オール安価でまどか☆マギカ 19 (1000)

このスレは、安価で決めた主人公・時系列・前提設定で進める長編多めの安価SSです。
各編で話につながりはありませんので、途中参加は大歓迎です。

【現行】キリカ編2  (14スレ目>>719から15スレ目>>182まで,17スレ目>>927から)
・・・同主人公の1つめとは無関係。未契約キリカが黒猫と謎の少女に出会う話。
・・・ついに復讐を遂げたが、ワルプルギスの夜は翌日に迫り、キリカはSGに負傷。
・・・ほむらの目的を知り、自分たちの過去を知り、まどかは『全ての平行世界をつなげて分岐する前に戻す』願いで契約する。
・・・ほむらを救うために過去に戻ったものの、キリカは平行世界の記憶に苦しむことに……

【完結した話】
さやか編  (1スレ目>>8から>>154まで)
・・・マミの死後、さやかが魔法少女になって張り切ったり悩んだりする話
・・・一番最初のやつなんでかなりあっさりしてます
中沢編   (1スレ目>>164から2スレ目>>150まで)
・・・中沢が安価の導きにより魔法少女たちと関わっていく話。
QB編   (2スレ目>>198から 4スレ目>>502まで)
・・・感情の芽生えたQBの話。
ユウリ編様 (5スレ目>>954から6スレ目>>792まで:BadEnd)
・・・契約したばかりのユウリが目的を達成するためにマミの後輩になる話。
恭介編   (6スレ目>>815から 7スレ目>>240:BadEnd+)
・・・恭介の病院での日々と、退院してからの話。
Charlotte編 (7スレ目>>264から>>285まで)
・・・チーズを求めるCharlotteの小話。
キリカ編  (7スレ目>>309から>>704まで,8スレ目>>475から9スレ目>>151まで)
・・・本編時間軸で織莉子が既にいない世界のキリカの話。話はほぼまどマギ本編寄り。
アマネ編  (7スレ目>>807から>>963まで,8スレ目>>130まで:GiveUp)
・・・抗争に破れて見滝原に来た最弱主人公の野望の話。  ※オリ主※
メガほむ編 (9スレ目>>181から12スレ目>>666まで)
・・・非情になれないほむらの4ループ目、織莉子たちとの戦い。
なぎさ編  (12スレ目>>717から14スレ目>>616まで)
・・・謎の神様によって魔女化から助けられたなぎさが見滝原で奮闘する話。
杏子編  (15スレ目>>197から17スレ目>>918まで)
 マミの“先輩”な杏子のifストーリー。
 マミと仲直りしたり、色んな人と仲良くなったりする比較的ほのぼのなストーリー。


【未完結の話】
Homulilly編 (採用箇所4スレ目>>535から>>686まで)
・・・生まれたばかりの魔女Homulillyが時空を旅する話。
かずみ編  (4スレ目>>982から5スレ目>>879まで)
・・・ユウリのドジで見滝原に運ばれたかずみが織莉子とともに救世をめざす話。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497797899


【注意】
★無効安価は自己判断で安価下。明らかに無効になりそうな内容は、その下に別の安価をしてくれるとスムーズに運びます。
★混んでる時以外は基本的に連投・連続有り ※ただし同じ内容で連投はダメ
★多数決は連続・連投無し
★多数決で同数に意見が割れた場合は指定内の最後のレス内容を採用
★主レスは安価先を指定する数字に含まない
★まどマギのほかに、無印おりマギ・かずマギ・漫画版まどマギ・TDS・PSP・劇場版のネタを含みます。
 それ以外からのネタは出さない・考慮しません。
★「下2レス」と書いた時にはその1時間以内に2レス目がこなければ「下1レス」に変更します


・前スレ

『まどかマギカで安価練習』 :まどかマギカで安価練習 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1369643424/)
『オール安価でまどか☆マギカ 2』:オール安価でまどか☆マギカ 2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370979872/)
『オール安価でまどか☆マギカ 3』:オール安価でまどか☆マギカ 3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371835671/)
『オール安価でまどか☆マギカ 4』:オール安価でまどか☆マギカ 4 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372909496/)
『オール安価でまどか☆マギカ 5』:オール安価でまどか☆マギカ 5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373645366/)
『オール安価でまどか☆マギカ 6』:オール安価でまどか☆マギカ 6 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 7』:オール安価でまどか☆マギカ 7 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 8』:オール安価でまどか☆マギカ 8 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 9』:オール安価でまどか☆マギカ 9 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 10』:オール安価でまどか☆マギカ 10 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 11』:オール安価でまどか☆マギカ 11 - SSまとめ速報
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『オール安価でまどか☆マギカ 12』:オール安価でまどか☆マギカ 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430323957/)
『オール安価でまどか☆マギカ 13』:オール安価でまどか☆マギカ 13 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439045180/)
『オール安価でまどか☆マギカ 14』:オール安価でまどか☆マギカ 14 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448012780/)
『オール安価でまどか☆マギカ 15』:オール安価でまどか☆マギカ 15 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461427177/)
『オール安価でまどか☆マギカ 16』:オール安価でまどか☆マギカ 16 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475061935/)
『オール安価でまどか☆マギカ 17』:オール安価でまどか☆マギカ 17 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483717207/)
『オール安価でまどか☆マギカ 18』:オール安価でまどか☆マギカ 18 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491232637/)


☆随時募集

*安価で魔女を作ろうぜ*


 主に風見野や見滝原外などで登場するオリジナル魔女を募集中です。

 登場の機会があれば色んな物語に出させます。

 被りは一部再安価か統合。


・名前:【安価内容】の魔女(思い浮かんだものがあれば魔女名も)

・攻撃方法/見た目/特徴/性質/弱点/使い魔 など

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★まどマギのほかに、無印おりマギ・かずマギ・漫画版まどマギ・TDS・PSP・劇場版のネタを含みます。
 それ以外からのネタは出さない・考慮しません。

って書いてるけど、現行の『キリカ編2』は話の都合上おりマギ新約の情報が多分に出てきてるので、
二巻のはじめくらいまで読んでないといまのところさっぱりわからん事情が出てきてます

基本的には原作未読でも最終的には読む分には支障がないようにはしますが…

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 …………いつのまにか、白と黒の景色の中を歩いていた。

 また魔女結界に取り込まれてしまったのかな?

 そう考えるしかない状況。それなのに、驚くほど危機感はなかった。


 私はこの場所を知っている。

 ここは―――― 


『えいっ』


 軽い掛け声とともに、背後から接近してくる気配。

 振り返りながら一歩分下がると、さっきまで私が居た場所に黒い刃が振りかぶられる。


 ――そこには、実につまらなそうな顔をした私が居た。


 『なんで避けたの?』とでも言いたそうな顔だ。

 息つく隙もなく相手はこちらに再び踏み出してくる。


 だって、避けないと、死んでしまう。



魔力[130/130]


1刻む :近接武器戦闘(魔力-0)
 b中威力(魔力-15×2)
 c大威力(魔力-30×2)
4ステッピングファング(魔力-10) :魔力の爪を投擲する
5スプラッシュファング(魔力-5×6) :両手から魔力の爪を一斉投擲
6タイフーン(魔力-5) :魔力を纏わせて剣を振るい周囲に風を起こす。
7ヴァンパイアファング(魔力-30) :魔力の爪を連結させ鞭のように伸ばす。
8狂い裂きファング :痛覚遮断による人間を捨てた戦闘。装備は鉤爪固定・制御不能状態。
9魔力阻害(魔力-7/1ターン) :一定範囲内の魔法力を低下させて威力や効果を弱める。特に固有魔法に有効。
 b重(魔力-10/1ターン) :適用範囲は前方のみに狭まるが効果をより強力に。
10封印結界(魔力-30・準備ターン1) :『隙』を突いて魔力の波形を1ターン分完全に破壊して封印する。単体で成功率83。集中力が必要。
11武器換装 :剣を実体化させる。

 下1レス


 阻害の魔力を流すと、その速度が一気に落ちる。

 しかし、それでも“遅い”と言えるほどにはならなかった。


 刃を刃で受け止め、力を横に流してもう片手を振るう。


 攻撃に転じ、抵抗を試みた。



 下1レスコンマ判定 戦況
0~(劣勢) < 99(優勢)

+一桁0クリティカル(劣勢時は相手、優勢時は自分)
+補正 自[格闘Lv5]*3
+補正 相[格闘Lv5]*-3


 正確には遅く“してる”んじゃない。

 遅く“されてた”のが元に戻ったんだ。


 ――――暫く拮抗が続いたのち、一筋すっと綺麗に刃が懐に入っていく感覚がした。

 弾かれる感触がない。触れれば斬れる。しかし、相手は避けようともしなかった。

 一気に踏み込み、突き飛ばすようにして手で床に押さえる。


 何か言うべきなのか?

 そう考えて、必死に何か言おうとして、押さえつけている自分の顔を見る。


『……殺んないの? それで後悔したの忘れたわけじゃないだろうに』

『馬鹿だね。何も変わってない』


 ……発せられる言葉は、自分のモノローグにも近かった。



1殺したらどうなるの?
2何か慰めたり励ましたりするべきなのか?
3自由安価

 下2レス


「……殺したらどうなるの?」

『どうにもならないよ』


 あっさりとそう返ってきた。

 さっきまで散々戦って、私を斬ろうとしてきたのに。


『必死に説得しようとしてる相手は自分の中に居るのに』

『ただの妄想みたいなものだよ? 人形相手に見立てて対話してるのとかわんない』

『それで自分が納得できるのならいいけど……』


 ……答えなんか出るはずもない。

 ワルプルギスの夜のためにみんなと訓練した日々も、魔法少女を斬り歩いてた日々もあるから今の自分がある。

 何を言ったって、表面的な言葉にしかならない気がした。


『それとも、とりあえず殺してみる?』

『全部思い込みでしょ? 気に入らない部分は殺しましたってことにすれば、意識から消えてなくなってくれるかもよ』


「……殺さないよ。『救う』方法を、答えを見つけるまでは」

「今ここで殺したって、結局のところ何かが変わるわけじゃないし」

「自分の中でまだ答えが出てないのに、焦って行動して失敗して後で後悔したくはないから」


 ……でも、相手のほうも、実力はほとんど同じだった。

 得意なところを打ち消し合うようにぶつかって、でもまだ完璧じゃないから、運一つで勝ったり負けたりする。


「何も変わってない、ていうのはその通りだよ」

「私はまだ立ち止まったまま、出口を探して霧の中を彷徨ってるみたいだよ」


 結局、自分じゃ自分なんて救えない。

 どうやったって、一部だけ自分から切り離すなんてできないから。


「でもそんな私に声をかけてくれる、手を引いてくれる友達が居るんだ」

「その友達が居れば、一緒に歩いていければ答えを見つけられる、そんな気がするんだ」


『……ふーん』


 押さえていたはずの姿はいつのまにか消え、後ろから声がした。


「――――!」


 首元を斬りつけられる。

 そこに手にやった次の瞬間にも見慣れた魔力の刃が目の前に飛び出し、そのたびに血が噴き出す。


「っ……、」


 魔女に比べれば、血と肉と細い骨でできた人の身体なんて硬いものじゃない。

 何度も斬りつけられ、とっくに頭が落ちて死んでいてもおかしくないのに。


『あーあ、本当にこのまま死んでくれればいいのに』


 首元を押さえたまま、なんとか振り向く。

 手から身体全体、顔や髪まで全部血塗れだった。


『別に死なないよ。乗っ取るとか乗っ取られないみたいな勝負でもないし、死んだから夢から覚めるってオチでもない』

『……ただの自傷行為みたいなものだ』


 赤の中から覗く表情は、笑ってるようにも不機嫌なようにも見えた。

 ……こうして戦いなんてしてたこと自体、納得のいかない気持ちを自分にぶつけたかっただけなのかもしれない。


キリカ「…………!」


 目を覚ますと同時に、首元に手をやる。


 ……帰りはみんなに家まで送ってもらった。

 もう家に居て、ベッドの上に寝た後だった。

 いきなり家に魔女が現れたんじゃない限り、魔女結界に取り込まれるはずもない。


キリカ(戦う、ことも……)


 その手には未だソウルジェムもないのだから。


 ……それにしたって、嫌な夢だった。


 あの時の悪夢を思い出す。あの時の私が拒絶したあれは、自分自身の過去。

 それが自分と関係ないものなんかじゃなく、確かに存在していた証。




―18日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

-------------------
ここまで
次回は24日(土)18時くらいからの予定です

--------------------
>>17 何故か忘れてたんで追加

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

―19日


マミ「!」


 目を覚ましてリビングのほうへと向かうころには、

 すでにテーブルには朝食が並んでいた。


織莉子「あら、おはよう」

マミ「早起きなのね」

織莉子「ただの習慣よ。白女のほうが見滝原より遠いから」

マミ「ああ、そういうことね……」


 ……夕飯はごちそうになったから、お返しに朝ごはんでも作ったら喜ぶかしら。

 なんて考えていたのに、作戦失敗だった。


 テーブルについて、まるで王室のような朝食を食べながら様子を窺う。

 やっぱり、色々と“本物”には敵わないなぁ。


マミ(もう少しなにか隙はないものかしら……)

マミ(敵対していた世界を挟んだら、前より更に隙がなくなった気がするわ)

マミ(あれ、でもそれって…………)


 『“壊した”側はなんともなく過ごしてるって思ってるの?』


 ……昨日言っていた言葉。

 一見なんともなく見えて、ずっと気負っているから気を抜いて過ごせない?


マミ(……そしたら意地でも見たくなってきちゃったわね、美国さんの隙)

マミ(これでも前は意外とうっかり屋なところもあったんだから。ケーキだって何度も焦がしてたし……)

マミ(最後は暁美さんのドジが全部持っていったけど)

マミ(あの時は楽しかったなあ。あの時の美国さんは私のこと『大先生』って慕って……)


織莉子「……何か変なこと企んでない?」

マミ「ぎくっ」


 どうしてバレたんだろう。


織莉子「あのねえ……」

マミ「ところで、今日も学校行かないの?」

織莉子「わざわざ嫌な思いしに行くこともないでしょう。授業は何度も受けてるのだし」

マミ「……じゃあ、今日は暁美さんも連れてきていいかしら?」

マミ「猫も居るわよ? またお料理教室もしましょうよ! 」

織莉子「…………好きにしなさい」

マミ「じゃあ好きにするわ」


織莉子「そろそろ出たほうがいい時間じゃないの?」

マミ「あ、本当だわ」

マミ「美国さんもどうせならこっちに転入してきたら?」

織莉子「そんなの無理よ」


 私が出て行ったら、また美国さんは一人に戻る。

 この広い家で独り、何を考えて過ごしているんだろう。


 外に出ると、扉には昨日見た貼り紙がそのままあった。


―――


まどか「あっ、髪飾り着けてきたんですね。似合ってます」

キリカ「そうかな」

まどか「はい! 少しだけ印象変わりますよね」

キリカ「髪飾りくらいで大げさだよ」

まどか「……あの、ところで、わたしたちと最初に会った時も、キリカさんは“違った”んですか?」

キリカ「……え?」

まどか「織莉子さんから話を聞いた時、キリカさんの願い事のことも聞いて……」

まどか「最後の世界でも、初めはそう願おうとしてたってマミさんが」

キリカ「…………まどかにはどう見えた?」


 ……迎えに来てくれたまどかと暫く二人で話していたけれど、

 通学路の途中で昨日と同じ二人と合流する。


さやか「はよー、まどか。キリカさん」

仁美「おはようございます」

まどか「あっ、おはよう!」


 とたんに明るい雰囲気に戻る。

 ……そこで話は中断された。


仁美「昨日は失礼しましたわ、少し熱くなってしまいまして」

さやか「まったくもう、気を付けてよ?」

さやか「ということで、お詫びにちょっと宿題写させて!二時間目の!うっかりしててさ、もう時間もないし」

まどか「さやかちゃん……それは関係ないと思うよ?」

仁美「もう、気を付けてくださいまし」

さやか「いやあちょっとそれどころじゃない気分でさー」


キリカ(……あ)

 聞いていたからピンときた。まどかもさすがに気づいてるみたい。
 
 ……さやか、告白したんだっけ。昨日。


仁美「なにかありましたの?」

さやか「う、うん。まあね」

まどか「仁美ちゃん、今日のお昼、一緒に上の階に行かない?」

仁美「呉さんのクラスですか?」

まどか「そうなんだけど、もう一人いるよ」

仁美「も、もう一人ですって!?」

仁美「三人ではなく四人……あれ? 誤解してたかもしれませんわ」

仁美「もっと私の予想の出来ない相関図が!」

さやか「だあああもうそこでストップ!」


 ……本当にちゃんと話せるか、心配になってきた。

-------------------
色々あってめちゃくちゃ進み遅くてすみませんがここまで
次回は25日(日)18時くらいからの予定です


 ――みんなと別れて教室につくと、そこからはいつもどおりの繰り返しだ。

 それに、今はちょっと優位になれるおまけがついている。

 ……その代償は退屈。


 長いような短いような一日を机の上で過ごしていると、

 授業の合間、さっき終わった授業のノートを片づけている時に唐突に声をかけられた。


*「呉さん、その髪飾りいいね」


 少し驚いて顔を上げる。

 前の席の人だった。短い間、私からすれば話したこともあるけど、その時のことはもうなかったことになってる。


 なんで急に私なんかに話しかけてくるんだろう。たったそのくらいのことで。


キリカ「……え、うん。ありがとう」

*「いつもすごくシンプルなイメージだったから、何か心変わりでもした?」

キリカ「別に……なんとなくだよ。この前出かけたときに買ったから」


キリカ「いつもおしゃれな髪型してるよね、君は」

*「やってみると意外と簡単よ。髪が長いほうがやりやすいけど」

*「そうそう、この雑誌に載ってて……」

キリカ「あ、それ見たかも。いつのだったっけ」


 ……――いや。私だって、こんなんでも幸いみんなから嫌われてるわけじゃない。いじめられてるわけでも。

 年に何度かくらいは、授業や学校行事とか以外でもこうして誰かが話しに来ることはあった。

 でも、そのたびに興味なさそうに曖昧に振舞って。そんなんだから向こうも話せなくなっちゃうんだ。



 次の授業がはじまって、彼女は雑誌をしまうと前のほうに向きなおった。

 …………お昼までは一時間だ。



 見てる雑誌が同じだとか、そんな小さい共通点。

 きっかけなんてどこに転がってるかわからないものなのかもしれない。


 ――正直、考えてみればくだらない。

 それでも、今は一人で居るのが寂しい気がした。


キリカ(……授業、早く終わってくれないかな)


 早く来てほしいような、でも少し億劫なような。

 そんな気がしていた。 



 あれから約一時間後。


 ――昼食兼昼休み開始のチャイムが鳴ると、出入りする人の波とともに廊下から声が聞こえる。

 廊下で会って、仁美ちゃんとマミが先に挨拶してるらしい。

 話が弾んでいるのか、楽しそうな声が聞こえたままなかなかこちらに来ない。


キリカ(マミのほうが話は合うのかな?)

キリカ(仁美ちゃん、お嬢様っぽいし)


 ぼんやりと空想に入る。

 机のほうに目を移して、自然な様子に構える。

 ……自然さを気にしてる時点で不自然だ。


キリカ(……いや、そんなこと、関係ないか)


 みんなを待ちながら、頬杖をついていた手を首元に回す。

 考えすぎて夢にまで見た、意味のない戦いの痕がまだ痛む気がした。

 身体じゃなくて、違う部分が。


キリカ(ああ、もう本当に、ソウルジェムが濁りそう)


 願望を形にしようとして、妄想と自傷行為の痕が私の心の中だけに残っているだけだった。

 結局、私自身が『救われたい』とも『救われていい』とも思ってないんだ。



まどか「こんにちは! お昼食べましょう」


 まどかの声で現実に意識が戻される。

 ……いつのまにかみんな目の前に揃ってた。


マミ「寝不足? それなら良いのがあるわよ」

キリカ「え?」

マミ「チェストツリーのハーブティ。水筒に入れてもってきたの。眠気も吹き飛ばせるし気分も落ち着くわよ」

キリカ「あー……それあんまり好きじゃないやつ。苦いんだもん」

マミ「あら、それは残念」

キリカ「大丈夫だよ別に眠くないし」


 最初に飲んだのは織莉子の家だった。杏子も同じこと言ってた気がする。

 実際、味覚は似たようなものだ。私はあんなに大食いじゃないけど……


 お弁当を取り出して、食べ始める準備をする。

 ……眠いわけじゃないけど、確かに気分は落ち着いてないかもしれない。


1自由安価
2話弾んでたみたいだけど、仲良くなった?

 下2レス


仁美「それなら、私も少しいただいてもいいかしら?」

マミ「ええ、どうぞ」

まどか「どんなのですか? 苦いのはわたしもあんまり好きじゃないですけど……」

マミ「とりあえず飲んでみる?」

キリカ「お茶よりひざまくらか何かのほうが効果あるんじゃない?」

マミ「ふふ、じゃあここでしてみる?」


 ……仁美ちゃんが指の隙間から見ていた。

 なんてベタな。


キリカ「…………」

仁美「あぁ、いけませんわっ」

仁美「いえどうぞ続けてください、私のことは気にしなくていいですから……お二人がどんな禁断の道に進もうとも私には最早止めることなど不可能ですし」


キリカ(なんとかしてよ)


 さやかに目線を送る。

 魔法などなくてもテレパシーは通じたようだ。


さやか(えー、そんなこと言われても……)


 しかし、返ってきたのはそんな思念だった。

 私もそろそろこのノリに付き合わされるのも黒歴史云々より飽きが先立ってきたところだ。


さやか「!」

 さやかが何かを思いついたらしい。


さやか「仁美、漫画とか割と好きっしょ?」

さやか「この前買ったのにハマっちゃってさ。貸してあげるから読んでみなよ」

仁美「! これは……」


 さやかが差し出した漫画
・自由安価

 下2レス


 渋いおっさんの表紙。

 ……それを鞄に入れてたさやかもいったい。


仁美「……聞いた事はありますけど、なんだか渋そうですわ」

仁美「私こういうのはちょっと…………」

さやか「不良漫画の時もそんなこと言ってたじゃん」

さやか「物は試しだと思って!」

仁美「それなら、時間がある時に少し読んでみますけど……」


キリカ(……本当にこれで効果あるの?)

さやか(わかんないけどとりあえず話を逸らせただけでも……)


仁美「……なんだかお二人とも、さっきから見詰め合ってますわね」

仁美「もしかしてやはり複雑な相関図が……」

さやか「ないから!」


 あ、でも、凄腕スナイパーにハマる仁美ちゃんもちょっと面倒くさそうかもしれない。


 ……お弁当を食べ終わると、優雅なティータイムに入っていた。


さやか「あ、たしかにちょっと苦いねこれ」

仁美「でもすっきりしますわ」

仁美「巴さんって、ハーブティにもお詳しいのですね」

マミ「あぁ……これは友達から勧められたものなのよ」


キリカ(やっぱり織莉子……か)


 マミは若干言いよどむようだったけど、そんなの勧める友達なんて一人しか知らない。

 マミは織莉子にも普通に会ったりしてるのかな。


キリカ(……この前の世界のことはマミはどう思ってるんだろ)


 もしかしたらわざわざ気にしてくれてるのかもしれないのに、変な風に考えてしまう。

 ……そんな自分にも嫌気が差していた。



1自由安価
2話弾んでたみたいだけど、仲良くなった?

 下2レス


キリカ「話弾んでたみたいだけど、仲良くなった?」

マミ「ええ、ちょっと話が合って」

仁美「はい。なかなかお茶のことについて話せる人もいませんでしたから」


 ……やっぱり趣味とか合うんだ。


さやか「まあ庶民だらけだもんね、周り」

マミ「私だって庶民よ。無理して背伸びしたって、やっぱり本物にはかなわないわ」

キリカ「でも、なんでこの学校にしたの? お嬢様だったら、もっと仁美ちゃんに合う学校だってありそうなのに」

仁美「……実は家の者には受験を勧められていたんです」

仁美「でも、友達と離れたくないからって無理を言って」

キリカ「…………あ、そっか」

キリカ「別に、学力や家柄が合うだけが本当の意味で合う環境とは限らないよね……」


 そんなのわかってたはずだったのに、余計なこと言っちゃったかな。

 ……昼休みの時間も終わりが近づくと、みんな立ち上がって、解散の雰囲気になった。


さやか「じゃあ、あたしたちはそろそろ」

仁美「巴さん、こういうのお好きなら今度うちのお茶会に招待しましょうか?」

マミ「いいの? でも私、そんな良い服持ってないわよ?」

仁美「えっ、普段着で構いませんわ! そんなに身構えてこられても私が困ってしまいます」

マミ「それなら今度お邪魔しましょうかしら」


 やっぱり、趣味が合うのが話しやすいのか二人は仲良さげだ。

 さっき会ったばかりなのに。


キリカ(あ、そういえば告白の結果はどうだったんだろ?)

キリカ(この場では言いづらいことなら、さやか自身の口から聞くまではわざわざこちらから聞く必要はないかな……?)


 教室の外に姿が消えていく。

 …………それから少しして、まどかが一人で戻ってきた。


キリカ「……忘れ物?」

まどか「あ、いえ、さっき話せなかったことで言おうと思ってたことがあって……」


まどか「朝、最初の世界でのキリカさんのことがどう見えてたかって聞いてましたけど……」

まどか「髪飾りくらいです」

キリカ「……へっ?」

まどか「えと、だから、髪飾りの分の違いくらいだと思いますっ」

まどか「印象が少し違って見えるところはあっても、別人になるわけじゃなくて……」

まどか「自分の中で押さえつけてた何かを、気にしなくなってただけなのかなって」


 ……今も私の頭の上できらきら光ってるだろう新品の髪飾りに手をやってみる。

 これと同じくらい…………


キリカ「私、髪飾りのために契約したってこと!?」

まどか「高い買い物ですね」

キリカ「私のソウルジェム、800円かぁ~……」


 自分じゃ何にもわかんないし思い出せないし、後悔もして。

 そのおかげでむしろ良いことよりも悪いことのほうが多かったような。


キリカ(あの時私があんなに悩んでたのはなんだったんだろう)


 ……でも、きっとみんな同じなんだろう。

 私たちに限らず、今楽しそうに話してる人たちも、この髪飾りをほめてくれた彼女も。

、傍から見ればしょうもないようなことを真剣に悩んでるのかもしれない。


 ――それで人生すら簡単に投げ出させてしまうのも?


まどか「そんなに価値のある願いで契約できる人のほうが少ないんですよ、きっと」

まどか「だからみんな最後には後悔して、魔女になって……」

まどか「今度は自分にとって価値のある願いで契約すればいいと思います」

キリカ「今の私の願いは……もう決まってるよ」

キリカ「再契約してから変なとことかない? 魔力は足りてる?」

まどか「はい、大丈夫です! なんともないです」

まどか「じゃあ、また放課後に会いましょう!」

キリカ「……」


 契約しててもしてなくても関係ない。

 心の中に決めたものがあれば、それは自分の大切な願い事だ。

 今はとにかく、まどかやみんなが無事でいてくれれば……


キリカ「…………うん」


 出口が見えなくても、

 きっと、立ち上がることすらできなくなることはないから。


 ――――放課後の時間になると、またいつも通りのメンバーで合流する。

 昼より一人少ないだけなんだけど、やっといつも通りの雰囲気に戻った気がした。


 結局仁美ちゃんとはほとんど話せなかった。

 苦手意識、あるのかな。 妄想話についていけないから? 織莉子に重ねて見ちゃうから?

 向こうからしても、話しづらいのかもしれない。マミみたいに高尚な話題が出来るわけでもないし。


キリカ「今日はこれからどうするの?」

マミ「とりあえずまた暁美さんを誘って、それから訓練か魔女狩りか……」

さやか「あたしは今日もお見舞いかなぁ」

まどか「そういえば、昨日はどうなったの?」

さやか「……聞きたい?」

まどか「う、うん」


 もったいぶる聞き方に、そっと内緒話でもするようにみんながさやかを囲む。

 すると、さやかはちょっと拍子抜けするくらい普通の調子で言った。


さやか「……付き合うことになった。成り行き的に」

キリカ「!」

まどか「お、おめでとう!」

マミ「やっぱり今日は予定変更してお祝いのケーキでも食べる?」


 今日一日、さやかは舞い上がった様子でも落ち込んだ様子でもないように見えた。

 仁美ちゃんもいるから遠慮してた、ってわけでもなさそうだけど……


キリカ「成り行き的に?」

さやか「いやなんか、一回振られてるからさ」

さやか「こっちとしてもちょっと拍子抜けしちゃったんだよ、どうせ玉砕覚悟だったし」

さやか「もしかしたらあいつ、ただ友達に離れてほしくなかったってだけかもしれないけど……」

マミ「いや、でも、すごいじゃない!」

キリカ「素直に喜んでいいと思うよ」

キリカ「前の時は手が治ってすぐだったんだし……ちょっとした気持ちの違いでしょ?」

さやか「ん、まあそうなんですけど」

さやか「……実感わかないもんだなあ!うん」

マミ「じゃあさっそくケーキ屋寄っていきましょう?」

マミ「上条君にも差し入れしていきなさいよ、今日のところは奢るから」

さやか「そっすね!」


 ……さやかがやっと笑顔になった。

 それにつられて、みんなの雰囲気もパッと明るくなったようだった。


 ――それから向かったのは、駅前のほうのケーキ屋だった。

 おやつにはちょうど良い時間。

 喫茶店と一緒になったこの場所はおしゃれなBGMが流れ、明るく賑わっていた。



マミ「紅茶だけど、さっそく乾杯しましょうか」

さやか「いやでも、大げさすぎですよ」

ほむら「そんなことないです。なんか私も感動しちゃいます……ついに成功したなんて」

ほむら「もう二人は結ばれないものと思ってましたから……」

さやか「……それはひどくないか?」

ほむら「あぁっ、そういうことじゃないんですけど……」

ほむら「まどかがいなかったら、こんな世界もなかったんだろうね……」



1自由安価
2さやかはまだ何か心配なの?
3昨日のパトロールについて

 下2レス


キリカ「さやかはまだ何か心配なの?」

さやか「うーん、心配っていうか…… 今までずっと幼馴染として一緒に居たからかな」

さやか「これからどうなるのかなって思って」

さやか「結局実感わいてないのかな? あたし」

まどか「今日もこれからお見舞い行くんでしょ」

まどか「きっと、一緒に居ればそのうち実感もわくよ」

さやか「まあ、そうかな」


 さやかが照れたように笑った。

 まあ、二人はまだこれからだ。やっと繰り返してきた過去も終わって。


キリカ「昨日のパトロールはどうだった?」

マミ「久しぶりに一緒に戦ってみて、思った以上に上達してるし息も合ってたから驚いたわ」

マミ「鹿目さんも……前の時よりは調節が上手くいってるようね」

まどか「でも、なんかびっくりしました……まだ戦えてた頃の感覚も取り戻したから、その時とも違うのがわかって」

まどか「こんなにおっきな魔力出してたんだなって」


さやか「温存すればそのままワルプルギスの夜までいけたりしないの?」

まどか「わ、わたしが戦ったら倒せるならそれでも……」

マミ「まだ約一か月先か……今からじゃ何があるかはわからないわ」

マミ「ただでさえ気持ちの落ち着かない状況で、あまり魔力の少ない状態で無茶をするべきじゃないでしょうね」


 ……おやつの時間も終わるころには、少しずつ夕方に向けて日が暮れてくる。

 みんなはまたパトロールに行くらしい。

 さやかは今日もお見舞いだ。


ほむら「今日も送っていきましょうか?」

キリカ「えっと……今日はいいよ。少し帰りに寄っていきたいところもあるし」

マミ「そう? 何かあったらすぐに連絡ちょうだいね」

キリカ「あ、うん……」


 本当は寄りたい場所なんてない。

 無駄な意地だとわかっていても、ついていくことすらできずに守られるだけなのが嫌だった。


 さっきの話だって、急かす気がなかったのはわかってる。

 でも、まどかは大丈夫だって言ってくれても、ずっとこのままでいいわけなんてない。


キリカ(……早く帰ろう)

キリカ(あんまりうろうろして、また結界に取り込まれるのは嫌だし)


 ひとまず家の方向に歩き出すことにした。

 ……すると、その途中で見知った二人とばったり会った。


ゆま「みてみて、これ変わった形…… わっ」

杏子「食うのもいいが、危ないから気を付けて歩けよ」

杏子「……って、あれ? 奇遇だな、今日は一人か」

キリカ「……杏子」


 杏子とゆまが手をつないで歩いていた。

 ……もう片手には団子やらお菓子やらを持っている。

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ここまで
次回は28日(水)20時くらいからの予定です

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前スレ、無事埋まりました

今回数が多いので全部は入れられないかもしれませんが
入れられるやつから入れてきます


杏子「なあ、マミたち知らない?」

キリカ「さっきまで一緒にいたけど……こっちから連絡しようか?」


 そう言って携帯を取り出す。

 ……そうしながらも、気になるのはやっぱり別のこと。


ゆま「…………」


 ゆまがこっちを見つめていた。

 杏子の少し後ろに下がって。


キリカ(覚えてないならしょうがないのかな……)


 でも、少し寂しかった。


 ――そんな時、ゆまは私を見上げて言った。

 少し後ろに下がったまま。


ゆま「……ねえ、ゆま、このおねえちゃんと『も』会ったことある?」

ゆま「しってる気がする」


 ゆまは杏子のことは覚えてる?


 改めてまどかの願いを思い出した。なんのためにわざわざあんな願いをしたのか。

 時間が戻っても、今までのことが全部なくなるわけじゃない。

 たとえ全部の記憶を覚えてるわけじゃなくても……


キリカ(……じゃあ、逆、か)


 こんなふうに離れるのは、私の事を覚えてるから?

 ……そう思うと、動けなくなった。


杏子「……なあ、アンタは今何してたとこなんだ?」

キリカ「え……っ、何って。 別に何もしてないけど」

杏子「あいつらは訓練か、魔女狩りか?」

杏子「まあ、あいつらにはまた少し『そっちの事』で用があるんだけどさ」

杏子「これからゆまも、母親のことが片付いたらこの街から離れることになる」

杏子「どうせならその前に少し話していけよ」

キリカ「話すっていっても……」

杏子「いつもみたいに適当になんか食い回りながらでいいだろ」


 ……いつもみたいに、か。

 そういえば杏子とはいつもそればっかりだったっけ。


杏子「ゆま、なんか食いたいもんあるか?」

ゆま「えっとね、たこやき食べたい!」

杏子「たこ焼きか、そういやここのたこ焼きも久しぶりだな。食いに行くか」

ゆま「やった!」


 ゆまがはしゃいでいる。

 杏子はなんとかうまくやれたみたいだ。


 ……でも、すぐにまたお別れか。


1自由安価
2ゆまの母親のこと上手くいったんだね

 下2レス


キリカ「って……、二人とももう色々食べてるでしょ」

杏子「で、ゆま、なんか変わったのでも見つけたのか?」

ゆま「あ、そうなのそうなの! これなあに?」

杏子「これは……んん? なんかの魚じゃないか」


 いつも杏子とは二人で食べ回ったことはあるけど、そこにゆままで加わるのははじめてだ。


 ……二人はお菓子と箱を見比べている。

 こうして見てるとまるで姉妹みたいだ。出会ってすぐにはとても見えない。


 そういえば、前の世界じゃゆまと別れる前『お菓子を食べに行こう』って約束したっけ。

 思えば、それも果たせないままだった。


 近くの屋台でたこ焼きを買うと、近くのベンチに並んで腰掛けて食べていた。

 ゆまがたこ焼きを必死にふうふうと冷ましているのがなんだかおかしい。


ゆま「おいしい!」

杏子「熱くなかったか?」

ゆま「うん!」

キリカ「いっぱい冷ましてたもんね……」

杏子「次は何食うかなー」

キリカ「なにか飲み物でも買おうか?」

杏子「飲み物もいいけどさあ……」


 ……杏子は飲み物だけではご不満なようだった。


キリカ「……じゃあ、そこのドーナツ屋は?」

ゆま「わあ、いきたい!」

杏子「じゃあ行くか」


 ――――あの時言ったこと。

 ゆまが覚えててくれなくても、今この場で約束を果たしたことになるのかな。


杏子「――あたしもあれは好きじゃないな。ていうか、ハーブティってなんか全部変わった匂いするだろ」

杏子「なんで当然のように『オサレなお茶』的な感覚で紅茶と並んでるのかも理解できないし」

杏子「なんでそう言うと『繊細な香りが理解できないのね』みたいに子供舌呼ばわりされるのかもマジ意味わかんねえ!」

キリカ「そーれーだよね! なんかお香食べてるみたいじゃん。しかも苦いとか本当罰ゲーム」

杏子「あとオレンジみたいな匂いの紅茶も好きじゃない」

キリカ「あれは許す」

杏子「許すのかよ」


 こうして腰を落ち着けて飲み食いしながら話していると、思ったより話は弾んでいた。

 杏子相手だとこんな話も遠慮なくできる。

 コーヒーが氷だけになって音を立てる。

 最初はもこもこと綺麗に載っていたクリームとキャラメルソースが段々崩れていくのが、どことなく寂しく思える。


キリカ「……飲み物追加で頼もうかな」

杏子「あたしもなんか頼むかな……おっ、アップルパイもあるのか」

キリカ「ゆまはなにかまだ食べたいものある? 飲み物でもいいよ」

ゆま「じゃあ、クリームいっぱいのもう一個たべたい!」


 ゆまが食べたいと言ったものはあの時と同じで、それに驚いていた。


杏子「ゆま、口元クリームついてるぞ」

ゆま「ん」


 杏子がゆまの口元についたクリームを拭う。

 なんだか役割を取られたようで、少し嫉妬してしまう。


 ……ゆまは杏子と会ってから、杏子とずっと一緒に居た時のことを思い出しかけてるのかもしれない。

 あの時は敵対してたんだから。


キリカ「……ところで、母親のことなんとかできたんだね」

杏子「ああ。けど、幻惑の魔法を使いこなせてないせいか大分消耗しちまってな」

杏子「これからマミにまた鍛えてもらいに行くつもりだ」

キリカ「きっとマミなら喜んで鍛えてくれるよ」

杏子「だろうな」



1自由安価
2ゆまには魔法少女の話はしたの?

 下2レス

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ここまで
次回は1日(土)18時くらいからの予定です

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大分遅くなってしまいましたが、急用のため今日は投下無理そうです
2日(日)18時くらいからの予定です


キリカ「で、どんな魔法使ったの?」

杏子「ちょっと魔女になってきた」


 ……ドーナツにかぶりつく。

 ああ、たしかにここのクリームって美味しいよね。

 そんな全然関係ないことを考えて、数秒沈黙する。


キリカ「魔女化したの?!」

杏子「魔法だよ。ちょっくら擬似的に家ん中に結界敷いて、脅かしてきた」

キリカ「……ゆまには魔法少女の話はしたの?」

杏子「これから隠しておけることでもないだろ」

杏子「あいつだってもう目つけてるんだし」

キリカ「あー……そうだね」


 斜め向かい、口の周りを汚しながらドーナツを食べるゆまを眺めてみる。

 母親の問題は片づけられても、今契約を迫られたらゆまはどうするんだろう?


キリカ「……ゆまはなんで契約したんだっけ」


 そう聞くと、杏子は少し苦い顔をした。


杏子「……織莉子がそそのかした」

キリカ「あ……」

杏子「許しちゃいないが、多分本人も懲りてるだろうからこれ以上責める気はない」

杏子「魔女にやられそうになったあたしにも責任はあるんだしな」

杏子「もしあたしが死んでたら結局どうあってもゆまは契約してただろ」


キリカ(杏子を“助ける”のが願い……か)


 でも多分それ、そんな状況になったのには私だって少なからず関わっている。

 ゆまが顔を上げてこちらを見るのと同時に、思わず私は慌てて顔を逸らした。


キリカ「なんか……さ、ちょっとだけ変な話してもいい?」

杏子「変な話?」


キリカ「あれからさ、学校にも行ってるし一応みんなとも話せてるし、割と普通に過ごせてるとは思うんだよ」

キリカ「なのになんか、やっぱり前みたいに“普通”になれなくて」

キリカ「……さやかが言うには、私はまだ“救われてない”んじゃないかって」

キリカ「出来るだけ普通に過ごそうと思いながら、そんなことを……延々と考えてたら……」

キリカ「久しぶりにガッと力を振るいたくなった」

杏子「…………って、契約してないんだろ?」

キリカ「してないよ? でも魔法は使えるんだ」

キリカ「妄想の世界はなんでもありだから」


キリカ「――でもその矛先は、結局自分なんだ」

キリカ「魔法が違う自分同士、魔法の効果は打ち消し合って、格闘術の強さも考えそうな戦略も同じ」

キリカ「自分を、思いっきり傷つけたくなって。傷つけられるのは怖くて戦って、結局傷つけられて」


 ドーナツを一つ食べ終わって、指についた粉砂糖を舐める。

 ……ほんのりと甘い味がした。


キリカ「やっぱりどうしたらいいかわかんないままだし」

キリカ「結局自分を救うどころかそんな夢見て、どうしようもないなって」

キリカ「……ごめん、意味わかんないね」

キリカ「言葉で説明できるほど心の中整理されてないし、そういうのって苦手だし」

キリカ「アップルパイもいいねー、私も頼もうかな」

杏子「……まだ頼むのかよ?」

キリカ「それは君には言われたくないんだけど!?」

杏子「夢の中で身体動かしたってカロリーは消費されないぜ」

キリカ「痛いところを突くなぁ……でも君からそういう話題聞くと思わなかった……」


 ……笑ってごまかして話題変えたつもりだったのに、杏子はまだ真剣な表情をしている。

 ゆまはさっきから、じっと私の方を見ているままだった。


ゆま「…………」

キリカ「さっきから変な話ばっかりでつまらなくてごめんね」

キリカ「食べたらもっと楽しそうなとこ行く?」

杏子「マミたちにもそろそろ会いに行きたい。今どこに居るって?」

キリカ「あ……そういえばまだ連絡取ってなかったや」


 まだ魔女狩りの最中かもしれない。

 ひとまずメールを送って、追加注文のアップルパイを食べながら待っていた。


杏子「他はもういいか? ゆまは?」

ゆま「うん! 食べたらちょっとねむくなってきちゃった」


キリカ(……杏子と会う前にケーキも食べてるし、今日はいっぱい食べてるな)

キリカ(お腹の張った感じがする)


 ちょっと前までケーキ一かけらくらいしか食べられなかった時よりはマシになってるんだろうか。


キリカ「……あ、返事来たよ。公園で待ってるって」

杏子「公園? どこのだ?」

キリカ「あの……西のほうにある大きい噴水のあるとこ」

杏子「あぁ、わかった。じゃあ行ってくるか」


 杏子がゆまの手を引いて席を立つ。


杏子「あんたは帰るか?」

キリカ「私は……」

キリカ「…………そこまではついてくよ。このまま寝たら豚になる」

杏子「……わかった。じゃあ行くか」


 ドーナツ屋を後にして、賑やかな駅前から住宅街のほうへと歩きはじめる。

 空を見ると、少しずつ日が傾き始めていた。



1自由安価
2杏子はこれからこっちに居るの?

 下2レス

2+公園でゆまが眠たそうなら前みたいに膝枕する


キリカ「杏子はこれからこっちに居るの?」

杏子「まあ大体はな。かといって風見野の縄張りを明け渡すつもりもないが」

杏子「一つの街にばっかり何人も魔法少女が集まるのは、あんまり良いことじゃないだろ」

キリカ「それもそうか……」


 そういうところしっかりと考えてるのが杏子らしい。

 マミもこの前のことがあってからスタンスが変わったのかな。


マミ「佐倉さん!」


 公園に入ると、マミがこっちに気づいて手を振る。

 杏子が返事をして、それからゆまへ、私へと視線が移る。


マミ「呉さんも一緒だったのね」

キリカ「うんと、まあ、なんとなく……豚にはなりたくないし」

マミ「豚?」

キリカ「あぁっ、いや! そっちはどうだい、戦果は」

ほむら「魔女を見つけるのに苦労してたところです……」

ほむら「居るのはわかってるのに、ちゃんとメモしておけばよかった」


 そんなことを少し話してから、ほむらがゆまの前まで寄っていった。

ほむら「……こんにちは」

ゆま「こんにちわ!」

ほむら「私のことは……覚えてないんだっけ?」

ゆま「え?」

ほむら「私、暁美ほむらっていいます」

ほむら「おうちが離れたらもうあんまり話すことないのかもしれないけど、よろしくね」

ゆま「うん……」

ゆま「……あ。ゆまは千歳ゆまだよ」


 ほむらの手とゆまの小さい手が触れ合う。

 ほむらのこういう落ち着いた顔、すごく久しぶりに見た気がする。

 ほむらがゆまたちと一緒に戦ってた世界でも、こんなふうに穏やかに話したことはなかったんだろうな。


 ――私たちが邪魔をしたから。


まどか「わたしは鹿目まどかっていうの。よろしくね」


 続いてまどかも同じように手を握る。

 二人は完全にこれが初対面らしい。


 ……そんな微笑ましい自己紹介を、マミは少し離れたところから見ていた。

 マミの肩を叩いて、小声で話す。


キリカ「マミは話さないの?」

マミ「私はいいや」

マミ「もうゆまちゃんはこっちの世界の人じゃない」

マミ「敵じゃないってことがわかってもらえれば十分よ」


 ……その気持ちは多分、私ならわかる。

 自己紹介が終わると、杏子がこちらに――マミの前まで歩いてくる。


杏子「そんで……本題なんだけどさ」

杏子「ゆまをみんなに合わせたかったっていうのもあるが、あたしがマミに頼みごとがあってきたんだ」

マミ「……え、ええ。どうしたの、そんなにあらたまって」

会わせたかった、の間違い?

>>85【訂正】合わせたかった→会わせたかった
結構発生頻度の高い変換間違いね
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 そして、頭を下げた。


杏子「あたしにまた訓練をしてくれないか?」

杏子「あたしが放棄した魔法も……また一から鍛え直してほしい」

杏子「目標は、とりあえず1対1でマミを負かせるくらいになることだ」

マミ「……それはいいけど、最初から師匠に下剋上するのが目標なのはどうなの?」

杏子「じゃないとまたなんかあったときに、あんたを連れ戻してやれないだろ」

マミ「なっ……もうないわよ! なんかって!」

杏子「わかんないぞ、それは。 結局みんな弱いもんだろ?」

杏子「けどもう何があったってあんなのはごめんだ」

杏子「こんだけ仲間もいるんだしさ、誰かがヘコんだり間違ったりしても誰かが連れ戻してやればいい」

杏子「なーんか今クサいこと言ったなあたし! そういうのガラじゃないってのに」


 佐倉さんがまた耳を赤くしてそっぽを向く。

 ……マミが嬉しそうにふっと笑った。


マミ「じゃあキツい訓練になるから覚悟しておいてね?」

マミ「私を超すくらいなんですもの。頑張ってもらわないと」

杏子「ふん、いつまでもふんぞり返ってんじゃないぞ」

杏子「アンタを余裕で超したら、次はあたしがアンタの師匠になってやるんだからな」


マミ「……! ええ、ええ! 望むところよ」

マミ「やれるものなら、私なんてさっさと超えちゃったらいいわ…… きっとその日だって遠くはないわよ」


 笑ってるんだか泣いてるんだかわかんないマミを杏子がなだめている。

 ……私たちはそれをぽつんと眺めていた。


ほむら「なんであの二人、拗れたんでしょうね」

まどか「本当、ケンカしてたのが嘘みたい」

キリカ「……色んなことを気にしすぎだったんだよ、二人とも」

マミ「じゃあさっそく、訓練にする? それとも魔女狩りの続きにしましょうか?」

杏子「居るってわかってる魔女がいるなら、それを優先しても……」


 杏子を加えて、そろそろ活動を再開する雰囲気になる。

 そろそろ私はお別れかな。

 ……そう思ったところで、ゆまが口を開いた。


ゆま「…………ねえ」

ゆま「ゆま、やっぱりキョーコとはなれたくない」


杏子「は? 急に何言ってるんだよ」

ゆま「キョーコだけじゃなくて……こんなにいっぱいのお友達もはじめてだから」

ゆま「みんな、“魔法少女”なんだよね?」

ゆま「ゆまも強ければいっしょにいられる!?」

杏子「いや、話しただろ!? 魔法少女なんかなったっていいことねえよ!」

杏子「普通におじいちゃんとか親戚の家で暮らせよ、な?」

杏子「そうすりゃ幸せになれるんだって」

ゆま「でもやだ! キョーコといっしょのほうがいい!」

杏子「あたしについてきたら、盗み食いと忍び込みの碌でもねえ生活が待ってるぞ……」

ゆま「でも……キョーコはゆまをたすけてくれたもん!」

ゆま「それに……それに……」


 珍しくゆまがわがままを言っている。

 ……杏子はたじろいだ様子だった。


 噴水の後ろから、小動物の姿が現れる。


QB「ちょっといいかい。みんなの自己紹介が済んだところで、ボクもとりあえず自己紹介をしておこうか」

QB「ボクはキュゥべえ。魔法少女の契約を結ぶ使者だ」

ゆま「ぬいぐるみさん……きゅーべー……」

杏子「てめえ……」

QB「もうボクのことも聞いているのかな?」

ゆま「……キョーコから聞いた。きゅーべーのこと、キョーコがすごくきらってる」

杏子「ああ、そうだ。みんなこいつと契約して後悔してるからだ」

杏子「だから、わざわざそんな願いで契約すんなよ。ぜってー後悔するぞ」

ゆま「『そんな願い』じゃないもん……」

ゆま「みんなといっしょにいたいっていうのも、なにかあったら助けたいっていうのも、ゆまにとっては大事なことだもん」

杏子「おい、いい加減に……」

ゆま「それとも、ゆまは『役立たず』だからいらないの……?」


 やっと家のことをなんとかして、先手を打たれることは避けられた。

 ……怒鳴ることは簡単だ。けどそれだけじゃきっと納得はしない。



1自由安価
2キュゥべえに対して「あっちいって」

 下2レス

ゆまにおじいちゃんとおばあちゃんが居ないか、ひどいことをされたのを知ってるのか聞いてみる

ゆまちゃんはおじいちゃんとおばあちゃんは居ないの?
それともママみたいにゆまちゃんのことをいじめたりひどい事をしたの?
そうでないなら、まずはおじいちゃんとおばあちゃんのところに行くのがいいと思うよ

おじいちゃんとおばあちゃんもゆまちゃんがママにひどい事ををされてるのを知らないんだと思う
このままゆまちゃんが契約したらどうして連絡をしてくれなかったのか、役に立てなかったのかってとても…とても悲しむと思うよ?
ゆまちゃんがさっき杏子を『守りたい』て言ったけど、おじいちゃんたちもゆまちゃんのことを『守りたい』って思ってるはずだよ

だからゆまちゃん、契約なんてしないでまずはおじいちゃんたちに連絡して迎えに来てもらおうよ?
ゆまちゃんが頼ってくれれば、おじいちゃんたちもきっと喜んでくれると思うよ
そうすればゆまちゃんは『役立たず』なんかじゃないんだからね?

----------------------
ここまで
次回は3日(月)20時くらいからの予定です


QB「そんなことはないよ」

QB「ゆまには魔法少女の素質がある。みんなの『役に立てる』素質を持っているんだよ」

ゆま「ほんと?」

QB「本当だよ」

ゆま「だったらゆまも、みんなといっしょがいいよ!」


 キュゥべえは相変わらず無表情で、

 しかし諭すような口調でゆまに語りかけている。


 ……前の時は素直に喜んでくれたのに今はこう言うのは、やっぱり繰り返した世界があったからなんだろうか。

 杏子とずっと一緒にいた時のゆまのことは私はほとんど知らないし、前の世界であれからどうなったかも知らないけど……


キリカ「その、これから引き取られるところって、ゆまも知ってる人たちなんだよね?」

キリカ「おじいちゃんとかおばあちゃんとかが居るなら、その人たちはゆまをいじめたりしたの?」

ゆま「ううん、でも、あんまり話したことないから……」

キリカ「それで不安なのはわかるけど……でも、きっとゆまのこと大切にしてくれるのは私たちだけじゃないよ」


キリカ「おじいちゃんとおばあちゃんも、ゆまがママにひどい事をされてるのを知らないんだと思う」

キリカ「このままゆまが契約したら、どうして連絡をしてくれなかったのか、役に立てなかったのかってとても……とても悲しむと思うよ?」

キリカ「ゆまがさっき杏子を『守りたい』て言ったけど、おじいちゃんたちもゆまのことを『守りたい』って思ってるはずだよ」

ほむら「ゆまちゃん、私たちはみんなゆまちゃんが役に立つかなんて気にしてないから……」

ゆま「でも……」

杏子「なっ、泣くな泣くな! 永遠の別れってわけでもないだろ」

キリカ「ていうか私だって今全然役立ててないよ、契約もしてないし……」

キリカ「……ちょっとの間離ればなれになるだけだよ」

キリカ「杏子とゆまには絆があって、それだけで杏子は安心してるんでしょ?」

キリカ「だったら、ゆまは役立たずなんかじゃないよ」


 ……それから、ひとしきり泣くゆまをみんなで慰めた。

 ゆまをみんなで送っていったら、私もそこで解散になる。


 別れ際、ゆまがその小さな両手で杏子の手を握って言った。


ゆま「……でもね、キョーコ」

ゆま「ゆまは後悔してないよ」

杏子「……は?」

ゆま「今までのこと、いっぱいありがとう」

ゆま「ゆまのこと助けてくれて、あったかいこといっぱい教えてくれて」


 杏子が目を見開く。

 ……それから、目線を合わせるように屈んで、もう片方の手で上から包み込むようにぎゅっと握り返した。


杏子「ああ」


 その光景を私は少し後ろで眺めていた。

 少しぼんやりとしていると、いつのまにかゆまは私のほうにも来ていた。


 杏子の時みたいに何かを言うでもなく、小さな手が私の指先を握っている。

 ……少し寂しいけれど、私たちの別れはもうあの時ちゃんと済んでいる。


キリカ「……どうしたの?」

ゆま「なんだか辛そうにしてたから」

キリカ「!」

ゆま「ゆまには治せないけど、げんきになってね」

ゆま「またね、キリカ」

キリカ「………… うん」


ゆま「みんなも! ありがとう!」

まどか「うん、また会おうね」

ほむら「また会ったら、その時はみんなで遊びに行こう」


 また口々に別れの言葉を言うみんなとゆまの様子を眺めながら、

 なにか違和感を感じていた。

キリカ(…………あれ?)

キリカ(そういえば私もゆまに自己紹介してない)


 ……それの正体に気づいたのは、ゆまを見送ってからだった。


マミ「……それじゃ、パトロール行きましょうか」

杏子「で、ほむらが前戦ったやつってどんな魔女だ?」

ほむら「えっと……」

キリカ「あ、じゃあ私はここで……」

マミ「送っていかなくて大丈夫?」

まどか「そういえば用事ってもう終わったんですか?」

キリカ「あー、えっと……」

キリカ「……うん。用事はもう終わったよ」



1送っていってもらう
2送ってもらうのは断る
3自由安価

 下2レス


マミ「そう、よかった。なら行きましょうか」

キリカ「うん……」

杏子「ついでに魔女とも会えないかなー」

ほむら「まずは安全に送るのが第一ですよ」

ほむら「まあ、途中で会ったとしても負けないとは思いますけど……」


 みんなで私の家に向かって歩きはじめる。

 空は夕焼けから少しずつ暗くなっていく。


杏子「もっとちゃんと話してこなくてよかったのかよ」

キリカ「え?」

杏子「……言っておくけど、あんたのこと、あたしは話してないからな」

キリカ「…………いいよ。私たちのお別れはもう済んでるから」

キリカ「もし次会ったら、話してみようかな」

杏子「……そうか」


 ……家が見えてくる。

 用事なんて意味のない嘘をついて。

 結局私は、今は何もできないままだ。


マミ「それじゃあ私たちはパトロールに行ってくるわね」

キリカ「うん、頑張ってね……」


―――

―――


ゆま「…………」

QB「ゆま、あの場では契約はしなかったけれど、契約したくなったらいつでも言ってくれ」

ゆま「……きゅーべー」

QB「さっきも言ったけれど、ゆまは『役に立てる』力を持っている」

QB「これから一か月後……遠くない未来にこの街に大きな危機が迫っている」

ゆま「“きき”?」

QB「うん、ワルプルギスの夜っていう、とても大きな魔女だ」

QB「みんな戦う気でいるみたいだけど、勝てるかどうかはわからないよ」

ゆま「……!」


QB「力になってあげたいとは、思わないかい?」


―――

---------------------------
ここまで
次回は7日(金)20時くらいからの予定です

―――


 ……またインターホンが鳴る。

 チャイムとともに声が聞こえてくるのが知り合いが来た合図。


マミ「美国さーん!」

ほむら「織莉子さん!」

杏子「メシたかりにきたぞ!」

「にゃー」


 けど、なんだか多くないかしら?


織莉子「……いらっしゃい。今日は賑やかね」

マミ「賑やかなほうがいいと思って、せっかくだから佐倉さんも連れてきちゃった」

織莉子「たかりに来たって聞こえた気がしたのだけど」

杏子「マミが良い飯と宿を用意してくれるって言ったからついてきた」

織莉子「うちをなんだと思ってるの……」


織莉子(……困ったわね)

織莉子(初めから四人分……それも大食いの杏子が来るとわかっていれば食材もたくさん用意したのだけど)

織莉子(普段は一人だし、腐らせたくないからそこまで買い置きはしていないのよね)

織莉子(そろそろお店も閉まる時間)


織莉子「……」

マミ「えっ、怒った!? そこまで怒ることないじゃない!?」

杏子「そうだぞ、あんたとあたしの仲じゃないか!」

マミ「佐倉さん、その発言はある方面に誤解を生むわよ。あとこの場面ではあなたはちょっと黙ってたほうがいいと思うの」

ほむら「ほら、エイミーでも触って落ち着きましょう!さらさらのふわふわですよ!」

エイミー「にゃー」


 みんなが何故か焦っているのではっとする。私ってそんなに怖い顔してたのかしら。

 とりあえず、事前に連絡をくれなかったマミには注意しておくとしましょう。


織莉子「……予定が狂ったわ。うちにそんなに食材があると思う?」

杏子「えっ……それってつまり」

織莉子「悪いわね、杏子。 私の予定していた料理は三人用よ」

杏子「!!」


杏子「この中で一人食えない人がいるってことか!?」

杏子「あ、ほむらなら普段から小食だよな!」

ほむら「なんで真っ先に私なんですか、予定に含まれてなかったのはどう考えても佐倉さんなのに」

杏子「誘ったのはマミだ……あたしは飯が食えるって聞いて来たのにこれじゃ話が違う」

エイミー「ふにゃー」

ほむら「猫缶なら多めに用意してますよ……」

マミ「こ、ここは平等にじゃんけんで……」


 分け合うという発想はなかったのかしら……?


