SS形式では書けないと判断。
小説型で書きます。小説型正直嫌いなんだけどな。
その日も俺は、とりあえず街を歩いていた。何処へ行くとも無く。
ブレザーを来た高校生が、特に行く所も無く夕方の歓楽街を歩いている。
この歓楽街は、全国でも指折りの大歓楽街で、また、治安が余りよろしくない事でも知られている。
夜になると、背中に重いモノを背負ってそうなオジサン達が、肩をいからせて歩き始めるのだ。
普通に考えれば、危険極まりない。同じ状況の人間を見つけたら、俺は即座に止めるだろう。
いや、嘘だ。わざわざ声を掛けようとはしないだろう。
行きたいならば行けば良い。歩きたいなら歩けば良い。誰もそれを止めるべきでは無いし、
何か大変な事が起こったからと言って、助ける必要もない。ここは、そういう街だ。
とにかく、俺はそんな街を今日も歩いていた。歩いているだけだが、それだけでも今は充分楽しい。
夜になると、また違った楽しみがあるのだが。今はただ街を歩き、街並みと、歩く人々を眺める。
言わば、これは前菜だ。夜のこの街、と言うメインディッシュを楽しむ為の、下準備なのだ。
っと、前から、うっすら顎にヒゲが生えた、人相の悪いオッサンが歩いてきた。
「おう、ブレザー坊や。」オッサンが言う。ブレザー坊やとは、俺の事だ。
以前、お調子に乗ったチーマー(呼び方が古いか)を裏路地で制服のまま殴っていた際、
たまたま通りがかったヤクザなオッサンに見つかり、しかも何故か気に入られてしまい、
半分無理やり酒を飲まされた事があった。そのオッサンがこの人、と言う訳だ。
それから、オッサンとは良く街で顔を合わせては笑い話をしたり、酒を飲んだりしていた。
オッサンの本名は知らない。確か、山口何々…とか言う名前だった気がしたが、
そんな物はイチイチ覚えてられない。このオッサンも、俺の本名など、
とっくのとうに忘れ、ブレザー坊やで覚えているはずだ。
だが、歓楽街の裏路地で出会った人間同士の繋がりなど、そんな物だ。
相手を知りすぎると、却って面倒事に巻き込まれる事だってあるのだから。
「で、最近どうだ。」
「別に。つまんねえよ。学校では常に良い子ちゃんやってるさ。」
「ガッハッハ!そりゃいい!教師ってのはバカのなる職業だからなあ!」
「騙すのは容易い、ってか。」
「そういう事だ。じゃあな。俺はもう飲み始めるお前も暇があれば来い。1時まではいつもの場所で飲んでる。」
「あいよ。」オッサンはいつものバーに戻ったようだ。
いつものバー。名前は分からない。フランス語だった。ラ・何とか。
そこは、未成年の俺にも酒を飲ませてくれる、この街でも数少ない酒場だ。
初めてこのバーに悪戯半分で入った時、マスターが俺をからかうつもりで辛い酒を入れたのだ。タダで。
飲んでみろ。ただ一言そう言って。
俺はその一杯をしっかり美味しく頂いた。勝負は俺の勝ちだった。
以来マスターは俺がこの店で飲む事について何も言わなくなり、酒を頼めば作るようになった。
俺はどんなに辛い酒でも、飲む事が出来る。甘過ぎると却って飲めない。
……飲める、飲めない、の意味を間違えないで欲しい。少しずつ口にして
体に入れる事は出来る。ただそれを、酒を飲む、とは言わない。
酒は楽しんで飲む。それが飲む、と言う事。マスターの名言だと俺は勝手に思っている。
ふと、いつも滅多にならない筈の俺のケータイがなった。因みにスマホだ。
だが、使う時間と金が勿体ないので殆ど連絡先を登録していないはずだ。
画面に黒い人影が映る。画像の上の名前は、"レイカ"。……俺は溜め息をついて電話に出た。
「若旦那様。今日は何時にお帰りになられるのですか。」
若い女の責め立てる口調の声が耳に響く。レイカだ。そして、若旦那とは俺の事だ。
父親が海外の大きめな企業の社長で、常に家を留守にしていて、
母親も常に海外で仕事をしていて、家には俺しか居ないため、
俺の家には常に住み込みの使用人が居る。それがレイカだ。
そして、ある日父親が思いつきで言ったせいで、俺はレイカに
若旦那と呼ばれるようになってしまった。湘南乃風でも無いのに。
そして今、レイカは俺が家に帰って来ない事に腹を立てている。めんどくさい。
「今日は金曜日だ。明後日の昼頃帰る。」俺はレイカにそう告げた。
…………まずい。沈黙がやけに長い。これは怒鳴るか、嫌味か、説教かの内のどれかだ。
「…………ハアアァァァ………」長い、長い、長い長い溜め息が聞こえた。
これは嫌味&説教のブレンドだな。時間的には10分程だが、この場合、体感では
5時間程の長さに感じるのだ。「悪い。急用が入った。切るぞ。」
俺は無理矢理に電話を切った。日曜に帰った時、アイツはどんな顔をするのやら。
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