オール安価でまどか☆マギカ 18 (1000)

このスレは、安価で決めた主人公・時系列・前提設定で進める長編多めの安価SSです。
各編で話につながりはありませんので、途中参加は大歓迎です。

【現行】キリカ編2  (14スレ目>>719から15スレ目>>182まで,17スレ目>>927から)
・・・同主人公の1つめとは無関係。未契約キリカが黒猫と謎の少女に出会う話。
・・・現在ほむらは目的もわからないまま自殺。しかし、その目的を唯一知っている人物は……
・・・正体不明の“声”に導かれ、このままだとまどかの魔力の回復が間に合わず魔女になることを知って『まどかを人間に戻す』願いで契約した。

【完結した話】
さやか編  (1スレ目>>8から>>154まで)
・・・マミの死後、さやかが魔法少女になって張り切ったり悩んだりする話
・・・一番最初のやつなんでかなりあっさりしてます
中沢編   (1スレ目>>164から2スレ目>>150まで)
・・・中沢が安価の導きにより魔法少女たちと関わっていく話。
QB編   (2スレ目>>198から 4スレ目>>502まで)
・・・感情の芽生えたQBの話。
ユウリ編様 (5スレ目>>954から6スレ目>>792まで:BadEnd)
・・・契約したばかりのユウリが目的を達成するためにマミの後輩になる話。
恭介編   (6スレ目>>815から 7スレ目>>240:BadEnd+)
・・・恭介の病院での日々と、退院してからの話。
Charlotte編 (7スレ目>>264から>>285まで)
・・・チーズを求めるCharlotteの小話。
キリカ編  (7スレ目>>309から>>704まで,8スレ目>>475から9スレ目>>151まで)
・・・本編時間軸で織莉子が既にいない世界のキリカの話。話はほぼまどマギ本編寄り。
アマネ編  (7スレ目>>807から>>963まで,8スレ目>>130まで:GiveUp)
・・・抗争に破れて見滝原に来た最弱主人公の野望の話。  ※オリ主※
メガほむ編 (9スレ目>>181から12スレ目>>666まで)
・・・非情になれないほむらの4ループ目、織莉子たちとの戦い。
なぎさ編  (12スレ目>>717から14スレ目>>616まで)
・・・謎の神様によって魔女化から助けられたなぎさが見滝原で奮闘する話。
杏子編  (15スレ目>>197から17スレ目>>918まで)
 マミの“先輩”な杏子のifストーリー。
 マミと仲直りしたり、色んな人と仲良くなったりする比較的ほのぼのなストーリー。


【未完結の話】
Homulilly編 (採用箇所4スレ目>>535から>>686まで)
・・・生まれたばかりの魔女Homulillyが時空を旅する話。
かずみ編  (4スレ目>>982から5スレ目>>879まで)
・・・ユウリのドジで見滝原に運ばれたかずみが織莉子とともに救世をめざす話。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491232637


【注意】
★無効安価は自己判断で安価下。明らかに無効になりそうな内容は、その下に別の安価をしてくれるとスムーズに運びます。
★混んでる時以外は基本的に連投・連続有り ※ただし同じ内容で連投はダメ
★多数決は連続・連投無し
★多数決で同数に意見が割れた場合は指定内の最後のレス内容を採用
★主レスは安価先を指定する数字に含まない
★まどマギのほかに、無印おりマギ・かずマギ・漫画版まどマギ・TDS・PSP・劇場版のネタを含みます。
 それ以外からのネタは出さない・考慮しません。
★「下2レス」と書いた時にはその1時間以内に2レス目がこなければ「下1レス」に変更します


・前スレ

『まどかマギカで安価練習』 :まどかマギカで安価練習 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1369643424/)
『オール安価でまどか☆マギカ 2』:オール安価でまどか☆マギカ 2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370979872/)
『オール安価でまどか☆マギカ 3』:オール安価でまどか☆マギカ 3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371835671/)
『オール安価でまどか☆マギカ 4』:オール安価でまどか☆マギカ 4 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372909496/)
『オール安価でまどか☆マギカ 5』:オール安価でまどか☆マギカ 5 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 6』:オール安価でまどか☆マギカ 6 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 7』:オール安価でまどか☆マギカ 7 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 8』:オール安価でまどか☆マギカ 8 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 9』:オール安価でまどか☆マギカ 9 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 10』:オール安価でまどか☆マギカ 10 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 11』:オール安価でまどか☆マギカ 11 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 12』:オール安価でまどか☆マギカ 12 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 13』:オール安価でまどか☆マギカ 13 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 14』:オール安価でまどか☆マギカ 14 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 15』:オール安価でまどか☆マギカ 15 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 16』:オール安価でまどか☆マギカ 16 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 17』:オール安価でまどか☆マギカ 17 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483717207/)


さやか「魔力が近づいてきましたね!? 今度は何の魔力?」

マミ「これは使い魔ね」

キリカ「魔女と連戦はきついから、よかったかな……」

マミ「使い魔でも油断だけはしないこと」

キリカ「ん……わかってるよ」



―ハコの魔女結界



まどか「あ、この結界見覚えがある。この前戦った魔女の残りみたいですね」

まどか「わたしが最後に倒した魔女でした」

マミ「何かわかってる特徴はある?」

まどか「いえ……すぐに倒しちゃったので」

さやか「あの時のか。あの廃工場の」

まどか「うん。早くはないけど、また飛び回る使い魔だから気を付けて」

さやか「了解了解……っと、このくらいならすぐ片づけられるね」


キリカ(……何もできなかった)

キリカ(二人が率先してやってくれてると任せちゃいがちになっちゃうな)


 人気のない道を抜け、最後に繁華街のほうを回る。

 マミの言っていた通り、このくらいの時間になると会社帰りや部活帰りの人でごった返していた。


 ……人混みの中をはぐれないようについていく。


さやか「こんな場所じゃ危なくてソウルジェム見て歩けないよ!」

キリカ「ていうか出してるだけで危なそう。落っことしたら踏まれそうで」

マミ「そうね……」



 下1レスコンマ判定
0~20 使い魔
21~40 魔女

--------------------------
ここまで
次回は8日(土)17時からの予定です


 ……ここには魔女はいないらしい。

 一旦繁華街の通りから少し外れた場所に出て最後にみんなで話していた。


マミ「みんな、お疲れ。このくらいで解散にしましょうか」

さやか「お疲れ様です!」

キリカ「なんか、ほとんどさやかに任せてたような気がするけど大丈夫……?」

さやか「グリーフシードは昨日のがあるし大丈夫ですよ」


「よー、あんたらみんなで楽しくハイキングでもしてんのか?」


 どこか嘲笑するような乱暴な声が聞こえると、いつのまにか昨日見た姿が通りの方からこちらを見ていた。

 ……佐倉さんだ。


さやか「佐倉杏子……」

マミ「今はちょうど魔女退治を終えたところよ」

杏子「魔女退治ぃ? そうは見えないから勘違いしちまったよ」

杏子「使い魔倒すっつうだけじゃなく、こんな一般人まで連れ回してさ」

杏子「遊んでるとしか思えないんだけど」

まどか「わたしは……」

マミ「鹿目さんは私たちの大事な仲間よ」

マミ「それに……無関係な人ではないわ。元魔法少女だもの」


杏子「元?」

キリカ「……」

杏子「ああ、そういやそう言ってたっけな。せっかく魔法少女なんてもんから足洗えたならもう関わんなよ」

杏子「昨日の様子を見る限りじゃ、戦えないってのは同じなんだろ? おうちで大人しくしてな」

さやか「……あんたの事情はちょっと聞かせてもらったけど、あんたにそこまで言われる筋合いはないでしょ」

杏子「先輩がせっかく忠告してやってんだよ」

杏子「どうせあんたもくだらない願いで契約したんだろ」

杏子「悪いことは言わないから、これ以上馬鹿見る前にさっさとそんなやつ見限って賢い生き方に変えな」

さやか「あたしの願いはくだらなくなんかない!」

さやか「あんた、人のために願ったのを後悔してるんでしょ? でも、あたしはあんたとは違うから」

さやか「人のために願うことが全部いけないことじゃない。 人の願いまで悪く言わないで!」

杏子「新人に何がわかる? 」

マミ「……生憎、美樹さんは私を裏切ったりするような子じゃないわ」

マミ「ねえ……何しに来たの? 昨日も言ったけれど、もしこのまま縄張りを奪うつもりだったら私もね……」

杏子「怖い怖い、そんなカッカするなよ」


 佐倉さんはふっとため息をついて、くるりと踵を返した。

 ……どうやら、やっぱりこの面子と戦う気はないらしい。


まどか「ま、待ってください」

杏子「……あ?」


 まどかがその後姿を呼び止めると、佐倉さんはそのまま足を止めた。


まどか「わたしは……契約したことを後悔してないし、魔法少女じゃなくなっても、少しでもみんなの役に立ちたいって思ってます」

杏子「力も持たない一般人が何の役に立てる」

まどか「それはそうだけど……でも、みんなと一緒に居るだけでもいい」

まどか「……あなたはわたしたちを心配してくれてるんだよね」

まどか「でも、大丈夫だってこと、わたしたちをちゃんと見せてあげるから」

まどか「もう昨日みたいに喧嘩したりとかはやめてほしいです……」

杏子「~~馬鹿じゃないの! どんな思考回路してたらそんな考えが出てくるんだよ!」

杏子「ったく……このチーム馬鹿しかいないのかよ!」

杏子「……けど、あたしが一番気に入らねえのはアンタだ」


 ……佐倉さんが首だけでこちらを振り返る。

 こちらを……というか、私を見ているようだ。……目が合った。


杏子「鹿目まどかが魔法少女じゃなくなったのって、お前の願いなんだろ?」

杏子「わけわかんねえ願いで契約しやがって……お前の願いがどうなるかはそこのチビが握ってるんだ」

杏子「契約したこと後悔してないっつったよな。 頼んでもないのに勝手なことして……」

まどか「そ、そんな言い方……」

杏子「半端な覚悟で契約したとしたら、絶対後悔するからな」

キリカ「…………」


 ……今度こそ佐倉さんが去っていった。


マミ「……美樹さん、さっき言ってたことは気にしないでいいのよ」

マミ「美樹さんがちゃんと自分の意思で考えて出した答えだもの。間違いなんかじゃないわ」

さやか「はい! そうですよね」


 それから、マミがこちらを見た。

 けど、契約の理由を知らないマミはなんとも言うことはできないのか、すぐに目線をこちらから外した。


マミ「さ、そろそろ帰りましょうか」


 ……さやかは、自分の意思で考えて契約したんだ。

 だとしたら、私の願いは……自分で出した答えだと言えるのだろうか。



キリカ(……考えても仕方ないか)

キリカ(こうしてまどかが魔女になる危険もなくなって、元気にしてる……それなら十分私も幸せなんだから)



1自由安価
2明日の予定について
3さようなら

 下2レス


キリカ「ひとまずグリーフシードも手に入ったけど……明日はどうする?」

マミ「明日は……そうね。今日実戦を見てみて少し特徴なんかがわかったから」

マミ「二人に合わせた訓練をしてみようと思うわ」

さやか「っていいますと?」

マミ「美樹さんは格闘と魔力のコントロールの強化が今後の課題といったところかしらね」

マミ「呉さんは……そうね、一応希望を聞いておきたいのだけど」

マミ「今後どうやって戦いたいかっていうのによっては、格闘の訓練より投擲を強化するというのもアリだと思うわ」

マミ「なんにしても魔力のコントロールは強化していくことになるけど……」

マミ「どうする?」


キリカ「……うーん」



キリカ 魔力[124/130] 状態:正常
GS:1個
・落書き[100/100]


◆ステータス
[魔力コントロールLv0] [格闘Lv0] [射撃Lv1]


1格闘訓練を頼む
2射撃訓練を頼む
3魔力コントロールの訓練を頼む(魔力-10)

 下1レス


キリカ「いや、でも、私もせっかく剣持ってるんだから……ちゃんと戦えるようにしたいよ」

キリカ「せめてもうちょっと頑張らないと……」

マミ「そう? それならわかったわ」

マミ「……それじゃ、私はここでみんなとはお別れね。また明日」

まどか「はい! また明日ー」

さやか「お気をつけて!」

キリカ「私も……ちょっと今日は違う道から帰っていい?」

さやか「なんか用事っすか?」

キリカ「あ、うん、そんなとこ……」

さやか「くれぐれも織莉子って奴には気を付けてくださいね。それじゃ、また明日」

まどか「また明日!」

キリカ「うん」


 …………暗くなった道を歩く。

 人でごった返す繁華街から少し外れるだけで人の流れからも外れ、少し安心する。

 あまり人気のない道に出るのは危険かもしれない。けど、あまり人混みの中に囲まれていたくもなかった。


キリカ(今のところ、真実を知ってるのは私だけか……)

キリカ(しょうがないとはいえ、隠し事するのって、なんだかそれだけでも疲れるな)

キリカ(……いや、それと、あいつもか)


 キュゥべえ。

 ……その名前を呼んでみても、今は来ることはなかった。こっちにはいないらしい。


 一人になった途端、色んな事が頭に浮かぶ。

 大体は、まどかのことだった――さっき佐倉さんに言われたこととか、マミが言っていたこととか。


 考え事をしながら、ゆっくりと歩くことにする。


キリカ(…………そんなこと、考えていたってしょうがない、か)



1自由安価
2帰るか

 下2レス


 ……小腹がすいた。

 どうも私は、色々考えることには向かないらしい。


キリカ(脳の栄養補給でもしよう)


 別に大して使ったわけでもない頭脳の栄養補給と理由をつけて、近くのコンビニに足を運ぶ。

 ……動いてるんだから、このくらい大丈夫だよね?

 それでさっさと帰ることにしよう。いつまでもぶらぶらとしていては危険だ。




――3日 終了――


キリカ 魔力[124/130] 状態:正常
GS:1個
・落書き[100/100]


◆ステータス
[魔力コントロールLv0] [格闘Lv0] [射撃Lv1]

―4日 昼休み


マミ「こんにちは。昨日は魔女と戦ってみてどうだった?」

マミ「やっぱり……怖かった?」

キリカ「それは少し……、でもマミやさやかがいたし」

キリカ「大体さやかが先陣切っていってたからね……」

キリカ「私はあんまりやれることがなかったかも」

マミ「そうね……」


 ……どこか危なっかしいと思いつつも、私にない勇敢さには憧れていた。

 その分、実際に戦っていて助けられもしたし。


1自由安価
2どうしたら強くなれるかな
3今日の訓練もよろしくね

 下2レス


キリカ「どうしたら強くなれるかな」

マミ「やっぱりそれは、経験を積んで……」

キリカ「それもそうなんだけど」


 団体戦のスポーツなんかもそうだけど、元からチームプレイみたいのは得意じゃなかった。

 他の人がいると思うと頼り切りになってしまうというか、遠慮がちになってしまう。

 ……そういう癖をなくせればいいとは思うんだけど。


キリカ「あー、いや、そうだよね……」

キリカ「今日の訓練もよろしくね」


 そんなこといったって、マミも面倒をみられるのは技術的な面だけだろう。

 少しは自信がつけば、変わるものだろうか?


マミ「……前に出て戦うことにこだわらなくてもいいと思うけどね」

マミ「今日の訓練、本当に格闘だけでいい?」

キリカ「……やっぱり射撃の方も試してみたい」

キリカ「…………優柔不断でごめんね」

マミ「いいえ」


 マミがふっと穏やかに笑う。

 ……どうにかして、私も、みんなと肩を並べられるようにならなくちゃ。


――――学校が終わると、今日もみんなで訓練に集まる。

大分暖かくなってきた春の土手にはさわやかな風が吹いて、緑の芝生を揺らしていた。


マミ「準備はいいわね? 訓練を始めるわよ」

マミ「私は主に美樹さんのほうを見てるから、鹿目さんは呉さんのほうを見てくれないかしら?」

マミ「やっぱり射撃の方も見てほしいって言ってたから」

まどか「はい、わかりました!」

キリカ「ごめんね。なんか、直前に……」

マミ「でも、呉さんも訓練の合間に美樹さんのほうも少し見ておいてね」

マミ「やっぱり、投擲は補助だから。自分の武器を使いこなせるようになるに越したことはないわ」

キリカ「あ、うん。それはわかってるよ」

マミ「ええ。それじゃ、始めましょうか」


――――――
――――――


 ……まずはまどかに見てもらいながらの投擲の訓練。

 投げるだけだけど、マミの使うような銃なんかよりも手の動きのブレが大きく狙いに左右する。

 慣れていないとやっぱり狙い通りに当てるのは難しい。


 けど、これは慣れればなんとかなりそうだ。今度、ダーツとかやってみるのもいいかもしれない。

 ちまちまと精度を上げていくのは、なかなか楽しむこともできた。


 格闘の方は……実戦でもほとんどやってないし、射撃とは違い、動きをひたすら鍛えるというのは大変だ。

 しかし、訓練ですらさやかを見て思う。 やっぱり、私とは違う。


 ああいう活動的な子のほうが、こういうのも向いてるんだろう……――



★格闘Lv0→格闘Lv1



まどか「お疲れ様ー! はい、これどうぞ。パパに教えてもらって、ハチミツレモンを作ってきたの」

さやか「おお、まどかは良いマネージャーだね!」

マミ「昨日佐倉さんはああ言ってたけど、鹿目さんは気が利くし、居てくれるだけで助かってるわよ」

マミ「本当にありがとうね」

キリカ「訓練も見てくれてありがとう」

まどか「いえいえ、ああいうのならわたしでも役立てますから!」

マミ「けど、見た感じだと格闘のほうも別に言うほど悪そうではなかったわよ?」

キリカ「え?」


マミ「大丈夫よ。だって、あなたの武器だもの」

マミ「使いこなせないはずがないわ」

キリカ「そうかなぁ……」


 ……ハチミツレモンを口に運ぶと、さわやかな甘酸っぱい味が広がった。

 まどかのお父さん、料理得意なんだっけ。


マミ「とにかくみんなお疲れ様。今日は久しぶりにお茶会でもしましょうか」

マミ「美樹さんは初めてだったかしら?」

さやか「ああ、はい! 噂には聞いてましたが!」

マミ「噂?」

キリカ「あ、私が前に話したんだった」

マミ「そうだったの」

さやか「うわー超楽しみ!」


 さやかはいつでもまっすぐだった。

 ……嫉妬してたなんて、絶対にバレたくないなぁ。


 ――――マミの家に上がるのは、あのパトロールの後の反省会以来だった。

 あの時はまどかが魔法少女で、でも戦えなくて、私もただついていってただけで……


マミ「適当にくつろいで待ってて。すぐに用意するから」

さやか「はい! 綺麗な部屋、それに眺めすごいよ!」

まどか「特に夜は景色が綺麗なんだよね」

さやか「えっ、何? 泊まったこととかあんの?」

まどか「泊まったことはないけど、パトロールしてたら結構遅くなっちゃったことがあって」




1自由安価
2まどかは契約したての頃どんな感じだった?
3さやかは昨日のパトロールや初めて魔女と戦った時どう思った?

 下2レス


キリカ「まどかは契約したての頃どんな感じだった?」

まどか「わたしは……魔法少女になって一番最初の戦いでマミさんに出会って」

キリカ「あー……じゃああの時か。 私を助けてくれた……」

まどか「はい。結界に入ったらいきなり魔女と魔法少女が居て……ピンチで」

まどか「とにかく助けなきゃって思って必死だったのを覚えています」

さやか「マミさんでもピンチになることあるんだ」

さやか「しかもまどかがそれを助けたって、すごいじゃん」

まどか「えへへ、そうかな」

キリカ「うん、すごいよ!」


 助けなきゃってことで必死だった、か。まどからしい。

 しかもまどかは強かったんだから――それも、強すぎて困るくらいに。


 ……そういえばずっと前、キュゥべえは私にも高い素質を持ってるって言ってたっけ?


キリカ(全然そんな気がしないけどな……)


 ……みんなで景色を見ながら話していると、

 いつのまにかふわりと紅茶の香りが漂う。


マミ「おまたせ」


 後ろを振り返ると、マミがテーブルに紅茶とケーキを用意していた。

 表面を覆うつるんとした滑らかな曲線を描くチョコレート。しかもこれは……


さやか「おおおお!すごい!これ食べていいんすか!?」

マミ「ええ、どうぞ」

さやか「いっただっきまーす♪」

キリカ「すごい! これ、手作り?」

マミ「ええ。お手製のザッハトルテよ」


 フォークで一口サイズに切って口に運ぶ。

 濃厚なチョコレートの香りとしっとりとした食感を堪能する。


まどか「美味しい! マミさん、ケーキのレパートリーいくつあるんですか?」

マミ「そうね……レシピをまとめたノートがあるけど、見てみる?」

まどか「あ、はい。ぜひ!」


キリカ「…………♪」

キリカ(素晴らしい人と友達になったなぁ……)

キリカ(……射撃もだけど、格闘の訓練も頑張ろう)


 ……動かないと、この頻度でこれはまずい。


マミ「それで、鹿目さんが契約したての頃の話?」

まどか「はい。さっきはマミさんと出会った時の話をしてました」

マミ「あの時は本当に助かったわ。鹿目さんが来てくれなかったら、私……」

まどか「それ以降はマミさんに助けられてばっかりですよ」

マミ「そんなことないわよ」

マミ「鹿目さんは私と一緒に戦ってくれて……それだけでも支えになっていたの」

キリカ「……さやかはどうだった?」

さやか「え?」

キリカ「昨日のパトロールとか、初めて魔女と戦った時とかどう思ってた?」

さやか「怖いとか不安だとか思いはしたけど、なによりあたしが戦わないと助けられない人がいるんだし戦わなきゃって!」

キリカ「さやかでも怖いとか思うんだ……?」

さやか「ちょっ、あたしをなんだと思ってるんですかー」

さやか「……ま、不思議と行動してみればやれるもんだって感じです。あたし、考えるのとか苦手ですし」

キリカ「…………」


 考えるのなんて、私だって苦手なのに。

 考えてるふりをして、さも何もしてないわけじゃないと振舞おうとしてるのは、きっと臆病だから。


キリカ(それこそ、美味しいケーキの前で考えることじゃないな)

キリカ(暗いこと考えるのよそう)


 ――……それからは普通に世間話なんかで談笑して、和やかな雰囲気の中で過ごしていた。

 そして、部屋の外に見える景色が暗くなってきた頃、お開きとなる。



さやか「今日はありがとうございました! ケーキめちゃうまでした!」

まどか「ごちそうさまでした! 今日も楽しかったです!」

キリカ「ごちそうさま。 それに、みんな今日はお疲れ様」

キリカ「……ところで今日訓練してて思ったんだけど、投擲、なんかもっと投げやすい武器を作った方がいいかな?」

まどか「投げやすい武器っていいますと?」

キリカ「え? うーん……なんだろ? 苦無とか手裏剣とか……忍者的なやつ?」

マミ「……作れればいいけど、作れるの?」

キリカ「え……? さぁ。でも訓練すれば出来るようになったりは……?」

マミ「私のリボンは変幻自在で何でも作れるのが特徴ね」

マミ「でもその代わり、決定打となる攻撃を作るまでには苦労したわ」

マミ「……呉さんの武器は小太刀でしょう?」

マミ「基本的にはあまりかけ離れたものを作るのは無理だと思うわ」


 ……それを聞いて落胆した。


マミ「真面目なのはいいんだけど、あんまり難しく考えすぎない方がいいんじゃないかな」

マミ「思い詰めると良くないわよ」

キリカ「え? いや、私はそんなに考えてなんて!」

まどか「わたしからすれば十分すぎるほど考えてますよ」

まどか「わたしが言うのもなんだけど、マミさんもさやかちゃんもいるんですし、もっと頼っていいと思います」

まどか「さやかちゃんはガンガン突っ込んでいっちゃうから……そのサポートくらいで丁度いいんじゃないかなって思います」

さやか「まあ、そうですねー……無茶する前にフォローしてくれると助かりますよ」

キリカ「あ……うん。ありがとう」



1自由安価
2明日の予定について
3さようなら

 下2レス


キリカ「ところで、明日は……?」

マミ「明日はまたパトロールに行きたいわね。それでいい?」

キリカ「うん……あ、でもその前にまた集まれないかな?」

キリカ「身体もほぐしておきたいし、さっきのこともとりあえず試してみたいし」

マミ「ええ。そういうことなら」

まどか「わたしも大丈夫です」

さやか「あー、あたしは明日はちょっと帰りに行きたいとこがあるので早めに抜けてもいいですか?」

マミ「わかったわ。じゃ、また明日」


 ……『また明日』とみんなで挨拶を交わして、マミの家から離れていく。

 明日はまた実戦。不安なところはあるけど、ちょっとずつ慣れていくしかなさそうだ。




――4日 終了――


キリカ 魔力[124/130] 状態:正常
GS:1個
・落書き[100/100]


◆ステータス
[魔力コントロールLv0] [格闘Lv1] [射撃Lv1]

―5日 昼休み


 ……いつも通り教室でマミと弁当を食べながら、ふと思う。


キリカ「……いつも思ってたけど、マミって弁当も美味しそうだよね」

キリカ「いつも朝一人で作ってるの?」

マミ「ええ。あ、そうだ。おかず交換とかしてみる?」

キリカ「!?」


 どうしよう。見たことはあっても、そんなもろにお友達的なこと、はじめてだ。

 小学校の頃は給食だったし……


マミ「えーと、どうかしら?」

キリカ「あ、うん! 大丈夫! なにがいい?」

マミ「そうね……じゃあ、卵焼きでも交換してみる?」

マミ「家庭によって結構味が違うっていうし」

キリカ「あ、うん……」

キリカ「えっ」


 マミが自分のお弁当箱から卵焼きを箸でつまみ……そして、私の口元まで運んてきた。


キリカ(あーんですか!?)

キリカ(あれ? これが普通なのかな? まあでも……お友達ってこういうもの?)

キリカ(……嫌ではないけど、恥ずかしい。教室、めっちゃ人いるんだけど……)


マミ(――……こんなこと提案しちゃったけど、こんなもろにお友達的なこと、はじめてだわ)

マミ(こんな感じでいいのかしらね? お友達だものね!)


マミ「……ど、どうかしら?」

キリカ「お、美味しいと思うよ……えーと、チーズ入ってる?」

マミ「ええ、今日のはチーズを溶かして入れてみたの」


キリカ(あれ……これ私もやる流れ?)

マミ(意外と恥ずかしいわ…… あ、この卵焼き甘い)



 ……どっちも慣れないことをしたせいで変な感じになったことには、残念ながら二人は気づかなかった。


 ……やがて昼食を終えて弁当箱を片づける。


マミ「こっちのクラスは午後の授業は?」

キリカ「国語……あ。 どうしよ、課題やってない。最近忙しかったから忘れてた……」

マミ「両立は大変だろうけど頑張って。今度試験もあるし、気を抜けないわよ」

キリカ「マミは完ぺきそうだね……」

マミ「私は、私に出来ることはなんでもやりたいって思ってるの」

マミ「特に、今は後輩に示しがつかないものね……」

キリカ「……そうだね。私も今から仕上げることにするよ」


 課題のプリントを出す。

 ……とりあえず、難しかったり時間がかかるものではないのが救いだった。


1自由安価
2マミのクラスの授業は?
3さやかにも一応注意しといたほうがよさそう

 下2レス


キリカ「さやかにも一応注意しといたほうがよさそうだね。試験のこととかすっかり忘れてそうだよ」

マミ「確かにねえ……今度みんなで勉強会でも開く?」

キリカ「それまでには私もさやかたちに教えられるように、ちょっと復習しとかないとなぁ……」

キリカ「あと、今日のことだけどさ……さやかの用事ってなんだかわかる?」

マミ「さあ……私はわからないわ」

キリカ「さやか、一人で大丈夫かな?」

キリカ「例の犯人のこともあるし、もしまた佐倉さんと会ったりしたらまずい気がして……」

キリカ「この前も結構険悪な感じだったしさ、また戦いになったら今度こそさやかが危ないよ」

マミ「……そうね。あの子にも困ったものだけど」

マミ「とりあえずそのことはまた後でみんないるときに話しましょう。今は課題頑張って」

キリカ「ん……」


 ……なんとか授業までに終わらせて、ペンを置く。

 もう少しで午後の授業がはじまる。


 ぼんやりと机の上に視線を落として、チャイムが鳴るのを待った。

----------------------
ここまで
次回は9日(日)17時くらいからの予定です


 ――――今日の授業を終えて、みんなで合流していつもの訓練場所に歩き出す。

 早速今度の試験のことを話題にしていた。


さやか「あ、そうだ! テストのときはテレパシーでマミさんが答えを教えるっていうのは……」

マミ「お断りよ」

さやか「厳しいなぁ……。キリカさんは」

キリカ「……自分でやらないと意味ないよ」

さやか「ですよねー。ああ、こうなったら将来は『正義の味方』ということで決意を固めるしか」

まどか「さやかちゃん……諦めて勉強しなよ」


 ……案の定、さやかも学業のほうがおろそかになってたらしい。

 今日はさやかだけじゃなくまどかまで課題を忘れてたらしく、マミ以外はみんな似たり寄ったりだ。


さやか「あー、ホント、訓練したり魔女倒したりしてるほうが楽だなぁー」

マミ「美樹さん、魔女と戦うのは命懸けなんだからね」

マミ「ベテランだって命を落とすことはあるの。新人のうちは尚更気を付けないと」

さやか「わかってますよう」


 ……土手に着いて、バッグを芝生の上に放る。

 それから、パトロール前の準備運動に、変身してみる。


キリカ「……」


 ……白い手袋をはめた手をじっと見つめる。

 なんとか考えてみても、そこに刀以外を出すイメージが作れない。

 そもそも『魔力』なんて概念があやふやすぎて、どう扱えばいいかすら手探りだ。


マミ「どうしたの?」

 ……変身したまま暫く何もせずに考えていると、マミが声をかけてきた。

キリカ「一応昨日言ってた刀以外の武器っていうのも出せないかなって思ってたんだけど……」

キリカ「やっぱ、やり方わかんないや」

マミ「……呉さんはやっぱり、自分の武器が合わないと思う?」

キリカ「うーん……それはだって、前に出て戦うのは怖いし」

マミ「でも、これは推測なんだけど」

マミ「魔法少女の武器ってその人の願いとか、生まれつきの資質……もしくは心とかで決まってるんだと思うのね」

マミ「だからきっと、どうしても合わないってことはないのよ」

マミ「それでもやっぱり合わない気がするなら、心の持ち方を変えてみるのはどうかなぁって思うんだけど」

キリカ「心の持ち方……」


キリカ(……そんなこと言われたって、どうすればいいんだろ?)

キリカ(頑張ろうとしてもやっぱり臆病で一歩引いちゃうのが私なんだから、しょうがないじゃない)


 ……結局、出したのはいつもの武器だった。

 ずしりと両手に載った金属がやけに重く感じた。 心持というのなら、その分の重さでも表しているようにも思えた。


 ……結局、準備運動に素振りをした後、少しだけ投擲の訓練をして心を落ち着かせてから出発することになった。

 今日はまた一昨日とは違う回り方でパトロールをするらしい。



キリカ「……あ、そういえばさやかは途中で抜けるんだよね?」

さやか「はい。ちょっと用事があって、あんまり遅くにはしたくないんで……」


 ……さやかはちょっと嬉しそうな、落ち着かない様子だ。


キリカ「まどかは何の用かは知ってるの……?」

まどか「えーと、まあ察しはついてますけど」


 まどかはそう言うと、さやかの耳元でごにょごにょと何かを言った。

 ……その途端、さやかの顔が赤くなる。

 あれ? これってもしかして?


さやか「――いや、まあ、そうなんだけど!」

キリカ「え? 何?」

マミ「楽しそうね。何を内緒話してたの?」

まどか「言っていい?」

さやか「お、お見舞いです。幼馴染の」


キリカ「……それでえっと、一人だと色々と危険だから、まどかも一緒のほうがいいのかなって話そうとしてたんだけど……」

まどか「あー……わたしは遠慮しておきます」

マミ「そうね……こればっかりは、そのほうがいいわね」

キリカ「……無粋だったね、ごめん」

さやか「ちょっとー! みんなしてなんですかその反応は!」


 そんなことを話しているうちに、最初の目的地が見えてくる。

 ……もしかして、度々用事があるって言ってたのって全部その人のお見舞いだったのかな。



 下1レスコンマ判定
0~20 使い魔
21~40 魔女


マミ「近くに使い魔が居るわよ、倒しに行きましょう」

まどか「上条君に会いに行くためにも、早く終わらせよう!」

さやか「もー!」


 ……みんなでマミについていく。

 使い魔とはいっても、今度こそ私も少しは活躍を…………



―鳥かごの魔女結界



さやか「せいっ、たあッ!」

マミ「はいっ!」


 狭い路地に魔女結界を見つけると、鳥のような使い魔がその中を飛び回っていた。


さやか「キリカさん、そっち行きましたよ!」

キリカ「えっ、わあっ!」


 ――やがて、結界の中の敵を殲滅し終えると、景色はただの薄暗い路地裏へと戻った。

 距離が離れてたら斬るのも難しいはずなのに、さやかはそんなこと関係なく閃光のように突撃して斬りに行っていた。

 マミはさやかが倒し残したものをすかさず撃ち落としていた。


 ……やはり二人は率先しててきぱきと倒していて、私は自分のところに来た敵の対処で精一杯だった。


さやか「ふー、これで一安心ですね!」

マミ「ええ、じゃあ次行きましょうか」


キリカ(……やっぱり、心持の違いかな)


 ……そう思って二人を見ていると、ふとあることに気づいた。


キリカ「……さやか、そこ傷ついてるよ。あ、ここも」

さやか「え? ホントだ。こんなのすぐ治りますよ。それに、こう見えてあんまり痛くはないんで」

マミ「治しておいたほうがいいわよ。傷だらけじゃ上条君が心配しちゃうわ」

さやか「それまでには治りますって。あたし、回復力は高いらしいんで」


 ……やっぱり、あんなふうになりふり構わず突撃してたら、無傷ってわけにはいかないんだ。

 さやかに近づくと、その腕を掴んだ。

 魔力を通すと、小さな傷が消えていく――……傷を治す魔法、使うのこれで初めてだな。


さやか「なにしてるんですか……ほっときゃ治るんですって。わざわざ魔力使うまでも……」

キリカ「……さっきの使い魔戦も、この前の時も、私はほとんど魔力使ってないから」

キリカ「そこまでなりふり構わず攻撃しないでもいいんじゃないかな……」


 ……そのためにも、もうちょっとは頼れる人にならないと。


さやか「……ありがとうございます」



キリカ 魔力[113/130] 状態:正常
GS:1個
・落書き[100/100]

―公園


 ……路地裏を出ると、駅前のほうを通って住宅街を歩く。

 夕方前の公園は、まだ子供たちの姿がたくさんあった。



 下1レスコンマ判定
0~20 使い魔
21~40 魔女


さやか「また魔力の反応です!」

マミ「ええ、また使い魔がいるみたいね」


 ……この公園はそこそこ広い。

 このあたりに居るといっても、ソウルジェムの明滅だけを頼りにしていては探すのは難しかった。

 私もいつか、魔力を感じ取れるようになれるのかな。まどかは慣れだと言っていたけど……



―芸術家の魔女結界



マミ「飛んでいる使い魔は私が対処するわ。二人は人型をお願い」

さやか「了解です!」

キリカ「う、うんっ……!」



キリカ 魔力[113/130] 状態:正常
GS:1個
・落書き[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv0] [格闘Lv1] [射撃Lv1]


敵:代表作×4 <-攻撃対象
  意欲作×3

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。

 下1レス


さやか「でぇあっ!」


 さやかが一足先に使い魔の塊に突撃していく。

 近づかなきゃ倒せない。それはそうなんだけど。

 ……4体というのは多分多いほうじゃない。そう思ってる間にもさやかが一体倒していた。

 一人に任せるわけにはいかないんだけど、邪魔になったりはしないようにしないと。


キリカ「っ!」


 さやかに続いて敵に近づくと、使い魔がこっちに反応して近づいてくる。

 ふらふらと腕を上げて、不気味だ。ここまできたらさっさと倒してしまうしかない。


 ……なんとか一体倒して、その直後に何かガクンと身体が重くなるような、眩暈のするような感覚がした。

 使い魔が横から近づいてきていた。

 上に挙げた手を振るって叩くのではなく、何か体力とかそのものを吸い上げるような攻撃をするらしい。


 ――向きなおったところで、さやかがその使い魔を斬った。


さやか「これで終わりッ!」


マミ「こっちも片付いたわ。これで全部なようね」

キリカ「なんか、疲れた……なんか嫌な敵だったな」

さやか「あー、なんかあの攻撃気持ち悪かったですよね」


 ……やっぱり、さやかも攻撃受けてたんだ。


まどか「みんな、お疲れ様! 連戦だけど、大丈夫……?」

さやか「へーきへーき。 じゃ、あたしはそろそろ行ってきますね」

マミ「ええ、いってらっしゃい」

キリカ「あ、もしまた佐倉さんに会っても、挑発に乗ったりしたりしないでよ……?」

さやか「わかってますって! みんな、お疲れ様でした!」


 さやかが手を振って公園から離れていく。


マミ「私たちももう少し回ったら解散にしましょうか」

まどか「はい!」


 私たちも、さやかの出たほうと反対側の出口を通って公園を出る。

 この後は学校付近の通学路を回る予定だ。

 私ももう少しだけ気合いを入れることにした。


 …………通学路を一通り歩き終えて、道の隅に立ち止まる。

 今日のパトロールはこれで終了だ。


マミ「みんな、お疲れ様」

まどか「お疲れ様でした」

マミ「じゃあ、今日はこれで解散でいいかしら?」

キリカ「うん。じゃあ、また明日」

まどか「また明日です、マミさん」

マミ「ええ、またね」


 いつものように挨拶をして、マミと別れる。

 ……それから、薄暗くなった帰り道をまどかと二人で歩く。

 通学路と一口にいっても広い。あまり歩いたことのないような道も歩くのは新鮮だった。


まどか「今日はどうでした?」

キリカ「うーん……やっぱり、あんまりみんなと比べると活躍できてないけど」

まどか「そりゃさやかちゃんや、ベテランのマミさんやに比べたらそうかもしれないですけど……」

まどか「やれることをやっていけばいいと思いますよ」

キリカ「うん……ありがとう」



1自由安価
2さやかの戦い方について

 下2レス


キリカ「……ところで、まどかはさやかの戦い方ってどう思う?」

キリカ「臆せず戦っていけるのはすごいけど、よく見てみたらやっぱり傷ついてるんだなって思って」

まどか「そうですね……やっぱりちょっと、危ないところはあると思います」

まどか「いくら回復力が高いからっていったって、傷ついてもいいことにはならないし……」

キリカ「それで助けられることもいっぱいあるんだけどね……」


 まどかも心配しているらしい。


キリカ「……さやかといえば、幼馴染の上条君ってどんな人なの?」

まどか「上条君は今交通事故で入院してて……前からさやかちゃんはよくお見舞いに行ってたんです」

まどか「事故に遭う前は、すごいバイオリニストになれるってくらいバイオリンが上手だったんですけどね……」

まどか「怪我が治るまで演奏もできなくなって、治ったとしても後遺症とか、復帰できるかわからないって感じでした」


 過去形の言い方が引っ掛かって、回復力の高いさやかの祈りに思い至った。


キリカ「もしかしてさやかの願いって、その人に関係してるの?」

まどか「……はい。さやかちゃんが契約して腕は治ったんですけど、まだ検査やリハビリがあるみたいで」

まどか「まだ退院にはもうちょっとかかるらしいです」

キリカ「そっか……でももうすぐ退院できるんだね」


 ……話している間に、日が少しずつ傾いていっている。

 まどかと二人だと、大分雰囲気は穏やかだ。

 最近さやかも一緒に居ることが多かったから、この静かな感じが少し寂しくも感じていた。


 ――――が、その途中で何か怒鳴り声が聞こえてきて、二人で肩を跳ねさせた。

 見てみると、何か言い合っているらしい。閑静な住宅街でヒステリックな金切声が響いている。


*「この泥棒猫! あんたのせいであたしの人生めちゃくちゃだわ!」

*「何をおっしゃいこの嘘吐き女! 悪いのは全部あんたよ!」


キリカ(……なに? 昼ドラ?)

キリカ「まどか……ちょっと別の道にしよう」

まどか「待ってください……あの人たち、首筋に魔女の口づけがあります」

まどか「魔女に魅入られてるんです……おおごとにならないうちに助けてあげないと」


 ……まどかに言われてソウルジェムを見てみると、確かに光っていた。

 こうなると、逃げることしか考えてなかった私が恥ずかしく思えた。

 やっぱり正義の味方、向いてないのかな。


*「[ピーーー]を[ピーーー]して[ピーーー]してやる!」

*「なにを! [ピーーー]で[ピーーー]して[ピーーー]!」


キリカ「あわわ、どうしよう」

まどか「こういう時は……魔法で眠らせるんです」

まどか「今日、さやかちゃんの傷を治してましたよね……そういう魔力の使い方が出来るなら、きっとそれも出来るはずです」

キリカ「う、うん……!」


 …………まどかの言うとおり、なんとかやってみると出来た。

 マミやさやかが居たらまた任せちゃってただろうし、これもやってみれば意外と出来るっていうことなのかな。


キリカ(結界はどこだろ?)


 明滅の強さを頼りに歩き回って探していく。

 ……こういうとき、マミがどれだけ頼りになっていたかを思い知らされる。

―銀の魔女結界



 結界に入ると、なにやら黒い塊がうようよとしていた。周囲を警戒しながらなんとか進んでいく。

 まどかも連れているからなるべく逃げずに倒すようにしていたけど、その分消耗も激しい。

 どうせこの使い魔は足が遅い。中ほどまですすむと、まどかの手を引いて、なんとか最深層まで駆け抜けてきた。


キリカ「はぁ……、はぁ……」

まどか「あ、あの、もしかしてわたし、足手まといになってますか……?」

キリカ「いや、そんなこと……」

まどか「マミさんに連絡した方がいいですか?」

キリカ「でも、待ってる間に誰か取り込まれたら…………」


 ……それに、いつも二人に任せきりで、こんなときくらいは頼りたくなかった。

 一人でもちゃんと出来るって思いたかった。

 無意味な意地だってわかっているのに、そんな思いが心の中にあった。


まどか「一応呼んでおきますね……来る前に倒せたら、それは一番いいんですけど」

まどか「じゃあ、行きますか?」

キリカ「……うん」



 最深部に足を踏み入れると、開けた場所に出た。

 ……中には魔女と思しき錆びの塊と、道中で見た使い魔……と

 ……バイクのような形をした使い魔?



キリカ 魔力[113/130] 状態:正常
GS:1個
・落書き[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv0] [格闘Lv1] [射撃Lv1]


敵:Gisela
  Dora×10 <-攻撃対象デフォルト
  変形Dora×3

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。

 下1レス


 ……三体くらい固まっている錆びの使い魔に目を向ける。


キリカ(とりあえず……近づいてもいいことない)

キリカ(いきなり出てきた道中は仕方なかったけど、この広い場所だったら距離をとりながら戦える!)


下1レスコンマ判定 倒すのにかかる魔力(ターン数)
0~25 3ターン
26~50 4ターン
51~75 5ターン
76~99 6ターン

補正-4


 使い魔に小刀を投げ込み、それから回り込んでもう一発投げ込む。

 それの繰り返しで逃げながら戦っているような感じだけど、確実に倒せていっている……


キリカ(やった……!)


 ……まずはこのまま使い魔を先に倒しておくべき?

 それとも、次はどうしよう……?


キリカ 魔力[109/130] 状態:正常
GS:1個
・落書き[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv0] [格闘Lv1] [射撃Lv1]


敵:Gisela
  Dora×7 <-攻撃対象デフォルト
  変形Dora×3

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。

 下1レス


 ……次に狙う使い魔を決めて、できるだけ足音を立てないように駆けだす。

 一体の使い魔を狙って、手中に作った小刀を構える。



下1レスコンマ判定 倒すのにかかる魔力(ターン数)
0~25 3ターン
26~50 4ターン
51~75 5ターン
76~99 6ターン

補正-4


 二回目だからか、さっきよりは少し慣れてきた気がする。

 ……やっていることは地道な作業だ。


まどか「キリカさん! 後ろから使い魔が――!」


 ――――しかし、無事に倒せたと思ったのもつかの間、まどかの声の直後エンジン音のようなものが聞こえた。

 いつのまにかバイクが突撃してきていた。


キリカ「ッ! きゃっ……」



 下1レスコンマ判定
0~50 回避
補正+3


キリカ「痛っ……」


 横腹に衝撃を受けて吹き飛ばされる。

 使い魔はまた突撃してくるつもりだ。


キリカ(こうしてたらまずい――)



1バイクは直線移動。回り込む動作には弱いかも?
2直線移動なら、正面に剣を構えれば自滅してくれるのでは?

 下2レス


 ――咄嗟に選んだのは、回り込めればということだった。

 ……しかし、私はそれができるほど速く動けない。

 それに気づいたのは、バイクが身体に触れそうに迫ってからだった。


キリカ「ぐっ……――」


 痛い。ヤバい。どうしよう。逃げたい。

 こうなると逃げることしか考えられず、立ち上がってなんとか逃げようと走ろうとする。

 でもそれじゃ、また――――


キリカ「ッ、……ぁぁぁああ―――ッ!」


 ……剣を抜いて、全力で斬りつける。

 バイクはいつのまにか砕け散って消えていた。

 ああ……そうか。こんなに簡単なことだったのに。


 膝をついて、今度こそ周囲を警戒しながら傷と魔力を回復する。


キリカ(…………使い魔が増えてる。地道に倒せてても、あんなに時間をかけてちゃ駄目なんだ)

キリカ(早く、魔女を倒さないと……)



キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:1個
・落書き[16/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv0] [格闘Lv1] [射撃Lv1]


敵:Gisela <-攻撃対象デフォルト
  Dora×4
  変形Dora×2

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。

 下1レス


 近づいて魔女に向き合うと、

 空中に小刀をいくつか作って、その刃をブーメラン状の魔力の刃に変えて一か所に撃ちこんでいく――




 コンマ判定 有効度
0~50 撃破
※1ケタ0でクリティカル


 ――――ここまで地道にやっても、最後は結局大きい技を叩き込まないと倒せないんだ。

 魔女の落としたグリーフシードを拾って、やっと一息つく。


 やっぱり、私一人じゃ厳しいんだなって思い知らされた気分だった。

 さやかのあのなりふり構わず戦える勇敢さと、動きの速さ。マミの安定したフォロー。

 あれにいかに助けられてたかがわかる。


キリカ「……倒すの、大分時間かかっちゃったよね……段取り悪くてごめん」

まどか「いえ……しょうがないですよ。一人ですし」

まどか「途中は本当にひやひやしてましたけど……なんとか無事でよかったです」

キリカ「そういえば、マミはまだ来ないのかな……」


 呼び出しちゃったけど、もうちゃんと片づけられたってことは言っておかないと。

 そう思って鞄を取って携帯を出そうとすると、何か小さい生き物が走ってくる音が聞こえた。


 ――キュゥべえだ。


★魔力コントロールLv0→Lv1

★射撃Lv1→Lv2


キリカ 魔力[105/130] 状態:正常
GS:2個
・落書き[16/100]
・銀[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]

今気づいたけど、>>90は下何レス?

気になったけどワルが来るまで時間ってある?

>>94 書忘れてたけど1レスのつもりだったかと思います…2でも撃破でしたが
>>95 ワル夜は17日です
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QB「二人とも、大変だ!」

まどか「そんなに急いでどうしたの? キュゥべえ」

QB「今マミが杏子と戦ってる」

キリカ「マミが……?」

QB「どうやらはっきりと決着をつけようということらしい」


 マミならさやかの時みたいなことにはならないとは思うけど……万一ということもある。

 それに決着って――ないとは思うけど、もし負けたらマミはどうする気なんだろう……?



―――

―――キリカが魔女と戦い始めるより少し前。

―――少し夕飯の買い物をして帰ろうか。またお茶会の時に作るケーキの材料も買わなくちゃ。

―――そんなことを思いながら歩いていた頃だった。


杏子「よう、一人か? お仲間には早くも見限られちまったのかい?」

マミ「もう今日のパトロールは終わったところなの。みんなが私を裏切るわけないでしょ」

マミ「……あなたと違ってね」

杏子「本当にそうだといいけどな」

マミ「あなたこそ、この前から何の用なの?」

マミ「いつまでこっちに居るつもり? これ以上私の仲間に変なこと吹き込まないで」

マミ「みんなには手を出させない……私が決着をつければ気が済むなら相手するわ」

マミ「気に入らないことがあるのなら、それが筋ってものじゃないかしら?」


 ……マミがキッと杏子を睨む。


杏子「……ハッ、なんだよその顔は」

杏子「いや、そうだな。あたしもそろそろあんたにはムカついてたとこだ」

杏子「いいぜ、乗ってやるよ。あたしとアンタ、どっちが正しいかはっきりさせようじゃないか」

杏子「昔のあたしだと思うなよ」

―――


 ……キュゥべえからざっくりと話を聞いて、まどかと一緒に走り出した。

 多分実力差もそれほどない二人だから、戦いもすぐに終わらないはず。

 さやかの時ほど実力差がないからこそ、白熱すれば危険なこともあるかもしれない。


キリカ「それって、どこなんだっけ!?」

QB「工業地帯近くの人気のない通りだ。僕が案内するよ」

まどか「マミさん、無事なんだよね……!?」

QB「わからない……急いだ方がいいよ」


 ――――キュゥべえの言っていた付近までは、もう少しだ。

 先を走っているキュゥべえについて走っていると、その途中で目の前のその姿が『なくなった』。


 ……粉々に散ったのだ。

 突如飛んできた何かにより――赤い液体をまき散らして。


まどか「えっ……!?」

キリカ「ッ――!」


 前方に向けて勢いのつけていた身体を急停止させ、まどかを下がらせる。

 キュゥべえを襲った『何か』は、やはりまた続けて二発三発と目の前に撃ちこまれる。


キリカ(なんでこんな時に…………!?)


?「………………」


 歩道橋の真ん中、振り返れば、冷たい目でこちらを見下ろす魔法少女の姿があった。

-----------------
ここまで
次回は16日(日)17時くらいからの予定です


まどか「あなたが美国織莉子さん……なの?」

まどか「!!」


 謎の魔法少女はその言葉にまどかのほうを見たが、

 答えることなく、話す気はないというように攻撃を続けようとした。


キリカ「っ、う…………」


 ――まどかのほうを狙ったものだと気づくと、咄嗟にまどかの前に出て庇うように動いた。

 ……すると、魔法少女の視線はこちらに移る。

 変身して、剣を抜く。


キリカ「戦うなら相手はこっちだ! まどかはもう魔法少女には関係ない……!」

キリカ「――まどか! 危ないから出来るだけ遠くに逃げて!」

まどか「は、はい……!」


 変身して剣を抜くと、目の前の敵に向けて駆けだす。

 どうやらやっぱり、佐倉さんのように戦えない人には手を出さないというような人ではないようだ。

 相手はマミの言っていた通り、魔法少女じゃなくなってもその素質の高さを懸念してまどかにも危害を加えるかもしれない。


 ――至近距離まで間合いを詰めていく。

 さやかみたいな勇気を出さなきゃいけないとしたら、それは今だ。

―――



まどか「はっ……、はっ……」


 まどかは息を切らせて走っていた。

 戦場に背を向け、更に人気のないほうへと向かう。


まどか(やっぱり、魔法少女じゃなくなってから体力も少し落ちてる気がする……)

まどか(とにかく、早くマミさんに知らせにいかないと……!)


 案内役のキュゥべえがいなくなってしまったから、正確な場所はわからない。

 魔力を察知することもできなくなってしまったのが、この時一番に悔やしく思えた。


 そもそも、自分が戦えていれば。


まどか(……そう思うのは、わざわざ自分のために契約したキリカさんの思いを踏みにじることなのかな)

まどか(でも、やっぱりわたしだけ守られてばっかなのは嫌だよ)


 キュゥべえ。今、もしわたしに願いがあるとしたら――――

 そう口にしようとして、でももうキュゥべえも居ないんだということが胸の中に重く響いた。



?「そんなに急いで、どこにお行きに?」


 ――近くから聞こえた声にまどかは足を止めた。

 声と同時に腕を掴まれ、再び走り出そうにも振りほどくことも出来なかった。


まどか「は、放してくださいっ! 今急いでるんです……!」


 腕を掴む力は見た目よりも強い。

 その雰囲気から、ただものでないことはまどかにもすぐに察せられた。

 待ち伏せされた?

 ――そう思うと、心の中にひやりとしたものが走った。


まどか「あなた、誰……?」

?「…………」


 ……魔法少女は不気味なくらい穏やかににこりと笑みを浮かべた。


まどか「もしかして、あなたが美国織莉子……」

?「さあ。どうでしょうね?」


 ――その名を知らなければ、こんな答え方はしないはずだ。

 まどかはほぼ確信に近いものを感じた。

 本人か、その仲間か。どのみち、この人たちに捕まったら自分は……――――


 まどかが警戒するように身体を強張らせる。

 しかし、そんなまどかにかけられたのは思いがけない言葉だった。



―――

―――


キリカ「ッ……」


 両手で交互に振るう刃は、ひらりと避けられるばかりだ。

 相手の動きは大して速いわけでもないのに……。


 ……単に私の動きが下手くそだからというのはあるんだろう。

 使い魔や魔女とは違う。攻撃すれば倒せるなんて簡単なものじゃない。

 けど、未来を予知する魔法……それも関係してるんだろうか。




キリカ 魔力[105/130] 状態:負傷(小)
GS:2個
・落書き[16/100]
・銀[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:???

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6自由安価

 下1レス


キリカ(それでもっ……)

キリカ(動きを止めたらやられる! せめてここで食い止めないと――!)




 下1レスコンマ判定 戦況
0~(劣勢) < 99(優勢)

+一桁0クリティカル(劣勢時は相手、優勢時は自分)

+補正-17
+補正???



キリカ「くっ…………!」


 ……ほとんど、攻撃を受け止めるだけで精一杯だ。

 それでも、全てを受け止めたり避けたりはできずに少しずつ消耗していく。

 それは相手も同じだろうけど、やっぱりこちらのほうが少し押し負けている……――



キリカ(このまま長期戦になったらまずいかも)

キリカ(まどかはもう無事に逃げられたかな……)



キリカ 魔力[105/130] 状態:負傷(小)
GS:2個
・落書き[16/100]
・銀[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:???

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6自由安価

 下1レス


 刀を持つ両手にぐっと力を入れ、勢いをつけるように地面を蹴る。

 このまま押し切られて削り殺されるよりは、多少のリスクは覚悟で大技を――――!

キリカ「はぁあッ……!」

 このまま、練り上げた魔力と全ての力を振るう。


キリカ(ッ――――! 避け……)


 ――――しかし、それが当たることはなかった。

 横を抜けられると同時に足元を狙った攻撃に途中で勢いを削がれ、

 止められない力がその方向を見失って地面につんのめりそうになる。


キリカ(敵に背を向けてるのはまずい……!)


 地面に手をついて後ろを振り返ろうとすると、その瞬間に見えていない右頬に衝撃と痛みが走った。


キリカ「きゃあっ!」


 思わず身を縮こませる。

 立ち上がらないと。


 ――距離を空けられたらまずい気がする。

 正確さも連射性も、遠距離の魔法少女相手には打ち合いじゃ勝てない。




キリカ 魔力[105/130] 状態:負傷(中)
GS:2個
・落書き[16/100]
・銀[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:???

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6自由安価

 下1レス



 立ち上がるのと同時に、刀を振るい、刀身からゆらりと形を歪ませた魔力の塊を投擲する。

 刀身のなくなった刀を放ると、距離を詰めるように走り出して左手から刀を持ち替える。



 下1レスコンマ判定 戦況
0~(劣勢) < 99(優勢)

+一桁0クリティカル(劣勢時は相手、優勢時は自分)

+補正-13
+補正???


キリカ(また避けられた……!)


 一撃一撃は立っていられないほどの重みはないが、避けるのは難しい。

 痛みに慣れてないのなんてしょうがない。

 少しどこかに身体をぶつけただけでも痛いのは当然で、今まで戦うなんてこと想像することもなかったんだから。


 ……倒れこんだ瞬間に、背中から激しい痛みが襲う。

 どんな攻撃をしたのかはわからないけど、大技をここまで取っておいたらしい。


キリカ(なんでこんな時にって思ったけど、きっとこんな時だからこそ狙ったんだ……)

キリカ(さやかは用事で居ないし、マミは佐倉さんと戦ってる最中)

キリカ(敵からすればいい具合に分断されてて、だからこっちに来たんだ――)


キリカ(――――私が一番、弱いから?)


 さやかは俊敏で、回復が得意。遠くの敵でも関係なく、閃光のように一瞬で間合いを詰めて自分のペースに持っていける。

 マミはベテランだし器用だ。武器としては使いにくいはずのリボンを巧みに操って、銃まで作り出して完璧に使いこなしている。


 私は……私の取柄は何もないの?



 ……意識が遠のいてきた。

 私の取柄は何もないらしい。私にしては結構頑張ったつもりだったのにな。

 こんな誰だかわからないままの相手に負けるなんて、嫌だな……。


――――

========================================
 ※基本的に運要素でバッドエンドは嫌なので、
  敗北はコンティニュー無制限です※

コンティニュー
・(>>108~119)

 下2レス
========================================

==============
やり直し >>108
==============
―――


キリカ「ッ……」


 両手で交互に振るう刃は、ひらりと避けられるばかりだ。

 相手の動きは大して速いわけでもないのに……。


 ……単に私の動きが下手くそだからというのはあるんだろう。

 使い魔や魔女とは違う。攻撃すれば倒せるなんて簡単なものじゃない。

 けど、未来を予知する魔法……それも関係してるんだろうか。




キリカ 魔力[105/130] 状態:負傷(小)
GS:2個
・落書き[16/100]
・銀[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:???

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6自由安価

 下1レス

5


 まずはいつもどおり小刀を投げつけてみる。

 ……この程度じゃ焼け石に水だ。

 遠距離の魔法少女相手じゃ正確さも連射性も劣ってしまう。打ち合いでは押し負ける――



キリカ 魔力[104/130] 状態:負傷(小)
GS:2個
・落書き[16/100]
・銀[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:???

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6自由安価

 下1レス


 足にぐっと力を入れて、再び前に向けて走り出す。


キリカ(ここで動きを止めたらやられる! せめて食い止めないと――!)



 下1レスコンマ判定 戦況
0~(劣勢) < 99(優勢)

+一桁0クリティカル(劣勢時は相手、優勢時は自分)

+補正-17
+補正???


キリカ「っ……!」


 こちらはほとんど攻撃を受け止めることもできてないのに、振るい続ける刃はひらりと避けられ届かない。

 一撃一撃は立っていられないほどの重みはないけど、じりじりと追い詰められている。


 後がない――――! このままだと押し切られてしまう。




キリカ 魔力[104/130] 状態:負傷(中)
GS:2個
・落書き[16/100]
・銀[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:???

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6自由安価

 下1レス


 一歩分下がり、空中に出した小刀から魔力の刃を射出する。

 間髪入れずに――――



キリカ 魔力[94/130] 状態:負傷(中)
GS:2個
・落書き[16/100]
・銀[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:???

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6自由安価

 下1レス


 ―――間髪入れずに、

 わずかにリーチに届かない間合いから刀を振るい、刀身からゆらりと形を歪ませた魔力の塊を投擲する。

 それからもう一歩を踏み出して左の刀を振るう。


キリカ「はぁあッ!」



 下1レスコンマ判定 戦況
0~(劣勢) < 99(優勢)

+一桁0クリティカル(劣勢時は相手、優勢時は自分)

+補正-13
+補正???


キリカ(踏み込みが甘い――!)

キリカ「っ……!」


 外した、と思ったのと同時に見えていない右頬に痛みと衝撃が走って思わず身体が強張る。

 さっきからそうだ。あと少しの踏込みが足りないから攻撃が届かない。


キリカ(…………)


 剣を握って、顔を上げる。


 ……狙っているかのように嫌なところにばかり攻撃が来る。

 マミが言っていた。投擲や射撃のコツは動きを予測すること――だとしたら、予知という魔法は相性が良いんだろう。


 痛みに慣れてないのなんてしょうがない。

 少しどこかに身体をぶつけただけでも痛いのは当然で、今まで戦うなんてこと想像することもなかったんだから。


 それでもなんとか体勢を崩さないように、目をつむらないようにというので精いっぱいだった。


キリカ(なんでこんな時にって思ったけど、きっとこんな時だからこそ狙ったんだ……)

キリカ(さやかは用事で居ないし、マミは佐倉さんと戦ってる最中)

キリカ(敵からすればいい具合に分断されてて、だからこっちに来たんだ――)


キリカ(――――私が一番、弱いから?)


 さやかは俊敏で、回復が得意。遠くの敵でも関係なく、閃光のように一瞬で間合いを詰めて自分のペースに持っていける。

 マミはベテランだし器用だ。武器としては使いにくいはずのリボンを巧みに操って、銃まで作り出して完璧に使いこなしている。


 私は……私の取柄は何もないの?


キリカ「!」


 ――――途中からほぼ防戦一方に回っていたが、一瞬、攻撃が途切れた。

 罠かもしれないと思いつつも、目を見開きどこか驚いたような表情をしていることに気づく。

 なんにしたって、このまま何もできずにやられるよりはずっとマシ――――


 ――今だ、踏み込め。

 剣を両手で握り、走っていく。


 攻撃の間をくぐり抜け、再び至近距離まで間合いを詰める。


 ――柵に追い詰めるように体重を乗せて肘で突き飛ばし、刃を魔法少女に向けた。


?「…………」


 ……こんな状況でもまだ何も喋らない。

 以前まどかを襲った時も、通り魔のようにいきなり襲ってきたらしい。

 未だにひたすら冷静な冷たい表情と合わさって、なんだか人間味が感じられず、機械か何かのようにすら思えた。


キリカ(……どうしよう? どうするかはマミが来てから決めたほうがいい?)



キリカ 魔力[62/130] 状態:負傷(中)
GS:2個
・落書き[16/100]
・銀[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]



1自由安価
2「なんで私たちを狙うの?」
3「もう手を出さないって約束してくれる……?」
4……とりあえずソウルジェムだけでも奪って待つしかないか

 下2レス

マミを呼んでくる間に2と4
あとこの魔法少女の容姿や衣装、攻撃武器などを見定める

4

この魔法少女クーほむじゃないよな?


キリカ「なんで私たちを狙うの?」

?「…………」


 ……魔法少女はやっぱり答えない。


キリカ「……状況分かってるのか!?」

キリカ「私たちは縄張りのためって考えてるけど……違うの? それともしゃべれないの!?」

キリカ「死ぬのも怖くないとでもいうつもり!?」


 刃の触れた首元からわずかに血が流れ、ひらひらとした白い衣装を赤く滲ませる。

 整った顔立ちだからこそ、この冷たい表情が更に人間味がないように見えて恐ろしく見える。


キリカ「……マミが来るまでは私はこれ以上手を出さないけど、これからみんな揃ったら……――」


 ソウルジェムだけでも奪っておいたほうがいいかと思い、

 胸元にある真珠のような色の宝石に目を移し、手を伸ばそうとする。


 ――――しかし、その動作に刀を持つ右手から一瞬気が逸れたのが原因か。そもそもここまでもたついていたせいか。

 手首に衝撃を受けて武器が手から落ちる。


キリカ「…………!!」


 突き飛ばされたかと思うと、そのよろけた隙に水晶を身体に受け、後ろに飛ばされて体勢を崩す。

 ……まるでさっきとは反対だと思った。


 ――――しかし、私の身体が柵に打ち付けられることはなかった。



キリカ「え、あっ……――!?」


 わけがわからず後ろを振り返る。 ――柵に打ち付けられるはずの衝撃は来ず、その代わりの浮遊感に全身を冷たいものが走った。

 後ろに体勢を崩した身体を支えるものがない……いつのまにか柵が壊れている?


キリカ(あの時の水晶……避けたと思ったのが、後ろの柵のほうに――)


 こうなったのが偶然なのか、こうなることを予測して狙ったのかはわからない。


 ――――予想をしていても避けられない衝撃が身体全体に走り、その拍子に肺の中の空気が全て吐き出されたように呼吸ができなくなる。

 ぼんやりと今まで自分の居た歩道橋の上を見れば、やはりこちらを見下ろす極めて冷静な瞳がある。

 逆さまに落ちていく道路には、今も絶え間なく車が通っている。


 けたたましいクラクションの音にそちらに目を向けると、

 近づいてくる車と、その奥にぴかぴか光る『事故多発注意』の電子看板が、やけにはっきりと左目の奥に焼き付いた。


 ……撥ねられる――死ぬ。


 そう思った時、ごく近くからギギィ、と急ブレーキをかける音が激しく響いた。

 ――これ以上の衝撃が身体を襲うことはなかった。その代わりに、衝撃音は自分とは少し離れたところから聞こえた。

 絶え間なく車が続いているところで急ブレーキをしたせいで、後続車が玉突き事故を起こしたらしい。


キリカ「ッ――――」


 再び上を見る頃にはあの姿はなく、代わりに見知った仲間の姿が身を乗り出してこちらに叫んでいた。

 ……あの勝負は一体どうなった?

