春香「冬の日の出来事」 (73)

都内某所にある芸能事務所765プロダクション。
通称765プロ。
四階建ての雑居ビルの三階を間借りしているこのプロダクション。
ガムテープで“765”と貼ってある窓から外を覗くと
白い雪が舞っています。
季節はもう冬です。

自己紹介が遅れました。
私は765プロに所属しているアイドル天海春香です。


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「「「「雪歩、誕生日おめでとー!!!」」」」

事務所内にクラッカーの音が響き渡ります。
今まさにプロデューサーさんと事務所に帰ってきた雪歩が突然聞こえたクラッカーに怯えました。
しかし状況を理解したのかたちまち笑顔に変わります。

雪歩「み、みんな…ありがとぉ~」

事務所が歓声に包まれます。
大切な仲間の誕生日をこうして皆で祝うのは毎回の事です。
最近は皆本当にお仕事が忙しくて全員で何かするって言う事が難しくなってきましたが
誕生日だけは何とか時間を作って集まってお祝いするようにしています。

春香「はい、雪歩。お誕生日おめでとう!ケーキ作ってきたよ!」


私が作ったケーキに蝋燭を立てて火を灯す。
電気が消え蝋燭の明かりだけになった事務所内に皆の歌声があふれます。

アイドルだけじゃなく、プロデューサーさんや小鳥さん、社長まで雪歩のためにお祝いの歌を歌う。

雪歩「みなさん、今日は私なんかの為にこんな素敵なパーティーを本当にありがとうございます
   こんなに素敵な仲間と一緒にアイドルをやれるなんて、私は幸せ者ですぅ」

目に涙を浮かべながら感謝の言葉を述べると蝋燭の火を吹き消す雪歩。
事務所が暗闇に包まれ、皆の拍手と祝福が再び雪歩にそそがれます。

明かりが戻ると今度はプレゼントを渡しました。
皆忙しい合間を縫って雪歩へのプレゼントを考えたんですよ。

こうやって仲間のために何かできる、しようとしてくれるこの765プロという場所が私は大好きです。



P 「さーて、そろそろ良い時間だし皆遅くならないように帰るんだぞ」

伊織「え~、もうちょっといいじゃない。気が利かないわね」

亜美「そうだよ兄ちゃん。せっかく皆で集まったんだしもうちょいいーでしょ?」

P 「気持ちは分かるが、伊織も亜美も明日仕事だろ?」

亜美「う…」

伊織「それはそうだけど…」

P 「貴音の誕生日も来月にあるから、今日は我慢してくれよ、な?」

伊織「ふぅ、仕方ないわね」

亜美「残念だけどちかたないね」

P 「悪いな、明日の仕事も頑張ってくれよ」

伊織「当然でしょ!この私を誰だと思ってるのよ!」

亜美「亜美だって、負けないよ!」

P 「ははは、頼もしい限りだ」


文句を言う伊織と亜美の相手をするプロデューサーさん。
実はイヴかクリスマスくらい休めるようにとみんなどちらかにはオフを入れるように調整してくれたんです。
本当は全員オフに出来れば一番良かったんだけどって申し訳なさそうに言っていたけど、それを責める人なんていません。
その為に頑張ってくれたのを、皆ちゃんと分かっているから。

春香「それじゃ、お片付けしよっか」

やよい「うっう~!がーんばりますぅ!」

真 「雪歩はソファーに座っててよ」

雪歩「え、で、でも…」

律子「雪歩は今日の主役なんだから良いのよ」

雪歩以外の皆でお片付けをします。
雪歩は何もしていないのが心苦しかったのか、いつの間にかソファーを離れ給湯室で人数分のお茶を入れてくれていました。


雪歩「みなさん、今日は本当にありがとうございましたぁ」

今日何度目か分からないお礼を述べた後お茶を配る雪歩。

あずさ「あらあら、ありがとう雪歩ちゃん。とってもおいしいわぁ~」

真 「おいしいんだけど、何だか悪いなぁ…」

雪歩「ううん、せっかく皆がこんなに素敵なパーティーを開いてくれたんだからせめてものお礼だよ」

真美「ゆきぴょんは優しいですな~」

美希「あふぅ、お茶飲んで温まったら眠くなってきたの…」

春香「美希、もう帰るんだからそんなところで寝ちゃダメだよ!」

お片付けも一段落して皆帰り支度を始めます。
時刻は20時を廻った所でした。


P 「それじゃあ皆気をつけてな」

さっきまで喧騒に包まれていた事務所。
皆が帰ると途端に静かになります。

P 「春香、帰らないのか?」

小鳥さんと律子さんはゴミ出しに行っているので事務所には今私とプロデューサーさんの二人しかいません。

春香「送って…くれないんですか…?」

ちょっとだけ拗ねた振りをするとプロデューサーさんは時計を一瞥してから

P 「む、じゃあ律子達が戻って来たらな」

その後10分くらいして律子さんと小鳥さんが帰ってきました。



外に出ると一面真っ白。
雪の舞う中手を繋いで二人で駅まで歩きます。

春香「これだけ雪が降ると流石に寒いですね~」

そう言って少しだけ寄り添おうとした時でした。

P 「ごめん春香、今日はここまででいいか?」

手の平に感じていた幸せな温もりが突然無くなりました。

春香「え?」

P 「もう行かなきゃなんだ…。ホントにごめん」


言うや否や踵を返して走り出すプロデューサーさん。
その背中を見送る私。
あの夏の日に見た嫌な夢がフラッシュバックしてきます。
あの時は引き止められる距離にいたプロデューサーさんが、今はもう手の届かない場所にいる。

