女剣士「冒険者の喫茶店で働く事になりました」(709)

 
…どちらかといえば温室育ち。

私の家は田舎とはいえ、大きな家に、お花が沢山咲いた庭。

そう。いうならば…お金持ちの生まれだった。


小さい頃から何かと大切にされてきたけど

大人になるにつれ、そんな楽な生活よりも

私は一人で自立したいと考えるようになっていった。

 
そして、16歳の誕生日を迎えたとき、親にその旨を伝えると

意外にも、母も父も揃って快諾してくれた。


そして私は…

誕生日から数日後に田舎町から都会の"中央都市"へ足を運んで――…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市 】


女剣士(ってなわけで、これから私の自立した新しい生活が始まる…)ドキドキ

トコトコ…

女剣士(ずっと親に世話になってたけど、やっとこうして自立できる)

女剣士(最初のアパートは親のお金だけど、いずれ一人前の冒険者になって…!)


パカラッ…

馬車商人「…ん?」

女剣士「…」

パカラッパカラッ…

馬車商人「…おい、危ないぞ!こっちを見ろ!」

女剣士「えっ?」クルッ

 
パカラッパカラッパカラッパカラッ!!

女剣士「きっ…きゃああっ!」

馬車商人「ま、間に合わない…!うりゃああっ!」グイッ

ギュルンッ!!…ズザザザザ、ドシャアッ……

 
馬車商人「っつ…!いてて…」

モクモクモク…

馬車商人「お、女の子は…」ハッ

女剣士「ごほっ、ごほごほ…」

馬車商人「!」


女剣士「い、今のは…」ゴホゴホ

馬車商人「生きてたか!大丈夫かい?…手を」スッ

女剣士「はい。ありがとうございます…い、一体何が…?」グイッ


馬車商人「僕の馬車とぶつかりそうになったんだよ。避けたと思ったけど、少し吹き飛ばしちゃったみたいだね」

女剣士「え…」

馬車商人「…君の歩いてた所は物資を運ぶ用の道だから気をつけて。一歩間違えてたら死んでたよ」

女剣士「そ、そうだったんですか…ごめんなさいです」

 
馬車商人「っつ…!いてて…」

モクモクモク…

馬車商人「お、女の子は…」ハッ

女剣士「ごほっ、ごほごほ…」

馬車商人「!」


女剣士「い、今のは…」ゴホゴホ

馬車商人「生きてたか!大丈夫かい?…手を」スッ

女剣士「はい。ありがとうございます…い、一体何が…?」グイッ


馬車商人「僕の馬車とぶつかりそうになったんだよ。避けたと思ったけど、少し吹き飛ばしちゃったみたいだね」

女剣士「え…」

馬車商人「…君の歩いてた所は物資を運ぶ用の道だから気をつけて。一歩間違えてたら死んでたよ」

女剣士「そ、そうだったんですか…ごめんなさいです」

 
馬車商人「知らなかったのかい?」 
 
女剣士「はい…。今日から中央都市に越して来たばかりでわからなかったんです」

馬車商人「あ~…なるほどね。じゃあ仕方ないか」ポリポリ

女剣士「本当にすいません…」
 
馬車商人「まぁ!僕も人殺しにならなくてよかった」ハハハ


女剣士「で、でも、商人さんが運んできた物が…。アレ、ですよね?」チラッ

馬車商人「えっ?」チラッ

グチャッ…

 
馬車商人「ああぁっ!だ、旦那の荷物がぁぁ!」

女剣士「…」オロオロ

馬車商人「あちゃ~…」

女剣士「だ、大事なものだったんですか?」

馬車商人「この先にある喫茶店の旦那に届ける荷物だったんだけど、久々の良い材料だったからなぁ」

 
女剣士「ど、どうすればいいでしょう…」

馬車商人「女の子に払える金額じゃないし、僕から直接謝っておくよ」

女剣士「…うぅ」

 
馬車商人「馬はまぁ大丈夫みたいだな…それじゃ、これから気をつけるんだよ」

女剣士「あ…はい…」


パカラッ…パカラッパカラッパカラッ…

 
女剣士「…最初からこんなボロやって、私大丈夫なのかな…」ハァ


女剣士「…」


女剣士「やっぱり、私も謝りに行かないとダメだよね…」

女剣士「行こうっ」


タッタッタッタッタ…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 喫茶店 】


タッタッタッタ…

女剣士「ここがさっき言ってた喫茶店かな…?」


…ボソボソ

女剣士「あ…中からさっきの人の声が…」

 
馬車商人「ってな訳で…申し訳ありませんでした」

マスター「そりゃ災難だったな」

馬車商人「…」

マスター「…」

馬車商人「…」


マスター「500万ゴールド。今回の依頼させたお金だ」ピクピク

馬車商人「存じてます」

 
女剣士(ごごご、500万ゴールド!?)

