幼馴染「ほらほら、よそ見してたら死んじゃうよ?」 (24)

――冬休み初日

幼馴染「ほらほら、よそ見してたら死んじゃうよ?」

男「わ、わかってるよ」

男(輝かしき冬休みの一日目、いつものように幼馴染がウチに遊びに来てゲームをやってるわけだけど――)

幼馴染「あーあ、残機一個減っちゃったね」ピッタリ

男(なんであすなろ抱きでピッタリ密着してるんだよおおおお!)ドキドキ

男(薄い肌着のせいで肌の感触とか体温とか密に伝わってくるし)

男(顎を俺の肩に乗っけて肩越しにテレビ画面を見てるせいで幼馴染の髪が時々頬に触れるし)

男(ついでにいうと今家には俺たち以外誰もいないし!)

男(まずい……正直超猫背であぐらかかないとヤバイレベルでまずい)

幼馴染「あっ! そこ後ろ後ろ!」ユサユサ

男(ゆらすなあああああああ!!)

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男(そもそもこいつこんなパーソナルスペース縮めてくるやつだったっけ……)

男(ともかく今の体制はよろしくない……非常によろしくない……そうだ)

男「な、なあ幼馴染」

幼馴染「なに?」

男「見てるだけってのもつまらないだろ、こっち座って対戦ゲームやろうぜ」ダラダラ

幼馴染「んーボクはいいや」

男「えっどうしてだよ」

幼馴染「だって――」

幼馴染「プレイしてたらこうして真剣にゲームしてる男の顔見つめられないでしょ?」ジーッ

男(しまったーーー! 孔明の罠だァーーー!)ドキドキ

男(なんだなんだよなんですか!? 今日の幼馴染はおかしいぞ!)

男(だ、だめだ目を合わせられねえ)

男(気を……とにかく気を紛らわせなくては)

男(ゲームに集中して冷静さを取り戻そう、ビークール……)カチャカチャ

幼馴染「ふーっ」

 瞬間、男の身体に電流走る。
 男の耳が受容した幼馴染の吐息を神経が電気信号として走らせ、脳がそれを快感と識別した。
 その間コンマ秒の刹那であったが、男はその恍惚とした寒気に身を震わせ情けない声を上げる。

男「ぉんっふ」ゾクゾク

男「っておおおおお前なにして」

 男は立ち上がろうとしたが、ナニとは言わないが別のものがSTAND UP! していたためそれは叶わなかった。

幼馴染「ふふっ、今日の男はなんだか挙動不審だからいたずらしたくなっちゃった」クスクス

男「いたずらってお前なあ……」

幼馴染「そんなに嫌だった……?」

男「うっ……とにかく、ゲームに集中してるから邪魔するなよな」

幼馴染「はぁい」

男(がんばれ、がんばれ俺の理性……)

男(いくら二人っきりとはいえ俺達は幼馴染同士……一線を越えてはいけない……)

男(悪魔)『ありゃあ誘ってるぜ? 据え膳食わぬはなんとやらってヤツだろブラザー?』ポワン

男(天使)『主は言っております、産めよ増やせよと』ポワン

男(ええい! 手を組んで俺を拐かすな!)

幼馴染「ねえ男~?」クンクン

 再び密着した幼馴染の鼻息が男の首筋を撫ぜる。
 触れるか触れないかの微かな刺激だったが、それがまた男を高ぶらせた。
 過敏になった快感中枢が甘い悲鳴を上げる。

男「…………」ドキドキ

幼馴染「ちゃんとお風呂入ってる? ちょっと匂うよ?」

幼馴染「冬休みだからってサボっちゃダメだよ~?」サスサス

 男の胸板、鳩尾、腹筋へと幼馴染のか細い指が滑らかに走る。
 うっとりとするほどの優しい指遣いに、男は固唾を飲むことすら忘れていた。

男「…………」ドックンドックン

幼馴染「そうだ、これから昔みたいに……」

幼馴染「一緒にお風呂、入ろっか」

ガバッ

男「ハァッ、ハァッ」

 上目遣い気味に言い放たれたその言の葉により、理性という脆い鎖は打ち砕かれ、一匹の獣が放たれた。
 気がつくと男は自分よりも一回りも小さい幼馴染の上に乱暴に覆いかぶさっていた。