声を出そうとしても、足を動かそうとしても、私はその場に立ち尽くすことしか出来ませんでした。
何が起こったのか分からず、数分間そうしていました。

携帯に連絡してもプロデューサーさんの携帯からは運転中のメッセージが流れるだけ。
足取り重く駅まで歩く冷たい帰り道。
風が出てきて軽く吹雪いてきた道のりを心を震わせながら歩いていきます。

普段二人で歩くとあっという間に感じる駅までの道のりも、一人で歩くととても長い道のりに感じます。
きっと大丈夫、何か用事があっただけ。
そう自分に言い聞かせても、あったであろう描いていた幸せと現実のギャップに胸が痛みます。

春香「あれ、おかしいな。雪が雨に変わったのかな?」


頬を伝う冷たい滴。
あの名曲のように、この雨も夜更けすぎには雪に戻るのかな。
ふわふわとした、温かい雪に。

今日は12月24日。
雪歩の誕生日で、クリスマスイヴ。
恋人達が1年で最も盛り上がる大事な一日。

私達は付き合っていない。
恋人ではない。
だけど、心は繋がっていると思っていた。

だからせめてこの駅まで行く道のりだけでも傍にいたかった。
あの夏の日、一個人として自分の事を好きだと言ってくれたプロデューサーさん。
その言葉を、今、信じてもいいのかな。
もう、私の事なんて…。


暗い気持ちが心に渦巻く。
駅前の商店街に着くと、ジングルベルの音色がそこかしこから聞こえてきます。
道行く人は皆笑顔。
大人も、子供も、カップルも皆。

大きなプレゼントを抱える子供が私の傍を通り抜けます。
その笑顔を見るのが、今の私にはとても辛かった。

プレゼントなんて欲しくない。
貴方がずっといてくれたらそれだけで…。

幸せに包まれる商店街。
そこを抜けると駅前のロータリーに出ます。
頬を伝う雨は次第に強くなり、視界が滲んで遂には何も見えなくなりました。
身動きが取れなくなって、近くの電柱の影に蹲ります。


明日はクリスマス。
きっと会えるよね。
そう信じたい。
ううん、信じてる。

そうやって何度も願い、痛む心に言い聞かせます。

出来るなら今すぐに逢いたい。
走って、追いかけて、傍にいたい。
でも、そんなことしてもきっと困らせてしまう。
それだけはダメだ。


ねぇ、プロデューサーさん。
今、私がいなくて寂しいですか?

私は、寂しいです。
傍にいれなくて悲しいです。

そのくらい、貴方の事だけが好きです。

???「春香?」

背後から私を呼ぶ声がしました。
振り向くとそこには


春香「千早…ちゃん…。」

きっと私は酷い顔をしていたんだと思います。
千早ちゃんは何も言わず私を抱き締めてくれました。

春香「ぢはやぢゃん…ぅう…っく…ぐす…うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」

堪え切れず千早ちゃんに抱き締められたまま子供のように泣きじゃくる私。
その間千早ちゃんはずっと私の背中をトントンと叩いてくれていました。

どれだけそうしていたのか、いつの間にか頬を伝う雨は止んでいました。

千早「落ち着いたかしら?」

優しいトーンで話しかけてくれます。

春香「うん…。ごめんね、千早ちゃん」

千早「いいのよ、春香。でも、何があったのか話してもらえるかしら?」

春香「…うん、わかった」

千早「ここじゃなんだし、私の家でいいかしら?」

春香「うん、大丈夫だよ」


千早ちゃんの家に移動した私達。

千早「どうぞ上がって」

春香「おじゃまします」

以前の殺風景な部屋に比べるとだいぶ物が増えた千早ちゃんの部屋。
大体が私の私物だったりするのですが…。

千早「ずっと外にいたから体が冷えてるんじゃない?今お風呂を沸かしてくるから少し待ってて頂戴」

春香「ありがとう、千早ちゃん」

お風呂場へ向かう千早ちゃん、その間に私は自分のパジャマを取り出します。
早朝ロケの前の日は千早ちゃんの家に前乗りさせてもらうので着替えなんかは置いてあったり。

お風呂場からお湯張りを知らせる音声が聞こえ千早ちゃんが戻って来る。


千早「お待たせ、10分もしたら入れると思うから」

春香「うん、本当にありがとう」

千早「いいのよ、春香にはいつも助けられているんだもの。このくらいは当然よ」

こともなげに言う千早ちゃん、何だか照れちゃいますね。

千早「今温かい飲み物を淹れて来るわね。コーヒーでいいかしら?」

春香「大丈夫だよ。あ、でもお砂糖とミルクは入れてね?」

千早「ふふふ、わかってるわ」

キッチンへ入って行く千早ちゃん。
初めて来た時に比べたら自炊の痕跡が見えるキッチンでコーヒーを淹れてくれています。


千早「はい、どうぞ」

コトリと音を立てテーブルの上にマグカップが置かれる。
まだ熱いそれに息を吹きかけ啜る。


春香「おいしい…」

砂糖とミルクで苦さを感じさせないコーヒーを飲みながら対面に座る千早ちゃんにちらと視線を送る。
こちらの視線には気付かずにコーヒーを啜る千早ちゃん。
何か声をかけようと思ったけど何を話せば、何から話せばいいのか分からず視線をマグカップに戻す。
そうしているとお風呂が沸いた事を知らせる音声が聞こえ、千早ちゃんに入るよう促された。



