてるのに、今はなんの《制約》もなくフリーダムってこと!? チート過ぎるでしょ!!?)

 北家:大星淡(煌星・107700)

霞(《神憑き》状態にありながらその力を意識的に使いこなす……? そんな……小蒔ちゃんの《神憑き》は必ず睡眠下で起こる。意識的に打つなんてことは、原理的にできないようになっているのに……)

 東家:石戸霞(豊穣・110200)

衣(これはプリン事件のときの……!? けいの揶揄して言う《鬼畜》モードッ!! ということは、今の小蒔は《神憑き》の力を暴走させていることになる。
 あのときは……打ち終えた後、丸三日意識が戻らなかった。死力以上とはそういうことなのか……こまきっ!!)

 西家:天江衣(劫初・83700)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:神代小蒔(逢天・98400)

衣(あの状態のこまきは……恐ろしい速度で門前清一をツモる。対抗する手段は一つ。それより先に和了ること――!!)

衣「ポン……!!」タンッ

淡(早和了り……!? 確かにそれ以外に対策思いつかないけど……ええい、仕方ない。まだよく状況飲み込めてないし、ここは協力するしかないかっ!!)タンッ

衣「それもポンだッ!!」タンッ

小蒔「ロン――」パラララ

衣(なあ……っ! どういうことだ!!?)

霞(字牌単騎の門前混一って――門前清一じゃなくて? まさか、そこまで自由に《神憑き》の力を扱えるなんて……)

淡(その字牌……もしかして、私の《絶対安全圏》をちょこーっとだけ利用して手に入れたってこと……?)

小蒔「12000……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(こ、衣の考えが読まれていた……!? この状態のこまきを知っている衣なら、鳴いて仕掛けてくると踏んで……大星の能力をわざと完全に《無効化》せず、出和了りするために字牌を取り入れるなんて――!!)

小蒔「!」パチッ

淡(解けた!? いや、解いた!? どうなってるの!!)

 三位:大星淡・-14000(煌星・107700)

衣(《神憑き》の解除すら制御できるとは……!!)

 四位:天江衣・-24000(劫初・71700)

霞(小蒔ちゃん……そんな――)

 二位:石戸霞・-5300(豊穣・110200)

小蒔「お憑かれ様です。前半戦はこれでおしまいですね。トップ――まくらせていただきましたっ!」

 一位:神代小蒔・+43300(逢天・110400)

衣・霞・淡「っ!!?」

『ぜ、前半戦終了ー!! チーム《逢天》神代小蒔っ!! まさに神懸り!! まさに神業!! 断ラスからたった三局でトップをまくりましたあああ!!』

小蒔「では、後半戦もよろしくお願いします」ペコッ

霞「ま、待って、小蒔ちゃん!! あの薬……一体なんなの!? 本当に身体は大丈夫なの……!!?」ガタッ

小蒔「ごめんなさい、霞ちゃん。あのお薬は、とある方からいただいた特殊なお薬なんですけど……でも、心配しないで。苦くないから。むしろ甘くておいし――」

霞「そんなことが聞きたいんじゃなくてっ! あなたの身体が――」ハッ

小蒔「か、身体は……見ての通り、少しだけ……辛いんだけれど……」フラッ

霞「小蒔ちゃんっ!!?」ダッ

衣「こまきッ!!?」バッ

小蒔「私は大丈夫……だから。自分で選んだことだから。それよりも……いいの……? 私、次は……もっといっぱい点取るつもりだよ……?」

霞・衣「……!!?」ゾゾゾッ

小蒔「止めても無駄だよ……私は私の打ちたいように打つ、私は私の道を行く。誰にも邪魔はさせない……たとえ霞ちゃんでも、衣さんでも――」

霞「…………試合が終わったら、きちんと説明してもらうわよ、小蒔ちゃん」

衣「…………こまき、衣も覚悟を決めたぞ。決して貴様の好きにはさせない」

小蒔「望むところです……。では、一旦失礼しますね――」ヨロヨロ

霞「私も、ちょっと外すわ……」ザッ

衣「衣も気を入れ直してこないとな……。ときに、貴様はそのままでいいのか?」

淡「えっ? なに、私に言ってる……?」

衣「他に誰がいる」

淡「いや、まあ、そうだけどさ……」

衣「ゆめゆめ気を抜くなよ、《超新星》――大星淡。同じランクSとして忠告しておく。半端な気構えで後半戦に臨むな。比喩ではなく、貴様、生きて帰れなくなるぞ」

淡「いや、今も大分生きた心地しないけどね……? っていうか、あんなん見せられて、気を抜くわけがないじゃん。
 ま、ぶっちゃけ無理ゲー過ぎるけど、どーにかこーにかやるしかないでしょ」

衣「……一つ、いいことを教えておいてやる」

淡「えっ!? なになに!! あの巫女さんに何か弱点とかあるの!? 知りたい知りたいっ!!」

衣「先刻のこまき――南二局からあやつに憑いていたのは、《八面》の神だ」

淡「へ、へえ? それが……?」

衣「こまきの降ろす神は全部で九種類。《一面》から順番に《九面》まで。数字が大きくなればなるほど、支配力も能力値も桁違いに上昇していく」

淡「え……ちょっとお待ちになってくれるかな。私の聞き間違いじゃなければ、さっき憑いてたのは、《八面》って言ってたよね……?」

衣「ああ。先刻のこまきに憑いていた神は、強いほうから二番目だ」

淡「ま……まだ上があるっていうの――? 嘘、だよね……?」

衣「嘘か真か。後半戦――その身で確かめよ」

淡「うええっ!? 本気で言ってんの、それ!? もうランクSとか《神憑き》とかそういうの通り越してない……!?
 さっきの状態で私ら全員より強かったのに、あそこからさらに桁違いに強くなる!?
 あの巫女さん……神代小蒔――完全にヒトの領域を外れてるじゃん……!!」

衣「いかにも。こまきは、衣や貴様とは一線を画すランクS。宮永照……そして、貴様らの大将である花田煌と同じ――《神の領域に踏み込む者》だ」

淡「ぱ、ぱないよッ!!!!」ゾワッ

 ――――

 ――――

小蒔(最初に使ったときより多少慣れがあるとは言え……やはり苦しいものは苦しいですね。頭痛が止まりません……それに、眩暈が――)フラッ

泉「小蒔さああああああん!!!」ガバッ

小蒔「い、泉さん……?」

玄「……小蒔ちゃん」

小蒔「玄さんも……どうして――」

泉「心配やからに決まっとるやないですか!! 玄さんから《体晶》のことは聞きました。それ、もう後半は使わんといてくださいっ!! お願いですから……!!」

小蒔「それは……残念ながら、できませんね。せっかくトップに立ったのです。ここから、もっともっと引き離して、決勝行きを決めなくては……」

玄「……大将は私なんだよ、小蒔ちゃん」

小蒔「玄さんが強いことは知っています。それと同じくらい……憩さんの恐さも知っています。ここでどこかをトばす以外に勝ちを決めることはできません……」

玄「それは……」

泉「小蒔さん! トップやなくても決勝には行けます!! 小蒔さんは最下位やったんをひっくり返してくれました……!
 もう十分やないですか……やから、自分の身体を大事にしてくださいよっ!!」

小蒔「私の身体なんて……どうなろうと構いません。それよりも、もっと大事にしなければならないものがあります。
 泉さん……あなたの――無能力者としての誇りです」

泉「う、うちの……? 無能力者のって――?」

小蒔「泉さんは……今回、先鋒戦で負けてしまいました。もし、ここで私たちがトップに立てなければ、きっと、口さがない人は、それを泉さんのせいだと言うでしょう。無能力者である泉さんが悪いと言うでしょう。
 私は……それが嫌なのです……」

泉「そ、そんなん……やって、事実やないですか!? うちが大量失点したのが全部悪いんですやん!
 チームが最下位やったんも、そのせいで小蒔さんに無茶させとるんも、なんもかんも、うちに力がなかったんが悪いんですやん!!」

小蒔「そんなことはありません。今回の泉さんは、ちょっと経験不足で、運が味方してくれなくて、頑張ろうという気持ちが空回ってしまっただけです。力のあるなしは関係ないのです」

泉「こ、小蒔さん?」

小蒔「ああ……ごめんなさい。ちょっと、うまく言いたいことがまとまりません。つまり、私が言いたいのはですね、泉さん。
 あなたが負けたのは、決して、あなたが無能力者だからではない、ということです」

泉「そ、それは――」

小蒔「もしも、泉さんが、ご自分が奮わなかったのが、無能力者であるせいだとお考えなら……それは、改めてもらわないといけません。
 いかがですか、泉さん? あなたが負けたのは、あなたが無能力者だからですか……?」

泉「ちゃ……ちゃいますよっ!! 無能力者やって強い人はおる!! うちが負けた福路先輩かて無能力者! 染谷先輩かて無能力者!! 小蒔さんと同じ《三強》の荒川先輩かて無能力者ですやん!!
 うちが負けたんは……単純に、うちに足りひんもんが多過ぎただけですっ!!」

小蒔「そうです。そういうことなのです。けれど、ここでチームが負ければ、きっと言われますよ?
 無能力者の泉さんのせいで負けた、泉さんが勝てなかったのは無能力者だから――と。そんな声を耳にしても、泉さんは平気でいられますか? 誇りに傷はつきませんか……?」

泉「み、見返したりますよっ!!」

小蒔「強がらなくてもいいです。悔しいですよね? 悲しいですよね? ご自分の力量不足を、無能力のせいにされるのは、我慢ならないですよね……?」

泉「そ……そら、もちろん、そうですよ……。やって、別に、うちかて好きで無能力者になったわけやないです。
 けど、それはもう仕方あらへんから、無能力者でも勝てるよう頑張っとるんですわ。やのに、無能力者ってだけでダメやダメや言われるのは――」

小蒔「それです……泉さん。私は、あなたにそんな顔をしてほしくないのです」

泉「え……?」

小蒔「私は、泉さんに、無能力者であることを呪ってほしくない。誇ってほしいのです。
 そして……そのためには、勝つしかないんです。全ての能力者に、支配者に、勝つしかないのです。泉さん……あなたにその覚悟がありますか……?」

泉「あ……ありますッ!! 当然ですよっ!! うちは学園都市最強の雀士になるんですから!!
 小蒔さんや玄さんにやって勝ちます!! 宮永照にやって勝ってみせますっ!! 必ず《頂点》に立ってみせますわ……!!」

小蒔「なら、なおさら、こんなところで負けるわけにはいきませんよね。一位通過で決勝行きを決めて、できる限りの準備をして、万全の状態で決勝に臨みましょう。
 そして……決勝で、あなたが宮永照さんを倒すのです。そのために、私は持てる力の全てを以って、万難を排しましょう。何人たりとも……泉さん、あなたの歩むその道に、横入りはさせません」

泉「こ、小蒔さん……どうしてそこまで……?」

小蒔「さあ……どうしてでしょう。そんなことより、泉さん。本当に……本当の本当に、あなたは《頂点》に立つおつもりなのですね……?」

泉「は――はいッ!!!」

小蒔「なら、この場は私の好きにさせてください。
 大丈夫です……私は支配者《ランクS》で大能力者《レベル4》ですから。無能力者《レベル0》の泉さんの誇りを、きっと守ってみせます」

泉「小蒔さん――」

小蒔「そして、玄さん……ごめんなさい。そういうわけで、後半戦も、私は《体晶》を使います」

玄「……いいよ。小蒔ちゃんの気持ちはわかった。言いたいことはいっぱいあるけど、今は言わないでおいてあげる。
 けど、これだけは覚えておいてね。試合が終わったら、私の言いつけを守らなかった小蒔ちゃんは、オシオキ確定なんだから」

小蒔「ええ、わかっていますとも……」スッ

泉「……それが、《体晶》……」

玄「次はいよいよ《九面》だよね」

小蒔「ええ……私に宿る最高の力――ヒトの領域を逸脱した力です」

泉「《神の領域の力》……」

小蒔「しっかりと見ておいてくださいね、泉さん。あなたの目指す《頂点》は――天上に立つということは……これを超えるということです……」ゴクンッ








               ドクンッ








小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉・玄「――っ!!!!?」ゾワッ

         ――どうですか、泉さん? 今の私に勝てますか?

泉「え、えっと……!!」

   ――おや、怖気づきましたか……?

泉「そ、そんなことありまへん!! こ、こんくらい――楽勝ですわっ!!」

              ――それはそれは……楽しみにしています。

泉「ま、任しといてくださいっ!! ボッコボコにしたりますよ!!」

       ――ええ、是非に。

泉「…………行ってらっしゃい、小蒔さん」

                 ――行って参ります……泉さん。

泉「………………」

玄「…………泉ちゃん」

泉「……なんですか、玄さん……」

玄「泣いてる暇なんてないよ」

泉「……はい」

玄「へたり込んでる暇もない」

泉「…………はい」

玄「悲しくても、辛くても、苦しくても、前に進み続けるしかないんだよ」

泉「……わかって……ます……」

玄「なら、よろしい。じゃあ……今は、ちょっとだけ、私の胸と肩を貸してあげるのです。
 涙と一緒に、弱音も恐怖も、全部身体の外に出し切って、ちゃんと自分の足で立つ――できるよね、泉ちゃん?」ギュ

泉「……はい。おおきにです……玄さん――」ポロポロ

 ――――

 ――――

霞「悪いわね……私の都合で呼びつけてしまって」

巴「私たちは別にいいですけど……これが仕事みたいなものですし。そんなことより、霞さん。止めなくてよかったんですか、姫様のこと」

春「…………」ポリポリ

霞「あんな目をした小蒔ちゃんを止めることなんて、誰にもできないわよ。それに、今は霧島の仲間としてではなく、団体戦の敵同士として卓を囲んでいる。小蒔ちゃんの選択に口を挟む権利なんてないわ」

巴「そうですけど……と。はい、簡易的ですが、完了です。《絶門》様は一旦祓いました」

春「…………」ポリポリ

霞「ありがとう。後半戦が終わったあとも、またやってもらうかもだけど」

巴「憑いたままでもよかったのでは? 普通の状態で姫様の《九面》様の傍にいるのは、いくら霞さんでも辛くないですか?」

春「…………」ポリポリ

霞「今の小蒔ちゃんは《九面》様であって《九面》様じゃない。《九面》様の力を使いこなす一人の雀士。《絶門》様に使われているような状態でどうにかなる相手じゃないわ。
 もちろん、使うべきときが来たら使うけれど、ぎりぎりまでは、私も選択の余地を残して戦いたい。そのためなら、多少苦しくても頑張るわ」

巴「……無理はしないでくださいね」

春「…………」ポリポリ

霞「善処するわ。じゃあ……ありがとう、二人と――」








               ドクンッ








霞・巴・春「!!!?」ゾワッ

霞「二人とも……なるべく早くこの場から遠ざかって。小蒔ちゃんが《九面》様を降ろしたわ」

巴「わかってます。では……ご武運を」

春「……またあとで……」ポリポリ

 タッタッタッ

霞(さて……えらいことになってきたわね……)ゾクッ

 ――――

 ――――

憩「衣ちゃんっ!!」タッタッタッ

衣「けいか。どうした、血相を変えて」

憩「そら血相も変わるわ。まさか小蒔ちゃんが自発的に《鬼畜》モードに入るなんてな」

衣「……で、なんの用だ?」

憩「最悪、トップ通過は諦めてもええ、やって」

衣「ははっ!! それは面白い冗――」








               ドクンッ








憩・衣「ッ!!!?」ゾワッ

憩「…………冗談やあらへんで、ホンマ」

衣「ふん……この程度の脅威で、衣に二位を狙えと?」

憩「強がらんでもええよ、衣ちゃん。さすがの衣ちゃんかて、あの状態の小蒔ちゃんは恐いやろ? ウチにはわかるで」

衣「恐ろしいからどうした。畏るるべきだからどうした。そんなことくらいで、尻尾を巻いて逃げ出す衣だと思うか?」

憩「思わへんけど……」

衣「なら、控え室に戻ってすみれたちに伝えよ。『心配は要らない』とな」

憩「……まったく、衣ちゃんも大概やな。ま、ええけど。最悪そうしてもええ、ってだけやし。最終判断は衣ちゃんに任せるわ」

衣「任せろ。プリン事件のとき以来、あのこまきと打ち合うことができないのを口惜しく思っていたのだ。
 一年越しの再挑戦――今度こそあの《神の領域に踏み込む者》を、地上に叩き落してやる……!!」

憩「期待してええのかな、信じてええのかな、そのハッタリ」

衣「好きにすればいい」

憩「……わかった。信じて待っとる。頑張ってや、衣ちゃんっ!」

衣「おうッ! 頑張るぞ……っ!!」

 ――――

 ――対局室

桃子「超新星さーん」ユラッ

淡「あ……やっぱり来たね、モモコ。で、キラメはなんて?」

桃子「後半戦、巫女さんは未だかつて超新星さんが体験したこともないようなとんでもない力で門前清一を和了りまくるから、覚悟しろ、だそうっす」

淡「うん……それは覚悟してる。で、私はどうしたらいいって? トップ狙ったほうがいい?」

桃子「いや、当初と作戦の変更はなしっす。私たちの最優先事項は三回戦突破。敗退を免れれば、順位は気にしない方針でいくっす」

淡「そっか。残念。トップ取ってこいって言われたら、すっげー燃えたんだけどなー」

桃子「ハイ、そんな超新星さんに嶺上さんから追伸っす」

淡「なあに?」

桃子「『私なら勝てる』――って」








               ドクンッ








淡・桃子「!!!?」ゾワッ

桃子「…………えっと、まあ、つまり、そういうことっす……」

淡「あの口だけ《魔王》! この実物前にしたら間違いなく漏らすから……!!」

桃子「けど、きらめ先輩は真に受けてたっすよ。『さすがは咲さん。頼もしい限りですね』って」

淡「オッケー……わかった。モモコ、帰ってキラメとサッキーに伝えて。《煌星》のエースは私以外にいないって――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子「その調子っす、超新星さん。では、私はこの辺で」

淡「だね。そろそろ他の人も戻ってくる。支配力に潰される前に対局室を出たほうがいいよ」

 ギィィィィィ

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「ほら……みんな来ちゃったじゃん、モモコ。……モモコ?」

桃子「――――はっ! 今、一瞬意識飛んでたっす!!」

淡「あはっ。心臓が弾け飛ぶ前に逃げて」

桃子「言われなくても退散っす……!!」ダッ

淡(さ……て。どうやって戦ったらいいもんかな。この化け物ども相手に――)

衣「後半戦もよろしく頼む……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞「せっかくだから、楽しく打ちましょうね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「うん……そうだね。わくわくせずにはいられないよッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

        ――皆さん……お覚悟はよろしいですか……?

衣・淡・霞「――ッ!!!」ゾゾゾ

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

  ――これが《神の領域の力》……とくとご覧に入れましょう。

淡(始まってもいないのにペチャンコになりそうなんだけどっ!! 麻雀とかそれ以前の問題でしょ……!! サッキーは何をどう血迷ってこれに勝てるとか言ってんの!?)

 東家:大星淡(煌星・107700)

霞(想定以上に苦しいわ……霧島にいた頃も《九面》様と相対したことはあったけれど、そのときより明らかに支配力が強い。
 《制約》という名の制限を取り払った結果がこれ。真なる《神の領域の力》――)

 北家:石戸霞(豊穣・110200)

衣(プリン事件のときよりもさらに高い壁を感じる。先ほどから手の震えが止まらない……。そして何より――心の震えが止まらないっ!!
 楽しい……!! 衣は今……とても楽しいぞ、こまきっ!!)

 南家:天江衣(劫初・71700)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:神代小蒔(逢天・110400)

『ふ……副将戦後半、開始ですっ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回は一週間以内に更新します。

では、失礼しました。

 ――観戦室

やえ「さて、ここに麻雀牌と卓があるわけだが」

ネリー「こんな異常事態でも解説が始まったよ! やえがいつも通り過ぎて逆に恐いよっ!!」

塞「いや、解説するまでもなく、神代が化け物なのは十分わかったわよ……」ガタガタ

やえ「本当にそうか? 正しくその脅威を認識しているか?
 では、三人とも、好きな色を選んでほしい。で、その36枚をランダムに引いて、和了った役と巡目を教えてくれ」

塞「ったく……ハイハイっと」カチャカチャ

照「あ、ツモった。二巡目。門前清一ツモ」

ネリー「私は……三巡目! 門前清一ツモ赤一っ!!」

塞「えーっと……げ、ツモった。門前清一ツモ平和一盃口赤一……!? 二巡目で!?」

やえ「おわかりいただけただろうか?」

塞「思ってたより化け物だったー!! ってかこんなのに勝てるかぁー!!」

ネリー「ねー、てる。てるならどうやってこれに勝つ?」

照「…………超頑張る」

ネリー「それしかないよねー」

塞「いやいや! 百パー無理でしょ!! 頑張ってどうこうできる次元じゃないでしょ!!」

     小蒔『リーチ……』

ネリー「わーいっ! 二巡目リーチだー!!」

     小蒔『ツモ……リーチ一発ツモ門前清一……4000・8000』

塞「鬼畜過ぎる……ッ!!」

やえ「臼沢、ちょっと行って塞いでこいよ」

塞「あんた私に死ねって言ってるの!?」

照「これはひどい……」

     小蒔『リーチ……』

ネリー「わーいっ! また二巡目だよー!!」

     小蒔『ツモ……リーチツモ門前清一一盃口赤一……4000・8000』

塞「誰か神代を止めてーっ!!」

やえ「ははっ、楽しそうだな。神代」

塞「楽しんでるの!? この大虐殺を!? 神代って顔に似合わずサディスティックだったのね……!!」

やえ「いやいや、そういうことではなくてだな。これはあいつの悲願なんだよ。かれこれ一年以上も前になるか……あいつが私の研究室を訪ねてきたのは――」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――去年・春・小走ラボ

小蒔「あ……あのー。小走博士はいらっしゃいますかー……?」

やえ「ん、どちら様……? って、その巫女装束……君は確か――」

小蒔「一年の神代小蒔です」

やえ「そうか。初めまして。私は二年の小走やえだ。君の話は憩からよく聞いているよ。とても愉快な麻雀を打つんだとか」

小蒔「あ、ありがとうございます……」

やえ「この間は、憩たちの悪ふざけが原因で、えらいことになったそうだな。プリンがどうのこうの……だったか。
 神代――君、それからしばらく昏睡状態だったらしいが、もう出歩いて平気なのか?」

小蒔「はい、そちらのほうは問題なく」

やえ「ならよかった……。それで、私に何か用か?」

小蒔「え、えっと……小走博士は、能力解析の権威とお聞きしました。
 つきましては、私の能力――《神憑き》の力の制御について、いくつかお話を伺えたらと思いまして、今日はやって参りました」

やえ「《神憑き》……か。私は無神論者だから、基本的にデータとして扱える現象を元にした話しかできんぞ? それでもいいのか?」

小蒔「ええ、構いません」

やえ「よかろう。で、どんな話が聞きたい?」

小蒔「とりあえず……本題に入る前に、小走博士の、《神憑き》に関するご意見を聞きたいです。
 博士は……私たち《神憑き》のことを、どのように認識していらっしゃるのですか?」

やえ「……《神憑き》と言ってもいくつかタイプがあるな。例えば、君の巫女仲間である初美、それに同郷の藤原利仙。
 この二人は、能力論的に言えば、確率干渉力が強く、強度の高い能力を発現しているだけの、ごくごく普通の雀士に過ぎない。
 私の研究においては、他の高ランク高レベルの雀士となんら変わりない存在として扱っている」

小蒔「なるほど……」

やえ「ポイントは二つ。その強い確率干渉力が遺伝的なものであるということ。そして、能力の下地が特殊な生活環境や情操教育にあるということ。この二点が、他の雀士と異なるところだな。
 君たちのような家柄は、先天的にも後天的にも、特殊な力を持つ者を輩出しやすい。確率干渉力の扱いに長けているのも特徴的だ。
 一般人から見れば、引き起こす現象が同じでも、他の能力者とは異なる存在に見えるだろう。それこそ、神の力を操っているようにな。だから《神憑き》として区別される、ということだ」

小蒔「そうですね。私の家系も、利仙ちゃんの家系も、確率干渉力が強い人が多いです。それに、幼い頃からその力を扱う訓練を受けて育ちました。
 今思うと、あの修行には、どこか学園都市の《能力開発》に通じるものがあります……」

やえ「で、次のタイプ。君や石戸のような、神をその身に宿して力を行使する雀士についてだが……」

小蒔「あっ、お気になさらず。博士の話しやすいように話してください」

やえ「ふむ。まあ、一口に言えば、君たちはちょっと能力の《発動条件》が特殊なだけで、やっぱりごくごく普通の雀士に過ぎんよ」

小蒔「《発動条件》……」

やえ「《制約》もあるだろうな。自覚はあると思うが、君たちくらい確率干渉力が強い存在は、ただそこにいるだけで、この世の法則を捩じ曲げる。
 その支配力を、なんの制限もなく垂れ流すというのは、他人にとっても君たち自身にとっても、非常に危険なことだ」

小蒔「はい……存じております」

やえ「ゆえに、《発動条件》や《制約》という形でリミッターを設ける。君たち《神憑き》の一族は、その手の力のスペシャリストだ。力の使い方も制限の掛け方も、独自のノウハウがあるのだろう。
 で、君はその本家本元のお姫様。それ相応の縛りがあって当然だ。しかし、例えばだが、まだ《神憑き》として未熟だった頃……幼い頃に能力を暴走させたことはなかったのか?」

小蒔「私自身は覚えていませんが……周囲の話だと、何度かあったみたいです」

やえ「それと、今回のプリンの件に共通点は?」

小蒔「あっ……言われてみれば、多々あります。そっか。私は今回、能力を暴走させてしまったのですね?」

やえ「私はそう推察している。で、まあ、滅多なことではそうならないように、君は訓練と修行を積まされたわけだ。結果、今の君は、非常に安定した状態で支配力と能力を扱うことができる。
 そもそも、そうでなければ、君たちは霧島を出ることを許されないのだろう?」

小蒔「ですね……力の扱いが一人前と認められるまでは、一般の方々と会うことが禁じられています。
 実際、私たちは、学園都市に来るまで公の場に出たことがありません。利仙ちゃんが出ていたインターミドルという大会も、出たいと言ったらまだダメだと言われました。
 当時はちょっぴり不満に思っていたのですが、今回のことを考えると……とても賢明な判断だったのだと思います」

やえ「ああ、私もそう思う」

小蒔「それで……その、私の《神憑き》――能力の《発動条件》とは、いかなるものなんですか?」

やえ「憩から聞く限りでは、睡眠が《発動条件》のようだな。あとは、和了りの形に《制約》があるそうじゃないか」

小蒔「ふむ……眠らないと神様の力は使えない。神様の力で一色牌を引き寄せても、決まった形じゃないと和了れない。
 そうやって、神様の力を制御している……のですね?」

やえ「そういうことだ。その制御が失われると、件の状態になる。結果……まあ、世にも悲惨なことになったわけだ」

小蒔「よくわかりました。では、本題に入らせていただきます」

やえ「どうぞ」

小蒔「私の《神憑き》の力……これを、自発的に、今回のような状態で使うことは、可能ですか?」

やえ「なんの《発動条件》も《制約》もなく《神憑き》の能力を使いたい――と?」

小蒔「はい」

やえ「…………無理だとは言わん。実際、今回や幼少期のように、そうした例は何度かあったのだからな。しかし、恐らくだが、君の身体に莫大な負荷が掛かることになるぞ」

小蒔「それはわかっています。けど……それでも、私は《神憑き》の力を、私自身の力にしたいんです」

やえ「どうしてそこまでする? 今のままでも十分強いじゃないか」

小蒔「…………強くなんかないです。強いのは、あくまで神様。私は、私が強くなりたいんです。憩さんや玄さん、それに……衣さんのように――」

やえ「天江衣か……。憩の話では、あいつも月齢や時間帯によって使える力に制限があると聞くが?」

小蒔「けど、衣さんは、私のように意識が落ちる瞬間がありません。常に意思を持った状態で力を扱っています。
 私も、衣さんみたいに、自分の意思で力を制御したい。《発動条件》や《制約》に縛られず、自由に打ちたいんです」

やえ「聞く限りでは、天江もそこまで自由に打っているわけではないと思うが……」

小蒔「それもきっと、今のうちだけです。衣さんはもっと強くなる。そうなってしまったら、私は衣さんに勝てなくなります」

やえ「そうまでして……君は天江に勝ちたいのか?」

小蒔「はい。衣さん……あの方は強過ぎます。しかも、私と違って、同質の力を持つ人が周りにいません。だから、衣さんはどこか寂しい麻雀を打つんです。
 憩さんや玄さんは、同じくらい強いですけど、ランクSではありません。ご親戚に近しい方がいらっしゃいますが、しかし、その方も、ランクSではない。
 もし、同じランクSの私が、衣さんより弱くなってしまったら、衣さんは、今よりずっと一人になってしまう……。
 私は、このままずっと、衣さんと対等な立場にいたいんです。衣さんに、ランクSの力を呪ってほしくないんです。誇ってほしいんです。
 そのために、私は《神憑き》の力を自由に使えるようになりたい。いけませんか……?」

やえ「……それが君の意思ならば、尊重しよう。協力は惜しまん。私も《神憑き》の力を解析したいとは常々思っていたしな」

小蒔「ありがとうございますっ!」

やえ「だが、何度も言うが、君の身体に掛かる負担が甚大過ぎる。件の君は、さっき軽く触れた通り、能力を暴走させた状態になっていた。なんの対策もなくそれを誘発すれば、間違いなく命に関わる」

小蒔「そ、それは、どうしてなのでしょう……?」

やえ「君の能力の《発動条件》――睡眠だな。きちんと検査したわけではないのではっきりとは言えないが、それは、ホルモンの異常分泌に因るものだと思われる。
 古代の記録にある巫女やシャーマンで言うところの、《トランス状態》ってやつだ」

小蒔「な、なるほど……」

やえ「たぶんだが、君の能力のトリガーになっているのは、一種の脳内麻薬かそれに類するものなのだろう。
 その毒性を相殺するために、緩和剤のようなものも同時に生成される。そして、その緩和剤のほうに、君の睡眠を促す副作用があるのだと思われる。
 これが暴走状態に入ると、感情の昂ぶりによって生成された興奮剤や覚醒剤の効果のほうが強くなり、この緩和剤が活性を失ってしまうんだな。
 だから、起きたまま能力を使えてしまう、と。概ねそんなところだろう」

小蒔「その緩和剤――なんらかの化学物質なんですよね。私の眠りの原因であるその物質の生成を止める、或いは、その活性を失わせることができれば……」

やえ「目覚めている状態のまま、能力を行使することが可能になる。ただ、くどいようだが、その緩和剤は君の身体を守るためのものだ。それが失われれば、君の身体は致命的なダメージを受けるだろう」

小蒔「……どうにか、できませんかね?」

やえ「緩和剤と同じ作用を持ち、且つ睡眠を誘発しない合成物質を摂取する――とかだろうな。
 それなら、睡眠という副作用を排しつつ、比較的安全に、意識を保ったままで能力を扱うことができるはずだ」

小蒔「合成物質……お薬ですか」

やえ「まあ、理屈の上では可能だろう、くらいだな。あまりオススメはしない。君の身体にとって一番安全な能力の使用法は、あくまで霧島で教わった今のやり方だというのを、決して忘れないでほしい」

小蒔「わかっています。これは……いわば最後の手段ですから。できる限りは、私自身の努力だけでどうにかするつもりです」

やえ「そうしてくれ。私も初美の大事な友人を徒に傷つけたくはないし、石戸に呪殺されるのも勘弁だからな」

小蒔「では、小走博士。私はまず何をすればいいでしょうか?」

やえ「まずは、《神憑き》状態の身体を調べるところからだな。血液検査をすれば、自ずと《トランス状態》の原因となっている物質が何かわかるだろう。
 が、さすがに検査をするとなると、ちょっと準備に時間がかかる。そうだな……君の都合がよければ、三日後にまたここへ来てくれないか?」

小蒔「三日後ですね、わかりました。今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました」

やえ「こちらこそ、楽しい時間を有難う。じゃ、気をつけて帰れよ」

小蒔「はい……では、また――」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――観戦室

やえ「……というわけだ」

塞「この外法者おおおお!!」バシーン

やえ「ぐぼっ!?」

ネリー「やえがそんな人だったなんて……いや、マッドでペテンなゲス科学者なのは知ってたけど……」

照「小走さん、バレたら石戸さんに呪殺されるよ。間違いない」

やえ「洒落にならんことを言うのはやめてくれ……」

塞「いや、マジであんたヤバいわよ? あの神代を見なよ。あんたの作ったいかがわしい薬でボロボロよ? 死を以って償うしかないわよ?」

やえ「ボロボロ……か。まあ、確かに、頭痛や吐き気、眩暈等々の症状は出ているようだな。しかし、痛みなくして進化はない。あれは神代にとって必要なステップなのだ」

ネリー「どういうこと?」

やえ「あのな……お前ら、私をなんだと思ってる?」

照「諸悪の根源」

ネリー「腐れイカサマ野郎」

塞「死刑通告《ギロチン・コール》」

やえ「………………ちょっと外に出てくるッ!!」ダッ

ネリー「拗ねたー!? やえー!! どこ行くのーっ!!」

塞「追っかけないほうがいいわよ、ヴィルサラーゼさん。あいつ、命が惜しくなったのね。きっと高飛びする気だわ」

照「無意味なことを……石戸さんの呪力は太陽系の外まで届くというのに」

ネリー「やえ、さようなら……! あなたのことは忘れないよっ!!」

 ――対局室

淡(世界は広いねー……キラメとどっこいどっこいにひどい麻雀がこの世にあるなんて思ってもみなかったよ。私はバイリンガルだけど、この有様を形容する言葉が語彙のどこにも見つからない……)

淡(必ず門前清一ツモるんだから、リーチを掛ければ最低でも倍満。しかも三、四巡目で和了るのがデフォ。
 いや、むしろ平均からすれば遅いほうなのかな? 次は親だけど、この調子で8000オールとかされたらいよいよ死ぬんだけど……)

淡(現状三位だしなぁ。三回戦を突破するなら二位以上。今のままだとかなり危うい。それはキラメの指示に反する。
 いい加減……意地や見栄を張るのも限界かな。認めよう。この巫女さんには敵わない。ここは大人しく諦めるしかないんだ――)

淡(そう……一人で勝つのをねっ!!)ゴッ

 東三局・親:小蒔

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:神代小蒔(逢天・142400)

霞(これは……配牌が……?)タンッ

 南家:石戸霞(豊穣・102200)

淡(《絶対安全圏》解除だよッ!! どんなことをしてでもいい……この巫女さんの親はさっさと流すっ!! テンパイすらさせないんだからっ!!)タンッ

 西家:大星淡(煌星・95700)

衣(ふん……大星淡。二局も待たせるとは。ようやく己の器を知ったか。衣に言えることではないが、傲慢にもほどがあるぞ)タンッ

 北家:天江衣(劫初・59700)

淡「ポンッ!」タンッ

衣(ほう……?)タンッ

淡「またポン!!」タンッ

衣(こまきにツモらせないつもりか……それとも――)

淡(ここにいるのはランクS級の化け物ばっかり……なら、このくらいの《奇跡》は――起こるはずっ!!)

衣(なるほど……これは期待に応えねばなるまいな)タンッ

淡「またまたポーンッ!!」タンッ

衣「ロンだ。2600」パラララ

淡「はい」チャ

霞(あらあら。ランクS同士が共闘……? 珍しい光景ね)

淡(こんだけツモ増やしてあげたんだもん……張っててくれなきゃ困るよ!)

衣(衣を誰だと思っている。火力を速度に換えることなど造作もない)

         ――なかなかやりますね。

衣「む――こまきか。当然だ。この一年が意地を張って能力を使ってこなければ、先の二局もむざむざ和了らせなどしなかったぞ!」

淡「ちょっと!? 私のせいにするのっ!? そっちこそ《一向聴地獄》解いてなかったくせにっ!!」

霞「喧嘩はよくないわよ、二人とも。というか、今はそんなことしている場合じゃないわ」

   ――霞ちゃんの言う通りです。もっと仲良くして、協力して打たないと、今の私は止められませんよ……?

淡「へっへーん! なにそれ負け惜しみー!? たった今親流したばっかりじゃん!!」

衣「ま……待て、大星淡! あまり今のこまきを刺激してはならん……!!」

    ――そんなに畏れないでください。ちょっと悲しいです。

淡「畏れるーぅ? バカを言ってはいけないよっ! 私は高校100年生!! 恐いものなどこの世にない!!」

             ――ああ……それはよかった……。

衣「こ、こまき……貴様――!!」

     ――少しずつですが、意識して神様の力を使うことに慣れてきました。

霞「小蒔……ちゃん……?」

       ――頑張っている皆さんに敬意を表して、もう一段階上げさせていただきます。

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡・衣・霞「……ッ!!!!」ゾゾゾ

淡「ふ、ふーんだっ!! こ、こここ、これくらいがなんなのさー……!!」ガタガタ

衣「お、おい、大星淡。何を震えているのだ。《超新星》から《小心星》とでも改名したほうがよいのではないか……?」ガタガタ

霞「…………楽しそうね、小蒔ちゃん……」ビリビリ

               ――ええ、楽しいですよ。

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    ――皆さんも、一緒に、麻雀を楽しみましょう。

淡:93100 衣:62300 小蒔:142400 霞:102200

 ――《豊穣》控え室

     小蒔『リーチ……』

竜華「止まらんなぁー」

宥「」

美穂子「ゆ、宥さん!? お気を確かに!!」

宥「あっ……ごめん。私、また気を失ってた……? えへへ……もう何が夢で何が現実なんだか……」

尭深「医務室、行きますか?」

宥「ううん。霞ちゃんが必死で戦ってるんだもん。辛くても……ここで応援したい……」

尭深「そうですか……」

     小蒔『ツモ……4000・8000』

竜華「おおーぅ……また三巡目で門前清一倍満」

宥「」

美穂子「宥さーん!!?」

宥「ほ、ほああ……? 私、また――」

尭深「さっきからこの繰り返しです……」

 ――《劫初》控え室

菫「一人二人死人が出てもおかしくないな……」

智葉「おい、ウィッシュアート、起きてるか?」ペシッ

エイスリン「――ハッ!? ヤベエ、イマ、モノホンノ、テンシニ、アッチマッタ……!!」

憩「無理せんと医務室行ってきたほうがええですよ。まあ……満員の可能性が高いですけど」

菫「天江たちは本当に大丈夫なのか?」

智葉「なに、あいつらだって同じ化け物だ。私たちよりは確率干渉の余波に対する耐性がずっと強い。せいぜい身体の震えが止まらなくなる程度だろう」

エイスリン「ジューブン、ヤベーヨ」

憩「ちゅーか……ホンマにボチボチなんとかせんと、点棒が尽きますわ」

菫「誰が突破口を開くのか……」

智葉「個人じゃ無理だ。三人がかりで行くしかない。あいつらもわかっているだろう」

エイスリン「ウッ――!? コノ、カンジ……カスミガ、モッペン、バケル……!?」

     霞『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「《最古》は《祭古》――古神を祀りて贄人を血祭る戦巫女……とは言え、ヒトの領域を外れた今の小蒔ちゃんに、どれだけのことができるんやろか――」

 ――対局室

霞(オイタが過ぎるわよ……小蒔ちゃん……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(かすみー先輩が《神憑き》になったっ! 二人の支配領域《テリトリー》は重複部分が大きい。思いっきり正面衝突させれば……巫女さんの能力が揺らぐかも。点差を無視しても、ここは協力すべき……?)

衣(《最古》の大能力者……《絶門》の神。今のこまきにどれだけのことができるのかはわからないが、毒を以って毒を制すとも言う。
 こまきの《神憑き》を解除するのに、同じ霧島の巫女であるこやつの力はうってつけだろう。試してみる……か)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南一局・親:淡

淡(ランクS級の雀士が三人がかりっていうのも情けないけどさ……! そうは言ってもこっちはヒト、あっちは神様――形振り構ってられないよっ!!
 こんな使い方は初めてだけど……これでも喰らえ、限定範囲の《絶対安全圏》ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:大星淡(煌星・89100)

衣(む……今局はこまきの配牌に力を感じない? さては、大星淡。その能力で不要牌を掴ませたか……!!)

 南家:天江衣(劫初・58300)

淡(ちょこっとだけど、効いたみたいだね!! けど、これっ、だあーっ!? なんつーか、身体がバラバラになるよ!? マジ無理リアルに死ぬ!! もう一回同じことはできないからね――!!)

衣(支配力を狭い範囲に集中させることで、微かとは言えこまきの支配領域《テリトリー》に揺らぎを与えたのか。無茶苦茶なことを……死にたいのか。
 しかし、確かに、この機を逃すわけにはいかない。よかろう。ならば――衣も協力してやる……限定範囲の《一向聴地獄》だッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞(あら……小蒔ちゃんがツモ切りの字牌……? さては天江さんの力ね。それに、私の配牌に思っていたよりも小蒔ちゃんの色が入ってきた。大星さんも協力してくれたってことかしら……)

 北家:石戸霞(豊穣・94200)

霞(いいわ。ここで小蒔ちゃんの《神憑き》を解除する……!! 私と小蒔ちゃんは今、同じ一色牌を支配領域《テリトリー》にして綱引きをしている。なら、神様ごと引き倒すまでよ。
 ただでさえ、今の小蒔ちゃんは、よくわからない薬で不安定な状態なのだから、ちょっとの揺れでも、支配が崩れる可能性は十分にある……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(頼むよ、かすみー先輩。私が掴ませることができたのは、せいぜい字牌二、三枚。それを吐き出されたらまた即座に門前清一を和了られる。神速でテンパイしてよね……!!)

衣(衣の《一向聴地獄》で不要牌を掴ませられるのも、あと数巡が限界だぞ。それ以上は気力が保たない。そして二度はできん。本気で身体が破裂しそうなんだ……! 《絶門》の……しくじってくれるなよっ!!)

霞(お任せあれッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:神代小蒔(逢天・158400)

 ――《煌星》控え室

友香「淡と天江先輩と石戸先輩……ランクS級の雀士が三人がかりで支配力を使っても、たった六、七巡足止めするのが限界って」

桃子「……嶺上さん、本当にあれに勝てるっすか?」

咲「んー、もちろん、支配力や能力値は向こうのほうが上だと思うんだけど」

煌「天江さんも神代さんも石戸さんも、王牌が支配領域《テリトリー》に含まれていません。
 つまり、どんなに強い支配力を発揮されようと、咲さんの能力には、さほど影響を与えないということです。まあ、やり方次第といったところでしょうか」

咲「さすが煌さんっ! まさにそういうことなんです!」

友香「相性の良し悪しって感じでー?」

桃子「ちょっと信じられないっすねー」

咲「えー? もー、二人とも麻雀楽しませるよー?」ゴッ

友香・桃子「すいません《魔王》様」

煌「楽しむと言えば、あんなに楽しそうな淡さんは、練習でもなかなか見られませんね」

咲「それは楽しいはずですよ。淡ちゃんって天邪鬼だから、なんだかんだ言っといて、勝つより負けるほうが好きなんです。ドMなんです」

桃子「超新星さんがドM!?」

友香「その発想はなかったんでー……!!」

煌「負けるほうが好きかどうかまではわかりませんが、負ける可能性があるくらいの強敵と戦っているときのほうが楽しそうなのは、間違いないですね」

咲「あっ、煌さん。今の淡ちゃん、あの感じに近くないですか? ほら、煌さんと私と淡ちゃんの三人でやる耐久戦の」

桃子「ああ……たまに三人で残って練習してたっすよね。何やってたっすか?」

咲「私と淡ちゃんの、ルール無用の殴り合いだよ」

友香「ま、麻雀の話でー?」

咲「もちろん。どっちが先に煌さんをトばせるかゲーム。支配力使い放題。能力使い放題。なんでもアリの数時間」

桃子「見たいような見たくないような」

友香「どんな有様なんでー?」

咲「淡ちゃんは暗黒物質垂れ流しで、私はスパーク飛ばしっぱなしだよ」

桃子・友香「わー……」

煌「桃子さんと友香さんは、たぶんその場にいるだけで体力を使い果たしてしまうので、お呼びしていないのです。翌日の練習に差し支えが出ますからね」

咲「私と淡ちゃんもズタボロになるから、週一くらいでしかやらないんですよね」

桃子「殴り合いとかズタボロとか、とても女子高生の口から出る単語とは思えないっす」

友香「まあ……でも、そのおかげで今があると思えばでー」

     霞『ロン……! 8000よ!!』

     小蒔『』

桃子「おーっ!! ついに直撃を――!?」

友香「二位とは点差開いちゃったけど、これで神代先輩の《神憑き》が解ければまだチャンスが……」

咲「……どーかなぁ。焼け石に水というか、火に油な気がするんだけど……」

     小蒔『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子・友香・咲「……ッ!!!」ゾゾゾ

煌「いやはや……敵ながらすばらです」

 ――対局室

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞(そ――そんな……!?)クラッ

    ――ごめんなさい、霞ちゃん。今《九面》様を手放すわけにはいかないから……。

霞(わ、私のほうが逆に《神憑き》を解除された……!? 確かに、私が小蒔ちゃんの《神憑き》を解除できるなら、その逆も当然ありうるとは思っていたけれど――)

       ――なので、《絶門》様には、少しだけ眠っていただきました。

霞(な……なんてことを……!!)ゾクッ

淡(え? え? なに? 返り討ち? そんなのってアリなの? 理解が追いつかないよ?)