男(ダメだ……ダメだとわかっていてもっ)

男(潤んだ瞳、上気した頬、切なげな唇、儚い首筋、震えた手、丸みを帯びた踝……)

男(どれもがたまらなく扇情的で、むしゃぶりつきたい……!)

 興奮で朧気になった意識の中でも、男の目はくっきりと幼馴染の肢体を捉えている。

幼馴染「……すごいね」

幼馴染「別段鍛えてるわけじゃない男の腕でも」

幼馴染「こうやってボクを押し倒すことができるんだね」

 目を逸らしながら呟かれたその幼馴染の言葉が『YES』の意味を持つと気づいた瞬間だ。
 男の心の臓はどくんとひときわ大きく跳ね、痛いほどに脈動の勢いを増す。
 そして――。

男「……っ!」ドタドタスッピシャッ

幼馴染「……あ」

幼馴染「押し入れに閉じこもっちゃった」

男「ああ……くそっ、最低だ……」

男「勢いに任せてあんなことを……最悪だ俺……」

男「よりにもよって幼馴染に……ちくしょう、ちくしょう……」

スーッ

幼馴染「よいしょっと」ヨジヨジ

男「なんだよ幼馴染ぃ……俺に近づくなよ、俺は性犯罪者だぞ……」グスグス

幼馴染「もう、昔から男は変なところで繊細なんだから」ナデナデ

幼馴染「ボクは気にしてないし、それにボクは男だったらオッケーだったのに」

男「でもよぉ……」

幼馴染「まったく、そもそも誘ったのはボクのほうなのに」

男「え……?」

幼馴染「男はにぶちんだなあ」

 幼馴染は押し入れの隅で体育座りをしている男に寄り添い、その肩に頭を預ける。
 再びふわりと幼馴染の髪のいい香りが男の鼻腔をくすぐった。

幼馴染「ボクは大好きだよ? 男のこと」

男「――っ!」カァァ

幼馴染「でも、ボクは男の言葉が、気持ちが、行為が欲しかったんだ」

幼馴染「だって、ボクだけがこんなに好きだなんて馬鹿らしいでしょ?」

幼馴染「だから男のほうから何かしてくれるのを待ってたんだ」

幼馴染「まあ、男がここまで意気地なしだったのは計算違いだったけどね」クスクス

男「なっ、お、俺のこと好きって、お前……」ドギマギ

幼馴染「でも、そうだね、ウブな男にはあれはちょっと刺激が強すぎたかな」

男「だ、誰がウブだ――」

 紅潮したまま反論しようと、男が幼馴染に向き直った瞬間。
 いたずらっぽく微笑んだ幼馴染の顔が近づいてくるのが見えた。
 そしてそのふたつの顔はどんどんと近づき、そのまま――。

幼馴染「まずはキスから、しよっか」ボソッ

 男の顔を通り過ぎ耳元で幼馴染がこう囁く。
 幼馴染の声が、言葉が、吐息が、感情が。
 男の脳を耳から溶かし尽くす。
 ぼうっととろけた意識をなんとか取り戻した男の目の前には、目を瞑り、頬を赤らめ唇を突き出す幼馴染の姿があった。

男(あれ……)

 まるで魔法にかかったように男の心の奥底が疼く。
 目の前にいるその、先程までただの友人だった幼馴染を男はどうしようもなく愛おしく感じていた。

男(幼馴染って、こんなに可愛かったっけ……)

 先の獣欲とはまた違った感情に手繰り寄せられ、男は幼馴染の唇に吸い寄せられていく。
 幼馴染の求めるものはなんでも与えてしまいたくなる。
 そんな不思議な気持ちで胸を満たされながら、男はさながら雛鳥に餌を与える親鳥のように距離を詰めていった。
 だが。
 既の所で幼馴染の人差し指にそれを遮られてしまう。

幼馴染「言ったでしょ、ボクは男の言葉が欲しいんだ」

幼馴染「だから、男からどうしたいか言ってよ」

男(ずるいなあ)

男「俺、幼馴染とキスしたい」

幼馴染「どうして?」

 幼馴染が目を細める。男には答えはもうわかっていた。

男「幼馴染が好きだから」

幼馴染「よく出来ました♪」

 ふたりを遮っていたものが取り除かれる。
 ふたつの唇が音もなく重なり、名残惜しそうに離れる。
 ありえないほどの脳内麻薬が氾濫し、男は多幸感に溺れそうになった。

幼馴染「ね、口開けて、舌出して?」

 男は言われるがままに口を開き舌を投げ出す。
 幼馴染はそこに間髪を入れず自らの桃色の舌を滑り込ませる。
 先ほどとは違い、深く濡れた音と、浅く弾む吐息が狭苦しい押入れに木霊する。

幼馴染「んっ、ちゅ、んふっ」

 唇を吸われるたびに魂も吸われる。
 舌先を流し込むたび魂も流し込まれる。
 気づけば男は、肩まで伸びた幼馴染の髪を撫ぜながら、求め合い、その行為に耽っていた。

男「はあ、我ながら情けない」

 しばらくして、男は幼馴染の膝の上に頭を載せぐったりと横たえていた。

男「まさかキスだけで腰を抜かしてしまうとは……」

幼馴染「ふふふ」

男「笑うなよな、そもそもお前、あんなテクニック何処で覚えたんだよ……」

幼馴染「そりゃあボクもいっぱい練習したからね」

男「なっ」

幼馴染「もちろん、男のためだけにね」ボソッ

男「っ!」カァァ

 またしても耳元で囁く幼馴染に、男は思わず顔を背ける。
 すっかり、耳が弱点だと知られてしまったようだ。

幼馴染「ふふっ」クスクス

男(かなわねえなあ……)

 ふと、安心感からか、髪を撫でる幼馴染の手の心地よさからか、男は眠気に襲われる。
 だんだんと身体は脱力し始め、まぶたは重力に逆らえなくなっていった。

幼馴染「疲れちゃったのかな?」

幼馴染「ゆっくりおやすみ、男。冬休みはまだ始まったばかりだからね――」

 微笑む幼馴染の顔を最後に、男は微睡みへと落ちていった……。

ジリリリリリ

男「――はっ!」ガバッ

男「ああ、寝ちゃってたのか」

男「……ん?」ゴソゴソ

男「ああ……パンツが……」

幼馴染「おはよう男!」

男「おわぁっ幼馴染ぃ!?」ババッ

幼馴染「……どうしたの? ボクの顔に何かついてる?」

男「えっ、あ、いや、なんでもねえよ」

幼馴染「ヘンな男、それよりも早く支度しなよ?」

男「えっ?」

男「支度も何も冬休みだろ?」

幼馴染「……寝ぼけてるのか本気で言っているのか知らないけど今日は終業式だよ?」

幼馴染「冬休みは明日から」

男「……あ」

男「あああああ! もうこんな時間じゃねえか! 遅刻する!」

幼馴染「まったくもう……荷物はまとめておいてあげるから先着替えてきなよ」

男「かたじけねえ!」ダダダッ

幼馴染「本当に、男はボクがいないとダメなんだから……」クスクス

男(……ってことはアレは夢だったのか)

男(そうだよなあ、ありえないよなあ、よりによって幼馴染となんて――)





男(――男同士でなんて、な)

終わり

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