 
マスター「はぁ…ま、お前と俺の付き合いだ。500万ゴールドで許そう」

馬車商人「旦那、全然サービスされてませんぜ…」

マスター「当たり前だろっ!500万だぞ500万!!」

馬車商人「一応保険もありましたから、半額は下りると思いますが…」


マスター「なら、それも含め250万…いや、特別にサービスして200万だな」

馬車商人「200万ですか…。自分のせいですし、仕方ないですね」ハァ

マスター「ま、返せる時で良い。お前も苦しいのは知ってるからな」

馬車商人「はは…感謝します」

 
コンコン…

マスター「ん?」

馬車商人「こんな朝早くからお客さんですか。商売繁盛してますね」

マスター「まだオープンしてねーっつーの。朝早く、誰だ?」

トコトコ…ガチャッ
 
 
マスター「はいはい、どなたですかー…」 

女剣士「…あの」チョコン


マスター「っと…お客さんかい?まだ開店時間じゃ…」

馬車商人「あっ!」

 
マスター「ん?お前の知り合い?」

馬車商人「さっきのお嬢ちゃん!」

女剣士「その…すいませんでした…」

マスター「あ~、この娘が原因の?」

馬車商人「そうなりますね。別に良いって言ったのに…着いてきたのかい?」


女剣士「はい…着いてきました。しっかり自分で謝らないといけないって思って」

馬車商人「謝ってどうこう出来る事じゃないから、良いって言ったんだよ」

女剣士「逃げたら、もっとダメだと思います」

馬車商人「そりゃそうなんだが…」


マスター「…謝りにきてくれた勇気は買うさ。よく来てくれたね」

女剣士「…」

 
マスター「でも馬車商人の言った通り、君にどうこうできる問題じゃないんだよな」

馬車商人「ですね」

マスター「金額が金額だしなぁ…」


女剣士「500万ゴールドですよね…。お、親に言えば…」

マスター「…」

馬車商人「…」


マスター「ま、まぁそりゃ確かに連絡を言ってもらって、お金は払ってもらえればが嬉しいが…」

馬車商人「いや…旦那、僕がここはお金を出しますよ。必ず」

女剣士「商人さん、だけどそれじゃ…」

 
マスター「…お前さ、どうしてそんなにこの娘に入れ込んでんの?」

馬車商人「そ、それは…」

マスター「お…一目ぼれか!?」

馬車商人「ち、違いますよ!自分もこうして、一人手で中央に来ましたし。共感したというか…」

女剣士「!」

馬車商人「今の自分なら200万なら払えない金額じゃないですし、僕も前方不注意でしたし。いいかなって」


マスター「そういやお前も、この位の娘の時から、ずっとこの店に来てくれてたもんな」

馬車商人「ですね。ですから、これからの夢を持ってる人を潰しちゃいけないと思いまして」

マスター「昔から妙にやさしいよなぁお前は」

馬車商人「優しいですかね?」ハハッ

 
女剣士「…あの」

馬車商人「うん?」

 
女剣士「でもやっぱり、自分のせいは自分のせいです。何とかして、お金はお返しします」

馬車商人「だからそれじゃ…」

マスター「一人身で来てるんだろう?さすがに無茶というもんだ」


女剣士「だ、だったら…ココで働く…とか」

マスター「え?」

馬車商人「え?」

 
女剣士「…だ、ダメですよね!ただ思いつきで言ってみただけです!」

マスター「いやまぁ…確かに人手は欲しかったところだが…」

馬車商人「あ~…普通の喫茶店なら良かったんですけどね」

マスター「だなぁ…」


女剣士「普通の喫茶店なら良かった…ですか?」


マスター「ここはちょっと特殊でね。普通の女の子には少し向いてないというか」

女剣士「それってどういう…」

 
馬車商人「ちょっと待って。君はやりたいことがあってこの中央に来たんだろ?」

女剣士「あ、はい」

馬車商人「だったら、そっちを諦める事にもなっちゃうかもしれないんじゃないのか?」

女剣士「そうなっちゃいます…かもしれません」

馬車商人「…だったらそっちの夢も諦めたらダメじゃないのか?」


女剣士「そ、そうかもしれませんが…」

マスター「…君のやりたいことって何だ?」

 
女剣士「冒険者です。一人前の…立派な冒険者になることです」

マスター「!」

馬車商人「!」


女剣士「女で珍しいと思うかもしれませんが、母もそうだったので…私も決心しました」

マスター「冒険者…か」

女剣士「これでも技術には自信はあります。ですから、中央で募集される軍の募集に参加しようと」

マスター「へぇ…なるほどね」


馬車商人「旦那、これはちょっと事情が変わりましたね。いいんじゃないですか?」

マスター「…かもしれん」

女剣士「え?」

 
馬車商人「いやー…さっき、この喫茶店は普通じゃないって言ってたじゃないか?」

女剣士「ですね」

馬車商人「なぜかっていうとね。この喫茶店は…」


マスター「世界を走る、"冒険者の集う喫茶店"なんだよ」

 
That's where the story begins!
――――――――――――――――――――‐
【女剣士「冒険者の喫茶店で働く事になりました」】
――――――――――――――――――――‐
Don't  miss  it!