 事故の起きたほうから何かを叫ばれているが、耳には入らなかった。

―――

―――


 二組が戦っているちょうど中間くらいの場所で、

 歩道橋から逃げてきたまどかはまたも知らない魔法少女に捕まっていた。



?「――――そんなことより、折角だから少しお話でもしましょうよ」

 ……美国織莉子の名前を知る人物。本人か仲間か。

 まどかが身構えた矢先、思いもよらない言葉をかけられた。


まどか「話って――――」


 ――――まどかが問いかけようとした瞬間、目の前で、魔力の輝きが迸る。

 まどかがガクンと俯き、地面に視線を落とす。

 光が収束する頃には、警戒に強張らせていた身体からは力が抜けていた。


まどか「…………」


?「それにしても、やっぱり美国織莉子って名前、知られてたんですねぇ」

?「大体焦りすぎじゃないですか? あんなに周到にやってた割に、もう正体推測されちゃって」

?「秘密主義すぎるんですよね、あの人。 一応対等な協力関係ってことだったんですけどねえ……」

?「駒になる気もないし、むしろ私は支配する側なんで」

?「一体あなたと美国織莉子の間に何があったんです? 死ぬ前にちょっと教えてくださいよ」

まどか「…………」

?「……あー、そういえば会ったこともないんでしたっけ?」

?「じゃああなた、一体なにやらかしたんです?」

まどか「わからない……なにもしてないよ」

まどか「わたし、行かないと……」

?「へえ? どこにです?」


まどか(あれ? わたし、どこに行こうとしてたんだっけ……?)

精神操作系の魔法でこのしゃべり方は沙々か?



 ……どことなくぼーっとする頭の中、まどかは素直に受け応えている。

 ――――それから暫くした後、魔法少女はため息をついた。


まどか「…………」


?「……なーんか、要領を得ませんねぇ」

?「契約し直されたら厄介そうなのはわかったけど、それだけでわざわざこっちに戦力割いてまで殺らせるか?」

?「ろくに魔力の回復もできないなんてゴミかよ。駒としても使えねェ」

?「…………そろそろ殺っときますか」


 未だ俯いたままのまどかに向けて、魔法少女が武器を振り上げる。

 ――――しかし、それは振り下ろされることなく空中で止められることになる。


マミ「何やっているの!?」

?「……チッ、時間かけすぎたか。こいつが曖昧なことしか言わねえから――」

?「まあいいや、私はおさらばしますよ。手負いとはいえあなた相手には戦いたくはないんでね……」

?「ま。 これで殺せたらもうけものってとこですね」


 魔法少女はリボンで絡め取られた武器を手放すと、その代わりにマミに向かってグリーフシードを放り投げた。


マミ「なっ……! 待ちなさい!」



――――
――――




QB「……やられたよ。まさか仲間まで居たなんてね」



 ――――マミの家のベッドで目を覚ますと、部屋の中には更にメンバーが加わっていた。

 身体がどこも痛くないのは、さやかに治してもらったおかげらしい。


 一応、歩道橋でのことは老朽化による転落事故ということで片がついていた。

 あの格好のまま病院やらに連れてかれたら色々と厄介なうえに恥ずかしすぎる。

 どうにか逃げてきたのは覚えているものの、それから倒れてしまったらしい。

 ただでさえ今日はみんなでパトロールに行って、一人で魔女と戦って、傷は治してもその疲れが抜けていなかった。


マミ「それで、どちらが美国織莉子なの?」

QB「歩道橋でキリカが戦っていたほうだ」

キリカ「やっぱり、あの人が……」

マミ「その仲間のことは、鹿目さんもほとんど覚えてないのよね」

まどか「はい……途中で頭がぼーっとして」

まどか「もし次見たりしたら、顔はわかると思うんですが」

キリカ「さやかはお見舞いの途中だったよね……」

さやか「いーんすよ。ていうかそんなこと言ってる場合じゃないですって!」


 見滝原大橋に続いて、あの大通りとその上の歩道橋も今は封鎖となってしまった。

 ……なんだか橋ばっかり壊してるな、なんて不謹慎なことを頭の中だけで考えた。


さやか「……なんかあたしたち、橋ばっか壊してますね」

マミ「……美樹さん」

さやか「いや、はい……普通に口が滑りました」

キリカ「…………」


マミ「キュゥべえには感謝してるわ。みんな無事で済んだのはあなたのおかげだもの」

QB「僕もみんなが無事でよかったよ」


 ……みんなが駆けつけた時、死んだはずのキュゥべえまでしれっと混ざっていた。

 キュゥべえが言うには、身体は替えが利くから大丈夫ということらしいけど…………

 死ぬ瞬間を見た私とまどかからすれば、やっぱり懐疑的だ。


まどか「……前と同じキュゥべえなんだよね?」

QB「意識という意味ではね。記憶もちゃんとあるよ」

マミ「私たちを助けてくれたのがなによりの証拠じゃない」

マミ「でも、キュゥべえは『無事』、とはいえないわよね……」

マミ「もうキュゥべえにも危険な目に遭ってほしくないわ……こんなに私の友達を傷つけた美国織莉子は絶対に許せないわ」

キリカ「……そういえば、佐倉さんは?」


 美国織莉子の件で結局二人の戦いは途中でうやむやになったらしい。

 しかし、あの時佐倉さんまで一緒に来てくれたところを見ると、根は悪い人ではないのかなと思う。


マミ「呉さんの無事がわかったらすぐ帰っちゃった」

マミ「……今日はみんなには迷惑かけちゃったわよね」

マミ「みんなのためにも私が手を打たなきゃって思ったんだけど、逆効果だった……まさかその隙を突かれるなんて」


さやか「仕方ないですよ。こんなこと、予想できることじゃないですし」

マミ「それはそうだけどね……でも、今日みんなが無事だったのも本当に奇跡なのよ?」

マミ「きっと、一歩違えば大切な仲間を失っていたかもしれないの」

マミ「そうしたら、私は悔やんでも悔やみきれないわ」

まどか「わたしは、マミさんにも……誰にももう佐倉さんとは喧嘩しないでほしいなって思います」

まどか「佐倉さんとマミさんとの間に色々とあって、ゆずれないものがあるのもわかります。でも……」

マミ「……ええ。せめてこの件が片付くまでは休戦にしておきましょう」

さやか「まあ、そうですよね……あいつも認められないとこはあるけど、争ってる場合じゃないっていうか」

さやか「最初に思ってたほど悪い奴じゃないっていうのはわかったし」

マミ「それじゃ、今日はそろそろ帰らないとさすがにご家族が心配するわ」

マミ「明日はパトロールと訓練はお休みにするとして……また話し合いましょう」


 ひとまずそう締めると、立ち上がってみんなで部屋を出る。

 また三人で帰り道を歩こう。


 ……ちらりと窓の外の景色に目を向けると、昨日まどかの言っていたとおり、小さな町明かりが散らばっていて綺麗に見えた。




――5日 終了――


★浄化しました


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:1個
・落書き[0/100]
・銀[48/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]

―???



「……順調に計画が進んでいれば達成出来ていただけに、今回の失敗は痛いわね」

「あと一歩というところで………… 原因を挙げるとすれば、私の読みが甘かった」

「駒としてはやはり不従順…… まあ、仕方ないことかしら」


 ――玄関のチャイムが鳴る。

 その姿を確認して扉を開ければ、彼女は悪びれもしない顔で立っていた。


「……何故仕留められなかったの?」

「いやー、悪かったとは思ってますけどね……私だけの失敗じゃないですし」

「織莉子さんだって呉キリカを仕留められなかったじゃないですか」

「…………貴女、私の目的について知りたがってるようね?」

「……それはまあ。仲間なんですし、ずっと隠し事されてるのも気になりますよね」

「そりゃ見滝原の縄張りをもらえるってのは私には嬉しいですけど、あそこの連中ぶち殺してあなたには何の得があるんです?」

「仲間、ねえ…………」


 どこまで本気なのか。

 互いに冗談や皮肉とわかっているように、見透かしたような目で相手を見ている。


「そうね……教えてあげてもいいわよ」

―――

―――


*「今度は繁華街東の大通りで事故だってさ」

*「歩道橋の柵の老朽化だっけ?」

*「最近事故多いよな。見滝原大橋はなんか派手に壊れるし、繁華街の路地裏のほうでも水道管破裂とか言ってたし」

*「路地裏のは抗争の跡とかじゃなかったっけ?」



マミ「…………」

キリカ「……やっぱ、ニュース出てるね」

 ……片手にミルクティーのペットボトルを持ちながら、かちかちと薄いボタンを押して携帯を操作する。

 ニュースサイトにははっきりと昨日のことが出ていた。

マミ「なんだか申し訳ないわね。街中で起きてる事故があれもこれも魔法少女のせいって思うと」

キリカ「広く考えればそうだけど、昨日のは私たちのせいじゃないよ……」

キリカ「私を倒すためにしても、平然と関係ない人まで傷つけてるのは許せないし」

キリカ「目的のために手段を選ばないっていうか……そういうとこが気にくわない」

マミ「そうね……」


*「それよりさ、歩道橋から転落したって子がなんかコスプレした女だったんだって!」

*「しかもその後恥ずかしいからってそそくさと逃げたんだろ? 今頃大丈夫かなぁ」


キリカ「ぶ――っ! ごほっごほっ」

マミ「呉さん、しっかりー!」



1自由安価
2…バレてないよね?

 下2レス


 マミに背中をさすってもらって、なんとか落ち着いた。

 けど、やっぱりこの気持ちは落ち着かない。


キリカ「……バレてないよね? バレてないよね!?」

キリカ「万一私だって知られたら、もう学校来られないよ!」

マミ「た、多分大丈夫よ…… 普通なら昨日の今日で無傷ってわけにもいかないだろうし」

キリカ「む、そっか……」

キリカ「じゃあもう私も記憶から消そう。それもこれも全部あの人が悪い……」

キリカ「私みたいにマミだって人には言えない恥ずかしい秘密とか、若気の至りとか」

キリカ「すねに傷とかひとつやふたつ、みっつやよっつ持ってるでしょ!? 」

マミ「えーと、どうかしら。あんまりわからないけど……」

キリカ「……ティロ・フィナーレ」

マミ「え? 私の必殺技がどうかしたの?」

キリカ「いや、なんでもないよ」


 ……そんなこんなのうちに、昼休みがそろそろ終わろうとしている。

 残っていたミルクティーを飲み干して、廊下のごみ箱に放る。


 昨日は大変な日だったけど、

 あんなことがあっても、なんだかんだでこうして無事に生きてられたんだからよかった。

 何気ない日常に、ぽつりとそんなことを思った。



 放課後になって、今日はみんなでマミの家に向かって歩いていた。

 ……日の高いうちからマミの家に上がることは珍しい。


 明日からはまた訓練か、パトロールか。それとも、この前から言ってた勉強会か。

 勉強会もまたマミの家に集まるのかな。


さやか「昨日はすいませんでした」

さやか「そんな大変なことが起こってたとは知らないで一人だけ浮かれてたなんて恥ずかしいです」

マミ「いえ、美樹さんは悪くないわよ。むしろ中断させたこっちのが悪い気がするわ」

マミ「それで、なにか進展は?」

さやか「な、なにもないですよ」

マミ「それは残念。頑張って」

キリカ「……今日の話し合い、佐倉さんも呼べないかな」

キリカ「まどかやさやかも言う通り根は悪い人じゃないだろうし、一度じっくり話し合うべきじゃ……」

マミ「うーん……でも私、連絡先とか知らないもの」

マミ「それに、あの子が承諾してくれるかもわからないし」

まどか「住んでるとことか知らないんですか?」

マミ「家族のために願って、その願いで家族を崩壊させてしまったってことは言ったでしょう?」

マミ「その時に家も失って…… それから、住み処を転々としてるみたいなのよ」

まどか「そうなんですか……」



 ……マミの家に着くと、今日もマミが紅茶を用意してくれた。


 それから、マミがテーブルに載ったキュゥべえを下ろさせるついでにクッキーを一枚放った。

 こうしてると猫でも扱ってるようだ。


 結局、みんなでクッキーをつまみながら、テーブルを囲んで話し合いを始めることにした。


さやか「美国織莉子と戦ったんですよね!? どんな奴でした?」

キリカ「あ、じゃあ、まずは私が戦った時のことだけど……」

キリカ「……聞いてた予知の魔法っていう通り、避けにくい攻撃だった……かな」

キリカ「水晶みたいな珠を飛ばしてきて、一発一発はそこまで重くもなかったんだけど」

キリカ「こっちの攻撃もあんまり当てられなかった…………私が下手くそだっただけかもしれないけど」

マミ「……なるほどね。何か聞けたりとかは?」

キリカ「それが、なんにも。ずっと一言どころか呻き声すら上げなかったよ」

マミ「……? それは少し気味が悪いわね」

キリカ「だからなんにも聞き出せなくって。せっかく追い詰めたはずなのに何もできなかった……ごめん」

マミ「仕方ないわよ……」

マミ「それで、私のほうだけど…………」


 ――……マミから魔女を操る魔法少女の話を聞いて、ひとまず情報交換を終える。

 魔法少女はすぐに逃げてしまったから、あまり詳しいことはわからなかったらしい。

 しかし、その続きはキュゥべえが話してくれた。


 …………疑ってたのは悪いけど、やっぱり信じられないのは変わらない。

 とりあえずその魔法少女の情報だけは信じることにして感謝して、

 まるで可愛らしい小動物のように小さい口でクッキーを食べるキュゥべえを見下ろしていた。


1自由安価
2今後のことについて
3昨日の魔女戦のことについて
4キュゥべえに伝言

 下2レス


キリカ「あとさ……私、その前にみんなと別れてから魔女と戦ったんだ」

キリカ「でも、すっごい苦戦しちゃって…… 私、やっぱ弱いし。一人じゃ厳しいなって思ったから」

キリカ「また訓練してほしいなって思って」

キリカ「また昨日みたいなことがいつ起こるかもわからないし」

マミ「ええ、もちろん。そうね……これからはまたいつ狙いに来るかもわからないから」

マミ「パトロールはしつつ、出来るだけ自衛もできるように個々の力を鍛えていくに越したことはないと思うわ」

マミ「美樹さんはどうかしら?」

さやか「はい! 次はあたしも戦うかもですしね。そしたら昨日の分きっちりやり返してやります!」

マミ「ええ……二人の熱意は伝わったわ。その代わり少し厳しくなるわよ」

さやか「えー! は、はい!やってやります!」

キリカ「あ、うん……私もよろしく」

まどか「じゃあ、また明日は訓練ですか?」

マミ「ええ、そうなるわね」

キリカ「あ……じゃあキュゥべえ。佐倉さんに会ったら伝言を伝えておいてよ」

キリカ「話したいことがあるから、私たちの訓練してる土手に来てって」

QB「一応伝えておくよ」


さやか「よしっ、決まりましたね! それじゃ、そろそろ今日はお開きですか?」

マミ「待って。今日は訓練やパトロールはお休みだけど、勉強のほうで面倒を見られるところがあるなら見るわよ」

マミ「美樹さんは何か苦手なところとかはあるかしら?」

さやか「えっ…… あー、いや、今日はいいですよ!あはは」

マミ「そう? 遠慮しなくていいのよ……?」

マミ「魔法少女のことで成績を落としたなんてなったら、私がみんなに示しがつかないもの」

まどか「あ、じゃあちょっと英語のことで聞きたいことが……」


 ……マミのこのキラキラとしたオーラは断りづらいだろうなぁ。

 そう思いつつ、私も明日から訓練に本腰を入れるためにも今日は少し勉強しておこうか、と思った。


さやか「…………どうしてこうなった」



――6日 終了――


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:1個
・銀[48/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]

GSが杏子違って足りないけどどうすればいいんだろ……

-----------------------
ここまで
ちなみに、織莉子との戦闘結果は、完全勝利・イベント勝利・完全敗北の3パターンありました。
完全勝利だとLv上昇とかのボーナスがあるけどかなり難しいと思います。

次回は多分、20日か21日になります。一応20日(木)20時くらいからの予定で。

―――


「…………」


 一人で啜る紅茶は、その香り高さにも角砂糖一つ分の甘さにも温度にも、何の感慨も湧き起こさない。

 お父様がこの茶葉を気に入っていたのだったかしら。

 忙しい中で、ほんのたまに一緒の時間を過ごせるティータイムがなにより楽しかった。



 ……テーブルの上の黒い宝石を指で転がす。

 魂の輝きを持つ1つの宝石が、いくつものグリーフシードに姿を変えた。


 ――――試しに真実を伝えてみたら、私の周りには誰もいなくなった。


 別に、それすらすでに見越していた結果だ。期待もしていなかった。

 使えもしなかった使い捨ての駒が盤上から落ち、代わりにこれだけの糧となるのなら上出来な結果だろう。


 そろそろ互いを見下した腹の探り合いにも反吐が出る気分だった。

 幼い頃から私が見てきた世界は全てそうだった。他人を利用する魂胆しか見えない騙し合いの世界。

 そして、私はその世界から裏切られ放り出された。

 私が嫌悪していたあの眼差しを、今私自身もしているのだろうか。



「…………やはり、使い捨ての駒では駄目だわ」



 ぼんやりとカップの中に揺れる水面を眺めて、その中に思い浮かべていく。


 自分の正義に生きる者は、我が強く、柔軟にはしならない。

 しならなければ、どこまでも跳ね返るか、折れて壊れるか。

 欲望に忠実な者は利用しやすい。しかし、私に都合よく動くとは限らない――――



 ――……ああ、しかし、どちらももういないのだったか。

 正義は欲望の犠牲になって食われ、その欲望も私に食われた。



「必要なのは、絶対に裏切らず疑わない従順な駒……――――」

「――それがなければ、自分自身を頼るほうがよほどいい」


 わかっている。そんなものを最初から求めるのはないものねだりに過ぎない。

 きっと、ダイヤモンドのように磨かれて、傷をつけられて初めて産まれるのだ。


 ――――黒い宝石を掴んで懐にしまう。

 この宝石も傷をつけたら輝いたりしてくれればいいのに。 これ自体が傷の塊だから、もう輝くこともない。


―――

―――
昼休み



マミ「呉さん、授業まであと何分!?」

キリカ「あと15分!」


 マミが真剣な表情でプリントに向かっている。

 いつもと同じようにお昼を食べていたけど、途中でコレの存在に気が付き、今に至る。

 昨日は後輩二人に熱心に教えていたのに、今度はそのせいで自分のことに考えが回らなかったらしい。


 ……この前とは逆の光景だ。


キリカ「えっと、答え写す? それうちのクラスだとこの前やったから」

マミ「いえ、いいわ……美樹さんのこと注意できなくなっちゃうもの」

キリカ「まあそうだけど……」


 マミって結構、頑固だ。 それが良いところではあるんだけど。

 なんにもできないのは心苦しく思いつつも、マミの様子を眺める。



1自由安価
2佐倉さん、今日来てくれるかな
3何か調べものでも

 下2レス


キリカ「佐倉さん、今日来てくれるかな……」

マミ「どうかしら……」

マミ「でも、最近よくばったり会っていたわよね。あれって偶然なのかしら」

マミ「偶然じゃないとしたら、なんで今になって……」

キリカ「うーん……」


 少し考え込んでみる。

 ……私やさやかが契約したから。それはある気はする、けど。

 そういえば、私、気にくわないって言われてたっけ……


キリカ「……意外と心配してる、とかは?」

マミ「だとしたらもう少し素直になってくれたらいいのに」

マミ「…………いえ、素直になれないのは私も同じね」

キリカ「あ、マミ!手が止まってるよ!急がないと!」

マミ「ほ、本当だわ!」


 ……再び真剣な表情に戻ったマミの隣で、携帯を手に取ってみる。

 メールは来てない。適当にネットでも見ていようか。


キリカ(…………そういえばあの人、美国織莉子ってお嬢様なんだっけ)

キリカ(素性についてはキュゥべえから一通り聞いたけど)


 あれについては、キュゥべえに不信感があったとはいえ楽観的に考えすぎていたのかもしれない。

 その“名”を調べて出てくるのは親の事ばかり。

 いきなり聞かされて、今まで追っていたものとすぐに結びつけられるほどの実感がなかった。

 結び付けるのに躊躇いがあった。

 けど……


キリカ(……まあ、いいか。考えてても仕方ないよね)

キリカ(みんな無事なんだし)


マミ「――終わったわ!」

キリカ「よかった! お疲れ様! でも珍しいね。マミ、いつもしっかりしてそうなのに」

マミ「みんなには内緒ね……」

マミ「でも、こういうとこ見せられる友達がいてよかったわ。後輩たちには出来るだけ良いところを見せたいし」

マミ「それでこうなってちゃ駄目よね」

キリカ「まあ済んだんだからいいじゃん。次の授業頑張ってね」


 少し雑談してから、マミは自分のクラスに戻っていった。

 授業が終わったら今日も訓練。前に比べると忙しくなったけど、充実した気分だった。


 ――――昨日決めていた通り、今日は訓練だ。

 いつものようにみんなで土手に集まる。


 ……私は変身すると、少し俯いて、自分の白いラインの入った黒い衣装を見ていた。

 黒歴史といえば、後々全員自分の衣装が黒歴史になりかねないのは同じじゃないか。


キリカ「…………」

マミ「どうしたの?」

キリカ「いや……なんで魔法少女ってこんな格好で戦うんだろうなって思って」

マミ「それは“魔法少女”だからよ」

キリカ「そんな哲学みたいな」

マミ「じゃあどんな格好ならいいのよ?」

キリカ「それは……」


 ……そう言われるとわからない。

 戦隊モノやライダーみたいなスーツもダサいといえばダサいし、ファンタジックな衣装だと今とあまり変わらない。

 普段着みたいな服で戦うのもそれはそれでなんかおかしい気もする。


マミ「一昨日の件は記憶から消すんでしょ?」

キリカ「うん、まあ。 あの場ではそれどころじゃなかったし、轢かれて死ななかっただけラッキーと思わなきゃね」


さやか「マミさーん! 準備オッケーですよ!」

マミ「それじゃ、訓練はじめましょ」

キリカ「うん……」

マミ「……まだ気にしてるの?」


 ……今度は少し別の事を考えていた。

 ――――あの戦いで美国織莉子が見せた“隙”……あの時の感じは一体なんだったんだろう。


 何かに驚いていた。

 けど、そうじゃなくて、もっと何か自分自身にもわかる感覚が……


マミ「…… えいっ」

キリカ「ひゃああっ ……って、なにすんのさ! 眼帯返して」

マミ「なんか聞いてなさそうだったから。没収です」

さやか「マミさんヤバいですって!」

さやか「キリカさんから眼帯を取ったら、封印されし魔の力が解放されてエターナルフォースブリザードです!」

マミ「――!? 呉さん、そんなものをたった一人で背負っていたというの!?その力は身を蝕むわ……!」

さやか「残酷なことですが、これが世界の選択です」

キリカ「人の衣装で恥ずかしいこと言うなよ……なんでもいいから始めよう」

キリカ「……覚醒するよ?」

マミ「それは是非してほしいけどね……それじゃ、まずは何を重点的にやりたい?」


キリカ(…………乗ってみたつもりだったけど、さらっと流された上に今になって恥ずかしくなってきた)


1一昨日うまくいかなかった格闘を習いたい
2射撃をもっと実践的に使えるように
3魔力コントロール(魔力-15)

 下2レス

3


キリカ「じゃあ、魔力をもっと上手に扱えるようにできないかな……」

マミ「それは訓練次第で。でも、どうして?」

キリカ「もっと上手く戦えるようにっていうのもそうだし」

キリカ「……それに、上手く言えないんだけど、この前の戦いで何かを感じたっていうか」

さやか「覚醒したんじゃないですか?」

キリカ「そのネタはもう忘れてよ!」

マミ「そうね。じゃあ、今日は動き以外にも無駄のない魔力を練ることを考えてやってみましょうか」

マミ「美樹さんも特にそれはやっておくべきだわ」

マミ「倒せればいいっていうのもそうなんだけど、いざという時に魔法が使えなくなることがないように、無駄なくやっていくのも大事なのよ?」

マミ「密度濃く魔力を込められれば、威力だってアップするしね」

さやか「あー、あたしあんまり考えないでやっちゃうからなぁ」


 ……二人で武器の剣を構え、そこに流し込む魔力を調整するように神経を集中させる。

 少しずつ、そのあやふやな概念がわかりはじめてきたかもしれない。

 もっとしっかりした感覚を掴めたらいいんだけど……


――――――

――――――


★浄化しました


キリカ 魔力[115/130] 状態:正常
GS:1個
・銀[48/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]



キリカ「…………はぁ」

キリカ(体力以外で疲れたけど、動きよりはこっちのほうがいいかなぁ)

キリカ(さやかは途中で『格闘やりましょう!』ばっかり言ってたけど)

キリカ(二人は何をやってるかな……)


 ……集中してたのを解いて、マミとさやかのほうに目を向ける。

 そこには黒い眼帯をしたマミが銃を構えてる姿があった。


さやか「マミさんそれ似合ってますね! なんかスナイパーって感じでカッコいーっす!」

マミ「そうかしら? ……あ、でもこれ狙いやすいかも」

さやか「リボンで片目だけ包帯のように巻くってのもファッション的にはカッケーっすよ」

マミ「なるほど、いいセンスしてるわね……」

キリカ「…………」


マミ「いたっ」


 その右頬に小石を投擲してみる。

 なんだか覚えのある攻撃だけど、我ながらナイスコントロールだった。


さやか「おおっと、思わぬところから攻撃が」

キリカ「なんで遊んでんの!?」

マミ「いやちょっと出来心っていうか」

さやか「えーと……息抜き?」

キリカ「この後さやかと自主的に訓練したいんだけどいいよね?」

マミ「それはもう自由に。学習意欲が高いのは良いことだわ」

キリカ「さやかちゃん、こっちきて」

さやか「なんであたしだけなんすかー!」

キリカ「さやかは私より苦戦してたでしょ! じゃあマミももうちょっとコーチ付き合って」

マミ「りょ、了解よ」

マミ「…………けど、そういえば佐倉さんは?」

キリカ「あ……」


 外の方にまどかが見に行っていたはず。

 来たら知らせるとは言ってたけど、結局何もないままだった。



 見に行ってみようかと思った時、ちょうどまどかがキュゥべえを連れてやってきた。


まどか「マミさん、佐倉さんやっぱり今日来ないって……」

QB「一応今日も説得はしてみたんだけどね」

QB「あの件から、もう会わない方がいいって考えたらしい」

マミ「……もう見滝原には来ないのかしら」

マミ「元々あの時はそうさせるために戦ってたはずなんだけど」

マミ「……なんだか、こういう終わり方になると、ね」

キリカ「……」

マミ「でももう、そのほうがいいのかしら」

まどか「……こっちからは会いに行けないんですか?」

マミ「どこに居るかもわからないし、会ってもどうすればいいのかわからないのよ。きっとお互いにね」

マミ「もしまた戦いに発展したりしたら……それはそれで、やっぱり嫌だもの」



 ……なんか、嫌だな。 こういう状況。

 マミは佐倉さんとも今のみんなのように何気なく話してたはずなのに、なんでこうなっちゃうんだろ。


1自由安価
2キュゥべえに伝言
3今のところは仕方ない、か

 下2レス


キリカ「……訓練、続けよっか」

マミ「……ええ。キュゥべえも色々とありがとうね」


 ……せめて今のところは仕方ない、か。


 何か気の利くフォローをしてあげられればと思ったけど、そんなこと自分が言えるはずがなかった。

 それが簡単に出来るなら、私がこうなることもなかったんだから。



――――――

――――――


★魔力コントロールLv1→魔力コントロールLv2



 ……訓練を終えて、三人で帰り道を歩く。

 さやかはいつもより少し疲れた様子だ。


さやか「……いやー、大変でした」

キリカ「お疲れ様。……どう? コツって掴めてきた?」

さやか「うーん、わかるようなわかんないような」

キリカ「あー……私もそんな感じだけど」

キリカ「今日やっておいてちょっとはマシになったかなぁ……」

まどか「魔力のコントロールかぁ……結局、上手く出来ないままだったなぁ」


 私たちだったら、ちょっと失敗することがあっても自分が痛いくらいですむ。

 けど、まどかの場合はそうはいかなかった。



 下1レスコンマ判定
奇数 使い魔
偶数 魔女

-------------------
ここまで
次回は23日(日)17時くらいからの予定です


キリカ「……!」


 ……何かを感じた気がして足を止めた。

 二人が一歩踏み出して、それから振り返った。


まどか「どうしました?」

さやか「なんか忘れ物っすか?」

キリカ「いや、なんか、えっと……」

キリカ「わかんない?」

さやか「え? あー…… 髪切りました?」

キリカ「切ってないよ! なんで彼女の理不尽な質問みたいになってんのさ!」

キリカ「じゃなくて、なんか……」


 言葉じゃ説明しづらい感覚。それに、ほとんど勘のようなものだから違ったら恥ずかしい。

 そう思ってとりあえずソウルジェムを具現してみる。

 するとやっぱり明滅していて、見せた方が早いとそれを見せつける。


まどか「キリカさん、魔力わかるようになったんですね!」

まどか「……さやかちゃんはわからないの?」

さやか「い、いや! わかるよ、うん。そう言われればそんな気がしてきたし」

まどか「さっき髪がどうとか言ってたよね……」

キリカ「どこにあるかとか、使い魔か魔女かとかはまだわかんないけど……とにかく探そう!」


 なんとかソウルジェムの明滅を頼りに三人で歩いていると、

 人気のない路地にその結界があった。



―芸術家の魔女結界



 浮き出たマークに、迷路……魔女の結界を進む。

 前に見たことのある使い魔だった。

 人型の使い魔はさやかが率先して倒し、飛んでくるムンクに注意しつつ最深部を目指していった。


さやか「やっと開けた場所に出た……魔女はあの門っすか?」

まどか「それ以外それらしいものはなさそうだけど……」

さやか「じゃ、行きましょう!」

キリカ「うん……!」


 さやかが使い魔を薙ぎ払い、魔女の方に走っていく。

 ……まだ使い魔の数が多い。

 私もさやかの後ろをついていきつつ、その周りに集まってくる使い魔に警戒する。



キリカ 魔力[115/130] 状態:正常
GS:1個
・銀[48/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv1] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


仲間:
さやか 状態:正常


敵:Isabel
  代表作×4 <-攻撃対象デフォルト
  意欲作×5 <-攻撃対象デフォルト

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1) :小さめの刀を出して投げつける
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。

 下1レス


 飛び回る使い魔を優先して攻撃の狙いをつける。


 ……この前はムンクはマミがやっつけてくれてたんだっけ。

 あまりもたついてると囲まれてしまう。人型のほうも近づいてきつつあるのに。

 そう焦ると手に力が入り、コントロールが思うようにいかなくなる。


 さやかが門から飛び出てきた攻撃に後ずさる。


さやか「いったー、硬いし手も痛くなりますよコレ」

さやか「ちょっと先に使い魔一掃しますか」

キリカ「わかった、えっと……」


 さやかは使い魔に斬りかかっていくと、少しだけ引きつけてから魔力を纏わせて剣を振るい、周囲の使い魔を蹴散らした。

 ……突っ込んでいくだけじゃなくて、さやかも成長してるんだ。

 魔女との戦いでも二人なら心強いな。なんて思う。


キリカ「すごい、どうやったのそれ」

さやか「えいってやりました」

キリカ「そんな適当な……」

さやか「明日また色々と教え合いましょ!」

キリカ「うん……!」


下1レスコンマ判定 倒すのにかかる魔力(ターン数)
0~25 3ターン
26~50 4ターン
51~99 5ターン

補正-16


 使い魔を一掃し終えると、凱旋門がその場から消えて別の場所に移動する。

 さやかがそれを追い、上空に跳びあがって魔方陣を展開する。


さやか「逃がすかッ!」

さやか「――やりますよ!」

キリカ「な、何を?」

さやか「なにって、必殺技に決まってるじゃないっすか!」


 さやかは魔方陣を足場にして蹴ると、剣を構えて蒼い閃光を散らして斬りかかっていく。

 私も駆け出し、なんとか魔力を推進力に勢いをつけていく。


さやか「――――スパークエッジ!」


 ……上と横の両方から直撃した攻撃に、門は真っ二つに砕けて消え去った。

 ――結界が消えて薄暗い路地に戻る。


さやか「いやー大勝利ですね」

まどか「二人とも、お疲れ様。さやかちゃん、さっきの怪我って大丈夫……?」

さやか「ああ、大丈夫大丈夫」

まどか「大丈夫ならいいけど…… あんまり無茶はしないでね」

さやか「ん、でも怪我が怖くて魔法少女やってらんないよ」

さやか「それに、あたしも成長してるでしょ? もっと強くなれば怪我することも減るだろうし」

まどか「うん……前より戦い方とかはよくなってると思うけど」

さやか「マミさんにカンシャしなきゃだね」


 ……さやかに浄化させてから、この前の戦いで消耗した分もあるので残りはもらうことにした。

 それからまた帰り道を歩きはじめる。


 やっぱり戦いじゃさやかのほうが活躍しているけど、苦手なこともあって……

 ……私にもできることがあるのかな、なんて少し思った。




――7日 終了――



キリカ 魔力[91/130] 状態:正常
GS:2個
・銀[48/100]
・芸術家[70/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]

―8日 昼休み



マミ「そう。ついに魔力の気配がわかるようになったのね」

キリカ「うん。さやかはまだピンときてなさそうだったけど……」

キリカ「とにかく、いっぱい訓練してくれたおかげだよ。もし一人だったら、まともに生き残れてる気すらしないし……」

キリカ「立派なことだけど、『正義のため』っていうだけの理由で一人で戦い続けるのはやっぱ難しいよ」

マミ「そうね。私は長いこと一人だったから」

マミ「今仲間が居てくれてよかったって思ってるわ」

キリカ「うん……」

キリカ「あ、これ美味しい」

マミ「でしょう? 良いジャムが手に入ってね。今度紅茶に入れてもよさそうね」


 ……お昼を食べ終わって、お菓子をつまみながらマミと話していた。

 マミの特製のクッキーと、あと私がその辺で買ってきたグミだ。



1自由安価
2今日の予定について
3マミって普段コンビニとか行くの?

 下2レス


キリカ「……マミって普段コンビニとか行くの?」

マミ「え? なんで? 普通に行くわよ?」

キリカ「いや、なんかこういうお菓子ってあんまり食べてなさそうだなぁって思って」

マミ「まぁ、確かに家で作る分お菓子はあまり買わないかもしれないけど……」

マミ「でも、普通に便利じゃない。スーパーは夜遅くだとしまっちゃうし、使わないって人のほうが少ないんじゃ……」

キリカ「スーパーとか行くの!?」

マミ「スーパーくらい行かせてよ。どんなイメージなのよ、もう」


 ……どちらかというと、そんなイメージを作ってるのはマミ自身な気もするけどなぁ。


キリカ「え、じゃあ100均は?」

マミ「い、行くわよ。たまに」

キリカ「某激安ディスカウントストアは?」

マミ「駅前にあるから見ることあるわよ……」

キリカ「じゃあコンビニ放課後寄って行こうよ」

マミ「別にいいけど、何も面白いことはないわよ……?」

キリカ「……で、じゃあその後は今日の予定どうする?」

マミ「17時くらいまで訓練してからパトロールに行きましょうか」


 ……放課後の予定が決まって、マミと別れる。

 訓練前の楽しみが一つ増えた気分だ。


 ――――授業を終えて学校近くのコンビニに行くと、

 マミがさっそくレジ前のホットスナックを見始めていた。



マミ「あら、オリジナルチキンがポイント三倍ですって」


さやか「マミさんがコンビニのチキン買ってる……」

まどか「マミさんがポイントためてる……」

キリカ「やっぱそうなるよね……よりによってチキンかぁ」


 ……そんな光景に、みんなはやっぱり予想通りのリアクションをしていた。

 結局チキンを三つ買って出て、訓練の前に土手に座り込んでみんなで食べていた。


さやか「そういえば、テレパシーって使えるじゃないですかー」

さやか「あれで店員に話しかけたらどう思いますかね?」

マミ「驚くから変なことで魔法を使うのはやめなさい。普通に口で言えばいいじゃない」



1自由安価
2訓練始めようか

 下2レス


キリカ「そういえば、エイミーの様子はどう?」

まどか「結構うちに馴染んできてると思います。元から大人しい子でしたし」

まどか「あ、みんなも見に来ます?」

さやか「おお、噂の猫ちゃんか!」

キリカ「噂なの?」

さやか「わりとうちらの中では。でも確かに最近忙しそうだったから、まだ会ってないんだよなぁ」

キリカ「じゃあ、明日とか……訓練の後みんなで会いに行ってもいい?」

まどか「あ、はい!ぜひ!」

マミ「いいわね。楽しみだわ」


 雑談を終えて、すくっとマミが立ち上がる。


マミ「じゃ、そろそろ訓練はじめましょうか」

キリカ「あ、じゃあ……ちょっと聞きたいんだけど」

キリカ「何か私も新しい戦い方とか、技とか考えたいなぁって思うんだけど……良い方法ってないかな」

マミ「そうねぇ……魔力の扱い方が上手になれば出来ることも広がるでしょうね」

マミ「あとは、戦ってるうちじゃないかしら? 実戦とか、模擬戦とか」

マミ「そろそろ模擬戦とかやってみてもいいかもね。どうする?」

キリカ「えっ、戦うの?」

マミ「ええ。経験を積むには良いと思うけど」


さやか「でも三人ですよ? どう相手するんです?」

キリカ「じゃあ、二人で?」

マミ「そうね……いつも二人だけじゃ慣れてきてしまうから」

マミ「二人同時にかかってきてもいいわよ」

さやか「当たり前ですけど、自信たっぷりですね…… そう言われるとむしろ燃えてきますよ!」

マミ「どうする?」

さやか「ちなみに、倒したほうは何かもらえたりとかは?」

マミ「悪いけど、あくまでチームの手柄とするから、どちらが決め手を取るかよりも連携を重視してほしいかな」

キリカ「じゃあ、よろしく……」

マミ「ちょっと始める前にウォーミングアップと作戦会議の時間を取りましょうか」

マミ「今から20分後に集まりましょう」

さやか「はい!」


 ……そう言うとマミはまどかと一緒に座り直した。

 さやかと二人で奥の方の広い場所に出て、変身して少し身体を動かしてみる。


さやか「打倒マミさん作戦、どうします?」

キリカ「うーんと……どうしよう。マミって銃使いだよね」

キリカ「離れて戦うのはまずいけど、近づいたら拘束にも注意しなきゃだし……」

さやか「でもリボンならあたしたちなら簡単に切れますって。それに二人いるんですし」

キリカ「ひとまず、昨日言ってた技術交換を先にする?」

さやか「ああ、あれなら簡単ですよ! えいっってやるだけです」


キリカ(アバウトだなぁ……)


――――……

★技習得
 タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。


 準備とか作戦会議とか
1自由安価
2陣形を決めておく
 Aさやか:前 キリカ:後
 Bさやか:前 キリカ:前
3模擬戦開始

 下2レス



マミ「準備はオッケーかしら?」

さやか「はい!決まりました!」


 ひとまず、昨日みたいにさやかが前に出て、私が後ろからサポートするという形に決まった。

 あとは、機を見て接近戦も出来たら……。

 ……マミは格闘も出来るんだっけ。確か前にまどかに教えてた。そう考えると油断はできないな。


マミ「それじゃあ始まりの合図は鹿目さん、頼むわね」

まどか「はい!」


さやか「弟子たちの下剋上を見せちゃいましょう!初戦から勝つ意気込みで!」

キリカ「う、うん……!」

マミ「ふふ、お手柔らかにね」


まどか「じゃあ、よーーーい…… どんっ」


 まどかの可愛らしい掛け声で戦いが始まる。

 ……やっぱり、マミと比べてもスピードならさやかのほうが速い。

 マミの注意はそっちにいってるはず。ここから……



キリカ 魔力[91/130] 状態:正常
GS:2個
・銀[48/100]
・芸術家[70/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


仲間:
さやか 状態:正常


相手:マミ

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。前に出る。
2小刀投げ :中~遠距離武器戦闘(魔力-1/一発) :小さめの刀を出して投げつける。
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(※キャンセル消費0※) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。決まる条件が揃っていれば勝てる。
 bスパークエッジ(※キャンセル消費0※) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(※キャンセル消費0※) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7【連携必殺技】ダブルスパーク(※キャンセル消費0※):さやかと同時に放つ二連のスパークエッジ。決まる条件が揃っていれば勝てる。

 下1レス


マミ「……美樹さん、やみくもに突っ込んでいくのはよしたほうがいいわよ?」

さやか「!」


 マミはさやかを囲むように大砲を出す。


さやか「うおっと! ――でもそれならっ!」


 囲まれたさやかがとる行動は、やはり上に跳び上がること。

 ……しかし、それも予測していたように、マミは大砲の上から手に持った銃でしっかりと狙いをつけていた。


さやか『うおー、なんかさっそくピンチです!』

キリカ『わかってる……!』


 ……一旦離れると大砲の影に隠れ、小刀をいくつか出すと、そこから長銃の先を目掛けて小刀を投げつける。


キリカ(当たった!)


 ……硬い音を立てて弾いたと思ったら、すぐさまマミの狙いはこちらに変わる。


マミ「そこね!」


 続けて狙いをつけて手に出した小刀を放っていく。

 数で勝負しなくちゃとは思うものの、今の精度では動きながらではあまりに命中率がない。


キリカ『さ、さやかぁ!』

さやか『わかってますって!』


 さやかが魔方陣を蹴り、閃光のように跳んでマミに接近戦を仕掛けようとする。

 マミはそれをリボンで防ぎ、リボンで手首をひとまとめにするように絡め取る。


さやか「うわぁ!?」

マミ「動きが単純すぎるわ。速くても直線移動は読まれるわよ」


 ……――マミがそう言いつつ、こちらの動きを確かめるように私のほうを見た。

 このままじゃこれで決着になってしまう。

 それは防ぐ!


キリカ「はぁっ!」


 踏み込んで間合いを詰めて、さやかに絡んだリボンを切り裂く。


マミ「そうこなくっちゃね」


 下1レスコンマ判定 戦況
0~(劣勢) < 99(優勢)

+補正-18


 ……予想以上に上手く戦えてる。

 このままならいける!?


さやか『今です!』

キリカ『……! 了解!』


 昨日も二人で戦ってたのが良かったのかもしれない。

 さやかが先に動き、背後に回ってから一気に距離を詰めるように突撃していく。

 それからこっちも剣を構えて大技の構えを取る。


 大技での挟み撃ち――


まどか「そこまでっ!」


 ――終了の合図もまどかの可愛らしい声。

 勝負がついた。


キリカ 魔力[86/130] 状態:正常
GS:2個
・銀[48/100]
・芸術家[70/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]



マミ「二人ともお疲れ様。なかなかの連携じゃない」

さやか「どーもです! マミさんも、いっくら新人でも二人相手は厳しかったんじゃないですか~?」

マミ「そうね、どちらもまだまだ改善点はあるけど、二人で上手く弱点を補えてたと思うわよ」

マミ「二人とも素質はあると思うわ。それをうまく活かせればきっと伸びるわよ」

キリカ「素質って……?」

マミ「魔法少女のというのもそうだけど、色々とね」

マミ「それじゃあ支度をしましょうか。暗くならないうちにパトロールに行くわよ」

マミ「移動しながらまた反省点とか話し合いましょ」

さやか「はいっ!」


 ……荷物をまとめて土手から出発する。

 歩きながら、今日の回るルートとか、さっき言ってた反省点についても話し合っていた。


マミ「やっぱり、美樹さんはもう少し考えて戦ったほうがいいってところよね」

マミ「スピードはとても良い武器だし、特に今日みたいに仲間がいれば、相手のペースを崩すのにとても良いと思うんだけど」

マミ「やっぱり、一人で戦う時が心配になるわ……」

マミ「それにどうしてもそういう役回りは一番傷つきやすくなるから、仲間としても心配になるかな」

さやか「いやまあ、あたしは丈夫ですし多分適任なんですよ」

さやか「でもたしかに、一人だったらあっさり捕まってましたね……」

キリカ「それは多分私だって同じだよ」

キリカ「多分わたわたしてなにもできないうちに捕まってると思う」

さやか「じゃあやっぱり相性いいってことですね!」



 ……そういいつつも、それでいいのかなとは思ってしまう。

 一番傷つくような役回りを人に任せるっていうのは、やっぱり無責任な気がして。


下1レスコンマ判定
 0~20 使い魔
 21~40 魔女


 ……人気のないあたりから駅周辺を歩いていき、通学路の辺りを回っていく。


さやか「あ、そうだ。まどかはどう思う?」

まどか「わたしは……マミさんの言ってたこととほとんど同じだけど」

まどか「さやかちゃんにはあんまり傷ついてほしくはないかな……」

さやか「うーん、そう言ってくれるのはそりゃうれしいけどさ」

まどか「……あとなんか、こういうふうに訓練するの、うらやましいなって思っちゃった」

まどか「わたしはあんまり訓練はできなかったから」

マミ「……鹿目さんも、体術の訓練の続きやる?」

まどか「えっ? 体術ですか?」

マミ「痴漢撃退には役に立つわよ。多分」


 そういえば私にも前にそう言ってたな、なんてことを思い出した。

 それが、今じゃこんなふうに本格的に格闘の訓練をするようになるなんて。


まどか「じゃあ、少し、やってみようかな…… でもいいんですか?みんな忙しいんじゃ」

マミ「合間にやりましょう。どうせならみんなでやったほうがいいわ」

まどか「はい!」



下1レスコンマ判定
 0~20 使い魔
 21~40 魔女

魔女


 ……軽く街を一通り回ったところで、解散となった。

 いつもどおり帰り道を三人で歩く。


さやか「今日は特に反応はなしかあ」


 さやかがソウルジェムを見つめている。

 少し濁った分を浄化して、真っ黒になったグリーフシードをしまった。


さやか「……あ、そろそろグリーフシードないな」

キリカ「え、大丈夫?」

さやか「まあなんとかなるでしょ。次手に入るときまでなんとかやりくりします」

キリカ「…………」

 ……さやかは魔力がなくなることの意味を知らないからそんなに呑気でいられるんだ。

 でも、グリーフシードばかりが目的になったら、私たちを襲った奴らと一緒だ。


 そう考えて少しだけ思った。 あの人たちは真実を知っているんだろうか。


 ……グリーフシードだって無限に手に入れられるわけじゃない。 どうすればいいんだろう?

さやか「それじゃみんな、お疲れ様ー!」

まどか「お疲れ様、さやかちゃん」

キリカ「うん……お疲れ」



――8日 終了――



キリカ 魔力[86/130] 状態:正常
GS:2個
・銀[48/100]
・芸術家[70/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]

---------------------
ここまで
次回は24日(月)20時くらいからの予定です

―9日 昼休み


キリカ「ふぁぁぁ……」


 ……お昼を食べ終わって、雑談をしたり携帯をチェックしたりして過ごしていた。

 窓際から注ぎ込む日差しが心地よい。

 どちらもそこまで口数の多い方ではないので、会話が途切れた後少し何もしないでいたら、あくびが一つ漏れた。


マミ「あら、お疲れ?」

キリカ「そりゃ、今まで割とだら~っと過ごしてきたからね……」

キリカ「あ……別に音を上げるわけじゃないけどさ」

マミ「そうよね。みんなが遊びに恋愛に花を咲かせてる中、見回りに訓練に戦いばかりじゃあまりに味気ないのはわかるわ」

マミ「縄張りを狙う魔法少女の件が片付いたら、今度みんなでどこか買い物でも行きましょうよ」

キリカ「買い物…… いいね! 楽しみ」

キリカ「……ところで、マミっていつから魔法少女やってるんだっけ」

マミ「もう二年になるかしら」

キリカ「すごい、二年間もずっとこんな……」

マミ「思えば私も、遊びも恋愛もやってる暇なんてなかったわ。魔法少女だからしょうがないって思ってたけどね」



1自由安価
2マミは今グリーフシードっていくつ持ってる?

 下2レス


キリカ「じゃあさ、これからはそういう時間ももっと増やしていこうよ」

キリカ「マミとは1年後でも3年後でも、10年後でも友達でいたいから」

マミ「そう言ってもらえると嬉しいわね」

マミ「……そうよね。今度こそずっと……弟子とかの前に友達だものね」


 ……弟子?

キリカ(……佐倉さんのことかな?)

キリカ(マミは長いこと一人で戦ってたとは聞いてたけど、どのくらい一緒にいたんだろ……)


キリカ「……そういえば、マミは佐倉さんと組んでたころ佐倉さんともお茶会してたの?」

マミ「え……まあそうね。今みたいに訓練の後とかに」


キリカ(……今はあんまり思い出したくないか)


キリカ「……そっか」

マミ「ところで眠気は覚めた? 午後の授業寝ないようにね」

キリカ「うん、気を付けるよ」


 ……マミと別れてから、もうひとつあくびをした。

 あっちのこともなんとかできたらいいけど、私にはどうにもできない。


 ――授業を終えて、みんなで土手に続く静かな道を歩く。

 最近天気が良い。

 訓練日和とまで体育会系な思考にはなれないけど、こんな日に外に居るのは悪くないかもしれない。


まどか「――でね、タツヤがエイミーと結構仲良くなってて。見てると面白いの」

まどか「最初しっぽ掴んじゃった時はひやひやしたんだけど、エイミーが大人しくて助かったよ」

さやか「今日会うの楽しみにしとくわ」

マミ「そういえば今日、キュゥべえも連れていく約束してるのよ」

まどか「ああ、似た感じではありますしね。仲良くなれたらいいですね」

マミ「ええ」


キリカ(マミにとってはキュゥべえも友達か……)

キリカ(頼むから、これ以上裏切るような真似はしないでほしいけど)



1自由安価
2今日の訓練について
3マミは今グリーフシードっていくつ持ってる?

 下2レス


キリカ「……そういえば、マミは今グリーフシードっていくつ持ってる?」

マミ「二つくらいだったかしら」

マミ「足りなければ一つ分けましょうか?」

キリカ「えっ、いいよ。マミのが減っちゃう」

マミ「それならいいけど……」


 ……全体的に少なくないかなぁ、なんて思うけど、あまりそれを主張するのも気が引けた。

 グリーフシードのために魔女を倒すわけじゃない。

 でも、魔法少女が魔女になるなら、魔女を倒すのは正義のための活動といえるんだろうか……?


キリカ(……考えてても、仕方ないか)


 土手に着くと、鞄を放って訓練の準備を始める。

 マミはいつものノートを片手に持って、ぺらぺらとページをめくって見ていた。


マミ「今日は、昨日の模擬戦で目についたところを修正していくのに集中しましょうか」

マミ「あ、ちなみに訓練の事は全部ノートにメモしてるから。これ見てみる?」

さやか「うわあ、さすが細かいですね……」

マミ「こうしてまとめておくとわかりやすいでしょう?」


キリカ(反省点については昨日も話し合ったけど、私のは……)


 ……ノートを覗きこんでみる。

 すると、やっぱり近接のほうでも投擲の方でも修正すべき点がいくつか書いてあった。

 動きに関しては、もっといっぱいやって慣れるしかないのかな。


キリカ(もしくは……)


 ノートに綴られたマミの綺麗な字を追いながら、

 そこに書かれている言葉を見て考える。


キリカ(独自の戦闘スタイルを確立する、か)


 投擲と格闘を上手く組み合わせて戦えるように。

 どちらかだけじゃ勝てないならそれはいいのかもしれないけど、覚えることは二倍以上になる。

 ……でも、私に合った戦い方を探すっていうことは必要なのかもしれない。

 なにより、できないことをできないまま認めてくれて、ここまで考えてくれるのがただ単純に嬉しかった。


キリカ「……ありがとう! なんとかやってみるよ!」

マミ「ええ。その意気よ」

マミ「それから、鹿目さんもこっちにきて」

まどか「! はい」

マミ「せっかくだから、昨日言ってた通り混じって訓練やりましょ」

まどか「はいっ、よろしくおねがいします!」



 ――……近接でも戦えるようにしつつ、隙を突くように小刀ももっと連続して打ちこめるようにする。

 結果、二刀流の代わりに違うところで手数を増やすようなスタイルが出来上がった。

 いまのところは、まだまだ考えることが多すぎて隙がありすぎるけど…………


キリカ(……頑張らないと)

キリカ(もうちょっと上手く戦えるようになったら、今よりはみんなの役に立てるかもしれない)



――――――……

――――――……



まどか「体術もやってみると楽しいです」

まどか「魔女とは戦えなくても、いつか役に立つ機会はあるかもですし」

さやか「そうだぞー、なんか揉め事に巻き込まれた時にさっと助けてあげたりなんかしたらカッコいいぞ!」

さやか「きゃー惚れちゃう!」

まどか「あはは…… そ、そうだね」

マミ「それじゃ、訓練はここまでにしましょうか」

QB「お疲れ、上達しているようだね。さやかも最初の頃と比べて動きが洗練されてきている」

さやか「そう見える? マミさんの指導のおかげだよ」

QB「マミは人一倍勉強熱心だからね。指導も上手だ」

マミ「ええ、ありがとう。キュゥべえ」



 ……訓練を終えて、鞄についた草を手ではたいて立ち上がる。

 いつのまにかキュゥべえもこっちに来て合流していた。

 土手から遠ざかって、みんなでまどかの家に向かって歩いていく。


 ――駅のほうを通って住宅街に出ると、まどかの家がある。

 さやかはともかく、マミと一緒にこの道を歩くのは珍しかった。


 ……いや、一番珍しいのはキュゥべえかもしれない。

 いつもはマミと一緒に居るらしいけど……



まどか「ただいま、みんなが来たよー」

マミ「お邪魔します」

キリカ「お邪魔します」

さやか「おじゃましまーす!」

「おお、いらっしゃい。そっちの二人は最近よく話してくれてる先輩かな?」

マミ「見滝原中学校三年の巴マミっていいます。鹿目さんには色々とお世話になってます」

キリカ「呉キリカです。お世話になってます」

「さやかちゃんも久しぶりだね」

さやか「はい! ……あっ、この子がエイミー? 写真通り黒くてもふもふ~」

エイミー「にゃ」


 久しぶりに見る黒いしなやかなフォルム。

 近づいてきた時の音に首元を見てみると、首輪と鈴が付いていた。


 ……まどかの部屋に上がると、

 テーブルに置かれたオレンジジュースを一口飲んでエイミーのほうを見る。

 4人と2匹。エイミーの隣でキュゥべえが興味深そうに見ていた。

 エイミーにはキュゥべえの姿って見えるのかな? 


キリカ「すっかり飼い猫だね……」

さやか「元は野良だったんですっけ?」

まどか「うん。……ずっと通りの近くに居たら危ないし、色々とあってうちにくることになったの」

 さすがに“暁美”のことは言えない。

 未だにそのことは二人だけの秘密で、その時知った事実もさやかには話したけどマミは知らない。

 ……でも、みんなが知らないままの事実がまだあったなんて。

マミ「そうなの。たしかに、車に轢かれたりしたら大変だものね」

キリカ「久しぶり……」

エイミー「にゃ」


 まあるい背中を撫でる。

 このあたたかくてふわふわとした感触も久しぶりだ。



1自由安価
2部屋のぬいぐるみについて
3エイミーの写真について

 下2レス

---------------------
ここまで
次回は29日(土)17時くらいからの予定です


さやか「やあ、ボクキュゥべえ! ボクと契約して魔法少女になってよ!」


 ……さやかが棚の上のぬいぐるみをとったと思うと、

 それをエイミーの目の前に見せてキュゥべえの真似をしはじめた。

 たしかにちょっと、ぬいぐるみの雰囲気はキュゥべえに似てるけど。


まどか「あはは、似てる」

QB「残念だけど猫じゃ契約できないよ」

マミ「ぬいぐるみたくさんあるわね」

まどか「はい。一つ手作りしたやつもあって……これなんですけど」

まどか「あの時、キリカさんにも作り方教えてもらいましたよね」

キリカ「えっ?」

まどか「わたしが一年生のとき……入部したての時だったんですけど」

キリカ「……そうだっけ」


 じゃあ、魔法少女のことでマミと一緒に会う前から、まどかは私のこと知ってたんだ。

 そんなことがあったような気はするけど、そもそもまどかが同じ手芸部に居たことすら今まで気づいてなかった。

 …………なんて言ったら、さすがに酷いかな。


まどか「まあ、それ以降はあんまり顔出してないので覚えてないのも仕方ないかもですけど……」

キリカ「ああ……」


 ……お金を落とした時のこともそうだ。

 お互い自分が何かしてもらった時のことは覚えてたんだ。

 そういえば、いつも気が向いた時に隅のほうで一人で何か作ってたけど、最近は部活にも全然行かなくなってしまった。


さやか「あれ? 部活同じだったんだ」

まどか「あ、うん。一応」

キリカ「……色々と落ち着いたら、部室にも行こっか」

まどか「そうですねー。そしたらまたなんか教えてください」

キリカ「うん、できることでよければ」

マミ「なんかいいわね。私ももうちょっと早ければ入部できたかなぁ」


キリカ「……ところで、さっきさやかが言ってたエイミーの写真って?」

さやか「まどかの待ち受けですよ」

まどか「これです!」


 まどかがスマホを操作して、待ち受けを表示する。

 画面の中のエイミーは、ちょうどカメラ目線でこちらを見上げている。


マミ「他にもあるの?」

まどか「はい。大人しいから撮りやすくて、色々撮ってて……」


 みんなで集まって画面を覗き込む。

 丸まっている写真、伸びをしている写真、小さい弟と一緒の写真……

 まどかはエイミーをこの家に迎えてから、色んな姿を見てきているようだ。



1自由安価
2解散

 下2レス

エイミーを自分のスマホで写真を撮った後、可愛さに我慢できずもふもふしていたらその姿を写真に撮られてた


キリカ「わ、私も…… 私も撮っていい?」

まどか「いいですよ」


 はやる気持ちを押さえつつ携帯を取り出す。

 カメラを向けると、エイミーがこちらを見た。


エイミー「にゃ?」

キリカ「そのままそのまま…… フラッシュを消して……」



 ……何枚か撮ってみてから、やっぱり触るのが一番とまた抱っこして撫でていた。



キリカ(こうしてると猫飼いたくなってくるなぁ……あの時なんとかお母さんに頼んでみればよかったかも)

キリカ(……まあ、またこうして会いに行けばいっか)


キリカ「……………あ、私ばっかり占領しててごめん」

キリカ「でもまどかのはカメラが綺麗でいいなあ」

キリカ「……え?」


 まどかがスマホの画面を見せてくる。

 ……エイミーをもふもふしてたところをいつのまにか撮られていた。


まどか「綺麗に撮れてるでしょ?」

まどか「やっぱり一緒に映ってるのも一枚くらいあったほうがいいと思って」

キリカ「それはありがとう。でも、声くらいかけてくれても……」

まどか「いやぁ、自然な感じが良いと思ってつい」

さやか「あ、じゃああたしも撮ってよ」

マミ「みんなで一緒に撮る?」

さやか「それもいいっすね!」

マミ「ほら、キュゥべえもこっち来て」


 棚の上にカメラをセットして、みんなで寄り添って映る。

 夕飯前にまどかの家の前で解散してからも、帰り道を歩きながらその時の写真を見ていた。



 ――……家に帰って一言帰宅の挨拶をすると、自室のベッドに身体を預けた。

 ぼふんと音を立ててスプリングが大きく跳ねて、ふかふかとした布団の感触が肌に触れる。


 昼あたりにあくびをしてたことを思い出して、今になってあの時より更に濃くなった眠気が戻ってきた。


キリカ(夜ごはんまで寝ようかな……)


 普段だらっと過ごしてきたけど、契約してからはさすがに身体は強くなった気がする。

 さやかほどじゃないにしても、回復魔法だって使えたし、多分回復力だって低いわけじゃない……と思う。


 気分の問題もあるのかもしれない。

 私の魂がもう身体にないのなら、身体が疲れることなんてあるのかな。

 ――……本当は全部気のせいなのかもしれない。疲れる気がするのは、何も変わってないって思いたいから?


キリカ(……それを知ってるのは私だけじゃないのに)

キリカ(みんな普通に過ごしてるし、私も今のところ何も変わらず過ごせてる)

キリカ(十分幸せなんだから、それでいいか)

キリカ(今日はうじうじと考え過ぎだ)


 そう思って、枕を抱き枕のように抱いてごろんと横になって、顔を押し付けた。



――9日 終了――



キリカ 魔力[86/130] 状態:正常
GS:2個
・銀[48/100]
・芸術家[70/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


―10日 昼休み



マミ「ウノ!」

キリカ「さっきから何回も言ってるね……」

マミ「しょうがないじゃない。なかなか最後の一枚を出せる機会が……――」

キリカ「あ、ドローフォー」

マミ「まだまだ続きそうね……」


 食べ終わった弁当箱を片づけて、カードゲームに興じていた。

 二人UNOっていうのも悪くはないんだけど……


キリカ「でもなんでUNO……?」

マミ「昨日何か役に立つかなぁって念のため持ってってたのを忘れてて、今日も入れっぱなしだったのよ」

マミ「トランプと花札もあるわよ」

キリカ(うわ、準備万端だ)


 ……そんなことを話していると、さやかとまどかが教室にやってきた。


さやか「こんにちは! UNO? 折角だからあたしたちも混ぜてくださいよ」

マミ「ええ、丁度いいわ。二人でやるのも飽きてきたところだったから」

キリカ「仕切りなおそっかー」


 一旦カードを山に戻して切ってから、4人分に配りなおす。

 ……ちょうど配り終えたところで、ぼちぼちゲームを始めながら話し始めた。


マミ「椅子がないけど、中腰じゃやりづらくないかしら……?」

まどか「大丈夫です」

さやか「足腰を鍛える訓練と思えば!」

マミ「それで、遊びに来たの?」

さやか「あ、忘れるところだった。今日もちょっと、放課後は一足先に抜けようかと思ってて」

キリカ「またお見舞い?」

さやか「いや、お見舞いではないんですけど…… ちょっとまた迷惑かけることになるかもですけど、いいですか?」

マミ「気にしなくていいわよ。じゃあ、訓練が終わったらパトロールの前に別れるくらいでいいかしら?」

さやか「はい」

まどか「あ、ウノです」

さやか「早っ」

マミ「えっと、リバースだから……こっち回りね。鹿目さん」

まどか「上がりました」

さやか「運が味方してやがる…… あ、スキップ」


キリカ(二回連続で私のターンが回ってこない……)


1自由安価
2今日の訓練について
3一人になるなら気を付けてね

 下2レス


キリカ「一人になるなら気を付けてね」

キリカ「縄張りを狙う魔法少女たち、まだ仲間もほかにいるかもしれないし……」

キリカ「今度はさやかを狙ってくるかもしれないから気をつけてね」

マミ「そうね……何かあったらすぐに連絡して。今度はすぐに駆けつけられないなんてことないようにするから」

さやか「はい! そっちもパトロール頑張ってください」


キリカ(あ、出せる。次で上がれる!)

マミ「呉さん、ウノ言い忘れ……」

キリカ「うわぁん」


 ……話しながらだったからついうっかりしていた。

 それからマミとさやかも上がって、決着がつく。


キリカ「次は花札やろう、花札は得意なんだ!」

さやか「あたしも次は負けませんよー!」

マミ「望むところよ」

まどか「みんな熱いなぁ……」



・……何番目に上がりました?

 下1レス


 さっきだって、うっかりしてさえいなければ。

 花札ならそんなこともない…はず。


さやか「うーん……」

まどか「ふむふむ」

マミ「なかなか良いのが出来ないわね……」


キリカ(……カス札は結構溜まってくなぁ)

キリカ(こっちでさっさと完成させるか、もっと良いのをそろえようとするかは悩むところだけど)

キリカ(ま、こういう時は無理に欲張りすぎないのが一番か)


キリカ「……よし、これで上がりで!」

さやか「さすがに堅実っすねー」


まどか「わたしも最初から良さそうなのは手札にあったんですけど、なかなか出せなくて……」

さやか「勝敗はともかくさっきからツイてるなぁ……まどかは」

マミ「次なにやる? トランプなんかもあるわよ」

さやか「大富豪やりましょう大富豪」


 ……意外と盛り上がっていたから、マミには感謝しておこう。

 さやかも上がって、マミとどちらが勝つかというところで階の違うまどかたちは一足先に戻っていった。


キリカ「……結局また二人になっちゃったね」

マミ「……そうね」


 ――――授業を終えて、みんなで歩きながら雑談をしている。

 ……そろそろ訓練場所が見えてくるといったところで、今日の訓練の話に移った。


さやか「今日の訓練はなにやります? あたしはやっぱり格闘やりたいんですけど」

マミ「基本的な動きは身についてきてると思うから、総合的に戦い方を鍛えるって考えていきましょう」

マミ「同じ格闘訓練でも組手とか模擬戦闘とか、実戦に近いものをやったほうがいいと思うわ」

マミ「特に呉さんの場合はそうよね…… もちろん、射撃自体の精度を上げることも大事なんだけど」

マミ「今日はどうする?」

キリカ「そうだなぁ……」



1さやかと組手でもしようか
2射撃訓練を頼む
3模擬戦闘

 下2レス


キリカ「じゃあ一緒に組手しようか」

さやか「はい!」


 ……土手に着いて鞄を放ると、早速訓練に入る。

 昨日みたいにまどかも横に居る。

 組手はさすがに無理だけど、マミがまたちょっと格闘術を教えているみたいだ。


さやか「はい一本!」


 ……さすがにさやかには敵わないなぁなんて思いつつも、

 ちょっとしたルールもあって、攻撃して倒すのが目的ではないから実際の戦闘と違ってちょっとやりやすい気はする。

 魔女や使い魔よりも対魔法少女向きの訓練に近いんだろう。

 また戦うとしたら、前よりは上手く戦えるだろうか。でも、その時はこういうスポーツ的なものじゃない。


キリカ「まどかも意外と楽しそうにやってるね……」

さやか「一緒に訓練できることが嬉しいんですよ、きっと」

さやか「まどかはいつも何か役立たないとって考えてるとこあるから。ああ見えて世話焼きだし」

キリカ「そっか……」


 少し休憩して水分補給をしてから訓練を再開する。


キリカ「じゃ、いくよ」

さやか「はい!」


 踏み込むと、剣がぶつかる音が響く。

 踏み込んで、下がって。このリズムが少しは掴めてきたかもしれない。

 でもきっと、さやかは本気を出せばもっと速いし、魔法少女として力が互角ってわけじゃない。


キリカ「――!? さやか、」


 ――そんなことをぼんやりと考えながら戦っていたけど、途中でそのリズムが乱れたのを感じた。

 乱れたというか、明らかにさやかがついていってなかった。

 気づいた時にはついた勢いは止められずにさやかの頬から右目のあたりに剣が当たる。

 隙を突けたというよりさやかがついていくのをやめたような、当たると思っていなかった攻撃が当たったことに驚いてしまった。


さやか「えっ! っいたぁ……」

キリカ「だ、大丈夫?」


 剣といっても切れ味のあるものではないが、それでも当たると痛い。強く当たれば、皮膚が裂けてしまうこともある。

 この事態に気づいて、マミもこちらに寄ってくる。


マミ「どうしたの? 大丈夫?」

キリカ「あの、ごめん……」

さやか「いや大丈夫ですよ! あたし頑丈なんで、キリカさんももっと遠慮せずに来ていーんすよ」

キリカ「いやでも……」

マミ「なにがあったの? 正面から顔に当たるって、なかなかないと思うんだけど……」

さやか「ただちょっとぼーっとしてただけです。別に変なことはないですから!」

マミ「本当に大丈夫なの? 今日はもう休んだ方が……」

キリカ「もしかして今日の用事が関係あるの? 何か気がかりなことがあるんだったら……」

さやか「本当何でもないんで!」


 それからまどかもすぐにこちらに来た。


まどか「でもさやかちゃん、痣できてるよ。 早く治療しないと……」

さやか「それならほら、どうせすぐ治せるし」

まどか「でもそれだけじゃ……」

さやか「それともまだ心配なら、あたしもキリカさんから眼帯借りよーかな」

キリカ「そういうことじゃないよ。傷は治せても何かあるなら……」

さやか「冗談ですって。大げさな。時間なくなっちゃいますよ、再開しましょう!」


 ……小さい魔方陣が蒼く照らすと、何事もなかったかのように傷は治った。

 でも、さやか、本当に大丈夫なのかな。


さやか「それじゃあたしはこのへんでー」

マミ「ええ…… 気を付けてね。じゃあまた明日」

さやか「はーい」

まどか「さやかちゃん……本当に大丈夫?」

さやか「大丈夫だって。みんなして心配性なんだから」

さやか「それじゃそっちも頑張ってー!」


 ……さやかが大きく手を振って小走りで去っていく。

 私たちも歩きはじめる。



下1レスコンマ判定
 0~20 使い魔
 21~40 魔女


キリカ「いないね……」

マミ「平和なのは良いことでしょう?」

マミ「本当は私たちが活躍なんてしないほうがいいんだから」

キリカ「うん……そうだね」

まどか「美国って人とその仲間もこの街にいますしね……」


キリカ(そういえばそうだ……)

キリカ(それでもマミは……)


マミ「まあ、他の人がどう動こうと私たちは今までどおりやっていけばいいのよ」

マミ「それでまだ私たちを狙うをするのなら、今度こそ私がきちんと受けて立つわ」

まどか「そうですね……」

キリカ「…………」

マミ「あっ……ねえ、あれって!」

まどか「あれ……? なんでこんなところにいるんだろ?」

マミ「もう用事終わったのかしら?」


まどか「さやかちゃーん!」


―――

―――



 カップが一つ落ちて、音を立てて破片となって飛び散った。

 白く滑らかな陶器に規則正しく並んだ金色の模様が床に崩れてバラバラになる。


 大きな破片を持ち上げると、チャリ、と音を立てた。

 それらを集めようとして、やめる。


「……――愚かなことだわ」

「結局同じ運命を繰り返す」


 ザッと箒でまとめるように掃いて、新聞紙の中にくるんで捨てる。

 そこに見えた記事には今日もまた見たくもない文字が並んでいた。


――――

――――


 ――――玄関の前まで来て、少しの間考え込んでからやっぱり再び踵を返した。


 ……昨日の夜にもここに来ていた。

 偶然聞こえてきたバイオリンの音色で恭介が退院していたことを知って、

 あの時はもう夜遅いからと理由をつけて去って……


 結局、今日は会いに行こうと思っていたのに、それも躊躇って街をぶらぶらと歩きはじめる。


さやか(いつから退院してたんだろ……連絡くらいしてくれればよかったのに)

さやか(……でも、連絡ももらってないのにいきなりなんて言って押しかけよう)

さやか(やっぱりあっちからなにか連絡くれるまで待ったほうがいいかな)

さやか(今日もバイオリンの音聞こえてたし、練習の邪魔するのは悪い気がするし……)


 そうやって結局、何か理由を見つけて遠ざかろうとしてる。

 でも、一番の理由は。


さやか(……あたしは、この街を救う魔法少女で)

さやか(もう人間とは違うんだし)


 それはもう契約するときからわかってて覚悟したはずなんだ。

 そうなってもいいから、恭介のために願いを叶えたかった。


 ……だから、恭介とは違う世界にいっちゃうってこともしょうがないの?


さやか(……魔法少女の活動は疎かにできないし、マミさんやキリカさんがいるからなんて考えしたくない)

さやか(そんなの自分の損得しか考えてないあいつらと同じじゃんか)

さやか(なのに自分の事を優先してみんなにパトロールを任しちゃって、やっぱ悪いよね)

さやか(やっぱり一人でもちょっとパトロールしてよう)


―――

―――


さやか「あ……」

キリカ「さやか……用事は終わったの?」

さやか「あー……まぁ、そうですね」


 ……さやかにしては珍しく歯切れの悪い言い方だった。


さやか「……そっちはまだパトロール中っすか? どうせなら一緒についてっても?」

マミ「ええ、それはもちろんいいわよ」


 なんだか、元気がなく見える。

 何の用事だったんだろう。やっぱり何か、嫌なことでもあったのかな……


まどか「やっぱり、なにかあったの?」

さやか「なんもないよ」

キリカ「なにか嫌なことでもあったんじゃ……」

さやか「嫌なことなんかあるはずないです」

さやか「だって、結局なにもしてないのに……」

キリカ「え?」

さやか「行きましょう。こうしてる間にもピンチな人がいるかもしれませんよ」



下1レスコンマ判定
 0~50 使い魔
 51~80 魔女


さやか「ほらほら、魔力の反応です!」

マミ「使い魔ね……」


 話は強制的に中断されることになり、使い魔を追って歩いていく。

 三人での戦闘はほとんど魔力を使うことなく終わるが、使い魔を倒しても回復はできない。

 今日も一通り街を回ると、解散となる。


マミ「――…………じゃあ、今日はパトロールは終わりにするけど」

マミ「なにかあったら頼っていいのよ?」

さやか「……はい。でもホントになにもないですから」


 ……マミと別れてみんなで帰り道を歩く。

 さやかが何に悩んでいるか、親友のまどかも知らないらしい。

 手がかりになるのは『何もしてない』って言葉だけ……


さやか「お疲れ様でした。二人ともまた明日ー」

キリカ「……ねえ、さやか」

さやか「はい?」

キリカ「今日は用事に行ったのに、何もしなかったんだよね……?」

さやか「はぁ、まあ……」

キリカ「それって、何もできなかったってこと?」

さやか「……」

キリカ「何かさ……しようと思ったんだけど、勇気がなくてできなかったから悩んでるっていうか……」

キリカ「私もそういうこと、あるし」


 ……こんな考えを出来たのは、私だからなんだろうなって思った。

 でも、さやかでもそんなことがあるのかななんて思うと、やっぱり信じられない気持ちにもなった。


さやか「いやっ、えーと、それは……」

まどか「……さやかちゃん、そうなの?」

さやか「…………」


1自由安価
2今からでも間に合うならやってみようよ

 下2レス


キリカ「今からでも間に合うならやってみようよ」

さやか「いやでも……ほら、あんまり今って時間もないし」

さやか「別に今することでもないかなー……って」

キリカ「……さやか、もしかして契約した事が原因なの?」

キリカ「確かに今は忙しいかもしれないけど、本当にそれだけが理由?」

キリカ「結局、そのことを理由に逃げてるだけなんじゃないかな……って」

さやか「……」


キリカ「……キツいこと言ってごめん。多分私自身が今まで似たようなことばっかだったから」

キリカ「まどかもマミもいるし頼りないかもしれないけど、私もさやかを支える事は出来るから……勇気を出してみようよ?」

キリカ「さやかには、私みたいになってほしくはないから……」

キリカ「それに、前に佐倉さんはああ言ってたけど、さやかが誰かのために祈って契約した事は何も恥ずかしい事じゃないし」

キリカ「自分を卑下する事じゃないと思うよ」

さやか「そ、そりゃそのことに後悔はないですよ!」

さやか「大丈夫です。恥ずかしいとも思ってないですって」

キリカ「それをちゃんと誇れるなら、逃げる理由にするのはやめようよ」

まどか「……うん、そうだよ! わたしたちもいるんだから!」

さやか「…………わかりました。 じゃあ、今からでもちゃんと行ってきますよ」

キリカ「うん!」


 ……さやかが駆けていった。

 まどかと二人だけになって、再びゆっくりと帰り道を歩きはじめた。


キリカ「私なんかでも、ちょっとはさやかを勇気づけられたのかな……」

まどか「はい、すごいことだと思いますよ!」

キリカ「とりあえず、嫌なことがあったとかじゃなくて良かった」

まどか「そうですね……」

キリカ「でも、さやかがそういうことで悩むのって、なんか意外だったな」


 少し歩いて交差点に着くと、そこでまどかとも別れる。

 まどかの背中を見送って、ぽつんと足を止めた。


キリカ(さやか、これで元気になってくれたらいいけど……)


 そう思って、前に聞いた言葉が頭の中に蘇った。

 ―――『魔法少女のエネルギーの源は“感情”だ。負の感情を感じるだけでもソウルジェムは濁っていくんだよ』

 キュゥべえの言ってた言葉……

 さやか、おとといグリーフシードがなくなったって言ってた。

 魔力は大して使ってなくても、今日みたいに悩むことでも魔力が減るなら……


 ……ただでさえグリーフシードを目的としてるような人たちがこの街にいる。

 それでもやっぱり、マミは競争するというような考えはないんだろう。

 でもそれじゃ、負けてしまう。 そしたら……


キリカ(マミのやり方を考えたら、グリーフシードを増やすことを目的にした提案は駄目なんだろうな)

キリカ(……みんなを誘って行けないなら、私だけでも行こう)


 ……家には戻らずに違う方向へ歩き出してみる。

 もう少しだけ見回ろう。さすがに街の隅々まで回ったってわけじゃないし、行き違っていることもあるかもしれない。

 さやかに渡す分だけでも稼いでおきたかった。


――――
――――

---------------------
ここまで
次回は30日(日)17時くらいからの予定です



キリカ「やっと見つけた……っ」


 ――――……歩き回ってやっと見つけた結界は、舞台のような場所だった。

 ……気合いを入れる。

 その内部に足を踏み入れると、バッとライトが点灯する。




―操り人形師の魔女結界


キリカ「……!」

 同時に、さっきまで横たわっていた人形が一斉に立ち上がって動き出した。

 剣を構える。



キリカ 魔力[86/130] 状態:正常
GS:2個
・銀[48/100]
・芸術家[70/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:Maritte
  Maritte'sDoll×5 <-攻撃対象

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2踏み込む :近~中距離武器戦闘(魔力-5) :※補正±0 刀を右手に、小さめの刀を左手に持ち、投擲を交えつつ近接で戦う戦闘スタイル。
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。

 下1レス


 こちらから踏み込む前に5体もの人形が迫ってきて、一瞬足がすくんだ。

 圧倒されてる場合じゃない。こっちに来る前に倒すか、そうじゃないなら……
 

 ……さやかから教わった技を思い出す。


キリカ(えいって…………!)


 剣を大きく振るって人形を吹き飛ばす。

 すると、奥に白い顔をした魔女の姿が見えた。


 ――進む?

 でも、使い魔も完全に倒せたわけじゃない。



キリカ 魔力[86/130] 状態:正常
GS:2個
・銀[48/100]
・芸術家[70/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:Maritte <-攻撃可能
  Maritte'sDoll×5 <-攻撃可能

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2踏み込む :近~中距離武器戦闘(魔力-5) :※補正±0 刀を右手に、小さめの刀を左手に持ち、投擲を交えつつ近接で戦う戦闘スタイル。
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。

 下1レス


 ……左手に何本か小刀を出してみて、それを宙に放る。

 一歩下がり、更に刀の数を増やして前方に向けて全体に一気に魔力の刃を放つ。


 これでも全部の攻撃が当たるわけじゃない。全滅させるまで撃つにはあまりにも魔力が足りない――――

 駆けだして、魔女に刀を振るう。


キリカ「っ……!」


 後ろから何かが動く気配がする。

 なんとかしないとと思いつつも前にも敵がいて、振り返るのも怖い。


キリカ(倒し残した使い魔が――)


 どうしようかともたついているうちに、足に糸が絡みついて思わず体勢を崩す。

 魔女が人形を操っているのと同じ、虹色に光る糸だ。


キリカ(ああもう、もたついてる場合じゃない……!)


 振り返り、迫ってきた使い魔を先に切り捨てる。

 ……その間に、魔女は新しい使い魔を召喚してきていた。


キリカ「…………」


 やや狭めの結界内に、敵の気配が更に増える。

 使い魔が守るように囲む魔女のほうに向きなおり、剣を構える。


 技術がなくても、取り柄がなくても……

 さやかのためにもみんなのためにも、勝って帰るんだ――!



 下1レスコンマ判定 戦況
0~(劣勢) < 99(優勢)

+一桁0クリティカル(劣勢時は相手、優勢時は自分)

+補正+30

ほい



 ――踏み込むと、使い魔の動きがやたらとゆっくりに見えた。

 一体人形を破壊し、次に剣を横に構えて薙ぎ払う。


 ……ゆっくりに見えるだけじゃない。

 その球体関節の腕に込められる力が、使い魔の動きそのものが最初に比べて鈍くなっていた。

 使い魔から伸びる虹色の糸。 動くための魔力をそこから魔女が送っているんだとしたら……――


キリカ(……倒す!)


 使い魔を破壊すると、今度こそその魔力の糸がぶつりと切れたのがわかった。

 両手で構えた剣を魔女に振るう。

 正面から縦一直線に、魔女の姿が崩れた。


キリカ「……」


 手に入れたグリーフシードをひとつ懐にしまって、元から持っていたので自分のを浄化する。

 久しぶりの一人での戦いだったし、必死になりすぎてたかもしれない。

 これじゃ、まだあげる分の余裕もない。


 ……それでも、気分は高揚していた。

 やっと自分で何が起きたかわかったからだった。


 これで、少しはみんなに肩を並べられるように近づけたかな?


キリカ(私の取り柄、やっと見つけたよ!)



★魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内に魔力を阻害する魔力を流し、威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:1個
・銀[0/100]
・芸術家[2/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]



 ……携帯を確認すると、お母さんから着信が来ていた。

 歩き回っている時間と戦っている時間で、みんなと別れてからはもう随分経っていた。


 帰宅すると、もう食事を作って待っていた頃だった。

 夕飯を食べて、自分の部屋に戻る。


キリカ(……明日も魔女を倒しに行こう。せっかくちょっとは戦えるようになったんだし)

キリカ(ひとまず………… 今日手に入れた分は、明日さやかの様子を見てから考えようか)



――10日 終了――



キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:1個
・銀[0/100]
・芸術家[2/100]

・操り人形師[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]



―――
―――


さやか(……行こう)

さやか(夕方はともかく、もう訓練もパトロールも終わった後で逃げる理由なんてないんだ)


 扉の前で深呼吸をする。


 恭介のお母さんに部屋に通してもらうと、恭介は椅子に腰かけてバイオリンを弾いていた。

 ……やっと演奏を止めてあたしのほうを見る。


恭介「……さやか?」

さやか「バ、バイオリンの音が聴こえたから来ちゃった」

さやか「とにかく挨拶しておこうと思って来ただけだから……ていうか、なんで連絡してくれなかったのよ」

恭介「ごめんごめん、なんか経過が順調だったから急に予定が前倒しになっちゃったんだ」

さやか「そ、そっか…… まあとにかく、退院おめでとう」

恭介「うん。ありがとう」


 ……こんななんでもない会話にほっとした。

 これだけのことなら、昨日さっさと行っておけばよかった。


さやか「さっきの、何ていう曲?」

恭介「ああ……あれは僕が作った曲なんだ」

恭介「今度さやかに聴かせようと思って」

さやか「え?」

恭介「でも、一足先に聴かれちゃったね」

恭介「題名はまだ考えてないんだよ。曲が完全に完成したら考えようと思っていて」

恭介「さやか、明日は放課後空いてる? 明日には完成させるよ」

恭介「その曲以外にもまた色々と聴かせたいしさ」

さやか「明日……」

恭介「あ、もちろん予定があるなら無理にとは言わないよ?」

さやか「放課後……うん、……まあ、大丈夫だけど」

恭介「じゃあ、待ってるよ」

さやか「うん、また明日ね」


さやか(……明日も多分訓練とかパトロールとかやるんだろうな)

さやか(でも、そう言ってたら多分またずっと行けなくなる)

さやか(どうしよう、みんなが大変な時に一人だけ浮かれてるなんて正義の味方失格かもしれない)


 長い廊下に出て、もう一度おばさんに挨拶する。


「あら、お帰り?」

さやか「はい。ありがとうございました」

「さやかちゃん、ご機嫌そうね」

「来たときはちょっと表情が硬かったから。よかったわ」

さやか「!」


さやか(……だから、明日だけは、許してください)

―――

―11日 昼休み


 昼休みになると、マミが教室にやってきた。

 昨日の事をみんなにどのタイミングで言おうかと考えて、今日は一日中そわそわとしていた。


マミ「……何か嬉しいことでもあった?」

キリカ「! うん、まあ……」


 本当だったらここで『よくぞ聞いてくれました!』とでも言いたいところだけど、

 どこか気恥ずかしいような、もったいぶりたくなるような気分にもなってしまう。


キリカ「えーとね…………新しい魔法が……」

キリカ「……っていうか、もしかしたら最初からあったのかもしれないけど」

キリカ「それにやっと気づけて、使えるようになって」

マミ「新しい魔法? すごいじゃない!」

キリカ「うん! 今度見せてあげるね。パトロールでも、きっと今度こそ役に立てるから」

マミ「ええ、楽しみにしておくわ」



1自由安価
2やっぱり心持の問題なのかな
3今日の訓練について

 下2レス


キリカ「……やっぱり、心持の問題なのかな」

キリカ「契約してから何日も経ってるのに自分の魔法も把握できてないなんて人、他にいないんだろうなって思って」


 私に今まで足りなかったのはきっと、自分が倒すんだっていう気持ちや闘争心とかで……

 それに、マミが言ったとおり、使える力が願いから生み出されるとしたら、

 結局自分で考えて出した答えじゃないからこんなに気づけなかったんだろう。


マミ「じゃあ、何か心境の変化があったの?」

キリカ「うーん、別にあんまり変わってないとは思うけど」

キリカ「今までみんなに頼りすぎてたとこもあったのかな、って……」

マミ「とにかく、よかったじゃない」

マミ「今日の訓練もそれを使ったものにしたい? それとも、格闘とか射撃とか、それ以外のにする?」

キリカ「うーんと……」


1格闘訓練
2射撃訓練
3魔法と魔力の扱い方の訓練(魔力-14)
4模擬戦

 下2レス


キリカ「じゃあ、魔法の使い方を見てほしいな」

マミ「ええ、了解よ」


 ……箸をおいて、空になった弁当箱を片づける。


キリカ「ちょっと一年生の教室行ってきていい?」

マミ「一年生?」

キリカ「ちょっとさやかに渡したいものがあって……」

キリカ「埋め合わせに放課後に珍しいジュース奢るから!」

マミ「珍しいジュース? 別に気にしなくていいんだけど、そう言われると私の方が気になるわね」

マミ「楽しみにしてるわよ、珍しいジュース」

キリカ「うん!」


 教室を出て廊下に出る。

 階段を下りていく途中で、さやかにばったり会った。


さやか「あ、奇遇ですね。丁度今行こうと思ってたんですけど」

キリカ「何か話?」

さやか「はい……悪いんですけど、ちょっと今日は放課後に予定が入って」

さやか「ああ、別に変なもんじゃないんで心配とかしないでくださいよ?」

キリカ「それは、なんか……態度でわかるけど」


さやか「え! そう見えます?」

さやか「まあそれで……ちょっと今日は訓練出られないって、マミさんにも伝えといてください」

キリカ「あ、うん」

さやか「じゃ、そういうことで!」


 さやかはそう話すと、階段を駆けあがっていこうとする。

 ……その後ろ姿を呼び止める。


キリカ「さやか! 私からもちょっと用事があって!」

さやか「えっ?」

キリカ「この前グリーフシードなくなったっていってたけど、魔力は大丈夫?」

キリカ「昨日あれから魔女と戦って手に入ったから、魔力が少ないようだったら一つ渡そうかと思うんだけど」

さやか「多分大丈夫っすよ。戦えるくらいはあります」

さやか「パトロールで使い魔と戦ったのが最後だから、半分ちょっとくらい?」

さやか「昨日も途中抜けてたし、今日もパトロール参加しないのにもらえませんって」

キリカ「私たちは今日のパトロールでも手に入れられるかもしれないし……」

さやか「それ言ったらあたしなんて、今日は魔力を使うこともないんですよ?」

さやか「パトロールで魔女と会うとも限らないんですし、とっておいてください」

キリカ「あ、うん……」

さやか「それより、昨日はありがとうございました!」

さやか「じゃ、さっきの件よろしく伝えといてください!」


キリカ(昨日はありがとう……か)


 昨日言ったこと、役に立ったのかな。

 そのおかげで元気になってくれたなら良いんだけど……


 ……私も余裕があるとはいえない。

 ひとまず悩みがなくなったんなら、大丈夫なのかな…………?


「呉さん!」


 ……と、後ろからマミの声が聞こえて振り返る。


キリカ「どうしたの?」

マミ「いや、さっき一年生の教室に行くって言ってたから……」

マミ「……あの子たち二年生よ」

マミ「美樹さんに用があるなら、二年生の教室に行かないと」

キリカ「……あ」

キリカ「まあでも、さやかとはさっき偶然会ったから」

キリカ「今日の放課後は用事があるから訓練出られないって」

マミ「え……? 用事って、また何か不安なことでも……」

キリカ「……わかんないけど、なんかちょっと嬉しそうだったよ」

マミ「そうなの? それなら大丈夫かしら」


 ……マミと一緒に教室に戻ることにした。


 ――――……授業を終えて、三人で土手に向かう。

 その途中で、昼話題に出した“例のモノ”の話に移る。


マミ「それで、珍しいジュースっていったいなんなのかしら?」

キリカ「まあ待って、そろそろ着くから」

まどか「ええと、変なものとかじゃないんですよね……?」

キリカ「……どうかな?」

まどか「えぇっ?」



・珍しいジュースの詳細

 下2レス


キリカ「なんてね」

キリカ「微炭酸のアクエリアス缶! これカンボジアで売ってるやつなんだって、珍しいでしょ?」

まどか「へえ! それは珍しいですね」

キリカ「ふふふふ、この店でしか売ってないんだよ。この前見つけてさ」

マミ「呉さんは面白いものを知ってるのね」

キリカ「そんなに外を歩くわけじゃないけど、食べ歩きとかお店巡るのは好きだから」


 ……今まで一人で楽しんでいたけど、それを誰かにわかってもらえるのは嬉しかった。

 訓練前に土手の芝生の上で飲んで一息つく。


まどか「……あの、さやかちゃんの用事ってみんなは聞いてますか?」

キリカ「用事があるってことは聞いたけど、内容までは」

マミ「鹿目さんは知ってるの?」

まどか「はい。今日は上条君の家に行くんだって言ってました」

マミ「あら、退院したのね」

まどか「はい。さやかちゃんは上条君の腕の怪我を治すために契約したんです」

まどか「この前退院して、今日はさやかちゃんのために作った曲を聴かせてくれるって……」

キリカ「上条君て、バイオリンが得意だったんだっけ」

まどか「はい」

マミ「なるほどね……」


 ……もしかして、昨日悩んでたのもそのことについてだったのかな。


1自由安価
2新しい魔法の話(まどかに)

 下2レス


 ……前に上条君の話をした時のさやかの反応を思い出す。


キリカ(恋の悩みっていうなら、さやかでも悩んじゃうのはしょうがないのかなぁ)

キリカ(その人のためにわざわざ魂を石ころにして、命懸けの戦いに踏み入ろうとまでしたんだもんね……)


キリカ「まどか、やっぱりさやかはその上条君のことが……」

マミ「それはやっぱりそうなのよね?」

まどか「あ、はい。そのことで前に相談されたこともあって」

キリカ「ふーん……」


 好きな人のため、か……。

 家族のために契約した佐倉さんも、契約したときはさやかと同じような想いだったのかもしれない。



キリカ(その上条君がさやかの想いを受け止めてくれればいいんだけどな……)

キリカ(私はもう受け入れてもらえなくていいって思って契約したけど)

キリカ(魔法少女のことがあってもなくても、さやかは報われてほしいな)


マミ「さっ、そろそろ訓練はじめましょうか」

キリカ「その前に聞いて! えっとね……私、新しい魔法使えるようになったんだよ」

まどか「えっ? おめでとうございます!」

キリカ「早速披露したいんだけど……ちょっとわかりづらいかなぁ」

キリカ「マミにもちょっと手伝ってもらうけど…………」

マミ「ええ、何をすればいいの?」


 ……鞄を置いて奥に進むと、マミと距離を取っていく。

 それから向き合った。


キリカ「ちょっと撃ちこんでみて」

マミ「えっ? えっ?」

キリカ「なににも当てなくていいからこっちのほうに」

マミ「わかったわ……いくわよ?」


 金色の銃弾。飛んでくる魔力。

 それが、ある場所を境にわずかに減速し、その光が小さくなる。


まどか「ええっと……?」

マミ「魔力が小さくなった、っていうか、何かにかき消されたような」

キリカ「さすがマミはすごいね……」

キリカ「なんか……地味だけど、多分役には立つと思うから、うん」


 ……反応の微妙さがちょっと悔しいけど、しょうがない。

 これが私の願いから生まれた魔法、か。


マミ「すごいと思うわよ、拗ねないで!」

まどか「そうですよ! チーム戦じゃ役立つし実戦向きですって!」

キリカ「……いいよもー。どーせ派手な攻撃手段はないって」


 だからこそ、結局地道な訓練は必要になる。

 魔法だけを頼るわけにもいかない。

 ただ、少しだけ戦いやすくするっていうのが今のところの私の取り柄だ。


マミ「それに、鍛えていけば、応用次第ではすごく強くなれるかもしれないわよ?」

キリカ「本当?」

マミ「本当よ。佐倉さんだって最初は分身を一つ出せるだけだったけど、今は…………」


 ……そこまで言って、マミが言葉を切った。

 今は、知らない。別れてから、ずっと会うこともなかったんだから。


マミ「今、どうしてるのかしらね……」

まどか「……やっぱり、気になりますか?」

キリカ「…………訓練しよ。私のももっと上手に使えるようになるかもしれないし」

マミ「ええ」


――――――

――――――


★新技習得 魔力阻害(重)

・魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内に魔力を阻害する魔力を流し、威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。


キリカ 魔力[118/130] 状態:正常
GS:1個
・操り人形師[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]



 ……訓練を終えて、キュゥべえに使用済みのグリーフシードを二つ投げ渡した。


QB「お疲れ様。新しい魔法なんて、すごいじゃないか」

キリカ「……どうも」

キリカ「でも、キュゥべえは推測できたんじゃないの?」

QB「まあわからないからね。実際に使ったのは昨日が初めてなんだろう?」

キリカ「その前にも使ったかもしれないけど……」

QB「同じような願いでも素質や契約時の精神によって出来ることが左右されることはあるよ」

QB「ただ、君の素質ならそういう魔法を使えてもおかしくないとは思ってたけどね」

キリカ「……」

まどか「キリカさん、強いの……?」

QB「まどかほどじゃないし心配するほどじゃないよ。現に何も問題は起きてないだろう?」

マミ「それなら呉さんももっと自信持ってよ!」


 強い強いって、そう言われても皮肉にしか聞こえなかった。

 私なんて魔女を倒すのにも一人じゃあんなに苦戦してたのに。


 鞄を取って立つと、今日もパトロールに出発する。


マミ「キュゥべえ、今日の夜ごはんは何か食べたいものはある?」

QB「僕は何でもいいよ」

マミ「もう。作る側からするとそれが一番困るんだから」

QB「マミはなんでもうまく作れるだろう?」

マミ「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね……」


キリカ(……)


 ……少し後ろをついてくるキュゥべえを見て、スカートの後ろを押さえる。

 マミは長いこと一緒に暮らしてるみたいだけど、無防備すぎないかなぁ。



下1レスコンマ判定
 0~20 使い魔
 21~40 魔女


QB「近くに魔女が居るようだよ」

マミ「ええ、わかっているわ。行きましょう」

キリカ「うん……!」


 マミと二人……

 ベテランでも、マミにばかり負担をかけすぎないように頑張らなくちゃ。


―鳥かごの魔女結界



 結界の最深部まで進むと、目の前に鳥のような使い魔がバサバサと飛んできた。


キリカ「うわっ……!」

マミ「使い魔は私が相手するわ。呉さんは奥の魔女のほうに!」

キリカ「わ、わかった……!」


 剣を振るっても上手く当たらない。何度も魔力で吹き飛ばすのも無駄が多い。

 マミが使い魔をてきぱきと撃ち落として援護してくれるのがありがたかった。


 なんとか足場を渡って結界の奥の大きな鳥かごのほうに近づいていく。

 見てみると、魔女は大きな鳥かごの中で、足だけが閉じとめられているような姿をしている。


キリカ(……どうやって攻撃しよう?)


 鳥かごが宙に釣られるようになっていて、距離がある。

 ……鳥かごが動き出した。


キリカ(!)



キリカ 魔力[118/130] 状態:正常
GS:1個
・操り人形師[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:Roberta <-攻撃対象
  Gotz×4

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2踏み込む :近~中距離武器戦闘(魔力-5) :※補正±0 刀を右手に、小さめの刀を左手に持ち、投擲を交えつつ近接で戦う戦闘スタイル。
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内に魔力を阻害する魔力を流し、威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。

 下1レス



キリカ(こいつ、このまま押しつぶしてくる気か――!)


キリカ「っ……!」


 小刀を周囲に浮かばせ、その切っ先を魔女に向ける。

 近づいてくる前にその刃を撃ち込んでいく。


マミ「……お疲れ様。なんとかなったわね」


 ……魔女を倒すと、マミが構えていた鉄砲を下ろした。


キリカ「うん、なんとか……」


 なんとか、最後までマミに頼りっぱなしになることは避けられたらしい。

 大きな鳥かごの代わりに上空から落ちてきたグリーフシードを拾う。


マミ「呉さん、今グリーフシード少ないんだっけ?」

キリカ「え、まあ…… でも少ないのはみんな一緒じゃ?」

マミ「私もまだ一つはストックがあるから大丈夫よ」

キリカ「そう……じゃあ一応もらっておくけど……」



 ……やっぱり少ないのは同じだった。

 でも、今までの戦いを考えてもさやかが今まで一番負担かかってたのかな、なんて思った。



キリカ(……やっぱり明日は渡そう)



★浄化しました


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:2個
・操り人形師[63/100]
・鳥かご[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]

-------------------
ここまで
次回は4日(木)17時くらいからの予定です


まどか「お疲れ様です」

まどか「ええと、次はこっちの道ですね」

マミ「ええ。あと一か所回ったら解散にしましょうか」



 人気のない建物の裏から出て、再び歩き出す。


 ……今度はキュゥべえはマミの腕の中に居る。

 そうしてるとただのぬいぐるみみたいなんだけど。



下1レスコンマ判定
 0~20 使い魔
 21~40 魔女


 …………決めていたコースを回って、足を止める。

 今日の収穫は一個……か。


キリカ(私だって本当はそんなの気にしたくなんてないんだけどな……)


マミ「それじゃ二人とも、また明日」

まどか「はい! マミさんもキュゥべえも、また明日ー」

キリカ「うん……またね」


 まどかと一緒に帰り道を歩き出す。

 キュゥべえはまだマミの腕の中だ。


キリカ「マミは契約してからずっとキュゥべえと一緒に居るんだよね……」

まどか「そうみたいですね。魔法少女の活動以外の時でもよく一緒に暮らしてるとかで」

まどか「大切な友達なんだって言ってました」

キリカ「友達、かぁ……」



1自由安価
2まどかはキュゥべえについてどう思ってる?

 下2レス


キリカ「まどかはキュゥべえについてどう思ってる?」

まどか「わたしは……」

キリカ「……まどかは、知ってるでしょ」

キリカ「キュゥべえが私たちに隠し事をしたまま契約してたこと」


 それ以上の真実を知ってしまったら、どこか強い口調になってしまうのはしょうがない。

 絶対にマミの前では口に出来ないし、察せられたくもないからあまりあいつのことは口に出さないようにしてた。


まどか「それは、そうですけど……っ」

まどか「やっぱり誰かを嫌いになんて、できるだけなりたくないです……それがマミさんの大切な友達ならなおさら」

まどか「でも、もしそれを知ることでマミさんが傷ついたら…… やっぱり、嫌に思うと思います」

キリカ「…………そうだね」


 住宅街の中、小さな交差点で足を止める。

 信号が青に変われば、ここでまどかともさようならだ。


キリカ「また明日」

まどか「はい。また明日」


キリカ「……」


 ……交差点を曲がって、家を通り過ぎて歩き出す。

 今日ももうひと踏ん張り、魔女を探し歩くことにした。



 ――…………あたりが暗くなってくる。

 今日回っていないところを回っているけど、主要な場所にはその気配を感じられない。


キリカ(やっぱり、他の人も探してるから……?)


 携帯を片手にニュースをチェックしながら歩いて、やっぱり使えそうな情報が見つからなくてため息をつく。

 マミ以外の魔法少女は使い魔を倒さないのが普通らしい。

 やっぱり、魔女に成長する前に倒すならこの街は魔女の数も少なくなってるのかな。


キリカ(使い魔に会ったら……どうしよう?)

キリカ(放っておいたら誰か死ぬかもしれない。人間を食って魔女に成長するんだもんね)

キリカ(……そんなこと考えちゃ駄目か。マミに顔向けできなくなる)




下1レスコンマ判定
 0~50 使い魔
 51~99 魔女


 ――……ああ、本当に考えたくないなぁ。


 携帯に表示される時計を眺めながら、日が沈んで暗くなる時間に更に暗いほうへと歩みを進めていく。

 結界はそんな、入り組んだ場所にあった。



―薔薇園の魔女結界



キリカ「ふう……――」


 深呼吸をして、最深部らしき扉を開ける。

 すると、そこには綿あめの使い魔と、飛び回る目玉だらけの使い魔……

 それから、奥には大きな怪物が鎮座していた。


キリカ(……魔女はまだこっちに気づいてない?)

キリカ(でも、戦いを始めたら気づくかな……)




キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:2個
・操り人形師[63/100]
・鳥かご[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:Gertrud
  使い魔(Anthony)
  使い魔(Adelbert大)
  使い魔(小)


1近くの使い魔(小使い魔)から倒しに行く
2魔女のほうに駆ける

 下1レス



 気づかれずに戦うなんて無理だ。

 ――ひとまず魔女のほうに駆けだすと、その途中で足を何かが地面に引き留め、思わず転びそうになった。


キリカ「……っ!」


 ぶちぶちと小さいものを踏んだ感触。

 地面を這う小さな使い魔が、集まって茨のようになっていた。


キリカ「離れろ……っ!」


 足を地面から離そうと踏ん張っているうちに、使い魔が接近してきている。

 ――――奥の魔女がこちらに気づいて、その巨体の下にある椅子を飛ばそうとしている――


 右手に作り出した刀を振るって茨を剥がし、横の方に飛び退く。

 近くに迫ってきていた分の使い魔は椅子に潰された。

 しかし、見上げればすぐ上に鋏を振り上げた使い魔の姿があった。


キリカ「ひっ……」


 腕を上げて身を竦ませる。

 ――誰か助けて。

 この期に及んでそう思ってしまった自分に怒りがわいた。


キリカ(腕……)

キリカ(こっちを犠牲にするほうがまずいのに)


 ――せめて剣で受ければよかった。

 ただその重い金属を振り上げるのが億劫で、咄嗟の判断ができなかった。


キリカ「えいっ……!」


 今度こそ右手を振るって風で吹き飛ばし、使い魔と間合いを取る。

 ハッと気づいた時には、結界の奥から魔女の姿が消えていた。


キリカ「えっ……!?」


 ――大きな影が落ちる。

 見上げると、翅を羽ばたかせ、こちら目掛けて降ってくる巨体があった。



キリカ「きゃああっ!」



 ――――ああ、本当にどんくさい。

 体重の重みじゃ、魔法でも防げない。

 咄嗟に取った行動は、避けたというよりは逃げたというのに近かった。

 後ろに聞こえた衝撃音と地面の揺れに、やっとその巨体に向かい合って、戦闘態勢に入る。



キリカ 魔力[125/130] 状態:負傷(中/左腕)・右一刀
GS:2個
・操り人形師[63/100]
・鳥かご[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:Gertrud

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2踏み込む :近~中距離武器戦闘(魔力-5) :※補正±0 刀を右手に、小さめの刀を左手に持ち、投擲を交えつつ近接で戦う戦闘スタイル。
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内に魔力を阻害する魔力を流し、威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。

 下1レス


キリカ「っ……!」


 踏み込もうとした瞬間、魔女もあのわたあめの使い魔と同じように鋏を出してくる。

 ……後ずさって、いくつか周囲に浮かばせた小刀の刃を撃ち込んでいく。


 ――回り込むように走る。

 正面から斬り合いなんてカッコいいけど、それで勝てるような技術も度胸もない。



キリカ 魔力[100/130] 状態:負傷(中/左腕)・右一刀
GS:2個
・操り人形師[63/100]
・鳥かご[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:Gertrud

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※[格闘Lv]+マイナス補正20 デフォルトで二刀流。
2踏み込む :近~中距離武器戦闘(魔力-5) :※補正±0 刀を右手に、小さめの刀を左手に持ち、投擲を交えつつ近接で戦う戦闘スタイル。
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内に魔力を阻害する魔力を流し、威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。

 下1レス


 刃を振るうと、魔女の背に一筋の傷が刻まれる。

 ――すると、鈍く響くような警告音が上から発せられて思わず身を強張らせた。


キリカ(なんなのもう……っ!)


 左手に小刀を増やして構える。

 魔女がこちらを振り向く前に、魔女の背を抜けるように走り出しながらもう一閃剣を振るう。


キリカ(当たれっ、的は大きい!)


キリカ「えい、やぁっ……!」


 ……背に小刀を投げ込むと、魔女は警告音のような音を響かせながら消えていった。

 グリーフシードを掴んで、やっと力が抜けて狭い路地にへたり込む。

 携帯を出してみると、また家から着信があった。右上の時計を見て更に驚く。


キリカ「ええっ! やっば……早く帰ろう……」


 ――瞬間、耳元で翅の音が聞こえて身体を強張らせた。

 ……光に釣られてやってきた虫か。


キリカ「気持ち悪いなぁ……こんなところにポイ捨てするから虫なんて湧くんだよ……」


 やっぱり人気のない入り組んだ道なんて、あまり長居したくもない。

 さっさと怪我を治して帰ることにした。


――11日 終了――


★浄化しました


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:3個
・操り人形師[12/100]
・鳥かご[100/100]
・薔薇園[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]

―12日 昼休み



キリカ(二年生の教室……だよね)

キリカ(今度こそ間違えないぞ……)


 昼食を終えてマミと別れると、階段を下りて、廊下に並ぶ教室を見渡していく。

 しかし、歩いているうちに一周してしまった。


キリカ(何組だっけ……)


 首をかしげながらもう一周を歩き出す。

 もしかしたら、トイレにでも行ってるのかもしれない。そうじゃなかったら、行き違ってるのかも。

 また私たちのクラスまで来てくれてたってこともあるかな……


キリカ(……とりあえず一旦戻ってみようか)


 結局、階段を上がって来た方を戻っていく。

 ――……自分の席に戻って、机に肘をついて俯く。

 マミももう自分のクラスに戻ってる。久しぶりに一人になった昼休みはなんだかやけに寂しく感じる。

 ……どうしようかな。昼休みの時間も半分くらいが過ぎている。



1マミのとこに行こう
2もう一度下に行こう
3自分の席で適当に過ごそう

 下2レス


 ……やっぱもう一度下に行ってみよう。

 どっかに行ってたんだとしたら、そろそろ戻ってるかもしれないし。


キリカ(……いない…………)

キリカ(……あれ? まどか……一人?)


 中に見知った姿を見つけて、とりあえず教室に入ってみる。

 まどかに聞いてみればわかるかな。


キリカ「まどか、さやかがどこに居るか知らない?」

まどか「こんにちは、キリカさん。さやかちゃんは多分、まだ屋上に居ると思います」

キリカ「そっか、ありがとう」


 教室から出て階段を上っていく。


キリカ(屋上か…………)

キリカ(なんでそんなところに? もしかしてお昼そこで食べてるのかな……)


 ――――そう思った時、さやかが上の階から降りてくるのが見えた。


キリカ「あ、さや…………」


 声をかけようとして、やめる。


キリカ(友達と一緒か……)

キリカ(……特に今日は抜けるとも休むとも聞いてないし、放課後に渡せばいいか)


 魔法少女のことを知らない人の前じゃ話しはできない。

 知らない人と一緒にいるのがなんとなく話しづらく感じたっていうのもあるんだろう。

 ……結局、自分の教室に戻ることにした。


 ――――放課後になって、いつもみたいに下駄箱の前で待ち合わせをする。

 ……しかし、いつまで経っても後輩の二人が現れなかった。

 マミの隣で携帯をチェックしながら待つ。


キリカ「……なんか連絡きた?」

マミ「いいえ……そっちは?」

キリカ「そっか……こっちもきてないよ」


 一度こっちからも電話してみようか?

 そう提案しようとしたところで、まどかが走ってきた。


マミ「鹿目さん……美樹さんは?」

まどか「それが……探してたんですけどいなくて、もう帰っちゃったみたいで……」

まどか「……電話してみたら、『用事ができたから休むって言っといて』って…………」

キリカ「用事……?」

マミ「美樹さん、そういう時いつも連絡してくれてたのに」

キリカ「どうする……?」

まどか「わたし、ちょっとさやかちゃん家に行ってきます」

まどか「二人は先に訓練場に向かっててください」

マミ「……ええ」


 ……二人で土手に座り込んでいる。

 マミがぽつりと口を開いた。


マミ「…………美樹さん、もう訓練が嫌になったってことはないわよね……」

マミ「例の彼ももう退院したんでしょう? 昨日も一緒に過ごしたんでしょうし、そっちのほうがきっと楽しいわ」

マミ「こんなこと、続けたくなんてないわよね……」

キリカ「……さやかは、簡単に投げ出したりする人じゃない…………と思う」

マミ「…………ええ、そうね」



 ……マミは一度一緒に居たはずの弟子が離れていった経験がある。

 だから、こういう時、そのことを思い出して心配になってしまうんだろう。



1自由安価
2きっと明日にはまた顔出してくれるよ
3さやかはむしろ気負いすぎてるのかもしれない
4訓練始めよう

 下2レス


キリカ「……マミは佐倉さんと仲直りしたいの?」

キリカ「マミにとって佐倉さんは初めての仲間だし、離れていってしまった理由もわかってるんだよね?」

キリカ「ならさ、一度話し合って自分の気持ちをぶつけてみたらどうかな」

マミ「でももう、こっちに来る気もないのよ……?」

マミ「あの時、戦いじゃなくて本当はお互い話し合いで決着をつけるべきだったの」

マミ「何かを思ってこっちに来たはずだったのに、気づけずに傷つけちゃったから、きっともうこっちには戻ってこないわ」

キリカ「会いに行こうよ…… そんなに遠くはないんでしょ」

キリカ「こんな事偉そうに言ってるけどさ、私には出来なかったんだ……」

キリカ「何だかんだ自分に言い訳して結局どうにもならなくてそんな自分が嫌になっただけなんだ」

キリカ「だから、マミには私みたいになってほしくはない、かな……」

マミ「…………」

キリカ「でも今日はまどかを待ってここで訓練しよ」


キリカ「きっと、さやかも明日にはまた顔を出してくれるよ」


―――

―――


さやか「なにやってんだろ…………」

さやか「……これじゃ、ホントに正義の魔法少女失格だ」


 今はみんなと顔を合わせたくなかった。

 心配されるのも嫌だった。

 訓練になんて行ったら、絶対に何かあったってバレてしまう。


さやか(正義の魔法少女……か)

さやか(どうしよう。 そうなったこと、今になって後悔しそうになっちゃってる)


 だから、連絡を入れる勇気すらなく、音もなく消えることを願っていた。

 ……大げさだ。

 昨日まで浮かれてたというのに、一気に現実を叩きつけられたような気がした。


さやか「……ん?」


 イヤホンから流れていた音楽が途切れると、チャイムの音が鳴った気がした。


まどか「さやかちゃん……いないのかな」


 ――二回目のチャイムを押してみて、数秒経つ。

 まどかが帰ろうとしたところで、扉が開いた。


さやか「…………まどか? どうしてここに」

まどか「ちょっと心配になって来ちゃった」

まどか「部屋の明かりはついてたし、居るかと思って……二回もチャイム押しちゃった。ごめんね……」

さやか「ごめん、音楽聴いてたから聞こえてなかった……」

さやか「……まったく、どんだけ心配性なのよ。もう……っ」


まどか「……さやかちゃん、昼休み終わった後から元気なかったよね」

まどか「仁美ちゃんと何かあったの?」


―――

―――


マミ「どう? 私の体術も結構いけるでしょ? 久しぶりに良い運動になったかも」

キリカ「ほんと反則だよ、格闘もできる銃使いなんて……っ!」


 結局、今日はマミと組手をしていた。

 ……研究熱心なマミらしい、セオリーに則った動き。

 ある意味では下手したらさやかより手ごわいかもしれない。

 もしさやかが来たらまたさやかともやろうと思っていたけど、結局まどかもさやかも戻ってくることなく日が暮れかかっていた。


マミ「……そろそろ休憩にしましょうか」

キリカ「うん……」


 ……一旦訓練を休憩にして携帯をチェックしてみると、

 まどかからメールが来ていた。


キリカ「……! マミ、まどかからメールが」

マミ「……ええ、こっちにも来てるわ」


キリカ(……まどかが、さやかと喧嘩した……?)

キリカ(喧嘩っていうか、すれ違いみたいなものかな)


 ……画面の中の文字を追っていく。


 さやかのほかにも上条君のことを好きだっていう友達がいて、

 先に告白するかしないかで悩んでるってことらしいけど……


 昼休みの時友達と一緒に居るのを見たのを思い出す。


キリカ(あの子、か……)

キリカ(普通だったら、そっとしておいてあげてもって思うかもしれないけど)


 ……結局、さやかも受け止めきれてなんていなかったんだ。

 普通の女の子と魔女を倒す使命を背負った石ころの自分じゃ、比べたらどうしたって引いてしまう。


 ――まどかが探しているものの、さやかはそれからどこに行ったかわからないらしい。


マミ「……美樹さん、そんなことで悩んでたなんて」

キリカ「!」

マミ「少しだけ、よかった、って思っちゃった……私や魔法少女の活動が嫌になったわけじゃないって知って」

キリカ「ええと…………」

マミ「……美樹さんに教えに行きましょう。戦いばっかりじゃなくて、そういうの優先したっていいんだって」

マミ「美樹さんはそうしたって、私から離れないでいてくれるのよね?」

マミ「何も言わずに離れられるほうがずっと嫌だもの」

キリカ「…………うん」

キリカ「さやかを探しに行こっか」



 ……結局強くなんてなかったんだ。みんな。

 私も、さやかも、マミだって。


 なのに、私は勝手に自分だけが弱いと思い込んで。

 さやかを自分とは違う強い存在だと思って憧れてた。

-------------------
ここまで
次回は5日(金)17時くらいからの予定です



こちらが魔女募集の項目です
次スレから>>1あたりにも入れようかなー


・【安価内容】の魔女(思い浮かんだものがあれば魔女名も)

・攻撃方法/見た目/特徴/性質/弱点など


 ――……マミと別れて、反対方向に街を歩いていく。

 とりあえず二手に別れてさやかを探すことにした。


 夕方から夜に変わる時間帯の繁華街は、人混みがその密度と勢いを増していた。


 しかし、魔女や使い魔のように近くに居ても反応があるわけでもない。

 広い街の中、多くの人が行き交う中から一人を探し出すことがどれだけ難しいか痛感させられる。


キリカ(まどかがさやかと別れてからも、もうそこそこ時間が経ってる……)

キリカ(どこに行ったかなんて、もう推測もできないな…………)




 場所移動
・繁華街[現在地]
1駅前
2公園
3病院

4まどかに連絡
5マミに連絡
6自由安価

 下2レス


 直進して繁華街を駅前のほうに進んでいく。

 人混みの中を見回すが、広い上に人が多すぎる……


キリカ(人が多い場所には行かない……かなぁ)

キリカ(いや……どうだろう)


 携帯を見てみるが、着信はない。

 一旦こっちからも連絡を入れてみるか。

 マミは工業地帯や人気のない方向を見に行ったはずだ。


マミ『……見つかった!?』

キリカ「いや…… そっちもまだみたいだね」

マミ『ええ……』



1自由安価
2まどかからは連絡は?
3さようなら

 下2レス


キリカ「まどかからは連絡は?」

マミ『いいえ……』

キリカ「……そっか」

キリカ「何かわかったら連絡しよう。じゃあまた探し歩いてみるよ」

マミ『ええ』


 ……通話を終了する。

 キュゥべえ……は連絡手段がない。

 偶然こっちについてきていれば別だけど、そしたらさやかの居場所も知るわけない……か。

 一応、まどかにも電話してみようか。


キリカ「…………あれ?」


 1回、2回とコール音が鳴り、5回、6回と繰り返される。

 ……出ない。


キリカ(気づいてないのかな……)


 通話終了のボタンを押して、携帯をポケットにしまう。

 ……再び人混みの中を歩き出すことにした。

――――――……


 まどか『――――仁美ちゃんと何かあったの?』

 さやか『いや……別に仁美が悪いとかじゃないよ? 喧嘩したわけでもないし』

 さやか『それより悪いね。今日は行こうと思ってたんだけどな……』

 まどか『……そう、だよね。そのために放課後は忙しいからって、仁美ちゃんとの話を昼休みにしたんだもんね……』

 まどか『仁美ちゃんと何を話したの?』

 まどか『上条君が今日学校に来たのと、何か関係あるの……?』


――――――……


 日の傾いた公園は、街灯の明かりがつき、噴水がライトアップされていた。

 そこに足を踏み入れて、まどかはがくりとうなだれた。


まどか「…………さやかちゃん」

まどか「どこに行ったの……」


――――――……


 さやか『……仁美も恭介の事好きなんだって』

 さやか『告白するんだって……』

 まどか『そんな……さやかちゃんはどうするの?』

 さやか『告白? できるわけないじゃん。あたしはもう人間じゃないんだよ』

 まどか『さやかちゃん、そんなこと……』


 さやか『……人に戻ったまどかに言われたくないよ。まどかはただあたしたちに着いてきてるだけじゃん』


 さやか『でももう、みんなにも今は顔合わせたくないんだよ……!』

 まどか『今は………… いつか、戻るん……だよね?』

 さやか『……どうだろうね』

 さやか『やっぱりあたしはみんなと肩を並べられるような人じゃないから』


――――――……



まどか「わたしが契約すれば、さやかちゃんは救えるのかな……?」

まどか「…………なんでキリカさんはわたしなんかのために契約したんだろう」


 手の中に思い出す。弓を構え、魔力を射る感覚。

 強くて、強すぎて戦えない自分の素質。


 ずっと悔しかった。

 今ではその力も失い、普通の人間として、戦いも怖さも痛みも味わうことなく暮らしている。


 でも、奇跡を起こすくらいなら……――


まどか「…………」



 大きな噴水の水飛沫の音の中に、硬い靴の音が響き、近づいてくる。


まどか「さやか、ちゃ……」


 その音が止まると、公園の灯りがぼんやりと背後から背の高い影を照らし出す。


「…………」


 ――祈るような思いを込めてまどかが振り向く。

 しかしそこに立っていたのは、あの時歩道橋で見た魔法少女――――美国織莉子だった。


まどか「……!」


織莉子「……愚かだわ。私が何をするまでもなく貴女達は自滅する運命」

織莉子「貴女達の『正義』なんてその程度のまやかしに過ぎない」

織莉子「誰にも認められなくてもいい。誰もわかってくれなくてもいい……――私が、真実の正義を遂行するまで」

―――


マミ「……!」


 ……――マミが足を止め、駐車場の中を駆け上がる。

 二つ分の魔力の波動。使い魔の結界が消えて、その中から姿を現す。


マミ「見つけた……っ!」

さやか「……マミさん」


 衣装に血が滲んでいる。

 さやかは変身も解かないままうずくまっていた。


マミ「怪我してるの……?」

さやか「……来ないでよ」

マミ「ねえ……みんな心配してるわ。チームに戻りましょうよ」

マミ「今みんなにも連絡するから……」

さやか「…………」

マミ「……鹿目さんから聞いたわ。上条君のことで、友達とトラブルがあったそうね」

マミ「それで今、告白するかしないか、迷ってるって……」

マミ「そのことで悩んでいるの?」

マミ「……だったら、勘違いしないでほしいの」

マミ「自分のプライベートを犠牲にすることはないのよ。私たちは魔法少女だけど、その前に美樹さんは美樹さんなんだから」

マミ「私はずっと一人で友達と遊ぶ時間も取れなかったけど、今はそれを後悔してるの」

マミ「これからはそういう時間も増やしていこうって思ってる」

マミ「だから、そんなことを理由に諦めないでよ。恋愛しながらでもいいじゃない」

マミ「むしろそれって素晴らしいことよ。みんな応援するし、誰も迷惑になんて思わないわ」

さやか「『そんなこと』? そんなふうに言わないでくださいよ。あたしたちの使命はそれしかないのに」

マミ「そんなことはないわ。確かに街を守るのは大切な使命だけど、それ以外にだって……――」


 ……さやかが立ち上がり、マミのほうに振り向く。

 その姿を見た時、マミは目を見開いた。


さやか「――だってあたしたちゾンビなんだよ? 契約した時から!」

さやか「そんな身体で人間と同じように過ごせるわけないじゃん!」

マミ「ちょっと待って……何を言っているの……?」

マミ「酷い怪我だわ、今すぐ治さないと……」

さやか「だから、必要ないでしょ……!」

さやか「こんなの治そうと思えばすぐに治せるし」

さやか「別に治さなくったって問題なんてないんだから」

マミ「…………」

さやか「……だってあたしたちってもう、石ころなんでしょ?」

さやか「これが無事な限り死ぬことがない……身体はただの飾りで死んでるみたいなもの」

さやか「マミさんは強いんですね……」

さやか「いや、まどかも、キリカさんも…… きっと弱いのはあたしだけ」

さやか「ちゃんと覚悟してなったはずなのに……やっぱりあたし、ダメだったから……」

さやか「だからもう、魔法少女でいる資格もないんです」


 ずるり、ずるりと重い身体を引きずりながらさやかが歩いていく。

 ……マミはその場で茫然として、追うこともできなかった。


―――


 ――――……人混みの中を抜けて、座り込んでため息をついた。

 携帯にもあれから着信はなく、時間だけが過ぎている……


キリカ「……え?」


 パトカーが何台か並んで、けたたましいサイレンの音を立ててどこかに走っている。

 向かう先は……住宅街のほう?


キリカ「まさか……」


 ……もしかしたら、さやかに何かあったのかも。

 最悪の想像をして、走り出す。

 ――――その途中で、通行人にぶつかった。


キリカ「あっ、ごめんなさい…… って」

さやか「……!」


 ……ずっと探してた人だった。


 持っていたグリーフシードを取り出すと、両手でさやかの手ごと握りこむようにして押し当てる。

 さやかの手の中の宝石の淀んだ黒色がじわじわと消えていくのを見てひとまず安堵した。


さやか「何やってんですか……!」

キリカ「いいからとっといてよ! それ全部あげるから!」

さやか「もらえませんって! ていうかこんな、いつのまに……」


 代わりにグリーフシードが一つ分じゃ足りずに真っ黒になって、

 一緒に手に握っていたもう一つ分まで穢れが浸食している。


 ……前に聞いた時は半分ちょっとって言ってたけど、もうこんなに危なくなってたんだ。


キリカ「本当になんかあったんじゃないかと思ったんだから!」

さやか「別になにもないですって……」

さやか「…………なんでそんなにみんな、あたしなんかのために心配するのかな」

さやか「……それがもううっとうしいんだよ」

さやか「……もう、何も言わずに離れさせてよ」



 恨みのこもったような言葉だけど、やっとさやかの本心が聞けた気がした。

 ……でもきっと、さやかの本心はそれだけじゃないはずだから。


 きっとこの世に、『強い人』なんていないんだ。

 いたとしたってきっとそんな人は、物語の主人公だとか、限られた人だけなんだ。


キリカ「……なんでさやかが離れないといけないの?」

さやか「だって、あたしなんていなくたって……」

キリカ「マミはさやかに離れてほしくないって、離れていっちゃったらどうしようって不安がってた」

キリカ「マミだけじゃなくて、私もまどかも……離れたら悲しむんだよ」

キリカ「綺麗事とかじゃなくて、みんな弱いから……誰かが傍にいないと不安なんだよ」

キリカ「…………ソウルジェムのことだって、私も本当は受け入れられてなんてないよ」

キリカ「ずっと不安で、でもそう思うのは私が弱いからなのかなって思ってた」

さやか「…………でも、もうまどかにも酷いこと言っちゃったし、さっきはマミさんにも辛く当たっちゃったし……」

キリカ「そんなのきっと気にしてないよ……」

さやか「でも……このままじゃ恭介が仁美に取られちゃうよ。なのにあたしはなんにもできない」

さやか「これ以上嫌な思いも惨めな思いもしたくないから、魔女と戦ってるうちに消えられたらいいかなって……」

さやか「そんなふうに思っちゃった、そんな自分が許せなかった……!」



 ……泣き出したさやかを慰める。

 結局、私も強くなんてないから励ます方法なんてわからない。


 さやかには報われてほしいとは思う。

 本人に拒まれてもいないうちから諦めるなんて、嫌だ。


 ――――けど、何かを考えるのは落ち着いてからにしよう。



キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:2個
・操り人形師[12/100]
・鳥かご[0/100]
・薔薇園[80/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]



1自由安価
2マミに連絡
3まどかに連絡

 下2レス


 やっと落ち着いてきたところで、

 そろそろみんなにも連絡しなきゃと思い出す。


キリカ「……さやか、まどかに連絡できる?」

キリカ「すごく心配してたから、私からじゃなくてさやかの声を聞けたらきっと安心すると思う」

さやか「……はい」


 ……スマホを操作しているさやかの横で、私もマミにもう一度電話をする。


キリカ「……あっ、マミ! さやか見つかったよ!」

 ……沈黙のまま数秒が経つ。

 ちゃんと通話中になってるはずなんだけどな……

キリカ「マミ……?」


マミ『…………どうして教えてくれなかったの?』

マミ『ソウルジェムは魔――――――』


 そこまで聞こえた時に、横から同時にさやかの声が聞こえてかき消される。


さやか「キリカさん! えっと……――」

キリカ「……な、何?」

さやか「公園に向かいましょう……! まどかが…………――」

キリカ「…………まどかがどうしたの……?」

さやか「わからない……わかんないよ…… 警察の人が出て、公園に携帯が落ちてたんだって言ってて……」

さやか「――――――そこに、事件に巻き込まれたかもしれない血の痕があるって」


キリカ「マミ、ごめんね…… ちょっと後でまたかけるね」


 電話を切ってさやかと一緒に走り出す。


キリカ「事件…………? なんで……」

さやか「…………」


 死んだとは限らない。そもそも、まどかじゃないかもしれない。

 ……そう思いつつも、やっぱり浮かぶのは一つだった。


 ――私たちを狙う魔法少女。


―――


マミ「…………」

織莉子「まだ話の途中じゃないの?」

マミ「また後でかけるそうよ……」

織莉子「そう。でも、どうするのかしら?」

織莉子「貴女をずっと騙していた人たちと、また真実を識らない振りをして付き合い続けるの?」

マミ「…………そうできれば幸せなんでしょうね」

マミ「でも私は、それができるほど愚かにはなれない」

マミ「キュゥべえも、鹿目さんも呉さんも美樹さんも…… 知らないのは私だけだった」

マミ「知らないうちに一番信頼していたはずの人に、いいように踊らされて」

マミ「そんなことのために命を懸けて、最後には、自分も、みんなも…………」

マミ「全部を識るあなたが正義なら、私がやってきたのはなんだったの?」

織莉子「……私だって、その役目を終えればただの魔女の素体よ」

織莉子「でも、まだ正義を貫くのなら、そう生る前に為すべきことは残っている」


織莉子「――――すぐに魔女になりそうな素体が二人、まだ近くに居るわ」

織莉子「……それとも、騙されたままの魔女の素体たち、全てを解放してあげるというのも、ある意味では正義なのかもね」

―――


 住宅街の中の静かな公園には黄色いテープが張られている。

 発見した近隣住民が通報したらしい。

 近くに落ちていた携帯……血もまどかのものということで決まっていた。


キリカ「……まどかは死んだの?」

さやか「で、でも、死体はまだ見つかってないじゃん……」

QB「……残念だけど、美国織莉子の仕業ならこの場で仕留めない理由がない」

QB「死体なんて見つかれば大ごとだ。結界にでも捨てれば死体を残さず証拠隠滅できるしね」

さやか「でも! なんでまどかを狙うんだよ!」

さやか「一人で泣き言言いながら彷徨ってたあたしを最初に狙えばいいだろ!」

キリカ「その人、こっちにも来るのかな……?」

QB「どうかな……彼女の狙いは最初からまどかだけだったんだよ」

さやか「は……? なにそれ。なんでだよ……」

QB「まどかの強大すぎる力……そこからもたらされる厄災を、その芽ごと摘みたかったんだ」

QB「それが彼女なりの正義だった、ということさ」

さやか「は……? そんなこと一言も言ってないじゃん!」

QB「言ったところでどうするんだい?」

QB「相手はまどかが生きている限りその可能性があるとみなして狙うんだ」


QB「……君たちが彼女を追わない限りは、もう彼女の方からはなにもしてこないだろうね」


 ――――全身の力が抜ける気分だった。


キリカ「………………」

さやか「…………あたしのせいだ」

さやか「あたしが勝手なことして、みんなに迷惑かけたから…………!!」

キリカ「……なんでさやかのせいになるの?」

キリカ「私があの時、殺していれば…………――――」


 ……やっとわかった。

 キュゥべえが私が契約した次の日から美国織莉子のことを突き止めた理由。

 その事実を知る人の存在を、私はもう一人だけ知っていた。

 アレの言うままに契約して、アレのいいように利用されて……



 ――私は折角あの時対峙して追い詰めたのに。

 あの時誰も失わなかったからって、安心して、なんとかなるって思って。


 結局その甘さが、愚かさが、まどかを殺したんだ。


さやか「……っ」

キリカ「…………さやか、ごめんね」

キリカ「やっぱ私もそんなに強くなかったから」

キリカ「さやかの大事な友達守れなくて」

さやか「いや、えっと……それは……」

さやか「そんなのキリカさんのせいじゃ……」

キリカ「いいから全部私のせいってことにしてよ!」

キリカ「そうじゃなければこの気持ちをどこに向ければいいんだよ!」

さやか「――…………ところで、キリカさん」

さやか「こういうことって、前にもありました……?」

キリカ「こういうこと?」

さやか「いや……なんていうか……」

さやか「前にも似たような言葉を聞いたような気がして」


キリカ「…………こんなこと二度もあったらたまらないよ」

さやか「それもそうですね……」


 ……使用済みのソウルジェムをキュゥべえに投げ渡して、さやかとも別れて一人になる。

 いつまで経ってももやもやとした気持ちが晴れなかった。


 そういえばマミにも後で連絡するって言ってたっけ。

 ……携帯を取り出す。でも、まどかのこと、なんて言えばいいんだろう。


キリカ「…………」



 立ち止まって数秒、携帯を睨む。



キリカ 魔力[120/130] 状態:傷心
GS:2個
・操り人形師[12/100]
・薔薇園[80/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]



1自由安価
2マミに連絡
3帰ろう

 下2レス



 再びマミに電話をする。

 数コール後に電話がつながった。


キリカ「……あ、さっきはごめんね」

マミ『さっき?』

キリカ「いきなり電話切っちゃったでしょ……」

キリカ「……こっちも……大変なことがあって……」

キリカ「…………マミは今どこにいるの?」

マミ『大変なことって、鹿目さんのことでしょう?』

キリカ「もう聞いてたんだ……」

マミ『鹿目さんや私たちがどうなるか……私たちの身体のことも、あなたは知っていて黙っていたのね』

キリカ「え…………っ」


 ――……ソウルジェムの真実を知っている?