お風呂から上がるとやはりというか、楽譜に目を通していた。
いつもの事である。

春香「お先にお湯いただきました」

お風呂に入ってほっこりさっぱりした私は千早ちゃんの前に腰をおろします。
私に気付いた千早ちゃんは居住まいを正して私の目を見ながら話しかけてきました。

千早「それじゃあ、何があったのか話してもらえるかしら?」

もちろん言いたくなければ構わないのだけれどと付け足す千早ちゃん。
ここまでしてもらっておいて何も話さないのは友達と言えども失礼なのできちんと話します。


春香「うん、そうだなぁ。千早ちゃんはプロデューサーさんが来た時の事覚えてる?」

千早「え?えぇ、全体レッスンを真剣な表情で見てメモを取って、真面目な人なんだと思ったわ」

春香「うん、それからみんなお仕事いっぱい増えて忙しくなっていったんだよね」

千早「そうね、本当にプロデューサーには感謝してもしきれないわね」

春香「そうだね。夏ぐらいにね、私の地元でお仕事があったの」

千早「覚えてるわ、その日の夜はそのことで持ちきりだったじゃない」

春香「そ、そうだったっけ?えへへ
   …でもね、本当はその時にもっともっと嬉しいことがあったの」

一呼吸おいて続けます。


春香「プロデューサーさんに告白しちゃったの」

千早「え?」

春香「もちろんアイドルとプロデューサーだからって断られちゃったんだけど
   そういう関係無くしたら俺は春香の事好きだって、言ってくれたの」

千早「そう、なるほどね…」

春香「だから今日はちょっと期待してたんだ
   せっかくのクリスマスイブだからもう少しプロデューサーさんといれたらって」

千早「…」

春香「でも、ダメだった。私を駅まで送ってくれてる途中にもう帰らなきゃって
   走って…っく…どこかに…行っちゃって…ぐすっ」

話している内にまた悲しみが心の中に広がってまた大泣きしちゃいました。
そんな私を優しく抱きしめてくれる千早ちゃん。
どうして、行っちゃったんですかプロデューサーさん…。



泣き疲れたのか、いつの間にか私は眠っていました。
目が覚めると時計の針は天辺を通り越してもう2時です。
千早ちゃんのかけてくれた布団からもぞもぞと身体を出し
家に連絡するためケータイを鞄から取り出すと着信を示すランプの点滅が目に入る。
履歴は10件、お母さんとお父さんからの着信がびっしり。
上から下へ画面をスクロールすると10件の一番下の人物に目が留まりました。


着信 プロデューサーさん


さらに画面にはメールアイコンが出ていました。
メール画面を開くと両親からとプロデューサーさんから。
両親からはどこにいるのか心配するメール。
プロデューサーさんからは

From:プロデューサーさん

件名:今日はごめん

本文:ちょっと急ぎの用事があってさ。
   本当にごめんな。
   この埋め合わせは必ず!


返事を返そうと思ったけれど、流石にこの時間じゃ迷惑だろうと思い留まります。

かちゃ

千早「あら、起きたのね春香」

リビングの扉が開きパジャマ姿の千早ちゃんが入ってくる、手には携帯電話を握っています。

春香「あ、千早ちゃん。ごめんね、寝ちゃって。それにお布団かけてくれてありがとう」

千早「いいのよ、精神的に参ってしまっていたのだから無理もないわ
   ご両親にはもう連絡してあるから、今日はこのまま泊まって大丈夫よ」

わざわざ連絡してくれたんだ…。
こんなに良くしてもらうと何だか悪いな。


春香「本当に色々とありがとう、千早ちゃん」

千早「私は何もしてないわ。春香の話を聞いていただけよ。」

春香「ううん、吐き出したらすっきりした。それは千早ちゃんのおかげだよ」

千早「春香…」

春香「だから、ありがとう千早ちゃん」

千早「どういたしまして、春香」

千早ちゃんが笑顔を返してくれました。
その笑顔に私もつられて笑顔を返します。


千早「そうそう春香、実はお昼頃出掛けなくてはならないの。だから申し訳ないのだけれど…」

春香「大丈夫だよ千早ちゃんその前には出るから」

千早「ごめんなさい、春香」

春香「気にしないで、今日は私が来る予定はなかったんだし。それに…」

このまま引き下がる訳にはいかない。
ここで終わるなんてそんなのは嫌だ。
逢いたい…。
逢いたい!