本日はここまでです。ありがとうございました。

たくさんのコメントありがとうございます。
投下致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


女剣士「冒険者の集う喫茶店、ですかっ!?」

マスター「自然とそうなっちゃったっていうかね…」ハハ

女剣士「どういうことですか?」

マスター「元々俺は冒険者でね。引退後にここに喫茶店を開いたわけ」

女剣士「ふむふむ」

マスター「だから、彼らの憩いになる物を知ってた。最初は身内だけで賑わっていたんだ」


馬車商人「気がつけば類が友を呼び、あっという間に冒険者の喫茶店として有名になったわけ」

女剣士「な、なるほど…」

 
マスター「俺も冒険者の話を聞けて楽しいし、元同業者で新人の相談に乗ったりね」

馬車商人「手伝ってくれる人探しても、いっつも雰囲気で辞めますもんね皆さん」

マスター「そうだったんだよ…」ハァ


女剣士「な、なら…私が手伝います!」

マスター「働くならきちんと給金も出すよ。月で15万程度しか出せないけどな」

女剣士「いりませんっ!」

マスター「いやいや。お金払わなかったら国に逮捕されちゃうから」

女剣士「でもそれじゃ、損害額をカバーできませんし…」

マスター「つってもなぁ…」

 
女剣士「なら、月10万でいいです。5万は損害の返済にお願いします」

マスター「200万返済するとして、40ヶ月…。4年近く働くことになるぞ?」

女剣士「よ…4年…」

マスター「無理しなさんな。まだ若いんだろう?大切な時間を棒に振ることはないよ」

女剣士「…」


馬車商人「そういえば歳は?名前も聞いてなかったね」

女剣士「名前は女剣士です。歳は16歳になったばかりです」

マスター「16歳…ね」

馬車商人「まだまだ本当にこれからじゃないか…。今回の件については本当に関わらなくてもいいんだよ?」

 
女剣士「いえ…。私がやったことは私がやったこと。きっかりお返しします」

マスター「…」

馬車商人「ですって…旦那」

マスター「あ~…。どうするかなぁ…」


女剣士「…」

マスター「うし…わかった…。わかった、雇ってやる」

女剣士「!」

マスター「ただし…条件がある」


馬車商人「まさか、いたいけない16歳の少女を…」

マスター「違うわ!」ゴツッ

馬車商人「痛いっ!」

 
女剣士「わ、私…な…何でもします!」

マスター「…お前も、中央で無闇やたらに何でもしますとか言うんじゃない」ギロッ

女剣士「す、すいません」ビクッ


マスター「条件は1つ。副業に付き合ってもらう。それで返済も早くなるだろう」

馬車商人「副業って、マスターのアレですよね」

マスター「この娘も冒険者になりたいっつーし、丁度いいんじゃないかってな」

馬車商人「確かにそれはそうですが」


女剣士「それで…副業って、何をするんですか?」

マスター「何、簡単だ。たまに遠出して、魔物の討伐やらで素材を入手する。冒険者の生業に近いな」

 
女剣士「えっ!…マスターさん、冒険者は引退したんじゃ?」

マスター「本格的なのは無理だが、副業の趣味としてやってるんだ」

女剣士「なるほど…」

マスター「コレについてこれば、冒険者を目指すお前の基礎のレベルアップにもなる。いいだろう?」

女剣士「…ぜ、ぜひ…お願いしたいです!」


マスター「ん。交渉成立な。一応届け出とかあるから、書類持ってくるわ」

トコトコ…ガチャッ…バタンッ

 
馬車商人「…ゴメンよ。俺のせいで色々と」

女剣士「いえ…。でも、実力を磨ける機会が得られたのは嬉しいことです」ニコッ

馬車商人(ええ娘やっ…!)


女剣士「実際は私が…本当にご迷惑おかけしました」ペコッ

馬車商人「あ…いや、いいよ…」

 
…ガチャッ

マスター「何だ、馬車商人まだいたのか」

馬車商人「…もう行きますよ!次は気をつけて運んできますからね」

マスター「当たり前だ。じゃあな」

馬車商人「んじゃ、女剣士ちゃんも頑張ってな」

女剣士「あ…はいっ!」


馬車商人「では旦那、また」

ガチャッ…バタンッ…

 
マスター「んーと…必要な書類はこんな感じ。必要なのはココとココと…ココね」ペシペシ

女剣士「はい」カキカキ


マスター「…」

女剣士「…」カキカキ

マスター「…」

女剣士「…」カキカキ


マスター「なぁ」

女剣士「はい?」

 
マスター「住む場所はどうするんだ?」

女剣士「一応アパートを借りてます。ここから少し遠いですが」

マスター「なるほど」

女剣士「はい」


マスター「…」

女剣士「…」カキカキ

マスター「…なぁ」

女剣士「はい?」

 
マスター「さっき親が冒険家だったって言ったが、どういう冒険家だったんだ?」

女剣士「母は軍の冒険部に勤めてたらしいです。父も軍出身っぽいですけど、よく分からないです」

マスター「へぇ…」

女剣士「どっちも凄い強いんですよ。組み手やら、模擬戦やらで勝てたことないんです」


マスター「まさに冒険家のハイブリッドって感じか。お前自身は何になりたいとかあるのか?」

女剣士「一流の冒険者…ですかね」

マスター「ん~…その定義も曖昧だろう。何か発見したいとか、強い魔物を討伐したいとか」

女剣士「そうですね…う~ん…」

マスター「…」

 
女剣士「…女性の冒険家として強い魔物を討伐して、勇敢な女性冒険家として有名になる…とかですかね」

マスター「ふむ…悪くない」

女剣士「でもまだ曖昧ですよね…」


マスター「うん…ま、それも含めて中央に来たって事だろう。ゆっくり探せばいいさ」

女剣士「はいっ♪」

 
マスター(…最近の子は、立派になったもんだ)


女剣士「はいっ。書き終わりました…これでいいですか?」ペラッ

マスター「ん~…大丈夫だ。あとは届けて受理されてからだな。割と早めに受理されると思うぜ」

女剣士「私はこれからどうすればいいですか?」


マスター「とりあえず明日の朝9時に来てくれ」

女剣士「わかりました」


マスター「…後はそうだな…。今日は一旦アパートにも挨拶に行くんだろ?」

女剣士「ですね」

マスター「なら今日はこれまで。明日から色々教えながらやるつもりだから、今日は休んだりしてくれ」

女剣士「はいっ」

マスター「別に明日からいきなり大変なことはさせないから、気軽にな」ニカッ

 
女剣士(あ…マスターさんの笑顔…!)

女剣士「はいっ!」


マスター「あと、何か聞きたいことはあるか?」

女剣士「あ、そうだ。えっとですね…マスターさんって呼んでて大丈夫ですか?」

マスター「マスターさん…ね。いいぜ」

女剣士「わかりましたっ」


マスター「んじゃ混む前に役所に提出しておくかな。途中まで一緒に行くか」

女剣士「でも、お店は…」

 
マスター「少しくらい遅くオープンしたって問題ないさ」ゴソゴソ

女剣士「そうですか…?」

マスター「適当がうちの流儀なんだよ」ハハハ

女剣士「あ…あはは…」


マスター「よっしゃ、ただいま外出中のプレート出しとけば何とかなる。行くか」

女剣士「はいっ」

カランッ…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(これからどうなるのか…)

(不安だけど、少しだけ楽しみな…)


(私の新しい日常はこうして幕を開けた)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 】


ピピ…

ピピピピピ…!!!!

