提督「心から愛しい羽黒に捧ぐ。」 (85)

以前同じスレタイで立てたのですが慢心からスレがhtml化したので再度執筆しようと思います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1410084549

 私は横須賀に着任した。

 まだ右も左もわからぬ若造の自分には艦娘たちはただの兵器という認識であった。

 戦争の明暗は私にかかっている。

 私は真っ白い士官服に袖を通し、士官帽をかぶる。

 駆逐艦と軽巡洋艦で近海を平定し、沖ノ島へと進軍した私には怖いものなど何もなかった。

 霧島、筑摩、赤城、高雄、日向、そして、羽黒。

 この6人の勇士がいれば私には怖いものなどない。

 私は彼女たちを初めは兵器としか見てはいなかった。

 今の私からは考えられないほど冷酷であったと思う。

 神通と夕張はよく文句も言わずに私に従ったものだ。

 ――私が彼女たちを人間として、異性として意識したのは、何よりも羽黒の存在のおかげだ。

 引っ込み思案だが強い芯。大和刀のようなその雰囲気に私は惹かれていた。

おっ
覚えにあるぞ、次は完結してくれるんだよな

 もちろん、当時は彼女に対しても冷酷であったはずだ。

 だが、今では羽黒の泣き出しそうな笑みしか浮かんでこない。

 初めて艦娘を喪い、満身創痍で撤退をさせた自分自身に腹が立っていた。

「可愛い魚雷と一緒に積んだ♪ 青いバナナも黄色く熟れた♪」

「男世帯は 気ままなものよ♪ 髭も生えます♪ 髭も生えます♪ 無精髭♪」

 執務室で軍歌を歌いながら浴びるように酒を飲み、私を見つめて沈んでいった駆逐艦、響に対して涙を流した。

 これは戦争だと分かっていたのに。

>>4
ありがとうございます。今回こそはやり遂げます。


なお、私は徹底海峡イベからほとんど艦これに触れていないため今の仕様と異なることがあるやもしれません。ご容赦を願います。

 泣きながら軍歌を歌っていると執務室の扉が控えめに叩かれた。

 私は反射的にどうぞといったはずだ。そして、扉を開いた彼女に驚愕した。

「あ、えっと……ごめんなさい……」

 常に控えめな彼女は目を伏せていた。

 私は驚いたように口を開き、そして目元を乱暴に拭ってから士官帽を目深にかぶり直して言葉を紡ぐ。

「……響のことは残念だった。私の認識の甘さ故だ」

 最後の方は泣き出しそうな声色でやっと言葉を紡ぐ。また私は目元を乱暴に拭う。

 いっそ目をえぐれたら、彼女への――響への贖罪になるだろうかなんて馬鹿なことを考えながら。

「私を罵倒したければしたまえ。君には、君たちにはその権利がある」
 
「……提督は職務を全うしました。私はそう思います」

 杯に残った酒を一気に飲み干して私は羽黒の瞳を見つめた。

 いつものおどおどした瞳とは違う、凛とした瞳が私を見つめていた。

「優しいな、君は。私は君達に優しくしたことなど無いのに」

「提督はお優しいかたです。こうして沈んだ艦のために泣いているのですから。それに、提督が常日頃から資材の管理を一手に引き受けて私たちを助けてくれていることは、ここの皆が知っています」