衣(思っていた以上に、こまきが《神憑き》の力を使いこなしている、ということか。不安定なのはむしろ石戸霞の能力のほう。
 意識して能力を使う者と、能力に意識を委ねる者。どちらの鎖が強いかと言われれば、確かに前者なのだが――しかし……)

衣(かつて、プリン事件のとき、最終的にこまきの《神憑き》を解除したのは、衣だった。くろの超能力で足止めをし、けいのアシストを受け、衣がこまきから直撃を取って……あの惨劇を終わらせたのだ)

衣(今のこまきが本当にあれと同じ状態なら……先ほどの一撃で《神憑き》が解除されてもおかしくはなかった。なのに……逆にやり返している。どういうことだ……?)

衣(あの妙な薬……こまきの力を暴走させるための何かだと踏んでいたが、それではこの安定を説明できない気がする。
 畢竟、強い力ほど扱いが難しい。衣の全体効果系能力と同じ。少しの撹乱でいとも容易く支配が崩壊する。なのに……こまきは未だ崩れない――)

     ――では、ラス親になる前に、もう少し上げておきましょうか。

霞(小蒔ちゃん……!!?)

淡(どんだけー!?)

衣(ふん……面白いッ!!)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡:89100 衣:58300 小蒔:150400 霞:102200

 南二局・親:衣

小蒔「……ダブルリーチ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞(ダブリー……いつかは来ると思っていたけれど……!!)タンッ

淡(もーっ!! なんなのさー!! 土足で人の支配領域《テリトリー》に踏み込んでくれちゃって……!!
 門前清一なら好きなだけ和了ってくれてもいいけど、それだけは許せないっ!! ダブリーでぇー……負けてらんないっ!!)

淡「こっちもダブリーッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(大星淡……この状態のこまきと相対してまだそんな体力が残っていたとは。どうやって鍛えたのかは知らないが、衣が一年のときと果たしてどちらが上か……)

衣(一年……懐かしいな、こまき。こまきやけいやくろと卓を囲んだあの日々。充実した時間だった。学園都市に来てよかったと、心から思った……)

衣(初めて打ったときは本当に驚いたものだ。同い年で衣の支配を打ち破る輩が存在するなどとは、夢にも思っていなかった。遊び相手になる同級生など、とーかくらいだろうと思っていた)

衣(なのに――いざ蓋を開けてみたら、衣より強い打ち手がそこにいた。それも……二人!! ううん、なんと三人もだ!!)

衣(けいは人外なる智略を持ち、くろは超人なる能力を持ち、こまきは……衣と同じ。ヒトの世から逸脱した存在だった……!)

衣(そんなこまきと打つのが……どれだけ楽しかったか!!)

      ――『感覚のままに打って負けたことがない』……ですか?

   ――私もそうですね。神様に委ねて負けたことはありません。

衣(ヒトでない者同士で鎬を削り合う時間がどれだけ楽しかったか……!!)

      ――似ていますね、私たち。

              ――『力』に使われている……。

衣(こまきには……感謝してもしきれないっ!!)

       ――ええ。約束しますよ、衣さん。

衣(こまき、貴様は、覚えているか? 衣は覚えているぞ……!!)

          ――いつの日か、ちゃんと麻雀を打ちましょう。

  ――力をぶつけ合って、想いをぶつけ合って、真剣勝負をしましょう。

                  ――大丈夫です。

        ――私はランクSですから。

   ――同じランクSの衣さんを、決して一人にはしません。

衣(あの日……貴様と交わした約束――)

        ――いずれ天上にて逢いましょう。

  ――化け物同士ではなく、雀士同士として、一緒に麻雀を打ちましょう。

衣(果たすときが……ついに来たのだッ!!)

衣「ポンッ!!」タンッ

淡「あっ……うぉっ、ロ、ロン!! 2600!!」パラララ

衣「ふん……これで貸し借りはゼロだな、大星淡。釣りは要らない。取っておけ」チャ

淡「利子くらいつけてほしいんだけどー……?」

衣「案ずるな、こまきが連帯保証人。1000点ほどだが、持っていくがよい」

淡「おお、そうだったねっ! リー棒ゲット!!」

衣「さ、て――こまきっ! 聞こえるか!?」

       ――はい。どうかしましたか、衣さん?

衣「すまないな。いくら衣とは言え、ヒトの領域から出るのはそうそう簡単なことではないのだ。少しばかり力を溜め込んでいたら……もうオーラス間近になってしまった」

               ――力を……溜め込んでいた……?

衣「さらに面目ないことに、それにも限界がある。全力以上で打てるのはたった一局だけだ。
 しかし……一局だけなら、衣でも貴様の足元に這い寄ることができる! それでもよければ、天上にてともに麻雀を打とうではないか――こまきッ!!」

     ――こ、衣さんっ!? まさか、あのときの……!

衣「何を驚いている。こまきが言ったことであろう? 貴様が待ち望んだ真剣勝負。化け物や《神憑き》などではない――雀士と雀士として、力と想いを存分にぶつけ合おうと言っているのだ……!!」

          ――わかりました。受けて立ちます……っ!!

衣「さあ……! 一緒に麻雀を楽しむぞ、こまきッ!!」

       ――はいっ!!

淡:92700 衣:55700 小蒔:149400 霞:102200

 南三局・親:小蒔

小蒔(衣さん……やはりあなたは、私の理想です……)

小蒔(かつて、あなたは、私と同じで力に使われていました。私が神様の依代でしかなかったように、あなたは感覚の傀儡となっていた)

小蒔(けれど……あなたなら、いつか、自ら麻雀を打つときが来る――そう信じていましたよ、衣さん。
 だからこそ、私も、来るべき時に備えねばならないと、覚悟を決めることができたんです)

小蒔(衣さん……あなたがいなかったら、神様の力を『使う』なんて、私は思いつきもしなかったでしょう)

小蒔(みんなで打っているうちに、気付いてしまったんです。あなたがどんどん先へ行ってしまうのを。いつか、私の手が届かないところへ行ってしまうのを……)

小蒔(そして……とうとう、衣さんはそこに辿り着いてしまいました。感覚や力に頼るのではなく、それを手段の一つとして戦う。そんな境地に、あなたは辿り着いてしまった)

小蒔(憩さんだけの力ではないはずです。チーム《劫初》――そこで、衣さんの感覚や力を超越する方々に出会ったのですね。感化されたのですね。
 衣さんの打ち方が一年前とすっかり変わったのは、予選の牌譜を見たときからわかっていました)

小蒔(けれど、衣さん。出会いに恵まれたのは、あなただけではありません。私も、とても面白い人に出会いました。
 支配力も能力も持たず、ただ努力と工夫だけで、私に勝つと言い切る人。その熱き心に宿るのは、私が衣さんの中に見た理想――『戦う意思』)

小蒔(衣さんとの約束を守れたのも、あの方がいたおかげです。あの方が現れなければ、私はこうしてあなたと卓を囲むことすらなかったでしょう)

小蒔(あの方のためにも、チームのみんなのためにも、衣さんのためにも、私はここで勝ってみせます)

     ――こまき、聞こえるか?

小蒔(聞こえていますよ……なんですか、衣さん?)

        ――こまきは昔、言ってくれたな。衣を一人にはしないと。

小蒔(そうですね……)

     ――案ずるな。今の衣は一人ではない。

         ――けいもいる。すみれやさとはやえいすりんもいる。

   ――とーかたちともちょくちょく遊んでいる。他にもたくさん友達ができた。

小蒔(そう……ですか――)

      ――信じられないか? なら、今に証拠を見せてやる……っ!!

小蒔(どういうことです?)

    ――こまき、貴様は強い。

       ――以前の衣なら、今の貴様に勝つことは不可能だったろう。

                ――しかし、今の衣は違うッ!!

小蒔(麻雀を……『打つ』ようになったから……?)

      ――それもある。だが、一番の理由はそれではない。

小蒔(では、何が……?)

             ――衣は多くの者と打った。

    ――強い者、弱い者。 

                     ――力のある者、ない者。

      ――それはもう数え切れないほどの雀士と――っ!!

  ――その一戦一戦が! 一打一打が……! 衣を強くしてくれたっ!!

       ――衣の強さは、もはや孤高のものではない。

              ――わかるか……? こまき。

   ――貴様には、衣一人では敵わない。

                ――だが、今の衣は一人じゃないっ!!

小蒔(衣さん……)

        ――強い者が立ちはだかるから、超えようと頑張れる。

   ――弱い者が立ち向かってくるから、負けてなるものかと奮起する。

      ――力のある者がいるから、己の力を磨ける。

         ――力のない者がいるから、己の力を誇れる。

    ――みんながいたから、衣はこんなにも強くなれたのだ……!!

           ――そして、そのみんなの中には……!

     ――当然、貴様も含まれているのだぞ、こまきっ!!

小蒔(衣さん……!!)

   ――こまき……これからも、ずっと一緒に麻雀を楽しもうではないか。

      ――同じランクSとして、誇り高き雀士として歩もうじゃないか。

             ――目指すところは同じ《頂点》……!!

    ――どちらが先に辿り着けるか、勝負だぞっ、こまき!!

小蒔(はい……! はいっ!! いつまでも、ご一緒させていただきますっ!!!)

       ――さて、重ね重ね感謝するぞ……こまき。

                    ――貴様のおかげで……! 

   ――衣はまた一つ、強くなれた――ッ!!

小蒔(っ……!!?)ゾワッ

衣「それだ……!! ロンッ!! 8000――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔(な……なんて力――!? これほどとは――!!)クラッ

衣「どうした……こまき! 次はオーラスだぞっ!! これくらいで膝をついている場合か……!! もっともっと遊ぼうではないかっ!!」

小蒔(そう……ですね――!! ここで《九面》様の力を引き剥がされるようではいけませんよね……!! 私も最後まで――戦うっ!!)ゴクンッ










              ドクンッ










小蒔(これが全力も全力です……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣「こ……こまきっ!! これは――」

小蒔(私もあなたに感謝しなければなりませんね、衣さん……ッ!!)

衣「ほう、一体何を感謝するというのだ……! 言ってみよ!!」

小蒔(あなたのおかげで……私も強くなれました――!!)ゴッ

衣「!!!?」ゾゾゾゾ

小蒔(オーラス……!! 皆さん、その力の限り抗ってくださいね。でないと、私が本気を出せません――)

衣「こちらはずっと全力で打っている……! 気にせず好きなように打て……!! こまきの本気を見せてみろっ!!」

小蒔(では……その両の目でしかとご覧ください。大丈夫です。そんなにお時間はかかりません。一瞬で終わらせますから――!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡:92700 衣:63700 小蒔:141400 霞:102200

 南四局・親:霞

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞(小蒔ちゃん……ここへ来て支配力が膨れ上がった……!? 信じられない!! 量り知ることも叶わない!! 一体何をしてくるというの……!?)タンッ

淡(もしかして、私って今かなり貴重な体験してる? 本物の神様と麻雀打ってんの? いいじゃん……! すっげーいいじゃん神代小蒔っ!!)タンッ

衣(こまき……恐れ入ったぞ! 如何ともし難し。万策ここに尽きた。この勝負……何から何まで貴様の勝ちだ、こまき――!!)タンッ

小蒔「ツモ……」パラララ

霞(え……?)

淡(い――?)

衣(まさに神の為せる業ッ!!)

小蒔「地和……九蓮宝燈……8000・16000」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞(親っ被り……とか、そういうレベルじゃないわね、これは。いや……本当に降参だわ。小蒔ちゃん、よくぞここまで……)パタッ

 二位:石戸霞・-29300(豊穣・86200)

淡(ち、地和でしかも九蓮っ!? あっりえなーっ!! これが《神の領域に踏み込む者》!? まったくもってお手上げだよーっ!!)

 三位:大星淡・-37000(煌星・84700)

衣「ふん……純正ではなかったか。修行が足りないぞ、こまき」

 四位:天江衣・-40000(劫初・55700)

小蒔「何を言うのです。衣さんが力任せに干渉してきたせいではないですか。
 結果は同じなのに有終の美を飾らせてくれないとは……相変わらず負けず嫌いで……すね――」フラッ

 一位:神代小蒔・+106300(逢天・173400)

衣「こまき!? 大丈夫か!!」ガタッ

霞「小蒔ちゃん……!!」ダッ

淡「ちょっ、マジでふらふらだけど……!?」バッ

小蒔「だ、大丈夫です……ちょっと、眩暈がするだけで、命に別状はないと思いますから……」

 バァァァァァン

泉「小蒔さああああああん!!」

玄「小蒔ちゃん!!」

小蒔「やや……これは泉さんと玄さん。それに――」

やえ「よう、神代。調子はどうだ?」

小蒔「小走博士……なぜ博士がここに――?」

霞「…………ふんふむ。小走さん、あとでちょーっと詳しいお話を伺ってもよろしいかしら?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ「いくらでも話してやるさ。ひとまず、神代を回復させてからな……」スッ

小蒔「それは……?」

やえ「《体晶》の中和剤だ。いいから口に入れろ。舌の上で転がしてよく味わえ。詰まるといけないから、丸呑みはするなよ」ヒョイ

小蒔「むぐっ!? ふむ……む……? なんだか、風味があって美味しいです」コロコロ

やえ「それが自慢」

玄「ど、どう……小蒔ちゃん……?」

泉「身体のほう、変化ありました?」

小蒔「え……ええ。あれ? なんでしょう……全然辛くありませんっ!? むしろとっても元気ですっ!!
 はわわわ……すごいっ!! さすが小走博士ですね!! さっきまでのあれが嘘のようです!!」

やえ「だろうよ。だって『嘘』なんだから」

小蒔「ほへ……?」

霞「……小走さん?」

やえ「プラシーボって知ってるか?」

小蒔「ぷ、ぷらしー……ぼ?」

やえ「ただの砂糖の塊を、薬だと言って風邪のやつに飲ませると、どういうわけか風邪が治ったりするんだなこれが。ま、詳しいことは自分で調べてくれ」

小蒔「えーっと……」

やえ「私がお前に渡した《体晶》。あれはただの砂糖の塊だ。そして、今飲ませた中和剤――ちょっと道中で霧島の連中に会ってな、上手そうな黒糖飴を持っていたから、一粒失敬してきた」

玄「こ、小走さん……つまり、どういうことなんですか?」

やえ「どういうも何も、初めから神代の能力を暴走させる薬など、私は作っていない。
 薬学は専門外だし、そもそも未認可の薬を服用させるなんて犯罪じゃないか」

泉「せやけど、小蒔さんは確かに《神憑き》の力を意識して使うてましたやん……!?」

やえ「と、後輩さんは言っているぞ? よかったじゃないか、神代。やっと、お前の望み通り、《神憑き》の力をお前自身のものにできたんだ。自分の意思を保ったまま能力を振るったご感想は?」

小蒔「と、とてつもなかったです……!! もう、身体が引き裂けるかと思いました!!」

やえ「そりゃまあ、よく訓練もせずに《八面》や《九面》を使ったらそうなるだろうな。
 次はもっと上手くやれよ。まずは《一面》や《二面》から慣れろ。やり方のコツは掴んだろ?」

小蒔「え……? ええっ!? そ、それ、なんか、まるで、お薬に頼らず今のがいつでもできるみたいな言い方ですけれど……!?」

やえ「そう言ったんだよ。お前は、プラシーボ効果があったとは言え、自ら《神憑き》の力を制御してみせた。
 それも、暴走状態のような不安定な力の行使ではない。睡眠下のそれとほとんど変わらないくらい、安定した能力使用。
 ちょうど、私が見ていたところが能力解析用の部屋だったから、諸々の数値を測らせてもらった。どれも非常によい具合だったぞ。
 今回は少々頑張り過ぎた感があるが、少しずつ身体を慣らしていけば、いずれは完璧に《神憑き》の力を制御できるようになるはずだ」

小蒔「そ、そんな……! 私が……私だけの力で、神様の力を使いこなした……!?」

やえ「無神論者の私に言わせれば、その力は元々お前自身のものだ。使いこなせないほうがどうかしている」

小蒔「小走博士……!! わ、私……本当にできるようになるんですか!? 今のが、もっと上手く、もっと自由に……!!?」

やえ「ゆくゆくは、な。本気で《神憑き》の力を自分のものにするつもりになったら、いつでも私の研究室に来い。万全の設備でバックアップする」

小蒔「明日にでも!!」

やえ「莫迦者。明日私は試合だ」

小蒔「そ、そうでした……!!」

玄「えっと……じゃあ、なにもかも、小蒔ちゃんが一人で全部やったってこと……?」

泉「すごいやないですか、小蒔さんっ!!」

小蒔「じ、自分でもまだ信じられません……!!」

霞(……ちょっと、小走さん)コソッ

やえ(おう、どうした。呪殺するならトーナメントが終わるまで待ってくれよ、頼むから)

霞(いえ……それは、まあそれ相応の報いを受けてもらうけれど、そうではなく)

やえ(なんだ?)

霞(……確かに、小蒔ちゃんの力は小蒔ちゃんのもの。けれど、それを《九面》様という形で縛っていた私たちの意図だって、小走さんならわかるでしょう?
 それくらい、小蒔ちゃんの力は強大過ぎるの。それを自由に扱えるなんてことになったら――)

やえ(なったら……どうなるというのだ?)

霞(小蒔ちゃんには誰も寄り付けなく――は、ならなそうね。まったく……あんなに楽しそうに……)

衣「こまきー!! 《九面》を上手く使えるようになったら、また衣と勝負だっ!!」

淡「私もっ!! 次は100回倒すからねっ!! 早くできるようになってよ、コマキ!!」

小蒔「はい! 必ずやっ!! けど、負けませんよっ!?」

玄「あーあー。また小蒔ちゃんが人間離れしていくよー。頑張ってね、泉ちゃん」

泉「ははっ、楽勝したりますよー!!」

やえ(悪いとは思ってる。しかし、詳細はあとで話すが、神代の頼みを無碍にはできなかったんだよ)

霞(事情はなんとなく想像がつくわ。けど、場合によっては、霧島までご足労願うことになるから、そのつもりで)

やえ(ほほう、お前らを育てた《神憑き》の総本山か。そのときが来たら、早めに教えてくれ。色々と計器を揃えねばならん)

霞(ああ……もう、本当に、祖母上様になんて説明したらいいのかしら……)

やえ「じゃ、私はこれで。誰になるかはわからんが、決勝のステージで会おう」タッタッタッ

玄「……と、そうだった。ここで終わりじゃないんだよね。まだ大将戦がある」

泉「お願いします、玄さんっ!!」

小蒔「あとは任せましたよ……玄さん!!」

玄「お任せあれっ!!」ゴッ

 ――――

 ――――

やえ(ふー……なんとか石戸には殺されずに済みそうだな――と)

憩「へ? 小走さん?」

やえ「おう、荒川か。奇遇だな」

憩「なんで……? ここは基本的に出場チームのメンバー以外立ち入り禁止ですよね?」

やえ「ちょっと緊急事態でな。無理を言って通してもらったんだ。すぐ出ていく」

憩「……小蒔ちゃんのことですね? ほんで……ああ、なるほど。大体わかりました。
 ほな、小走さんの性格的に、あれはプラシーボっちゅーわけですか。ホンマ憎いことしますねー」

やえ「すまんな。全くそんな意図はなかったんだが、結果として、お前らを窮地に追いやってしまった」

憩「気にせんといてください。確かに、ちょっと点差があるなーとは思ってますけど」

やえ「心にもないことを。今くらいの点差など、お前にとっては差じゃあるまい」

憩「なにゆーてるんですかー、小走さん? さすがのウチかてこの点差はしんどいですわー」

やえ「ん……ああ、そうか。そっちをまくるつもりなのか」

憩「そっち? まくらなあかんチームは一つしかないですよ?」

やえ「ああ、そうだな。そう……お前はそういうやつだ。これはしかし、久しぶりの感覚だよ。
 お前と話していると、時々、話が噛み合わなくなる。お前の『普通』に、私がついていけないのだ」

憩「いやいや、そんな謙遜せんでも。ま、せやけど、小走さんと会えたおかげで、ウチは自分の『普通』とちゃうところ、いっぱい認識できました。神経衰弱もその一つでしたね」

やえ「また懐かしいことを。よくそんなことを覚えているな――と、お前には『忘れる』という概念もないんだったか」

憩「あはっ。それ、あれですよね? 過去に見聞きした出来事がなぜか記憶から引き出せなくなってまうっちゅー、人類が未だ克服できひん最強の伝染病」

やえ「だが、この伝染病のおかげで、記録手段――文字が生まれた。以来、人類と伝染病は共存の道を歩んでいる」

憩「ただ、稀に抗体を持って生まれてくる人間もおるんですよね。ほんで、ウチはその一人やと」

やえ「これをジョークだと気付くのに、お前、一週間近くかかったよな」

憩「小走さんは普段とまったく変わらへん調子で冗談言うから敵いませんわー」

やえ「っと、引き止めてすまなかったな。ま、頑張れよ。私はまた高みの見物に戻らせてもらう」

憩「へえ、もう決勝の相手の偵察ですか? さすがですわー。ほな、江口さんや亦野さんも一緒で?」

やえ「いや、あいつらは、明日に備えて調整中だ。今日は私とネリーだけで来た」

憩「ほな、二人っきりで偵察デートってことですか?」

やえ「よしてくれ。そんなんじゃないよ」

憩「またまた~、照れんでもええですやーん」

やえ「照れてなどいないって」

憩「ふむふむーぅ……?」ジー

やえ「……どうした?」

憩「『二人っきり』やないってことですか。っちゅーことは――ああ……なるほど…………」

やえ「お、おい、荒川――」

憩「……元々負けるつもりなかったですけど、負けられない理由が一つ増えました。おおきにです、小走さん。
 ほな……よろしくお伝えください。失礼します……」タッタッタッ

やえ(……諸悪の根源、か。この様では、それも否定できんな……)フゥ

 ――――

 ――――

尭深「お疲れ様です、石戸先輩」

霞「疲れたわ……本当に疲れた」

尭深「宥さんが、お茶を淹れています。控え室に戻ったら、ゆっくり休んでください」

霞「ありがとう。それと……一位とかなり離されてしまったわ。力及ばずでごめんなさい」

尭深「とんでもない。あの荒れ場の中で、先輩は二位をキープして、その上《劫初》との差も広げてくれました。神代さんは想定外でしたが、当初の予定からさほどズレているわけではありません」

霞「三回戦を突破しつつ……一番恐い《劫初》を、ここで敗退させる」

尭深「まあ、荒川さん相手にどこまでできるかわかりませんが……。それに、私、公式戦で自分より格上の能力者と打つのは、これが初めてですし。不安要素はたくさんあります」

霞「あなたなら大丈夫よ、尭深ちゃん」

尭深「そう言っていただけると……」

霞「私も、美穂子ちゃんも、竜華ちゃんも、もちろん宥ちゃんも。みんな信じているわ。あとはお願いします――リーダー」

尭深「はい……頑張ります……!!」

 ――――

 ――――

淡「キーラーメー!!」ガバッ

煌「おやおや。いい子だから離してください、淡さん。対局室に行かなければなりません」

淡「ちょっとくらいいーじゃんっ!!」ギュー

煌「仕方ありませんねぇ……」ナデナデ

淡「ふみゅぅぅ……幸せっ!!」

煌「なにか、言っておくことはありますか、淡さん」

淡「三位になってごめん!」

煌「構いませんよ。二位とはさほど離れていませんし」

淡「あと……私、エース降格ですか……?」

煌「なぜ敬語っ!? い、いえ、大丈夫です。《煌星》のエースは淡さん以外にいません。
 淡さんが無理だと言うのなら、咲さんに代わってもらいますけど。いかがです?」

淡「それだけは死んでも嫌っ!!」

煌「なら、問題ありません」

淡「……あとは任せていい、キラメ?」

煌「いくらでもお任せください。私は《煌星》の大将で切り札ですから。負けませんよ、《絶対》に」

淡「うん……っ! そうだねっ!! じゃあー、ヨロシク!!」

煌「はい。では、行って参ります――!!」ゴッ

 ――――

 ――観戦室

やえ「戻ったぞ」

塞「出た! 化けて出た!!」

ネリー「むっ!? けど、足があるよ!!」

照「なむあみおだぶつ」

やえ「おい、勝手に人を殺すな」

塞「で、結局、神代は大丈夫なわけ?」

やえ「ああ。遠からず、さっきの状態が神代にとっての普通になるぞ」

ネリー「マジでーっ!?」

照「大変だ」

やえ「決勝で当たるとしたら対策を練らんとな」

ネリー「決勝かぁ。どこが上がってくるのかなー?」

塞「随分と上から目線なのね、ヴィルサラーゼさん」

やえ「それくらいの余裕がなければ、反対ブロックの偵察なんかには来ないさ」

照「点数的に、一位通過の最有力は《逢天》だけど」

塞「わからないわよねぇ。最下位にいるのは《悪魔》だし、他の三人に至っては、なんと全員レベル5」

ネリー「第一位から第三位まで勢揃いだもんね。この運命は読めないなぁー」

やえ「トップ通過は本命、《逢天》。次点、《劫初》。三番手に《豊穣》。大穴《煌星》ってところだな」

塞「次点が《劫初》? トップまで十二万点差もあるのよ?」

やえ「荒川は先ほどの神代や天江と並び称される二年《三強》の《悪魔》にして、学園都市のナンバー2だ。
 臼沢、まずは宮永があそこにいると思ってみろ。トップとは十二万点差。まくれるか否か」

塞「まくれるでしょ。宮永は強いもん」

照「て、照れる……///」

やえ「その宮永に、この学園都市でもっとも肉薄した雀士。それがナンバー2……荒川憩だ。
 そして、たぶん打った本人たちのほうがよくわかってるだろうが、ナンバー1と2――両者の距離は、2と3の距離より遥かに近い」

塞「え……? そ、そうなの、宮永?」

照「……うん」

ネリー「えっ、待ってよ。ナンバー3はさとはなんだよね? 今の言い方だと、てるとけいの二人と、さとはの間に、なんか溝があるみたいな感じだけど?」

やえ「信じられないなら、辻垣内に聞いてみればいい。学園都市のナンバー1と2の強さは、3以下とはまったくの別次元だ」

ネリー「嘘でしょ? けいってそんなに強いの?」

塞「ね、本当に小走の言う通りなの、宮永?」

照「うん……まあ、荒川さんはかなり《特例》だから。なんだろう、もし、私が千年に一人の逸材だとすると――」

塞「さらりと自慢が入ったわね」

照「荒川さんは、人類史上唯一無二の逸材だと思う。過去にも未来にも、荒川さんみたいな人は、きっといないし現れない」

ネリー「そこまでかー。だとすると、確かに、さとはにはちょっとキツいかもね」

やえ「で、どうだ、臼沢。荒川は、ここから十二万点差をまくれるか否か?」

塞「逆に本命な気がしてきたわよ。そんなヤバいやつを次点に置くって、あんた、よっぽど松実を評価してるのね」

やえ「松実は、荒川、天江、神代と毎日のように打って、精神崩壊しなかったほどの雀士だからな。
 さっきの副将戦の神代と天江の大暴れ、そこに荒川を加えた地獄の釜に放り込まれて、五体満足で生き残ったようなやつだ。ちょっと想像してみれば、その偉業のほどがわかるぞ」

塞「想像した。なにこれ尊敬するんだけど。私なら五百回くらい死んでるわ」

やえ「まあ……そうは言っても、私としては、荒川が本命だと言いたいんだがな。松実もそうだし、渋谷も強いのはわかる。レベル5であることを差し引いてもだ」

照「尭深はできる子」

やえ「そして、さっきちらっと会って話したのだが、荒川はトップをまくる気でいた。あいつは算段がつかないことは口にしない。あいつが『まくる』と言ったのなら、それは『まくれる』んだ。
 そうなると、宮永以外に止められる雀士が思い浮かばん。これが例えば半年前なら、私は荒川の勝ちを確信していただろう」

照「半年前……そのとき、学園都市に、まだ彼女はいなかった」

塞「あの理事長が人類史上最高と称する……レベル5の第一位」

ネリー「《通行止め》――はなだきらめ」

やえ「その能力は依然として不明。あいつがどう結果に絡んでくるのか。それ次第では、想像を絶するが、荒川がここで敗退する可能性すらある」

照「……いや、それはさすがにないと思う。尭深には悪いけど、荒川さんが決勝に行くのは、もう間違いのないこと」

やえ「どうしてそう思う?」

照「菫が彼女を選んだから」

やえ「……なるほどな。ああ、そういえば、荒川がお前に『よろしく』と言っていたぞ」

照「な、何をだろう……?」

やえ「さあな。と……始まるようだぞ。いよいよA・Bブロック三回戦も大詰め。
 超能力者《レベル5》の上位三人と、学園都市のナンバー2――最強にして《特例》の無能力者。
 最初に勝ち名乗りを上げるのは、果たして誰になるのやら……」

 ――対局室

玄「よろしくなのです!」

 東家:松実玄(逢天・173400)

煌「よろしくお願いします」

 南家:花田煌(煌星・84700)

尭深「よろしく……」

 西家:渋谷尭深(豊穣・86200)

憩「よろしくなー」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:荒川憩(劫初・55700)

『大将戦前半……開始ですっ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

砂糖の塊は砂糖の塊だけどそれ一年前にもらったやつじゃ……(学園都市の科学力なら無問題!)

次回は一週間以内に更新します。

では、失礼しました。

 東一局・親:玄

憩(さーて……この怪物どもを相手にしながら、十二万点差をひっくり返さなあかん。どう戦ったらええもんか)

 北家:荒川憩(劫初・55700)

玄「」タンッ

 東家:松実玄(逢天・173400)

憩(玄ちゃん……レベル5の旧第一位――《ドラゴンロード》。《全てのドラが玄ちゃんに集まる》常時発動型の全体効果系能力者。花田さんが転校してくるまでは、玄ちゃんが学園都市最高の能力者やった。
 一年生の頃は、ウチと衣ちゃんと小蒔ちゃん……《三強》に混じって《4K》の集いをしとったな。最初こそボロ泣きで帰ってばっかやったけど、最後のほうは、半ベソくらいで耐えとった。
 正直、点差があろうとなかろうと、ウチはこの卓で一番の障害は自分やと思っとんで、玄ちゃん……)

煌「」タンッ

 南家:花田煌(煌星・84700)

憩(花田さん。レベル5の第一位――《通行止め》。対局の後半に、他家の和了りを止めたり、場そのものを凍結させたりする傾向がある。たぶん封殺系か全体効果系の能力者。衣ちゃん曰く、小蒔ちゃんと同じかそれ以上の超危険人物とのこと。
 ひとまず、前半は比較的自由に打てるっぽい。どこで止められるかわからへんけど、止められてもーたら抗えんのやから、なるようになるしかあらへんよな)

尭深「」タンッ

 西家:渋谷尭深(豊穣・86200)

憩(渋谷さん。レベル5の第三位――《ハーベストタイム》。《東一局からラス前までの第一打がオーラスの配牌として戻ってくる》配牌干渉系能力者。言わずと知れた元一軍《レギュラー》。白糸台のレベル5の代表格。
 打ち筋の傾向としては、自分の親で連荘を狙いたがる、或いは親に差し込むことがある、くらいで、他はそこまでクセがあるわけやない。地力は高い。菫さんが《虎姫》にスカウトしたほどの雀士や。隙はなかなか見せへんやろ。
 ほんで、《豊穣》の方針的に、恐らくウチをここで落とそうとするはずや。状況的には、玄ちゃんより渋谷さんを先に攻略せなあかんやろな)

憩(大仕事や……けど、ウチが負けることはありえへん。勝つのは決定事項。レベルなんて関係ない。さっきの小蒔ちゃんやって倒してみせる。ウチは学園都市のナンバー2――宮永照以外には決して負けへん雀士なんやから……)

憩(宮永照……小走さんと一緒に見とるんやろ? ほな、よーく見とけ。今の菫さんの傍におるんが誰か。そこはもう自分の居場所やない。ウチの居場所やッ!!)タンッ

憩(さあ……どっからでもかかってこい、レベル5――!!)ゴッ

 ――――

 ――――

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(憩さん……やっぱり、私をまくる気満々。まあ、わかってたけど。小蒔ちゃんの言う通り、副将戦でトばす以外に、チーム《劫初》に確実に勝つ方法はなかった。すごいプレッシャーを感じるよ……)

玄(でも、簡単にはやられてあげないから。小蒔ちゃんがあれだけの覚悟を見せたんだ。憩さんだから負けても仕方ないなんて、そんな風には思えないよ。意地でもトップ通過してやろうって思うよ)

玄(憩さん……憩さんは、最初から強さ100だったよね。よくも悪くも、憩さんは一年生の頃から変わってない。けど、私は変わったんだよ。あの頃は強さ1だったけど、今は……強さ5くらいにはなってるんだよ)

玄(見せてあげる。私があれからどれだけ強くなったのか。今日という今日こそ、あの頃の借りを返すよ。この対局が終わったとき、涙目になってるのは……私じゃなくて、憩さんのほうなんだからっ!!)タンッ

煌「ロンです。1300」パラララ

憩「――!?」

玄「はい」チャ

憩(く、玄ちゃんが……差し込みやと――?)

玄(できるよ、差し込みくらい。いっぱいいっぱい、勉強して練習したんだもん)

憩(これは――計算し直さんとあかんな……)

煌「次は私の親ですね」コロコロ

玄:172100 煌:86000 尭深:86200 憩:55700

 東二局・親:煌

憩(あかんな。玄ちゃんが思うてた以上に強くなっとる。二回戦の牌譜見て、福路さん相手によう頑張っとるやん――とか思っとったけど、あれ、本気やなかったんやな)

憩(今の玄ちゃんは、軽く流して打っても、昔の玄ちゃんより強い。ほな、本気で打ったらどれだけ化けるん? スパルタやったけど、一応玄ちゃんの育ての親を気取るウチ的には……楽しみでもあり、恐怖でもあるな)

煌「」タンッ

憩(と、花田さんが張ったか。ダマで親満。ここらへんの手作りの上手さは、《ステルスモモ》に通じるとこがあるな。本家ほどやないけど、十分二軍《セカンドクラス》級の実力やで)

玄「」タンッ

憩「ポン……」

憩(打点を下げず、手を進めて、追い抜く――!!)タンッ

玄「チーです」タンッ

憩(な――? 赤含みの456? ちゅーか、それ喰い替えやん。玄ちゃんはそもそも手牌が縛られるから鳴かへんのに、それも手を崩す鳴き? 玄ちゃん……自分まさか……!?)

玄(憩さんのやり口を一番よく知ってるのは、この私だよ。憩さんにたくさん教えてもらった洞察スキル。人間なら誰でもやってしまう無意識のクセ。
 《悪魔の目》を持っていても、憩さん自身だって人間。なら、憩さんをじっと見ていれば、少しだけど、私にもあなたの考えてることがわかる……)

煌「ツモです。4000オール」パラララ

憩(これは……ウチが花田さんのツモをズラしたんが見抜かれたんか……!? しかも――)

玄(親の花田さんのツモなら、私と憩さんの点差は変わらない。でも、局数が増えるということは、その分だけ尭深ちゃんが役満を和了る確率が上がるということ。そして今回のラス親は……)

憩(ラス親はウチや。渋谷さんにオーラスで役満ツモられると、ウチと玄ちゃんの差が8000点開く。この局だけ見れば4000オールで痛み分けで、点差は変わらへんけど、全体の期待値はちゃう。
 玄ちゃんは、間接的にやけど、これでウチを突き放した。いや、それだけやないな……!)

玄(花田さんと尭深ちゃんの点数が増えると、一番困るのは最下位の憩さん。
 今の花田さんの和了りで、憩さんは二位の《煌星》と16000点差がついた。さらに、尭深ちゃんの役満が濃厚になってくれば、三位の《豊穣》とは48000点差ができたようなもの)

憩(ウチと玄ちゃん……一位と四位の点差を変えずに、相対的に、二位・三位と四位の開きを大きくした。なんちゅー悪賢さ。これがあの純粋無垢やった玄ちゃんのやることか? ウチ並みに非道やん……!!)

玄(どうかな、憩さん? これが《悪魔》にスパルタ教育を施された人間の末路――《小悪魔》になっちゃった今の私だよっ!!)

憩(ええやん、玄ちゃん。前々から、自分は少し小悪魔チックなほうが魅力的やと思っとったんや。ウチ好みに育ってくれておおきに。
 せやけど……ちょーっと今のはあかんな。噛み付く相手はよく選びや……またボロボロにしたんで……ッ!!)

煌「一本場です」コロコロ

玄:168100 煌:98000 尭深:82200 憩:51700

 東二局一本場・親:煌

煌「チーです」タンッ

憩(おいおい玄ちゃん……またそんな花田さんのサポートみたいなことしよって……)

玄(花田さんに和了られる分にはさほど問題がない。小蒔ちゃんが作ってくれた貯金の有効活用だよ)

煌「ロンです。3900は4200」パラララ

憩(ちょい――?)

尭深「……はい」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(渋谷さん……自分もか!?)

玄(尭深ちゃん、ナイス!)

尭深(トップ通過はあなたに譲るよ、玄ちゃん。だからと言ったらあれだけど、《悪魔》祓いのお手伝い、よろしくね?)

玄(任せて。憩さんをここで落としたいのは、こっちも同じだから)

憩(《爆心》のリーダーと副リーダー……白糸台の《生ける伝説》が二人揃ってウチ潰しやと……? これで、また一歩渋谷さんの役満が完成に近付いた。超能力者のそれを止めることは誰にもできひん。
 これは……オーラスで役満は決まったと思ってええやんな。ええわ。なら、そういう打ち方に変えるまで……!!)

煌「二本場です」コロコロ

玄:168100 煌:102200 尭深:78000 憩:51700

 ――観戦室

塞「利害が絡み合ってるわねぇ」

やえ「松実と渋谷は荒川を抑え込むつもりのようだな」

ネリー「抑え込めるのかなー?」

照「うーん」

塞「渋谷の役満が決まったもんだと考えると、《悪魔》の最下位脱出はなかなか遠そうな感じするけどね。
 花田はちょっと読めないとして、松実だって、点数減らしてるけど、あいつなら一発で取り返せるし。なんたって《生ける伝説》だもん」

照「それに、松実さんはドラを独占して他家の平均打点を下げる。尭深はオーラスがあるからいいけど、無能力者の荒川さんは打点を上げるのが大変なはず」

やえ「語るじゃないか、経験者」

     憩『ツモ……2200・4100』

ネリー「リーチかけるとズラされそう……って判断かな。どうせツモれるってわかってるなら、ほとんど点数変わらないし」

やえ「裏ドラも乗らないことがわかってるしな」

塞「げっ。あの《ドラゴンロード》、裏ドラも支配領域《テリトリー》なわけ?」

やえ「裏ドラもカンドラもカン裏も例外はない。《全てのドラは松実に集まる》んだから」

照「松実さんが手牌を晒すかドラを切るかしない限り、他家は《絶対》にドラを見れない」

塞「あれ……? でも、前に宮永が松実に一発喰らったとき、あいつリーチかけてたけど、裏は宮永の手になかった?」

照「あれは、直前に松実さんがドラを切ったからだよ」

塞「ふむ……?」

やえ「松実の能力は、ドラを切った時点でその効果を失うんだ。当然、その瞬間から裏ドラはあいつの支配領域《テリトリー》ではなくなる――失礼……この言い方は正確ではないな。
 まるでドラを切るとあいつの支配領域《テリトリー》が消滅するみたいだ」

塞「は? 消滅するんでしょ?」

やえ「違う。松実のドラ支配は――あいつの支配領域《テリトリー》は、ドラを切ろうが切るまいが永続不変。ただ、ドラを切ると、その時点から能力の効果が全く逆に切り替わるってだけだ」

ネリー「ふーん?」

やえ「あいつがドラを切ると、今度は《全てのドラが松実に集まらない》能力になる。だから、松実に裏が乗ることはなく、宮永の手に入った。
 いずれにせよ、ドラは頑として松実の支配領域《テリトリー》にあるし、能力の効果は《絶対》だ」

照「まさしく《ドラゴンロード》」

塞「っていうか、小走、詳し過ぎない?」

やえ「知っていると思うが、松実と渋谷と鶴田、それに園城寺の強度測定は私がやった。あいつら自身よりあいつらの能力に詳しいという自信がある」

照「高鴨さんの強度測定も小走さんだっけ?」

やえ「ああ。だが……あいつのはわからん。わからん上に、他のレベル5と打たせて強度測定しようとすると、あいつの『何か』がレベル5の支配領域《テリトリー》を侵食する。
 危険過ぎて分析したくてもできんのだ。能力論的には《原石》でもなんでもない。解析不能の暗黒物質ってとこだな」

塞「高鴨ってそんなヤバいやつだったんだ……」

照「ちなみに、花田さんの強度測定は?」

やえ「それをしてたら、こんな食い入るようにあいつを見てないさ。花田煌――あいつに関しては、理事長が言った『レベル5が一人増えた。序列は第一位』以外の情報が何もない」

ネリー「やえ、本当に、きらめだけはマズいんだよ。マジでヤバいんだって。世界を閉ざすんだって、きらめは」

塞「それ……高鴨も同じようなこと言ってなかった?」

照「うん」

やえ「今のところは、よく訓練されたデジタル、くらいの印象なんだがな。二回戦で天江相手に見せたあの《通行止め》――なかなかどうして尻尾が掴めん」

     尭深『ロン、3900』

     玄『はい』

ネリー「おっ、またくろが差し込んだ。しかも親。しかもたかみ。完全に役満アシストに回ってるんだよ」

塞「あいつらの目的は一緒。荒川をここで落とすこと、かぁ……」

     尭深『チー』

     憩『ロン、3900は4200』

     尭深『……はい』

照「その荒川さん、一回目の親」

やえ「ここまで来たら連荘するだろうな。オーラスで渋谷の役満を親っ被ることを覚悟して、それ以上に稼ぐつもりだろう」

     憩『ツモ……2000オール』

 ――対局室

 東四局一本場・親:憩

玄(憩さん……親を手放すつもりはない、か。けど、いいのかな? ドラがない状態で、どこまで打てる……?)

 南家:松実玄(逢天・160000)

憩(ドラがなんやねん。ドラがあらへんからこそ、点数が五割増しになる親で連荘を狙うんやんか。あんまウチをナメたらあかんで、玄ちゃん……)

 東家:荒川憩(劫初・70400)

玄(止める……!!)

憩(止められるか……!!)

憩「ロンッ! 12300や……!!」ゴッ

尭深「(うっ……まくられた。さすがにこれは痛い)はい」

憩(渋谷さん……好きなだけ種蒔きするとええわ。せやけど、可哀想に。この大将戦前半、自分は実りを収穫できひん。なぜなら――この対局にオーラスは来ーへんからっ!!)

玄(憩さんっ!! ここで試合を終わらせるつもり……!? そんな無茶な!?)

憩(無茶かどうか、その目で確かめや、玄ちゃん!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄:160000 煌:96100 尭深:61200 憩:82700

 東四局二本場・親:憩

玄(かなりマズいよ……ドラ以外で切れるところがない……)チラッ

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(けど、ドラを切るわけにはいかない。わかってる。これが憩さんの揺さぶりだってことは。なら……せめて安いほう――)タンッ

憩「……ロン。7700は8300」カチャカチャパラララ

憩(あくまでドラを手放さへん、か。なら……その大事なところ以外、全部ひん剥いて丸裸にしたるわ……!!)

玄(憩さん……私の能力の弱点を的確についてくる。けど、私の能力は、弱点ばっかりじゃないよ。
 《全てのドラは私に集まる》――その恐ろしさ……《ドラゴンロード》の真の力を見せてあげるっ!!)

玄:151700 煌:96100 尭深:61200 憩:91000

 東四局三本場・親:憩

玄(私のドラ支配。花田さんは例外として、尭深ちゃんや姫子ちゃんでも破れない《絶対》の力。その効果は、小走さん曰く、《私が手牌を晒すかドラを切るかしない限り他家はドラを見れない》)

玄(憩さんや宮永さんくらい和了巡目が速いと、あんまりその恐ろしさは前に出てこない。けど、巡目が進むにつれて、他家が目にした牌の種類が増えるにつれて、だんだんと、私のドラ支配の縛りがきつくなっていく)

玄(今回、憩さんは私をまくる気でいる。それに、尭深ちゃんの役満親っ被り分もどうにかしないといけない。
 普段なら速攻でバンバン連荘されるけど、今の憩さんは少し高い手を狙ってる。それもドラ抜きで。つまり……その分だけ、和了巡目が遅い)

玄(ただ、憩さんのことだから、他家に先を越されないっていう確信があって、わざと遅くしてるんだ。こっちが速攻で流そうとすれば、打ち方を切り替えてくる。二重三重に保険をかけて、ひたすら最高効率で点を稼ぐ)

玄(まあ、わかってたけど。《悪魔の目》を持つ憩さんを止めることは、普通はできない。能力で憩さんに見えていた牌を《上書き》して出し抜くとか、憩さんの意図の裏を掻くとか。思いつくのはそんなところ)

玄(私のドラ支配は常時発動型だから、決まったところで意図的に《上書き》を起こすのは、かなり難しい。
 山が持ち上がった段階で、ほとんど全てのドラが私のツモるところにある。そして、それはもう憩さんに見抜かれてる。出し抜くことはできない)

玄(けど……憩さんは知らないはずだよね。私のドラ支配は、やり方次第で、ドラ以外を支配領域《テリトリー》にすることができる。
 《私が手牌を晒すかドラを切るかしない限り他家はドラを見れない》から、こういうことも――可能になるんだよっ!!)