女剣士「…目覚まし…うるさい…」


モゾモゾ…バンッ!!!


女剣士「もう朝…」ムニャッ

 
スクッ…モゾッ…

トコ…トコトコトコ…


女剣士「…顔、洗わなきゃ…」

グイッ…ジャー……バシャッ…


女剣士「…今日から色々始まるんだ。頑張らないと」


…ピンポーン!!

女剣士「とと…こんな朝早く誰だろう…はーい?」

 
ガチャッ…バチンッ!!

マスター「んお、チェーンかかってたか」

女剣士「あれっ、マスターさん。今開けますね」パタパタ


カチャカチャッ…ガチャッ!!

マスター「さっき朝早く役所に呼ばれて、仕事の受理がされた。帰り道の途中だったし届けに来たんだ」ペラッ

女剣士「そうだったんですか…ありがとうございます」ペコッ


マスター「…」

女剣士「…」

マスター「あの、さ」

女剣士「はい?」

 
マスター「一応女子なんだから…な?いや…朝早く来た俺も悪いんだが」

…チラッ

女剣士「あっ!」

マスター「さすがにその薄着みたいな服で出られては、我が喫茶店としても困るというか」

女剣士「わーっ!わー!わー!」

タタタタタッ…ドタドタ!!


マスター「…はは」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数分後 】


女剣士「…さあ、喫茶店に行きましょう!」フンッ

マスター「準備が早いようで何よりです」


トコトコ…

マスター「今日からの仕事、簡単だが覚える事はあるぞ。大変だけど頑張れよ」

女剣士「どんなことするんでしょうか。ウェイターさんですよね」

マスター「俺がウェイターもしているようなもんだが、まぁそうなるな」

女剣士「わかりました」

 
マスター「あとクセのある人間が多いから…な」

女剣士「クセですか?」

マスター「冒険家ってのはなぁ…まぁ色々いるんだよ」

女剣士「…?」


マスター「気にするな。あとで分かる。んで後は、料理とかも覚えさせていこうかなと思ってる」

女剣士「料理ですかっ!」

マスター「お?」

女剣士「得意ですよ!一応、父に色々教わってきました」

マスター「父親?母親じゃなくてか?」

 
女剣士「どっちかというとお父さんのほうが料理うまかったので」

マスター「へぇ…」

女剣士「たぶん、基本的なことなら出来るとは思います」


マスター「そりゃ結構だ。ところで、コーヒーなんかは飲めるのか?」

女剣士「飲めますよもちろんっ。子ども扱いしないでくださいっ!」

マスター「そうか。うちのウリは美味しいコーヒーだからな」

女剣士「冒険者の喫茶店で美味しい一杯…素敵ですね」

マスター「はは…そうか?」

女剣士「ですよっ」

 
マスター「ま…とりあえず追々教えていくさ」

女剣士「よろしくお願いします」


マスター「ん。今日から改めて、よろしくな」

女剣士「はい♪」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 喫茶店 】


マスター「えーと、基本的に開店は基本的に朝9時からだ」

女剣士「曖昧なんですね」

マスター「個人稼業だからな。地元の店もそういうのあっただろ?」

女剣士「あ~…ありました」

マスター「似たようなもんだ。とりあえず、開店の前準備の仕方を教える」

女剣士「はいっ」

 
…スッ

マスター「台ふきん。これでまずは目に見える埃を落とす」

女剣士「はい」

マスター「まぁ分かるだろうが、カウンターだとか、客席とかだ」

女剣士「わかりました」

トコトコ…ゴシゴシ…


マスター「うちは客席も少ないし、大きい訳じゃないから楽だけどな」

女剣士「だからこそ、キレイにするんですよね」

マスター「そう。よく分かってるな」

女剣士「えへへ」

 
マスター「ん。まぁ今日は軽くでいいぞ」

女剣士「はいっ。じゃあ次はどうしますか?」

マスター「仕入れと食材の仕込みだ。ほら、昨日も会ったが商人のやつが来ただろ?」

女剣士「そうですね」

マスター「朝早く、今日の料理やらに使うのを持ってきてくれるんだ」

女剣士「新鮮なものを使うってことですか?」


マスター「出来るだけ美味しいものを、って思ってるからな」

女剣士「素敵な考えですね」

マスター「そこは少し俺も誇ってるんだぜ」

 
女剣士「食材ってどうやって決めてるんですか?大体一緒でしょうか」

マスター「どういう素材が入るかは、中央にある貿易センターに行かにゃならん」

女剣士「え?…じゃあ今から行くんですか?」

マスター「はは、まさか。前の日の夕方とか夜に、次の日に運んでもらう素材は決めてくるんだ」

女剣士「なるほど!」


マスター「だから、女剣士のやった事故は食材と…ちょっとした高価な物を仕入れた時に運悪くなったってことだな」

女剣士「あう…ごめんなさい」

マスター「謝らなくてもいいさ。もう済んだことだ」

女剣士「うう…」

 
マスター「その辺は、慣れたり希望があったらそのうち連れて行くからな」

女剣士「は…はい。色々体験してみたいとは思ってます」

マスター「素材が届いたら、あとは仕込みと…。ああ、あとコレね」

ゴソゴソ…スッ

女剣士「…これはっ!いよいよお店っぽいものが…」
 

マスター「はは、そうそう。注文書ね。忙しい時は、これに注文書いて出してもらうんだ」

女剣士「ふむふむ」

マスター「一応注文書は席に置いてあるから、注文書を書いたって言われたら持ってきて」

女剣士「わっかりました!」

 
…コンコン!!

マスター「ん。どうぞ」

ガチャッ…


貿易商人「こんにちわ~貿易商人です。ご注文の品、お届けに参りました」

マスター「ありがとさん」

貿易商人「こちらに置きますね。ご確認下さい」ゴソゴソ

…ドサドサッ!

