【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!」 (1000)

ご覧いただきありがとうございます。

・こちらは『【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」』の続きとなっております。

・ここまでのお話、特記事項は、以下をご参照ください。

【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」
【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1392028470/)

【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!」
【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401382574/)

・以下、あらすじ等。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408597197

<あらすじ>

 科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する街。

 白糸台研究学園都市。

 現在、白糸台研究学園都市に在籍する高校生は約一万人。書類上、その全員が、同じ高校の、同じ部活に所属している。即ち、白糸台高校麻雀部。

 五月上旬。夏のインターハイに白糸台高校麻雀部代表として出場する一軍《レギュラー》の一枠を勝ち取るべく、学園都市各所でチーム編成が行われていた。

 超能力者《レベル5》の第一位――《通行止め》こと、花田煌。

 最高位の支配者《ランクS》――《超新星》こと、大星淡。

 転校生として学園都市にやってきた二人は、東横桃子、森垣友香、宮永咲を仲間に引き入れ、チーム《煌星》を結成する。

 ブロック予選を突破したチーム《煌星》は、本選へ進出。

 各ブロック予選を勝ち抜いた計52チームによる、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》。

 チーム《煌星》は、ベスト8の激突するA・Bブロック三回戦を三位通過、準決勝へと駒を進めた。

 他方、C・Dブロック三回戦でも、ベスト8同士の熾烈な戦いが繰り広げられていた。

<ベスト8チーム一覧>

《チーム名》:リーダー、メンバー×4(名前順)

○C・Dブロック三回戦(一位→決勝進出、二位・三位→準決勝進出)

《久遠》:竹井久、愛宕洋榎、新子憧、小瀬川白望、白水哩

《幻奏》:小走やえ、江口セーラ、片岡優希、ネリー=ヴィルサラーゼ、亦野誠子

《永代》:宮永照★、井上純、臼沢塞、染谷まこ、高鴨穏乃☆

《新約》:園城寺怜☆、愛宕絹恵、薄墨初美、鶴田姫子☆、原村和

○決勝進出

《劫初》:弘世菫、天江衣★、荒川憩、エイスリン=ウィッシュアート、辻垣内智葉

○準決勝進出

《逢天》:二条泉、姉帯豊音、神代小蒔★、松実玄☆、龍門渕透華

《煌星》:花田煌☆、大星淡★、東横桃子、宮永咲★、森垣友香

○三回戦敗退

《豊穣》:渋谷尭深☆、石戸霞、清水谷竜華、福路美穂子、松実宥

(※ ☆=レベル5、★=ランクS)

<元ネタ一覧(敬称略)>

咲キャラ:禁書キャラ

○主人公1

花田煌:一方通行

大星淡:打ち止め

○主人公2

小走やえ:上条当麻・木原数多

○アイテム・主人公3

二条泉:浜面仕上

松実玄:麦野沈利

神代小蒔:滝壺理后

龍門渕透華:フレンダ=セイヴェルン

姉帯豊音:絹旗最愛

○ジャッジメント・スピンオフ主人公

原村和:初春飾利

園城寺怜:佐天涙子

○スキルアウト

染谷まこ:駒場利徳

○スクール

竹井久:垣根帝督

新子憧:心理定規

○ナンバーセブン

高鴨穏乃:削板軍覇

○魔術サイド

ネリー=ヴィルサラーゼ:インデックス

辻垣内智葉:土御門元春

メガン=ダヴァン:ステイル=マグヌス

○教職員

三尋木咏:月詠小萌

藤田靖子:電話の女

久保貴子:寮監

赤阪郁乃:冥土帰し

小鍛治健夜:アレイスター=クロウリー

 ――――

・元ネタはあくまで参考程度なので、元ネタ的にありえないことも平気で起きたり設定されたりします。竹井さんがレベル5でなかったりとか、小走さんが二属性(元ネタではまずありえない組み合わせ)を備えていたりとか。

・元ネタから反映されているのは、『肩書き』『役割』『属性』とかです。例えば、花田さんは『肩書き』と『役割』、大星さんは『役割』と『属性』ですね。

では、ご覧いただきありがとうございました。

次の更新は来月(二週間後)くらいになります。

失礼しました。

立て乙
やえさんの元ネタの組み合わせがやばすぎるww

新スレ乙

立て乙
元ネタ全く知らんが楽しく読んでるですよ

>>15急いて欲しいとは思ってるけどね
出来るなら最後までみたいし…
まぁ最後までたのしむよ

>>15>>16コピペじゃないよ縦に読んでも何もないと思う
長ったらしくてごめん

大変お待たせしました。

<あらすじ(本編とは何の関係もない落書き)>

 ネリインデックスさんのシェオールフィアが発動!

 弘世さん・大星さんがKO!

憩「なあ、花田さん。これって対抗策とかあるん?」

煌「原作では……何人かの魔術師の方々が、ペンなどの細長いものを耳に突っ込んで、自らの鼓膜を破っていましたね」

憩「痛い痛い痛い!!」

煌「正直、あまりオススメはできません」

憩「いや、やらへんからな!?」

 *

では、始めます。

 ――対局室

 東一局・親:初美

ネリー(魔滅の声《シェオールフィア》――10万3千曲の《原譜》と《神の耳》を使って他者の魔術を解析、その魔術の根幹を成す教義を打ち崩して、魔術師から魔術そのものを奪う力……)

 南家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・124700)

ネリー(やえ曰く、強制詠唱《スペルインターセプト》が魔術というプログラミングの中に不必要な文字を混ぜる行為だとすれば、
 魔滅の声《シェオールフィア》は、その魔術師が持つプログラミング言語を別物に書き換えて、元のプログラムをただの無意味な記号の羅列にしてしまう行為なんだとかなんとか……)

ネリー(私の魔滅の声《シェオールフィア》は、対象外の魔術師でさえ、下手すれば気を失うレベルの超毒音波――いわんや対象となった魔術師をや、なんだよ)

ネリー(これをまともに聞いて、平常な精神を保っていられた魔術師はいない。魔術は魔術師自身と言ってもいいんだ。
 それを解体されれば、どんなに強い精神力を持つ雀士でも、間違いなく膝をつく。あのさとはでさえ、眉間にびっしり皺を寄せて舌打ちしたくらいキツいんだよ……)

ネリー(それが――それが……一体全体これはどういうことなのっ!?)

久「すっごいわこれー! えっ、なに!? じゃあ、さっきの呪文みたいなやつでこんなことしたわけ?
 いやー、驚いたわ。まさか洋榎の言った通りなんて。ネリーさん、あなた、本当に人間の姿をした宇宙人だったのねっ!」ルンルン

 北家:竹井久(久遠・75400)

初美「まったく、ですよー。怜の戯言に助けられるなんて、私もヤキが回ったもんですー。
 確かに、なんの構えもなくこの状態になってたら、ちょっとヤバかったかもですねー」ケロッ

 東家:薄墨初美(新約・75100)

ネリー(ええええええええ!? 効いてないにもほどがあるよ!? 聞いてないにもほどがあるよ!?
 嘘でしょ!? 魔術を失った魔術師がどれほどひどい有様になるのか……! 私は五万と見てきたんだよー!?)ガビーン

久「あらあら、ネリーさん。見くびってもらっちゃ困るわよ。能力がなくなったからってなに? それで、あなたの勝ちが決まるわけ?
 何を勘違いしているのかしらねー、この子は。ね、あなたもそう思うでしょ、《最凶》?」

初美「《最悪》に同意はしたくないですけどー。ま、ネリーさん。これは年上としてのアドバイスですけどー、漫画や小説の読み過ぎはあまりよくないですよー?
 これは学園異能バトルじゃなくて麻雀ですー。能力じゃなくて、点棒を奪い合うゲームですからねー?」

ネリー(こ……恐いっ!! この人たち化け物だよ!! 未知の生命体だよ!! 信じられないよ!!)ゾゾゾ

久「それにほら、見てご覧なさいよ。我らが《頂点》の泰然自若たる様を。さすが学園都市のナンバー1は、私たち三下とは格が違うわっ!!」

初美「こっちはベラベラ喋って動揺を隠そうとしてるってのに、この異常事態に対しても、いつも通り、ただ無言で賽が振られるのを待つのみですー」

ネリー(て……てる――!?)ゾワッ

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:宮永照(永代・124800)

久「どうかしら、ネリーさん? これが学園都市の《頂点》よ。あなたがどこの世界から来て、どれだけすごい打ち手なのか知らないけれど、お生憎様だったわね」

初美「全てにおいて最高の雀士――悔しいですけどー、やっぱり宮永照は、私たちのナンバー1なんですよー」

ネリー「オ、オーケーなんだよ……!! 私の魔滅の声《シェオールフィア》を聞いて、ここまで普段通りでいられるなんて……さすがてるなんだよっ!!
 その《頂点》としての揺るぎない姿に敬意を表して――私も持てる力の全てをぶつけるんだよ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー「(わ、私がこれだけプレッシャーを掛けても、顔色一つ変えない……!? てる……てるはすごいよ……っ!! これが――科学世界……学園都市の《頂点》!!)
 さあ、後半戦を始めるんだよっ!!」

初美「サイコロ回れですよーっ!!」コロコロ

久「能力ナシで打つのなんて久しぶりで楽しみねーっ!!」

照(……………………どうしよう。驚いて声も出ないでいたら、なんだかとても勘違いされてしまった……)

ネリー(てる……魔術世界の《頂点》として、運命奏者《フェイタライザー》として――私はあなたに勝ってみせる……!!)

照(ま、まあ……いっか)

 ――《永代》控え室

穏乃「ああああああああああああああああーーーーー!!」

まこ・純・塞「――ッ!!」キーン

穏乃「ああああぁぁぁぁー……。ふう。山以外でこんな大声出したのは初めてです」

塞「び……びっくりさせないでよ!! 高鴨、あんた何考えてるのっ!?」

まこ「後半戦が始まると思ったらいきなり叫び出しよって」

純「ったく……耳塞いでたのに、まだ頭がガンガンしやがる……」

穏乃「あっ、その様子だと、ひとまず大丈夫そうですね」

純「……はあ?」

穏乃「すいません。今しがた、ネリーさんがかなり危険な『何か』を口ずさみ始めたのが聞こえたので、みなさんの耳に入ったらマズいと思い、叫んでみました。咄嗟のことで、他に対策が思いつかなくて」

まこ「穏乃……わら何を言っとるんじゃ?」

穏乃「私もよくわからないんですけど。なんでしょう……《無効化》とかじゃなくて、能力そのものを奪うような呪文といいますか。
 効果対象は対局者に限られている感じでしたけど、そうではない能力者にも、かなりの精神的ダメージを与えるものだと予想されます」

純「呪文? 能力を奪う……?」

穏乃「とりあえず、スピーカー越しに聞く分には、物理的に耳を塞ぐことで、あの呪文の影響を回避できるみたいですね。
 面と向かってやられると、どうしようもないかもしれませんが」

塞「高鴨は、耳塞いでなかったけど、大丈夫だったわけ?」

穏乃「大丈夫みたいですね。私はちょっと特殊なので断言はできないのですが、たぶん、あの呪文はレベル5には効かないと思われます。
 なので、今はレベル5とレベル0しかいない《新約》の控え室は、比較的平和かと」

純「えーっと、あいつの謎呪文を聞いたレベル5以外の能力者は、能力を奪われる――奪われずとも、それなりの精神的ダメージを喰らう……と。
 だとすると、《幻奏》はまあ予備知識があるはずだからいいとして、《久遠》のとこが心配だな」

まこ「もちろん対局室のほうも心配じゃけどな。まあ、照とあの《凶悪》の二大レベル4なら、滅多なこともないじゃろうが……」

塞「シロ……大丈夫かしら……」

 ――《久遠》控え室

哩「おーい、シロ。後半戦始まったと」

白望「」

洋榎「ん? なんや……シロのやつ、様子おかしないか?」

憧「えっ……? シロ? あんた、どうかした? どこか悪いの……?」

白望「」

憧「シ、シロ!? ねえ、起きてよ!? どうしちゃったの!?」ユッサユッサ

白望「う……?」パチッ

憧「あ、起きた!! ねえ? どうしたの? 大丈夫!?」

白望「うぅぅ……なに言ってるかわからない……」キュポン

憧「み――耳栓……!?」ゾワッ

白望「あー……もう後半戦始まった……? もう少し寝かせてほしい……」

憧「応援しなさいよ、このバカ!!」

白望「ダルい……」

哩・洋榎「シロはブレなかね(んなー)」

 ――《幻奏》控え室

やえ「よーし。亦野、片岡。もういいぞ」ポンッ

優希「これはどういうことだじょ、やえお姉さん?」カポッ

誠子「急にヘッドホンをつけろだなんて」カポッ

やえ「ネリーから魔滅の声《シェオールフィア》の合図があったからな。いくら効果対象でないとは言え、能力者なら下手すれば気を失うレベルの超毒音波だ。
 まだ対局があるお前らに、無駄なダメージを与えるわけにはいかない」

セーラ「……えっと、ネリーは今何をやったん? その、魔滅の声《シェオールフィア》ってなんなん?」

やえ「ネリーの魔滅の声《シェオールフィア》を聞くと、効果対象となった能力者は、一時的に、レベル4以下の能力を全て失う」

優希・誠子・セーラ「ぶうううううううううう!!!」

やえ「宮永の《万華鏡》も、竹井の《悪待ち》も、初美の《裏鬼門》も例外じゃない。
 あいつらは、今、それらの能力を根本から失っている。能力論的に言えば、半荘一回ずっと《完全無効化》を食らってることになるな」

優希「ネリちゃんがオカルト過ぎるじょ!!」

誠子「能力を奪うって……意図的にそんな……!?」

セーラ「まあ……せやけど、それを事前知識なしに喰らっときながら、わりと普通にデジタルで対応しとるあの三人のほうが、俺はよっぽど恐いわ」

やえ「竹井と初美は《凶悪》――レベル4の中でも、かなり性質の悪い二人というか、ある意味で、どっちも聞く耳を持たないタイプだからな。まあ、宮永に関しては、さすがと言ったところか。
 魔滅の声《シェオールフィア》を聞いて平然としていられる能力者など、ネリーも初めて見るに違いない」

優希「けど、ネリちゃんは《悪魔》のお姉さんと同じことができるんだじぇ。
 いくら日焼けお姉さんと悪女お姉さんの素の実力が高くても、能力を使わずネリちゃんをどうこうするのは、無理に決まってるんだじょ」

誠子「前半戦では、あの宮永先輩でさえ、ネリーさんの起親を流すまでに七局かかったわけですからね」

セーラ「やり方次第やろな。あの《悪魔》とは、俺も個人戦で当たったことがある。
 白水と福路と俺と、全員レベル0やったけど、三人がかりなら、まあそこそこええ勝負ができたで。もちろん、ええ勝負止まりやったけど」

     ネリー『ロン、2000なんだよ!』

     久『っと。はい』

やえ「ふむ。ネリーも、それなりにてこずってるみたいだな。安手なのがいい証拠だ」

優希「どうなっちゃうんだじぇ?」

誠子「聞く限りでは、明らかにネリーさん優勢ですが……」

セーラ「どうやろな。後半戦はまだ始まったばかりや。何がどうなるかは、まーだわからへんよなー」

 ――《新約》控え室

和「ぺ……北家の初美さんが――!!?」

絹恵・姫子・怜「東と北を一枚も」

和「なんて無駄のないデジタル打ち!!! 惚れ惚れします!! やっと私の祈りが届きましたか!!
 そうですよっ、初美さん!! それでいいんです!! さすが我らが風紀委員長!!」

絹恵(怜さん、これ、どないなっとんですか?)コソッ

怜(わからへんけど、《無効化》どころの騒ぎやないで。初美の《裏鬼門》には、デフォルトで《配牌に東と北を二枚ずつ引き寄せる》能力も複合しとる。
 そこが機能しとらへん上に、あのデジタル打ち……たぶん、能力そのものを失っとるんや)

姫子(そ、そういえば、後半戦の始まるときに、ネリーさんの何か呟いとるのが聞こえたとです!)

怜(うちにも聞こえたで。ま……これはただの憶測やけど、初美があの状態やのに、うちと姫子に異変がないっちゅーことは、レベル5には効かへん力なのかもしれへん。なんにせよ、これはピンチやで)

和「これはチャンスですよ、皆さん! あの初美さんがついにオカルトに対する妄執を捨て去りました!! 後半戦はもらったようなものです!!」

     ネリー『ロン、2900なんだよ!』

     初美『……はいですよー』

絹恵「おい、直撃されとんで、和」

姫子「あの待ち……完全に見透かされとう」

和「なんの! あんな無茶鳴きの安手。親とは言えNGにも程があります。一方で、初美さんはパーフェクトと言っていいほどの手の進め方をしていました。
 今回はたまたま振り込んでしまいましたが、数千局ほど打てば、間違いなく初美さんが勝ち越します。なんの心配も要りません!」

怜「数千局かぁ。また気が長い話やんなー」

絹恵「……せやけど、よくよく考えたら、和にここまで言わせるほど、今の初美さんのデジタルは精度が高いわけやんな」

姫子「前半戦でん一点読みばしとったもんな。普段はあんなオカルト打ちやのに……」

和「初美さんっ! その調子ですよ! 頑張ってください!!」キラキラ

 ――観戦室

憩「薄墨さんも竹井さんも地力が高い。せやけど、少なくとも、ウチは負ける気せーへん。ほな、ネリーさんもきっとそうやろ」

煌「荒川さんがそうおっしゃるのならば、そうなのでしょう。さて、この親、どこまで続くのか」

     ネリー『ツモ、1000は1100オールなんだよ!』

憩「あくまで速攻……隙があらへんな。ウチもようやるけど、まあ、速さと高さは決して両立できひんもんやない。
 配牌によっては高い手を狙ってくるはずや。できれば、デカいのが来る前に親を流しておきたいわな」

煌「鍵になってくるのは、やはり宮永さんでしょうか。魔滅の声《シェオールフィア》があったとは言え、状況的には、前半戦の東一局とほぼ変わらないわけですから。
 ネリーさん以外の三人が共闘すれば、十分対抗できるはずです」

憩「……せやろなーとは思っとったけど、花田さんは、ホンマどこまで知っとるん?
 それ――宮永照の一和了目は能力を使ってへんこと――たぶん、白糸台でウチとガイトさんと小走さんしか知らへんことやで?」

煌「いえ、その……まあ、宮永照さんの牌譜は真っ先に見ましたからね。それに、うちのチームには咲さんがいますし」

憩「嘘やな。花田さんの性格的に、身内から能力の詳細を聞き出すようなセコい真似はせーへん。
 宮永照の《万華鏡》――そのカラクリを見抜いたんは、ぜーんぶ花田さん一人の力。ちゃうか?」

煌「はて。それはどうでしょう」

憩「たぶんやけど、直に打ったことのない雀士で、宮永照の連続和了の仕組みに気付くことができたんは、世界で花田さんだけやと思うで」

煌「えっと、私、昔からウォーリーを探せは得意でしたから」

     ネリー『ロン、2000は2600なんだよ!』

     照『はい』

憩「……と、ついに宮永照も振り込んだか」

煌「ノーリスクで今のネリーさんを止めることはできません。安手であることを承知の上で、勝負を掛けたのでしょう」

憩「ほな、次くらいで親を流すこともできるかもやんな。三人で連携してもええし、少し無理すれば、宮永照なら独力でいけるやろ。
 変な言い方やけど、山牌掌握タイプの打ち筋は、ウチで慣れとるわけやから。
 大体、連続和了の力なんか、失ったところでさほど困らへんやろ、あのナンバー1は」

煌「ほう。連続和了と言えば、宮永照さんの代名詞のような力ですが――」

憩「少なくとも、ウチは連続和了――《万華鏡》なんて、さほど脅威やとは思ってへんよ。
 強い強い言うたかて、所詮はレベル4の能力や。《絶対》やあらへん。前半戦でネリーさんがやっとったように、攻略法はいくらでもある。打点かて、衣ちゃんや小蒔ちゃんのほうがよっぽど高い。
 《万華鏡》の《無効化》とか《完全無効化》とか、そんなんで宮永照を倒せると思たら大間違いや。このまま行けば、普通に、また宮永照が勝つで」

煌「なるほど。では――このままは行かないでしょうね……」

憩「…………花田さん、ウチ、もう何聞いても驚かへんで」

煌「そうですか。ならば、お話いたしましょう。
 運命奏者《フェイタライザー》の真骨頂――『運命を奏でる者』の由来である、ネリーさんの四つ目の力について」

憩「ちなみに……五つ目はあるん?」

煌「あるかもしれません。ただ、私が文献を調べた限りでは、《神の耳》、強制詠唱《スペルインターセプト》、魔滅の声《シェオールフィア》、そして、今から話す四つ目の力で、最後のはずです」

憩「ま、花田さんが四つって言うなら四つなんやろ。そっかー。やっと最後の力か~」

煌「ただ……最後の力と言いましても、これは、広義で一つだというだけで、事実上、世界中のほぼ全ての雀士の力と同等の価値を持つ、いわば無限の力なんですよね」

憩「そらまた恐ろしい……」

煌「ネリーさんの四つ目の力。あちらでは、俗に《ヨハネの弦》とも呼ばれています」

憩「ヨハネ――って、黙示録のアレか? その名前からやと、全然内容が予想できひんな。正式名称はなんて言うん?」

煌「正式名称は、自動即興《エチュード》といいます」

憩「自動即興《エチュード》……? 即興で曲を奏でる力っちゅーことか。自動で即興……曲を奏――」ハッ

煌「名前を聞いただけで正解に辿り着くとは、さすが荒川さんですね」

憩「おいおい……ホンマか!? ウチの思うとるやつで正解なら、知らんやつらみんなショック死するんちゃうか……!! この――自動即興《エチュード》……!!」

煌「あちらの世界では、『運命奏者《フェイタライザー》は、たった一人で他の全魔術師と同等の価値がある』と言われるほどの、驚異的な力です。
 学園都市風に言えば、ネリーさんは、自動即興《エチュード》を発動させることにより、全系統に属するレベル4以下の能力を、全て扱うことができます」

憩「それ、要するに――」

煌「ええ。理論上の厳密な表現とは若干のズレがありますが、ネリーさんの自動即興《エチュード》――それは、《実在する全ての能力を使える》力です」

憩「ほ、ほな、あいつは――! 運命奏者《フェイタライザー》は、あらゆるレベル4以下の能力を奪うことができる上に、あらゆるレベル4以下の能力を使うことができるっちゅーわけか……!? どんだけやねん!?」

煌「いかがでしょう、荒川さん。ネリーさんと宮永照さん――どちらが勝つと思いますか?」

憩「わ、わからんっ!! ガイトさんもそら『わからん』言うわけや……これはホンマにどうなるかわからんで……!!?」

煌「さて――ついにネリーさんの親が流れそうですね。そうなると、次は宮永さんの親番。仕掛けてくるとしたら、ここでしょう」

 ――《幻奏》控え室

やえ「さて……ここで宮永に親を流されたら、いよいよ自動即興《エチュード》のお出ましだろうな」

セーラ「自動即興《エチュード》? なんなん、あいつまだ妙な力持っとんのか」

誠子「そんな……これ以上は私の心が破裂しますよ……」

優希「その《えちゅーど》っていうのはなんなんだじょ?」

やえ「いきなり結論から言うと、亦野が爆発するそうだから、馴染みのある話から入ろう。
 お前ら、『夢の魔法』という都市伝説を聞いたことがあるか?」

セーラ「ああ、知っとるわ。あれやろ、『能力者やないのに能力が使える不思議な中学生がおる』ってやつ」

優希「中学生? 学園都市にいる学生って、白糸台高校の生徒だけじゃないんだじぇ?」

やえ「高校生、となると私たちだけだ。ただ、私たちの生活圏からは離れたエリア――外の世界との緩衝地帯になっている地区に行くと、一般の居住者のための小学校や中学校というのが、ちゃんとあるわけだな。
 それは、外の世界の小学校や中学校とほとんど変わらない。ま、違いがあるとすれば、比較的麻雀部の部員が多い、くらいだろうな」

誠子「それで……その、『夢の魔法』ですか。『能力者じゃないのに能力を使える』というのは、一体どういうことなんですか?」

やえ「どういうことなんだ、と思うだろ? だから、私は直にそいつに会ってきた。
 去年の九月頃だったかな。とある中学の麻雀部員で、当時は一年だった。色々話を聞いて、各種測定もした。なかなか面白い中学生だったよ」

優希「その中学生は、能力者だったんだじょ?」

やえ「いや、私の測定によれば、あの『夢の魔法』は確かに無能力者だった。ランクFで、レベル0。まったくの一般人だよ」

セーラ「けど……都市伝説になるくらいや。ただの一般人、ってわけでもないんやろ?」

やえ「そう。この『夢の魔法』……一日に一回は必ずチョンボをするくらいのド素人なんだが、よく白糸台の校内大会をネット中継で見るそうなんだな。
 たぶん、この一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》も見ているだろう」

誠子「ふむふむ」

やえ「『夢の魔法』は言うのだ。『自分もああいう風に打ちたい』と。
 まあ、それだけなら、白糸台高校麻雀部に憧れる普通の中学生なんだが……いざ対局をしてみると、たまになんだが、『今ならあんな風に打てる気がする』と言うときがある」

セーラ「へえ……?」

やえ「で、好きなように打たせてみるんだな。すると、驚いたことに、本当に、高い精度で該当する雀士の《模倣》をしてみせるんだよ。
 打ち筋から、雰囲気、細かいクセ、能力者ならその能力の効果に至るまで、まるで本人がそこにいるかのような打ち回しを見せるんだ」

優希「なんだそれだじょ」

やえ「あのときは、ちょうど去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》が終わったあとだったから、チーム《千里山》で決勝まで行ったセーラ――お前の《模倣》もしていたぞ。いい感じの親満ツモを決めていた」

セーラ「いや、まあ、親満くらい、和了れるときは和了れるやろ」

やえ「或いは、三副露した直後にツモったりな」

誠子「私の能力も《模倣》できるんですか……?」

やえ「他にも、上重の《導火線》、弘世の《シャープシュート》なんかも《模倣》していた。愛宕や清水谷みたいなキレのある打ち筋を見せるときもあったな。
 ちなみに、一番私の背筋が震えたのは、十七巡目リーチからの海底を和了ったときだ」

セーラ「姿を見せたんは一回戦と二回戦だけやったけど、去年の天江衣は鮮烈やったからな」

やえ「とまあ、なかなか楽しい数時間だったよ。で、帰り際に、私は聞いたんだ。なんであいつの真似はしなかったのか、と。
 なぜなら、あいつは去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で、最もその名を馳せた能力者だったから」

誠子「もしかして……尭深のことですか?」

やえ「そう。《ハーベストタイム》――当時レベル5の第二位だった、渋谷尭深」

セーラ「去年のあいつにはホンマやられたわー」

優希「で、どうだったんだじょ?」

やえ「『夢の魔法』曰く、『あの人の真似はしたいけどできない』。非常に興味深い発言だったよ。聞いた瞬間に鳥肌が立ったね」

誠子「どういうことなんですか……?」

やえ「あまりにも特徴が酷似していたんだ。『夢の魔法』の《模倣》は、私の知識の中にある運命奏者《フェイタライザー》の自動即興《エチュード》と、ほとんど同じ特性を持っていた」

セーラ「おい、やえ、それは……」

やえ「学園都市の測定には引っかからないランクFのレベル0。なのに、どういうわけか、能力を含めた他人の《模倣》を次々にやってのける。
 そして、その《模倣》は、ことレベル5の超能力者に限って、『したくてもできない』」

優希「ま、まさかなんだじょ……!?」

やえ「そう――ネリーの自動即興《エチュード》。それは、《実在する全ての能力を使える》力だ。
 理論的に厳密な表現をするなら、《実在する全ての雀士の完全模倣をする》力。ただし、レベル5の超能力者だけは、その例外となる」

誠子「お……驚きが大き過ぎて、むしろ無我の境地に入ってます……!! 《実在する全ての能力を使える》!?」

セーラ「《実在する全ての雀士の完全模倣》――ほな、あいつは俺になったり自分になったりもできるっちゅーことやんな?」

やえ「もちろん。片岡や亦野になることもできる。能力込みでな」

優希「無茶苦茶過ぎるじょ……!! 一人何役こなすつもりなのか!?」

やえ「実際、向こうの世界では、『運命奏者《フェイタライザー》は、たった一人で他の全魔術師と同等の価値がある』とまで言われている。
 さらに言えば、ネリーの自動即興《エチュード》は、理論上、過去に存在した雀士や、未来に現れる雀士の《完全模倣》も可能だ」

誠子「ネリーさん……時空まで超えてしまうとは……」

やえ「この自動即興《エチュード》。強いて難点を挙げるとすれば、その《完全模倣》の対象がランダムだということだな。
 山牌が持ち上がるまで、ネリー自身も、自分が一体どこの誰になるのか読めないんだ。ま、あくまで理論上はそうだ、というだけだがな」

セーラ「っちゅーと?」

やえ「もしも、ネリーが意思のない機械だったら、《完全模倣》の対象は純然たる無作為抽出になるだろう。しかし、『夢の魔法』の例もある。
 恐らく、ネリーは自動即興《エチュード》による《完全模倣》の対象を、ある程度コントロールできるはずだ。
 そして、それはあの場……ネリーや宮永や初美や竹井に縁のある雀士である可能性が高い。要するに、私たちがよく知っている、白糸台の誰か――」

     照『ツモ……300・500は600・800』

誠子「っと……!! 宮永先輩があんな苦しい形で和了りに行くなんて……」

セーラ「ネリーの親が流れた。ほんで、宮永の親。《万華鏡》は使えへんとしても、ここで――」

優希「え、《えちゅーど》……!? 誰だじょ!! ネリちゃんは誰になるんだじょ!?」

やえ「すぐにわかるさ。あらゆる《運命》を奏でる運命奏者《フェイタライザー》の自動即興《エチュード》。これが、その記念すべき第一曲目。開演はまもなく――耳を澄ませて待とうじゃないか」

誠子「あれ――!? ネリーさんが理牌し始めましたけど……っていうか、あの配牌……ッ!!?」

セーラ「他家の配牌があれっちゅーことは、これはあいつか!? 《煌星》の――」

優希「淡ちゃんだじょ!!」

     ネリー『行っくよー、ダブリーッ!!』ゴッ

優希・誠子・セーラ「!!?」ゾワッ

 ――《永代》控え室

     ネリー『行っくよー、ダブリーッ!!』ゴッ

塞「いやああああああああああ!!!」カタカタ

まこ「いきなり理牌し出したと思ったら……なんじゃこれ、なにがどうなっちょる……!?」

純「ネリー以外の配牌が五、六向聴で、ネリーがダブリーのみだと? これじゃまるで――」

穏乃「《超新星》――大星淡さん! これはすごい! 完全にご本人です!!」

塞「本人ってなによー!? あいつはネリー=ヴィルサラーゼでしょ!?」

穏乃「いえ! あそこに座っているのは、もはやネリーさんではありません。どこからどう見ても大星淡さんです。それはもう、何から何までっ!!」

純「どこからどう見てもネリーなんだが……?」

穏乃「えーっと、なんて言えばいいんでしょう。今、あそこに持ち上がっている山は、大星さんの山と、まったく同じなんです。
 いや……逆ですかね。持ち上がった山が大星さんの山だったから、ネリーさんは大星さんになった。ここに来て初めて理牌したのも、それが理由だと思われます」

まこ「誰か頭痛薬もっとらんか……」

穏乃「うーん……まだはっきりとはわかりませんが、この理屈を突き詰めると、ネリーさんは《実在する全ての能力を使える》ことになりますね」

塞「はああああああ!? 豊音もびっくりの多才能力者《マルチスキル》じゃない!!?」

純「おい……穏乃、お前それ本気で言ってんのか?」

穏乃「もちろん本気ですよ。あ、でも、レベル5の山はちょっとあれなので……『ただしレベル5は除く』っていう注釈がつくかもしれません。
 ですが、大星さんの能力を使えているということは、少なくともレベル4以下の能力は、問題なく使えると思います」

塞「薄墨の《裏鬼門》も!? 竹井の《悪待ち》も!?」

穏乃「はい。塞さんのお友達さんで言えば、姉帯さんの《六曜》、小瀬川さんの《マヨヒガ》、ウィッシュアートさんの《一枚絵》も、全部です」

純「目玉が飛び出るな」

まこ「わしなんか五臓六腑が飛び出そうじゃ」

塞「だったら私はもう私自身が飛び出していくわ……!! 対局が終わってれば間違いなく逃げ出してるレベルの超異常事態よっ!!」

穏乃「私も驚いています……。大会が終わったら、ネリーさんとちゃんとお話してみたい」

塞「あんなオカルトの塊と話したい!? 高鴨、あんたってマジすごパ!! そして私もマジすごパ!! マジすごいパニック!! いやホントに!!」

純「っていうか……もし、あれが本当に大星のダブリーだっつーなら……!!」

まこ「どっかで来るはずじゃな――」

     ネリー『カンッ!!』ゴッ

塞・純・まこ「……ッ!!!!」ゾワッ

穏乃「わあーっ! そっくり!!」キラキラ

 ――《新約》控え室

     ネリー『カンッ!!』ゴッ

姫子「おうおぉおっ!? こ、これはヤバかことになってきたとですね……!!」

絹恵「ほな、ネリーさん、やっぱり大星さんの――!!」

怜「本当に違う世界から来たんかもな……あの子は」

和「あの、皆さん? 何をそんなに驚いているんですか? たまたま配牌が良かったからダブリーして、たまたま暗槓のチャンスが来たからカンしただけじゃないですか。
 幸いカンドラは乗りませんでしたし、なんの問題もありません」

姫子「こっからカン裏の乗るんが問題と!!」

絹恵「このまま和了られたら12000になってまうやん!!」

和「どこからどう見ても3200、ツモで5200じゃないですか……」

怜「いや、せやけど、宮永照が攻めとる……!! 場合によっては流れるんとちゃうか――!?」

     ネリー『ロンだよっ!!』

     照『わっ』

姫子・絹恵・怜「!!!」ゾワッ

     ネリー『ダブリー……裏四ッ!! 12000!!』ゴッ

和「ふむ。なかなかの偶然ですね」キリッ

 ――《久遠》控え室

     ネリー『ダブリー……裏四ッ!! 12000!!』ゴッ

憧「あいつマジかああああああ!?」

洋榎「オモロい!! くっそー、こんなオモロいんならうちが先鋒に出るんやったわー!!」

哩「なんのどがんなっとうとね」

白望「次くらいには……わかるかも……」

憧「次いいい!? 次があるわけ、これッ!!?」

洋榎「なんやあいつ! 能力のびっくり箱か!!」

     ネリー『このツモには意味がある気がするんだよ……』

哩「お、おい……あいつ、わけのわからんところば切りよるぞ……!!」

白望「これ……知ってる……」

憧「私らみんな知ってるわよ!! こんな《最悪》……っ!? どうなってんの――!!?」

洋榎「盛り上がってきたでー!!」

     ネリー『リーチッ!!』ゴッ

憧・洋榎・哩・白望「久の《悪待ち》ッ!!?」

 ――対局室

 東四局・親:久

ネリー「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・145700)

久(何がどうなっちゃってるのかしらねー、この子!?)

 東家:竹井久(久遠・71700)

初美(この雰囲気は完全に《最悪》のそれですー……!!)

 南家:薄墨初美(新約・70500)

照(むむむ……さっきの大星さんにはやられたけど――)

 北家:宮永照(永代・111100)

照「ポン」タンッ

ネリー「っ!?」

照(《照魔鏡》で見たことがある能力なら……辻垣内さんほどじゃないけど、多少の対策が取れなくもない、かも)

ネリー(やるじゃん……てる。けど、無駄なんだよ――ッ!!)

久(どうかしら、私ならこのくらいのズラしは許容範囲な気がするけど……)

初美(《最悪》の《悪待ち》は差し込みで止めるのが一番なんですけどねー。さて、どうなるですかー?)

ネリー「ッ!!」パシュッ

初美(こいつ牌を飛ばしやがったですねええええ!!?)

照(わー……)

久(これは完全に私の――)

ネリー「ツモ……ッ!!」パシッゴッタァァァァン

久(こんなことって!! 私がその技をできるようになるまで、一体どれだけの練習を重ねたと思っているの……!?)ゾワッ

ネリー「3000・6000なんだよ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久(――と、冗談はさておき……)

初美(こんな悪作法《アンチマナー》野郎が《最悪》以外にいたんですかー!? なかなか壮絶なことになってきたですよー!!)

照(うーん……)

ネリー(私の自動即興《エチュード》――これにまともな対応ができたのは、魔術世界でもさとはだけっ!!
 けど、そのさとはでさえ、今の私を相手にすればトビ回避が精一杯だったんだよ……!! 
 さあ、あなたたちは止めることができるかな!? 魔滅の声《シェオールフィア》を聞いてしまった今のあなたたちに――あの《背中刺す刃》さえ叩き折る今の私を……ッ!!!)

ネリー「さっ、南場もいっぱい奏でるんだよっ!!」ゴッ

初美:67500 ネリー:158700 照:108100 久:65700

ご覧いただきありがとうございます。

一旦休憩します。小一時間ほどで戻れるかと思います。

お待たせしました。

続けますが、たぶん今日中には終わらないので、キリのいいところで明日に回します。

 ――観戦室

     ネリー『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「これは……まだ序盤なのでなんとも言えませんが、まさかあの方ですか」

憩「衣ちゃんの《一向聴地獄》やな。ウチの記憶にある牌譜と照合した。間違いあらへん」

煌「ネリーさんは南家ですから、このまま誰も鳴かなければ」

憩「海底やんな」

     照『ポン……』

煌「おお……この対応の速さはすばらですね。こんな序盤に、場を支配している能力が《一向聴地獄》だと見抜くとは」

憩「ま、ウチら《三人》ならそれくらいできるで。ほんで、薄墨さんも竹井さんも、ガイトさんほどやないけどカンはええ。今の宮永照の鳴きで、二人も異変に気付いたやろ」

煌「そのようですね。しかしながら……」

憩「そう――関係あらへんのや。そんなこと。衣ちゃんには」

     ネリー『ポン……ッ!!』ゴッ

煌「やはり海底を引き戻しましたか」

憩「すごいな、これ……能力だけやない。打ち筋まで完璧に衣ちゃん本人やん」

煌「《実在する全ての能力が使える》力……これは、厳密には《実在する全ての雀士の完全模倣をする》力ですからね。
 細かいクセや雰囲気も含めた《完全模倣》。理牌するようになったのも、それゆえです。
 今のネリーさんは、天江さんの能力を使っているから打ち筋まで天江さんと同一になっているのではなく、打ち筋が天江さんと同一だから天江さんの能力を使えているんですね」

憩「んんん……? ようわからんけど、ほな、これも運命論的にちゃんと仕掛けがあるっちゅーことなん?」

煌「はい。私は先ほど、運命論では『山牌が持ち上がってからは誰もが無能力者』と言いました。魔術師は、その確率干渉を、全て山牌が持ち上がる前に完了します。
 そして、何度も言いますが、あちらの世界の山牌は不動不変。なので、理論上は、こんなことも可能になるわけです」

憩「なに?」

煌「ここに、魔術師と、魔術師でもなんでもないまったくの一般人の、二人がいたとしますね?
 そして、まずは、魔術師が先に卓に入ります。山牌が持ち上がる前、魔術師は詠唱によって魔術を発動、確率干渉を行います。
 やがて、魔術によって非古典確率論的偏りが生じている山牌が、不動不変のものとして、卓上に姿を見せるわけです。
 さて、ここから、魔術師と一般人……二人が席を入れ替わると、一体何が起こると思いますか?」

憩「何って、そんな――」ハッ

煌「いかがです? 後付けの能力論ではまずありえないことですが、山牌の不動性を基礎とする先決めの運命論では、こういうことも『ありえる』わけなんです」

憩「え、えっと……花田さんが言いたいのは、つまり――こういうことやんな?
 その、入れ替わった一般人……そいつに、魔術師が指示するわけやろ? 『自分なら何を切るか』――を」

煌「まさしく。魔術師が魔術によって偏りを生み出した山牌。それは、持ち上がった瞬間から終局まで、不動不変。
 ゆえに、たとえ魔術師でもなんでもないまったくの一般人が途中で席に着いても、ある一定の順番で牌を切っていきさえすれば、その人は、さっきまでそこに座っていた魔術師と、全く同一の結果を出すことができるのです。
 つまり――」

憩「無能力者でも……能力者の真似事ができる……っ!?」

煌「これが、無能力者であるはずのネリーさんが能力を使える――使っているように見える――理由です」

憩「せ、せやけど! あいつはさっきからずっとあっこに座っとるやん。誰とも交換してへん。
 ほな、その入れ替えマジックみたいなんはできひんはずやろ……!?」

煌「その通り。この『入れ替え魔術』は、ただの一般人がやるには、魔術師の協力が不可欠です。
 しかし、ネリーさんは、ただの一般人ではありません。10万3千局の《原譜》――魔術世界一千年分の蓄積と、《神の耳》があります」

憩「ど、どういうことや……」

煌「『検索』しているんですよ。《神の耳》によって、その局の《運命》を聞き、その《運命》と高い精度で類似した一局を、10万3千局の《原譜》の中から見つけ出しているんです。
 あとは、簡単ですね。その一局において、該当する魔術師が奏でたのと全く同じように、自ら《運命》を奏でればいい。
 これなら、魔術師の協力なしに、単独で『入れ替え魔術』を行使することができます」

憩「ちょ、あかん……頭ごちゃごちゃになってきたわ……」

煌「能力や魔術と言うから、わかりにくいのかもしれませんね。
 例えばですが、荒川さん。荒川さんは山牌が見えます。『他人の《上書き》がなければ全ての牌の位置と種類がわかる』とおっしゃいます。原理的にはありえないのですが、それはさておき。
 さて、そんな荒川さんなら、山牌の中から、ヤオ九牌だけを抜き取ることもできますよね? 一色牌だけを抜き取ることもできますよね?」

憩「もちろんできるわ。今ここでやってみよか?」

煌「いえいえ。それには及びません。
 はて……しかしながら、私のような一般人からすれば、伏せられた山牌からヤオ九牌だけを抜き取ったり一色牌だけを抜き取ったりする――といった芸当は、まったく不可思議なものに見えます。
 さながら、何かの《能力》のように見えるわけですね」

憩「いや……まあ、ウチはただ見えとるもんを見えとるように抜き取るだけなんやけど……」

煌「ちなみにお聞きしますが、今の例のように、伏せられた山牌から『ヤオ九牌だけを抜き取ったり』『一色牌だけを抜き取ったり』できる方が、荒川さん以外にいらっしゃると思いますか?」

憩「それは……いーひんやろ。《悪魔の目》を持っとるウチやからできんねん。
 普通の人には、牌の背は全部一緒に見える。小走さんからそう教えてもろたもん」

煌「そうですね。荒川さんと同じ原理で今言ったことができる人は、学園都市にはいないでしょう。しかしながら、能力者なら、どうでしょうか?」

憩「え……?」

煌「例えばですが、二回戦の《飛雷神》こと友清さん。そして三回戦の神代さん。
 あのお二人なら、能力を使って、伏せられた山牌から『ヤオ九牌だけを抜き取ったり』『一色牌だけを抜き取ったり』できるんではないですか?」

憩「た、確かにできる……!! 《上書き》したらええんやもん! 《飛雷神》さんが引く牌は全部ヤオ九牌になるし、《九面》の小蒔ちゃんが引く牌はぜーんぶ一色牌になる……!!」

煌「同じ要領で考えていきましょう。《悪魔の目》を持つ荒川さんなら、伏せられた山牌から『筒子及び四五六牌』だけを抜き取ったり『赤い牌』だけを抜き取ったりすることもできますね?」

憩「も、もちろん」

煌「はて。すると、仮に私が荒川さんの《悪魔の目》について何も知らなかったとすれば、今例に挙げた現象を、このように解釈することもできるわけです。
 『荒川さんは、友清さんや神代さんや藤原さんや松実宥さんの能力を、全て使うことができる』――と。
 これは大変不思議なことです。荒川さんは無能力者であるはずなのに、まるで複数の能力を使っているように『見える』のですから」

憩「いや、でも、ウチは別に《上書き》したわけやないし――」

煌「荒川さんが《上書き》をしているかいないかは、残念ながら、私の平凡な目には区別がつかないのですよ。特殊な計器を扱えるわけでもありませんし、能力者の支配領域《テリトリー》も感じ取れません。
 伏せられた山牌から好きな牌を好きなように抜き取れる荒川さんが、『自分は能力者だ』と言い張れば、《悪魔の目》の原理を知らない私は、間違いなく、その言葉を信じるでしょう」

     ネリー『ツモッ!! 4000・8000なんだよっ!!』

憩「――と、倍満かいな。さすが衣ちゃんやな」

煌「そうです。さすがは天江さんなのです。ネリーさんは、言ってしまえば、天江さんの真似をしたに過ぎません。
 ネリーさんが今できたということは、天江さんも、この南一局、宮永さんと薄墨さんと竹井さんを相手に、同じようにして海底で倍満をツモることができるのです。
 そのメロディを、ネリーさんは、此度の山牌の《運命》の中から聞き取った。そして、それを即興で、且つ忠実に奏でてみせたのです」

憩「せやけど……なんでよりにもよって衣ちゃんやねん。《運命》や《運命》や言うけど、山牌の並びが一体何パターンあると思うとるんや。
 その膨大なパターンの中からここで衣ちゃんが出てくる必然性はないはずやろ?」

煌「確かに、ネリーさんが機械なら、無数にある《運命》の中から天江さんの《運命》を引き当てる確率なんて、古典確率論的にほとんどゼロでしょう。
 しかし、ネリーさんも生きた人間です。その意思は、ほんの僅かですけれど、世界に影響を与える。
 見る限り、ネリーさんはどうやら、理論上ランダムであるはずの自動即興《エチュード》を、ある程度コントロールして使っているようですね。
 今後も、私たちがよく知っている雀士が出てくる可能性が高いと思います」

憩「大星さん、竹井さん、衣ちゃんと来て……次は誰や」

煌「宮永さんに対抗しなければならないわけですから、半端な雀士ではないはずですよ。
 また、自動即興《エチュード》が《完全模倣》できるのは、何も能力者に限りません。なので、能力者ではない福路さんや清水谷さんが現れる可能性も、十分にあります」

憩「つまり……あいつはあれか。小走さんの《幻想殺し》を地で行くようなやつなんやな? そのときそのときの山牌の並びに合わせて、宮永照相手に最も勝率の高いNPCを選んどるわけか。
 すごいな……ほな、今のあいつと打つっちゅーことは、古今東西世界中の雀士を全て敵に回すんと同じことやん」

煌「ただしレベル5は除く、ですがね。或いは、どうでしょう。《特例》
である荒川さんも、自動即興《エチュード》で《完全模倣》できる対象から外れるかもしれません」

憩「なるほどなぁ。最初に比べるとかな~り飲み込めてきたで。ほんで、ますます小走さんがあいつに目をつけた理由がわかったわ……ってーぇ! ちょいちょい――それホンマか……!?」

煌「これはなかなか……タネも仕掛けもわかっているとは言え、ネリーさんが無能力者であるというのが信じられなくなりそうです」

     ネリー『ダブルリーチなんだよッ!!』

 ――《久遠》控え室

     ネリー『ダブルリーチなんだよッ!!』

洋榎「ほっほーっ!? これは目の錯覚かー!? さすがのうちも開いた口が塞がらんでー!! 誰かはよ《塞王》つれてこんかーい!!」

憧「」

哩「憧、憧! しっかりしんしゃい!!」ユサユサ

憧「はっ!? い、今のは――夢!!」

白望「惜しい……正夢」

憧「ぎゃあああああマジだったぁー!! さっきから何がどうなってんのよー!?」

 ――《新約》控え室

     ネリー『ダブルリーチなんだよッ!!』

和「なかなかの偶然ですね」キリッ

絹恵「アホかー!! 和ああっ!! 自分、いっぺん『偶然』の意味ちゃんと調べてこんかい!! 古典確率論を小学生からやりなおしてこんかい!!」

姫子「偶然こうなる確率の一体いくつとね!! 限りなくゼロと!! SGA!! そんな偶然ありえなか!!」

和「確率はゼロではない。それ即ち、デジタル的には十分『ありえる』こと。確かに珍しいは珍しいですが、取り立てて騒ぐようなことではありません」

絹恵「怜さああああん!! どう思いますか!? ネリーさんだけやなくて、和も違う星から来たんとちゃいますか!?」

姫子「私たちの間違っとっとですか!? あいば見てもNGですねの一言で片付けらるっのが正解とですか!?」

怜「……ちなみにやけど、二人とも、うちが未来見えることについてどう思う?」

絹恵・姫子「なかなかの能力ですね」キリッ

和「SOAー!! 絹恵さんも姫子さんも、『未来』の意味ちゃんとわかってますか!?
 小説や漫画じゃあるまいし、人間に未来など見えるはずがありません!! 怜さんのそれはただの勘違い!! 目の錯覚だと何度言えばわかるですかーッ!!」

絹恵・姫子「えー? まあ珍しい(か)は珍しい(か)けど(ばってん)、そんな騒ぐほど不思議なことやろか(と)?」

怜「うん。確かに自分ら生まれた星違うわ」

 ――《永代》控え室

     ネリー『ダブルリーチなんだよッ!!』

塞「高鴨おおおおおお! なんとかして!! あんたのすごパであいつなんとかしてえええええッ!!」ギュー

穏乃「さ、塞さん……抱きついてくださるのは嬉しいのですが、首を絞めるのはやめてください……」ウウウ

純「何がどうなってやがる……マジで。いやホント、マジで」

まこ「あんなことができる人間がこの世に二人もおるとはのう……」

塞「あんたらああ! なんでそんなに余裕なの!? 驚くならもっと驚きなさいよっ!!
 少しは『うわあああああ!!』とか『なんじゃこりゃあああ!?』とか言ったらどうなの!?」

純「悪いな、塞。それオレらのキャラじゃねーんだわ」

まこ「わしらは会話の隙間をいい感じに埋める係じゃけえ、わらみたいな面白い反応はしたくてもできんのじゃ」

塞「まるで私がリアクション担当みたいなのやめてー!! テンション要員みたいなのやめてー!!」

純・まこ「実際そうだろ(じゃろ)」

塞「そうなの!? 高鴨、私ってリアクション担当のテンション要員なの!? 違うわよね!?
 モノクル曇ったのを見て『さァ、かかってくるがいいよ……』って不敵に笑うイカしたクールキャラよね!?」

穏乃「よくわかりませんが、塞さんは塞さんのままでいるのが一番素敵だと思いますっ!!」

塞「うぅぅぅ……私が二年以上かけて積み上げた《塞王》のイメージがあああ……」

 ――《幻奏》控え室

     ネリー『ダブルリーチなんだよッ!!』

優希「うおおおおおお!! ネリちゃんそこだじぇ!! ぶちかませーッ!!」

誠子「これは……神代さんですか……」

セーラ「せやろな。配牌もツモも一色牌。こんなふざけた能力持ちが神代以外におってたまるか」

やえ「ちなみにだが、昨日、私とネリーと宮永と臼沢で神代のあれを見ていたとき、ネリーと宮永はこんな会話を交わしていた。『てるならどうやってこれに勝つ?』『超頑張る』とな」

誠子「頑張ってどうにかなるんですか!? あれが!?」

優希「奇跡でも起こらないと無理だじぇ!!」

セーラ「《奇跡》……か。なるほどなー」

やえ「さて、ここに取り出したりますは《不規則格子晶体》――通称《不晶体》だ」ジャーン

セーラ「おっと、いきなりやな。ほんで、なんなんその硝子板」

やえ「ただの硝子ではない。《塞王》こと臼沢のトレードマークであるモノクルの素材にもなっている、特殊な硝子だ」

誠子「どこにでもある普通の硝子にしか見えませんが……」

やえ「まあ人間の目にはそうだろう。見分けるには荒川を連れてくるか電子顕微鏡を持ってこないと無理だな。
 さて、この《不晶体》。分子内にいくつか結晶構造に不必要な原子が散在していてな、常温常圧では安定を保っているんだが、ある力による干渉を受けると、その原子が活性化し、分子構造を不規則――非結晶なものにしてしまうんだ」

優希「何一つ言ってることがわからないじょ!?」

やえ「透明な氷の塊がある。その中に、目に見えないほど小さく、しかし鉄より硬い特殊な粒子が混ざっている。
 その粒子は、とある力の干渉を受けると、氷の中を自由に動き回り始める。すると、氷はどうなるか」

誠子「えっと……バキバキになる……?」

やえ「そうだな。基本的には力の源に近い表層部ほど良く反応するから、状態としては、表面にアイスピックを突き立てたのと似た感じになるわけだ。当然、目に見える変化が起こる」

セーラ「透明な氷にアイスピック……白くなるな」

やえ「大正解。で、そのアイスピック――《不晶体》の結晶構造を崩す力とは、何を隠そう《意識的確率干渉力》のことだ。というわけで、片岡」

優希「じょ?」

やえ「私たちの中で一番ランクが高いのはお前だ。この《不晶体》に触れながら、東初で親倍をツモるイメージで、ちょっと意識を集中してみろ」

優希「むむむ……! 我が呪われし血の盟約に応えよ――タコスの神ッ!!」ゴッ

 フッ

誠子「硝子が曇った!?」

セーラ「ははっ、こらオモロい玩具やなー」

優希「やえお姉さん、これほしいじょ!!」

やえ「売ってやらないこともない。ただし、これ一つでお前の一ヵ月分の生活費がぶっ飛ぶが、構わんか?」

優希「こんな硝子板が!? ぼったくりだじょー!!」

やえ「確率干渉力測定用の特殊素材だ。それなりに値が張るのは当然だろう」

誠子「研究ってお金かかるんですね……」

やえ「ま、こんなのはただの消耗品だがな」フキフキ

セーラ「おぉ、その曇り拭き取れるんか」

やえ「『拭く』よりは『掃く』に近いな。透明な結晶部から剥離した白い非結晶部を払い落としているんだ。当然、使うごとに、本体はすり減ってくる」

優希「本当に消耗品だったじぇ!?」

やえ「さて……片岡。お前、今、どれくらい本気で確率干渉力を使った?」

優希「わりと全力だったじょ」

やえ「だろうな。測定用の比較的柔らかいものとは言え、能力を介さずに《不晶体》の表面を目に見えるくらい曇らせたんだ。なかなかできることじゃない。素質だけなら十分《十最》レベルの化け物だよ、お前は」

誠子「ちなみに、私がやるとどうなります?」

やえ「傷一つつかない」

セーラ「俺なら?」

やえ「極薄にカットした《不晶体》を何枚か割ることができるレベルだろうな。というか、能力論の実習授業でやったことがあるだろう」

セーラ「あっ! あの瓦割りみたいなやつか!?」

優希「我、最強だじぇ!!」

やえ「そういう戯言は、ランクSの魔物がこの《不晶体》をどんな状態にできるか見てから言ったほうがいいぞ。あいつらは本物の化け物だからな」

誠子「えっと……ヒビが入るとか?」

優希「真っ二つだじぇ?」

セーラ「内部まで曇り硝子にできる……とかやろか」

やえ「全員不正解。正解は『粉々に砕け散る』だ」

優希「じょおおおおおおお!?」

誠子「全力の優希でも表面を曇らせるのが精一杯なのに!?」

セーラ「アイスピックやないやん。10トンハンマーやん」

やえ「それがランクSの魔物だ。さて、その中でも最高の支配力を持つとされる宮永照。
 あの神代小蒔さえ凌駕すると謳われるあいつは……一体この《不晶体》を、どんな状態にできると思う?」

     照『ポン』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

誠子・優希・セーラ「ッ!!!?」ゾワッ

やえ「……と、あの化け物め――」

誠子「あっ、うあぁ……!? 硝子が真っ白になってますけどっ!!?」

優希「これまさか内側まで真っ白なんだじょ!?」

セーラ「それで済めばええんやけどな……」

やえ「片岡、ちょっと触ってみろよ。きっと驚くぞ」

優希「ば……爆発とかしないじょ――」サワッ

 サラッ

優希「砂になってるじょー!!?」ガビーン

誠子「粉々も粉々じゃないですかあああ!?」

やえ「ちなみに、あいつは今、電磁防壁で囲われた対局室に隔離されているということを忘れるなよ」

セーラ「ホンマ神業やな……」

やえ「そう……まさに神業なんだよ。これが《呼吸するように奇跡を起こす者》――ランクSの魔物の絶大なる確率干渉力だ。
 あいつらは、そこに在るだけで、世界のあらゆる理をブチ破る」

     照『ポン』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希「ネリちゃんの手番が回ってこないじょ……!!?」

誠子「これが……超頑張ってる宮永先輩――!!」

セーラ「なんやこれ。ネリーと宮永のどっちがオカルトなんかわからんなってきたわ」

やえ「ネリーの自動即興《エチュード》――あれは、膨大な知識と脅威の解析力に拠る、言わば論理の集大成。
 対して、宮永の支配力はオカルトもオカルト。あらゆる理屈を吹き飛ばす超常の頂上だ」

     照『ポン』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希「ど、どういうことだじょ!?」

誠子「結局どっちがオカルトでどっちがデジタルなんですか!?」

セーラ「ごっちゃ混ぜやなー」

やえ「魔術世界《オカルト》と科学世界《デジタル》の頂上決戦――その実体は、論理《デジタル》と奇跡《オカルト》の衝突ということになるな」

優希「ついていけないじょーっ!!」

     照『ロン、1000』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

     ネリー『あっはっはー! これは笑うしかないんだよー!!』

誠子「食いタンでネリーさんの親が流された……!?」

セーラ「あわや天和のトンデモ配牌から門前清一ダブリーをぶっ放したネリー。
 ほんで、そのネリーの手番を三連続で飛ばした上に、手牌にたった一枚だけあったネリーの色でぴたりと直撃を取る宮永照。
 しかも、やえの話を聞く限り、あの二人は今、俺らで言うところの《能力》を使ってへんのやろ? いやホンマ人間やないで……ネリーも宮永照も」

やえ「実に面白いじゃないか。さあ、ここで南三局。宮永の最後の親番だ。先鋒戦もいよいよ大詰め。
 点数状況は――順に、ネリーが172700点、宮永が106100点、竹井が61700点、初美が59500点……」

優希「ネリちゃんと咲ちゃんのお姉さんには七万点も差があるじぇ!! なんの能力も使わずに、これを一回の親番で削り取れるっていうのか!?」

誠子「宮永先輩ならやっちゃいそうな気がしますが……ネリーさんも全力で阻止しにかかるでしょうからね。どうなることやら」

セーラ「これがひっくり返ったら、まさに《奇跡》やな。それとも、もう《運命》は決まっとるんやろか? いやー読めへんわー」

やえ「《奇跡》を起こす者と《運命》を奏でる者……《頂点》対決を制するのは、果たしてどちらになるのか――」

     照『ツモ、500オール』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《新約》控え室

     照『ツモ、700は800オール』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

怜「えらいこっちゃで……!!」

和「ただのツモのみじゃないですか」

絹恵「二巡目やで!? 和、なあ、わかっとる!? あの人、なんの能力も使わんと二巡目にツモったんやで!?」

和「はあ? 誰にでも出来ますよそんなこと」

絹恵「姫子ー!! うちが間違っとるんか!? 能力ナシで二巡目ツモは誰にでもできることなんかーっ!?」ウワーン

姫子「絹恵……安心しんしゃい。私は絹恵の味方と」ギュ

怜「ホンマ《奇跡》でも見とるような気分やけど、点数自体はむっちゃ低い。もっと高い手で和了らへんと……こないな安手、たとえ十回和了っても逆転できひんで」

和「せっかく一巡目で張ったのに、なぜダブルリーチを掛けなかったのでしょうか」

怜「たぶん、それやと未来が変わってまうんやろな。あそこはきっとダマが正解やってん。点数は低いけど、和了らへんよりはマシ。仕方あらへん」

和「怜さん、言ってること無茶苦茶じゃありませんか……?」

 ――《久遠》控え室

     ネリー『出端くじきリーチなんだよっ!!』

洋榎「うちの百八ある必殺技の一つを勝手にパクんなー!! ちゃんと使用料払わんかいコラァー!!」

哩「驚いたと……能力ば無数に使えるだけやなかとね」

     ネリー『なんで六筒やねんなんだよっ!!』

白望「ひっかけ後のせさくさく……ここまで完コピ……」

憧「洋榎、あれあんたの妹かなんか?」

洋榎「ま、まさか……!! ほな、あいつがオカンが死に際に言うてたネリ江=アタゴ=ヴィルサラーゼ……!! うちと絹の生き別れの妹――ってなにやらすねんッ!!」

憧「あんたが勝手にやったんじゃない……」

     照『ロン、2400は3000』

     ネリー『なんやとなんだよ!?』

洋榎「ネリ江ええええええ!! 自分なに振り込んどんねんドアホ!! この愛宕家の面汚しがッ!! まるでうちが宮永より弱いみたいやんかー!!」

哩「実際弱かけん、仕方なかと」

憧「あったま痛いわ……三割くらい洋榎がうるさいせいだけど」

白望(あれ……これそう言えばさっきから……)

そっか能力は消えるけど支配力はそのままなのね

 ――《永代》控え室

塞「よしっ! 行けっ!! そこよ宮永ーっ!!」ヒャホーイ

純「おぉ……照の活躍で塞が立ち直ったか」

まこ「ネリーの手牌が真っ赤に燃えとるんは目に入っとらんのじゃろな」

穏乃「あと三つ……和了れるといいんですけど――」

純・まこ「?」

塞「っしゃあ、宮永ァ!! 早いとこそのガキやっちゃってー!!」

純「なあ、おい、穏乃……?」

まこ「わらさっきから何を数えとるんじゃ?」

穏乃「えっ? 照さんの和了回数ですけど?」

塞「はあ? なに言ってんの、高鴨。よくわかんないけど、あんたが言ったんでしょ、ヴィルサラーゼの呪文で《万華鏡》はもう使えないって。
 だったら和了回数なんて数えても意味ないじゃない」

まこ「知っちょると思うが、白糸台標準ルールに八連荘はないけえの?」

穏乃「…………あれ。これも言っちゃマズかったやつでしたかね」

純「……どういうことだ、穏乃」

>>88さん

そうです。照さんは今、超物理で殴ってます。ネリーさんは無限パルプンテしてます。

穏乃「え、えーっと……さっきから照さんの打点がちょっとずつ上がってるんですけど、お気付きですか?」

まこ「言われてみればほうじゃの。じゃが、《万華鏡》は失っとるっちゅう話なんじゃろ? なんで照は律儀に《制約》を守っちょるんじゃ?」

塞「そっちのほうが打ちやすいからじゃない? 宮永の連続和了で打点が下がってるケースなんて、私、見たことないもの」

純「あのな……《万華鏡》を失ったことが今まで一度もねえんだから、《制約》フリーになったこともねえはずだろ。打点下降を見たことがねえのは当たり前だ」

穏乃「あ、あの……すいません。誤解させちゃいましたかね。私、《万華鏡》に《制約》があるとは、一言も言ってないんですけど」

純・まこ「ッ!!?」

塞「はあ!? じゃ、じゃあ、いつものあの《打点上昇》はなんなの!? 性癖!? 私たちに恐怖を植えつけるための演出!?
 そ、そっか……宮永ってそういう趣味が――」

穏乃「あ、いえ、照さんの《打点上昇》は、確かに《制約》なんです。けど、それは、《万華鏡》の《制約》じゃない。
 というか、むしろ《万華鏡》って、その《制約》をクリアするために、後天的に発現した能力なんだと思います」

純「そ、そりゃ……じゃあ、《照魔鏡》の《制約》ってことか? まあ、感応系最強の能力なんだから、それくらい強い《制約》があってもおかしくはねえと思うが……」

穏乃「いえ。《照魔鏡》には《一局打つ》という《発動条件》がありますけど、《制約》はこれといってありません」

まこ「じゃ……じゃあ、なんの《制約》じゃ? というか、《照魔鏡》でも《万華鏡》でもないじゃと……? それは、つまり――」

穏乃「そうです。照さん……あの人は、全部で三つの《鏡》を持っているんです」

純・まこ「ッ!!!?」

塞「ちょ……それ、詳しく頼むわ、高鴨――」

んん?
和了回数数える意味って、《万華鏡》使用状態であっても、特になくないか?
塞のツッコミの意味が判らねえ。

 ――対局室

 南三局三本場・親:照

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:宮永照(永代・114000)

久(打点は不気味なくらいに低い。この親が流れればオーラス。点数状況的にはネリーさんを警戒したほうがいいんでしょうけど、宮永照の打点が少しずつ上がっているのが気になるのよね。
 まるで《制約》みたいだけれど、連続和了の力はどう見ても失ってる。だとしたら、この《打点上昇》は何……?)タンッ

 南家:竹井久(久遠・60400)

初美(この《奇跡》は支配力に拠る《上書き》ですかー。ただ……だとすると妙ですー。姫様や霞がいい例ですけどー、ランクSの支配力は、基本能力を使ってないと安定しないはずなんですよねー。
 それは宮永照でも例外ではない……というか、宮永照だからこそ――姫様に匹敵する支配者の中の支配者だからこそ――支配力の扱いは繊細を極めるんですー。なーんかとんでもねー裏がありそうで恐いですねー)タンッ

 西家:薄墨初美(新約・58200)

ネリー(このくらいの《奇跡》は想定内――じゃないんだよ。異常事態だ。やえからの事前情報だけじゃ、この支配領域《テリトリー》の広さを説明できない。
 それに……さっきから感じるこの寒気。とってもとってもヤバい感じなんだよ)タンッ

 北家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・167400)

>>92さん

《万華鏡》は、和了を重ねれば重ねるほど、和了率と打点(能力の強度)が高くなる仕様だからですね。

《万華鏡》がある→和了するごとにゲージが溜まる。回数が多いほど、《上書き》の成功率などが上昇し、照さんが有利。

《万華鏡》がない→和了してもゲージが溜まらない。回数の多寡は、和了率や打点に影響を与えない。

みたいな感じです。

照「」タンッ

久(もう張ってるかしらね……?)タンッ

初美(まーたツモられそうですねー)タンッ

ネリー(今は視野の広い《無極点》ネリー……さとはと同じ討魔《アンチオカルト》の属性を備えたりゅうかを《完全模倣》してる。オカルトには相性がいいはずなんだけ――ど!!)

ネリー「チー」タンッ

ネリー(これで、テンパイ――)

照「ツモ……1000は1300オール」パラララ

ネリー(うぬぬ……!? 最高状態のりゅうかでもダメなのか。論理の隙間が見つからないよ……おっかしーなぁ)パタッ

久(また打点が上がった、か。コークスクリューの気配はないけれど、看過できないわよねぇ)

初美(ネリーさんの今の鳴きはいい線いってたような気がしたですけどねー。んー、やっぱりこの崩れなさは異常ですー)

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(うっ……!? また例の嫌な音――恐怖のカウントダウンなんだよ。早く止めないとねっ!!)

照「四本場」コロコロ

初美:56900 ネリー:166100 照:117900 久:59100

 ――観戦室

煌「安手ながらも五連続和了……ネリーさんの自動即興《エチュード》を掻い潜りながらこんなことができるのは、宮永さんの絶大な支配力と、人並み外れた集中力があってこそですね」

憩「………………」スッ

煌「……荒川さん? なにか、お考え事ですか?」

憩「あ……いや、ちょっとな……」

煌「ご気分が優れないようでしたら、横になりますか? ベッドはあの通りですが、ソファを繋げれば」

憩「『花田さんの考えは合うてるよ』」

煌「は……て――?」

憩「結論から言うてみただけや。せやけど……通じたやろ?」

煌「い、いえ、何のことやら……」

憩「ええねんええねん。運命奏者《フェイタライザー》について、こんだけ懇切丁寧な解説をしてもろてん。これくらいの対価は払わんとフェアやないやろ」

煌「あの……その、申し訳ありません。顔に出てしまっていたようですね……」

憩「あっ、いや、なんちゅーか、ホンマに気にせんでええからな? むしろ、ありがとな、気い遣うてくれて。ウチのことはええから、聞きたいこと聞いてーな。
 例えば……宮永照の《打点上昇》について――とか」

煌「…………あれは、《万華鏡》の《制約》ではありませんね。むしろ、《万華鏡》とは、《打点上昇》の《制約》をクリアするために後天的に発現した能力である――違いますか?」

憩「違わへん。大正解や」

煌「だとすると、当然、あの《打点上昇》が一体何の《制約》なのか……という疑問が湧いてきます。そして、その答えは――」

憩「せやで。遠からずその目で見れる。正確に言うと」

煌「南三局六本場になれば、ですね?」

憩「まさに。っちゅーわけで、花田さんの考えは合うてるよ。宮永照の本当の脅威は、連続和了なんかにはないねん。
 やって、あんなもん、ただの《発動条件》に過ぎひんのやから」

煌「全てにおいて最高の雀士――宮永照さん。ようやく、その真の意味を理解することができました」

憩「白糸台でこれを知っとるのは、やっぱりウチと小走さんとガイトさん、あとは、菫さんもうっすら気付いてはると思う。
 ただ、まあ……それもきっと今日で最後やろな」

     照『ツモ、1200は1600オール』

煌「これで六連続和了。非常に緩やかですが、《打点上昇》の《制約》はクリアしています」

憩「あと一つ……次の局で、全てが決まるで。小走さんが言うところの、宮永照の持つ三つの《鏡》。《照魔鏡》、《万華鏡》ときて、これがその最後。
 宮永照が公式戦でこれを見せたんは、たったの二度だけ。奥の手も奥の手や」

煌「《制約》は《打点上昇》。《発動条件》は《途中流局を挟まない七連続和了》ですかね」

憩「せや……よう見とくとええで、花田さん。白糸台に四人しかいない元一軍《レギュラー》にして、常勝無敗のナンバー1。
 さらには五人しかいない支配者《ランクS》であるあの《頂点》の、もう一つの最高――」

煌「学園都市に七人しかいないレベル5……その第六位」

憩「《八咫鏡》――あの超能力を、小走さんはそう呼んどったな」

 ――《幻奏》控え室

優希「《やたのかがみ》?」

やえ「古代の伝承の一つに、『岩戸隠れの伝説』というものがある。太陽神たる天照大神が天岩戸に引き籠り、世界が闇に包まれ、様々な禍が起こったという話だ」

優希「お、お日様が引き籠りか……それは大変だじぇ」

やえ「大変も大変さ。だから、八百万の神々は、どうにかして天照大神を天岩戸から引っ張り出そうと、あの手この手で天照大神の興味を引いた。
 最終的には、とある神が素敵なダンスを披露してくれるんだが、それによって――」

誠子「その踊りを見た他の神様たちがみんな笑って、天照大神が何事かと訝しむんですよね。自分が引き籠っているのに、なんで外の皆はそんなに楽しそうなんだって」

やえ「その通り。外の様子が気になった天照大神は、天岩戸の扉を少しだけ開ける。で、『なんでみんな笑っているんだ』と訊くんだな。
 すると、『あなたより貴い神様が現れたからです』と返ってくる。そして、その返事と一緒に、天照大神は渡されるわけだ――とある一枚の鏡を」

セーラ「それが《八咫鏡》っちゅーわけか」

やえ「いかにも。天照大神は、《八咫鏡》に映る自分自身の姿を見て、それを貴い神様なのだと思い、もっとよく見ようと、天岩戸の扉を開く。
 その隙をついて、別の神が天照大神を天岩戸から引きずり出すんだな。こうして、世界は再び光で満たされた。めでたしめでたしというわけだ」

優希「その……引き籠りのあまてらすっていうのが、咲ちゃんのお姉さんのことなんだじぇ?」

やえ「宮永ジョークの一つにこんなものがある。『Q:ちゃんと自分のこと鏡で見てますか?』『A:照魔鏡で他人を見ることのほうが多いです』ってな」

誠子「笑っていいのか悪いのか……」

やえ「事実、あいつは何百回と《照魔鏡》を使っているが、《八咫鏡》を使ったのは、公式戦ではたったの二度きりだ」

セーラ「二回も使ってたんか……宮永の牌譜は一通り見とるけど、まったく気付かへんかったで」

やえ「まあ、目立つ特徴はあるが、《打点上昇》という観点では《万華鏡》と区別がつかないからな。加えて、同じ条件を満たしても発動させないことのほうが圧倒的に多い。
 直に対局したやつじゃないなら、よくて違和感を覚える程度。確信には至らないはずだ」

優希「その……《やたのかがみ》っていうのの《制約》が、《打点上昇》なんだじぇ?」

やえ「ご名答」

誠子「は、《発動条件》は……?」

やえ「《途中流局を挟まない七連続和了》」

セーラ「あと一回やん!?」

やえ「そうだな。ネリーがここを凌げなければ、間もなくその時が来てしまう。
 《八咫鏡》……あいつがあいつ自身を鏡に映し出すとき、その光は、卓上《セカイ》の隅々まで行き渡る――」

     照『ツモ……1300は1800オール』

優希「き、来たじょ、七連続和了!!」

誠子「打点も上昇している……!! じゃあ、これで!?」

セーラ「来るっちゅーわけやんな!! 《絶対》の超能力が……ッ!!」

やえ「しっかり気を張れよ、お前らッ!! 天岩戸が開くぞ――!!」

     照『』ギギギギギギギギギギギギギギギ

優希・誠子・セーラ・やえ「ッ!!!」ゾゾゾ

 ――対局室

 南三局六本場・親:照

照「」ギギギギギギギギギギギギギギギ

 東家:宮永照(永代・128100)

久(ちょ!? な、なんかものすごくヤバい音がしてる気がするけど……!! よくわからないけど、これ、開けちゃいけないものを開けちゃったんじゃないの!!?)ゾワッ

 南家:竹井久(久遠・55700)

初美(なんか来やがったですー!? この支配力……!! 最高状態の姫様より上なんじゃないですかー!? おいおいですよー!! マジ勘弁ですよー……ッ!!!)ゾゾゾ

 西家:薄墨初美(新約・53500)

ネリー(こ――この旋律は……ッ!? 違うっ!! やえ、違うよっ!! やえは間違ったこと言わないけど、ことこれに限っては完全にやえの嘘つきなんだよ……!?
 し、信じられない!! まさか、こんな……生で聞いたのは初めてなんだよ――!!)ゾクッ

 北家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・162700)

照「」タンッ

久(っと、いきなり中張牌……? 恐ろしいー……)タンッ

初美(やれやれですよー……一体なにしてくれるつもりですかー?)タンッ

ネリー(あ……うああああああああ……!! ダメだっ!! 《運命》がっ!! 《流れ》が!! あらゆる可能性が《絶対》の名の下に収束していく――!!)

照「」ギ

ネリー(まさに戦慄の旋律――!! 紛うことない天上の力ッ!! 今のてるはヒトじゃない……《運命》を司る神様そのもの!!)

照「」ギギ

ネリー(あらゆる魔術がここから派生したと言われる伝説の旋律……!! その響きは――甘美にして完備ッ!!)

照「」ギギギ

ネリー(抗えない……っ!! どうしようもない!! 《運命》の全てがてるの手中にある……!!
 学園都市風に言うなら――山嶺も河も海底も……卓上《セカイ》の全てがてるの支配領域《テリトリー》!!)

照「」ギギギギ

ネリー(あっはっは……これは笑えない! 笑えないよ、やえ!! 『宮永照の七連続和了を《絶対》に許すな』……本当だねッ!!
 これは《運命》や《奇跡》を超越している! まさに天上の意思とでも言うべきなのかな……!? この神様でも侵すことのできない《絶対》は!!)

照「」ギギギギギギ

ネリー(なんてこったい……! どんな《運命》を奏でようと、辿り着く結果が全て同じなんて――)

照「」ギギギギギギギギギ

ネリー(私たちの世界では……《運命》とは可能性。それは無限の可能性。
 『信じることをやめない限り、決して諦めない限り、神様は、必ずそこに至る道を用意してくれている』――その大原則を……これは真っ向否定する力なんだよっ!!)

照「」ギギギギギギギギギギギギ

ネリー(あはっ……おしまいだ……!! 色々頑張ってみたけど、これまでだ。ホントどうなってんだよこれ!? もう打つ手がないじゃん!!)

 ネリー手牌:一19⑨南西北北白發中中中 ツモ:北 ドラ:8

ネリー(てる……あなたは今、何を想っているの? この力を、どう受け止めているの? ねえ、てる――お願いなんだよ……!!)タンッ

照「ロン」パラララ

久・初美(えええっ!!?)ゾワッ

ネリー(これからたとえどんなことがあっても……決して道を踏み外さないでね。あなたの絶望は、世界の絶望になるんだから――)

照「国士無双、48000は49800」ギギギギギギギギギギギギギギギギ

 照手牌:一九19①⑨東南西北白發中 ロン:西 ドラ:8

ネリー「……はいなんだよー……」チャ

久(こ――国士無双十三面待ち……!!? ってか、第一打からずっとツモ切りだったじゃないあなた!!)

初美(こ、これは確かに《奇跡》ですけどー……それだけなわけがないですよねー? もっとヤバい何かですよねー……?)

ネリー(てるの超能力――《八咫鏡》。やえ曰く、《打点上昇》の《制約》と《七連続和了》の《発動条件》によって成立する、《配牌を国士無双十三面待ちにする》レベル5の配牌干渉系能力。
 けど……これは違うんだよ。この戦慄の旋律は、決して一型の運命創者《プレイヤー》のそれじゃない……)

照「七本場」コロコロ

ネリー(そっか……やっと、私がきらめとさきを恐れる理由がわかった。ちゃんと聞くことを本能的に避けてきた理由がわかった。
 こんなことってある? これ、私たちの世界では、《決してこの世に現れてはいけない魔術師》――そいつが生まれたら『殺せ』とまで言われる《禁忌》の力なんだよ……?)

照(ネリーさん……大丈夫かな……?)チラッ

ネリー(もう何がどうなってるなんだよ? 学園都市……みんなヤバいヤバいって言ってだけど、本当だよ。
 超能力者《レベル5》なんてありえない存在が七人もいるってだけでヤバいのに、そのうち二人がよりにもよって運命想者《セレナーデ》なんて……正真正銘のオカルト都市だよ、ここは――)

照(うぅぅ……またやっちゃったかなぁ……)アセアセ

ネリー(まあ……けど、てるは――それにさきも――たぶん大丈夫なんだよ。問題は、きらめだ。きらめの『想い』は――とっても危うい……)

照「あ、あの、ネリーさん、大丈夫……?」オズオズ

ネリー「ほえっ!? あっ、ごめん! 私のツモか!? こいつは失敬なんだよ!!
 まっ、逆転されちゃったけど、まだまだ対局は終わってないんだよっ! てる、最後まで油断しないでねっ!!」

照「あ、えっと、うん(あ……笑ってる――よかった……)」ホッ

ネリー(まあ……とりあえず、きらめのことは後で考えよう! 今はこの対局に勝つこと!! それが最優先事項……!!
 がっつり点棒持っていかれちゃったからねー!! がつーんとやり返さないと!! はてさて、次の《運命》は一体どこのどちら様で――)ゾワッ

照(と、思ったらまた難しい顔に……?)アワワ

ネリー(ちょいちょいちょい……!! はあ!? 嘘でしょ!? どうして今このタイミングでこんな……!!? これはまた――とんでもない《運命》を聞いちゃったんだよー!?)

初美:53500 ネリー:112900 照:177900 久:55700

 ――《久遠》控え室

洋榎「宮永の国士十三面待ち――これ見るのは三回目やな。せやけど、久らの様子を見る限り、今は能力を奪われとるはずや。少なくともレベル4の能力は。
 ほんなら……あれはそれより上の何かっちゅーことやんな。これはええこと知ったでー」

憧「ちょっと、洋榎っ! 珍しく真面目に能力解析するのはいいけど、そんなことよりあのネリー=ヴィルサラーゼの手のほうを説明してよっ!! あんな……あんなのってある!?」

洋榎「ん~? 今のとこただの門前清一やん。ま、確かに妙な偏り方しとるけど」

哩「配牌はバラバラやったけん、神代小蒔や石戸霞の能力……とはまた別やろか」

白望「あ……一筒掴まされた」

憧「あの宮永照が迷ってる……?」

洋榎「まっ、子ハネくらいええやん。今は押せ押せ――」

     ネリー『か……っ! カンなんだよっ!!』ゴッ

 ネリー手牌:②②②②③③③③④⑤/①①①(①) 嶺上ツモ:? ドラ:南・?

     照『ッ――!!?』

哩・白望・憧「っ!!!」ゾワッ

洋榎「………………ほほう?」ビリッ

 ――《幻奏》控え室

     ネリー『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ネリー手牌:②②②②③③③③④⑤/①①①(①) 嶺上ツモ:④ ドラ:南・?

優希「門前清一出和了り見逃しで大明槓からの嶺上開花!? 超わけわかんないじょネリちゃん!!」

やえ「これは……しかし、誰なんだ……? 明らかに意図した嶺上開花だと? 莫迦な……そんなもん都市伝説でしか聞いたことがないぞ――」ゾクッ

誠子「け、けど、確かに嶺上開花はすごいことですが! これだと点数が変わりません!!」

セーラ「……ほな、ここでは終わらへんっちゅーことやんな――」

     ネリー『もいっこ……カンなんだよっ!!』ゴッ

優希・誠子・やえ・セーラ「っ!!!」ゾワッ

 ――《新約》控え室

     ネリー『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ネリー手牌:③③③③④④⑤/②②②②/①①①(①) 嶺上ツモ:? ドラ:南・9・白

絹恵「姫子おおお!! うちもうダメ!! ずーっと我慢してきたけど、もう限界っ!! こんな異常現象のオンパレードもう一秒やって耐えられへん!!」カタカタ

姫子「門前清一見逃し大明槓――からの嶺上開花……からの二連槓やと?」ゾクッ

和「偶然にしてもひど過ぎます……」

怜「信じられへん……王牌は支配領域《テリトリー》の《未開地帯》やで? その《最高峰》からあんな自在に有効牌を――」ハッ

姫子「うおぉうおおおわっ!? また嶺上と!? これで二連続嶺上開花!!」

絹恵「いやああああああああ!! 聞きたない!! 聞きたないそんなことッ!!」カタカタカタカタ

怜「せやけど、これでも12000……!! いや、嘘やん! いやいやいや!!?」ゾワッ

     ネリー『もいっこー……カンッ!!』ゴゴッ

和「SOA……」

 ――《永代》控え室

     ネリー『もいっこー……カンッ!!』ゴゴッ

 ネリー手牌:④④④⑤/③③③③/②②②②/①①①(①) 嶺上ツモ:? ドラ:南・9・白・西

塞「いっやああああああああ!! どういうこと!? ねえ高鴨!! これどういうことー!?」ユッサユッサ

穏乃「まったくわかりません……!? というか信じられません!! 山のあんな深いところを、あそこまで完全に支配できるなんて――!?」

純「いや……これは本気でヤバ過ぎんだろ! 衣や透華や小蒔でさえ、あの《未開地帯》の《最高峰》にはまともな手出しができねえんだぞ……!? それをあんな易々と――」

まこ「なにが恐ろしいて……穏乃の話じゃと、この能力を持った雀士が世界のどっかにおるっちゅうことなんじゃろ?
 わしゃあ死んでもゴメンじゃけえの、こんな化け物の相手だけは……!!」

     ネリー『ツモ……ッ!!』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「うぎゃあああああああああ!!?」ガタガタ

純・まこ「うあぁあぁー……」ゾワッ

穏乃「す、すご過ぎる……っ!? こんな!! こんなことを狙ってできる人が世界のどこかにいるんだ……!! 一度でいいから打ってみたいっ!!」キラキラ

 ――対局室

 南三局七本場・親:照

ネリー「ツモ……ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ネリー手牌:④④④⑤/③③③③/②②②②/①①①(①) 嶺上ツモ:⑤ ドラ:南・9・白・西

久(ラス前に今日一番のオカルトが来たわっ!!)ゾワワッ

初美(ちょっと心臓が止まりかけたですよー……)ドキドキ

照(ネ……ネリーさん、それは――)

ネリー「清一……対々……三暗刻三槓子……」

照(咲っ!!?)ゾワッ

ネリー「嶺上開花――24000は26100……責任払いなんだよっ!!」ゴッ

照「は、はい」チャ

ネリー(うわああああああああ!!? 本当に《神託》が次々とっ!! すっげえええ!! マジすげえええ!!
 あの《神域》を完全に支配するとか!! とんでもねえな!! これが原点にして源泉――始祖の大魔術師かッ!!!
 でもなんで!!? どうなってんの!!? こんな神話級のメロディ……ッ!!! 魔術世界にいた頃だって奏でたことないんだよ!!?
 さては、てるか!!? てると打ってるからなのかああああ!!?)

照(ま、まさか――ネリーさん……!! 私の咲愛を――咲はこの世にたった一人しかいないという世界の大原則を逆手に取って、こんな真似をしてくるなんて!! なんて卑劣な……ッ!!)ギリッ

ネリー(にしても……おっかしーなぁ。最後の一音は赤五のはずだったんだけど、もしかして、てるになんかされた……?)

照(数えは死ぬ気で阻止したけど……嶺上開花そのものは阻止できなかった! くっ……こんなことがッ!! 咲は私の妹!! 咲は唯一無二の私の妹!! 咲と同じことができるのは咲だけなのに……!!!)ゴゴゴ

ネリー(あっれー……? てるの曲調が思いっきりダークサイドに堕ちてるんだよ……? なんで? 私なにか悪いことした?
 まあ、確かに、狙って嶺上開花なんて神業、目の前でやられたら卒倒もんだけどさ……)

照(ネリーさん……私はあなたを《絶対》に許さない――ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(ひいいいいぃっ!? よくわかんないけど、天岩戸より開けちゃいけない何かを開けちゃった!!? このてるには勝てる気がしないんだよ……!!!)ゾゾゾ

初美:53500 ネリー:139000 照:151800 久:55700

 ――観戦室

憩「いやーぁ、凄まじいもん見たな。久しぶりに自分の目を疑ったで。
 あ、いや、つい昨日の花田さんとのオーラス以来やから、全然久しぶりでもなんでもないんやけど」

煌「恐れ入ります」

憩「さて……連荘ばっかでかなり長かったけど、とうとうオーラスやな。ここまで、ネリーさん8和了、宮永照9和了。そのうち、宮永照からネリーさんへの直撃は、安いの二回と、《八咫鏡》の国士が一回。
 ほんで、ネリーさんから宮永照への直撃は、大星さんのダブリーと今の嶺上開花責任払いと、合わせて二回。点数的には子の役満分+α。
 今の……赤五を引けとったら、ネリーさんが捲くり返してたんやけど。なかなかままならんなー」

煌「それにしても、ネリーさんは嬉しいことをしてくれますね。あの宮永照さんから直撃を取るのに、我らが《煌星》のメンバーの力を使っていただけるとは」

憩「……ま、確かに、花田さん――っちゅーか運命論の理屈やと、コピー元である大星さんなら、あの局あの山で同様に直撃が取れるってことやもんな。
 まだ直接打ってへんから《照魔鏡》でネタバレしとらへん状態とは言え、快挙やわ」

煌「鼻高々です」スバラッ

憩「さーて……オーラスは誰になるんかな、っと」

煌「ふむ。右目を閉じましたね」

憩「今度は《磨道》の福路さんかー。これで右目を開いて目の色までコピーできてたらオモロいねんけどな」

煌「さすがにそれは無理でしょう」

憩「せやろな。まぁ……ただ、ちゃう人の目の色が変わったな」

煌「はて――」

 ――対局室

 南四局・親:久

久(いやー。手も足も出ないとはこのことね。経験も、技術も、知識も、使えるものはなんでも使っているのに、まるで話にならない。後半戦はここまで焼き鳥。蚊帳の外)

 東家:竹井久(久遠・55700)

久(《頂点》同士が高さ比べをしているみたい。その足元にも及ばない私は、ただ空を仰いで、見ていることしかできないんだわ。
 両手に憧れと寂しさを抱えて、そこから一歩も動けずに、天上を見上げることしかできない……)

久(三年前のインターミドルも、二年前の一軍決定戦も、一年前の一軍決定戦も、私はずっと見上げているだけだった。
 夏は毎年そうなのよね。空は高過ぎて、天は眩し過ぎて、私は私の影と一緒に、地面に縛り付けられていた)

久(それでもいいって思ってた。学生議会の仕事は楽しかったし、仕事の合間に、智葉とゆみと恭子と卓を囲むあの日常が好きだった。
 《スクール》時代だって、面子は揃ってた。一年生のクラス対抗戦のときに誓った約束は大切にしていたけれど、《旧約》は《久約》――それはもう、今更引っ張り出すには、あまりに古ぼけていたわ)

久(私には学生議会、洋榎には《姫松》、哩には《新道寺》、シロには臼沢さんたち……とっくに新しい居場所が出来ていたんだもの。
 その全部を奪ってまで、過去に縛られることはない。今が楽しいんだから、それでいいじゃない。そう……思っていたのにね)

    ――これは《頂点》への最初の一歩……!

            ――本当に楽しいのはこれからじゃないっ!!

久(がつーんと来たわよね。大人らしく、大人しくなってた私の心の仮面まで、あの子は剥ぎ取った。
 はっきりと気付かされたわ。全部、満足したフリだったんだって。諦めたフリだったんだって)

        ――いいわ、いつか必ず勝ってやるからっ!!

     ――久にも! 久より強いっていう連中にも!!

                ――あの宮永照にだって……!!!

久(憧が思い出させてくれた。本気で《頂点》に立ちたいと思って打ってたあの頃。
 上へ行けば行くほど、桁違いに強くなっていく同世代のライバルたちに、心の底からわくわくしたこと)

          ――……知っていますか?

  ――青いサファイアと赤いルビー……二つは同じ素材の宝石なんですよ。

久(ごめんなさい……美穂子。私、知ってたわよ。覚えていたわ。なのに、嘘をついた。
 あなたと正面から向き合うことが恐かったの。本気で《頂点》に立とうとしているあなたに……気後れしてしまったの)

久(三年前のインターミドル――私のせいで実力を出し切れなくて、あんなにひどい負け方をして、それでも、前に進み始めた美穂子。その強い瞳に見つめられるのが……私は恐かった。
 だって、あなたの綺麗な瞳は、きっと、私があれから立ち止まったままなのを、一瞬で見抜いてしまうから)

久(でもね、美穂子。今なら言える気がするの。あなたの視線を正面から受け止めて、ちゃんと言える。
 ごめんなさい、って。そして、また一緒に打ってくれますか、って。
 また一緒に、《頂点》への挑戦権を懸けて、真剣勝負をしてくれますかって)

久(もちろん、まだ恐いと思う気持ちは残ってる。勝てないかもしれない。負けちゃうかもしれない。
 どころか、またあの時みたいに、勝負とは全然関係のないところで、《頂点》への道が途絶えてしまうかもしれない。
 けど、それでも――前に進もうって、私は決めたから……っ!!)

久(美穂子……三年も待たせて、本当にごめんなさい。遅くなったけれど、私は帰ってこれたわよ。これでやっと、あなたの前に立つことができる。
 立ち止まったりなんかするもんですか。今度こそ、ちゃんと最後まで駆け抜けてみせる――高過ぎて眩し過ぎる《頂点》に向かってね……!!)

ネリー・照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久(そうよ! ここは私がずっと憧れていた場所じゃない! ずっと見上げていた天上じゃない!
 このまま終わっていいの!? よくないっ! そんなの全然……つまらないじゃないッ!!!)

久(なんのために、もう一度歩いてみるって決めたの!? なんのために、もう二度と立ち止まらないって決めたの!?
 今この瞬間に、もう一歩を踏み出すためでしょう……!? 私はこの時を――三年前からずっと待っていたんでしょう!?)

久(待つことにはもう慣れたわ。十分待ったわよ。大丈夫……そのおかげで、私はみんなに会えたんだから。
 今の私は三年前とは違う。一人じゃない。一人じゃないから、こんなに弱い私でも、前に進む勇気が持てる――!!)

久「チー」タンッ

 久手牌:2344588⑥⑦⑧/(1)23 捨て:7 ドラ:5

照(……鳴かれた?)

 北家:宮永照(永代・151800)

ネリー(えっ、なにそのメロディ……?)

 西家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・139000)

久(断ヤオ一盃口ドラ一テンパイを崩して役ナシ。また憧にわけわかんないって呆れられるかしら。
 でも、これでいいの。一索――ぴーちくぱーちくうるさい鳥さん。これは……洋榎ってことにしましょう)

     ――なあ、一個、素朴な疑問を呟いてええかな?

          ――これ、五人目のスペース空けたんはええけど。

  ――二年後はこれ、うちの机ちゃうのに、一体どないしてそいつにここ書き込ませるん?

久「ポン」タンッ

ネリー(は――?)

 久手牌:2345⑥⑦⑧/8(8)8/(1)23 捨て:4 ドラ:5

久(ふふっ。八索は緑色でMだから哩。なーんて、言ったらビンタされそうね。哩ってば、本当にむっつりさんなんだから……)

                ――すごかこと思いついたと!

   ――二年後のこん机の持ち主……!

          ――そいつば、五人目にしたらよかッ!!

初美(《最悪》……今度は何をしてるですかー?)タンッ

 南家:薄墨初美(新約・53500)

ネリー(また変なメロディ。超信じられないことに、まるで検索に引っかからない。
 けど、これ……なんとなく、今私が奏でているみほこの曲とは、相性《最悪》な気がするんだよ)タンッ

照(竹井さん……?)タンッ

久(さーて、いっつも遅れてやってくるシロさんは、今日もダルダル重役出勤なのかしら?)タンッ

 久手牌:2345⑥⑦白/8(8)8/(1)23 捨て:⑧ ドラ:5

初美(混一狙いですかー? いや、《最悪》がそんな普通っぽいことするわけないですー)タンッ

ネリー(むむむ……これはマズいなんだよ)タンッ

照(なるほど。これはわからない)タンッ

久(そうそう。シロ――あなたは、なんだかんだで仕事はきっちりやるタイプよね)タンッ

初美(生牌ですけどー、どうなるか)タンッ

久「ポン」タンッ

 久手牌:2345/白白(白)/8(8)8/(1)23 捨て:⑥ ドラ:5

久(混一テンパイ。役牌確定。さすがシロね。いつもありがとう)

    ――都市伝説曰く、新入生代表になる生徒は問題児か優等生のどっちからしい。

       ――愛宕先生は前者で、赤土先生は後者だったとか。

  ――二年後の新入生代表が優等生のほうなら……ダルくなくていいんだけどな。

初美(出来面子を崩して見え見えの混一……?)

ネリー(わからない。わからないけど、まだ《流れ》は私にある。このまま行けば、無問題なんだよ!)タンッ

照(あっ……また和了れなかった。しまったな。さっきの局でムキになり過ぎた。
 いや、しかし、咲のためにやったことだから、悔いはない。今は今できることをしよう……)タンッ

久(さてさて……ここであなたが来るわけね、憧――)

 久手牌:2345/白白(白)/8(8)8/(1)23 ツモ:[⑤] ドラ:5

久(今でもはっきり覚えているわよ。真っ赤なドレスに身を包んだ一年生。
 可愛くて、見た目は少し軽そうで、それでいて瞳は怜悧に光ってて、口を開けば小生意気で、思わず一目惚れしそうになったわ)タンッ

 久手牌:234[⑤]/白白(白)/8(8)8/(1)23 捨て:5 ドラ:5

初美「ポンですよー! ドラいっぱいですよー!!」タンッ

ネリー(ここでー!? 嘘!! 《流れ》が断ち切られたんだよ……!?)タンッ

照(ここまでかな……)タンッ

久(あら?)ツモッ

 久手牌:234[⑤]/白白(白)/8(8)8/(1)23 ツモ:⑤ ドラ:5

久(張り替えた途端にすぐやってくるなんて、このスピードは私には真似できないわね。さすが速攻屋の憧。鳴いて仕掛けたときの和了スピードも、頭の回転も、抜群に速い優等生……)

     ――以上。新入生代表、一年一組……新子憧。

久(けど……違うでしょ? そうじゃないでしょ、憧――)スッ

ネリー(うえぇ――っ!? このメロディ、まだ続きがあるの!?)ゾクッ

照(これは……)

初美(何を企んでやがるですかねー?)

久(言ったはずよ、憧。私は、弱い子には興味ないって――ッ!!)

       ――あたし……! あたしは――強くなりたいッ! 勝ちたいッ!!

   ――勝って勝って勝って……学園都市の《頂点》に立ってやるッ!!!

久(憧……あなたはもっと強い子のはずよ。まだまだ強くなれるはずよ。これくらいで満足してもらっちゃ困るわ。
 私についてくるんなら、私の隣にいたいって言うんなら――ちゃんと真っ赤なドレスに着替えていらっしゃい!!)タンッ

 久手牌:234[⑤]/白白(白)/8(8)8/(1)23 捨て:⑤ ドラ:5

初美(げっ、この感じは!?)タンッ

ネリー(こ、こんなことが……!! 完全に《原譜》レベルの一曲なんだよ!?)タンッ

照(わー……)タンッ

久(さあ、憧っ!! お色直しは済んだかしら――ッ!?)スッ



      パシュッ



              初美(やっぱ飛ばしやがったー!?)



                        ヒュルルル



     照(たーまやー)



          ルルルルル



                 ネリー(かーぎやー! なんだよっ!!)



                         パシッゴッタァァァァァァァン



久「ツモ――」ゴッ

初美・照・ネリー「ッ!!!」ゾワッ

久「白赤二……2000オールッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 久手牌:234[⑤]/白白(白)/8(8)8/(1)23 ツモ:[⑤] ドラ:5

初美(断ヤオ一盃口ドラ一を捨てて役ナシ! 出来面子を崩して白を集めたのに、そこから混一とドラを捨てて赤五単騎!!
 それを一巡でツモっておきながら和了り拒否して次巡に残り一枚しかない赤を引いてくるとか……!! もー解説するのも《最悪》ですよー!!!)

ネリー(三局連続で《原譜》級のメロディ……!! これ見てる人たちみんな発狂するでしょ!!?)

照(《最悪》の大能力者は……能力を失っても《最悪》)

久(最高に綺麗よ、憧。やっぱり、あなたみたいな強い子には、真っ赤に燃えるドレスがお似合い。
 もうっ、ますます大好きになっちゃったじゃない。憧は本当に罪な女の子よね。まったく誰に似たんだか。ま、それはさておき――)

久「さて……と! やーっと調子が出てきたかしら? というわけで、まだまだお楽しみはこれから! 連荘続行よっ!!」ゴッ

ネリー「ええええぇー!? まだ奏で足りないの!? もう十分すっごいの聞いたよっ!?」ガタッ

久「あらあら。何を言っているのかしら、この子は。麻雀は一位を目指すものでしょう?
 トップまで十万点近い差があるっていうのに、ここで和了り止めをする雀士がどこにいるのよ」

ネリー「いやいやいや!! そっちこそ何言ってるのなんだよ!? 十万点近い差ができるほど力の差があるんだよ!?
 今みたいな一曲は千年に一度あるかないかの超激レアメロディ!! ここで終わりにしておいたほうが正解に決まってるんだよ!!?」

初美「ネリーさん……そんな一般論をこの《最悪》に説いても馬鹿の耳に念仏ですー。
 こいつがそんな素直なやつだったら、私も苦労はしてないですからねー」

ネリー「さ――《最悪》も《最悪》なんだよ!? 私の脳内には一千年分の蓄積があるっ!! その私が言ってるんだよ!?
 ここで連荘続行しても、点差が開くだけ!! そういう《運命》!! ひさだってそれくらいわかってるでしょ!?」

久「一千年分の蓄積? 《運命》? よくわからないけど、ネリーさんってすごいのね。道理で強いはずだわ」

ネリー「じゃ、じゃあ――」

久「けれど……それが何だって言うの? たとえ結果が見えていようと、力の差があろうと、私は和了り止めなんかしてやらない。
 どころか、分の悪い勝負ほど……私って雀士は燃え上がっちゃう性質なのよね――!!」ゴゴ

初美「まあ《最悪》ならそうですよねー」

ネリー「い、いやでも……っ!!」

久「いいこと、ネリーさん? よーく覚えておきなさい。
 たとえあなたに何千年分の蓄積があろうと、あなたが《運命》の全てを知っていようと、私には、そんなこと関係ない」ゴゴゴゴゴ

初美「そうですねー。そうですよー」

久「既存のあらゆる概念や観念は――知識も、経験も、法則も、論理も――私にとって意味をなさないのよ。
 私はあなたの理解の外側にいる。あなたの理屈《ルール》で私を縛ることは決してできない。そう、つまり……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー「ひ、さ――」

久「私の《最悪》に常識は通用しないわッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー「……っ!!?」ゾワッ

初美「まったく相変わらずですねー、《最悪》は」

久「お褒めにあずかり光栄だわ、《最凶》」

初美「褒めてねーですよー」

ネリー「そ、そんなことって……!?」

初美「ネリーさん、こいつと言い合うなんてバカな真似はやめといたほうがいいですよー。こいつの《最悪》は《罪悪》。端から私たちとは背負ってる業が違うですー。
 そもそも、理屈でオリたり力に降参したりするお利口さんじゃないんですよねー。
 こいつの《最悪》を止めたいなら、それこそ《絶対》の《通行止め》でも持ってこないと無理無茶無駄ってもんですよー」

ネリー「嘘でしょ……」

久「残念ながら、嘘じゃないのよね。誰がここで止まるもんですか。せっかく盛り上がってきたんだもの。やっと憧れの舞台に立てたんだもの。もっともっと私を楽しませなさいよっ!!」

ネリー「……わかったんだよ。ひさがその気なら、こっちも全力で叩き潰すまでだよッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久「ひゅうっ! いいわねっ!! そーこなくっちゃ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美「さーて……これで焼き鳥は私だけですかー。気合入れていくですよー。このまま終わったら赤っ恥ですからねー」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照(頑張ろう……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久「みなさん準備はいいかしらっ!? 張り切って行くわよー、一本場ッ!!」ゴッ

初美:51500 ネリー:137000 照:149800 久:61700

 ――《久遠》控え室

憧「ひ……久ぁ……」ウルウル

洋榎「泣くな泣くなー憧ちゃんよ。せっかく久が楽しんどるんや。うちらも一緒にわいわいやろーや」ナデナデ

憧「うっ……ううう……!!」

哩「笑って応援しんしゃい、憧。そいがきっと、久の力になっけん」

憧「わ、わかってるけどぉ……」

白望「泣かれると……ダルい……」スッ

憧「はうっ……!? い、いいわよっ。シロに世話なんて焼かれたらおしまいだもん。自分でやる……!!」ゴシゴシ

洋榎「さっ、憧ちゃんが泣いとる間に、ええ感じに《最悪》な手が仕上がってきたでーっ!」

哩「能力の使えなかはずやのに、ようやっとね」

白望「それでこそ……久……」

憧「あ、あんな……!? もうっ!! またわけのわからない待ちして――!!」

     久『ツモよ……700オールは800オール!』ゴッ

憧「本当に……久は《最悪》よ……」

     久『二本場ッ!!』

洋榎「せやけど、憧ちゃんはそんな久のことがー?」

哩「《最悪》な久のことば――」

白望「最高に……」

憧「大好き……っ!! 大好き大好き大好きっ!! だから、久っ!! 頑張っ――」

     ネリー『ロンですなんだよ……12000は12600』

     久『っ!?』

憧「う、ぁ――」

洋榎「ほーぅ、最後はあいつやったか」

哩「《百花仙》――藤原利仙」

白望「《最愛》の大能力者……」

憧「久……お疲れ……マジでお疲れ」

     久『ちゃー……やられたわーっ! けど、まだまだ諦めないからねっ! さっ、じゃ、次行きましょうっ!!』

憧「え……ひ、久――?」

 ――対局室

 南四局二本場・親:久

ネリー「ロンですなんだよ……12000は12600」パラララ

久「っ!?」

初美(綺麗なド真ん中の三色。これは利仙ですかー)

照(終わった……)パタッ

久「ちゃー……やられたわーっ! けど、まだまだ諦めないからねっ! さっ、じゃ、次行きましょうっ!!」

ネリー(え? ひさ?)

照(竹井さん……?)

久「なーにきょとんとしてんのよ。ラス親は《連皇》の薄墨でしょ? 《一期》の藤原さんにはやられたけど、まだまだ私はトップ取る気だからね。油断しないでよ、《初代》の宮永さんっ!」

初美「お、おい、竹井……」

久「なあに? っていうか、薄墨。あなた、私のこととやかく言う前に、その乱れに乱れた巫女服をどうにかしなさいよ」

初美「……わかったですー。わかったですからー、もうそれくらいにしとくですー」ガタッ

久「なんで席を立ってるの……? ねえ、薄墨。勝負はまだ――」

初美「よーく見ろですー。これはクラス対抗戦の決勝じゃないですー。一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の三回戦。あれからもう二年以上経ってるですよー」

久「よ……よく言ってることがわからないわね。二年も経ってる? 嘘つかないでよ。あなた、一つも成長してないじゃない……!!」

初美「これでもちょっとだけ身長が伸びたですー」スッ

久「や……ちょ、やめてよ、薄墨っ!! 私は遊び足りないの!! あなただってそうでしょ!?
 やっとお祭りらしくなってきたんじゃない!! もっともっと楽しみましょうよ!! だって、ここで終わりなんて、そんな――」

初美「それが規則《ルール》ですー。さ、いい子だから大人しく帰るですよー……」ポム

久「な……なんなのよ、あなた!? 口を開けば規則規則って――私はまだ遊んでいたいのにっ!!」

初美「門限は守れですよー。大丈夫ですー。今日でこの星が滅ぶわけじゃないんですからー。明日でも明後日でも、また好きなときに遊べばいいんですよー」

久「私は今遊びたいのっ!! この面子と!! 今この瞬間に打ちたいの!!」

初美「何事にも終わりは来るですー。だから今が楽しいんですよー。私の言ってること何か間違ってるですかー?」

久「ど、どうして……!? どうしてよ、薄墨っ!! なんであなたはそうやって……いつもいつも私のこと――」

初美「それはもちろん――お前のことが大嫌いだからですよー、竹井……」ギュ

久「薄墨……バカ……本当に信じられない……っ!!」ポロポロ

初美「それはこっちの台詞ですー。っとに、最後まで世話焼かせるなですよー。私たちはもう三年ですよー?
 しゃんとするですーしゃんと! 一年生の模範になるように……しゃんとするですーッ!!」ベシッ

久「痛っ!? も、もう……こんなときまでっ!!」

初美「まったく仕方のないやつですねー。後ろ見るといいですー」

久「え――」

憧「……久の《最悪》。いつまで泣いてんのよ。いや、泣いてる久もなかなか悪くないけどさ。
 でも、あたしの久は……あたしの大好きな久は、残念ながらそっちじゃないのよね」

久「憧……」

憧「まったく。こちとらこれから十万点差をひっくり返さなきゃいけないのよ?
 せめて笑って送り出しなさいっての。いくら久が《最悪》でも、それくらいはできるでしょ」

久「……あははっ、憧ってば、いつの間にそんな強くなったの?」

憧「バカ、なに言ってんの。久が強くしてくれたんじゃない」

久「そう――そうだったわね。ありがとう。それから、大分やられちゃって、ごめんなさい。あとは……よろしくお願いします」ペッコリン

憧「や、やめてよ気持ち悪い……っ!! っていうか、あたしより先に頭を下げなきゃいけない人がいるでしょ!?」

久「あらあら。薄墨に頭を下げるとか、私、死んでも嫌よ」

初美「おいコラ竹井。今ここであの世に送ってやってもいいんですよー……?」

憧「ホッッッントすいません! うちの久がすいません!! よく言って聞かせますからっ!!」ペコペコッ

久「わおっ!」

初美「一年生にここまでさせるとは……さすが《最悪》ですよー」

久「まっ、憧に免じて私は許して♪」

憧「久ーっ!? あんたってやつは本当に――」

久「冗談よ。ってなわけで……本当に、あれこれかれこれ、ごめんなさいね。それから、ありがとう。あなたに出会えてよかったわ、薄墨」ペッコリン

初美「ふ、ふんっ。やめろですよー、気色悪い。こっちはお前なんかと一生出会いたくなかったですー」プイッ

和「何を子供みたいな意地張ってるですか……」

初美「和ーっ!?」

和「委員長がとんだ失礼を致しました。深くお詫び申し上げます」ペコッ

久「しっかりしてるわねー」

和「ちなみに……言わなくてもわかると思いますが、竹井会長にはあとでみっちり反省文を書いていただきますから。
 あと、初美さんと一緒に、お説教&デジタル講座を受けていただきます」

久「本当にしっかりしてるわね……」

初美「っていうかなにゆえ私も巻き添えですかー!?」

憧「……原村和」

和「新子憧さん……あなたも反省文&お説教ですよ」

憧「わかってるわよ。けど、お互い、その前にやることやりましょうか」

和「そうですね。とにもかくにも点棒を取り返さなくては」

初美「も、申し訳ないですー。あとは頼んだですよー、和」

 四位:薄墨初美・-49300(新約・50700)

和「どこまでやれるかわかりませんが、私は私のベストを尽くします」ゴッ

久「……憧、あとはお願いしていいのかしら」

 三位:竹井久・-48500(久遠・51500)

憧「決まってるでしょ! 任せなさいよっ!!」ゴッ

憧・和「じゃあ(では)! 行ってくるわ(きます)!!」

久・初美「行ってらっしゃい(ですよー)!!」

 ――――

 ――――

ネリー「いやー強いねー、てる。100点が遠いんだよー」

 二位:ネリー=ヴィルサラーゼ・+48800(幻奏・148800)

照「よくわからないけど、ネリーさんの世界(?)で打ってたら、たぶん、結果は逆になってたんじゃないかな」

 一位:宮永照・+49000(永代・149000)

ネリー「まったまたー。そんな思ってもないこと!」

照「うん、まあ、それはそう……」

ネリー「またどこかで打とうよ、てるっ!」

照「そうだね。決勝とか」

ネリー「次は私が勝つからね~! それまで負けないでよ、てる!!」

照「うん。わかった」

 ダダダダダダダダダダ

照・ネリー「ん、このダッシュ音は――」

穏乃「照さあああああああああん!!」ガバッ

優希「ネリちゃあああああああん!!」ガバッ

照・ネリー「うおっぷ……っ!」ヨロッ

穏乃「照さん! さすがですねっ!!」ギュー

優希「ネリちゃん! すごいじぇ!!」ギュー

照・ネリー「ありがとう」

穏乃「ではっ! 照さんの言いつけ通り、このまま一位を死守しますっ!!」

優希「むっ!? そこなジャージ! 何を言っているじょ。貴様のトップなど、私の東初で即刻陥落大暴落だじぇ!!」

穏乃「片岡さん、ですね。私は高鴨穏乃です。もちろん、全力で阻止しますよ!!」

優希「ふっふっふっ、身の程知らずの小童め! 世界の広さを教えてやるじょ!!」

ネリー「じゃ、ゆうき。あとは任せたなんだよっ!」

優希「応だじぇ!!」

照「高鴨さん。えっと、その、この点差は私の力不足だから、朝言ったことは気にしないで、普通に頑張って」

穏乃「なんのこれしき! 私のすごパに限界はありませんっ!!」

優希「じょじょじょー? シズちゃんとか言ったな。ほざくではないか、お主!!」

穏乃「片岡さんっ! 残念ですが、あなたの風がどんなに疾くても、私の山は動きませんっ!!」

優希「フッ……貴様とは、なんだか他人という気がしないじぇ、シズちゃん。構わず私のことは優希と呼べだじょっ!! あとタメ口でいいんだじぇ!!」

穏乃「実は私もそんな気がしてたよ、優希っ! うーっ、楽しくなってきたああああああ!!」

優希「私もだじぇええええええ!!」

照・ネリー「じゃ、行ってらっしゃい(なんだよ)」

穏乃・優希「行ってきます(くるじぇ)!!」ゴッ

 ――観戦室

憩「いやいや、えらいもん見てもーたわ。ウチは《特例》やから除くとして、まさかこの世に宮永照と互角にやり合える人間がおるとはな」

煌「たぶんですが、ネリーさんのお仲間の方々も、同じことを言うでしょうね」

憩「あとでガイトさんに感想聞くんが楽しみやで~」

『まもなく次鋒戦を開始します。対局者は席についてください』

煌「さてさて、次鋒戦は一年生対決ですか。ネリーさんを除けば、各チーム一人ずつの一年生ということになりますね」

憩「ゴールデンルーキーこと片岡さん、《デジタルの神の化身》の原村さん、竹井さんの愛弟子で速攻屋の新子さん、ほんでもって、学園都市最高の《原石》こと高鴨さんかぁ」

煌「私は全員と打ったことがありますよ」

憩「そらすごいな。ほんで、そんな花田さん的には、どないなると思う?」

煌「一年生はいい意味でも悪い意味でもブレがあります。皆さん実力も伯仲していますし、なかなか読めませんね」

憩「一年生を四人も抱える花田さんらしい意見やね。さっすがやわー」

煌「恐れ入ります。……と、そろそろ淡さんたちを起こしますか」

憩「せやね。本気でヤバいなら帰ったほうがええし、そうやないんやったらちゃんと偵察してもらわな。ここに来た意味がのーなってまう」

煌「では、失礼して――と。淡さーん、お身体の具合はいかがですかー?」

憩「菫さ~ん、辛いん治りまし――」ハッ

淡「うーん……キラメー、だっこー」ギュー

菫「く、苦しい……」ウウウ

憩「」ブチッ

煌「おやおや」

 バキッボコッドカッボコスカボコスカ(イメージ)

淡「こんな手荒な起こされ方は生まれて初めてだよーっ!?」

憩「ウチもこんなにキレたんは生まれて初めてやわッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫「よ、よくわからんが、本人に悪気はないんだ。そうムキにならなくても……」

憩「あきません。こういうケジメはきっちりつけとかな。また同じことが起きるに決まってますわ」

煌「淡さん、ちゃんと謝ってください」

淡「うぅー……ごめんね、ケイ?」

憩「いくら謝っても許さへん……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「キラメー! ケイが恐いよーっ!!」ウワーン

煌「申し訳ありません、荒川さん。なんとか淡さんの粗相をお許しいただけないでしょうか?」

憩「……ほな、花田さん、ちょっとこっち来て」

煌「は、はい」

憩「ふう~、っと」ゴロン

淡「ちょおおおおおおおお!? ケイ!? 誰の許可を得てキラメの膝を枕にしてるわけー!?」

憩「なあ、花田さん、次鋒戦いっぱいこうしててええ?」

煌「よくわかりませんが、こんなことで荒川さんの気が済むのなら、お好きなだけどうぞ」

淡「キラメー!?」ガーン

憩「ちなみに、大星さん。もういっぺんでも菫さんに失礼な真似してみい。花田さんの膝は一生ウチの枕になるで……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「それは大変ですね。というわけで、淡さん。大人しくしていてください」

淡「なんてこったい!!」

菫「荒川の機嫌を損ねるとこういうことになるのか……」

憩「はーぁ! 快適やわーっ! 花田さんの膝枕、最っ高やわー!!」

淡「ぐぬぬぬぬぬぬ……っ!!」

煌「おっと、皆さん。次鋒戦が始まりますよ」

淡「それどころじゃないよー!?」

 ――対局室

優希「よろしくだじぇ!!」

 東家:片岡優希(幻奏・148800)

穏乃「よろしくお願いしますっ!!」

 南家:高鴨穏乃(永代・149000)

憧「よろしく」

 西家:新子憧(久遠・51500)

和「よろしくお願いします」

 北家:原村和(新約・50700)

『次鋒戦前半――開始ですっ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回は一週間以内に更新します。

情報が増えたので、少しまとめっぽいものを上げて本日は消えます。

<レベル5一覧>

 序列:名前《通称》

 第一位:花田煌《通行止め》

 第二位:松実玄《ドラゴンロード》

 第三位:渋谷尭深《ハーベストタイム》

 第四位:鶴田姫子《約束の鍵》

 第五位:園城寺怜《一巡先を見る者》

 第六位:宮永照《八咫鏡》←New!

 第七位:高鴨穏乃《原石》《深山幽谷の化身》

乙、
照とネリー対決凄すぎる……
けどネリー、咲の能力だときづいてないのか?

<クラス対抗戦決勝進出チーム(現三年生)>

一年○組・《チーム名》:リーダー、メンバー×4(名前順)

 ――――

一年一組・《旧約》:竹井久、愛宕洋榎、小瀬川白望、白水哩、福路美穂子

一年二組・《初代》:弘世菫、石戸霞、臼沢塞、辻垣内智葉、宮永照

一年三組・《連皇》:小走やえ、薄墨初美、江口セーラ、狩宿巴、清水谷竜華

一年四組・《一期》:藤原利仙、鹿倉胡桃、佐々野いちご、松実宥、《三家立直》さん

 ――――

・優勝はチーム《初代》

・辻垣内さん、小瀬川さん、狩宿さん、佐々野さんが同卓(先鋒戦)。

・臼沢さん、愛宕さん、江口さん、《三家立直》さんが同卓。

・石戸さん、福路さん、清水谷さん、松実さんが同卓

・弘世さん、白水さん、小走さん、鹿倉さんが同卓。

・照さん、竹井さん、薄墨さん、藤原さんが同卓(大将戦)。

 ――――

ちょいちょい話題になるクラス対抗戦です(本編に出た情報を組み立てていくとこうなるはず)。二年前の春に行われています。

そういえば咲ってまだリンシャンしてない?

>>160さん

はい、気付いていません。

>>164さん

はい、咲さんは公の場で一度も嶺上開花を和了っていません。

選別戦、合宿、予選、本選、他、マネー狩りの方々を病院送りにしたときも、嶺上開花は和了っていません。

 *

このSS内での咲さんは、多くの人から《プラマイゼロ》使いと認識されています。カンが異常に多いことについては、

・点数調整にカンが深く関わっている(加治木さん談)

・《プラマイゼロ》の符の《制約》をクリアするため(小走さん談)

と解釈されています。

大星さんはカンしてカン裏を乗せるランクS、咲さんはカンして点数調整をするランクS、みたいな感じです。

また、今日の更新分でちらっと触れていますが、この世界の常識では、『嶺上開花使い』=『神話か都市伝説の中にしか存在しない化け物』です。


ってことは>>118の煌の最後の台詞には咲は含まれていないってことかな?

相変わらずの長時間乙
ネリ江のくだりはワロタwwww

しかし決勝は更に荒れるわけだから学園都市消し飛ぶんじゃねえの?

ちょっと外れた残念
#照100点差で勝ち

にしてもよく練られてて読み応えあるなめっちゃ乙乙

乙です
頂上対決はとりあえず照が制したか

いろんな意味で部長らしい感じで、部長好きとしては満足

>>163
最初に煌と淡と打ってた《三家立直》の先輩の名前がこんなところでも
つかこの時に胡桃と接点あったから、今のトーナメントでもチーム組んでたのか

>>166さん

花田さんは咲さんが嶺上使いであることを知っていますので、含まれています(荒川さんがどう受け取ったかはご想像にお任せします)。

公の場でやってないというだけで、《煌星》の練習での咲さんは平常運転ですので。もちろん、大星さんたちも知っていますし、嶺上使いの事実もまあ咲さんだしみたいな感じで普通に受け入れています。

>>167さん

ちなみに、心配されたかどうかわかりませんが、雅枝さんはちゃんとご存命です。

>>168さん

《頂点》対決は、前半戦、後半戦、ともに照さんの100点差勝ちです。合わせて200点差勝ちですね。

>>169さん

《三家立直》さんの供養(?)のために、無駄に設定メモを開示してみます。

 *

 ~《三家立直》さんの略歴~

幼少期:祖母、父、母と家族麻雀。テンパイ則リー一家で育つ。

小学時代終わり:祖母、帰らぬ人となる。能力発現。

 *

中学時代:祖母から受け継いだ麻雀でインターミドルを目指す。麻雀部に入部、練習に打ち込む。

その能力の強度から、仲間たちから『これはきっと超能力だ!』と喝采を浴びる。白糸台高校への進学を考え始める。

三年生のとき、チームを地区大会優勝に導く。

中学時代終わり:白糸台高校を一般入試で受験。合格。後の強度測定で、大能力者《レベル4》であること、その中でも上の上の強度があることが判明し、二軍《セカンドクラス》配属が決まる。

 *

高校時代:二軍《セカンドクラス》一年四組所属。中学時代に鍛えた雀力、持ち前の分析能力、使いどころは難しいが抜群の強度を誇る大能力を駆使し、その実力をいかんなく発揮。藤原さんの目に留まる。チーム《一期》に加入。

クラス対抗戦決勝、江口さん・愛宕さんの捲くり合いに、待ってましたと追っかけリーチ。が、臼沢さんに塞がれ不発。自身初となる《無効化》を喰らう。

その後、成績が伸び悩み、二軍《セカンドクラス》落ち。転落の一途を辿る。

二年生に進級。感知系能力を持つ二人の新入生をオヒキに。上位ナンバー狩りを始める。

三年生に進級。《超新星》、《通行止め》に遭遇。

ほどなくして、鹿倉さんと和解(鹿倉さんは、不良みたいなことをしている昔のお友達を『バカみたい』と言いつつ放っておけなかったとかたぶんそんな感じです)。オヒキの後輩二人も含め、チーム《一会》を結成。

メンバーに火力が足りないことが問題に挙がる。

三家「任せろ。ちょうどいいやつを知ってる」ニヤッ

ということで、三家さんの知り合いの不良娘さん(新子さんに絡んで竹井さんにコマされた人です。《三元牌(※最大八枚まで)とドラ(※表ドラのみ)が集まる》大能力者――通称、小龍さん)を五人目に引き込む。

選別戦を経て、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に臨む。

予選決勝、チーム《幻奏》と対戦。小龍さんが小走さんに倍直。オヒキの後輩二人が片岡さん・亦野さんを翻弄。三家さんは江口さんと二年ぶりとなる捲くり合い。臼沢さん不在のため、捲り勝つ。

鹿倉さん、ネリーさんと対戦。前半戦は喰らいついたものの、後半戦で二割→三割にグレードアップしたネリーさんに独奏される(三割ネリーさんは、そこらの地区代表より強い亦野さんを完封できて、国広さんや新子さんを一方的にボコれるくらい強いです)。

チーム《一会》、惜しくも予選敗退。

 ――以下、聞かれてもいないことを――

三家さんや小龍さんは完全にオリキャラですが、暴力暴言ではなく、『麻雀』の土俵で大星さんや新子さんとやり合うキャラなので、それなりの強者として設定しています。

(油断していたとは言え)大星さんを残り600点に追い込んだり、(三対一とは言え)新子さんをトばしたりというのは、誰にでもできることではないと思うのです。

花田さんは三家さんを『さぞかし名のある方』と評していて、竹井さんは小龍さんを『それなりに根性はある』と認めています。主要キャラとガチバトルするなら、ある程度の格が必要だと、私は思います。

余談ですが、イメージとしては、三家さんが『玄さんに敗北した後に超グレた小走さん』、小龍さんが『剥かれて悪堕ちした宥さん』みたいな感覚で書いています。

次の対戦メンバー、全員和の昔馴染みか
ってかここの和は奈良にいたことあるのかな?


荒川さんの能力をコピーすることってできるのかな?まあ出来ても頭が追いつかなそうだけど

あと塞さんがあの音を聞いてない状況だとしたらネリーの能力封じれるのですか?

ご覧いただきありがとうございます。

>>178さん

次鋒戦の四人に、白糸台入学以前の交友はないです。

基本的に、どのキャラクターも面識がない方向に改変されています。

>>179さん

>荒川さんの能力をコピー

「ネリーさんの《神の耳》にできることと、荒川さんの《悪魔の目》にできることは、恐らく同等です」(花田さん談)

「《特例》である荒川さんも、自動即興《エチュード》で《完全模倣》できる対象から外れるかもしれません」(花田さん談)

ネリーさんと荒川さんについて触れているのはこの辺りです。

二つ目のほうは申し訳ないのですがノーコメントで。

 東一局・親:優希

優希(さてさてだじょ。配牌一向聴でドラ三……負ける気がしないとはこのことだじぇ!)タンッ

穏乃(東初の優希は要注意っと。けど、どうかな。新子さんと原村さんは、わりとそういうのお構いなしって気がする……)タンッ

憧「……チー」タンッ

和(一巡目から? そんなに苦しい配牌だったのでしょうか)ヒュン

優希(む、なーんかヤな感じだじぇ)タンッ

穏乃(んー)タンッ

憧「チー」タンッ

和(鳴き三色……?)ヒュン

優希(鳴いて紛れを起こすつもりだじぇ? 無駄なことを……東場の私に不可能はないんだじぇ!!)ゴッ

優希「リー」

憧「ロン。3900」パラララ

優希(じょーん!?)

和(その手で鳴き……? この点差で? まったく理解できませんね)

穏乃(東場の優希を速度で圧倒するつもりなのかな。新子さんが速攻に自信があるのは知ってたけど、この点差だから、てっきり火力で勝負してくるもんだと思ってた。思い切ったことするなぁ)

優希(マズったじょ!? やえお姉さんが速度優先って言ってたのはこういうことだったんだじぇ!? 意識はしてたけど……あと三局の間に切り替えられるのか――!?)

憧(とりあえず……一つ和了れた。よかったわ。余計な力入ってるかと思ったけど、全然いつも通りっていうか、いつもより集中できてる。
 さすがに十万点差をまくれるとは思ってないけど……とにかく、少しでも多く取り戻す――!!)

穏乃「次は私の親ですねっ!」コロコロ

優希:144900 穏乃:149000 憧:55400 和:50700

 東二局・親:穏乃

優希「ポンだじぇ!」タンッ

穏乃(おっと、ドラポン。今度は優希が先に仕掛けてきた)タンッ

憧(もう切り替えてきたわけ? 対応早過ぎるでしょ、《東風の神》。けど、ま、いいわ。受けて立ってやるわよ……!!)

憧「チーッ!」タンッ

和(ふむ……)ヒュン

優希「チー(張ったじぇ……!!)」タンッ

穏乃(参った。全然ついていけない)タンッ

憧「こっちもチー!」タンッ

優希(追いつかれた……!? まだ不完全とは言え、今の私はそれなりに速度特化だじょ。この速さについてこれるのはネリちゃん(三割)か誠子先輩くらい。憧ちゃんとか言ったな。なかなかやりおるじぇ!!)

憧(片岡優希……門前主体の高火力系雀士だと思ってたけど、鳴きの速攻もお手の物ってわけね。条件五分のガチ勝負じゃ勝てる気しないわ。
 ただ、今のところはまだ後手に回ってるっぽい。その隙は――見逃せないっ!)

和(見えているところから察するに……新子さんのほうは、あまり高くはなさそうですね)ヒュン

憧「ロン、3900!!」パラララ

優希(先を越されたー!?)

和(また勿体ない和了り……)

穏乃(まさに電光石火っ!!)

憧「さあ、次はあたしの親番ね……!!」ゴッ

優希:144900 穏乃:149000 憧:59300 和:46800

 東三局・親:憧

優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧(集中するのよ……! こいつはあの数絵の東場バージョン。得意な場で主導権を握られたら、あっという間に持っていかれる。火力じゃ勝負にならないんだから、とにかく手数で攻める!!)

憧「ポンッ!!」タンッ

和(ふむ……)ヒュン

優希(憧ちゃんとやら、あくまで速攻一本で私を抑え込むつもりか。いいじぇ……!! やれるもんならやってみろだじぇ!! 《東風の神》の名に懸けて、積み棒は積ませないッ!!)

優希「ポンだじょ!!」タンッ

穏乃(役牌特急券っ! 優希のギアがまた一段階上がった気がする……!!)タンッ

憧(逃げ切ってやるわよ!!)タンッ

和(一向聴から動けませんね)ヒュン

優希「チ」

憧「ポンッ!!」タンッ

優希(のわー!? 奪われたっ!? なんてことだじぇ!! これがもし偶然じゃないとすると、こやつ誠子先輩レベルの副露ぢからがあるってことになるじょ……!!)

憧(なんかわかんないけどラッキー!! これで一歩リードできたかしらね!! いい子だからそのまま足踏みしててよ、《東風の神》……!!)

和(なるほど……では、これは抱えておきますか。幸い、向聴数は変わらない。わざわざ手が進むとわかっているところを切ることもないでしょう)ヒュン

優希(ッ――!? ま、まさかのどちゃん!! 四枚目を止めたんだじぇ……!?)タンッ

穏乃(新子さんが鳴いてツモ順を乱すから、本来なら優希に行くはずだった有効牌が他家に流れてるんだ。意図的かどうかはわからないけど、これ、優希的にはかなり困るよね)タンッ

憧(さあ、こっちはいつでも受け入れオッケーなんだから……!! さっさと来なさいっての――!!)ゴッ

憧「ツモ! 1300オール!!」パラララ

優希(三連続だじぇー!?)

穏乃(すごい! 全部ザンク!)

和(なかなかの偶然ですね)

憧「っしゃあー、一本場!!」ゴッ

優希:143600 穏乃:147700 憧:63200 和:45500

 東三局一本場・親:憧

憧「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(なんたることだじぇ。東場でこの私が圧倒されている……? デジタル最強ののどちゃんにだって、東風戦なら私は勝ち越せる自信があるんだじょ?)タンッ

優希(憧ちゃん……こやつからは、のどちゃんほどの凄みを感じない。シズちゃんほどの不気味さも感じない。
 鳴きが得意な非能力者――この四人の中では一番普通だじぇ。なのに、これはどういうことなんだじょ……!!)タンッ

優希(む……張った。一通確定ドラ三。憧ちゃんはまだ動きなし。これは先制リーチのチャンスだと思っていいんだじぇ?)

憧「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(何をやってくるか全然わからないじょ……。点差いっぱいあるし、ここはダマ? 否――!!)

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(やえお姉さんの指示はトップ帰還! 今回の私の使命はシズちゃんをまくって次鋒戦を終えることだじょ。
 やえお姉さん曰くシズちゃんはスロースターター……ここで押さずにいつ押すんだじぇ!!)

優希「リーチだじょッ!!」ゴッ

 優希手牌:①②③④⑤⑥⑦⑨11133 捨て:2 ドラ:1

穏乃(うわっと曲げてきたー!? これ、和了られたら間違いなくまくられるよね……)

憧「ポン――!!」ゴッ

 憧手牌:**********/2(2)2 捨て:3 ドラ:1

優希(なんとー!?)

和(一発を消してくれたのはありがたいですね)ヒュン

優希(むっ、和了れない……!? ツモを食われたせいだじょ? けど、わかってるのか、憧ちゃん。その鳴きだと、次に憧ちゃんが掴むのは私の一発だった牌だじぇ……?)

穏乃(さてさて、新子さんはどうするのかなっと)タンッ

憧(もちろん抱えるわよっ!)タンッ

優希(それ私のだじぇー!?)

和(手出しで三索対子を落としてきた……鳴いて回すつもりでしょうか)ヒュン

優希(四枚しかない私の和了り牌のうち、一枚が憧ちゃんに持っていかれたじぇ。というか、一枚で済めばいいんだけど……!!)タンッ

穏乃(んー……じゃあ、もしかしてここを待ってたり?)タンッ

憧「チー!!」ゴゴゴッ

 憧手牌:*******/(8)67/2(2)2 捨て:[⑤] ドラ:1

和(三索対子落としからの、赤五筒切り。染め手の可能性は低いでしょうか。678の三色はありそうですが、赤を残しても食い下がり三色を選んでも、打点は変わらない。
 となると、優希のリーチに赤ドラで突っ張った意図が気になります。三色以外に手役がないのか、或いは、また別の理由があるのか。いずれにせよ、張っていると見ていいですかね)ヒュン

優希(よくない予感しかしないじぇ!!)タンッ

穏乃(どうなるか――)タンッ

憧「ツモッ! 1000は1100オールッ!!」パラララ

優希(そ、その手牌は……!?)

 憧手牌:六七八⑥⑧⑧⑧/(8)67/2(2)2 ツモ:⑦ ドラ:1

 優希手牌:①②③④⑤⑥⑦⑨11133 ドラ:1

優希(この三巡の憧ちゃんの捨て牌は三索、三索、赤五筒。つまり、私がリーチを掛けたとき、憧ちゃんの手牌はこんなだった……)

 憧手牌:223367六七八[⑤]⑥⑧⑧ ドラ:1

 優希手牌:①②③④⑤⑥⑦⑨11133 捨て:2 ドラ:1

優希(私の和了り牌を見切って、鳴き三色に移行したってことなんだじぇ? しかも、私が三索でリーチしてても同じことができたとか。どこまで狙ってたのかわからないけど、隙がないにもほどがあるじぇ……)

穏乃(和了り牌を抱えつつ、ツモ順をズラして優希の支配領域《テリトリー》に揺さぶりをかける。結果的にだけど、新子さんは、純さんと同じようなことをしたんだ。これは優希には効果抜群だよね)

憧(我ながらわっけわかんないことやったわねー! けど、あそこで鳴いてなかったら、たぶん和了られてた。
 この感じ……あれだわ、久たち相手に何度もやったやつ。あいつらマジ放っておくと和了り続けるから! 無茶鳴きして、どーにかこーにか自分の得意分野に持ち込んで、安くてもいいから和了りを潰す――。
 まあ、三回に一回成功すればいいほうだけどね。でも、こいつ相手なら、二回に一回くらいはうまくいくでしょ! 特に根拠はないけどっ!
 っつーわけで、まだまだこの親を手放すつもりはないからよろしく……ッ!!)

優希(おのれ憧ちゃん……鳴きで私のリーチを止めるとは、小癪な真似を。なかなかに鍛えられているようだな!
 でも、だじぇ!! 私だって、鳴きの揺さぶりに負けないよう、ネリちゃんと誠子先輩に散々鍛えられたんだじょ……!! 次もうまくいくと思ったら大間違いなんだじぇ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧「(うわー恐い恐い、っと! けど、久たちに比べたら全然平気っ!! 笑える余裕があるくらいよ……!!)じゃあ、張り切って行くわよーっ、二本場!!」ゴッ

優希:141500 穏乃:146600 憧:67500 和:44400

 東三局二本場・親:憧

優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(偶然とはいえ四連続和了。東場のほうが調子がいいなどと豪語する優希を相手に大したものです。もちろん、これくらいの偏りはよくあること。騒ぐほどのことではありません)ヒュン

和(しかし、私が点を取れていないのは事実。優希はもちろん、新子さんも、先輩方同様に手強い相手なのは認めましょう。ここまでミスはしていないつもりですが、そうそう思うように点が取れたら苦労しませんよね)ヒュン

和(東場が得意な優希。鳴きが武器の新子さん。いいですよ、あなたたちがそこに拘りを持つのは、あなたたちの自由です。私は私のやり方を貫くだけ……)ヒュン

優希「ポンだじぇ!!」タンッ

和(私には得意技なんて必要ない。必殺技なんて必要ない。状況に合わせてひたすら最高効率を追求して、勝利を目指す。それが私の麻雀――私の信じる道です)

憧「チーッ!!」タンッ

和(行きましょう。いつも通りに。怜さんからもそのように指示が出ている。何も迷うことはありません。全ては……チームの勝利のために――ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴ

和「リーチです」ヒュン

優希(うっ。相変わらず嫌なとこで仕掛けてくるじぇ、のどちゃん……!!)タンッ

穏乃(高いのかな? 安いのかな? 気配なくて全然わからない)タンッ

憧(攻めたいっ! けーどー、さすがにここは切れないでしょっ!!)タンッ

和「ツモ……!!」パラララ

優希・穏乃・憧(一発ーっ!?)

和「3000・6000の二本場は、3200・6200!!」ゴッ

憧(高っ!? こんのっ、人がやっとこさ積み上げた点棒を……!!)

優希(のどちゃん……張ってたのに、手を伸ばしてからリーチ掛けてるじぇ)

穏乃(細かく刻むより一つ一つの和了りを大きくすることを選んだ――ってことだよね。新子さんとは対照的。これがどう結果に響いてくるのかな)

和(安手の連荘も悪くないですが、この点数状況、できる限り高めを狙っていきたい。次は親番、稼げるだけ稼ぎますよっ!!)

優希:138300 穏乃:143400 憧:61300 和:57000

 東四局・親:和

和「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(この巡目で手出しの中張牌。明らかに危険信号だじぇ。けど、この点差……さっきみたいに、張ったらリーチ掛けてくるか?
 出和了りはしにくくなるけど、待ちが広いなら、のどちゃんはフリテンでもリーチを掛けてくる。むむむ……わからんじょ!!)タンッ

穏乃(手が進んだっぽい原村さんに対して、優希はツッパるつもり、と。新子さんは――)タンッ

憧「チーッ!!」タンッ

穏乃(こっちも前傾っ!!)

和「」ヒュン

優希(ツモ切り……? なら、いけるじょ!!)

優希「リー」

和「ロンです。11600」パラララ

優希「じょー!?」ガタッ

憧(ちょ――あたしのが見逃されてるとか!?)

穏乃(下を蹴落とすより上の首を取りに来た! さすがに次鋒戦の間に逆転されることはないと思うけど、これは恐い!!)

優希(やってくれたなのどちゃん……っ! それでこそ私の認めたのどちゃんだじぇ!!)

和「一本場です――」コロコロ

優希:126700 穏乃:143400 憧:61300 和:68600

 東四局一本場・親:和

和「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(ここまで憧ちゃん×4和了、のどちゃん×2和了だじぇ。東場も終わりだというのになんたる様だじょ。二回戦であの白いのと打ったときだって、東場は私がリードしていたというのに……)タンッ

優希(このままマイナス収支で南場に突入したら、プラスにするのはかなーりキツいじぇ。そしたら、またやえお姉さんとセーラお兄さんに袋叩きにされる!! あのくすぐり地獄だけは二度とごめんなんだじょ!!)タンッ

優希(のどちゃんと憧ちゃんが点を獲り合って、私はシズちゃんから離される一方。トップを逃すばかりか、下手すると三回戦突破も危うくなる。それだけは避けないと――)タンッ

優希(って、ゆーか、だじぇ……!!)

和「リーチです」チャ

憧「ポン――ッ!!」タンッ

優希(二人して……さっきからごちゃごちゃ五月蠅いんだじぇ。お構いなしにも限度ってものがあるんだじょ。あまり――調子に乗らないでもらおうか……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧・穏乃(このプレッシャーは……ッ!?)ゾクッ

和(む。さては、優希……張りましたね?)

優希「追っかけるじぇ――リーチ」チャ

優希(随分と好き放題やってくれたなッ!! 東場は私の庭――私の王国だじょ。試合展開も大事だけど、何より、東場でやられっぱなしってのは……私のプライドが許さないんだじぇ!!)ゴゴ

穏乃「(無駄だと思うけど、一応……一発は消しておかないとね)チー」タンッ

優希(ふん、好きなだけ揺さぶればいいじょ!)ゴゴゴゴ

憧(先に和了っちゃえば関係ないでしょ――って、さすがにそんな都合よく引けないかぁー!)タンッ

優希(東の風が吹く限り、この卓上《セカイ》は私の思うがまま《テリトリー》……)ゴゴゴゴゴゴゴ

和(リーチを掛けた以上覚悟はしていましたが、やはり捲くり合いは緊張しますね――)ヒュン

優希(我こそは《東場の神》――たとえ相手が誰であろうと、ここだけは譲るわけにはいかないんだじぇッ!!)ゴッ

優希「ツモだじょ!! 3000・6000は3100・6100――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧(そうやって当然のようにハネ満を和了ってくるわけよね……! もー勘弁してってのっ!)

和(さすが優希。偶然とはいえ力強い和了りですね)

穏乃(わわっ、一発消しておいて本当によかった……!!)

優希「(むうー……暴れ足りないけど仕方ない。風向きが変わってもめげないじぇ!!)さあ、前半戦も折り返し――南入だじょ!!」ゴッ

優希:140000 穏乃:140300 憧:58200 和:61500

 ――《永代》控え室

純「どいつもこいつもやるなぁ」

まこ「四人とも楽しそうでええのう。見てて清々しいわ」

塞「っていうか……高鴨だけ焼き鳥だけど?」

照「まあ、一位守ってるし」モグモグ

     憧『チー!!』

塞「げっ、また新子が鳴いてきた」

純「あいつの鳴きは面白いな。オレの副露が場の《流れ》を変えるもんだとしたら、あいつの副露は自分に《流れ》を引き寄せるもんだ」

まこ「これに火力が乗っかってきたら手がつけられんの」

照「また30符3飜……」モグモグ

     憧『ツモ、1000・2000!!』

純「うーん。ダメージは小せえが……どうなんだろうな、これ」

塞「この点差だし、安手で回してくれる分には構わないんじゃない?」

まこ「その回転が速過ぎるんじゃ。穏乃はエンジンが掛かるまでに時間がかかるけえの」

照「確かに、サクサク進めるのは高鴨さんに効果的かも」モグモグ

     和『リーチです』

まこ「っと……今度は原村か。あいつもブレんのう」

塞「厄介なのよねぇ。オカルト無視のくせに、逆にオカルトに強いっていう、謎の属性」

純「三人ともオリか。クセがねえから読めねえんだろうな」

照「冷静」モグモグ

     和『テンパイ』

     優希・憧・穏乃『ノーテン』

まこ「次は南三局流れ一本場じゃな」

純「穏乃のやつはいつ動くんだよ」

塞「どうなの、宮永? 高鴨はいけそうなの? っていうか、あいつのすごパってなんなの?」

照「高鴨さんのすごパは、一言で言えば、よくわかんない」モグモグ

塞「何それ……」

 ――《新約》控え室

     和『テンパイ』

     優希・憧・穏乃『ノーテン』

絹恵「なんやろ、和の対局見てて気持ちが落ち着くなんて、初めての体験かもしれへん」

姫子「普通にテンパイして普通にリーチして普通にオリられて普通に流局したと」

初美「先鋒戦のオカルト合戦が嘘のようですよー」

怜「片岡さんも高鴨さんも、能力者にしてはクセが少ないほうやもんな」

絹恵「っちゅーか、高鴨さんの能力って結局なんなんでしょうね」

姫子「能力者っぽかばってん、詳細は不明。支配領域《テリトリー》も、たぶん山の深かとこ――ってことくらいしかわかっとらん。
 支配力についても、最高でランクS級のとんでもなか数値ば叩き出すこともあれば、一般人相当のランクD~Fにまで落ち込むこともあっとか」

初美「ネリー=ヴィルサラーゼ並みにわけがわからないですねー」

怜「どうやろな。ネリーさんはたぶん、ネリーさんの世界ではわけがわかるんやと思う。うちらが知らへんってだけで、あの人の根底にはちゃんと筋の通った理屈がありそうな気がする。
 対して……高鴨さんのは、ホンマもんのオカルトかもしれへんで」

絹恵「オカルト……和が対応できればええんですけどね」

初美「私はそんなに心配してないですよー。それよりも、今のところは《原石》さんより新子さんのほうが厄介そうですー」

姫子「安手の多かばってん、和了率は高か。和は大きかのば狙っとうけん、勝負手流さるっかもしれんのは恐かですね」

怜「地味やけど、リー棒持っていかれるのも痛いしな」

     憧『チー!!』

初美「おお、高め三色のタンピン一向聴を、ダマで待たずに三色確定でテンパイを優先ですかー。この辺りは意見が分かれそうなところですねー」

姫子「私はあそこまで仕上がっとったら鳴かんとです」

絹恵「他家が張っとるようなら鳴くかもですね」

怜「うちは未来とご相談やな~」

     憧『ツモ! 2000は2100オール!!』

絹恵「っと……また30符3翻やんな。親やから3900の1.5倍の点数。単純に火力が五割増し。確かに、親の新子さんは危険ですね」

初美「言わんこっちゃないですよー」

姫子「和、大丈夫とですかね?」

怜「大丈夫やと信じとるけど、結果まではわからへんよ。特に和は全く読めへん。確率の神様にでも聞いてーな」

 ――《久遠》控え室

     憧『ツモ! 2000は2100オール!!』

洋榎「おっしゃ、これで六つ目! 今日は調子ええなー、憧ちゃん。こんな和了っとるとこ初めて見たわっ!」

久「まあ、普段打ってる相手は私たちだものね」

哩「今日の相手はみんな一年生と。こいが憧の本来の力なんやろ」

白望「連荘かぁ……」

     憧『二本場っ!!』

洋榎「ん、シロ。なんか気になるん?」

白望「いや、局数増えると……あれかなって」

哩「高鴨穏乃か? 姫子の話やと、対局の後半に本領ば発揮してくるらしいが」

久「牌譜は一通り見たのだけれどね。彼女の能力はどうにもわからないのよ。《通行止め》もかなりわけわからないけど」

洋榎「うちのカンやと、《通行止め》の能力は七文字で説明できる。ほんで、あの高鴨の力は、たった三文字で説明できるわ」

哩「ほう……? 面白か。聞かせんしゃい」

白望「《通行止め》のほうから」

洋榎「《通行止め》――あいつは《絶対に○○へん》!」ドヤァ

久「……いや、その○○の部分が一番知りたいんだけど?」

洋榎「そこを調べるのは久の仕事やん。うちそんなコマいことできひんもんー」

哩「洋榎に期待した私のバカやった……」

白望「で……《原石》の力は?」

洋榎「そんなん決まっとるやん!」

久「なに?」

洋榎「すごいパワー、略して『すごパ』や!! ほれ、ぴったり三文字やろ!?」ドヤァ

哩「その顔やめんか」

白望「まったく情報が増えない……」

久「そんな漠然とした認識で打ち合えるのは洋榎くらいよ」

洋榎「何を隠そう、うちがその洋榎やもん! 《通行止め》は絶対に○○へんし、高鴨はすごパ使ってくる!! そんだけわかっとれば楽勝やろー!!」

久「憧があなたくらい大物ならいいんだけれど……」

     穏乃『……ロン』

     憧『ふきゅっ!?』

哩・白望「!?」ピクッ

久「ちゃー……ついに山が動いたかぁ」ゾクッ

洋榎「『すごパ』発動やんな……!! ようわからんけど、どーにかしたれ、憧ちゃーんっ!!」

 ――対局室

 南三局二本場・親:憧

穏乃「……ロン」

憧「ふきゅっ!?」

優希(シズちゃん!?)

和(高鴨さん……)

穏乃「8000は8600です」パラララ

憧(マ……ジで言ってんのそれ――!?)クラッ

優希(トップの背中が遠のいたじぇ……!!)

和(この程度で動揺しても仕方がありません。麻雀はみんなが和了りを目指すものですからね)パタッ

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和「さて……オーラスです」コロコロ

優希:134900 穏乃:144800 憧:59900 和:60400

 南四局・親:和

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(学園都市に七人しかいないレベル5の第七位――シズちゃん。その能力の詳細は、やえお姉さんでもわからないって話だじょ。
 曰く、得体の知れない支配力的な何かが、場の深くに浸透しているとかなんとか。なら、やることは一つだじぇ!)

憧(《原石》こと高鴨穏乃の力。久情報によれば、対局の後半から発動してくる全体効果系的な何か。主な支配領域《テリトリー》は山の深部。
 補足として、普通の人には見えない何かが見えてるっぽい……ま、だったらこっちは――)

優希・憧(速攻でケリつけるッ!!)

優希「ポンだじょ!!」タンッ

憧「こっちもポン――!!」タンッ

優希・憧(これ以上トップと引き離されるわけにはいかない……!!)ゴッ

 フワッ

優希(じょ……羽――!?)

憧(何コレ! どゆことっ!?)

和「リーチです」チャ

優希・憧(そっちー!?)ゾワッ

優希(ノ、ノーマークだったけど、のどちゃんのリーチはとにかく頭使って読む以外、特に対策がないんだじょ!)タンッ

穏乃「」タンッ

憧(って現物!? いや、親リーの一発目なら、点差もあるしそうでしょうけど、もっとこう……レベル5的なアレで切り込んでいくとか、そういうのないわけ!? 安牌増えないじゃない……!!)タンッ

和「」ヒュン

優希(な、南場は頑張るしかないんだじぇ!!)タンッ

穏乃「」タンッ

憧(また現物かーい!! 動かざること山の如しじゃないのー!!)タンッ

和「」ヒュン

憧「ポンよっ!!」ゴッ

優希(憧ちゃん!?)

憧(デジタルの読み合いならそこそこ自信はある。原村和ほど計算速くないけどね。この手なら勝負できるはず……!!)

和「ツモ」

優希・憧(じょー(ぎゃー)!?)

和「4000オールです」パラララ

優希(シズちゃん警戒かと思ったら!! さすがのSOAちゃんだじぇ。私も何も考えずデジタルに徹するのが正解なのか!? いや、そんなことしたくてもできないけど!!)

憧(やっば!! 最初とほとんど点数変わってないし!! っていうか原村和、さっきから高い手和了り過ぎでしょ!! いや、狙ってるんだろうけど、そこが隙になったりとかしないわけ!?)

和「連荘続行……一本場です」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:130900 穏乃:140800 憧:55900 和:72400

 南四局一本場・親:和

和「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(あっちゃー……参った。照さんが『対策不可』って言うわけだ。うん。これは登れない)タンッ

穏乃(本当に、人じゃないみたい。原村さんの山は決まった形をしていないんだ。人間なら誰しも少なからず持っているはずのクセや特徴みたいなのが、まったくない。徹底してるなぁ……)タンッ

穏乃(原村さんは、完全で純粋な理論派《デジタル》。効率とか確率とか、そういう概念そのものなんだ。私のすごパは誰にでも何にでも有効だけど、さすがに、誰でも何でもないモノは、どうしようもない)タンッ

穏乃(《デジタルの神の化身》……そうだね。原村さんと戦うってことは、デジタル論と戦うってことだ。
 勝てる勝てないは別として、原村さんを否定することは、誰にもできない。だって、それはもう、理路整然な論理として確立されているんだから)タンッ

穏乃(いやぁ、びっくり! まさかすごパをものともしない人がいるなんて!! 面白いっ!! 楽しいっ!!
 優希の風も、新子さんの鳴きも、原村さんのデジタルも!! それぞれ全然違った景色が見れる!! 打てば打つほど新しい発見がある……!!)タンッ

穏乃(うん……まだ途中だけれど、大丈夫。十分に戦えるところまでは来た。ここからは、私も攻めるよ。私も、みんなと同じで、勝ちたい気持ちでいっぱいだから――)タンッ

穏乃(視界良好ッ!!)タンッ

和「リーチです」ヒュン

優希(またのどちゃん!?)

憧(どうやって止めたらいいのよ……!!)

穏乃「ツモ……!!」

優希・憧(へ――?)

穏乃「1000・2000の一本場は、1100・2100です」パラララ

優希・憧(はあああああああ!?)

和(どういうことですかそれ……私のリーチ宣言牌で5200の直撃を取れたのに、見逃して安めの1000・2000をツモ?)

憧(原村和から直撃を取ってれば、積み棒含めて5500。ツモだと、リー棒入れても5300。えっ? 意味わからないんだけど?)

優希(シズちゃんの妙な和了り……余人には推し量れない何かがあるって、やえお姉さんは言ってたけど。一体何が見えてるんだじぇ、シズちゃん?)

穏乃「前半戦はここまでですねっ! ありがとうございました!!」ペッコリン

『次鋒戦前半終了ー!! トップは《インターミドルチャンピオン》――《新約》原村和!! 下位の二チームが追い上げる展開となりました!!』

和(まあ、よくわかりませんが、点棒を取られるよりはいいでしょう。この調子で最後まで打ち切ります!)

 一位:原村和・+18600(新約・69300)

憧(くっそ稼げなかった……原村和と片岡優希にデカいのツモられ過ぎたわ。プラスはプラスだけど、このペースじゃトップはまくれない。後半戦はどうにかしなきゃ!!)

 二位:新子憧・3300(久遠・54800)

優希(やってしまったじょ……終盤でシズちゃんに逃げられた。せっかくネリちゃんが大量リードをくれたのに、私は何をやってるんだじょ……!!)

 四位:片岡優希・-19000(幻奏・129800)

穏乃(ひとまずは、あまり削られずに済んだかな。私を次鋒に置いてくれた先輩方のためにも、後半戦で収支をプラスに戻して、磐石トップでまこさんに繋ぐっ!!)

 三位:高鴨穏乃・-2900(永代・146100)

『十五分間の休憩ののち、後半戦を開始します!!』

 ――《幻奏》控え室

やえ「で、どうだ、ネリー。間近で聞いて、高鴨穏乃の力は」

ネリー「私の脳内にある牌譜には一致するものがない。要するに、魔術世界の知識では解析できないね」

やえ「運命論でもダメか。弱ったな」

誠子「優希は大丈夫なんですかね……?」

ネリー「たぶん大丈夫じゃないんだよっ!」

セーラ「東初を速攻で流されたんが痛かったな。あれでペースが乱れて、東場をプラスにできひんかった。新子が相手やなかったら、ここまで凹まされることはあらへんかったやろ」

やえ「二回戦から速度特化で戦わせるべきだったか。素で東場の片岡を抑え込めるのは《一桁ナンバー》くらいだと思っていたんだがな。これは完全に私の作戦ミスだ」

セーラ「ほな、優希には決勝で爆発してもらおかー。ほんで、この三回戦は俺らでどうにかするってことで。自分もそれでええやろ、誠子?」

誠子「はい。頑張ります」

やえ「おい、ネリー。本当に高鴨の力に心当たりはないのか?」

ネリー「能力論の権威であるやえが解析できなかった力をこの数局で見抜けとか、無茶言うよねー」

やえ「できることなら、後半戦はあいつを勝たせてやりたい」

ネリー「気持ちはわかるけど、ごめんなんだよ。今のところは、なんかすごいパワーを使ってるってことしか聞き取れない。もう少し時間がほしいんだよ」

やえ「むう……」

セーラ「そんな難しい顔せんでもええやろー。優希なら心配要らへんって。やれるだけのことはやってきた。ここはあいつに任せたろーや」

誠子「私も江口先輩に同じです」

やえ「もちろん私だって信じている。前半戦は新子にしてやられたが、後半戦の東初は――」ハッ

ネリー「……どうかした、やえ?」

やえ「そういうことなのか……!? 高鴨穏乃――!!」

セーラ「ど、どないしたん……?」

誠子「小走先輩?」

やえ「……300点足りない」

セーラ・誠子「え?」

ネリー「ほ、え……うああっ!? 本当だ!! すっご!!」

セーラ「お、おい、どういうことや」

誠子「300点……?」

やえ「直にわかる。信じ難いな。一体どこまで見えているんだ、あの山の主には」

ネリー「しずののすごパ……山……うーん……」ブツブツ

セーラ「よ、ようわからんが、俺らは応援に集中するかっ!」

誠子「そうですね! 頑張れー、優希っ!!」

 ――対局室

優希「よろしくだじぇ!」

 東家:片岡優希(幻奏・129800)

憧「よろしく!」

 南家:新子憧(久遠・54800)

和「よろしくお願いします」

 西家:原村和(新約・69300)

穏乃「よろしくですっ!」

 北家:高鴨穏乃(永代・146100)

『次鋒戦後半――開始ですっ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回は、来週末にちょっと予定があるので、一週間以上空くと思われます。

では、失礼しました。

ご覧いただきありがとうございます。

更新をするわけではないのですが、取り急ぎ、書き溜めが終わりましたので、その報告をば。

 ――いきなりのあとがき

SSに限らず、こんなに長い話を書いたのは人生で初めてです。本文を全て合わせると、テキストデータで4MBくらいになるでしょうか。チーム結成、修行、からの本選五試合ですから、まあこれくらいにはなりますよね。

『渋谷さん率いるおもち軍団! その名もチーム《豊穣》!』――全てはここから始まりました。『チーム《豊穣》』という概念をこの世に発信する。これは、そうして書かれたSSです。

その頃は、白糸台高校麻雀部の問題児軍団――大星さん、咲さん、森垣さん、新子さん――に花田さんが振り回されるという話を思い描いていました。

主将の弘世さんに教育係を任命され、一年生ズにモーションを掛けていく花田さん。部内での順位はあまり高くないけれど、すばらくすばらな花田さんに、生意気盛りの一年生が次々とデレていくんですね。

いつしか五人の間には強い絆が生まれます。そんなある日、一年生カルテットは、とある部員たちが花田さんの陰口を言っているのを耳にします。

『あいつ弱いくせに最近ちょーし乗ってね?』

黙っているわけがありません。

淡「すばらが本当に弱いかどうか!!」

咲「教えてやろうよ!!」

友香「私たちが先輩と一軍になれば!!」

憧「全て解決よね!!」

かくして、チーム《小生意気》が結成されます。一年生ズは、花田さんとイチャイチャしながら、部内戦で快進撃を続けていき、ついには、ラスボスこと《虎姫》の弘世さんとバトることになります。

はたしてチーム《小生意気》は一軍になれるのか!

そんなコメディタッチのシンデレラストーリーになる予定でした。なにはともあれ、最後まで辿り着けてよかったです(新子さんを弾いたのは、久憧を書きたかったからですよ!)。

 ――色々と

書き溜めが終わったと言っても、ストーリーとして最低限必要な部分を書いたという意味で、まだ仕上げの作業が大量に残っていたりします。

大星さんのダブリーに喩えると、和了り牌をツモって逆回転したところです。あとは、カン裏めくるだけなんですが、ここをしくじると、涙目の二位通過になるので、高鴨さんに気をつけながら、慎重にやっていきたいと思います。

なので、更新頻度の加速はもう少しかかると思われます。更新そのものが仕上げの最終段階なので、なかなかコピペでドンとは行けないのです。

ひとまず、お話として、未完で終わることはなくなりました。私かこちらのサーバーが死なない限り、このSSはいずれ完結します。

当然ながら、ストーリーのほうは、もう動かせません。期待されているベクトル、望まれているベクトルであればいいのですが、どうなのかは蓋を開けてみるまでわかりません。つまり、あれです。







『 こ こ か ら 先 は 《 一 方 通 行 》 だ 』







これが言いたかっただけです。あと2MBほどで終わりますので、よろしければ、どうか最後までお付き合いください。

では、失礼しました。

(パソコン変えたので特殊記号のテスト:①②③ ■■■)

乙です

vipで見たときはすぐに終わるかと思ったのにな
毎回楽しませてもらってます
続きも期待してます

ご覧いただきありがとうございます。

では、始めます。

 東一局・親:優希

優希(休憩中……伝令係の誠子先輩は来なかったじぇ。ってことは、後半戦は作戦B。『シズちゃんの能力はやっぱりよくわかんないから、私の力だけでどうにかしろ』――なるほどなるほどだじぇ)

憧「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(また憧ちゃんに東場を流されまくるかもしれない。シズちゃんのすごパが爆発するかもしれない。和ちゃんがSOAで切り込んでくるかもしれない……)

優希(いいじぇ……!! 望むところだじぇ!! みんな強くて、誰が勝つかわからない!! それってつまり、私が勝つってことも……あるってことだじぇ――!!)

優希「ダブルリーチッ!!」ゴッ

憧(嘘でしょー!?)タンッ

和(なかなかに気迫溢れる偶然ですね!!)ヒュン

穏乃(すごいすごいっ!!)タンッ

優希(疾きこと風の如し――東初の私はレベル4相当の力があるんだじぇ!! 憧ちゃん、シズちゃん、のどちゃん……私についてこれるものなら、ついてきてみろだじぇッ!!)ツモッ

優希「ツモ、4000オールだじょ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧(ダブリー一発で親満!? こんなのどうやって対策しろってのよー!!)

和(まったく大した偶然です)パタッ

優希(むー……できれば親倍くらいにしたかったじぇ。意識は速度に向いてたけど、ズラされたわけでもないし、いつもなら余裕で行けた気がするんだじょ。おかげさまでちょこっとだけシズちゃんに届かなかっ――)

          ――このまま一位を死守しますっ!!

優希(じぇっ!?)ゾクッ

    ――あなたの風がどんなに疾くても、私の山は動きませんっ!!

優希(ま、まさか……!!?)

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(さっきのオーラスの妙な和了り……細かくは計算できないけど、シズちゃんがのどちゃんから直撃を取っていたら、私はこの親満でいい感じにまくれていた気がする!
 そ、そういうことなんだじぇ……!? 私が親倍を和了れなかったことも含めて、全部シズちゃんの狙い通りなのだとしたら――)

穏乃「」ニコッ

優希(ッ――!?)ゾワッ

穏乃(さすが優希……照さんの旋風に勝るとも劣らない疾風――私のすごパでも、打点を4000オールに抑えるのが精一杯なんて)

優希(こ、これが山の主――レベル5の第七位、《深山幽谷の化身》……高鴨シズちゃん!!? 私はこんな化け物相手にトップを取らなきゃいけないのか!!!)

穏乃(ここまでは思うように打ててる。まだまだ何が起こるかわからないけど……全力で頑張るよっ!!)

優希「(や、やるしかないじぇ!!)一本場だじょ!!」ゴッ

優希:141800 憧:50800 和:65300 穏乃:142100

 ――《永代》控え室

照「高鴨さん……一位死守」

純「は……? うおっ!? じゃあ、なにか、さっきのツモは一位を守るための和了りだったのか!?」

まこ「どこまで見えちょるんじゃあいつ……」

塞「え、ごめん、私まだちょっと飲み込めてないけど」

純「前半戦オーラスの、穏乃のツモ和了り。あれが、もし原村から5200の一本付けで直撃を取ってたとすると、今の片岡の親満ツモで、点数状況はこうなってたはずなんだ」

 一位:幻奏・142900

 二位:永代・142300

 三位:新約・62900

 四位:久遠・51900

塞「まくられてた……?」

まこ「ちなみに穏乃は前半戦、一度として一位陥落しとらん」

純「照の指示通り、一位陥落しないように打ってんだよ、あいつは」

塞「じゃ、じゃあ、なに? あのオーラス時点で、あいつにはこのダブリー一発が見えてたっていうの? 園城寺も真っ青の未来予知でしょ」

照「……それだけじゃないかも」

塞「は――?」

純「いやぁ、わからねえな。穏乃のやることは本当にわからねえ」

まこ「じゃが、これではっきりしたの。穏乃は本格的に動き始めちょる。あいつの言葉で言うなら、ええとこまで登れとるっちゅうことじゃ」

塞「あいつが敵じゃなくてマジよかったわ……」

照「だから味方にした」

     憧『チー!!』

純「っと、新子も粘るじゃねえか」

まこ「次鋒戦開始時よりマイナスになっとるけえの。そりゃ必死じゃろうて」

塞「ただ、悪いけど、今の高鴨が負けるとは思えないわ」

照「微妙なところ」

     憧『ロン! 3900は4200っ!!』

     優希『じょっ!?』

純「まーた東初の片岡が速攻で流されたな」

まこ「こっちとしても、《東風》の親が満貫一発だけで済んで大助かりじゃの」

塞「これも高鴨の狙い通り……なのかしら」

照「すごいパースペクティブ」

塞「え……宮永、それもしかして上手いこと言ったつもり?」

照「/////」

     穏乃『ロン、2600』

     憧『うげ――』

照「あ」

純「おおっ!」

まこ「来たの……!!」

塞「よ、よくわからないけど、やっちまいなぁー高鴨おおっ!!」

 ――対局室

 東三局・親:和

憧(前半戦の南四局では原村和、後半戦の東一局では片岡が普通に和了ってたから、前半戦のあの悪寒は気のせいかと思ったけど……全然そんなことなかったわ!!)

 北家:新子憧(久遠・52400)

優希(ってゆーかだじょ! さっきの親満以降、東場なのに思うように手が進まないじぇ。シズちゃんが山の深くを支配領域《テリトリー》にしてるなら、序盤で仕掛ければいいかと思ったけど、そんな単純じゃないみたいなんだじぇ……?)

 西家:片岡優希(幻奏・137600)

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:高鴨穏乃(永代・144700)

優希(くっ……まただじぇ。《上書き》したいのに、何かの力がそれを阻む。まったくわけがわからないじょっ!!)タンッ

憧(鳴きたいけど、いいところが出てこない。門前でどうにかできるかしら……!?)タンッ

和「ポンです」ヒュン

 東家:原村和(新約・65300)

優希・憧(特急券!?)

穏乃(あははっ、また原村さんがやってくれた。けど……この局は、私の勝ちっ!!)

穏乃「ツモ。2000・3900ですっ!!」ゴッ

優希(こ、これはマズいじょ!!)

憧(よくわかんないけど、ここで高鴨穏乃の親はヤバいでしょ!?)

和(やはり張ってましたか。追いつけなかったですね……)

穏乃「これで私の親番ですね!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:137600 憧:52400 和:65300 穏乃:144700

 東四局・親:穏乃

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(な……なんなんだじょ、これ。風が――東場なのに、私の支配が全く機能していない……!?)タンッ

優希(逆に、シズちゃんのところに何かの力が集まってる気がするじぇ。前半戦のときはそうでもなかったのに、今は……シズちゃんから痛いくらいに支配力を感じる。
 それも、淡ちゃんや咲ちゃんレベルの超トンデモなやつだじょ……!!)タンッ

優希(お、落ち着くじょ。能力や支配力に頼らずに打てるよう練習はしてきた。悔しいけど、南場だと思って頑張るしかないじぇ。
 大丈夫……のどちゃんほどじゃないけど、デジタル麻雀は暇さえあればやえお姉さんのパソコン相手に打ちまくってたんだじぇ……!!)

優希「ポン!」タンッ

穏乃(ん……)

優希「またまたポンだじぇっ!!」タンッ

憧(片岡……?)

優希(見たかっ、誠子先輩直伝ツモ飛ばしだじぇ! シズちゃん、私の上家に座ったのが運の尽きだったなっ!!)

穏乃(優希が鳴きで力を引き戻してる……? ああ、そっか。これは亦野さんだ。優希の後ろに――亦野さんがいる……!!)

優希「ポーンッ!!」

優希(ヒット、だじぇ!! このまま流してやるじょ、シズちゃん――!!)

穏乃(うん。そうだよね。やっぱり、登るからには、山は高いほうがいいよね……)

優希(ぬぐっ……来ずだじぇ。これは、けど、掴まされたか――?)

穏乃(優希――優希からは、何が見える? その目にはどんな景色が映ってる? 私にも……見せてほしいなっ!!)

優希(な、なら、こっちだじぇ!!)タンッ

穏乃「ロン――」ゴッ

優希(そんな……)

穏乃「7700ですッ!!」パラララ

優希(どっち切ってもやられてたじょー!?)ゾワッ

憧(マジかっ!? トップの背中が……!!)

和(遠いですね――)

穏乃「一本場っ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:127900 憧:50400 和:61400 穏乃:160300

 東四局一本場・親:穏乃

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧(こいつ……久たちとはまた違う力を感じるわ。しかも、鳴いてズラすとか、そういうので掻き消せるようなやつじゃない。
 それこそ、山を相手にしてるみたいな。押しても引いてもビクともしないような感じの……!!)タンッ

憧(けど、それが何!? こっちは別に能力や支配力をメインに戦ってきたわけじゃないのよ。計算とほんのちょっとの気合でここまでやってきた。
 レベル5は《絶対》かもしれないけど、それって……勝ち負けとは関係ないはずでしょっ!!)

憧(全体効果系的な何かってんなら、要は天江衣とかエイスリン=ウィッシュアートと同じってこと。思惑を外してやればいいんでしょ。
 なら、ここはちょーっと無理してみましょうか。うまく行けば、場の支配ってやつをブチ抜けるかも――ッ!!)

憧「カン!!」パラララ

穏乃(わっ)

優希(憧ちゃんのカン……? 過去の牌譜では一度も見たことないじぇ)

和(大明槓ですか。なんのつもりなんだか)

憧(この嶺上で手が進んだりとか……はさすがにないか――)ハッ

穏乃(ちょ、ちょっとびっくり。だけど、新子さん。それはちょっとやり過ぎだったかもですね)

憧(ちょ、ちょっと待って! こいつの支配領域《テリトリー》は山の深く……なのに、あたし、今、この牌をどっから持ってきた――!?)ゾクッ

穏乃(確かに、全体効果系能力者に対してカンが有効な一手になることはあります。
 ただ、残念ながら、私のすごパにその手の揺さぶりは通じません……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧(もしかして、踏み込み過ぎた!? あたし、山の主を相手に――なんの準備もなく奥深くに入り込んで……!! くっ――)タンッ

和(ふむ、嶺上を手に入れましたか)ヒュン

穏乃(さて、これはちょっと回り道をしないとかな)タンッ

優希(憧ちゃん、その嶺上、本当に有効牌なんだじょ……?)タンッ

憧(やっべ……手が――完全に崩れたっ!!)タンッ

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧(ま、まだよ! まだ終わってないっ! 考えろ……! どうやってこいつを倒すか!! 張り替えのチャンスを待って、どうにかこうにか――)

穏乃「ツモ……2000は2100オールです!!」

憧(は――)ゾワッ

優希(よ、四連続和了だじぇ!?)

和(偶然とは言えやってくれますね……!!)

穏乃「二本場ですっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:125800 憧:48300 和:59300 穏乃:166600

 ――《幻奏》控え室

セーラ「うーん……これはなかなか厄介そうやなー」

誠子「和了りそのものはいたって普通なんですけどね。原村さんのように、とにかく効率を優先して頑張るしかないのでしょうか」

やえ「園城寺も真っ青の未来予知。東場の片岡の能力を半ば《無効化》。全体効果系じみた場の支配で和了りを連発。かと思えば、嶺上で和了り牌を掴ませて新子を封殺だと――?
 どこまでが偶然でどこからが必然なのかまったく判然としない。まったく何がどうなっている、あの《原石》は……」ブツブツ

ネリー「のわあああああああ!!!?」ガタッ

セーラ・誠子・やえ「!?」ビクッ

ネリー「ええっ!? 嘘でしょっ!! いやいやいやいやいや!! あっりえねー!! あっりえねーんだよー!!」

やえ「どうした、ネリー……?」

ネリー「い、いや、《原譜》以外の記憶を遡れるだけ遡って検索してたら、一つ、それっぽいのがヒットした!」

セーラ「高鴨穏乃の能力がわかったんか!?」

誠子「ネリーさん万能過ぎますっ!!」

やえ「すぐに説明できるか、ネリー」

ネリー「う、うん……けど、私も文献で読んだだけっていうか、これ、麻雀とはまったく関係ないっていうか、そもそも存在そのものが胡散臭いっていうか……」

やえ「なんでもいい」

ネリー「えっとね……ただの偶然と意識的確率干渉が混同されていた古代に流行した、諸々の古典オカルト概念のうちの一つで、《世界の力》とか天使の力《テレズマ》とか、そういうのと大体同じものらしいんだけど」

誠子「ッ! もしかして、あの《風水》の!? 高鴨さんはあれを利用しているっていうんですか!? いや、でも、あんなの迷信以外の何物でもないじゃないですかっ!!」

ネリー「だから、ありえないって言ったじゃん。これは完全な古典オカルトだよ」

誠子「けど、もし本当にそんなことができるなら、高鴨さんは人間国宝っていうか、超がつくほどの天然記念物ってことになりますよ!?」

セーラ「なんや、誠子、《岩戸隠れの伝説》にも詳しかったけど、そういうの好きなん?」

誠子「ま、まあ……古典オカルトは、フィクションとして聞く分には楽しいですから」

やえ「で、なんなんだ。高鴨の力の正体かもしれないっていう、そのオカルトは」

ネリー「私より、せいこのほうがうまく説明できるかも」

セーラ「頼むで、誠子」

誠子「えっとですね――皆さん、《地脈》という言葉をご存知ですか……?」

 ――観戦室

憩「《地脈》?」

煌「《龍脈》とも言いますね」

淡「またキラメのオカルト講座が始まったよっ!」

菫「解説してくれるのは有難いが、さっきの運命論のような神経回路が焼き切れる話はゴメンだぞ」

煌「これは古典オカルトの一種――いわば伝承や迷信の類です。さほど構える必要はありませんよ。古代の人々の文化に触れるくらいの、軽い気持ちで聞いてください」

憩「で、なんなん、その《地脈》とか《龍脈》っちゅーんは?」

煌「《風水》という古代の占術に登場する概念ですね。一口で言えば、《大地のエネルギー》です。このエネルギー、またはエネルギーの流れを、《地脈》または《龍脈》と言うのですね。
 この《龍脈》は、さながら血脈のように、この星全体に行き渡り、絶えることなく循環しています。《世界の力》と言い換えてもいいでしょう」

淡「そんな都合のいいエネルギーがあったらとっくに利用してるでしょー」

煌「もちろん、科学的に存在が証明されているわけではありません。しかしながら、この手の古典オカルトは、真偽より、信じることそのものが重要な意味を持つのです。
 《龍脈》が実際にあるかどうかは、さほど問題にはなりません」

菫「で、その《龍脈》とやらは、一体どのような形で用いられていたのだ? その、《風水》とかいう、占いのシステムの中で」

煌「代表的な例を挙げるなら、《龍穴》でしょうね」

憩「なにそれ?」

煌「《龍脈》とは地中を走るエネルギーの流れ。そして、《龍穴》とは、そのエネルギーが地上に吹き出す特別な地点のことです。
 《龍穴》は、大地のエネルギーが溢れる場所。そこに家を建てるとその一族は栄える――などと考えられていました」

淡「ほーん」

煌「要するに、地形を読み解く占術なのですね。自然と調和し、より有効にそのエネルギーを利用する。《龍脈》や《龍穴》は、その要となる概念です」

菫「非科学的だが、やろうとしていることは正しいな」

煌「そうでしょうとも」

憩「ところで、なんで『龍』なん? 聞いとる限りやと、大地のエネルギーで《地脈》ってネーミングのほうがしっくりくるけど」

煌「さすが荒川さん。よいところに目をつけますね。すばらです」

淡「やったね、ケイ! 一すばらゲットだよっ!! 100すばら貯めるごとにご褒美なんだよ!」

憩「お、おう……?」

煌「この《龍脈》。大地のエネルギーの流れ、と先ほどから申しております。そして、この流れは地形から読み解けるものです。
 つまり、地形的に特徴のあるラインと、この《龍脈》というのが、ほぼイコールなのですね」

菫「地形を読み解く占術なのだものな。で、そのラインとはなんなのだ?」

煌「古代の人々は、大地のエネルギーは山の尾根に沿って流れていると考えました。つまり、稜線ですね。
 この稜線のライン――上空から見ると、まるで巨大な『龍』のように見えます。ゆえに、《地脈》を《龍脈》と呼ぶのです」

淡「ほほーう。勉強になるー!」

憩「……ちょい、待って。ほなら、花田さんはこう言いたいん? あの高鴨穏乃――《深山幽谷の化身》の力の源は、その《龍脈》やと?」

煌「そういうことです」

菫「は……? いや、しかし、その《龍脈》とやらは科学的に実証されている力ではないのだろう? 古代の迷信のうちの一つなのだろう?」

煌「《龍脈》の実在について、私は肯定も否定もしません。そこを議論しようとも思っていません。
 ただ、高鴨さんの能力のモチーフとして、《龍脈》という概念は、当たらずとも遠からずなのではないか――と考えているのです」

淡「能力のモチーフ……?」

煌「神代さんなら《九面》、宮永さんなら《照魔鏡》、薄墨さんなら《裏鬼門》――といったように、能力者の能力には、モチーフとなっている伝承や故事があったりするものです。
 弘世さんも、能力のモチーフは『洋弓』ですよね? 狙った相手を撃ち落す《シャープシュート》――例えば、それは『銃』ではいけなかったのでしょうか? 『洋弓』である必然性はどこにあるのでしょうか?」

菫「私は幼い頃から洋弓を嗜んでいたからな。その影響だと思う。銃など見たことも触ったこともない」

煌「そう。それが必然性です。能力とは、能力者の根幹をなす論理。ゆえに、能力者自身の知識や経験の影響を非常に強く受ける。それがそういう能力であることには、必ず理由があるのです」

憩「ああ……そういえば、玄ちゃんも言うてたな。『ドラを大切にしなさい』っていう母親の言いつけを守ってたら、いつの間にかああなっとったって」

煌「ほう……それは、実に興味深いですね――」

淡「それで、その《龍脈》っていうのと、シズノには、なんの関係性があるの?」

煌「荒川さんが先ほどおっしゃったように、高鴨さんは《深山幽谷の化身》とも呼ばれています。
 聞けば、地元の山を、まるで自分の家の庭の如く駆け回っていたのだとか。修験者が歩むような険しい山路を、地図も持たずに、です」

淡「なんて野生児……!?」

煌「その中で、高鴨さんは、山の奥深くから、大地の底から、何かを感じ取ったのかもしれません。
 山の尾根を流れる《龍脈》――世界を巡る大いなるエネルギー。それが、《原石》たる高鴨さんの根幹にあるのではないか、と私は考察しています」

憩「能力論的にっちゅーか、数学的にはまったく根拠ないけどな、それ。けど、着眼点はオモロいような気がする。
 ほんで、その《龍脈》っちゅー概念を持ち出して、花田さんはあの《原石》の力をどう読み解くん?」

煌「麻雀にも《山》が存在します。高鴨さんは、そこに流れる《龍脈》を感じ取ることができるのではないか、と推察しています。
 そして、それを利用することで、対局を自分に有利なものにしているのではないか、と」

菫「ふむ……《山》と《龍脈》というのを、《運命》と《旋律》に置き換えれば、ネリー=ヴィルサラーゼに近い――ひいては荒川と同じ、山牌掌握タイプの打ち手ということになるな」

憩「んー。せやけど、高鴨さんからは、そんなにウチっぽい感じは受けへんけどな。一方で、ネリーさんは明らかにウチと同じことをしとった。そのへんの違いはどこにあるん?」

煌「ネリーさんと荒川さんが山牌の『牌』そのものを感じ取っているのに対し、高鴨さんは、山牌を創り出す『対戦相手』を感じ取っている――と言えばいいのでしょうか。
 先ほど、運命論でお話した運命操者《コンダクター》で言うなら、荒川さんとネリーさんが一型で、高鴨さんは二型に近いのではないかと思います」

菫「荒川たちが感知系で、高鴨は感応系ということか。確かに、荒川は感知系能力者を一纏めにしたような打ち手だが、高鴨は、感応系最強の大能力である《照魔鏡》を持つ照に近い打ち手のような気もする」

煌「はい。そして、ここがミソなのですが、《龍脈》とは《世界の力》であり、それは個人個人の人の生命力と、相互に影響を及ぼし合っていると言われています。
 さらに、運命論でいうところの運命創者《プレイヤー》がいい例ですが、山牌はヒトの確率干渉を受けて成立しています。
 つまり、風水においても麻雀においても、《山》と《人》は切っても切れない関係にあるのですね」

淡「《山》を読めば《人》がわかって、《人》を読めば《山》がわかる……ってこと?」

煌「その通りです。高鴨さんは、《対戦相手》の力の流れを読み解くことで、間接的に、その人が創り出す《山》――《龍脈》を把握しているのではないか、と私は考えます。
 これは、山牌の並びを直接見聞きできる荒川さんたちに比べて、正確性には劣りますが、大局を掴むという点では、非常に優れているかと思います。
 高鴨さんは、《対戦相手》を知ることで、山牌の大まかな並びだけでなく、ゲーム全体の流れをも読み解くことができる。
 あの方が信じられないほど遠くを見通すことがあるのは、このためではないかと思います」

菫「《龍脈》とやらは占術に用いられる概念なのだものな。本当にそんなものがあるのなら、遠い未来を伺うことも不可能ではない……のか」

煌「また、高鴨さんの力が感応系に近しい何かだと仮定すると、その効果が対局の後半に発揮されることの説明にもなります。
 桃子さんの《ステルス》のように、感応系の中には、発動までに時間がかかるタイプの能力がありますからね。能力論的な言い方をすれば、相手の《意識の波束》と共振するまでのタイムラグです」

憩「宮永照の《照魔鏡》も、一局打たへんと発動せーへんしな」

菫「感応系か。すると、照の《照魔鏡》や東横の《ステルス》同様、一度発動されると、その影響を回避することはかなり難しいということになるな」

煌「実際、難しいでしょう。高鴨さんの牌譜はあまり多くありませんが、場の支配らしき何かが始まってから高鴨さんが劣勢になったケースは、一度としてありません。
 こうなると、数日置いて能力の影響をリセットする以外に、高鴨さんの支配から逃れる方法はないように思われます」

憩「えらい厄介やんな……」

淡「んー、でもさでもさ、キラメ。あの《原石》が感応系なら、《上書き》はできないってことだよね?
 それだと、たまに対戦相手の能力が《無効化》されてるのが説明できなくない? 今も、東場なのにユーキの能力が機能してないみたいだし」

煌「そこについては、また《龍脈》の話に戻ります。《龍脈》とはエネルギーの流れ。それは《山》の中を脈々と巡る力です。
 ところで、麻雀において、《山》を流れるエネルギーとはなんでしょう」

菫「まさか――確率干渉力か……!?」

煌「そういうことです。《龍脈》――山に潜むエネルギーの流れ。これを《確率干渉力》に置き換えてみましょう。
 高鴨さんは、個人が発する確率干渉力の流れを読み取り、やがて場全体の確率干渉力の流れを掌握、そこに自らの確率干渉力を作用させることで、その流れを制御し、利用している。
 この仮説、いかがですかね?」

淡「確率干渉力って……だって、あれって、試合前にケイが変な硝子板持ってたけど、検知するのにも特殊な道具を使わないといけないんだよね?
 その流れを、そんな正確に掴むことなんてできるの?」

煌「私はその手の感覚は皆無ですが、確率干渉力――支配力を感じること自体は、淡さんを始め、少なからずできる人がいます。
 ならば、ネリーさんの耳や荒川さんの目のように、高鴨さんが人並み外れたセンサーを持っていても、不思議ではないかと」

淡「ふむーぅ……」

菫「だが、運命論とやらよりは、まだ飲み込める。真偽のほどは別として」

憩「能力をどうこうしとるんやなくて、能力の大本になっとるエネルギーのほうに干渉しとる、か。信じられへんけど、確かに、それやと能力の《無効化》は説明できるな。
 能力を発動するためには、エネルギーが要る。そのエネルギーの流れを断ち切るなり乱されるなりしたら、そら、能力の系統や強度に関係なく《無効化》されてまうやろ」

煌「高鴨さんの支配力の強さが一定しない――というのも、この辺りに起因しているのではないかと思います。高鴨さん自身の純粋な確率干渉力は、さほど高くないのかもしれません。
 しかし、場に満ちている確率干渉力を我が物のように利用できるなら、やり方次第でランクS相当の支配力を発揮することも可能でしょう」

菫「まとめると……高鴨穏乃は、対戦相手の発する確率干渉力の流れ、ひいては場に満ちる確率干渉力の流れを感知し、それを操作することで、対局を優位に進めている――ということになるのか」

憩「山の深くが支配領域《テリトリー》っちゅー話は?」

煌「《龍脈》は山の尾根を流れると言いました。つまりは、山嶺です。
 ひょっとするとですが、王牌は確率干渉力の流れが収束している領域なのかもしれないですね。或いは、《世界の力》が満ちている特別な領域である、とか。
 そう考えれば、山の深いところは、高鴨さんの力の源泉ということになります。ゆえに、その付近に行けば行くほど、高鴨さんの支配が強くなる。
 さらに、《世界の力》なるものが渦巻いているのであれば、王牌が非常に《上書き》しにくい領域である――個人の確率干渉力が行き届きにくい領域である――という一般的な事実とも符合するように思います」

憩「むっちゃ参考になるわー」

淡「えーっと、結局、シズノに勝つにはどうすればいいの? その《龍脈》とかいうのをやっつければいいの?」

煌「《龍脈》は《世界の力》。そこに雀卓《セカイ》がある限り、決して絶えることのないエネルギーです。この力そのものを無にすることは、《絶対》にできないでしょうね」

菫「まあ……人間が四人も集まってるんだから、場から確率干渉力が消え失せることはないだろうな」

煌「もちろん、それもあります。加えて、運命論的に言えば、山牌――《運命》とは神によって齎されるもの。ヒトの確率干渉力とは別に、山牌そのものに、既に天上のエネルギーが宿っているのです。
 天使の力《テレズマ》とでも言えばいいのですかね。こちらも、当然ながら、力そのものを消滅させることは《絶対》にできません」

憩「まさにすごいパワーやな」

淡「なんか、キラメの話を鵜呑みにすると、私って、もしかしてシズノとめちゃくちゃ相性悪い……?」

煌「そうですね。淡さんが山牌に対して強大な支配力を発揮すればするほど、それが高鴨さんの力になってしまうわけですから。
 さらに、王牌周辺が高鴨さんの力の源泉であるならば、淡さんの支配領域《テリトリー》にも何らかの影響があるはずです。具体的に言うと、カン裏が乗らなくなる可能性があります」

淡「マジかー!?」

菫「王牌周辺となると……海底が支配領域《テリトリー》の天江も危なそうだな」

憩「っちゅーか、ホンマに確率干渉力――支配力の流れを感知・制御できるんやとしたら、それを拠り所にしとる全ての支配者《ランクS》にとって、高鴨さんはどえらい天敵ってことになるやん。
 ジョーカー殺しって噂はそういうことか。宮永照が味方に引き込んだのも納得やで」

淡「あっ、そっか! だから、ノドカは比較的相性がいいんだねっ!? 前半戦の終盤で動き出したシズノをノドカが止めたのは、そういうことでしょ?」

煌「恐らくは。《龍脈》――ひいては古典オカルトは、信じることそのものに意味がある、と言いました。
 端からそのようなオカルトの存在を信じもしないし認めもしない原村さんは、高鴨さんとは全く別次元で麻雀を打っていると思われます」

     和『リーチです』

憩「ホンマや。原村さんだけ、片岡さんや新子さんと違うて全然苦労しとる様子がない。高鴨さんも少し困っとるような顔しとる」

菫「しかし、高鴨は場のエネルギーを利用しているわけだろう? いくら《デジタルの神の化身》とは言え、個人の技術でどこまで対抗できるものなのだろうか……」

     穏乃『ロンです。2900の二本場は3500』

     和『はい』

淡「うおっと! これで五連続か。完全にトップ独走態勢だけど、ねえ、キラメ。本当にシズノの力ってどうにもできないの?」

煌「高鴨さんの力そのものをどうにかすることは、《絶対》に不可能でしょう。私の仮説が正しくても誤りでも、高鴨さんがレベル5の一人なのは事実。
 彼女の力は、その正体はどうあれ、なんらかの《絶対》性を有しているはずなのです」

淡「じゃ、じゃあ、私とシズノが戦ったら、シズノが《絶対》に勝つってこと……?」

煌「いえいえ、そうは言っていませんよ」

憩「へえ、何か対策があるん?」

菫「聞く限りでは皆無のようだが……」

煌「《龍脈》の話に立ち返りましょう。《龍脈》とは《世界の力》であって、決して個人の所有物ではありません。高鴨さんは、それをうまく利用しているに過ぎないのです。
 当然ながら、《龍脈》が高鴨さん以外の誰かに味方することもあるわけですね」

憩「せやけど、それ、高鴨さん以外には感知できひんわけやろ? 味方してくれても、掴めへんのやったら意味ないやん」

煌「感知できなくても、引き込むことはできるはずです。《龍脈》はエネルギーの流れ。それは決して不動不変の何かではありません。《山》が変化すれば、《龍脈》もまた、変化する。
 そして、高鴨さんが感知している《山》とは《対戦相手》――要するに、人です。人が変われば、《山》も《龍脈》も変化する。
 その変化自体を止めることは、高鴨さんにはできません」

菫「それは……もしかして、あれか? 死ぬ気で頑張れってことか?」

煌「有り体に言うと、そうです」

淡「具体性が行方不明だよーっ!?」

煌「申し訳ありません。まあ、一番の対策は、原村さんを見習うことです。原村さんは桃子さんの《ステルス》を破っていましたし、感応系能力者に強い――《意識の波束》が他者と共振しにくい特性を持っているんだと思われます。
 原村さんの根底にあるのは、純粋な《古典確率論》と《計算》。彼女は、意識して《意識の偏り》を排除しているのですね。
 能力論的に言えば、意識の波束が不定――《固有値》が存在しないということ。他者の意識の波束と共振する感応系能力者にとっては、この上ない天敵でしょう」

憩「ほな、原村さんは、高鴨さんだけやなくて、宮永照やガイトさんとも、勝てるかどうかは別として、わりかしええ勝負ができるっちゅーことになるな」

菫「恐ろしい一年生だ……」

淡「けど、ノドカみたいに打つのは難し過ぎるよ? っていうか、できるもんならやってるし」

煌「ですね。まあ、なので、とにかく頑張ってみるしかありません。宮永さんの《照魔鏡》も、対戦相手の本質を見抜くものですが、それにも抜け道がある。ですよね、弘世さん?」

菫「……そうだな。例えばだが、松実さんの妹が、ドラ切りリーチをすることで照から直撃を取ったことがあった。先鋒戦前半での竹井の責任払いもそう。
 《照魔鏡》を持つ照に対抗するには、あいつの予想を超えるしかない」

憩「簡単に言いますけど、それってむっちゃ大変ですやん」

煌「いえ、そうでもないと思いますよ」

淡「へ? なんで?」

煌「今、あそこに座っている方々が、皆さん一年生だからです」

菫「ふむ……?」

煌「一年生は、いい意味でも悪い意味でもブレがあります。こちらの予想を超えてくることなど日常茶飯事。成長の余地がたくさんある、と言ってもいいでしょうね。
 皆さんまだまだ発展途上。その山は刻一刻と高く強く変化しています。いかに高鴨さんと言えど、その変化の全てを予測することはできないはずです」

憩「なるほどなー。ホンマ、一年生四人を抱える花田さんらしい意見やで」

煌「皆さんには練習のときから驚かされっぱなしですから。ですよね、淡さん?」

淡「まっ、私は天才だから、限界なんて存在しないんだよねっ!!」

菫「いやはや、随分とうまくまとめたな。これが《煌星》のリーダーか。勉強になる」

煌「恐縮です」

憩「せやけど、まあ、なんにせよ高鴨さんの力が厄介なことに変わりはあらへんよな。順当に行けば、この連荘を止める本命は原村さんなんやろうけど、果たしてどうなるんか……」

 ――対局室

 東四局三本場・親:穏乃

穏乃「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:高鴨穏乃(永代・171100)

和(116300点差ですか)

 北家:原村和(新約・54800)

憧(122800点差とか!)

 西家:新子憧(久遠・48300)

優希(え、えーっと、五万点差くらいだじぇ……?)

 南家:片岡優希(幻奏・125800)

和(次鋒戦開始時より点差をつけられるわけにはいきません。どこかで必ず挽回します!)

優希(前半戦が始まったときは200点差、後半戦の東一局一本場では300点差だったのにだじょ。何がどうなってるんだじぇ)

憧(チーム点数が五万点を切るなんて、二回戦でネリー=ヴィルサラーゼにボコられたときよりひどいじゃない。
 ホントどうなってんのよ、この高鴨穏乃ってやつ。マジで何やっても勝てる気がしないわ――)フゥ

穏乃(……新子さん?)

憧(けど……だからって、諦めるわけがないじゃないのッ!!)ゴッ

穏乃「っ!?」ピクッ

憧(さあ、ブチかましてやるわよ。点差が何よ。役満二回和了れば余裕で追いつける。いや、まあ、今親の役満喰らったらトぶけど......それはそれ――!!)

憧(いつもなら、こんなことしないけど、点差がある今は、こういうことも大事かもね。この配牌……何飜で和了れる――? よし、決めた……!!)パタッ

穏乃(配牌を一度伏せた……!? それって、白水さんが《約束》するときの動作――)

憧(なんちゃってリザベーション……シックス!!)ガガガガガガッ

優希(あ、憧ちゃん!? よくわからないけど、色々な意味で危険なことしてないか!?)

和(まったく無意味な行為としか思えませんが、しかし、そうやって自身を鼓舞するのは、この状況では大切なことかもしれませんね)

憧(ははっ、無駄な縛り……!! 哩は一体なにを考えてこんなしんどいことしてたのかしら。まあ、ちょっとわかるけどさっ!!)タンッ

穏乃(新子さんにすごいパワーが集まっていくのがわかる……けどっ、それだけじゃ私からは逃れられませんよ! 原村さんがいつ親を蹴ってくるかわからない。まだまだ押せ押せです!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧(こいつ……!? 歯向かえば歯向かうほどその大きさがわかるわねっ。登っても登っても頂上が見えないったらないわ。
 けど、それでも前に進むっ!! みんな……お願いだから、あたしに力を貸して……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《久遠》控え室

哩「憧が……リザベーションやと?」

洋榎「ネリ江の真似っこみたいに哩そのものにはなってへんみたいやな。ほな、単なるゲン担ぎってことか」

白望「けど、打ち方、少し変わった」

久「この点差だものね。憧にしては珍しく、高い手を狙っているのかも。ハネ満か倍満くらい」

洋榎「憧ちゃんが満貫以上の点数を和了っとるとこなんて見たことないわー」

哩「時々あったと。ドラの暗刻ば持っとうときとか」

白望「稀」

久「あら……鳴いて手が進むのに、鳴かなかったわね」

哩「いや、それだけやなかと。あいは......あの手の止まり方は――」

     憧『……ちょいタンマで』

洋榎「はっはーっ! ええでー、憧ちゃん!! オモロなってきたわー!!」

久「あらあら、シロさん? なーんで顔伏せてるのかしらー?」ニヤニヤ

白望「見てるのダルいから……////」

哩「なんば照れとう。後輩の私らば頼ってくれとうよ。こんな嬉かことはなかとやろ」

白望「う、うん……」

     憧『よし……決めた。ちょっと変だけど、これで……!』

白望「憧……頑張って……」

 ――対局室

憧「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(新子さんの手が進んでる感じがする……しかも、わりと高い)タンッ

優希(憧ちゃん……一瞬白いのみたいな雰囲気がしたじぇ。どーなってるのか?)タンッ

憧(深いところにいたわね――張ったわ……!!)ゴッ

穏乃・優希「!」ピクッ

憧(さてさて。ダマツモで満貫。ドラに頼らずこんな高い手を作るのはいつ振りかしら。けど、これ、リーチ掛けないと六飜にならないのよね。なら……やるしかないっか!!)

憧「リーチ……ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(憧ちゃんのリーチ!? リーチ率は誠子先輩並みに低かったはずなのにだじぇ……!!)

穏乃(こ、この覇気に満ちたリーチは……まさか愛宕さん……!?)ゾクッ

憧(信じるのよ。洋榎と違って、あたしには自信を裏付けてくれる実績なんてないけど。
 それでも、あのバカの強さは嫌ってほど見てきたから。ちょっとでも、あいつに近付けるように……!!)

和「チー」タンッ

穏乃(原村さんっ!? ここで動いてくるんですか!!)

和(先ほどから何やらごちゃごちゃとオカルトめいたことをしているようですが、あなたが何を背負っているかなど、私には関係ありません――!!)ゴッ

憧(あー……そういやこいつもこいつでとんでもない化け物だったわね。久たち全員、口を揃えて『放っとけ』としか言わなかった《デジタルの神の化身》――原村和……!!)

穏乃(新子さんと原村さんが同時に暴れるのかぁ。これを止めるのは大変だけど……だからこそ止めたいっ! 楽しみがいっぱいっていいよね!!)タンッ

優希(憧ちゃんはもちろん、のどちゃんも張ってるっぽいじぇ。ここは割り込める気がしないじょ……!!)タンッ

憧(ツモれず、っと。ま、あたしは別に《上書き》とかできないし。大丈夫、思ってたより焦りはないわ)タンッ

和(赤――ふむ、これで一飜高くなりましたね)ヒュン

穏乃(うおうっ!? 張ってたと思った原村さんが手出し? これは嫌な予感がする……!!)タンッ

優希(全力でオリるじぇ!!)タンッ

憧(特に根拠があるわけじゃないけど、和了れる気がする! みんなが……力になってくれてる気がする――!!)タンッ

和(おっと……これで待ちが倍増ですね)ヒュン

穏乃(やっばい!? 切りにくいとこ来ちゃったな……!!)ゾワッ

優希(ままならんじぇー……)タンッ

憧「ツモ……!!」パラララ

穏乃・優希・和「!?」

憧「3000・6000の三本付けでよろしく――」

和(最下位!? くっ……!!)

優希(やっぱりそこだったじぇ)

穏乃(すごいすごいすごいっ!! 親っ被りは痛いけど!!)

憧「それじゃーま、南入しましょっか!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希:122500 憧:61200 和:51500 穏乃:164800

 南一局・親:優希

和(なかなか苦しい状況ですね……紆余曲折ありましたが、後半戦の南場に入ったというのに、チーム点数が次鋒戦開始時とほとんど変わっていません)ヒュン

和(この程度の偶然はよくあることです。わかっている。頭ではわかっているのですけれど、悔しいものは悔しい。ともすれば、デジタルを捨ててオカルトに走ってしまいそうなほど……!!)ヒュン

和(先ほどの一局、新子さんは、チームメンバーの先輩方のクセを真似ていたと思われます。配牌を伏せるのは、姫子さんから聞いている白水先輩特有の仕草。
 『ちょいタンマ』は、怜さんが注意しろなどとわけのわからないことを言っていた小瀬川先輩の口癖。
 最後のリーチは、絹恵さんがあんな風に打ちたいと言っていた、愛宕先輩のそれでしょうか)ヒュン

和(他人の真似をすることで、その力にあやかろうとした……ということでしょう。まったく――まったく偶然極まりない!!)ヒュン

和(私には、そんなもの必要ありません。未来なんて見えなくて結構。四喜和など数ある役満のうちの一つ。誰かの和了りを引き継ごうとして手作りを限定するなんてもっての他。そして、それらを『ある』ものだと妄信して古典確率論に反する打牌をするのも……お断りです!!)ヒュン

憧「……リーチ」チャ

和(赤五……? なんのつもりでしょうか――)ヒュン

穏乃(安牌がない。ものすごく振りそうな気がする......!!)タンッ

憧「それよ――」ゴッ

穏乃「ッ!?」ゾワッ

憧「リーチ一発裏々……8000」パラララ

和(はああああああああ!?)ガタッ

穏乃「(やっぱりダメだったかぁー……)は、はい」チャ

和(赤五と平和と一盃口をまとめて捨てる!? ありえません!!)

憧「(よっし、トップから直取り!!)これであたしの親ね。……って、何よ。なんか問題でもある?」

和「も、問題だらけです! どういうつもりですか!? そんな、そんな非効率な打ち方をして……!!」

憧「あたしだって普段はそこそこ効率的に打ってるわよ。あんたほどじゃないけどね。ただ、今は、なんかこれでイケそうな気がしたの」

和「そんなのは思い込みです! 偶然ですっ! たまたまですっ!!」

憧「いいじゃん、別に。偶然全然大歓迎。だってそれで勝ってんだから」

和「ッ!?」

憧「あたしにはあたしのやり方がある。信じるものがある。そうやって今まで勝ってきたの。ごちゃごちゃ難癖つけてる暇があるなら点数見なさいよ。
 ってか、文句があるなら麻雀で言えばいいじゃん。ねえ、あたし、何か間違ってるかしら?」

和「…………こんな屈辱は生まれて初めてです……!!」プルプル

憧「あはっ、そういう顔もできるのね。機械みたいなやつだと思ってたけど、案外中身は子供なんだ」

和「新子さん……あなた――!!」

憧「あんたタメなのに堅苦しいのね、憧でいいわよ」

和「憧……どうやら、竹井学生議会長からよくない影響を受けているようですね。その思い込み、私が全力で正して差し上げますよ」

憧「あははっ、やれるもんならやってみなさいよ、《デジタルの神の化身》ッ!」

和「……そんな長ったらしい通り名で呼ばれるくらいなら、和で結構です」

憧「そう? なら、遠慮なく。和……あたしの目標はトップ通過だけど、あんたを凹ましとけば、とりあえず三回戦は突破できるはずよね」

和「なかなかの偶然ですね。今、私もまったく同じことを考えていました。トップを狙いつつあなたを突き放しておけば、チームのみんなが楽になるかなと」

憧「はあ? 和、あんた冗談は胸だけにしてくんない?」

和「む、胸は関係ないでしょうっ////」カー

憧「うわーっ、真っ赤! 和ってばマジ可愛いっ!」プププ

和「まったく不愉快です……!!」メラメラ

憧「ふん。じゃ、ま、改めてよろしく頼むわ。和」

和「あまりよろしくできる気がしませんが、あなたとは末永いお付き合いになりそうですね、憧」

憧「そんなツンケンしないで、一緒に頑張りましょうよ。あたしら、目的は一緒のはずでしょ?」

和「ええ。それはそうですね――」

憧・和「より多く奪う……ッ!!」ギロッ

優希・穏乃(最終的にこっちーっ!!?)ゾワッ

憧「とりあえず……トップ取る前に、あんたの首をもらっとこうかしらね――優希!!」

優希「むむむっ! 南場だからって調子に乗るなよ、憧ちゃん!!」

穏乃「あ、あの、原村さん……和――って呼んでもいいですかっ!?」

和「ご自由にどうぞ、穏乃」

穏乃「やっほーいっ!! 友達増えたっ!!」

憧「ったく……大トップ様は余裕でいいわね、シズ――!!」

穏乃「もう今みたいな振り込みはしないよっ、憧!!」

優希「のどちゃん、ここから逆転するつもりとか、そんなオカルトありえないじぇ!!」

和「麻雀に不可能はありません。優希がどう思おうと、そんなデジタルはありえるのです」

憧「っしゃー! じゃあ、行くわよっ!! みんな覚悟はいいかしら……南二局ッ!!」コロコロ

優希:122500 憧:69200 和:51500 穏乃:156800

 南二局・親:憧

憧「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(ふう……勢いに呑まれてあれこれ強がってしまいましたが、現状は憧の言う通り最下位。さて、ここからどうしたものでしょう――)

和「失礼……」スゥ

憧(ちょいちょい……この流れで熱くなるどころか冷静さが増すとか、こいつの精神構造オカルト過ぎるでしょ!!)

優希(最初からずっと起きてたけど、改めておはようなんだじぇ、《のどっち》!!)

穏乃(目の錯覚なんだろうけど……天使モードの和がはっきり見える。すっごく綺麗だなー……///)ポワー

和「お待たせしました。では、行きます……!!」ヒュン

和(やることは決まっています。相手が誰かなど関係ない。オカルトなど、信じたい人だけが信じていればいいんです……!!)ヒュン

穏乃(和は本当にブレないなー!)タンッ

憧(洋榎並みの図太い神経をお持ちのようで(あと洋榎にはないけど胸もっ)!!)タンッ

優希(のどちゃん赤面、相手は死ぬっ! いやいや、私はまだ死にたくないじぇっ!!)

和(行きましょう……! 私は、私らしく――ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《新約》控え室

絹恵「なんやかんや言うて結局いつも通りなんかーい!!」

姫子「レベル5より《絶対》のデジタルと」

初美「新子さんはチームメンバーの力をうまく自分のものにしたっていうのに、我らが和はガン無視の個人プレーと来たもんですよー」

怜「ははっ、和らしくてええやんなー」

絹恵「まあ……最終的にそれで勝って戻ってくるから、信頼はしとるんですけどね」

姫子「せっかくやけん、ちょっとくらい私らのことば思ってくれてもよかと思うとです」

初美「和がそんな感傷的な性質ですかー。期待するだけ無駄ですー」

怜「せやね。和にそんなオカルトは期待できへん。うちらには、信じることしかできひんねん。せやけど、それが、きっと和の力になっとる。
 そう思えば、ほら、和がデジタルに徹していられるんは、うちらのおかげっちゅーことになるやん」

絹恵「そんなもんですかねぇ」

姫子「怜さんは本当にポジティブとですよね」

初美「頭が悪いだけですよー」

怜「こらー!?」

     憧『チー!!』

初美「っと、新子さんが動いてきたですかー」

絹恵「ドラごっそり抱えとるやん。これツモられたら痛いで」

姫子「ばってん、和も張っとう」

怜「新子さんが普通に余剰牌を切ってくれば直撃やけど、どうなるか……」

     憧『…………!』

絹恵「散々迷って止めた!?」

初美「カンがいいですねー。ま、鳴いた後に気付くあたりがまだまだですけどー」

姫子「ツモればよかと! 和っ、そこと、目に物ば見せたりんしゃい!!」

怜「残念。ツモれずや」

初美「デジタルですからねー」

絹恵「もどかしいわーっ!!」

姫子「こいが焦らしプレイ……!?」

怜「いや、その発想はおかしい」

     和『ツモです……2000・4000』

姫子「あぁんっ! よか、よかよ、和……っ!!」ビビクンッ

初美「おい誰か荒川憩を連れてくるですよー!!」

絹恵「怜さん、うち、ちょいちょい姫子をキモいと感じることがあるんですけど、これ、友達としてどう受け止めたらええんですかね?」

怜「白水さんに聞いてーな」

絹恵「なるほど!」

姫子「絹恵、気ばつけんしゃい。哩先輩は私より何倍もヤバか人やけんね」

絹恵「なん……やと……!?」

怜「まあ、レベル5になるくらいの絆やから、変態性もレベル5ってことやんな」

初美「そんな爛れた超能力者は嫌ですー」

姫子「なんば言われても関係なかとです! 私たちには私たちだけの世界のあっ!!」

絹恵「なんやろ……だんだん、怜さんがまともな超能力者に見えてきましたわ!」

怜「うちは元々まともやで!?」

初美「レベル5で一番まともなのはどう考えても渋谷さんですー」

 ――対局室

 南三局・親:和

和(気のせいだとは思いますが、何やら控え室でバカ騒ぎが起きているような……)ヒュン

 東家:原村和(新約・59500)

穏乃(和の親かぁ。連荘はされたくない。ただ、和は例外だとして、憧のほうも、最初と比べて山の形が大分変わった。
 すごパを使おうにも、もう一回登るには時間が足りない。ここは守りを固めて逃げ切るのがよさそうかな)タンッ

 南家:高鴨穏乃(永代・154800)

優希「……」キュッ

 西家:片岡優希(幻奏・120500)

穏乃(わっ――優希まで……!?)ゾクッ

憧(東場じゃないんだから、そんな力いっぱい牌を掴んだって《上書き》はできないでしょ)タンッ

 北家:新子憧(久遠・65200)

和(優希……?)ヒュン

穏乃(これは……プラス収支で終われれば御の字っぽい)タンッ

優希(よくわからないけど……手に力を感じるじぇ。東場みたいに牌を《上書き》できるわけじゃないけど、少しでも、気持ちを力に変換する……!! 最後の最後まで、集中しろだじぇ!!)ゴッ

憧(うえっ!? ちょっとちょっと、南場は失速するって誰が言ったのよ……!! 逆に盛り上がってきてない!?)タンッ

和(そうですよ、優希。やればできるじゃないですか)

和「チーです」ヒュン

優希(のどちゃん……親だから和了率優先ってことか?)

穏乃(と、和、今回は高いのは狙わないんだ)タンッ

優希(ふむ……ナイスズラしだったようだじぇ、のどちゃん!)タンッ

憧(うおっ、なんか恐いとこ切ってきたわね……!)タンッ

和(このパターンなら、こちらですかね)ヒュン

穏乃(うーん……張った、けど)チラッ

優希「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(無理は、禁物。下山判断は、安全を最優先に――っと)タンッ

優希「ツモだじぇ……2000・3900」パラララ

憧(げっ、その手でリーチ掛けないのか。東場ならわりとわかりやすく攻めてくるやつだったけど、ダマもあるってんなら南場のほうが面倒かも……)

和(点差を考えればダマが正解でしょう。後半戦のラス前でもちゃんと集中できている......強くなりましたね、優希)

穏乃(ふう……やっぱり、ツッパらなくてよかった。うーん、もっと稼ぎたかったけど、ラス親は防御重視で行くしかないか)

優希(少しでも、点棒を取り返して、あとに繋ぐじょ。焦らず無理せず油断せず……突っ走るじぇ!!)

優希:128400 憧:63200 和:55600 穏乃:152800

 ――《永代》控え室

まこ「むう……穏乃のやつは一打目から消極的じゃの」

純「店仕舞いってことだろ。まあ、現状プラス。二位との点差もつけた。さすが穏乃だぜ」

塞「あいつマジ頼りになるわー」

照「片岡さんが相手なのに200点差で繋いだときはどうなるかと思ったけど……本当にやっちゃうなんて」

まこ「これでいよいよ、トップ死守が重大任務になってくるのう」

純「一年の穏乃がここまで頑張ったんだ。オレらがこのトップを守らねえわけにはいかねえよな」

塞「お願いだから、私までにたっぷり差を広げといてよね」

まこ・純「わかっちょる(てるよ)」

塞「だといいけど……って、また片岡が張ったわね」

純「へえ、あの打点でダマにするのか」

まこ「後続を信じる、っちゅうことかの」

照「心理戦」

塞「うあっ、新子が掴まされた。これは運がなかったわねぇ」

まこ「迷っちょるな。点差を考えれば、押したいところ。新子から見れば、片岡が張っちょるかどうかはわからんじゃろうし」

純「だからこそのダマ。点差を賢く利用してやがる。思ってたより頭が回るじゃねえか、タコスチビ」

塞「新子は……ちゃー、ツッパったかー」

照「注文通り」

     優希『ロンだじぇ。2600だじょ』

     憧『ふきゃ……!?』

『次鋒戦終了ー!! 区間賞は前後半ともに安定を保った《久遠》新子憧っ!! 《幻奏》片岡優希は一人沈み、一方、トップの《永代》は磐石!! 二回戦同様、先行逃げ切りの態勢に入りましたあああ!!』

まこ「さて、と。わしの出番じゃの……」

純「気張れよ」

塞「相手わりかし強いけど、まあ、あんたならそう簡単にやられないでしょ」

照「応援してる」

まこ「ありがとの」

 ダダダダダダダダダダ バァァァァン

穏乃「ただいま戻りましたー!!」

まこ「速過ぎるじゃろ。対局終わってからまだ十秒も経っとらんぞ」

穏乃「いち早く勝利をお伝えしたかったものですからっ!」

純「何言ってんだ。トップ死守したとは言え、総合収支は三位だろうが」

穏乃「これは手厳しい!!」

 三位:高鴨穏乃・+3800(永代・152800)

照「けど、事実」

穏乃「照さんまでっ!?」

塞「いやいや、あんたら鬼ですか? 高鴨はこの上ない結果を残したってのに。ほら、高鴨、いい子だからこっちおいで。塞お姉様がよしよししてあげるわよー」

穏乃「やっほーいっ!!」ドヒューン

塞「ぐはあっ!? 誰がタックルしろっつったのよ、高鴨おおお!!」

穏乃「すいません。つい、純さんに飛びつくノリで!!」

塞「こんな男女とか弱い私を一緒にしないで」

純「よく言うぜ、押しても引いてもビクともしねえ《塞王》様がよ」

塞「麻雀とプライベートは別物よっ! 宮永を見てみなさい、対局室と控え室での、このギャップ!!」

照「え?」モグモグ

純「ギャップなら穏乃に敵うやつはいねえだろ。控え室では落ち着きのねえ猿。対局室では落ち着きしかねえ山」

穏乃「恐れ入りますっ! けど、ギャップがないのも素敵だと思いますよ。純さんやまこさんのように!!」

まこ「ほえ? 純はわかるが、わし?」

穏乃「《破顔》のまこさんっ! 控え室でも対局室でも、笑顔のまこさんが一番です!!」

まこ「穏乃……」

純「だとよ。笑えねえ展開にならねえよう、せいぜい気をつけろや」

塞「卓上だけじゃなくて私のことも笑わせてよね。点棒的な意味で!」

照「気負わないで。いつも通りで大丈夫」モグモグ

まこ「……なんじゃ、どいつもこいつも、それでわしの緊張をほぐしたつもりなんか?」フゥ

穏乃「はいっ! いかがですか、まこさん!?」

まこ「わからん……けど、わしなりにやれることをやっちゃるわ。穏乃がそうしてくれたみたいに、強張った顔を、笑顔に変えてみせる」ニコッ

穏乃「そうですっ! やっぱりまこさんはそうでなくては!!」

まこ「わりゃあ本当に大した一年じゃの。参った参った。負けられなくなってしもたじゃろうに」

純「ハナからそんなつもりねえくせに」

塞「マジで頼むからね! 最低でも十万点差くらいでよろしく!!」

まこ「任せんしゃい」

照「染谷さん……」

まこ「む、なんじゃ?」

照「《頂点》まで、あと二勝だよ」

まこ「……ほうじゃな。頑張るわ」

穏乃「行ってらっしゃいませ!!」

まこ「おう……行ってくるッ!!」ゴッ

 ――《久遠》控え室

憧「ただいまー」ガラッ

 一位:新子憧・+9100(久遠・60600)

久「お疲れ様。よく頑張ったじゃない」

憧「うっ……いや、本当はもうちょっと稼げる予定だったんだけど」

哩「区間賞やけん、もっと胸ば張りんしゃい」

憧「う、うん……」

洋榎「ちぇー、つまらんなー。二回戦ではボロ泣きで帰ってきたから、せっかく弱っちい憧ちゃんのためにぎょーさん一発芸考えてきたのに。全部無駄になってもーたわー」

憧「洋榎……あんたのその不器用な優しさ、マジでムカつくわ」

洋榎「えーっ!?」ガビーン

憧「っていうか……本当にムカつくのは、この状況で寝てるあんたよーっ!!」ユッサユッサ

白望「あ……憧。次鋒戦終わった……?」ムニャムニャ

憧「終わったから帰ってきたんでしょー!?」

白望「ふーん……どうせ憧が勝ったんでしょ?」

憧「んな――ッ////」

哩「シロ……!? 対局の終わった途端に寝たフリし始めたかと思えば、そいな口説き文句ば用意しとったなんて……!!」

洋榎「本命のボロ負けを想定しとったうちと、大穴の区間賞を想定しとったシロ――!! これは負けを認めるしかあらへんな……やるやんか、シロ」フフフ

憧「あんたら人の感情を玩具にすんなぁー!!」

久「で、シロ。期待してていいのかしら?」

白望「うん……憧よりは稼いでくる……」

憧「うっさいわよっ、もー!! けど、ごめん、あとは頼んだわっ!!」

白望「もちろん……だから、憧、代わりに、一つだけお願いしても?」

憧「な、なによ? っていうか、シロのくせにそんな真っ直ぐ見てこないでよ……なんか恥ずかしいんだけど……////」

白望「憧……私に、力を……貸して……」ガバッ

憧「ひゃあああああああああ!?」

久「あら」

哩「ふむ」

洋榎「ほー」

白望「憧……お願い……」ズイッ

憧「(近い近い近い!!)なっ、なによ……////!?」

白望「対局室までおんぶしてー……」ダルー

憧「そんなオチだろうと思ったわよッ!!」ゲシッ

白望「うおっふ……」ドサッ

憧「もうっ! 知らない!!」プイッ

洋榎「ははっ、フラれてもーたな、シロ。ざまーや」

哩「ほれ、大丈夫か。ちゃんと立ちんしゃい」グッ

白望「うー……ダルい」ヨロッ

久「結局いつものシロねー」

憧「シロ! あんた、稼いでこなかったらわかってるでしょうね!? あたしよりプラスじゃなかったら、一週間小瀬川先輩って呼ぶわよっ!!」

洋榎「おっ、それ新しいな! 憧ちゃん、ほな、うちのこともうちのこともっ!!」

憧「黙りなさいバカ。あと、目障りだからどっか消えて」

洋榎「」

哩「憧ーっ!? 洋榎はなんやかんやで直球のキツか言葉に耐性のなかと!! それくらいにしときんしゃい!!」

憧「えー……?」

白望「ふう。じゃあ、行ってくるか」

久「控え室の状況が面倒になったことでシロが動き出した!?」

哩「気ばつけてな」

憧「シロ大明神様、なにとぞマジでお願いします」ペコッ

白望「うん。じゃあ――」

洋榎「おう、シロ」

白望「……ん、なに?」

洋榎「稼ぐんもええけど、ちゃんとうちの分」

白望「そういうのダルいからいいや。じゃあ、行ってきます」ザッ

洋榎「」

哩「洋榎ーっ!? し、しっかり!! 大丈夫と! 私はわかっとうよ!! 洋榎のあとで稼ぐ分ば残しとけってことやろ!?
 うんっ! さすが天下の洋榎と!! ナンバー4で実績ある洋榎にしか言えんイカした台詞と!!」

洋榎「うぅ……哩、自分、むっちゃええやつやな。どや? うちの嫁に来ーへんか?」ポンッ

哩「いや、そい無理。私は姫子一筋やけん」ペシッ

洋榎「」

久「さて……おバカさんは放っておいて、私たちは応援しましょうか」

憧「そうね。ふぁいとーっ、シロ!!」

 ――《新約》控え室

和「ただいま戻りました」ガラッ

 二位:原村和・+4900(新約・55600)

絹恵「おう、お帰り。和」

姫子「後半戦は大変そうやったね」

和「すいません……あまり稼げませんでした」

怜「ええよええよ、そういうもんやし」

初美「和がいなかったら、トップの高鴨さんがもっと独走してたかもですしねー」

和「ありがとうございます。あとは……先輩方にお任せしてよろしいのでしょうか?」

絹恵「なんで疑問形やねん」

姫子「ばっちり任せんしゃい」

和「いえ、お二人のことは心配していません。問題は、オカルト信者の怜さんです」

怜「えー?」

和「怜さん、いいですか? 未来が見えるなんてオカルトはありえません。変な待ち方で、不用意なリーチはしないこと。ちゃんとわかっていますか?」

怜「なにゆーてんねん、うちの未来予知は《絶対》やでー?」

和「またそんなわけのわからないことを言って……負けたら承知しませんよ」

怜「うちは学園都市に七人しかいないレベル5や。そんな簡単に負けへんから、安心しとき」

和「なら……いいですけど……」

怜「ほなっ、まー、ちょちょいと二位まくっとくかー! 一位まくるんは絹恵と姫子の仕事な。無理っちゅーんなら、ここでうちが一位までまくってくるけど、どないする?」

絹恵「今より悪くならなければ、なんでもええです」

姫子「別に現状維持でん、あとは私らでなんとかすっとですけん」

怜「ははっ、二人とも自信満々なのはええけど、そこは言うことちゃうやろー?」

初美「怜、トップまくってこいですよー!」

怜「せや! これこれっ!! さっすが、初美、わかっとるなー」

初美「ま、できるとは思ってないですけどねー」

怜「ひどーっ!?」

和「怜さん……」

怜「ん、なに?」

和「わ、私は、その……きると思ってます……」ゴニョゴニョ

怜「へっ? よう聞こえへんけど?」

和「なんでもないです!!」バシーン

怜「ぷおっ!? り、理不尽やけど……なんか気合入ったわ……!!」ヒリヒリ

和「言ったからには、必ず勝ってきてくださいね!!」

怜「ああ……《絶対》に勝ったる!!」

和「行ってらっしゃい、怜さん」

怜「行ってくるでーッ!!」ゴッ

 ――《幻奏》控え室

優希「ただいまだじょ……」ガラッ

 四位:片岡優希・-17800(幻奏・131000)

セーラ「おうっ、お疲れさん。いやー、大変やったなー」

優希「うう……」

ネリー「まっ、そういうこともあるよ、ゆうき!」

優希「じょー……」

誠子「あとは私たちに任せて」

優希「むううう……」ウルウル

やえ「泣くな、莫迦者」ポム

優希「や、やえお姉さん……」

やえ「よくやったとは言わん。新子に速度で流された点と、高鴨の能力に翻弄された点については私の非だが、それを差し引いても、お前の力ならもっと善戦できたと、私は思っている」

優希「じょ……ごめんなさいだじぇ」

やえ「今日の負け分は、決勝で取り返してくれる――ってことでいいんだよな?」

優希「うぅ……うあうぁ……!!」ポロポロ

やえ「泣いてちゃわからん。どうなんだ、片岡。次は勝ってくれるのか?」

優希「かっ、勝ちますっ……!! 次は勝ってみせるんだじょっ!!」

やえ「よかろう。その言葉を信じているぞ」

優希「や、やえお姉さああああん……!!」ダー

やえ「ええい、私の白衣で涙を拭くな! ネリー、こいつをなんとかしろっ!!」

ネリー「あいあいさっ! ほら、ゆうき、こんなこともあろうかと、ポテトチップス・タコス味をおやつに用意しておいたんだよ! 一緒に食べようっ!!」

優希「タコス……!!」キラキラ

やえ「ふう……さて、中堅戦か」

セーラ「せやなー」

やえ「おい、亦野」

誠子「は、はいっ!!」

やえ「わかっているな……?」

誠子「はい!!」

やえ「まあ、必要以上に熱くなることはない。自然に打ってこい」

セーラ「相手けっこー強いけど、頑張りーや」

誠子「いえっさ!!」

ネリー「ふぇいご、ふぁんふぁって!!」ガツガツ

優希「おねふぁいひまふはへ!!」ガツガツ

やえ「食うか応援するかどっちかにしろ……」

誠子「では、行って参ります――ッ!!」ゴッ

 ――観戦室

菫「大きく稼いだやつはいないが、片岡が沈んだか」

煌「もう一回半荘をやれば結果は変わってくるでしょうね」

憩「後半戦オーラス間近の片岡さんはええ感じやったしな」

淡「はいっ! そんなことよりケイ! さっさとキラメの膝からどく!!」

憩「はあ~気持ちよかったわ~。花田さん、またぜひに!」

煌「ええ」

淡「キラメー、私もしてほしいー」

煌「んー、少々気恥ずかしいので、また別の機会にしましょう」

憩「やって。残念やったな、大星さん?」プププ

淡「ケイってひどい!」

憩「あはっ、それ色んな人からよう言われるわ~」

淡「こんな《悪魔》をどう思いますか、スミレさん!?」

菫「いや、実際、これくらいなら可愛いほうだ」

憩「可愛いっ!?」ドキッ

淡「そーゆー意味じゃないよ?」

菫「うちのチームは智葉と荒川と天江がやりたい放題の言いたい放題だからな」

煌「お互い苦労しますねぇ」

淡「苦労してたのー!?」ガビーン

煌「いえいえ、言葉の綾です。皆さん元気がいいので、はしゃぎ疲れてしまうのですよ」

憩「落ち着きが足りひんっちゅーことやんな、大星さんには!」

淡「ぐぬぬ……!!」

菫「《通行止め》を困らせるような真似は控えろよ、大星」ナデナデ

憩「ッ!!??」バッ

淡「えーっ、私は普通にしてるだけだよ?」ウネウネ

菫「お前の普通は間違いなく普通じゃない」ポムポム

淡「そうかなぁー?」ウネウネ

憩「あ、あのー、菫さん? なんか大星さんとむっちゃ仲良くなってません?」

菫「ん? ああ......言われてみれば。たぶん、さっき寝てるときに見た夢のせいだろうな。照と渋谷と亦野と私とこいつでインターハイに出る夢だ。
 よくわからんが、こいつが大将戦で清水谷と鶴田と高鴨と戦ってた。危うい試合展開でハラハラしたぞ」モニモニ

淡「なにそれ!? 私がシズノたちに負けてたってこと? 失礼しちゃうなー」プンスコ

憩「花田さん!!」ゴッ

煌「は、はい?」ビクッ

憩「膝枕延長で!!」

淡「うえええええええー!?」

煌「ま、まあ私は構いませんが……」

淡「スミレー!? 私なんか悪いことした!? ちゃんと大人しくしてたよね!?」

菫「うん、まあ、生きていればこういうこともあるさ」ナデナデ

憩「花田さん! 頭撫でてっ! 優しく撫でてっ!!」

煌「かしこまりました」ナデナデ

淡「なんてことだ……!!」

憩「はーっ!! 至福やわー!! 花田さん大好きやわーっ!!」

淡「スミレー……」ウルウル

菫「諦めろ」ポンッ

煌「おっと、中堅戦が始まるようですね」


 ――対局室

怜「ほな、よろしくー!」

 東家:園城寺怜(新約・55600)

誠子「よろしくです」

 南家:亦野誠子(幻奏・131000)

まこ「よろしゅう」

 西家:染谷まこ(永代・152800)

白望「よろしく……」

 北家:小瀬川白望(久遠・60600)

『中堅戦前半――開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回は一週間以内に更新できるかと思います。可能なら中堅戦を一気に行きたいですが、文量と相談させてください。

あと、薄墨さんはレベル5で一番まともなのは渋谷さんとか言ってますが、このSSの渋谷さんは、どちらかと言えば、まともじゃない側の人間です。

このあとちょこちょこ書き込むかもしれませんが、ひとまずは、これで失礼します。

1スレ目(【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」)の変更点

>>17

淡「ふーん……。わかった。いや、わかってないけど。とにかく、いいよ。代打ちを認める。ただし、絶対に勝ってよね」



淡「ふーん……。わかった。いや、わかってないけど。とにかく、いいよ。代打ちを認める。ただし、必ず勝ってよね」

>>40

淡(明らかにオーバーランだよっ!! これ、聞いてたら絶対引いちゃうよっ!!)



淡(明らかにオーバーランだよっ!! これ、聞いてたら間違いなく引いちゃうよっ!!)

>>53

淡(んー、特に変わった音はしないなー。リーチの発声はルールだから、リーチするなら絶対に声が聞こえるはずなんだけど……。もしかして、モモコ、まだリーチしてない? なら、押せ押せってことかな。よしっ!!)タンッ



淡(んー、特に変わった音はしないなー。リーチの発声はルールだから、リーチするなら声が聞こえるはずなんだけど……。もしかして、モモコ、まだリーチしてない? なら、押せ押せってことかな。よしっ!!)タンッ

>>221

ネリー「《神の耳》――絶対音感と完全記憶能力なんだよ! 私の脳には、古今東西、10万3千局の牌譜が音楽として記憶されているっ!!」



ネリー「《神の耳》――『絶対音感』と『完全記憶能力』なんだよ! 私の脳には、古今東西、10万3千局の牌譜が音楽として記憶されているっ!!」

>>370

淡「さーて……文字通り全員団結したところで、気合入れるよっ!! 負けた私が言うのもあれだけど……いや、むしろ負けた私に言わせてほしいっ!!
 とにかく……次は絶対に勝つからねっ! 練習だから負けてもいいなんて、私は死んでも思わないっ!! 練習でできなかったことは本番でもできない。だから、練習で勝って、本番でも勝つ……ッ!!
 次こそは、あの実りに実った連中を叩き潰すよ!! そして、みんなで笑って帰ろうっ!! チーム《煌星》――すばらああっ!!」



淡「さーて……文字通り全員団結したところで、気合入れるよっ!! 負けた私が言うのもあれだけど……いや、むしろ負けた私に言わせてほしいっ!!
 とにかく……次は必ず勝つからねっ! 練習だから負けてもいいなんて、私は死んでも思わないっ!! 練習でできなかったことは本番でもできない。だから、練習で勝って、本番でも勝つ……ッ!!
 次こそは、あの実りに実った連中を叩き潰すよ!! そして、みんなで笑って帰ろうっ!! チーム《煌星》――すばらああっ!!」

>>423

淡「ユーカ……あとは私に任せて。私なら絶対に逆転できる。みんなもそう思うでしょ?」



淡「ユーカ……あとは私に任せて。私ならきっと逆転できる。みんなもそう思うでしょ?」

 *

気付かれている方も多いと思いますが、このSSでは、『レベル5以外のキャラクターは、固有名詞、または超能力の話題以外では、絶対に『絶対』と口にしない』というルールがあります。

当初は、大星さんならいいかな~と思っていましたが、照さんが三回戦の前に『絶対』と言っていたりするのが《八咫鏡》の伏線だったりするので、修正することにしました。

>>222

ダヴァン「我儘は困りマス。あなたは自分がどれだけ神聖な存在なのかを理解していまセン。あなたは《神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの》の素質を秘めています。
 そんなあなたを、よりにもよって、科学者《サイエンティスト》などという無粋な無信教者が跋扈する学園都市に置いていくなど……あってはならないことデス」



ダヴァン「我儘は困りマス。自分の立場をよく考えてくだサイ、ネリー。あなたは《神に愛された子》なのデス。
 そんなあなたを、よりにもよって、科学者《サイエンティスト》などという無粋な無信教者が跋扈する学園都市に置いていくなど……あってはならないことデス」



《神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの》=絶対能力者《レベル6》

という設定があやふやだった頃の名残。魔術世界ではそもそもレベル5が存在せず、神様は神様、人は人という価値観なので、ダヴァンさんのこの発言は見逃せません。修正します。

引き続き、1スレ目(【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」)の修正点

>>5

健夜「わからない? 方や南場に入る前に終了して、方やオーラスまできっちり打ち切った」

?「そんなの、理事長のお心一つでどうとでもなるのでは?」

健夜「私は東場で終わらせるつもりだったよ。それなのに、あなたは、この学園都市の理事長――小鍛治健夜と打って、半荘一回を最後まで打ち切った」

?「そ、それくらいは他の方だって」

>>6

健夜「私だって、あなたと対局して、それはもう驚いたよ。けれど、打っているうちに確信した。あなたの能力は《本物》だって」

?「《本物》……私が……」

健夜「そう。あなたが自分のことをどう思っていようと、誰がなんと言おうと、あなたはこの学園都市に七人しかいないレベル5――その最高位の、第一位」

?「…………はい」

健夜「ま、そう気負わずに、学園都市での生活を楽しんで。ここは雀士なら誰もが憧れる理想郷。あなたは、その中でも選ばれた人しか入れない白糸台校舎で、世界最高水準の麻雀の勉強ができる。
 最初は戸惑うことも多いと思うけれど、あなたならすぐ馴染めると思う。改めて、よろしくね――花田煌さん」

煌「はい…………」



小鍛治さんが花田さんを見つけて学園都市に連れてくるまでのニュアンスを修正。シンデレラストーリーの名残を削除。

1スレ目(【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」)の修正点

>>8

煌(こ……この子………………すばらっ!!)

?(……?)ジー

煌(こんなことがあっていいのでしょうか!? 鮮やかな金髪、陶器のような透き通る白い肌、芯の強い真っ直ぐな瞳……! いけません、見つめられるだけで、私――胸が高鳴って……!!)

>>9

?「助けてくれて、どうもありがとう。最初はびっくりしたけど、すっごく嬉しかった!」ニパッ

煌(なんて純真な笑み……! すばら過ぎます!!)

 ――

?「大星淡。学年は一年生だけど、実力は高校百年生だよっ!!」ニパー

煌(大星淡さん……! まるで《超新星》のような眩しい笑顔!! すばらっ!!)

>>10

淡「望むところー!!」

煌(変な疑いをかけられないように、こうして大星さんの後ろについてみましたが……いやはや、どうしてもこのすばらく麗しい御髪に目がいってしまいますね。
 見るからにサラサラで、シルクのような光沢。しかも、ふわふわといい匂いまで漂ってきて……)ポワー

>>31

煌(大星さん……あんなにご機嫌に私の口癖を連呼して……なんだか、赤ん坊に自分の名前を教えたみたいですね。本当に……底抜けに人懐っこいお方です。会ったばかりだというのに、無条件で心を許してしまう――)



花田さんと大星さんのファーストコンタクトのニュアンスを修正。やっぱりシンデレラストーリー時代に引っ張られています。

更新乙です

1スレ目(【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」)の修正点

>>280

やえ「ま、そう言うな。ランクSかレベル5が本気で敵に回れば、お前でもそこそこ楽しめるはずだ」

>>281

やえ「安心しろ、三人目はいない。こいつと宮永照みたいなやつは、こいつと宮永照の二人だけだ。ま、他に例外がいるとすれば、理事長か荒川くらいだがな」



小走さんの荒川さんに対する評価を修正。

パッチ作業が続いております。

最新刊イイですね。本当に。

では、続き始めます。

 東一局・親:怜

怜(さてさて。とりあえず最下位脱出はせなあかんとして、や。まずは一通り戦力をおさらいしとこかー)

 東家:園城寺怜(新約・55600)

誠子「」タンッ

 南家:亦野誠子(幻奏・131000)

怜(白糸台の《フィッシャー》、亦野さん。元一軍《レギュラー》。《三副露》で和了率が上昇する自牌干渉系のレベル3。その能力ゆえに、門前で手を進めてくることは稀。速度もありつつ、打点もさほど低くはない)

まこ「」タンッ

 西家:染谷まこ(永代・152800)

怜(《破顔》の染谷さん。無能力者。卓上をイメージとして記憶していて、たまにようわからん鳴きを絡めてくることがある。得意なのは染め手。リーチを掛けてきたときの和了率はわりと高め)

白望「」タンッ

 北家:小瀬川白望(久遠・60600)

怜(《マヨヒガ》の小瀬川さん。《迷えば迷うほど》《打点と和了率が上昇する》レベル4の自牌干渉系能力者。門前重視で、山の深いところで勝負することが多い。平均打点は、この四人の中で一番高い)

怜(ほんで、最後はうちやな。《一巡先を見る者》。学園都市に七人しかいないレベル5の、第五位。感知系最強の能力者。見えた情報は《絶対》に《上書き》されることはなく、うちが未来を変えへん限り、見えたことがそのまま現実になる)

怜(得意技はリーチ一発。もしくは、相手の和了りを鳴いて潰すこと。ただ、見えてた未来と違うことをすると、二巡くらい未来が見えなくなるっちゅー弱点がある)

怜(ってのは、当然、みんな知っとるわけやんな。知った上で、どんな対策を練ってくるのか。それによっては少し戦い方を変えへんとあかんやろ。この一打で……見極めとこか!)

怜「リーチ……!!」トッ

まこ(おうおう、早速来よったな。得意のツモ切りリーチ)

白望(ズラさないと和了ってくるんだよね。ダルいなぁ)

誠子「ポン」タンッ

怜(ふむ。ズラすための鳴き……だけやあらへんよな?)

まこ(一難去ってまた一難じゃの)タンッ

白望(んー)タンッ

怜(一発ならず。ほんで、亦野さんはっと)

誠子「」タンッ

怜(抱えられてもーた。ま、そらそうか)

まこ(まだ一副露じゃ)タンッ

誠子「ポン」タンッ

まこ(あと一つ……!)タンッ

白望(困るなぁ)タンッ

怜(うーん)タンッ

誠子「ポン」タンッ

まこ(鳴けん)タンッ

白望(これでダメなら覚悟を決めよう)タンッ

まこ(すまんの、それも鳴けん)

怜(さーて……来るか?)タンッ

誠子「ツモ……2000・4000です」パラララ

怜・まこ・白望(一巡……!!)

怜(うちの和了り牌をうまく抱えて、即座に能力を使っての切り替えし。ズラしの鳴きと手を進める鳴きを両立しとる。これが、亦野さんなりのうちの一発対策……)

まこ(ドラがあるから、鳴いとるのに打点がさほど下がっとらん。いや、打点が下がらんっちゅうのがわかっとるから、鳴いて仕掛けてきたんかの。
 元チーム《虎姫》。攻撃特化の白糸台最強チームの副将。そこらの鳴きとは鍛え方が違う。昔クラス対抗戦で打ったときより隙がなくなっとるの。これが、一年間公式戦の最前線で戦ってきた雀士の地力――か)

白望(落ち着いてるなぁ。練習通りに打つ大切さをよく知っている人だ。精神的には久や憧よりずっと大人。二回戦でも、前半戦はテンパってた久に勝ってたし。こういう淡々と強い人を相手にするなら、力で押し切れる哩のほうがいいのかも)

誠子「次は私の親番ですね」コロコロ

怜:50600 誠子:140000 まこ:150800 白望:58600

 東二局・親:誠子

誠子(先制はできた……けど、まだまだ先は長い。防御に気を回しつつ、チャンスがあれば攻める。場合によっては門前で打ち回すことも考慮に入れないとな。大事なのは、とにかく、何があっても取り乱さないこと――)タンッ

誠子(今回は園城寺先輩の下家に座った。感知系能力者相手にどこまで有効かわからないけど、見えていようといまいと、手番が減るのは物理的にキツいはず。トップを追いつつ、下位を突き放す。そのためにも、この手なら……!)

誠子「ポン」タンッ

怜(おっと、一回お休みかいな。見えとったけど、いざやられると改めてげんなりやわー)

まこ(この席順はなかなか幸運じゃったかの。亦野が鳴けば、テンパイ効率のいい園城寺の足が止まる上に、わしのツモが多くなる。じゃけえ――)タンッ

誠子「ポン」タンッ

まこ(この通りっちゅうわけじゃ)タンッ

白望(亦野さんもそうだけど、染谷さんも手が進んでる気がする)タンッ

怜(ふーん……こっちやと鳴かれてまうんか。ほな、こっち)タンッ

誠子「ポン」

怜(えーっ!?)

誠子(これで……テンパイ……!!)タンッ

まこ「ロン」

誠子「っ!?」

まこ「3900じゃ」パラララ

誠子(染谷さん……!! くっ……素直に手を進めたつもりはなかったけど、読まれていたか)

まこ(悪いの、その顔は知っちょる。二回戦で、わら竹井久相手に苦戦して、随分と引き出しを開けちょった。牌譜はばっちり見させてもらったけえ、よっぽど頑張らんとわしは出し抜けんぞ?)

誠子(まだまだ! 読まれているのなら、その上を行けばいいだけ……!!)

怜(うちが未来を変えたことで、染谷さんが和了ったんか。一つ選択を誤るとこれ。麻雀って恐いなー)

まこ「ほいじゃ、わしの親番じゃの」コロコロ

怜:50600 誠子:136100 まこ:154700 白望:58600

 東三局・親:まこ

まこ(園城寺も亦野も、牌譜を見ておけばそれなりに対応できる。ただ、中には、いくら牌譜を見ても掴めん顔を作るもんもおる……)チラッ

白望「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(《マヨヒガ》――こいつの顔は何度見てもわからん。原村和とは違う意味で読みにくい。その力の《発動条件》は《迷えば迷うほど》。本人すらようわかっちょらんことを対局中にやり始める……)タンッ

まこ(穏乃も言っちょったの。あいつの万能なすごパ……じゃけど、数多の能力者の中で、小瀬川とだけは相性が悪いかもしれんって笑っとった。方や《深山幽谷の化身》、方や《山路を迷いて花園に辿り着く者》――)

まこ(山登りに関して、穏乃は正規のルート――精気に満ちた道を行く。じゃが、小瀬川は迷う。道なき道をさ迷って、最後の最後で和了りをものにする。
 山の主である穏乃も、その進路――迷路は読めんっちゅう。そんなん、わしにわかるはずもないじゃろ……)

白望「……ちょいタンマ」ゴゴ

まこ(来よった……!!)

怜(見えとったけど、どうしようもあらへん)

誠子(小瀬川先輩がツモる分には、トップとの差が縮まるけど……)

白望「うん……ちょっと変だけど、これで」タンッ

まこ(これは……! ははっ、わっけわからんの!!)

怜(うちは感知系……《上書き》はできひん。亦野さんや小瀬川さんみたいな自牌干渉系に能力を使われると、どうしても後手に回ってまう。
 先制テンパイできとれば、まだやり様もあったんやろけど、残念、まだ二向聴やねん……!!)タンッ

誠子(相手の能力が発動しているときは、不用意に動かないほうがいい。小走先輩にも言われた。東場の優希や江口先輩のような力押しができないのなら、大人しくしていたほうがいい……と)タンッ

まこ(げっ……亦野のやつオリよった。わしが親じゃけえ、ツモられる分には構わんっちゅう判断か?)タンッ

白望「」ゴゴゴ

怜(順当に重ねとる感じするなー)タンッ

誠子(小瀬川先輩の能力値はレベル4。レベル3の私が今から鳴いて場を乱しても、《無効化》はできない)タンッ

まこ(参ったの……顔の破り方がわからん……!)タンッ

白望「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

怜(ッ――!? 次巡に3000・6000!! こらまっずいで! 振り込むことはあらへんとして……どこや、どこなら鳴ける――!?)タンッ

まこ「ポ、ポンじゃ……!!」タンッ

怜(染谷さん! おおきに……!!)

まこ(現状じゃと、小瀬川を一番止めたいんは最下位の園城寺じゃもんな。出てくるならそっちからじゃと思っとった。動きに注意しとってよかったの――)

白望「深いところにいたなぁ、ツモ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(はあー!?)ゾワッ

誠子(やはり……)ゾクッ

怜(ちゃー、勘弁してーな)フゥ

白望「3000・6000……」パラララ

まこ(これじゃけえ……!! 《久遠》の三年は全員ほうじゃ。読めんにも程があるっ!!)

怜(小瀬川さんも宮永照と同じ……ズラしても和了ってくる上に、点数変わらへん。えらい人と三位争いすることになってもーたな。
 初美と同じ《十最》の一人。迷い迷いて深遠に辿り着く者――《最深》の大能力者……!!)

白望(この調子なら順当に稼げそうな気がする。けど……どうだろ。まだみんな牽制段階って感じかな。特に――園城寺さん……)チラッ

怜(ふむー、絹恵や姫子が太鼓判を押す二年生の実力者が二人、そこに初美級の大能力者か。こら大変やでー)

白望(余裕があり過ぎる……なんだろう。《一巡先を見る者》――その能力に、何か変化があった? 今のところはわからないけど、このままだと、かなりダルいことになりそうな気がする……)

白望「私の……親……」コロコロ

怜:47600 誠子:133100 まこ:148700 白望:70600

 東四局・親:白望

白望(親番……になったのはいいんだけど、久とか、他の条件発動型の能力者の多くがそうであるように、能力っていうのは言うほど好きなときに使えるわけじゃない。私自身、私がどこで迷うのか、よくわかってないし)タンッ

白望(まあ、その辺りが、他家に対して有利に働いているような気もするけど。さっきのズラし……未来が見える園城寺さんと、能力潰しが得意な染谷さんが協力していたのに、私はわりと普通に和了れた。能力の相性はわからない……本当にそうだ……)タンッ

白望(この局は、完全デジタルで進めて、手が仕上がった。けど、これ、リーチは掛けないほうがいいかな。なんの対策もなく園城寺さん相手にリーチを掛けるのは、リスクがあるだろうし)

 白望手牌:23445[5]6四五六④[⑤]⑥ ドラ:①

白望(ただ、たとえ見られていたとしても、この人だっていつもいつもズラせるわけじゃない。和了れるときは案外すんなり和了れるはず)タンッ

怜「リーチ」トッ

誠子(来た。今度は鳴けない、か。園城寺先輩のリーチなら、小瀬川先輩のリーチと違って、ズラせば潰せるはずなんだけど……ここは、オリたほうがいいか。染谷さんや小瀬川先輩にも気をつけつつ、園城寺先輩の現物を、っと)

まこ(亦野……打ち方が堅くなっとるの。《虎姫》で攻撃特化の打ち方を身に着けた分、わりと防御は手薄じゃったはずなんじゃが。と――それはそれとして、ここはどうしたらええんじゃろうか。んー……これで、どうかいの)タンッ

白望「チー」タンッ

まこ(むっ? 鳴かせることには成功したが、これ、小瀬川も張っちょるんか? どーにも、さっきから、園城寺をかわしても別のやつが上がってくるの。元一軍《レギュラー》と《十最》。さすがに楽はさせてくれんようじゃな……)

怜「ツモや。2000・4000」パラララ

誠子(ズレたのにっ!?)

まこ(……どういうことじゃ、それ)

白望(これは――?)

 怜手牌:①①②③④六六六七八西西西 ツモ:九 ドラ:①・9

 白望手牌:2344四五六④[⑤]⑥/(4)[5]6 ドラ:①

白望(園城寺さんがツモった九萬は、元々私の手に入るはずだった牌。私が九萬をツモ切りするのが見えた……ってことかな。
 ただ、園城寺さんの手だと、役がないからダマで出和了りはできない。だから、リーチを掛けてきた――?)

白望(ただ、リーチを掛けると、見えていた未来が変わる。東一局みたいに、ズラされて和了れない……ってことが出てくるかもしれない。ただ、今回の場合は、私がズラしても和了れるようになっていた。
 むしろ、私がズラしてくることを見越して、未来が変わることを見越して……リーチを掛けたってこと?)

白望(結局のところ、ズラそうとズラさまいと、この局の園城寺さんはツモで和了ってた……ってことになるのかな。どこまで見えていて、どこまで計算してるのかはわからない。わからない……けど――)

怜「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

白望(今の和了り……少し、警戒を強めたほうがいいかもしれない。感覚のままに打つと、痛い目を見る気がする……)

怜「ほな、南入やっ!!」コロコロ

怜:55600 誠子:131100 まこ:146700 白望:66600

 ――《永代》控え室

塞「一進一退って感じね」

純「個人収支だと、園城寺と亦野が原点。東三局のハネツモの分だけ小瀬川が浮いて、まこが沈んでるな」

穏乃「まだまだ勝負は始まったばかりですっ!」

照「あ……園城寺さんの手が進んだ」モグモグ

塞「妙なところを切ったと思ったら」

純「だが、まこには見えてるはずだぜ」

     まこ『チー』

塞「相変わらず意味不明だわー」

穏乃「園城寺さんがテンパイする前に決着をつけるつもりなんです。正確に一巡先が見える園城寺さんと、イメージで大局を掴めるまこさん。どちらもベースは無能力者なので、先手を打ったほうが場を優位に進めることができる。いい感じですねっ!」

純「あいつは素で打って普通に強えからな。《刹那》の中じゃ、ネト麻は憩の次に強かった。無能力者同士のガチ勝負なら、元下位クラスの園城寺には負けねえだろ」

照「園城寺さんは決して弱くない。けど、今のところ、過去の牌譜や二回戦と比べて、目立った違いはない。その分だけ、染谷さんのほうが有利」

穏乃「おっ! まこさんが先制テンパイ!! これはいけるんじゃないですかー!?」

     まこ『ツモじゃ。1000・2000』

塞「よっし!! いいわよーっ、染谷! その調子で稼いで稼いで稼ぎまくりなさいっ!!」

純「そこそこ緊張してるっぽいが、呑まれてる様子はねえな」

穏乃「今日のまこさんは、私が知る中で一番ノッてますっ!」

純「なーに言ってんだよ、穏乃。これがあいつの平常運転だ。オレと一緒に衣たち《三強》と渡り合ってた《拒魔の狛犬》……亦野と同卓したおかげなのかは知らねえが、やっと本来のまこが戻ってきやがった」

穏乃「一年前のお話ですか。純さんの口からはよく聞きますけど、まこさん自身はあんまり喋りたがらないですよね」

純「まあ……ちょっと面倒臭え事情があってな」

穏乃「照さんと塞さんがその名の通り《初代》の栄冠を手にして、純さんたちが《刹那》の輝きを放ったクラス対抗戦……開催されたのは、その二回だけ。
 私たちの代では、四、五月の間は個人戦ばかりで、みんな、チームを組むのはこれが初めて。白糸台のチーム制に慣れるという意味で、クラス対抗戦はあったほうがよかった気がしますけど……」

塞「そうね。あれのおかげで、クラスメイト――宮永たちと、ぐっと仲良くなれた。まだ学園都市に来たばっかりで、ホント、何もかもが手探りで、そりゃもう楽しかったわよ」

穏乃「私たちの代なら、一組は憧と二条さんと対木さん。二組なら、優希と大星さんと宮永咲さん。三組が和と森垣さんと東横さんと南浦さんで、四組の私は……そうですね、安福さんと滝見さんは外せないかなぁ」

照「それだと優勝は咲――二組だね」

穏乃「全力で阻止しますっ!!」

塞「っていうか、もし実現してたら、どこも今みたいなチーム編成にはなってなかったでしょうね。今年の一年は基本バラ売り状態だったから。例外は《煌星》くらいなもんで」

照「確かに、去年の《龍門渕》みたいなルーキーチームは、今年は見なかったね」モグモグ

純「まあ……光があれば影がある。オレたちの代で、団体戦で活躍してるやつらが少ねえのは、あのクラス対抗戦のせいだったのかもしれねえ」

穏乃「ふむ……」

純「オレたちの代のヒエラルキーは、照たちの代と違って、インターミドルの成績上位者=白糸台の上位ナンバーって図式にはなってねえ。
 派手な実績があったのは、哩姫の鶴田くらいなもんでな。あとは、目ぼしいやつはほぼ全員、麻雀とは関係のない中学時代を送ってた。
 だから、まあ、なんつーか、ぽっと出の強いやつが悪目立ちしちまう環境だったんだよ。衣たち《三強》くらい飛び抜けてるならそれでもいい。
 だが、オレとか、まことか、傍目には上手いのか下手なのかわかんねえ雀士っつーのは、どうにも、やっかみの対象になりやすかったんだ」

塞「ああ……そっか。インターミドルに出てた連中からしてみれば、高校デビューのやつらが何を生意気な、って感じなわけね」

純「そういうこと。実際、《刹那》にインターミドル経験者はいねえ。全員が、高校になって初めて表舞台に出てきた雀士。そりゃあ、まあ、面白くねえやつには面白くねえよな」

穏乃「難しい問題ですね」

純「で、そんな悪感情が、オレたち《刹那》の中で最も一般人に近い属性を持ってたまこに集中しちまったんだ。オレはこのタッパだし、衣たちはヤバ過ぎて近寄ることもできねえし、連中的にはそういう対象にしやすかったんだろ」

照「……」モグモグ

純「クラス対抗戦が終わったすぐあとのことだ。まこが、名前も顔も知らねえ下位軍《クラス》の同級生に襲われて、全治一ヶ月の大怪我を負った。そっから、色々とおかしくなっちまったんだよな。
 《刹那》は解散。小蒔は透華や松実とこそこそ集まるようになって、憩は一人で行きつけの研究室に通い詰めるようになった。オレと衣だって、透華の強引な誘いがなければ、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》なんざ出てなかったぜ」

穏乃「そんなことが……」

純「あれから一年――この間、今の二年で最強だったはずの元《刹那》メンバーは、誰一人、まともに団体戦で活躍してねえ。タメで第一線で戦ってたのは、伝統チームとパイプがあったやつらだけ。
 だから、この夏は、オレからすると信じられねえほどのオールスターが揃ってやがる。
 《刹那》、《爆心》、《福笑》、《千神》――もう何人かは負けちまったが、あのとき決勝にいた面子が、みんなトーナメントに出てきてる。つまらねえ意地を張らずに、出てよかったと思ってる。オレもまこも、このチームには、感謝してんだよ」

     まこ『ツモ……2000・4000じゃ!!』

純「だから……負けるわけにはいかねえ。チームのためにも、自分のためにもな――!!」

塞「井上……あんた、漢《オトコ》だわ」

穏乃「私は今、純さんの男気に感動しています!」

純「ぶっとばすぞお前ら……」

照「やっぱり、井上さんと染谷さんをメンバーに誘ってよかった」

純「ハッ、当然だろ。オレらを誰だと思ってやがる。《頂点》に《塞王》に《深山幽谷の化身》……お前らみたいなバカ強え支配者を護り通すのがオレらの仕事だぜ?
 《拒魔の狛犬》にして《双頭の番犬》――あれから随分と時が経って、仕える主も変わっちまったが、その牙まで錆びつかせた覚えはねえよ」

照「頼もしい」

     まこ『わしの親番じゃの……!!』

純(なあ……そうだろ、まこ――!)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――昨年・春・入学式

衣「以上……新入生代表、一年一組、天江衣だっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(学園都市――白糸台高校……ヤベェ噂ばかりを聞いてたから、覚悟してきたつもりだったが、初日から度肝を抜いてくれるじゃねえか……!!)

 ダレカー コッチモタオレタゾー ホケンイインハドウシタ

純(新入生挨拶させるやつはちゃんと選べよっ!! 華の入学式が化け物一人のせいで死屍累々じゃねえか……!!
 一年はほぼ全滅、二、三年も大半がドロップアウト。オレは……とんでもねえやつと同じクラスになっちまったらしい。しかも、出席番号的に、あいつが一番でオレが三番――)

憩「おっとー、こっちもかいなー。大丈夫ー? 立てるー? 意識あるー?」パタパタ

純(あいつは……あの化け物とオレの間――出席番号二番のやつか。いくら白糸台の服装が自由とは言え入学式からナース服って――いや、それはそれとして、この阿鼻叫喚の地獄で平然としてやがる。こいつもこいつでヤバそうだな……あとは――)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純「あの巫女――この状況で立ったまま寝てやがるのか? おいおい、うちのクラスは化け物園か何かかよ。いや、けど、他のクラスも……」

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(関わり合いになりたくねえ……!! だれか、まともな、もいちょいまともなやつはいねえのか……!?)チラッ

華菜「みんな、どうしたんだし?」ケロッ

漫「むしろなんで自分はそんな平気なん……?」ゲッソリ

純(バカに用はねえな)チラッ

一「トラウマになりそうだよ……」

智紀「気にしないのが一番」

純(露出狂と根暗にも用はねえ)

哩「姫子ーっ!!」

姫子「哩先輩ーっ!!」

純(あれは……確か、インターミドルで活躍してたっつー変態か。ダメだな。もっと、もっとまともな……!!)チラッ

まこ「……ったく、何がどうなっとるんじゃ……」ハァ

純(お……?)

まこ「む……?」

純(ま、まあ、悪くはねえ……か――?)

 ――放課後・クラス内交流戦

憩「なーっ、天江さんっ! ウチと打とうー!」

衣「ふん、荒川憩とか言ったか。見たところ無能力者のようだな。勝つとわかっている勝負など、衣は受ける気はないぞ!」

憩「おおーぅ。さすが新入生代表は言うことがちゃうなー。ほな、この人が一緒ならどやっ!!」ワシッ

純「うお!? おまっ、なにしやがる――!!」

衣「ふむ……」ゴッ

純(このチビ、品定めってか……?)ゾクッ

衣「まあ、いいだろう。壇上に上がったときから、このおっきいのは気になっていた。衣の相手になるとは思えないが、せいぜい楽しませろっ!」

純(にゃろう言わせておけば……)

憩「ほんでー、もう一人は――」

小蒔「あ、あの……っ! お邪魔してもよろしいですかっ!?」

衣「む――」ピリッ

純(この巫女はさっきの!?)ゾワッ

憩「ええよええよー! ほな、記念すべき学園都市での初対局、始めましょーぅ!!」

 ――――

小蒔「純正九蓮宝燈……16100オール」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(起親で二連続九蓮だとー!?)ゾゾゾ

衣「衣が……負けた――!?」ガーン

憩「ウチが……負けた――!?」ズーン

純「勘弁してくれ……」ジャラジャラ

小蒔「はっ、お憑かれ様です! すいません、ちょっと寝てました!」

純(どういうことだよ)グデー

小蒔「対局は……あっ、私以外の皆さんがトんで終わったんですね!!」

衣「ちょ、ちょっと待て!! こんなのは何かの間違いだ!! もう一回っ!! もう一回打つぞ!!」

憩「ウチが負けるとかありえへん!! こんなはずやなかった!! やからもう一回や!!」

小蒔「た、たぶんご期待には副えないような気がしますが……私でよければ何度でもお相手しますよっ!」

衣「よし、そうと決まれば――って! そこのおっきいの! この程度で何をノビている!! 邪魔だから卓に突っ伏すのはやめろっ!!」

憩「井上さんっ! お願いやから、あとで復活の呪文唱えたるからっ!! とりあえず軽く死んでもええからもういっぺん付き合うてや!!」

純「無茶言うなよ……」ゲッソリ

憩「ほ、ほな……井上さんの後ろの眼鏡さんっ! 入らんか!?」

純(え……?)クルッ

まこ「ああ、いや、その……わしゃ見とるだけで十分じゃったんじゃが――」

衣「そこをなんとか頼む、有象無象!!」

小蒔「そ、その頼み方はどうかと……!!」

純「おい、お前――」ガタッ

まこ「む……なんじゃ」

純「名前、なんつーんだよ」

まこ「染谷まこ」

純「オレは井上純。っつーわけで、あとよろしく頼むわ」ポンッ

まこ「は?」

純(たぶんだが……こいつら、今日はずっとこの面子で打ち続けるぞ。ここで会ったのも何かの縁。一緒に地獄に落ちようぜ、キョーダイ!)

まこ(われもわしも女じゃろ。っちゅうか、はあ!? なんでわしを巻き込むっ!? 地獄ならわれ一人で落ちればええじゃろ!!)

純(諦めろ。オレたちは、たぶん、今年の新入生で最高にツいてねえ二人だ。悪鬼羅刹に目をつけられちまったんだよ。関わりたくないなら、初めから観戦なんてバカな真似はすべきじゃなかったな)

まこ(そ、そらそうじゃが――)

衣「おいっ! そこな眼鏡!! 早くしろっ!!」ゴッ

憩「大丈夫やって、ちょっとチクぅーってするだけやから!!」ゴッ

小蒔「あっ、また眠気が――」ゴッ

純・まこ「ッ!!?」ゾゾゾゾ

純(頼む。オレを一人にしないでくれ……!!)ナミダメ

まこ(し……仕方ないのう)ハァ

 ――――

衣「楽しかったぞっ!!」

憩「いやー、驚いたわーっ!!」

小蒔「こんなに憑かれたのは初めてですっ!!」

純・まこ「」チーン

衣・憩・小蒔「まさか衣(ウチ・私)とここまで打ち合える同級生がいるとは!!」

憩「なー、衣ちゃん、小蒔ちゃん。よかったら、今度のクラス対抗戦っちゅーの、一緒に出ーへん?」

衣「賛成だっ! けいとこまきが一緒なら、とーかにだって勝てるだろうっ!!」

小蒔「わ、私なんかでいいのなら、頑張りますっ!!」

憩「決まりやなっ! ほな、あと二人やけど――」

純・まこ「オレ(わし)は嫌だぜ(じゃ)」

衣「うんっ! じゅんもまこもこう言っていることだし、これで五人集まったな!!」

小蒔「そ、そうですね……?」

憩「もーぅ、二人はあれかー? 古典文学に出てくるツンデレっちゅーやつかー?」

純・まこ「本心だ(じゃ)……!!」

憩「せやけど……ウチはええとして、衣ちゃんと小蒔ちゃんは、あんまり人の多いところで打たせるわけにはいかへんかもなー」

 シーン

純「ちなみにだが、お前らが打ち始めてから、三秒でオレたち以外の全員が教室から出て行ったぞ」

まこ「どころか、たぶん、一年教室棟全体がこの有様じゃろ。さっきから人の気配がせんわ」

憩「困ったわ~」

 ――廃工場

憩「ほんで、染谷さんと井上さんが見つけてきたのが、ここか!?」

衣「人っ子一人いないっ!!」

小蒔「ちょ、ちょっとお化けが出そうですね……」ビクビク

純「安心しろ、小蒔。お前よりヤベェ化け物なんてこの世に存在しねえ」

まこ「ここなら、衣も小蒔も全力が出せるじゃろ。ちょっと荒れちょるが、衣の住んどる《荒城》よりずっと校舎から近い。練習場所としてはうってつけじゃと思う」

憩「ホンマおおきにっ、二人とも!! ほなっ!! 早速打とうか、衣ちゃん、小蒔ちゃん!!」

衣「おうっ!!」

小蒔「はいっ!!」

憩「ほんで、井上さんと染谷さんはローテーションなー!!」

純「身が持たねえ……」

まこ「せめて、純とわしは二人セットにしてほしいんじゃが……」

憩「えーっ!? それやとウチら三人で打てへんやーん!!」

純・まこ「三麻してろ(ちょれ)」

憩「むむーぅ、場所が手に入ったのに面子が足りひん!!」

衣「いつになったら衣たちは再戦できるのだ!!」

小蒔「あっ、よ、よかったら、私の巫女仲間をお呼びしましょうか?」

憩「霧島の先輩方かー。面子としては申し分あらへんけど、それやと、小蒔ちゃんの味方するかもしれへんやん。もっと中立な人やないとダメや!!」

衣「とーかはどうだ!?」

憩「ああ、あの三組の、衣ちゃんの従姉妹っちゅー人――けど、それやと今度は衣ちゃんの味方するやーん!」

小蒔・衣「ふむむむ」

憩「んー、やえさんならうってつけな気がするんやけどなー、さすがにお忙しいやろか……」ブツブツ

衣「じゃあ、今日はとりあえず、じゅんかまこが入ればいいだろうっ!!」

小蒔「一局だけでもお願いしますっ! まこさん、純さん!!」

純・まこ「だから(じゃけえ)死んでも嫌だ(じゃ)!! っつーか(っちゅうか)死ぬ!!」

憩・衣・小蒔「えーっ!?」

 ――――

まこ「っちゅうわけで」

純「ちょっくら隣のクラスから拉致ってきた」

玄「な、なんですか!? こ、ここどこですか!? なんで私連れてこられたんですかー!?」ガタガタ

まこ「学園都市に四人しかいないレベル5、その第一位。こいつ以上の能力者は、この世界のどこにもおらんらしい。たとえわれらでも、こいつの能力を破ることはできん。《絶対》にな」

純「で、その能力っつーのが、《全てのドラが集まる》ってもんなんだそうだ。こいつが四人目に入れば、必然的にお前らの打点が下がる。一人100000点持ちとかアホなことしなくても、普通の25000点持ちの東南戦を楽しめるだろ」

憩「さっすがや、二人とも!! そういう人材を求めとったんやでー!!」キラキラ

衣「早くっ!! 早く打とうっ!!」ワクワク

小蒔「はわわわ……眠くなってきました――」ウトウト

玄「え、ええ、あうあ、ほあ……?」ガタガタ

まこ「すまんの。死んだら骨は拾ってやるけえ」

純「オレたちじゃ役者不足なんだよ。二対二ならそこそこやり合えるが、三対一じゃすぐにトばされっちまう」

まこ「その点、わら超能力者じゃ。レベル5の第一位――《ドラゴンロード》。われ以上の人材は、わしらの学年にはおらん」

純「あいつら三人でも破ることができねえ《絶対》。なーに、ドラを抱えて現物を切り続けるだけの簡単なお仕事だぜ?」

玄「い、いや、私――」チラッ

憩「ほなっ、よろしくな、松実さん!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣「期待しているぞ、ドラ置き場!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔「よ、よろし……ZZZ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄「ひいいいいいいい……ッ!!!? 無理です!! 《絶対》に無理ですぅー!!」ガタガタ

憩「さー、始めよかー!!」ワシッ

玄「いやああああああああああああ!!!! おねえちゃあああああああああん!!!」

純・まこ「許せ……松実玄……!!」

 ――――

 イヤアアアアアア キャアアアアアアア ヤメテエエエエエエエ

まこ「おーおー……今日も派手にやっちょるのう。《三強》+ドラ置き場」

純「《刹那》と《爆心》の練習が終わったあとに夜な夜な開催される、松実を虐殺する会だな」

まこ「なんでわしらが見張りなんてせんといかんのじゃ」

純「そりゃまあ、風紀委員の目もあるし、夜は何かと危ねえからな」

まこ「二人揃って門の前で待機とは、これじゃまるで狛犬じゃの」

純「ははっ、確かに番犬だな」

 ラメエエエエエエエエエエエ

まこ「お、そろそろ松実がオチるか。今日は半荘三回。日に日に耐久時間が長くなっていくの」

純「これ、ひょっとすると、いずれ松実まで化け物の仲間入りするんじゃねえか……?」

 ワイワイ ガヤガヤ

衣「やったーっ、今日は衣がトップだー!!」

憩「くーっ!! 《上書き》さえ! あの《上書き》さえなければ……!!」

小蒔「く、玄さん……いつもいつもすいません……」ポヨン

玄「ら、らいじょーぶらよぉ……おもちちゃーん……うぇひひ……」ジュル

純(目のハイライトが消えてやがる)

まこ「ほいじゃあ、今日はこれで上がりかのー」

憩「せやね~」

 パッパー

衣「おっ、このクラクションは!!」

透華「やっと終わりましたの? なんだか日に日に長くなっていませんこと?」

衣「とーかー!」ダキッ

透華「まったく……うちの衣を巻き込んで、こんな廃墟で夜遊びとは。よろしければわたくしの《荒城》をお貸ししますのよ?」

憩「おおきに、龍門渕さん。せやけど、ここはここで気に入っとんねん。せっかく染谷さんと井上さんが見つけてきてくれた、ウチらだけの遊び場やし」

透華「そうですの。まあ、くれぐれも気をつけてくださいまし。と言っても、誰も寄り付かないとは思いますけれど」

小蒔「この辺りは人が少ないですからね」

透華「それもありますけれど、この廃工場、あなたたちのせいで都市伝説になっていますのよ? 『ここに踏み込んで生きて帰った者はいない』とかなんとか」

まこ「まあ、実際、約一名そうなっちょるしの」

玄「おもちー……おもちー……うぇへへ……」

透華「……よろしければ、今度はわたくしも混ざりたいものですわね……」ヒュオオオ

純「おい、寒いからそれやめろ、龍門渕」

透華「これはこれは、わたくしとしたことが。ま、楽しみはクラス対抗戦本番まで取って置きましょう」

憩「おっ! なんや、ついに龍門渕さんも参戦するん?」

透華「ええ、結成したのはつい今日のことですけれどね。吟味に吟味を重ねて精鋭を揃えましたわ」

衣「とーかのクラスは、とーか以外に衣の『選別』を生き残った者がいなかったはずだが?」

透華「篩から零れ落ちた者が、みな取るに足らない小石ばかりとは限りませんわ。中には稀少な種もいましてよ」

衣「……なるほど。それは楽しみだッ!!」

透華「さて。それでは、終わったのなら帰りましょうか。どうぞ乗りなさいですわ」

憩「ホンマいつもいつもありがとなー」

衣「リムジンだー♪ ふかふかだー♪」

小蒔「さ、玄さん、行きましょう」ポヨン

玄「おもちー……待ってー……おもちー……」ウェヒヒ

透華「……あら、二人はいいんですの?」

まこ「んー……わしゃあ今日はええわ。せっかくじゃけえ、月見しながら帰る」

透華「ああ……そう言えば、今日はそうでしたわね。こんな夜に衣と遊べる輩が三人もいるなんて、本当に学園都市は面白いところですの」

純「ほんじゃ、オレも歩いて帰るわ。まこを一人きりにするわけにはいかねえし」

透華「わかりましたわ。では、わたくしたちはこれで」

衣「じゅんー! まこー! また明日なーっ!!」

純「おうよ! また明日ーっ!!」

 ブロロロロロ

まこ「……別によかったんじゃぞ、わしのことなど気にせんでも」

純「つれねえこと言うなよ。それに、お前の言う通り、こんな夜は月を見上げながら帰るのも悪くねえ」

まこ「龍門渕のリムジンなら天井開くじゃろ」

純「あのな……いちいち文句言わねえと感謝もできねえのか? ああ?」

まこ「ほいほい、付き合うてくれて、ありがとうの」

純「ってか……まあ、なんか、すぐ帰るのがもったいなくてよ」

まこ「はあ?」

純「最近、毎日が楽しいんだ。白糸台に来て、お前らと出会って、他にも信じられねえような雀士がいっぱいいてよ。
 こうやって夜まで麻雀漬けになってると、夜が明けてほしくねえっつーか、ずっと今日が続けばいいのにっつーか、そんな気持ちになっちまう」

まこ「その図体で月をバックにそんな台詞……似合わんにも程があるの」

純「うっせえ。まこだってそうじゃねえのかよ?」

まこ「それは……そうじゃが――」

純「なんか、不満でもあるのか?」

まこ「いや、不満はない。われみたいな連中と毎日打って、強くなっていくのが自分でもわかる。じゃが……わしゃあ無能力者じゃけえ。どこまでついていけるのか……少し、不安なんじゃ」

純「憩だって無能力者だろ――っつーのは、ちょっと違うか」

まこ「あいつは《特例》じゃ。比べて、わしゃあ……ただ、人より経験を活かしやすいっちゅうだけの、普通の雀士。衣や小蒔、それに龍門渕みたいな支配力はない。松実やわれみたいな能力も」

純「お前が普通だとはとても思えねえけどな。ってか、少なくともオレとは五分だろ。それじゃダメなのか?」

まこ「わからん……。よう、わからんのじゃ、自分でも」

純「まこは……なんで学園都市に来たんだ?」

まこ「……ここなら、見られると思ったからじゃ」

純「見られる……?」

まこ「見たい景色が見られると思ったんじゃ」

純「なんだそれ?」

まこ「さあ、なんじゃろ……それが知りたくて、ここに来たんじゃろうな。ほういうことじゃと思う」

純「ふーん……ま、《頂点》に立てばわかるんじゃねえの?」

まこ「クラス対抗戦か?」

純「もっと上だよ。ナンバー1……或いは、一軍《レギュラー》ってことだ」

まこ「宮永照――あんな高いところまで行かんと見えんのか……」

純「先は長そうだな」

まこ「ほうじゃの」

純「……帰るか」

まこ「ほう……じゃの」

純「おっ! 見ろよ、まこ。街灯がねえのに道が向こうのほうまでよく見えるぜ!?」

まこ「今夜は満月じゃけえ」

純「走るか!!」

まこ「一人でやっちょれ」

純「なーんだよ、つまんねえなぁー!!」

まこ「純――わらようキャラが掴めんやつじゃのう……」クス

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

 南三局・親:まこ

まこ(純……どうなんじゃろ、あれから、わしは少しも強くなれたんじゃろうか――)タンッ

   ――無能力者のくせに!

まこ(相も変わらず……わしゃあなんの《上書き》もできん。確率干渉力の強さじゃって、高ランク雀士のそれと比べたら、切り捨てられる端数以下じゃ)

     ――調子に乗ってんじゃないわよ、無能力者が!!

まこ(わしには見てることしかできん。純――われら能力者が、この卓上《セカイ》を、思い通りに作り変え、操っていく、その過程を……)タンッ

            ――無能力者に何ができるっての!

まこ(わしは無能力者じゃけえ、この目に見える以上のことは見えんし、来る牌を選ぶこともできんのじゃ)タンッ

    ――無能力者に存在価値なんてあるわけ?

まこ(迷っても有効牌が来たりはせん。三副露しても五巡以内に和了れたりはせん。一巡先を見てリーチ一発を和了れたりもせん)

              ――所詮は無能力者じゃない!!

まこ(じゃが……それでも、ここは戦場じゃけえ――)

      ――場違いなのよ、無能力者ッ!!

まこ(覚悟は決まっちょる。わしにどれだけ力がなかろうと、わりゃあらにどれだけ力があろうと、もう一度ここに戻ってくると決めたんじゃ――! 勝つことを諦めるわけにはいかんじゃろ……ッ!!)

白望「……ちょい、タンマ――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(ッ……!! そろそろ来そうな気がしとったが、ここで《マヨヒガ》か。どうしたもんかの)

 東家:染谷まこ(永代・158700)

白望「失礼……これで……」タンッ

 南家:小瀬川白望(久遠・63600)

怜「」タンッ

 西家:園城寺怜(新約・51600)

誠子「」タンッ

 北家:亦野誠子(幻奏・126100)

怜「ポンや」タンッ

誠子(えっ? そんなとこ……?)タンッ

白望(む、私の支配領域《テリトリー》に傷ができてる……? 何か変えられたっぽい。私の迷い始めを狙ってきた、ってことかな)

怜(小瀬川さんは条件発動型でも確率干渉のスパンが長いほうや。和了るんを見てからズラしても遅いことは、東三局のハネ満でわかった。
 ほな、山の深くまで分け入る前に、支配領域《テリトリー》に揺さぶりをかけたら、どないなるやろな?
 この鳴きで、小瀬川さんの手には、次巡にうちに来るはずやった牌がいく。それは、小瀬川さんの河に見えとる牌や。一度捨てた牌やったら、有効牌である可能性は低いはず。
 ほんで、うちに見えた以上、それを《上書き》することは《絶対》にできひん。とりあえず、これで一巡は足踏みやで、小瀬川さん!)

まこ(なるほど……《最深》の大能力者相手に、深いところじゃのうて、序盤中盤でプレッシャーをかけていくわけか。確かに、小瀬川の顔は深くなるにつれ歪めにくくなってくる。なかなか面白いことを考えるのう……)タンッ

白望(おっと……これは最初のほうに捨てたやつ。ふーん……これが見えたから、掴ませたってわけ。へえ……ダルいな――)タンッ

誠子(小瀬川先輩が迷ったのにツモ切り……? ああっ、そっか! それ、園城寺先輩のツモるはずだった牌だから、レベル4の小瀬川先輩にはどうやっても《上書き》できない――なるほど!!)

怜(鳴いて手を進めつつ、小瀬川さんの《マヨヒガ》を邪魔したる。三位に離されるんは嫌やしな)タンッ

まこ「ロン――!!」ゴッ

白望・誠子(え……?)

怜(ちょ、そっち!?)ゾクッ

まこ「2900じゃ……」パラララ

怜(見えてた未来と違うことをすると、二巡くらい未来が見えなくなる……小瀬川さんの手に入るはずやった牌は、染谷さんの有効牌でもあったんか。気をつけとったつもりやったけど、甘かったな)

まこ(結果オーライかの。憩がよく言うちょった……『必然』で和了ることの多い能力者や支配者に対して、確率干渉のできん無能力者の和了りはあくまで『偶然』じゃと。この違いが有利に働くときもあるっちゅうことか)

まこ(万物に平等な古典確率論が、今回は『偶然』わしの味方をしてくれた。なんでじゃろうな……あのときは、一つも味方してくれんかったのに――)

怜:48700 誠子:126100 まこ:161600 白望:63600

 ――――――

 ――――

 ――

 ――昨年・五月・クラス対抗戦決勝・次鋒戦

まこ(弱ったのう……何局も打っちょれば、どうにも来る牌に恵まれんときはある。が、なにもこんな大一番でほうならんでもええじゃろ……)

誠子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

揺杏「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(決勝じゃなかったらじっと耐えることもできたんじゃがな。放っておくと能力者の亦野が鳴いて和了ってくる。岩館はどうにも読みにくい。それに、《爆心》の――なーんか嫌な感じがするのう……)

漫「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(この局になって突然顔が変わった。レベル4の《導火線》っちゅう噂は聞いちょるが、一体なにをしてくるんじゃろか)

漫「ツ、ツモ!! 8000・16000……!!」ゴッ

誠子・揺杏「!!?」

まこ(混老……!! っちゅうか、四暗刻じゃと――!?)ゾワッ

漫「つ、次はうちの親ですねっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(し、しもた……役満の親っ被り!! っちゅうか、手牌が妙な偏り方しちょるが、これは能力か!? 親番でまた役満なんて和了られたら洒落にならんが……くっ、初見でどこまで対応できるじゃろか――)

 ――《刹那》控え室

まこ「すまん……ごっそり削られてしもた……」

純「《爆心》の上重な。こっちもモニターで見てて驚いたぜ」

憩「ツモの偏りを引き起こす、常時発動型の自牌干渉系能力やね。見てた感じ、能力のオンオフのタイミングは自分やと制御できひんっぽいな。
 にしても、なんや、もしかして《爆心》はあれか、キング○ーとダグ○リオとカイ○ューとゴ○ーニャとマル○インってことか」

小蒔「ど、どういう意味ですか、それ……?」

純「こっちはサ○ダー、ファ○ヤー、フリ○ザー、それにウィ○ディ×2って意味だ」

衣「さっぱりだ!!」

まこ「いや、まあ……もちろん上重にもやられたが、あの爆発の前から、わしゃあ凹んどった。この結果は完全にわしの力不足じゃ」

純「まあ、誰だってツいてねえことはあるだろうよ。気にすんなって。まこはミスらしいミスはしてねえ。上重の能力にも真っ先に対応できてた。今回はたまたま運がなかっただけだ」

衣「案ずるな、まこ。どの道、衣が大将なのだから、何十万点差だろうと勝つのは衣たち《刹那》だ!!」

小蒔「今夜は満月ですしねっ!」

憩「ほな、ま、次の中堅戦でちょちょいとトップ取ってくるわー。《爆心》をまくればええんやろー?」

純「気をつけろよ、憩。あの鶴田って変態の和了りは《絶対》だからな」

小蒔「この決勝まで、《爆心》の最多得点選手はずっとあの方です」

まこ「わしが調べたところによると、二年の白水ってのが全面バックアップしちょるらしい。レベル5の第三位――《約束の鍵》……さすがに毎局っちゅうことはないじゃろうが、かなりの数を揃えてきてると思ってええじゃろ」

憩「あははっ、心配せんでええよ。染谷さんがあれこれ調べてくれたおかげで、あの哩姫の能力は大体わかっとる。確かに強力やけど、それかて、積み棒を十本くらい積んどけば、さすがに発動されることもないやろー」

純「どんだけ連荘するつもりなんだよお前……」

衣「けい、勢い余って他チームをトばしてくれるなよっ! いい加減衣も試合がしたいぞっ!!」

憩「いやいや、ウチはその辺の調整はきっちりできるわ。今まで衣ちゃんの出番があらへんかったんは、全部小蒔ちゃんのせいやん」

小蒔「も、申し訳ありませんっ! 私、憑かれてると和了りを制御できなくて……!!」

衣「大丈夫だ、こまき! 今日の副将はとーかとドラ置き場だぞ! こまきまで回れば、きっと衣にも回ってくる!! だから、問題はけいだけだっ! けい、本当に、ちゃんと、ほどほどで終わらせるのだぞ!!」

まこ「われらの会話は他チームには聞かせられんのう」

憩「ほなっ、行ってくるわ!!」

まこ「すまんの。頼むわ、憩」

憩「いやいや、染谷さんは謝るような闘牌してへんから、なんも問題あらへんよ。それに、決勝くらいは苦戦するんもオモロいやん。せっかくのお祭りやし、最後までみんなで楽しもうやー」

まこ「……ほうじゃの。ありがとな、憩」

衣「けい、頑張れっ!」

小蒔「応援してます!」

純「あとは任せたぜ」

憩「まっかせてーぇ!」ゴッ

 ――廃工場

憩「っちゅーわけでーぇ!」

衣「改めて!!」

純「ほれ、小蒔、こっちは準備できてんだぜ」

まこ「恥ずかしがっとらんで音頭取りんさい、リーダー」

小蒔(バニー)「うぅぅ///、クラス対抗戦優勝を祝して……かんぱぁーいっ!!」

憩・衣・純・まこ「かんぱーい!」

玄「……で」

透華「なんで敵チームだったわたくしたちまで呼ばれたんですの?」

衣「友達だからっ!」

透華「まったく、ですわ。泣く子と衣には敵いませんわねぇ」

玄「まあ、私は別にいいけど。《爆心》の打ち上げは後日だし。それに何より、ここなら小蒔ちゃんのあられもない姿を堪能できるからね……!!」ジュルリ

小蒔(バニー)「く、玄さん! あまりマジマジ見つめないでくださいっ!!」

純「いやー、しかし、最後の最後まで楽しかったなぁ。っていうか、龍門渕のチームにあそこまで粘られるとは思ってなかったぜ」

透華「浩子にはありとあらゆる衣対策を仕込みましたの!」

玄「悔しいなぁ。優勝は無理でも準優勝はできると思ってたのに。衣さんが華菜ちゃんを気に入っちゃって、まさかの最下位」

まこ「われらは白糸台の《生ける伝説》になったんじゃけえ、それでええじゃろ」

衣「あの《砲号》に数えを和了られたときは笑いそうになったぞっ!!」

憩「っちゅーか、玄ちゃん、鶴田さんに鍵持たせ過ぎやろー。中堅戦の間ずーっと《上書き》の嵐やったでー」

玄「だ、だって、他に憩さんたちに勝つ方法が思いつかなかったんですもん! 『己の欲せざるところ人に施しまくれ』です!!」

純「ははっ。松実、お前、完全に憩に毒されてんのな」

まこ「最近じゃと、松実の成績は安定の三位なんじゃろ? いよいよ《4K》が《四強》に改まるときが来たかのう」

玄「そ、そう思います////?」テレテレ

衣・憩「百年早い(で)、ドラ置き場っ!!」ゴッ

玄「ぐぬぬ……いつか目にもの見せてやるのです……!!」

小蒔(バニー)「私はそんな頑張る玄さんを応援しています!!」ムンッ

憩「おっ、小蒔ちゃん! その『むんっ』ってポーズ可愛えな!! ちょっとそのままで――」

小蒔(バニー)「こ、こうですか……?」ムンッ

玄「小蒔ちゃんのおもちと私の理性がハジけ飛ぶッ!!」

憩「は~い、チーズ!」パシャ

純「小蒔写真集も大分溜まってきたなー」

玄「売ってくださいっ!! いくらでも出します!!」

透華「なんですの、その聞くからにいかがわしい写真集とは?」

まこ「憩の発案での。わしら《刹那》では、ミス十回ごとに、罰ゲームとして仮装が義務付けられちょるんじゃ」

衣「ちなみに、こまき以外は誰一人罰ゲームになってないぞ!!」

純「起きてる小蒔は普通の頑張り屋だからなぁ」

小蒔(バニー)「もうっ、私だって日々進歩してるんですからーっ!」

憩「うんうんっ、よし。ええ感じに撮れとるな! 早速プリントアウトしてコレクション追加っと~♪」ガサゴソ

 ボンッ

憩「ほおああああ!?」ビクッ

純「どうした、憩。お前がそんな声上げるなんて珍し――は?」ゾワッ

衣「むっ、なんだこの妖気は――!!」ピクッ

まこ「こ、小蒔アルバムが!?」ゾゾゾッ

 ゴオオオオオオオオオ

憩・玄「燃えてるううううううう!?」ガーン

透華「なんて禍々しい黒い炎ですの……!!」ゾゾゾ

憩「そんな!? なんや!? どういうことやこれ!!」アワワワ

玄「こ、小蒔ちゃんのあんなおもちやこんなおもち……せめて一目だけでも見たかったのに……」ウルウル

憩「デ、データのバックアッ――これも全部飛んどるやとーっ!?」ガビーン

純「よくわかんねえが……人間に被害が出る前にやめたほうがいいのかもな」

まこ「なんちゅうオカルトじゃ……」

衣「これは呪術の類か? 相当な使い手……雀士だとしたら、いつか打ってみたいものだ」

小蒔(バニー)「……あははは……」

透華「フン。ま、どうしてもというのなら、その写真集とやら、小蒔の代わりにわたくしがモデルになって差し上げてもよろしくてよ!!」ババーン

憩「龍門渕さんは恥じらいがないから却下や」

玄「龍門渕さんはおもちがないから却下です」

透華「」ヒュオオオオオオオオオオオオオ

純「寒い寒い寒いッ!!」カタカタ

衣「おお……!? とーかが冷えたっ!! クラス対抗戦で数多の強者と相見えたからか!! ならば――」

憩「せっかくやし、一局打ってみるっちゅーんもアリやんな!!」

小蒔(バニー)「私、急いで巫女服に着替え直してきますっ!!」

玄「小蒔ちゃん! よかったら、私、手伝うよっ!!」

小蒔(バニー)「一人で大丈夫です!!」

玄「」

純「ったく、結局打ち上げでも麻雀やるのかよ」

まこ「一日中試合しとったっちゅうのにな」

純「ま、それでこそこいつらって感じか」

まこ「こりゃあ朝まで徹麻コースかのう」

純「マジかよ。明日は普通に授業だぜ?」

まこ「門限破った上に授業をサボったりしたら、全員まとめて久保の平手打ちじゃろうて」

純「それだけはガチで勘弁だな」

まこ「冗談じゃ。さすがに日付が変わる頃にはみんな寝るじゃろ」

純「そういや、ここに泊まったことはなかったな。オレは別にどこでも寝れるが」

まこ「寝袋が人数分あるらしい。憩が勤め先の病院の仮眠室から拝借してきたそうじゃ」

純「龍門渕も大概だが、あいつもあいつで便利なやつだよなぁ」

まこ「憩は睡眠とかその手のことにうるさいからのう。今日くらい、ハメを外して遊び倒してもええじゃろうに……」

純「お、なんだ? まこはあの化け物どもと徹麻したかったのか?」

まこ「いやいや、わしゃあそんな命知らずなことは死んでもせんわ。ただ、ほら……いつじゃったか、われ、言っちょったじゃろ」

純「あん?」

まこ「夜が明けてほしくないっちゅうか、ずっと今日が続けばいいのにっちゅうか……とにかく、今は、そんな気分なんじゃ」

純「ハッ、そりゃあいいな!」

まこ「本当に……ずっとこのまま遊んでいられたらええのに……」

純「いいんじゃねえの? 来週から、夏のインターハイに向けた一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》のチーム申請が始まる。
 《刹那》でエントリーしようっつったら、たぶん三人ともオッケーするだろ。《虎姫》とかいうのをぶっ倒して、オレらが一軍《レギュラー》になってやろうや」

まこ「わらそれでええんか、純?」

純「お前は眼鏡のツルをどこに引っかけてんだよ。今、『三人』っつったろ。オレは元からお前と同じこと考えてたよ。変な言い方だが、《刹那》がいつまでも続けばいいのに――ってな」

まこ「なるほど。じゃが、まあ、いくら狛犬の意見が揃ってものう」

純「だな。オレたちは番犬。主様にその意思がねえと……」

小蒔「着替えてきましたー!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣「よし、打つぞっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

透華「」ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオ

憩「ほれー! そこのドラゴンとドッグスもなにぼさっとしてんねーん!! 東風戦で二位・三位が交代なっ! 学年最強チームの最強を決めようやー!!」ゴッ

玄「私は《刹那》じゃないですけど、《爆心》リーダーとして借りは返しますっ!!」

純「おう、まこ。オレらも狙ってみるか? 下克上をよッ!!」

まこ「ほうじゃの……飼い犬が手を噛むこともあるっちゅうことを、あの化け物どもに教えちゃるか……!!」

憩「っしゃー! まずは第一回戦っ!! サイコロ回すでーぇ!!」

 ワイワイ ワイワイ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

?「――こ――!! ――い――えるか――ま――!!?」

まこ(ん……なんじゃ……誰が……)

純「まこ!! おい、聞こえるか!? まこ!!」

憩「ちょ、井上さん! 身体に触ったらあかんて言うたやろ!!」

まこ(ああ……ほうか……わしゃあ――)

純「け、けど、憩――!!」

憩「気持ちはわかるけど、大人しくしてられへんのやったら出ていってもらうで。ホンマは面会やってあかんねんから」

純「わ、悪ぃ……」

まこ「うっ――」

衣・小蒔「!!」

憩「染谷さん!? もう意識戻ったんか……!?」

純「お、おい、まこ!! 聞こえてんのか!! オレだ、純だ!!」

まこ「き……聞こえちょるわ……っつ――!」ズキッ

憩「起きんでええから! そのままじっとしとき!!」

まこ「ああ……すまんの」

衣「具合はどうなのだ……まこ?」

まこ「そらまあ、よくはないじゃろな……」

小蒔「なにか、ほしいものはありますか?」

まこ「ほうじゃの……喉渇いたわ……」

憩「ほな、このストロー咥えて。ちょっとずつ水出すからな。口の中も切れとるから、たぶん沁みるで……」

まこ「……っ!」

憩「あかんか?」

まこ「い、いや、これくらいなら我慢できるけえ……続けちょくれ……」

憩「ほな…………どや?」

まこ「ありがとの……大分マシになったわ」

衣「まこ……」

小蒔「まこさん……」

まこ「ああ、わしゃあ大丈夫じゃけえ……そんな、死んだみたいな顔せんでくれんかの……」

純「まこ……何があったのか、覚えてるか……?」

まこ「ん、ああ――」

    ――無能力者のくせに!

            ――調子に乗ってんじゃないわよ、無能力者が!!

         ――無能力者に何ができるっての!

  ――無能力者に存在価値なんてあるわけ?

                 ――所詮は無能力者じゃない!!

      ――場違いなのよ、無能力者ッ!!

まこ「――覚えちょるよ……」

純「どいつだ!! どこのどいつにやられた!? 言ってくれりゃ、全員オレがぶっ飛ばしてくる……!!」

憩「井上さん! そんな興奮したらあかんて……!!」

純「わ――わかってるけどよ……ッ!!」

まこ「ええんじゃ……純。こりゃあ自業自得じゃけえ……」

純「おま……なに言って――」

まこ「連中――顔も名前も知らんが――が言うちょったことは、もっともじゃ。わしみたいな無能力者が……われらみたいな化け物と肩を並べようなんて……元々背伸びじゃったんじゃよ……」

憩「……そんなこと言われたんか」

まこ「迷惑かけて、すまんかったの。わしゃあ見ての通りじゃけえ。この様じゃあ、しばらく麻雀は打てん。
 夏の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》は……誰か、もっと、われらに相応しい能力者を誘って出たらええ。ほうじゃ、松実か龍門渕なんかぴったりじゃろ……」

純「おい、まこ……頭打ってどっかおかしくなっちまったのか……? お前の代わりなんていねえって……」

憩「染谷さん、ひとまず、もう喋らんほうがええよ。意識戻ったのは嬉しいけど、今は安静に――」

まこ「ええんじゃ。わしの身体なんか……それより、われらの今後のことのほうが大事じゃろ。こういうんは……早いほうがええ……」

純「まこ……」

まこ「わしゃあ……わしみたいな無能力者は、われらとは釣り合わん。《刹那》は今日限りで抜けさせてくれんか……」

小蒔「まこさんっ!?」

衣「まこ、貴様……」

純「…………悪い、ちょっと、二人にしてくれねえか?」

小蒔「え、えっと――」

衣「……こまき、ここは、じゅんの言う通りにしよう」

小蒔「しかし、衣さん……!!」

衣「まこは満身創痍で弱っているのだ。衣たちが近くにいては、確率干渉の余波でまこの身体に障るかもしれん」

小蒔「け、けど、まこさんが――!!」

衣「ほら、こまき」

小蒔「まこさんっ!! そんな顔をしてはいけません!! 呪ってはいけないんです……!! だから――」

衣「こまき、行くぞ」グッ

小蒔「まこさん……っ!!」

 バタンッ

純「……憩も、外してくれないか?」

憩「職務上それは無理。せやけど……まあ、隅っこで大人しくしとるわ」

純「悪いな……」

憩「ええよ。ただ、大声出したり暴れたりしたら、その瞬間に強制退場やからな。ウチに聞こえへんくらい小声で喋ってや」

純「恩に着るぜ」

憩「ほな、ごゆっくり――」

 タッ

まこ「…………」

純「…………なあ、まこ」

まこ「……なんじゃ」

純「……オレは、お前とはダチだと思ってる。オレたちは、二人合わせて一匹の番犬だって……オレは思ってるんだが……」

まこ「……ほうか」

純「……お前は、そうじゃねえのか……?」

まこ「わしゃあ……わしの気持ちなんて、われにはわからんわ」

純「そんなこと――」

まこ「無能力者の気持ちなんて……能力者にはわからん……」

純「…………そうか……」

まこ「純……わりゃあ、わしと違うて能力者じゃけえ。わら強いけえ。もう、わしに足並みを合わせてくれんでええ。わりゃあ……一人でもやっていけるじゃろ……」

純「……そっ……か。よく、わかったぜ……!!」グッ

まこ「ほうか……」

純「この大バカ野郎……!! 誰がっ!! お前みてえな無能力者……!! オレは――そうだな、強えからよッ! お前みたいな弱えやつの考えることなんて……何一つわかりゃしねえよッ!!」ポロ

まこ「……すまん……」

純「弱えやつに、用はねえんだわ。オレは勝手にやる。お前も勝手にすりゃあいい。ただ、二度と……二度とオレの前に現れんじゃねえぞ……!!」ポロポロ

まこ「ああ……ほうじゃの……」

純「もういい、喋んな。戦わねえ犬が吼えてんじゃねえよ。耳障りだぜ……」ゴシゴシ

まこ「…………」

純「起きぬけに騒ぎ散らして悪かった。お大事にな。じゃあ、あばよ――」

 バタン

まこ「…………」

憩「……ふーぅ、なんや、かなり打ち所が悪かったみたいやね、染谷さん」

まこ「ほうじゃの、あちこち殴られたけえ。ま、眼鏡が無事でよかったわ……」

憩「最初の一発で吹っ飛ばされたんやろな。離れたところに転がっとったわ」

まこ「憩が見つけてくれたんか? さすが目が利くの。感謝する……こりゃあ大事なもんじゃけえ」

憩「そらよかったわ。せやけど、残念。せっかく見つけたのに、なんや、今の染谷さんには必要ないみたいやん、それ」

まこ「……すまん」

憩「……いや、こっちこそ、ちょっと重傷人に言い過ぎたわ、ごめんな」

まこ「重傷じゃなかったら言うっちゅうことか……」

憩「やって、ウチ、なんも間違ったこと言うてへんやろ?」

まこ「わら特に気い悪くしたじゃろな。重ね重ねすまん……」

憩「別に。っちゅーか、かえってよかったかもしれへん。負けられへん理由が一つ増えたわ」

まこ「なんのことじゃ?」

憩「ウチ、夏の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》――個人戦で優勝するつもりなんよ。ちょっとした仮説の実証にな。《頂点》獲ってくんねん」

まこ「ほうか……」

憩「ウチが宮永照に勝ったら、なんや殴られ過ぎてイカれてもうた染谷さんのドタマも、ショックで元に戻るやろ」

まこ「……すまん。ありがとの……」

憩「謝罪も感謝も要らへんわ。染谷さんのために戦うわけやないし。ついでや、ついで。《頂点》まで行くついでや」

まこ「わら、本気で、宮永照に勝つつもりなんか……? 勝てると思っちょるんか……?」

憩「さあ。ウチが何言うても、きっと無能力者の染谷さんにはわからへんと思う。やから、言わへん」

まこ「…………」

憩「さーて。みんな帰ったし、染谷さんもお休みしよっか。電気、消すで。ウチはそこにおるから、安心して眠ってな」

まこ「ああ……何から何までありがとうの」

憩「仕事やから、気にせんで。ほな……おやすみ――」

 パチンッ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

 南三局一本場・親:まこ

まこ(思えば……長いこと、眠っとったのう……)タンッ

         ――まこは……なんで学園都市に来たんだ?

まこ(わしが寝ちょる間……憩はナンバー2になって、衣と小蒔は麻雀を『打つ』ようになって、そして、純は――)

    ――ま、《頂点》に立てばわかるんじゃねえの?

まこ(こんなわしを……ずっと待っちょってくれた……ッ!!)

        ――走るか!!

まこ(一人で先に進めたはずじゃのに……! あいつは本当に――ようわからん!!)

  ――《頂点》まで行くついでや。

             ――どちらが先に辿り着けるか、勝負だぞっ、こまき!!

      ――はいっ!! いつまでも、ご一緒させていただきますっ!!!

まこ(憩、衣、小蒔……ありがとの。わりゃあらがずんずん先に進むから、わしは安心して追い駆けられる……!!)

    ――そんなところに上ったって、あなたの見たい景色は見れないよ。

              ――私と一緒に来るなら、本物の《頂点》に立てる。

  ――あなたの見たい景色も、あなたが望めば、きっと見れる。

        ――あなたの居場所は、あなたにしか決められない。

まこ(照、塞、穏乃……ありがとの。わりゃあらが引っ張り上げてくれたおかげで、わしはまたこの道に戻ってくることができた――!!)

         ――オレは井上純。

まこ(ほんで、純っ!! われには感謝してもしきれん……!! われが一緒じゃけえ、わしゃあ……どこまでも行けるッ!!)

     ――ここで会ったのも何かの縁。

           ――一緒に地獄に落ちようぜ、キョーダイ!

まこ(ほうじゃの、一緒に《頂点》まで駆け上がろう――純ッ!!)

まこ「ツモじゃ……!! 2100オールッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

怜(それ知っとったで――!! 止められへんかったけどな!!)

白望(これはダルい……)

誠子(染谷さん、一年生の頃とは比べ物にならない……ッ!?)

まこ「――っと、眼鏡外すの忘れとったッ!!」カチャ

怜・白望・誠子「っ!」ゾクッ

まこ「まだまだ親止める気ないけえの!! 二本場じゃあッ!!」ゴッ

怜:46600 誠子:124000 まこ:167900 白望:61500

 ――観戦室

     まこ『二本場じゃあッ!!』ゴッ

憩「ははっ、一年振りに鳴き声聞いたわ。ウンともアーとも言わへんかった狛犬が……今日はよう吼えるやん――」

煌「何か言いましたか、荒川さん?」

憩「いやいや。なんでもあらへん。独り言や」

菫「一位と二位の差がじわじわ広がってきたな」

淡「あのマコとかいうの……特別なことをやってるようには見えないけど、なーんか気付くとあいつに有利な場になってる。不思議」

煌「そこのところどうなのでしょう、荒川さん」

憩「染谷さんの《破顔》は、その原理からして、まんまネリーさんのやっとることに近いんやろな。どちらかと言わずとも感覚重視の打ち筋やから、言語《ロジック》では説明しにくい」

煌「道理で、牌譜を見ても傾向が掴めないわけです」

憩「花田さんのデジタルも理論派寄りやもんね~」

淡「うーん……なんかトモエみたいな感じ。いまいち対策が思いつかないよー」

菫「まぁ、さすがに狩宿ほどオールマイティな打ち手ではあるまい。対策云々よりも、あいつとの勝負は相性の要素が大きいように思う」

煌「同意見ですね」

淡「ふむう。じゃあ、私はマコと相性良さそうだし、他の三人を見てたほうがいい?」

煌「そうですね。私たちは、今試合中の四チームのうち三チームと戦うわけですから。一人に注目するよりは、満遍なく見ておいたほうがいいでしょう」

憩「おおーぅ、三チームと来たか。言うやんな、花田さん」

煌「えぇ。ですから、荒川さんたちが今偵察すべきは、最大でも二チームということになりますね」

憩「なにゆーとんの。ウチらの偵察対象は徹頭徹尾一チームだけやで~?」

淡「そんなこと言っちゃってー! 決勝であわあわしても知らないからねっ!!」ゴッ

憩「ホンマ威勢だけはええね、大星さんは。ボロボロに泣かせたいわー」ニコッ

煌「荒川さん?」

憩「ごめんごめん。冗談やから、許してーな」

煌「本当に困った人です」

淡「ねえねえ、スミレもテルたちが勝つと思ってるの?」

菫「無論」

憩「あそこに座っとる三人は、誰一人そう思ってへんみたいですけどねー」

     怜『リーチや』トッ

 ――対局室

 南三局二本場・親:まこ

怜「リーチや」トッ

まこ(ここでリーチじゃと……? おかしいの。ほういう顔には見えんかったが……)

白望(違和感のあるリーチだなぁ)

誠子(園城寺先輩のリーチ……鳴ければ鳴きたかったけど、その牌じゃ無理。ここは店じまい、かな)タンッ

白望「あっ、それ――ロン。8000は8600」

誠子「へ?(そっちですかー!?)」

まこ(どういうことじゃ……?)

白望(なんだ今のは――)

怜「ほな、これでオーラスやな」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

怜:45600 誠子:115400 まこ:167900 白望:71100

 ――《新約》控え室

絹恵「何がどうなっとるんや……?」

姫子「怜さんのリーチ掛けて、警戒した亦野さんの捨て牌の変わって、未来の変わった?」

和「怜さん……高めを狙えたのに、なぜあんな中途半端なところでリーチを……」

初美「一発を和了れるのが見えたから、リーチを掛けたんだと思いますけどー、今回はちょっと想定外の事態が起こったようですねー。
 ま、染谷さんも小瀬川さんも張ってましたから、仕方ないかもですー」

絹恵「あっ、また怜さんが張った!」

姫子「ばってん、ダマと。まだ和了り牌の出てこんってことやね」

和「あの手でどんな手替わりを待つつもりですかー!? 安いですけどリーチを掛ければ裏や一発が見れるのに……!!」

初美「いや、怜には未来が見えるんですからー、次巡に和了り牌をツモれるのが見えてからリーチしたほうがいいんですよー。ズラされなければ《絶対》に一発がつくわけで――」

     怜『ツモや、500・1000。これで前半戦終了やな』

絹恵・姫子「は?」

初美「ズラされてないのにツモったですかー!? ええっ!? どうしてリーチ掛けなかったですかー!?」

和「本当です! リーチを掛けていれば、今頃リーチ一発で点数が四倍になっていたのに!! 裏が乗ればハネていた可能性だってあります!! まったくもって意味不明!!」

『中堅戦前半終了ーっ! 《永代》染谷まこが暫定区間トップ!! 首位《永代》の独走が止まりませんー!!』

和「ちょっと怜さんに説教してきますッ!!」ゴッ

 ダッダッダッ

絹恵「え、えーっと……これ、ホンマに何が起きとるんですか?」

姫子「怜さん、未来ば見れなくなったと……?」

初美「いや、特に表情に変化はないですからー、能力は普通に機能してると思うんですけどー……これは――」

絹恵・姫子・初美「まったくもって意味不明や(と・ですー)」

 ――――

白望「憧……来てくれたのは嬉しいんだけど……席立つのダルかった……」

 二位:小瀬川白望・+9500(久遠・70100)

憧「だから必死こいて立たせてやったんじゃない! ってか、そんなこと言ってる場合じゃなくて……! 園城寺怜がヤバいの。洋榎が『オモロい』って言ってたから、ガチでヤバいやつよ、これ!」

白望「んー……それはなんとなく感じてるんだけど、そっちから見てて、具体的にどこがどう違った……?」

憧「うーん……そこまでは、みんななんとも。ただ、私の主観でいいなら――」

 ――――

誠子「原村さんみたい?」

 四位:亦野誠子・-16100(幻奏・114900)

優希「だじょ。私が言ったら、みんな『それだっ!』って」

誠子「まあ、園城寺先輩と原村さんはチームを組む前から仲が良かったらしいから、影響は受けると思うけど……」

優希「けど、誠子先輩。のどちゃんのデジタルはそんな簡単に真似できないじょ。その影がチラつくだけでも、かなりの異常事態だじぇ」

誠子「わかった。私なりに気をつける。それで、何か、対策は?」

優希「それが――」

 ――――

まこ「対策がない……まあ、あの《デジタルの神の化身》なら、そりゃ無理もないか」

 一位:染谷まこ・+14600(永代・167400)

穏乃「すいません。実際に戦った私も、これといった案が浮かばなくて」

まこ「ええわええわ。ほんで、対策はないとしても、気をつけることくらいはあるじゃろ?」

穏乃「そうですね。後半は、あまり、まこさんの感覚をアテにしないほうがいいと思います。その手の力は、原村さんに一切通じませんから」

まこ「じゃろうな。っちゅうことは、なにか、後半戦の園城寺とは純粋デジタルの実力勝負になるんかの」

穏乃「いや、その認識は……たぶん、少し危険です」

まこ「ふむ……?」

 ――対局室

和「怜さん!」

怜「おっ、和~! なんや、差し入れでも持ってきてくれた――」

 三位:園城寺怜・-8000(新約・47600)

和「怜さんのバカー!!」ブンッ

怜「エトペ――ぶぼっ!?」ゴフッ

和「まったく!! なんですか前半戦のふざけた打ち方は!! 私の教えたことを一つも守れていないじゃないですか!!」

怜「あは、バレた?」

和「怜さん……あまりふざけているようでしたら本気でいきますよ……?」ゴゴゴゴゴ

怜「おー恐い」

和「大体、あの南三局二本場のリーチはなんですか」

怜「ああ、あれは、トップの染谷さんが和了ってまうんが見えたから、なんか変わらへんかなー思て」

和「じゃあ南四局はなぜリーチを掛けなかったんですか」

怜「リーチ掛けたら和了れるもんも和了れなくなってまうかなー思て」

和「わかりました。まだ寝惚けているようですね……!?」ゴゴゴゴゴ

怜「起きとる起きとる! 大丈夫やって。エトペンの一撃で和の言いたいことはちゃーんと伝わったからっ!!」

和「……本当ですか?」

怜「ホンマや」

和「じゃあ、エトペンは……貸しておきます。私が見張ってると思って、ちゃんと打ってくださいね」

怜「そこは、『私が傍にいると思って』やろ?」

和「そんな恥ずかしいことは死んでも口にしません」

怜「口にはしなくとも、思ってはいるっちゅーことでええかな?」

和「そ……そんなことは――/////」

怜「おおきに、和。心強いわ。確かに、前半はうちが甘かった。決勝まで……と思っとったけど、あかんな。みんな強い。せやけど、おかげで目が覚めたわ」

和「……おはようございます、怜さん」

怜「おっ? 和、やっとうちの嫁になる決意したん?」

和「なるほど、やはり起こし方がヌルかったですか……ッ!!」ゴゴゴゴゴ

怜「そんなことあらへん。さっきの衝突事故みたいなキスで目が覚めたわ。ま、できることならエトペンやなくて和本人のがええんやけどなー」

和「――ッ!! ……か、勝ったら、その、してあげなくも……」ゴニョゴニョ

『中堅戦後半、まもなく開始です。対局者は席についてください』

怜「へ? ごめん、アナウンスでよう聞こえへんかった。なに?」

和「なんでもないですっ////」

怜「――と、みんな戻ってきてもうた。ほな、和、またあとでな」

和「……頑張ってください。では!」ダッダッダッ

怜(さーて……エトペンまで借りて負けるんは、さすがに和に申し訳ない。っちゅーか、このままやと、レベル5の名が折れてまうやんな――)ギュ

まこ「(園城寺怜……何をしてくるんじゃろか)よろしゅう」

 東家:染谷まこ(永代・167400)

白望「(後半戦もダルそうだな……)よろしく」

 南家:小瀬川白望(久遠・70100)

誠子「(この後半戦でなんとか点棒を取り返す!)よろしくお願いします」

 西家:亦野誠子(幻奏・114900)

怜「よろしくなー」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:園城寺怜(新約・47600)

『中堅戦後半……開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

やはりちょっと長いので、後半戦は明日か明後日に。

では、失礼しました。

 ――以下、一年生クラス表――

一組:新子さん、二条さん、対木さん。

二組:片岡さん、大星さん、咲さん。

三組:原村さん、森垣さん、東横さん、南浦さん。

四組:高鴨さん、安福さん、滝見さん。

真屋さんはお好きなところに所属させてください(個人的には三組)。明言していませんが、友清さんは四組、水村さんは二組、岡橋さんは一組、文堂さんは三組のイメージです。

毎回乙
ポケモンのくだりの刹那側の例えが凄くしっくりきて面白かった
しかしどうでもいいことだがウインディの始めのイは「ィ」じゃなくて「イ」なんだ
間違えやすいから注意だぞ!

>>341さん

どうでもよくないです! ありがとうございます!

昔は151匹言えたんですけどね。今やピカチュウなのかピカチューなのかもあやふやで悲しいです。

以下、パッチ。

>>311

純「こっちはサ○ダー、ファ○ヤー、フリ○ザー、それにウイ○ディ×2って意味だ」



ちょっと気になったんだが
>>285
>誠子(今回は園城寺先輩の下家に座った。感知系能力者相手にどこまで有効かわからないけど、見えていようといまいと、手番が減るのは物理的にキツいはず。トップを追いつつ、下位を突き放す。そのためにも、この手なら……!)

っていうところ
誠子が下家だと鳴けば鳴くほど怜がツモる回数増えない?

>>343さん

  怜

誠 卓 白

  ま

こうなっているはずなので、亦野さんは園城寺さんのツモ番を減らせるはずです。○○の下家とか、○○が上家とか、文字情報だけだとわかりにくいですよね。

下家と上家のどっちにいれば鳴いてツモを飛ばせるのかは、いつも、原作・花田さんの「(宮永照の下家に座ってしまったものですからね)ポン!」を思い出しながら書いています。

あと、対局の切れ目にある点数表示(これ→怜:48700 誠子:126100 まこ:161600 白望:63600 )が常に、

東家→南家→西家→北家(半荘開始時)とツモ順に並んでいるので、そこを見ると席順がわかりやすいかと思います。

 ――《久遠》控え室

久「ああ、なるほど。原村さんね。確かに、言われてみればそうだわ」

洋榎「後半からはあの変なペンギンのぬいぐるみ抱き始めたし、間違いないやろ」

哩「つまり、後半戦の園城寺は徹底したデジタル打ちば見せてくる……てことでよかと?」

憧「どうなんだろう。シロは『ダルい』としか言わなかったけど、あの『ダルい』は、たぶん、和以上の強敵として、園城寺怜を警戒してるの『ダルい』だと思う」

洋榎「そらそうやろ。園城寺と原村の融合体とかオモロ過ぎて逆に笑えへんわ。もしそんな生き物が誕生したら、うちと五分る――いや、下手すると、あの辻垣内と渡り合うレベルの化け物になるかもな」

久「……その見立て、どれくらい信じていいのかしら」

洋榎「今までうちの見立てが外れたことあったかー?」

哩「具体的に、どこのどう変わると?」

洋榎「まあ、変化自体は、半端なく地味やと思う。例えばやけど――今の園城寺の手牌を見てみい」

 怜手牌:一二二四五七八九③④⑤[⑤]⑥ ドラ:九

洋榎「この状態から、五筒が入ったら、自分ら何切る?」

哩「縛っとう飜数にもよるばってん、和了るだけなら一萬と」

憧「私は六筒を切るわ。鳴き一通を狙えるし」

久「まあ……期待値で言えば、六筒よね。憧みたいに鳴きを視野に入れると、また話は変わってくるけど、門前で進めるなら、ここは一通の目を残すのがデジタルでしょうね」

洋榎「せや。二回に一回もらえる千円と、三回に一回もらえる二千円。何度ももらえるなら、当然、後者を選んだほうがええ。せやけど、もし――五筒ツモって、次に四筒が来ることが見えとったら、どや……?」

憧「そ、そりゃ、六筒残して、一萬か五筒を切るわよ。だって、次巡に門前でテンパイできるのが確定してるんでしょ? なら、洋榎の喩えで言うなら、一回に一回もらえる千円ってことになるじゃん」

洋榎「さて、それはどうやろな。見えとるんはテンパイできるとこまで。和了れるかどうかはまた別問題や」

憧「うっ。それはそうだけど、みすみすテンパイの機会を逃すなんて……」

洋榎「和了率だけを考えるやつと、期待値まで計算するやつの間には、大きな実力の差が生まれる。地味なことやけど、こういう積み重ねが、何千局スパンでは目に見える数値となって現れるんや。
 ほんで、今までの園城寺は、未来が見える分、和了率を優先することが多かった。二回戦レベルなら、リーチ一発で打点を上げられるし、ぼちぼち通用したやろ。
 せやけど、ここは三回戦――去年で言うところの準決勝や。前半戦で他家が手強いんを見て、打ち方を変えてきたんやろな」

哩「っと――言っとったら、本当に園城寺の手に五筒の入ったと」

 怜手牌:一二二四五七八九③④⑤[⑤]⑥ ツモ:⑤ ドラ:九

憧「ちょ……ノータイムで六筒切りやがったけど?」

久「まあ、私でも、ここで六筒を選ぶこと自体はできるわ。けど、ノータイムっていうのはちょっと驚き。
 そう……あの園城寺さんが、原村さんレベルの計算高さを身に着けるのね。これは、確かに、洒落にならない革命だわ」

洋榎「せやろー」

憧「ちょっ!? ホントに次巡で四筒来てんじゃん!!」

哩「こいは……」

 怜手牌:一二二四五七八九③④⑤[⑤]⑤ ツモ:④ ドラ:⑧

憧「さっき六筒を残していればテンパイできたのに、一巡先が見える園城寺にはそれがわかってたはずなのに……裏目った? どういうこと……?」

洋榎「せやから、言うたやん。二回に一回もらえる千円と、三回に一回もらえる二千円。お得なのは明らかに後者。
 たとえ未来が見えようと、裏目ろうと、その理論《デジタル》は覆らへん。やから、園城寺は、デジタルに則って、さっきは六筒切りを『選んだ』んや」

憧「ま、まあ……和っぽくなるのはよくわかったわ。今の園城寺怜は、未来視《オカルト》より理論《デジタル》重視で手を進める。そういうことでいいのよね?」

洋榎「いやいや、それだけやったら原村とさして変わらへんやん。原村は、まあ確かに一年にしてはわりと強い。うちでも三回に一回くらいは稼ぎ負けるかもしれへんな。けど、所詮そのレベルや」

久「でも、デジタルモードの園城寺さんは、間違いなくその上を行くわね」

憧「ど、どうして……?」

哩「お……ごちゃごちゃ言っとうたら三萬入ったと。高め一通の平和赤一。原村和ない、ここでリーチば掛けっとこばってん、園城寺は――ふむ、リーチば掛けんやったな」

憧「ここは、理論《デジタル》より未来視《オカルト》を選んだ……この使い分けが、脅威ってこと?」

洋榎「ちゃうちゃう。使い分けなんてせーへんよ。園城寺はあくまで理論《デジタル》一本で打っとんねん」

憧「未来視《オカルト》はどこいっちゃったわけ?」

久「未来視《オカルト》は、理論《デジタル》の中に組み込まれてしまっているの」

憧「なにそれ……?」

久「いい、憧? 例えば、今、園城寺さんはテンパイしたわね。そして、この時点で、彼女には次巡に六萬で和了れることが見えていたとする。そしたら、憧はどうする?」

憧「リーチを掛ける」

洋榎「はい残念賞~。憧ちゃんは非能力者のくせに、理論《デジタル》を捨てて能力《オカルト》に溺れたな。ちゃんと期待値計算してモノ言えや」

憧「はあ? だって、園城寺に見えた未来は《絶対》なんでしょ? 《絶対》に和了れるなら、リーチ掛ければハネるのよ? 《絶対》もらえる一万二千円と八千円。どう考えても前者がお得じゃない」

哩「いや、待て、そうか……!! そういうことか――!!」

久「お、哩もようやくお気付きね」

憧「えっ? ええ? わかってないの私だけ!?」

洋榎「憧ちゃんよ。よーく思い出してみい。園城寺の能力は《絶対にリーチ一発をツモる》自牌干渉系能力か? ちゃうよな。あくまで、《一巡先が見える》だけの感知系能力や」

憧「知ってるわよ、それくらい」

久「なら、リーチを掛けてしまったら――未来を変えてしまったら――和了れなくなってしまうことがある、っていうのは、わかる?
 実際、前半戦、園城寺さんのリーチは何度か不発で終わっていたわよね」

憧「そ、そう言えば……!」

哩「ほいたら、憧。そいば踏まえた上で、もう一回期待値計算してみんしゃい。喩えるなら、五回に三回もらえる一万二千円と、《絶対》にもらえる八千円。憧は、どっちば選ぶ……?」

憧「そりゃ後者でしょ!! え、じゃ、じゃあ、まさか園城寺は――」

     怜『ツモや。2000・4000』

憧「――ッ!?」ゾワッ

洋榎「わかったか? 一巡先が見える園城寺怜が、原村と同レベルの計算力を身に着ける恐ろしさが。それは、ちょっと聞いただけやと、要は原村と一緒やん――って早合点してまう。せやけど……」

久「そんなわけがないわよね。園城寺さんはレベル5――見えたことは《絶対》に《上書き》されない感知系最強の能力者。つまり、単純に、計算に織り込める情報が、原村さんより多いのよ」

哩「そいない、原村とどっこいどっこいの強さで収まるわけのなか。特に、今の和了りは本当にどうしようもないやろね。園城寺の未来ば変えん限り、あの満貫は、姫子の《約束の鍵》と同じ、《絶対》の和了りやけん」

久「園城寺さんのリーチは、ズラされなければ百発百中。けど、彼女の実際のリーチ一発率は、百パーセントに届かない。ただ、これがダマとなると、見えた和了りは真なる《絶対》になるってわけ」

憧「超能力者の《絶対》と……デジタル。そ、そっか――! 古典確率論で期待値計算する以上は絶対にありえない《絶対》を――確率百パーセントを――園城寺は戦略の一つとして組み込めるのね……!?」

洋榎「やっとわかってきたか、憧ちゃん。ほんで、どや? 普段から非能力者として古典確率論をベースに打っとる憧ちゃんなら、古典確率論に《絶対》を持ち込める反則さがわかるやろ?」

憧「そりゃそうよ……!! 《絶対》に和了れることがわかるとか、イカサマ級のズルじゃない!! ってか、しかも、あいつらレベル5の《絶対》は――」

久「超能力者の《絶対》は誰にも侵せない――いつだったか、《ドラゴンロード》の松実さんがそう言ってたわね。
 まあ、レベル5の中にも序列があるから、園城寺さんの《絶対》は、第一位から第四位に《無効化》される可能性があるのだけれど」

憧「第一位から第三位はこっち側のブロックにいない……! 第四位は園城寺怜と同じチーム! 詰んだッ!!」

哩「今の園城寺の《絶対》は、掛け値なしの《絶対》と。こいば止めるんは、私にも、久にも、洋榎にも――当然シロにも、《絶対》にできん」

憧「け、けどっ、それならそれで、まだやり様が――」

洋榎「いーや。憧ちゃん、自分、まだ甘いで。言うたやろ、園城寺と原村の融合体は、うちか辻垣内に匹敵するって。
 ええか? 《絶対》の和了りなんてのは、哩の相方にもできることや。けど、うちはあいつには負ける気せーへん。この意味わかるか?」

憧「《絶対》の和了りだけじゃない……ってことなのね?」

洋榎「せや。原村や哩の相方には逆立ちしたってできひんことが、今の園城寺にはできる。これも、当然ながらっちゅーか、対策はこれといってあらへん。たぶん、あの手なら仕掛けてくるやろ」

     怜『リーチや』

憧「こ、これは――?」ゾクッ

 ――対局室

 東二局・親:白望

怜「リーチや」トッ

 西家:園城寺怜(新約・54600)

白望(うっわ……ダルい……)

 東家:小瀬川白望(久遠・68100)

誠子(今回はリーチ掛けてくるんですか!?)

 南家:亦野誠子(幻奏・112900)

まこ(じゃが、過去の園城寺のリーチとは顔のイメージが一致せん。ひょっとすると、原村和みたいな、普通のリーチなのかもしれんの。
 ただ、この感覚……穏乃はあまり信用しないほうがええ言うとった。いくらイメージと違うっちゅうても、相手はあの《一巡先を見る者》。一発は最大限警戒しといたほうがええじゃろな。ここで、どうかいの――)タンッ

 北家:染谷まこ(永代・163400)

白望(チーできるところが出てきたけど、どうしよう。イマイチ読めないんだよなぁ……)

誠子「ポ、ポンです!」タンッ

白望(あ)

まこ(ズラしには成功したが、さあどうなる……!)

怜「」タンッ

誠子(ほっ……よかった)

まこ(一安心? いや、まだ、重要なのはこの次じゃ。ツモ順がズレて小瀬川が園城寺の一発を掴む。小瀬川の動き次第では、園城寺の意図がわかるかもしれん)タンッ

白望(さーて……これが園城寺さんの一発なわけだけど――)ツモッ

まこ(どうじゃ?)

誠子(小瀬川先輩がツモ牌を見て止まった……?)

白望(へえ……これはまた、ダルいなぁ――)タンッ

誠子(えっ、ツモ切り!? いや、っていうか、それ!!)ゾワッ

まこ(園城寺の――現物じゃと……!!?)ゾクッ

白望(まさかこれほどとは……)チラッ

怜「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(リーチ一発ツモ狙いでフリテンリーチを掛けた――っちゅうのは、さすがにないじゃろか。すると、要は普通のリーチってことになるが……弱ったの。他家が鳴けるところを切るために、少し手を悪くしてしもうた。ここから追いつけるか……?)

誠子(園城寺先輩が、原村さんみたいな普通のリーチを掛けた? けど、普通のリーチなのか、一発を狙ったリーチなのか、私たちには区別する方法がない。
 マズいな……二回戦で竹井先輩が悪待ちと見せかけた良形リーチとかやってきたけど、私はこの手の駆け引きはあまり得意じゃないのに……)

白望(今までの園城寺さんのリーチは、一発目が《絶対》に和了り牌になっていた。それはズラされなければ強いけど、ズラされると、他家の誰かに自分の待ちがバレるっていう弱点があった。
 けど……今回私が掴んだのは現物。これじゃなんの情報も増えない。押そうと思えば、それなりに頭を使わないといけない。トップまで点差がある現状、ただオリるのもあれだし、どうしたもんかな……)

 ――《新約》控え室

絹恵「頭がこんがらがってきたで……!? えっ、怜さんは、さっきから何をしとん?」

姫子「和、解説頼むと」

和「いや、何も解説することなんてありませんよ。怜さんはただ普通に打っているだけです。少なくとも、私なら、あの状況であの手牌、まったく同じように打ちます」

初美「……なるほどですー。同じデジタル打ちでも、和と怜には能力《オカルト》の有無っていう決定的な差がある……そのせいで、怜を超能力者だと知っている私たちは、大混乱する――と。
 けど、これは……味方ながらに恐ろしいですねー」

絹恵「ど、どういうことですか、初美さん?」

初美「例えばですけどー、和がリーチを掛けてきたら、二人はどうするですかー?」

姫子「捨て牌ば読んで、押し引き判断して……要は、普通にデジタルで対抗すっとです」

初美「なら、怜がリーチを掛けてきたら、どうするですかー?」

絹恵「まず一発を消して、そこからは、まあ、普通にデジタルで対抗します」

初美「『まず一発を消して』――なぜ、和のリーチでは、このひと手間を掛けないですかー?」

姫子「やって、和は能力者やなかと。ズラさなければ《絶対》に一発ば和了る怜さんとは違う」

初美「そうですねー、そうなんですよー。けど、和は今言ったですよねー? 『あの状況、あの手牌なら、まったく同じように打つ』。つまり、今の怜のリーチと、和のリーチに、本質的な違いはないんですー。
 なのに、和のときには必要なかったひと手間を、こちらは掛けざるを得なくなる。それはなぜですかー?」

絹恵「やって、怜さんは超能力者ですもんっ!」

初美「ですよねー。そして、これはとても大事なことなんですけどー、二人は普段、和を相手に、どれくらい本気で打ってるですかー?」

姫子「本気の本気で打っとうとですよ。そいでん、デジタルで和に勝つのは難しか。実際、私と絹恵と和やと、成績は和の一番やし」

初美「そう……ただでさえ、《デジタルの神の化身》たる和を相手にするのは、大能力者の私でもキツいものがあるですー。
 そこに、もし、《リーチが掛かるたびに一発を消さなきゃいけない》とか、《何か動きがあるたびにその意図を量らなきゃいけない》とか、そういった縛りがついてきたらどうなるですかー?」

絹恵「後手後手になってしまいますやん。和相手に先手を取るのやって簡単なことやないのに、そんなんやってたら、もうにっちもさっちも行かなくなりますよ」

初美「実際、にっちもさっちも行かなくなってるですよー?」

姫子「え……」

初美「この局の怜のリーチ。染谷さんは、手を崩して他家の鳴けるところを切った。亦野さんも、決して勝負手ではなかったのに、鳴かざるを得なかった。二人とも、自ら手を悪くしてしまったんですねー」

絹恵「そら、怜さんがリーチ掛けてきたら、多少無理をしてでも――」

初美「なら聞くですけどー、絹恵は、多少の無理がある状態で、和に勝てる自信があるですかー?」

絹恵「ありません……」

初美「姫子はどうですかー?」

姫子「なかとです。万全の状態でん勝ち越すことのできんのに」

初美「だとしたら、二人とも、今の怜にはどう足掻いても勝てないですねー」

絹恵「和と同じ精度のデジタル打ちをしてくる怜さん……? え、ほな、初美さんは勝てますか?」

初美「自信ないですねー。たぶん、《一桁ナンバー》でも上のほうじゃないと張り合えないと思うですー。
 合宿のとき、赤面モードの和は、ナンバー6の福路さんを相手に、偶然とは言え一回勝ってるですー。となると――」

姫子「今の怜さんは、絹恵のお姉さんか、哩先輩と同じくらいの力のあっ……てこととですか?」

初美「どうですかねー。ハマり方によっては、辻垣内さんに匹敵するかもしれないですよー。だって、今は度外視してるですけどー、怜には東一局のダマみたいな、《絶対》の和了りもあるわけですからー」

     白望『ちょい……タンマ』

絹恵「うっ、『ちょいタンマ』入りましたよ?」

初美「まー、そういうこともあるですよねー。けど、和、小瀬川さんが『ちょいタンマ』で打点と和了率を上げてくることについてはどう思うですかー?」

和「SOA」

姫子「な、なら、今の怜さんもSOA?」

絹恵「いや、まあ、リーチ掛けてもうてるから、SOAでもなんでも和了り牌やなかったらツモ切るしかあらへんけど……」

姫子「おお、小瀬川さん、順調に手ば伸ばしとっとですね……」

絹恵「これ、怜さん、ヤバいんちゃいますか?」

初美「そりゃ小瀬川さんは《最深》の大能力者ですからねー。けど、私ら《十最》は、ナンバー的には《最多》のウィッシュアートさんがナンバー7で最高位。
 仮に、今の怜をナンバー3、4相当の雀士だとすると、いかに小瀬川さんでも、攻略するのは大変だと思うですよー」

和「あ、怜さんが――」

     怜『カン』

絹恵「これは……!?」

姫子「和、解説と!!」

和「他家にテンパイ気配はないんですから、嶺上開花やカンドラ・カン裏を狙える暗槓をするのは当たり前のことです。今は点差もありますしね」

初美「和の暗槓なら、そうですよねー。暗槓してきたなー、くらいで、それ以上の意味はないですー。
 けど、怜の暗槓ならどうですかー? 小瀬川さんが能力で手を伸ばしつつあるのをわかった上で、ツモ切りではなく暗槓を選んだ。さては次巡に和了れる未来が見えたのか――なんて、疑心暗鬼にならないですかー?」

絹恵「な、なりますっ!!」

姫子「何かあるに違いなか……そう考えっとです!!」

初美「で、どうやら染谷さんも二人と同じ考えを持ったようですねー」

     まこ『チ、チー!』

絹恵「ズラした……」

姫子「あっ、小瀬川さんのとこにカンドラば……!? ばってん、カンドラは小瀬川さんの有効牌やなかと。ズレて《マヨヒガ》の《上書き》に失敗したんやね。これ、小瀬川さんはどげんすっとやろか……」

     白望『……ダルい……』

絹恵「オリたー!?」

姫子「怜さんの手牌ば読み切ることのできんやったってことか。小瀬川さんはかなりカンのよかほうやのに……」

初美「その手のオカルト感覚は私も持ってるですけどー、残念ながらデジタルなこと機械の如しな和とは相性が悪いんですよねー。これも、怜の未来視の弱点をうまくカバーしてるですー」

絹恵「どういうことですか?」

初美「未来視ができる怜は、リーチがいい例ですけどー、自身の動きによって、間接的に他家に見えた内容を知られてしまうことがあるですー。
 けど、今の怜は、その能力《オカルト》を理論《デジタル》ですっぽり包み込んでいる。その動きが能力《オカルト》に拠るものなのか理論《デジタル》に拠るものなのか、他家にはどうやっても区別することができない……。
 ゆえに、和並みに手牌が読まれにくいんですねー」

姫子「厄介とですね……」

初美「厄介ですよー。半端なく厄介ですよー。あそこに座ってる三人も、きっと同じ感想を抱いてるはずですー」

     白望・まこ・誠子『ノーテン……』

     怜『テンパイ』パラララ

和「なかなかのデジタルですね。その調子ですよ、怜さん!」

 ――対局室

怜「テンパイ」パラララ

まこ(な、なんじゃあそりゃ!? フリテンリーチじゃと!!?)

誠子(え……じゃあ、あのときズラさなければ、やっぱり一発だったんだ……)

白望(フリテンはフリテンだけど、待ちが広いから十分ツモを期待できる。リーチを掛けたこと自体は全然普通のデジタル。ただ……そんな普通のデジタルに、こっちは随分と振り回されたな)

まこ(デジタル的に言えば、フリテンじゃけどツモれそうじゃけえリーチを掛けて、嶺上やドラを期待して暗槓――最後まで和了り牌が出てこず流局。ただそれだけのことなんじゃが……)

誠子(原村さんがこれをやってくる分には、まだ戦い様がある。無理して一発を消す必要はなかったし、暗槓一つにここまで過剰な警戒をしなくてよかった。でも……)

白望(園城寺さんには一巡先が見える――その大前提があるだけで、普通のデジタル打ちが恐ろしく対応しにくいものになる。ただでさえ、洗練された理論派《デジタル》っていうのは、それだけでダルいのに……)

まこ(ほいじゃあ、一巡先が見えるなんて能力《オカルト》を無視すればええかっちゅうと、それも違う。
 東一局のダマみたいな和了りもあるし、今回じゃって、ズラさなければ一発ツモじゃった。さらに、あの暗槓……あれも、わしがズラさんかったら、こいつはカンドラをツモって和了っとったんじゃ)

誠子(というか、もし本当に、園城寺先輩が原村さんと同等のデジタル打ちをやってくるとしたら、原村さん同様、園城寺先輩のデジタル打ちには、ただの一つも有効な対策がないってことになるけど……)

白望(《一巡先が見える》――その超能力《オカルト》そのものには、いくつか対抗策があった。けど、その超能力《オカルト》が理論《デジタル》に組み込まれてしまったら、もう手の施しようがない。
 見えてる情報に違いがあるってだけで、結局は原村さんと同じ、純粋な計算だけで打つ、《意識の偏り》のない機械。そんなの読めるわけがないって。
 これ……下手すると洋榎でも勝てないんじゃない?)

怜「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(厄介じゃのう)

誠子(厄介過ぎます!!)

白望(厄介だなぁ……)

誠子「え、えっと、流れ一本場、私の親番ですね!」

まこ:162400 白望:67100 誠子:111900 怜:57600 供託:1000

 ――《幻奏》控え室

セーラ「いやー、これはびっくりやな。怜のやつ、いつの間にあんな打ち方できるようになったんやろ。俺も一局打ってみたいわー」

優希「ホントにのどちゃんっぽいじぇ!」

ネリー「っていうか、やえはさっきから何してるわけ?」

やえ「NPC《園城寺》にNPC《のどっち》の思考ルーチンを組み込んで、主要な雀士と高速シミュレート対局させている」カタカタ

優希「じょ?」

やえ「簡単に言えば、今の園城寺の実力を、校内順位《ナンバー》基準で評価しているのだ」カタカタ

セーラ「結果はー?」

やえ「まもなく出る」

 ピコンッ

ネリー「お! 出たっ!?」

やえ「これは――」ゾワッ

優希「どうなんだじぇ!?」

やえ「……限りなく3に近い4だ」

セーラ「ひゃー、そらすごいなぁ。ほな、今の怜は《三人》の領域に片足突っ込んどるっちゅーことか」

ネリー「さとはくらい強いってことでいいんだよね?」

優希「誠子先輩がヤバいじょ!」

やえ「まあ……実際は、まだ辻垣内の境地までは達していないだろう。
 この数局を見る限り、原村を10とするなら、今の園城寺のデジタルは6~8程度。《デジタルの神の化身》――というほど完全なデジタルではない」

セーラ「さしずめ半羽化ってとこか。完全体への変身は遂げてへん。せやけど……その状態でも十分に他を圧倒しとる。あの小瀬川がオリるくらいやから相当や」

やえ「白水か、もしくは愛宕あたりと同等の実力がある、と見ていいだろうな」

優希「何か対策はないんだじぇ!?」

やえ「元々、原村の理論《デジタル》に有効な対策は皆無だった。園城寺の絶対《オカルト》も、能力そのものを打ち破る術はない。
 ゆえに、その二つが融合したアレについても、同様に、これといって打つ手がないということになる」

ネリー「のどかだけならまだいいんだけどねぇ。ことレベル5の《絶対》に限っては、私の自動即興《エチュード》のレパートリーから外れる。対策しようにも、分析も解析も捗らないんだよ」

セーラ「おっと、とか言うてたら、怜のやつ、今度は七対子テンパったな。リーチは掛けへん。まあ、そらそうか」

優希「一・九・字牌みたいな、もっといい待ちに変えるため――って! 同巡で和了り出てきたじょ!? 見えていたのになぜリーチを掛けなかったのか!!」

やえ「お前、今自分で言っただろ。『もっといい待ちに変えるため』ってな」

ネリー「西が入ったんだよ!」

セーラ「さっきの和了り牌と、この西――どっちも怜には見えてたはずや。その上で、怜は西単騎に張り替えることを選んだ。ほな、当然ダマや済ませへんやろな」

     怜『リーチ』

優希「の、のどちゃんだじぇ……!! いや、けど、のどちゃんが西に張り替えるのはわかるじぇ。さっきの和了り牌を見逃すのもわかる。
 でも! 和了り牌が出てくることが見えてたなら、リーチ掛けて一発を狙えばよかったんじゃないのか!? なぜわざわざ一巡待って西単騎にする必要があったのか!?」

やえ「さっきの和了り牌は、場に二枚見えている。要するに、あれが最後の一枚だったわけだ。リーチを掛けて、警戒されて抱えられたら、それまで。
 対して、西はまだ場に一枚しか見えてない。この巡目で他家の手に西があるとは考えにくいから、恐らくはまだ山に眠っていると推測できる。なら、ここで西単騎にするのは当然の選択だ」

セーラ「おっ、誠子が西を掴まされたで」

ネリー「親だけどツッパっちゃダメだよー! せいこー!!」

優希「おお!! 止めたじぇ!!」

やえ「ふん。チーム結成当初ならともかく、今の亦野なら、たとえリーチが掛かっていようといまいとこれくらいは――」

     怜『ツモや。リーチ一発ツモ七対子……2100・4100』

セーラ「出たでー!! 怜の十八番、一発ツモッ!!」

優希「ツモ牌見る前からツモ宣言してたじぇ……」

ネリー「じゃあ、これは見えてた通り、ってわけなんだね。今回は誰もズラせなかったし」

やえ「しまったな……合宿で少々ムキになって凹ませ過ぎたか。まさか本当にデジタル論を一から勉強してくるとは思っていなかったぞ」

セーラ「おっ? なんや嬉しそうやんな、やえ?」

やえ「まあ、敵味方問わず、誰かが成長するってのは見ていて喜ばしいもんだ。
 しかし、解せんな。いくら原村がチームメンバーにいるとは言え、普通の練習ではここまでの成果は出せんぞ。一体どんな魔法を使いやがった……」

優希「っていうか、未来視お姉さんの親番が来ちゃったじぇ!?」

ネリー「ときは元無能力者で、能力も感知系。《運命》に干渉する力はないから、無限に連荘するのは不可能だとしても……」

セーラ「積み棒の四、五本は覚悟しといたほうがええかもな」

やえ「《拒魔の狛犬》の染谷、元一軍《レギュラー》の亦野、それに《最深》の小瀬川――これだけの面子をまったく寄せ付けんとはな。
 すっかりその名が板についてきたじゃないか。《求道》を止めぬ元無能力者――園城寺怜……」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――去年・秋・とある病院

 コンコン

怜「どーぞー」

やえ「失礼する」ガラッ

怜「おろ……? 随分若い女医さんやな。担当変わるって話は聞いてへんけど」

やえ「勘違いさせてすまないな。白衣を着ているが、私は医者じゃない。研究者だよ」

怜「研究者?」

やえ「ああ。専門は能力解析とプログラミング。今日は、君の話を聞きに来たんだ。なんでも、百発百中でリーチ一発を和了るそうじゃないか」

怜「えっ、どこから聞きはったんですかその話……」

やえ「私の朝は新着都市伝説をチェックするところから始まる。多くはハズレだが、たまに本物と出会うことがあるんだ。おかげさまで、ちょっと前には非常に興味深い中学生と知り合うことができた。
 そして……その顔。どうやら君は、アタリのようだな。えっと――」

怜「二年の園城寺怜です。博士さんは?」

やえ「小走やえだ」

怜「こば――うえええええ……ごっほッ!!」ゴホッ

やえ「お、おい、大丈夫か?」

怜「す、すんまへん。ちょっと驚いて叫んだら、むせました。にしても……ホンマですか。ご本人様ですか。あー、言われてみれば、モニターで見た顔とそっくりやん」

やえ「最近は研究ばかりで、実戦は夏に一回打ったっきりだがな」

怜「見てましたよ。大活躍やったやないですか」

やえ「君、視力はいくつだ?」

怜「両目とも2.0ですよ」

やえ「今すぐ再検査してもらえ。そして適当な眼鏡を作ってもらえ。いや……まあ、私の話はいいか。
 それで、君の能力についてだが、百発百中でリーチ一発を和了るというのは、本当なのか?」

怜「《王者》に聞かれたら答えなあきまへんな。ホンマですよ。ズラされなければ、うちのリーチは必ず一発ツモになります」

やえ「よければ、それがなぜなのか、教えてくれないか?」

怜「見えるんです」

やえ「見える? さっきのを聞く限り、君の目はとんでもない節穴のようだが……?」

怜「ようわかりませんけど、とにかく見えるんですわ。一巡先の未来が」

やえ「ほう……!!」

怜「まあ、リーチ掛けると、なんや未来が変わってまうみたいで、他家の切る牌が変化することはままあります。
 せやけど、うちがツモる牌は見えてた通りのやつが来ます。せやから、次巡でツモれるんが見えたときだけ、リーチを掛ける。すると、ズラされへん限り、必ずリーチ一発ツモを和了れるっちゅーわけですわ」

やえ「なるほどな。感知系の能力というわけか。ちなみに、その、一巡先の自分のツモ牌が、見えてた牌と違ったことは?」

怜「今のとこ、一度もないですね。リーチ掛けてズラされたときも、やっぱり、本来のツモは見えてた通りの和了り牌になってました。いくつかプリントアウトした牌譜もありますけど、見ます?」

やえ「いや、よければデータを丸ごと私の電子学生手帳に送ってくれると助かる。検証はコンピュータ処理すれば一瞬で終わるからな。紙媒体で見るより正確で高速だ」

怜「ほな、アドレス交換しましょー」

 ピコンッ

やえ「ありがとう。にしても、君の話が本当なら、その未来視の能力値《レベル》はかなり高いと思うぞ。まず、特定の牌の位置と種類がはっきりわかるというだけでも、レベル3以上なのは間違いない。
 あとは、他能力の《上書き》の影響をどれだけ受けないかによるな。これが、もし、《絶対》に《上書き》されない――なんてことになったら、君は五人目のレベル5になれるかもしれん」

怜「超能力者《レベル5》……? え? うちが?」

やえ「まあ、強度測定をしていない現状では、全てが可能性の話に過ぎんよ。妥当なところではレベル4くらいだろうと思う。感知系のレベル5というのは、未だ存在しないからな」

怜「いや、まあ、大能力者《レベル4》でも十分ですけど。なんや、瓢箪から駒っちゅーか、まさか本当に幻想御手《レベルアッパー》に導かれるとは……」

やえ「幻想御手《レベルアッパー》……それは、ちょっと前に流行した、あれのことか?」

怜「はい、あれのことです」

やえ「光過敏性発作――所謂ポリ○ンショックを引き起こす違法動画を、架空の能力研究機関の開発した最新技術だと偽って、どこぞの大莫迦者がネットにばら撒いたんだったか。まったく性質の悪い悪戯だ。それで、君はそれを――」

怜「ええ。見事に踏んづけて、この様っちゅーわけですわ」

やえ「あれはもう一月も前の事件だったと記憶しているが?」

怜「うち、元々、あんま身体が丈夫やないんです。ここ一年くらいは小康状態やったんですけど、今年の猛暑でだいぶ体力削られたんやろか、弱ってたとこに、レベルアッパー喰らって派手にぶっ倒れて……」

やえ「そうだったのか」

怜「そっから、どうにも調子が戻らなくて、なかなか退院できひんのです。ま、一時なんか、ガチで生死の境をさ迷いましたからね。学校に戻るんはもう少し先になるかもって感じですわ」

やえ「大変なときに押しかけてきてすまなかったな。都市伝説になるくらい麻雀を打っているのなら大丈夫かと思ったのだが……」

怜「いえいえ、ここ最近は比較的元気なんで、全然大歓迎ですよ。それに、まさか《王者》に会えるなんて、こんな嬉しいサプライズはないですわ。
 能力もレベル3以上やって太鼓判押してもろたし、できることなら、強度測定でしたっけ、今すぐやりたいくらいです」

やえ「強度測定は、こちらも準備があるから、さすがに今すぐにというわけにはいかんよ」

怜「そーなんですか? 残念やなー。これでホンマにレベル5やったら、もう二軍《セカンドクラス》昇格待ったなしやん――とか妄想してたのに」

やえ「レベル3かレベル4でも、恐らくは十分に二軍《セカンドクラス》で通用する力だと思うぞ。
 君と似たタイプの感知系だと、一年の超音波《ソナー》というのが、夏の個人戦でいい成績を残していた。君の未来視は、聞く限りではそれに匹敵する性能があるように思う。あとは、やり方次第といったところか」

怜「やり方次第……ほな、うちは、たぶん、無理ですね」

やえ「どういうことだ?」

怜「素の技量がへっぽこやからですよ。未来視の能力――強力やとは思いますけど、それだけでやっていけるほど、二軍《セカンドクラス》っちゅーんは甘いとこやないですよね?
 うちみたいな欠陥品が二軍《セカンドクラス》でやっていくには、それこそ、超能力者《レベル5》くらいの肩書きがないと無理ですわ」

やえ「そうなのか……?」

怜「そーなんです。小走さんくらい強い人にはわからへんかもですけど、どーにもならんことっちゅーのは、やっぱりあるんです。憧れは憧れ。どんなに手を伸ばしても届かへん。
 まあ、うちなりに頑張っとるつもりなんですけど……なかなか、思うようにはいかへんのですわ。練習しても練習しても、全然、あかん」

やえ「…………」

怜「牌を握るのはごっつー楽しいんですけどねー。それだけで強くなれたら苦労はないっちゅーか、とにかく、いくら大能力や強能力があったって、今のうちには、二軍《セカンドクラス》なんて夢のまた夢ですよ」

やえ「……園城寺、こんな格言を知っているか?」

怜「なんですか?」

やえ「『健全な精神は、健全な身体に宿る』」

怜「はあ……?」

やえ「こんなところで寝てないで、まずは、身体を作れ。ちょうど、私の知り合いが勤めている病院が、その手の肉体改造に力を入れているところでな。
 お前が望むなら紹介してやるよ。きっと、半年も経たぬうちに、鋼の肉体を手に入れられるぞ」

怜「肉体改造って、比喩やなくガチの魔改造やないですかそれ……?」

やえ「それで健全な身体が手に入るなら、安い代償じゃないか」

怜「いやいや、うちかて、額に三つ目の目ができるとか、そんなんは勘弁ですよ?」

やえ「改造云々はジョークだよ。まあ、それはそれとして、とにかく、あれだ、園城寺」

怜「はい?」

やえ「お前の素の技量がいかほどのものかは知らん。ただ、麻雀に《絶対》は《絶対》にない。やってできんということはないんだ。求めることを止めない限り、決して諦めない限り、いつかきっと、お前はお前の憧れに届く。
 だから、ちょっと今が苦しいくらいで、簡単に歩を緩めるな。むしろ走れ」

怜「……そのために、まずは身体作りから?」

やえ「人間、身体が弱ってくると、気持ちまで弱くなってしまうものだ。私の友人に、その真逆を体現しているやつがいる。お前に分けても有り余る無駄体力の持ち主だ。あいつは常に駆けている。ゆえに……強い」

怜「ふむ……」

やえ「もし、その気になったら、いつでも連絡をくれ。というか、お前が病弱なままだと、いつまで経っても強度測定ができん。少なくともここを退院しない限り、お前の能力値《レベル》は永遠に不明のままだぞ。わかったな?」

怜「は、はい」

やえ「じゃ、今日はこれで失礼する。次に会うときは、もうちょっとマシな顔を見せてくれよな」

怜「あっ、あの……小走さん!」

やえ「ん、どうした?」

怜「ホンマに――ホンマにうちも、頑張ったら二軍《セカンドクラス》になれますか!?」

やえ「お前次第だ」

怜「ほ、ほな! 無理を承知で訊きますけど――《六道》の仲間入りとかアリですか!?」

やえ「……何も無理なことなんてないさ。お前が二軍《セカンドクラス》に昇格して、《一桁ナンバー》と互角にやり合えるくらいの実力を他の部員に示せば、《六道》の一席を乗っ取ることもできよう」

怜「ホ、ホンマですか!? 嘘やないですよね!?」

やえ「私は嘘はつかん。ジョークは言うがな」

怜「なんてことや……!! ほな、うちも、頑張ればあの人と――!!」

やえ「誰か、気になるやつでもいるのか?」

怜「《正道》の非能力者――清水谷竜華さん。あの人は……うちの憧れや! あの人のふとももに触れるために、うちは学園都市に来たんやからっ!!」

やえ「お、おう……」

怜「小走さん……おおきにです! うち、清水谷さんのふともものためやったら、なんでもやったります!! 魔改造でも三つ目でもなんでも来いですわ!! その、お知り合いの勤めてはる病院ってどこですか!?」

やえ「赤阪総合病院だ」

怜「しゃあー!! ほな、早速今から――」クラッ

やえ「おい、おまっ、大丈夫か……!?」バッ

 ドサッ

怜「うーん……イマイチなふとももやな」

やえ「おい、お前、今すぐ私の膝からどいてベッドに帰れ。むしろ土に還れ」

怜「ははっ、小走さん、またジョークですかー?」

やえ「本音だ、莫迦者」

怜「ほな……そのまま本音で答えてください。うち、清水谷さんに釣り合うくらいの雀士になれると思いますか……?」

やえ「……お前次第だ」

怜「……求めることを止めない限り、いつか憧れに届く――かぁ」

やえ「さしずめ《求道》を止めぬ元無能力者、といったところか」

怜「ほな、二軍《セカンドクラス》の上位ナンバーになったら、その《求道》で名乗りを上げますわ! で、《正道》の清水谷さんと、お近付きになる! おおっ……! 完璧な作戦や!!」

やえ「大した幻想だな。が、楽しみにしているぞ」

怜「ええ。楽しみにしとってください。うち、やったりますから。メゲんと頑張ってみますから。この手が憧れの清水谷さんに届くまで……絶対に――!!」

やえ「……ああ、ぜひそうしてくれ」

怜「ほな……とりあえず今は、小走さんのしょっぱい膝で我慢しとくかー」

やえ「……園城寺、お前、身体が丈夫になったら覚えとけよ……?」ゴゴゴゴゴ

怜「ははっ、ええですね。身体が丈夫になったら、ど突き合いの付き合いもできる。こら早いとこ魔改造してもらわなー」

やえ「ついでに脳も交換してもらえ」

怜「機械化ですか? せやけど、それはそれで、麻雀強くなりそうですね。《デジタルの神の化身》みたいな」

やえ「確か、今年の《インターミドルチャンピオン》は、そこそこ腕の立つデジタル打ちだったはずだぞ。恐らく、春になれば白糸台にやってくるだろう」

怜「へえ、その子、中三ですか。名前は?」

やえ「原村和」

怜「原村和……よう覚えておきますわ――」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

 東四局・親:怜

怜(懐かしいこと思い出してもうたな。あれから……能力値《レベル》が5やってわかって、二軍《セカンドクラス》昇格が決まって、赤阪先生に魔改造してもろたんやっけ)

 東家:園城寺怜(新約・66900)

怜(白糸台校舎に通うようになって、最初の頃は、全然勝てへんかった。せっかく清水谷さんと同じクラスになれたのに、なんもええとこ見せられへんまま二年が終わろうとして……)

怜(そんなとき、同郷のよしみでセーラと友達になったんや。
 セーラが特訓に付き合うてくれたおかげで、春季大会《スプリング》は個人でかなりええとこまで――あの宮永照と同卓するとこまで――行けた。
 《照魔鏡》を食ろうて、うちも一人前の二軍《セカンドクラス》になれた。三年に上がる頃には、上位ナンバーの仲間入りができた。
 ようやっと、《求道》の名を主張しても恥ずかしくないくらいには、うちも強くなれたんかな――そんなことを思うようになったな……)

怜(ほんで……四月になって、クラス替えが気になってダッシュしとったら、かわしきれへんかったんや――)

    ――こっちの台詞です……。

                  ――原村……和。

怜(そっからも……色々あったな。
 合宿では、清水谷さんにアピールするつもりが、久しぶりに会うた小走さんにボコられて、チーム戦もボロ負けして、それで和やみんなと喧嘩して、喧嘩する前より仲良うなった。
 選別戦も予選も練習も……毎日が楽しかったな。ほんで、今日――ついに迎えた《久遠》との直接対決や……)

    ――みんなで、本当の決勝戦に行くこと、そこでトップに立つこと。

             ――そいば、最優先事項にして、今日は戦いたかとです。

      ――怜、トップまくってこいですよー!

怜(せやな……負けるわけにはいかへんよな……)

怜(清水谷さんや、小走さん――モニターの向こう側の人たちみたいになりたくて、うちは一般入試で学園都市に来た。入学したときはドン底の最底辺やったけど、なんや、ラッキーにラッキーが重なって、こんなとこまで来れた)

怜(この三回戦……反対側のブロックを合わせても、二軍《セカンドクラス》やなかった時期がある雀士はうちだけや。
 ほな、見せたらんとあかんよな。元無能力者……力を手にした欠陥品が――どこまで行けるんか……!!)

怜(《求道》は《求憧》――求めることを止めない限り、いつか絶対に、うちはうちの憧れに届くッ! 求めて求めて求めて、抱えきれへんほどたくさんのもんを手に入れた――)

怜(今のうちには超能力があるっ! デジタル論もみっちり勉強した! 頼もしい味方もおる! 倒し甲斐のある敵も目の前におる!!
 ほんで何より、勝利のデジタル女神様が――守護天使《ゴールキーパー》がついとる!!)

    ――私が見張ってると思って、ちゃんと打ってくださいね。

怜(負ける気がせーへんッ!!)ゴッ

          ――……おはようございます、怜さん。

怜「ツモ! 3900オール――!!」パラララ

誠子(またダマ……っ!? 一巡前から勝負は決まってたってことか。それならそれで、少しは表情に出てもいいような気がするけど、原村さんと同じでまったく考えが読めない。園城寺先輩にあった唯一とも言っていい隙が完全になくなってる……)

白望(原村さんのデジタルが、園城寺さんの隙をカバーしているだけじゃない。園城寺さんの未来視が、原村さんの隙――デジタルゆえに決してゼロにならない放銃率をカバーしている。
 この局はこっちもダマでテンパイ気配消してみたけど、簡単にかわされた。たぶんだけど、何度か能力で振り込み回避をしてたはず)

まこ(相補的なとこだけじゃのうて、相乗的な強みもある。攻撃面では、原村和の武器である最高効率の打牌――それが、園城寺の未来視で数段強化されちょる。
 守備面でもほうじゃ。園城寺のベタオリは原村のそれとはまるで次元《レベル》が違う。放銃率ゼロがデフォで、その上、隙あらばこっちの和了りを妨害してくるんじゃけえの。
 いやぁ……これは崩し方がわからん――)

怜「ほな……一本場行っとこか!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ:156400 白望:61100 誠子:103900 怜:78600

 東四局一本場・親:怜

怜「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

白望(理論《デジタル》や絶対《オカルト》をどうこうすることはできない。なら……まあ、普通に打つしかないんだけどさ)

白望(とりあえず、現状、私は最下位だから、狙われることはないかな。比較的自由に打たせてもらえると思っていいよね。それに、ここでアレコレ試しておけば、決勝とかでもう一回戦うときに役立つだろうし)

白望「……チー」タンッ

まこ(お……小瀬川が鳴きじゃと? 自分から顔を変化させとるんか。それに、今の園城寺は足が速い。速攻で親を流すつもりなんかの。ほいじゃあ、わしも、デジタルで頑張ってみるか……!)

まこ「ポンじゃ」タンッ

誠子(二人とも鳴いてきた。これ……園城寺先輩にはどう見えてるんだろう。小走先輩は、園城寺先輩の超能力を《牌を切ってから次の捨て牌を選ぶまでの未来を実体験する》力って言ってたから、他家の鳴きは普通に予知圏内のはず)

誠子(園城寺先輩はベースが無能力者だから、鳴いて場を乱すとか、そういうことの影響はほとんど受けない。なら、小瀬川先輩と染谷さんの目的は、原村さん並みの速度を誇る園城寺先輩の親を、速攻で流すこと――)

誠子(私も攻めないとな。このままじゃ、ずるずる点棒を失う一方だ。園城寺先輩の足音も聞こえてきた。後に続く先輩方や、リードを作ってくれたネリーさん、守ってくれた優希のためにも、私が追いつかれるわけにはいかない)

誠子(鳴き――そうだ……私はこの場の誰よりも、鳴き麻雀に慣れている。河から自在に牌を釣り上げる白糸台の《フィッシャー》。副露合戦で……譲るわけにはいかないっ!!)

誠子「ポン!」タンッ

白望(おっと……そっちの調子を上げちゃったか。どうせ和了るなら、一位を食ってくれるとトップまくりやすくなるんだけど)

まこ(三副露した亦野は、どちらかと言えばツモ和了りのほうが多い。とは言え、点棒まで釣り上げられんよう気をつけんとの)

誠子「……ポン!!」タンッ

白望(んー……ツモを飛ばされるのは構わないけど、園城寺さんのツモが増えるのは嫌だな)

怜「」タンッ

誠子「それも――ポンでッ!!!」ゴッ

誠子(ヒットッ!! よし、このまま――)タンッ

怜「ポンや」タンッ

誠子(うっ……支配領域《テリトリー》がズラされた……? 園城寺先輩に私のツモが食われたか。けど、これくらいの揺さぶりなら、まだ耐えられるッ!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(亦野が二、三巡くらいで和了るように見えるの。じゃが、園城寺の捨て牌は鳴けん。どうしたもんか。テンパイしちょるけえ、退きたくはない。全員副露しとるし、この手牌じゃとオリ切れん気がする。ここは――押してみるかいの……!!)タンッ

白望「チ」

怜「ロンや――! 5800は6100ッ!!」ゴッ

白望(うわ……)

誠子(ええええっ!?)

まこ(よりによって親に振ってもうたか。まあ、さほど高くないのは不幸中の幸――いや、待て。なんじゃあその和了りは……!?)ゾワッ

 怜手牌:一二三四五⑦⑦白白白/([五])五五 ロン:六 ドラ:一

まこ(園城寺が直前に切ったのは七筒。じゃけえ、こいつは鳴く前からテンパイしちょった。一・三・四・六萬待ちの四面張――即ち、こうじゃ)

 怜手牌:一二三四五五五⑦⑦⑦白白白 ドラ:一

まこ(最高めで、ツモ三暗刻白ドラドラの好手。ここから、園城寺は亦野の切った赤五萬を鳴いて、七筒を切った。どう見ても不合理な打牌じゃ。待ちも悪くなるし打点も下がる。どこぞの《最悪》を髣髴とさせるの。じゃが、こいつはレベル5の予知能力者……)

まこ(園城寺には、見えとったはずじゃ。亦野から鳴かずにそのまま手番が来れば、六萬で2600オールを和了れる未来が見えちょった。平場なら、そのままツモっとったじゃろ。
 じゃが、今は点差がある――削りたい敵がいる……つまり、トップのわしのことじゃの)

まこ(亦野から赤五を鳴けば、打点の下降を最小限に留め、なおかつわしに自身のツモを押し付けることができる。一巡前から見えちょった自分の和了り牌――六萬を)

まこ(ほんで……たぶんじゃが、わしの手が索子に染まっとるのがわかっちょったんじゃろな。六萬を掴まされたら、ベタオリされない限り高確率で捨ててくると、デジタル論的に予測したわけじゃ)

まこ(打点を下げてまで直撃狙い……か。マズいの。今の局、三回戦突破をするだけならツモ一択じゃろう。
 が、こいつはその《絶対》を拒んだ。《一巡先を見る者》……その目に映るんは、三回戦トップ通過――決勝のステージ……)

怜「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(ははっ……少しは加減してほしいもんじゃの――超能力者《レベル5》ッ!!)ゾクッ

白望(あくまで目指すのはトップ通過。ダルいなぁ。二位・三位狙いくらいで妥協してくれるなら、まくるのはそんなに大変じゃないと思ってたんだけど。大分差が開いてきちゃったし、そろそろなんとかしないと……)

誠子(《永代》がトップを走り続けると……そう考えているからこその、ツモ和了り拒否だったわけですよね。個人的にはちょっと悔しいですが、園城寺先輩がそのスタンスで来るなら、むしろ私は攻めやすい。もっと前に出てみますか……)

怜「っしゃあー、二本場やっ!!」ゴッ

まこ:150300 白望:61100 誠子:103900 怜:84700

 ――《久遠》控え室

憧「これで園城寺が四和了目……!? うぬー! シローっ!! さっさとやり返しなさいよー!!」

久「テンパイ気配を殺してみたり、鳴きを織り交ぜてみたり、シロなりに色々と試しているみたいだけれど」

哩「どれも決定打に欠けっと」

洋榎「ま、そんなもんがあったらとっくに打っとるやんなー」

憧「ねえ、シロは大丈夫なの!?」

久・哩・洋榎「大丈夫よ(と・や)」

憧「うっ……何よ、心配して慌ててる私がバカみたいじゃない」

久「あらあら、この子は。シロの心配をするなんて、偉くなったもんね」

憧「だって、シロのやつ、困ってる顔してるんだもん……」

哩「シロはいつでんあんな顔やろ」

憧「そうだけどー!」

洋榎「ええねんええねん。困らせとけばええねん。どうせシロのことや。困って迷ってダルがって、最終的にはええ感じで帰ってくるわ」

憧「けど、洋榎が言ったんじゃん。今の園城寺は洋榎か辻垣内くらい強いって。いくらシロでも、そんな化け物の相手するのはキツいでしょ?」

久「さあ、どうかしらね。二年前のクラス対抗戦で、シロは辻垣内さんと対戦しているけれど、そのときは、なんだかんだプラスで帰ってきたわよ」

哩「どころか、ギリギリまで競っとうたと。《一期》の佐々野の無茶な連荘のなかったら、シロの勝ちやったかもしれん」

洋榎「あの先鋒戦は、辻垣内的にはごっつーやりにくい卓やったやろなー。《連皇》の《落石の巫女》は真っ二つにするには硬過ぎるし、《一期》の佐々野なんか、斬殺で惨殺したはずやのに、誰が唱えとんのか復活の呪文で息を吹き返してきよる」

久「そして、我らがシロさんは、幽霊みたいに実体がないから斬るに斬れない――と」

哩「立ち向かってくる者はいくらでん斬り様のあっばってん、あっちこっちふらふらしてばかりのシロには、《懐刀》も《快刀》も届かなか。斬れるわけのなかと」

洋榎「そのくせ、シロは最後の最後であいつだけの《解答》に辿り着く。もう勝手にやっとれ! ってなるやんな」

久「なってたなってた。辻垣内さん、狩宿さんが削れないと見るや、すぐにシロに矛先を向けたんだけど、既にシロは明後日のほうに行っちゃってて、仕方なしに佐々野さんを微塵切りにしてたら、後半戦でまさかの死者蘇生」

哩「最終的には三人まとめて横薙ぎにしとったね」

洋榎「できるんなら最初っからやれやって思うんやけど、辻垣内は清水谷と同じで、何かとサシの勝負に拘るからなー」

     白望『ツモ……2200・4200』

久「あら、思い出話をしているうちにシロが和了ったわ」

哩「まあ、そいでこそ仕事きっちりのシロと」

洋榎「《最深》は《採深》。あいつに採り零しはあらへん。迷って迷ってさ迷って、深みに嵌れば嵌るほど……そこがあいつの支配領域《テリトリー》――ってなー」

久「そういうこと。だから、憧はおかえりを言う準備だけして待っていればいいのよ」

憧「うむむむむ……っ!!」

哩「どげんしたと? こいだけ言うてもまだ不安と?」

洋榎「ははっ、シロは信用あらへんなー」

憧「違うわよっ! シロのことはよくわかったわよ! そうじゃなくって――」

久「なあに?」

憧「みんなして私の知らない話するのが気にいらないーっ!!」

久「あら。仲間外れにしてたら、拗ねられちゃったわ。どうしましょ?」

洋榎「憧ちゃんはホンマ構ってちゃんやなー。ほな、哩。どうにかしたれっ!」

哩「そいたら、ここに手錠の四つあるけん。こいば皆で掛け合って一つになる……なんてどうやろか?」ジャラジャラ

憧「どうやろか、じゃないわよー!?」

久「ナチュラルに鞄から手錠が出てきたわ……」

洋榎「ははっ、ドン引きやわー!」

哩「手錠の嫌なら、縄もあるけん」シュルシュル

憧「しまえーッ!!」

哩「おかしか……姫子はいつでんこいで悦ぶのに……」ブツブツ

憧「おかしいのはあんたの頭よ。っていうか、あんたたち全員ちょっとずつズレてるわよ。《旧約》――クラス対抗戦のときにあんたたちに付き合ってたっていう《磨道》の福路さんは、さぞ苦労したんでしょうね」

久「何も知らないって幸せよね……」トオイメ

洋榎「せやな……」トオイメ

哩「ああ、確かに福路さんはまともやった。私の学園都市で会った雀士の中では、姫子の次に話のわかる人やったと」

憧「ダメだこいつら!! シロ!! 助けてッ!!」

     白望『ダルい……』

 ――対局室

 南一局・親:まこ

白望「ダルい……」

 南家:小瀬川白望(久遠・69700)

誠子(一打目から!?)

 西家:亦野誠子(幻奏・101700)

まこ(何をそんなに迷うことがあるのかさっぱりわからん……!!)

 東家:染谷まこ(永代・148100)

怜(おー……? うーん、これは、もしかして――)

 北家:園城寺怜(新約・80500)

白望「……うん、よくわかんない。とりあえずこれで」タンッ

まこ(なんじゃったんじゃ?)

誠子(本当によくわかりません)タンッ

白望「ロン。2600」パラララ

誠子「は――?」

まこ(一巡て! そんなことがあるんかいの!?)

怜(へえ……ダブリー掛けずに、わざわざ待ちの悪いほうを選んどる。99パーセント偶然の産物なんやろうけど、残りの1パーセントは小瀬川さんの力やろな。《最深》の大能力者は読みまで《最深》――なーんてな)

白望(なんとなく……リーチは掛けないほうがいいような気がした。待ちも良くしないほうがいいような気がした。そうしないと、また園城寺さんに持っていかれそうな気がした。いや、根拠はないんだけどさ。
 でも、この手の予感が外れたことは、今までに一度もない。ここはもったいなくても、園城寺さんに手番が回る前に対局を終わらせるのがベストだったと思う。今のこの人をまともに相手にするのは、リスクが高過ぎてダルい……)

怜(わかっとんのかわかってへんのか知らんけど、一巡目の和了りっちゅーんは、唯一、うちの目の届かへんとこや。《一巡先を見る者》――それはつまり、《二巡目以降を見る者》なんやから。
 今の和了りやって、見えとれば、ただ手番が回ってくるんを待たんと、なんかできたかもしれへん。或いは、リーチ掛けてきとれば、鳴いて、そっから未来視で一巡先の様子を見てもよかった。実際、小瀬川さんの捨て牌は鳴けたわけやしな)

まこ(一体なにがどこまで見えちょるんじゃか……)

誠子(二人の間でどんな駆け引きがなされているのかまるでわからないっ!!)

白望「親番……サイコロ回すのダルい……」コロコロ

まこ:148100 白望:72300 誠子:99100 怜:80500

 南二局・親:白望

誠子(何もしている気がしない。というか、実際できてない。前半戦の東一局に和了ったっきり、ずっと焼き鳥。私、もう麻雀やめたほうがいいのかな……なんて思いたくなるような試合内容だな、本当に)

怜「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

白望「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

誠子(正直に言えば、私には荷が重いと思ってる。宮永先輩と弘世先輩を相手にしているときと同じ感覚だ。強さが別次元で、和了りをものにできる気がしない。
 尭深には《絶対》の《ハーベストタイム》があるけど、私の能力はたかだかレベル3。カンも働かないし、ランクは低いし、能力以外にこれといった得意技があるわけでもない)

誠子(結局……私は、私を信じることができないんだ。私は弱い。あまりにも。力も心も技術も、なに一つ、私には自信を持てるものがない。なのに……どういうわけなんだろう――)

     ――河から自在に牌を釣り上げる白糸台の《フィッシャー》

誠子「(こんな私を信じてくれる人たちがいる。こんな私を必要としてくれる人たちがいる)……ポン」タンッ

   ――これ以上の人材は、学園都市広しと言えど、見つかる気がしない。

誠子「(本当にわからない。こんな何もできない雀士を、どうして買ってくれるのか。いくら考えても答えは出ない。けど――)……ポン」タンッ

                 ――亦野誠子、お前の力が必要だ。

誠子「(信じようと思う。私を信じてくれる人たちを。私より何倍も強いあの人たちを。そして、できる限り、その信頼に報いる)……ポン」タンッ

        ――決勝までに、今の言葉、どうにか本物にしてみせろ。

誠子(私は弱い――それでも、だからこそ、勝たないといけないんだ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

まこ(ええ感じに釣り上げていくのう。鳴きを重ねてあっという間に手を仕上げよる。まったく便利そうで羨ましいわ)タンッ

白望(対子が三つあれば、亦野さんにとっては三向聴がテンパイと同じ価値を持つ。
 最速なら、三向聴から三回鳴いて、次巡で即座にツモ和了りをすることができるんだ。テンパイ気配ゼロから和了ってくるっていうのは……感覚をすり抜けてくることがあるから恐いんだよね……)タンッ

誠子(なんだかなぁ。これがレベル4だったら、必ず一巡でツモれたりするのかもしれないけど……我ながら使い勝手がいいのか悪いのかわからない能力だ)タンッ

怜「ツモや。500・1000」パラララ

まこ(げ、張っちょったんか……!?)

白望(またなんの前触れもなく《絶対》の和了り――こんなのどうやって対処しろと……)

誠子(うわぁー……私の捨てた和了り牌が見逃されてる。いや、トップ狙いで、しかもツモれるのが見えてたんだから、当然なんだろうけど、やるせないことこの上ないって。っとに……勝てる気がしないなぁ)フゥ

誠子(けど……まあ、勝てる気がしないってだけで、別に勝つ気がないわけじゃないですからッ! 最後の最後まで悪足掻きに付き合ってもらいますよ――!!)

誠子「ラス親、いかせていただきます……!」コロコロ

まこ:147600 白望:71300 誠子:98600 怜:82500

 ――観戦室

菫「園城寺の対策がまったく思いつかんな……」

憩「あれはどうしようもないですよ。ガイトさんでも手こずると思います。ウチは相性良さそうなんで普通に勝てると思いますけど」

淡「ねー、キラメなら、どうやって戦う?」

煌「多少の失点は仕方ないと割り切って打ち抜きます。強いて言えば、《ステルスモード》の桃子さんと打つ感覚に近いですかね。
 精度の高いデジタル打ち、ほとんど不可避の直撃、放銃率ゼロ……と、似ている要素はいくつかあります」

淡「なるほど、言われてみれば!!」

煌「さらに言うと、私たちの中で最も相性が良さそうなのも、桃子さんですかね。桃子さんのデジタルはチーム随一ですし、今のところは《ステルス》も有効でしょうから、かなりいい勝負ができると思います」

憩「今のところは……?」

煌「先ほど、高鴨さんについての考察の中で、原村さんの特性について触れました。恐らくですが、彼女は、意識的に《意識の偏り》を排除することで、自身に対する感応系の能力を《無効化》することが可能だと思われます。
 ただ、今の園城寺さんは、まだその域には達していないようですね。原村さん風に言えば、目覚めが完全ではないんです。なので、まだ付け入る隙があるかと」

菫「逆に、完全に目覚めてしまえば――羽化を完了してしまえば、その隙もなくなるということだよな」

淡「そうなったらどうするの?」

煌「あまりこういうやり方は好みではないのですが……強い支配力を持つ淡さんか咲さんに力押しでどうにかしてもらうしかありませんね」

淡「私は好きだよ、そーゆーのっ! だってわかりやすいじゃん!」ゴッ

憩「ウチら的にも、ガイトさんか衣ちゃんかウチでどうにかする以外に勝つ方法が浮かばへんなー」

菫「《求道》を止めぬ元無能力者――園城寺怜。一年前は二軍《セカンドクラス》ですらなかったあいつが、ついに《三人》やランクS級の化け物の仲間入りか……」

     怜『ロン、3900』

     白望『……ダルい』

煌「お、直前に妙な待ちに切り替えていますね」

菫「園城寺がよくやるやつだな」

憩「ただ、リーチは掛けてませんけど、未来を変えたことに違いはないはずです。カンのええ小瀬川さんなら、何かの変化を感じ取って回避できたと思うんですけど――」

淡「振り込んだってことは、区別できなかったんだね。ノドカが高めを狙って張り替えるのと、トキが誰かを狙うために張り替えるのとで、その差がなくなってきてるんだ」

煌「そこに至る手段こそデジタルとオカルトで違いがありますが、どちらも目的は共通。理論《デジタル》的な期待値を上げること」

菫「今の園城寺は、原村と同じで、捨て牌の選択を機械的に判断しているんだもんな。違いはあっても差異はない――ということか」

憩「っちゅーことは、染谷さんでも気付けへんやろな。まあ、東横さんと違って捨て牌見えるから、ベタオリしようと思えばできるっちゅーのは救いやね」

淡「《永代》は、直撃食らってから明らかに守りに入ったよね」

煌「園城寺さんは感知系。自牌干渉系と違って、狙ってツモ和了りをすることはできません。いかに園城寺さんでも、ベタオリする相手を意図的に削るのは難しいのです。
 なら、現状、《永代》が無理をする必要性はどこにもないでしょう」

菫「園城寺を止めるのも、それによる手傷を負うのも、下位チームの好きにさせて、自分は高みから傍観ってことだな。染谷は前半戦でトップだったし、貯金は十分にある」

憩「点差状況を利用して賢く立ち回る――とりあえず、園城寺さん対策が一つ見つかりましたね」

     白望『ロン……3900』

     誠子『……はい』

淡「おおっ、シロミがあっさり和了ったよ!? 安めだけど!!」

煌「園城寺さんはまだ張っていませんでしたし、ズラせるところも出てこなかった。何回か打っていれば、こういうこともあるでしょうね」

憩「ま、どう立ち回っても、相手に先を越されることがあるのが麻雀やからな。ウチかてそうなんやもん、一巡先が見えるだけの園城寺さんなら、なおさらや」

菫「しかし、《最深》の小瀬川が山の深いところでの勝負を避けるとはな。どうしても園城寺のラス親を蹴っておきたかったと見える」

煌「園城寺さんの潜在的な脅威がそうさせた――と言ったところでしょうか。後半戦は、まさに園城寺さんの独り舞台でしたね」

『中堅戦終了ーっ! 《新約》園城寺怜の目覚しい活躍で、二位から四位の三チームがほぼ横並びに!! 一方、トップ《永代》はぴくりとも揺らがず!! このリードを最後まで守れるのか否かー!!』

淡「よーしっ! 終わった終わった!! さっ、ケイ、早くキラメの膝からどいて!! あとキラメ!! 撫で撫でストップ!!」

憩「おおきに~、花田さん」

煌「いえいえ」

淡「まったく! ケイは子供っぽくてやんなっちゃうんだよ!!」

憩「大星さんに言われたらおしまいやわー」

煌「さて。それでは、副将戦では少し席順を変えてみましょうか」ガタッ

淡「えっ、キラメ……?」

煌「弘世さん、御隣よろしいでしょうか?」

菫「構わんが」

淡・憩「ッ!!?」

煌「ところで弘世さん、園城寺さんの未来視についてなんですが、私はあれを《牌を切ってから次の捨て牌を選択するまでの未来を実体験する》力だと考察しているのですが、これについて……」ウンヌン

菫「ははあ。なるほど、つまり、その《実体験》とやらの中で選択した捨て牌を変更することが、即ち未来改変ということか。となると、自身の鳴きについてはどこまで見えていることになるのだろうか……」フンフム

憩「あーっ! 大星さーん! よかったら膝枕してあげよかー!?」

淡「そうだねーっ! ケイの膝枕、気っ持ちよさそうだもんねー!!」

憩「ほな、耳かきもしてあげよかー!?」

淡「わあーっ! じゃあ、お礼に肩揉みしてあげるねーっ!!」

煌「おやおや、ご覧下さい、弘世さん。先ほどまで言い合っていたと思ったら、今はまるで姉妹のようにじゃれ合っています」

菫「喧嘩するほどなんとやら、ということか。そうか……それでさっき荒川は拗ねていたのだな。大星と遊びたかったのに、あいつが自分を放っておいて私にちょっかいを掛けるのが気に入らなかった、と」

煌「あ、話は変わりますが、弘世さん。副将戦についてはどう思われますか? あの三人が同卓しているところを、弘世さんは間近で見ていらしたのですよね?」

菫「あのときは四人目が照だったからな、あまり参考にならないと思うが、そのとき私が感じた印象としては……」ウンヌン

憩「あーっ! 大星さん、冷蔵庫にケーキあった気がするっ! 一緒に食べよか!?」

淡「食べる食べるー!! なんならあーんしてあげちゃうよーっ!!」

煌「いやあ、実に仲睦まじい。似合いの二人ですね」

菫「荒川は金髪が好みのタイプなのだろうか。ウィッシュアートや天江とも仲が良いしな」

煌「ほほう、タイプと来ましたか。ちなみに、弘世さんの好みのタイプは?」

菫「こら、《通行止め》。お前はどさくさに紛れて何を聞いてくるのだ……///」

煌「これは失敬。気になってしまいまして、つい」

菫「お前が白状するなら、私も白状してやらんこともないが?」

煌「ははっ、弘世さんは駆け引きがお上手でいらっしゃいますね」

菫「お褒めに預かり光栄だ」

淡・憩(ぐぬぬぬぬぬぬぬ……キラメ(花田さん)の策士ッ!!!)

 ――――

怜「おー、迎えに来てくれたんかー」

 一位:園城寺怜・+30800(新約・86400)

絹恵「お疲れ様です。二位、まくれませんでしたね?」

怜「これこれ。開口一番それはないやろー」

絹恵「冗談です。ホンマ、すごいですわ。さすが怜さん。頼りになります」

怜「そら、うちは《新約》のリーダーで要の中堅やもんっ!」

絹恵「まるでお姉ちゃんの試合を見ているようでした」

怜「ははっ、さすがにそれは褒め過ぎやろー。今日はたまたま実力以上の闘牌ができただけや。まだまだ愛宕さんには敵わへんよ」

絹恵「運も実力のうち――ってお姉ちゃんなら言うと思いますよ。怜さんは……強いですね。改めて、そう思いましたわ」

怜「……大丈夫、絹恵も強いで。《姫松》の頃からどんだけ強くなったのか、ばっちりお姉さんに見せてきーや」

絹恵「……はい」

怜「ふふっ、ちょっと力入り過ぎちゃうんか? リラックスリラックス、や!」

絹恵「なかなか難しいですね……」

怜「ほな、緊張しいの絹恵には――こうやっ!!」バサァ

絹恵「ひやあああああああ!?」ドゴッ

怜「ぐぼろああああああっ!?」ゲフッ

絹恵「あ……っ!? すいません、つい!!」

怜「ついで脇腹にボレーはないやろ……絹恵……」ゴホッ

絹恵「す、すいませんでしたっ!!」

怜「なーんて、うそうそ。うち、皮膚は鉄板、骨は鋼、血液は水銀、内臓は全部純金で出来とるから。絹恵のキックくらいじゃビクともせーへんで」

絹恵「どこのメタルサイボーグですか……」

怜「どや……ちょっとは緊張ほぐれたか?」

絹恵「……ありがとうございます。決勝でも、緊張してたら、サンドバッグ、お願いします」

怜「アホ。絶対に嫌やわ」

絹恵「ほな――行ってきますっ!!」

怜「おうっ、頑張ってーなっ!!」

 ――――

哩「よう、お疲れさん」

白望「ダルい……」

 二位:小瀬川白望・+10700(久遠・71300)

哩「憧のむず痒そうな顔で待っとう。帰って言ったりんしゃい。『ちゃんと憧より稼いできた』てな」

白望「でも四位だしなぁ……」

哩「なあに、これくらいの点差ない、全然問題なかと」

白望「二位まくっとく?」

哩「なんなら一位でんよかとよ?」

白望「それきっと洋榎が騒いでダルいからやっぱ二位で」

哩「任せんしゃい」

白望「……本当に大丈夫?」

哩「ん?」

白望「哩……あのね……」

哩「なんや……?」

白望「……悔いのないように、打ってほしい」

哩「もちろん、そんつもりやけど?」

白望「…………」

哩「シロ……?」

白望「…………」

哩「お、おい、シロ――」

白望「…………ZZZ」

哩「こいなとこで寝るなーっ!!?」

 ――――

純「よう。なーに削られてんだよ、情けねえ」

まこ「わらやってみんさい。あがなんどうにもできんわ」

 三位:染谷まこ・-5200(永代・147600)

純「まっ、あの穏乃が『ちょっと無理です』って言うくらいだからな。まともにやり合えるのは照や憩、あとは衣や小蒔くらいだろ」

まこ「ほんに点差があって助かったわ……」

純「塞はご立腹だったぜ? オレが広げとくっつって宥めてきたけどな」

まこ「そらお手数をおかけしたのう」

純「いいってことよ。それに、点差を広げるのは、元々そうするつもりだったし」

まこ「頼むわ」

純「おうよ。あ、そうだ、まこ――」

まこ「なんじゃ?」

純「おかえり」

まこ「……ただいま」

純「で、見たいもんは見れたかよ?」

まこ「……さあ、どうじゃろ。まだ……もっと上に行かんと見えそうにないの」

純「すぐに見れんだろ。なんたって、《頂点》まであと一勝だ」

まこ「……もうこの試合は勝った気でいるんか?」

純「ったりめーじゃねえか」

まこ「ふん……相変わらず、わら強いのう」

純「ああ、オレは能力者だからな」

まこ「……いや、純は純じゃけえ強いんじゃ。能力のあるなしは、関係ない」

純「へえ、ちったあ気の利く台詞が言えるようになったじゃねえか。時の流れは偉大だな」

まこ「のう……純――」

純「あ?」

まこ「……ただいまじゃ」

純「……おう、おかえり」

まこ「これからもよろしく頼むの、キョーダイ」

純「バカ野郎、オレは女だぜ?」

まこ「ほいたら、相棒っちゅうことで」

純「ハッ、そりゃあいいなっ!」

まこ「じゃあ……気張って行ってきんさい!」

純「ああ――仇は取ってきてやるよ、相棒ッ!」ゴッ

 ――――

誠子「……はぁ」

 四位:亦野誠子・-36300(幻奏・94700)

やえ「下を向くな。溜息をつくな。この大莫迦者が」

誠子「すいません……」 

やえ「言っておくが、慰めや励ましはないからな。私は弘世ほどお人好しではないし、面倒見がいいわけでもない」

誠子「……わかっています」

やえ「亦野、お前は片岡と違って二年――この大会が終われば事実上の最高学年だ。これから何をどうしていけばいいのか……決勝までに、きちんと自分で答えを出せ」

誠子「はい……」

やえ「声が小さいっ!」

誠子「はいっ!!」

やえ「さて……と。私もこのままというわけにはいかんか」バサッ

誠子「小走先輩……?」

やえ「私としたことが、うっかり控え室に置いてくるのを忘れていた。預かってくれるか?」スッ

誠子「は、はい……」

やえ「間違っても、片岡のようにそれで涙を拭ったりはするなよ。大事なもんなんだ。丁重に扱え。あと、そんな湿っぽい面で持つことも許さん。そんな曲がった背筋で持つことも許さん。私の品格に関わるからな」

誠子「……はいッ!」

やえ「では、行ってくる」

誠子「お気をつけてッ!!」

やえ「言葉選びには注意しろと言ったはずだが?」

誠子「っ……!! ご武運を!!」

やえ「留守中の子守りは任せたぞ」

誠子「お任せあれっ! では、失礼します!!」

 タッタッタッ

やえ(ふう……これで後顧の憂いなく、ニワカの相手ができるってもんだな)

『副将戦の対局者は、対局室に集まってください』

やえ(一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》――ベスト8が激突する三回戦。去年も私はこのステージに立ったが……そのときとは、まるで景色が違って見える……)

 ギィィィィィ

やえ(戦いの場に帰ってくるのは……実に三年振りか――)

哩「……来たか、《王者》」

純「一年振りだな、博士さんよ」

やえ「ああ……今回は宮永がいないからな。去年より構ってやれると思うぞ、井上、それに白水」

哩「楽しみと」

純「で、お前に照の代役が務まるのかよ、愛宕妹」

絹恵「井上さん……二回戦でたまたま勝ったくらいで、調子乗らんといてや。普通に打てばうちが勝つ……待ちぼうけしてた自分と違うて、うちは一年間――ずっと第一線で戦っとったんやから」

純「そう恐い面すんなや。二年前や三日前の可愛げはどこいっちまったんだよ」

絹恵「ピリピリもするわ。緊張はほぐれとるっちゅーても……今日ばかりは、どうしても負けられへん相手がおんねんから――」

哩「……悪かとは思っとうよ」

絹恵「いえ……それは、もう、ええんです。先輩方には先輩方の《旧約》がある――それは十分わかりました。
 せやけど、うちらにもうちらで、《新約》がありますから。負けられへんっちゅーのは、そういう意味です」

哩「なるほど。そいたら、私は私の約束ば貫かせてもらうだけと」

絹恵「春季大会《スプリング》ではやられましたけど、今日は勝たせてもらいますよ、白水先輩」

哩「そげん簡単にはやられんとよ。あんたやって、私のナンバーは知っとうやろ?」

絹恵「ええ、ナンバー5ですよね。先輩は、ナンバー4のお姉ちゃんの、一番近くにおる雀士や」

哩「やけん、私に勝って洋榎の傍に行きたかてことと?」

絹恵「ちゃいます。うち……うちは――!!」

哩「……なんや」

絹恵「お姉ちゃんを越えるために……! まずは自分から負かしたるッ!! うちはそう言うとるんですよ、ナンバー5ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:愛宕絹恵(新約・86400)

哩「へえ……ちょっと見ん間に、口だけは洋榎そっくりになっとうね――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:白水哩(久遠・71300)

純「いいねえいいねえ……!! 盛り上がってきたじゃねえかッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:井上純(永代・147600)

やえ「血の気の多い連中だな。が、決して嫌いではないぞ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:小走やえ(幻奏・94700)

『副将戦前半……開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございます。

ぼちぼちペース上げられそうな気がします。なんとなくsage進行で、隙あらばチマチマ更新していきます。

園城寺さんが二巡先・三巡先を見れるようになったのは、天然な清水谷さんの何気ない一言があってこそだったんだなと、書いていて思いました。

では、失礼しました。

乙です

>>370
>清水谷さんに届くまで......絶対にーー
てところこれでいいのかなと今までの見てると思ったのですが

ガイトさんに対して哩と洋榎がいってた
サシの勝負はロン上がり
横薙ぎはツモあがり
って認識でいいのかな?

おお、すまん

《絶対》じゃなくていいのかなと思っただけだ

ご覧いただきありがとうございます。

>>398さん、>>404さん

あ、そちらですか。

『絶対』と『《絶対》』の表記差は、お話的に単語を印象付けたいときとそうでないとき、或いは、意識して口に出しているときと何気なくふっとこぼれたとき、といった感じでふわっと使い分けているだけで、本質的な違いはありません。探してみると、《》ナシの絶対もいくつかあるはずです。

てっきり、まだ測定していないのに『絶対』と口にしている点をご指摘なのかと思いました。

――(>>398さんと>>404さんが別人だったときのために、一応事前に書いていたものをつらつらと)――

>>370は、園城寺さんが無意識にレベル5の片鱗を見せて、小走さんがニヤリとした、くらいイメージで書いてます。『自らの能力を絶対と誇ることを許されたレベル5』という表現がありますが、『許す・許さない』について何か明文化されたルールがあるわけではないです。レベル5になれば絶対を誇りますし、絶対を誇る人はレベル5になります。

現実社会で言うと、『悟りを開いた』という言葉の使用法に近いと思います。本物が口にして初めて実体を持つ言葉であり、多少なりとも意味を理解している人なら、軽々しく口にはしない。作中の『絶対』は、そんなようなワードです。

>咲「本当に大した《絶対》だよね、淡ちゃんのそれ。レベル5でもないのに《絶対》とか言っちゃうの恥ずかしくない? いっそ《大体安全圏》に改名したら?」

このくらいの感覚です。こうして見ると大星さんはちょっとイタい子かもしれません。が、大星さんも弁えていないわけではなく、

>淡(スバラとの対局で何度も味わった感覚……これが本当の《絶対》。私の能力は、この《絶対》の前では無意味なんだ。同じ配牌干渉系……その最上位に君臨する――たかみー先輩の《ハーベストタイム》ッ!!)

とか思ってたりします。

>>401さん

矛先が明確に誰かを向いているときを『サシ』。そうでないときを『横薙ぎ』と表現しました。サシは必ずしもロン和了りに限らないです。横薙ぎはまあツモですが、ロンであっても構いません。

例えば、三回戦の中堅戦後半オーラスで、辻垣内さんは清水谷さんとサシ勝負して直撃を『取られて』いますが、二人の間では、あれは辻垣内さんの勝ちとして処理されています。また同中堅戦で、辻垣内さんは、姉帯さんや森垣さんともサシってます。

 東一局・親:やえ

やえ(さて……現状をキープすれば三回戦は突破できるが、目的はあくまで《永代》を屠ること。必要なら、二回。幸いかどうかはわからんが、この卓に能力的な《上書き》を引き起こせるやつはいない。
 レベル3の感知系能力者が一人と、レベル0が三人。無能力者の私でも、運が向けば大勝ちできる可能性があるってわけだ。無論――そんな曖昧なものに身を任せるほど落ちぶれたつもりはないが……)タンッ

 東家:小走やえ(幻奏・94700)

純(レベル0ってのはクセがなくてやりにくいよな。白水も小走も愛宕妹もデジタル。特に無能力者の小走は、憩と同じで《流れ》が読みにくい。感覚ばかりに頼ってちゃ足元をすくわれる。いいぜ……たまには能力者以外を相手にするのも面白えじゃねえか)タンッ

 南家:井上純(永代・147600)

絹恵(二回戦では僅差やったけど、井上さんに勝てなかった。そんなうちが、よりにもよってナンバー5の白水先輩に勝つっちゅーんは、確かに、なんの裏付けもないハッタリや。せやけど、不可能やないはず。トップ――狙っていこか……!!)タンッ

 西家:愛宕絹恵(新約・86400)

哩(奇しくも三人が去年の準決勝――先鋒戦と同じ面子。《龍門渕》の井上、《晩成》の補欠――もとい助っ人として準決勝にだけ現れた《王者》。あのとき、もちろんトップは宮永照やったばってん、二位は《王者》やった。
 《王者》は宮永照相手にプラス収支で対局ば終えられる数少ない雀士の一人と。事実、私はこの人と公式戦で何度か打っとうが、個人収支で上回れたことは一度もなか。いつも以上に、気ば引き締めんと――)タンッ

 北家:白水哩(久遠・71300)

やえ(む……張ったな。これは吉兆か凶兆か――)タンッ

哩「ロン……3900」パラララ

やえ「(ほう……? やけに手堅いな。手堅過ぎるくらいだ)……はい」

純(まだ始まったばかり。慌てることはねえな)

絹恵(この程度なら痛くもかゆくもあらへん……!)

哩(先制はできたばってん、慎重過ぎるやろか。もう一段上げとくか――)

純「それじゃあ……オレの親番だな」コロコロ

やえ:90800 純:147600 絹恵:86400 哩:75200

 東二局・親:純

哩「リーチ」チャ

やえ(踏み込んできたな……?)タンッ

純(ったく……相変わらず能力者でもねえのに面白いように《流れ》を引き寄せやがる。だが――)タンッ

絹恵(ラッキー、安牌なくて困ってたんやっ!)タンッ

純「(造作もねえッ!!)ポン」タンッ

哩(一度捨てた牌を鳴き戻した……?)

絹恵(白水先輩の和了りをズラしたっちゅーことか? ほなら、これは捨てへんほうがええか……)タンッ

哩(ふむ……)タンッ

やえ(愛宕は白水の一発目を抱えたか。その牌が正確に和了り牌か……と言われると、微妙だろうな。荒川やネリーと違って、井上にはそこまで見えていないはずだ)タンッ

純(白水のことだ、一度二度《流れ》を変えただけじゃまた引き戻してくるかもしれねえ。こっちも攻めなきゃな……)タンッ

絹恵(強いとこ切ってきよるな。こっちは無理できる手やないし……むー!)タンッ

哩「」タンッ

純「ロン、5800だ」パラララ

哩「(ん……和了らるっと思ったんやけど)はい」

やえ(随分あっさり片がついたな。もう少しもつれてくれれば割って入ることもできたが。まあ、たまにはこんなこともある、か……)

絹恵(トップが落ちひんな……いや、ひとまず、二位をまくること。あんまり上ばっか見とると躓くかもしれへん!)

純「一本場だ……!」

やえ:90800 純:154400 絹恵:86400 哩:68400

 東二局一本場・親:純

純「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(《流れ》――運命論においては基礎中の基礎。山牌の動性をベースにしている能力論では、そんなオカルトと一笑される概念だがな)

やえ(運命論では山牌が不動不変……勝負が始まったときから終局まで、牌の並びは変わらない。ゆえに、コンピュータか荒川かネリーなら、どういう手順で牌を切っていけば和了りに繋がるか――そのパターンを読み切ることができる)

やえ(そのパターン――和了りへの道筋。まず始めに配牌があり、そこから、ツモっては牌を捨て、時に鳴きやリーチを挟みながら、やがて一つの和了りが完成する。
 この一連のプロセスにおける牌の並び――即ち、配牌とツモ牌と捨て牌と和了り形の牌の並び――を運命論では《メロディ》という。まあ、結果論的な言い方をすれば、牌譜のことだな)

やえ(これが、ネリーの《神の耳》には、賽の目が確定した瞬間から次々に聞こえてくるらしい。親が第一打を打ち出す頃には、ほとんど全てのメロディを聞き終える、とのこと。
 当然、聞こえた通りの配牌が来るし、聞こえた通りのツモが来るし、聞こえた通りの順番で牌を切ったり鳴いたりすれば、聞こえた通りの和了り形になる)

やえ(荒川的に言えば、持ち上がった山牌に目を凝らし、全ての牌の位置と種類を観測、賽の目が確定した瞬間から、配牌やツモ牌を把握して、和了りルートを演算、その通りに打てば、演算通りの結果に辿り着ける――といったところだな。
 その演算を、あいつは他家が理牌をしている間に完了する。だから、結局のところ、ネリーと同じで、親が第一打を打ち出す頃には、ほとんど全てのルートが見えている)

やえ(もちろん、ネリーには《神の音》、荒川には《第一不確定性原理》による観測限界があるから、メロディやルートを正確無比に把握することは、原理的に不可能となっている。ゆえに、聞き逃しや見間違いが起こるわけだ)

やえ(このメロディやルート。当然ながら、有限とは言え、無数にある。ネリーの《神の耳》には、無数のメロディが聞こえるし、荒川の《悪魔の目》には、無数のルートが見える。その中から、二人は、状況に応じて最適なメロディやルートを選んでいるわけだ)

やえ(また、これも当然ながら、よく似たメロディやルートというのも存在する。例えば、不要牌が数種類あって、どれから先に切っても、結果が変わらない、とかな。
 そういう、《和了り形が変わらないメロディの集合》を、運命論では《旋律》と言う)

やえ(旋律も、メロディほどではないが、数多くある。そして、白糸台標準ルールでは頭ハネを採用しているから、和了れる人間は一局に一人だけ。実際の対局では、卓を囲む四人の間で、この旋律の奏で合いが起こるわけだな。
 このとき、最も落ち着きやすい結果――それに至る旋律を、《主旋律》という。場が自然に進んでいけば、主旋律を奏でているやつが和了りをものにする、というわけだ)

やえ(だが、いつもいつも全員が自然に手を進めるわけではない。何かしらの変化が起こる。それによって、主旋律の担い手が変わることもあるし、担い手をそのままに、旋律のほうが変化することもある。
 ただ、たとえ変化が起きても、その場で最も和了りやすい奏者というのは、やはり存在する。主旋律になりやすい旋律を、他の三人より多く奏でられるやつのことだな)

やえ(そいつは、牌を切る順番を多少変えても、鳴きが一つ二つ入ってツモ順がズレても、ずっと主旋律を握ったまま、和了りに辿り着くことができる。
 和了りの形は旋律によって異なるが、どんなメロディの奏で方をしても、どんなルートの歩み方をしても、その先が和了りに繋がっている――これを運命論では、《流れ》を手にしているという)

やえ(つまり、《流れ》は主旋律の束といったところだな。この《流れ》を掴んでいる人間の和了りを防ぐのは、かなり難しい。山牌という一つの《運命》――その一曲の奏者として、場で最も有力な者。
 《流れ》を手にしている者は、《運命》に選ばれた者なのだ。場が普通に進めば普通に和了れるし、多少揺さぶっても違う旋律で和了ることができる。
 荒川がよく、《どう立ち回っても和了れない局》があるというが、《流れ》を手にしている者は、その逆。その局では《どう立ち回っても和了れる》ことになる。ただし――)

やえ(この《流れ》――ところによって、非常に束が細くなっているところが存在する。それを、運命論では《旋律の収束点》と言う。これは、その局における、ターニングポイントとでも言えばいいんだろうな)

やえ(《旋律の収束点》――《運命》という曲の中で、ここだけは外してはいけない一音。ここさえ決めておけば大勢を決することができる一音。それを、掻き消されたり、奏で損ねたりすると、場の《流れ》がまったく別物に変化してしまう……)

やえ(井上純は、その《旋律の収束点》を嗅ぎ分けることができるようだな。《卓の流れを操る者》――そのとき《流れ》を手にしているのが誰で、その《流れ》を変化させる《旋律の収束点》がどこにあるのかを、感知できる能力者。
 まあ、強度がレベル3だから、本人は、『このままいくとこいつが和了りそう』『ここで仕掛ければ何か変えられる気がする』くらいの、大雑把な認識でいるんだろうが)

やえ(能力論的にいえば、そもそも山牌は不動ではないから、誰が一番和了りやすいかが最初から決まっている――なんて発想は、どう足掻いたって出てこない。
 牌は、表に返すまで存在波としてそこにある。能力や支配力を無視すれば、基本的に、和了る確率は、いつ何時も常にみな平等だ。誰かが和了ったのは、純然たる偶然と純粋なる技術に拠るもの。それ以上でもそれ以下でもない。
 原村風に言うなら、《流れ》なんて、そんなオカルトはありえないってわけだ)

やえ(まあ……別に《流れ》を信じるか信じないか、なんてのは、私には関係のないことだがな。井上の相手をするなら、運命論ベースで思考したほうが、対抗策を練りやすいというだけ。
 所詮、運命論も能力論も解釈問題に過ぎないのだから、どちらが正しいとか、ありえるとかありえないとかは、論じてもさほど意味のないことだ。
 重要なのは、このゲームに勝つ、ただそれだけ。勝つために、時々によって、使い勝手のいい理論を採用する。これが私のスタンスだ)

やえ(そもそも、私が能力論者でいるのだって、《幻想殺し》的に、そちらのほうがプログラミングが楽だからに過ぎない。運命論のほうが数学的に優れているのなら、私は向こうの世界で研究者になっていただろう)

やえ(井上に感じ取れるのは、《流れ》の担い手と、《旋律の収束点》。その感覚はぼちぼち正しいと思ってよかろう。あとは、井上の動きから、井上が感知している情報を逆算。それを計算に組み込み、その場の最善手を選ぶ――)

絹恵「リーチや!」チャ

哩(洋榎の妹のリーチ、か)タンッ

やえ(ふむ……)タンッ

純「チー」

純(よし。これで《流れ》が変わんだろ)タンッ

絹恵(うぐ……妙な鳴きやな。またなんかズラされたんか?)タンッ

哩(井上の鳴いてきた。攻めとうてことやろか。そいない、私も前に出んとな)タンッ

やえ(さて……生牌、か)タンッ

哩「ポン」タンッ

やえ(どうなるか……)タンッ

純(あん? おかしいな、今ので《流れ》が元に戻っちまったか……?)タンッ

絹恵(横二人押してきとるっぽいけど……先に和了ったる!)タンッ

哩(ん……)タンッ

やえ(運命論的に、山牌は不動不変。なら、ツモ順を井上がズラす前に戻してやれば、《流れ》は変わらないはず。
 恐らく、先ほどのチーは、愛宕のリーチを警戒しての鳴きだったのだろう。ゆえに、このまま行けば――)タンッ

純(鳴けるところが出てこねえ。嫌な感じがするなァ……)タンッ

絹恵「ツモ、2100・4100やっ!」パラララ

哩(っと……)

純(チッ、やっぱな。愛宕妹が和了ると思ってたぜ。ったく、せっかく《流れ》を変えたってのに、勘弁してほし――)ハッ

やえ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(そういやぁ……オレが乱したはずの《流れ》が元に戻ったのは、あの生牌切りの直後だったよな。こいつ……まさか、わざと愛宕妹にツモらせたのか? オレに親っ被りを食らわせて、点差を詰めようとした……?)

やえ(私たち《幻奏》の目的は、徹頭徹尾、トップ通過。そして、お前ら《永代》がトップを走り続けるつもりなのは、高鴨が妙なツモ和了りをしたときからわかっている。宮永がそう指示を出したのだろう。なら、それは、そうなるのだ。
 この三回戦――トップ通過をするのに唯一最大の障害は、チーム《永代》。《新約》や《久遠》との差など考慮する必要はない。どんな手を使ってでも、《永代》との差を詰める……)

純(自分らが三位になろうが、あくまで一位をまくることを優先ってか。安全策を取ってくれるなら楽だったんだがなぁ)

やえ(大儀を見失っては勝てるものも勝てん。常にトップを狙い続けることが、《頂点》の座を見据えることが、現状では最善。これが私の帝王学――これが《王者》の打ち筋だ)

純(憩がよく話に出してたっけな。《第一不確定性原理》の証明者――能力論の権威にして、かつて《王者》とまで呼ばれた雀士、小走やえ。点差に胡坐をかいてると、あっという間に玉座から引き摺り降ろされっちまうかもだよな……)

絹恵(よ、ようわからへんけど二位になったで!)

哩(…………)

やえ:88700 純:150300 絹恵:94700 哩:66300

 東三局・親:絹恵

純(さて、この局は、何もしなくてもオレに《流れ》があるみたいだな。手はいい調子に伸びてる。ただ、気になるのが――)

哩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(ナンバー5……去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の準決勝先鋒戦で唯一、ほぼ単独で照の連続和了を止めることができていた傑物。
 小走が、憩みたいに能力の特性と相手の打ち筋を見抜いて策を弄していたのに対し、こいつは純粋な力押しで対抗していた。
 あの絶大な支配力を持つ照に、正面から一太刀を浴びせることができる学園都市屈指の実力者――それが白水哩だ)

純(白水は、ご存知レベル5の鶴田の補能力者でもあるわけだが、今年は、二人はバラバラのチーム。
 補能力者として打っていた《新道寺》の白水と比べて、非能力者として打っている《久遠》の白水のほうが、当然ながら、自由度は高い。これといったクセも弱点もない。崩すのは容易じゃねえはずだ)

純(《流れ》はオレにあるが、決して太いもんではねえ。下手をすれば横取りされる可能性もある。ダマのままだと、ちと押しが足りねえか。なら、少し強く出てみるのも、一つの手だろ……)

純「リーチ」チャ

絹恵(ノってる感じするなぁ……放っておくと和了りそうやし、親やし、恐いけど攻めてみよか)タンッ

哩「」タンッ

純(あ?)

やえ(なんだそれは……?)

絹恵「そっ、それポン!」タンッ

哩「」タンッ

やえ(今のは……どういうつもりだ、白水)タンッ

純(《流れ》が散らされちまったか。こっからどう転ぶか――)

 ――《新約》控え室

     絹恵『ロン、2900や!』

     純『あいよ』

初美「よしっ、ですよー!」

和「いい感じですね、絹恵さん」

怜「小走さんが《永代》しか眼中にないっちゅーんが幸いやな。《幻奏》が二位狙いやったら、絹恵もこんな自由には打たせてもらえへんやろ」

初美「やえはプライド高いですからねー。しかも、今日の《永代》は、先鋒戦が終わってから一度も玉座を譲ってないですー。かつての《王者》として、内心かなり燃えてると思うですよー」

和「あっ、絹恵さんの捨てた高めが見逃されました」

怜「徹底しとるなー」

     やえ『ロン、7700は8000』

     純『ん……ああ――?』

初美「これは井上さんが眉を顰める気持ちもわかるですー。絹恵からハネ直してれば二位になれるし、チーム得点も原点に戻る。ここで高めを見逃してまでトップへの山越を狙うのは、見ようによっては愚かしいの一言ですよー」

怜「ただ、おかげさまで《永代》が手の届くところまで来たな。ハネ直二回でまくれんで」

和「簡単に言いますねぇ」

     純『ツモだ……ッ! 3000・6000!!』

和「ほら」

怜「うわ……」

初美「感知系能力者のくせに空気読まないやつですー」

和「まあ、最下位は脱出したわけですし、点差を意識せずにベストを尽くせば、自ずと結果はついてくるでしょう。ここは、無理にトップをまくろうとするより、できる限り稼いで大将の姫子さんに繋ぐのがいいかと思います」

初美「だ、そうですよー、姫子」

怜「っちゅーか、さっきからだんまりして、どないしたん?」

姫子「…………とです……」

怜「へ? よう聞こえへ――」

姫子「あんな哩先輩は哩先輩やなかとですっ!!」

初美「《リザベーション》……のことですかー? それは仕方ないですよー、今の白水さんは敵チームなんですからー」

姫子「そ、そういうことやなかとですっ! リザベのなかは私も覚悟しとったと……ばってん、あんな哩先輩は――私の哩先輩は、あんな弱か雀士やなか!!」

和「弱い……? 私の目には、無駄のない打牌をする、冷静沈着な雀士に見えます。ナンバー5の実績に相応しい、非常にハイレベルなデジタル。あの場の誰よりも上手いように思えますが……」

姫子「上手かと強かは別物と。どがん技術のあっても、どがん冷静に場ば見れても、そいは『心の支えになる力』にならん。哩先輩は……あんな上辺だけの闘牌ばする人やなかと」

怜「……ふむぅ。姫子がそういうんやったら、そうなんやろな。確かに、物分りのいい打ち方っちゅーか、リーチ掛けといて井上さんにあっさり振ったり、すんなりオリて絹恵に有効牌を鳴かせてしもたり、なんちゅーんやろ……貪欲さに欠ける感じはしとったけど――」

初美「今回の白水さんは、姫子と組んでないから、縛りを掛けてないですー。縛りを掛けてないってことは、極論、和了っても和了らなくても、どっちでもいいってことになる……そういうことですかねー?」

和「和了っても和了らなくてもどっちでもいい……? そんな――それがもし仮に真実なら、白水先輩は、一体なんのためにあそこで打っているんですか?」

姫子「……わからん。今の哩先輩の何ば考えとうのか、さっぱり伝わって来ん……」

怜「一心同体にして以心伝心――姫子と白水さんは、変態性もさることながら、その絆も《絶対》のはずやのに……」

初美「離れて弱くなったのは、姫子のほうだけじゃないってことですかー?」

和「四位のチームが落ちてくれるなら、別にそれでいいじゃないですか――というわけにはいかないんですかね……。
 姫子さんと白水先輩は血より深いところで繋がっている、でしたか。白水先輩が本調子でないせいで、姫子さんに余計な悪影響があるなら、多少は頑張ってくれないと困りますね」

姫子「……哩先輩……」

     絹恵『リーチや!』

 ――対局室

 南一局・親:やえ

絹恵「リーチや!」

 西家:愛宕絹恵(新約・94600)

哩(こん手ない押せる……)タンッ

 北家:白水哩(久遠・60300)

やえ「」タンッ

 東家:小走やえ(幻奏・93700)

純「」タンッ

 南家:井上純(永代・150400)

絹恵「」タンッ

哩(井上はズラしてこんな。今回の洋榎の妹のリーチに、《流れ》はなかてことやろか。ま、あんまり気にし過ぎても、ペースば乱さるっけん、私は私の打ち方ば貫く……)タンッ

やえ「」タンッ

純「」タンッ

絹恵「」タンッ

哩(よし、張った――)タンッ

哩「リー」

やえ「ロン、3900」パラララ

哩「(む……)はい」チャ

絹恵(あれ、トップ狙いやのに四位から直撃……? まあ、うちのリーチ掛かっとるし、そういうこともあるやろか。っちゅーか……白水先輩、なんかさっきから――)

純(やっぱ無能力者の小走は断トツに《流れ》が読み辛えな。気配も希薄だし、何を考えてやがるのかもわからねえ。まあ、原村ほど無心ってわけでもねえようだが……)

やえ「……なあ、白水」

哩「ん……? なんと、《王者》?」

やえ「やっぱりやらんのか、例の、配牌を一度伏せる動作は」

哩「なん言うとう……?」

やえ「必要ないのはわかっているんだ。が、どうにも、それがないとお前って感じがしなくてな」

哩「はあ……」

やえ「白水……お前、今、なんのために――誰のために打ってる?」

哩「チームのみんなのために決まっとうやろ」

やえ「《久遠》――かつての《旧約》か。だが、《旧約》は《久約》。そこに拘るのは構わんが、少しばかり、今のお前が貫くには黴臭いんじゃないのか……?」

哩「言っとうことのようわからんと……」

やえ「その幻想《ヤクソク》は殺すまでもないと言っている」

哩「《王者》……?」

やえ「……まあ、わからんのならいい。お互い三年、しかも今は格上のお前に、これ以上は要らん世話だろう。とりあえず、点棒はもらっていくぞ」チャ

哩(点棒……こいで、56400――)ハッ

哩(あ、あれ……? おかしか。いつの間にこんなに減ったと? シロから引き継いだときは71300点あったはずやのに……)

   ――相手はあの《王者》ですけど、頑張ってください。

        ――弘世もうちほどやないがそこそこやるで?

               ――鹿倉さんも要注意……。

  ――ここでトップまくっといてくれると、大将の私が楽なのよね~。

哩(違う……っ! こいは二年前の――今の、今の私は……)

    ――ま、あんたならまず負けないでしょ!

            ――哩、あんたは私とシロ以上に稼いでくること。

       ――約束よっ!!

哩(憧――そう、私の貫きたか約束は……!!)

         ――先輩……。

哩(私の……一番大切な約束は…………)

           ――これからずっと一緒にいてほしかとです。

哩(私――)

      ――約束とですよ、哩先輩っ!

やえ:98600 純:150400 絹恵:94600 哩:56400

 ――《久遠》控え室

洋榎「あー……これ完っ全にあかんやつや」

憧「ねえ、どういうことなの? 哩、どっか調子悪いの?」

久「悪くはないわよ。今までのどの試合よりも集中しているし、間違ったことはしていないわ。《正道》の清水谷さんほどじゃないけれど、哩は正しい選択をしている」

白望「ただ……伝わってない……」

憧「どういうこと?」

白望「牌に力が伝わってない……」

憧「は――?」

洋榎「心ここにあらずっちゅーことや。んー、二回戦まではそうでもあらへんかったし、大丈夫やと思っとったんやけどなー。やっぱ直接対決はあかんかったかー」

憧「哩がインターミドルの頃からずっと勝ててないっていう、元《王者》のこと?」

久「違う。哩の相方――鶴田姫子さんのことよ」

憧「《約束の鍵》……あの、哩が《リザベーション》しないとなんの能力も使えないレベル5?」

久「そうね。鶴田さんは……確かに、哩との約束がないと、なんの力も発揮できない」

洋榎「せやけど、あのザマを見る限り、哩のほうも、相方との約束がないと、まるっきりデクのおたんちんになってまうらしいな」

白望「薄々そうじゃないかなとは思ってたけど……」

憧「え、えっと……哩は大丈夫なわけ?」

久・洋榎・白望「大丈夫じゃ(や)ない」

憧「……マジ?」

     絹恵『ツモ! 2000・3900の一本付けや!!』

洋榎「おっ! さっすが絹っ!! ええツモやんなー、その調子や!!」

憧「哩の非常事態に敵を応援するなバカー!!」

洋榎「しゃーないやん。デクなんか応援してもつまらんわー。どうせ声援も届かへん。今の哩には何も伝わらへんもん」

憧「洋榎ってそういうとこあるわよね……二回戦で久がキョドってたときも冷たかったし」

洋榎「あんたの子やなし孫やなし、要らんお世話やほっちっち――言うてな。うちらは三年やで? 自分のことは自分でどうにかせな。ちゅーか、哩のアレは……他人がどうこう言うて直るもんやあらへんし」

     純『ロンだ、7700』

     哩『は、はい……』

憧「むあー!?」

久「……長く打っていれば、こういうこともあるでしょう。けど、今回はそれだけじゃ片付けられないわね」

白望「ダルい……」

憧「ど、どうしたらいい!? 私、言ってくれればなんでもやるわよっ! なんなら、この哩の手錠を――」ガチャガチャ

洋榎「やめときやめとき。憧ちゃんは何にも縛られへんのが魅力なんやん。ええから黙って見ときやー」

憧「で、でも……っ!」

     純『リーチ……!』

     絹恵『チーッ!』

洋榎「わからへんやっちゃなー。それはうちの役目や、言うとんねん」

憧「洋榎の緊縛姿とかゲロお断りなんだけど……?」ゾワワ

洋榎「アホか!? 伝令や伝令! ほなっ、哩になんか伝えたいことのあるやつー!」

久「まずは自分が楽しめないと、って」

白望「後悔しないように……」

洋榎「ほんで、憧ちゃんは?」

憧「え、っと…………針千本っ!!」

洋榎「その類は哩にとってご褒美やから、逆効果かもしれへんで?」

憧「でも! 約束したんだもん……っ!!」

洋榎「わかっとるわかっとる。せやから、そんな顔すなって。まったく……哩のやつ、憧ちゃんを泣かせるとは言語道断やん。こら、ちょいちょいっとシメたらなあかんなー」ガタッ

憧「洋榎? ちょ、まだ対局終わってないけど……?」

洋榎「結果のわかっとる対局なんて見てもオモロないやん。前半終わった瞬間に、対局室の扉蹴破って、怒鳴り込んだるわ」

     絹恵『ロン、2000は2300ッ!』

     純『っと……あいよ』

洋榎「ほな、行ってくるでー」

 タッタッタッ パタンッ

憧「な、なんなのよ……洋榎のやつ」

久「哩のことが心配なんでしょ。いてもたってもいられないくらいに。ホント、洋榎って可愛いわ」

白望「単純に自分が楽しみたいだけだと思う……」

     純『ロンだ、5200』

     絹恵『うっ……!』

憧「これでオーラス……哩のラス親」

久「派手に凹んでるわねぇ」

白望「本日の最低記録を更新中……」

憧「もうううう……!! いつもの押せ押せな哩はどこ行っちゃったのよーっ!!」

 ――《新約》控え室

 バタンッ

和「姫子さん……せめて対局が終わるまで待てばいいのに……」

初美「ま、絹恵が調子よさそうで、白水さんが調子悪そうとくれば、走り出したくもなるですよー」

怜「姫子にしてはよう我慢したほうやんな。チーム組んだばっかの頃の姫子なら、白水さんが井上さんに振り込んだくらいで、絹恵の応援もせんと、控え室を飛び出しとったかもわからへん」

和「ま、まあ……私たちへの信頼度が上昇したのは嬉しいことです。が、大将戦で感情的な打牌をするのだけは、やめていただきたいところですね」

初美「和は素直じゃないですねー」ニヤニヤ

怜「ツンデレやからなー」ニヤニヤ

和「何か……?」ゴゴゴゴゴゴ

怜「こ、こら、和っ! 照れ隠しにエトペンを構えるのはやめーやっ!? それ柔らかいけどそれなりに重たいから、意外とダメージあんねんで!? 病弱やった頃のうちやったら一撃でお陀仏やで!?」

和「まったく……緊張感のない人たちですね」

     哩『ロ、ロン! 2900……』

     純『お、おう』

怜「っとっとっと……またえらい安いなー」

初美「きつい縛りを掛けていれば、見逃してもう少し手を伸ばしたかもですねー。或いは、和了るつもりだったのなら、リーチを掛けてたはずですー。
 言われてみると、去年よく合同練習した《新道寺》の白水さんの、あの鬼気迫る感じがないですよー」

怜「白水さんのデジタルは、《六道》の中でも特に厳しい打ち筋や。姫子とリンクする関係で、普通の和了りより期待値が高いから、ツッパることや無理することが多い。それが、白水さんの場合、弱みやなくて強みになる」

初美「個人戦でもやってたですからねー、あの配牌を伏せるやつ。縛ってたほうが強いなんてSOAなんですけどー、今の白水さんを見ちゃうと、やっぱり、あの二人は二人じゃないとダメなんだと思うですー。和的にはどうですかー?」

和「まあ……そういう想いはありえていいと思います。無論、現象は信じませんが。いつだったか言いましたが、少なくとも、私が白水さんなら、変な縛りとやらは掛けません。メリットが一つもないですからね」

怜「ま、和ならせやろなー」

和「誰だってそうですよ。姫子さんたちがおかしいんです」

 ――対局室

 南四局一本場・親:哩

哩(なんやろ……いつも通りに打っとうつもりやのに、思うようにいかん。いや、いつもいつも思うようにいっとったわけやなかばってん、こいは……)

    ――白水……お前、今、

哩(私は……今――)

              ――誰のために打ってる?

哩(私は今……《久遠》のみんなのために打っとう。久、シロ、洋榎……《スクール》のみんな。一年のときからの腐れ縁。学園都市に来て初めて卓を囲んだ友達――それに……)

           ――よろしく、久。それに、皆さんも!

哩(憧……チーム《久遠》。大事な後輩。一緒に白糸台の一軍《レギュラー》ば目指す大切な仲間。久、シロ、洋榎、憧と、私――こん五人で学園都市の《頂点》に立つ。私は……私の持てる力の限り、そん約束ば貫くつもりと……)

  ――一軍になる! マジで!! あと、みんなずっと一緒!!!

哩(こん気持ちに嘘はなか。《旧約》も、憧ば入れた五人で誓った新しい約束も、必ず果たす。そんために、私は今ここで戦っとう――やのに、なんや……この、心にぽっかりと空いた穴は――)

       ――ずっと一緒って……! 約束したやなかとですか!?

哩(姫子……どうして……姫子との約束は、破ったはずと。久の誘いに乗って、《久遠》として戦うと決めて、《新道寺》ば抜けるときに、私は姫子や他のみんなに背ば向けて……久たちと、この道ば歩くと決めたはずと……)

    ――ま、待ってください……! そんなん嫌とっ!!

哩(整理ばつけたつもりやった。決心ばしたつもりやった。一人でん戦い抜くつもりやった。やのに……どうして私は……こんなにも――)

やえ「ロン、1000は1300だ」パラララ

哩「……ッ!?」

『副将戦前半終了ーっ! 《新約》愛宕絹恵、快調に場をリードしましたが、なかなか《永代》との差が詰まりません!! 一方、最下位《久遠》はまさかの大失点!! ナンバー5――白水哩、後半戦は汚名返上なるでしょうかー!!』

哩(わ、私の一人沈み……やと――?)

 四位:白水哩・-23100(久遠・48200)

純「あーあーっ! なーんか物足りねえッ!!」ガタッ

 二位:井上純・+7400(永代・155000)

やえ「同感だな……」ザッ

 三位:小走やえ・+1200(幻奏・95900)

純「せっかく去年の借りが返せると思ったのによ。オレはこんな腑抜けに負けた覚えはねえっつーの……なあ、白水哩さんよッ!?」

哩「い、井上……」

やえ「かつて私を苦しめた強敵が見る影もない。こっちは三年近いブランクがあるというのに、その間お前は一体何をやっていたんだ。ナンバー5が聞いて呆れるぞ。弱くなったな、白水哩」

哩「《王者》――」

絹恵「……白水先輩」

 一位:愛宕絹恵・+14500(新約・100900)

哩「洋榎の……」

絹恵「先輩が貫きたかった約束っちゅーのは、この程度なんですか……? 先輩はこんな――こんな麻雀を打つために、姫子を泣かせたんですかッ!?」

哩「っ……!!」

絹恵「今の先輩には、悪いですけど、負ける気がしません。勝たせてもらいますよ。先輩たちに勝って、うちらが学園都市の《頂点》に立つ。《新約》は《真約》――本物はうちらのほうです。
 《旧約》は《久約》――先輩たちの時代は、ここでうちらが終わりにしたりますわ。はよ引退して、うちや姫子の活躍を遠くから見とればええですよ」

哩「わ、私は――」

 バァァァァァン

哩「――っ!?」

姫子「…………」

哩「ひ――姫」ガタッ

姫子「絹恵えええええええッ!!」ダッ

哩「」

絹恵「姫子おおおおおおおっ!!」ダッ

姫子「絹恵ーっ!! 本当にようやったと!!」ガバッ

絹恵「ちょ、ちょい、姫子……モニター映っとるから……////」テレテレ

姫子「見られとうほうの興奮すっけん、ちょうどよかっ!!」

絹恵「あー……はいはい。姫子はホンマにド変態やなー」

姫子「後半も、そん調子で。怜さんも初美さんも、あの和も素直によかて言っとうたと」

絹恵「おおきに。なんや、一番厄介やと思うてたナンバー5が、まるで話にならんねん。デクが一人いると楽やわー」

姫子「そうやね。攻めも守りも中途半端。全然勝ちたか気持ちの伝わってこん。今のあの人は……ナンバー5でもなんでもなか。ただの軟弱なデジタル打ちと」

哩「姫子……」

姫子「慣れ慣れしく呼ばんでほしかですね。私の大好きな哩先輩は、あなたみたいな弱か雀士やなか」

哩「っ……」

姫子「なんば迷っとうか知らんばってん、あなたはそこで足踏みしとればよかとですよ。悪かですけど、私たちはこいなとこで止まるつもりはなかとです。
 私たちは今、《頂点》に立つためにここで戦っとうとやけん。お先に行かせてもらうとですっ!」

絹恵「なっ、姫子! うち、頑張って《永代》と点差詰めるからなっ! 大将戦でまくったってや!!」

姫子「任せんしゃい!!」

哩「ひ……姫…………」

 ダッダッダッ

洋榎「こーらー哩ぅーッ!!」コチョコチョ

哩「ひぃあっ!? ちょ、こ――やめんしゃいッ!!」ドゴッ

洋榎「んー? あれ? 思うてたより元気やん。ほな、うち、もう帰ってええかな?」タンコブー

哩「何しに来たと!?」

洋榎「ドアホに喝入れに来たんや。デクに命宿したろー思てな」

哩「要らんお世話と」

洋榎「ホンマかー?」

哩「…………すまん。強がりと」

洋榎「まぁ、せやろなー」

哩「正直……参っとう。和了り方のわからん。約束の貫き方のわからんと……」

洋榎「ほな、あれやったらええやん。あの一回配牌伏せるやつ」

絹恵・姫子「っ!?」

哩「洋榎……? お前は自分で何ば言っとうかわかっとっと?」

洋榎「やって、あれが哩流の約束の儀式なんやろ? 《スクール》復活した日に、隠れ家であれやって、相方に居場所を感付かれてからは、乱発せーへんようになったけど、普段の練習で追い込まれたときなんか、ようやっとったやん。
 ほんで、あれやったときのほうが、和了率も打点も高かったやんか」

哩「そいはそうやったばってん……」

洋榎「インターミドルでも、白糸台でも、ずーっとやっとったやん。うちが知る限り、公式戦でやってへんのは今回が初めて。そら和了り方もわからなくなるわー」

哩「そんな……そんなこと、できるわけのなか。姫子は今、敵チームにおる。味方ないいくらでん約束すっばってん、敵と一体何ば約束すっとね」

洋榎「はあー? 自分は何を言うとんねん。約束ならとっくの昔にしとるやん」

哩「は……?」

洋榎「『私たちに会いたければ、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》ば勝ち上がって来んしゃい』『決勝までのどっかで戦うことがあれば、全力で叩き潰したるから覚悟しとき』っちゅーてな。
 こいつらが隠れ家に乗り込んできたときに、久に言伝頼んだやん。覚えとらんか?」

哩「お、覚えとうけど……」

洋榎「こいつら――絹と自分の相方は、約束通り、トーナメントを勝ち上がって、ここまで来た。ほなら、うちらはそれを全力で叩き潰さなあかん。これかて、立派な約束やろ」

哩「そ、そいは――」

洋榎「なあ、哩。自分と相方の間に、具体的にどんな約束があるのかは、知らへんよ。ま、どうせ『ずっと一緒に』とか、その手のことやろ。それかて、別に破ってへんっちゅーか、ちゃんとこうして、今も一緒におるやん」

哩「今も……? そんな、やって私は姫子ば……」

洋榎「手は繋いどらんかもしれへんけど、ちょっとの間だけ離れとったけど、それはそれ。
 今この瞬間は、こうやって、《頂点》までの道の途中で、ちゃんと会うてる。自分ら二人、ちゃんと一緒の戦場におる。
 隣におるか向き合うとるかが違うだけや。ほなら、自分と相方との約束は、きちーんと果たされとる。なんの問題もあらへんやろ」

哩「…………」

洋榎「哩、らしくないで。自分はもっと強欲やん。貪欲やん。欲張り頬張り意地っ張りやん。ほな、細かいことなんて気にせんと、ぜーんぶ貫いたればええんよ。
 うちら《スクール》の《旧約》も、憧ちゃん含めた《久遠》の《誓約》も、相方とのいかがわしい《契約》も、なんもかんも貫いたらええんよ。
 敵とか味方とかわけのわからへんこと言うてないで、自分のやりたいようにやったらええやんか」

哩「洋榎……」

洋榎「お、なんや? 感動して泣きそうなんか? しゃーないやっちゃな。ほな、出血大サービスでうちの胸をタダ貸ししたるでー?」ババーン

哩「いや、そいは別に要らん」

洋榎「なんでやねんっ!?」

哩「……ばってん、気持ちは嬉しか。あいがとな」

洋榎「っとに、世話の焼けるナンバー5やな。少しは伝わるようになったかー? ほな、伝言。久は、楽しめ。シロは、後悔すんな。憧ちゃんは、約束破ったら張り倒す、やて」

哩「ああ、わかっとう。わかっとうよ……そんなことは……」

洋榎「前半戦はなかったことにしたるわ。この後半戦で、まとめて約束貫いたれや。憧ちゃんやシロより稼いで、うちらの勝利に貢献して、絹を全力で叩き潰して、相方と好きなだけイチャコラする。完璧やん!」

哩「そいはそうやけど、ただ、私の《リザベーション》ばしたら、敵の姫子に鍵ば与えてしまうけん、さすがにそいな」

洋榎「おいコラ、哩。自分……あんまナメたことばっか言うとると、本気でシメるで――?」ゴゴゴゴゴ

哩「っ――」ゾクッ

洋榎「……三月の春季大会《スプリング》――副将戦で自分が絹のことまくって、大将戦で《新道寺》をまくり返したのが誰か……忘れたとは言わへんよな?」

哩「……そう言えば、こん大会と同じで、春はオーダー変更自由やったな」

洋榎「大将戦のことを言い訳にしてヘタれるのは許さへんからな。レベル5かなんか知らんけど、また春のときみたいにボッコボコにしたるわ。せやから――覚悟しときや、自分……」

姫子「……春の私と思ったら、大間違いとですよ」

洋榎「別に春の自分やとは思ってへんよ? なんや、絹もえろう強くなったもんな。自分もそこそこやるようになったんやろ?
 せやけど……自分がいくら強くなろうと関係あらへん。やって、うちはもっとずっと強いからな」

絹恵「お姉ちゃん……」

洋榎「上位の《三人》と違うて、うちも哩も、ちょいちょい下位ナンバー相手にトップを譲ることがある。そんな勝ったり負けたりのせめぎ合いを白糸台で二年以上やってきて、うちらは今、ここにおる――なあ、せやろ、ナンバー5」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

哩「ああ……そやね、ナンバー4」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子・絹恵「……ッ!!」ゾワッ

洋榎「ひよっ子ども、ちょっと掴み歩きで前進したくらいでワーキャーはしゃぐなや。格の違いってもんを教えたるわッ!!」

姫子「上等とですよ……!!」ゴッ

絹恵「元より強いのは承知の上……せやけど、それでも勝つのはうちらやッ!!」ゴッ

洋榎「おおーぅ。ええ感じやんか。ほな、哩。気張ってな~」

哩「……任せんしゃい」

姫子「絹恵、後半も頼むと!」

絹恵「任せとき……!」

洋榎・姫子「ほなら(そいたら)、うち(私)はこれで――!」

 タッタッタッ バタンッ

絹恵「……白水先輩」

哩「なんや……」

絹恵「お互い……ええ仲間に恵まれましたね」

哩「……そいやね」

絹恵「私の自慢のお姉ちゃん、頼りになりますやろ?」

哩「私の自慢の後輩も、頼りになるとやろ?」

絹恵「ちょっとキモいですけどね」

哩「バカうるさかよりはマシと」

『副将戦後半、まもなく開始です。対局者は対局室に集まってください――』

絹恵「さっ、後半も勝ったるかー!!」

哩「さて……どうしたもんやろか――」フゥ

 ガチャ

やえ「お……っと。少しは見れるようになったか……?」

 北家:小走やえ(幻奏・95900)

純「後半は期待してもいいのかァ、白水さんよ」

 西家:井上純(永代・155000)

絹恵「白糸台のナンバー5――やっと本気でお相手してくれるっちゅーことでええんですかね、白水先輩……」

 南家:愛宕絹恵(新約・100900)

哩「……自分の目で確かめんしゃい……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:白水哩(久遠・48200)

『副将戦後半――開始ですっ!!』

ご覧いただきありがとうございます。

ちょっと小休止したら後半戦も上げます。

一旦乙
六道とか十最って誰が何なのかこんがらがってよく分からんくなってきてしまった
手間かもしれんが判明してるナンバーも含めて
改めてさらっと簡単にまとめてもらえるととても嬉しい

>>438さん

通り名や校内順位等の情報は、わざとわかりにくく、断片的に、直接的に明示しないように、書いています。大変申し訳ないのですが、演出の都合によるものなので、一覧の提示は控えさせてください。

例えば、レベル5の第六位が欠番である事実について、作中ではずっと触れてきませんでしたが、

>憩「そん中でも、ウチら二年生はすごいでー? なんとレベル5の旧第一位から第三位がおるんやもん」
>怜「うちは……元々二軍《セカンドクラス》やなかったんです。もっともっと下におった」
>尭深「(入学)当時四人でも多いと言われていたレベル5が、今はなんと七人も」

と拾っていくと、二回戦開始時点で、現三年生の中の(園城寺さん以外の)誰かが超能力者であることがふわっとわかる仕様になっていて、まあそうなると妥当なのは照さんだよね、とふわっと推察できるようになっていたりします。

明確な情報は、時が満ちれば、誰かがはっきりそうだと口に出します。ちなみに、今注目の白水さんを『ナンバー5』と明言したのは、副将戦開始直前の絹恵さんが初です。引っ張りに引っ張りました。

一度明言されれば、その後は必要に応じて、今までの箝口令はなんだったんだってくらいに、そのつど誰かが口にするようになります。それを読んでいただければ、お話についていくことは可能だと思います。一覧は、もし気になる方は、作っていただいて構いません。ただ、できれば個々人の心にこっそりと留めておいてくださると幸いです。

では、続きです。

 東一局・親:哩

哩(約束ば全部貫け……か。さすが洋榎と。無茶苦茶言いよる。あれもこれも欲しがる者は、大抵なんも得られん。二兎追うものは一兎も得ずと。
 それに、洋榎はああ言っとったけど、冷静に考えて、私のここで《リザベーション》ばするんは、チームの勝率ば下げっと)

哩(ばってん、《リザベーション》で縛りば掛けん今の私の打ち方やと、この面子には勝てんやろ。過去一度も勝てたことのなか《王者》、牙ばむき出しにした《番犬》、それに洋榎の妹――)

絹恵「先んずれば人を制す――リーチやッ!!」ゴッ

哩(こん覇気……二年の頃の洋榎にそっくりと。負けなか確信、勝てる自信。ずんずん突き進むその姿ば見て、何度羨ましいと思ったか)

哩(洋榎は……インターミドルの頃から、ずっと私の先ば行っとった。迷いなく進む。一人で進む。思えば背中ばかり見とったと。
 それぞれがそれぞれの道ば行く《六道》の中で、洋榎だけは、決して後ろを振り返らん。ただひたすらに、胸ば張って、頂点ば見上げて、足ば踏み出し続ける)

哩(私には、とても真似できん。いつやって、一つ下の姫子の付いてきとるんば確かめんと、一歩も前に進めんやった。姫子の背中ば支えてくれるけん……私は私の道ば行けた。姫子の手ば引くために、《頂点》ば目指せた)

哩(そん手ば……私のほうから離しておいて、今更《リザベーション》やなんて、都合の良過ぎる話やなかと? 私に、そんな資格の……本当にあっとやろか……)

絹恵「ロンッ! 12000や!!」ゴッ

哩「っ……はい」チャ

絹恵「……まだ迷っとるんですか、白水先輩」

哩「ん……ああ、そいやね。迷っとう。洋榎やなか。そんなすぐには割り切れんよ」

絹恵「ほな、お先に行ってますよ……」

哩「ああ、あんたにはそいの似合うと。洋榎の妹」

絹恵「……次は私の親番ですからねっ!」

哩「大丈夫と……わかっとうけん――」

哩:36200 絹恵:112900 純:155000 やえ:95900

 東二局・親:絹恵

哩(このまま打てば……また二万点くらい削らるっかもしれん。ばってん、《リザベーション》ばしなければ、姫子は能力ば使えん。いくら素の技量の上がっとう言うても、能力ナシで洋榎には勝てんやろ。たとえ十万点差のあったとしても、や)

哩(私のここで《リザベーション》ばすれば、この半荘は、きっとトップば取れる。が、そいやと姫子に――《新約》に私の稼ぎの丸々倍の点棒ば与えることになっと。
 姫子の和了りは《絶対》やけん、洋榎でん、そいばどうこうすっことはできん。ぎりぎりの勝負になるやろな……)

哩(どっちの……どっちのほうの、よかとやろか。微妙なとこと。期待値ば計算しようにも、不確定要素の多過ぎて読み切れん。わからん。わからんばってん、おもしろか。なら、選ぶ道は一つやろ――)

哩(自分の……納得できるほう……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(うえっ……!? この感じ、本気のときのお姉ちゃんと同じやつやん!!)ゾクッ

純(おお……これだこれだ、この震えるほどのプレッシャー! っとに懐かしいぜ――)ゾゾ

やえ(遅刻だぞ、この莫迦者が)

哩(洋榎、久、シロ、憧……! それから、姫子――洋榎の妹もっ!! 約束は確かに守ると!! 心は決まった――私は、私の道ば貫く……ッ!!)

絹恵(せやけど……こっちやって張っとる! ビビんな、和了ったるッ!!)

絹恵「ツモッ! 4000オールや!!」ゴッ

純(チッ、白水が大人しかったせいで愛宕妹が全部《流れ》を持っていってるじゃねえか)

やえ(調子良さそうじゃないか、愛宕絹恵……)

哩(三万点……副将戦開始時から四万点も削られたか。こんなに凹まされたんは、宮永照と打った去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》以来と)

絹恵(よっしッ!! この調子で最後まで行ったる……!!)

哩「……ようやりよるな、洋榎の妹」

絹恵「お望みとあらば、もっと凹ましたりますよ?」

哩「言うとれ、一年早か」

絹恵「……っ! い、一本場ッ!!」

哩:30200 絹恵:130900 純:149000 やえ:89900

 東二局一本場・親:絹恵

哩(さてさて……気持ちは本調子に戻ってきとう。ばってん、やっぱり、まだ何か足りなか。一体何の足りんやろか――なんて、考えるまでもなか……わかりきっとう……)チラッ

 哩配牌:一二四七七八146②②⑨北 ドラ:四

哩(こん配牌……何飜で和了らるっやろか。二、三――否……ッ!!)パタッ

やえ(ようやく、か――)

哩(《リザベーション》……四飜縛り《フォー》!!)ガガガガッ

絹恵・純「!!?」ゾワッ

哩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(き、来た……!! っちゅーか、これ……嘘やん、こんなに変わるんか!? こんな……春季大会《スプリング》のときよりどえらいで!! まるで北家の初美さんやん!! 止められる気がせーへんッ!!)

純(《流れ》を鷲掴みにしてやがる……!? 信じられねえ。これがレベル0にできることかよ……!! ま、まあ、そうこなくっちゃなァ。面白え――ぶっ潰すッ!!)

哩(私ば縛るこん鎖の先にあるのは……恐れや怖れ、迷いや惑い――私の心に潜む弱さと。一人では断ち切れんばってん、二人ない引き千切れる。弱さば振り切った先に、約束の果てに、大切なもんのあることば、私は知っとう……!!)

やえ(レベル5の第四位、鶴田姫子の《約束の鍵》。その力の源となる《リザベーション》。あらゆる縛束を振り払い、大切な者の手を引いて、和了りへの道を切り拓く《絶対》の絆。
 一心同体にして以心伝心――世界的にも珍しい二人で一つの超能力。その《発動条件》を担うのは、先に生まれたこいつの役目。想いを力に変換し、《約束》として伝達する。《伝道》を貫く補能力者……白水哩……ッ!!)

哩「三人とも、待たせて悪かったと。こいが白糸台のナンバー5……ようやく本気ば見せらるっとね。少しばかり飛ばしていくけん――振り落とされんよう付いてきんしゃいッ!!」ゴッ

 ――《新約》控え室

姫子「」ピクピク

初美「姫子ー。おーい、姫子ー」

姫子「はっ!? す、すいません。ちょっと昇天しとったとです!!」

和「…………」

怜「の、和。その虫を見るような目つきやめーや。こんなんやけど、姫子は一応先輩やで? っちゅーか、和もどちらかと言えば姫子寄りの人種やろ?」

和「誰が姫子さんと同じ人種ですか!? こんな変態っ!! 変態ッ!! 変態!!!」

姫子「ああ、変態っ!! なんて心地よか響き……っ!!」ビビクンッ

初美「荒川憩ーっ!! 荒川憩はどこですかー!?」

怜「ま、まあ……姫子がこんなんなのはもうええとして」

和「よくないですよっ!?」

怜「どんくらい大きいの入ったんや?」

和「無視ですかー!!」

姫子「四飜とですぅ……」

初美「満貫ですかー。ジャブにしては重たいですねー」

     哩『ロンッ! 8000は8300!!』

     絹恵『うぁっ……!?』

姫子「《リザベーション》、クリアッ! 東二局一本場倍満キーとです!!」

怜「むっちゃ早いなー。気持ちを入れ替えたらツモが良くなるとか、SOA過ぎんで」

姫子「あああぁんっ!!」ビビクンッ

和「…………」

初美「次は何飜ですかー?」

姫子「さ……三飜……/////」ハァハァ

怜「ドラ二つであの手牌。さては食いタンやろか?」

     哩『チーッ!』

初美「そのようですねー」

     哩『ポン!!』

怜「走っとるなぁ……」

     哩『ツモ! 1000・2000ッ!!』

姫子「《リザベーション》――クリアッ! 東三局ハネ満キー……!!」

怜「おおっ、さっきは一本場やったから微妙やけど、このハネ満は確実にもろたな!」

初美「親ならインパチ。儲けもんですよー」

和「SOA」

姫子「ひいっん、あああっ、あぁぁ……っん!!」ビビクンッ

和「…………」

怜「立て続けやなー。今度は何飜?」

姫子「はぁぁ……ぁん……二飜と……///」

初美「それくらいなら、ダマで取りにくるですかねー」

     哩『ロン、2600ッ!!』

     やえ『おっと……』

姫子「またまた《リザベーション》クリアとッ!! 東四局満貫キー!!」

怜「三連続和了……これが《伝道》を貫く補能力者――ナンバー5の本領か。誰も何もできてへんで」

和「た、たまたまです!」

初美「で……親番が来たわけですけどー」

姫子「ああぁぁんぁあぁあっぁぁあん――!!!」ビビクンッ

和「姫子さんッ!! さっきからふざけるのも大概にしてくださいっ!!」ガタッ

初美「和、どーどーですよー」

怜「まあ、デジタル信者の和からしたら、今の姫子は対局が始まるたびに嬌声を上げるただの変態にしか見えへんよな……」

和「たとえオカルト信者でもそう思いますよっ!!」

姫子「あぁ……っん。先輩ぃ、いきなり激し過ぎっとですよぉー。二ヶ月近くご無沙汰やったのにぃ……/////」ハァハァ

和「うわあああああああああああッ!!!!」

初美「仕方ないですー。ってい!」ドスッ

和「あ――く……」パタッ

怜「……なにしたん?」

初美「面倒だったんでちょっと眠らせただけですー」

怜「初美って武闘派やったんやな……」

初美「霧島の巫女ならこれくらい朝飯前ですー。伊達に学園都市の治安を守ってないですよー」

怜「で、や。姫子」

姫子「なぁぁ……んですかぁ……?」ハァハァ

初美「今度は何飜ですかー」

姫子「今度のはとびきり大きかとですよ……なんと六飜……////」ハァハァ

怜「ハネ満以上を狙ってくるんか。まあ、最下位で親番……そら攻めてくるやろな」

初美「凌げるといいんですけどー」

姫子「き、絹恵……負けたらいかんからな……っ!!」ハァハァ

和「が……頑張って……ください……」ムニャムニャ

 ――対局室

 南一局・親:哩

哩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:白水哩(久遠・45100)

絹恵(や……やばいやばいやばいっ!!)

 南家:愛宕絹恵(新約・121600)

絹恵(ここまで三連続和了……! 結果を見る限りでは、四、三、二飜って縛っとったんやろか。東二局一本場の直撃はあかんかったとしても、東三局と東四局の和了りは、まあええ。こっちはさほど削られてへんし、大将戦で倍の点数がうちらに入ってくるんやから……)

絹恵(せやけど、ここはマズいで。白水先輩の親番。連荘を許せば、逆転されるかもしれへん。その上、積み棒が積まれてくると、席順がズレてまえば、いくら《約束の鍵》が手に入っても使えずに終わってまうことになる。どうにかして、この親だけは蹴らな……!!)

哩「リーチ……ッ!!」ゴッ

絹恵(ここでリーチ掛けてきたー!? あかん、間違いなくデカいやつや!! いや、南一局は必ず来るから、和了られてもええっちゃええのか? いやいやいや!! この思考はあかん――!!
 たとえ、大将戦後半の南一局で姫子が苦しむことになったとしても、ここは和了らせへんのが正解のはずや!!)

哩「ロン――」ゴッ

絹恵「うっそ……!!?」ゾワッ

哩「18000ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(一発ついて七飜……!? こ、これは得なんか!? 損なんか!? いや……それよりなにより――)

哩「どうしたと……こがんあっさり振ってくっとは予想外とよ。《西方四獣》――《姫虎》と名高かあの洋榎の妹なら、もっと意地ば見せんしゃい」

絹恵(うちの張子のプライドがズタズタにされてまう……ッ!!)

哩「どんどん行くと……一本場ッ!!」ゴッ

哩:63100 絹恵:103600 純:147000 やえ:86300

 南一局一本場・親:哩

哩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:白水哩(久遠・63100)

純(この化け物が……白糸台の《一桁ナンバー》ってのは全員が全員こんなに強えのかよ。いや、そりゃ去年はちっとばかし上を行かれたけど、照や憩ほどじゃねえと、心のどっかで思ってた。が、現実はそう甘くなかったらしい――)

 西家:井上純(永代・147000)

純(オレに感知できるのは、今《流れ》が誰にあるかと、《流れ》を変えることができそうなポイントだけ。困ったことに、《流れ》を操作することはできねえ。《流れ》を変えても、同じやつにまた別の《流れ》を掴まれたら、それまでっつーわけだ)

純(ったくよォ……まこのやつは、よく《上書き》ができねえとか、支配力がねえとか、ほざきやがるけどよ。そりゃあオレだって同じなんだぜ……? 見えてても、どうしようもねえことは、星の数ほど無数にある)

純(むしろ、どうしようもねえことばっかりで、いっそこんな感覚なんてねえほうが幸せなんじゃねえかと思うときさえある。照と打ってるときなんざ、絶望しか感じねえ。
 でもって、こいつもどっこいどっこいの人外だ。《伝道》を貫く補能力者……白水哩……!!)

純「……カンッ!!」ゴッ

絹恵(役牌大明槓……!? 暗刻で持っとればええのに、わざわざ四枚目を鳴いた。つまり――)

哩(《流れ》ば変えてきた……か)

純(ハハッ……!! ほれ見ろッ!! 変える前より太い《流れ》を掴まれちまったじゃねえか!! ざっけんじゃねえぞ――ナンバー5……ッ!!)

哩「リーチッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(ええっ!? 井上さんが鳴いたのに!!)

純(わかってんだよ……この程度。去年で既に体験済みだ。こいつは一度や二度流れを変えただけじゃ止まらねえ。憩みたいに山牌が見えりゃ、もっと賢く打ち回せるんだろうが、所詮オレはレベル3の感知系能力者――無様に足掻くことしかできねえのさ……!!)

純「チーッ!!」ゴッ

哩(まだまだ……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(いいぜ……!! 根競べと行こうじゃねえかッ!! 裸単騎になるまで鳴き続けてやるよ。そっちに貫きたい約束があるように、オレにだって、譲れねえ意地ってもんがあるッ!!)

純「チーだ!!」ゴゴッ

哩(まだ粘るんか、井上……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純(副将戦が始まる前……まこはオレに言ってくれた。オレは能力者だから強えんじゃねえ。オレはオレだから強えってな。嬉しいじゃねえか、照れちまうじゃねえか。
 でもって……期待されたら応えなきゃなァ!! 犬みてえにブンブン尻尾振りながらよォ!! キャンキャン吠えて噛み付いてやんぜッ!!)

純「ポン――!!」ゴゴゴッ

哩(っ……!?)

純(ようやく揺らぎやがったか……!? それでも五分五分。あっちが何面張だか知らねえが、《最悪》の竹井じゃあるまいし、さすがに裸単騎より待ちが少ないってことはねえだろ。《流れ》を互角にしたところで、普通に捲くり合えば負けるのはこっちだぞ――)

哩(先に和了る……!!)

純(だが、それがどうしたァ!!)

純「ロン、5200は5500だッ!!」ゴッ

哩「!?」

純「ナメてもらっちゃ困るぜ、白水さんよォ! オレは《双頭の番犬》――お前と同じで相棒の名を背負ってんだ! こっちだって一人じゃねえ!! そうそう思い通りには打たせねえぞ……!!」

哩「……よかとね。なら、二匹まとめて蹴散らすだけとッ!!」

絹恵(くっ……まだ負けたわけやない! うちかて、割り込んでみせるっ!! 好きにはさせへん――!!)

哩:56600 絹恵:103600 純:153500 やえ:86300

 南二局・親:絹恵

絹恵(トップの《永代》と五万点差で、最下位の《久遠》とも五万点差。ひとまず二位浮上はしたし、チーム点数も原点まで戻した。なんだかんだ言うて、わりと仕事はできとんねん。ただ――)

哩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(三位と四位……《幻奏》と《久遠》の大将は、どっちも《一桁ナンバー》。《久遠》からはお姉ちゃん、《幻奏》からは、お姉ちゃんと互角にやり合える江口先輩が出てくる。こんな点差、あってないようなもんや)

絹恵(うちが頑張らんと、うちが稼がんと、大将の姫子がキツくなる。トップの《永代》の大将はあの《塞王》やから、崩れることはまずあらへんと思っとったほうがええ。
 うちらが勝つためには……大将戦で姫子がお姉ちゃんたちから逃げ切れるだけの点差を、ここで作らなあかん……!!)

絹恵(現状維持で満足すんな……!! この副将戦でうちが稼ぐんや!! チームのために、みんなのために、姫子のために――!!)

      ――絶対に先輩たちに勝とうな……絹恵!!

  ――どがん辛かことのあっても、苦しかことのあっても、二人で乗り越えると!!

絹恵(そうや……そうやで、そうやろ――!!)

哩「リーチとッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(怯むな……!! 前を見ろッ!! 戦え――!! 大丈夫……こっちかて、一人やないッ!!)

        ――約束と……ッ!!

絹恵「チーやッ!!」ゴッ

哩(洋榎!? っ……!! 違う、こいは……こいが――)

純(《流れ》が――変わったか……!?)

絹恵(南二局……この局も《リザベーション》で縛っとるんやったら、ここで和了ってもろたほうが、最終的な期待値が高いのかもしれへん。リーチ掛けてきたってことは、そこそこキツい縛りなんやろし……)

絹恵(あーもーわからへん! やって、うち、和ほど頭ようないからな! ただでさえ強い面子に囲まれて若干テンパっとんのに、そんな冷静に数値計算なんかできひんわ……!!)

絹恵(ただ……もし仮に、うちが頭良くて、むっちゃ計算できて、この場は白水先輩に和了らせたほうが期待値高いって答えが出てきたとしても――や!!)

絹恵「もう一つ、チーやで!!」ゴゴッ

絹恵(負けられへん! 負けたくあらへん……!! やってそうやん!? 今!! ここで!! お姉ちゃんがいなくなったあの日からずっと!!
 うちも、それに姫子も……全てはこの人らに勝つためにっ!! この試合に勝つために!! 必死で練習してきたんやからッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

哩(こいが……愛宕絹恵かっ!!)ビリッ

絹恵(うちにはお姉ちゃんほどの実績はない! せやけど、今まで積み重ねてきた練習は、きっと嘘をつかへんはずや。お姉ちゃんに近付きたくて牌を握ってきた毎日――それだけは、自信と確信を持って、本物やって言える。そこに……迷いはあらへん!!)

哩(ちょっと見ん間に……ようここまで――)タンッ

絹恵「ロン……2900や!!」パラララ

哩「……はい」チャ

絹恵(戦える……!! 本気の白水先輩相手でも、うちは戦えるッ!! 姫子、ちゃんと見とってな!! うちらが積み上げた約束は、お姉ちゃんたちの約束に、ちゃんと届くで……!!)

絹恵「一本場やっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

哩:52700 絹恵:107500 純:153500 やえ:86300

 ――《永代》控え室

塞「むむむ……点数状況的にはよくなったのやら悪くなったのやら!」

まこ「二位が《幻奏》から《新約》に変わって、点差自体は、微妙に詰まっとる」

照「まだ結果はわからない」

穏乃「けど、純さんなら大丈夫だと思います」

塞「へえ……白水とか愛宕妹とか見るからにヤバそうだけど。打ち落とされたりしない?」

穏乃「逆です。あのお二人が気迫を前面に押し出しているおかげで、純さんが《流れ》を感知しやすくなっているんです。《流れ》を変えることには苦労するでしょうが、押し引きの判断はしやすい。不意打ちを喰らうことはまずないでしょう」

塞「高鴨がそう言うなら……大丈夫かしらね」

まこ「純の心配より、わら自分の心配をしちょれ」

照「二匹の獣と、《約束の鍵》」

塞「え……これ、まさか、私に死亡フラグが立ってたりする?」

まこ「ただでさえ、愛宕と江口はわれより格上の《一桁ナンバー》じゃ。ほんで、鶴田はレベル5。あいつの和了りを止めることは《絶対》にできん」

塞「詰んだわー……」

     絹恵『リーチッ!!』

照「漲ってる」

穏乃「すごパが愛宕さんに集まってます!」

塞「私のために踏みとどまってよね、井上……!!」

まこ「まあ、純ならやってくれるじゃろ」

     純『……追っかけるぜッ!! リーチ!!』

塞「ええっ!? ダマでよかったんじゃないのー!?」

照「臼沢さんのため」

穏乃「守るより突き放すことを選んだんですね。さすがです!」

まこ「やっぱあいつは強いのう……」

     純『ツモだ、2100・4100ッ!!』

塞「うおおおおおっしゃあああ!! あいつマジ漢の中の漢だわっ!!」

まこ「ここで親番かぁ」

穏乃「なんとか、大過なく済ませられれば……」

照「井上さんがこれ以上崩れることはないと思う。ただ、気になるのは――」

     『リーチ……!!』

塞「あいつ……っ! 妙に大人しいと思ってたら、また嫌なとこで仕掛けてきたわね――!!」

 ――対局室

 南三局・親:純

やえ(白水も井上も愛宕も、私を除け者にしてドンパチと楽しそうで何よりだ。まったく、打ち合いに混ざることもできんとはな。
 私は腕を落としたつもりはないから、こいつらの腕が上がったのだろう。ニワカが生意気にも強くなりやがって。喜ばしい限りだぞ……)タンッ

 南家:小走やえ(幻奏・84200)

やえ(さて、ラス前に来てようやくテンパイ。状況によってはこのまま空気でいても良かったんだがな。この点差でそんなヌルい真似はできん。というか、さすがに存在を忘れられたままで終わるのは、気に入らない)

哩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:白水哩(久遠・50600)

絹恵「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:愛宕絹恵(新約・102400)

純「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:井上純(永代・162800)

やえ(刮目して見ろよ、今を時めく兵ども。かつて《王者》と呼ばれた者の成れの果て――これがその、なけなしの威厳だ……ッ!!)

やえ「リーチ……!!」

哩(ここで来たか……! 黙ったままで終わっとは思ってなかったとよ、《王者》!!)タンッ

絹恵(うおっと、今度はそっちかいな。直撃喰らったらまくられるかもしれへん。気をつけな……!!)タンッ

純(けっ! 無能力者のリーチなんて要するにただのリーチじゃねえか!! 必要以上に警戒することはねえ――!!)タンッ

やえ「おっと――ツモ。3000・6000」パラララ

哩(なんと!!)

絹恵(ちょい!?)

純(はあ!? なんだよその『偶然』!? あんな細い《流れ》でどうして和了れる!? だあー、これだから無能力者ってやつは……!!)

やえ(まさか……一発が来るとはな。私の運とやらも捨てたものじゃないらしい。が、あまりいい兆候とは言えない気がする……)

やえ「さて、いよいよオーラスだな――」

哩:47600 絹恵:99400 純:156800 やえ:96200

 南四局・親:やえ

哩(やっと全力以上の力の出せとう感じはすっばってん、なかなか独走はさせてくれん。洋榎たちと打つのと同じ手応え。もっと集中ばせんと、こん三人相手にトップは取れんやろ)

絹恵「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

哩(この後半……私の和了りは四回と。その全てが、《リザベーション》ば掛けた局やった。《新道寺》の頃でんなかなか無かった達成率百パーセント。こん数字の示しているのは、私の強さなのか、弱さなのか。どっちやろね……)

哩(リザベば掛けた局では和了れて、リザベば掛けんやった局では和了れとらん。姫子のためない必ず和了れるて言うと、聞こえはよかばってん、言い方ば換えれば、私は姫子の力ば借りんと、和了ることもままならなかてことと)

哩(インターミドルの個人戦では、ベスト8常連。《六道》の一人に数えられ、学園都市でんナンバー5まで上り詰めた。強か雀士ていう矜持もあっ。《頂点》ば目指す大勢の雀士――そん最前線ば走り続けてきたて思っとう。導いてきたて……思っとうと……)

哩(《伝道》は《伝導》――ずっと一緒やと約束したあの日から、姫子の手ば引くのが私の役目やと、常に姫子の一歩先ば行くのが私の務めやと、そう思って打ってきたと。そして、力は十分につけたつもりやった。私には、姫子ば和了りへと導くだけの力のあっ――)

     ――私ば置いていかんで……!!

哩(――なんて……自惚れやったとやろか。こん強敵ば前にして、私は私一人の力ではなんもできんやった。攻めも守りも中途半端――こんな弱か私に戦う力ば与えてくれたのは、姫子との約束。いつの間に……いつの間に追い越されとったんやろか――)

                ――お先に行かせてもらうとですっ!

哩(導いていたつもりが、導かれていたと。手ば引いていたつもりが、引かれていたと。後輩に一歩先ば行かれるなんて、こんな――こんな嬉しかことはなか……!!)

哩(あいがとな、姫子。私のことば導いてくれて。姫子はもう……私の手ば離れたと。私の白糸台ば卒業しても、きっと一人で戦っていける。よう……わかったと……)パタッ

哩(やけん……受け取れ、姫子――! こいが最後で最高の《リザベーション》! 去る私から残るお前への、最後で最高の《約束》と……!!)

哩(《リザベーション》――七飜縛り《セブン》……ッ!!)ガガガガガガガッ

絹恵・純「ッ!?」ゾワッ

哩(姫子……!! こん大会の終わっても、結果のどがんなっても、少しの間離れ離れでん……私たちはずっと一緒やけんなっ!! この想い――この約束……!! 必ず和了りに込めて伝えるッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(一巡目から押し潰されそうやけど!?)

純(こんなガチガチに縒り集まった《流れ》をどうやって変えろっつーんだよマジで……!!)

やえ(楽しそうだな、白水。さては最高の縛りを掛けたのか?
 七飜縛り――和了られると、鶴田には数え役満キーが行く。白水自身も、ハネ満狙いの六飜縛りと違って、七飜縛りのときは、倍満まで手を高めてくることが多い。さて……どうしたものか――)タンッ

哩(こいば七飜に仕上ぐ……ッ!!)タンッ

絹恵(うぬー! こんなときに配牌バラバラ、鳴いて進められる手でもあらへん! どーすんねんっ!? ただオリるんも悔しいよな……)タンッ

純(ひゃっはー! 《流れ》を変えられるポイントが見当たらねえぜッ!!)タンッ

やえ(白水の狙いは恐らく門前の染め手。出和了りに期待せず、ツモる前提でリーチを掛けてくるだろう。それは……しかし、少々都合が悪いな……)タンッ

哩(む……《王者》が私と同じ色ば集めとうように見える。牌ば絞っとうてことと? 鳴くつもりはなかばってん、和了り牌ば抱えらるっと厄介とね。できるだけ待ちの広か手ば作る……)タンッ

絹恵(ちゃ、着々と進めとる気がするで! 無理してでも食らいつきたいけど、それもままならんわ!!)タンッ

純(ととと……ハイになってる場合じゃねえな。ヤベェ。巡目が回るごとに《流れ》の密度が増していきやがる。力の差があり過ぎてニヤけちまいそうだ)タンッ

やえ(ま、四の五の言わず先に和了ってしまえばいいのだが、それができたら苦労はしない。現状、《永代》との点差は不甲斐ないことに広がっている。ここから、私たちがトップに立つために……何ができる……)タンッ

哩(ふう……やっぱり、縛っとうと引きの違う――なんて、さすがにオカルト思考過ぎっとやろか……)

哩「リーチッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(こっちはまだ四向聴やけどー!?)タンッ

純(ははっ……こいつは敵わねえよ――!!)タンッ

やえ「……チー」

絹恵(ええ、小走先輩も……? ま、まずっ!! どっちに和了られてもまずいやん!!)

純(《流れ》は依然、白水の手にある。小走やえ……無策の悪足掻きとも思えねえが、一体なんのつもりなんだか……)

やえ(井上の表情を見る限り、このまま行けば、かなりの高確率で白水が和了るんだろう。まあ、そんなオカルトは参考程度に考慮するとして、デジタル的に見ても、明らかに染め手でリーチを掛けている相手に、親とは言え二向聴から勝負を掛けるのは無謀だ)

やえ(たとえ倍満の親っ被りを受けたところで、逆転はされない。なら、愛宕か井上が振ることを願ってオリというのも、まあ一つの手だろう。が、しかし……)

やえ(後々のことを考えると、ここは差し込んでおいたほうがいいのかもしれない。一発は消したから、七飜なら12000の直撃。
 四位の《久遠》との差が詰まるのは痛いが、ハネ直でも倍満親っ被りでも縮まる距離は同じ。どうせリスクを負うのなら、不確定なリスクより、ある程度推定できるリスクを負ったほうがいい)

やえ(まあ……あまり、こういう他力本願なことはしたくないのだけれどな。仕方あるまい。全ては《永代》を葬るため。今の私にできる最善は、間違いなく、この一打。なら、何を躊躇うことがあろう)

やえ(チーム《幻奏》の運命は……セーラ、お前に託そうと思う。悔しいが、やはり、本当に強いやつが相手だと、昔ほど思うようには勝てん。私はここまで。あとは任せたぞ、我が良き戦友――)タンッ

哩(えっ、こいはなんと……? 《王者》の長考の末に出した答えが、こんな――)

やえ(……白水、悪いことは言わん。和了っとけよ。私の意図――伝わっているだろう? ここで手打ちにしようと言っているんだ)

哩(まさか……私と姫子以外でそいば知っとうは、《照魔鏡》を持つ宮永照だけやと思っとった……)

やえ(何を驚いているのやら。鶴田姫子の強度測定をしたのは私だぞ。《幻想殺し》を甘く見てもらっては困るな)

哩(まったく……敵わなか。最後の最後まで、結局、あなたには勝てんやったな、《王者》)

やえ(さあ、白水――)

哩(ああ、わかっとうよ……)

哩「ロン、12000と」パラララ

やえ「はい」チャ

絹恵・純(は――!?)

『副将戦、終了ー!! 《久遠》白水哩、一時は三万点まで沈みましたが、猛烈な追い上げを見せました!! 一位《永代》は安定のトップ維持!! 《新約》は愛宕絹恵の活躍で二位浮上しましたが、まだまだ安心できる点差ではありません!!』

やえ「(終わってみればマイナス収支。ふん……想定範囲内だな)お疲れ」

 三位:小走やえ・-10500(幻奏・84200)

純「(白水が前半から暴れていたら――と思うとぞっとするぜ。ま、何はともあれ首位をキープ! あとは塞に任せるとすっか)楽しかったぜ、小走、白水、それに愛宕絹恵。またどっかで打とうなッ!」

 二位:井上純・+9200(永代・156800)

哩「(最初からこん感じで打てとれば……なんて、言い訳やね。全ては私の力不足と。こいな体たらくでは、本当に姫子に愛想ば尽かされてしまうかもしれん)……お疲れ様と」

 四位:白水哩・-11700(久遠・59600)

絹恵「(後半はやられっぱなしやったな。最初に大きいの和了れとったからなんとかなっただけで、勝負は完全に白水先輩の勝ちや。遠い……遠いなぁ、お姉ちゃん――)お疲れ様です」

 一位:愛宕絹恵・+13000(新約・99400)

 バァァァァァン

哩・絹恵「お……?」

洋榎・姫子「…………」

哩・絹恵「姫子(お姉ちゃん)……!! あ――その……」

洋榎「絹恵ええええええええええええ!!」

姫子「哩先輩いいいいいいいいいいいい!!」

哩・絹恵「え?」

姫子「哩先輩哩先輩哩先輩哩先輩っ!! ちょーカッコよかとです!! もう後半戦の間ずぅーっと哩先輩ば感じとったとです!! 大好きとですーっ!!」ガバッ

哩「ひ、姫子……////」

姫子「哩先輩はさすがとです! 久しぶりやったのに、あんな大きかのばがんがん入れてきてっ……!! 二、三回意識飛んだとです!! 強引にも程のあっとですっ!! ばってん、そいな強か哩先輩が……私は世界で一番好きとです!!」

哩「あいがと……。私も、思い知ったと。私は姫子がおらんと、どうにもダメやね。逆に、姫子がおったら、いくらでん強かなれる。敵として打って、再確認できたと。やっぱり、私の一番は、姫子以外におらん」

姫子「ま、哩先輩……っ!!」ポロポロ

哩「ととと、大洪水やね。待って、今、拭いちゃるけんな――」

姫子「哩先輩っ!!」ダキッ

哩「姫子……モニターのあっとよ……?」

姫子「見せ付けてやっとです……!! 私たちの絆は《絶対》と!! 誰にも侵すことのできん《絶対》と!! やけん、約束とです……哩先輩――」

哩「わかっとう……これからも、ずっと一緒と。なんのあっても、ずっとずっと……この道の終わるまで」

姫子「……おかえりなさいとです、哩先輩っ!!」ギュ

哩「姫子……ああ、ただいまと――」ギュ

洋榎「おーおー、あっちの変態コンビはお熱いこってー」

絹恵「とか言うて……お姉ちゃんかて私に抱きついとるやん……」

洋榎「ええやろー? ここんとこずーっと絹成分不足やったんやからー! あーもーこの感覚懐かしいわー! 絹はふかふかしてて気持ちええなー!! 生まれたときから大好きやわー!!」ムギュー

絹恵「も、もう……お姉ちゃんってば……/////」

洋榎「まったく絹はずるいでー。うちと真逆で、雀力そっちのけで身体ばっかり発育しよってー」

絹恵「ま、麻雀やって……少しは強くなったもん!」

洋榎「……せやな。自分は強くなったで。もちろん、うちほどやないけど、恭子くらいには打てるようになったやんな。《姫松》の頃は、なんや漫と一緒でハラハラもんやったけど、今はちゃう。安心して見てられるくらいに強くなった」

絹恵「お姉ちゃん……」

洋榎「可愛い子には旅をさせよー、言うてな。えらいやん、絹。ちゃんと大きく育ったな。これなら、次の大会は優勝間違いなしやわ。白糸台の一軍《レギュラー》は、うちら《姫松》のもんやで!」

絹恵「なに言うてんの……もう《姫松》でうちらが一緒に打つことは、できひんのやで――?」

洋榎「あ、せやった。留年したらあかんか?」

絹恵「オカンにぶっ飛ばされんで……っちゅーか、末原先輩と真瀬先輩まで道連れでダブるつもりかいな……」

洋榎「ははっ、やっぱ無理かー。残念やわー」

絹恵「ホンマ……ホンマやで――このドアホッ!!」ポロ

洋榎「絹……」

絹恵「なんで……っ!! なんで《姫松》で打ってくれへんかったんや!! なんで竹井先輩たちなんやっ!! うちらと――うちと漫ちゃんと末原先輩と真瀬先輩で……一軍《レギュラー》になったらよかったやん……!!」ポロポロ

洋榎「……すまんな。身体が二つに分裂できたら、うちかてそうしてたわ」ナデナデ

絹恵「ホンマに……お姉ちゃんは、どうしようもないドアホやで。よう点数見てみいな。最下位やで? このまま行ったらここで敗退やで? 決勝にも行かれへんなんてダメダメ過ぎるやん」

洋榎「アホか。こっから大逆転してトップ通過すんねん。うちを誰だと思っとん」

絹恵「白糸台のナンバー4……うちの大好きなお姉ちゃん。うちの自慢のお姉ちゃん。うちの憧れのお姉ちゃん――」

洋榎「せやせや。うちに不可能はないでー? 絹ならようわかっとるやろー?」

絹恵「うん、ようわかっとる。せやけど……せやけどな――!!」

洋榎「んー?」

絹恵「紹介するで、お姉ちゃんっ! こちらがお姉ちゃんと戦う相手……お姉ちゃんを負かすうちらの大将! ちょっとキモくて変態な――うちの大切な友達、鶴田姫子やっ!!」

姫子「絹恵――」

哩「姫子、お友達の呼んどうよ。行ってやりんしゃい……」パッ

姫子「……はい」タッ

絹恵「お姉ちゃん、覚悟しとき。この姫子が……お姉ちゃんに引導を渡したるからな。うちらは、白糸台の一軍《レギュラー》になんねん。《頂点》に立つねん。それが――うちらの交わした《新約》や!」

洋榎「ほほーう? そら奇遇やな。うちも似たような約束しとるわ。せやろー、哩?」

哩「ああ……最後の夏は、裏も表も関係なく、学園都市の《頂点》に立つ――そういう《旧約》と」

洋榎「そういうことや、絹。自分らの約束は、来年に持ち越しな。うちらには今年しかあらへんのやから」

姫子「私たちやって……このチームで戦えるんは、今年だけと。こん約束は、譲れなかとです」

絹恵「そういうことや、お姉ちゃん。お姉ちゃんらの約束は、残念やけど、思い出と一緒に宝箱行きやで」

哩「ひよっ子のなんか言っとうよ、洋榎」

洋榎「言わせとけ言わせとけ。言うのが仕事みたいなもんやからなー」

姫子「口ばっかやと思っとうと足元すくわれっとですよ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

洋榎「うちの足元にも及ばへんやつが何を言うとん……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵「頼むで、姫子ッ!」

姫子「ああ……《絶対》に勝っちゃるッ!!」

哩「……あとは任せたと、洋榎」

洋榎「そう不景気な顔すなやー。ちょうどええハンデやっ!」

絹恵・哩「ほな(じゃあ)、頑張ってや(りんしゃい)!!」

姫子・洋榎「あいがとな(おおきに)!!」

 タッタッタッ

洋榎「さ、て。おう、哩の相方」

姫子「なんとですか、絹恵のお姉さん」

洋榎「自分、うちを意識するのはええけど、ちゃーんと他の面子も注意せなあかんでー?」

姫子「……わかっとうとですよ、そいなこと――」フゥ

 ギィィィィィ

姫子「……っ!」ゾワッ

洋榎「おっ。来たで来たでー。役者が集まってきたでー」

せーラ「よーっす! 洋榎ー、決着つけるでー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「ったく、オーダー見たときから憂鬱だったけど、まさか、こんなところでまたあんたらと打つことになるなんてね……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

洋榎「あれからもう二年以上経つんかー。今日もぎょーさん点棒持っとるやん、臼沢。ちょっと無期限無利子で貸してやー?」

塞「お断りよ……ッ!!」

セーラ「そーいや、俺、予選の決勝であいつと打ったで」

洋榎「みたいやな。なんや、二軍《セカンドクラス》落ちしてからしばらく見ーひんかったけど、元気でやっとったようで何よりや。あの《三家立直で必ず和了る》やつ」

セーラ「なんもかんも《塞王》がイジメたせいやんな?」

塞「人聞きの悪い……! っていうか、あのときのラスは私でしょ――って、やめやめ! 今日は勝つの!! やってやるわよ、このケダモノども!!」

姫子「ケダモノッ!?」ピクッ

セーラ「おい、自分、なんでそこそんな反応するん……?」

塞「鶴田、気をつけなさいよ、こいつら、マジ野獣だから。隙を見せたらあっという間にボロボロにされるわよ」

姫子「ボロボロッ!! そいはちょっと興奮すっとですね――!!」

塞「クッソ羨ましいわその精神力……」

洋榎「ははっ、ドン引きやわー」

セーラ「これやから《新道寺》の哩姫は――って、春季大会《スプリング》でもあらへんかったな、これは」

塞「あっ……そういえば、あんたら三人は春に一度打ってるんだっけ。へえ……あのやられっぷりで興奮するとか言えるのね。前言もっかい。あんたの精神力には感服よ、《約束の鍵》」

姫子「あいがととです。まあ……そいは興奮もすっとですよ。一度ボロボロにされた相手、あんときは喰われるがままやった二匹の獣に――今日は勝たるっかもやけんッ!!」

洋榎「ほざいとれ、ひよっ子」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ「容赦はできひんでー」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「せいぜい私の代わりに生贄になってよね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子「……!!」ゾワッ

『大将戦、まもなく開始です。対局者は席についてください』

姫子「ま、負けんとですからねっ!!」

 東家:鶴田姫子(新約・99400)

洋榎「ホンマ元気やなー」

 西家:愛宕洋榎(久遠・59600)

セーラ「活きがあってええやんな」

 南家:江口セーラ(幻奏・84200)

塞「頑張れ、死ぬな、生きろ、私……っ!!」

 北家:臼沢塞(永代・156800)

『大将戦前半――開始です!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回はまた近いうちに。

では、失礼します。

 ――観戦室

憩「さて、やっと定位置に戻ったわけやけど」

淡「やっぱりこの席順が一番だよねっ!」

菫「荒川……? 心なしか最初より距離が近くなってないか?」

憩「えー? 気のせいですよー」テレテレ

煌「淡さん、くつろぐのもいいですが、ちゃんと偵察してくださいね?」

淡「わかってまーす!」ルンルン

菫「しかし……あの二匹の獣と鶴田姫子か。春季大会《スプリング》を思い出すな」

憩「あのときの《虎姫》の大将は菫さんでしたもんね」

菫「正直、生きた心地はしなかったよ。去年一年間で、あの春季大会《スプリング》の大将戦が、一番苦しい二半荘だった」

憩「鶴田さんの《約束の鍵》は、ウチも一年のときに散々てこずりましたし、愛宕さんはなんっちゅーてもナンバー4。ほんでもって、江口さんが……あの人、愛宕さんと打つときはホンマ調子ええですからねー」

菫「江口は、その順位こそ《一桁ナンバー》では一番下だが、愛宕との戦績は正真正銘の五分。対愛宕洋榎戦に限って言えば、あいつは白水や福路よりも上を行くだろう」

憩「つまり、雀力的にはナンバー4――プチガイトさんが二人いる卓っちゅーことになりますね」

淡「ヒメコ……大丈夫かな。前半戦は、《約束の鍵》は使えないわけだけど……」

煌「鶴田さんも、私たちと同じで、きっと合宿のときよりずっと強くなっているはずですが――」

     洋榎『ロンや、2000』

     姫子『あ、う……』

憩「おろ……? なんや、軽ーく行きましたねー」

     セーラ『おいおい、洋榎。俺と打つのに、それは安過ぎるんとちゃうかー?』

     洋榎『すまんすまん。なんや、拳を振りかぶろうとしたら、振り上げた先にこいつの顔面があってん。事故や事故』

菫「あいつら……」

     セーラ『ちゃんと対局前にギア上げとけやー』

     洋榎『大丈夫や。もう1000速まで仕上がったで!』

煌「いやはや――」

     セーラ・洋榎『ほなっ、お食事の時間や! 点棒おいしくいただきますッ!!』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

     姫子・塞『……っ!?』ゾワッ

淡「ほえー」ウネウネ

憩「鶴田さん……前半戦終わったあと息しとればええけど……」

菫「臼沢も心配だな。あいつは《塞王》とは名ばかりで打たれ弱いから……二匹の獣を相手にどこまで平常心を保っていられるか」

煌「並び立つでも向き合うでもなく、ただ強者の血を求めて己が道を行く二匹の獣。ひとたび二人が出会ってしまえば……世にも恐ろしい暴食の宴が開かれるとか――」

菫「巻き込まれるこちらはいい迷惑だがな。私の《シャープシュート》でも、揃い踏みした二匹の獣を狩ることはできん。
 前門の《姫虎》――愛宕洋榎、後門の《狼士》――江口セーラ。あの二人に挟まれたら……とにかく覚悟を決めるしかない」

煌「はて……結果はどうなるでしょうか――」

 ――《永代》控え室

純「塞のやつ……本当に大丈夫なんだろうな?」

まこ「われのすごパでなんとなく予想できんか、穏乃」

穏乃「正直、かなり厳しい戦いになると思います」

照「臼沢さん……頑張って……」モグモグ

     洋榎『それやローン、7700ッ!!』

     セーラ『はぁー!? せっこー!! 何が1000速や!! ただのダマやん!!』

     洋榎『ちっちっちー、甘いで甘いで甘々やー。これがうちの百八ある必殺技の一つ! ちっちっちーの7700や!!』ドヤァ

     セーラ『オモロなっ!!』

純「う、うるせえ……!!」

まこ「混ざりたくないの」

穏乃「これは――」

照「……」モグモグ

 ――《新約》控え室

絹恵「姫子……っ! 頑張って!!」

和「まあ、頑張って確率や効率が変わるわけではありませんから、とにかく冷静に。勢いに呑まれないことです」

初美「前門の《姫虎》と後門の《狼士》……二匹の獣ですかー」

怜「実際、同じ《一桁ナンバー》としてどうなん、あの二人の強さは」

初美「ぶっちゃけた話をしてもいいですかー?」

絹恵「ど、どうぞ……」

     洋榎『ほな、ご期待に応えてかましたろかー!! 喰らえ、これがうちの百八ある必殺技の一つ!! 東家のときしかできひん限定技――ただの親リーッ!!』ドヤァ

初美「今の姫子には荷が重いですー」

絹恵「えええええええええ!?」ガビーン

怜「やっぱりかー……」

     セーラ『ふふっ……洋榎、やっと隙を見せたな? 今、自分は俺の真なる力の発動条件を満たしてもうたんや。喰らえ、南・西・北家のときにしかできひん奥義――!! ただの親リー追っかけッ!!』ドンッ

     洋榎『っしゃー! 捲くり合いやーっ!! 来るで来るでー!!』

和「というか、さっきから騒がしいですね、あの人たち……」

怜「威勢だけやないっちゅーんが頭痛いわ。能力でもなんでもあらへんのに、なんや、まるで破れる気がせーへんな、あの二人のリーチは……」

絹恵「ま、まあ、姫子はまだ張ってすらいませんから、破るも何もないんですけど」

     セーラ『ツモ!! 3000・6000――!!』ゴッ

     洋榎『ほほう……やるやん、このワン公!!』

     セーラ『親っ被りざまーや! このドラネコ!!』

初美「やえ曰く、あの二人は、インターミドルの頃からああだったそうですよー。二人揃うと格段にうるさくなって、二人揃うと格段に強くなるですー。
 私は言わずもがな。ナンバー5の白水さんや、ナンバー6の福路さんでも、あのバカ二人の喰らい合いに割って入るのはしんどいらしいですー」

怜「清水谷さんは性格的にも麻雀的にも相性ええみたいやけどな。中学の頃、《西方四獣》が激突して、清水谷さんがあの二人を黙らせるんをモニター越しに見とったわ」

初美「この大将戦……下手すれば、順位が丸々ひっくり返る可能性もあるですよー」

絹恵「そんなっ!?」

和「何が起こるかわからないのが麻雀です。そういう可能性も考慮して、慎重に打っていただきたいところですね……」

 ――《久遠》控え室

憧「洋榎はバカだからアレとしても、あの江口セーラって短パン俺女はなんなの? なんであいつはあんな高い手ばっか張れるの?」

     セーラ『リーチやッ!』

久「江口さんはねぇ……3900を三回刻むより、12000を三回和了るほうが好きらしいから」

憧「誰だってそうでしょ!?」

白望「ねえ、もう帰っていい……?」

哩「まだ最下位と。一応、応援ばしんしゃい」

白望「鶴田さんと塞には悪いけど……洋榎と江口さんは止まらないよ。あの二人と同卓なんてダル過ぎる……」

憧「なんつーか、非能力者《デジタル》とはなんなのか――って疑問になるわよね。あの二人見てると。オカルトと大差ないじゃない、あんな次々に和了って」

哩「いや、そいは違うと、憧。あの二人は、ああ見えて、手作りの上手さも読みの深さも超一流。野性のカンば頼りにしとうとこもあっばってん、そいは、あの二人の実力のほんの数パーセントに過ぎん」

     洋榎『んー……』

憧「げっ、江口セーラの和了り牌を抱えた!? 何がどこまで見えてんのよ、あいつ……!!」

久「洋榎はよく言ってるわ。『相手の負けた牌譜を見ろ』ってね。一口に言えば、相手がされて嫌なことをする、相手の思い通りに打たせない――って感じかしら。
 どこまで論理《デジタル》でどこまで経験《アナログ》でどこまで感覚《オカルト》なのかわからないけど、とにかく、洋榎の危険察知能力は《三人》級に高いわ」

憧「あいつマジ何者なの……?」

     洋榎『ツモや。1000・2000』

     セーラ『ちゃー、相変わらずコマいことしよるなー』

     洋榎『これがうちの百八ある必殺技の一つ――《無極点》洋榎や!!』

     セーラ『竜華の必殺技パクんな!?』

久「憧、これはね、私の持論なんだけれど」

憧「なに、突然?」

久「学園都市には様々な雀士がいるわね?」

憧「そうね」

久「大きく分けると四タイプ。支配者と、能力者と、非能力者と、無能力者」

憧「うん。ランクSと、レベル1~5、それに、ランクA~Cのレベル0と、ランクD~Fのレベル0のことよね」

久「そう。私はね、この四タイプ――極限まで力を高めるなら、無能力者が一番強いと思っているの」

憧「えっ?」

久「次点で、非能力者。で、支配者は三番手。一番下が能力者。ただ、能力者じゃない支配者はいないから、三番手が能力者、四番手が支配者になるかしらね」

憧「言ってることがよくわからないわね。普通に何でもアリな支配者が一番強いと思うけど? というか、あいつらって、能力や支配力をオフにすれば、非能力者や無能力者になれるじゃん」

久「いいえ、それは誤解よ。支配者や能力者は、確かに、その力をオフにすることができる。けど、それは、力をオフにした支配者や能力者であって、非能力者や無能力者とは別物だわ」

憧「どういうこと……?」

久「例えば、私は能力者だけど、《悪待ち》を使わなくても、そこそこ打てるわね? けど、どんなに練習を積んでも、それは、『そこそこ』で止まってしまう。
 オフにしようと、先鋒戦みたいに能力を《完全無効化》されようと、私の根幹に《悪待ち》があることは変わらない。それは結局のところ、能力者であるという事実に、縛られているってことになるの」

憧「うーん……」

久「持つ者と、持たざる者。有る者と、無い者。最終的に何かを掴み取るのは、その手が空っぽの無能力者だと、私は思ってる。
 支配者や能力者は、既に力を――支配力や能力を手にしてしまっている。使おうと使わまいと、それらが手の中にある限り、彼女たちの片腕ないし両腕は塞がったまま。要するに、新たに何かを得ようと思っても、もう手いっぱいなのよ。
 だから、何も持っていない人、何も無い人――自分の欲しいものに向かって思いっきり両手を伸ばせる無能力者が……私は一番強いと思うわけ」

憧「……もしかして、《磨道》の福路さんのこと言ってる?」

久「さあ、どうかしらね……」

     洋榎『ツモッ!! 高いほう!! 3000・6000やー!!』

久「《頂点》の宮永照はちょっと参考にならないけれど、実際、《一桁ナンバー》は、《最多》のウィッシュアートさんと《最凶》の薄墨以外、九人中六人がレベル0よ。
 対洋榎モードの江口さんが哩や美穂子と同格と考えれば、才華と災禍を振り撒く《十最》は、《一桁ナンバー》の中では下っ端ってことになる。ここに、能力者の限界があるんじゃないかって、私は思ってるの。
 私たち能力者は、能力っていう論理に、自分の型に、ぴったり嵌ってしまっている。だから、私は、洋榎や哩や美穂子や江口さんが、少し、羨ましい。特に、美穂子のことは心から尊敬しているわ」

憧「ハイレベル過ぎていまいちピンとこないけど……そりゃ、洋榎は能力者相手でもバンバン和了って勝っちゃうけど、それは洋榎が洋榎だからで……私の場合はそうじゃないっていうか……」

久「あら、謙遜しなくていいのよ。例えばだけれど、憧が戦った次鋒戦の四人だって、最終的にナンバーの序列が上になるのは、原村さんかあなただと思っているわ」

憧「そうなのかなぁ……?」

     セーラ『ツモ!! 赤いほう!! 4000オールやッ!!』

久「あとは、《逢天》の二条さんが、化ければ或いはって感じかしらね。あなたたちレベル0は、レベル5の高鴨さんや、ランクSでレベル4の宮永さんや大星さんより、むしろ《頂点》に近いところにいると、私は思う」

憧「まあ……私なりに頑張って、二年後には、久の予言を現実にしてみせるわよ」

久「そうしてくれると嬉しいわね」

     セーラ『ツモ!! 白いほう!! 4100オールやッ!!』

憧「っていうかー!? さっきから高いの和了り過ぎでしょ、あの《幻奏》のマニッシュ!?」

 ――《幻奏》控え室

ネリー「あははっ! せーらが面白いくらいに《流れ》を引き寄せてるんだよー!!」

誠子「あれでなんの能力も使っていないんですか……」

優希「セーラお兄さん、あっという間に原点復帰で二位浮上だじぇ!!」

やえ「あいつは《一桁ナンバー》だぞ。これくらいしてもらわんと困る」

     セーラ『まだまだ行くでー、リーチッ!!』

     洋榎『チー!! うちの百八ある必殺技の一つ、一発消しやッ!!』

ネリー「《姫虎》のひろえだっけー? あっちもすごいなぁー」

     洋榎『ロンや! 3900は4500ッ!!』

     セーラ『おおぅ……! ザンクで親リー流されてもうたっ!?』

     洋榎『ふん、見たか、セーラ! これが我らが憧ちゃんの二つしかない必殺技の一つ――鳴き三色ッ!! ちなみにもう一つは鳴き一通な!!』

     セーラ『後輩の必殺技まで使えるんか!? ほな、次は俺もやったろー!!』

やえ「竜不在だと犬猫どもがやかましくて敵わんな……」

誠子「あの……いくらなんでも強過ぎませんか、あの二人」

やえ「何を言ってる。あんなのあいつらの平常運転だろ。もっとヤバいときはいくらでもあったぞ」

誠子「え――」

やえ「前門の《姫虎》と後門の《狼士》――並び立つでも向き合うでもなく、ただ強者の血を求めて己が道を行く二匹の獣……」

     洋榎『来たで……!! よーく見とけ、これがうちの百八ある必殺技の一つ――』

やえ「白糸台のナンバー4……自由にして気儘に食い荒らす猛き《姫虎》が進むのは、前人未踏の道なき道。決して振り返ることはなく、ただひたすらに前へ行く。あいつが歩んだその軌跡……それこそ覇者への一本道。《覇道》を敷く非能力者――愛宕洋榎」

     洋榎『テンパイ即リーチやッ!!』

やえ「対して、白糸台のナンバー9……奔放にして群れずに流浪する餓えた《狼士》が進むのは、曲がりくねった獣道。その先に何があるのかは、誰にも何もわからない。塞がるものは薙ぎ倒し、阻むものは踏み倒し、あいつはあいつの道を行く。《我道》を駆ける非能力者――江口セーラ」

     セーラ『ポン!! 一発消し返しやッ!!』

     洋榎『なにーぃ!?』

誠子「え、えっと、要するにものすごく強いということでいいですか……?」

やえ「まあな。《覇道》は《覇堂》、《我道》は《我獰》。堂々たる覇と獰々たる我――インターミドル時代から幾度となく直接対決を繰り返しているが、未だに決着がつかん。そして、何より恐ろしいことに、直接対決をするたびに、あいつらは一回り強くなるんだ」

     セーラ『ポン!!』

優希「おおっ、これは……!!」

     セーラ『ポン……!!』

ネリー「その調子なんだよっ、せーら!!」

     セーラ『ロン――8000……ッ!!』

     洋榎『ぐっはぁー!?』

誠子「なんとまあ……」

     洋榎『こ、この三副露からの和了りはまさか――!!』

     セーラ『せや……我らが誠子の一つしかない必殺技の一つ――ッ!! あっ、そういえば誠子のあれって技名なんやっけ?』

     洋榎『《フィッシャー》ちゃうの?』

     セーラ『それ技名やなくて人名やん』

     洋榎『ほな、シンプルに《フィッシュ》でええんちゃう?』

     セーラ『魚!?』

     洋榎『やって、《シャープシューター》も《シャープシュート》やし、《ハーベストタイマー》も《ハーベストタイム》やもん、《フィッシャー》も《フィッシュ》やろ』

     セーラ『そらそうか……ってぇー! そんなわけあるかーい! あと《ハーベストタイマー》ってなんや!? どこの役満時限装置やそれ!!』

誠子「去年の夏……この二人を敵に回してほぼ原点で帰ってきた尭深は本当にすごかったんだなぁ……」シミジミ

やえ「他人事ではないぞ、莫迦者。お前も同じくらい強くなれ」

誠子「もちろんですよ……!」

ネリー「っていうか、もうオーラスなんだけど?」

優希「セーラお兄さんとナンバー4の虎さんしか和了ってないじぇ!!」

誠子「あまりに一方的ですね」

やえ「まあ……実力の差を考えれば、妥当な結果だろうな――」

     洋榎『ツモったでー!! 本日最高の4000・8000やーっ!!』

ネリー・優希・誠子「あ」

『た……大将戦前半、終了ーっ!! 《久遠》愛宕洋榎、《幻奏》江口セーラ!! 二匹の獣の喰らい合いが止まりません!! か、獲得点数は――なんと同点ッ!!』

     セーラ『ははっ! 上家取りで俺の勝ちやなー!?』

     洋榎『くぅー!? いや、けど、うちは見抜いてんで! 自分、オーラスはダマにしとったやろ!! さてはリー棒分まくられんのが恐かったんやなー!? セっコいでー!!』

     セーラ『戦略や! 戦略っ!!』

『トップ《永代》は手痛い失点!! 《新約》も最下位に転落……!! 十万点ほどあった一位と四位の点差が、この半荘で六万点となりました! これは後半戦――最後まで結果がわかりません!!』

     洋榎『ん? そういえば、いつの間にか三位まくっとったな』

     セーラ『ホンマや。騒いどる間にトップの背中がえらい近うなっとる』

     塞・姫子『』

ネリー「生きてるかなー。さえとひめこ」

誠子「同情を禁じえません」

優希「けど、後半戦は――」

やえ「そう……鶴田が《約束の鍵》を使い始める。白水が《リザベーション》に成功していれば、同じ局で、あいつはその二倍の翻数で和了れる。前半戦のように焼き鳥で終わることはないだろう。これはもう、《絶対》の確定事項だ」

     姫子『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー「おおっ!! お初にお耳にしますっ、これが《約束の鍵》……!! なんていうか……もう、変態ッ!!」

優希「《久遠》のエロチック憧ちゃんと悪女お姉さん、《永代》の裸ジャージことシズちゃん、《新約》の日焼けお姉さんとピンクのどちゃん――この三回戦は痴女ばかりだじぇ!!」

誠子「何はともあれ、いよいよ次で試合が決まりますね」

やえ「ああ。長かったC・Dブロック三回戦もようやく最後の半荘だ。頼むぞ、セーラ……点差に胡坐をかいている《永代》を、この半荘で地に落とせッ!!」

『ただいまから、十五分間の休憩に入ります――』

 ――――

洋榎(なんやろなー、思うてたより稼げへんかったなー。セーラがおってノリノリやったし、いつもの感じなら前半で原点復帰はできた気がするんやけど……おろ?)

 二位:愛宕洋榎・+24100(久遠・83700)

憧「お疲れ様、洋榎」

洋榎「よーう、憧ちゃん。どやったー?」

憧「ムカつくくらいにカッコよかったわよ。けど、上家取りとは言え、あのマニッシュに半荘トップ取られたのは、らしくないなーって思ったかも。次は勝ってよね」

洋榎「当然やん」

憧「……で、鶴田姫子のことだけど」

洋榎「おう」

憧「副将戦後半で哩が《リザベーション》したのは全部で五回。東二局一本場で四飜、東三局で三飜、東四局で二飜、南一局で六飜、あと、オーラス南四局で七飜。つまり――」

洋榎「哩の相方は、東二局一本場で倍満、東三局でハネ満、東四局で満貫、南一局で三倍満、オーラス南四局で役満を和了ってくる。《絶対》に。やろ?」

憧「そう。で、哩は他の局では《リザベーション》してなかったんだって。だから、未達の局とかいう、鶴田姫子が一飜までしか和了れない局ってのは、ない」

洋榎「達成率百パーで一半荘五リザベかー。《新道寺》時代にもここまで揃えてきたことはあらへんかった気がするわ」

憧「だから、どんなに低く見積もっても、鶴田姫子は76000点を稼いでくるってことになるわ」

洋榎「何言うとん。こっちがリザベ局を全部九種九牌で流せばええだけやろ?」

憧「あんたこそ何言ってんのよ。そんなの《絶対》に無理に決まってるでしょ」

洋榎「なんの! うちは不可能を可能にする雀士や!」

憧「ハイハイ。で、あと、もう一つ、哩から大事な伝言があるの。鶴田姫子の《約束の鍵》――その《制約》について」

洋榎「ほう……?」

憧「これは、《永代》の宮永照も、《幻奏》の小走やえも知ってるらしい。だから、後半戦……他の面子もそれを踏まえて打ってくると思う」

洋榎「へえ……あの《約束の鍵》に《制約》なんてあったんか。ほな、恭子でも調べられへんかった秘密っちゅーわけやな。どれどれ、教えてやー」

憧「よく聞いてね、実は――」

 ――――

セーラ「へー!? そら知らんかった!!」

 一位:江口セーラ・+24100(幻奏・108300)

優希「本人たちと咲ちゃんのお姉さんとやえお姉さんしか知らないだろうって言ってたじょ」

セーラ「これフナQに聞かせたら悔しがるやろなー。《新道寺》の哩姫の分析にはさんざん苦労してたもんなーあいつ。せやけど、言われてみれば、確かにそやった気がするわ」

優希「だから、セーラお兄さん。もし、トップをまくるのがキツくなってきたときは――」

セーラ「わかっとるわかっとる。自力でトップまくるんが最高やけど、いざってときに次善の策も取れるよう、保険を掛けとけっちゅーことやろ? ま、やるだけやってみるわ」

優希「やえお姉さん的には、トップ通過しつつ、ここで《永代》を敗退させるっていうのが、ベストの結果らしいじょ」

セーラ「確かにそれはベストやな。さながらロシアンルーレットってわけか。了解や。ほな、とりあえずは、鶴田が《約束の鍵》使い始めるまでに、ちゃちゃーっとトップまくったるかー!」

優希「よろしくだじぇ、セーラお兄さんっ!!」

 ――――

和「姫子さん、お疲れ様です。飲み物どうぞ」

姫子「おお……和。あいがと――」

 三位:鶴田姫子・-24100(新約・75300)

和「前半戦は大変でしたね」

姫子「不甲斐なか大将で申し訳なかよ」

和「いえ、麻雀はどんなに強い人でも、大負けすることがある競技ですから。今回は、たまたま愛宕先輩と江口先輩に偶然が味方しただけです。後半戦ではまったく逆の結果になるかもしれません」

姫子「それ……和なりに励ましてくれとっと?」

和「私はただ一般論を説いているだけです」

姫子「そか。まあ……ばってん、後半戦は焼き鳥で終わることはなかとよ。今日は鍵ば五つも持っとうけん、最低でん四回は和了れっと。《絶対》に」

和「またわけのわからないことを……。いえ、弱気になられるよりはマシですけれど。ただし、くれぐれも、調子に乗って非効率な打牌はしないでくださいね?」

姫子「わかっとう。大丈夫……前半以上に気ば引き締めて戦ってくっと」

和「よろしくお願いします――と。さて、ここからが本題なのですが、怜さんから一つ伝言を預かっているのです」

姫子「へえ、なんやろ」

和「『副将戦後半オーラスの小走さんの振り込み、あれなんか裏があるな』……意味は全くわかりませんが」

姫子「…………あー……」

和「ええっ? わかったんですか?」

姫子「大体」

和「SOA……しかし、まあ、伝わったのならよかったです。後半戦、頑張ってくださいね」

姫子「ああ……期待しとってよかとよ。トップ、取ってきちゃるけんな――ッ!!」

 ――――

塞(つあー……マジしんどい。悪い夢でも見てるのかしら……)クラッ

 四位:臼沢塞・-24100(永代・132700)

塞(二位と二万四千点差かぁ。前半と同じ感じでボコられると、普通にひっくり返されるわね。もう……だから二匹の獣の相手は嫌なのよ。
 ナンバー4と、最高状態のナンバー9――宮永たち《三人》を除けば、あのバカ二人は白糸台で一番強いバカ二人なんだからさぁ。荷が重いどころの騒ぎじゃないっての……)

 ダダダダダダダダダダ

塞(あ、このダッシュ音は――)

穏乃「塞さーんっ!!」ドヒューン

塞「高鴨……? なに、私が負けてたから励ましに来てくれたの? ありがとね」

穏乃「どういたしまして! けど、思っていたより元気そうですね。よかったですっ!!」

塞「空元気よ。気を抜くとへたり込みそう」

穏乃「おっとっと。それは困りましたね。照さんから伝言があるのですが、これがまた、なかなかにプレッシャーをかけてしまう内容なのです。お伝えしても大丈夫ですか……?」

塞「聞きたくないけど聞くしかないでしょ。なに、鶴田姫子関連?」

穏乃「正解です。実は――」カクカクシカジカ

塞「」

穏乃「さ、塞さんっ!? 気絶しないでくださいっ!!」ユッサユッサ

塞「――はっ!? 私、今、どれくらい気を失ってた?」

穏乃「五秒くらいです」

塞「そっか……五秒か。シロと胡桃と私の三人しかいなかった麻雀部に豊音とエイスリンが入ってきて五人でインターハイに行く夢見てたわ。ざっと半年分くらいの夢見てたわ」

穏乃「まさに胡蝶!」

塞「で……えっと、要するに、事と次第によっちゃ、ここで私たちが敗退する可能性もあるってこと?」

穏乃「可能性もある、というレベルではなく、濃厚です」

塞「マジか……」

穏乃「……塞さん、念のためですが、これ、持っておいてください」スッ

塞「モノクル……。何よ、私にあの《約束の鍵》は塞げないわよ?」

穏乃「塞さん、とても真面目な話なんです。照さんが、最終判断は塞さんに任せる――と」

塞「私判断……か。なるほどね――じゃあ、問答無用で、そいつは受け取り拒否だわ」

穏乃「塞さん……」

塞「悪いけど、ここだけは譲れないの。ホント、我儘だとは思ってるけど。後半戦もこのままいくから。ホント……悪いけど」

穏乃「……わかりました。では、すごパのご加護がありますように。私はこれで失礼します」ペコッ

 ダダダダダダダダダダ

塞(あー……っとに、参っちゃうわよねぇ。団体戦、向いてないのかなぁ、私――)

『大将戦後半、まもなく開始です。対局者は対局室に集まってください』

塞(……けど、ま、やるしかないっしょッ!!)ザッ

 ギィィィィィィィィ

塞(あいつらが広げてくれた点差。守り続けた玉座。ここまで積み重ねたものを、ふいにしたいわけじゃない。どうにか凌いでやるわ――)

洋榎「よーし、集まったなっ!」

塞(前門には《姫虎》――ナンバー4、愛宕洋榎……《覇道》を敷く非能力者)

セーラ「ほな、席順決めるでーっ!」

塞(後門には《狼士》――ナンバー9、江口セーラ……《我道》を駆ける非能力者)

姫子「そいたら……私から捲らせてくださいとです――」

塞(で、トドメに《約束の鍵》――鶴田姫子、レベル5の第四位と来たもんよ。いやー……困っちゃうわね、本当に……)フゥ

洋榎「さ、後半戦も気張っていくでー!」

 北家:愛宕洋榎(久遠・83700)

セーラ「笑っても笑ってもこれが最後や!」

 南家:江口セーラ(幻奏・108300)

姫子「見せてやっとです……レベル5の力ば――!!」

 西家:鶴田姫子(新約・75300)

塞「(やるだけやるしかないわ……!!)よろしくッ!!」

 東家:臼沢塞(永代・132700)

『大将戦後半――開始ですっ!!』

 東一局・親:塞

塞(大体、堂々たる覇だか、獰々たる我だか知らないけど、所詮はレベル0でしょ。古典確率論の枠を超えることはできない。冷静に手作りすれば、普通に戦える。私だって二年以上学園都市で学んできたんだから、基礎雀力はそこそこあるのよね)

塞(それにほら、私の能力って封殺系だから、自分のツモ牌には基本的に干渉できないわけで。
 なんだかんだ言って、私の和了りはちゃーんと私の実力に拠るものなんだからね。《塞王》が能力だけの雀士だと思ったら大間違いってもんよ)

塞「チー」タンッ

塞(よし、一向聴。食いタン赤二の5800。滑り出しとしては上々なんじゃない?)

洋榎「ロンや」パラララ

塞(ッ――!? わ、私じゃないけど、心臓止まるかと思った……)

姫子「そ、そいは……!?」ゾクッ

洋榎「ご存知白糸台の《生ける伝説》――漫の一つしかない必殺技の一つや! 16000ッ!!」

塞(げぇ……平和純全帯三色一盃口ドラ一? なんでこの巡目でそんな綺麗な手を張れるわけ……? 偶然――そう、あくまで偶然なんでしょうけど、こいつはその偶然をものにする実力を持ってる……)

洋榎「よーしっ! 後半戦は最初っからギア1000やでー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(まだまだ……焦るな、私。失点したわけじゃない。できることをやるのよ。高鴨が言ってたことがマジなら、守ってるだけじゃダメなんだから。この獣ども相手に点を取らなきゃ……!!)

塞:132700 セーラ:108300 姫子:59300 洋榎:99700

 東二局・親:セーラ

塞(この局は白水が和了ってなかったから、鶴田姫子への警戒はぼちぼちでいいわよね)

塞(ただ、東二局一本場では、白水が和了ってた。それが《リザベーション》とかいうやつだったのかはわからないけど、もしそうだったとしたら、倍満を和了られる。この親はなんとしても流さなきゃ……)

塞(よし、早々に張れたわっ! ダマで三面張……これなら遠からず和了れるでしょ!!)タンッ

セーラ「」タンッ

塞(惜しいっ!)

洋榎「」タンッ

塞(違う、その隣……!! まあ、いいや、なら自分でツモれば……って、自牌干渉系じゃあるまいし、そんな都合よくは引けないか。しゃーない、気長に待ちましょう――)タンッ

セーラ「リーチや!」ゴッ

塞(ええええええええ!? いや、怪しいところを切ってきたから、まさかとは思ってたけど、追いつかれた……!?)

洋榎「チーや」タンッ

セーラ「俺の支配領域《テリトリー》が乱されたやとッ!?」

洋榎「アホか! 自分、レベル0やんけ!!」

セーラ「これ一度言ってみたかってん~」

塞(うるっせえわよ、西の獣ッ! っつーか……これ、江口もそうだけど、愛宕のほうも張ってるわけ……?)

セーラ・洋榎「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(やっべ……急に和了れる気がしなくなってきたわ。待ちもいいし、和了り牌もほとんど見えてない。なのに、どうしてかしらね。こいつらに喰われるイメージしか浮かばない……)タンッ

塞(っていうか、江口。あんただって、ここで自分が連荘したら、鶴田姫子に倍満を和了られるかもしれないってのは、わかってんでしょ? 親でリーチ掛けちゃったら、他の誰かが和了らないと、確実に一本場が来ちゃう。なんでそんな――)ハッ

セーラ(鶴田の倍満、か。ええやん。どんとこいやで。たとえ、次の東二局一本場で俺が16300の直撃を喰らうことになろうと、それ以上に稼いでおけば、全く問題ナシや)

洋榎(っちゅーか、哩の相方の和了りは《絶対》や。憧ちゃんの言うてた通り、七万点以上を確実にもぎ取ってくる。ほな、哩が《リザベーション》しとらん局で、それ以上に稼ぐか凹ますかしとかへんと負けてまうやん)

塞(こいつら……! 『守りを固める』って言葉が辞書にないわけ!?)

セーラ・洋榎(『守りを固める』? もしかして、『攻撃は最大の防御』のことか……!?)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(勘弁してよ……。えー……ってことは、親リーを掛けてきた江口も、江口に対して押す気満々の愛宕も、打点はそれなりってことよね。どうしよう……直撃喰らったらまくられる? いや、場合によってはツモでも――)

セーラ「ツモッ!! 6000オールや!!」ゴッ

塞(っ――!? く、首の皮一枚……!!)ゾワッ

塞:126700 セーラ:126300 姫子:53300 洋榎:93700

塞(400点差って……! またチーム《幻奏》がぴたりと背中につけてきた! 先鋒戦終了時点では、宮永対ネリー=ヴィルサラーゼで200点差。それに、次鋒戦後半の東初で、高鴨が片岡に300点差まで詰められた。それに次ぐ僅差じゃないのっ!!)

セーラ「んー……届かへんかったかー」

洋榎「ちゃんと計算せーよ。そんなんリーチ掛ける前からわかっとったやろー?」

セーラ「まあ、そらそうなんやけど。気分的にはまくれる感じやってん。おっかしーなー」

洋榎「ああ……そっか。なるほどなー。よかったな、臼沢。自分、今、山の主に守ってもろたんやで?」

塞「は――?」

セーラ「はああああっ? ほな、あいつあの時点でここまで見えとったんか!?」

洋榎「いやいや、ないない。今のは冗談。こんなんただの偶然やろ~」

塞(も、もしかして……高鴨の、次鋒戦前半オーラスの、妙なツモ和了りのこと言ってる……? 確かに、あれがなかったら、次鋒戦後半の東初と、ここで、私たちは《幻奏》にまくられてたことになるけど――)

   ――……それだけじゃないかも。

塞(嘘……でしょ? 高鴨、あんた、マジでここまで見越してたわけ? すごいパースペクティブにも程があるわよ?
 っていうか、それをなんとなく見抜く宮永も頭おかしいわ。なんなの、あいつら一体どういう次元《レベル》で麻雀してるわけ……)ゾワッ

塞(……いや、そう。そうよ……わかってるわ、もちろん知ってるわよ。高鴨も、宮永も、今私の目の前にいるこいつも、能力《オカルト》の道を突き進み、その一番奥の突き当たり――《絶対》の扉を開いた超次元《レベル5》の能力者。
 あのシロをも寄せ付けなかった園城寺より一つ上の序列を冠する、トンデモ変態ぶっ飛び女。白糸台の《生ける伝説》――全てを無に帰す《爆心》の最多得点プレイヤー。レベル5の第四位……《約束の鍵》――鶴田姫子……ッ!!)

姫子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(この感じ!? やっぱり東二局一本場は《約束の鍵》アリなのね!? だとしたら倍満を《絶対》に和了ってくるッ!! ダメ!! 吐きそう!! もういっそ殺して!! ってか、いつだか高鴨も言ってたわね――!!)

           ――あの絆は《絶対》です。

   ――私のすごパがどんなにすごくても、二人の約束を破ることは、《絶対》にできません。

塞(とんでもねー地雷踏んだわ……なんで《リザベーション》とかすんのよ、白水哩――)

姫子(さあ、行くとですよ……!! 倍満――おいでませッ!!)ゴッ

塞(ちょ、っていうか、そこのバカ二人!! なんであんたらはそんな笑顔なわけー!?)

セーラ(麻雀に《絶対》は《絶対》にない……やえの持論や。少なくとも、鶴田は渋谷によって《絶対》を破られたことがあるらしい。
 ほな、鶴田の超能力は、真の《絶対》やないねん。下位レベルに《無効化》されたことはないらしいけどな。せやけど、やからこそ――)

洋榎(ま、去年の公式戦ではただの一度たりとも破られてへんかったけどなー。漫と同じ白糸台の《生ける伝説》――あの荒川憩が役満の親っ被りを甘んじて受けたくらいやから、相当なモンやろ。せやけど、やからこそ――)

セーラ・洋榎(燃えるやんっ!!)ニヤッ

塞(レ、レベル0のくせにレベル5の超能力を攻略するつもり!? そんなの《絶対》に無理に決まってるでしょ!! 身の程を知りなさいよ!?)

セーラ・洋榎(とりあえず……九種九牌来いやッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(なんば考えとうか知らんばってん、私と哩先輩の《約束》は誰にも侵せんとですよッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞(この化け物ども……!! やばいやばいやばい……これで振り込んだりしたら、確実に心がヘシ折れる!! なのに、けど……まるでどうにかできる気がしないって――!?)

セーラ「っしゃあー、一本場や!!」コロコロ


 ――《永代》控え室

純「塞のやつ……本当の本当に大丈夫なのか?」

まこ「目に見えてダメそうじゃが……」

穏乃「き、きっと、塞さんなら……!」

照「とりあえず、この局に関しては、最初から店仕舞いっていう臼沢さんの判断は正しいと思う」

純「まあ……穏乃でも憩でも無理なんだから、さすがの二匹の獣とは言え、あの変態の和了りを止めることはできねえだろ」

まこ「本人たちも、なんだかんだで弁えてはいるようじゃの。目に見えて打ち方が堅い」

穏乃「それでも、鶴田さんならどこかで和了ってくるはずです。《絶対》に」

照「あ」

     姫子『ロン――16300ッ!!』

     セーラ『っと、やるや~ん?』

純「ふう……ひとまず、倍満は回避できたか。恐過ぎるな、このロシアンルーレット」

まこ「照が言うた《制約》通りの和了りじゃ」

穏乃「となると、勝負の分かれ目は、やはり南一局とオーラスでしょうね」

照「頑張って……臼沢さん……」

純「さて、東三局。白水が三飜で和了ってたから、来るとしたらインパチ」

まこ「副将戦では、白水が子じゃったけえ、4000じゃった。それが、今は鶴田が親……18000に化けるんか。飜数が二倍で点数は四倍以上……厄介じゃのう」

     姫子『チーッ!』

穏乃「おお、仕掛けてくるのが早いですね……!」

     姫子『ポン!!』

照「《絶対》に和了れる確信があるから、向聴数や他家の手の進みを無視して、前に出られる。自分の能力に対する自信、白水さんに対する信頼が、鶴田さんの《約束の鍵》による《絶対》を、より強固なものにしている」

穏乃「やはり二人分の力は強いですよね……」

     姫子『ツモ、6000オール!!』

純「これで……最下位《新約》との点差が三万ちょいか」

まこ「大きいのを一撃喰らったらひっくり返されるの」

穏乃「塞さん……っ!!」

     洋榎『ロンや、12300ッ!』

     姫子『うっ……』

照「愛宕さん……完全にギアが切り替わってる」

純「愛宕は高打点乱発の江口に比べると守備型――打点は低いはずだが、この大将戦はそうでもねえみたいだな」

照「理由は三つある。江口さんとの相乗効果。臼沢さん・鶴田さんとの地力差。それから点差状況。要するに、今日の愛宕さんは、全力以上で稼ぎに来ているんだよ」

まこ「『姫』っちゅうには随分と行儀の悪い虎じゃのう……」

穏乃「次は東四局……満貫が来ますね」

純「耐えてくれよっ!!」

     姫子『ロン、8000と!!』

     洋榎『ほっほー!? やりよったなー!!』

穏乃「わっ、和了られたのに楽しそう!!」

純「一つも焦りが感じられねえ……。四位争いをしてるって自覚はあるのかよ」

まこ「顔だけ見てると、まるでトップ争いをしちょるようじゃの」

照「さて……これで南入。ついに来た。天下分け目の南一局」

穏乃「白水さんが《リザベーション》をしていたとしたら、ここで――」

まこ「三倍満が来るッ!!」

純「頼むぜ、塞。直撃だけはどうにかして回避しろよ……!!」

照(うーん……)

 ――対局室

 南一局・親:塞

洋榎(いやいや、オモロいくらいあっさり和了ってくれるやん。配牌も自牌も、それにたぶんこっちの手牌にも干渉してくるタイプの全体効果系能力。ウィッシュアートの《一枚絵》の超強力バージョンか。反則臭いでー)

 北家:愛宕洋榎(久遠・92000)

洋榎(さ、て、と……や。憧ちゃんの話では、この南一局とオーラスに限っては、とにかくベタオリで耐えろっちゅー話やったな。なんやかんや言うて、現状の個人収支トップはうち。さすが!! 今頃控え室で憧ちゃんもメロメロやろっ!!)

洋榎(セーラと打っとるからやろな。いつもよりさらに牌に力を感じるわ。ええ感じに場も見えとる。これなら、ここで哩の相方の三倍満をどうにかできれば、普通にトップまくれるやろ。
 ほんで、オーラスは華麗に九種九牌で流して、うちら《久遠》が一位通過っと。完璧なプラン! 自分でも恐いわ……!!)

洋榎(――と。しもた。安牌抱えて乗り切ろう思てたのに、配牌時点から全然増えへんやん。哩の相方は三倍満やから、今まで《新道寺》で見てきたやつも合わせて考えると、門前清一が本命やろ。
 ただ……厄介なことに、捨て牌が字牌ばっかや。このままリーチ掛けられるとマズいな。なんぼ強い強い言うても、うちかて人間。さすがにこれをかわすんは骨が折れるで……)

姫子「……リーチッ!!」

 西家:鶴田姫子(新約・82300)

洋榎(ほほうっ! 来たで来たでー! 憧ちゃんの言うてた通りっ!! さーて……その《絶対》を打ち破りたいのは山々やねんけど、残念ながら今はチームで戦っとるからなー。ここは言いつけに従って、ベタオリするっきゃないかー)ツモッ

洋榎(のあっ!? しもた、うちの百八ある必殺技の一つ『ツモ切り現物』で華麗に一発回避するつもりが、まーた安牌引けへんかった!!
 いやー……どれ切っても当たる気いするわ。なんやろ、まるで、最初からうちがここで哩の相方に振るって決まってたみたいやん……)

姫子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

洋榎(…………んー? なんや、ちょっと具合が妙やな。確かに、うちともあろう者がさっきは満貫に振り込んだけど、それとは何かが決定的に違う気がする。
 っちゅーか、春季大会《スプリング》で打ったときとも違うな。ようわからん……なんや、これ――)ゾクッ

洋榎(え……? ホンマ、なんやこれ? 手の震えが止まらへん? 宮永や荒川と打ったときかてこんな恐怖体験したことないで? どないなっとん……?
 いや……別に負ける気はさらさらないねんけど、三倍満くらいいくらでもくれてやるけど、本能が――うちの野性のカンが――何かに恐れ慄いとる……?)

洋榎(この感覚は知らんな……初めてかもしれへん。ごっつーヤバいで。哩の相方やない。哩でもない。あの変態コンビを恐いなんて思ったことは一度もあらへんもん。そもそも、うちは《三人》かてどんとこいのナンバー4やっちゅーのに……)

洋榎(なんや? 誰や、そこにおるんは……? 哩の相方の後ろに哩がおるんはええ。せやけど、さらにその後ろ――もっとずっと向こうのほうに……なんか変なのがおるな。あれか? 最近よう噂に聞く《神様》か――?)

洋榎(……ふん。せっかくオモロなってきたのに、水差してくれるやん。邪魔やで、《神様》。こっちは真剣勝負しとんねん。ようわからへんけど、自分との勝負はオモロなさそうや。目障りやで――はよ消えーや……ッ!!)タンッ

姫子「ロンッ!! 24000!!」ゴッ

洋榎「まっ、そこやろな~」

セーラ(は!? 洋榎が二連続で振り込みやとっ!?)

塞(た、助かったー!!)

洋榎「ええ感じにかましてくれるなー? ま、ちょっとの間やけど、貸しといたるわ」ジャラジャラ

姫子「踏み倒してやっとです……!!」

洋榎「やれるもんならやってみい。それはそれでオモロそうや!!」

姫子「っ……!!(満貫と三倍満を立て続けに直撃したのに、全く勝てとう気のせん!?)」

洋榎(っと――ひとまず、いなくなったんか……? 見る限りはナリを潜めたみたいやけど。ホンマ……なんやったんやろか、今の――)

セーラ「ほな、次は俺の親やなー!!」

塞:120700 セーラ:104000 姫子:107300 洋榎:68000

 ――《久遠》控え室

憧「洋榎が連続で振り込んだっ!? あいつの危険察知能力は《三人》級なんじゃなかったの!?」

久「まあ……鶴田さんはレベル5だから、そういうこともあるのかしらね。洋榎もマズいとは思っていたんでしょうけど、たとえ危険を察知できても、安牌が一枚もないんじゃ仕方ないわ」

白望「んー……(にしてもなんか違和感あるなぁ……今の振り込み)」

哩「現状は断ラス。さすがの洋榎でん、こっからトップばまくるんはキツかと思うばってん、オーラスまでに仕込みば終えれば……一位通過は十分に可能と」

憧「鶴田姫子の《約束の鍵》――その《制約》を逆手に取って、ロシアンルーレットに持ち込む……」

久「具体的には、鶴田さんとの点差を32000点以上にして、トップとの点差を32000点以内にした二位で、オーラスを迎える。そうすれば、それぞれ三分の一の確率で、決勝行き、準決勝行き、三回戦敗退のどれかになる」

白望「鶴田さんとの点差は今四万点くらいあるから、ツモだけでまくって32000点以上の差をつけるのは大変……」

哩「そいたら、直撃ば狙うやろね。しかも、かなり重かやつば――」

     洋榎『ロンッ!! 24000――!!』

     姫子『なあっ!?』

     洋榎『よう……知っとるか、レベル5。レベル0でも、その気になれば、三倍満くらいいつでも簡単に和了れるんやで?』ドヤァ

憧「そんなわけないでしょ!! 私なんて三倍満なんか数えるほどしか和了ったことないわよっ!! ホントあのバカは……超カッコいいにも程があるわッ!!」

久「妬けちゃうわー」

白望「今の洋榎には敵う気しないなぁ」

哩「まさに獣と……」

憧「これで、鶴田姫子をまくって、点差は8700。倍ツモか……或いは、三倍満ならどう和了っても32000点差がつく……!!」

久「鶴田さんの《約束の鍵》――哩の和了りを倍の飜数で引き継ぐ、《絶対》の和了り。その和了りは、飜数だけじゃなくて……和了り方をも引き継ぐ」

白望「哩がリーチを掛けて和了ったらなら、鶴田さんもリーチを掛ける。哩がリーチを掛けていないなら、鶴田さんもダマで和了る。そして――」

哩「私のツモやったら、姫子もツモで和了る。私のロン和了りやったら、姫子もロンで和了っと」

憧「哩の《リザベーション》……東二局一本場での四飜、これはダマでロン。東三局での三飜は、鳴きからのツモ。東四局での二飜はダマのロン。南一局での六飜は、リーチを掛けてのロン和了りだった」

久「鶴田さんの和了りも同様。東二局一本場では、ダマで倍満直撃。東三局では、鳴きからのハネツモ。東四局ではダマで満貫直撃。さっきの南一局では、リーチを掛けて、洋榎に三倍満を直撃……」

白望「この法則に従っていくと……オーラスの鶴田さんは、リーチを掛けて、誰かから十四飜の数えをロン和了りすることになる。哩が、副将戦後半のオーラス、リーチを掛けて七飜の直撃を取ったから」

哩「こん《制約》ば知っとうたけん、《王者》はわざと私に振り込んだと。私のツモれば、姫子もツモる。それやと、オーラスまでに、最低でん姫子と40000点差ばつけんとまくられる。姫子がラス親になったら64000点差ばつけんと勝てん。
 ばってん、私の出和了りすれば、姫子の和了りも出和了りになっけん、今回みたいに、姫子のラス親やなか状況なら、振り込みさえしなければ、32000点差で逃げ切らる」

憧「もちろん、直撃喰らったらアウトなんだけどさ。けど、それは、どこのチームも同じ。この大将戦のオーラス、鶴田姫子の《約束の鍵》をぶっ放されたチームは、間違いなくラスに落ちる。トップの《永代》も……例外じゃない」

久「狙いはまさにそこよね。ここまでずっとトップをキープしてきた《永代》だけど、さすがに役満の直撃を受けたら無事じゃ済まない」

白望「《永代》が確実に一位通過するためには、後半戦のオーラスまでに、二位との点差を32000点以上つけて、なおかつ、鶴田さんとの点差を64000点以上つけないといけない。それ以外の点数状況では、三分の一の確率で、《絶対》にトップ陥落する」

哩「いくら《塞王》でん、洋榎と江口――二匹の獣ば相手に、そんな大差を保つ余裕はなか。そう判断したからこそ、《王者》は私に振り込んだし、私は《王者》の意図に乗った」

     洋榎『ツモや……4000・8000ッ!!』ゴッ

憧「っ……!! 洋榎!! あんたってやつは本当に……!!」

久「これで鶴田さんとの点差は32700点ね!!」

白望「《永代》との差は8700点……」

哩「しかも《幻奏》ばまくって二位と……!!」

憧「で……こっからはロシアンルーレットってわけよね!! 鶴田姫子の《約束の鍵》――十四飜の数え役満出和了り。この《絶対》の餌食になるのが誰になるかで、勝負は決まるッ!!」

久「《永代》が直撃を喰らえば、私たちのトップ通過」

白望「《幻奏》が直撃を喰らえば、二位で三回戦突破」

哩「もちろん、洋榎が喰らえば……ここで私たちは敗退と。ばってん――!!」

憧「あいつがここでむざむざやられるわけがないっ!! 洋榎……あんたはバカで、うるさくて、バカだけど……やっぱり私らん中で一番強いのはあんただから!! 信じてるわよ……必ず勝って帰ってきなさい――ッ!!」

 ――対局室

 南四局・親:洋榎

姫子(こ……こん点数状況は――)ゾクッ

塞:116700 セーラ:100000 姫子:75300 洋榎:108000

姫子(信じ難か……! 愛宕先輩――《久遠》とは、大将戦の始まったときは四万点も差のあったと。そいが、今は逆転されて、しかも、32700点差ばつけられとる。こいは……愛宕先輩から直撃ば取らん限り、私たちの負けと――)

姫子(こん後半戦……私は哩先輩のおかげで、16300、18000、8000、24000ば和了った。ばってん、現状……大将戦後半が始まったときから、1点たりともチーム点数の増えとらん。そのほとんどが、愛宕先輩に削られた分……こいな……こいが――ナンバー4ッ!?)

洋榎「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(強過ぎっと……練習で、本気の哩先輩と打ったことは何度もあっばってん、今の愛宕先輩は明らかにそれ以上と。こん人の歩むは覇者への一本道……《覇道》を敷く非能力者。《覇道》は《覇堂》――)

姫子(すごか……! どがんしたら、ここまで自信ば持って、堂々としていられるんやろか。私の《約束の鍵》――ここで誰かから数えば直撃するのは、《絶対》の確定事項。
 《制約》のことは、哩先輩から聞いとうはずやのに……自分が振り込むことは微塵も恐れとらん。こん人からは、勝つ気しか感じなか……)

姫子(ははっ……なんこい、むちゃくちゃ悔しかよ。私は結局……哩先輩に置いていかれてから、何も変わっとらん。哩先輩の力ば借りんとなんもできん、三軍以下の雑魚雀士と。
 この大将戦、自力で和了れた局は一度もなか。全部超能力ば使った和了り……哩先輩の約束のおかげと。そして、愛宕先輩は、なんの能力も使わんと、ただ己の力だけで、私たちの約束ばねじ伏せてみせた……)

姫子(こんオーラス……《約束の鍵》ば使えば、私たち《新約》の三回戦突破は《絶対》に達成できる。ただ、それやと、どうやってもトップ通過はできん。《永代》と《久遠》の二チームに32000点差以上つけられとうけん、どこから出和了っても二位止まりと)

姫子(ここから一位通過の絶望的なのは、ようわかっとう。哩先輩の力ば借りれば、《絶対》に三回戦突破のできることも、ようわかっとう。ばってん……そいで本当によかとやろか? こん気持ち……こん悔しさ――このまま放っておいてよかとやろか……!?)

姫子(なんのどういう結果になろうと……このまま行けば、私は、愛宕先輩に負けたことになっと。運良くチームが勝って、《久遠》ば敗退に追い込めたとしても、そいは哩先輩の力。私の力やなか……)

姫子(私は……私は――!! 自分の力で勝ちたかっ!! こん人に――哩先輩より強かこん人に!! 負けっぱなしで終わりたくなかっ!! ちゃんと自力で一矢報いたか……!!
 哩先輩よりも強か雀士の相手でん、噛み付くだけの力はあってとこ見せて……哩先輩に安心して卒業してほしか……!!)

姫子(わかっとう……こんなのは、ただの我儘やって。ばってん、このまま《絶対》の三回戦突破ばものにしても、きっと、私は準決勝でボコボコに負かされる……!
 やけん、許してな、絹恵、初美さん、怜さん、和――!! 私、今から、どうしようもなくバカなことすっけん……!!)

姫子(信じて……なんて、私の今の実力では、口の裂けても言えんばってん……こいば乗り越えたとき、私はきっと強くなっとう!! そいだけは自信持って言える……!!
 やけん――ここは、私の好きにやらせてください……全ては決勝で勝つために――!!)

姫子(哩先輩……先輩との約束は――最後で最高の《約束の鍵》は、今は、大事に胸の奥にしまっておくとですよ……!!)

         ――勝ってこいですよー、姫子!

  ――ここまで来たら楽しんだもん勝ちやでっ!

              ――後半戦、頑張ってくださいね。

      ――頼むで、姫子ッ!

姫子(大丈夫とっ! 哩先輩だけやなか。私の中には、こんなにもたくさんの約束のあっ……!! 《新約》は《真約》――《絶対》に本物にしてみせるッ!!)ゴッ

 ――《新約》控え室

初美「おろろー……?」

怜「ん、思うてたより配牌悪いな。数えやから、ええ感じに染まっとる手が来るかと思ってたんやけど」

和「何を意味のわからないこと言ってるですか」

絹恵「あ、あの……これ、もしかしてなんですけど――」

     姫子『……!!』タンッ

絹恵「姫子のやつ、今……《約束の鍵》を使ってへんのとちゃいますか?」

初美「どうええええええーっ!?」

怜「な、なんやってー!!」

和「ふむ……姫子さん、さては国士を狙うつもりですか。なかなかの無茶だと思いますが、あのバラバラ配牌……最低でも倍満以上に仕上げないと敗退が決まる現状、それもまた一つの手ですかね」

絹恵「国士を狙っとるっちゅーことは、やっぱり、《約束の鍵》は使ってへんのやと思います。白水先輩が七飜縛りをしたときは、姫子は十四飜の数えを和了る。偶数の飜数でしか和了れへん姫子の能力的に、普通の役満手はありえまへん」

初美「けど……役満をツモっても、《永代》には届かないですー。《約束の鍵》を使うも使わないも、最終的には姫子の自由ですけどー、どっちにしろトップ通過は絶望的なんですよー?」

怜「ほな……最大の狙いは、トップ通過やないっちゅーことか」

和「この点数状況なら当然です。三位をまくれれば十分ですよ」

絹恵「三位をまくる……姫子の能力的に、三位をまくれるんは《絶対》やった。せやけど、それは逆に言えば、それ以外のことは《絶対》にできひんっちゅーこと。何か、《絶対》の三回戦突破を捨ててまで、やりたいことがあるんやろか……」

初美「……まあ、私はなんとなくわかってきたですけどねー。ただ――」

怜「うちもわかった。ほんで、わかった上で言わせてもらう――」

初美・怜「それは無茶ですよー(やでー)姫子おおおおおおおおお!!!」

和「……信じましょう。私たちの大将を」

絹恵「せやな。ようわからんけど、姫子が自分で選んだ道――結果はどうなろうと、見守るんがうちらの役目。仲間としての責任やろ」

初美「ったく……こういうときの姫子の頭の悪さは、怜以上ですよー」

怜「……けど、そんな頭の悪い姫子が?」

初美「可愛いんですけどねー。もー、あのド変態っ!! 《最悪》じゃあるまいし、わざわざ自分から状況を悪くしてなんのつもりですかー!? しくじったら承知しないですよー!!」

怜「うちらは応援しとるで!! 底力見せてやったれや、姫子ッ!!」

和「姫子さん……」

絹恵「姫子……お願いやで、約束はちゃんと守ってな――!!」

 ――《久遠》控え室

久「ねえ……哩、もしかしてあの子――」

哩「ああ。《約束の鍵》ば使っとらん。信じられなか……こがんこと、初めてで、私も驚いとう……」

憧「えっ? けど、だとしたら、目的は何?」

白望「国士無双……」

憧「いや、そりゃ見りゃわかるけどさ。役満和了りたいなら、フツーに哩の《リザベーション》を形にすればいいじゃん。
 っていうか、たとえ役満ツモったところで、《永代》はまくれないし。どうあっても二位通過が限界。意味がわからないんだけど……」

久「いいえ、憧。わかり過ぎるくらいわかるわ。もし、もし仮に、ここから鶴田さんが国士をツモったとしましょう。すると、点数状況はどうなる?」

憧「えっと、《永代》が108700点で一位通過、《新約》が107300点で二位通過よね。《幻奏》が92000点で、私たちが――」ハッ

哩「気付いたと? 私たちと《幻奏》が92000点で同点になっとね」

白望「同点の場合は、上家取り……」

憧「洋榎はラス親……!! ちょ、私たちがここで敗退しちゃうっ!? 嘘――そんな……!!」

久「まあ、そもそも、敗退の可能性は三分の一のロシアンルーレットだった。むしろ、鶴田さんの和了りが《絶対》じゃなくなった今、私たちの敗退の可能性は激減したと言っていい」

白望「けど……鶴田さんが《約束の鍵》を使っていれば……鶴田さんと32700点差がある私たちは、直撃されない限り、《新約》より順位が上で終われるはずだった……」

哩「点数状況ば見て、姫子は……自分の力で戦うことば選んだ。三分の一の《絶対》より、そっちのほうの期待値の高かて判断したと」

憧「《絶対》の三回戦突破より高い期待値って……どういう計算式を使えばそんな結果が出てくるのよ……」

久「たとえ《絶対》の三回戦突破をものにできたとしても、ここまでやり込められたんだもの、鶴田さんの心には『洋榎に勝てなかった』という事実が重く圧し掛かるはずよ。
 そんな精神状態では、きっと、次の準決勝は抜けられない。仮に、準決勝で私たちと《新約》が再戦することになっても、今回みたいに哩が《リザベーション》をすることは、ないでしょうしね」

哩「そん通り。結果のどうなるにせよ、こっからの姫子は、私と二人やなく、自分一人で戦っていくことになっと」

白望「可能性は低くても、ここで自力で洋榎に一矢報いることができれば、私たちを敗退させることができるだけじゃなく、準決勝や、決勝……或いはもっと先まで、結果を繋げることができる。この期待値は――」

憧「……計り知れない……わね、確かに。そっか……ちょっと、甘く見てたわ。哩の力がないとなんにもできないレベル5なんてとんでもない。鶴田姫子――この土壇場で、粋に素敵にかましてくれるじゃない……ッ!!」

久「まあ、そろそろ洋榎も気付くでしょう。そうなってくると、普通に有利なのは、私たちのほう。確率的に、鶴田さんがここで国士をツモれる可能性は、ほとんどゼロに近いのだから」

白望「どうかなぁ……なんだかんだで一向聴まで来たよ……」

哩(姫子……洋榎……! どっちも頑張りんしゃい――!!)

 ――対局室

 南四局・親:洋榎

姫子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

洋榎(これは……これは――オモロいッ!! は!? 一巡目から国士狙いやと!? ほな、こいつ今、《約束の鍵》使うてへんのか!? アホか!! アホ過ぎる……!! せやけど、そういうアホはむっちゃ好きやでっ!!)

洋榎(ええやんええやん! 哩の《リザベーション》や、うちの一生の不覚――ロシアンルーレットで勝ちをもぎ取るのは気に入らへんっちゅーことやんな!?
 そんなことして三回戦突破するくらいなら、たとえ《絶対》を拒否してでも、自力でうちを負かすことを選ぶ――!!)

洋榎(いやー、びっくりや!! こんなにびっくりしたんはいつ振りやろか!? 最っ高やで!! 正しくもあらへんし、磨かれてもいーひんし、求めるんや我を通すのともちょっとちゃう、まして覇ではあらへん。けど……確かに、はっきりと、自分の気持ちは伝わってくるで――!!)

姫子(こいで……一向聴ッ!!)タンッ

洋榎(そーかそーか。そうまでしてうちに勝ちたいか。ひよっ子が生意気なこっちゃで。確かに、《約束の鍵》を使わなければ、哩が出和了りやったから自分も出和了りしかできひんっちゅー《制約》がなくなって、好きな手で好きなように和了れるようになる。
 ほんで、役満ツモればうちとセーラが並ぶから、上家取りで、うちら《久遠》は敗退や……)

洋榎(ええで、自分の気持ちはようわかった。わかり過ぎるほどわかったわ。ほな、ちゃーんと応えてやらんとな。《久遠》の大将として、白糸台の先輩として、ナンバー4として……うちは自分を全力で叩き潰す――ッ!!)

洋榎(そういう約束やもんな。ほな、足掻いてみせろや。哩の相方――鶴田姫子ちゃんよ……っ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――

洋榎「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(うっ……急に強かとこ切ってきた。《約束の鍵》ば使っとらんことのバレたんやろか。いくら哩先輩から《制約》のことば聞いとうとは言え、カンの良過ぎっと。
 ばってん……こっちも後には引けん。なんとかして……この国士ば――ツモってみせるッ!!)

 姫子手牌:一九⑨999東南西北白發中 ドラ:二

姫子(……国士無双――懐かしか……二年前、哩先輩のおらん地区大会で、友清に和了られたな。あんときの友清は強かったと。チームは勝ったばってん……私個人は、あいつに勝てんやった――)

     ――姫子せんぱいは、一人やなかとですけんねっ!

姫子(そうやね……《新約》のみんな以外にもおったと。私の力ば信じてくれる人が――)

  ――江崎せんぱいや安河内せんぱい、それにもちろん、私も傍におるとです。

姫子(あいがと……友清。ここで国士ば和了ったら、きっと喜んでくれるやろな。後輩の喜ぶ顔が見たか――哩先輩は、こがん気持ちで、ずっと打ってきたんやろか……)

姫子(いつも私の力になってくれた哩先輩。そして、先輩に私のおるように、私にも後輩のおる。そいたら、私も、伝えていかんといけんやろ。そうやって……どこまでも――《約束》は繋がっていくと……!!)

姫子(やってやっとよ……!! 私には《新約》だけやなか。《新道寺》のみんなからも託されとうけん。哩先輩に《新道寺》の力ば見せちゃるってな――!!)

     ――約束してください。こん溢れる《新道寺》愛ば……白水せんぱいに見せ付けるって!!

姫子(哩先輩と、江崎先輩と、安河内先輩と、私と友清……こん五人で、白糸台の《頂点》に立つ――そん《約束》はもう叶わんばってん、形ば変えて、《新道寺》の強さば証明してみせる……!!
 大丈夫……私には《新道寺》キーのあっ!! それに、個人的にもらった強力な鍵の……もう一つ――!!)

   ――いつでんどこでん稲妻になってかけつけっとですよー!!

姫子(あいがとな、《飛雷神》様っ!! ビリビリ力ば感じとうよ!! さあ――逆転の国士無双……張ったとッ!!)ゴッ

 姫子手牌:一九⑨999東南西北白發中 ツモ:1 ドラ:二

姫子(こいが私の力っ! こいが《新約》の力っ!! こいが《新道寺》の力っ!! よう見とってくださいね、哩先輩……!! こいが――今の私の全てとですッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

洋榎「リーチやッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

姫子(ちょあーっ!?)ゾクッ

洋榎「鶴田姫子ちゃん……自分の頑張りを称えて、うちからリー棒をスペシャルプレゼントや。もし自分がうちを逆転できたら、気にせんと持ってってええで。次に駒を進める自分らへ――これがうちらからの餞別や」

姫子(私の国士ばツモったら、リー棒ば出してようと出してまいと、《久遠》は敗退――やけん、振り込みの危険も気にせんと、リーチば掛けてきた……?
 否――こん人がそんな甘か判断で動くわけなか……!!)

洋榎「とか言うてなー。ほれ、よう点数見てみい。これで、自分、セーラや臼沢から和了っても、うちら《久遠》に勝てるでー?」

姫子「ッ――!?」

塞:116700 セーラ:100000 姫子:75300 洋榎:107000 供託:1000

洋榎「どやー? これで、ツモかうちへの直撃以外でも、自分の目的は達成されることになったな。和了り牌が出てきたら、迷うことなく手牌を倒せるやろー?」

姫子「そいは……」

セーラ「洋榎……自分、やってくれたなー? 俺らに見物はさせへんってか?」

洋榎「あったり前やろ! 二年のひよっ子がこんなに頑張っとんねん! 誰が高みの見物なんてさせるかッ!! この場の四人全員――みんな最後までスリルを楽しもーやー!!」

セーラ「ええで……!! 端から高みの見物なんてする気なかったけどなッ!! その捲くり合い――俺も混ぜろやッ!!」ゴッ

 セーラ手牌:三四[五]五六③④[⑤]2234[5] ドラ:二

姫子(ちょ、江口先輩も張っとるんか……!?)ゾワッ

洋榎(フフフ……これがうちの百八ある必殺技の一つ――ちょっとそれっぽいこと言うてカッコよく見せとるだけのリーのみッ!!)ドヤァ

 洋榎手牌:①①④⑤⑥⑦⑧二二二789 ドラ:二

塞(えーっと……これ、今、何が起きてるわけ……? ついていけないんだけど?
 いや、まあ、私以外の全員が逆転手を張ってて、少なくとも誰かに振り込んだら確実にトップ転落するってことだけは……わかるけどさ――)

洋榎「っしゃあー! こっからは勝ったもん勝ちの勝負やで!! 夏の祭りの終わりらしく、派手な花火で締めようやー!!」ゴッ

 ――《幻奏》控え室

誠子「この状況は――」

やえ「愛宕が和了れば、《久遠》のトップ通過。鶴田が臼沢から直撃を取れば、《新約》のトップ通過。セーラが臼沢から直撃を取るかツモれば、私たちのトップ通過だな」

ネリー「でもってー、テンパイしてないさえは、自力でトップ通過を確定させる手段がないんだよねー」

優希「そっかだじょ……! たとえ最後までオリ切っても、あの虎のお姉さんが連荘続行するからっ!!」

やえ「まあ、この場面でトップの臼沢が無理をするのが、戦略的に正しいかというと微妙なところだがな。
 それでも、形だけ見れば、玉座を狙う三人だけが、その可能性を掴める状況になっている。本当に、痛快な闘牌を見せてくれるもんだ」

     洋榎『――っ! ツナッ!!』

誠子・優希「っ!?」ビクッ

     セーラ『うおおおおっ!? ビ、ビビらせんなやー!!』

     洋榎『すまんな、急にツナ食べたくなってもーてん!!』

やえ「莫迦者どもが……ここぞとばかりにはしゃぎ出しやがって」

ネリー「ま、楽しそうだからいいんじゃない?」

やえ「……ネリー、どうだ。この結末、お前の耳にはもう聞こえているのか?」

ネリー「さっぱりだね。《運命》が――色んな人の想いが――絡みに絡み合ってるんだよっ!」

     セーラ『――!! ツマッ!!』

     洋榎『……!? マダイッ!!』

     セーラ『イサキ!!』

     洋榎『キス!!』

     セーラ『スズキ!!』

     洋榎『!? ちょ、セーラ! この流れはあかん!!』

     セーラ『なんでや!? 通好みのラインナップやん!!』

     洋榎『ちゃうねん!! ここでうちがキハダっちゅーやろ!?』

     セーラ『おう、ほな、次はダ――ダ? なあ、洋榎、ダはタ扱いでもええ?』

     洋榎『それやそれ!! うちらいつの間にか海鮮刺身しりとり始めとった!!』

     セーラ『海鮮があかんなら山の幸でもええで!!』

     洋榎『あかんのはそこちゃうわ!! 『しりとり』のほう!!』

     セーラ『しりとり……はっ、そうか!! つまり、この流れやと――』

     洋榎・セーラ『ロン言うたら負けになる……ッ!!』ガーン

やえ「マズいな……清水谷がいないから莫迦二人が止まらなくなっている」

     洋榎『ほな、しりとりは終わりな!! 別パターンにするで!!』

     セーラ『別パターン? なんやそれ、例えば?』

     洋榎『例えば……お、それや、ロン――グスカート履いた絹可愛え!! とかや!!』

     セーラ『なるほど! それなら色んなバリエーションありそうで楽しそうやん!!』

     洋榎『ロングブーツ履いた絹可愛え!! ロングヘアーの絹可愛え!! とにかく絹が可愛え!!』

     セーラ『身内自慢したいだけか!?』

     塞『』

やえ「というか、早く誰かなんとかしてやらんと臼沢が死ぬぞ……」


 ――《永代》控え室

純「塞が完全に死に体だな」

まこ「流局になってくれれば御の字かの」

穏乃「いえ、たぶん……ここで決まります」

照「まあ……私たちがジタバタしても仕方がない。落ち着いて。黙って結果が出るのを待とう……」ボロボロ

純「おい、照。お菓子零してるぞ?」

まこ「照、さては動揺しとるんか……!?」

照「何か……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

純・まこ(ひっ!?)ゾワッ

穏乃「塞さんならきっと大丈夫ですっ! みんなで信じましょう――!!」

 ――《久遠》控え室

     洋榎『ロン――パース姿の憧ちゃん可愛えッ!!』

     セーラ『絹恵の次は新子か!? って、ロンパースって何?』

     洋榎『えっと、なんやったかな。上着にブルマがくっついたような幼児服や』

     セーラ『えぇ!? 新子って幼児服とか着るん!?』

     洋榎『ま、憧ちゃんのお洒落センスは突き抜けとるからな!!』

     セーラ『さすがにマニアック過ぎるやろ!? 引くわ!!』

憧「誤解いいいいいいいいい/////っ!? レディースのロンパースってのが世の中にはあんのよ!! っつーかおいコラ短パン俺女!! あんたに他人のファッションどうこう言う資格ないからッ!!」

久「洋榎ったらはしゃいでるねー」

白望「ダっっっっル……」

哩「そろそろ注意されんやろか」

憧「あっ、とか言ってたら《永代》が洋榎の和了り牌を……!!」

久「出しちゃうかしらー、それを? そしたらうちのトップ通過なんだけれどね――」

哩「お、止めたと」

白望「塞……よかった。まだ生きてたんだね……」

     塞『………………あのさ、この獣ども……!!』ゴッ

     洋榎・セーラ『?』

     塞『楽しいのはわかるけど!! さっきからうるさいのよッ!! あんたら私の胃に穴を開けたいわけ!? ホントいい加減にしないと塞ぐわよ!!?』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

     洋榎・セーラ『すいませんでした』

久「ふふっ、いいわね。臼沢さんも、やっと覚悟を決めたみたい」

哩「《妃竜》の清水谷以外であの二人ば黙らせる雀士のおったとは」

白望「塞ぎこんでいた《塞王》が開き直った……」

憧「ここまで焼き鳥の《永代》が息を吹き返してきたか……流局なら連荘できるけど、せっかくなら、《塞王》がノーテンで足踏みしているここで決めちゃいたいわよね。頼むわよ、洋榎――ッ!!」

 ――《新約》控え室

和「ようやく静かになりましたか」

絹恵「お姉ちゃん……うち、ちょっとだけ恥ずかしいわ……」

初美「なかなか決着がつかないですねー」

怜「和了り牌……何枚か出てきたけど、全部臼沢さんのとこに行っとるな」

和「いずれ誰かしら和了ると思います。三人テンパイで、待ちも重なっていない。しかも、全員とも全ツッパですから」

絹恵「姫子……っ!!」

初美「よーし……!! こうなったら、姫子に私の巫力を届けるですー!! 《裏鬼門》――!!」ゴッ

絹恵「いや、南と西はもう手牌にありますから……」

怜「ほな、うちが姫子に一巡先を見せてくるッ!!」ギュルギュル

絹恵「感知系能力は別に和了率に干渉できひんですやん……」

初美・怜「絹恵は辛口です(やな)ー」

和「皆さん、普通に応援しましょう。大丈夫です。姫子さんならきっ――あ……」

絹恵「い――!?」

初美「うっ!!」

怜「え…………」

     『ツモ――!!』

 ――観戦室

     『ツモ――!!』

淡「おおおおおおおおおっ!?」

憩「勝負アリ、やんな」

菫「ふむ――」

煌「大変……すばらでしたよ……」









































     姫子『国士無双ッ!! 8000……16000と――!!』

 ――《久遠》控え室

『試合終了おおおおおーッ!! C・Dブロック三回戦!! トップ通過で決勝行きを決めたのは首位を守り切ったチーム《永代》ッ!!
 準決勝進出は、役満ツモで大差をひっくり返したチーム《新約》! そして、先鋒戦の大量リード以降、削られながらも最下位転落せずに踏みとどまったチーム《幻奏》!!
 チーム《久遠》は僅かに及ばず――ここで敗退となりました……!!』

憧「嘘……」

久「やられちゃったかぁ」

白望「そうだね……」

哩「……姫子……洋榎……」

 バァァァン

洋榎「よっすーっ! ただいま帰ったでー!!」

 一位(総合四位):愛宕洋榎・+31400(久遠・91000)

憧「洋榎え"え"え"え"え"え"ーっ!!」ガバッ

洋榎「どうした、憧ちゃん!! 誰に泣かされたんや!?」アワワワ

憧「強いて言うならあんたよ!!」ウルウル

洋榎「ええー!?」ガビーン

憧「もう……っ! あんたってやつは――本当にバカなんだから……!! 一位で帰ってくるんじゃなかったの!? なんで四位とか……意味わかんない!!」

洋榎「ごめんなー。頑張ったんやけど、相手そこそこ強かってん」

憧「そこそこって……!! だって、洋榎はもっともっと強いじゃん!! バカみたいに強いじゃん!! あんな……短パンマニッシュとか、変態のレベル5なんか……ちょちょいのちょいのはずでしょっ!?」

洋榎「まー、うちも人間やからなぁ。全部を全部思い通りにはできひんよ」

憧「嘘! 嘘だもんそんなのっ!! 洋榎ならなんでもできるでしょ!? 不可能なことなんてないはずでしょ……!?」

洋榎「……そっか。憧ちゃんには……うちがそういう風に見えるんか――」

憧「洋榎……?」

洋榎「いやぁ……いつの間にか、どえらい遠くまで来てもーたもんや。なあ、久、聞いたか、今の? 憧ちゃん曰く、うちはなんでもできるんやって。不可能なことなんてないんやって。ええやろー? すごいやろー?」

久「憧から見たら、そう見えるでしょうね。私が見ても、そう見えるくらいなんだし」

洋榎「ほな……憧ちゃん。自分、久たちのことはどう思っとん?」

憧「久は……《最悪》だけどなんでもできる。シロは、ダルいダルい言いつつなんでもできる。哩は変態だけど……なんでもできる」

洋榎「……やって。よかったな。シロ、哩。久も」

白望「うん……」

哩「ああ」

久「そうね――」

憧「みんな……?」

久「ねえ、憧。今更なんだけれど、私たちのチーム名……どうして《久遠》っていうか、わかる?」

憧「それは……リーダーの久から取って名づけたんじゃないの? クラス対抗戦のときの《旧約》も、《久約》ってことらしいし」

久「まあ、それもあるのだけれどね。《久遠》で本当に大事な意味を持つのは、『久』じゃないの。もう一文字――『遠』のほう」

憧「遠い……?」

久「そう――『遠い』。これね、私たち五人の名前に共通するキーワードなのよ。私は言わずもがなの『久』。久遠……久しく遠く」

憧「あ……」

洋榎「うちやったら、『洋』や。そのもの遠洋って言葉があるな。ま、海に限らず、洋く遠くっちゅーことで」

白望「私は『望』。遠望……望むは遠く……」

哩「私のは……熟語にはならんばってん、『哩』はそのもの距離の単位と。元のmileの意味的には、遥か遠く――くらいのニュアンスになるやろか」

久「そして、あなたは『憧』。憧憬ってことよね。その意味は――」

憧「遠くのものに――心惹かれる……」

久「そういうこと。で、その憧憬の気持ちをね、これからも、ずっと忘れずに持っていてほしいの」

憧「ど、どういうこと?」

久「あなたからは、私たちが、なんでもできるくらいに、強く見えるのよね。それは、とても嬉しいことだわ。けれど……私たちだって、最初からこうだったわけじゃない」

憧「久……」

久「もしもの話だけれど、今の憧と、一年生だった頃の私たちが打ったとしたら、たぶん、いい勝負になると思うわ。
 私たちにも、右も左もわからない一年生の頃があった。それぞれの居場所でそれぞれの仲間と過ごした二年生の頃があった。そうやって、私たちは、三年生になったの」

憧「うん……」

久「そうやって……歩いてきたの。憧よりちょっとだけ早く生まれて、憧よりちょっとだけ先を歩いてきたの。だから、今の憧には、私たちが、とても遠くにいるように見えるかもしれない。
 けれど、忘れないで。その憧憬に向かって進んでいけば、いつかあなたも、ここに来ることができるわ。ちょうど……再来年の夏くらいにはね」

憧「うん……っ!」

久「負けちゃったのは、もちろん悔しい。けれど、あなたの心に、遠い憧憬として映ることができたのなら、三年生として、やるべきことはやったかなって思える。私たちみんな、心置きなく卒業できるわ」

憧「そ、っか……」

久「ありがとう、憧。あなたのおかげで、私たちは、最高の夏を過ごすことができた。そうよね、洋榎、シロ、哩」

洋榎「オモロかったで、憧ちゃん。おおきに」

白望「ありがとう……憧……」

哩「憧……あいがとな」

憧「こ――こちらこそっ!! 大変お世話になりました……先輩ッ!!」ペッコリン

久「あらあら、ちょっといい感じの雰囲気だからって、別に畏まらなくていいのよ?」クスクス

憧「あ、う……そのっ! なんつーか、この――バカ! 怠け者! 変態! でもって最悪の腐れ外道ッ!! あんたらが……あんたらのこと、私、大好きだからっ!! みんなと戦えてよかったからっ!! だから、ありがとう……!!」

久「……私たちも、みんな、あなたが大好きよ、憧。本当にありがとう。ま、これからも、なにとぞ末永くよろしくね……」

憧「うんっ!!」

久「よーし!! じゃあ、今日はぱあーっと打ち上げと行きますかっ!? 門限なんてみんなで破れば恐くないわ!! 夜通し遊びまくるわよーっ!!」

洋榎「ちょいちょい久。打ち上げの前に、やることあるやろ」

哩「方々各所に謝罪参りにいかんとな」

久「もちろん忘れちゃいないわよ」

憧「私もついてくからねっ!」

白望「私も……ダルいけど……」

洋榎「っしゃ、そうと決まれば急ぐでッ! ほな、お先やー!!」ダッ

白望「仕方ない……ついに私の本気を見せるときが来たか……!!」ダッ

哩「うおっ!? ダルくなかか!? く、私も負けてはおれん!!」ダッ

久「あらあら、みんな楽しそうっ! ほら、憧。私たちも走るわよ! 遅れずについてきなさいっ!!」

憧「ちょ――ま、待って! みんな……待ちなさいってばー!!」

 ――《新約》控え室

姫子「ただいまとです」ガラッ

 二位(総合二位):鶴田姫子・+8900(新約・108300)

絹恵「姫子……おかえり。最高やったわ」

姫子「……あいがと」

初美「まったく姫子は脳みそあるですかー? あそこで《約束の鍵》を使わないとか狂ってるとしか思えなかったですー」

姫子「うっ……」

怜「ま、その暴走のおかげで、本格的に決勝が見えてきたやんな。これで、準決勝にシードはおらんことになる。トーナメントが始まったときに想定してたよりは、ええ感じに運が向いてきとる気がするわー」

姫子「フォローあいがととです」

和「……ただし、見方を変えれば、シードを喰うほどのチームと、準決勝で戦う――ということになりますけど」

姫子「さすが和。怜さんのフォローが台無しと」

絹恵「せやけど……シードを喰ったったんは、うちらかて同じや! 頑張ればなんとかなるっ!!」

姫子「うん……そいやねっ! 絹恵の言う通りと!!」

怜「……ところで、姫子。そのリー棒、愛宕さんからもらったやつやんな?」

姫子「……はい」ギュ

初美「それに、白水さんからの最後の《約束の鍵》も、姫子の胸に残ってるわけですよねー?」

姫子「はい……っ!!」

和「まとめて連れて行きましょう。《頂点》まで」

姫子「ああ、そのつもりとッ!!」

絹恵「《新道寺》に《姫松》、ほんでもって《久遠》もか。どんどん約束が増えていくなー」

姫子「どんと来いと! 私はレベル5の第四位――《約束の鍵》!! 誰のどがん約束でも……《絶対》に形にしてみせるッ!! 《絶対》に《頂点》に立ってみせると!!」

怜「せやなっ! その未来……《絶対》に現実にしてみせるで! なんたって、うちはレベル5の第五位――《一巡先を見る者》やから!!」

和「まったく……揃いも揃ってレベル5だの《絶対》だの――そんなオカルトに捉われていると、足元をすくわれますよ?
 ま、けど、安心してください。守護天使《ゴールキーパー》として、できる限りのサポートをいたしますので」

初美「っていうか、みんな忘れているかもですけどー、この五人の中で一番ナンバーが上なのは私ですからねー? みんなを勝利に導くのは切り札《ジョーカー》の私の役目ですー。
 二回戦、三回戦と、宮永照のせいでいいとこナシでしたけどー……次はぶちかましてやるですよー! ナンバー8――《最凶》の大能力者、《悪石の巫女》の名に懸けて、私の真の力を見せ付けてやるですー!!」

絹恵「み、みんなずっこいで!? うちもなんか通り名ほしいっ!!」

怜「いやいや。絹恵に通り名は必要あらへんよ。肩書きより本名のほうを轟かせたらええねん。学園都市で愛宕いうたら誰のことを指すか――洋榎さんでも雅枝先生でもない……愛宕というたら絹恵やて! 《頂点》獲って、白糸台高校麻雀部一万人に、思い知らせたれや!!」

絹恵「わ……わかりましたっ!!」

怜「ほなっ! トップ通過はできひんかったけど、まだまだ《頂点》への道は続いとるっ! 二日後の準決勝――反対側からは《逢天》と《煌星》、ランクSの魔物三人と、レベル5のツートップがお目見えや!!
 そこに加えて今日の《幻奏》……シードチームはおらへんけど、どこも強いのはわかっとる! せやけどそれがなんやねん!! ひらりとかわして、約束の未来へ乗り込むで……ッ!! っちゅーわけで、せーのっ――」

怜・和・初美・姫子・絹恵「しゃああああああああああ!!!」

 ――《幻奏》控え室

セーラ「いやー、ツモれへんかったわー。最後の最後で鶴田に美味しいとこ持っていかれたなー」

 三位(総合三位):江口セーラ・+7800(幻奏・92000)

ネリー「次はお腹いっぱい点棒食べられるといいね、せーら!」

セーラ「せやな。端くれやけれども、俺は《一桁ナンバー》――次は満腹になりたいで~」

やえ「よろしく頼むぞ、飢えた《狼士》」

セーラ「おうよっ!」

やえ「で、我々マイナス収支組は、この結果をどう受け止めようか?」

優希「今度は勝ってやるじょ!!」

誠子「やってやります!!」

やえ「よかろう。ま、私については、何度も言うが、これくらいが限界だ。点を稼ぐのはお前ら四人の役目だぞ。次はぬかるなよ、《東風の神》、白糸台の《フィッシャー》」

優希・誠子「はいっ!!」

やえ「さて……それはそうと、セーラ」

セーラ「ん?」

やえ「あのオーラス、なぜリーチを掛けなかった? いや、直撃かツモでトップがまくれる手を張っていて三位だったのだから、全く問題ないんだが。
 てっきり、お前なら愛宕に張り合って、リーチで倍満を確定させると思っていた。振り込むリスクはあるが、それなら誰からどう和了ってもトップ通過だからな」

セーラ「いや、俺もホンマはリーチしたかったんやで? せやけど、ほら、俺がリーチ掛けると、やえの言うた通り、俺は誰からどう和了ってもトップをまくれるようになってまうやん。
 さらに鶴田も、国士ツモれば洋榎と俺のリー棒分でトップまくれるようになる。ほんで、洋榎も、どうせ役ナシやったんやろけど、ドラで親満とかそんな感じやったんやろ?
 ほな……《永代》のトップ維持が格段に難しくなるやん。あんまりあそこを追い込んで、下手に刺激したくなかってん……あの《塞王》を」

やえ「ふむ……」

セーラ「俺は正直、本気の臼沢とは、あんまやり合いたいとは思えへんねん。初美や竹井なんか比べ物にならへんくらい、あいつの能力は凶悪の一言に尽きる。
 宮永よりも、洋榎よりも、学園都市中の誰よりも、俺はあいつが苦手や。一喝されたときは、竜華の逆鱗に触れた時より肝が冷えたで」

やえ「言わんとすることは……わからんでもない。あの初美でさえ、臼沢との対局はトラウマだって話だから、あれは相当キツいんだろう」

セーラ「トラウマになっとんのは、何も初美だけやないやん。あいつに塞がれて無事で済んだやつなんておらへん。やえやって、この二年間でぎょーさん見てきたはずやろ?
 二年前のクラス対抗戦と今年の予選決勝で戦った《三家立直で必ず和了る》あいつも含め、鍛えればゆくゆくは校内順位《ナンバー》三桁前半の実力者になれたやろう才ある能力者たちが、臼沢の力の前に挫折して、二軍《セカンドクラス》落ちしてくんを――」

やえ「塞の王は砦の王。宮永の《照魔鏡》と臼沢の《防塞》は、二軍《セカンドクラス》の篩みたいなものだからな。宮永の鏡と臼沢の砦に正面から向き合えない雀士は、二軍《セカンドクラス》で生き残ることはできない」

セーラ「今回……臼沢は、俺と洋榎と《約束の鍵》アリの鶴田を相手に、完全デジタルで打ち切った。
 宮永がネリーに競り勝ってから、一度もトップ陥落することなく決勝行きを決めた《永代》――その最後の砦やった《塞王》が、能力を温存しての、この結果や」

やえ「……無論、事実は重く受け止めている」

セーラ「やえ……《頂点》への道のりは思ってた以上に険しいらしいで。俺的には、優希と誠子に経験積ませられる分、この三位っちゅー順位はむしろよかったんちゃうかって思う」

やえ「だな。ま、これも計画のうちだよ。《永代》相手にトップ通過できるほどに私たちが強いなら、それはそれで結構。が……もちろん、その幻想がぶっ殺される可能性も考慮していた。
 そう心配しなさんな。明後日の準決勝は有効に使わせてもらうさ。デジタル園城寺、制約フリーの神代、そして未だその能力がわからん花田煌……。
 直に打って情報を掴める分だけ、どいつが上がってくるにしろ、決勝では《永代》と《劫初》より優位に立てるだろう。現状のチーム力では劣勢な分、できる限りの準備をしようじゃないか」

セーラ「決勝は……四日後か」

やえ「ああ。だがその前に――」

セーラ「準決勝、やんな?」

やえ「ハズレだ」

セーラ「ほえ?」

やえ「何はともあれ、祝勝会に決まっているだろうッ! お前たち! 今日は好きなもんを好きなだけ頼んでいいぞっ!! タコスだろうとなんだろうとおかわり自由だっ!! もちろん金は私が出す!!」

ネリー・優希「ひゃっふううううううう!!」

誠子「……意外です。あの小走先輩が、負けたのに浮かれているなんて……」

セーラ「まぁ……俺や自分は決勝常連チームにおったから、ピンとこーへんかもやけどな。なんやかんや言うて、やえは団体戦ではベスト8止まりやってん。インターミドル時代も、去年の《晩成》も。そら嬉しいはずやで」

誠子「決勝行きを決めたら、もっと喜んでくれるでしょうか」

セーラ「歓喜絶叫、間違いなしや。優勝したら泣くかもしれへんで?」

誠子「《王者》の嬉し涙ですか。それは……ぜひとも見てみたいですね――」

セーラ「期待しとんで、誠子」

誠子「はい。私は……もっと強くなる……!」

やえ「よーし、お前らっ! さっさとラボに帰って打ち上げだぁー!!」

ネリー・優希・誠子・セーラ「おおおっ!!」

 ――対局室

塞(だぁー……クソ疲れた。能力使ってないのに薄墨を塞いだときくらいの疲労感なんだけど。あいつら全員人間じゃないっての)

 四位(総合一位):臼沢塞・-48100(永代・108700)

塞(にしても削られたわねぇ。高鴨も染谷も井上も着実に繋いだってのに、私はこの有り様。宮永の稼ぎを完全に相殺してる。穴があったら入って誰にも看取られず一人ひっそりと死ぬべきよね……)

 ダダダダダダダダ

塞(と、このダッシュ音は)

 バァァァァン

穏乃「塞さあああああああん!!」ドヒューン

塞「あんた朝から晩までよくそんな元気でいられるわね……」

穏乃「なんならお裾分けてもいいくらいですっ!」スゴパッ

塞「ありがと。シロじゃないけど、ダルくて立ち上がれなかったとこだったから」

穏乃「何度も危ない橋を渡りましたもんね!!」

塞「うっ……そうね。次鋒戦のあんたの妙なツモがなければ、後半戦の東二局で江口にまくられてた。そしたら四位まで転げ落ちてたかもだわ。すごパ様々よ」

穏乃「あんまり褒められると照れくさいですー///」

塞「さぁて……じゃ、ぼちぼち控え室戻りますか」

穏乃「大丈夫です。みんなこっちに来てますから。あ、これ、塞さんのお荷物です。どぞどぞっ」

塞「何から何まで悪いわね」

穏乃「お安いご用ですっ!!」

 ガヤガヤ

穏乃「と、来ましたね!」

純「よーっす、塞。まーた派手にやられたなっ! やっぱ大将は穏乃に限るぜー」

塞「ホントそうよね。もう二度と大将はゴメンだわ」

まこ「じゃが、なんだかんだでトップを守り抜いた。さすが《塞王》じゃのう」

塞「皮肉にしか聞こえないっての」

照「お疲れ、臼沢さん」

塞「宮永……えっと、ごめん、私の我儘のせいで、《劫初》みたいなギリギリトップ通過になっちゃって……」

照「うん。まあ、反省すべきところは反省してもらう。いくら愛宕さんたちが相手でも、前後半通して焼き鳥はない」

塞「突き刺さるわー……」

照「けど、ちゃんと一位は守ってくれた。私はそれを、とても誇らしく思う」

塞「……ありがと」

照「もちろん、高鴨さんも、染谷さんも、井上さんも……みんな、ありがとう。みんなと同じチームになれて、本当によかった」

穏乃「こちらこそっ!」

まこ「相変わらずド直球じゃの。こそばゆいわ」

純「お前ホントにさっきまでお菓子こぼしてたやつと同一人物かよ、照」

照「その件は忘れて」

塞「ん、なんかあったの?」

照「なんでもない」

塞「そう?」

照「さて。なにはともあれ一位通過で決勝進出が確定したわけだけど」

穏乃「はい!」

照「チーム《劫初》はもちろん、準決勝進出を決めた《新約》や《幻奏》――ひいては《逢天》と《煌星》も、侮れない相手だというのが、今日の三回戦でわかったと思う」

まこ「少なくとも、わしゃ園城寺にはでっかい借りができた。決勝に上がってきたら、きっちり返してやらんとの」

照「決勝――四日後だね。《新約》、《幻奏》、《逢天》、《煌星》。この四チームの中から、どこが勝ち上がってくるかはわからない。けど、どのチームも、きっと三回戦より強くなってくる」

純「オレたちは今日、二位の《新約》に400点差まで詰め寄られた。あいつらがもっと強くなってくるってんなら、今のままじゃダメってことだな」

照「そう。これから決勝まで、敵チームの対策も含めた、最後の調整をする。みんな、ここからが本番という気持ちで、頑張ってほしい」

塞「そうね。私も決勝では暴れてやるわ」

照「はい。私から伝えることは、以上。何か質問は?」

穏乃「ありません!」

まこ・純「同じく」

塞「私も」

照「なら、今日はお疲れさまでした。解散」

穏乃・まこ・純・塞「ずこーっ!!」ズコー

照「なんちゃって////」

塞「あんた真面目な顔でボケるのやめなさいよ……」

照「ご、ごめん」

塞「まあ、そっちのほうが宮永らしくていいと思うけどさ」

照「……ありがとう。じゃあ、夕食も兼ねて打ち上げに行こうか。ケーキバイキングの美味しいお店を予約してあるんだけど、どこか、他に希望ある人は?」

穏乃・まこ・純・塞「大丈夫でーす!」

照「よかった。それじゃ、案内するから、付いてきて」

穏乃・まこ・純「はー――え?」

照「何か問題でも?」

塞「宮永……悪いことは言わないから、店の地図を私に見せなさい」

照「…………はい」

塞「よーし! あんたたち、私について来なさーい!!」

穏乃・まこ・純「はーいっ!!」

照「……臼沢さん……ひどい……」ウルウル

塞「しょ、しょーがないじゃない!? いいからっ、さっさと行きましょ、ホラ!!」ギュ

照「わっ」

 ――観戦室

菫「臼沢が能力を温存してのトップ通過。しかも照が一位で先鋒戦を終えてから、ただの一度も玉座から降りることなく逃げ切りとはな」

憩「見せつけられた感じしますねー」

煌「すばらです」

淡「決勝で倒すのが楽しみっ!」

菫「こら、大星。あまり上ばかり見ていると、思わぬところで躓くぞ?」

淡「ふっふーん! 私は高校100年生だよ!? この天才をそんな一般論の枠に嵌めてもらっては困るのさ!!」

憩「とかなんとか言うとりますけど、ええの? 花田さん」

煌「ご心配には及びません。淡さんの足元は、私が隈なく照らしますから。躓く原因になりそうなものも、事前にできる限り取り除くつもりです」

憩「さっすが花田さんやわー」

淡「キラメは私たちを導く《超巨星》なんだよっ!」

菫「チーム《煌星》……決勝でもう一度会いたいものだな」

憩「一度も試合しとらへんチームより、二度も試合しとるチームのほうが勝ちやすいですからねっ!」

煌「確かにその通りです。初めて戦うチームが相手だと、どうしても不確定要素が多くなってしまいがち。だからこそ、私たちは準決勝を経由することを選んだのです」

菫「ほう……まるで三回戦を一位通過することもできた、と言っているように聞こえるが?」

淡「そう言ったんだよっ! ね、キラメ?」

煌「はてさて。それはどうでしょうか」

憩「ええで。三回戦の順位なんて、もはや関係あらへんわ。二位であり続ければ決勝に行ける――それってつまり、確実に一位を取らへんとあかんのは、決勝のたった一回だけっちゅーことやもんな。
 ほんで、その一回の勝利のために、昨日、ウチらは一位通過を選び、花田さんたちは三位通過で良しとした。それだけのことやろ?」

煌「いやはや、荒川さんには敵いませんねぇ」

淡「ケイ、スミレ……決勝では負けないよっ!!」

菫「二度あることは三度ある――なんて常套句を返しておくことにしよう」

憩「どんだけ化けてくるんか楽しみやわー」

煌「それでは、また四日後にお会いしましょう。今日はすばらな時間をありがとうございました」

憩「こっちこそ、おおきに。収穫いっぱいやで。ホンマ誘ってよかったわー」

菫「今度、機会があれば元《虎姫》メンバーと五人で食事でもどうだ、大星?」

淡「それ超楽しそうっ!」

煌「すばらですが、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》が終わってからでお願いしますね」

淡「はーい」

煌「というわけで、私たちはお先に失礼します」ペコッ

淡「まったねー!!」

菫「ああ」

憩「ほなな~」

 ガラッ パタンッ タッタッタッ

菫「さて、私たちも帰るとするか。小走にも、有難うと伝えてくれ」

憩「承りです。いやー、しっかし、ホンマ、びっくりしましたね、今日は」

菫「……ネリー=ヴィルサラーゼか?」

憩「はい。魔術世界の《頂点》……もう一人の宮永照――」

菫「《幻奏》が上がってきたとして、荒川……お前、あいつに勝てるか?」

憩「どうでしょうね。打ってみないとわかりません。ただ、少なくとも、宮永照よりやりやすい相手なんは間違いないですわ」

菫「まあ、どちらかと言えばお前寄りの打ち手のようだからな」

憩「いや、相性とかの話ちゃいますよ。やりやすいっちゅーんは、もっと単純な理由です」

菫「ふむ……?」

憩「今日の先鋒戦……ネリーさんは、宮永照に、半荘一回でたった100点だけやけど、及ばへんかった。つまり……魔術世界の《頂点》も、アウェイの学園都市では、二番止まりってことです。
 せやけど、学園都市のナンバー2は、ウチですから。向こうで《頂点》やったネリーさんは、きっと、二番争いなんてしたことないでしょう。ほな、有利なんはウチです」

菫「なるほどな」

憩「安心してください、菫さん。ウチは宮永照以外には負けませんよ。魔術世界の《頂点》やろうと、運命奏者《フェイタライザー》やろうと、関係ない。宮永照未満の打ち手に、ウチは負けるわけにはいかへんのです……」

菫「……わかった。私はお前を信じるよ、荒川」

憩「おおきにです――」

憩(信じる、と来ましたか。嬉しいですね。どんどん増えていくやないですか、負けられへん理由が……)

憩(小走さんを戦いの舞台に引き戻すほどの打ち手……もう一人の《頂点》。幻を想うのではなく奏でる者――《幻奏》のネリー=ヴィルサラーゼ。ホンマに……負けるわけにはいかへんやんか。負けるわけにはいかへん……)

憩(ウチは二番やけど、一番にはなれへんけど、ここを譲る気はないで。ネリーさん……かつてそこにおった荒川憩としても、今ここにおる荒川憩としても、な……)

憩「ほな、行きましょか、菫さん」

菫「ああ。帰って今日の牌譜を分析しないとな」

憩「ちょいちょい、あんま根つめると決勝まで身体もちませんよー? ただでさえ、ネリーさんの即死呪文で一回ぶっ倒れとるんですから。保健委員からの忠告です。今日は大人しく休んでください。ええですね?」

菫「いやはや、お前には敵わんな」

憩「そうですね。ウチに敵うのは、世界にたった一人――宮永照だけですから」

憩(せや……ウチは学園都市のナンバー2。宮永照以外には負けるわけにはいかへんねん。今度こそ《頂点》に立つんや。宮永照、それに小走さんも……菫さんの行く手を阻む者は、全てウチが薙ぎ払ったる……!)

憩(四日後……なんもかんも、そこでまとめて決着をつけたるわ――!!)

【C・Dブロック三回戦結果】

<総合結果>

 一位:永代・108700

 二位:新約・108300

 三位:幻奏・92000

 四位:久遠・91000

<区間賞>

 先鋒:宮永照(永代)・+49000

 次鋒:新子憧(久遠)・+9100

 中堅:園城寺怜(新約)・+30800

 副将:愛宕絹恵(新約)・+13000

 大将:愛宕洋榎(久遠)・+31400

<役満和了者>

 数え:竹井久(久遠)

 小四喜:薄墨初美(新約)

 国士無双:宮永照(永代)

 国士無双:鶴田姫子(新約)

<半荘獲得点数上位五名>

 一位:園城寺怜(新約・中堅戦後半)・+38800

 二位:鶴田姫子(新約・大将戦後半)・+33000

 三位:宮永照(永代・先鋒戦前半)・+24800

 四位:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・先鋒戦前半)・+24700

 五位:宮永照(永代・先鋒戦後半)・+24200

<MVP>

 宮永照(永代)

 ――理事長室

恒子「いやー、手に汗握る《頂点》対決だったね~」

健夜「本当だよ……いや、本当に宮永さんが勝ってよかった……」フゥ

恒子「おや、お疲れですか、すこやん?」

健夜「うん、ちょっとだけ」

恒子「昨日の夜が激しかったせいですか?」

健夜「なにその誤解を招く言い方っ!? 確かに昨日の夜はマリ○カートで激しく遊んだけどさ!? まだまだ現役のス○ファミで身体傾けながらコーナー曲がったけどさ!?」

恒子「アラフォーなのに年甲斐もなくね!」

健夜「アラサーだよっ!!」

恒子「ま、お約束のやり取りはこれくらいでいいとして、本当に大丈夫? ここのとこ、ずっと調子悪くない? 健やかじゃなくない?」

健夜「風邪か何かだよ、たぶん」

恒子「一度、赤阪先生に診てもらったら……?」

健夜「うーん……四十近いし更年期障害じゃないかって言われそ――アラサーだよッ!!」ゴッ

恒子「おお、セルフでそれやっちゃうんだ!」

健夜「っていうのは、まあ、冗談だけど。本当に、そこまで大したものじゃないから、大丈夫だよ」

恒子「本当に……?」

健夜「本当だって。だから、そんな顔しないで、こーこちゃん」

恒子「だって……すこやんが辛いのは、私も辛いよ」

健夜「ありがと。でも、心配してくれるのは嬉しいけどさ。こーこちゃんが元気じゃないのが、私は一番心苦しいから」

恒子「そう……?」

健夜「うん。こーこちゃんには、笑っててほしいな。笑って――私の疲れをどっかに吹き飛ばしてほしい」

恒子「……おーほっほっほ!!」

健夜「えっ!? なぜそんな女王様みたいな高笑い!?」

恒子「ほほう、『女王様』?」キュピーン

健夜「だから言葉の抜き出し方っ!!」

恒子「だいじょーぶ大丈夫。ほどほどで終わらせるからっ!」ジリジリ

健夜「どういうことー!?」

恒子「ふふふっ、たまにはこーゆーのもアリだよね!!」ガバッ

健夜「わあああああああああああ!?」

 ドタバタ ドタバタ

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》決勝まで、あと四日]

ご覧いただきありがとうございました。

これにて、本選トーナメント編(C・Dブロック三回戦)はおしまいです。

次回から、本選トーナメント編(準決勝)が始まります。

一週間以内に更新できるかと思います。

では、失礼しました。

 ――以下、チーム一覧――

○決勝進出

《劫初》:弘世菫、天江衣★、荒川憩、エイスリン=ウィッシュアート、辻垣内智葉

《永代》:宮永照★☆、井上純、臼沢塞、染谷まこ、高鴨穏乃☆

○準決勝進出(二位以上、決勝進出)

《逢天》:二条泉、姉帯豊音、神代小蒔★、松実玄☆、龍門渕透華

《煌星》:花田煌☆、大星淡★、東横桃子、宮永咲★、森垣友香

《新約》:園城寺怜☆、愛宕絹恵、薄墨初美、鶴田姫子☆、原村和

《幻奏》:小走やえ、江口セーラ、片岡優希、ネリー=ヴィルサラーゼ、亦野誠子

○三回戦敗退

《豊穣》:渋谷尭深☆、石戸霞、清水谷竜華、福路美穂子、松実宥

《久遠》:竹井久、愛宕洋榎、新子憧、小瀬川白望、白水哩

(※ ☆=レベル5、★=ランクS)

今思ったんだけど、怜は咲がランクSって気づいてない?

《久遠》の話と、あと《豊穣》の話をほんのちょっとだけ。

 *

三回戦開始直前に、《新約》の目的が『《久遠》と戦う』から『一軍になる』に変化し、それによって元のオーダー(中堅・絹恵さん、副将・鶴田さん、あと明言してませんが大将・園城寺さん)が変更になったところが、フラグというか、分岐点になっています。

元のオーダーのままだと、中堅・絹恵さんは小瀬川さんに苦戦するでしょうし、副将・鶴田さんは白水さんの《リザベーション》の恩恵を受けられませんし、大将・園城寺さん(覚醒時で洋榎さんと同格との評)も、江口さん&洋榎さん相手では厳しい戦いになったかと思われます。

オーダー変更したことで、園城寺さんが小瀬川さんを抑え、モチベ的な意味で絹恵さんが白水さんを上回り、鶴田さんがレベル5として愛宕さんと戦うことができた。それが《新約》の勝因の一つです。

 *

あとは、白水さんと鶴田さんの関係性でしょうか。鶴田さんは、白水さんと別れてから、能力に頼らない打ち方を模索しています。一方で、白水さんは、洋榎さんに指摘されていましたが、《久遠》での練習の際、時折《リザベーション》をして打っていました。

これはとてもとても個人的な意見なんですが、二人が恋愛的な意味で別れた場合、なんとなく、白水さんはぼんやり独り身でいて、鶴田さんは大泣きするけどゆくゆくは立ち直って新しいパートナーを見つけそう、と私は思っていて(卒業などの理由で白水さんと別れた後、鶴田さんが花田さんがいい感じになる新道寺SS、大好物です)、

それが、鶴田さんと絹恵さんの関係だったり、副将戦の結果だったりに反映されています。なので、白水さん―鶴田さんラインについては、私が書く限り、どういう世界線でも鶴田さんエンドになります。

 *

《久遠》と《逢天》の因縁は、

>久「面白いじゃない。一体どうやって後悔させてくれるのかしら? 一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で私たちに勝つ、とか……?」
>玄「少し違いますね。私は一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で優勝するつもりです。あなた方の約束とやらと、私たちの誇り――どちらが本物か、はっきりさせようと言っているんです」

といった具合で、直接対決の形ではなく、約束と誇りのお話として書くつもりです。《久遠》が抱えていた諸々の約束は、《約束の鍵》こと鶴田さんに託され、そんな鶴田さんが大将を務める《新約》が、《逢天》と直接対決をします。

また、竹井さん―玄さん、新子さん―二条さんのラインは、準決勝のオーダーを見ればわかりますが、《新約》を通して繋がる構造になっています。

 *

《久遠》は約束と憧憬のチームなので、前者は鶴田さん、後者は新子さんに託したところで、五人のストーリーは完結しています。それ以外で引っかかった点については、(たぶん)伏線なので、語られる時をお待ちください。

ちなみに、《豊穣》は実りのチームなので、渋谷さん―宥さんライン、最後の夏に神代さんと打ちたいと言った石戸さん、個人戦ではなく団体戦で辻垣内さんに勝とうとした清水谷さんについては、実が結んでお話が完結しています。

残るは福路さん―竹井さんラインだけですね。福路さんの想いは実るのか。最新刊を読んだことで、ガイア(福路さん)が私に部キャプの至高性を囁きかけてきます。頑張れ、負けるな、新子さん。

ああ、そうですね、部キャプ的な意味では、反対側で《豊穣》が《煌星》に敗退したことが、《久遠》と《新約》の明暗を分けたのかもしれませんね……。

 *

さて。長くなりましたが、準決勝が始まります。

>>551さん

気付いています。咲さんがランクSなのは周知の事実です。

>怜「ほなっ! トップ通過はできひんかったけど、まだまだ《頂点》への道は続いとるっ! 二日後の準決勝――反対側からは《逢天》と《煌星》、ランクSの魔物三人と、レベル5のツートップがお目見えや!! 」

のとこですかね。この『三人』というのは、神代さん、大星さん、咲さんを指しています。『ツートップ』は花田さんと玄さんですね。

 ――準決勝前夜・風紀委員第一七七支部

 ピコ ピコ チー ピコ ピコ

和「怜さん、いつまでやっているんですか? 明日は早いのですから、もう帰りますよ」

怜「待って待って、もうオーラスやから。ほいっ、これでどやっ!!」

 ピコン

怜「えーっ!? 76パーやと!! おっかしーなぁ。わりとええ感じやったと思うんやけど。くっ、ほな、もう一回……!!」

和「気に入っていただけたようで何よりなのですが、もう時間なので、終わりにしてください」

怜「ちぇー。せめて本番までにもう一回くらいはクリアしたかってんけど……しゃーない。あとは本番でなんとかしたろかー!」

和「頼みますよ」

怜「おう。頼まれたで。ついては和!」

和「嫌です」

怜「ちょっと膝ま――否定はやっ!? さては和も一巡先が見えるようになったんか!?」

和「怜さんの言動のパターンを覚えただけです」

怜「ねー、和ーっ! ちょっとだけ、ちょっとだけでええからっ! なー?」

和「…………五分だけですよ」

怜「やっほーい!!」

和「まったく……困った人です。怜さんは」ドウゾ

怜「和が悪いんやでー? こんなけしからんふとももをお持ちやから」ホナエンリョナク

和「これで明日の準決勝の結果が悪かったら、二度としてあげませんからね」

怜「っちゅーことは、麻雀で勝ち続ける限り、和の膝は永遠にうちのものっちゅーわけやんな!」

和「はいはい。それでいいです。対局に勝ってくれるなら」

怜「任せとき。絶対に勝ったるわ」

和「怜さんは本当に口達者ですよね」

怜「和が口下手過ぎるんよ。ちょいちょい何言うてるか聞き取れへんもん」

和「慎み深いと言ってください」

怜「とか言うてー、こっちのほうは慎みを知らんみたいやけどなー?」ポヨンッ

 ボコッ

怜「…………和、いくらうちが魔改造人間いうても顔面グーはさすがにひどいやろ……」

和「自業自得です……////!」

怜「はぁー……せやけど、やっぱ、ええな。ど突き合いの付き合い……幸せやわ」

和「…………」ジト

怜「ちゃうちゃう!? 痛いのがええとかそういう意味やないからな!! やからそんな姫子を見る目でうちを見るんはやめて!?」

和「……怜さんは本当に困った人です。頭が空っぽで軽薄で欠陥品で――本当に……頼りになる困った先輩です」

怜「……おおきに」

和「姫子さんは、変態ですけど、誰より努力して、誰より強い心を持っている困った先輩です」

怜「せやな。やっぱレベル5になるようなやつの精神力は、並みの雀士とは桁違いやで」

和「絹恵さんは、意外と適当で意外と繊細ですけど、どういうわけかここ一番に強い困った先輩です」

怜「絹恵は中身と外見でギャップあるよなー。臆病やったり脆かったり、かと思えば和ばりに空気読めなかったりするし。ま、そこがあいつの魅力やんな」

和「初美さんは、オカルト信者ですけど、なんだかんだで精神的には一番大人ですし、麻雀も強いですし、見ていて安心できる困った最上級生です」

怜「初美はまさしく小さな巨人やな。あいつがおるから、学園都市の風紀は守られとるんやって、ことあるごとに思い知らされる」

和「……私も、先輩方のように強くありたいものです」

怜「和も十分強いやん。麻雀だけやない。出会った頃に比べると、随分変わったと思うで」

和「怜さんも変わりましたよ。最初はただのクルクルパーでしたけど、今はとても頼もしいクルクルパーです」

怜「結局クルクルパーか!?」

和「失礼」

怜「っとにもー……和は素直やあらへんな」

和「科学《デジタル》の基本は全てを疑うことですから。根拠のない事柄を信じることから出発する能力《オカルト》とは相容れないのです」

怜「悲しい運命やなー」

和「けれど……最近、少しだけ、私もオカルトに毒されてしまったようですね。どういうわけか、明日の準決勝に勝って、三日後の決勝で優勝する情景が……次々と目に浮かんでくるんです」

怜「信じたらええやん。そしたら、それは現実になるで。うちの能力と一緒や」

和「これが未来を見るということなのでしょうか」

怜「せや。それが未来を創るっちゅーことや」

和「そんなオカルト……悪くありませんね」

怜「SOWAやんな」

和「SOWAです」

怜「ところで、もう五分過ぎてへん?」

和「私の体感時間では、まだ二分くらいなんです」

怜「ほな、もうちょっとこのまま……」

和「……怜さん」

怜「勝ちましょう――やろ? わかるで。未来が見えへんでも、和の言いたいことは」

和「言葉は口にすることに意味があるのです。というわけで……改めて。
 勝ちましょう、怜さん。明日も三日後も。勝って、私たちが一軍《レギュラー》になるんです」

怜「ああ……絶対にな」

和「はい。必ず――」

 ――準決勝前夜・アイテム隠れ家

玄「泉ちゃーん、いい加減に寝ないと、明日に響くよ」

泉「わかってますよ。あと、ちょっとだけ。ちょっとだけですから」

玄「それさっきも聞いたんだけど……」

泉「す、すいません。けど、この対策表……ちゃんと読み込んでおきたくて」

玄「まあ、作成者の私としては参謀冥利に尽きるわけだけど、それで対局に悪影響が出るのは本末転倒だから。
 明日、オーダーが確定したら、改めて口頭で要点を説明する。それでいい?」

泉「……わかりました。玄さんの言う通りにします」

玄「よろしい」

泉「小蒔さんは?」

玄「ぐっすり寝てるよ。なに、寝込みを襲う気?」

泉「みんなおるとこでそんなことしませんよ……」

玄「じゃあ誰もいなかったらするかもってことか。泉ちゃんってばおもちのわりに野獣さんだね」

泉「おもち関係ありませんから、それ。ほな、おやすみです」

玄「おやすみー」

泉「……って、玄さんは寝ないんですか?」

玄「私はいいの。作戦考えないとだし、ネリーさんは無理でも、せめて花田さんの能力くらいは突き止めておきたいし」

泉「さっきの台詞をそっくり返しますけど、無理するんは身体に毒ですよ?」

玄「一般人の泉ちゃんとは鍛え方が違うの。お母さんがいなくなってから、家事と旅館の切り盛りとお姉ちゃんのお世話を一人でしてきた私にとって、これくらいの夜更かしは夜更かしのうちに入らないのです」

泉「玄さんは……ホンマ、強いですね」

玄「強くないよ。憩さんたち《三強》には勝てないし、当然ナンバー1にもなれてない。自慢の超能力も二番になっちゃったし……もう散々」

泉「せやけど、玄さんあっての、チーム《逢天》やと思います」

玄「みんなあってのチームだよ。私はただ、自分の役割を全うしようとしてるだけ」

泉「……敵いませんねぇ」

玄「当たり前でしょ。私は超能力者《レベル5》なんだから、無能力者《レベル0》の泉ちゃんなんて、指一本動かさずに100回はブチ倒せる。だから、安心していいよ。優勝は私たちのもの――」

泉「玄さん……」ギュ

玄「……泉ちゃん、後ろから不意打ちはよくないと思うよ? というか、浮気?」

泉「うちは小蒔さん一筋です。これは……その、なんちゅーか。吸い取っとるんです」

玄「なにを? おもち?」

泉「玄さん、一人でなんでも背負わんでください。少しはうちにも分けてください。お持ちなんはええですけど、ドラみたいに独占するんはあきませんよ」

玄「……泉ちゃんは、ホント弱いくせに、そーゆーとこだけしっかりしてるよね」

泉「書類上そうやってだけですけど、一応、チームリーダーですから」

玄「わかった。じゃあ、少しだけ、私の抱えてるおもちを、泉ちゃんにあげる。いいかな?」

泉「なんなりと」

玄「明日と三日後、泉ちゃん――相手が誰であっても、少なくとも前後半のどちらかは、勝ってみせて。それだけで、私たちの勝率はぐんと上がるから」

泉「前後半のどっちかなんていわず、区間賞取って来たりますわ」

玄「できなかったらオシオキ確定ね」

泉「やったりますよ……!」

玄「よしっ。なら、二、三回戦みたいな、泉ちゃんボロ負けパターンを考慮するのは、やめることにする。
 あと片付けておきたい問題は花田さんの能力だけど……これは――明日早起きして考えることにしよっかな」

泉「それがええと思います」

玄「……泉ちゃん」

泉「はい、なんですか?」

玄「勝つよ。勝って誇りを取り戻す。無能力者、超能力者、支配者、デジタル、オカルト――私たち五人の誇りを、私たち五人で取り戻すんだ」

泉「……はい」

玄「さて、そうと決まれば、一緒に小蒔ちゃんを襲おうか。おもちは私がいただくから、それ以外は泉ちゃんの好きにしていいよ」

泉「突然なに言うてはるんですかー!?」

玄「泉ちゃんが私の緊張を解くから発作が再発しちゃったんだよっ!? うあああああああ、おもちだ!! 圧倒的におもちが足りないッ!!」

泉「誰かー!? 《豊穣》の人ら連れてきてー!!」

 ――準決勝前夜・やえ自室

ネリー「……ねえ、やえ」

やえ「どうした? 小遣いならやらんぞ」

ネリー「そうじゃなくて」

やえ「まさか、明日のおやつを買い忘れたなんて言うんじゃないだろうな?」

ネリー「違う。もっと大事なこと」

やえ「お前がお金とおやつより大事な話だと……? あまり聞きたくはないな」

ネリー「どの道避けては通れないと思うよ」

やえ「……《通行止め》のことか?」

ネリー「そんな感じかな。正確には、きらめだけじゃなくて、てるやさきもなんだけど」

やえ「花田煌と宮永姉妹がどうした」

ネリー「あの三人の能力――《通行止め》、《八咫鏡》、《プラマイゼロ》……これらは、どれも同じ系統の能力なんだよ」

やえ「は……? 待て、お前は何を言っている? 花田と宮永咲の能力が配牌干渉系なわけがなかろう。解析は遅々として進まんが、私の見立てではメインは全体効果系で――」

ネリー「ううん。同じなんだよ。そもそもね、あの三人は、運命創者《プレイヤー》じゃないの」

やえ「あれが運命操者《コンダクター》――感知系と感応系にできる芸当だと言うのか?」

ネリー「残念ながら、運命操者《コンダクター》でもない」

やえ「なんの謎掛けだ、それは……?」

ネリー「あの甘美にして完備な旋律を奏でる魔術師を、私たちは運命想者《セレナーデ》と呼ぶ」

やえ「運命想者《セレナーデ》? 聞いたこともないが……」

ネリー「だろうね。魔術世界でも、その名を知る者はごく僅か。現世でその《原譜》を目にしたことがあるのは私だけ。《決してこの世に現れてはいけない魔術師》……それが運命想者《セレナーデ》なんだよ」

やえ「運命奏者《フェイタライザー》より秘匿な存在ってことか。その……そいつは一体なんなんだ……? 私たちの世界の言葉で表現できるか?」

ネリー「それはもう。一言で説明できるよ」

やえ「聞かせてもらおうか」

ネリー「点棒操作系」

やえ「…………それは、あれか? オヤスミ前のちょっとしたジョークってやつか? 確かにインパクトはあるが、笑えないんじゃジョークとしては三流以下だぞ」

ネリー「てるの能力は、《発動条件を満たせば絶対に役満を和了れる》――《48000点を絶対に獲得する》能力」

やえ「おい、ネリー……」

ネリー「さきの能力は、《符の制約を守ることで自身のポイントをプラマイゼロにする》――《半荘終了時に自身の点棒を29600点から30500点の範囲に収め、且つ自身が二位ないし三位になるよう他家の点棒を調整する》能力」

やえ「待て……」

ネリー「きらめの能力は――まだわからないけれど、点棒操作系であることは、今までに聞こえてきた曲調からして、間違いない。
 とりあえず、きらめの全牌譜を25000点持ちの30000返しで検証してみれば、何かしら決定的な共通点が見つかると思う」

やえ「ニワカには信じられんな」

ネリー「私も信じられない。けれど、運命想者《セレナーデ》――点棒操作系能力者っていうのは、事実、過去に存在例があるんだよ。発狂しない自信があるのなら、今ここで《原譜》を並べて見せてあげてもいい」

やえ「丁重にお断りだ、そんなもん」

ネリー「断るってことは、実在は認めてくれるんだね?」

やえ「科学世界には『オッカムの剃刀』という考え方がある。『ある事柄を説明するために、必要以上に多くの仮定を設けるべきではない』『一つの事柄に対して複数の説明が存在するとき、よりシンプルなものを採用すべき』――もちろん、限度はあるがな。
 今回の場合、特に宮永咲の《プラマイゼロ》がいい例だろう。自身がプラマイゼロになるような場を生み出す全体効果系能力にいくつかのサブ能力が複合した力――なんて持って回った言い方をするより、
 そのもの《自身のポイントをプラマイゼロにする》点棒操作系能力と言い切ったほうが、いかにもそれらしい」

ネリー「そうだね。きらめの《通行止め》も、たぶん十文字以内で説明できると思うよ」

やえ「ふん……麻雀とは点棒を奪い合うゲーム――そこに直接干渉できる能力、か。麻雀の意義を根本からひっくり返すような系統だな。宮永の《八咫鏡》を食らったとき、お前がひどく狼狽していたのはこのためか」

ネリー「そうなんだよ。あの局――あのとき、あらゆる運命が一つに収束していた。どんな打ち方をしようと、どんな奏で方をしようと、てるが48000点を獲得する運命を《絶対》に変えることができない。
 耳を疑いそうになったけど、耳を塞ぎそうになったけど……事実、私の力であれを止めることはできなかった」

やえ「そっか。そういうことだったのか……」

ネリー「さきのほうは、能力値がレベル4だから、《絶対》じゃない。さとはが真っ二つにしたように、そのはちゃめちゃな場の支配から、やり方次第で逃れることができる」

やえ「姉の宮永照はレベル5だから、それもできんわけだな?」

ネリー「けど、てるには《発動条件》がある。てるの七連続和了は、かなりキツいけど、《絶対》に止められないものじゃない。
 超能力も、使われなければどうということはない、ってこと。そういう意味で、てるの《絶対》は、厳密な《絶対》じゃないと、私は解釈してる」

やえ「花田はそうじゃないというのか……?」

ネリー「たぶん……《発動条件》も《制約》もないんじゃないかな。てるの《万華鏡》やさきの《嶺上》みたいに、それらをクリアするための補助能力みたいなものが、きらめにはないっぽいし」

やえ「《発動条件》も《制約》もない常時発動型――体質、或いは、呪縛。あいつがそれを想う限り永続する《絶対》の点棒操作……効果によっては、私の《不確定性仮説》の証明が頓挫するかもしれんな」

ネリー「運命論の大原則も粉々にされるよ」

やえ「『信じることをやめない限り、決して諦めない限り、神様は、必ずそこに至る道を用意してくれている』……だったか。
 なるほど。神が人に与え給うた無限の道程――それを、あいつは《通行止め》にするかもしれない、ということだな。運命――無限の可能性――を閉ざす力。運命論の申し子であるお前が恐いというのも納得だ。
 いやはや、想像以上の《怪物》らしいな、花田煌」

ネリー「……まだ、話はこれで終わりじゃないよ、やえ」

やえ「……というと?」

ネリー「本当に危険なのは、運命想者《セレナーデ》じゃなく運命喪者《セレナーデ》――きらめの想いが、絶望に変わることなんだ」

やえ「何がどうなる……?」

ネリー「運命喪者《セレナーデ》の絶望は世界の絶望になる。甘美にして完備――あの旋律は、世界と共振することができるんだよ」

やえ「……世界、と来たか――」

 ――準決勝前夜・煌&淡自室

淡「ふー、さっぱりした――って!? わわっ!? キラメ、まーた怪しげな魔術書を読んでるっ!? もーっ、それ不気味だからしまってよー!!」

煌「これは申し訳ありません。淡さんの前では読まないようにしていたのですが、つい夢中になってしまって……」

淡「ふーん……? そんなに面白いの、それ?」

煌「《法の書》という古い魔術書について書かれたものです。なかなかに興味深い内容ですよ。淡さんにとってはどうかわかりませんが」パタンッ

淡「ほえー」

煌「それはそれとして、淡さん。夏とは言え、室内は空調が利いています。タオル一枚でウロウロしていると風邪を引きますよ?
 私が魔術書を片付ける間に、服を着て、髪を乾かすこと。よいですね?」

淡「はーい!」

煌「ふう……」シマイシマイ

淡「明日は準決勝だねー、キラメ!」キガエキガエ

煌「ええ。だんだんと、《頂点》が近くなってきました」

淡「《新約》と《幻奏》は合宿以来だよねー」ドライヤー

煌「そうですね。合宿では淡さんが脱走して大変でした」

淡「んー? ドライヤーがうるさくて何言ってるか聞こえないなー?」ガー

煌「今思うと、涙目の淡さんというのは非常に貴重でしたね。正直、かなりきゅんとしました。それはもうイチコロでした」

淡「マジで!? ど、どうしよう……目薬持ち歩こうかな……」ガー

煌「しかし、淡さんにはやっぱり笑顔が似合いますよ」

淡「ありがと」ニパー

煌「さて、乾かし終わりましたか? よろしければ、御髪を梳かして差し上げましょう。こちらへどうぞ」

淡「わーいっ!」ピョン

煌「ふむふむ……このシルクのような手触り。大変すばらです」サラサラ

淡「キラメは髪梳かすのうまいよねー。すっごく気持ちいーもん」

煌「母によく同じことをしていたんです」

淡「ん? そこは普通、同じことをしてもらったなんじゃないの?」

煌「言われてみれば……まあ、私が好きでやっていたので。母の髪は淡さんと同じで、クセはありますが髪質が柔らかで、触るのが楽しかったんですね」

淡「キラメの髪は硬めのストレートだけど?」

煌「私は全体的に満遍なく父似なのです。母に似たのは目くらいですかね」

淡「キラメの目、いつもキラキラしてるよねっ!」

煌「いくら本を読んでも、視力は落ちず、疲れも乾きもしない。まさにウォーリーを探し出すためにあるかのような、豊潤で潤沢な自慢の瞳です」

淡「ほあー」

煌「夜になると、よく、母と星空を眺めました。どちらがより小さな星を見つけられるか、勝負したものです」

淡「ロマンチック! いいね、じゃあ今から私と勝負しよっ! 私も視力はいいほうだからねー!!」

煌「いいですね。たまには、童心に返るというのも――」

 ガラ

淡「わーっ、お外あっつい!」

煌「夏ですからねぇ」

淡「おっ!! さっそく彦星と織姫をはっけーん!!」

煌「アルタイルとベガ。それにデネブ――有名な夏の大三角です」

淡「んー……けど、学園都市は夜でも明るいから、小さいのはあんまり見えないなー」

煌「おや、本当ですね。私の実家は山奥だったので、もっとよく見えたのですが……」

淡「キラメは《新道寺》の人たちと同郷なんだっけ?」

煌「いえ。そちらへは、中三のときに引っ越したのです。元々は、咲さんや桃子さんと同じ地方に住んでいたんですよ」

淡「あははっ、霧島と並ぶ大魔窟って噂の!」

煌「そのようですね」

淡「笑っちゃうよねー。私以外のランクSとランクA強が、全員、霧島かそこの出身っていう」

煌「まさに魔物の巣窟です」

淡「私も一度行ってみたい。この国の屋根――ほら、私ってシティっ子だからさ。満天の星空って写真や映像でしか見たことないんだ。きっと本物は綺麗なんだろうなー」

煌「ええ……それはもう綺麗でしたよ。夜なのに、空が、光で満ちているのです」

淡「うん……」

煌「星の光というのは、とても不思議なものです。私たちが見ているのは、過去の光。何万年も前に、遥か遠くで放たれた光が、今こうして、私たちの目に映る。今を生きる私たちに届くのです」

煌「遠い遠い真空の虚空――闇の中で誕生した光は、原子の一つもないような無の空間を、ひたすらに真っ直ぐ進みます。全方位に放たれた無数の光の束……そのほとんどは、永遠に、果てのない闇をさ迷い続けることになります。しかし――」

煌「ごく稀に、光は、誰かの目に留まることがある。誰かを導く灯火となることがある。気が遠くなるほどに長い道の先、想像もつかないほどに長い時の末、光は、そのエネルギーを、誰かに受け渡すことができるのです」

煌「それが、いつ、どこで、どんな人に届くのかは、辿り着いてみないとわかりません。けれど、とにもかくにも、歩き出してみるしかないのです。光を放つしかないのです」

煌「虚しく冷たい闇の中を生きる一人ぽっちの星……私たちは、そうすることでしか、誰かと繋がることができない。
 だから、そのエネルギーが尽きるまで、光を放ち続ける。命の炎を燃やして、輝き続ける」

煌「蛍火のような弱々しい光でも、超新星のような神々しい光でも、光は光。それは、いつかどこかで絶対に、きっと誰かの導きとなる。諦めずに進み続ける限り、最後には全てうまくいく――そう、信じる。信じて……煌めく」

煌「……これが、私の名の由来です」

淡「……とってもすばらだね」

煌「はい。気に入っています」

淡「ねえ……キラメ」

煌「なんでしょうか、淡さん」

淡「キラメは、私たちを導いてくれた。今も導いてくれてる。だから、キラメも、迷ったり立ち止まったりしそうになったら、その自慢の瞳で探してみてほしいんだ。
 私たちは五人で一つのチーム《煌星》。そのことを……よく覚えておいてね」

煌「ええ……もちろん、わかっていますとも」

淡「じゃっ、そろそろ寝よっか! キラメ、今日はどっちのベッドで寝るっ!?」

煌「では、いつも通り、私は私のベッド、淡さんは淡さんのベッドで寝ましょう」

淡「むぅー! キラメってばスミレと同じでお堅い! ちょっとくらいいいじゃーんっ!!」ムギュー

煌「いけません。さ、淡さん。そこから先は《通行止め》です。回れ右をして、きちんとご自分のベッドでお休みください」

淡「うぅぅ、こんなのおかしいよっ!? 出会ったばかりの頃のキラメは、もっと初々しかったのに……!!」

煌「人は日々成長するものです。では、よろしいですか? 電気消しますね?」

淡「よろしくないけど、はーい」

煌「おやすみなさい、淡さん」

淡「うん、おやすみっ!」

 パチン

 ――準決勝当日・朝・オーダー提出所

煌「おや」

淡「ほうっ!」

やえ「ここまでぴったり揃うのは珍しいな」

ネリー「おはようなんだよっ!」

怜「ご機嫌うるわしゅ~」

和「本日はよろしくお願いします」

泉「お手柔らかによろしくでっす」

玄「手加減するつもりはないけどね」

煌・淡・やえ・ネリー・怜・和・泉・玄「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ「っと――こんなところで睨み合っていても試合の結果には繋がらない。さっさと提出して一抜けさせてもらうぞ」ペラッ

ネリー「試合もトップ通過で一抜けするんだよっ!!」

 《幻奏》オーダー

 先鋒:小走やえ

 次鋒:亦野誠子

 中堅:江口セーラ

 副将:片岡優希

 大将:ネリー=ヴィルサラーゼ

煌「では、私たちもあやかりまして、二抜けということで」ペラッ

淡「試合は一抜けしてやるけどねっ!!」

 《煌星》オーダー

 先鋒:大星淡

 次鋒:森垣友香

 中堅:東横桃子

 副将:宮永咲

 大将:花田煌

怜「出遅れた!? くっ、しもた……三抜けやと……!!」

和「どうでもいいです。SOAですから早く提出してください」

 《新約》オーダー

 先鋒:薄墨初美

 次鋒:愛宕絹恵

 中堅:園城寺怜

 副将:原村和

 大将:鶴田姫子

泉「残りもんには福がある――っちゅーのは、ちょっとちゃいますかね、この場合」

玄「幸運っていうのは、与えられるものではなくその手で掴み取るものなのです、泉ちゃん」

 《逢天》オーダー

 先鋒:松実玄

 次鋒:龍門渕透華

 中堅:姉帯豊音

 副将:二条泉

 大将:神代小蒔

煌・淡「ではでは、みなさん」

やえ・ネリー「続きは対局室で」

怜・和「決着をつけましょう」

泉・玄「もちろん決勝に行くのは――」

煌・淡・やえ・ネリー・怜・和・泉・玄「私たちッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――特別観戦室A

憩「おおーぅっ! ゴージャス!! 広々空間やでー!! お金かかっとんなー!!」

衣「衣の部屋ほどではないがなっ!!」

智葉「騒ぐな、ガキども」

エイスリン「ビップ、タイグウ!!」

菫「勝ち抜け条件が変更になった今年からのシステムだそうだ。一足先に決勝行きを決めたチームは、決勝で初対戦のチームを最大三チーム相手にすることになる。
 ゆえに、準決勝で対戦相手の十分な研究ができるよう、専用の観戦室が用意されるわけだ。これとまったく同じ部屋が、隣にもあるらしい」

憩「へー、っちゅーことは、もしかしてこの扉――」

 ガチャッ

 ――特別観戦室B

穏乃「うおおおー! デリシャス!! すごい美味しいパン!! 略してすごパ!!」パクパク

まこ「わらなんで来るなりルームサービス頼んどるんじゃ……」

純「腹が減っては偵察も……むぐっ……できねえ」バクバク

塞「食うか喋るかどっちかにしなさい」

照「お行儀が……もぐもぐ……悪いよ」モグモグ

穏乃「ご馳走様でした! おっ!? これはなんですか? この扉――」

 ガチャッ

穏乃「ふおおおおおおおお!?」

塞「うっさいわね高――げえー、《白衣の悪魔》!?」

憩「どもです~ぅ」

智葉「ほほう。こちらは内装が反転しているのだな」

照「辻垣内さん……先日は咲がお世話になったそうで」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

エイスリン「ゴアイサツニ、キタゼッ!!」バーン

まこ「わらわらと……」

衣「じゅーん!! まっこー!!」ダッダッダッ

純「おーっ、衣じゃねえかー!! 相変わらずちっせえなー!!」

菫「おい、お前ら勝手に――」

憩「わっ、ホンマにいつもジャージなんやねっ!? うん、健康的でええと思うでっ!!」

エイスリン「コノ、シナヤカナ、キャクセンビ!!」カキカキ

穏乃「て、照れますー////」

まこ「衣、わら縮んだか?」ナデナデ

純「縮んだな。間違いなく縮んだ」ナデナデ

衣「二人して撫でるなぁー!!」

智葉「よう、一昨日の大将戦は大活躍だったな? さすが点棒バンクと名高い《財王》――じゃなかった、《塞王》だ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「あんたこそ、三日前は清水谷や豊音相手に快勝してたわね。あんまりナマクラなもんだからニセモノかと思ったわ、この《偽刃》」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫「一瞬で打ち解けている……だと……?」

照「まあ、高鴨さんとウィッシュアートさん以外の二、三年生は、みんなクラス対抗戦で同じチームだったわけだし」

菫「それはそうだが」

照「どうする? こっちでみんなで見る?」

菫「まあ、もう完全にそういう空気になっているよな……」

 ワイワイ ワイワイ

『準決勝先鋒戦、対局者は対局室に集まってください』

照「なんか、懐かしいね。こうやって、菫と、敵チームの偵察するの」

菫「えっと……その、悪かったな。チーム申請のときは、ひどいことを言って……」

照「わかってるから、大丈夫。菫は二年間も一緒に打ってきた仲間だもん」

菫「……有難う。お前はやはり、最高の友人で、最高の敵で、最高の仲間だよ、照」

照「……ねえ、菫。お菓子、食べる?」

菫「ああ。あまり甘過ぎないやつを頼む」

照「うん、知ってる」

『先鋒戦開始まで、あと十五分です』

 ――《煌星》控え室

淡「っしゃあああああ! ダブリーぶちかましてくるよー!!」

咲「カン裏乗らないけどね!」

桃子「四喜和にもお気をつけっす!」

友香「小走先輩も要注意でー!」

淡「わかってるよい、そんなこと! 準決勝の先鋒戦だよ!? どこのチームもエース級の実力者を据えてくる。けどっ! 私は高校100年生だから誰が相手でも勝てるのさーっ!!」

煌「頑張ってください、淡さん。私はあなたの勝利を信じていますよ」

淡「ありがと、キラメ。信じて待ってて。大爆発してくるからっ!!」

咲「爆死しないでね、淡ちゃん!!」

桃子「そろそろエースのいいとこが見てみたいっす!!」

友香「負けたら承知しないでー、《超新星》!!」

淡「オッケー!! じゃ、行ってくるッ!!」ゴッ

煌・咲・桃子・友香「行ってらっしゃい!!」

 ――《逢天》控え室

玄「さて、行ってきますか」

小蒔「お願いします、玄さんっ!!」

豊音「相手かなり強そうだけど、クロならきっとちょー大丈夫だよー」

透華「やはりあなたには先鋒が似合いましてよ、玄」

玄「みんなありがと。本当はちょっぴり不安もあったけど、いけそうな気がしてきたよ」

泉「頼みます、玄さん」

玄「泉ちゃんこそ、昨日言ったこと忘れてないよね?」

泉「はい、それはもう!」

玄「よかった。ま、脅かしておいてなんだけど、今はそんなに気を張らなくても大丈夫だよ。
 透華ちゃんと豊音さんの対局中に、じわじわギアを上げてあげるから、先鋒戦の間は寝ててもいいくらいかも」

泉「何から何までありがとうございます」

小蒔「玄さん、泉さんのことを気遣うのも結構ですが、ひとまずは――」

玄「わかってる。小走さんも、薄墨さんも、大星さんも、強いのは知ってる。けど、今は負ける気がしないんだ」

小蒔「ふんふむ」

玄「これが個人戦だったら、事情は違ったかもしれない。薄墨さんは《一桁ナンバー》だし、小走さんは私の能力を私より熟知してる。大星さんなんか、眩し過ぎて近寄ることもできないかも。でもね……」

玄「今は、みんながいるから。負けられない気持ちも、勝ちたい気持ちも、この胸に五人分あるんだ」

玄「それに、泉ちゃんのことも、気遣いとか、そういうんじゃないの。あ、いや、チーム申請する前はね……実際、私は泉ちゃんのこと、ちゃんと支えられる自信がなかったんだけど……。
 でも、それが、今は、逆なんだよ。泉ちゃんのことが、私の支えになってる」

玄「泉ちゃんが負けるかもしれないから、私が勝たなきゃいけないんじゃない。泉ちゃんに勝たせたいから、私は勝ちたいんだ。
 そう思うと、なんでもできそうな気がする。本当に。たとえ相手が宮永照さんだったとしても」

玄「というわけで、泉ちゃん。安心してね。点差いっぱいつけてきてあげるから。私と、透華ちゃんと、豊音さんで、泉ちゃんの勝利のお膳立てをしてあげるから。わかった?」

泉「これはこれは……また随分と上から来ますねー?」

玄「そりゃそうだよ。だって、事実、上だもん。ナンバーも、レベルも、ランクも、おもちも、私のほうが圧倒的に上だもん」

泉「ホンマ敵いませんよ、玄さんには」

玄「だから、当たり前だって。私は超能力者《レベル5》なんだから」

泉「……お願いします、玄さん!」

玄「うん。お願いされました」

小蒔「さすがは……玄さんですね。《4K》のときもそうでした。最初こそ《三強》対決という名目でしたけど、最後のほうは……憩さんも衣さんも、私より玄さんと打つのを楽しんでいたように思います。なんというか、私、ちょっと悔しいです」

豊音「おー? これはまさかのイズミを巡る仁義なき戦いが始まる予感ー?」

透華「その戦いの末に泉が白/水にならないことを祈りますわ」

玄「そうなったらきっと姫子ちゃんが黙ってないね」

小蒔「三つ巴ですか……!!」

泉「みんなして勝手にうちをバラさんといてください!?」

玄「ふふっ、おっかしーね。もう、大事な先鋒戦の前に、なんでこんなくだらない話してるんだろ」

泉「ホンマですよ。三回戦のときなんか、みんなしてうちに『死ぬな』だの『トぶな』だの、葬式前みたいな雰囲気やったのに」

透華「それは泉ですもの」

豊音「ちょー不安しかなかったよー」

玄「けど、なんと言っても今日の先鋒はこの私だから!」

小蒔「私たち《アイテム》のリーダーにして、《逢天》の参謀長っ! 私はそんな安心な玄さんを応援していますっ!!」

玄「お任せあれっ! それじゃーま、いい感じにしてくるよ。松実玄――行ってくるのですっ!!」ゴッ

泉・小蒔・透華・豊音「行ってらっしゃい!!」

 ――《新約》控え室

初美「出番ですよー! 出動ですよー!!」ゴッ

絹恵「気合も巫女服の前も全開ですねー、初美さん」

初美「当然ですー。また一回戦のように無双してやるですよーっ!」

姫子「ばってん、小走博士も玄も、それに大星も、一筋縄じゃなかとですよ?」

初美「こちとら《一桁ナンバー》ですよー? そして驚くなかれ、今回この準決勝で一番ナンバーが上なのは私なのですー!! つまり今は私がナンバー1ってことですー!!」

和「初美さん、くれぐれも、くれぐれも四喜和に捉われないでくださいね? わかりましたか?」

初美「わかってるですよー♪」

怜「絶対わかってへんやろー」

初美「いやいや、怜。それは違うですよー? さすがの私も、今日ばっかりは能力《オカルト》を過信した打ち方はできないですー」

絹恵「というと?」

初美「《幻想殺し》――あのやえが敵にいるんですからねー。超能力者《レベル5》の姫子や怜と違って、私の《裏鬼門》は《絶対》じゃないですー。
 それ即ち、いつ何時やえにそげぶされるかわからないってことですからねー」

姫子「えっ、けど、小走博士は、別にネリーさんみたいな不思議な《無効化》や《能力封じ》はできんとですよね?」

初美「その通りですー。やえは正真正銘の無能力者。ランクFのレベル0。しかも荒川憩みたいな《特例》の才能があるわけでもない。限りなく普通の一般人ですー。ただ――」

和「どんな能力も支配力もただの記号の羅列――プログラムに過ぎない、でしたか」

初美「おろ? よく知ってるですねー、和」

和「小走博士とは合宿で少しお話をしましたからね。能力《オカルト》の有無については意見の分かれるところですが、あのプログラミング技術には目を見張るものがあります。
 あの方なら、私よりずっと的確に、オカルト信者の《意識の偏り》を突くことができる……初美さんを手玉に取るのも、容易くやってのけるでしょう」

初美「ま、実際、初めて打ったときはワンパンでぶっ殺されたですよー」

怜「ああ、《連皇》か。一年のときから、初美と小走さんはずっと同じクラスなんやっけ」

初美「はいですー。やえに出会ってなかったら、私はきっと《一桁ナンバー》になれてなかったですねー。どころか、《塞王》の砦を前に、心折れて二軍《セカンドクラス》落ちしてた可能性もあるですよー」

絹恵「い、意外ですっ!」

姫子「今の初美さんからは想像もできん……」

初美「私以外にも似たような連中はいると思うですー。《照魔鏡》の宮永照、《防塞》の臼沢塞、《幻想殺し》の小走やえ……この三人は、二軍《セカンドクラス》の能力者にとって、避けては通れない関門ですからねー」

怜「言い得て妙やな~」

初美「というわけで、というわけだからこそ、今日はやる気に満ち満ちているわけですよー!
 やえと敵として打つのは、一年の最初のクラス交流戦以来。あれから私がどれだけ成長したか……あの《王者》に見せつけてやるですー!」

和「頑張ってください、初美さん」

初美「お任せですよーっ! じゃ、行ってくるですー!!」ゴッ

和・怜・絹恵・姫子「行ってらっしゃい!!」

 ――《幻奏》控え室

やえ「さてと……自分から先鋒を買って出たものの、気が重いな」

ネリー「《神憑き》に超能力者《レベル5》に支配者《ランクS》が相手なんだよっ!」

やえ「原点で戻ってくることができれば大勝利だな」

セーラ「まったまたー。謙遜すんなや、《王者》」

やえ「謙遜なんかじゃないさ。初美も松実も、以前よりずっと強くなっている。あいつらの約束や誇りを殺すのは、もはや私にはできんだろう。
 あとは大星だが……あいつも合宿のときとは比べ物にならんほど逞しくなっているしな」

優希「安心していいじょ、やえお姉さん。トップと五万点差ついても、私がなんとかしてやるじぇ!!」

誠子「二万点差くらいまでなら、私がなんとかしてみせます」

セーラ「俺は十万点差でも構へんでー?」

ネリー「トばされなければなんでもいいっ!!」

やえ「揃いも揃って頼もしいじゃないか。どれ、そろそろ時間だな。派手に遊んでくるとするか――」

セーラ「そのままのナリでええのー?」

やえ「おっと……そうだったな」バサッ

優希「その白衣には錘が仕込んであるんだじぇ!?」

ネリー「脱ぐと腕力が十倍に!」

やえ「物理的にパワーアップしてどうする。ただ気持ちを切り替えるだけだ。研究者から雀士へとな」

誠子「お預かりいたします」サッ

やえ「すまない。よろしく頼む」スッ

誠子「ご武運を」

やえ「有難う。じゃ、ちょっくらニワカの相手をしてくる。が、今日のニワカはニワカの中でも手強いニワカだ。各自、対戦相手の対策表を再確認しつつ、合間に応援を頼む。
 ちなみにだが、今日のお前らのノルマは5000点×学年だからな。頑張れよ」

優希・ネリー「一倍なら楽勝だじぇ(なんだよ)!!」

やえ「ただし、ネリー。お前は十倍だ」

ネリー「あはっ、それでも楽勝なんだよっ!」

やえ「そう言ってくれると心強いよ。では、行ってくる!!」ゴッ

ネリー・優希・誠子・セーラ「行ってらっしゃい!!」

 ――特別観戦室

まこ「……しっかし、あの連中が並ぶと嫌でも緊張するのう」

純「対局室――それも個人戦の決勝じゃなきゃ見れねえもんな」

衣「眺望絶佳っ!」

エイスリン「シュウイ、ノ、クウカンガ、ユガンデ、イル!」カキカキ

穏乃「去年のインターハイ個人戦で表彰台に立った《三人》――」

塞「威圧感があり過ぎて偵察に集中できないんだけど? 弘世、あんた、あいつらに離れて座るよう言ってよ」

菫「割って入れる空気じゃないだろあんなの……」

照「みんながこっちを睨んでくる……しょぼーん……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「《頂点》の支配力に反応してガイトさんが殺気出すからですよー」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「お前が宮永を意識して無駄に気を張るからだろうが」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「ほら、弘世! あんたは《初代》のリーダーで《虎姫》のリーダーで《劫初》のリーダーでしょ! 責任持ってなんとかしなさいよっ!!」

菫「仕方あるまい。あー……その、お楽しみのところ悪いが、お前たちが並ぶと場がピリピリするから、離れて座ってくれないか?」

憩「ほなっ、ウチは菫さんの隣がええですーっ!!」ピョン

照「えっと、私は……」オロオロ

塞「ほら、宮永はこっち!」バンッ

照「は、はい」

智葉「では、私は」

エイスリン「シャーネーナー、ワタシガ――」

穏乃「辻垣内さんっ! お隣よろしいですか!?」ピョコ

智葉「構わんが?」

エイスリン「ファッ!??」

穏乃「やったっ!! 失礼しますー!!」チョコン

智葉「こうして直接話すのは初めてか。よろしくな、《原石》。私は辻垣内智葉だ」

穏乃「存じてますよっ! 私は高鴨穏乃です。以後よろしくお願いします」

エイスリン「シ、シズノ……? ナゼ?」

まこ「ようわからんが、穏乃は辻垣内のことがずっと気になっとったそうじゃぞ。山が二重にブレて見えるっちゅうての」

純「意味はよくわからねえけどな」

衣「別にこっちで衣たちと観戦すればよかろう、えいすりん」

エイスリン(グヌヌ……!!)

『準決勝先鋒戦前半戦……間もなく開始です!!』

照「始まる……」

塞「そうね」

憩「どこが勝ち上がってくるんでしょうねー」

菫「どこが勝ち上がってきても、私たちのやることは変わらん」

智葉「ときに、《原石》。お前、そのジャージの中はどうなっている?」

穏乃「い、いきなり大胆ですねっ……辻垣内さん……////」

エイスリン「(以下母国語)テメェーッ!! ヤッパ、ロリカ!? ツルペタ、ポニテノ、ロリガ、イイノカ、サトハァ!!」

衣「え、えいすりん……?」

純「何言ってるかわかんねえけど、とりあえず落ち着けよ」

まこ「一部屋に十人もいるとうるさくてかなわんの……」

 ――対局室

初美「よろしくですよー!」

 東家:薄墨初美(新約・100000)

玄「よろしくお願いします」

 南家:松実玄(逢天・100000)

淡「よろしくっ!!」

 西家:大星淡(煌星・100000)

やえ「よろしくな」

 北家:小走やえ(幻奏・100000)

『準決勝先鋒戦前半――開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

ちょっと前に一覧を出すのを渋りましたが、《一桁ナンバー》と《六道》は確定したのでまとめます。未確定の《十最》は今しばらくお待ちください。

では、それだけ書き込んだら今日は失礼します。

非能力者と無能力者がいるのか…

咲ってリンシャンカイホーやったことあったっけ?

《六道》の一覧出たか。
てっきり怜加入前にもう一人いると思ったが、当てが外れたな。

八咫鏡の理屈でいくなら、約束の鍵も点棒操作系?

洋榎の独白を見る限りはエイスリンの超強力バージョンって言ってるしおそらく全体効果系じゃないかな

ご覧いただきありがとうございます。

>>601さん

ランクA~Cのレベル0:非能力者

ランクD~Fのレベル0:無能力者

です。前者は、辻垣内さん、愛宕姉妹、江口さん、清水谷さん、白水さん、冷たくない龍門渕さん、池田さん、新子さんなどです。後者は、荒川さん、福路さん、レベル5になる前の園城寺さん、小走さん、佐々野さん、染谷さん、二条さんなどです。細かい説明はいずれあるかと思います。

ちなみに、原村さんは、確率干渉力(ランク)測定を真面目にやっていないので、どちらなのか不明です。

※確率干渉力測定:薄くカットした《不晶体》という特殊な硝子が瓦割り状態でセットされていて、そこに手をかざし、ゴッと力を込めてもらいます(SOA)。亦野さんは傷一つつけられません。江口さんは何枚か割れます。片岡さんは(薄いものなら)粉々にできます。本気の照さんは研究所ごと潰せます。

>>608さん

咲さんは未だ公の場で嶺上開花をしたことがありません。《煌星》以外からは嶺上使いではなくプラマイゼロ使いとして認識されています。

>>610さん

外れてないです。あの一覧は『現在』の六人です。園城寺さんは《六道》の一席を乗っ取りました。

>>611さん

鶴田さんの《約束の鍵》が点棒操作系でないことには作中で解説が入らないので、混乱を避けるため、今のうちに語っておきます。引っかかるのは、恐らく、『特定局』で『一定打点』を『和了確定』している点かと思いますので、その辺りをば。

《約束の鍵》は全体効果系です。>>612さんのご指摘通り、愛宕さんが『ウィッシュアートさんの能力の強化版』と言っていますが、その見立てが正解です。

《約束の鍵》は、『一定の飜数』という縛りがありますが、基本的にはウィッシュアートさんの《一枚絵》と同じで、『ある一定の和了りの形へ向かう』能力です。ゆえに、二飜キーだと、可能性として、子のピンツモ1500~親の110符2飜10600まで打点に幅が生まれることになります。

或いは、『特定局』で『一定打点』を『和了確定』する能力としては、渋谷さんの《ハーベストタイム》も、三回戦のように、種の撒き方次第で、オーラス役満(渋谷さんはラス親になれない《制約》があるので、32000点)を確定させることができます。

が、これも点棒操作には分類されません。自牌干渉系です。この渋谷さんでいう『種まき』が、鶴田さんの場合は白水さんの《リザベーション》に相当して、それゆえに『特定局』で『一定打点』を『和了確定』できているのです。

鶴田さんの場合は、白水さんの和了りのイメージを倍加踏襲して一定の和了りの形に向っているだけです。ルール上、飜数が五を超えてくると和了りの形(符数)と無関係に打点が一律固定になってしまうので、『一定打点』を確定させているように見えますが、本質はそこにはありません。

渋谷さんの場合も同様で、あくまで、ラス前までに撒いた実りを回収しているだけです。役満の種を撒けばオーラスでの役満が確定しますが、それも、32000を確定させているように見えるだけで、本質はそこにはありません。

ポケモンに喩えるのがわかりやすいでしょうか。照さんの《八咫鏡》は『ちきゅうなげ』、咲さんの《プラマイゼロ》は『いたみわけ』、花田さんの《通行止め》は『こらえる』といった感じです。

対して、鶴田さんの《約束の鍵》は、わざの威力が時々によって20、40、60、80、100、120、140のどれかになる必中攻撃です。渋谷さんの《ハーベストタイム》は『ソーラービーム』ですかね。

 東一局・親:初美

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美(見事に配牌五向聴ですねー。ま、ツモまで封殺されないなら、いくらでもやり様はあるですけどー、とりあえず、大星さんの出方を伺うですかー)タンッ

玄(大星さんの能力――《絶対安全圏》。これは、まあ、練習で似たようなことをやって慣れておいたからいいとして、あとはダブリーが来るかどうかだけど)タンッ

淡「」タンッ

初美・玄(ダブリーなし!?)

やえ(《ドラゴンロード》の松実がいる場では、大星のカン裏は《絶対》に乗らない。ダブリーする旨味は少ないという判断か。恐らく、こいつのダブリーにはダブリーのみという《制約》がある。
 カン裏が乗らないのなら、ダブリーのみだとツモっても最大三飜――期待値はあまり高くない。普通に和了りを目指すほうが、場の変化にも対応できる。この辺りは《煌星》のブレーンの指示だろうか)タンッ

淡(相手はキラメと同じレベル5。キラメとの練習や、たかみー先輩の《ハーベストタイム》で、何度も体験した能力の《無効化》。どんなに支配力を使おうと、《絶対》の壁を超えられないことは学習済みなんだよ。
 けど、まあ……《ドラゴンロード》さんとは初対戦だから、何はともあれ一回カン裏が乗るかどうか試してみたい気持ちはあるんだけど。キラメの言いつけ通りにダブリーは封印。この局は、ね……)

初美(となると、デジタルのガチ勝負ってことですかー。配牌のハンデはあるですけどー、少なくとも、ダブリーをしてこない大星さんは、合宿の成績的には上位ナンバーに及んでいなかったですー。なら、わりとチャンスはあるですかねー)タンッ

玄(三回戦は小蒔ちゃん大暴れで参考にならないけど、二回戦を見る限り、ある程度の地力があれば、大星さんの支配下にあっても、勝ち越すことは十分にできるはず)タンッ

淡(うーん、この人たち、全然焦ってる感じしないなー。困っちゃうよね。最初にユーカとモモコとキラメと打ったとき、私は、完全デジタルでも校内順位《ナンバー》50位以下は敵じゃないってユーカに言った。その言葉に嘘はない。けど――)

初美「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(はつみー先輩は《一桁ナンバー》――ナンバー8。《裏鬼門》の能力が目立つけど、それ以外のときはデジタルで打ってる。その精度が高いのは、三回戦の牌譜を見てもわかる通り。でもって……)

玄「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(《ドラゴンロード》さんも……ナンバー50位以内なんだよね。ベスト8入りしたチームの二年生では、ケイ、龍門渕さんに次いで、ナンバーが高い。元一軍《レギュラー》のたかみー先輩やセイコ先輩より、個人成績が上の実力者)

淡(能力ナシの完全デジタルなら、負けないとは思うけど。クロの能力は常時発動型のレベル5。実戦でその能力の影響がなくなることはまずない。だから、そんな仮定の話をしても仕方ないってわけ)

淡(ま、それでも、私は負けないけどね――ッ!!)タンッ

やえ「……ポン」タンッ

淡(ほむ?)

初美(なーんか怪しい感じがするですねー。と、見せかけておいてただのポンかもしれないですけどー)タンッ

玄(ドラがない状態で鳴きを入れたら、かなり打点が下がるはず。何を企んでいるのかな、小走さん……)タンッ

 ――《逢天》控え室

     やえ『……ポン』タンッ

泉「玄さん相手に食いタンのみやと? しかも、あのポン――」

透華「喰い替えですわね。暗刻で持っていたのに、わざわざ鳴いて門前を捨てていますわ。
 しかも、それで手が進むわけでもありませんの。食いタン自体はわたくしも状況次第でやりますけれど、あれは、わたくしのデジタルとはまた違う意図がある気がしますわ」

小蒔「小走博士のことです、何らかの考えがあってのことでしょう」

豊音「けど、鳴きで何かをズラした……っていうわけでもなさそう。あ、とか言ってたら」

     淡『……』タンッ

泉「やっぱ真っ先にテンパイしたんはあいつか」

小蒔「リーチ、掛けませんでしたね」

透華「出和了りで7700あれば、先制打としては十分ですわ。リーチを掛けても裏が乗るわけではありませんし」

豊音「それに、ここまで場が進んでくると、裏が乗らないどころか、裏ドラを捲れないって可能性が出てくるよねー」

泉「ああ……そういう縛りもありましたね。何度もやられましたわ。意外と盲点なんですよね、それ」

透華「《全てのドラは玄に集まる》――《玄がドラを切るか手牌を晒すかしない限り、他家はドラを見ることができない》」

小蒔「特に、ドラ表示牌が四枚見えているかどうか、気をつけないといけないんですよね」

豊音「そうそう。三回戦で、クロが荒川さんから大明槓の責任払いを取ったあのパターンの、別の側面」

泉「玄さん以外の三人から見て、表ドラ以外で四枚見えてへん牌が一種類もなくて、且つ、ドラ表示牌が出尽くしてる場合ですね。この状況になると、もうそれ以上ドラが増えなくなる」

小蒔「ドラが増えない――つまり、暗槓ができない。明槓をしてもカンドラを捲ることができない、そして、リーチを掛けても裏ドラを捲れない。
 言い換えれば、《誰かの手に同種類の牌が四枚集まらない》、《明槓をすると嶺上開花が成立する》、そして、《リーチによる和了りを封殺する》……ということになりますね」

透華「三回戦で玄が荒川憩から直撃を取ったときには、この《リーチによる和了りを封殺する》効果と、《明槓をすると嶺上開花が成立する》効果が、ダブルで働いた、と。ま、そういうことになりますわね」

豊音「現状も、似たような感じになってきたね。全員がちょー堅いから、場が中盤以降までもつれてる。鳴いて門前を捨てた小走さんと、ダマを貫いてる大星さんは、ちゃんとクロの特性をわかってるみたい。けーどー」

     玄『……』タンッ

泉「おおっ、玄さんが追いつきましたっ!!」

透華「《リーチによる和了りを封殺する》効果は当然玄自身にも有効ですから、ここはダマですわね」

小蒔「ダマでも断ヤオドラ八! 実に玄さんらしいですねっ!」

豊音「ちょードラ爆だよー!」

     やえ『……カン』

泉・透華・小蒔・豊音「は――!?」ゾワッ

     やえ『ツモ。嶺上開花断ヤオ――700・1300』パラララ

 ――対局室

やえ「ツモ。嶺上開花断ヤオ――700・1300」パラララ

淡(初っ端から嶺上開花とかどこのサッキー!?)

初美(これは……もしかして、あれですかー? 三回戦で松実さんが荒川憩から責任払いの直撃を取ってた嶺上開花――)

玄(それ私の編み出した必殺技ですよーっ!? えっ、けど、じゃああのポンは……このタイミングで加槓するために? 場が深くまで進行して、私のドラ支配の縛りがきつくなるのを待っていた……?)

やえ(松実のドラ支配は全体効果系だ。理論上、松実が荒川相手にできたことは、私にもできる。
 こいつの強度測定をしたときから、この『ドラが増えない』ゆえの『嶺上開花』っていう応用技は……一度でいいから試してみたかったんだよな)

淡(私の和了り牌を抱えつつ、クロの能力を逆手に取って、狙い済ました嶺上開花。科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する学園都市において、誰よりも能力《オカルト》を科学《デジタル》している高校生雀士――これが《幻想殺し》かぁ……)

初美(超能力者《レベル5》の《絶対》は、古典確率論には有り得ない確率1を実現するですー。それを、やえは計算に組み込んで、利用したってことですよねー。
 怜が最近になってようやく身に着けたことを、超能力者本人でもないのに当たり前のようにやっちゃうんだから、さすがですー)

玄(今の手馴れた感じ。小走さんのことだから、私と初対局した一年前から、この応用法を思いついていたんだろうなぁ。私がその嶺上の発想を得るのにどれだけ時間が掛かったか教えてあげたいですよ……。
 いや、けど、小走さんが私より私の能力に詳しいのは、わかってたことだ。まだまだ……これくらいじゃ、超能力者《レベル5》の誇りは殺せませんよ、小走さん!)

やえ(さて、松実も大星も放っておくわけにはいかないが、次は――)チラッ

初美(私が北家ですねー!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(どいつもこいつも入れ替わり立ち替わり暴れやがって。よかろう――全力で潰してくれる……!!)

初美:98700 玄:99300 淡:99300 やえ:102700

 東二局・親:玄

初美「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(こればっかりは運だけど、やっぱり薄墨さんの下家は辛いのです……)タンッ

淡(来たかー、はつみー先輩の北家。部分的にだけど、これ、私の《絶対安全圏》を《無効化》してくるんだよねー……。
 はつみー先輩の《裏鬼門》は、デフォルトで《配牌に東と北を二枚ずつ引き寄せる》ことができる。つまり、どんなに他がバラバラでも、七対子なら配牌四向聴ってこと)タンッ

初美(ネリーさんに謎呪文を喰らったときは軽くパニクったですけどー、なんだかんだで能力が復活してよかったですー。
 完全デジタルっていうのもたまには悪くないですけどねー、やっぱり、私にはこの感覚が一番なんですよー)

やえ(《悪石の巫女》――《最凶》の大能力者。北と東を切らなければ、《発動条件》の成立を妨害することができる。
 が、それだけでは、先鋒戦の間に最低でも四回はやってくる初美の北家全てを凌ぐのは難しい。なら、いっそ、戯れてみようじゃないか――)タンッ

初美(え……? 一打目からド真ん中ですかー?)タンッ

玄(大星さんの支配下で一打目に中張牌っていうのは、どう考えてもセオリー外だけど……)タンッ

淡(今度は何をやってくるつもりなのかなー? 私にもできそうなはつみー先輩対策なら、真似っこしちゃうのもアリだよね)タンッ

やえ(初美……敵として真剣勝負をするのは、一年生の頃以来か。お前がセーラより上のナンバーを獲得するとは、正直、思っていなかったぞ。
 私が研究室に籠もっている間に、《一桁ナンバー》、風紀委員長と、その名を上げたようだな。自慢の友人だよ)

やえ(今のお前と正面からぶつかって勝てるとは、思ってないさ。だが、そうそう自由には打たせんぞ。二年ぶりにお見せしようじゃないか。これが《幻想殺し》の打ち筋だ――)タンッ

初美(これは……?)タンッ

 ――《新約》控え室

怜「はー……すごいな。そういう抑え方があるんか。考えたこともあらへんかったわ」

姫子「小走博士は、もしかして、あいば狙っとうとですか?」

絹恵「明らかにそうやんな」

和「国士無双――あの配牌なら、人によっては狙うでしょうね。少なくとも、三回戦最終局の姫子さんよりは、和了れる可能性が高いです」

怜「んー、まあ、姫子のときと違うて、小走さんには、たぶん和了る気あらへんと思うけどな」

姫子「どういうこととです?」

怜「国士無双を狙っとる――その事実が、他家に伝わればそれで十分っちゅーことや。もちろん、テンパイして和了れるに越したことはない。せやけど、たとえブラフになっても、初美には効果抜群やろな」

絹恵「小走さんの国士を警戒して、大星さんや松実さんが東と北を切りにくくなるから?」

怜「それもある。ただ、和でもあるまいし、北家の初美に対して、不用意に東と北を切ってくるアホはそうそうおらん。準決勝ともなれば尚更や。せやから、それだけやないねん。ちょっと考えてみれば、二人にもわかるはずやで。
 北家の初美――その対策は、東と北を切らへんこと。せやけど、初美は、そんなこっちの対策を、ちょいちょい超えてくることがある……」

姫子「……えーっと」

絹恵「ああっ! わかりました! 暗槓ですね!? こっちが牌を絞っても、暗槓で鬼門を晒してくるあの裏技には対処できひん!!」

怜「そゆこと。どんなに東と北を鳴かせへんよう立ち回っても、初美には暗槓がある。毎回毎回できるわけやないやろけど、半荘二回もやれば、最低でも四回は北家のチャンスが来るんや。
 鳴かせんように牌を絞るっちゅー対策だけでは、初美の《裏鬼門》を完全に封殺することはできひん」

姫子「なるほど……国士なら、暗槓ば槍槓できる。止めようのなか初美さんの暗槓に対して、プレッシャーば掛けることのできる」

怜「国士狙いを前面に押し出すことで、槍槓される『かもしれへん』って恐怖心を煽る。実際にテンパイしたり和了ったりする必要はないねん。その『かもしれへん』だけで、初美の足を止めることができるんやから」

和「しかし、いくら大三元、四暗刻と並んで比較的出易い役満とされる国士無双でも、テンパイまで辿り着ける確率は非常に低いです。私が初美さんなら、そんなほとんどゼロの確率は無視して手を進めますけどね」

怜「ところがどっこい。みんながみんな和と同じやない。なかなか確率だけでは行動できひんのが人間や。一打目からのあからさまな国士狙いだけやない。小走さんの仕掛けはむしろこっからやろな。これは……なかなか際どい心理戦になるで――」

     初美『ポ、ポン……!』

 ――対局室

初美「ポ、ポン……!」

初美(な、鳴けるから鳴いたですけどー……やえのやつ、憎いことしやがるですねー!?)タンッ

松実(小走さんの捨て牌に初めて見えたヤオ九牌。その最初の一枚目が、北か)タンッ

淡(それ、間違いなく手牌にもう一枚北持ってるでしょ……)

やえ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美(やえは私の能力を熟知しているですー。だからこその、国士狙い。確率を考えるなら、私の暗槓を心理的に封殺するためのブラフの可能性が高いですー。けど、やえは、このタイミングで北を切ってきた――)

初美(やえは国士を狙っている。その上で、北を切ってきた。なら、元々、北は手に二枚あったと考えなければおかしいですー。
 けど、私なら、私相手に北は切らない。二枚ある北は雀頭にして、東待ちの国士を目指すですー。それなら、国士を狙いつつ、私の《裏鬼門》の成立を完全に妨害することができるんですからー……)

初美(国士狙いで北を切ってきたということは、手牌に、北以外にも雀頭になるヤオ九牌があったってことですー。そっちを切っても、東待ちの国士をテンパイできた。なのに、やえはそうしなかった。つまり、ですー)

初美(やえの狙いは、私に北を鳴かせて、《裏鬼門》の発動のために、私が東を暗槓するよう、私の思考を誘導すること……)

初美(この状況――やえの国士と私の《裏鬼門》の脅威がある現状――常識的に考えて、大星さんと松実さんは東を切ってくるわけがないんですー。ゆえに、やえが国士を和了るとしたら、私の暗槓を槍槓するしかない)

初美(ただ……私も、北を鳴けていない状況で、わざわざ国士に振り込むリスクを冒すことはしない。ならば、とやえは考える。いっそ私に北を鳴かせて、役満を巡る駆け引きに持ち込めばいいんじゃないか、ってね)

初美(やえの国士はブラフである可能性が高いのに対して、私の四喜和――《裏鬼門》は、高確率でそれを実現できる大能力ですー。期待値を考えれば、ほぼ確実に四喜和テンパイまで辿り着ける私のほうが優位――なんですけどねー……)

初美(困っちゃうですねー。ここから四枚目の東を手に入れるのは、私の支配力を考えれば、決して不可能ではないですー。
 んー、けど、迷うですねー。理屈の上ではガン無視していいレベルなのに、どうしても、暗槓を国士で槍槓されるイメージが頭から離れてくれないですー)

初美(いやいや、わかってるんですよー? やえの狙いは、私に東の暗槓をさせないこと。私の《裏鬼門》を封殺することですー。だから、北を切ってきたことの意味なんかに惑わされてないで、やっちまえばいいだけの話なんですけどねー……。
 っていうか、そもそも私の能力的に、《裏鬼門》である南と西は、ゆくゆくは私が《上書き》するんですからー、最低でも五枚は山牌の中にまだ眠っているはずなんですー。国士なんて夢のまた夢のはずなんですよー。けどー……うー……!!)

初美(だー! うじうじしてるからツモまで悪くなってる気がするですー! 《神憑き》に迷いは禁物だっていうのにー! まったく、こんなモタモタしてたら――)ハッ

初美(そ、そうでしたー! モタモタしてると暗槓そのものができなくなる可能性があるんでしたー! 松実玄――《ドラゴンロード》のドラ支配。時と場合によって、その支配が《暗槓封じ》に転じることがある……!!
 ちょ、マズいですー! とりあえず、暗槓するかどうかはあとから考えるとして、早いとこ四枚目の東を――)ゴゴゴゴゴゴゴ

玄(うわ――そっか。そういう狙いもあったんですね……小走さん)

初美(あ、あれれー……引けませんよー? これはひょっとしてですかー?)

玄(東……掴まされちゃったか。これじゃ和了れないよ……)

初美(げーっ!? これが真の狙いですかー、やえー!?)

やえ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(場が進んで、暗槓が封じられれば、薄墨さんのところに行くはずだった四枚目の東が、他家に流れる。可能性が高いのは、ドラの支配者である私……って感じかな。
 ま、小走さんに流れなかっただけマシって考えよう。ただ、これで、私は完全に手を縛られてしまった。そして、薄墨さんも――)

初美(これじゃあどうやっても《発動条件》を満たせないですー! なら、もう東北混一で和了ってしまうのがいいですかー? いや、ただ、敵はやえだけじゃないですー……)

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美(……参ったですねー。まさか北家でベタオリを強いられるなんて。これでやえの国士がブラフだったら笑ってやるですよー!!)

玄(十中八九テンパイできてないと思うんだけど……)

やえ(ふむ、南か)

 やえ手牌:一一九199①①⑨北白發中 ツモ:南 ドラ:2

やえ(暗槓封じのために、四枚目の東がドラの支配者である松実に流れる。それによって、初美が鬼門を晒せなくなり、後々《上書き》するはずだった南と西への支配が消えた――と。概ねシミュレート通りの展開だな……)タンッ

 やえ手牌:一一九199①⑨南北白發中 捨て:① ドラ:2

初美・玄(手出し一筒――!?)

やえ(ブラフもブラフさ。ただ、まあ、今更それがバレたところで、松実がここから東を切ってくることはないだろうがな)

初美(まぁ……さすがの《ドラゴンロード》もここで東切りはないですよねー。だって、東切りの結果起こるのは、やえが国士を和了るか、私が東を鳴くかの、二つに一つなんですからー)

松実(ただでさえ、大星さんのテンパイ気配が濃厚な今、一旦崩してしまったこの手から、東切りはありえない。悔しいけど、ここはベタオリで凌ぐよ)

やえ(と……)

 やえ手牌:一一九199①⑨南北白發中 ツモ:西 ドラ:2

やえ(ま、あとは流れのままにだな――)タンッ

 やえ手牌:一一九19①⑨南西北白發中 捨て:9 ドラ:2

 ――流局

やえ・淡「テンパイ」パラララ

初美・玄「ノーテン」パタッ

淡(和了れなかったかぁ、残念!!)

初美(まだ北家は三回あるですよー!!)

玄(薄墨さんの下家で、親を安く流せたんだから、結果オーライかな。いいよ。ノーテン罰符くらい……いくらでもくれてやる)

やえ(上出来だな。が、こんな綱渡りをいつまで続けていられるか……否、それでも、やるしかない。たとえどんなにか細い道でも、渡りきってみせる)

淡「じゃっ、次は私の親なんだよ!!」ゴッ

初美:97200 玄:97800 淡:100800 やえ:104200

 ――《幻奏》控え室

誠子「まさに《幻想殺し》って感じの闘牌ですね。あんな対策があるんだ――というだけでも目から鱗ですが、たとえ思いついたところで、私にはできる気がしません」

セーラ「俺にもできひんよ。あれは《幻想殺し》のやえやからできんねん」

誠子「というと?」

セーラ「やえのあれはな、思いついた対策を、そのままぶっつけ本番でやっとるんとちゃう。
 《幻想殺し》の中で、何度もシミュレート対局して、失敗を繰り返しては、改良を重ねて、初めて実戦で披露される――あれはそういう技術なんや」

誠子「研究の賜物、ってことですか。けど、いくら事前に対策を練れると言っても、今の国士なんか、最終的に松実さんのドラ支配を利用しましたよね?
 薄墨先輩対策として用意していたというより、薄墨先輩と松実さんが同卓しているあの場限定の対策、という印象を受けます。まさか、小走先輩は、全てのオーダーのパターンを想定して……?」

セーラ「いやいや。荒川憩やあるまいし、そんな膨大なパターンを想定しとるわけあらへんやろ。
 あれはな、オーダーが発表されてから、先鋒戦が始まるまでの間に、ちょちょーっと計算したんやと思うで。誠子も見たやろ、やえがギリギリまでパソコンカタカタやっとったの」

誠子「え……あんな短い間にシミュレートを終えたっていうんですか……?」

セーラ「三回戦のときにデジタル怜の分析をしたときも、わりと一瞬やったやん。いや、細かいことは俺もよう知らんけどな。
 ただ、やえはよう言うとる。『目的に応じて合理的で効率的な計算をしろ』ってな。短い時間しかあらへんのやったら、その短い時間でできることをやればええだけ。なるべく要点を絞って、シンプルに、スマートに、な。
 そういう取捨選択は、機械にはできひん。ほんでもって、やえは、その取捨選択が、昔からずば抜けて上手いねん。やからこそ、機械の性能を、あいつは最大限に引き出すことができる。
 つまり、《幻想殺し》っちゅーんは、やえ本人でも、機械そのものでもあらへん。その融合体を指す通り名なんやな。と……まあ、俺はそう思っとる」

誠子「なるほど……」

セーラ「やえは能力者でも支配者でもあらへんから、必然で勝つことはできひん。あくまで、偶然の範囲内でしか結果を出せへんねん。
 あいつは、そこを弁えて、できる限りの上方修正を施しつつ、最後の最後は偶然に身を任せる。つまり、勝っても負けても基本的には想定内やねん。やからこそ、やえは強い――」

誠子「じゃあ、あれも、小走先輩にとっては、想定内の出来事なんですか……?」

     淡『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希「うおっ……! この感じ、淡ちゃん大爆発の予感だじぇ!!」

ネリー「あの配牌は間違いない……アレが来るんだよ!!」

     淡『行っくよー……ダブリーッ!!』

誠子・優希「!!」ゾワッ

ネリー「やっぱり本物は音の厚みが違うねー!」ビリビリ

セーラ「ほんで……《幻想殺し》はこの小生意気な《超新星》にどんな対策を用意しとるんやろな。やえのそげぶが今から楽しみやでー」

 ――対局室

 東三局流れ一本場・親:淡

淡「行っくよー……ダブリーッ!!」

初美・玄(来た! 大星さんのダブリー!!)ゾクッ

やえ(親番になるのを待っていたような感じだな。いや、それだけじゃないか――?)

淡(今回、キラメから指示された私のダブリー条件は四つ。はつみー先輩の下家じゃなくて、親番で、且つ、賽の目が4~7のとき。そして最後は――ま、今回はクリアしてるから考えなくてオッケー)

淡(キラメの言いつけを守れば、《裏鬼門》と正面衝突せずに、中盤の十~十一巡目には和了れる。それ以上巡目が進むと、クロのドラ支配で暗槓やリーチ和了が封じられる恐れがあるからダメなんだってさ。キラメの用心深さには脱帽だよー)

淡(カン裏が乗らないからインパチにはならないけど、暗槓で符が上がるから、ダブリーツモだけでも、親ならそれなりに火力が出せる。それに、ダブリーしたときのほうが、支配力も発揮しやすいしね)

淡(あとは賽の目と、四つ目の条件次第かな。賽の目のほうは、4~7になる確率は、二分の一。たぶんだけど、三連続ダブリーくらいは余裕でできるでしょ。
 っていうか、たとえダブリーができなくても、超早和了りで連荘しちゃえばいいだけの話だしね!)

淡(後半戦は席順がどうなるかわからない。ここで稼がせてもらうよっ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美(ランクSの本領発揮ってやつですかねー? 最大値がどれくらいなのかはわからないですけどー、この時点で既に《神憑き》状態の霞並みにヤバい感じですよー)タンッ

玄(大星さんのダブリーは、暗槓してからが本番。局の前半はわりと普通に打って大丈夫のはず。
 ただ……うーん、終盤までもつれることはないんだろうなぁ。なんとなく、早く和了れる確信がありそうに見えるよ)タンッ

やえ(この一局で確信がほしいところだな。こいつのダブリーは、まだ両手で数えるほどしか見ていない。とにかくデータが不足している。
 簡易プログラムでシミュレートはしてみたものの、私の立てた仮説が間違っていたらそれも無意味になってしまうからな。より慎重に手を進めなければ――)タンッ

淡(ほい、来た――!! ちょっと不安だったけど、ちゃーんと四枚目が手に入った。これで、勝てる……ッ!!)

淡「カンッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(ん――カン裏が……私の支配領域《テリトリー》に大星さんの意識の《波束》が伸びてきてる気がする。まあ、そんなの《絶対》に許さないけど……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(うぐ……やっぱ無理かー。まだ捲ってないけど、カン裏の《上書き》には失敗したっぽい。これ、私はまだいいけど、サッキーとか、状況によってはボコボコにやられるんじゃないの……?)

玄(これで、ひとまずカン裏が乗ることはない。大星さんの今までの牌譜を見る限り、手役はダブリーのみ。
 ただ、それでも、これはツモられるとちょっと痛いかな。まあ、私の手は、おかげさまでとんでもないことになったけど)

初美(大星さんのカンが来ちゃったですかー。いや、それよりも、カンドラが表ドラと重なったことを警戒すべきなんですかー?
 大星さんのダブリーと松実さんのドラ爆……北家でしくじった直後の身としては勘弁してほしいですねー)タンッ

やえ(ふむ――)タンッ

淡「ツモ! 3900オールは4000オールだよ!!」

玄(残念。間に合わず)

初美(一索の暗槓――32符ですかー。カン裏乗らずのダブリーツモでも、60符3飜なら親満とほぼ同じ打点になるですー。大星さんが配牌や槓材をどれくらいコントロールできるのか知らないですけどー、3900オールを連発されると面倒ですねー)

やえ(……なるほど、面白い)

淡「じゃ、二本場行くよっ!!」ゴッ

初美:93200 玄:93800 淡:112800 やえ:100200

 ――《煌星》控え室

     淡『ダブリーッ!!』

友香「二連続来たー! しかもまた槓材がヤオ九牌――ツモればまたまた3900オールいただきでーっ!!」

咲「ちなみに、出和了りだと6800。普段から12000か18000しか和了らないハネ満バカの淡ちゃんにはストレスだろうなぁ。っていうか、淡ちゃん、70符2飜の点数なんて暗記してるのかな」

桃子「傍から見ても、ドラローさんの超能力はかなり厄介そうっすね。超新星さんのダブリーは、裏ドラ、カンドラ、カン裏――って三枚もドラを増やすっす。その分だけ、ドラローさんの《絶対》に引っかかりやすい……」

煌「目安として、賽の目が4~7のときと制限を設けましたが、それでも、時と場合によっては、淡さんのダブリー和了や暗槓が封殺される可能性があります。先ほども、捲られたドラを見る限り、かなりギリギリのようでしたし」

友香「表ドラとカンドラが同じ、裏ドラとカン裏が同じで、ドラは計二種類。どっちも松実先輩の手にあった暗刻でー」

咲「ドラ――王牌を支配領域《テリトリー》にする超能力者かぁ。状況によっては暗槓が封じられる……うーん……」

桃子「いつか、山の深くを支配してるっていう原石さんと、超新星さんと嶺上さんとドラローさんの四人で、王牌対決してみてくださいっす」

咲「すごく疲れそうそれ……」

友香「おっ、とか言ってる間に角が目前でー!」

咲「まだ四枚全部見えてない牌が何種類か残ってる。さっきよりは、松実さんの支配は緩そうだね。さすが淡ちゃん。無駄に悪運だけは強い」

桃子「このまま誰も何もしてこなければ、今回もいけそうっすね」

煌「誰も何もしてこなければ……いいのですけれど」

     やえ『ポン』タンッ

友香・桃子・咲「え……?」

煌「ついにお気付きになられてしまいましたか。あわよくば決勝まで、と思っていましたが、そう甘くはないようですね。《幻想殺し》――小走さん……」

 ――対局室

 東三局二本場・親:淡

やえ「ポン」タンッ

玄(およ、鳴かれた?)

淡(な、に――それ……!?)

やえ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(ポンそのものは、ただのポンでしかないけど、このタイミング――まさか……!!)

やえ(大星淡のダブリー……局の後半のどこかで暗槓を仕掛けてくる。それがどこか――規則性がありそうな第一印象を受けてから、なかなかその尻尾を掴まえることができなかった。
 いや、正確には、いくつか仮説があって、そのどれが正解なのか判定できていなかった――と言ったほうがいいか)

淡(この人――《幻想殺し》……私にカンをさせない気!?)

やえ(山牌の角とは、実に面白い法則じゃないか。こいつの中でどんな必然性があってそうなっているのかはわからんが、非常に興味深い。考察できることは多そうだ)

淡(け、けど、まだ角を曲がりきったわけじゃない! 元のツモ順とはズレたけど、余裕で《上書き》できるもんねー!)

やえ(もちろん、これで終わりじゃないさ……)

初美(これは……大星さんの支配がちょっと崩れてる感じですかー? 今のやえの鳴きで、大星さんの支配領域《テリトリー》に傷ができた?
 確かに、ぼちぼち暗槓が来てもおかしくない頃だとは思ってたですけどー。んー……じゃあ、こっちにしてみるですー)タンッ

やえ(さすが《神憑き》――確率干渉力の扱いに長け、その変化に敏感な雀士。厳しい修行を積んで手に入れたというその鋭い感覚は、初美を《一桁ナンバー》たらしめる主要なファクターの一つだろうな)

初美(おっと? 残念、ハズレでしたかー)

やえ(構わんよ。これでもう一人のほうも、私の意図を察してくれる。むしろ、席順的にはそっちが本命の狙いだ)

玄(小走さんのポンを見てからの、薄墨さんの生牌切り。なるほどなるほど……じゃあ、この辺りで)タンッ

やえ「(いい読みだ、松実)……ポン」タンッ

淡(ちょあー!?)

初美(これで大星さんがカンしてきたら許さないですよー、やえ)タンッ

玄(どうなるかな?)タンッ

淡(う、く――!? こんなのってないよ……!!)タンッ

やえ(ツモ切り……ということは、支配領域《テリトリー》の揺さぶりには成功したようだな。
 山牌の角――そこを曲がる直前にカンをして、曲がった直後に和了る。少々ダイナミック過ぎる仮説だと思っていたが、まさか大当たりとはな)

淡(マズいよ……これ以上場が進むと、裏ドラが捲れないから和了れないっていうハメ技に引っかかる可能性がある。このままじゃ――)タンッ

やえ「ロン、1000は1600」パラララ

淡「……はい」チャ

淡(ぬあああああ! こんな破られ方をしたのは初めてかも!? 私のツモを飛ばしまくって角を曲がらせないとか!?
 っていうか……とうとう私の暗槓のタイミングがバレたか。そんなにたくさんダブリーしたわけじゃないと思うんだけど、気付く人は気付くもんなんだなぁ。自慢じゃないけど、結構わかりにくいはずなのに、これ――)

やえ(これで大星の能力も大分見えてきたな。あとでプログラムを修正しなくては――っと、いかんいかん。今は、この対局に集中しなければ。気を抜いていい瞬間などないのだ。
 《超新星》、《最凶》、そして《爆心》……こいつらは当然のように一万点棒を最小単位にして争う――この程度の点差など、点差のうちに入らん。ここで少しでも貯金を作ってやる……!)

やえ「さて……私の親番だな」コロコロ

初美:93200 玄:93800 淡:110200 やえ:102800

 ――特別観戦室

憩「あははっ、さっすが小走さんやでー。《神憑き》と超能力者《レベル5》と支配者《ランクS》がまとめてお手玉にされとる」

菫「あれは真似できる気がしないな」

塞「んー、けど、ペースは《幻想殺し》が掴んでるような感じなのに、イマイチ点差に結びついてないわね」

照「ただでさえドラがない上に、小走さんは無能力者だから」

穏乃「決定打に欠けるってやつですね。他の三人がみんな高火力の必殺技を持っているのとは対照的です」

智葉「捌き続けるしかないだろうな」

     玄『チー!』

純「おっ、松実が動いたぞ。これはあれか、憩がやられたやつか」

まこ「ほうじゃの、ドラを待ちに含む多面張。憩のスピードについていくために、松実が編み出したあれじゃ」

衣「食いタンなのにドラだけで倍満という、けいを出し抜いたくろの速攻だな!」

エイスリン「アノ、ケイデモ、トメラレナカッタ、ヤツカ!」

憩「少し黙らんかいそこの四人」

塞「実際、喰らってみてどうだったの? やっぱ、《絶対》に和了られちゃう系?」

憩「いえ、それはちゃいますよ。玄ちゃんの《絶対》はあくまでドラ独占にかかってるもんであって、ツモ牌を的確にドラに《上書き》できるかどうかっちゅーんは、全然《絶対》でもなんでもないです。集中力次第でしょうね」

塞「あ、本当だわ。一巡目は違うとこが来た」

照「あの日に限って言えば、次鋒戦でお姉さんの松実宥さんが似たようなことをしていたのが、大きかったんだと思う。あの、菫がやられたやつ」

塞「ああ、弘世がものの見事にやられた、あの萬子の門前清一ね」

穏乃「私も牌譜を拝見しましたっ! すごくよかったですね、松実宥さん。弘世さんが振り込んだのも無理ないことだと思います!」

智葉「私なら余裕でかわせた。所詮は菫ってことだな」

菫「少し黙らんかそこの四人」

憩「まあ、それはさておき。いくら玄ちゃんが超能力者《レベル5》や言うても、毎回毎回思った通りにドラを引けたら苦労しません。
 玄ちゃんのあれは、あくまで『いずれ来るドラが溢れない』っちゅーのが最大のポイントなんです。
 ドラが溢れないから、鳴ける。ドラがいずれ来るから、同条件なら他の人より和了り牌を引きやすい。それが、結果的に速攻に繋がることがある――くらいの認識でええと思います」

塞「なるほどねー」

憩「ただ、まあ……一応、まんまと倍満ツモられた身としてフォローしときましょか。えっとですね、玄ちゃんは、二年生のレベル5の中では一番ランクが高い――支配力の数値的には《神憑き》の三年生方や《最熱》のお姉さんに匹敵するんですわ。
 せやから、三回戦でコツを掴んだとしたら、あの人らみたいに、次巡くらいであっさり和了ってくるかもしれません」

菫「表情を見る限りだと、ツモる気満々って感じだな」

智葉「能力という論理に沿う形での、支配力に拠る《上書き》――能力のランク補正か。
 それを可能にするだけのポテンシャルはあるんだろうが、実戦で使いこなそうと思えば、かなりの経験と集中力がないと無理だ。ツモ順をズラされたりしたら、まずできまい」

     やえ『チー』

照「お……」

穏乃「この手際の良さっ!!」

まこ「ちいとばかしじゃが、松実の顔が変わったの」

純「流れも変わったっぽいな」

     やえ『ポン』

エイスリン「オイツイタ!」

衣「こうして捲くり合いになると、より死に近いのは、ドラを捨てられないくろのほうか」

     やえ『ロン、7700だ』

     玄『はい』

塞「やるじゃん、《幻想殺し》」

照「連荘」

     やえ『一本場……』

穏乃「さて、今回のドラは――北ですか」

智葉「オタ風牌がドラのときは、松実はかなり打ちにくいだろうな」

憩「他の牌と繋げられない上に、役にもなりませんからね。赤ドラ含みの三色片和了りとか、そんなパターンに落ち着くと思います」

菫「ん、小走がまたド真ん中から切ったぞ……?」

純「なるほどな。薄墨の《裏鬼門》封じと、理屈は同じってことか」

まこ「国士無双」

エイスリン「チャンカン、ネライ?」

衣「くろの手にはドラが集まる上に、くろはドラを捨てられない。ドラがオタ風牌の北である今回は、四枚目が来たとき、くろは北を暗槓せざるをえない」

塞「松実が和了りを目指せば、そうよね。逆に、松実がベタオリしたら、ドラ待ちの小走は《絶対》に和了れなくなるわけだけど、その辺りはどうなの?」

照「プレッシャーを掛けて、松実さんの思考を揺さぶることに意味がある。半ば捨て身で、松実さんに隙を作っているんだね」

     初美『ロンですー。8000は8300』

     玄『はい』

菫「なるほど……自らは松実を抑え込む担当に周り、撃ち落とす担当は他の連中に任せるのか」

照「小走さんは私とは違うから、一人でずっと和了り続けるつもりでは打っていない。けれど、たとえ自ら和了らなくても、ゲームの主導権を握ったままでいることは、やり方次第で十分に可能」

衣・エイスリン「なるほど(ナルホド)!」

穏乃「あははっ、一人でずっと和了り続けるつもりで打っている人が、照さんの他に二人も!!」

塞「塞ぎ甲斐のあるやつらだこと……」

菫「にしても、一人沈みのわりに、松実に動揺は見られないな」

憩「そらそうでしょうね。全てを無に帰すグラウンドゼロ――白糸台の《生ける伝説》、チーム《爆心》。
 公式戦で、『一試合一人一役満』っちゅー大記録を打ち立てた、一撃決殺の大爆発集団……玄ちゃんはそのリーダーにして代名詞ですから」

まこ「あんな偏ったコンセプトを持つチームは他に見たことがないの」

純「渋谷が大三元、上漫が混老四暗刻、鶴田が門前清一数え、松実がドラ数え、池田が純全帯数えだったな」

憩「せやね。渋谷さんは《ハーベストタイム》、上重さんは《導火線》、鶴田さんは《約束の鍵》、ほんでもって、池田さんは持ち前の《砲号》を号砲にしたわけやけど……他の四人の役満と、玄ちゃんの役満には、決定的な違いがある」

穏乃「一人だけ親で役満を和了ったことですか?」

憩「ええとこに目をつけるね、高鴨さん。そやねん。結果論やけど、それは、玄ちゃんが他の四人とちゃうっちゅーことを、端的に示しとる」

塞「どういうこと?」

憩「渋谷さんの《ハーベストタイム》は、《ラス親になれない》制約つきで、オーラスにたった一度だけ発動する超能力です。
 上重さんの《導火線》は、いつ導火線に火が点くか――能力のスイッチがオンになるタイミングを、自分ではコントロールできません。
 鶴田さんの《約束の鍵》も、白水さんの和了りと連動しとるから、数えそのものは《絶対》やけど、いつどこで和了るかは、自分の意思では変えられへん。
 で、一番玄ちゃんに近いのは池田さんですけど、池田さんはなんぼ強いゆーても非能力者。あの数えは池田さんの地力と幸運に幸運が重なって成立したもんであって、普段は、そう簡単に役満手なんて作れません。
 そこでいくと、玄ちゃんの場合は――」

菫「松実玄の場合は?」

憩「毎局、毎回が、役満チャンスなんですわ。渋谷さんみたいなオーラスの子でしか和了れない《制約》も、上重さんみたいに能力がオフになる瞬間も、鶴田さんみたいな《発動条件》による縛りもあらへん。
 常に、いつ何時も、役満を選択肢の一つとして戦える。それでいて、同じように役満を選択肢の一つとして打ち回せる実力を持ったレベル0の池田さんにはない、《絶対》の超能力を持っている――それが玄ちゃんです」

智葉「ツモの偏りを引き起こす常時発動型、か。私は《導火線》の上重と対局したことがあるが、なかなかどうして消えない炎だったな」

憩「せやけど、それも、対局の途中から火点いたパターンですよね?」

智葉「いかにも」

憩「もし、それが一から十までずーっとやとしたら、どうですか?」

智葉「負けはしない。が、しかし、さぞかし斬り甲斐のある敵になるだろうな」

憩「ですよね。ほんでもって、玄ちゃんの超能力は《絶対》で、永続です。学園都市で玄ちゃんのドラ独占を《無効化》できる人間は、世界中探しても花田さん一人しかおらへん。当然、ガイトさんにも無理ですよ」

智葉「だろうな」

憩「《絶対》にして永続のドラ独占。ドラにまつわる能力者は数いれど、玄ちゃんはその最上位に君臨する《ドラゴンロード》。
 たとえ速度重視で打っても、当然のように倍満を和了ってくる。誰が言うたか《史上最悪のドラ麻雀》。その餌食になった人間が、ここにも何人かおりますね」

照「去年、私が公式戦でハネ満以上のダメージを受けたのは、一回だけ」

憩「そゆことです。ま、あれは園城寺さんが頑張った功績が大きいんであって、玄ちゃん単独では不可能やったと思いますけど」

照「でも、まさかあのタイミングでドラを切ってくるとは思ってなかった」

憩「ウチも見てて驚きましたわ」

照「松実さんは……強い」

憩「ええ、玄ちゃんは強いです。もちろん、ウチは負ける気ないし、負けたこともあらへんけど。ただ、衣ちゃんはちゃうやんな?」

衣「ふん。月が欠けていなければ、遅れを取ることはなかった」

憩「せやけど、してやられたんは事実や。《4K》の集い――そこで、衣ちゃんと小蒔ちゃんは、順位が玄ちゃんより下になったことがある」

衣「ドラ置き場の反逆だったな。あの《4K》の集いで、プラスになったことは一度もないくろだが、順位的には、ずっとラスだったわけではない。最後のほうは、むしろ安定の三位だった」

憩「そうそう。ほんで、この事実――皆さん、正しく認識してはりますか?
 ウチと衣ちゃんと小蒔ちゃん――《悪鬼羅刹》の《三強》を同時に敵に回して、トぶこともなく、ラスを回避する。それがどれだけとんでもないことか、わかりますか……?」

エイスリン「クワシク、タノムゼ」

憩「山牌が透けて見えるウチ。去年のトーナメントの最多得点記録保持者である衣ちゃん。ご存知恐怖の門前清一マシーン小蒔ちゃん。
 これは自慢ですけど、ウチらは、基本的にウチら対ウチら以外っちゅー、一対三でやっとまともな勝負が成り立つ、学園都市でもトップクラスの雀士です。
 単独で張り合えるのは、ほんの一握り。ここにおる中では、ガイトさん、高鴨さんの二人だけでしょうね」

照「あれ? 私は?」

憩「あなたはウチより強いんやから言わずもがなです。話の腰を折らんといてください」

照「この除け者感……」

憩「で、まあ、ナンバー1は置いておくとして……《三強》っちゅーんは、《三人》同様、白糸台の中で特に飛び抜けた存在なんですわ。
 ウチと衣ちゃんと小蒔ちゃんが勢揃いした卓――それは、言うたらウチとガイトさんとナンバー1の揃う個人戦決勝卓と同じような異次元空間です。
 そこに混じったら、多少腕に覚えがあっても、まずついてこれません。《一桁ナンバー》でもなければ、一瞬でトびます。
 どころか、たった一局打つだけで、衣ちゃんと小蒔ちゃんの支配力に中てられて、精も根も尽き果てますわ。せやんな、井上さん、染谷さん?」

純・まこ「まったくもって」

憩「玄ちゃんも、同じです。ボコスカ削られてトびまくってました。意識もちょいちょい飛んでました。そのたびに叩き起こしましたけど」

塞「《悪鬼羅刹》過ぎるでしょあんたら」

菫「荒川……それに、天江も。お前ら『人権』という言葉を知っているか……?」

憩「人権を無視するくらい、ウチらは真剣やったんです。真剣に、ウチと衣ちゃんと小蒔ちゃんの三人と卓を囲める四人目を欲していたんです。
 井上さんと染谷さんが目をつけへんでも、ウチら《三強》は、いずれ玄ちゃんを掴まえていたと思いますよ。
 ウチの目でも衣ちゃんの支配力でも小蒔ちゃんの《神の領域の力》でも破れへん《絶対》の超能力。ドラ支配による他家の打点の抑制。衣ちゃんたちランクSの支配力に長時間晒されてもギリギリ耐えられるほどに高いランク。それでいて、ウチら三人の誰とも個人的な関係にない中立の部外者。
 玄ちゃんは、まさにウチらのドラ置き場として生まれてきたかのような、うってつけもうってつけな適性を持っていたんです」

智葉「理にかなっている人選だな」

穏乃「あれ……? それ、聞く限りだと、もしかして私も結構いい線いってるのでは!?」

憩「せやね。高鴨さんがウチらと同い年やったら、誘っとったかもしれへん。ただ、ま、現実はちゃう。高鴨さんは去年学園都市におらへんかった。
 やから、ウチらは四人目に玄ちゃんを選んだ。選んで、ドラ置き場として酷使――やなかった、重宝がっとったんです。せやけど……」

エイスリン「セヤケド?」

憩「いつからか、それが変わっとったんですわ。ウチら三人を同時に相手にして、玄ちゃんが、半荘一回を打ち切るようになった。焼き鳥ばっかやったはずの玄ちゃんが、ぽつりぽつりと和了り始めるようになった……。
 ほんで、ついに玄ちゃんが万年ラスから脱却したとき、ウチらは、それまでずっと守っとった暗黙のルールを破棄することに決めたんです。
 『玄ちゃんから直撃を取った人は反則負け』っちゅー、暗黙のルールをね。
 かくして、ウチら四人の集まりは、《三強》+ドラ置き場ではなく、《4K》の集いへと変化していったわけですわ」

衣「のちに起こるこまきプリン事件も、くろがドラ置き場のままでは、もっと悲惨な結果になっていただろう」

純「松実が化けるだろうってのは、オレらはわりと最初の頃から予想してたよな?」

まこ「あんな地獄に放り込まれて化けんほうがおかしいじゃろ……いや、放り込んだのはわしらじゃが」

憩「ちなみにですけど、振り込み等のマイナス分を無視した玄ちゃんの純粋平均獲得点数は、ウチら《4K》の中で一番高いですよ。ウチはもとより、小蒔ちゃんや、衣ちゃんより稼ぐんです。
 つまり、玄ちゃんは、この白糸台で最も得点力のある雀士っちゅーことになりますね」

照「記録保持者の天江さんより稼ぐなら、そうだよね」

穏乃「和了率の高い荒川さんと同卓して天江さんより稼ぐということは、当然、平均打点の高さも白糸台随一ってことになりますよね」

塞「ドラだけで倍満になるんだもんね、あいつ」

菫「無論、その分だけ放銃率は高いのだろうが……」

憩「ええ、菫さんの言う通りです。ウチらの誰より点を稼ぎ、ウチらの誰より点を毟られる――それは、《4K》の集いのときに限らず、玄ちゃんの戦績全般に見られる傾向です。
 多得多失が、玄ちゃんの基本スタイルなんですわ。けど、それは、玄ちゃんの能力的に、どうしてもそうなってまうんです」

憩「玄ちゃんは振り込みます。ドラを捨てられなくて、赤ドラの周辺を集めないと手が出来上がらへん玄ちゃんは、どんだけ読みの技術を鍛えても、和了りを目指す限り、終盤で危険牌を切らざるを得なくなるんです」

憩「これが……もし仮に、ウチが玄ちゃんの超能力を持っていたとしたら、ずっと能力反転状態で打ち回しますわ。たとえドラが一枚も来ーへんでも、《悪魔の目》を持つウチなら、余裕で勝てるからです」

憩「ただ、玄ちゃんは、ウチとはちゃう。《悪魔の目》は持ってへんし、そもそも、ドラへの思い入れが他の人に比べて桁違いに強い。
 やからこそ、玄ちゃんは、自分の能力と向き合うて、その上で、ドラを守りながら戦う道を選んだ。そうして、今の玄ちゃんがあるんです」

憩「どんなに振り込んでも、点を失っても、それを上回るほどに稼ぐ。半荘にたった一回しか和了れへんのやったら、その一回を必ず親の役満にしたったらええ。それが、ウチら《三強》と渡り合うために、玄ちゃんが辿り着いた結論です」

憩「で、何度も言いますけど、玄ちゃんが《4K》の集いで一度もプラス収支になれへんかったのは、相手がウチらやからです。学園都市のナンバー2と、白糸台に五人しかいないランクSが二人。
 ウチら《三強》を同時に敵に回して、トぶこともなく、ラスを回避し、且つ、三人の誰よりも点棒を掻っ攫っていく。これは……本当にとんでもないことなんですよ」

憩「玄ちゃんは、強い。弱いわけがあらへん。それがわかっとるから、小走さんは半ば捨て身で玄ちゃんを抑え込んどる。まあ……それでも、あんな点差、玄ちゃんなら一発でひっくり返せるでしょうけど」

憩「玄ちゃんの超能力は、積み上げた点棒も、練り上げた対策も、磨き上げた技術も、全てを無に帰すことができる……。
 それが、花田さんが転校してくるつい数ヶ月前まで、学園都市のあらゆる能力者の最上位に君臨していたレベル5の旧第一位――《ドラゴンロード》」

     玄『ポン――!!』ゴゴゴゴゴゴゴゴ

純・まこ「おっ?」

照・菫「おお……」

穏乃・衣・エイスリン「おおっ(オオッ)!!」

智葉・塞「へえ……」

憩「見せたれや、玄ちゃん……! 三回戦でウチをあんだけてこずらせた――あの頃から成長した自分の実力を、いかんなくなっ!!」

 ――対局室

 南一局・親:初美

やえ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(小走さん……打つのは二度目で、本気を体験するのは初めてだけど、打ちにくいったらないよ。これで三年のブランクがあるっていうんだから驚きだよね。一年前……あのときは、完全に手加減されてたんだなぁ)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――去年・四月・小走ラボ

やえ「トップは渋谷か。松実と鶴田は惜しかったな」

姫子「最後に8000・16000はずるかー」

玄「途中の二連続6000オールもどうかと思ったけどね」

尭深「いきなり8000オールも十分びっくりだったよ」

やえ「私に言わせれば三人とも化け物だ」

玄・姫子・尭深「博士のほうが化け物(と)です」

やえ「口を揃えて何を言う……点棒をよく見ろ。私はラスじゃないか」

玄「ラス前はトップでした」

姫子「ラス親やなかったら二位やったとです」

尭深「というか、ゲームの半分くらいは博士が和了ってましたよね」

やえ「結果は結果、負けは負けだ。っと……もうこんな時間か。どれ、そろそろ強度測定を再開しよう。お待ちかね。君たち三人の序列を確定させるぞ」

姫子「おっ、ついに来たとですね! 私と哩先輩の絆こそ唯一無二の《絶対》やと証明されるときが!!」

玄「でも、姫子ちゃんの《約束の鍵》って、私と同卓しているときはドラで手を高められないよね。それよりも、私は尭深ちゃんの《ハーベストタイム》のほうが強度が上な気がするなぁ」

尭深「でもでも、私、オーラスで姫子ちゃんに和了られたことあるよ?」

姫子「聞いたとー? やっぱり、リーダーは私やね。任せんしゃい。去年のインターミドルで母校ば全国に導いた私のリーダーシップで、クラス対抗戦も制しちゃるけん!」

玄「姫子ちゃんは麻雀強いけどおもちが微妙だから却下なのです! リーダーはチームの代表! ゆえに、おもちも相応でなくてはならない! ここは尭深ちゃん一択!!」

尭深「その基準だと玄ちゃんか漫ちゃんのほうが適任なような……」

やえ「君ら、もうクラス対抗戦のチームを組んだのか?」

姫子「はい。そいで、せっかくレベル5候補生の三人もおるけん、序列の一番上になった人のチームリーダーやったらよかて、みんなで決めたとです」

玄「最初は、インターミドル経験者で部長もやってた姫子ちゃんか、意外と面倒見のいい華菜ちゃんに決まりそうだったんですけどね。二人ともおもちに可能性を感じないので、私が猛反対しました」

尭深「もし私がなったら……玄ちゃん、責任取ってフォローよろしくね?」

玄「お任せあれ!」

やえ「レベル5候補生が三人――しかも全員が高火力型の能力者、か。面白そうなチームじゃないか。これは、憩たち《刹那》の対抗馬になるのは君たちかな」

姫子「《刹那》……あの化け物揃いの一組とですか」

玄「私、入学式の日、天江さんが壇に立ったくらいから記憶がないのです……」

尭深「私も。気付いたら保健室だった」

やえ「来年の新入生代表がまともなやつであることを今から願おう。と、閑話休題だな。
 では、まずは鶴田。君は、別室で白水から新しい鍵を貰ってきてくれ。とりあえず、飜数に拘わらず南四局に一本あればそれでいい。
 その間に、松実と渋谷は、私と強度比較を行う。で、それが終わったら今度は渋谷と鶴田だな。早ければ、その時点で序列が確定するはずだ。さて、何も質問がなければ、測定を始めるぞ」

姫子・玄・尭深「はーい!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

やえ「よう、お待たせしたな」

玄「そ、それで……どうでした?」

尭深「姫子ちゃんは――」

やえ「ああ……開いたよ。能力《オカルト》の道の突き当たり――一番奥の扉の向こう側――《絶対》の領域へと、あいつは足を踏み入れた。おめでとう。これで君たち三人は、晴れて正真正銘のレベル5というわけだ」

玄「私たち……本当に超能力者だったんだ……!?」

尭深「わ、私、姫子ちゃんのとこ行ってくるね!!」タッ

玄「う、うんっ。私は……そうだ! お姉ちゃんに電話しなきゃ!!
 ――あっ、もしもし、お姉ちゃん!? あのね、私の能力、本当にレベル5だった! しかも、序列はなんと第一位なのですっ!
 あっ、尭深ちゃんはね、二位だよ! で、姫子ちゃんが三位! そう、みんなレベル5で――うんっ、うん、ありがとう。じゃあ、また寮でねー」ピッ

やえ「松実宥か?」

玄「はい、お赤飯炊いて待ってるって!」

やえ「さすが赤牌を寄せる能力者。米まで真っ赤に染めるとは」

玄「あったか~いお赤飯が今から楽しみなのです!」

やえ「にしても……まさか超能力者《レベル5》が一度に三人も発見されるとはな。過去の歴史を紐解いても、この《絶対》の領域に踏み込んだ能力者は、世界に君たちともう一人しか確認されていない」

玄「そうなんですか?」

やえ「ああ。レベル5というのは、それくらい貴重な存在なんだ。いわゆる能力《オカルト》が発祥してから一千年。全て能力者は、《絶対》の壁を越えることができなかった。
 海の向こうの世界では、その壁を越えるのは、原則的に不可能とまで言われている。実際、向こうの世界でレベル5は確認されていない。それが……この学園都市には、現在、なんと四人もいるわけだ」

玄「ほあ~。あれ、そう言えば、その四人目の方とは、強度測定していませんけど、いいんですか?」

やえ「いいんだ。四人目は、本人が最下位を希望していてな」

玄「どうしてですか?」

やえ「目立つのが恥ずかしいんだとよ」

玄「そうなんですか……残念。どなたか存じ上げませんが、一度打ってみたかったものです」

やえ「心から忠告しておく。やめとけ」

玄「は、はあ……?」

やえ「ま、そういうわけだから、安心しろ。今のところは、君がレベル5の第一位だよ。電子生徒手帳のデータも、明日には更新されるだろう」

玄「レベル5の第一位……そっか。私、一番なんですねっ! 学園都市……最初は不安でしたけど、今は、来てよかったって思います!」

やえ「おいおい、まだこの街での生活は始まったばかりだろう。レベル5の第一位になったくらいで満足してもらっては困るぞ、新入生」

玄「けど、ナンバー1ですよ?」

やえ「オンリー1だよ。いや、もちろん、十分に素晴らしいことなのだが……そうだな。取り返しがつかなくなる前に、その幻想はぶっ殺しておくとしよう」

玄「ぶっ……え?」

やえ「松実玄」

玄「は、はい」

やえ「浮かれているところ申し訳ないが、少しだけ、お前に苦言を呈しておく」

玄「博士……?」

やえ「いいか? 確かに、お前はレベル5の第一位だ。お前のドラ独占を打ち破れる人類は、恐らくそう簡単には現れないだろう。それは誇りにしていい。お前の超能力は、お前だけの超能力だ」

玄「あ、ありがとうございます」

やえ「だが、能力を誇っても、能力に驕っているようでは、学園都市の雀士としては三流以下だ」

玄「え」

やえ「よく聞け、松実。お前の能力は、確かに強力無比だ。今のところは唯一無二のオンリー1。しかし、それは言ってしまえば、ただ非常に珍しい能力を持っているという――それだけのことに過ぎない」

やえ「珍しいものは、えてして、他人から利用されやすい。特に、お前みたいな常時発動型は危険だ。絶対で永続のドラ独占――それは他家にとって、崩しようのないドラ無し麻雀を意味する。
 普通は、そんな徒に打点が下がるだけの麻雀なんて、誰も打ちたいと思わないだろう。が、学園都市には、知っての通り普通じゃないやつらが何人か存在する」

やえ「そういうごく一部の人間にとって、お前のドラ独占能力は、非常に貴重なモノとして映るだろう。お前を卓に入れるだけで、ドラ無し麻雀を楽しめる――そういう特殊な卓上《セカイ》を生み出すシステムとして、お前は利用されるかもしれないんだ」

やえ「貴金属や宝石と一緒だな。そいつらにとって、お前のドラ独占能力は、ただの珍重なモノ。言わば見世物で飾り物――そこに在るだけで十分に事足りる……そんな置き物でしかない」

やえ「まあ、そんな悪逆非道な真似をするやつらが、実際に現れるかどうかは別としてだな。ただ、お前をそういう目で見るやつらは、今後、きっと大勢出てくるぞ。学園都市はお前が思っているより物騒な街だし、口の悪いやつらも多い。
 終いには《ドラ置き場》――なんて揶揄されるかもしれん。今のお前のままでは、間違いなくそんな不名誉な通り名が幅を利かせるだろうな。かく言う私も、今のお前に対しては、それくらいの評価しかしていない」

やえ「私の《幻想殺し》にとって、能力はただの記号の羅列――プログラムに過ぎない。お前のドラ独占も、渋谷の《ハーベストタイム》も、鶴田の《約束の鍵》も、一定の論理に従って一定の結果を生み出すだけのシステム。それ以上でもそれ以下でもないんだ」

やえ「ただ、お前たち本人は、そうじゃないはずだ。能力は能力者の根幹をなす論理。それがそういう能力であることには、必ず理由がある。確率を捩じ曲げるほどの強い想いが、お前らの中にはあるのだろう?」

やえ「だが、そんな心理《オカルト》は、他人にはわからない。お前以外の連中は、お前の想いを、ただの理屈《デジタル》として対処する。残念ながら、それがデジタルとオカルトが共存する学園都市という街の流儀なんだ」

やえ「そんな学園都市で生きていくには、今のお前はあまりにも未熟だ。遠からず、心折られるときが来るだろう。自らの能力を誇れなくなるときが来るだろう。
 そして、もしそうなったときは、私が今から言うことを、思い出してほしい――」

やえ「オンリー1に満足するな。ナンバー1を目指せ、松実玄」

玄「……っ!!」

やえ「オンリー1は確かに素晴らしいことだ。しかし、それは、あくまで貴重で珍しいだけの何かでしかない。
 例えば、いつか、お前以上の超能力者《レベル5》が現れたとき、お前はオンリー1ではなくなって、その後も、永遠にオンリー1に返り咲くことはできなくなる。
 オンリー1は、誰もがなれるものではないが、そういう脆弱な側面があることを、決して忘れてはならない」

やえ「対して、ナンバー1は違う。誰もが《頂点》に立つ可能性を秘めている。さらに、たとえナンバー1の座から引き摺り下ろされても、努力を積み重ねれば、またナンバー1に戻れるかもしれない。
 或いは、戻れなかったとしても、それはそれ。ナンバー1ではなくなっても、ナンバー1だったという事実は、そう簡単に人々の記憶から消えないものだ」

やえ「オンリー1は……しかし、そうではないな。過去にオンリー1だった者は、無数にいる。だが、その誰もが、新しいオンリー1の登場と共に、人々の記憶から消えていく。一時の流行歌のように、時が過ぎれば忘れ去られてしまうのだ」

やえ「だから、松実。オンリー1を誇っても、オンリー1に驕ってはいけない。ここは麻雀の強さが全ての白糸台高校麻雀部。
 たとえレベル5の第一位だろうと、強くなければ、弱いままでは、この街では生き残れない。いつかどこかで必ず、お前の誇りは踏みにじられる。私はそれを望まない」

やえ「松実、私はお前に、強い雀士であってほしいと願う。超能力に使われる超能力者ではなく、超能力を使いこなす超能力者であってほしいと願う。
 それこそ、私のような無能力者《レベル0》を、一瞬で灰にできるくらいの打ち手になってほしいと願う」

やえ「松実玄、お前の学園都市での生活は、始まったばかりだ。まだまだ、レベル5の第一位になったくらいで――スタートラインに立ったくらいで、満足して歩みを止めてはならん。ナンバー1への道のりは遠く険しいぞ。心して進め。わかったな?」

玄「は……はいっ!」

やえ「よかろう。次がいつになるのか――というか次があるのかすら疑わしいが、また私と打つことになったら、そのときは、全力で殺しに来いよ」

玄「わかりましたっ!」

やえ「まぁ、まずはクラス対抗戦で優勝するところからだな。どうせなら、憩たち《刹那》の鼻を明かしてやるといい。頑張れよ、リーダー」

玄「ありがとうございます、博士」

やえ「さて、ごちゃごちゃと長話をしてすまなかったな。強度測定の詳細な結果は、後日メールで送る。特に質問がなければ、私はこれで失礼するぞ」

玄「大丈夫ですっ! ではでは、小走博士、またどこかで!」

やえ「ああ、達者でやれよ、超能力者《レベル5》」

玄「はい!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

やえ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:小走やえ(幻奏・110500)

玄(小走さん……全部、あなたの言った通りでしたね。あのあとすぐ、私は憩さんたち《三強》のドラ置き場にされました。そして、つい数ヶ月前、とうとう私は、第一位の座も花田さんに奪われてしまった)

 南家:松実玄(逢天・77800)

玄(あのままの私だったら、耐えられなかったかもしれません。憩さんたちにいいように使われて、第一位の肩書きと一緒に誇りまで失っていたかもしれません。でも……私は、そうならなかった……!!)

玄(私は私の超能力を誇りに思っています。いなくなったお母さんが傍で見守ってくれているようなこの力が、とっても好きです。
 レベル5の第一位になって、小走さんに諭してもらったあのときから、驕ることも呪うこともなく、私はずっと思い出《ドラ》と一緒に歩いていますよ……ナンバー1への道を――)

玄(今はまだ、ナンバー2の憩さんには勝てないし、宮永さんには他家のアシストを受けて倍満を一発当てるのが精一杯の私ですけど……それでも、ちょっとずつですが、前に進んでいます。
 それを――あれから私がどれだけ強くなったのかを、あなたに見せたい……!!)

玄(自らの能力を《絶対》と誇ることを許された雀士として、お望み通り、私《レベル5》はあなた《レベル0》を灰にしてみせますよ。
 これが超能力を使いこなす超能力者――! この幻想を、あなたは殺すことができますか……小走さん……!!)

玄「ポン――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(五筒をポン……? 赤五を二枚手に持っていたその状態なら、雀頭にでもすればいいものを、わざわざ鳴いただと? どういう意図だ――)

玄(振り込むことになっても構わない。押せると思ったときに押していく。どんなに形が悪かろうと、点差があろうと関係ない。逆境も不利も劣勢も――全て消し飛ばすッ!!)

玄「もう一つポンですっ!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(今度は五索……さては三色同刻か。松実は赤ドラを引き寄せる。仮に、五索と五萬が配牌から手にあったとしたら、遠からず三種類の五牌が二枚ずつ揃うことになる。鳴きを使えば、通常の確率よりは三色同刻を作りやすい。が……)

初美(その鳴きを見て五萬を切るやつはいないですよー。幸い、五萬は私の手に二枚あるですー。これは永久ストップですねー)

 東家:薄墨初美(新約・101500)

やえ(牌を絞られたらそれまでだ。今回のドラはヤオ九牌。鳴いてしまっては、和了れる手役は限られてくる。三色同刻狙いで手を進めていたとしたら、松実はここで足踏みすることになるだろう)

玄(わかってますよ。こんなバレバレの三色同刻で和了るつもりはありません。私の狙いは、他にある――!!)

やえ(三色同刻がフェイクだとすれば、濃厚なのは対々か。しかし、これも三色同刻と同様。こちらが生牌を絞れば、和了れる確率はぐんと低くなる。
 その上、対々は、シャボなら待ちを変えるのが困難になる。今回はドラが一萬だから、断ヤオに逃げることもできん。テンパイを維持するには、ツモ切りでツッパらざるをえない。終盤になればなるほど狙われやすくなるぞ)

淡(さーてっ! 張った張った。がつーんと撃ち落しちゃうよー!!)

 西家:大星淡(煌星・110200)

玄(む。大星さんがテンパイしたかな。けど、もう遅いよ……!!)

玄「カンッ!!」ゴッ

やえ(ドラの暗槓……? 待て、ドラ表示牌は出尽くしていたはず。となるとカンドラは表ドラとは別物になるはずだが――)ハッ

玄(そうなのです。ドラ表示牌が出尽くしていれば、暗槓で捲られるカンドラは、表ドラとは別のドラになる!
 そして私は《ドラゴンロード》――《全てのドラは私に集まる》! 裏を返せば、私に集まっている牌は、ドラになるってことなのです!!)

 玄手牌:五[五]99/一一一一/5[5](5)/[⑤](⑤)[⑤] ドラ:一・9 嶺上ツモ:?

やえ(対々を和了る難しさは、何はともあれ同じ牌を三枚集めることにある。鳴けばその限りではないが、いずれにせよ、最終的な待ちはシャボか単騎。良形の平和などに比べれば、和了り牌の枚数は半分以下だ。
 だが、そんな一般論は、あくまで一般論でしかない。特定の牌を縦に重ねやすい能力者にとって、対々はむしろ平和よりずっと和了り易い手と言える……)

玄(私が対子か暗刻にしている生牌は、新しいドラになりやすい。だから、たとえ五萬を止められるのがわかってても、この手なら対々を狙っていったほうが効率がいい。
 いずれ表ドラの一萬で暗槓できること、そのカンドラが九索になるだろうことは、これまでの経験からなんとなく予想できる。
 あとは、ドラへと変身したこの九索――《絶対》に残り二枚が山に埋まっているはずの和了り牌をツモれば……それで私の勝ちですッ!!)

玄「ツモ……っ! 嶺上開花対々ドラ七赤四――8000・16000です!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美(だー! もってけ泥棒ですよー!!)

淡(手牌がほとんどドラじゃん……頭痛くなっちゃうなー)

やえ(積み上げた点棒が一瞬でひっくり返されたな。まさに全てを無に帰す《グラウンドゼロ》。すくすくといい感じの化け物に育ったもんだ。荒川でもあるまいし、こんなやつをどうやって殺せと……? いやはや、楽しませてくれる)

玄「次は私の親なのですっ!」ゴッ

初美:85500 玄:109800 淡:102200 やえ:102500

カンしたドラをチャンカンで刺されたらどんな扱いになるんだろう

 南二局・親:玄

初美(っとにもーですよー。ドラだけで数え役満とか勘弁してくれですー。しかも、そっちは常時発動型じゃないですかー。毎回毎局が役満チャンス。半荘に最大二回しか役満を和了れない私とは大違いですねー)

初美(今回、やえは国士狙いをしてこないですー。普通に牌を絞ってくる作戦ですかー? それとも、そもそも手に東と北がない感じですかねー。なら、速攻注意ってやつですかー)タンッ

玄(うっ……北が二枚も。これどうしようかな。私の能力的に、この北を抱えながら和了るのはかなり厳しい。けど、ただ捨てるのは、薄墨さんを調子付かせちゃうから悪手だよね。んー……)タンッ

淡「チー!」タンッ

やえ(ほう。大星が仕掛けてきたか。ま、ドラだけで倍満が保証されている松実が親で、初美が北家なんだ。二人が動いてくる前にケリをつけてしまおうというその判断は、正解だろう。私も動けるものなら動きたいが……)タンッ

初美(ほれほれですよー! いい子ちゃんだからさっさと出してくるですー!)タンッ

玄(あっ……これ――うん。これなら、勝負になるはず。薄墨さん、覚悟してくださいね……!)

玄「カン!」ゴッ

淡(またドラの暗槓!? もー、さっきからやりたい放題っ!!)

やえ(カンドラが表ドラと重なった。これでドラ八。赤四と合わせれば、断ヤオのみだとしても、当然のように数え役満……)

玄(麻雀は相手を降ろしたほうが勝つゲームです。さあ、役満を賭けて勝負しようじゃないですか。ただし、私が48000点なのに対し、あなたは32000点ぽっちですけどね、薄墨さんっ!!)タンッ

初美(なるほどなるほどですー。親の役満をチラつかせて私を降ろそうって腹ですかー? ご丁寧にドラ八確定させてからの北切り――それなりに手は出来上がってるっぽいですねー。けーどー!!)

初美「ポン!!」ゴッ

玄(やはり……鳴いてきますか……!!)ゾクッ

初美(ナメんじゃねーですよー。期待値とか確率とか細かく計算したら私のほうが不利なのはわかってるですけどー……こちとら《最凶》の大能力者。
 北家の私を封殺できるのは《幻想殺し》と《塞王》と《頂点》くらいなもんですー。二年なんぞにビビらされるほど私はヒヨってないですよー……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(それでも、ここから東を鳴いて、南と西を集めないといけない薄墨さんよりは、私のほうが速い!!)タンッ

淡(手出しで二枚目の北か。張ってるのー? 明らかに役満級の手っぽいけどー……まっ、いいや! 親の数え役満も子の四喜和も和了られなければ問題なし! 全力でぶっ潰すよ!!)タンッ

やえ(オリたいが……それだけじゃ勝てない。私も混ぜてもらおうか――)

やえ「チー」タンッ

初美(盛り上がってきたですねーっ!)タンッ

玄(大丈夫……まだ《裏鬼門》は開いてない……)タンッ

淡「チーだよ!」

淡(鳴き三色! しょっぱい手!! けど、この千点は役満を潰す千点――まさに値千金ってね!!)タンッ

初美「ポンですよー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(――っ!? 東! 松実でも私でもないのだから、隠し持っているのはお前だと思っていたが、鳴き三色で手役があるなら東単騎でもよかっただろうに……)

淡(この状況で東単騎なんてやってたら、和了れるもんも和了れないでしょ。いいんだよ。気合とランクSの支配力で、自力で引いてやるからさ……!!)

初美(《裏鬼門》発動ですー!! 全員死霊の餌食になれですよー……!!)タンッ

玄(こっちも……張りましたッ!)タンッ

淡(むー……さすがに能力発動されるとはつみー先輩のほうが有利かなー? ぐぬぬ、牌がビリビリしてるよ)タンッ

やえ(と、松実が張ったか……? 振り込んだら首が飛んでしまう。ま、現物を落としつつ回すとするか)タンッ

初美(どんどん来るですよー!!)ゴゴッ

玄(うわっ、なんか超危ないとこ来た……。でも、《裏鬼門》が発動してから、薄墨さんは二回しかツモってない。大四喜はもちろん、小四喜だって完成していないはず。これは、通る――)タンッ

初美「ロンですー!」ゴッ

玄(えっ……)

淡(なんと!?)

やえ(ふむ)

初美「南北混一混老対々――16000ですよー……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(そんな……四喜和じゃない……!?)

初美(そっちが北と東をギリギリまで抱えるってんなら、私はその間、普通に手作りをすればいいだけの話ですー。実際、北と東を鳴いた時点で、南単騎の北混一チャンタをテンパイしていて、次巡にツモったんですよねー。
 もちろん、普段ならそこから四喜和一直線ですけどー……全員が攻めてきてるこの場では、南を暗刻にして四飜上乗せするのが限度だってことくらい、私も弁えているのですー。
 能力を応用して戦ってるのが自分だけだと思ったら大間違いですよー、松実さん。この程度の応用なら朝飯前なのですー!!)

玄(北家は薄墨さんの庭……やられた。なかなか、小走さんみたいにはうまく攻略できないかぁ)

やえ(初美の二度の北家は終わった。前半戦終了までは、あと二局。大星の親と私のラス親を、なんとか凌いでやる)

淡「次は私の親だねっ!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美:101500 玄:93800 淡:102200 やえ:102500

>>660さん

ドラの暗槓を槍槓された場合、『ドラで振り込んだ』→『ドラを切った』扱いになって、以後の局から、能力が反転すると思います。

 ――《煌星》控え室

桃子「おっ、今度は対7っす。超新星さんにとっては最高の出目っすね!」

友香「古典確率論的に一番出易い目が一番速く和了れるとか、卑怯なんでー」

咲「一つズレて左8になると地獄行き決定なんだけどね」

     淡『ダブリー!』ゴッ

煌「……ふむ」

桃子「何か、気になることでもあるっすか、きらめ先輩」

煌「いえ。淡さんのダブリー条件に、四つ目を加えておいて正解だったと思いまして」

友香「えっと、親番で、薄墨先輩が北家じゃなくて、且つ賽の目が4~7。これ以外にもう一つ条件があったんですか?」

煌「皆さんの前では言っていません。淡さんが対局室を出てからそれに思い至って、急いであとを追いかけたのです」

咲「ああ、あれはそういうことだったんですか。言ってくれれば私が走りましたよ?」

煌「いえいえ、それには及びません」

桃子「嶺上さんに行かせるくらいなら私が走るっす」

友香「咲に伝令を頼むとかありえないんでー」

咲「うっ、反論できない……」

     淡『カンッ!』

桃子「それで、四つ目の条件ってなんなんっすか?」

煌「ドラに関することです」

友香「松実先輩対策ですか」

煌「ええ。松実さん……三回戦で戦ったときは、荒川さんがいたのでわかりにくかったのですが、あとから牌譜を見て驚きました。私が感じていた以上に、あの方はすばらな打ち手だったようです。
 私は《逢天》のエースは神代さんだと思っていましたが、どうやらそうではなかったようですね。この先鋒戦を見て確信に至りました。
 レベル5の第二位――《ドラゴンロード》。あの方こそ、《逢天》で最も警戒すべき雀士です」

     淡『ロン、6800!』

     玄『はい』

咲「振り込みましたけど……?」

煌「そういうこともあるでしょう。松実さんのスタイルは、能力的にどうしても多得多失になりがちです。6800程度なら、むしろどうぞくらいのつもりで打っているでしょうね」

桃子「まあ……さっき数え和了ってたっすもんね」

友香「けど、そんな簡単に取り戻せるんですか? 松実先輩の個人収支は、今のところ、マイナス13000点です。ドラだけで倍満になるといっても、16000点ではプラス3000点にしかならないんですよ?」

煌「これはこれは友香さん、異なことをおっしゃいますね。もしかしますと、友香さんは、松実さんの平均打点が16000点程度だとお考えですか?」

友香「でっ……?」

煌「そんなことはありません。ドラ四枚と赤ドラ四枚。全て集めればツモのみでも倍満になる。しかしながら、この『倍満』というのは、決して平均打点を意味しません。むしろ、子の倍満16000点というのは、松実さんの打点の下限を表す数値でしょうね」

咲「16000点が下限って……」

煌「実際、三回戦での松実さんの平均打点は、詰み棒を無視すると18000~19000点くらいになります。それでも、普段の松実さんから比較すると、むしろ低いくらい。あの方の平均打点は、驚くなかれ、24000点を超えます」

桃子「下限が子の倍満で、平均が親の倍満以上っすか」

煌「三回戦の副将戦後半での神代さんの平均打点が20000点、二回戦の大将戦での天江さんの平均打点が12000点であることを考えると、よりその凄まじさが伺えると思います。もちろん、和了率は平均打点に反比例しているわけですが」

友香「掛け合わせると、ちょうど同じくらいになるって感じですか?」

煌「ええ。そうですね。松実さんは《三強》のランクSである神代さんや天江さんに匹敵する火力をお持ちです。ただ、それだけだと、まだ、正解の半分といったところでしょうか」

咲「……そっか! ドラ支配による他家の打点抑制!」

煌「すばら。そういうことです。松実さんは、自身が高火力であることに加え、ドラを独占して他家の打点を強制的に下げます。今回の淡さんがまさにそうですね。
 それに、友香さんも、桃子さんも、咲さんも……松実さんと同卓したら、満貫を和了ることすら一苦労だと思いますよ。さらに言えば、時によって、松実さんは《リーチ和了を封じる》や《暗槓を封じる》特性も発揮し始めます」

友香「満貫を和了るのが一苦労な状況で、平均打点が24000点を超える化け物を相手にしなきゃいけないんでー……?」

桃子「和了らせなきゃいいっす!」

咲「まあ……基本的な対策はそうだよね。三回戦で《悪魔》の荒川さんがやっていたように、手数で圧倒して、なおかつ松実さんへの直撃を狙えば、勝ち越すことはできる。
 ただ、荒川さんでさえ、松実さんの和了率をゼロに抑えることはできなかった。それがなんでかっていうと、ドラや手牌によっては、松実さんに有利な場になったりするから――そうですよね?」

煌「ええ。松実さんが和了れるかどうかは、松実さんの腕もさることながら、ドラの種類にも強い影響を受けます。
 松実さんの手作りのパターンはいくつかの型に分類できますが、その中でも、非常に危険な場合――それが、ドラが三~七牌のときなのです」

友香「でっ、賽の目が5なのに淡がダブリーしない!?」

桃子「ドラは……四萬っすか」

咲「これが四つ目の条件ってことですか?」

煌「そうです。速攻か、或いは差し込みでもいい。なるべく小さな被害でこの場を切り抜けていただきたいところですね……」

     玄『……』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《新約》控え室

絹恵「あれ? 大星さんがダブリーしませんでしたよ?」

和「普通ダブリーなんてそうそうできませんよ」

姫子「親であること以外に、何か条件のあっとですかね」

和「条件が揃えばダブリーができるみたいな言い方ですけど、そんなオカルトありえません」

怜「んー……はっきりとは言えへんけど、大星さんの視線を見る限り、賽の目とドラを気にしとるっぽいな。せやけど、今回の賽の目5は、東場の親で一回出とって、そんときはダブリーしとったやんな」

和「賽の目なんて気にしてどうするんですか。あと、賽の目とダブリーが関係あるみたいな発言はSOAです」

怜「っちゅーことは、ドラが四萬であることに、なーんか意味があるんやろな。大星さんにダブリーを思い止まらせるだけの何かが」

和「ドラが中張牌であれば、手役とドラを絡め易くなります。この場合、萬子が手に多いなら、ドラを固めて染め手という道もありますし、平和、三色、断ヤオなどの基本的な役とも複合させやすい。
 また、三~七牌がドラなら、ドラと赤五を組み合わせて一面子を作ることができます。すると、それだけで二飜のボーナスになりますね」

怜「それやー!」

和「なっ!? なんですか、いきなり食いついてきて! 私がSOASOA言ってるときは皆さん全然反応してくれないのにッ!!」

絹恵・姫子「ごめん」

怜「いや、けど、さっすが和やな。ズレた論理とズレたアプローチでたった一つの正解に辿りつく。せやせや、和の言う通り、ドラが中張牌――特に三~七牌のときは、松実さんにごっつい有利な場になるやんか!」

和「私はドラと手作りに関する一般論を語っただけで、別にドラと松実先輩については何も言及していません」

怜「っちゅーか、デジタル信者やのにこうも毎回オカルトの核心を言い当てる和って、もしかして、ホントはオカルト思考で結論出しとるのに、わざとヒネた言い回しをしとるだけなんとちゃう?」

和「はあー!?」

絹恵「えっ!? ほな、和はオカルトに対してもツンデレってことですか!?」

姫子「勘違いせんで! そいなオカルトありえなかとやけんね! 的な!?」

怜「これは革命的な発想の転換やで……!!」

和「そんなオカルトありえませんッ!!」

怜「――っと、なんてふざけとる場合やないかもしれへん。あかんな、本格的に松実さんの手がヤバなってきたで」

 ――《幻奏》控え室

セーラ「おっ、大星がダブリーせんな。これはあれか、松実を警戒しとるんか」

優希「セーラお兄さんは直感でなんでもわかり過ぎだじょ!」

ネリー「やえがいないと解説する人がいないんだよっ!」

誠子「じゃ、じゃあ、僭越ながら私が……」

優希・ネリー「救世主っ!」

誠子「いや、と言っても、一般論以上のことは何も言えませんが。えっとですね……まず、松実さんはドラを独占しますよね? つまり、ドラ四枚と赤ドラ四枚が手に入るわけです。
 あ、いや、いつもいつも全て手に入るわけではないんですけど。ただ、入るにしろ入らないにしろ、来たら抱えないといけない以上、全てが入る前提で、松実さんは手を進めなくてはいけないわけですね。なので、最終的に、こうなるわけです――」

 玄手牌:ドドドド[五][5][⑤][⑤]***** ドラ:ド

セーラ「ほうほう」

誠子「見てわかる通り、松実さんにはいくつか和了れない役があります。チャンタ系と染め手系、それに一通ですね。また、ドラを暗刻で使う場合には、平和にもできません。さらに、ドラがヤオ九牌の場合は、断ヤオも和了れません。
 ドラの種類に関わらず、松実さんが常に狙える役となると、ツモなどを除けば、対々か赤五絡みの三色だけ、ということになりますね」

ネリー「きっつきつなんだよ!」

誠子「はい。なので、小走さんが国士で封殺しようとしたとき――オタ風牌のドラというのが、松実さんにとっては一番辛いんです。断ヤオにもできず、三枚目が来た時点で平和も狙えなくなるわけですから。
 そうなると、三色、対々、ツモ、リーチ、嶺上、海底・河底など、かなり限定的な状況でしか和了れなくなってきます」

優希「なるほどだじぇ~」

誠子「では、逆に、松実さんにとって有利なドラは何か。それが、中張牌――特に、三~七牌なんです」

セーラ「ま、その事実そのもんは、今更な感じするけどな。そら、あいつの場合、端っこより真ん中のほうが楽に手作りできるやろ」

誠子「一応、理屈を説明しておきます。まず、三~七牌なら、無理なく断ヤオが狙えますね。さらに、たとえドラが三、四枚重なっても、同じ色の赤五とくっつけて順子にし、形によっては平和を狙うこともできます。
 これ、ヤオ九牌がドラの場合に、断ヤオと平和の可能性がほぼ皆無になってしまうのと、かなり対照的ですよね」

ネリー「確かにっ!」

誠子「また、普段の松実さんは、ドラ、赤五萬、赤五索、赤五筒を、それぞれバラバラに使わざるを得ない――えっと、要は、手牌のうち四面子が、全てドラで固定されてしまうわけなんですけど」

優希「ドラの暗刻、赤五絡みの順子が三つ、っていう形は、確かによく見る感じするじぇ」

誠子「はい。しかし、それも、三~七牌がドラの場合は、赤ドラとドラをくっつけて使うことができるので、やり方次第で、手牌に一面子分のフリースペースを作れることになります。えー……例えば、こんな感じ」カチャカチャ

 玄手牌:四四四[五]六4[5]6[⑤][⑤]*** ドラ:四

誠子「これなら、仮に四枚目のドラが来ても、十分に手牌を変化させることができます。窮屈なことに変わりはありませんが、普段よりは幅のある打ち方ができるはずなんです」

セーラ「赤ドラとドラをくっつけて使えるっちゅーんがミソやんな。例のドラ待ち多面張も、ドラと赤五をくっつけて作っとるし」

誠子「そうですね。あ、あと、補足なんですが」

ネリー「なーになんだよ?」

誠子「松実さんは、ドラで面子が固定されて窮屈だ、という話を今しましたが」

優希「ふむふむだじぇ?」

誠子「それって、逆にいうと、手牌によっては、ドラを集めるだけでほぼ全ての面子が出来上がる――と解釈できなくもないんですよね」

セーラ「ほほう?」

誠子「なので……大星さんの《絶対安全圏》で、一見バラバラに見える、松実さんのあの配牌――」

 玄手牌:②[⑤][⑤]478四六九白發中西 ドラ:四

誠子「もし、松実さんが、三回戦を経て、ある程度狙ってドラを引き寄せることができるようになっているとしたら、驚くべき速さでとんでもない手を張ってくる可能性がありますよ……」

 ――《逢天》控え室

泉「これは玄さんが来るんやないですか!?」

透華「ええ。あのドラであの配牌。玄がこの好機を逃すはずがありませんの!」

豊音「ちょーやっちゃえー、クロー!」

小蒔「はわわっ! いきなり赤ドラが――」

 玄手牌:②[⑤][⑤]478四六九白發中西 ツモ:[五] ドラ:四

泉「さっそく手が進みましたねっ!」

透華「まだまだ……ドラのエレクトリカルパレードはこれからでしてよ!」

豊音「次々にドラのお友達がくるよー!!」

小蒔「ツモというツモが全てドラ! すごいです、あの《絶対安全圏》、起きてる状態の私ではどうしようもなかったのに……!!」

 玄手牌:[⑤][⑤]4[5]78四四四四[五]六西 ドラ:四

泉「ここまでツモった五枚が全部ドラ! それでいてムダヅモなしや! もー色々信じられへん!!」

透華「五巡目にして一向聴。あの配牌からよくやりますわ」

豊音「大星さんがダブリーしてこなかったのは、これを警戒してたってことだよねー」

小蒔「なんの! どんなに警戒されたところで、今の玄さんを止められるはずがありません!!」

泉「六巡目……!! ツモは――」ゾワッ

 玄手牌:[⑤][⑤]4[5]78四四四四[五]六西 ツモ:6 ドラ:四

透華「ピンポイント来ましたわー!!」ブンブン

豊音「高め断ヤオの三面張とか! クロがこんな綺麗な手を張ることなんてちょー滅多にないよー!」

小蒔「しかも八枚のドラを全て抱えています! これで手からドラが溢れる心配はありません!!」

泉「なら――当然あれが来ますやんなっ!!」

     玄『……リーチ!』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉・透華・豊音・小蒔「――っ!!」ゾッ

透華「味方ながらに寒気がしますわね。玄のリーチほど恐いものはありませんわ」

豊音「クロがリーチしてくるってことは、ドラが来てもツモ切りしなくて大丈夫な状況ってことだもんねー」

小蒔「つまり、ドラ待ちになっているか、ドラが全て手牌にあるかですね。この場合は後者ですが……この時点で既にドラ八。そして、リーチを掛けた以上、当然、和了りをものにした場合――」

泉「裏ドラが捲くられる……ッ!!」

透華「無論、裏ドラが玄に乗るかどうかはケースバイケースですわ。理論上、四枚全てが山に埋まっている牌が一種類でもあれば、それがドラになる可能性もなきにしもあらずですものね」

豊音「でも……そのパターン、もう結構な数クロと打ってるけど、私は見たことないんだよねー」

小蒔「はい。玄さんがリーチを掛けて和了ると、ほぼ必中で、裏ドラは表ドラと重なります! 今の手牌なら完全独占のドラ十二っ! 高めも何も関係ありません! これが数え役満にならないで何がなるというのでしょうか!!」

泉「っしゃー!! 絨毯爆撃かましたってくださーい、玄さああああん!!」

 ――対局室

 南三局一本場・親:淡

玄(ふう……軽く一年分の集中力を使った気がするよ。けど、お蔭様でドラ完全独占の一向聴。今頃控え室は盛り上がってるかな? わかってるよ。私は超能力者《レベル5》――これは《絶対》にものにしてみせる……)

 北家:松実玄(逢天・87000)

淡「」タンッ

 東家:大星淡(煌星・109000)

玄(大星さん……衣さんと同スペックの支配者。ランクSでレベル4の多才能力者《マルチスキル》。他家の手の進みを制限しといて自分は高い手をバンバン和了るなんて、本当にずるい。それでいて、あくまで能力を勝つ手段の一つとして戦ってるんだもんね。《超新星》の異名も納得だよ)

やえ「」タンッ

 南家:小走やえ(幻奏・102500)

玄(小走さんは……憩さんが敬愛する博士さん。頭がよくて、なんでも知ってて、能力者の《幻想》をいとも簡単に打ち砕く。勝っても負けても想定内……本当の意味で、この人を超えることはできないんだと思う)

初美「」タンッ

 西家:薄墨初美(新約・101500)

玄(薄墨さんは……小蒔ちゃんのお仲間さんで、同じ《神憑き》。ランクAのレベル4――支配力の扱いも上手いし、変化にも敏感で、オカルト対応力がものすごく高い。その上で、完全デジタルでも十分に打ち回せる実力者。強い能力者の見本みたいな人だよ……)

玄(なんだか……まるで《4K》のときみたい。衣さんと、憩さんと、小蒔ちゃんに、ちょっとずつ近い人たち。うん……大丈夫。あの頃――私が一番がむしゃらに打っていた時期――感覚が……研ぎ澄まされていくような気がする……)ツモッ

 玄手牌:[⑤][⑤]4[5]78四四四四[五]六西 ツモ:6 ドラ:四

玄(あのとき、あの《三強》には、手も足もでなかった。今も、たぶん無理。どんなに頑張ってもマイナス収支の三位が限界だと思う。
 でもね……似てるけど、この人たちは《三強》じゃないから。なんていうか――そう、負ける気がしないかなっ!!)

玄「……リーチ!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 玄手牌:[⑤][⑤]4[5]678四四四四[五]六 捨て:西 ドラ:四

玄(派手に行きますよ、皆さん。これが《爆心》――白糸台の《生ける伝説》筆頭の、超高火力麻雀……! 私の誇りに懸けて、全て跡形もなく吹き飛ばしてやるのですッ!!)

淡(私の《絶対安全圏》を喰らっておきながら六巡目ー!? ムダヅモなしでテンパイしたってことじゃん!! いくら能力的に四萬と赤五を引きやすいからって、そんなサクサク手を進められたら商売上がったりだよーっ!)

やえ(ついに来てしまったか……松実のリーチが。筒子と萬子は一枚ずつ切っているから、本命の待ちは一枚も見えていない索子だろう。が、リーチをかけてきた以上、完全安牌以外は何一つ信用できん。参ったな)

初美(《ドラゴンロード》のリーチ……? 恐らくは全てのドラを抱えていて、どうせ裏も表と重なるとかそんなんですよねー? んなもん百パー数えに決まってるじゃないですかー。こんなときに限って安牌ないとか死ねるですー)

玄(見てるかな……憩さん、衣さん、小蒔ちゃん。憩さんが尊敬する小走さん、衣さんが三回戦でその力を認めた大星さん、小蒔ちゃんが慕っている巫女仲間の薄墨さん――その三人を相手に、私は……!!)

玄「ツモッ!! リーチ一発ツモ……ドラ四赤四裏四――8100・16100です!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(一人浮きのトップになれるくらい、強くなったんだからね!!)

淡(人が親のときに何してくれてるわけー!?)

初美(こっちの火力を下げておきながら自分は二発目の数えですかー。さすが姫様が付き従うだけの器量があるですねー)

やえ(こいつは本当に……洒落にならん成長っぷりだな。このまま行けば、来年の今頃には荒川に届くかもしれん。ナンバー1も夢ではないだろうよ。その調子で頑張るがいい、松実玄)

玄(よし! 勝てるッ! このままオーラスを逃げ切って……前半戦をトップで終えるよ!!)

初美:93400 玄:119300 淡:92900 やえ:94400

 ――特別観戦室

憩「ええでー! 玄ちゃーん!!」

穏乃「カッコいいです、松実さん!」

純「すっかり化け物になっちまってまあ……」

まこ「ほんに大したもんじゃのう、アレは」

衣「ふん! 有象無象を相手に一人浮きしたくらいで調子に乗るなよ、ドラ置き場っ! 決勝に上がってきたら衣が身の程を教えてやる!」

塞「なんかいい対策ないかしらねぇ……」

エイスリン「ワタシナラ、ドースッカナー」

照「臼沢さんは、マズいと思ったら塞げばいい。ウィッシュアートさんも、たぶん、普通に能力を使って打っていれば負けないと思う」

智葉「というか、この場にいるほぼ全員が、松実とは相性がいいはずだぞ」

菫「というと?」

智葉「松実玄が厄介なのは、放っておくとドラだけで倍満以上の和了り――或いは隙あらば数え役満――を連発して和了ってくることだ。なら、対策は簡単。和了らせなきゃいい。
 そのために必要な要素は二つ。あいつを圧倒できる手数の多さ、そして、あいつの和了りを封殺する能力ないし技術だ。まず宮永は楽勝だな。手数も多いし、場の支配力も半端ではない。喰らったとしても倍満一発程度が上限だろう」

憩「ウチも《悪魔の目》がありますから、勝つだけなら余裕ですわ~」

智葉「さらに、全体効果系で他家の手の進みに干渉できる天江とウィッシュアート、封殺系の臼沢、加えて、系統は違えど効果は封殺系に近い力である《シャープシュート》が使える菫。
 お前ら四人は、普通に能力を使って普通に松実を封じ込めればいい。これも、まあ、場合によっては数えの一、二発くらいはツモられるかもしれんが、それ以上に稼いでおけば全く問題ない」

衣・エイスリン「なるほど(ナルホド)」

塞・菫(えっ? 数えの一、二発以上に稼ぐ? ドラ無しで?)ムムム

智葉「あと、井上と染谷。お前らも、松実がヤバいと思ったら、鳴いて《流れ》を乱すなり場を歪ませるなりすればいいはずだ。その他、差し込みなり、他家を利用するなり、手を尽くせば、楽勝とはいかないまでも、悪くない勝負ができるだろう」

純・まこ「簡単に言ってくれるな(の)」

智葉「あと、私は、まあ、負けない。それに、穏乃」

穏乃「はいっ、智葉さん!」

エイスリン(テメェラ!? イツノマニ、ナマエデ、ヨビアウ、ヨウニ、ナッテンダアアア!!)ガタッ

智葉「お前のすごパというのは、よくわからんが、山の深いところにその力の源泉があるそうじゃないか。案外、同じ超能力者《レベル5》同士――お前なら、松実のドラ支配に揺らぎを与えることができるんじゃないか?」

穏乃「んー、さすがにそれは無理だと思います。試したことはないですが」

智葉「ま、なんにせよ負けはしないだろう?」

穏乃「照さんが勝てと言うなら、私は誰にだって勝ちますよ! もちろん、智葉さんにもっ!!」

智葉「生意気な口だな。どれ、私が塞いでやろ――」スッ

エイスリン「ザッケンナァ! コノ、ヘンタイ、ヤロオオオオオ!!」クラエホワイトボード

智葉「ふん」パシッ

憩「まー、要するに、ドラ爆のインパクトに騙されたらあかんっちゅーことですわ。玄ちゃんは確かに強いけど、勝つためのやり方はいくらでもある。
 ただでさえ、玄ちゃんはドラで手牌が窮屈――その弱点を能力なり技術なりで的確につけるなら、十中八九、完封できるはずです」

憩「ただ、あそこで卓を囲んどる大星さんと薄墨さんは、封殺系の能力を持ってへん。
 ほんで、多くの自牌干渉系能力者がそうであるように、他人を利用してごちゃごちゃするくらいなら自分で和了ったほうが早いって考えるタイプや」

憩「せやから、玄ちゃんは今、窮屈ながらもわりかし自由に打てとる。方やドラ独占能力者で、方やドラ無しデジタルなんやから、まともに和了り勝負をすると、当たり前やけど、玄ちゃんに分がありますね。この点数状況は、それを明確に示しとるわけです」

菫「なるほど……」

憩「ただ、小走さんやウチがそうですけど、能力ナシで一人の和了りをずっと妨害するっちゅーんは、現実的に不可能です。
 となると、玄ちゃんの和了りを根本から止める手段を持たへん大星さんや薄墨さんが自ら和了ろうとするのは、なんやかんやで、当然の帰結であり、妥当な戦略なんですよね」

塞「へ? それだと、結局、松実が勝っちゃうんじゃないの?」

憩「まあ……何を勝利と定めるか、でしょうね。玄ちゃんは、恐らく大量リードを作るつもりで打ってます。大星さんと薄墨さんは、黒字収支は当然として、プラスアルファでどんだけ稼げるか――を意識しとるでしょう。
 ほんで、小走さんは、他チームのエースに仕事をさせず、最少失点で切り抜けるのを優先しとるはずです」

照「駆け引き」

憩「そうですね。実際、あの四人なら、誰が抜けてきてもおかしくはないんです。たぶん、勝負の決め手になるのは細かい部分やと思いますよ。ほんのちょっとの隙、ズレ――ホンマになんでもないようなことで、明暗が分かれると思います」

衣「おっ、オーラスもドラは真ん中だぞ! これは再びのくろ無双なるか!」

純「ドラが真ん中なら、ドラ傍の中張牌を切らなきゃ振り込まねえだろ」

まこ「危険そうなとこは抱えつつ、食いタンか何かで流してしまえばええ。それなら傷は広がらん」

憩「ちょいちょい犬ちゃんたち、どうしたん? 鼻悪くなったん? そんなこと考えとると、一瞬でぶっ殺されるでー?」

塞「うお……そっか、そういうことしちゃうかぁ」

菫「さっきの松実のリーチを思えば、鳴いてさっさと流してしまいたくなるのが人情。実際、他の二人はそうしている。そんな中で、有効牌が河に見えても鳴かずに門前を貫くのは、勇猛というか果敢というか――」

智葉「そうでもないさ。例えば、松実が動いてくるまでに自分がテンパイまで辿り着けなかったときは、和了りを諦めて、明らかに安手の二人に差し込めばいいだけの話。焦る必要はどこにもない。
 むしろ、そっちが本命の狙いと言ってもいい。でなきゃ最悪ベタオリ。いずれにせよ、手牌の数は多いほうが柔軟な対応ができる」

エイスリン「サトハァ! カッテニ、カイセツニ、モドッテンジャ、ネーゾ! ハナシハ、マダ、オワッテネエ!」

穏乃「まあまあ、ウィッシュアートさん」

照「前局に数え役満があったばかりで、またドラが中張牌。ドラ傍の中張牌を抱えつつ、食いタンか何かで、松実さんより早く和了る――その考え方自体は間違っていない。けど、それに捉われてしまうのは、よくない」

憩「敵は玄ちゃんだけやない。玄ちゃんに対する安牌が、他の人に対しても安牌なんて、そんな幻想は――」

     やえ『ロン、チャンタ發、7700』

     淡『あわ……っ!?』

憩「ぶっ殺す――と。でもって」

     やえ『連荘はしない。和了り止めだ』

憩「この引き際の良さ。ホンマに素敵やわ、小走さんは……」

『先鋒戦前半終了ー!! 頭一つ抜け出したのは《逢天》松実玄!! 二度の数え役満で他を突き放しましたー!!』

 ――対局室

玄(悪くはないのです! が、まだ足りない!!)

 一位:松実玄・+19300(逢天・119300)

初美(松実さんと稼ぎ合い……普通なら厳しいはずですけどー、大星さんと違って私の《裏鬼門》はドラと無関係。
 支配領域《テリトリー》の住み分け――やえが言うところの《予備危険性の排除則》に従えば、私の北家で風牌がドラになる確率はかなり低いはずですー。今回はやえに邪魔されましたけどー、後半ではぶちかますですよー)

 三位:薄墨初美・-6600(新約・93400)

やえ(プラス収支は上出来だが、松実を抑えることはできなかったか。私単独で今の松実を相手にするのは分が悪い。後半は初美か大星が削ってくれることを祈ろう)

 二位:小走やえ・+2100(幻奏・102100)

淡(ぐあー……この私が本気で打ってるのに勝てないなんて。能力的に相性が悪い上に、支配力で振り切ろうにも、ランクA二人相手にダブリーなしじゃ限界がある。かといってデジタル勝負だと、実戦での駆け引きはヤエのほうが一枚も二枚も上手……どーしたもんかー)

 四位:大星淡・-14800(煌星・85200)

桃子(超新星さーん)ユラッ

淡(わっ、モモコ! 毎度おなじみステルス伝令!)

桃子(言われてみれば、二回戦から欠かさず伝令してるっす)

淡(不甲斐ないエースでごめんなさい……)

桃子(能力的に相性が悪い上に、支配力で振り切ろうにもランクAが二人、デジタル勝負では経験値の差で博士さんのほうが有利――と厳しい条件が揃ってるから無理もないって、きらめ先輩がフォローしてたっす)

淡(キラメはなんでもお見通しだねー)

桃子(嶺上さんのほうも、珍しく難しい顔してたっすよ。王牌が支配領域《テリトリー》の超能力者……カンが能力の要になってる二人には、やっぱ天敵っすか?)

淡(まあ、この結果だもん、私は否定できない。王牌が支配領域《テリトリー》なだけなら、サッキーと同じなんだけど……いかんせんクロはレベル5だからなー)

桃子(きらめ先輩も、前半の結果を重く受け止めてるっす)

淡(ってことは、パターンB――現状維持に目標を切り替えってこと?)

桃子(そういうことっす。ドラローさんも、裏鬼門さんも、勝負手は役満級の打点っす。ドラがなくてそうそう一発逆転ができないこの場では、一度でもそれらに振り込めばアウト。ここは、これ以上失点しないことを優先してください……とのことっす)

淡(それがキラメの指示なら、私は従うよ)

桃子(あと、嶺上さんから追伸。『私ならプラマイゼロにできる』)

淡(相手強過ぎて『プラマイゼロにしかできない』ってことじゃんそれ……。けど、まあ、確かにサッキーなら、嶺上封じられてもそっちに切り替えられるもんね。ずっこいなー)

桃子(でも、同じプラス五千点でも、超新星さんならプラス五千点のトップを取れるかもじゃないっすか。
 嶺上さんの《プラマイゼロ》は、プラス五千点を保証する代わりに、順位は二位か三位にしかなれない。一位に独走される可能性だってあるっす。
 そのあたりを考えると、現状を切り抜けるのに二人のどっちが適しているかは、意見の分かれるところっすね)

淡(それも、キラメのフォロー?)

桃子(うっ、バレたっすか。そうっす。きらめ先輩の追々伸っす)

淡(つまり……これ以上失点しないのは当然として、可能なら他チームにこれ以上得点させるなって本音があるわけだね)

桃子(口には出してないっすけど、恐らくは)

淡(オッケー。やる気出てきたよ。後半はトップで終えてやる。そしてサッキーより私のほうが優れていると証明する!)

桃子(その調子っす。ま、最悪、超新星さんがヘマしても、私たちがなんとかするっすから)

淡(あはっ、100年早いよ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(頼んだっす)ユラッ

淡(がってん!)

『まもなく、先鋒戦後半を開始します。対局者は席についてください』

淡(さーてと。気持ちを切り替えていこっか。まだまだ勝負はこれから。本気で打ってるのに思い通りにならない敵――いいじゃんッ! やってやる!!)

 北家:大星淡(煌星・85200)

初美(《一桁ナンバー》が下位ナンバー相手にマイナス収支とかありえないですー。この後半戦でブッチするですよー!!)

 西家:薄墨初美(新約・93400)

玄(前半戦はぼちぼちいい感じだった。その分警戒が強まるかもしれないけど、そんなもの、全部消し飛ばせばいいだけの話だよねっ!)

 南家:松実玄(逢天・119300)

やえ(また長い半荘が始まるのか。ま、いいさ。こいつら相手に、できる限りの準備はした。あとはただ……思考するだけだ――)

 東家:小走やえ(幻奏・102100)

『先鋒戦後半……開始です!!』

ご覧いただきありがとうございます。

ちょっと休憩して、可能なら、続き行きたいと思います。一時間以内に書き込みがなければ今日は落ちたと思ってください。

では、失礼します。



>>615
咲がまだリンシャンしたことないのなら
>>556にある
さきの《嶺上》
っていうのはネリーたちにはばれてるってこと?

>>695さん

《嶺上》については三回戦の次鋒戦で小走さんが解説していて、

>やえ「これは私なりの推測で、正解かどうかはわからんが、とりあえず、宮永咲は《槓材が寄る》《槓材の位置がわかる》などといった能力を有していると思われる。
 あいつのカン率は、明らかに古典確率論を逸脱しているからな。それ即ち、意識的確率干渉――能力《オカルト》。便宜上、私はその能力を《嶺上》と呼んでいる」

です。槓材が寄ってきて、カンをすれば自ずと『嶺上』牌をツモることになるので、このネーミングになってます。混乱を招くだろうとは思ったのですが、他にしっくりくる能力名が思いつかなかったので。

《嶺上牌が有効牌になる》能力が披露されれば、それはそれでまた別の能力名(容易に推測できると思いますが)がつきます。

 *

脳が回復しなかったので、本日は前半戦までで終わりにさせていただきます。待っていただいた方はすいません。また近いうちに。

今更ですが、《逢天》ってどう読むの?

>>700さん

《逢天》は《アイテム》のもじりなので「あいてん』と私は読んでいます(どうやら少数派のようですね)。もし逢天《ヘブンズゲート》と読んでいたなら、それが正解だと思います。

《煌星》は『きらぼし』派と『きらほし』派がありまして、私は『きらほし』派です。

《連皇》は『れんこう』ですが、これは『ロイヤルストレート』に由来する造語です。

《一期》は『いちご』ですが、これは一期《いちごちゃんLOVE》の略です。

 東一局・親:やえ

やえ(東初か。こと東一局の親番に限ってはレベル4相当の強度を発揮する片岡の《東風》が、大星の《絶対安全圏》を破れるか否か。
 合宿をした頃は無理だったらしいが、支配力の扱いを訓練した上で、速度特化に比重を置いている今のあいつなら、或いは、不可能ではないかもしれん。無論――私にこの大能力をどうこうすることはできんが……)

 やえ配牌:一一三五147⑧⑨東南西白發 ドラ:⑦

やえ(まあ、バラバラなのはまだいい。悪配牌から和了ったことは過去に何度もある。
 ただ、問題は、ドラが七筒ということだな。せっかく八・九筒があるというに、松実が七筒を独占するから、このペンチャンは完全に死んでいる。
 和了れる気がしないとはこのことだな。そういえば、配牌を見て縛る飜数を決める白水は、大星と対戦したら一体どんな対応をするのやら。興味深いカードだ――)

やえ(――と、気が逸れてしまった。白衣を脱いで形を取り繕っても、なかなか研究者としての性からは逃れられんらしい。ま、白水対大星はあとで《幻想殺し》でシミュレートしてみるとして。この現状をどう楽しもうか)

やえ(私の手が死に体なのは、もはや仕方ないとして、さらなる問題がある。ドラが七筒――三~七牌――ということは、松実の自由度が高くなるということ。
 特に筒子は、赤ドラが二枚ある唯一の色だから、手作りの幅が広がる。松実的には最高の滑り出しと言えるだろう。私の親で、開始早々数え役満の危機か。面白い。なんとしても阻止する――)

やえ(ひとまず、第一打はこの九筒だな。お見せしようじゃないか、松実玄。お前のドラ独占能力――その華麗なる殺し方をな)タンッ

 やえ配牌:一一三五147⑧東南西白發 捨て:⑨ ドラ:⑦

玄(九筒か……七筒を私が止めるから、対子か暗刻になってないと使い道がないですもんね。浮いていたなら、当然の打牌。けど、案外、こういうちょっとしたことに気付ける人って、一握りなんだよね)タンッ

初美(まーたドラが三~七牌ですかー。しかも筒子ですー。二枚ある赤五筒とくっつけて使うには最適じゃないですかー。
 萬子と索子の赤五を適当な順子にして、残りを[⑤][⑤]⑥⑥⑦⑦⑦みたいな形にしてやれば、四枚目のドラを引き寄せてツモ。ツモ平和断ヤオ一盃口ドラ四赤四――リーチかければ数え確定……しんどいですねー)タンッ

淡(ドラが七筒……これもきっついけど、そんなことよりはつみー先輩の下家に座っちゃった。後半戦でダブリーは永久封印。まっ、ずっと五巡以内に和了り続けてれば、私は負けないんだけど!)タンッ

やえ(さてさて。ドラが三~七牌のときの、松実対策を考えてみよう。
 まず、オリきるだけなら簡単だ。間違いなく断ヤオで手を仕上げてくるだろう今の松実に対しては、ヤオ九牌を切り続ければ、まず振ることはない。
 三色確定の単騎待ち……といった可能性もあるにはあるが、少なくとも、私の知る限り、松実がそんなことをした例はない。
 どんなに手が透けて見えようと、無理な形で出和了りを狙うより、ドラをツモって数えを和了ったほうが速いし高いからだ)

やえ(三~七牌がドラ。このケースでは、放っておくと数えをツモられること請け合いだ。それを止めようと思えば、松実より速く和了るしかない。前述の通り、オリようと思えばいつでもオリられるんだから、鳴きを躊躇う理由はどこにもない)

やえ「ポン」タンッ

玄(ダブ東! いや、なんの……こっちはどう和了ったって倍満! 全然押せ押せなのです!!)タンッ

初美(んー……ダブ東は自然だとしても、四索切りですかー。その辺りは、食いタンを視野に入れている松実さんに鳴かれてしまう可能性が高いですー。
 あとあと危険牌になるのは目に見えているから、大星さんの能力でもたついている序盤に処理したって感じですかねー?
 けど、配牌がバラバラなのはやえも同じなんだから、ド真ん中を早々に捨てるのはちょっと勿体無い気もするですー)

淡(ダブ東で役が確定したのにド真ん中か。速度を重視するだけなら、普通、受けが広い四五六牌は残すよね。巡目的に考えれば、まだ手は形になってないはずだから、ここで四索を切るのはちょっと不自然。
 ここまでのヤエの捨て牌、それに、赤五筒二枚と七筒四枚がクロに止められることを合わせて考えると……萬子の染め手を狙ってるのかな?)タンッ

やえ(大星が一萬か四萬あたりを捨ててくれれば、もっと速く仕上げられるのだがな。残念。ここは数えまっしぐらの松実に期待するか)タンッ

玄(よし……またドラが来てくれたっ!)タンッ

やえ「ポン……」タンッ

玄(白……むぅ、まだ萬子が見えてない。染め手ですか?)タンッ

初美(そういうことですかー。松実さんの能力でドラが使えないなら、打点を上げるのに染め手はうってつけ。ダブ東白混一なら鳴いても12000。
 先制打としては悪くないですー。とりあえず親満を和了っておけば、そのあとで仮に松実さんに数えをツモられても、実質の被害はマイナス四千点。やえらしいですねー)タンッ

淡(いいじゃん、その作戦。私もあとで真似しよーっと!)タンッ

やえ(さて……布石を置くことには成功したようだな。あとは時を待つだけだ。松実玄――お前がそれを意識しているかしていないかは知らないが、恐らくは、私以外でその傾向を逆手に取ってきた者は、過去一人としていないはずだ)

やえ(松実のドラ独占。その効果は、裏ドラにもカンドラにもカン裏にも作用する。多くの場合、それらは表ドラと重なるが、状況次第では新しいドラが増えることもある。
 で……ちょっと考えればわかることだが、ドラが何であるかに関わらず、《絶対》に新ドラにならない牌が、この場には、二種類だけ存在するのだ)

やえ(《松実がドラを切るか手牌を晒すかしない限り、他家は絶対にドラを見れない》。その効果は、全員の視界に入るドラ表示牌にも有効だ。
 つまり、《ドラはドラ表示牌にならない》。より実用的な言い方をすれば、《ドラの両隣の牌はドラにならない》んだな。今回の場合は七筒がドラだから、その両隣の牌――六・八筒がそれに該当する)

やえ(全てのドラは松実に集まる。逆に言えば、松実に集まっている牌は新ドラになりやすい――と言える。そして、表ドラを抱えたがる松実は、当然ながら、この『潜在的な新ドラ』をも、抱えたがる傾向にある……)

やえ(で、そんな松実が、仮に、こんな手牌になったとしよう)

 玄手牌(仮):4[5]三四[五][⑤][⑤]⑥⑦⑦⑦⑦⑧ ドラ:⑦

やえ(三・六索待ちテンパイ。この状態から、松実が五筒をツモったとする。と、何が起こるか)

 玄手牌(仮):4[5]三四[五][⑤][⑤]⑥⑦⑦⑦⑦⑧ ツモ:⑤ ドラ:⑦

やえ(ここで五筒をツモ切りしても、打点や待ちに変化はない。他家の手の進みにもよるが、特に五筒が危険牌でなければ、五筒と八筒のどちらを切るかは気分次第だろう。
 だが、こと松実玄に限っては、この状況、この手牌――間違いなく八筒を切る。
 なぜなら、七筒が四枚見えているがゆえに八筒は《絶対》に新ドラにならないが、五筒は何かの弾みに新ドラになるかもしれないからだ。
 待ちや打点の変化ではなく、潜在的な新ドラ――松実玄は、意識的・無意識的のどちらにしろ、それを手作りの際に天秤に掛けている)

やえ(もっとも、松実の手に八筒がなかったとしたら、それはそれだ)

 やえ手牌:一一一三四五⑧/白白(白)/(東)東東 ドラ:⑦

やえ(萬子の染め手に見えるように捨て牌を選んだ。加えて、ドラの七筒が松実に止められている以上、浮いている八・九筒は、私が第一打で九筒を捨てたように、初美や大星にとっても不要牌となる。抱えられていなければ、遅かれ早かれ出てくるだろう)

やえ(と、まあ……これが松実玄対策の一つ。ドラが七八牌のときは、松実を含めた三家から、浮いた八九牌が零れて来易い。河に八筒はまだ一枚も見えていないから、そう悪い待ちではないように思う。
 ま、ダメそうなら諦めて一萬を落とすさ。それなら、少なくとも、断ヤオ狙いの松実から直撃を受けることはない。あとは、運を天に任せよう――)

玄(これは……ここまで来たら、リーチ掛けちゃおうかな。四筒や六筒がまだそんなに見えてないから、裏ドラは普通に捲くれるはず。数え役満――いただきなのですッ!!)

玄「リー」タンッ

やえ「ロン。7700」パラララ

玄(え――?)

初美(ぱ……八筒単騎!? なにゆえですかー!?)

淡(七筒がドラで止められるから、私とはつみー先輩が浮いた八・九筒を切るのを待ってた?
 けど、それなら第一打で捨てた九筒で待ってもよかった気がするけど……ドラのすぐ後ってことに特別な意味があるのかな。うーん、あとでキラメに聞いてみよう)

玄(その八筒……配牌からずっとあったっぽいけど、九筒じゃなく敢えてそっちを残した。
 ってことは、私が新ドラにならないドラの両隣を切りやすいっていうのが、見抜かれてたってわけか。宮永さんの《照魔鏡》じゃあるまいし、よくそんな重箱の隅みたいなクセまで……)

やえ「(ふう……松実が点棒箱を開いたときにはひやひやしたぞ。ひとまず、数えは阻止できた。上々の結果だな)一本場だ」コロコロ

やえ:109800 玄:111600 初美:93400 淡:85200

 東一局一本場・親:やえ

玄(うー……せっかくドラがいい感じだったのに、自由度が高かった分、選択の幅が広がって、クセ丸出しで打ってたところを的確に狙われた。《幻想殺し》……参っちゃうよ)

やえ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(今回のドラは一筒。ヤオ九牌はちょっと手が作りにくい。けど、小走さんはさっき、《絶対》に順子にできない八・九筒――死んだ牌――を利用して活路を開いた。
 なら、私にとっては苦しいこの状況が、かえってチャンスになるかもしれない。どうにかして……小走さんを出し抜く……!!)

やえ(ドラがヤオ九牌のケース……十中八九、三色で手を作ってくるだろうな。が、必ずしも、その限りではない。三色やツモ以外に、松実がいつでも目指せる手役がある。それ即ち――)

玄「カンッ!!」ゴッ

初美(出たですよー、毎度おなじみになりつつある、ドラの暗槓!!)

淡(はいカンドラ重なりましたー! ドラ八確定だよー!!)

玄「からの――リーチです!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美(手牌がどうなってるかは不明ですけどー)タンッ

淡(和了られたら表ドラ・カンドラ・裏ドラ・カン裏のドラ祭り……私のダブリー裏四がとってもプリティに見えちゃうんだよ!)タンッ

やえ(ふむ……六筒切りリーチ、か)

やえ(リーチを掛けてきたということは、ドラが手牌に全てあるか、ドラ待ちであると考えていい。
 なら、かなりの高確率で松実は赤五筒を二枚持っているはずだ。その傍の六筒を切ってきたということは、赤五筒を雀頭にしていると考えていいだろう。ぱっと思いつくのは、こんな形か)

 玄手牌(仮):三四[五]34[5]③④[⑤][⑤]/①①①① ドラ:①・①

やえ(六筒を切ってきたなら、三色の候補としては345が有力。リーチを掛けてきたのは、数えを確定させ、二筒でも出和了りできるようにするため。松実が素直に手を進めていたとしたら、まあ、こんな感じだろう。しかし――)

やえ(どうにもな……解せんことが一つある。それは、松実がリーチを掛けた直後に私がツモった、この九筒だ)

玄「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(九筒はドラ表示牌。松実がリーチを掛けて和了るとしたら、ここからさらに二枚、ドラを捲る必要がある。上のような形の場合、新ドラになる可能性が高いのは、暗槓の一筒か、対子になってる赤五筒だろう。
 理想を言えば、四枚のドラ表示牌全てが九筒なら、松実は自身の能力で自身の和了りを縛らなくて済む。松実がどの程度ドラ表示牌をコントロールできるのかは不明だが、ここで九筒というのは、少々訝しい……)

やえ(リーチを掛けてきた以上、完全安牌以外は信用できない。松実が九筒で待っているとしたら地獄単騎だが、その可能性を排除できるだけの根拠は、今のところない。
 そもそも、暗槓からのリーチというのが、若干松実のセオリーからズレているのだ。カンまでは仕方ないとしても、普段なら、こいつはたとえ片和了りになっても、ダマの三色を目指す。
 ドラ八赤四の時点でツモれば数えは確定なのだから、リーチを掛けてきた最大の理由は、打点に関することではなく、出和了りを狙うため。
 となれば、九筒地獄単騎も、十二分にありえる。ここは、とりあえず様子見だな……)タンッ

玄(……気付かれちゃったかな?)

 玄手牌:四[五]六34[5][⑤][⑤]⑤⑨/①①①① ドラ:①・①

玄(六筒を残してツモを待ってもよかったんだけどね。六・七筒がわりと見えてる上に、暗刻になってる五筒が潜在的な新ドラだから、四筒が王牌に取り込まれている可能性が高い。
 なら、いっそ九筒地獄単騎ってね。リーチを掛けるなら、潜在的な新ドラの五筒――その四枚目が来たときに暗槓できるこの形じゃないと、あとあと困ったことになっちゃうし。
 んー、悪くないと思ったんだけど、この手の駆け引きで小走さんを出し抜くのは難しいかぁ……)

やえ(場が進んでくれば、見えている牌から、潜在的な新ドラが何かわかる。情報が増えてくれば、松実の手を見切ることもできよう。
 まだまだ……ベタオリで済ます気はないぞ。たとえ親っ被りの危険を冒してでも、点数が五割増しになる親は手放したくないからな)

玄(九筒を小走さんに止められていたとしたら、私の和了り目はないってことになる。けど、たとえ和了り目がなくなっても、私のリーチは他家に相当恐く映るはず。
 小走さんだって、今は押す気満々だけど、リスクのほうが上回れば、ベタオリを選択するかもしれない。それならそれで、親は流せる。先に仕掛けることができた私の優位は揺らがない……!)

やえ(ここからは……神経戦だな――)

 ――流局

やえ・玄「テンパイ」パラララ

淡・初美「ノーテン」パタッ

やえ(ふぅ、危ない危ない)

玄(やっぱり……九筒を止められてた)

初美(二人してドラ表示牌の地獄単騎とか渋いことしやがるですねー)

淡(私とはつみー先輩からは、九筒が四枚ともドラ表示牌になる可能性が捨てられない。だから、最後の最後まで、待ちを確定させることができなくて、ツッパるにツッパれなかった。厄介なことしてくれちゃってもー!)

やえ「……二本場だ」コロコロ

やえ:111300 玄:112100 初美:91900 淡:83700 供託:1000

 ――《逢天》控え室

泉「信じられへん……無能力者で、ほとんど単独で、正面から玄さんを抑え込めるなんて……《悪魔》でもあらへんのに」

豊音「二回戦で戦った福路さんは、他家を利用して間接的にクロを封じ込めてた感じだったもんねー」

透華「というか、あの《幻想殺し》が抑え込んでいるのは、何も玄だけではありませんわ。他の二人の動きにも同様に目を配っていますの。
 場そのものを制圧している――とでも言えばいいのでしょうか。そもそも、玄がどうこうといった次元では戦っていないですわね、あれは」

小蒔「博士はあの憩さんが慕うほどの方です。勝つべくして勝ち、負けるべくして負ける。《幻想殺し》はそれ自体が一つの理論体系みたいなものなのですね。なかなかあの境地には立てません」

泉「参考になるもんなら参考にしたいと思っとったんやけどな。染谷先輩以上に真似できる気がせーへん」

豊音「ま、技を盗もうっていう精神は大切だけどねー。最終的に、人は人、自分は自分なんだよー、イズミ」

透華「染谷まこには染谷まこだけのイメージの蓄積がある。小走やえには小走やえだけの経験と知識がある。福路美穂子には福路美穂子だけの磨き上げた技術がある……。
 この世に無能力者は五万といるのでしょうが、同じ人間はただ一人として存在しませんわ。よく荒川憩を指して《特例》などと称えますが、人は誰だってオンリー1であり特別ですの」

小蒔「支配者も能力者もそうですよ。みんな、自分にしかできないこと、自分だけができることを武器にして、戦っているのです」

泉「うちにできること……なんや、できないことばっか思いつきますわ。小蒔さんたちはなんでもできるのに」

小蒔「なんでもはできませんよ。現に、玄さんにもできないことはあります。例えば、玄さんはドラを捨てられません。だからああして――」

     玄『カン!』

豊音「おーっ! ドラ八来たよー!!」

透華「しかも今回のドラは發ですの! そこですわー、玄!! 薙ぎ払えですわー!!」

泉「…………」

小蒔「え、えーっとですね! ドラ八は確かにすごいことですが、憩さんが言ってました!
 玄さんはドラが《絶対》に乗るせいで、安手で差し込みを待つこともできないし、ドラを誰かの手に乗せて点数調整することもできない――と。ほら! できないことだらけじゃないですかっ!」

泉「そういうもんですかねぇ」

小蒔「そういうものなのです。霞ちゃんの《絶門》だって、1000点でもいいから早和了りしたいときに、他家の捨て牌を鳴くことができない。
 初美ちゃんの《裏鬼門》だって、同じです。東と北を鳴いたときにテンパイしていても、その後にツモるのは高確率で南と西。打点より速度を優先したいときに、したくてもできないのです」

泉「ふむー……」

小蒔「支配者や能力者は、確かに、その人にしかできないことを、思いのままにやってのけます。
 しかし、それは他の無数の可能性と引き換えに手に入れている力なのです。決してなんでもできるわけではありません。それは幻想というものです」

豊音「わっ、クロが数え役満テンパイしたよー!」

透華「焼き払えですわー!!」

小蒔「そして、あの方は……その幻想を殺めることができる――」

     やえ『ポン』

豊音「お?」

     やえ『チー』

透華「む」

     やえ『ロン、5800は6400』

     玄『……はい』

泉「門前で待っとれば満貫になった手を、わざわざ鳴いて和了った……」

小蒔「今の場では、門前より鳴いて手を進めたほうが有益だ、と判断したからです。
 また、博士は、玄さんに対する安全牌が自身の有効牌になるよう手を進めていましたね。玄さんがドラ八を晒すと、他家は玄さんを警戒する――それはつまり、博士の鳴けるところが河に出てきやすくなるということ。
 初美ちゃんたちも、博士の親番が続くのは避けたいはずですが、玄さんの数え役満はもっと避けたい。ゆえに、二人とも博士の側につくのです。
 それで博士が和了ることになろうとも、安手であることは目に見えている上、振り込む可能性が一番高いのは、結果からも分かる通り玄さん。初美ちゃんたちの懐は痛みません」

泉「ふむむむむ」

小蒔「玄さんは毎回毎局が役満チャンスです。それは同時に、毎回毎局、他家から最大警戒されるということ。
 博士は、そんな玄さんの脅威を隠れ蓑にして、場を自分に優位なものにしているのです。気付けば博士がトップに立っていますね」

泉「麻雀って奥深いですね……」

     やえ『三本場だ』

 ――《幻奏》控え室

     やえ『三本場だ』

優希「やえお姉さんの独壇場だじぇ!」

セーラ「ま、そこそこ思惑通りに打てとる感じやな。けど……ここはさすがに年貢の納め時かもしれへん」

ネリー「ドラが五筒! 赤ドラ二枚と表ドラが重なって、くろの自由度が最大になってるんだよ!」

誠子「これを止めるのは大変そうですね」

セーラ「止まらへんのなら、無理して止める必要はあらへん。適当に走らせとけばええねん」

     玄『チー!』

優希「む、やえお姉さんが鳴かせたように見えるじょ?」

誠子「なるほど……序盤で鳴かせてしまうことで、松実さんの打点を下げようというのですか」

ネリー「鳴いたらツモが役にならない。三色も食い下がる。リーチも掛けられない。ツモ回数の少ない序盤なら、ドラが四枚重なる可能性も低いから、暗槓ドラ八もある程度防げる。そういうことだね!」

セーラ「断ヤオ三色ドラ三赤四――倍満の親っ被りやけど、松実玄の平均打点を考えれば、最少の被害やろな」

     玄『ツモ。4300・8300!』

誠子「いや、まあ……十分高いですけどね」

優希「束の間のトップだったじぇ~」

ネリー「やえの仕事は区間賞を取ることじゃない。これでベストなんだよ」

セーラ「やっと東一局が終わったな。ここまではやえと松実玄の一騎打ちみたいな感じやったけど、初美も大星もそろそろ動いてくるやろ。何してくるんか楽しみやわー」

 ――対局室

 東二局・親:玄

淡(にゅううううう!! ドンドコズンドコ和了ってくれちゃって! とっくの昔に限界超えてるよーっ!? クロさえいなければ全員ダブリーでメッタメタにしてやるのに!!)

 西家:大星淡(煌星・79400)

淡(なーんて言っても仕方がない。とりあえず現状確認! クロが親でドラは二萬。もたついてるとまた数えが来るかも。親の役満は洒落にならないから、それは阻止。いざとなったらヤエに協力してもいいけど、それはあくまで最終手段。普通に自分で和了って流す!!)

 淡配牌:123345⑥⑦⑧⑧中中西 ドラ:二

淡(中が二枚で一向聴。我ながら流すにはもってこいの好手。これなら間違いなく五巡以内に和了れるでしょ。誰にも何もさせない――けど、ちょっとタイム。本当にそれでいいのかな……?)

淡(二回戦でダブリー封印したときは、セオリー通りに手数と速度重視だったけど、今回はそれでは厳しいよね。なんたって、半荘一回で二度も数えを和了ってくる人がいて、半荘に二度も四喜和チャンスがある人がいるんだもん)

淡(はつみー先輩の下家に座っちゃったせいで、この後半戦、私はダブリーをすることができない。ダブリー可だった前半でさえ、私はラスだったんだから……この手を速攻で流してしまうのは、あまりにもったいない)

淡(いやー、そりゃさ? 私は《絶対安全圏》に胡坐をかいてることを否定しないよ?
 私はランクSでレベル4のマルチスキルだから、生まれながらに牌に愛されちゃってるから、どうしても余裕たっぷりの上から目線になっちゃうんだよねー)

淡(けど……そんな私の思い上がりを、ブチ破ってくる人たちを、私は知ってる――)

    ――カン、嶺上開花!

                        ――リーチでーっ!!

      ――ロンっす……。

淡(いいじゃん。上等だよ。ドラが来ないからなに? ダブリーができないからなに? それでも私は《煌星》のエース!! 見せてあげる……見せ付けてやるっ!! 私の全身全霊をッ!!)ゴゴゴゴゴ

やえ(大星……見るからに配牌がよさそうな顔だが、それだけじゃなさそうだな)タンッ

 北家:小走やえ(幻奏・110400)

玄(やられた分は取り返したけど、まだまだ足りない!)タンッ

 東家:松実玄(逢天・122600)

初美(私だって黙って北家を待つことはしないですよー)タンッ

 南家:薄墨初美(新約・87600)

淡(中が出てきた! けどスルー! でもって――ほい来た四枚目の中!! これくらいは呼吸するようにできるんだよっ!!)タンッ

淡(私は支配者《ランクS》……なんの能力も使わなくたって、ある程度場を自分に優位な状態に《上書き》できる。
 ただ、そうは言ってもこの卓上《セカイ》は私一人のものじゃない。けど、だからこそ、信じるんだ……)タンッ

淡(私の可能性、私の力――全ては願うところから始まる。強大な支配力があったって、弱気で後ろ向きな雀士に、牌たちは振り向いてくれない。
 恋愛も麻雀も同じ。愛されたいと思うなら、まずは自分自身の魅力を磨かないとねっ!)

淡(理想の自分を描けない人間に、理想の世界は創れない。本当に強い支配者《ランクS》になるための第一歩――それは己を支配することっ!!)タンッ

淡(私は強くありたい。輝きたい。そこに迷いや不安はない。相手が誰だろうと状況がどうだろうと関係ない。私は勝つ! 勝ちたい!! その想いが――行く手を阻む確率の壁を突き破る……!!)

淡(そう――これでこそ私だよッ!!)ゴッ

 淡手牌:12334567⑧⑧中中中 ツモ:9 ドラ:二

淡「リーチ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 淡手牌:12345679⑧⑧中中中 捨て:3 ドラ:二

やえ(この巡目でそれをされるとな――)タンッ

玄(むー……こういうとき気軽に一発消しとかできないのが辛いのです)タンッ

初美(来ちゃうですかねー?)タンッ

淡「ツモッ! 3000・6000――!!」パラララ

やえ(速いだけじゃない、か。こればっかりは対策が思いつかんな)

玄(南場で四倍にして返す……!!)

初美(やりやがるですねー。《宮永照の後継者》と称されるだけのことはあるですー)

淡(なーんだ、ダブリーできなくてもドラが来なくても余裕でハネ満和了れるじゃん! 前半は油断し過ぎちゃったかな? いや、本気だったけどさ!!)

淡(どーってことないよ。本気で打って勝てないなら、本気を超えていけばいい。私は天才だからねっ! 常に自己ベストしか出さないのさー!!)

淡(キラメ、モモコ、ユーカ、サッキー……見ててよみんな! 私、頑張るからねっ!!)

やえ:107400 玄:116600 初美:84600 淡:91400

 ――《煌星》控え室

     淡『ツモッ! 3000・6000――!!』

咲「それができるなら最初からやってよー、もー! 淡ちゃんの対局は見てて疲れるっ!!」

煌「すばらです」

友香「混一まで欲張らない辺りが、淡らしいバランス感覚でー」

桃子「超新星さんの安全が保証されてるのは五巡目までっすから」

咲「あくまで《大体安全圏》だけどね」

煌「欲を言えば、ここでもう一つくらい和了って、原点で親番を迎えたいものです」

     淡『ポンッ!』

桃子「おおっ、さすが超新星さん! 心得てるっす!!」

咲「バカなりに身の程を弁えてるよね!」

友香「でっ、見逃した!?」

煌「出和了りでは対々のみです。が、そこはなんと言いましても、支配者《ランクS》たる淡さんですから――」

     淡『ツモ! 2000・4000っ!!』

煌「この通り、ツモり三暗刻。すばらです」

桃子「ドラがない状況でも、速度と打点をいい感じに両立してるっすね」

友香「これはお株を奪われないようにしなきゃでー」

咲「いや、友香ちゃんのダブリー数えを超える速攻&高打点なんてこの世に存在しないよ?」

煌「さてさて……やっとこの時が来ましたね。一回目の淡さんの親番、そして、一回目の薄墨さんの北家です――」

     初美『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――対局室

 東四局・親:淡

初美(うぬー……前半戦からコツコツと、地味に凹まされてるですねー)

 北家:薄墨初美(新約・80600)

初美(ここで役満ツモれば普通にトップに立てるですー。ただ、前半戦のときみたいに松実さんのドラ爆と正面衝突するかもなんですよねー。
 北家での支配力対決なら、大星さんはともかく松実さんには負けないはずですけどー……うーん)ツモッ

 初美配牌:一三九②⑨17東東北北白發 ツモ:一 ドラ:6

初美(仕方ねーですねー。三回戦では《裏鬼門》に拘ってネリーさんにしてやられたですー。あまりこういうのは好きくないんですけどー、やえもいることですしー、一回くらいはプライドをポイしちゃうですかー)タンッ

初美(けど、忘れるなですよー。私の北家は……最後にもう一回残ってるですからねー……?)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《新約》

絹恵「っしゃー、初美さんの北家や! 四喜和で逆転トップいただきやで!!」

姫子「ドラは六索ばってん、どげんか押し切ってくださいとです、初美さんっ!!」

和「SOA」

怜「お、小走さんがとりあえず東を止めたな。様子見って感じやろか」

絹恵「北のほうは松実さんに流れましたね」

姫子「もう一枚の北は大星さんに入ったと」

和「大星さん……オタ風牌の北など持っていても牌効率が悪くなるだけでしょうに……」

怜「ま、最初に切ってくるとしたら、和の言う通り大星さんやろな」

     淡『チー!』

絹恵「北が出て来たでーっ!!」

姫子「大星さんはテンパイしとうばってん、連荘ならむしろ望むところと!!!」

     初美『……』

絹恵・姫子「見逃しー!?」

怜「ほえー……これは珍しいもん見たわ。北家の初美が自ら鬼門を晒すのを拒否するなんてな。
 っと、小走さんも首を傾げながら東切ったな。ほんで……これもスルー。んー、これは一体どういうことなん、和?」

和「対子が五つは七対子の一向聴。役牌とは言え、あの手から北や東を鳴いて対々を目指すのは、少し勿体ない気がします。七対子を聴牌できれば、リーチを掛けて裏も期待できますし」

絹恵「そんなデジタル!!」

姫子「ありえなか!!」

和「むしろ他にどんなデジタルがありえると……?」

怜「七対子か。なるほどな。確かに、北家の初美は部分的に大星さんの《絶対安全圏》を破れる。せやから、もし最速で手が作れれば――」

     初美『リーチですよーっ!!』

絹恵「四巡目リーチ!? これが狙いやったんか……!!」

姫子「大星さんのおる場では、序盤にリーチば掛けるのは難しか。それでいて、中盤以降のリーチは玄の能力に封殺される可能性のあっ。確かに、リーチ掛けるとしたら、このタイミングしかなかと……」

怜「せやな。中盤過ぎるくらいまでは、リーチ掛けても普通に和了れるで。うちと宮永さんは実際、松実さん相手にそうしとった。たとえ裏が乗らへんでも、うちらは、能力的にリーチ一発で二飜上乗せできるしなー」

和「たかがリーチ一つで何をそんなに騒いでいるですか皆さん……」

     初美『ロン、12000ッ!!』

     玄『はい……』

絹恵・姫子「おおおっ、一発や(と)!!」

和「妥当な結果とは言え、一発とはなかなかの偶然ですね」

怜「ドラが真ん中やし、松実さんが押す気持ちもわからんでもあらへんけど、そこも含めて初美の計算通りやったんやろな。ともあれ、一回目の北家はこれにて終了や」

絹恵「南入……」

姫子「先鋒戦も大詰めとやけど、点数状況的には全員ほぼ原点と」

和「平たいですね」

怜「すぐにデコボコするやろけどな。ま、オーラスを楽しみにしとこかー」

 ――対局室

 南一局・親:やえ

やえ(あと一回りで先鋒戦が終わる。現時点でのトップは私……各チームの点数はほぼ横並び。この状況を最後まで維持できれば文句なしの百点満点だが、そう簡単にはいくまい)

 東家:小走やえ(幻奏・105400)

やえ(松実と初美……二人がそれぞれ一度ずつ役満をツモってくると仮定すると、最低でも16000は削られる。逆に言えば、ここでそれなりに稼いでおけば、あとは全局ベタオリでも構わんということになるな)

やえ(で、配牌はどうか)

 やえ配牌:2257④⑥五七九南西白發中 ドラ:東

やえ(この手から、どのような可能性があるか。現状に最も相応しい着地点はどこか。他家はどう動いてくるか。第一打から考えなければいけないことばかり。この感じ……実に懐かしい――)

やえ(戦いの舞台に帰ってくるのは三年振り。ブランクはあるが、思考も技術も勝負勘も、以前のままだと自負している。それでも昔ほど思うように勝てないのは、周囲のレベルがあの頃とは比べ物にならないほど高いから……そう、思っていたのだけれどな)

やえ(いや、実際、周囲のレベルは高い。ジュニア時代やミドル時代に誰もが持っていた不安定さ――それが、高校生ともなると、嘘のようにどこかへ行ってしまう)

やえ(特に、この学園都市での麻雀経験の密度は、外の世界の何倍も高いからな。上位ナンバーの麻雀における隙の無さなどは、もはや十代のそれではない……)

やえ(だから、ある程度のマイナスは、当然だと思っていた。《王者》と呼ばれたのは過去の話。今の私に、学園都市の上位陣を抑え込めるだけの力は無い。そう――思っていたが、存外、なんとかなるものだな)

やえ(先鋒戦後半の南場に入って私がトップ。これは、想定していた範囲の中では、かなり良いほうだ。これといって私に有利なイレギュラー要素はなかったし、他の面子だって、ミスらしいミスはしていない。純粋に、普通に、私が勝ってしまっている……)

やえ(どうやら、ブランクというのはバカにできんらしい。昔通りの感覚で打つことなど、ぶっつけ本番でもできると思っていたが、そいつはとんだ幻想だったようだ)

やえ(すまんな、過去の私――《王者》と呼ばれた者よ。私はお前のことを、少し軽く見積もっていたようだ。なかなかどうして……お前は、白糸台高校麻雀部の上位陣を相手にしても、それなりに戦えるほどに強かったのだな)

やえ(ドラがないからだろうか。ジュニア時代の地味なルールを思い出す。一発なし、裏ドラなし、赤ドラなし――技術の巧拙に重きを置いた競技ルール。特殊な人間の選別を目的とした白糸台の標準ルールとは趣が違う……)

やえ(そこでの経験が活きているのだろう。配牌が悪かろうと、ドラが来なかろうと、さして縛られている感じはしない。
 超能力者《レベル5》に支配者《ランクS》に《神憑き》……三人とも、白糸台以外での競技麻雀の経験はさほどないはずだ。だが、私は違うぞ。小三の頃からマメすらできない。潜ってきた修羅場の数が違う)

やえ(私は無能力者だから、どんなに意識を集中したって、思った通りの牌は引けない。ドラを固めて数えなんて夢のまた夢。一発狙いのリーチなどもした記憶がない。確率と効率と相談し、合理的に功利的に手を進める。それが私にできる唯一のこと)

やえ(『偶然』はあるに越したことはないが、それに頼るつもりは無い。まして『必然』など得られないし不必要だ)ツモッ

 やえ手牌:2255667⑤⑥⑦五六七 ツモ:4 ドラ:東

やえ(ふん、ツモったか。四索……この化け物だらけの卓にありながら、いち早く私の元に駆けつけてきた――その忠義心は褒めてやろう。
 だが、思い上がるなよ。私は《王者》……貴様のような下賤の輩に用は無い)タンッ

やえ(安物はお呼びじゃないんだよ。過去の《王者》と見縊ってくれるな。4000オールで品格を売り払うなど言語道断。それに何より――こいつら相手にそんなヌルい麻雀で張り合えるわけがなかろう……)

玄「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:松実玄(逢天・102600)

初美「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:薄墨初美(新約・92600)

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:大星淡(煌星・99400)

やえ(……っと、なかなか話のわかるやつもいるじゃないか。そう、それでいい――)

やえ「ツモ、6000オール」パラララ

 やえ配牌:2255667⑤⑥⑦五六七 ツモ:7 ドラ:東

玄・初美・淡「っ!!?」

やえ「一本場だ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ:123400 玄:96600 初美:86600 淡:93400

 南一局一本場・親:やえ

やえ(連荘させてくれればいいが、そんなニワカが準決勝にいるはずもない、か――)タンッ

 やえ手牌:一七九①⑨468東南西中中 捨て:北 ドラ:⑥

玄(配牌は比較的いい。赤五が来たら普通のほうを捨てて、そこからはどんどん鳴いちゃっていいかも)

 玄手牌:二四五45①⑤⑥⑧南北白中 ツモ:⑥ ドラ:⑥

玄(ドラの六筒を暗槓できれば数えになるだろうけど、あとあと赤五筒が来ることを思えば、くっつけて使わざるをえないかな。とりあえず、要らないところからっと)タンッ

 玄手牌:二四五45①⑤⑥⑥⑧南北白 捨て:中 ドラ:⑥

やえ「ポン」タンッ

 やえ手牌:一七九①468東南西/中中(中) 捨て:⑨ ドラ:⑥

玄(役牌……鳴けるから鳴いてみたって感じだよね。巡目的に手は全然出来上がってないはず。高い手か安い手かは、今後の捨て牌から読んでいこう――と)

 玄手牌:二四五45①⑤⑥⑥⑧南北白 ツモ:[5] ドラ:⑥

玄(うん。ドラはいい感じに来てくれてるね。鳴けるときは積極的に鳴いて、他家にプレッシャーを掛ける)

 玄手牌:二四五45[5]①⑤⑥⑥⑧北白 捨て:南 ドラ:⑥

初美(さてさて、どうしたもんですかねー、この状況)

 初美手牌:三四八129②⑦⑨東南北西 ツモ:一 ドラ:⑥

初美(今回のドラは六筒。筒子の真ん中は使えないと思っていいですかねー。幸いというかなんというか、純全帯を狙いやすい手牌ではあるですー。松実さんは中張牌を固めていくはずですからー、安くても鳴いて流すのが正解ですかねー)タンッ

 初美手牌:一三四八129②⑦⑨東北西 捨て:南 ドラ:⑥

淡(かもーんッ!)ツモッ

 淡手牌:一二三七八九19④⑦⑧東發 ツモ:發 ドラ:⑥

淡(これは染め手かな? それともチャンタ發ないし789の三色かな? 六筒四枚と五筒三枚はないものとして手を作らないとなんだから、どっちにしろこの四筒は使いにくいかなー)タンッ

 淡手牌:一二三七八九19⑦⑧東發發 捨て:④ ドラ:⑥

やえ(字牌処理している私たちを尻目に、第一打に中張牌。本当に眩しいやつだな、《超新星》)

 やえ手牌:一七九①468東南西/中中(中) ツモ:4 ドラ:⑥

やえ(染める方向で行くか……間に合わなそうなときは、中のみ、或いはベタオリで凌ぐ)タンッ

 やえ手牌:一七九4468東南西/中中(中) 捨て:① ドラ:⑥

玄(残念……ドラじゃなかったのです)

 玄手牌:二四五45[5]①⑤⑥⑥⑧北白 ツモ:白 ドラ:⑥

玄(白――能力がなければ、私も小走さんみたいに役牌の速攻とかできるのになぁ。断ヤオ一直線の今は、白なんて重なっても……って、ん? けど、あれ……なんだろう。この違和感――)

玄(ドラが中張牌だから、いつもなら、役牌なんて対子になっても即座に捨てる。いずれ捨てることになるのに生牌を抱えるのは、ちょっと恐いからね。
 けど……なんだろう、この白は、何か、雰囲気が違う気がする。ひとまず保留なのです)タンッ

 玄手牌:二四五45[5]①⑤⑥⑥⑧白白 捨て:北 ドラ:⑥

初美(来い来いですよー)

 初美手牌:一三四八129②⑦⑨東北西 ツモ:⑧ ドラ:⑥

初美(悪くないですー)タンッ

 初美手牌:一三四八129②⑦⑧⑨東西 捨て:北 ドラ:⑥

淡(とりゃあー!!)

 淡手牌:一二三七八九19⑦⑧東發發 ツモ:發 ドラ:⑥

淡(チャンタ發一向聴。九筒ツモって東単騎なら出和了り6400、ツモ8000。リーチ掛ければ満貫確定だけど……どうなるかな)タンッ

 淡手牌:一二三七八九9⑦⑧東發發發 捨て:1 ドラ:⑥

やえ(大星が早くもテンパイしそうな感じだが……)

 やえ手牌:一七九4468東南西/中中(中) ツモ:西 ドラ:⑥

やえ(とにかく序盤は待つしかない)タンッ

 やえ手牌:一七九4468東西西/中中(中) 捨て:南 ドラ:⑥

玄(わーい、ドラだよ~!)

 玄手牌:二四五45[5]①⑤⑥⑥⑧白白 ツモ:⑥ ドラ:⑥

玄(大星さんを警戒しつつ、手を作らないとね)タンッ

 玄手牌:四五45[5]①⑤⑥⑥⑥⑧白白 捨て:二 ドラ:⑥

初美「それチーですよー」タンッ

 初美手牌:八129②⑦⑧⑨東西/(二)一三 捨て:四 ドラ:⑥

淡(はつみー先輩はチャンタとか三色とかそのへんかな? っと、ほいやっ!)

 淡手牌:一二三七八九9⑦⑧東發發發 ツモ:六 ドラ:⑥

淡(おふっ。そっちかー、そっちが来ちゃうのかー!? 一副露が二人もいるんだけどね……いいよっ、乗った!!)タンッ

 淡手牌:一二三六七八九⑦⑧東發發發 捨て:9 ドラ:⑥

やえ(四筒を先に切っておいて、一索、九索と来たか。チャンタから染め手へ移行しているとか、そんな感じだろうか。だとすると、打点はわりと高いことになるな)

 やえ手牌:一七九4468東西西/中中(中) ツモ:7 ドラ:⑥

やえ(追いつけるといいのだが――)タンッ

 やえ手牌:七九44678東西西/中中(中) 捨て:一 ドラ:⑥

玄(おろろ……)

 玄手牌:四五45[5]①⑤⑥⑥⑥⑧白白 ツモ:5 ドラ:⑥

玄(じゃあ、これは要らないかな)タンッ

 玄手牌:四五5[5]5①⑤⑥⑥⑥⑧白白 捨て:4 ドラ:⑥

やえ「ポン」タンッ

 やえ手牌:九678東西西/44(4)/中中(中) 捨て:七 ドラ:⑥

玄(小走さんは索子集めてるのかな。と……この絶壁のおもちじゃない感触は――)ヌルリ

 玄手牌:四五5[5]5①⑤⑥⑥⑥⑧白白 ツモ:白 ドラ:⑥

玄(白が暗刻になった……? このタイミングで? これは、けど、ん――)

 やえ手牌:*******/44(4)/中中(中) ドラ:⑥

 やえ捨牌:北⑨①南一七 

 玄手牌:四五5[5]5①⑤⑥⑥⑥⑧白白 ツモ:白 ドラ:⑥

 玄捨牌:(中)南北(二)(4)

 初美手牌:**********/(二)一三 ドラ:⑥

 初美捨牌:南北四

 淡手牌:************* ドラ:⑥

 淡捨牌:④19

玄(そ……っか。そういう可能性もあるのか。まだ不確定な要素がいっぱい残ってるから、一応別の道も想定しなきゃだけど、とりあえず、『そういうこと』をするなら、私の能力的に、これは要らないってことになる――)タンッ

 玄手牌:四五5[5]5①⑥⑥⑥⑧白白白 捨て:⑤ ドラ:⑥

やえ(は……? 四索に続いて五筒だと? 赤含みの567三色ってことか? にしても違和感があるな。松実にしか見えていない道があるのだろうか……)

初美(なんか背筋がゾクゾクするですけどー、先に和了っちまえば問題ナッシングですよねー)タンッ

 初美手牌:八129②③⑦⑧⑨西/(二)一三 捨て:東 ドラ:⑥

淡(あれれ? なんか嫌な予感がする。門前でいけるかなと思ってたけど、鳴けるとこ出てきたら鳴いたほうがよさそう。この場……放っておくと、何かとんでもないことが起きるような――)

 淡手牌:一二三四六七八九⑦⑧發發發 捨て:東 ドラ:⑥

 ――《煌星》控え室

桃子「超新星さんの《絶対安全圏》を喰らっときながら、皆さんよくやるっす」

     初美『チーですよー!』

     やえ『ポン』

友香「先にテンパイしたのは小走先輩……中混一の七索待ち。どう見ても索子の染め手だから、淡が振ることはないだろうけど……」

煌「…………」

桃子「おっ! 超新星さんの手が……!! 萬子の門前混一發の一向聴! 高め一通なら出和了りでもハネ満っす!!」

友香「――と、小走先輩が対々に変化したんでー。親満は恐いけど、いや、淡なら……!!」

咲「――っ!!?」ギュ

友香「ふぉおう!?」ビビクン

桃子「嶺上さん?」

友香「咲? いきなり抱きついてくるとか嬉しいけどびっくりでー?」ドキドキ

咲「ダメ……それだけはダメ……!!」カタカタ

桃子「な、何がっすか? 博士さんの混一っすか? それとも、裏鬼門さんの鳴き純全帯三色っすか?」

友香「恐がることなんてないんでー。ほら、淡がテンパイでー!」

 淡手牌:一二三四六七八九九九發發發 ドラ:⑥

咲「違うっ……!! 違うの。そうじゃなくて――」

煌「……松実さんですね?」

桃子「へっ? いや、だって、ドラローさんはほとんど手が詰んでるじゃないっすか……」

 玄手牌:五5[5]5[⑤][⑤]⑥⑥⑥⑥白白白 ドラ:⑥

友香「ドラはほとんど手にあるけど、あんな団子みたいな手じゃ和了れないんでー」

桃子「というか、ここに赤五萬が入ってきたら、超新星さんに五萬で振り込むかもっすね!」

咲「二人とも……どうして気付かないの……?」カタカタ

友香・桃子「え――?」

咲「松実さんは、数巡前に普通の五筒を捨ててる。直後に四枚目の六筒が来てたけど、普通の五筒を取っておいて六筒を暗槓していれば、今頃、こんな風に赤五萬で待つことができたんだよ……?」

 玄手牌(仮):五5[5]5⑤[⑤][⑤]白白白/⑥⑥⑥⑥ ドラ:⑥・?

煌「五筒切りを選択したあの時点では、五萬と八筒のどちらがそうなのか、判断材料に欠けていました。軽々に動くと、自らの首を絞めることになりかねません。ゆえに、ギリギリまで待ったのでしょうね。道が開けたのは、二巡前に淡さんが八筒を切ったときかと」

咲「この世の終わりを見ている気分です……」カタカタ

友香「二人とも、何の話をしてるんでー?」

桃子「か、解説を所望するっす!」

煌「松実さんの超能力――ドラ独占。これを解説するとなれば、何はともあれ、『潜在的な新ドラ』について語らねばならないでしょうね」

友香「潜在的な新ドラ……?」

煌「潜在的な新ドラとは、カン、或いはリーチ和了によって捲られるカンドラや裏ドラなどの新しいドラ――見えていないけれど、時が来れば姿を現すドラのことを指します。
 多くの場合、それは表ドラと重なります。或いは、松実さん以外の三人が一枚も目にしていない牌があれば、それも潜在的な新ドラと言えるでしょう」

桃子「その……潜在的な新ドラっすか? それが、例えば、場に一種類もない場合は、暗槓封じやリーチ和了封じになるわけっすよね」

煌「その通りです。逆に、潜在的な新ドラが残っていれば、暗槓やリーチ和了を封じられることはありません。大抵は、表ドラのドラ表示牌が残っているかどうかに注意することで、潜在的な新ドラの有無はわかります」

友香「今回の場合は――」

咲「配牌時点で、潜在的な新ドラが表ドラと重ならないってことが、わかる。ただし、それがわかるのは松実さんだけだけど……」

桃子「え……? 配牌の時点からわかる? なんでっすか? 表ドラのドラ表示牌は三枚もあるんだから、普通はもっと場が進まないと在り処が推測できないはずじゃ……」

煌「こと、この局に関しては、違うのです」

友香「なぜですか?」

咲「表ドラが六筒だからだよ」

桃子「表ドラが六筒ってことは、ドラ表示牌は五筒っすよね……」

友香「けど、配牌で松実さんの手にあったのは、普通の五筒が一枚。まだ見えてない五筒が二枚もあるはずでー?」

煌「補足説明をいたしましょう。松実さんの能力の効果は、《松実さんがドラを切るか手牌を晒すかしない限り、他家はドラを見ることができない》。この、『見る』というのがポイントですね。
 この『見る』対象は、場の全員が真っ先に目を向けるドラ表示牌にも、河に捨てられる牌と同様にして、有効なのです。つまり、《ドラはドラ表示牌にならない》わけですね」

桃子「えっと……あっ!? わかったっす! つまり、赤五筒はドラ表示牌にならないっすね!?」

友香「そ、そっか! だから、普通の五筒が配牌に一枚ある時点で、松実さんには潜在的な新ドラが六筒ではないってわかる……!!
 表ドラ表示牌で一枚、配牌に一枚、そして、山に埋まっている赤五筒二枚で、五筒が涸れてる!! 潜在的な新ドラは、六筒以外の牌じゃなきゃおかしい……!!」

煌「ちなみに、少し考えればわかることですが、《ドラはドラ表示牌にならない》という効果から、《ドラの両隣の牌はドラにならない》、という原則が導かれますね」

桃子「ドラの一つ前の牌は、ドラ表示牌として既に全員の目に触れているから、ドラにならない! ドラの一つ後の牌は、ドラがドラ表示牌になることがないから、ドラにならない! っすね!」

咲「配牌時点で、松実さんには、『五筒、六筒、七筒が潜在的な新ドラではない』ってわかるわけだね……」

煌「そして、これはとても大事なことなのですが……松実さんは潜在的な新ドラを、意識的・無意識的に抱えたがります。
 或いは、松実さんの手に集まっている牌は、潜在的な新ドラになりやすい――と言ったほうがわかりやすいでしょうか」

桃子「え、えっと……じゃあ、この場合だと――」

 玄手牌:五5[5]5[⑤][⑤]⑥⑥⑥⑥白白白 ドラ:⑥

友香「五索と白と五萬が……潜在的な新ドラでー?」

咲「そう……だから、松実さんがあの状態からドラの六筒を暗槓すると、その三つのうちのどれかがカンドラになる……」

桃子「まあ、ドラローさんが暗刻で持ってる牌が新ドラになるのは、ここまで何度かあったパターンっすよね」

煌「それはそうなのですが、今回に限っては、その『松実さんが暗刻で持っている牌が新ドラになる』という事実が、非常に重大な意味を持ってくるのです」

咲「例えばだけど……ドラの六筒を暗槓して、カンドラが白になったとするよね。すると、松実さんは遠からず四枚目の白をツモる。そのとき、松実さんはどうすると思う……?」

友香「白を暗槓するんでー」

煌「すると、カンドラを即捲りすることになりますね。捲られる新ドラは、何になると思いますか?」

桃子「妥当なところでは、白と重なるんじゃないっすか?」

咲「桃子ちゃん、よく見て。白がドラになるときのドラ表示牌――中は、一巡目で小走さんが鳴いてる……」

 やえ手牌:7788/西(西)西/44(4)/中中(中) ドラ:⑥

桃子「――っ!!?」ゾワッ

友香「え、えっと……じゃあ、新ドラは五索とかになる感じでー……?」

煌「ええ。その確率が高いでしょう。すると、先ほどと同様の理屈で、松実さんは遠からず四枚目の五索をツモることになります。そして、五索を暗槓しますよね。すると新ドラが――」

友香「五索と重な――らない!? 小走さんが四索を鳴いてるから!! 五索のドラ表示牌である四索が……あと一枚しか残ってない!!?」

咲「そう……すると、また別の種類のドラが増えることになる。この場……その可能性があるのは――松実さん以外の目に触れていない牌は――たった一種類だけ」

桃子・友香「まさか……!!」

煌「ご察しの通り、五萬ということになります」

桃子「超新星さんの一通の目が消えちゃうじゃないっすか!?」

友香「いや、桃子! それよりも……!! そうなったら松実先輩は高確率で五萬を引いてくる! 煌先輩と咲が言うような状況で五萬をツモったら、当然のように数え役満になるんでー……!!」

咲「数えなんて……くれてやればいいんだよ……!!」

桃子「えっ? ええ? 何言ってるっすか、嶺上さん!?」

咲「あのね……今、説明した、一連の流れ……これさ、もし、一度に全部起こったら、どうなると思う……?」

友香「ドラを暗槓して、新ドラが増えて、その新ドラをツモって、また暗槓して――それが一度に全部……」ゾワッ

咲「松実さんの今の手牌は、潜在的な新ドラも含めれば、全てドラってことになる。松実さんは、たぶん、そうやって手牌を縛ることで、わざと遊び部分をゼロにしたんじゃないかな。
 全てのドラは松実さんに『集まる』。もっと踏み込んで言えば、松実さんが能動的に動く限り、松実さんは全てのドラを『集める』ことができる。
 そして、王牌が支配領域《テリトリー》である松実さんなら、きっと、『そういうこと』が……できてしまう――」

煌「松実さんが三枚目の白をツモった、あの時でしょうね。松実さんの手が、不自然に止まっていました。
 松実さんの目から見ると、あの時、潜在的な新ドラの候補は、十種類以上ありました。しかし、そのうち、特に有力なのは、自身の手にあった五萬、五索、八筒、白の四種類です。
 そして、潜在的な新ドラとして有力な四種類のうち、五萬と五索と白に関しては、それぞれのドラ表示牌――四萬が残り二枚、四索が残り一枚、中が残り一枚と、あの時点でのきなみ枯渇していましたね。
 となれば、松実さんが『そういうこと』を思いついても、おかしくはないでしょう……」

桃子「その……きらめ先輩と嶺上さんが言ってる『そういうこと』って……」

友香「『そういうこと』なんでー……?」

咲「『そういうこと』だよ。で……ああ――やっぱり来ちゃった……!!」カタカタ

煌「咲さん、目を逸らしてはいけませんよ。決勝で咲さんと松実さんが対戦する可能性はゼロではありません。《永代》の高鴨さんと同じ――あの方は、あなたの支配領域《テリトリー》を侵食し得る超能力者《レベル5》です」

咲「本気で打ち合えば負けはしないと思いますけど、あまり戦いたいとは思えませんね……あの人とだけは……」

     玄『カンッ!!』

咲・桃子・友香「……っ!!」ゾワッ

煌「これこそまさに竜の主《ドラゴンロード》……或いは、竜の花道《ドラゴンロード》とでも言うべきでしょうか――」

 ――対局室

玄「カンッ!!」パラララ

初美(おっとっとー……? なんかとんでもねーのが来るですかー!?)ゾクッ

淡(え、ちょ、は? なんかすっごい背筋が寒いんだけどっ!?)ゾワッ

やえ(これは――)

玄「暗槓は即捲りですね。さあ、カンドラは――っと」ゴ

 玄手牌:五[五]5[5]5[⑤][⑤]白白白/⑥⑥⑥⑥ 嶺上ツモ:? ドラ:⑥・白

やえ(カンドラが白……! しまっ――そういうことか!? いつだ……!? いつから松実はこの可能性に気付いていた!?
 これは……いや、もちろん、論理的にありえなくはない。ありえなくはないが――もし、こいつがこれを故意にやっているのだとしたら……!!)

玄「嶺上……ツモ、ならずです!!」ゴゴゴ

初美(ひとまず安心? 否――むしろこれからですかねー? これから世にも恐ろしいことが始まっちゃう系ですかねー……!?)

淡(なーんだっ! 一瞬、嶺上で和了るのかと思っちゃったよー。びっくりびっく――)

玄「もいっこ、カンですッ!!」ゴゴゴゴ

淡(るえええええええーっ!?)

初美(ずっと松実さんのターンですかー!?)

玄「カンドラは五索ですね。嶺上……は成立せず。仕方ありません――」ゴゴゴゴゴ

 玄手牌:五[五]5[5]5[⑤][⑤]/白白白白/⑥⑥⑥⑥ 嶺上ツモ:5 ドラ:⑥・白・5

玄「もいっこ――カンです!!」ゴゴゴゴゴゴ

やえ(驚いたな……潜在的な新ドラを早い段階から見抜き、抱え込み、なおかつ、潜在的な新ドラを生み出すドラ表示牌が残り少ないこととドラを引きやすい体質を利用して、嶺上牌――《未開地帯》の《最高峰》を我が物のように《上書き》するとは……しかも、こんな立て続けに――)

玄「カンドラは、五萬ですッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 玄手牌:五[五][⑤][⑤]/55[5]5/白白白白/⑥⑥⑥⑥ 嶺上ツモ:? ドラ:⑥・白・5・五

淡(私の一通が天に召されたよー!! 泣いちゃってもいいかなこれー!?)

初美(三連槓――神様でもドン引きレベルの神業を、まさか二試合連続で目にすることになるとは……。っていうか、このパターンが続くなら、フィニッシュはあれですよねー?)

やえ(赤ではない五筒を序盤に切ってきたこと、ぎりぎりまで四萬を抱えていたところから察するに、当然、五萬は二枚以上持っているのだろうな。下手をすれば、『嶺上開花四槓子』なんて都市伝説級の超大技が飛び出るが――果たして……)

玄「……ッ!! ツモ……!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 玄手牌:五[五][⑤][⑤]/55[5]5/白白白白/⑥⑥⑥⑥ 嶺上ツモ:五 ドラ:⑥・白・5・五

淡(手牌十七枚が――!!)

初美(全部ドラですよー!!)

玄「8000・16000は8100・16100です――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡・初美(そんなのってないよー(ですよー)!!!)

やえ(いやはや……打ち止めだから仕方ないとは言え、これで32000点は安過ぎるだろう)パタッ

玄(ほ、本当にできちゃった……。ただ、欲を言えば、五萬も四枚集めたかったかな。別に点数変わらないけど。
 ごめんね、最後のドラゴンさん。できることなら、あなたに会いたかったよ。でも、今の私の力ではこれが精一杯みたい。次があるかはわからないけど、今度は、一枚残らずドラを抱えてみせるから……そのときまで、待っててね)フゥ

やえ「……大したものだな。さしずめ竜の花道《ドラゴンロード》と言ったところか。
 偶然もあったとは言え、よく実戦中にこんなやり方を思いついたな。否――よく達成してみせた。白状すると、手が震えるくらいに驚愕している……」

玄「そ、そんな……たまたまですよ。たまたま、小走さんが中を鳴いて、そのあと白が来て……いつも生牌なんて恐いからすぐに捨てるんですけど、私も小走さんみたいに役牌で速攻とかできたらなーって捨てるのを躊躇ってたら、ふと、あれ? ってなって……」

やえ「数え役満を和了りたいだけなら、普段通りに断ヤオを目指してもよかったんじゃないか? まあ、結果的に、白を抱えたのは正解だったわけだが……」

玄「……いつもと同じでは、小走さんの親を流せないと思ったんです」

やえ「ほう」

玄「あと、強くなった私を、小走さんに見てほしかったので……」

やえ「ほほう」

嶺上ツモ白三暗刻ドラ…
いや、四暗刻なんだがコレを「四暗刻」とは申告したくないなwwww

玄「私がここにこうしていられるのも、全部、小走さんのおかげなんです。強度測定のとき、小走さんが私の幻想を――驕りを殺してくれたおかげなんです。
 だから、ちゃんと見せたかった。超能力を使いこなす超能力者――誇り高いレベル5としての私を、見せたかったんです……」

やえ「なるほど……つまり、私を灰にしてくれるわけだな?」

玄「そ――そうですっ! 去年の測定のときから……!! 小走さんはブチ倒し確定なのですっ!!」

やえ「ふん、ニワカが吐かしてくれるじゃないか。やれるもんならやってみろよ、超能力者《レベル5》」

玄「はい! 跡形もなく消し飛ばしますッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ(お前が満面の笑みでそれを言うと洒落にもジョークにもならんよ……ま、しかし、よかろう。かつての《王者》の名に誓って、最後の最後まで、本気で遊んでやるさ)

玄「では……次は私の親番なのですっ!!」ゴッ

やえ(とりあえず、これ以上は和了らせん!!)

淡(やられたらー……100倍返しッ!!)

初美(オーラスで四喜和直撃して涙目にしてやるですー!!)

やえ:107300 玄:128900 初美:78500 淡:85300

>>747さん

私が前に書いたSSの玄さんは、

玄「ツモです……!! リーチツモ……赤四……ドラ二十……ッ!! 裏二十……!!! 数えるまでもなく役満ですっ!!!!!」

 玄手牌:[⑤]/5[5]55/五五[五]五/3333/1111 ツモ:[⑤]
 ドラ:1・3・五・5・1
 裏ドラ:1・3・五・5・1

と申告していましたね。

 ――特別観戦室

憩「あっはっはっ!! あかん、笑いが止まらへんで、玄ちゃんっ!! それにあの小走さんのびっくりしてはる顔っ!! いやー、ええもん見たわー!!」

菫「これは笑うところなのか……」ゾワワ

塞「笑えるわけないでしょこんなの……」カタカタ

純「残念だが、塞。ここにいる十人だと、笑える派が過半数らしいぜ」

まこ「どいつもこいつも大物じゃあ」

衣「いいぞーっ! くろー! 塵一つ残すなー!!」

エイスリン「リンシャン、ドラバク、メニ、ヤキツイタ♪」

智葉「これは笑うしかあるまい。なあ、宮永?」

照「あはは」

穏乃「本当にすごいですっ! これが……! これが超能力を使いこなす超能力者っ!! なんというか――後々のことを思うと、少し……恐いですね……」

純・まこ「穏乃おおおおおおお!?」

塞「どうしたの!? あんたは笑える派筆頭じゃないの!? さては朝のパンでお腹壊したり!?」

穏乃「いえ、今の松実さんの嶺上開花は、本当に、心からすごいと思います。あの人と打ったらきっと楽しいだろうなぁーって思います」

智葉「なら、何を恐れることがある?」

照「……花田さんのこと?」

憩「へ? なんでそこで花田さんが出てくるん?」

穏乃「超能力を使いこなす超能力者……それがどれほどの可能性を秘めているか。松実さんが今、見せ付けてくれました。それに、三回戦での園城寺さんもそうです。
 条件発動型ではなく、常時発動型のレベル5。系統こそ違いますが、松実さんと園城寺さんは、《全てのドラが集まる》、《一巡先が見える》という効果を応用して、実に多彩な打ち回しを見せます。
 条件発動型の渋谷さんや鶴田さんより、格段に自由度が高いんですね」

衣「それがどうかしたのか?」

穏乃「私は、本選が始まる前に、一度、花田さんと卓を囲んでいます。そのとき、花田さんは、自らの超能力を『意識して使っていない』と言っていました。その上で、『常時発動型』の『体質のような力』とも言っていました」

憩(まあ……《絶対にトばない》んやから、系統はともかく、常時発動型なんは間違いないわな)

穏乃「今の松実さんを見てわかる通り。能力を意識して使うということは、絶大な威力を発揮します。
 松実さんの能力の効果は、あくまで《全てのドラが集まる》です。それを三連槓からの嶺上開花という結果に繋げたのは、松実さんが能力を意識して使ったからに他なりません。
 漫然とドラを集めるだけでは、あんなことはできないんです」

純「まあ、支配領域《テリトリー》の《未開地帯》である王牌――しかもその《最高峰》である嶺上牌から狙ってドラを引くなんて芸当は、松実のレベルと集中力とランクの高さがなければまず不可能だろうな」

穏乃「不可能……確率が限りなく0に近いことを、私たちは不可能と言います。しかし、超能力者は、その不可能を可能にすることができる。限りなく0に近い確率を、《絶対》の1にできるんです」

塞「……何が言いたいの、高鴨?」

穏乃「私たちは、まだ《怪物》の真の姿を見ていません。《原石》の私を除けば、常時発動型のレベル5は三人。松実さんと園城寺さんと花田さんです。
 そして、三回戦までの花田さんは、私が見る限り、本選前に打ったときと、能力者としては、さほど変化していません。
 そんな『意識して能力を使っていない』超能力者である花田さんが、三回戦の園城寺さんや、今の松実さんのように、確固たる意思を持って、自由にその能力を使いこなす時――」

照「世界が……閉ざされる……?」

穏乃「少なくとも、卓上《セカイ》は閉ざされるでしょう」

まこ「お、大袈裟じゃろ……」

     初美『ロンですー、2000』

     やえ『はい』

智葉「……どうかな」

菫「お、おい、智葉?」

智葉「穏乃が感じているのと同種の危機感を、私も感じている。直接打った天江や荒川より、私は花田煌を危険な存在だと思っている」

塞「辻垣内……? あんたまでどうしちゃったわけ? 超能力者《レベル5》如きに弱腰になるようなキャラじゃないでしょうに」

智葉「超能力者《レベル5》がどうこうではない。花田煌が危険だと言っている。
 私は中三になるまで海の向こうにいたが、もし仮に、花田煌があちらの世界で生まれていたならば、あいつは今頃、墓の下だろうな」

塞「なによそれ――」

憩「ガイトさん、オカルト話はそれくらいにしときましょ。ここはそっちの世界やありません。能力《オカルト》と科学《デジタル》が共存する学園都市です」

智葉「あちらの世界から見れば、学園都市のほうがよっぽどオカルト都市だ。荒川、ここはお前が思っているほど、科学的な街ではない。小走のような真っ当な科学者《サイエンティスト》ばかりではないんだよ」

憩「せやけど……」

穏乃「智葉さんは、花田さんについて、何かご存知なんですか?」

智葉「ご存知だったとしても、敵のお前には何も教えん」

穏乃「じゃあ……今度プライベートでこっそり」

智葉「それでも、タダというわけにはいかんな」

穏乃「私、なんでもやります!」

智葉「ほう……なんでも――?」ニヤッ

エイスリン「ハーイ、ソコマデー!!」ワリコミッ

憩「ちょいちょい、リーダーさん。一年生の躾がなってないんとちゃいますー?」

照「えーっと……」

塞「高鴨、あんたちょっとこっち来なさい!」バンッ

穏乃「はーい!」ドヒューン

     淡『ツモっ! 2000・4000だよ!!』

衣「……と、先鋒戦もいよいよ大詰めか」

まこ「松実が抜けちょるが、最後の最後まで油断はできんじゃろうな」

純「《最凶》の薄墨が北家……ここまで四喜和はテンパイすらしてねえ。それだけ周りの面子が手強いんだろうが、だからこそ燃えてるはずだよな」

憩「玄ちゃん、直撃食らったら泣くんやろうけど、ウチ以外の雀士に泣かされてる玄ちゃんは見たくあらへんなー」

照「なんかごめん……」

智葉「いや、お前はもっと他に謝るべきやつがたくさんいるはずだぞ、宮永」

塞「いやー、薄墨が北家だと思うと頭痛くなってくるわー」

菫「お前は加害者の側じゃないか、《塞王》……」

穏乃「結果はどうなりますかねっ!」

エイスリン「ワカラネーケド、ワカラネーノガ、オモシロイ♪」

 ――対局室

 南四局・親:淡

初美(いよいよオーラスが来てしまったですねー)

 北家:薄墨初美(新約・76500)

初美(松実さんが一人浮きしてて、やえと大星さんが原点付近。私は断ラス。この状況で、さっきは2000とか安いの和了っちゃったですからねー。
 いくら松実さんの親番を流すためとはいえ、この北家に全てを賭けた感があるですー。ありもしないオカルト現象を信じて一発逆転を狙う――なんて、まーた和に説教コースですかー、これは)

初美(まっ、勝って帰れば、和の小言も少しは和らぐかもですよねー。松実さんにぶち当てれば逆転トップになれるですしー、とは言え……まずはテンパイしないと始まらないですー)

初美(配牌はこれまでと同じ七対子四向聴。東と北が二枚ずつあるだけで、あとはバッラバラですー。ま、どうせ手牌の大半は風牌で染まるんだから、配牌が良かろうと悪かろうと大差ないんですけどねー)

初美(前半戦の東場では、やえの国士と松実さんのドラ支配による暗槓封じで妨害された。南場はぎりぎりまで東と北を抱えられて、《裏鬼門》を集めきる前に手牌を倒さざるを得なかった。
 後半戦の東場では、私自ら能力を放棄して七対子で和了った……)

初美(なんていうかこう――小賢しいですよねー……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美(対策を練られたり、能力の弱点をつかれたり、そういうのは別にどうだっていいんですー。
 そもそも、白糸台には《塞王》って大砦が存在するんですからー、能力による和了りを妨害されるくらいでキョドってちゃ大能力者《レベル4》としては落第点なんですよー)

初美(何が小賢しいって……四喜和が間に合わないから混一にするとか、対策されて詰むくらいならいっそ七対子とか、そういうヒネたやり方で和了りをものにしてる私自身なんですよねー……)

初美(経験豊かな《一桁ナンバー》の傑物。能力に頼らずとも戦える実力者。そういう風に評価されるのは嬉しいですけどー……やーっぱ納得いかないですよねー。
 私は別に強い雀士になりたいわけじゃないですー。そういうのは宮永照とかやえにお任せなんですよー)

初美(私が好きなのは、《悪石の巫女》としての私ですー。才華を振り撒く《十最》の中にあって、私と竹井だけが例外の、災禍を振り撒く《凶悪》の二大レベル4……白糸台で最も悪名高い二人の大能力者――その片割れが私ですー)

初美(竹井は笑えることにもう負けやがったですしー、私のほうがちゃーんと見せてやらねーとですよねー。姫様や霞を押しのけて《最凶》と恐れられる私の……本当の力ってやつを――ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(うあー……はつみー先輩、それ、過去最高記録更新なんじゃない? さすがにコマキほどじゃないけど、かすみー先輩とはどっこいどっこいな気がするよ。
 ラス親、稼ぎたいけど、連荘するたびにこれを相手にしなきゃいけないってのはジレンマだよねー)タンッ

 東家:大星淡(煌星・93300)

やえ(四巡目――そろそろ誰かの手に東と北が入ってもおかしくはない頃だが……)タンッ

 南家:小走やえ(幻奏・103300)

玄(私のところにないってことは、大星さんか小走さんが止めてるのかな?)タンッ

 西家:松実玄(逢天・126900)

初美(ふふっ、三人ともなにキョロキョロしてるですかー? そんなに心配しなくていいですよー。毎度毎度、東と北を切るだの抱えるだの悩ませて申し訳なかったですねー。
 けど、もうお手を煩わせることもないですよー。私はお子様じゃないのですー。最後くらいは、一人で開くですよー……!!)

初美「カンッ!!」ゴッ

淡・玄(東の暗槓ッ!?)

やえ(そういうこともあるだろう。だからこそ、前半戦では暗槓を封じるために国士を狙ったわけだ。しかし――)

初美「もいっこー……カンですー!!」ゴゴッ

淡・玄(北まで!!?)ゾクッ

やえ(このように、東と北を四枚ずつ抱えられては、国士で封じ込めることもできん。結局のところ、初美の《裏鬼門》を根本から断ち切るためには、《塞王》をぶつける他に有効な対策はないんだ。
 そう……そんなことは、初めから知っていたさ。《最凶》は《災凶》――備えようと、構えようと、災いは否応なく我々の身に降りかかる。
 初美の《裏鬼門》は天災に等しい。避けれるときは避けれるが、喰らうときはどうしたって喰らう。《防塞》――《防災》の砦に引きこもる以外に、抗う手段はない)

初美(東と北を両方とも暗槓しちゃえば、他家に頼らず《裏鬼門》を発動させることができるですー。
 ただ、これを実戦でやろうと思うと、ポンするよりも速度が落ちる、八枚全部集めるためにやたらめったら集中力を使う、でもってドラが二種類も増える――とデメリットばかりなんですよねー)

やえ(初美の《裏鬼門》は、最終的に、十六枚の風牌のほぼ全てを自分の手に集める。ゆえに、風牌がドラになることはまず無いといっていい。
 すると、二度の暗槓によって増える二種類のカンドラ――これは、乗るとしたら間違いなく初美以外の誰かの手に乗ることになる。リーチによるカン裏も含めると、他家に四種類もの新ドラを与えてしまうことになるのだ。
 最悪の場合、ドラがモロ乗りした誰かから、高打点の直撃を喰らうこともある。徒に他家の手を高めてしまう暗槓は、そういう意味で、初美にとっては最終手段なのだ。だが――)

初美(この場でドラが乗るのはただ一人。そして、どうせそいつは放っておいてもドラだけで数えを和了ってくる。いくらでも重なればいいんですよー。むしろ窮屈になってしまえですー)

やえ(ふむ……新ドラは全部表ドラと重なったか。松実が数え役満まで手を高めてくるのはもはや確定したと思っていいだろう。
 しかし、ここまでドラを増やされると、遠からず《リーチ和了を封じる》効果が場を支配し始める。これでドラがヤオ九牌だったりしたら、松実は高確率で詰んでいただろうな)

玄(あ、危ないよー! 八索がドラでよかったぁ。全然まだまだ断ヤオで和了れるっ!
 けど、《リーチ和了を封じる》効果もそうだけど、《暗槓を封じる》効果も出てくるかもなんだよね。四枚目の八索は引けないって考えて手を作らないと……)

淡(……っていうか。はつみー先輩、さりげなく嶺上牌を二枚とも手に入れたけど、それって南か西だったりする? 三回戦で一時的に嶺上牌を《上書き》してたし、十分ありえるよね。
 だとすると、小四喜テンパイまで最遅であと三巡。手に対子があれば、その次巡で四暗刻大四喜をツモられるけど……否、私の《絶対安全圏》的に、配牌ではつみー先輩の手に東と北以外の対子はできないはずだから、大丈夫かな。
 いずれにせよ、あと四、五巡後には完全にレッドゾーン。ぼやぼやしてるとクロの手も出来上がってきちゃう。和了るなら今のうちっ!!)

やえ「チー」タンッ

玄(そんなズラしで私のドラツモは止められないのですっ!)ゴッ

初美(そんなズラしで私の《裏鬼門》ツモは止められないですよー!)ゴッ

やえ(《上書き》……か。運命論的には、山牌は不動不変だから、私が今鳴きでズラしていなければ、私がドラをツモって松実が風牌をツモって――なんてことになっていたはず。
 まあ、何度同じ場面が来ても、私はここで鳴きを選ぶから、そんなことは議論しても仕方ないのだがな)

淡(はつみー先輩もクロも役満。たとえオリても、ツモられたら16000も喰らっちゃう。能力的にも支配力的にも、二人が和了ってくるとしたら、高確率でツモ和了り。
 引くに引けないよねー。ただ、押したところで、連荘したら同じようなことがもう一回起きるんだけど。これはなかなかの地獄コンボだよっ!!)

やえ(これは……どうしたものか……)

玄(どんどん来るのですっ!!)ゴッ

初美(どんどん来るですよー!!)ゴッ

淡(さてさて。そろそろ本気で身の振り方を考えないとな。いくら私が高校100年生でも、ノーダブリーでこの役満コンビを延々押さえ続けるのは、無理とは口が裂けても言わないけど、すんげーキツい)

淡(現時点で、後半戦の個人収支トップは私だ。ただ、チーム得点を見比べると、まだ原点復帰もできてない上に、三位。でもって、三回戦でやられた《逢天》が一人浮きの状態。これは是正しなければなるまいよっ!)

淡(私個人としては、ここから無限ダブリーで全員ぶっトばしたいところなんだけど。キラメ的には、きっと、これで十分すばらって感じなんだよね。
 まあ……みんなに後を任せるのも吝かではない。これは個人戦じゃなくチーム戦なんだから)

淡(実際のところ、私のプライドはけっこー細切れにされてる。ドラが来ないってだけで三位とか、ありえない。二文字で言えば、屈辱。
 しかも、二位は無能力者のやえっていうねー。いや、無能力者や大能力者や支配者がどうこうっていうか、単純に、いち雀士として悔しい。
 ドラが来なくても配牌が悪くても役満ツモられても、やり方次第でプラスをキープできる。私の素の実力は、まだ、その域には達していないんだ……)

淡(そこも含めて、私の未熟も含めて、キラメの指示は、現状維持。欲を言えば、他チームにこれ以上稼がせない。ここまでは、その通りにできてる。さすが私!)

淡(いや、本当にさすがなのは、私がどこまでできるかを的確に見抜いて、ちょうど手が届くか届かないかくらいの目標設定をしてくれるキラメのほうなんだけど)

淡(キラメ……私は、あなたの指示に従うよ。キラメは、私たちを導いてくれる。導いて、ここまで連れてきてくれた。私はキラメを信じる。全てはチームの勝利のために)

淡(そう……一番大事にしなきゃいけないことは、それだ。私のプライドより、個人成績より、大事なのは、チームのみんな! 私たちは五人で一つのチーム《煌星》なのだから!!)

淡(おっけー。再確認完了。とゆーわけで、それを踏まえてどーしましょーか。この手牌――)

 淡手牌:2334456③④⑤四五六 ツモ:2 ドラ:8・8・8

淡(二索を手に入れて三索を捨てれば、平和がついて、三色も引き続き狙える。二索は私から全部見えてるけど、ま、私の支配力なら強引に和了り牌を持って来れるよね。そう……普段なら、ここは問答無用で張り替えだ。でも――)

玄「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(三索はなー……めちゃんこ危ない気がするんだよねー。一方で、二索なら、クロにもはつみー先輩にも現物。役満に振り込むことはない)

淡(そうだよね。ここは、欲張るより、リスクを避けるのが正解のはず。キラメなら、きっとそうする……)タンッ

やえ(一瞬迷ってから松実と初美の現物をツモ切ったか。手替わりと振り込みのリスクを天秤に掛けたということか? だとすると、初美はあれとして、松実と大星は待ちが被っている可能性が高いな)

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 淡手牌:2334456③④⑤四五六 捨て:2 ドラ:8・8・8

玄「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 玄手牌:4[5]67888⑤[⑤][⑤][五]六七 ドラ:8・8・8

やえ(松実の手は、ドラの八索と赤五索を絡めた索子の多面張が有力か。二索が現物で、八索がドラ。手役は恐らく、松実も大星も断ヤオ。となると、危ないのは三~七索――特に三・六索がド本命だろうな)

やえ(大星に差し込むことも考慮していたが、待ちが松実と被っているのでは、席順的にそれも不可能。なら、私も、もう半歩、踏み込まなければいけないだろうな……)

やえ「チー」タンッ

淡(ほっぷい!? びっくりしたぁー……!!)ドキドキ

初美(んー? やえが二副露ですかー。この巡目……やえなら大星さんに差し込むかなーとも思ってたですけどねー。
 大星さんの性格的に、やえの意図を無視して連荘しそうですけどー、三回戦での《煌星》を見る限り、チームとしてはトップに立つことより次の試合に駒を進めることを優先していたですー。
 ダブリー封印指示を律儀に守ってる辺り、大星さんはチームとして動いてる。個人ではありえなくても、この場は和了り止めする可能性大だと思うですけどー。
 ま、大星さんと松実さんの待ちが被ってるっぽいから、差し込みを控えて自ら和了りを目指すことにした――と考えるのが自然ですかねー。
 んー、けど、そこはなんたって《幻想殺し》ですからねー。何か他の狙いがあったりですかー……?)

淡(まったく心臓に悪いよ。さっさとツモって終わらせたいっ!)ゴッ

 淡手牌:2334456③④⑤四五六 ツモ:⑥ ドラ:8・8・8

淡(おっとー……今度は高めで三色がつくのかー。親だからツモれば3900オール。これは是が非でも手替わりしたいっ!)

淡(はつみー先輩は、四筒をわりと序盤で切ってる。三筒・南(または西)のシャボは、私の《絶対安全圏》的に、配牌で東と北以外に対子がないはずだから、ありえない)

淡(あとは三筒単騎だけど、これもなさそう。だって、三筒と四筒の両面搭子が配牌からあったなら、南(または西)を雀頭にしてそっちで待つでしょ。赤五筒二枚がクロの手にいっちゃうことを考慮に入れたとしても、ね。
 ま、一・二筒の辺張で待たれてたらアウトだけど。けど、それだって、二筒と四筒があったなら、五筒ツモったときに三・六筒待ちに切り替えられるんだから、普通に一筒から切るはずだよね)

淡(クロは、私から見て四筒が壁だから、たとえ赤五筒を持っていても、三筒待ちにはできない。単騎なら話は別だけど。
 まあ……っていうか、クロの待ちは、ドラが八索なんだから、三~七索の多面張が有力。形によっては、そこに五筒待ちも含まれてるかもって感じかな――)

淡(あとはヤエだけど……)

 やえ手牌:*******/(2)13/(一)二三 ドラ:8・8・8

淡(最高で食い下がり純全帯三色……3900か。三筒はわりと危険。けど、こっちは親満級の手を張ってるわけだし、3900程度なら押していいと思う。
 最悪、やえには振り込んでもいい。これも、キラメなら、やっぱり、こうすると思うんだ……)

淡(っていうか、六~八筒が場にほとんど見えてないんだよね。で、四筒が壁。
 この状況、どう見ても危ないのは三筒より六筒。危険度の高いほうを残したほうが打点が高くなるなんて、願ったり叶ったり。ここは――三筒を切るよッ!)タンッ

やえ「ポン」タンッ

淡「ひゃわっ!?(ぎゃー!! 変な声出ちゃったじゃんかー!! 驚かせないでよー、もー!! ……って、ポン――?)」

玄(小走さん……?)

初美(役満を張ってる私と松実さん、それに、親満くらいまで手を高めたっぽい大星さん。対してやえのそれは……徒手空拳で銃弾飛び交う戦場に突っ込むレベルですよー)

やえ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 やえ手牌:****/(③)③③/(2)13/(一)二三 ドラ:8・8・8

淡(チャンタの可能性が消えた。ドラもない。風牌もない。生きている三元牌もない。123の鳴き三色のみ1000点。
 この場面……これまでのヤエの打ち筋を見る限り、第一打から店仕舞いって選択肢も視野に入れていたはず。なのに、どうしてこの中盤で、振り込むリスクを冒してまで鳴き三色なんか……)ツモッ

淡(――っと、そーゆーこと……か)

 淡手牌:2334456④⑤⑥四五六 ツモ:① ドラ:8・8・8

 やえ手牌:****/(③)③③/(2)13/(一)二三 ドラ:8・8・8

淡(私に差し込めと言いたいわけですか? どう見ても鳴き三色。どう見ても1000点。
 でもって、123の三色を狙っているのに、上家の私の切った三筒を、チーではなくポンした。しかもポンと同時に切ったのが、二筒ときてる。
 ひょっとして、やえの手、一筒が欠けてるの……?)

 やえ手牌(仮):**②③/(③)③③/(2)13/(一)二三 ドラ:8・8・8

淡(一筒は、クロが二枚切ってる。で、今私がツモったから、見えてないのは残り一枚。常識的に考えれば、それはやえが持っててしかるべきなんだけど……)

 やえ手牌(仮):*①②③/(③)③③/(2)13/(一)二三 ドラ:8・8・8

淡(やえは三筒ポンと同時に二筒を切ってる。となると、鳴き三色で和了る気のやえは、この形から、三筒ポンの二筒切りをしたことになるよね)

 やえ手牌(仮):*①②②③③③/(2)13/(一)二三 ドラ:8・8・8

淡(どー考えても変でしょ、これ。三色は確定しているんだから、二筒なんてさっさと切って、三筒と何かのシャボとか、三筒を雀頭にして何かの両面待ちとか、そんな形にするはず。
 大体、ヤエは序盤で中張牌の両面搭子を手から落としてる。チャンタ狙いなら自然かなって思ってたけど、鳴き三色のみで和了る気だったのなら、それもおかしい)

淡(だとすると……私の三筒を鳴いたとき、ヤエの手牌は、こんな感じだったんじゃないかな)

 やえ手牌(仮):99②②③③③/(2)13/(一)二三 ドラ:8・8・8

淡(東一局……七筒がドラのとき、ヤエは八筒単騎でクロから直撃を取ってた。よくわからないけど、ドラのすぐ後の牌には、ヤエ的に何かあるのかも。
 だから、まあ、仮だけど、九索対子があったとする。九索はまだ場に一枚も見えてないしね)

淡(この形なら、一筒が入ったとき、三筒切りで三色確定の高め純全帯をテンパイできる。あと、かなり確率は低いけど、万が一誰も和了らずに流局になったときも、ノーテン罰符を払わなくて済む。
 さらに、結果的にだけど、三筒ははつみー先輩とクロに通って私には現物なわけだから、ベタオリしたくなったら三筒連打で三巡は凌げる。あと、ドラの壁があるから九索も安牌として利用できるね。
 安いけど、絶妙なバランス感覚で作られた手なんだよ)

淡(私の三筒切りを見て、ヤエはポンすることを選んだ。どう見ても鳴き三色のみの1000点で、明らかに一筒待ち。こんなに打点と待ちが読み易い手も珍しい。つまり――これは誘いだ……)

やえ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(これで手打ちにしよう――ってことでいいのかな? 《王者》にして《幻想殺し》。キラメは、この人をすごく高く評価してた。
 この人の意図に乗っかることは、そう悪くない選択だと思う。キラメ的にも、1000点でこの場を流せるなら、喜んで差し込むよね)

淡(まっ! 別に、私は差し込み目的で一筒を切るわけではないけどねっ!! テンパイ維持して、残り一枚の三索ツモって、3900オールを和了って、悔しいけど和了り止めして、笑ってみんなのところに帰るんだ……!!)

淡(それに、たとえ、私の読み通りの手牌じゃなかったとしても、ヤエが鳴き三色でツッパってきている以上、一筒はヤエが手に持っているか、ヤエの和了り牌かの、どちらかでしかありえない)

淡(なら……この一筒で役満に振り込むことはない。通るか、ヤエが和了るか、どっちか。どっちにしても、私の目的は達成される)

淡(最高で自力ツモ、最悪で1000点に差し込み。私個人の気分的には天国と地獄だけど、チーム的にはどっちに転んでも勝ちだ。
 なら、私の選ぶべき道はこれ……!! もしヤエに振っちゃったら、そのときは、キラメに慰めてもらおうっ!! 我ながら完璧なプランッ!!)

淡(というわけで――行くよ! 全ては、チームの勝利のためにっ!!)タンッ







































?「それ」

淡(ちゃー、振り込んじゃったかー。ま、仕方ない。役満コンビ相手に、ラス親を安く流せて万々歳ってことにしよう。いいよ、1000点くらいくれてや――)ハッ


やえ(……今回ばかりは、ドラを抱えて他家の打点を下げる松実に感謝せねばならんな。
 大星淡……この出費は思っていたより痛いだろうが、三回戦でお前がお釈迦にした機材の弁償代を請求されるよりは、よっぽどマシなはずだぞ……)パタッ

 やえ手牌:99②③/(③)③③/(2)13/(一)二三 ドラ:8・8・8




淡(………………え? 待って? 何が起きてるの? なんで、なんでやえは手牌を伏せてるの……? ちょ、もしかして、あれかなっ!? 私の真似っこかな!? そこから逆回転しちゃう感じかな!!?)







?「ロン――」










淡(そ……んな……どうして……!!)





















初美「四暗刻単騎大四喜……32000ですー」パラララ

 初美手牌:①南南南西西西/北北北北/東東東東 ロン:① ドラ:8・8・8
























淡「う……ぁ…………」

『先鋒戦終了ー!! トップは計三度の数え役満で他を突き放した《逢天》松実玄!
 《新約》と《幻奏》はプラス収支で踏みとどまりました。一方、大きく出遅れたのはチーム《煌星》。ここからの巻き返しに期待です!!』

初美(……やえのやつ、どうして頭ハネしなかったですかー? 解せないですねー。私に大星さんを直撃してほしかったとしか思えないですけどー)

 二位:薄墨初美・+8500(新約・108500)

玄(できれば、三人ともマイナスにしたかったんだけどな……今の私にはその力がないってことだよね。ナンバー1への道のりは、遠く険しい。まだまだ修行が足りないのです!)

 一位:松実玄・+26900(逢天・126900)

やえ(これでいいんだろ、ネリー。レベル5の第一位――花田煌。あいつをこれ以上《頂点》に近づけてはいけないと、お前は警鐘を鳴らす。世界が閉ざされてしまうから――と。
 ま、それを差し引いても、ランクS二人とレベル5の第一位がいる《煌星》は、潜在的な脅威が大きい。データ不足で発展途上の一年が四人いるというだけでも、不確定要素の塊なんだ。
 こっちは《永代》と《劫初》の対策でいっぱいいっぱい。ベストなのは、対戦経験のある《新約》と、もう一回決勝で戦うこと。そちらのほうが計算に誤差が少ない……)

淡(わ……私……なんてことを――)

やえ(悪く思うなよ、大星。お前がチームのために一筒切りを選んだのと同じように、私もチームのために見逃すことを選んだ。ただ、それだけのことなんだよ)

 三位:小走やえ・+3300(幻奏・103300)

淡(キ……ラメ……みん……な…………)

 四位:大星淡・-38700(煌星・61300)

 ――《煌星》控え室

『先鋒戦終了ー!! トップは計三度の数え役満で他を突き放した《逢天》松実玄!
 《新約》と《幻奏》はプラス収支で踏みとどまりました。一方、大きく出遅れたのはチーム《煌星》。ここからの巻き返しに期待です!!』

咲「あんの……バカっ!! 大バカ!! 淡ちゃんって本当にバカ!! 私、ちょっと文句言ってきますッ!!」ガタッ

煌「咲さん、お待ちくださ――」

咲「煌さん! たまにはビシッと言わないとダメなんです! 淡ちゃんみたいなおバカさんははっきり言わないとわかんないんです!
 淡ちゃんは単純で能天気で自己中だから、周りも見えないし読みが浅くなるんだって!!」

煌「咲さん……」

咲「というわけで、行ってきますッ!!」ゴッ

友香「はいストップでー」ガシッ

咲「離してよっ、友香ちゃん! 私は淡ちゃんのとこにいかなきゃいけないのっ!!」

桃子「嶺上さん、一人で出てっても、どうせ対局室まで辿り着けないっす」

咲「支配力が強い方向に歩いていけば着けるもん!!」

桃子「斬新な歩き方っすね……」

友香「咲、ここは友香お姉さまに任せるんでー」ギュ

咲「はうっ……!!?」

桃子「そうっすよ。ここはでー子さんと、チームで一番下っ端の私に任せるっす。《魔王》様が自ら動くことなんかないっすよ」

煌「……お願いしてよろしいですか、友香さん、桃子さん」

友香「はい。淡が取られた点棒は、私がすぐに取り返してきますんでー!」

煌「点差を意識せず、平場だと思って打ってください。一発逆転を狙う必要はありません。友香さんが本来の実力を出せば、自ずと結果はついてきます」

友香「かしこまりでーっ!!」

桃子「で、私は超新星さんをいい感じに連れて帰ってくればいいっすよね!」

煌「淡さんは何一つ間違ったことをしていない。安心して後を任せてほしい、とお伝えください」

咲「…………追伸。『次ポカしたら、へっぽこエースは強制降板』。これ、一言一句違わずお願い」

桃子「承りっす!!」

友香「それじゃ、行ってこよっかでー、桃子!」

桃子「行かない手はないっすよね、でー子さん!」

煌「よろしくお願いします」

咲「行ってらっしゃい……」

友香・桃子「ではっ!!」

 ダッダッダッ パタンッ

煌「すばら……頼もしい限りです」

咲「……煌さん、相談があるんですけど」

煌「なんでしょう」

咲「へっぽこエースの淡ちゃんがやらかしたときは、チーム的に、真のエースの私が点を稼ぐ方向で行く――ってことでいいんですよね?」

煌「はい」

咲「《煌星》の真のエースとして、私はこの点差をひっくり返したいと思っています。
 《プラマイゼロ》に戻すって意味ではなく、マイナスをそっくりそのままプラスに反転させるって意味で、ひっくり返したいと思っています」

煌「それができるのであれば、それに越したことはないですね」

咲「できます。やってみせます。だから――」

煌「だから……?」

咲「十割で打たせてください」

煌「それは……」

咲「淡ちゃんがヘマしたせいで負けるなんて、私、死んでも嫌ですっ! だから十割で打たせてください! 全部ゴッ倒しますから……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「……いいでしょう」

咲「ありがとうございます」

煌「ただし、私をトばせたら、ですけれど」

咲「煌さん……!? どうしてですか!!」

煌「咲さん、論理は人を裏切りません。しかし、感情はそうではない。時として自分自身すら裏切ります。
 今の咲さんの言葉には、何一つとして道理が通っていません。残念ながら、その申し出は《通行止め》です」

咲「そんなっ!!」

煌「ですが、その気持ちは、どうぞ、お好きなようにぶつけてきてください」ギュ

咲「煌……さんっ!!」ウルウル

煌「大丈夫ですよ、咲さん……」

咲「き、煌さ――」ゾワッ

煌「私たちは負けません……何があろうとも……《絶対》にです」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――対局室

淡(席から立てない……動けないよ…………)

友香「あーわーいー!」ムギュ

淡「ほへ……?」

桃子「反対側からもっす!」ムギュ

淡「友香……桃子……そんな……サッキーにやったら嫉妬で半殺しにされるようなことを……」

友香「元気出してでー、淡」ギュー

桃子「そうっす。超新星さんは何も間違ったことしてないっす。あとは私たちにお任せっす」ギュー

淡「うう……っ……!!」ウルウル

友香「ダメダメ、淡。バトンを繋ぐときにはスマイルでー! さっ、どいたどいた。次は私の出番なんでー」

淡「ごめん……頑張って、ユーカ!」ゴシゴシ

友香「頑張るんでー、応援よろっ!」

淡「う、うん……っ! むっちゃ応援するねっ!」

桃子「さ、超新星さん。歩けるっすか? 帰るっすよ」

淡「モモコ……」

桃子「では、でー子さん。おもちなほうの妹君は、こちらで引き取るっす」

友香「おもちじゃないほうの妹と喧嘩しないように見張っといてでー」

桃子「おっけーっす。じゃ、超新星さん。とりあえず対局室から出ようっす」

淡「わかった……」

桃子「じゃ、でー子さん! ファイトっす!!」

淡「ふれー! ふれー! ユーカー!!」

友香「ありがとっ! やるだけやってみるんでー!!」ゴッ

 タッタッタッ パタンッ

友香(うん……淡のことは、桃子に任せれば大丈夫だよね。私は、私のことに集中でー)スゥ

友香(勝ちたい気持ちはある。勝たなきゃいけない理由もある。必要なものは揃っている。あとは……勝つだけでーッ!!)ゴッ

 ――――

 ――――

誠子「お疲れ様です、小走先輩。お預かりしていたもの、お返ししますね」スッ

やえ「有難う」バサッ

誠子「《逢天》の背中を捉えられるよう、頑張ります」

やえ「おう、そうしてくれ。ただ、他の面子もそれなりに手強いぞ」

誠子「三回戦に比べれば、多少はマシです。森垣さんとは合宿で打ってますし、それに、絹恵とは、合宿だけじゃなく公式戦で何度も打っていますから」

やえ「次鋒ではなく、副将のほうがよかったか?」

誠子「いえ、今の私はチーム《福笑》ではありませんから。絹恵も。それに……透華も」

やえ「……ぬかるなよ?」

誠子「ええ。お任せください――」ゴッ

 ――――

絹恵「お疲れ様ですー、初美さん」

初美「くっそ疲れたですよー」

絹恵「息巻いてたわりに、点数は微妙ですね?」

初美「じゃあ絹恵がやってみろですー」

絹恵「いやいや、デジタルで松実さんに張り合うとか、そんな偉業を達成できる人間は、学園都市にも数えるほどしかいませんよ」

初美「これから絹恵はそのうちの一人と戦うことになるんですよー。その辺はいかがなんですかー?」

絹恵「ま……ずっと公式戦の最前線で戦ってきた雀士として、意地くらい見せたりますよ。うちも、それに誠子もや」

初美「浩子と灼のデコボココンビも、きっと見てると思うですー」

絹恵「そうですね。浩ちゃん、昨日、言うてましたわ。灼と二人でこの試合見に来るって。あと、何着てったらええかって。データが足りひんって。知らんわボケ言うときました」

初美「あの二人はなぜさっさとくっつかないですかー?」

絹恵「灼がアホで浩ちゃんがヘタレやからです」

初美「せめて私が卒業するまでにゴールインしろですー。もやもやを抱えたまま去るのは嫌ですよー」

絹恵「ほな、そう伝えときます。進展はしないと思いますけど」

初美「対局のほうは大丈夫ですかー? 緊張してないですかー?」

絹恵「不安や緊張なんて、笑って吹き飛ばしますよ。笑う角には福来るっちゅーことで」

初美「絹恵たちの代のクラス対抗戦で、あの《刹那》と最後まで優勝争いをしたチーム《福笑》ですねー」

絹恵「ええ。その《福笑》のリーダーにしてエースやったんが――我らが龍門渕透華です」

初美「勝てますかー?」

絹恵「あの頃とはちゃいますもん。勝ちますよ。勝ってみせますわ……!!」ゴッ

 ――――

透華「ご苦労ですわ。なかなか頑張ったではありませんか」

玄「そうだね。今なら透華ちゃんに勝てるかも」

透華「調子に乗るなですわッ!」ゴッ

玄「あははっ、透華ちゃんって優しいのに厳しいよね。さすが《福笑》と《龍門渕》のリーダーだよ」

透華「なんなら《アイテム》のリーダーを代わって差し上げてもよろしくてよ?」

玄「そういうことはおもちになってから言ってほしいかなー」

透華「わたくしは平均ですわ。泉と違って」

玄「……そうだね。我らが《逢天》のリーダー――おもちじゃない泉ちゃんのためにも、私たちでいっぱい点棒かき集めよう」

透華「お任せあれですわ」

玄「負けたらオシオキ確定だよ、透華ちゃん」

透華「わたくしがそんなヘマをやらかす間抜けに見えまして?」

玄「ううん、見えない」

透華「よくわかってますわね。では、華麗に美麗に打ち回してきますわ。わたくしのことは心配要りませんの。そんなことより、泉に魔物対策をしてやってくださいまし。
 さっきから……わたくしの高感度センサーがビリビリしてますわ。《煌星》のもう一人の魔物――三回戦では粛々としていましたが、この点差、間違いなく暴れてきますわよ」

玄「わかってる。そっちは任せて」

透華「それじゃあ……ド派手に出撃してきますわッ!」ゴッ

玄「頼んだよ、透華ちゃん!」

 ――特別観戦室

憩「次鋒戦やのに《福笑》戦やんなー」

衣「勝つのはとーかで間違いないだろうっ!」

純「んー、どうすっかな。オレはせっかくだし、愛宕絹恵に賭けてみるか」

まこ「ほいたら、わしゃあ亦野に一票じゃ」

穏乃「チーム《福笑》……二回戦で戦った《姫松》の鷺森さんと船久保さんもメンバーだったんですよね」

憩「チームコンセプトは、『目立ってなんぼ!』やったっけ」

純「のわりには、地味な打ち手しかいねえんだよな。透華は性格こそあんなだが、打ち筋は完全理論派《デジタル》。他の四人なんかもう輪をかけて地味――地味で地道に稼ぐ分……強え」

まこ「《福笑》出身のうち三人が、去年の四強チーム――《虎姫》、《姫松》、《千里山》の副将として活躍することになったんじゃけえ、龍門渕はほんに慧眼じゃ」

衣「戦績的に一番活躍できなかったのがとーかだというのも皮肉だなっ!」

菫「明らかに一番目立っていたのはお前ら《龍門渕》だったがな……」

エイスリン「スミレ! 《シャープシュート》! 《バンセイ》、トバシタ!!」

照・智葉「……逃げたんだね(な)」

菫「やかましいぞそこ」

塞「チーム《福笑》ねぇ。地味で地道に強いってのは、私、好きよ。目立ちたくはないけれど」

『まもなく次鋒戦を開始します。対局者は対局室に集まってください――』

 ――対局室

絹恵「(起親――ほな、最初から飛ばすで!!)よろしく!」

 東家:愛宕絹恵(新約・108500)

誠子「(ラス親か。ま、何はともあれ、できることをしよう……)よろしく」

 北家:亦野誠子(幻奏・103300)

透華「(この《煌星》の……《流星群》。原村和と《ステルスモモ》もなかなか可能性を感じさせますけれど、この子も悪くありませんわね)よろしく、ですわ!」

 西家:龍門渕透華(逢天・126900)

友香「(負けられない……!!)よろッ!!」

 南家:森垣友香(煌星・61300)

『次鋒戦――開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

ひとまず明日はお休みします。また近いうちに。

では、失礼します。

乙乙。
そうか《あいてん》と読むのか。
で、《福笑》は《ふくしょう》なのね。
言葉遊びうまいなww
気付かず《ふくわら》とか読んでたわww

ところで、>>763時の玄って、手牌14枚ないか。
それとも玄の順番なだけ?

>>794さん

赤ドラを表す『[]』のせいでぱっと見多そう(私もよく指折り数え直します)ですが、

 玄手牌:4 [5]67 888 ⑤[⑤][⑤] [五]六七

で13枚です。似たような現象が、《赤口》で《配牌で赤ドラを集める》能力を持つ姉帯さんのときにも起きる可能性があります。

 ――《煌星》控え室

桃子「ただいまっすー」ガラッ

淡「お待ちかねの私だよっ!!」ババーン

咲「さすが淡ちゃん! 《超新星》のような笑顔で断ラス帰還!! 私には無理かなっ!!」

煌「お帰りなさい。もう次鋒戦が始まっていますよ。さあ、こちらで友香さんの応援をしましょう」

淡「はーいっ!」ピョコ

咲「させないよ!!」ワリコミッ

淡「ちょっとー!? キラメの隣は私の定位置でしょー!!」

咲「へっぽこ役直エースの淡ちゃんに、煌さんの隣に座る権利はないよ!!」

淡「うわーん、モモコー! サッキーが陰湿だよー!!」

桃子「ま、大人しく私の隣で我慢してくださいっす」

咲「私が控え室にいる間はこの席順ね! 奥から、煌さん、私、淡ちゃん、桃子ちゃん。たまには、ベタベタと鬱陶しい淡ちゃんから、煌さんを解放してあげないと!」

淡「なにそれ理不尽!? っていうか、キラメはなんでソファーの端っこに座ってるの!?
 キラメが真ん中に座れば、私がキラメの膝の上で、サッキーとモモコが両隣っていう、完璧な布陣が敷けるのに!!」

煌「それだと若干私が窮屈な感じになりそうですが……?」

咲「とにかく、ダメなものはダメー!」

淡「ぶぅーっ! ねー、いつになくサッキーが面倒臭いよー、モモコー」

桃子「やらかした罰だと思って諦めてくださいっす」

淡「むーう……」

     絹恵『リーチや!!』

煌「ふむ。先制リーチは愛宕さんですか」

咲「今のところ、能力的な《上書き》のない、古典確率論優位のデジタル場。今回は、偶然が愛宕さんに味方したって感じですか」

桃子「でー子さんも、リーチするまでは普通に打つしかないっすもんね」

淡「リーチが《発動条件》のユーカ的には、トーカが例の『冷たい』やつになってない今のうちに、やっつけておきたいよね」

     絹恵『先制いただきっ。ツモ、2000オールやで!!』

煌「デジタル場だと、やはり非能力者としての経験値が高い愛宕さんがやや有利ですか。それに、龍門渕さんも当然デジタルには強いでしょう。
 なるべくなら、能力戦に引き込みたいところです。その場合、友香さんと亦野さんの相性が問題になってきますが――」

咲「門前に強い友香ちゃんと副露に強い亦野さん――合宿のときは、友香ちゃん、少しやりにくそうでしたね」

淡「ユーカがリーチで支配領域《テリトリー》を展開すると、セーコが三副露でそれを乱しつつ、自分の支配領域《テリトリー》を展開してくるんだよねー」

桃子「ま、その逆のパターンも何度かあったっすよ。序盤を過ぎれば、二人の能力値はレベル3で互角……能力戦でも厳しい戦いになりそうっす」

煌「大丈夫です。友香さんなら、きっと――」

 ――対局室

 東一局一本場・親:絹恵

友香(テンパイするとこまでは、デジタル勝負。ベスト4常連チームで副将を任されていた愛宕先輩……合宿のときより精度が高い気がするんでー。
 《新約》には原村さんがいる。園城寺先輩がデジタル化したみたいに、愛宕先輩も機械化が進んでるのかも)

 南家:森垣友香(煌星・59300)

友香(龍門渕先輩のデジタルが強いのも、三回戦で確認済み。そこに元一軍《レギュラー》の亦野先輩。もう準決勝なんだから当たり前だけど、面子の平均水準が高い)

友香(三回戦もキツかったけど、あの時はチームがトップだった。今は……最下位。この人たちを相手にまくらないといけない)

透華「リーチですわっ!!」ゴッ

 西家:龍門渕透華(逢天・123900)

友香(でー……高そうでしかも待ち多そう。こっちはまだ二向聴。追っかけられれば能力使える私のほうが有利だけど――)

友香(煌先輩からは、平場だと思って打つよう指示が出てる。三人とも、点差によって打ち方を変えるタイプじゃない。いつも通りのスタイルで勝ちに来る人たち。
 なら、私も私のスタイルを貫こう。それがベストだと煌先輩が言うんだから、何を迷うことがあるんでー!)

透華(ま、ここでツッパってくるような戯けではありませんわよね。ますます気に入りましたわ、森垣友香!)タンッ

誠子(この落ち着きで一年生なんだからな……末恐ろしい)タンッ

 北家:亦野誠子(幻奏・101300)

絹恵(森垣はオリたんか? ほな、今回も能力戦は避けられそうや。デジタル場なら、うちは慣れとる。
 透華のリーチは恐いけど、古典確率論以上の警戒はしなくていい。いざとなったら安牌あるし、親でこの手……速度上げて潰したるわっ!!)

 東家:愛宕絹恵(新約・114500)

絹恵「チー!」タンッ

友香(愛宕先輩がテンパイした感じでー? 鳴いてきたけど、打点は高そう。どっちにも振り込むわけにはいかない)

透華(ん~、なかなかにジューシー! まだ始まったばかりですのに、集中力も判断力もトップギアまで高まっているのを感じますわ。
 出会った頃とは比べ物にならない強者の風格。やるようになったではありませんか、絹恵!)

透華(わたくしは完全理論派《デシタル》。ベストを尽くしても、負ける可能性は当然ありますわ。しかし、負けるつもりは一切ありませんの)

透華(絹恵……強くなったようで何よりですわ。が! わたくしも、決してあの頃と同じではありませんのよ!!)

透華「いらっしゃいまし、ツモ! 4100・8100ですわっ!!」パラララ

絹恵(高め引いてきたかー。いや……ホンマ敵わんな、透華には)フゥ

誠子(さすが透華……そこらのデジタルとはキレが違う)フゥ

透華「あらあら、これしきで溜息ですの? 絹恵、誠子。あなたたち、よもやわたくしの教えを忘れてはいませんわよね?」

絹恵「もちろん、よう覚えとんで。『対局中は常に見られてると思え』やんな」

誠子「『ギャラリーを意識して打ち回せ』って。あとは」

絹恵・誠子「『対局に勝つことは当然必須の決定事項』。ほんで(そして)何より大事なことが――『目立ってなんぼ!!』」

透華「よくわかっているではありませんか。強くあることや勝つことは、誰もが目指す当たり前の事。強くて勝つだけではまだまだ雀士としては二流なのですわ。
 真のファンタジスタ――本物の一流とは、見ている者の心をも掴むものですの! 華麗に美麗に打ち回し、誰よりも目立って、なおかつ、勝つ! そう、つまり、わたくしのようにッ!!」ババーン

絹恵・誠子「相変わらずやな(だな)」

透華「絹恵と誠子は強いのですから、もっと上のステージで戦いなさいな。《姫松》と《虎姫》――あなたたち、どう見てもチームで一番地味な打ち手でしたわよ。
 上級生の影に埋もれるのは百歩譲って仕方ないとしても、せめて玄のお仲間の《導火線》や《ハーベストタイム》よりは目立ってほしかったですわね。わたくしたちはあの《生ける伝説》に勝っているのですから」

絹恵「漫ちゃんの爆発より目立つかぁ……」ハァ

誠子「尭深の役満より目立つかぁ……」ハァ

透華「だから溜息つくなですわそこー!!」ガー

友香「……ぷふっ」

絹恵・誠子「森垣さん!?」

友香「でっ、あ、すいません! なんだか……他人事のような気がしなくて、つい」

透華「ふふ、《流星群》――森垣友香。あなたには素質がありましてよ? ちょうどいい機会ですから、わたくしがレクチャーして差し上げましょう」

友香「でー?」

透華「絹恵も誠子も、復習の時間ですわよ。わたくしが直々にお魅せいたしましょう。
 先でも次でも中でもなく、大より大なる副の将! チームに『福』と『笑』を呼び込む打ち手の真髄――とくとご覧あれですわ!!」ゴッ

絹恵・誠子(次鋒戦や(だ)けどな(ね)……!!)

絹恵:106400 友香:55200 透華:141200 誠子:97200

 東二局・親:友香

絹恵(目立つとか魅せるとかなんとかゆーて)

誠子(誰よりも堅実に確実に打つのが、透華の麻雀)

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(せやけど、どういうわけか、完全理論派《デジタル》やのに、透華の麻雀には華がある)

誠子(玄人を唸らせ、素人を沸かせる。透華にしか出せない魅力がある)

絹恵(うちも浩ちゃんも)

誠子(私も灼も)

透華「リーチですわー!」ゴッ

絹恵・誠子(そんな透華に惹かれて《福笑》のメンバーになった――)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――去年・四月・一年教室棟

絹恵「いやー、入学式で気い失ったときはどうなることかと思うたけど、最近はわりと平和やんな」

浩子「一組の天江衣……それに、神代小蒔もやな。あの《頂点》――宮永照と同階級の支配者《ランクS》。《牌に愛された子》とかいう歩く異常現象。
 噂やけど、今は使われとらへん廃工場でドンパチやっとるらしいで。一帯が確率干渉の余波で異次元空間化しとって、誰も近付けへんらしい」

絹恵「けったいなとこやわー、学園都市。なんや、しかも、二組には超能力者《レベル5》っちゅーんがおるらしいやん。
 学園都市に一人――過去の歴史を見ても世界に一人しかおらへんかったレベル5が、うちらの代で一気に三人も発見されたんやろ?」

浩子「そやねん。ほんで、一組のランクS二人、二組のレベル5三人は、それぞれ《刹那》と《爆心》っちゅーチームでエントリー済み。こらクラス対抗戦で優勝とか夢のまた夢やでー」

絹恵「っちゅーか、まだチームすら組めてへんけどな、うちら」

浩子「ついつい絹ちゃんとばっか一緒におったからな。完全にメンバー集めで出遅れてもうた」

絹恵「浩ちゃん、誰か組みたい人おるー?」

浩子「うち調べのデータに拠れば、このクラスやと、亦野さんっちゅーんがええ感じやな。鳴きに強い強能力者《レベル3》。ちらっと見た限り、素でもそこそこ打てるで」

絹恵「あー、あの釣り人さんか。ぱっと見ツンとしとるから、まだ売れてへんらしいな。ええんちゃう? 今がお買い得な気いするわ」

浩子「あとは、鷺森さんやな」

絹恵「へえ、あのボウリンググローブ嵌めとる人か。そんなに強いん?」

浩子「亦野さんと同じ強能力者《レベル3》の自牌干渉系能力者。身長は142センチ。誕生日は4月14日。実家がボウリング屋で、あのグローブはそれでつけとるんやて」

絹恵「ようそこまで調べたな……。なんや、一目惚れでもしたん?」

浩子「だ、誰がバースデイプレゼント渡せずじまいやこのドアホ……////
 えっと、そ、そや! あと、鷺森さんはな、数学の赤土先生と同郷で、大ファンらしいで。いっつもつけとるネクタイは、赤土先生からもろた思い出の品やそうや」

絹恵「赤土先生――伝説《レジェンド》やんな。何がどう伝説《レジェンド》なんかはよう知らんけど」

浩子「赤土先生は、九年前の夏の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で、チーム《阿知賀》っちゅーんを決勝まで導いとるんよ」

絹恵「ふーん?」

浩子「同トーナメント最大のダークホースチーム――そのリーダーにしてエースがなんと一年生やってん、話題にならへんほうがおかしいやろ。
 しかも、赤土先生はその年の新入生代表やったしな。今年で言えば、天江衣が一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に殴り込みを掛けるようなもんや」

絹恵「それは……まあ、すごいことやけど、伝説っちゅーほど伝説か? なんや、天江さんを例えに出されると、結構ありそうな気いしてまうわ。ここは天下の白糸台――毎年化け物みたいな新入生の一人や二人おるやろ?」

浩子「ま、せやな。去年の宮永照とか、上の世代で近いとこやと、三尋木先生なんかも、一年生の頃からめちゃめちゃ強かったらしい。ただ、赤土先生が二人と違うんは、在学中の三年間でその夏にしか公式戦に出ーへんかったっちゅーとこや」

絹恵「え?」

浩子「話題沸騰大注目の有力株としてその名を轟かせたスーパールーキー――惜しくも《阿知賀》は一軍《レギュラー》を逃して解散してもうたけど、次の秋季《オータム》で、また新たなる伝説の幕が開ける……。
 誰もがそう思っとったのに、以降、赤土先生が公の場に姿を表すことは二度となかってん。九年前の夏が、赤土先生の、最初で最後の伝説《レジェンド》やったんよ」

絹恵「なんで……? 決勝で何かあったん?」

浩子「どうなんやろな。内容までは調べてへんけど、試合結果だけを見る限り、むしろ赤土先生は八面六臂の大活躍やったで。
 ほんで、赤土先生の活躍があったからこそ、結成数ヶ月のダークホースが、あのチーム《慕思》と優勝争いするとこまでいけた。っちゅーか、それがゆえの伝説《レジェンド》なわけやし」

絹恵「そうなんか……。いや、でも、今えらい納得したで。一年生であの《慕思》と張り合ったんなら、そら伝説《レジェンド》にもなるわ。
 あそこはオカンが珍しく素直に褒めとったチームやからな。歴代の白糸台でも最高のチームの一つやって。インターハイに出とる《慕思》見て、お姉ちゃんと『はやや~☆』言うてはしゃいだ記憶あるわ」

浩子「《慕思》はなんっちゅーても安心感がちゃうよな。部内の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で圧勝しといて、外の世界《インターハイ》の決勝では白糸台史上稀に見る大苦戦を強いられた、おばちゃん率いる《千里山》とは大違いやで」

絹恵「浩ちゃん……それオカンの前で言うたらボコボコにぶっ飛ばされんで? うち、お姉ちゃんがふざけて昔の牌譜引っ張り出してきて、半殺しにされとんの見たことあるわ」

浩子「恐い恐い」

絹恵「ほんで――あれ? なんの話やっけ?」

浩子「鷺森さんの話や」

絹恵「おお、せやせや! 亦野さんと鷺森さんの話やったな。こんな無駄話ばっかしとるから出遅れんねん!
 ほな、とりあえず、二人に声かけてみよか。うち、亦野さんのとこ行ってくるから、浩ちゃんは鷺森さんな」

浩子「えっ!? あ、えっと、ぎゃ、逆にせーへん……?」モジモジ

絹恵「? ま、まあ、別にええけど――」

浩子「あっ……! えっと、いや、やっぱ、うちが鷺森さんのとこ行ったるっ!」

絹恵「どーぞどーぞ」

浩子「え、その……ごめん、二人一緒に一人ずつ回るっちゅーことでどやろか、絹ちゃん」モジモジ

絹恵「なんやねんなーもー!?」

 ――――

 ――――

誠子「んー、これは手強いです」

灼「船久保さん、強……」

浩子「ま、まあ! これでも一応インターミドル経験者やからなーっ!」キラーン

絹恵「亦野さんと鷺森さんの能力、できることに幅がありそうでオモロいな。うちもなんか能力ほしいわー」

浩子「ちゅーわけで、どやろか? クラス対抗戦……一緒に戦ってくれへんか、亦野さん、鷺森さん」

誠子「わ、私なんかでいいのなら……! 足を引っ張らないように頑張ります!」

絹恵「堅っ苦しいな、自分。同級生やしタメでええよー」

浩子「さ、鷺森さんは……?」

灼「不束者だけど、できるだけ頑張ろうと思……」

浩子「お、おおきに!!」グッ

絹恵(浩ちゃんはなぜ卓の下でガッツポーズしとるんやろ……)

浩子「ほな、問題はあと一人やな!」

絹恵「優勝は無理やとしても、せっかくやし決勝くらいは行きたいなー」

誠子「ってことは……あの新入生代表の天江さんと戦うことになるかもという?」

灼「天江さんと神代さんもそうだけど、一組で一番ヤバいのは《特例》の荒川さんって人らし……」

浩子「んー……やっぱ、そこやろな、問題は。うちの計算に拠れば、あれこれ策を練って挑めば、決勝まで行けなくもない。
 せやけど、今の戦力やと、ほぼ確実にあの一組の化け物軍団にトばされる。どーしたもんやろか」

絹恵「何か、うちらにはない要素を取り入れる、とか?」

誠子「私たちにない要素……」ジー

灼「足りないもの……」ジー

浩子「欠けてるもの……」ジー

絹恵「せやなー……」ジー

浩子・絹恵・誠子・灼「………………華?」

浩子「華と言えば――名前に『華』がつく魔物がおるやんな、このクラス」

絹恵「ああ……あの化け物お嬢様な。財閥の一人娘っちゅー」

誠子「聞いた話なんだけど、あの人、入学してすぐに、四組の国広さんと沢村さんって人を、自分つきのメイドにしたらしいよ」

灼「なぜメイド……? 恐……」

浩子「なんぼ華があるゆーても、あいつとは、さすがに一緒にやっていける気がせーへんな」

絹恵「オーラが一般人とちゃうもんな。気後れしてまうわ」

誠子「ネト麻も相当な実力者なんだって。海外の研究所に資金援助してて、最先端のデジタル論を学んでるんだとか」

灼「住む世界が違……」

 バァァァァン

透華「今こちらで誰かわたくしの噂をしてやがりましたわねー!?」クシュンッ

浩子・絹恵・誠子・灼(ご本人様来たああああああっ!?)ビクッ

透華「そこの地味軍団!! わたくしを呼んだのはあなたたちですの!?」

浩子・絹恵・誠子・灼(呼んでません呼んでませんっ!!)ガタガタ

透華「おっと、これは牌譜ですの? ふむふむ、ちょっと失礼して……ははあ、なるほど。四人ともそれなりに打てるようですわね。いいですわ。あなたたち、全員今すぐわたくしのチームに」

浩子・絹恵・誠子・灼「あ、うち(私)、ちょっと用事思い出しましたッ!!」

 ダッダッダッ ガラガラ バタンッ

透華「入りませんこと――って、あら……?」

 ――――

 ――――

絹恵「び、びっくりしたー!!」

浩子「急に湧いて出るから心臓止まるかと思ったで」

灼「龍門渕透華さん……入学式の天江さん騒動で、うちのクラスでただ一人生き残ったとんでもない人……」

誠子「というか、天江さんとは従姉妹らしいよ。ランクS指定は受けてないけど、ほとんど同階級の魔物なんだとか……」

透華「よくご存知ですわね。わたくしと衣は確かに従姉妹。でもって、ランクはA強ですわ!」

絹恵・浩子・灼・誠子「うわあああああ!!?」ガタガタ

透華「なんですの? わたくしの顔に何かついてます?」

浩子(あの天江衣の親族やと!? あかん、殺される……!!)カタカタ

絹恵(っちゅーかいつの間に!?)カタカタ

誠子(わ、わが人生にたくさんの悔いありだけどもう諦めよう……)カタカタ

灼(せっかく学園都市に来れたのに……ハルちゃん――)カタカタ

透華「それはそれとしてですわ、あなたたち」

絹恵・浩子・誠子・灼「は、はい!!」

透華「悪いとは思いましたが、置いてあった牌譜は全て見させていただきましたわ。まず、船久保浩子」

浩子「はひっ!?」

透華「データ派のデジタルのようですわね。分析力はかなり高いようですが、素の実力がそれに追いついていませんわ。
 同級生相手ならいいでしょうけれど、今のままでは、上級生の能力者には太刀打ちできない可能性が大ですわよ」

浩子「ほ、へ……?」

透華「それから、愛宕絹恵。姉の愛宕洋榎に憧れて白糸台に来たそうですわね。独学で鍛えたような我流のデジタル。
 筋はいいようですが、まるで基礎がなってないですわ。これでは安定した打ち手にはなれませんの」

絹恵「え? ええ?」

透華「あと、亦野誠子。副露に強いレベル3の自牌干渉系能力者。あなたは能力に頼り過ぎですわ。
 鳴くという行為への理解がまだまだ不十分ですの。少しネト麻で鍛えたほうがよろしいかもですわね」

誠子「お、おお……」

透華「それから、鷺森灼。筒子で和了りやすいレベル3の自牌干渉系能力者。ただ、時々、あまりにも古典的な打牌をすることがありますの。
 そのスタイルがあの伝説《レジェンド》の影響を受けているらしいことは存じておりますけど、これでは二番煎じ。とても本家を超えることはできませんわ」

灼「えー……」

透華「ざっと、こんなもんですわね。あなたたち、素質はありますけれど、わたくしから見ればまったく穴だらけ! この程度では、とてもとてもクラス対抗戦で優勝など不可能ですわ!!」

絹恵・浩子・誠子・灼「あの……」

透華「しかし、ですわ! わたくしなら、あなたたちの才能を花開かせることができますの!!
 わたくしに付いてくるなら、クラス対抗戦など余裕で優勝できましてよ。いかがです、この誘い――悪くないと思いますわよ?」

絹恵(こ、これは、どういうことや!?)コソッ

浩子(ようわからんけど……化け物に目をつけられたみたいやで、うちら)コソッ

誠子(目を掛けられた――って感じだけど、ここまでの発言を信じるなら……)コソッ

灼(私たち、船久保さん以外は全然無名なのに……意図が読めな……)コソッ

透華「さて、コソコソと相談中のところ申し訳ありませんが、わたくしは気が短い! 即断即決、今ここで返事をしてくださいまし!」

絹恵・浩子・誠子・灼「え、えっと――」

透華「船久保浩子、愛宕絹恵、亦野誠子、鷺森灼――!! あなたたち四人は、あなたたちにしかない魅力がありますわ! わたくしが言うんだから間違いありませんの!!」

絹恵・浩子・誠子・灼(うちら(私たち)にしかない魅力……!?)ゴクリッ

透華「わたくしのチームに入れば、あなたたちは今よりずっと強くなれますわ。こんなビッグチャンスはこれっきりでしてよ? 逃してよろしいんですの?」

透華「これから三年間、地道にコツコツ頑張って、そこそこぼちぼち悪くはない程度の雀士として白糸台を卒業するのと、
 今ここでわたくしの誘いに乗って、華々しく高校デビューを飾り白糸台の《頂点》近くで大活躍するのと――」

透華「あなたたちはどんな色の未来を望みますの? くすんだ灰色? それとも、輝く薔薇色?」

絹恵・浩子・誠子・灼「…………」

透華「薔薇色の学園都市生活を送りたいと思うのなら、わたくしの手を取りなさい。そうすれば、手始めに同学年最強チームの栄冠をプレゼントして差し上げますわッ!!」スッ

絹恵・浩子・誠子・灼「よろしくお願いしまあああああああすッ!!」ガシッ

透華「よろしい。本格的に始動するのは明日からですわ。今日は帰ってよろしくてよ。では、御機嫌よう!!」ザッ

 キキー ブロロロロ

絹恵「勢いでオーケーしてもうたけど、なんやったんや……ホンマに」

浩子「せやけど……あの龍門渕透華がガチに全面協力してくれるなら、計算式がまるっきり変わってくるで」

誠子「ランクS級の魔物で……高精度の完全理論派《デジタル》雀士……」

灼「私たちにない『華』を持つ、あの龍門渕財閥のお嬢様……」

絹恵「なんやろ……うまく言えへんけど、なんか、行ける気がしてきたで。さっきまでビビってたんが嘘みたいや。ランクSもレベル5も、今は、あんま恐いと思わへん」

浩子「そらまあ、今しがた目の前であんなインパクトのある人間見たばっかやしな」

灼「強引……けど、無理強いはしてこなかった……」

誠子「っていうか……気付いたんだけど、さっき出力した牌譜ってさ、簡易版で、私たち、名前入力してなかったよね」

絹恵「あっ!? え? せやけど、さっき普通にフルネームで呼んできたよな? 新学期始まってから喋ったんはこれが初めてやし……どういうこと……?」

浩子「妥当な推察としては、初めからうちらのことを知ってた――っちゅーとこやんな」

灼「言われてみれば……私がハルちゃんに憧れてることとか、パッと牌譜見ただけでわかるはずな……」

誠子「ある程度、私たちの個人情報を調べた上で接触してきたってことだよね。だとすると、チームに誘ったのは、気紛れなんかじゃなく……」

絹恵「本気で勝ち目があると思って選んでくれたんか? ランクSやレベル5とやりあう手駒として、うちらを? 同じ化け物であるはずのあのお嬢様が……?」

浩子「随分と、高く買われたっぽいな。それがホンマやったら」

灼「これは……どう受け止めたらい……?」

誠子「……が!」

絹恵「が? どうしたん、亦野さん? ニュータイプのボケ?」

誠子「が――頑張ってみよう!!」

絹恵・灼・浩子「っ!!?」

誠子「わ、私には……華がないって! さっき、話をした! そこに、華のほうから来てくれた。これは、龍門渕さんの言うように、千載一遇のビッグチャンスなんだと思う。
 私たちのこれからは、きっと、ここでどれだけ頑張れるかで大きく変わってくると思うんだ。みんな、どう思うっ!?」

浩子「まあ……あの龍門渕透華とパイプが持てたっちゅー時点で、願ってもない幸運。これを逃す手はないな!!」

絹恵「オカルトもデジタルも折り紙つきなんやもんな。同学年で間違いなく最強クラスの雀士――そんな人と一緒に戦える……おおっ! なんかテンション上がってきたでっ!!」

灼「ついていくのは大変そうだけど、最後まで走りきれば、きっと……ものすごいところまで行けると思……!!」

誠子「本気で、目指してみようよ、学年最強チーム! あの人と――龍門渕さんとなら、不可能じゃないと思うんだっ!!」

浩子「せやな。たとえランクSやレベル5が相手でも、龍門渕なら勝ってまう気いするわ。ほな、うちら伏兵がぼちぼち活躍できれば……!」

絹恵「勝てるかも……!! せやっ! やって、ランクSは二人、レベル5は三人しかおらへん!! あとはドングリの集まりっ! うちらがドングリの中でもええ感じのドングリになれば勝てるんや!!」

灼「優勝すれば……ハルちゃんに褒めてもらえるかも……ふへへ……」

誠子「じゃあ、決まりだっ!」

浩子「ほな、せっかくやし、善は急げっちゅーことで、さっきあいつに言われたとこ、牌譜見ながらみんなで検討してみーひん?」

絹恵「ええな、それ。ほな、これからどっか雀荘行こか!」

誠子「賛成。鷺森さんは?」

灼「ふへへ――へ? あ、うん、えっと、それでいいと思……」

浩子「っしゃー! やる気出てきたでー!!」

 ――――

 ――クラス対抗戦・《福笑》控え室

 バァァァァン

浩子「だあああああ!! 最後の最後でまくられたー!!」

灼「いや、十分すご……」

絹恵「せやで、浩ちゃんはようやったって!!」

誠子「お疲れ様、浩子!!」

浩子「うううううう……透華ぁ、ごめん、勝てへんかった……!!」

透華「なんてこと……なんてことをしてくれたんですの!? あなたたちッ!!」ワナワナ

浩子「はぅ……!?」ビクッ

灼・絹恵・誠子(透華が見たこともないくらい激怒している!?)ゾワッ

『いや~、《刹那》もすごかったけどさ~、《爆心》も面白いよねぃ。
 公式戦で《一試合一人一役満》なんてやってのけたチームって過去にないんじゃねーの? これって《生ける伝説》になるんじゃね? 知らんけど』

透華「なーぜー!? なぜ最下位の《爆心》が一番目立ってますの!!? ふっっっっっざけるなですわーーーー!!!」

浩子・灼・絹恵・誠子(そっちー!?)ガビーン

透華「役満なんてただの運!! あの解説はまったくどこに目をつけているんですの!! そんな偶然より他に見るべきところがありますのに!!」ガー

『まっ、けど、順位は順位だよねぃ。トップの《刹那》はもうあれこれ言うまでもなくいいチームだったけど、二位の《福笑》もすんげーよかった。これは私にもわかっちゃうねぃ~。
 《爆心》の派手さに埋もれちゃってたけどさ、普通に一番上手かったのはあそこだよ。最後はちょっと運がなかったけど、もう、ホントそれだけ。次やったら優勝は《福笑》かも。ま、知らんけど~』

透華「フ、フン……なかなか話のわかる輩ですわね! その通りッ!! 真の最強はわたくしたちでしてよ!!」ババーン

浩子・灼・絹恵・誠子「透華……」

透華「ん? なんですの? 四人とも腑抜けた顔をしていますわね。もっと堂々と胸をお張りなさいな。わたくしたちは準優勝――もっと言ってしまえば、『たまたま』優勝を逃しただけの実質最強チームですわ!!
 わたくしたちに足りなかったのは、一時の運だけ!! そんなもの、わたくしに言わせれば、あってないようなもの!! ゆえに、最強はわたくしたち!!」

浩子・灼・絹恵・誠子「…………」

透華「ま、しかし、負けてしまったことは事実。これは覆しようがありませんわ。そして、敗因も『運』だとわかっていますの。私たちには『福』が無かった。
 なら――あなたたち、次勝つためにまず何をすべきか、わからないとは言わせませんわよ!!」

浩子・灼・絹恵・誠子「えーっと……」

透華「笑いなさいな! わたくしたちは準優勝! この結果を笑顔で祝せずして、何を祝福しろと? わたくしはそこまでストイックな性格ではありませんことよ!」

浩子・灼・絹恵・誠子「あ、あはは……」

透華「あなたたち……笑い方まで地味ですのね。まったく、『目立ってなんぼ!』がモットーのチーム《福笑》としては、全員落第点ですわ」

浩子「そんなこと言われたかて」

絹恵「これがうちらやし」

灼「なかなか変わるのは難し……」

誠子「できることなら……透華みたいに笑いたいけど」

透華「ま、いいですわよ。そんな不器用なあなたたちのことも、わたくし、嫌いじゃありませんわ」ニコッ

浩子・灼・絹恵・誠子「と……透華ああああああああああ!!」ガバッ

透華「ほああっ!? な、なにするんですの!? ちょ、苦しいっ!! 苦しいですわー!!」ジタバタ

浩子「透華、ホンマ自分についてきてよかった!!」ギュー

灼「透華がいなかったら私たちはここまでこれなかった……!!」ギュー

絹恵「これで上級生からチームの誘いが来たりしたら、ぜーんぶ透華のおかげや!!」ギュー

誠子「目立つのは無理かもだけど、透華の教えてくれたことは忘れないから……!!」ギュー

透華「あなたたち……」

 コンコン

透華「あら、こんなときに誰ですの?」

?「失礼……ちょっといいかな?」

透華「(ほら、あなたたち、みっともないからしゃきっとしなさい)……どうぞですわ!」

 ガチャッ

透華「ほう……これはこれは――」ピリッ

浩子・灼・絹恵・誠子(こ、この人たちは!!?)ゾワッ

照「試合直後にお邪魔してすいません。二年の宮永照です。ちょっとだけ、そちらの亦野誠子さんとお話がしたいんだけど、どうでしょう……?」

由子「二年の真瀬由子なのよー。私は愛宕絹恵さんにお話があるのよー」

竜華「お久しぶりやね~、浩子。清水谷の竜華さんやで。ほんで、早速やけど、自分にご相談があんねん」

初美「私は二年の薄墨初美――風紀委員をしてる者ですよー。鷺森灼さん、あなたにお願いがあってきたですー」

浩子・灼・絹恵・誠子「あ、え、えっと――」チラッ

透華「わたくしのことはいいですわ。言ったでしょう。あなたたちにはあなたたちにしかない魅力がある。それに、わたくし以外の人間がようやっと気付いた。それだけのこと。
 さあ、行ってきなさい! 行って、薔薇色の学園都市生活を謳歌するんですわっ!!」

浩子・灼・絹恵・誠子「透華……」

透華「あなたたちはわたくしの手を取った。しかし、引っ張られっぱなしではつまらないでしょう? いいんですのよ。ここから先は、あなたたちが、あなたたち自身で進みなさい。よろしくて?」

浩子・灼・絹恵・誠子「お……お世話になりましたあああああああ!!」ペッコリン

透華「こちらこそ、一月ほどでしたが、最高に楽しかったですわよ。また、明日、教室で。それでは、わたくしはお邪魔なようなので、これで――」ザッ

由子「あ――ちょっと待ってなのよー、龍門渕さん」

竜華「夏の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》……うちらの中の誰かと一緒に戦いたいとか、思ったりせーへん?」

初美「でなければ、学園都市の治安維持とかいかがですかー?」

透華「……愚問、ですわねッ!!」ゴッ

由子・竜華・初美「……!?」ゾワッ

透華「わたくしは誰かの下につくのが苦手なんですわ。お誘いは嬉しいですけれど、先輩諸姉、次会うときは、敵として相見えましょう。そちらのほうが、きっと面白いですわ――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照「……うん。私もそう思うよ」ビリビリ

透華「それでは、夏を楽しみにしていますの。御機嫌よう」ザッ

浩子・灼・絹恵・誠子(透華……おおきに(ありがとう)……)

 パタンッ

照「ふう……っと、あ――もしもし、菫? こっち? うん、大丈夫だったよ。それで、渋谷さんは……ああ、なら、よかったね。じゃあ、待ってるから。うん、わかった――」

誠子(宮永先輩……!! 白糸台の《頂点》にして、チーム《虎姫》のエース……こんなすごい人に声を掛けてもらえるなんて!! 透華、私、頑張るよ……!!)

由子「あー、恭子ー? そっちのおでこちゃんはどうなのよー? うん、こっちはばっちりなのよー。もーこの子とっても可愛いのよー」

絹恵(真瀬先輩……《姫松》の人や。お姉ちゃんも、今年に入って声を掛けられとるゆーてた。たぶん、遠からず、一緒に打つことになるやろ。透華、うち、頑張るからな……!!)

初美「あ、巴ですかー? そっちはどんな感じですかねー? へえ、捕獲成功――? やったじゃないですかー。オッケーですー。あとで合流しようですー」

竜華「ほな、浩子。ここで立ち話もなんやし、よかったらこれからどっか行かへんかー?」

浩子「あ、えっと、すんません。ちょっとだけ待ってくださいね――あの、薄墨先輩!」

初美「ほえ?」

浩子「その、灼は、真面目そうに見えますけど、案外抜けとります!」

灼「え、浩子……?」

浩子「風紀委員のお仕事、うちもお手伝いしてええですか!?」

初美「もちろんやる気のある子は大歓迎ですー。けどー、二束の草鞋は大変ですよー?」チラッ

竜華「ひ、浩子……?」オロオロ

浩子「大丈夫です! どっちも頑張りますんで、任せてくださいっ!!」

初美「めちゃめちゃ助かるですー。けどー、そうですねー、じゃあ、船久保さんにはデスクワーク系をお願いしたいですー。実働部隊だと拘束がキツいですからー。これでいいですかねー、清水谷さん?」

竜華「もちろんっ! さっすが話がわかるでー、初美は。おおきに~」

浩子(っしゃッ!!)グッ

灼「……浩子、私が抜けているということについて、詳しく説明してほし……」ゴゴゴゴゴゴ

浩子「へっ!? あ、いや、それはその――」

絹恵(浩ちゃん……なにしとんねん)

誠子(あの二人……これからどうなるんだろうか)

浩子「か、かんにんしてやー、灼っ! 機嫌なおしてーなー!?」

灼「浩子はたまにそういうところあると思……」

浩子「ご、ごめんてー!!」

 ワイワイ ガヤガヤ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(透華の言うた通り……クラス対抗戦で、うちらはあの《刹那》と、地味やけどごっついええ勝負ができた。結果は負けてもうたけど、堂々の準優勝や)

絹恵(ほんで、うちは《姫松》、浩ちゃんは《千里山》、誠子は《虎姫》、灼は(あと浩ちゃんも)風紀委員会にスカウトされた。ホンマに、全部、透華のおかげや)

絹恵(そもそも、なんで透華はうちらに目をつけたのか――聞いたら、遊び相手は多いほどええから、言うてたっけな。
 まあ、実際、言葉通りなんやと思う。うちらだけが持つ魅力……それを気に入ったから、世話焼いてくれた――それだけのこと……)

絹恵(ホンマ……たったそれだけのことで、よう知りもせんうちらに特訓つけてくれるとか、どんだけお人よしやねん、このお嬢様は!)

絹恵(わかっとる。透華も《修羅》の天江さんと一緒なんや。敵が強いほうが燃え上がる。
 己の遊び相手となる可能性のある雀士を、天江さんは敵として叩き潰して鍛え上げ、透華は味方として引き込んで鍛え上げる。
 そうやって、二人は楽しんどんねん。今も昔も、心の底から麻雀を楽しんどる……!!)

絹恵(ええで、透華。世話になったお礼はいつかしたいと思うてたんや。任せとき。うちが今ここで、自分に麻雀楽しませたるわ――!!)

絹恵「リーチや!!」ゴッ

透華(追っかけとは生意気な真似をしやがりますわね? 面白い。望むところですわ!!)

絹恵(追っかけるからにはそれなりの手やで。覚悟しいや……!!)

友香「こっちも……リーチでー!!」クルッ

絹恵・透華(《流星群》っ!?)

友香(盛り上がりのとこ申し訳ないんでー、先輩方。でも、ここからは私の支配領域《テリトリー》。きっちり和了らせてもらうんでー、よろッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(あかんな、わかってたけど、能力使われるとこっちが不利やで!)

透華(フン、たかが追っかけに動揺することなんてありませんわ!!)

誠子(森垣さん……透華と絹恵を押しのけてリーチとは。いや、透華が素質アリと言うんだから、これくらいは当然なのかもしれないな。まあ、しかし……そんなあっさりと和了らせるつもりはない)

誠子「ポン――」ゴッ

友香(こ、の……!?)ゾワッ

誠子「ポン――!!」ゴゴッ

絹恵(今度は自分か、誠子――白糸台の《フィッシャー》!!)

誠子「ポン……ヒットッ!!!」ゴゴゴッ

透華(これは――)

友香(くっ、このパターン……! やっぱ厄介でー、亦野先輩のそれっ!!)

誠子「ツモ。1000・2000!!」パラララ

絹恵(やるやん……っ!)

友香(これをどうにかしないことには、勝負にならないッ!!)

透華(やはり、わたくしのリーチ宣言牌が雀頭になっていますの。誠子の副露センスを考えれば、そのタイミングでも鳴いて仕掛けることができたはずですわ。
 しかし、誠子はそれを見逃して、絹恵や森垣友香が仕掛けてくるのを待った。結果的にリー棒二本分の得をしている――)

誠子(リー棒三本釣り。今日は一発目から大量だな。この調子で、押し切る……!!)

透華「(相手にとって不足なし、ですわ!)では、次はわたくしの親ですわね!」ゴッ

絹恵:104400 友香:52200 透華:139200 誠子:104200

 ――《逢天》控え室

泉「一盃口確定ドラ二の一向聴。ピンポイントで入ってくれば、一通や門前清一も狙えます。さすが透華さん。手作りに無駄がありませんわ!」

 透華手牌:12234778899②③ ドラ:9

豊音「ちょートーカらしいよー」

玄「んー……けど、亦野さんの手がなぁ」

小蒔「はわっ!? あれは……」

     誠子『ポン!』

泉「げ――」

     誠子『ポンッ!!』

豊音「ちょー……?」

     誠子『ポン!!!』

玄「ポンで飛ばされるこの感じ。亦野さんの上家に座っちゃったのはマズったかな。
 どこまで狙っているかわからないけど、能力戦でこういうことをされると、完全理論派《デジタル》の透華ちゃんには不利だよね」

小蒔「透華さんの有効牌が悉く……!!」

 誠子手牌:33④④/66(6)/①(①)①/中中(中) ドラ:9

 透華手牌:12234778899②③ ドラ:9

泉「うおっ、赤五来た……けど、これは一足遅かったっちゅーやつですか」

 透華手牌:12234778899②③ ツモ:[5] ドラ:9

豊音「テンパイには取ったけど、このまま行くと――」

     誠子『ツモ。1300・2600』

玄「強敵だね、元一軍《レギュラー》」

小蒔「わ、私はちょっと困り顔の透華さんを応援しています!!」

 ――《幻奏》控え室

セーラ「誠子がええ感じやでー」

やえ「あの面子の中では、実績的にあいつが一番上だ。このくらいは出来てしかるべきなんだよ」

優希「おっ、誠子先輩の手がまたトイトイしてきたじぇ!」

ネリー「せいこの能力はデフォルトで手に対子が出来やすいからね~♪」

セーラ「対子が手に四つ、五つあれば、誠子にとってはもはやテンパイ同然や。
 しかも、対子が出来やすいあいつは、序盤の数巡でほぼその状態に持っていける。たぶんやけど、大星の《絶対安全圏》とはわりと相性ええはずやで」

やえ「大星の支配力を考えるとかなり難しいだろうが、純粋に能力の効果を比べるなら、確かにいいところまで行きそうだな」

優希「お! 対子が五つっ! これはまた対々だじぇ!?」

ネリー「鳴けるとこ来た!」

     誠子『……』

セーラ「ほう、スルーしたか! さては、誠子のやつ――」

やえ「初美が先鋒戦で似たようなことをしていたな。ポンを得意とする能力者――対子が出来やすい能力者とは、即ち、七対子をテンパイしやすい能力者と言えなくもない」

優希「張ったじぇ!!」

ネリー「せいこの門前ダマとか珍しい~」

     誠子『ロン、9600ッ!!』

     絹恵『なにゃ!?』

やえ「お互いよく知った相手だけに、こういう攻撃は効果的だろうな」

セーラ「今の七対子は、やえの入れ知恵なん?」

やえ「いや、亦野には、この手の応用技は一切教えていない。これはあいつが自分で編み出した技術だよ。無論、理屈の上で可能なのは知っていたがな」

優希「もったいぶらずに言っちゃえばよかったのにだじょ」

やえ「二軍《セカンドクラス》の二年なら、これくらいは自力でやってもらわんと話にならん。能力を使いこなしてこそ一人前の能力者。最終的に戦いが始まれば、頼れるのは自分だけだ。
 この辺りの認識がな……亦野には足りんと、私は常々思っていた。それもこれも、弘世が過保護で甘いからだ」

ネリー「やえもゆうきには激甘だと思うけどね~」

やえ「なに、今のうちだけさ。こちらが与えた分は、いずれ利子つきで返してもらう」

ネリー「累計タコス代って今いくらくらいなんだろうね~」ニヤッ

やえ「さあな」ニヤッ

優希「嘘だじぇー!?」

     誠子『一本場!』

 ――《煌星》控え室

煌「ふむ。門前も選択肢に入れてくるとなると、亦野さんがより一層戦いにくい相手になりますね」

桃子「どうしてっすか? 釣り人さんが厄介なのは、足の早い鳴きの速攻を多用してくるからっすよね?」

煌「それはもちろんそうです。しかし、それは逆に言えば、三副露されるまでは、さほど警戒しなくていい、ということになりますね。
 淡さんのダブリーが、カンしてくるまでは安全と思われているのと似ています」

桃子「うーん……けど、門前を選択肢に入れたところで、打点は上がっても速度的にはむしろ遅くなるんじゃないかなーって思うっす」

煌「ケースバイケースなのです。先ほどの七対子のように、門前を選択したほうがより和了りやすいというパターンも、亦野さんにはあるのですよ。今回もそうですね」

 誠子手牌:223344③④⑥⑦⑦九九 ドラ:七

煌「対子が全部で五つあります。しかし、ここから鳴いて対々を和了ったとすると、たった二飜にしかなりません。
 しかも、亦野さんの能力的には都合三度鳴かねばならず、その過程で搭子を崩すことになります。少々勿体無いですね。ですが……」

     誠子『……』

淡「見逃したね」

咲「まあ、普通のデジタル打ちなら、あの手で対々は目指さないと思う」

煌「まさにそこですね。普通のデジタル打ちなら、あの手を対々にしようとは考えません。たとえ三連刻が採用されていたとしても、門前で構えるのが自然でしょう」

桃子「それはそうっすよね。だって、あの手なら――」

 誠子手牌:223344③④⑥⑦⑦九九 ツモ:[⑤] ドラ:七

煌「ご察しの通り、このようにたった一度のツモで平和三面張になるのです。しかも、三連対子は門前なら一盃口で一役。対々を目指すより、よっぽど速く高い手になります」

桃子「ふむふむっす……」

煌「今回はかなり極端なケースでしたが、似たようなことは今までに何度か起こっています。門前で進めたほうがデジタル的な期待値が高いのに、能力で和了ろうとするあまり、自ら手を苦しくしてしまうパターン。
 無論、それを差し引いても亦野さんの能力は厄介なので、多少の隙はあってくれてもよかったと思うのですけれどね。どうやら、それは叶わないようです。
 亦野さんもまた、能力を手段の一つとして戦い始めました。これを打ち破るのは大仕事ですよ」

     誠子『ツモ。2600オールは2700オール』

淡「やるじゃん、セーコ」

咲「鳴いてくれてればなぁ。三副露する間に友香ちゃんがテンパイできたかもしれないのに」

桃子「ままならんっすねー」

煌「仕方ありません。今は我慢の時でしょう」

    誠子『二本場』

 ――《新約》控え室

和「絹恵さんが張りましたね」

 絹恵手牌:②②③⑦⑦⑦三四[五]五345 ツモ:二 ドラ:②

怜「リーチ掛けへんのなら、三筒切りからの二筒・五萬待ちドラ二赤一断ヤオやろか」

初美「ただ、三筒を切ると――」

     誠子『ポン!』

姫子「おおっ! こいは……!!」

 誠子手牌:②二二四2235678/③③(③) 捨て:? ドラ:②

 絹恵手牌:②②⑦⑦⑦二三四[五]五345 ドラ:②

和「順当に行けば、三筒ポンで不要になったドラの二筒を切ってくるでしょう」

怜「それこそ絹恵の注文通りやな。せやけど、三回戦で打った感じ、この程度で釣られるような雀士ちゃうで、亦野さんは」

初美「絹恵は五筒を捨ててるですー。二筒はスジですよー。切ってこいですよー」

姫子「そいば言うたら、絹恵は一・七萬ば捨てとうけん、亦野さんから見れば、四萬もスジとです」

和「三筒をポンした以上、あの手で四萬を捨てるなんて、そんなデジタル――」

     誠子『……』タンッ

怜「ありえたなー」

和「信じられません……」

 誠子手牌:②二二2235678/③③(③) 捨て:四 ドラ:②

 絹恵手牌:②②⑦⑦⑦二三四[五]五345 ドラ:②

姫子「亦野さん、ここから二萬と二索ば鳴いて、ドラ単騎で和了る気とやろか」

初美「ポン発声からの四萬切りに迷いはなかったですからねー、絹恵の狙いが読まれているのかもですー」

怜「やとすると、二筒・五萬待ちは、残り枚数的に頼りないかもしれへんな」

和「あ、絹恵さんが亦野さんの捨てた四萬を――」

     絹恵『チー!』

 誠子手牌:②二二2235678/③③(③) ドラ:②

 絹恵手牌:②②⑦⑦⑦四[五]345/(四)二三 捨て:五 ドラ:②

姫子「絹恵はこの変化まで読んどったとやろか……?」

怜「想定はしてたと思うでー」

初美「なら、あれも想定内の出来事ってわけですかー?」

     透華『……』

 透華手牌:③④⑤⑧⑧三四五34567 ツモ:六 ドラ:②

 絹恵手牌:②②⑦⑦⑦四[五]345/(四)二三 ドラ:②

姫子「あん手ない、私はツッパっと」

和「八筒か七索あたりで様子を見たいところですね」

 透華手牌:③④⑤⑧⑧三四五六3456 捨て:7 ドラ:②

 絹恵手牌:②②⑦⑦⑦四[五]345/(四)二三 ドラ:②

怜「ま、さすがは龍門渕さんやんな」

初美「とか言ってたら絹恵の手に二索が入ってきたですねー。危機一発でしたかー」

姫子「ばってん、二索の零れると、また亦野さんが――」

     誠子『ポン』

 誠子手牌:②二二3567/22(2)/③③(③) 捨て:8 ドラ:②

和「まあ、絹恵さんのツモが増えますし――」

     誠子『ポン』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美「絹恵が龍門渕さんの手を崩したことで、索子切りを躊躇ってた亦野さんが前に出てきたですねー」

姫子「能力発動……オカルトば持ち込まるっと絹恵には厳しかね」

 誠子手牌:②567/二(二)二/22(2)/③③(③) ドラ:②

 透華手牌:③④⑤⑧⑧三四五六3456 ドラ:②

 絹恵手牌:②②⑦⑦⑦四[五]345/(四)二三 ドラ:②

怜「こうなってくると……三副露した亦野さんが有利やろか」

和「SOA」

姫子「お?」

初美「あ――」

     透華『ツモッ! 2000・3900の二本付けですわー!!』

 透華手牌:③④⑤⑧⑧三四五六六345 ツモ:⑧ ドラ:②

怜「なかなかのデジタルやな~」

和「学園都市に来て初めて分かり合えそうな方が見つかりました」

姫子「こいは真似できる気のせん……」

初美「絹恵がじわじわ凹んできましたよー」

怜「せやけど、南入して親番。手によっては一発で取り返せるで」

姫子「頑張れっ、絹恵!」

和・初美「ファイトです(ー)!」

 ――対局室

 南一局・親:絹恵

絹恵(やってくれるやん、透華のやつ。誠子もするりとかわしてきよる。この手のひねくれたハメ技には比較的弱かったはずなんやけどな。ま、なんやかんやゆーて元一軍《レギュラー》。そもそもうちは格下や)

 東家:愛宕絹恵(新約・88600)

絹恵(同じ《福笑》――《副将》や。うちは《姫松》、浩ちゃんは《千里山》、でもって、誠子は《虎姫》。
 去年は、何度も決勝戦で打ち合うたな。春季大会《スプリング》のときは三人して白水先輩にボコられたけど……)

絹恵(あんとき、うちら三人の中で、一番凹まなかったんは、浩ちゃんや。浩ちゃんなら、この状況……どうするやろな――)

透華「チー、ですわ!」ゴッ

 西家:龍門渕透華(逢天・142400)

絹恵(ここぞというときにノッてくる透華――高ランクの支配力と高精度のデジタルが融合した、デジタル派の非能力者として理想に近い打ち手。
 バカツキ状態やったら、デジタル怜さんともええ勝負ができるんちゃうかな。これで天江さんとほぼ同等の化け物を飼っとるっちゅーんやから、ホンマ底知れへん雀士やで)

誠子「ポン……」ゴッ

 北家:亦野誠子(幻奏・123000)

絹恵(誠子……三副露で和了りやすくなるレベル3の自牌干渉系能力者。そのデフォルト効果である対子ができやすい体質を利用して、あの手この手で攻めてくる。
 門前もあるっちゅーんなら、普通に打てばええだけやねんけど、灼が赤土先生スタイルと能力を織り交ぜて打ち回してくるんと同じで、どーにも振り回され気味)

誠子「ポン……!!」ゴゴッ

絹恵(さっきの透華のチー……誠子のポンで手番を飛ばされやすい現状では、門前より副露したほうがええっちゅー判断やろか。
 誠子のポンは、まあ、能力発動のためなんやろけど、これも、ドラの対子が手にあったから、鳴いて仕掛けてきたっちゅーだけの話かもしれへん)

絹恵(要するに、ただのチーとポンやんな!!)ゴッ

絹恵(――って、浩ちゃんなら言うやろか。そやねん。能力使うてこようと支配力使うてこようと、これは麻雀。
 チーしたら役によっては打点が下がるし、ポンしたら下家のツモを増やすことになる。支配者や能力者が捩じ曲げられるのは確率だけ。麻雀のセオリーとルールには、干渉できひん……!!)

誠子「(これで、テンパイ……)ポン――!!」ゴゴゴッ

絹恵「(誠子……自分が上家でよかったわ)それや、ロン。11600」パラララ

誠子「っ……!?(痛たた……攻めを意識すると若干隙ができる、か。まだまだだな。だが、次で取り返す! そして、できることなら――)」チラッ

絹恵(これくらいで守りに入ったりはせーへんか。ええで、こっちもひとまず原点には戻した。
 手を休めるつもりはない。ついでに安めにするつもりもないで。取られた分はきっちり取り返す! ほんで、できることなら――)チラッ

透華(む……?)ビリッ

誠子・絹恵(透華を――トップをまくる……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

透華(ほう……狙いはわたくし、ということですのね。なるほど。この状況……衣なら、純や染谷まこが己に牙を向いてくることを、飼い犬に手を噛まれるなどと表現するのでしょうね。
 しかし、わたくし的に、これは言うなれば、我が子が手を離れるとでも表現すべきところですわ。
 絹恵、誠子も、大きくなったではありませんか。あなたたちを選んだわたくしの目に狂いはなかったようですわね――!!)

透華(いいですわよ、存分に戦いなさいな! 存分に目立ってみせなさいな! それでこそ、元《福笑》メンバーに相応しい!!)

透華(ですけれど、ゆめゆめ忘れるな、ですわ。この龍門渕透華――わたくしこそ、押しも押されぬ《福笑》のリーダーにしてエースでしてよ……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵「ほな、行くで。一本場!!」

絹恵:100200 友香:46000 透華:142400 誠子:111400

 南一局一本場・親:絹恵

透華・絹恵「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

誠子(プラス収支ではあるけれど、今のところは透華に上を行かれている。ここで《逢天》に離されるのはかなりマズい。どうにかして出し抜かなきゃ)

誠子(NPC《とーか》には、小走先輩の《幻想殺し》でかなりお世話になった。最初の頃は全然勝てなかったっけ。NPC《のどっち》もそうなんだけど、こっちが能力を使おうと使わまいとお構いなしなんだよなぁ、あの二人)

誠子(完全論理派《デジタル》の強さは、なんといってもそのブレのなさ、隙のなさだ。少なくとも、普通に能力を使うだけでは、揺らぎを与えられない。数千局単位で打てば、勝つのは間違いなく透華や原村さん。
 ただ、デジタルは、デジタルゆえに、一定の確率で負けてしまうことがある。その『たまたま』を、この半荘に持ってくることができれば――)

誠子(考えろ……この次鋒戦限り、この半荘限り、この局限りの勝つ手段を。デジタルは長期スパンでの勝率を重視する。こと、数半荘限りの試合においては、たった一度の不運が、明暗を分けることになるんだ。一回だけでいい。一瞬だけでいい。透華の計算を超える……!!)

誠子「ポン」ゴッ

絹恵(おっと、オタ風牌を鳴いてくるんか)タンッ

透華(ふむ。この辺りは少々危うそうですわね。どう出てくるか――)タンッ

誠子「ポン」タンッ

絹恵(まだ二副露やんな)タンッ

透華(と、捨てたそばからまた七萬……これは、どう考えたらよいのやら)

 誠子手牌:*******/(七)七七/西(西)西 ドラ:二

透華(上家のわたくしが捨てた七萬をチーではなくポン。その上で、誠子は今、六萬を切ってきた。わたくしから見て六萬は壁。
 染め手は染め手なのでしょうが、その鳴きと捨て牌で八・九萬の辺張だったら笑ってやりますわよ)タンッ

誠子「ロン、7700は8000」パラララ

 誠子手牌:二二三四五八九/(七)七七/西(西)西 ロン:七 ドラ:二

透華「なんですのそこー!?」ガーン

絹恵「二副露で和了りやとー!?」ガーン

誠子「あはは……やっぱ驚くよね、こんなことしたら」

透華「それはそうですわ! 先に辺張をチーしていれば、七萬切りで三面張! 意味不明!! 意味不明ですわよ!!」

絹恵「あれ!? っちゅーか、ちょっと前にうちがドラの二萬切っとるけど、なんでそれ鳴かなかってん!?」

誠子「だからこそ、だよ」

透華・絹恵「は?」

誠子「デジタルベースで思考する透華には、デジタル的に非効率な打牌のほうが読まれにくい。オカルトベースで思考する絹恵には、オカルト的に非効率な打牌のほうが読まれにくい。
 二人を同時に出し抜くには、これくらいしないとダメかなって」

透華・絹恵「誠子……」

誠子「透華は、三面張を捨てて残り一枚の辺張で待つのをありえないと思ってるんだよね? 絹恵は、三副露しないで和了るのをありえないと思ってるんだよね?
 それは、まあ、二人の考え方だから、別にいいんだけど――」

透華・絹恵「……っ!?」ピクッ

誠子「せめて……私だってこの程度の知恵は回るんだぞって――それくらいは、ありえると思ってほしいかも、なーんて……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

透華「……言うじゃありませんか、誠子」

絹恵「っちゅーか、三回戦んときより攻撃パターン多いやんな、自分」

誠子「まあ、私、これでも一応、白糸台最強チームの副将を任されていた雀士だから……」

透華・絹恵「だ(や)から?」

誠子「《福笑》で最強の雀士は私――ってことで、どうだろう?」ニヤッ

透華「笑止ッ! 最強の《福笑》を名乗るなら、まずはわたくしを打ち倒しなさいな!!」

絹恵「珍しくプラスやからって調子乗んなよ、誠子! ボッコボコにしたるわ!!」

誠子「二人って面白いくらい簡単に釣れるよね……」クス

透華・絹恵「ああ!?」

誠子「けど、まあ、ここは一つ、でっかい釣り針を垂らしてみるのもアリだよね――」

透華・絹恵「?」

誠子「なんだかな~。ちょっと今までと打ち方変えるだけで全然稼げるな~。これなら次鋒戦が終わる頃にはトップ余裕かな~」

透華・絹恵「」カッチーン

誠子「さっきから手応えなさ過ぎて拍子抜けだな~。まるで釣り甲斐がないよ~。三回戦の苦闘が嘘のようだな~」

透華・絹恵「」ピキピキピキ

誠子「あのさ……透華、絹恵。二人とも、自分の目の前にいるのが誰かわかってる?
 私は白糸台に四人しかいない元一軍《レギュラー》。河から自在に牌を釣り上げる《フィッシャー》こと亦野誠子なんだよ……!? もっとちょっと本気で来てくれないかな――!!」

透華・絹恵「」プツンッ

誠子「お前ら大物なら大物らしく、しっかり喰らいついてこいよッ!! こんなんじゃそこいらの雑魚とまるで変わらないだろうが……ッ!!」

透華「上等ですわ……!! ギッタギタにしてやりますのよ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵「二度と釣竿を握れへん身体にしたるわ! 覚悟しーやッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

誠子(ヒット!! あとは――そう、釣り上げるだけだ……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵:100200 友香:46000 透華:134400 誠子:119400

 南二局・親:友香

絹恵(誠子のやつ……言うてくれるやんか。こんな啖呵切れるようになったんか。ホンマ、強くなったっちゅーか、変わったっちゅーか。頑張っとるやん……!!)

絹恵(うちも、もっと強くならな。サシの勝負では話にならへんやろうけど、チームとしては、うちはお姉ちゃんを負かしてここに来とんねん。ここまで言われて黙っとるわけにはいかへん――)

友香「……リーチでー」クルッ

透華・誠子(四巡目リーチっ!)ピクッ

絹恵(来よったか、《流星群》……!!)ゾクッ

友香「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

透華(この巡目……捨て牌から点数を推測することはできませんけれど、さすがに親リーを警戒しないわけにはいきませんわよね)タンッ

誠子(森垣さんの四巡目のリーチは、レベル4相当だと思ったほうがいいとのことだっけ。つまるところ……竹井先輩の《悪待ち》や小瀬川先輩の《マヨヒガ》と同じ……!!)

誠子「ポン――」ゴッ

絹恵(この程度のズラしでどうにかなるとは思えへん。誠子には、もうちょっと揺さぶってもらわな)タンッ

誠子「それも、ポン……!!」ゴゴッ

透華(押していきますわね、誠子。なら、わたくしも、少し無理してみましょうか……!!)

絹恵(これで、どーやろか!?)タンッ

透華「ポン、ですわー!!」ゴッ

誠子「こっちも、もいっこポン……!!」ゴゴゴッ

絹恵「ロン――5200」パラララ

誠子「っ!?」

絹恵(甘いな、誠子。誰が自分に和了らせるゆーた……?)ニヤッ

誠子(これは……大物も大物だな――!!)ゾクッ

透華(フン。ま、振り込んだのはわたくしではありませんし、親リーを流せたのですから結果オーライですわね)

友香「…………」パタッ

透華「さあ、わたくしの親番でしてよッ!!」コロコロ

絹恵:106400 友香:45000 透華:134400 誠子:114200

 南三局・親:透華

友香(でー……振り込みはしてないけど、随分削られた)

 北家:森垣友香(煌星・45000)

友香(さっきの親リーを和了れていれば……って言うのは恥ずかしいか。大丈夫。私は落ち着いている。いつも通りに打てば、悪くない勝負ができる。煌先輩の言うことを守れば、きっと勝てる)

友香(私の力――《リーチ巡目が速ければ速いほど和了りやすく且つ高打点になる》能力。これが、なぜ、《流星群》と呼ばれているか……)

友香(淡のダブリーと同じ。私の《流星群》には玉数制限がない。面倒な《制約》もない。あるのはただ《リーチを掛ける》という《発動条件》のみ)

友香(たった一度きり、心の中で願いを唱え損ねたらそれっきりの流れ星とは違う。
 無数の屑星が光り輝く炎と消える夜。たった一つ逃したくらいがなんでー。次から次へと降り注ぐ流星に、私は願う。何度でも……!!)

友香(それが証拠に、ほら――)

 友香手牌:234568二二三四②③④ ツモ:8 ドラ:北

友香(私の《流星群》に――星降る夜に、叶えられない願いはないッ!!)タンッ

友香「リーチでーッ!!」ゴッ

 友香手牌:2345688二三四②③④ 捨て:二 ドラ:北

透華(ほう、二連続ですの!)タンッ

誠子(また四巡目か……いや、そういうこともあるんだろうけど)タンッ

絹恵(参ったな。今回は何もできひん――)タンッ

友香「ツモ……リーチ一発ツモ平和断ヤオ三色――裏一ッ!! 4000・8000でー!!」

友香(いっし! マイナス分は取り戻した……あとはオーラスにもう一度リーチができれば、プラスにできるッ!!)

友香(みんなと決勝に行くんだ。優勝して一軍《レギュラー》になるんだ。こんなところでモタついてられない。勝つのは……私たち《煌星》でー!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵:102400 友香:61000 透華:126400 誠子:110200

 南四局・親:誠子

透華(やってくれましたわね、森垣友香。このわたくしに倍満の親っ被りをぶつけてくるなど、泉と同じ一年生とは思えない生意気具合ですわ)タンッ

透華(はてさて。今のダメージでわたくしの個人収支はほぼプラマイゼロになってしまいましたわね。チーム的には、もっともっと他を突き放しておきたい。できることなら攻めたいところですの)タンッ

誠子「ポン」ゴゴッ

透華(っと、ラス親の誠子がこれで二副露。本当に鳴くのがお好きですこと。今回は、一体どんな手で来るおつもり……?)

 誠子手牌:*******/(6)66/8(8)8 ドラ:發

透華(これは……なにやら背中がゾクゾクしますわね。ドラが非常に切りにくいですわ。もう少し様子を見ましょう)

絹恵「」タンッ

誠子「――っ!? ポン!!」ゴゴゴッ

透華(はあー!?)

友香(う、げっ……それマジでー?)

誠子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 誠子手牌:****/發發(發)/(6)66/8(8)8 ドラ:發

透華(混一發ドラ三対々――とか言ってる場合じゃないですわ! 一体なにを考えているんですの、絹恵!?)

友香(緑一色……役満でー。しかも親。いや、たとえ混一だったとしても、最低でも親っパネ、対々なら親倍。振り込まないのは当然として、ツモらせるわけにもいかない。
 けど、能力が発動しちゃった以上、それを根本から《無効化》できるのは、同じレベル3の私だけ。この手……間に合うか……?)

誠子(私の能力的に、大三元、緑一色、清老頭なんかは、狙えるときはバレバレでも狙っていったほうがいい。三副露さえしてしまえば、能力が発動するんだから、多少揺さぶられても、自力でツモれる)

透華(で、この始末。どのようにつけるつもりですの、絹恵……!?)

絹恵「……リーチや」チャ

誠子(な……に……!?)ゾワッ

友香(發切りの直後にツモ切りリーチ……? それって、發を鳴かれるのがわかってて、わざわざ一巡待ってリーチを掛けたってことでー?)

透華(まさか、絹恵、あなた――!!?)

絹恵(大変やでー? 親の誠子が明らかに役満テンパっとんねんでー? しかも誠子なら能力使って五巡以内にほぼ間違いなくツモってくるでー?
 ほな、計算の得意な完全理論派《デジタル》の透華なら、どうすればええか、考えるまでもなくわかるやろ……?)

透華(絹恵……なんてことを……)ゾクッ

絹恵(ほれほれ、透華。ええんか? ここで差し込んでおかんと、誠子なら次巡でツモってくるかもやで?
 森垣さんは先輩の透華に期待して現物切ってきたからなー。ここは学園都市屈指のデジタルとして、透華がカッコええとこ見せんとあかんのちゃう?)

透華(……この借りは高くつきましてよ、絹恵)

絹恵(別にええよ。どうせ踏み倒すから)

透華(まったく……本当に、強くなったではありませんか。二人とも――)タンッ

絹恵「ロン、リーチ一発平和赤一……7700や」パラララ

誠子「っ――!?」

透華「……はい、ですわ」チャ

『次鋒戦前半終了ー!! トップから三位までが一万点差に収まる緊迫の展開になりました!! ここから抜け出すのは一体どのチームになるのか!?』

絹恵(危なー!! 滑り込みのプラス収支ーっ!! せやけど、しもた……誠子に抜かれてもうたやん)

 二位:愛宕絹恵・+1600(新約・110100)

誠子(やれやれ……絹恵のこの胆力は見習わないとな。ま、おかげ様でトップの透華の背中が見えた。後半戦で追いついてやる……)

 一位:亦野誠子・+6900(幻奏・110200)

友香(席順に感謝って感じでー? 亦野先輩とは対面だったし、最後のだって、私が龍門渕先輩のところに座ってたら、差し込み役は私になってた。
 稼ぐことはできなかったけど、手応えはある。後半戦では半荘トップを目指す。一位との点差自体は縮まっているんだから、焦らず打つんでー)

 三位:森垣友香・-300(煌星・61000)

透華(わたくしの一人沈みとは。十分ありえる範囲ですけれど、腹立たしいですわ。特に、誠子の辺張待ちと、オーラスでの絹恵のあれ――あんなデジタルともオカルトとも言えないような戯けた真似をされるとなると、いかにわたくしと言えど、楽勝はできませんわね。
 さて、どうしたものでしょうか……)

 四位:龍門渕透華・-8200(逢天・118700)

小蒔「透華さ~ん!」タッタッタッ

透華「へ? 小蒔? どうしたんですの? 伝令なら泉をパシらせればよろしいのに」

小蒔「あ、いえ、泉さんが行こうとしたのを、玄さんが止めて、私に行くよう指示を出したのです」

透華「玄が……あなたに……? それは――」ハッ

小蒔「おろろ、言う前から伝わってしまいましたか?」

透華「……まったく、我らが《アイテム》のリーダーは、時々本気で《悪魔》かと思いますわよ。玄はわたくしのプライドをプラ/イドにするつもりですの?」

小蒔「あ、う、えっと……その、そういうこと、です。前半戦でラスだった透華さんには、これくらいのオシオキが必要だと言っていました」

透華「ちょっと、シンキングタイムですの……」フゥ

小蒔「あの……その、透華さん。玄さんは、こうも言っていました」

透華「なんですの?」

小蒔「私にできたのだから、透華さんにもできる――と」

透華「……ふむ」

小蒔「それから、もしそんなことが可能になれば、優勝間違いなしだ、とも言っていました」

透華「わたくしに、チームの勝利と自身のプライドを天秤に掛けろと?」

小蒔「そういうことになります」

透華「……玄が、そうしろ、と言うんですのね?」

小蒔「望ましい、と言っていました。去年のことがあるから、無理強いはしないと」

透華「優しいんだか優しくないんだかわかりませんわね、玄は」

小蒔「いかがです……?」

透華「よろしいですわ。わたくしも、変わっていかなければならないようですわね。あなたや玄や豊音や、泉だってそうなんですもの。わたくし……決めましてよ」

小蒔「では……っ!!」

透華「ええ。後半戦は、玄の言う通りにしますわ。ついては、小蒔――」

小蒔「はい!」

透華「恐らくは、そのためにあなたが伝令だったのでしょう。呼び水ということですわね。ちょっと、こっちに来て、適当に神様を降ろしてくださいまし」

小蒔「がってんですッ!!」スゥ

透華(わたくしは……負けない。それは、そう。とても大事なこと。しかしながら、負けたくないから逃げていると思われるのも、癪ですわ……)

透華(勝つためなら、いくらでも戦いましょう。正面から向き合いましょう。我が身に巣食う、この《魔物》と。そして、わたくしはわたくしの、本当の誇りを取り戻す……!!)

   ――行きますよ、透華さん。

透華「ええ……いつでもどうぞ――」

          ――では、失礼してッ!!

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵・誠子・友香(何事っ!?)ビクッ

透華「…………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵・誠子・友香(ええええええー!!)ゾゾゾッ

小蒔「――っと、調子はいかがですか、透華さん」

透華「……悪くありませんわ……」ピリッ

小蒔「では……ご武運を――!!」タッ

『次鋒戦後半……まもなく開始します。対局者は席についてください――』

透華「……絹恵、誠子、それに森垣友香。三人とも、覚悟はよろしくて……?」

絹恵「ま、まあ、ちょっと意外やけどな――」ゾクッ

 西家:愛宕絹恵(新約・110100)

誠子「一応……想定していた事態ではある」ゾワワ

 東家:亦野誠子(幻奏・110200)

友香「誰が相手でも、負けられないことに変わりはないんでー……!」ゴッ

 南家:森垣友香(煌星・61000)

透華「結構ですの。それでは……次のレクチャーと行きましょう。諸般の事情によりまして、理論《デジタル》の時間はこれにて終了ですわ。
 後半戦からは――あなたたちの大好きな魔物《オカルト》がお目覚めでしてよ……ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:龍門渕透華(逢天・118700)

『次鋒戦後半――開始です!!』

ご覧いただきありがとうございます。

九時くらいまでには戻ってきます。

では、一旦失礼します。

乙です
慕思はシノのチームかな?

ご覧いただきありがとうございます。再開します。

>>855さん

そうです。朝酌女子的なチームです。白築さんと名前と生い立ちに因んでいるので、《慕思》は『ぼし』と読んでください。

 ――特別観戦室

     透華『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣「おおおおおおー!! とーかが冷えたぞっ!!」

穏乃「わあっ、生だとこんなに冷たいんですね!!」

エイスリン「サエ、ホラ、マモノガ、イッピキ、フエタゼ♪」

塞「あんたは完全にそっち側の住人になっちゃったわけね……エイスリン。楽しそうで何よりだわ。ってか、ごめん、弘世。どっかに毛布とかないかしら?」ガタガタ

菫「すまんな、臼沢。うちのチームはこの手のやつに強いやつらばかりでな。自分用のしか持ってきていないんだ。お前さえよければ、一緒に包まるか?」

塞「じゃ、じゃあそれで――」

憩「ハーイ! こんなこともあろうかと、医務室から拝借しといたんですーぅ!! 臼沢さんはこれを使ってくださーい!!」オシツケ

塞「あ、ありがと……?」

憩「いえいえ! ウチは白衣の天使ですから!」ニコニコ

塞「そのわりに笑顔が悪魔恐いんだけど?」

憩「なんか言いましたー?」ゴッ

塞「なんでもねーわよ……」バサッ

智葉「あれが噂の冷たい龍門渕か。菫が逃げた」

照「そう。菫が逃げた」

菫「だからうるさいぞそこ二人ッ!!」

純「いや、けど……あの透華を相手に他家をトばせるとか、やっぱあんたすげえよ、《シャープシューター》」

まこ「久しぶりに見たが、ランクS以外の人間にどうにかできるんか、あれは……」

衣「天地がひっくり返っても無理だろう!」

穏乃「んー、けど、まだ目覚めが不完全みたいですね。支配力はランクS級まで膨れ上がりましたが、今のところそれだけのようです」

憩「小蒔ちゃんの支配力で無理矢理叩き起こしたっぽいからな、それが原因なんやろか。龍門渕さん自身は、あれのオンオフを制御できひんらしいし」

純「まあ……だからこそ、この機会にそれをできるようにするつもりなんだろうな」

まこ「龍門渕が足踏みしとる間に、和了れるだけ和了っとくべきじゃろうな。あの三人は」

     絹恵『リーチ!』

エイスリン「オオッ、キアイ、ジューブン!」

智葉「愛宕は三回戦を経て二段階くらい上った気がするな」

     誠子『ポン!』

照「まだまだ……うちの誠子のほうが上だもん」

     誠子『ポン!!』

菫「いいぞ。そこだ、攻めろ、亦野っ!」

     誠子『ポン……!!』

照・菫「ヒット!!」

     誠子『ツモ、2000オール!』

照・菫「よし……ッ!!」ガッツポ

純「なあ、今更だが、なんで《虎姫》って解散したんだ?」

まこ「わしに聞かれても」

憩「ええやん、過ぎたことについては。そんなことより――」

穏乃「龍門渕さんの力についてですね」

純「それは……まあ、そっちは衣、こっちにはオレがいるから、ここで話しちまってもさほど問題はねえのかな?」

照「解説を許可する」

まこ「直に打ったことがあるんは、《福笑》、《刹那》、《龍門渕》、《逢天》メンバーかの。公式戦じゃと、去年のあれ一度きりじゃ」

穏乃「牌譜は拝見しました。あの場の静まり具合は、天江さんの《一向聴地獄》と近い感じがしますね。
 それに、本人の和了りにさほど特徴が見られないのは、ウィッシュアートさんの《一枚絵》に近い気がします」

エイスリン「ゼンタイ、コーカ、ケイカ!」

衣「左様。とーかの能力――《治水》。あれは、《リーチと鳴きが発生しない場を生み出す》全体効果系の大能力だ」

憩「リーチ、ポン、チー、カン――全部ダメな感じやったな。鳴けへん上に、門前ではテンパイまで辿り着けへんっちゅーハメっぷり。かなり打ちにくかった印象があるわ」

塞「無茶な手作りで崩したりできないわけ?」

まこ「いや……そうは言うてもな、塞」

純「透華はランクA強。限定条件下でランクS相当の支配力を発揮する魔物だ。
 ウィッシュアートの《一枚絵》ならともかく、衣の《一向聴地獄》を、お前は無茶な手作り程度で崩せると思ってるのか?」

エイスリン「オイ、ノッポ、テメェ、アトデ、オクジョウ、イコーゼ」

智葉「ウィッシュアートの《一枚絵》は、全体効果系でも自身の和了率を上げること――自牌干渉に比重が寄っている。
 対して、天江の《一向聴地獄》は他家の手を止めること――封殺に比重が寄っている。
 他家として動きにくいのは後者。それだけのことだろう」

憩「せやけど、やっぱランクA強の支配力は無視できませんて。同じ能力でも、ランクの高い人が使えば、その強度に補正が掛かります。無能力者であれをどうこうするんは、かなりしんどいですよ」

穏乃「というか、鳴きを封じられるということは、支配領域《テリトリー》の揺さぶりが、基本的にはできないってことですもんね。
 その状態で、リーチが掛けられない――門前テンパイができない……ですか。これは困ってしまいますね」

照「超頑張るしかないね」

塞「あんた、対策班クビ。ちょっと黙ってて」

照「しょぼーん……」

菫「まあ、一番簡単なのは、同程度の強度の能力をぶつけることだろうな。
 私の《シャープシュート》は、《待ちを片寄せる》ことで自牌干渉系の大能力を発動させることができる。そうやって、あいつの場の支配を一点突破したというわけだ」

塞「それってつまり、エイスリンが、シロや豊音に和了られることがあるのと、同じ理屈よね?」

エイスリン「シロ、マヨウト、ワタシノ、ノーリョク、《ムコーカ》、シテクル! トヨネ、オッカケリーチデ、ワタシノ、ノーリョク、《ムコーカ》、シテクル!」

塞「そーいや、胡桃だけはいっつも『ふぎゃー』ってなってたわね。やっぱ無能力者と全体効果系は相性悪いのかしら」

まこ「どうだかの。やってみんとわからんな」

エイスリン「オイ、ワカメ、テメェモ、アトデ、オクジョウ」

穏乃「リーチと鳴きの封殺――無能力者でこれを破るとしたら、龍門渕さんの場の支配の綻びを見つけられるだけの目が必要になってきますね」

憩「ウチなら単独でいける。染谷さんなら、卓に三人染谷さんがおれば、何回かに一回は破れるやろ」

まこ「我ながら想像を絶する絵じゃのそれ……」

穏乃「ただ、龍門渕さんや天江さんの牌譜を見ると、時々、物理的に崩しようがない場を生み出してきたりしますよね」

衣「有象無象に遅れは取らないっ!」

憩「普通のデジタル場でも、どーやっても和了れへん場はあったりするで。そんときは、もう諦めるしかないな。せやけど、ああ、そう言われてみれば――」

純「どうした?」

憩「龍門渕さんの《治水》は、高鴨さんの言う『物理的に崩しようがない場』を生み出しやすいんよ。ウチが知っとる全体効果系能力の中では、あの《治水》が断トツで崩しにくい」

塞「えー……」

憩「エイさんの《一枚絵》と石戸さんの《絶門》は、自牌干渉に比重がいっとる。
 衣ちゃんの《一向聴地獄》は、封殺寄りやけど、衣ちゃんの気分次第で、封殺効果より打点の底上げを優先することがある。
 せやけど、龍門渕さんの《治水》は、ちゃう。その名の通り、場を『治めること』に全力を注いでくる。自分がテンパイすることよりも、他家の封殺を優先してきたりすんねん。
 実際、龍門渕さんの《治水》では、ノーテン流局が起こることがある。これは、エイさんと石戸さんと衣ちゃんにはまず見られへん傾向やで」

純「広域封殺系に近い全体効果系ってことだな」

     絹恵『ツモ、2000・3900は2100・4000!』

まこ「っと、今度は愛宕が和了ったか。じゃが、そろそろ龍門渕も整うじゃろ。ほんに大丈夫なんかの、あの三人は」

穏乃「あまり大丈夫ではないでしょう。森垣さんと亦野さんは能力者ですが、レベルは3強と3。
 その上、二人の能力は、《発動条件》がリーチと三副露。《リーチと鳴きを封じる》龍門渕さんの能力とは相性が悪過ぎます。
 《発動条件》の成立を封じられている以上、基本的にはレベル0として戦わないといけないでしょうね」

塞「一応、愛宕と森垣はそこそこ高ランクなんでしょうけど、ランクA強の龍門渕から見れば、誤差も同然よね。うーん……かなり詰んでる気がするわ」

エイスリン「マモノ、ト、エモノ! ミモノ、ダナ!」

衣「打ち滅ぼしてしまえー、とーかー!!」

 ――対局室

 東二局・親:友香

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:龍門渕透華(逢天・114600)

誠子(とうとう発動したのかな、透華の《治水》――《リーチと鳴きが発生しない場を生み出す》全体効果系の大能力が)タンッ

 北家:亦野誠子(幻奏・113200)

友香(モタついてるなら親で一回大きいのを和了れれば……と思ったけど、準備完了しちゃった感じでー?)タンッ

 東家:森垣友香(煌星・56900)

絹恵(配牌は、まあ平均的な感じやな。手もさほど縛られてる感じはせーへん。むしろ、ええ感じにツモってる気さえする)タンッ

 南家:愛宕絹恵(新約・115300)

誠子(対子はあるけど……確か、河に三枚目がほとんど出てこないんだよね、これ。出てきたとしても、諦めて対子崩した直後に誰かがツモ切ったりとか、そういうの)タンッ

友香(んー。ちょっとセオリーから外してみようとすると、かえって裏目を引かされるっぽい。かといって、素直に手を進めるのもなぁ。ウィッシュアート先輩の時はそれでボコボコにされたわけでー)タンッ

絹恵(静かやな……前半戦は、リーチと鳴きが入らへん局なんて、数えるほどしかなかったのに。ま、けど、言うてもまだ序盤。これから何か変化があるかもしれへん。どんな小さな隙も見逃さへんように注意せな)タンッ

誠子(あー……誰かが一枚捨てた直後に対子になる。こんなパターンもあったっけ。どうあってもポンをさせるつもりはない、と。いや、もちろん、普通のデジタル場でもよくあることだけど……)タンッ

友香(一応、一向聴まで辿り着いた。ウィッシュアート先輩なら、ぼちぼち和了ってくるかもってところ)タンッ

絹恵(透華が張っとんのか張ってへんのか。このモードやと張ってもリーチ掛けてこーへんからなぁ……普段よりさらに読みにくい。あんま下手なとこ切るんはあれやけど、ここまで来てオリるんも嫌やしなぁ)タンッ

透華「ツモ」

友香・絹恵・誠子(和了られた……!!)

透華「1000・2000……」パラララ

 透華手牌:二二四[五]①②③234南南南 ツモ:三 ドラ:2

友香(ドラがなければゴミ手。和了ったというより、気付いたら和了ってた……みたいな印象でー。
 天江先輩やウィッシュアート先輩が明らかに和了りに向かっていたのとは、少し違うっぽい。攻める気がないというか……)

誠子(すっごい地味な和了り……目立つ気ゼロ。この巡目でその手なら、三色への変化だって十分狙えるのに。というか、手を変えるつもりがないのなら、普通に即リーあるのみだよね。まあ、それができないのは知ってるけど)

絹恵(透華がこの《治水》モードをあんま好きやない理由は、明らかにこの地味さやんな。
 ただ一雀頭四面子揃ったから手牌を倒す。点数度外視で淡々と和了り続ける。リーチも鳴きもせーへんから、和了宣言するまではずーっとダンマリやし。普段の透華とは違い過ぎる)

友香(前半の龍門渕先輩とこの龍門渕先輩……どっちが強いかと言えば、どっちも強いとしか言えない。
 けど、どっちが戦いにくいかと言えば、比べるまでもなくこっちだ。さて、これ――《治水》だったっけ。どうしたもんか……)フゥ

誠子(河と手牌をかき集めれば、鳴けなくもなかったんだろうけどね。手順的に、それは不可能だった。
 あそこでああしていればこうだったのに、なんて泣き言は通用しない。あそこでああしたから、こうなった。或いは、どこでどうしようと、こうなる。
 それが、全体効果系。学園都市にも限られた使い手しかいない、自身の手牌ばかりか他家の手牌にまで干渉し、場のほぼ全域を支配領域《テリトリー》にする脅威の能力者……)パタッ

絹恵(これ、控え室からはどう見えとんのやろ。門前聴牌を封じる能力はちょいちょい見かけるけど、鳴きを封じる能力はそう多くない。
 もし、うちら四人分の手牌――これが、どこをどう切っても誰も鳴けへん、みたいな偏り方しとったら、ホンマに打つ手があらへんで……)ゾクッ

 東・友香手牌:一一一三三①②③④1134 ドラ:2

 南・絹恵手牌:八九九⑥⑦⑧⑨⑨67778 ドラ:2

 西・透華手牌:二二四[五]①②③234南南南 ツモ:三 ドラ:2

 北・誠子手牌:七七七八⑦⑧6899北中中 ドラ:2

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵「(ま……まあ、何はともあれ親番や!)ほな、サイコロ回すで」コロコロ

 ――《逢天》控え室

泉「出ましたね、透華さんの《治水》。この状態の透華さんと打って和了れた例がありまへんわ」

玄「泉ちゃんはどの状態の誰と打っても基本的に焼き鳥でしょ」

小蒔「そうなんですか? 私が起きているときは、泉さんが和了っている姿をよく見たような気がしますが」

豊音「コマキが寝たあとはイズミいっつも撃沈してるよー」

泉「うちの話はええです!」

玄「透華ちゃんの《治水》。私は強引にドラを掻き集めて対抗してるかな。支配力《ランク》では透華ちゃんに及ばないけど、能力値《レベル》なら私のほうが上。頑張れば、何回かに一回はドラで暗槓ができる。
 王牌は透華ちゃんの支配領域《テリトリー》じゃないから、嶺上で手が進むこともあったりなかったり。半荘に一回でも和了れれば、火力は圧倒的に私のほうが上だから、大体そのまま逃げ切れる」

豊音「私はあんまり相性よくないなー。鳴き条件の《友引》とリーチ条件の《先負》・《先勝》は当然のように使えない。
 《赤口》も《無効化》はされないけど、自牌干渉系じゃないから和了りに結びつけるのは大変。
 あと、一応同じ全体効果系をぶつけることもできるんだけど、効果的にトーカの《治水》そのものを《無効化》することはできないし、支配力はトーカのほうが上だから、決定打にならないんだよねー」

小蒔「私の場合は、さほど苦にはなりません。むしろ、鳴きの入らない門前場で、透華さん以外の他家が身動きできない状況は、大歓迎です。
 あとは、透華さんと私のどちらが先に和了れるかの勝負になりますが、これも、支配力的にほぼ互角なので、そこまで差は出ないです。
 打点は私のほうが高いので、多少和了率で上を行かれても、無理なく勝ち越すことができます。
 これが衣さん相手だと、火力が互角になるので、かなり頑張らないといけないんですよね。そういう意味で、冷たい透華さんは、私にとってはかなり相性のいい相手です」

泉「皆さん能力バトルを楽しみ過ぎですよ……。うちは手も足も出ーへんのに」

玄「まあ、全体効果系能力者と無能力者は、かなり相性悪いからね。染谷さんも、冷たい透華ちゃんには苦労してたよ。他の人を上手く利用して、やっと戦いが成立するくらい。単独で対抗できる人となると、憩さんか福路さんくらいなんじゃないかな」

泉「この準決勝やと、あの透華さんに勝てそうなんは誰になりますか?」

玄「何はともあれ、ネリーさんは余裕で突破してくるでしょ。あとは、衣さん相手にダブリーを和了ってた大星さんと、《約束の鍵》ありの姫子ちゃん――この二人なら、互角以上の勝負ができると思う。
 次点で、東場の片岡さん、江口さん、薄墨さん。ちょっと読めないのは宮永さんかな。あの二人は互いに天敵って感じがするから、打たせてみないとわからない」

泉「ほな、逆に、どう足掻いてもあの透華さんに敵わへんのは誰になります?」

玄「それを言うなら、ぶっちぎりで泉ちゃんが優勝。あとは、二回戦の対衣さんを見る限り、花田さんも圧倒的に不利。園城寺さんもベースは無能力者だから、キツいと思う。小走さんも、対策は練ってくるだろうけど、勝ちは諦めるんじゃないかな。
 あとは、《発動条件》的に、亦野さんと森垣さんは、明らかに相性が悪い。まだ名前が挙がってないのは原村さんと愛宕さんと東横さんだけど……まあ、泉ちゃんよりは頑張れるかなって程度で、初対戦で勝つのはまず無理だと思う」

泉「つまり、あの面子が相手なら、透華さんの楽勝ってことで?」

玄「当たり前でしょ。そうじゃなきゃ、あのプライドの高い透華ちゃんに、デジタル捨ててなんて言えないよ」

泉「なるほど……」

玄「透華ちゃんに限らず、完全理論派《デジタル》は、どんなに強くても『偶然』負けることがある。或いは、勝てたとしても、収支が常識の範囲に収まってしまうことがほとんど。
 でも、能力戦になれば、その偶然性をある程度排除することができる。ハマり方によっては一方的な試合展開に持っていくこともできる。
 この次鋒戦に限って言えば、明らかに相性のいい能力者が二人、レベル0が一人だもん。《治水》モードのほうが期待値が高い。それは、透華ちゃん自身もわかってたこと。だから、すんなり私の指示に従ったんだよ。
 自分の意思でモードの切り替えができないことと、バカツキ状態に入る可能性も考慮して、前半戦は様子見たけどね。オーダーが発表された段階で、《治水》を使ってもらうことはほぼ確定してた。
 これで負けたら、完全に私の作戦ミス。ま、負けるはずがないけど」

泉「参謀してますねぇ、玄さん」

玄「泉ちゃんの対局が始まるまでに二位と十万点差つけるのが目標なのです」

泉「十万点……全体効果系能力者は、相手が相手ならそれくらい余裕で稼げるらしいですけど、どうなりますかね」

玄「いや、自分で言っておいてあれだけど、さすがに準決勝でそれはないよ。どこかで誰かが動いてくる。
 けど、それでも、透華ちゃんは負けない。デジタルだろうとオカルトだろうと、透華ちゃんは透華ちゃんだから。泉ちゃんは、あの透華ちゃんが負けて帰ってくる姿が想像できる?」

泉「できません。っちゅーか、《アイテム》の皆さんは、全員そうですわ」

玄「ありがと」

     透華『ツモ、1300・2600』

泉「いや……しかし、これ、ホンマにレベル0にどうにかできるんですか……?」

玄「どうにかする、っていう発想が、まずちょっと違うかな」

泉「え?」

玄「言ったでしょ。デジタルだろうとオカルトだろうと、透華ちゃんは透華ちゃん。
 あの《治水》――透華ちゃんは、こんなの自分じゃないって言うけど、私から見れば、あれも立派な透華ちゃん。あんな透華ちゃんらしい能力は他にないよ」

泉「百八十度ちゃうような気がしますけど……」

玄「まだまだだね、泉ちゃん。能力は能力者の根幹を成す論理。それがそういう能力であることには、必ず理由がある。
 能力の本質を捉えるには、目に見える現象だけじゃない、能力者本人について理解する必要があるんだよ。《リーチと鳴きの封殺》――これだけじゃ、まだ正解の半分なの」

泉「ほあ……」

玄「せっかくだし、自分があの場にいたらどうするか、考えてみて。透華ちゃんの《治水》に単独で対抗できるくらいじゃないと、無能力者で学園都市の《頂点》に立つなんて不可能だよ。
 事実、憩さんは透華ちゃんに勝ってた。福路さんだって、ウィッシュアートさんよりもナンバー的に上。染谷さんも、衣さん相手にただで転んだりはしない。
 みんな、全体効果系能力者と戦う術を持っている。なら、泉ちゃんも、そうならなきゃ」

泉「が、頑張ります!」

 ――《新約》控え室

和「龍門渕先輩ーっ!? なぜですかー!! なぜ急に人が変わってしまったかのような意味不明な打ち方を!? 前半の燦然と輝いていた先輩はどこへ行ってしまったですかー!!」

怜「せっかく同志を見つけられそうやったのに、残念やったなー」

和「こんな……ありえません! あんな素晴らしいデジタル打ちを披露してくれた龍門渕先輩が、オカルト思考に溺れるなど……!!
 さては、休憩中の彼女ですか!! 初美さんと同じ霧島出身のオカルト大好き巫女!! あの方が何かよくない迷信を吹き込んだのですねッ!?」

初美「まあ……確かに姫様が支配力を吹き込んだせいで龍門渕さんはああなったですねー」

和「霧島の方々とは、いずれ決着をつけなければいけないようですね!!」ゴッ

初美「そうなったら巴に仲介人を頼むですー」

和「うっ……狩宿先輩を持ち出すのは卑怯ですよ」

初美「さすがの和も難攻不落の《落石の巫女》には勝てないですかー?」

和「狩宿先輩とは……何度かお話しました。あの人と話していると、だんだんオカルトがありえてもいいような気になってくるから、恐ろしいです」

初美「巴は有能ですねー」

和「あんな懐が深くて器が大きな人は他に見たことがありませんよ」

姫子「懐の深くて器の大きか人……絹恵から聞く限り、龍門渕さんも、そいな感じの人らしか」

和「うぬ……ですが、あんな非効率な打ち方では、勝てるものも勝てません。テンパイするところまではいいとして、手を伸ばすでもなくリーチを掛けるでもないなんて、どうかしています」

怜「それが《制約》なんやろな。あの状態の龍門渕さんは、リーチも鳴きもできひんのや」

和「SOA」

初美「っていうか、鳴きのほうは、物理的にできないっぽい感じですよねー。全員の手牌が絶妙に被らないよう調整されてますー。
 手の進め方で崩せる類の支配じゃないですよー、あれは。霞の絶一門とどっこいどっこいの無理ゲーですー」

和「SOA」

姫子「石戸先輩のアレと似とうない……中盤以降は支配の崩れっとですかね?」

和「SOA」

怜「中盤以降までもつれればええんやけどな。石戸さんの《絶門》も、龍門渕さんの《治水》も、基本的には、終盤までもつれることなく本人が先に和了ってまう。
 自牌干渉系の能力とかで支配領域《テリトリー》に傷を作って、どーにかこーにか出し抜くっちゅーんが能力戦での対全体効果系セオリーやけど、あっこにおる面子はレベル4未満やからなー」

和「SOA」

初美「支配力に拠る《上書き》で無理矢理有効牌を引くとかですかー?」

和「SOA」

怜「龍門渕さんはランクA強やで? 《神憑き》の初美ならギリできるかもやけど、現時点での絹恵には、場の支配に逆らうほどの力押しはできひんよ。他の二人は言わずもがなや」

和「SOA」

姫子「和、会話しにくかとやけん、SOAば乱発するんはやめんしゃい」

和「だってSOAなんですもん。さっきから何をごちゃごちゃと言っているか私にはさっぱりですが、結局のところ、効率を追求して手を作って和了ればいいだけの話じゃないですか。
 絹恵さんと森垣さんと亦野先輩は、なにやらよからぬオカルト思考に捉われて非効率な打牌をしているのに対し、龍門渕先輩は、リーチを掛けないのはSOAとしても、牌効率そのものは先ほどと同様完璧に近い。
 オカルトに気を取られて無駄な回り道をしている三人と、真っ直ぐ和了りへ向かっている龍門渕先輩。どちらの和了率のほうが高くなるかなど、目に見えています。あれは、とても妥当で順当な結果です」

     透華『ツモ、2000オール』

和「もちろん、この一局が全てだとは思っていません。今回、龍門渕先輩が先んじて和了ったのはあくまで偶然。
 ですが、今後も絹恵さんたちが非効率な打牌を続けるとしたら、間違いなく有意差が生じると思いますよ」

怜「つまり、龍門渕さんの《治水》に限っては、天江さんの《一向聴地獄》やウィッシュアートさんの《一枚絵》を相手に回すときみたいな、無理な鳴きとか支配からの脱出みたいなことはせんでよくて、普通に効率よく手を進めていけば、ぼちぼちの確率で和了れるっちゅーこと?」

和「なぜ限定する必要があるのです……。あらゆる場面において、普通に効率よく手を進めていけば、それ相応の確率で和了れます。それが麻雀です」

姫子「そいなことのできるのは世界中探しても和と機械だけと」

初美「簡単に言うですけどー、普通に効率よく手を進めるって、実はめちゃくちゃムズいんですよー」

怜「んー……せやけど、これはまた、和大勝利なんかな? なんやかんやで、和が導き出す結論は毎回正しい。ただ、和みたいなことは和にしかできひんからな――」

 ――《幻奏》控え室

ネリー「ほほーう! これは面白いんだよっ!」

やえ「何かわかったのか?」

ネリー「うん。とうかの《治水》。あれはね、《旋律》を固定する場を創り出してるんだよ。《旋律の収束点》が極端に少ない場って言えばいいのかな。
 それでいて、《主旋律》の担い手は高確率でとうかになってる。これを崩すのは大変なんだよ」

やえ「ああ、確かに、そういう捉え方もできるな。《旋律の収束点》が極端に少ない……ふむ。なら、ちょっとNPC《井上》を使って検証してみるか」カタカタ

セーラ「えっと……二人が何言うてるのかさっぱりわからへんけど、和了りへ向かう道がかなり限定されとって、その上、どういう道の進み方をしても、龍門渕より前に出ることはほぼ無理っちゅー感じの意味で合うてる?」

やえ「合ってる」カタカタ

セーラ「ほーん、そら確かに大変やなー」

優希「私だけ話についていけてないじぇ!?」

ネリー「ゆうきも東場では似たようなことやってるよ。素直に手を進めていくだけで、自然とテンパイできて、すんなり和了れる。そんな局が、東場ではちょいちょいあると思うんだけど」

優希「あるあるだじょ」

ネリー「それって、多少牌を切る順番が変わっても、最終的には同じ手で和了れる感じだよね?」

優希「だじぇ」

ネリー「けど、そこに鳴きが入ってきたり、他家が先んじてテンパイしてきたりすると、素直に進めることができなくなる。
 結果、誰かに和了られたり、最初にイメージしていたのとは別の手で和了らざるをえなかったり、するわけだよね?」

優希「ネリちゃんがよくやってくるやつだじぇ」

ネリー「うん。で、とうかのアレは、その、『鳴きが入ってきたり、他家が先んじてテンパイしてきたり』っていうのが、ものすごく起きにくい場を創ってるんだよ」

優希「んなっ!? ってことはだじょ。いい感じに手を進めるだけで、いい感じに和了れることにならないか!?」

ネリー「実際、そうなってるじゃん。淡々と手を進めて、一雀頭四面子揃ったら、手牌を倒す。ゆうき的にいえば、なんの邪魔も入らない東場ってところだね」

優希「和了りたい放題だじぇ!!」

ネリー「そういうこと」

優希「じょ……えっ、じゃあ、誠子先輩はどうやって勝てばいいんだじぇ?」

やえ「お、NPC《井上》が完封されたな。なるほど、旋律の固定か。これは頭が痛い」

セーラ「感知系の井上で無理やとなると、自牌干渉系の誠子にはもっと厳しいやろな」

ネリー「実戦の中で突破口を見つけるのはよっぽど目がいいかカンがよくないとだからなぁ。せーらか東場のゆうきならまだ勝負になったと思うんだけど……」

     誠子『――っ! ポ』

     透華『ロン、3900は4200』

     絹恵『……はい』

やえ「ここまでデータが出揃えば、決勝までには対策を講じることもできるだろう。が……今はひとまず、自力でどうにかしてもらうしかない」

優希「でも、ネリちゃん曰く、あの冷たいお姉さんは何の邪魔も入らない東場の私と同じなんだじぇ? きっと積み棒の山ができるじょ」

セーラ「ま、言うても他人、言うても別物や。そら、リーチも鳴きもできひん状態で東場の優希を相手にしたら、灰も残らへんかもやけど、龍門渕は優希とちゃう。ほな、ごちゃごちゃやっとればいつかどうにかできるやろ」

ネリー「ごちゃごちゃかぁ……うーん、それはちょっと逆効果かも。この場合、どちらかっていうと、《流れ》に逆らわないのが正解なんだよ」

やえ「《リーチと鳴きの封殺》――場の《流れ》を司る《治水》。少しは見えてきたな。
 ただ、もしこれが正解だとすると……あのとき弘世が《晩成》を撃ち落したのは、点数状況だけが理由ではなかったということになる。となると……この状況は、不幸中の幸いか」

セーラ「どうしたん?」

やえ「たとえ龍門渕が大暴れしても、亦野一人が大きく沈むことは、恐らくないだろう。あの場……最も危険なのは、《流星群》――森垣友香だ」

優希「どうしてだじょ……?」

ネリー「えーっと……あっ、そっか。ゆうかはとうかの対面だから!」

セーラ・優希「?」

やえ「ま、口で説明するより、実際に牌を並べて試してみたほうが早い。いいか、まず、仮に龍門渕の手牌が――」

 ――《煌星》控え室

煌「場の《流れ》を司る《治水》――ですか。非常に困りましたね。もっと早くに気付いていれば、友香さんにアドバイスすることもできたんですが……」

咲「龍門渕さんのアレ、何かわかったんですか?」

煌「全てではありませんが、多少、糸口は見えました」

桃子「マジっすか……!? そ、それは、あの場にいるでー子さんも気付けることっすかね?」

煌「かなり困難だと思われます。モニターで全員分の手牌が見えていても、辿り着くのに時間が掛かりましたから」

淡「私には未だまったくもって何もわかんないけど……?」

煌「実際に牌を並べて試してみればわかりますよ。いくつか条件を絞ってやれば、あとは簡単なパズルです。まず、仮に龍門渕さんを東家だとして、その手牌が、このような形をしていたとしましょう」

 東・透華手牌(仮):一二三四五①②③12344

煌「平和三色の三・六萬待ち。状況をわかりやすくするために、字牌を除いて考えます。
 さて、ここがスタートです。この手牌を基にして、龍門渕さんの上家に座っている愛宕さんの手牌がどうなるか、考えてみましょう」

淡「うえーっと……?」

煌「取っ掛かりになるのは、鳴きの完全封殺です。最初に龍門渕さんがツモったときの全員の手牌を見てわかる通り、誰が何を切っても鳴きが発生しないように場がコントロールされていました。
 なら、龍門渕さんの上家に座る愛宕さんの手には、龍門渕さんが鳴ける牌はないはずなのです」

桃子「あ……そっか。じゃあ、一~六萬、一~四筒、それに一~五索はないってことになるっすね……!!」

淡「おお、なるほどっ! それだと、喰い替えでチーできることになっちゃうもんね!」

咲「すると、愛宕さんの手には、字牌を除くと、七~九萬、五~九筒、六~九索しか入らないってことになるから……」

煌「話をわかりやすくするために、愛宕さんも平和手であると仮定しましょう。また、鳴きを『チー』に限り、『ポン』はできないものとします。すると――」

 北・絹恵手牌(仮):七八九⑤⑥⑦⑧⑨66789

 東・透華手牌(仮):一二三四五①②③12344

淡「う、あ、なんかわかってきたかも!?」

咲「ここから、次は愛宕さんの上家に座ってる友香ちゃんの手牌を考えるわけですね?」

桃子「えっと……さっきと同じで、鳴き――チーを完全封殺するためには、下家と被ってるところは手にあっちゃいけないわけっすから――」

煌「例として、このような形になるでしょうね」

 西・友香手牌(仮):一二三四五①②③12344

 北・絹恵手牌(仮):七八九⑤⑥⑦⑧⑨66789

 東・透華手牌(仮):一二三四五①②③12344

淡「うっそ……トーカとまったく同じ形になったけど……!?」

咲「待って、だとしたら、友香ちゃんの上家に座っている亦野さんの手牌は――」

桃子「これは……」

 南・誠子手牌(仮):七八九⑤⑥⑦⑧⑨66789

 西・友香手牌(仮):一二三四五①②③12344

 北・絹恵手牌(仮):七八九⑤⑥⑦⑧⑨66789

 東・透華手牌(仮):一二三四五①②③12344

煌「いかがですか? 数牌のみで、鳴きはチーのみ可、且つ全員が平和手と、限定的な条件で考えてやると、その規則性は一目瞭然ですね」

淡「対面同士がまるっきり同じ手牌になる……っ!?」

咲「どの色も、四~六牌が欠落して、重複部分が出ないように分断されてる……。そっか、全員平和手でチーができないように牌を分けると、自然とこうなるのか」

桃子「こ、これ、もっと色んなパターンで試しても、似たような感じになるっすか?」

煌「では、こんな例はいかがでしょう」

 南・誠子手牌(仮):一二三四五六七八九①②③④

 西・友香手牌(仮):⑥⑦⑧⑨123456789

 北・絹恵手牌(仮):一二三四五六七八九①②③④

 東・透華手牌(仮):⑥⑦⑧⑨123456789

淡「うおおお……本当にパズルだねっ!」

煌「次に、ポンを考慮に入れてみましょう。加わるルールは一つだけですね。誰かの手に対子になっている牌は、その対子の持ち主以外の手には入らない。
 これを踏まえて、最初の例を少しだけ弄ってみましょうか」

 南・誠子手牌(仮):七八九⑤⑥⑦⑧⑨66678

 西・友香手牌(仮):一二三四五①②③11123

 北・絹恵手牌(仮):七八九⑤⑥⑦⑧⑨78999

 東・透華手牌(仮):一二三四五①②③23444

咲「これ……もしかして、対子は刻子になりやすいってことですか?」

煌「そうですね。ポンとカンの完全封殺――それを簡単に達成する方法は、四枚中三枚を一人の手に固めて、残り一枚を山の深くに埋めてしまうことですから」

桃子「字牌はポンしかできないから、その法則に従って振り分けられる感じっすかね。基本バラバラで、重なるときは高確率で三枚重なる、と」

煌「そういうことです。さて、この検証を踏まえて、実戦ではどうなっていたのかを見てみましょう。龍門渕さんが最初にツモったとき、全員の手牌は、このようになっていました」

 東・友香手牌:一一一三三①②③④1134 ドラ:2

 南・絹恵手牌:八九九⑥⑦⑧⑨⑨67778 ドラ:2

 西・透華手牌:二二四[五]①②③234南南南 ツモ:三 ドラ:2

 北・誠子手牌:七七七八⑦⑧6899北中中 ドラ:2

淡「本当だ……バラつきはあるけど、キラメが例示してくれた感じに近い最終形になってる」

桃子「各色が真ん中で低めと高めの二つに分断されて、対子は刻子になりやすい。対面同士の手牌が似てるのも、その通りっすね」

咲「え、ちょっと待ってください! 対面同士の手牌が似る……!? それじゃあ――」

煌「ええ。今回、場の支配者である龍門渕さんの対面に座っているのは、友香さんです。
 鳴きの完全封殺を実現しようとすると、今ご説明した通り、互いに互いの捨て牌をチーすることができない対面同士は、手牌が重複する傾向にあります。
 刻子場ではそれでもさほど問題はありませんが、順子場では丸被りになる可能性さえ出てくるのです。言い方を換えれば、対面が互いに有効牌を握り合っている状態になりやすい――ということ」

淡「有効牌を握り合う……それってさ、つまり、ユーカが下手なところを切ると」

桃子「龍門さんに振り込むってことっすか……?」

咲「もちろん、一概には言えないと思うけどさ。さっきは、愛宕さんが他家に鳴かせようとして、直撃を取られてた。
 支配を崩そうと無茶をして、逆に取って喰われる。そういうパターンも、あるにはある」

煌「また、最初の和了りを見てもわかる通り、龍門渕さんはリーチを掛けられない《制約》があるようです。どちらかと言わずとも、出和了りよりツモ和了りのほうが多い。
 なので、あまり振り込みを恐がり過ぎるのもよくないのですが……」

淡「自然に打つ限り、どう考えても一番振り込みやすいのは対面のユーカってことじゃんね」

桃子「そんな……」

咲「友香ちゃん……!!」

煌「参考までに、去年、龍門渕さんがあの状態になってから、弘世さんは残り点数の僅かだったチーム《晩成》を狙い撃ちしてトばしたわけですが、そのとき、弘世さんと《晩成》の方は対面同士の関係にありました」

     透華『ツモ、1300オールは1500オール』

煌「非常に……非常に困りましたね――」

 ――対局室

 東四局三本場・親:透華

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:龍門渕透華(逢天・138500)

友香(これがランクA強の全体効果系能力者……三回戦の副将戦は、こんな次元の人間が四人で戦ってたことになる。支配者――呼吸するように奇跡を起こす者。わかっちゃいたけど、めちゃキツいんでー)

 西家:森垣友香(煌星・50100)

友香(とりあえず、情報を整理しよう。龍門渕先輩は、リーチと鳴きができない。それが《制約》)

友香(で、今打った感じ、出和了りよりはツモ重視で、打点はさほどでもない。ウィシュアート先輩との最大の違いは、こっちの鳴きが封じられていること……)

友香(あと、なんとなく、支配に逆らうように動くと、かえって縛りがきつくなるような感覚がある。ウィシュアート先輩の場合は、額縁をはみ出すことが、支配を抜け出すことに繋がった。
 けど、龍門渕先輩の場合は、流れを飛び出すことが、必ずしもいい方向に働かないような気がする。非効率な打ち方をすると裏目るし、無茶な手順で攻めると撃ち落される。 
 それがなぜなのかは……残念ながらまだわからないんでー)

友香(あとは、《リーチを封じる》能力について。三回戦での、姉帯先輩の先制リーチ――《先勝》。煌先輩は、あれがその一例だって言ってた。
 《リーチを封じる》能力者相手にテンパイできたとき、浮いてくる牌は相手の和了り牌である可能性が高いって。
 だから、仮にテンパイまで辿り着けても、安心はできない。リーチ宣言牌で出和了りは十分ありえる。リーチを掛けるときにはお気を付けでー……)

友香(今のとこ、私にわかるのはこれくらい。傾向は少し掴めてきたし、注意すべきとこも煌先輩が予めピックアップしてくれてる。あとは……打開策。決定打でー)

友香(私にできることは何か。ぼちぼち見つけない、と――)

友香「チ」

透華「ロン、7700は8600」パラララ

友香(っ――! 鳴けなかった。鳴きかリーチが成立しそうになっても、龍門渕先輩が和了ってしまう。このパターンはさっきもあった。無茶鳴きを許すような緩い支配じゃないんでー)

誠子「(んー、踏み込み過ぎたか。この場で直に《治水》モードの透華と打ったことがあるのは、私と絹恵。そのアドバンテージを活かして攻略したいが……なかなか小走先輩のようにはいかないな)……はい」チャ

絹恵(ま、やっぱそうなるやんなー。浮いた牌をわざと抱えたりとか、面子を崩したりとか、あれこれ手順をセオリーから外してみても、透華を出し抜くことはできひん。
 国士狙いとかも考えてみたけど、ここまでの局を見る限りでは、どーにも無理そうやった。ほな、どうする……?)

絹恵(お姉ちゃんなら……なんて言うやろか。支配なんて気にせんと先に和了ればええだけやんとか、適当なこと言うてしかもあっさり実現するやんな。能力なんて好きなように使わせとけばええ、か)

絹恵(まあ……確かに、支配を崩せば勝ちっちゅーゲームやないからな、麻雀は。さっきから、どうしたら鳴けるやろかって考えに囚われ過ぎやったかもしれへん。
 別に鳴いたかて和了れるんとちゃうし、そもそも、鳴かへんでもぼちぼち手は進む。ただ、いつも透華のほうが早いってだけで)

絹恵(透華の手……素直に素直に進めとる。完璧に近い牌効率。まるで来る牌が何かわかってるみたいな――)ハッ

絹恵(いや、みたいやない。わかっとるんや。ここまで、透華は一度も裏目っとらへん。《悪魔》の荒川さんでもあるまいし、いくらなんでも完璧過ぎる。
 せやけど、なんでなん……? いや、場の支配者やから言うてまえばそれまでやけど、なんか……なんか引っ掛かる……)

絹恵(ちゅーか、透華の手、ホンマにうちと被ってへんのな。どこ切っても掠りもしない。鳴きの完全封殺……完全……?)

絹恵(食い替えも含めてチーを完全封殺しようと思うと……上家と下家の手牌がまったく被らへんように牌を振り分けんとあかんことになるよな。そうすると……なんや、かなりパターンが限定されてくるような……)

絹恵(誠子の捨て牌……うちの捨て牌と似とる。ほんで、森垣さんと透華のも、近いな。対面同士が似通うんか? 《治水》モードの透華……《福笑》のときは、どやったか。牌譜は――)

絹恵(そっか……読めてきたで! 《治水》のカラクリが……!!)

透華「……四本場……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(見とれよ、透華。反撃開始や――!!)ゴッ

誠子:98800 友香:50100 絹恵:104000 透華:147100

 東四局四本場・親:透華

絹恵(鳴きの完全封殺……それを実行しようとすると、上家・下家の間に手牌の重複があらへんようにせなあかん。簡単なのは、四~六牌で、各色を低めと高めに分断して、それを適当に四人分振り分けることやんな。
 で、そんな感じで上家・下家の手を被らへんようにすると、必然的に、対面同士の手牌は似るな。これで、チーは発生せーへん。あとは、対子や刻子をちょこちょこ調整して、ポンを封じる。
 ハイ、誰がどこを切っても鳴きが起こらへん場の完成や!)

絹恵(実際はもっと複雑なんやと思うけど、手作りする上で重要なことは二つ。
 配牌の段階から、ある程度、今後ツモる牌がわかるっちゅーこと。それに、対子は高確率で刻子になるっちゅーこと。
 それを踏まえて効率良く手を進めていけば、たぶん、ええ感じのとこまで行けるはずや)

絹恵(透華の《治水》――その本質は、リーチや鳴きが発生せーへんように、《牌の流れを治めること》。人の手を経て、山から河へと流れゆく牌――透華はその配分を司る主なんや。
 なんちゅーか、実に透華らしいわ。みんなの世話焼いて、曖昧にせず、なんでもかんでもきっちりしたがる。美味しいとこを一人で全部持っていくのもそう。
 そっか。デジタルとオカルト……見かけは正反対でも、透華は透華なんやな)

絹恵(透華の《治水》は、河に流れる牌が乱れることを嫌う。せやから、鳴きはもちろん、牌を曲げることさえ許さへん。
 ただ、自分のとこに来る牌を見て、効率計算して、誰よりも早くツモ和了る。それがこの場のルールやねん。それに逆らおうとする者は、透華が自ら手を下す。せやけど、もし、逆らわへんかったら……?)

絹恵(牌の流れに逆らわず、理論的に効率を求めて行けば、透華と互角の速度を出せるはずや。流れを拒まなければ、裏目を引くことはほぼない。それは今までの何局かでもそやった)

絹恵(やって、最初から、誰にどの牌が流れていくかは決まっとるんやもん。それをそのまま受け入れればよかったんや。下手に足掻こうとするから、反動でド壷に嵌んねん)

絹恵(まあ……言うても、場の支配者たる透華に先んじてテンパイすることが、そんな簡単に出来るんかっちゅーと、自信ないけどな。
 せやけど、この、鳴きを考慮せずに、手を進める感じ……あれに似とるわ、昔ようやったっけな……一人麻雀――)

絹恵(オカンもお姉ちゃんも浩ちゃんもクッソ強い上に手加減せーへんからな。サッカーばっかやってたうちが混ざっても、全然和了れへんかった。
 やから、一人でこそこそ練習したんや。透華はうちの麻雀を『独学』で『我流』やゆーてたけど、まさにその通り。うちの基礎の基礎には、あのときの一人麻雀の経験がある)

絹恵(ひょっとすると、透華もそやったのかもしれへん。あの天江さんと同等の魔物。学園都市に来る前の透華についてこれる人間が、果たして何人おったのか――たぶん、一人もおらへんかったんやろな。
 ほんで、仕方なしに、ずっと独りで、デジタル論の論文でも眺めながら、鳴きもリーチもせーへんと、ひたすら牌効率だけを求めて、牌を握っとったのかも。
 ネト麻が好きなんも、ネト麻やったら、世界中の雀士と、能力とか支配力とか関係なしに遊べるからなのかもしれへん……)

絹恵(なーんて、そこまで立ち入ったことは知らへんけど! 何はともあれ、この冷たい透華を出し抜かな、ここで試合が終わってまう)

絹恵(大丈夫……やることはわかっとる。考えろ。信じろ。歩みを止めるな。お姉ちゃんみたいに、真瀬先輩みたいに、末原先輩みたいに、或いは、和みたいに、な)

絹恵(レベル0で高レベルの能力者に打ち勝ってきた人らをうちはぎょーさん見てきた。公式戦の最前線――《姫松》の副将として、色んな雀士と戦ってきた。
 それが、繋がるってもんやろ……この場での戦いやすさにッ!!)

絹恵(っしゃあ、張った――!!)

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(幸いなことに、ちょうどうちが切りたいとこを、同巡で誠子が出しとってくれてる。これで、ここで透華に直撃されることはない。それが麻雀のルールや。能力や支配力とは関係なくな)

絹恵(透華……自分は、なんや、けったいな《制約》があるみたいやけど、うちはちゃうで。この手、この状況、門前で張って、ダマで済ますドアホがどこにおる!!)

絹恵「リーチッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

誠子(っ!! 私の捨て牌に合わせてある。通らないわけがない……!! しかし、どうやって透華より早くテンパイを――?)

友香(愛宕先輩にツモ切りはほとんどなかった。まるで流れるようにテンパイしたような感じだけど……この場に潜む何かを掴んだってことでー?)

絹恵(これで透華にツモられたら笑うけど――と、さすがにそこまで意地悪やなかったか。よかったわ。ほな、あとは捲り合いやな。末原先輩やったらここでツモれるんやろけど、どーやろか……)

     ――恭子くらいには打てるようになったやんな。

  ――《姫松》の頃は、なんや漫と一緒でハラハラもんやったけど、今はちゃう。

                ――安心して見てられるくらいに強くなった。

絹恵(……せやね。お姉ちゃんの見立てはいっつも正しい。そんなに気張ったつもりはあらへんかったけど、なんとかなるもんやな。和了り牌……引けたで――)

絹恵「ツモ、2000・4000は2400・4400ッ!!」ゴッ

誠子・友香(っ……!!)

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(表情に変化なし、か。なんやねん、もうちょっと悔しがってくれてもええやん。今、うち、明らかに自分より目立っとんねんで?
 ま、今の透華にどれくらい普段の透華の意識が残っとるのかはわからへんけど。とりあえず、点棒は点棒。きっちり貰っていくで!)

誠子(絹恵の和了り……透華の和了りと同じだ。裏目ることもなく、ひたすら最適効率で進めて、ぴたりとツモってる。流れに身を任せたってこと?
 んー、一体何がどうな――ああ、そっか! 絹恵の手牌、私の手とほとんどそっくり同じじゃないか! これは……取っ掛かりになるのは、鳴きの完全封殺。このモードの透華の過去の牌譜……どうだったか――)

絹恵(お、誠子も辿り着いたんか……?)

誠子(…………うん、やっぱりだ。確かに、そういう傾向がある。《牌の流れを司る》――それが、透華の《治水》の本質なのか。だとすると、この場、流れに逆らうのは得策ではないな……)

友香「な、南入しますんでー……!」

誠子:96400 友香:47700 絹恵:113200 透華:142700

 南一局・親:誠子

友香(さっきの愛宕先輩の和了り、それに、これまでの龍門渕先輩の和了りもそう。流れに逆らってない。むしろ乗っている感じ。なら、あまりジタバタしないのが正解……?)

友香(でー……場全体を眺められたら、もっと確信が持てる気がするんだけど、今ここでそれを言っても仕方がない。龍門渕先輩の支配下でも和了れるってことは、愛宕先輩が証明してくれた)

友香(なら、きっと、同じことは私にもできるはず……!! 流れに身を任せる。鳴きを考慮せず、牌効率だけを考えて、素直に手を進めていく。そうすれば――)

友香(でっ、できたんでー、テンパイッ! すごいんでー、ジタバタしてたさっきまでと違って、まったく裏目らなかった! なるほど……これが龍門渕先輩の《治水》を打ち破る方法ってことでー!!)

友香(あとは……このリーチ宣言牌が通ればいいんだけど。そもそも私の手の中には安牌が一つもない。一応、これまで龍門渕先輩が和了ったどの局よりも速いけど、どうする……行ける、か――?)

友香(状況的に、このままじゃジリ貧……次も同じようにテンパイできるかはわからない。愛宕先輩はもちろん、亦野先輩も、流れに逆らうのをやめたっぽいから、二人が和了ってくる可能性もある。
 龍門渕先輩は常に要注意だけど、恐らくはツモ中心の場になるだろうから、他の二人に和了られても、私の点数は同じように削られる。攻められるときに、攻めなきゃ……)

友香(龍門渕先輩の和了りは、今のところ全部三飜以下。振り込むとしても、3900程度。対して、この巡目の私の《流星群》なら、ハネ満は確実に取れる。もし仮に振り込んだとしても、それでわかることもあるはず……。決めたんでー。ここは、押す――ッ!!)ゴッ

友香「リー」

透華「ロン、2000」パラララ

友香(ふ、普通の平和……? 特徴なさ過ぎでー。特に変わった印象はない。愛宕先輩や亦野先輩から和了ったときは、ちょっと不自然な待ちだったけど……今回は普通の両面。
 自然とその手になって、次巡くらいでツモるつもりだったけど、たまたま私から和了り牌が出たからロンした……みたいな)

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(何か……私と、愛宕先輩や亦野先輩とで、違いがあるんでー……? けど、全体効果系能力なら、天江先輩やウィッシュアート先輩がそうだったように、場の全員が等しく攻撃対象のはず。一体何が……?)

友香(くっ……!! いや、焦っちゃダメでー! 《リーチを封じる》能力で、リーチ宣言牌を討ち取られることがあるのは、煌先輩からアドバイスを受けてる。これを乗り越えなきゃ勝てないんだ)

友香(いくら龍門渕先輩が全体効果系能力者でランクA強だからって、待ちの形には限界がある。
 今はあまりに一本道過ぎた。なら、いくつかの選択肢を持ってテンパイに持っていけばいいんでー。流れに乗っていけば裏目らないことはわかったんだから、次は、もっと幅のある手を作って、出し抜く……!!)

友香「次は私の親番でー!」ゴッ

誠子:96400 友香:45700 絹恵:113200 透華:144700

 南二局・親:友香

友香(さて……配牌は、っと――)

 友香配牌:七八八①①③④68東南發發中 ドラ:⑥

友香(うん……そんなに悪くないような気がする。今までの引きのパターン的に、対子は刻子になりやすい。
 きっと、ポンを防ぐためにそういう風になるんだ。あとは、二・五筒か七索辺りが入ってくれば、無理なくテンパイに持っていける)

友香(となると、最終的に浮いてくるのは七萬でー? 最速で三巡後に、そこで直撃を取られる可能性がある。
 けど、それを最初に処理しようとすると、八萬が重ならなかったり、九萬が来たりして、裏目を引かされる。ここは、ちょっと、様子見でー……)タンッ

絹恵(森垣さん……色々考えとるっぽいけど、どこまで気付いとるんやろか)タンッ

透華「」タンッ

誠子(対面同士の手牌が似る傾向にあって、且つ、全員が素直に手を進めているこの現状――)タンッ

友香(うん。ツモはいい。面白いくらいに繋がっていく……)タンッ

絹恵(最も死に近いのは、支配者である透華の真向かいにいる自分や。まあ……去年の透華の牌譜しか知らへんはずのこの子に、この実戦中にそこまで見抜けっちゅーのも酷やろけど)タンッ

透華「」タンッ

誠子(なんだかんだで、透華は字牌も絡めて手を作ってくる。加えて、こちらの変化によって、透華の手には、誰かが鳴ける牌が固まっていたりする――とか、例外的なパターンも多い。
 同じ支配されてる側の私と絹恵の手はよく似るけれど、支配者である透華と被支配者の森垣さんの手は、そこまでぴたりと一致しない。そういう前提で見ないと、気付くのは難しい……)タンッ

友香(よし、穴が埋まった)タンッ

絹恵(この局も、すいすい手を進めているように見えるけど、それは透華も同じや。まだ《治水》への理解が不十分なその状態で、ホンマに出し抜けると思うとるんか……?)

透華「」タンッ

誠子(配牌によっては、そろそろ誰かがテンパイしてもおかしくはない。どうなるか……)

友香(いっし、来たッ!!)

 友香手牌:七八八八①①③④678發發 ツモ:② ドラ:⑥

友香(ほぼ予想通り。七萬切りでテンパイ。リーチを掛ければ、この巡目、場の傾向的にも私の能力的にも、間違いなく引いてこれる。鳴きが封じられてて一発消しの心配はないから、ほぼ必中で親っパネ以上が見込めるんでー。ただ――)

友香(ここで七萬切りは、あまりに素直過ぎる。だから、少しだけ、狙いを逸らす。無理のない範囲で、別の和了りを目指す。
 一筒切りで、六・七・九萬か發が入るのを待ってみよう。もちろん、龍門渕先輩が手替わりしてないかどうか、注意を払いつつ、でー)

友香(大丈夫……一筒切りなら、テンパイにはならない。テンパイにならない打牌なら、リーチを掛けられないわけだから、龍門渕先輩の《リーチを封じる》能力の網には引っかからない。
 たとえ全体効果系能力の支配下にあっても、能力の網に引っかからない範囲でなら、自由に動けるはずでー。これは、通る……)タンッ

透華「ロン」

友香(で――!?)ゾワッ

透華「3200」パラララ

 透華手牌:七七②③④⑤⑥⑦⑦⑦西西西 ロン:① ドラ:⑥

 友香手牌:七八八八①②③④678發發 捨て:① ドラ:⑥

友香(え……七萬と、一・四・七筒待ち? ど、どうしてそんな私の急所ばかり……? しかも自風の役牌があるから、いくらでも私の変化に対応できる……。
 けど……なんで? 亦野先輩や愛宕先輩から和了ってたときは、不自然な待ちでピシャリだったのに、どうして私のときだけ、こんな何重にも網が張ってあるんでー……?
 っていうか、私は今、テンパイに取ってもいないし、誰かが鳴けるところを切ったわけでもない。《治水》――《リーチと鳴きを封じる》効果には違反してないのに……なんで……なんで――?)

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(わけが……わからない――私、どうすれば……!?)

誠子:96400 友香:42500 絹恵:113200 透華:147900

 南三局・親:絹恵

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(ど……どうすればいいんでー? テンパイまで辿り着く方法はわかった。《リーチを封じる》能力に引っかからないような打ち回しだって視野に入れてる。なのに、それでも、直撃を取られる……)

友香(いやいや……!! 諦めちゃダメでー!! 何がいけなかった? 思い出せ、去年のこの人の牌譜と、《治水》が発動してから今までの九局全て。どこかにきっとヒントはある!)

友香(煌先輩からは、いっぱい注意すべき点を聞いてる。去年のほんの数局しかない牌譜、それに映像データから、煌先輩は色々なことを読み取って、その全てを私に教えてくれてる。もらえるものはもらってるんでー!)

友香(そこからは、現場の私が頑張らないと。相手が事前の分析を超えてくるのは、当たり前のことじゃないか。
 新しい要素が出てきたくらいで手詰まりを起こすようじゃ、決勝では戦えない! 誰だって日々強くなってるし、昨日と同じままでいる人なんていないんだからっ!!)

友香(私は淡ほど直感が働かないし、煌先輩や咲のような分析力は持ってない。桃子みたいに《ステルス》で振り込み回避をすることもできない。
 それでも、戦わないといけないんだ。対局が始まったら、誰もが一人。これくらいの逆境で、挫けてたまるか……!!)

友香(私は――私たちは……勝つんでーッ!!)タンッ

透華「ロン――」

友香(え……?)

透華「5200」パラララ

友香(そん……な――なんで……? まだ……私は張ってすらいないのに……!? なんで……!! なんで!?)

絹恵(全員が全員、自分の流れに身を任せれば、自ずとこうなってまう。透華の対面にいる森垣さんに流れていく牌は、ほとんどが、透華にとっての有効牌。どこを切っても振り込む可能性がある。
 テンパイしとるか否かは、さほど関係あらへんねん。透華の手が役ナシでない限り、森垣さんは常に危険なんや。可哀想やけど……これは止められへん……)

誠子(席順がズレていれば、恐らく、私と絹恵だって、同じ憂き目にあっていただろう。《治水》モードの透華と直に打つのが初めての森垣さんが、能力なしでここまで戦えていること自体、ものすごいことなんだ。
 見習うべきことは多い。けど、本当に、不運の一言に尽きる……)

友香(煌先輩……私、どうしたら――)

誠子:96400 友香:37300 絹恵:113200 透華:153100

 ――特別観戦室

エイスリン「コレハ、ムリゲーダロ……」

智葉「席順が悪いとしか言いようがないな」

憩「下手すると、大将戦まで辿り着かへんかもしれませんね。《煌星》にとっては、次の中堅戦――東横さんが耐え切れるかどうかが鍵でしょう。
 なんたって、中堅戦には臼沢さんがボコボコにされた江口さんと、染谷さんが手も足も出ーへんかった園城寺さん――《幻奏》と《新約》の要が出てくるんやから」

塞「あんた今何気なく豊音を除外したけど……私に言わせれば、今日の中堅戦で一番ヤバいのは豊音だからね?
 辻垣内、三回戦のあんたはマジで運が良かったわ。《最大》の大能力者――姉帯豊音の本当の恐ろしさを、あんたたちはまだ知らない。でしょ、エイスリン」

エイスリン「……アンマ、オモイ、ダシタク、ネーケドナ」

衣「えいすりん、何かあったのか?」

エイスリン「ミリャ、ワカル」

純「まあ、中堅戦のことは中堅戦のときに話せばいいだろ。それよりも、このオーラスだよな」

まこ「龍門渕のラス親。連荘するんか、亦野や愛宕が食い止めるんか」

穏乃「さっきのを見る限り、愛宕さんなら単独で止められそうな気がします」

照「同意」

     透華『ツモ、700オール。連荘続行――』

菫「と――和了られたな。そして連荘続行か。《逢天》の独走を許せば、二位争いが厳しくなる。他チームとしては、次くらいで一矢報いておきたいところだろうな」

憩「一矢報いる――龍門渕さんから直撃を取る、ですか。まあ、それは理想で、現実にはなかなか難しいでしょうね。
 龍門渕さんにこれ以上連荘させずにツモって終了っちゅーんが、どう考えてもベターです。ここにおる全員が、あの場にいたらそうすると思いますよ」

純「しかし……それはちと、物足りねえよな。あの状況でツモるのがどれだけすげえことなのか、オレらはわかるが、素人にはまず伝わらねえ」

まこ「ほうじゃの。少なくとも、龍門渕なら、そんな面白味のない結末は拒むじゃろ」

衣「目立ってなんぼ!」

憩「いやいや、自分ら計算できなさ過ぎやろ。あのモードの龍門渕さんから直撃を取るなんて、そんな無理難題に挑もうとするドアホが――」

     絹恵『…………』

智葉「いたな」

穏乃「これは――」

エイスリン「ツモッテル、ノニ、ツモラナイ?」

塞「テンパったときに即リーしなかったからまさかとは思ってたけど……」

菫「仕掛けていくか、愛宕絹恵」

照「人は予想を超えてくる……」

憩「ふん……ま、それならそれでええですよ。超えられるのは予想だけ。ナンバーの壁は超えさせません。自分かてそうですよね、ナンバー1」

照「うん。それは、そうだね……」

 ――対局室

 南四局一本場・親:透華

絹恵(ほんで……ツモったんはええけど)

 絹恵手牌:222345二三四⑦⑦⑦⑧ ツモ:⑨ ドラ:⑥

絹恵(ぱっとせーへんなぁ。よりにもよって一番安いとこ。ツモのみゴミ手。透華のラス親を流せるんならそれでもええか?
 なんて……アホ言うたらあかんよな。なんのためにリーチも掛けんと待っとったかわからへんやん)

絹恵(考えることをやめたらホンマの凡人――末原先輩の名言の一つや。まあ、あの人が凡人かどうかはこの際置いておこか。
 まだまだ……ちょっと支配を崩せたくらいで、うちは思考を止めたりせーへんで。ツモはできてん。ほな、あとは直撃かまさへんとあかんやろ)

絹恵(透華の支配下ではほぼほぼどこを切っても誰も鳴けへん。せやけど、過去の配譜を思い出してみたら、一箇所だけ、その例外となりうるポイントがあった。それが――和了り牌や)

絹恵(全部が全部そうやないけど、透華がツモったとき、その和了り牌を切っとれば、誰かが鳴けるっちゅーパターンは、確かにあった。
 ほな、うちがツモったこの和了り牌。この九筒も……見逃して河に流せば、誰かが拾えるんとちゃう? この場には、そういうのを得意にしとる釣り人さんもおることやし……)

誠子(ん、絹恵の手が止まってる……?)

絹恵(なあ、誠子――信じてええかな? うちらは『目立ってなんぼ!』がモットーの《福笑》メンバー。自分かて、ここは透華に一発かまして目立ちたいって思っとるやろ?)

絹恵(誠子……いくら《治水》で鳴きができひんからって、自分は《フィッシャー》の名までは捨ててへんはずやんな。
 ほな、一緒に釣ったろーや! 静かに澄ました河の主――こんな大物滅多に出会えへんでッ!!)タンッ

誠子(こ、これは――!! 絹恵、これは……そういうことなのか!?)

絹恵(そういうことや! しくじったらシバくで、白糸台の《フィッシャー》――亦野誠子っ!!)

誠子(了解……任せろッ!!)

誠子「ポンッ!!」ゴッ

 誠子手牌:111一一三四⑥⑥⑥/⑨(⑨)⑨ 捨て:⑧ ドラ:⑥

友香(でっ……何が――?)

絹恵(この席順には色々と感謝せなあかんな。うちと誠子が対面。ほんでもって、誠子は透華の下家や。手牌が似通うから、うちと誠子が協力プレイしやすい上に、誠子に鳴かせれば透華のツモを飛ばせる。ほんでもって――)ツモッ

 絹恵手牌:222345二三四⑦⑦⑦⑧ ツモ:一 ドラ:⑥

絹恵(誠子がうちの捨て牌を鳴けば、うちんとこには誠子のツモが回ってくる。で、透華の《治水》の傾向として、対子は刻子になりやすい。
 ほな、この誠子がツモるはずやった一萬――うちの手には一枚たりとも入ってこーへんかったこれは……どう考えても誠子の鳴ける牌やろ!!)タンッ

誠子「それも……ポンだッ!!」ゴゴッ

 誠子手牌:111四⑥⑥⑥/一(一)一/⑨(⑨)⑨ 捨て:三 ドラ:⑥

友香(なんでー、これ……対面同士で……牌をパスし合ってる……? 対面……同士――)ハッ

絹恵(とっとっとー……なんや、透華。ツモれなくて焦ったん? これ以上河を乱されるのは嫌なん……? こーんな餌をぶら下げてくるなんてなー)

 絹恵手牌:222345二三四⑦⑦⑦⑧ ツモ:⑥ ドラ:⑥

絹恵(断ヤオドラ一ツモ。1000・2000。なるほどな。さっきの九筒よりは気が利いとる贈り物や。自分の創った理想の世界――支配を崩されるくらいなら、何もかも終わらしてまえっちゅー感じやろか)

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵(せやけど、残念、お生憎……! 見くびらんといてや!! 誰がこんな安い餌に釣られるか――!! まだまだ……よう見とけ! 面白いのはこれからやでッ!!)タンッ

誠子「それ――カンッ!!」ゴゴゴッ

 誠子手牌:111四/⑥⑥(⑥)⑥/一(一)一/⑨(⑨)⑨ 嶺上ツモ:? ドラ:⑥・?

友香(そうか……そういうことだったんでー……!!)

誠子(これで三副露……もちろん、レベル3の私じゃ、《発動条件》を満たしても、《未開地帯》を《上書き》することなんてできないし、透華の支配下で和了り牌をツモってくるのもかなりキツいと思う。けど――!!)

絹恵(透華の《治水》は、他の全体効果系能力がそうであるように、王牌が支配領域《テリトリー》に含まれてへん。ほな、誠子が手に入れた嶺上牌は、透華の支配下にない牌ってことになる。
 つまり、いくら透華がランクA強でレベル4や言うたかて、その嶺上牌が『何か』までは、わからへんっちゅーことや……!!)

誠子(嶺上牌で単騎待ち。透華から直撃を取ろうと思ったら、このやり方しかない。もちろん、ベタオリされたらそれまでだけど。でも、今の透華は、私に対してベタオリすることができない。なぜなら――)

絹恵(対面同士のうちと誠子の手牌は似通う。せやけど、上家・下家の関係にある誠子と透華の手牌には、一切被りがあらへん。当然、透華の手牌には、誠子に対する現物が一枚もあらへんはずや)

誠子(加えて、カンが発生しないようになっているこの場では、四枚全て見えている牌が、一種類も存在しない。
 少なくとも現段階では、私が大明槓した六筒以外、どの牌も三枚までしか見えないようになっているはず。デジタル論の思考でも、私の単騎待ちを読み切ることは不可能)

絹恵(現物もない。壁もない。完全なる運任せ。どの牌も平等に振り込む可能性がある。まあ、古典確率論的に言えば、透華が振り込む確率はかなり低いと思うけどな。せやけど……それは決してゼロにはならへん!)

誠子(っていうか、ここで透華にツモられたら全部パーなんだけどね。それは絹恵もわかってる。
 けど……それでも、私たちは、透華に歯向かうことを選んだ。そうじゃなきゃ一流の雀士じゃないから。そうだよね、透華。だって、私たち《福笑》のモットーは――)

絹恵(これがうちらの精一杯……しっかり堪能したってな! 魔物は確かにどえらいで! 強い、すごい、半端ない!!
 やからこそ……うちら地味っ子はそれを全力でブッ倒さなあかんねん!! やって、私たち《福笑》のモットーは――)

誠子・絹恵(目立ってなんぼ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(龍門渕先輩の手が止まった……!? ツモ和了りじゃないんだ。捨て牌に迷ってる? 振り込むことを恐れてる? あれ、でも、東場の親で愛宕さんにツモられたときは、ぴくりとも動揺してなかったのに――)

透華(……絹恵、誠子……)フッ

絹恵・誠子(透華……? え、今、笑――)

透華(強く……なりましたわね……)タンッ

誠子「ロ――ロンッ! 対々ドラ四、12300!!」ゴッ

『次鋒戦終了ーッ!! 《逢天》龍門渕透華! 先鋒戦のリードをさらに広げる目覚しい活躍を見せました!! 追いすがるのは《新約》と《幻奏》!! 最下位の《煌星》は苦しい点数状況が続いております……!!』

透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 一位:龍門渕透華・+16000(逢天・142900)

絹恵(……気のせい、やったんやろか。《治水》モードのときは、表情も雰囲気もずっと冷たいままやったはずなんやけど……今、一瞬だけ、いつもの透華がおったような……)

 三位:愛宕絹恵・+4000(新約・112500)

誠子(もし気のせいじゃないとすると……透華が神代さんみたいに魔物を飼い慣らす可能性が出てきた、ってこと? まあ……けど、そうなったらそうなったで、またどうにかするしかない――か)

 二位:亦野誠子・+4700(幻奏・108000)

友香(《治水》の本質――《牌の流れを司る》――もっと早くに気付いていれば、こんなに失点することはなかったかもしれない。私以外の四人なら、もっとちゃんと対応できてたかもしれない。私……私――)ウルウル

 四位:森垣友香・-24700(煌星・36600)

咲「友香お姉さま……泣かないで大丈夫だよ」ギュ

友香「え……? さ、咲――」

咲「えへへ、来ちゃった」

友香「一人で? どうやって……」

桃子「私もいるっす」ユラッ

友香「桃子……」

桃子「きらめ先輩は、気にしなくていいって言ってたっす。でー子さんが頑張ってたのは、見ていて十分伝わってきたっす。だから、笑って戻ってくださいっす」

咲「っていうか、友香ちゃん、龍門渕さんの能力を破れなくて、自分のことダメだとか思ってない?」

友香「うっ……」

咲「あのね、友香ちゃん。そんなことは、全然ないからね。淡ちゃんなんか、『さっぱりだ!』とか『これはわからん!』って言ってばっかりだったよ。
 あの煌さんでさえ、モニター越しに見てても、龍門渕さんの能力を捉えるのに数局かかってた。私も、この場にいたら、まずカンができないって時点でパニックになってたと思う」

桃子「私も、《ステルス》で空気になったまま終わってた気がするっす。だから、落ち込まないでくださいっす。でー子さんは間違ってない。超新星さんがそうだったように、最善を尽くした結果なら、ちゃんと胸を張るべきっす」

友香「……ありがとうでー……二人とも……」ポロポロ

咲「じゃ……桃子ちゃん。あとはお願いね。トびさえしなければ、副将戦で私が全部ゴッ倒すから、気楽に打って」

桃子「いえいえ、《魔王》様の手を煩わせたりはしないっす。私でひっくり返してやるっすよ。
 二回戦のときも三回戦のときも、私は敵チームのエースと戦ってるっす。三回戦なんかそれでトップ取ってるっす。私はこう見えて、持ってる女っすよ!」ドーン

咲「え、なにそれ嫌味?」ペターン

友香「ぷっ……あははっ……」

咲「ちょ、なにがおかしいの、友香ちゃん!?」

友香「ご、ごめ……いや、他意はないんでー。くくくっ……」

咲「失礼しちゃうなー」

桃子「ま、とにかく、やるだけやるっす」

友香「……頑張って、桃子。あとは任せたんでー」

桃子「お任せっす。じゃ、でー子さん。嶺上さんのこと、お願いするっすね」

咲「あれ? そこは『嶺上さん、でー子さんをお願いするっす』じゃないの?」

友香「《魔王》様、ご安心ください。私がしっかり控え室までご案内いたしますんでー」

咲「んー、どうせなら、ここは《魔王》より妹扱いのほうがいいかな。ねっ、友香お姉さま!」

友香「うん……わかった。ちゃんと私の手を握って、離さないでね、咲――」ギュ

咲「じゃっ、桃子ちゃん! またあとで!!」

友香「応援してるんでー!!」

桃子「あいあいさっす!!」

 タッタッタッ パタンッ

桃子(つあー……かつてない緊張が襲ってくるっすね。《幻奏》と《新約》の要。それに、六曜説を信じるなら、あと二つ能力を隠し持ってるらしい《最大》の大能力者……)

桃子(……それでも、やるしかない。団体戦の折り返し。私が踏ん張れなければ、試合がここで終わる可能性もあるっす)

桃子(超新星さんにも、でー子さんにも、『任せろ』って、私は言ったっす。その言葉を嘘にしたくない。必ず勝って帰る。たとえ、どんなことが起こっても――)

桃子(さあ、行くっすよ……! 三年生が三人いるからどうしたっすか! 私はスター揃いの《煌星》でも異彩の《ステルスモモ》――誰であろうと決して私を見つけることはできない……!!)

桃子(独壇場してやるっす!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――

 ――――

怜「おっつー、絹恵。最後はなかなか無茶したなー?」

絹恵「ドラが来たときはツモったほうがええかなって思ったんですけどね。一位との差を詰めといたほうが、姫子が楽かなと思いまして」

怜「花田さんも恐いし、神代さんも恐いし、ネリーさんもめちゃ恐いからな。大将戦は間違いなく荒れるで」

絹恵「うちが一位との差を詰めとけば、怜さんと和で、《逢天》をブチ抜けますよね? 《煌星》のトビ終了も視野に入れて打ったほうがええと思います。いっそ、ここで試合終わらせてください、怜さん」

怜「期待が重いで~」

絹恵「わりとマジで言ってます。東横さんが見えとるうちに、狙いまくってトばしてください」

怜「セーラ相手に二位キープしつつ最下位チーム狙いかぁ。かなり難易度高いな、それ」

絹恵「怜さんならできると思ってますよ」

怜「まっ、なるべく頑張るわ! このエトペンに誓ってな!」ドーン

絹恵「よろしくお願いします」ペッコリン

怜「おおっ! ほな、行ってくるで――!!」ゴッ

 ――――

セーラ「お疲れ様。ええ感じやったやん、誠子」

誠子「いえいえ、最後に絹恵がアシストしてくれなければ、またマイナス収支になるところでしたよ。
 もっと、優希みたいに突破力があって、江口先輩みたいに得点力があって、小走先輩みたいに対応力のある雀士になりたいです。で……いつかは十割ネリーさんに張り合ってみたいですね」

セーラ「一歩一歩、やんな。近付いてはいると思うで」

誠子「ありがとうございます」

セーラ「ほな、俺も誠子を見習って頑張ってくるかー!」

誠子「私に何か見習うところなんてありますかね……?」

セーラ「ぎょーさんあるで。なんやかんやで、自分はちゃんと仕事をしとるんよ。《福笑》のときも《虎姫》のときも、もちろん今もな。
 俺は《連皇》でも《千里山》でも、点取り屋っちゅー扱いやったけど、チームを優勝に導けたことは、過去一度もない。そやから、元一軍《レギュラー》の誠子に負けへんよう、頑張んねん!」

誠子「勿体無いお言葉です。けど、どんな形であれ、江口先輩の力になれるのなら、こんなに嬉しいことはありません」

セーラ「ほな、誠子。少し気合を入れたいねん。よかったら、手、出してーな」スッ

誠子「えっと、こうですか――」スッ

セーラ「せ、や、でッ!」ブンッ

 パァァァァン

誠子「これはなかなか……えっと、《千里山》流ですか?」ビリビリ

セーラ「我流やでー。これ、俺は好きやねんけど、手の皮薄いやつとはできひんねん。フナQとか竜華は痛がるからな。
 せやけど、釣りで鍛えた誠子の手なら大丈夫。っしゃー、緊張ほぐれたわー!!」

誠子「それは重畳です」ニコッ

セーラ「ほな、ホンマありがと! ちょっくら勝ってくるわッ!!」ゴッ

 ――――

豊音「やっほー、トーカー!! ちょーお疲れーっ!!」ブンブン

透華「本当に疲れましたわ……」フゥ

豊音「最後のほうは、意識があったっぽかったねー?」

透華「そうですわね。《制約》からは逃れられる気がしませんけれど……もう少し訓練を積めば、能力のオンオフくらいは自分の意思でできそうな気がしますわ」

豊音「ちょー楽しみっ!」

透華「ま、納得いかない点も多々ありますけれどね。それはそれ、これはこれですわ。一年経て……わたくしも、ようやく前に進めた気がしますの」

豊音「じゃあ、進んだついでに《頂点》まで行っちゃおうかー?」

透華「元よりそのつもりでしてよ」

豊音「あはっ。なら、私も頑張らないと! おかげ様でかつてない好条件で戦えるしねっ!!」

透華「他の追随を許すなですわ。突き放してらっしゃい、豊音!!」

豊音「おっけーっ! ちょー暴れてくるよー!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――特別観戦室

菫「折り返しの中堅戦だな」

智葉「デジタル園城寺とかいう愉快な生き物がいるらしいが、どれほどのものか」

穏乃「智葉さんでも苦戦すると思いますよ?」

塞「豊音の出方次第では状況も変わってくるんじゃないかしら。江口は非能力者、園城寺は感知系、東横は感応系。
 三人とも、基本的には牌を《上書き》できない。一方で、豊音は《最大》の大能力者なわけだから」

憩「さっきの龍門渕さんみたいなことされると、相性によっては園城寺さんも凹むかもですね」

まこ「《煌星》のトビが濃厚になってくると、能力の相性だけじゃのうて利害も複雑になってくるじゃろうな」

純「《逢天》も言うほど安全圏にはいねえしな」

エイスリン「ヨメネー!」

衣「なに、多少追いつかれたところで、こまきまで回してしまえば、《逢天》が抜けてくるに決まっている」

照「…………」

塞「ん? 宮永、どうしたの、さっきから難しい顔して」

照「実は、一つ、どうしても気になることがあって」

菫「ふむ……それは、何か、試合の展開を左右するようなことか?」

照「いや、試合より、もっと大事なこと」

智葉「ほう?」

照「さっき、《流星群》の森垣さんが咲に『お姉さま』って呼ばれていた気がするんだけど、誰か何か知らない……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫「みんな、照が何か言っているが、無視して偵察に集中してくれ」

塞「荒川、悪いんだけどさァ、ちょっとここに病院持ってきてよ」

憩「すんまへん。ウチの勤めとるとこ、肉体改造がメインなんで、心のほうは別んとこお願いします」

智葉「私は三年間もこんなやつの後塵を拝し続けているというのか……」

照「森垣友香……咲と手を取り合って対局室を出ていった……何がどうなっている……一刻も早く《照魔鏡》で見破らなくては……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――対局室

怜「よろしゅー」

 東家:園城寺怜(新約・112500)

セーラ「よろしくなー」

 南家:江口セーラ(幻奏・108000)

豊音「よろしくだよー」

 西家:姉帯豊音(逢天・142900)

桃子「よろしくっす……」

 北家:東横桃子(煌星・36600)

『中堅戦前半、開始です!!』

ご覧いただきありがとうございました。

また近いうちに。

では、失礼しました。

ご覧いただきありがとうございます。新スレ立てました。

【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!!」
【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412589488/)

本日の更新は、新スレではなく当スレで行います。埋まった場合は新スレに移行します。

 東一局・親:怜

豊音(園城寺さんは、あのシロが正面からぶつかるのを避けるほどの打ち手。江口さんはそもそも格上の《一桁ナンバー》。三回戦ではサエをボッコボコにしてたね。東横さんだって、能力の相性があったとは言え、事実、エイスリン相手にトップを取ってた。
 ちょー強敵揃い……けど、今日は誰が相手でも負けられないよー)タンッ

桃子(ひとまずはデジタルで対抗するしかないっす。前半戦は未来視さんの上家に座った。消えられれば、未来視さんのチーを封じることができるっす。それが私にとってプラスに働くかマイナスに働くかはなんとも言えないっすけど)タンッ

怜(さてさて。絹恵には《煌星》をトばせーなんて言われとるけど、そう簡単にできるんかな?
 そら、うちは狙って出和了りするのはまあまあ得意やけど、《シャープシューター》とは違うて、狙う相手は手牌次第。ベースは無能力者やから、そんなに都合よくは打てへんで)

怜(ま、狙えるときに狙うっちゅーんは、正しいと思うけどな。東横さんは途中から見えなくなるわけやし。
 能力の効果的に、うちが振り込むことはまずないけど、あっちもそれは同じ。できることなら、今のうちに削っておきたいやんな)

怜(まあ、けど、東横さんを削るんは、とりあえず、頭の隅に置いとくか。《煌星》をトばして勝てるチャンスが来たんなら、そらもちろん、やったるわ。
 ただ……そんなことより何より、この点差でセーラ相手に二位キープしろっちゅーのが、まず無理難題やねん。12000を一回和了られるだけで三位転落。しんどいでー)

怜(あ、ほら、言うとるそばから――)

    ――ツモ、3000・6000やー!

怜(誰か鳴いてくれへんかなー)タンッ

セーラ「ツモ、3000・6000やー!」パラララ

怜「デジャヴ来たわー」

セーラ「あははっ、未来見えるやつが既視感て! それオモロいな、怜!!」

怜「オモロないわー。なんでそんなバンバンハネ満とか和了れんねん。引き良過ぎやろ」

セーラ「別に、これくらい古典確率論的にいくらでもあることやろ」

怜「いやいや。さすがセーラや」

セーラ「ふふんっ、怜、ちょっとはやるようになったみたいやけど、そんな楽には突破させへんで、《一桁ナンバー》の壁は分厚いからな!」

怜「厚さなんて関係あらへん。突破するつもりもないで」

セーラ「その心は?」

怜「今のうちには翼がある。まだ小さいけど、真っ白な守護天使《ゴールキーパー》の翼がな!」キラーン

セーラ「ほほーぅ、翼と来たかー!」

怜「せや。っちゅーわけで、飛び越えさせてもらうわ、その壁。悪いけど、今はうち、なんにも阻まれるつもりないで!」

セーラ「言うたなー!? ほな、勝負やで、怜!」

怜「おうっ、望むところ!!」

豊音(ちょー盛り上がってるねー?)

桃子(本音を言うと、うるさいっすそこ二人!)

セーラ「ほな、俺の親番やなー」コロコロ

怜:106500 セーラ:120000 豊音:139900 桃子:33600

 東二局・親:セーラ

セーラ(開始早々とりあえず和了れたからええけど、いつも以上に一つ一つ大事にせんと。
 未来見てズラしてくる怜、そのうち消えてまう東横、それに追っかけてくる姉帯。リーチはおろか、ツモも出和了りもままならん能力者に囲まれてもーたからなー)タンッ

豊音(攻めたい気持ちはあるけど、点差あるし、もう少し園城寺さんの感じを掴んでおきたいんだよねー。辻垣内さん並みにヤバいとなると、三回戦の二の舞になっちゃうし)タンッ

桃子(私はおっぱいさんとは互角に戦えるっす。その弟子(?)である未来視さん相手でも、食い下がることはできるはず。だからこそ今日は中堅なわけで。
 きらめ先輩からは、《ステルス》発動までは守備重視って言われてる。慎重にいくっすよ……)タンッ

怜(警戒されとる感じがひしひしやわー。ま、別に関係あらへんけど。警戒の有無で牌効率が変わるわけでもなし。うちはひたすら理論といちゃいちゃトークやでー)タンッ

セーラ(手出しの三筒――んー……?)

 怜捨牌:西發一四⑧31③

セーラ(ほな、このドラの二筒は――)

 セーラ手牌:二二三三四四⑦⑦⑦⑧東東東 ツモ:② ドラ:②

セーラ(ちょっと保留や)タンッ

 セーラ手牌:二二三三四四②⑦⑦⑦東東東 捨て:⑧ ドラ:②

怜(お? そんなにあることやないけど、やっぱダマでも未来変えると見えてたんと微妙に違うなるな。
 まあ、うちの捨て牌が本来のルートと変わるわけやから、そら相手かて読み取れる情報が変わって、手の進みも変わるやろけど。
 この辺りの嗅覚は、さすが後門の《狼士》ことセーラなんかな。せやけど、まあ……みんながみんなそやない。
 経験上、未来でツモ切りしとった人は、うちがリーチ掛けへん限り、多少未来を変えても高確率でツモ切りしてくる)

豊音「」タンッ

怜「それや、ロン。5200」パラララ

豊音「わっ!」

セーラ(おーぅ、未来見える人は恐いで~)

 怜手牌:22567五六七②②④⑤⑥ ロン:2 ドラ:②

 怜捨牌:西發一四⑧31③

豊音(二筒がドラってことを考慮に入れても、その手で三筒切りは少し不自然。私のツモ切りが見えてて、狙われたって感じかなー?)

 豊音手牌:一二三四五六七八九西西南南 捨て:2 ドラ:②

セーラ(まあ、姉帯も俺も、未来変える前はツモ切りやったんやろな。未来変えたらこっちの動きも変わるけど、怜がダマのままやったら、ツモ切りを思い止まるんはかなり難しい。
 俺はたまたまテンパイ維持できたからええけど、姉帯はきっと萬子染めや。普通にツッパるやろ、それは)

セーラ(まあ、こういう不自然な直撃狙いは、去年の頃からしとった。せやけど、去年とまったく同じかっちゅーと、それもちゃう)

セーラ(今の怜は和了率より期待値を優先しとる。直撃を取れる未来が見えたとしても、高め12000を安め5200まで落としてしまうんは勿体ない。
 しかも、未来を変えとるはずやから、俺が回避できたみたいに、出和了りは《絶対》やないわけやし。
 っちゅーことは、よほどの確信を持って、高め12000を見限ったってことや。七筒は場に一枚しか見えてへん。まだまだ高めをツモれる可能性はありそうや。やのに、怜は直撃狙いに切り替えた。
 それ、つまり、高めは俺に抱えられとるんを、なんとなく見抜いたってことやんな……)

 怜手牌:22567五六七②②④⑤⑥ ロン:2 ドラ:②

 怜捨牌:西發一四⑧31③

 セーラ手牌:二二三三四四②⑦⑦⑦東東東 ドラ:②

 セーラ捨牌:九一④中①64發⑧

セーラ(その読みの技術は、未来視とは関係あらへん。この序盤でどこまで見えてたんか知らんけど、ホンマにそんなことができるとしたら、洋榎や福路クラスの千里眼やで。それだけでもう俺を超えとるやん)

怜「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(いやいやいや、オモロいわ。まさに強敵や。相手にとって不足なしっちゅーか、逆に、怜の相手として、俺は役者不足かもしれへん。それくらいヤバいな、今の怜は)

セーラ(ええで……それがわかっただけでも十分。無傷で親番流せたと思えば、儲けもんや。なんや、春季大会《スプリング》とは立場が入れ替わってもーたなー。ま、楽しいことに変わりはあらへんから、ええけどな!)

豊音(うーん……よくよく見ると、江口さんの八筒切りもなーんか怪しいなー。園城寺さんの変化を読み取って現物で様子見たって感じがするよー。
 私からは江口さんがどんな手になってるかわからないけど、辻垣内さんと清水谷さんがそうだったように、この二人も異次元レベルの駆け引きをしてるっぽいねー)

豊音(清水谷さん、江口さん、園城寺さん……三人とも《六道》。大能力者を持たない上位ナンバー。大能力を持つ上位ナンバーである《十最》とは、ちょうどその数字の比だけ個人の力量に差があるとか。
 《最大》である私は十分の一で、《我道》と《求道》の二人は、それぞれ六分の一。一人当たり、私より、三分の五倍強いことになる。清水谷さんと打ったときは、実際、それくらいの力の差を感じた)

豊音(ならば、どうするべきか。《我道》を駆ける非能力者と、《求道》を止めぬ元無能力者。江口さんと園城寺さんは、私のなんちゃってデジタルで勝てる相手じゃない。うん。まあ、答えは一つだよね)

豊音(能力《オカルト》で押し切る――ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(ととと、親番になった途端これか。遠野の地からやってきた、学園都市で《最大》の能力数を誇るレベル4の多才能力者《マルチスキル》――姉帯豊音……!)

怜(様子見はおしまいってことやんな。さらば、デジタル場。カモン、能力戦。いや……せやけど、うち《上書き》とかできひんからなー。清水谷さんみたいに上手くいなせればええんやけど)

豊音(惜しみも渋りもしないよー。今日は本当の全力全開。大能力者の誇りに懸けて、負けるわけにはいかないんだよねー……!!)

怜:111700 セーラ:120000 豊音:134700 桃子:33600

 東三局・親:豊音

豊音(園城寺さんがかなりヤバいっぽいことは、大体わかった。大雑把に、園城寺さんが辻垣内さんと互角で、同じ《西方四獣》の江口さんと清水谷さんが互角、
 でもって、東横さんと森垣さんも互角くらいだと見積もると、難易度は三回戦のときとほぼ同等。単純計算すると、また負けちゃうよー)

豊音(だからこそ、打てる先手はできる限り打つ。辻垣内さんと清水谷さんは後の先を取るのがやたらめったら上手かったけど、江口さんと園城寺さんは、どちらかっていうと先に仕掛けてくるタイプ。
 特にベースが無能力者の園城寺さんに対しては、能力を使って出端を挫くのが、きっと効果的。というわけで、張ったよ……!!)

 豊音手牌:二三四六123④⑥⑦⑦⑦⑧ ツモ:[五] ドラ:一

豊音(めちゃめちゃ普通の手の出来上がり! クロとトーカのおかげで点差がある分、スピード重視で手作りできる。これはとっても助かるんだよー)

豊音「追っかけてみー……リーチッ!」ゴッ

 豊音手牌:二三四[五]六123⑥⑦⑦⑦⑧ 捨て:④ ドラ:一

怜(出た出た。姉帯さんの追っかけてみーリーチ。追っかけると死ぬやつやんな。いや、追っかけられへんけど……)

 怜手牌:一一六六①②③④⑥⑥678 ツモ:七 ドラ:一

怜(六萬切っても振り込まへん。ほな、ドラあるし、普通に六萬切ってテンパイ目指したい。ツモ平和三色ドラドラくらいまでは見れる手や。
 せやけど……姉帯さんの追っかけてみーリーチは、三回戦での辻垣内さんの打ち回しを見るに、他家全員の《リーチを封じる》広域封殺系能力。
 門前ではテンパイに辿りつけへんし、テンパイしとったやつは和了り牌掴まされるっちゅー、要するにさっきの龍門渕さんと近い感じの力や。
 となると、ベースが無能力者で《上書き》ができひんうちは、和了りに向かうには鳴くしかあらへん。んー……かといって、ドラ切って断ヤオのみはもったないしな。とりあえず三色目指そかー)タンッ

 怜手牌:一一六七①②③④⑥⑥678 捨て:六 ドラ:一

豊音(園城寺さんはベースが無能力者。だから、まだテンパイしてない状態で私の《先勝》を喰らうと、その効果をまともに受けることになる。
 どんなに未来が見えようと、《先勝》が発動している以上、門前で手を進めることは不可能になるってこと)

豊音(園城寺さんが『見た牌』を《上書き》することはできないけど、園城寺さんが『まだ見てない牌』は、好きなだけ《上書き》できる。
 その場合、園城寺さんは、私が《上書き》した牌を、見ることになるんだよねー)

怜「チー」タンッ

豊音(ま、もちろん、鳴かれちゃったらそれまでなんだけど。私の《先勝》の封殺効果は門前が対象。それを無自覚に破ってきたのがトーカで、一瞬で看破対応してきたのが辻垣内さん。
 私だってバカじゃないもん。ちゃんと経験くらい活かせる。この三面張なら、古典確率論的に、遠からず普通に和了れる。《先勝》は、あくまでオマケで発動してるようなもんなんだよー)ツモッ

豊音「ツモ、2600オール」パラララ

怜(普通の平和にしてきたかぁ。能力バトルというよりは、普通のデジタル勝負で競り負けたっちゅー感じやな。
 ただ、うちが未来見れるアビリティあるんと同じで、姉帯さんは先制リーチするだけで追っかけを封じる追加効果を発動できる。
 そら、有利なんは先手を打ったほうやんな。うちやセーラや、もちろん東横さんにも、この大能力そのものをどうにかすることはできひんわけやから)

豊音「一本場だよー!」ゴッ

怜:109100 セーラ:117400 豊音:142500 桃子:31000

 東三局一本場・親:豊音

怜(姉帯さんに先制リーチ掛けられると、門前で手が進まなくなる。先制リーチを掛けると、追っかけで《背向》される。ほな、門前勝負なんかせんと、鳴けばええやん――ってなるんやけど……)

怜「ポン」

セーラ(發――役牌ねぇ……)タンッ

豊音「こっちもポン!」ゴッ

セーラ(あはっ、ダブ東鳴かせてもーた)

怜(セーラあああ! 少しは牌を絞ってーなー!!)

セーラ(ま、これで心置きなくテンパイ即リーできるわ!)

怜(あーもー自分で和了る気マンマンかいな。いや、まあ、うちかてできるならそうしたいけど……いかんせん姉帯さんがなぁ。って、こっちやと鳴かれてまうんか。ほな、こっち――)タンッ

豊音(江口さんはともかくとして、園城寺さんは私に鳴かせないようにすることができる。《友引》の使いどころは難しい。
 けど、親でこの手なら鳴いて連荘したほうがいい。私が鳴けば、江口さんはリーチ狙いでがんがんツッパってくるはず。その捨て牌を……)

セーラ(んー、ここも危ないやろか?)タンッ

豊音「(拾う!)チー!!」ゴゴッ

セーラ(まだまだ……裸単騎の《友引》やったら、二副露は安全。条件発動型の能力っちゅーんは押し引き判断がしやすくて助かるわー)

豊音(躊躇いなく押してくるねー? でも、今のところは私に分があるよ。だって、江口さんはツッパってきてて、その上――)

桃子「」タンッ

豊音「ポンだよー!!」ゴゴゴッ

怜(おっと――そういうことか)

豊音(未来を見て牌を絞ってくる園城寺さんと、捨て牌が消える東横さん。この二人を相手に、いつ《友引》するの! まだ東横さんが見えている――今でしょ!!)

怜(あかんな。間に合わへん)

豊音「チー!!」ゴゴゴゴッ

セーラ(と、一足遅かったか)

豊音「ぼっちじゃないよー」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

怜「(喰らえ、悪足掻きや)チー!!」タンッ

セーラ(どーやろなー。そこはなんといっても《最大》の大能力者。ズラされたくらいで支配領域《テリトリー》が揺らぐような、半端な強度やないはずや)タンッ

怜(わかっとるけど、お約束。できる限りの手は尽くす。それでもダメなら、覚悟する――)パタッ

豊音「お友達が来たよー、ツモッ! 2000は2100オール!!」

セーラ・怜(ま、せやろな~)

豊音「こんなもんじゃないよー……二本場ッ!!」ゴッ

怜:107000 セーラ:115300 豊音:148800 桃子:28900

 東三局二本場・親:豊音

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(攻撃に転じただけでこの暴れっぷり。これが《最大》の本領っちゅーわけやんな。古典オカルトの《六曜》をモチーフにした六つの力を持っとるらしいって、やえは言っとったっけ)

セーラ(初美や竹井みたいな条件発動型は、半荘一回にそう何度も能力を使えるわけやない。初美は北家のときだけやし、竹井やって、ちょいちょい普通の良形で待つ。
 同じことは、《マヨヒガ》の小瀬川、《シャープシューター》の弘世にも言える。この四人は、基本、あっ能力来るなー思たときに、それなりの対応をすればええ。
 大抵は止められへんけど、一度でも止めることができれば、大分こっちが有利になる)

セーラ(戦いにくいんは、どう考えても条件発動型より常時発動型のほう。藤原と松実は、平均打点こそ初美とかには劣るけど、それかてやり方次第っちゅーんは、本人たちが実証済みや。
 ツモの偏りに見合った柔軟な打ち回し――それが、対局中ずっと続く。こいつらを大きく凹ませるのは簡単やない。勝つか負けるかで言うたら十分勝てるけど、負かすことはできひん。それが常時発動型や)

セーラ(あとはウィッシュアートや石戸みたいな全体効果系やけど、こいつらの相手するんはなー、正直、かなりしんどい。こっちの手牌まで干渉されるんは、レベル0にとっては常に首絞められとるんと一緒や。かなり無茶せーへんと、勝てへん。
 せやけど、その分、支配を崩したときのリターンが大きくなる。硬くて脆いって言えばええんかな。全体効果系能力者は、自らの支配や場のルールを自ら崩すことができひん。それゆえの融通の利かなさ――それがあいつらの弱点や。
 ウィッシュアートは自分で描いた和了り以外の形ではまず和了れへんし、石戸は一色支配を自分の意思では止められへん。そこに、何かしらの突破口がある。ま、要するに、頑張ればええねん。頑張れば)

セーラ(そこで行くと、姉帯の《六曜》っちゅーんは、オモロいねんな。今まで見せた力はほとんどが条件発動型の能力……一点突破で強度重視の、使いどころを選ぶ力や。
 せやけど、姉帯の場合は、選択肢が一つやない。使いどころを選ぶクセのある能力を、状況や場面に合わせて、使い分けることができる)

セーラ(《先負》も《先勝》も《友引》も、それそのものは、言うほど脅威やない。注意すべきポイントははっきりしとるし、食い止める方法やっていくらでも思いつく。
 やけど、こいつは、それ使うなら今ここやろ、っちゅーとこで能力戦を仕掛けてくる)

セーラ(配牌が良ければ、先制リーチを掛けて他家を封殺する。配牌がさほど良くなければ、鳴いて仕掛けて裸単騎で和了ればええ。
 相手が勇み足で先制リーチしてこようもんなら、それこそ待ってました。《背向》でぶっ潰してまえばええねん。
 《煌星》の森垣みたいな、リーチが《発動条件》の能力者を相手にするときなんか、同卓しとるだけでプレッシャー掛けられるしな)

セーラ(時々によって能力を切り替えることで、姉帯は、条件発動型の能力者でありながら、常時発動型のように毎局能力を使うことができる。突破力と柔軟性――両者のええとこ取りができるっちゅーわけやんな)

セーラ(ほんで……この局ではどんな仕掛けをしてくるんやろか――)

豊音「チー!」タンッ

 豊音手牌:**********/(6)78 捨て:二 ドラ:八

セーラ(ほーん……中盤に入ってから、この鳴き。裸単騎の《友引》とは雰囲気がちゃうな。怪しいにもほどがあるで。
 俺は前巡に九索を切っとる。そこから姉帯は手替わりしてへん。九索スルーで六索鳴きっちゅーことは、役牌隠し持っとるわけでも、染めとるわけでもあらへん……と考えてええやろ。食いタンあたりを張った――と見るべきやんな)

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(《全ての赤ドラを引き寄せる》配牌干渉系能力――《赤口》やっけ。なるほどなー、仕込みはもう終わってたんか。ほな、せっかくええとこ引けたのに、残念やけどこの手はバブル崩壊。泡沫の夢や)

 セーラ手牌:三五⑤⑥⑦⑧⑧234567 ツモ:六 ドラ:八

セーラ(姉帯は鳴いたわけやから、追っかけはされない。点差的にはリーチ掛けたい手やけども……うん、さすがに無理や)タンッ

豊音(江口さん、オリたのかな? ま、ツモればいいんだけどねーっ!)

豊音「ツモ、4200オールッ!!」パラララ

 豊音手牌:[⑤][⑤]二三四四[五][5]67/(6)78 ツモ:六 ドラ:八

セーラ(千変万化にして変幻無限の多才能力者《マルチスキル》。学園都市にただ一人、全系統の能力を使いこなすレベル4。《最大》は《在大》――その打ち筋、大いに自在ッ! ってやえが言うてたな~)

怜(おっふ、ズラせへんかったか。いや、赤ドラで四飜確定やのに親満程度に収まってよかった、と見るべきやろか。
 赤ドラ抱えられるんは、こっちの火力下がるし、真ん中持っていかれるし、ちょっとキツいな。あと、何より、いつどこでコレが来るか――それがわからへんのが、しんどいで)

セーラ(この《赤口》とか言う能力の厄介なんは、赤ドラの位置が特定できひん間は、見ようによっては《友引》に見えることもあるし、門前のまま進まれると《先負》・《先勝》と区別がつかへんことやんな。
 仮に門前でテンパイされると、姉帯は赤四確定やのに、こっちは追っかけが恐くてリーチできひんことになる。赤ドラ独占能力なら、藤原に近いものがあるけど、他の可能性を考慮せなあかん分、姉帯のほうが対応しにくい)

怜・セーラ(どーしたもんかなー)

豊音「三本場だよー!!」ゴッ

怜:102800 セーラ:111100 豊音:161400 桃子:24700

 東三局三本場・親:豊音

豊音(よしよし。ここまではいい感じに和了れてる。けど、油断はできない……)

怜・セーラ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

豊音(手を変え品を変え攻撃してるつもりだけど、どの和了りも紙一重。一歩間違えたり、一歩遅かったりすると、それだけで積み上げたものがパーになっちゃう。
 園城寺さんはともかくとして、江口さんは非能力者の中でも高打点を好むタイプ。前局だって、和了れたからよかったようなものの、下手したら直撃一発で逆転されてたかもしれない)

豊音(《先勝》、《友引》、《赤口》と来て、私の代名詞でもある《背向》の《先負》を披露したい気持ちはあるんだけれども……)

怜「リーチ」トッ

豊音(わー……ついに先制されちゃったよ。テンパイ速いのは知ってるし、そうでなくとも互いに門前なら普通にこういうこともあるのはわかってた。でも、だとしても、ツモ切りリーチってのはさすがになー)

怜「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(そいつは鳴けへんなー)タンッ

豊音(そいつも鳴けないよー……っと)ツモッ

 豊音手牌:七九④④⑤⑦⑧⑨11789 ツモ:③ ドラ:三

豊音(追っかけたいけどー、無理だよね。園城寺さんはレベル5。その未来視は《絶対》。
 たとえここで《先負》を発動しても、園城寺さんに見えたツモ牌を《上書き》することはできない。掴ませることはできないんだよー)

豊音(経験上、私の《先負》的に、ここで自然に手を進めても、先制リーチ者に振り込むことはない。今の園城寺さんは、一発狙い以外のリーチもしてくるらしいから、もしそうだったときのために、一応、テンパイにはとっておくよ。
 東横さんが鳴いてくれたらいいけど、この子は副露率低いから、期待できないよね。四筒は河に一枚見えてるから、江口さんもポンできない。あとは、出たとこ勝負だよー!)タンッ

 豊音手牌:七九③④⑤⑦⑧⑨11789 捨て:④ ドラ:三

豊音(さあ、どう来る!)

セーラ(百パー一発に決まっとるやん。あの怜のツモ切りリーチやで? リー棒自立しとんねんで?)

怜「ツモ。2000・4000の三本付けや」パラララ

 怜手牌:四四34[5]67⑦⑧⑨西西西 ツモ:2 ドラ:三・北

豊音(だよねー……)

セーラ(その手……ダマで待つにはちょっと弱いな。やからこそ、リーチを掛けた。たとえ一発を消されてズラされても、まあまあの確率で、ほぼ同打点の和了りをものにできる。
 ほんでもって、和了れる未来が見えとったんなら、姉帯の追っかけにビビる必要もあらへん。怜に見えた牌の情報は《絶対》に《上書き》されへんのやから。
 いや……なんちゅーかもう、パーフェクトやんな)

怜(こういう考え方はSOAやけど、これが反撃の狼煙やで。このまま怒涛の連続和了でトップまくったる!!)ゴッ

豊音(させないよー!!)ゴッ

セーラ(好きにはさせへんで、レベル5!!)ゴッ

桃子「…………」パタッ

怜:111700 セーラ:108800 豊音:157100 桃子:22400

 東四局・親:桃子

怜・セーラ・豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(気を抜けないっす。常に崖っぷちっす。超新星や嶺上さんと打ってるわけじゃないのに、一局ごとの消耗が激しいったらないっすね……)タンッ

豊音「ポン!」ゴッ

桃子(まだ消えられてない。でもって、役牌を一つ鳴かれた。ただ、赤が見えていない間は、《友引》か《赤口》かの区別ができない。四副露するまでは安全っていう考えは、赤の位置が確定するまで禁止――きらめ先輩からの言いつけっす)

豊音「チー!!」ゴゴッ

桃子(こんな序盤から二副露っすか。《友引》っすかね? いや……けど、まだ、赤が一枚も見えない。変なとこは切れないっす)

 豊音手牌:*******/(四)二三/北北(北) ドラ:二

桃子(というか、もし仮に《赤口》で赤四確定だとしたら、自風ドラ一赤四でハネ満じゃないっすか、それ。私が親のときに勘弁してほしいっす)タンッ

怜「リーチ」トッ

桃子(こっちも――!? しかもまたツモ切りリーチ……捨て牌を見る限りは筒子の染め手。超ノッポさんの手もそれなりに脅威なはずなのに、構わずリーチを掛けてきた。一発で《絶対》に和了れるか、もしくは、多面張で結構高い手――)

怜(さーて。見えたまんまの未来なら、東横さんからダマで8000直撃やった。せやけど、面子と点数状況的に、ここでピンポイント《煌星》狙いはリスクが高い。
 セーラとの点差は2900点――今は、これを広げること、可能なら姉帯さんに追いつくことを優先したほうがええ。《煌星》のトビと同時に逆転されたら、なんもかんも終わりやからな。
 ま、それに、和了り牌の多さを考えても、ここはリーチが正解やろ。裏ドラ乗るとええな~)

 怜手牌:③③③④⑤⑥⑦⑧⑧⑧白白白 ドラ:二

セーラ(染め手かぁ……なんやえらいデカそうな感じやな。今のとこは手にあらへんからええとしても、筒子が来てもーたら切れへんで。
 流そうにも、俺はまだ張れてへん。一発をズラそうにも、姉帯が鳴けそうなとこは持ってへん。ここで怜に突き放されるんは勘弁なんやけど……ちょっと厳しいか~?)タンッ

 セーラ手牌:一一二二三三八九九8999 ドラ:二

豊音(東横さんが親だし、チーム的には、園城寺さんがツモるのもありっちゃあり?
 《赤口》で見えてる裏ドラは八筒。たぶん筒子で染めてる園城寺さんの手は、一発ツモならハネ満、倍満は余裕でいくと思う。
 この点差でトップなら、《煌星》の死が近くなればなるほど、私たちの決勝進出の可能性は上がる。とりあえず、振り込まないようにしつつ、成り行きに身を任せてみるよ……)タンッ

 豊音手牌:[⑤][⑤][5]77[五]六/(四)二三/北北(北) ドラ:二

桃子(ものっそい窮地に立たされている感じがするっす……)

 桃子手牌:①②②③④⑤⑥⑦⑧6679 ツモ:⑨ ドラ:二

 怜手牌:③③③④⑤⑥⑦⑧⑧⑧白白白 ドラ:二

 セーラ手牌:一一二二三三八九九8999 ドラ:二

 豊音手牌:[⑤][⑤][5]77[五]六/(四)二三/北北(北) ドラ:二

桃子(一通出来たはいいっすけど、これ……二筒切ったらほぼ確実に振り込むっすよね。
 というか、超ノッポさんと未来視さん、どっちも打点は満貫以上っぽいっすから、ツモられてもかなりヤバいっす。ベタオリするだけでは凌げない。
 私の役目――最優先事項は、とにかく嶺上さんに繋げること。どうにかして、この窮地を切り抜けなきゃっす。抜け道……非常口……どこかにあるはず――)

桃子(これで……いかがっすかね?)タンッ

怜(ま、やっぱ回避してくるやんな~)

セーラ(ほんほん……散々悩んで九索か)

 桃子手牌:①②②③④⑤⑥⑦⑧⑨667 捨て:9 ドラ:二

 セーラ手牌:一一二二三三八九九8999 ドラ:二

セーラ「(見えとる間もかなり打てるやん、《ステルスモモ》)ポン」タンッ

怜(おっと……?)

豊音(六索……これは園城寺さんの一発だった牌。筒子じゃないってことは、普通リーチだったのかな? 幸いテンパイできたし、お抱えして先に和了るよー)タンッ

 豊音手牌:[⑤][⑤][5]67[五]六/(四)二三/北北(北) 捨て:7 ドラ:二

セーラ「ロン、7700」パラララ

豊音「わわっ!?」

 セーラ手牌:一一二二三三九九89/9(9)9 ロン:7 ドラ:二

怜(これはセーラ……っちゅーか、東横さんのファインプレーなんかな?)

桃子(親番流れちゃったっすけど、まだ《ステルス》は発動できてない。消えられるまでは安全運転。私にしては上出来っす)パタッ

豊音(なかなか引き離せないよー)

怜「ほな、南入や!!」

怜:110700 セーラ:117500 豊音:149400 桃子:22400

藤原って誰だっけ?

 南一局・親:怜

怜(姉帯さんはまた赤ドラのやつやろか。配牌干渉系なら発動条件あらへんし、赤四確定で、なおかつ裏ドラが見えるっぽいから、火力は上がっても下がることはあらへん。どう動いてくるやろか、っと)

 怜手牌:一二三123①②③⑦⑨⑨南 ツモ:⑧ ドラ:①

怜(高めの九筒がうちからは四枚見えとる。ほな、まだ一枚しか見えてへん南単騎のほうがええやんな。ツモればハネるし。っちゅーんはもう一巡前から決めとってんけど、はてさて未来はどうなるか――)

    ――ロンや、16000。

 セーラ手牌(一巡先):①①①⑦⑧111發發發南南 ロン:⑨ ドラ:①

怜(相変わらずアホみたいに高い手張っとんなー……三暗刻でドラ三やと? ダマにしとるっちゅーことは、姉帯さんの追っかけリーチを警戒しつつ、四暗刻まで見とるっちゅーことやんな。困った困った。
 ほな、仕方ない。ここは一つ南を……ってー! 南切っても大変なことになるやんかー!! ヤオ九牌に張り替えてこられたら、ダブ南發対々三暗刻混老ドラ三――24000。
 万が一東横さんが振り込んでもうたらその時点で試合終了! うちらの負け! どういうことやねん……ホンマに)

セーラ「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

怜(配牌からどれくらい形が見えとったのかにもよるけど、その手やったら、鳴いて發ドラ三とかでも十分やったと思う。せやけど、セーラは満貫程度で良しとせんかった。
 その結果が高め倍満。或いは、鳴いて張り替えて三倍満。あわよくば、急所を引いて役満。《我道》は《我獰》――獰々たる我。どんだけ点棒食べれば気が済むねん、この野獣さんは)

怜(セーラなら、ほっといてもツモってくる気がする。今のところはハネツモやけど、巡目が回ればツモり四暗刻くらいは余裕でやってくるはずや。それはなんとしてでも阻止せな。
 せやけど……九筒も南も切れへんこの状況から、一体どないしたらええもんやろか――)

 怜手牌:一二三123①②③⑦⑨⑨南 ツモ:⑧ ドラ:①

 セーラ手牌:①①①⑦⑧111發發發南南 ドラ:①

怜(まあ……やるだけやってみよか)タンッ

 怜手牌:二三123①②③⑧⑦⑨⑨南 捨て:一 ドラ:①

>>940さん

藤原の利仙さんです。

 ――《幻奏》控え室

誠子「園城寺先輩、テンパイ崩しましたね」

優希「振り込む未来が見えたってことか?」

ネリー「だとすると、セーラの手牌が丸々見えたってことになるよね」

やえ「《次巡で誰かが和了るとその手牌が見える》――この効果こそ、私は園城寺の未来視の最大の利点だと思っている。
 次巡のツモが見える、相手が次に何を切ってくるかわかる、などといった効果が霞むほどのな」

誠子「宮永先輩は物ともしてなかったですけど、あれは宮永先輩だからできることですもんね……」

やえ「そうだな。強度の高い自牌干渉系能力を持つ雀士――ズラしても和了ってくる雀士には、少し相性が悪い。しかし、これがセーラのようなレベル0が相手だと、話は随分と変わってくる」

優希「んー、けど、いくらセーラお兄さんの手牌がわかったからって……というか、わかってるからこそ、未来視のお姉さんは、あそこから九筒と南が切れないじょ。完全に詰みじゃないのか?」

やえ「危機の中にこそ好機は潜んでいるものだ。私がもし園城寺なら、これはしめた、と考える。そして、園城寺も恐らくは、私とまったく同じ結論を出しているはずだ」

ネリー「あー、なるほどなんだよ。確かに、ツモ次第では、せーらが出し抜かれる可能性もあるね」

誠子「えーっと……あ――」

優希「じぇ……?」

やえ「偶然は園城寺に味方したか。残念。私たちが勝利する瞬間は、もう数時間ほど後になるらしい」

     怜『チー』

 ――対局室

怜「チー」タンッ

桃子(ん……? 一度切ってる一萬を鳴いて取り戻した? しかも手から出してきたのが生牌の南――)

 怜手牌:**********/(一)二三 捨て:南 ドラ:①

セーラ「ポン」タンッ

桃子(うおっと、ダブ南っすか。さっきからツモ切りばっかで、明らかにテンパイしてるっぽかったのに、門前を崩してきた。未来視さんも訝しいっすけど、俺々さんもちょっと恐いっすね……)

豊音「チー!!」タンッ

桃子(見えた、赤五。《赤口》で間違いなさそう……赤四確定なら最低でも満貫。
 っていうか、ちょ、え、また私が大ピンチっすか? 九死に一生を得たと思ったら、休止もなくまた急死の窮地っすか? この人たち容赦なさ過ぎっす)タンッ

怜「」タンッ

セーラ(怜がなんかやっとる感じするけど、ここまで来て退けへんやろ――)

 セーラ手牌:①①①⑧111發發發/(南)南南 ツモ:9 ドラ:①

セーラ(問答無用の三倍満。東横から直撃を取ればそれでおしまいや。俺のカンは全力で警報鳴らしとるけど、それがなんやねん。この道を行くと決めたからには――全力疾走あるのみッ!!)タンッ

怜「ロン、2900」パラララ

セーラ(おっと……鳴き三色で三倍満を止められてもうたか。怜もホンマに細かいことしよる)

 怜手牌:123①②③⑧⑧⑨⑨/(一)二三 ロン:⑧ ドラ:①

セーラ(あー……そういうことか。これは完全に嵌められたな。さては怜、数巡前に俺に九筒で振り込んだな? ほんで、そんときに俺の手牌をまるっと見た。で、そこから怜が描いたシナリオはこうや)

 怜手牌:一二三123①②③⑦⑨⑨南 ツモ:⑧ ドラ:①

 セーラ手牌:①①①⑦⑧111發發發南南 ドラ:①

セーラ(ここから、怜はとりあえず俺の有効牌である九筒と南を止めることにした。ほんで、一度、一萬を落とす。
 この一萬が取り戻せへんかったらアウトやけど、東横はオリ気味で、巡目が進んでくれば現物切ってくることもわかっとる。可能性が皆無っちゅーわけやない。ほんで、次の段階)

 怜手牌:二三123①②③⑦⑧⑨⑨南 ドラ:①

 セーラ手牌:①①①⑦⑧111發發發南南 ドラ:①

セーラ(ここから、怜はひたすら七・八筒のどっちかが重なるのを待つ。今回は運よく八筒が重なったわけやな。ほんで、重なったら、あとは東横から一萬が出てくるのをじっと待つ。出てきたら、あとは全自動や)

 怜手牌:二三123①②③⑧⑧⑨⑨南 ドラ:①

 セーラ手牌:①①①⑦⑧111發發發南南 ドラ:①

セーラ(ここからは、怜は一萬をチーして、南を切る。すると、俺は当然、三倍満を狙ってダブ南を鳴くな。ほんで、七筒を切る。なんでかっちゅーと、この時点で、七筒は怜の現物やからや)

 怜手牌:123①②③⑧⑧⑨⑨/(一)二三 ドラ:①

 セーラ手牌:①①①⑧111發發發/(南)南南 ドラ:①

セーラ(俺が三倍満を和了るためには、ここからヤオ九牌単騎にせなあかん。すると、元々あった八筒を、どっかで確実に切ることになる。それこそが、怜の狙い。
 俺が持っていた七・八筒――三倍満に手替わりするときに落とすことになるこの両面搭子に、怜は目をつけたわけや。で、計画通りに俺は八筒で振り込んだ、と。いやー、転がされたなー。笑いが止まらへんで)

セーラ(しゃーない……東横をトばすんはちょっと後回しや。何はともあれ、この園城寺怜っちゅー化け物をどうにかせなあかん。
 始まる前から覚悟しとったつもりやけど、今ので完全に上を行かれたっちゅーのがようわかった。洋榎とやり合うつもりで打たへんと、とんでもない差をつけられる)

セーラ(しかも、何が恐ろしいって、怜のやつ、これでまだ羽化が完了しとらへんのや。完全体にはなってへん。そうなってもうたら、もう俺にどうこうできるレベルを超えるで……)

怜「ほな、一本場~♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

セーラ(ははっ、なんやこれ、むっちゃ楽しいっ!!)

怜:113600 セーラ:114600 豊音:149400 桃子:22400

 ――《新約》控え室

初美「やっと怜が持ち直したですよー」

絹恵「姉帯先輩が能力フルバーストしてきたときはヤバいかなー思いましたけど」

姫子「怜さんない追っかけリーチば破れる。連荘ば止められたのは大きか」

和「あんなわけのわからない打ち方をする人に怜さんが負けるはずがありません」

初美「お? いきなりデレてどうしたですかー、和?」

和「客観的な感想を述べただけです。姉帯先輩は、たまに悪形から追っかけリーチを掛けたり、意味不明な鳴きをしたりすることがありますから」

     豊音『ポン!』

絹恵「噂をすればや!」

     豊音『チー!』

姫子「裸単騎の来るっ!」

     豊音『ポン!』

初美「げっ、怜のやつ、鳴かれるのが見えてたんなら絞ればいいのにですー」

和「何を言ってるですか、初美さん。怜さんは一つも間違ったことをしていません」

絹恵・姫子「というと?」

和「牌効率を考えれば、あそこはあの一打が正しいのです。姉帯先輩が鳴いて手を進めてくる可能性を考慮に入れても、です。
 晒されている牌を見れば、姉帯先輩の手がさほど高くないことは明白。なら、怜さんは親で一向聴。受け入れも多いです。十分に追いつけるでしょう」

     怜『チー』

絹恵「来たで、テンパイ!」

姫子「ばってん、怜さんの不要牌は――」

     豊音『ポン――!!』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美「四副露。これで姉帯さんは次巡にツモれるですー。けど、これは……」

和「姉帯先輩が次巡にツモる? そんなオカルトありえません」

     怜『ロン、5800は6100』

     豊音『っ――』

絹恵「うお……綺麗にハマったな」

姫子「こいは、もしかして、怜さんが牌ば絞っとうたら、結果の百八十度変わっとったとですかね?」

初美「姉帯さんのあの手なら、四副露目は、怜からポンしても、江口さんからチーしても、裸単騎にできたですー。
 モニターで見る限り、手順が一つでもズレてたら、確かにここまでピタリとはいかなかったかもですねー」

和「もしもの話をしてもキリがありません。全てはたまたまです」

絹恵・姫子「なかなかの偶然や(と)ね」

和「その通り。江口先輩のように高い手を好もうと、姉帯先輩のように裸単騎を好もうと、東横さんのように門前を好もうと、和了れるか和了れないかは、偶然に左右されます。
 確率は誰にでも平等。特定の誰かに味方することなんてありません。好むと好まざるとに関わらず、望むと望まざるとに関わらず、それはそういうものなのです。
 ならば、勝率を上げるために最も有効な手段は何か――」

初美「何なんですかー?」

和「決まってます。偶然に迎合すればいいのです。全ての人が法の下に平等なように、全ての雀士が理の下に平等です。ルールがあるからこそ、自由がある。その自由の中で、私たちは競い合う。
 それが正しい世界のあり方だと、私は思っています。だからこそ、私は風紀委員会に入ったのですし、数ある競技の中で、特に麻雀に心惹かれたのです」

初美「なんだか、時々やえみたいなことを言うですよねー、和は」

和「オカルト議論を除けば、私は概ね小走先輩と同意見ですからね。先輩の主張する《不確定性仮説》――『麻雀に《絶対》は《絶対》にない』。
 そんな当たり前のことが未だ保証されていなかったことに驚きましたが、何はともあれ、証明が待ち遠しいです」

     怜『ポン』

絹恵「お、怜さんが動いたで!」

姫子「こいは、和的にどうと?」

 怜手牌:三五七③④[⑤]22777/(二)二二 捨て:? ドラ:3

和「二索が場に二枚、二萬が場に一枚見えています。ここで最後の二萬を鳴くのは当たり前です。たとえ門前で張ったとしても、待ちが薄い上に、打点もさほど上がりません。ごくごく普通のポンです」

初美「で、怜は七萬を切ったですねー」

 怜手牌:三五③④[⑤]22777/二(二)二 捨て:七 ドラ:3

絹恵「三萬やとダメなん?」

和「別にダメということはありません。怜さんから見る限り、和了り牌の残り枚数は同じですから」

     怜『ロン、2900は3500や』

     セーラ『ほー』

姫子「おお、直後の四萬ツモ切り……こいが見えてたてこととね!」

和「SOA」

初美「最適効率のデジタルと、最適効率のオカルト。やられるほうはたまったもんじゃないですよー」

絹恵「怜さんが浮いてきましたねっ!」

和「そうなるように打っているのですから、まあ妥当な結果です」

姫子「素直に褒めてあげたらよかとやろー?」

和「いえ、まだ少しだけ甘いところがあります。合格点ではありますが、満点には届きません。って――」ハッ

     怜『……?』

和「なぜー!? なぜそこを鳴かないですかー!?」

絹恵「これは……姉帯先輩と怜さんの連荘でかなりの局数を打ってもうだからか。まだ南一局やけど、発動したみたいやな」

姫子「《ステルスモモ》……!!」

     桃子『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美「和が喚くくらいですからー、見えてるなら鳴いたはずですよねー。ってことは、今の怜には、東横さんが見えてないってことですー」

和「見えるとか見えないとかSOA!!」

絹恵「感応系の能力……強度はレベル3やけど、ベースが無能力者の怜さんにはばっちり効いてまうよな」

姫子「無能力者やなくとも、感応系の能力は発動されたら基本的に破る術のなか。こいで、東横さんからの鳴きと、出和了りは封じられたと」

初美「自牌干渉系の能力とかでツモれるならいいですけどー、《一巡先が見える》以外は完全デジタルの怜にはちょっと縛りがキツそうですねー。
 まー、それを見越して、《煌星》は東横さんを怜にぶつけてきたんだと思うですけどー。いやらしいことしてくれるですねー、《煌星》の参謀は」

     怜『リーチ』

和「む」

絹恵「東横さんが見えてへんのにリーチ……ほな、これ一発ツモが見えたっちゅーことか!」

姫子「ツモない《ステルス》は関係なか! しかも――」

初美「東横さんは鳴けない。それに、東横さんの捨て牌を鳴くことは誰にもできない。一発が消されにくいってことですねー!」

     怜『ツモ、2000は2300オール』

絹恵「おおお……そっか。東横さんが《ステルスモード》に入ると、場が門前に偏る。ほな、怜さんの必殺技の一発ツモが妨害されにくい。
 鳴きと出和了りが封じられとるのは江口先輩や姉帯先輩も同じで、東横さんも門前を崩さへん。となると、テンパイ効率がええ上に一発ツモできる怜さんがぐっと有利になる……んか?」

姫子「《ステルス》は脅威とばってん、意外と怜さんとは相性よかと? 怜さんは未来の見えっけん東横さんには振り込まんし、ツモ和了りのスピード勝負ない、互角か怜さんのほうがやや上のはずと」

初美「江口さんと姉帯さんからリーチで出和了りができる分、総合的には東横さんのほうが有利だとは思うですー。江口さんや姉帯さんが動きにくくなる分、相対的に怜が楽になる……と、そんな感じですかねー」

絹恵・姫子「和的にはどうなん(と)?」

和「少なくとも、今の一局はまったくなっていません。一発ツモは結果オーライですけど、あんな打ち方では、勝つものも勝てませんよ」

初美「辛口ですねー」

絹恵「ま、せやけど親番は手放してへん! トップの背中も見えてきたっ!」

姫子「イケイケとですよー、怜さーん!!」

     怜『四本場や』

 ――《煌星》控え室

友香「桃子の《ステルス》で鳴きが起きにくくなったのを逆手に取って、《絶対》の一発ツモ。やってくれるんでー」

煌「多分に偶然によるところが大きいと思います。いつもいつもできるわけではないでしょう。諸々を考慮しても、《ステルスモード》の桃子さんなら、デジタル園城寺さんを上回れる。私はそう踏んでいます」

淡「細かいことはわかんないけど、どう考えたって、他二人からリーチで直撃取り放題のモモコが有利でしょ! ぶち当てろー、モモコー!!」

咲「淡ちゃんって本当に単細胞思考のお気楽能天気バカだよね」

淡「それは妬み嫉みってやつかなー!?」

咲「哀れ呆れってやつだよ」

     豊音『チーだよー!』

友香「でっ、赤いのいっぱい!」

淡「《しゃっこー》だね!」

煌「赤ドラで打点を維持しつつ、鳴けるときは積極的に鳴いていき、ツモ狙い――といったところですかね。桃子さん、追いつけるといいのですが……」

     桃子『……リーチっす……』

友香「来た! やっと桃子が攻めに転じたんでー!!」

淡「これなら前半戦トップも余裕だねっ!」

     桃子『ロンっす、8000は9200』

     豊音『わー』

友香・淡「っしゃ!!」

咲「煌さん、あれは……」

煌「ええ。園城寺さんは、ズラせるのにズラしませんでしたね。桃子さんが江口さんや姉帯さんを削ってくれるならそれで良し、ということでしょう。
 桃子さんが《幻奏》と《逢天》から点を奪えば、相対的に、園城寺さんたち《新約》が浮いてきます。
 このスタンスを貫かれると、断ラスの私たち的には助かりますが、点を取った分だけ《新約》のトップを磐石にしてしまうことになりますね」

咲「ちょっと困っちゃいますよね、それ」

煌「まあ、あちらの思惑はどうあれ、こちらも稼がないことには決勝に行けません。園城寺さんが桃子さんに対して圧力を掛けてこないなら、それに越したことはないですよ」

友香「ということは、ますます桃子無双になる感じでー!?」

淡「《ステルス》パーティの始まりだよー!!」

咲「うーん……さすがに準決勝だからなぁ。まだわかんないよ」

煌「その通りです」

     セーラ『ツモや、6000オール』

友香・淡・咲「うわー……」

煌「上位三チームが並びましたね。こちらとあちらの点差は十万。《ステルス》の発動が思っていたより早かったのは嬉しい誤算ですが、厳しい戦いであることに変わりはありません」

 ――対局室

 南二局一本場・親:セーラ

桃子(《ステルス》で巻き返そうと思った途端にこれっす。俺々さん……そこでインパチとかマジ空気読めないことしてくれるじゃないっすか。これだから《一桁ナンバー》は恐いっす)

 西家:東横桃子(煌星・23300)

怜(見事に並んだな。セーラのハネツモは見えとったけど、東横さんも姉帯さんもまず鳴いてくれへんからな。ま、言うても仕方あらへん。これくらいの偶然はよくあること。せやんな、和)

 北家:園城寺怜(新約・124100)

セーラ(東横のせいでツモ狙いしかできひん。ツモ前提ならリーチ掛けるとこやけど、姉帯がおるからそれもできひん。縛りプレイ過ぎるわー)

 東家:江口セーラ(幻奏・126800)

豊音(フリテンが恐いからリーチ条件の《先勝》は使いにくいかなー。《友引》はもう東横さんがこうなったらまず四副露に持ってけないだろうしなー。
 《赤口》で赤ドラ集めてもなー。江口さんはリーチとドラに頼らずハネ満和了ってくるしなー。《先負》は当然のように警戒されてるしなー。ちょー打ちにくいよー)

 南家:姉帯豊音(逢天・125800)

桃子(点差は十万。最低でも、この前半戦で個人収支をプラスにしておきたい。振り込むことはなくとも、今みたいにツモで削られると、普通にトぶっす)タンッ

怜(どんな風に打とうと、《一巡先が見える》うちが振り込むことはほぼない。ほな、東横さんとは純粋にスピード勝負。《ステルスモード》の東横さんは、和と同じくらいの速度やと思えばええ。
 うちも別に遅くはあらへんけど、テンパイ速度が同じでも、期待値はリーチからの出和了りが自由にできる東横さんのほうが高くなるに決まっとる。ほな、こっちは鳴けるアドバンテージを活かして、加速してこかー)

怜「ポン」タンッ

セーラ(走ってんなー……)タンッ

豊音「チー!」タンッ

セーラ(姉帯もか。どーなんやろな。東横以外が出和了りを躊躇うこの場やったら、普通の場より押しやすい。今は親やし、俺はじっくり高いの狙わせてもらうで)

セーラ(《ステルスモモ》――東横と抜群に相性がええのは、間違いなく超音波《ソナー》の百鬼やろ。
 《自分の和了り牌の位置がわかる》あいつなら、闇の中でも出和了りできる。レベルは百鬼のほうが上やから、余裕で《ステルス》を《無効化》できるやんな)

セーラ(あとは、福路か荒川憩くらい目がよければな、ほとんど、同じことができる。要は、自分の和了り牌を東横が切ってへんっちゅー確信が持てれば、この場でも出和了りできんねん。
 簡単なのは、単騎待ちにして、三枚ある和了り牌のうち、二枚の位置を特定することやんな。それなら、フリテンを恐れずにリーチできるっちゃできる)タンッ

セーラ(守備面に関しても、上家に合わせる以外に、壁の考え方は有効やし、スジも多少は参考になる。見えへん言うても、直撃を避ける方法はゼロやない。ま、それでも、振り込むときは振り込むやろけど)

セーラ(んー、あー、むっちゃ切りにくいとこ来たなー。安牌は……あらへんっと。しゃーない。たぶん、喰らうとしたら8000くらいやろ。オーラスまでに取り返すっちゅーことで、ここは押しとこかー)タンッ

桃子「ロンっす。7700は8000」ユラッ

セーラ「(ははっ、強いなー、自分のそれ)……はいな」チャ

怜(セーラのやつゴリ押ししとんなー。東横さんが《ステルス》に入ったことで、防御を半ば捨てたんやろか。大きいのツモられる前に逃げ切らんと大変なことになりそうや)

豊音(うー……)

怜:124100 セーラ:118800 豊音:125800 桃子:31300

 南三局・親:豊音

豊音(しまったなぁ。東横さんが《ステルスモード》に入ったら全体効果系に切り替えようと思ってたんだけど、この点差状況であれは使いにくいんだよねー)タンッ

豊音(園城寺さんの連荘と江口さんのインパチが痛かった。そこに東横さんの《ステルス》……後半戦はアレ使うからまず負けないと思うけど、過信はできない。この親番で普通に頑張るよー!)タンッ

桃子「ロンっす。5200」ユラッ

豊音「(そんなのってないよー!?)……はい」チャ

豊音(やばいやばい……めちゃめちゃやばい。全体効果系とかアレとか言ってる場合じゃなくなってきた! このまま行くと、また凹むっ! トップでイズミにバトンを渡すのが、中堅の私の役目! どうにかして、取り返さないと――)

豊音(……あれ? そういえば、東横さんの和了り……)

 桃子手牌:五六七④⑤⑥3367888 ロン:8 ドラ:3

豊音(この子の牌譜は見たけど、この和了りは、なんというか、少し、もやっとする。こういう違和感……クロは大事にしろって言ってた。なんだろう……何が変なのかなー……?)

豊音(…………あ。そっか。そーゆーこと。となると、おー、自分のことだから見落としてたよ。そっかそっか。これ、うまくハマれば一撃で殺せるかもだねー)

豊音(ふふっ……東横さん。悪いねー? 今すぐではないけれど、遠からず、その《ステルス》を撃墜してあげちゃうよー……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(どうにも……ぞくぞくするっす。何はともあれ親番。点数もそれなりに回復。
 私は振り込まないから、ここから現状維持はさほど難しくないっす。嶺上さんときらめ先輩のために、できる限り上乗せするっすよ!)

桃子「ラス親……いかせてもらうっす――」ユラッ

怜:124100 セーラ:118800 豊音:120600 桃子:36500

 南四局・親:桃子

怜(ここまでは、ええ感じに東横さんがセーラと姉帯さんを撃ち落してくれとる。その調子でうちら《新約》のトップを磐石にしてや。ツモらへん限りは連荘もどんとこいやでー)

   ――ツモ、8000オールっす。

怜(ドアホかー!? 親倍ツモってなんや、親倍ツモって!! っちゅーか、うあ……なんやねん、その手牌――)ゾワッ

 桃子手牌(一巡先):[⑤]⑦⑦⑧⑨⑨⑨中中中白白白 ツモ:⑥ ドラ:⑨

怜(見るんは今日二度目の四暗刻一向聴。東横さんは捨て牌読まれへんから染めててもバレへんっちゅー強みがあるんは考慮しとったけど、これはかなり大きい。なんの能力もあらへんかったら――と思うとぞっとするわ)

怜(それはさておき、どないしよ。親のツモやから、《逢天》や《幻奏》とは点差が変わらへん。放っておくか? いや、ここで《煌星》が息を吹き返すんは、さすがに無視できひんか……)

怜(副将の宮永さん……和はまあSOAやからええとしても、副将は全員一年生や。十万点差なら滅多なこともあらへんと思うけど、五万点差はマズい。
 やって、あの子、1000点持ち《プラマイゼロ》とか言うんで、半荘二回で六万点を確実に稼げる子やん。あの子の《プラマイゼロ》は、合宿では誰も止められへんかった。ほな、普通に逆転されてまう)

怜(しゃーないなー。ここは《一巡先を見る者》の園城寺怜さんが一肌脱ぐしかあらへんか。ま、最悪、ツモられたらツモられたでええわ。それが本来の未来やってんから。ただ、一応、ジタバタくらいはしたるでー)

 怜手牌:④④④[⑤]⑥⑥⑥⑦⑧⑨123 ツモ:① ドラ:⑨

怜「リーチッ!」トッ

 怜手牌:①④④④⑥⑥⑥⑦⑧⑨123 捨て:[⑤] ドラ:⑨

桃子(未来視さんのリーチ……!? ってことは、私の親番はこれで終わりっすか?)

セーラ(あっちこっち対応が大変やでー。どうせ鳴かへんとツモられるんやんな)

 セーラ手牌:一二二三三四[五]2468③④ ドラ:⑨

セーラ(頑張れば三色つくかも、ってとこやな。鳴いても十分和了れるし、赤喰えるなら打点も多少マシになる。ほんで、怜から鳴けば、次巡に怜の和了り牌かもしれへん牌が手に入る。今のところは押せ押せや)

セーラ「チー」タンッ

 セーラ手牌:二二三三四[五]2468/([⑤])③④ 捨て:一 ドラ:⑨

豊音(園城寺さんのリーチかー。鳴きでツモ順はズレたけどー、んー……)

 豊音手牌:四五七九344556北北北 ツモ:五 ドラ:⑨

豊音(ここは我慢)タンッ

 豊音手牌:五五七九344556北北北 捨て:四 ドラ:⑨

桃子(ツモ順ズレた……ということは、まだまだ狙えるっすかね! 四暗刻一向聴。このまま和了っても倍満。ブチかますっすよー!!)タンッ

怜「カン」パラララ

桃子(へ――? ちょ、は……!?)

セーラ(カン……やと?)

豊音(しかもカンドラごっそりきたよー……)

 怜手牌:**********/⑥⑥⑥⑥ ドラ:⑨・⑥

 桃子手牌:[⑤]⑦⑦⑧⑨⑨⑨中中中白白白 ドラ:⑨・⑥

桃子(わ……私の和了り牌で暗槓!? 何がどうなって――いや……待つっす!! 未来視さんのリーチが掛かって、そのリーチ宣言牌を俺々さんが鳴いた!
 つまり、未来視さんが今ツモった六筒――それ、元々私がツモるはずだった牌! 私のツモが未来視で見られてたっすか!?
 私にツモらせないように、自分がリーチを掛けることで、俺々さんがズラすように誘導した……?)

怜(ま、東横さんに待ち変えられたらごっついピンチやねんけど、四筒も六筒もうちからは四枚見えとる。しかも、ラッキーなことにカンドラ表示牌が五筒。
 ここから東横さんが手替わりして和了る期待値と、うちが一筒単騎で和了る期待値を比較すれば、まあうちのが上やろ。あかんかったら、その時はその時に考えればええ)

桃子(もし私の和了りが見られてたとしたら、私の手牌が全部バレてるってことになるっす。なら、たとえ六筒を潰しても、ある程度の張り替えが可能なのは、わかってるはず。
 にも関わらず、ズラすためとは言え、未来視さんはリーチを掛けてきた。ひょっとすると……六筒だけじゃなく、私の有効牌がのきなみ止められてるっすか?
 だとしても、この巡目から赤五・八筒を切って手替わりは、ちょっと厳しいっすかね。最悪ノーテンで親流れの可能性がある。うー……動くに動けないっす)

怜(さーて、あとは和了れるんを待つばかりやけど、こればっかりは偶然やからなー。誰がどう動いてくるかも、現時点では読み切れへん。ま、カンドラモロが威嚇になってくれるとええんやけど……)

 ――流局

桃子・怜「テンパイ」パラララ

セーラ・豊音「ノーテン」パタッ

 怜手牌:①④④④⑦⑧⑨123/⑥⑥⑥⑥ ドラ:⑨・⑥

 桃子手牌:[⑤]⑦⑦⑧⑨⑨⑨中中中白白白 ドラ:⑨・⑥

セーラ(なるなる。怜は東横の親倍ツモを妨害したかったわけやんな。その手から赤五筒でリーチしたんは、俺に鳴かせて暗槓するためか。まんまと片棒担がされてもーたなー)

豊音(危なかったー……一発ツモ狙いじゃなくて、東横さん潰し――ズラし目的のリーチだったんだ。つまり、あの六筒は見えてたってことだよね。追っかけなくてよかったよー)

怜(セーラも姉帯さんもベタオリしよったか。いや、ドラ四確定のリーチ相手にツッパるとしたら相当やけどな。
 ツモれへんかったのは残念やけど、ノーテン罰符で500点プラスになったわけやし、あの親倍ツモから考えれば、十分過ぎる結果やろ)

桃子(うわ、四筒まで止められてたっすか。マジとんでもねーっすこの人。《一巡先を見る者》――この人は、今現在の私を見ることはできなくても、和了宣言して手牌を晒す未来の私を見ることができるっすね。
 超ノッポさんや俺々さんへの直撃は放置されてるっすけど、高打点のツモ和了りは許してくれない感じっすか)

桃子(けど、だからこそ、この親番を捨てるわけにはいかない。未来視さんの未来視は、後半になっても変わらず続く。避けては通れない……)

桃子(三回戦で、両目さんと天使さん相手にはできなかった連荘。やってやろうじゃないっすか。少しでも稼いで、嶺上さんときらめ先輩に繋ぐっすよ!!)

桃子「ラス親、続行っす!!」ゴッ

怜:124600 セーラ:117300 豊音:119100 桃子:38000 供託:1000

 南四局一本場・親:桃子

桃子(さて……未来視さんも困り者っすけど、さっきからぞくぞく感じてるプレッシャー。正体はわかってるっす。
 きらめ先輩が注意しろって言ってた。超ノッポさんの異名――《背向》。先制リーチ者を追っかけリーチで刈る限定封殺系の大能力……《先負》)

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(私の《ステルス》はレベル3の感応系能力。超ノッポさんの《先負》はレベル4の封殺系能力。レベルはあっちのほうが上。
 系統が違うし、どうなるかは蓋を開けてみるまでわからないっすけど、私の《ステルス》が《無効化》される恐れがあるっす)

桃子(だからこそ、私は今まで、超ノッポさん相手に先制リーチはしてこなかったっす。超ノッポさんが先に鳴くか、或いは、《先負》以外の《六曜》を発動しているとわかったときにだけ、リーチを掛けてきた)

桃子(南三局――断ヤオドラ二。いつもの私なら、三色への変化なんて考えず、即リーっす。けど……我慢したっす。欲張ってきらめ先輩の言いつけを破って振り込みとか、万死に値する。でも――)

 桃子手牌:二三四五六⑥⑥999西西西 ツモ:9 ドラ:西

桃子(ドラ三の三面張なのに役ナシ。超ノッポさんは、この巡目まで門前。恐らく《友引》ではない。場に赤が一枚も見えてないっすから、《赤口》の可能性は残ってる……)

桃子(トップとの点差は八万点以上。《ステルスモード》に入ったはいいものの、未来視さんから出和了りを取るのは不可能。俺々さんは空気読まずに高いのをツモってくる。超ノッポさんは、あと二つ能力を温存している……)

桃子(後半戦で稼げる保証はどこにもないっす。現状維持できれば十分な相手。けど、だからこそ、私が頑張れれば、嶺上さんときらめ先輩がぐっと楽になる)

桃子(いくら嶺上さんでも、八万点差をまくるのは簡単じゃないはずっす。おっぱいさんはお構いなしっすし、タコスさんは東場ならきっと嶺上さんに張り合える。
 《逢天》の改造制服さんはちょっとあれっすけど……あの人だって、三回戦から何も変わってないわけがない)

桃子(私と嶺上さんで逆転できなければ、大将戦できらめ先輩が逆転するのはかなりキツいはずっす。
 きらめ先輩は点を稼ぐのが得意じゃない。二、三回戦ともにマイナス収支。荒れ場をうまく立ち回って、半荘を目一杯使って《通行止め》しまくって、最後の最後に滑り込みセーフ――みたいな戦い方をしてきたっす)

桃子(どっちの場合も、きらめ先輩は三位からスタートしてる。そして、滑り込むために出し抜かなきゃいけないチームは、一つだけだった。
 きらめ先輩にだってできることとできないことがあるっす。断ラスから二位をまくるのは、きらめ先輩の能力的に、どう考えても無茶っす)

桃子(きらめ先輩……きらめ先輩のおかげで、私はここまで戦ってこられたっす。きらめ先輩は私に多くのものを与えてくれた。情報、戦術、気構え――等々)

桃子(二回戦のときも、三回戦のときも、私が《一桁ナンバー》級の人たちを相手に頑張れたのは、きらめ先輩の助言があってこそっす。私は、もっと、きらめ先輩の役に立ちたい……)

桃子「……カン……」パラララ

 桃子手牌:二三四五六⑥⑥西西西/9999 嶺上ツモ:⑧ ドラ:西・9

桃子(《ステルス暗槓》――きらめ先輩が、超新星さんと嶺上さんとでー子さんに勝つために、私に授けてくれた必殺技。
 超新星さんたちの支配領域《テリトリー》を揺さぶれるだけじゃない。カンドラが乗らない嶺上さんと、カン裏しか乗らない超新星さん。二人を相手にしていると、自然、カンドラは私かでー子さんの味方をしてくれる。
 かなりの頻度で起こったカンドラモロ。練習を思い出すっす。みんなのことを……思い出すっす)

桃子(私の力を欲しいと言ってくれたきらめ先輩のためにも、一緒に戦ってきたみんなのためにも、私はここで勝ちたいっす。勝って決勝に行って、優勝して一軍《レギュラー》になるっす)

桃子(超ノッポさんは多才能力者《マルチスキル》。理論上不可能とされる多重能力者《デュアルスキル》じゃない。能力の重複使用はできないっす。
 つまり、赤が一枚も見えてない今、超ノッポさんが《赤口》を使っているとしたら、たとえ私が先制リーチをしても、《先負》で追っかけることはできないってわけっすね。
 それに、そもそも《先負》が私の《ステルス》を《無効化》できるかどうかも、確定はしてないっす。天使さんの《一枚絵》のときみたいに、論理の隙間に入り込める可能性もある。決して分の悪い賭けじゃない)

桃子(きらめ先輩は、超ノッポさんに対して、リーチ禁止とは言わなかった。私の裁量に任せてくれた。私の力を信じてくれたっす)

桃子(私の使命は現状維持。嶺上さんに繋げること。そのためにも、勝負どころでは押していく。
 相手は三年生の上位ナンバー。攻めの姿勢を崩してしまったら、あっという間にトばされる。端からこっちは格下っす。僅かな可能性をもぎ取ってこそ、初めて勝負が成立する敵)

桃子(勝てるはずのない相手に勝ちたいと望むなら、勝ち目のない戦いに勝機を見出したいと願うなら、超えていくしかないっすよね……自分の限界を――!!)

桃子「……リーチっす……」ユラッ

 桃子手牌:二三四五六⑥⑥西西西/9999 捨て:⑧ ドラ:西・9

桃子(リーチドラ七――どう和了っても倍満! これが私の全力以上……!! 喰らえるものなら喰らってみろっすッ!!)

豊音「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(さあ――どうっすかッ!!?)

豊音「…………………………あは」ニパ

桃子(――っ!!)ゾワッ

豊音「東横さん、見ぃーつけたーっ♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(く……超え……られなかったっすか――)

セーラ(なんや……姉帯が東横の《ステルス》を《無効化》したんか?)

怜(ごめんな。妨害できるもんならしたかってんけど――もう、こうなっては止められへん)

桃子(っ……! ごめんなさい……みんな……)

豊音「追っかけるけどー? リーチ……ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(私は……ここまでっす……)タンッ

豊音「ロン、リーチ一発赤一――裏三!! 12000は12300だよー!!」

桃子(あぁ……カン裏まで……っ!!)

『中堅戦前半終了!! 《逢天》がかろうじてトップを守りました!! しかし、《新約》と《幻奏》がじわじわと追い上げています!! 後半戦では入れ替わりがあるや否や!!』

豊音(ふー……どうかなーと思ったけど、ちゃんと《無効化》できてよかったよ。
 東横さんが私の《先負》を警戒してくれてなかったら、《無効化》できるかもなんて発想がまず出てこなかった。最後も普通に《赤口》使うところだったよ。
 大分削られちゃったけど、トップのまま後半戦に突入できた。本当の勝負はここからだよーっ!!)

 三位:姉帯豊音・-9500(逢天・133400)

怜(稼ぐには稼いだけど、《最大》の姉帯さんがこれで終わりとはとても思えへんからなぁ。後半戦で、何か新しいことされたとして、どこまで対抗できるやろか……)

 一位:園城寺怜・+12100(新約・124600)

セーラ(《先負》で《ステルス》を《無効化》ねぇ。できるもんなんやな。まあ、《幻想殺し》のやえならともかく、こればっかりは試してみーひんとわからへんもんな)

 二位:江口セーラ・+9300(幻奏・117300)

桃子(散々っすね……超新星さんとでー子さんが凹んだのは仕方のないことだったっすけど、これは完全に私の判断ミス。マジやらかしたっす……)

 四位:東横桃子・-11900(煌星・24700)

淡「やっほー、やらかしたモモコに超新星伝令だよー!!」ババーン

桃子「あう……超新星さん。ちょっと恥ずかしいんで、対局室出ようっす――」ユラッ

 ――――

 ――――

淡「とゆーわけで!」

咲「みんなで来ちゃった!」

友香「一年生会議でー!!」

桃子「死にたいっす……」

淡「まーまー、モモコ。役直喰らった私が生きてるんだから、あんま暗いこと言わない!」

友香「無茶しなきゃいけないような状況を作ったのは、私と淡でー。こっちがちゃんとバトンを渡せてれば、堅実さと速度が売りの《ステルスモモ》は、全然余裕で戦えた。本当にごめんなさいなんでー」

咲「煌さんも、子ハネ程度で《ステルス》対《先負》の結果がわかって、安い買い物って言ってたよ。これで、後半戦は安心して戦えるって」

桃子「それは、つまり、超ノッポさんが《先負》を使えないと確定するまでは――」

淡・友香・咲「リーチ禁止!」

桃子「……了解っす」

淡「後半戦は、《ステルスモード》だけど、守備重視だって。あのでっかい人は、まだ二つ能力を隠し持ってる。その内容次第では、トぶかもだから」

桃子「うっ……やっぱり、この結果じゃ、そうなるっすよね」

友香「自信を失くすのはちょっと違うよ、桃子。桃子の《ステルス》なら、たとえ何が起こっても、耐え切れる。無茶さえしなければ、桃子は十分戦える。
 守備重視の桃子がどれだけ堅いかを、煌先輩も、私たちも、みんなよくわかってるんでー」

桃子「ありがたいっす……」

咲「ここは、私と煌さんに任せてほしい。きっと逆転してみせるから。信じて、桃子ちゃん」

桃子「……わかったっす」

淡「大丈夫? 頑張れる、モモコ?」

桃子「まあ……私は、神経の図太さはきらめ先輩に次いでチーム二位だと自負してるっすから。
 お子様メンタルのランクSシスターズと、見た目に反してネガティブ思考なでー子さんに心配されるほど、私は落ちぶれちゃいないっす」

友香「言ってくれるんでー」

咲「麻雀楽しみ足りないのかなー?」

淡「本当に大丈夫なの、モモコ……?」

桃子「いや、本音を言うと、かなりヤバいっす。というわけで、超新星さんの無限エネルギーで、充電させてほしいっす」

淡「じゃんじゃん持ってってー!!」ゴッ

桃子「これでツモまで良くなれば最高っすけどねー」ギュー

友香「桃子……頼んだでー」

咲「応援してるよ、桃子ちゃん」

桃子「はいっす。みんな、ありがとうっす。本当に」

淡「何言ってるの。困ったときはお互い様! 私たちは五人で一つのチーム《煌星》なのだからっ!!」

桃子「きらめ先輩にも、よろしく伝えておいてくださいっす。決勝では独壇場してやる――って」

淡「うん。言っとく!」

『中堅戦後半、まもなく開始します。対局者は対局室に集まってください』

桃子「よ……しっ! 充電完了ッ!! 後半も気合ばっちりっす!!」ゴッ

咲「ファイト!」

友香「信じてるんでー!」

淡「私のエネルギー使って、負けたら承知しないからねっ!」

桃子「ありがとうっす!! じゃあ……行ってくるとするっすかね――!!」ゴッ

 タッタッタッ ギィィ パタンッ

咲「……大丈夫そうでよかった、桃子ちゃん」

友香「まあ、桃子が鋼メンタルなのは、確かに本人が言う通りでー」

淡「モモコって、泣かないよね。いつも歯を食い縛って耐えてる。真似できないなー……」

咲「淡ちゃんがピーピー泣き過ぎなんだよ!」

淡「サッキーだって上手くいかないとすーぐ涙目になるじゃん!」

友香「……なんというか、目の前でいちゃつくのはやめてほしいんでー、二人とも」

咲・淡「いちゃついてないよっ!?」ゴッ

友香「ハイハイ」

淡「じゃ、戻ってモモコの応援しよっか! ユーカ、迷子になると面倒だから、サッキーから手を離さないよーに!」

咲「淡ちゃんの支配力を追っていけば、目を瞑っても帰れるもん!」

友香「いいから、真っ直ぐ帰るでー、咲」ギュ

咲「ううう……これ嬉しいけど恥ずかしいよ……////」

淡「うわーっ! サッキーってば真っ赤っか!!」

咲「う、うるさいっ!! バカ! 単細胞!」

友香「だからいちゃつくなでーランクSシスターズ……」

淡・咲「いちゃついてないッ!!」ゴッ

友香「あんまり遅いと、煌先輩が心配するよ。対局が始まる前には帰らないと」

咲「あう、そうだね」

友香「じゃ、行くでー。ほら、淡も」

淡「わかってる――」

淡(……モモコ……頑張ってね……!!)

 タッタッタッ

 ――対局室

桃子「よろしくっす」

 東家:東横桃子(煌星・24700)

セーラ「よろしくなー」

 南家:江口セーラ(幻奏・117300)

怜「お手柔らかに~」

 西家:園城寺怜(新約・124600)

豊音「よろしくねー……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:姉帯豊音(逢天・133400)

『中堅戦後半――開始です!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回からの更新は新スレになります。残りは埋めていただいて構いません。

【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!!」
【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412589488/)

では、失礼しました。

ご覧いただきありがとうございます。

HTML化依頼を出すより埋めたほうが早そうなので、これを書く前に書こうとしていたパロディオサレSS――『ブ"リーチ"』の断片を1000まで書き込んでいきます。

わりと親和性高いと思うんですよね。

いちご「♪」

 佐々野いちご/17歳

 髪の色/ピンク

 一人称/ちゃちゃのん

 特技/幽霊が見える

咲「私の霊力が回復するまで、代行よろしくお願いしますっ」ペッコリン

いちご「そんなん考慮しとらんよ……」

 職業/高校生、兼――死神代行

    ――奇妙な仲間たち

             和「私はオカルトを――拒絶するッ!!」

  菫「言ったはずだ。滅却師《クインシー》は、弓しか使わないと」

      優希「これが……タコスの右腕《ブラソ・デレチャ・デ・タコス》!!」



   ――現れる姉

      照「迎えに来たよ、咲」



            ――怪しげな女

    郁乃「え~、ソウル・ソサエティに行きたいの~?」

   ――色々あってソウル・ソサエティ

         ゆみ「その嶺上取る必要なし――射殺せ、神槓」

 豊音「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ……破動の三十一、赤口砲!!」



   尭深「見てくださいよ、この形――」

       尭深「実りを……刈り奪る形をしているでしょう?」



           咏「あれが炎熱系最強最古の斬魄刀――知らんけど」

      健夜「知らないなら最古って言わないでっ!?」

                 漫「は、話がちゃいますやん、末原隊長おおお」ボオオオオオン

                       菫「部下を爆弾に変えるなど……非道な!!」

          恭子「やかましいわ!! メゲろ、カタカタ地蔵ッ!!」



     洋榎「うちの斬魄刀にはなァ……名前がないねん」

        いちご「そんなん考慮しとらんよ……」カタカタ

      洋榎「霊圧が強過ぎて云々――」ザシュ

            いちご「あぁ……」バタッ

        洋榎「どや、思ったより痛いんちゃうか――?」



  美穂子「どうして……!! どうして私を連れて行ってくださらなかったのですか……上埜さあああん!!」

    照「「斬られるたびに……その者の感じる痛みを倍にする」

           いちご「や、やめ……」カタカタ

       照「二度斬れば更に倍。三度斬れば、そのまた倍――――それが私の斬魄刀の能力……」

         いちご「あ……」カタカタ

   照「千の破片で一度に斬りつけたら……どれほどの痛みになるだろう……」

                      いちご「誰か……」カタカタ

              照「散れ――『照魔鏡』」

       咲「そこまでだよ、お姉ちゃん!!」

        咲「いちごさん……あなたは私が守りますっ!」

                 いちご「咲……」

  照「刀身も鍔も柄も全て純白――ソウル・ソサエティで最も強く美しい斬魄刀……」

           咲「舞え――『嶺上開花』!!」

        いちご「咲……!!」

      白望「エイスリン……どうして、こんな――」

                エイスリン「シ……ロ……」ゴホッ

    白望「……殺す――お前を殺してやるッ!!」

           ?「あまり強い言葉を使わんほうがええ……」

         白望「迷え――『マヨヒガ』!!」

                    まこ「……弱く見えるけえのう」

              白望「なん……だと……!?」

 まこ「滲み出す混濁の紋章

         不遜なる狂気の器

                        湧きあがり・否定し

   痺れ・瞬き 眠りを妨げる

                爬行する鉄の王女

         絶えず自壊する泥の人形

                  結合せよ

     反発せよ

                        地に満ち己の無力を知れ」

      巴「じ……時空が歪むほどの重力の奔流……!!」

  まこ「破道の九十――『黒棺』」

        まこ「ん……メガネ外すの忘れとった」カチャ

























    まこ「わしが天に立つ」ドン

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom