モバP「アイドルに感謝する!」 (91)
・Pがアイドル達に日頃の感謝を伝えます。
・恋愛関係には発展しません。
・ちひろさんはいい人。
・前スレ
モバP「アイドルを喜ばせる!」
モバP「アイドルを喜ばせる!」 - SSまとめ速報
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P「相変わらず忙しいですねー」タタタタタタタタ
ちひろ「嬉しい悲鳴というには、ちょっと量が多すぎますよね」カタカタ
P「いい加減、人増やしましょうよ」タタッ タタタタタタタタ
ちひろ「増えてますよ? 広報に販促に衣装部、写真室も」
P「総務! 事務方! おかしいでしょう、この広い広い部屋にちひろさんと俺だけって!」タタタタタタ
ちひろ「んー。採用は随時募集を掛けてますし、面接は何度もしてるんですけどねぇ」カタカタ
P「そうなんです? でも、その割にたった1人も入ってこないってのは……」カリカリカリカリ タタタタタタタタ
ちひろ「それがですね……面接を通っても、研修の段階に進むと皆さん辞退されてしまって」
P「全員? マジですか」タタタタタタッ タタタタタタ
ちひろ「マジです。困るんですよねぇ、色々手続き済みなのに」
P「……ちなみに、研修ってどんなプログラムなんです?」タタタタタタタタ
ちひろ「Pさん1時間あたりの仕事量の、約4分の1を同じ時間で」
ダラララララララララララッ
P「何やらせてんだアンタ!」
ちひろ「おお。キー叩く音がガトリングみたいになりましたね」
P「やかましい!」
P「はぁ……あのですね、普通の人ができる訳ないでしょう、こんな馬鹿みたいな量」タタタタタタタ
ちひろ「あ、普通の人類じゃないって自覚はあったんですね」
P「そうじゃなくて! こっちはプロなんですから、4分の1とはいえ初心者がこなせる仕事じゃないでしょうって事です!」タタタタタタタタ
ちひろ「いやあ。Pさんの仕事量は、事務のプロでも難しいと思いますよ」
P「そう思うんなら研修の参考にしないで下さいよ、まったく……」カリカリカリ
ちひろ(だって事務だけなら、ぶっちゃけPさん一人で回りますし)
P「なんか不穏なこと考えてませんか」タタタタタタタ
ちひろ(……二人だけでお仕事できますし)
P「さっきから手、止まってますよー」タタタタタタタタ
ちひろ「っ!? は、はーい」カタカタ…
* * *
ちひろ「仕事増えた割に、終業時刻は少しずつ縮まってる気がするんですが」
P「為せば成る」
ちひろ「……。社長がですね」
P「?」
ちひろ「最近、社内メールにも「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」って」
P「やめて」
ちひろ「気心の知れた取引先での口癖が、「うちのPに任せろー」って」
P「やめて!」
P「……まあ、冗談はともかく」
ちひろ(冗談じゃないんですよねぇ……)
P「今日ある程度片をつけたんで、明日は久々に休めそうですよ」
ちひろ「ええ、是非休んで下さい。働きすぎですよ」
ちひろ「本当は1日と言わず、1週間くらいお休みして欲しいんですけれどね」
P「まさか。ちひろさんにそんな迷惑掛けられませんよ」
ちひろ「お気遣いはすごく嬉しいですけど、有休も少しは消化してもらわないと……」
P「そう思ってもらえるなら、無茶な研修なんかしないでちゃんと事務要員を増やして下さい」
ちひろ「……ぜ、善処します」
P「よろしい」
ちひろ「むう……ところで、明日は何かご予定が? Pさんが自分から休暇申請なんて、珍しいですよね」
P「ああ、予定というか……最近、また忙しくて皆とロクに話せてないんで」
ちひろ「……まさか」
P「休みを1日使ってコミュニケーションの時間を作ろうと」
ちひろ「はぁ……何というか。休みの日までプロデュース一筋、ですか」
P「俺の生き甲斐ですから」ニコッ
ちひろ「……///」
P「? どうしたんですか?」
仕事量が明らかに過多でも就業時間内に終わればブラック企業じゃなくなる…?
ちひろ「い、いや……そこは“キリッ”とか“ドヤァ”とか付けて下さいよ……」
ちひろ「こっちが恥ずかしくなるくらいのいい笑顔で言うんですもん、生き甲斐とか」
P「何をわけの分からない事を……。生き甲斐は生き甲斐ですよ」
ちひろ「わ、分かりましたから! ……コホン。それで、今回はどの子を?」
P「最初はありすに会おうと思ってます。なので、朝は事務所に寄らせてもらいますよ」
ちひろ「休みの日に嬉々として職場に来る社員って」
P「アイドルの為なら何処へでも」
ちひろ「はいはい。……それにしてもありすちゃんですか。どんな泣かせ方をするやら」
P「泣かす前提で話さないで下さいよ……涙はもう勘弁願いたいです」
ちひろ「ふふっ、どうでしょうねぇ? Pさんには私も泣かされちゃいましたし」
P「……あの時は大変でしたからねえ。しばらく落ち着いてくれなくて」
ちひろ「Pさんが感動させるからいけないんですもーん」
P「普通に気持ちを伝えただけなんですけどね」
ちひろ「……サラッとああいう台詞を言っちゃうところが……です、ね」
P「いやまあ、確かに改まった感じではありましたが……あれ、ちひろさん?」
ちひろ「……っ、ごめんなさい、ちょっと……思い出し、泣き……」ポロポロ
P「どんだけですか貴女」
* * *
* * *
ガチャ
P「あ。おはようございますちひろさん。早いですねー」
ちひろ「…………。おはよう、ございます」
P「? なんか元気なさそうですけど、大丈夫ですか?」
ちひろ「休み取ってる人間が自分より早く出社してたら、そりゃこうなりますよ……」
P「出社じゃないですって。朝、寄らせてもらうって言ったじゃないですか」
ちひろ「こんなに早いとは思わないですよ、普通」
P「ははは。ちょっと仕込みというか、準備がありましてね」
P「大方終わったので、コーヒーでも飲もうかと。ちひろさんは?」
ちひろ「あ、いただきます。……それにしても、何をするつもりやら」
P「秘密、秘密。はい、どうぞ」
ちひろ「むう……どうも」
P「……さて、それじゃありすが来るまで仕事でも」
ちひろ「言うと思った。……ダメです。休暇中の人にデスクワークなんてさせられますか」
P「いや、ただ居るってのも落ち着かないですし、ちょっと手伝うくらいで」
ちひろ「だーめーでーすっ! カフェか仮眠室へでも行ってて下さい!」グイグイ
P「おぉ……」
* * *
ありす「おはようございます」
ちひろ「おはよう、ありすちゃん。あ、ちょっと待っててね。今……」
P「――お? よかった、ちょうど来たとこでしたか」
ありす「あれ……? Pさ、…プロデューサー?」
P「ん。おはよう、ありす」
ありす「あ、はい。おはようございます。……プロデューサー、どうしたんですか? きょうはお休みなんじゃ……」
P「ああ、ちょっとありすに用事があってさ。仕事前に悪いけど、少し食堂の方へ来れるか?」
ありす「食堂へ……? まあ、少しなら……あ、いえ。割と余裕がありますから、大丈夫です」
P「そうか? 忙しいようなら、また後にするけれども」
ありす「っ! だ、だから割と大丈夫ですってば。……この時間がもったいないですから、早く行きましょう」ギュッ
P「っとと。おい、引っ張るなよ」
ちひろ「んー……6分、かなあ。泣くまで」
* * *
ありす「それでPさん、私に用事って……?」
P「うん。……その前にさ。前にも言ったけど、別に事務所でも名前呼びで構わないんだぞ?」
ありす「嫌です。前にも答えましたけど、公私の区別くらい付けさせてください」
P「それを言ったら、今も別にプライベートではないんだけどな」
ありす「今は……Pさんと私の、2人きりですから」
P「ふーん。そんなもんか」
ありす「……Pさんはプロデューサーなのに、相変わらず乙女心が分からないんですね」プイッ
P「む。それは、まあ。否定はできないが」
P「ありすの事は、ちゃんと一人の女性として扱ってるつもりだよ」ナデナデ
ありす「……また、そうやって頭を撫でて。子ども扱いじゃないですか」
P「んな事ないって。撫でられるのは嫌か?」
ありす「嫌とは言ってないです。続けて構いません」
P「ご随意に」ナデナデ
ありす(……えへへ)
ありす「えっと。話を戻しますけど、こんな所でいったい何の用事なんですか?」
P「んー……確かに、なあ。社員食堂なんかで申し訳ないんだが」
ありす「いえ、そういう意味じゃなくて……食堂で何のお話なんだろう、って」
P「あ、そっちか。いや、話自体は応接室とかカフェの方が良かったんだけどさ」
P「ちょっと、ここじゃないと出来ない事があったんだよ」
ありす「食堂じゃないと駄目な事、ですか……?」
P「うん。カフェは厨房のスペースが狭いからダメって言われてなー」
ありす「……?」
P「ま、今から見せるから。待ってて」
ありす(プロデューサーさんが厨房の方へ……入っていったけど、いいのかな)
ありす(冷蔵庫から何か出してる……? ここからじゃ、よく見えないや)
ありす(何してるんだろ……あ、戻ってきた)
ありす(蓋のついた銀のトレーを持って、ニコニコしてる)
ありす(……すごく、嬉しそう)
P「――お待たせしました、お嬢様」コトッ
ありす「似合わないですね」
P「おい、傷つくぞ」
ありす「ふふっ……それで、開けていいんですか、この蓋?」
P「ん。開ける前に、少しだけ話させてもらえるかな」スッ
ありす(あ……隣……)
ありす(ち、近い……顔、赤くなってないかな)
P「ありす?」
ありす「っ! ……ど、どうぞ」
P「どうも。さて……」
P「最近、あまり構ってやれなくて悪かったな」
ありす「構ってって……そんな子供みたいに」
P「はは、言い方が悪かったな。コミュニケーション不足って言うべきだった」
ありす「別に気にしてませんけど。子供じゃないですし……、ぁ」
P「ん?」
ありす「いえ……子供ですよね。言い方ひとつにこだわって」
ありす「子供なのに、子供じゃないって言い張って……おかしいですね、私ってば」
P「いいだろ、別に。そういうのも子供らしさなんだから」
ありす「自分で言っておいてなんですけど……やっぱり子供扱いですか」
P「違う違う。意地を張る子供らしさもあれば」ポン
ありす「あぅ」
P「後でそれを反省できる大人らしさもある」ナデナデ
ありす「ぅー」
P「そのどちらも、ありすだろ? だから、俺は子供扱いも大人扱いもしないよ」
P「一人の女性として扱うってのは、そういうこと」
ありす「なんか、上手く丸め込まれたような気がしますけど」
ありす「……でも、ありがとうございます」
P「どういたしまして。……話が逸れたけど、最近はあまり構、コミュニケーションを取ってなかったろ?」
P「現場について行ったり、送り迎えも少なくなったし、当然話す機会もすごく減った」
ありす「それは、……仕方ないです。お仕事も前よりずっと増えてますし」
P「仕方ないと言えば、それまでだけどさ。でも、それってなんか寂しいだろ」
ありす「べ、別に……」
P「俺は寂しいぞ」
ありす「え……?」
ありす「……」
ありす「……はい。寂しい……です」
P「うん、ごめんな」
P「だからさ、せめて今日、今だけでもきちんと話したいと思って」
ありす「Pさん……」
P「……ありすは、さ。いつも勉強熱心だよな」
毎日感謝のガチャ10000回かと
P「仕事と学校との両立だけでも大変なのに、成績はいつもトップなんだろう?」
P「その上で、次の仕事についても自主的に調べて勉強してる」
P「そして仕事の合間に、もっといい方法はないか、間違ってないかってまた調べ物。すごい事だよ」
ありす「……当然の事です」
P「仮にそうでも、実際に出来る人間なんてそうはいない。素直にすごい事だと思う」
ありす「……」
P「どんな事でも逃げずに向き合って、頑張って。本当によくやってくれてる」
P「改めて、言葉にするよ。ありがとう、ありす」
ありす「……わたし、は」
P「そして……勿体つけて悪かったな。これが、感謝の形」
P「――召し上がれ、お嬢様」スッ
ありす「え……?」
ありす「ぁ……ふわぁ……!」
ありす(タルト、ムース、ゼリー……イチゴのプチフール、いっぱい……!)
ありす「これ、全部Pさんが……?」
P「そ。頑張ったんだぞ」
P「前にありすが、感謝の気持ちにってイチゴのパスタをくれたろう?」
ありす「あ、あれは……今度は、もっと美味しく作れるはずですから……」
P「ん、期待してるよ。それで、その時のありすの気持ちが嬉しかったからさ」
P「同じように、俺も感謝を形にしたいと思ったんだ」
ありす「それで、どれもイチゴなんですね」
P「うん、折角だからな。ありすの好きなものをって」
P「まあ……普段は男料理ばっかりだから、見栄えは勘弁してくれ」
ありす「……あ、本当だ。ところどころ歪んでますね」
P「だから見た目は許してくれって」
ありす「でも、……嬉しいです。本当に嬉しいです……えへへ」
P「喜んでもらえて何よりだ。さ、好きなものからどうぞ」
ありす「はいっ。……あ、でも」
P「ああ、そろそろ現場へ向かう時間か?」
ありす「残念ですけど……」
P「大丈夫。先方には前々に話を通して、時間調整してあるから」
P「あと30分くらいは余裕があるぞ」
ありす「……そんな事まで」
P「向こうさんには以前、でっかい貸しを作ってあるからな。これくらいは聞いてもらわないと」
P「とはいえ……勝手にありすのスケジュールずらして、すまない」
ありす「いえ、私のためにしてくれた事ですし。……ありがとうございます」
ありす「では。えっ、と……タルトから。いただきます!」パク
ありす「――!」
ありす「っ……美味しい! 美味しいですPさん!」パァァ
P「おー、それは良かった。どうだ、見栄えは悪いが味はまあまあだろ?」
ありす「まあまあじゃないです、すっごく美味しくて……っ、ムースも美味しい!」
ありす(Pさんの手作りお菓子……それもイチゴの……あぁ、幸せです)
ありす(……でも、男性であるPさんにこれだけ美味しいものを作られては)
ありす(それもイチゴの……)パク
ありす「…♪」キラキラ
ありす(……むー、困ります。立場というものが……)パク
ありす「……♪」キラキラ
ありす(……美味しいから、今はいいや。うん)
P「……」
ありす「……? Pさん、何ですか? こっちをじっと見て」
P「ん? ああ、いや……」
ありす「?」パク
P「ありすは、やっぱり可愛いなあって」
ありす「――っ!? ん、ぐっ!」
ありす「~~~っ!」ドンドン
P「だ、大丈夫か!? 待ってろ、水持ってくるから!」
ありす「……ふぅ」
P「落ち着いたか?」
ありす「なんとか……。食べている最中に、あんな事言わないで下さい」
P「すまんすまん。表情がクルクル変わるんで、可愛くてついな」
ありす「ま、また……もう///」
ありす「……。Pさん」
P「ん?」
ありす「私も、言葉にしたい事があります」
P「……うん。聞くよ」
ありす「……頑固だった私に、ずっと向き合ってくれてありがとうございました」
ありす「バカみたいな意地を張っても、受け止めてくれてありがとうございました」
ありす「Pさんが呼んでくれるから、自分の名前を大好きになって」
ありす「Pさんが見ててくれるから、私は笑顔になれたんです」
ありす「私を、アイドルにしてくれて。……ありがとうございました」ギュッ
P「ありす……」
ありす「……ひとつだけ、聞きたい事があります」
P「ああ、いいよ。なんでも聞いてくれ」
ありす「――待てますか、Pさん」
P「……」
ありす「選んで欲しいって言いません……今は」
ありす「だから、これだけ聞かせて下さい」
ありす「……待っていて、くれますか」
P「――待つよ。必ず待つ」
ありす「……!」
P「ありすの望んだ答えを渡せるか、今は何も言えない」
P「でも、きちんと向き合って答えるから」
P「その時まで待っている。約束するよ」
ありす「……ありがとうございます。最高の、お返事です」
ありす「信じてますね、Pさん!」
* * *
ちひろ「それでそれで? どのくらいで泣かせちゃいましたか?」
P「だから泣かした前提で話さないで下さいって」
P「泣くどころか、いい笑顔をもらいましたよ」
P「……ありすは、本当にいいアイドルになりました」
ちひろ「……大成功、でしたか?」
P「はい。予想以上の」
ちひろ「良かったです。Pさんも、いい笑顔で」
P「あ……はは。笑っちゃってましたか」ポリポリ
ちひろ「ふふっ……」
ちひろ「それにしても、ありすちゃんは絶対ボロボロ泣くと思ったんですけどねぇ」
P「その言葉、ものすごい性格悪そうに聞こえますよ」
ちひろ「あ、いえいえ! そんなつもりは決して……!」
P「分かってますって。さて、次は……」
ちひろ「仁奈ちゃんですよね?」
P「あれ? 言ってましたっけ……」
ちひろ「いえ? でも、資料室に行った時にですね」
P「あー……そりゃ気づきますよねぇ。アイドル達に気づかれてないといいけど」
ちひろ「大丈夫ですよ、みんなが立ち入るような所じゃないですし」
ちひろ「……それにしても、片方はずいぶん大きかったですね」
P「ああ、そりゃ……いや、見てもらった方がいいか」
ちひろ「?」
P「と。そろそろ仁奈が来る時間ですね。準備してきます」
ちひろ「あ、はーい」
ちひろ(……今度は何するのかしら)
* * *
仁奈「おはようごぜーます!」
ちひろ「おはよう、仁奈ちゃん。もうすぐお昼だけど、ご飯は?」
仁奈「お弁当があるですよ。ちひろさんも一緒に食べやがりますか?」
ちひろ「ありがとう。でも、もう少しお仕事があるから。気にしないで食べていてね」
仁奈「では、お先にいただくのでごぜーます」
ちひろ「何か飲み物はいる?」
仁奈「モグモグ……んっ。お茶をくだせー」
ちひろ「お茶ね。冷たいのでいい?」
仁奈「はいです。ありがとうごぜーます」
ちひろ「どういたしまして。ちょっと待っててね」
ちひろ「はい、どうぞ。……それにしてもPさん、遅いわね」
仁奈「P? Pなら今日はおやすみでごぜーますよ?」
ちひろ「へ? あ、ああ! そうだったわね、忘れちゃってたわ」