マスター「…これと、えーと…うん。よし、全部あるね」

 
貿易商人「では、こちらにサインをお願いします」ペラッ

マスター「…」スラスラ

貿易商人「…」

マスター「…よし、はいよ。いつもご苦労さん」

貿易商人「いえいえ。では、失礼致します」ペコッ

ガチャッ…バタンッ…


マスター「…と、見てた?」

女剣士「はい」

竜騎士の娘か

 
マスター「今のが受け取りの一連の流れ。たまにやってもらうかもしれん」

女剣士「分かりました」

マスター「それと、これが今日の使う食材だ」


女剣士「えーと…わぁっ!お魚ですね!」

マスター「西の港の直送品だ。新鮮で旨いぞ」ニカッ

女剣士「へぇぇ…」


マスター「冒険者共は舌も肥えてるからな。喫茶店つーより小料理店みたくなっちまってるが」ポリポリ

女剣士「いいじゃないですかぁ♪」

マスター「んじゃ、まずは仕込みからかな。手伝ってもらおうかね」

女剣士「わかりました!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 朝9時・オープン 】


マスター「よっし…仕込みも終わり。んじゃ、表のプレートとこの本日のオススメ看板出しといて」

女剣士「はい」

トコトコ…カチャカチャ…

女剣士「"OPEN"プレート…と」


マスター「…」

女剣士「…よしっ。置いてきました」

マスター「ご苦労さん。これが一応、朝の一通りの動きになるな」

女剣士「はい。思ってたよりは楽な感じですね」

 
マスター「…しかし驚いたぞ」

女剣士「何がですか?」

マスター「予想以上に掃除やら、軽い力仕事にも動きが機敏だし、何より仕込みの速度…手馴れているな」

女剣士「あ、お料理に仕込みですね?」

マスター「そう。本当に得意だったんだな」


女剣士「ですねぇ…。そのうち、私もメニュー考えたりしたら楽しそうです」

マスター「ん。考えておこう」

女剣士「♪」

 
マスター「…あ、そうだ。忘れるところだった」

トコトコ…ゴソゴソ…


女剣士「どうしたんですか?」

マスター「ほい、これ。どうせまだお客も来ないだろうしな」スッ

女剣士「これって…」

マスター「朝に作ったサンドイッチ。それとコーヒー淹れるからカウンターにでも座れ」


女剣士「…いいんですか?」

マスター「朝飯もまだだろ?寝起きだったみたいだし」

女剣士「あう…」

マスター「だから朝飯分と、少し休んでもらう事と…雰囲気を知ってもらおうと思ってな」

女剣士「雰囲気…?」

 
マスター「客目線でどんな感じだとか、そういうのも知って損はないだろう?」

女剣士「なるほどっ」

マスター「じゃ、カウンターの席についてくださいお客様」

女剣士「…なんだか恥ずかしいですね」

トコトコ…ストンッ


マスター「…」

ゴソゴソ…カチャカチャ…

コポッ…コポコポ…

 
女剣士(あ、コーヒーの豆とか焙煎するとか、そこはさすがに手伝えないか…)

マスター「…」カチャカチャ

女剣士(やるなら手伝えることは手伝いたかったなぁ…)


マスター「…そのうちな」

女剣士「えっ!」

マスター「少しこういうのもやりたいんだろ?そんな物欲しそうな目してるんだもんな」

女剣士「え、えっ!そ、そんなにバレてましたか!?」アセッ


マスター「そんなキラキラして見てたらな。まずは色々流れや基本覚えたら教えるさ」

女剣士「そ、そうですか…えへへ…」

 
マスター「さて…じゃ、こちらがコーヒーだ。遠慮なくどうぞ」

スッ…カチャンッ


女剣士「あ、は…はいっ。頂きます」

マスター「…」

女剣士「…」スッ

…クピッ…


女剣士「!」

マスター「…」

女剣士「お…美味しい…」

 
マスター「そりゃ良かった」

女剣士「な、何ですかこれ…こんな美味しいコーヒー飲んだことないです」

マスター「…へえ?」

女剣士「砂糖ですか?甘みがあって…でも香りも強くて…。苦味が少なくて…素朴っていうんですかね」

マスター(…ほう)


女剣士「後味が香りに包まれてます。食べ物と一緒っていうよりコレだけで楽しみたいっていうか…」

マスター(…面白いな)

女剣士「で、でもこれはマスターさんの腕が上手いからこそですよねっ!」

 
マスター「そいつはプレミアムマタリ。中々良い豆なんだ。腕も必要だが、豆も結構いいもんなんだ」

女剣士「良い豆なんですか…?」

マスター「南側で摂れるかなり労力のかかってる豆だ。味わうといいぞ」

女剣士「へぇ…そんな良い豆なんですかぁ…美味しいです」ゴクッ…


マスター「…そのうち色々と飲ませてやるさ。サンドイッチも食べておけよ」

女剣士「あ、は…はいっ」

モグモグ…

女剣士「サンドイッチも美味しいです♪」


マスター(さてさて…ここまでは良い感じだ。お客が来てからどうなることやら)

本日はここまでです。ありがとうございました。

おつおつ
口調が母親そっくりだw

新作でいいんかな?

>>67 >>78
コメありがとうございます。
その辺は追々とですね。


>>79
完全新作で、確かに別作との一部繋がりはありますが
全く読んでいなくても楽しめる「完全な1つの新作」としての作品ですので、
気兼ねなく、気軽に読んで頂ければうれしいです。

失礼致しました。

おつー
竜騎士と女武道家の娘かな?

皆様ありがとうございます。投下いたします。

>>84
上述してますが、その辺は追々色々と…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 午前10時 】


ガランガランッ!!

