アンジャナフ 「古代樹の森で人間と出会ったんだが」 (112)

――痛い。
――目が霞む。
――足がふらつく。

(あァ……尻尾が痛ェ……)

ドサッ……。

(あれ……? 何で俺ァ、地面に寝てるんだ……?)

ギャァ……! ギャァ……!

(あれは、あいつらの声……! 逃げないと……逃げ……ない、と……)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1517424685

=古代樹の森・テトルーの住処・夕方=

テトルー 「旦那、旦那! お? 目が覚めやしたか?」
アンジャナフ 「…………」
テトルー 「良かった。あのまま死んじまうもんかと思ってましたぜ」
アンジャナフ 「俺ァ……」
テトルー 「おっと、まだ動かねェ方がいい。一応傷の手当はしましたがね。だいぶ深手を負ってらっしゃった。今生きてるのが不思議なくらいでさァ」
アンジャナフ 「何で……俺ァ、森であいつらに追われて……」
テトルー 「よっし、まぁ喋る元気があるなら大丈夫かね」

バシン!

アンジャナフ 「……ッ痛ェな!」
テトルー 「怒鳴る元気があるなら更に大丈夫でさ。小坊主! 旦那が峠を越えたぞい!」
アンジャナフ 「…………?」

ビクビク……。

アンジャナフ (そういえば……何だか嗅ぎ慣れねェ臭いがするな……この臭いは、確か……)
?? 「!」
アンジャナフ 「……ッ、人間!」
テトルー 「おぉぉっと! タンマタンマ! 旦那、また傷が開きますぜ」
アンジャナフ 「人間があそこにいるぞ!」
テトルー 「分かってまさァ。あいつはあっしらがワケアリでここで世話してる人間のヒナですわ」
アンジャナフ 「人間のヒナ……?」

少年 (ビクッ!)
アンジャナフ 「た……確かに、ハンターにしてはかなり小せェな……」
テトルー 「旦那を助けたのはあいつですわ。全く……カミさんが血相変えて引っ張ってくから何だかと思えば、あいつが倒れた旦那を守って、森の奴らとやりあってるとこでねェ」
アンジャナフ 「……やりあった? あんなチビが……?」
テトルー 「おっと、もうじき日が暮れる。あっしはそろそろ仮眠しますわ。おい小坊主! 何隠れてやがるんでェ」

グイグイ。

少年 「…………」

アンジャナフ (人間……だよな。それにしては……)
少年 「…………」
アンジャナフ (やけに傷だらけだな……)
テトルー 「つぅわけで、あとの世話はこいつに責任を持ってやらせるんで。ああ、言い忘れてましたがね、ここはあっしらの住処ですわ。いちおー善意で傷の手当はしましたがね、ある程度動けるようになったら出てってくだせェ」
アンジャナフ 「…………」
テトルー 「あっしらも『森』とは戦いたくねェんでね。全くよぉ……『尾無し』なんか匿ってるってバレたらどんな因縁つけられるか……」
アンジャナフ 「…………」
テトルー 「それと、この小坊主にはちょいと……さっき言った『ワケ』がありましてね」

アンジャナフ 「……ワケ?」
テトルー 「何でか知らねェんですが、あっしらの言葉が分かるようなんですがね。口がきけねェんですわ」
少年 「…………」
テトルー 「声を出してるとこを見たことがねェんでね。癇癪を起こして殺したりせんでくださいよ。ここで殺しはご法度ですからな」
アンジャナフ 「……分かったよ」



=古代樹の森・テトルーの住処・夜=

アンジャナフ (尾無し……尾無しか。俺も、尾無しの仲間入りかよ……)
少年 「…………」
アンジャナフ (ずっと隅に座ってこっちを見てやがる。気味が悪ィな……)
少年 「…………」
アンジャナフ (テトルーの野郎は、俺達の言葉が分かるとか妙なことを言ってやがったな。人間にも変なヤツがいるんだな……)
少年 「…………」
アンジャナフ 「おい」
少年 (ビッッッッッッックゥ!)

アンジャナフ 「……驚きすぎじゃねェか?」
少年 「…………!」
アンジャナフ 「俺の傷に薬草を貼ったり、布を巻いたりしたのはてめェか?」
少年 (コクコク)
アンジャナフ 「テトルーどもにこんな手当てができるとは思えねェ。だが分からねェ。お前、人間だよな?」
少年 (コクコク)
アンジャナフ 「人間が何だってテトルーの住処になんていやがる」
少年 「…………」
アンジャナフ (動きが止まったな……口がきけねェっつうのは本当みてェだ)
少年 (おどおど)
アンジャナフ 「……別に取って食おうっつぅワケじゃねェ。それに、見ての通り俺ァ『尾無し』だ。デケェのは図体だけよ」

少年 「…………」
アンジャナフ 「……何で助けた? 森の奴らと本当に、てめェみたいなチビが戦ったのか?」
少年 「…………」
アンジャナフ (目を合わせようとしねェなこいつ……)
少年 (スック……とてとて……)
アンジャナフ (やっと近づいてきたが……)
少年 (ペタ、ペタ……)
アンジャナフ (傷の手当てをしてくれてるのか……)



=古代樹の森・テトルーの住処・朝=

アンジャナフ (……いつの間にか寝ちまったのか……頭が痛ェ……)

グググ……。

アンジャナフ (だがだいぶ回復したぞ。あのチビ人間の手当てのおかげだな……よく分からねェガキだが……まァいいや)

キョロキョロ……。

アンジャナフ (ここにはいねェようだな。外か……?)

ズシン……ズシン……。

アンジャナフ (歩ける。良かった……テトルーどもは気に喰わねェが、あんまり迷惑かけるのもアレだな。さり気なく出ていくとするか)

ズシン……ズシン……。

アンジャナフ (出ていくっつってもな……俺、もう家は……)
テトルー 「オラァ人間! ボサッとすんな!」

バシン!

アンジャナフ 「!」
テトルー 「お前みたいな得体の知れねぇヤツを匿ってるあっしらの身にもなれっつぅもんだ! キリキリ働きな! 全く……村長の言葉がなけりゃァ、放り出してやるってもんを……」
アンジャナフ (あのチビ人間……働かされてンのか?)
少年 (ビクビク……)
アンジャナフ (あいつ、俺を助けたんじゃねェのか……? 強いんじゃねェのか?)
少年 (おどおど……)
アンジャナフ (何で猫なんかにへーこらしてるんだよ……)

テトルー 「…………? あ、旦那、動けるようになったんですな。さすが回復が早い!」
アンジャナフ 「あァ。助かった。世話になったよ」
テトルー 「そりゃ良かった」
アンジャナフ 「この礼は必ずする」
テトルー 「礼なんて別にいいですわ。それに、『尾無し』の旦那に何かできるとは思えねェんですがね」
アンジャナフ 「…………」
テトルー 「さ、動けるようになったんならとっと出てってくだせェ。森の奴らに見つかったら、いくらなんでもタダじゃすま……」

ギャアアアアアアオオオオオ!

テトルー 「!」
少年 「……!」
アンジャナフ (この声は……チッ! 『森』のあいつだ!)
テトルー 「あっしらの住処の近くで吼えるってことは警告……や、やべェ!」
アンジャナフ (遅かったか……!)

グォオオオオ!
ドォォォォン!

テトルー 「ギニャアアアアア!」
アンジャナフ (……リオレウス!)
リオレウス 「…………こんなところにいたか。罪深きアンジャナフ」
テトルー (ガタガタ)

リオレウス 「猫、この手負いを匿った件については、後で貴様らの村長に抗議させてもらう。だがそれは後だ」
アンジャナフ 「…………」
リオレウス 「まずは貴様の処刑から執り行うとしよう」
アンジャナフ (じりじり……)
リオレウス 「逃げるか……? いいだろう、また追いかけっこをしようか?」
アンジャナフ (ビクッ!)
リオレウス 「罪を犯した『弱い』貴様は、森にはいらぬ。観念して大地に還れ」
アンジャナフ (ダメだ……こいつと戦う体力も、力も俺にはない……)
リオレウス 「…………」
アンジャナフ (俺ァ……ここで死ぬのか)

リオレウス 「…………?」
少年 「…………」
リオレウス 「妙な臭いがすると思ったら、猫、貴様人間の子供までもを連れ込んでいたのか」
テトルー 「(ビックゥ!) ち、違うんでさァ! こ、これは……」
リオレウス 「弁解は後で嫌になるくらいさせてやろう。しかし、この人間……」
少年 「…………」
リオレウス 「私の前に立って、何をするつもりだ? まさか、お前……」
少年 「…………」
リオレウス 「おお、怖い。そんなに睨みつけられると……」

グルルルル……。

リオレウス 「殺したくなってきてしまうではないか……」

アンジャナフ 「何をしてる! チビ人間! 早く離れろ!」
少年 「…………」
アンジャナフ 「こいつは『森』の警備隊長、リオレウスだ! 殺ると言ったら殺る奴だ!」
リオレウス 「いい度胸だ。まさか人間、お前そんなちっぽけな体でその『尾無し』を守ろうとしているんじゃないだろうな?」
少年 (ギリ……)
リオレウス 「ク……クハハハハ! 馬鹿馬鹿しい! 人間に何ができる! 下劣で! 脆弱で! 卑怯な木っ端生物の子供などに! この私が止められるとでも思ったか!」
テトルー 「ひ……ひぃぇええ! あっしは逃げまさァ! 村長! 村長ォォ! (ダダダダダ)」

アンジャナフ 「や、やめろォ!」
リオレウス 「まずはお前から、灰にしてくれよう!」
少年 (ゴソゴソ……)
アンジャナフ (何か布の中から取り出したぞ……何だ、アレは……まさか!)
少年 (…………!)

ビュン!
パァン!

リオレウス 「何だ! ひ、光が……目がァ! グアアアアアア!」
アンジャナフ (人間がよく使う目眩ましの道具だ! あんなガキでも使うのか!)
少年 (ダダダダ!)
アンジャナフ 「ガキィ!」
少年 (ビクッ!)
アンジャナフ 「逃げるぞ! こっちに来い! 俺に掴まれ!」
少年 (……コクリ)



リオレウス 「…………」
テトルー村長 「ふむ……これは手ひどくやられましたな、レウス殿」
リオレウス 「貴様……どういうつもりだ?」
テトルー村長 「…………」
リオレウス 「人間の子供を匿っていただけに飽き足らず、『森』が処刑命令を出したアンジャナフまで手当てをするとは」
テトルー村長 「はて……何のことでしょうな?」
リオレウス 「とぼけるか、猫!」
テトルー村長 「あの『尾無し』の手当てをしたのは人間の子供ですじゃ。ワシらは何もしておらぬ」

リオレウス 「何だと……?」
テトルー村長 「人間の子供は迷い込んだのでしょうな。そして……逃したのはレウス殿。お言葉ですが、あなたの不手際ではないですかな? 慢心による油断ですな」
リオレウス 「…………(ギリギリ)」
テトルー村長 「森の会議にかけるならご自由にですじゃ。しかし、あなたが目の前で逃した件については、公に報告させてもらいますがの」

リオレウス 「…………」
テトルー村長 「ほっほっほ……」
リオレウス 「そんな報告はさせん……」
テトルー村長 「ほほう……?」
リオレウス 「あの『二匹』の死体を持って、森の祭壇に祀ってくれる。神聖な森を血で清めるのだ……」
テトルー達 (ガクガクブルブル)



=古代樹の森・昼=

アンジャナフ 「はぁ……はぁ……畜生、体中が痛ェ……」
少年 「…………!」
アンジャナフ 「チィ……人間なんて連れてきちまった……」
少年 「…………」
アンジャナフ 「……てめェ、リオレウスに勝てると思ったのか? 何バカやってんだ!」
少年 (ビクッ!)
アンジャナフ 「あいつは、殺しのプロって呼ばれてるモンスターだ。俺なんか助けたのを見られたてめェは、地の果てまで追われてって、八つ裂きにされるぞ!」

少年 「…………」
アンジャナフ 「な……何だよ……?」
少年 (ゴソゴソ……ペタリ)
アンジャナフ (傷の手当てを……してくれてるのか……?)
少年 「…………」
アンジャナフ 「…………ッ、はぁ~~! 仕方ねェな……ほら、背中に乗れ」
少年 「……!」
アンジャナフ 「置いていくわけにもいかねェだろ。お前を安全な場所まで連れて行く」
少年 「…………ッ」
アンジャナフ (はじめて嬉しそうな顔をしたな……チッ……面倒くせェことになっちまった……)



=調査拠点アステラ・昼=

総司令 「ふむ……古代樹の森のモンスターが、最近凶暴化しているという噂は、本当だったのか」
リーダー 「ああ。今日も4期団のハンターが、怒り狂って襲ってきたリオレウスに重症を負わされて救助されるってことがあった。爺ちゃん、これは……」
総司令 「……何か、嫌な胸騒ぎがするな……」
アイルー 「失礼しますニャ。総司令さんにお手紙ですニャ」
総司令 「手紙……?」
アイルー 「テトルー村からですニャ。速達、確かに配達しましたニャ」

リーダー 「テトルー村から……?」
総司令 「…………」
リーダー 「爺ちゃん、テトルーの村長からか?」
総司令 「ああ……」
リーダー 「何だっていきなり?」
総司令 「……まずいことになった。ハンターを集めろ! お前は、その中でも粋の良い奴らを集めてすぐに古代樹の森に向かうんだ。確か、少し前に来た5期団に優秀なのがいるって話だったな。そいつも連れて行け。俺も追って出る!」

>次回更新へ続く。

不定期更新、低速です。
気長にお付き合いいただけますと幸いです。
よろしくお願い致しますm(_ _)m

【2】

=古代樹の森・昼=

グルルルルルル……

トビカガチ 「…………」
リオレウス 「……!(バッ)」
トビカガチ 「森に火を放つのはその辺にしておくんだな、レウス」
リオレウス 「カガチ……貴様、私の背後を取っただけではなく、指図までもをするというのか?」
トビカガチ 「……今の所、見つけ次第俺達が火を消しているからいいものの、燃え広がったら沢山の仲間の命が消える」
リオレウス 「…………」
トビカガチ 「お前に、仲間の命を奪う権利はない」

リオレウス 「権利……権利とな?」
トビカガチ 「…………」
リオレウス 「クハ……クハハハ! これはおかしな事を言う。どうした? 今日びは随分とお喋りではないか? なぁカガチよ?」
トビカガチ 「…………」
リオレウス 「この『森』に弱き者はいらぬ。弱い者は強い者に淘汰され、入れ替わっていくのが世の常! そう、力に依る支配こそ、我らの掟……でないと、『森』に負けるぞ」
トビカガチ 「…………」
リオレウス 「お前が、あの『弱者』に肩入れしていたのは知っている。その性格もな。だが……」

ギャオオオオオオオ!

リオレウス 「『奴ら』は私の獲物だ! 誰にも邪魔はさせん! そう、お前にもな!」



=古代樹の森・夕方=

アンジャナフ 「ぜぇ……ぜぇ……」
少年 (コクリ……コクリ……)
アンジャナフ 「チィ、気楽なもんだぜ。命を狙われてるっつぅのによ」

ズゥン……

アンジャナフ (もうじき日も暮れる。臭いを消せるこの川の近くに隠れるか……)
少年 (スー……スー……)
アンジャナフ (しかし、勢いでこいつを安全な場所に連れて行くって言っちまったが……具体的にはどうすりゃいいんだ……)

ズキッ!

アンジャナフ 「……ッ」

ズキ……ズキ……

アンジャナフ (チッ……傷が……痛みやがる……尻尾が痛ェ……もうくっついてねェのに……)
少年 (すやすや……)
アンジャナフ (ダメだ、人間のいるところには……俺ァもう近づけねェ。いや……近づきたくねェ。もう二度と……)

ガサゴソ……

アンジャナフ (とりあえずこの茂みに入ろう。朝になったら古代樹の森を抜けた方がいいな。大蟻塚の荒地を目指すんだ。あそこまで行けば……森の掟に縛られることもねェ。それに、おばさんもいる。何とかしてくれるはずだ)

ズシン……ズシン……

アンジャナフ 「……!(誰か来る!)」
ドスジャグラス 「兄貴……! 兄貴、そこにいるんだろ?」
アンジャナフ (ドスジャグラス……! ここは、あいつらの住処だったか……!)
ドスジャグラス 「出てきてくれ兄貴。ここは危険だ。夜警が強化されてる。人間のハンター達もいるって話だ。死にたくねェだろ?」
アンジャナフ 「…………」

ズン……ズン……

ドスジャグラス 「兄貴! 無事で良かった」
アンジャナフ 「……今更何の用だ?」
ドスジャグラス 「あ……い、いや……あの時は悪かったよ……へへ……」
アンジャナフ 「…………」
ドスジャグラス 「リオレウスのゲス野郎が、兄貴を追って飛び回ってるって聞いてよ。ちょっと……その、『償い』をしたくて……」
アンジャナフ 「てめェ……」
ドスジャグラス 「お、怒らないでくれよ! 本当だよォ……じゃなきゃ、このタイミングで危険を冒して探しになんて出てこねェって!」

アンジャナフ 「…………」
ドスジャグラス 「つ、ついてきてくれよ。少しの間なら俺の住処で兄貴を匿える。へへ……」
アンジャナフ 「……どうだかな。てめェの言うことは信用できねェ……」
ドスジャグラス 「へへ……」
アンジャナフ 「……だが、俺ももう体力がカラッケツだ。行くよ」
ドスジャグラス 「よ、良かった。悪かったよ……あの時のことは謝るから、羽根をしまってくれよ……」

グルルル……

アンジャナフ 「しかし今は、厄介者が俺だけじゃなくてな……」
ドスジャグラス 「…………?」
少年 (すやすや……)
ドスジャグラス 「……! あれは、もしかして人間……!」



=古代樹の森・ドスジャグラスの住処・夜=

ドスジャグラス 「驚きましたぜ……まさか兄貴が、人間のガキを連れてやがるとは……」
アンジャナフ 「どうやら俺たちの言葉が分かるらしい。テトルーに酷い仕打ちを受けていた。それに……リオレウスに顔を覚えられちまってる」
ドスジャグラス 「うへェ……悪いことは言わねェ。そんなお荷物うっちゃって移動した方がいい」
アンジャナフ (ギロリ)

ドスジャグラス 「……だ、だってよ。兄貴はその……今……」
アンジャナフ 「…………」
ドスジャグラス 「ま、まぁ……それに、相手はあのリオレウスだ。レイアまで動き出したらもう手に負えねェ。確実に八つ裂きにされちまう」
アンジャナフ 「それは……確かにそうだが……」

ドスジャグラス 「動けるうちに、兄貴だけで大蟻塚に向かった方が絶対いいって。俺には口出すことくらいしかできねェけどよ」
アンジャナフ 「…………」
ジャグラス♀ 「あなた、ちょっと」
ドスジャグラス 「あ? ン、分かった。今行く。兄貴、悪ィな。ここでゆっくりしててくれ」
アンジャナフ 「あァ……助かる」

ズシン……ズシン……



ドスジャグラス 「何だ? 今大事な話の最中だぞ」
ジャグラス♀ 「『何だ』って……あなた、あの『尾無し』……もしかして指名手配が出されてる『アンジャナフ』じゃ……」
ドスジャグラス 「あァ? だとしたら何だっつぅんだよ」
ジャグラス♀ 「どうしたもこうしたもないわよ! 子供達が怯えきってるわよ。早く追い出して!」

ドスジャグラス 「わ……分かってるよ。だけど今夜くらい……」
ジャグラス♀ 「警備団に見つかったら、私ら一族も皆殺しよ! 『尾無し』に森を生きる資格はないんだから! 家族のことをもっと考えて!」
ドスジャグラス 「で、でもよ。俺ァ昔兄貴に世話になったんだ。それに……この前のことで、一度見捨ててる。一晩くらいは匿わなきゃ、男が廃る」
ジャグラス♀ 「あなたのプライドと命、どっちが大切なの!」



アンジャナフ (ドスジャグラスの野郎、遅いな……)
少年 「…………」
アンジャナフ 「! うわびっくりした。てめェ、起きてやがったのか!」
少年 (コクリ)
アンジャナフ 「もしかして……俺達の話も聞いてたのか?」
少年 「…………」
アンジャナフ 「……チッ。食えねえ人間だ。安心しろよ。俺ァ、二度も俺の命を助けてくれたてめェを見捨てたりはしねェ」

少年 「……!」
アンジャナフ 「残った角に誓って言う。俺ァ、てめェを安全な場所まで送り届ける。絶対にだ」
少年 (ニコリ)
ドスジャグラス 「……ん? ガキィ、目ェ覚めたのか」
少年 (ビックゥ!)
ドスジャグラス 「ンな、兄貴の後ろに隠れなくてもいいだろォ。兄貴の連れにゃぁ何もしねェよ」
アンジャナフ 「話は終わったのか?」

ドスジャグラス 「あ……ああ。ン……ちょっと……まぁ……」
アンジャナフ 「…………」
ドスジャグラス 「森で緊急集会が開かれるようで、俺が一族を代表して出なきゃァいけなくなった。悪ィが、少しだけ留守にするよ」
アンジャナフ 「緊急会議……まさか……」
ドスジャグラス 「まァ……兄貴についてだろうな」

アンジャナフ 「……(グググ)」
ドスジャグラス 「ちょ、ちょ! そんな体で、こんな夜更けにどこに行こうっつぅんだよ!」
アンジャナフ 「てめェにこれ以上迷惑はかけられねェ。俺とこいつは、捕まえたが逃げたってことにしておけ」
ドスジャグラス 「いやそういうワケには……」

バチ……バチ……

ドスジャグラス 「…………!」
アンジャナフ 「…………!」
トビカガチ 「…………」
ドスジャグラス 「ト、トビカガチ! い……いつからここにいやがった!」
少年 「ッ!」
トビカガチ 「動くな。動けば、この人間を八つ裂きにする」
アンジャナフ 「く……ガキを離せ!」
トビカガチ (ギロリ)
ドスジャグラス 「畜生! この辺りは完全に痕跡を消したはずだ。どうして……」

ジャグラス♀ 「あなた、こっちに来て」
ドスジャグラス 「お前! まさか……お前が……」
ジャグラス♀ 「プライドじゃ家族は守れないわ! 早く!」
ドスジャグラス 「くッ…………」
アンジャナフ 「行け!」
ドスジャグラス 「…………!」
アンジャナフ 「行け馬鹿野郎!」
ドスジャグラス 「あ、兄貴……すまねェ……すまねェ!」

ズン……ズン……!

アンジャナフ (ちィ……追い詰められちまった。この狭いトコでカガチの野郎と戦うのは厳しい……それに……)
子ジャグラス達 (ガクガクブルブル)
少年 「…………!」
アンジャナフ (だからガキは……嫌いなんだ!)
トビカガチ 「さて……」
アンジャナフ 「…………」
トビカガチ 「俺がここに来たのにはワケがある。ひとつだけ、お前に質問をしたい」

アンジャナフ (グググ……)
トビカガチ 「戦おうなんて馬鹿なコトは考えない方がいい。ここをお前の炎で爆発でもさせたら、夜警団が押し寄せるぞ」
アンジャナフ 「……チッ」
トビカガチ 「何故『あんなこと』をした?」
アンジャナフ 「…………」
トビカガチ 「森の禁忌であることは分かっていた筈だ。誇りである『尾』も無様に失い、傷だらけになって森に逆らってまで、何故お前は……あの時に『ヒトを助けた』?」
少年 「…………!」

アンジャナフ 「…………」
トビカガチ 「お前の馬鹿な叛逆のせいで、飛竜族の子供が多数死んだ。怒り狂うリオレウスの気持ちの方が、俺には理解ができる。そして『コレ』だ」

バチバチ……

トビカガチ 「お前、まさかヒトにでもなりたいとか言うつもりじゃあないだろうな?」
少年 (ガクガク……)
トビカガチ 「ヒトは敵だ。俺達を狩り、殺す。子供も容赦なく手にかけ、住処に踏み込んできて荒らす。力と物量で俺達をしつこく制圧するゴミのような虫ケラ達だ。お前も、それは分かっていた筈なのだがな」

アンジャナフ 「…………」
トビカガチ 「答えろ、ジャナフ。何故『あんなこと』をした?」
アンジャナフ 「何故……? そんなのァ、俺には分からねェ……」
トビカガチ 「…………」
アンジャナフ 「だがな。これだけは言える。今あんたがやっていること……俺達が『あの時』にやったこと。それは、人間共が俺達にやったことと、何が違うんだろうな」
トビカガチ 「…………」

アンジャナフ 「カガチ、俺ァ思うんだ。人間共を俺達が憎むように、あいつらが俺達を憎む。その『ワケ』……お前、考えたことあるか?」
トビカガチ 「『ワケ』……? おかしな事を言うようになったな、ジャナフ」
アンジャナフ 「…………」
トビカガチ 「ヒトは敵だ。それは森が定めた掟なのだ。誰にも覆すことはできん」
アンジャナフ 「掟……か」
トビカガチ 「…………」
アンジャナフ 「それに従って俺を殺すのか」
トビカガチ 「必要ならばな」

ドスッ……

少年 「……!」
アンジャナフ 「ガキ……!」
トビカガチ 「だがそれは今ではない」
アンジャナフ 「ガキ、俺の後ろに来い」
少年 (ササッ……)
トビカガチ 「いいだろう。それだけ喋ることができれば、走る元気くらいはありそうだ」
アンジャナフ 「…………」

トビカガチ 「夜警でリオレイアが巡回している。だが、クルルヤックに話は通しておいた。太陽の沈む方角に向かえ」
アンジャナフ 「……カガチ、お前……!」
トビカガチ 「行け。大蟻塚の荒地を目指すのだ」

クルリ……

トビカガチ 「…………」
アンジャナフ 「……恩に着る」

ズン! ズン!

ジャグラス♀ 「あ……ああ……(ブルブル)」
トビカガチ 「…………」
ドスジャグラス 「な、何だ! やンのかァ!」
トビカガチ 「……俺は、今日ここには来ていない。お前達は、俺の姿を見ていない。それでいいな?」
ジャグラス♀ (コクコク)
トビカガチ 「家族を大事にしろ。それが『森の掟』だ」

シュバッ!



=古代樹の森・上空・夜=

リオレイア 「…………」

バサァ……! バサァ……!

プケプケ 「姐さん! 姐さんちょっと待って!」
リオレイア 「…………」
プケプケ 「こう暗くっちゃあ、マトモに飛べないわ! 樹にでもぶつかったら大変! アタシのお肌に傷がついちゃう!」
リオレイア 「ったく……うるさいねェ。速度を落としゃあいいんだろ?」

プケプケ 「そうそう、手負いの『尾無し』なんだから、そんなに気合いを入れることもないって。かなりの傷だったんでしょう? もうその辺で死んでるかもしれないし」
リオレイア 「いや……ウチのが昼間、テトルーの住処で見つけたらしくてね」
プケプケ 「え……! そうなの?」
リオレイア 「今のとこ、他言無用だよ。どうやら取り逃がしたみたいなのよ」
プケプケ 「あら珍しい。レウスおじさまにしては失態ね」

リオレイア (レウスは、アンジャナフが『人間』の子供を連れていたと言っていたわね……ったく、何してんのよあの坊やは!)
プケプケ 「あ! 姐さん早いって! 待ってェ!」
リオレイア (いずれにせよ、早く見つけないと……このままじゃ、森が混乱したままだわ……それに、「嫌な予感」がする……)

バサァ! バサァ!

リオレイア (レウス……気持ちは分かるけど、あんたが今やろうとしていることは、人間達のする「狩り」と同じことよ……!)

>次回更新へ続く。

不定期更新、低速です。
ご感想などいただけると励みになります。

Twitter:@Gemmy_Aurora

面白いよ

嫌いじゃあないぜ

>>60 >>64
ありがとうございますm(_ _)m
夕方あたりに3を投下します。

外野は気にせず書きたいように書いてくれ

あれ?更新されてない…

>>66
はいー。
全く気にしてないのでマイペースに進めます。
別に違反もしてませんし。

>>68
すみません、体調を崩しまして手がつけられていませんでした。
深夜にでも、回復したら投下しますね。

なんだただのキチガイか餓鬼だったか
こういうのが車で注意されたら暴走運転したりするんだろうなぁ、自己快楽優先で他人の事を考えるって事を全く考えてない

>>71
……???

ええ、見回りお疲れ様です。偉いですね。
コメントがないのも寂しいので、定期的に書き込みいただけますと嬉しいです。

けっこう昔にクックおじさんと少女の話書いてた人かな。期待

おもろい

【3】

=調査拠点アステラ・夜=

総司令 (……ハンター達は出発したか)
ソードマスター 「……俺を呼んでいたそうだな。すまない、戻ってくるのに時間がかかった」
総司令 「…………」
ソードマスター 「……何を思い詰めている」
総司令 「まずいことになった」
ソードマスター 「……? 手紙……これは、テトルー村の村長の筆跡だな」
総司令 「…………」
ソードマスター 「……成る程。即急に探し出さなければ」

総司令 「その手紙が届いたのは少し前だ。書いてある通りならば、まださほど遠くには行っていないようだが……」
ソードマスター 「分かっている。この件は、俺達と、お前の胸の中だけに留めておくべきことだ。他言はせん」
総司令 「すまない……」
ソードマスター 「……大団長は?」
総司令 「いつもの通りだ。連絡は……」
ソードマスター 「…………」
料理長 「……お呼びか?」
総司令 「うむ。アイルーを代表して、お前にアステラの『外』へ出て欲しい」
料理長 「俺に? ……まさか!」

ソードマスター (スッ……)
料理長 「これは、テトルーの筆跡……チッ、だから俺は、テトルー族は信用出来ないとあれほど……」
総司令 「過ぎたことを責めても仕方あるまい。放置していた我らにも責任がある。1期団の一部で、この件は早急に対処しなければならん」
料理長 「それはそうですがね……」
総司令 「料理長、お前は急ぎ支度をしてソードマスターと出てくれ」
料理長 「チィ、俺は引退した身だってのによ」

ソードマスター 「ゴネるな。行くぞ」
料理長 「へいへい、旦那こそ足を引っ張んねえでくだせえよ」
ソードマスター 「…………猫が」
総司令 (…………森がざわついているのが分かる。いつもの古代樹の森ではない。これは、想像しているよりまずい状況なのかもしれんぞ……)



=古代樹の森・夜=

アンジャナフ 「ハァ……! ハァ……!」

ズン、ズン!

アンジャナフ (畜生ォ……体が思うように動かねェ……! しかし、早くここを離れねェと。空から何かが俺を追ってきてる)
少年 「…………」
アンジャナフ (頭の後ろにビリビリした気配が消えねェ。レイア姐さんか……? 今姐さんと戦うのは絶対に避けないと……)
少年 「…………!」

アンジャナフ 「何だ! 頭を叩くな!」
少年 「! ……!」
アンジャナフ 「ン……! あれは……」
クルルヤック 「おぉぉ~い! おぉぉーいィ! どこに行くだァー!」
アンジャナフ 「クルルヤック! あいつ小せェから見逃してた!」
クルルヤック 「……ゼェ、ゼェ……ア、アンジャナフ……お前な……」

アンジャナフ 「わ、悪ィ……」
クルルヤック 「カガチんから話は聞いたよ。大変だったなァ」
アンジャナフ 「ここはまずい。どこか隠れられる場所はないか?」
クルルヤック 「でぇじょうぶだ。こっちに地下水路がある。来な!」
アンジャナフ 「すまねェ……!」



=古代樹の森・地下水路・夜=

クルルヤック 「ここは洞窟が入り組んでるからねェ、奥まで入っちまえば、見つからねえよ」
アンジャナフ 「フゥ……やっと落ち着いて休めるな……」
クルルヤック 「カガチんには恩があるからねェ。ま、オイラは森とそんな付き合いはねェし、構えるこたあねえよ」
アンジャナフ 「悪ィな……助かる」
クルルヤック 「しっかしねェ……うっすら聞いたっちゃ聞いたけんども、人間ねェ……」
少年 「……?」

クルルヤック 「オイラ達の言葉が分かるって本当?」
少年 (コクコク)
クルルヤック 「なーしてテトルーの住処になんて隠れてた?」
少年 「…………」
クルルヤック 「あそこのテトルー村は性悪猫が多いって話で……おっと、こっちだァ」
アンジャナフ 「ヒカリゴケで割と明るいな」
クルルヤック 「んだ。オイラもここらへんは、よく隠れ家に使うよォ。だども、道を覚えねェで入ったら、迷っちまうかんね。気ィつけなよ」

アンジャナフ 「そ、そうなのか……」
クルルヤック 「最悪出れねェってことになるかんね。ほれ、そこに骨がいっぱい転がってるだろォ」
少年 「……!」
クルルヤック 「迷って死んだモンスターなのかもねェ。クェ、クェ、クエ! オイラには関係ねェ話だけんどもな」
アンジャナフ (…………だが、頭の後ろがまだビリビリする。追手は、俺達を見失っていないぞ……)



=古代樹の森・地下水路入り口・夜=

リオレイア 「…………」
プケプケ 「あァん! 姐さん早すぎ! やっと追いついたわ!」
リオレイア 「集中してるんだから、もうちょっと静かにおし」
プケプケ 「だってェ……もう汗だく。早く巣に帰りたァい!」

リオレイア (……坊やの気配はこの「下」に続いてる。足跡や臭いは消しながら移動してるみたいだけど、アタシから逃げることはできないわよ。でも……どうやら逃走を助ける「協力者」もいるみたいね。注意して進まないと……)
プケプケ 「ホントにこんな何もない所に逃げてるのォ? 私には何も見えないわよ?」
リオレイア 「だからアンタは半人前なのよ。アタシの追跡術を信用できない?」

プケプケ 「信用してるから一緒に行動してるんじゃない?」
リオレイア 「言うねェ。ま、そういう正直さは嫌いじゃないわ」

ドガッ!

プケプケ 「……! これは……」
リオレイア 「この樹の下にでっかい空洞があるね。洞窟になってるみたい」
プケプケ 「うえェ……ジメジメしてる……」
リオレイア 「ここで待ってるかい?」

プケプケ 「やァよ! 私は姐さんについていくんだから!」
リオレイア 「じゃ、文句言わずについてきな。行くよ」
プケプケ 「姐さん、そういえば聞くの忘れてたけどさ」
リオレイア 「何だい?」
プケプケ 「ジャナフさ、見つけたらやっぱ殺すの?」
リオレイア 「…………」

プケプケ 「私は別にアイツと知り合いでもなんでもないからいーんだけど。姐さん、確か……」
リオレイア 「無駄口をきいてるヒマがあったら足を動かしな。ほら、頭ぶつけるよ」

ゴヅン!

プケプケ 「痛ッ……アアアア!」
リオレイア 「言わんこっちゃない……」
プケプケ 「んもう! だから地下って嫌!」
リオレイア (殺す気かって……? 殺さなきゃ……いけないだろうけど……アタシにはそれは……)


=古代樹の森・地下水路・夜=

クルルヤック 「ふいィ~! ここらへんでいったん休憩しよう」
アンジャナフ 「だいぶ歩いたな……」
クルルヤック 「ここまで来りゃァ、もう大丈夫だァ。ちょっとやそっとでは見つからねェよ」
アンジャナフ (…………)
少年 「スゥ……スゥ……」
クルルヤック 「おっと、ガキは寝ちまったみてェだね。ン……? どうしたィ? ンな険しい顔して」

アンジャナフ 「……何かに追われてる感覚が消えねェ。感じねェのか?」
クルルヤック 「……ンン? オイラは特にはねェ。でも大丈夫だ。ここは、今まで誰にも見つかったことがねェ。大蟻塚に行くにしてもよ、お日様が登らねェと、森抜けは厳しいぞゥ」
アンジャナフ 「分かってる。けどな……」
クルルヤック 「取り敢えずメシにしようさ。カエルとかそこらへんで捕れるよ」
アンジャナフ 「カエルか……まァ、四の五の言ってる場合じゃあねえな」

クルルヤック 「(モグモグ)……んでよ、カガチんから、オイラァ、アンタ達を大蟻塚のボルボルスばーさんのとこまで案内するよーに言われてる。明日の夜までには着きたいなァ」
アンジャナフ 「悪ィな……でも大丈夫なのか? 俺らを助けたら、お前も……」
クルルヤック 「オイラァ、『森』はあんま好きじゃねェでな。大蟻塚の先には、親戚もいるかんね。アンタ達を届けたら、オイラはそのまま親戚に会いにいくよォ」
アンジャナフ 「……そっか」

クルルヤック 「だどもアンタ、なしてあんなことした?」
アンジャナフ 「…………」
クルルヤック 「ハンターを助けて、そのハンター達に仲間が殺されたんだろォ? 浮かばれねェよなァ、アンタも、リオ達も。死んじまったガキ共もよ」
アンジャナフ 「言い訳はしねェよ。俺の軽率な行動が大惨事の引き金だったのは確かだ。責めたいなら気が済むまで責めればいい」
クルルヤック 「クェ、クェ、クェ! 聞こえの悪ィこと言うなァ。オイラには関係ねェことさ! そのヒトのガキも起こしなよ。ほーら! カエルがこんなに捕れたぞォ!」

ドーン!

アンジャナフ 「…………お、おう。こいつカエル食うのかな……」
少年 (ふあーぁ……)
アンジャナフ 「ガキ、起きろ。メシだぞ」
少年 「…………?」
アンジャナフ 「カエルくらいしかねェが食っとけ。何かハラに入れねェと、力が出ねーだろ」
少年 (ゴソゴソ)
クルルヤック 「ンまいよォ~! 特にこのシビレガスガエルをブヂュ! って噛むとねェ」

シビビビビビビ!

クルルヤック 「おおおおおおお痺れるゥゥゥゥゥ!」
アンジャナフ 「…………」
少年 (ガチ、ガチ!)
アンジャナフ 「何してやがる。早く食……」

ボウァ!

アンジャナフ 「…………!」
クルルヤック 「おォ? 驚いたァ。ヒトって、好きな場所に火を出せるんだなァ」

ジュゥゥゥゥゥ……

アンジャナフ (カエルを……焼いてるのか?)
少年 (ニコニコ)
アンジャナフ (好きにさせておくか……)

モグモグ……



クルルヤック 「フイィ~食った食ったァ」
アンジャナフ 「焼いたカエルっつぅのも意外とイケるもんだな」
少年 (コクコク)
クルルヤック 「だねェ。オイラァ、カエル焼くっつー発想はなかったよ。ヒトは面白いこと考えるねェ」
少年 (ゴソゴソ……ペタペタ)
アンジャナフ 「うおォ! 傷が痒ィ!」
クルルヤック 「手当てもしてくれてるんだねェ。見上げた根性のガキだァ」

アンジャナフ 「……あァ」
クルルヤック 「傷が痒ィ~ってのは、治ってきてる証拠だァ。良かったなァ」
アンジャナフ 「…………」
少年 「…………?」
アンジャナフ 「尻尾はいい。触るな」
少年 (…………コクリ)

クルルヤック 「さて。ハラもいっぱいになったし、ちょっと休むかねェ。寝ておかないと、明日の移動はキッツいぞォゥ……」
アンジャナフ 「……だな。ガキ、こいつの言うとおりにしておけ。俺が見張っておく」
クルルヤック 「ズビー……! ズズズビー……!」
アンジャナフ 「もう寝やがった……いびきうっせぇなこいつ!」



アンジャナフ (頭の後ろの感覚が段々強くなる……近づいてきてやがる)
少年 「スゥー……スゥー……」
クルルヤック 「グガゴゴゴゴギャァ! ゴゴゴゴズビビビ!」
アンジャナフ (それに嫌な予感もする……クルルヤックは心配ないっつってたが、もう少し痕跡を消してくるか……)

グググ……

アンジャナフ (体は動く。傷もかなり治ってきた……深手だったが助かったな。行くか……)

ズシン、ズシン……

アンジャナフ (あんま遠くに行くと戻れなくなるな……ン!)

サッ……

アンジャナフ (何か……いる……! 気配はしないが、俺の「直感」が告げてる。近いな……!)



リオレイア (…………)

サッ

プケプケ (コクリ)
リオレイア (…………「気配」が今、完全に消えた。やはり、近くにいるね。坊やが……)

ス……

リオレイア (こっちにも気づいてる様子。こりゃ、うまくやらないと逃げられるね……アンタは昔から、戦うのはあんま好きじゃなかったね……でかい図体の割に臆病だよ)

プケプケ (ススス……)
リオレイア (プケプケも完全に気配を殺してる。いい鍛錬だ。どうする……? このまま追い詰めてトドメを刺してもいいけど……)
プケプケ (…………?)
リオレイア (協力者の事も分かってない。それに、連れてるっていうヒトの子供……ハンターが使うような道具も使うって、レウスが言ってたね。無策で追い詰めるのはあまり良くない気がする……)

グイ

プケプケ (…………)
リオレイア (ここは「待ち」の一手だ。坊やは手負い。体力はこっちの方が上だ。様子を見てれば、必ずあっちが先にボロを出す。そうしたら……「捕獲」させてもらうよ)



アンジャナフ (…………首の後ろの気配が消えた……? こっちに気づいたのか! そんな芸当ができるのは、レウスみたいな直情型じゃない。別の術のプロだ……カガチ……? いや、違う。あいつは俺を逃してくれた。やはり来ているのか、レイア姐さん……!)

シーン……

アンジャナフ (単独か……? 分からないな。しかしやべェな……ガキとクルルヤックからは離れているが、俺のキズは完全に治ってねェ。消耗戦に持ち込まれたら確実に殺られるぞ……)

ズキッ……
ズキッ……

アンジャナフ (畜生……こんな時にキズが疼いてきやがった……何か、何かできることは……)

シーン……

アンジャナフ (……ッ、別の気配が来る! これは……!)

>次回更新へ続く。

不定期更新、低速です。
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>>73
ええ。ご存知の方がいらっしゃったんですね、驚きです。

>>74
低速ですが、気長におつきあい下さいね。

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