織莉子「その代わり今日は少し前から気になっていたものがあるので、付き合ってもらいます」

杏子「えっ」

織莉子「多分杏子のほうが詳しいだろうから、頼りにしているわよ」

杏子「お、おう」

織莉子「……でもマミ、今度からはこういう時は事前に連絡頂戴ね」

織莉子「もう予知の魔法もないのだから」

マミ「は、はーい」



 ……少しみんなで買い物に出て、それから“大きな紙袋”を持って家に戻ってきた。

 がさごそと音を立てて、袋の中から買ってきたものをテーブルの上に並べていく。


杏子「普通にうめえ……けど、あたしの求めてたのと違うー!」

マミ「それで、どうかしら? お味は」

織莉子「思っていたより小さいわね……それにお肉もパンも薄くてパサパサとしているわ」

織莉子「味付けも大味で、濃いわりに深みが無い」

マミ「普通においしいって思う私はやっぱり庶民なのね……もぐもぐ」

織莉子「……そんなことはないわ。私の知るハンバーガーとは別物だけれど、これはこれで良さもわかる気がする」


 紙の包装の中身にかぶりついて、長細くカットされたポテトに手を伸ばす。

 こんなに手づかみで色々と食べることも今までそうそうなかった。


織莉子「よく街で見かけるから気になっていたのよ。貴重な体験が出来てうれしいわ」

ほむら「その気持ちは私も少しわかりますけどね……」

ほむら「病院では絶対に出ないし、不健康なイメージからか、あまり親に食べさせてもらった記憶もありません」


織莉子「なんだかおもしろいものも手に入ったし」


『ジャジャーン!』


マミ「……それ、気に入った?」

ほむら「この部屋ではめちゃくちゃ浮いてますけどね……」

織莉子「ふふふ」


 今までそれが普通になりすぎて考えようともしなかったけれど、この綺麗にまとまった内装がまた私の心に隙を与えなかったのだ。

 おもちゃや子供の欲しがりそうなものなんて、今まで欲しいと思った記憶がなかった。

 馬鹿げたものの一つでも置いてあれば鬱々とした気持ちも少しは晴れるかもしれない。



1自由安価
2興味津々でこっちを見ているエイミーについて

 下2レス


エイミー「(ФωФ)…」

織莉子「……さっきから見てるわね」

ほむら「エイミーですか? ……変わった匂いがするから気になるのかな」


 ……ポテトの塩分で塩辛くなった口内を潤すためにストローを吸う。

 すると、ストローについた黄色い四角頭がさっきとは違う言葉を発した。


『オーイシー!』

エイミー「Σ(◎ω◎;)!」

ほむら「そんなに驚かなくても……」

杏子「猫って意外と繊細だからな。結構変なことで驚くことあるぞ」

ほむら「飼ってたことあったんですか?」

杏子「野良猫の面倒くらいならな」

織莉子「エイミーももとは野良だったんだっけ」


織莉子「今度は出前を頼むというのも試してみたいわね」

織莉子「うどんとかラーメンとかピザとか……岡持ちだったかしら?」

織莉子「あれに入れて運んできて玄関ま前で『ヘイ、お待ち!』とか言って渡してくれるのよね?」

杏子「出前か。それはあたしらの中に詳しい奴いるのか?」

ほむら「便利そうだけど、微妙に貧乏人には敷居が高く感じますね……」

ほむら「というかあまり電話で頼むのも勇気がなくて」

織莉子「あら、そうなの?」

織莉子「……まぁ、頼んでもこの家だと知ったら断られそうだけどね」

マミ「私や暁美さんの家ならそんなこともないでしょう」

マミ「試したいなら泊まりに来てもいいのよ?」

織莉子「……考えておくわ」

織莉子「でもその前に、明日は食材を買い足して料理しましょう」

織莉子「じゃないと今度は食材が余ってしまうわ」

杏子「それはいけないな! じゃあ明日こそは楽しみにしてるぜ」


 ……いつからうちはこんなに賑やかになったのかしら。

 人を陥れる作戦を考えながら閉鎖的に暮らしている時より、ずっと居心地は良かった。


 ――でも、今が幸せだと思うほどそれが怖く感じてしまう。


マミ「そうだ、水筒返すわね。学校帰りに直で来たから、まだ洗ってなくて悪いけど……」

織莉子「構わない。今洗うわ」


 紙袋やら包装やらをまとめるだけで後片付けは終わり。

 エイミーはいつのまにか椅子の上で丸まっていた。その隣にほむらと杏子がくつろいでいる。


織莉子「それで、どうだった?」

マミ「昼食の時にみんなでいただいたの」

マミ「眠気解消にはよかったわ。わざわざありがとうね」


 ……『みんなで』という言葉に、昼食の風景を思い浮かべてみた。

 杏子とまだ転入してないほむら以外は同じ学校。学校でもみんな一緒なのかしら?


織莉子「……みんなの評判は? こういうの、得意じゃない人もいるでしょう」

マミ「呉さんのこと?」

杏子「あー、そういや今日そんな話したな。それでか」


織莉子「そうね……あの子は」


 ふとあの無邪気な姿を思い出した。『なにこれにが~い!』だったかしら。目に涙まで浮かべて。

 オーバーすぎるほどのちょっとおかしな感情表現は、見ているのが楽しくなった。

 あの時はそれが唯一つ心の癒しになっていた。


織莉子「お昼は一緒に食べているの?」

マミ「ええ。前からそうよ?」

マミ「まだ本調子とはいかなくても、今みたいにみんなで楽しそうに話してる時はあるわ」


 ……一番近くで、唯一人自分を肯定してくれた存在。

 けど、今はそれに縋るわけにはいかない。その代わりに、みんなが居てくれるのなら…………


織莉子(……代わり? 私はみんなをそんなふうに見ていたの?)

織莉子(…………違うわ。いけないわね、そんなんじゃ。みんな、私なんかにも優しくしてくれる大切な友達なのに)


織莉子「……まどかとさやかは?」

マミ「最近、この世界に来てからは一緒ね」

マミ「そうそう、昨日はもう一人いたの」

マミ「その子には好評だったわよ。もしかしたら、美国さんとも話が合うんじゃないかしら?」

織莉子「意外と大人数なのね……でももう一人って、ただの学校のお友達?」

マミ「まあ、そうなるけど。今度お茶会にどうかって言われてるのよ。その時に一緒に来ない?」

織莉子「お茶会……ねえ」

杏子「いいじゃん、行ってくれば?」

杏子「マミや織莉子と話が合う奴だろ? あたしはあんまりお上品とか堅苦しいのはパスだからさ」

杏子「あとあたしもハーブティは苦手だ」


 ……誘ってもないのに断わられるのはどうなのかしら。


マミ「一人にはさせないわよ? あなたのことも、呉さんのことも」

マミ「私も含めてみんなね! だってやっぱり一人は寂しいじゃない」

織莉子「……日程が決まったら教えて頂戴。 考えておくわ」

織莉子「今日はありがとう。来てくれて」

マミ「ええ」

杏子「……あたしは飯と宿をたかりにきただけだ。礼を言われることなんてしてねえよ」

織莉子「ええ、それでもいいの」


 エイミーと一緒に眠りかけているほむらを起こして、広く布団を敷く。

 ……たまにはこんなふうに適当に寝るのも悪くない。



―19日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

-----------------------
ここまで 主人公が空気
次回は8日(土)18時くらいからの予定です

-----------------------------------
ステータスはそれぞれ一番レベルが高いだろう周回から取って統合しています。
キリカの場合1,2周はなしとして、3:[魔力Lv3][格闘Lv5]、4(序盤で遡行):[魔力Lv1][格闘Lv1]、5:[魔力Lv2][格闘Lv3]くらいのイメージ。

格闘Lvは近接への苦手意識もなく、長い事マミと杏子から訓練を受けてた三周目が一番高い。
同じくまどかの魔力コントロール・射撃も一~三周目のもの

―20日 美国邸



 ……起きてみれば、隣りに静かに寝息を立てているマミとほむら。

 あおむけで深く寝入ってそうな杏子。丸まっているエイミー。

 こんなふうに囲まれているのも、『一人にさせない』というマミの意思なのだろうか。


織莉子(……杏子は深く寝てるようで意外と起きやすいのよね。野生の勘かしら)

織莉子(慎重に動かないと)


 みんなを起こさないように、抜き足差し足、忍者のようにソロソロと動き出す。

 早いところ朝の支度をして、朝食でも用意しておいてあげましょう。


 ――そう思った、矢先。


織莉子(っ―――!!!)


 慣れない動きをしていたせいだろうか。

 布団の隙間に足を引っ掛けてバランスを崩しそうになる。


 目の前には横向きに身体を向けてすやすやと寝ているマミ。


 布団がボフッと音を立てる。

 ……なんとかそこに倒れ込むことは回避した。


織莉子(後はゆっくりと身体を起こせば……)

杏子「ふあ~……」

織莉子(!?)


 寝ぼけた目をこすってる様子が見えるような、そんな眠そうな声だった。

 起こしてしまったかしら……ただ寝ぼけているだけならいいんだけど。


杏子「あれ?」

織莉子「……」

杏子「うわ、織莉子の奴すげー格好で寝てやんの……意外だな」


織莉子(……寝てないけれど、動くに動けなくなったわ)


 なんとか圧し掛かることは回避したものの、私の身体はマミが寝ている上にある。

 変な格好のまま体重を支えている足が震えてきた。でもさすがにこれ以上体重をかけるわけには……


マミ「ん……?」

マミ「…………いちご?」


織莉子(!)


杏子「マミも起きたか」

マミ「一瞬、佐倉さんかと思ったわ……消去法的に。でも、この髪色はもしかして」

杏子「あたしじゃねえよ。というか尻といちごであたしと思うなよ」

マミ「別に下着を見て言ったわけじゃないんだけど……」

杏子「それにしてもすごい体勢で寝てるよな。マミ、苦しくないのかよ」

マミ「……これ、寝てないわよ」

杏子「えっ」


織莉子「…………」

マミ「…………」

杏子「…………」

ほむら「……zzz」


 とても微妙な沈黙と膠着状態。

 ……とりあえず、バレたのなら倒れた拍子に脱げたズボンだけでも早く直しましょう。

織莉子「……」ササッ

マミ「お、おはよう」

織莉子「…………」



ほむら「朝からこんなに豪華な食事、ホテルみたいです!」

織莉子「それはどうも。家だと自炊はしてないんだったかしら」

ほむら「はい、簡単なもので済ませたり、あとは…… ここ数か月はあまり食欲がなかったのであんまり……」

織莉子「そう……」


 あれからすぐに二度寝してしまった杏子も、食事が出来たと言ったとたんにすくっと起きてきた。

 今のところはなんともなかったような雰囲気になっている。……とりあえずほむらは幸せそうなので良しとしましょうか。


杏子「さすがに豪華だな! 後はこれで いちご でもデザートについてれば最高なんだが」

織莉子「」ピクッ

マミ「こら、佐倉さん…… それどういう意味?」

マミ「それも捉え方によってはある方面に誤解を生むわよ……」

ほむら「そうですよ、図々しいですよ」

エイミー「にゃー」


織莉子(見える部分でもないし、気を抜きすぎていたかしら……このままでは二人の中で『いちごの人』にされてしまうわ)

織莉子(冬用のはむしろおばさんって言われそうね。せめて、白にしておけば)


 ……でも、マミの度々言う『ある方面』って、なんなのかしら。



1自由安価
2二人はまだうちにいるの?

 下2レス


 食事が終わると、マミは出かける準備を始めた。

 ……そうだ、そろそろ学校に行く時間だ。


織莉子「二人はまだうちにいるの?」

杏子「ま、特にやることもないからな」

ほむら「私も居ていいなら。エイミーも大分慣れてきたみたいですし」

織莉子「そう」


 またこの賑やかさがなくなるのが寂しかった。

 この家は、一人には大きすぎる。


織莉子「あ、そうだ。マミ、今日も――」

杏子「そういえばマミ、さっきなんで尻と『いちご』であたしだと思ったんだよ?」

織莉子「!?」

マミ「だから、それで言ったんじゃないってば……」

マミ「……まあ、『いちご』じゃなければ佐倉さんとは思わなかったかもしれないけどね」

杏子「決めつけとはひどいな」

織莉子(…………)

杏子「あと……『いちご』はともかくあたしのはあんまり立派じゃないぞ」


織莉子(……ってなんの話をしてるのよ!?)

織莉子(せめて『いちご』で止まってほしいわ……)


マミ「そう? そこまで違いがあるかしら?」

杏子「……あたしじゃバランスがお前らとは絶対違う」

マミ「美国さんだって十分細いと思うけど」


織莉子(これはもしかして褒められてるのかしら? 嬉しくはないわね……)


マミ「……でも、佐倉さん昔家に泊まったとき『いちご』柄の履いてたでしょ? 洗濯するとき見たから」

杏子「それ昔の話だろ」


織莉子(仲間!? ……いや、昔って)

織莉子(というか、いくらキッチンに居るからってばっちり聞こえてるわよ!?)

織莉子(さすがに本人が戻ってくれば話も収まるでしょう……)


マミ「あ、美国さん。貸してくれた服ここに置いておくわね」

織莉子「え、ええ」

織莉子「え、えっと……ところで、今日もおすすめの」


 ……マミは割と恥ずかしげもなく着替えていた。

 そろそろあのくらい大胆なのにしたほうがいいのかしら。


ほむら「みなさん、さっきから何の話してるんですか?『いちご』って何のことですか?」

織莉子「!」


マミ「朝のハプニングというのかしらね。久しぶりに美国さんの『隙』が見られたのは嬉しいわね」

杏子「ん、ああ、それは織莉子の――――」


織莉子(うふうふ笑ってるマミがなんだか怖いわ)

織莉子(とりあえずこの話をなんとかして収めるわよ!)


織莉子「そ、そう! 『いちご』のフルーツハーブティがおすすめなの!」

ほむら「いちごの……フルーツハーブティですか?」

織莉子「むくみに効果あって……」

マミ「別に私、むくんではないわよ?」

織莉子「そう? まあいいじゃない、予防にはなるし」

織莉子「これだったらあの子でも飲みやすいでしょう……」

杏子「あ、またあたしらを子ども扱いしてるな」


 ……こそっと杏子が近づいてくる。


杏子「……おすすめの店でも聞いてきてもらうか? あいつはそこそこお洒落だぞ」

織莉子「」ビクッ


ほむら「?」


織莉子(見えないところのオシャレ……これからは気を配らないと)



ほむら「美味しいですね、いちごのフルーツハーブティ」

杏子「そうだなぁ、さすが織莉子だ」

杏子「……『いちご』になんか特別な思い入れでもあるのか?」

織莉子「ど、どーかしらね……」


 マミが学校に行ってから、マミに持っていかせた残りのフルーツハーブティをみんなで飲んでいた。

 ……一見して落ち着いた午前の風景だけれど、これで私の『いちごの人』という印象は拭えないものとなってしまった。


織莉子(単なるいちご好きとして捉えてくれたならそのほうがいいのかしら)

織莉子(でも毎回毎回いちご味とか勧められたら耐えられそうにないわ……)


杏子「……ん」

織莉子「ど、どうしたのよ?」

杏子「いや、些細なことなんだけどさ」

杏子「上まで『いちご』ってことはないだろ? 上下合わなくねーかなと思って」

織莉子「」ブッ

ほむら「わぁ、大変!」


 あっちでも飲んでるのよね…… しかも、昼食時にみんなで。

 せめてあっちでは広がらないといいんだけれど。



1自由安価
2……いつキリカのを見たの?
3視点変更

 下2レス


3の視点は可能でしたらキリカで
このままでは主人公の面目が!


織莉子「仕方ないでしょう、上は地味なのしかないのよ!」クワッ

杏子「落ち着け落ち着け、確かにそれはあたしにはわからんけど!」

杏子「……マミにでも相談したらどうだ? あいつクラスでも駄目なら知らん」

織莉子「それは絶対からかわれるわ……」

杏子「そんならちょっと覚悟決めてさっきのとまとめてキリカにでも……」


 ……さっきみたいに、ぐっと近寄る。


織莉子「……ところで、いつキリカのを見たの?」

杏子「迫りすぎ迫りすぎ! ……ほら、あたし色んなうちに泊めてもらってたじゃん?」

杏子「ちょっと着替えくらい見ることあるだろ…… あ、あんたが頑なに見せなかったのは『いちご』だから」

織莉子「違うわよ!」

ほむら「また何か話してる……お茶が冷めてしまいますよ?」


 ……ほむら。なんて純粋な子なんでしょう。

 どうか貴女にはそのままで居てほしい。


織莉子「…………そうね」

織莉子「何かお菓子持ってくるわ」

杏子「おお!お菓子」


 なんだかんだで、まだまだ賑やかです。

 ……いつか、キリカともまたこうして普通に話せる日がくるのかしら。


―――

―――


キリカ「…………くしゅっ」

キリカ(風邪でも引いたかな……)


 いくら過去に戻って体力が落ちたからって、体調まで崩したくない。

 季節も逆行してるんだ。今日はちょっとあったかくしておこう。


キリカ(…………そろそろ授業が終わる)


 自分の席で授業資料を片づけながら、みんなを待つ。

 すると、なにか嬉しそうな様子でマミがやってきた。


マミ「こんにちは。みんなが揃ったらお昼食べましょうか」

キリカ「……またその水筒。ハーブティ?」

マミ「ええ、『いちご』のね。フルーツハーブティって言ってたかしら」

キリカ「へえ」


キリカ(……フルーツでハーブ?)

マミ「どう? なかなか良い匂いだと思うけど」

キリカ「あ、たしかにお香っぽさは減るね……」

マミ「やっぱりお香って思ってたのね……」


 あ、口を滑らせた……。

 そう思ったところで、二人がやってきた。


まどか「こんにちはー」

さやか「こんちゃっす!」

キリカ「どうしたの、なんか今日はみんなご機嫌そうだね」

さやか「あたしのことはもう言わなくてもわかるでしょ?」

キリカ「……まあ、昨日聞いたからね」


マミ「なにか進展でもあったの?」

さやか「びょ、病室で進展はないかなー……?」

キリカ「まあ、ほかの患者さんもいるよね」

さやか「いやまあ個室なんですけど」

マミ「進展って何を想像したのよ!」

さやか「あははは……」


 マミ、絶対なんか良いことあった時のテンションだこれ!

 ……みんなでお弁当を広げて食べ始めると、マミが例のお茶をみんなに勧めはじめた。


マミ「食事のお供に今日は『いちご』をおすそ分け」

マミ「ちなみに足のむくみにも効果あるらしいわよ。どう、飲んでみる?」

さやか「いちごですか、また可愛らしいですね」

マミ「そうね、可愛らしかったわ」


キリカ(……?)


キリカ「……むくみ解消ってことは、血行促進になるならありがたいかなぁ」

マミ「まあそうね、飲んでおいて損はなさそうよ」

まどか「良い香りしてますね!」


 ふわりと苺の甘い香りが漂う。

 こんなのもあるなら、最初からこっちなら良かったのに。


キリカ(……これもやっぱり織莉子の勧めなのかな?)


 フルーツは食べられるけど、お香は食べられない。

 でも、杏子はオレンジも駄目って言ってたっけ。私たちの味覚もちょっと違うらしい。


キリカ(だとしたら、なんか陰口言ってるみたいになっちゃったな。お茶に対してだけど)

キリカ(……あ、でも、“あの周回”だと『苦い!』ってストレートに言っちゃったっけ)

キリカ(織莉子からしたら、黙って飲んでた時より絶対そっちのほうが印象に残ってる……)

キリカ(…………というか、マミ、結構頻繁に会ってるんだ)


1自由安価
2マミはなんか良いことあったの?

 下2レス


キリカ「マミはなんか良いことあったの?」

マミ「……気になってはいるだろうから、一応報告しておくわよ」

キリカ「え?」

マミ「美国さんは割と元気にやってるわ。やっと『隙』も見られたし」

マミ「あなたもここらで一つ、盛大にぶちまけてみたらどう?」

キリカ「な、なんの話?」

マミ「……『いちご』の話かしら?」


 ほんのり赤く色づいたお茶を見てみる。


キリカ「……これ?」

マミ「本当は『いちご』柄の話なんだけどね」

まどか「えっ、いちご柄?」


 …………マミは何を言いたかったんだろう?

 織莉子のことは気になってないわけじゃない。

 でも、今会ったとして、どうしよう。

-------------------------
ここまで 織莉子はくしゃみが止まらなくなってそう
>>137 え、主人公って織莉子ですよね?

次回は10日(月)20時くらいからの予定です

乙です
マミさん、本当に楽しそうだなぁ
マミさんには今、悪魔の尻尾が生えてそうだw
キリカもいちご柄の事を知ってると思って話をふってるみたいだけど、キリカの反応を見る限り知らなさそうですね

>>149
いやいやいや、主人公は織莉子ではなく『いちごの人』ですよw

もう織莉子は名字を美國から苺に改名すればいいんではなかろうかw


 お互い契約もしてない。目的があるわけでもない。

 踏み込んだ話なんて気まずくなるだけだろうし。雑談?

 ……多分マミは目的なんて気にせずに行ってる。雑談の内容すら悩むなんて。


キリカ「……じゃあ、一応お茶のお礼は伝えておいて。苺のは美味しかったって」

マミ「……いいけど、それはむしろ追い込むことになりそうね」

キリカ「えっ?」

マミ「なんでもないわ、伝えておくわね」


キリカ(追い込む? なんで!?)

キリカ(私そんなに悪い事言ったかな!?)


キリカ「じゃ、じゃああのチェストだっけ? あれもありがとうって」

マミ「わざわざ嘘をつく必要はないんじゃない? 向こうももう知ってるんだから」

キリカ「いや……美味しかったとは言ってないよ? ただまあ、持ってきてくれたことは?」

マミ「じゃあそう伝えておくわ」

キリカ「やめて!やっぱりその話はいい!」


マミ「それに、あれは元々私のために用意してくれたものだし」


 マミはちょっと得意げに言った。

 ……別に、そんなことで嫉妬はしないけど。


マミ「これに関してはあなたのことも考えてたみたいだけどね」

キリカ「じゃあなんでそのお礼が駄目なのっ!?」

キリカ「何気ない一言すら傷つけるっていうなら雑談すら出来ないよ!」

マミ「えっ、えーと」

キリカ「……じゃあもう一生会わない方が良さそうだね」

キリカ「無難な話題無理に絞り出そうとして、馬鹿みたい。こんなんでもし会ったとしたってきっと意味ない」


 マミがわたわたと慌てた様子で、まどか、さやかにと続けてこしょこしょと話してる。

 ……変なこと言ったからマミも呆れてしまったのかもしれない。まどかとさやかも苦笑いしてる。


まどか「……キリカさん、パンツです」


 ……今、なんかまどかからとんでもない言葉が聞こえた気がした。


キリカ「………… は?」

これは誰が悪いんだろうかwwwwww


 ――……まどかの暴露により、色々と考えすぎてたのは全部無駄だったことが発覚した。

 なんていうか……なんだろう。この行き場のないもやもや感は。


キリカ「…………『いちご』に追い込まれてたのか」

マミ「さすがにこんなはっきり一部始終までバラす気はなかったんだけどねえ……」

キリカ「でも今日のマミは意地悪だよ、鬼の首取ったみたいに」

マミ「だって、私目の前だったのよ? 起きたら尻と『いちご』……」


 ……ますます織莉子のことどう見たらいいかわかんなくなりそうだ。


まどか「いやでも、そういうのは個人の自由ですし! 『いちご』ならそこまで引くことでもないですよ……」

さやか「そこまで完璧を求めるのもねえ。 なんたってまどかはくまちゃんだし」

まどか「や、やめてよもうっ、別にそういう意味で言ったわけじゃっ! しかもそれかなり前だよ?」

マミ「……でもそうね、鬼と言ったらなんだけど、そういう感覚なのかもしれないわね」

マミ「だって想像もできないでしょう? 私はむしろあなたは絶対知らないと踏んでたわ」

キリカ「そりゃ堂々と見せるものでも語るものでもないし」

マミ「違うのよ。変な意味じゃなくて、美国さんが見せた隙だったから嬉しいのよ」


 マミはまだにやにやとしている。


マミ「……お礼がしたいならパンツの一枚でも持って行ってあげたら?」

キリカ「……それ悪意しかないよね」


 ……私が呆れる番だった。


キリカ「……そういえば、この話は仁美ちゃんがいなくてよかったね」

さやか「ああ、仁美なら――」

さやか「――あいつのうしろには立たない方がいいですよ?」

キリカ「はい?」

さやか「背後を取られるのは死を意味しますからね……」

キリカ「……順調なの? その計画」

さやか「とりあえず『シーナ様』効果は薄れてきたみたいですからご安心を!」

キリカ「計画が成功してたら、別の部分で安心できなくなるよ……」


 ……昼休みの終わりが近づくと、まどかとさやかは荷物をまとめて下の階に戻った。

 マミもそろそろ自分のクラスに戻る時間だ。


マミ「それじゃ、一応お茶の感想は伝えておくわね」

キリカ「……今日も会うの?」

マミ「……ええ、まあね」


マミ「美国さん、学校に行ってないそうよ」

マミ「学校に行っても一人……でも、家に居ても一人のまま」

キリカ「……同情?」

マミ「いいえ、私たちみんな一人だから。寂しいのよ。それなら一緒に居た方が楽しいから集まってるの」


 踏み込んだ話題なんて気まずくなるだけ。

 でも、本当は無難な雑談がしたいわけでもなかった。


マミ「もう隠してもしょうがないわね。嫉妬した?」

キリカ「しないよ…………多分」

マミ「そう? なにか他に言ってほしいことがあれば伝えるけど?」


1別にないよ
2自由安価

 下2レス


キリカ「別にないよ」

マミ「……そうね。これ以上は、伝えたいことがあったら自分で伝えるのが良いんでしょうね」

キリカ「伝えたいことが思い浮かばないんだ」

マミ「まあ、無理に絞る必要もないわね……」

マミ「午後の授業頑張りましょう」

キリカ「……うん」


 ……マミの気持ちも少しわかった。

 私は学校でも家でも一人じゃない。それはマミや織莉子と決定的に違う部分だ。


キリカ(寂しい……か)


 ……昼休み終了のチャイムが鳴った。

----------------
ここまで
次回は13日(木)20時くらいからの予定です

------------
すみません、遅れましたが今日は更新できなさそうです。
次回は14日(金)20時くらいからの予定です

―――


織莉子「ぐしゅんっ!」

杏子「おー、これで何回目だ?」

ほむら「12回目です」

杏子「よく数えてんな……つーか多っ、風邪でも引いたんじゃないの」

ほむら「風邪ならしょうが湯ですね。でも、織莉子さんのことだからまた変わったお茶を知ってるんでしょうか?」

織莉子「くしゃみに効くのはエルダーフラワー……身体を温めるのはカモミールでどうかしら……」

杏子「……薬みたいな茶ができそうだな」


 朝は色々とあったけれど、お茶を飲んで、昼食を食べて、今日はみんなでずっとごろごろとしてるだけだった。

 こうしていると、同じ部屋なのにまるで前とは違う場所に居るようだ。


ほむら「なんだかここが家みたいです」

織莉子「マミなんて、最近自分の家よりうちにいる時間のほうが多いんじゃないかしら?」

ほむら「みんなで住むなんて想像したら楽しそうですよ」


 ……ふと、玄関のチャイムが鳴る。

 学校が終わる時間にはまだ早い。


杏子「出なくていいのか?」


 少しの間迷ってから、インターホンの映像を確認してみる。


ほむら「もしかして嫌がらせですか……?」

杏子「っしゃ逃がすな、ツラ拝ませろ!」


 杏子が玄関のほうに駆けて行き、

 それに釣られてほむらも様子を見に行くように着いていった。


杏子「…………ゆま?」

ゆま「キョーコ!ホムラ!」


 私はまだ部屋の中で立ち尽くしていた。

 ――私はその姿を知っていた。しかし、実際に会ったのは“2度”だけだ。


杏子「……一人なのか? なんでまだここに居るんだ? 引き取りはどうなった?」

ゆま「みんながここにいるって、キューベーが」

杏子「あいつに案内されたのか?」

ゆま「……ここ、キョーコのおうち? よめなかったけど、壁にヘンなのが書かれてたよ」

杏子「いや、知り合いの家だ」


 契約が取れる算段もないのに、インキュベーターがただの親切心で丁寧に案内なんてするはずもない。

 となると、二つのことが考えられた。

 あいつは既にこの幼い少女を標的とし、契約を交わしている。

 この場に連れてきたのはそれをみんなに知らせるため。……私に動揺を与えるため。


ゆま「ねえ、キョーコ、ほむら!」

ゆま「ゆまも、みんなの仲間になったよ。みんなと“わるぷるぎす”とも戦えるよ!」

ほむら「……! それを聞いて契約したの?」

ほむら「でも、これから離れたところに引っ越すんじゃ……」

ゆま「おじいちゃんとおばあちゃんの家にいくのはもうすこし後になったんだ~」

ゆま「だからだいじょうぶ!ゆまの願いは『みんなをおたすけすること』だから!」


杏子「ったく…………」

杏子「……馬鹿野郎! 二度も誰かのために契約しやがって」

杏子「いいか! ワルプルギスの夜なんてもん元々楽勝なんだよ!」

杏子「ほむらなんか『私一人で全部の魔女を倒せるわ』って言ってたもんな!」

ほむら「い、言ってませんよ……それに勝てるかは……」

杏子「負けるまで戦う気はないだろ?」

ほむら「それはまあ……」

ゆま「勝とうよ! 街のみんながたいへんなんだよね!?」

ゆま「ゆまもがんばる!」

杏子「…………」


 ……廊下の方に様子を見に行ってみる。

 少女は笑顔だった。

 前の世界でも真実にも絶望せずに、笑顔であの希望のない世界を生きていたのだろう。


杏子「……鍛えてやる。これ以上言ったって、契約したもんはしょうがないもんな。その代わり覚悟しておけよ」

ほむら「佐倉さん、ちょっと嬉しそうです」

杏子「……ああ、まずいな」

杏子「本当は喜んでる場合じゃないってのに、ゆまと居られるのはちょっと嬉しい気がするよ」


 少し遅れて、千歳ゆまがこちらに気づいた。


ゆま「……だれ?」

杏子「ほら、こいつがこの家の主だ」

織莉子「…………」



1自由安価
2とりあえず名乗る

 下2レス


織莉子「……はじめまして、と言うべきかしらね」

織莉子「私の名前は……」

杏子「ゆま、お姉さんの名前は『いちご織莉子』っていうんだ」

杏子「美味そうな名前だろ? あだ名は『いちごさん』だ」

杏子「ありったけの愛情と親しみを込めてそう呼んでやるように!」

織莉子「えっ!?」

ゆま「いちごさん?」

織莉子「えっ、いや! 違う違う違う!」

ゆま「いちごさん!」


 慌てて首を横に振る。

 ここはほむらに目線で助けを求めてみる。


ほむら「流行ってるんですか? 苺」

杏子「……辛気臭そうな顔で歯切れ悪そうにしてるのが悪い」

杏子「これで少しはマシな顔になっただろ」

ほむら「なんだかわからないけど、それはなによりですね」

織莉子「納得しないで!」


 ……ひとまず、みんなでマミの帰りを待つことにした。

 これからは千歳ゆまもワルプルギス討伐の一員として戦略を考えていく必要がある。

 でも、それ以前に『仲間』として…………私は上手くやっていけるのだろうか。


織莉子(……けれどもう、私は“戦う”わけじゃない、わね)


 しかし、こうなってくると考えさせられる。

 よりによって私が。今まで散々人を利用してきた人間が、また全部を人任せにしたままで良いのだろうか……?


織莉子(…………千歳ゆまが契約したのは私の責任だ)

織莉子(せめてこの世界でも予知があればこんなことには)


ほむら「織莉子さん、こういう時こそ苺がいいと思います」

織莉子「なっ、なんの話よ!?」

杏子「飲み物だろ? あれだったら飲みやすいから」

織莉子「あっ……そうなのよ、飲み物。でもフルーツハーブティーなら林檎や杏子だってあるわよ」

杏子「あんずだと?『いちごさん』の名折れじゃないか」

織莉子「名折れも何も名前じゃありません!」

織莉子「……ゆまさん、私と杏子どっちがいい?」

ゆま「?」

ゆま「……キョーコがいい」

織莉子「ですって」

杏子「ですってじゃねえよ! 強引過ぎるぞ!ていうか『私』って言っちゃってるけどいいのかよ」

織莉子「『杏子』にしましょう」


織莉子(…………せめてマミが帰ってくるまでは、少しだけ考えないことにしましょう)


 『杏子』を用意して、カップをテーブルに並べる。


杏子「ちゃんとカップの持ち手をしっかり持つんだぞ。熱いからヤケドしないようにな」

ゆま「うん! ふー……ふー……」


 こうして見ていると、杏子はやはり面倒見が良い。お姉ちゃん気質とでも言うのだろうか。

 いつものカップも小さい手や口と比べると大きく見えた。


ゆま「さすが!『キョーコ』おいしいね!」

杏子「そうか、でも『いちご』もうまいぞ」

ゆま「いちご……」

ほむら「気になる?」


 ……一応知らんぷりをして目線を逸らしているのだけど、

 ひしひしとこっちを見ているのが伝わってくる。


1自由安価
2キュゥべえは今どこにいった?
3昨日のおもちゃを見せてみる

 下2レス


織莉子「……ここまで案内した後、キュゥべえって何処に行ったのかしら」

ゆま「わかんない。どこかにいくとか、ゆってなかったよ」

ほむら「逃げたんですかね……」

杏子「ゆまのことは仕方ないが、キュゥべえを許す気はないからな」

杏子「見つけたらパンチ一発くらいは食らわしてやる」

ほむら「そんなこと言うと出てこなくなりますよ」


 ……もし、契約したいと言ったら出てくるのかしら。

 『だって、生きる意味ってそれだけじゃないよ』――そんな言葉がよみがえった。

 でも、それならこの子だって似たようなものだ。


織莉子「……ゆまさんは、ワルプルギスの夜のことを聞いて契約したのよね」

ゆま「うん。みんながあぶないって聞いたから……」

織莉子「そう…… 貴女なら何があっても後悔せずにいられるでしょう」

ゆま「…………オリコも魔法少女?」

織莉子「いいえ。違うわ」

ゆま「でも……オリコは…………」


 千歳ゆまは何かを言おうとする。

 彼女は過去を覚えていない。けれど、きっとすべてを忘れたわけじゃない。

 ゆまの中での“オリコ”は――美国織莉子は、倒すべき敵。“わるいひと”だった。


杏子「……ゆま。“オリコ”じゃない。この人はただの『いちごさん』だ」

織莉子「なによ……それ……」


 ああ、気づけば杏子のせいで、まともに自己紹介すらできていないじゃない。

 けれど、わざわざ“美国”だと苗字を訂正する気にもならなかった。――だからといって、『いちご』も相当不名誉なのだけど。


杏子「おかわりは『いちご』がいいな!」

織莉子「まったく、相変わらず図々しいんだから……わかったわよ、観念するわ」


織莉子(でも杏子には砂糖の代わりに塩でも入れておきましょう)


ほむら「あ、それ塩ですよ!砂糖はもう出てます!」

杏子「またか。織莉子ってたまにドジ多いな。今日は特に」

織莉子「~~~……」


 ……こうなったら、杏子の分のお菓子はなしにしておきましょう。


 時刻は『おやつの時間』を超える。


 ……ゆまにお菓子を多くあげたのだけど、結局みんなで分け合って食べていた。

 その平和な景色を、私は少しだけ離れたところから眺めていた。


「美国さーん!と、みんなー」


 そんな時、今度こそ、チャイムとともにマミの声が聞こえた。


織莉子「私が行ってくるわ」


 ソファから立ち上がって玄関に向かう。


マミ「メール見たけど……」

織莉子「ええ、来ているわよ。訓練や話し合いをするなら、ここからは魔法少女同士でどうするか決めるといいわ」

マミ「ええ。でもその前に、美国さんも話し合いましょうよ」

マミ「我らがリーダーでブレインなんだから」

織莉子「……」


マミ「この部屋良い香りがするわね」

ゆま「いちごさんとキョーコだよ!」

マミ「……え?」

杏子「フルーツハーブティとやらの匂いが混ざったんだろ」


 学校帰りのマミを迎えると、マミはソファの隣に腰掛けた。

 これでこの街の魔法少女は全員揃ったことになる。あの時とはまた少しだけ構成の変わったメンバー。


織莉子「私を抜くこの全員……と、キリカか」

織莉子「あの子は本当に大丈夫なの?」

マミ「……信じましょう」

織莉子「私はもうリーダーぶるなんてできないわ」

織莉子「マミこそいつもみたいに先輩らしくチームを引っ張っていったら?」

マミ「私ももう先輩ぶるのはやめにしたの」


織莉子「……新しいチームだもの。自然と新しいリーダーが出来るものよ」

ほむら「何を話してるんですか?」

織莉子「駄目な年上たちより貴女の方がよほど頼りになりそうかなって話よ」

ほむら「えっ?」

杏子「折角揃ったんだから、この先どうするかって話だろ?」

ほむら「あ……はい。そうでした」

ほむら「でもまず、前の時ともし願いが違うなら、魔法とか確かめないと……」

ゆま「ゆまの魔法は『治癒魔法』だよ?」

ゆま「いっぱい治せるようになったの!」

杏子「『いっぱい治す』?」

ゆま「うん! 光がとどくところならみんな治せるよ!」


杏子(光ってのは魔力だな。さやかの魔方陣や結界みたいなやつか……?)


 恐らく、願いの対象が広がったことや得られた結果が変わったことが影響しているのだろう。

 効果の違いも調べないといけない。


ほむら「折角ワルプルギスの夜のために契約したんだから、やっぱり勝ちたいよね」

ほむら「私も……今度こそみんなで勝ちたいな」

織莉子「前にも言ったけれど、前回の勝因は、上手い事私たちの力が噛み合っていたことだと思うのよ」

織莉子「私の予知とほむらの時間操作を合わせて回避率を大幅に上げる」

織莉子「そうしてまどかの高威力な攻撃を当てる機会を増やす」

織莉子「威力だけじゃなくて、まどかは回復の苦手な私やほむらの欠点をカバーできたのも大きかったわ」

織莉子「そう考えると……力のバランスとしては、回復の得意な人が増えたのは良いと思うのよね」

ほむら「範囲が広がったのは、むしろ街を駆け回って戦うワルプルギスの夜相手には役立つかもしれませんね」

杏子「残る問題は火力だけだな」

杏子「結局それがないと駄目なんだろ? 小手先で勝てる相手じゃないってことだ」

杏子「まあ、その辺はあたしやマミが得意だけどな」



1自由安価
2ゆまの素質について
3『連携必殺技』について
4杏子の魔法について

 下2レス

-----------------
ここまで
次回は15日(土)18時くらいからの予定です


杏子「ところで、ゆまの素質は変わってないん……だよな?」

織莉子「まどかはゆまを知らなかった。繰り返す中でも因果の糸に巻き込まれたとは思えない」

織莉子「今までの素質の拡大の仕方には当てはまらないわ」

杏子「それもそうか」

織莉子「……でも、何かの影響があってもおかしくはない」

織莉子「この世界が作られた時の素質の増減の法則はまだわからないんだから」


 ……杏子は少しの間考え込むように俯いていた。――どこか納得がいかない顔だ。

 ずっと魔法少女を続けていた杏子やマミにとっては、その感覚は理解できなかった。

 私たちに関わる者の中で、“この一か月”が始まってから新しく契約を交わした一番最初の魔法少女がゆまだ。


織莉子「そう考えれば…………」

織莉子「……この子は重要な位置に居るのかもね」


 当の千歳ゆまはよくわかっていない様子で、床につかない足をぷらぷらとさせている。

 ……何かちょうどいい台でもなかったかしら。


織莉子「力のバランスといえば、また今のメンバーで出来ることを考えたほうがいいわね」

ほむら「えっと、知っての通り私は時間操作……といっても使えるのはほとんど停止だけですけど」

ほむら「あっ、そういえば、どこまで使えるようになったんですか? 佐倉さんの魔法!」

杏子「分身はこの前見せただろ? あれもまだ完全とは言えないが……単純な幻覚だったらなんとかできる」

杏子「格闘はともかく幻惑魔法はまだ完成されてないからな。これからまたすっげーこと出来るようになってやるよ」

マミ「それについては訓練中。まあ、皆のことは一緒にいるうちにわかるでしょう」

織莉子「ええ。話し合っておくべきはそこから組み合わせられそうなものね……つまり『連携必殺技』よ!」


 ……そう言うと、なぜか静まり返りました。

 少しみんなの視線が痛い気がします。


マミ「い、いいじゃない、みんなは心躍らないの? 『連携必殺技』」

杏子「どこぞのゲームシステムみたいに言われるとな」

ほむら「……ほら、織莉子さんも意外とそういうの好きですから」

杏子「意外でもないだろ」

織莉子「え、ええと……だから、魔法とか組み合わせたりできないかなって思ったのよ」

織莉子「実際にやるのは貴女たちだから、そこは訓練で頑張ってほしいと思うけど」


 そういえばなんだったかしら、前回の世界で言われた言葉。

 \中二病二号/


織莉子(……何故、今思い出す…………?)


 …………今後の訓練に活かすための話し合いを一通り終えると、

 実際に身体と魔力を動かさないと仕方ないとみんなは外に出て行った。


 久しぶりに一人に戻ると、その静かさに驚かされる。

 それでも、飲み終わった後のカップとお菓子の残骸がみんなが居た跡を騒がしいくらいに残していた。


 ……再びソファに腰掛けて、ふと、呼んでみた。


織莉子「…………インキュベーター」


 魔法少女たちについていったか、それともこちらに残っているか。

 そう思ったが、どうやらまだここに居たようだ。

 白兎に似た獣が姿を現す。……もしかしたら、この世界では見るのは初めてかもしれない。


QB「……用件があるなら聞かせてもらうよ」

織莉子「なんだ、やっぱり居たんじゃない。殴られるのが怖かったのね」

QB「僕らに怖いという感情はないよ。君は知っているんじゃなかったのかい」

QB「ただ、出来れば殴られたくないとは思うよ。人間の感情につき合わされて負傷するのは無意味だ」


 こいつの場合、こんなことを言うのは強がりではない。

 やりにくいと思うけれど、感情を考慮しなくて良い分は人間同士の探り合いよりも楽かもしれない。


QB「それで、用件はなんだい」

QB「無意味な暴力を目的に呼び出すのはやめてほしいけれど」

QB「君はそうそう無意味なことをしようとはしないはずだ」

織莉子「そう…………ね」


 一秒。また一秒。

 躊躇うように沈黙の時間が過ぎていく。

 インキュベーターはこちらを真っ直ぐに見ていた。


 ――――その時、扉が開く音がした。


織莉子「!」


 廊下のほうから足音がどんどん近づいてくる。

 そして、私を通り越して、テーブルの上にしゃがむ小さな白い獣目掛けて拳を振りぬいた。


QB「――キュブッ」

織莉子「……どうしたの、忘れ物?」

杏子「ゆまを見た時辛気臭い顔してたから、一応気になって引き返してみたんだよ」

杏子「あとパンチはゆまの分」


織莉子「……鍵、閉め忘れてたかしら?」

マミ「鍵は魔力で開けたわ」

マミ「……キュゥべえと何の話をしてたの?」

マミ「このタイミングで………… わかってるでしょう、契約なんてしたらそいつの思うつぼだって」


 …………マミに言われてはっとした。

 インキュベーターの意図くらい読めたはずだったのに。


ほむら「ゆまちゃんだって、契約したからって不幸にはなってないはずです」

ほむら「これからだって、させません」

ゆま「……えっとね、いちごさん」

ゆま「オリコは怖いひとだったけど、ゆまは後悔はしてないよ」

織莉子「…………ええ」

織莉子「ごめん……なさい。私も少し頭を冷やしていたほうがいいわね……」


 私はそれほど、必死になっていた。


織莉子「……今度こそ、いってらっしゃい」

織莉子「私も夕飯の買い物にでも出てくるわ」

杏子「おう! 訓練の後にうまい飯が食えるなら最高だな!」

マミ「楽しみにしておくわ。その分私たちも頑張りましょう」



 ――……みんなを再び送り出すと、少し支度してから家を出て、駅の方に向かうことにした。

 品ぞろえと質を求めるなら、少々歩くことになってもデパートに行ったほうが良い。



織莉子(買い足すのはこのくらいでいいかしら……あとは良さそうなお菓子があれば見ておきましょう)

織莉子(紅茶もそろそろまた買っておきましょうか? 最近フルーツハーブティーが人気ね……)

織莉子(生活用品はまだ大丈夫かしら)


 売り場をゆっくりと回りながら、良さそうなものを見ていく。

 最初は目的も決まっていたが、ただのショッピングになってきていた。



織莉子「!」


――――



マミ「……ところで、ちょっといいかしら」

杏子「なんだ?」

マミ「今まで突っ込めない雰囲気だったけど、あなた、ゆまちゃんに『いちごさん』とか呼ばすのやめなさいよ」

マミ「笑いをこらえるのがどれだけ大変だったと…………ぷくく」

ゆま「?」

ほむら「佐倉さんなりの気遣いみたいです」グッ


マミ(絶対意味わかってないわ、この子……)


杏子「ゆま、はじめての訓練はどうだった?」

ゆま「すっごいつかれた……でも、ちゃんと戦えるようになりたいから、ゆまもがんばるよ!」

ほむら「ゆまちゃん、さすがに戦いの感覚とかは覚えてないみたいですね」

杏子「まあ全部を全部覚えてるわけじゃないみたいだからな」

杏子「あたしたちともちょっと違うんだろ」


ゆま「うー……」

マミ「ゆまちゃん、途中で休憩する?」

杏子「ほむら、おぶっていったらちょっとは筋肉つくんじゃね」

ほむら「えっ? あ、でもそれは悪くない気がします!」

ほむら「ゆまちゃん、おいで!」

ゆま「うん! ……ホムラのせなか、キョーコと比べてちっちゃいね」

マミ「他には?」

ゆま「景色がちょっとひくい。あと、キョーコの方があったかい!」

ほむら「……そりゃ私じゃ体格は佐倉さんにかないませんよ」

マミ「好かれてるわね、佐倉さん」


ほむら「ところで、今ゆまちゃんはどこに住んでいることになってるの?」

ゆま「キョーコのとこ!」

杏子「……あたしまともな家ないぞ」

ゆま「おじいちゃんたちのとこにはすぐには行かないことになって、『しせつ』を紹介されたの」

ゆま「でもそれもヤだって、『親戚のおねーちゃん』のおうちに行くってことになったんだー」

ほむら「つまり、それって佐倉さんは」

マミ「事実上の保護者(14)……」

ほむら「責任重いですね」

杏子「14歳の母みたいに言うな生々しい」


マミ(チャンスがあれば私も……って思ってたけど、着いちゃったわ)


ほむら「ほら、着いたよ」

杏子「ここに入る時にはチャイムを押した後に名前を呼ぶんだ」

杏子「チャイムを押したらみんなで『いちごさーん』だぞ」

マミ「ちょっとホントに笑うからそれ」


 なお、そうやったところ無視されました。

 二回目の呼びかけでやっと出てきます。


織莉子「もう! 大きい声で変なことを叫ばないでちょうだい!しかもみんなで!」

織莉子「近所の人にまで聞かれたら何かと思われるわよ!」

ゆま「いちごさん、ヘンなこと?」

織莉子「あっ、えーとそれは……」

ゆま「ゆま、いちごすきだよ? いちごのお茶のおいしいいちごさん」

織莉子「そ、それはどうも…………」


マミ「……美国さん、あの純粋さに調子を狂わされてるわね」

杏子「もうこうなったらマミも『いちごさん』て呼んだらどうだ?」

織莉子「貴女達は心が穢れてるから駄目です!」

織莉子「……ゆまさんは許すわ」

ほむら「良い匂いがしています」

織莉子「ええ、もうすぐ出来るわよ。今のうちに手でも洗ってきなさい」


 そう言うと、織莉子はキッチンのほうに戻って行く。


マミ「前より機嫌は良さそうね」

杏子「頭冷やして、少しはすっきりしたんだろ」


 ゆまがソファで横になっている。

 ……その脇に紙袋がまとめて置いてあった。


杏子「……ところで、何買ってきたんだ? 紙袋がいっぱい」

マミ「あ、この袋は知ってるわ。紅茶でしょ」

ほむら「こっちのは服でしょうか?」

マミ「服? 衝動買いでもしたのかしら」

ほむら「……下着のようですね」

杏子「! 気にしてんのか!」

マミ「……見てみる?」

杏子「やめとけよ、さすがにこっちから興味本位で見るのは悪いだろ。言い逃れできないぞ」

ほむら「もう見ましたけどね……」



 ……どんなのだった?
・自由安価

 下2レス

派手だが色がけばけばしいというか、いやらしいというかどこかセンスがズレてる感じ


いちご+レースのブラも何故かあった


杏子「……どんなのだったんだよ。特に言うことがなければこれで詮索は終わりだ」

ほむら「えっと! なんか……いや、はい。すごかったです」

杏子「……!?」

ほむら「何があるんでしょう……? お相手とか……いるんですかね」

杏子「いや、そういう意味じゃないと思うぞ……あいつは」

マミ「あちゃー、あんまり弄るから変な方向に飛んでったんじゃないの」

マミ「なんかもう特に気になることだらけだから、見ましょうここは。気になって眠れなくなるわ」


 ……マミが袋の中身を摘むと、面積の足りない布が出てくる。


杏子「こっ、これマジで穿く気か」

ほむら「……うわー」

マミ「けばけばしい……というか、なにこれ」

ほむら「私、こんなのレジに持っていく勇気ないです……」

杏子「キリカのが霞むくらいに大胆だな」

マミ「えっ」

ほむら「えっ」

マミ「なにその言い方は」


織莉子「みんな、そろそろ席に着いて…… あっ」

杏子「あっ」

マミ「!」

ほむら「わ、私は何も見てません! 見てませんから!」

織莉子「…………見たわね」

杏子「め、目がマジだ」


 マミが織莉子の肩に手を置く。


マミ「……美国さん」

マミ「今度、相談に乗ってあげるから」

織莉子「えっ、えっ?」


 ……マミの哀れみの目に、織莉子の殺気(?)は瞬時に引っ込んでいった。

―深夜


杏子「……ていうか、なんでいちごのブラまであるんだよ。なんだかんだ『いちご』大好きじゃねーか」

織莉子「上と合わないって言ったの杏子じゃないの」

織莉子「言ったじゃない、まともに可愛いの探すのだって難しいんだから!」

マミ「まあ……その気持ちは少しはわかるわ。美国さんは更に大変そうね」

杏子「さっぱりわかんないっての!」

杏子「なんかもう、ここまでくると卑怯だな。どんな柄でもサイズの迫力が全部持っていってやがる」

ほむら「あ、あの……こういう機会だし折角なので、みなさんに質問なんですけど」

杏子「ん?」

ほむら「やっぱりみんな、もう上って着けてますかね……?」


 ……相談に乗らなきゃいけない人がもう一人居た。

 マミはそう確信した。


 ゆまは一足先に寝室で寝ている。


杏子「いらないなら……いらないんじゃね」

マミ「いや、いつまでもそのままじゃ駄目でしょう!」



―20日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv0] [格闘Lv1]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

----------------
ここまで
…多分主人公は暫く交代です

次回は16日(日)20時くらいからの予定です

―21日


 マミの帰ってきた放課後、さっそくみんなでまた駅前のデパートに来ていた。

 ……議題は当然、“あの事情”のことだ。


杏子「うっわ、この店マジでとんでもねえのがいっぱい置いてある。……うっわ。うっわ」

マミ「誰が買うのかしらね……」

織莉子「……」

ほむら「あっ、お、織莉子さんは買ってましたね! あはは……」

織莉子「ふ、普段は違うのよ!? 普段は至って普通のしか着けてないから!」

織莉子「ただ……ちょっと冒険をしてみようと思っただけで、でもそれがちょっとやりすぎだったっていうのかしら……」

織莉子「…………今は反省してます」

杏子「……ほう。『いちご』が普通か」

マミ「"これ”みたいのよりは大分マシだと思うけど……」


マミ「だって、想像してみてよ! もしも学校の更衣室で他の生徒に見られでもしたらどうなると思う!?」

ほむら「……噂になると思います」

杏子「ただでさえあの様子なのに火に油だ。不憫だ」

マミ「ええ、私はそう思うと心配で心配で!」

織莉子「え、ええ、なんか悪かったわね……」

マミ「……この前のは使うべき時が来るまで封印するのよ」

織莉子「…………使うべき時」

マミ「大分先の話よ、その…… お好きな殿方との“勝負”の日だとか」

マミ「……もしくは、誰かを悩殺したいとか?」

ほむら「ハニートラップ……」

織莉子「悩殺か。単純な男が相手なら悪くはない手段でしょうね」


 ……その場の雰囲気が凍り付いた。


織莉子「……冗談よ?」

マミ「あなたが言うとあんまり冗談に聞こえないから怖いのよ!」

杏子「……不潔」


マミ「あ、いちご発見。よく見たらこれもなんだか派手に見えるわね……この中に置いてあるからかしら」

ほむら「他のに比べれば可愛い方じゃないですか……それにしても」

杏子「……あれもこれもデカイな。そういう店だからか」

マミ「まともなのを見つけられれば使えないこともなさそうだけど……」

杏子「この中を物色するのはやめようぜ。あたしたちも変な目で見られる前に早くこの場を去ろう」

織莉子「そうね、ゆまさんだってあの家であんまり長い事一人にするのも良くないわ」

織莉子「早く買い物を済ますわよ」


 ――店を離れて、デパートの中を回っていく。

 たくさん店があるのは良いのだけど、ありすぎてむしろどれが良いかわからない。

 とりあえずまた違う店で、一つ籠の中から手に取って見ていた。


織莉子「これとかどうかしら」

杏子「……今更純情ぶっても遅いぞ」

織莉子「でも、周りも大体こんな感じよ?」

マミ「さすがお嬢様学校ね……でもそれじゃ多分今までと変わらないだろうし、面白くないでしょ?」

織莉子「何故面白さを求めてるの!?」

マミ「同じ『白』でも……こっちのがもうちょっとオシャレじゃない?」

織莉子「……なるほど」


杏子(……織莉子のほうはなんだかんだで順調にいってるみたいだな)


ほむら「うーーん……」

杏子「あんたのとこの学校じゃ周りはどうなんだよ」

ほむら「……着けてる人が多かったと思います。上の話ですけど」

杏子「だったら買えばいいんじゃねーの」

ほむら「でも、そんなオシャレなのって……ないですし。私には似合わなそうです」

杏子「……くっ、切実だ! こうなったらあたしらの最終手段はこれだ。見ろ、ほむら」

ほむら「これは……」

杏子「膨らませた虚しさを胸部に詰め込んでごまかすためのモノだ」

ほむら「そんな! そんなの、あんまりですよ!」


 マミが杏子の手に持っていたものを没収した。


マミ「……何やってるのよ」

杏子「いやなんか、ほむらが悩んでるようだったからさ」

杏子「相談乗るっつっても、どうせあんたらにはわかんないんじゃねーの」


マミ「でも最初から大きいのを着ける人はいないでしょう」

マミ「一度は通った道なんだから、ちょっとは相談に乗れるんじゃないかなって」

杏子「遥か昔の話だろ……」

マミ「あ、暁美さんだってまだこれから道は続いてるわよ…… 多分」

マミ「でもソレは不自然になりかねないからやめたほうが…………何より虚しいし」


 ほむらは固まってしまった。


杏子「これ以上傷を広げてやるなっつーの!」

織莉子「そう言う杏子はどうなのよ」

杏子「……あたしは実用重視だ。なんたって、動くからな」

杏子「まあ、もーちょっと上に選択肢があれば違ったかもしれないけどな」

マミ「それなら尚更『そのくらい』でちょうどいいと思うべきよ」

マミ「大きくたって大変なだけよ。特にあなたの場合はね」

織莉子「機動力半減。下への視界不良。胸だけ攻撃を避けられずに切断」

杏子「…………」

杏子「……それもそうだな」


ほむら「あの、なんで胸が大きくなるだけで機動力まで半減するんでしょうか……?」

杏子「あたしはまだスポーツ用ので押さえられてるが、あんまり揺れ動くと痛いだろうからな」

杏子「そんなん気にして動きが制限されるくらいなら、やっぱ今のが楽だろう」

ほむら「……そっか、本来下着をつける意味は実用のためだったんですね…………」

杏子「……まずい、さらに追い詰めてしまった」

マミ「……見た目を気にするなら、そういう形のにこだわらなくてもいいんじゃないかな!?」

マミ「これからのことを考えて、カップなしのチューブトップとか……!」

ほむら「……考えておきます」



・発言/行動/他に買うもの
1自由安価
2ゆまの好きなお菓子とか
3猫のおやつ

 下2レス


 買い物を終えて、紙袋を提げて店を出る。


織莉子「――――……一部トラブルは起きたものの、目的は果たせたわね」

マミ「他に何か買うものはある?」

織莉子「猫のおやつでも買って行くのはどう?」

織莉子「あとは、ゆまさんの好きなお菓子とかもあれば買っていきましょうか」

織莉子「うちにはスーパーで売られているようなものとかはないから」

杏子「そうだな。あたしも駄菓子とか食いたくなってきたところだ」

杏子「そういやゆまも喜んでたな、駄菓子屋」

織莉子「駄菓子……か。それも気になるわね」

杏子「だろ?」

ほむら「確か1階の食品売り場にありましたね。ペットショップを見てからそこに寄りましょうか」


 デパートのペットショップに寄って、それから食品売り場に行く。

 片隅の駄菓子屋なんて、普段は素通りして目にも入っていなかった。

 ……見てみると、カラフルで変わったものばかり。


織莉子「どれも驚くほど安いわね…………」

織莉子「ところで杏子、不可解なことがあるのだけど」

杏子「なんだよ?」

織莉子「何故これが『焼肉』なのかしら? 原材料は魚のすり身よね」

織莉子「あとこっちの『かば焼き』とは何が違うの?」

杏子「あくまで“風”だよ」

杏子「……貧乏くさいって言うなよ。過度な期待をするもんじゃない」

織莉子「そう……一つ10円なら買ってみようかしら」

織莉子「ねえところでこの『うどん』って……」

杏子「それも“風”だ」

ほむら「本物しか知らないと、この感覚は理解できないんでしょうね……」

杏子「子供だましで悪かったな!」

マミ「なにも佐倉さんがキレなくても」



 織莉子が手に取ったもの
・自由安価

 下2レス


織莉子「ねえねえ! これ、日本一なが~いふ菓子ですって」

織莉子「日本一とまで名が付くなら買ってみたいものね」

杏子「それに目をつけるとは渋いな」

ほむら「これは割とシンプルそうですね。外れがなさそうです」

織莉子「後でみんなで食べましょうよ」


 一つ一つが小さいから、色々と種類を選べるのは良いかもしれない。

 みんなで色々と見て回って、それから会計を済ませて出てきた。


杏子「うんまい棒うめえな」

ほむら「佐倉さん、もう食べてる……」

マミ「いっぱい買ってたものね」

杏子「そして、駄菓子の楽しみは食う時の当たりの確認だ」

織莉子「へえ、くじでもついているの? 当たったら何かもらえるのかしら?」

杏子「当たりはもう一個だ」

杏子「……豪華な景品でも期待したか? 子供は大体喜ぶんだけどな」

杏子「あとあたしも喜ぶ」

ほむら「まあ普通に嬉しいですよね」


織莉子「ついでに夕食の材料も買っておきましょう」

織莉子「最近洋食続きだったから今晩は和食……人数も居るから鍋物でもしようかしら」

織莉子「岩牡蠣が美味しい季節だから牡蠣鍋なんてどうかしらね?」

杏子「え……牡蠣?」

マミ「……得意じゃなさそうな顔ね」

杏子「いや、あたしは出されたものはなんでも美味しくいただくのが礼儀だが」

マミ「ハーブティーの時みたいに、苦手な味、というか、慣れてない味っていうのはあるわよね」

杏子「…… まあな。なんっか馬鹿にされた気がするけど」

織莉子「好みが分かれる食べ物ではあるでしょうね」

織莉子「でも、昔ちょっと食べてみて美味しくなかったっていうくらいなら、まだわからないわよ」

織莉子「杏子、行くのはスーパーのほうじゃないわ」

織莉子「丁度今が旬。どうせなら専門店で、良いものをちゃんと揃えた鍋……というのなら食べてみたくならない?」

織莉子「もし貴女やゆまさんが駄目だった場合に備えて、海老や帆立も投入します」

杏子「……」ゴクリ

杏子「い、いいのか!? 今日は大晦日でも正月でも誕生日でもないぞ!?」

織莉子「良いものを食べるに越したことはない、と思うけれど?」


ほむら「…………“本物”を任せるなら織莉子さんですね」

マミ「私たちとは格が違うから」


「おーい! みんなー」


 ……移動の途中、後ろから声をかけられた。

 振り向いてみると、さやか……と。


仁美「こんにちは、巴さん」

仁美「そちらは買い物ですか?」

マミ「ええ。こんにちは、そっちも二人で買い物かしら?」

さやか「あたしたちは遊んでるだけっすよー」

織莉子「久しぶりね。元気?」

さやか「はい!」

マミ「美国さん、こちらがこの前話した美樹さんと鹿目さんの友達」


 マミは変わらない調子で話しているけれど、私はその小さな表情の変化を捉えてしまった。

 ……この人は今、『美国』に反応した。


仁美「初めまして。志筑仁美と申します」

織莉子「ええ…… 私は美国織莉子」

織莉子「……マミの友達よ」


マミ「志筑さん、この前のお茶会の件、美国さんも誘ってもいいかしら?」

仁美「え……あ、はい! 巴さんのお友達でしたら、是非」

ほむら「……あ、私たちも挨拶したほうがいいですね」

ほむら「暁美ほむらです。25日から同じクラスになりますので……」

仁美「ということは、転校生でしょうか?」

ほむら「はい、そうなります」

仁美「よろしくお願いしますわ」

杏子「……佐倉杏子だ」

仁美「ええ、よろしくお願いします!」



・何か話していく?
1自由安価
2本当に私もお邪魔して良いのかしら?

 下2レス

----------------
ここまで
次回は17日(月)18時くらいからの予定です


マミ「志筑さん、この前のハーブティーを勧めてくれた友達って、美国さんのことなのよ」

仁美「まあ、そうなんですの。 お昼の時間、私も一緒にいただきました。ごちそうさまでしたわ」

織莉子「いえ、お粗末様ですわ」

織莉子「でも、本当に私もお邪魔して良いのかしら? 先程の話……………」

仁美「はい。美国さんがお嫌でないなら歓迎いたします」

仁美「巴さんのお友達ですし、お茶もお好きというなら是非一度話してみたいです」


 ……志筑仁美は笑顔を浮かべて言った。

 『マミの友達だから』。ただその一点だけで私を受け入れようとし、個人として理解しようとしている。

 この笑顔と言葉が演技なら大したものだとも思うが、残念ながら向こうにこんな演技をするメリットが無い。


織莉子「でしたら、これからうちで一緒にお夕飯はいかがかしら? さやかも、久しぶりなのだし」

さやか「いいの!? じゃあお邪魔させてもらいますけど。今日はなんですか?」

織莉子「今日はお鍋よ。牡蠣や海老、帆立なんかを入れた魚介鍋ね」

さやか「おーっ、メチャ豪華じゃないですか」

杏子「そんなすごいのあたしたちだけで食ったらバチが当たりそうだしな」

織莉子「……別にバチは当たらないわよ?」


さやか「あー、でも仁美は……」

仁美「あ……そうですわね。 ご一緒したいのは山々なのですが、これから私は習い事がありますので」

織莉子「予定があるのでしたら仕方がありませんわ」

織莉子「お茶会のこと、楽しみにしておりますわね」

仁美「はい! よろしければ、連絡先を交換しませんか?」

仁美「お茶会、恐らく週末になると思うのですが……」

マミ「週末ね、わかったわ。美国さんも大丈夫よね?」

織莉子「ええ」


 ……穢れたものを知らない目をしている。

 身に纏う雰囲気や言葉遣いの端々に一般人とは違うそれを感じるのに、この人は私とは違う。


 それに、私は少しだけ嫉妬を覚えた。



 ……1階に下がってきたのも、ちょうどこれから帰るところだったらしい。

 仁美と別れて、さやかと話す。


織莉子「……良い人ね、仁美さん」

さやか「え? ああ、いい奴っすよ」

さやか「おっとりしてるように見えて、なんだかんだ曲がったことは嫌いで芯は強くて」

さやか「クラスじゃ委員長とかやってたりしてさ。みんなも認めてんの」

織莉子「……そう」

杏子「じゃ、早いとこ買い物行ってゆまんとこ戻ってやろうぜ」

織莉子「最後に一つだけ…………いいかしら?」

さやか「ん?」

織莉子「気になるものがあるの」


 さやかが待ち受けにしていた写真が目に入った。

 眩しすぎる加工。私の普段目にすることのない言葉は呪文のようだ。


さやか「プリクラ? 前撮ったことありませんでしたっけ」

織莉子「前のことはもう、なかったことになってしまっているから」

さやか「あ、そっか。でもせっかくここまで揃ってるなら、全員で撮りたいかなあ」

織莉子「ああ……それもそうね」


 全員…… か。


マミ「そういえば、今日は志筑さんと二人だけだったのね」

さやか「ああ、マミさんにも帰り話してなかったんですっけ。あの二人なら昨日から……――」


―――

――放課後


 僅かに窓から日の光が差し込む廊下。

 教室のないフロアは特別な授業でもない限りあまり通ることがない。


 生物室の模型や化学室の難しそうなポスターが並ぶその奥の教室、裁縫室の前には展示物があった。

 わたしはそれを眺めていた。


まどか(……これ、ここにもあった)


 文字通り、そこには生徒が作った小物や大がかりな衣服などが展示してあった。

 多分、立ち止まって熱心に見る生徒はあまりいない。

 わたしはその中にある文字を探していた。


キリカ「なにしてんの」

まどか「うわっ」


 ……まるで昨日の逆。


まどか「キリカさんも作ってるもの色々あるんですね。これなんて、一年生の時の」

キリカ「あ……まだ残ってたんだ」

キリカ「昔のはとくに、さっさと出来の良いのに変わってたりするんだけどね」


 ここに置いてあるのは多くが手芸部員たちの作品だった。

 その展示物の中にちらほらと、『呉キリカ』の名前があった。


キリカ「どうせ誰も見ないと思ってたのに、恥ずかしいな」

まどか「キリカさんもわたしのを見てくれてたから」

まどか「教室の中もこれから見るところです」

キリカ「……」


まどか「落ち着いたら部活にも行こうって言ってましたね」

まどか「でもあれからわたしは死んじゃって……実は生きてたけど」

まどか「これも今果たせたことになりますかね?」

キリカ「……落ち着いたっていえるのかな」

まどか「少なくとも『縄張りを狙う魔法少女』の件は」

キリカ「それは……」


 ……会話が途切れると、静まり返る。教室内に人は少なかった。

 奥の方では机の上に足を投げ出してゲームをしている人がいる。

 なんとなく文化系らしいイメージで入部したものの、部員はグループが極端に分かれていてあまり部活らしい雰囲気を感じない。


キリカ「ただ暇になったから来てみただけだよ」

キリカ「……まあ、そう言ってたのを思い出したからっていうのもあるんだけど」

まどか「わたしも久しぶりに行ってみて一人じゃなかったのは安心しました」


 準備室のほうに入ってみると、

 更に完成しているものから未完成のものまで、作品はいろいろごった返していた。


まどか「この中にもあったりして」

キリカ「……途中で放り投げたのなら……いくつか」



1自由安価
2なにか見つけたもの(自由安価)

 下2レス


 準備室を見ていると、

 キリカさんが棚の中から一つ手に取った。


キリカ「あ、これ……」

まどか「夏用のセーターですか? 作りかけみたいですけど」

キリカ「……うん。 一年の時作りかけてたやつだ」

キリカ「結局完成しないまま冬になって、冬にサマーセーターなんて着ないって思って……」

まどか「すごいですね。一度は作ってみたいとは思うんですけど、服となるとさすがに難しくて」

キリカ「また作りはじめてみようかな」

キリカ「せっかくだから、まどかも何か作りかけのものがあるなら一緒に」

まどか「はい、わたしも裁縫箱にしまいっぱなしだったものが……――」


―――
―――

美国邸 夜


エイミー「にゃ」

ほむら「あ、こらエイミー。キッチンに入っちゃだめだよ」

マミ「匂いに反応してるのかしらね」

杏子「ゆま、遊んでてやってくれ」

ゆま「うん!」

ほむら「エイミーにもちゃんとおやつあるんだから」


 具材を揃えて、着々とお鍋の準備を進めていく。

 ゆまさんもお留守番の時にエイミーと大分仲良くなったみたい。

 帰ってきた時にはエイミーを抱えたまま眠っていた。


杏子「こうして見てみてるとすごいな!」

織莉子「さて……と。 これで後は、加熱して良い頃合いになるのを待ちましょう」

さやか「わくわくしてきました!」


 良い具合になったところで食べ始める。

 ……思えば大人数の鍋というのも、硬い雰囲気でしか食べたことがなかった。

 幼い頃から、親戚や父の仕事の関係者とのお食事会なんて好きじゃなかった、けれど……


織莉子「……どう? 杏子。牡蠣はいけそう?」

杏子「…………驚いた。昔食ったのとは別物だ」

マミ「臭みがあるのに当たると残念よね。それにしてもこれは本当に美味しいわ」

さやか「聞いた時も豪華だなぁとは思ったけど、まさかここまで豪華とは思わなかったっすよ!」

杏子「大晦日や誕生日だって、一年に一回も食わないな。一生にこれが初めてかもしれないな」

織莉子「私も、初めてこんなに『味』を感じているわ」

マミ「……『味』?」


 ――幼い頃。私は確かにさっきそう思い返した。

 けれど、思えば『幼い頃』なんて無かった。

 もしくは。


杏子「このレベルのを味わって食わないとか損ってレベルじゃねえだろ」

さやか「なんかホントにバチ当たりそうな気がしてきた。まどかも誘えばよかったかな」

さやか「仁美も残念…………だけど、割と食べてそうだわ。あいつは」


織莉子(……やはり)


1自由安価
2仁美のことについて

 下2レス


織莉子「仁美さん、同じクラスなんだっけ」

さやか「はい。あたしはもうずっと一緒にいますよ」

織莉子「……同じ学校なのよね。もしかして、小学校から?」

さやか「ま、幼馴染ってことになりますかね?」

織莉子「なるほど……なんだかわかる気がするわ。あの子は“違う”もの」

織莉子「周りの人たちとも。 ……私とも」

織莉子「私も、そうしていれば…………」


 ……普通の学校というのはどんな感じなのかしら。

 考えたこともなかった。 行きたい、とも。今までは。


さやか「じゃ、仁美と話すのもなんか刺激があるかもしれませんね!」

さやか「……あいつも“お嬢様学校”のことについては知りたがってましたよ」

マミ「! 美樹さん、その方面は……」

杏子「出た。なんだ『その方面』って」


織莉子「……じゃあ、次はまどかも誘いましょう」

織莉子「ゆまさんは、お味はどうかしら? 一番美味しいって思ったのはどれかしら?」

ゆま「エビ!」

マミ「じゃあたくさん食べて……って、二人はなにやってるの?」

さやか「ぎくっ」

杏子「……いや、さやかのやつが意地汚かったからな」

さやか「なによそれー! あんたも譲ろうとしなかったじゃない!」


 取り合っていた中にほむらが割って入り、

 そっと最後のエビをゆまさんの皿に入れた。


ほむら「……はい、ゆまちゃん」

ゆま「ありがとー!」

杏子「ゆまが相手ならしょうがないよな?」

さやか「だーかーらー!」

マミ「はいはい、ストップ!」


 …………ぼんやりとこの光景を眺めて、昔のチーム全員でテーブルを囲んでいた風景と重ねる。

 もう大分見ていないキリカも、記憶の中ではそこに混ざって笑っていた。


 私の居ない場所で、今同じようにできているのかもわからない。

 ――こんなに会いづらくなったのも私の責任だ。

 もし私が誘ったとしても、来てくれるかどうかは彼女次第だ。



織莉子「これも素朴で美味しいわね」

ほむら「日本一なが~いふ菓子も切り分けるとちょうどいいですね」

杏子「……駄菓子がデザートか。紅茶で食うのも変な感じだな」

織莉子「緑茶のほうがよかったかしら?」


 さやかを途中まで送って行った後、お茶と一緒に“今日のデザート”を食べていた。

 ……変わった食べ物。というのが一番の感想だった。


織莉子「ところでこれ、どっちがどっちだかわかる?」

杏子「…………『焼肉』と『かば焼き』か」

杏子「見た目じゃわかんないな」

織莉子「わからないわね」

ほむら「匂いは?」

織莉子「同じ……に思えるわね。これ、原材料を見ても一緒だもの」

杏子「あくまで“風”だからな」

織莉子「不可解だわ……」


 下1レスコンマ判定 『当たり』
0~20


織莉子「あ、これ……」

杏子「ん、どうだった!?」


 お菓子の袋の裏に文字を発見する。


織莉子「ハズレ……ね」

ほむら「大体はハズレですから。私も今度のは当たりなかったです」

マミ「ゆまちゃんは?」

ゆま「ううん……」

杏子「……ほら、これやるよ。今度引き換えるぞ」

ゆま「! これは」

マミ「当たり……!」

ゆま「わあい! キョーコが買うと、いっぱい当たるんだよ! 女神さんなの!」

杏子「大げさだよ」

織莉子「まあ、みんなの倍買ってるなら、当たりが出る確率も倍になるわよね……」

マミ「しーっ、夢壊さない」


 みんなと居ると、知らないものに出会える。

 そうしたら私も、いつかは…………


織莉子(これが私にとって、足りなかったもの…… か)



―21日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv0] [格闘Lv1]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

----------------
ここまで
次回は22日(土)18時くらいからの予定です

―22日
放課後 裁縫室



 放課後になると、特に約束したわけでもなくまどかもここにやってきた。

 挨拶を交わして、まどかが私の隣に座る。


まどか「お疲れ様です。最近どうですか?」

まどか「一度聞いた話ばかりだから、授業は少し退屈だったりします」

キリカ「うん、でも、あんまり聞いてなくても当てられた時答えられたりして……」

キリカ「……そういうのってちょっといいよね。 勉強しないのに勉強できる、みたいな」

キリカ「全然そういうのじゃないから、スカしてなんてられないんだけど…………」

まどか「内容もそうだけど、先生のギャグとか、愚痴とか惚気とか何度も聞くのが……」

キリカ「……あ、それはきつい」


 ……最初に少し世間話をした以降は、暫く会話はなかった。

 口より手を動かす。

 まどかと一緒でもそれは変わらなかったし、まどかも同じように集中して作業に取り組んでいた。


まどか「……なんだか、こうしていると落ち着きますね」

まどか「近くに人は居るのに、ちょっと離れた世界に居るような…………」


 ぽつりとまどかが話す。

 裁縫室の隅、人の集まりから少し離れたところに座っていたから、さらにそう思えるんだろう。


まどか「……基本的に個人作業だからですかね」

キリカ「部員みんなでキルトのパッチワーク作ろうって企画とかもあったけどね」

まどか「それっていつですか?」

キリカ「いつだったっけ…………去年だったかな。言い出した先輩がいて」

まどか「……ぜんぜん知りませんでした。わたしが来てなかった間ですね」

キリカ「なんか、卒業前に思い出作りがしたかったとかだったっけ。ありがちだけど」

まどか「キリカさんも参加したんですか?」

キリカ「ううん。先輩たちと仲良かった人とか、よく来てた人とかはやってた人もいるみたいだけど」

キリカ「メインは三年生だし、別に私は卒業しないし……関係ないかなって」

キリカ「…………でもちょっと、声かけられること期待してた」


 ふと思い返す。

 卒業なんてまだ先だと思ってた。……気づいたら、もう自分たちが“先輩”になっている。


まどか「今年はそういうのやらないんですかね」

キリカ「どうかな……まだ春だし」

まどか「キリカさんが声かけるなら、わたしも誘ってください」

キリカ「……え。 どうして私が?」

まどか「本当はやりたかったなら、自分たちがメインになれば待ってなくてもいいんじゃないかなって」


 結局、あの時はそう考えることが出来なかったんだ。


キリカ「…………思い出作りなら、もういっぱいあるよ」

キリカ「これから先もずっと忘れそうにないものが」

まどか「まあ……余計に何か月か過ごしてますもんね」

キリカ「それは……んー、まあそうなんだけど、その言い方は、なんか…………」

キリカ「…………数か月で済んでよかったね」

まどか「……はい」


 いきなり記憶が重なって混ざった私たちよりも、一番はほむらだ。

 ……少し編み物のほうに集中して、今度は私の方からぽつりと口を開いた。


キリカ「…………ねえ」

まどか「はい」

キリカ「まどかって、身長いくつ?」

まどか「えっ…………えーと、150です。はい」


キリカ(……あれ? そんなものかな?)

 まどかのほうを見てみる。

 座ってるとよくわからないけど、それだとせいぜい5,6センチくらいしか差がないことになる……

 ――すると、まどかは観念したように言った。


まどか「し、四捨五入すると…………」

まどか「でも、この前測った時のだし、それにほら、成長期だしすぐ……!」

キリカ「……結構入れたよね。ていうか、この前の身体測定からまだ一か月も経ってないような」

まどか「あう、今度こそは150cmって思ってたんですけど……」

まどか「……キリカさんも身長欲しいって思ったりします?」

キリカ「うーん……高い人と一緒に居ると、躍起になってたね」

まどか「わたしからすれば十分高いです。そのくらいにしておいてください」

キリカ「どうにもならないって」


キリカ「…………まあ、成長期だから、ね」

まどか「えっ? ああ、そうですよね!?」

まどか「ちゃんと寝てるし……毎日牛乳も飲んでるし……発育良い人って、何食べてるんでしょう」

キリカ「……高い人は何食べてたって高いような気もするなぁ」

まどか「いや……背も、背もそうですけど、こう全体的に……」

まどか「ところで、なんでそんな話をしたんですか?」

キリカ「んー……、秘密」


 また続きを編んでいく。

 ……静かな空間。今はそれがとても心地よく思えた。

まどかは身長152cmだったはずだけど?

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>>255
あれ? 100の質問では『来年ではきっと150になってる』って言ってたはず…
途中で設定変わったのかね
じゃあこのスレでは上に書いた通りで

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ただまどかって体系的にあんまり150ないように見え……げふん
まどか152cmでのキャラの対比表を見るとみんな結構背高いのね。14○cmのほうだとどうなるんだろう。


まどか「……ん」


 まどかが口を開いたのは、それからまた暫くしてからだった。

 ポケットからスマホを取り出して眺めている。


キリカ「メール?」

まどか「はい。今ちょうど、パトロールが終わったところだって」

まどか「…………ゆまちゃんも一緒だ、って」

キリカ「……え?」


 今頃はもうこっちにいないと思ってた。

 ……まだ引き取りにきてもらってないの? 



1自由安価
2まだこっちにいるの?
3今みんなどこにいるって?

 下2レス


キリカ「まだこっちにいるの?」

まどか「みたいですね……」


 手元に視線を戻して、数秒考え込む。

 作業の手は止まっていた。


キリカ「……今みんなどこにいるって?」

まどか「そこまでは……聞いてみますか?」

まどか「……会いに行きますか?」

キリカ「……うん」


 ……返信がくるまでの時間、再び少しの間作業に集中を戻す。

 静かだった裁縫室は、更に人がいなくなって静けさを増していた。

―公園


 大きな噴水から色とりどりの光が照らす。

 ゆまと一緒にみんなで集まった場所は、偶然かこの前と同じ公園だった。


キリカ「ゆま!」

 その姿を見つけて声をかけると、ゆまがベンチから立ち上がってこちらを見た。

ゆま「キリカ」

キリカ「なんで……まだ来てもらってないの? おじいちゃんとか、おばあちゃんとか……」

ゆま「ゆまね、もうちょっとだけここにいられることになったんだ」

ゆま「みんなをおたすけするために、パトロールも訓練もがんばってるんだよ!」


 その言葉に目を見開いた。

 すると、ゆまはさらに近づいて、その小さな手で私の手を握った。


ゆま「だから……まだみんな、いっしょ!」

キリカ「…………」


杏子「余計なお世話だし、そそのかしたキュゥべえはブン殴っといてやったが」

杏子「ここまでされちゃ無下にするわけにはいかないからな」

杏子「実際……助けられてはいるよ」

キリカ「そっ……か」

まどか「うん……それなら、これからもよろしくね」

ゆま「うん! よろしく!」


 まだみんな一緒。

 …………その事実に、確かに嬉しい気持ちになった。

 次会った時は話す。その時がこんなに早くにくるなんて。



1自由安価
2今日はみんなこれで解散?
3パトロール、どうだった?

 下2レス


キリカ「よろしく…… えっと、今日はみんなこれで解散?」

マミ「ええ。そのつもりだけど」

ほむら「また送っていきましょうか?」

キリカ「あ、うん……」


 ここまで来て、挨拶だけで別れるのも少し寂しい気がした。

 またみんなに囲まれて守られながらただ家に帰るのも。


キリカ「パトロール、どうだった?」

ゆま「ちょっとこわかったけど、だいじょぶ。 みんなが戦い方おしえてくれたから!」

キリカ「すごいね。ゆまは勇敢だな……」

ゆま「うん!」


 キラキラとした公園の明かりから離れて、帰り道を歩きはじめる。

 ……私はどうだったっけ? 『全部』を思い返してみても、あまり良い思い出がない。


キリカ「……どうせなら、ついでに何か食べにいったりしようよ」

マミ「私たちは別に良いけど……なににするの?」

杏子「駅ならあっちだが、引き返すか?」

キリカ「えっと………じゃあそこのラーメン屋」

まどか「ああ、近所のお店ですね」

まどか「そういうのもたまには良いかもしれませんね、たまには」

キリカ「……うん」


 マミや杏子は当然のように返事が返ってきたけど、

 私たちからすればこういう機会もあまりない。……特に夜に全員でとなると。


 少し古そうな暖簾をくぐってお店に入ってみると、

 店主らしきおじさんが快活に歓迎の挨拶を叫んだ。


まどか「なに頼む?」

マミ「ええと、なにがあるのかしら」

杏子「あたしはとりあえず醤油だな、あとは……」

キリカ「相変わらず大食いだね……」


 何食べよう?(ラーメン屋にありそうなものからなさそうなものまで大体可)
・自由安価

 下2レス


杏子「餃子もつけるぞ餃子も!」

ゆま「ゼリーおいしそう!」

杏子「真っ先にデザートか……ラーメンはこのキッズのでいいか?」

ゆま「うん!」

マミ「ところでこれ、自分で店員さんに声かけて注文するタイプ?」

キリカ「みたいだね……」

マミ「初めてだわ、そういうの」

杏子「で、決まったか?」

キリカ「あっ、ちょっと待って。どうしよう、あんまりこってりしすぎないのがいいかな」

まどか「あ、いいですね、それ。五目餡かけの塩ラーメンかぁ」

ほむら「私も決まりました」


 ……そして、まとまった時にみんなが見るのはやっぱり杏子のほうだった。


杏子「なんだみんなして」

杏子「いいか? 注文なんざ、飯を食うための通過点にしか過ぎないんだ」

杏子「何を怖気づく必要がある」

マミ「そうなんだけど! なんとなく頼りになりそうで」

キリカ「最近券売機のも多いからね」

ほむら「最近ですかね……」


 ……無事注文を終えると、6人で掛けているテーブル席に所せましとラーメンが運ばれてくる。

 実際ちょっと狭い気もするけれど、これから混み合ってくる時間帯。そのくらいはしょうがない。

 というか、こんなふうにみんなで食べるのは珍しくて、悪い気はしなかった。


キリカ「あつ……っ」

ゆま「ふーふーだよ!」

杏子「餡かけは冷めにくいからな。それが良いとこでもあるんだよな」

まどか「でもおいしいですね。いろんな具が入ってて」

キリカ「うん!」

ほむら「ところでこの中には何が入ってるんでしょう?」

マミ「お漬物かしら」

ほむら「! 取りすぎました、辛いです!」

杏子「……辛子高菜か」

キリカ「これにはいらないかなぁ」



1自由安価
2ゆまはいつまでこっちに居るの?

 下2レス

------------------
ここまで
レス来てて起きてたら安価なしの区切りいいとこまでは投下するよ

次回は23日(日)18時くらいからの予定です



 ……お皿に残っていたスープと細かい具材を蓮華で集めて掬う。

 みんなも大体食べ終わっていた。

 お水を一口飲んで口の中をリフレッシュする。


キリカ「ゆまはいつまでこっちに居るの?」

ゆま「えっとね、“わるぷるぎす”をたおすまで!」

キリカ「そっか。 やっぱり、そのために……」


 杏子がキュゥべえのことはぶん殴ったらしいし、それ以上出来ることはないんだろう。

 不満をぶつけるとしたら、そのキュゥべえすら利益でもない限り出てこない。


 ……約一か月弱。

 長いようで、そんなに時間はない。

 そしてその日も、刻々と私たちに迫ってきている。


キリカ「…………」

まどか「それまではまた杏子ちゃんのとこ?」

ゆま「うん!」


 ……ゆまはやっぱり嬉しそうだ。


 少しだけゆっくりしてから店を出る。


キリカ「ここでいいよ、後はもう近所だから」

まどか「わたしはあと少し一緒ですね」

マミ「そう。じゃあまた明日ね」

杏子「また今度な」

ほむら「また今度」

ゆま「またね、キリカ!」


 ……みんなと別れて、まどかと並んで家までの道を歩く。


 冷たい夜の空気が肌に触れる。

 でも、身体はぽかぽかと温まっていた。



―22日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv0] [格闘Lv1]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

―23日
放課後 病院


 曲の終わりへと向かっていくように、複雑に重なっていた音たちが薄くなっていく。

 甘美な旋律がついにすっと最後の音を奏でて消えた。


 そっと片耳につけていたイヤホンを外す。


さやか「どう?」

恭介「いいね。やっぱりさやかはレアなCDを見つける天才だね」

さやか「うふふ」


 お見舞いにCDを持っていくと、恭介は今日も喜んでくれた。

 多分、このままじゃいけないような気もする。

 弾けもしない曲を聴かせるのは傷つけることになるのかもしれない。

 けど、こうして喜んでくれるのも本心だとは思う。


さやか(……結局、どうするのがいいんだろ)


 この世界に来てから雰囲気は良好。

 恭介が喜んでくれるなら、楽しい時間に浸っていたい。


 恋人同士、なんて、まだ夢みたいだけど。


さやか(せっかくだし、もうちょっとくっついちゃおうかな)

さやか(甘えちゃったり……しても……)


恭介「そういえば、もう二年生になってから大分経つよね。学校の様子はどうだい?」

さやか「えっ! いや、うんと……まだあんまし変わんないと思うよ」

恭介「そっか……それならいいんだけど、あんまり間が空くと色々ついていけなくなったら困ると思ってね」

さやか「恭介なら大丈夫でしょ。あたしより頭いいし!」


 恭介は片手で器用にイヤホンをまとめ、CDプレーヤーを片づけはじめていた。

 ……肩が離れていく。


さやか(……本当に夢だったりして)

さやか(だって、前と全然変わってない。忘れてるんじゃないのかって心配になってくるわね)


 漠然と、『恋人』って、なんかとてもロマンチックな響きのように思ってた。

 個室とはいえ、この清潔すぎる病室という空間がその雰囲気を打ち消してる?

 でもやっぱ、場所が変わったくらいで劇的に変わる気はしなかった。

 ……これがあたしたちだ。


恭介「こうしてさやかが来てくれて助かってるよ。入院生活って暇なんだ。身体も自由に動かないし」

さやか「うん! ところで、今度何か持ってきて欲しいものってある?」

恭介「さやかの持ってきてくれるCDはいつも楽しみにしてるよ」

さやか「じゃあまた探してみるよ。あとなんかお菓子とか持ってきたげる」

恭介「ありがとう」


 いつか、その楽しみすら嫌になるんじゃないか。

 …………そう思うとやっぱりそれは怖くて、それ以上に悲しかった。


―――

―――
見滝原大橋下


ゆま「わっ……!」

杏子「まだ動きが甘いな」


 丸い形をしたハンマーが空を舞って地面に落ちる。

 何セット目かの格闘の決着がついたところだった。


杏子「もっとよく観察するんだ。攻撃に転じるってことは、隙も生まれるから気をつけろ」

マミ「ふふ」

杏子「……なんだよ」

マミ「だってそれ、私が前に言った言葉だなって思って」

杏子「うっかりすると絡め取られてるんだから、マミのリボンは反則だよ」

マミ「何が反則よ。幻惑魔法の方がよっぽど反則だわ。前にも言ったけれどね」

マミ「……ね、結構上達してきたんじゃない? 魔法」

杏子「あー…………安定はな。けど、やっぱまだ何か足りない」

マミ「それだけまだ成長の可能性を秘めてるってことじゃない」

杏子「ほら、次はほむらが相手だ」

ほむら「!?」

マミ「暇にしてるならやっておくに越したことはないわよ」

ほむら「えっ、私はその…………はい、やります。お手柔らかによろしくね……」

ゆま「よろしくね!」


 ほむらとゆまの格闘を横から眺めつつ、二人も自分の訓練に励んでいた。

 といっても、マミはほとんど杏子を見るのにその時間を割いていた。

 魔力を集中させて、精度を高め、何か他に応用法はないかと考える。


ほむら「も、もうだめです……休みます」

ゆま「だいじょーぶ? 今回復を……」

杏子「休むっつってんだから休ませとけ」

杏子「くだらないことには使うな。その魔法は本当に助けが必要な時にとっておけばいい」

杏子「魔法じゃないと治せないような…………」

マミ「……佐倉さん?」

杏子「……いや、そうだ。その魔法もちゃんと鍛えたほうがいい」

杏子「ゆま、今度は魔法の訓練をするぞ」

ゆま「魔法の訓練?」

杏子「ああ。あたしたちはまだ、ゆまの本気と限界を知らない」

杏子「……いや、そりゃ普通にしてたら知らない方がいいんだろうけどな」

杏子「あいつの願いも……叶えられるかもしれないだろ」


―――

―――
美国邸


織莉子「24日……25日……」

織莉子「うーん、駄目ね。せめて戦ったり視えたりした魔女の情報だけでもと思ったけれど、思ったより正確に覚えてないわ」

織莉子「26日…………ふふ」


 赤い○のついているカレンダーを見て、思わず気持ちは緩む。

 なんだかんだいっても、やっぱり嬉しいのだ。久しぶりに自分を認めてくれそうな人が増えるのは。


織莉子(けど、『志筑』……か)

織莉子(どこかで聞いた覚えが…………どこだったかしら)

織莉子(……いいえ、私が仁美さん自身を見ないなんて駄目ね)

織莉子(あちらがそうしてくれるんだもの。私もそうしておきましょう……)


 チャイムが鳴った。


杏子「織莉子ー、あけてくれー! ゆまが背中で寝てるから出来れば早めに頼む!」

織莉子「え、ええ! 今行くわ!」


 聞こえてきた声に一応返事を返し、玄関に急ぐ。

 開けてみれば、すやすやと寝ているゆまさんとそれを背負う杏子、今にも寝そうなほむら。

 それからマミが居た。


 ……ここ最近のいつもどおりだ。


マミ「ただいまー」

織莉子「なんだか大変ね」

ほむら「夕飯前に一眠りしてもいいですかね……?」

織莉子「寝室はあっちよ。少しゆまさんと一緒に寝たらいいんじゃないかしら」

杏子「よし、行くぞ」

ほむら「はい……」


 三人で寝室に向かっていく。その間にマミはまるで我が家のようにソファに腰掛けていた。

 ……こんな家でくつろげないなんて思ってたのはどうやら私だけのようだ。


 寝室に行ったきり杏子が帰ってこない。

 三人で眠るにはさすがに小さいような気がするのだけど……


織莉子(……夕飯作らないとね)

織莉子(調理実習とかは得意なほうだったと思うけれど、自炊となるとまだ慣れない部分はあるし)

織莉子(そろそろマミにも任せたいような気もするけれど………… 本人はソファでぐっすりだものね)


 みんなして眠りこけているなんて、よっぽど訓練がハードだったのだろうか。

 そんなことを思いながらキッチンに向かった。 


 もう少しで夕飯も出来上がるという時、杏子がリビングのほうに戻ってきた。


織莉子「あら、お目覚め?」

杏子「まあちょっとな。ゆまが放してくれなかったんだよ」

織莉子「そろそろ出来るわよ。二人を呼んできて頂戴」

杏子「おう」


 ……みんなが集まり、食卓を囲む。

 そうすると自然と話が始まった。


ほむら「少し寝てすっきりしました。ご飯もとっても美味しいです!」

ゆま「おいしい!」

マミ「空腹が最高のスパイスってやつかしら?」

ほむら「やっぱり身体を動かさないと駄目なんですね……」



1自由安価
2一体どんな訓練をしたのかしら?

 下2レス


織莉子「一体どんな訓練をしたのかしら?」

マミ「格闘訓練」

織莉子「ほむらがやったの? 珍しいわね」

ほむら「お試しみたいなもので、結果は散々でしたが……」

杏子「これで目覚めたんなら格闘はじめるか?」

杏子「素で武器がないんならこの際、殴る蹴るで戦う体術格闘少女!ってどうよ」

マミ「まあ、かっこいい」

ほむら「それは……ちょっと……考え付きませんでした」

織莉子「そこまでは訓練じゃどうにもならなそうね……あなたとは持ってるものが違うもの」

杏子「いや、あたしだって武器くらいないとキツいって」

ほむら「佐倉さんでもできないことを私にやらせようとしないでください」

マミ「それはそうとして、少しくらい鍛えておくのは良いと思うわよ。健康的にもね」

織莉子「……無理しない程度にね」

ほむら「はい」


ゆま「ゆまは魔法の訓練をやったよ」

織莉子「魔法の訓練……ですか」

杏子「ゆまの治癒魔法はすごい。……あんたも覚えてはいるだろ?」

杏子「二人まとめてでも、瀕死の怪我でも、次の瞬間には万全の状態で戦えるくらいに治ってたんだ」


 箸を止めて、ふと戦闘の記憶が浮かんだ。

 思い返してみれば自分勝手なことに、“私が”与えた力を忌々しく思ったのも、

 すぐ前のことのようによく覚えていた。


織莉子「それは……前の話じゃ」

マミ「そうね。もちろん前考えたように願いの差があるから、同じようにはいかないんだけど」

マミ「集中さえすれば、人に使うには今でも優秀よ」

織莉子「……集中」

ゆま「コントロールを訓練すると、魔力があんてーしてもっと上手く使えるようになるんだって!」


マミ「…………ただ、回復能力に割かれた素質自体が偏ったのか問題は二つ」

マミ「的を一点に絞らないとすぐに分散してしまうこと」

マミ「そして、自分への治癒がほとんど使えないこと」

織莉子「……結構な問題じゃないの、それ」


 ……それじゃ本当に、“みんな”のためだけを願ったような。

 自分を犠牲にするような図が浮かんでしまう。癒しの祈りともまた違うから仕方がないのか。


ゆま「でもゆまはがんばるよ! たすけてあげたい人がいるってゆってたから」

織莉子「助けてあげたい人?」

ゆま「キョーコとみんなのおともだちのおともだちだって」

織莉子「それは……」

ほむら「一応、月末までを目標に訓練していく予定です」

ほむら「ゆまちゃん、私たちの願いを聞いてくれてありがとう。いっしょに頑張ろうね」

ゆま「うん!」


 ……少しの間にいつのまにか随分とチームらしくなっている。

 そんな風景を眺めて、いつの過去とも違う“未来”をその中に視た。


 もうわざわざ奇跡なんかに頼る必要もないのだろう。

 私はただ、今はこうしてその隣で見ているだけ。




―23日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

―24日
放課後 裁縫室


キリカ「よし…………」


 ……まだ数日とはいえ、まとまった時間をとれた分、大分作業は進んだ。

 もともと途中までは完成していたんだ。サイズを少々変更して、そろそろ完成の目処も見えてきた。


まどか「順調そうですね」

キリカ「そっちは?」

まどか「ええと、イメージとちょっと違って苦戦してます」

キリカ「刺繍かー……わっ、絵可愛い」

まどか「ほんとですか? 嬉しいです! あと色とか悩んでて」

キリカ「どんなイメージ?」

まどか「えっと、こんな感じの」

キリカ「それだったらこの糸とかどう?」

まどか「あ、いいかもしれません」


 まどかのをちょこちょこ見ながら作業を進めていく。

 ここに居る数日は本当に平和だった。少なくとも、私たちに流れる時間だけは。


まどか「いい感じになりました! ありがとうございます」

キリカ「ううん、よかった」


 集中する手作業も、ぽつりぽつりとした雑談も、落ち着いた気分になる。

 そうしていると、余計な事や暗い事を考えるようなこともなくなっていた。


 ……それでも、一昨日久しぶりに話してからは、みんなやゆまのことがずっと頭にあった。


 考えたくない事とは別に、それは薄れずに自分の中に残っている。

 忘れちゃいけないし、忘れたくもない。


キリカ「……ところでさ、まどかもこのごろ訓練とかパトロールとか、行ってないんだよね」

まどか「そうですね……もともとわたしはあまり出来ることもなかったから」

キリカ「うん……それはそうかもしれないけど、もう行かないの?」

まどか「最近は他にやりたい事、まあ裁縫なんですけど……それもありましたし」

まどか「一区切りついたら、また顔出してもいいかなって思ってます」


 ……多分まどかは私につられてるところもある。

 まどかがここに来なくなったら私が一人になってしまうから。


キリカ「今日とかって何やってるか聞いてる?」

まどか「えっと……あ。昼食の時。訓練に力を入れるってマミさんが言ってました」

キリカ「……そういえばそうだったね」


 昨日はパトロールが終わってからだった。

 ずっとこのままじゃいけない。やりたい事なら、ゆまとだってまだまだ話せてない。

 役に立てないからついていくことすらできないなんていうのは、やっぱり私が嫌だった。


キリカ「…………私、行ってみようかな」

キリカ「おかげでちょっと落ち着いたから」

まどか「おかげ?」

キリカ「うん」


 向かう先は土手……いや。橋が無事なら見滝原大橋のほうか。

 数日ぶりに、重い腰を上げることにした。


キリカ(残りはこっそり完成させよう)

キリカ(そしたら…………)

―見滝原大橋下


 ……その場所に行ってみると、みんななにやら集中しているようだった。

 中心にいるのはゆま。何か魔力らしい光が見えた。


 ――――どう声をかけようか迷っていると、途中で休憩に入ることにしたらしかった。

 一気に緩んだ雰囲気の中に近づいていくと、まず最初にマミが振り向いて、それからみんながこっちを見た。


マミ「鹿目さん、呉さん、どうしたの?」

キリカ「どうしてるのかなって気になって」

まどか「今のすごかったね! なんだろう、光の魔法?」

ゆま「治癒魔法だよ!魔法の訓練してたのー」

杏子「あー、まあこっちはぼちぼちってところだ」

杏子「…………さやかの願い事、ゆまに任せたいと思っていてな」

杏子「今特訓してるところなんだが……」

キリカ「あ、そんなことになってたんだ……」


 順調とはいえないような言い方だった。

 治癒魔法というくらいだから望みがありそうに思えるけど、まだなにか問題でもあるのかな。


杏子「昨日決めたことだよ」

杏子「で、なんか用事のついでか? これからまだ予定でも……」

キリカ「……予定はないよ。ただ来てみただけ」


キリカ「ホントは、守られてるだけなのが嫌だったんだ」

キリカ「この前の世界じゃついていくだけで、契約してからも役立てなくて上手くいかなくて」

キリカ「……でも、せめてついていくことすら出来ないのは嫌だって」

キリカ「私が居ても今は役に立つことは何もできないけど、みんなとまだやりたいことはあるから」


 すごく勝手な思いなのはわかってた。でも、これが私がずっと抱いていたもやもやだった。

 ……それをちゃんと伝えられただけ、いくらかすっきりした気がした。


まどか「……わたしも、ちょっとそういう気持ちはありました」

まどか「本当はこの前の世界でもそうです」

マミ「そ、そんなに気にしないでも私たちはそんな……」

ほむら「…………いえ、わかりました。来てください」

ほむら「役に立つとか関係なしに、みんなでやりましょうよ」

ほむら「……そういう気持ちって、私もわかりますから」


 ほむらがそう言うと、マミは何かを思い出したようだった。

 ……ほむらももしかしたら、そんな時があったのかもしれない。



ほむら「――――それで」

ほむら「なんで『みんなでやる』っていう結果がこれなんでしょうか……」

キリカ「……大丈夫?」

ほむら「大丈夫じゃないです。もうだめです……」


 地面に転がったほむらに手を伸ばすも、ほむらは取らずにごろんと転がった。

 ……前からこうだったっけ。いや、前にほむらとこんな訓練したことはなかった。


キリカ「でも、ほむらが格闘はじめたなんて」

杏子「……まあ、いくら人間に戻ったからって勝てるわけないよな」

キリカ「でも正直、どっか当たったらかなり痛いんじゃないかとは警戒してたよ?」

杏子「心配は無用だっただろ?」

杏子「そんな力はこいつにない」


 ほむらが地面に転がったまま寝てしまいそうだ。

 杏子がひょいと芝生の上の斜面まで担いで持って行った。


マミ「別に本格的にはじめたわけじゃないけど、体操みたいなものね」

まどか「あ、それなら太極拳とかからはじめたらいいんじゃないですかね……?」

杏子「どこの年寄りだよ」


 ……身体を少しひねってみて、関節を伸ばして曲げてみる。

 久しぶりに普段しないような動きをしたからか、変な感じがする。


キリカ「でも最近全然動いてなかったし、私も疲れたなぁ……」

まどか「次はわたしがやってみようかな?」

杏子「契約してるまどかと契約してないキリカ、どっちが楽な相手だろうな」

まどか「でもわたしはそんなに動くのは得意じゃないから」

キリカ「私も元々得意じゃなかったけどね」



1自由安価
2ほむらの休んでるほうに行く
3ゆまの魔法についてみてみる
4杏子の魔法についてみてみる

 下2レス


 でも、体術だけできても戦えない。

 武器とか、もしくは人並み外れた身体能力なんかがあってちゃんとに結びつくものなんだろう。

 私も今やっておけば、いつか結びつけられるのかな?


キリカ「……ところで、一番ベテランのマミに質問だけど、今まで戦った中で一番強い魔女てどんな奴だった?」

マミ「この前の世界で呉さんや鹿目さんと知り合った時の魔女かな」

マミ「ぬいぐるみ状態からの不意打ちもだけど、それを抜きにしたって手強い相手だったわよ」

まどか「ああ、あの時は焦りました。わたし、はじめから強敵を相手にしてたんですね……」

マミ「あの時は鹿目さんが居たからかなり楽だったわ」

キリカ「まあそっか、殺されかけたんだもんね……」

杏子「……まあなんだ。不意打ち狙ってくる奴は気をつけろ。たまにそういうことはある」


 ……でも、それもこの前はほむらが軽々とやっつけていたんだ。

 これでもほむらは私よりずっと強かった。


 そう考えると…………


キリカ(やっぱり体操、かぁ……)


 ほむらはお休み中だし、二人も訓練に戻っていった。

 ……私はどうしよう?


1自由安価
2ほむらの休んでるほうに行く
3ゆまの魔法についてみてみる
4杏子の魔法についてみてみる

 下2レス

---------------------
ここまで
次回は24日(月)20時くらいからの予定です

234の順で回ってみる


キリカ(いいや、私もちょっと休憩してこよう)

キリカ(二人の邪魔しても悪いか…………)


 ほむらの休んでるほうに行ってみる。

 ……隣りに腰掛けてもほむらが反応しない。


キリカ「……ちょっと、スカートめくれてる…………」

ほむら「! ひゃっ!」

キリカ「ひゃ!?」

 ……手を伸ばしたところで目を覚ました。

ほむら「えっと、どういう状況でしょう!」

キリカ「格闘訓練の後寝ちゃって、それで杏子が担いで……」

ほむら「……あ、思い出しました」

キリカ「……うん」


 普段そういうのちゃんと気を付ける人だと思うんだけど、杏子が雑に置いたのか、寝返りでも打ったのか。

 それはともかくとして、変なタイミングで目を覚まさないでほしい。


ほむら「……ところで、正直なところどうでした? 私の動き」

キリカ「ええっと…………」


 ちょっとさっきの訓練を思い返してみる。

 あの遠慮がちな“守り”というよりは“逃げ”な姿勢といい、鈍臭いところといい……


キリカ「……昔の私みたいだったかな」

ほむら「え? そ、そんなに下手じゃなかったと思います!」

 ……自分で言ってむなしくならないのかな、それ。

キリカ「ああ、そっか。ほむらはこの前の世界を知らないから」

キリカ「この前の世界じゃ、私は全然違う願いで契約したんだよね」

ほむら「まどかのために……」

キリカ「人に言われるままだったし、覚悟も中途半端で積極性も足りない……まあ“苦手意識”みたいのが邪魔してたんだよ」

キリカ「後で後悔もしたけど、そんで色々吹っ切れて」

ほむら「……まだ吹っ切れてないんですかね、私は」

キリカ「えっ、まあそんなに良いエピソードではないんだけど」


 ……この前の世界以外では、特に理由もなく吹っ切れてたみたいなものだった。


キリカ「あとは髪飾り…………か」

ほむら「髪飾り? あ、そういえばそれ良いですね」

キリカ「あ、うん。ありがとう」

キリカ「あっ、ほむらもたまには髪下ろしてみるとか、メガネ変えるとか、そういうイメチェンは?」

ほむら「えぇ、そのくらいでそんなに変わりますかね」

キリカ「いやでも髪長いんだしもっと色々見たい!」

キリカ「私も伸ばしてみようかな、でも大変そうだな……」

ほむら「慣れればそんなには」

キリカ「むしろ短いので慣れちゃってるから」

ほむら「……じゃあ、私もそのくらい切ってみようかな」

キリカ「それは……なんかもったいない気がする」


 ……あれ、話が大分脱線してる気がする。

 いや、脱線、してないのか?


キリカ「外見のイメチェンが効果があるかはわからないけどさ」

キリカ「……元がこれだから大した動きはできないけど、それでも苦手意識に支配されてる時よりは大分マシだよ」


キリカ「そんなに本格的に格闘で戦うわけじゃないなら、別にあんまり気にすることもないけどね……」

キリカ「でも体力はあったほうがいいと思うから、体操は続けたほうがいいのかも」

ほむら「そ、それはそうですね……」


 芝生の上に座ったまま少し訓練の様子を見下ろす。

 ……じっとしてると、少し寒くなってきた。



1自由安価
2射撃のほうの訓練について
3転入日って明日だっけ

 下2レス


キリカ「……さっき言った事だけど、イメチェンは置いといて、ほむらの髪綺麗だから三つ編み解いたの見てみたいな」

キリカ「ちょっと解いてみていいかな?」

ほむら「え、解くのは構いませんけど……」


 許しをもらったので、さっそくリボンを取ってみる。

 ……太い三つ編みを解いてすぐは少しふわふわと曲線を描いていたものの、手で梳いてみるとすぐに真っ直ぐになる。

 かと思ったらちょっと左右に分かれた癖が残ったのが取れないままだった。


キリカ「この癖はなかなか強力……」

ほむら「変ですかね……」

キリカ「いや、別に変ってわけじゃないよ! こうして見るとやっぱ綺麗だし」

キリカ「まどかも褒めてくれるんじゃない?マミも…… 杏子はあんまり気にしなさそうだけど」

ほむら「そ、そうですかね」


キリカ「そういえば転入日って明日だっけ? 朝一緒に学校行く?」

ほむら「はい、じゃあ朝家まで行きます。通学路の途中ですし」

キリカ「うん、待ってる」

ほむら「…………あと、明日のことについて、ちょっと相談があるんですけど」

キリカ「え?」

ほむら「自己紹介ってどんな感じにしたらいいと思います?」

ほむら「これだけやってて今更なんですけど……最近はあんまり余裕もなくて暗い感じになってたし」

ほむら「せっかくだからそういうの少し払しょくしたいなって……」

キリカ「え、えーと…………」

キリカ「普通じゃ駄目なの? よろしくって」

ほむら「今までそうだったんですけど……もっと親しみやすい雰囲気を出すにはどうしたらいいんでしょうか」

キリカ「雰囲気……かぁ」


 相談してくれるのは嬉しいけど、相談されても的確な答えを返す自信がない。

 どうしよう?


キリカ「……雰囲気だよね。言い方の問題なんじゃないかな」

ほむら「どんな感じならいいんでしょうか?」

キリカ「……あ、『暁美ほむらだよー!よろしくー!』」

ほむら「………………」


キリカ(痛いものを見る目で見ないで!)


杏子「……何やってるんだ?」


 ……いつのまにか横に杏子が居た。

 それからほかのみんなも。……まずい、変なとこ見られた。


キリカ「…………訓練終わったの?」

マミ「ええ。それで、何の話?」

ほむら「あ、明日の転入について……自己紹介のことで相談を」

杏子「……なるほど、それでか」

ほむら「どうしたらいいんでしょうか」

杏子「『よろしく』でいいんじゃないの」

キリカ「それ私と同じ答え」

マミ「東京に居たんだっけ。東京から引っ越してきて、どんなことやってて……とか?」

まどか「珍しくてかっこいい名前だから、名前についてとか!」

ゆま「すきなたべものについて!」

ほむら「い、いろいろ考えるとごちゃごちゃしてきました」



1自由安価
2とりあえずみんなのをまとめてみる
3外見からイメチェン案

 下2レス


キリカ「じゃあ、とりあえず今の髪を解いた状態で明日から登校してみれば?」

キリカ「形から入る感じだけど、明確に今までの自分とは違うからさ」

キリカ「みんなも今のほむらの髪型、新鮮な感じするよね?」

マミ「こうして見るとすっきりした感じがするわね」

キリカ「まどかも似合ってると思うよね?ほむらの髪綺麗だし」

まどか「うん、新鮮」

ほむら「そうでしょうか~……?」

キリカ「……あと、無理に気負わないでいいと思うよ?」

キリカ「変なことするととても痛いことになるから……」

ほむら「あ…………はい」

杏子「あれは失敗例か」


 納得されるのも微妙な気持ちだけど、失敗例として受け取ってもらおう。

 ……というか、あれ以上の失敗例もほむらは見ている。

 気負った、というのとも少し違う感じだったけど…………


ゆま「ほむら、元気になったー?」

ほむら「うん、一応……」

キリカ「みんな、お疲れ様。今日はこれで解散?」

マミ「ええ。そろそろ帰りましょうか」

マミ「暁美さん、明日のお昼は一緒に食べましょう」

まどか「わたしやさやかちゃんも一緒だから。あと、キリカさんも」

ほむら「はい! ちょっと楽しみです」



 いつもの学校生活に、明日からはまたほむらも加わる。

 ……そう思うと、私もちょっと楽しみだった。



―24日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv1] [格闘Lv2]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

-----------------
ここまで
次回は28日(金)20時くらいからの予定です

―25日



 玄関を開けると、制服姿のほむらが立っていた。

 ……この格好を長らく見ていなかったような気がする。

 それに加えて、昨日の提案通り、ほむらは髪を下ろしていた。


キリカ「やっぱりまだ癖ついてる」

ほむら「これだけは本当に強力で……」

キリカ「トレードマークみたいでいいんじゃない。わかりやすいよ」

キリカ「でもこれでもし髪切ったら、バッサーって左右に広がったりすんのかな」

ほむら「!!」


 通学路をゆっくり歩きながらほむらの髪をいじっていると、

 想像したのかほむらが途中で足を止めた。そして、すぐにまた歩きはじめる。


ほむら「それは……恥ずかしいです」

キリカ「髪色は似てるけど、もし短くしても間違われること絶対ないね」

ほむら「……昨日は綺麗って言ってましたけど、呉さんのほうが癖なくて羨ましいです。綺麗だと思います」

キリカ「そんなことないよ、大したことしてないし……」

キリカ「手入れといえば一時期は特に酷かったよ? ……一時期というか、いつかの世界じゃ」

ほむら「私もなにもしてないですし、私も少し前まではストレスと扱いきれない火薬の熱と灰にやられてました」


キリカ「転入生ってまず職員室とか行くの?」

ほむら「はい。まずは先生と挨拶をして、それからクラスまで案内してもらいます」

ほむら「……気負わなくてもいいとは言ってくれましたけど、今から緊張してきました」

キリカ「じゃあ今練習してみよう」

ほむら「暁美ほむらですっ!東京から引っ越してきて、前はミッション系の学校に通ってて、えっと……」

ほむら「……すぐ入院してしまいましたが、今度は学校生活楽しみにしてます」

キリカ「ミッション系の学校に通ってたんだ。お祈りとかするの?」

ほむら「ええと、週に一度、朝会の前に」

キリカ「へえ~」

ほむら「好きな食べ物は、ケーキとか好きです」

ほむら「えっと、変わった名前ですけど、覚えにくくなかったらほむらって呼んでくれると……」

キリカ「ちょっと長いかな……」

ほむら「そうですか? いつも色々質問されるし、私なりに考えてみたんですけど」


キリカ「全部詰め込まなくても……聞かれてからでもいいんじゃない。先に全部話したら話すことなくなっちゃうよ」

キリカ「あとほむらは変わった名前だからむしろ覚えやすい」

ほむら「そ、そうですね! 自信持ちます!」


 ……ほむらがやけにきらきらとしてる。

 私も人の相談乗ってる場合じゃない。

 いっそ新しい環境ならそれはそれでやりやすい気もするけど……


キリカ(次のチャンスは……高校デビュー、か)

キリカ(そしたら私も自己紹介とか考えないといけないかな)

キリカ(……いや。そもそも最後の一年だからって捨てる発想してるのがいけないんじゃないか?)



1自由安価
2ほむらって趣味とかないの?
3手芸部に勧誘してみる

 下2レス


キリカ「ところで、やりたい部活とかってある? なんか前やってたとか」

ほむら「前は特にやってなかったです。何か入ったほうがいいんですかね……?」

キリカ「よかったら、手芸部に来てよ! 私もまどかも一緒だし」

ほむら「手芸部かぁ……ドジでも出来るでしょうか?」

キリカ「爆弾作る方がよっぽど難しいんじゃないかと思うけどなあ。別に厳しい縛りもないし、来たい時でいいから」

キリカ「わかんないことあったら私も教えるよ! ……大したことは出来ないかもだけど」

ほむら「はい……同じ部活っていうのも楽しそうです」

キリカ「やった! 部員獲得」


 ……今までまったく部員意識なんてなかったのに、調子良く言ってみる。


キリカ(まどかにも伝えておかないと……)

キリカ(……前は一緒に行ってたけど、まどかたちはいつももう少し早いはず)


 少し急いだら三人とも会うかもしれない。

 私が回復してからあの三人と登校しなくなったのは、やっぱり仁美ちゃん相手に合わないところがあったからだった。

 私やマミたちと一緒に居る時とは違う、せっかくの仲の良い空気を壊したくはない。


 ……話しづらかった、のは事実だった。それが何か悔しくて認めたくなかった。



キリカ「……それじゃあ、学校終わったら職員室前で待ち合わせね。入部届を届けに行こう」

ほむら「はい」


 学校につくと、ほむらとは途中で別れた。

 自己紹介の結果がどうなったかはお昼に聞こう。


――昼休み


ほむら「こんにちは……」

マミ「あら、こんにちは」

キリカ「!」


 いつもより声の多い挨拶に、振り向いて見る。


キリカ「結局三つ編みになってる?」

マミ「ええ……でもいつもの髪型じゃないわ」

ほむら「遊ばれてしまって。ゴムは帰りに返します」

マミ「じゃあすぐ元に戻っちゃうのね、残念」

まどか「これはこれで似合ってるよ!」


 両側の髪一束だけを三つ編みにして後ろで束ねたような髪型。

 ……誰が考えたんだろう。そのセンスは見習いたい。


さやか「今日来るっていうのは知ってたんだけどさー、一瞬違う人かと思ったよ」

さやか「髪下ろすなんてはじめてじゃない? なに、イメチェン?」

ほむら「ええと、そんな感じです」

さやか「でもやっぱりほむらはほむらだね。こうしてすぐに遊ばれてるあたり」



 『親しみやすい雰囲気』って言ってたから、多分成功なのかな。


さやか「……あ。今日の弁当、昨日の夜の残りと冷凍だ。手抜きしたな」

さやか「まどかのはいつも豪華でいいな~いいな~」

ほむら「用意してくれるだけでも感謝しなきゃですよ」


 弁当箱の中身を見てぼやくさやかをほむらがたしなめる。

 ……正論だ。一人暮らしだからこその苦労っていうのはあるんだろう。


さやか「さて、ほむらの今日のお弁当は……」


 ……さやかがほむらのほうを見て驚いている。

 それにつられて私もそっちを見てみる。


さやか「まともってか、めっちゃ張り切ってる!」

さやか「何があったんだよ? いつも購買かコンビニのパンと野菜ジュースとかだったじゃん」

ほむら「えーーと、はい……まあ」

キリカ「?」


 ……なんで今私の方を見たんだろう。



1自由安価
2…手作り?
3自己紹介も上手くいったの?

 下2レス


キリカ「……え。何今の?」

ほむら「え、なにがでしょう」

キリカ「いや……まあいいか。 手作り?すごいね」

ほむら「あ、はい……一応」

さやか「今度あたしにも教えてよ」

さやか「やっぱ、料理とか出来たほうがいいのかなー……って」

まどか「上条君のために?」

さやか「わざわざ言うなよ照れるなぁ」

ほむら「わ、私なんかより巴さんに教わったほうが良いと思いますよ!」

マミ「……いいんじゃない? 教えてあげたら?」

ほむら「ええ!?」

さやか「まあそうですね~、マミさんのはちょっとすごすぎてすぐ真似できそうにないですし」

マミ「ね、暁美さん」

ほむら「…………はい」


キリカ「そんで、自己紹介もうまくいったの?」

ほむら「色々考えて練習はしたんですけど、本番になるとほとんどとんでしまいました」

ほむら「でも、前と違って知り合いがいたし……その後に色々と話すことはできたので」

キリカ「失敗はしてないんだね。よかった」

ほむら「本当の最初の時は、ああやって話しかけられるのが怖かった」

ほむら「まどかや……みんなのおかげです」

まどか「うん!」


 ……ほむらはまどかと会って、私たちと会って、変わったらしい。


キリカ(私は……)


 ほむらのように一本に続いてるわけじゃない。

 まとめることすら困難だけれど。


キリカ(……このままみんなといられれば…………――)



 昼休みも終わりごろになって、見送りついでに私も一旦廊下まで出る。


キリカ「あ、そうそう。部活のこと、ほむらから聞いてる?」

まどか「部活のこと?」

キリカ「なんだ、まだ言ってなかったのか」

ほむら「えっとね、私もまどかと一緒の部活に入ることにしたんだよ」

まどか「そうだったんだ! じゃあ部活でもよろしくね、ほむらちゃん」

キリカ「また放課後ね」

まどか「はい!」


 ――それから授業を終えて、放課後の時間。


 帰りのHRを終えると、職員室前にほむらとまどかがやってくる。

 ゴムはもう返したようで、髪型は朝と同じに戻っていた。



ほむら「……書けました」

まどか「提出しにいこっか。先生はずっと裁縫室に居るから」

まどか「すぐ部室行くよね?」

ほむら「はい。部長に挨拶とかもするんでしょうか?」

キリカ「あー……そうだね。確か私も話した気がする……」


 マミたちは今日も訓練らしいけれど、ほむらも一日くらいはこっちについてきても大丈夫だろう。

 今の訓練のメインはゆまらしい。


キリカ(……こんな時こそ私が引っ張ってってあげなきゃなんだけど)

キリカ(あの人、あんまり話したことないんだよなぁ)

キリカ(ま、私は紹介するだけだし……)


 ……横を見てみれば、ほむらが気合を入れていた。


キリカ(……ほむらのほうがよっぽど緊張してるか。そりゃあ)


キリカ「まあ、来てるかはわかんないよ」

ほむら「えっ、そうなんですか?」


 改めて考えると、本当に緩いなぁ。

 ……こんな緩い部活で緊張なんてしなくていいのに。ほむらを見てると、他人事のようにそう思った。


 …………うちの顧問は家庭科の先生でもあった。

 授業から大体ずっとここにいるらしく、

 何か関係あるのかないのかわからない作業をしながらこの教室を見守っていたりする。

 口を出すことはそうそうない。単にこの教室の主とか、みんなそんな認識のようだった。


 ――入部届を渡すと、先生はあっさりと受け取ってくれた。

 それから部長と少し話して、落ち着いたところで荷物を置いた。


キリカ「緊張した?」

ほむら「はい。でも、話してみるとそんなに怖くなかったです」

キリカ「うん、別に怖い人ではないと思うけど……」

まどか「とりあえず無事入部完了、だね」

まどか「裁縫セットとかって今日は持ってきてないよね? 一応準備室のほうに一式はあるから」

まどか「さっそくなにかやってみる?」

ほむら「じゃあ……恥ずかしながら、裁縫って習ったのがずっと前なので」

ほむら「基本的なところから教えてもらえると……」

まどか「うん! じゃ、取りにいこっか」



1自由安価
2ほむら、学校どうだった?
3準備室に行くついでに展示の作品について話す

 下2レス

--------------------
ここまで
次回は30日(日)18時くらいからの予定です


 ……準備室に入ると、ほむらはきょろきょろとしていた。

 授業で教室を使ったことはあるかもしれないけど、ここに入ることはそうそうないはず。

 準備室内の作品に興味があるようだった。


キリカ「こっちにまどかのもあるよ」

ほむら「わぁ、本当だ! すごい。可愛い」

キリカ「可愛いの多いよね。まどからしいっていうか」

まどか「ほむらちゃんも何か作れば飾られるかも」

ほむら「なんか、でもハードルが高い気がします。こんなの作れるようになるのかな?」

まどか「ほむらちゃんなら器用そうだし作れるって! まだ来年もあるんだし」

ほむら「……あ。こっちには呉さんのも」

まどか「外にもあるよ。見てみる?」


 針と糸、簡易的な裁縫セットと練習用の布を持って準備室から出ると、

 展示のスペースをぐるりと一周まわってみる。


ほむら「みんなすごいんですね……こっちは……」

ほむら「あっ、またまどかのあったよ!」


 ほむら、目を輝かせてるな……。


ほむら「みんなすごいんですね……」

キリカ「じゃ、ほむらもやってみよっか」

ほむら「でも本当に私、基本的なとこも出来るか怪しいですよ?」

まどか「大丈夫大丈夫。基本的なことさえできれば、出来ることも一気に広がるはずだし」

キリカ「やってみたらいい線いきそうな気がするけどなあ」

ほむら「そうでしょうか? ……頑張ってみます」

キリカ「はいはい、リラックス」


 妙に張り切るほむらを落ち着かせてテーブルに戻る。


 ……やっと糸の通った針を持って、ほむらが集中を解いて顔を上げる。

 たったこれだけでも、慣れていない人にとっては苦労する作業らしかった。


ほむら「……できました! 糸通りました!」

まどか「おめでとー!」

ほむら「二人がコツを教えてくれたおかげです」

キリカ「駄目な時はそのまま粘っててもうまくいかないから……」

ほむら「はい、何度も先が分かれて……大変でした」

まどか「糸通しの使い方もやっておく? 慣れないうちは便利だろうし」

ほむら「ええっ、折角通したのにこれ取っちゃうの?」

キリカ「別の針にしよう」


 そう言うと、ほむらは大げさにホッとした顔をする。まあ、二つあっても無駄にはならない。

 しかし糸通しを使ってみるとあっけなく成功して、ほむらは拍子が抜けたようだった。


 ……『さっきの苦労はなんだったのか』、って言いたそうな顔だ。


 ちくちくと練習用の布を縫ってみて、それから糸を使い切ったところで切って、その端を持つ。


まどか「じゃ、そこでたま結びしようか。指をこうやって……」

ほむら「今のどうやったの?」

まどか「ええっと、こう……」

ほむら「固結びじゃ駄目ですかね……どうしても縫い終わりから隙間が出来て……」


 端に結びすぎて緩んだ糸を引っ張り、針を使って一旦解いてから結び直そうとしている。

 こうして見ていると、むしろ器用なような気がしてきた。


まどか「えっ? 別に駄目ではないような………?」

まどか「……キリカさん、どうでしょう?」

キリカ「えー……解けなければいい気がするけど、毎回それやってたら多分手間かかる気がする」

キリカ「慣れておいたほうがいいんじゃないかなぁ……」

まどか「……そうですね。ほむらちゃん、ここはやっぱり逃げちゃ駄目だよ!たま結び練習しよう!」

ほむら「結構うまくいきそうなのに」

キリカ「え、えーと、立派な手芸部員になるための訓練だよ!」

ほむら「は、はい……これも訓練ですね……」


 …………今日の放課後は、まどかと二人で見ながらずっとほむらの練習に付き合っていた。


 少し前に部長も帰った。

 去り際に『お疲れ』の挨拶とともに、少しだけ私とも話した。


 ――『最近楽しそうにしてるわね。あなたがそうやって話す人だって知らなかった』

 彼女はそう言った。


 傍から見れば、私も十分変わっているらしい。


ほむら「今日はありがとう」

ほむら「私、まどかのおかげで色んなことができるようになった気がします」

ほむら「呉さんもありがとうございました!」

まどか「お礼なんていいよ」

キリカ「誘ったの私だしね」


キリカ(……ほむらからすれば、まどかは一番の恩人なんだよな)

キリカ「…………」


まどか「じゃあ、そろそろ帰ろうか。一緒に帰れる?」

キリカ「あの、ところで、お昼の時のことだけど…………」


 ほむらが携帯を取り出す。何かメールかな。


ほむら「すみません、ちょっと私、急がなきゃです」

まどか「何か用事が?」

ほむら「用事と言うほどのことでもない……けど」

まどか「そう? じゃあ、気を付けてね?」

ほむら「はい! 今日は本当にありがとうございました!」


 ほむらが早足で去っていく。

 ……敵襲だとか、事件が起きたみたいな深刻なことではないみたいだけど。


キリカ「……なんだったんだろう」

まどか「キリカさんは何を言おうとしてたんですか?」

キリカ「私は…………」

キリカ「ううん、別に。ちょっと気になったことがあっただけ…………――」



―――

―暁美宅



ほむら「お、織莉子さん!」


 ほむらは玄関のカギを開けると、靴を脱ぎ捨ててどたどたと慌てた様子で走っていた。

 ……両手でトイレットペーパーを抱えて。


ほむら「間に合いましたか……? 織莉子さーん!」

織莉子「ねえ。なんでトイレに向かって話してるの? 私はこっちなのだけど……」

ほむら「えっ!? だ、だって、『トイレットペーパーがなくなったようなので買ってきてほしい』ってメールが!」

織莉子「……別にそんなに追い詰められてからメール送ったわけじゃないわよ?」

織莉子「それに、いざとなったら自分で買いに行くわ」

ほむら「じゃ、じゃあ勘違いですか……でも間に合ったようでよかったです……安心したら急に力が……」

ほむら「……あと、昨日のお皿はどうなりました?」

織莉子「普通に昼前に店の人が来て持っていった。次からは外に出しといていい、ですって」

ほむら「あ、そうなんですか……次っていつになるのかなぁ」

織莉子「とりあえず、これで私の“やりたかったこと”は二つ達成ね」


 ……ほむらが足元にやってきたエイミーを抱き上げる。

 エイミーは舌をペロリと出してから機嫌良さそうに鳴いた。


織莉子「やっぱり懐いてるわね」

織莉子「私と途中まで杏子とゆまも居たけれど、ほむらがこんなに長いこと離れていたのは初めてだったから」

ほむら「今日はエイミーのこと見ててくれてありがとうございます」

ほむら「ところで、これからどうしましょう?」

ほむら「昨日は荷物揃えるために戻りましたけど、うちじゃみんなで生活するには色々と足りない気がします……」

ほむら「あ…… でも」

織莉子「……これから学校がはじまったら、ここのほうが通うには近いかしら?」

ほむら「それはそうですけど。これからまた休みですよ」

織莉子「でも、明日は私とマミは少々長い間外に出るわよ?」

ほむら「……そうでした。明日、だものね。志筑さんとのお茶会」

織莉子「ひとまず、みんなを迎えに行ってあげましょう。そろそろ訓練も終わる頃でしょう」

ほむら「はい」

―見滝原大橋下


 日の落ちかけた空の下、大きな橋の影まで下りていく。

 すると、その足音にみんなが振り向く。


織莉子「みんな、今日はお疲れ様」

ほむら「お疲れ様です!」

マミ「ええ、部活は楽しめた?」

ほむら「はい!まどかと一緒に部活なんてはじめてのことで、わくわくしました」

ほむら「いろいろ教えてもらいましたし」

織莉子「……ところで、そちらは『治癒魔法』は順調で?」

ゆま「え、えーと……」

杏子「まあ……今見てるところだよ」

杏子「月末まではまだ少し日はある……」

杏子「それに、もし間に合わなかったとしても、さやかに伝えてまた様子を見ることだって出来る」

織莉子「そう……。まあ、訓練のことは魔法少女である貴女達に任せるしかないのだけれど」


織莉子「今日もまだ途中なら、終わるまで待つわ」

杏子「じゃああともう少しだけ続きやるから、見とけよ」


 端の方に静かに腰掛けて、訓練の風景を、その『光』を眺める。

 ――わずかに目を細める。私に理解るのはそれだけだった。


 やがて訓練が終わると、緊張の解けた様子で橋の上のほうに集まる。


杏子「待たせたな、帰るか?」

ゆま「今日はどっちー?」

ほむら「明日は二人は出かける予定がありますし、今日はまた私の家に来ませんか?」

ほむら「佐倉さんも、ゆまちゃんが居るのに忍び込みするわけにもいきませんしね……」

ゆま「ゆま、ニンジャごっこもケッコーすきだったよ?」

マミ「……毒されちゃダメよ、それは」

マミ「また日曜日、みんなで美国さんの家に集まりましょうよ」

織莉子「相変わらず勝手に決めるわね……まあいいけど」

マミ「だって、暁美さんも準備しないとまずいでしょう?」


織莉子「準備?」

マミ「暁美さん、今度美樹さんのために料理を教えるんだものね……」

ほむら「」ビクッ

杏子「はあ、なんでそんな約束を……」

ほむら「ああああ、見栄張ったわけじゃないんです!」

ほむら「私が作ったわけじゃないけど『手作り』には違いないですし!でも勘違いされただけで!」

織莉子「…………」

マミ「美国さんの家のキッチンなら広いから、みんな入ったって大丈夫だわ」

マミ「今度久しぶりにお料理教室をしましょうよ」

ほむら「……はい」



―25日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

―26日 午後
志筑邸正門


マミ「…………ある程度耐性がある気はしたのだけど、やっぱりびっくりするわね」

織莉子「確かにこれは……予想以上に大きいわね」


 書いてあった通りの家の近くまで来ると、その建物はすぐにわかった。

 私の隣りに立つマミは、門の前でしきりに服装を気にしている。


マミ「この厳重な監視カメラとか、落ち着かないわ……」

マミ「誰が出るのかしら。 ちょっと、美国さんが押してくれる? これ」

織莉子「しょうがないわね……」


 インターホンを押してまず出てきたのは、使用人のようだった。

 使用人に案内されて部屋に通されると、やっと、私たちの知った顔が明るく出迎えた。


仁美「ようこそ、二人とも! お待ちしておりましたわ」

マミ「ええ、こんにちは」


 これまでの少々仰々しすぎる雰囲気に気圧されていたマミが、やっと顔を緩ませる。

 私もそう感じるのは少し庶民に馴染みすぎた証拠だろうか。『あの件』以降私が失ったものは確かにあった。

 格が無くなっただのという罵倒も間違ってはいない。それを恥ずべきことだとはさらさら思わないけれど。


織莉子「こんにちは。こちらは私たちからのお土産です。良かったら受け取ってくださるとうれしいわ」

仁美「はい、ありがたくいただきますわ。えーと…… まあ! ケーキかしら?」

マミ「ええ、今日のおやつの足しにでもして。それとこっちはフルーツハーブティ、美国さんからの贈り物ね」

織莉子「…………」


 ……これに関しては、お土産に迷っていたところ『好評だったから』と無理矢理買わされた。


仁美「素敵ですわ。後で家の者に淹れさせますわね」

仁美「まずはどうぞおかけになってくつろいでくださいませ」

マミ「ええ、失礼するわ」



織莉子(――――…………大丈夫。 今日は“味”を感じる)


 雑談が弾むと、思ったよりも賑やかな雰囲気になった。

 “私の周りに居た人たち”と一見似ているようにみえて、違う。みんなと居る時に似たものを感じた。


仁美「それではこれは巴さんが?」

仁美「私は全部ほかで買うか家の者に任せてしまうから……手作りなんて尊敬します」

マミ「尊敬なんて……」

織莉子「マミのケーキは特別だけど、料理全般上手なんですのよ?」

織莉子「私もそういうところは尊敬しているわ」

マミ「なによもう、みんなして褒めると照れるわよ」



1自由安価 ※この場に居る人の言動までOK
2織莉子「マミとは普段学校でもよく話すの?」
3マミ「もうちょっとハメはずしなさい!」

 下2レス


織莉子「マミとは普段学校でもよく話すの?」

仁美「学年は違いますが、帰りに話したりしていまして」

仁美「こうしてじっくりと話す機会は初めてで楽しいですわ。今日は来てくれてありがとうございます」

マミ「いえいえ、こちらこそ呼んでもらって、しかもこんなにご馳走までしてもらって……」

仁美「お二人も仲が良さそうですが、どこで知り合われたのですか?」

織莉子「私たちは……そうねえ」


 ……契約してから私からマミとまどかに声をかけたのが始まり、なのだけど。

 さすがにその理由までは詳しく話せないわね。



1たまたま話す機会があった
2同じ目的があったから
3運命の導きにより
4自由安価

 下2レス


織莉子「……たまたま話す機会があったから、よ」

仁美「たまたまですか。学校は違いますし……どこかで共通点でも? なにをきっかけで話されたのでしょうか?」

織莉子「共通点は……あったわね…………」


 正直この一言以上話せることがないのだけど、食いつかれてしまった。

 どうしましょう。目線でマミに訴える。


マミ「……み、美国さんから話してくれたのよ。強いて言えば運命の導きかしらね」

仁美「運命の…………導き」

織莉子「か、勘違いしないで頂きたいのだけれどね…………」

仁美「そ、それってつまり……ああいけませんわ! いえ、わかりました。このことはこれ以上詮索はいたしません」

仁美「大丈夫です。私は理解はしているつもりです。これ以上は野暮というものですね!」


織莉子(あ、勘違いされたわ……)

織莉子(学校がああだから、その手の話題は色々と…………)


仁美「……ところで、その…… 女学校とはどんな感じなのでしょうか?」

仁美「やっぱり見滝原とは違いますよね。文化とか、しきたりとか、お勉強の内容とか、文化とか…………」


 仁美さんはどこかそわそわとした様子で話している。

 ……一度も知らないからこその興味と妄想。思い返してみれば、やはり知らない方がいいと思った。


織莉子「そうね……そんなに『上品』なものじゃないわよ? 一見して煌びやかかもしれないけれど……」

織莉子「……『その雰囲気』は、貴女ならわかるんじゃないかしら?」


 そう言うと、仁美さんは何も言わなかったけれど、静かに納得したような様子を見せた。


織莉子「あと、その手の話題はたまに出る。大抵真偽は不明。ごっこの延長線みたいな、暇つぶしのようなのならあるかもしれない」

織莉子「けど別に私はそういうのでは……」

仁美「あ、いえ……もう大丈夫ですわ」

仁美「それに、巴さんは学校も違いますしね!そんな爛れたものではないことはわかってますもの!」


織莉子(……弁解できてなかった)

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ここまで
次回は31日(月)20時くらいからの予定です


織莉子「それと一つ。私は今学校には通っていない」

仁美「!」

織莉子「…………私は、貴女を羨ましいと思っているんですのよ?」

織莉子「仁美さん」

仁美「……」

織莉子「それより、見滝原のことが聞きたいわ。色々話してくださらない?」

仁美「……はい。そろそろお腹もほどよく満たされた頃ですし、私のお部屋にご案内しますね」

仁美「ここよりきっと話しやすいと思いますから」


 扉の外に居た使用人の人にお辞儀をして、仁美さんの後をついていく。

 さっきの大きなテーブルのある部屋に比べれば小さな、普通の部屋。

 『話しやすい』と言った意味は理解できた。


マミ「それにしてもすごいわね、このベッド。お姫様みたい」

仁美「大げさですわ」

織莉子「ところで、フルーツハーブティは気に入ってもらえたかしら?」

織莉子「気に入ったものがあれば、今度またお昼に用意しましょうか」

織莉子「……そういえば、前の苺の時は仁美さんは?」

マミ「ああ、最近お昼の時は一緒にいないから……」

織莉子「あら、そうでしたの?」

仁美「……はい。私がお邪魔させてもらったのは一度だけです」


 仁美さんは少しだけ言いにくそうにした。

 ……私にはその意味まではわからなかった。


仁美「しかし、ちょっと待ってくださいまし…… 今の話って、『用意』って、そういうことでよろしいのですよね」

仁美「お、お二人はもしかして、同棲していらっしゃると……!」

織莉子「…………あ」

マミ「あー…………」


 ……これは弁解ができないと思った。

 冷静に考えてみれば、普通の人からしたら『おかしい』のかもしれない。


マミ「……まあ否定はできないわね」

マミ「寂しいんだもの」


 ――私たちはまだ子供だ。

 でも、普通じゃない子供ばかりが集まっているのだから仕方がないのだ。


 すると、マミの醸し出すその雰囲気のせいだろうか。

 仁美さんは何かを感じ取ったのか、これ以上食いついてくることはなかった。


織莉子(それにしても、わざわざ誤解を広げるような言い方をしなくてもとは思うけれど……)


マミ「ね、それより私もクラスのこととかもっと聞きたいわ。学校での鹿目さんと美樹さんの様子とか」

マミ「美国さん、二人とも仲が良いのよ。特に鹿目さんとは仲良くなってたみたいで、よく話を――――」


 更に雑談が弾んでいく。

 私の知らない学校の話を聞くと、身構えていた私の心も少しずつ溶解し、弾んでいくようだった。


 …………そういえば、最近まどかともずっと会っていない。

 『会いたいな』 そうぽつりと考えると、同時に、彼女のことも浮かんだ。

 この場には話に出てこなかったが、キリカとは一緒に居るのだろう。

 いっそ“私が貴女だったら”――同じクラスにでも居れば、こんなふうには思わなかったのだろう。


 ならもし、”貴女が私だったら”どうだろうか?




 ――――…………部屋の半分閉められたカーテンの外には、小さな姿が立っていた。


―――


 朝十時頃に起床。午前中は編み物の続きをして、それからお昼ご飯を食べて自分の部屋に戻ってきた。

 ……ぼふんとベッドに仰向けに寝転ぶ。


キリカ「…………退屈だ」


 ごろごろと身体の向きを変えて、天井を眺めてぼそりと呟いた。


キリカ「チマチマした作業もそろそろ飽きたぁー……ーー……」


 久しぶりの休日を家の中でごろごろするだけで満喫するには、最近をまったりと過ごしすぎた。

 ベッドの上で身体を伸ばす。それから、バネのように弾ませて起き上がった。



1自由安価
2一人で体術の訓練でもしよう、そうしよう
3もふもふが足りない

 下2レス


キリカ「……糖分だ、糖分が足りない」

キリカ「久しぶりに何かスイーツでも食べに街をぶらついてみるか……」

キリカ「…………」


 ――まぁ、ただ食べるだけだと後で体重計が怖いから一人で体術の訓練をしてから行こう。

 身体を動かす分+-ゼロになるはずだ、多分……


キリカ(そうと決まれば早速……)


キリカ「――――ふッ! ……アレ?」


 なんか思ったより足が上がらない。

 けど私、そもそもこんな華麗なハイキックとか戦闘中にお見舞いしたことないような。

 ……まあ、いいや。

 そんなことより、この身体の硬さについてだ。


 ベッドに座りなおして、布団を端のほうに除けて足を開く。


キリカ「ぐ、…………ぐぐぐ……」

キリカ「…………痛い。無理だ。そもそも私、運動とか苦手だった……」


 そもそも、ハイキック、ねー……。

 男の人とか、長身で足も長い女の人がやるとカッコイイのかもしれないけど……

 隙とリーチの問題をクリアするには、跳び蹴りの方が実用的だと思うんだよね。魔力を推進力に使わないと絶対出来ないけど。


 諦めてベッドから起きて、今度は腕を振るう。

 パンチ? 剣術? それとも手の先に武器があることを想定して動く?

 一人で体術って、どうやって訓練すればいいんだろ?


 思えば私はいつも相手には恵まれていた。


 そういえば、前マミはやってたっけ? ハイキック……

 『黄金の美脚』とか言っ、て……


キリカ「ふふ……っ」


 あの時も思ったけど、今思い出すとなんかすごく可笑しく思えて……――


キリカ「わっ!」


 ――ゴン、と鈍い音が響いた。

 振るった腕が棚にぶつかって、肘を押さえて丸まる。


キリカ「つ…………」


 すると、部屋の扉が開いた。……お母さんだ。


*「ちょっと! さっきからバタバタ聞こえてるんだけど何してんの?」

キリカ「虫が出ただけだよ!」


 …………せめて外行こう外。


 部屋着にパーカーを羽織って、最低限の荷物だけ持って外に出る。

 どこに行こう? 訓練といったらやっぱりいつもの橋だけど。


キリカ(さすがに休みの日は訓練はないかな?)


 結局そこ以外も思いつかなかったので、いつもの場所に向かうことにする。

 土手っていう選択肢もあるけど……わざわざ避ける理由もないし。


 ――いつもの場所に行ってみると、そこには三人の姿があった。

 シルエットだけでもわかりやすい。小さいのはゆま。その隣に杏子。ほむら。

 休みだというのに、訓練をしているらしい。


 あ。それは私もか。


キリカ「こんにちはー」

「!」


 近づきながら挨拶すると、三人がこちらを振り向く。


杏子「お? 久しぶりに随分すっきりした格好してるな」

キリカ「ほとんど部屋着。休みまで訓練? マミはいないの?」

ほむら「巴さんは用事があるみたいなので。それと……」


 ほむらはゆまのほうに視線を下げた。続いて、杏子もゆまを見る。


キリカ「治癒魔法の訓練……か」

キリカ「……上手くいってないの?」

杏子「いや、一応まだ日はある。今のうちにも出来るだけのことはやっておきたいんだよ」

ゆま「う、うん! できるだけがんばるから……!」

キリカ「……そっか」



1自由安価
2体術の訓練(ほむらと)
3体術の訓練(杏子と)
4ゆまの訓練を見る
5杏子の手に持ってるお菓子をじっと見る

 下2レス


 じーーーーーー……


 私の視線は自然に杏子の手に持っているお菓子に釘付けになっていた。

 なぜなら、私は糖分を補給するために訓練をしに来たのだから。


杏子「……なんだよ」

キリカ「えっ!? なにが?」

キリカ「ていうかそれなに? ケーキ? パンケーキ?串に刺さったパンケーキ!」

杏子「物欲しそうな顔しやがって。欲しいのか?」

キリカ「いいの?」

杏子「ほら、一口な」

キリカ「ありがとー! それじゃ遠慮なく……」


 だってこれは卑怯だ。なんてすばらしいものを持ってるんだろう。

 ……差し出された串に口を近づけると、とたんに引っ込まされて前につんのめる。


キリカ「ーー!」

ほむら「何ですかその遊び」

杏子「いやなんか面白かったから」


杏子「ほら」


 今度こそ一口より少し大きいくらいのパンケーキを口にくわえると、もごもごと咀嚼する。

 チョコレートソースとバターと、甘い香りがたまらない。


キリカ「美味しい! もう一口ちょうだい」

杏子「だーめ」

キリカ「ケチ!じゃあこれどこで売ってたの」

杏子「駅の出店だよ。駅前じゃなくて中だぞ。大阪の店なんだってさ」

キリカ「へー」


 訓練終わったら行ってみよう。

 そんなことを考えていると、ほむらがなにかうずうずした様子でこちらを見ていた。


ほむら「私もやりたい……」

キリカ「なにが?」

ほむら「餌付け」


 ……多分想像してるのは鳥の親子のそれだ。


キリカ「そりゃもらえるなら私は嬉しいけど」

キリカ「で、何をくれるの?」

ほむら「えーと……あ、たしかあれなら」


 ……ほむらが鞄を漁りに行った。

 それから戻ってくると、なにか黒くうすべったい長方形のものを持っていた。


キリカ「黒い……」

ほむら「梅こんぶです。訓練で失う塩分の補給にちょうどいいですよ」


 私の求めていたものとは何かが違う。いや、なにもかも違うんだけど。

 とりあえず目の前に差し出されたそれを、ありがたく受け取っておくことにし

 ……――――たらやっぱり引っ込まされた。


キリカ「もう! 手に噛み付くよ!」

ほむら「ふふふふ。はいどうぞ」

キリカ「……うん。すごくミネラル」


 …………おばあちゃんちに行った時のような懐かしい味がした。


杏子「んで、あんたはここに何しに来たんだ?」

キリカ「あー、体術の訓練をしようと思って」

キリカ「どうせなら杏子が教えてよ。塩分と、一応糖分も少し補給できたしさ」

杏子「つっても、今じゃ契約時とは違うだろ? 武器もないし」

キリカ「あー、まあそれはそうなんだけど……なんか身体とかめっちゃ固いし……」

杏子「先にゆまのほう優先したいから、もうちょっと後でいいか?」

キリカ「! うん。いや、こっちこそ戦えもしないくせに時間割かせてごめんね」

杏子「まあ今は戦いには使えないだろうけど、やっておけば今すぐにも、後々にも役立てられるはずだ」

杏子「純粋で本格的な体術を教えてやるよ」


 そう言われて、まずはゆまの隣でその訓練風景を見守ってみる。

 ……光という形で可視化されていたって、魔力なんていうのはやっぱり感覚的な部分が大きい。

 見ているだけじゃ、専門的なことはやっぱりわからなかった。


 ……でも、ゆま自身になにか焦りのようなものがあるような、

 そんな雰囲気だけはなんとなく察知出来た。


キリカ「…………」


杏子「……一旦休憩にするか」

ゆま「うん……」

ほむら「焦らずやっていきましょう」


 焦らないでって言うほど焦っちゃうのは、私たちの期待に応えたいからなのかな。

 ゆまからしたら、実際にその治癒魔法をかける相手は一度もあったことのない人なのに。


杏子「じゃ、やるか?」

キリカ「えっ、杏子は休憩しなくていいの?」

杏子「あたしも今日は身体は動かしてない。こういう時にちょうどいい“休憩”は暴れることだろ?」

キリカ「……まあ、ちょっとはわかるけど」


 訓練に入る前に上に羽織っていたパーカーを脱ぎ捨てると、

 ゆまが裾を引いた。


ゆま「キリカ、ここケガしてるよ」

キリカ「あー、あの時の……痣になってたんだ」

ゆま「ゆまが治してあげる!」


 ゆまがそう言ったとたん、ポウッと小さな光が灯る。

 肘にできていた薄青い染みは、存在なんてしてなかったかのように瞬時に消えていた。


キリカ「ありがと……ごめんね、せっかく休憩中なのに」

ゆま「ううん!痛いのなくなってよかった!」

ゆま「それに、お礼! キリカはあのとき治してくれたから」

キリカ「あ……」


 ……やっぱり覚えてるんだ。

 そう思うと心まで小さな光に照らされるような、嬉しい気持ちになった。


キリカ「…………ゆまは何を考えながら訓練してるの?」

ゆま「え? えーと…………」

ゆま「わかんない、むずかしいよ。でも、じょうずにならなきゃって。キリカは?」

キリカ「……私もわかんないや」


キリカ「しいていうならダイエット?」

ゆま「だいえっと……ちゃんと食べなきゃだめだよ」

キリカ「食べてるよ。ただ、食べすぎた分をどうにかするためっていうか…………」

ゆま「たべすぎた分…………」


 ……ゆまの目線の先は杏子だった。


杏子「な、なんだよ? あたしは別にそういうわけじゃないけどな」

ほむら「ほとんどどこに吸収されてるのかわかりませんしね……」


 『あんたが言うなあんたが!』

 杏子と同時に同じ言葉を言っていたものの、言い方は違う。語気は私の方が強い。杏子は呆れるようだった。

 ほむらはただ単にあまり食べていないだけかもしれない。


 ――そして、やっと(これから)食べすぎる分をどうにかするために訓練を始める。


 実戦みたいのではなく、最初の方にやった素振りみたいな型や動きの練習だった。

 多分、今杏子とやったら文字通り“相手にならない”。それほど、技術以前の面でも差があった。


 最後に大分手加減して動きを確かめるために相手をしてくれて、

 今日の訓練はおしまいになった。


キリカ「おなかすいた…………やばい。どうしよう。今なら駅前にあるスイーツ店全部食い尽くせるかもしれない」

ほむら「それってダイエットには逆効果なんじゃ…………」

杏子「腹減った後の飯ってうまいよな! 食いに行こーぜ、その意気込みで駅前の飲食店食い尽くしてやろう!」

キリカ「いいね、行こうか。でも飲食店食い尽くすって、相変わらずだね。規模何倍に増えてんの」

杏子「ははは、意気込みだよ」


ほむら「ああ、悪魔の誘いです……」

ゆま「ほむらもちゃんと食べなきゃだめだよ? ゆまもお野菜食べられるようになったんだから!」

ほむら「うん、ゆまちゃんえらい。じゃあみんなで食べに行きますか」


 そうして私たちは駅に繰り出した。


 大阪から出張で出店している駅の串パンケーキにはじまり…………

 駅前のクレープ、アイスクリーム、ワッフル……その他もろもろ。

 満足するまで食べ歩いた私は、とりあえずとても満たされた気分になった。


 ……のだけど。


ほむら「ゆまちゃん、本当にお野菜嫌いだったの? 美味しそうに食べられるようになったんだね」

ゆま「うん! ぜんぶおいしかったよ!」

ほむら「私もお腹いっぱいです」

杏子「そうだな。大分食い尽くしたしそろそろ帰るか。こういう夕飯も悪くないな」

キリカ「えっ、夕飯だったの?」

ほむら「お夕飯じゃないんですか? ……あ、呉さんは甘いものしか食べてませんでしたね」

ほむら「……これから夕飯も食べるんですか?」

キリカ「…………えっ」


 そのつもりだったんだけど、そんなこと言ったら引かれるかな。

 ていうか、本当にもうお腹いっぱいだった。

 ……とりあえず家に連絡しておかなくちゃ。



1自由安価
2帰るって、ほむらの家?
3とりあえず訓練のお礼
4さようなら

 下2レス

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ここまで
次回は2日(水)20時くらいからの予定です


 簡単な文章だけ打って、送信する前にその文字を見直す。

 ……こういうことはたびたびあった。また色々言われるかな。

 送信し終えると、携帯をしまって顔を上げた。


キリカ「今日は訓練ありがとうね。やっぱり一人じゃ難しいから」

キリカ「……帰るって、ほむらの家?」

ほむら「ゆまちゃんを連れたまま忍び込みとかは、その……あんまりよくないなって思って」

キリカ「あー、それはたしかにね……」

ほむら「この一か月は佐倉さんが保護者みたいなものでしょう?」

ほむら「でも私たちも、出来るところでは支えたいと思うんです」

ほむら「ゆまちゃんの願いは、私たちみんな関わってますから」


 こういうところはほむらがとてもたくましく思える。

 もちろん杏子も。私とはなにもかも違うような……


ほむら「……ずっと私の家にいるってわけじゃないですけど。まあ、私もどうせ一人ですし」

ゆま「みんなでくらすの、とっても楽しいんだよー」

ゆま「ゆまはみんなをおたすけしたくて契約したけど、ゆまのほうがいっぱいおたすけしてもらって……」


杏子「また一丁前なことを……今のままでも十分だよ」

ゆま「でも……」

ほむら「ゆまちゃん、訓練のことならほんとうに焦ることなんて……」

キリカ「……ゆまは上条君のことって知ってるんだっけ?」

ゆま「えっと、さやかの大切なひと……?」

キリカ「私は魔力とか細かい技術のことはわかんないけど、気持ちのほうでも準備って大切なんじゃないかな」

キリカ「ひょっとしてゆまは、治せなかったらどうしようって不安に思ってるんじゃない?」

杏子「……まあ、そうだな。今回ばかりはあたしらの期待を押し付けてるだけだからな」

杏子「本当ならその魔法は自分の治したい相手に使うべきものなんだ」

ゆま「で、でも、ゆまはみんなのためにもさやかのためにも、治してあげたいって思ってるよ?」

キリカ「うん、みんなのためっていうのも……そうなんだけど」

キリカ「ゆまがさっき私の傷を治してくれた時は、私もうれしかったしゆまも喜んでくれた」

キリカ「大事なのは『治した人を笑顔にしてあげたい』って思いなんじゃないかな」


キリカ「まだ日にちはある……んだよね?」

キリカ「さやかに頼んで一度上条君に会わせてみるのはどうかな?」

ほむら「日にちは……一応月末までは」

キリカ「月末、か…………」

ほむら「……ゆまちゃん、どう?」


キリカ(意外と時間がない……みんなも焦ってるのかな?)

キリカ(……たしか、さやかが契約したのはそのくらいだったはずだけど)


 当日は、止まった時間の中で治療をすれば、顔を合わせることもなく終わってしまうのかもしれない。

 本人には気づかれることもない。……もちろん治ったとしたってゆまのおかげだなんて思わない。

 その『笑顔』を見ることもなく別れることになる。

 だから、もしかしたらそれは意味のないことなのかもしれない。


ゆま「……会ってみたい」

ゆま「ゆまが治そうとしてるひと……会ってみたい」

杏子「じゃあ、今度会いに行くか」

ゆま「うん!」


 フードコートにも人が増えてきている。これから夕飯という人が多いんだろう。

 私たちも席を立って、包み紙や空のコップを片づけ始める。


キリカ「ね! まだ時間も早いしさ、家寄っていってもいい?」

ほむら「それはいいですけど、どうしたんですか?目を輝かせて」

キリカ「エイミーだよ! あれから全然会ってないから」

キリカ「今日会ったら心ゆくまでもふもふするんだ~」

杏子「……あんまり殺気を出すと逃げてくぞ」

キリカ「殺気なんて出してないよ!」

杏子「じゃあなんだ?」

キリカ「…………愛?」

杏子「……愛だそうだ」

ほむら「え、なんで私に振ったの? ねえ?」



 ほむらの家につくと、エイミーはとてとてと玄関まで私たちを出迎えてきた。

 ……エイミーが最初に向かったのはほむらの足元だった。


ほむら「エイミー、ただいま。ごはんにしよっか」

エイミー「にゃ」

キリカ「…………」

杏子「おい、嫉妬されてるぞ」

ほむら「しょうがないじゃないですか、これからごはんタイムですし」

キリカ「……近くで見守ってるから大丈夫」

杏子「近い近い」


 エイミーのごはんタイムを横で見守る。

 もふもふもいいけど、こういうシーンも貴重だから見られるのは嬉しい。

 …………エイミーが食事を終えた頃、ふと目が合った。


ほむら「なんだか似た色合いしてますね。毛が黒くて、目の色も……」

キリカ「エイミーと?」

ほむら「あ、そうだ。写真撮ってあげますよ」

キリカ「いいね! ほら、エイミー」

エイミー「にゃ」


 丸い背中をなでなで、もふもふ。

 エイミーがごろんとお腹を見せるように転がった。


キリカ「おおお!」


 お腹のふわふわをもふもふしていると、エイミーが喉を鳴らした。

 すごい。猫のいる生活、か…………



キリカ「…………どうしようか、これ」

ほむら「寝てますね」

キリカ「動けないんだけど。ていうか私も動きたくないんだけど」

杏子「身体を動かして、腹いっぱい食ってるからな……ゆまも寝ちゃったしな」

ほむら「とりあえず写真撮っておきましょうか」

エイミー「……にゃ」

キリカ「あ、起きちゃった」


 ぬくもりとふわふわが去っていく。

 ……短かった。でも良い時間だった。


杏子「随分となつかれてるんだな」

杏子「これも過去の因果とやらか」

キリカ「……そうかな?」

ほむら「初めて会った時からなついてましたからね」

キリカ「それにしても、思ったより長い外出になったなぁ……」

ほむら「どうせなら、朝まで泊まっていってもいいですよ?」

キリカ「うーん……」



1じゃあそうする
2今日は帰るよ
3自由安価

 下2レス


キリカ「色々魅力的な提案ではあるけどー……、今日は帰るよ。着替えないし」

キリカ「夕飯いらないって連絡した次がいきなり外泊なんて、家族に怒られそうだし……」

キリカ「また今度ね。ところで、月曜はまた一緒に学校行く?」

ほむら「月曜日ですか……」

キリカ「あ、無理そうなら無理しなくていいけど……」

キリカ「あと、今の写真後で送ってよ」

ほむら「はい。それは了解です」



 家を出る前に、向かいのソファで眠るゆまの寝顔を眺める。

 名残惜しい気持ちはしたけど、これ以上いると本当に朝まで寝ちゃいそうだ。

 泊まった時にはエイミーを一晩中モフモフしよう。そう考えて家に帰ることにした。



―26日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [体術Lv2] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

------------------------
ここまで
次回は4日(金)20時くらいからの予定です

―27日


杏子「お、これ新発売じゃん」

ゆま「変わった味だよ!おいしいのかな?」

杏子「あぁ、そーいや前食ったけどそこそこだったな」


 二人がお菓子コーナーの前で引っ掛かっている。

 大きな建物の中に棚がぎっしりと並ぶ、広いような狭いようなお店だ。

 どこにでもあるようなスーパーなんだろう。けれど、私は物珍しくてきょろきょろと周りを見回していた。


マミ「ちょっと、お菓子買いに来たんじゃないんだから」

マミ「それで暁美さん、どんなお弁当を作りたいの?」

ほむら「ええと、ええと…………織莉子さんみたいな」


 なんともイメージの見えてこない言い方に、マミはこちらを見た。

 ……その続きは私に求められているらしい。


織莉子「確かあの時は、ゆで卵とサラダと……あとは簡単なチキンソテーとかだったかしら」

杏子「今日はカレーが食べたい!」

織莉子「それはお弁当じゃないでしょう……」

マミ「私も食べたいわ。夕飯用にカレールーも入れときましょうか」


ほむら「同じのにするのもつまらない……ので、なにか綺麗な感じのものが作れれば?」

マミ「またざっくりとしてるけど……レイアウトはセンス次第として、色合いを考えるのは大事よね」

ほむら「じゃあ、紫……と、ピンクがいいです」

杏子「紫蘇とサクラデンブだな」

マミ「いや、それもいいけど、食欲をそそる色って意味よ?」

ほむら「あ、美樹さんなら青のほうがいいでしょうか?」

杏子「青……青ってなんだ?」

ゆま「ソーダ!」

杏子「ソーダ弁当はあたしでもキツいな」

織莉子「青は逆よ。減退色だわ……」


 ……想像しただけで食欲がなくなってくる気がした。


マミ「それに、同じくらい栄養のバランスだって大事なんだから」

マミ「主食主菜副菜、一箱か二箱に全部詰まってるのが理想的ね。ついでに果物まであれば完璧」

マミ「男の子が相手なら、ご飯やお肉を多めにしてガッツリ系にしたほうがいいのかしら?」

ほむら「なるほど……参考にしますっ!」


 必死にメモを取るほむらを杏子は憐れんだ目で見ている……


杏子「……男に作る参考じゃなくて、さやかに教える参考なんだよな」

マミ「い、いつかは参考に出来る日がくるわよ……多分」

ほむら「ま、まぁそれはいつになるかはわかんないですけど…………」

織莉子「折角まどかも他の人も救えたんでしょう?」

織莉子「これからは余裕だって出来るわよ。今度こそ学校生活を満喫したらいいわ」


 自分で言っても、その言葉が他人事のようによそよそしく聞こえていた。

 私は未だに何もかも抜けて空っぽのまま、動きたくない。それでもこの瞬間は幸せだった。

 ――動こうとしたって、今これ以上動いたところでなにもないんですもの。


 ……そんな私も、やっぱり憐れんだ目で見られている気がした。



 買い出しを終えて家に帰ってくると、どさどさと買い物を床に置いていく。

 数日ぶりにいつものメンバーがこの家に集まっている。



マミ「――さて、これで必要なものは揃ったわよ!」

ほむら「……はあ」

杏子「……本当に揃ってるか?」

マミ「あとはやる気!キッチンに入ったらまず手洗い」

ゆま「てあらいだよ!ほむら!」

ほむら「はい……ああでも自信がなくなってきました」

織莉子「そんなに難しいものは作らないから大丈夫よ」

織莉子「それに、あなただけじゃないんだから」

杏子「自分が食えればいいだろ? 別にあたしは誰かに作るわけじゃないし」

ゆま「ゆまもつくっていい?」


 やる気十分なゆまさんに、マミがひとまず野菜を洗わせていた。……少しキッチンが高いみたいだ。

 杏子は好物ばっかり詰め込もうとするのだろう。

 そうすると大体お弁当が揚げ物の茶色一色になってしまう。前にも似たようなことはあった。

 今回は手作り以外禁止だからどうなるのかしら?


杏子「唐揚げ作りたい」


 ああ、やっぱり。みんながそんな反応をした。

 絶妙にハードルの高いものをチョイスしてくる。弁当の定番ではあるけれど。


織莉子「朝からそんなの作ってる余裕なんて……」

マミ「出来ないことはないわよ?」

杏子「よっしゃさすがマミ」

ほむら「でも、巴さんが出来るのと他の人が出来るのでは……」

マミ「……失敗したって食べられないことはないわよ。油っぽい炒め物になっちゃうだけで」

マミ「ああ、でも生焼けが一番悲惨かなぁ。でも佐倉さんなら胃腸も丈夫そうだし……」

織莉子「自分専用って言ってたものね」

杏子「なんで失敗するの前提なんだよ!? あたしだって生焼け食いたくねえよ!」

杏子「で、そこの判断はどうすればいいんだ? 衣つけてたらわかんないだろ中のことは!」

マミ「とりあえず、火加減と時間かしら?」

織莉子「それが初心者には難しいんじゃないの……」


ほむら「唐揚げはともかくとして……」

ほむら「私は何からすればいいんでしょうか?」


 ほむらにいたっては、結局本人の口からまともに具体的なことが聞けなかったので、

 ほとんど他の人が決めたようなものだった。


マミ「ええっと、そうね……」


 ほむらが作ろうとしてるもの(もしくはほむらが今何をすればいいか)
・自由安価

 下2レス


マミ「まずはタレを作りましょう」

マミ「メモしておいたからこれを見て。分量さえ間違えなければ大丈夫よ」

ほむら「は、はいっ!」


 ほむらはメモとにらめっこしながら慣れない様子で調味料をスプーンに注いでいる。

 ……料理というよりも、こうしてみていると理科の実験でもしているようだ。


ほむら「で、できましたよ!」


織莉子(まあ、料理は科学とも言うものね……)

織莉子(理論的には、やることを間違いさえしなければおかしくはならない……のよね)


マミ「それじゃあ今度は玉ねぎを切りましょう。ちょうどゆまちゃんが剥いてくれたところだから」

ゆま「はいっ、たまねぎ!」

ほむら「あ、ありがとう」


 マミに切り方を教えてもらいながら、途中まではなんとかうまくいっていた。

 ……のだけど。


ほむら「…………あ、あの。ぐすっ」

織莉子「……言いたいことは大体わかるけど、玉ねぎ触った手で目を擦ったら逆効果じゃないかしら」

ほむら「ああぁ、それもそうですね……うううう」

ほむら「本番はゴーグル着けてもいいでしょうか?」

マミ「途中で泣くよりはマシかもね……」

杏子「おーい、マミー!」

マミ「ええ、今行くわ」


織莉子(……なんだか心配になってきたわ。けど、あとは焼くだけだものね)

織莉子(それこそ火加減と時間さえちゃんとしてれば……)



 杏子(唐揚げ)はどうなったか?
 ※マミも居るので“最終的には”下限[20]くらいの出来に固定されます
・下1レスコンマ判定
0~99


 暫くほむらのほうを見ていると、揚げ物らしい良い匂いが漂ってきた。


織莉子「あら……意外。ちゃんと出来てるのね」

杏子「意外ってなんだよ。けど言ってみるもんだな。『意外と』面倒じゃないぞ」

織莉子「全然油使ってないのに……」

杏子「ま、これで生焼けはないだろ! 油少なくてわかりやすいし、むしろ焦げすぎるほうを心配するべきじゃね」

マミ「そうね、もうそろそろいいでしょう」


 杏子のほうを見ていると、

 キャベツを切っていたほむらのほうからごたごたとした声が聞こえた。


ゆま「だ、だいじょうぶだよ! ゆまがついてるから!」

ほむら「うう、でも……でも……」


 ゆまさんに見てもらってるの!?

 そう思ったら、どうやら指を切ってしまったらしかった。


織莉子「大丈夫、こういう時は落ち着いて包丁を洗うのよ」

ほむら「はい……なんか、慣れてますね」

織莉子「…………」


 ……やっぱり料理には治療係が必要らしい。


杏子「次はエビフライ作りたい!」

織莉子「欲張りすぎよ……それはさすがに本格的に油を用意しないといけないんじゃないの?」

マミ「オーブン調理という方法もあるわ。でも朝作るとしたら殻と背ワタの処理が面倒臭いわよね」

マミ「というか、買ってきてないけど海老はあるのかしら?」

織莉子「あるにはあるけど……」

杏子「コロッケは?」

マミ「なんでこうさっきからカロリーの高いものばっかり……」

織莉子「私は予想できてたわよ」


 ――――そんなこんなで、大分お昼の時間を過ぎてからお弁当は完成した。

 …………原因はわかっている。

 杏子の欲張りな揚げ物ラッシュだ。


ほむら「なんですか、その茶色い弁当は……」

杏子「あたしの自慢の特製唐揚げコロッケエビフライ弁当だ!」

マミ「……略して欲張り弁当ね。まさか全部作ることになるとは思わなかったわ」


ほむら「でも、思ったより少ないんですね?」

織莉子「『揚げたてが一番』って言って半分くらいつまみ食いしてたから」

杏子「まああたし専用だし」

マミ「あ……野菜がないわよ!」

杏子「しまった! これだけ千切りキャベツの合うおかずもないだろうに!」

ほむら「あ、あげませんからね?」

杏子「しょうがない、あたしもプチトマトもらっていいか?」

織莉子「ええ、どうぞ」

杏子「サンキュー」


 また渡したそばから食べてしまった。

 ……本当にお弁当を作る気があったのかしら?


ほむら「これで美樹さんに教えられます!」

マミ「そういえば目的はそれだったわね。教えるのもそうだけど、料理は出来て損はないわよ?」

ほむら「そうですけど……本番をやりすごすまでは今日の事だけを考えておきます」

ほむら「今なにかやったら頭の中から飛び出してしまいそうです」


杏子「千切りキャベツの練習はしておいたほうがいいんじゃないか?」

ほむら「あ、あげませんってば!」

マミ「まあ、確かにかなり時間がかかっていたわよね……切り方もまだバラバラかな」

ほむら「うう、それはそうなんですけど……」


 ……ほとんどほむらがやったものの、

 最後の火加減だけはマミが『お手本』としてやって見せていたところだ。


織莉子(その記憶がどこかに抜けていってしまわなければいいけれど……)

織莉子(見た目は普通に良いわよね)


 周りを囲むキャベツの緑とプチトマトの赤。生姜焼きの玉ねぎは飴色。

 彩りは思った通りに綺麗に揃っている。


 あとは本番も予定通りにいってくれれば……ってところね。



※※この場に居る人の言動までOK
1自由安価
2それで、本番はいつなの?

 下2レス


ゆま「本番もゆまが『治療係』する?」

ほむら「…………れ、練習しておきます」

ほむら「まずは晩御飯にも同じものを作ってみようかな……」

杏子「え、カレーがいい!」

マミ「暁美さん、カレー作ってみる?」

マミ「肉や野菜を炒めるのは同じだし、これもそんなには難しくないはずよ」

織莉子「おまけに玉ねぎが登場するのも一緒ね」



ほむら
1カレー作ってみようかな?
2家で同じものを作ってみます

 下2レス


ほむら「あ、頭がカレーになってしまいますっ!」

ほむら「カレーは織莉子さんと巴さんに任せますから、ちょっと家で同じものを作ってみます……」

マミ「そう? じゃあ気を付けてね?」

織莉子「何かあったらすぐに電話するのよ」

杏子「なんだこの過保護っぷりは……」


 ……お弁当を食べ終わると、ほむらは帰っていった。

 晩御飯とは言っていたものの、お昼を食べたのがそもそも遅い。もう夕方だ。

 あまりお腹がすく気はしなかった。


マミ「そうだ、カレーは佐倉さんが作ってみても……」

杏子「いい、疲れたからねる」

織莉子「……はあ」


 杏子の奔放さは少し羨ましいのだけど。


マミ「……そういえば、明日のお弁当はどうするのかしらね?」

織莉子「さあ…………」



―27日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [体術Lv2] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

―28日 早朝


キリカ「さて、と…………」


 体重計の上に乗って下を見る。

 ……目をこすっても、片足を上げてみても。しゃがんでみても、何をしても数字は変わらなかった。


キリカ「え、えいっ!」


 果てには服を脱いで放り投げる。

 …………数字が少しだけ減って喜んだものの、やっぱり残酷なことには変わらない。

 それに、前はお風呂上りにバスタオルも着けたままだった。


 やっぱり訓練の後食べすぎたかなぁ。

 それとも深夜にお腹が空いて食べた夜食のカップ麺がいけなかったのかなぁ。


キリカ「……プラマイゼロ、というよりはむしろ」

キリカ「でも、これでほとんど元通り、か……――」


 食べなかった時に一時的に減って、それから緩やかに元に戻りつつあったのが一気に増えた。

 減っても別に嬉しくはなかった。けど、やっぱり増えてるとヘコむものだなぁ……


キリカ「寒……っ、もう着替えよう……」


*「もう着替えてる。今日は早いのね、何かあるの?」

キリカ「別に。なんとなくだよ」


 リビングに行ってみると、テレビを見ていたお母さんがこっちを向いて声をかけてきた。

 お父さんはまだ寝ているというのに、母親というものは早起きなものなのか。


*「まだ朝ご飯も作ってないよ?」

キリカ「あー……、朝ごはんは」


 いらない。

 そう言おうかとも考えたけど、今にもおなかが鳴りそうで、力が入らなくなりそうな気がした。


キリカ「……簡単なものでいいよ。なにかないかなー」


 冷蔵庫に買い置きしてあったゼリーが目に入った。

 こういうのちょこちょこ食べてるだけでも幸せなんだけど、そのちょこちょこも積もるとヤバい。


 …………ひとまずゼリーを食べていると、チャイムが鳴った。

-------------------
ここまで
次回は5日(土)18時くらいからの予定です


キリカ「あれ……?」


 インターホンの映像を確認してみる。

 ……ほむらだった。この前一緒に行けるか聞いたときは微妙な反応だったけど。


キリカ「おはよう、今日来られたんだ」

ほむら「あ、はい。おはようございます」

ほむら「いきなりだし遅くなると家を出てしまうかもと思って、早めに来てみたんですが……早すぎたでしょうか」

キリカ「今日は起きてたから大丈夫」

キリカ「朝ごはんは食べてきた? なんか簡単に用意しようか」

ほむら「肉…………」

キリカ「にく? 朝から意外と重いね」

ほむら「お肉以外ならこの際なんでもいいです!」

キリカ「えっ、そっち? じゃあとりあえずゼリーあげるから上がって」

ほむら「お、おじゃまします……」


 ほむらと並んでフルーツゼリーを食べる。

 ……でも、ダイエットもしてないのに朝これだけで足りるんだろうか。


キリカ(というか、何故お肉…………)


ほむら「甘くておいしいです! 普段なかなかこういうの買わないので……」

キリカ「普通にその辺のスーパーで売ってるよ」

キリカ「ほむらって……お肉嫌いだっけ?」

ほむら「あぁ……いえ、ちょっとお肉が続いたもので」

キリカ「ええ、贅沢じゃん」

ほむら「……そうでしょうか?」

キリカ「お肉だったら続いても嬉しいと思うけどなぁ」



1自由安価
2…普段朝食べないの?
3早めに出る

 下2レス


キリカ「……普段朝食べないの?」

ほむら「一人だと食べないですね……」


 細さの秘訣はそこか!

 いや、私も遅く起きたときとか食べないことはあるけど。


キリカ(……一人だと、か)


 その言い方に、何人か思い浮かぶ人は居た。

 ゆま、杏子。……もしくは。


ほむら「ゼリーごちそうさまでした」

キリカ「まだお菓子たくさんあるよ!」


 こうなったら、肥え太らせてやろう。


ほむら「呉さんはいつも朝からお菓子なんですか?」

キリカ「えっ、いや、そういうわけじゃないけどさ……」


キリカ(今日は簡単なものでいいって言っちゃったしなあー)

キリカ(今から作らせるのも……)


 ……台所のほうを見てみると、ちょうどお父さんの分を作っている最中だった。

 今から追加はできないかな。


キリカ「……今日みたいに早く来てくれればちゃんと用意するよ。お菓子じゃないやつ」

キリカ「――で、いいよね? お母さん?」

*「……って、今日みたいに早く来てくれたら、あんた寝てる時あるでしょ」

*「ちゃんと起きてこなかったら全部あげちゃうからね」

ほむら「わ、私そんなに食べられませんよ」

キリカ「…………起きられるように努力はするよ」



 ……結局、今日のところはいつもより少し早めに出ることになった。

 このくらいの時間だとまどかたちにも会うかな。

 そんなことを片隅に思いながら通学路を歩いていた。


 下1レスコンマ判定1ケタ
1 まどか
2 さやか
3 仁美
4 まどか・さやか
5 さやか・仁美
6 まどか・仁美
7 まどか・さやか・仁美
0 !?
それ以外 誰とも会わなかった


 小川の辺りを歩いていると、見覚えのある姿が佇んでいた。

 ただ立っているだけなのに、どことなく優雅に思える。

 そんなオーラを持つ人は私は二人しか知らない。


キリカ「…………」


 ほむらも気づいたようだった。

 学校に行くにはそこを通らないといけない。挨拶くらいはちゃんとしないと。


仁美「あら、おはようございます。呉さん……と暁美さん」

仁美「一緒に登校されていたんですね」

ほむら「あ、はい。おはようございます」

キリカ「……おはよう」


 ……そう思ってたのに、相手の方が先に声をかけてきた。

 私も少し遅れてしまったものの、なんとか挨拶を返した。


1自由安価
2まどかたちと待ち合わせしてるの?
3先に行くね

 下2レス


キリカ「ところで、さ……変わった気配を感じない?」

仁美「……変わった気配、ですか?」




 下1レスコンマ判定1ケタ

8,9 そういえば…


仁美「…………?」


 ……手をわきわきさせながら背後からそろりと近寄る影。

 私かほむらがそっちを見てしまったせいだろうか。仁美ちゃんが反応した。


仁美「!」


 と思ったら物凄い勢いで振り向きざまに腹目掛けてパンチしたものだから、思わず鞄を落としてしまった。

 なんて無駄のない動き。絶対素人じゃないって。これは背後に立ったら殺られる。


さやか「うぐう……うわ、ちょ、マジでクリティカルヒットきた……」

仁美「えっ、さやかさん!? なにやってるんですか!」

さやか「…………ちょっと驚かそうと」


 いや、本当になにやってんの。


ほむら「…………か、格闘とかされてるんですか」

キリカ「…………」

仁美「少し、護身術みたいなものです」

仁美「でも習い事程度の技術とはいえ、私相手に変なことをしないほうがいいですよ?」

さやか「が、学習した……」


 今のは絶対的に強者の台詞だ。

 ……さやか、若干震えてるけど大丈夫かな。ほむらは引いてる。私もちょっと引いてる。

 やっぱり、ただのおっとりしたお嬢様じゃないんだな。


仁美「…………あっ」

仁美「た、多分そこまで強くはやってないですよ? さやかさんだってわかった時に勢いは止めましたから!」

ほむら「は、はい」


 ……本気でやったらどうなるんだろう。



1自由安価
2今のさやかとどっちが強いかな
3誰かに襲われたことあるの?
4先に行くね

 下2レス


キリカ「さやか、大丈夫……?」

さやか「は、はい、ありがとうございます……」


 放っておくわけにもいかないので、肩を貸してあげることにする。

 ……まどかもそろそろ来るかもしれない。

 少し待っていると、急ぎ足で歩いてくるのが見えた。


まどか「おまたせ、みんなおはよう…………って、さやかちゃんどうしたの?」

さやか「いやちょっとね……いろいろあったのですよ……」

ほむら「……志筑さんの背後には立たない方がいいよ」

まどか「えっ? ああ、それってまた漫画のネタ……?」

キリカ「今回のは影響されてのことじゃない気がするけど」


 ……本人が意識していなくとも、リアルでそれのように思えたのは事実だった。



1自由安価
2今のさやかとどっちが強いかな
3誰かに襲われたことあるの?
4そういえば漫画ってどのくらい読んだの?

 下2レス


 みんなが揃ったところで歩きはじめる。



キリカ「そういえば漫画ってどのくらい読んだの?」

仁美「一巻を読み終わって、二巻目を読んでいるところです」


 ……割と順調に読んでた。


さやか「『こういうのは私にはちょっと~』っていってたくせに」

仁美「あの時はそう思いましたが、日本を代表する漫画の一つですし」

まどか「面白いの?」

仁美「面白いと思いますよ」

仁美「ついでに少し射撃にも興味が出てきて、スナイパーライフルのモデルガンを買ってしまいました」

さやか「あー、射撃も貴族の遊びの一つだもんねえ」

仁美「今度旅行した時はやってみたいですね。『そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる』って言って撃ちたいです!」


 むしろ大分ハマってた。

 ……けど、それは違うスナイパーだよ!


ほむら「格闘だけでも強いのに、射撃まで覚えたらどうなるんでしょう……」


 ほむらまで震えだした。


仁美「でも、お父様からはあまり良く思われていないんですよね」

仁美「年頃の娘にふさわしい趣味じゃないって」

さやか「……あー。あたしは普通に親子で読んで楽しんでたけどなあ」

仁美「……まあ、まどかさんが気に入るかどうかはわかりませんわね」

仁美「物騒な話ですし、やっぱり私たちにはまだ早いのかも…… 殺し屋っていうのも現実味のない話です」


 仁美が苦笑する中、私たちの中では少し奇妙な雰囲気になってしんとした。


まどか「……そう、だね」


 あれだけ命を狙われていたまどか。……それに、私は。

 私たちの中では確実にそういう世界がすぐそばにあったから。

―昼休み


 午前の授業が終わってマミと他の人を待っていると、

 まどかとさやかが教室に来る。


キリカ「ほむらは?」

まどか「購買にいってくるって言ってました」

さやか「今日は時間なかったのかね。どんなの作ってくるか楽しみにしてたのに」

マミ「ああ…………やっぱり」

さやか「やっぱり?」


 マミはどこか訳知り顔だった。

 やっぱりみんな、私に何かを隠してる。


キリカ「あ、あのさ……」


ほむら「こ、こんにちは」


 私が何か言う前に、控え目な挨拶が聞こえた。

 今日もまたほむらが珍しい髪型をしている。それがみんなの目を奪って、話題は完全にそっちに移った。


マミ「暁美さん……これはかなり新鮮ね」

さやか「でも何の因果かやっぱり三つ編みなんだよね」

ほむら「偶然でしょうか……」


 周りを三つ編みで囲んだお団子。

 ここまでさっぱりしたほむらを見たことがなかった気がする。


キリカ「この前といい、それ誰がやってるの?」

ほむら「クラスの……えっと」

さやか「いい加減名前覚えなよ……」

キリカ「とにかく、美容師でも目指したらどうかって言っといて」

ほむら「はい」


 ……ほむらは少し気恥ずかしそうだ。



1自由安価
2クラスの人の名前どのくらい覚えた?
3今度は巻いてみるのはどう?