憩「(これならズラされてもズラされへんでも和了れる……!!)リーチやっ!!」タンッ

 憩手牌:九九789①②②③③⑦⑧⑨ 捨て:⑤ ドラ:2

玄「それ……ッ!!」ゴッ

憩(は……? まさか!? 振り込むところは切ってへんはず――)

玄「カンです!!」パラララ

 玄手牌:三四[五]122223[5]/(⑤)[⑤][⑤]⑤ 嶺上ツモ:? ドラ:2・?

憩(カ……ン――!? 玄ちゃんが自らカンやと!? アホな! 自分からドラ増やして自分から手を縛って……なんでそないな――)ハッ

玄(甘いよっ、憩さん! 憩さんの目なら、私よりもずっと、この場が見えているはずだよね。
 よーく見渡してみて。今、この場、この瞬間――表ドラ以外の牌で、四枚全てが私以外の目に触れてない牌が残っているかどうか!!)

憩(こ、これ……そういうことなんか……? ウチが高いの狙って遅くなっとったせいで、表ドラ以外の牌が、全種類、玄ちゃん以外の誰かしらの目に入っとる。
 ほんで、玄ちゃんが手牌を晒すかドラを切るかせーへん限り、ウチらはドラを《絶対》に見れへん。なら――)

玄(私のドラ支配は《絶対》。その支配から逃れるドラは存在しない。表ドラの二索以外が誰かしらの目に触れている以上、ここから二索以外のドラが増えることはない。そして……!!)

憩(ドラ表示牌もウチからは既に四枚見えとる! せやから、ドラが重なる可能性もない。やとすると、玄ちゃんの大明槓で、ドラは増えへんことになる。ほな、何が起こるか……!?)

玄(大明槓をしたのに、新しいドラが増えない。どういうことになるか、わかるはずだよね。大明槓のドラは後めくり。めくらないようにするには――今ここで私が和了るしかない……!!)ツモッ

憩(ウチに見えとった嶺上牌が――玄ちゃんの支配領域《テリトリー》に取り込まれて、《上書き》されるやと……!?)ゾッ

玄「ツモ! 嶺上開花ドラ四赤四――16900……責任払いですッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(リー棒も持っていかれた!! 玄ちゃん……ホンマか!? ホンマにこれを狙ってやったんか……!?)

玄「憩さん、一回の親番で試合を終わらせようとか、ナメたことを考えているのは憩さんのほうですよ。
 憩さんは確かにナンバー2。けれど、私だって、同じ二番なんです。私のレベルと序列――知らないとは言わせません」

憩「レベル5の、第二位やんな……」

玄「そう――憩さん、これがレベル5です。自らの能力を《絶対》と誇ることを許された、学園都市に七人しかいない超能力者。
 今、憩さんの周りにいるのは、その超能力者《レベル5》の……上位三人です」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

尭深「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「っ!!?」ゾワッ

玄「私たちの《絶対》は――神にも悪魔にも侵せない」

憩「言ってくれるやん……っ!!」

玄「さあ、憩さん。わかっていると思いますが、この前半戦、もう憩さんの親番はありません。憩さんが和了れるのは、南一局から南三局までの最大で三回まで。そうだよね、尭深ちゃん?」

尭深「……うん。《絶対》に」

玄「私との点差は最初に比べてまだ半分にもなっていませんよ? さらにオーラスでの役満親っ被りも確定事項。どうするつもりですか……?」

憩「……ブチ抜いたるわ」

玄「できるものならどうぞ。ちなみに言っておきますが、この場には、私と尭深ちゃんより『上』がいるということも、ゆめゆめお忘れなく」

煌「これはこれは……恐縮です」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「ええやん……!! やっぱ自分ら最高やわ、超能力者――レベル5ッ!!」

玄:169600 煌:96100 尭深:61200 憩:73100

 南一局・親:玄

憩(これはあかんな……思うてた以上に怪物の見本市。正直、能力だけなら敵やない。ドラが来ーへんでも、オーラスで役満ツモられても、そういうシステムくらいに考えて打てばええ。
 せやけど……その能力を持っとる玄ちゃんたちが、普通に強いとなると、また話は別や)タンッ

憩(まったく。能力者の最上位三人に対して、こっちは底辺一人やで。多少の隙くらいは見せてーな。ウチは《悪魔》やけど無能力者《レベル0》なんやから――)タンッ

憩(無能力者《レベル0》なんやから――『偶然』こないな手が入ることもあるな……?)

 憩手牌:1122334456789 ドラ:二

憩(ほんで、『偶然』高めをツモってまうことも、当然あるやんな……ッ!!)ツモッ

 憩手牌:1122334456789 ツモ:白 ドラ:二

憩(は――?)ゾワッ

玄(憩さん……? 何か計算違いが? まあ、私的には助かったけれど)タンッ

煌「ロンです。1000」パラララ

玄「はい」チャ

憩(なんや……今の。四索をツモれるはずやったのに、その四索が一つズレて、玄ちゃんのとこに行った? ほんで、抱えられて、そのまま差し込みで局が流された……?)

煌「次は私の親番ですね」コロコロ

憩(今のは間違いなく《上書き》――玄ちゃんでも渋谷さんでもないなら、花田さんの能力が発動したってことやんな……!? ウチのツモ和了りが……《通行止め》された――?)ゾクッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(現状……玄ちゃんも渋谷さんも花田さんも、基本的にウチのテンパイ気配を感じたら、現物でベタオリしてくる。出和了りするとしたら、玄ちゃんをドラでハメるとか、そんなんしか思いつかへん。
 それやのに、レベル5の強度でツモ和了りを封じられてもうたら……そんな――ウチ、どうやって点を取ればええねん……!?)

玄:168600 煌:97100 尭深:61200 憩:73100

 南二局・親:煌

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(何しとるんかわからへんけど……とりあえず張った。これでまたツモれへんとなると、完全にド壷やけど)ツモッ

憩(んな……っ! ド壷……ハマってもーた――!!)タンッ

玄(よくわからないけど、憩さんがまた大きいのを張ってるような気がする。どうしよう。局数的にもう差し込みは必要ないんだけど……私の手が窮屈になってくる前に、潰しておこうかな)タンッ

煌「ロンです。1500」パラララ

玄「はい」チャ

憩(また一位・二位で点棒のやり取り。親の連荘でもっぺんチャンスが来たのはええけど、今ウチはようわからん《通行止め》状態になっとる。これが解除されへん限り、何局やっても結果は変わらへんで……!!)

玄:167100 煌:98600 尭深:61200 憩:73100

 南二局一本場・親:煌

憩(ちょ、嘘やん……! これ、もう中盤過ぎたで? 入ってくるはずやった有効牌が全部《上書き》されとる。これはあれか、衣ちゃんがハマっとった、全員《一向聴地獄》……!?)タンッ

憩(あかん。このままやと、ノーテン流局にされてまう。玄ちゃんの言う通り、ウチに和了れるのは、この花田さんの親と次の渋谷さんの親での二回きり。
 こんなとこでノーテン流局なんて――無為に局を消費してたまるかっ!!)

憩「チーッ!!」タンッ

憩(よし……っ!! これで、次巡にテンパイ! ちょっと安いけど、これなら玄ちゃんから直撃取れる。とにかく一点でも差を詰めな――)ツモッ

憩(ま、た……《上書き》!?)タンッ

玄(鳴いてズラしたのに憩さんがツモ切り……? ってことは、このノーテン……二回戦で衣さんをテンパイさせなかったあれなのかな。
 ノーテン流局で場が流れるなら、私にとっては好都合。ここは花田さんに任せる。間違っても憩さんの有効牌は切らない……!)タンッ

憩(そら……まあ、衣ちゃんでも無理やったんやから、無能力者のウチに逆らえる道理もないんやろけど。それにしたってひど過ぎるやろ。希望の道が閉ざされる……海の底が……見えてくる――)タンッ

 ――流局

玄・煌・尭深「ノーテン」パタッ

憩「……ノーテンや」パタッ

玄(よし……っ! これで憩さんが和了れるのはあと一回だけ。ドラ抜きで数え役満なんてさすがに無理だろうから、前半はこのまま直撃に気をつけてオリ切る……!!)

憩(原因がわからへんから対策ができひん。和了りだけやない。テンパイまで封じられとる。
 封殺系にしても効果がブレブレや。限定やったり広域やったり。その上自分までノーテンなんやろ? 全体効果系ともちゃうよな。わっけわからん……!!)

玄:167100 煌:98600 尭深:61200 憩:73100

 南三局流れ二本場・親:尭深

憩(は……? この局はテンパイできるやと? どうなっとん? ウチもそうやし、渋谷さんも張った。ノーテン流局やったんやから、親が変わった以外は条件一緒やのに。一体なにがどうなっとん……?)

憩(さて……ほな、ツモもできるようになっとったらええんやけど――結果は)ツモッ

憩(………………また《上書き》かッ!!)タンッ

憩(っちゅーか、あかん、このままやと渋谷さんがツモってまう。せやけど、ウチがツモれへんかったんやから、渋谷さんかて――)

尭深「ツモです。1300は1500オール」パラララ

憩(……っ!? ?! !!?)

玄(憩さんが動揺してる……? 私にはまったく見えないけど、そんなに大変なことになってるの、この場……)

憩(ぐちゃぐちゃや……なんやこれ、《通行止め》なんて生ぬるい。迷路やん。出口のない地下迷宮や。ウチの《悪魔の目》にも暗闇しか映らへん。どういうことやねん――)

        ――花田煌……あれは世界を閉ざす者だ。

憩(こういうことなんか……衣ちゃん……?)

   ――世界を閉ざし、闇で覆い、あらゆる希望……そこへ至る無限の道程を一切に断絶する。

憩(これが……《通行止め》ッ!!)

     ――あれが天上へ上り詰めたとき、この世は絶望に支配されるだろう。

憩(花田……煌――ッ!!?)ゾクッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄:165600 煌:97100 尭深:65700 憩:71600

 南三局三本場・親:尭深

憩(ってぇー!! 今度はツモれるんかーいっ!!)

憩「ツモや……2300・4300」カチャカチャパララ

憩(こんなことならリーチ掛けとけばよかったわ。満貫8000点の三本付け……こんなん、次で全部パーにされてまうっちゅーのに……!!)

尭深「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(どいつもこいつも……無能力者をなんやと思っとん!! 好き勝手《上書き》しよってからに――!!
 けど、渋谷さんは配牌干渉系能力者や。絶対に役満を和了れるんとは違う。ほんで、《ハーベストタイム》の効果は一度っきり! つまり……!!)

憩(この南四局……ここでウチが和了れば、そこからはやりたい放題っちゅーわけや。見とれよ、レベル5……ウチは屈さへんで。ナンバー2の力、その身に刻んだるわ……!!)

玄:163300 煌:94800 尭深:61400 憩:80500

 南四局・親:憩

憩(とか意気込んだはええものの……相変わらず反則級の超能力やな、《ハーベストタイム》)チラッ

尭深「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 尭深配牌:東東南南白白白發發發中中中 ドラ:7

憩(トリプル役満テンパイ――東一局からラス前まで十五局。役満はあるもんとして打ってきたから、この超配牌は想定内や。こうなるっちゅーことはサイコロ振る前からわかっとった。他の二人もそうやろ)

憩(あとは、渋谷さんにツモらせないようにしつつ、先にウチが和了る。最悪、テンパイ流局でもええ。なんとかしてここを凌ぐ……!)

憩(ほな、全速力で流していこか!!)タンッ

玄(尭深ちゃんは東・南待ち。これに振り込まないのは当然として、憩さんの早和了りをどうにかしなきゃいけない。尭深ちゃんがツモってくれれば計画通りなんだけど、憩さんならズラしてくるよね……)タンッ

煌(渋谷さんの役満ツモと、荒川さんの連荘……私の立場的に、どちらのほうがお得なのでしょうね、この場合)タンッ

尭深「」タンッ

憩「ポンッ!」タンッ

憩(よし、これでズレ――)ハッ

尭深(無駄です……)ズズ

憩(え、ちょ――なんや、これ!? どういうことや、なんでこのタイミングで……!!?)

尭深(言ったはずですよ……私の実りは《絶対》だと――)スッ

憩(《上書き》……!!?)ゾクッ

尭深「……ツモ」パラララ

憩(そ……んな――!?)

玄(いつ見ても綺麗……!!)

煌(すばらです)パタッ

尭深「字一色大三元四暗刻――8000・16000です」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 尭深手牌:東東南南白白白發發發中中中 ツモ:東 ドラ:7

『前半戦終了ー!! 最後を飾ったのはご存知《ハーベストタイム》――渋谷尭深っ!! 我慢の一局でしたが、オーラスで《劫初》荒川憩の猛烈な追い上げに待ったをかけましたああ!!』

憩(はあああ!? ウチの半荘獲得点数が一万点に届かない……? 玄ちゃんとは残り九万点差……ははっ、これは笑えへんで――!?)

 一位:荒川憩・+8800(劫初・64500)

尭深(よかった……和了れた。この試合展開は最高と言っていい。荒川さんとの点差をほとんどそのままに、なおかつ花田さんとの差を広げた。後半戦……踏ん張ってみせる……!!)

 二位:渋谷尭深・+7200(豊穣・93400)

玄(さて……憩さんを封じ込めることには成功したけど、逆に後半戦が恐くなってきちゃったかな。
 尭深ちゃんと花田さんのアシストのために、結構点棒使っちゃったから、憩さんとの差そのものは縮まってる。《悪魔》の手に落ちる前に……この試合を終わらせる!!)

 四位:松実玄・-18100(逢天・155300)

煌(途中で渋谷さんの個人収支がぴったりマイナス25000点になったのは幸いでしたね。おかげさまで、荒川さんや松実さんのツモを止めることができました。
 ただ……困ったことに、渋谷さんと私の能力の相性は、決していいとは言えないようです。渋谷さんは、私の能力によって25000点以上削られることがなく、且つ、オーラスで32000点をほぼ確実に取ってくる。
 要は、普通に打っていれば、今回のように最低でも7000点のプラスが約束されているということ。勝つためには、《通行止め》する道をもっと限定する必要がありそうです。後半戦も気が抜けません……)

 三位:花田煌・+2100(煌星・86800)

 ――《劫初》控え室

衣「《ドラゴンロード》によって火力を削がれ、連荘で局数を重ねれば《ハーベストタイム》にチャンスを与え、さらには《通行止め》によって予期せぬ足止めを喰らう。
 しかも、やつらは超能力者の上位三人――能力に拠る確率干渉を止めることは《絶対》にできない……」

エイスリン「ケイ……!!」

菫「……」ガタッ

智葉「どこへ行くつもりだ、菫」

菫「……あいつは、トップを狙っている。だから、どうしても手が重くなって、他に遅れをとってしまう。
 トップでなくとも決勝には行けるんだ。あいつが普通に打てば、たとえ渋谷相手でも、《通行止め》相手でも、まくることはできるはず……」

智葉「だから、トップを諦めるように、指示を出すというのか?」

菫「リーダーの私がそう言えば、荒川は従うはずだ。私が止めなければ、あいつは後半戦、もっと無茶をするに違いない。そんなのは――」

智葉「見ていられない、か?」

菫「……今のあいつは、去年の個人戦決勝で、照と戦ったときと同じ顔をしている」

智葉「そうだな。あれは、あいつの悪いクセだ」

菫「じゃあ、行って――」

智葉「待てよ、菫」ガシッ

菫「止めるな……智葉」

智葉「菫……あいつが今、誰のために戦っているかわかるか?」

菫「チームのみんなのためだろう」

智葉「それは合っているようで少し違う。あいつは今、お前のために戦っている。お前のために、トップを取ろうとしているんだ。
 そんなお前がトップを狙わなくていいなどと言ったら……どうなるかわかるよな?」

菫「だが、今の荒川を放っておくわけにはいかない……!!」

智葉「……大丈夫だ、菫。あいつだって、去年から少しは強くなっている。あのときほどひどいことにはならん。あいつを信じてやれ。今のあいつなら、きっとできる――」パッ

菫「智葉……」

智葉「私は言いたいことを言った。あとは好きにしろ。リーダーはお前だ。最後の判断は任せるし、私はそれに従う」

菫「…………ウィッシュアートと天江にも聞きたい。荒川はここからトップをまくれると思うか?」

エイスリン「ッタリメーヨー!!」

衣「まくれないと思ったら、けいはすみれの判断を仰ぎにここに戻ってくるはずだ。そうではないということは……ふん、答えは決まっているだろう?」

智葉「だそうだぞ、菫」

菫「……わかった。荒川には、引き続きトップを狙ってもらう……!!」グッ

智葉「そう力むなよ。俯くな。肩を落とすな。こっちに来て座れ。ふんぞり返って見てやればいい。荒川だって、それを望んでいるはずだ」

菫「ああ、そうさせてもらおう――!!」ドサッ

智葉「……さあて。泣いても笑っても、次が最後の半荘だな」

 ――対局室

玄「よろしくお願いします!」

 北家:松実玄(逢天・155300)

尭深「よろしく」

 南家:渋谷尭深(豊穣・93400)

煌「よろしくお願いします」

 西家:花田煌(煌星・86800)

憩「……よろしゅう」

 東家:荒川憩(劫初・64500)

『A・Bブロック三回戦、制するのは果たしてどのチームになるのか!? 雌雄を決する大将戦後半……まもなく開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

玄さんのドラ支配は諸説ありますが、当SSでは便宜のため完全支配説を採用しています。個人的には咲ポの設定のほうがしっくりきてます。

次回は一週間以内に更新します。

 *

以下、>>432に引き続き、需要もないのにド素人が描くコーナーの第二段。元ネタわかる方向け。咲キャラ×とあるコス。無駄にフルカラー。

・神代さん×滝壺さん(神電波受信系女子)

・玄さん×原子崩し(竜機波形高速砲系女子)

・花田さん×一方通行(10031人悩殺系女子)

・大星さん×打ち止め(拾わせる系女子)

 *

では、失礼しました。

毎回乙
2巡目?でたかみーが上書きしたのはラス前までの対局数15が配牌の13枚を越えてたから
配牌で収穫出来なかった牌を次順のツモで持ってきたってことかな
んでそう考えると第一ツモで東か南を上書きして引けなかったのは
ラス前の14局目の第一打牌が東南白發中以外の関係ない牌を切らざるを得なくて
次の15局目で東を始めに切ったから収穫の順番で地和にならずに2巡目で和了したって解釈でいいのかな

>>629さん

おお……すごい。そうです。あれは渋谷さんの隠しコマンドです。

詳細は小走さんの華麗なる解説をお待ちください。

 東一局・親:憩

玄(今度はラス親になっちゃったか。ま、オーラスのことはオーラスに考えよう。それよりも、とにかく憩さん。憩さんがどう動いてくるかによっては、私たちがここで敗退する可能性だって、十分にある……)

 北家:松実玄(逢天・155300)

尭深(現状維持をしたいけれど、きっと無理。この場にいるのは荒川さん。そして私より上位の超能力者。落ち着いて打とう。
 大丈夫。《ハーベストタイム》に限ったことじゃない。私は今までたくさんの種を撒いてきた。この実り――《絶対》に奪わせない……!!)

 南家:渋谷尭深(豊穣・93400)

煌(さて、と。荒川さんの起親ですが――)

 西家:花田煌(煌星・86800)

憩「…………ちょい、失礼しますわ」スッ

 東家:荒川憩(劫初・64500)

玄(け、憩さん……!!)

尭深(この仕草、確か――)

煌(いよいよ《悪魔》の本領発揮、というわけですね)

憩「お待たせしました。ほな――行きましょか……」タンッ

 ――観戦室

照「荒川さんが……」

塞「え、なに?」

照「クセ。こういうやつ」スッ

塞「あの、今の、手の甲で片目を隠してたやつ?」

照「あれをしたあとの荒川さんは、本当に《悪魔》みたいになるらしい」

ネリー「聞く限り、何か変わったチューニングとかそういうんじゃないみたいだけど。どうなの、やえ?」

やえ「あれは、別にオカルトでもなんでもない。ただのクセだよ。いつ頃からやるようになったんだったか、荒川が考えるときのクセだ」

塞「考えるって……何を考えてるの?」

やえ「全部だろう」

塞「は?」

照「荒川さんは、配牌の段階から、ほとんど全ての牌が透けて見える。その情報から、あらゆる可能性を演算して弾き出してる。どれくらいの数のパターンになるのか、想像もできないけど」

塞「あの……その、牌が透けて見えるってさ、ちょいちょい聞くけど、ガチなわけ?」

やえ「ガチもガチだ。前にあいつと神経衰弱をしたことがあるんだが、かくかくしかじかだった」

塞「それもうヒトじゃないって……」

ネリー「どーりでさとはが勝てないわけだね。もしかすると、本当に《悪魔》なのかも、あの人」

やえ「実際、そういう都市伝説もあるくらいだよ。《白衣の悪魔》――荒川憩のクセにまつわる都市伝説」

塞「聞きたくないけど聞かずにいられない……!! なんなの!?」

やえ「あいつのクセ。手の甲で片目を隠す仕草。あれ、なんでそんなことをしているんだと思う?」

塞「えっ? だから、考えてるんでしょ?」

やえ「それもある。けど、最大の理由は、それじゃないらしいんだ」

塞「は……?」

やえ「あいつはああやって『隠している』んだよ。決して他人に見られてはいけない『モノ』を、な……」

塞「まさか……!!」

やえ「あいつの手の平、その向こう側に隠された『モノ』……それこそ正真正銘――」

塞「《悪魔の目》ッ!!?」ゾワッ

     憩『ロン、5800』

     玄『……はい』

やえ「信じるか信じないかは、あなた次第――ってな」

塞「信じるわ!! 間違いないっ!! あいつは本当に人の姿をした《悪魔》だったのね……!!」

やえ「莫迦か。そんなオカルトあるわけなかろう」

ネリー「けど、そんな噂を信じてしまいたくなるくらい、強いっぽいね。唯一無二っていうのもわかる気がする」

照「荒川さんは強いよ。私も、なんで私が荒川さんに勝ててるのか、不思議でならない」

塞「さっきの副将戦とどっちがヤバいのかしら、これ」

     憩『ツモ、2000は2100オール……』

やえ「親だとさほど打点を気にせずに打ち回せる分、速度がある。荒川のスピードについていけるやつは、学園都市にそう何人もいない」

照「尭深のデジタルはオールラウンドだし、花田さんのは、ややスピード重視だけど基本門前。加速してきた荒川さんに追いつくには、ちょっと足りないかな」

塞「《ドラゴンロード》は重いもんねぇ」

ネリー「前半戦でのくろの一撃が頭にあるから、中盤以降まで場を引っ張らないように回しているんだね」

     憩『ロン、7700は8300』

     尭深『はい……』

やえ「《三強》以外の二年で荒川を止められるやつがいるとすると、誰になるだろうな」

照「可能性が高い順で言うと、能力使用時の鶴田さん、冷たい龍門渕さん、デジタル龍門渕さん、誠子かな。あとは、染谷さんと井上さんが二人で協力すれば、いつかは止められると思う」

ネリー「おおっ! 我らがせいこがランクイン!!」

照「席順にもよるけれどね」

塞「他には思い当たる?」

照「あとは――やっぱり、松実さんかな」

塞「え……? あいつ、今回もドラで大変なことになってるけど?」

やえ「ふむ……だが、あの卓で一番荒川と打った経験があるのは、確かに松実だ。
 あいつはこの学園都市で唯一、《悪鬼羅刹》の《三強》と交わることができた《4K》の一人。レベル5の旧第一位……どこまで対策してきているんだか――」

 ――対局室

 東一局三本場・親:憩

玄(前半戦より加速してきたかぁ。それが一番やられて困ることだったけど、さすが憩さん。『己の欲せざるところ人に施しまくれ』がモットーなだけあるよ)タンッ

 北家:松実玄(逢天・147400)

玄(一年生の頃は、これで何度も焼き鳥にされた。私は基本的に鳴かないし、門前で張っても、ドラが切れなくて狭い待ちになることが多い。
 ノベタンなんかで待とうものなら、和了り牌をまるっと抱えられちゃう。それがいつものパターンだった)タンッ

玄(でもね、憩さん。何度でも言う。私は強くなったんだよ。あの頃と同じなんかじゃないよ。
 透華ちゃんにはデジタルを、豊音さんには能力の使い方を、小蒔ちゃんには格の違いを教わって、ドラを必死に守りながら、たくさん練習してきたんだから……!!)タンッ

玄(それもこれも、憩さんたちがいっぱいイジメたのが悪いんだからね。ドラ置き場が要るからって言って、人をあんな異次元廃墟に連れ込んで……本当にひどいっ! けど、ありがとう――)タンッ

玄(憩さん、それに衣さんも。今度、時間ができたら、また小蒔ちゃんと一緒に《4K》で打とうね。ただ、昔の私だと思って打つと、きっと痛い目見るんだから……!!)タンッ

玄(私は強くなったからっ!! 私はもう――あなたたちのドラ置き場じゃないッ!!)

玄「チーッ!!」タンッ

憩「」タンッ

 東家:荒川憩(劫初・84900)

尭深(玄ちゃんが鳴いた……? 珍しい)タンッ

 南家:渋谷尭深(豊穣・83000)

煌(ふむ――)タンッ

 西家:花田煌(煌星・84700)

玄「……ツモだよ、4300・8300」パラララ

 玄手牌:[⑤][⑤]22234567/(三)四[五] ツモ:[5] ドラ:2

尭深(ドラを抱え込んで、且つドラを待ちに含んだ多面張。ドラの二索と赤五索――どっちでも和了れるから、ドラが来たらその時点で終わり。溢れることはない。
 しかも、玄ちゃんなら、鳴いてツモをズラしても能力を使ってドラを引き寄せられる。和了りの速度も、普通の人より上がるよね。
 というか、これ、荒川さんを出し抜いたってことは、宥さんと同じことをしたってことかな。
 常時発動型の能力を制御して、ドラの引きをコントロールした。本来ならドラじゃなかったはずのツモ牌を的確に《上書き》したんだ……)

煌(この形……仮に五筒が赤でなかった場合でも、同じことができますね。常時発動型の能力を持ち、来る牌がある程度わかっているからこその、速度。
 一般には手が重いとされる松実さんでも、形によっては荒川さんを出し抜くほどのスピードを発揮できる……すばらです)

玄(私の能力はどう和了っても火力が落ちることはない。だからこそ、速度を出すにはどうしたらいいか、研究した。その結果がこれだよ。
 もう竜に振り回される私はどこにもいない。今の私は竜の背に乗って飛翔する。あなたより高く、あなたより速く……!!)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(憩さん、今日こそ私はあなたに――あなたたち《三強》に、勝ってみせるッ!!)

憩:76600 尭深:78700 煌:80400 玄:164300

 東二局・親:尭深

尭深(玄ちゃん……強くなったんだね。《爆心》が解散してから、全然大会では見かけなくなったけど、ちゃんと頑張ってたんだ)

尭深(今の玄ちゃんに、私……勝てるかな。福路先輩に右目を使わせるくらい強くなった、今の玄ちゃんに)

尭深(なんて、考えても仕方ないか。玄ちゃんは玄ちゃん。私は私。私は私にできることをしよう。私にできること――私がこの人たちより勝っている部分……)

玄「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

尭深(能力では、玄ちゃんや花田さんに敵わない。技術や演算力では、荒川さんに敵わない。今の私に残された武器はなんだ――)ズズ

尭深(ふふっ……宥さんのお茶。あったかい。心が落ち着く。余計な力が抜けていく。そう……これだ。私の強さは……これなんだ……)

尭深(一年前の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》。私は、準決勝で《新道寺》の江崎先輩に追い込まれた。
 それを救ってくれたのは、副将戦で最下位チームをトばした弘世先輩。弘世先輩は……言ってくれた)

     ――誰にでも負けることはある。当然、勝てることもある。

  ――大事なことは、しかし、勝ち負けではないのだ、渋谷。

      ――いつも通りに打つこと。それが一番大事で、一番難しい。

尭深(弘世先輩のアドバイスのおかげで……決勝、私は二匹の獣を相手に、自分の役目を果たすことができた)

  ――お前はこれから一軍《レギュラー》になる。白糸台の代表として、外の世界で打つこともあるし、学園都市の中でも多くの大会に出ることになる。

    ――そのたびに一喜一憂していたら、心も身体も持たんぞ?

尭深(それからも、秋、冬、春……数え切れないほどの大会に出て、ずっと白糸台の一軍《レギュラー》であり続けた)

   ――いいか、渋谷。目標を見失うな。大切なものを履き違えるな。

尭深(もちろん、それは先輩方の力が大きいんであって、私の貢献度なんて、本当にちょっとなんだろうけど。それでも――)

  ――どんなに曲がりくねってもいい。

               ――ひたすら的に向かって飛び続けろ。

     ――そうすれば、お前の矢は、いつか必ずそこに届く。

尭深(ずっと大会で見かけなかった玄ちゃん。団体戦はこれが二度目の荒川さん。ついこの間転校してきたばかりの花田さん。ここにいる誰よりも……私は経験を積んできた……)

          ――必ず勝とうね。
  
尭深(目標は――見失っていない)

   ――さっきの話の続き……あれは、トーナメントで優勝してから、聞かせて?

尭深(大切なものも……履き違えていない)

      ――決勝の日の朝も、こうして二人で、ここにいたいね。

尭深(大丈夫。この道を歩いていこう。そうすれば、いつか必ず、そこに届く――)ズズ

尭深「ロン、1500です」パラララ

煌「(張っていましたか……)は、はい」チャ

玄(尭深ちゃん、顔色一つ変わらない。いつも通りの尭深ちゃんだ。お姉ちゃんと一緒に見てた――モニターの向こうの尭深ちゃん……)

尭深「さて、一本場ですね」コロコロ

憩:76600 尭深:80200 煌:78900 玄:164300

 東二局一本場:親:尭深

尭深(序盤は静かに過ぎたけど、それはそれで恐い――)タンッ

玄(尭深ちゃんの親、流したいけど、あまり《ハーベストタイム》を気にし過ぎてもな。そこを尭深ちゃんや憩さんに狙われる可能性もある)タンッ

憩「」タンッ

煌(前半戦では何かと松実さんに援護していただけましたが、ご自身がラス親の今回は、それもストップということですね。私の力でどれだけやれるでしょう……)タンッ

尭深(うん……テンパイ)タンッ

玄(ちょっと重いかな。花田さん辺りに差し込むのがベターなんだけど)タンッ

憩「チー」タンッ

煌(はて。一体何を狙った鳴きなのでしょう。警戒レベルを引き上げなくては)

尭深(む……)タンッ

玄(よし、一向聴――)ピタッ

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(……いや、ちょっと様子見るよ)タンッ

憩「」タンッ

煌(松実さんが掴まされましたか? なら、私は攻めていいのですかね)

尭深「ツモ……2000は2100オール」パラララ

煌(おやおや)

玄(これ――憩さん……?)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(私が切ろうとしたやつは、尭深ちゃんの和了り牌だった。それを抱えたら、すぐに同じ牌で尭深ちゃんが和了った。つまり、今の鳴きの目的は一つ……私を削ること)

玄(尭深ちゃんにツモられる分には、私との点差が開かないから、別にいいってことだよね?
 親の連荘ならもう一回東二局が来るから、問題ないってことだよね? オーラスの《ハーベストタイム》も親っ被りは私だから、望むところってことだよね……?)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(憩さん――《悪魔》の狙いはあくまでも私、か。うん。それが再確認できただけでも、今の一局には意味があった。そう考えよう……)

尭深「二本場です……」コロコロ

憩:74500 尭深:86500 煌:76800 玄:162200

 東二局二本場・親:尭深

憩(玄ちゃん、それに渋谷さんも。ええ手応えやわ。個人戦の準決勝、準々決勝――上位ナンバーがひしめくそれらと比べても、遜色ない。
 三年生がいなくなるんは寂しいと思っとったけど、衣ちゃんや小蒔ちゃん以外の同級生がこんなに強くなっとるんやったら、来年も全然楽しめるやんな……)タンッ

憩(けどな……いくら強くなろうと、いくら頑張ろうと、そんなんウチには関係あらへん。誰にだって超えられへん壁がある。
 ほんで、玄ちゃん、渋谷さん。自分らには、ウチのこと、どう足掻いたって超えられへんよ)タンッ

憩「ロン、5200は5800や」カチャカチャパララ

尭深「……はい」チャ

憩(さて……玄ちゃんまで、あと81900点や――)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩:80300 尭深:80700 煌:76800 玄:162200

 東三局・親:煌

憩「ポン」タンッ

尭深(一巡目から?)タンッ

煌(役牌……ですか)タンッ

玄(それだけってことは、ないよね?)タンッ

憩(さて、それはどーかな?)タンッ

尭深(ん……)タンッ

煌(まだまだ二巡目。親だしツッパって行きましょう!)タンッ

憩「それやロン、2600」カチャカチャパララ

煌「す、すば……」

尭深(速過ぎる……!!)

玄(安過ぎる……!? 二位にはなったけど、それでいいの!?)

憩(ええねん。どうせ、もっかい親番あるし)

玄(憩さん……本気で南一局で試合を終わらせるつもり?)

憩(さすがにそれは無理やってわかったわ。せやけど、妥当なところ――南一局でトップに立つくらいはせーへんとな……!!)

玄(なら……逃げ切る――!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(追い抜いたるわ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

尭深(すごい気迫……)ズズ

煌(どうなってしまうのでしょう……?)

憩:82900 尭深:80700 煌:74200 玄:162200

 東四局・親:玄

玄(一体どうやったら憩さんを振り切れるのか。さっきから色々考えてるけど、全然いい案が浮かばないよ)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(引いては、勝てない)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(押しても、勝てない……)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(なら……押して! 押して押して!! 押して押して押して――押し切るッ!!)

玄「ポンですっ!!」ゴッ

憩(またドラ待ち多面張! せやけど、条件発動型ならともかく、常時発動型の玄ちゃんがそう何度も都合よく《上書き》できるんか……? ここで和了られへんようなら、その瞬間にウチが刈り取るで――)タンッ

玄(無理なのは百も承知。どうせ普通にやっても勝てない。なら、無理を押し通す以外に道はないっ!!)ツモッ

憩(これは……! また見えとった牌が《上書き》で変化して!? 玄ちゃんが活路を――道を切り開きよった……!!)

玄「ツモです、8000オールッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

尭深(速度を重視しても親倍……)ゾクッ

煌(すばらです)パタッ

憩(ええわ……ええで、玄ちゃん!! それでこそレベル5の旧第一位――《ドラゴンロード》!! 相手にとって不足なしや――!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(これで十一万点差……!! 突き放しましたよ、憩さんッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩:74900 尭深:72700 煌:66200 玄:186200

 ――観戦室

やえ「……次の、南一局。荒川の最後の親番が、勝負の分かれ目だな」

塞「というと?」

やえ「そこで荒川が松実をまくれば、荒川の勝ちは決まったも同然。まくれなければ――」

ネリー「最後の最後まで結果はわからない、と」

照「今の松実さんの親倍で、点差は十一万。大将戦が始まったときと、さほど変わっていない」

塞「なのに荒川は二位になってるのよね。これ、もしかして松実がかなり頑張ってるってこと?」

やえ「実際、今の松実の個人収支はトータルでプラスだ」

ネリー「たぶん、ゆうが調子よかったのに影響を受けてるのかも。二人は姉妹だから。チームが違っても、共振しやすい」

照「お姉さんの早和了りは安手が多かったけど、松実さんの早和了りはどれも強烈」

塞「どんな形だろうと、ドラだけで倍満になるもんね」

やえ「《ドラゴンロード》――松実の麻雀は、本当にドラなくして語れない。勝つときも、負けるときも、あいつはドラとともにある」

ネリー「あはっ、守護霊みたいだね。そう考えると納得かも。ゆうもくろも、音が暖かいもん。今はいない誰かに守られているみたいに」

     憩『ロン……16300』

     玄『……はい』

塞「うおぅ! 容赦なっ!?」

照「これは……ただ高いだけじゃない」

やえ「荒川め、酷な真似を」

塞「え? えっ?」

ネリー「けいは、くろにドラを切らせようとしてる。ドラを切らないと直撃回避ができないように、くろを追い込んでるんだよ」

塞「人非人……!!」

     憩『ロン、18000……!』

     玄『うっ……はい――』

やえ「……我慢比べだな」

照「これは荒川さんも苦しい」

塞「え? えっ?」

ネリー「けいも、ドラなしで打点を上げるのが辛いんだよ。さっきは倍満、今回はハネ満。次は、もうちょっと下がるかも」

     憩『ロン、7700は8000やッ!!』

     玄『うぅ……はいっ……!!』

やえ「点差が三万を切った」

塞「け、けど、確かに打点はかなり下がったわね」

照「ドラがなくて、一人を狙い撃ちして、なおかつ、速度も捨てられない。
 こうなると、さっきの倍満とハネ満で松実さんの心を折れなかった荒川さんのほうが、むしろ追い込まれてくる」

ネリー「ドラさえ使えれば、もっと速くもっと高く和了れるんだろうね。くろも、きっとそれがわかってるから、意地でもドラを手放さない」

     憩『っ……! ツモや――1600は1800オール』

塞「荒川のほうが折れた……!?」

ネリー「間違いない。これはもつれるんだよ」

照「あ、松実さんが――」

やえ「あいつも必死だな」

     尭深『ロ、ロンです……5200は6100』

     憩『ッ――!?』

     玄『……うぅぅ……どうぞ……』

塞「差し込み――っていうにはデカ過ぎるけどっ!? ってか荒川の親が流れた!! トップとの差は……13400点!? いや、十分ヤバい詰まり方してるけど……まくれなかったッ!!?」

やえ「これは松実がよく耐えた」

照「あと……三局」

ネリー「オーラスでたかみがどう動くかにもよる」

塞「《幻想殺し》、スパーンと予想しなさいよっ! なんかむずむずするわ、この展開っ!!」

やえ「無茶言うな。私は予知能力なんて持ってないぞ……だが――」

照「むっ……」ピリッ

ネリー「うおっとー……?」ゾワッ

やえ「……ここで動き出したか、《怪物》が」

 ――対局室

 南二局・親:尭深

玄(憩さん、その手には乗りませんよっ!! 一体何度、ドラを切らされて地獄を見たと思ってるんですか! 私はドラを切らないっ!!)

 西家:松実玄(逢天・136000)

憩(玄ちゃん、ホンマ大したもんやわっ!! ドラさえあればなー、たとえ二十万点差でもまくったったのに……!!
 せやけど、この点差――あってないようなもんやで、最後まで耐え切れるか……!?)

 北家:荒川憩(劫初・122600)

玄(耐え切ってみせます。逃げ切ってみせます。天才の憩さんとのろまな私はアキレスと亀……!! だからこそ、無限に粘ってみせますよ!! ドラも点差も何もかも……《絶対》に守り切るっ!!)

憩(ええよ……ほな、その希望を断ち切ったるわ。楽しかったで、玄ちゃん。また《4K》対決しよ。
 ウチと衣ちゃん……一軍《レギュラー》になってもうたら、きっと今より忙しくなるけど、時間見つけて遊んだるわ!!)

憩(さあ、これでド高めハネツモ……ッ!! トップはも




                   ――残念ながら




            ろ






      ――そこから先は……






                       た













                              ――《通行止め》です。

憩「――――ッ!!!?」バッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(な……なんや、今の!? 意識が飛びかけた――? んなアホな。小蒔ちゃんや衣ちゃんを相手にしとるんとちゃうで……? 一体何……が――)ゾクッ

憩(そ、そんな……ツモが――また《上書き》されとる……!? また和了りが止められた!? そんな――あとちょっとやのに……ッ!!)タンッ

尭深「」タンッ

憩「そ……それや、ロン!!」ゴッ

尭深「は、はいっ……!?」

憩(ホンマなんやねんさっきの……死んだかと思ったで)

尭深「あ、あの、手牌は? 点数は……?」

憩「あ……ああ、すんまへん。5200です……」カチャカチャパラララ

玄(け、憩さん? 見たこともないくらい狼狽して……もしかして、花田さんがまた何か……?)

尭深(荒川さんの様子がおかしい。もっと、いつも、何でも見透かしたように超然としているのに。これは……あなたなんですか、花田さん――?)

憩(これは――自分なんやろ……? この土壇場でやっと動き出すとは、随分のんびり屋さんな《怪物》がおったもんやな……なあ――花田さん?)

煌「次は私の親番ですね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩:127800 尭深:71800 煌:64400 玄:136000

 南三局・親:煌

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(花田さん……この後半戦はここまでぴくりとも動いてこなかった。っていうか、この局もまったく静かなままなんだけど。
 一体何を狙っているんだろう。オーラスが尭深ちゃんのものだとすると、花田さんが勝ち上がるには、実質この親番でどうにかするしかない。何かしてくるとしたら、間違いなくここ……!)タンッ

憩(……見えとるところからすると、次で5200ツモれそうな気がする。それなら、玄ちゃんとの点差は1700になる。渋谷さんはもはや関係あらへん。ウチが2000を和了ってまえばそれで終いや。せやけど――ホンマにツモれるんか……?)タンッ

尭深(もう種は十分に撒いた。私はここから何をすべき……? とにかく誰にも振り込んじゃいけないってことは確か。《ハーベストタイム》の前に……もう一つだけ和了っておく……)タンッ

煌「」タンッ

玄(ツモ切り? 張ってる……?)タンッ

憩「ツ、ツモ……や」

玄(は――?)

憩「……1300・2600」カチャカチャパラララ

玄(そ……っち……?)ゾクッ

尭深(荒川さん、少し迷ってからツモを宣言した。何か、予想外のことが起こったの……?)

憩(よ、予想通りにツモれた? さっきは止められたのに? 何がどないなっとんねん、ホンマに――)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩:133000 尭深:70500 煌:61800 玄:134700

 ――観戦室

やえ「ついにオーラスが来てしまったな」

ネリー「点数状況ーっ!」

塞「《逢天》が134700、追う《劫初》が133000で、1700点差。あと、大きく引き離されて《豊穣》が70500、《煌星》が61800。《逢天》と《劫初》の三回戦突破は決まりね。あとはトップ争いだけど――」

照「難しい」

やえ「とりあえず、確定事項が一つだけある。渋谷は二巡目で北を引き、役満をツモれるってことだ」

塞「は? あんた、さっき自分は予知能力者じゃないって言ってたじゃん」

照「……それ、私と尭深以外で知っている人はいないと思ってた」

ネリー「どういうことー?」

やえ「渋谷の《ハーベストタイム》は、一般には配牌干渉系と認識されているが、実は違う。あいつは、自牌干渉系の超能力者《レベル5》なんだ」

塞「も、もうちょっとわかりやすく説明しなさいよっ」

やえ「渋谷が東一局からラス前までに切った牌――それらは、オーラスになると、『全て』が渋谷の手に戻ってくるんだよ」

ネリー「あっ、やっぱそうだったんだ。何かメロディが続いてるなーとは思ってたんだよね~」

塞「さっぱりなんだけど?」

照「例えばね、臼沢さん」

塞「なに?」

照「配牌って四枚ずつ取っていくけど、それを、一枚一枚、普通のツモみたいに、四回に分けてツモってみたとする。
 で、次の四枚も、同じように一枚一枚ツモる。次の四枚も。そして、子だとあと一枚。で、そこから最初のツモを引いて、あとは以下略」

やえ「それを、オーラスの渋谷尭深にやらせると、どうなるか」

照「尭深の《ハーベストタイム》は、収穫する牌の種類と枚数だけじゃない。引く牌の順番も決まってる。
 さっきのツモり方だと、一枚目には東一局の第一打が。二枚目には次の局の第一打が。三枚目にはその次の第一打が――っていう感じで引いていく」

やえ「普通、配牌はツモみたいに一枚一枚引かないから気付きにくいが、よーく見ればわかる。あいつが最初に開く四枚は、正確に、東一局から東一局三本場までの第一打になっているはずだ。
 次の四枚は、東二局から東三局。次の四枚は東四局から南一局一本場。次の一枚は、南一局二本場」

照「そして、尭深の第一ツモは、南一局三本場の第一打」

塞「で……二巡目だから――第二ツモ。南二局の第一打……えっと、なんだったっけ?」

ネリー「北なんだよー」

やえ「渋谷は、南一局二本場までの第一打――要するに配牌だな。順番を無視すると『西西西北白白白發發發中中中』と捨てている。
 で、第二ツモで、南二局の第一打に捨てた『北』を引く。はい、役満の出来上がり」

照「細かいけれど、それまでの第一打で五回以上同じ牌を捨てると、当然、オーラスで五枚目はツモれない。そのときは、その分だけツモる順番が繰り上がる」

塞「……ちなみに、ツモがズラされるとどうなるの?」

ネリー「じゃらららーん。正解は、前半戦のようになりまーすっ!」

やえ「臼沢……お前は一体学園都市で何を学んできたんだよ。超能力者の超能力者たる由縁――それは何だ?」

塞「ズラされようとなんだろうと《絶対》に引くってわけか。じゃあ、渋谷が第二ツモで役満を完成させるのは、もう《絶対》の確定事項なのね」

ネリー「ただし、なんだよー」

塞「ほえ?」

やえ「あそこには……《怪物》がいる。超能力者の《絶対》すら呑み込む《絶対》」

照「レベル5の第一位――《通行止め》……花田煌さん」

やえ「詳しくはわからんし、前半戦では普通に渋谷が《ハーベストタイム》で和了っていた。だから、蓋を開けてみるまでどうなるのかはわからん。しかし、花田のこれまでの傾向からして――」

塞「和了りやテンパイを止めることがある、かぁ」

照「その網に引っかかってしまったら、たとえ尭深の《ハーベストタイム》でも、《絶対》に《無効化》される」

塞「第一位なんだもんねぇ……」

ネリー「んー……きらめってば、今度は何を閉ざすつもりなのかなー……?」

照「オーラスが始まる」

やえ「渋谷の配牌は――」

塞「あっ、ホントだ。最初の四枚が……! なるほど……っ!!」

ネリー・照「ッ!!?」ゾクッ

やえ「ん? 二人ともどうした……?」

塞「ちょ、小走小走っ!! よそ見してないでっ!! 早く解説してくれないと私の精神がっ!! ヤバい!! ホッッントヤバい!! マジどうなってんの、あの花田の配牌は――!!」

やえ「こ、これは……!?」ゾワッ

 ――対局室

 南四局・親:玄

尭深(こ、これは――?)ゾワッ

 西家:渋谷尭深(豊穣・70500)

 尭深手牌:西西西北白白白發發發中中中 ツモ:二 ドラ:七

玄(……尭深ちゃん……?)

 東家:松実玄(逢天・134700)

憩(思ってたんとちゃうっちゅー顔やな、渋谷さん……)

 南家:荒川憩(劫初・133000)

尭深(どうして……二萬は南三局の第一打。私の第二ツモは《絶対》に南二局で捨てた北じゃないとおかしい。なのに、これは……ま、まさか――!?)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:花田煌(煌星・61800)

 煌手牌:**********北北北 ドラ:七

尭深(お……落ち着こう。わかっていたこと。能力では、私は花田さんに敵わない。私の《ハーベストタイム》が実戦で《無効化》されたのは初めてだけれど、実験なら玄ちゃんので一回経験してる。
 まだ二巡目。大丈夫……別に、負けが決まったわけじゃない)ズズ

 尭深手牌:西西西北白白白發發發中中中 ツモ:二 ドラ:七

尭深(二萬……そうだった。南三局の第一打。南二局の北で役満が確定したから、なんでも好きなものを選んだんだった。あったかい牌を……選んだんだった……)

尭深(宥さん――きっと、あなたと一緒にい過ぎたせいですかね。北風に嫌われてしまいました。あなたの苦手な冷たい北風。でも、いいんです……)

尭深(あなたと二人なら、私はどこまででも行ける……!)タンッ

 尭深手牌:二西西西白白白發發發中中中 捨て:北 ドラ:七

尭深(最後まで一緒ですよ……宥さんっ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(手出しの北!? ……ん――じゃあ、よくわからないけど、役満はないってこと……?)

憩(ふーん……やっぱそうか。渋谷さんがまさか自牌干渉系やったとはな。局数がオーラス含めて十四までの牌譜しか出回ってへんから、知らへんかったで。
 役満ツモられるんならツモられるんでええかなーと思っとったけど、この《絶対》が破られたっちゅーことは、花田さんが何かしとるんやろな。
 つまり、渋谷さんのツモは《通行止め》されたと見てええはずや。とりあえず脅威はない。ま、何はともあれ、その二萬は死んでも捨てへんで……)

尭深(まだまだ……勝負はこれからっ!!)ゴッ

 ――《煌星》控え室

淡「キ……キラメ……っ!!」

咲・桃子・友香「………………」

淡「どっ、どーしたの!? みんなっ! キラメの応援しようよ……っ!!」

咲・桃子・友香「………………」

淡「な、なんで黙ってるのさ……! キラメは私たちの大将だもん!! 負けるはずないじゃん……っ!!」

咲「……じゃあ聞くけど、ここからどうやって二位をまくるっていうの?」

桃子「ちょ、嶺上さん……!」

咲「役満直撃してもまくれないんだよっ!?」

友香「さ、咲……それくらいで――」

咲「ラス親の松実さんがトップじゃなかったら可能性あったかもねっ!!
 でも、現実は見ての通り。松実さんが和了ろうと和了るまいと……もうこのオーラスしかないんだよ。それなのに――二位と71200点差のラスなんて……」

淡「だ……大丈夫っ!! キラメなら、きっと、あっと驚く方法で二位に――」

咲「そんな方法……どこにもないよ。淡ちゃん、バカだから、この大会のルールをちゃんと覚えてないんでしょ。一から十まで読み直してきたら……っ!?」

桃子「もういいじゃないっすか、嶺上さん……!!」

咲「よくないよ! こうなったら言いたいこと言うもん!! 全部――ぜんぶぜんぶ淡ちゃんがいけないんだからねッ!? 副将戦であんなに取られてっ!!」

淡「サ、サッキー……」

咲「煌さん……淡ちゃんのこと、信じてたのに。私も、そんな煌さんを信じて、デジタルにしたのに……!!」ギリッ

淡「ご、ごめんなさい……!! 本当にごめんなさいっ!!」ポロポロ

咲「謝ったって点棒は返ってこないんだよッ!!」

友香「咲……お願いだから、もうやめて……!!」

淡「ごめんなさぁぁい……っ!!」ポロポロ

桃子「超新星さんは悪くないっす。大丈夫っす。最後まで見守ろうっす」ギュ

淡「あぁぁああぁあ……!!」ポロポロ

友香「咲……泣くくらいなら、最初から心にもないこと言っちゃダメでー……」ナデナデ

咲「だって……だって! 淡ちゃんがあまりにもバカだから――」ウルウル

桃子「ほ、ほら! きらめ先輩はまだ戦ってるっす!! 応援しようっす……!!」

友香「ほら、咲。淡も……」

咲「……わかってるよ……」

淡「……うあぁぅぅ……みんな……ごめんね――」

 ――対局室

憩(さてさて……ここが勝負の分かれ道。ほな、最後のドラゴン退治と行きましょか――)

 憩手牌:二二四五六八八999南南南 ツモ:南 ドラ:七

憩(ひとまず、渋谷さんの役満に振り込んだら全てがパーやから、この二萬は抱え決定)

 尭深手牌:二西西西白白白發發發中中中 ドラ:七

憩(ほんで……ウチの標的――玄ちゃんの手牌は、っと)

 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6[五]六七七七八九九 ドラ:七

憩(一盃口ドラ三赤三の八萬待ちやんな。せやけど、それ、和了れへんで。なぜなら、まだめくられてへんけど、カンドラ表示牌が八萬やからな)

憩(玄ちゃんとの点差は1700。今のウチはダブ南確定やから、どう和了ってもトップをまくれる。ほんで、このまま行けば、二萬をツモれることも見えとる。
 ただ――花田さんのこともある。できることなら保険を掛けておきたい……)

憩(ここから南をカンをすれば、九萬がドラになる。九萬が玄ちゃん以外の目に触れてへんのは確認済み。
 ほんで、九萬がドラになると、玄ちゃんはここから、高確率で七萬か九萬をツモることになる。即ち、こうや――)

 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6[五]六七七七八九九 ツモ:七or九 ドラ:七・九

憩(どっちをツモっても、八萬は浮く。もう一枚の赤五筒をのちのち引き寄せることも考えれば、玄ちゃんにとっての最善は八萬切りのドラ待ちや。それやと、ドボン――ウチの勝ち)

 憩手牌:二二四五六八八999南南南 ツモ:南 ドラ:七

憩(ただ、まあ、今の玄ちゃんやったら、ウチがカンしたら狙いに気付いて八萬は残すかもしれへん。せやけど、や……)

 ○七萬ツモ

 A 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6六七七七七八九九 捨て:[五] 待ち:[⑤]・九 ドラ:七・九

 B 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6[五]七七七七八九九 捨て:六 待ち:なし ドラ:七・九

 C 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6[五]六七七七八九九 捨て:七 待ち:八 ドラ:七・九

 D 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6[五]六七七七七八九 捨て:九 待ち:[⑤]・四 ドラ:七・九

 ○九萬ツモ

 E 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6六七七七八九九九 捨て:[五] 待ち:[⑤]・七 ドラ:七・九

 F 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6[五]七七七八九九九 捨て:六 待ち:なし ドラ:七・九

 G 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6[五]六七七八九九九 捨て:七 待ち:[⑤]・六・九 ドラ:七・九

 H 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6[五]六七七七八九九 捨て:九 待ち:八 ドラ:七・九

憩(六萬切りのB・Fはノーテンになるから、ウチと渋谷さんがテンパイしとる以上、流局したらノーテン罰符でウチの勝ち。ほんで、ツモ切りのC・Hは、八萬が涸れとるから和了れへん。
 赤五萬切りのA・Eは、渋谷さんが普通の五筒を一枚切っとるから、待ちがドラだけになる。せやけど、A・Eはドラを切ることになるから、玄ちゃんの能力が反転して、ドラ待ちでは《絶対》に和了れなくなる。
 あとは、D。これもドラ切りやから、赤五筒は来ーへん。となると四萬やけど――四萬は花田さんが抱えとるんやな……)

 煌手牌:四四四********** ドラ:七

憩(ま、暗刻を崩すとは思えへんけど、或いは、何かの弾みに出してくるかもしれへん。が……玄ちゃんの手は役ナシ。リーチを掛けへん限り、出和了りはできひん。これも詰みや。
 最後はG。ドラ切りで能力反転状態の玄ちゃんがツモれるんは六萬だけなんやけど……残念。こんなこともあろうかと、六萬はうちが既に一枚捨てとるんやわ。残りはウチの手と玄ちゃんの手とドラ表示牌――これも……和了れへん)

憩(どう足掻いても詰みやで、玄ちゃん。たとえ、玄ちゃんがウチの八萬待ちに気付いても、や。ウチは悠々次巡で二萬をツモらせてもらう。
 或いは、それが何かの拍子にズラされても、玄ちゃんがE・Gを選択したら、ウチの手にもドラが入ってくるようになるから、八萬を一枚落として七八九で一面子作ってもええ。
 それでも玄ちゃんが粘るようなら、適当に鳴いて待ち変えて掴ませるまでや。ノーテン罰符でまくるルートも既に見えとる。これなら、花田さんの《通行止め》でツモ止められても問題ナシ、と)

憩(これがウチの麻雀や……玄ちゃん。玄ちゃんがドラを守ろうと、ドラを切ろうと、関係あらへん。あらゆる可能性をウチは把握しとる。この《悪魔の目》から……逃れる術はないで、玄ちゃんっ!)

憩(ほな、これで終わりにしよか――!!)ゴッ

憩「カン……ッ!!」パラララ

玄(ダブ南暗槓……!? どんな和了りでもまくられる上に、ドラを増やされた――!? こ、これは……)

尭深(荒川さん……玄ちゃんの手を縛るつもり……!?)

憩「カンドラは九萬や。ほんで、嶺上……はなら――

        荒


            川  さ

         ん
  

                   こん
                           な

           格言を

                    ご存知で
                           すか
                                ?


                             南槓
                       に

               和了り目な

                                   し

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「~~~~~~~~~~!!!?」ゾワッ

玄(憩……さん?)

尭深(荒川さん?)

憩「…………ちょい、すんまへん。花田さん、今、ウチに何か言うた……?」

煌「はて。私は何も?」

憩「そ、そっか。それなら……まあ、ええんやけ――」ハッ

煌「荒川さん?」

憩「………………何度もすんまへん。誰か、山牌と手牌、弄った……?」サー

煌「……荒川さん?」

玄「け、憩さん?」

尭深「大丈夫ですか……? お顔、真っ青ですけど――」

憩(嘘……!! 嘘――嘘や……!!!?)ガタガタ

憩(山牌の並びがまるっきり変わっとる……!! ズレとるとか《上書き》とか、そういうレベルやない!! 全とっかえやん!! 一回崩して新しい山作っとるやんこれ!?
 ありえへん……不確定性とかそういうんを超えとるッ!! 全部や……!! 卓上の全ての牌が《上書き》されとる――!!)ゾワッ

憩(無茶苦茶やろ……! ありえへんッ!! 小蒔ちゃんや衣ちゃんかてここまではできひん!!
 山牌が持ち上がった時点から、観測と計算がちょいちょい狂わされることはあっても、基本的には誤差修正で事足りる! やのに……これは――完全に一から計算やり直しやんか……!!)

憩(え……っと……!? せやから、見ろ――考えろ……!! そっちがあっちなって、あっちが――ちょ……待て、え――)

        ――荒川さん。

憩(おかしい……!? ど、どっかに見落としがあるんかも……!! もっぺん、もっぺん観測――演算――!!)

             ――こんな格言をご存知ですか?

憩(そんな……ありえへん……!? ウチの……ウチの和了り目が――!!)

      ――南槓に和了り目なし。

憩(そ、そんなっ!! あらへん!? 卓上のどこにもあらへん……!? んなアホな――)ゾゾゾ

尭深「……荒川さん、対局、続けますけど……?」

憩「え……? あ……あぁ、すんまへん。どうぞ…………」クラッ

尭深(何が起きてるの……?)タンッ

煌(具合でも悪いのでしょうか)タンッ

玄(カンドラは九萬か。花田さんの何かのせいで憩さんの計算が狂ったみたいだし、これは……かなり好都合かもっ!!)タンッ

憩(ははっ――ホンマか、それ……)

 玄手牌:[⑤]⑤4[5]6[五]六七七七九九九 捨て:三 ドラ:七・九

玄(ドラ待ち含む三面張。うん……これなら、お姉ちゃんみたいに意識を集中すれば、赤五筒か七萬を引けるかもっ!! これでトップ通過だよ……!!)ゴッ

憩(あかん……能力反転で追い詰めるつもりが、能力そのまんまやん。その待ちは玄ちゃんに有利過ぎる。ほんで、玄ちゃんの手牌がさっきまで見えてたんとちゃう……)

憩(信じられへん……ウチに見えとった残り一枚の八萬はどこ行ったん……? ここでツモれるはずやった二萬は――どこ行ったん……!?)タンッ

憩(これは……ホンマにくらっくらしてきたわ。花田さんの能力やと思うけど、渋谷さんの手にある二萬以外の和了り牌が、ウチに見えとる範囲のどこにもあらへん。
 残り一枚ずつの二萬と八萬……一体どこへ消えてしもたん? これじゃ和了られへんやん……)

憩(ウチが和了られへんから玄ちゃんも和了られへん――っちゅー保証はどこにもない。前半ではウチのツモが止められたときに渋谷さんが平然と和了っとった。ここからノーテン罰符狙いは……リスクが高過ぎる。
 それに、ごちゃごちゃ仕掛けて、何かの拍子に今と同じことがもっかい起きたら、もう立て直しがきかへん。現状維持やと勝ち目なし。かといって不用意に動くこともできひん)

憩(なんやこれ……完全に想定外や。レベル5はレベル5でも、花田さんは二位以下とは別格――衣ちゃんの言うてたことがようやっと実感できたわ。レベル5の第一位――《通行止め》……これほどやったとはなッ!!)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(これは……最ッ低や! 菫さんになんて言うたらええんやろ……こんなところで負けるなんて……!? ウチ……ウチはナンバー2やのにッ!! 宮永照ならともかく……ッ!! こんなところで――!!)スッ

尭深(あ……荒川さんがまた)

煌(ふむ、そのクセ――ここでお考え事ですか?)

玄(勝負どころも勝負どころ、ってことだよね。気をつけなきゃ……)

憩(……泣いたらあかん。これくらいで泣いたらあかん。もう二度と泣かへんって、涙は誰にも見せへんって、あのとき決めたやん。
 せやから、これは考えとるだけなんや。考えるときにウチがようやるクセってことになっとるもんな。せやから……考えろ――ッ!!)ゴ

憩(涙は視界を滲ませる! 涙は思考を鈍らせる!! まだ負けたわけやない。泣くな……! 笑えッ!! 笑えよ、荒川憩――!!
 自分は誰や? 学園都市のナンバー2……ウチが勝てへんのはこの世界にたった一人!! 宮永照だけや!! レベル5の上位三人なんて……端っから敵やあらへんやろッ!!)ゴゴゴ

憩(花田さんの能力がわからへんのが最大の障害なんや。それさえわかれば、この闇から抜け出せる。花田さんの出回っとる牌譜は全部見た。この大将戦で生のデータも増えた。
 もっぺん全て検証や。共通項を見つけるんや。この《通行止め》の効果と、《発動条件》を突き止めるんや……!!)ゴゴゴゴゴゴ

憩(できひんわけがないよな……ウチの頭脳にできひんことは、人類が何千年掛けてもできひんことや。
 たかが一人の超能力者――その能力解析くらい、こんだけデータが出揃ってんねん。本気出せば三秒で終わるわ……!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――解析……完了ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(ほな、解析結果を踏まえて再演算。最優先事項、ウチの一位通過――ほい、完了。と、へえ……これはなかなか――)チラッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(検算……は、ええか。これ以上は時間の無駄やろ)

玄「あの、憩さん。私、切りましたけど……?」

憩「えっ? あ、ああ……いくら集中してもドラツモれへんかったやろ?」

玄「へ――?」

憩「ほんで、五萬ツモ切りね。ふぅ~む、なるほどなるほどなるほどー♪」

玄「あ、あの、憩……さ――」

憩「悪いな、玄ちゃん」ニコッ

玄「え……?」ゾワッ

憩「この勝負、ウチの勝ちやッ!!」ゴッ

玄「なに、を――」

憩「チーッ!!」タンッ

 憩手牌:二二五八八99/(五)四六/南南南南 捨て:9 ドラ:七・九

玄(チー!? えっ、でも、それ食い替えでテンパイ崩れるんじゃ……!? 何が目的なの!!?)

憩(改変完了……これでええんやろ? なあ――花田さん……!!)

煌「」ゴ

憩(『南槓に和了り目なし』。そういうことやんな。カンする前、ウチの手は出和了りなら50符2翻――3200やった。
 それが、南の暗槓で符が跳ね上がって、出和了りなら80符2翻の5200。そら玄ちゃんから直撃が取れなくなるはずやで)

煌「」ゴゴ

憩(後半戦、このオーラス時点での玄ちゃんの個人収支は、マイナス20600点。25000点持ちやと、あと4400点でトんでまう)

煌「」ゴゴゴゴ

憩(3200ならよかったんや。玄ちゃんから出和了りしようと思うなら、3900が限界。70符2翻の4500より上は、《絶対》に無理。わかってまえば、なんのことはあらへん)

煌「」ゴゴゴゴゴゴ

憩(ツモを封じられたんも、前半戦は渋谷さん、そして後半戦は花田さんが、個人収支でぴったりマイナス25000点になったから。
 そら一点たりとも奪えるわけがあらへんよな。そこから先は《通行止め》――そういうことなんやろ?)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(花田さんの今の個人収支がマイナス25000点である以上、渋谷さんの《ハーベストタイム》はもちろん、玄ちゃんのドラ待ちも和了ることはできひん。《絶対》にできひんのや……)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩(ほんで、花田さん。自分も、ツモれる点数に限界があるな? やって、ウチはええとして、25000点持ちなら、渋谷さんは残り2100点、玄ちゃんは4400点やもん。
 となれば、花田さんの置かれているこの状況、この局面。和了るとしたら、当然ツモ狙いで、その点数は――)

煌「ツモです」パラララ

尭深(え――!!)

玄(わ……!?)

憩(ははっ、やっぱそこにおったか! みーんなそこにおったっ!! 大した《通行止め》やで……ホンマにッ!!)

煌「ツモ北ドラ二赤一……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 煌手牌:二四四四七八九③④[⑤]北北北 ツモ:三 ドラ:七・九

尭深(私の北と二萬……!!)

玄(嘘でしょ!? 私の四萬が――それにドラまで!!?)

憩(ウチが見失った二萬と八萬も、な。ほんで、やっぱその点数。花田さん、自分はホンマモンの《怪物》やで。
 ウチの和了り目がなくなって、花田さんの能力を解析して、その上で再演算して、出た結論に背筋が凍ったわ。まさか――)

煌「2000・4000です」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

尭深「な……っ!?」ガタッ

玄「あぁぁ――」クラッ

憩(花田さんの満ツモをアシストする以外に、ウチがトップに立つ道があらへん――なんて、な……)

『し、試合終了ー!! 大将戦、オーラスまでトップを守り続けた《逢天》松実玄っ!! 親っ被りでトップ陥落ッ!!
 代わって玉座を我が物としたのは……学園都市のナンバー2――《劫初》荒川憩ー!!』

 ――――――

 ――――

 ――

 ――《豊穣》控え室

『し、試合終了ー!!』

宥「あ………………」

霞「最終順位は――私たちが四位、ね」

竜華「花田煌……後半戦はずっと焼き鳥やったのに、最後の最後で狙い済ましたように満貫を和了りよって」

美穂子「荒川さんがツモをズラして、和了らせたような感じがしましたね。いや、もしかすると、それも花田さんの計算の内なのかもしれませんが」

宥「……負けちゃったね……」

霞「そうね……。《劫初》が強いのはわかっていた。《逢天》は、姫様の出方によっては上を行かれるかもって思っていた。でも、《煌星》には……勝てると思っていたわ」

竜華「ランクS二人とレベル5一人……合宿では底を見せへんかった三人をどうにかできれば、あとは押し切れるって見込みやったけど」

美穂子「結果として、それには成功しています。宮永さん、大星さん、花田さんの個人収支はマイナス。ですが――」

宥「東横さんと、森垣さん。今回の《煌星》でプラス収支だったのは、この二人」

霞「能力もわかっていたし、合宿のときのあの子たちは全力だったから、その実力のほどもわかっていたつもりだったのにね」

竜華「見誤ったわ。《煌星》はランクSやレベル5のチームやない。五人全員が煌めく星――そこを正しく見抜けへんかった……」

美穂子「相手の力を量り損なえば、勝てるものも勝てません。この結果がその証明ですね」

 ガラッ

尭深「ただいま戻りました……」

 三位(総合四位):渋谷尭深・-17700(豊穣・68500)

竜華「よーっす、お疲れさん、尭深っ!」

美穂子「お疲れ様です」

霞「お疲れさま……」

尭深「すいません……力及ばずでした……」

宥「尭深ちゃん……ありがとう、お疲れ様……」ギュ

尭深「……っ! す、すいません……!! 先輩方のお力に……なれなくて――」ポロポロ

宥「そんなことない。そんなことないよ、尭深ちゃん」

霞「こちらこそ、尭深ちゃんの力になれなくて、申し訳ないわ」

竜華「謝りたいのはこっちのほうやで。尭深はようやってくれたのにな」

美穂子「選手としても、リーダーとしても、尭深さんは立派に役目を果たしていましたよ」

尭深「……ありが……とう……ございます……」

宥「ねえ、尭深ちゃん。約束……覚えてる?」

尭深「はい……覚えてます。けど、トーナメントで優勝……できませんでした。今の私には、宥さんに何かを語る資格が……ありません……」

宥「そうだね。優勝はできなかったんだから、尭深ちゃんは言っちゃダメ。でも……だから、私から言います」

尭深「宥さん……?」

宥「尭深ちゃん。尭深ちゃんさえよければ、私と……これからも、卒業しても、ずっとずっと……ずぅーっと一緒にいてくださいっ!!」

尭深「…………は、はい! 喜んで……っ!!」

竜華「ひゅーぅ! お熱いなー!! 二人ともーっ!!」

霞「《最熱》の大能力者は、プライベートも《最熱》ねぇ」

美穂子「っていうかまだ言ってなかったんですか……」



     バチンッ



竜華「おろ?」

霞「あら?」

美穂子「停電?」

宥(尭深ちゃん尭深ちゃん……!)コソッ

尭深(なんですか宥さ――むっ!?)

宥(――っぷはっ!! はいっ! 頑張った尭深ちゃんに私からご褒美でしたっ!!)

尭深(宥さん……////!?)

宥(恥ずかしいから、みんなには内緒だよ////?)

尭深(……はい。二人だけの秘密、ですね)

宥(ねえ、尭深ちゃん……)

尭深(……なんですか、宥さん?)

宥(私……尭深ちゃんのこと、大好きだよ)

尭深(私も、宥さんのことが大好きです……)

宥(これからも……)

尭深(ずっと一緒に――)

宥・尭深(あっため合っていこうね(いきましょう)っ!)ギュ

 ――対局室

玄「………あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ー……」

 四位(総合二位):松実玄・-42700(逢天・130700)

玄(帰りにくーい……)グデー

 バァァァン

小蒔「玄さああああああん!!」ダッダッダッ

玄「ふぁっ!? 小蒔ちゃん!? そんな、裾を振り乱して……!!」

小蒔「玄さあああああ――ほぷいっ!!?」ズテッ

玄「ちょ!? 大丈夫……!?」ダッ

小蒔「だ、大丈夫です……」ヨロヨロ

玄「小蒔ちゃん、薬そのものは無害だったけど、慣れないことした分だけ疲れは溜まってるんだから、無茶しちゃダメだよ」

小蒔「面目ないです」

玄「で、どうしたの? あ、私を迎えに来たのか」

小蒔「迎えというか、もうここに集合することになりました!」

玄「えっ?」

豊音「やっほー! クロ、ちょーお疲れ様だよー!!」

透華「いつまで経っても戻ってこないから来て差し上げましたわ!!」

玄「豊音さん、透華ちゃん……」

泉「み……みなさぁぁぁん……自分の荷物くらい自分で持ってくださいよぉぉ……」フラフラ

玄「泉ちゃん――」

泉「あー……しんどかった! ほな、もう面倒なんで、ここでさぁーっと反省会して! ちゃっちゃと帰って!! パァーっと祝勝会しますかーっ!!」

小蒔「賛成ですっ!」

泉「はーい、ほな! 今回自分は反省すべき点があると思う人ぅー!! 挙ォー手ッ!!」バッ

豊音・透華「っ!」バッ

玄「……」スッ

小蒔「……っ!? ……! ~~~っ!!」バッ

泉・豊音・透華・玄「いや、小蒔(コマキ)さん(ちゃん)は反省点ありませんよ(ないよー・ありませんわ・ないでしょ)」

小蒔「あ、ありますよっ! えっと、ほら! 最後の九蓮宝燈なんて、純正じゃありませんでしたし!!」

泉「ほな、ちょっと頭がお姫様な人はほっといて話進めますかー」

小蒔「泉さぁぁぁん……!!」ウルウル

泉「じょ、冗談です。まあ、とにかく、反省点いっぱいっちゅーことで。課題いっぱいちゅーことで。皆さん、ええですかね!?」

豊音「はいだよー!」

泉「各自、自分が今からできること、プラン立ってますかね!?」

透華「あなたの分まで特訓計画ばっちりでしてよ、泉っ!」

泉「ほな、次からは気持ちも力もグレードアップして! 立ちはだかるチームはどこも薙ぎ倒してやりましょうっ!!」

玄「特に《劫初》はブチタオシ確定なんだよっ!!」

泉「ほんなら、シメにリーダーから二言だけ言わせてくださいっ!!」

小蒔「ど、どうぞ!!」

泉「ホッッッッッッンマすいませんでしたぁー!!」ドゲザァ

小蒔「い、泉さん……!?」

泉「ほんでもって……皆さん――」バッ

小蒔「わっ、い、泉さ――」

泉「ホッッッッッッンマ……!! ホンマ……!! ありがとうございましたぁー……!!」ポロポロ

豊音「泣かないでよー、イズミー! ちょーもらうよー……!!」ウルウル

透華「フン、ですわ。勝ち抜けしたんですから問題ナッシングでしてよ!」

玄「ま……透華ちゃんの言う通りなのかな。トップ逃したのは悔しいけどね」

小蒔「泉さんっ!!」ガバッ

泉「ふぉおおおおおッ/////!?」



     バチンッ



豊音「え?」

透華「なんですの?」

玄「真っ暗……」

小蒔(泉さん……)コソッ

泉(こ、小蒔さ、その、感触が……)

小蒔(泉さん……ごめんなさい。私はあなたの誇りを守ることができませんでした……!)ウルウル

泉(……なんも気にせんといてください、小蒔さん)

小蒔(ほえぇ……?)

泉(うちは無能力者ですから。元から底辺に這い蹲る虫ですから。端っからうちの誇りなんて埃だらけの傷物やってん。今更傷の一つや二つ、ツバつけときゃ直りますわ)

小蒔(泉……さん……)

泉(大丈夫です。こちとら気合だけが取り得の無能力者。大能力者の小蒔さんに守ってもらわへんでも、己の誇りくらい――己でどーにかしてみせますっ!)

小蒔(は……はいっ! さすが泉さんです!!)ポロポロ

泉(ほな、小蒔さん。なんや電気だけやなく水道もイカれたみたいで。明るくなる前に、ちょっとその水漏れ止めてくれませんか?
 天下の小蒔さんをずぶ濡れにしてもーたなんて知れたら、いくらうちの面が厚うても、これから一生前を向いて歩けなくなりますから)

小蒔(前を――そうですね。泉さん……!!)ゴシゴシ

泉(道が途絶えたわけやありません。ちゃんと前に進めます。小蒔さんたちのおかげで繋がった道――この道を突っ走って……!
 うち、もっともっと頑張って! 天まで逢いに行きますわ!! ちょっくらこの街の《頂点》を……ブッ倒しにねっ!!)ゴッ

小蒔(はい……! はいっ!!)

泉(小蒔さん。こんなダメなうちやけど、もうちょっとだけ、ついてきてくれますか……?)

小蒔(もちろんですっ!! ともに行きましょう。ともに……天上を目指してっ!!)

 ――《煌星》控え室

『し、試合終了ー!!』

淡「そんな……三位なんて、キラメ、どうして……?」

咲「淡ちゃんが副将戦で三位になったんだから……煌さんが三位で終わったのは……妥当な結果だよ……」

淡「サ、サッキー……!? 嘘だよねっ!? 嘘って言って……!!」

咲「これが現実だよ、淡ちゃん……ッ!! 私たちは三位なんだよ……!!」

淡「う……うわああああああああああ……!!」ボロボロ

咲「淡ちゃんが……淡ちゃんさえ――!!」キッ

淡「ごめんなさああああああい……!!」ボロボロ

桃子「嶺上さん……もういいじゃないっすか……!!」ウルウル

友香「お願いだからこれ以上はやめてでー……咲……!!」ウルウル

 ガラッ

煌「ただいま戻りました。いやー手強かったですねー」

 二位(総合三位):花田煌・-14900(煌星・69800)

淡「キ"ラ"メ"ー!!!」ガバッ

煌「へっ?」

淡「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!! 私が全部悪いの……!! 私が……私――」

煌「はて……」チラッ

咲・桃子・友香「…………ッ!」フルフル

煌「ふむ」

淡「キラメ……?」ウルウル

煌「淡さん。つかぬことをお尋ねしますが、なぜ泣いていらっしゃるのですか?」

淡「だ、だって……私のせいで《煌星》は負けちゃったから……!!」ポロポロ

煌「確かに上位二チームからはかなり離されてしまいましたけれど、決して淡さんのせいではありませんよ。
 ま、なにはともあれ予定通りに三回戦を突破できたのですから、なんの問題もないじゃないですか」

淡「え?」

煌「ええ」スバラッ

淡「ッ!!!?」バッ

咲・桃子・友香「…………ッ!!!」フルフル

淡「ま……まさか――!!!?」

咲・桃子・友香「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」

淡「うえええええええええええええー!?」ガビーン

咲「『サ、サッキー……!? 嘘だよねっ!? 嘘って言って……!!』だって!! うっひゃひゃっひゃっひゃ!!」

桃子「それを言ったら嶺上さんの『淡ちゃん、バカだから、この大会のルールをちゃんと覚えてないんでしょ。一から十まで読み直してきたら……っ!?』が最っ高じゃないっすか!!」

友香「ホント咲の迫真の演技ったらないっ!! 『謝ったって点棒は返ってこないんだよッ!!』なんて、その身体のどっからそんな大きな声が出るんでーっ!!」

咲「あの泣きすがる淡ちゃんの顔ったらなかったよねー!? 『ご、ごめんなさい……!! 本当にごめんなさいっ!!』――これなんかもう思い出すだけで漏れるッ!!」

桃子「嶺上さん、ここぞとばかりに好き放題言って……!! いや攻めるっす責めるっす!! 笑っちゃいそうになるからやめてって何度も頼んだのにっ!!」

友香「淡ってば本気で凹んでるから、こっちはわりとマジで止めようとしてたのに、咲はほっっっんとひどいっ!!」

咲「私ばっかりじゃないでしょー!? 二人だって共犯でしょー!!?」

咲・桃子・友香「わっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」

淡「…………キラメさん、つかぬことをお尋ねしますが、この三回戦って、二位以上が決勝進出ではないのですか?」

煌「それは去年までの話ですよ。今年は二つほどルール改定があったんです。
 一つは、固定オーダーから自由オーダーへの変更。もう一つが、トーナメントの勝ち抜け条件の変更です」

淡「というと?」

煌「この三回戦、一位のチームは五日後の決勝に行き、二・三位は三日後の準決勝に進出するのです。で、反対ブロックでも同じように決勝行き一チームと準決勝行き二チームを決めます。
 そして、準決勝を勝ち抜いた上位二チームが決勝に行く、と。そもそも、上位二チームが決勝に行くなら、ベスト8が衝突するこの三回戦は、去年までのように『準決勝』と呼ばれるはずじゃないですか?」

淡「じゃあ……キラメは、最初から三位狙いだったの?」

煌「できれば二位くらいで余裕を持って抜けたかったですけどね。ま、一位を狙うつもりはありませんでしたよ。私たちには経験が足りません。決勝までにもう一試合くらいはしておきたいですから。
 それに、準決勝を経由すれば、決勝では、対戦経験のあるチームが二チームに増えます。逆に、ここで決勝行きを決めてしまうと、決勝の相手が全チーム初対戦、なんてことにもなりかねません」

淡「…………私ね、さっきまでね、ずっと、二位じゃないとここで敗退なんだって思っててね、キラメの三位以下が決まっても一生懸命応援してて、それで、サッキーとモモコとユーカが……私のこと――」

煌「はて。最初のほうのミーティングで説明したはずなんですけね。淡さん、そういえば、お菓子を食べるのに夢中だったような気もします」

淡「ねえ、キラメ、今のあいつらのこと、どう思う?」

咲・桃子・友香「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」

煌「ははっ。皆さん、三回戦を突破したからといって、はしゃぎ過ぎですよ」

淡「うん。大丈夫。あいつら全員、今から私が黙らせる」ゴッ

咲・桃子・友香「ひゃっ……?」

淡「もうううううううううばかあああああああああああああああああ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



     バチンッ



煌「あ、停電しました」

 ――観戦室



     バチンッ



やえ「ぎゃあああああああああああああああああ!?」

ネリー「わっほーいっ!! 停電だーっ!!」

やえ「データ!! 機材!! そんな……!? お願いだから無事であってくれえええええ!!」



     バチッ



照「あ、復旧した」

塞「こ、小走……? 大丈夫……?」

やえ「あぁああぁ! なんてことだ……!! 全滅だとッ!?」

 プスンプスン シュー

ネリー「うわー、煙出てるー……」

やえ「嘘だろ!? 神代のデータも!? 花田のデータも!? ほかにもたくさん貴重なものが……!!」

照「こ、こばし――」

やえ「宮永あああああ!? お前なのかああああああ!? だからあれほど対局室以外で本気を出すなとおおおおおおおお!!!」ガッ

照「もがっ!? ちがっ!!」ウウウ

塞「小走、やめてっ、宮永が死んじゃうっ!!」ゴッ

やえ「な――身体が磔にされたように動かない――?」ピタッ

ネリー「さえ、すげー!!」

塞「いやいや。それ気のせいだから。そんなオカルトありえないから」

やえ「だよな。学園異能バトル小説じゃあるまいし」フゥ

塞「ったく……ちょっとは頭冷えたー?」

やえ「すまない、臼沢、それに宮永。取り乱した」

照「いえ、前科がある私が悪いんです」

ネリー「今の大爆音はあれだね。あわいだね」

やえ「あのダブリー娘……決勝に上がってきたら全力で叩き潰す」

塞「あら、準決勝に行けば会えるわよ?」

ネリー「なにそれ? まるで私たちがトップ通過できないみたいなー?」

照「させないつもりだけど」

ネリー「わお! こいつはすごいぜっ!! やえ、てるとさえは、明日私たちを差し置いてトップを取る気だよっ!!」

やえ「思いたいやつには思わせておけ。思考は自由だ」

塞「ふーん。《煌星》みたいに経験積もうとか、そういうのないんだ」

ネリー「どうせ勝てる相手と二回も三回も試合してらんないじゃーんっ!」

塞「と、おっしゃってますけど、このガキ」

照「言わせたい人には言わせておく。言論は自由」

やえ・ネリー・塞・照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ「なーんてな。ま、今からピリピリしていたら神経が持つまい。なかなか楽しい時間だったよ。試合内容も充実していたし、敵チームと交流というのも、悪くない」

照「そうだね。美味しい紅茶も飲めたし、いろいろお話も聞けたし」

ネリー「明日はよろしくね、さえっ! 同卓したらボコボコにするよっ!」

塞「もしそうなったら、真っ先にそのクソ生意気な口を塞いでやるわ」

やえ「じゃ……私は機材をどうにかしないといけないから、ここに残る。宮永と臼沢は、もう帰るだろう?」

塞「そうね。今日は助かったわ。おかげで偵察も捗った。ありがと、《幻想殺し》」

照「ご馳走様です。ありがとうございました」ペッコリン

やえ「いいってことよ。じゃ、また明日な」

塞・照「また明日」

ネリー「ばいばーいっ!!」

 タッタッタッ ガチャ

やえ「ふー……しっかし、これ。どうしてくれるんだホントに……」ズーン

 プスンプスン シュー

ネリー「まー、反対ブロックの人たちについては、大体わかったし、いいんじゃない?」

やえ「そういう問題じゃないんだよ……。まあ、しかし、これは科学者としての話か。雀士としては、確かに、それほど重大ではないな」

ネリー「一番の目的は果たせたわけだしね~」

やえ「……それで、どうだった? 今日一日傍にいて。学園都市の《頂点》――宮永照は」

ネリー「うんっ! てるはすごい! 私と同じくらい強いっ!!」

やえ「なるほどな。ま、明日は頼むぞ、運命奏者《フェイタライザー》」

ネリー「あいあいさっ!!」

 ――――

 ――――

塞「っつあー、もー見てるだけで肩凝ったわーっ!」

照「菫……こんなにやきもきさせて私の動揺を誘うなんて。策士」

塞「いや、普通に苦戦してただけでしょ。ま、最終的に勝っちゃうんだからさすがよね」

照「そんなことない。菫はたるんでいる。明日は手本を見せる」

塞「私もボチボチ頑張るかぁー。って、それはそれとして、前々から気になるって言ってたけど、実際、どうだったの? 今日一日傍にいて。あの胡散臭い留学生――ネリー=ヴィルサラーゼは」

照「うん。ネリーさんはすごい。私と同じくらい強い」

塞「なるほ――うええええええ!? それ、マジで言ってんの!?」

照「マジマジ」

塞「そっかー。だとすると、私らじゃ役者不足だわ。あいつはあんたが直々に倒して。他は……ま、なんとかするから」

照「うん。明日はよろしく頼むね、《塞王》」

塞「あいあいさ~」

 ――――

 ――《劫初》控え室

憩「ただいま戻りましたーぁ!」

 一位(総合一位):荒川憩・+75300(劫初・131000)

智葉「おう、よくやったな」

憩「当然の結果ですわー」

衣「そのわりには必死に見えたが?」

憩「ちょいちょいコラ。誰のせいやと思っとんねん」

エイスリン「イカシテタゼ、ケイッ!!」

憩「おおきに~っ!」

菫「荒川……」ズーン

憩「暗っ!! 菫さん、オーラがどんよりしてますけど!? 何かあったんですか……!?」

菫「いや、何もない。お前がトップで帰ってきてくれて、本当に、心から嬉しく思う」

憩「えへへ……そんな見つめられたら、照れますやんっ! あ、それはそうと」

菫「どうした?」

憩「花田さんの力がわかりました」

菫・智葉・衣・エイスリン「!!!?」

憩「聞いて驚くなかれです。花田煌さん、あの人は《絶対にトばない》んですわ」

智葉「ト――ばない……だと……?」ゾクッ

憩「正確に言うと、花田さんのいる卓では、半荘一回中ずっと、誰かの個人収支がマイナス25000点を下回る瞬間がないんです」

衣「25000点持ちの東南戦で、トビ終了が起こらないということか」

憩「あと、二回戦での江崎さんの例もあります。個人収支だけやなく、団体戦の100000点も、ゼロ未満になることがないと見てええでしょうね」

エイスリン「ソレガ、《ツーコードメ》ノ、ショータイ……?」

憩「はい。道すがら花田さんの全公式戦牌譜を再検証しました。《絶対にトばない》――あの人の《通行止め》の説明として、これ以上簡潔で正確な表現はないと思います」

菫「トビ終了を起こさないとなると、考えうる局面のパターンは無数にありそうなものだが――。
 一体どれだけの能力を複合させれば、そのようなことが可能になるのだ……?」

憩「そこまでは……残念ながら。せやけど、目に見える現象自体は《トばない》で間違いありません。点数状況にさえ気をつければ、全然いつも通りに打って大丈夫やと思います」

智葉「トばない……トばない、か――」ブツブツ

憩「何か気になることでも、ガイトさん?」

智葉「……なあ、荒川」

憩「はい?」

智葉「お前……宮永妹の《プラマイゼロ》について、どう認識している?」

憩「ベースにあるのは、符の《制約》の代わりに、普通に打っとれば《妹さんがプラマイゼロになる場を生み出す》全体効果系能力――っちゅー感じですかね。
 あと、あの異常なカン率、また別の能力が複合してるかもしれません」

智葉「なら、花田煌の力も、ベースとなる《普通に打っていれば誰もトばない場を生み出す》全体効果系能力に、いくつかの補助的な能力が複合したもの――と考えるのか?」

憩「……何が言いたいんですか?」

智葉「荒川は、《幻想殺し》とは親しいんだよな?」

憩「ま、まあ」

智葉「なら聞くが、お前、あの《プラマイゼロ》と《通行止め》――能力的に解析することはできるか? もっと言うと、プログラミングできるか?」

憩「――――――――ピコンッ。『それっぽいもの』はいくつか提示できます。ただ、なんや、コレ……どうしてもシンプルになりませんね。
 なんて言えばええか……天動説モデルで惑星の軌道を記述しようとして泥沼にハマるっちゅーか、そういう『違和感』は感じます」

智葉「コペルニクス的転回が必要――ということか」

憩「ガイトさん?」

智葉「…………かつて、私が海の向こうにいた頃――」

憩「へ……? なんですか、いきなり」

智葉「《決してこの世に現れてはいけない魔術師》の話を聞いたことがある」

憩「……なんや、おどろおどろしいっちゅーか、オカルトオカルトしてますね……」

智葉「私の仲間は、それを『運命を喪った者』と呼んでいた。その旋律は、しかし、悲愴でも憂愁ではなく、甘美にして完備――」

憩「は……?」

智葉「運命喪者《セレナーデ》、とな」



     バチンッ



 ――――

>>719

そういう『違和感』があります

【A・Bブロック三回戦結果】

<総合結果>

 一位:劫初・131000

 二位:逢天・130700

 三位:煌星・69800

 四位:豊穣・68500

<区間賞>

 先鋒:東横桃子(煌星)・+20200

 次鋒:龍門渕透華(逢天)・+11200

 中堅:辻垣内智葉(劫初)・+3900

 副将:神代小蒔(逢天)・+106300

 大将:荒川憩(劫初)・+75300

<役満和了者>

 地和・九蓮宝燈:神代小蒔(逢天)

 大三元・字一色・四暗刻:渋谷尭深(豊穣)

<半荘獲得点数上位五名>

 一位:荒川憩(劫初・大将戦後半)・+66500

 二位:神代小蒔(逢天・副将戦後半)・+63000

 三位:神代小蒔(逢天・副将戦前半)・+43300

 四位:東横桃子(煌星・先鋒戦後半)・+17600

 五位:龍門渕透華(逢天・次鋒戦後半)・+14000

<MVP>

 荒川憩(劫初)

 ――理事長室

恒子「もつれたねー、最後の最後まで。とりあえず、すこやん的には、《煌星》が準決勝に駒を進めて万々歳?」

健夜「というか、そのためのルール改定だったからね」

恒子「本人たちは気付いているのかいないのか」

健夜「わからないけど、勝ち抜け条件が二位以上なら、それ相応の無茶をしたんじゃないかな。宮永さんはもちろん、花田さんも……まだ余裕があった気がする。
 ま、何はともあれ《レベル6シフト》計画が順調に進んでよかったよ」

恒子「ふ~ん。それじゃ、明日の三回戦は純粋に楽しめるのかなー?」

健夜「いや……どうだろうね。私は運命奏者《フェイタライザー》と宮永照がぶつかるかもしれないと思うだけで、気が重いよ……」

恒子「交差することのない世界――科学と魔術の《頂点》同士が激突する、と」

健夜「科学世界と魔術世界の代理戦争……もちろんオーダーによっては当たらない可能性もあるけど、宮永さんの先鋒はほぼ確定だから、ここで小走さんがハズすことはまずないだろうね」

恒子「C・Dブロック三回戦は最初から大変なことになりそうだね~」

健夜「宮永さんには《頂点》でいてもらわないと困る。科学世界のためにも、《レベル6シフト》計画のためにも」

恒子「じゃ、今日はお仕事終わりにして、明日に備えますかー! すこやんってば年も年だから、もう疲れたでしょ?」

健夜「アラサーだよっ! まだまだ現役だよっ!!」

恒子「『現役』!?」

健夜「なんでそのワード強調するかなっ!?」

恒子「はい、お後は若いお二人でっ!!」キラーン

健夜「…………こ、こーこちゃん?」ビクッ

恒子「ふっふっふ……よいではないかーよいではないかー……」ジリジリ

健夜「ま、待って!? 私、そんな若くないから! いや、アラサーだけど……! その、精神年齢的なアレが――」

恒子「もんどーむよーっ!!」バッ

健夜「わあああああああああああ!?」

 ドタバタ ドタバタ

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》決勝まで、あと五日]

ご覧いただきありがとうございました。

これにて、本選トーナメント編(A・Bブロック三回戦)はおしまいです。勝ち残りメンバーのおもち不足が深刻化しています。

次回から、本選トーナメント編(C・Dブロック三回戦)が始まります。もうチーム結成編が遠い過去になっていますね。改めて、チーム表をば。

 ――――

《チーム名》:リーダー、メンバー×4(名前順)

○C・Dブロック三回戦(一位→決勝進出、二位・三位→準決勝進出)

《久遠》:竹井久、愛宕洋榎、新子憧、小瀬川白望、白水哩

《幻奏》:小走やえ、江口セーラ、片岡優希、ネリー=ヴィルサラーゼ、亦野誠子

《永代》:宮永照★、井上純、臼沢塞、染谷まこ、高鴨穏乃☆

《新約》:園城寺怜☆、愛宕絹恵、薄墨初美、鶴田姫子☆、原村和

 ――――

○決勝進出

《劫初》:弘世菫、天江衣★、荒川憩、エイスリン=ウィッシュアート、辻垣内智葉

○準決勝進出

《逢天》:二条泉、姉帯豊音、神代小蒔★、松実玄☆、龍門渕透華

《煌星》:花田煌☆、大星淡★、東横桃子、宮永咲★、森垣友香

○三回戦敗退

《豊穣》:渋谷尭深☆、石戸霞、清水谷竜華、福路美穂子、松実宥

(※ ☆=レベル5、★=ランクS)

 ――――

次回は一週間以内に更新します。

では、失礼しました。

>>675
咲「だって……だって! 淡ちゃんがあまりにもバカだから――」ウルウル

咲さん絶対笑泣きだろww

>>675
咲「だって……だって! 淡ちゃんがあまりにもバカだから――」ウルウル

咲さん絶対笑泣きだろww

これでもMVP小蒔じゃないのか
しかし強いな菫のチームメイトは

ID変わる前に!
ここのすこやんはどれくらいの強さなのだろう
てるてるネリーが頂点と言われてるからにはその二人より弱い?

つか、何時の間にか相手の和了り牌を総取りしてるおりますしね…
あれは能力なのかな?

ご覧いただきありがとうございます。いくつか。

>>726さん

このSSのMVPは、『一位チームの中で最も勝利に貢献した人』という基準で選んでいます。大抵は一位チームの最多得点プレイヤーか大将が選ばれます。《逢天》が一位ならMVPは神代さんでした。

>>731さん

強い弱いはなんとも言えないです。とりあえず、理事長の小鍛治さん、《頂点》の照さん、ネリーさん、《神の領域に踏み込む者》の神代さん、花田さん、《特例》の荒川さん。この六人は、『ヒトじゃない』な~という感覚で書いています。

>>741さん

能力です。

 ――以下、ぐだぐだと――

本当は作中で解説すべきと思いつつオーラスについて補足。

ざっくり言うと、荒川さんが南槓したことで、《通行止め》によって卓上が『荒川さんが玄さんに3200直撃』コースから『四人テンパイ流局』コースへと《上書き》され、あのような感じになりました。

他家の和了り牌を悉く抱えているのはそのせいです(なので、玄さんはドラ待ちでさえなければドラを奪われることはありませんでした)。

自然に進めば流局だったので、荒川さんの五萬チーがなければ、《煌星》は敗退していたことになります。

初期のころから言われていますが、花田さんの《通行止め》は、ことあるごとに怪奇現象を引き起こすくらい『強度抜群』ですが、他人の力を利用しないと和了りもままならないくらい『攻撃に向いてない』能力です。

二回戦最終局で、天江さんの支配力によって『ノーテン流局』コースが『花田さんが天江さんに直撃』コースへと変化したのと、概ね同じロジックで、この三回戦も勝ち抜けています。

二回戦では、天江さんの海底に対する拘りを、三回戦では、荒川さんのトップ通過に対する執念を、花田さんは利用したわけですね。

ちなみに、今回は目のいい荒川さん視点だったので、かなりヤバいことになってるように見えますが、花田さんの《通行止め》は、初登場時から、ずっと安定して超ヤバいです。

 ――C・Dブロック三回戦・当日朝

純「よぅ、まこ。随分と早いじゃねーか」

まこ「緊張してもーての。よう眠れんかったんじゃ」

純「おいおい、三回戦くらいでなにビビってんだよ」

まこ「わら去年の経験があるけえ、そんなことが言えるんじゃ。わしゃ団体戦は《刹那》の一回きりじゃけえの。こんなデカい大会の三回戦――準決勝なんて大舞台は立ったこともない。緊張くらいするわ」

純「けど、ヘマはできねーよな? 衣と憩は決勝行きを決めた。小蒔と……二条だったか。そっちもそっちで三回戦は突破。衣たちに負けたとは言え、三位を大きく引き離しての二位通過。順当に行きゃ決勝に上がって来るだろ」

まこ「……ほうじゃの。ま、対局までにはなんとかしとくわ」

 ダダダダダダダダダ

まこ「む、このダッシュ音は」

純「来たな山猿――」

穏乃「おっはよーございまーっすー!!」ガバッ

純「うおわっ!? こら、穏乃っ!! だからオレは木じゃねえって!! 登るな、この猿ッ!!」

穏乃「やっぱり純さんの肩車は見晴らし最高ですねっ!!」ヤッホー

純「っとに、お前は。ま、衣と同じで軽いから別にいいけどよ」

穏乃「天江さんっ! あのすっごく強い人ですね!!」

まこ「われとは相性良さそうじゃけどの」

穏乃「私もそんな気がしてますっ!」

純「今日トップになれば、四日後に会えるぜ。見てみたいカードだな。衣が負けるとは思えねえが、お前が負けるとも思えねえ」

穏乃「恐縮で――ああっ!?」

まこ「どうした?」

穏乃「照さんと塞さんはっけーん!!」ヒョイッ

純「ほあっ!? 急に飛び降りるな、びっくりするわ!」

穏乃「すいません! ではっ、私は照さんたちのお迎えに行ってきます!!」ドヒューン

 ダダダダダダダダダ

純「あいつ……せっかく登らせてやったんだから、もうちっと登っててくれりゃあいいのによォ。落ち着きがねえったらねー」

まこ「すっかり肩車担当が板についてきたの、純」

純「クソ元気な衣みたいで面白えんだよ、あいつ。にしても、朝っぱらからホント無駄体力だよなぁ」

まこ「ほうじゃの。けど――」

純「どうした?」

まこ「穏乃見とったら緊張が吹っ飛んだわ」

純「ハッ、そりゃそーだ」

 ダダダダダダダダダ

穏乃「お連れしましたー!!」

塞「なんで朝からこんなダッシュしてんのかしら、私たち?」ハァハァ

照「高鴨さんが手を離さないから」ハァハァ

穏乃「これで全員集合ですねっ!! 照さん、一言お願いします!!」

照「う、うん。ちょっと呼吸を整えてからね……」スーハー

塞「はーい……じゃ、宮永が深呼吸してる間に、オーダー言っとくわ。先鋒、宮永。次鋒、高鴨。中堅、染谷。副将、井上。大将、私」

純「前二人でブッ千切って、オレとまこで繋いで、塞でシャットアウトか。新しいパターンだけど、いいんじゃねえの」

まこ「われが大将なんは珍しいの。いつもみたいに穏乃じゃといかんのか?」

塞「うーん、ちょっとね。宮永が、先鋒でなんかあるといけないからって。それで、保険として次鋒に高鴨を置いたのよ。
 そうすると、まあ、残りのメンバーで大将向きなのは私かなって」

まこ「……先鋒でなんぞ起こるんか?」

純「あれか、《幻奏》の留学生」

穏乃「ネリー=ヴィルサラーゼさんですね!」

塞「そーゆーこと。だから、高鴨。今日はあんたが試合決めるつもりで打って。
 ま、ダメでも私らでなんとかするから、いつも通りでいいと言えばいつも通りでいいんだけど」

穏乃「お任せくださいっ!」

塞「他に異議のある人ー? はい、なければ宮永、あとヨロシク」

照「はい、じゃあ、みんな。臼沢さん、染谷さん、井上さん、高鴨さん」

塞・まこ・純・穏乃「はーい」

照「みんな、もう昨日の三回戦の結果は知ってるよね。トップ通過したのは《劫初》。これが、けど、あまりにぎりぎりだった」

照「それと、残念なことに、《豊穣》が敗退してしまった」

照「あと、これは二回戦のときも言ったけど、今日戦う《幻奏》はシードを逃した」

照「私は元一軍《レギュラー》として、この結果をとても遺憾に思っている」

照「みんなは四日後の決勝が終わった時点から、一軍《レギュラー》になる。
 だから、今のうちから、ちゃんと、一軍《レギュラー》というのがどうあるべきかを考えて、試合に臨んでほしい」

照「今日の三回戦。先鋒戦、私は絶対にトップで帰ってくる」

照「そこから、一時的にでも、トップ陥落した場合」

照「私は……この試合を棄権する」

塞・まこ・純・穏乃「えええええええええええ!?」ガーン

照「ご、ごめん。今のはちょっとした冗談……」アセアセ

塞・まこ・純・穏乃「ほっ……」

照「まあ、それくらいのつもりで、打ってってこと」

純「なるほどな。それで次鋒に穏乃なのか」

まこ「こりゃあ大仕事じゃの」

穏乃「大丈夫ですっ! 二位との差は広げてお繋ぎしますから!」

塞「みんながそうしてくれると、最後の私が助かるわ」

照「じゃ、みんな。油断せずに行こう」

塞・まこ・純・穏乃「おーっ!!」

 ――――

 ――――

怜「っちゅーわけでぇー……ついに来たで三回戦ッ!!」

初美「思えば長かったですねー」

和「ついに問題のチーム《久遠》と直接対決――」

絹恵「お姉ちゃん!!」

姫子「哩先輩!!」

怜「事実上、これがうちらの決勝戦みたいなもんや!!」

初美「このためにチーム結成したようなもんですからねー」

和「ここまで来たら勝ちましょう」

絹恵「はい……っ! それについて、うちと姫子から、皆さんにお伝えすることがあります!!」

姫子「聞いてください!!」

怜・初美・和「?」

絹恵「皆さんには、ホンマ感謝しています。ここまで連れてきてくれて、ホンマありがとうございました!」

姫子「こいなこと言うんは失礼なことと思うばってん、本当にここまで来らるっとは思っとらんかったとです!」

絹恵「せやけど、せやからこそ!!」

姫子「試合の始まる前に、言っておきたかことのあります!!」

絹恵「ここが私たちの決勝戦――」

姫子「ではなかと!!」

怜・初美・和「っ!?」

絹恵「お姉ちゃんのことも大事は大事。お姉ちゃんらに勝って、がつんと言いたい気持ちは今でも同じです!」

姫子「ばってん、そい以上に、どうせ勝つんやったらもっと上ば目指したか!」

絹恵・姫子「このチームで一軍《レギュラー》になるっ!!」

絹恵「それが、うちと姫子の、今の最大目標です」

姫子「そいけん、この試合、私たちや哩先輩たちのことは、二の次でよかです」

絹恵「みんなで、本当の決勝戦に行くこと、そこでトップに立つこと」

姫子「そいば、最優先事項にして、今日は戦いたかとです」

絹恵・姫子「……以上(と)です」ペコッ

初美「…………これはこれはー。どーするんですかー、リーダー?」

和「怜さん……絹恵さんが愛宕先輩の出てくるだろう中堅、姫子さんが白水先輩の出てくるだろう副将で、オーダー考えてましたよね?」

怜「ホンマやで!! どないしてくれるん!? せやったらこんなんもう廃棄するしかないやん……っ!!」オーダーヒョウビリビリ

絹恵・姫子「と、怜さん……」

怜「もーっ!! それならそうと、なんでもっと早う言わんねん!? 今日のオーダー考えるのに、うちが昨日どんだけ頭悩ませたと思うとるんや!!
 清水谷さんVS辻垣内さんの生中継見たかったんも我慢して考えたんやでー!?」

絹恵・姫子「す、すいません……」

怜「一日中や! 一日中かけて今日のオーダー考えてたんや!!」

絹恵・姫子「本当にごめんなさい……」

怜「っとにもー! 一日中かけて延々頭使うてあれこれ検討して……こんなこともあろうかとスペアオーダーまで考えとってホンマよかったわ!!」ジャーン

絹恵・姫子「怜さああああああん!?」

初美「これは予想外ですよー!?」

和「こんなできる怜さんは初めて見ました……!!」

怜「ちっちっちー。うちはレベル5の予知能力者やでー? この園城寺怜の両目に見えへん未来なんてあらへんわ。こんなことになるんはな、もー100年前からお見通しやってんっ!」キラーン

絹恵「怜さん、お姉ちゃんほどやないけどホンマ最高ですっ!」

姫子「私も怜さんのこと、哩先輩には遠く及ばなかばってん好きとですっ!!」

怜「おっふ……誰かうちを一番に思うてくれる子はおらんのかい」

和「誰が好き好んで怜さんみたいな欠陥品。まあ、けど、かといって放置しておくのも、その、周りの迷惑でしょうから、私が廃品回収してあげるというあれも、なくはないというか……」ゴニョゴニョ

怜「え? なに、よう聞こえへんけど?」

和「なんでもないですっ!」バチーン

怜「もーれつぅー……」ビリビリ

初美「じゃ、とりあえず怜の頭以外は問題ないということで、そろそろ控え室に向かうですかー」

絹恵・姫子・和「はいっ!」

怜「ストップ! その前に、いつものあれやるでー!!」

初美・絹恵・姫子・和「はーい!!」

怜「ほんならま……二回戦では《永代》に遅れを取ったけど、まあそれはそれ。相手ちょっと手強いのばっかやけど、どーにかこーにか決勝行くでっ!! せーのっ――」

怜・初美・絹恵・姫子・和「しゃあああああああああー!!」

 ――――

 ――――

洋榎「よーっす、なんや、自分、えらい早いやんかー」

セーラ「おう、そっちこそ! ってなんでやねーん!?」スパーン

洋榎「あかん。これもう完全に集合場所ド忘れやわ。自分知らん?」

セーラ「知るわけあるか!」

洋榎「ま、ええか。うちくらいにもなると、集合場所のほうがうちのとこに来るからな!」

セーラ「アホ言っとらんと、はよ別のとこ探してみーや。まだ時間あるから、今からでも間に合うやろ」

洋榎「それはそうと、清水谷が負けてもーたな」

セーラ「せやな」

洋榎「くくくっ、せやけど……あいつは《西方四獣》の中でも最弱――」

セーラ「それ言いたかっただけかーい!!」スパーン

洋榎「おおっ、このノリやこのノリ! どーにもな。うちのチームはツッコミがおらへんから、ボケてもボケてもみんな失笑して終わりやねん!」

セーラ「それ単純に自分のボケがつまらんだけちゃうの?」

洋榎「はあー! もー満足やわー!!」スッキリ

セーラ「自分ホンマ何しに来てん!?」

洋榎「ただの挨拶や、挨拶。あと、清水谷のことはホンマ残念や。あいつはなんや、強いくせにいつもいつもクジ運悪いねん。
 何べん個人戦やっても、準決勝に来る前に辻垣内に負かされてまう。そら《一桁ナンバー》になれへんわけやで」

セーラ「せやな。俺も、なんで竜華やなく俺が《一桁ナンバー》なのか、ずっと疑問に思っとったわ」

洋榎「ほな、その疑問にうちが答えたろか?」

セーラ「ほほう? 答えてみーや。なんでなん? なんで竜華やなく俺が《一桁ナンバー》なん?」

洋榎「そらもちろん、自分が強いからやんな? うちとタメ張るくらい強いからやんな? せやろ、セーラ……?」

セーラ「洋榎……? その返しはさすがにちょっと斜め上やったわ。なんなん、新手のボケ?」

洋榎「ボケちゃうわ。言うたやろ、挨拶しに来たて。今日もよろしゅう頼むで……このワン公」

セーラ「……そーいや、昨日の中堅戦で通算成績がまたイーブンに戻ったな、このドラネコ」

洋榎・セーラ「ほな、ええ加減どっちが上かはっきりさせよか……ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

洋榎「楽しみにしとんで、セーラ……」フッ

セーラ「ああ。俺もやで、洋榎……」ニッ

洋榎「ほんで、自分ホンマにうちらのチームの集合場所どこか知らん?」

セーラ「知らんわー!!」スパーン

 ――――

 ――――

哩「ほれ、シロ。しゃきしゃき歩きんしゃい。また遅刻すっとね」

白望「うー……ダルいー……おんぶー」グデー

哩「のわっ! やけん、シロ、私はお前ばおぶれるほど力な――」ヨロヨロ

白望「うーん……」ダルーン

哩「お……重か……! だ、誰か――」フラフラ

やえ・誠子「………………」ジー

哩「………………」

やえ「亦野、頼めるか?」

誠子「はい。お任せを!」サッ

白望「んー……? 知らない匂い?」

誠子「小瀬川先輩、もうちょっとだけ、前に重心かけていただけると」

白望「はーい」ダルーン

哩「か、かたじけなか」

やえ「私は何もしていない。礼なら亦野に言ってくれ」

哩「あいがとな、亦野さん」

誠子「いえいえ。これくらいは後輩として当然のことです!」キリッ

哩「こいが元一軍《レギュラー》……!!」

白望「おー……なんて快適なおんぶ……」ダルー

やえ「ふむ……まだ時間はありそうだな。白水、お前らの集合場所はどこだ?」

哩「なんからなんまで。こっちと」

やえ「ああ、うん。そう、代わりにと言ってはなんだが」

哩「?」

やえ「うちの莫迦どもを見なかったか……?」

哩「え?」

白望「亦野さん……すごくいい……毎日こうしてほしい」ダルー

誠子「あははっ、ご冗談を!」ノッシノッシ

 ――――

 ――――

久「うーん。みんな来ないわねー」

憧「意外なんだけど、洋榎とかきっちり十五分前行動するのにね」

久「ああ見えて根っからのリーダー気質なのよ、洋榎は」

憧「逆に哩とかちゃんとしてそうなのに抜けてるのよねー」

久「そうね。あとはシロだけど……まあいつも通りダルダルしてるとして。もしかして、これ、しばらく私たち二人っきりなんじゃない?」

憧「そ、そーかもねー」

久「ふふっ。憧ったら、今何を考えたのかしら?」

憧「な、なんも考えてないからっ! マジで!!」

久「もしかして……こーゆーの期待しちゃったり?」ガバッ

憧「人の話を聞けー!!」ジタバタ

久「ほーら、暴れない暴れない。余計大変なことになるわよー?」ワキワキ

憧「ひょわっ!? ひ、久っ!! ほん、やめ――公共の場!! 屋外!!」

久「この辺りは選手しか来ないから大丈夫よー」フゥ

憧「やぁ――ん……! そこマジ弱いからぁ……」

久「憧ってば弱点いっぱいで楽しいわー」スッ

憧「ちょあー!? バッ、どこ手ぇ突っ込んでんのよーっ!!」アワワ

久「いいじゃない。どうせ誰も見てな――」

優希・ネリー「………………」ジー

憧「ちょ、なによ、久、ここまで来て途中でやめると……か――」ハッ

優希・ネリー「………………」ジー

憧「うぎゃあああああああああああああ///////」

久「《幻奏》の子たちね。おはよう。今日もよろしくね」

優希「ネリちゃん! どうするじょ!! あんな淫らな体勢から挨拶してくる痴女に果たして私は挨拶を返すべきなのか否か!?」

ネリー「慌てちゃダメなんだよ、ゆうき!! やえがよく言ってる!! こういうときこそ、クールに!! そしてウィットに富んだ返しを!!」

優希・ネリー「おはようございます! 朝からお盛んですね!!」キリッ

憧「うっさいわよバカァァァァ!!」

優希「これが噂に聞く逆ギレか……!!」

ネリー「それにしても、やっと集合場所に着いたと思ったら情事現場なんてね。これは本格的にマズってるんだよ、ゆうき」

久「もしかして、あなたたち、迷子?」

優希・ネリー「いかにもっ!!」

憧「……ダメだ……あたし……もうお嫁にいけない……」

久「あら、よければ私が貰ってあげましょうか?
 と、それはそれとして、どーしましょ。あなたたち、チームの人とは連絡取れる?」

優希「じょ――電子学生手帳が……ない……!?」

ネリー「私は機械全般苦手なんだよーっ!」

久「えーっと、私は知っている人いないから……あ、洋榎なら江口さんの連絡先知ってるかも。ちょっと待ってて」プルルル

優希「痴女なのにできるお姉さんだじょ!?」

ネリー「大丈夫ー、あこー?」

憧「ネリー=ヴィルサラーゼ……大丈夫、あんたの顔見たら頭冷えたわ」

ネリー「あははっ、そいつはよかったんだよー」

久「ああ、洋榎? あの、江口さ――え? あー……おっけーおっけー。じゃ、二人で――そうそう、そこから正門のほうに回って。うん。じゃ、同じこと江口さんにも伝えてー」ピッ

優希「どうだったじょ?」

久「うちの洋榎が江口さんをつれてこっちに来るわ。で、江口さんから小走さんと亦野さんに連絡してもらって、二人もこっちに」

やえ「来たぞ」

久「あら」

ネリー・優希「やえ(お姉さん)!!」

憧「哩とシロも……っていうか人様になにさせてんのー!?」ガビーン

哩「本当にあいがと、亦野さん」

誠子「なんのこれしき!」キリッ

白望「うー……このまま控え室までー……」ダルー

憧「ほっっんとすいません!! ありがとうございますっ! あとはこちらで引き取りますっ!!」ワシッ

白望「ああー……亦野さんの背中が遠のく……」ズルズル

久・やえ「あとは――」

洋榎・セーラ「よーっす!」

久「これで全員集合ね」

やえ「そのようだな」

久・やえ「はーい、じゃあ全員注目ー!!」

全員「わー!」

久・やえ「今日の三回戦の私たちの最優先事項を発表しまーす」

全員「はーい」

久・やえ「《永代》を叩き潰して私たちがトップ通過! 以上ッ!!」

久「……あら、気のせいかしら。隣のほうから冗談みたいな冗談が聞こえたのだけれど?」

やえ「……奇遇だな。私の耳にも届いたぞ。センスに欠けたジョークがな」

ネリー「あははっ! 今日はどちら様が私に点棒をプレゼントしてくれるのかなー?」

憧「あいにく手元に断ラスしかないんだけど、それでもよければくれてやるわ……ッ!!」

洋榎・セーラ「おーおー燃えとんなー」

優希「白いの! あれで勝ったと思ったら大間違いだじょっ!!」

白望「うん、まあ、でも、今日もたぶん東二局は来るよ……」

久「亦野さんはちゃんと現物って単語を辞書で引いてきてくれたかしら?」

誠子「恐れ入りますが、竹井先輩こそ、上家と下家の区別はつくようになりましたか?」

やえ「ったく、どいつもこいつも……敵は《永代》だと言ってるだろうに」

哩「《王者》……とりあえず、収拾ばつけてくれんか?」

やえ「わかっている……。おーい、お前らっ!!」

ネリー・優希・セーラ・誠子「はいっ!!」

やえ「莫迦二人のせいで控え室が遠い! さっさと行くぞ!!」

ネリー・優希・セーラ・誠子「はーいっ!!」

 ダッダッダッ

久「あ、そうだった。私たちも行かなきゃね」

憧「そこ忘れちゃダメー!」

久「はーい、じゃ、お子様をお連れの方はお手を引いてついてきてくださいねー」

哩「ほれ、シロ。はよ手ば出しんしゃい」

白望「あいー……」

洋榎「ほれ、憧ちゃん。はよ手ぇ出しや」

憧「えっ? え? う、うん――」スッ

 バチーン

憧「いったぁー!?」ヒリヒリ

洋榎「はっはー! 今時こんな古典的な罠に引っかかるアホがおるとはなー!!」ダッ

憧「待てゴラ洋榎えええええええええ!!」ダッ

 ――――

 ――観客席

淡「やってきました偵察!!」

煌「しかし、さすがに三回戦ともなると人が多いですね……」

 ガヤガヤ ガヤガヤ

「え……あれ、《通行止め》じゃない!?」「《超新星》もいるわよ!」「付き合ってるって本当だったんだ」「二人部屋らしいよ」「じゃあ昨晩は祝勝会という名の……」「きゃー!」

 ガヤガヤ ガヤガヤ

煌「はて。なにやら好奇の視線が痛いです」

淡「わーいっ! みんな私たちのこと見てるーっ!!」ウネウネ

煌「淡さんは目立ちますからね」

淡「よーし! じゃあ、ちょっとファンサービスだよっ!!」ゴッ

 バタッ バタッ バタッ バタッ

「人が倒れたわー!」「こっちは泡吹いて……」「大丈夫!? しっかりして――」「誰か保険委員を呼んでー!!」

 ワーワー キャー キャー

淡「えっと……」サー

煌「こ、これは……!」アワアワ

 バァァン

憩「はーい! 呼ばれて飛び出て保険委員の登場やでー!!」

 ドヨドヨ ドヨドヨ

「《白衣の悪魔》!?」「いやあああああ!!」「この世の終わりよ……!!」「ちょ、そんな震えてどうしたの!?」「いいのよ、あの対局のことはもう忘れなさい……」

 ドヨドヨ ドヨドヨ

藍子「荒川さーん!」ダッ

憩「百鬼さん……どないしよ、みんなウチの目を見てくれへん……」ウルウル

藍子「うん。そりゃまー荒川さんだからねぇー」

淡「ねっ、見て見てキラメ! 《悪魔》と《超音波》だよっ!」

憩・藍子「ん……?」

煌「これはこれは。荒川さんは昨日ぶり、百鬼さんは三日ぶりですね」

藍子「わぉ、《通行止め》っ! いやー、二回戦ではマジやられたわよー」

憩「ウチも昨日は散々な目に遭ったで。なあ、花田さん?」

煌「恐縮です」ペコッ

藍子「で、なっるほど。この騒ぎの原因はあなたってわけかぁ、《超新星》さ~ん?」

淡「な、なんのことかなー?」アワアワ

憩「しらばっくれてもムダやで。ここに小走さん印の《不規則格子晶体》――通称《不晶体》がある。大星さんから支配力が漏れ出しとるんはわかっとんねん。神妙にお縄につきや!!」

淡「キ、キラメ!!」ウルウル

煌「…………」ポンッ

淡「諦めた笑顔で肩を叩くのやめてー!!」

 ドヨドヨ ドヨドヨ

菫「おーい、荒川。終わった――え?」

淡「あ、スミレだ!! やっほー!!」ブンブン

憩「菫さん、ちょっとこの子しばいたら終わるんで、もうちょっとだけ待ってください」ワシッ

淡「いーやーっ!!」ジタバタ

藍子「ま、まあ、荒川さん。とりあえず一時的なもので、もうみんな大丈夫そうだから。荒川さんは偵察に戻って。あとは私らでやっとくからさ」

憩「ええの?」

藍子「うん。っていうか、ぶっちゃけて言うと、大星さんの支配力に中てられた人より、荒川さんを恐がってる人のほうが多いんだよね」

憩「百鬼さん……ウチ、ナース向いてないんかな……」ズーン

藍子「雀士との両立は難しいかもねぇ」

菫「よ、よくわからんが、ひとまず出るか」

憩「そーですね。あっ、ほな――」チラッ

淡・煌「?」

憩「どや、お二人さん。一緒に偵察、せーへんか?」ニコッ

淡・煌「!!」

『C・Dブロック三回戦――先鋒戦の選手は、対局室に集合してください』

 ――《幻奏》控え室

優希「ついに……ついに来たじょ、このときが!」

セーラ「三ヶ月も待ったわー」

誠子「かなり複雑な気持ちで、今でも半信半疑ですが……!」

やえ「なに、結果はすぐに出る。そうだろ、ネリー?」

ネリー「おうともよっ!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希「で、実際どうなんだじょ! ネリちゃん本当に勝てるのか!?」

ネリー「実際のとこはね、わかんない!」

セーラ「勝てると言わへんあたりがまたリアルやな」

ネリー「ま、とりあえず全力で打つよー」

誠子「学園都市で誰一人見たことのないネリーさんの十割……」

ネリー「いや、さとはは見たことあるよ」

優希「咲ちゃんを真っ二つにしたあの人斬りさんか。どんな感じになるんだじぇ?」

ネリー「トビ回避できれば上々って感じだね!」

セーラ「与太にしか聞こえへんけどな~」

誠子「えっと……でも、その、宮永先輩は、本当に、とてつもなく強いですから。お気をつけて」

ネリー「わかってるよ~。私と互角なんだよ? 半端じゃなく強いに決まってるじゃん! うあー、すっげー楽しみっ!!」

やえ「それだけ元気なら大丈夫そうだな。今日はオールフリーだ。なんでもアリだ。最高の一局を奏でてこい、運命奏者《フェイタライザー》」

ネリー「うん! 最高の一曲にしてくるんだよっ!!」ゴッ

 ――《久遠》控え室

久「んー、それじゃあ行ってきますかー」

洋榎「大丈夫なんか、久。二回戦みたいに緊張しとらんよなー?」

久「心配してくれてありがと。今日は大丈夫――と言いたいところだけど、緊張してないと言えば嘘になるわね」

憧「ひ、久、本当に大丈夫なの……?」

久「あらあら、そんな泣きそうな顔しないでよ。緊張って言っても、いいほうの緊張だから。
 始まる前からこんなに集中できてるなんて、久しぶり。二年前……一年生のときのクラス対抗戦を思い出すわ」

白望「面子……おんなじ」

久「そう――あの決勝、大将戦。あのときは学年最強のチームを決める戦いだった。
 それが今度は……白糸台最強のチームを決める戦いで、また同じ面子と卓を囲む。随分と遠くまで来ちゃったわね」

哩「あのときは四人目の《百花仙》やったばってん、今年はそこに一年の混ざっとる。こいつが……憧の話やと、化け物みたいに強からしい」

久「あの《最愛》の大能力者を超えてくるとなると、私も相当頑張らないと厳しいわね」

憧「っていうか、久、宮永照やネリー=ヴィルサラーゼもそうだけど、ずっと戦いたくないって言ってたじゃん、あの《新約》の――」

久「風紀委員長――薄墨初美。霧島出身の《悪石の巫女》。そして《最凶》の大能力者。私が……ずっと戦いたかった相手よ」

憧「へ?」

洋榎「よう追いかけっこしとったなー。久のナンパを見つけては薄墨が死霊を連れてやってくる。
 久のサボリを聞きつけては薄墨が死霊を連れてやってくる。久がうちらと夜遊びしとったら、やっぱり薄墨が死霊を連れてやってくる」

白望「一回なんか……私たちまで……とばっちりのお説教」

哩「薄墨は、久ば取り締まるために風紀委員になったようなもんやけんな」

久「私が学生議会委員になったのも、学生議会室ならあの《最凶》の目が届かないからっていうのが、理由の半分以上を占めるわ」

憧「久ってば……《最悪》だ《最悪》だと思ってたけど、本当に大問題児だったのね……!!」

洋榎「優等生の福路が間に入っとらんかったら、久は間違いなく薄墨に処刑されとったやろな」

白望「《スクール》の活動も……薄墨さんがいなかったらもっと楽だった」

哩「この一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》は極めつけ。まさか姫子たちの薄墨について私らの前に現るっとは、因果なもんと」

久「お祭りらしくて素敵じゃない。美穂子のことは残念だけど、その分まで私は楽しんでくるわ。みんな、応援よろしくね!!」

憧・洋榎・哩・白望「おー!」

 ――《新約》控え室

初美「さーて。まー行ってくるですかねー」

怜「頑張ってな、初美!」

初美「正直なところ、また宮永照の相手しなきゃいけないってのは気が重いですよー」

姫子「ネリーさんにも気ばつけてください。あん子、合宿のときからここまで、たぶん、一回も本気で打ったことなかとです。
 あの小走博士の目ばかけた人やけん、《悪魔》並みにヤバか可能性もあっとです」

絹恵「それに、《久遠》からは――」

初美「わかってるですよー。ただ、そっちはまったく問題ゼロですー。むしろめちゃめちゃ気が進むですよー。
 まったく二年も待たせてくれやがってですー。ようやく公式の場であいつを叩きのめせるときが来たですよー!!」

怜「《悪待ち》の竹井学生議会長やんな……!」

初美「チームとしても、風紀委員長としても、あの放蕩女にはきっつーいお灸を据えてやるですー!!」

和「頑張ってください、初美さん。できることなら、あまり四喜和にこだわり過ぎずに打ってくださいね。
 その偏った思考のせいで、二回戦では咲さんのお姉さんに遅れを取ったわけですから」

初美「そう言われると、まるで能力に拘らなければ、あの宮永照といい勝負ができるみたいですねー?」

和「実際、そう思っていますよ。初美さんの強さは、委員会の交流戦で何度も目にしてきました。
 オカルトは信じませんが、初美さんの勝利は信じています。待っていますからね、委員長」

初美「任せろですーっ! みんな、応援よろしくですよー!!」

怜・絹恵・姫子・和「おーっ!!」

 ――《永代》控え室

照「さて……と」

純「今日もよろしく頼むぜ、リーダー」

まこ「釈迦に説法じゃが、気を抜かずにのう」

穏乃「すぐ後には私が控えておりますので、ご安心を!」

塞「まぁ……とにかく任せたわ、宮永」

照「うん。みんな、ありがとう。応援よろしく。じゃあ……行ってきます」

純・まこ・穏乃・塞「行ってらっしゃい!」

 バタン

純「しっかし、衣たち《三強》以上に頼れる人間がこの世にいるとはなー。学園都市は広いぜ」

まこ「じゃが……今日はちと危ないんじゃろ?」

穏乃「強い人なのは牌譜見ればわかるんですけど、そっっっんなに強いんですか、ネリー=ヴィルサラーゼさん!」

塞「うん……。これは、私が友達から聞いた話なんだけどね。胡桃っていうちまいのなんだけど。
 その胡桃のチーム《一会》ってのが、予選の決勝で、あのチーム《幻奏》と戦ってるのよ」

純「そんで?」

塞「胡桃とヴィルサラーゼが打ったのは大将戦だったんだけどね。かなりいい勝負をしてたの。前半終わったとこまでは、胡桃のチームが勝ってたくらいだったのよ。けど、後半戦――」

まこ「牌譜は見た。一方的にやられとったの」

塞「そうなの。胡桃曰く、『前半戦より五割増しで強くなった』らしいのよね。強さは完全に上位ナンバーのそれ。感覚を信じるなら無能力者っぽいんだけど、わけのわかんない和了りを連発。
 大将卓にいた残りの二人は三軍《サードクラス》だったし、独走――いや、独奏だったかしら。とにかくあっという間にまくられて、そのまま逃げ切られたんだってさ」

穏乃「じゃあ、前半戦は半分の力で戦ってた、ってことなんですかね。その状態で五分五分だったんですから、倍増されると確かに勝つのは大変そうです」

塞「私もそう言ったの。胡桃は、ナリはちんまりしてるけど、二年前のクラス対抗戦では、あの弘世菫や白水哩を相手に善戦してた。
 二年生のときは、私や《最多》のエイスリン、《最大》の豊音、それに今はチーム《久遠》にいるシロと、毎日のように打ってた。
 上位ナンバーでこそないけど、胡桃の実力は私が保証する。けど、そんな胡桃が私に言うわけよ……」

純「なんて?」

塞「前半戦のネリー=ヴィルサラーゼ……あいつは、半分の半分の力すら出していなかった――って」

まこ「……ほう」

塞「まあ、あとは単純な算数よね。前半が全力の二割で、後半が三割だったと考えれば、五割増しっていう胡桃の感想ともつじつまが合う。
 けど……信じられる? 全力の三分の一も出さずに、上位ナンバー級の強さがあるとか、そんなオカルト」

純「そんな真似ができるのは――」

まこ「まあ照か憩くらいのもんじゃろ」

穏乃「照さん、二回戦で三割って言ってましたよね」

純「ネリーとか言うやつも、照と同じで二回戦ではぶっちぎりトップだったよな。
 《久遠》の新子、《晩成》の丸瀬、それに、どういう風の吹き回しか今年は《風越》の連中と一緒に出てた我らが一くんの三人を、まとめてフルボッコ。
 二回戦での獲得点数は、全試合中二番手。衣以下照以上だった」

まこ「じゃが……牌譜を見る限りでは、予選とさほど違いはない。あっちもやっぱり二、三割で流しとったんじゃろう」

塞「どんだけ化け物なのよ、って思うでしょ? で、昨日の偵察、ひょんなことから私と宮永は、ヴィルサラーゼと小走と四人で、ずっと一緒の部屋にいたの。
 試合見終わって、あいつらと別れて、私、宮永に聞いてみたのよ。『ヴィルサラーゼはどうだった?』って」

穏乃「照さんはなんて言ったんですか?」

塞「『私と同じくらい強い』って」

純「おぉぉ……久しぶりに寒気がするぜ……ッ!!」

まこ「そいつが本当なら洒落にならんの」

塞「この手の見積もりに関して、宮永の勘が外れたことはない。あの宮永がそう言ったんだから、ネリー=ヴィルサラーゼは間違いなく、宮永レベルの化け物なのよ」

穏乃「照さんの言葉とはいえ受け入れ難いですね。《悪魔》さんは《特例》なんでしょうけれど……まさか、この世に照さんと同じくらい強い人がもう一人いるなんて」

純「楽しみだなァ、先鋒戦」

まこ「ぼちぼち始まるの……」

穏乃「いつもにも増して! 張り切って応援しましょうっ!!」

塞「いや、高鴨、あんたはいつも通りでいいわよ? あんたに張り切られると、うるっさくて集中できないから」

穏乃「そんなっ!? 私の応援にはまだ五段階上があるのに――!!」

塞「高鴨……あんたも大概化け物よね……」

 ――観戦室

淡「えーっ!? なにこの部屋ー!! 思ってたよりずっと広いっ!! しかもキッチンとシャワールームと簡易ベッドまであるっ!! もうここに住もうよ!!」

憩「研究者専用の観戦室なんよ。小走さんから鍵をお借りしてん」

煌「なるほど。それで機材が充実しているのですね」

菫「だが、そのほとんどに『故障中』の張り紙がしてあるのはなぜだ?」

憩「昨日の停電でやられたそうですよ。小走さん、犯人の目星はついとるそうです。灰にしたるって言うてましたわ。
 誰やか知らんけど、謝るなら早いほうがええで。な、目星――もとい大星さん?」

淡「ななななな、なーんのことですかなー!?」アワワワ

菫「昨日のあれはお前か……」

煌「申し訳ありません」

憩「いやいや、花田さんが謝ることないやろ。ま、それはそれとして……えーっと、機材を弄らなければ好きに使うてええって言うてましたからね。お茶でも淹れますわ」

淡「はいッ! 私! 手伝います!!」

憩「あはは、お~きに~」

『先鋒戦……まもなく開始です!』

煌「先鋒――《永代》と《新約》は二回戦と同じですね。宮永照さんと、風紀委員長の薄墨さん」

菫「《久遠》は竹井か。ここまでは、二年前のクラス対抗戦の大将卓と同じ面子だな」

憩「そんときは四人目が藤原さんやったんですよね」

淡「ほう! あの《百花仙》っ!」

煌「牌譜は拝見させていただきました。実にすばらな熱戦でしたね」

菫「だが……今回、藤原はいない。その穴に入るのが――あいつなのか。ネリー=ヴィルサラーゼ」

憩「先鋒戦に出てくるんは初めてですよね。でっきり江口さんか片岡さんかと思うてましたけど。
 ほな……ホンマに切り札なんやな。あの小走さんが宮永照にぶつけてくるほどの」

淡「あのネリーってのとは、私、合宿で打ったよ。感覚を信じれば無能力者なんだけど、なんか、それだけじゃない気がする。
 同じ無能力者でもミホコとは違う感じっていうか。どっちかっていうと、ケイに近いような」

煌「直接見たわけではありませんが、合宿では《豊穣》の福路さん、清水谷さん、石戸さん、それに《幻奏》の江口さんが、ローテーションでネリーさんと打っていました。
 そのときの様子からすると、恐らく、全員がネリーさんに負けていますね」

菫「にわかには信じられん情報だな……」

淡「まっ、ネリーには私もやられたしねー!」

憩「ちょいちょい、大星さん。余所見せんとちゃんと温度見ててーな」

淡「はーい!」

憩「っと……よし、これでええな。ほーい、皆さんー! 出来ましたでーっ!」

淡「私が温度計係をした貴重なお紅茶だよっ!!」カチャカチャ

菫「おお、ありがとう。ふむ……相変わらず荒川の淹れる紅茶はうまいな」

煌「これはなんとも……大変すばらです。独学ですか?」

憩「いや、ちゃんと師匠がおんねん。その人の淹れる紅茶はもっとおいしいでー」

淡「お紅茶なら、うちのユーカも結構なお手前ですぞ!」

憩「へえ、ちょっと意外かも。ちなみにやけど、大星さんはお菓子係やんな?」

淡「なぜわかった!?」

憩「そのぷにっぷにの顔見ればわかるで~」

淡「失礼千万!? けど、ま、その通りだよ! というわけで、持ってきたお菓子広げるね~ん」ガサゴソ

菫「まさしく照の後継者だな。ちなみに、あまり甘くないやつはあるか?」

淡「何言ってるの、スミレ? 甘くなかったらお菓子じゃないじゃん?」キョトン

菫「このやり取り二年前にもしたぞ……」

憩「菫さん好みのやつはウチが用意してますんで、ご安心を~」ガサゴソ

淡「ふうっ、これで偵察するのに完璧な環境が整ったね!」ババーン

菫「私にはパーティ会場に見えるがな」

淡「えぇー?」

煌「淡さん、《煌星》のミーティングではないので、もうちょっと控え目にお願いします」

淡「は~い」

憩「まあまあ。誘ったのこっちやし。くつろいでーな、お二人さん。適度にリラックスせーへんと、偵察にならへんでしょー?」

菫「私のことなら気にしないでくれていいからな。こういうのは慣れている。むしろ懐かしいくらいだ」

煌「お心遣い痛み入ります。いやはや……ここまでもてなされては、こちらも相応の謝礼をせねばなりますまい」

憩「花田さんは義理堅いな~」

煌「すばらにはすばらで返すのが私の流儀ですから。こんな快適な観戦室に招待していただいて、美味しい紅茶までご馳走になっているのです。
 ここは一つ、お二人にとっておきの情報をお教えいたしましょう」

菫「いいのか? 私たちはまた戦うかもしれんのだぞ?」

煌「もちろん、その辺りは私も重々心得ております。今から私が話すことは――お二人は、先ほどの口ぶりからすると、まだご存知ではないようですが――いずれあの方からご説明があるかと思います。
 なので、まあ、遅いか早いかというだけで、実質はお礼にならないのですけれどね。ただ、知らないよりは知っているほうが、より今日の偵察が捗るかと」

憩「ほほ~ぅ。言い方からするとなかなかの特ダネっぽいな。ほんで、一体なんの話なん?」

煌「先ほど話題に上っていた、ネリー=ヴィルサラーゼさん。あの方の正体についてです」

憩・菫・淡「!?」

煌「ネリー=ヴィルサラーゼさん。あの方は、海外で《神に愛された子》と称されるとてつもない雀士です。
 海外では能力者を魔術師と言いますが……ネリーさんは、その魔術師の《頂点》に立つお方。言わば――魔術世界の宮永照さんなのです」

菫「待て……! その話、確か、私も聞いたぞ。なんだったか、荒川」

憩「ガイトさんの話ですよ。ガイトさんの、昔のお友達――」

煌「まさしくその通りです。ネリーさんは、辻垣内さんが《背中刺す刃》と呼ばれていた頃のご友人。
 そして、今と同じく無敵を誇っていた辻垣内さんが、当時、唯一勝てなかった雀士でもあります」

菫「ちょ、《通行止め》……! なぜ智葉の《魔法名》とやらまで知っている……!?」

煌「気になったことはとことん調べる性分でして」

憩「驚いたわ……花田さん、ウチらでも知らへんかったことを、ようそんなに……」

淡「キラメの調査に掛かれば虫歯の数までわかるんだよ! おかげで私たちの部屋は資料でいっぱいなんだよ!!」

煌「さて、どうやら辻垣内さんから多少、あちらの世界のお話を伺っているようですね。
 なら、この単語に聞き覚えはありませんか? 運命奏者《フェイタライザー》――と」

菫「ああ……荒川から聞いた。向こうの世界の《頂点》――運命奏者《フェイタライザー》。それが、あのネリー=ヴィルサラーゼだというのか?」

煌「その通りです」

憩「ガイトさん、さては自分が負けた話するんが嫌で隠しとったな……?」

煌「いえ、運命奏者《フェイタライザー》は、海外では非常に神聖な存在です。おいそれと話すわけにはいかなかったのでしょう。《幻奏》の決勝行きが決まるまでは、黙っているおつもりなのかと」

憩「あっ、そっか……! それでガイトさん、今日の三回戦は部屋でゆっくり見たいなんて、ようわからんことを言っとったんやな!」

菫「《通行止め》の話が本当なら、照とネリー=ヴィルサラーゼ――智葉にとっては、どちらも因縁の相手。直接対決するかもしれないとなれば、まともな心境ではいられない……か」

憩「あのようわからん表情の意味がやっとわかったわー。てっきり、エイさんといちゃつくんが楽しみなんを隠そうとして、あないな顔しとると思ったら……」

淡「ん? え、ケイ、それどーゆー意味?」

憩「ああ、ウチのチームのガイトさんとエイさんな、付き合うてんねん」

菫「ぶうううううううううううう!?」

煌「すばらっ。これはこれは貴重な情報をいただきました」

菫「荒川っ!! それは本当なのか!? 私のチーム内でそんなふしだらなことが……!!」

淡「まーまースミレ。そんな堅いこと言わずに認めてあげたらいいじゃーん」

菫「ならんものはならんッ!!」

憩「いや、ゆーても、ウチも昨日の試合後に初めて知ったんですけどね。お仕置きタイムのあれが気になって、エイさんにカマかけてみたんです」

菫「いつだ……いつからそんな……」

憩「安心してください、菫さんがチーム組む前からですよ。なんでも、ガイトさんからエイさんに迫ったんやそうですわ。
 『初恋は実らないからやめておけ』『お前が世界で一番好きなのは私ではないかもしれない』『だが、お前を世界で一番幸せにできるのは私だ』言うて、エイさんを抱き締めて唇を奪ったとかなんとか」

淡「くっそかっけー!!」

憩「エイさんも『アンナ、オシガ、ツエー、ヤツ、ミタコト、ネー』って笑うてましたわ。ま、わりとうまくやっとるそうですよ。
 昨日かて、エイさんが緊張ほぐしてへんかったら、ガイトさんVS清水谷さんも、違った結果になっとったかもわかりません」

菫「それはよかった……のか? まあ、そうか……私がチームを組む前だったのか。それなら仕方あるまい……」

淡「あれ? で、なんの話だっけ?」

憩「運命奏者《フェイタライザー》」

菫「そ、そうだった……!! で、《通行止め》、その運命奏者《フェイタライザー》とやらは、一体なんなのだ?」

煌「ふむ……では、運命奏者《フェイタライザー》の核心に触れる前に、もう少し基本的なところから話を始めましょうか」

憩「頼むで、花田さん」

煌「皆さんは、《運命論》――という理論をご存知ですか?」

 ――対局室

照「よろしくお願いします」

 南家:宮永照(永代・100000)

初美「よろしくですよー」

 西家:薄墨初美(新約・100000)

久「よろしくね」

 北家:竹井久(久遠・100000)

ネリー「よろしくなんだよっ!」

 東家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・100000)

『C・Dブロック三回戦――先鋒戦前半……開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございます。

A・Bブロックは全体的に『いい性格』をしてる人たちが多かったので、なんだかC・Dはほんわかしてますね。

今月末が立て込んでいて更新が来月までストップするので、このままいけるところまで行きます。

小休止したらまた始めます。

 ――《久遠》控え室

憧「げっ、あの風紀委員長の下家になっちゃった」

洋榎「親で連荘したらずっと薄墨が北家。役満ツモられたら親っ被り」

白望「それより宮永さんが……」

哩「起親やなか。二回戦の前半みたいに、宮永が薄墨の下家で起親やったら最高やったばってん……こいばっかりは仕方なかか」

憧「様子見の東一局が終わったらすぐさま宮永照の親番になって、久の親番になったら薄墨初美が能力使いたい放題……! 席順を見る限りでは《最悪》っ!」

洋榎「せやけど、それこそ望むところやろ。久のやつ楽しそうにしとるわー」

白望「《最悪》は……久の味方」

哩「というか、《最悪》はあいつ自身やけんね」

憧「マジで頼むわよ、久……! 伊達や酔狂で名乗ってるわけじゃないわよねっ、《最悪》の大能力者――ッ!!」

     ネリー『ツモだよっ! 500オール!!』

憧「へ?」

哩「ん――」

白望「む……」

洋榎「……ほほう?」

     ネリー『さあ、一本場なんだよっ!!』

 ――対局室

ネリー「ツモだよっ! 500オール!!」カチャカチャパララ

久(あらあら……? 宮永照が唯一隙を見せるこの前半戦の東一局で、親とは言え500オール?
 それに、今の……和了して初めて理牌するっていうそれ、どこかのナンバー2を思わせるわね。そういう所作を見せるのはこれが初めてだけど――。
 これは……憧の言ってたことがいよいよ現実味を帯びてきたわね。二回戦のあれ――天江さんが反対側で大暴れした獲得点数に次ぐ、大トップ。憧曰く『半分の力も出してない』……さて、どうしたものかしら)

初美(それマジですかー? 二回戦の前半戦東一局……私は役満を親っ被りさせたんですよー? それでも最終的にはぶっちぎりトップを飾ったこの学園都市の《頂点》相手に……まさかの500オール。
 しかも、合宿では一度も見せなかった、《悪魔》を髣髴とさせるその妙なクセ。
 あのやえが、宮永照が出るとわかってるこの先鋒戦に、敢えてぶつけてきた切り札《ジョーカー》――ネリー=ヴィルサラーゼ。無能力者っぽいのは合宿のときからわかってるんですけどー、まったく底が見えないですねー)

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久(と、来たわね――!? これを喰らって初めて一人前の二軍《セカンドクラス》っていう……ご存知のアレッ!!)ゾクッ

初美(宮永照の得意技……感応系最強の大能力っ!!)ゾワッ

ネリー(《照魔鏡》――だっけー? 感応系最強ってやえは言ってたけど、納得。いやー、すごいなこれ。全身の隅から隅までてると共振してるんだよ――)ブルブル

照(……ん)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(どうかな……てる? 私のこと、どこまで理解した……?)

照(ネリーさん……)

ネリー(能力論的に言えば、私は一般人と何も変わらない。ランクFのレベル0。
 けど……私の力の基礎にあるのは運命論。あなたたちの理論とは、基本理念からしてまったくの別物。そこまでちゃんと見抜けたかな――?)

照(これは――)

ネリー「さあ、一本場なんだよっ!!」

ネリー:101500 照:99500 初美:99500 久:99500

 ――《新約》控え室

怜「ネリーさんは随分安いの行ったなぁー」

和「親ですし、手の進め方も自然でした。理牌しない理由は不明ですが、デジタル的にはなんの問題もない和了りです」

絹恵「これやから和は……宮永照から唯一まともに点を取れるチャンス。それが、この前半の東一局なんやで?」

姫子「二回戦で、初美さんは役満ば親っ被りさせとった。そいでん、最終的には宮永照の大トップ。もったいなかにも程のあっとね」

和「揃いも揃って何をわけのわからないことを……」

怜「ま、絹恵と姫子の言いたいことはもちろんわかるわ。ほんで、そんなことは、ネリーさんかて百も承知のはずや。
 なんたってあっこには小走さんがおんねんから。あの人より能力者とその打ち筋に詳しい人は、学園都市にいーひん」

和「あ、咲さんのお姉さんが張りましたね」

絹恵「まだ三巡目やで……」

和「たまにはそういうこともありますよ」

姫子「いや、毎回そいやけんね。あの人」

     初美『ポンですよー』

怜「お! ええぞ、必殺ツモ飛ばしやっ!!」

和「鳴いて仕掛けるのは勿体ない気がします。まだ序盤なのですから、もっと高めを狙えたはず」

絹恵「和、そういうことは、竹井先輩の手に入った宮永照の和了り牌を見てからゆーてね」

和「なかなかの偶然ですね」

     初美『ポンですよー』

姫子「おおっ! また飛ばした!!」

絹恵「ほんでまた竹井先輩に宮永照の和了り牌が行ったー!!」

和「NG(なかなかの偶然)ですね」

     初美『まだまだポンですよーっ!!』

和「見え見えの対々……三暗刻や七対子も見れたのに、なんて勿体ない。打点を下げてまで鳴く意味が本当にあったのでしょうか。
 咲さんのお姉さんのツモを飛ばして、結果的に和了られずに済んだのはNGでしたが、逆に親のネリーさんのツモが増えて、テンパイさせてしまった。
 今警戒すべきは、子で安手を張っている咲さんのお姉さんではなく、親のネリーさんのはずなのに。
 初美さんは強いのに、たまに頭がどうかしているときがあります。鳴いて手牌が少なくなれば、危険牌を抱えて回すこともままならなくなる。結果――」

     ネリー『ロンだよ。3900は4200っ!』

     初美『は、はいですよー……?』

怜「これは……」

和「だから言ったのに」

絹恵「あの宮永照がかわされた――?」

姫子「東一局の終わって宮永照の和了りのなかとか、そんなケースのありえるんか……?」

和「皆さん、先ほどから意味もなく咲さんのお姉さんを気にし過ぎです。仮に警戒すべき人がいるとしたら、どう考えてもトップで親番のネリーさんじゃないですか」

怜「……和、自分って、途中の論理は無茶苦茶やのに、結論だけは正しいこと言うやんな」

和「私は一から十まで論理的に話してますよっ!?」

絹恵「いや、しかし、ホンマに和の言う通りかもしれへん!」

姫子「相手の手牌ば見透かしたような和了りに、《悪魔》と同じクセ。ネリー=ヴィルサラーゼ……あいつ、一体何者と……?」

     ネリー『二本場だよっ!』

 ――《永代》控え室

まこ「東一局が終わって照が和了れんかった対局なんて、今までに何回あったかの」

塞「機械使って検索しないと見つからないくらい稀よ。できるとしたら、荒川憩か辻垣内くらいだと思うわ」

穏乃「もし、かなりいいとこまで登った状態から対局を初めていいって言うんなら、たぶん、私はできます。けど、初対戦ではまず無理です」

     ネリー『チーだよっ!』

まこ「またズラしよった……!? 打点も下げて、待ちまで悪くして……意味がわからん!!」

純「それ、そっくりそのまま普段のお前に言ってやりてえよ。いや、まあ、オレもだけど」

穏乃「おお、照さんの和了り牌がまた他家に!」

塞「いや、でも宮永なら次あたりで――」

     ネリー『ツモだよっ! 2000は2200オール!!』

塞「嘘でしょーっ!?」

まこ「信じられんの……鳴くタイミングが的確過ぎる。わしもある程度歪めることはできるが、鳴いた直後にぴたりと和了るなんてのは、狙ってはできん。
 あの理牌せん妙なクセといい、これは……まるであいつじゃの」

純「憩だよな。これは完全に憩のやり口だ」

穏乃「私は都市伝説でしか知らないのですが、他家の手牌や山牌が透けて見えるって本当なんですか?」

まこ・純「ガチ」

     ネリー『三本場なんだよっ!』

塞「ってか、東二局が遠いんだけど……?」

 ――対局室

 東一局三本場・親:ネリー

久(これは驚いたわ。え、今、私、宮永照と同卓してるのよね? なのに、宮永照以外の誰かのところに、積み棒が三本も積まれてる?
 どうしちゃったわけ? お菓子の食べ過ぎで腹痛だったりするの、宮永照……?)

 北家:竹井久(久遠・97300)

初美(どえらいマズいですねー……ここは逆に宮永照に和了ってもらったほうがいい系ですかー?
 いや、そんな自殺行為ゴメンですよー。霞の肩揉みくらい自殺行為ですよー。とりあえず、まだ安手で回っているうちに、できることを試してみるですかー)

 西家:薄墨初美(新約・93100)

照(ネリーさん……)

 南家:宮永照(永代・97300)

ネリー(ふっふふーん。こうされるとキツいんでしょー? やえからの事前情報があるし、生音を聞いて確認もできた。
 最初の一和了目――それが、あなたの連続和了の最大の弱点なんだよね、てる……?)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・112300)

 ――《幻奏》控え室

優希「じょ? 最初の一和了目?」

セーラ「そこが弱点? ホンマなん? 最初は安くてええから、むしろ速度を追求して和了れるやん。ハネ満とか倍満とかを和了るときのほうが隙あるやろ」

誠子「私も初耳ですね。というか、まあ、宮永先輩、自分の能力のことは滅多に口にしないですから、たぶん尭深や弘世先輩も知らないと思いますけど」

やえ「気付いているやつがいるとしたら、辻垣内くらいだろうな。あとは、荒川も知っている」

優希「で、どうして最初の一和了目が弱点になるんだじょ? セーラお兄さんが言った通り、最初の一発目は超速度特化だじぇ。ここを止めるのは大変だじょ」

やえ「超速度特化――ポイントはそこだ」

セーラ「どういうことなん?」

やえ「そうしなければいけない理由があるのさ。宮永が一発目で安い手を和了るのは、なにも《打点上昇》という《制約》だけが理由ではない。
 あの打点度外視の超速度特化は、あいつの連続和了……その弱点をカバーするための、苦肉の策なのさ」

誠子「イマイチわかりませんが……」

やえ「簡潔に言えばこうだ。宮永の連続和了――あれを成立させているのはとある能力なのだが、連続和了の一発目……そこだけが唯一の例外となる。
 宮永の連続和了は、最初の一和了目だけは、能力に頼らず和了らなければならない」

セーラ「へえ!」

誠子「ええっ!?」

優希「ん? 私は理解が追いつかないじょ?」

やえ「一和了目だけは、非能力者がやる早和了りと、本質的に変わりがないってことだ」

優希「なるほど!」

セーラ「いや、せやけど、宮永は支配者《ランクS》やしなー」

誠子「そうですね……宮永先輩の支配力は桁違いですから、そんじょそこらの――」

やえ「そう。そんじょそこらの早和了りなどではない。学園都市最高の支配力をフルに使っての超早和了りだ。
 だからこそ、たとえ能力を使っていなくとも、宮永の一発目を止められるやつはほとんどいない。実際、私は無理だ」

優希「け、けど、ネリちゃんは……!」

やえ「あいつもあいつでそんじょそこらの打ち手じゃない。学園都市で言えば、荒川に辻垣内を足したような化け物だ。
 いかに宮永の支配力が強大であろうと、基本的にはデジタルで打たねばならない一和了目は、致命的な隙になる」

セーラ「ほな……ネリーのやつは、宮永照に一回も和了らせへんままぶっちぎるつもりなんか」

誠子「よく見たらもう三本場……」

やえ「無論、敵は宮永だけではないがな――」

     久『リーチ……!』ゴッ

優希・セーラ・誠子「!!」ゾワッ

やえ「相変わらずのようで何よりだな……《最悪》の大能力者――《悪待ち》の竹井久」

 ――対局室

久「リーチ……!」ゴッ

初美(来たですねー……《最悪》――竹井久っ!!)ゾクッ

照(竹井さんの《悪待ち》……倍満くらいになりそうな予感。ここは、けど、ネリーさんとの点差が詰まるし、和了ってもらったほうがいいのかな?)

ネリー(うっわー……こんなひねくれた《旋律》はかなりレアかも!? なにこれ、ずっと聞いてると頭おかしくなりそう――今すぐ演奏中止なんだよっ!!)タンッ

初美「そ、それポンですよーっ!」タンッ

久・照「――っ!?」

ネリー(はーい、これで二人は運命共同体っ! 仲良く地獄へ落ちてねっ!!)

久(これはマズったわねぇ……よりにもよって宮永照のツモを回されるなんて。
 あの《頂点》がさっきまで支配力を巡らせていた牌なんて、いくら私でもそう簡単に《上書き》できないわよ……!!)タンッ

ネリー(おーし、張ったぁ!!)タンッ

照(掴まされた……)タンッ

初美(むむむ? 竹井も宮永照も足止めくらったですかー? なら、これはチャンスですかねー!!)タンッ

久(嫌な予感しかしないわ――)タンッ

ネリー「ロンだよっ! 2400の三本場は3300っ!! リー棒ももらいっと!!」カチャカチャパララ

久「……はい」チャ

久(七対子の西地獄単騎……? いや、私ならありえるけど、直前に切ってるのはドラの二萬。
 リーチを掛けるわけでもなく、断ヤオドラドラを捨ててそれって……何が見えてるのかしらねー、この子)

初美(《最悪》並みにわけのわからない打牌してるですねー……? なぜそこまでしてリーチを掛けなかったですかー?
 そっちが張ってるのがわかれば、ちょっとは違う対応ができたのにですよー)

ネリー(リーチ掛けたらはつみに鳴かれる。そういう《運命》。そーすると残り一枚しかない私の西がてるの手に入って和了れない上に、ツモ順も戻ってひさが和了る《流れ》になっちゃう。ここは安くても連荘が大事だよーん)

照(うーん……これは困った)パタッ

ネリー「ひゃっほーい! 四本場だよーっ!!」コロコロ

ネリー:116600 照:97300 初美:93100 久:93000

 ――観戦室

淡「えっ? ごめん、キラメ、もう一回! もう一回だけ! ね、もう一回言って!!」

憩「すんまへん……花田さん。ウチももう一回や」

菫「何度もすまんな。私ももう一回頼む」

煌「いえいえ。ここを受け入れないと、運命論への最初の一歩が踏み出せませんからね。では、改めまして」

淡・憩・菫「っ……!!」ゴクリッ

煌「『麻雀の対局において、山牌の並びは、山牌が持ち上がった時点から終局まで、一切合切、変化しません』」

淡・憩・菫「ダウトー!!」

煌「おやおや」

淡「はーいっ! キラメ先生!! 私はいっつもカン裏を《上書き》してまーす!!
 私の暗槓がカン裏になるよう確率干渉してまーす!! そこんとこどーなんでしょーかー!?」

憩「っちゅーか!! 花田さんかて昨日ドン引きレベルで《上書き》しとったやん!!
 すり替えとかイカサマとかそういう次元じゃない規模で牌という牌を《上書き》しとったやん!!」

菫「わ、私も……知っていると思うので白状するが、《シャープシュート》で待ちを寄せるときは、いつも《上書き》しているぞ。
 そもそも、それができなければ、的確に有効牌を引いて誰かを狙い撃つことなど、不可能なはずだろう」

煌「では、お聞きしますが、どなたか、牌が《上書き》された瞬間を見た方はいらっしゃいますか?
 山牌は、皆さんがツモるまで、ずっと伏せられたままです。
 なら、『それは最初からそこにその牌としてあった』――と考えても、さほど不自然ではないと思いますが」

淡「あわわわわ……!? キラメがインチキ宗教にハマってるよ!! キラメ! もう怪しげな魔術書を読むのやめよう!? 帰ってこれなくなるよ……!?」

菫「ちょ、ちょっと頭が痛くなってきた。これ、智葉は一体どう受け止めているんだ……? こんな……世界が違い過ぎる……」

憩「花田さん!」

煌「はい」

憩「知っとると思うけど、ウチの《悪魔の目》には山牌が透けて見えるっ! 伏せられとるかどうかは関係あらへん。ウチの目には『見える』んや。
 そんなウチが言う。間違いあらへん。能力者や支配者によって、牌は確かに《上書き》されとる!」

煌「荒川さんは少々《特例》ですが……しかし、ご存知の通り、《上書き》の概念は、観測による波動関数の収縮を基本としています。
 定義的に言えば、《上書き》が起こるのは、その牌を表に返した、その瞬間です」

憩「そ、それはそうやけど……」

煌「これは初等教育で誰もが習うことですが、復習も兼ねまして、『シュレディンガーの猫』の話をいたしましょう」

煌「シュレディンガーの猫の生死は、蓋を開けるまで不確定です。猫の生死は確率波としてそこにある。
 その波動関数が、観測者が蓋をあけて中を見た瞬間に、収縮するのですね」

煌「能力論の《上書き》も同様。牌を開いて観測した瞬間に、牌の存在波が収縮する。
 この牌の存在波というのは、ヒトの確率干渉がなければ、忠実に古典確率論に従います」

煌「いわゆる支配者や能力者は、牌を支配領域《テリトリー》に取り込み、その存在波に自身の意識の《波束》を干渉させて、古典確率論ではありえない存在波の偏りを生み出すことができます。
 この状態で牌を開くと、限りなく1に近い確率で、特定の牌が現れるのですね。これを、能力論では《上書き》と言います」

煌「牌を開いていない状態は、シュレディンガーの猫で言えば、蓋を開けていない状態。
 荒川さんの発言は、蓋を開けていないのに、『猫の生死が見える』、或いは、『さっきまで死んでいた猫が生き返った』、などと言っているのと同じことなんです」

煌「つまり、荒川さんがどんなに『見える』と主張しても、運命論的にも能力論的にも、それは単なる目の錯覚、思い込みでしかありません」

煌「荒川さんのそれが――まあ、本当に《悪魔の目》なら、透視能力の一つや二つあるのかもしれませんね。
 が、あいにく、私はその手の古典的なオカルトは信仰していないもので」

憩「」プスプス

菫「やめてくれ、《通行止め》っ! 荒川が死んでしまうっ!!」

淡「今のキラメのほうがよっぽど《悪魔》だよ……わけわかんない理論で人の心を壊すなんて……」ガタガタ

煌「はて、困りましたね。なかなか運命論の話に入れません」

淡「ね、キラメ……本当に魔術書は捨てよう? 帰ったら燃やそう? お願いだから……」ウルウル

菫「おーいっ! 荒川!! しっかりしろー!!」ユサユサ

憩「はっ!? すんません、意識飛んでました……!!」

煌「大丈夫ですか?」

憩「大丈夫やあらへんけど……今やっと、小走さんが言うてたことがわかったわ。学園都市の雀士が運命論を聞いたら発狂する――特にウチはヤバい。なるほどな……確かにこれはキツいで。
 ウチが目にしとる《上書き》は、まあシュレディンガーの猫を持ち出されたら、目の錯覚と言われて当然や。
 せやけど、能力論的に《上書き》は起きとるわけやから、ウチが見とるもんと理論の間に、矛盾はあらへん。
 ただ……運命論は、《上書き》そのものを否定しとる。『山牌の並びは持ち上がった時点から一切合切変化しない』やと……?
 いや、ホンマこれは発狂するわ。じゃあウチがいっつも見とるあれはなんやねん」

煌「解釈問題なんですよ、荒川さん。能力論も運命論も、数学的観点で言えば、まったく同じものなんです。どちらが正しい、ということはありません。
 科学世界にいる限り、《上書き》は確かに起こっています。それでまったく問題ありません」

     ネリー『ツモっ! 500オールの四本付けなんだよ!!』

菫「と、嘘だろ……照相手に五連荘だと? 《通行止め》の話より信じられないことをするな、あの留学生」

淡「理牌しないクセもそうだし、さっきから打ち方がケイと瓜二つ。全然裏目らないし、鳴くときは誰かの和了りをズラしてる。まるで他家の手牌も山牌も全部見えてるみたいな――」

煌「みたい、ではなく、実際そうなんですよ。
 運命奏者《フェイタライザー》とは、牌の旋律《こえ》を聞き分ける者。あの方は《神の耳》をお持ちなのです」

憩「《神の耳》やと……?」

煌「ええ。ネリーさんの耳には、山牌の並びが、持ち上がった瞬間に、ある種の音となって聞こえてくるらしいのです。
 その《メロディ》に耳を澄ませているので、あの方は理牌をしないのですね」

憩「完全にウチ《悪魔の目》と同じやんか!?」

>>818修正

憩「完全にウチの《悪魔の目》と同じやんか!?」

菫「待て……! だが、あいつらの理屈でいうと、山牌の並びは持ち上がった時点から変わらないのだろう?
 荒川の場合は、最初の段階で山牌の並びが把握できても、途中途中に起こる《上書き》で出し抜かれることがある。だが――」

淡「超想像を絶するんだけど、もし《上書き》が起こらないなら、見えたまんま――聞こえたまんまいい感じに打てば、出し抜かれることもないよね?
 それ、ずっと場を思い通りにコントロールできるってことにならない……?」

憩「っちゅーか……実際そうなっとるやん」

煌「おっと――ネリーさん、この五本場でついに裏目りましたね」

淡「マジだ! なーんだ、たまには聞き間違いもあるってことー? 意外と大したことないんだね、運命奏者《フェイタライザー》っ!」

菫「いや……これは――」

憩「もし、ネリーさんが、理屈はどうあれウチと同じことができるんやったら、裏目る理由は一つしかあらへん……」

淡「ほえ……?」

煌「手を高めている――ということになりますね」

 ――対局室

 東一局五本場・親:ネリー

久(五本場って……いや、宮永照と同卓する以上、こっちだって覚悟してたわよ?
 ただ、宮永照以外の誰かが連荘するなんてのは……さすがに想定外過ぎるわ)タンッ

 北家:竹井久(久遠・92100)

ネリー「♪」タンッ

 東家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・119300)

照(さっき、たぶん、ネリーさんは裏目ってた。これは大変なことになりそう)タンッ

 南家:宮永照(永代・96400)

初美(こっちは《一桁ナンバー》……それなりに場数は踏んできたつもりですー。
 けど、どうにも目の前の相手は、その経験を埃みたいに吹っ飛ばしてくるやつみたいですねー。昨日の姫様並みに驚天動地ですよー)タンッ

 西家:薄墨初美(新約・92200)

久(さーて、普通に張っちゃったけど、これじゃ《悪待ち》が使えないわね。それに、ネリーさんの捨て牌がどーにも恐い。
 大人しくしているのが吉かしら? かれこれ五連荘している親を放置……? んー、参っちゃうわねー)タンッ

ネリー「リーチなんだよーっ!!」ゴッ

久・初美(ッ!!?)ゾワッ

照(あー……来ちゃった。どうしよう。うーん……)タンッ

初美(いきなりそんな危険牌ーっ!? いや、けど、これはもしかして、そういうことですかー……?)チラッ

照(薄墨さんなら気付くはず)

初美(オ、オッケーですよー……。いや、鳴いてズラすとか、こっちはあなたの連荘を止めるのにするつもりだったですけどねー?
 まさかその張本人と共闘することになろうとは――)

初美「チ、チーですよー!」タンッ

久(わおっ!? 宮永照が誰かの和了りを止めるために手を崩した!? こんな貴重なことってある!?)タンッ

ネリー(あはっ、残念。親倍和了り損ねちゃったんだよー。
 ま、相手は私と同じくらい強いんだもん。これくらいは仕方ないね――)ツモッ

ネリー「ツモなんだよー! 6000オールの五本付けっ!!」カチャカチャパララ

久・初美(はああああああああああああ!?)

照(うーん……)パタッ

久(ちょっとちょっと宮永照っ!! 何やってんの!? いや、たぶんズレてなかったらもっと高かったんでしょうけど!!
 それにしたって、学園都市の《頂点》ともあろうあなたが、さっきからやられっぱなしってどういうことなの!?
 これは――けど、いい加減に作戦変更ね!!)

初美(宮永照……今の一打が、この人にできる精一杯なら、ちょっと考えを改めないとですねー。
 よーくわかったですー。現状のネリー=ヴィルサラーゼは、宮永照以上。それならそれで手はあるですー。作戦変更ですよー!)

ネリー「どんどん行くんだよっ、六本場っ!!」コロコロ

ネリー:138800 照:89900 初美:85700 久:85600

 ――観戦室

菫「これは夢か……!?」

淡「ほっぺたつねったげよーか、スミレ?」

憩「コラ」ギュム

淡「いたたたたたた!?」

菫「なるほど……現実か」

淡「ケイー!? 何するのーっ!?」

憩「菫さんのほっぺなんてウチかて触ったことないねん。ぽっと出の自分なんぞに先越されてたまるか」

淡「なにそれ!?」

煌「なかなか大変なことになってきましたね」

憩「ホンマやで。宮永照相手にここまでできるんは、世界にウチだけやと思っとったわ」

菫「荒川は……照相手に積み棒を積める唯一と言ってもいい雀士だもんな。
 お前と同じことができるというのなら、この連荘も少しは受け入れられる」

淡「けど、ネリーはケイと同じことができて、なおかつ《上書き》の影響を受けないんだよね? ヤバくない?」

憩「そらウチかて、山牌が不動不変やったら誰にも負けへんわ。たとえ宮永照でもな。
 やって、山牌が持ち上がった瞬間に、どの牌がどこにあるか確定できて、そっから動かへんのやろ? そんなん一瞬で勝ちルートを演算して――」ハッ

淡「ケイ?」

憩「ダウト! 今度こそダウトやで、花田さん!!」

煌「はて?」

憩「あのネリーっちゅーんは、山牌の並びを最初に把握できるんやんな?
 ほんで、それがずっと動かへんから、《上書き》も気にせんと、ウチと同じ要領で無双できる。そやんな?」

煌「はい。そんな感じです」

憩「けど、花田さんの言うたことがホンマなら、おかしいわ! やって、山牌が持ち上がった瞬間からずっと動かへんのやったら、それつまり、『全ての牌の位置と種類がわかる』ことになってまうやん!! せやけど、それは――」

煌「小走さんの証明した『第一不確定性原理』に反する――とおっしゃりたいのですか?」

憩「お、おう……せやで」

煌「それは、多少早合点というものです、荒川さん。能力論も運命論も、数学的には同じもの。
 ですから、能力論でいうところの『第一不確定性原理』に相当する原則が、運命論にもきちんとあるんですよ」

憩「え? せやけど、最初の状態から山牌が動かへんやんな?
 悪いけど、ウチ、誰の確率干渉もあらへんのやったら、山牌が持ち上がった瞬間に全部の牌を確定できるで? 今やってみよか?」

煌「まさにそれです。『山牌は、正確で精密な観測によって、伏せた状態のままでも、どの牌がどこにあるか全てわかるはずだ』――つまりは『確定性』ですね。
 この確定性を支持していたのは、しかし、山牌の不動性を支持する運命論者ではなく、むしろ山牌の動性を支持する能力論者――科学世界の側だったのです」

憩「ど、どーゆーこと?」

煌「科学世界では、長い間、確定派が主流でした。厳密には、確定可能派と言うべきですかね。
 山牌は、存在波としてそこに在る。ゆえに、基本的には、それは不確定なもの。
 しかしながら、今から述べるような考え方が、科学世界では根強く信じられていたのです。即ち、
 『正確で精密な測定を実行すれば、或いは、卓上の全ての牌を支配領域《テリトリー》にするほどの強い支配力を行使すれば、本来不確定なはずの牌の存在波を、限りなく確定的な状態に近づけることができる』――という主張です」

憩「根強いも何も、ウチからすれば、それはそのまま真実なんやけど……」

煌「ですが、荒川さんがおっしゃったのですよ?
 『第一不確定性原理』に拠れば、『全ての牌の位置と種類を特定することはできない』。
 ご自身の発言が矛盾していることにお気付きですか?」

憩「いや、それは、やって、実戦では四人分の《パーソナルリアリティ》が衝突するから、ウチの《悪魔の目》にも見間違いがあるっちゅーだけで……」

煌「それは誤解です。たとえ実戦でなくとも、伏せられた山牌がそこにあれば、等しく『第一不確定性原理』は有効なのです。
 これは数学的に証明されている事柄ですので、覆すことはできません」

憩「せ、せやけど……! ウチ、毎朝必ず一回、部屋にある自動卓使うて、山牌を持ち上げて、一人神経衰弱しとるんやで!?
 もう数百回とやってきたけど、見えた牌が違うてたことはたったの一度もない!!」

煌「誠に申し上げにくいのですが……原理的に言えば、それは単なる『偶然』です」

憩「嘘やろ……」ズーン

菫「あ、荒川、よくわからんが、この話で《通行止め》と言い合うのは分が悪いと思うぞ。
 お前は《特例》なんだから、普遍的な理論とお前の感覚にズレがあるのは、むしろ自然なことだろう」

憩「わ、わかりました。ほな……話の腰を折ってごめんやで。えっと、山牌の確定性と不確定性やったな」

煌「ええ」

憩「科学世界では、本来不確定なはずの山牌の存在波を、やり方次第で確定させることができるはずや――っちゅー主張が根強かってんな?
 せやけど、あっちの世界では……そうやなかった」

煌「はい。魔術世界の運命論者は、全員が不確定性を支持していました。観測の有無、確率干渉の有無は関係なく、何がどうあろうと、伏せられた山牌の並びは不確定である――という主張です。
 この主張――山牌の不確定性は、運命論者にとって、非常に当たり前のことなのですね。
 山牌の『不動性』と『不確定性』。これが、運命論の基本理念なのです」

憩「んー……ようわからんな。不動性を支持しつつ、不確定性を支持する?
 牌を確率波として捉えとるんならまだわかるけど、運命論では、それはそこに在るもんやっちゅー実物論――言うたら、決定論的に物事を考えとるわけやろ?
 それがなんで不確定性に繋がるん……?」

煌「その疑問はもっともです。科学世界が、魔術世界と対立した一つの原因でもありますから」

憩「ふむ……?」

煌「結論から言えば、魔術世界の主張していた不確定性が、正しかったわけです。
 しかし、この不確定性に世界で初めて数学的証明を与えたのは、科学世界の小走さんです。
 小走さんの証明がなければ、今なお、山牌の並びが確定か不確定かで、二つの世界は揉めていたでしょうね」

菫「えっと……小走がその原理を証明したのって、確か中三のときなんだよな……? あいつは本当に何者なんだ……」

淡「えっ、ちょっと待って、キラメ。じゃあ、その運命論者って人たちは、一体何を根拠に山牌が不確定とか言ってたわけ?
 初めて証明したのはあの博士さんで、それまでは、誰もどっちが正しいかわからなかったんだよね?」

煌「そうなのです。それが、魔術世界側のちょっとした問題点ですね。証明されていない事柄を、さも真実のように妄信していた。
 科学世界から見ると、あまりにもオカルトです」

憩「で、なんでなん? なんで運命論者っちゅーんは、誰も彼もが『不確定性』を信じることができたん?」

煌「一口に言えば、価値観の違いですよ。『不確定性』とは『観測限界』。そして、山牌の並び――《運命》とは、人智を超えたところから齎されるものです。
 天上の神が与えたもうた《運命》の全てを、どうして人が知りえるでしょう」

淡「わ、わおっ! まさにオカルト……!!」

煌「山牌の並び――《運命》。その《運命》の中には、決して人には聞き分けることのできない《音》が存在します。
 それを、運命論者は《神の音》、或いは《神の牌》と呼びます。その音――牌が一体なんであるのか。それは、神のみぞ知るのです。
 《運命》の全てを知るのは天上の神だけ。人には知ることのできる《運命》に限界がある。ゆえに、山牌の並びは不確定である。
 これが、あちら側の主張です」

菫「そんな戯言を信じていたのか……!? 結果的に正しかったとは言え、本当にただの妄信ではないか!!」

煌「もちろん、運命論者の方々も、というか、むしろ運命論者の方々のほうが、数学的な証明を欲していました。
 なぜなら、『不確定性』の証明は、『神の実在』の証明だからです。
 それを、確定可能派が主流の科学世界側に先んじて証明された――あちら側の方々にとっては、喜ばしくも口惜しかったと思います」

憩「なるほど……《神の牌》か。
 山牌は動かへん。せやけど、その中にいくつか、確定できひん牌がある。すると、どうしても演算に限界が出てくるやんな。
 ウチが《上書き》で計算狂うのと同じように、その《神の牌》が何かによっては、たとえ運命奏者《フェイタライザー》でも、《運命》を自分のものにできひんことがある……」

煌「そういうことです。ですから、ネリーさんにも限界はあるのです。ネリーさんの《神の耳》にできることと、荒川さんの《悪魔の目》にできることは、恐らく同等です」

憩「だんだん理解してきたわ。どうして小走さんがあの子に目をつけたんか。
 理屈は違えど、あの子はウチと同じことができる。《神の牌》っちゅーもんがあるんなら、ますますもって同スペックや。つまり――」

煌「この連荘も、やり方次第で、止めることができます」

淡「おおーっ!? 場が動いたよ!!」

菫「照……!!」

 ――対局室

 東一局六本場・親:ネリー

照「ポン」タンッ

 南家:宮永照(永代・89900)

ネリー(うおっふ……来ちゃったかー)

 東家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・138800)

初美(本当ならこんなことしたくないんですけどねー。どう考えても自分で自分の首を絞めてるですー。
 けど、どうせどっちを選んでも地獄なら、勝手知ったる地獄で勝負したほうがまだ勝ち目があるですよー)タンッ

 西家:薄墨初美(新約・85700)

照「ポン」タンッ

ネリー(いやいや、まだまだ。この《流れ》をものにするのは大変だよ? 三人の呼吸がちょっとでもズレたらおしまいだからねー?)

初美(わかってるですよねー、《最悪》。ここでしくじったらマジぶっとばすですよー)タンッ

久(わかってるわよ、《最凶》。しっかし、ま、何が悲しくて宮永照のアシストなんかしなきゃいけないのよ。
 本当、人生って何が起こるかわからなくて楽しいわっ!)タンッ

 北家:竹井久(久遠・85600)

照「ポン」タンッ

照(あと一つ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《新約》控え室

絹恵「初美さんも竹井先輩も宮永照のアシストやとー!? そんなんしてもーたら連続和了が始まってまうやん!!」

姫子「そいでんせんと、ネリーさんの連続和了の止まらなか――って判断やと思うばってん、こいは……」

怜「連続和了を止めるために連続和了のアシストとはなー。宮永照のアシストなんて自殺行為、今までやったことあるやつは学園都市にいーひんやろ」

和「これくらいの偏りで焦るのはどうかと思いますけどね。六連荘がなんですか。普通に手作りをすればいいんです」

絹恵「和、自分はホンマ、いっぺん《三人》と打ってきたほうがええで」

姫子「信じられなかことかもしれんばってん、あの人らは、本当に無限に和了り続けっと」

和「SOA」

     照『ポン』

怜「対々のみ2600か。しかし、これ……どーなんやろ。最終的には初美か竹井さんが差し込むんやろか。
 せやけど、《悪魔》でもあらへんのに、どうやってあの裸単騎が何か見抜くん……?」

 ――対局室

初美(どうやって見抜くかってー? それはもちろん『読む』わけですよー。捨て牌とか気配とか色々そういうのから……!!)ムイーン

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(お手並み拝見ってところかな~。てるの裸単騎は《神の音》だから、私にも、それが何であるのかはわからない。っていうか、わかっていれば妨害工作してたんだよ。
 ま、けど、私自身は張ってる。次でツモれるメロディも聞こえてる。はつみかひさが差し込めなければ七本場突入なんだよ。
 はてさて、《運命》やいかに――)

初美(ふん……怜も姫子も絹恵も和もよく見とけですー。これが《一桁ナンバー》の一点読みですよー!!)タンッ

照「(さすが)ロン、2600の六本場は、4400」パラ

初美「はいですよー」チャ

ネリー(おおっ! やるじゃん!)

久(あー! やっと終わったぁー!! そして始まるぅ!!)

初美(うー! 成功したとは言え気分は最低ですー! なんでわざわざ点棒払って第二の地獄観光しなきゃなんですかー!?)

ネリー(さーて……一発目を和了られちゃったからなー。さっきまでは私のターン。ここからはてるのターン)

照「次は私の親番」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(こ――の……!! 魔力っ!! すっげぇー!! マジすっげーっ!! 私……今、全身がてるの音に包まれてるんだよ……!! なにこれっ!? 芯から震える……!!)ブルブル

照「サイコロ、回すね」コロコロ

ネリー(さあ、てる!! 聞かせてよ、学園都市最高の《旋律》を――ッ!!)

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー:138800 照:94300 初美:81300 久:85600

 ――《久遠》控え室

洋榎「いよっ! 待ってましたぁー!!」

憧「やっと来たわね、東二局が……!!」

洋榎「そっちちゃうわ! 宮永の連続和了のことやっ!」

哩「あいば楽しめるんは、《一桁ナンバー》でん洋榎だけと」

白望「止めるの……すっごい……ダルい」

洋榎「やからこそ燃えるやんなー!! さっ、今日は一体何本積むんかなー!? 楽しみやでー!!」

憧「あんた誰の味方なのよ、洋榎」

洋榎「うちは常にオモロいやつの味方や!!」ババーン

     照『ツモ、1000オール』

哩「速かね……」

白望「ん……打点下がってる」

憧「ええっ!? うあ、ホントだ……!! なんで!?」

洋榎「積み棒の分を引いたらちゃんと上昇しとるやろ。いやー、これはせやけど、レアなもん見たわー!!」

 ――《幻奏》控え室

優希「さっきは4400で今度は3000だじょ!?」

誠子「宮永先輩の連続和了で打点が下がるケースがあるとは……」

セーラ「これはあいつの《制約》には引っかからへんのやっけ?」

やえ「宮永の《打点上昇》は積み棒と無関係。先ほどのは2600。今回は3000。なんの問題もない。
 ケースバイケースだが、これをやるとなると、宮永が一発目を和了るまでに、せめて三本くらいは積み棒を積まないといけない。
 私の知る限り、この『見かけ上打点が下がる連続和了』を宮永にさせたのは、学園都市で荒川だけだ」

優希「ネリちゃん化け物だじぇ」

やえ「だが、さっきと違って、今の宮永は能力を使っている。いくらネリーの《神の耳》をもってしても、そう簡単に止めることはできないだろう」

誠子「そういえば……その、宮永先輩の能力、ですか? あの連続和了が能力めいてることは見ればわかるんですが、一体どういう仕組みになっているんです?」

やえ「これもやはり、把握しているのは私と荒川と辻垣内、ということになるのだろうな。
 ま、宮永の連続和了は、打点以外にクセがほとんどない。そのカラクリを見抜くのはなかなか難しい」

セーラ「俺も知らんわ。せっかくやし、やえさえよければ教えてーや」

やえ「よかろう。宮永照――あいつは全部で三つの《鏡》を持っている。
 一つ目は、知っての通り、感応系最強の大能力――相手の本質を見抜く《照魔鏡》。
 そして、二つ目――あの連続和了の支えとなっている力」

優希「な、なんなんだじょ!?」

やえ「配牌干渉系能力と自牌干渉系能力が複合した大能力。私はあれを、螺旋の《万華鏡》と呼んでいる」

 ――《永代》控え室

純「配牌干渉系と自牌干渉系……? 自牌干渉はともかく、配牌干渉が複合してるのか?」

まこ「まったく気付かんかった」

塞「え、それマジで言ってんの、高鴨」

穏乃「あ……これ、言っちゃマズかったんですかね。てっきり、皆さん知っているものだと思ってました」

純「照は自分の能力について何も言わねえからな」

まこ「まあ、能力者としては正しい姿じゃと思う」

塞「ってか、まあ、こんだけ長いこと打ってれば、大半の能力は誰かしらに分析されて、広まっていくもんなんだけどね」

穏乃「塞さんの能力は比較的わかりやすいですもんね」

純「で、なんなんだよ。照の連続和了を支えてる能力って」

穏乃「はい。私は《照魔鏡》と鏡つながりで、螺旋の《万華鏡》って名付けているんですけど」

まこ「なんぞ、その名前に意味があるんか?」

穏乃「ありますあります! 《万華鏡》は、くるくる回すことで、その柄を千差万別に変化させることができますよね?
 それと同じで、照さんの連続和了も、和了りの形は自由で多彩です。
 《打点上昇》の《制約》は常にありますけど、それを抜きにしても、和了りを見る限りでは、特に決まったパターンはありません」

塞「なんで決まったパターンがないのに法則を見抜けるのよ……」

穏乃「私にはすごパがありますからっ!!」

純「お前のすごパがすげえのはわかってっから。続きを頼むぜ、穏乃」

穏乃「了解でっす!
 で、照さんの連続和了なんですけど、一回目の和了り以外は、ずっとこの能力を使っています」

まこ「ちょ、ちょっと待っちょくれ、穏乃……! 一回目の和了り以外は、じゃと?
 じゃあ、何か、照の連続和了の一回目は、なんの能力も使わずに和了っちょるっちゅうんか?」

穏乃「そうですよ? 支配力は使ってますけど、本質的には非能力者のデジタルと変わりありません。
 だからあんなにネリーさんの連荘を止めるのに苦労していたんじゃないですか」

塞「そうだったのね……ってか、あんたのすごパ万能過ぎるでしょ」

穏乃「すごいパワー! 略してすごパですからっ!!」

     照『ロン、3900は4200……』

     久『はい』

純「すごいすごい。お前はすごいぞ、穏乃。で、続きだ」

穏乃「ありがとうございますっ! で、照さんの連続和了なんですけど、二回目以降ですね。
 どーにも、私のすごパセンサーによると、持ち上がった山の中に、照さんの気配があるんです」

まこ「そらあるじゃろ。支配力はずっと使うとるわけじゃし」

穏乃「そうですね。そういう新しい照さんの気配も、もちろんあちこちから感じます。けど、そんな中に、古い照さんの気配も混じっているんです」

塞「古い……?」

穏乃「簡潔に言うと、前局の和了り――その手牌の一部が、そっくりそのまま、次の山に受け継がれているんです」

純「……なるほどなァ、読めてきたぜ」

穏乃「照さんの《万華鏡》――その片翼である配牌干渉系能力の正体は、《前局の和了り形の一部を次局の配牌に引き継ぐ》能力です」

まこ「ほう……っ!!」

穏乃「照さんの連続和了の和了り形に、決まったパターンはありません。それを並べてみるだけでは、規則性に気付けない。
 ですけど、前局の和了りと次局の配牌――これを並べてみると、一目でその特性がわかります。両者には、必ず重複部分があるんです」

塞「高鴨! あんたすごいわっ!!」

穏乃「えへへ、それほどでも……////」

純「そうか……それで一発目には能力を使えねえんだな? 《前局の和了り形の一部を次局の配牌に引き継ぐ》――とにかく一回和了らねえ限りは、引き継ぐもなにもねえ。
 だから、一回目の和了りは、その《万華鏡》とやらが使えねえ」

まこ「前局の和了り形の一部っちゅうのは、要するに、既に完成した面子のことなんじゃろ?
 配牌時点から出来面子が手に入る。道理で毎回毎回和了りが超速なわけじゃ」

塞「前局の一部が次局の和了りに繋がって、それが連鎖していく。和了り形は確かに色々だけど、それは《万華鏡》みたいに、一部に少しだけ前の面影を残してる。
 回るたびに形を変える和了り……回るたびに上昇していく打点――まさに螺旋の《万華鏡》ねっ!!」

穏乃「そういうことですっ! まあ、状況に応じて、前局から引き継いだ面子を変化させたり、丸々崩すこともあるみたいですけどね。だからこそ、法則に気付きにくい」

純「本当にお前はすげえよ、穏乃。で、もう片翼――自牌干渉系のほうはどうなんだ?」

穏乃「あっ、それはもう、簡単ですよ。というか、見たまんまですね」

まこ「というと?」

穏乃「《和了れば和了るほど》《有効牌が入り高い手が和了りやすくなる》自牌干渉系能力です」

塞「なんていうかもう……ひどいっ!!」

純「そんだけ効果がざっくりなら、支配領域《テリトリー》も相当広範囲だろうな。
 和了れば和了るほどってんだから、二回目より三回目、三回目より四回目と、和了りを重ねるごとに、打点だけじゃなく能力の強度も上がっていくわけか」

まこ「手のつけようがないの……」

穏乃「だからこそ、ネリーさんはあんなに必死になって東一局を守ったんですよ。たった一度でも照さんに和了りを許してしまうと、そこから運命の螺旋が回り始めるのがわかっていたから。
 回れば回るほど強く、回れば回るほど高くなる旋風――。
 五、六回目を超えてくると、一つツモるごとに強烈な風が山を駆け抜けていくんです。
 ツモというツモを《上書き》して、ズラそうが飛ばそうがお構いなしに和了ってきます。何度吹き飛ばされたかわかりません」

塞「言われてみれば、打点がハネ満くらいになると、宮永の手が風を纏ってるように見えるときあるわ。
 そっか……あのとんでもない強度――それまでの和了りで蓄えた分が、全部そこに集まっているからなのね」

穏乃「《新約》の鶴田さんと似ているところがありますね。鶴田さんは、白水さんの和了りを、飜数という形で引き継ぎ、力に変換する。これがレベル5というとてつもない強度を誇るわけです。
 照さんの場合も同様で、単発の力ではなく、積み上げた力を振るう。この《万華鏡》の強度がレベル4止まりで鶴田さんがレベル5なのは、積み上げるのが一人か二人かの違いなのでしょう。
 いずれにせよ、レベル4の中でも群を抜く強度があるのは間違いありません」

     照『ツモ、2000は2200オール』

純「これで四連続だな!! 打点もじわじわ上がって来てるぜ……!!」

まこ「穏乃の話を聞いたあとじゃと、あれだけ東一局で暴れたヴィルサラーゼが照を止められんのも頷けるの」

塞「次が五回目……ぼちぼち旋風が目に見えるようになってくるわね」

穏乃「さすが照さんですっ!」

     照『三本場』

 ――対局室

 東二局三本場・親:照

ネリー(ブラボーっ!! てるブラボー!! なんだこれ、《運命》を味方につけてるってゆーか、《運命》がてるを賛美してるっ!! 強過ぎる!! どうやって止めたらいいか全然わかんないっ!!)タンッ

 北家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・135600)

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:宮永照(永代・108100)

初美(おいーですよー……さっき差し込んでやった恩はどこいったですかー。
 ネリーさんのほうもすっかり大人しくなっちゃってですよー。いいんですかー? そろそろ満貫級の和了りが来るですよー?)タンッ

 南家:薄墨初美(新約・78100)

久(もう普通の半荘一回分は打ったような気がするんだけど、まだ東二局なのね。
 さてさて。点棒をすっからかんにされる前に、どーにかしなきゃね。いや、どーすればいいのかは、ちょっとわからないけど)タンッ

 西家:竹井久(久遠・78200)

ネリー「チーッ!」タンッ

久(と、さっきからちょこちょこ鳴いてくるわね。何をしてるのかはわからないけど、宮永照の打点上昇が比較的緩やかなのとなんか関係ある?)

ネリー(ちょっと満貫は勘弁なんだよっ! 焼け石に水だけど、掛けないよりはマシ。この調子で水を差しまくって、どーにかこーにか流せるチャンスを待つ……!!)

照「ツモ」

久(あちゃー)

初美(もーですよー)

照「2600は2900オール」パラララ

ネリー(お構いなし過ぎるよー。《流れ》が太過ぎる。《流れ》がぐるぐる寄り集まって、一本の縄みたいになってるんだもんなー。繊維の一本や二本を傷つけたところで、まー意味がない意味がない。
 さとははこっちだと《懐刀》だか《快刀》だかで、乱麻を断つとか濫魔を絶つとかいう触れ込みらしいけど……この《流れ》は斬れないだろうな、たぶん。
 科学世界の私……か。この人と初めて打ったとき、さとはは何を思ったんだろう)

ネリー(まっ! さとはの考えてることなんて、今も昔も『斬る』ばっかりだろうけどね!
 《千人斬り》とか《ジャパニーズ辻斬り》とか《トリック・ブレード》とか呼ばれてたっけ!)

ネリー(あのさとはが、私と同じで、一度たりとも敵わなかった相手。学園都市の《頂点》――宮永照。
 やえ曰く『全てにおいて最高の雀士』。私が全力を出しても……勝てないかもしれない人……!!)

ネリー(なっっっっっんだこれ!! 楽しくて楽しくて仕方ないっ!! もっともっと連荘してくれてもいいんだよっ!!
 てるとの対局なら、私、無限に続けてもいいっ!! ま、もちろん止めるんだけどさー!!)

ネリー(そいじゃーま! そのぐるぐる回る《運命》の螺旋っ! さとはじゃないけど、次こそ叩き切るからねーッ!!)ゴッ

照「四本場」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー:132700 照:116800 初美:75200 久:75300

 ――《久遠》控え室

憧「東三局が遠いっ!!」

哩「ばってん、和了巡目の速かけん、言うほど時間は経ってなか」

白望「もっと深くで戦えばいいのに……」

洋榎「ええやん、パァーンと和了ってバァーンと積み棒積むっ! 見てて気持ちええわー!!」

憧「気持ちいい? 洋榎の感覚って未だにわかんない。あんたの脳みそ未知の物体でできてない?」

洋榎「よし、憧ちゃん! うちが今から、自分に死刑を執行するっ!!」コチョコチョ

憧「あひゃっ!? ちょ、ひろ、わひゃっ!! やめなさい、バカ!!」ゴンッ

洋榎「せやけど、これホンマどないしよなー……」タンコブー

憧「洋榎、あんた賑やかし担当で行くのか真面目担当で行くのかはっきりしなさいよ」

哩「宮永照の連続和了ばかりは、なんやろ、身体で止めろとしか言えん」

白望「ダルいそれ無理……」

洋榎「まー、別に点棒取られるんは取り返すから構へんけど、トんでもーたらおしまいやからな。ボチボチなんとかせな」

憧「けど、宮永照だって、そろそろ打点上げるのがキツいんじゃない? 今局はリーチ掛けてくるかも……」

     照『リーチ』

憧「ほら来たっ!! これで隙ができるでしょ!!」

洋榎「憧ちゃん……自分、それはえろう勘違いやで……?」

憧「え――」

洋榎「隙ありやー!!!」コチョコチョ

憧「ひょ!? いや、も、あひゃひゃひゃ――!!?」ジタバタ

哩「おーい、遊んどらんと応援ばしんしゃーい」

白望「んー……南場になったら起こしてー……」

憧「あんたら見てないで助けなさいよーっ!!」

 ――《新約》控え室

怜「リーチを掛けたら隙ができる。それは、よう言われとるけど、うちに言わせれば『んなアホな』や。宮永照の連続和了は、ホンマに強度が半端やない」

絹恵「未来変えてもお構いなしなんでしたっけ?」

姫子「怜さん、一人やと止められなかて言っとうとですよね。三人で協力して、やっと流せるって」

怜「せやねん。宮永照に一人で勝負を挑もうっちゅーんが、そもそもの間違い。ほんで、宮永照に隙があるなんて思うんも、大勘違いや。
 一対一で宮永照に挑む資格と実力があるんは……ただ一人、ナンバー2の荒川憩だけやろ。
 他の雀士は、たとえ初美でも、一人じゃ太刀打ちできひん。ここは共闘しかあらへん」

絹恵「初美さんレベルの雀士でさえ、二人、三人がかりで一発入れるのがやっと……」

姫子「強過ぎとね、学園都市の《頂点》は……!!」

和(皆さんの会話を聞いていると、あの対局室で行なわれているのが、まるで何かの格闘競技のようです……)

 ――《幻奏》控え室

誠子「宮永先輩が止まりません……! わかっていたことですが!」

優希「どうなんだじょ、やえお姉さん! ネリちゃんはいけそうなのか!?」

やえ「まあ、そう心配しなさんな。ネリーも、宮永の連続和了がちょっとやそっとじゃ止まらんのはわかっているはずだ」

セーラ「せやろなー……て、ん? お? は? あ――」

     照『ロン、18000は19200』

     ネリー『はいなんだよー』

誠子「ド高めに振り込んだ!? あのネリーさんが!?」

優希「ネリちゃんは《悪魔》と同じことができるんじゃなかったのか!?」

セーラ「これは――けど、完全にわざとやんな。どーゆーことなん、やえ?」

やえ「12000に振り込んでさらに18000をツモられるのと、18000に一回振り込むの、どちらのほうが点差が開かないと思う?」

誠子「それはもちろん後者ですけど……えっ、まさか――」

やえ「そのまさかだよ」

     照『リーチ』

セーラ「っと。今度は……ちょっと宮永の手に無理があるな。
 18000なら誰から出てもどこ引いても達成やけど、24000にするにはツモでしかも高めを引かへんとあかん」

優希「じょ……ああ! そっか、さっきは12000を和了るつもりで、今回は18000のつもりだった! そういうことか、やえお姉さんっ!?」

やえ「そういうことだ。さっきも話した通り、宮永の連続和了は一つ一つがドミノ倒しのように連動している。
 あいつの和了りは、それそのものが次の和了りへの布石。あいつは常に『次』を意識して和了り形を決めているんだ。
 前局の宮永は、恐らくネリーから12000を出和了るつもりだった。そして、今回で18000を和了る、と。
 つまり、今の手牌は、18000用に調整されたものなんだよ。それを24000にするのは、少しばかり手間がかかるな」

誠子「けど、宮永先輩の支配力なら、多少形が悪くても、強度に補正を掛けて強引に――」

やえ「それも、手牌と同様だ。あいつの《万華鏡》は、能力の強度においても、それまでの積み重ね――和了回数の影響を受ける。
 宮永がこの局で発揮している能力の強度は、やはり18000を和了る予定で調整されたものなんだ。
 そこには、当然、支配力による補正も計算に入っている。そこを下手に崩しても隙ができるだけだ。見た目よりずっとデリケートなんだよ、あれは」

セーラ「ネリーはそれを見抜いて、さっきはわざとド高めに振り込んだっちゅーわけか。
 宮永の予定通りに事が進めば、12000と18000をほぼ確実に和了られる上に、24000も無理なく和了ってくるかもしれへん。
 せやったら、あそこで18000に振り込んでもーたほうが、隙を作れるし点差も開かへん。なるほどなー。ホンマ参考になるわ」

やえ「まあ、理屈の上ではそうだ、というだけだがな。いくら宮永の思惑を外したとは言え、亦野が言ったように、宮永なら強引に打点を上げることができるだろう。
 その隙を、的確に、しかも単独で突ける雀士となると、ネリーか荒川以外に思いつかん。私らが同じことをしても、間違いなく宮永に24000をツモられておしまいだ」

     ネリー『ロンだよっ! 7700の五本場は9200っ!!』

     照『はい』

優希「うおおお! これで二千点差っ! 本当に互角だじょ、あの二人!!」

誠子「信じ難い……!!」

セーラ「やっと東三局か~」

やえ「ネリーも宮永も六連続和了したからな。それは場が回らんわけだ」

優希「で! やえお姉さん予想では、次に主導権を握るのはどっちなんだじょ!?」

やえ「どうだろうな。ひとまず、一旦宮永の連続和了が終わって、あいつの《万華鏡》はリセットされた。
 そして、ネリーの打ち筋も、もうある程度わかってきた。とくれば、他の二人も黙っちゃいないだろう」

誠子「《最凶》と《最悪》――《凶悪》の二大レベル4。《十最》の中でも、かなり有名どころというか、悪名どころというか。
 《最終》の弘世先輩も恐いですが、二回戦での竹井先輩は……いや、もうホント、《最悪》としか言いようがなかったです」

セーラ「散々やったもんなー。竹井は誠子みたいな真っ当なやつが一番ハマってまうタイプの打ち手やねん。
 あの《悪待ち》はホンマ性質悪いっちゅーか、あの《悪待ち》の能力をあの竹井が持っとるっちゅーんが、誰にとっても《最悪》や」

優希「痴女お姉さん……二回戦のあれはまさに悪女だったじぇ。しかもあのお姉さんはできる悪女だからすごいじょ!!」

やえ「あいつは白糸台の学生議会長だぞ。仕事もできるし、頭も回る。なんだかんだで万能なんだよ。初美とは犬猿の仲だがな」

セーラ「そーいや最近あの二人の追いかけっこを見てへんかったなー。白糸台名物やったのに」

誠子「ちょっと絵が恐ろしいことになりそうで想像したくないですねそれ……」

優希「じょ! 痴女お姉さんが張ったじょ……!!」

やえ「これはまた……竹井に似つかわしくない最良の手だな。さて、これをあの《最悪》はどう料理するわけか――」

ご覧いただきありがとうございます。

すいません、小休止中です。日付が変わる頃には戻ってきます。

 ――以下、つらつらと――

照さんの能力のイメージに近いのは、東場の片岡さんです。ただし、配牌確定能力アリ、南場になっても失速しない、一回和了るごとにゲージが溜まる、というチート仕様になっています。

原作の照さんが最初の連続和了の際、二局連続で西暗刻を持っていたのが印象に残っていたので、このような感じになりました。

片岡さんが自由に打ち回しているように、速度・火力切り替え含め、応用はわりと効くと思います。

ただ、応用を効かせる必要に迫られるほどの相手となると、素で片岡さんとやりあった福路さん・辻垣内さんクラスになってくるかと。

個人的に、

・一和了目は能力が使えないから東初の片岡さんと微妙に相性が悪い。

・大星さんの《絶対安全圏》を破れるのは白糸台(原作)で渋谷さんの《ハーベストタイム》だけなので、これも微妙に相性が悪い。

・封殺効果がない。

この辺りが、細かいですが、バランスブレイカーにならない弱点かな、と思っています。東風戦の片岡さんをアベレージで上回れる雀士=照さんとまともな勝負が成り立つ雀士、くらいの感覚で書いています。

 ――対局室

 東三局・親:初美

久(あらあら……こんな綺麗な手が入るなんていつ振りかしら?)

 南家:竹井久(久遠・75300)

 久手牌:3334567888白白白 ドラ:五

久(門前混一白、高め三暗刻でハネ満。しかも待ちは驚きの八面張と来たわ。これはどっかで出てくるでしょう……)

ネリー「♪」タンッ

 西家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・123700)

久(と、言ってるそばから来たわ九索っ!! けど、それだと安めなのよね。みすみす8000を見逃すのは惜しいけれど、高めの四索と七索は、場に一枚も見えてない。この状況、この相手……ここは欲張りたい……!!)

照「」タンッ

 北家:宮永照(永代・125800)

久(え)

初美「」タンッ

 東家:薄墨初美(新約・75200)

久(ちょっ!? 宮永照も薄墨も四索切りっ!? 人が見逃した巡目に揃って高め処理ってふざけてるの!? 意図的かどうかは置いておくとしても、こんな《最悪》なことってないわよ……)ツモッ

 久手牌:3334567888白白白 ツモ:[5] ドラ:五

久(……と、ここで赤五をツモった? 門前混一白赤一ツモでハネ満――私にしては珍しくツいてるわね。なに、ここは大人しく和了っとけって?
 けど、これ……赤を残して高めをツモれば倍満になるのよね。高めはあと四枚……か)

久(面白い……すごく面白いわっ! 選択肢がたくさんあるっ! 可能性に溢れている!! この局面、私はどうしたらいい? どうするのが正しい? わからない。わからないけど……!!)

久(私は――私らしくッ!!)タンッ

 久手牌:3334[5]67888白白白 捨て:5 ドラ:五

久(待ちましょう。きっと、まだ何かある。この赤五でなければならなかった意味があるんだわ。
 それがわかるまで、もう少しだけ和了りはお預け。大丈夫……待つのは慣れっこなんだから――)

 ――《久遠》控え室

憧「はあー!? ハネ満和了るつもりで満貫見逃して! 高め潰されたと思ったら赤でハネツモになって!
 結果オーライとか思ったら今度はツモ和了り拒否のフリテン……!? さっきと違って高めは四枚に減ってんのに――」

     ネリー『♪』タンッ

憧「七索ーっ!? 高め残り三枚っ!! さっきから裏目裏目で《最悪》じゃない!! 本当に久は意味わかんないっ!!」

洋榎「ははっ、いやー久らしいわー。これはオモロいことになるでー」

憧「な、なによ、洋榎。こっから久が何をどうするかわかるの?」

洋榎「わからへんわ。わかるわけあらへんやろ。久のやることは《最悪》。常にうちらの予想の斜め上を行く。
 やからこそ、ここで何をしでかすんか、ものっそい楽しみやねん」

憧「洋榎っていつも楽しそうでいいわね……」

哩「まあ、洋榎の肩ば持つわけやなかばってん、久のやっことは本当に読めん。が、久はそいでいつも勝っとる。ここも、きっと何かあっとね」

白望「赤五が来た意味……」

憧「来た意味――って、久がよく言ってるあれ? ハネツモのため、って考えるんじゃダメなの?」

洋榎「ダメってことはあらへんやろ。っちゅーか、うちなら九索が出た時点で和了るわ」

哩「あん手牌ない、私は張った時点でリーチば掛けっと。九索は状況によっては見逃す。ばってん、赤五の来たら、間違いなく手牌ば倒すと」

白望「人それぞれ……」

憧「いや、洋榎や哩の言うことはわかるわよ? けどさ、久のフリテンはマジで意味わかんな過ぎでしょ」

洋榎「確かに意味はわからへん。せやけど、意味がわからへんことと、意味があらへんことは、全然ちゃうよな?」

憧「あ――」

哩「久もきっとそうとね。あの赤五の意味はわかっとらんと思う。ばってん、意味のあって信じとう。信じて、待っとうよ。そん意味のわかるときば」

憧「信じて……待つ、かぁ」

白望「あ……」

憧「へ? ああ……っ!!」

     久『それ……カンよッ!』ゴッ

     照『!?』

洋榎「いよっしゃあああ! 来たで来たで来たでーっ! よう見とけよ、憧ちゃんッ! これが自分の大好きな《最悪》の大能力者の本領やでーっ!!」

憧「ひ、久ー!? そこで大明槓とかっ!?」

 久手牌:3334[5]67白白白/8(8)88 嶺上ツモ:3 ドラ:五・?

哩「こいで八面張の五面張に!」

白望「八索は使い切ってるから実質四面張……」

憧「ってか、これもしかして――!!」

     久『もいっこー……カンッ!!』ゴッ

憧「やっぱ連槓したー!?」

洋榎「ほんでカンドラモロいったでーっ!!」

 久手牌:4[5]67白白白/3333/8(8)88 嶺上ツモ:? ドラ:五・8・8

憧「け、けどこんなん! 八面張の高め三暗刻だったのに……!! カンドラ表示牌で七索が涸れて、四索ももう二枚見えてるんだから、和了り牌はあと一枚しかないのよっ!?」

哩「こいが《最悪》……!! 八面張からわざわざ実質地獄単騎っ!!
 カンドラモロのなかったら、ただ打点ば下げて待ちば悪くしただけ!! なんもかんもありえなかっ!!」

白望「でも――だからこそ……」

洋榎「この《最悪》を力に変える――!! それが久の久たる由縁やんなーっ!!」

憧「ひ、久――あんたって本当に……っ!!」

     久『ツモ――嶺上開花混一白ドラ八赤一……32000ッ!!』

憧「《最悪》っ!! けどそれが最っっっ高ッ!!!」

 ――対局室

久「ツモ――嶺上開花混一白ドラ八赤一……32000ッ!!」

 久手牌:4[5]67白白白/3333/8(8)88 嶺上ツモ:4 ドラ:五・8・8

照「はい……(び、びっくりした)」チャ

ネリー(嘘ぉー!? そんなメロディってアリなのー!? こんなの私でも聞き逃す――っていうか、これがメロディとして成立してるなんて解釈する人間が普通いるー!? なんだこの人……本当にわけわかんないよっ!!)

初美(なんですかー、その手順。頭痛いですよー? 見逃し、和了り拒否、からの大明槓……?
 カンドラが乗って嶺上で和了れたからよかったですけどー、そうじゃなかったらただ打点を下げて待ちを悪くしただけ。相変わらず《最悪》なことしかしないですねー、こいつは……)

久「さあて、ちょっとは調子出てきたかしらっ!?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(おおおぅ……これまた悪くない魔力《ボリューム》。火が点くと止まらなそー。
 っていうか、今の意味不明な旋律がこの人のノーマルだとすると、私でも振り込むかもだよ。魔術のタネがわかってれば対策できるとかじゃないもん、これ)

ネリー(私には《運命》が聞こえるし、10万3千曲の蓄積の中から、そこにある旋律やメロディを一発検索できる。
 この人と同じような魔術を使う人は過去にもいたし、実際、東一局三本場の《悪待ち》リーチみたいな《流れ》なら、断ち切るのはお茶の子さいさい)

ネリー(けど……この和了りは違う。メロディの紡ぎ方がはちゃめちゃにユニーク。私の脳内に10万3千1曲目が加わるレベルなんだよ……)

ネリー(この人と同じ魔術を持っていても、この人と同じ曲を奏でた人は未だかつていない。
 荒削りも荒削りだけど、この人は《原譜》作曲の才覚を秘めてるんだ。いやー、高校生でこれはオカルト過ぎる。ちょっと寒気がするよ)ブルッ

ネリー(いや、けど、てるを削ってくれたのは大助かりだよーっ! 私でも聞き取れなかったんだから、そりゃてるにも読めないよねっ! 八索掴まなくてホントよかったー!!
 さってー! てるとは三万点差ついたし、このままさっさと南入してまた親で連――)

初美「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(ぷおわっ!? 出た出た出たぁー!! 北家のはつみっ!! この凶々しい魔力は明らかに人間のそれじゃないっ!
 相変わらず何を纏ってやがるのかなーこの人は!! 昨日の門前清一巫女さんとはまた違う感じなんだよっ!!)

ネリー(いいねー!! いい感じに盛り上がってきたねーっ!? てるだけじゃない!! ひさもはつみもいい音出してるっ!! そーだよそーだよっ!! やっぱ麻雀はこうじゃなきゃ!!)

ネリー(っしゃあー……! じゃ、気合入れ直して臨むとしますかっ! 北家のはつみ……合宿とは違う、本気のあなたを聞かせてね――!!)

久「さっ! 私の親番ね……!!」コロコロ

ネリー:123700 照:93800 初美:75200 久:107300

 東四局・親:久

ネリー(さてさて。《流れ》を渡りに渡っててるの和了り牌をそこそこ抱えたはいいものの、全部じゃない。もう終盤に入るけど、このまま行くと、てるが和了りそうなんだよね~。
 聞き取れてないけど、どうせ《神の音》はてるの味方をするだろうから、私の親番がてるの連続和了で流されて、そのまま南二局に突入、てる大暴れ、おしまい。みたいな感じになりそう。
 それだけはぁー……断固拒否っ!!)タンッ

久(ここで北切り――!?)

初美「ポンですよーっ!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(ネリーさん……ここしかないっていうタイミングで場を乱してくる。ツモをズラして、なおかつ薄墨さんの支配力で私の支配力に揺さぶりを掛ける。この北切りは一石二鳥……)

久(っと、薄墨も恐いけど、宮永照がツモるはずだったとこを引くことになったってのが、また嫌な感じね。
 うん、これは抱えておきましょう。それでも和了り目は残っている。まだ……攻められる……!!)タンッ

ネリー(そうそう。さっすがひさ。たぶん、この中では一番《流れ》に敏感だよね。
 ひさなら、そういう、ちょっと聞いただけでは意味わかんないとこ引いても、ちゃーんと対応できるって思ってたよ!)タンッ

照(うぬ……また《上書き》し損ねた。海底までにどうにかなるといいけど)

初美(ようやく鳴けたですよー。あとは東が出てくれば……《裏鬼門》が開くですー!!)タンッ

久(っと、ここが勝負どころかしら――)

久「チー!」タンッ

ネリー(おお……!! すごいよ、ひさ!! それがひさにとっても私にとっても大正解なんだよー!!)

久(これで、テンパイ。宮永照のツモをネリーさんに押し付けることもできた。薄墨はまだ東を晒してないし、海底は私。悪くないと思うんだけど、どーなのかしらねっ!)

ネリー(ほい来たてるの和了り牌っ! これで一向聴!! ここまで来れば、もうこの曲の《運命》は私のものなんだよー!!)タンッ

照(あ……詰んだ気がする。んー、仕方ない。形式テンパイよりは、張り替えを狙おう。このままじゃネリーさんに和了られる気がする。
 なら、少しでも止められる可能性を残す……)タンッ

初美(東はまだですかー!?)タンッ

久(薄墨が足踏みしてる……今のうちにっ!!)

ネリー「リーチなんだよー!!」ゴッ

久(これは――!?)

照(ここでそれを出すんだ……)

初美(と……東切りリーチですかー――ッ!!?)

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美(今は十四巡目……私の手に南と西は一枚もない。場に出てないからまだ残ってるはずですけどー。ここで東を鳴くと――)

ネリー(私のツモ――元々はてるのツモだった牌がはつみに流れる。しかも、ここで鳴いたら、ツモれる回数はあと三回。
 南と西が一枚もないその状態からじゃ、小四喜一向聴が限界だよねー?)

初美「………………おい、《最悪》」

久「あら、何かしら、《最凶》?」

初美「《最悪》なんかに同意を求めるのはそれこそ気分最悪ですけどー、同じ《十最》として聞くですー。
 私が北家になったときは、一体どう打つべきですかー?」

久「東と北を切らない。ま、勝負手が入ったなら、片方までは切ってもいいと思うわ。
 けど、どちらかが鳴かれている状態で、もう片方を切るのは、ちょっといただけないわね」

初美「ですよねー。そんな北家の私に対して、北を切ってきた上に、あげく東切りリーチをしてきた一年がいるんですけどー、《最悪》はこれをどう思いますかー……?」

久「あなたの残りツモ回数を考えれば、悪くない作戦だと思うわ。よく考えて打ってる。きっとこのときのためにずっと東を抱えていたのね。なんて将来有望な一年生なのかしら。けど――」

ネリー「っ!?」ピクッ

久「ちょーっとばかしナメてるわよねー? よっぽど愉快な死体になりたいと見えるわ……ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美「でーすよねー。本当に和といい《煌星》の連中といい――今年の一年はどいつもこいつもクソ生意気なやつばかりですー」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(や……べ。この《流れ》はやばいなんだよ……さっきまでてるやひさの旋律に紛れて、聞き取れないくらい微かに紡がれていたメロディが、いつの間にか超ボリュームの主旋律になってる……!!?)

初美「遊びたい盛りなのは結構ですけどー、あんまり奔放過ぎるのも考え物ですー。
 第二第三の《最悪》を生み出すわけにはいかないですからねー。風紀委員長としてしっかり教えてやるですよー。
 《悪石の巫女》と呼ばれるこの私――《最凶》の大能力者と戦うときの――守らなければいけない規則《ルール》ってやつをッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(ぎゃーっ!!? だから鼓膜破れるってのー!!!)ビリビリ

初美「その東――カンですーッ!!」ゴッ

ネリー(大明槓!? げぇーっ!? 三枚持ってたの!? また《神の音》……!!
 しかも、てっきりてるの味方してると思ってた《流れ》が――ぜーんぶはつみに引き寄せられていく――!!)

久(これはオリね……)タンッ

照(これはオリる……)タンッ

初美「どんどん来るですよーっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(学園都市風に言うなら……王牌は支配領域《テリトリー》の《未開地帯》。
 その《最高峰》から圧倒的な支配力でもって自分の有効牌を引き寄せた上に、残りのツモ三回を的確に《上書き》して小四喜テンパイへのステップを踏んでる――!!
 私ら的に言えば、天上の牌――《神域》たる王牌から《神託》を授かって、さらには《神の音》を全て味方につけて、一つの巨大な《流れ》を生み出してる……!! すごいよ、はつみ……!!
 はつみは今――神様の祝福を受けているんだよ……!?)

初美「さあ……次が海底――さっさとツモるがいいですー……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(そうだよね……ここまで来たら、そうなるだろうって……!! これがはつみのメロディの――最後の一音っ!!)タンッ

初美「ロン――!!」ゴッ

久(あらあら)

照(さすが……)

ネリー(なんて……! なんて荘厳な響き――ッ!!)ゾワッ

初美「小四喜ッ! 32000ですよー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー「どうぞなんだよーっ!!」

初美「それ見たことですかー!! これで暫定トップは私ですよー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久「これはこれは、驚いたことに私が二位じゃないっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(私とネリーさんが計十三局で稼いだ分が……たった二局でひっくり返された……)

ネリー(これが《最凶》と《最悪》――! やえ曰く『間違っても敵に回してはいけない《凶悪》の二大レベル4』……災禍を振り撒く《十最》ッ!!)ゾクッ

初美・久「さあ、南入ですよー(よっ)!!」ゴッ

ネリー:90700 照:93800 初美:108200 久:107300

 ――《幻奏》控え室

やえ「あの莫迦者が……なぜ私の忠告を聞かなかった。北家の初美にはあれほど注意しろと言ったのに」

優希「あははっ! ネリちゃんがそんな素直なわけないじょ!!」

やえ「やかましいぞこの馬耳東風コンビ」

優希「私はちゃんと言いつけ守ってるじぇー!?」

セーラ「まーたこれで展開がわからへんようになったな」

誠子「そうですね。どんな結果になるのやら……」

やえ「おいおい、亦野。言葉はよく選べよ。わからないのは展開だ。結果じゃない」

誠子「あ……」

セーラ「せやねん。結果は始まる前からわかっとる。宮永照とネリーは二つの世界の《頂点》。
 どちらが勝つにせよ、どちらかが勝つのはもうほぼ決まっとる」

優希「頑張れ、ネリちゃん!!」

誠子「ううっ……私はどちらを応援したら……」

やえ「気にせずどっちも応援したらいい。私なんか、さっきのネリーの東切りリーチを見て、『今だ初美その莫迦を叩き潰せ』ってほくそ笑んだぞ」

セーラ「一年のときのクラス対抗戦決勝――大将戦で、親の竹井が北家の初美に北・東切りからの《悪待ち》リーチをかけたことあったな。あれそっくりやわ、さっきの。俺も思わず『そこやー初美ー!』って叫びそうになったで」

優希「誠子先輩、お姉さんお兄さんが敵方に寝返ってるじょ!! 私はこの事実をどう受け止めればいいんだじょ!?」

誠子「ご、ごめん、優希。私も、実は心の半分くらいを宮永先輩に持っていかれてる」

優希「ネリちゃああああん!! 私は!! 私はネリちゃんだけを応援してるじょー!!」

やえ「……さて、一体誰の祈りが天上に届いたのか」

     照『ロン、1000』

     ネリー『ふあっ!?』

優希「ネリちゃんの親が流れた!?」

誠子「また宮永先輩の連続和了が始まる――」

セーラ「あかんな。初美と竹井に気が行き過ぎとる」

やえ「ネリー……履き違えるなよ。初美と竹井は強いし、お前の言うところの『いい音を奏でる』雀士だろう。
 だが、その場でお前が倒すべきはたった一人。科学世界の《頂点》――宮永照だぞ……ッ!!」

 ――観戦室

菫「ふう……南場はヴィルサラーゼの親を流せたか。照が連続和了に入ったし、ひとまず安心だな」

憩「世界広しと言えど、宮永照の連続和了に心が安らぐのは、菫さんだけです」

淡「あれは止め方がわからないよー」

煌「……いえ、恐らくですが、《絶対安全圏》を持つ淡さんなら、普通に打つだけで比較的いい勝負ができると思いますよ」

淡「ほえ?」

憩「…………花田さん?」

煌「おっと、これは口が滑りましたね。忘れてください」

     照『ツモ、700オール』

煌「さて、しばらくは宮永照さんの和了りが続きそうですね。場が動くとしたら、リーチが掛かってからでしょう。運命論のお話の続きと行きましょうか。
 山牌の不動性と不確定性――これさえ受け入れることができれば、あとは、能力論とさほど変わりません」

淡「私はまだ受け入れられないよ……キラメ……」

菫「私もだ……」

憩「ウチは――ええで。そういうフィクションもある、ってことにする」

煌「さすがは荒川さんですね。
 さて、先ほど散々《上書き》は起きていないと言いました。信じられないでしょうが、あちらの世界ではそれが普通なのです。
 しかし、無論、あちらの世界にも能力者――《魔術師》がいますね?」

菫「そうらしいな」

煌「そして、《魔術師》の使う《魔術》と、《能力者》の使う《能力》は、数学上――見かけ上の違いがありません。
 魔術師も、こちらの世界でいう《確率干渉》と同じことができるのです。つまり、古典確率論を逸脱した現象を引き起こすことができる」

淡「で、でも、キラメ! 山牌が最初の状態から動かないんだよね? ランダムに並んだ山牌が持ち上がって、そこからずっと変わらない。
 それってさ、ネット麻雀と同じってことだよね? どうやっても古典確率論から抜け出せなくない?」

煌「そこです、淡さん。《上書き》が当たり前の科学世界では、『初期状態の山牌の並びは古典確率論に縛られている』というのが一般的な解釈です。
 牌の並びは確率波として存在し、確率干渉がなければ、それは忠実に古典確率論に従う――それを、能力や支配力で《上書き》し、古典確率論を超越する。そうですね?」

淡「そうそうっ! だから、なーんにも能力や支配力を使わないと、リアルでもネット麻雀と同じことができるんだよねっ!」

煌「その通りです。では、魔術師の話に戻りましょう。山牌は持ち上がった時点から、確率波としてではなく、不動不変のものとしてそこに在る。
 しかしながら、能力者同様、魔術師は古典確率論を逸脱した現象を引き起こすことができます。
 なら、魔術師が確率干渉を行っているタイミングは、一体いつなのか。それはずばり……山牌が持ち上がる前なのです」

淡・菫「っ!?」

     照『ツモ、1300は1400オール』

憩「…………あー、なるほどな、やっと掴めてきたわ」

菫「わ、わかったのか、荒川!?」

憩「数学的に変わらへん、って意味がわかりました。ウチらが山牌持ち上がった後でやる、支配領域《テリトリー》展開して意識の《波束》を牌の存在波に干渉させて云々っちゅー能力戦。
 それを、向こうの世界では、ぜーんぶ山牌が持ち上がる前に済ませとるんです」

淡「な、なんだってええええええええ!?」

菫「ま、ますますもって信じ難い……!!」

憩「先決めか、後付けか。いずれにせよ、牌の存在波に意識の《波束》を干渉させとることに変わりはない。
 その計算には、結局のところ波動関数を使うわけやから、数学上は同じ結論を導き出すことができる。そういうことやんな、花田さん?」

煌「荒川さんのおっしゃる通りです。あちらの世界の山牌は、決してランダムに並んでなどいません。魔術師は、対局が始まる前に、《詠唱》によって魔術を行使します。
 そして、非古典確率論的な偏りを持つ山牌が、不動不変のものとして、卓上に姿を見せるのです」

淡「そんなの、賽の目一つズレただけでぐっちゃぐっちゃになっちゃうじゃん!?」

煌「魔術世界にはこんなジョークがあります。『神はサイコロを振らない。ただし麻雀は除く』」

菫「た、たとえ賽の目がぴったり合ったとしても、だ! 鳴きでツモ順がズレれば、せっかく魔術とやらで偏らせた並びがふいになってしまうではないか!?」

煌「ではお尋ねしますが、それは、予期せぬ鳴きによって能力者が《上書き》をし損ねるのと、現象として、何か違いがありますか?」

淡「イ……インチキ過ぎるっ!! だって! 私たちは好きなように打って、好きなように能力を使って、思うがまま自由に打ってるんだよ!?
 その、一つ一つの選択、牌を切る順番、鳴くかどうかの判断――それが、全部最初から決まってるっていうの!?」

煌「人の意思、選択、判断、はては賽の目から本日の天気に至るまで。この世のありとあらゆるものは、天上におわす神の手の平の上にあります。
 自由意思という言葉もありますが、それも、世界全体から見れば、大いなる流れの一部に過ぎません。
 淡さんのおっしゃった通り、『全ては最初から決まっている』――それが《運命》なのです」

菫「なっ――んというオカルト……ッ!!」ゾワッ

淡「キラメー……!! お願いだからその変な宗教はもうやめようよ……!!」ウルウル

煌「おやおや」

     照『ロン、5800は6400』

     久『はい』

憩「……せやけど、言うてることは無茶苦茶でも、数学的には全然問題あらへん。
 第一不確定性原理は《神の牌》、《上書き》の失敗はツモ順のズレとして処理しとる」

煌「運命論者に言わせれば、《上書き》の失敗というのは、かなり不自然なことなんですよ。
 能力者は好きなように不確定の牌を確定させることができる。けれど、本当に自由にそんなことができるなら、《上書き》の失敗なんてありえませんよね?
 《上書き》の失敗――その原因は、能力論的に、なかなか簡潔な説明をつけることができません。
 曰く、支配領域《テリトリー》の揺らぎ、《波束》の乱れ、他家からの干渉、或いは本人の調子が悪い、などなど。
 そういう曖昧さを、運命論では『ツモ順がズレたから』の一言で片付けることができます」

憩「現象の解釈については、一長一短っちゅーわけか。
 ただ……これ、鳴きの可能性とか手の進め方っちゅーんを最初に全部まとめて計算する分、数学的に言うと、運命論のほうが複雑で欠陥だらけやんな。
 小走さんやあらへんけど、パソコンで解析するんやったら能力論ベースで計算したほうがええに決まっとる。その方が合理的で効率的や」

煌「実際、あちらの研究者も、コンピュータ処理をするときには能力論ベースの計算法を借用しているようですよ。
 論文にする段階で、内容を運命論のそれに翻訳し直して、発表しているのです」

憩「何もそんな面倒なことせんでも……」

煌「逆に考えて見ましょう。仮に、能力論より運命論のほうが数学的に優れていたとしても、《上書き》の概念を捨てることは、なかなか難しいのではないですか?」

憩「そらまあ……やって《上書き》は確かに起きとるから。いくら目の錯覚や言われても」

煌「そういうものなのです。数学はあくまでツール。それよりも、自分の住む世界や思想のルーツを守ることのほうが、多くの方にとって大切なことだと、私は思います」

憩「っちゅーか、花田さん、よくこんなん受け入れられるな? 大星さんや菫さんの反応はもっともやで。ホンマ聞けば聞くほど発狂するわ、この運命論」

煌「私は元々外の世界にいた人間ですから。学園都市に来たのは三ヶ月前。能力論という概念に触れたのも、ついこの間です。いわばまっさらな状態でしたからね。
 とりあえず詰め込めるだけ詰め込もう、咀嚼が難しければいっそ丸呑みにしてしまえ、みたいな感じです」

憩「《怪物》やなホンマに……」

煌「恐縮です」

     照『ロン、7700は8600』

     初美『はいですよー』

煌「さてさて。このように、魔術師は詠唱によって魔術を行使し、山牌という《運命》に干渉することができます。そして、それは山牌が持ち上がった時点で、終了しています。
 賽の目が決まって牌を手に取ったところからは、あちらの世界では、誰もが等しく無能力者なのです。
 《上書き》などは一切なく、魔術師はただ自分の魔術と魔力による牌の偏り――自らの《運命》を信じて、手を進めていくわけですね」

淡「えっと、《発動条件》とか《制約》はどこに行っちゃったの……?」

煌「その手の事柄は、全部《詠唱》の段階で終わっています。例えば、竹井さんの《悪待ち》や、薄墨さんの《裏鬼門》。
 これらは、決して《悪待ちをしたから》《和了り牌が来た》のでも《東と北を鳴いたから》《南と西が来た》のでもなく、
 捨て牌や鳴くタイミング等々の手順を踏み外さなければ、初めから、あそこであの和了りになるように、牌が並んでいたのです」

淡「うわーん!! スミレー!! キラメの中身が違う人になってるー!!」ガバッ

菫「お、おお……それは災難だったな……」

憩「コラ」ワシッ

淡「ぐうぇっ!? ちょっとー!? 襟引っ張らないでよっ! 首が絞まるっ!!」

憩「それ以上菫さんに馴れ馴れしくしたらあかんで? 大星さんも、ウチが《悪魔》に変身するとこは見たくないやんな?」ゴッ

淡「むうー……ケイってば意外と心が狭いんだねっ!」

煌「淡さん、余所のチームの方々にご迷惑をおかけしてはいけませんよ。よろしければ私の肩をお貸ししましょうか?」

淡「やったーっ!!」ピトッ

煌「と……魔術についてのお話でしたね」ナデナデ

憩「せやね。詠唱がどうのこうの言うてたわ」

煌「はい。まあ、言ってしまえば《詠唱》とは《上書き》のことなので、こちらでいう《発動条件》や《制約》のように、決して自由ではなく、守るべき論理《ルール》がきちんとあります。
 なので、あちらの方々も、生み出せる偏りに一定の制限があるのは、こちらと同様なのですね。
 ただ、《上書き》の概念が存在しないゆえに、能力――魔術の系統も、学園都市のそれとは少々毛色が違ったものになっています」

憩「ほほう」

煌「まず、大きく分けますと、魔術世界には二系統の魔術師しかいません。運命操者《コンダクター》と運命創者《プレイヤー》です」

菫「指揮者と演奏者……ってことか。しかし、二系統とは随分少ないな?」

煌「大きく分けて二系統、というだけです。ここから細かく分岐して、能力論のそれとほぼ同じような分類になっていきます」

淡「ふむー……?」

煌「まず、運命操者《コンダクター》。こちらは、一型と二型に分かれます。
 一型は、牌の音と共振することができます。対して、二型は、対戦相手の音と共振することができます。要するに、感知系と感応系ですね」

憩「あー、つまり、運命操者《コンダクター》は山牌の並び――《運命》に干渉できひんタイプの魔術師なんやね?
 牌や人と共振し、それらを知り、操ることで、自分好みの曲に《運命》を誘導していく。せやから、運命操者《コンダクター》」

煌「そうです。学園都市風に言えば、《上書き》を用いない能力者が、この運命操者《コンダクター》に該当します」

憩「ほな、運命創者《プレイヤー》のほうがなんなのか、容易に想像つくわ。こっちは《上書き》を起こせる能力者なんやな?
 あっち風に言えば、山牌の並び――《運命》に干渉して、自分なりのメロディを創作し、それを弾き語る魔術師。せやから、運命創者《プレイヤー》」

煌「ええ。そして、運命創者《プレイヤー》は一型から四型までの、計四タイプに分類されています。
 それぞれ、詠唱によって《運命》に干渉できる範囲が、配牌、自牌、他牌、王牌と分かれているのですね。この四つの型は、複合していても構いません」

菫「えっと……なら、学園都市で言う全体効果系は二・三型、場合によっては一・二・三型に該当するわけか」

憩「昨日の小蒔ちゃん、それに二回戦の《飛雷神》さんみたいな常時発動型の自牌干渉系は、一・二型に相当するわけやんな」

淡「で、封殺系だと三型になるのか。あっ、王牌は四型でまた別口なんだね?」

煌「こちらの世界で王牌が支配領域《テリトリー》の《未開地帯》と呼ばれているように、あちらの世界でも、人の手が触れる機会の少ない王牌は、天上の牌――聖なる《神域》として特別視されています。他と区別するのは当然でしょう」

淡「するってーとあれかな? 私は諸々含めて一・二・四型の運命創者《プレイヤー》ってことになるのかな?」

煌「左様です」

菫「同じ自牌干渉系でも、私は条件発動型で、松実宥さんは常時発動型だが、その辺りはどうなっている?」

煌「あちらの世界には《上書き》の概念――能力の《発動》という概念が存在しません。ゆえに、条件や常時といった単語に相当する用語はありません。
 が、多くの場合、条件発動型は二型、常時発動型は一・二型に分類されますので、区別自体はされています」

菫「そうか……そうなるのか……」

憩「すごいで花田さん……! 小走さん並みの解説力やでっ!!」

煌「恐縮です」

     照『ツモ、6000は6400オール』

煌「では……それなりに運命論に慣れてきたところで、そろそろ運命奏者《フェイタライザー》の持つ力についてお話しなければなりませんね」

淡「えっ……キラメ、それどういうこと? あのネリーってのは、ケイと同じで山牌の並びがわかるんだよね?
 で、あいつの力ってのは、その山牌の並び――《運命》を聞いていい感じに打ち回すってものなんでしょ?」

菫「《神の耳》……だったか。その他にも何かあるというのか? いや、しかし、そんなバカな……」

憩「あの子はウチと同じことができるだけやない。ホンマにそうなん?」

煌「はい」

淡「い、いや……! ケイと同じことができるってだけでむっちゃ強いんだよ!? ケイは学園都市のナンバー2なんだよ!?」

憩「せやけど、ネリーさんがホンマに魔術世界の《頂点》なんやったら、科学世界のナンバー2であるウチと同じで終わるわけがない。
 そっか……ホンマなんやな。ホンマにあの子は、向こうの世界の宮永照――」

菫「では、これからあいつは何かしてくるのか……?」

煌「恐らくは、そろそろ仕掛けてくるでしょう。宮永さんの連続和了を止めるため、また、自らの勝利のために」

淡「……あいつは、一体何ができるの……?」

煌「その技術は――強制詠唱《スペルインターセプト》と呼ばれています」

憩「へえ……また仰々しいな。ほんでそれ、なんなん?」

煌「他者の詠唱に対して、意図的に不必要な音を割り込ませ、その魔術師の正常な詠唱を阻害、魔術の行使を強制的に中断させる力――」

菫「お、おい、それは……っ!?」

煌「学園都市風に言えば――能力を《無効化》する力です」

憩・菫・淡「っ!!!?」ゾワッ

     照『リーチ』

 ――対局室

 南二局五本場・親:照

照「リーチ」チャ

 東家:宮永照(永代・135300)

初美(比較的巡目が遅くて助かったですけどー、次は24000。最下位のはずのネリーさんは、この連続和了をずっと静観。
 鳴きはちょこちょこ入れて来ますけどー、イマイチ決定打を打ててない感じですー。いや、それはこちらも同じなんですけどー)タンッ

 南家:薄墨初美(新約・91100)

久(六連続和了かぁ。次は親倍が来るのよね。点数的にはよく戦えているほうだと思うんだけど、これ以上はちょっと……。
 悔しいけど薄墨と共闘しなきゃ無理かしらね、やっぱ)タンッ

 西家:竹井久(久遠・92400)

ネリー「♪」タンッ

 北家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・81200)

照(おかしい……)タンッ

初美(さー! 張った張ったですよーっ!! おい、《最悪》! さっさと差し込むですよーっ!! 私のテンパイ気配気付いてるですよねー!?)ゴッ

久(わわっ! ちょ、そんな睨まなくてもわかってるわよ。そーねぇ、けど、ちょっと私の手にはないっぽいのよね。んー、可能性ありそうなのは……これかしら)タンッ

初美(違うですよー! この《最悪》ー!!)

久(てへっ、ごめんなさい、《最凶》)

ネリー「♪」タンッ

照(とてもとてもおかしい……)タンッ

初美(にしても――妙ですねー。どういうわけか、宮永照から例の竜巻みたいな支配力を感じないですー)

久(この和了回数、宮永照なら、リーチ掛けて一発目にコークスクリューツモで和了るかと思ったんだけど、やけに長くない?)

ネリー「♪」タンッ

照(この感じ……覚えがある。似て非なるものだけど、学園都市で一番これに近いのは、高鴨さんのすごパだ。独自の原理で……私の能力が《無効化》されている――)タンッ

ネリー「ロンっ!! 8000の五本場は9500!!」カチャカチャパララ

初美・久(は――普通に直撃……!?)ゾワッ

照(これは、あなたなんだよね……ネリー=ヴィルサラーゼさん――)

ネリー「♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《永代》控え室

塞「はああああああああああああ!?」ガタッ

純「おい、うるっせーぞ、塞」

まこ「穏乃のほうがよっぽど大人しくしちょるの」

穏乃「……いや、これは、けど、ちょっとはしゃげないですね」

塞「ちょっと、高鴨っ! あんたのすごパでどうにかわかんないの!? 今何が起きたのっ!?」

純「照の連続和了……途中で多少の妨害はあったが、東場のときみたいな不意打ちはなかった。見てる限りじゃ、順当に積み重なってた気がする」

まこ「鳴いてズラしたわけでもない。他家を動かしたわけでもない。特別なことは何もしとらん。じゃのに、照が和了れんかった」

塞「リーチ一発がこなかった時点であれ? とか思ってたけど……マジわかんない。
 っていうか、宮永の《万華鏡》って、ものすごい強度で有効牌を引き寄せるのよね? 何がどうなってるわけ……?」

穏乃「現象を説明するだけなら、たった一言で済みます」

純「マジか。一体なんだよ」

穏乃「えっとですね、配牌の段階で、照さんの《万華鏡》は確かに発動していました。
 なんですけど、その後の手作りは、まるで普通のデジタルみたいに遅かった――もとい一般的な速度でしたよね? リーチを掛けたあとも、和了り牌を引けなかった」

まこ「ほうじゃの」

穏乃「つまり、配牌が終わったあと、照さんの能力は効果を発揮していない。この現象は、明らかに能力の《無効化》です」

塞「えええっ!? ど、どういうこと!?」

穏乃「どういうことなのかは、ちょっと私にもまだわかっていません。
 ただ、配牌を終えてからの照さんは、支配力に拠る確率干渉を除けば、能力的な《上書き》を一度も起こせていない。どこからどう見ても《無効化》なのは間違いないんです」

純「《無効化》って……パターンとしてはあれだよな、能力同士の効果が競合したときに、強度が低いほうの能力が打ち消されるやつだよな。塞がよくやるアレ」

まこ「じゃ、じゃが……六回も和了りを積み上げた照の《万華鏡》は、レベル4でも群を抜く強度があるんじゃろ?
 そんなもんを《無効化》できるんは、それこそ塞が命を懸けるとか、限られた人間にしかできんじゃろ。わしにはとても信じられんが……」

穏乃「こんな格言があります。たとえどんなに信じられなくても、論理的にそれしかないなら、それが真実――と」

塞「な、なんなの!? この場合の真実って……!?」

穏乃「照さんの《万華鏡》が《無効化》された。《無効化》は上位能力が下位能力の効果を打ち消すこと。なら、結論は一つです。
 『あそこには照さんの《万華鏡》より上位の能力を持つ能力者がいる』」

いい時間なのでsageます。止まったら寝落ちです。では、引き続き。

塞「うっそーん!? だって、《万華鏡》は大能力なんでしょ!? 薄墨や竹井の能力は、確かに《凶悪》だけど、やっぱり同じ大能力! 少なくとも薄墨に関しては、万全で全力の私より下だわ!!
 とてもじゃないけど、あの二人が宮永の《万華鏡》を正面から《無効化》できるとは思えないっ!!」

穏乃「『あそこには照さんの《万華鏡》より上位の能力を持つ能力者がいる』『薄墨さんや竹井さんは違う』――なら、結論はやっぱり一つじゃないですか。これはネリーさんの仕業です」

純「…………なにをやってんだ、あのチビは」

まこ「憩の真似事ができるだけじゃないんか……?」

塞「で――でもっ!! 高鴨!! 胡桃の話では、あのネリーってのは無能力者なのよ!? 支配力も能力もない!
 それがどうやって宮永の能力を《無効化》できるっていうの!?」

穏乃「そこが皆目わからないんです……。私が見ている限りでも、ネリーさんは支配力や能力を使っていない。確率干渉も起こしていませんし、ましてや《上書き》もしていない。
 能力論的に言えば、ネリーさんが照さんの能力を《無効化》できるはずがないんです」

純「何が起きてやがる……」

穏乃「事実として、明らかに『照さんの《万華鏡》が《無効化》』されています。
 そこから考えていくと、『あそこには照さんの《万華鏡》より上位の能力を持つ能力者がいる』となり、『薄墨さんや竹井さんは違う』から、『ネリーさんは照さんの《万華鏡》より上位の能力を持っている』となりますね」

まこ「いや、じゃがそれは――」

穏乃「そうです。塞さんのお友達さんのお話や、私が見た限りでも、『ネリーさんは無能力者』なのは揺るぎない事実なんです。けれど、それだとつじつまが合わなくなる。
 『照さんの《万華鏡》が《無効化》』という事実から推論を積み上げていくと、『ネリーさんは照さんの《万華鏡》より上位の能力を持っている』となり、
 それがもう一つの事実である『ネリーさんは無能力者』と矛盾してしまうんです……」

塞「わ、わっけわかんない……!! 大混乱よ!?」

穏乃「そんな塞さんに朗報かどうかはわかりませんけど、この矛盾を解消する方法が、実はなくもないんです」

塞「そうなの!? もー、だったらもったいぶらずに初めから言いなさいよー。ほんと高鴨は焦らし上手ねっ!!」

穏乃「いいんですか? これは、けど、ちょっと、更なる混乱を招きますよ?」

塞「え……」

純「塞はほっとけ。オレらは聞きたい」

まこ「頼むわ、穏乃」

穏乃「はい。
 私はさっき、『照さんの《万華鏡》が《無効化》』という事実から推論を積み上げて、『ネリーさんは照さんの《万華鏡》より上位の能力を持っている』という結論に至った、と言いました。けど、これがもう一つの事実と矛盾する。
 この一連の流れの、一体どこに欠陥があるのか」

塞「どこ……なの?」

穏乃「推論が間違っているんです。あ、えっと、違うか。推論自体は間違ってないんです。ちゃんと論理的なステップを踏んでますから。けど、それでも矛盾する。
 なら、ちょっと信じられませんけど、こう考えるしかありません」

純・まこ「……どうぞ」

穏乃「推論を支えている『理論』に欠陥があるんです。
 つまり、私たちがよく知っている能力論に、何か重大な欠陥がある。
 もしくは、能力論とはまったく別の理論でないと、この現象を正しく説明することができない――」

塞「の、能力論に欠陥……? 能力論とまったく別の理論? 高鴨、あんた何言ってんの?」

穏乃「言葉の違いとか、文化の違いって言ったほうがわかりやすいかもしれませんね。
 私たちは『1+1』は『2』だと思ってます。けれど、言語が違えば、論理が違えば、世界が違えば、『1+1』が『10』になることも十分にありえます。というか、むしろそっちのほうが自然です」

純「……そーいや、あのネリー=ヴィルサラーゼってのは、留学生なんだよな」

まこ「しかも、不法入国とかいうヤバい噂まであるくらいじゃ。エイスリン=ウィッシュアートとは違って、なんとも胡乱なやつじゃの」

塞「っていうか、高鴨……そんなこと考えられるとか、あんたの頭がマジどうなってるわけ……?」

穏乃「えっ? い、いや、わりと普通だと思うんですけど……。
 まあ、とにかく、ネリーさん。あの人は、もしかすると、私たちの世界とは全然別のところから来た『何か』なのかもしれません」

純「けど、マジで能力論に欠陥なんてあるのかよ。授業で習ってる限りじゃ、不自然なとこはねえと思うが」

まこ「同意じゃな」

穏乃「ほえ? お二人とも何を言っているんですか? 能力論なんて欠陥だらけじゃないですか」

塞「は……?」

穏乃「ほら、だって、まず一人、ここにいます」

純・まこ・塞「……っ!!!」

穏乃「能力論にも欠陥はあるんです。論理の抜け道があるんです。記述できない事柄があるんです。だからこそ、私がいるんじゃないですか。
 能力研究の最高峰たる学園都市の科学力をもってしても、未だその力の内容がわからない――《原石》」

純「……ぐうの音も出ねえ」

まこ「ほうじゃの……」

塞「高鴨、あんたマジすごパ。ものすごくパネェわ」

穏乃「ありがとうございます。なので……まあ、結論としては――」

純・まこ・塞「……!!」ゴクリッ

穏乃「なにがなんだかさっぱりですねっ!!」

純・まこ・塞「ずこー!!!」

 ――対局室

 南三局・親:初美

初美(なんだか……東場の連荘なんてお遊びだったと思えるくらい、世にも恐ろしいことが起きてる気がするですよー。次同じことが起こったら、もう、覚悟決めるしかないですねー)タンッ

 東家:薄墨初美(新約・91100)

久(宮永照の連続和了……レベル4相当の強度を持つ何らかの能力。それが、さっき、明らかに《無効化》されていた。
 私でも薄墨でもないんだから、それをやったのはこの子ってことになるけど……)タンッ

 南家:竹井久(久遠・92400)

ネリー「♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・91700)

照(うーん……どうしたものか)タンッ

 北家:宮永照(永代・124800)

初美(もし、ネリーさんが、レベル4でも上の上の強度を誇る宮永照の連続和了を《無効化》できるなら、同じようにして、私や竹井の能力を《無効化》してくるかもですよねー)タンッ

久(さて……いい感じに《最悪》な手が出来そう。ここはリーチで勝負してみましょうか。ネリーさんの力を把握するためにも、私が勝つためにもね――!!)

久「行っくわよーっ! リー












         ――r^[.eyq\p2[s3hja












                       チ……?」

久(え――!? なに、今の……!?)ゾワッ

ネリー「♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久(な……なんか、能力を発動しようとしたら、変な暗号みたいのが聞こえたような――)

照(竹井さんの《悪待ち》……)タンッ

初美(誰もズラさなければ、ここで和了るはずなんですけどー)タンッ

久(な、なにこれっ!? 力が……!! 意識の《波束》がまとまらない……!!?
 いつもと同じようにやればいいだけなのに、なんか、どこかがおかしい……!! いけない――これじゃ《上書き》が……!!!)ツモッ

ネリー「♪」

久(う、嘘――私の《悪待ち》が……?)タンッ

初美(おい……マジですかー、それ)ゾワッ

照(うーん……)

ネリー「それ、ロンなんだよー」カチャカチャパララ

久「っ!?」ゾクッ

ネリー「16000~♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久「は、はい……(この子――なんなの……!?)」

ネリー「さてっ!! 次はオーラスなんだよっ!!」

ネリー:108700 照:124800 初美:91100 久:75400

 ――《久遠》控え室

洋榎「すっごいでー!! まったく意味わからんでー!! さっきからホンマ何がどないなってんねーん!!」ヒャッホーイ

憧「このクソ危機的状況でなんでそんなはしゃげるのよあんた……」

哩「……久の《悪待ち》。さっきの宮永の連続和了に続いて、これも《無効化》と」

白望「しまった……久がいないから……誰も分析と解説ができない……」

洋榎「はーっ! どいつもこいつも仕方あらへんな。ほな、うちが本気出すかー!!」

憧「ええーっ!? 洋榎に解説担当なんかできんの!!?」

洋榎「ナメたらあかんでー、憧ちゃんよ。恭子直伝『傾向と対策』や。解説程度、うちが本気出せばちょちょいのちょいやで」

哩「あんま期待はしとらんばってん、洋榎の考えば聞かせんしゃい」

白望「あれは何……?」

洋榎「理屈はわからへん! せやけど、あいつがやっとることはわかる。あいつはなんと……『能力を《無効化》しとる』んや!!」ドヤァ

憧「見りゃわかるわよーっ!!」スパーン

洋榎「へぶっ!?」

憧「洋榎に解説を頼んだ私がバカだったわ……!! こうなったら自力であの謎を解いて……休憩の間に久に――」

洋榎「やめとけやめとけ憧ちゃん。本気でこれを解析しよー思たら、たぶん、この世界から出てどっか違う世界に行かな無理やで」

哩「……どういうことと?」

洋榎「ネリー=ヴィルサラーゼ……ようわからんけど、あいつのやっとることは、うちらの知っとる範囲の知識じゃ、どう足掻いても解けへん気がする。
 あいつはうちらにとって宇宙人みたいなもんなんや。宇宙人の力を理解するためには、うちらも宇宙人にならへんとあかん」

白望「やだなそれ……」

洋榎「せやろ? なんぼなんでも宇宙人に勝ちたいからって宇宙人になるんは嫌やろ?
 せやから、あれをどーこーしようなんて思わへんほうがええ。宇宙人には宇宙人のやりたいようにやらせとったらええんや」

憧「そんな……」

洋榎「とにかく、原理はわからへんけど、結果は見た通り。あいつはこっちの能力を《無効化》できる。たぶん例外はあらへん。薄墨も北家やけど、まず無理やろ」

     初美『ポンですよー!』

憧「な、鳴いた……!」

哩「あとは東ば晒せば《発動条件》クリアと。果たして、《裏鬼門》の開くんか否か」

白望「どーなの、洋榎……」

洋榎「せやから今ゆーたやん。あいつはこっちの能力を《無効化》できる。無理なもんは無理。ならへんもんはならへんねん。
 うちは非能力者やけど、たとえ能力者やったとしても、宮永の能力が《無効化》されたんを見た時点で、もう能力で勝負するんは諦めるわ。
 ホンマ、久も薄墨も、自分の能力が好き過ぎるで」

憧「まあ……そりゃ大概の能力者は自分の能力好きでしょ。思い入れがあるっていうか、確率捩じ曲げるくらい強い想いが、その人の根幹にある。
 いくら無理だとわかってても、そんな簡単に手放せるもんじゃないんじゃない?」

洋榎「ドアホ。点棒手放すよりマシや。そこんとこがわかってへん能力者は、決してうちには勝てへん。どいつもこいつも情けない。ちったー宮永照を見習えや」

哩「さすがナンバー4――洋榎に勝てる能力者は、ただ一人、宮永照だけやけんね」

白望「それを言うなら哩も福路さんもだよ……」

憧「うぅー……! なんか、洋榎がいい感じのこと言ってると無性に腹立つわ……っ!!」

洋榎「ははっ! そんな憧ちゃんにはもっぺんくすぐりの刑やでー!!」コチョコチョ

憧「ひゃああん!? だから……っ、この、バカ!! あんたはもうちょっと危機感とか緊張感とか持ちなさいよーっ!!」ジタバタ

洋榎「いっくらでも持ったるでーっ!? それ持って強くなれるんならなー!!」コチョコチョ

憧「ひゃみゃあああああ!!?」

 ――《新約》控え室

     初美『ポンですよー!!』

和「まったくどうかしています! 竹井会長も、初美さんも!! なんでわざわざ待ちを悪くしますか!? なんで東と北を無駄に鳴きますか!?
 そんなわけのわからないことをしているせいで、ネリーさんに狙われていると、なぜわからないのですかあの人たちはー!!」ガー

怜「おおぅ……なんや、いつもにも増して、ドえらい剣幕やな……」

絹恵「たぶんですけど、竹井先輩って、この学園都市で最も和の逆鱗に触れる能力者なんやないですか?」

姫子「あん人は……デジタル的にもオカルト的にも《最悪》なことしかせんけんね」

和「竹井会長には、今度、初美さんと一緒にデジタル講座を受けてもらいます!!」

怜「ま、まあ……せやけど、なんやかんや、また和の言うことが正しいかもしれへんな。
 ようわからんけど、能力で勝負するんは明らかに赤信号や。今のネリーさんには、デジタルでなんとか勝つしかあらへん気がする」

絹恵「デジタルで勝つって……ネリーさん、東場の連荘を見る限り、あの《悪魔》と同じことができるんですよ?」

姫子「《悪魔》ば相手に完全デジタルで勝負するなんて、いくらなんでも無茶とです」

怜「……ちゅーか、東と北鳴いたのに、やっぱ入ってこーへんな」

絹恵「初美さんの能力まで《無効化》されるなんて……」

姫子「初美さんの鬼門晒したのに《裏鬼門》の入らん対局なんて、あの《塞王》と打ったとき以外で一回でんあったと……?」

和「SOA!!」ガー

怜「の、和……落ち着きや。和ががなっても初美が勝てるわけやあらへん」ポムポム

和「…………と、怜さんに宥められるなんて屈辱です……ッ!!」

怜「ふうー……なんや、うちも疲れたわ。色々考えてんねんけど、ネリーさんの力がさっぱりわからん。頭痛いわー」ポスッ

和「なぜ勝手に人の膝で寝始めますか……」

怜「これが一番頭働くねん。休憩中に、初美になんてアドバイスしたらええか――」

絹恵「能力使うな、ですかね……?」

怜「初美ならそんなん言わへんでもわかる」

姫子「なら、デジタルでどうにか……」

怜「それはそうなんやけど、もっとこう上手い言い方が――」ハッ

和「どうかしました、怜さん?」

怜「……わかった」

絹恵・姫子「ええええっ!?」

怜「いや、期待させてごめんなんやけど、わからへんっちゅーことが、わかったわ」

絹恵「どういうことですか……?」

怜「謎の力による能力の《無効化》――これと似た話、うちはよう知っとる。っちゅーか、これと同じ経験をした雀士が、この場におるやん」

絹恵「ああっ、ホンマや!?」

怜「なあ、姫子。自分、高鴨さんと打ったときのこと、ちょっと思い出してくれへんか?」

姫子「え……? ああ、えっと……なんて言えばよかですかね。私の能力は哩先輩の力ば借りて和了っとですけど、高鴨と打ったときは、なんかわけのわからん力に、そいば阻まれとっとです」

怜「ほんで、それ、どーにかできる感じした?」

姫子「い、いや……たぶん、どうにもならんとです。危なか言うて対局ば止めるくらいやけん」

怜「おっけーや。わかった。それだけ聞ければ十分や」

絹恵「ど、どのへんがですか?」

怜「ネリーさんのやっとることは、たぶん、高鴨さんの謎の力みたいに、学園都市の科学力では解析できひん何かなんや。
 ほんで、高鴨さんがレベル5なんやから、ネリーさんも、たとえどんなに無能力者っぽいゆーても、レベル5的な何かやと思って打ったほうがええ。
 とにかく、できひんもんはできひん。正体を探るんも無理。そもそも、それができるんやったら、高鴨さんはとっくに解析できとるはずやもん」

姫子「あまり情報は増えてなか気のすっとですけど……」

怜「ええねん。わからんことがわかるっちゅーだけでも、随分違う。余計なことに気を回さんと、和の言うように、牌効率考えたり期待値計算したりすることに集中できる。きっと無駄やないはずや」

和「では、それを伝えてくればいいんですね?」

怜「……いや、ちょい待ち」

和「まだなにか?」

怜「まさしく。まだなにかや!」

和「は?」

怜「ネリーさん……たぶん、まだ何かあるで。《悪魔》並みの山牌把握能力。原理不明の能力《無効化》。これだけやない。間違いあらへん」

絹恵「今の状態でも十分色々ある気がしますけど、どうしてそんなことがわかるんですか……?」

怜「いーや、別に、わかるわけやない」

姫子「ええぇ……?」

怜「なんて言えばええんかな。ネリーさんどうこうやなく、うちの希望やねん。まだなんかあってほしいねん」

和「まったく意味がわかりません」

怜「わからんか? まー、和くらい強いとわからへんかもな。せやけど、うちは元々下位クラス。上位クラスの強い人らに夢見る夢見る。
 せやから、どーせ強いなら、とことん強くあってほしいねん」

和「ふむ……」

怜「あのネリーさんは、東初から初美すら寄せ付けへんほどの強さで無双しとった。
 ほんでもって、あの小走さんが宮永照にぶつけてきたほどの、とんでもない隠し玉や。これくらいで終わってもーたら、なんか物足りひんやん」

和「怜さんの言うことは、いつもいつも、理解に苦しみます」

怜「そーか? 普通やと思うけどな。強い人――憧れの人には、より強くあってほしいねん。
 やって、手が届かへんくらいのほうが、手の伸ばし甲斐があってオモロいやんか」

和「……なんだか、まるで、怜さんがあの方々に比べて途方もなく弱いみたいな言い方ですね」

怜「実際そやもん」

和「…………いと思いますよ……」ボソッ

怜「へ? ごめん、よう聞こえへんかったけど?」

和「なんでもありません。では、対局が終わり次第、伝令に行ってきます。つきましては、怜さん」

怜「なに?」

和「邪魔です」

怜「もっと他に言い方あるやろー!!?」

 ――《幻奏》控え室

優希「《すぺるいんたーせぷと》?」

誠子「な、なんですかそれ……?」

セーラ「聞いたこともあらへんわ」

やえ「そりゃないだろう。完全なる魔術用語だからな。しかも、運命論ベースじゃないとまともな説明もできん。
 ただ、現象そのものは、学園都市の言葉で表現できなくもない」

優希「なんなんだじょ?」

やえ「強制詠唱《スペルインターセプト》――それは、こちら側で言えば、レベル5の強度を持つ超能力の一種だ」

誠子「ちょちょちょ超能力ですかっ!?」

セーラ「…………ネリーは無能力者なんやろ? 本人もやえもそう言っとるやん。実際打ってもそんな感じやし」

やえ「そこだな。学園都市の理論では、ネリーはランクFのレベル0。正真正銘の無能力者。
 しかし、これが魔術世界では違うんだ。あいつは《神に愛された子》――あらゆる魔術師の《頂点》に君臨する超魔術師と呼ばれている」

優希「え……えっと、まじゅつしは、能力者。まじゅつは、能力って言い換えればよかったんだったか……?」

誠子「そ、そうなると、あらゆる能力者の《頂点》に君臨する超能力者――ってことになりますけど、いやそんなまさか……」

セーラ「わからんなー。あっちの《魔術》はこっちの《能力》なんやろ? ほなら、あっちで《超魔術師》ならこっちでも《超能力者》やないと変やん」

やえ「残念ながらそうもいかないのさ。魔術と能力は、引き起こす現象がほぼ同じで、多くの場面において、代替可能な言葉ではある。
 しかし、両者は、真に別物であることを、決して忘れてはならない。それを支えている運命論からして、学園都市の連中が聞いたらほぼ間違いなく発狂するレベルの異物なんだ。
 魔術=能力なんて、そんな単純な等式は成立しない」

セーラ「ほーん。ま、ええわ。俺もわざわざ望んで発狂したないし。
 ほんで、ネリーはランクFでレベル0やけど超能力が使えるんやな? 一体どんな能力なん?」

やえ「ははっ、聞いたら驚くぞ。全員、口の中には何も入れてないな? タコス食ってるやつは今の内に飲み込んでおけ。大惨事になるからな」

優希「むぐむぐ……! ほいっ、大丈夫だじょっ!!」

やえ「強制詠唱《スペルインターセプト》――それは、《レベル4以下のあらゆる能力を無効化する》力だ」

優希・誠子・セーラ「ぶううううううううううううう!!!」

やえ「はははっ。まあ吹き出すよな、それは」

優希「さ、さてはやえお姉さん!! 私たちが《うんめーろん》を知らないのをいいことに、たばかって楽しんでいるな!!?」

誠子「あらゆる能力を《無効化》……? そんなバカな……!!」

セーラ「……そんだけ効果範囲も広くて絶大な力。当然、何か、とんでもない《制約》や厳しい《発動条件》があるんやろ……?」

やえ「その手のものは、一切ない」

優希・誠子・セーラ「ぶううううううううううううう!!!」

セーラ「あっりえへん!! やえ! それはさすがに冗談が過ぎるでっ!!」

優希「ジョークなんだじぇ!? やえお姉さん得意のスーパージョークなんだじぇ!?」

誠子「なんの《制約》も《発動条件》もなく、あらゆる能力を《無効化》できる……? いくらなんでもオカルト過ぎます!!」

やえ「まあ、実際問題として、《制約》や《発動条件》に近いものはある。が、厳密に言えば、それらはただの『仕様』だ。
 強制詠唱《スペルインターセプト》は、運命奏者《フェイタライザー》だけが持つ力の一つ。あくまでも、《能力》や《魔術》ではなく、特殊技能の範疇だからな」

優希「ふぇ、《ふぇいたらいざー》……どうやったらそれになれるんだじょ?」

やえ「荒川の《悪魔の目》と同等の鋭敏な感覚器官を持ち、完全記憶能力という人智を超越した才能を持ち、幼い頃から運命論の申し子として英才教育を受け、
 ちらりと目に入っただけでも精神崩壊するレベルの危険な牌譜を10万3千局ほど脳の根幹に刻まれると、運命奏者《フェイタライザー》になれる」

誠子「ほとんど人間じゃないじゃないですか!?」

セーラ「オカルトもオカルトやな……。せやけど、確かに、そうまでせーへんと手に入らん力っちゅーんなら、その強制詠唱《スペルインターセプト》とかいうトンデモ能力も頷けるわ。
 むしろ、もっとありえへんことをやってもおかしないわな」

優希「ちょ、ちょっと待っただじょ……!? やえお姉さんっ!!」

やえ「なんだ?」

優希「やえお姉さん、さっき、《すぺるいんたーせぷと》は、《ふぇいたらいざー》だけが持つ力の一つ――って言ったじょ?」

やえ「言ったな」

優希「じゃあ、まだあるんだじぇ? ネリちゃんの力は、あの耳と、《すぺるいんたーせぷと》以外に……まだ……?」

やえ「ま、そいつは聞いてのお楽しみだな」

     ネリー『ロンなんだよっ! 16000っ!!』

     初美『は……はいですよー』

『先鋒戦前半終了おおー!! 《幻奏》ネリー=ヴィルサラーゼ!! 学園都市の《頂点》宮永照に肉薄です!! 両者一歩も譲らず!! これは大変なことになってきましたー!!』

誠子「ひゃ、100点差……!? 宮永先輩相手に!?」

セーラ「……今の話を聞いてまうと、むしろ、ネリー相手に100点差で勝った宮永が、どれだけ化け物なんやっちゅーことになってくるな」

やえ「あいつもあいつで化け物が過ぎるんだよ。これは宮永本人も言ってたことだが、あいつは『千年に一人の逸材』だ。
 で、そもそも《能力》の起源が一千年前なんだから、あいつは過去に存在するどんな能力者や支配者よりも強いんだよ。
 そして、再び宮永照が現れるまでは、最速でもあと千年待たねばならん」

優希「気長な話だじぇ……」

やえ「あいつらと同世代に生まれたことを光栄に思えよ。運命奏者《フェイタライザー》VS『全てにおいて最高の雀士』――決して交わることのない魔術世界と科学世界の《頂点》対決。
 こんな麻雀、次に見れるのは千年後か二千年後かわかったもんじゃないぞ」

誠子「次元が違い過ぎてなにがなんだか……」

セーラ「後半戦が楽しみやな」

 ――観戦室

淡・菫・憩「ぶうううううううううううううう!!?」

煌「おやおや」

淡「おやおやじゃないよ!! キラメ!! そんなのできたらもう人間じゃないよ!!」

菫「脳が二つに割れそうだ……」

憩「《レベル4以下のあらゆる能力を無効化できる》力やと……? どういう理屈でそないなことが可能になるん? しかもあの子、無能力者なんやろ……?」

煌「まあ、運命奏者《フェイタライザー》を無能力者と言っていいのかどうかは、非常に微妙なところですけどね。
 学園都市の測定には引っかからないというだけで、向こうの世界のあの方は、あらゆる魔術師の《頂点》に君臨する超魔術師なのですから」

淡「キラメが完全に向こう側の人になってる……!!」

煌「私はただ調べたことをそのままお伝えしているだけですよ?」

菫「智葉……あいつは本当に、このあまりにかけ離れた二つの世界を渡り歩いたというのか……?」

煌「さすがに代償はあったようですけどね。辻垣内さんは世界を移るときに魔術を使えなくなっていますから」

憩「やからなんで花田さんがそんなこと知っとるん……」

煌「辻垣内さんは向こうでもかなりの有名人でしたからね。《千人斬り》、《ジャパニーズ辻斬り》、《トリック・ブレード》など、数々の異名をお持ちです。調べようと思えば、大抵のことは検索に引っかかりますよ」

菫「天網恢恢だな……」

淡「あの人斬りさんの話はいいよっ! それより、その強制詠唱《スペルインターセプト》!! なんか対策はないのっ!?」

煌「ないですね」

淡「ばんざーいっ! お手上げだよー!!」

菫「ほ、本当にないのか……? その、運命論とやらの知識でどうにかなったりとかは……」

煌「科学世界においても、魔術世界においても、ネリーさんの強制詠唱《スペルインターセプト》に対抗する術はありません。あれは私の《通行止め》と同じ、言わば、超能力の一種なのです」

憩「ほな……その強制詠唱《スペルインターセプト》を打ち砕く方法は一つしかあらへんな」

煌「ええ。超能力には超能力で対抗するしかありません。参考になるかわかりませんが、合宿では、ネリーさんのいる卓で、渋谷さんの《ハーベストタイム》が成立していました」

淡「詰みじゃん……」

憩「まあ……ウチには関係あらへんけど。能力持ってへんし、あの子の《神の耳》とウチの《悪魔の目》が同スペックなら、単純に考えて互角やろ。せやけど――」

菫「能力ナシの完全デジタルで荒川に勝てる人間など……この学園都市にいるのか?」

憩「いないと自負してますよ。もちろん、宮永照も含めてです。純粋な観測力と演算力において、ウチ以上の人類はいません。
 学園都市どころか、世界のどこにも、果ては歴史上にもいませんし、これから現れることもないと思います」

煌「そうですね。荒川さんの《悪魔の目》は、本当に《特例》です。ネリーさんも、《神の耳》による観測力においては五分五分かと思いますが、荒川さんほどの演算力は持っていないはずです」

淡「む……? それって、山牌の並びを把握していても、ケイくらい完璧には打ち回せないってこと?」

憩「いや、それはたぶんちゃうと思う。前半戦を見る限り、あの子はウチと同じことをしてた。せやから……演算力でどうにかしとるんと違うってことやろ?」

煌「その通りです。ネリーさんの《神の耳》は、演算ではなく検索で正解を導き出しています。
 嘘か本当かわかりませんが、運命奏者《フェイタライザー》の脳内には、10万3千局の牌譜があるそうなんですね」

憩「10万3千? えらい少ないな」

菫「荒川もたまに人間らしからぬ発言をするよな……」

煌「この辺りは、魔術世界でもかなり秘匿《オカルト》な内容なので、私も詳しいことはわかりかねるのですが、普通の牌譜ではないそうなんです。
 《原譜》――曰く、『常人なら目に入っただけでも精神崩壊を起こす』ほどの危険な牌譜なのだとか」

淡「眠れないっ!! 私は今夜眠れないよっ!!」

煌「大丈夫ですよ。私が責任を持って子守唄を歌います」

淡「添い寝がいー!!」

煌「んー、それはちょっと気が引けますね」

菫「なあ、《通行止め》。参考までになんだが、その強制詠唱《スペルインターセプト》の原理などはわからんのか?」

煌「原理はいたってシンプルですよ。その名の通り、能力による確率干渉――《詠唱》を阻害しているのです。暗号のような何かを口ずさんでいるのだとか」

憩「なんやそれ……そんなことで確率干渉が阻害される理屈がわからへん」

煌「もう少し突っ込んで言いますと、《発動条件》の成立を阻害しているんです」

淡「へ……? けど、テルーのはよくわかんないとして、あの《悪待ち》の人もはつみー先輩も、ちゃんと《発動条件》を満たしてたよ?」

煌「そこが曲者ですね。《発動条件》……能力論において、この《発動条件》とは、『能力の発動に係る無数の段階のうち最も重大なもの』のことです。
 なので、必ずしも《発動条件》さえ満たせば能力が使える――ということにはならないのですよ」

淡「お風呂上がり! さっぱりだ!!」

煌「例えばですが、弘世さん」

菫「む、なんだ?」

煌「弘世さんの《シャープシュート》には、とあるクセがありましたね?」

菫・憩「!!?」

煌「昨日の三回戦では、それを逆手に取って、松実宥さんから直撃を取っていました。予選の決勝でも一度、試験運用をしていましたね。
 で、そのクセですが、あれも恐らくは、弘世さんの《シャープシュート》の発動にとって、なくてはならない一段階だったのだと思います。
 それを、練習を重ねることで、一段飛ばしに《シャープシュート》ができるよう改良した。そうですよね?」

菫「そ……そうだ」

煌「よろしければ教えていただきたいのですが、最初からクセなしの《シャープシュート》が成功しましたか? 何度か《上書き》に失敗したのではありませんか?」

菫「………………そうだ」

煌「さて、弘世さん自身には、そのクセを自覚していない時期があったはずですね。
 もし、当時の弘世さんに、方法はなんでもいいのですが、そのクセをさせないような状態で、それ以外は普段通りに打ってもらったとします。
 すると、何が起こるか」

菫「《発動条件》を満たしているはずなのに……《シャープシュート》ができなくなる。
 しかも、それが何に因るものなのか、クセの自覚がないから、まったく見当もつかない――そういうことか……」

煌「はい」

淡「け、けど、キラメ? スミレのクセはさ、すっげー細かいけど、見てわかるレベルのクセじゃん。
 確かに、それなら昔のスミレの《シャープシュート》を《無効化》できるかもだけど、手が『ピクッ』ってならないようにさせるとなると、かなり大変なんじゃない?」

煌「弘世さんのクセは、あくまで例です。実際に阻害しているのは、もっともっと細かい何かですよ。
 自覚どころか、認識もできないほどの小さな何かを、ネリーさんは的確に狂わせているのです」

淡「えー……」

煌「ちなみにですが、桃子さんの《ステルス》がウィッシュアートさんの《一枚絵》を機能不全に追いやったのも、この強制詠唱《スペルインターセプト》と同様の理屈だと思われます」

憩「レベル差と無関係な能力の《無効化》……細かい《発動条件》の阻害、か」

煌「時計に喩えればいいのですかね。能力は、当たり前のようにそこにあって、当たり前のように使っていますけれど、それは非常に精緻で精密な論理で成り立っています。
 その機能を狂わせるには、歯車と歯車の隙間に、小さな異物を嵌め込むだけでいい。
 ネリーさんの強制詠唱《スペルインターセプト》は、そういう技術です」

憩「時計かぁ。せやけど、なんか、それやったらレベル5の能力も《無効化》できそうな気ーするけどな。
 やって、花田さんたちかて、色々細かい《発動条件》をクリアして能力使っとることに、変わりはあらへんのやろ?」

煌「なかなか微妙なところなんですけどね。レベル5のそれを時計で喩えるなら、分解不可能な上、耐水耐熱耐圧耐衝撃に非常に優れている――という感じでしょうか。これを止めるのは大変ですよ?
 また、そもそもの問題として、超能力者は魔術世界では原則的に誕生し得ない存在ですので、強制詠唱《スペルインターセプト》の対象範囲から外れている可能性もあります」

憩「ふむふむやなー」

淡「ねーねー、キラメ。その強制詠唱《スペルインターセプト》って、技術なんでしょ? 頑張れば私もできるようになる?」

煌「困難を極めるでしょうね。強制詠唱《スペルインターセプト》は、運命奏者《フェイタライザー》だけが持つ力の一つです。
 もし身に着けようと思えば、淡さん自身が運命奏者《フェイタライザー》になるし」

憩「ちょおおおおおおおおっと待った!! 待った待ったやで、花田さん!!」

煌「どうかしましたか?」

憩「『どうかしましたか?』やあらへん!! ものごっつい鳥肌立ったわ!!」

煌「はて」

憩「花田さん、今、なんて言うた? 『強制詠唱《スペルインターセプト》は、運命奏者《フェイタライザー》だけが持つ力の一つ』?
 それ、つまり、あの子の力って、まだ他にもあるっちゅーこと?」

煌「ええ、ありますよ」

憩・菫・淡「!!?」ゾワッ

『先鋒戦後半……まもなく開始です!!』

淡「と……起親から順番に、はつみー先輩、ネリー、テル、あと《悪待ち》のヒサか……」

菫「お、おい……《通行止め》。冗談だよな? あの運命奏者《フェイタライザー》というのは、《神の耳》とやらで荒川と同じことができる上に、能力を《無効化》できるんだろう?
 この上何ができるというんだ、あいつは……」

憩「っちゅーか……もしかして、後半戦でそれをやってくるん?」

煌「んー、どうで


                  ――js209tqytqbzn

   ――d;ieq7ydbmb

            ――cxxws34tbji9@

                   ――pf,:j^/r,dvxrw2@

  ――kltyhh9e34

              ――2ls/cnvfhg0

      ――olrw2qw0re

                     ――buufcfsvm

    ――jhbml,grxiur

               ――4-0tr;k/fjf73gs

                   ――bcuiwetqwlx,b-u9

 ――84bw-hkr6hjs-4

            ――yfrnglynjj

                     ――depeydrm


                             しょう」

淡・菫「――――」バタッ

煌・憩「淡さん(菫さん)!?」ガタッ

憩「ちょ!? だ、大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」

菫「あ……ああ……すまん……」クラッ

煌「淡さん、大丈夫ですか? 意識はありますか……?」

淡「キ……ラメ……? ごめん……ちょっと、寝かせてほしい、かも……」ウウウ

憩「これは……ひとまず命に別状はなさそうやけど、回復するまで二人とも寝ててもらったほうがええな。
 花田さん、簡易ベッドあるはずやから、それ出して」

煌「は、はい!」ダッ

憩「マジで何がどうなっとんこれ……」

菫「ヴィ……ヴィルサラーゼの声が聞こえた……」

憩「は――?」

煌「ベッドの用意ができました!!」

憩「ほ、ほな、菫さん、こっち来て横になってください」

菫「すまんな……荒川……」ヨロヨロ

煌「淡さん、さ、どうぞこちらへ」

淡「うー……頭痛い……なにこれ……?」クラクラ

 ドサッ

菫・淡「」ウー

憩「ほな……まあ、とりあえず安静にしとくしかないか」

煌「大変なことになってきましたね……」

憩「……で、花田さん。これもあいつなんか。ネリー=ヴィルサラーゼがやったんか……?」

煌「え、ええ、恐らく。申し訳ありません。ここまで影響力が強いとは思っておらず……」

憩「いや、それは花田さんが謝ることちゃうから」

煌「す、すいません……」

憩「……菫さんは、あいつの声が聞こえたゆーてたで」

煌「は、はい。スピーカーを通してこちらにも『声』が届いたようですね。この分だと、他の選手や、観客席の方々にも、同じような異変が起きていると思います」

憩「確率干渉の余波みたいなもんか? けど、大星さんは支配力《ランクS》やし耐性あるよな……」

煌「いえ、確率干渉の余波とは違います。そんなものとは比べ物にならないくらいに……これは、能力者にとって致命的なダメージを与えます」

憩「致命的やと……? あいつ一体何をしてん……」

煌「え、えっとですね……強制詠唱《スペルインターセプト》が、能力という論理に異物を嵌め込んでその効果を阻害するような行為だとしたら、これは、能力という論理そのものを破綻させる行為なのです」

憩「はあ……?」

煌「この力は、魔滅の声《シェオールフィア》と呼ばれています」

憩「魔滅の声《シェオールフィア》――どんな力なん?」

煌「先ほどの時計の例で、簡潔に申し上げましょう」

憩「頼むわ」

煌「魔滅の声《シェオールフィア》とは、時計の完全解体に相当します」

憩「は…………?」

煌「魔滅の声《シェオールフィア》の標的となった能力者は、レベル4以下のあらゆる能力を一時的に失うのです」

憩「それ……マジで言うとんの?」

煌「至極真面目に言っています。魔滅の声《シェオールフィア》の効果対象となったレベル4以下の能力者は、誰もが等しくレベル0になるのです」

憩「それは《無効化》とは――」

煌「まったく別物です。能力が機能しないという点では同様ですが、しかし、能力の《無効化》と、能力の喪失――《完全無効化》では、能力者の心身に対する負荷が大きく異なります。
 魔滅の声《シェオールフィア》……この標的となった能力者――あの対局室にいるお三方が心配です。
 能力者の能力とは、能力者そのもの――その人の根幹にある論理。これを解体されるとなれば……下手をすれば、精神が壊されかねません……」

憩「精神て!? ホンマふざけとんのかあいつ……!? これ麻雀やでッ!!?」

『先鋒戦後半――開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

今日(?)はここまでです。

新スレを立てたりするのは、明日(?)に回します。更新自体は、ちょっと空いて来月になります。

今日(?)は一気にいったので誤字脱字が心配です。見かけたら教えてくださると嬉しいです。

では、失礼しました。寝ます。

新スレッドは以下の通りです。

スレタイ:【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!」

URL:【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408597197/)

次回は、新スレッドのほうに書き込みます。来月(二週間後)くらいには更新できるかと。

本スレッドの残りは埋めていただいて結構です。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom