絵里「文芸強化月間…ですか?」理事長「そうです」 (148)
はじめに
これはラブライブ!板で投下したものの加筆修正版です
ご了承ください
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絵里「あの、理事長? 一体どういう思いつき、なんですか……?」
理事長「思いつきとはキツイ言い方をされますね。別にそのままの意味ですよ」
絵里「はぁ……」
理事長「廃校もなくなり、せっかくだから地域と密着した勉強というのもいいかもしれないと思っただけです」
理事長「そんなことを考えている時に、ほら、街の西側にある美術館があるじゃないですか。そこから是非展示してほしいものがある、という電話がありましてね」
絵里「それでトントン拍子に話が進んでいった、と」
理事長「あなた達の歌う歌と同じように、ね」
絵里(うまくないです)
絵里「それでも誰にも相談せずに独断でそのようなことを決めてしまうのは、職員の反発を……」
理事長「あ、ごめんなさい。職員の方たちには話をしたんだけど……」
理事長「生徒会には話が言ってなかったみたいね。まあ、これで大丈夫よね?」
絵里(ぐぬぬぬ……この人は……。狙ってやっているのか、ただの天然なのか……ことりよりも掴み所がないわ……)
・
・
・
役員「会長」
役員B「どうだったんですか?」
絵里「はぁ……いつもの悪癖よ。もうどうしようもないわ」
役員C「またですか?」
役員「廃校を決めたのも唐突でしたからねぇ。先生たちも平静は装っていましたけど、大分挙動不審でしたよ」
役員B「一週間は理事長室は近寄れませんでしたからね。まあ、これは理事長のせいではないんですけど……一人で貯めこんじゃう人ですから」
役員D「それで? 理事長はなんて?」
絵里「一週間後の今日に展示は始まるそうよ。あなた達も切り替えて頂戴。先生方はあてにならないんだから、私達がしっかり対応しないと」
役員D「絵里も大変ね、ほんと。一年間よくやってきたと思うよ」
絵里「あなたも、いえ、みんな同じよ。ただ今回は今までより更に突発的で、かつ完璧な根回しで行われた、というだけ」
役員D「いい加減にしろと言ってやりたいね。マジで」
役員B「突発的以外は別に問題じゃあないんですけどね。この様子だと、先生方に話したのも私達と大差のないタイミングかもしれません」
絵里「まあ、理事長の言い分にも一理あるわ。どうやら普段は表に出さない特別な展示物という話しらしいし、見聞を広めるいい機会だと言い聞かせましょう?」
役員「言い聞かせる……」
役員B「ここで文句行っても変わりませんしね。頑張りましょう」
穂乃果「ねえねえ聞いた―!? 学校で展示会やるんだってー」
海未「聞いてますよ。掲示板に大々的に張り紙されているじゃないですか」
穂乃果「廃校のお知らせや、μ'sの名前を募集したあの掲示板だね」
ことり「…………」
穂乃果「ことりちゃん?」
ことり(絵里ちゃん……ごめんね……私でもああなったら止められないの……)
海未「ことり? もしかして……また、なんですか?」
ことり「うん……どうやらそうみたい……アハハ……」
穂乃果「ことりちゃん、ってことはおばさんが考えたんだ、へー!」
穂乃果「何が展示されるんだろうね? 楽しみだよねっ」
海未「そ、そうですね」
海未(嫌な予感しかしないのですが……)
真姫「ふぅん。あそこの美術館からいくつか来るのね」
花陽「真姫ちゃん知ってるの?」
真姫「何度か行ったことあるわ。でもあそこは美術館とはあまり呼べないわね」
凛「凛は美術館より動物園のほうがいいな~」
花陽「凛ちゃん、今回は行かないんだよ」
凛「あれ?」
真姫「この学校の一階ホールで展示されるんだって。でかでかと書いているんだからちゃんと見なさいよ」
凛「あはは……」
花陽「何が展示されるんだろう。ホールは広いけど、おっきいものはあまり入らないよね」
真姫「絵里がなにか知ってるかも。練習の後にでも聞いてみる?」
凛「なんか気になってきたにゃ」
にこ「そう……大変だったのね、あんたたちも」
絵里「そうよ。廃校騒動のときも随分苦労したのよ?」
にこ「それは言いっこなしよ。私達が何とかしたんだから、それでいいでしょ」
絵里「そうね……」
希「でも、今回ほど話がスムーズに進んだことは一度だって無かったんや」
希「いや、スムーズどころじゃないんよ。もう決着ついてケチつける間もなかったんや」
絵里「なにが嫌だっていうと、思いつきはまだいいとして、普段から職員にも話を通さないで独断専行してしまうというところなのよ」
絵里「だって結局苦労するのは私達や先生方なのよ? せめて事前にと思ったことは、この一年間何度だってあったわ」
にこ「でも今回は違う、って言いたいのね?」
希「そうなん。そこが今までと違くて不思議なんよ」
にこ「まあ、と言っても生徒たちにも全く知らせずに、突然一週間後やるっていわれるのも問題だと思うけど」
絵里「少ない進歩だと信じたいわ」
にこ「まあにこは生徒会じゃないし、正直どうでもいいわ」
希「にこっち……ひどい……」
にこ「それより何が展示されるか知ってるんでしょ? 目録見せなさいよ」
絵里「これよ。無くさないでよ?」
にこ「……何よこれ……見ただけでカビ臭さが伝わってくるわ。美術の美の字もないじゃない!」
にこ「怪しさがプンプンと伝わってくるわ。特にこの、なによ、人形? 華の女子高生が見るものじゃない」
絵里「にこ、もう、それ以上言わないで……」
にこ「……うん。はい、返すわ、目録」
希「これも、うちらの頭を悩ませる要因の一つ、ということなんよ」
絵里「まあ、そういうわけだから、当分練習には出れないわ。準備や対応で忙しくなるの」
絵里「でもちょこちょこ顔は出すようにするから」
にこ「わかったわ。大変なのはようく伝わったから。あんたたちは仕事に専念しなさい」
希「ごめんな」
にこ「あと、絶対無理して怪我したり、体調壊したりしないこと。所詮学校の催し物なんだから、あまり根を詰めないようにね」
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・
穂乃果「そっかー……絵里ちゃんたち忙しいんだ」
真姫「残念ね、この時間に何が展示されているか聞こうと思ってたんだけど……」
にこ「なぁに? しりたいのー?」
真姫「な、なによ。ち、近いわね……」
凛「あ、もしかして、絵里ちゃんから聞いてるの!」
穂乃果「えー!? ほんとなのにこちゃん!!」
にこ「ふふーん! 知りたかったら、わかるわね?」
にこ「購買で売ってる、ロイヤルスポーツドリンクがのみたくなっちゃったなー」
凛「う、うー……にこちゃんが足元をみるよー」
穂乃果「助けてー」
海未「にこっ」
にこ「冗談よ、冗談!」
にこ「学校側は美術展って言ってるけど、展示されるものはカビ臭い骨董品ばかりよ」
にこ「鎧や槍とか、古代の鏡とか」
真姫「やっぱり。あそこの美術館は随分おかしいものが展示されることで有名なの。美術館というよりはもう博物館よね」
ことり「真姫ちゃん詳しいね。言ったことあるの?」
真姫「ママがあそこのファンなの。度々色物を展示するから楽しいんだって。私は行きたくないって行ってるのに何度か、ね」
穂乃果「へぇ~」
海未「女子校に展示するようなものではないような気がしますね」
凛「海未ちゃんとは思えない発言に、凛びっくり」
ことり「海未ちゃんももう女子高生だから」
海未「なんでですかっ」
花陽「でも、歴史的価値はあるんだよね? 勉強するっていう意味では十分だと思うけど」
真姫「ま、それもそうね。早くなにが展示されるか詳しい発表を見たいわ」
にこ「にこの説明じゃ不満ってわけ?」
真姫「説明というほどじゃなかったじゃない……」
にこ「なによー!」
結局、話を聞くタイミングが掴めずに、先に展示品の内容が発表された
展示物は以下の通りになっている
展示物は下記の六点
一つは戦国時代に作られた石の鎧武者 1980年に寄贈されたもの
二つ目は古代中国に作られたという槍 曰くの知れないものだが、いつの頃からか展示されている
三つ目は作者不明の絵画 2000年に寄贈。イスに座った少女が微笑む
四つ目は推定2000年前の鏡 1990年に他の美術館から移転
五つ目は150年前に作られたゼンマイ式のからくり人形 からくり人形の好事家が、管理が難しくなったために半年前に寄贈
六つ目は江戸時代に作られた古い意匠の櫛 一説によるとさらに古い時代のものという話も上がってきている。美術的価値は非常に高く、現在も調査中
凛「まじか……にゃ……」
花陽「私達には高尚すぎて価値が分からないよ……」
海未「美術の美を感じられないですね……」
ことり「おかあさん……」
穂乃果「女子校らしさがかんじられないよ」
にこ「ま、学校の展示会なんてこんなものよね。がっかりした?」
真姫「……ちょっとだけ。ママってここまで変なのが好きだったのね……」
海未「大抵こういうのって写真をピカピカと載せるものですけど、写真が載ってませんね」
にこ「地味すぎるから止めたんじゃないの? もう字面を見る限りおどろおどろしさが伝わってくるもん」
凛「すでに興味の対象外になってしまったにゃ。かよちん、練習に行こっ」
花陽「う、うん。凛ちゃん」
そして……
展示会 二日前
「オーライオーライ! そこ! 傷つけるんじゃないぞ!」
館長「南理事長、今回の申し出受けていただきありがとうございます」
理事長「いえいえ。こちらとしても渡りに船だったんですよ、館長」
理事長「そういえば聞いていなかったのですが、なぜ私共の学校なんです?」
館長「ああ……、まあ、その、単純な話ですよ」
理事長「μ's、ですか?」
館長「はは、ええその通りです。ファンなんですよ。廃校を救う学生アイドル! 私ああいうのに弱いものでして、年甲斐にもなく感動してしまいました」
理事長「そうですか、ありがとうございます。それについては私の力不足が彼女たちに負担を強いてしまったものですから、個人的にはなんとも複雑な思いです」
理事長「私の代わりに学生たちにつらい思いをさせてしまった……、ダメな大人です」
館長「理事長、私はそうは思いません。全てはなるべくして起こることです。今回の件は、輪の中にいるあなたではどうしようにも出来なかった……」
館長「しかし、輪の外にいる彼女たちにはそれが出来た。大人の我々が思いもよらない方法で」
館長「理事長。あなたは彼女たちを誇りに思ってもいいんです」
理事長「…………」
理事長「……ホールにご案内致します……」
――――カツ、カツ、カツ、カツ……
館長「それで、あー、と……そう、なぜこの展示会をという話でしたな」
館長「一つはμ'sのファンだから。もう一つは、そのう……」
理事長「? どうかしましたか」
館長「いえ……実は、そう! 今回の展示品は我が館の秘蔵品ばかりなのですが、普段は奥にしまって表に出さないのです」
館長「しかし全く表に出さないのはいくら秘蔵品と言っても、それでは意味がありません。そんな時に……」
理事長「……」
館長「μ'sの出現です。そして活躍。学校を救ったヒーロー! 彼女たちに見て欲しいのです。我が館の秘宝を」
館長「ただ、それだけなのです」
理事長「光栄ですわ」
館長「私にとっても光栄ですよ、理事長」
・
・
・
絵里「最終チェックするわよ」
既にホールに並べられており、後はチェックを残し、公開日を待つだけだった
絵里は理事長からひと通りのあらましを聞いていたが、どうにもこれらが秘宝には見えなかった
一つ一つが異様な雰囲気を持っており、まるで生きているように生々しい存在感をはなっているのだ
絵里(一つでもすっごく不気味なのに六つも集まるともっと不気味ね……早くチェックを終わらせて帰りたい)
役員「チェック終わりましたー」
役員B「全部滞りありません」
役員D「はぁー! ようやく終わったー。もう十九時過ぎだよ、早く帰ろー」
絵里「ええ、そうね。希ー? 準備出来たー?」
「チョットマッテテー」
絵里「わかったー! 下駄箱で待ってるねー。さあ、行こ」
希「あ、あれー? 生徒会の書類が……確かに机に置いたはずなんだけど……見当たらない」
希「さっきまで使ってたから生徒会室に忘れてきた、ってわけじゃないやろうし」
希「ホール、かな」
希(うー……一人でホールに行くの嫌やなぁ……エリちに先行ってもらわないで、一緒に探してもらえばよかった~……)
希(でも必ず必要なものだし、行くしか……うー……)
希「うーん、どこに置いたかなぁ……」
希「そんな変な所に置くわけないんやけど。あ、あんなところに」
希が探していた書類は展示物の下にあった
展示物のケースにはカーテンが掛けられていて、一緒に設置したとはいえ、もうどれがどれだか見分けがつかなかった
希(あの大きさやと、鎧かカラクリかどっちやったか)
希「良かった。書類見つかった~」
希「でも……どうしてここに?」
希(不思議なこともあるもんやなぁ)
希が書類を持ち上げ、何の気なしに目を上げると、カーテンが僅かに開いていた
切れ間の様にスーッと登頂まで細く開いていて、天井のライトがその細い隙間を一直線に照らしだす
希「ヒッ!」
見上げると、暗がりから鈍く光る双眸が希を見下ろしていた
冷徹で、冷酷で、無慈悲に希を見ている。ピクリとも動かずに
希「あ、は、はぁっ、に、人形……やん……」
それはその日に運び込まれた展示品の一つ。今回の展示会の目玉でもある
からくり人形
それは人と同じ程の大きさを持ち、理事長から聞かされた逸話では、この巨大な人形が動き、歩くのだという
頭には能面のような表情のない「顔」が付けられており、今では汚れ、くすんでいる
だが「目」は違った。無機物であるのに、どこか息遣いを感じるような輝きを持っている
それは、人形の目ではなく、「人の目」をしていた――
――タタタタタタッ!
絵里「の、希!? どうしたの?」
希「え、りちィ~……」
役員「副会長大丈夫ですか?」
希「だい、だいじょうぶだから……だいじょうぶ、だいじょうぶ……」
絵里「希……」
役員D「様子がおかしいわ……どうしてこんなに……震えているの……?」
絵里「どうしたの? 何があったの?」
希「…………」ガチガチガチガチ……
役員D「家に連絡したほうがいいんじゃない?」
絵里「そうね……」
絵里(でも、希は一人暮らしだし……みんなに話してないってことは、あんまり知られたくないってことだし~うう……ん)
絵里(やむを得ない……あの手を使おう)
絵里「私が希を送って行くわ」
役員D「え? 大丈夫なの?」
絵里「実は希のご両親と面識があってね。ほら、私達仲がいいから」
役員D「そうなの? んー……それなら大丈夫よね。私の方もひっきりなしに携帯が鳴ってるから、結構切羽詰まってるのよ」
薄情だけど、と付け加える
役員D「絵里からご両親の方に連絡入れてくれると助かるわ。それじゃあごめんね。私達さきに帰るから。希のこと任せたわ」
絵里「ええ、大丈夫よ。ありがとう。また明日ね」
――プルルルルルル
――プルル……ピッ
「はい。なあに? 突然……」
・
・
・
展示会 前日
穂乃果「え!? 今日絵里ちゃんと希ちゃんおやすみなの?」
にこ「朝から見なかったわ。この二週間慌ただしかったし、疲れて倒れちゃったんじゃない」
凛「なんでにこちゃん膨れてるの?」
にこ「膨れてなんていないわよ!」
にこ(無理して身体を壊すなって約束したのに。私との約束はそんなに軽いの?)
凛「凛に怒鳴らないでよ~」
花陽「に、にこちゃん落ち着いて……」
にこ「落ち着いて!! ……いるわよ。すごく……」
海未「まあまあ。とにかく二人にはしっかり休んでもらって、早く元気になってもらいましょう」
ことり(なにかあったのかな?)
真姫(たぶん……)
凛「でも明日からとうとう展示会始まるねー」
花陽「展示講演会は私達一年生から受けるんだよね」
真姫「館長自ら一つ一つを説明するんだって聞いたわ。由来とか逸話とか」
海未「そうなんですか?」
ことり「うん。お母さんもそう言ってたのを聞いたよ」
穂乃果「逸話かー。なんだかロマンを感じるねっ」
真姫「そりゃあ数百年も昔の物だし、それが今の世に残っているのって本当は凄いことだもの」
凛「真姫ちゃんロマンチストにゃー」
海未「でもその気持ちすごくわかりますよ。私の家なんて古いものの見本市ですから。そういったものの一つ一つに歴史があると思うと、なんだか胸がワクワクしてきますっ」
穂乃果「海未ちゃんが饒舌ぅ」
海未「な、なんですか! 私が長文を喋っちゃおかしいんですかっ!?」
同日 早朝
希「ん……、ん? あー……」
希「ここ、どこ?」
「私の家よ。おはよう、希」
絵里「遅いお目覚めね、希。もう八時過ぎよ」
希「エリち!? そ、そういえば見覚えがある……」
希「って、そうじゃなくて! な、なんで私がエリちの家に居るの!?」
絵里「落ち着いて希。口調が戻ってるわよ」
希「…………」
絵里「説明の前に朝食が出来てるわ。それをまず片付けてちょうだい」
希「エリちぃ……」
絵里「質問しないの。ほら、さっさと行く」
・
・
・
希「……ごちそうさまでした」ムスッ
絵里「よろしい」
希「それで、話なんやけど」
絵里「まだだめ。次はシャワー浴びてきて。あなたも女の子なんだから身だしなみはちゃんとしなきゃ」
絵里「着替えはとりあえず私のを貸すわ。ほら、不満そうな顔しないの。いったいった」
希「もう……いったいなんなん……?」
・
・
・
希「いい加減話してもいいんじゃない? 絢瀬絵里さん」
絵里「あ、青筋立てて怒らなくてもいいんじゃない? 東條希さん?」
希「…………」
絵里「オホンっ」
絵里「昨日のことなんだけど、私達が作業を終わらせて希のことを待ってたら、ひどく怯えたあなたが走ってきたの」
絵里「理由をたずねても大丈夫しか言わないし、身体はずっと震えてるし」
絵里「希、あなたは一人暮らしじゃない。流石にそんな状態のあなたを一人でいさせるなんて出来なくて、事情を話して家に来てもらったの」
絵里「家には何度か泊まりに来たこともあったから、お母さんもすぐに快諾してくれたわ。それが、これまでの経緯よ」
絵里「そして、今日は大事をとって学校をお休みすることにしたわ。私も付き添いでね。あ、別にサボりってわけじゃないのよ」
絵里「そこでここからは私が質問する番なんだけど。率直に聞くわ。希、あなた一体学校で何があったの? あんなに怯えるなんて普通じゃない」
希は質問に答えず沈黙している
さっきまであった可愛らしい怒りの表情は消え、今は凍りついたようにピクリともしていない
絵里「のぞみ……?」
希「――目」
絵里「え……?」
希「目を……見たんよ」
絵里「?? どういうこと?」
希「う、うぅ……ハァ――ハァ、ハァ、ハァ――」
絵里「だ、大丈夫!?」
昨夜のことを思い出したのか、絵里の腕の中で震え、呼吸が荒くなっている
過呼吸一歩手前のようだ
絵里「希落ち着いて。ここに怖いものなんてないわ。大丈夫。ほら、希。私をみて。ほら、目を見て」
希「ハァハァ――え、ハァ、えりぃ――」
絵里「私の目を見て。そう、そうよ。はいふかーく吸ってー……、そう、ゆっくりはいてー」
希「ハッハッ――スゥゥー……ハァァー……」
何度か深呼吸をさせて、希の呼吸を落ち着かせる
呼吸は落ち着いたが、まだ恐怖があるのか額に汗が流れ、目の焦点が定まらず小刻みに揺れている
安心させようと手を絵里が握る。その手は汗ばみ、そして氷の様に冷たかった
絵里「大丈夫、大丈夫よ希。私が居るじゃない……もう一度私を、私の目をみて……」
絵里「どう? 私の目は怖い? お祖母様にはよく綺麗な瞳だね、って褒められたのよ?」
絵里「大丈夫、大丈夫、もう大丈夫だから……」
暫くすると、体温が戻り、頬にも赤みが差してきた
どうやら落ち着いたようだ
希「え、エリち……」
絵里「……んー?」
希「あ、あり……」
絵里「ダメ、聞こえないわ」
希「ありがと……」
絵里「ふふっ、気にしないで」
絵里(希のこの怯えよう……ちょっと尋常じゃないわね。一体何があったのかしら)
絵里(うー、聞くのが凄く怖い……でも、希一人にそんなに怖いものを背負わせたくないし……)
絵里は心中葛藤するが、そんなことはわからない希は、勇気を振り絞ってゆっくりと昨日のことを話し始めた
希「うち、生徒会の資料を探してて、何処にもなかったからホールに行ってみたの」
希「ホールに資料は持って行ってなかったんやけど、もしかしたらって思って」
希「そうしたら展示物のケースの下に資料が落ちてて……」
希「そ、そしたら……」
絵里「希……」
希「だ、だいじょうぶ……」
希「そしたら、ケースに掛かってるカーテンの隙間から、目、目が……」
絵里「……」
希「…………目が、うちを見下ろしていたんや」
複数投下ってどんだけ見て欲しいんだよ
・
・
・
絵里「はい、ホットココア。エリチカ特製ブレンド。落ち着くわよ」
希「うん。ありがと」
二人は一息入れるためと、希を落ち着かせるために絵里が入れたココアを飲んでいる
絵里(希が見たのは多分あのカラクリ人形のはず。確かに凄い雰囲気のあるものだけど、人形の目の高さと希の目線。高低差があるからかち合うはずがない)
絵里(それに希が「目」から受けた印象が気になるわね)
絵里(職人入魂の作品には魂が宿るって日本では聞くけど、そのたぐいかしら。それにしてはネガティブな印象が強いわね)
~~~
希「人のような生々しさがあって、でもそこには何の感情も無くて……そのチグハグさがとても、不気味だった」
希「人だけど人じゃない……きっとそんな生き物がいたら、ああいう目をしていたと思う」
~~~
絵里(お化け……なのかしら……)
・
・
・
学校のなかに何かがいる
それは恐らく人でも、生き物でもない
得体の知れない何かが潜んでいる
そしてそれは、誰にも知られずひっそりと――
――行動を開始する
キリ……
キリ……
キリキリ……
畜生からくり
ここまで
ホラーか
期待
期待
まさかのホラー…
もう一度読むぞー
期待
展示会 前日 夜
ヒュウウゥゥ……
ガタ……
ガタ……
パリンッ!
「だ、誰? 誰かいるの……?」
ペチャリ……
ペリャリ……
「おか、お母さん……?」
ペチャ……
…………
キリキリキリ……
展示会 前日 夕方
絵里「ねえ、希。当分家に来ない?」
希「え、え?」
絵里「お母さんから言ってきたことなの。昨日のあなたの様子を見たら、一人にはさせられないって」
希「で、でも、迷惑かけるし……」
絵里「私とあなたの仲じゃない。遠慮しないで。それに私も心配なのよ、希」
希「えりち……」
希「ごめんね……ありがとう……」
絵里「さ、そうと決まったら一緒に着替え取りにこうか!」
同日 同刻 マンション
――ピンポーン
希母「……? 出ない」
ガチャガチャガチャ
希母「あら? 鍵も。希まだ帰ってないのかしら?」
何度かノブを回してみるが、やはり鍵がかかっている
まさか自分の娘が夜に外を出歩いているというのだろうか?
希母「へえぇ……引っ込み思案だったあの娘が……フフ……絵里ちゃんのおかげかしらね」
ゴソゴソとカバンを探る
カバンから小さい光るものを取り出した。合鍵だ
希母「こーなったらお仕置きが必要だなー? 脅かしてやろう!」
部屋に入ると、
希母(風、の音? 窓が開いてる……?)
窓の近くでカーテンが揺れている
希母(寝てたのかしら。……こんな時間から? まさかぁ、男かしら)
希母「のぞみー……、いるのー……?」
希母「不純異性交遊は責任をちゃんと取れる歳まで、お母さん許しませんよー……」
靴を脱いでゆっくりと部屋の中を進んでいく
電気は付けていない。なにか嫌な予感がしたのだ、付けないほうがいい、と
希母(いない……のかな……)
風が吹きすさぶ窓に到着した
窓は開いてはいなかった。ではなぜ風が中には行ってきているのか
それは……
希母「窓が割れてるっ!? 強と……ハッ!?」
キリキリキリ……
・
・
・
絵里「でね、亜里沙が……」
希「ええ、そうなん? フフ……」
鍵を取り出して、回す
しかし、空回りしてしまった。手応えがない
希「鍵があいとる……締めてこなかったのかな?」
絵里「えー、不用心じゃない?」
希「そんな、いつもちゃんと掛けて……あ、お母さん?」
絵里「あ、おばさんか。おばさんなら合鍵持ってるし、こういって突然来るものね」
希「もー、あれほど事前に連絡してって言ってるのに……」
ガチャ
キィィィィ……
希「あれ? まっくら……」
絵里「……なにか様子がおかしくない? おばさーん! いるんですかー?」
シ…………ン
返事はない
希「またお母さんの悪ふざけやろ? 前にもこうやって脅かされたことがあるんよ」
絵里(それだけ? 本当にそれだけなの? なにか、なにかが違う気がする……)
ヒュウウゥゥ……
希「あー! 窓開けっばなし! ちゃんと閉めてよー」
希が窓を閉めようと近付いていく
しかし、数歩前で歩みを止めた
希「あっつ! つつ……足になにかが」
絵里「ちょっと大丈夫? ……なによこれ、ガラスが散らばって……窓が割れている……」
希「――!?」
希「……お母さん。お母さんッ!!」
ガタン……
希「寝室……!」
絵里「希待って! 危ないわよ!」
バタンッ!
希「おかあさんッ!」
ピチャ……
ピチャ……
希「おか、お母さん……?」
ペチャ……
…………
キリキリキリ……
・
・
・
「ガイシャの容態は?」
「意識不明の重体です」
「娘さんの方は?」
「外傷はさほどではないですが、心的外傷、ショックのせいで……」
「話せる状態ではない、か」
「お友達の方は別室に通してますが」
「既に調書はとっているが、一応会おう」
「やあ」
絵里「……」ペコリ
「まどろっこしいのは嫌いでね。簡単なことを訪ねよう。犯人、見た?」
絵里「……」
絵里「……いいえ」
「そうか……」
絵里「でも……」
「ん?」
絵里「あれは、たぶん、人間じゃあない……」
(……)
「大変な思いをした後にすまないね。でもありがとう。後はゆっくり休んでくれ。ここにはスタッフさんも24時間付いているし、安心して眠るといい」
・
・
・
カシュッ!
ゴクリ
「フゥ……。しかし、目撃証言もおかしいですよね。窓から人が飛び出したって。でも何処にもその痕跡が見当たらない」
「襲われたガイシャの怪我も尋常じゃねぇ。背中の生皮剥がすとはな……」
「うー……言わないでださいよ。思い出したくないんですから」
「人形」
「え?」
「ひとつ気になる証言がある。『人形が飛んでいた』、だ。『人』ではなく」
「……確かに。でも俺なら正気をまず疑いますね。薬物使用も疑います。……捕まえに行きましょうか?」
「いや、いい。だがあの現場、突発的犯行にもかかわらず侵入経路が見当たらない」
「窓が割られてたじゃないですか。そこからでしょう?」
「十数階のマンションだぞ。それに外側から割られている。相手は特殊部隊か? これはもしかしたら、もしかするかも知れんぞ」
「いつも言ってるアレですか?」
『時折起こる理解不能の超常現象』
「未解決事件。それらが当てはまるとは言わんがな。時たまあるんだよ、そういう意味も理解もぶっちぎったイカレタ事件ってやつが。そういうのは大抵お蔵入り。つまり未解決ってなるのさ」
「今回がそれ、の可能性があるってことですか」
「ただの勘だよ。まだ、な……」
「触らぬ神に祟りなし、でありたいですよ、本当」
・
・
・
展示会 当日
一年生 展示説明会
館長「それでですね、この鏡は……」
凛(思った通りヤバいものの見本市にゃ……)
真姫(全部曰く付きじゃない……どうなってるの……)
花陽(怖い話ばっかりだよぉ……)
館長「次にこの槍ですが……実はいつからあるのか、製作者は、年代は、などの情報が一切不明なのです」
ざわ……
ざわ……
館長「相当古いものだろうということしか研究ではわかっていないのです。特徴としてはこの赤い布があります。これもこの槍の発生とともに……」
真姫(女子校でやるようなものじゃない……)
館長「それでは最後に、今回の展示会の目玉を説明しましょう」
巨大なケースにかかったカーテンに手をかけ、勢いを付けてバッ! と引き剥がす
――ヒッ……!
ざわざわ……
中から現れたのは、今までよりも一際異質な物体だった
凛「か、かよちん……こ、こわい……」
花陽「り、り、り、りんちゃ…………」
館長「これはからくり人形と言って、半年前に管理が難しいという話で寄贈されたものなのです」
館長「見ての通り、人型のからくりとしては最大級のもので、大変貴重なものであります」
館長「残念なことに、寄贈された方も私も、専門家の協力を仰いでも動かすことは出来ませんでした。ですので、実際にどういう風に動くというのはわからないのです」
館長「そもそも本当に動くのか……」
館長「えー、製作者は江戸時代にいた便七というからくり技師が作った作品です。彼の作品の中には無礼を働く客を切る茶汲み人形や……」
館長「本物の鳥と同じように飛び、獲物を捕獲するからくり鳥など、驚くべき物があったそうです」
館長「特に彼の長年のテーマである『永久に動くからくり人形』に、心血を注いだといいます」
館長「そしてその、『永久に動くからくり人形』というのがこの作品なのです」
館長「これは便七の遺作でもあります。彼が死ぬ間際に完成させたのです」
館長「しかし、先ほど説明した通り、現代では動かすことが出来ませんでした……つまり……」
花陽(ん、あれ? 人形の……手に、なにか黒いものが……なんだろう? べっとりついてる……)
――彼の研究は失敗に終わったのです……
はよ
・
・
・
にこ「どうだった? 展示会」
凛「あーうー……」
海未「凛が返答に困ってますね……でもその気持良くわかりますよ。なんて言えばいいのか」
真姫「そうね、一言でいうなら『最悪』、ね」
ことり「ま、真姫ちゃん……」
にこ「へぇ~?」
花陽「わ、私は凄く怖かったな。全部怖い話ばっかりで……」
凛「にこちゃんたち三年生は一番人数が多いから、明日やるんだよね?」
にこ「そうよ。今から憂鬱なの」
凛「凛たちがいう意味がわかるにゃ。明日になれば」
にこ「な、なによ……脅かそうたってむだよ!」
真姫「そういえば絵里と希は? 今日も休み?」
にこ「そうみたい。そういえばそのことを告げるときの先生の様子がちょっとおかしかったかな」
花陽「どういうこと?」
にこ「んー……なにか挙動不審というか、落ち着きがなかったの。突発的なことで、そう、まいってる?」
海未「?? どういうことでしょう」
にこ「……何かを隠してる? たぶん」
穂乃果「にこちゃん?」
にこ「そう、そうだわ……私今日の練習休むわ」
そう言って忙しなく荷物をまとめて、足早に部室を去っていった
穂乃果「ち、ちょっとにこちゃーん!?」
花陽「行っちゃった……」
ことり「なんだったんだろう……」
真姫「さあ?」
プルルルルル……
プルルルルル……
プルルルルル……
にこ「…………」
にこ(二人とも電話に出ない……やっぱり何かあったんだ……)
にこ(そうだ、家に直接行けば。たしか前に絵里の住所は教えてもらったのをメモしたことが……)
・
・
・
亜里沙「あ、にこさん」
にこ「突然ごめんね。絵里居る? お見舞いに来たんだけど」
亜里沙「あ、その……お姉ちゃんは、今家に居ません」
にこ「え……? ど、どうして?」
亜里沙「…………入って下さい」
にこ「…………」
亜里沙「パックの紅茶ですけど、どうぞ」
にこ「ありがとう。全然大丈夫よ」
亜里沙「……」ズズ…
にこ(……)ズズ…
亜里沙「…………」
にこ(…………)
亜里沙「……お姉ちゃんは……」
にこ「……うん」
亜里沙「今、入院してます」
にこ「……えっ?」
亜里沙「あ、心配しないで下さい。検査入院? らしいので。明日には帰ってくると思います」
にこ「……一体なにがあったの?」
亜里沙「実は、口止めされているんです」
にこ「なんですって? 誰に」
亜里沙「…………」
にこ「警察、ね。これで朝の先生たちの様子にも合点がいったわ」
亜里沙「……その」
にこ「なに」
亜里沙「誰にも言わないと約束できますか? 少なくともニュースで流れるまで」
にこ「……約束する」
亜里沙「私もそこまで詳しいことはわからないんです。実は……」
・
・
・
・
・
・
にこ「の、希……」
亜里沙「これがお母さんから聞いた詳細です」
にこ「事件に巻き込まれていたなんて……」
にこ「病院ってどこの?」
亜里沙「西木野総合病院です。え、もしかして今から行くんですか?」
にこ「面会時間ならたぶん大丈夫でしょ。過ぎてても行くけど」
にこ「一緒にいく?」
亜里沙「いえ、この時間帯出歩かないように言われているので……」
亜里沙「にこさんも気をつけて下さい。犯人はまだ捕まっていないんですから」
にこ「ありがと。それじゃあお邪魔しました」
展示会 当日 夕方
西木野総合病院
にこ(良かった、間に合った。強行突破の覚悟もしてきたけど、女子高生、しかもスクールアイドルのすることじゃないものね)
にこ「え……っと、三階の、奥、だったわね」
・
・
・
絵里(…………)
にこ「なぁーに深刻そうな顔してるのよ」
絵里「っ!? にこ!? どうしてここに! 練習は?」
にこ「サボってきた」
絵里「サボっ……」
にこ「約束破りに、にこの鉄槌をくらわせに来たのよ」
絵里「約束?」
にこ「忘れてたな~? 倍よ、倍! 倍ゲンコよ!」
絵里「わ、わ、思い出した思い出したから手をおろしてっ」
にこ「本当に~?」
絵里「ほんとほんと! アハハハ……」
にこ「……」
絵里「アハハハ……に、にこ~?」
にこ「亜里沙から聞いたわ」
絵里「――!」
にこ「とりあえず無事で良かったわ。安心した」
絵里「……ごめん」
にこ「謝る必要はないでしょ」
にこ「希の様子は?」
絵里「……怪我は大したことないらしいの。でも……」
にこ「……ねえ、何があったの? 亜里沙が、絵里のお母さんが知らないこと、知ってるんでしょ?」
絵里「…………」
絵里「……いいわ。私が見たもの、そのまんまを話してあげる。警察にも『言えなかった』ことも教えてあげる」
回想
展示会 前日 夜
希母「…………」
ピチャ……
ピチャ……
希「お、お母さんッ!!」
巨大な影が希の母を吊り下げている
水音は母から滴り落ちる血の滴が、血の水たまりに落ちてゆく音だった
母は背を向けているが、その背が血で真っ赤に染まっている
希「な、な、なにを……」
絵里「希ッ!!」
遅れる形で絵里も部屋の残上を目の当たりにする
部屋はもみ合ったのかベットがひっくり返り、照明やら何やらが散乱して壊れている
二人はあまりに現実離れした光景に、金縛りにあったように動きが止まった
「…………」
キリ……
キリキリ……
何かが軋む音が、静かな部屋で僅かに聞こえてきた
影の主から侵入者を品定めするような、そんな気配が伝わってくる
希「…………」
絵里「…………」
「…………」
硬直する場で、最初に動いたのは影の主だった
片手で吊り下げている希の母に向かって、逆の手を掲げて槍のように手を尖らせ、弓のように引き絞る
何をするのか分からなかったが、絶対によくないことだと直感で感じ取った
影の主が動くと同時に、希も弾かれたように動く
希「わ、わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
錯乱しているのか、この限界の緊張感と異常な空間に耐えられなくなったのか
希は一直線に影に向かって突進した
手が希の母に到達する刹那の瞬間。僅かに希の方が早かった
影は希のがむしゃらな体当たりによって体勢を崩し、希の母を取り落とした
絵里「希、危ないッ!」
襲いかかってきた希に反撃しようと、いち早く体勢を整えた影が腕を振り上げる
絵里は手元にあった木片の塊を急いで投げつけた
木片にぶち当たった影は、窓ガラスを割って外へ投げ出される
絵里「あっ!?」
影はそのまま後ろへ飛び退り、マンションの窓から飛び出して夜の空へと消えていった
・
・
・
にこ「…………」
絵里「そして、私は見てしまったの」
にこ「な、何を……」
衝撃的な告白に、喉がひりついていた
常軌を逸している。まるで日常が足元から破壊されていくような錯覚に陥っていた
にこは聞かなければ良かったと、いまさら後悔していた
だがそれももう遅い。すでに引き返せないところまで来てしまっていた
絵里は続ける
そして最後の言葉を発した
絵里「犯人に物をぶつけた時、犯人が窓の外に飛んでいった時」
絵里「外の電光に照らされて、一瞬だけ見えたの……」
にこ「だ、だから何を……っ!」
絵里「顔よ。顔……」
今展示されている、からくり人形の顔を――
畜生からくり
ここまで
途中止まって申し訳なかった
まだか
展示会 当日 夜
雪穂「あ、お姉ちゃん今からランニング?」
穂乃果「うん。体力づくりは基本だからねー」
雪穂「チラシ回ってきてたよ。不審者注意だって。夜間出歩くことは避けましょう、だって」
穂乃果「え、えー? 大丈夫だって! いってきまーす!」
雪穂「ほんとに気を付けてねー」
――ハーイっ!
穂乃果「はっはっはっはっ」
穂乃果(にこちゃん、どうしたのかな? 突然思いつめた表情をして……)
穂乃果(絵里ちゃんたちに何かあったのかな。でも風邪とか疲労だって聞いたけど)
穂乃果(やっぱり、全員集まらないといまいち締まらないんだよね)
穂乃果(早くみんなで一緒に練習出来たらいいなー)
穂乃果「ふっはっはっはっふっ」
――ビュオォッ!
穂乃果「ん?」
穂乃果「ひ、と? 人が……空に……」
穂乃果「あ、あはは、あはははは……つ、疲れたのかなぁ~……」
穂乃果「うぅ……」ブルル…
穂乃果「か、帰ろーっと……うん、つ、疲れを明日に残すと行けないしね~あはは……」
西木野総合病院
にこ「…………」ゴクリ…
絵里「……信じられないでしょうけど、事実よ」
にこ「それは、警察には言えないわね……」
絵里「信じるの?」
にこ「嘘とは思ってないわ。見間違いとかは考えるけど」
にこ「でもね、そんな嘘を私にいう意味がないわ。絵里、あんたはこんな状況で嘘を言う人なの? 違うわよね」
にこ「だから信じるわ」
絵里「にこ……」
にこ「それに嘘なら嘘でいいわ。犯人は人間だもの。むしろ嘘であって欲しい……」
にこ「人間なら、人の法で裁けるもの……」
絵里「そう、よね……」
にこ「ところで希の様子は?」
絵里「……案内するわ。丁度ひまだったのよ」
にこ「え、うん」
絵里「希は別棟にいるの。ちょっと遠いわ」
にこ「時間なら気にしないわよ。無視してでも行くから」
絵里「……こっちよ」
西木野総合病院 別棟
・
・
・
希「――――」
にこ「な、なによこれ……」
絵里「にこ、希は……」
にこ「…………」
絵里「まだ目が覚めないの。怪我は特に異常はなかったわ。でも、精神的ショックが強すぎて……」
にこ「ゆ……」
絵里「にこ?」
にこ「許せない! 今から学校に行って、あの人形壊してくる!」バッ
絵里「ちょ、にこ!? 待ちなさいよ!」ガシ!
にこ「放しなさいッ! 絵里ッ!」
絵里「そういうわけには行かないわ! 落ち着きなさい!」
・
・
・
部下「ほんとにもう一度聞くんですか?」
刑事「ああ。現場にいた唯一無事な一人だ。絶対あの子は何かを見ている」
刑事「あ、なんだ? 行くの反対なのか」
部下「いえそういうわけでは。ただ、昨日の事じゃないですか。それも友達と、その母親が襲われていたんですよ?」
部下「犯人と対峙して、命の危険にも晒されて……そんなことを根掘り葉掘り聞くというのは、ちょっと」
刑事「なーにを今更ウブなこと言いやがって」
部下「しかし、今回の事件は……」
刑事「同じことだ。犯人が居て、被害者が居る。それなら俺達が動く理由には十分だ」
刑事「なにも彼女を尋問にかけるわけじゃない。ただ、説得してみるだけだ。流石の俺もそこまで鬼じゃねぇ」
西木野総合病院 絢瀬絵里の病室前
刑事「事件に関係する人物だから、個室にしてもらったんだが……」
部下「いませんね」
「そういえばさっき、同級生の方がお見舞いにいらしてましたよ」
刑事「見舞い? ありがとう」
「いいえ。では仕事に戻らせて貰いますね」
部下「ありがとうございます」
部下「随分聡い娘がいますね。行動が先輩並みの」
刑事「いいことじゃねえか」
部下「戻るまで待ちます?」
刑事「ったりめーだ」
部下「ですよね。じゃあ、飲み物買ってきますね。いつものでいいですか?」
刑事「おう」
ガシャーンッ!
部下「うわ、な、なんだ?」
刑事「ガラスの割れる音、だな。それもドでかいガラスの」
「別棟の方だ!」 「どうした!?」
「なにか外からデカイものがぶち当たったらしい」 「人形だ」
「人形」 「人形が……」 「大きな人形……」
部下「先輩、これって」
刑事「たしか被害者の娘は別棟で療養してたな?」
部下「そうです! まさか!」
刑事「かもしれんな。急ぐぞっ!」
・
・
・
にこ「ハァハァハァ……」
絵里「落ち着いた?」
にこ「ハァハァ、う、うん。だから、もう、はぁ、離して……」
にこ「でも、なんで止めるのよ」
絵里「危険だからよ。それに今から学校に入れると思ってるの? 開いてないわよ」
にこ「ぐむむ……」
絵里「あれは人形と思っちゃダメ。か、怪物よ。モンスターと思わないと」
絵里「怪物にただの女の子が勝てると思う?」
にこ「じゃあこのまま黙ってればいいってこと? 警察にもはなせないのに? 冗談じゃないわ」
にこ「今日が無理なら明日やるわ。放課後一人で残ってでもやるから」
絵里「にこ!」
絵里「危険だっていうのが分からないの!」
にこ「あんたこそ分かってんの!? 希と希のお母さんが襲われたのよ!」
にこ「それにこのまま放っておいたら、たぶん、いえきっと犠牲者がもっと増えるわ……」
にこ「警察には頼れない。私達以外の人はあてに出来ない。なら誰がやるのよ」
にこ「あの持ち主に話してみる? あんなへんてこなものを嬉々として収集して、他人に見せびらかすような変態よ。壊すことに同意するはずがないわ」
にこ「よく聞いて、絵里。私達しか居ないの。いい? 私達しか居ないのよ。犠牲者も最小に留めるなら今しかないの」
絵里「……」
にこ「そりゃあ怖いわよ……私は直接まだ見ていないけど、希たちをあんな風にしたやつよ……」
にこ「危険だってわかってる。でもね、でも……」
にこ「私には妹たちがいるの……」
絵里「にこ……」
にこ「次にこうなるのが私の妹たちかもしれない……そう思うと……」
にこ「居ても立ってもいられないの。分かって、絵里」
絵里「…………」
にこ「…………」
絵里「……私にも」
にこ「…………」
絵里「私にも、妹がいるわ……」
にこ「絵里……」
絵里「実は下駄箱の扉の鍵を返却し忘れていてね。うっかりしてたわ」
にこ「絵里!」
絵里「鍵、返しに行きましょう? 一緒に」
にこ「そう来なくっちゃ!」
絵里「そうと決まったら対策と作戦を考えましょう」
にこ「そうね。でも作戦って言っても、どうするの?」
絵里「あれの弱点、とか?」
にこ「私さっきも言ったけど、実物を見てないのよまだ。明日の授業で説明会があるから、その時みればいいかなって思ってて」
絵里「そう。見た目はだいたいにこくらいの大きさの人形よ。木で出来てるの」
絵里「能面みたいな顔に、能で使うような和服を着ていたわ。髪は身長ほどに長くて、長い年月でそうなったのか、酷くボサボサしてたわ」
にこ「げぇ……オカルト番組で出てくる類のまんまそれじゃない。不気味を通り越してもはや納得の領域だわ」
絵里「私、その、そういう番組絶対に見ないから……」
にこ「ふーん?」
にこ「まあ、一つはっきりしたことがあるわね」
絵里「え?」
にこ「単純な話よ。木造だというなら火に弱いはずよ」
絵里「ええ、私もそれを考えたわ。でも、どうやって燃やす? 場所はどうするの?」
絵里「他に引火してしまって、この歳で放火魔の烙印を押されたくないわよ」
にこ「う~……でも他にいい案なんてないわよ。鉄パイプで殴りあう? 無理よね」
絵里「海未なら出来るかも。小学校から今まで剣道習ってたって聞いたことある」
にこ「弓道部でしょ?」
絵里「それは高校からの部活動のことよ。子供の頃からお父さんといっしょに道場に通っていたんですって」
にこ「へぇー、随分スポーツマンしてるのね。部活にアイドルに道場って。その上歌詞までメインで頑張ってるんでしょ? こっちのほうが怖いわね」
絵里「でもこれは私達で片付けたい。μ'sのみんなを巻き込みたくないの」
にこ「私も同感。こんな危険なこと巻き込めるわけない。人手はあったほうが絶対にいいけど」
にこ「それでも、ね」
絵里「うん」
にこ「あの人形を校庭にぶん投げて、キャンプファイヤー。これでどう? シンプルでしょ?」
絵里「出来るかどうかを置いておけば名案ね」
にこ「でしょ?」
――ガシャーンッ!!
にこ「な、なに!?」
絵里「き、来た!」
にこ「何が!?」
絵里「『人形』よ!」
――な、なんだこれ!
――に、人形だ!
――うわぁ! こっちにくる! わあああああ!
絵里「……どうやら下の階のようね。位置も結構遠い」
にこ「ま、ままままマジできちゃったの?」
絵里「勘だけど、マジ、よ」
にこ「な、なんのために!? わざわざ病院なんかに」
絵里「分からない、わからないわよ! いちいち私に聞かないで!」
にこ「怒鳴らないでよ!」
絵里「…………もしかして」
絵里「希を狙ってる?」
にこ「――え?」
絵里「おばさんは集中治療室からでて、そういった重体の患者を見る特別な病室にいるの。この別棟にはいないわ」
絵里「そしてここにいるのは、私と希。あの時あの場所にいた私達二人が集まっている……」
にこ「そ、そんな!」
絵里「…………覚悟を決めたわ」
絵里「私、希を守る。だからにこ……」
絵里「力を貸して」
にこ「はぁ、ついさっきまでその為の話し合いをしてたんじゃないの? 今更よ」
にこ「それより、その手の震えを止めなさい? カッコつかないじゃない」
絵里の手を、にこが優しく包む
恐怖で震えた手が、彼女の暖かな体温で、震えが止まる
にこ「ステージの上のほうが、何倍も緊張するし、何倍も怖いわ」
絵里「うん……うん!」
にこ「やろう! 絵里!」
・
・
・
警部「別棟に行くのはこの通路か!」
「そ、そうです! 刑事さん! な、なにか変なものから窓から!」
部下「大丈夫です安心して下さい。その為に我々が駆けつけたんですから」
「あ、あれは別棟の二階の窓から侵入してきました。他の職員の話だと、上を目指して進んでいるそうです」
警部「ご協力感謝します。いくぞ! 間違いなく娘さんを狙っている!」
部下「はい!」
・
・
・
それは『臭い』をたどってやってきた
我々人間が感じている、生物的な臭いではない。もっと抽象的なものだ
『臭い』は上の方からしている
それは静かに、そして素早く上へ向かう。臭いの元へ
・
・
・
カツ……
ズル……
カツ……
ズル……
硬いものがぶつかり合う乾いた音の後に、何か水っぽい、重いものを引きずる音が聞こえる
既にその階にいる職員たちは逃げ散ってしまっていた
引きずる音と、乾いた音は、東條希の病室の前で止まった
ズ、ズズゥゥゥ……
引き戸がゆっくりと開けられる
トサ
何かが地面に落とされた音がした
侵入者は先程とは違い、全く音も存在も感じさせないように動き、希が眠るベットに近づく
その動きは幽霊、幽鬼のようであり、もはやこの世の物ではなかった
キリキリキリキリ……
小さく軋む音を立てながら、右手が大上段に構えられていく
手の先をピンと伸ばし、さながら槍のようでも剣のようでもある。一息に貫くつもりなのだ
限界まで引き絞られた弦のように、鋭い手は、いきよいよく振り下ろされた
ズ ゴ ォ ッ !
手はベットを貫通するほどの威力があり、容易くベットを両断してしまった
しかし、
「!?」
しかし、振り下ろされたところに『臭い』の元はいなかった
にこ「間一髪、ね……」
にこ「残念だったわね。希は別の病室に移させてもらったわ」
絵里「ざーんねんだったわね。あなたの思い通りにはならないわ。あの時も、そしてこれからもね」
にこ「そして知ってる? 制汗スプレーって燃えるのよ」
ボ ン ッ !
絵里「前に部室で制汗スプレーで満たしたら、タバコの火で引火して爆発したっていう事件を覚えていたのよ」
絵里「ちょうど大きさ的にも手頃だし、行けると思ったのよね」
にこ「ひぇぇ……でも凄くいけないことしてる気がする」
絵里「これだけ目撃されているんだから大丈夫よ。(タブン)。そして先手必勝。私達の勝ちよ」
にこ「どれどれ~。グリルは出来上がったかな~?」
グ ワ ァ ッ ! !
まだ火が付いている人形が扉をぶち破り、飛び出してきた
二人は扉と一緒に吹き飛ばされ、床にしたたかに打ち付けられてしまった
にこ「うぐぅっ!」
絵里「カハッ!」
にこ「そ、そんな。勝ったはずじゃ、なかったの……?」
キリキリキリキリ……
所々黒く焦げているが、まだ健在だった
まだ火が残っている服を手できざみ飛ばし、完全に鎮火してしまった
服が取り除かれ、人形の内部があらわになった
にこ「あッ!」
絵里「ひっ!」
むき出しになったからくりは、おぞましい、とてもおぞましいものだった
からくりのゼンマイにはびちゃびちゃとした、湿り気のあるものがまとわりついていた
肉だ。何らかの肉が血を滴らせながら、ゼンマイに絡みついている
絵里「お、おばさんの……!」
絵里「い、イヤァァァァァァアアアアアアアアアアッ!!」
絵里にはわかった。その使われている肉が、なに者のものなのかを
人形は身体を軋ませながら二人に近付いていく
どうやら流石にあの爆発が効いたようで、当初のような滑らかで素早い動きは出来ないようだ
ぎくしゃくとしながら歩みを進めていく
にこ「絵里、絵里! しっかりして! あいつが来るわよ! にげなきゃ!」
絵里「イヤ、い、いやぁぁ……!」
にこ(も、もうスプレーは空だし、身体が痛くてう、動けないし……!)
にこ「だ、だれか……」
――だれか、たすけて……!
「驚いたな、マジかよ」
「幻覚、じゃあないんですよね、これ……」
にこ「――え?」
ガンッ!
ガァンッ!
火薬で撃ちだされた鋼鉄の礫は、一発は外し、一発は人形の左肩を根こそぎ粉砕した
弾丸が直撃した人形は、廊下の窓ガラスを壊して外へ投げ出された
刑事「絢瀬絵里と……どなたかな?」
部下「見舞いに来たお友達じゃないですか?」
刑事「ああそうか。さっきの爆発は……っほー、これ君たちがやったの? すげぇことするな」
部下「まさかそれで咎める気じゃないでしょうね」
刑事「さてな」
刑事「ま、二人とも無事でよかった。大丈夫かい?」
にこ「な、なにがなにやら……」
刑事「そりゃこっちもだよ」
部下「東條希さんは? この病室の中に居たはずだけど」
にこ「それなら看護師さんたちに頼み込んで本棟のほうに一時的に移動させてもらいました」
部下「ほっ、良かった」
にこ「そ、そうだ! あの人形は! 人形はどうなったの!?」
刑事「大丈夫だ、銃弾を浴びせた上にここは五階だ。流石にバラバラになってるはずだ。おい!」
部下「はい」
部下「…………マジかよ」
刑事「どうした?」
部下「いません。人形がいません!」
刑事「なにぃッ!! どういうことだ!」
部下「わかりません。跡形もなく消えてます!」
刑事「チッ! こんな時に凡ミスかよ……!」
にこ「戻ったんだ……あいつは、戻った……」
にこ「きっと、そうだ……」
刑事「あ? 行き先がわかるのか!?」
にこ「…………」チラッ
絵里「う、ううぅぅ……」
ツカツカツカ
バ ッ ヂ ィィィィィ……ン
部下「ひぇ……!」
にこ「しっかりしなさい! あやせえりッ!」
絵里「に……」
にこ「約束、忘れたの?」
絵里「……ううん……」
にこ「なら立ちなさいよ。私にだけつらい思いさせる気なの?」
絵里「ぷっ……な、なによ、それ」
にこ「笑い事じゃないんですけど。出来ることなら私もそうやってメソメソしていたいわ。でもね……」
にこ「私の性分なのかな、ムクムクと沸き上がってくるのよ。そんなのに絶対に負けない、負けるもんかって」
にこ「……まだ終わってない。あれを完全に停止させないと」
絵里「そう、だったわね。……まだ終わっていないなら、もう、これで終わらせるべきよね」
にこ「そういうこと」
部下「いい話ですよねぇ」ウルウル
刑事「話しは終わったかー?」
部下「せ、先輩無粋ですよっ」
刑事「無粋も不細工もねえよ」
刑事「なんでもいい、知っていることがあったら教えてくれ。あんな奴はさっさと息の根を止めねえと、被害が更に増える」
刑事「頼む」
にこ「……」チラッ
絵里「……」コクリ
にこ「一つだけ条件があるわ――」
・
・
・
・
・
・
キ、キィ!……
刑事「ここか?」
部下「学校かぁ……。女子校なんてこういう機会じゃないと入れないんだろうなぁ」
刑事「締りのねぇこと言ってんじゃねぇ」
にこ「希たちが襲われた昨日の夜。そして今日の日中。あの人形はいつもどおりケースのなかに収まって、生徒たちに見られていたわ」
にこ「たぶん、本能的なものかもしれないけど、あれはきっとここに戻るはず。そう出来ているんだと思うの」
刑事「まあ、一応筋は通っているが。ふーむ憶測かぁ」
刑事「さ、お嬢ちゃんたちはここで待ってな。後は俺達に任せておけ」
にこ「約束が違うわ。場所を教える代わりに、私達『に』協力するって話でしょ」
刑事「さあ、どうだったかな? ともかく危険だからここで待ってな」
にこ「そう。なら私達は勝手にさせてもらうわ」
部下「ち、ちょっと二人とも……」
絵里「私達を連れて行くメリットがあるわ」
刑事「ほう?」
絵里「一つは私。あの人形と対峙して、二度生き残ってる。自分で言うのもなんだけど、この経験って活かせない?」
刑事「…………」
にこ「そしてもう一つ。さっきは希目掛けて襲ってきたけど、爆発の後は絵里を狙っていたわ。たぶん、次に狙ってくるのは……」
部下「彼女、か」
にこ「そうよ。私達をここに置き去ろうと、一緒に連れて行こうと関係なく私達は危険にさらされる」
絵里「でも、私達を利用すれば……」
刑事「バカヤロウ! んなこと出来るわけねえだろ!」
部下「……先輩。俺らの負けですよ。ここに連れてきた時点で、ね。もうどうしたって止められない」
部下「どちらにせよリスクが有るのなら、可能性がある方に進みましょうよ。ね?」
刑事「~~~ッッッ!! ふぅ……こんな奇っ怪な事件に関わった時点で運の尽きか……」
刑事「危ないと思ったらまず逃げろよ」
音ノ木坂学院 校内
部下「ほへぇ、綺麗なところですねぇ」
刑事「バカなこと言ってんじゃねぇよ」
絵里「まだ戻ってきてないみたいね」
にこ「あの損傷だから当然ね」
刑事「おい、本当に戻ってくるんだろうな?」
にこ「なに? 信じられないの? じゃあアレはどこにいくの? 他の所って私じゃわかんないわ」
部下「まあまあ、待ちましょうよ」
刑事「けっ、後悔してきたぜ」
絵里(本当にそうなの? 何かがひっかかる。私達は何を相手にしているの?)
絵里(そう、人形よ。じゃあなんで人形と戦っているの?)
絵里(ひとりでに動いて、人を襲うお化け人形だから……)
絵里(そうだ、相手は正真正銘怪物だから……)
絵里(私達の常識なんて……)
絵里「ハッ! しまった! あいつはもう……!」
キリ……
絵里「学校に!」
バ キ ョ ア ッ!
四人の背後から一つの影が襲いかかった
大人二人が暴虐にさらされ、それぞれ壁にたたきつけられる
部下が悲鳴を上げる。どうやら骨が折れたようだ
影は速かった
黒い疾風のように、ホールの中を縦横無尽に動きまわっている
刑事「くっそがぁぁぁぁぁっ!!」
拳銃が火を噴く
音速で飛来する弾丸を、発射前から察知して回避する
人形が刑事を鷲掴みにして、窓の外に投げつける
校庭に投げ出された彼は、ピクリとも動かなかった
この場にいる最大の戦力が、一瞬のうちに無力化されてしまった
人形は絵里に向き直る
白い陶器のような顔に、クレバスのような亀裂をつくる
奴は――
――笑っていた
にこ「絵里ぃぃ! 逃げてェェェ――ッ!!」
片付けてあったイスを手に、脇から人形に体当たりを行った
イスを振り下ろし、人形の左側を打つ
絵里「に、にこ!」
ブゥンッ!
にこ「ギャンッ!」
人形の硬い木の腕で打ち据えられ、その勢いのままホールの柱に叩きつけられてしまった
ズルズルとずり落ち、床に倒れ伏す
柱にはハッキリとは見えなかったが、血が付いてた
頭部から出血したのだ
人形はまず、絵里より先ににこへと標的を変えたようだった
絵里の方向ではなく、にこが倒れているほうに向かおうとしている
絵里「なにやってるの! あんたの相手は私でしょ!? にこ! 早く起きて!」
絵里(なにか! なにかないの!? なにか、なにか!)
――武器が
――武器が欲しい!
キィィィィィィイイイイイイイイイ……
獣の槍
ここまで
あとちょっとで終わるのでお付き合いいただけたら幸いです
絵里(こ、このケースには確か……)
絵里は立ち上がって台に載せられている、横に長いケースを迷わず床に叩きつけた
ケースは小気味の良い音を立てながら、ガシャンと割れてしまった
そして、中に収められたなにかを取り上げる
――槍だ
古い、古い、とてつもなく古い槍
だが、永い刻を経てもなお、武器としての威厳は損なわれていなかった
曰く、由来のしれない古代の兵器
誰も知らぬ古い槍
それは名を『獣の槍』と言った
絵里「これなら……ッつ!」
槍を手にした途端、電流のようなものが手から全身に駆け巡る
が、それも一瞬のことで、絵里は槍を握り直す
絵里「痛みなんて……」
絵里「構うもんかッ!」
絵里「Отойди от Нико! Ебля ублюдок!」
(にこから離れろ! クソ野郎!)
絵里が吼える
身体が自然と動く
槍を寝かせ、ビリヤードの球を打つような姿勢を取る
地面を蹴り、人形へと肉薄する
その一連の動作がまるで自分の身体ではないように思えるほど力強く、そしてスムーズに動いた
人形を目前とした時に、槍を一気呵成に突き出す
電光石火の早業だった
槍は正確に人形の胴体を貫き、人形は声にならない悲鳴を上げてのたうち回る
「―――――――――――――――――!!」
ボ シ ュ ゥ ッ !
絵里「Перейти в ад Есть кукла!」
(地獄に落ちろ 木偶人形!)
槍に貫かれた人形は、まるで爆発したかのように四散した
はじめからそこに何もなかったように
絵里「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ど、どーだ!」
絵里「そ、そうだ! にこ!」
カランカラン……
槍を投げ捨ててにこに駆け寄る
絵里は慌ててにこの脈を探った
絵里「……良かった、生きてる」
部下「あ、安心してないで、早く救急車ををを……」
絵里「そうだった! 早く救急車を!」
・
・
・
それから暫くして、救急車が到着した
にこは軽い脳震盪と、後頭部を少し切っただけの軽傷だった
とは言え頭を縫うためにちょっぴりだけ「ハゲ」になったのが相当ショックだったらしい。当分落ち込んでいる
吹き飛ばされた刑事さんは全身打撲と、右太ももにガラスが突き刺さった重症を負った
でも隣に入院している部下さんをどやす程元気が有り余っているようで、看護師さんたちに呆れられている
希の母は、手術が成功して快方に向かっている。まだ面会できる状態ではないけれど、看護師さんの話では元気にしているそうだった
そして希は……
「エーリち! なに見てるん?」
絵里「別に、特に何を見ているわけじゃないわよ」
絵里「ただ、アレって一体何だったのかな、って」
ぎゅっ
絵里「…………」
「もう、そのことは忘れよ? わ、悪い、ゆ、夢だったんよ……」
絵里「……ええ、そうね。悪い夢、よね」
――希
畜生からくり 完
special files
この事件の真相は結局表に出ることはなかった
それもそのはず、誰が人形が犯人だと信じるだろうか。そしてそれを報道したら一体どうなるのか
地方ニュース向けに小さく報道され、時間が経つと同時にこの事件は忘れ去られた
X file 27号
俺は何が起こったのか、アレは一体何だったのか知りたかった
だから怪我が治った後、休みを取り、この「人形」に関わった者たちを訪ねて歩いた
まず始めに最後の所有者、音ノ木坂美術館の館長を訪ねた
館長からは有益な情報は得られなかったと調書にはあった
勘というのだろうか、俺はまだ彼が何か知っているんじゃないかと睨んでいた
とにかくこの事件に一番深く関わっている人物だ
俺は根気よく説得を続けると、観念したのかあることを話し始めた
彼の言い分はこうだ
「誘惑に負けた」
と
前の人形の持ち主と長いこと懇意にしていた彼は、次第に人形の魅力に取り憑かれていった
そして、どうしても動いているところを見たいと強く願うようになったという
彼はついに人形の封印を解いて、人形を動かすために行動に出たのだ
若く、活気のある女性の集まる場所
いま爆発的な人気と活力を持つ音ノ木坂学院。そこならば黙っていても人形は動き出すだろう
そう目論んで理事長に連絡し、今回の展示会を企画したのだという
彼の妻は、普段の夫は他人を犠牲にしてまで何かをするような人ではないと言っていた
とにかくそういう経緯で音ノ木坂学院に白羽の矢がたったのだ
警察への取り調べは嘘をついたというのも白状した
動かし方だけは話しに聞いていたという
前の所有者は八十を数える高齢で、話を聞き出すのに根気が必要だった
俺は何度も足を運び、ようやくあの人形の全てを聞き出すことに成功した
以下を調書に記す
聞いていた話通りに、あれは150年前のからくり技師便七が創りだした人形だ
そして永遠に動く人形である
そう、便七の研究は成功していたのだ。あれは確かに『永遠に動き続ける』人形なのだ
ただ問題がある。それは燃料が必要である点だ
そしてその燃料は、『人間』だという
彼の話によれば、人形のゼンマイに若い女性の心臓を巻きつけることで稼働するという
絢瀬絵里の話によると、被害者の背の皮を剥ぎ、それを巻きつけていたという事だった
しかし今となってはそれも確認できない
なぜならあの人形が跡形もなく消滅してしまったからだ
残っているのは俺が撃ち落とした血のついた左腕だけ
絢瀬絵里の話によれば、展示されていた槍を用いて倒したら、その場で消滅してしまったとのことだった
結局そこで調査は断念せざるを得なくなった
それ以上のことは何も分からなかったからだ
調べれば調べるほど、あの人形が何だったのかわからなくなっていく
唯一つわかる真実は、あれは確かに存在し、そして今は完全に消滅してしまったということだけだ
・・・
調書はここで終わっている
・
・
・
絢瀬絵里の日記
普段は日記を付けない私だけど、今回は思うことがあって書こうと思う。きっと三日坊主になるだろうけど
あの事件から翌日、警察が捜査のために学校に大勢訪れた
その緊迫した様子をみて、穂乃果からまた廃校になるのかと切羽詰まったメールが来たのが印象に残っている
他のメンバーからも、心配メールがいっぱい送られてきて、嬉しく思った
展示会から三日目
今日は警察の方が大勢私の病室にやってきた
だから私はありのままを話したが、一様に目をまんまるにさせた後、しかめっ面をつくって去っていった
次にマスコミが来た
目を覚ました刑事さんに忠告されていたから私はだんまりを通した。事を大きくしないために協力してくれ、とのことだ
そうしたら次第に静かになって最後にはすごすごと帰っていった
学校のことでことりからメールがあった
とりあえず学校のことは大丈夫らしい。たぶん、このことは大きくなることはない、とのことだ
ひとまず安心
展示会から四日目
そういえば、刑事さんから聞かされた話だけど、展示品であの人形以外になくなったものがあると聞かされた
あの人形を貫いた『槍』だ
あのあと調査していたけど、忽然とこれだけが消えていたらしく、館長が非常に悲しんだらしい
あの『槍』
使った私だからわかる。あれは触れてはいけないもの
あってはならない物、だと思う
私はあの人形同様、消えたことで安堵している
できればもう二度とあのようなものが表の世界に現れないことを祈っている
・・・
あの事件の事で書かれたことは、ここ以外にないようだ
エピローグ
にこ「そういえば結局展示品のほとんどを見ること無く終わっちゃったわね」
凛「あー、にこちゃんには悪いけど、見る必要がなかったと思うにゃー」
真姫「そうね。もはやお化け屋敷みたいだったしね」
花陽「怖かったよー」
にこ「まあ、怖いのはじゅ~~~~~~…………っぶんにわかってるわ」
海未「随分実感のこもったセリフですね」
にこ「まあね」
にこ(実際一週間くらいうなされたけど……)
絵里(一週間だけ……っ!? 私なんて今でも夢に見るのに……)
希(うちもまだ……)
にこ(でもしょうがないわよね、あれは怖いわ)
穂乃果「でも良かったよねー。あの騒ぎでまた廃校か!? って焦っちゃったもん」
海未「そうですね。私達の努力が水の泡なんていうのは嫌ですからね」
ことり「あの時海未ちゃん焦って支離滅裂な文章送ってきたんだよ」
穂乃果「え、そうなの? 海未ちゃん」
ことり「ほら、これだよ穂乃果ちゃん」
海未「だ、誰にも言わないって約束したじゃないですかっ」
ことり「た~す~け~て~」
――スッ
真姫「どれどれ。ふぅ~ん……ほぉ~……」
海未「わっ!? なんで真姫が持っているんですか!? ことりが持っていたんじゃ」
穂乃果「私達の!」
ことり「コンビネーション!」
凛「今日もいつも通りだね、かよちん」
花陽「は、はははは……」
花陽「でも、せっかくμ'sの活動に感銘を受けて催してくれたものなのに、こういう結果になっちゃったのは、残念だよね」
穂乃果「そうだね。実質一回しかやってないもんね~。渋い展示品ばかりだったけど、あれはあれで音ノ木坂の歴史! みたいな感じで良かった気もしたんだけどな」
真姫「重厚、という意味では確かにそうかもしれないわね。でも、私はああいうのはもうこりごり」
ことり「全部曰く付きだったもんね……」
絵里「ことりの前で言うのもアレなんだけど、これでこりてくれればいいんだけど」
希「きっと無理、なんやろうなぁ……」
にこ「なに遠くを見ているのよ」
凛「現実逃避くらいさせてあげようよにこちゃん」
ことり「本当にごめんね……」
絵里「ことりは謝らなくていいのよ」
ダダダダダダダダダダダダ
ダンッ!
役員「会長ッ!」
役員B「また理事長が……!」
海未「噂をすれば影……ですね」
穂乃果「か、変わらないなぁ、おばさんも……」
ことり「も、もぉ~~!」
凛「絵里ちゃんファイトだにゃっ」
花陽「が、頑張って!」
にこ「リコール出来ないの? にこ本気で考えてるんだけど」
希「その時はうちも力を貸すで」
絵里「やめなさい。ことりが可哀想じゃない」
絵里「それで? 今度は何を?」
絵里(決めた。私生徒会長を降りる! 幸い次の誰もが納得する後継者は居るんだし、もうゴールしてもいいよね……?)
役員「実は……」
絵里「はぁ……希」
希「なあに?」
絵里「行くわよ!」
希「うん! エリち!
畜生からくり
fin
乙
うしおととら×ラブライブ!
は、これで終わります
ここまで読んでくださってありがとうございました
穂乃果「コトリバコだって! ことりちゃんが取られちゃうよ!」ことり「ちゅん?」
にこ「キャンプに行くわよ!」凛「シシノケ?お尻の毛みたいニャ」
花陽「海の民宿でアルバイト?」希「お化け? なんのことや?」
なども書いてます
もし興味があれば、ラブライブ!板に遊びに来てください
乙
うしおととら久々に見返そうかな
乙
やっぱり夜中に読まないで正解だった
なかなかないタイプのssだった
ミューズが全滅する話じゃなくてよかった
おつおつ
てす
このSSまとめへのコメント
グロ注意って書いてくれよ・・・。