 下2レス

安価↓


キリカ「クラスの人の名前どのくらい覚えた?」

ほむら「数か月は同じクラスにいますけど、同じ一か月だからどうしても関わる人と偏りが出てしまって……」

ほむら「元々顔と名前覚えるのそんなに得意じゃないですし」


 ……それは私もそうだけど。


さやか「半分くらいは覚えた? 教室戻ったらテストするからね」

ほむら「て、テストですか!?」

まどか「大丈夫だよ、今覚えてなくてもこれから覚えていけば」

まどか「ほむらちゃんはまだ転入したばかりなんだもの」

ほむら「そうだね……」

キリカ「ほむらの髪がいじりがいがあるのはわかるよ。私もそんなに髪型のアレンジ上手なわけじゃないんだけど……」

キリカ「今度は普通にポニーテールとかでどう?」

ほむら「は、はい……身体を動かす時とかにはいいかもです」



 お弁当を食べ終わると、まどかたちが席を立つ前にマミが先に席を立った。


マミ「ごめんなさい、ちょっと下の階に行ってくるわね」

キリカ「下の階?」

マミ「ええ。志筑さんと話したいことがあるの」


 ……二人はいつのまに仲良くなってたんだろう。


まどか「今日の放課後のことですか?」

さやか「あたしは別の用事があるので一緒に行けないんですけどね」

さやか「ゆまって子いたじゃないすか、杏子がその子をあたしと恭介に会わせたいって」

キリカ「そっか……」


 今日は訓練はしないらしい。

 私はどうしようかな。


1自由安価
2ほむらとなにかする
3さやかのほうについていく
4家でゆっくりしよう

 下2レス


キリカ「私もさやかについていって行っていいかな」

さやか「じゃあ病院の前で待ち合わせしてるんで、一緒に行きましょう」

マミ「じゃ、そろそろ行くわね」

キリカ「……ところでマミ」

キリカ「仁美ちゃん、漫画の影響で射撃に興味が出たって言ってたよ」

キリカ「モデルガンまで買ったらしいし、今度サバゲでもしてみたら?」

マミ「モデルガン? 漫画の影響とはいえ意外ね。明日見せてもらおうかしら」

ほむら「だ、だめですー」

マミ「え?」

ほむら「巴さんが相手なんて、ああ、恐ろしいことになります」


 ……またもやほむらが震えだしてしまった。


マミ「……暁美さんはなんで震えてるの?」

キリカ「……立場を奪われそうで怖いんじゃないかな」


 射撃と格闘、か。

--------------------------
【訂正】>>481 マミの台詞 明日→今度
「明日」はそろそろ訓練せな…


次回は6日(日)20時くらいからの予定です



 さやかの幼馴染の、上条恭介。

 話には聞いていたけど、私も会うのは初めてだった。


 ――学校が終わると、さやかと二人でそのまま病院まで向かった。


 病院というのも、家からそう遠くないところにありながら、

 まともに中にまで足を運んだことなんていつぶりだろう。


さやか「おー、ひっさしぶりー」

ゆま「えっと……」

キリカ「さやか、だよ」

ゆま「さやか! こんにちわ!」

さやか「こんにちはー」


 さやかは久しぶりと言ったけど、ゆまは少したじろいだ様子。

 そういえば、この世界じゃ初対面だった。


さやか「あんたも久しぶりね」

杏子「ああ、そっちはどうだ? 上条のことは」

さやか「うーん、今のとこはなんとかうまくやれてるけどね……」

杏子「『うまく』? なんかこの期間に進展とかねーの? 前とは確実に違うだろ」

さやか「そ、そーだけど……いや、別にないよ」


 まずは少しの間エントランスで雑談をしていた。

 ……けど、一応、今日の一番の目的は私たちよりもゆまを上条君に会わせることだ。



1自由安価
2会うのに気を付けたほうがいいことはあるか
3そろそろ行く?

 下2レス


キリカ「上条君のとこに行く前に聞いておくけど、会うのに気を付けたほうがいいことはある?」

さやか「えーっとそうだなぁ……あんまし変なことしなきゃ大丈夫だとは思いますけど」

さやか「……とりあえず、無理に励まさない方がいいかな?」

さやか「怪我とかのことより、それ以外のことを話したほうが恭介も喜ぶだろうし」

杏子「わかった。それじゃ、そろそろ行くか」

ゆま「うん!」


 さやかに連れられて病院内を歩き、病室に向かっていく。

 ……真っ白い廊下の中に、目的の名前のある一人部屋の病室を見つける。


さやか「こんにちは、こっちが昨日言ってた友達」

恭介「ああ、初めまして。上条恭介っていいます」


 ……私たちも一通り自己紹介をして、ベッドの横の椅子に腰掛ける。

 思っていたよりも全身に包帯が巻かれていて、痛々しかった。

 これが交通事故……か。


恭介「思ってたより賑やかだね。それに色んな人がいる」

さやか「そりゃさやかちゃん顔広いから……」

さやか「――って、あだだだ」

ゆま「そんなにおっきくないよ?」


 ……ゆまがさやかの頬を両手でつまんでいる。


杏子「ゆま、そういう意味じゃないぞ」

恭介「顔が広いっていうのは、お友達がたくさんいるってことだよ」

さやか「うう、ホントに顔広くなっちゃうでしょーがー」

ゆま「そうだったんだ! さやかお友達いっぱいいる?」

さやか「う、うん! 人気者だからね!」


 どこの何で人気者なのかはわからないけど、少しわかる気はした。

 ゆまのおかげで雰囲気も大分緩んだかもしれない。

 共通の話題を見つけるのが難しいかもしれないという不安はとりあえず大丈夫そうかな。



1自由安価
2なりゆきを見守っていよう

 下2レス

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特に発言が重要になる箇所でもないので、
【0時】までにレスがなければ2で進めます
----------------------------------------


杏子「さやかとあんたは幼馴染だっけか」

恭介「うん。家も近いし、親同士の仲も良くてね」

さやか「昔はよくくっだらないことして遊んだよね、公園とか家とかでさ」

ゆま「どんな遊びしてたの?」

恭介「探偵ごっことか」

さやか「あー、大分くだらないね」

恭介「公園の噴水で遊んでびしょ濡れになって怒られたこともあったよね」

ゆま「いいなあ、楽しそう!」


 そういうのは少し羨ましい。

 今でもそれがずっと続いているなんて。


杏子「ゆま、もう少ししたら遠くに引っ越しちゃうんだ」

さやか「あ、そっか。今日はそれで連れてきてくれてたの?」

杏子「……まあ、そうだな」

杏子「引っ越したらさ、今度は同じくらいの歳の友達ともいっぱい遊べよ」

ゆま「……!」

ゆま「うん!」


 きっとまだ、ゆまの知ってる世界は狭い。

 少し寂しいけれど、私たちと別れた後にも楽しみが出来たなら良いことだ。


キリカ(…………あの時別れるよりもいっぱい話は出来た)

キリカ(“思い出”もある)


 杏子がさやかにゆまの魔法のことを言わないのは、『もしできなかった場合』に希望を持たせたくないからだ。

 でも、目標と言っていた“月末”に間に合わなかったらどうするつもりだろう?


 ――ゆまやみんながこれだけ頑張っているんだから、私だってそろそろまた戻らないといけない頃だろう。

 まどかも大分待たせてしまった。


キリカ(今はみんな、ゆまの訓練で忙しいだろうけど……)


 大分落ち着いた……とは思う。

 個室の病室でみんなが話している中、

 私は自分の中で問いかけて、確かめて、踏み切る準備をしていた。


―――

―――


 ――――三人と別れて、自分の部屋の中に戻った。


仁美(銃も…………漫画も…………友達も…………)

仁美(誰かに悪く言われることじゃありませんわ……)


 『あの娘とはあまり近づかないほうがいい』


 心無い言葉を思い出して、腹が立っていた。

 使用人の一人がお父様に報告して、そこから伝わったらしい。


 それから使用人とも、お父様とも、必要な用件以外で口を利かなくなっていた。

 ……けれど、元からそれ以外でそこまで話す機会も多いわけではなかった。


仁美(それは、私だって最初は驚いたけれど……)


 話したことすらない人の言葉なんて。

 そう考えて、あまり気が進まない勉強を進めることにした。



―――



―28日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [体術Lv2] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv2] [格闘Lv2]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

--------------------
ここまで
次回は10日(木)20時くらいからの予定です

493の

>>――――三人と別れて、自分の部屋の中に戻った。

この三人って誰なんでしょうか?
何か文章が抜けてませんかね?

--------------------
>>495
抜けたというか描写はかなり省きましたね
前の方に『二人だけ』その日仁美と行動する約束があると書かれています

―29日 放課後
さやかの家



さやか「ほい」

キリカ「ありがとー」


 学校帰りに買った箱入りの棒アイスを一本受け取って、ビニールの包装を剥く。

 さやかの家に来るのは大分久しぶりかもしれない。

 涼しげな青色にかぶりつくと、爽やかな酸味と甘味が広がった。ひんやりとしたのど越しが気持ちいい。


ほむら「ちょっと早いような気もするけど、おいしいですね」

さやか「アイスに早いも遅いもないっしょ。一年中うまい」

キリカ「んー、でも私までいいのかな? 私なにもしないのに」


 スーパーに寄ったのは、アイスを買うのが目的なわけじゃない。

 これからほむらが教えてくれるお料理教室のための材料を揃えるのが目的だった。


ほむら「えっ……ええと、みんなでやればいいと思います!」

ほむら「……ところで、お母さんは今日はいないのでしょうか?」

さやか「あー、さっきメールあったわ。なんか遅くなるってさ」

ほむら「そうですか……」


 あっちのほうは訓練も大詰め。

 私が邪魔するよりはさやかたちと一緒にいたほうがよさそうだ。


ほむら「だ、大丈夫ですかね? 大人の人がいないのに使っても」

さやか「ああ、だいじょーぶ。ちゃんと今日のことは話したし、あたしたちだってもう子供じゃないんだから」

さやか「あたしだけだったらまあ不安かもしれないけど、『普段から料理してる人』がついてるんだから危ないことないっしょ?」

ほむら「そ、それはそうですけど……」

さやか「挨拶ならまた今度しよーぜ。それより、さっそく本題入ろう!」

ほむら「はい……では、材料の確認ですよ」


 ほむらが買い物袋の中から買ってきたものを取り出す。

 豚肉、玉ねぎ、プチトマト、キャベツ、オレンジ……

 『嫌いな物はないか』とだけ確認はあったものの、まだどんなお弁当を作るかは聞いてなかった。


ほむら「今日作るのは生姜焼き弁当です」

ほむら「お弁当は一箱から二箱程度のうちに主食・主菜・副菜をバランスを考えて詰めることが大事なんです」

ほむら「それにフルーツもあれば完璧です」

さやか「ふむふむ」

ほむら「男の子に作るなら、主食とお肉を多めにしてガッツリにしたほうが喜ばれるかと思いますよ」

さやか「ほうほう!」


 更にほむらが『お弁当作り』についての講釈を続ける。


ほむら「それから、色のバランスも重要なんです。食欲をそそる色というのを考えるんですよ」

キリカ「それで赤に青にオレンジにってわけねえ」

ほむら「あ、青? ええっと、青は駄目で……」

さやか「青は駄目なの?じゃあキャベツは?」

キリカ「……あ。ごめん、緑のほうを言ったんだ」

ほむら「あ! はい、緑ですね!緑はオッケーです!」

さやか「でもじゃあ、青は使ったら駄目ってこと?」

ほむら「えっと、減退色? っていうか、食欲をなくす色らしいです」

さやか「へえー! やっばいな、なんかもう本格的に頼りになりそうじゃん!」

キリカ「でもアイスは美味しそうだしこんなに美味しいのに」


 残り少なくなったソーダのアイスを指さす。

 ……すると、ほむらが困惑し始めた。


ほむら「え……、そうですね…… あれ?」


 キッチンに移動する。

 ほむらが奥に入って、私たちは横に並んで眺めていた。


さやか「……ところでほむら、さっきから気になってたんだけどさ」

ほむら「はい」

さやか「なんでゴーグルなんて着けてんの?」

ほむら「えっ、お、オシャレですよ! 今流行ってるんだから!」

ほむら「激しい運動したってズレないし! ……これ度が入ってないんで、ちょっと見づらいですけど」

さやか「それは知らなかったわ」

キリカ「料理で激しい運動……?」


 ほむらが玉ねぎの皮を剥き、まな板の上に載せる。


ほむら「それじゃあまずは玉ねぎを切っていきますよ……」

さやか「だー、危ない! それめっちゃ包丁の下に指あるから!」

ほむら「!! ……ああ、うっかりしてました! よく見えないから」

キリカ「……ゴーグルは外したほうがいいね?」

ほむら「…………眼鏡に戻してきます」


 ほむらはとぼとぼとキッチンを出て、鞄を漁りに行く。


ほむら「やっぱり、度入りのゴーグルを用意しておくべきだったかな……」

さやか「なんか言った?」

ほむら「あ、いえ!」


 それから再びキッチンに戻ってくると、いつもの赤縁の眼鏡に戻っていた。


さやか「あー、やっぱこっちだわ」

ほむら「き、気を取り直して切りますよ!」


 シャキ、シャキとほむらが玉ねぎを切っていく。

 今度こそ順調にいってる、ように見えたんだけど……


ほむら「玉ねぎはこのくらいの大きさで……」

さやか「……ねー、ちょっといい?」

ほむら「は、はい……?」

さやか「その顔が気になって全然集中できないよ!」

さやか「なんて表情!? まるで無念と後悔と絶望が入り混じったような!」

さやか「『また駄目だった、救えなかった、どうしてこんなことになるの』みたいな!」

キリカ「ねえ、もしかして目が痛いの……?」

ほむら「痛くはないんです! ただ何かが溢れそうで!」


ほむら「……そしたら、今度はタレを作ります」

ほむら「……ぐすっ、ちゃんと分量通りにやればうまくいきますから安心してくださ――!」


ほむら「――――……い」

さやか「??? ん? あれ?今」

ほむら「な、なんですか?」

さやか「いやなんか今こぼしたように見え」

ほむら「何言ってるんですかもう。醤油の次はみりんですよ?」


 …………目線だけでキッチンの隅のゴミ箱を見る。

 そこには、醤油のような色の染みたティッシュが捨ててあった。


キリカ「…………」


ほむら「と、ところでこれは…………!」


 材料を切って、タレを作り終わったところで、

 コンロの前に来てほむらがたじろいだ。


さやか「これって? ……ああ、IHのこと?」

さやか「別にそろそろ珍しくもないとは思うけど、やっぱはじめてだと戸惑っちゃう?」

さやか「でもお母さんこっちのほうが使いやすいって言ってたよ」

さやか「ムラも出来にくいし数値で分かれてるからわかりやすいって」

ほむら「まあ、初めてなので……目に見えたほうがわかりやすくないですか?」

さやか「さすが、普段料理に慣れてる人はむしろ数字より感覚のほうがわかりやすいのか」

ほむら「あのー、私ちょっとトイレに……」

さやか「え、トイレ? 場所わかる?」

ほむら「あ、はい!わかります!ちょっといってきます!」


 ……ほむらが逃げるようにトイレに駆けこんでいった。

 取り残された私たちは暫くその場で待っていたものの、なかなか戻ってこない。


さやか「……なんかこの時間であたしたちにもできることってないかな?」

キリカ「聞いてこようか」


 トイレの前にいって声をかけようとすると、中から小さい声が聞こえてきた。

 音がこもってよく聞こえないけれど……。


「……やっぱり普通に中火…すかね? 中火だと……――……でもさらに三つくらい段階が……――――」


キリカ(……独り言かな?)

キリカ「おーい、ほむらー?」


「は、はいっ! なんでしょう!?」

キリカ「今の間に、私たちに何か出来ることはないかなって」

「えっ、えーと……だったら……キャベツ!キャベツの千切りをお願いします!」

キリカ「わ、わかった」

「で、でもすぐに出ますから!」


「……す、すみません……それで…――…」

キリカ「え?」

「――……ですね……」

キリカ「…………」


 ……キッチンに戻ってきた。

 キャベツの葉を一枚取って水ですすぎ、まな板に載せる。


さやか「それで、キャベツっすか」

キリカ「千切りお願いって」

さやか「でもコンロがなんだろうと焼ければいいんでしょー? そんな変わんないですってー」

さやか「どうせ焼くのは時間かかるんだしこっちも先にやってちゃいましょうよ!」

キリカ「ええ?」

さやか「千切りはキリカさんお願いします!あたしだってちょっと炒めるくらいなら!はい点火!」

キリカ「……まあいっか」


 ……少し太いかな?

 普段からそこまで使い慣れてない包丁の使い方に苦戦しながら、横長に切って重ねたキャベツの葉に刃を入れる。

 少しキャベツを切ったところで、ほむらが戻ってきた。


ほむら「すみません! 遅くなっちゃって!」


さやか「おー、おかえりー」

キリカ「やってみてるけど難しいね」


 包丁を止めてほむらのほうを見る。

 さやかはフライパンで肉と玉ねぎを炒めていた。


ほむら「な、なんでこんなに進んでるんですか!?」

さやか「いや、どうせ時間かかるだろうし先に焼いてようかなって」

さやか「……なんかまずかった?」

ほむら「ま、まず……くは、ないですけど……」

ほむら「あ、それで火加減は?」

さやか「普通に4でやってるけど……ごめん、なんかこだわりでもあった?」

さやか「実はこのタレと合わせるタイミングが重要だったとか?」

ほむら「別にそういうわけじゃないです……4でいいんじゃないでしょうか」

ほむら「強火だと焦がしやすいですし、慣れてない人がやるにはそのほうがいいと思います……」

キリカ「……」


ほむら「どっちも同時進行でやってるんですね……」

キリカ「今は三人いるからね。一人だと厳しいかな?じゃあ今のところは置いておこうか」

キリカ「やっぱ私がやるとあんまりうまくいかないしさ」

キリカ「……ほむら、後でコツとか教えてよ」


 切った分のキャベツをまな板の隅にまとめて、包丁を置く。

 ほむらは露骨にビクっとして青ざめた。


ほむら「ひゃ、ひゃい……」


 そんなこんなで、生姜焼きが完成する。

 結局炒めるのに関してはほむらは横で見ていただけで、ほとんどさやかがやっていた。


 それから、ほむらに包丁の使い方のコツを手とり足とり教えてもらっているのだけど……


ほむら「え、ええと……ですね……」

キリカ「うん」

ほむら「包丁を持ちます」

さやか「うんうん」

ほむら「……切ります」

さやか「なんだよそれ! お昼の超直感料理教室以上に説明が超直感すぎるよ!」

キリカ「いや、秋山さんなめるなよ? てことでちょっと手本見せて」

ほむら「は、はい……」


 …………その姿は、お世辞にも普段から料理をやっている人には見えなかった。


キリカ「……本当はあれ、自分で作ったんじゃないんでしょ? 多分今日のお昼のお弁当も」

ほむら「そ、そんなことは!」

キリカ「本当に?」

ほむら「…………ごめんなさい」


 問い詰めると、ほむらは白状した。

 でも、こんなことになったのも――……。


さやか「えー、マジかよ。 ていうかなんでそんな見栄張ったん」

キリカ「私の前ではその名前を出したくなかったから」

キリカ「作ったの織莉子? さっきもトイレで電話してたよね。マミは訓練中だし……」

ほむら「……気づいてたんですか」


さやか「…………で、でもまあ、こうして無事にお弁当が完成したんだから、どっちにしろ感謝しなきゃだね!」


 さやかは明るく流すように言ったけれど、私は耐えられなかった。

 みんながそうする気持ちはもちろん理解はできるけれど。


キリカ「みんなそんな、腫れ物に触るみたいに……」

キリカ「それとも、そんなにあの時の私をなかったことにしたいから!?」

ほむら「え、えっと、それは……」

ほむら「そう……いうところも、あるのかもしれません……」

ほむら「呉さんの前で織莉子さんの存在を完全に消したら、違う呉さんまで否定することになるかもしれません」

ほむら「でも、あの時の呉さんはイメージが強すぎるし、ダメージも大きいんだろうなと思ったから」


 ――理解はできる。わかってたのに。

 なにかが納得いかない。一部とはいえ、否定されるべき部分とはいえ、自分自身を否定されたのは確かだった。



1自由安価
2向こうでも同じようにしてるの?
3みんなは今織莉子とはどのくらい接してるの?

 下2レス


キリカ「……向こうでも同じようにしてるの?」

ほむら「え、ええと……そう……ですね」

キリカ「もうこれからはそんな気は配らなくていいから!」


 それだけ告げてさやかの家を出る。

 ……考え事をしながらブラブラしていた。


キリカ(あんな言い方をする気はなかったのに……)

キリカ(織莉子とも、自分とも、罪とも……元はといえばあの過去とちゃんと向き合えてないのが原因)

キリカ(でも、結局どう向き合えばいいのかまだ自分で答えを出せていないから、周りに気を使わせて……)


 それが自分のせいだからイライラしてるんだ。


キリカ(……ほんと、嫌になるなぁ)


 落ち着いてきたつもりだったのは、ずっと考えないで過ごしていたから。

 あの過去とつながる織莉子のことは居なかったことにでもして、他の友達と居れば楽しいし気が楽だった。


 でも、時間が解決するのを待つには、あまりに長い年月がかかる気がした。



 行動
1このままぶらぶらと歩く
2訓練の様子でも見てこよう
3織莉子の家に向かう
4帰る

 下2レス



 ……契約のことはどうしよう。

 せっかく落ち着いて過ごしてたんだから、これまでと同じようにしていれば問題はないのかな?

 じゃなきゃ私はいつになったら本当の意味で『落ち着ける』の。


キリカ(……でも、みんなは織莉子とも仲良くしてるんだろうな)

キリカ(ああやってごまかして私に隠さなきゃいけないほど、そんな感じは伝わってたし)



 下1レスコンマ判定1ケタ 遭遇
0 !?
1~4 QB



 またみんなに気を使ってもらって。

 でも、そんなのは嫌だって…………


 ――そんな時、後ろから声が聞こえた。


QB「やあ、浮かない顔だね」

キリカ「浮かない顔だから話しかけたの? そんなに私、契約が取れそうな顔してる?」

QB「自らそう言うのは契約したいっていう思いが根底にあるからじゃないかな」

QB「……それとも“焦り”かな」

キリカ「……何が言いたい」


 なんでこんな時にこう、人の神経を逆なでするような言葉を聞かされなきゃいけないのか。

 無性に腹が立ってくる。やっぱり家でゆっくりとテレビでも見てたほうがよほど落ち着いた。


QB「人間の感情って難しいね……僕も色んな人間を見てその法則性を学ぼうとはしてきたんだけど」

QB「君の感情は特に予測不能だった」


キリカ「……知らないよ、そんなこと」

QB「僕はそこまで焦ってはいないよ。だって、君が契約することは決まっているようなものなんだから」

QB「でも、本当に『君自身の望み』をかなえずに別の願い事をかなえてもいいのかい?」

QB「果たしてそれは本心からの願いと言えるのかな」

キリカ「私の……望み?」

QB「今も、悩んでいることは別にあるんじゃないか」

QB「君が統合前最後の世界からずっと叶えようとしてることは、別の……たとえばさやかとかに任せたっていい」


 ……ここまでの言葉を聞いて、こいつの魂胆はわかった。

 弱みにつけこんで揺さぶって、契約者を一人増やそうとしてる。

 それどころか、あわよくばさやかにすらその願いで契約しなければいいと思ってるはずだ。


 そう思うと、更に情けなくなった。



1自由安価
2私の本当の望みってなんだろう?
3じゃあ今は叶えられないってこと?

 下2レス ※なんらかの願いで『契約する』場合は多数決に移ります

--------------------
ここまで
次回は11日(金)18時くらいからの予定です


キリカ「…………」

QB「……まあ、聞こえてないわけじゃないんだから、心に留めておいてくれればいい」


 無視して立ち去ろうとした私に、キュゥべえはなおも余裕そうにそう言った。

 少ししてからやっぱりプチッときて、この前杏子に教えてもらったばかりの回し蹴りを食らわせる。


 頭の真ん中を狙ったつもりだったけど、

 よく見てなかったこともあって少しそれた足が耳毛に絡んでキュゥべえは地面に転がった。


キリカ「……ゆまのことで一回殴ろうと思ってたからね」

キリカ「うん、ちょっとだけスッキリした」

QB「君といい杏子といい、こういう無意味な暴力はやめてほしいんだけどな……」

キリカ「杏子にも吹っ飛ばされたんだ?」

キリカ「……意味ならあるよ。どうせあんたにはわかんないだろうけど」


 ……結局完全に無視なんてできないほど心に棘を残されてる。

 けど、相談相手にするにはあまりに酷い相手だった。


 ――私の本当の望みってなんだろう?


キリカ(……こんな情けない状況から今すぐに逃れられる方法)


 みんなのことを不満というにはあまりにもったない。友達もいて、これ以上ないほど私は恵まれてるのに。

 それとも、自分を。その願いでああなった。そもそもそんな漠然とした願いに意味なんてない。


 でも、あの時とは確実に『なりたい自分』は違う。

 私は、今とは違う何かになりたいと、戻れもしない過去に戻りたいと望んでいる。


キリカ(……その原因を、せめて自分の中からだけでも『消してしまえばいい』)

キリカ(あんな気を逸らすようなごまかしじゃなくて、嫌な部分だけを記憶ごと隠して無くしてもらえば…………)


 ――あれ? でもそれじゃあ。


 結局前と同じじゃないか。


キリカ(……私はまた性懲りもなく今とは『違う自分』に逃げたかったのか)


QB「……答えは出たかい?」


 仰向けに地面に転がったまま、キュゥべえがこちらを見上げている。

 背中を擦り付けるようにごろごろとしているところなんて、まるで猫のようだ。

 中身は似ても似つかないくせに。


キリカ「いや、わかりきってたんだけどね」

キリカ「こんなことであんたに頼ることも、逃げることも意味ないって」

キリカ「しかも取り返しがつかない」

QB「……本当にそうかな?」

QB「取り返しがつかないのは今更だろう?」


 悪魔は囁く。



1自由安価
2帰る

 下2レス



キリカ「……もういい! 面倒臭いから寝る」

QB「面倒臭い、か」

QB「それなら契約すれば解決する話なのに」




―29日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [体術Lv2] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv2]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]



 ――――……昨日、あんな話をしたからかな。

 現実ではないけれど、すごく久しぶりにその姿を見た。


 でも、夢の中でくらい仲良くしててもいいはずなのに。

 私たちはひたすらに戦っていた。



 これはいつのシーンなんだろう。

 振るっている武器は魔力の爪のようにも刀のようにも思えるし、

 一定範囲に敷いた魔力は速度低下のようにも封印のようにも思えた。むしろ、そんな魔力なんて使っていないかもしれない。


 固いものがぶつかり合う音がする。

 この戦いは一体どちらが勝つんだろう。



 ――もしももう一度戦ったら、私は勝てるだろうか?


――――
――――

―30日 放課後
見滝原大橋下




 目標と言っていた“月末”はそろそろだった。

 大詰めというよりは最後の仕上げとでもいうようだ。もう今日のうちに少し早めに切り上げて本番に行くらしい。


 ……私たちは少し離れたところからゆまの訓練を眺めていた。

 訓練の面倒を見ているのはベテランの二人。

 ほむらも今日は自分の訓練よりもその様子を隣で見ていた。



キリカ「ゆま、順調にいってるのかな?」

キリカ「私には見てるだけじゃわかんないけど……」


 この前上条君に会ったのはどれだけの影響になっただろう。


ほむら「……私も魔力の扱いは二人には及びませんし、回復も得意なわけじゃないです」

ほむら「成功するかどうかはまだ……」

キリカ「……そっか」


 昨日はあんな別れ方をしたのに、ほむらもさやかもいつも通りだった。

 あの二人なりの気遣いなんだろう。

 多分他のみんなも何があったかなんて知らない。


キリカ(それなら私も忘れたほうがいいのかな……)

キリカ(悩んでるのすら面倒臭い。そう思うのは逃げなのかな)

キリカ(でも、考えすぎたって暗くなるだけだし、そんなの更に心配かけるだけじゃないか)


キリカ「……そういえば銃とか使い出したじゃん。あれって今どうなったの」

ほむら「弾に限りがあるので、訓練ではあまり……」

キリカ「ああ、そっか……難しいね」

ほむら「はい」


キリカ(また私もちょっと射撃の腕とか確かめてもいいと思ったんだけどな)

キリカ(……小刀と銃じゃまた違うか)



1自由安価
2実は射撃(投擲)をはじめた話
3ほむらの髪でもいじってみる

 下2レス


キリカ「実はね、私も射撃はじめたんだよ」

ほむら「えっ? 私の知らない世界の話ですか?それとも趣味で?」

キリカ「知らない世界の話。射撃っていっても、銃じゃなくて投擲なんだけど」

キリカ「この前は杏子から体術も教わったし、今は割と遠近どっちでもいけそうな感じかな」

ほむら「それはすごいです!」

キリカ「まあ、契約もしてないのに言ってても仕方ないんだけどね……」


 ……自分のことを優先させるか、このまま予定通りの願いで契約するか。

 上条君のことが落ち着けばそろそろと考えていたけれど、それも今日決着がつくかもしれない。


 忘却に逃げるのは駄目にしたって、何かもう少し良い方法で打開できないかとは思わないことも……ない。

 けど、それはひとまず今は置いておきたかった。


キリカ「あ、そうだ。髪結ってあげようか」

ほむら「え? 髪留めなんて持ってるんですか?」

キリカ「そりゃ私が髪を結うことはそうそうないけど、一応あるにはあるよ」


 鞄からポーチを出して、その中をかき分けて探る。

 一つシュシュを出してみた。


キリカ「これなんて良さそうかな?」

キリカ「髪は結わなくても、アクセサリとして手首に着けることはあるから」

ほむら「なるほど……そういう使い方もあるんですね」

キリカ「リボンもあるよー、でもそっちだと杏子と被るかな」


 ほむらの後ろに回って、まず櫛で梳かしてみる。

 さらさらとしていて一通り梳いてみても絡まらず癖もないのに、何故だか真ん中から強い癖のある髪。

 触れてみるとなんだかおもしろい。


キリカ「じゃん、ポニーテール」

キリカ「いじるっていってもこれくらいかな、クラスメイトの子ほど複雑な髪型は思いつかないや」

ほむら「いえ、シンプルで悪くない……と思います」


 ……暫くすると、訓練が終わったらしくみんなが集まってきた。


杏子「おい、そろそろ……ってなにやってんだ?」


キリカ「ちょっとほむらの髪いじってた。悪くないでしょ?」

ゆま「キョーコと同じ髪型だー。でもほむらのほうが髪の毛きれいだね」

ほむら「あ、ありがとう」

杏子「あ、あたしは別に大して気使ってないし……」

マミ「お風呂入った後乾かさないで寝るから」

ほむら「それでえっと、そろそろってことはこの後……」


 ゆまの様子を見てみる。

 ……やっぱりどこか、不安そうではあった。


キリカ「今日はお試し? 目標は月末って言ってたけど、もし駄目だったらまた訓練?」

杏子「いや、まあ、駄目でもそりゃ仕方ないが…………」


 杏子は歯切れの悪い言い方をした。

 ……一体『月末』に何があるんだろう。


キリカ(……たしか、さやかが契約したのもこのくらいの時期だった)


ほむら「……上条君の腕が治らないって知らされるの、明日なんです」

ほむら「上条君、ひどく落ち込むだろうし、そうしたらどうなるかわかりませんし……」

ほむら「一応美樹さんに話すことは出来るとしても、その状態があまり続くのはまずいのかなって……」


 ……そう聞くと、一気に責任は重くなった気がした。

 ゆまが不安に思うのもわかる。


 でも、だからって急かすのはどうなんだろう?



 ゆま
 [魔力コントロールLv3] [格闘Lv2]

1自由安価
2決行
3見込みはどのくらいあると思うか
4『自信』はある?

 下2レス


キリカ「……腕が治らないって教えられるのが明日ってことは、さやかも知ってるんだよね」

ほむら「知っているでしょうね。気にしてないわけはないでしょうから」

キリカ「じゃあ、さやかはどう思ってるんだろ……」

マミ「……どうかしらね。 でも、今のところは契約は考えてないみたい」

マミ「出来れば私たちも、契約はしてほしくない」

キリカ「……そうだね」


 今そう思ってたって、実際に落ち込む上条君を見たら気が変わるかもしれない。

 今日治せればそれに越したことはない、というのは確かなんだろうけど。


 ……緊張している様子のゆまを見た。

 問題なのはゆまだ。


 治せるか治せないかも、ゆまの準備次第なんだろう。

 私もゆまの魔法のことは詳しく知らないから、準備したら治せるかどうかもわからない。


 この日のために訓練はしてきた。上条君の腕が治ったらゆまだって喜ぶとは思う。

 でも、私たちの都合や願いを押し付けて急かす形になっている部分がないとはいえないから。



1自由安価
2決行
3見込みはどのくらいあると思うか
4『自信』はある?

 下2レス


キリカ「……見込みはどれくらいあると思う?」

マミ「…………やってみないことにはわからない、かな」

マミ「呉さんにはまだ話したことなかったっけ。ゆまちゃんの魔法は、正確には“広範囲に拡散させた治癒魔法”なの」

マミ「そうなったのは、多分願い事自体が私たちみんなにかかっているからだと思う」

キリカ「じゃあ、一人を治すのは難しい?」

マミ「……一点に集中できれば十分な能力はあると思うの。そうするための訓練もやってきた」

マミ「可能性はあるけれど、成功するとは限らないし、その確率が『高い』とまでは……」

杏子「……ゆまはどうだ」

杏子「『自信』はあるか?」


 杏子がそう聞くと、ゆまは少しの間考え込んでから言った。


ゆま「……わかんないけど、なおしたいと思う! けど」

ゆま「ほんとはキョースケとも、もっとはなしたいかな」



1治ったらいっぱい話せばいいよ。(決行)
2まずはまた挨拶に行く?(お見舞い後決行)
3これからお見舞いにもいっぱい行こう(お見舞い、本日決行しない)

 下2レス

------------------
ここまで
次回は12日(土)18時くらいからの予定です


キリカ「まずはまた挨拶に行く?」

杏子「まあ、こっそり治すのはそれからにしたっていいかもな」

ゆま「うん!」


 そう言うと、ひとまず不安は消えてくれたらしい。

 ゆまが元気に返事をして、私たちは見滝原大橋から離れて病院に向かった。


 ……訓練じゃ手に入らないもの。

 焦りすぎていたのは私たちかもしれない。


キリカ(さやかは今日も来てるのかな)


 この前と同じメンバーで病室を訪ねて、その場に乗り込んだ。

 上条君はまだ変わらずにその自由に動かない腕を振ってくれて、

 さやかは突然の訪問に驚いていたようだった。


さやか「急にどうしたの?」

杏子「ちょっと帰り道の近くで通りかかってな。ゆまが会いたいって言ったんだ」

恭介「そっか、ありがとうね」

キリカ「そんで、これはお邪魔してもいい雰囲気?」

さやか「ええっ、どういう意味っすか?」

杏子「そのままの意味じゃねえの」


 ……さやかは少しは戸惑ってはいたものの、上条君はにこにことしてるだけだった。

 この二人の関係はいったいどんな感じなんだろう?



1『明日』も来てもいい?
2お見舞い後、さやかに明日のことを軽く訪ねてみる
3どんな話してたの?
4自由安価

 下2レス


キリカ「どんな話してたの?」

恭介「さやかが持ってきてくれた曲を聴いて、あとは普通の雑談」

恭介「学校がどうだったとか、こんなテレビをやってたとか」


 見てみれば、ベッドの横にCDプレイヤーが置いてある。


杏子「……そうか」

杏子「やっぱノロケだったな!」

さやか「な、なんでそうなるのよ!?」

さやか「ねえ、恭介?」

恭介「……ノロケなのかな? わかんないや」

さやか「!」


 ……一応、意識してないわけじゃないらしい。

 さやかは不意を突かれたように傍から見れば面白い反応をしていた。


 ――――病室を出る頃には日が暮れてきていた。

 そろそろ夕食の時間らしい。ナースが入ってくるのと同時に私たちは出てきた。


杏子「病院の飯って早いな。これじゃ夜腹すかせてるんじゃないか?」

キリカ「そういえば、お弁当はどう?」

さやか「ただいま修行中!です」

杏子「なんだ、退院したら持ってってやるのか?」

さやか「ま、まあそんなとこかなー」


 照れ笑いながら言うさやか。

 でも、このままの空気が続くとは限らないのはわかってるはずなのに。


キリカ「……さやかは明日からはどうするつもりなの」

さやか「えっと…………正直、あたしもわかんないっすよ……」

さやか「やっぱ突き放されるのかなとか、もしかしたら恋人って関係もなくなっちゃうのかなとか」

さやか「あたしで代わりになれるのかなとかも」

さやか「CDだってさ、今は喜んでくれてるけど本当は逆効果かもしれないし」

杏子「それでも、あんたがあいつのためにやってることだろ」

杏子「……無駄にはするなよ」


 …………そう話すさやかの顔を、ゆまは静かに見上げていた。



 さやかと別れてから、建物の裏のほうでマミたちと合流する。

 ここからは私たちはここで待っているしかない。


キリカ「……ゆま」

ゆま「やってくるよ!」


 ほむらがゆまの手を取る。

 実際にあんな話を聞いたら、プレッシャーは膨れたかもしれない。

 でも、ここに来る前の緊張した顔とは変わっていた。


 ゆまは確かに『笑って』いた。


杏子「ゆま、ほむら。頼むな」

ほむら「……行ってきます」



 ――……それから、二人が戻ってきたのは私たちにとってはほんの少しの時間だった。

―――


ゆま「……ぜんぶ灰色になって止まってる」

ほむら「私の手を放さないでね」



 ゆまは止まった世界でその“腕”にそっと触れる。

 さっきまで話していたのに、見えないし声も届かない。



[魔力コントロールLv3]*5
友好度補正 +10
その他補正 +45
マイナス補正 0

 下1レスコンマ判定
0~70 成功
―――



キリカ「……どうだった?」

ゆま「……」


 そもそも感覚でわかるものなんだろうか。

 ゆまは何も言わなかった。


マミ「……明日も来ましょうか」

マミ「きっと、私たちが急ぎすぎたのよ」


 少し屈んで、ゆまの肩に両手を置く。

 下を向いていたゆまが顔を上げた。


キリカ「ゆま、この間も言ったけど、君の力は治してあげた人を笑顔にしてあげられる力なんだよ」

キリカ「上条君の腕のこと以外にも、その力が必要な時は絶対あるから」

ゆま「うん……」

キリカ「だから、訓練も焦らずに続けていけばいいよ」


ほむら「私たちはこれからどうしますか?」

杏子「とりあえず、さやかにも事情は話すしかないな」

杏子「その上であたしたちに賭けてくれるっていうなら、このまま続けていこう」

杏子「ただ……そればっかりやってるってわけにもいかないからな」

杏子「治癒魔法は“戦うための力”とはまた違う。……それに」


 杏子は濁ったグリーフシードをポケットから取り出した。

 訓練するのにも、治癒を決行するのにも魔力はいる。

 ……ワルプルギスの夜のほうだって、まだまだ準備しなくちゃいけないことはたくさんある。

 ゆまだって、最初はそのために契約したんだ。


マミ「暁美さんには魔女狩りのほうを優先してもらうことになると思うけど、いいかしら?」

ほむら「はい。それは私が一番向いてると思いますし……」

ゆま「……ゆまは」

ゆま「キョースケのうで、治すよ。訓練ももっとがんばる!」

杏子「…………ああ」


 これで今日のところは解散になった。

 やっぱり、“怪我や身体の状態を治すこと”そのものに特化していない魔法では難しいのかもしれない。


 ――でも、私は治せるんじゃないかと思う。

 だって、治せなかったらどうしようっていう不安じゃなくて、悔しそうにしてたんだ。


 ゆまが治そうとしたところは見ていないけれど。

 その瞬間はきっと、『私たちみんな』のことじゃなくて、上条君のことを考えていたと思うから。



―30日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [体術Lv2] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv2]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]



 ――――……灰色の空。そこにはよくわからないものが浮かんでいる。

 ガラクタのようなオブジェが広大な結界のそこかしこに置いてあった。


 辺りにはおぞましい気配を感じる。


キリカ「はぁ、はぁ、はぁ……」


 命を害されるかもしれない状況に、危険信号が神経を通して身体中に駆け巡る。

 否応なく異常な緊張と興奮状態を呼び覚ます。

 この感覚には覚えがあった。普通に過ごしていれば感じることもない独特のもの。



 ――懐かしい感覚。また私は夢を見ていた。

 ただの空想とは違う、いつかの過去のままが切り取られていた。

 その感覚も、心も。



 刃を向けて、敵を斬って走る。やられたくないなら『先にやる』しかない。

 誰かを助けるだとか守るだとか、せめてそういう覚悟があれば少しは違ったのかもしれない。

 漠然と正義のためなんて理由で快く身を危険に晒せるほどデキた人間じゃない。


 魔力を解くと主の消えた結界は途端に崩れ、日常に放り戻される。

 見知った通りを歩いて、近くのコンビニで買った飲み物を呷っても心は落ち着かなかった。


 苛立ちの原因は、命懸けの戦いなんてものをしていたせいか。

 身に覚えのない『願い』と『義務』を押し付けられたせいか。

 さっき立ち寄ったコンビニでしょうもないドジをして白い目で見られたせいか。


 律儀にゴミ箱を目で探していたけれど、どこかから魔力を感知して宝石が明滅した。

 空のボトルをその辺に放り捨て、異常に逆立った心のまま足を速めて歩き出す。


 もう誰にも救われない。あの世界とは違うから。

 “この未来”の先を知っている今の私は届くはずのない警鐘を鳴らす。



 ――あぁ、ここで立ち止まっていればよかったのに。

 どうせやりたくもないことなのに。押し付けられたようなものだって思ってるはずなのに。

 それを受け入れてしまうのも、結局何度忘れて繰り返したって、弱いまま何も変わってない。


 いずれ安らかに絶望を迎える時まで救われることなんてないのだから。


――――
――――

―31日 朝
自宅



 横で流れている朝のニュースを聞き流しながら、

 もくもくと朝食をとっている。


 あれからほむらは来ていない。

 わざわざ弁当なんて作ってもらってるあたり、一人暮らし同士で泊まりにいってるのかもしれない。


キリカ(……それって知らないの私だけ?)


 私のほうも、あれから朝食に間に合わないほど寝坊することはなかった。

 というより、少し眠りが浅いのかもしれない。

 考えなきゃいけないことも、考えてしまうことも多かったからか。


キリカ「いってきます!」


 ……学校に行ったらまた話したいことはある。

 今日はさやかにも昨日のこと話さないといけないし。



 教室に着くと、段々と人が集まってガヤガヤとしはじめる頃だった。


*「おはよう」

キリカ「おはよー、何書いてんの?」

*「学級日誌。今日当番だったの忘れてたんだ」

キリカ「あー、面倒くさいね……あ、横に落書きしていい?」

*「いいよ」


 なんだかんだで、世間話の相手が出来るくらいには学校のほうは上手くやれていた。

 特に前に髪飾りをほめてくれた前の席の人なんて、こうして話すことも増えた。


キリカ「そのペンいいね」

*「雑誌の付録」

キリカ「へえー」


 一応彼女とは雑誌の話題だとか、小さい共通点もあるし。


キリカ(そういえば昨日出た雑誌まだ買ってなかったな……)


 学級日誌のノートの隅に猫の絵でも書き込んで、

 適当に雑談しながらHRを待つ。


 ――午前の時間はそんなこんなで流れていった。


 ――昼休みになると、みんなが教室に集まってくる。

 ほむらは相変わらず変わった髪型してて、その感想を言い合っている。


 綺麗でバランスの良いお弁当が自作でないことはもう知れ渡ってしまったので、

 それについてもネタにされていた。


さやか「ほむらは結局自分じゃ作らないの?」

ほむら「……私がやったら時間がかかりそうですし」

ほむら「それに、この前一応言い出しはしたんですけど、どうせ暇だからってやんわりと」

マミ「……私も最近朝以外で家事なんてやってないけど、『私が役立てるのはそれくらいだから』って言ってたわね」

さやか「いやーまあ、そういう役割みたいの感じてるなら、それを奪わない程度にさ」

さやか「まずは週一くらい自分で作ることを目標にすれば?」

マミ「美樹さんは頑張ってるらしいわね」

さやか「はい、修行中です!」


 もうその名前についても隠そうとはしていない。

 そのおかげで、向こうが今どうしてるかも少しずつだけど伝わってはきた。


 ……何もかもが平和だった。


 上条君のこととか、ワルプルギスの夜のこととか、そういう問題はあっても、

 今こうして流れている時間にはトゲトゲした嫌な空気は何もない。

 織莉子とだって顔を合わせなければ何が起こることもない。あっちはあっちで上手くやってるようだった。


さやか「ほらー、まどかからもなんか言ってやってよ」

まどか「えっと……私もほむらちゃんのお弁当見てみたいな」

ほむら「……はい、じゃあ、いつかは」

ほむら「でっ、でも笑わないでね?」

まどか「笑わないよ!」



1自由安価
2さやかは他に何か挑戦してるものはある?

 下2レス

-------------------
ここまで
次回は14日(月)19時くらいからの予定です


キリカ「さやかはあれから他に何か挑戦してるものはある?」

さやか「ポテトサラダに挑戦中です! 昨日のまどかの弁当がうまそうだったんで」

マミ「彩りも良いしお弁当にはちょうどいいわね」

まどか「パパにレシピ聞いてこようか?」

さやか「じゃあ参考にお願い」

さやか「キリカさんはあれからどうですか?」

キリカ「私は修行したって相手もいないよ……」


 曖昧に苦笑いする。

 ……憧れがなかったわけじゃない。それも高校デビューに賭けることになるのかな。


マミ「……何言ってるのよ。呉さんは立派に相手が居るじゃない」

キリカ「えっ? 何言ってるのさ、そんな関係の人いないけど……?」


 マミの発言に、少しの間本気で考え込んでしまった。

 誰? まさか織莉子――……は、今あっちで家事やってるんだし、私なんかが世話焼くのは違和感ありすぎる。

 ……あれ。でも、思い返したら前見た時は結構ひどくなかったっけ……?


マミ「たまには家族にでも作ってあげればいいじゃない?」

マミ「お父さんとか、思春期の娘から手作りのお弁当なんて渡された日には泣いて喜ぶと思うけどなあ」

キリカ「……なんだ、そういうことか」

キリカ「暇と時間があればね……まあ、お母さんも毎朝二人分大変だろうし」


 マミらしいといえばマミらしい。

 確かに、そういう選択肢はまったく考えなかったわけじゃないけど。


まどか「ほむらちゃんもきっと、ちゃんと食べてるかとか、お父さんとお母さん気にしてると思うよ」

キリカ「料理ができるようになったって言ったら、安心するだろうね」

さやか「それをもし毎日コンビニ弁当だなんて知られたら!」

ほむら「い、今はちゃんと食べてますよ……料理はできないけど……」


 お弁当のこと。昨日テレビで見た面白いお笑い番組のこと。

 お昼の時間は普通に雑談をしながら過ごしていた。


 ……お昼休みの終わりが近づいてみんなが教室に戻る前に、さやかを呼び止める。


キリカ「……今日もお見舞い行くの?」

さやか「刺激するかもしれないけど、恭介のこと一人にしておくわけにはいかないんで」

マミ「そのことで少し話したいことがあるから、私たちもついていってもいいかしら?」

マミ「佐倉さんとゆまちゃんも病院の前で待ってるわ」

さやか「……杏子とゆままで? なんで?」


 さやかはきょとんとしていた。

 それも後で話すんだろうと納得したのか、今度は少し真剣な表情になる。


さやか「……でも、今日の恭介に会うのは覚悟がいると思いますよ」

さやか「昨日までみたいには話せないし、せっかく仲良くなれたのに」

キリカ「……うん。もし会うならそれはわかってると思う」

キリカ「楽しいときだけ一緒に居るのが友達じゃないから」


 ゆまの悔しがってた顔を思い出す。

 ただの私たちの知り合いの知り合いっていうだけじゃ、あんな顔はしない。



1自由安価
2一応、今会うなら気を付けておいたほうがいいことってある?
3じゃ、また放課後ね

 下2レス


キリカ「一応、会うなら気を付けておいたほうがいいことってある?」

さやか「わかってる……とは思いますけど、今励ましたりしても突っぱねられると思います」

さやか「特に腕のことや音楽のことに関しては」

キリカ「……わかった、気をつけとく」

マミ「まあ、私たちが無責任なことは言えないわよね」

キリカ「じゃ、また放課後ね」

さやか「はい」


 自分の席に戻って、次の授業のノートを取り出す。

 現状を一発で解決できるような言葉なんてきっとないんだろう。あるのは本物の魔法、と……


キリカ(……ずっと一緒に居たさやかなら、まだ出来ることはあるかもしれない)


 ……先生が教室に入ってきて、また午後の授業がはじまろうとしていた。



 ――……本日最後の授業を終えて、帰りのHRを待つ間の時間。

 前の席には学級日誌に熱心に書き込んでいる姿が見えた。


キリカ「お疲れ、学級日誌はどんな感じになった?」

*「見てみる?」


 一時間目からさっきの授業までのことと、一日を通しての感想。

 毎回適当に書いてた私とは違って、短い文章を読むだけで雰囲気までちゃんと思い出せた。


 私も授業自体は退屈だったけど、その雰囲気は嫌いではなくなっていた。


キリカ「ありがとう、文章書くの上手だね」

*「え、そんなことないよー」

キリカ「日記とか書いてたことある?」

*「昔は書いてたかな」

キリカ「私も小さい頃は書いてた」


 ……あのころは何はなくても一日が楽しかったんだろう。

 私が前に書いた学級日誌のページを見てみると、『自分の思ったことを書いてほしい』とコメントがあった。


 先生の短い挨拶を聞いて、教室内がバラける。

 さよならの挨拶をして廊下に向かうと、ちょうどマミと会った。


キリカ「お疲れさま、下いこうか」

マミ「ええ」


 二人で廊下を通って、階段を下りていく。

 その間に、さっき考えたことを少し相談してみた。


キリカ「……上条君のことだけどさ、魔法に頼らない方法でさやかに出来る事って何かあるかな?」

マミ「魔法に頼らない方法、か」

マミ「……私も上手く言えないけど、美樹さんにしかできないことっていうのはたくさんあると思うのよね」

マミ「例えば魔法や奇跡で怪我を治したとしたら、誰がやってもその結果は同じでしょう?」

キリカ「そうだね」


 その背景にどんな思いがあったって、相手には知られることがない。

 だから尚更さやかにはまたその願いで命を懸けさせたくなかった。


マミ「多分本当の意味で上条君を励ますことが出来るのって、美樹さんだけだと思うの」

マミ「一緒にいるだけでも何か意味はあるんじゃないかなぁ……って」


 ……まどかたちの教室が見えた。


ほむら「お疲れ様です」

さやか「授業お疲れーっす、じゃあまたね仁美」


 教室の中には仁美ちゃんの姿も見えた。

 ちょうど別れるところだった。


まどか「これから今日はみんなでお見舞いですか?」

マミ「まずは話しあいね」

マミ「それに、私は面識ないし、あんまり大人数で押しかけても上条君も疲れちゃうかも」

まどか「そうですね……そういえば、わたしもずっと会ってないなぁ」


 更に階段を下りて、学校を出て帰り道を歩く。

 ……みんな揃っての下校は久しぶりな気がした。



 病院に着くと、杏子とゆまが病院外のベンチですでに待っていた。



キリカ「何やってたの?」

杏子「ちょっと子供と話してた」

まどか「ゆまちゃん、お友達できたの?」

ゆま「うん」


さやか「……それで、話って?」

杏子「ああ。今みんなでゆまの訓練をしてるんだけどさ」

杏子「ゆまの魔法、治癒魔法なんだよ」

さやか「えっ?」


 一瞬期待を抱いた様子を見せたさやかに、すぐに杏子は淡々と説明を続けた。

 今までの訓練のこととゆまの魔法の詳細、そして昨日の出来事。


 全部を聞いたさやかは……――

 ――……ゆまの手を取って、泣いていた。


さやか「――……ゆま、ありがとう」

さやか「その願いは、あたしが何度も“後悔”した願いだから」

ゆま「でも、なおせなかったんだよ……?」

さやか「でもゆまはあたしや恭介のために、あたしと同じ『願い』をしてくれてるからさ」

さやか「それが嬉しいんだ」

杏子「ゆまに賭けてくれるなら、涙は治った時のためにとっておけよ」

マミ「そうよ。お見舞いに行く前から泣いてたら何かと思うわよ」

さやか「……はい」



 とりあえずさやかは契約はしないつもりなのかな……?


杏子「それに、腕は完全に治せなくてもまったく効果がなかったわけじゃないかもしれないだろ?」

杏子「ゆまのやったことは完全に無駄にはならないさ」

ほむら「巴さんと佐倉さんが訓練してたんだものね……」

さやか「二人も本当にありがとう」

さやか「じゃあ、ゆま……今日も会っていく?」

ゆま「……うん。あいたい」



1自由安価
2マミとほむらはこれからどうするの?

 下2レス


キリカ「マミとほむらはこれからどうするの?」

マミ「私たちは魔女を狩りに行きましょうか。この頃ずっと訓練続きだったから」

さやか「はい、そっちも頑張ってください」


 ベンチから立ち上がって、二人と別れる。


キリカ「……さやかは契約する気はないんだよね」

さやか「はい。ゆまだってまだ意気込んでくれてるんだし」

キリカ「この前キュゥべえが私のところに来て、言ってたんだ……『まどかを人間に戻すのはさやかに任せたらどうか』って」


 そう話すと、さやかは少し考え込むような顔をした。


キリカ「……ごめんね、私がこんなだから」

キリカ「さやかのとこにも来るかもよ」


さやか「……まどかのためならいいよ、あたし」

まどか「えっ……でも」


 まどかは戸惑っている。

 ……私だってそうだった。そんな、あっさりと言うなんて。


さやか「どーせ誰かが契約するんなら、キリカさんに無理させるくらいならあたしがやりますよ」

さやか「きっとあたしなら後悔しない」

キリカ「でも、その願いも魔法も、私なら前の世界からやっと慣れてきたところだし……」


 “自分のもの”という感覚でもあったのかな。何か自分の使命が取られるような気がした。

 ……キュゥべえが言ったとおりだ。私は、焦ってる。


さやか「まだ日はあるんだし、使いこなせるように訓練しますよ」


 でも、私がまともに魔法使って戦えるようになったの、最後のほんの数日だけだったのに。

 さやかのほうが習得が早いかもしれない?


キリカ「…………」

ゆま「……キョースケのところにいこう?」

キリカ「そうだね……」

キリカ「ゆまが一度治療したんだから、少しでも症状が改善されてればいいんだけど」


 いつのまにか立ち止まっていた足を再び動かして、病室に向かうことにした。

 ……後にしよう。でも、どっちが契約するにしても決めるのは早くしなきゃ。



 ――……病室に入ると、上条君は扉に背を向けるようにベッドに横たわっていた。

 さやかが声をかけても変わらなかった。


まどか「上条君……ひさしぶり」

恭介「……鹿目さんまで来てたのか」

ゆま「ゆまもいるよ」

杏子「最近一緒に来てた奴は全員来てるよ。なんかあったのか」


 まどかまで居るとは思わなかったのか、上条君は確かめるようにこちらを向いた。


キリカ「……調子悪いの?」

恭介「……いや。調子はいいですよ」

恭介「驚くほどどこも痛くないし、医者も怪我の経過は順調だって言ってました」

さやか「それはよかったけど、まだどこか良くないとこでもあるとか……?」


 わかっていながら、出来るだけ刺激しないように言う。

 ……けど、その雰囲気に苛立ったのか、上条君の機嫌は下がる一方だった。

---------------------
ここまで
次回は15日(火)19時くらいからの予定です


恭介「今日聞いたんだけど、僕はあと1月程度……学校が夏休みに入るより大分前には退院できるんだってさ」

さやか「……予定よりも大分早まったね」

恭介「腕が動かなくて松葉杖を使えないから歩けなかったけど、足のほうは思ったより回復が早くてね」

恭介「もう少したってリハビリを頑張れば、ゆっくりとなら歩けるようになるらしい」

杏子「…………」

さやか「そ、そっか……」


 ……上条君は、さやかの問いをあえて無視しているのだろうか。

 よかったねとは言えない。


恭介「……思ったより反応薄いね」

さやか「あ、うん。それはよかったと思うよ」


 促されてさやかが言う。

 けれども上条君は、やっぱりちっとも満足してなさそうに思いつめた顔をしていた。


 下手に励ましても突っぱねられる。

 けど、腫れ物に触るようにされる悲しさは私もわかっていた。



1自由安価
2嬉しくなさそうだね
3退院したらきっと楽しい事あるよ

 下2レス


キリカ「嬉しくなさそうだね」

恭介「…………」


 ゆまが上条君のそばに駆け寄っていく。


ゆま「ゆまも治るまでいっしょにいるよ」

恭介「ありがとう、でも全部は無理なんだ」

恭介「……他の怪我は治ったって、腕はボロボロのまんまなんだ」

ゆま「…………」

恭介「表面の怪我は時間が経てば治るけど、もっと深いとこが……神経が切れててもう自然には治らないんだってさ」

恭介「現代の医学じゃ、手術したって治せないらしい」


恭介「でもそれじゃ意味ないんだよ!」

恭介「こんな……足なんか治りが早くたって意味がない」

ゆま「……それでもいっしょにいるよ」

さやか「あたしも! 一緒にいるから」

杏子「……なんだ、モテモテだな。両手に花だぞ」


 さやかまで駆け寄って行った。

 わきにある椅子に腰掛けて、そのさまを見ながら杏子が軽く茶化す。


 ……それから、暫くしてから立ち上がった。


杏子「……じゃあ、あたしらはそろそろ行くか。またゆまと一緒に来るよ」

恭介「…………待ってくれ」

恭介「さやかは少し残ってくれないか」


 ……尚更邪魔しちゃいけない雰囲気だ。

 さやかを置いて、私たちは病室を出た。


 エレベーターで1Fまで下りて、

 建物を出る前にエントランスで杏子が立ち止まってこちらに振り返った。


杏子「……さっきのことはどうするんだ?」

キリカ「え?」

杏子「契約のこと」


 さっきは話す時間も考える時間もとれなかったけど、いつまでも先のばしておけることじゃない。

 さやかに頼んだら、すぐにでも決心はついてるんだろう。

 まどかのほうを見る。口を出す気はないらしい。……どっちが契約しても、願いの結果は同じだ。


 でも、私は……


キリカ(……それでいいの?)


 それじゃいけないような、むしろそのほうが良いような。



1自由安価
2私が契約するよ
3さやかが契約したほうがいいのかな?
4…さやかと話してみるよ

 下2レス


キリカ「私が契約するよ」

キリカ「でも、もうちょっとだけ…………考えたいから、さやかとも話してみようと思う」


 これが今の精一杯の答えで……

 ……まだ答えがしっかりと出せないから、こう言うしかなかった。


杏子「そうか」

まどか「…………なんか、こうなるとわたしも悔しいですね」

まどか「自分の意思で契約して、そのことに後悔なんてないのに、こうして誰かを悩ませなきゃいけないって思うと……」

キリカ「違うんだよ」

キリカ「……まだ私自身の問題で踏み切れてないだけで、私がそうしたいのは確かだから」


 病院を出て、みんなと別れる。

 私はその周辺を少し考え込みながら歩いていた。


 さやかになんて言おう?

 ――私はさやかに……『私が契約するんだ』ってちゃんと言いたい。

 さやかに言うだけじゃなくて、ちゃんと行動をしなきゃ、誰も安心できない。


キリカ「…………」


 さやかは今頃、上条君とどうしてるだろうか。

 待とうかなとも考えて、その前にやっぱり少しだけ寄り道をする。


 まだ早めの時間だから、街は若い人で活気づいていた。

 周りの景色を眺めながら、近くにあるはずのコンビニを探す。


キリカ(昨日忘れてた雑誌を買うんだった)

キリカ(ついでにほむらにスライス秋山の料理本でもプレゼントしてやろうかな……)


 ……この景色が今朝夢に見ていた景色と被った。久しぶりに鮮明な過去の夢を見てしまったからか。

 そういえば、この世界でもあの魔女は誰かが倒してくれたんだろうか。


 『これ以上進んでは駄目だ』――今朝は強くそう警鐘を鳴らして目が覚めた。

 それに安心したけれど、それは思いが届いたと言えるのだろうか?


 ――この場所で私の心が救われた過去だってあったはずなのに。

 そんな良い思い出よりも、今となってはあまりにもそうでなかった過去が強すぎて。


キリカ「!」


 ――その時、肩に衝撃を感じた。

 景色に気を取られてよそ見をしていたかもしれない。

 その上相手も前を見てなかったのは同じようだった。


 彼女が顔を上げてこっちを見る。


 その瞬間、私は凍り付いたように動けなくなった。


「っと…………ごめんなさい。よそ見してたわ」

「…………大丈夫?」

キリカ「え、ああ、うん…………」


 声をかけられて、なんとか表面だけでも平静を取り戻そうとする。

 地面に携帯が落ちている。よそ見の原因というのはそれらしい。

 拾ってみると、地図らしきもの映っていた。


キリカ「……もしかして、道に迷ってる?」


 それを覗きこんで、三度目の衝撃が走る。


キリカ「――――その地図、住所…………」

「ありがとう、別に迷ったわけじゃないから」


 ――その内容を、私はよく知っていた。痛いほどによく覚えていた。


 私のつぶやきに反応するように、彼女はすぐに携帯を私の手から奪い返すと、あからさまにばつの悪そうな表情をする。

 ……変な意味に取られたかもしれない。けど、そこまで考える余裕もなくなっていた。


「ていうか…………あんた、どっかで会ったことある?」


―――

----------------------
ここまで
次回は18日(金)20時くらいからの予定です

―――
美国邸


 チャイムが鳴る。

 マミたちが帰ってきたのかと思って立ち上がると、その途端、扉を蹴るような音がした。


織莉子「……」


 ただの嫌がらせか?

 冷や水を浴びせられたように気分は冷え、玄関まで迎えに行こうとした足を止める。


『おい、腑抜けの美国! いるんでしょ! 出てきなさいよ!』


 チャイムの後に声をかけるのが知り合いが着た合図。

 “友人”ではない。しかし罵声は、確かに知り合い……の声だった。


 仕方なしに玄関まで迎えに行く。


織莉子「……何しに来たの」


 玄関を開けてみると、乱暴な訪問者が仁王立ちで立っていた。

 片手になにか紙を持っている。そこにはデカデカと趣味の悪い中傷が書かれていた。


「なに呑気な反応してるのよ。 言っとくけど、あたしが持ってきたんじゃないからね」

「こんな紙まで貼られたままにして! 美国は本格的に地に落ちたようね」

織莉子「放っておきなさい。わざわざ貴女が触れることはないでしょう?」

「ほっといてですって? そんな調子であんたが引きこもったりするから馬鹿にしにきてやったのよ!」


 ……顔を合わせるのは本当に久しぶりだった。

 相変わらずだった。面倒臭い人だが、この人には本当の悪意というものがない。

 そう考えて、再び紙のほうを見た。その悪意しか感じない文字が少しだけ目について。


 ――いや、悪意だけは感じるけれど。


織莉子「……『死ね』だなんて」

織莉子「人を殺したことも、その覚悟すらないくせに……ねえ」

織莉子「……所詮その程度の人たちのすることよ」


 そんなことを言ったら、彼女は少したじろいだように見えた。

 吐き出した言葉は本心で、この時だけはまだ前のように心が冷え切っているような感覚がしていた。

 そんな部分もやはり消えてはいない。多分この先も完全に消えることはないのだろう。


「…………何言ってんのよ」

「そりゃ本気だったらシャレにならないけど、こんなの書かれて貼られて泣き寝入りすることないって言いたいのよ」

「これはともかく、じゃあこっちのは? 冗談でも犯罪よ」

「あんたもそのくらいは知ってるでしょ? 別にいくらだってやりようは……――」


 最初に比べてその語気が弱まっている。

 彼女は何を思ってここに来たのか。自分の思っていたのと違うことに、本当はもう気づいている。

 言葉以上に発せられた何かを察知したのだ。


織莉子「興味も無いわ。わざわざ気を回したくない」

織莉子「……でもそうね。私もこれからは、少しは顔を出すことにするわ」

「……えっ?」

織莉子「来てくれて、ありがとう」

「……馬鹿じゃないの」

織莉子「馬鹿でもなんでもいいわ」



「…………なんなの。あいつ」

―――

―――


キリカ「……ごめんなさいッ! ごめんなさい!」


 ――全身に冷たい電流が走ったような気がした。

 私は弾かれたように謝って、謝って、その場から走って逃げた。

 それに対して彼女がどんな反応をしていたかは見ていない。


 どう……思っているんだろう。変な人、とでも思ったか……

 …………それとも、いつかは思い出してしまうのかな。


 前の世界のことを覚えている。全部、なくなってなんてない。


 ゆまの時は、今の今までずっとそれは私にとって救いになってたのに。


 そう思うと、どうしようもなく記憶と感情が溢れ出した。

 あの時の、私を睨む目と光景、感触、匂い。



 バタン、なんとか部屋のドアを閉めて、ベッドの上に両手をついた。


 ……あいつが思い出したらどうなる?

 死んだはずなのに、生きている。死んだはずのまま生きている。私たちがみんなそうだったことを今更に思い出した。

 罪が暴かれてしまう。責められる。憎まれる。どうすればいい?

 せっかくどうにか心の中に納めてたのに?


キリカ「…………なんで、許してもらうことばっかり考えてるんだろ」

キリカ「誰かに許してもらえたらそれで満足なんだ……そうやって、『自分』のことしか考えてないからあんなことになったのに」


 ――――救われたくないなんて嘘だ。

 自分じゃ救うことができないから、ずっと誰かに助けてほしくて。


 救ってもらったと勘違いしたままの自分が意地を張って。

 ずっとここで立ち止まってる。


 『救われたい』と思いたくないのは、まだ『救われてない』と思いたくないから。


 こんな状態じゃ、寝ていても起きていても悪夢を見てしまう。

 わかりきっていながらも、どうしようもなかった。

 ソウルジェムは濁らない。私の胸の奥までじくじくと蝕むだけ。


 この苦しみから逃れるなら二つしか方法はない。

 冷静な考えのできた時にはすぐに否定できたことだけど、こうなるともう冷静な判断なんて失っていた。


 ――――そこを付け込まれるのもあの時とまったく同じ。


QB「……答えは出たかい?」

キリカ「ッ! ――うるさい!消えろ!」


 精一杯力を込めて振りかぶった手がすり抜ける。

 ……見上げてみると、キュゥべえなんていなかった。


キリカ「えっ、あ、あれ…………?」

キリカ「…………」


 ――……悪夢はもうはじまっている。



―30日終了―


キリカ 魔力[0/0]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [体術Lv2] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv2]


まどか
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]



 ――――『今とは違う自分になりたい』。


 その願いは、少女が憧れる魔法少女という存在のような、“変身願望”にも似た望みもきっと含んでいた。

 白馬の王子様に迎えられる姫になりたいとは言わない。

 ただ、つまらなくて暗い私から、尻込みせずに人を信じられるくらいの勇気のある人になりたかった。


 幼い日に傷ついて失ってしまったものを取り戻す。

 そのキラキラとした希望を抱いていたはずの願いの結果で得たものは。

 皮肉にも、自分の一部分を“なくした”ことへの不安と苛立ちだけだった。


 “記憶”と“願いへの動機”――それを失ったまま奇跡の代償ともいえる命懸けの戦いをこなすのは、

 更にそんなささくれた感情を増大させさせていくだけだった。



 そんな状態で、本当に望んだものを手に入れられるはずもなかったのに。


 …………だからやめてっていったのに。今更過去への警鐘なんて意味がない。

 私は結局、あのコンビニのあった通りから踏み出してしまった。

 魔力の明滅する魔女結界を探ると、魔女だけじゃない。先客の存在。それにも私は苛立った。



  『……いいよもう。別に縄張りも命も奪ってやろうとは思ってないんだから』

  『魔女じゃなくて魔法少女が相手になったとしても、ちょっとこのもやもやをぶつけるくらい許してよ』

   ふと、前に別の私自身の発したそんな言葉が重なって聞こえた気がした。

   結局根は同じで、そんな自分が今では心底憎らしかった。



 ――――骨の割れる嫌な音が響いて、魔力の乗った水晶珠がお腹のなかまで掻き乱す。

 完全に勝負は決まった。私から仕掛けた“喧嘩”で死ぬなんて、なんて情けないんだろう。

 いつのまにか喧嘩なんてものじゃすまなくなっていた。……いつのまにかじゃなくて、多分、最初から。


 相手が悪かった。しかしこれも自業自得だった。

 投げやりな思いがあったからこんな悲惨な状態でも取り乱さなかったんだろう。


 うす暗い床に倒れ込んだまま上でその言葉を聞く。その言葉はどこまでも淡々としていて表情は冷たくて。

 その女によると、私は死なないらしかった。――魔法少女は魂が身体にないから。それが事実かなんて信じられるわけもないけど。


 …………とにかく、そうして、私は織莉子の駒になった。

----------------
【訂正】
>>617
誤 うす暗い床に倒れ込んだまま上でその言葉を聞く。
正 うす暗い床の上に倒れ込んだままでその言葉を聞く。

>>615 30日終了→31日終了

1まで取り乱している…

―1日 朝
美国邸


 キッチンはいつもに増して賑やかだった。

 昨日急遽弁当を自分で作ることになったほむらが大慌てしていて、マミがそのフォロー。

 ついでに杏子がつまみ食いをしてて、私は……――


 ……自分の弁当を作っていた。


マミ「美国さん、今日はどこまで一緒に行ける?」

ほむら「駅まででしたっけ?」

織莉子「私はみんなより早くに出るわよ。残念だけど一緒には出られないわ」

杏子「昨日までとは打って変わってあわただしくなるんだな」


 最後の仕上げに見た目を整えて、身支度に移る。

 鞄を整えて久しぶりに制服に袖を通すと、気持ちも引き締まる気がした。


織莉子「ほむらも学校がはじまってしまったし、私もそろそろと思ってね」

杏子「あたしがいるだろー?」

織莉子「あら杏子、寂しいの?」

杏子「冗談だよ、つかなんでそーなる」

杏子「まあちょっくら魔女でも探しながら散歩でもしてくるかな……」

ゆま「ゆまもいくー!」

織莉子「はいはい、とにかく早く朝食食べちゃいなさいな」


 手のひらを返して勝手に中傷している人たちになんて興味はない。

 なら、こうして外に踏み出そうとしているのは……


 あの人にだけは少し言い返してやってもいいかもしれない。

 そう思ったからだった。


織莉子(どうせ、憎まれ口しか言わないんでしょうけど……)


―――

―――


キリカ「…………」


 ――――予想していたように、悪夢はあの時の光景を脳裏に映し出していた。

 血なまぐさい光景。決定的に壊れ始めた瞬間。私が“ああ”なる前、何度も繰り返し見た悪夢。

 見えているものも、聞こえているものももう信用できない。


 いつのまにか朝になって下に降りてきたはいいものの、やっぱり身体は食べ物を受け付けてない。

 この世界に来た時に逆戻りしたようで、なんとか買い置きしていたお菓子を少しだけ食べた。

 ……味はわからなかった。


キリカ(ほむら……今日も来ないのかな)


 インターホンが鳴るのをじっと待って、大分時間が過ぎた。

 誰かに会いたい。でもやっぱり会うのも怖い。


 それでも学校くらい行かないと、また心配させてしまう。



 下1レスコンマ判定1ケタ
1 まどか
2 さやか
3 仁美
4 まどか・さやか
5 さやか・仁美
6 まどか・仁美
7 まどか・さやか・仁美
0 !?
それ以外 誰とも会わなかった



 家を出てどのくらいか歩く。

 不思議と、二年と少し通いなれた学校への道というものは何も考えなくても歩いて行ける。


さやか「あ、キリカさん。おはよーっすー」


 自然の多い風景にも目もくれず、

 そんな染みついた本能を頼りに歩いていた――ら。


さやか「え、無視ですか!? ちょっ、おーい!」

キリカ「えっ? えっ? えっ!?」


 いきなり近づかれた影に思わず身構えて、突き放すようにしてしまった。

 ……私はさやかほど取り繕うのも上手じゃない。

 けど、心配もかけさせたくないしこんな嫌なところ知られなくもなかった。


キリカ「あぁぁ、ごめん! ちょっと考え事してたから!」

さやか「いや別にいいですけど。何考えてたんですか?」

キリカ「え…………なんでもないよ」



1自由安価
2今日は一人なの?
3契約のことで話し合いたいことがある、と言う
4昨日上条君とは進展したの?

 下2レス

---------------
寝落ちてた
次回は19日(土)18時くらいからの予定です


キリカ「それより、今日は一人なの?」

さやか「まどかと仁美を待ってるところです。また一緒に行きますか?」

キリカ「あ……そういえばそうだったね。でも今日はいいよ、私は…………」

キリカ「もう行くね、忘れ物しちゃったから!」

さやか「えっ!? ちょっと、忘れ物って!? だったら家に戻るんじゃ……――――」


 さやかは勘のいい人だ。


 とにかく早くこの場を離れないとボロが出る。その焦りを振り切るように通学路を直進していった。

 引き返す選択肢はなかった。だって今引き返したら、今度はまどかに会ってしまう。

―――

―――



「……ふん、来たんだ」


 周囲は嫌な噂話でざわめきながらも、直接近づいてくる人はいない。

 そんな私のもとに、一人だけ近づいて話しかけてくる。


織莉子「これで少しは見直してくれた?」


 数えてみれば、この世界では学校に来るのは約二週間ぶり。

 いつのまにか席までなくなっていたのを、やっと空き教室から机を運んできたところだった。

 学校からも生徒からも、このまま来なくなってしまえばいいと思われているのはわかる。


「やっと家から出たってだけで何偉そうにしてるのよ」

「でもまあ、前よりはマシになったんじゃないの」


 ……そう言われるのは悪い気はしなかった。

 ふっと笑うと、彼女もわずかに笑い返したように見えた。


―――

―――


 やっと学校に着いて、自分の席に座る。

 頬杖をついて、ぼんやりとどこでもない場所を見ていた。


*「おはよう」

キリカ「あ……おはよう」


 聞こえてきた挨拶に返事を返す。

 何気ない雑談に相槌をうって、聞いているふりをする。

 『そうなんだ』で済ませられるようなことしか話してないというのは、そうなのかもしれない。

 くだらない。でもそのくだらなさが本当はとても尊いものだったのに。


 ……何気ない雑談で教室内ががやがやとしている。みんな、昨日と同じように平和だった。

 この教室の中に、殺人犯がいるよ。


 それを知ったらみんなはどう思うんだろう?


 ――――結局お昼の時間の前になって、体調が悪いので早退すると告げて学校を出た。

 前とは違ってクラスにも心配してくれる人がいた。


 ……体調が悪いのは本当だった。

 身体の中心、胃のあたりからぎゅーっと泥でも詰まってるかのように重くなっている。

 ダイエットなんて気にしてられた頃はそれだけ幸せだったんだろう。そう今になって思った。


 『ごめん、ちょっと用事があるから今日は他のとこで食べてて』

 そう打ち込んでメールを送ったのはついさっきのようにも思えるし、かなり前だったかもしれない。


 こんなんじゃやっぱりみんなにも心配されてしまう。


キリカ(でも私、心配されるようなことしてないよね…………)

キリカ(私の身体の中に詰まってるのは泥じゃない)


 魂でもない、ずっと隅を埋め尽くしていた醜い何かにまた気づいてしまった。

 自分という人間自体がどうしようもなく醜いように思えて嫌になる。

 まだ家に帰るには早すぎたから、そんなことをぐるぐると考えてふらふらと街をさまよって……


キリカ「…………あ……」


 ――その景色の中に、織莉子の姿が見えた気がした。

 目を凝らして見ても、やっぱり間違いじゃなかった。それとも幻覚?


キリカ(……どうしよう、気づかれちゃうかな)


 思い切って話したら、それはそれで少しはこの泥を軽くすることが出来るかもしれない。


 このまとまらないぐちゃぐちゃを、そのまま伝えて、伝えて、伝えて……

 そうやって壊れるまで追い詰めてしまいたい気持ちも、そうはしたくない気持ちもあった。


 全部お前のせいだとなすりつけて、罵倒して――ずっと根っこにあった破壊衝動に似た思いは、また違う世界の自分? それとも。

 織莉子に抱いていた殺意ですら、まだ私の中から消えてはいないままだったらしい。

 こんなふうに悩んでいる限り消えないのかもしれない。


 話しかけようか、やめようか。


 結局、どうしたら『向き合った』ことになるのかがわからない。

 でも、話したいことは確かにあった。当たり障りのない会話なんかじゃなくて、もっと――


キリカ「…………っ」


 …………結局どうもしないうちに、織莉子は通り過ぎようとしていく。

 こちらに気づくことはなく、目線は不自然に横に向けられていた。横に並んでいる人へと。



 昨日の……――――。


キリカ(そう……か)

キリカ(あの人とも…………友達……なんだよね)


 暫く立ち止まっていた足をようやく動かして、足早に立ち去る。

 二人とも制服を着ていた。もう放課後の時間になっているらしかった。


 それならもう家に帰ってもいいかなと思いながら歩いて、

 わざと人気のない場所に帰路が逸れてがっくりと項垂れた。


 ……光の届かない薄暗い路地裏。

 地面には放置されたゴミが置いてあって、それを煤けた黒色をしたネズミが食い漁っている。

 今はそれを見ても逃げ出したいほどの嫌悪感はわかなかった。

 なんだか今の私にはこのくらいのうす暗さがとても合っているような気がして。


 ……――許して。助けて。

 あの時も、本当はちょっと脅かそうとしただけだったんだ。また同じように先客が居るのに気づいたから。

 人も殺せる力で戦っていたのだと、間違いが起きてから気づく。

 人としても魔法少女としても、その力を完全に制御するには私はあまりに未熟すぎた。


『私のためにグリーフシードを稼いで、ついでに魔法少女相手にも同じようにちょっかいをかけてほしい』

 目的は聞いても教えてくれなかった。“駒”になった私への命令は、そんなわけのわからない言葉だった。


 当然反発していたけど、

 誰にも合わせる顔もないけど一人じゃ怖くて耐えられない、そうなった時には縋れるのは織莉子だけだった。


 私が殺してしまった彼女とその友人二人が織莉子の知り合いだったと知って、懇願した。

 そんな私に語りかけられる言葉は優しくて。


『……大丈夫よ、許してあげるわ』

『これからも私の言うことを聞いてくれるのなら、私は貴女を離したりしない』


 あの時の私にはその言葉がまるで慈悲深い天使のように思えていた。

 救われたかった。楽になりたかった。

 その一心で、自己嫌悪と絶望に染まった自分の心は斬って捨られて、壊れて、壊して、“変質”した。


 ……そうやってずっと、更に泥に身を沈めたまま目を背け続けていた。それももう終わるのなら。


 ――――この状況を逃れるための、二つの方法。

 それは『死ぬ』か、或は『殺す』ことだ。


 考えれば考えるほど、それが最適だと受け入れられた。

 そうしろと意識が騒いだ。


キリカ「……だって、まどかからも、みんなからも」

キリカ「織莉子からだって……誰からも必要とされてないじゃないか」

キリカ「私が消えて喜ぶ人はいても、悲しむ人なんていないよ」


 ……消えるべき時が来たんだ。

 そう思ったのは、人一人未満の残骸。

 一度は魔女になって『死んだ』。もう本当ならばあるわけがないはずなんだ。ならもう一度はどうしたっけ?


 にやり、と笑みがこぼれた。悲しい気持ちになるどころか満たされた気分になった。

 私はきちんと使命を果たして終わったのだ。それなら喜んで命を終わらせることができる。


 それとも、『こんな自分は死んだほうがいい』?

 もう少しだけ深く考えると、自分の気持ちがわからなくなった。


 ……残骸といったってそれが『消える』ことは容易じゃないから方法は二つしかない。

 それ以外の部分も道連れにするか、もしくは――――契約するか。


 どっちにしたって馬鹿げている。


キリカ「…………こんなのと心中しろって」

キリカ「でも、確かに……こんな自分はいらないや」


 さっきのが嘘みたいに、一気に悲しくなってきた。

 でもこんな気持ちも、自分を嫌になるのももう限界だった。


QB「――叶えたい願いは見つかったかい?」

キリカ「!」


 声が聞こえると、白い獣がゴミだらけの足元から顔を覗かせる。

 今度は幻聴ではないらしかった。


キリカ「――――」

―――
病院 恭介の病室



さやか「――そうなんだ、あぁ、そういえば少しだけ見た気がする」

恭介「そうそう、入院してからはテレビとか見る時間も増えたし、退院したらそういう話にはついていけるかもね」

恭介「本とかも読むことは増えたかな? でも、さやかはあんまり読まないか」


 放課後は今日もここを訪ねて、なんでもない雑談をしていた。

 昨日はあんなに落ち込んでたけれど、こうして話していると意外と大丈夫そうにも見える。

 ……けれど、ふとした時に怪我をした腕のほうを見やっているのが気になった。


 今日はゆまたちが午前に来ていたらしい。

 その時もこんな感じだったのかな?


 …………それでも、昨日のことを思い出すと複雑な気持ちになる。



 “恋人”になって、はじめてそれらしいことをしたのは昨日だったのかもしれない。

 といっても少し身体を寄せたくらいだったけれど、それでも互いに意識するのには十分だったんだろう。


 呼び止めておきながら何も話さなかったそばに寄ると、恭介は言った。

 わざわざ、付き合ってるんだよね、と前置きをして。


『さやかは僕のためにどこまで出来る?』


 聞き返してももう一度は言わない。

 ……思い浮かぶのは契約の事だった。それ以外に、一体あたしになにができるんだろう。


さやか(腕とかさすがに移植するわけにもいかないしな……)

さやか(それとも、まさか結構過激な要求とかされちゃったりして……?)


 どういう意味なのか聞くのがちょっと怖くて。

 結局今日も雑談だけして病室を後にした。


 病院を出る前にスマホを見る。

 今日の昼は久しぶりに屋上で食べていた。

 久しぶりに仁美も一緒で、ほむらの手作り弁当が悲惨で、それをみんなで写真撮って。


さやか(キリカさんにもメール送ったけど、返信は来てないな)


 ……今日は用事があったらしいけど、気がかりなことはあった。

 朝の忘れ物騒動とか。そういえばどうなったんだろう、アレ。



1自由安価
2橋のほうに行ってみる
3久しぶりに織莉子さんの家に
4帰って料理の修行するか

 下2レス


 あたしよりは、みんなと行動してることが多かったのかな?

 静かな病院を出て繁華街のほうへと歩き出す。

 とりあえずマミさんに連絡をしてみることにする。


マミ『美樹さん? どうしたの?』

さやか「こんにちは。大した用はないですけど、どうしてるかなって」

マミ『こっちはまたゆまちゃんの訓練をしているところよ』

さやか「はい、そのことは本当にありがとうございます」

マミ『もし治った時はみんなでケーキでも食べましょうね。最近、そういうのしてないでしょ?』

マミ『前に作った時は呉さんが調子悪そうだったし……』

さやか「……ところで、そっちにキリカさんっています?」

マミ『いえ。今日は来てないわね』

さやか「……そーすか」



1自由安価
2じゃあ何か聞いてます?
3まどかにも聞いてみる

 下2レス


さやか「じゃあ何か聞いてます?」

マミ『特には聞いてないけど……むしろ美樹さんと一緒に居るかと思ってたかな』

さやか「……あたしと?」

マミ『話したいことがあるそうよ。契約のことで』


 それを聞いて納得はした。昨日のことだ。


さやか「……そー……っすか。じゃあ今度話してみます」


 ……通話を切って、今度はまどかにかけなおす。

 部活に行ってるってこともありえるけど、どうかな。なんか違う気がした。


さやか「…………あ、まどか? 今どこ?」

まどか『今? 家にいるよ』

さやか「そっか」


まどか『あと昨日言ってたポテトサラダのレシピ、月曜に渡すね』

さやか「おお、サンキュー」

さやか「……て、そんだけじゃなくてさ」

まどか『え?』

さやか「キリカさんと一緒に居ないかなって」

さやか「今朝は会ったんだけど、その時もなんかおかしかったし」

まどか「ええ? わたしは一緒にはいないけど……なにかあったのかな?」

さやか「わかんない……もしかしたら、あたしが余計なこと言ったから悩んでるのかも」

さやか「だから早いとこ話し合いたいんだけどな」

さやか「……まあいいや、じゃあまたね」

まどか「うん」


 電話を終えて少し考え込む。

 手がかりがなくなってしまった。


さやか「…………この辺で一人で買い食いでもしてたりしてね」

さやか「でも美味しそうだなぁ、クレープ……ちょうど小腹すいてるし食べちゃおっかなぁ」



 さやかは通りのクレープの屋台を見てそんなことを思った。

 ――――けれど、わざわざゴミだらけの裏通りに目を向ける人なんてそうそういない。


さやか「ん」


 歩いてくる姿を見つけて手を振る。


さやか「織莉子さん、学校帰りっすか?」

織莉子「あら、奇遇ね」


 それから隣りにいるのは、織莉子さんと同じ制服の知らない人。

 友達かな。そう思ったら、なにか驚いた様子でこんなことを言った。


「へえ、友達いたんだ」

織莉子「居るわよ……相変わらず失礼ね」

さやか「よ、よかったら一緒に食べます? そこの」

「なに? ……クレープ、か」

さやか「甘くてうまいっすよ!」


 最初は少し物珍しそうに見ていたものの、そう言うと心が惹かれたようだった。


 クレープを買うと、横のベンチに座って並んで食べ始める。

 同じ学校ってことは、この人も金持ちなのかな?


「なんか気になることでもあるの?」


 ……そんなことを思って見ていると、えらいストレートに言われてしまった。


さやか「え、いや。織莉子さんの友達っていうのは、気になるっちゃ気になりますけど」

「誰が友達よ」

さやか「……違うんすか? 普通にそう見えますよ」

小巻「……あたしは浅古小巻。あんたこそ何者?」

さやか「美樹さやかです。織莉子さんと同じ年なら、あたしはいっこ後輩になりますね」

小巻「そう……よろしく。でもこういう友達がいるのは意外ね」

織莉子「そうかしら?」

さやか「織莉子さんの友達なら、もっと色んな人がいっぱいいますよ?」

小巻「ふーん……」


 ……小巻さんはどこか納得するように頷いて、織莉子さんのほうを見た。


小巻「……別に友達じゃないけど、今のこいつは嫌いじゃないわ」

織莉子「それはどうも」


 最初は素直じゃないのかと思ったけど、むしろ素直すぎるのかも。



1自由安価
2二人はあんまりこういうのは食べませんか?

 下2レス


さやか「二人はあんまりこういうのは食べませんか?」

小巻「繁華街を通ることはあるけど、屋台は寄ることないわね」

織莉子「私は……こういうふうに友達に誘われてなら」


 ……多分キリカさんのことだ。

 やや引っ込み思案なとこあるし連れ回しはしなかったろうけど、みんなと居る時にもそういうことはあった。

 杏子はどこに行っても勝手に食ってるから誘われる感じじゃない。


小巻「もしかしてあんた、不登校じゃなくて非行に走ってたのね?」

織莉子「な、何故それが非行になるの?」

小巻「学校にも行かずに日中繁華街をうろついて…… はあ。わざわざ家まで迎えに行って損した」

織莉子「別に日中なんて言ってないわよ?」

小巻「じゃあ夜遊び?」

織莉子「非行なんてしてないと言ってるのよ」

さやか「やっぱ仲良さそうですね」

小巻「どこを見てそう思ったのよ」


 見ていると少しおかしくて笑ってしまった。

 織莉子さんにこんな友達がいたなんて知らなかった。

------------------
ここまで
次回は20日(日)18時くらいからの予定です



 ――クレープを食べ終えると、織莉子さんたちと別れてまた繁華街を歩く。

 久しぶりに見たけど、あの様子なら学校でも大丈夫そうだ。


さやか「…………ま、キリカさんのことは明日にでも聞いてみるかな……」



 たまにはこうしてパトロールでもなく一人でふらっと歩いてみるのも面白いかもしれない。

 ぼんやりと考えながら、帰り道を歩いていた。


―1日終了―

―2日 午前


 最後のあとがきからカバー裏まで呼んで、本を横に置く。

 今日はなんとなく朝からベッドの上で漫画を広げてくつろいでいた。


さやか「ふあ……」


 今日は休みだ。あまり朝から家に押しかけても迷惑かもしれない。

 一応メールをして返事を待ってたものの、連絡がないので少し焦れてくる。


 まだ寝てる。気づいてない。どっちも休日ならありえることだけど。


さやか(でも……昨日のメールも結局返信きてないしなぁ)

さやか(そろそろ行ってみようかな? キリカさんには悪いけど、寝てたらたたき起こすか)



 ――支度をして家に向かって、

 今はそのまま玄関の外でぽつんと立ちつくしていた。


さやか(…………留守だった)

さやか(それじゃしょうがないけど……)


 なんだか昨日からはっきりしないままなのがもやもやする。

 ため息をついて一旦帰る。


 ……午後にはまた恭介のお見舞いに行かなくちゃ。


――――
――――



キリカ「――――ッ、」


 ――叫び出したい。

 なんて叫ぶ。答えはもう決まっている。


キリカ「――まどかを人間に戻して!」

キリカ「まどかを人間に戻せええぇぇっ!」


 余計なことを言わないうちに叫ぶ。

 あの世界をなかったことにしたとして、『自分がそうした』ことにはすぐに気づく。

 これ以上心の底から自分を嫌いたくはなかった。


 ……ならこの願いはといえば、自殺と変わらない。

 グリーフシードもない状況で今の心じゃ、このまま泥に埋もれて死んでしまう。


キリカ「まどかを人間に……ッ」


 それでも、黒色の泥に汚れたって、私の魂だけは残るはずだから。

 誰かの、まどかの役に立って散るのなら。それは【私の希望】に……――――――


QB「…………」


QB「……悪いけど、その願いでは契約できない」

キリカ「は…………? こんなときにッ、今更何言ってるんだよ!」

キリカ「わざわざ私の前に現れておきながら契約できないだって! 人を馬鹿にするのも大概にしろッ!」


 ゴミの山を踏みしめて、キュゥべえに掴みかかる。


キリカ「私たちと契約するのがお前の仕事だろ! 何とか言えよ!」


 更に拳に力が入っていく。小動物の身体の中に通る骨が、ボキリと折れた感触がした。

 キュゥべえは皮が破れそうなほどみちみちと変形させられた顔で、いつも通りの済まし声で言っていた。


QB「君の感情がエントロピーを捻じ曲げるに至らなかったんだ」

QB「人間風に言えば、その願いは【君の希望】にはならないんだよ」

キリカ「は…………」


 一気に力が抜けて、まるでゴミのようにキュゥべえが地面に落ちる。

 すると、どこからかもう一匹が現れる。地面に落ちたボロのキュゥべえは、完全にゴミの山の一部と化した。



 …………そうだ。私は。


キリカ「死にたくはない……」

キリカ「誰かのために自分が死ぬのが希望だとか…………そういうのじゃないんだよ……」


 それを願ってないわけじゃない。 ただ、自分の準備が整っていないだけだ。

 ならそれはいつ整う? ……どうすれば、整う?


キリカ「どうしたらいいのか教えろよ……私の願いを全部叶える方法……」

QB「全部か、それは難しいね」

QB「願いを叶える立場上、相談に乗ってあげたいのはやまやまなんだけど」

キリカ「…………あんたの言いなりに全部任せたら、ろくなことにならない」


 いくらなんでも、これに委ねるのは間違いだ。

 ……そんなこと、わかってる。


キリカ(私が希望を取り戻す方法……契約せずに)

キリカ(…………そんなの、わかるわけない)


キリカ「……おかしいね」


キリカ「なんでも叶うはずなのに、なんにも叶わない」


QB「選ぶのは君自身だよ」


キリカ「…………なんにもしたくないんだ」



――――
――――

―――

―2日 午後
病院 恭介の病室


さやか「本?」

恭介「休憩スペースのほうにあったんだ」

さやか「へえ、面白い?」

恭介「うーん……普通かな」


 最近は前に増して暇つぶしのテレビや本、漫画なんかの話題が増えた。

 ――いつもみたいに雑談をして、ふと会話が途切れた時に、恭介は突然言った。


恭介「……さやか」

さやか「……ん?」

恭介「服を脱いでくれないか」

さやか「は……?」


 突然すぎてさすがに戸惑った。

 聞き返してももう一度は言わない。あの時と同じだった。


 ……こういうのをまったく予想してなかったわけじゃないけど、ついに来てしまった。

 そう思うと冷や汗をかいた。


 カーディガンに手をかけて、そこで一旦ストップした。手も思考も、なにもかもが。

 上着くらいならいいとして、それだけで済むはずがない。


さやか「いや、え? さすがにここじゃ…… ナースさんとか来るかもよ」

恭介「鍵……閉めれば?」

さやか「…………えーと」


 今まで全然そんな雰囲気なんてなかったのに。

 ……これも進展っていえるの?


 どうしたらいいか。ごまかせないか。しばらく迷っていると、恭介は穏やかな口調のまま言う。


恭介「……さやかは僕のことが好きなんだよね?」

恭介「僕は……バイオリンが好きだ。聴くのもいいけど、弾くのが一番だ」

恭介「それこそ命を懸けてきた」

恭介「プロになるためなら、どんなことでも出来るつもりだったんだ」


 ……口調は穏やかだけど、どっか怖い。


恭介「さやかは僕を好きじゃないの?」

恭介「……それともさやかは、僕をいじめているのかい?」

さやか「……!」


恭介「!」


 パン、と乾いた音が響く。

 あたしは怒っていた。

 バイオリンの代わり。暇つぶしの延長。そんな気持ちだけで言ってるんだって思ったら嫌になって。


恭介「…………」


 恭介はあたしの気持ちをどう思ってるの?

 でも、今それを聞いて決定的な言葉を言われてしまったら、もう全部が終わってしまう。


さやか「……好きだよ」

さやか「でも……こういうのってなんか違うと思う」

さやか「とにかく、今は応えられないから」

恭介「…………そうか」



 ――……気まずくなって病室を出てきてしまった。


 なにやってんだろ。恭介も辛い時なのに。

 後から思っても、出てしまった手も気まずさも今更どうしようもなかった。


さやか(……腕が治れば、恭介だって元通りに戻るはずだから…………)


 そうしたらさっきのこともなかったように、あたしたちも元に戻れる?


さやか(……………それでいいのか?)

さやか(あたしになにか出来ることは?)


 『さやかは僕のためにどこまで出来る?』


 その台詞が再び頭の中で響いた。


 ……恭介は今辛いんだ。暇つぶしでも代わりでも、応えたほうがよかったのか?

 でも、進展というにはあたしたちには過激すぎる。

―見滝原大橋


マミ「あら、こんにちは。お見舞いの帰り?」


 橋のほうに寄ってみると、今日も訓練をしていた。

 声をかけられて、言いよどむ。


さやか「うーん……」


 それはそうなんだけど。


杏子「上条となんかあったのか?」

さやか「なんかっていうか……まあちょっと、色々と」

ゆま「キョースケ、おちこんでた?」

さやか「……落ち込んでるだろうね」


 そう言うと、ゆまが心配そうな顔をする。

 この場で言うのはためらいつつ、少しだけ相談をした。


マミ「さすがにそういうのは応えなくてよかったんじゃないかなー……」

マミ「一線超えたら元の雰囲気には戻れなくなりそうだし」

ゆま「『いっせん』ってなあにー?」

杏子「ゆま、あっちでちょっと訓練するか」

ゆま「え?」


 ……杏子がゆまを連れてった。


さやか「でも、ゆまに頼りきりで待つだけっていうのも悪い気がして」

さやか「あたしに出来ることってないのかなって」

マミ「そうねえ……やっぱり、一緒に居てあげるっていうのが一番だとは思うけど」

さやか「でももう会うのも気まずいし、どうしたらいいかわかんないんですよ」

さやか「あー、でも話したらちょっとスッキリした!」

マミ「そう? 私もちょっと、恋愛に関しては上手く相談に乗れないかもだけど、ごめんなさいね」

さやか「なんかちょっと意外ですね」

マミ「雰囲気だけよ。美樹さんはもう私の中身まで知っちゃったでしょう?」

マミ「そんな暇もなかったの」



1自由安価
2ゆまの調子について
3みんなはどんな感じか

 下2レス


さやか「あれからみんなはどんな感じですか?」

マミ「ゆまちゃんの魔法のことは引き続きやって、それ以外もやってるわ」

さやか「ほむらが居ないみたいですけど」

マミ「今は魔女狩りに行ってる最中ね」

さやか「マミさんはここに居ることが多そうですね」

マミ「一応、魔力の扱いには自信があるからね」


 マミさんは自慢げに言った。


さやか「そうですか……なんか、邪魔しちゃってすいません」

マミ「いいえ。いつでも歓迎してるわよ」

マミ「そういえば、呉さんからは何か話はあった?」

さやか「あ……まだないです。家も留守みたいだったし」


マミ「家族でどこか出かけてるのかしら?」

さやか「んー……、どうでしょう」

さやか「メールの返事、そういえばまだ来てないんですよね。ちょっと昨日の朝も様子おかしかった気がするし」

マミ「そうなの? 休みに入っちゃったし、会うきっかけがないわね……」

杏子「おーい、マミ」

マミ「ええ、今行くわ」


 しばらく何をするでもなくマミさんと話していると、杏子がマミさんを呼んだ。

 これ以上の邪魔はいけない。


マミ「何かあったら連絡するわね」

さやか「ああ、はい」


 橋の下から道のほうに出る。


さやか(……あたしに出来ること、か)


 ……その答えはこれから考えることにしよう。

―――


ほむら「よし……っと」


 手慣れた様子で爆弾を仕掛け、魔法を解く。

 見つけた結界を早々にグリーフシードだけにして消して、ほむらは出てきた。


 ――いつのまにか現れた人影に、ほむらが振り返る。


ほむら「……こんなところでどうしたんですか?」

キリカ「……別に?」

キリカ「魔女狩り頑張ってるみたいだね。 訓練の方は?順調?」

ほむら「ええと、みんな今頑張ってるところだと思います! 治癒魔法のほうも、戦い方も」

キリカ「ふーん……そうか」

キリカ「杏子とかは? 幻惑はどのくらい使えるようになったって?」

ほむら「分身技は今のところ訓練してるみたいですよ」

キリカ「分身か……やっぱその程度じゃダメだろうね」

ほむら「……駄目って? いや、私も詳しくは見てないんですけど」


ほむら「そろそろ暗くなってきてますし、あまりこういう場所には寄らないほうがいいと思いますよ」

キリカ「…………」


 ほむらは次の場所へと歩いていく。

 魔力の反応を探して、わざわざまた別のこんなうす暗いところへと。


キリカ「……生きてんの? 生きてないの?」


 所々赤く薄汚れた白い雑巾のような塊に話しかける。

 それは答えを返さない。


キリカ「願い事ならずっと言ってるじゃん。さっきからこんなに考えてるんだから」

キリカ「……――私が死ぬ方法」


キリカ「でもさ、やっぱり私は嫌がるんだよ」


 掴んで、動かないその物体を再びゴミの山へと投げ捨てる。

 その腕は赤く染まっていた。


キリカ「なにもしたくない、考えたくない、それでいて死にたくないって贅沢だよね」

キリカ「……なんか、痛いなぁ。さっきの瓶の破片が刺さってるんだから当然か」

キリカ「今こうしてることこそが無駄の塊だ。私にこんな無様で未練がましいようなことさせて」

キリカ「安らかなままで終わらせてくれなかった、その原因を心底恨むよ」

キリカ「あっちだって死にぞこないのくせに」


 答えは一切返ってこない。

 ――この場所には他に誰もいなかった。


キリカ「…………もう、嫌だな。さっさと死んでよ」

キリカ「……死にたくない」



―2日終了―

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ここまで
次回は23日(水)20時くらいからの予定です

―3日 昼
カフェ



織莉子「今日はお誘いありがとう。とても雰囲気の良いお店ね」

仁美「友達とよく来るんです。織莉子さんともぜひご一緒したくて」


 品良く盛られたプレートの上のお肉にナイフを入れる。

 まどかたちと居ても嫌味ったらしくない程度の上品さが、仁美さんにはよく合っている気がした。


織莉子「友達っていうのはまどかやさやかたちと?」

仁美「ええ、そうですわね」

仁美「暁美さんとも学校では話すようになったのですが、放課後は何かお忙しそうで」

仁美「私も平日は習い事が入ってますし、人の事も言えませんけど……」

織莉子「習い事、ね……」

仁美「はい。あぁ、でもそろそろ受験勉強にも専念しないといけなくなりますわね」

織莉子「もうそんな時期なのね。さやかとかを見ているとあまりそういう気がしなくて」

仁美「ふふ、そうですね。あまり私の周りでは気にかけている人は少ないかもしれません」


織莉子「今度は是非まどかたちも誘って行きましょう」

織莉子「賑やかそうだし、まどかたちと居る仁美さんというのも見てみたいの」

仁美「はい。それと出来れば巴さんも」

織莉子「マミならこういうお店は好きそうね」

織莉子「……そういえば、最近マミと銃の話をしていると聞いたけれど」

仁美「あ、はい。巴さんもそういうのお好きみたいで」


 今まで読んだ面白い漫画の話をして、かと思えば少し真面目な学業の話なんかも。

 知人の中の誰とも違う引きだしを持つ彼女の話は、これはこれで話していて飽きない。


織莉子(なるほど、今度借りてみようかしら)



 一緒に出かける友達が増えた。学校に行くのも前ほど嫌じゃない。

 私の生活はこの上なく満ち足りていた。


―――

―――


小巻(…………)


 通りを歩きながら、ふとずっと引っ掛かって気になっていたことを思い出していた。


 『……ごめんなさいッ! ごめんなさい!』


 ……それだけ何度も繰り返して一目散に走り去っていった姿。


小巻(なんだったのかしら、あれ)

小巻(ああ見えて、美国に弱みでも握られてるとか?)

小巻(……なんてね。家ぐるみで因縁あるような金持ちには見えなかったし)


 見滝原の制服。そこにそういうのがいないってわけじゃないだろうけど。

 育ちが良さそうというか、それらしい雰囲気が例の人にはなかった。

 別に貶すつもりはないけど、髪飾り、鞄、靴…………身に着けているもの一つ見たって違う。どう見ても“普通の少女”だった。


小巻(…………『どっかで会ったことある?』)



 ……もやもやする。


小巻(……あたしの知り合い?)


 そうだった、あの時はそう思ったんだった。

 思い出そうと頭を捻る。


小巻(――――なんだろう)


 思い出す代わりに、何かが過ぎった気がした。

 思い出してはいけないような、思い出そうとするだけで不快になるような、そんな悪寒にも似た何か。


小巻(胸がざわつく……?)


小巻「…………」


 たったあの時会ったことしか覚えてないはずなのに、あの娘に対して良い感情が沸かない。




小巻「…………早く帰りましょう」

―――

―――


キリカ(さすがにお腹がすきすぎたなぁ)

キリカ(なにも食べなかったら死んじゃうし……)

キリカ(――……あぁ、でも死にたいんだっけ)


 久しぶりに人気のある通りを歩くと、何故だかみんなが見てくるようだった。

 その中のコンビニに入る。小さな通りの割にガラ空きってわけじゃない。


 レジ前で清算中の少女はこちらを見ると、財布を落としてしまった。


キリカ「ん」

*「わっ…… あ…………」

キリカ「キミ、お金落としたよ」

キリカ「おーい、聞いてる?」


 やっぱり格好が汚すぎるのかな?

 そう思っていると、少女は手を振りほどいて出て行ってしまった。


キリカ「…………」


 ……少女の指には見覚えのある指輪があった。



キリカ「……店員さん、ほら代金」


 店員は慌てた様子だった。

 ……拾ったお金と財布を台の上に置いて去る。


キリカ「…………そう、か……」

キリカ「私にとってはそれだけ『ささい』だったんだ」


 向こうは一目見た時に怯えだすほどだったのに。


キリカ「顔も覚えてないんだもんね…………」



―――

―――
見滝原大橋下 夕方


さやか「……」

マミ「上条君の事で悩んでる?」


 端のほうに座り込んだままいつのまにか考え込むように俯いてた

 あたしのほうに近づいてきて、マミさんが声をかけた。


さやか「……まぁ、はい」

さやか「病室の前までは行ったんですけど、入れなくて」

マミ「もしかしたら、向こうも気まずく思ってるかもしれないわね……」

さやか「!」

マミ「でも、向こうも本当は美樹さんに会いたいって思ってるかも」

さやか「……そう、ですかね」


 近づいてくる足音と影が見えて、あたしたちは顔を上げる。


マミ「暁美さん、お疲れ」

ほむら「はい、そちらも!」


 みんなが集まって、昨日と二日分のグリーフシードを分配する。

 この頃はずっとほむらが魔女狩りに行っているようだった。


杏子「まずまずの収穫じゃないか」

マミ「それでいて消費もほとんどないし、さすがね」

ほむら「あの…………明日からのことなんですけど」

ほむら「そろそろまた爆弾を作らなきゃで、他の人に頼みたいなって」

杏子「そうか、ならあたしがちっと魔女狩りの時間を増やすことにするかな」

ほむら「いいんですか? 合間に自分の訓練もやってるって……」

杏子「実践の練習台が増えるんなら丁度いい」

ゆま「キョーコ、訓練のときいっしょじゃなくなるの?」

杏子「そんなに離れるわけじゃないだろ。我慢しろよ」

ほむら「準備が出来たら私も頑張るので……」


ほむら「……そういえば、佐倉さんは幻惑魔法ってどのくらい使えるようになったんですか?」

杏子「前に見せた時からプラス二体だな」

マミ「前と同じように見ているけど、順調だと思うわよ」

ほむら「……」

マミ「どうかしたの?」

ほむら「ああ……いえ、昨日呉さんに会った時聞かれたのを思い出して私も気になって」

さやか「ほむら、キリカさんと会ったの?」

ほむら「え、そうですけど……?」

さやか「……なんか、昨日も今日も留守だったみたいだから」



 ――みんなと別れて近所の道を歩く頃には、あたりは大分暗くなっていた。



さやか(……恭介のとこに行くのが気まずいからって、遅くまで付き合っちゃった)

さやか(まあいいか。久しぶりにみんなの訓練に一緒にいるのも悪くないし)

さやか(…………キリカさんもそろそろ帰ってきてないかな?)


 昼ぶりに寄ってみると、明かりはついているようだった。

 チャイムを押してみると家の人が出てきた。




さやか「――……え?」


―3日終了―

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ここまで
次回は25日(金)20時くらいからの予定です

―4日 昼
白羽女学校


 お昼を食べながら窓の外に目を移してみる。

 快晴の空を飛ぶ飛行機とそこから残される白い線を眺めていた。


小巻「何見てんの?」

織莉子「飛行機雲」


 そう言うと彼女も空に目を移す。

 この前から小巻さんと一緒に居ることが増えた。


小巻「あんたもそういうのじっと見たりするのね」

織莉子「……ねえ。この前は否定されちゃったから改めてちゃんと頼むわ」

織莉子「私の友達になってくれないかしら?」

小巻「何言ってんのよ」

小巻「………いいよ、今のあんたなら。断るのも可哀想だからね」


 呆れたように言う。

 こういう素直じゃないところは、杏子にも似ているかしら?


小巻「……ところでさ、この前気になる人に会ったんだけど」

織莉子「気になる人? もしかして、恋の話題かしら?」

小巻「違う。あんたの家に行く時会った見滝原中の生徒よ」

小巻「道歩いててぶつかったんだけど、なんかすごい勢いで謝って逃げてったのよ」

織莉子「貴女がよほど怖いオーラでも出してたとか……?」

小巻「そういうんじゃないわよ」

小巻「その時地図表示した携帯見られちゃって。あんたの家知ってるようだったけど、あんたの知り合い?」

織莉子「……」


 ……見滝原中学校に知り合いはいる。

 この前さやかとも会ったから、それは知っているはずだけど。


 でもやはりこの話を聞いて、まず思い当たったのは……――嫌な予感がした。


織莉子「……それだけじゃわからないわ。どんな人?」

小巻「えーと……」


 聞いてみると、言い渋ったように嫌な顔で唸った。

 いつもはっきりと物を言う小巻さんらしくない。


小巻「……短い黒い髪をした女の子だったわ」

織莉子「!」



小巻(……なんだかわかんないのに嫌だとか、あたしらしくもない)

小巻(美国のことは嫌いだったけど、それはあの態度のせいで…………)


 織莉子は慌てて教室を出て行った。それからまだ戻ってこない。午後の授業を受ける気はないらしい。

 あたしは一人取り残されて、更に胸の内に広がった後味の悪い悪寒にやきもきとしていた。


 『ごめんなさい』――そう謝る言葉がまた頭の中に繰り返された。


小巻(……これはそういう“嫌”じゃない)

小巻(理由もなく人を“憎悪”するなんてことありえない)

小巻(理由が、なければ……――――!)



 ――――ハッとして教室を出る。

 無駄に広い廊下を走り、もう見えない後姿を追った。


―――

―――


織莉子『――何故私には何も教えてくれなかったの?』

さやか「知ったのが昨日の夜で……昨日までご両親もキリカさんのこと探してたみたいなんですけど」


 昨日キリカさんの家を訪ねた時にはご両親は帰ってきていた。

 ……休みの間、行方不明になったキリカさんを探していたらしい。それでずっと不在だったんだ。


 スマホを片耳に押し付けながら走る。

 あたしたちも学校を休んで探しているけれど、見つからない。

 あたしが前に自暴自棄を起こして失踪した時のことを思い出した。


さやか「なにやってたんだ、あたしは……!」

さやか「キリカさんの様子がおかしいかもってわかってたのに、自分のことでいっぱいで…………」

織莉子『私も……今の生活が満ち足りていて、彼女のことなんて考えていなかった』

織莉子『こんな私じゃ頼れないわよね……』

さやか「でもなんでいきなりこんな…………」

織莉子『…………』


 警察に連絡があったと言っていたのはそのすぐ後だった。

 一度コンビニに立ち寄って何も買わずに出て行ったということ以降、足取りはわからない。

 ――――そこの店員の話だと、血に汚れた格好だったという。


織莉子『……とにかく、何かわかったら連絡を頂戴ね』

さやか「……はい」



さやか(あたしは…………あの時のあたしだったら、どこに行く?)



 行く場所
1公園
2通学路
3駅
4病院
5繁華街
6歩道橋
7土手
8鉄塔
9廃工場
10立体駐車場
11風見野

12自由安価

 下2レス


 どうせいつも学校じゃ会うからと思って後回しにしてた。

 まさか休みの間くらい会わなかったからって、そんなに変わらないだろうって……


さやか「…………」


 考えながらも早足で歩く。

 どこに行く。どっちに行く。


さやか「――人目に……つかない場所……?」


 街を抜け、大通りの上の歩道橋に着く。

 ……歩道橋から通りを見下ろして、やはり見つからずにため息をついた。



 行く場所
1公園
2通学路
3駅
4病院
5繁華街
・歩道橋[現在地]
6土手
7鉄塔
8廃工場
9立体駐車場
10風見野

11自由安価

 下2レス



 歩道橋から大通り沿いに歩いていく。

 道路わきには色んな店や建物が並んで……その先には少し開けた土地が


さやか「わーでっかい遊園地……」


 って、なにやってんだ。


さやか「…………こんなところで遊んでるわけあるか!」

さやか「ん? いや? でももしヤケ(?)を起こした結果非行に走って日中こんな遊園地で遊んでるとしたら?」

さやか「すっごく怖いと評判らしいお化け屋敷にでも居たりしたら?」


 ああ、もう考えるとわけわかんなくなってきた。

 そもそもどうして失踪したのかが全く分かんないんだ。キリカさんがどんな気持ちなのかも。



1入ってみる

いや、さすがにここにはいないだろう…
2公園
3通学路
4駅
5病院
6繁華街
7歩道橋
8土手
9鉄塔
10廃工場
11立体駐車場
12風見野

13自由安価

 下2レス

かかれていないだけで選択回数があるかもれないんだぞ。ふざけるのはやめて欲しい
安価↓


さやか「ひっ」


 入口付近を見ていると、受付の人に見られた。

 いけない、さすがにこの時間に制服で遊園地なんて補導されてしまう……


さやか(親に連絡とかおうちに連行なんてされてる場合じゃない)

さやか(……それなら、キリカさんが遊んでるはずもないんだよな?)


 遊園地から離れる。


 ……落ち着こう。もう一度ちゃんと考えたほうがいい。

 休みの間ご両親が探してて、今日もあたしたちが探してるというのに見つからないのはどうしてだ?


さやか(血に汚れていた……そんな姿で表を動きたいはずがない)

さやか(そして、“足取りがわからない”んだ)

さやか(絶対目立つだろうに、情報があるのは一度だけ)


 大通りを引き返し、人目につかなさそうな場所に狙いを絞る。


さやか(人目につかない場所……)

さやか(しかもきっと、もうほとんど移動すらしてないんだ)

さやか(だったら、通りにはいない……?)


さやか「!」


 狭い路地裏を歩いて、思わず足を止める。

 路地裏に放置されたゴミ……そこに更に、血の痕がこびりついたような赤い色が残っていた。

 丁度割れた瓶が転がっている。あれが凶器にでもなったのだろうか。


さやか(け、喧嘩の痕……?)


 いやでも唯一聞いていた“血に汚れた”という情報を連想した。

 ……もしも前にここに居たのだとしても、今はここには居ない。


 ポケットに振動を感じて、スマホを取り出す。


さやか「……ほむら? 見つかったの!?」

ほむら『いえ……何か手がかりはありましたか?』

さやか「いや……ないよ。なんとか推測立てて絞ろうとしてるとこ」

ほむら『……私、一昨日呉さんと会ったところに行ってみたんです』

ほむら『狭い路地でしたし、あの時は暗くてわからなかったんですが、そこ、何か血の痕があって……』

さやか「え……」


 ……ほむらの言う場所は多分ここだ。

 ほむらも少し前にここに来ていたのか。


ほむら『なにがあったのかなって心配になって』

ほむら『せめてあの時会った時に気づいてればよかったって……』

さやか「あ、諦めるなよ! もう会えないわけじゃないんだし、そうならないために探してるんでしょ?」

さやか「あの時のあたしと違って契約してないんだから、なにも死ぬわけじゃないんだし……」


 …………死。 口には出したけれど、絶対にないと言い切れるわけじゃない。

 そもそももう契約してる可能性だってあるかもしれないのに。


1自由安価
2自分の推測について話す
3一昨日どんな様子だったか聞く

 下2レス


さやか「……あたしの推測を話すよ」

さやか「血に汚れた格好で情報も一度しかないんだから、まずは人目につかない、人通りのないところ」

さやか「そんで、多分ほとんど移動もしてない……ってとこ」

さやか「で、聞きたいんだけど、一昨日はどんな様子だったの?」

ほむら『えっと……パトロール頑張ってるねって言ってくれて、あと訓練の話とか』

ほむら『幻惑魔法の話をした……っていうのは言ったと思うんですけど』

ほむら『……割と落ち着いていたようには見えました』

さやか「落ち着いてた?」


 ……金曜の朝会った時の態度を考えれば違和感があった。

 あの時は正反対。妙に慌ててた。それに――


ほむら『呉さんって、何かあった時あんまり取り繕ったり出来るタイプじゃないじゃないですか』

ほむら『美樹さんと違って……』

さやか「……あたしかよ。でも確かにそうだね」

ほむら『まあ、美樹さんもそんなにずっと取り繕えるわけじゃないですけど……って、そんな話じゃなくて』

ほむら『だから、なんか……』

さやか「……言いたいことはわかるよ。かなりヤバそうだね」

さやか「あたしはあたしでまた探してみるよ。じゃあ、また連絡するから」


 電話を切って、来た方向へと身体を向けなおす。


さやか「キュゥべえ」

QB「なんだい? もう少し早くに僕を頼ってくれると思っていたんだけどね」

さやか「…………なにそれ。あたしがあんたのことそんなに信頼してるとでも思ってるわけ」

さやか「あんたキリカさんに何か言ったの!?」

さやか「何か追い詰めるような事言って契約を迫ったりしたの!」

QB「追い詰めるような事っていうのはわからないけど、契約は迫ってみたよ」

さやか「! じゃあ……」

QB「……契約はしてないよ」

QB「できなかったんだ」


 一瞬ホッとしたけれど、その言い方に疑問が残った。


さやか「どういうこと……?」

QB「願いは聞いた。でも契約は出来なかったし、本人がそれを選ばなかったということさ」

さやか「…………とにかく契約はしてないのね?」

QB「そうだね」


さやか「キリカさんのことで何があったか知らないの?」

QB「僕もこうなったきっかけについてはわからないよ。でも、悩んでいるのは事実だろう」

QB「君が解決してあげるかい?」

QB「『まどかのこと』『悩みの解消』背負ってる問題の一つでも解決してあげれば、彼女も少しは気が楽になるんじゃないかな」

さやか「…………そりゃ解決してあげたいよ」

さやか「でもそれは、あんたに頼ってじゃないから!」

QB「そうかい? それは残念だね」

QB「僕に助けを求めたくなったらいつでも声をかけるといい」


 ……キュゥべえは結局それが目的か。



 下1レスコンマ判定
0~50

―――


キリカ「…………もう動けないし、動きたくないや」

キリカ「外に出たら私の殺した人たちがいっぱいいるよ」

キリカ「私のこと覚えてる人いるのかな? もしいきなり襲い掛かられたりしたらさすがに死んじゃうな」


 光の届かない建物の隅に横たわっている。腕に何かが這いずる感触がしている。辺りにはゴミと血。薄汚れた小動物の死体。

 ……そろそろ意識が途切れ途切れに薄くなり始めている。


 生身の人間の身体というのも意外と丈夫なものだと思った。


 魔法少女ならとっくに“死んで”いた。魔女以上に醜く黒く染まった心のまま私は私としてここにいる。


キリカ「おかしい人って思われてたのかなー、いきなり本気で殺しにかかってたんだもんね」

キリカ「そりゃそうそう対応できないよね。喧嘩仕掛けるのとは違う。そんなことする人普通いないもん」

キリカ「うん。私はちゃんと“客観視”してるね。 こう見えて私は演技だってできる人だし……」

キリカ「……私が契約する前より更に、見えていた世界はくだらなかった。織莉子だけが鮮明で、鮮烈だったんだ」

キリカ「だからなんて思われたって、そんなの些細なことだったんだ」


 壊れて、欠けて、どんどん『私』は小さくなる。

 それが織莉子の望みだった。私の望みだった。

 人一人未満がさらに、長い年月をかけて形成された心の芯のほうまで剥がれて、なにもしらない子供よりも残酷に。


キリカ「そうしたら…………いつかは消えてなくなってくれないかなぁ」

キリカ「そのためには私はほかに何を殺せばいい?」


 赤く縦に刻まれた傷を指で割り開くようになぞる。

 多分このくらいじゃ死なない。最初から頭の片隅で考えていた。


キリカ「…………私は壊れてたし、壊れようとしてたよ」

キリカ「でも、本当の意味で“壊れてた”なんて、気づきたくなかったんだ」

キリカ「認めたくなかったんだ。絶対に」


 ――罪悪感。自分の醜さ。嘘。虚構。ニセモノ。

 そんな偶像を見上げて、心の底から恋でもしたように大事に大事に縋っていたって。


キリカ「……私の死体をプレゼントしたら、織莉子はどんな反応をするのかな?」

キリカ「だって私にはもうそれくらいしか残せないよ」


キリカ「『何やってんだこいつ』って、冷たい目で見下ろしてくれるといいなぁ」


 ……どこまでも鋭く、冷たい眼差しを思い出す。

 それなのに、目に浮かぶのは私の手を取って涙ぐむ織莉子の姿だった。


 口の端を三日月に釣り上げる。


キリカ「……ざまあみろだ」


キリカ「私は別にそれでもよかったんだ。織莉子からの愛は駒として使い捨てることだって、むしろそれが丁度いいって」

キリカ「……きっと、これで私が死んだら一生消えないくらい深い傷が心に出来るね」

キリカ「……私は織莉子の友達だから」


 私が死んで織莉子が表情を変えないのは私がただの駒だからだ。

 織莉子が泣くのは織莉子も心が欠けてたからだ。……織莉子が泣くのは、友達だからだ。


 ――――カツ、と靴の音が響いて顔を上げる。


キリカ「…………?」

小巻「……あんた……――」


 見上げれば、私の殺した最初の犠牲者の一人。

 ……これはどういう表情だろう。


キリカ「……何?」


 ……動じてなんていないように、わざと普通の調子で言った。


小巻「『何』じゃない……こんなところで何してんのよ」

キリカ「……さあ。何かしてるように見えるかい?」

小巻「……アンタ、何開き直ってんの?」

小巻「あの時は謝って逃げたくせに……」


 ……開き直ってる。たしかにそうなのかもしれない。

 言い当てられて心は少しだけ反応したけれど、重くなりすぎた身体も顔の筋肉もぴくりとも動きはしなかった。


小巻「……思い出したんだから」

小巻「あんたはあたしの友達を殺したんだ」

小巻「『今』はそうなってない……でも多分この世界じゃないどこか、何かがあって、『どこかで起きた』事実なのよ」

小巻「おかしいこと言ってる。自分でも信じられないけど、あの時あたしに謝ったのがその証拠」

小巻「……そうなんでしょ? アンタは自分のしたことを覚えてる」

キリカ「…………」

キリカ「……そうだよ。君の予想は何も間違っちゃいない」

--------------------
ここまで
次回は26日(土)18時くらいからの予定です

乙です

小巻の性格からしてここでキリカを見殺しにするって事はないと思うけど…
早いとこ手当てしないと破傷風とかで死にそうで怖い

そういえばさっきの安価で51以上が出てたら別の人がキリカを見つけた、もしくは誰も見つけられなかったということなのかな?

-----------------
>>736
51以上ならさやかが見つけるまで続行、行動ごとに再判定でした


キリカ「けどいっこだけ違うとこがあるよ」

小巻「……そうね。あたしもあんたに殺された」

小巻「あんたに友達を殺された仇を討つことすらできずに」

キリカ「……うん」


 ……やっぱり、こっちから言うまでもなく思い出していた。


小巻「……ねえ、なんであんなことしたの?」

小巻「なんであたしたちを襲ったの? なんであたしたちを殺したの?」

小巻「答えてよ…………あたしは、答えによってはあんたを見殺しにしたっていいと思ってる」

キリカ「…………答えによっては助けてくれると?」


 ……暫く沈黙が続く。

 眠気が襲ってきた。このまま眠っちゃってもいいかなぁ、なんて思えてくる。

 もし私が答えなかったらこの人、どうするのかな?


小巻「答えられないっていうのはなしよ……」


 …………面倒臭い。口を開くのも考えるのも。


キリカ「……面倒臭い」

小巻「!」


キリカ「別にいいんじゃない。キミに助けてほしくないし」

キリカ「見殺しにすれば? あと襲った理由だけどしいていうなら」

キリカ「――愛は無限に有限だから」


 ……嘘だ。


小巻「……は?」

キリカ「ただの殺した中の一人でしかない、些細な命だったからだよ」

キリカ「顔を見るまで忘れかかってたし……」


 ……嘘だ。

 でも、最初の犠牲者ってだけで何も特別じゃない。

 あの時何を思ってようが、私がそれ以上に罪を重ねてきたのだから。


キリカ「これ以上は一切の要求を拒否するよ」

小巻「…………そう」


 声を震わせて、彼女は踵を返す。

 …………見捨てられるらしい。今度こそ。


 謝らない。助けを乞わない。

 最低で、最低以下にはならない答え。


 一歩、二歩。

 この場を去ろうとした彼女が足を止める。


小巻「!」


 壊れかかった扉の向こうに、見慣れた青色の髪が見えた気がした。


さやか「…………小巻さん?」




 ――――叶うことなら、音もなく消えてしまいたかった。


 あたしの本当の望みに気づいて、それももう叶わないことを知ったから。

 後悔なんてしたくなかったのに後悔してしまう自分が嫌だった。


 石ころになって魔女と戦うことが使命なら、

 戦って少しでも使命に果たせれば、呪いが溜まった自分の存在も少しはマシになる気がした。


 …………そんな時、あの人はいつもちゃんとあたしを見つけてくれたんだ。



 ――――……声が聞こえた気がして踏み込んでみると、

 昨日聞いた通り大分血に汚れているけれど、探していた姿がそこにあった。


 駆け寄ろうとすると、小巻さんが塞ぐようにあたしの前に立った。


小巻「――――待って。ここから離れたほうがいいわ」

さやか「え!? どういうことですか? どうして小巻さんまでここに……?」

小巻「……これ以上誰にもこいつに近寄らせないためよ」

小巻「こいつはあたしの友達を殺したから」

さやか「そ、そんな……!? そんなこと……――」


 ……否定はしたい。

 でも、織莉子さんから聞いていた過去を思い出して、とても嫌な考えが過ぎった。


 ――――この血は本当にキリカさんだけのものなんだろうか?

 奥から暗く冷たい視線が刺さる。

 疑いの目で見てしまったのを感付かれてないことを祈るしかなかった。




1自由安価
2……話をさせてください

 下2レス

小巻の忠告を無視して奥に進む

それって『今のこの世界』でのことなんですか?それとも『別のどこかの世界』でのことですか?
……キリカさんは私が後悔ばかりで自棄になって消え去ってしまいたい時に、『いつも』ちゃんと私を見つけてくれたんです
退いてください、今度は私がキリカさんを助けるんです


さやか「……それって『今のこの世界』でのことですか?」

小巻「!」

さやか「それとも、『別のどこかの世界』でのこと……?」

小巻「……あんたも知ってるのね? 別の世界のこと」


 ……小巻さんも驚いた様子だった。

 あたしたち以外にも記憶がある人がいたんだ。それとも、そんな強烈な記憶があるから思い出した……?


小巻「それがこの世界か、そうじゃないかなんて関係ない!」

小巻「こいつは…………」

さやか「……あたしも、別の世界がどうでも関係ない『借り』がありますから」

さやか「キリカさんはあたしが後悔ばかりで自棄になって消え去ってしまいたい時、『いつも』ちゃんとあたしを見つけてくれた」

さやか「どいてください、今度はあたしがキリカさんを助けるんです」


 奥に進もうとすると、小巻さんが叫ぶ。


小巻「待ちなさい! じゃあ今のあんたはどうしたいのよ!」

キリカ「大げさだなぁ……こんな状態じゃ何もできないよ」


小巻「そうやってまだ開き直ってる。 そういう態度が気にくわないのよ!」

小巻「あたしだって嘘かどうかくらいわかる、けどあたしはあんたを助けられるほどあんたのこと許せないし信用もできないから」

小巻「……でも、あんたはあたしたち以外にももっと殺してきたって……それはきっと本当なんでしょ」


 落ち着いてるというか淡々としただるそうな口調は、

 やっぱり別人のような違和感も感じさせたし、ただただどこか諦めているようにも聞こえた。


 ――今のキリカさんがどうしたいか。


さやか「なんでそんなボロボロなんですか!? まさか魔女にでも襲われたとか!?」

さやか「とにかくすぐマミさんたち呼びますから!」

キリカ「……いいよ、そんなことしなくて」

キリカ「今の私がどうしたいか、っていうなら…………これは私の願いなんだから」

さやか「願い……?」

キリカ「私が居なかったら何か困ったの?」

キリカ「織莉子は? 私なんていないほうが楽しめてるんじゃない」

さやか「そ、そんなこと…………」


 『今の生活が満ち足りていて、彼女のことなんて考えていなかった』

 ――さっき電話越しに聞いた声がよみがえって語尾が小さくなった。

 でも、なにかあったなんて知ったら心配しないわけないのに……



1自由安価
2織莉子さんもみんなも心配してましたよ

 下2レス

少なくても私は心配しましたよ
それに、何というか……前の世界で同じような事がありましたよね、立場は逆ですけど
あの時私は『あたしなんかのために心配するのかな』とか 『それがうっとうしいんだよ』とか 『何も言わずに離れさせてよ』とか自棄になって散々なこと言いましたっけ?
そんなあたしにキリカさんは『綺麗事とかじゃなくて、みんな弱いから……誰かが傍にいないと不安なんだよ』って言ってくれましたよね?
今その言葉をそのまま返しますよ、散々迷惑かけてきたあたしがキリカさんの力になれるかどうかわからないけど…
それに……みんなだけじゃなくて、ご両親もとても心配してましたよ?キリカさんが行方不明になってから探し回ってたみたいですよ?


さやか「少なくともあたしは心配しましたよ」

さやか「それに、何というか……ついこの前の世界でも同じような事がありましたよね、立場は逆ですけど」

キリカ「!」

さやか「……あの時私は『あたしなんかのために心配するのかな』とか 『それがうっとうしいんだよ』とか」

さやか「『何も言わずに離れさせてよ』とか……自棄になって散々なこと言いましたっけ?」


 横で、しずかに思い出の話を語る。


さやか「そんなあたしにキリカさんは言ってくれましたよね?」

さやか「『綺麗事とかじゃなくて、みんな弱いから……誰かが傍にいないと不安なんだよ』って……」

さやか「今その言葉をそのまま返しますよ、散々迷惑かけてきたあたしがキリカさんの力になれるかどうかわからないけど……」

キリカ「…………ありがとう」

キリカ「でもね、その私が一番、『私』のこと殺したがってるよ」

キリカ「一番に自分は悪くないのにって思ってて、一番に私を憎悪してて」

キリカ「一番にさっさと死んでくれって思ってて死にたくないって思ってるのがそいつだよ」


 ……キリカさんはまるで自分じゃない事のように言う。


キリカ「でもしょうがないじゃん」

キリカ「いらないところだけ消えてくれないんだもの……」

小巻「…………ねえ」

小巻「そいつは多重人格かなにかなの?」


 小巻さんが不思議そうに、少し気味悪そうに尋ねた。


さやか「ええ……と……」

キリカ「まあ、似たようなものかもねー…………でも多分違うよ」


 不安定さだけは伝わってくる。

 ……なのに、あたしにはなにもできない。


さやか「と、とにかく連絡はしておきましたから!」

さやか「それに……みんなだけじゃなくて、ご両親もとても心配してましたよ?」

さやか「キリカさんが行方不明になってから探し回ってたみたいですよ?」

キリカ「…………」



1自由安価
2誰か来るのを待つ

 下2レス

2のまでの間にキュウベェが言ってた契約できなかったことについて話す

そういえばキュウベェがキリカさんは『契約できなかった』って言ってましたけど…どんな願いで契約しようとしたんですか?
『まどかを人間に戻す』で駄目だったとキリカが話したら、やっぱりキリカの根は変わっていないと話す


さやか「そういえばキュゥべえがキリカさんは『契約できなかった』って言ってましたけど……」

さやか「どんな願いで契約しようとしたんですか?」

キリカ「……今更聞く?」

さやか「まどかを人間に戻すことですか?」

キリカ「……そうだよ」

さやか「も、もし駄目ならあたしが契約します! 全部一人で背負い込まなくていいです」

さやか「でも…………やっぱりキリカさん根は変わってませんね」

キリカ「…………」


 あたしが笑いかけると、キリカさんはわずかに目を見開いた。


キリカ「…………そっか」

キリカ「……私はそんなにみんなから思われてたんだね」

キリカ「でもちょっと眠りたいから、みんなが来るまで少し静かにしてくれないかな」

小巻「……まだ契約してなかったんだ」

小巻「なら今は危険になりようもないか。なんだか、余計なことしちゃったのかな……」

キリカ「…………」

小巻「……みんなってのが来る前にあたしは退散しとくわ」

さやか「……はい」


 ……小巻さんは扉から出る前に一度じっとこちらを見てから出て行った。

 小巻さんは何を考えていたんだろう?



 キリカさんは目をつむった。こうしていると、まるで死んでいるみたいで……


さやか「間に合ってよ…………」


 魔法で治してあげたいけど、今のあたしにはそんな力はない。


 それからマミさんが来て、杏子とゆまが来て、身体の傷を治療する。

 キリカさんはまだ眠っていた。


 一応これで大丈夫らしい。

 身体を運んで、まずは家まで送ってあげた。

―呉宅


キリカ「…………」

マミ「目が覚めた? どこかおかしいところは?」

キリカ「いや、ううん……大丈夫だけど」

キリカ「治してくれてありがとうね」

マミ「私は応急処置よ。お礼なら……」

ゆま「キリカ、元気になった?」

キリカ「うん、ありがとうゆま」


 ……やっと戻った柔らかい笑顔にひとまず安心した。

 織莉子さんはベッドに近づくと、キリカさんの手を取った。


織莉子「……やっぱり、あのことが苦しめていたのね」

織莉子「ねえ、あの時の貴女は小巻さんのこと私の友達だと思っていたみたいだけど……」

織莉子「本当は違ったの。誰が死のうとあの時の私の心は動かなかった」

キリカ「だから気にやまないでって? そんなこと言わないであげてよ」


 この二人が話すのはどのくらいぶりなのだろう。

 この様子を見ていれば、その空白や気まずさを感じさせないようだった。



 ……みんなが帰る前に、話したい事があるらしくあたしだけ呼び止められた。

 ベッドの横に腰掛ける。


さやか「なんですか?」

キリカ「……さっき言ってた契約のことなんだけど、さ」

キリカ「まどかのこと……やっぱりさやかに任せてもいい?」

さやか「!」



1自由安価
2わかりました

 下3レス中多数決

ひとまず理由を聞く

キュウベェが言ってた『契約できなかった』って事と何か関係があるんですか?


さやか「……ひとまず理由を聞かせてもらってもいいですか?」

さやか「キュゥべえが言ってた『契約できなかった』って事と何か関係があるんですか?」

キリカ「うーん……まあ、そうだね………… 結局私が弱いからだよ。ごめんね……」

さやか「あ、い、いえ! じゃああたしが……」



1契約します
2自由安価

 下2レス

わかりました、まどかを人間に戻す願いで契約します
契約する時期は……ひとまずまどかと話して決めようと思います

キリカと別れたらまどかに連絡をとる


さやか「わかりました、まどかを人間に戻す願いで契約します」

さやか「契約する時期は……ひとまずまどかと話して決めようと思います」

キリカ「うん、ごめんね……」


 申し訳なさそうに言うキリカさんにまた明日と挨拶をして部屋を去る。


さやか(……とりあえず、まどかにも連絡しておくか)


――――……


キリカ「――――……やっぱり」

キリカ「ますます私はいなくなったほうが良いようだ」

キリカ「誰も見ようとなんてしない。精一杯目をそらして、みんなあの過去をなかったことにしようとしてるだけ……」

キリカ「過去は絶対なくならないってわかったのに?」


 それなら精一杯『私』は封じ込めておいてあげよう。

 ……私はこう見えて演技もできる人だから。

あれま、キリカ本当に2重人格になってしまった?


 ……さやかならもしかしたらって思ったんだけどな。


キリカ「学校襲ったよね……あの時はさやかも些細の中の一人だったっけ?」

キリカ「……私を救うなんて、救われたくもないし誰も救おうとなんてしてないくせに」

キリカ「ていうかそんな方法ないよ」


 心に支配されてるわけじゃない。気持ちに支配されている。

 いや、同じことだ。全てが溶け合った私なら……――



キリカ「……キュゥべえ。今度こそ私の願いだ」



 傷んだ破片のせいでまたバラバラに壊れてしまう前に。

 狂気どころか何の反応も返さない、ただの屍になってしまう前に。


 ―――私は巻き込まずに死のう。
 ―――いらない私だけを殺そう。

―5日


 …………なんでだろう。家でも学校でも気味が悪かった。

 会話が少しずつ噛み合わないような気がして、まるで知らない人にでも話しているようで。


キリカ「…………」

マミ「どうしたの? ボーッとして」

ほむら「もう身体は大丈夫ですか?」

キリカ「あ、うん。大丈夫……」


 ずっと廃工場なんかで倒れてたせいで、みんなからは妙に心配されてるし。


さやか「キリカさん、契約のことなんですけど……」

キリカ「……上条君の事?」

さやか「じゃなくて、まどかのことで」

キリカ「ああ、それはだからちゃんと約束通り私が……」

キリカ「私が…………あれ?」


 違う。私はもう契約している。

 でも、なんでだろう?

そんな感じみたいだね
今のキリカは前のキリカに乗っ取られてた?数日の記憶がないうえに突然自分が契約してるわけだから困惑する


 ――私の武器は。


キリカ(前と同じ。刀か爪)


 ――私の魔法は。


キリカ(確か時間操作とかそんな感じの魔法)


 ――私の願いは。


キリカ(私の願いは…………)


 その理由どころか、内容まで忘れている。

 キュゥべえに聞けば教えてくれるだろうか?


キリカ「……ねえ、私ってなんで契約したんだっけ?」

マミ「教えてもらってないわ。契約したの?」



 …………おかしい。

 この世界には、穴がありすぎる。


1やりなおす
2このまま続行

 下4レス中多数決

うーん……このまま進めたらどうなるか気になるので2
ただ武器が刀だった事は覚えてるのに、固有魔法が封印系だったのが速度低下みたいのだと間違えてるんだよなぁ
記憶の混乱?

-----------------------
続行します。
次回は27日(日)18時くらいからの予定です


 ――――よかったね、織莉子。

 キミの背負ってた罪はなくなったし、私たちが不幸にした人もいなくなったよ。


 これは救いと言えるのかな? でも、君が守ろうとした「世界」もなくなっちゃった。

 まあいいか、もういいよね、悲しさをごまかしただけのそんな欺瞞の塊みたいなもの――――――


 ああ、でも君の罪は完全に消えたわけじゃないね。私たち“以外”がまだいるもんね。君だけが幸せになれなかった世界が。

 さすがにそれは消せないよ。私はもう君のために願わない。私が最後に殺すのは私だけだ。


 私も君もこれだけ進んで悲劇を作っておきながらまったくもって矛盾しかないけど、平和な幸せを望まないわけがない。

 私や織莉子が本当に望んだ幸せな世界は他にあるだろう?

 それは違う過去を辿った違う未来で、この過去を辿った私たちとはもうなにもかもが違うけど。


 元は同じだったのに、どうしてこうなったんだろうね…………?


 その幸せにとって、私たちは後悔と汚点以外の何者でもないのだから。

 たとえ救いの神がいたって、こんな世界【わたしたち】は救われるべきじゃない。



 ――――初めから無かったことに、無に帰すのがお似合いだ。

―見滝原大橋下


QB「――――わからないね。僕の記憶にも残ってないよ」

キリカ「……そっか」


 望んだ返事が得られずに落胆した。

 『違う自分になった』のなら、願いの内容くらいは残っているはずなんだ。

 それすらないのなら……それはもう私だけの問題じゃないということ。


杏子「考えてても仕方ないし、訓練はじめようぜ」


 ……なんだか私の悩みを軽視されたみたいでムッとする。


キリカ「願いの内容すらわかんないっていうのがどれだけ不安かわかんないからそんなことが言えるんだ!」

キリカ「私、前だって似た悩みで悩んでたんだよ! それが今度は内容すらわかんないって!」

杏子「……悪かったよ。でもそうカリカリしててもしょうがないだろ」

マミ「これで励ませるかはわからないけど、また私たちが一緒にいるから」

キリカ「…………」


 けど察しはついている。きっとどうせ、また私の自業自得だ。

 何を願ったかすら忘れちゃうような、後ろめたいことを願ったからこんなことになっているんだ。


ゆま「キリカ…………元気だして?」

キリカ「うん……」

さやか「とりあえず、久しぶりに組手でもやりますか?」


 さやかも契約して、一気に魔法少女が増えた。

 ――……私が叶えるはずだった願い。本当はこの世界に来てすぐにでもそうするつもりだったのに。


 どうして。


 …………私は今まで何をしていた?


まどか「あの……やっぱり今日はやめておいたほうが。怪我しちゃうかもしれないし」

まどか「だって今日は一日中上の空です」

キリカ「うん…………」

さやか「そうですね……まだ傷は治っても疲れが抜けてないんですよ。だって何日もあんな場所で……」

キリカ「…………そうだね」


 ……私はその時に契約したんだっけ?

 怪我のせいか、朦朧としてて覚えてない。

 そもそもなんで廃工場なんかに? 魔女に襲われたんだっけ? だとしたら誰が助けてくれたんだろう?


 ――――そう考えて、一瞬だけなにかが過ぎった気がした。

 工業地帯。魔女の結界と魔法少女。そして…………


キリカ「!」


 ――血。


さやか「だ、大丈夫ですか!?」

キリカ「えっ、別に何でもないよ。本当になにもないから……」


 違う。そこでそんなことが起きてないってことだけはわかるんだ。

 誰も魔女に負けたわけじゃない。私もこうして無事でいるんだから。


 ……でも、なにもかもが辻褄が合わなかった。


1自由安価
2今日は一人で魔法の練習でもしてみるよ

 下2レス


キリカ「今日は一人で魔法の練習でもしてみるよ」

キリカ「訓練が終わったら久しぶりにマミの家に遊びに行ってもいい?」

マミ「ええ、それはいいけど……」

キリカ「……うん。じゃあそっちも頑張ってね」

さやか「あたしも『封印』を使いこなせるようにしなくちゃだしなぁ」

さやか「キリカさん、後でちょっとコツ教えてくれますー?」

キリカ「いいけど、私もそんなに教えられるわけじゃないよ」


 変身して、少し離れたところで訓練をはじめていると、通りのほうからほむらが歩いて来るのが見えた。

 なんだか大荷物だった。ホームセンター帰りらしい大きな袋と、林檎が入った袋を抱えて大変そうだ。


ほむら「みなさん、訓練どうですか?」

マミ「まだこれからってところだけど、暁美さんが抱えてる荷物ってもしかして……」

ほむら「はい、『武器』の材料の買い足しの帰りです。ついでに差し入れをと思って…… きゃっ」


 瞬間、ほむらが林檎をぶちまけそうになる。


ほむら「――…………えっ、あれっ?」

キリカ「……気を付けてよ」


 ……その動きを止めて、数秒前の状態まで戻した。

 だから、何も起きてないことになっている。転がり落ちて割れたりという、杏子が激怒しそうな惨劇も起きない。

 けどもし何か起きた後ならアウトだ。この魔法に『治す』力まではない。


ほむら「は、はい……」


 ――――ざっくり言って時間操作。時間の停止と遡行。ただし限定的。

 今までの私の願いとは明らかに違うことを、魔法は証明している。


杏子「おお、うまそうだな! 気が利くじゃん」

さやか「杏子、独り占めしないでよ? ちゃんと分けるんだからね」


 ……魔法だけじゃない。

 私の身に宿る魔力の性質も、誰の記憶にも残っていない私の『願い』を証明しているようだった。


キリカ(……あの時と違って、使える『魔法』だけはわかってる)

キリカ(まぎれもなくこれは“私が願った”願いなのに)


マミ「暁美さんはこれから家に戻って作業?」

ほむら「はい! みなさんも訓練頑張ってください」


 …………みんなでほむらのもってきた林檎を食べて、訓練をして。

 そうして日が暮れて、マミの家でケーキを食べて。


 穴が開いたまま何事もなく時間は流れて、でもふと気づいて不安になる。

 ――みんなはこの穴を気づいているんだろうか?



さやか「にしても、『アレ』って……結構精細な魔法だったんですね」

さやか「あたし、向いてないのかも……魔力とか集中とか苦手なんですよねー……」


 ……ああ、さやかはそうだった。


さやか「あっ、だからって別にへこたれるわけじゃないっすよ!」

さやか「ただすごかったんだなぁって!」



1自由安価
2なんでさやかが契約したんだっけ?

 下2レス

2のあとまどかに相談
もう一度契約してもらって自分とさやかを人間に戻す
そのあとすぐ私がまどかを人間に戻すってどうかな?

↑+安価786の内容


キリカ「…………」


 納得がいかない。


キリカ「……なんでさやかが契約したんだっけ?」

さやか「え? それはキリカさんに頼まれて」

キリカ「じゃあ、もう一度契約してもらって自分とさやかを人間に戻す」

キリカ「そのあとすぐ私がまどかを人間に戻すってどうかな?」

さやか「え……!?」


 さやかは困惑している。

 そりゃそうだ。私から頼まれて契約したのにも関わらずこんなこと言われてるんだから。


さやか「いや、大丈夫です! ほんとへこたれるわけじゃないっすから!」

さやか「ちゃんと訓練して使いこなしますよ!」

キリカ「いや、そのことなんだけど……なんか記憶が混乱してるっていうか…………」

キリカ「なんで契約したのか覚えてないし……」


まどか「と、とりあえず様子を見てからでもいいんじゃないですか?」

まどか「焦って決めるとろくなことになりませんし、きっと今契約しているのだって理由がないなんてことはないです」

マミ「とにかく今は美味しいもの食べて気分転換しましょうよ。ケーキもっと食べる?」

キリカ「…………うん」


 ……なんだか気を使わせちゃったかな。

 ケーキをもう一切れもらって、もくもくとその甘さを味わっていた。



 ――――マミの家を出ると、まずはあの私が倒れてた廃工場に向かった。

 床に黒くなった血の痕がまだこびりついていて、それ以外にはなにもなかった。


 特にあてもなく街を歩き回る。

 消えた自分の痕跡を探しに。 理由がないなんてことがないのなら……


 でもきっとその理由はろくなことじゃない――。


キリカ「……え?」


 暗くなってきた繁華街の路地裏に足を踏み入れて、立ち止まった。

 散乱したゴミに血のようなものがぶちまけられ、割れた瓶が転がっている。

 影の奥になにかがいそうなその雰囲気に、薄気味悪くなって表の方に引き返す。


 すると、声をかけられた。


ほむら「呉さん?」

キリカ「……ほむら」


 ……手に持っている買い物袋をじっと見てみる。


ほむら「あっ、見逃してください! 今日は時間がなかったんです」

キリカ「今はみんな織莉子のとこで暮らしてるんじゃなかったけ?」

ほむら「なんていうか、集中するには自分の家のほうがいいかなって。この後も作業を続けたいので……」

ほむら「それより、呉さんもあんまり遅くまで帰らないと心配されますよ。あんなことがあった後ですし」

キリカ「あ、うん、そうだね……」


 ……それが一番腑に落ちないんだけど。


ほむら「……やっぱり、呉さんもなにかがおかしいって感じてますか?」

キリカ「え?」

ほむら「なんていうんだろう…………今までの事を考えると、よくわからない部分があるっていうか」

ほむら「当てはまるものがない穴がある気がするんです」

キリカ「…………ほむらもそう考えてたんだ」

ほむら「!」



1自由安価
2思い出さない方がいいんじゃないかな

 下2レス

私も何かおかしい、穴があると感じてるんだ
ここ数日の帰国の混乱もそう、私自身が契約の内容を覚えていないのに、契約したキュウベェの記憶に残ってないなんておかしいじゃないか?
それにまどかを元に戻す願いはさやかじゃなくて、私がこの時間軸になってすぐするはずだった
なのになんで戻ってきた日からこんなに間が空いてるんだ?『すぐにしなかった理由』をほむらは覚えている?

それに私の魔法、時間停止と遡行はほむらと同じなんだ
なら私は『ほむらと同じ願い、もしくは似たような願い』で契約したってことだ
ほむらの願いは『やり直す』ことだったよね?『やり直す』はざっくばらんに言えば記憶あっても前のことを『なかったこと』にすることだ
なら、私は『何をやり直す』『なかったことに』にしたんだ?


キリカ「私もだよ」

キリカ「……私も、何かおかしい、穴があるって感じてた」


 やっと話が通じる人に会えたみたいな、不思議な感覚だった。

 でもきっと、ちゃんと思い返せば穴があるのはみんな同じで……


キリカ「ここ数日の記憶の混乱もそう。私自身どころかキュゥべえの記憶にも残ってない願いのことも」

キリカ「それにまどかを元に戻す願いはさやかじゃなくて、私がこの時間軸になってすぐするはずだったのに」

キリカ「『すぐにしなかった理由』をほむらは覚えている?」

ほむら「いえ……」

キリカ「それに、私の魔法……ほむらと『同じ』なんだよ」

キリカ「時間停止と遡行。つまりそれって……願いが似てるってことでしょ」


 ほむらは静かに、真剣に私の話を聞いている。


 それ以上考えるな。そう警告するのは本能だった。

 その先がろくでもないことはわかっている。でもそんな矛盾に気づかないわけがない。

 ……隠したんだとしたら痕跡を残しすぎた。


キリカ「――私は何をやりなおしたんだろうね?」

キリカ「違うか。記憶を、いや、それ以上の大それたものを『なかったこと』にしたんだ」


 ――――でも。


ほむら「…………何をやりなおしたかなんて、考えたって仕方ないですよ」

ほむら「もう思い出せるはずもないんですから」


 その痕跡しかないから。

 どんなに考えたって思い出すはずがない。


 繰り返す世界の中心で見てきたほむらはもうわかっているようだった。


ほむら「それに、きっと願ったのはあなた自身です」

キリカ「……うん。そう願ったのはきっと私だ」

キリカ「私が殺したんだ」


 人一人か二人が死んだって、私はまだ崩れたりしない。

 でも、何回も繰り返して積み上げて成り立っていたこの世界に突然穴が空いたらどうなるのだろう。


 過ちは『なかったこと』にされ、『過程』はなくなり、『結果』だけが残り、『痕跡』は治せない。

 そんな願い。


 それでも、穴が空いたまま時間は続いていく。

 うわべだけ何も起きてなかったように取り繕って見ないようにするしかない。



 ――だから、思い出そうとなんてしないほうがいい。


ほむら「…………今は望んでいませんか?」

ほむら「契約したこと」

キリカ「…………」


 そうしたところで、果たして私が気づかないと思ったんだろうか?

 心の底から自分を嫌いにはなりたくないのに。


キリカ「…………私、やっぱりまどかに頼んで一旦魔法少女やめて、契約し直すよ」

キリカ「そうやってごまかしていくしかないから」

キリカ「割と強そうな魔法を手に入れたところ悪いけどねぇ……」

ほむら「いえ、私と被ってますから」

キリカ「私の方が戦うのには“上位互換”ってやつだと思うよ?」


キリカ「…………この穴は出来るだけ隠していこう」

キリカ「ほむらも、それでいいよね……」


 ふと背後に空いた穴の存在に気づいて足元から崩れ落ちそうな不安を感じても、

 それでも見ないふりをして進むしかない。


 それが、もうわからない『過ち』を犯した私と、この世界で生きるしかない私たちに唯一できることだ。

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バッドというか決定的にエンドにはならないけどそんな感じにはなりますよね…
もう一度ですが、ちょっとレス先は指定せずに意見を聞きます


『続けますか』?

1やりなおす
2このまま続行

やり直すにしてももう一人のキリカをどう説得するのか方法がわからないんですよね…
おそらくヒントは出てるんだと思うのですが、自分の読解力ではわからないんですよ
仮にやり直すとしたらどこら辺からになるのでしょうか?

2で

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ありゃ、結構続行希望の人多いのね…

救うヒントというか駄目だったヒントとしては、
二回分の説得がどちらも『もう一人(4,5周目時間軸)のキリカ』ではなく、最終周のキリカに向けてのものだった、ということです
最終周のキリカは特に説得が必要な部分はないので…違う未来の自分ばかり見てることに拗ねちまいました

ただまあ、元も子もないことを言えば、
さやかは別のキリカのことを知らんので、「説得」は求められてないです。もっといえば、自由安価じゃなくても…

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とりあえず今日はここまでー
次回は31日(木)20時くらいからの予定です。

とりあえず、このまま続行するデメリットとしては、
・キリカ自身が今後取戻しの聞かない自己嫌悪の悩みを抱える
・因果律崩壊により現在の世界に破綻が生じる危険性
・緩やかにバッドエンドに向かう危険性

ってところかな…?
うだうだ言わず続き書けって感じなので、次までに多いほうで進行します。あとやり直すなら箇所は選択式です。

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すみませんが、31日(木)の予定を取り消します。
次回は2日(土)18時くらいからの予定です。

また、次までに多い方でとは言いましたが、やはり
もう少し「エンド」としての区切りを投下した後、やり直しにしようかと思います

重ねてお騒がせしてしまいすみません



マミ「美国さんももう少し早く連絡くれればお茶会に呼んだのに」

織莉子「仕方ないわ、今日は少し遅くなったのよ」

織莉子「久しぶりのクラスの仕事と、それからくどくどと呼び出しを……」

杏子「へえ? あんたが説教食らうなんて珍しいな。それとも難癖か?」

織莉子「昨日のことでよ。二人揃って勝手に早退したこと怒られちゃったわ」

織莉子「――……二人揃って?」

マミ「……どうかしたの?」

織莉子「……いいえ、別に」

マミ「今度は美国さんも一緒に食べましょう。久しぶりにみんな一緒に!」
 

織莉子「キリカはまだ私のことを嫌っているかしら?」

マミ「それは…………」

織莉子「そう、ね…………仕方ないわ。私の犯した『過ち』だもの」

織莉子「私は、前回のことで彼女から恨みを……――――」


織莉子「…………前回」

織莉子「私たち、前からこうして会っていたんだったかしら?」

マミ「……何言ってるのよ。やっぱりさっきからおかしいわよ」

織莉子「…………本当ね、今のは忘れて頂戴」

杏子「それより今日の夕食は?」

マミ「あ、私さっき買い物袋見ちゃったのよ!」


織莉子(…………何か、嫌な予感がする)


―――

―――

まどか『……でも、いいんですか? 契約したばっかりなのに』

まどか『やっぱりもう少し落ち着くまで様子を見たほうが』

キリカ「うん……大丈夫。 もう“わかった”から」


 言い切ると、まどかは少しだけ返事に間を空けたのちに

 わずかに腑に落ちない様子で『わかりました』と返してくれた。


 ……何を起こしたかだけはわかってしまった。

 何が起きたかわからないことへの不安より、それは私の心に後味の悪さを生んだ。


 『また』やってしまった。一度その不安を覚えて懲りたはずなのに、また性懲りもなく逃げた。

 不都合な事実を、記憶を覆い隠した。私はその意味を知っている。


キリカ(……これこそ何に逃げようと人の根は変えられないという証明だな)

キリカ(私は……これからも何か辛いことがあるたびに、自分すら壊して逃げで解決しようとするのかもしれない)


 まだこの身に覚えのない穴は広がるかもしれない。

 そう思うと、あの時以上の自分すら信じられない漠然とした恐怖感だけが残っていた。


QB「なるほどね……僕だってずっとこの世界を見てきたんだ。この穴には気づいていないわけじゃない」

QB「キリカ…………本当に君は一体何をしでかしたんだい?」

QB「今になって、過ぎ去った世界の出来事ごと『消える』ようなことを……」


 ほむらも言った通り、その『内容』についてはもう考えたところで“仕方がない”。

 消えてしまったものはどうあがいても戻らない。


QB「――問題はそこじゃない。穴を穴と認識できるうちはまだいい」

QB「この世界はそもそもが異常だ。その異常さが破綻せずに成り立っているのは奇跡的なバランスによるものだ」

QB「歪な形で切り取られたせいで、元々無理な形で束ねられていた因果をつなぐものがなくなってしまったら」


QB「……この世界はいずれバラバラになるだろう」

QB「しかしそうした時に、世界を束ねることのできる“神”はもういない」


 それを願ったキリカにさえもう省みることすらできない。

 しかし、その影響が自分の身以外にまで及んだ時、彼女は――――。


 この話を聞いてもほむらはこの世界を捨てる選択を取らなかった。


 たとえほむらが盾を廻したところで、まどかによって作られ、

 そしてキリカによって壊されたこの世界を前提から変えることはできないだろう。



―END?―

=================================================
一応ヒント
・「まだ救われてない」と言ったのはさやか
・「救う方法を見つけるまでは殺さない」というキリカ自身の発言(自己矛盾)
・小巻はキリカが契約してないことがわかれば退く
=================================================

コンティニュー
>>730(小巻が発見)
>>705(さやかが探索開始)

 下2レス
=================================================

==============
やり直し >>705
==============
―――


織莉子『――何故私には何も教えてくれなかったの?』

さやか「知ったのが昨日の夜で……昨日までご両親もキリカさんのこと探してたみたいなんですけど」


 昨日キリカさんの家を訪ねた時にはご両親は帰ってきていた。

 ……休みの間、行方不明になったキリカさんを探していたらしい。それでずっと不在だったんだ。


 スマホを片耳に押し付けながら走る。

 あたしたちも学校を休んで探しているけれど、見つからない。

 あたしが前に自暴自棄を起こして失踪した時のことを思い出した。


さやか「なにやってたんだ、あたしは……!」

さやか「キリカさんの様子がおかしいかもってわかってたのに、自分のことでいっぱいで…………」

織莉子『私も……今の生活が満ち足りていて、彼女のことなんて考えていなかった』

織莉子『こんな私じゃ頼れないわよね……』

さやか「でもなんでいきなりこんな…………」

織莉子『…………』


 警察に連絡があったと言っていたのはそのすぐ後だった。

 一度コンビニに立ち寄って何も買わずに出て行ったということ以降、足取りはわからない。

 ――――そこの店員の話だと、血に汚れた格好だったという。


織莉子『……とにかく、何かわかったら連絡を頂戴ね』

さやか「……はい」



さやか(あたしは…………あの時のあたしだったら、どこに行く?)



 行く場所
1公園
2通学路
3駅
4病院
5繁華街
6歩道橋
7土手
8鉄塔
9廃工場
10立体駐車場
11風見野

12自由安価

 下2レス


さやか(人目につかない場所……?)


 休みの間ご両親が探してて、今日もあたしたちが探してるというのに見つからないのはどうしてだ?


さやか(血に汚れていた……そんな姿で表を動きたいはずがない)

さやか(そして、“足取りがわからない”んだ)

さやか(絶対目立つだろうに、情報があるのは一度だけ)

さやか(しかもきっと、もうほとんど移動すらしてないんだ)

さやか(だったら、通りにはいない……?)


さやか「!」


 狭い路地裏を歩いて、思わず足を止める。

 路地裏に放置されたゴミ……そこに更に、血の痕がこびりついたような赤い色が残っていた。

 丁度割れた瓶が転がっている。あれが凶器にでもなったのだろうか。


さやか(け、喧嘩の痕……?)


 いやでも唯一聞いていた“血に汚れた”という情報を連想した。

 ……もしも前にここに居たのだとしても、今はここには居ない。


 どうせいつも学校じゃ会うからと思って後回しにしてた。

 まさか休みの間くらい会わなかったからって、そんなに変わらないだろうって……

 ……それを今後悔した。


さやか「!」


 ポケットに振動を感じて、スマホを取り出す。


さやか「……ほむら? 見つかったの!?」

ほむら『いえ……何か手がかりはありましたか?』

さやか「いや……ないよ。なんとか推測立てて絞ろうとしてるとこ」

ほむら『……私、一昨日呉さんと会ったところに行ってみたんです』

ほむら『狭い路地でしたし、あの時は暗くてわからなかったんですが、そこ、何か血の痕があって……』

さやか「え……」


 ……ほむらの言う場所は多分ここだ。

 ほむらも少し前にここに来ていたのか。


ほむら『なにがあったのかなって心配になって』

ほむら『せめてあの時会った時に気づいてればよかったって……』

さやか「あ、諦めるなよ! もう会えないわけじゃないんだし、そうならないために探してるんでしょ?」

さやか「あの時のあたしと違って契約してないんだから、なにも死ぬわけじゃないんだし……」


 …………死。 口には出したけれど、絶対にないと言い切れるわけじゃない。

 そもそももう契約してる可能性だってあるかもしれないのに。



1自由安価
2自分の推測について話す
3一昨日どんな様子だったか聞く

 下2レス


さやか「……あたしの推測を話すよ」

さやか「血に汚れた格好で情報も一度しかないんだから、まずは人目につかない、人通りのないところ」

さやか「そんで、多分ほとんど移動もしてない……ってとこ」

さやか「で、聞きたいんだけど、一昨日はどんな様子だったの?」

ほむら『えっと……パトロール頑張ってるねって言ってくれて、あと訓練の話とか』

ほむら『幻惑魔法の話をした……っていうのは言ったと思うんですけど』

ほむら『……割と落ち着いていたようには見えました』

さやか「落ち着いてた?」


 ……金曜の朝会った時の態度を考えれば違和感があった。

 あの時は正反対。妙に慌ててた。それに――


ほむら『呉さんって、何かあった時あんまり取り繕ったり出来るタイプじゃないじゃないですか』

ほむら『美樹さんと違って……』

さやか「……あたしかよ。でも確かにそうだね」

ほむら『まあ、美樹さんもそんなにずっと取り繕えるわけじゃないですけど……って、そんな話じゃなくて』

ほむら『だから、なんか……』

さやか「……言いたいことはわかるよ。かなりヤバそうだね」

さやか「あたしはあたしでまた探してみるよ。じゃあ、また連絡するから」


 電話を切って、来た方向へと身体を向けなおす。


さやか「キュゥべえ」

QB「なんだい? もう少し早くに僕を頼ってくれると思っていたんだけどね」

さやか「…………なにそれ。あたしがあんたのことそんなに信頼してるとでも思ってるわけ」

さやか「あんたキリカさんに何か言ったの!?」

さやか「何か追い詰めるような事言って契約を迫ったりしたの!」

QB「追い詰めるような事っていうのはわからないけど、契約は迫ってみたよ」

さやか「! じゃあ……」

QB「……契約はしてないよ」

QB「できなかったんだ」


 一瞬ホッとしたけれど、その言い方に疑問が残った。


さやか「どういうこと……?」

QB「願いは聞いた。でも契約は出来なかったし、本人がそれを選ばなかったということさ」

さやか「…………とにかく契約はしてないのね?」

QB「そうだね」


さやか「キリカさんのことで何があったか知らないの?」

QB「僕もこうなったきっかけについてはわからないよ。でも、悩んでいるのは事実だろう」

QB「君が解決してあげるかい?」

QB「『まどかのこと』『悩みの解消』背負ってる問題の一つでも解決してあげれば、彼女も少しは気が楽になるんじゃないかな」

さやか「…………そりゃ解決してあげたいよ」

さやか「でもそれは、あんたに頼ってじゃないから!」

QB「そうかい? それは残念だね」

QB「僕に助けを求めたくなったらいつでも声をかけるといい」


 ……キュゥべえは結局それが目的か。



 行く場所
・繁華街[現在地]
1鉄塔
2廃工場
3立体駐車場
4風見野

5自由安価

 下2レス

―――


キリカ「…………もう動けないし、動きたくないや」

キリカ「外に出たら私の殺した人たちがいっぱいいるよ」

キリカ「私のこと覚えてる人いるのかな? もしいきなり襲い掛かられたりしたらさすがに死んじゃうな」


 光の届かない建物の隅に横たわっている。腕に何かが這いずる感触がしている。辺りにはゴミと血。薄汚れた小動物の死体。

 ……そろそろ意識が途切れ途切れに薄くなり始めている。


 生身の人間の身体というのも意外と丈夫なものだと思った。


 魔法少女ならとっくに“死んで”いた。魔女以上に醜く黒く染まった心のまま私は私としてここにいる。


キリカ「おかしい人って思われてたのかなー、いきなり本気で殺しにかかってたんだもんね」

キリカ「そりゃそうそう対応できないよね。喧嘩仕掛けるのとは違う。そんなことする人普通いないもん」

キリカ「うん。私はちゃんと“客観視”してるね。 こう見えて私は演技だってできる人だし……」

キリカ「……私が契約する前より更に、見えていた世界はくだらなかった。織莉子だけが鮮明で、鮮烈だったんだ」

キリカ「だからなんて思われたって、そんなの些細なことだったんだ」


 壊れて、欠けて、どんどん『私』は小さくなる。

 それが織莉子の望みだった。私の望みだった。

 人一人未満がさらに、長い年月をかけて形成された心の芯のほうまで剥がれて、なにもしらない子供よりも残酷に。


キリカ「そうしたら…………いつかは消えてなくなってくれないかなぁ」

キリカ「そのためには私はほかに何を殺せばいい?」


 赤く縦に刻まれた傷を指で割り開くようになぞる。

 多分このくらいじゃ死なない。最初から頭の片隅で考えていた。


キリカ「…………私は壊れてたし、壊れようとしてたよ」

キリカ「でも、本当の意味で“壊れてた”なんて、気づきたくなかったんだ」

キリカ「認めたくなかったんだ。絶対に」


 ――罪悪感。自分の醜さ。嘘。虚構。ニセモノ。

 そんな偶像を見上げて、心の底から恋でもしたように大事に大事に縋っていたって。


キリカ「……私の死体をプレゼントしたら、織莉子はどんな反応をするのかな?」

キリカ「だって私にはもうそれくらいしか残せないよ」


キリカ「『何やってんだこいつ』って、冷たい目で見下ろしてくれるといいなぁ」


 ……どこまでも鋭く、冷たい眼差しを思い出す。

 それなのに、目に浮かぶのは私の手を取って涙ぐむ織莉子の姿だった。


 口の端を三日月に釣り上げる。


キリカ「……ざまあみろだ」


キリカ「私は別にそれでもよかったんだ。織莉子からの愛は駒として使い捨てることだって、むしろそれが丁度いいって」

キリカ「……きっと、これで私が死んだら一生消えないくらい深い傷が心に出来るね」

キリカ「……私は織莉子の友達だから」


 私が死んで織莉子が表情を変えないのは私がただの駒だからだ。

 織莉子が泣くのは織莉子も心が欠けてたからだ。……織莉子が泣くのは、友達だからだ。


 ――――カツ、と靴の音が響いて顔を上げる。


キリカ「…………?」

さやか「やっと見つけた……っ」



 ――――叶うことなら、音もなく消えてしまいたかった。


 あたしの本当の望みに気づいて、それももう叶わないことを知ったから。

 後悔なんてしたくなかったのに後悔してしまう自分が嫌だった。


 石ころになって魔女と戦うことが使命なら、

 戦って少しでも使命に果たせれば、呪いが溜まった自分の存在も少しはマシになる気がした。


 …………そんな時、あの人はいつもちゃんとあたしを見つけてくれたんだ。



 ――――……声が聞こえた気がして踏み込んでみると、

 昨日聞いた通り大分血に汚れているけれど、探していた姿がそこにあった。


さやか「なんでそんなボロボロなんですか!? まさか魔女にでも襲われたとか!?」

さやか「とにかくすぐマミさんたち呼びますから!」

キリカ「……いいよ、そんなことしなくて」

キリカ「これは私の願いなんだから」

さやか「願い……?」

キリカ「私が居なかったら何か困ったの?」

キリカ「織莉子は? 私なんていないほうが楽しめてるんじゃない」

さやか「そ、そんなこと…………」


 『今の生活が満ち足りていて、彼女のことなんて考えていなかった』

 ――さっき電話越しに聞いた声がよみがえって語尾が小さくなった。

 でも、なにかあったなんて知ったら心配しないわけないのに……



1自由安価
2織莉子さんもみんなも心配してましたよ
3なんでそんなこと言うんですか、と怒る

 下2レス ※同じ展開にしてもしょうがないので、『前と同じ内容』は安価下とします


さやか「……なんでそんなこと言うんですか?」

さやか「キリカさんを探してここまで来たあたしや、みんなの気持ちは!?」

さやか「なんで自分でそこまで言うのか全然わかりません」

キリカ「…………」


 そう言うと、キリカさんはどこか気だるそうに顔を背けて黙ってしまう。


さやか「でもあたし、馬鹿だからキリカさんの力になれるかわかりませんけど……話聞くくらいは出来ますから」

さやか「だから、一人で抱え込まないで話してください」

キリカ「…………じゃああいつにでも聞いてよ」

さやか「あいつ……って?」


 指さした先には白い何かが見えた。

 ……何かの動物の死骸。


キリカ「また私の前に現れたから相談はしたんだよ」

キリカ「でもずっと無視するんだ」

さやか「いや……えっと、これ」

さやか「なんていうか、もう生きてないです………」


キリカ「……そうだったっけ」

キリカ「ずっと無視するから」


 ……それは『相談できる』ようなものではなかった。

 色は白い。白かった。でも、その口ぶりから言うなら――――どう見ても彼女がカンチガイしているものではない。 


 ……本当に魔女の攻撃でも受けておかしくなってしまったのでは?

 うっすらと恐怖すら感じ始めた時、弱弱しい声が聞こえて視線をキリカさんのほうに戻した。


キリカ「…………心配してるのは誰?」

キリカ「私だって自分を嫌いになんてなりたくないよ」

キリカ「でも……――」

さやか「…………」


 ――――こっちに向けて、ゆっくりと手を伸ばしてくる。

 …………あたしはその冷たい手を取った。

 赤黒く乾き、表面だけが赤く濡れた液体がべとりとあたしの肌につく。


 ……それから言葉はない。


さやか「……あの、早く治療して帰りましょう?」

さやか「こんなとこにずっと居たらそれだけで塞ぎ込んじゃいますよ」

さやか「今みんなにも連絡しますから……」


 ……一旦手を放してスマホを取り出そうとする。


キリカ「…………じゃあ、今度はさやかを愛してもいいの?」

さやか「え……」


 意味が分からずにたじろいだあたしが次の言葉を言う前に、

 ――――壊れかかった廃工場の扉の奥から小走りの足音が近づき、この場に立ち入ってきた。


小巻「そいつから離れて!」

さやか「!?」

小巻「……思い出したんだから」

小巻「あんたはあたしの友達を殺したんだ」

小巻「『今』はそうなってない……でも多分この世界じゃないどこか、何かがあって、『どこかで起きた』事実なのよ」

小巻「おかしいこと言ってる。自分でも信じられないけど、あの時あたしに謝ったのがその証拠」

小巻「……そうなんでしょ? アンタは自分のしたことを覚えてるはずよ」

キリカ「…………」

キリカ「……そうだよ。君の予想は何も間違っちゃいない」


 思わず二人を見比べた。


 ……否定はしたい。

 でも、織莉子さんから聞いていた過去を思い出して、とても嫌な考えが過ぎった。


 ――――この血は本当にキリカさんだけのものなんだろうか?

 横から暗く冷たい視線が刺さる。

 疑いの目で見てしまったのを感付かれてないことを祈るしかなかった。



キリカ「けどいっこだけ違うとこがあるよ」

小巻「……そうね。あたしもあんたに殺された」

小巻「あんたに友達を殺された仇を討つことすらできずに」

キリカ「……うん」


 ……キリカさんはまだ淡々と怠そうに話し続ける。

 恐らく過去の話。でも、そう話す姿はまるで――あたしの知らない姿のようにも思えて、ただただ諦めているだけにも見えた。


 聞いてはいても今までどこか信じられてなかったけど、あたしの知らないキリカさんは確実に居る。――いや、居た。

 でもそれならあたしは今キリカさんにどうするべきなんだろう?


小巻「あたしはもうあんたに誰も近づけたくないの……!」

小巻「さやか、もう帰りましょう」

小巻「なんであんたまでこんな場所にいるかわかんないけど、こんなところには長く居ない方がいいんだから」

小巻「こんな場所に出入りしてたら、あんたまで危険なことに巻き込まれるわよ」


 小巻さんは忌々しそうに言う。

 確かに今のキリカさんは――あたしの知らないような危うい雰囲気を感じる。でも……


さやか「……ま、待ってください!」


 …………キリカさんと目が合った。

 きっと、どんなに違って見えたって本当は元の部分は同じ人には変わりない。


 見捨てて行くにはいかない……さっきは手を伸ばそうとしてくれたから。


1自由安価
2キリカさんは危険じゃないです、と説明
3詳しく説明を求める

 下2レス


さやか「キリカさんは危険じゃないです」

さやか「だって、契約すらしてないんですよ……?」

さやか「危険になんてなりませんから!こんな怪我まで負って……あたしは助けに来たんです!」

小巻「え……?」


 ……小巻さんがキリカさんをじっと見る。

 キリカさんはまた顔事背けてしまった。


 ――――小巻さんはぶつける場所のなくなった憤りに震えていた。


小巻「……なんなのよあんた! じゃあこんなところで何してんの!?」

キリカ「…………」

小巻「なに黙ってんのよ!」


小巻「じゃあなんであたしたちを襲ったの!? 殺したの!? それだけでも答えなさい!」

キリカ「…………」


 ずっと口をつぐんでいたキリカさんがやっと観念したように口を開く。

 しかし、その言葉の意味が理解できずにあたしたちは沈黙し、この場は静まり返る。


キリカ「――――愛は無限に有限だからだよ」


 その雰囲気を読んでか、キリカさんは付け足すように続ける。


キリカ「ただの殺した中の一人でしかない、些細な命だったから…………じゃない?」


 ……なんでわざわざこんなことを言うんだろう。

 これが本心からの答え?


さやか「……と、とにかくもう大丈夫ですから……後はあたしに任せておいてください」

小巻「……なんでこんなやつ助けようと思うの?」

さやか「それは………… あたしにとっては大切な友達だからです」

小巻「そんなの無理に決まってるじゃない! 元はと言えばあたしは“友達”を追ってきたのに」

小巻「あいつも心当たりがあるようだった……だから、あいつより先に見つけなきゃって……」

キリカ「……そっか」


 ――――その時、また遠くから誰かが近づく音がした。


キリカ(…………そんなにも私を恨む人がいる)


 ――――数なんて数えていない。

 ――――意味がないから。



 キリカさんは今度こそ驚愕するように目を見開いた。



 ……扉の奥に振り返ると。

 そこには、この廃工場に似つかわしくないくらい眩しい白い姿があった。


織莉子「……私を追ってきたのなら、悪いけどもう帰っていいわ」


 どこか浮かない、思いつめたような表情をして。

 その身に纏うオーラは…………悲しげなような、冷たいような、

 あたしの思いつける言葉では言い表せないものだった。


小巻「な、なんであんたまで…………」

織莉子「…………私自身が片づけないといけない問題だからよ」

織莉子「……それとも、貴女は『また』私を殺そうと思う?」


 『また』……それはその過去じゃない。

 これだけ避けてきた久しぶりの再会にしては、唐突すぎる成り行き。

 少々卑怯ともいえる聞き方に、キリカさんはペースを乱されたようにたじろいだ。


キリカ「なっ、なんでそんな質問……」

織莉子「私は断罪されるというのなら仕方がないとも思っているわ」

織莉子「――――どこの誰かじゃない」

織莉子「――――ただの駒。数」

織莉子「……貴女も、貴女も、全部そうだった」

織莉子「私のそんなところを一番に嫌っていたのが貴女だったから」

小巻「…………どういう意味?」

織莉子「貴女や貴女の友達が死んだのは私のせいよ」

小巻「……!?」


小巻「なっ、何言ってんのよ!? あたしは確かにこいつと戦って、こいつに殺された!」

小巻「大体、あんたが魔法少女だとか聞いてないし……」

織莉子「ええ、だって隠していたもの」


 織莉子さんまで感情を感じさせないようにけろりと冷たく言い放った。


織莉子「ねえ、本当に貴女の彼女に対する言葉はそれだけでいいの?」

キリカ「…………なにそれ……本当に卑怯……じゃん」

キリカ「最初がそうじゃなかったからって……何も特別じゃないよ」

キリカ「他の数にすらならない罪は? どうなるの? 本当に顔も覚えてないよ」

小巻「その開き直った態度が許せなかったのよ……慌てて謝った言葉ならもう何度も聞いてるのよ!」

小巻「――……でも、今のあたしは死んでないから。友達も……」

小巻「……あたしはそろそろ帰るわ」

小巻「…………学校はこれからも来なさいよ」


 ……小巻さんは最後に釘を刺すようにじっと強い視線で織莉子さんを見てから、扉の奥へと去って行った。


 “友達”って言ったのは織莉子さんのことだったんだ。

 この前は友達っていうの否定してたのに……。


 みんな思いつめたような表情をしていて、空気が重く圧し掛かるように感じた。


織莉子「……みんなに連絡はしておいたわ。少ししたら来ると思う」

さやか「……はい」

織莉子「それじゃあ、私は……」

キリカ「…………待ってよ」


 立ち去ろうとしていた織莉子さんが足を止めて振り返る。


キリカ「織莉子は折角あの人と友達だったのにね」

キリカ「また私のせいで壊しちゃった」

キリカ「……織莉子も、あんな私はいらないと思うでしょ? 色んな人の幸せを壊してばっかり」

キリカ「君にふさわしい私になるのなら…… やっぱり『死ぬ』のが一番だ」


 ……キリカさんはそんなことを言いながら笑顔を見せた。

 キリカさんが『自分が居ない方がいい』と言った意味…………

 やっと、ほんの少しだけその胸の内は見えた気がした。


織莉子「……友達なんかじゃないわ」

キリカ「…………」



1自由安価
2キリカさんは本当はどうしてほしいんですか?
3織莉子を呼び止める
 
 下2レス

--------------------
ここまで
次回は3日(日)18時くらいからの予定です


さやか「そりゃあたしは二人の間に何があったか知らない部分のほうが多いんでしょうけど!」

さやか「織莉子さんもそうやってさっさと逃げようとしないでくださいよ!」


 埃っぽいコンクリートの床を蹴って叫んだ。織莉子さんが肩を揺らす。


織莉子「……それなら私はどうしたらいいのよ!」

織莉子「私が関わって、またこれ以上壊してしまったらどうするの?」

織莉子「壊すことは簡単だった、なんでもそう。でも救う方法なんて私にはわからない……難しすぎるのよ」

さやか「難しくたって……死ぬとか言ったキリカさんを怒るくらいもしないの?」

さやか「それとも、本当にその方が都合がいいって思ってるの…………それは『ただの駒』だったから?」

織莉子「……そうかもしれないわね」

織莉子「マミや杏子たちがくればきっと傷は癒せるわ。死んだりしない……それに任せましょう」


 ……そんな態度がどうしても投げやりに思えて少し怒りを覚えた。

 思った以上にあたしに立ち入れそうな空気じゃない。

 でも、織莉子さんがこんなだから、こんなことになってるんだ。


 『過ち』でしかないってわかってるから――だからまた目を背けて、出来るだけ意識から『消す』しかない?


さやか「でも、それじゃあ……駄目な気がするんですよ。結局なにも解決しないんじゃないかって……」


キリカ「なんでキミはそんなどうでもいいことばっかり言うのさ!」

キリカ「……何が駄目なの? そんなこと言ってるさやかのことだって、私たちは殺してたかもね」

さやか「またそうやってわざわざ恨まれるようなこと言って突き放す……」

さやか「たとえそうでもあたしも顔なんて覚えてませんから」

さやか「それだけの関係だった時の一部だけで全部嫌ったりしない!キリカさんのこと知ってるから!みんなだってそう言うよ!」

さやか「なのに、『魔法少女殺しの自分』を無理矢理切り離そうとして……死んだ方がいいなんて逃げてるんだ」


 『…………結局みんな強くなんてないってことでしょ』

 いつかの言葉がよみがえった。――そう言ったのもキリカさんだったっけ。


 『心の不安定さとか些細なきっかけとかから、いつのまにか自分じゃ取り返しつかなくなって転がり落ちていく』


 なんとかしてあげられるとしたら“他人”だけ。

 決定的に間違ってしまった後でも、あたしたちに取り戻すことができるんだろうか?