 じわりと視界がにじみ私は嗚咽を噛み殺した。

 別に褒められたくてやっていたわけではないが、認めてくれる者がいることが何よりもうれしかった。

「……ごめんなさい、報告は後日行います」

 声を震わせて羽黒は控えめに扉を閉めた。

 私は士官帽を涙でぬらしながら啜り泣いた。

 空の杯に涙が満ちた。

 私はそれ以来彼女を頻繁に執務室に呼びつけるようになった。

 互いに他愛もない話をするだけの純情な交わりが私達には似合っていた。

 時には文学を語らい、時には音楽を語らい、時には戦術を語らった。

 余談ではあるが、高雄と日向を囮にして霧島が致命打を与える作戦の立案者は羽黒である。

 さて、ひとしきり語らったあとはどちらからともなく互いを抱き寄せる。

 私が彼女の腰を抱き寄せたこともあるし、彼女が細い腕で私を抱き寄せたこともある。

期待したいがスマン、一つだけ指摘させてくれ
羽黒の呼び方は司令官さんだ

 抱き寄せ、抱きしめたあとは接吻と愛撫を繰り返した。

 唇をなぞり、首を食み、手首に舌をはわせた。

 そうして肌を重ねているうちにどちらからともなく離れてゆく。

 彼女がどうかはわからないが私は童貞のまま。しかし、悪い気分ではない。

 愛撫を終えた彼女は真っ赤になって私の頬に一つだけキスを落とし、執務室を後にする。

 それが私たちの秘密。

>>11
やべえすっかり思い違いしてました。以降訂正します。本当に申し訳ありません

 鉄底海峡。

 くそったれな戦場。

 大本営から私に与えられた地で私は指揮をとった。

 いつもの6人は相変わらず私に従い、そして着実に戦果を挙げていた。

 1度目の攻撃は成功し、補給と修復を行ってから私達は再び鉄底海峡へ挑んだ。

 敵の空母と戦艦からの攻撃は熾烈だったが、今まで私が乗り越えてきた修羅場の比ではない。

 ついに雷撃できる距離まで艦隊は迫った。

 迫ってしまった。

 迫ってしまったのだ。

 敵から羽黒に向けて2本の魚雷が放たれる。

 当たるはずはないと――沈むはずはないと思っていた。

 彼女は、羽黒なのだから。

 しかし彼女は魚雷を受けてしまった。

 呆然とする私に、彼女は笑う。

「――――」

「羽黒!!」 

 彼女が死に際になんと言ったのか私は聞き取れなかった。

 羽黒は雷撃の水飛沫に溺れ、そして消えた。

 それからどうやって横須賀に帰ったのかは覚えていない。

 ただ、羽黒の最期だけが目に焼き付いている。

 あの無垢な、子供のような笑みが。

 私はまだ死ぬわけにはいかない。

 せめて羽黒に向けて、平和になったといわねばならない。

 私はまだ、横須賀にいる。
 
 私は私の復讐のために、横須賀にいる。

 夕方の執務室には虚しく軍歌が響く。

 かつては羽黒と共に耳を傾けた音色が虚空に溶ける。

 軍艦行進曲。

 威風堂々とした音色が私の心を締め付ける。

 私は自らを傷めつけるように酒を飲む。
 
 せめて、私も苦しんで羽黒に顔向けをしたかった。

 レコードから流れてきたのが「同期の桜」や「戦友」でなくてよかった。

 きっと私は泣いてしまっただろうから。

 不意に執務室の扉が叩かれ、反射的にどうぞと私は言う。

 杯に残った酒を飲み干してその来客を見やると、我が艦隊の旗艦、霧島であった。

「あぁ、霧島か……私に何か用事でも?」

 呂律のまわらない、焦点の定まらない私はかろうじてそれだけをつむぐ。

「お、落ち着いて聞いてくださいね? 鎮守府の他の部隊より鉄底海峡にて羽黒らしき重巡洋艦の姿を見たとの報告がありました」

 その言葉に、たまらず私は笑った。喉を鳴らして大笑いした。

 なんという残酷な嘘なのだろうか。

「はは! そうか……そうだったらどんなに良かったか……」

「信じてください! 今や鉄底海峡は敵味方の入り乱れる混迷の海です! 羽黒が轟沈したという報告が誤報かもしれません! 私たちは誰も彼女が沈むところを見ていないんです!!」

 私は空になった杯に酒を注ぎ、また一気に飲み干す。

 金属バットで頭をたたかれたかのような衝撃が襲い、そして喉が焼けて思考が淀む。

「私は見たんだ。雷撃の水飛沫が彼女を襲ったのを。死体は見つからなかったとはいえ、一体彼女はどこにいたというんだね?」

「命からがら逃げて、何処かの島に身を隠しているやもしれません! あの場所にはそうするだけの島があります!!」

 霧島の必死な言葉に、私は喉を鳴らして笑った。

「君たちは優しいなぁ。君たちのような部下を持てて私は幸せだよ。大丈夫さ。気持ちの整理ぐらいはつけるとも」

 震える手で杯に酒を注ごうとすると、霧島は両手で私の胸ぐらを掴んだ。

 私の手から酒瓶が転げ落ちる。

「私達は羽黒が轟沈したなどと思ってはいません! 彼女が生きているのなら奇跡でも偶然でもいいんです!! 栄えある『第一艦隊』の希望を笑わないでください!!」

 その言葉に私はたまらず霧島の瞳を見つめた。

 メガネの奥の彼女の瞳は潤んでいた。

 軍艦行進曲のレコードは終わる。

「……そうだなぁ。信じてみるか、『奇跡』という奴を」

 霧島が手を離すと私は両足で立ち上がる。

 霧島は涙を拭い私の瞳を見つめていた。

 レコードを交換し、私は伝令用マイクのスイッチを入れた。

 レコードからは「愛国行進曲」のメロディが流れる。

「前戯をしてくれ。マイクチェックを頼む、霧島」

 私の戯れに霧島は顔を赤らめ、咳払いを落としてからマイクチェックを行う。

 そんな彼女をけらけらと笑いながら、私も咳払いを落としてマイクに叫ぶ。

「第一艦隊全艦に告ぐ! 各員対艦装備を行い鉄底海峡へ進軍せよ! なお、栄えある第一艦隊には1名の欠員の補充が必要である!!」

 愛国行進曲のメロディと共に私は司令を行う。

「今回も6『人』での出撃を行う! 旗艦『霧島』以下『筑摩』! 『高雄』! 『赤城』! 『日向』! そして『赤城』」!

 音声が割れるのも気にせず、私はマイクに向けて叫ぶ。

「選りすぐりの精鋭諸君の中でさらに篩い分けられた最精鋭の6名は直ちに執務室へ集合せよ!」

叫ぶだけ叫んで私はマイクのスイッチを乱暴に切る。

「君が本作戦を伝えるべきだったかね?」

「いいえ、お似合いの演説でした」

 彼方から廊下を走るおとがきこえる。

 最精鋭の6名はきっと、私に付き従ってくれるはずだ。

 私のわがままのために戦争をしてくれるはずだ。

 心が少しだけ、チクリと痛んだ。

>>20
すいません赤城が二人いました。最後の赤城を「利根」に修正します。申し訳ありません

 夜。

 執務室で薄く埃を被ったCDプレイヤーが部屋の空気をゆらす。

「提督もCDなんて持ってたのね。旧石器時代の人かと思ってたからびっくりしたわ」

 喉飴をかみつぶす仕事をしている最中に、臨時の秘書艦である夕張が話しかける。

「レコード盤がない曲はCDで聞く。君は随分と失礼だな」

 がりがりと奥歯で喉飴をかみつぶしながら私は言う。

「てっきりCDの存在も知らない人かと思っちゃった」

「CDは音をデジタル化する都合上どうしても可聴域以外の『ノイズ』をカットしてしまうから嫌いなんだ。その『ノイズ』こそが演奏者の味なのに」

「はいはい、それは素晴らしいことですね」

 私の精いっぱいの反論を夕張は興味なさげに受け流す。

 長い付き合いだが、彼女とは「悪友」という関係が似合うと思う。

 私が部下の中で苦手とするのは「夕張」「神通」「妙高」の3人だけ――のはずだ。

 夕張と神通は私の着任直後から従ってくれている戦友で、妙高は私が心から愛する羽黒の姉。

 一度妙高と話した際は「羽黒を泣かせたら承知しませんから」と笑みを浮かべながら言われたものだが、その笑みの目元が全く笑っていなかったことは私の記憶に生涯残り続けるのだろう。

 私は癖となった大きなため息を吐く。

 喉飴は順調になくなっているが、まだ一斗缶数本分はあるはずだ。

 私は次の喉飴を口に放り込み、奥歯でかみつぶしながら夕張に茶を要求する。

「今日はお酒は飲まないんですか?」

 素直に茶を淹れた夕張はそのように問う。

 私は湯呑に手を触れ、その熱さにたまらず手を引っ込める。

 夕張は「してやったり」といった表情を浮かべている。

「……私は酒を飲むと泣いてしまう。君に泣き顔を見せたら後でどうなるかわからん」

「いいじゃない。泣きたいときに泣きなよ」

 そういって彼女はどこからか酒瓶を取り出す。

 私は猫舌を悟られぬように、ちびちびと茶を飲み干す。

 夕張が空になった湯呑に酒をそそぐ。

「君は普段酒を飲まないな? 普通なら茶の入っていた湯呑に酒は注がない」

「まぁ気にせず。ぐっと行ってくださいな」

 口内に残る飴を噛み砕き、誘われるがままに酒の入った湯呑にゆっくりと口をつける。

 喉が焼けるような感覚とともに食道と胃が熱くなり、鼻腔から酔いの気配が忍び出る。

「羽黒ちゃんから聞いてたよりも面倒だわ」

「君が酒を勧めたんだ。後始末は君がしろ」

 すっかり脳天まで酒に浸った私は上機嫌にレコードを用意する。

 埃被ったCDプレイヤーの出番はこれにておしまい。

 レコードからは私が幾度も聴いた音楽が流れる。

 軍艦行進曲。

「あなたって本当に救いようのない戦闘狂だわ」

「ああ、知っているさ。味方が死んでも提督を続けようなんて奴は、イカれてるやつしかいないのさ」

 私は酒を飲み干して笑う。

 夕張はどこかあきれたように私を見つめていた。

きょうはこれまで

「大方近隣から『あの鎮守府は何してるかわかんないからおっかない』って苦情でもあったんだろーさ」

 けらけらと笑いながら隼鷹は言う。

「我々の仕事は知られないほうが良い」

「でも、命令には従わなきゃいけない」

 からかうように隼鷹が言う。

「ま、いくつかの案はみんなで考えてみるよ。提督のほうでも考えてみてよ」

「……仕方ない」

 大きくため息を吐いて私は再び書類仕事を始める。

「お酒なら用意してあるよー?」

「仕事中に酒を飲むほど肝が据わってはいない。君と違ってな」

 少しばかりの羨望を込めた視線を隼鷹の御猪口へと向け、私はペンを走らせる。

「――ってぇことで、この中から開催イベントを4つほど絞っていこうかと」

 めったに使用されることがない会議室、隼鷹によって黒板に真っ白いチョークで開催イベントのアイディアが書き出されている。

 鎮守府の観光案内から物販まで、その内容は多岐にわたっている。

 いくつかは目も当てられないような内容もあるが、大部分は皆真面目に考えたのだろうということが伝わってくる内容だ。

「とりあえず『ビアガーデン』は却下だ」

「えー? 提督のための提案なのに―?」

 隼鷹は不満を漏らしながら白いチョークで描かれた文字を消す。

 そして、幾許かの日が流れる。

 普段は民間人の立ち入らない我らが鎮守府には民間人があふれかえっている。

 老若男女が混ざり合い、様々な部隊の様々な催しを興味深げに見つめていた。

 私の部隊の出し物は「歌謡ショー」と「仕事の紹介」、そして私の部隊の面々との「会話」である。

 

「大盛況だな。信じられないが」

「えぇ、本当に」

 私の隣に立つ羽黒は感動したように言う。

 兵器として生まれた彼女にとっては、なにか思うところがあるのだろうか。

 遠巻きに人波を眺める私の視界をふと異様な一団が横切った。

 喪服を身にまとった6人の艦娘達。

 まるで葬列のように人波をゆっくりと引き裂いている。

 私はその奇妙な一団へと大股に足を踏み出す。

 羽黒もその軍団に気付いたのか、警戒しながら私の後ろを歩む。

「……君たちは――あぁ、『あいつ』の指揮下の」

「お久しぶりです」

 喪服を身にまとった艦娘の一人、鳳翔が言う。

 彼女のことは知らないわけではない。

 砲撃を受けて泥とも肉ともつかない「もの」になった私のなじみの提督の秘書艦だった人だ。

 きっとあれ以来彼女は――彼女たちは壊れてしまったのだろうと思う。

 形ばかりの葬儀もとっくに済ませたのに、彼女たちはまだ喪服を身にまとって葬式を行っているのだから。

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