千早「春香…?」

春香「それに私もやる事が出来たから…!」

その言葉で千早ちゃんは察してくれたみたいで、そう…とだけ言うとふっと微笑んでくれました。

千早「それじゃあ、春香も元気になった事だしそろそろ寝ましょうか」

春香「私は今さっきまで寝ちゃってたけどね」

千早「ふふ。それだけ軽口が叩けるならもう心配はいらないわね」

二人で笑い合う。
この世の終わりみたいだった気分が嘘の様に。
ありがとう千早ちゃん…。




―――――翌日

春香「おはよう、千早ちゃん」

千早「おはよう、春香」

時刻は10時。
カーテンを開けると昨日の雪が積もって一面の銀世界になっていました。

春香「いやー、私服も置いておいて良かったよ。」

千早「私のクローゼットの2割は春香の私物だものね」

春香「…ごめんなさい」

千早「責めてる訳じゃ無いわ。私一人じゃきっと使い切れないもの」

そう言って微笑む千早ちゃん。


千早「春香は何時に出発するの?」

春香「う~ん、12時前には出ようかなって思ってるけど」

千早「そう、それじゃあ私もそのくらいに出るわ」

春香「え、大丈夫なの千早ちゃん?用事あるんでしょ?」

千早「ええ、問題無いわ。」

春香「そっか、うん。じゃあ一緒に出発しよう!」

千早「もう少ししたら食事にしましょう」

春香「うん!今日は私が作るね!」

千早「お願いするわ」

出掛ける支度をして食事の準備も行う。
といっても大したものは作れないのでトーストとスクランブルエッグとサラダというメニュー。


春香「いただきます!」

千早「いただきます」

二人で食卓を囲む。
千早ちゃんがおいしそうに食べてくれます。

春香「そう言えば千早ちゃん、夜中誰かに電話でもしてたの?」

昨夜私が目を覚ました時にリビングに入ってきた千早ちゃんの手には携帯電話が握られていました。

千早「え?えぇ…ちょっと…ね」

何だか歯切れが悪い様子。
この様子だと私の両親に電話していた訳ではないみたい。

春香「そうなんだ」

特に追求するでもなくそのまま話題は終わりました。




春香「ごちそうさまでした!」

千早「ごちそうさま、春香」

春香「お粗末さまでした」

時計を見ると12時前になろうという所です。

春香「お片付けしたら行こうか、千早ちゃん」

千早「そうね、洗い物は帰ってからやるから流しに置いといて構わないわよ」

春香「了解!」

流しに食器を置き、鞄を持ち玄関に移動します。

春香「おじゃましました」

千早「行ってきます」

雪が積もった歩道を二人並んで歩きます、足を取られて歩きづらい…。


千早「春香、雪に足を取られて転ばないように気をつけてね」

春香「うん、大丈夫気をつけ…ひゃっ」

もふっ

千早「春香…」

春香「ちべたい…」

雪に天海春香の型が出来ていました。

千早「言ったそばから…」

春香「え、えへへ…」

雪から顔を上げると笑顔で行き交う人達が目に入ります。
昨日の夜だったらその笑顔に耐えられなくて泣いちゃっただろうなぁ。
でも今は違います、千早ちゃんのお陰で元気になったし輝くこの空の様に私の胸も晴れ渡っています。


春香「逢いに行かなくちゃ」

千早「春香?」

私はあんなに悲しい気持ちになるためにあの人を好きになった訳じゃない。
ちゃんと私の今の気持ちを伝えよう。
ありのままの私を。
心のままの想いを。
プロデューサーさんに届け。

春香「千早ちゃん、私頑張るね」

千早「春香…。そうね、頑張ってね」


桜が舞うあの春の日、私はプロデューサーさんに出会った。
花火が舞うあの夏の日、プロデューサーさんは私の手を握って想いを受け止めてくれた。
木枯らしが舞うあの秋の日、私を抱き締めてくれたプロデューサーさん。
幸せな記憶が胸に咲き誇ります。

千早ちゃんと別れた私はまず事務所に行きます。
ケータイを使えばきっとすぐにプロデューサーさんと逢えるだろうけど、敢えてしません。
これは意地です。
寂しい思いをさせられたので、逆に連絡取らないでやろうという子供じみた意地。

春香「おっはようございま~す!」

元気良く事務所の扉を開きます。


音無「おはよう春香ちゃん。どうしたの、今日はお休みよね?」

しまった、ほぼノープランで事務所に来たのでなんて返そう…。
ふと目に白と黒の割合が黒8割くらいのホワイトボードが目に入りました。

春香「えっと、スケジュールの確認を…」

音無「そうだったの、ちょっと待っててね」

とっさについた尤もらしいウソを真に受けた小鳥さんがパソコンを操作して私のスケジュールを教えてくれました。
それを手帳に書き込む振りをします。
ごめんなさい小鳥さん、年末までのスケジュールはもう知ってます…。

ちなみに年末年始の765プロ年越しライブまで半日オフはあっても全日オフはありません。
皆ライブに向けてラストスパートです。


スケジュール確認(の振り)が終わり事務所を見渡すと小鳥さん以外の姿が見えません。
そう簡単に逢えるとは思っていませんでしたがやっぱりプロデューサーさんはいませんでした。
どこに行けばプロデューサーさんに逢えるんだろう。
思考を巡らせます。