ちひろ(いけないいけない……一応、サプライズだものね)
??「やー、遅くなっちゃって……。仁奈、もう来てます?」
仁奈「P? いたので――」
ちひろ「……!?」
P(※キグルミ)「おはよう、仁奈」モッフー
P「午年だからな。ペガサスの気持ちになってみたぞ」モフモフ
仁奈「わー! わー! でっけーキグルミでごぜーます! Pがキグルミモフモフしやがってます!」
ちひろ(PさんがPガサスさんに……なるほど、大きい着ぐるみはこの為だったのね)
P「もちろん仁奈にも用意してあるぞ」
P「向こうに置いてあるから、ご飯を食べたら着てみてくれ」
仁奈「ホントでごぜーますか!? こうしちゃいられねーです!」カカカッ モグモグモグモグ…
P「こらこら、よく噛んで食べないとダメだぞー」
ちひろ「もうちょっと早く登場すれば良かったですねぇ」
P「……その予定だったんですが、思ったよりこれ着づらくて」
ちひろ「言っていただければ手伝ったのに」
P「いや、でもこの下、シャツとトランクスだけですし」
ちひろ「え……あ、そ、そうですよね! 着ぐるみですもんね!///」
P「ブカブカだと思ってたんですが、意外とフィットする作りになってて」
ちひろ(……フィット、って)ドキドキ
仁奈「食べ終わったですよ、P!」
ちひろ「っ!」ビクッ
P「早いなあ。ちゃんとよく噛んだかー?」
仁奈「問題ねーです! さあさあ、早く仁奈にも着せやがるでごぜーますよ!」
P「服の上から着るのか?」
仁奈「上とスカートは脱ぐのですよ」
P「……じゃあ着せるのはダメ。渡すから、更衣室で着替えてくれ」
仁奈「分かったから、早く渡しやがってくだせー!」
P「はいはい。それじゃ、ついといで」
仁奈「やーです。ペガサスの背中に乗っていくでごぜーますよ!」モフッ
P「おっと。……じゃ、行くぞー」
仁奈「おー!」モッフモッフモッフ
ちひろ「……」
ちひろ(……が、学生じゃあるまいし、こんな……///)
ちひろ「……はっ。いけない、仕事仕事っ」
* * *
仁奈「ペガサスの気持ちになるですよー!」モフモフ
P「おお。よく似合うぞ」モフモフ
仁奈「Pとおそろいでごぜーます」
P「前にお揃いを着たがってたからな。どうだ、気に入ったか?」
仁奈「フワフワのモフモフで幸せになったですよー!」
P「喜んでもらえて何よりだ」モフモフ
仁奈「んー♪」
P「仁奈、いつも仕事頑張ってくれてありがとうな」
P「仁奈が楽しそうにしてくれてるから、周りの雰囲気も自然と良くなる」
P「俺もスタッフの皆も、現場の人たちもすごく助かってるよ」モフモフ
仁奈「キグルミがあれば、仁奈はいつでも楽しいですよ」
P「うん。仁奈も楽しいならもっといいよな」
仁奈「キグルミもPも一緒にいるのが一番楽しいです!」
P「そっかそっか」モフモフ
仁奈「……でもP、近頃は忙しそうで……さみしーでごぜーます」
P「仁奈……」
仁奈「Pはみんなのためにお仕事を頑張ってやがります」
仁奈「でも、Pがちっともおやすみできないのはやーでごぜーますよ……」
仁奈「今日はおやすみじゃねーのでごぜーますか? ……お仕事しねーでくだせー」
仁奈「Pがもっと忙しくなったら、仁奈はもっとさみしーのですよ……」
P「……そんな心配させちゃってたのか」
P「ごめんな仁奈。でも、大丈夫だ。今日はちゃんとお休みだぞ」
仁奈「お仕事はねーのですか?」
P「ああ。……仁奈にも言われたけど、ここのところはずっと忙しかったからな」
P「お休みを使って、皆に会いに来たんだ」
P「仁奈、心配かけてごめん。……それと改めて、いつもありがとうな」
P「そのペガサスは、俺からの感謝の気持ちだ」
P「衣装じゃないぞ。俺から仁奈へのプレゼント」
仁奈「これ、仁奈がもらっていーのです!? やったー!」
P「ああ、存分に着てくれ。それと、これもな」クイクイ
仁奈「これ?」
P「俺のいま着てるやつ。あとでクリーニングして、丁寧にしまっておくからさ」
P「仁奈が大きくなって、まだ着ぐるみが大好きだったら。その時にまた渡してあげるよ」
仁奈「そのペガサスもくれやがるのですか!?」
仁奈「仁奈はいつまでもキグルミ大好きでごぜーます!」
仁奈「でっけーキグルミと同じくらいでっけー仁奈になったら、Pからいただくですよー!」
P「ああ、その時にはまたお揃いにしてやるぞ」
仁奈「わーい♪ 約束でごぜーますよ、P!」モフッ
P(……あと7年か、8年後くらいかな。それまで、ずっとこんな風に笑いあって)
P(着ぐるみに興味がなくなってたとしても、仁奈の大事な思い出にできたらいいな)
P(いや。……きっと、大事な思い出にしよう)モフモフ
仁奈「Pペガサス、仁奈ペガサスを飛ばしやがってくだせー」
P「よしきた」ヒョイッ
P「そー……れっ!」ブンブンブンブン
仁奈「わー! すげーです、飛び回ってるですよ!」
P「まだまだ行くぞー!」ブンブーン
仁奈「はえーです! Pも一緒に飛びやがってくだせー!」
P「よっしゃあ!」ダダダダッ
仁奈「行くでごぜーますよー!」
P「おうとも!」
ダダダダダッ…
??「――きゃっ!?」
P「うおっ!? ……っと!!」キキーッ
仁奈「わーっ!」
P「す、すみません! お怪我はなかったです……あれ」
美優「……ええ。大丈夫で……あ、あら? Pさん? それに仁奈ちゃん」
P「美優さんでしたか。改めてすみません、驚かせてしまって……」
仁奈「美優おねーさん、ビックリしやがったですか? 申し訳ねーですよ……」
美優「ううん、いいのよ。仁奈ちゃんこそ大丈夫?」
仁奈「……うー。そーいえば、頭がクラクラでごぜーます」
P「ああ、仁奈も急ブレーキかけてごめんな」
仁奈「……ちょっとお腹も気持ち悪いですよ」ケプッ
P「そういや急いで昼飯食べてたしな……振り回しすぎたか、ごめん」
P「ちょっと仮眠室で横になるか?」
仁奈「なるでごぜーます……」
P「よし、それじゃ抱えて連れてくからな」ヒョイモフ
仁奈「んー」モフッ
美優「……仁奈ちゃんと、遊んでいたんですか?」
P「ええ。ちょっと興が乗りすぎまして」
美優「ふふっ……廊下を曲がったら白馬が走ってくるんですもの。ビックリしました」
仁奈「馬じゃねーですよ。ペガサスです」
美優「あ、本当。可愛らしい羽根がついてる」モフモフ
仁奈「Pがいればどこまでも飛べるのでごぜーます」
美優「ふふ、楽しそうでいいわね。……でも、あまりはしゃいじゃ駄目よ?」
美優「Pさんも。あんなに廊下を走ったら、危ないですよ」
P「……いや、どうも。お騒がせしまして……申し訳ないです」ポリポリ
美優「意外と子供っぽい所があるんですね」クスッ
P「ははは……」
* * *
P「ほれ、着いたぞー……っと」コロン
仁奈「んー。ありがとうごぜーます」
P「どういたしまして。少し経ったら起こすから、ゆっくり休んでるといいぞ」
仁奈「Pも仁奈と一緒に寝やがるでごぜーます」
P「え? いや、俺は……まあ、休みではあるんだが」
美優「いいじゃないですか。寝ちゃってたら、私が起こしてあげます」
仁奈「美優おねーさんもこっちに来てくだせー」ポンポン
美優「あら、私も座るの……? あ、膝枕ね。でも、寝づらくないかしら?」
仁奈「問題ねーです!」
仁奈「Pはこっち側に来やがるです」
P「いや……この状況、すごく横になりづらいんだが」
P(美優さんがベッドに腰掛けながら、仁奈に膝枕……その横に寝るとなると、必然的に)
美優「え、えっと……仁奈ちゃん。私も、それは恥ずかしい……かな」
仁奈「むー。それじゃ、Pはこっちに座ってくだせー」
P「ん……まあ、それならまだ」
仁奈「早くしやがるですよー!」ポムポム
P「分かった、分かったよ……っ、と」
仁奈「わーい! モフモフで気持ちいーですよー!」モフッ
P「そりゃよござんした」モッフモッフ
美優「ふふっ……」
仁奈「……むにゃ……すぅ…すぅ……」
P「寝るの早いなー。まあ、食事後だしなあ」
美優「ふふ……かわいい」モフモフ
P「美優さん、さりげなく俺も撫でないで下さい」
美優「あ、あら……つい……」モフモフ
P「まあ、分かりますけど。これ触り心地いいですから」モフモフ
美優「ええ。ふかふかで手触りがいいので、思わず……」
美優(……それだけじゃ、ないですけれどね)
美優「それにしてもPさん、今日はお休みなのにわざわざ?」
P「ええ。最近はどうにも忙しくて、皆とのコミュニケーションもなくなりがちだったんで」
P「だったら休みの日を使って、と思いましてね」
美優「……そんな。普段忙しいんですから、お休みくらいゆっくり……」
P「いいんですよ。どうせ家にいたって寝てるか、翌日の仕事の事を考えてるかなんですから」
P「だったら、少しでもアイドルの皆に当てたほうがよっぽど充実できます」
美優「なにか趣味とか、そういうものは?」
P「趣味……うーん。もうこの仕事が趣味みたいなものですかねえ」
美優「……本当に、プロデューサーの鑑というか」
P「アイドルから言われるなんて、恐悦至極です」
P「……でも、仁奈に言われちゃいました。最近俺が忙しそうで寂しいって」
美優「私たちにも目に見えるくらい、お仕事が増えましたものね……」
P「遊んでもらえない事より、俺が忙しそうにしてるのが寂しいって心配されましたよ」
P「駄目ですねえ、どうも」
美優「……いい子ですね、仁奈ちゃん」
P「ええ。本当に……仁奈だけじゃない、うちのアイドルは皆そうです」
P「だから、少しでも感謝の気持ちを伝えようと。こうして、ね」モフッ
美優「くすっ……」
P「もちろん、美優さんにもそのつもりでしたよ」
美優「……え? 私にも……その、着ぐるみを……?」
P「あー、違います違います。美優さんにはきちんと、別のを考えてますから」
P「それとも、着ぐるみの方が良かったです? 虎とか」
美優「も、もうっ! Pさん!」
P「ははは。それじゃちょっと待ってて下さいね。着替えてきます」
* * *
P「お待たせしました。ちょっと横、失礼しますね」
美優「……は、はい。どうぞ」
美優(仁奈ちゃんを乗せてて動けないから、肩が触れそう……///)
P(仁奈を避けて座ってるから、肩が当たっちゃいそうだな……気をつけないと)
P「それでは、これを美優さんに。俺からの、日頃の感謝の気持ちです」
美優「なんだか申し訳ないですね……。私なんて、なにも」
P「ストップ。謙遜とか、遠慮はナシで」
P「素直に受け取ってください。ね?」
美優「……はい。ありがとうございます、Pさん」
美優「今、開けても?」
P「もちろん」
美優「それでは……」ペリッ カサカサ…
P(すごく丁寧に開けるなぁ、美優さん)
美優「わ。素敵なアロマポット……! これ、花を挿せるんですね」
P「ええ。ちょっと珍しいでしょ?」
美優「ふふ……ありがとうございます。今日、さっそく飾りますね」
美優「帰りにお花を買って帰らないと……」
P「喜んで頂けて、こちらも嬉しいですよ」
美優「でも……やっぱり、少し困ってしまいます」
P「と、いうと?」
美優「いつもお世話になってばかりなのに、こんな素敵なものまで頂いて」
美優「本当に嬉しいけれど、身に余る……というか。そんな気分です」
P「はは……美優さんらしいと言えば、らしいですけれどね」
P「美優さんはいつも俺を助けてくれていますよ。美優さんが思ってるよりずっと」
美優「……そんな」
P「ですから、美優さん自身が思うよりずっと、です」
美優「……」
P「知ってますか? うちの年少組が、美優さんにすごく懐いてるのを」
P「何か困った事とか、辛い事があって。それは俺の目の届かない部分とか、あるいは俺に言いにくいこ
とで……」
P「そういう事があると、いつも美優さんが助けてくれる。それも、ごく自然に」
P「いつでも優しくて、笑顔で。……だから、みんな美優さんに懐いてるんです」
美優「あの子たちが、そんな風に……」
P「年少組だけじゃないですよ。難しい年頃のやつ、斜に構えるタイプ、距離を開ける子」
P「一癖も二癖もあるアイドルが、美優さんには心を開いてます」
P「美優さんがいつも、誰かの為を思っているからですよ。そして、笑顔でいるから」
P「優しさが伝わるんです、皆に。……俺にも」
美優「え……Pさん?」
P「朝がどんなに早くても、収録が押して深夜になっても、慌しい移動時間でも」
P「美優さんはいつでも笑顔で、俺に話しかけてくれますよね」
P「自分がどれほど疲れていても、まずは俺を気遣ってくれて……」
美優「それは、だって……私より、Pさんの方がずっと大変そうだから」
P「ほら、今も」
美優「……」
P「……俺も現場が立て込んでピリピリしたり、上手くいかなくてイラつく事があります」
P「もちろん、表には絶対に出さないですけれどね」
P「でも美優さんといると、そういう隠してる部分……焦りとか苛立ち自体が、消えてしまうんですよ」
P「美優さんに優しい笑顔を向けられると、自然とこっちも優しい気分になる」
美優「Pさん……」
P「そんな風にね、いつでも俺は貴女に支えられているんです」
P「……だからどうか、謙遜や遠慮はしないで受け取ってください」
P「いつも本当にありがとうございます、美優さん」
美優「……はい。嬉しい、です」
美優「でも、ね……Pさん。最初に笑顔をくれたのは、あなたなんですよ」
美優「笑うことなんて忘れていた私に、あなたが優しく笑いかけてくれて」
美優「目を伏せてばかりいた私を、あなたがステージへ立たせてくれて」
美優「……今のわたしが笑顔でいられるのは、Pさんがいたから」
P「いや、俺は……」
美優「――ダメです」スッ
P「……ッ」
美優「遠慮も謙遜もなし……そうでしょう?」
P(美優さんの指が、唇に当てられて……)
美優「……ふふ。こんな事、以前の私なら想像もできなかった」
美優「あなたが、変えてくれたんです。あなたが、私を笑顔にしてくれたの」
美優「だからPさん。素直に聞いて下さい」
美優「いつも、心から貴方に感謝しています。本当に……」
美優「本当に、ありがとう」
P「……みふゅふゃん」
美優「!?」
P(あ。指当てられてるの忘れてた)
美優「ぁ……ご、ごめんなさい。ゆび、ずっと……」
P「いや、まあ。別に、その……」
美優「……」
P「……」
P「……ぷっ」
美優「……ふふっ」
P「……改めて。いつも感謝しています、美優さん。今後ともどうぞ宜しくお願いします」
美優「こちらこそ、いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね、Pさん」
美優「それでは、仁奈ちゃんはもう少し寝かせてあげたら起こしますね」
P「すみません、美優さんも仕事の後なのに」
美優「それを言ったらPさんなんて、今日はお休みじゃないですか」
P「まあ、そうなんですけれども」
美優「いいんですよ。こうしてると落ち着きますし」モフモフ
美優「ちょうどいい休憩です」モフモフ…
P(……ふむ)
P「……美優さん。今度、仁奈含めた何人かで、それ系の仕事してみませんか?」
美優「それ系……って。こ、これですか?」モフッ
P「ええ。動物園といい、ライブユニットの時といい、大好評でしたから」
美優「あ、あの衣装は、ちょっと恥ずかしいです……」
P「ほんとに好評なんだけどなあ」
美優「……そう言って頂けるのは嬉しいです、けど」
P「いっそ、次はもう少しセクシー路線でも、とか思ってて」
美優「セクッ……ちょ、ちょっとPさん!」
P「ははは。まあ、企画はおいおいという事で。……それじゃ、すみませんが仁奈を頼みますね」
美優「も、もう……!」
美優「……Pさんったら……」
美優「……」
美優「……が…がおー……」
仁奈「…ふにゅ……がおー……?」
美優「っ!?」
仁奈「…くー……」zzz
美優「……」
美優「……///」モフモフ…
* * *
* * *
P「さて次は、と」
P「……お。やってるやってる」
ベテ「……、……、…、む。今のステップ、2人ともバラついたぞ」パン、パン
マス「どうした! 疲れた時こそ集中だ、爪先に力を入れろ!」
周子「うぇ……キッツイよー……」
トレ「ほら周子ちゃん、もう少しですから! ファイト!」
周子「なんで……今日に、限って…こんななん……?」
トレ「あはは……ちょっと、姉さんたちがはりきっちゃって」
文香「……っ、はぁ…はぁっ……!」
ルキ「文香ちゃん……大丈夫?」
文香「……は、っ…」コクコク
ルキ「ほ、ほんとに?」
ベテ「負荷の掛けすぎも良くないからな。そろそろ切り上げにしようか」
文香「……!」フルフル
マス「ふむ、ここらで減速をとも思ったが……いい気迫だ。それでは、もう少しだけ続けようか」
周子「えぇー……減速でいこ……? まったり、まったり……」
マス「……塩見。キミはもう一段階ブースト出来そうだな」
ベテ「ほう、素晴らしい。もっと激しい動きを加えてみるか?」
周子「ややや、もう限界だってば……」
ルキ「それじゃ2人とも、ラスト頑張ってー!」
文香「っ、お願い……します……」
周子「ひーん」
ガチャ
P「お邪魔しまーす。レッスン中、失礼」
トレ「あ、Pさん!」
P「皆さん、気合入ってますねえ。おはようございます。周子と文香も、おはよう」
ルキ「はい、おはようございます!」
文香「おはよう……ござい、ます……」
マス「おはよう、P殿。まずまずの仕上がりだぞ」
P「ですか。それは良かった」
周子「Pさーん! 助けてよー!」
ベテ「やれやれ……。まあ、そろそろいい時間だ。今日はこれで終了にしようか」
文香「いえ、まだ……やれます……」
トレ「文香ちゃん。気合いは大事だけど、休む時には休むのもレッスンのうちですよ?」
マス「その通り。加速と減速の使い分けが肝要だぞ」
文香「……ですが……」
マス「なに、焦る事はない。今日のプログラムは、私とベテが組んだスペシャルコースだからな」
マス「多少のミスは出て当然だ。最初から完璧にこなされては、私達の立つ瀬がないよ」
ルキ「そうだよ! 逆にここまで出来て、ビックリしちゃった位だよ?」
P「へぇ……すごいじゃないか。よく頑張ったな」ナデナデ
文香「あ……そ、その……レッスン、ですから……///」
周子「PさんPさん、あたしも頑張ったんだけどなぁ?」
P「そうなんですか、ベテさん?」
周子「ひどっ!」
P「冗談、冗談。周子は態度こそ軽く見せてるけど、こういう事はきっちり頑張るもんな」ナデナデ
周子「ん……あ、うん。まあ、ね」
ベテ「流石はP。よくアイドルの事を分かっているな」
ベテ「キミの言う通りだ。今日のレッスン、塩見は軽口やら弱音やらを叩き通しだった……」
ベテ「が。レッスンそのものは、ただの一瞬たりとも怠けていなかった」
ルキ「もちろん文香ちゃんもですよ! どんなに疲れても、絶対根負けしなかったんですから」
ベテ「ああ。劣った体力は渾身の気迫でカバーしていた。ふふ……どちらも、キミへの信頼の成せる業かな」
文香「……///」
周子「あ、あー……あっつーい! あっついし、汗かいたからシャワー浴びてくるー!」グイッ
文香「きゃっ……え、え?」
周子「文香ちゃんもほら、行くよー」
文香「あ……わ、私は……その、ひ、一人で……」
周子「気にしなーい、聞こえなーい♪」
文香「あー……」ズルズル… ガチャ
P「あーるー晴れた、ひーるー下がり」
ベテ「いーちーばーへ……助けないのか、P」
P(意外とノリいいんだよな、ベテさん……)
P「ああ、大丈夫ですよ。周子はあんな感じですけど、相手との距離感をちゃんと分かってます」
P「文香が本気で嫌がる事はしないですから」
マス「……ふむ」
P「照れ隠しに、この場から脱出する口実をお互いに作ったって事でしょう」
マス「いや、先程ベテも言ったが……流石はP殿だ」
マス「無責任な信頼関係ではなく、アイドルの事をしっかりと見ているのだな」
P「俺はただ、プロデューサーとして当たり前の事をやってるまでで……」
トレ「それを当たり前に言ってしまうのが、Pさんの凄い所なんですよ」
ルキ「そうそう。だからアイドルの皆も、Pさんを信じられるんだって思います」
P「トレさん、ルキちゃんまで……参ったな、どうも」
ベテ「フフ。アイドル同様、私達からの信頼も勝ち得ていると言う事だよ」
ベテ「……ところでP? 朝方にちひろさんから伺ったが、今日は休日だそうじゃないか」
ルキ「え? そうなんですか、Pさん?」
P「うん。久々に申請取ってね」
マス「その久々の休日に、自分の仕事場へか……。まったく頭の下がる思いだが、少しは自分の事にも気を遣いたまえよ」
トレ「そうですよ! 休む時には休む! これはレッスンもお仕事も一緒です!」
P「いや、まあ……うん」
ベテ「わざわざ私と姉を加えての特別プログラムを組むくらいだ。あの二人を気に掛けているのは分かるが……」
P「あ、違います違います。お願いした理由は確かにそれなんですが、今日ここに来たのは別件で」
ベテ「別件……? 何だ、他にも対象のアイドルがいるのか?」
P「いや、仕事のことじゃなくて。これを……っと」コトッ
トレ「あ。その大きい包み、気になってたんですよね」
ルキ「わたしも。Pさん、それ何が入ってるんですか?」
P「この中身が今日の用件。……というか、ルキちゃん達に対してなんだけど」
マス「……? 要領を得ないな。P殿らしくもない」
P「あ、すみません。遠回しに言うつもりは無いんですが、つい改まってしまって」
ベテ「……」
P「えっと、それでは」
ベテ「――待て、P。分かったぞ、キミの用件とやら」
P「え?」
ベテ「これも朝方にちひろさんから聞いたんだがね」
ベテ「……P、キミは先日から、何やら陰で動き回っているらしいな」
ベテ「といっても悪企みではなく、むしろその逆……アイドル達に、日頃の感謝を伝え回っているのだとか」
マス「ほう。それはそれは……」
ベテ「言葉で感謝を尽くすのは勿論、相手が何をすれば喜ぶのかを考え、プレゼントも行っているのだそうだ」
ルキ「わぁ……! Pさん、素敵っ!」
トレ「本当に、Pさんって……。アイドルの皆も、幸せですね」
P「ちひろさん、そんな詳細まで……お喋りだなあ、あの人も」
ベテ「彼女にとってもキミの行動が予想外だった。そういう事だよ」
マス「……成程。私にも察しがついた」
マス「つまり、キミは私達トレーナー陣営にも、アイドルと同じ事をしてくれようという訳だな」
マス「そしてその大きな包みは、その為のものと」
P「……サプライズのつもりだったんですけどねえ。……まあ、そういう事で」
ベテ「ああ、その……ふいにしてしまって申し訳ない」
P「いえいえ。いいんですよ、メインはこっちなんですし」
トレ「え? ちょ、ちょっと――」
ルキ「わたし達はそんな――」
ベテ「っと、待て。話がややこしくなる」スッ
ベテ「4人とも意見は同じようだし、代表して姉さんに伝えてもらうとしよう。……良いかな?」
マス「ああ。貧乏くじだが……これは仕方ないな」
P「?」
マス「あー……」コホン
マス「P殿。厚意は大変にありがたい。……上辺でなく、本当だぞ?」
マス「だが、我々は報酬に対する労働として、当然の仕事をしているまでだ」
マス「アイドル達のように私生活を犠牲にしている訳でもなく、キミのような一騎当千の働きをしている訳でもない」
マス「……故に。申し訳ないが、アイドル達と同じ事をしてもらう事は出来ないよ」
P「……」
マス「どうか容赦してくれ。……P殿の気持ちは確かに頂いた。それだけでも、私達には十二分に過ぎる」
トレ「あの……ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
ベテ「心遣いは本当に嬉しいんだ。けれど、だからこそ受け取るわけにはいかない、っていうか……」
ルキ「お姉ちゃんも言いましたけど、Pさんのお気持ちだけで本当に十二分なくらい、嬉しいですから!」
P「……」
マス「……重ねて済まない。礼を失するのは百も承知だが、どうか……」
P「……よっと。ここでいいかな」コトッ
マス「!?」
マス「……お、おい。P殿。話は聞いていたのだろう?」
P「ええ、もちろん」シュルシュル
マス「だったら何故普通に私達の中央に持ってくる!? そして何故普通に開封する!?」
P「いや、だってほら。これが贈り物ですし」コトッ コトッ
ベテ「言いながら並べるんじゃないのっ!」
P「ベテさん、喋り方喋り方」
ベテ「…っ、キ…キミなぁ! いい加減に……うん?」
トレ「これって、お弁当箱……?」
P「その通り」カパッ
ルキ「サンドイッチがいっぱい……」
P「うん。んで、こっちがおかず」パッ
ベテ「……これは、キミが手作りで?」
P「ええ。男料理なんで、見栄えも中身も大味ですけどね」
マス「なに、謙遜するな。その卵焼きなど実に……はっ。で、ではなく!」
マス「……どういうつもりだ、P殿」
P「どういうつもりも何も、こうなるだろうなって思ってたんで」
マス「……何?」
P「4人とも生真面目ですからね。形に残るものだと、絶対に遠慮するだろうなって」
P「仮に受け取ってもらえても、モヤモヤしたまま終わりそうじゃないですか?」
P「折角普段できない事をする機会なのに、そんなのは絶対ゴメンなんで」
ベテ「……P」
P「そこで、これ」トントン
P「食べるものなら、まさか突っ返す訳にはいかないでしょう?」
P「そして、残るのは味わった思い出と栄養だけ。形に残らない分、余計な事も考えにくいってワケですよ」
マス「……やれやれ。キミの掌の上だな」
P「そんな言い方しないで下さいよ。俺は皆さんに……」
マス「分かっている。この上で更に意地を張るほどの子供でもないさ」
マス「先程の非礼を詫びさせてくれ。その上で、素直にP殿の厚意に甘えよう」
トレ「わ、私も……改めて、ごめんなさい!」
ベテ「私は二度詫びないとな……準備をふいにした事、厚意を無碍にした事。本当に済まなかった」
ルキ「……すみませんでした、Pさん」
P「あー、やめましょうやめましょう。素直に受け取ってもらえれば、それが一番ですから!」
P「っとそうだ。ついでにマスさん」
マス「……ん? 何だ?」
P「断る時に言ってた“当然の仕事をしているだけだから”っていうの。あれ、ナシの方向で」
マス「な、無し……とは?」
P「無しは無しです。当然の仕事って、そりゃ皆そうですよ。アイドルだって俺だってそうです」
P「ベテさん、トレさん、ルキちゃんも。事務所の皆同じように、報酬をもらって仕事をしてるんだから」
ベテ「いや、しかしだ……キミやアイドルに比べたら、やはり」
トレ「そうですよ。私達なんて」
P「それ! そういうのがナシって言ってるんです!」
マス「そうは言うがな……」
ルキ「だって……」
P「あー、もう」
P「……それじゃ聞きますけど、俺やアイドルの仕事とどんな所が違うって言うんですか?」
ルキ「……アイドルの皆は、自分の生活を犠牲にして頑張ってますし……ほら、学校とか」
P「確かに。でも、それはアイドルをやるって決めた時に皆が考えて、そして納得済みの事だ」
P「プラス、事務所として最大限のサポートもしている。……第一、それを言ったらルキちゃん自身がそうじゃないか」
ルキ「そ、そうですけど……」
P「あと、今のだと学生に限った話になっちゃうよね? 大人のアイドル達はどうなの」
ルキ「え、えーと……それは、その……」チラッ
トレ(え? わ、私……?)
トレ「あー……あ、ほら! アイドルは恋愛禁止じゃないですか! そういう部分で不自由かとっ」
P「ん、別に禁止じゃないよ?」
トレ「えっ」
ルキ「えっ」
ベテ「えっ」
P「なんですか、ベテさんまで……だから、別に禁止してませんよ」
ベテ「い、いや……しかしアイドルという性質上、恋愛沙汰はご法度ではないのか」
P「それは当然、スキャンダルは致命傷につながりますから。注意は耳にタコが出来るほど促しますよ」
ベテ「だろう? そうだろう?」
P「でも、逆に十全の注意さえ払ってもらえれば問題はないわけで」
P「噛み砕いて言えば、“絶対バレなきゃオッケー”ってスタンスです」
ベテ「いいのか、それで……」
P「気持ちの部分までは縛れませんからね」
トレ「で、でもそれだけ注意しないといけないって、やっぱり不自由でかわいそうじゃないですか……?」
P「うーん……トレさん、質問で返してしまうんだけど。この事務所に、社内恋愛禁止の課っていくつあると思う?」
トレ「え? えっ……と」
P「正解はね、8つ。どこの部署とかは言わないよ? どうしても色眼鏡で見ちゃうだろうから」
P「ただ、人数にしておよそ60人がこの影響を受ける」
トレ「そんなに……」
P「もちろん、問答無用で全面禁止って訳でもないし、それぞれ合理的な理由もあるよ。法務にもチェック通し済み」
P「……けど、当の本人達からすればどんな道理だろうが、不自由極まりないよね。恋愛の選択肢を勝手に狭められてしまうんだから」
P「それも、会社の同僚なんて可能性の高い選択肢を、さ」
ルキ「……」
トレ「……」
ベテ「……」
マス(……ほう)
P「……という事で、アイドルも俺も皆さんも。仕事である以上、違いなんて有って無いも同然なんです。分かってもらえましたか?」
マス「ああ。さっきの言葉は全面的に撤回しよう。……まったく、敵わないな」
P「素直で良いです。……そもそも、そんな事をいえば俺の方こそマスさん達には助けられてばかりなんですから」
マス「効果的なプログラムを組み、それを実践するのが私達の役割だ。それこそ当然の……」
P「もちろん、そこは大変助かってます。でも、それ以外にも」
マス「?」
P「例えばマスさん。アイドルの皆がマスさんの事を俺に言うんですよ。あの人は全然怖い人じゃないって」
マス「……ど、どういう事だ?」
P「ははは。“地獄の特訓”なんて名前のプログラムを組んだから、誤解されると思ったんですかね」
P「レッスン中は声も表情もずっと険しいけど、終わると一番に優しい顔で褒めてくれるって」
P「レッスンの時以外でも、例えば大仕事の前で緊張してると、自分の経験談を話してくれたり」
P「疲れた様子だと手作りのドリンクを差し入れてくれたり、困った時にはすごく優しくしてくれて」
P「だからどんなに厳しくされても、マスさんを信じてついていけるんだって。そう言うんです」
マス「……そんな事を、あの子達が」
P「ベテさんは、すごく丁寧に丁寧に教えてくれるって」
ベテ「わ、私にもあるのか」
P「言葉こそ厳しいけど、体力が無い子がいると一段階ペースを落としてくれたり」
P「どこをどうしたらいいとか、ここをこうすれば良くなるとか、親切に教えてくれて」
P「一人ひとりをちゃんと見てくれてるから、上達が実感できて嬉しいって言ってます」
P「ベテさんのお陰で、みんなすごく前向きにレッスンしてくれてますよ」
ベテ「何というか。……これは、照れるな」
P「トレさんは、最初の頃からずっとお世話になってますね」
トレ「あ、いえ。こちらこそっ!」
P「アイドルにとっては、それこそ駆け出しの前、その前から一緒にやってきた仲間です」
P「大人組にとっては戦友のようなもので、学生や年少組にすれば姉のような存在で」
P「皆から話を聞いていると、本当に信頼されているんだなって伝わってきます」
P「正直、プロデューサーとしてはちょっと妬けてしまうくらいですよ」
トレ「そんなこと……」
P「ルキちゃんは、いつも友達みたいにアイドルと接してくれているね」
ルキ「あ、あはは。お姉ちゃん達からは自覚が足りてない、って言われちゃいますけど」
P「んー……マスさん達の立場から見れば、そうなのかもね」
P「でもアイドル達にとっては、ルキちゃんの接し方はすごく助かる事なんだ」
P「俺や他の年上にはできない、あるいはする程でもないけど、誰かに頼りたい相談」
P「そんな時、ルキちゃんが友達のように話しかけてあげる事で、みんなは――特に、年少組は安心して話ができる」
P「レッスンの合間合間にルキちゃんがそうしてあげる事で、みんながもっと頑張れるんだよ」
ルキ「……わたしが、皆を……」
P「アイドルの皆と話す度に思いますよ。あの人達が、あの子らが、皆さん4人をどれほど信頼しているか」
P「機械的にプログラムを組んで、レッスンを消化しているだけではこうなりません」
P「皆さんがそれぞれの方法で、心からアイドルのために指導してくれているから……」
P「だから、アイドルが更に高いステージを目指せるんです」
P「……俺のプロデュースだけでは、到底できなかった事ですよ」
P「なのでこの機会に、改めて言葉にさせて下さい」
P「――マスさん、ベテさん、トレさん、ルキちゃん」
P「いつも、本当にありがとうございます」
P「皆さん4人だから、俺は安心してアイドルを預けることができるんです」
P「これからも、どうぞよろしくお願いします」
P「……そして改めて、この食事は俺のせめてもの気持ちです。受け取って下さい」
マス「……キミというやつは、本当に」
ルキ「っ……! う、っく……あり、がとう……ござ……」ポロポロ
トレ「あー……ほらルキ、泣かないの……っ。……な、なんか、私も……」ポロポロ
ベテ「仕方のない……けれど、これは……私も、な」グスッ
ベテ「……P。キミがあれほどアイドルから慕われている理由が、今日改めて分かったよ」
ベテ「キミはこちらの信頼にそれ以上の信義で応え、そして掛け値なしの好意を向けてくれるのだな」
ベテ「通り一遍の義理や友誼でなく、心底から相手のことを想って行動する。それがキミなのだろう」
ベテ「だからこそ誰もがPを慕うんだ。アイドルも、そして私達も」
P「……そう手放しで褒められると困りますよ。俺は別に……」
マス「おっと、それは認めんぞP殿。私達にそうした以上、キミにも素直に聞いてもらう義務がある」
P「マ、マスさん……」
ルキ「ぐすっ……そ、そうです! Pさんばかりズルいですよ!」
P「ずるいって」
トレ「……さっきのPさんの言葉を返すみたいですけど。私達のレッスンだって、Pさんがいるから上手くいくと思うんです」
トレ「姉さん達がどんなに効果的なプログラムを組んでも、私達がどれだけ親身に接しても……」
トレ「もし、それを受ける子自身が諦めていたら、レッスンではどうにもなりません」
トレ「実際、他の事務所に行っている子から愚痴を聞いた事もあるんです。言うことを聞いてくれないとか、返事をしてくれないとか」
トレ「酷いとレッスン中に物を投げられたり、次の日から来なくなってしまったりって話も」
P「それは辛いなあ……」
みくにゃんの出番待ってるんだけどまだですか?
トレ「ええ。でも、ここのアイドルの子達はみんないい子で。……少しはすれ違いもあったりしますけどね?」
トレ「でも、話をして分かり合えなかった事は一度もないです」
トレ「それはきっと、皆がPさんを信じているから」
トレ「どんな地味で辛いレッスンでも、きっと自分の力に……トップアイドルへの一歩になるって、あなたが信じさせてくれたからです」
ルキ「……うん。わたしも、本当にそう思う」
ルキ「お話する時ってみんな、本当に楽しそうに笑うんですよ。レッスンで疲れてるのに」
ルキ「それで、みんなが一番楽しそうな顔をする話題が、Pさんの事」
P「俺の……なんだろう?」
ルキ「何の、っていうことでもないんです。色々な話の流れで、そういえばっていう感じの」
ルキ「でも、どんなお話の時でもみんな楽しそうにするんです。なんか、宝物を自慢する子供みたいに」
ルキ「それを見て、いつも思います。Pさんは本当にみんなのPさんなんだなぁ……って」
P「なんか……恥ずかしいな、それは」
マス「ふふっ。先程からの私達の気分が分かったかな」
マス「すっかり妹達に台詞を取られてしまったがね。まあ、そういう事だ」
マス「信頼には信頼で、好意には好意で応えるものさ。キミが私達にしてくれたようにな」
マス「P殿。我々はより一層力を尽くし、キミの助けとなろう。今後とも二人三脚で……いや、この場では五人六脚、か」
マス「力を合わせ、ともに歩いてゆこう」ガシッ
P「マスさん……はい。よろしくお願いします」グッ
トレ「わ、私もよろしくお願いします!」ガッ
ルキ「わたしも、今後ともよろしくお願いします!」ガシッ
ベテ「改めて、これからも一緒に頑張ろう」ギュッ
マス「っつ……! お前達、上から一斉に手を握るんじゃない!」
P「って、いてて……。……はははっ」
マス「……ふふ」
マス「さて、では折角P殿が心を尽くして用意してくれた食事だ。ありがたく頂戴しよう」
P「はい。冷めないうちにどうぞ……ってもまあ、冷めてるんですけどね」
ルキ「えへへ、美味しそう! 何から食べようかなっ」
P「……何度も言うけど、所詮は男独り身の料理だから。味はあんまり期待しないでよ?」
トレ「そんな事ないです、きっと美味しいですよ!」
ベテ「うむ。普段からあれだけ気遣いができるキミだ。料理もきっとよい出来だろう」
P「ハードル上げないで、ベテさん……」
マス・ベテ「では、頂きます」
トレ・ルキ「いただきまーす!」
(夕食作りますので、一時間ほど中断します。申し訳ない)
乙期待
モグモグ...
マス「うん。やはり美味い卵焼きだな。少々固いが、出汁のきいた良い味つけだ」
ベテ「こっちの肉巻きもなかなか。塩もタレも薄味だけれど、私にはこれが丁度いい」
トレ「ちょっとマスタードが効きすぎだけど、サンドイッチもすごく美味しいです!」
ルキ「ウインナー、タコさんにしてるんですね。こういうとこマメだなぁ……あ。半分くっついてて可愛い」
P「……ダメ出しされてるんだか、褒められてるんだか」
ベテ「もちろん褒めているとも。こうして口が軽くなるのも、P殿への信頼の形というものさ」
トレ「見てないでPさんも食べて下さいよ! 本当に、すっごく美味しいですから!」
P「いや、俺は自分で味見したって」
マス「それでは勿体無かろう。余計な一言を添えておいてなんだが、どれも絶品だぞ?」
P「……まあ、丁度昼も食べてなかったし、それじゃ少しだけ。頂きまーす」
ルキ「Pさん、どれから食べてみます? どれも美味しいですよー」
P「いやだからルキちゃん、味は知ってるからね」
* * *
ルキ・トレ・ベテ・マス「ご馳走様でした」
P「はい、お粗末様でした。気持ちよく食べて頂けて嬉しいです」
トレ「はい、美味しかったですから!」
マス「食後に一喫のお茶まで持参。それも狭山の銘茶とは恐れ入る」ズズー
P「うわ。マスさん、分かるんですか」
マス「なにせ趣味が趣味だからな。……実に細やかな心遣いだ。ありがとう、P殿」
ルキ「……」スンスン
ルキ「……」チビッ
ルキ(…わ、わからない……)
P「……ルキちゃん、俺もそういうの疎いから大丈夫」
ベテ「……しかし男料理とは言うが、どれも大したものだったぞ」
P「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、別に凝ったものも出してないですし……」
ベテ「フフ、そう謙遜するな。飾らないものを上手く作れてこそ料理だよ」
ベテ「だが、これではPに嫁ぐ女性は大変だな。胃袋を掴むにも一苦労で……」
トレ「――!」
ルキ「……!」
ベテ「……む」
P「?」
マス(これは……)
ルキ「……きょ、今日の夕食はわたしが作ろうかなっ!」
トレ「ル、ルキは勉強もあるだろうし、私が作ってあげるよ。ね?」
ベテ「待て待て、2人とも本来の当番ではないだろう。ここは私が」
ルキ・トレ「「お姉ちゃん(姉さん)も違うじゃない」」
ベテ「ぐっ」
マス(……やれやれ)
マス「なあ、P殿――」
ガチャ
周子「わわっわ忘れっ物~♪ ……およ?」
P「ん? なんだ周子、てっきり帰ってると思ったのに」
周子「んー? や、文香ちゃんのセクシーバディを拝謁した後、ラウンジでまったりしてたんだけど」
周子「あの子がマッサージチェアの上でこー、眉間にシワ寄せて台本読んでたからさ」
P「文香はそんな前衛的な座り方はしないけどな……んで?」
周子「うん。そんで、どしたん? って聞いたら、今やってるドラマの役作りで悩んでるんだって」
周子「だからしゅーこちゃんが一肌脱いで、お相手役で練習してきたのよ。さっきまで」
続編来てたのか期待
周子「まあ一肌って言っても、実際先に何肌か脱いだ後なんだけどねー」
P「ね? ベテさん。心配いらなかったでしょう?」
周子「ちょお。Pさん、スルーは傷つくわー」
ベテ「……ああ、キミの言う通り。まだまだ未熟だな、私も」
周子「Pさんてばぁ」
P「んな返しづらいネタに絡めるか。……何なら楓さんにでも言ってあげろ、いいツボに入ってくれるから」
周子「……楓さんはノーガードすぎてちょっと」
P「まあ、分かる」
周子「んで、Pさん達はここで打ち合わせかなんか?」
P「いや、ちょっとゆっくりめにランチをな」
トレ「頂いてました」
周子「ここで座って? なんか部活っぽくていいねー、それ。楽しそ」
周子「でも意外。マスさんとベテさんも、そういうのやるんだ」
マス「うん? ああ、まあ……普段なら遠慮するところだろうが、な」
ベテ「Pの手作りだからね。厚意を無碍には出来ないさ」
周子「え……えぇ!? 何それ、Pさんがお弁当? マスさん達に?」
P「あー……まあその、日頃の感謝を込めてって事で」
周子「ずるーい! ひどーい! あたしも呼んでよー!」
P「お前シャワー行ってただろうが」
ルキ「ご、ごめんね? 分かってたら少し残して置いたんだけど……」
周子「あ、ううん。いいって全然! Pさんが悪いんだし」
P「おい」
周子「だってー。……ねえ、なにも残ってないのー?」
P「すまん。ここにあったので全部」
周子「なしかー……マジかー…… ……でもでもでもー?」
P「ないって」
周子「かーらーのー?」
P「お茶もない」
周子「……いけずやなぁー……」
P「悪かったって」
周子「むー。お腹すいたーん」
P「分ーかった、分かったよ。好きなとこ連れてってやるから」
周子「やたっ! Pさんおっとこまえー♪」ギュッ
P「っとと……! 抱きつくな抱きつくな!」
周子「んー? ふふー♪」
P「ったく……それじゃ皆さん、今日はこれで。……っと、いけない」
マス「ああ、弁当箱なら洗って返すから、置いたままで構わないぞ」
P「いや、悪いですよそんな……」
マス「何を言う。これくらいの返礼はさせてくれたまえ」
マス「それに、塩見と食事にゆくのだろう? 空腹の女子を待たせておくなど、P殿の男を下げるぞ」
P「う。それは……」
周子「マスさん、さっすが分かってるー!」
マス「ふふ……褒めてもレッスンの手は緩めてやらんよ」
P「……すみません。お言葉に甘えます」
マス「うむ。では2人とも、気をつけてな」
周子「いってきまーす♪」
P「……あ。そういえばマスさん、さっき何か言おうとしてませんでした?」
マス「ん? ああ、いや……何気ない雑談というヤツだ。大した用じゃない」
P「そうなんです? 何かあるなら……」
マス「忘れるような内容だ、気にするな。それよりもほら」
周子「はーやーくー」
P「あー、はいはい。……それじゃ、また明日に。失礼します」
ガチャ
マス「……さて」
マス「――強敵出現、か?」
ベテ・トレ・ルキ「!」
マス「我が妹ながら、なんと読み易い……。そもそも、既に百は下らん相手がひしめいているだろうに」
マス「同族で相争っている内、あっさりと奪い取られても知らんぞ?」
マス「私はいいがね。惚れた腫れた、切った張ったには飽いている」
ルキ「……それって」
マス「だから、いいんだよ。その上で話しているんだ」
ベテ・トレ「……」
マス「それよりも。敵は近場ばかりとも限らないぞ? 業界きっての辣腕、加えてあの人当たりの良さだ」
マス「知己の女性からすれば、放っておく方が珍しいだろうよ」
ベテ・トレ・ルキ「……!」
ルキ「……お姉ちゃん達」
ベテ「トレ、ルキ」
トレ「うん、分かってる」
ベテ・トレ・ルキ「――ひとまず休戦。同盟を組もう」
マス(やれやれ。……こう考えるのも何度目か)
マス「……罪作りな男だな、アレも」
* * *
ちひろ「それで、トレーナーの皆さんのところへも行ってきたと……」
P「ええ、無事召し上がってもらえて何よりです」
P「それよりちひろさん、ベテさんに詳しく話しすぎ。サプライズが台無しじゃないですか」
ちひろ「だって、まさかトレーナーさん達にとは思わないですし」
ちひろ「……まあ、私にまで用意して頂けた時点で、想像すべきでしたけれどね」
P「近しい方々には全員するつもりですよ。もちろん後日、社長にも」
ちひろ「社長に……」
ちひろ「……」
P「……今、“社長が泣くとこ見ッてェェ~~”とか思ったでしょう」
ちひろ「なっ……何でそんなゲスっぽい言い方なんですか! ……そりゃ、ちょっとは思いましたけど」
P「泣かすこと前提にしないで下さいってのに」
ちひろ「でもでも、さっきルキちゃんは絶対泣いたでしょ?」
P「……トレさんと、あとベテさんも少し」
ちひろ「ベ、ベテさんも!? うわ、それ見たかった……!」
P「悪い顔になってる、わーるい顔になってる」
ちひろ「っ! さ、さぁ仕事、仕事っ」プイッ
周子「お着替えと変装おわったよー」
P「おう。……サングラスしただけじゃないか」
周子「だーって、あんまり野暮なカッコしたくないもん。せっかくPさんとデートなのにさ」
P「お洒落は分かるが、気をつけてくれよ。……あと、デートじゃなくてランチな」
周子「ぷー」
P「……ほら、これ」ヒョイ
周子「ん? なに、これ? ……あ、プレゼント?」
P「それ以外だとしたら、相当面白い行動だな」
周子「んー……タイミング外してくるなぁ。……でもいっか。何だろねー」ガサガサ
周子「おおー! キャスケット! めっちゃ可愛い♪」
P「前に、色素が薄い分日光がつらい、みたいな事を言ってたからな」
P「それなら普段使いしやすいかと思って。今日の服にも丁度合わせやすいだろ」
周子「そんな事、覚えててくれたんだ。……やっぱPさんってさ、地味に嬉しいことしてくれるよねー。そういうとこあたし好きだな♪」
P「地味にってお前」
周子「褒めてるんだよー。なかなか出来ないって」
P「そりゃどうも」
P「……しかし、周子相手だと順番が狂ってばかりだなあ」
P「本当は後で……というかランチじゃなくディナーで、その時に渡す筈だったんだが」
周子「へ……? もしかしなくても、Pさんからデートのお誘い予定だったん!? ……うわー、しまったなぁ」
P「だからデートじゃなくディナーな」
周子「ぷー」
P「ぷー」
周子「マネせんでー。……へへ。Pさん、ありがとね♪」
P「ん。こちらこそ、日頃の感謝を込めて。さて、そろそろ出ようか」
周子「お腹すいたーん」
P「二度目。……それじゃちひろさん、行ってきます」
周子「いってきまーす」
ちひろ「あ、はい。2人とも気をつけて」
ガチャ
ちひろ(……いいなぁ)
ちひろ(そういえば、2人で飲みになんてしばらく行ってないや)
ちひろ「……今度、仕事終わりに誘ってみようかな」
* * *
周子「おいしかったー♪ さすがPさん、色んなお店知ってるねー!」
P「ま、仕事柄な。デザートも頼むか?」
周子「んーん、お腹いっぱい。ごちそーさまです」
P「はい、どういたしまして」
周子「……お休みなのにありがとね、Pさん」
P「いいんだよ、その為に休み取ったんだから。最近、忙しいばかりでちゃんと会話もできてなかったからな」
周子「Pさん、見てて心配になるくらいだったもん。聞いても平気平気、しか言わないしさ」
P「実際俺自身は問題ないぞ? ただ、皆とまともにコミュニケーションも取れてないのがな」
周子「それよりちゃんと休んでよー」
P「ほどほどに休んでるって」
周子「んー……。……ぅあー」ペタン
P「……何だよ。どうしたよ、急に」
周子「あかん。ちょっと自己嫌悪ー。……ワガママ言って連れ出したのあたしじゃん、って」
P「そんな事か……だから、もともと周子は食事に誘うつもりだったんだって。今じゃなく夜だけど」
周子「それもさぁ。あたしがなんも言わなかったら予定通りのお誘いだったし」
周子「プレゼントも先に取っちゃうし。なんか、Pさん振り回してばっかりーって」
周子「Pさん以外にも、そういうとこあるなーって……」ペター
P「あー、広がるな広がるなテーブルに」
P「……あのなあ。振り回されてるのは間違いないが、俺が一回でも文句言ったか?」
周子「そりゃー、Pさんは優しいし」
P「そんな事ないって」
P「……楽しいんだよ、お前といると」
周子「え……?」
P「最近、気づいたんだけどな」
P「どうも周子と話してる時、普段よりだいぶ砕けた口調になってるっぽいんだ、俺」
周子「……そうなん?」
P「俺を困らせてばかりのヤツとか、手の掛かるヤツとか、そういうの相手にする時とはまた別でさ」
P「自然体っていうのかな? とにかく、周子とは気兼ねなく会話できる」
P「で、それはきっと俺だけじゃないと思うぞ」
P「今日の文香にしたってそう。いつかの紗枝にしてもそう」
P「周子はごく自然に相手と距離を近づけることができる。それも、不快に感じないように」
周子「そう、かな」
P「ああ。……周子はさっき俺を優しいって言ったけどさ。俺は周子の方こそ、とても優しい子だと思う」
P「周りが沈んだ気分になってたり疲れてたりすると、必ず何とかして空気を変えようとしてるだろ?」
P「からかって怒らせてみたり、過剰にスキンシップしてみたり。……それでいつの間にか、周子のペースになってる」
P「俺が仕事を抱え込んでるときなんかも、ちょいちょい手を出してくるよな」
周子「あ、うん。ごめん……」
P「ははは、怒る流れじゃないって。……ああいう時って俺、たぶん難しい顔してるんだろうな」
P「そこへ周子が来て、何だかんだ言い合ってく。そうするとさ、いい具合に肩の力が抜けるんだ」
P「俺が根詰めてるのが心配で、ああしてちょっかい出してくるんだろ? ……ありがとな」
P「俺も周りのアイドルも、きっとお前に自然と元気にしてもらってるんだよ」
P「改めてありがとう、周子」
P「……だからこれからも、気にせず振り回してくれていいぞ」
P「時間の取れる限りは、こうして喜んで振り回されてやるから、さ」
周子「……」
P「おい、そろそろ突っ伏すのやめろってば」
周子「……無理」ペター
P「無理って」
周子「だってそんなん言われたら、顔上げれんやん……恥ずかしい」
周子「……だから、このまま聞いてー」
P「何だかなぁ……いいよ、聞くよ」
周子「……あのね、Pさん」
周子「ほんとに、ありがとう」
周子「あたし、ここに来てよかった。アイドルやってよかった。改めて、そう思うんだ」
P「……そっか」
周子「周りはみんないい子で。Pさんもほんとに、ほんとにいい人でさ」
周子「おかげであたし、毎日すごく楽しいよ」
周子「だから皆のためなら……Pさんのためなら、あたし何だって頑張れるから、ね」
P「うん。……ありがとう」
周子「……」
周子「……おしまいっ! もー、やめてよねー」ノビー
P「やっと起きた。いいじゃないか、なかなか無い機会なんだから」
周子「そうだけどさー……あ」
P「どした?」
周子「テーブルに押し付けてたから、痕になってるかも。ここ」
P「バカ、だから言ったのに……どこだ?」
周子「頬のこのへんー」
P「どこだよ? 別に……」
周子「だからここの――えい」チュッ
P「なっ……!?」
周子「ふふっ、ほっぺたもーらいっ♪」
P「お、お前なぁ……! いくら個室の店だからって……」
周子「唇はハズしたからいーじゃん」
P「……そっちにしたらマジで怒るからな」
周子「分かってるってば。だからこっちに、ね?」チョン
P「ったく……こんな手に騙されるとは」
周子「こんな手で騙すのが狐よん。コンコーン♪」
P「このあやかし京娘が……」
周子「こーん♪」
周子「PさんPさん」
P「何だよ、もう」
周子「……ありがとね。これからも、よろしゅう」
P「……」
P「ああ。こちらこそ」
おしまい
もうちょっと続くんじゃ。
二度目の投稿となりますが、もう少し早く書きたいもので。
前回の終わりに文香、岡崎先輩、瑞樹さん、ユッコ、楓さん等の
リクエストを頂きましたので、次はそちらを。
それでは、ここまで読んで頂きありがとうございました。
皆様が少しでも穏やかな気持ちになれたなら幸いです。
HTML化依頼を出してきます。
乙です。
このタイトルで未だに会長を連想して開いたとは言えない……。
おっつおっつ
前回の時にリクエスト出しておけば…
>>58
にゃんにゃんにゃんでのご希望も頂いておりますので、早めに登場させるよう心がけます。
ありがとうございます。
周子はやっぱ天使だわ
まだ間に合うならままゆを、もしくはレイナンジョウを頼む
乙
全員コンプリート目指してくれ
続編キテター
乙です
まとめでしか読んでませんでしたが、前回とともに楽しく読ませていただきました。
キャラを崩さず、それでいてこれほどに綺麗な話を書けることを尊敬します。
特に「プチフール」や「狭山茶」、「バレッタ」など語彙も多くうらやましいです。
もしストーリーが破たんしない程度に挟む余地があったらリクエストとして晶葉と清美をお願いします
もし出来たら奏お願いします
Pを泣かすのは誰なのだろうか
ちひろさんに望みを託した
逆にPにプレゼントを……
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