 ひやりと額に汗が伝った。


キリカ「……どこで聞いたの?」

マミ『美樹さんが言っていたわ』

マミ『それから、全て教えてくれたの……美国織莉子がね』

キリカ「そ、そいつの言葉なんて信じるの……?」

マミ『嘘だって思いたかったわよ! でも、隠し事してたのはそっちじゃない!』

キリカ「…………」


マミ『その真実を知りながら、よく私たちについてこれたわね……』

マミ『心の中で嘲笑いでもしてたのかしら』

キリカ「な、なに言ってるんだよ……! そんなことあるわけないじゃん!」

マミ『……ええ、もちろんわかってるわ。私のことを思ってのことだったって言うんでしょう?』

マミ『でも、本当に私たちと同じ気持ちを持っていたなら、そんなことできちゃいけないのよ』

マミ『…………あなたは所詮、その真実を受け入れられなかっただけよ』

キリカ「…………」

キリカ「ま、待って! 私は――――!」


 ……通話はぶつりと切れてしまった。


 『私は――――』なんて言い訳をするつもりだったんだろう。

 何か言わなきゃって思って、結局何も言えなかった。


 ……まどかから送られたメールは、私とマミので内容が少しだけ違った。

 マミがまだ私たちの正体を知らないままだということにホッとした。

 みんな真実なんて知らないまま、このままずっと、変わらない日々が続けばいいって思ってた。


 ――何があっても、いつかはまた元通りに続くんだって、根拠もなく思ってた。

 全部話したほうがよかった? それとももっと上手に隠しておけばよかった?


 そばにあったものがいきなりなくなってしまうことなんて、前にもあったはずなのに。



キリカ「もうこれ以上……私の日常を壊さないでよ…………」



 ――――家に帰ると、真っ直ぐに自分の部屋に向かった。


 私は結局、真実を知ってるだけで、受け入れられてなんていなかった。

 ……マミは受け入れたっていうのなら、一体これからどうするつもりなんだろう?


キリカ(仲間を失うことを恐れてたのは、マミだって同じだったはずなのに)

キリカ(そんなに私とマミは違うものを見ていたのかな……?)

キリカ(……もう、わかんないよ)



――12日 終了――


キリカ 魔力[110/130] 状態:傷心
GS:2個
・操り人形師[12/100]
・薔薇園[80/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]

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ここまで
次回は6日(土)17時くらいからの予定です

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とんでもない誤字を発見したんで修正

>>411
【誤】 ……使用済みのソウルジェムをキュゥべえに投げ渡して、
【正】 ……使用済みのグリーフシードをキュゥべえに投げ渡して、

―13日 昼休み



 …………午前の授業の終りを告げるチャイムが鳴り、

 みんな席を移動したり、教室を移動したり、思い思いに動きだしてざわめいている。


 私は一人、まだ何もせずに机に向かっていた。

 マミは来ない。昨日までと何が変わってしまったんだろう。

 多分今までもずっと、一つ不都合が起きれば一気に崩れるような脆さを抱えたまま過ごしてたんだ。


キリカ(……ちょっと歩こう)


 半分以上も内容を写せていない授業のノートをやっと片づけて席を立つ。

 廊下からマミのクラスを覗いてみると、そこにマミの姿はなかった。


キリカ「はぁ…………」


 ……私はどうしたいんだろう。一人で食べる気はしなかった。

 ずっと一人だった時は、それでもこの時間は十分に楽しみだったのに。

 自分の教室に戻ろうと踵を返すと、呼びとめられる。


「キリカさん」


 ……さやかが立っていた。


キリカ「……一人なの?」

さやか「仁美……友達とはなんか気まずくて……」

さやか「それに…………」


 ……さやかはその続きを言うことはなかった。

 結局、弁当を食べるでもなく、廊下をずっと進んだ先、埃っぽい行き当たりの隅で下品にも床に座り込んでいた。


キリカ「…………」

さやか「…………」


 ……お互い、何を話したらいいかもわからないまま。

 これでも一人で居るよりはマシなのかな。

 でも、昨日さやかが言ってた誰にも見つからずに消えてしまいたい気持ちもわかる。



1自由安価
2……今日、どうする?
3その仁美ちゃんとのことはもう大丈夫なの?

 下2レス


キリカ「……今日、どうする?」

さやか「……今日は行きますよ」

さやか「いつもみたいに、訓練して、パトロールして…………」

さやか「……でも、マミさん、今日休みなんですよね」

キリカ「…………」

キリカ「……その仁美ちゃんとのことはもう大丈夫なの?」

さやか「そりゃ、大丈夫じゃ……ないですけど」

さやか「どうすることもできないし……だったら使命を果たさなきゃ」


 ぽつりぽつりと話をする。

 さやかは昨日までと何も変わってない。

 それに少しだけ安心して、でも不安にもなった。結局、私には勇気づけてあげることもできない。


 でも、使命……か。さやかもマミと同じで、やっぱり私とは違うものを見ているのかもしれない。

 …………さやかは真実を知ったらどう思うの?


キリカ「マミはさ、まどかのこと織莉子から聞いたんだって……」

キリカ「おかしいよね?」

キリカ「まどかを殺した織莉子を倒したとか、仇を討つとか一言も言わなかったってことは見逃したってことだよね?」

さやか「え……まさかそんな!」

さやか「だってありえないですよ。なんか誤解してるとかじゃ……」

キリカ「まどかの事で悲しんでも怒ってもいない……織莉子と会ってマミは何か変わったんだよ、決定的にね」

キリカ「今日は私も会ってないけど、もしマミと会ったら気をつけて」

キリカ「……もう昨日までのマミとは違うんだと思うから」


 立ち上がってスカートをはたく。

 ……結局何も食べないまま昼休みが終わろうとしていた。



 ――――放課後になって学校を出ると、特に目標を決めるでもなくふらふらと街を歩きはじめた。

 コーチも不在で、自主訓練をする気にもなれなかった。


 ……いつのまにか小さな姿がひょこりと現れる。


QB「やあ、今日は二人かい? 僕もついていってもいいかな」

さやか「……キュゥべえ」

キリカ「…………」

QB「マミには追い出されちゃってね」

さやか「喧嘩でもしたんだ? 珍しいね」

さやか「それとも……本当に」

QB「……昨日からマミの様子がおかしい」

QB「心当たりがあるなら、一応注意しておいてくれ」

QB「今後、敵対することもありえるかもしれない」

さやか「……!」


 さやかが何かハッとしたように反応する。

 その横で、私はぼんやりとそのやりとりを聞いていた。


さやか「もしかして、あたしの……」

キリカ「違うよ!」

キリカ「…………私、さやかにも話さなくちゃいけないことがあるんだ」

キリカ「……結局私はみんなと一緒に居るようで、同じものなんて見てなかったから」

キリカ「みんなと一緒に居たいだけで、本当は私、正義なんてどうでもよかったんだよ」

キリカ「……それがバレて、隠してたこともバレちゃったから、マミにも嫌われちゃった」

さやか「え…………?」

キリカ「ソウルジェムは……私たちの魂で」

キリカ「……それが濁り切ったら、魔女になるんだよ」


 もうごまかすような気力もなかった。

 どうするのが一番良いのかなんてわからないから、どうにでもなれと投げやりな気持ちになっていた。


さやか「な、何言ってるんですかー……魔法少女は魔女を狩るのが使命なのに、その魔女になるなんて」

さやか「冗談にしてもたち悪すぎっすよ……?」

キリカ「…………」


 いっそ、このままさやかにもとことん嫌われてしまえば、寂しさなんて未練がましい感情もなくなってしまえそうだ。

 でも、そしたらさやかは受け入れられずに絶望してしまうのかな。

 ……やっぱり私は無責任だ。


さやか「あ、そうだ……キュゥべえが居るならキュゥべえに聞くのが早いか」

さやか「キュゥべえ……どうなんだよ! まだあたしたちのこと――!」

QB「……訂正するほど間違ってもいないね」

さやか「…………っ!」

QB「……魔女の魔力だよ。行かなくていいのかい?」

さやか「なんだよそれ……! こんなことやってられるか!」

さやか「じゃああたしたちの使命はなんなんだよ? だったらもう、魔女を狩る意味すらないじゃない!」

キリカ「意味ならあるよ」

キリカ「……魔女になりたいのかい?」


 ……立ち止まってなにか言いたそうにしているさやかを置いて、結界の入り口を探って乗り込む。

 結界の中は、白黒の世界に黒い影を落としたような使い魔の群れが地面を這っていた。


キリカ「っ……!」


 ……その使い魔を切り裂いて結界を進んでいく。

 今はただ、目の前を遮って動こうとする存在が鬱陶しくてしょうがなかった。


QB「一人で先に進んでしまっていいのかい?」

キリカ「いいんだよ……」

キリカ「その先の言葉なんて聞きたくもない」


 それを繰り返すうちにいつのまにか結界の最奥にたどり着く。

 開けた結界の奥に、こちらに背を向けて座る魔女の姿を捉えた。



キリカ 魔力[110/130] 状態:傷心
GS:2個
・操り人形師[12/100]
・薔薇園[80/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv1] [射撃Lv2]


敵:影の魔女
  使い魔(Sebastian's小)×20
  使い魔(Sebastian's大)×6

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) ※補正[格闘Lv]×3 デフォルトで二刀流。
2踏み込む :近~中距離武器戦闘(魔力-5) :※補正±0 刀を右手に、小さめの刀を左手に持ち、投擲を交えつつ近接で戦う戦闘スタイル。
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内に魔力を阻害する魔力を流し、威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。

 下1レス


 まずは周囲に魔力を流す。

 踏み込んで目の前の蠢く影の使い魔に小刀を投擲し、刀で斬り払う。


キリカ「!」


 ――横からもいつのまにか影が伸び、ど突かれる。

 一体斬ってもすぐに湧いて、取り囲むように群がってくる。

 ……数が多い。


キリカ「邪魔……!」


 手中に用意していた残りの小刀を一気に投げ、

 左手にも刀を出して一気に切り裂いて魔女のほうに駆けていく。


キリカ「!!」


 ――――目の前を塞ぐ使い魔を裂くと、

 魔女の背から伸びてきていた鋭い影の触手がすぐそこに迫っていて足が竦んだ。


 魔女の目の前に居たはずなのに、途端に景色が遠ざかった。

 腹に影が突き刺さり、自分の身体が後ろに飛ばされていく。


キリカ「っ…………」


 吹き飛ばされた先で、滲んだ血をぼんやりと眺める。

 使い魔はまた迫っていた。

 ――――立ち上がる。空っぽの身体が痛いはずなんてないんだ。



 影の一つが身体に喰らいつく。


キリカ「……そっか。本当にそうなんだ」

キリカ「その気になれば痛みなんて完全に消しちゃえるんだ…………」


 ――その影を裂いて、群がってきた使い魔に剣を振るう。

 結局、心持と思い込みに支配されているだけ。


キリカ「っ……」


 伸びてきた影に、右手に持っていた刀が手から落ちる。

 手から直接魔力の刃を出してその使い魔を裂いた。


 魔力なんて望んだ形に姿を変えられるんだから。刀身を不定形に変換できるならこういうことだって出来るはずなんだ。

 重いものなんて、捨ててしまえる。


 使い魔を全て切り裂いて進む。


 私が臆病なのも、前に出て戦うのが苦手なのも。


 …………そういう人だから仕方ないって自分で決めつけて、逃げていただけだ。


 ソウルジェムの真実のことも、“声”の正体についても……

 不安なこと全部考えたくないって、逃げて……

 なんでそんなに私は楽観的にごまかすばかりだったんだろう。


キリカ(……佐倉さんの言う通りだ)

キリカ(中途半端な覚悟で契約したから後悔してるんだ)

キリカ(希望だったまどかを失って、人間としての身体も失って――――私には何もない)


 今までみんなについてきただけだった。

 それも崩壊した今、私は何をすればいい?


 魔女になんてなりたくない。

 このまま何もできずに絶望して恨みや呪いを撒き散らすなんておかしいじゃないか。


キリカ(それなら生きてるうちに私の希望を奪った奴らに全てぶつけてやる……!)

キリカ(マミだってさやかだって、もうその邪魔をするなら躊躇なんてしない)

キリカ(立ちはだかるものは全部刻む)

キリカ(それまで、魔女になんてなるもんか――――!)


 魔女の黒い影がこちらに伸びる前に、同じ色をした刃の鞭が魔女を引き裂いた。


 ――――自分の中の憤りを拠り所にして、ぐちゃぐちゃになった心を固める。

 やっと自分の中の強い何かができたのは、自暴自棄と復讐の黒い感情の末なんて。


 ……私は正義の魔法少女でも物語の主人公でもないから、こういうふうにしかなれなかった。

―――


織莉子「…………」


 折角目的は達成したというのに、見える未来は容赦なく自分を責めてくる。

 世界を救っても、誰にも称賛されることなんてなく、私は悪者でしかないのだ。


 本当だったら、かけがえのない友人になるかもしれなかった人たち。

 繰り返す世界で、自分だけが異質で、立場が違っていた。

 今の自分に仲間が出来るとすれば、友人とも似て違う“傷ついて産まれたダイヤモンド”以外にはない。



―マミの家


マミ「…………」

織莉子「学校はもう行かないの?」

マミ「勝手に入ってこないでちょうだい……」

織莉子「……悪かったわね。鍵あきっぱなしだったわよ」

織莉子「荒れてるみたいね。珍しい」


 織莉子はマミに近寄ると、珍しく梳かされていない髪に触れ、指で梳いていく。

 癖のある髪は、いつものように手入れされてまとめられていないと途中で引っ掛かった。

 ……織莉子は少しだけぼんやりと昔のことを思い出していた。自分もそうで、幼い頃はよくお母様に梳かしてもらっていた。


マミ「……なんのつもり? 私に何か用があるの?」

織莉子「……私も、自分の正義を認めてくれる仲間が欲しかったのかもしれないわね」

織莉子「あなたもそうなんでしょう?」

マミ「……そうね」

マミ「でも、自分から手放しちゃった」

マミ「自分の正義ももうわからなくなっちゃったもの」

織莉子「わからなくなったのなら私と一緒に来なさい」

織莉子「真実を識る者同士、傷の舐めあいくらいなら出来るわよ?」

マミ「…………それもいいかもしれないわね。今度こそ傍に居てくれるのなら」

マミ「あなたとは不安もなく死ぬまでやっていけそうな気がするわ」

織莉子「私は今いくつかの賭けをしている」

織莉子「……そんな格好じゃ驚かれるわよ」

マミ「……? それって一体どういう――」


 織莉子が去っていく。

 扉の閉まる音を聞いて、マミはため息をついた。


マミ「そう言ってくれるなら、一緒に居てくれたっていいじゃない……」



 ……マミのマンションから離れていく。

 昨日の公園には厳重にテープが張られ、物々しい雰囲気を放っていた。


織莉子(今思えば…………マミを除けば私を責めなかったのはあの子だけなのね)

織莉子(なんて皮肉かしら)



――――――
――――――
12日 夕方 公園


まどか「――……あなたの言う正義ってなんなんですか……?」

織莉子「……!」

まどか「縄張りが目的じゃないの? じゃあ、なんで……」

まどか「っ!! う゛……――――」


 苦しげな声を発した口から血が零れて、唇から顎、地面へとボタボタと落ちていった。

 小柄な身体をくの字に曲げる。

 ――その腹には今も水晶のような珠が、骨を砕いて突き破らんとばかりにめりこんでいた。


織莉子「……それは貴女が識ることじゃないわ」

織莉子「優しい貴女は事情を知れば同情をでもしてくれるというの? 自分を殺す相手にまで?」

まどか「…………やっぱり、あなたなりに信じるものがあって、こんなことをしてるんだ……」

まどか「……だから そんな、悲しそうに して――――――」


織莉子「………………」


 倒れ込んできた身体は軽く小さかった。

 そこから零れ落ちる血が白い衣装まで赤く汚していた。

 見てみれば、まどかは意識を失って尚苦しげな顔をしている。


 ……でも、そんな未来を識ってしまったら、

 なんで私だけがこんなに冷たいところにいるのかと思ってしまうのは仕方がないじゃない。



織莉子(鹿目まどかの素質がもう少しでも低かったら、あの子たちに協力する未来もありえたのかしら?)

織莉子(それでも“一つ前”の私は、私と同じことをしようとしたみたいだけど)



まどか「――――」

織莉子「…………けれど、どんなに羨んでも私の世界はここだから」



これ以上不幸な世界をつくらないために、彼女はループをやめた。



――――そうだ。こんなことを繰り返したのが間違いなのだ。

私がこんな罪を背負ったのも、世界が滅ぶのも、すべて彼女の――暁美ほむらのせいだ。

彼女の願いは、すでに叶っていたのに。



―――――――

――――

――
???


 ――――混み合うコンビニの中、小銭の落ちる音が響く。

 レジの前、少女がしゃがみこんで慌てて小銭を拾っている。

 その後ろには客がずらりと並び、鬱陶しそうな顔で少女を見ている。

 責める声が上がると、少女は一層慌ててしまっていた。

「大丈夫?」

 ――美国織莉子は、その少女に近づき、一緒にしゃがんで小銭を拾い始める。

 少女は悔しそうな、どこか思いつめたような表情をしていた。それが織莉子は気になって、放っておけなかった。

 少女がその声に顔を上げ、それから再び床に散らばった小銭に目を向ける。

「これで全部?」

 織莉子は手際良く拾い集めると、少女に手渡す。

「……ありがとう、助かったよ」

 思いつめたようなもう表情は消えていた。少女がそれを受け取り会計を済ます。


 会計が終わる頃には織莉子はもうコンビニの外に出ていた。

 ――後ろから小走りの足音が近づく。


「待って!」

 振り返ってみると、さきほどの少女が居た。

「どうしたの?」

「えっと……、うーん……」

「いや、特に何か用があるわけじゃないんだけど…… もし急いでるんだったらごめん」

 聞いてみても、少女からの返事は曖昧だった。

 しかし、織莉子が行こうとするともう一度呼び止められた。

「……や、やっぱり待って!」

 それから暫く待ってあげると、少女は人差し指を上に向け、何かを思いついたようなポーズをした。

「……なんていうか、声をかけないといけない気がしたんだっ」

「変な話だけど、運命っていうか! 急いでないんだったら、君ともっと話がしたい!」

「……駄目、かな?」


 ……運命。

 その壮大な言葉に首をかしげそうになったが、嫌な気はしなかった。

 了承の返事をして、二人は近くの公園へと向かう。


「――――マミ、まどか。私たちの新しい仲間よ!」


 ――それから一時間くらい後だろうか。

 織莉子は少女を連れていきなりマミのマンションを訪ねた。


「えっと、よろしく……!」


 自分以外の魔法少女、初めての仲間……

 少し驚いた表情を浮かべながらも、少女はぺこりと頭を下げて二人に手を差し出す。

 二人も少女の手を取り歓迎する。



 この2日後、早くももう一人仲間が加わることになる。

 それが暁美ほむらが三回目に繰り返した一か月での、キリカとの出会いだった。


 ――――しかし、もうその記憶を持つ者は、この世界には誰も居ない。


――――――
――――――


★[格闘Lv1]→[格闘Lv2]

★技解放
・ヴァンパイアエッジ(魔力-30) :刀身を分割させ、鞭のように変形させる。
・武器換装 :あえて持ち手を作らず手から魔力の刃のみを出した状態に。


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:2個
・操り人形師[0/100]
・薔薇園[16/100]
・影[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]


 ……持っていたグリーフシードでソウルジェムを浄化して、新しく手に入れたのを懐にしまう。

 真っ黒に近かったグリーフシードが更に穢れを吸い、もう一つも9割近く穢れを吸いこんだ。


キリカ「……これはもう使えないかな」

キリカ「ほら」


 使えなくなったグリーフシードをキュゥべえに放ると、

 いつもどおり器用にキャッチした。


キリカ「……!」


 ――足音が聞こえて構えた。


キリカ「……ついてきてたんだ」

さやか「はい…… 何もできずに終わっちゃったけど」

キリカ「…………」

さやか「えっと……今日はもう失礼します」


 さやかが去っていく。

 刃を消し、変身を解き、魔力の武装を解いて腕を下ろす。


キリカ「……今織莉子はどこに居る?」

QB「それはわからないよ。住所なら前に教えた通りだけど、襲われる予知が視えたら対策される可能性もある」

QB「まあ、僕としては彼女には早いところ消えてもらったほうが都合がいい」

QB「真実を識る魔法少女はあまり多くない方がいい。君か織莉子か残るなら、君に残ってほしいね」

QB「応援しているよ」


 ……今更調子のいいことを言う。

 元はと言えば全部こいつのせいなのに。


キリカ「応援? 嬉しくもないね」

キリカ「別にあんたの仲間にはならないから」



キリカ(……まだ弱い。使いこなせてない)

キリカ(もっと強くならないと…………)



1自由安価
2魔女狩りの続きをしよう

 下2レス



 ……一人になったけど、魔女狩りの続きをしよう。

 横に居る生き物のことは考えないことにする。



 下1レスコンマ判定
0~20 使い魔
21~40 魔女


 ……魔力の反応を探してただただ歩いていく。

 結構な時間回っているはずなのに、魔力の反応はない。

 すると、半分もう意識から外していたキュゥべえに呼び止められた。


QB「ちょっと待ってくれ」

キリカ「……なにさ」

QB「ここから先は君たちの街じゃなくなるよ」

キリカ「ああ……魔法少女って縄張りとか厳しいんだっけ」

キリカ「でも、元々見滝原の縄張りってマミのものだったんでしょ?」

キリカ「そのマミに嫌われたら、今はどうなってるんだろうね……」

QB「僕としてはあまりそういうことにこだわらないでほしいとは思うんだけどね」

キリカ「……いいよもう」

キリカ「別に縄張りも命も奪ってやろうとは思ってないんだから」

キリカ「ただでさえ見滝原はもう魔女の数も少ないんだろうし」

キリカ「魔女じゃなくて魔法少女が相手になったとしても、ちょっとこのもやもやをぶつけるくらい許してよ」


 ……自分の都合でこんなことを考える自分が虚しく思えた。

 ろくに戦えない臆病者の自分と、どっちがマシだろう?


 けど、今は、歩みを止めるわけにはいかないから。



 ……あれからまた、随分歩いてきてしまった気がする。

 もう今日は戻らなくていいや。

 家に帰ったって、やりたいことなんてないし。

 それに、心配されるのも嫌だった。



 下1レスコンマ判定
0~50 使い魔
51~99 魔女


―掃除の魔女結界



 小人のような使い魔を蹴散らして奥に進んでいく。


 やたらとぴかぴかとした神殿のような結界。

 床や壁が反射するほど綺麗に透き通っていること以外に特徴もないほど何もない。


 奥の最深部まで進むと、魔女らしい帽子をかぶった魔女が箒を掃きながら向かってきた。



キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:2個
・薔薇園[16/100]
・影[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]


敵:Aleiler <-攻撃対象デフォルト
  使い魔(Maid)×12

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) デフォルトで二刀流。
2踏み込む :近~中距離武器戦闘(魔力-5) :※補正±0 刀を右手に、小さめの刀を左手に持ち、投擲を交えつつ近接で戦う戦闘スタイル。
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。マミさんのまね。
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7ヴァンパイアエッジ(魔力-30) :刀身を分割させ、鞭のように変形させる。
8魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内に魔力を阻害する魔力を流し、威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
9武器換装 :あえて持ち手を作らず手から魔力の刃のみを出した状態に。

 下1レス


 刀を振り、刀身を魔力に変えて魔女の首目掛けて投擲する。


 ――ばさりと大きな帽子が落ちた。


 ……首ががくりと折れたままの魔女が、箒をめちゃくちゃに振り回している。

 正面がどこだかわからないんだろうか。

 曲がった首は、絵具か何かで描かれたような、どこかの伝統工芸品の人形のような顔をしている。


 本当はどんな顔をしてたんだろう。

 やっぱり、こんなふうになるのは嫌だ。


 柄だけになった刀を放り捨て、魔力の爪を振るい使い魔を散らして魔女を仕留めにいく。



キリカ 魔力[120/130] 状態:正常
GS:2個
・薔薇園[16/100]
・影[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]


敵:Aleiler

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
2ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
3スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
4タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
5ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
6魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
7武器換装 :剣を実体化させる。

 下1レス


 ……いくらなんでも無様だ。もう終わりにしてあげよう。


 踏み込んで爪を振るう。


 ――――後ろでばらりと崩れる音がした。


キリカ 魔力[120/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[16/100]
・影[100/100]
・掃除[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]



 ……裏通りに戻って再び歩きだす。

 いつのまにかキュゥべえはいなくなっていた。



―――

―――


 住宅街の中で一軒だけ荒れ果てた自宅に戻る。

 ……私を殺そうと復讐に燃えている彼女がここに襲撃をしかけてくるのも時間の問題かしら。



 自分の行動で変わった運命はいくつかあった。

 最初に私が見た暁美ほむらの最期だってそうだった。

 “魔女化”から“自害”に変わったという些細なものであったが、本人にとっては違う意味になったのだろうか。


 だから別の可能性をどこかで信じたいと思っているんだろうか。

 賭けに負けた結果、悪役として倒されるのならそれでもいいと。


 負け……負けなのかしら。それは。

 それとも、自分もその中に入っていたかったとでもいうの?



織莉子「……でもそうだわ。一見幸せそうなあの世界でも、全てが上手くはいかなかったんじゃない」

織莉子「同じことをきっかけにして、崩壊をはじめた」


織莉子「――――ねえ」



 ――――彼女らの希望と絶望。

 そして、全ての元凶たる彼女の最期へと続くきっかけとなった。

―――――――

――――

――




織莉子「“声をかけないといけない気がした”“運命なんだ”……あの時、貴女はそう言って私を呼び止めたのよね」

キリカ「そうそう。それで話してみたら、更にびっくり。織莉子も魔法少女なんだもん」

織莉子「まさに運命ってところかしら?」

キリカ「それに、他にもこうして魔法少女が集まってたなんて」

キリカ「……織莉子やみんなと話したら、今まで一人で悩んだりイライラしてたのも馬鹿らしくなっちゃってさ」

キリカ「私を受け入れて仲間に誘ってくれた織莉子は恩人だよ! じゃなかったら私、今頃どうしてたかわからないもん」

マミ「一人で魔女と戦うのは不安だものね。私も長いこと一人だったからよくわかるわ」

さやか「へー、不思議な出会いもあるもんすね。やっぱり、魔法少女同士は引かれ合う!っていうか?」

キリカ「出会い……まあそうだねぇ。それが最初のはずなんだけど」

織莉子「あら、何を言ってるの? 忘れちゃった? 私と貴女の出会いはもう少し前よ」

織莉子「貴女が財布の中身を落としたの、それで二回目なんですもの」

キリカ「えっ!?」

織莉子「あの短期間に二度も落とした小銭を拾ったんだもの、そりゃ覚えているわよ」


 織莉子がくすくすと笑う。

 キリカが恥ずかしげにわずかに顔を赤らめる。


キリカ「……うーん、そうだったっけ? 私をドジっ娘みたいに言わないでよぉ」

キリカ「じゃあ私、その前にも織莉子にお世話になってたから気になったっていうの?」


杏子「それはそれで運命だろ」

ほむら「私もよくドジしちゃうから、わかります…… 呉さんもそういうとこあるんですね」

キリカ「もう、みんなしてさー……」

キリカ「でもそう言う織莉子も結構ドジなとこあるよね? この前、ケーキ焼こうとして焦がしてたじゃん!」

織莉子「あら、仕返しされちゃったわ。お菓子作りって難しいのよね」

マミ「今度私が教えましょうか? 今度一緒にケーキ作りましょうよ」

杏子「ふーん、マミと織莉子でケーキ作りか。この人数だったら2つは欲しいとこだな!」

まどか「きっとすごくおいしいものが出来上がりますね!」


 ほむらがこの光景を見て微笑む。

 マミのリビングのテーブルをみんなが所狭しと囲んで笑い合っている。

 まどかとマミ、それから新しく加わった4人。

 同じ目的に立ち向かう仲間。友達。

 この7人なら“ワルプルギスの夜”相手でも余裕で倒せる気がしていた。



 ――――しかしそう上手くはいかなかった。



ほむら「――――ごめん、美樹さん」

 爆炎が“魔女”を包み込む。

 コンサートホールが消えて暗い夜の駅に戻る。

杏子「さやか……ちくしょう、こんなことって……」

まどか「ひどいよ……こんなのあんまりだよ」

キリカ「本当に馬鹿だよ……どうしてこうなっちゃうのさ…………さやか」

織莉子「っ!」

 突如、織莉子が動く。それと同時に発砲音が響いた。鉛玉より軽い、マミの魔法の銃弾の音……

 狙いは杏子のソウルジェムだった――が、それを織莉子がかばっていた。

 織莉子が床に崩れて血を吐く。

キリカ「なにやってるんだッ!」

織莉子「下がって! 大丈夫、“私”は無傷だもの。それより貴女が――――!!」

 織莉子のほうに駆けだしたキリカに向けてマミのリボンが伸びる。

キリカ「っ……!」

 それに気づいた時にはもう遅かった。

 対処する暇もなくキリカの身体にリボンが食い込んでいく。

キリカ「……っ、なんで」

マミ「『なんで』ですって? あなたはこんなことを知って何も思わないの?」

マミ「呉さんにはわからないか……そうだよね、だってあなたは不安を紛らわす相手が欲しいだけなんでしょう?」

杏子「おいマミ、落ち着け――」

 マミが声を張り上げる。

マミ「私は違うの!! 佐倉さんだって、どうせもう昔と同じには戻ってくれない」

杏子「……」

マミ「ソウルジェムが魔女を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない!」


マミ「ああもう……、そんなに暴れたら痛いでしょ? ……もう終わらせてあげるから」


 マミの言葉はどこか優しい響きだった。


 武器や魔法の性質を考えればキリカはマミを相手するには有利な点が多かった。刃が当たりさえすればリボンは簡単に裂けるだろう。

 しかし、こんなふうに縛られてしまった後では鋭利な刃も速度を下げる魔法も意味がない。


 マミがキリカの背後へと回り、腰のソウルジェムを狙って銃を向けようとする。


杏子「落ち着けっつってんだろ!」

 しかし、その前に杏子がリボンを槍の先で斬り、マミの目の前に立ちはだかった。

マミ「佐倉さん……どいてくれる?」

杏子「どかねえよ! お前頭に血が上ってんだよ、ちっと頭冷やしとけ!」


まどか「もうやめてよ……!」

 二人が戦い始める。

 後ろに居るまどかが泣いていた。ほむらは憔悴しきった様子だ。


マミ「前に私のもとを去る時、言ったわよね……私とは『覚悟が違う』って」

マミ「『本気で殺すつもりのない砲撃なんか避けるまでもない』って」

マミ「全くその通りだわ……あの時と逆ね」

マミ「私は……今は本気だから!」

 銃と大砲の群れが杏子に向いている。

 杏子が息を飲んだ。

杏子「っ――――!!」


 予想していた衝撃が来ず、杏子が目を開く。

 その目に映ったのは、魔力の刃に胸元から首までを裂かれ血を大量に吹き出すマミだった。

 ――キリカが前に出ていた。


マミ「――――!」


 魔力の集中が切れ、武器の群れが消える。しかしそれでもマミの瞳は動いてキリカを追っていた。

 キリカは今までまだどこか実感を伴わないまま胸に突き刺さっていた事実を今更理解した。

 ――魔法少女はもう人間じゃない。マミも……自分も。


キリカ「やあぁっ!」


 それを見るとゾクリと冷たいものが走るのを感じ、弾かれたように間髪を入れずに床に落ちていく頭にもう片方の腕を振るった。

 “マミ”を完全に殺すために。


ほむら「巴さん……」

まどか「ひっ…………」


杏子「……クソッ! クソッ! なんなんだよさっきから!」

杏子「こんな終わり方ってあるかよ、マミ…………」

杏子「おい、ここまでする必要ねえだろ! だって、マミは本当はこんなことする奴じゃねえんだよ!なあ、みんなも知ってるはずだろ!」

杏子「ソウルジェムが残ってればまだ話し合えたかもしれないのに……!」


 杏子は涙を流しながらキリカの胸ぐらを掴み上げている。

 キリカは何も返せなかった。あの光景はみんなは見えていなかった。けどそんなことは言い訳にもならない。

 杏子が手を放すと力なくその場に崩れてしまった。


ほむら「佐倉さん、もうやめてください……」

ほむら「この状況でそんなこと言ったって……しょうがないじゃないですか…………」

 ほむらが盾に添えていた手を下ろす。俯くまどかの右手には武器が握られていた。

 ――きっとあの時キリカが動かなかったとしても結果は変わらなかったのだろう。

 そう思うと、杏子はやるせない気持ちになった、

杏子「…………チッ!」

キリカ「…………」


 目の前に広がる血の海。開かれたままもう動かない生気を失った金色の瞳。

 キリカががっくりとうなだれる。


キリカ「……うぁぁぁぁ……なんでこんな…………」

キリカ「なんでこんなことになるんだよぉ………………」


 ふとじわりと腰に感じた嫌な感覚に恐怖を覚える。見えないけれど、残りがもうあまりないのが感覚でわかった。

 さっきからどれくらい魔力を使っているんだろう?

 自分がそうなる――――さっき“見た”ように。マミが恐れたように。


 皮肉にも、絶望とともに生まれたその恐怖心がトリガーになった。


まどか「ぐすっ、ふぇぇ…………」

杏子「……もう付き合ってられねえ」

ほむら「ま、待ってください! 待ってください……!」

ほむら「あの……まだ大丈夫です、みんなでワルプルギスの夜を倒しましょう! だから行かないで、これ以上絶望しないで……!」

織莉子「仕方のなかったことだわ、貴女は悪くない。きっと誰も悪くないのよ……」


 誰も居ない駅のホームにみんなの声が響いていた。

 まどかの泣いている声が遠くに聞こえる。

 ほむらの呼びかける声が遠くに聞こえる。織莉子が呼びかける声が遠くに聞こえる。


キリカ(みんな最後は魔女になるんだ)

キリカ(じゃあ私がしたことっていったい……――)

 だったらマミが正しかったのか。みんなここで死んだ方がよかったのか。

 きっとそれも違う。そんなのは嫌だ。でも……

キリカ(――――マミの言った通り、結局私は自分のことしか考えてなかったのかな…………)

キリカ(みんなといれば魔法少女だなんて活動も楽しかった。目的を見いだせた)

キリカ(……私はただ友達が欲しかっただけなのに)

キリカ(こんなことになるなら、友達なんて………――――)


 目を見開く。最悪の答え合わせ。記憶の中と全く同じ声が響いていた。

 同時に、身体の中にドッと黒いものが溢れだした気がした。留まる気配がなく中を突き破るほどに巣食っていく。

 ――――きっと何度繰り返したって同じ結論になる。何も変わらない。


キリカ(…………やっぱり私はそんなに強くないから。……みんな、ごめんなさい)


 声はそのまま遠のき、もう届かないところへと離れて行った。


――――――――

――――――
――――――

これって織莉子のモノロ-グ?
どうやって視たんだろ??



織莉子「――――…………どうなるのかしらね」

織莉子「今度は」



 魔女になって、魂を割られて殺されて。

 それで彼女らの物語は終りになる。

 …………でも、話はここで終わりじゃない。


 終わったはずなのに、私たちの世界ではたった今も生きているのだから。



――――――
――――――

―マミの家

 

マミ「…………美国さん?」

杏子「…………」


 人の気配に、マミがソファから身体を起こす。

 そこには杏子が渋い顔をして立っていた。


杏子「……何が『美国さん?』だよ」

杏子「ちょっと話しにきてやった。寝ぼけてんならさっさと目覚ましな」

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ここまで
約一年越しの安価回収。場面転換と回想多すぎてわかりづらかったらすんません。
>>473 聞いてることに回想として詳細を加えて書いてるだけです。

次回は13日(土)17時くらいからの予定です

-------------------------------
【訂正】

>>439から>>440『でも』の間に一つ抜けがありました。
↓を補完しておいてください。

-------------------------------

――……もし鹿目まどかの素質がこんなに高くなかったら。

今とは違う未来もあったのだろうか。

自分の過ごしてきた汚い場所から這い上がって違う世界で笑っていられる自分なんて、今となっては想像がつかなかった。


 大切な仲間と、決して平和とはいえなくても楽しい日々を過ごして。

 “強大な敵【ワルプルギス】”に立ち向かって、みんなで乗り越えようとして……


 彼女が話した世界を、私は『羨ましい』と思った。


 今まで私は、私の選択に、行動に、悔いはなかった。

 目的を最優先とし、利用できるものは全て利用し、障害になるものは排除する。

 そのために何が犠牲になろうと、もう心が動くこともなかった。

 せめて私に出来ることとしたら、犠牲になったもののためにも救世を遂げるということしか道はないのだから。


 誰かがやらなくてはいけない『使命』だから。

 『美国』だから。そんな言葉に諦めて囚われていた。


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マミ「一体何をしに来たの」

杏子「普段キッチりしてるあんたがこんな格好でふて寝なんて、こりゃ相当重症だな」

杏子「珍しい。マジウケルからさっさと整えてこいよ」

マミ「寝ぼけてなんかないわ」

杏子「……あいつらと敵対して織莉子側につくって正気かてめえ」

マミ「何も知らないくせに勝手なことを言わないで。私から離れて……ずっとこの街にすらいなかったくせに」

杏子「ソウルジェムの真実とやらだったら聞いたよ!」

杏子「混乱してるんだよ……あんたは」

杏子「みんなが知ってた事実を自分だけが知らなかったって知って」

杏子「その上仲間よりも敵のほうが正しいこと言ってて」

杏子「……その真実が、あんたにとって大きかったから」


 …………薄暗い部屋が、再び沈黙に静まり返る。


マミ「……それを聞いて、何も思わなかったの」

杏子「たちの悪い冗談だって思ったさ…… でも、それが真実なら、今更どうするもなにもねえだろ」

杏子「気づいてなくたって、それでずっと一年も二年もやってきてたんだぞ」

杏子「なにが変わるわけもねえよ。今までどおりこの力使って、自分のために生きてく。それ以外にあたしの生き方はない」

マミ「あなたはそうでしょうね」

マミ「……やっぱり私の知る佐倉さんとは違うんだ。以前の貴女だったら、そんなこと言わなかったはずよ」

杏子「あ……?」

マミ「私はずっと、人々を守るために魔女と戦ってきたの! それが正義だと思って……」

マミ「……でも違った。魔法少女は魔女になるのよ」

マミ「それどころか、美国さんが行動を起こさなければ、鹿目さんが世界を滅ぼす魔女になるところだった」

マミ「美国さんが動かなければ、もう契約してたっていうのよ……そうしたら」

杏子「だからって、大切な仲間が殺されたってのに、それを正しいことだって認めるのか?」

杏子「そんなに正義とやらが大事かよ? それならこっちこそ言ってやる」

杏子「お前がそんなに弱い奴だとは思わなかったよ!」


 杏子が怒鳴る。強く握られた拳が震えている。

 再び静まった部屋に聞こえるのは、激しい感情から乱れた息遣いだけだった。


マミ「…………だって」

マミ「ソウルジェムが魔女を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない……」

マミ「そうよ。私は弱い人間よ」

マミ「だからもうほっといて頂戴」

マミ「あなたの顔なんて見たくない」


杏子「……このまま帰れるわけねえだろ」

杏子「あんたのこと聞いて、まさかと思って来てみたが」

杏子「マジで寝ぼけてんなら意地でも目ぇ覚まさせるしかないな」

杏子「外に出ろ。あの意地っ張りのさやかが心配してあたしに頼ってきたんだ」

マミ「!」

杏子「あんたを裏切ったあたしの顔が見たくないってんなら、いっぺん仲間の顔でも見れば目も覚めるだろ」


 杏子がマミに向けて手を差し伸べる。

 しかし、マミはその手を取らなかった。


マミ「……美樹さんは、今どうしてるの」

杏子「あ? そんなの見滝原を離れてたあたしが詳しいこと知るわけねえだろ」

マミ「…………ほっといてって言ったはずよ。貴女にはもう関係ないでしょう」

マミ「あの時、自分のために生きるって言って別れたんだから」

杏子「相変わらずいちいち細けぇことこだわる奴だな」

杏子「ほっとかない。そんなに出たくないなら力ずくでも出さしてやるよ」

杏子「表に出な。あん時の続き、今度こそ邪魔されずに決着つけようじゃないか」

マミ「…………それなら佐倉さん」

マミ「死んでも文句言わないでね。 私……――」

マミ「――――今は本気だから」




―――――――

―――――――
―――――――

――――


 空を覆っていた分厚い暗雲が晴れる。

 3人は空を見上げてため息をついた。


ほむら「なんとか倒せたね……」

まどか「みんなぼろぼろ……でも、あの日からこの3人が死ななくてよかった」

織莉子「ワルプルギスの夜を倒せたのはみんなのおかげです」

織莉子「まどか、ほむら…………本当にありがとう。貴女たちに出会えてよかった」

まどか「そんな、感謝してもらうことじゃないですっ!」

ほむら「そうです。ワルプルギスの夜は織莉子さんだけの目標じゃないんですよ」

ほむら「私からも感謝しないと……」


 ……最初7人だった仲間は、あの日を境に3人にまで減ってしまった。

 唯一死んだと確定していない杏子もチームを抜けてしまった。

 それからどうなったか、インキュベーターすら姿を見ていないらしい。


まどか「……でも、みんなでお祝いしたかったね」

まどか「祝勝会だってマミさんが張り切ってケーキを作って」

まどか「杏子ちゃんが『うまいうまい』ってたくさんおかわりをして……」

まどか「キリカさんは甘い蜂蜜をたっぷりかけて食べるんだろうな……」

ほむら「二人とも食べること大好きだし、甘党だもんね……」

まどか「……さやかちゃんはよく杏子ちゃんと言い合いになってたよね。喧嘩するほど仲がいいっていうか」

ほむら「うん……」

まどか「せっかく勝てたのに……なんだかそう思うと涙が止まらないの」

まどか「……あの時、わたしがもっと早くマミさんを殺していれば違う未来になったのかな」

ほむら「それを言ったら、もっと早くに時間を止めていたら誰も死ななかったかもしれない」

ほむら「まどかが代わりに魔女になったら意味がないよ」

まどか「…………」

織莉子「そんなこと……言っててもしょうがないじゃないの」

織莉子「私がケーキを作るわよ」

織莉子「巴さんのには遠く及ばないかもしれないけどね……」

まどか「……はい。楽しみにしてます」

 雲一つない晴天。

 この一か月弱ずっと一緒に目指してきた目的を達成した。

 心が晴れているようで、しかしどこかぽっかりと穴が空いたような虚しい気持ちが心の半分を吹き抜けていた。


 ――――それから1週間後。

 3人は織莉子の家に集まっていた。テーブルにはフルーツのたくさん乗ったケーキがあった。


まどか「すごい! これ織莉子さんが作ったんですか?」

織莉子「ええ、初めてケーキのスポンジを上手く焼けたの。この日だけは失敗したくなかったのよ」

ほむら「よかったですね! それにすっごくおいしそうです! きっと巴さんのにも負けてませんよ」

織莉子「だといいわね。さっそくいただきましょうか」


 久しぶりのお茶会。久しぶりの和やかな雰囲気。

 あの悪夢のような日を乗り越えて生き残った仲間たちは、それぞれかけがえのない親友だった。


ほむら「…………あの」


 ……しかし、ほむらが何かを決心したように口を開いた。

 みんなが一斉にほむらに注目する。


ほむら「…………みなさん、今日は大事な話があります」


ほむら「私、もう一度一か月前からやりなおそうかと思うんです」

まどか「……え?」

ほむら「私たち3人の力で勝てるってわかったんです。また戦うことになったって絶対に勝てます」

ほむら「……だから、今度は巴さんも美樹さんも呉さんも無事なままでこの日を迎えたい」

ほむら「佐倉さんともあんな別れ方をせずに…………」

ほむら「私はまどかを救うために契約した。でも、やっぱり誰かが欠けるなんて嫌だよ……」

織莉子「…………なんとなくそう言うんじゃないかって気はしてたわ」

まどか「でも、そしたらこうやってみんなが知り合ったこともなくなっちゃうんだよね……」

ほむら「でも、きっとまた知り合えます。みんな仲良くなれますよね?」

織莉子「そうね……過去に戻っても、私たちは私たちですもの」

織莉子「とりあえず、今は楽しんじゃいましょう!」


 ――――――――この決心が間違いだったことに気づいた時には、最早取り返しがつかなかった。

 繰り返してきたたった三回が、四回目になった。それだけで運命の歯車が捻じれるように壊れた。

 ほむらがどうあがいても元に戻せない因果律の異変が生じていた。


織莉子「――――鹿目まどかは世界を滅ぼす最悪の絶望になる。諦めなさい、こうなったのは仕方のないことなのよ」

織莉子「もっとも、貴女が何を言おうがもう遅いのですが……」


 学校に行けばいつも通り会える、そう思っていたはずだった。

 しかし、その代わりに今までになかった不穏な話を聞くようになっていた。

 学校に来ないまどかを心配して探し回っていた時、代わりにまどかの死を知ることになった。


織莉子「これで世界は救われました」

織莉子「報復がしたいのならどうぞご自由に。私の生きる意味はすでに達成されているのです」


 ほむらにとって、織莉子は最初から自分と同じ目的を持つ仲間だった。

 それでいて芯が強く、ほむらにはないリーダーシップがあり、苦しいときには励ましてくれる……

 そんな一番に頼れる人だった。尊敬していた。いつでも自分の味方だったはずだった。


 だから、当然今度もすぐに仲間になれると思っていたのに……

 まさかこんなことになるなんて予想がつくはずがなかった。


織莉子「貴女が私の元を訪ねてきてくれて本当に助かったわ。おかげで彼女に早く辿りつけた」

織莉子「それでワルプルギスの夜でしたかしら? まだ私たちと組む気があるのなら歓迎いたしますよ」

織莉子「確かにそれも、間近に迫る中では世界滅亡に次ぐ大きな厄災ですものね」

ほむら「……騙したんですか? 私の事!」

織莉子「騙す? 何のことかしら。私は『一緒にワルプルギスの夜を倒す』事には同意したけれど、鹿目まどかのことは聞いてないわ」


 ほむらはわけがわからなかった。

 どうしようもない憤りを込めて織莉子を見上げる。織莉子の声も目も酷く無機質で冷たかった。


キリカ「何?その顔」

キリカ「織莉子に生意気な顔向けるな。刻むよ?」

織莉子「まあまあ、一応返事を聞いてからでも良いんじゃなくて?」

ほむら「ふざけないでください!」


 キリカのほうも、まるで周りの全てがその目に映っていないかのような異様さを感じた。

 一か月間よく見ていたはずの二人なのに、別人のようだった。こんな表情は見たことがなかった。

 本来の二人を知っているほむらには、まるで大切なものが削ぎ落されてしまっているかのように思えた。


織莉子「ま、そう言うと思ってましたけど」

キリカ「こんなの織莉子の傍には似合わないよ!もう織莉子の隣には私がいるんだからさ!」

キリカ「ねー、それよりこいつ魔法少女でしょ?じゃあ殺さなくちゃ」

ほむら「……もしかして、魔法少女狩りの犯人って…………!」

キリカ「私だよ?だったらどーするの?逃げてみる?すぐに追いついちゃうけどね!」

ほむら「な…………」

キリカ「愛は無限に有限なんだ!だから私は織莉子に無限に尽くす!」

キリカ「織莉子がくれた使命、もっともっと織莉子の役に立って私の愛を注ぎ続けるんだ!そのために君には死んでもらわないと……!」


 ――仲間の死をあれだけ悲しんでその末に絶望した、優しいあなたがどうして。


 ほむらは茫然とする。そんな使命を与えた織莉子、そんな使命に命を懸けるキリカ。そのどちらもに絶望した。

 確かに仲間の中でもキリカは織莉子とは一緒にいることが多かった。

 その友情とは別のもの――友情とも恋慕とも違うあまりに血塗られた特殊すぎる『愛』。


 ……どうしてこうなった? 何がそうさせた?


ほむら「“最後”に聞かせてください! 鹿目さんが世界を滅ぼす魔女になるって本当なんですか……?」

ほむら「だから織莉子さんはこんなことを……」

キリカ「“最期”? あー……なんていったかなー、アレだ、『メイドのみやげ』、ってやつ?」

キリカ「ま、潔いのは良いことだ」

織莉子「……そうね、本当よ」

ほむら「……なんで?」

ほむら「どうしてこんなことに? おかしいよ」

 ほむらの言葉に織莉子は怪訝な顔をする。

ほむら「こんなじゃなかったはずなのに。まどかのことも、織莉子さんも呉さんも……」

ほむら「私の……せいだというの? 私が間違っていたというの? あんなことを考えなければ!」

ほむら「私はただ……みんな幸せになれればいいって思っただけなのに……それすら高望みだったというの……」

織莉子「――――!! いや、“最後”ってまさか」

キリカ「織莉子ー、なんかこいつ意味の分かんないことぶつぶつ言い出したよ」

キリカ「ショックで気が触れちゃったのかな? 気持ち悪いからさっさと刻んでいーい?」

織莉子「まずい、キリカ、早くそいつを殺――――」


 ほむらは弾かれるように逃げた。――――やり直しがきくのかもわからない壊れた過去へ。

 もしかしたらこれは物凄いイレギュラーに迷い込んでしまっただけで、次は望んだ過去へ戻れるかもしれない。

 そんなわずかな希望に縋り、盾を廻す。しかしその希望も、すぐに砕かれることになる。


 まどかは契約させちゃいけない…………!

 それから織莉子さんも、呉さんも、みんなこんなことにはならないように…………


――――――――


――――――――――…………



ほむら「過去に戻りさえしなければ、あの時残った仲間だけはまだ失わずに済んだはずだったのに…………」

ほむら「どうしてこんなことになるのかな…………」

ほむら「私のせいなのかな……私があんなこと言い出したのが何もかも悪いのかなぁ…………」

織莉子「それは……」


 『貴女のせいよ』……全ての元凶に恨み言さえぶつけてやりたいところなのに、そうは言えなかった。

 だって、その話が本当なら、私も含めてみんなが望んだ事だ。

 その時のみんなが縋った希望の結果としては、確かに今の自分はあまりに悲惨すぎる。

 その自分が私を見たら、哀しみ嘆くのだろうか……だとしたって、それは


織莉子「私は私の使命に誇りを持っていた」

ほむら「『使命』……ですか」

織莉子「そうね。私も所詮与えられた『使命』に縋ってるだけよ」

織莉子「それさえなくなったらまた空っぽになってしまうから」

織莉子「理由なんてそんなものよ。きっと貴女が見た彼女もね」

織莉子「きっと何かがあって、空っぽになったから――もしくは、自分の中を嫌なものが埋めてしまったから」

織莉子「自分を溢れ出させるほど埋めてくれるものに縋ったの」

織莉子「でも……貴女が尊敬した私は、きっとそんな『使命』がなくても満たされていたのでしょうね」

ほむら「…………」

織莉子「失礼したわ」


 皮肉にも、今の会話が自分が本心から喋った本当に久しぶりの会話だった。

 玄関のドアが閉まる音がする。 ――もう暁美ほむらと会うことはない。

 だからそんな態度で接することが出来たのだろう。


――――――

――――――
――――――


―――


織莉子「……鹿目まどかの破格の素質の絡繰りは、彼女を軸として同じ時を繰り返したことによるもの」

織莉子「でも、途中からその目的は彼女だけじゃなくなった。だとしたら、私たちにも少なからず同じ現象は起きているはず」

織莉子「…………もう一つ希望があったとすれば、私たちが力を合わせること……かしら…………」

織莉子「……今更」

織莉子「それに、確実ではないわね…………」



 ……織莉子がぼんやりと思案していると、チャイムが鳴った。



織莉子「……いらっしゃい」

マミ「…………」

織莉子「どうしたの? とりあえずお茶でも淹れましょうか?」

マミ「ええ、いただくわ」

織莉子「今用意するわ」


 織莉子がテーブルにカップを用意して紅茶を注ぐ。


 溢れ出る優雅さと紅茶の香りに、マミは日常を少しだけ思い出した。

 ――自分が無理をして作り上げたものも、きっとこの人は最初から持っている。

 マミはぼんやりとそんなことを思った。


マミ「……これはダージリンかしら?」

織莉子「よくわかったわね」

マミ「ストレートで飲むには最高ね。とても美味しい紅茶だわ、淹れ方が上手いのかしら」

織莉子「それはどうも。もう夕食にしようと思っていたところだけど、夕食も一緒に食べる?」

マミ「ええ、いいわね。そういうのってどのくらいぶりかしら。ずっと憧れてたのよ」

マミ「折角だからこのまま泊まっていこうかしら。どうせあなたも一人でしょう?」

織莉子「……ところで、腕怪我してるわよ。手当てしましょうか?」

マミ「私は自分で治せるわよ?」

織莉子「そうだったわね」

マミ「……ねえ、それより他にも魔法少女の素質を持つ少女がいたら教えてよ」

マミ「貴女の力はまだもっと人のために活かすべきだわ」



 織莉子が目を見開く。

 ――昼間との雰囲気の違いで悟った。もう迷いがない。


織莉子「…………ああ」

織莉子「結局戦いになって、殺したのか」


 自分の正義に生きる者は、我が強く、柔軟にはしならない。

 しならなければ、どこまでも跳ね返るか、折れて壊れるか。


 ……少しの落胆を感じて、しかし冷え切った心はそれ以上動かずに淡々と事実を受け入れた。

 やっぱりこの世界に希望なんてないんだろう。

――――
――――




 ――――魂が割れる音が響く。

 あの時と同じ場所で、心だけがあの時と違った。

 がんじがらめに絡んだリボン。その中の身体から一切の力が抜けた。


マミ「…………」


 マミは撃った後の鉄砲を持つ腕を下ろして、じくじくと黒が滲む自らのソウルジェムを手に取った。

 グリーフシードを当てると、穢れがそこに吸い込まれていく。


 ――黒。おぞましい色。

 魔女にはなりたくない。

 自分の中からその色が消えていく光景を見ながらそう思って、地面に散らばった赤色のソウルジェムの破片を見やった。


 いつかは魔女へと変貌するはずだったもの。

 だから、織莉子はまどかを殺した。まだ魂が石ころとして形作られる前のそれをその身ごと砕いた。

 それが正義だったから。


マミ「私のやったことは…………間違ってないのよね」


 『あたしにとってのマミさんは、友達っていうのとはちょっと違うっていうか……』

 『もうあんたとは一緒に戦えない』

 『だからもう、魔法少女でいる資格もないんです』

 『彼女はその事実を識っていたから。私が全て話して、契約させた。鹿目まどかを無力化するように――――』


 ……どうしてみんな私のもとを離れていこうとするんだろう。

 私はこんなにがんばってきたのに。

 そうだ、私はずっと理想の自分でいようと努力してきた。

 たとえば絵に描いた魔法少女みたいに誰よりも強くて優しくて優雅で、いつでも正義のために――――


 ――理想の魔法少女ってなんなの? 今まで信じてたものが嘘なら、自分って何?


 『一度話し合って自分の気持ちをぶつけてみたらどうかな』


 ――無理よ。もう……


 『……ごめん、マミさん。 アンタの気が済むようにやればいい』

 『いいよ、撃ちなよ』


 ……私がたった今この手で殺してしまったのに。


マミ「……そうよ。私は」

マミ「――――正義の魔法少女なんだから」


 自分の心の中のなにかに蓋をした。

 揺れていた何かが振り切れ、なにかが壊れた。


マミ「今度こそ同じ志で傍にいてくれる人がいる……もう何も恐くなんてない」


 ――――しかしそれに、自分では一番気がつくことができない。


――――
――――


――13日 終了――


キリカ 魔力[120/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[16/100]
・影[100/100]
・掃除[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]

―砂の魔女結界



キリカ(魔女はどこだろう……)


 ……辺り一面に広がる広大な砂の結界を歩いていく。

 見渡してみても、敵の姿が見当たらない。

 ――すると、足元で何かが動いた気がした。


キリカ「…………」


 背景の一部だったサボテンに足が生えて走り出し、ちょこまかと逃げていった。

 ゆっくりと視線を足元に向ける。

 自分の足から何かが生えてるように、長い針がぶつぶつと刺さっている。

 刺さったとこから血が噴き出して白のニーハイソックスを汚しているので、自分から生えてきたんじゃないことはわかる。


キリカ(このくらい、別に気にすること……――――)

キリカ「――!」


 ――しかしその瞬間、足元が盛り上がったかと思うとそこから身体を浚われた。

 足元から身体へと砂が這い上がるように包み込んでいく。

 左腕が砂の中に埋まり、振り回した右手は空を斬る。飲み込まれた足も動かない。


キリカ「この…………っ!」


 手まで飲み込まれる前に刃の鞭を足元に向けて振るう。

 すると、やっと砂が身体から離れた。


キリカ「……っ」


 ――……しかし、その途端にぐらりと身体が崩れた。

 両足はそこにあるはずなのに、足がなくなってしまったかのように踏ん張れず、ふにゃりと力が入らない。

 何事が起きたのかともう一度足を見てみる。


キリカ「……っ!?」


 ――肌が青に近い土色をしている。ニーハイソックスも靴も脱げそうにゆるくなり、一回り萎んだかのようだ。

 すぐに足を触ってみると、熟れすぎて傷んだ果実のような感触がした。


キリカ「……――」


 少しだけ動揺した。ショックを感じていた。

 今はただ勝つこと。目的を達成すること以上に大切なものなんてなにもない。ましてや命のない身体がどうなったって――――

 そう再び振りきり闘志を取り戻した時には。


 私を襲った砂は――魔女は、背後へと回っていた。

 突如円錐状に形を変えた砂が背から腹を突き破って目の前に現れて、それにやっと気づいた。


 ……痛くはない。でも、身体が思うように動かなかった。


キリカ(血が…………抜けすぎた? っていうか、この魔女が吸ったのか)


 腹から突き出した砂の塊は赤く染まっている。

 そこに更に口から零れ落ちた血が染みていく。


キリカ(……冗談じゃない。このくらいじゃ死なない)

キリカ(まだ戦える)

キリカ(だって私は――)


キリカ「私は――――強いんだッ!」


 身体に強く魔力を通す。

 血がなくたって動かせる―――!



キリカ 魔力[90/130] 状態:【身体強化・魔力-3/ターン】
GS:3個
・薔薇園[16/100]
・影[100/100]
・掃除[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]



敵:Saudnude[回復状態] <-攻撃対象
  使い魔(ChollaBoy)×??

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
2ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
3スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
4タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
5ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
6魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
7武器換装 :剣を実体化させる。

 下1レス


キリカ「うあぁぁ――ッ!」


 魔力を込めて砂を散らすように腕を振るう。

 赤く染まった砂が散り散りになる。……しかし、みるみるうちに再び集まっていく。


キリカ「そこかっ!」


 今度は地面に向けて腕を振るうが、変幻自在の砂は手ごたえなく、

 今度は鋭い針のように形を変えて襲ってきた。

 ――居る場所はわかってるのに。



キリカ(斬っても斬っても、すぐに元通りになる……っ!)

キリカ(どうしたら――――)



キリカ 魔力[82/130] 状態:【身体強化・魔力-3/ターン】
GS:3個
・薔薇園[16/100]
・影[100/100]
・掃除[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]



敵:Saudnude[回復状態] <-攻撃対象
  使い魔(ChollaBoy)×??

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
2ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
3スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
4タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
5ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
6魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
7武器換装 :剣を実体化させる。

 下1レス


 赤い砂がすばやく周囲を移動する。

 次はどこから攻撃してくるつもりだろう。


キリカ「っ……!」


 地面から円錐状に形を作った砂に向け、すかさず腕を振るう。

 ――――しかしその時、地面にあった砂の半分ほどが、すっと足元を通り抜けて後ろに回った。



 勇敢なのはいいんだけど、何も考えず突っ込む癖はやっぱり治したほうがいいわよ。

 全部を大振りに動くと隙ができやすいから、思わぬ反撃を食らうこともあるわ。


 ……そんな言葉を思い出した。いつしかマミがさやかに向けて言っていた言葉だ。

 今の攻撃は囮――今からじゃ間に合わない。


キリカ(――間に合わなかったらどうなるんだ?)

キリカ(どうせ今の砂の量じゃ大した攻撃なんてこない)


 ただ再び捕まることだけ防げればいい。

 そう思って、無駄な防御は捨て攻撃を受け入れることにした。


 ――――その時、後ろから砂を刺すような音がした。


 魔女結界にもう一つの魔力が混ざり合う。

 この感じを知っている気がする。


 振り返ると、見覚えのある姿があった。

 鎖の音を響かせ、狙いをつけるように多節棍を回している。


キリカ「佐倉さん……?」

杏子「敵から目をそらすな! 戦いの最中だろ」

キリカ「いいからほっといてよ! 手を出さないで!」

杏子「おい……」


キリカ「私一人でも…………!!」


 再び現れた砂の塊に刃を振るい、砂を巻き上げる。


キリカ「魔力を――――」


 砂が地面に落ち、再び固まる前に前方に思いっきり魔力阻害の魔力を流す。

 ――魔女が放つ魔力に揺らぎのような隙間が見えた気がした。


キリカ「壊すッ!」


 砂の塊を斬る。

 ――――そのまま砂は固まって砕け、もう姿を変えることはなかった。


★技習得
・封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率75。集中力が必要。


 ……結界が消えた廃ビルの中。

 向かい合って見つめたまま沈黙が流れていた。


杏子「……つうか何勝手に魔女狩ってんだよ。ここあたしの縄張りなんだけど?」

キリカ「……!」


 刃を向ける。

 この人も私の敵なら……!


杏子「流されて人の後ろをついてくだけだった大人しいお嬢さんが随分攻撃的になったじゃないか」

杏子「今回だけは許してやるよ。グリーフシード返せとまでは言わないから、そんなおっかねえ顔すんなよ」

杏子「あんたじゃあたしにゃ勝てないよ」

キリカ「……試してみようか?」

杏子「……この恩知らず。そんなボロボロでよく言うよ」

杏子「そこまで言うならいっぺんぶっ飛ばされて頭冷やしたほうがいいかもな」




キリカ 魔力[79/130] 状態:【身体強化・魔力-3/ターン】
GS:4個
・薔薇園[16/100]
・影[100/100]
・掃除[100/100]
・砂[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]



敵:佐倉杏子

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
2ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
3スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
4タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
5ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
6魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
7封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率75。集中力が必要。
8武器換装 :剣を実体化させる。

 下1レス


 前に踏み出して腕を振るう。

 しかし、接近戦ではまともに戦いにならないまま鎖に絡め取られてべしゃりと地面に叩き付けられる。


キリカ「っ……!」


 すぐに立ち上がって魔力の刃を向ける。

 そこから魔力を集中させ、刃を連結させ――――


キリカ「!」


 いつのまにか多節棍から直線に戻っていた槍がこちらに投げ込まれ、激しく火花が散る。

 実体の定まらないはずの魔力の刃と槍がの先がぶつかり合う。……集中が乱れた。


キリカ「……マミの弟子なんでしょ?」

キリカ「あんたにすら勝てないんじゃ困るんだよ」

杏子「は? なんだそれ。このあたしを雑魚だって言いたいのか?」

杏子「……なんでマミが出てくる。今一番聞きたくねえ名前だ」

杏子「お前ら揃いも揃って気味の悪い厄介な戦い方しやがって……!」


キリカ「!」


 ――踏み込んでくる。

 腕を振るうが、それが届くことはなかった。


 ――突如、視界が横転する。腹に蹴りが決まったらしい。

 地面に縛り付けられる。

 佐倉さんは足についた血を見て忌々しそうな顔をした。


キリカ「…………ッ」

杏子「せめて怪我治してから出直してこい!」

杏子「人の心配すらそうやって突っぱねて迷惑かけるクズは、もうあたしだけで十分なんだよ!」


 ……近づいてくる足音に見上げると、さやかが居た。


さやか「…………」


 ……なんでそんな顔をしてるの?

 自分すら痛みなんて感じないのに。どうせ敵になるなら殺してもいいと切り捨てた私に。


キリカ「さやか…………」

さやか「一昨日あたしを見つけてくれたのも……」

さやか「あの言葉も……いつだか勇気づけてくれたのも……全部嬉しかったから」

さやか「あたしもキリカさんのことそうしてあげたかった!」

さやか「……今の状況なんとかしなきゃって考えてみたら、結局こいつのこと頼ることになったんだけどさ…………」

杏子「懸命な判断だろ。むしろよくやったと思うぜ?」

さやか「うっさい、偉そうにすんなっ」

杏子「今のアンタはこいつ並みに無謀そうだからな」

杏子「ほっといたらしょうもない戦場で犬死にしそうだ」

さやか「だからアンタは一言余計だっての……」

キリカ「…………」


 さやかの手が触れる。

 温かみが流れてくるような感覚に涙が溢れる。

 ……涙は止まる気配がない。一昨日とは逆みたいだった。


キリカ「さやか、ごめんね…………ありがとう」


1自由安価
2……佐倉さんにも話したの?

 下2レス


キリカ「……佐倉さんにも話したの?」

さやか「はい……全部話さないと話通じなさそうだったから」

杏子「ずっと魔法少女の力だけ頼ってテキトーに生きてきたんだ」

杏子「別に、あたしにとっちゃ今更って感じだよ」

キリカ「そう…………」

杏子「……あんたが契約した理由がやっとわかったよ」

杏子「どこでそんな事知ったんだかは知らないが――」

キリカ「――――美国織莉子」

キリカ「……あいつだよ。私はあいつに言われて契約したんだ」

さやか「……面識あったんですか?」

キリカ「いや。声だけで語りかけてきたんだ。だからずっと気づけなかったけど……」


 ……ぐっと拳を握る。その手に力が入った。


キリカ「だから絶対に許せない!あいつも!流されて利用された自分も!」

キリカ「……でも私、私自棄になってた 」

キリカ「まどかが死んでマミに嫌われて拒絶されて、もう何をすればいいのかわからなくなってた」

キリカ「心がグチャグチャになって、まどかを殺した織莉子への憎しみと怒りしか沸いてこなくて」

キリカ「織莉子を殺すために強くならなきゃって」


キリカ「……佐倉さん、さっきはごめん」

キリカ「戦い方とかも……まだまだだって思ったし、もしよかったらだけど、鍛えてくれるとうれしい」

杏子「いいのか? マミの弟子ごときが師匠で」

キリカ「あ、謝ったじゃん! でもこの中じゃ一番の実力者なんだから!」

杏子「だから消去法で仕方なしと?」

キリカ「~~~~っ」


 ……意外と根に持つなぁ。

 言葉に詰まって、頭を下げた。


キリカ「お願いします……」

杏子「……しょうがねえな。わかったから、覚悟しとけよ」

さやか「これだけいれば勝てるかもしれませんしね」

さやか「織莉子のことはあたしも許せませんよ」

さやか「今まで他の事でいっぱいいっぱいで、どうすればいいかわかんなかったけど……」

杏子「……あたしは仇討ちがしたいわけじゃない。鍛えるのはいいが、あんたらと同じ目的で動くってわけじゃないぞ」

キリカ「うん……それでいいよ」

キリカ「やっぱり最後の決着だけは自分でつけたいから」

キリカ「さやかも、私に合わせるだけならやめてほしい」

キリカ「他の事で気がかりなことがあるなら、そっちを優先してよ」

キリカ「まだ何もかも失ったわけじゃないんでしょ?」


さやか「…………」


 さやかが考え込むような表情でうつむく。


さやか「……今だったらまだ間に合うのかな」

さやか「でももう、無理だよ。どうすることもできないんだから」

杏子「他人のために契約して、自分だけが馬鹿見て、そんでなにもかも捧げて消えちまうってのか?」

杏子「それでいいのかよ、お前の人生」

さやか「…………それでいい、って思ってた」

さやか「誰にも見つからずに魔女と戦って死ねたら、みんな心配して悲しんでくれるかもしれないし」

さやか「でも……やっぱやだよ。そんなの……」



 傷の舐めあいでしかないのかもしれない。

 みんな強くなれなくて悩んで、傷ついたまま生きてる。



1自由安価
2見滝原に戻ろう

 下2レス


キリカ「……結果が変わらなくても、やらないよりやった方がいい、と思う」

キリカ「後で後悔するほうが一番辛いよ」

さやか「……でもあたしたち、もう普通じゃないんですよ」

さやか「魔女と戦って、いつ死ぬかもわからない」

さやか「もしかしたら、いつか魔女になって危害を加えるかもしれないのに」

さやか「そんな人が隣に居るより、普通の女の子が隣に居た方がいいに決まってる」

さやか「それに……そうでなくても仁美は美人だし頭もいいし」

杏子「あんたは魔法少女のことがなくたってそうやって言い訳すんじゃないのか」

さやか「それは……っ そうかもしれないけど!」

さやか「それにしたってこんな事情あったら違うじゃない!」

キリカ「わからないじゃない、相手がさやかのことどう思ってるかは」

キリカ「石ころだろうがいつか魔女になろうが関係ないよ」

キリカ「……自分のことになると悩んでばっかで、そう考えられないかもしれないけど」

キリカ「他人事だからこそ、さやかを見てるとそう思えたから」


キリカ「……もし不安なら、もう全部話そうよ。その人のために契約したこと」

さやか「それで嫌われたくないよ……それに、腕治したなんて知られたら重すぎるだろうし」

さやか「見返りで付き合いたくなんてない」

杏子「重いんだよ。実際、生きるか死ぬか魔女になるかの戦いしてんだぞ」

杏子「それか……もう諦めるってんならもうすっぱり諦めろ。その覚悟ができるんならな」

杏子「それができないならさっさと当たって砕けとけ」

杏子「どっちにしたって傷つくんだろ。だったら砕けないほうにかけてみろよ」

さやか「…………」


 出来るのは傷の舐めあいくらいで、まだ何一つ解決なんてしてない。

 でも、さやかには前に進んでほしかった。

 …………さやかがもう一度口を開いて、同時に、鞄を取って駆けだした。


さやか「……一旦見滝原に戻ります」

さやか「今からでも放課後くらいには間に合いそうだから」


 いつのまにか外はまた随分と明るくなっている。

 さやかは学校サボってまで私を探してくれてたんだ。

 ……久しぶりに疲れとか眠気とかを感じた気がした。


杏子「あんたはどうすんだよ」

キリカ「私は……いいよ」

キリカ「……そういえば、マミと戦ったの?」

杏子「…………」

キリカ「勝ったの?」

杏子「……いや、引き分けってところだな!」


 佐倉さんは食い気味に言った。

 ……どのみち、あまり良い記憶ではないんだろう。


キリカ「マミは今……」

杏子「飯食ってくる。付き合うか?あんたもどうせ食ってないんだろ」

杏子「その後ちょっと面倒見てやるよ」

キリカ「うん。ありがとう……」


 私たちもやっと、廃ビルを出て歩き始める。

 ……少し後ろから横顔を見ると、どこか苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。

--------------------------
ここまで
次回は14日(日)17時くらいからの予定です

乙です
杏子はソウルジェムを幻覚で壊されたように見せたのかな?
この後戦って死んだら嫌だなぁ…


 ……歩きながら周りの建物を見回す。

 見滝原の景色に慣れていると、背の低い建物ばかりなのが少し珍しい。

 風見野の駅前ならともかく、住宅街の中をゆっくりと歩いたことはなかった。


キリカ「どこ行くの? 駅のほうならいっぱいお店あると思うけど……」

杏子「その格好で人通り多いとこ動き回るのはやめとけ」

キリカ「あ」


 昨日から制服のままだった。

 それに、ところどころ汚れや血までついている。


キリカ(なんか騒ぎになってないといいな……)


 ……そう考えると、少し気分が重くなる。

 もし知り合いに見つかったらなんて言われるだろう。


 スーパーの前で佐倉さんが足を止める。


杏子「適当になんか買って食うぞ」

キリカ「うん……」


 ――……買い物を終えてスーパーの裏に回ると、佐倉さんはちょっとした植え込みのはしにどかりと座り込んだ。

 それを見て私も隣り腰掛ける。


 気になるものを片っ端からカゴに放り込んでいたようだった。

 袋の中をのぞいてみる。何日分の食料のつもりなんだろう。


杏子「ほら」


 ……そうしてると、菓子パンを一つ差し出してきた。


杏子「なんだ、こういうのは嫌いか?」

キリカ「い、いや。そんなことはないよ」

キリカ「いただきます」


 受け取って、一口かじってみる。

 ……香料らしいいちごの香りがした。

 決して高級感のあるものじゃないんだけど、妙においしく感じて二口、三口と食べ進める。


杏子「なんだいい食いっぷりじゃん。やっぱ腹減ってんじゃねえか」

杏子「腹が減るなら、生きてるってことだろ」

 ……それはちょっと単純すぎないかな。

キリカ「……でもきっと餓死とかすることはないんだよ」

杏子「あたしは絶対するね。腹減りすぎて絶望して死ぬ」

キリカ「空腹だって思い込み次第で感じないようにもできるよ」

杏子「そりゃやせ我慢ってもんだよ」

キリカ「…………」


 ……食事を終える頃には、

 『何日分の食料だろう』と思ってた袋の中身は綺麗になくなっていた。


杏子「結局あたしより食ってんじゃねーか」

杏子「こりゃ夕飯前には買い足さないとな」

キリカ「ごめん……」

キリカ「……なんか、お腹すいてたから…………」

杏子「食いすぎて動けないとか言うなよ」

キリカ「ちょっと休みたいかも……」


 そう言うと、佐倉さんは少し呆れたような表情をする。

 でも、こんなことを言ってるのに一番呆れてるのは私だった。

 無茶した挙句これじゃ情けない。


杏子「……着いたら少し昼寝でもするか。せっかく天気もいいしな」

キリカ「着いたらって、どこに? この近く?それとも、また見滝原に来るの?」

杏子「見滝原と風見野の堺にある教会だ」

杏子「あいつには…………もう当分会いたくはないしな」


 ……ひとまず佐倉さんに着いていくことにする。


 住宅街を抜け、畑を抜けて、見滝原のほうへと歩いていく。

 街並みから外れ、自然が囲むひっそりとした場所にその教会が見えた。



キリカ「こんなところに教会なんてあったんだ」

杏子「……」


 しかし、近寄っていくにつれて荒れ果てた暗い雰囲気が増す。

 ……壁が煤け、ガラスが割れ、ドアがゆがんでいる。

 教会があるというよりは、その痕が残っているといったほうが正しい景色だった。


 佐倉さんがドアを蹴破って中に入って横になった。


杏子「ま、こんなんでも雨風くらいはしのげるしな。……いや、風はちょっと怪しいがな」

杏子「汚れてんのが嫌なら外で寝てもいいぞ」

キリカ「いつもこんなところで寝泊まりしてるの……?」

杏子「そんなわけないだろ。……ここはあたしの家だったんだよ」

杏子「普段はホテルでも忍び込んで寝てるよ」

キリカ「そっか……」


 ……少ししか行動を共にしてないけど、それでもたくましさが伝わってくるようだった。

 私だって、立ち止まってるわけにはいかない。

 どれだけ傷ついても、そのまま突き進んででも復讐を遂げる。――織莉子を殺す。


 ……でも、今は少しだけ。

 休んでもいいかなって思った。



1自由安価
2一眠りしよう

 下2レス


キリカ「……ありがとう」

キリカ「じゃあちょっと外に行ってくるね。少ししたら起こして」

杏子「おう」


 歪んだ扉に手をかけて振り返る。


キリカ「…………さっき佐倉さんと戦った時言ってたけど、マミも私みたいにしてたんだね」

キリカ「真実を知って、人間を捨てたんだ」

杏子「…………」

キリカ「……マミは織莉子側に寝返ったの?」

杏子「……だとしたらどうする?」

杏子「もう半端な覚悟で戦える相手じゃないぞ、あれは」

キリカ「……私はもう決まってるよ」

キリカ「立ちはだかる者は全部刻む」


 草原を踏みしめる。

 外は穏やかな日差しが照っている。少しだけ、いつも訓練してた土手の景色を思い出した。



 …………少しだけ夢を見た。

 ただ時間が過ぎていくだけの日々に出来た思い出。

 本当に久しぶりに出来た友達だった。


 でも、最後はやっぱり去っていくんだ。


キリカ(……さやかはわざわざ私を追いかけてきてくれたんだから、それだけで十分だ)

キリカ(そのおかげでなにもかも信じられないようにはならなかったんだ)


 ……芝生から身体を起こす。

 すると、ちょうど佐倉さんの呼びかけが聞こえた。


杏子「そろそろ訓練はじめるぞ」

キリカ「うん!」


 服についた草をはらって、立ち上がる。


杏子「で、あんたはどうやって戦ってるんだっけ?」

キリカ「……まずは格闘を教えて欲しい」

キリカ「さっきはまるで“刃”が立たなかったし」


 ……刀を一本出す。

 それを見て佐倉さんは怪訝な顔をした。


杏子「そんなんだったっけ? さっきの」

キリカ「いや……佐倉さんも二つ使ってるじゃん」


 武器を消して、魔力の爪を具現してみる。

 やっぱりこっちのほうが、重くなくていい。


杏子「あたしのはちゃんと状況に合わせて使い分けてるんだよ」

杏子「あんたのはそれは何が違う?」

キリカ「強いて言うなら実体がある方が“投げやすい”くらいかな」

キリカ「でも、もうそんな戦い方はしなくていいし、それ以外じゃ重いだけかな」

杏子「……そうか。なら格闘やるぞ」

キリカ「ちょっと魔法も試してみてもいい?」

キリカ「純粋な格闘だけじゃ、やっぱすぐにはかなわないだろうからね」

杏子「ああ」


 まずは何本かセットで接近戦をやってみる。

 こうして戦ってみると、やっぱりさやかともマミとも違う。

 攻撃のパターンも多いし、実戦になるとセオリーだけじゃない。

 なにがなんでも勝つために、全てを利用して戦う。それが生き残る秘訣だと言っていた。


 ……相手が魔女でも魔法少女でも関係ない。

 殺したほうが勝ちだ。


 そして、私の魔法。


杏子「……その魔法、まともに相手するのはスゲーやな感じするな」

杏子「だが、魔力を使うものはなんでもそうだが、集中の乱れが弱点だ」

キリカ「!」

杏子「だから、無理矢理にでも解かせてもらう」

杏子「で、そうやって出来た隙を突かれたら終わりってわけだ」


 ……不意を突くように多節棍が絡み、足をとられて宙づりになる。

 解説するように冷静に喋りながら戦ってるのが、なんとも余裕そうだった。


キリカ「……くやしい」

杏子「もっと使い慣れて簡単に集中を解けないようにするのと、あとは頼りすぎないことだな」

キリカ「ちょっと、はやく下ろして」

杏子「なんか中に穿いてたのか。パンツ丸見えにならなくてよかったじゃん」

キリカ「丸見えにさせるつもりだったの!? ここ一応外なんだけど」


 ……このノリ、やっぱりマミの時とは違う感じがするなぁ。

 その分力も付きそうだけど。


杏子「あんたの魔法って魔力そのものを扱うものだろ?」

杏子「だったら、魔力のコントロールもそうだけど、魔力を察知したり解析したりする力を高めたら精度が増すんじゃねえの」

キリカ「解析かぁ……」


 ……そういえば、魔力の気配を察知できるようになるのもさやかより早かった。

 あれから、さやかは今はどうだろう。


杏子「魔力の波を見極める訓練ってのも必要かもな」

杏子「今度はそれを意識してやってみろよ」

キリカ「なるほど……わかった」



 下1,2,3レスコンマ判定
0~60
※基礎値75+抵抗補正・杏子[魔力コントロールLv5]*-3

範囲内で2ずつ精度上昇
3つとも成功で[魔力コントロールLv]+1


 魔力の波形に集中する。

 ……やっと感覚を掴みかけてきたところだ。

 魔女とは違って、佐倉さんはやっぱり隙がなかった。


 意図的な魔力の強弱はあっても、安定しているんだろう。

 隙をつけそうな揺れがほとんどわからなかった。


杏子「……解析に集中しすぎて逆に隙を突かれないようにな?」

キリカ「わかってる……!」


 あの魔女と戦った時は、確実に『叩き込める』っていう感じがあったんだ。

 今実際に魔法を使わなくてもいい。

 使ったら壊せるっていう、その感覚だけでも掴めれば…………


――――……

――――……


★技変更
・封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率77。集中力が必要。

★技追加
・狂い裂きファング :痛覚遮断による人間を捨てた戦闘。装備は鉤爪固定・制御不能状態。

★浄化しました


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[45/100]
・掃除[100/100]
・砂[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]


杏子「じゃ、このくらいにするか」

キリカ「私はまだ……!」

杏子「あたしが疲れたんだよ! 休みは必要! わかっとけ!」

杏子「それに、織莉子だって契約してからそんなに経ってないってことは、あたしよりずっと隙は多いはずだ」

キリカ「……うん、そうだね」

杏子「……問題なのはマミだが、あいつとはもう関わるな」

杏子「下手に関わって傷つくとこなんか見たかない。それどころか、死んだりしたら……」

キリカ「私だって今はもう関わりたくなんてないよ」

キリカ「……これから立ちはだかってこなければだけど」


 ……空は夕暮れと夜の紺色がグラデーションを作っている。

 見滝原よりも空気が澄んでいる気がした。

 これからどうしよう?


キリカ「……今日もホテルに忍び込むんだっけ?」

杏子「そうだな。風呂も入れるし、運がよけりゃ結構豪華な飯だって食えるからな」

キリカ「私もついてこうかな」

杏子「なんでだよ」

キリカ「だって帰りづらいし、あんまり帰りたくもないんだよ」

キリカ「私の日常なんてもう壊れちゃったのにさ」

杏子「……あんたは家があるだろ。心配してる奴がいるならあたしと同じ生活なんてすんな」

杏子「探してるかもしれないぞ」

キリカ「……うん…………」

杏子「明日またここに来い。学校のサボりくらいなら見逃してやるから」

キリカ「ありがとう」


 お礼を言って、佐倉さんと別れる。

 ……見滝原に向かって歩き出した。


 見滝原につくころには、空は紺一色に変わっていた。

 ……時間の分かる物をもっていない。

 携帯の電源を入れてみれば、自宅からの着信がたくさんあって驚いた。


キリカ(まあ、そっか……そうだよね)


 …………家に帰るにも心の準備がしたい。

 まっすぐ帰らずに少し寄り道して歩きはじめる。


 例の公園は、未だその一角にテープが張られていた。

 恐らくまどかが殺された場所……。

 ……そこから離れていくと、誰もいない公園の中に小さな影があった。

 噴水のある広場の周り、円状の段の上に小さく座っている。


キリカ「……どうしたの?」

キリカ「家出でもした?」

「…………」


 自分がそうだから、

 同じように家に帰りたくないのかななんて思って話しかけてみた。

 でも、まだ返事が返ってこない。


1自由安価
2心配してる人がいるなら帰ろうよ
3迷子なら送っていこうか?
4怪しい人じゃないよ

 下2レス


 隣に座ってみる。


キリカ「私もあまり家に帰りたくないんだ」

キリカ「君も何か家に帰りたくない理由でもあるの?」

「……」


 ……もしかして私、怪しい人って思われてる?

 でもずっとこんなところにいると、本当に怪しい人が来ちゃうかもしれない。


キリカ「……知らない人と話しちゃいけないってことかな?」

キリカ「私の名前は呉キリカ、これでもう知らない人じゃないよね?」

キリカ「君の名前を教えてくれないかな?」

ゆま「……ゆま」

ゆま「…………千歳ゆま」

キリカ「うん、よろしく」


 幼い少女がやっと口を開いた。

 ……それから、ゆまはぽつりと話し始めた。


ゆま「ママのことおこらせちゃって…………」

キリカ「喧嘩でもしたの?」

キリカ「もう怒ってないと思うよ。それよりこんな時間に一人でいると危ないよ」

ゆま「でも…………」

キリカ「まあ、私も帰りづらいからこんなところに寄り道してるんだけど」

ゆま「キリカもなにかしちゃったの?」

キリカ「うーん…… 私は勝手に嫌になって逃げ出しただけだよ」

キリカ「心配してくれてるのはわかってるんだけど」


 ……ゆまが私の腕に手を置いてきた。

 小さい手だ。


ゆま「けがしてるの……?」

ゆま「ゆま、こーゆーときに効く魔法しってるよ。昔、先生がやってくれたの」

キリカ「魔法?」

ゆま「いたいのいたいの、とんでけーっ」

キリカ「……ありがとう。でも大丈夫だよ。痛くなんかないから」


 傷だって、もうあの時さやかが治してくれたんだし。

 ……でも本当どうしようかなこれ。


キリカ(とりあえず洗っておこうか……家に帰ったら)


 小さな手が離れていく。

 そして、ゆまが立ち上がった。


ゆま「……ゆま、そろそろ帰るね」

ゆま「もしかしたら、心配してくれてるかもしれないから」

キリカ「そっか。送ろうか?」

ゆま「ううん、ひとりでだいじょうぶ!おうち近いから!」

キリカ「そう……? 気を付けてね」

ゆま「うん!」

ゆま「キリカも帰るの?」

キリカ「……そうだね。私も帰るよ」

ゆま「うん……! またけがしたらゆまが魔法かけてあげるね!」

ゆま「バイバイ、キリカ」

キリカ「うん、バイバイ」


 ゆまが公園から去って行った。

 ……私も帰らないとな。そう思って、家に向かって歩きはじめる。

 …………そこで、足を止めた。


キリカ(…………もしかして、私が帰るって言った時、心配してくれてた?)


 血の滲んだ服を見やる。

 治すのも魔力の無駄。だからってあの時は確かにちょっと、無理をしすぎたかもしれないけど。


キリカ(別に家で怪我したわけじゃないんだけどなぁ……)

キリカ(でもなんでゆまはそんなふうに思っ、て……)


 ……足を止める。


キリカ(いや…………)

キリカ(ただ喧嘩しただけなんだよね……?)


―――


―千歳家


 作った上品な声から一転。

 扉を開けてゆまの姿を確認すると、女は声のトーンを下げてゆまに乱暴に言った。


*「……なんで帰ってきた?」

ゆま「え、えっと、ごめんなさい!」


 ゆまがくの字に身体を曲げる。

 ……女の足がめり込み、ゆまはいとも簡単に地面に転がった。


*「反省が足りないのよ!この子は!」

*「こんなにお母さんを怒らせることばっかして!なんて悪い子なの!」

ゆま「うあ゛ぁっ、やめて……っ」

*「ほらそんなことを言って!全然反省してないじゃない!私に逆らってばっかで!ゆまは罰を受けて当然の悪い子なの!」

ゆま「ごめんなさい!ごめんなざいっ、ゆまはわるい子です!」

*「うるさい!騒ぐんじゃない!迷惑でしょうが!」

*「こっち来い!」



 ……もしかしたらもう機嫌がなおってるかもしれない。

 そしたら、『ごめんね』って言って抱きしめてくれるかもしれない。

 そんな淡い希望はすぐに打ち砕かれた。





――――『本日、見滝原市で児童虐待による死亡事件が起きました』

――――『被害者は千歳ゆまちゃん、血塗れで倒れているのを近隣住民が発見したとのことで……』


織莉子「こんなのもう救世とも無関係な人殺し」

織莉子「けど、それを正義と言うのなら、今更マミを壊した私が説得なんて出来ない」

織莉子「…………どうせ死ぬ命だもの」


―――


――14日終了――


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[45/100]
・掃除[100/100]
・砂[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]

----------------------
ここまで
次回は17日(水)20時くらいからの予定です

―15日 朝


キリカ「いってきます!」


 ……支度をして家を出る。


 ――昨日家に帰ってみたら、案の定、警察まで動くほどの大ごとになっていた。

 なにしろ、まどかのことがあったばかりだ。警察も警戒態勢に入っているらしい。

 事件と関係ないとわかるとなんとか解放してもらえたけど……


キリカ(そういえば、まどかはまだ“行方不明”ってことになってるんだっけ……)

 誘拐、障害……事件性の高い失踪。

 死体が見つからない限りそれ以上決まらない。

キリカ(でも、そんな可能性…………)


 ……暗い思考から切り替え、違うことを考える。


キリカ(……とりあえずあれからどうなったか気になるから、さやかには会ってこよう)

キリカ(さやかが学校に来てればだけど……)


 結局制服も、前の通り魔事件の時のまどかの時みたいに、予備を貸してもらうことに。

 ……スカートがいつもより少し長い気がする。


 学校に着いて二年生の教室の並ぶフロアに行くと、さやかの姿を探す。


キリカ「さやかっ」

さやか「!」


 廊下に姿を見つけて声をかけると、さやかがこちらに振り向いた。


さやか「おはようございます」

キリカ「どうだった?」

さやか「どっちが先にっていうか、まあ……仁美はあたしに先に告白させる気だったんだけど」

さやか「実際、『ちょっと待ったぁー!』って感じで割り込んで、結局同時に言うことになって……」

さやか「……駄目でした。あたしだけじゃなくて、仁美も」

さやか「『今はそういう気持ちになれない』って」

キリカ「……そっか…………。でも、割り込んでまで言えただけでもすごいよ!」

さやか「同時に言われるなんて戸惑ったろうし」

さやか「もしかしたら、最初からあたしが迷わずに言えてたら、違ったのかもしれないけど……」

さやか「もっと優先したいことがあるなら仕方ないかなって」


 さやかはやっぱり少し寂しそうだ。

 でも、悩んでいた時よりもすっきりした様子だった。


さやか「……あたし、今までの関係が壊れることがなにより怖かったんだ」

さやか「結局、多分、このままずっと変わらないんだと思う」

さやか「でも、言えてよかったかな、って思ってます!」

さやか「だから、昨日はありがとうございます」

キリカ「うん…… よかった!」

キリカ「それに……もしかしたら、まだチャンスはあるかもしれないよ?」

さやか「そうっすかね!?」


 悩むことも傷つくこともあっても、やっぱりさやかはまっすぐで……

 どこか照れるような、暖かくなるような気持ちになる。

 昨日から、こんなふうに素直に感謝してもらうことなんて滅多になかった。


1自由安価
2仁美ちゃんとはそれからどう?

 下2レス


キリカ「仁美ちゃんとはそれからどう?」

さやか「やっぱ、仁美とも今までどおりにできるようにしたいなとは思います」

さやか「どっちも玉砕したのは同じなわけですし……」

キリカ「あ……そうだね……」

さやか「じゃ、そろそろ仁美や恭介も来てるころだと思うんで、行ってきますね!」

キリカ「うん、いってらっしゃい」


キリカ(私はどうしようかな……落ち着いて授業なんて受ける気分じゃないし)

キリカ(……今はこんなことしてる場合じゃない)


 まどかがいなくなっても、さやかの居場所はこっちにある。

 ……そう思うと、そんなまっすぐなさやかが少しだけ遠い気がした。


 正義のために魔女を倒す。そんな大義もなくなって。

 ……さやかはもう魔法少女なんかに縛られないほうがいいんだ。


 ……自分の教室に入って、朝のホームルームが近づくと、その前に先生と話しこむ羽目になった。

 思った通り、心配や興味の視線が重かった。


 ――――結局、お昼まで授業を受けて、体調がすぐれないのでと言って午前で帰ることにした。

 その時に少しだけ廊下から覗いてみたものの、今日もマミは来ていなかった。


 ため息をついて鞄を取り、校舎から出て歩き出す。


キリカ(……せっかくだから、お土産に何かお菓子でも買って行こう)


 教会に向かう前に、少し駅のほうに向かうことにした。

 そこからなら、風見野行のバスも出ているはずだ。



―――

―――
教会



 隣にはガラスが砕け、ところどころ歪んだ教会の建物。

 杏子はいつも通りにそこで暇つぶし代わりに食欲を満たしていた。

 駅前でくすねてきたものだ。喧騒から離れてこの場所に来ると幾分心が落ち着いた。

 この場所は静かだ。あの時からもう誰もいない。たまに不良共やら招かれざる客は来るが、それ以外では――――


杏子「……あたしが師匠、なんてな」


 ……久しぶりに“誰か”を待っている。

 ぼそりと口に出してみて、照れくさい気分になった。


QB「……なるほどね」

QB「僅かながら幻惑魔法を取り戻していたのか」


 ……すると、いつのまにか横にキュゥべえが現れていた。


QB「心境の変化でもあったのかい?」

杏子「…………さあな」

杏子「強いて言うなら、久しぶりにお節介なこと考えてたから……かもな」

QB「これからどうするんだい?」

杏子「…………」


 食べる手を止めて、苦い顔をする。

 あの時のことなんて、もう思い出したくもなかった。


杏子(あの時はなんとかごまかして逃げてきたが……)

杏子(……クソ、今思い出しても嫌になる)

杏子(あたしは強い。強くなった…… はずだった)

杏子(だが結局、所詮あたしじゃマミには勝てなかった)

杏子(新人のキリカやさやかがあたしに勝てないのと同じように、あたしとマミの間にもまだ力の差があったんだ)


杏子「…………さあな」


杏子(……いや。 あいつらだって、まともに戦えばどうなるかわかんない……か)


 戦い方は未熟でも、魔法ってのは大きい。

 その上元々魔法少女としての素質も高い。それも、二人とも。

 やっと取り戻しかけた魔法でやっと出し抜けたのが、逃げるための手段なんて。


杏子(仮にも元仲間だってのに、容赦なくぶっぱなしやがって)

杏子(次会ったらマジで殺される。同じ手段が二度も通用するとは思えねえ)

杏子(やっぱ、関わんねえのが一番か)

杏子(……もうあんな“マミさん”なんて見たくもない)


 ……キュゥべえに顔を背け、やけ食いのように勢いを増して再び食べ始めた。

 キュゥべえはいつのまにか、消えていた。


―――

―――



 ……まるでボロボロの汚い布が動いているようだった。

 住宅街の中、それに似合わない非日常が、まるで見て見ぬふりでもされているようにそこにひっそりとあった。

 ゆまは、芋虫のように這いながらつぶやいていた。


ゆま「うぅっ……、うう…………」

ゆま「……いたいの、いたいの」

ゆま「……とんでけー…………」


 少しも痛みが和らいだ気はしなかった。

 それが気休めの呪文だっていうことも、

 時々ママが見せてくれる優しさが偽物だっていうこともゆまは知っていた。


 ……今度帰ったら死ぬかもしれない。

 でも、逃げることなんてできない。

 いつしか逃げ出してずっと帰らなかったら、大人の人に見つかって連れ戻されて、ひどく怒られた時があった。


ゆま「ゆまは……弱いから…………」


 コツ、と靴の音が響き、ゆまの目の前に影ができる。

 見上げると、ウェーブのかかった金髪の少女……ゆまからすれば『お姉さん』が立っていた。


マミ「……可哀想に」

ゆま「え…………?」


 『お姉さん』は、ゆまを見下ろしながら同情するかのような言葉を口にする。

 ゆまが顔を上げる。


マミ「魔女の素体となる魂。それと気づかずに悪魔に魂を売り魔女を産み堕とし、命を落とす」

マミ「今、運命から……解放してあげる!」


 少女が金色の光を纏い、煌びやかな衣装に身を包む。

 装飾のついた銃を向け、一切のブレを含まずにまっすぐにゆまの額へとその先を向ける。


 ――不思議とゆまが恐れを抱かなかったのは、目の前で起きている光景が、

 まるでテレビの中に出てくる絵に描いた魔法少女のようだったからか。


 狙う。撃つ。放つ。

 ……しかし、引き金に指をかけたところで、『お姉さん』はその一連の動作を止めて振り向いた。


キリカ「マミ…………何やってるの?」



 ――――昨日から一晩と半日。ゆまは怪我をしていた。

 あの時心配した通り。……それとも。


キリカ「治そうとしてたんじゃ、ないよね……」

キリカ「それ、マミがやったの?」

マミ「いいえ」


 ……落ち着いた口調でもどこか冷たくなるのは、すでに最低なことを予想していたからか。

 しかし、マミはあっさりと否定した。


マミ「私が無駄に痛めつけて喜ぶような、そんな人だと思うの?」

キリカ「思わないよ。……別にそんなこと言ってないだろ」

キリカ「じゃあ、治そうとしてあげてたの……?」


 見えている景色がほとんどその答えを言っているようなものだった。

 もしもここで肯定してくれれば、まだここに来るまでに予想していた以上に最低なことにはならない。

 ……しかし、次の言葉を聞いてひやりとした。


マミ「……私が、」

マミ「――そんな人だと思うの?」


キリカ「……!」


 瞬時にソウルジェムを身体に具現させると、魔力の爪を投擲する。

 それから遅れて紫の光が身体を包み、衣装を纏う。


 ――マミは爪を銃身で弾くと、その銃をこちらに向けて更に周りに銃を増やした。


マミ「私は魔女を無駄に痛めつけて喜ぶような人じゃない」

マミ「でも魔女の傷を治すわけないじゃない?」

マミ「魔女には容赦しない。効率よく迅速に殺せる方法を選ぶだけ」

マミ「貴女なら知っていたはずよ」

キリカ「その子は魔女じゃない! 契約すらしてないんだぞ!」

キリカ「織莉子に何言われたんだかわかんないけど、目覚ましてよ!」

マミ「目を覚ますもなにも、私は昔からなんにも変わってないわ」

マミ「同じことよ」

マミ「貴女もね」


キリカ「――――!」


 ――戦いが始まる。

 駄目だ。今話が通じるような状態じゃない。

 ゆまを見やる。痛々しい怪我を負い、血を流している。戦っている場合でもない。

 マミは楽に勝てる相手じゃない。長引けば負担は大きくなる。


 それどころか、もしここで私が死んだらどうなる……!?


キリカ(早くゆまを連れて逃げないと……!)


 元々私は駅に向かっていた。

 人通りの多いところに行けば、マミだって街中で暴れ回るようなことはしないだろう。

 ……マミはまだ、仮にも正義の魔法少女でいる気でいる。


 ――ただ、そのためにもある程度の隙は作らないと。



キリカ 魔力[120/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[45/100]
・掃除[100/100]
・砂[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2] [射撃Lv2]



敵:巴マミ

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
4ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
5スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
8狂い裂きファング :痛覚遮断による人間を捨てた戦闘。装備は鉤爪固定・制御不能状態。
9魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
10封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率77。集中力が必要。
11武器換装 :剣を実体化させる。

12自由安価

 下2レス

-----------------
ここまで
次回は20日(土)17時くらいからの予定です


 阻害魔力を前方にかけると、こちらに降り注ごうとする弾丸の雨は途端に威力と速度を失う。

 その間を抜け、刃を振るう。


 刃がマミが手に追加した銃とぶつかり、こちらに伸びるリボンを見て一歩下がった。


キリカ(変わってない、だって……?)

キリカ(せめて私の思い出の中くらいはこれ以上否定するなよ)


 再び撃ちこまれる弾丸を避ける。

 刃が当たればリボンは簡単に裂ける。

 避けるのはできないことはない。強い阻害によりごく軽くなった弾丸が当たったとしても、かすり傷で済む。

 けど、マミの方も簡単には攻撃を通させてはくれない。これ以上どう攻めたら――――


キリカ「……!?」


 ――――そう考えた矢先、後ろからリボンが巻き付いた。

 避けたはずじゃ…………最初が後ろが狙いだった?


キリカ(……なんかそれ、嫌な攻撃、思い出すな…………)


マミ「私は貴女の魔法のことももう知ってるんだから、力押しでどうにか出来ると思わない方がいいわよ?」

マミ「前を気にするあまり、後ろの阻害を解いてたでしょう。前が駄目なら解けてから弾けるように調節すればいい」

マミ「やっぱりまだまだ、抜けてるわね」


キリカ「……っ!」


 そういうマミの口調が穏やかで、まるでいつかの訓練の時みたいに思えて、どうしようもない怒りがこみ上げた。


 こんなの絶対におかしい。

 織莉子側についたっていったって、まさかこんなただの幼い女の子に手をかけるほどに堕ちるとは思っていなかった。

 なのに、相変わらずマミは冷静で、その魔力に破れそうな穴は見つけられなかった。


キリカ「……なんでゆまを殺そうとしてるんだよ!」

キリカ「これも織莉子の命令か何か? そんなに魔女を排除したいんだったら……、もう――!」

キリカ「人に迷惑かけないで、一人で自殺でもしてろよ!」


 語尾が震える。

 じわりと目に涙が滲んでいった。

 それなのに、マミのほうはどこ吹く風といった様子だ。


マミ「今回のことに関しては私から提案したことよ?」

マミ「みんな騙されて契約する。真実を識る人は数少ない。私もずっと識らなかった」

マミ「だから、真実を識る人が為さなければいけない! 私たちにしか出来ない使命なのよ!」

マミ「これはその子のためでもあるのよ?」

マミ「その子には魔法少女の素質があるそうよ」

マミ「だったら、どうせ契約して魔女になるのなら、契約する前にその芽を摘み取ればいいんだものね」


 大げさにポーズをつけて言う。

 うっとりと、どこか酔っているような印象を受けた。


キリカ「本当にそれが本心なの……?」

キリカ「そんなの、“正義の魔法少女”の自分に酔ってるだけじゃないか」


 ……そう言うと、マミの表情が消えた。

 その奥にあるのは……怒り? よっぽど言われたくない事だったのか。図星なのか。


キリカ「私たちと一緒に魔女と戦ってた時も、心の底にあったのはそんな安っぽい自己満足だったの!?」

マミ「……言ったでしょう? 私と貴女は違うのよ!」

マミ「真実を識りながら見ないふりをして、何も行動起こさなかった人が私を批判しないで!」

マミ「どうせ貴女も魔女になるなら、知り合いだもの……私の手で始末する予定だったわ」

マミ「私の仲間だった佐倉さんにそうしたようにね」

キリカ「え…………っ?」

マミ「お話はこのくらいにしましょうか? 早くしないと一般人に見つかったら大事になるわ」

マミ「二人とも、迅速に始末してあげないとね……!」


 ……自分ではそれを正常な行動だと思い込んでいるのがまた痛々しかった。

 そういうところだけ正常な感覚なのが、全部が全部狂っているよりも更に狂気じみている気がして。


マミ「――!」


 マミが銃を突き付けようとして、動きを止める。

 ――私の身体を縛っていたリボンが粒となって消え去る。


キリカ「……人殺しとか何よりも、それで怒るんだ。 心を乱すと魔力もコントロールを失うよ?」

キリカ「…………偽善者」


マミ「今何をしたの!?」


 マミは慌てた様子だった。

 ……まだマミはこれについては知らなかったらしい。


キリカ「ゆまっ!」


 小さい手を取り、抱えて走り出す。

 人気のないところを抜けるまでは警戒を解けない。

 攻撃にすぐに対処できるように気を張りながら、足を速めていく。


 ――さっきのマミとの戦いを思い出す。

 まともに戦えたとはいえなかった。でも、マミを……あれを野放しにしておくわけにもいかない。

 どうしたらいいんだろう。どうやって、殺……――……


キリカ(…………)


 ……目の前を嫌なものが過って、一旦考えるのをやめる。

 ゆまが辛そうだ。さっきも私たちのやり取りをぐったりと見ているだけだった。


 ――――聞きたいことは色々あるだろうに、

 ゆまが口を開いたのは人混みに紛れて治療をし始めてからだった。


ゆま「キリカ……あのお姉ちゃんはなんなの……?」

キリカ「……忘れたほうがいいよ。こんなこと話したって誰も信じちゃくれないだろうし」

キリカ「もう、こんなことがないようにするから…………」

ゆま「キリカは…………」

キリカ「実は私も魔法を使えるんだ」

キリカ「昨日のお礼」


 ゆまに向けて微笑むと、笑い返してくれた。

 ……こういう時治療が得意なタイプでよかったと思った。


キリカ「もう痛くない?」

ゆま「うん!ありがとう!」


 治療を終えると、人混みの端でそっと下ろしてあげる。

 それから少しだけその怪我の事を聞いてみることにした。


キリカ「どこで怪我したの……?」

ゆま「ええと……遊んでたらころんじゃって……」

キリカ「……そう言えって言われてるの?」

ゆま「!! えっと…………」


 どんな派手な転び方をしても、あんな怪我を負うようには到底思えなかった。

 この子の周りはそんな下手な嘘に騙される大人ばっかなのかな。

 ……嘘だとわかってても、悪化することを考えると下手な追及はできないのかもしれない。



1自由安価
2本当のことを話して大丈夫だよ

 下2レス


キリカ「本当のことを話して大丈夫だよ。誰にも言いつけたりはしないから」

キリカ「私たち友達じゃない」

ゆま「! ともだち……」

キリカ「うん」


 ……まごまごと何か言いたそうにしているゆまを待つ。

 すると、ゆまは少ししてから話し始めた。


ゆま「……昨日、おうちで…………」

ゆま「ママ、まだおこってて……いっぱい、いじわるされて……また外に追い出されちゃったの」

キリカ「……」


 ……昨日は何も知らずになんて無責任なことを言ってしまったんだろう。

 同時に、そうすぐに考え付けなかったのは自分が恵まれてるからなのかなと思った。


キリカ(それなのに逃げ出して心配をかけた私は、きっと贅沢なんだろうな……)


キリカ「……そっか」

ゆま「わっ………… キリカ……?」


 そう思って、その小さい身体を抱きしめてみる。

 昨日照れくさくて文句を言ってすぐに逃げてしまった代わりに、それをゆまにしてあげることにした。

 ……昨日は何を思ってしてくれたんだろう。きっとゆまはそんな愛情も知らない。


ゆま「ぐすっ……、ふえぇ…………」


 腕の中で嗚咽が聞こえてくる。

 段々その勢いは止まらなくなっていき……


ゆま「うわああぁぁあん、うええええん!」

キリカ「」ビクッ


 道行く人が見てくる。

 ……あれ? もしかしてこの図は結構まずい。


キリカ「ほ、ほら、泣き止んで!」

キリカ「ドーナツごちそうしてあげるから!」

ゆま「ぐすん…… ドーナツ……?」

キリカ「うん! 嫌い……?」

ゆま「ううん、だいすき!」


 ドーナツ屋に入ると、ゆまがパッとはしゃぎはじめる。

 ……お腹が空いていたのか、口の周りに食べかすをつけてばくばくと食べている。


ゆま「これおいしい!」

キリカ「よかった。ほっぺにチョコレートついてるよ」


 ……微笑ましい気持ちになる。

 佐倉さんも昨日、こんな感じだったのかなぁ。なんて思った。


キリカ(……佐倉さん、本当にもういないのかな…………)


 さっきマミは佐倉さんを殺したって言っていた。

 昨日まで生きてた。私を助けてくれたのに。訓練もしてくれたのに。

 まどかの時もそうだった。そうしてそんなに急にいなくなってしまうんだろう?


 ……それ以前に、どうして簡単にそんなことができるんだろう。


キリカ「――……!」


 ――……急に、目の前がパッとフラッシュバックでもするようにチラついた気がした。

 両手でドーナツを持つ自分の手は、今までと変わらない白い肌の色をしていた。

 それを汚しているのは、指先についた白い粉砂糖くらいだ。辺りには甘い香りが漂っている。


 ――赤い色など、そこにない。錆のような匂いも。


キリカ(疲れてるのかな……さっきから)


 ……はしゃいでるゆまの姿を見ながら考える。

 家に居ても外に居ても危険だ。どうしたらいいんだろう。



1自由安価
2とりあえず教会に行ってみよう

 下2レス


 ……とりあえず、昨日の教会には行ってみよう。

 一人でも訓練くらいはできるし、この近くや土手に居るよりはまだマシだろう。


 それに…………


キリカ「行くとこないなら、ちょっとついてきてよ」

キリカ「家のこともさっきの人からも、出来るだけ守るようにするよ」

ゆま「う、うん、でも……大丈夫なの?」

キリカ「大丈夫…… 私は強いんだから」


 再びチョコレートや粉砂糖のついたゆまの口元を拭ってあげる。

 ……食べ終わると、持ち帰り用にドーナツを買い足して店を出た。


ゆま「誰かにあいにいくの?」

キリカ「うん…………一応ね」


 昨日、待ってるって言ってたんだから。

 ……あの場所は佐倉さんの家だった場所。

 最初考えていた通り、お土産くらい持って行ってあげよう。


キリカ(ただのお礼のつもりだったのに、お供え物になるとは思ってなかったけど……)

キリカ(……私のことも狙ってるようだった。マミはああして知り合いを殺していくつもりなんだ)


 携帯を取り出して、さやかにも連絡を入れた。

 …………そうして再び今の状況を考えてみると、気が重くなった。

 なんでこんなことになったんだろう。

 ……なんでこんな状況を作った織莉子が生きていて、私たちが追い詰められて――――



杏子「よう」


 …………軽い挨拶が聞こえて顔を上げる。

 例の教会のある丘に着くと、片手を挙げてる佐倉さんが居た。


杏子「おっ、何持ってんの? 気が利くな」

杏子「ところでそっちのは?」

キリカ「う、うああああああっ、幽霊!?」

杏子「はっ?」

キリカ「生きてるの? えっ、なんで生きてんの!?」

ゆま「キリカの知り合いって、ユーレイさんなの!?」

杏子「なんだそれ酷い言い草だな!どういうことだよ」

キリカ「だ、だって…………――――」


 ――――――――

 ――――……佐倉さんにさっきのことを話した。

 ゆまのこと。ゆまの置かれた境遇や、素質があるということ……

 それから、マミのことも。


 マミの事を話していくうちに、佐倉さんは驚愕と絶望の入り混じったような、険しい表情になっていった。

 ついに、佐倉さんが片手で頭を抱える。


杏子「マジ、かよ…………」

キリカ「…………」

杏子「……あいつがあたしを『殺した』って言ってたのは、あたしが“魔法”を使ってごまかしたからだ」

杏子「……あたしの、幻惑の魔法でそう思い込ませたんだ」


キリカ「そんな魔法もあるんだ……」

杏子「取り戻したのはその時だったんだけどな。あの時は一か八かだったよ」

キリカ「でも、無事でよかった」

杏子「全然良くねえよ! ……仲間だったあんたなら知ってるはずだろ? あいつは、マミはそんな事する奴じゃないんだ」

杏子「確かにあたしは、あいつのことを誤解してたとこもあったかもしれない。あいつだってそんなに強くはなかったんだ」

杏子「あたしが……『あたしを殺した』ってことが、あいつを決定的に壊したってことだろ」

杏子「あの時もっとあたしが強ければ、あいつに勝って無理矢理にでもこっち側に連れ戻してればこんなことにはならなかったのに」

キリカ「そ、そんな……」


 ……そんなことを言っていたってしょうがない。

 そんな言葉で済ませられない悔しさも痛いほどわかっていた。

 佐倉さんですら、そう悩むことがあるんだ。


杏子「……所詮あたしじゃあいつの説得なんか無理だったんだろうな」

杏子「でもあいつさ、さやかのこと話に出した時、反応してたんだよ。気がかりなことはまだあったんだ」

杏子「確かにあいつは正義の魔法少女だ。……それを拠り所にしてたってところもあったのかもな」

杏子「けど、それだけじゃねえだろ?」


 ……思い出してみれば、元仲間だった佐倉さんのことも、それからさやかとすれ違っていた時も。

 正義以前に、誰かに離れてほしくないという思いは人として根底にあったはずなのに。

 今はそれを振り切って、振り切れているようだった。

 それも、今は織莉子が取って代って満たしてくれるとでもいうのだろうか。誰かの代わりなんて、その人以外にあるはずないのに。


杏子「……さっき戦った時、マミだけだったんだろ?」

杏子「ついでにあんたの魔法についても知らされてなかった」

杏子「織莉子はマミを対等に仲間なんて思ってない。そもそも織莉子は目的は達成してるんだしな」

杏子「このまま織莉子に依存してたっていつか惨めに死ぬだけだ」

キリカ「じゃあ、どうするの?」

杏子「決まってるだろ。取り返して今度こそ目を覚まさせる。あいつの手を本当に汚させないうちにな」

杏子「もう逃げるもんか……今度こそぶちのめしてやろうぜ、いいよな?」

杏子「あんただってあいつの友達なんだろ?」

キリカ「…………」


 ……その言葉が深く胸に響いた。

 一緒にお昼を食べて、話して、遊んで、訓練して、パトロールして……

 楽しかった時の思い出。友達だと言ってくれた。――でも、拒絶された。敵対した。


 追い詰められた時にこそ、普段は見せたくないような本当の一面が出る。

 友達だと仲良く接していたって、きっかけさえあれば…………

 それを私はよく知っていた。どちらを本当のその人だと思うかは捉え方次第なんだろう。

 ……けど、やっぱり嫌な一面の方を本質だと思いがちだ。


キリカ「……私も一緒に戦うよ。このままにしておくなんて絶対にできないし」

杏子「そうと決まりゃ、あたしも久しぶりに訓練すっかぁ」

杏子「ほら、構えな! あー、で、そっちのチビは……」

ゆま「チビじゃないもん! ゆまはゆまだもん!」

杏子「はいはい。ゆまはそのへんに座って待っててくれ」

ゆま「むー……わかった」




1自由安価
2訓練に移ろう

 下2レス


 ……荷物を放って、訓練に移る。

 佐倉さんは昨日に増して気合いが入っているようだった。


キリカ「……それで、いつ仕掛ける?」

杏子「時間がないな。免許皆伝なんてのは待ってられないが……」

杏子「今ある技術を少しでも磨いて、なんとかやってくしかねえ」

杏子「幸い、マミが狙ってるってんなら、あんたっていう『エサ』はあるんだ。会えないってことはないだろ」

キリカ「さやかはどうする?」

杏子「今日は無理だな……迎えに行かないと場所伝えられるようなとこでもないだろここ」

杏子「明日、あたしも見滝原に向かうよ」

杏子「あいつもマミの仲間だもんな」

キリカ「うん……!」


 そっか。今度はみんな、目的は同じなんだ。

 ……そう思うと、少しだけ心強くなった気がした。



 下1,2,3レスコンマ判定
0~62
※基礎値77+抵抗補正・杏子[魔力コントロールLv5]*-3

範囲内で2ずつ精度上昇
3つとも成功で[魔力コントロールLv]+1

ほい


――――……

――――……

★格闘Lv2→格闘Lv3

★魔力コントロールLv2→魔力コントロールLv3

★技変更
・封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率83。集中力が必要。

★浄化しました


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[76/100]
・砂[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv3] [格闘Lv3] [射撃Lv2]



キリカ「……魔力が不安定になってる。今なら壊せそうっていうか、なにもしなくても壊れそう」

杏子「言われなくてもわーってるよ!……あっ」

キリカ「……あー」


 ……本人を取り囲むように出していた分身が崩壊する。

 取り戻しかけた幻惑魔法を本格的に一から訓練しなおすことにしたらしい。

 昨日から教わるだけだったから、こうして失敗だらけで四苦八苦してる姿を見てると新鮮だ。


キリカ「やっぱり、それ使うとどうしても不安定気味になるね」

杏子「くそ……こんなんじゃ戦いの中じゃ使えないな」

キリカ「…………」


 前は使えてたのに使えなくなったっていうのは、それもやっぱり心持の問題なんだろうか。

 私が長いこと魔法を自分の物にできず、気づけなかったように…………


1自由安価
2心持の問題もあるかもしれないよ
3昔使ってた時はどんなだったの?

 下2レス


キリカ「昔使ってた時はどんなだったの?」

杏子「最高で13体は分身を出せてたな。昔はそればっか頼ってたよ」

キリカ「心持の問題もあるかもしれないよ。今でも使うのに抵抗があるとか……」

キリカ「……魔法って、自分の願いとも関わってるんでしょ」

杏子「…………そうだな。結局はそこなら、そうそう使えるようになんかならないはずだ」

杏子「けど諦めるわけにいかないだろ。魔法がなくても強くなったはずだった。けど、それで負けたんだ」


 ……結構追い込んでるのかな。

 やっぱり、責任を感じてるんだ。


キリカ「……一応使うことはもう出来てるんでしょ?」

キリカ「なら取り戻そうって考えるよりも『使える』って考えればいいんじゃないかな」

杏子「ま、そうだな……過去よりも今だ。昔と同じじゃなくたっていいからな」

杏子「今の目的のためにこの力を使えれば……」

キリカ「……ところでその分身魔法、ひょっとしてマミが名前つけてたりした?」

杏子「!?」

キリカ「その名前叫んでみたら上手くいく、かも……?」

杏子「い、言わねえよ! もう忘れたし!」

キリカ「本当に?」

杏子「くそ、変なこと思い出した……あんたらも変な必殺技叫ばされたりしたのか?」

キリカ「いや、私はないけど……」

キリカ「……軽く冗談で言ってみたつもりだったんだけど、叫ばされたことあったんだ」


 ……ふとゆまのほうを見てみる。

 ゆまは格闘や魔法の訓練中にも興味深そうに身を乗り出してこちらを見ていた。

 魔法っていうのが物珍しかったのかな……?


キリカ「ゆま、構ってあげられなくてごめんね? 退屈してない? 」

ゆま「……ねえ、ふたりはどうして強いの?」

ゆま「ゆまがいじめられるのは、ゆまが弱いから?」

ゆま「どうしたら魔法を使えるようになれるの!?」

キリカ「それは…………」


 ……そうだ。ゆまにも魔法少女の素質があるんだった。

 もしキュゥべえが契約を迫ったら、ゆまは契約したいって言うのかな……。


杏子「……やめとけ。力があるってのも大変なもんだぞ」

杏子「あたしたちだって何の代償もなしに魔法を手に入れたわけじゃない」

杏子「他の力のある奴に狙われることだってある」

杏子「……もし誰も勝てないくらい圧倒的な強さを持ってたとしたって、それが弱さになることだってあるんだ」

ゆま「強いのに弱い……? よくわかんないよ」

杏子「いいんだよ、わかんなくて。ガキが一丁前に強くなろうなんてするもんじゃない」

杏子「周りの人に守られてるのでちょうどいいんだよ」

キリカ「うん……もうこれからはいじめられることがないようにするからさ」



1自由安価
2今日はゆまのことどうする?

 下2レス

--------------------
ここまで
次回は21日(日)18時くらいからの予定です


杏子「――……長いことつき合わせて悪かったな、後は自主練しとくわ」

キリカ「あんまり根詰めすぎないでね。私が言うのもなんだけどさ、昨日の言葉を借りるなら『休みも必要』だよ」

杏子「……ああ、わかってる」

杏子「そっちはどうだ? 手ごたえは」

杏子「割とコツ掴んできてたように見えたけどな」

キリカ「うん。一人じゃ練習しにくいものだから、面倒見てくれて助かるよ」

キリカ「これが決まれば、マミ相手でも大分楽になると思うんだけどな……」

杏子「そうだな。まあ力を合わせて隙を作ってくしかないか」

杏子「よろしく頼むぜ」

キリカ「うん!」


 ぐっと手を握ると、温かいしっかりとした体温を感じた。

 ……それから、佐倉さんがグリーフシードを取り出してソウルジェムの浄化を始める。

 佐倉さんの赤いソウルジェムは、半分ほど濁っていた。


杏子「慣れない魔法使ってたから消耗してるな……昔はこんなじゃなかったんだが」

キリカ「グリーフシードって今どのくらい持ってる?」

杏子「そこそこ持ってたんだが、この前さやかにもやったしな……余裕があるとは言えないだろうな」

キリカ「私も余裕なくて」


 黒い色が、黒い宝石の中へすうっと吸い込まれていく。

 ……その様子を眺めていると、佐倉さんがハッと何かを思い出したような表情をした。


杏子「……あんたは今日はどのくらい魔力使ったんだっけ?」

キリカ「私は訓練じゃ格闘と魔力の察知を重視してたから大して使ってないけど」

キリカ「戦いの分とかも含めると、半分くらいだったかな」

杏子「そうか……そうだよな。確かに見た目そのくらいだったもんな」

杏子「それが普通なのか? これくらいなら個人差の範疇なのか……?」

杏子「思い返してみれば、さやかの奴もそうだったな……」

キリカ「……どうしたの?」


 佐倉さんがさっき穢れを吸い半分くらい濁ったグリーフシードを私の目の前に見せる。

 ……赤色のソウルジェムは穢れのない綺麗な輝きを放っている。


杏子「半分くらいだったら、あたしはグリーフシードもこのくらいで済むんだよ」

杏子「マミだってそんくらいだったはずだし、あたしが今まで会った奴の中じゃ二人だけだな」

杏子「…………いや、まどかはそれ以上だったんだっけか」

キリカ「それって……」

杏子「どうしようもない事だが、グリーフシードが少ない時にはやりくりは気をつけとけよ」

キリカ「…………」


 ……私が強いって本当だったんだ。でも、さやかも?

 まどかといい、さやかといい、何か共通点でもあるのかな…………


 ――……そう考えてみても、性格も違う。育ってきた環境は違ってもごく平凡。

 同じ学校に居て、偶然近くに住んでいて出会ったってことくらいしかわからなかった。


キリカ「……わかった。 戦えないほどじゃないなら胸張っとくよ」

キリカ「素質が高いっていうのも今ので少しは実感沸いたしね」


 ……ソウルジェムを指輪に戻して立ち上がる。


杏子「じゃ、そろそろお開きにするか」

キリカ「ゆまはどうする? 家以外で、おじいちゃんやおばあちゃんとか、信頼できる人がいたら相談出来たら良いんだけど……」

ゆま「とおくに住んでて、行き方もわからないから……」

杏子「今日はあたしに着いてこい」

杏子「ずっとってわけにはいかないかもしれないが、落ち着くまではあたしが面倒見てやるよ」

ゆま「キョーコのおうちにいくの?」

杏子「家はここだよ。けどさすがにここには住めないからな」

杏子「“大人”にも頼らない生き方ってのを、少しだけ教えてやる」

ゆま「……! うん、おしえてほしい!」


キリカ「……ゆま、魔法のことについてなんだけど…………」

ゆま「え?」

キリカ「『魔法少女になって』とか、『契約しよう』って言われても、絶対契約しちゃダメだよ」

キリカ「あの時言ってたこと、ほとんどわからなかっただろうけど、本当のことではあるから」

キリカ「……“魔法少女は最後は魔女っていう怪物になって命を落とす”」

キリカ「ゆまにはそうなってほしくない」

ゆま「え……?」

杏子「……あたしからも言っとくよ」

杏子「もしも今納得したつもりで契約したところで、後から後悔すんのが目に見えてる」

杏子「こんななにもわかんないようなガキを契約させてたまるか」


 ……ひとまず佐倉さんが傍にいてくれるなら安心だろう。


 『大人に頼らない生き方』っていうのが、

 昨日言ってた通りこれからホテルに侵入しにいくのかなって思うと、別の意味で少し不安にはなったけども……


 後は任せておくことにして、二人に手を振った。


キリカ「じゃあ、また明日ね!」

杏子「おう!」

ゆま「バイバイ、キリカ!」




 ――…………部屋の明かりを消して布団に潜り込む。

 真っ暗になった視界に不便さと少しの不安を感じて、ランプをつける前に明かりを消したことを後悔した。


 目を開けていても閉じていても暗い世界の中、ぼんやりとした考えがそこに浮かんでは消えていく。



 寝る前に考えること
1一瞬見えた血塗れの手について
2さやかについて
3懐かしいお茶会について

※一つ選択
 下3レス中多数決



 ……いつのまにか考え事と空想が入り混じり、微睡んでいく。

 夢を見ていた。



 ――――変身を解くと、身に纏っていたべとりとした感触が消える。

 衣装についた色は消えても、手についた血は消えることはない。

 錆のような匂いを吸いこんで、一仕事終えたようにふっとため息をついた。


 咽返るようなことはない。ただ少し不快だった。なんといっても汚い。

 ヘンなニオイのするべたべたとした色水。近いものと言えば泥水かな。

 その液体は、私にとってそれ以上の意味を持ってはいなかった。



 ――――またあるところでも、私は赤い海の前に居た。赤く染まった手は責めるようだった。

 ばしゃりと水面を揺らして膝をついて、深くどこかへと落ちて行く。

 落ちて行った先に転生した世界がそこだとしたら、結局私は、その運命から逃れられない。



 ――――携帯の着信を聞いて、ポケットから取り出す。


「――今夜? うん、キミの誘いを断るわけないじゃないか」

「でもすこしだけ時間をくれる? ちょっと汚れちゃったんだ」


 ああ、泥かぶったままの格好であの人に会いに行くわけにはいかない。

 だって、あの人は――――――――



「×××」


 …………跳ねるように起き上がって、その拍子に頭をぶつけた。


キリカ「いっ、たぁ…………」


 よっぽど変な格好で寝てたのかな?

 まだじんじんと頭に痛みが響いていた。


キリカ(思いこみ次第思いこみ次第思いこみ次第……)


 涙目になったまま今更心の中でそう唱える。

 ……そのおかげがあるのかないのか、少しずつ痛みが引いてきた。


キリカ「…………」


 頭に手をやって、目の前にまで下ろして見る。

 ……――悪夢だった。 やっぱりランプはつけておくべきだった。

 きっと、暗闇の中で寝たから変な夢を見てしまうんだ。

 でも暗いのが怖いなんて思われたら、またからかわれてしまう。



キリカ(……誰に?)


 時計を見てみると、まだ早い時間だった。

 なんとなく二度寝する気も起きなくて、キッチンのほうに行って水を一口飲んでみる。

 やっぱりまだ誰も起きてないようだった。


 なんだか生々しくて、また悪夢を見たら悪夢の世界から帰ってこれなくなりそうな気さえしていた。

 ……非現実的な発想。そんなに怖がりなほうじゃなかったはずなんだけどな。


 悪夢の内容をはっきりと覚えているわけじゃない。

 けど、鮮明に残っている血液の匂いや感触、それと、誰かのことを考えていたって事だけが頭に残っていた。


 そんな夢の中のことが、何故だか今は、怖いというよりもとても忌々しく思えた。

 今の現状と、今の感情と反発して、拒絶するように自分から切り離そうとしている。



――15日終了――


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:2個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[76/100]
・砂[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv3] [格闘Lv3] [射撃Lv2]

―――


 ……インキュベーターに目的を気づかれてからは、めっきり学校に行かなくなった。

 怪しまれないようにと考えていたけれど、それがなくなると心は軽くなった。

 元々、あの日から居場所のなくなった学校になんて行きたくもなかった。


 それでも規則正しい生活の癖が抜けずに朝食を用意していると、今日も朝早くから客が転がり込んでくる。

 あの子も私と同じように規則正しい生活が抜けないらしい。やはり私たちは似ているところがある。



織莉子「おはよう。丁度二人分の朝食を用意してたところよ」

マミ「さすがね」

マミ「……こうしてると、お母さんが生きていた頃を思い出すわ」

マミ「あなたになら甘えられる。私は、ずっとそういうのを求めていたのね」

織莉子「……正義の魔法少女が甘えんぼさんでいいのかしら?」

マミ「それとこれとは別よ。私はもうみんなから頼られる先輩なんかじゃないもの」

マミ「美国さんは誰かに甘えたくなったりしないの?」


織莉子「……そんなのはとっくになくなったわ」

織莉子「ところで、学校にはずっと行ってないのね」

マミ「ええ、もう優等生っていうのも疲れちゃったし」

マミ「…………美国さんは私が完璧じゃなくても傍に居てくれるのよね」

マミ「あなたにまで捨てられたら私、その時はどうするかわからないから」

織莉子「…………」

織莉子「…………ええ」


 ……心の中で蔑んでいる。勝手に期待を裏切ったと失望していた。

 それでも、こんな関係でも、私も一人きりで居るよりは誰か居ることに安心していた。

 希望がないのなら、このまま堕ちていくのも悪くない。


 ――――多分この約束は嘘にはならない。

 少なくとも、マミより私の方が先に死ぬことはないでしょう。


マミ「ねえ、朝食が終わったらお茶会にしましょうよ!」

マミ「一緒にケーキを作りましょう。今度は教えてあげるわ!」

織莉子「ええ、楽しみにしておくわ」


 ……ふとマミがぽつりと思いついたように言う。


マミ「…………なんか、こういうこと、前にもなかったかしら?」


 それに私はふっと笑って答えた。


織莉子「そうかもしれないわね」


 なにかが通じ合ったかのように錯覚したのか、マミが嬉しそうにしている。

 ……それは、運命なんてきれいなものじゃない。


―――

16日 朝



 ――――早く学校に着きすぎた。

 誰もいない教室の明かりをつけて、席に荷物を置く。

 ……外からは運動系の部活の朝練の声が聞こえている。


 机に肘をついて、窓の外を見下ろす。


キリカ(……まずは今日もさやかに会いに行こう)

キリカ(そしたら…………)

キリカ(……マミは今日も来ないんだろうな)


 うとうとと眠りそうになる。

 ……いけない。こんな時に寝不足なんて。



1少し眠ろう
2眠気覚ましに歩こう
3自由安価

 下2レス


 携帯だけ持って席を立つ。

 眠気覚ましに歩こう。


キリカ(……なんか、ちょっといつもと雰囲気違うな)


 静かな廊下に自分の足音が響いている。

 廊下もほとんど明かりがついてなくて、薄暗い。

 かと思ったら、階段で走り込んでいる運動部の掛け声も聞こえる。


キリカ(……喉が渇いたな、何か飲み物でも買うか)

キリカ(眠気覚ましにコーヒーでも…………)



 自販機でブラックのコーヒーを買ってみる。

 さやかにも何か買っておいてあげるか。



1コーヒー(ブラック)
2コーヒー(有糖)
3コーヒー牛乳
4ミルクティ
5コーラ
6ミネラルウォーター
7自由安価

 下2レス


 ……さやかの好みはどうだろう。

 とりあえずコーヒー牛乳でも買っておいてあげよう。



 プルタブを引くと、プシッと小気味の良い音が響く。

 口をつけ、黒色の液体を口に含む。


キリカ「ごふっ」


 ――――噴き出した。眠気覚ましにしても思った以上に苦い。


キリカ「…………」


 クリーム色をしたコーヒー牛乳の缶を見る。

 ……買った以上しょうがない。確かに眠気覚ましにはなりそうだ。

 そもそも缶のコーヒーって余計に苦い気がする。

 まあきっとその中に良い成分が凝縮されているんだ。そう思おう。



 …………暫くすると、ちらほらと登校してくる生徒が増えてくる。


 さやかは例の『仁美ちゃん』と一緒に登校してきた。

 何か話をしている。見たところ雰囲気は悪くなさそうだ。


キリカ(仲直りできたんだ)


 近づくと、さやかが手を振った。


さやか「おはようです!」

キリカ「おはよう。教室ついたらちょっと話いい?」

さやか「わかりました」


 …………二年の教室の前まで行くと、さやかが荷物を置いて廊下に出てくる。

 話をする前に、さっき買ったコーヒーを渡す。


キリカ「ほい、これあげる」

さやか「わざわざありがとうございます!」

さやか「……メール見たけど、マミさんのこと、本当なんですか?」

キリカ「……残念ながら。信じたくないのはわかるけどね」

さやか「…………」


キリカ「マミはさ、佐倉さんの事殺しちゃったと思って、それを正当化してるんだよ」

キリカ「それで、今までやってきた『正義の魔法少女』って生き方を自分の中で貫こうとして、思いっきり空回りしちゃってる」

さやか「で、でも、やっぱりあのマミさんがそんなふうになるなんて……」

キリカ「…………結局みんな強くなんてないってことでしょ」

キリカ「心の不安定さとか些細なきっかけとかから、いつのまにか自分じゃ取り返しつかなくなって転がり落ちていく」

キリカ「なんとかしてあげられるとしたら私たちだけだよ。マミが決定的に間違う前に目を覚まさせてあげよう」

キリカ「佐倉さんも協力してくれるし、今日来てくれるって言ってたから」


 …………さやかが少し考え込んで、

 それから覚悟を決めたように『よし』と言った。


さやか「……仲間が間違った方向に進もうとしてるなら、そうしてやるしかないか」

さやか「手のかかる先輩ですね」

キリカ「まったくだよ」



1自由安価
2仁美ちゃんとは仲直りできた?

 下2レス


キリカ「仁美ちゃんとは仲直り出来た?」

さやか「やっとお互い元通りになれたって感じです」

さやか「恭介とも今は普通に話してるし、あの時全部投げ出しちゃわないでよかったなって」


 ……さやかは順調にいってるみたいだ。

 それに安心して、ふと、朝のことを思い出した。


キリカ「……さやかは変な夢とか見てない?」

さやか「変な夢?」

キリカ「うーん……なんていうか……」

キリカ「前にさ、『こんなこと前にありませんでしたか?』みたいなこと言ってたよね」

キリカ「変なもの、見たりとかさ…………」

さやか「あぁ……なんだったんでしょうね」

さやか「あたしは特にありませんけど、キリカさんはなんかあったんですか?」

キリカ「…………」


 ……ためらって口を噤む。

 内容が内容だけに、言えなかった。


キリカ「……いや、ちょっと悪い夢見た気がしただけ」


さやか「あんまり考えすぎるとまた変な夢見ちゃいますよ?」

さやか「じゃ、放課後? また会いましょう」

キリカ「あー、うん。佐倉さんどのくらいに来るかな」

キリカ「また一緒に強くなろ」

さやか「はい!」


 ……さやかが教室に戻っていった。


キリカ(まだ苦い味が残ってる……一口くらいもらっておけばよかったかな)

キリカ(教室に戻る前に水道の水でも飲んでこよう)

---------------------
ここまで
次回は22日(月)20時くらいからの予定です


 ――――眠気がぶり返してきたのは二時間目もあと半分くらいになったころだった。

 この前のテストの答え合わせと、残り時間を埋めるように出された復習問題。

 似たような問題が眠りを誘って、シャーペンを走らせていたプリントにいつのまにか意味のない曲線が書き込まれていた。


キリカ(どうせ残りは宿題ってパターンか……)

キリカ(まあいいや)


 周りを見てみれば、さっさと終わらせて喋ってる人。寝てる人。

 完全に放棄して喋ってる人。寝てる人。

 まともに取り組んでる人の方が少なかった。


『おい、ちょっといいか』


 ……声が聞こえて窓の外を見てみると、佐倉さんがビルの上から覗いていた。


キリカ『もうそっち行こうか? 今割と退屈なんだけど』

杏子『ちょっと聞きたいんだが……マミは学校に来てるのか?』

キリカ『いや……この前からずっと来てないよ』

杏子『やっぱりそうか』


杏子『だったら何しでかすかわかんねえマミの事を後回しにして、ガッコーなんざ行ってる場合でもないな』

キリカ『さやかのクラスの様子はどう?』

杏子『こっからだと見えないが…… よっと』


 佐倉さんが軽くビルを跳び移っていく。

 ……それから少しして、また声が聞こえてきた。


杏子『さやかもすぐ来るってさ』

杏子『裏門の前で待ってるよ。ゆまも下にいるから挨拶に来い』

キリカ『オッケー、じゃあ今行くよ』



 ――……授業を抜けて裏門のほうに行く途中でさやかとも合流する。



ゆま「キリカ、こんにちわ!」

キリカ「こんにちは。昨日は佐倉さんと一緒でどうだった?」

ゆま「すごかったよ! きづかれないようにささっと入ったら、おこられなかったの! ニンジャさんみたい!」

さやか「あんたねえ……子供になに教えてんのよ」

杏子「“生きてく術”だよ。でもまだ一人でやっちゃダメだぞ」

ゆま「はーい」

杏子…生きていく術を教えるのはいいがやってるのは悪い事だとはキッチリ教えとけよ?
善悪の区別がつかなくなると碌な人間にならんしね


さやか「……そういうとこはやっぱり認められないけど、仕方ないとは思うから」

さやか「“生きていく術”って程度にとどめておきなさいよ」

杏子「相変わらず小うるさいな。マミみてえ」

さやか「そりゃマミさんの四番目の弟子だもん」

キリカ「私たち、ゆまを除いたらみんなマミの弟子でしょ」

キリカ「……あと、まどかもだけど」


 ……マミはみんなの師匠だったんだ。

 マミはずっと良い師匠であろうと気張っていた。もしかしたらそれも重荷になってたのかな。


キリカ「それにしても、どうせならもっと早くに来てくれればよかったのに」

杏子「それさやかもさっき言ってたな」

杏子「あんたら意外と似た者同士なんじゃねえの?」


 ……さやかと顔を見合わせる。

 前もそんなことを少し思ったけれど、今思うと確かにそんなところもあるかもしれない。


キリカ「そうかもね」

さやか「そうっすかね?」

杏子「ここで話し込むのもまずいからさっさと行くぞ」

杏子「グリーフシードに余裕がないっつってたな。今日は実戦で見ることにするか」

キリカ「魔女狩り?」

杏子「ああ」


 ざっくりとやることを決めて歩きはじめる。

 学校から離れ、普段ならこの時間に通ることのない通学路を通る。



1自由安価
2さやかはあれから魔女を狩った?


 下2レス+コンマ判定
0~20 使い魔
21~40 魔女


キリカ「魔女狩りの間ゆまはどうする?」

ゆま「ゆまもついていきたい!」

ゆま「だって、ひとりになるのやだよ……」

杏子「……三人も居るから危険になるようなことはないと思うが、ゆまと居るときにマミとは鉢合わせたくはないな」

杏子「けど、他に頼れそうなところもない。一人にしておくほうが危険なら、しょうがないだろ」

キリカ「まあ、そっか……」


 ……学校から少し離れたところで、魔女の魔力を感じ取った。

 そういえば、さやかももうわかるようになったかな?


杏子「魔女だ。狩りにいくぞ」


 そう思ってさやかのほうをちらっと見てみたけど、

 さやかが反応するより先に佐倉さんが知らせた。


キリカ「さやかはあれから魔女は狩ってないの?」

さやか「あたしはちょっと、最近はそういうのからは離れてたな……」

キリカ「……そっか」


 ……離れてたんなら、しょうがないか。


さやか「あっ。魔力があるなってくらいはわかってましたよ!?」

―犬の魔女結界



さやか「でぇええいっ!」

杏子「さやか、前に出過ぎ」

キリカ「攻撃してこないね。ほっといてもいいやつかな?」


 くるくると回るマネキンの使い魔たちをさやかがバッサリなぎ倒して進んでいる。

 ……その奥には、少々けばけばしいくらいのピンク色をした犬のような魔女が潜んでいた。


ゆま「ぬいぐるみさん!」

杏子「下がっとけ!」


 佐倉さんがゆまを下がらせて、いつか見たのと同じ障壁を作る。

 しょうがないとはいえ、やっぱりちょっと危ない。どうにかできないのかな……


キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:2個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[76/100]
・砂[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv3] [格闘Lv3] [射撃Lv2]


仲間:
杏子 状態:正常 【使用中魔法:縛鎖結界】
さやか 状態:正常


敵:Uhrmann
  Bartels(複数)

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
4ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
5スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
8狂い裂きファング :痛覚遮断による人間を捨てた戦闘。装備は鉤爪固定・制御不能状態。
9魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
10封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率83。集中力が必要。
11武器換装 :剣を実体化させる。

 下1レス


ゆま「あれが魔女なの? ほんとうにわるいことするの?」

杏子「そうだよ、うっかり近づくと丸かじりだからな」

キリカ「佐倉さんはゆまちゃんを見てて!」


 踏み込み、両手に出した爪を一斉に魔女に向けて振りかぶる。

 ――魔女は爪が刺さってずたずたになって消え去った。


さやか「…………」

キリカ「ふう……よし、と」


 なんだかみんながかぽんとしていた。


キリカ「?」


 グリーフシードをひろって、首をかしげてみんなのほうを振り返る。


さやか「な、なんかすげーっすね!」

キリカ「そりゃもう今までの私じゃないから」

杏子「なにドヤってんだよ。一人で張り切りすぎだっての。さやかに似てきたんじゃないのか」

さやか「どういう意味よそれ!」

キリカ「あー、うん、気を付ける」



 ……さやかはまだ納得いかなそうな顔をしていた。



キリカ 魔力[100/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[76/100]
・砂[100/100]
・犬[100/100]


さやか「……そういえば、刀使わなくなったんすね」

キリカ「重いもの取っ払ったら、こうなっちゃった」

キリカ「元の武器と全く違うものは作れない。けど、心持ちっていうなら、やっぱり自分でセーブしてた分があったのかなって」

さやか「折角似た武器だったのになあ」

杏子「さやかは変わんないんだろうな。この性格で元々その武器だから」

キリカ「実直なところとか、似合ってるよ」

さやか「あははは、それは褒められてるのか?」



1自由安価
2ゆま、危ないから下がってるんだよ


 下2レス+コンマ判定
0~20 使い魔
21~40 魔女


キリカ「そういえば佐倉さんも槍を鎖状にしてたよね」

キリカ「さやかのサーベルも似たような……というか形状を変えて別の武器にできたりするのかな?」

杏子「まるきり別の武器は作れなくても、魔力の加え方次第で応用はきくからな」

杏子「勝てないとか力不足だって思う状況にあったら、色々と工夫してみればいいんじゃないか?」

さやか「えー? でもあんまし思いつかないな」

キリカ「さやかは防御と回復が得意だから、盾とか防具とか?」

さやか「騎士みたいでかっこいいっすね」

杏子「……あとさ、その『佐倉さん』ってのやめろ」

キリカ「へっ?」

杏子「『杏子』でいいよ。堅苦しいのあんまし好きじゃない」

キリカ「あー、うん……」

キリカ「……杏子とさやかも結構似てるとこあるよね」

杏子「どういう意味だよ!?」

さやか「ちょっと待て、そのリアクションがどういう意味よ!」


 ……歩きつかれたのか、ゆまの歩くペースが少しずつ遅くなってくる。


さやか「魔女も出ないことだしちょっと休む?」

杏子「じゃあちょっと休憩な」


 道の途中にあったベンチに腰掛ける。


キリカ「……ゆま、結界に入ったら危ないから下がってるんだよ」

キリカ「さっきの魔女は可愛さもあったかもしれないけど、だからって危険さは変わりないんだからね」

ゆま「うん……」

杏子「そうだな。見た目からしてヤバい奴だけが強いとは限らない」

杏子「あんたらも気を抜くなよ。油断は命取りになる」

キリカ「うん」

さやか「わかってるわよ」


 まだ昼前だ。大分暖かくなった温度と日差しに、本日三度目の眠気を誘われる。

 またそこの自販機でコーヒーでも買おうかな。でもブラックはもうやめとこう。


 ……隣を見てみると、ゆまもねむたそうにしていた。


キリカ「すこーしだけ仮眠とっていい?」

杏子「ゆまがおねむか? お昼寝の時間にはちょっと早いけどな」

キリカ「実は私も少し眠くて」

杏子「じゃああたしはちょっとお菓子でも買ってくるよ」

さやか「お菓子? あたしも一緒に行こうかな。みんなで食べられるやつ買って来よう」


 ……二人が近くのコンビニに行った。

 ゆまに膝を貸してあげて、私も目を閉じた。




 夢
1血塗れの手2
2さやか
3懐かしいお茶会
4何も見なかった

※一つ選択
 下3レス中多数決



 ――――雨が降っていた。

 その中を傘も差さずに走っている。



 伝えたいことも伝えられないまま消えようとしてる。

 やりたいことをやりきろうともしないまま諦めようとしてる。


 さやかにはそれで終わってほしくなかった。報われてほしかった。

 普段は全然見えなかったさやかの弱いところが妙に気にかかって、走っていた。



 ……この気持ちには覚えがあった。あの時の夢。

 でも、雨の中なんて走ってたっけ。


 意外と似た者同士なところがあったから、自分と被ってたんだってことも今ならわかる。

 けど……



 やっとたどり着いて叫ぶ。そして、手を取った。

 その時にはもう――――。


 ――――パシャ。

 何かシャッターのような音がした気がして目を開ける。


キリカ「……ん」

さやか「あ……起きちゃった」


 さやかがスマホを向けていた。


キリカ「なっ、なっ、なに撮ってんの!?」

さやか「しーっ…………」

さやか「なんか良い画だと思ったんでつい」


 ……びっくりして夢の内容も吹っ飛んでしまった。けど、なぜだかとても安心した。

 ゆまはまだ寝ている。

 その寝顔を見てると、確かに写真に収めたくなる気もわからなくない気がした。


キリカ「見せて」

さやか「はい」

キリカ「それちょっとちょうだい」


 ……そんなこんなしているうちに、ゆまも目を覚ました。


ゆま「おはよー……」

杏子「おはようさん、ちょっと腹ごしらえしてから行こうぜ」

ゆま「わっ、おかしだ!」

キリカ「じゃあもらうね」


 大袋のお菓子をみんなでつまんでいく。

 なんか、こういうのも悪くないなって思った。


 ……お菓子がなくなると、空袋を捨てて再び歩き出す。

 それからまた少しして魔力を感じて、結界を探す。


 その結界は、住宅街の中にあった。



―人食いの魔女結界



 ツタを切り裂き、植物園のような結界を進んでいく。

 最深部が見えてくると、なにか違和感のようなものを感じはじめた。


さやか「……なんか様子が変じゃない?」

キリカ「うーん……なんていうんだろう、使い魔も魔女も意識がこっちにないね。でもこれってむしろチャンスなんじゃ?」

杏子「一般人が結界に取り込まれてるな。クソ、面倒だ」

ゆま「魔女って人をたべるんだよね? たすけてあげなくちゃ」


 武器を構え、最深部へ乗り込む。

 魔女の意識の向いている方向へみんなで走っていく。


 ……一人の女の姿が見えた。女は魔女に気づいている様子がない。

 すると、ゆまが口を開く。


ゆま「あ…………」

ゆま「……ゆまのママだ」

-----------------------
ここまで
次回は27日(土)18時くらいからの予定です


キリカ「え……!?」


 結界にはあちこちに花が咲いている。

 ツタが伸び、その花の一つが大きく口を開いて女に迫っていく。


 ――――ボトりとツタの先が落ちた音がした。

 鎖が絡んでいる。佐倉さんが多節棍で魔女を縛り上げていた。


 ……ゆまの言葉に、私は次の一歩が踏み出せなくなった。

 さやかも同じようだった。

 ゆまを傷つける母親。助けなくていいって思ってしまったのだろうか――そんな奴は死んだほうがいいと?


*「は……っ!? ヒィイッ!」


 悲鳴が響く。

 女――ゆまの母親は、ここまできて、はじめて自分に危機が迫っていることを認識したらしい。

 花びらの内側には無数の牙がたくわえられている。

 魔女は口のを開けたまま女の目の前で止めらていた。


ゆま「ママ」

*「ゆ、ゆま……? なんであんたこんなところにいんのよ!」

*「勝手にこんなとこ行って! 私にこんな手間かけさせて!」

ゆま「……」

*「なんなのよこれは! なんで私がこんな目にあわなくちゃいけないんだよ!」

*「ほら、早く来なさい! お前が居ない間私がどんな思いだったと思ってんの!」

杏子「……なあ」

杏子「アンタ、助かりたいのか助かりたくないのかどっちだ?」


 きつく絡んだ鎖が軋む。

 魔女は獲物を目の前に捉え、『待て』をされた犬のように獰猛に酸のような涎を垂らしていた。

 杏子が力を緩めれば、すぐに魔女は女に喰らいつくだろう。

 ……たとえ緩める気がなくとも、使い魔も無限に湧き出す状況でずっと同じように縛り付けているのは限界がある。


*「……あんたたち、なんなの?」

杏子「魔法少女だ」

*「は? なんでもいいから助けられる力があるなら早く助けなさいよ!」

*「なに見てんだよ! その手に持った剣があれば切れるんでしょ!?」

*「魔法少女だとか言うなら、早くこのわけわかんない化け物みたいなのなんとかしなさいよ!」


 ゆまの母親がさやかを指して叫ぶ。

 ……しかし、さやかは動けないでいた。


杏子「なんかアンタ、勘違いしてないか?」

*「はっ?」

杏子「なんで助けなきゃいけないの? 別に魔法少女ったってヒーローでもなんでもないんだぜ?」

杏子「こいつらはどうだか知らないが……」

さやか「あたしは……そりゃ魔女は倒すよ。魔女をほっといたら他の人にも被害が出る」

さやか「……でも、魔女より悪い人間が居たら、どうすればいいんだろうね」

さやか「そいつも倒したほうがいい? ……確か、そう思ったこともあったっけ」


 女が腰を抜かしたまま恐怖の表情を浮かべて後ずさった。

 怒鳴り散らしてた余裕もなくなってきたのだろう。


さやか「あたしたち、ゆまの友達だから」

さやか「友達に酷いことするなら、あんたのところに返すわけにはいかない」

*「わ、私がゆまにひどいこと? 何を言ってるのよ。私はゆまの母親なのよ?」

キリカ「すっとぼけるなよ。昨日会った時、ゆま怪我してたんだよ」

キリカ「あんたなら知ってるでしょ……あんたがやったんだから」

杏子「……なあ、ゆまはどう思う?」

杏子「ママのところに帰りたいか?」

ゆま「…………」


 ……ゆまは答えなかった。

 沈黙のまま十秒ほど過ぎたところで、女は必死に叫んだ。


*「な、なに黙ってんだよ! あんた私がいないと困るでしょ!?」

*「家は?食事は? 今まで育ててきてやったの誰だと持ってんの!?」

ゆま「ゆまは……かえりたくない」

*「……!」


 恐怖――それから、怒りへと女の表情が変わった。


*「――ゆまッ!」

*「あんた、そんな事言ってどうなるかわかってるんでしょうね!」

*「帰ったらお仕置きよ! 覚悟しなさい!」

ゆま「か、かえりたくないよ! ひどいことするママなんて……だいっきらい!」

ゆま「昨日キョーコといっしょにいたときは楽しかったもん!」

ゆま「ママなんて…… ママなんて…… いらない! 魔女に食べられてしんじゃえ!」


 女がついに、目を見開いた。

 鎖が軋み、せり出した花びらから垂れた酸の涎が女の肩を焼いた。

 シュウと音がして、酸がタンパク質を溶かす匂いがした。

 女は初めて自身が受けた痛みに死を覚悟していた。

 ――――それは、ゆまが今まで味わったのと同じ種類の感情だった。


*「あ゛ぁ、づ……――あぁあ…………ぁあ」

*「あぁ、これはきっと……夢なんだわ」

*「ゆまが……お前がいないからこんなことになるんだ」

*「私の気持ちを、不満を、全部受け止めてくれる人が……いないから」


 鎖の拘束ももう持たない。

 放っておけば、酸が身体を溶かし、鎖を突き破った魔女が丸ごとかぶりついて死ぬんだろう。


杏子「……お前は自分の怒りや不満を発散するためにゆまに当たってたんだな」

杏子「そのゆまに見捨てられる気分はどうだ?」

杏子「ゆまだって、自分が産んだ子供だって物じゃないんだぞ」

杏子「最後まで反省もなにもしないまま死ぬのか、お前」

*「は、反省します! ……ッ反省するから、助けてええぇぇ!」


 ここまできて、やっと女は涙を流して必死に反省の言葉を叫んだ。

 反省の言葉――“言葉”だけじゃわからない。


杏子「あたしに言うんじゃないだろ!」

*「今までごめん! ごめんね、ゆま! お母さん今までのこと謝るから!」

*「ねえ、許して!許してよ!」

ゆま「ゆまも『許して』って何回も言ったよ」

ゆま「でも、ママはこういったよね」

ゆま「……『お前は罰を受けて当然の悪い子なんだ』って」

*「――――!」

ゆま「……ゆまが許したら、本当にゆまにもう意地悪しない?」

*「……! しない、もう絶対にしないから……!」

ゆま「でも、ママのところではくらしたくない」


 ……女はその言葉に、目を見開いたままだった。

 近くに居たら酷いことをするのに、ゆまのことを手放したくはなかったんだ。

 正確には、八つ当たりできる相手を…… といったほうが正しいのだろうか。



1自由安価
2ゆま、本当にいいの?

 下2レス


キリカ「ゆま、本当にいいの?」

ゆま「うん……」

キリカ「……正直、私は見捨ててもいいんじゃないかって思ってる」

キリカ「甘い気持ちで見逃すとろくなことがないってもうわかったし」


 ギリ、と手に爪が食い込む。

 私があの時織莉子を見逃したせいで、まどかが死んだ。

 悪い奴を見逃したせいで大切なものを失うなら、迷わず殺すべきだ。――でも。


キリカ「……でも、あんたなんかのせいでゆまに後ろ暗いもの一生背負わせたくはないから」

キリカ「だから、最後にちゃんと面倒見てよ」

キリカ「出頭して! そんで、親戚でも施設でもいい。ゆまがあんたのもとを離れて安全に暮らせるようにして」

*「…………わ、わかった」

さやか「――それと」

さやか「もしゆまに変なことしたってわかったら、あたしたちがあんたのこと倒しに行くから」


 さやかは魔女の前に出ていって蔦を斬りつけると、女を脅しつけるように言った。

 ……杏子が千切られかかった鎖を手放す。それと同時に、魔女はのたうち暴れ回った。


杏子「ほら、死にたくないなら下がってろ」

杏子「あんたにはまだやることが残ってるんだろうが」


 杏子が女を乱暴に掴んで、放るように下がらせる。

 ……魔女に向き合う。

 魔女はさっきからご馳走を目の前にぶら下げられたまま食べられなくて、大分お怒りのようだ。




キリカ 魔力[100/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[76/100]
・砂[100/100]
・犬[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv3] [格闘Lv3] [射撃Lv2]


仲間:
杏子 状態:正常
さやか 状態:正常


敵:Rafflesis
  Groth(複数)

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
4ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
5スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
8狂い裂きファング :痛覚遮断による人間を捨てた戦闘。装備は鉤爪固定・制御不能状態。
9魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
10封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率83。集中力が必要。
11武器換装 :剣を実体化させる。

 下2レス


 一旦、それを鎮めるのはさやかと杏子に任せる。

 杏子はもちろんのこと、さやかの動きも俊敏かつ柔軟だ。

 二人とも手際よく細かい蔦から斬りおとし、追い詰めていっている。


さやか「キリカさん?」

キリカ「――ちょっと待って」

杏子「早めに……まあ焦るな。大技ぶちこめる隙ができたら一気にぶちこんでやろうぜ」

杏子「それまでだって二人もいりゃなんとかなる」



 下1レスコンマ判定
0~83 『封印』


キリカ(……杏子のに比べれば大分わかりやすい)

キリカ(このくらいなら――――)


 魔力の波形の隙を突いて破壊する。

 魔女が動きを止めた。


さやか「! 隙ってこれ?」

杏子「おう、一気にいくぞ!」


 さやかが幹を斬り刻み、杏子が魔力を纏わせた槍を投げて、大きな花弁の内側にまで深く突き立てる。

 ――――魔女がグリーフシードになり、植物園のような結界が消えた。



キリカ 魔力[70/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[76/100]
・砂[100/100]
・犬[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv3] [格闘Lv3] [射撃Lv2]



杏子「どうだ? 訓練に比べりゃずっとやりやすかっただろ?」

キリカ「そうだね。ありがとう」

キリカ「これなら織莉子相手にでもやれそうだ」


 ……問題はマミ、か。

 そう思うと少し気が重くなる気はしたが、やるしかない。

 杏子で慣れてるなら、それとそこまで大きくは違わないはずなんだ。


*「なんだったんだ……本当に」

*「夢じゃ…………ないのか」


 女はきょろきょろと自分のよく知ってるだろう見滝原の街を見回して、

 それからゆまを見上げた。


杏子「……おい」

杏子「これからゆまを連れて警察に行ってこい」

杏子「もし余計なことしてみろ。さっき言った通り、あたしらが倒しに行くからな」

杏子「ゆまが許したからそれで済んでるんだ。生きてるだけでマシだと思えよ」


 杏子が女の鞄から携帯を取り出す。

 ……それから私のほうに渡してきた。


杏子「『110』のかけ方くらいはわかるが他の操作方法はあたしにはよくわからん」

杏子「これの番号と電話帳抜いておけ。後で連絡できないと困るだろ?」


 見てみると、家族や親戚らしき番号はあった。

 これからゆまが親戚の家に行くなら、どこかにかければつながるだろう。


 それから、ゆまの母親は罪を自白して警察に出頭することになった。



キリカ「一段落したら会いに行くよ。またお菓子とか食べに行こう!」

ゆま「うん!」

キリカ「……これで大丈夫かな」

杏子「あいつに大した度胸はねえよ。今回のでやっと『痛み』を思い知ったんだから」

―――


 ……お茶会が終わると、マミは意気揚々と出て行った。

 『魔女』を狩りにいくそうだ。


「……少しだけ元気になったように見えます」

「何かあったんですか?」

織莉子「…………そう見えるのかしら?」

「最初見たときは、もっと酷い表情をしてたように見えたから」

「……怒ってるような、悲しいような。悪い方向に覚悟を決めて追い込んでいる表情でした」

織莉子「何が起きてるかなんて知らないほうがいいわよ」

織莉子「貴女はまだこの世界に希望があるとでも思っているの?」


「…………でも、あなたの思いが変わったから今こうしてる」

「それも、変わらなかった運命が変わったって、言えないのかな」


織莉子「…………」

織莉子「その結果が良くなるか悪くなるかなんてわからないわ」

織莉子「少なくとも私は、良くしようとなんてしていなかった」

「これからすればいいだけなのに……その能力を持っているのに、どうして諦めようとするんですか!?」

織莉子「最初に見えてしまったからよ。それからずっとこれに頼ってきた……」

「そんなの……」

織莉子「――!」

「……どうしたんですか?」

織莉子「いいえ」

織莉子「…………貴女と話すのもこれで最後になるかもしれないわね」



 重い扉を閉めて、眩しい太陽の光に目を細める。


 鍵のかかった埃の被った倉庫。

 薔薇園はお父様の趣味だった。その隅の倉庫には園芸用品なんかが置いてあった。

 ……更にその隅の物陰の奥に、隠されるように彼女は居た。


―――

―――


 ……携帯の画面を見てみると、ちょうど時刻は昼時を少し越していた。


杏子「腹減ったな。なんか食いに行くか」

さやか「あたしは弁当あるけど」

キリカ「ああ、私も持ってきてる」

杏子「そういやあんたらはそうなんだよな。手作りなんて羨ましいこった」

杏子「あたしもその辺で買ってくるよ」


 スーパーで弁当を買って、みんなで公園に向かう。

 ベンチに腰掛けると、それぞれ弁当を広げた。


さやか「なんかピクニックみたいで新鮮だなあ」

キリカ「確かに、悪くないかもね」


 昼の公園は子供たちの声でにぎやかだ。

 遠くから聞こえる水の音とそよ風が心地良かった。

 いつも教室で食べてるから、外で食べるのは確かに新鮮だった。



1自由安価
2さやかたちっていつも屋上で食べてたんだっけ
3…杏子、それ一人で食べるの?

 下2レス


キリカ「さやかたちっていつも屋上で食べてたんだっけ」

さやか「はい。雨の時は教室で食べますけどね」

さやか「あとは、暑い時と寒い時も外は避けるかなぁ……」

さやか「最近はちょっと暑くなってきましたね」

杏子「あたしも外に居て心地いい季節は好きだ」

杏子「これから梅雨の季節に入ると嫌だな。まず湿気がうぜえ」


 ……レジ袋から二つ、三つと弁当を出していく。

 ああ、そんなに買ってたんだっけ。


キリカ「……杏子、それ一人で食べるの?」

杏子「……なんだ、欲しいのか?」

キリカ「別にねらってない! そんな大食いじゃないから!」

さやか「でもみんなのお弁当って気になりますね。ちょっとずつおかず交換しません?」

キリカ「! ここ……で?」

さやか「?」


 思い出したのはマミとおかず交換した時のことだった。

 ……やっぱりあれはおかしかったんだとわかったのは、このあとすぐだった。


 ……味の染みた肉じゃがのじゃがいもを食べてみる。

 さやかの家の昨日の夜ご飯の残りらしかった。


さやか「マミさんって面白いとこあるんですね!」

杏子「それに応じちゃうあんたも結構ヤバいけどな!」

キリカ「いや、私もおかしい気はしてたんだよ……?」

キリカ「……けど、私もあんまりそういうのわかんなかったから」

杏子「あいつもわかんなかったんだろうな」

杏子「学校でどうしてるかは知らないけど、コンビ組んだのもあたしが初めてらしいし」

キリカ「…………」


 そういえば、そういうのあんまり時間割けなかったって言ってたっけ。 

 今はどうしてるんだろう。学校も行かずに、ずっと街を彷徨ってるんだろうか。

 それとも……


キリカ「この後はどうする? まだ魔女を探す?」

杏子「そろそろ狩りつくす頃かもな……場所を変えるか時間を空けたほうがいい」

杏子「訓練するなら、いつもんとこにさやかも連れてくか? 見滝原からは遠くなるが」

さやか「いつものとこ?」

キリカ「そこって、マミに場所知られてるんだっけ?」

キリカ「さっきは会わなかったし、もし奇襲されたら……」

杏子「それはそうだが…… あー、どうするかな」


 ……考え込むように三人の間に一旦沈黙が流れた。


キリカ「前も良さそうなところ探すのって結構大変だったしね……」

キリカ「とりあえず、ここを出たらいつもの教会を目指そう」

キリカ「明日からは私服も持ってこよっか……」

さやか「そうっすね……」


 それからしばらくして、食べ終わった後の弁当箱を片づけて、

 スーパーで買った弁当の容器を捨てに入り口付近のゴミ箱の前に寄る。


 子供たちの声でにぎやかな昼の公園。

 しかし、噴水の前のこの場所の隅には、まだブルーシートが張ったままだった。


 ……公園を出ようとして足を止めた。


杏子「……!」

キリカ「…………マミ」


 みんな、互いに目を見開いて固まっている。

 ――――目の前に、探してたマミの姿があった。

----------------------------------
ここまで
次回は28日(日)18時くらいからの予定です


マミ「佐倉さん。 生きてたの?」

杏子「……驚いたか? あたしの魔法だよ」

マミ「…………使えないんじゃなかったのね」

杏子「ああ」

杏子「……で、感動の再会だけどあんたはどうなんだよ」

マミ「私は…… 魔女を狩りに来たのよ」

マミ「ここに来るまでに、使い魔を二回狩ってきた」

マミ「そして――――ここでも貴女達に、探していた魔女の素体に会った」

マミ「あの時狩り損ねてたなら……また…………」


 マミは目の前を見ているようで見ていない。

 金色の目から光は消えていた。――ぼんやりと映りこんだ太陽の光はただそこに反射しているだけだ。


杏子「おい! あの時アンタは何を思って戦ってたんだ?」

杏子「なあ、教えてくれよ……あたしのことがうざかったでも憎かったでもいい」

杏子「何を恐れて、何を諦めてた?」

マミ「――……魔女を殺す」

マミ「それだけよ」

杏子「そんなの違ぇだろ!」

さやか「マミさん!」

さやか「あたしたち、みんな魔女になんてなってないし、死んでもない」

さやか「みんなに助けられたからだよ! マミさんのことだってそうするから!」

マミ「そんなことなんの保証があるのよ! ソウルジェムが濁り切ったら魔女になる。それが真実」

マミ「今まで倒してきた魔女がそうなら、同じ――私はこれからだって……やることを変えるわけにはいかない」

マミ「じゃないと……私は…………!」


 ……魔力は使ってないものの、心の不安定さは伝わってくる。

 刺激すれば火花を散らす。激突しかねない――――

 ――……そもそも、激突しないでどうにかすることなんてできないのかもな。



1自由安価
2正義の魔法少女で居られなくなるとでも言いたいの?
3恐がらなくていいんだよ

 下2レス


キリカ、ぶちギレ?
この後殴り愛になるのかな?


キリカ「正義の魔法少女で居られなくなるとでも言いたいの?」

キリカ「本当は全部自分のためなんでしょ」

キリカ「昨日わかったよ……ただ自分のやってきたことが否定されるのが怖いだけなんだ」

マミ「――――……」


 ……マミはこちらにまっすぐと目を向けている。

 今度はちゃんとそこに私は映りこんでるのかな。


 ――――――爆発する。


 瞬間、目の前に迸る金色の光。

 周りの状況すら鑑みない戦闘体勢への突入に、みんながたじろぐ。


マミ「何を分かった気でいるのよ! 訂正しなさい!」

杏子「……おい! こんな場所で何考えてんだ!? 仮にも正義語ってる奴が一般人まで巻き込む気かよ!?」

マミ「仮じゃない!」

杏子「だから落ち着けっての……!」

マミ「私は落ち着いてるわ……――――ええ、そうね。ここで出会ってしまったんだもの。結界を持たない魔女なら仕方がない」

マミ「救済のためには多少の犠牲は致し方ないわね」

マミ「ここで全てを断ち切る……これ以上私を惑わそうとしないで!私の居場所は他にあるの!」


 変身しないとやられる。

 二人が躊躇い、ソウルジェムを握った。


 ――――その時私は、前に歩き出していた。


 マミは魔力の爪――もしくは刀を振るわれるのを予想して、それを弾くように銃を横に向けて高く掲げた。

 ……しかし、私はそれよりも更に間合いを詰めていた。


 パン、と乾いた音が響く。

 ――マミが目を見開いた。


キリカ「見てて痛々しいよ……大体ね、マミには言いたい事がたくさんあるんだよ」

キリカ「何本心を隠して自分で作り上げた幻想に縋っているのさ?」

キリカ「この間電話で話した時言ったね? 私は『事実を受け入れてないだけだ』って」

キリカ「確かにそれは事実だよ、私はみんなとの関係がなくなるのが怖かったんだ! でもそれはマミも同じじゃないか!」

マミ「……!」


 すると、マミはすぐに銃口を首の下あたりに向けて撃ちこんだ。

 ――――火薬の代わりに魔力を使った軽い銃声が響き、喉の奥から込み上げる生ぬるい血が顎を伝って零れ落ちた。

 足元から崩れそうになりながら、もう一度手を振り上げようとする。


 ……しかしそれは届かず、代わりにマミの靴下を掴んだ。

 なんとかしがみつこうとしたが、次の瞬間には軽い動作で蹴られる。

 もう一発、今度はお腹に向けて銃弾が撃ち込まれた。


さやか「離れましょう! 怪我はあたしが治すから!」

杏子「チッ……!」


 変身したさやかが駆け寄ってくる。

 銃口がさやかのほうに向けられたのを見て、続けて杏子がマミの前に出た。


キリカ「っ……、ご……」


 喋ろうとしたけれど、声が出ない。呼吸が上手く出来ずに意識が離れかける。

 ――思っていた以上にマミの攻撃は容赦がなかった。

 言葉が通じる相手だと思っていないかのように言葉を返さない…………まるで、本当に魔女と戦っている時のよう。

 こうなった時点で決定的に壊れてるんだって、想定しておくべきだったか。


 周りがざわざわとしている。

 まるで絵に描いた魔法少女のような格好に興味を持った子供の声。

 ……そして、公園の前を通りがかった人たち。


杏子「お前、このままじゃマジで後戻り出来ないところに行っちまうぞ!」

マミ「な、なんのことよ……! 後戻りも何も、私は……!」

杏子「あたしは生きてるしあんたは誰も殺してない! 今ならそれで元通りになれるんだよ!」

杏子「それでいいじゃねえか! 何かを振り切る必要も、織莉子なんかに依存する必要もないんだ!」

マミ「美国さんのことを悪く言わないで……! 私から離れて行ったくせに」

マミ「あの人なら私を受け入れてくれる。ずっと私と同じ気持ちで戦ってくれる人をやっと見つけたの」

杏子「本当にそう思うのか?」

杏子「自分の目的ももう達成して…… 本当に同じ気持ちなら、なんでお前は昨日も今も一人で戦ってるんだ?」

杏子「敵対してた相手だぞ。都合よく取り込まれただけだっていい加減気づけよ」


 金属音が鳴り響く。

 ――一瞬力が緩んだ隙に槍の柄が銃を弾き飛ばし、マミを地面に強く押さえつけた。


キリカ『――……マミだって、本心は寂しいから友達が傍に居て欲しかったってだけだろ?』

キリカ『だから先輩面して、優等生ぶって人当たりのいい嫌われないキャラ作ってたんだ』


マミ「それの何が悪いのよ!」

マミ「私に出来ることなら何でもやってきた。でもその結果がこれじゃない!」

マミ「誰も私の思いになんて答えてくれない! 私の事を受け入れてなんてくれなかった!」


 喉に手を触れてみる。べとりとした感触が喉元を濡らしているが、傷はもう塞がっていた。

 ――やっと答えてくれた。でも、やっぱり悲しかった。

 やっと返ってきた言葉がそんな言葉だなんて。


キリカ「勝手に被害者ぶらないでよ!」

キリカ「いつまで目を背けてるの。少なくとも今マミが殺そうとしてる人たちは、マミのこと受け入れようとしてるのに」

キリカ「本心隠して中二病みたいな言葉で飾り立てて、全部跳ね除けようとしてるのはそっちじゃないか!」

キリカ「一緒に居てって言ってくれれば、私たちは……」

さやか「マミさんが優等生でも先輩でもなくても、別にあたしたちは構わないんだよ?」

さやか「あたしは本当にマミさんの事尊敬してた……正義のために活動してることもそうだったけど、それ以外だって!」

さやか「でも、さすがに今のマミさんを尊敬なんてできない」

さやか「正義の魔法少女っていう言葉が縛ってるなら、そんなのもう捨ちゃっていいから、こっちに戻ってきてよ」

さやか「……私たちのマミさんに」


 ――……反撃はこなかった。マミは何を言おうとしただろう。

 しかし、マミが何かを言う前に、別の言葉と爆発音にかきけされた。


織莉子「これから雨が降る…………」

織莉子「明けることのない雨が」


キリカ「織莉子…………――!」


 爆炎の中から現れた姿を睨みつける。

 いつのまにか杏子に押さえられていたマミを掬い出し、横抱きにしている。


杏子「……ボスのお出ましか。中二病二号が来たぞ」

さやか「はは……言ってやるなよ」

マミ「美国さん……」


 マミは昨日も、さっきまでも一人で戦っていた。

 駆けつけてくれたことに喜びか安心感でも感じているのか。

 ――織莉子の手を跳ね除けることはなかった。


織莉子「ここでは目立ち過ぎる。場所を変えるわよ」

織莉子「元仲間のことが気になるのなら追って来なさい」

織莉子「――――良い機会です。決着をつけましょう?」

杏子「クソッ、待て!」


 そして、織莉子はマミを抱えたまま走り去っていった。


さやか「……あいつ、なんのつもりだ? わざわざあたしたちの前に出てきて決着をつけるなんて」

さやか「もう自分の目的も達成したんだからさっさとスタコラしたいんじゃないの?」

さやか「マミさんにそんだけ入れ込んでるってこと……?」

杏子「……普通に考えればわざわざあたしたちと戦うリスクなんて背負いたくないだろうしな」

杏子「罠……か?」


 ……そう考えると、素直にこのまま追って行っていいのかわからなくなった。

 でも、この機会を逃すわけにはいかない。マミだって、取り返すなら今しかない……!



1自由安価
2このまま追う

 下2レス


キリカ「目の前に居るんだよ!? 今追いかけないでどうするんだ!」

キリカ「罠でもなんでもいい! 今度こそこのまま見逃してたまるか――!」


 織莉子はつかず離れず見失わない程度の距離に居る。

 ……そこにソウルジェムから小刀を直接出して投げ込むが、上手く当たらなかった。

 動いてる的――それに、後ろに目でもあるようだ。


さやか「……それにしても、意外と騒ぎになってないみたいね」

杏子「あたしがちょっと“細工”してたからな」

キリカ「幻惑……魔力大丈夫なの?」

杏子「なんとか……ってところだな」


 ――さっき織莉子が言った通り、走っているうちにぽつりぽつりと雨粒が当たってくる。

 追っていった先は、どこかの工場の近くの倉庫のようだった。


 織莉子はその奥に行くと、こちらに向きなおってマミを床に下ろした。

 ――すかさず変身して一気に足を速めると、織莉子に目掛けて刃を振るう。


キリカ「――――!」

織莉子「マミから教わらなかったの?」

織莉子「予測できる攻撃はむしろ反撃のチャンスよ」


 周りに浮かんだ水晶から魔力の刃のようなものが飛び出してこちらに向けられる。

 それと同時に、鎖の音が響き、杏子の多節棍が水晶を弾いていく。


杏子「こっちは三人だけどな。予測できたって全部に反撃なんかしてられるのか?」

杏子「……それより、わざわざこんな場所に誘導するってことは、もう一人くらい仲間でも待ち伏せてんのかと思ったが」

さやか「あ……そういえばもう一人仲間が居たはずだ。そいつはどうした?」


織莉子「仲間?」


 織莉子はそう聞き返した後、『あぁ』と納得したような声を上げた。

 そして、すっと右手の人差し指を胸元の宝石へと持っていく。


織莉子「大分前に私の糧になったわ」

さやか「あんた……なんてこと! 自分の仲間にまで!」

織莉子「仲間じゃないわ。駒としても思い通りには動かず、真実も受け入れられなかっただけ」

織莉子「反面、貴女には感謝しているのよ」

織莉子「キリカ」

織莉子「私の思い通りに動いてくれてありがとう」

キリカ「……!」

織莉子「こうして話すのは本当に久しぶりね。 もう気づいているかしら?」

織莉子「歩道橋の時は喋らなかったけど、私はずっと前から貴女と話していたのよ」


 ――さすがにもう気づいていた。

 こいつの目的を知って、あれから音沙汰のなくなった“声”が何をさせたかったのか。


 …………不敵な、見透かしたような胡散臭い笑み。

 取り繕いもせず、自ら黒い部分を見せつけるかのような振舞い。

 どこか覚えのある感覚だった。本能から感じる不信感……嫌な感じ。


織莉子「……貴女は、私の言った通りに契約してくれた」


 きっと私を動揺させようとしてる。激昂させようとしてる。

 そんなことはわかっているのに、強く歯を噛み締めて、握る拳は震える。怒りは止まらなかった。

 何も考えずに暴走してしまいそうになる。――そんなとき、さやかが前に出た。


さやか「なんなんだよお前! さっきから澄ました顔で人の事を駒だのなんだの使い捨てることばっかり!」

さやか「性格悪すぎじゃない! あんたなんかがまどかを殺したんだ……!」

さやか「自分の事救世主なんかとか勘違いするなよ! この人殺し!」


 さやかが先に怒ってくれたおかげで少しだけ冷静になることが出来た。

 しっかりと魔力を集中させて、敵を見据える。


織莉子「それで、復讐のために私を倒すのかしら?」

キリカ「……そうだよ。私はお前を殺すために追って来た」



キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[16/100]
・砂[100/100]
・犬[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv3] [格闘Lv3] [射撃Lv2]


仲間:
杏子 状態:正常
さやか 状態:正常


敵:織莉子

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
4ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
5スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
8狂い裂きファング :痛覚遮断による人間を捨てた戦闘。装備は鉤爪固定・制御不能状態。
9魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
10封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率83。集中力が必要。
11武器換装 :剣を実体化させる。
12自由安価

 下2レス


 さやかが直線を描くように突撃し、杏子が多節棍の鎖を伸ばす。

 ――まず倉庫一帯に阻害魔力を流す。後は、魔力に隙を見つけられれば…………


キリカ「救世か……そういえばそんな大義があったんだっけ」

キリカ「お前みたいに人殺しをしておきながら世界を救うためとか口だけは回るみたいだね」

キリカ「さすがは政治家の娘といったところかな? あ、汚職政治家の娘だったね?」

キリカ「親が親なら子も子だ。大義のために平気で他人を利用して切り捨てる、それでいて自分は悦に浸ってるんだから……!」

織莉子「…………」


 ……織莉子は済ました表情のままだ。

 こいつ、揺るがない――――。

 魔力の扱いの技量はせいぜい私と同程度のはずなのに。

 魔力のコントロールが上手い……というより、感情のコントロールが上手い?


 私のほうがヒートアップしてしまう。

 悔しいと思いながら、やはり退くことは出来なかった。


キリカ「……大体、世界を救ってお前に何の意味があるんだよ!」

キリカ「世界が滅びず生きていく事はできても、世間的にお前はどこまでいっても『汚職政治家の娘・美国織莉子』にすぎない」

キリカ「何も変わらない。誰も味方なんていないまま生きていくんだ!」

キリカ「馬鹿なやつ……どうせ契約するなら『汚職政治家の娘』であることを無くす事を願えばよかったのに」

織莉子「みんなに戦わせたままお喋りしてていいの?」

織莉子「――発動までの時間稼ぎ。やはり予測できれば対処のしようはあるのよ?」

織莉子「その程度の事、私がどれだけ言われてると思ってる? 所詮全員、小さな世界しか視えていない」


マミ「――――無限の弾丸よ、私に道を拓いて」

キリカ「……!」


 ――――今まで俯いていたマミが、鉄砲を上空から大量に召喚していた。

 まるで弾丸の雨だ。


 杏子が咄嗟に多節棍で絡め取ろうとするが、この範囲じゃ全ては無理だ。

 注意が逸れる――さやかが破裂した水晶の爆風を受けて後退させられ、そこに更に水晶を撃ち込まれる。


さやか「くっ……ぐうっ!」

キリカ「さやか!」


杏子「マミ…………結局、そっちを選ぶのか?」

マミ「――……ごめんなさい」

マミ「わからないの」

マミ「どうしたらいいか、わからないのよ…………もう」


 マミが再び俯く。

 一体、何十丁の銃を撃ちこんだんだろう?

 こんなに広範囲に向けての攻撃…………このまま戦う気なら魔力が持たない。


 ……織莉子は、マミの攻撃を予測していたのか。

 だからあんなに息を合わせるように攻撃を仕掛けられた。


織莉子「――……やめておきなさい。貴女、向いてないわよ? そういうの」

織莉子「自分でも苦手だってわかっているでしょう? 話すのも、戦うのも……」

織莉子「人に思いを打ち明けることすら――だから見込んだ通り、ずっと一人で抱え込んでくれた」


 さやかが手で押さえている場所は、ソウルジェム――――?

 痛覚を消して傍に駆け寄っていく。


 さやかは…………さやかは、まどかがいなくなってもまだ居場所があって、

 こんな場所で復讐なんかのために死んじゃいけない人で――――

 仁美ちゃんとも仲直りして、上条君には振られたけどまだ変わらず仲良くしてて…………


キリカ「黙れッ! あんたの胡散臭い言葉なんて聞きたくない!」

織莉子「ええ、そうやって怒っていいわ」

織莉子「私はただ物語を観ている。どう転ぶか――――どう転んだとしても、私に与えられた役《使命》はもうこれしかないから」

キリカ「意味わかんない!」


 治癒のための魔力を込めると、さやかが呻いた。


キリカ「さやか、大丈夫……?」

さやか「ちょっと内臓潰れたかな……」

さやか「でもあたし、頑丈だから。治癒力だって誰より高いし……!」

キリカ「…………」

キリカ「――織莉子は私が倒す! 杏子はマミを見ておいて!」

マミ「……」

杏子「あ、ああ……!」

-----------------------------
ここまで
次回は31日(水)20時くらいからの予定です


 ……戦意を喪失したかのようだったマミを含めなければ、三対一。

 戦力差でいえばこちらのほうが圧倒的に有利だと思ってた。


 でも、楽に勝てそうではなかった。今そう思い直した。

 たった一撃狙い込まれただけでも、死ぬことだってあるんだ。



キリカ「そうだね……確かに私は口下手だよ」

キリカ「……いいよ、もう醜い言い合いなんかしてたってこっちの方が不快になるだけだ」

キリカ「会ったこともない父親のことなんて正直どうでもいいもん」

キリカ「これ以上言葉なんかいらない!」

キリカ「お前を――――切り刻めれば!」


 走っていくと、織莉子は周りに水晶が浮かばせる。

 水晶自体に大した威力はない。こっちには阻害だってある。


 ――怯まずに突き進もうとすると、それらが一斉に爆発した。


キリカ「!」


 痛みは感じない。身体に大した傷を刻むこともない。

 その目的は――――


キリカ(目くらましか……!)


 振り返る。横。後ろ。――また背後なんて取られたらたまらない。

 魔力の迫る方向を探るにも、爆発のせいで周囲に魔力が拡散されていて上手くいかない。


織莉子「要は戦い方よ」

キリカ「!!」

織莉子「分断さえ出来ればいくらでも戦いようはある」


キリカ(…………!)



キリカ 魔力[123/130] 状態:負傷(中)・制御不能 使用中魔法:【魔力阻害(魔力-7/1ターン)】
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[16/100]
・砂[100/100]
・犬[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv3] [格闘Lv3] [射撃Lv2]


仲間:
さやか 状態:負傷【行動不能】


敵:織莉子


 下1レスコンマ判定 戦況
0~(劣勢) < 99(優勢)

+一桁0クリティカル(劣勢時は相手、優勢時は自分)
+狂い裂きファング 負傷補正0化、劣勢時-3、優勢時+3


キリカ「ッ……!」


 なんとか横に抜けようとするが、そこを狙い込まれる。

 痛くもないのに身体が転がって視界が回る奇妙な感覚。

 痛みすら感じないまま死ぬ――――そんな最期は一番嫌だった。


織莉子「貴女はまだ立ち上がってくるんでしょう?」

織莉子「私を殺すというただ一つの目標のために、自分が死ぬとわかっていても」


 あと少し。 あと少し近づいてきていたら。

 私の魂全ての魔力と引き換えに殺すくらいはできるのに。


 こいつに魂を砕かれるくらいなら――――そう思ってから、さやかを一瞬見やった。

 この距離じゃさやかまで巻き込んでしまう。

 それでも織莉子を殺すことを優先するのか?


 ……しかし、織莉子がそこから近づいてくる様子はなかった。


織莉子「立ち上がってこないの?」


 ――――そこで気づいてしまった。

 こいつは、私にそう『させよう』としている。



 ――……戦場から少し外れたところで、二人は激化する戦いを見ていた。

 マミは床に手をついたまま、杏子はその隣に居た。

 杏子が見ていられずにその戦場に向かおうとすると、マミが呼び止めた。


マミ「……佐倉さん」

マミ「……美国さんは来てくれたじゃない」

杏子「んなこと今言ってる場合かよ!」

マミ「……そうだわ、このままじゃ美国さんは世間にも誰からも疎まれたまま一人になってしまう」

マミ「頼れる人がいなくなって、頼るなんて考えも捨てて一人で生きてく気持ちは私にもわかるの」

杏子「お優しいこった……だがそれじゃ、あいつらの気持ちはどうなるんだよ?」

杏子「織莉子に踏みにじられた奴の気持ちはどうでもいいってのか!?……アンタの元仲間が死ぬことになっても?」

マミ「それも嫌だからこんなところに座り込んでるんじゃない……!」

マミ「……でも、一度仲間なんてやってしまったんだもの。何事もなかったって、元通りただの敵だと簡単には思えなくなった、だけよ」


織莉子「マミ、さっきはありがとう。信じていたわ。貴女だけは私の味方だと」

織莉子「――それとも、私にも攻撃するつもりだった? いくら貴方でも、接近戦の最中じゃ狙いなんてつけられないんじゃなくて?」

マミ「……あなたなら、むしろ避けて利用するだろうって思ってたわ」

織莉子「そう。よくわかってるわね……」

織莉子「ありがとう――――本当に愚かね」

織莉子「私なんかに同情してるんじゃないわよ! 本気で貴女の事仲間だと思って友情ごっこしてたと思ってたの!?」

キリカ「……恨まれるのは慣れてる、で、同情されるほうが動揺するんだ」

キリカ「作戦でも私にはそんなことは出来そうにない、な……」


 ――――飛んできた水晶珠が身体に当たる。

 撃ちこまれていく水晶に、少しずつ意識が遠くなっていく。

 魂が割れるまでは死ぬことはない。

 けど、さやかも倒れ込んだままだ。


 痛みもなく死ぬのは嫌だ。

 だから、最後に痛覚を戻して、それでも力いっぱいに刃を振るった。


 …………届か、ない。

――――――
――――――




マミ「……勝ってしまったのね」

マミ「これからどうするの?」

織莉子「…………」


 織莉子の胸から血が噴き出す。

 ――――……銃から放たれた弾丸が、胸元の宝石を貫いていた。


マミ「あなたはこのまま消えようとしていたんでしょう?」

マミ「どうしようもない悪役のまま、『復讐劇』という茶番にして綺麗にまとめようとした」

マミ「予知で視えてたくせに……全てを諦めて、避けようともしなかったんだから」


 ぐらりと織莉子の身体が崩れ、冷たい倉庫の床に横たわった。

 ――そして、マミは髪飾りから金色の宝石を手に取った。



――――
========================================
‐BadEND No.1  全滅
 ※基本的に運要素でバッドエンドは嫌なので、
  敗北はコンティニュー無制限です※

コンティニュー箇所
>>726(織莉子を追う?)
>>731(戦闘開始)

 下2レス
========================================

--------------
やり直し >>731
--------------


織莉子「それで、復讐のために私を倒すのかしら?」

キリカ「……そうだよ。私はお前を殺すために追って来た」



キリカ 魔力[130/130] 状態:正常
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[16/100]
・砂[100/100]
・犬[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv3] [格闘Lv3] [射撃Lv2]


仲間:
杏子 状態:正常
さやか 状態:正常


敵:織莉子

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
4ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
5スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
8狂い裂きファング :痛覚遮断による人間を捨てた戦闘。装備は鉤爪固定・制御不能状態。
9魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
10封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率83。集中力が必要。
11武器換装 :剣を実体化させる。
12自由安価

 下2レス



 再び踏み込み、目の前の敵に向けて強く阻害の魔力を流し込む。

 ――……織莉子が周りに水晶が浮かばせた。


キリカ(そんな珠程度……)

キリカ(!)


 水晶自体に大した威力はない。

 これだけ重い阻害をかけていれば、避けようという発想もなくなっていた。

 ――それを見越していたかのように、織莉子は水晶を攻撃ではなく爆発で目をくらますために使った。


杏子「はっ、 目くらましなら……」

杏子「こっちのほうが専門なんでね」


 それと同時に、何人もの分身が作られては爆炎を抜けて織莉子に一斉にかかった。

 ……この魔力は知っている。

 前よりも、少しだけ不安定さが消えていた。



 下1レスコンマ判定 戦況
0~(劣勢) < 99(優勢)

+一桁0クリティカル(劣勢時は相手、優勢時は自分)
+ロッソファンタズマ +20
+阻害重 +10


 この状況じゃ頼みの予知も発動させられないだろう。

 小手先の工夫程度じゃこの戦力差を覆すことは出来ない。


 ……ただ、分身もそう長いことは使い続けられない。

 織莉子もそれをわかっているようで、その途切れ目を待つかのように守りに徹し始めたようだった。



キリカ 魔力[120/130] 状態:正常 使用中魔法:【魔力阻害・重(魔力-10/1ターン)】
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[16/100]
・砂[100/100]
・犬[100/100]


◆ステータス

[魔力コントロールLv3] [格闘Lv3] [射撃Lv2]


仲間:
さやか 状態:正常
杏子 状態:正常 使用中魔法:【ロッソファンタズマ】


1速攻で畳み掛ける!
 ・【連携必殺技】ダブルスパーク(必殺-45):さやかと同時に放つ二連のスパークエッジ。不発・キャンセル時は消費0。
2このまま押し切る(近接格闘判定)
 ・刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 ・エッジ :【剣術Lv3『剣士』】一刀流。近接武器戦闘(魔力-0)
 ・突く:近接武器戦闘(魔力-0)
3一旦退く

 下2レス



 ――テレパシーでさやかに呼びかける。

 それならその切れ目が来る前に、二人で速攻で畳み掛ける!



 手元の魔力の爪に更に魔力を込めると、刃は一回り大きく鋭くなり、深い青紫色から漆黒に輝いた。

 一度少し身を引いてから大きい攻撃の構えに入る。




 下1レスコンマ判定
有効度0~99
+一桁0クリティカル
31以上撃破


 ――――その隙が命取りだったのか。

 予知も使えないはずなのに、織莉子は、攻撃に転じるタイミングをただひたすら冷静に見極めていた。


さやか「あっ…………!」


 バッと振り返る。

 私とさやかの間を抜けて、距離を取るように後ろに…………


 ――――阻害の範囲から外れた。

 それでもまだ避けられず、避けようとも思わなかった水晶がわき腹に食い込んだ。


キリカ(ま、ずい……!)


 身体を真っ二つにするほどの威力はない。しかし、着実に骨を砕き、内臓を抉りダメージを与えていた。

 さきほどまでと比べて一気に威力が跳ね上がったようで、不意を突かれた。

 水晶珠が爆発すると、背中からわき腹まで灼けるような痛みが走った。


 織莉子は再び水晶を使って距離を取っていく。

 …………仕切り直しというには、こちらが不利になりすぎている。


キリカ(また背後……気をつけなきゃいけないな……)


 今すぐ立ち上がらなくちゃいけないのに、ふらついた。

 うまく足に力が入らなかった。


さやか「キリカさんっ!」


 弱点を的確に狙ってきている。マミとは違うけど、あいつはあいつでやっぱ優等生だ。

 戦力差も圧倒的な状況も、一瞬の油断と隙が覆す。それで死ぬことだってあるんだ。

 どこかで負けることはないと思っていた、その認識が違ったんだとやっと思い直した。


キリカ「……さやか、大丈夫?」

さやか「あたしは頑丈だから!」

杏子「このままそっちのペースにされてたまるかよ!」


 私たちを置いて佐倉さんが追って行った。

 槍を多節棍に変えて水晶を叩き割り、織莉子に鎖を伸ばす。


 ……分身も連続じゃ使えない。

 杏子は織莉子よりずっとベテランで強い。けど、さっきまでので大分消耗してるはずだ。



マミ「――――無限の魔弾よ、私に道を拓いて」

---------------------
ここまで
ところで、>>735の『無限の弾丸』は誤字です。
杏子編とか挟んでたから忘れかかってた…… 色々あってマミさんのアイデンティティが崩壊したということで

次回は2日(金)20時くらいからの予定です

乙です
>>756の安価でマミを無力化しようとしないのはなんでですか?

------------------------------------
>>772 badの時と同じ目くらましですが、『分断されていれば戦いようはある』というのがヒントになります。

杏子が対処しやすい魔法を持っているので自動で対処に当たり、
あの時点では二人に抜けられると戦闘が困難化しそうだったのでまずは目の前の戦闘を優先しました。

その後『一旦退く』で仕切り直し、全員離れて別の行動に移ることも可能でした。


 距離を取ろうと織莉子が走った先……――織莉子の背後からは何十丁の銃が向いていた。

 鎖から逃れようとすれば弾丸の雨に撃たれ、弾丸を避ければ鎖が絡む。


 一足先にそれを予知で視て、織莉子がその場で動きを止める。

 攻撃も出さない。足掻かず、避けようともせず、どちらの攻撃も受けることを受け入れた。


 純白のドレスのような衣装を鎖がきつく縛り上げ、銃弾の雨に貫かれて赤く血が滲む。

 蝶々のようにひらひらとした気品ある衣装がボロボロに破れ、余計に哀れだ。



 直接振るう動作の必要ない水晶は、手足を縛ろうと関係がない。

 罠や攻撃を警戒して、杏子が槍を構えて自分の間合いにまで詰める。



マミ「……まだ立ち上がれるでしょう。戦いなさいよ。美国さんは来てくれたんじゃない」

織莉子「これだけ派手に攻撃しておいてよく言うわね……ジョークかしら」

織莉子「……決着はついたわ。これも運命でしょう」

マミ「あなたはこのまま消えようとしていたんでしょう?」

マミ「どうしようもない悪役のまま、『復讐劇』という茶番にして綺麗にまとめようとした」

織莉子「何よそれ……まさか私に同情してるの?」

マミ「……ええ。一度仲間なんてやってしまったんだもの」

織莉子「……でもね。 私を斃したところで、“まだ雨は止まない”」

織莉子「――――……貴女達は、どうやって明日を越える?」


杏子「……雨だと? さっきから意味わかんねえよ!」

織莉子「わからないなら…… “あの子”に聞いてみればいいわ」

織莉子「結局、私は何も為せなかった。覚悟が足りなかったから、救世主にもなれなかった」

織莉子「私も人のことを言えたものじゃなかったわね」

キリカ「……何の話? あの子って誰」


 ……戦いの喧騒がなくなると、雨粒が空から落ちて当たり、水の滴る音が聞こえる。

 静かに倉庫の中に反響していた。

 ――――織莉子の次の言葉に、私は目を見開いた。


織莉子「鹿目まどかならまだ生きている」

キリカ「う、嘘……だ!」

キリカ「だって、生かしておく理由がない!」

さやか「あんだけ執拗に狙っておいて、直前になってためらったっていうのか……? あんたみたいな人が」

織莉子「理由ならあったのよ。忌々しいことにね」


織莉子「私はこの力を持っていながら、本当の意味で運命を変えようとなんてしてなかった」

織莉子「みんなも自分自身も幸せになれる未来を作ることだって出来たかもしれないのに、そのための努力をしなかった」

織莉子「私は最初から諦めていたの……私たち自身の過去を知って、それに気づいた」

キリカ「過去………… だって?」

織莉子「私は未来は視えても過去を視ることはできない」

織莉子「暁美ほむら――昔この街に居たイレギュラーって、知っているでしょう?」

織莉子「私たちみんな、友達だったのよ?」

織莉子「……今となっては、想像のつかない話ね」


 ――織莉子の言葉は意味が分からなかった。

 過去というのがいつのことを言っているのかもわからない。


キリカ(私の過去なんて……)


 魔法少女のことも知らず、一人で過ごしてきた中学時代。

 特に記憶が欠落しているようなこともない。

 しかし、どこかその言葉に意識の片隅で引っ掛かっている部分があった。


 ……ノイズのように、悪夢の切れ端が頭を過ぎった。


 『×××』
 『 織莉子 』


キリカ(……違う)

キリカ(そんなことは無かった)

キリカ(それじゃなくて……もっと…………――)


織莉子「それより、あの小賢しいインキュベーターもこれを見ているなら、急いだ方がいいわよ?」

織莉子「どうか私にこれ以上の後悔をさせないで」

キリカ「……!」

織莉子「……私たちもまどかほどじゃないけど高い素質を備えてるわ。死んでいった人たちが遺してくれたもの【因果】が」

織莉子「私たちならワルプルギスの夜も越えられたかもしれない」

織莉子「まどかも魔女にならずに済む未来だって……」


キリカ「…………今更」


 震える手を握る。単純に怒っていた。

 まどかが生きてるかもしれない。

 でも、それだけで無罪というには、目的のためにこれまであまりに手段を選ばなさすぎていた。


キリカ「……そうだね。最初から全部諦めなければ、こんなことにはならなかったかもしれないんだ」

キリカ「――――……けど、もう遅いよ」

キリカ「……自業自得だ。 これがお前の選んだ道だ」


 冷たい倉庫の床から身体を起こして、織莉子に近づいていく。

 ――――そして、刃を振るった。



 …………空は重そうな灰色をしていた。

 外を見てみれば、未だにザアザアと雨が降っている。


 やっと、決着がついた。


 水晶と爆発に撃たれた腰が痛い。

 腰に手をやる。手袋も衣装の前も後ろも、血液が染みて重くなった感触がしていた。

 急ぎとはいえ、傷はさやかが粗方治してくれたはずなんだけど。


 ……変身を解いても、制服も、白い手も、赤く染まっていた。

 それをぼうっと見つめている。



杏子「……とりあえずその格好のままはヤバいな。これ着とけよ」


 変身を解いて、バーカーを脱いで渡してくれた。


キリカ「いいの? 汚れたらなかなか落ちないよ」

杏子「どうせボロだ。買い替える」

キリカ「ありがと……それにしてもこれどうしよ、一応学校からの借り物なんだけどなあ」




1とにかくまどかに会わなくちゃ
2明けることのない雨とはなんなのか?
3自由安価

 下2レス



 ……制服の上にパーカーを羽織る。

 少し変な感じがするけど、落ち着いた気がした。


 ……マミに撃たれた時の血。 マミは、また倉庫の中で俯いていた。


 さっき言ってた内容が、まだ実感なく頭の中を回っていた。

 あの時からずっと許せなくて、自棄になって、怒って、恨んで、まどかのために仇を討つことだけを目的にしてきた。


キリカ「……ねえ。まどかって、生きてるの?」

キリカ「生きてるとしたら、どこにいるの?」

杏子「特に場所は言ってなかったってことは、あたしらの見つけられない場所じゃないだろうな」

さやか「考えられるとしたら、あいつの家……か?」

マミ「私が行った時にはそんな形跡…………」


 マミがぽつりとつぶやいて、

 それから何かを思い出したようにハッとする。


マミ「……あの家には大きな庭があったはずだわ。その隅には倉庫もあった」

キリカ「とりあえずそこに行ってみよう」

キリカ「まどかに会わなくちゃ……!」


 ひとまずみんなで倉庫を出ることにする。

 しかし、マミはまだ立ち上がることなく俯いていた。


杏子「……おい。そんなとこにいたら状況証拠的にサツにパクられて年少行きだぞ」

杏子「アンタは結局どうするんだよ」

マミ「…………いいの? 私が一緒に行っても」


 ……マミに近づいて行く。

 あの時できなかったもう一発分、その頬を叩いた。


マミ「…………」

キリカ「……私は本当にこの先もずっと友達で居たいって思ってたよ」

キリカ「マミがなんと思おうとね」


 もう一発手を振り上げる。魔力も、刃も、なんにもない平手を。


キリカ「みんなが離れてくとか! 何被害者ぶってんだよ!」

キリカ「裏切られたのはこっちだから!」

キリカ「どうせ友達が居ない根暗だから、哀れんで自分が友達になってあげないととか思ってたんだろ!」


 ……いつのまにかマミの頬は真っ赤になっていた。

 でも、そこについた血はマミのものではない。


マミ「お、思ってない!」

マミ「私だって本当は似たようなものよ。あの時は鹿目さんが居たけど、同級生じゃ打ち解けられる人なんて居なかったし」

マミ「佐倉さんと別れてから、『一人でも自分の正義を貫ければいい』って、仲間を作ることも諦めてた」

マミ「強くなんかないのに完璧なふりして」

マミ「嘘ばっかりだったから、大切なものすら自分で壊そうとして苦しむことになるのよ……」


 ……再び振り返り、前を向く。

 涙で濡れた顔は見せなくなかった。


キリカ「……ついてくるならついてきてよ」

キリカ「こんなところで言い合ってる暇なんてないんだから」



 そこにまどかが居ることを信じて、まずは織莉子の家に向けて歩き出す。

 希望に縋ろうとしながら、期待して裏切られるのは嫌だという思いもあった。



キリカ(まどか………… 本当にそこに居るの?)

キリカ(織莉子の言ってたことはなんなの?)


 …………前に聞いた住所は、襲撃の時に備えてすでに暗記していた。

 何も見なくてもどのあたりかというのはすぐにわかった。


 私たち一般人がそうそう足を運ぶこともなさそうな高級そうな住宅街の一角。

 その中から避けられているかのような雰囲気を発している汚い家がそれだった。


マミ「……ここよ」

さやか「大分荒れてるみたいだね」

杏子「じゃあちょっくら、漁りにいくとするか」

さやか「ちょっと、空き巣しに行くんじゃないんだからね」

キリカ「庭ってこっち?」


 テラスのようにもなっている、ブルジョアらしい見事な薔薇園。

 織莉子の趣味なんだろうか。

 ここも手入れする人が居なくなれば無残に枯れて、余計に暗い雰囲気を放つだけだ。


 ……その隅に、部屋一つ分くらいはありそうな大きさの倉庫が確かにあった。


 鍵を壊してその扉を開く。

 ごちゃごちゃとした園芸用品やら使わなくなった椅子やらを抜けて、中に乗り込んでいく――――


 すると、その途中で、奥の方から物音が聞こえた気がした。


「…………美国さん?」


 聞き覚えのある声。

 倉庫の奥へと駆けていく。


キリカ「まどかっ! 本当に……本当に無事だったんだ」

まどか「えっ……キリカさん!? みんなも……ってことは」

さやか「生きてたんだ……よかった、また会えるなんて」


 あの場には血があった。織莉子はまどかを一度は殺す気でいたんだ。

 それとも、それも私たちやキュゥべえに死を偽装するための作戦?

 ……どういう経緯があってわざわざ治療までして、こんな場所に監禁されることになったのかはわからない。

 ――けど。


まどか「……美国さんのことは、どうなったの?」

マミ「死んだわ。私たちが殺した」


 ――なんでまどかは、自分をずっと狙っていた人の死を知って、

 悲しげな表情をするんだろう。


キリカ「そんなこともう気にしなくていいんだよ?」

キリカ「……それとも、あの人から何を聞いたの」


 ……まどかは一度、こくりと頷いてから話し始める。


まどか「……なんでわたしを殺そうとしてたのか、聞いて…………」

まどか「なんでわたしを殺せなかったも聞いちゃったから」

まどか「仕方ないけど、少しだけ悲しいなって思っちゃって」

キリカ「織莉子は“明けない雨が降る”って言ってた。……それについても、なにか知ってるの?」

まどか「明けない雨……?」

マミ「……美国さんはあの時、“ワルプルギスの夜”のことを話に出していたわね」

マミ「まさか…………それと関係あるの?」


 マミがそう言うと、まどかが反応する。


キリカ「なに、それ? マミは知ってるの?」

杏子「……結界を持たない超弩級魔女って奴だ。あたしらも噂程度しか聞いたことはないが」

杏子「どっかで語り継がれてるらしい。長い事魔法少女やってるとたまに名前くらいは聞くことがある」

まどか「…………はい。それなら知ってます」

まどか「“ワルプルギスの夜”が全部のきっかけだったって、言ってました」


 ――――――――

 ―――― 一部屋分の大きさはある倉庫の中で、静かにみんなでまどかの話を聞いていた。


 誰も知らない“過去”……暁美ほむらの願い。

 みんなが友達だった世界のことも、まどかが規格外の素質を手にした理由も。


 ……それを過去と言っていいのかはわからなかった。


 相変わらず実感はわかない。時系列の混ざった交わることのない平行世界。

 でも、私たちにも全く無関係なことじゃないんだろう。

 『暁美ほむら』の存在がなければ、今の私たちはここには居ない。


キリカ「……でも、織莉子は前に、暁美は私のことを殺すかもしれないって言ってたよ」

キリカ「あれはなんだったの?」

まどか「暁美さんは本当は魔女になる予定だったって言ってました」

まどか「だから、そのことを言ってるのかも……」

キリカ「……そっか、もう限界だったんだ。それも危険なことには変わりはない……か」


 本当は会いにいくべきだったんだろうか。

 …………そうしたら、また違う運命になった?

 でもそんなの、何も知らない私たちに何ができるはずもなかった。

---------------------
ここまで
次回は3日(土)18時くらいからの予定です


 …………外は相変わらず雨が降っている。


 明日“ワルプルギスの夜”が来るというのなら、どうすればいいんだろう。

 今までずっと、マミや織莉子と戦うことを考えていたので精一杯だったのに。



1自由安価
2…明日のこと、どうするの?

 下2レス


キリカ「…………明日のこと、どうするの?」


 ぽつりと口に出してみると、この場が静まった。

 結界を持たない超弩級の大型魔女。暁美ほむらの知る私たちの前に、何度も立ちはだかった敵。

 万全な状態で挑めたならまた違ったかもしれない。

 けど、そんなのをいきなり私たちだけで倒せなんて言われてもその見込みも希望もわかなかった。


 ――みんなは、戦う気でいるの?


杏子「今から作戦会議ってのは、間に合わねえよなあ……」

さやか「明日の朝から……なんだよね」

マミ「私たちが戦って勝たなければ、この街は壊滅するのでしょうね」


杏子「……別にあたしは、ワルプルギスの夜なんてのに因縁はない」

杏子「自然災害みたいなものなら、そもそもどうしようもないだろ」

マミ「佐倉さん……」

杏子「あんたは違うってのか? まだ馬鹿みたいに正義の魔法少女続けるのかよ」

杏子「それで死んだら終いじゃねえか」

マミ「私だって、もう仲間を失うのは嫌よ。自分が死ぬのだって」

マミ「別に無理強いする気もないわ」

マミ「気を張ってたのも完璧気取ってたのも全部崩れちゃって」

マミ「……私にも、みんなに戦おうなんて言える覚悟もうないんだもの」


 ……私はみんなの様子を窺いながら、

 どうか倒すなんて言わないでほしいと臆病な願いをしていた。


 見慣れた小柄な姿がどこも変わってないことを確認して安堵する。

 やっと決着がついて、まどかがここに居て……

 これ以上考えられる余裕なんて、私にはなかった。命を懸けて戦うことも。


まどか「…………」

 ……まどかは静かに、見守るように私たちを見ていた。

 戦いに参加することのない自分が口を出せることじゃない。

 そう考えていたのだろうか。


杏子「それにさ……もうみんな余裕ないだろ」

杏子「もうあたしもグリーフシードないんだ。戦おうったって、無理なのさ」

マミ「……ごめんなさい。私のでよければ渡すわ」

杏子「ああ。じゃあ一個はもらっとくよ」


 もうまどかを失いたくない。

 まどかだけじゃなくて、みんなも。


キリカ「…………まどか。今日はもう帰ろう」

キリカ「家の人がずっと帰りを待ってるよ。それに、エイミーも寂しがってる」

まどか「……はい」


 あまり長いことここに居るわけにもいかない。

 織莉子の庭の倉庫から出て、雨の降る中に足を踏み出す。

 またみんなが変わらずに傍に居るなら、私もそこで一緒に…………


キリカ「っ……」


 ――――足を止めた。

 今前に踏み出したら地面に崩れてしまいそうな気がした。

 みんなが振り返る。


まどか「……キリカさん?」

キリカ「大丈夫、今行くから」

さやか「あっ、もしかしてあの時の傷がまだ残ってるんじゃ」

キリカ「大したことないよ」


 …………そうして、今日はもう帰ることにした。

 明日どうするかなんてわからない。

 みんなで逃げることになったって、何かを失ってしまうよりはずっといい。


キリカ「ふう……」


 ――――家に帰って、湯船の中でため息をついた。

 チャプ、と音を立てて湯を手で掬う。

 自分の血も他人の血も湯と石鹸で洗い流されて、今はそこには何もついていない。


 忙しい一日だった。ここ数日、ずっと落着けなかった。


 ぼんやりとまどかから聞いた突拍子のない話を思い出してみる。

 突拍子もないけど、それが本当だと思えば納得できる事実も多かったのがまた不思議だった。


 織莉子の葛藤もなんとなく察しはしたけど…………それでも今は許せない気持ちのほうが大きかった。

 最終的には、非情になり切ることも出来ず、目的も達せないまま悪役として死んだ。

 自分の知らなかった未来を知ったせいで揺らいだ。


 ――もし私も『敵』以外の織莉子を知っていれば、違ったのだろうか。

 今となっては想像がつかない。 どうすることもできない世界の話。



 …………湯船から上がり、姿見で後ろを見てみる。

 背中の痛みはもうほとんどなくなっていた。

 湯に沁みそうな残っていた細かい傷ももう治した。


キリカ(痛い……)


 ――なのに、まだ残る痛みがあった。

 痛いのは多分、背中じゃない。


 シャワールームから出て、入浴前に外したソウルジェムを手に取る。


キリカ「え…………?」


 ――――リングの中心、宝石の部分に罅が入っていた。

 あの時受けた攻撃を思い返してみる。弱点狙いの攻撃。


 この痛みは思い込みなんてもので消せるものじゃない。

 風呂上りの火照った身体に、ひやりと冷たい汗が滴った。


キリカ(……なにこれ)

キリカ(嘘でしょ)


 なんとか耐えたと思ってた。でも、自分の事だからなんとなく悟ってしまった。

 ……こうなったら、もう長くは居られない。


キリカ(いやだ……)

キリカ(死にたく…………ない)



――16日終了――



キリカ 魔力[100/130] 状態:SG負傷
GS:3個
・薔薇園[0/100]
・影[0/100]
・掃除[16/100]
・砂[100/100]
・犬[100/100]

―翌日 17日


 『本日午前7時 突発的異常気象に伴う避難指示が発令されました。
  付近にお住まいの皆様は速やかに最寄の避難場所への移動をお願いします。
  こちらは見滝原市役所広報車です。本日午前7時……』


 …………朝起きたら、テレビで見滝原が中継されていた。

 平日の朝やっているようなニュースとも違う、深刻そうな雰囲気の臨時ニュース。

 外からは避難指示の音声が聞こえてくる。


 ――ああ、本当に、来てしまったんだ。


キリカ「……これだけでいいかな?」


 私はただ、何も知らないふりをしながら荷物をまとめて、家を出る準備をしている。

 テレビを消して、風の吹き荒れる外へと歩き出す。

 避難所に行っても、助かるかどうかはわからない。

 そうなったら、せめて家族や知り合いだけでも別の場所に逃げたい……な。

―避難所


 避難所に着くと、一人じゃ心細くて知り合いの姿を探して歩き回っていた。

 しかし、広いホールの中を歩いているうちにも、昨日からの痛みは増していた。


 ……途中で人混みを外れて、廊下のほうに出て座り込む。

 人混みの喧騒が遠ざかると、ゴウゴウと吹き荒れる風の音がよく聞こえてきた。

 背の高い木に囲まれ、外の様子は見えない。


 ……足音が近づいてくる。


まどか「キリカさん」


 声をかけられて顔を上げると、まどかは私の隣に座りこんだ。


まどか「探してたんですよ。一応メールもしてたんですけど」

キリカ「あ……ごめん、見てなかった」

キリカ「他の人は?」

まどか「杏子ちゃんはわからないけど、他のみんなは避難所にいます」

キリカ「……そっか」



1自由安価
2まどかはワルプルギスの夜のことどう思ってる?
3ひとまずここに集まろうか

 下2レス


キリカ「昨日は帰宅したら大変だったでしょ?」

まどか「前のこともあるから、ごまかすのも大変で」

まどか「警察の人とあんなに話したの、人生で二度目です……」


 ……家出した時のことを思い出した。

 まどかはあの時の私よりも更に大変そうだ。


キリカ「家族もエイミーも喜んでた?」

まどか「はい。少し大げさな気がして照れくさかったですけど……」

まどか「それに、エイミーはいつもどおりだったけど、会えなかったときは寂しそうにしてたって」

キリカ「うん……私もすごく嬉しいよ。まどかとこうしてまた話すことができて」


 あ、泣き、そう。

 まどかが少し慌てた様子になる。

 ただの感動の涙じゃない。まどかは生きているのに、私は――。


キリカ「……みんながどこに居るかって知ってたら、ちょっと呼んできてくれないかな」

キリカ「折角だから集まろう。逃げるにしても、これからどうするか考えなきゃだし……」

まどか「……はい。じゃあちょっと行ってきますね」


キリカ「…………」


 ……まどかが離れていくと、泣きそう、から更に悪化してきた。

 涙がボロボロ零れてくる。

 壁のほうを向いて座りなおす。みんなが来るまでにはなんとかしないと。


QB「戦わないのかい?」


 後ろから……いや、頭の中から、声が聞こえた。


キリカ「……キュゥべえ」

QB「この魔力には気づいてるはずだろう?」

QB「僕としてはあまり勝ち目のない戦いはしてほしくはないけど、もしまどかが再契約すれば……」

キリカ「昨日の話、聞いてたの」

QB「……暁美ほむらのことだろう? 興味深い話ではあったね」

QB「いままでの謎が、一気に歯車がかみ合ったよ」

キリカ「じゃあ私のことは知ってる?」


 キュゥべえに罅の入ったソウルジェムを見せる。

 指輪状態でも、卵型に具現してみても、入った罅は変わらなかった。多分変身しても変わらない。

 そこから魔力が漏れ出ているようだ。

 ――――このままじゃいつかは身体どころか魂まで空っぽになってしまう。


キリカ「……これで戦わせる気?」


QB「……戦闘はおすすめしないね」

QB「この状況では難しいかもしれないけど、出来るだけ安静にしておいた方がいい。歩くのも辛いはずだろう?」

QB「身体についた傷だったら治せたんだけどね」

キリカ「たかだかこんな石ころが傷ついたくらいで!」

キリカ「私たちの身体が……空っぽだから」

QB「捉え方は人それぞれだよ。でも今回は裏目に出てしまったね」

キリカ「…………あとどのくらい持つ?」

QB「使えるグリーフシードの量にもよるね。けど、余裕はないんだろう?」

QB「安静にしていて五日くらいかな」

キリカ「五日……」


 ……やっぱり、涙は止まらなかった。

 もう一度壁に背を向けて、深くもたれかかっていく。


 多分、今人でごった返すホールの中に居る人も、ここに来ていない人も、五日と持たずに大勢の命が数時間後には消える。

 その人たちを見捨てようとした罰……なのかな。


キリカ(でも、やっぱ嫌だよ…………)


まどか「――――キリカさん」


 廊下の外のほうから聞こえた声に、振り向かないまま答える。


キリカ「……みんな来た?」

まどか「いえ、まだ……」

キリカ「みんなのところ行ったんじゃなかったの?」

キリカ「……さっきの、聞いてた?」

まどか「……はい。泣き声が聞こえて、少し気になって」

キリカ「…………」


 やめて。

 別に助けてほしいわけじゃない。

 ……何も言えずにいると、まどかがぽつりと話し始めた。


まどか「……美国さんは、なんでわたしを殺さなかったと思います?」

キリカ「私たちと仲間だった未来があったって聞いたから……?」

まどか「……そうですね」

まどか「殺し合いも騙し合いもしないで、仲間と幸せに過ごすことが出来る未来があったことを知ったから」

まどか「今の自分のあり方とか、やろうとしてることにも疑問を抱いたんだと思います」

キリカ「……それがどうしたの?」


まどか「最初はずっと、暁美さんだけが一人で抱えて苦しんでた」

まどか「……それから、暁美さんは美国さんに打ち明けて死んだ」

まどか「美国さんがわたしへと打ち明けた時も、もう後戻りもできなくなってからだった」

まどか「みんな限界になるまで一人で抱えこんでたの」

まどか「だから苦しくて、うまくいかなかったんだよ」

まどか「本当はみんなの問題で、忘れちゃいけないことだったのに」

キリカ「…………何を考えてるの?」


 まどかはどこか覚悟を決めたような表情をしていた。

 ……なにかをしようとしている。

 このまままどかが遠くに行ってしまうんじゃないかと思った。


まどか「実はわたし、契約しようと思ってました」

まどか「もう一度、暁美さんがいなくなってしまう前に戻れたら……」


まどか「まだ何も始まる前に戻せるなら、キリカさんのことだって」

キリカ「何考えてるんだよ。それじゃ、暁美ほむらと同じ……」

キリカ「またなかったことになっちゃうんだよ? 私たちのやってきたことも、この世界も……!」

まどか「……今度こそなかったことにはさせないから」

まどか「今までのことも、暁美さんがやってきたことも……」

まどか「暁美さんやみんなが希望を願った結果なのに、暁美さんが居ないのはダメな気がして」

キリカ「どうしてそこまで…… 昔のことはわからないけど、私たちからすればほとんど話したこともない人でしょ」

まどか「…………繰り返してきた世界があるから、なのかな」

まどか「暁美さんは最初、わたしを助けようとしてくれてた」

まどか「だから……やっぱりわたし、このまま絶望で終わらせたくなくて」


 ……キュゥべえは冷静な目でこちらを見ている。


1自由安価
2なかったことにはさせないって、どうするつもりなの

 下2レス

----------------------
ここまで
次回は7日(水)20時くらいからの予定です


キリカ「なかったことにはさせないっていっても、どうするつもりなの」

まどか「繰り返すことで分岐した平行世界を……全部の記憶を“つなげる”」

まどか「――つなげて、分岐する前に戻す」

まどか「今のわたしの知らない楽しかった思い出もあるだろうし、何もかも嫌になっちゃうくらい苦しんだ思い出もあるかもしれないけど……」

まどか「こうして乗り越えた記憶もなくならなければ大丈夫だと思う」

まどか「やっぱり、それしかみんなが本当に納得できる方法ってないと思うから」

キリカ「…………」


 昔とか平行世界とか言われたって、私にとっては今の世界が全てだった。

 今までのこと全部思い出したら、その考えも変わるのかな。

 きっと私の知らない私の思い出も、忘れたくないと思っていたものがたくさんあったんだろう。


まどか「……美国さんはこの世界に希望なんてないって言ってたけど、それはきっと違う」

まどか「今さやかちゃんもマミさんもちゃんと生きてるってことは、そう思っていいんですよね?」

キリカ「でも、契約したら…………簡単には魔力を回復できないのは同じなんだよ」

キリカ「どれだけ頑張ったっていつかは尽きてしまう」

まどか「それ、は…………」


 ……まどかは言葉を詰まらせた。

 顔を上げて、立ち上がってまどかの傍に歩いていく。

 自分よりも低い位置にある、困り顔をしたまどかの顔をまっすぐ見る。

 ……ゆっくりと拳を近づけ、そっと優しくおでこに当てた。


キリカ「誰かのためってなると、何も考えないまま行動しようとするのは悪い癖だよ」

まどか「……そうですね、すいません。でも……」

キリカ「――そうなる前に、私が契約してまどかを人間に戻す」

キリカ「今度こそ誰の指示でもなく……私自身の考えで」


キリカ「それとも、何回でも契約できるなら、案外交代で魔法少女やるのも楽しいかもよ?」

まどか「アリなんですかそれ!?」

QB「…………」


 ……聞いてるくせに、キュゥべえは答えなかった。

 そんなとんでもないこと考える魔法少女、あんまりいなかったのかもしれない。


キリカ「すでに突拍子のないことが起きてるんだ」

キリカ「前例や常識なんて、いくらでも自分たちでぶち壊せばいい」

キリカ「自分可愛さに市民を見捨てる罪だ罰だと怯えながら死を待つよりは、そうやって未来を見てるほうがずっといいよ」

まどか「……はい」


 まどかが笑った。

 それにつられて私も笑う。涙がやっと止まった。


1自由安価
2今度こそみんなを呼んで来ようか

 下2レス


キリカ「……さっきも言ったけど、まどかは『誰かのために』ってことになると自己犠牲的になるね」

キリカ「まどかがそう思ってなくても、周りの人からはそう見えてしまう……それは周りの人間にはとても悲しくてつらい事なんだ」

キリカ「誰かを思いやるとても優しい事だけど、誰かの幸せを守りたいと思うなら自分もその中に含まなくちゃいけないんだよ?」

キリカ「私もそこを考えずに契約したから、危うく大切なものを失いかけたからよくわかるんだ」

キリカ「だから……まどかも自分の幸せを考えなくちゃいけないよ?」

まどか「……キリカさんはわたしのために契約して、後悔してませんか?」

キリカ「うん! まどかが無事でいてくれたから」

キリカ「幸せになってくれれば、後悔しないよ」


 後悔しかけた願い。まどかを失うのも、自分だけが死ぬのもやっぱり嫌だ。

 次に目を覚ましたら、今度こそみんなで幸せになろう。

 ……ぐすりと鼻をすすって、心に決めた。


キリカ「それじゃ、今度こそみんなを呼んで来ようか」

キリカ「私はちょっと、まだ座って休んでるけど…… 行ってきてもらっていい?」

まどか「はい。呼んできますね」


 ……まどかが廊下を離れてホールのほうに歩いて行く。

 再び、深く壁に体重を預けるように廊下に座り込む。


 ぼんやりと窓の外の暴風に揺さぶられる木々を眺める。

 これを聞いたら、みんなは何て言うだろう。

 杏子はまた風見野のほうにいるんだろうか。それとも、また近くに来てくれてるのかな。


キリカ(…………)


 さっきまでに比べれば大分気分は良かった。

 なのに、なんだろう。この不安感は。


キリカ(……怖い?)

キリカ(多分この一か月だけでいえば、今の私の記憶よりも知らない記憶のほうがずっと多い)

キリカ(…………でも、全部私の記憶なんだから)



1自由安価
2キュゥべえと会話(安価内容)
3…みんなを待とう

 下2レス


 ……さやかは私が駆けつけた時、何かのデジャブを感じていたようだった。

 あの時はわからなかったけど、今は私も同じように何か感じるものがあった。


キリカ(だとしたら、あの悪夢も…… あの光景も)


 私の知らない過去に何かあった?

 ――考え込むように、視線を床に落とした。


 結局私の手は、血に汚れた。

 ……見えた通り。

 当然そのことに後悔はない。けど、どう正当化したって汚れたのは事実だ。


キリカ(……けど、多分それとも違う)

キリカ(全部の真実を知って、大切なものを失いそうになって、恨みだけを拠り所に復讐を目指して)

キリカ(たとえどんなに世界が分かれてても、正直これ以上なんてないくらい辛い思いはしたとは……思う)


 人の行動なんてそうそう変わらない。時系列が同じで似たり寄ったりな状況を過ごしてるなら、尚更。

 大事なのは、『乗り越えられたか』『乗り越えられなかったか』なんだろう。


キリカ(じゃあ、もしその行動を取ったのが、私じゃなかったら?)

キリカ(……いや、自分じゃないなんていうのは逃げだな)

キリカ(私は私……だ。これまでの経験も思いも、もう私の中から消えることはないんだから)


 ……意味もなく廊下の床を見つめて、それからキュゥべえのほうを見た。

 赤い瞳と目が合う。


キリカ「……キュゥべえ、さっきのまどかの願いって叶うの?」

QB「まどかなら大抵の願いは叶えられるだろうね。平行世界が実際にあると仮定すれば可能だろう」


キリカ「ちゃんと無事でいられるんだよね? 契約直後に魔女になるとかもないんだよね?」

QB「それは……」

キリカ「『出来る』『出来ない』で答えてよ」

キリカ「いつもの遠まわしではぐらかすような答えはいらないから」

QB「……まどかの素質は規格外だ。そんな願いも。前例がないものは答えようがないよ」

QB「けど、今回はまどかが以前契約した時が前例になるじゃないか」

QB「願いの規模や内容が変わったって、そう極端に変化することはないだろう」

キリカ「そっ……か」


 外から一際殴りつけるような暴風の音がして、肩を跳ねさせる。

 ここ一帯を覆うような魔力が更にじりじりと強くなって身を焼くようだ。

 ……ワルプルギスの夜が迫ってきている。


 そんな時、誰かが走ってくる音が聞こえた。

 廊下に5人が集まった。……杏子も気になってはいたのか、こっちに来ていたようだ。


マミ「状況は聞いたわ。時間もあまりないようだし、簡潔に話し合いましょうか」

キリカ「!」

杏子「あっちじゃ携帯が通じねえって大騒ぎだ。電波塔が壊されたんだろうな」

杏子「さっきからうるさいくらいの魔力を感じやがる」


さやか「キリカさんがあと5日しか生きられないって……本当なんですか」

さやか「やっぱりあの時の……」

キリカ「恨んでたって仕方ないよ。あいつはもうこの世に居ないんだ」

杏子「そうは言っても、まどかの願いが叶えばそいつも生き返る」

杏子「……そしたらあんたはどうするんだ?」


 その問いに少しの間悩んだ。

 今の気持ちじゃ、到底許せる気はしなかった。


キリカ「…………心を入れ替えて生まれ変わってくれるなら許す」

キリカ「私たちの仲間で、まどかを殺そうなんて考えもしなかった時の記憶があるんでしょ」

キリカ「その記憶がよみがえったら私たちの気持ちも変わるのかな?」


 ……そう思って、それが少しだけ怖くもあった。

 結局それは自分じゃないものを受け入れることになる気がして。


まどか「うん……そしたらもう一度チャンスをあげよう」

マミ「私も、そうしたら今回の過ちも少しは清算できるかしら」

マミ「清算してまた前みたいに戻れるのかしら……?」

キリカ「……いいよ、戻ろう。織莉子が許せてマミが許せないなんてことはないよ」

キリカ「そのためのけじめだと思って、またやり直していこう」


 静かな廊下に5人が集まり、囲むようにしている。

 今を失うことはなくても、やっぱりこの空気感でいられるのはこれが最後なんだろう。



1自由安価
2みんなは怖くない?
3過去に戻ったらまた集まろう

 下2レスまで


キリカ「過去に戻ったらまた集まろうよ。集まるとしたらどこにする?」

さやか「それは……まずはアレでしょ。いつも通り」


 その言葉に、みんなどういう意味なのかはすぐに察した。


まどか「マミさん、いいですか?」

マミ「! ええ! もちろん」

杏子「ケーキ3つくらい用意して待っといてくれよ。今までの貸しだ」

さやか「やったー、久々にマミさんのケーキ!」

マミ「ええ」


 まんざらでもなさそうだった。

 ……盛り上がってた話から少し神妙な空気になって、最後に一つだけ聞いた。


キリカ「……みんなは怖くない?」

キリカ「今までのことを思い出したら、今の自分は記憶の一部になるのかな…… そしたら、何かが変わっちゃいそうで」


 ……まどかが私の手を取った。


まどか「全部の記憶を思い出したら、それで気持ちが変わることはあるかもしれません」

まどか「嫌なことを思い出したら辛い気持ちになるし、暁美さんや美国さんに対しての感情もそうかもしれません」

まどか「でも、心まで変わってしまうわけじゃないから」

まどか「みんなはみんなです」

キリカ「…………」

さやか「暁美さんかあ……同じクラスに来るはずだったのに、結局見たことも話したこともないからなあ」

さやか「どんなふうに話してたんだろうね、あたしたち」

マミ「みんなと同じように友達になれるかしら」



 ……今はまだ、自分たちのことで精いっぱいでそこまで考えられなかった。

 長い三つ編みと赤い眼鏡。話したことはあった。大人しそうな雰囲気。

 今の自分にばかり固執していたらあの子は救えないんだ。


キリカ(……いきなり家に瞬間移動で連れてこられた時は驚いたし、変な人だって思ったけど)



まどか「……キュゥべえ」



 まどかがそっとキュゥべえに語りかけるように願いを告げる。

 ――――とりあえず、暁美さんの事は過去に戻ってから考えよう。




――――――――
――――――

――――



 ――――また目が覚めてしまった。

 いつもの病院のベッド。変わらない景色。


 逃げるように過去に戻り、再び始まる日々に怯える。


 希望もない世界をひたすら繰り返してなぞり続ける。

 いつからそうなってしまったんだろう。


 その問いの答えは、すでに私の心の中にはっきりとあった。


ほむら「どうしよう…………やらなくちゃいけないことはいっぱいあるのに」

ほむら「……動きたくない」


 また逃げるように布団の中でもぞもぞと寝返りを打った。


―――

―――


 ――……ゆっくりと視界が閉じ、意識が暗転する。

 深い眠りの中に入ったようで、私はその中を漂っていた。


 今まで断片的に見たより深く、鮮明な夢。

 眠りに落ちてから目覚めるまでの短い時間ではとても追いつけないような膨大な時間がそこにはあった。


 ただそれらを眺めるのでも、突き落とされて溺れてしまうのでもなく、

 何もない状態から全て縫い合わせて私となるように組み上げられていく――――




 ――――――目覚めると、セットしていたアラームが鳴っていた。

 いつもの部屋。目覚まし時計替わりの携帯を手に取って、アラームを解除する。


キリカ(…………夢落ち?)


 寝起きのまだすっきりと覚醒しない頭。

 何を考えながら寝たとか、昨日食べた夕飯とか……

 今日は学校でこんなことをするんだろうなとか、まずはなんでもない近い記憶が頭に浮かんだ。


 ……身体を起こして、なんとなく手元を見てみる。


キリカ「…………」


 そこに指輪はなかった。


キリカ(指、輪……?)


 ハッとした。

 ―――――その瞬間、膨大な記憶が、一気に込み上げる。

-------------------
ここまで
次回は9日(金)20時くらいからの予定です

――――

・主人公
 【呉キリカ】(契約・生存)


・最終ステータス


キリカ 戦闘コマンド

1刻む :近接武器戦闘(魔力-0) デフォルトで二刀流。
2踏み込む :近~中距離武器戦闘(魔力-5) :※補正±0 刀を右手に、小さめの刀を左手に持ち、投擲を交えつつ近接で戦う戦闘スタイル。
3スパークエッジ・デュエル【Lv1】(魔力-30×2) :魔力を込めて全力で斬りつける必殺技。ほぼさやかと同じやつの二刀流版。
 bスパークエッジ(魔力-30) :一刀流版。威力は半分より少し上。
 cスパークエッジ(魔力-60) :二刀流分の魔力を一つに込めた一刀流版。装備が欠けた時とか用。
4シューティングスティンガー(魔力-10) :刀身を魔力の刃に変えて射出する
5スプラッシュスティンガー(魔力-5×5) :小刀をたくさん出して魔力の刃を射出。安価指定があれば射出後に残しておく。マミさんのまね。
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7ヴァンパイアエッジ(魔力-30) :刀身を分割させ、鞭のように変形させる。
8狂い裂きファング :痛覚遮断による人間を捨てた戦闘。装備は鉤爪固定・制御不能状態。
9魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内に魔力を阻害する魔力を流し、威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
10封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率83。集中力が必要。
11武器換装 :あえて持ち手を作らず手から魔力の刃のみを出した状態に。
・自分の負傷を回復(部位・範囲によって消費変動) 【回復:B】:準癒しの祈り
・他人の負傷を回復(部位・範囲によって消費変動) 【回復:B】:準癒しの祈り
・【連携必殺技】ダブルスパーク(必殺-45):さやかと同時に放ち上下挟み撃ちにする二連のスパークエッジ。不発・キャンセル時は消費0。


※鉤爪版
1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
4ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
5スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
8狂い裂きファング :痛覚遮断による人間を捨てた戦闘。装備は鉤爪固定・制御不能状態。
9魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
10封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率83。集中力が必要。
11武器換装 :剣を実体化させる。
・自分の負傷を回復(部位・範囲によって消費変動) 【回復:B】:準癒しの祈り
・他人の負傷を回復(部位・範囲によって消費変動) 【回復:B】:準癒しの祈り
・【連携必殺技】ダブルスパーク(必殺-45):さやかと同時に放ち上下挟み撃ちにする二連のスパークエッジ。不発・キャンセル時は消費0。


◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv3] [射撃Lv2]

状態:SG負傷


・キリカの戦闘能力について(裏)
一応近接型だが、近接での斬撃と小刀の投擲を組み合わせて戦うタイプ。
前に出て戦えない本当の理由は、自発性や自信のなさと、それが自分の性格だからと諦めていた思い込みのせい。
重い刀は自身を縛る枷の表れであり、鉤爪とどちらも使える。

…物語後半、ある一件以降は容赦なく突っ込んで行って戦うようになる。
実は因果で力が底上げになっているのでまともに戦うと結構強い。

能力は『契約の解除』から魔法力の封印。速度低下とは違う形のステータス低下系統にした。
他の物語でも同じ願いをすれば他のキャラが使うこともあるかも…

・カレンダー


17日(木)ほむら、エイミーを保護。キリカと出会う。その後コンビニでまどかにも出会う。この夜にまどか契約。

18日(金)お菓子の魔女に襲われる。マミとまどかが助けに来る。2人はこの場で初対面、これからコンビで行動することに。
      助けてもらった後ほむらに拉致られる。しかしほむらの行動もむなしくキリカは魔法少女に関わってしまう。

19日(土)マミとキリカが学校で話す。マミがキリカの願いを知る。

20日(日)

21日(月)

22日(火) 数日後。まどかにはまだ会わず、マミのパトロールに同行していた。
       契約を見送ることを決意。

23日(水)

24日(木)マミが昼とかにたまに話しかけにきてくれるようになった。
      実は学校内ではまどかはまどかで魔法少女と関係のない同級生たち(さやかと仁美)と一緒にいるからマミもさみしかった。
      放課後、マミと一緒にまどかのいる2年生の教室のほうへ。
      帰り道、別れたところでまどかが通り魔に刺される。マミを呼んで治すも目を覚まさない。
      直前に謎の声を聞いたということでその人物を追うが、見つからず代わりにほむらと会う。
      事情を知ったほむらは時間を止めて織莉子からまどかのソウルジェムを取り返した。

25日(金)ほむら転入予定日。しかし、姿を見せる様子はなかった。
      電話もつながらず、心臓病で入院していたということもあり教師も心配する。
      それを聞いたまどかが資料を届けるついでに様子を見に行くという。
      しかしほむらはまどか(とキリカ)を追い帰したのち、追ってきた織莉子にすべてを打ち明け自殺した。
      織莉子の予知ではほむら魔女化予定日だったが、その直前に織莉子が来たことによりソウルジェムを砕いて自殺する未来に変わった。
      まどかとキリカがソウルジェム=魂の事実を知った。

26日(土)パトロール。通学路の芸術家の魔女とデパートの薔薇園を消化。

27日(日)体術の訓練。 委員長の魔女

28日(月)さやかとQBが話す。放課後キリカとさやかが話す、並行で『まどかの自主訓練』 暗闇の魔女

29日(火)魔力コントロールの訓練、帰宅後まどかの回想。『膨大な魔力の代償』はじまり。 

30日(水)『膨大な魔力の代償』まどかがマミに相談。
      夜、『織莉子の契約勧誘』。キュゥべえはさやかのほうに行っているから織莉子のほうに来なかった。

31日(木)夜、仁美がハコの魔女に襲われる。偶然まどかが居合わせ倒す。直後に契約さやかが登場する。



1日(金) 放課後、新しい魔法少女の追加にキュゥべえ登場。キリカがまどかを人間に戻すことを願って契約。

2日(土) QBが犯人特定、織莉子の情報開示。 みんなで訓練、帰りに杏子と激突。

3日(日) キリカが初パトロール参加。廃工場で落書き魔女、鉄塔でハコ使い魔と戦闘。杏子が再びいちゃもんをつけにくる。

4日(月)訓練・格闘

5日(火)パトロールの途中でさやかが抜ける。その後キリカがまどかと二人になってから魔女戦一回。
     直後にキュゥべえから呼び出し。マミと杏子の戦い。
     二人で駆けつけようとするが、その途中で織莉子乱入。キュゥべえがぶち抜かれ、こっちでもいきなり戦いに。
     まどかをその場から逃げさせるが、マミたちのところに着く前に笹に捕まる。
     本来ならその場で仕留めて終わりの予定だったが、織莉子を詮索しようとした笹が余計なことをしてるうちに
     キュゥべえがマミ・杏子を呼ばれ阻まれる。キリカも一時織莉子を追い詰めたものの、織莉子は隙をついて逆転を図り、逃走する。

6日(水)訓練・パトロールはお休みにしてみんなで昨日のことを話し合い。

7日(木)魔力コントロール訓練、その後芸術家の魔女と交戦。

8日(金)模擬戦訓練、その後パトロール。

9日(土)訓練後、みんなでまどかの家にエイミーを見に行く。
     恭介退院。さやかがバイオリンの音で夜に気づくも、結局何もせず去る。

10日(日)格闘訓練。その後パトロール。さやかが途中で抜けて恭介の家に行こうとするが、何もせず去る。
      パトロール後、キリカの言葉で再び会いに行くことに。翌日恭介がさやかに贈りたい曲があると言う。

11日(月)さやかは恭介の家で一番に幸せな時を過ごしていた。

12日(火)恭介復学。昼休みに仁美の宣言。さやかが行方不明になり、連携の乱れたところを織莉子がまどかを狙いに来る。
      マミが真実を知り、織莉子側につく。

13日(水)パトロール時にキリカがさやかに魔女化の真実を教える。その後織莉子への復讐を決意し、魔女を探してさ迷い歩く。

14日(木)朝杏子とさやかに会い、それから杏子に鍛えてもらうことに。さやかは見滝原に戻った。夜、キリカがゆまに出会う。

15日(金)マミがゆまを襲撃。キリカがマミの今の状態を知り、ゆまを保護して教会へ。

16日(土)織莉子との決着。

17日(日) ワルプルギスの夜襲来

あーそういえば忘れてた
基本的には自分用のメモだし書きやすさ重視だったんだ、うん
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・織莉子の動向

契約後、世界を滅ぼす存在を知ると同時に、ある魔法少女(ほむら)が魔女化する未来を見る。

キュゥべえにほむらのことを教えてひきつけ、まどかの暗殺を狙う。
まどかが既に契約しているため、戦わずに通り魔に見せた不意打ちに出た。

唐突にほむらから妨害を受け、攻撃を加えるでもなくSGのみを取り返していったことで、ほむらの目的と正体に興味を抱く。
魔女化の直前にほむらのもとを訪ね、平行世界の存在を知ることになる。
しかし、この時点ではいきなり自身の決意と行動を変えることは出来なかった。
魔女化するはずだったほむらの未来が「自殺」する未来に変わった。

一旦見見滝原から離れ、風見野の方へ。
一人では難しいものがあると、協力してくれそうな魔法少女を探す。

追われてたところに協力を申し出て、見滝原の縄張りあげると提示して沙々を仲間に。
ただ性格は従順といいにくいし使いやすいキャラだとは思わないから完全に捨て駒扱い。
沙々は条件は美味しいから呑んだが自分の目的を隠す織莉子に不信感を抱いていた。

まどかが自己訓練中に魔力を暴走させて以降、その力の恐ろしさの片鱗にまどか自身や周りの人が気づき始めた。
そしてその後、膨大な魔力量故に回復が追いつかないことにまどかが気づき、チームメンバーに相談する。

再びキリカにテレパシーで声のみで接触。
まどかの危機を出しにキリカに『まどかを人間に戻す』願いで契約してもらう。そしてさらに、人間に戻った無防備なまどかを殺す。
同時に、その30日にはさやかも契約する。まどかを殺しても蘇生できる者もいなくなるという算段。

キュゥべえに正体を気づかれる。

見滝原の魔法少女が分断される時を狙いまどかを襲撃。
まどかが逃げた先では沙々を待ち構えさせたが、そこで沙々は織莉子を出し抜こうと、まどかを殺す前に何故狙われてるのか探ろうとする。
まどか自身がその答えを持っていなかったため長引き、そうしているうちにマミに追いつかれる。
一方、織莉子も大した敵ではないと思っていたキリカとの戦闘の途中、一瞬予知が使えなくなったことに驚き、不意を突かれて敗北。
隙をついて逃走する。

ちょうどさやかの騒動で連携が乱れてまどかが無防備になっていたところで、織莉子はまどかが一人になった隙に殺害を決行する。
しかし、殺そうとしていたまどかにから同情され、ほむらから全てを聞いていた織莉子はためらった。
結果、意識を失ったまどかを拉致することに。

織莉子によるまどか監禁生活が開始する。
しかしまどかがまだ生きていることは誰も知らない。
まどかの魔法少女の素質が落ち着くまで、何年かかるかはわからないがそれまでQBやみんなの認識を欺かなくては意味がない。
しかしさやかは魔女化寸前、マミは杏子の殺害をきっかけに壊れ、キリカからは殺意を向けられ、織莉子は半ば諦めていた。

マミから『魔女狩り』のために候補者の情報を求められ、ゆまの名を教える。
織莉子はゆまが虐待で死ぬ予知を見て、どうせ死ぬなら変わらないと思っていた。

キャラごとの好感度・進展表

・暁美(死亡)
冒頭で声をかけられたがびっくりして逃げてしまい、その後放課後に再会してまともに会話する。
18日にはいきなり拉致られて不信感を抱き、その後も謎のある人という認識だった。マミたちと敵対しているらしい?
24日、“声”によると『あまり関わると殺される』かもしれないと聞かされ疑念が深まるが、
“通り魔”に襲われたまどかを救ったことでさらにその目的や正体は謎が深まった。
その後、25日に自殺。その正体は一旦謎のままで終わってしまう。
そして、ワルプルギスの夜が襲来する前日、16日にまどかからその正体を聞いた。
関係:謎の少女/仲間だった

・まどか
物語開始時点から一応顔見知り。17日にてコンビニで遭遇、18日にて魔女から助けてもらった。
QBに契約を持ちかけられて以降、マミと合わせてよく一緒に行動していた。
1日にキリカはまどかのために契約した。
13日に表向きに“死亡”する。
関係:友達/友達

・マミ
18日にて魔女から助けてもらった。同学年の友達。
QBに契約を持ちかけられて以降、まどかと合わせてよく一緒に行動していた。
13日にすべての真実と隠してきたことを知られ、責められ離れていってしまう。
関係:友達だった/友達だった

・さやか
28日にて、素質があるまどかの友達として顔を合わせる。
その後も未契約者同士たまに話していたが、30日の夜についに契約。
それからキリカも契約し、ほぼ同時期に契約した仲間となる。
その明るさや度胸に憧れを持つ反面、無茶をしないか心配することも。
12日にさやかの悩みに気づき、自分と同じように弱いところもあったんだと知った。
真実を知ったマミに拒絶され、13日に自分から離れる。
しかし、さやかはキリカとマミを心配して杏子を頼り、14日に再会する。
関係:信頼/信頼

・佐倉さん
2日にて、まどか・さやかと使い魔を追っている時に鉢合わせる。
その場で戦いになり、縄張りのために命を奪うような人かと思ったものの、
マミの元弟子ということがわかり、その過去を聞いて印象を改める。
その後もちょくちょくと鉢合わせる。杏子からしたら、直情的なさやかよりも、一番気に食わないのはキリカらしい。
キリカの願いを握っているのはまどかであり、中途半端な覚悟で契約したなら後悔すると警告をした。
13日に杏子がさやかから魔女化のことを聞き、キリカの契約の理由にも気づく。
14日にて魔女結界内で鉢合わせ、織莉子を殺すための力をつけるために鍛えてもらうことに。
関係:師匠/気にかかる

・美国織莉子
まどかを襲った人物、見滝原の縄張りのためにみんなの命を狙う魔法少女として
2日にキュゥべえから名前や住所、魔法についてなどを知らされる。
しかし、それまででキュゥべえに対して強い不信感があり、キリカは急に聞かされたその情報に違和感を感じていた。
5日にて直接戦闘に。一度追い詰めたが隙を突かれて反撃され、引き分けの形で逃げられてしまう。
その件でキュゥべえの情報が正しかったことを知るが、まだその真意にも本当の正体にも気づけていなかった。
12日にまどかを殺されその正体と目的を知り、利用されたことと以前対峙した時に殺さなかった甘さを後悔し復讐を誓った。
関係:殺意/犠牲にしたもの・敵


・暁美ほむら
呉キリカ:仲間だった
鹿目まどか:最高の友達、だった
巴マミ:尊敬していた
美樹さやか:仲間だった
美国織莉子:頼れる人、だった
佐倉杏子:仲間だった

・巴マミ
呉キリカ:友達だった
鹿目まどか:元パートナー
暁美ほむら:名前だけ聞いた
美樹さやか:元弟子
美国織莉子:依存
佐倉杏子:ごめんなさい

・鹿目まどか
呉キリカ:友達
巴マミ:尊敬
暁美ほむら:心配
美樹さやか:親友
美国織莉子:同情
佐倉杏子:根は悪い人じゃないのかも

・美樹さやか
呉キリカ:信頼
鹿目まどか:親友
巴マミ:師匠
暁美ほむら:---
美国織莉子:悪い奴
佐倉杏子:なんだかんだで頼れる

・佐倉杏子
呉キリカ:気にかかる
巴マミ:未練
鹿目まどか:意外と言う奴
暁美ほむら:---
美樹さやか:生意気な後輩
美国織莉子:恨みはないが嫌な奴

・美国織莉子
呉キリカ:犠牲にしたもの/敵
鹿目まどか:脅威
巴マミ:壊した/従順なダイヤモンドの駒
暁美ほむら:貴女のせいよ
美樹さやか:敵
佐倉杏子:敵対の可能性あり


☆前スレ>>995>>1000までに書かれたレス内容を今後の展開にいれるかも☆

・契約したキリカが痛覚遮断して捨て身の無茶
・↑からの絶望的な魔女化


――――――――

―――


 赤のリボンで髪を結い、朝の支度をして家を出る。

 『大胆になったな』なんて茶化すママの声に、“過去”に戻ってきた実感がわいた。


さやか「よっ、まどか!」

まどか「さやかちゃん、おはよう」

仁美「おはようございます」


 今日はあの日より1か月前の16日。

 仁美ちゃんもいるし、まずは世間話でもしてると、こんなことを言われてびっくりした。


仁美「……お二人とも、なにかありましたの?」

さやか「えぇっ! なんで?」

仁美「なんとなく雰囲気が変わったような気がして」

まどか「そ、そんなに変わったかな……?」

仁美「はっ、まさかお二人は私に隠れて秘密の関係に……!」

仁美「い、いけませんわ! それは禁断の愛の形ですのよ~っ!」


 ……仁美ちゃん、鞄を置いていっちゃった。


まどか「……仁美ちゃんって時々何言ってるのかわからないね」

さやか「変な漫画でも見ちゃったんじゃないかなー?」

さやか「この前は思いっきり不良漫画の影響受けてたし。優等生なのに」

まどか「でも半分は当たってるから、鋭いなぁって思っちゃった」

さやか「とりあえず鞄持ってってあげるか」


 学校に着いて、まずは仁美ちゃんに鞄を渡しに教室に行く。


さやか「ほら、仁美。 鞄」

仁美「あぁ、ごめんなさい……つい我を忘れて突っ走ってしまって」


 ……二人の横で、わたしは少し違うことに意識を向けていた。

 手元の指輪。自分がその力を持っていることを表す宝石。


まどか『マミさん』


 返事が返ってくることを願って、とても久しぶりな気のするテレパシーを使う。

 こんなに早いうちからマミさんと知り合っていたことはなかったから、少し新鮮に思う。

 会って話すのは後にしても、まずはこうしてテレパシーを使える人だけでも確認しておきたかった。

 ……あの日々が夢じゃないと。


マミ『……鹿目さん。おはよう』

まどか『おはようございます!』

まどか『お昼、そっちのほうにお邪魔してもいいですか?』

マミ『ええ、もちろん』

まどか『ありがとうございます! じゃ、またお昼にさやかちゃんと一緒に行きますね!』


仁美「まどかさん、ぼーっとしているようですがどうしました? もしかして寝不足ですか?」

まどか「あ、ううん。なんでもないの」


 ……さやかちゃんが近づいてこっそりと話しかけてくる。


さやか「もしかしてテレパシー?」

まどか「うん、お昼に一緒に三年生の教室に行こうって」

さやか「マミさん、いつもキリカさんの教室で食べてたね。そっちかな?」

まどか「多分」

さやか「りょうかーい」

仁美「お二人とも何のお話ですの? あっ、私の事はどうかお気になさらずに! 愛し合う二人の邪魔なんて野暮でしたわ」

まどか「仁美ちゃん、戻ってきてよー」

さやか「…………仁美」

仁美「はい?」

さやか「明日あたりちょっと時間取れない? 話したいことがあるんだ」

仁美「はぁ。 明日でしたら……17時までなら大丈夫ですわ」


 ……さやかちゃんの表情は真剣だった。

 さやかちゃんが悩んで傷つく姿を知っているから、今さやかちゃんが何を考えているかはわたしにもなんとなく察せられた。


 ――――お昼休みになって、さやかちゃんと一緒に三年生の教室に向かう。

 マミさんもちょうどその前に居た。


さやか「おはようございます!」

マミ「ええ、おはよう。二人とも」

まどか「入らないんですか?」


 中をのぞいてみる。

 ……しかし、キリカさんの姿はなかった。


さやか「あれ? ここでしたよね?」

マミ「ええ…………トイレにでも行ってるか、すれ違ったんじゃないかってことも考えて待ってるのだけど」

まどか「とりあえず連絡……あ、まだ連絡帳に入ってないや。 誰か番号とか覚えて……ないよね」

さやか「あー、あたしもスマホの連絡帳に頼り切りだったからなぁ」

マミ「先に私の教室で食べてましょうか」


 廊下を少し歩いて、みんなでマミさんの教室に向かう。

 少々小さい机にお弁当を広げて、3人で食べ始める。


さやか「なんか、まだあの時から考えれば1日も経ってないはずなのに、すっごい久しぶりな気しません?」

マミ「ええ、そうね。何周もしてきたかのような」

マミ「何度も生き返っているような、死んだ人にまた会えたみたいな、不思議な感覚だわ」

まどか「……わたしも、ほむらちゃんの気持ちが少しだけわかりました」

まどか「いままでずっと忘れてて……自分が覚えてるのにみんなは忘れてるなんて、やっぱ寂しすぎます」

まどか「今すごいほっとしてるんです。みんながわたしの知るみんなと変わらないでいてくれて」

マミ「……ごめんなさいね。迷惑ばっかりかけてて」

さやか「あたしも。毎回毎回うだうだ泣き言言って自滅してたなんて、今考えればなんか馬鹿みたいだよ」

さやか「大体毎回ダントツで一番抜けだしさ」


 さやかちゃんが茶化すように言う。

 ……さすがにみんなそれは笑えない。


さやか「……でも、そんなふうに思えるのもあの時の記憶があるからだ」

まどか「…………」



1自由安価
2さやかちゃん、この前は上条君とはどうなったの?
3マミさん、また連絡先交換しておきましょう

 下2レス


まどか「さやかちゃん、この前は上条君とはどうなったの?」

さやか「告白したよ。ダメだったけどね」

さやか「結局、恭介は誰とも付き合わなかったんだ。そういう気持ちになれなかったみたい」

さやか「でも、それなら仕方ないかなって思って」

まどか「そっか……」

さやか「……ダメでも後悔はしなかったから」

まどか「また告白するの?」

さやか「うん、また怖気づいちゃわないうちに自分の気持ちだけは伝えたい」

さやか「仁美も今まで、散々待っててくれてたみたいだし……」

マミ「なんだか、強くなったわね。美樹さん」

さやか「そんなことないですよ! もう砕けてるんだからこの勢いでいっとけってだけです」

まどか「それでもすごいよ。上条君もきっと、さやかちゃんの気持ちはわかってくれると思うから」


 前と同じ日なのに、やっぱり何もかも違った。

 ……わたしもなにか成長できてるのかな。


まどか「マミさん、また連絡先交換しておきましょう」

さやか「緊急時に連絡取れないと困りますしね」

マミ「そうね、ちょっと待ってて」


 スマホを取り出してまた連絡先の交換をする。

 ……昼休みが終わるころになっても、キリカさんはまだ来なかった。


 マミさんのクラスから出ると、自分たちの教室に戻る前に、またキリカさんのクラスのほうに寄ってみた。

 教室に居る人に話を聞くと、今日は学校をお休みしているらしかった。


まどか「……どうしてだろう」

さやか「一番伝えたいことがあるのにな」

 落ち込んでいるのを見かねてか、

 クラスメイトの人が軽い調子で励ますように言う。

*「どうせサボりかなんかでしょ、気が向かないとか。この時期ならよくあるって」

*「呉さんに何か用でもあったなら代わりに聞こうか?」

まどか「いえ、大丈夫です」

まどか「わたしたちはただ、会って話したいだけで……」


 話していると次の授業の担当らしい先生が教室に来る。

 次の授業ももうすぐだった。


まどか「そろそろ戻らないと…… ありがとうございました」

さやか「放課後は杏子も待たないといけないしなあ、みんな合流したらキリカさん家行く?」


 ……教室を出ようとすると、先生に呼び止められた。


「呉さんのお友達?」

「呉さんなら、今朝母親から連絡があったんだけどね」

「なんだか気が向かないみたいで」

さやか「え……まさか本当にそれだけ?」


「……私もまだ詳しくはわからないのだけどね」

「学校に来られる状態ではないそうよ」


―――



キリカ「ゃぁあああああ――――ッ!」


 弾かれたように部屋を飛び出して、洗面台の前に居た。

 何事かと思われるような悲鳴。 なりふり構ってる余裕もなかった。


 相反する記憶と思いが一気に噴き出して、気持ちに整理がつかなくなる。

 私が背負う血塗られた運命。


 楽しかった日々よりも、辛い思いをした日々よりも、

 私の中の今まで生きてきた年月の記憶すらもその一番異質な部分に全部黒く塗りつぶされる。



 『愛は無限に有限なんだ』


 ――そうなるまでの経緯も。

 ――そうなってからの事も。

 私はずっと自分のことしか考えていなかったから。


キリカ(ち、違う……、私の行動も存在も全部あの人のためで)


 『だから彼女に無限に尽くす』


キリカ(私はあの人を愛していて、織莉子だけのためで)


 水の流れる音がずっと聞こえている。

 吐き出されたものが洗い流されていく。

 溢れ出す感情までは、蛇口は吸い込んでいってくれない。


 動くことができなかった。


―――

―――


 放課後になって、三人でマミさんの家に向かう。

 マミさんの家に上げてもらうと、マミさんはすぐに調理の準備をしてせっせとケーキ作りを始めた。

 横で見ていても気合が入っているのがわかった。


 あの時の約束。

 なのに、一人足りない。


まどか「……キリカさん、来ないんですかね」

さやか「おかしいよね……あたしたちみんなこうして何事もなく集まって話してるのにさ」

マミ「…………佐倉さんは来てくれるかしら」

さやか「……あいつは来るでしょ。 食い意地張ってるし、なんだかんだでマミさんのこと信頼してるから」

まどか「そう、だね……」


 話しながら待っていると、そのうちに杏子ちゃんがやってきた。

 いつもの軽い挨拶に、わたしたちもいつものように歓迎する。


マミ「いらっしゃい。もう少しで焼き上がるから待っててくれる?」

杏子「お、いい匂いー」

さやか「今日は豪勢だぞ? あたしも今から楽しみが止まらない」

さやか「こりゃ訓練もしっかりやんないとなぁ」

マミ「訓練……か。 美樹さんは今、魔法少女じゃないのよね」

さやか「あ、そういえばそうだった。ついそれ忘れちゃってて」


マミ「また同じ願いで契約しようと思うの?」

まどか「待って、わたしなら治せるかも……」

マミ「……それはやめておいたほうがいいわ。いつも鹿目さんは回復が得意だったけど、今回の願いは暁美さんに近い」

マミ「暁美さんはあまり回復の得意なタイプとはいえなかったわね」

マミ「コントロールも何倍も必要になってくるだろうから、いつもの感覚で使おうとしたら……」

まどか「そう……ですね。もし、また暴走しちゃったら困りますもんね……」

まどか「治すどころか、下手したら…………」


 回数を重ねるごとに膨れ上がっていったわたしの力。地形すら変えてしまうほどの魔力。

 それをすぐ目の前に居る人間に浴びせてしまったらどうなるか。――考えただけでも恐ろしかった。


さやか「ま、まあそれはしょうがないよ!」

さやか「あたしも、まだすぐには考えないかな…… あれだけ後悔してたんだし」

杏子「別にあんたが無理に契約する必要もないだろ」

杏子「それより普通に支えになってやれよ。この際だから彼女としてさ」

さやか「かっ、彼女って! まだそうなったわけじゃ!」

杏子「まだってことは狙ってはいるのか?」

マミ「美樹さん、近いうちに告白するんですって」

さやか「…………仁美の次はバイオリン相手に駆け引きしなくちゃいけないのか」


 さやかちゃんがぼそりと言った。


マミ「美樹さん?」

さやか「あ、いえ! なんでも!」

さやか「……いや。 この際だから言うとね、また少し迷って来ちゃったんだ」

さやか「恭介は、腕が治らなかったらあたしの告白を受け入れてくれるのかなって」

さやか「いやだねホント! あたしって、こんなことばっか考えてさ」

まどか「さやかちゃん……」




1自由安価
2それって悪い事なのかな?

 下2レス


まどか「それって悪い事なのかな?」

さやか「……え?」

まどか「さやかちゃんは上条君のために自分を犠牲にしようとしてる」

まどか「本当に上条君のことを思うなら、自分の幸せも考えないと……」

まどか「…………って、キリカさんなら言う気がする」


 ……さやかちゃんは驚いたような顔をしていた。


さやか「……はは、まどからしくない言葉だって思ったよ」

さやか「あんたが言うなってツッコむとこだったもん」

マミ「……ケーキが焼けたわ。お茶会の前に、呉さんを呼びに行ってみましょうか」

さやか「キリカさんもケーキで釣れるんじゃないですか?」

さやか「ケーキ用意してるって言ったら飛びつくって。 ほらだって、そういうの大好きじゃん……」

杏子「…………」

まどか「は、はい」


まどか「あの……昼休みの後キリカさんのこと聞きに言ったんですけど、先生が学校に来られる状態じゃないって言ってました」

まどか「わたしの願いで記憶を繋げてしまった事でキリカさんに負担が掛かっちゃったのかな……」


 …………なんでだろう。

 マミさんと杏子ちゃんは、何かを考え込むように押し黙っていた。


 まるで、何かを知っているように。


まどか「……マミさん、杏子ちゃん」


 マミさんのマンションから出てキリカさんの家に向かう途中、

 ついに耐え切れなくなって二人に聞いてみた。


まどか「二人は何か知ってるんですか?」

まどか「キリカさんが来なかった理由…………」

まどか「……考えてみたらわたし、繰り返す中じゃ、3回目の時と最後のキリカさんしか知らないです」

まどか「もしかしたら二人は、何かわたしの知らないことを知ってるんじゃないかって……」

マミ「……私、呉さんと戦ったことがあるの」

さやか「それって、この前の?」

マミ「あ、あの時は私のほうが悪かったから……」

マミ「でも、そうじゃなくて、5回目の時ね。……いえ、4回目も噂は聞いていた」

マミ「今思うと、あの時とはまるで逆の立場だったわね」

さやか「……! それって、まさか」


 さやかちゃんが反応する。

 この前の世界で何が起きていたか知らないわたしには、まだなんのことだかわからない。


杏子「魔法少女狩りってやつだ」

杏子「魔法少女じゃなかったあんたらが知らないのは無理ないな」

杏子「魔法少女を殺す魔法少女とかいう、なんともクレイジーな野郎が見滝原に居たんだよ」

---------------------
ここまで
次回は10日(土)18時くらいからの予定です


さやか「それがキリカさんだったっていうの? 嘘でしょ?」

さやか「あの人が魔法少女を殺すのが正義みたいな発想に陥るとは思えないけど」

マミ「……耳が痛いわね」

マミ「でもそれはきっと、私の生き方がそうだったから、自分が納得いくように都合よく辻褄を合わせただけなのよ」

マミ「呉さんは正義のためじゃなかったわ」

マミ「……美国さんのため、って、言ってた」


 ……みんなの話を聞いているうちに、少しずつ、前の世界で起きていたことも見えてきた。

 でも、やっぱりわからない。


まどか「そんな、どうして…………」

杏子「さあな。あたしに言えるのは、その2つの時間軸のあいつは“あんたらが知るあいつ”とは決定的に違ったってことだけだ」

杏子「今のあいつがどうなってるのかはわからないけど、それだけは覚悟はしておけ」


 ……大きな不安を残したまま足を進めていく。

 わたしの家の近所でもある見知った通学路。なのに、どこか知らない場所に行くような感覚だった。


 キリカさんの家のチャイムを鳴らすと、出てきたのはお母さんだった。

 ……廊下を通されて部屋の前につくと、ノックをする。 返事はなかった。

 数秒待ってから開けると、キリカさんがベッドから身体を起こした。


まどか「あの……寝てたならごめんなさい。返事がなかったから」

キリカ「…………」

まどか「マミさんと杏子ちゃんから、キリカさんのこと聞いたんですけど……」

キリカ「……何を聞いたの?」

まどか「それは…………」

キリカ「魔法少女狩りのこと?」

キリカ「そう言われてる事件ならたしかに私がやったけど」

キリカ「……どう思った? いや、どう思われるかなんて考えたこともなかったな」

キリカ「どう思われたって、興味もないしどうでもよかったもん」



 キリカさんが寝起きから梳かされていないらしい頭を掻いた。

 ……朝からずっとこうしていたのかな。


まどか「……とりあえず、わたしたちはこうしてみんな無事に成功しました」

まどか「まずはそれを伝えたくて」

さやか「これからお茶会ですよ。ケーキもマミさんが用意してます」

キリカ「……」



1自由安価
2みんなだって心配してますよ

 下2レス


キリカ「く、来るなよ」

キリカ「それ聞いたならなんで来るのさ……」


 部屋の奥に入っていくとキリカさんは身構えた。

 それでもさらに近くに寄って、少し強引に手を取る。


まどか「キリカさん、あの時わたし言いましたよね?」

まどか「全部の記憶を思い出したら、それで気持ちが変わることはあるかもしれません」

まどか「嫌なことを思い出したら辛い気持ちになるし、暁美さんや美国さんに対しての感情もそうかもしれません」

まどか「でも、心まで変わってしまうわけじゃないから。みんなはみんなです」

まどか「……わたしは今でもそう思っています」

キリカ「…………」

まどか「……キリカさんは魔法少女狩りの時の事を、そのときどんな想いだったのかを思い出したんですよね」

まどか「そのときの記憶がキリカさんを苦しめているんですか? でもキリカさんはキリカさんです」

まどか「何か想いを溜め込んでいるならわたし達に話してください、わたし達友達なんですから」

キリカ「……そうだよ。 全部私で、別人なんかじゃないんだよ」

キリカ「あの時のも私だけど、魔法少女を殺したのも私なのに」

キリカ「どうして変わらずに私を信頼できる?」

キリカ「二人は結局、私の一部しか知らないのに」


 ……キリカさんが奥のほうを見た。

 マミさんと杏子ちゃんは、その時のキリカさんと会ったことがあるらしい。


マミ「……私はあなたと戦った時のことも覚えているわ」

マミ「でも全部知ってるわけじゃないから、正直私の知っているあなたが離れすぎて私の中で一つに繋がらなかった」

マミ「だからね……、ここに来るまでは、全然違ってたらどうしようかと思ってた。でも」

マミ「やっぱり、呉さんは呉さんだから」

マミ「あなたは私を許してくれるんでしょう? だったら、あなただって」

キリカ「全然違うよ!」

キリカ「マミは別になんにもしてないんだし……」

マミ「それは結果論よ、私だって少し違えばあなたと同じ以上に凶悪になっていた」

マミ「それを止めてくれたのはあなたでしょう?」

キリカ「…………なんでもいいからもう帰ってよ」

キリカ「ほっといて」


 キリカさんは、布団を掴んでわたしたちに背を向けて丸まった。

 どうすることもできずに部屋を出ると、キリカさんのお母さんが申し訳なさそうにしていた。


 ……みんなで話し合いながら、再びマミさんの家までの道を歩いていた。

 でも、今日はもうみんなでお茶会という雰囲気でもなくなっていた。


まどか「どうしよう……」

マミ「……私は全部を思い出した時、こうなることも少しは予想はしてたわ」

マミ「私たちは辛い思いをして散々みんなに迷惑をかけても、それを乗り越えた記憶があるでしょう?」

マミ「けど呉さんはそれがないままだったから」

マミ「……もしかしたら、呉さんの中でも自分が繋がってないのかも」

さやか「明日もまた来よう。……二人はどう思いますか?」

杏子「……あたしらもあいつに何があったか知らないから、なんて言ってやるべきなのかはわかんねえ」

杏子「けど、誰も来なくなったら、そこで『あたしらの知ってるあいつ』はいなくなっちまう」

杏子「そんなの負けた気がするだろ?」

まどか「そう、だね……」



1自由安価
2織莉子さんのことはどうする?

 下2レス


まどか「わたしが明日から朝キリカさんを迎えに来ようと思います」

まどか「ちょうどわたしの通学路の近くだし、少し家を早く出ればいつもの時間に間に合うし……」

まどか「多分待ち合わせにも遅れないと思うから。……さやかちゃん、それでいい?」

さやか「うん、あたしは構わないけど……」

まどか「織莉子さんはどうしましょう? これから会いに行きますか?」

まどか「もう契約していて考えが変わっていなかったら戦いになるかもしれませんけど……」

まどか「まだ契約していないなら今の織莉子さんの考えを知りたいから」

杏子「ああ。 それに、まどかももう契約してるんだしな」

杏子「戦って勝てる見込みもなければあいつのほうも諦めるしかないだろう」

まどか「それもそうだね……」

まどか「ほむらちゃんは……退院っていつだったっけ?」

さやか「えっと、どうだったかな」

まどか「魔女化するって言ってたのが、わたしたちのクラスに転入する予定だった25日だから……」

マミ「まだ時間はあるけど、あんまり余裕はない……わね」


 まずは織莉子さんに会いに行かなきゃ。

 この時間だったらもう学校からも帰ってるはず。

 とりあえず織莉子さんの家に向かうことにして歩いていくことにした。


―――

―――


織莉子「…………」


 相変わらず荒らされた家の中、いつもどおりの日常を演じるように、淡々とこなしていく。


 あの時終わったはずの命が今、ここにある。私の身体と、神経と、細胞と一体になって。


 ――――聞いていただけのものがやっと自分のものになった。

 その感覚が、ずしりと私の心の中に響いていた。


 いたずらされるばかりのチャイムはもう鳴らないように切っていた。

 みんなもそれを識っている。どこか懐かしい声が、割れた窓の外から聞こえていた。


 私は呆れた風を装って玄関のドアに手をかけた。


織莉子「……やっぱり来ましたか」

織莉子「こんなことができるの、貴女以外には居ないもの」

まどか「呆れていますか?」

織莉子「当然よ」

まどか「……怒っていますか?」

織莉子「…………」


 そう言われると、少しためらってしまう。


織莉子「貴女のお人よしさに呆れてるだけよ」


 観念したようにそう言うと、まどかは――――

 私がずっと殺そうとしてきた、私の大切な親友は、緩い笑顔を向けてきた。


 まるで昔みたいにテーブルに紅茶を並べて、みんなで囲む。

 ……しかし、みんなというにはまだ少なかった。


織莉子「これだけしか集まらなかったのね」

まどか「ほむらちゃんはまだ何が起きてるか知らないし、キリカさんは……」

織莉子「……そう」


 その言い方に察した。

 どれだけ過去に遡ろうとも、私の罪はなくならない。

 それなのに、こうして平然と話していていいのだろうか。


織莉子「みんなは私の事を恨んでないの?」

さやか「……それを聞くのは今更じゃない?」

杏子「腹黒いとこが見えはしたがな。恨むのは前回までで間に合ってる」

織莉子「……キリカは私の事をどう思ってるのかしら」

織莉子「私が会いに行ったら……――」

マミ「彼女の心をずたずたにする気?」

織莉子「……!」

マミ「……とりあえず、何があったか聞かせてもらうわ」

マミ「あなたなら全部知ってるんでしょう?」


――――――

――――



 ――……みんながいなくなると、再び一人になった。


 ……ひたすら怖かった。強い自分という殻が半分剥がれた途端にこれだ。

 心の不安定さや些細なきっかけから、いつのまにか自分じゃ取り返しがつかなくなって転がり落ちていく。

 震え泣いていた自分と重なり、恐怖も罪も何倍にも増えて圧し掛かる。まさに悪夢だった。


キリカ(なに…………これ)

キリカ(これが私の記憶?)


 あれは私じゃないと否定して目を背けようとすれば、すぐに意識の中で別の私が『あれこそが私だ』と証言する。

 その板挟みにますます混乱していく。


 切り捨てたいと思うのはどちらの自分か。

 結局、どちらも自分に過ぎない。

 実際には全部を塗りつぶしてなんていなくて、それが私の過去の一部にすぎないからこんな気持ちになる。


 …………寝返りを打つ。

 閉め切られたカーテンの外は明るいか暗いかもわからない。


 もう一日くらいは経っただろうか。

 大分前に夕飯を置いておくとか聞こえたような気がする。

 結局なにもしてない。


 何もせずにベッドの上に居ると、また足音が近づいてくるのが聞こえた。


キリカ「いいからほっといてよ! 何もいらないってば!」


 そう叫ぶと、足音が止まる。


まどか「あの、キリカさん……」


 ……扉越しに聞こえてくる声。

 てっきりまだお母さんかと思ってたけど、違った。


キリカ「……また来たの」

まどか「わたし、全部聞いたの………… 織莉子さんから」

キリカ「!」


キリカ「……へー……、そっか」

キリカ「ならますます私がどんな人かわかったでしょ」

キリカ「……そうだよ。自分の都合で人に迷惑かけるようなことして」

キリカ「その挙句自分を駒にしようとしてる人間に縋って自ら罪を増やして現実逃避してたのが本当の私だよ」

キリカ「今まで絶対に認めたくなかったんだ」

キリカ「それで幸せだったのに」

キリカ「……そんなことで幸せだと思えてたのが今は怖くて、もうわけわかんないんだよ」


 ……めちゃくちゃなことを言っている自覚はあった。

 普通に笑い合っていた記憶も、心底憎んでいた記憶も、

 自分の全てを壊して妄信的に依存していた記憶も同時に存在するから、全てがせめぎ合っている。


 そんな私にも、まどかは優しく呼びかけた。


まどか「……弱い部分も、嫌な部分もみんな持ってるから」

まどか「もう気にしないでいいんです。この世界じゃその人たちもみんな生きてるから」

まどか「それでもまだ自分を見失ってしまってるなら、わたしたちが見つけてあげるから」

まどか「一緒に学校に行きませんか?」


 ……今は朝だったらしい。


キリカ「…………」


 ……結局、私は返事を返せなかった。

 本当は一人にされるのなんて嫌なのに。


キリカ(今から部屋を出ればきっと間に合う)

キリカ(……そしたらきっと、みんなは受け入れてくれるのに)


 ずっと私の全部なんて暴かれたくなかった。

 こうやって悩むのが嫌だから、自分ですら目を背けて否定して。


 全部が見えた今は、重すぎて動けなくなっている。


キリカ(…………また逃げようとしてる)

キリカ(ソウルジェム……)

キリカ(…………あ、そっか……今はもう魔女になることもないんだ)



 ……寝つけないまま目を閉じた。


 いつまでこうしているつもりだろう。

 まどかはずっと来るつもりなのかな。

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ここまで
次回は11日(日)18時くらいからの予定です

キリカの願いは『自分を変えたい』で性格が変わったから、もう一つの人格みたいなものが出来ちゃったのかな?
今のところそちらの人格の記憶が強烈過ぎて元の人格が押しつぶされそうになってるのかなぁ
もとの弱気な性格に戻ってきてるし何かきっかけでもあれば…

―――
放課後 ファーストフード店



仁美「……やっと決心が着いたんですのね」

さやか「!」

仁美「ご自分の気持ちと向き合えたのなら、もう迷う必要はないんじゃないかしら?」

仁美「私も友達として応援しますわ。頑張ってください」


 想いを打ち明けると、仁美は真剣な表情で、いつも通りの上品な笑みを浮かべてそう言った。

 ……まるでただ親友の恋の相談に乗ってるだけみたいに。


さやか「仁美こそ、あたしに譲っちゃっていいの?」

仁美「……」


 そう言うと、仁美は隠し事がバレたみたいに反応する。


仁美「……気づいていたんですね」

さやか「……うん」


仁美「上条君を見ていた時間はさやかさんのほうが長いのですから」

仁美「先に告白する権利はさやかさんにあると思いますわ」

仁美「こうして話してくれただけでも十分です。抜け駆けする気もありません」


 仁美はそう言ってくれるけど、仁美が告白して上手くいった未来を知ってるから、

 こちらのほうが横取りするような気がしてしまう。


 この前と同じように手は治ってたのに、あの時は受け入れてたんだ。

 それって、単にタイミングの問題だったのかな。


仁美「それに、今の上条君を一番に支えられるのは、ずっと彼を見てきたさやかさんだと思います」

さやか「…………うん」

さやか「ありがとう」


 ……仁美は最後まで穏やかにほほ笑んでいた。

 なんともないわけがないのに、やっぱり仁美は強い人だ。

 その分、ここまでいったらどうなっても頑張らないとって思った。


 店をあとにする。午後の駅前はまだ明るく賑わっていた。

 仁美はこの後またお稽古事があるらしい。


さやか(……今日もお見舞いに行こうかな)

さやか(みんなはどうしてるだろ)


 今日は約束があるからって抜けてきちゃったけど、他のことをみんなに任せきりにするわけにもいかない。

 ほむらのことも、キリカさんのことだって。


 お見舞いの前にあたしも寄って行こうかな、なんて考えて家に向かってみる。

 すると、昨日と同じように部屋の前まで通してくれた。


さやか「キリカさん、今日も来たんですけど」


「………………」


 ノックをしても、部屋の前に着いて呼びかけても、やっぱり返事はなかった。

 ……ドアを開けてみると、その薄暗い部屋の奥には乱れたベッドが目に入った。


 ――――誰もいない。


―――

―――


 外に出たら何かが変わるかもしれない。

 ――――それは、ただ逃げたかっただけだった。


 ずっと薄暗い部屋の中に籠ってるのも、

 誰かに心配されて、それなのに拒み続けてる自分にも嫌気がさして。


キリカ(肌寒いな。季節が逆戻りしてる)


 周りの景色をぼんやりと眺める。

 ……何処に行くかもわからないまま歩いていたら、いつのまにか知らない場所に着いていた。

 足を止める。


 自然らしからぬ色をした洞窟の中。

 周囲には甘い匂いがたちこめていた。


キリカ(…………ああ)


 この場所には見覚えがあった。

 妙に納得してしまった。


キリカ(そういえば今日だったっけ)

キリカ(前と同じ日、同じくらいの時間)

キリカ(ここで、確か前は……――)

キリカ、魔女に魅入られたか…
前回はまどかとマミに助けられたが今回はどうなるか


 銃を片手に戦う姿と、電流のように迸る桃色の魔力の矢。

 はっきりと頭には浮かぶけど、目の前には大きな黒いねずみのような使い魔がわらわらとこちらにむけて迫ってくるだけだった。


 ――――その時、斜め後ろからよく聞いた声がした。


QB「やあ、僕はキュゥべえ」

キリカ「…………」

QB「久しぶりと言っていいのかな。今までのことは僕も覚えているんだ」

QB「今は時間がない。願い事があるなら聞くよ」

QB「君ならどんな願いで契約しても戦えるだろう」

キリカ「……それ、本気で言ってんの」


キリカ(今契約しても、こんな不安定な状態じゃすぐ魔女になる)

キリカ(キュゥべえの狙いはそれ?)

キリカ(……それとも、またその不安すら消し去る?)


 辛いとも思わないように。

 でもきっと今は、織莉子すらそれを望んではいない。


 結局、自分を変えるのは願い事じゃない。


 契約したって自分なんてそうそう変わらなかったから、弱いまま失敗して、悩んで、

 最後にはその弱さを覆い隠すことしかできなかったんだ。

キュウベェも覚えているのか、これは意外
この展開はほむらリベンジと同じ?


キリカ「……私が願えばそうなることもできるんだろうね」

キリカ「いや、契約しなくても、本気で“願う”だけでできそうだ」

QB「でも力は必要だろう?」

キリカ「でも私、そんな私になりたくて契約したんじゃないから」


 ただ少し、自分の思いをちゃんと人に伝えることができて、また自分以外の人と楽しく過ごせればよかった。

 自分を良くしようと願った結果で、どうしてあんなことになったんだろう。


キリカ「どんな願い事で契約したかは関係なしに、私が最初に願った自分になれた時はあったんだ」

キリカ「それは全部、周りの人と自分自身の行動のおかげ」

キリカ「……逆に言えば、自業自得な上に嫌な出会いをしたってだけ」

キリカ「それだけのせいで、なりたくもなかったはずの自分になって、散々人を苦しめて、今は自分が苦しんでる」


 やっと自分の行動をちゃんと振り返って、でも、今はまだ、これ以上前に進める気もしなかった。


キリカ「だから…… 願いに頼ったって、もう望む自分になんかなれるはずがないんだよ!」

QB「……君の思いはわかったよ」

QB「それなら、まどかはどうするんだい?」

キリカ「…………」


 使い魔が近づいてくる。


 足が震える。

 今までなんてことないように散々斬ってきたはずのもの。

 でも、戦う手段がなければ、どうすることもできない。無惨に食べられて死を待つだけ。


キリカ「…………ごめんね。約束したのに」


 やっぱり私は物語の主人公みたいに強く輝けない。

 脇役でなければ、悪役。

 最後に反省できただけ、まだよかったのかな…………


 足が竦んで、後ろに手をついて倒れる。

 ――――諦めかかった時、聞き覚えのある銃声が目の前に響いた。


キリカ「…………」


 後ろに現れた姿を見上げる。

 それから――――


 意識が途絶えた。


 再び目を覚ました時には、見覚えのある部屋の中に居た。


キリカ(ここは…………)


「……ごめんなさい」

「どうしてもあなたをアレと近づけさせるわけにはいかなかった」

「さっきのことはもう忘れて」


キリカ(…………)


 そういえば、これも前と同じだ。

 忘れてなんて、さっきのことが夢じゃなかったって言ってるようなものだ。

 そんな怖い顔をして。 こんなの忘れられるわけがない。


 ……それが、ほむららしかった。

ああ、そっか
繰り返してるほむらは記憶を受け継ぐ必要ないから、まどかの願いからは外れてたんだ


 廊下の奥から猫の鳴き声が聞こえた。

 黒猫がとてとてと歩いてくる。そして、私が寝ていたベッドのほうに飛び乗った。


ほむら「あ、こら…………」

キリカ「……エイミー」

ほむら「……! どうしてその名前を?」

キリカ「…………助けてくれてありがとう」

キリカ「怖かったんだ…… 今でも手が震えるほど」

ほむら「…………」


 ほむらは戸惑ったような表情をしている。


ほむら「あの……もう私にもあまり深入りしないほうがいいと思います」

ほむら「感謝されるようなことなんて、してませんから」


 ……ほむらもずっと一人で悩みを抱えてる。

 ずっと、物語の――繰り返す世界の中心に居たのはほむらだ。


キリカ「ほむら!」

ほむら「……え?」

キリカ「……まどかに会ったらちゃんと話してね」

キリカ「私が……約束通りにするから」

キリカ「もう少しだけ待ってほしい」


 早くほむらのことも安心させてあげないといけないけど、

 今は私の口から全部を話す気はしなかった。


 ……マミも間違いそうになったけど、ちゃんと戻れた。

 私はどうしようもなくなった時、最後まで向き合わずに、自分が作り上げた違う自分なんて幻に逃げたままで終わってた。

 私も過去と決着をつけなくちゃ。


キリカ「……家に戻らないと。何にも言わないで出てきちゃったから」

ほむら「ま、待ってください!」



1またエイミーに会いに来ていい?
2自由安価

 下2レス

1+帰り際に一言

さっき『忘れて』って言ったけど、そう言ってる時点で夢でないって言ってるようなものだよ?
あとほむらの怖い顔は何か無理してるみたいであまり怖くなかったよ


キリカ「さっき『忘れて』って言ったけど、そう言ってる時点で夢じゃないって言ってるようなものだよ?」

キリカ「あとほむらの怖い顔は何か無理してるみたいであまり怖くなかったよ」

ほむら「えっ? ……ええ?!」


 エイミーの丸い頭を撫でて、ベッドから立ち上がる。

 そうすると、エイミーもほむらのほうに寄って行った。


キリカ「またエイミーに会いに来ていい?」

ほむら「あ…… はい」


 ほむらはぽかんとした様子でそれだけ返事をしてくれた。

 ほむらのアパートをあとにする。


 家を出た時より、少しだけ気分が晴れていた。


キリカ「!」


 ……帰り道を歩く途中、みんなと鉢合わせて足を止める。

 すると、ばたばたと駆け寄ってくる。


さやか「キリカさん!」

マミ「呉さん!」

キリカ「え……なん、で?」

まどか「さやかちゃんから、居なくなったって聞いて……!」

まどか「もしかしたら、このまま居なくなっちゃうのかもって思って…………っ」

キリカ「…………」


 会いたくなくて逃げてきたのに、やっぱりみんなは追いかけてくる。

 それはやっぱり、あの出会いがあったからだ。

 間違ったままの世界だけじゃなくて、自分が本当に幸せになれた世界があったから。


マミ「まずは帰りましょう。お母様に報告しなきゃ」

キリカ「うん…………」

マミ「その後もしよかったら、うちにこない?」

マミ「ケーキ、昨日は食べてなかったからまだ3つも取ってあるのよ」

キリカ「…………うん」


 考えてみれば、昨日から水すら摂ってなかった。

 喉を通るかはわからなかったけど、このままで死んでしまうのは嫌だと思ったから。


 もう、辛い時には笑顔を振り撒けなくったっていい。

 どれだけ弱いところを見せたって、醜いところを見せたって、逃げるのはやめようと思った。

-------------------
ここまで
次回は14日(水)20時くらいからの予定です



 ――――久しぶりにマミの部屋に上がると、紅茶とケーキの載ったテーブルを囲む。

 同じメンバーでも、やっぱりこの前の世界で別れる前とは少しだけ違う。

 まるで昔みたいな雰囲気を感じていた。


 織莉子に連れられてここに来た時の事を思い出す。


 昔――あのみんなが仲良かった頃と言うには、あと二人ほど足りない。

 でも、ほむらはともかく、織莉子は…………


 やっと昔に戻れたというには、遠回りをしすぎた。

 もちろん、ここまでで得たものもあったけれど……


マミ「どう?」

キリカ「…………」

 一切れ分お皿に載ったピーチパイを、フォークで切って口に含む。

さやか「あ、蜂蜜もありますよ?」

杏子「さやか、蜂蜜取ってくれ」

さやか「って、あんたが使うのかよ」


 私はフォークを咥えたまま手を止めていた。

 ……いつもだったら。 昔だったら、飛びついてたんだけどなあ。


マミ「食べられる分でいいから」

キリカ「……うん」


 やっと一口咀嚼する。

 前と同じ甘い味なのに、今は身体が受け付けないようだった。


杏子「うまいなこれ」

さやか「ていうか食べ方きったな! 手が蜂蜜でべっとべとじゃない」


 二人は相変わらず漫才やってて、まどかが苦笑いしてる。

 みんなが美味しそうに食べていたり、楽しそうにしてたりするのを見るのは悪い気はしなかった。


まどか「これからどうしましょうか」

キリカ「……ごめんね。 何度も私の事助けてくれたのに、いきなり突き放したりして」

キリカ「あの約束も」

まどか「大丈夫です! キリカさんが落ち着くまではわたしもなんとかしますし……」

まどか「焦らないでもいいですから! 魔力のコントロールだって思い出しましたし!」

マミ「そろそろ暁美さんとも話さないとまずいかしら?」

まどか「そうですね……」

さやか「織莉子さんとはどうします?」


 本当だったらこの場に居たはずの人。

 あの時は私もみんなと同じように、普通に友達として接していたのに。


キリカ「……ごめん。 まだ織莉子を前にしたら平常心でいられる気がしなくて」

キリカ「なんか、ぐちゃぐちゃして、今どう思ってるのかわからないんだよ」

キリカ「色々考えて、許せない……の、かな」

キリカ「……とりあえず、あっちは心入れ替えてくれたの?」

杏子「今のところ契約する気はなさそうだ。まどかをどうこうする気もな」

杏子「あの時の、三周目の記憶ってのが大分効いたらしい。なんだかんだ、あたしらの中で根っこにあるのはそれだからな」

キリカ「…………そっか」



1自由安価
2ワルプルギスの夜について
3さっきほむらと会ったんだ

 下2レス


 ……その世界ですら、私は途中で絶望してしまったけれど。


キリカ「私が魔女になってからどうなったの? ワルプルギスの夜は倒せたって言ってたっけ」

まどか「はい……あの時は、わたしとほむらちゃんと織莉子さんの三人で無事に倒せました」

まどか「多分、わたしたちの力の相性が良かったっていうのもあるんだと思います」

キリカ「ってことは、杏子も……」

杏子「あたしはあれからチームを抜けて風見野に帰ったよ。けど、結局あんたらと末路は同じようなもんだ」

さやか「え……そんなことになってたんだ。 『一番抜け』だったから全然話がわかんないや」

マミ「…………なんか、この辺がぞわっとするわね」

キリカ「……」


 『こんなことになるなら友達なんていらない』

 みんながどんどん離れていって、争って、絶望的な状況に諦めて辿りついた考え。

 ……ずっと昔に一度同じように諦めたこと。 忘れていた願いを思い出して……


 でも今ならもう、完全に否定することが出来た。


キリカ「……今の私たちの力って、どのくらいなんだろう」

キリカ「まどかが居れば倒せるのかもしれないけど…………」

マミ「……暁美さんが繰り返すことで素質が上がっていったと言っていたわね」

マミ「平行世界が一本化されたことで、下がったのか、上がったのか」


まどか「わたしは前の世界で契約したから、最後の時とあまり変わってない気がします」

まどか「今のわたしの素質がどうなってるかはわかりませんが……」

マミ「キュゥべえに相談する?」

キリカ「そういえば、さっきほむらに会ったんだ」

キリカ「その時キュゥべえにも会って……」

キリカ「キュゥべえも記憶を受け継いでるって言ってた」

杏子「まああんだけあたしらの身近にいたヤツだからな」

杏子「面倒なことを話す手間は省けたが、それはそれで厄介なこともあるな」

杏子「……キュゥべえの奴、もう織莉子が教えるまでもなくゆまのことも知ってやがる」


 杏子は蜂蜜のかかったピーチパイを手づかみでかじりつきながら、忌々しそうに言う。

 ……不意に出た名前にどきりとした。


さやか「あの子も候補者か……、じゃあ契約を迫る前に早く保護しないと!」

キリカ「……でも、どうやって? 偶然都合よく一人でいるところに会えればいいけど」

杏子「あたしの魔法でなんとかやってみる」

杏子「知ってるだろ?あたしの魔法。あ、まどかには見せたことなかったか」

杏子「やっと使えるようになったんだ。この際だからあたしが心を惑わす魔女にでも悪魔にでもなってやるよ」


マミ「佐倉さん…………」

 杏子は自分の魔法を魔女や悪魔だなんて言ったけれど。

 恐れられても蔑まれても、よっぽど正義の味方のように見えた。

マミ「立派だと思うわよ。だから、自分でそんなふうに言わないで」

杏子「……はいはい」


 杏子は少し照れくさそうにそっぽを向いた。

 久しぶりに見る癖だった。やっぱりどこか、素直じゃない。


まどか「ところで、ほむらちゃん、何か言ってました?」

キリカ「キュゥべえに関わるなってさ。あと、ほむら自身にも」

まどか「早く迎えに行ってあげなきゃですね。全員揃ってからにしようと思ってたんですけど……」

キリカ「……織莉子とみんなで行ってきなよ。私はさっき会ったから」

キリカ「多分織莉子の方が私より色んなこと知ってるし色んな事考えられると思うよ」

キリカ「またワルプルギスの夜も倒す気なら、実際に戦った人のほうが良い案出せるだろうし」

さやか「そ、それでいいんですか?」

キリカ「……」

マミ「……それじゃ、一先ずワルプルギスの夜の対策と契約の事は保留にしておきましょう」

マミ「それと、また連絡先教えてもらってもいいかしら?」

キリカ「あ……うん」


 ……連絡先を交換して、ひとまず今日は解散となった。

 結局ケーキは一かけらくらいしか食べられなかったけど、部屋に籠ってるよりは心が凪いだ気がした。


―――

―――


 越してきたばかりでまだ碌に荷物も開けていないアパートの中、

 ほむらは落ち着かない様子でいた。

 腕の中で黒猫が見上げて鳴いている。


ほむら「……!」


 チャイムの音に玄関を確かめに行くと、ほむらは驚いた。

 ――――玄関の前に、見知った人たちが並んでいる。

 向こうはほむらを知っているはずもないのに。


まどか「ほむらちゃん」

ほむら「あ、ま、まど……か? なんで、まさか」


 ありえないことを起こせるとしたら、ほむらは一人しか浮かばなかった。


さやか「なになに? ほむらどうしてる? 扉の前で感動しちゃってる?」

マミ「というよりは、ちょっと混乱しちゃってるみたいねぇ……無理もないけど」

ほむら「なんで? どんな願いで契約したの!?」

ほむら「どんな願いでも、まどかが……契約しちゃったら…………っ」

杏子「……おい、開けるぞ」


 杏子が少々強引に扉を開けると、みんながほむらの傍に寄った。

 その中心でほむらは啜り泣いていた。


まどか「……大丈夫。大丈夫だよ、ほむらちゃん」

まどか「もう魔女になったりしないから」

ほむら「え……?」

まどか「わたしってやっぱり考えが足りないし、一人じゃどうしようもできなかったから他の人の力を頼ってしまうけれど」

まどか「約束…………したから」

ほむら「……! あの、それって」

織莉子「少し話しましょう」

織莉子「私たちのことについても……これからのことについても」

織莉子「私たちの中でも一度、少し情報を整理しておきましょう」


 ――――――……自分が死んでからの顛末を、織莉子は淡々と聞いている。

 ほむらも『うん、うん』とどこか心配そうに相槌を打ちながら聞いていたが、ほむらには自分が死んだ記憶もなかった。

 しかし、話を聞けば、そうなるのももう時間の問題だったというように納得していた。


織莉子「……なるほど。じゃあ魔女化を防ぐ方法は、やっぱりキリカ頼りなのね」

まどか「はい……」

織莉子「問題はまどかがいつまで持つか……いつ人間に戻るか、だけど」

まどか「これからキュゥべえとも相談しようとは思ってるんですけど……」

織莉子「ところで、今回みんなはワルプルギスの夜を斃そうとは思っているの?」


 少しだけ、みんなの間に考え込むような沈黙が流れる。


マミ「前回は諦めたわ。自分たちが死ぬのが嫌だったから」

マミ「でも、それは可能なら……」

織莉子「あの時と同じメンバーで挑めば斃せるでしょうね」

織莉子「……でも、キリカが代わりに契約するとして、そうすれば今度は力が足りなくなる」

織莉子「あの時三人で倒せたのは、やはりまどかの力が大きかったのでしょう」

織莉子「あとは、ほむらの能力をどう活かすかというのもあるでしょうけど」


ほむら「聞いておきたいんですけど、織莉子さんはどう考えてるんですか?」

ほむら「あの時はワルプルギスの夜の討伐を目標にしてた」

織莉子「それが私の生きる意味だと思ったから」

ほむら「……」

まどか「またその目的のために契約を考えたりしてるんですか?」

まどか「できれば、あんまりそのために契約はしてほしくはないなぁって……」

まどか「だって、生きる意味ってそれだけじゃないよ」

織莉子「…………そうね」

織莉子「なら、貴女は街を見捨てられる? 自分が契約すれば助けられるかもしれない、と言われて」

織莉子「といっても、私の契約にはそこまでの力はないのかもしれないけれど」

まどか「それは……でも……」

織莉子「一番貴女にだけは言われたくない、わ」

マミ「なら、美国さんは今の自分の生きる意味ってなんだと思ってるの?」


 ……今度は織莉子が考え込む番だった。


織莉子「わからないわ。そんなの」

織莉子「でも、何か目的を達成するためなら自分のことも駒として考えなきゃいけないことはあるの」

織莉子「もしくは、“使える”かもしれない人たちを知らないことはないけれど、キリカに会わせるのには少し問題が……」

ほむら「と、とりあえず、やれるだけのことはやってみてからでもいいと思います」

ほむら「無理に突破することは考えません」

ほむら「あの時はいなかった巴さんも佐倉さんもいる」

ほむら「私だってあの時より強くなったんですよ?」

ほむら「せっかくみんなが居てくれるんだから……」

織莉子「…………そうね」


 ……話がひと段落ついたところで、マミがほむらに箱を差し出した。


マミ「暁美さん、これお土産」

ほむら「! もしかして、ケーキ……ですか?」

マミ「お茶会の余り。早めに食べてね」

ほむら「はい。ありがとうございます」

ほむら「……もう行っちゃうんですか? まだ話したい事たくさんあります」

ほむら「そういえば呉さんともさっき会ったんですけど、みなさんとは一緒じゃなかったんですか?」

まどか「キリカさんは…………」

織莉子「……私の事を避けてるんでしょう?」

織莉子「仕方がないわ。目が覚めれば、それまでの“愛”の分、恨みや軽蔑に変わることだって覚悟くらいしてたもの」

織莉子「前回のことだって。私はそれだけのことをした」

マミ「……何か呉さんに伝えてほしいことがあれば聞くわよ」

織莉子「とりあえず『ごめんなさい』と伝えておいて」

マミ「……わかったわ」



―――

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ここまで
次回は17日(土)18時くらいからの予定です

すみません、ちょっと長電話してました
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―――


 家に帰ると、ぐちゃぐちゃにしたままだったベッドを軽く直して座った。

 いきなり動いたからか、どっと疲労を感じた。体力が落ちている。

 食べてなかったのもあるし、身体は一か月前のままなんだから当然か。


 ふと『1周目と2周目』の自分、魔法少女にも何にも関わらなかった自分を想像してみたけど、

 これから一か月、やっぱりなんとなく過ごしてきただけだったんだろうと思った。


 記憶があったとしても、他に埋もれて覚えてない。

 そう思うと、なんとなく納得した。


キリカ(そういえば、私たちはずっと、ワルプルギスの夜と戦うために鍛えてきてたんだ)

キリカ(それなのに、あれからずっと……)


 多分今頃みんなで話してるだろうほむらたちを思い浮かべる。

 ……どんなことを話してるだろう。織莉子は私の事なんて言ってるだろう。

 そんなことを閑雅て、考えすぎてきたところで、いつのまにか寝付いていた。

キリカ自身鍛えるためには早く契約したいとこだが…さてどうなるか

【訂正>>926】閑雅て→考えて
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―――翌日の朝もまどかが来てくれた。


まどかの声で目を覚ます。

頭だけさっと整えて扉を開くと、朝から元気そうな顔があった。



まどか「おはようございます! 今日は学校来てくれますか?」

キリカ「ちょ、ちょっと待って」

まどか「はい」

キリカ「……行くから下で待ってて」

まどか「待ってますね!」


 ……まどかが下りていった階段の下からやりとりが聞こえてくる。


「朝ごはん食べてく?」

まどか「あ、家で食べてきたので大丈夫です」

「そう? この頃いらないって言ってたから……」

「前からギリギリに起きてきて飛び出してく日もあるし、難しいんだよあの子」

まどか「あはは……」


 しょぼんとした声だった。聞きなれたまどかの苦笑いが聞こえた。


キリカ「今日はちょっとは食べるよ」


 ……下に向かって言う。

 とりあえず、さっさと着替えるとしよう。


 ……家を出てまどかと二人で歩く。

 途中でエイミーの居た茂みを見て、まどかがつぶやいた。


まどか「……ほむらちゃんがエイミーを飼ってたのって、わたしの契約を防ぐためだったんですね」

キリカ「まどかは優しすぎるから、どこに契約理由が転がってるかわかんないよ」

まどか「わたしって、今思うとそれだけ馬鹿だったのかなぁ……」


 更に歩いていくと、小川の前でさやかが手を振っていた。

 隣にはあの時見たお友達もいる。


さやか「おはよー、まどか!」

仁美「おはようございます、まどかさん。そちらは?」

まどか「おはよう! こちらは……」

さやか「今日はキリカさんも来てくれたんですね」

仁美「あれ? さやかさんも知り合いですの?」

さやか「うん、先輩だよ。えーと、この前色々あってさ」


キリカ(……その言い方はちょっとあやしい)


仁美「色々? お二人だけでなにかやってた時なんですね!?」

仁美「きっとそこでみなさんだけで絆を深めて……ああ、でも三人なんてよろしくないですわ三人は」

さやか「アレー、また妄想の世界に入っちゃった」


キリカ(否定はできないのがくやしいけど、三人がどうしたんだろう?)


まどか「仁美ちゃん、遅れるよ。歩きながらにしよう!」

仁美「あ、はい!」

仁美「申し遅れました。志筑仁美です。よろしくおねがいいたしますわ」


 ……ウェーブのかかったと、目尻の下がった目が織莉子に印象が被って見えた。

 少しおっとりとしたお嬢様らしい雰囲気。

 織莉子も一見非情なほど抜け目ないように思えたけど素では割とおっとりとした部分もあったな、なんて思い出して……


キリカ「……うん、よろしく」


 少しだけぎこちなくなった。


仁美「はい。えっと、キリカさん、でしたっけ?」

キリカ「あ、うん! 呉キリカ、苗字でも名前でもどっちでも……」


 憎み合ってたこの前の世界では一切そんな部分は見えなかった。

 でも、あの織莉子に味方した世界でも、織莉子は敵には非情さを見せながら、私は彼女の一番近くでそんな部分を見ていたことがあった。

 私は、あの世界を…………


さやか「なんか上の空ですけどどうしました?」

キリカ「えっ!? 別になんでもないよ」



1自由安価
2ちょっとまだ調子が悪くて
3さっきは三人がどうしたの?
4仁美ちゃんってお嬢様っぽいね

 下2レス


キリカ「ちょっとまだ調子が悪くて」

さやか「あ……無理しないでくださいね」

仁美「どこか悪いんですか?」

キリカ「身体は……多分なんともないよ」

キリカ「気持ちの問題かな」

仁美「……!」


 そう話す私を、まどかが心配そうに見つめていた。


 ――あの世界を、どこかで、全部切って捨ててしまいたい過去だと思っている。

 あの世界さえなければ、今の私はこんなふうに悩むこともなく綺麗なままでいられたのに。

 そんな勝手で無責任な望みを思うほど、過去は自分の意識から離れていってくれない。


キリカ(だからちゃんと、決着をつけないといけない……のに)

キリカ(思ってるより、心って思い通りにいかないものだなぁ)


仁美「やはり恋の悩みなのですね……やっぱり三人というのは」

キリカ「え? 恋? ていうかさっきから三人がどうし――むぐっ」

さやか「わー蒸し返さないでください! そして仁美はちょっと黙って!」


 そのあとは、何故だかひとしきり愛だの恋だのと語る仁美をみんなが残念な目で見ていた。

 ……その姿にあの時の自分を感じて、痛々しさが何倍かに膨れて自分に返ってきた気がした。

 仁美ちゃんはちょっと、ただ妄想の世界に入りすぎただけらしいけど。


仁美「だって、この間立ち読みした『シーナ様がみてる』にも描いてありました!」

仁美「私ももし白女にでも行っていたら……」

キリカ「……じゃあ私は上の階だから」

さやか「あ、はい!」


 私はというと、自分の中から変なものが飛び出してしまわないように黙っていた。

 あの時だったらなりふり構わずブチ切れたりしてたに違いない。

 みんなと階段で別れて教室に行く。


キリカ(……朝から体力を使ったような気がする)

キリカ(いや、気力のほうか)


 なにもせずに机の上で頬杖をついて、授業のはじまりを待っていた。


 ……傍から見れば、『壊れた』とか『おかしくなった』で済まされるんだろう。

 そうなるだけの事件もショックもあった。

 でも、こうして平行世界が統合されるまでずっと自分だったものをそれで済ませるのは、あまりに他人事すぎる気がした。


 現在完了。戦国時代。微分積分。


 …………授業は、どれも一度聞いた気がした。

 途中で学校に行かなくなった世界はあったけれど、この頃の自分はまだどの世界でも契約もしていなかった頃だ。

 本当は一度どころじゃなくて、もう何度も聞いてるんだろう。


 ノートを取るのも面倒くさく感じて、かといって他にやることもなかった。

 いつも入れっぱなしだった昼休み用の暇つぶしに持ってきてた本も、授業と同じようにもう何度か読んでいた。

 恋愛ものなんて、今は目にもしたくなかった。


 あれ、でも前に読んだ時もそう思ったんだっけ。


キリカ(……ハズレだな。おすすめのブースも信用できない)

キリカ(実際には、良いご都合主義よりも悪いほうにばっかり転がることのほうが多いんだから)


 同じように心の中で酷評して、授業の終わりとともにノートとペンを片づける。

 携帯の振動に気づいて見てみると、『今から行きます』と簡潔に書かれたメールが届いていた。


 暫くすると、三人が集まってきた。


さやか「朝はすんません、仁美が暴走しちゃってて」

まどか「ていうか仁美ちゃん、やっぱり漫画の影響だったんだね……」

さやか「いやー、別に悪い子じゃないし変な人でもないんだけど……あー、ちょっと変な部分はあるか?」

まどか「とっても素直な子なんだよ……色んなものを吸収しちゃうっていうか」

さやか「お嬢様なのにスレてないよね。いや、お嬢様だからか?」

キリカ「……そんなの家庭によると思うよ。仁美ちゃんはきっと恵まれてたんだよ」

キリカ「でも、二人だって友達の仁美ちゃんしか知らないでしょ?」

まどか「え、ええと……」

マミ「早くお弁当食べましょう! あ、みんなでおかず交換でもしてみる?」

さやか「……それならマミさん、おかず交換ってべつに『あーん』しなくていいんですよ?」

マミ「えっ!?」


 ……お弁当を出してみて思った。

 いらないって言ってもいつも張り切って作ってくれている。

 そういうのを鬱陶しいって思うことがあったのはまだ子供だからなんだろう。

 今まで考えたこともなかったけど、うちも十分に恵まれている。


キリカ「ごめん、悪く言うつもりはなかったんだけど……」


 ……いたたまれなくなってそう言ってみる。

 本当に、別に悪く言うつもりはなかった。


キリカ(なんでこんなこと言っちゃうんだろう)


さやか「まああれは引くのが普通の反応ですし……」

まどか「マミさん、相変わらず弁当も凝ってますね」

マミ「みんなとの食事は楽しみの一つですもの。 見栄えも気にしてるんだけど、崩れないようにするのが大変なのよね」

さやか「あ、これ花になってますね!」

まどか「わ、すごい!」


 みんないつのまにか新しい話題をしている。

 こっちも変な話引きずってるのってよくないか。

 ……何周繰り返したって、こういうとこ、やっぱりなんにも変われてない。


1自由安価
2昨日はあれからどうだった?

 下2レス


キリカ「ところで、昨日はあれからどうだった?」

まどか「久しぶりにほむらちゃんに会って来ました」

さやか「もう泣いちゃって大変だったんだから!」

マミ「それから、この前の世界で鹿目さんが願ったことを伝えて、色んなことを話し合ってきたわ」

マミ「これからのことも、全然関係ないような雑談も」

キリカ「……ワルプルギスの夜のことはみんなどう考えてるって?」

マミ「やっぱり出来るだけ倒したいっていうのがみんなの思い」

マミ「ずっとみんなでそのためにやってきたんだもの」

マミ「でもそれより、なによりみんなが無事なことが最優先よ」

キリカ「最後はみんな揃わなくなっちゃったけど、倒せたんだよね」

キリカ「なら、これだけ揃ってればまた倒せるかな……?」


 マミは少し悩むように沈黙した。

 ……他の二人もだった。


マミ「……わからないわ。美国さんは難しいって言ってた」

マミ「挑んだのは三人でも、鹿目さんがそれだけ大きな力を持っていたってことね」

マミ「私たちが挑んで負けて、鹿目さんが契約する未来を何度も見たって言ってたから」


マミ「それから、美国さんから伝言」

マミ「『ごめんなさい』だそうよ」

キリカ「…………」

キリカ「……織莉子はさ、罪の重さをわかってたんだよ。私と違って」

キリカ「わかった上で非情に徹してたんだ。動けなくならないように、色んなものを切り捨てながら」

マミ「でも、それは美国さんが自ら“願って”やったことよ」

マミ「だからこそ悲しい願いだとは思うけれどね」

キリカ「悲しい願い、か……」


 私も織莉子も願ったことは三周目と同じはずだったのに、

 なんで少し状況が変わっただけでこんなにもズレてしまったんだろう。


キリカ「…………だったらなんで私まで罪を背負うことになったのさ」


 ぼそりと呟いて、同時に自業自得だとも浮かんだ。

 きっかけは自分のしたことにある。


キリカ「あの、今日は集まる予定は?」

マミ「そろそろパトロールをしたいかな。またグリーフシードも必要になるし」

マミ「……鹿目さんはどうする?」

まどか「キュゥべえってマミさんのとこに来てます? 来ているなら話したいことがあります」

マミ「じゃあ一応一緒に行きましょうか。よくパトロールには来ていたから」

キリカ「そっか……ほむらは?」

マミ「可能なら誘っていくつもりよ。暁美さんがあれからどのくらい強くなったかも見ておきたいわ」


 ……そっか。みんなもう、動き出さないといけないんだ。

 それなのに、自分だけ足踏みをしたままになっている。


 やがて昼休みが終わって、みんなが席を立ち始める。


キリカ「……明日は昼に仁美ちゃんも誘ってみたらどうかな」

キリカ「これ以上妄想拡げられても困るし、一人だけなんにも知らないのは本当でしょ」

まどか「え、でも、いいんですか?」

まどか「もしかしたら話しにくかったのかなって思って……」


 ……やっぱり私って、まだそんなふうに見られてるんだ。

 ほとんど話せなかったけど、仁美ちゃんも私のこと、大人しい人って思ったのかな。


キリカ「……妄想話ばっかりじゃなければ話すよ」

さやか「まあ普段はしっかりしてるところもありますし。喜ぶと思いますよ!」

さやか「じゃ、また放課後にー!」


 昼休みの終わりが近づき、そろそろ教室に戻ってくる生徒も多かった。

 ……みんなが教室から去っていく。

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ここまで
次回は18日(日)18時くらいからの予定です


キリカ(放課後、かぁ…………)


 教科書を開き、教師は何回も聞き覚えのある内容を喋っている。

 まるで録音されたビデオのよう。

 少しざわついた教室すら白々しく思える。私だけぽつりと世界の違うところにいるように思えた。


キリカ(三周目の世界では話すようになった人もいるけど、向こうはきっと覚えてないんだろうなぁ)

キリカ(でも、今は話しかける気もしないや)


 一人で黙々と受ける授業は、退屈ではあるがほとんど気も使わずに済んだ。

 今までもずっとそうやって凌いできたんだ。


キリカ(――……授業が終わる)


 それに嫌気が差したから、今の自分がここにいる。

 ――いくつもの未来で色んなものを手にして、捨てて、私は今どれだけ変わることができたんだろうか。


 帰りのHRを終えて二年のフロアを覗いてみると、まどかとさやかの声が聞こえた。

 ちょうど近づいてくる。


さやか「やべーわー、授業が超イージーモードだわー」

さやか「さやかちゃんマジ天才? 天才少女さやかちゃんともてはやされる日も遠くない!」

まどか「それが通じるのって、一か月だけだけどね……」

さやか「だ、大丈夫だよ! ていうか一か月後はワルプルギスの夜のせいで学校も休みになるんじゃない?」

さやか「あーもうこうなったら学校だけ吹き飛ばしてくんないかな!」


キリカ(相変わらずだなぁ……)

 能天気な話を聞いてると、姿が見えて、さやかがこちらに手を振った。


さやか「おっ、授業お疲れ様っす。今ちょうどそっちに行こうとしてて」

キリカ「お疲れ様。さやかは今日はどうするの?」

さやか「あたしはちょっとやりたいことがあるんでパトロールには参加しませんけど」

さやか「最初にほむらの家行くなら途中までルートは同じだから、途中までついてきますよ」

さやか「キリカさんは?」



1私もちょっとほむらに挨拶していこうかな、どうせ家近いし
2自由安価

 下2レス


キリカ「私もちょっとほむらに挨拶くらいはしようかな……どうせ家近いし」

キリカ「どうせ行くならエイミーが食べられそうなオヤツでも買っていこうか」

キリカ「エイミーの好物って何だったけ?」

まどか「あ、それなら先に駅前のデパート回ります? いつもそこで買ってたんで」

さやか「あたしもデパート行く予定だったんだよね。みんなでデパート行こうか」


 一旦上に戻ってマミと合流する。

 通学路を歩きはじめる。この感じも久しぶりだ。


マミ「そういえば、いつだったか、みんなで買い物に行きたいって言ってたわね」

まどか「買う物は猫のおやつですけどね」

マミ「それ以外に見たっていいんじゃないかしら? 買いたいもの、ほかにはない?」

さやか「見ていくうちにいくらでも出てきそうですねー」

さやか「あー、そういえば前にまどかが欲しいって言ってた服、出たのこのくらいの時期だったよね」

まどか「あっ、買ったりしたものとかもなかったことになっちゃってるんだ……ちょっとショック」

まどか「いまのうちにほしいものリストアップしておかないと……」


キリカ(……さやかのやりたいことって、買い物だったのかな?)



1自由安価
2マミのほしいものについて

 下2レス


キリカ「じゃあ、マミのほしいものは?」

マミ「新しい茶葉が欲しいわね。あとなにか特売品とかあれば……まあでもそれは帰りかしら」

キリカ「……なんか主婦みたいだね」

マミ「えっ! なによそれー、あなたと私せいぜい数か月しか違わないのに」

まどか「一人暮らしって大変なんですね」

マミ「うーん、まあそうね…… でも服もいいわね。あとはアクセサリーとかちょっとした小物なんかも……」

マミ「あんまり大荷物にするとパトロールの時大変かしら……あ、こういう時のための暁美さんが」

さやか「荷物持ちとしてはこの上なく便利っすね」

まどか「その扱いはどうなんだろう……」


 欲しいものの話がもりあがってるうちにほむらの家に着いた。

 ……チャイムを押すと、ほむらの声が聞こえて、それから数秒して出てきた。


ほむら「あ、みなさん、こんにちは……」


 なんだか疲れた様子だ。


マミ「……もう変身してるのは準備万端すぎないかしら? 一人で訓練でもしてたの?」

ほむら「いえ、ちょっと荷解きをしてまして……」

まどか「パトロールの前に、みんなで買い物しようってことになったの」

キリカ「エイミーのおやつも買っていこうってことになって」

ほむら「いいですね……誘ってくれてありがとうございます。なんか、そういうの久しぶりで……」


 ほむらは感動したような表情をしてるけど、

 この人たちさっきまで『いかにほむらが荷物持ちに便利か』って話をしてたよ?


さやか「う、うん! あたしもパトロールには行けないけど買い物はみんなのほうが楽しいからさ!」

マミ「それと、パトロールの間は荷物を盾に入れてもらってもいいかしら?」

ほむら「は、はい! そのくらいでよければ!」


キリカ(……ま、本人が喜んでるからいいか)


 平日午後の駅前は、学生たちで明るいにぎわいを見せていた。

 デパートの一階から回って、ペットショップに入る。


 入口から小鳥やハムスターが出迎える。

 アルビノカラーのうさぎを見て、例の営業マンを思い出した。

 ……訓練になると着いてくることは多かったけど、その前はこっそりと私たちを尾行でもしてるんだろうか。


キリカ「猫のおやつっていっても結構種類があるね……」

まどか「あ、いつも買ってたのはこれです。エイミーの好きなおやつ」

ほむら「そうなんだ、覚えておくね」

まどか「うん。他にもいろいろ試してみたらいいかも」


 こっちが買い物を済ませると、さやかたちは入口付近の方で固まっていた。


さやか「鳥も可愛いなー。こいつなんか喋ったりすんのかな? こんにちは!」

鳥「…………」

マミ「オウムかぁ。マンションだとうるさいって怒られちゃいそうね」

マミ「やっぱり、飼いはじめてから躾けるものなんじゃないかしら?」

さやか「マミさんちにはもうペットみたいのが居るじゃないですか」

マミ「あれはちょっと…………何も知らなかった頃はよかったんだけどねぇ」

まどか「こっちは買い物終わりました。ほか回りましょう」

マミ「ええ」


 特に目的も決めずに回っていくだけで、色んなものに目移りして会話が弾んでいる。

 楽しそうな雰囲気を眺めている時は、普通に楽しく過ごせた頃に戻れる気がした。

 ……でも、ここに本当に『全員』が集まってたら、どうだろう?


まどか「あ、これ可愛い!」

さやか「ぬいぐるみかー。まどかも好きやなぁ、同じようなのいっぱい部屋にあるのに」

マミ「私もよく小さい頃は集めてたわね」

ほむら「あ、それは私も……さみしくないようにって、よく両親がお見舞いに持ってきてくれたので」

まどか「え、みんな小さい頃だけ?」

さやか「あはは、大体小さい頃で卒業しちゃうよね」

マミ「景品とかならあるかなぁ。昔ゲームセンターに行った時、佐倉さんが取ってくれたわ」

さやか「ああ、部屋に置いてあるやつですね。景品ならまあ……」


 この流れは自分も良いと思ったとか言い出しづらい雰囲気。

 けど、ぬいぐるみ一つでそんだけ言われるってどうなの!?


キリカ「…………い、いいじゃん! 可愛いし、可愛いし……」

マミ「……あー」

まどか「で、ですよね!?」

キリカ「あ、うん……」


 ……そうだ。あの時も、そんな感じの話をして、もらったんだっけ。


キリカ(そんなに子供っぽい趣味かなぁ……)


さやか「キリカさん、拗ねないでくださいよー」

さやか「たしかに可愛いとは思いますし、女の子らしい趣味じゃないですかー」

さやか「あたしはちょっとガサツなとこあるから見習わないとなって」

キリカ「……それはまどかに言ってよ」

さやか「あ、うん、まどか!いいと思うよそれ!可愛い!」

まどか「さやかちゃん、調子よすぎ」

さやか「うわー、まどかまで?」


 ……なんだろう、この気持ちは。 怒ってる、というには違う気がした。でも不機嫌に見えてるのかな。

 極端にそう言われるのを嫌がってたのは、多分、一番に図星だったから?

 なんとなく空っぽに生きてた私が更に空っぽになってしまったのを、絶対に認めたくなかった。


まどか「キリカさん、一緒に買います?」

キリカ「いや…………私はいいよ」

まどか「え、そうですか?」

キリカ「それより、さやかの買い物は?」

さやか「ああ、もっと上の階なんで後でいいですよ」


キリカ(もっと上の階っていうと……)


 さやかといえば思い浮かぶのは、やっぱりCDショップ。

 デパートの中を見て回って荷物も大分増えてきたころ、最後にやっぱりそこに寄ることになった。


 ……ポップな音楽のかかる店の中、

 真剣な顔にクラシックのコーナーを物色するさやかに声をかける。


キリカ「今日も上条君のお見舞い行くんだ?」

さやか「ああ、はい」

さやか「……実は、今日恭介に告白しようかと思ってて。その前の手土産かな」


 ……それを聞いて、一人だけ置いて行かれたような気がしてはっとした。

 さやかも契約はしてないけど、ちゃんと自分のやるべきことをやっている。


さやか「もう仁美にも話したんだ」

さやか「駄目だとしても、また怖気づく前にちゃんと気持ちだけでも伝えようって」

キリカ「そっか…………頑張って」



 話す/何か見ようか?
1自由安価
2まどかとほむらは何見てるの?
3マミは何見てるの?

 下2レス


 ……多分もう、さやかは大丈夫だ。


キリカ「さやかは強いね……」

キリカ「繰り返した記憶があるからといっても、ちゃんと自分に向き合って一歩踏み出す勇気があるのに、私はまだ立ち止まったままなんだ」

さやか「え……あたしはそんな」

キリカ「前の世界ではさやかやまどかに色々言ってきたのに、いざ自分の事となると一歩進む勇気が出ないんだ」

キリカ「この世界に来てからもそう、みんなに心配かけた上に一人だけ何時までもウジウジしてる……何なんだろうね?」

さやか「…………」

キリカ「……ごめんね、大切なときに変な事話しちゃって」


 ……さやかは静かに聞いてくれていた。


さやか「……強くなんてないですよ、あたし」

さやか「きっと『強い』人なんていないんです」

さやか「あたしが一歩進めたのも、ああやって背中押してくれたおかげです」

さやか「じゃなかったらまた絶望してたかもですよ?」

キリカ「でも……最後には勇気を出せたんだから、それはさやかの力だよ」

さやか「それはそうなんですけど……」


さやか「キリカさんは、まだ救われてないんじゃないですか?」

さやか「あたしだってめちゃくちゃうじうじして絶望して、結局自分じゃどうにもできない」

さやか「救ってもらう前が悩んでばっかなのはしょうがないじゃないですか」

キリカ「…………」

さやか「……だから、無理に大丈夫だって動こうとする前に、その世界のキリカさんを救ってあげないと」


 ……他の未来では起きてないことだから。 悪い事が重なっただけで、普通は起きるはずのないことだから。

 それが自分の中でただの『一部』になった途端、私はどこかで本来なら自分の背負う必要のなかった悩みだと思ってた。


 軽く握った拳を自分の胸に当てる。


キリカ「救う…………か」


 異質な過去に怯えて悩んで、

 その自分を切り捨てるのでも、打ち勝つのでもなく、救ってあげないといけない。


キリカ(罪の重さに怯えて悩んで、更に逃げて自分の心を偽ったあの『可哀想なクソガキ』を……)

キリカ(……でもどうやって?)


さやか「って言っておきながら、どうやったらキリカさんを救えるのかなって今も考えてるとこなんですけど……」

キリカ「あぁ……うん」


キリカ「ありがとう、さやか」

さやか「はい! 結局なんもできてませんけど」

さやか「まずは出来るだけ辛い思いしないようにしてほしいなって思います」

キリカ「……」


キリカ(でも、相手は本当に救いようのない殺人鬼だよ)

キリカ(救われる必要なんてある? 被害者ぶるなんて、本当の被害者も許さないよ)

キリカ(……『救ってもらう必要なんてない』 意地っ張りの自分もそう言ってる)


 ……さすがにそこまでは声に出せなかった。


まどか「さやかちゃん、選び終わった?」

さやか「うん! ちょっと待って、会計してくるから」


 いっそ、はっきりと形になって夢にでも出てきてくれたら楽なんだけど。

 自分に溶け込んでしまったそれは気持ちが複雑になりすぎて、主観で見るのも客観で見るのも難しかった。

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ここまで
つ次スレです

『オール安価でまどか☆マギカ 19』:
オール安価でまどか☆マギカ 19 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497797899/)


次回は19日(月)20時くらいからの予定です


 さやかが会計を済ませて店から出てくる。


さやか「CDも買えたことだし、そろそろ買い物も終了かな?」

マミ「ふう、良いものが買えたわね」

キリカ「新しい髪飾り、今度出かけるときに着けていこうかな」

マミ「学校にも着けていってもいいのに」

キリカ「うーん……でも派手すぎない?」

ほむら「私や巴さんが大丈夫なら問題ないと思います」

さやか「まどかも派手に変えたしなー。もう見慣れたし、戻したらそっちのほうが違和感あるけど」

マミ「そういえばそうだったわね。イメチェン?」

まどか「契約したばっかりで、それもあったかな…… あ、でも契約してなくても変えてたね」

まどか「ところで特売品は見なくていいんですか?」

マミ「そ、それはパトロールが終わってからかしらね……」

ほむら「まだ割引の時間には早いですね。半額まで狙うならギリギリを責めないと……」


 ほむらが時計を確認して言った。

 ……そういえばこの子も一人暮らしだった。


さやか「じゃ、健闘を祈ります!」

マミ「そっちもね」


 ……デパートから出ると、さやかは意気揚々と歩いて行った。

 私はまだ、なんとなくぽつんと立ってるままだった。


キリカ(これからパトロール。私がついて行っても、できることはなにもない)

キリカ(私はまたみんなの後ろをついていくだけしかできない?)


マミ「じゃあ、私たちもそろそろ……」

キリカ「ところで、織莉子はもう契約してるの?」

マミ「いいえ。いざとなったらと考えてるようだけど、今のところは」

マミ「『ワルプルギスの夜』以外でもう契約する理由もないんだから、出来るだけさせたくはないわ」

キリカ「そっか……それなら織莉子は今どうしてるんだろ」

マミ「……美国さんのこと、気になる?」


 そう言われてから気づいた。

 確かにずっと、気にしていた。遠ざけたいようで、意識から離れないでいた。


キリカ「……いや」

キリカ「まだ、会いたくは…………ないんだよ」

マミ「……そう」


 …………そんなやり取りを、まどかは少し悲しそうな顔で見ていた。


ほむら「呉さんはもう帰りますか?」

キリカ「え、ええと……」

ほむら「パトロールのついでに送っていきます。この前みたいなことがあったら危険ですから」

キリカ「あ、うん。ありがとう」

マミ「じゃあ、今日は住宅街のほうから回っていきましょうか」


 ……二人が気合を入れるように返事を返す。

 でも今は、まどかも戦いには参加できないはずなのに。


キリカ「……まどかは戦わないんだよね?」

まどか「万一に備えて少しだけ確認はしておきたいとは思ってますけど……」

キリカ「あ、そっか」

マミ「無理はしなくていいわよ。あまり魔力を使うべきではないし、確認程度にとどめておいてくれれば」

まどか「はい。それはわかってます」


キリカ(……万が一なんて本当はあったらいけないのにな)

キリカ(今は私がついていけるのはここまで……か)

―――

 …………――――澄んだひんやりとした空気。

 気づいたらすっかり夜になっていた。

 買い物を終えて、魔女退治を終えて、あとは家で一人で過ごすだけ。

 だけ、だったんだけど、なんとなく家を飛び出して歩いてきてしまった。


 チャイムを押してみる。

 ついこの間まで機能の切られていたそれは、今は何事もなかったかのように音を鳴らした。


マミ「美国さーん」


 一応同時に呼びかけてみると、意地の悪い貼り紙のつけられた扉が開いた。


織莉子「こんばんは。今日は一人? ひとまず上がる?」

マミ「ええ」

 何事もないように客を招き入れて扉を閉めようとする手を一旦止めて、

 気づいてないのかと一応教えてみる。

マミ「扉に変な貼り紙つけられてるわよ」

織莉子「ほっときなさい。雨にでも濡れればいつか剥がれるわ」


 ……すると、やっぱりなんでもないような素っ気ない声で返ってきた。

 以前よりいくらか図太くなったんだろう。

 いちいち気にしてた頃はまだ可愛かったのかもしれない、なんて思ったのは言わないことにした。


織莉子「こんな時間にどうしたの?」

マミ「泊めてもらおうと思って!」

織莉子「また随分といきなりね……」

マミ「なんだか急に一人が寂しくなったの」

マミ「もう自分を飾るのはやめて、甘えたいときは素直に甘えようと思ったのよ」


 …………少しだけきょとんとした蒼色の瞳と目が合う。

 そこに冷徹ささえ滲んでいなければ、割と幼い顔つきをしているのに。


織莉子「あの時のことなんて、思い出したくもないんじゃないのかしら?」

マミ「……そんなことはないわよ。間違いだったとは思うけれど、私はもう向き合ったもの。自分の駄目なところとか、弱さとも」

マミ「でももしあの時本当に佐倉さんを殺してたら。ゆまちゃんを殺してたら。ほかの誰かを殺してたら」

マミ「そう簡単にはいかなかったでしょうね」

織莉子「…………」

マミ「さて今日の夕飯はなにかしら。 やっぱり特売品漁りなんてするものじゃないわ~」

織莉子「……さてはうちにたかろうとしてるわね」

マミ「ケチ言わないでよ。美国さんだって甘えたいと思わないなんて嘘でしょう」

マミ「私も知ってるんだからね。“友達”だったから」


 テーブルの前に座る。

 外から見たときは酷いものだったけど、中は割と綺麗にされている。


マミ「ところで、美国さんは今日はどうしてたの?」

織莉子「さあ」

マミ「なによそれ。学校は?」

織莉子「あまり楽しい場所じゃない。日常を“演じる”必要ももうないわ」

マミ「そう」

織莉子「魔力をすり減らす煩わしい未来【ビジョン】がなくなって、過ごしやすくなったような、不安なような気がするわ」

織莉子「……まだキリカも契約してないのよね。キリカは今どうしてるの?」

マミ「それ、向こうも同じこと聞いてたわよ」

織莉子「…………」

マミ「気になるの?」

織莉子「…………貴女は」


 そこで言葉を詰まらせてしまうのも同じだ。

 そう思っていたら、続きを言いよどむように不自然なところで区切られた言葉が聞こえて顔を上げる。


織莉子「“壊した”側はなんともなく過ごしてるって思ってるの?」


織莉子「私は世界を救おうとしても、人を救おうなんて少しも考えてなかったのに」

織莉子「本当に愚かだわ。よりによって私に『助け』を求めるなんて」

織莉子「貴女もそう。縋る相手を間違えているのよ」


 ……なんとも浮かない表情をしていた。

 まるで、力が吸い取られちゃったような。


織莉子「…………キリカは本当は決して弱い人ではないわよ。子供でもない」

マミ「…………ええ。それも知ってるわ。友達だもの」

織莉子「仕方ないから甘やかしてあげるわよ。何が食べたい?」

マミ「パスタ」

織莉子「……自分で作ったら?」

マミ「私に聞くとそうなるわよ? 美国さんが作ってくれるならなんでもいいわ」


 ……美国さんはまた少しきょとんとして、それから呆れた表情になった。


織莉子「…………まったく。どうしてそんなことを恥ずかしげもなく口にできるのよ」




 …………夢を見た。

 世界と意識の狭間で前に見たのと同じ夢。




『――――どうして行っちゃうの?』

『マミがどんなに無理して頑張ったって、みんないなくなっちゃうじゃない』

『ずっとやってきたことも、大切にしてきたものも、もうなくなっちゃったんだよ』


 非現実的な真っ白い景色の中。

 手招く声と、小さな少女の姿。



『ねえ、絶対に裏切らない理想のお友達とずっと楽しくお茶会をしよう!』

『マミがもう一人ぼっちにならないように、頑張らなくてもいいように』


「理想の自分の次は理想のお友達。……それって楽しいの?」


『楽しいよ。だって、マミのずっと求めてきたものは……』



 ぽつんと残された姿を抱きしめる。

 あの時みたいに、昔みたいに、癖のある髪に指で触れる。

 二つにまとめただけで巻いていない髪は、途中で絡まって今よりも上手くまとめるのが大変だった。



「……もう大丈夫だから」

「友達でも所詮は他人だから、絶対なんてない」

「けど、しつこいほど離れていかなかった人たちだって居たでしょう?」


『…………』



 ……今はもう甘えられる人も居ないって、強がって。



「今までどんなに間違っても……」

「きっともう、みんなと一緒にやっていける」



 契約してから、私がずっと一人で抱えてきた“不安”は

 やっと消えようとしていた。


―――
―――


――――――

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ここまで
次から次スレのほうに移ります

建てたばかりでほっとくのもまずそうなので、20日(火)20時くらいからぼちぼちと。





世界が変わったので再び展開安価
あとは雑談とか適当に埋めといてください


☆埋め恒例企画☆
ここから>>1000までに書かれた内容を今後の展開のどこかにいれるかも

乙でした

小さな少女は『不安』という名の過去の自分でしたか
そういえば今回は安価がありませんでしたね

コンビニでキリカ『が』清算中の子がお金を落としたのを見て拾うのを手伝ってあげる
その子の指には見覚えのある指輪があった

夕飯時、キリカが杏子と出くわしラーメンを食べに行くことに
店に行く途中ほむらとも出くわし3人で食べに行くことになった

キリカとゆまが仲良くなる

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