キリカ「私だって本当はこれ以上嫌いたくないから、死にたくないから……こんなの抱えたまま生きていきたくないんだよ」

キリカ「みんな私の邪魔ばっかりして…………何事もなかったように押し殺しておけば満足?」

キリカ「……どんだけ押し殺したって、本当は何事もなくなんてないのにね」

さやか「……キリカさんは本当はどうしてほしいんですか?」


 さっきみたいに手を取る。やっぱり冷たかった。

 愛してもいいかなんて言われたらそりゃ戸惑ってしまうけど……


 ……――泣き声が聞こえた。


キリカ「…………寂しい、よ……」

キリカ「冷たいのも、見捨てられるのもいやだ…………」


 キリカさんはそう言って……――そのまま濃く隈の出来た目をつむって、動かなくなった。


さやか「…………」

織莉子「マミ……まだ着かないの? このままじゃ……――」

織莉子「……ええ、近くまで来たらまた連絡を頂戴」


 ……――織莉子さんは通話を終えた携帯を両手で握りしめている。

 やっとこちらのほうに向きなおって、その顔をじっと見ている。……何を考えているんだろう。


1自由安価
2みんなが来るまで待つ

 下2レス


織莉子「――もしもし、ほむら? ……ええ、工業地帯に着いた?」

織莉子「…………少し出てくるわ」

さやか「はい……」


 織莉子さんが外の方に出て行った。

 ……あたしはまだキリカさんの手を握っている。


さやか(……なんかなぁ)

さやか(あたしがこうして駆けつける時は、いっつもボロボロだ)


 けど今はあたしには治せない。

 出来るのは、冷たい身体を少しだけあったかくしてあげることくらいだった。



―――

―――


 私はその空間の“隅”のような場所に座り込んでいた。

 また私はあの白と黒の結界に居た。


 身体や服に血がついている。見下ろした腕は傷だらけだった。

 ――――身体を動かそうとして気づく。『身体が足りない』。

 ――――欠けている。


「…………」


 こんなんじゃ立ち上がれない。

 戦うことも出来ない。気づかなかった時はなんともなく戦えていたのに。どうしてだろう?


「……今の私は織莉子にふさわしくない」

「それが私の願いなのに」


 ……違う。

 それも全部、私の願望が生み出した……――――


 その姿を全部見下ろして見れば、『欠けている』というさっきの表現は間違っていた。

 手も足も小さく、短い。胸から胴にかけても平べったく距離が短い。


 ――――『後悔』という言葉すら湾曲させて……

 どこまでも意地っ張りで、ねじ曲がってる。そんな子供がいるだけだった。


 でも、その嘘に気づいて認めてしまったら。

 狂気どころか何の反応も返さない、ただの屍になってしまう。


 ――……じゃあ今度こそ死ぬ?

 それなら、この姿を見下ろしているのは誰だろう。


「答えを見つけるって……『救う』って言ったのに」


 今更にべそをかく。私自身が素直になれなかったんだ。

 そんな自分を殺したいのも、消えたいと思うのも自分だったから。


 心じゃなくて、気持ちに支配されている。


 ……だって本当はもう壊れてなんかいないよ。

 欠けた部分を埋める心はもう溢れるほど持っている。

 でも、その傷んだ破片のせいでまたバラバラに壊れてしまいそうなんだ。


 その姿を……


1手を引いた
2斬る
3なにもしない
4自由安価

 下2レス



 その姿の――――手を引いた。


キリカ「……!」


 目を開いた途端、目の前にさやかの顔があった。

 さやかは、まだ私の手を握っていた。


さやか「よかった、目が覚めましたか」


 ……自分の部屋のベッドの上。

 みんなもすぐ近くに囲んでいて、少しだけ離れたところに織莉子も居た。


 みんながこっちに注目する。

 音もなく消えるのとは正反対。心配ばっかりかけて、格好悪いところばっかり見せて、まるで駄々っ子のよう。

 音もなく消えられたほうがよかった――――今ではそう思えなくなってしまう。これだけ追ってこられて、囲まれてしまったら。


『その友達が居れば、一緒に歩いていければ答えを見つけられる、そんな気がするんだ』


 それは……私をも救うと言ってくれたみんなへの、私自身の望みだった。

 それすら斬って捨てようとしたのはどの私か……そんなことは考えるだけ無駄な事だとももうわかっていた。


まどか「……まだ悩んでますか?」

キリカ「…………」

まどか「わたしたち、傍にいるくらいは出来ますよ! あっためることだって、できますし」

まどか「だから、どんなに辛くても死にたいとかやめてください……」

まどか「やったことはなくならなくても、小巻さんって人もほかの人も、今生きてるんですから」

キリカ「…………そうだね」


 殺したはずの人が生きている。罪が暴かれる。

 また誰かから恨み言を言われるかもしれない。恐れられるかもしれない。最低な奴だって言われるかもしれない。

 それでも、今度こそちゃんと受け止めて生きなきゃいけない。

 …………でも、それって。


キリカ「でもそれって、そっちのほうがきついよ……」

まどか「……わかってます。わたし、結構きついこと言ってるかもしれないです」


ほむら「呉さんはまだ救われてませんか?」

キリカ「…………」


 考えてみれば、救われるってなんだろう。それこそまるで罪を浄化して天にでも召されるような。

 ……いや、そんなものただの言い訳だ。本当は無に消え去るだけだ。


キリカ「……でも、他にも辛いことはあったから」

キリカ「辛いことを辛いとも思わなくなるよりはマシなのかな……って、思うよ」

ほむら「……そうですか」


 辛いことを辛いとも思わなくなるのは、言ってみれば“死”よりも惨めな死に方だ。


キリカ「……本当はさっさと放棄してればよかったんだ。やりたくもなかったはずの魔法少女の活動も、命令も」

キリカ「そんでさっさと魔女にでもなってればよかったんだ……あの時だって!」

キリカ「それなのに…………なんで私は生きてたのかな……色んな人に迷惑かけてまで」


 ――……偶然、その丁度いいところに“駒<私>”が居て、丁度いいところに“偶像<織莉子>”が居ただけ。

 私はその世界で命を終えるまでついに気づけなかった。

 ……でも、気づいたところであの世界じゃきっと救いなんてなかっただろう。


まどか「……でもここはもうその世界とは違う場所です」

まどか「『本当にみんなが望んだ未来』です。これからそうしていきたいです」

まどか「ここにはキリカさんの希望だってあるはずだから」

キリカ「…………うん」


 …………織莉子は離れたところで聞いていた。

 それから話が途切れると、これだけ言った。


織莉子「……貴女が無事で良かった」

キリカ「…………うん」



1自由安価
2治してくれたのは誰?
3さやか、いつまで手握ってるの…?

 下2レス


 ……さやかはまだ手を握っているままだった。


キリカ「……さやか」

さやか「はい!」

キリカ「もっとぎゅっと……抱きしめてもらってもいい……?」

さやか「まだ寒いですか!?」

さやか「それともそれって……その、あたしのこと『愛したい』とかそういう?」

キリカ「あっ、そ、それはもうしない……けど……」

キリカ「……みんなのことまだ頼ったり甘えたりはするかもしれない」


 さやかは私の手を放したと思うと、正面から抱きついてきた。


さやか「……そういう意味で拠り所にするのは構わないと思います」

さやか「ほら、まどかも乗り込んで!」

まどか「えっ……わぁ」


 さやかがまどかまで引っ張って、それから他の人まで周りを囲んだ。


マミ「折角だから私も参加しておこうかな」

ゆま「ゆまもー!」


キリカ(…………身動きが取れない)


 自分で言っておきながらやっぱ恥ずかしいとか、でもあったかくて賑やかで悪い気はしなくて。

 …………そうしていると、ちょうど部屋の扉が開いた。


*「まだ起きない? そろそろ夜も遅くなるし……――――」

さやか「…………あ」

*「……あらまあ」


 『あらまあ』って、お母さんどんなリアクションなの。

 ……すると、一人ここに加わっていなかった織莉子が冷静に状況を告げて、帰ろうとする。


織莉子「無事目は覚ましましたよ。私はそろそろ失礼します」

キリカ「…………」


 織莉子が出て行って、お母さんもそれを送りに行って、みんなは私を埋もしたまま静まり返った。


マミ「……今は美国さんの事はどう思っているの?」

キリカ「……」



1このままじゃいけないとは思う
2まだ許せない
3友達に戻りたい
4自由安価

 下2レス


キリカ「まだ許せない……ちゃんと自分の思いに向き合ったのすらたったさっきだったんだ」

キリカ「それまで私は、向き合うと言いながら傷んだものを傷んだまま考えないように隠してた」


 ……それで少し突っつかれたらあのざまなんだから、本当に一人じゃ何もできなかった。


キリカ「今日、さやかやみんなのおかげで、少しだけ気持ちは整理できた気はするんだ」

キリカ「でも……そうしたら余計に許せなくなっちゃった……かな」

杏子「……まあ、そうだろうな」

キリカ「でも、友達だから……本当はそう戻りたいって」

キリカ「……これって矛盾してるのかな?」

マミ「……矛盾が一つもないなんて無理なんじゃない?」

マミ「自分に向き合えたのなら、美国さんともきっといつか向き合えるでしょう」


 ……許せない部分は許せなくていい。

 杏子もマミも、“許しちゃいけない部分”っていうのはちゃんとわかってて、それでも許してるんだ。


 私だって、もう関わりたくないわけじゃない。

 話したいことはたくさんあった。……――向こうはどうなんだろう。それだけでも聞きに行かなくちゃ。



 ――――みんなを帰した後、まどかにだけ少し残ってもらった。

 二人だけになって少し寂しくなった部屋で、真剣な表情で向かい合う。


まどか「それで、話って……」

キリカ「謝らなくちゃいけないって思って」

キリカ「……私、今は生きててよかったって思ってるよ。まどかの願いで私は助けられたのに」

キリカ「それなのに自分の問題でこんなことになって…………ごめん」


 この世界に来てからのことで、今になって謝らなくちゃいけないことがいっぱいあったことに気づいた。

 私が自分を粗末にすれば、まどかの希望まで否定することになる。


キリカ「私……契約しようと思う」

まどか「……もう大丈夫なんですか?」

キリカ「うん」

キリカ「こんなに待たせてごめん」


 ――――それが【私の希望】だから。


 やるなら今しかない。そうも思っていた。

 自分さえぶブレずに固まっていれば、何が起きたってもうあんなふうに崩れたりしない。


 願いを告げる。



 …………久しぶりに見たソウルジェムの輝きは、前に見たどんな時よりも綺麗に見えた。



―4日終了―


キリカ 魔力[120/120]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [体術Lv2] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv4] [格闘Lv3]


まどか【未契約】
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

--------------------
ここまで
次回は5日(火)20時くらいからの予定です

―5日 早朝
自宅


 ――……目を覚ました後、ベッドの上で明かりもつけずに寝転がっていた。

 明かりをつけなくても、窓から差し込んだ光が明るく照らしている。


キリカ(……こんなにメールが来てたんだ)


 ベッドの上で未開封のメールを一つずつ遡ってチェックする。

 安否を気遣うようなものばかりだった。それと、返信を促すメッセージ。

 それらを一番最後まで辿って、思わず呆れた。


キリカ「なに……これ」


 ……一目見てひどいと思うお弁当の写真。案の定作者はほむら。

 思った以上にしょうもなくて、そんなくだらなさに無性に笑いが止まらなくなった。


キリカ「ふふふふっ…………」


 目の端の涙をぬぐう。

 私が一人で街をうろついてた時、みんなこんなことで笑ってたんだ。


キリカ「……馬鹿みたい」

キリカ「本当に…………まったく」


 消えてしまいたいくらい嫌になるけど、本当は寂しいから助けてほしい。

 そんな最低な私を見てくれて、何があろうと手を放さずにいてくれる人たちはいた。

 みんなも……それから、事情は知らなくても、家族や魔法少女のことを知らない友達だって。


 だから、今度こそごまかさずに、嘘偽りなく。


キリカ「救うだけでも尽くすだけでもない……」

キリカ「ただ少しだけ恩返しをしよう」



 ――……後片付けを終えてキッチンから出ようとした時、お父さんが起きてきた。


キリカ「……おはよう、遅いよ」

*「おはよう。 キリカは早いな、どうしたんだ?」


 いつもの時間なんだけど、なんとなく悪態をついてしまう。

 特に朝の髭を剃る前のチクチクした顎とか、なんとなく嫌な感じがして避けてたけど。


キリカ「……はい」


 ……作り終わったばかりのお弁当を手渡す。


*「……キリカが作ったのか?」

キリカ「マズいかもしれないけどね。嫌だったらなんか買って食べてよ」

*「マズくても食べるさ。こんなこと滅多にないからな」

キリカ「マズくないし!」


 ……お父さんは笑っている。

 それから、お母さんがテーブルを指して言う。


*「今朝は朝ごはんも弁当も自分で作るって張り切ってたんだよ」

*「でも、あんなことがあったすぐで大丈夫なのかい? 昨日だってあまり食べられなかったんだし……――」

キリカ「別に無理はしてないよ」


キリカ「…………いつもありがとう」


 言った後も暫く照れくさかった。今まで近くに居すぎて蔑ろにしすぎていた。

 友達とかには言えるのに、素直にそう思えなくて言葉にも出せなかった。


 …………その時、チャイムが鳴る。


キリカ「ほむら?」

ほむら『はい! 久しぶりに来てみて……調子はどうですか?』

ほむら『今日は学校は…………』

キリカ「待って、今開けるよ」


 ほむらを玄関まで迎えに行ってリビングに通して、またキッチンへ戻る。

 ……追加で作らなきゃいけない分が増えてしまった。


ほむら「自分で作ってるんですね……」

キリカ「今日だけだよ?」

*「これからは作ってくれないの?」

キリカ「ええと……気が向いたら、ね」



1自由安価
2ほむらの弁当について

 下2レス

下1レスコンマ判定『料理の腕』
80~99,00で「結構な腕前」
※あんまり下を設定すると色々台無しになりそうなのでやめときます


キリカ「はい、ほむらの分」

ほむら「美味しそうです! なんでいつも自分で作らないんですか?」

キリカ「面倒臭いからに決まってるじゃん」

ほむら「え、もったいないです……料理上手じゃないですか」

*「これでも夕飯とかは作ってくれることはあるのよ?」

*「小さい頃なんて……」

キリカ「わーっ、それ以上私の過去暴露するの禁止!」


 ……今の自分があるのは、これまで育った環境のおかげだ。

 暗い思い出もあるけれど、考えてみれば良い思い出の方が多かったのに。


 ……チャイムがまた鳴った。


キリカ「こ、今度は誰?」


 確認してみると、まどか……と、さやかとマミまで。

 朝から大集合になってしまった。……みんな私を心配して来てくれたんだ。


*「あら……大変ね。まだ追加が必要なんじゃない?」

キリカ「…………えぇー」



 ……朝から大分労力を使った気がする。

 まどかとさやかは家でも食べてきたみたいだけど、

 ほむらの褒めちぎるような発言から興味がわいたらしく少しだけ用意することになった。


 ……まあ、恩返しはできたからいっか。


まどか「励ましに来たつもりがお世話になっちゃって……ごちそうさまです」

マミ「ごちそうさま、早く出るために朝食抜いてきちゃったから助かったわ」

さやか「でも意外っていうか色々と反則ですね、あの料理教室は一体……」

キリカ「あの時はついていっただけだったから」

ほむら「あ、あれはもう忘れてください…………」


 あの一件はほむらにとっては黒歴史になったらしい。



1自由安価
2とりあえずみんなにお礼を言う
3例のほむら弁当について

 下2レス


キリカ「……来てくれてありがとう」


 みんなにも素直にお礼を言う。

 やっぱりこう改まって言うとちょっと照れくさい。


さやか「……それは今日の話ですか? それとも昨日の?」

キリカ「どっちも」

マミ「こんなにおいしいご飯が食べられるならまた来ちゃおうかな」

キリカ「たかりに来る気か」

マミ「和食は大して得意じゃないし食べる機会もないのよ」


 ……そう聞いて、さっきの写真が脳裏を過ぎった。


キリカ「……ほむらは?」

マミ「魚を焼いて無理矢理弁当箱に突っ込んだだけで和食になりますか!」

さやか「でも高級魚らしいですよ」

キリカ「高級魚が泣くよ……」


 多分織莉子の家の冷蔵庫にあったんだろう。


マミ「だから、出来れば暁美さんには和食を覚えてほしいんだけど……教えてくれる人がいないのよね」

キリカ「…………わかった、じゃあ今度見てみるよ」


 ……これだけ期待のまなざしで見られては仕方がない。

 でも私、うまく人に教えられるのかな。

 そういうのが初めてで、褒められるのも慣れてなくて、また少し照れくさい気持ちになった。


*「最近本当に賑やかになったね。それに楽しそう」

*「いきなり落ち込むことも多くて心配したけど、これだけ思ってくれる友達が出来たなら安心だとも思うんだ」

キリカ「……うん!」

キリカ「じゃあ、行ってくるよ」


 みんなもぺこりと挨拶して、大勢で外に出る。

 いつもの通学路もこうしていると、また違う道のようだった。


 ……学校に着いて自分の席に荷物を置くと、トイレに向かった。

 鏡を眺めていた。

 傷は治してもらったもののパサついた髪がまとまらず、目の下の隈が取れずに眼窩の窪みを深く見せていた。


キリカ(どうにかできないかなー……)


 治るのを待つしかない。

 というか、前……いつかの過去だといっつもこんなだったような気もする。それで気にしてもいなかった。

 ……何が出来るでもなくそうしていると、クラスメイトが来て囲まれた。


*「呉ちゃん、昨日どうして来なかったの?」

*「なんか大変だったって聞いたよ」

キリカ「え、あー、うん。もう大丈夫だから……」

*「でも顔色悪いよー。目のとこちょっと隈出来てるし」


 むにーっと頬をつままれる。


キリカ「んむ……やめてよ気にしてるのにー」

*「おすすめのクリーム貸したあげる!悩みあったら相談して!」


 ……クラスメイトにまで心配されるなんて、思ってなかった。

 いくら演技してごまかし切れる気でいたって、きっと見ている人は見てるんだろう。

 なんといったって、私は自分の心すらごまかしていたことに気づけなかったのだから。


 それからお昼の時間になると、今日はいつもの教室ではなく屋上に行ってみた。

 ほむらは原点回帰とでもいうように今日はストレートに下ろしたままだった。

 ……いや、本当の原点回帰は三つ編みなんだけど。


キリカ「ほむら、今日は朝のまま?」

ほむら「はい。たまにはこのままが見たくなったらしいです」

仁美「そのままでも十分素敵ですわ。暁美さん、髪綺麗ですし」


 屋上というと、この人もいる。

 ……私がなんとなく苦手に思って避けてた人。なんとなく、『本人』と会う前に予行練習がしたかった。

 全然違う人なのに。そう考えるとちょっと失礼な話かもしれないけど。


さやか「なんか良い匂いがする」

キリカ「クリームの匂いかな?」

まどか「ケーキでも持ってきたんですか?」

マミ「そっちのクリームじゃないと思うけど……この匂いよね?」


 マミまで近寄って匂いをかぎはじめた。


キリカ「近い近い」


まどか「あ……やっぱ、そういうの気遣ってるんですね」

キリカ「これは私のじゃないけど…… まどかも気になるの? 」

まどか「ママが使ってるのを見ることはあるんですけどね……」

キリカ「ママさんの? こう言っちゃ悪いけど私たちとは年齢が違うんじゃ……」

さやか「そーそー、こんなにぷにぷにのまどかには必要ないってば」

まどか「きゃーさやかちゃんやめてよー」


 ……さやかがまどかの頬をつまんでいる。それを見て朝のことを思い出した。

 たしかに、まどかの肌って綺麗なんだよなぁ。


1自由安価
2便乗してまどかをほめてみる
3仁美を見つめてみる

 下2レス


キリカ「確かに綺麗だよね。羨ましいなー、ニキビもないし荒れてるとことかいっこもない」

まどか「そ、そうですか?」


 さやかに続いて私もまどかのほっぺたに手を伸ばしてみる。

 痛くしない感じでむにーと引っ張ってみよう……


キリカ「おお、のびるのびる」

まどか「うう、キリカさんまでー」

さやか「赤ちゃん肌ですな」

まどか「それって喜んでいいのかなぁ……」

マミ「喜んでいいわよ。今のうちだけかもしれないし……」

まどか「そ、そう言われると怖いですね」


キリカ「ほむら、お弁当どう?」

ほむら「美味しいです! 見た目も綺麗ですし」

キリカ「どのおかずが一番美味しかった?」

ほむら「ゴマいっぱいのほうれん草が良いですね。それにこの出汁巻き卵が美味しくて!」

マミ「あら、出汁巻きなの? 意外」

キリカ「ああ、それお父さんの作った時の余りだったから」


 絶妙にサイドメニューばっかりチョイスするのがほむららしいけど……。

 好評ならまた作ってみようかな。

 そう思っていると、仁美ちゃんも興味ありげにお弁当を覗いていた。


仁美「ご自分で用意なさってるんですね……感心します。うちだといつも使用人に任せきりですから」

キリカ「ちょっと食べてみる?」

仁美「よろしいんですか? それにしても良く出来てます」


 ……偏見さえ取っ払えば悪い子じゃないのはわかってる。

 この子とも打ち解けられるようになっていければいいな、なんて思いながら屋上でのお弁当を楽しんだ。


 これから暑くなってくると、ここで食べる気もしなくなる。一番気持ちいいのが今だろう。

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ここまで
次回は7日(木)20時くらいからの予定です

このキリカは俺の嫁

他のキャラもだけど、原作の末路が悲惨すぎるから結婚というと色々複雑な気持ちになるなぁ…
>>911 幸せにしてやってください
ttps://i.imgur.com/RaI7fNd.png
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 屋上から戻る途中、廊下で二人になったところでマミと話す。


キリカ「今日も訓練、するよね?」

マミ「そのつもりだけど、暁美さんは今日は参加しないって」

マミ「戦いに使う爆弾を用意したいみたいだから」

キリカ「あー、そっかぁ……強力なんだけど自分で作らなきゃいけないのは大変そうだね」

キリカ「私も帰りは少しやりたいことがあるんだ。ちょっとしたらそっち行くね!」

マミ「ええ、わかったわ」


 途中で別れて、それぞれの教室に戻る。

 午後の授業が始まるまでの少しの間、また前の席の彼女と雑談をしていた。

 ……そういえばこの前雑誌を買おうとして忘れてたことに気づいた。まだその話が出来ないのが少し悔しい。


―――

―――


 『学校はこれからも来なさいよ』――そう言われたから仕方なく来たのだけれど。

 結局私はこの日も半日で帰ることになってしまった。


 今度こそ全てを話す羽目になって、彼女の私を見る目は厳しいものになった。


小巻「……………最低ね」

小巻「二人とも」


 今までのような悪意のない『嫌い』じゃない。

 怨嗟の込められた紛れもない嫌悪。


織莉子「……『最低』なのは私だけにして頂戴」

織莉子「あれはただの駒。私が壊し籠絡した、人格の無い人形。全ては私の罪よ」

織莉子「もっとも……もし貴女を協力者にしていたなら受け入れてはくれなかっただろうというのもわかってはいたわ」

小巻「そうやって全部の罪を被って、自分のせいだって言っておけばいいと思ってんの?」

小巻「……酷い顔してるわよ」

織莉子「!」


織莉子(誰か……)


 自分を肯定してくれる『誰か』を求めた。

 思えば私はあの世界において、これまで誰かに自分の罪を否定されたことなどなかったのだ。


 ――……思い出したのは、違う世界で私自身が望んだ茶番だった。

 ついに全ての罪を暴かれたまま救世を諦めた私は、

 肯定してくれる人を失ってしまう前に、わざわざ恨まれ憎まれ裁かれるためにそこに出た。


 あの時一番に私を否定し恨んだ姿――“彼女”の姿が過ぎる。

 人格の無い“彼女”はもう居ない。彼女でさえ『人形』であることをやめてしまった。


 ……それでも、今は私の周りに人は居る。味方が、友達がいる。

 しかしきっと私の“罪”までは肯定してはくれない。

 みんなは私の『人形』ではなく、意思と人格を持った一人の人間なのだから。

―美国邸


杏子「おう、今日は早かったな。サボりか?」

織莉子「……みんなに会いたくなった、って言ったらどうかしら?」

杏子「あたしらしかいないけどな。まあ珍しいって思うよ、冗談でもアンタがそんなこと言うなんて」


 杏子は冷静な目でじっと私を見ている。意志の強い、少し切れ長に吊り上がった目が今はどこか怖く感じた。

 それに耐えられなくなって顔を背けた。……洗い物が溜まっている。


織莉子「まったく、家に居るなら少しは家事にも貢献してくれたらいいのに……」

杏子「……だって、いつもアンタが張り切ってやってるじゃんか」


 ……そう言われてハッとした。

 みんなは訓練やパトロールで忙しい、自分の役割だからと進んで仕切っていたのは私だ。

 私は結局いつだって自分で自分の首を絞めている。


 一通り溜まっていた家事を終えて、冷たくなった指を擦り合わせる。

 リビングには賑やかな声が響いている。


織莉子「…………」


 ……再びやることがなくなると、昨日の事を思い浮かべてはため息をついた。


 この世界に来て、仲間が増えて、友達も増えた。 ここ最近の私は『満ち足りていた』。生活も、心も。

 昨日、私を突き動かしていたのは責任感じゃない――――『友達』だったキリカが死ぬのが嫌だったから。

 私が助けたかったのは『人形』ではない。

 なのに、不安定になればそれを求めて、満ち足りていれば疎ましく思う。


 それは……『それは卑怯なんじゃないか?』


織莉子「!」


 ――――賑やかな声のしていたリビングに目を向けると、そこに居るはずのない幼い頃の自分の姿が見えた。


織莉子(また、幻覚……)

「どうしたの?」


 そこから発せられる言葉に身構えて思わず後退った。いつだって、私を否定するのは私自身。

 継ぎはぎだらけの愚かな私を嘲笑い、狂気に染まった笑みを浮かべる歪みの結晶。


 しかし、『私』は私に再び優しく声をかけた。


ゆま「……いちごさん、どうしたの?」


 ……違う。ゆまさんだった。

 私がずっと見つめていたからか、心配するようにこちらを見上げている。


織莉子「いえ、なんでもないわよ?」

織莉子「そろそろマミたちも学校が終わる頃ね……今日も訓練に行くんでしょう?」

ゆま「うん! ゆまね、きのうはキリカのけがをなおせたし、できる気がしたの」

ゆま「きっとキョースケのうでも今度こそなおせるようになるから……!」

杏子「……そうだな、また次のこともさやかとも話し合わないとだしな。そろそろ行ってくるか」

織莉子「……ええ。いってらっしゃい」


 ……一人になって、気分を落ち着けようと紅茶をセットしはじめる。

 ポットからお湯を入れて、茶葉が蒸れるまでの時間を待つ。


 そしてふとまた思い浮かんだ。……さやかに言われた言葉。私に向けられた怒り。

 私は……なんとかしなければと駆けつけておきながら、結局なにもできなかった。


 みんなは私が壊した後の『人形』ですら救おうとした。


 彼女が立ち直れたとしたらみんなのおかげで、

 ……もしも彼女になにかあったら私の責任なのかもしれない。



織莉子「…………」


 ティーポットから紅茶を淹れて、カップを持つ。しかし適温にはまだ熱い。

 …………無意識に心に溜まった感情ごとぶつけるようにテーブルに置いて、カップの中身の熱湯が溢れた。


織莉子(……わたしは何をやっているのだろう)


 そんな私にまた居るはずのない姿が声をかけた。


キリカ「……また私が必要かい?」

織莉子「…………キリカ?」

キリカ「嬉しいよ! だってキミに望まれなくなったら私は腐り果てて消えるしかないんだよ?」

キリカ「キミが求めてくれるなら私はいつまでも愛し生きつづけよう。この身と心、全部を砕いてでもキミのために捧げるよ」


マミ「それとも私かしら?」

マミ「ねえ、美国さんはずっと私の傍に居てくれるんでしょう? 今度こそ私より先に死んでは駄目よ」

マミ「美国さんは私と同じ志を持って一緒に居てくれる唯一の人。貴女にまで捨てられたりしたら私は生きていけないわ」

織莉子「…………」


 幻影は崩れ去る……――

 ――――『そんな人たちいないよ?』 嘲笑うのは子供のような甲高い私の声。


織莉子「…………わかってるわよ」


 必要な時だけ求められる都合の良い『人形』なら、

 自分の心の中にでも飼っておけば今度こそ誰にも迷惑をかけずに済むのかもしれない。


 妄想から現実に帰って、液体の零れたテーブルもどうにかする前にチャイムが鳴ってしまった。

 ……続けられる言葉はない。

 けれど、確認するようにインターホンに目をやると、出ないわけにはいかなくなった。


 玄関に迎えに出ると、さっき見た幻影と違わぬ姿がそこにあった。

 一つ違うところと言えば――頭に見覚えのない髪飾りがあるくらい。そういえば昨日見た時も着けていた。

 昨日だってお互いぎこちなくほとんど話すのを避けていたのに、一体何をしに来たのだろう。


キリカ「……久しぶり」


 昨日も会ったのに、彼女が発したのはそんな言葉だった。

 覚えてないということはない、と思うけれど。


 彼女の肩に手を伸ばすと、驚いたように少し肩を竦ませて声を上げた。


キリカ「わっ……何?」

織莉子「……たったさっき会ったばかりじゃない」

キリカ「さっき……? 会ってないよ。誰かと見間違えたんじゃない」

織莉子「そう。じゃあ本物なのね」

キリカ「……それより上がっていい? いいよね?」

織莉子「え、ええ、ちょうど紅茶を用意したところよ。貴女の分も淹れておくわ」


 ほぼ私が返事を返す前に中に上がり込んでいった。

 ……この子、こんなに図々しい性格だったかしら。

 そう思ったけれど、やはりさっきの幻影でもない、キリカ以外の何者でもなくて受け入れるしかなかった。


キリカ「あ、昨日のはノーカンにして仕切り直しだからね」

キリカ「……仕切り直しにして、キミに会いに来たんだ」


 廊下を進んで、リビングへと入って足を止める。

 すると、キリカは荒れたテーブルを見て、私を見て……それから私の手に視線を移して手を伸ばしてきた。


織莉子「……!」


 ……指先が触れると、私はその手を振りほどいた。

 未だに熱湯のひりひりと焼けるような感触がしていて、さっきの失態の痕が残っている。


キリカ「……手出してよ。逃げないで」


 キリカは少しだけ強い口調で私を責めるように言った。


織莉子「……何故?」

キリカ「いいから。別に痛くしないから」


 キリカが少し強引に私の手首を掴むと、

 赤みがかっていた色が抜け、痛みがなくなっていく。

 彼女の手元を見てみれば、その指の根本に光るリングがあった。


キリカ「……私、契約したんだ」

織莉子「!」








織莉子「……それを伝えに来たの?」


 ――――治療が終わると、織莉子はまたさっきよりも強引に私の手を振りほどいた。


 そして、まるで迷惑というように突き飛ばされる。


キリカ「っつ……」

織莉子「……やっぱり偽物とは違う」

織莉子「否、本物か偽物かなんてどうでもいい。私にとって必要なもの、この目に見えるものだけが私にとっての真実だわ」


 こうやって人に当たる時の織莉子はいっつも不安定だ。

 この世界に来てからはずっとこんなふうじゃなかったはずなのに。

 私のせい。……違う。織莉子自身も問題を解決できていないから。


キリカ「……何の話かわかんないけど、偽物っていうなら君はまた偽物に逃げてるよ」


キリカ「私たち、この前の世界じゃ敵対したよね」

キリカ「あの時、君を見て感じた印象……実はどこかで覚えがあるって思ったんだ」


 ――不敵な、見透かしたような胡散臭い笑み。

 取り繕いもせず、自ら黒い部分を見せつけるかのような振舞い。本能から感じる不信感、嫌な感じ。


キリカ「……やっと思い出した。そのまた一つ、二つ前の世界でも君に会った時抱いてた印象だった」

キリカ「私は本当は、そんな君のことが苦手だったんだ」

織莉子「……!」

キリカ「確かに私はその前にも君に会ってた。その時は助けられた」

キリカ「でも、そんな人だって知ってたら……友達になりたいなんて思わなかっただろうね」


 腕を振り上げられる。

 ……起き上がる前に床を転がってそれを避ける。

 織莉子は驚愕か狼狽か、それとも怒っているような……そんな険しい表情をしていた。


 そこに私は一発だけ、いくらか手加減をして反撃を加えた。


 ……ぱちんと音が響いて、織莉子は更に目を見開く。

 それからまた力任せに振るわれた腕を掴んで、押さえ込むように後ろに回った。


キリカ「待って、まだ聞いてよ!」

織莉子「……ッ放しなさい!」

織莉子「恨み言を言いに来たんでしょう……一応覚悟はしていたつもりだったのよ、この世界がはじまってから」

織莉子「そんなに私のことが嫌いなの」

キリカ「断罪されるなら仕方がないなんて言ってたくせに」

キリカ「本当にこれ以上続けたいなら受けて立つよ? 今度こそ負けないから」


 強く言い放つと、織莉子は諦めたように力を抜いた……というより無気力に脱力したというのに近かった。

 前に戦ったのは互いに魔法少女という前提があってのことだ。

 私に戦う意思があれば、契約してない織莉子じゃどうしたって私に勝てない。


キリカ「……知ってると思うけど、私だってそんなに出来た人間じゃない」

キリカ「なんでも許せるほど器大きくないし、本当は大して強くもないよ」

キリカ「君だってそうでしょ。織莉子だっていつまでも弱い部分を隠していられるほど強くないんだから!」


 織莉子を放すと、今の騒ぎでひっくり返してしまったティーカップを直して零れた紅茶をハンカチで拭う。

 テーブルから床まで伝って高級そうなカーペットを濡らしていた。

 ……これはすぐには落ちないかもしれない。


 『出てって』と言われるならもう今日はこれまでかもしれない。

 そう思って織莉子を見て、それから暫く沈黙が続くのを確かめて私は言葉を続ける。


キリカ「そういえばさ……今思えば、随分と上手になってたよね。魔力のコントロール」

キリカ「昔は下手くそだった」

キリカ「もし今も『魔法』が使えたら、今は使いこなせると思う?」

織莉子「……昔なんて。そんなの、私が成長したわけじゃない」

織莉子「……そうよ。私は自分の心すら自分では救えない」

織莉子「救ってくれたのはいつも貴女」

織莉子「従えて、余裕ぶって、大人ぶっているつもりでいて、貴女がいなければなにもできなかったの」

キリカ「救ってないよ」

キリカ「私は……君のことを救ってなんていない。私はただ偽りで居続ける事を強要しただけ。他の何でもない、自分のために」

キリカ「今になってこう言うのは卑怯なのかもね。不安定な時だけ求めてたくせにって」


 ……未だ脱力したようだった織莉子が、はっとしたように顔を上げた。


キリカ「あの時君と一緒に居るのは、別に私じゃなくても良かったんだ」

キリカ「マミだったかもしれない、もしくはさやかとか、知らない人だって……」

キリカ「…………だから私は、今度こそ替えのきかない『友達』として仲直りするためにここに来たんだよ」

キリカ「それに、織莉子が私を救ってくれたことならあったから」


 もう一度織莉子の白い手を取る。

 織莉子はまだなにも答えなかった。しかし、その代わりに、嗚咽が聞こえてきた。


 ……こういう時相変わらずどうしたらいいかわからない。

 わからないから、そのままじっと傍に居ることにした。



1自由安価
2…………落ち着いたかい?
3紅茶が飲みたいな

 下2レス

2+3

----------------------
ここまで
次回は9日(土)18時くらいからの予定です

乙です

キリカが持ち直したと思ったら、今度は織莉子が不安定な状態に…根は似たもの同士なのかなぁ、この2人は

>>912
これは可愛いキリカですね、ひょっとしてスレ主が描いたんですか?
とりあえずお持ち帰りしていいですか?

-----------------------
>>930 はい。持ち帰りはどうぞご自由に~


もしリクエストを受け付けているなら結婚相手を待って料理しているキリカとかみたいです
エプロンありで



 それからもう一つさやかがしてくれたみたいに、抱きしめてみた。

 いつも見上げる位置にある頭が今は私の下にある。私の腕の中で泣く織莉子はなんだかいつもより小さく見えた。

 ……やがて、目が合う――やっと、本物に会えた。


キリカ「…………落ち着いたかい?」

織莉子「乱暴してごめんなさい…………本当は貴女を傷つけたいわけじゃないのに……」

キリカ「紅茶が飲みたいな。用意してくれるんでしょ?」

織莉子「多分ティーポットにはまだ…………冷めてるわね……」


 ティーポットを覗いて、織莉子は落胆したように言った。


キリカ「冷めててもいいよ」

織莉子「はぁ、ごめんなさい……何から何まで……」

織莉子「……ハンカチ洗っておきましょうか?」

キリカ「いいよ、このくらい」

織莉子「やっぱり渡して。だって、そうすればまた取りに来てくれるでしょう?」


 織莉子はそんなことを言って、催促するように手を差し出してきた。

 ……濡れたハンカチを手渡す。


キリカ「……そんなのなくても行くよ」


 二人でテーブルを挟んで座って、中途半端な温度に冷めた紅茶に口をつける。

 ……マミの趣味が混じってるのか、前に織莉子の家で飲んだ時とは少し違う香りがした。

 誰かの影響がなければ紅茶なんてほとんど飲まないから、詳しいことはわからないけれど。


織莉子「……貴女は私のことを偽物に逃げてるって言ってたけど、私は元々偽物だったのよ」

織莉子「そんな私を変えて、色んな事を教えてくれたのが貴女やみんな」

織莉子「それがなければ、私はずっと冷たく歪んだ人間のまま、偽物に逃げていた」

織莉子「だからあんなことが出来たの……」

キリカ「……どっちを本物と思うかなんて、捉え方にもよるんじゃない」

キリカ「確かに嫌なほうを本質だと思いがちだけど、それだけじゃないよ」


 ……恨んでた時にはそんな考えは出来なかった。

 私が子供の頃のことだってそう。


織莉子「私は、お母様が死んだ子供の頃のまま……大事なものが育たずにここまできてしまったのよ」

織莉子「貴女達と一緒に居たから気づけたの」

キリカ「……今でも『織莉子』であることをやめたいと思うの?」

織莉子「ある意味ではそうね。私は……これからみんなと一緒に成長していきたい。……一人の人間として」



1自由安価
2そう思えるなら成長してるよ、きっと
3訓練に向かおう

 下2レス


キリカ「そう思えるなら成長してるよ、きっと」


 紅茶を飲み干して立ち上がる。


織莉子「どこに行くの?」

キリカ「魔法少女になったからには、また訓練もしなくちゃいけないから」

キリカ「織莉子も見に来る?」

織莉子「私は……」


 『行かない』とも『行く』とも言わない、

 どちらかと言えば『行かない』寄りにも聞こえる曖昧な言葉に焦れて、また手を掴んで引いた。


キリカ「どうせやることないんでしょ」

織莉子「行ったところで何もできないわよ?」

キリカ「私もそうだったけど、なんもできないわけじゃないよ」

キリカ「一人でいたら気が滅入って嫌な考えばかり頭に浮かぶんだよ、みんなのとこに行こうよ」

キリカ「差し入れでも持っていけばみんな喜ぶんじゃないかな」

織莉子「……それなら途中で何か見てくるわ。先に行ってて」

キリカ「じゃ、ホントに来てよ? 差し入れ楽しみにしてるからね!」



 織莉子と一旦別れると、いつもの場所に向かう。

 ……契約したからか、気分の問題か、前より身体が軽くなった気がした。

――――
――――


 ――――刃を向けて、敵を斬って走る。

 やられたくないから『先にやる』しかない。

 そんな異常に逆立った心のまま、結界の主を引き裂くと、灰色の空間は消え日常に放り戻された。


 また見知った通りを歩き出して、喉の渇きを癒すために近くのコンビニに入る。

 棚から飲み物を取ってレジに並ぶと、手を滑らせて財布ごと中身を落としてしまった。


キリカ(あぁ、もう……なにやってるんだよ)


 きっと後ろの人も同じことを思ってる。

 うんざりした気持ちでしゃがむ。苛立った視線を受けて焦って、慌てて、更に苛立ちは募る。

 自分に。周りに。すべてに。


キリカ(なんでこんなに上手くいかないことだらけなんだ)

キリカ(望んでもない非日常……それどころか、日常に戻ってすら……)


 学校は友人もいるし、楽しくないってわけじゃない。 私は『変わった』ように見えるらしいけれど……

 自分のことなのに『変わる』前がわからないから、違う人の話でもされてるみたいで良い気がしなかった。

 本当は望んでこうなったはずなのに、納得の出来ない、自分の中に足りない部分がある恐怖。


キリカ(なにもかも――――)


 その時、一人の少女の姿が目の前に現れた。


織莉子「大丈夫?」



 ――――その性質は『不変』。

 叶わない願いに諦観と失望を叩きつけて世界を恨み、殻の中に籠るいじけた子供。


 白黒の結界は変わらない。

 けれど、自分の身体どころか心すら抜け殻としたいつかの末路とは全く違う『性質』を持っていた。

 卵を足先でつついて揺らす。


 殻の中の子供は空を見上げて目を細める。


 二人でこの通りから踏み出していく。

 逆立った気持ちはもう消えていた。

 日差しの当たる公園で、穏やかな気分で話をして、笑って。


 二人から四人へ。四人から七人へ。

 私の知らない、よく知った暖かい光の中へと。



 たとえこの後に絶望に包まれようとも、もう―――――



キリカ「――――……もう、大丈夫だ」


 ……やったことはどうしようもない。私も織莉子も、地獄に落ちて当然の人間かもしれない。

 きっとそうなるとしたら、全てが終わって再び私の中で辿った因果がバラバラになる時。

 そんな時が来るかはわかんないけど。


キリカ「……でも、その時までは荷物を持つから」

キリカ「だから、一緒に行こう」


 ――――私の願いは叶ったから。

 願い【自分】すら否定し作り上げた偶像でもない。私が本当に願ったこと。

 …………幼い頃私が出した答えは今度こそ否定できる。


 私は、『変わることができた』。

 そして、これからもみんなと一緒に『変わり続ける』だろう。

―見滝原大橋


 いつもの訓練場所に行ってみると、みんな魔法の訓練をしていた。

 ゆまはいつもどおり治癒魔法を鍛えているらしく、マミがそのコーチ。杏子も隣で自分の魔法を訓練している。


 ……そして、今日はさやかとまどかも居た。


キリカ「お疲れ様ー」

マミ「あら、用事は済ませられた?」

キリカ「いちおー。私も混ぜてよ!」

杏子「混ぜるって、ほむらなら今日はいないぞ?」


 ……なんでまた混ざるといったらほむらと格闘やることになってるのかはわからないけど、

 それを聞いて自慢するかのような嬉しそうな様子でまどかが出てきた。


まどか「杏子ちゃん、みんな!」

杏子「なんだよ?」

まどか「わたし、魔法少女じゃなくなっちゃいました!」

杏子「それって……」

キリカ「私、契約した!」


 私はそれより更に自慢するかのように胸を張って、リングのある手を見せつけた。

 ……このやりとり、覚えてる人にとっては思わず吹き出しそうなくらい懐かしいんだけどなぁ。


杏子「そうか……やっとか」

キリカ「うん、杏子とだって訓練できるよ? ちょっと怖いけど」

杏子「頼まれなくてもまた鍛え直してやるよ。日が空いてたるんでそうだからな」

キリカ「ひゃっ」


 杏子がわき腹をつっついてくる。


キリカ「摘もうとするなよ、たるんでないでしょ!」

杏子「……確かにないな。本当にもう大丈夫なのかよ?また食いにいくか?」

キリカ「大丈夫……でもすぐにはいいよ」

マミ「まだ身体が本調子じゃないなら、今日は魔力のコントロールを見てみる?」

マミ「そっちだって鍛え直さなくちゃ」

マミ「ちなみにゆまちゃんはこの前の時から結構上手になったわよ?」

杏子「ゆまに教えてもらうか?」

キリカ「えー? なんか想像つかないけど……」

さやか「でも、昨日マミさんでも難しかった怪我を治したのがゆまなんですよ」

さやか「それで、上達してるって自信がついたから明日また恭介の腕治すの決行しようって」


キリカ「そうだったんだ……ごめんね、軽んじたわけじゃないよ。あんなに毎日訓練頑張ってたんだもんね」

ゆま「いーよ、ゆま魔力つかうの上手になったからおしえられるよ!」

マミ「教えるのも訓練になる……かしら?」

キリカ「ええっと……」



1自由安価
2ゆまに教えてもらう?(魔力コンLvアップ重視)
3ゆまの魔力を『観察』させてもらう(封印結界判定アップ)
4さやかは今日はお見舞いには行かないの?

 下2レス


キリカ「……ていうか、そんな話になってたんだ?」

キリカ「さやかは今日はお見舞いには行かないの?」

さやか「えっと……まあ……」


 そう聞くと、さやかは言い渋ったような返事をした。


マミ「この前上条君とちょっと揉め事があったみたいで」

キリカ「えっ、腕のことについて?」

さやか「そうなんですけどね……」

さやか「明日、ゆまが恭介の腕を治せたらもしかしたら元通りにできるのかもしれないけど」

さやか「やっぱそうやってゆまに頼るだけじゃ駄目な気もしてて」

さやか「……今日のうちにあたしにできることっていうのがわからなくて、こうしてるところです」


 さやかはそう言って苦笑いをした。……私がいない間にそんなことが起きてたんだ。

 さやかも悩んでたのに私の事でも心配をかけてしまった。

 私も何か言ってあげたいとは思うけど……どうしたらいいんだろう?



1自由安価
2会ってみるしかないんじゃない?

 下2レス


キリカ「会ってみるしかないんじゃない?」

さやか「でもー……」

キリカ「勇気が出ないなら、訓練終わったら私も一緒に行くから」

キリカ「答えは出ないかもしれないけど、何が出来るかはそれまでに考えておいてよ」

さやか「……わかりました」



1自由安価
2ゆまに教えてもらう?(魔力コンLvアップ重視)
3ゆまの魔力を『観察』させてもらう(封印結界判定アップ)

 下2レス


キリカ「じゃあゆま、魔力の扱いについて教えてよ」

ゆま「うん!」


 …………そうしてゆまをコーチに久しぶりの訓練をはじめてみると、

 説明はかみ砕かれていて感覚はわかりやすい。

 意外な才能かもしれない。


ゆま「あっ、キリカ……それじゃ“あんてー”してないんだよ」

キリカ「え、どうすればいいの?」

ゆま「弱いときはうまくいってるんだから、いっぱい出しても同じなんだって」


 ……私の方はというと、前より致命的に“集中力”が落ちている気がした。

 単に間が空いたから集中する感覚がわかりにくくなっただけ……だと思うけど。


 ――少しして、自分の訓練の区切りがついたらしい杏子がここを離れようとする。


杏子「あたしはそろそろパトロールに出てこようかな」

ゆま「朝もいったのに?」

杏子「午前中行ったのは風見野だろ」

キリカ「あ、待って。もうちょっと離れない方がいいよ」

杏子「なんでだよ」

キリカ「杏子は一番後悔するかもしれないから」


 ……そういえば織莉子、どこまで買いに行ったんだろう。

 そう思っていると、通りのほうから声がした。


ほむら「みなさん、訓練どうですか?」


 ほむらまで一緒に居る。なんだか大荷物だった。

 ホームセンター帰りらしい大きな袋と、林檎が入った袋を抱えて大変そうだ。


キリカ「ほむらも一緒なの?」

織莉子「途中で会ってね。折角だから一緒に寄ることにしたのよ」

ほむら「私はまだこれから家で作業をしますけどね……」

マミ「そう。こっちもまだこれからってところだけど、暁美さんが抱えてる荷物がもしかして……」

ほむら「はい、『武器』の材料の買い足しの帰りです。ついでに差し入れをと思って…… きゃっ」


 林檎をぶちまけそうになったほむらを織莉子が支える。


織莉子「危なっかしいわ。やっぱり私が持ってたほうが……」

ほむら「気を付けます……でもあと少しですし、これも訓練のうちですから!」


 ……私の知らない間に二人が大分仲良くなってる気がするのは、この世界が始まる前からなんだろうか。


織莉子「差し入れ、持ってきたわよ」

杏子「おお、うまそうだな! 気が利くじゃん」

キリカ「どうやって分ける? どうやって分ける?」


 訓練を中断して、二人のほうに駆け寄っていく。

 ……みんながそんな様子を少し不思議そうに見ていた。

 しかしみんな口には出さない。……『仲良くしてるなら良いか』ということだろーか。


杏子「一人一個はあるな……どうやっても何もそのままガブリでいいだろ。一番無駄がないぞ」

さやか「相変わらずなんだから。余りは?」

まどか「切り分けるなら、小刀はどうでしょう?」


 ……一斉にこっちに視線があつまる。


ほむら「……あ、そういえば投擲はじめたんでしたね」

マミ「剥いてくれるならそれでも」

キリカ「え、久しぶりの出番がそれ?」


 小刀か。……折角射撃もちょっと自信出てきたところだし、なんか今でも有効活用できないかなぁ。



1自由安価
2一つはお見舞いに持ってったら?
3ほむらの買い物袋について突っ込んでみる

 下2レス


キリカ「一つはお見舞いに持ってったら?」

さやか「!」

ほむら「お見舞いに林檎なら定番ですね」

織莉子「多めに買ってきて良かったわね」

さやか「物で釣るわけじゃないけど、手ぶらよりいいか……じゃあ持ってってみます」

キリカ「……やっぱ緊張してるんだ」

さやか「だって、顔合わせるなり『出てけ』とか『来るな』とか言われたらどーしよーって」

キリカ「それでも行かないよりいいよ! それに……上条君だって本心からそんなこと言わないよ」

キリカ「……ね、まどか?」


 この中じゃ一番二人に詳しいまどかに話を振ってみる。


まどか「はい!」

まどか「それに……一人にしてほしくなることはあっても、本当の一人って寂しいと思う」


 ……その気持ちは私にもよくわかった。

 でも、昨日はそんなときに来てくれたのがさやかだったから。


キリカ「……さやかなら大丈夫だよ」

さやか「…………はい」


 ――……訓練を終えて、さやかと一緒に上条君のお見舞いに向かうことにした。

 病院の前でさやかが足を止めて、こっちに振り返る。


さやか「……着いてきてくれてありがとうございます」

さやか「やっぱ、ここから先はあたし一人で行ってきます」

さやか「キリカさんやみんなは腕が治ってからお祝いで会ってあげてください。そのほうが楽しく話せると思うので」

キリカ「大丈夫?」

さやか「はい。あたしに今してあげられることっていうの考えて、辛い時こそ傍に居てあげるのが『友達』っていうか……」

さやか「…………『恋人』 なのかなって思って」


 さやかは少し照れたように言った。


さやか「もう『出てけ』とか『来るな』とか『脱げ』とか言われてもめげないつもりです」

キリカ「うん…… え、脱!?」

さやか「はい。……ホント、ありがとうございました!」

さやか「こうやって勇気づけてくれるの、もう何度目かわかんないですし」


 ……思いもよらない言葉が出てきてびっくりしたけど、

 今度こそにっこりと笑うさやかを見て、私は帰ることにした。


 私にできるのは勇気づけることだけだ。

 ……邪魔はしちゃいけない。二人は『恋人』なんだから。

----------------------------
ここまで
次回は10日(日)18時くらいからの予定です

つ次スレ
『オール安価でまどか☆マギカ 20』:
オール安価でまどか☆マギカ 20 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1504964306/)

>>932
つ一応描いてみました。背景とか割と雑ですが
ttps://i.imgur.com/AGYoxJm.png

乙でした

もう一人のキリカ(?)も答えが出たようですね
これでキリカの精神面の方は大丈夫かな?あとはエリカと和解できれば…

>>969
これも素晴らしい!キリカの鼻歌が聞こえてきそうですし幸せそうで何より
次は小太刀二刀ver魔法少女姿のキリカをお願いしたいです

―美国邸 書斎


織莉子「…………」


「友達と仲直りできてよかったね。でも、本当に欲しいのはそれだけじゃないよね?」

「私は『友達』にも『駒』にもなれるよ。君にふさわしい、本当に君が求める私になれるよ」


 後ろから肩に置かれた手は誰のかわからない。

 聞き慣れた声は私の望みに合わせるかのように変化する。


「だって友達は【あなたの本当に嫌な部分】までは認めてくれないもの」

「それだけじゃあなたの心は満たされない。貴女の不安は紛らわせない……だから私を求めるんでしょう?」


織莉子「……そんな姿をしてるからいけないのよ」


 ――振り返ると、やはりそこに居るのは自分自身だった。


織莉子「自分の中でしか完結しない、自己満足の幻影に友達の姿を使わないで」

織莉子「所詮どうしたってそれは自分自身よ……」

織莉子「自分で自分を責めて、その上罪から逃げようとして慰めてほしいって、それ自体が私の弱さだわ」


 幻影をすり抜け、廊下に向かう扉の外へと出る

 普段誰も立ち入ることのない部屋は、随分と暗く埃っぽくなっていた。


 この部屋には大切な思い出がある。やはり捨ててしまいたくはない。

 ……けれど、今は当分ここに立ち寄ることはやめておこうと思った。


 大事な過去は過去として、そのままとっておきたかった。


ゆま「いちごさん、今日のおゆーはんは?」

織莉子「今日は……そうね、お魚も考えていたのだけど、ほむらが使ってしまったんだったかしら」

マミ「出来れば普通に食べたかったわね……」


 マミと一緒に苦笑する。

 ……ゆまさんはこうして普通に話してくれるのに、やはりまだ私は苦手意識か、自分で壁を作って距離を作っている。

 それをやっと今日気づかされた。


織莉子(私は…………自分自身の幻影を重ねて、嫉妬している?)


杏子「今日はハンバーグでどうだ?」

ゆま「ハンバーグ! ゆまもたべたい!」

織莉子「手間がかかりそうね……貴女たちも手伝ってくれない?」

杏子「えー」

織莉子「食べたいと言ったのだから全部押し付けない」

織莉子「あとそうやって物を散らかさない、食べかすはきちんと自分で掃除すること」


杏子「なっ、なんだ? いきなり厳しくなったな」

織莉子「一緒に暮らしてるのだから、協力していかなくちゃ」

マミ「……なんだか美国さん、少し変わった?」

マミ「吹っ切れたのなら良いんだけど」

織莉子「……ええ」

織莉子「そうなりたいとは思っているわ……」



 『そう思えるなら成長してるよ』――……

  ――…………私は、『足りないもの』を少しは埋めることができたのだろうか。


―5日終了―


★GS分配


キリカ 魔力[120/120]
GS:2個
・[90/100]
・[100/100]

◆ステータス
[魔力コントロールLv3] [格闘Lv5] [体術Lv2] [射撃Lv2]



・仲間

マミ
[魔力コントロールLv5]  [体術Lv3] [射撃能力Lv20]

ほむら
[魔力コントロールLv4] [体術Lv1] [射撃能力Lv5]

杏子
[魔力コントロールLv5] [格闘Lv20]

ゆま
[魔力コントロールLv4] [格闘Lv3]


まどか【未契約】
[魔力コントロールLv3]  [体術Lv1] [射撃能力Lv4]

―6日


 朝、目を覚ましてから少しすると、

 眠そうな顔をしたほむらが今日も転がり込んできた。


キリカ「おはよう、今日は一段と…………」

ほむら「……はい、ちょっと昨日は遅くまで張り切ってまして」


 ……あれはあれで『集中力』が必要そうだ。

 一歩間違えたらドカンなんて。


 それを不発もなくあれだけいっぱい作れるんだから、ほむらは何かに才能がありそうなものだけど。


キリカ(爆弾作りの才能……かぁ)


 ……色々と危ない。



 皿をテーブルに置くと、ぐだっとしていたほむらが背筋を伸ばして手を合わせた。


ほむら「そんな疲れた朝に優しい朝食がうれしいです!」

ほむら「お味噌汁と卵焼き、呉さんが作ったんですか?」

キリカ「好評につきまして?」

*「意外と褒めると弱いからねこの子」

キリカ「それちょろいって言ってない?」



1自由安価
2で、料理教室いつにする?
3ほむらの髪をセットしちゃおう

 下2レス


キリカ「……まー、いーや。次に食べてみたいおかずってある?副菜の方じゃないよ?」

ほむら「ええっと、ええっと……だったら、ハンバーグがいいです」

キリカ「お、意外にガッツリしたのきた」

ほむら「この前のお弁当に入ってたみたいな……さっぱりしたやつで」

キリカ「……相変わらずっていうか、予想を裏切らないなぁ」


 あれ半分豆腐だよ、と伝えるとほむらは『だからさっぱりしてたんですね!』と納得した様子。

 ダイエットの必要もないのに……ってジトッと見てみたけど、今は私もあまり人のこと言えないかもしれない。


キリカ(……こういう時にドカ食いすると一番ヤバいかもだけど、ね)


キリカ「で、料理教室いつにする?」

ほむら「えっ、えっと……週末にでもどうでしょうか? 金曜とか、よかったらそのまま泊まっても」

キリカ「あ、この前の外泊の話か」

*「今度の?」


 丁度お母さんも居るし、話をつけるには良いタイミングだった。

 みんなはどうだろう。杏子とか、話を聞きつけたら絶対来そうなものだけど。


ほむら「……ところで、集まるの織莉子さんの家でも良いですか?」

ほむら「私の家のキッチンだと狭いので」

キリカ「……うん! 猫さえいれば」

ほむら「そこですか」


 朝食を食べ終わると、さっと支度をして家を出た。


 遭遇判定、下1レスコンマ判定1ケタ
1 まどか
2 さやか
3 仁美
4 まどか・さやか
5 さやか・仁美
6 まどか・仁美
7 まどか・さやか・仁美
0 小巻
それ以外 誰とも会わなかった



 今日は誰にも会わないかな、と思いながら歩いていると

 前の方に三人の並んで歩く姿が見えた。


キリカ(今日は負けちゃったか)


 なんて声かけようかな。


1自由安価
2普通に声をかける
3何の話をしてるか様子を見てみる

 下2レス


 少し何の話をしてるか聞いてみる。

 …………積極的に話してるのはやっぱりさやかだ。教室内の話?


ほむら「あっ、まど……」


 声をかけようとしたほむらを遮って、こんな提案をしてみる。


キリカ「……ほむらに協力を要請したい」

ほむら「きょ、協力……ですか? 心配しなくても、普通に声をかければ受け入れてくれるかと思いますよ?」

キリカ「違うっ! そんな、その……私そこまで根暗いわけじゃないよ!」

ほむら「はぁ……じゃあ?」


 内緒話をするように小さく話す。


キリカ「わたしがまどかのうしろから目隠しをするから、ほむらはだ~れだ?って言ってね?」

キリカ「それとも役割逆の方がいい?」

ほむら「あ……そういう……」


ほむら「私もちょっとやってみたいです! 逆でもだいじょぶです!」

キリカ「あ、ノった。意外」


 ほむらが足音を消して三人に駆けていく。

 ……こういう動作は意外とほむらのほうが得意なのかもしれない。


 でもなんか。


キリカ(……大丈夫かなぁ)



ほむら「………… あっ」

――――


仁美「…………」


 ――――……部屋の広いベッドの上で目を覚ます。

 これは私の願望なのでしょうか?


 夢というものは潜在意識を表すという。

 自分でも気づけない思いから、気になって仕方がないことまで。

 たとえば、不安、記憶、願望…………


仁美(どうして)

仁美(もう絶対に叶うことなんてないのに、まだ未練があったのかしら)

仁美(…………上条君)


 あの日背中を押したのは私でした。

 絶対に叶わないから、夢の中の世界だけで願望を叶えようとする。


 ――その世界では、私は彼と恋人同士になっていました。私も彼もそこではそう認識しているのです。

 どうせ現実ではないのだから、夢を見るのは多分悪い事ではないはずです。勿論、私にとって幸せな夢でした。


 でも、何かを失ってしまっていたような…………


 ……そんな、奇妙な後味の悪さが目覚めた今も心の中に残っていました。



――――
――――

---------------------
次スレに続く


>>970 小太刀二刀流ver.のキリカ:
ttps://i.imgur.com/5dbi72V.png
おまけ:
ttps://i.imgur.com/64Ldxb4.png

みんなもイラストとか乗っけてもいいのよ!

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