音無「誰かをお探しかしら?」

後ろから小鳥さんが楽しそうに話しかけてきます。

春香「え!いや!別にそんな!」

音無「誰かさんなら今日はフェアリーと竜宮のクリスマスイベントに行ってるわよ」

春香「べ、別にプロデューサーさんを探してる訳じゃ…!」

音無「あら、私はプロデューサーさんとは言ってないけれど?」

小鳥さんの表情がにやにやしています。


音無「うふふ、今日はフェアリーと竜宮には律子さんが1日着いてプロデューサーさんは打ち合わせだけで直帰になってるわよ」

春香「直帰…」

音無「ええ。直帰にして欲しいって頼まれたの。」

春香「あの、クリスマスイベントってどこでやるんですか?」

音無「あら、見に行くの?」

春香「はい、その、美希達の頑張ってる姿を見たいな~って思いまし…」

音無「ダメよ、春香ちゃん」

小鳥さんの声のトーンが変わる。


春香「小鳥…さん?」

音無「春香ちゃん、嘘は良くないわ」

真剣な表情で私を見据える小鳥さん。

音無「勘違いをしないで聞いて欲しいんだけど昨日はプロデューサーさんといて、あなた達の事も聞いてるの」

小鳥さんと…プロデューサーさんが一緒に…?
どうして?
急ぎの用事って小鳥さんとの事?
やっぱり私の事はもう…。

音無「違うわよ、春香ちゃん」

私の動揺を見てとった小鳥さんの一言で我に返ります。

音無「順を追って話すわね」

一呼吸置いて小鳥さんは話し始めました。


音無「昨日の雪歩ちゃんの誕生日パーティの後急いで帰ってったのよプロデューサーさん
   今日の資料も忘れてっちゃうくらい慌ててね
   それに気づいて22時過ぎかしら?電話をしたの
   お酒も入っていたからちょっと楽しくなっちゃってたるき亭に呼び出しちゃったのよ
   資料忘れてますよ~、直行直帰なのに不味くないですか~?って言って
   大体23時過ぎかしら、プロデューサーさんがやって来てそこから無理矢理呑ませて色々聞きだしちゃったのよ」

23時過ぎなら多分私は泣き疲れて眠ってしまっていた頃だと思う。

音無「言い忘れていたけどその場にはあずささんもいたのよ
   イヴに独り酒なんて寂しすぎるじゃない…うぅぅ…
   だって外に出ればそこら中でリア充共がイチャコライチャコラ…
   私だって…私だって…」

春香「こ、小鳥さん?お、落ち着いて…」

音無「これが落ち着いていられますかってんですか!
   あずささんはアイドルだからいなくてもいいのよ!?
   でも私は事務員だからいても問題ないのにずっと事務所に籠りっきりだから出会いも無くて…」

本気で落ち込む小鳥さんを宥めるのに10分を要しました。


音無「ご、ごめんなさい春香ちゃん…」

春香「いえ、大丈夫です。それに小鳥さん美人だからすぐに良い人が見つかりますって」

音無「ありがとう春香ちゃん…話を戻すわね」

落ち着きを取り戻した小鳥さんが再び昨日の夜の出来事を話し始めます。

音無「えっとどこまで話したかしら?あ、そうそうあずささんと呑んでて呼び出した所までよね」


~小鳥の回想~

P 「音無さん、資料預かってくれてたんですね。ありがとうございます」

音無「いえいえ、無いと明日の打ち合わせが大変でしょうし何より律子さんが…」

P 「えぇ、鬼の形相で怒られるでしょう…」

音無「怖いですよね…怒った時の律子さん…」

P 「本当に…」

あずさ「あらあら、でも律子さんホントはすっごく優しいんですよ~」

P 「確かにな~。でもそのギャップがまた怖さを引き立てていると言いますか…」

あずさ「それは…怒らせるような事をするからじゃ…?」

P 「ぐっ…」

音無「ピヨォ…」

あずさ「あ、あらあら…」


音無「そ、そうそうプロデューサーさん最近春香ちゃんとはどうなんですか!?」

あずさ「私も気になりますね~。何だかプロデューサーさんと春香ちゃんの間には皆とは違った絆の様なものが感じられますし」

P 「ぅえ!?い、いや何もないですよ!ただのアイドルとプロデューサーですって!」

音無「焦って否定する辺り怪しいわね…」

あずさ「うふふ」

P 「ほ、ホントに何も無いんですって」

音無「店員さーん!ビールピッチャーで追加お願いしまーす!」

<ビールピッチャーツイカデース!アーザース!


P 「ちょっと!」

音無「ふっふっふ、さあ洗いざらい吐いてもらいましょうか…」

あずさ「お酌しますね~」

P 「あ、あずささんありがとうございます…ってじゃなくて!」

音無「さぁどんどん行ってみよー!」

~小鳥の回想Fin~


音無「とまあこんな感じでべろんべろんに酔わせた挙句聞きだしたのよ」

春香「」

音無「あ、帰りはタクシーでちゃんと家まで送ったしあずささんも寝ちゃったからウチに泊めたのよ
   今日の現場に遅刻しても困るしね」

春香「」

音無「でも不思議なのよね~。1時過ぎくらいかしら?プロデューサーさんのケータイに着信が来て
   その後かしらね、急に何もかも話しだしたのよ
   1時の時点では大分べろんべろんだったのだけれどその後は自分からお酒をあおって話してたわ
   一体誰からの電話だったのかしら?」

春香「電話…」

何となくだけれどその電話の主が誰だか想像が着きました。


音無「まぁそんなこんなでね春香ちゃん、私はあなた達の気持ちを知っているし応援もしているのよ
   だから、フェアリーと竜宮をだしにして逢いに行くのなんてダメよ
   それはあの子達にもプロデューサーさんにも失礼だわ」

春香「小鳥さん…ごめんなさい…」

音無「まぁ、打ち合わせだけだからじきに終わるんじゃないかしら?」

確かにイベントの最後までいたら恐らく夜遅くになるだろうけど打ち合わせだけなら多分早ければもう終わっている可能性もある。
いてもたってもいられなくなって事務所を出ようとする私に小鳥さんが声をかけてきた。

音無「春香ちゃんに良い事を教えてあげるわ」

春香「いいことですか?」

音無「プロデューサーさんね、今日は車じゃなくて電車移動なのよ」

春香「え、そうなんですか?」

普段は送り迎えがあるからなんだろうけど、それでもプロデューサーさんが電車で移動しているのは珍しい。


音無「それと、もう打ち合わせは終わってるかもしれないけどイベント会場は…」

小鳥さんが教えてくれた会場はビールと同じ名前の駅の商業施設の広場でした。
冬になると毎年綺麗なイルミネーションで彩られるそこで2ユニットのイベントが行われるんだそうです。

春香「ありがとうございます、小鳥さん」

去り際に小鳥さんに一礼します。
今から行って間に合うかな?
どうしよう…。
悩みながらも足は駅へと向かいます。

音無「頑張ってね、春香ちゃん…。
   まぁ、4、50分位前に打ち合わせ終わったってプロデューサーさんから連絡あったんですけどね
   リア充なんてすれ違えばいいんだわ!」

社長「音無君…」

音無「ピヨォ!?」



事務所を出た私は駅へ向かう。
いつも間にか雪が降っています。
昨日プロデューサーさんと別れた場所に差し掛かり少し足が止まりました。
俯く私。
でも大丈夫、今は悲しみよりも早くあの人に逢いたくてたまらないから。
そしてまた駅へ向って歩き出そうとしたその時でした。

――――春香

そう呼ばれた気がしました。
ううん気のせいなんかじゃない。
この声を聞き間違えるはずがない、声は進行方向から。
すぐに声の主が分かりました。
その瞬間に貴方のもとへ駆け出す。


春香「プロデューサーさん!!!」

P 「うぉ!反応早!」

春香「プロデューサーさん!プロデューサーさぁん!」

P 「は、春香?」

駆け出した私は昨日からの色々が止められなくて勢いのままにプロデューサーさんの胸に飛び込みました。
昨日の夜に別れてから打ちひしがれて、やっと逢えたプロデューサーさんに触れた時にはもう涙を止められませんでした。

春香「どうしたんだろう私…ひっく…逢えて嬉しい…のに…」

プロデューサーさんは今、どんな顔をしているんだろう?
きっと困ってるよね…。


春香「ごめんなさいプロデューサーさん…っく…突然こんな…困っちゃいますよね…ひっく…でも…聞いてください」

顔を上げると目が合った。
真剣な眼差しが私に向けられる、優しく握られる私の手。
伝えるんだ、今の私の気持ちを、届くように。

春香「昨日の夜、とっても寂しかったです。理由も何も無く急に行かなくちゃって…
   もう私の事なんて好きじゃないのかな、嫌われちゃったのかなって
   こんなに悲しい気持ちになるために恋したんじゃないって」

そこまで言うと再び視界がぼやけてきました。
泣くな私。
ちゃんと伝えなきゃ。
自分に発破をかけます。

春香「もう…もうこんなに悲しい思いをするのは嫌です
   私の傍にずっと…ずっと傍にいて欲しいんです!
   この手を…離さないで…ぅあああああああん!」


想いを伝えたら、もう堪え切れませんでした。
胸に顔をうずめて泣くことしかできません。
きっとプロデューサーさんは呆れてる事でしょう。
こんなわがままな女の子なんて。

P 「春香」

春香「ふぁい…」

私の話に耳を傾けていたプロデューサーさんが私の手を握る手にほんの少し力を込めました。

P 「今日が何かってのはバカな俺でも知ってるし昨日の事は本当に済まないと思ってる」

胸に顔をうずめているのでどんな顔で話しているのかは見えません。

P 「昨日はこれを取りに行っててさ。」

顔をあげてみるとプロデューサーさんはスーツの上着から小さな箱を私の目の前に取りだしました。

P 「内緒にしてごめん…。だけど、メリークリスマス、春香」


申し訳なさそうな表情、でもすぐに私の好きな優しい笑顔になってくれました。

P 「受け取ってもらえるか?」

やっぱりこの人はズルイ。
大好きな貴方からの贈り物を受け取らないなんて出来る訳がない。

春香「ありがとうございます…!」

P 「こちらこそ」

春香「大好きです、プロデューサーさん。ずっとです。」

P 「あー、うん。その…俺も、だ///」

照れながらも私の想いをちゃんと受け入れてくれました。

春香「空けてもいいですか?」

P 「あ、ああ。」

小さな箱を開けると銀に輝くリングが二つ、寄り添うように鎮座していました。


春香「これって…」

P 「一応ペア、なんだけど…」

プロデューサーさんは人差し指で頬を掻きながら照れています。
良く見ると片方のリングにH.Aと刻んであります。

春香「これ、私のイニシャルですか?」

P 「あぁ、せっかくだから入れてもらったんだ」

もう片方のリングを見る。
そこにはプロデューサーさんのイニシャルが刻まれていました。

春香「ペアってことは片方はプロデューサーさんが着けるんですよね?」

P 「いや、どっちも春香に持っててもらおうかなって思ってるんだけど」

春香「ダメです、片方はプロデューサーさんが持ってて下さい!」

P 「マジか…」

春香「マジです」

二つの内私のイニシャルの刻まれた方をプロデューサーさんに渡します。


P 「あれ、こっち?」

春香「はい、これで私と別現場に行っても私が傍にいる事になりますよね」

P 「なるほど」

春香「私はこっちをプロデューサーさんだと思いますから」

P 「わかった」

そうして二人で顔を見合わせて笑い合いました。
そこで私は一つの事に気付きました。


―――私、プレゼント用意してない!!

春香「あ、あのプロデューサーさん…」

P 「ん?どうした春香?」

春香「あのですね、実は昨日はその、千早ちゃんのお家に泊まりまして…」

P 「おう」

春香「夜は気付いたら寝ちゃってまして…だから、その…」

P 「おう?」

春香「ぷ、プレゼント用意してないんです…!!」

うぅぅ、恥ずかしい///

P 「そうなのか。別に気にしな…いや…」ニヤリ

プロデューサーさんの笑顔が歪みます。
これは絶対変なこと考えてる。


P 「じゃあ、お仕置きしなきゃな…くっくっく」

春香「あの、プロデューサーさん…?」

P 「観念しろ春香…逃げられないぞ」

そりゃだって手、握られちゃってますし…。
何だか怖くて目をぎゅっと瞑った瞬間でした。

ちゅっ


春香「へ?」

P 「ごちそうさまです」

今、く、くちびる…。

春香「ひああああああああ///」

P 「うぉう」

春香「な、な、な…///」

P 「素敵なクリスマスプレゼントをありがとう(棒)」

春香「ふぇ…///」

頭の中が真っ白になりました。
嬉しそうにニヤニヤしているプロデューサーさん。
でも、握った手はじんわり汗をかき顔も少し紅潮しています。
それを見て我に返りました。


春香「もう!初めてだったのに!こんなのって…」

P 「うっ…すまん」

春香「ダメです、許しません!」

P 「悪ふざけが過ぎたな。本当にスマン」

春香「ダメです!許して欲しかったら昨日の夜中、小鳥さん達といる時に来た電話の内容を話してください」

P 「え、なんで春香が昨日の夜の事を…」

春香「さっき小鳥さんから聞きました。資料忘れてまんまと小鳥さんに潰された話を」

P 「ぐっ…面目ない」

春香「さぁ、誰からどんな電話が掛って来たんですか?」

P 「はぁ…わかった話すよ」

情けない話なんだがと前置きして話し始めるプロデューサーさん。



~Pの回想~

音無「ホレホレ、もっと飲むピヨ!」

あずさ「きゃ~!プロデューサーさ~ん!素敵~!」

P 「ちょ、ちょっと二人共!もう勘弁してくださいって!」

音無「さぁさぁ、春香ちゃんとの事を洗いざらい吐くピヨ!」←大体察しはついている

あずさ「うふふ~」←同じく

P 「いやだから何もないって言ってるじゃないですか!」

音無「誤魔化そうったってそうはいかないですよプロデューサーさん!」

あずさ「私も聞きたいわぁ~」


音無「ほら!あずささんも言ってるんだし吐いちゃいましょう!
   …おもしろいから」

P 「ちょっと!面白いからってなんですか!?
  大体あずささん大丈夫なんですかこんな時間まで呑んでて?」

あずさ「うふふ、明日は現場入り午後からだから大丈夫ですよ~」

P 「俺は朝からなんですが…
  っとスイマセン、電話が」

音無「そんな手垢のついた手段が通用すると思ってんのかぁ~!」

P 「いや本当に… !?(千早!?なんでこんな時間に…)
  じゃ、じゃあちょっと電話出てきます」

音無「ちゃんと戻ってきてくださいね?」

P 「分かってますって!」

たるき亭の外に出て通話ボタンを押す。


千早『もしもし、千早です』

P 「おぅ千早、どうしたこんな時間に?何かあったか?」

千早『?…プロデューサー、今どちらですか?何だか呂律が少し…』

P 「あぁ、音無さんとあずささんに捕まってな、今たるき亭だ」

千早『…なたは…を…』

P 「ん?どうした千早?」

千早『あなたは何をやってるんですか!』

P 「うぉ!!?」

千早『この大変な時にその原因であるあなたが!』


P 「大変な時って…や、やっぱり何かあったのか!大丈夫か!?」

千早『私じゃありません!大変なのは春香です!』

P 「春香!?」

千早『春香、さっきまで泣いてたんですよ?』

P 「泣いてたって、ど、どうして?」

千早『自分の行いを省みてください!あなたは今日春香に何をしましたか!』

P 「何をって…ん?まさか千早、聞いたのか…?」

千早『何をでしょうか?』

P 「(電話越しなのに何でこんなに怖いんだこいつ…)
  いや、俺と春香の、こう、関係と言いますか…」


千早『あぁ、そのことですか…。聞きましたよ
   おおよそ分かってましたけど』

P 「え!?」

千早『むしろ気づかれてないと思ってたんですか?
   毎度毎度二人で帰ってて』

P 「いやそれは…」

千早『春香の話の8割はプロデューサーの事です。それであぁ、これはデキてるな、と』


P 「もしかして…事務所のみんなも?」

千早『勿論』

P 「マジか…。…マジか~」

千早『高槻さんや我那覇さん辺りはどうかはわかりませんが
   社長も知っているかと』

P 「マジか…。…マジか~。うぁ~マジか~」

千早『聞いてますかプロデューサー』

P 「あぁ、スマン。あまりにも衝撃的すぎて、な」

千早『とにかくあなたが今日したことは最低です
   理由も告げず寒空の下に春香を残して去っていくなんて』

P 「スマン…」

千早『それは私じゃなくて春香に言わなければいけないことです』

P 「そう、だな。ありがとう千早、反省するよ」

千早『次また春香を泣かせたらその時は…』

P 「き、気をつけるよ!(だからなんでこいつこんな怖いんだよ…)」ゾクッ

~Pの回想Fin~



P 「てなことがあってな」

やっぱり、昨日の夜千早ちゃんはプロデューサーさんに電話していたんだ。

P 「だから春香が千早ん家に泊まってたのも実は千早に聞いて知ってたんだけど」
  ありゃあ律子にも差し迫る勢いのキレっぷりだったな。直接だったらチビってたかもしれん
  千早を怒らせてはいけないと肝に銘じたよ、若干キャラ変わってたし…」

ち、千早ちゃん…。

P 「いやしかし事務所の皆ほとんど気付いてるとはな…」

春香「あ…」


そういえば皆知ってるんだよね…。
あ~恥ずかしい、どんな顔して事務所に行けばいいんだろう…。

P 「でさ、なんかもうじゃあいいや~ってなって色々音無さん達にゲロっちゃった」テヘペロ

春香「」

P 「お酒の力って怖いね☆」

春香「バカなんじゃないですか?」

P 「oh…きっついなお前…」

春香「そんなおバカなプロデューサーさんには罰を与えます」

P 「えぇ~…。あんまり無茶な事はやめてくれよ?」


春香「大丈夫です。目を閉じて少し屈んでください」

P 「そこに跪いてって事か」

春香「そこまでしなくていいです!」

言われた通り目を閉じて少し屈んでくれたプロデューサーさん。

春香「じっとしてて下さいね」

P 「何だか怖いな」

目を瞑ったプロデューサーさんを見つめます。
ゆっくりと近づいて、そして…。


ちゅっ


P 「へ?」

素っ頓狂な声を上げるプロデューサーさん。

春香「も、もう目を開けていいですよ」

P 「春香…お前…」

春香「お、お返しですよ、お返し!」

P (顔真っ赤じゃないか。恥ずかしいならやなきゃいいのに)

プロデューサーさん、私、貴方に逢えて本当に良かったです。
仕事も無かった私をこうしてお休みがほとんどない位のトップアイドルまで育ててくれました。


桜の舞う春に出会って、花火が舞う夏に告白して、木枯らしの舞う日には私に温もりをくれました。
この一年、貴方の思い出が、沢山の幸せな思い出が雪の様に降り積もってそして雪が舞う今、また恥ずかしいけれど素敵な思い出が出来ました。

春香「プロd

P 「春香」

私のセリフを遮ってプロデューサーさんが私を呼ぶ。
手を握り抱きよせられた私はポスリとプロデューサーさんの胸に収まります。

P 「ちゃんと言った事無かったから今言うな」

耳元から聞こえる声、ドキドキする…///

P 「大好きだぞ、春香」



FIN

終わりです。

春香「春と夏の日の出来事」

春香「秋の日の出来事」

の続きで最終話です。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


前作から嫌な予感してたけど、取り越し苦労だったようでよかった

気付かれた方がいるかは判らないのですが、このSSは初恋1章~5章に沿って書いています。

春と夏が1章と2章。
秋が3章。
そして冬が4章と5章。

5章はわかりやすいかと思います。

歌詞とにらめっこして、1章なり2章なりをエンドレスリピートしながらSSを書くという行為は
わりかし大変な作業でしたがストーリーと結末があらかじめ決まっているのでいかに膨らませるかの勝負でした。

拙作ですが楽しんでいただけたなら幸いです。

おつです!

3話ともいい感じでした!

おつ

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