男「こんちわー」


マスター「いらっしゃいませ」

女剣士「…」

マスター「女剣士、いらっしゃいませ」ボソボソ

女剣士「ひゃっ!い、いらっしゃい…ま…」ボソボソ

 
男「あはは、聞こえないよ。新人雇ったの?マスター」

女剣士「あう…」


マスター「んむ…まぁ色々あってね。今日はいつもの珈琲でいいのか?」

男「うんお願い。それと…また少し離れる事になったからさ。飲み納めっていうのかな」

マスター「わかった。次はどこに行くんだ?」カチャカチャ


男「南部のエルフ族のところ。急にクエスト入っちゃってさ~」

マスター「なるほどな。今日来ると思ってなかったからいつもの豆は倉庫なんだ。待っててくれ」

男「ありがと」

 
ガチャッ…バタン…

女剣士(あ…行っちゃった…)


男「…」

女剣士「…」

男「…えーと?」

女剣士「ひゃいっ!」


男「新人サン…名前訊いてもいいかな?」

女剣士「女剣士…です」

冒険戦士(男)「そっか。僕は冒険戦士、よろしくね」

 
女剣士「よ、よろしくお願いします」ペコッ

冒険戦士「見たところ、僕と年齢一緒…くらい…?」

女剣士「えっ?私16歳ですけど…」

冒険戦士「あっ、先輩だったのか。僕15歳だから」ヘヘ


女剣士「えええっ!?」

冒険戦士「そ、そんなびっくりすること…?」

女剣士「本当ですか!?若いとは思いましたけど…私より若い子が実績のありそうな冒険者なんて…」ズーン

冒険戦士「そんなに落ち込まなくても…」アハハ…

 
ガチャッ…

マスター「そいつはお前と一緒みたいに、冒険者になる為に中央に来たんだよ」

女剣士「あっ、マスターさんお帰りなさい」


冒険戦士「そうなんだぁ。頑張ってね女剣士さん」

女剣士「あ、ありがとうございます…」


マスター「女剣士、気落とすな。世界は広い、こういうヤツは珍しくないんだ」

冒険戦士「こういうヤツだなんて、酷いなぁ」

マスター「お前は小さい頃から周りにサポートされて冒険者として生きて来ただろうが」

冒険戦士「そうそう。この間、やっと15歳になれて独り立ちが認められたんだよね~」

 
女剣士「この間って…、少し前まで14歳だった…ってこと…ですか」

冒険戦士「ずーっと独り立ちは夢だったから!」

女剣士「いいですねぇ。親御さんは反対しなかったんですか?」

冒険戦士「えっ…」

マスター「…」


冒険戦士「あ…う、うん。そりゃそうだよ!僕は普段から努力家だったし!」

女剣士「努力を見てくれた親が、わかってくれたんですね。うちと一緒ですね!」

冒険戦士「あはは…うん、そうだね」

 
マスター「あぁ~ん…?」ジー

冒険戦士「な、何だよマスター」

マスター「ウソこけ。ギルド長や仲間のサポートが優秀だったからだろうが。ミスばっかしやがってるくせに」ククク

冒険戦士「ちょ、ちょっとマスター!」

マスター「それにお前の話は良く聞くぜ?例えば独り立ちの試験だってミスで危うく大事故に…」

冒険戦士「ちょちょっ!それはナシだって!」


女剣士「…ギルドって…何ですか?」

 
マスター「ギルドを知らないのか?」

女剣士「は…恥ずかしながら」

マスター「まぁ言うなれば、冒険団ってとこだな。冒険者が集まって、依頼をこなしたりするんだ」

女剣士「へぇ~っ!」キラキラ

マスター「元々は冒険者の酒場が、依頼を仲介したのが始まりっていわれてる。世界には何箇所もあるんだぞ」

女剣士「歴史があるんですねえ。中央都市にはどれくらいのギルドがあるんですか?」


マスター「小規模なのは何個もあるが、基本的には東と西に1つずつ巨大なのが取り仕切ってるな」

冒険戦士「僕は東ギルドに所属してるんだ」

女剣士「へぇ~」

冒険戦士「まぁ…ね…うん」

マスター(…?)

 
女剣士「ギルド…冒険者の仲間かぁ」

冒険戦士「現役の冒険者ならほとんどどこかには所属してるよ」

女剣士「へぇ~…そうなんですか」


マスター「まぁとにかく、コイツはそのギルドの優秀な仲間に囲まれて育ったんだ。実績はあって当然だ」

冒険戦士「…僕だって頑張って実力を磨いたのに」

マスター「わかってるよ。死なない程度に、実力を少しずつ磨いてけよ。焦らずにな」

冒険戦士「わかってるって!」

 
女剣士「羨ましいなぁ…」

冒険戦士「お姉さんも、うちのギルドに来る?」ハハッ

女剣士「!」

冒険戦士「お姉さんみたいな人がいれば、もっとギルドもにぎわうかも?」アハハ

女剣士「楽しそうですね♪」


マスター「あ~ダメだダメだ。仕事のほうが忙しくて、そうそう顔出しはできないだろ」

女剣士「あ…で、ですよね」

冒険戦士「そっかぁ」


女剣士「…」ショボン

マスター「そんな顔すんな。それに、お前は俺と休みを使って副業するんだろ?」

女剣士「あっ、そうでした!」

マスター「そこでみっちり立ち回りは教えてやる。優秀なギルド様ほどにはいかないがな」

 
冒険戦士「副業って…マスターがやってる冒険稼業の?」

マスター「そう。もう"冒険ゴッコ"みたいなもんだが、まだその辺のヒヨっ子よりはまともな動き出来ると自負してるぞ」

冒険戦士「いやいやいや、ヒヨっ子とかじゃなくても…一般冒険者にも負けないでしょう」

女剣士「え?マスターさん、そんな強いんですか?」


冒険戦士「強いも何も、ドラゴン討伐に参加したり…軍からの討伐メンバーにお願いされるほどだよ」

女剣士「!」

マスター「昔の話だろ。それにもう俺は軍の仕事は断ってるし、簡単な依頼を受けてるだけだ」

冒険戦士「まだ現役でいけると思うんだけどなぁ」

マスター「無理だっつーの。つーかほら、コーヒーだ」スッ

 
冒険戦士「お~。これこれ…♪」

…ゴクッ…ゴクゴクッ…


冒険戦士「うん、美味しい。やっぱりこれを飲まないと遠出は出来ないよ」


マスター「それは有難うございますお客様」

冒険戦士「あはは…さて…。そろそろ行かないと」ガタッ

マスター「なんだ一杯だけでもう行くのか?」

冒険戦士「うん。また飲みにくるよ」

マスター「せわしないな。時間には余裕を持つもんだぞ」

冒険戦士「心がけるよ。それじゃあね」

 
マスター「ん。気をつけて行って来い」

女剣士「行ってらっしゃいです~」


冒険戦士「うん、行ってきます!」


ガチャ…バタンッ

 
女剣士「は~…凄いですよね本当に」

マスター「あの歳で冒険者ってことがか?」

女剣士「それもそうですけど、何ていうか…うん。何もかも凄いです」

マスター「羨ましがってたしな」

女剣士「それはそうです。私と一緒の人だって沢山いるはずですよ。妙に大人な感じでしたし」


マスター「…」フゥ

女剣士「?」


マスター「いいかよく聞け。だが、この話…俺がしたっていうのは内緒だぞ」

女剣士「は、はい…何ですか?」


マスター「あいつはな…孤児なんだ」

女剣士「え?」

 
マスター「あいつの所属するギルドのメンバーの1人が、別の町で赤ちゃんを保護した事がある」

女剣士「!」

マスター「親を魔物に殺され、助けられたのが冒険戦士だ」

女剣士「…」

マスター「ま…そういう境遇もあいつはもう気にしてないみたいだが」

女剣士「…」


マスター「冒険出来る事を羨ましがるなということじゃない」

マスター「ここに訪れる客は、当たり前の人生を持つ人より、そういう人が多いんだ」


女剣士「ごめんなさい…私…調子に乗って親だとか…」

マスター「何も言わなかった俺も悪いが、冒険者というのは…そういう境遇がいるってのも心がけておくことだ」

 
女剣士「はい…」ズーン

マスター「しかしまぁ…、その明るさで話かけるのはお前の良さだと思うぞ」

女剣士「良さ…?」

マスター「あんな風に、お前の無邪気な感じで話をするのはこの喫茶店になかった顔だしな」

女剣士「…」

マスター「お前はお前らしくでいい。だが、お客の奥に入り込むのは基本的にタブーだ」

女剣士「は…はい」


マスター「とはいえ、少しこういう接客業でいると仲良い奴も出てくる。その辺は臨機応変にな」

女剣士「はいっ」

 
…ガランガラン!!

マスター「っと…客だぞ。明るくな…いらっしゃいませ」

女剣士「はいっ!い、いらっしゃいませっ!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 17時30分 】


マスター「ありがとうございましたーっ」

女剣士「ありがとうございましたっ」


男「美味しかったよ、また」

ガチャッ…バタンッ…

 
マスター「…うしっ!」

女剣士「?」

マスター「表のプレートをクローズにして、看板しまってきてくれるか?」

女剣士「終わりですか?」

マスター「そっ。1日ご苦労さん」

女剣士「お疲れ様でしたっ!」

トコトコ…カチャカチャ…


マスター「さてと、今日1日が終わって何か質問があるか?」

女剣士「いえ特には」

マスター「そうか。あーえーと…」ゴソゴソ

女剣士「?」

 
マスター「ほら、これ持って帰れ」スッ

女剣士「これって朝の仕入れたお魚じゃないですか」

マスター「生ものだし、うちは毎日仕入れしてるんだ。勿体ないから食べていい」

女剣士「じゃあ…遠慮なく頂きますね。ありがとうございます」ペコッ


マスター「さて、最後のお客さんの皿洗いとか、掃除を軽くして…」

ジャー…カチャカチャ…

マスター「あとはもう帰って大丈夫だ。また明日よろしくな」

女剣士「わかりました。お疲れ様でした」

 
マスター「あいよ…夜は夜更かしせずしっかり休めよ」

女剣士「はい、失礼します」

ガチャッ…バタンッ…


マスター(ふむ…)

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜・アパート 】


カポーン…ジャー…

女剣士(お風呂気持ちいい…。足、少し痛いな…)

女剣士(でも、色んな人とお話出来て楽しいや。ギルドっていうのも知ったし…)

女剣士(たまにもっと中央都市を歩いて、色々と見てみたいかも)


女剣士(でも、休みはマスターさんと冒険だもんね。頑張ろっ!)ザバッ!!

 
ゴソゴソ…ゴシゴシ…

女剣士「体拭いて~♪貰ったお魚はどうしよっかなぁ…、煮魚も美味しそうだし…」
 
女剣士「…うーん」

女剣士「…」

女剣士「…」

女剣士「あ…」


女剣士「そういえば、まだお母さんとお父さんに事情説明してないや…」

女剣士「手紙出そうかな…。でも、心配して私のところに飛んできそう…」

 
女剣士「…」

女剣士「…」ハァ


女剣士「心配かけたくないし…やっぱり言えないよね…」

女剣士「ごめんなさい…」


女剣士「うん。必ず自分の力で何とかして、マスターさんに色々教えてもらって…立派になるからっ!」


女剣士「は…はくしょんっ!寒…っ!お風呂入りなおそっ」

カチャカチャ…バタンッ…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 】


ガチャッ…

マスター「ん、おはよう」

女剣士「おはようございますっ!」ペコッ


馬車商人「やぁ」


女剣士「あっ、馬車商人さん!」

馬車商人「話は聞いたよ、頑張ってるんだってね」

女剣士「それほどでもないですよ」エヘヘ

 
マスター「今日の分は無事に持ってきてくれて良かったわ」

馬車商人「ははは…旦那、その冗談はきついですよ」

マスター「とりあえずありがとな」

馬車商人「しかし珍しいですね、こんな"モノ"を頼むなんて」

マスター「まぁ、明日から女剣士と少し行こうと思ってな」

女剣士「どこにですか?」

マスター「あぁ、言ってなかったが明日は火曜日だからな。ここの喫茶店は毎週火曜日と水曜日は休みなんだ」


女剣士「…中途半端ですね?」

 
マスター「冒険者に合わせるとそういう休みになっちまったんだよ」

女剣士「なるほどです」

マスター「で、ほら」スッ

…ドサッ!


女剣士「これは…?」

マスター「馬車商人に頼んで貰った冒険者用のバックパックセットだ」

女剣士「!」


馬車商人「女性用は少ないし、高級品なんですよ。体力に合わせて素材も軽くていいの使ってますし」

女剣士「じゃあ、高いんじゃないですか?」

 
マスター「気にするほどじゃない。装備は万全にしてくのが常道だ」

女剣士「…」

マスター「ところで、お前は自分の武器は持ってるんだろうな」

女剣士「え?あ、はい!もちろんです」

マスター「それと勝手に明日から少し遠出して、魔物狩りの準備は進めてたが…明日行けるのか?」

女剣士「当たり前ですよ!」

マスター「わかった」


馬車商人「では自分はこれで。頑張ってね」

女剣士「はいっ、ありがとうございました」ペコッ


ガチャッ…バタンッ…

 
マスター「さて…今日の仕入れ食材は、山林部の果物とかの山の幸か。何作るかな…」ブツブツ


女剣士「マスターさん」

マスター「ん?」

女剣士「その…ありがとうございます。準備して頂いて…」

マスター「俺が誘った手前もあるし、必要なことはさせてもらうさ。もちろん、そりゃ俺からのサービスだ」

女剣士「…」

マスター「ま、今はそれを端っこに置いて食材をどうするか手伝ってくれ」

女剣士「あ…はいっ!」パタパタ

 
マスター「今日の食材は北の山から取り寄せてるからキャベツだのなんだのなんだが」

女剣士「お肉があれば生姜焼きとかに合いますね~」

マスター「そうだな…ん?」

…ゴロンッ


マスター「なっ…何じゃこりゃ…」ビクッ

女剣士「なんですか?」

マスター「紫色の…何だこれ…。見たことないぞ…」

女剣士「おーっ!アケビじゃないですか!」

マスター「あ…アケビだって?」

 
女剣士「まだ割れてないですね、少し果実は甘みが少ないかもしれません」

マスター「女剣士はこれが何か知ってるのか?」

女剣士「東方で採れるフルーツですよ。お父さんが、何回か取り寄せてました」

マスター「…知らんなぁ。俺こんなの頼んだ覚えないんだが…」

女剣士「間違いだったんでしょうか」


マスター「ん~…。あ、そういや…昨日仕入れ頼んだ時にサービスで何かつけますって言ってたなアイツ」

女剣士「じゃあそれかもしれませんね」

マスター「つっても、俺は食べ方知らんぞ?中身を食べるのか?」

女剣士「皮が割れてませんからねぇ。中身はまだ少し淡白で、食べるにも苦いと思いますよ」

マスター「じゃあどうするか…」

 
女剣士「逆に皮を食べれます。中身は小鳥にあげるか、牛乳なんかと混ぜて飲むのもありでしょうが」

マスター「お前はこれを料理できるのか?」

女剣士「…甘味噌なんかがあれば」

マスター「もちろんあるぞ」

女剣士「台所使ってもいいでしょうか?」

マスター「ん、構わないぞ」


トコトコ…ジャバジャバ…

女剣士「じゃ、失礼します。手洗って…よいしょ」スッ

…サクッ…トントン…

女剣士「あけびなんか本当に久々に見ましたよ。これが中身です」ニュルッ

 
マスター「し…白いな」

女剣士「えーと…中の味は…」パクッ

ムニュムニュ…ゴクン…


女剣士「う、うえ…やっぱりまだ少し苦いですね。食べてみますか?」スッ

マスター「何だこれは…。少しだけな…」パクッ

ムニュ…ゴクン…


マスター「…」

マスター「…何ともいえんな。うん…」


女剣士「まだ中身は早い感じですしね。少し待つと美味しいんですが。とりあえず皮を料理してみます」

マスター「俺はわからないから頼んだ」

 
女剣士「皮を刻んで、サラダ油で炒めていきます」
 
トントン…パラパラッ…

カチッ、ジュー…


女剣士「…♪」

マスター「色々知ってるんだな。助かるよ」

女剣士「いえいえっ。楽しくて、ついつい覚えちゃうんですよね色々と」

マスター「いいことだな」

 
女剣士「しんなりしたら、軽くお酒をいれて…混ぜて。甘味噌を加えて…と」

ジャッジャッジャッ…!!ジュワア…

ジュウウ…

女剣士「良い匂いですね…お皿に移して、サっと完成です!」


ジュワア…トロトロ…

マスター「お…少し美味しそうじゃないか」

女剣士「では一口!」パクッ

モグモグ…


女剣士「うん…少しの苦味と甘味噌が合って美味しいです!」ゴクンッ

マスター「ほぉ?どれどれ」

ヒョイッ…モグモグ


マスター「!」

女剣士「どうですか…?」

 
マスター「うまいじゃないか…。だが喫茶店っていうより酒場のメニューだなこりゃ」

女剣士「あはは…確かにそうかもしれませんね」

マスター「ま、今日の一品としてランチに加えてみよう」

女剣士「♪」


マスター「調理担当は、お前にお願いするぞ」

女剣士「は、はいっ!」


マスター「さて…準備もできたし冒険喫茶のオープンだ!」

本日はここまでです。ありがとうございました。

皆様ありがとうございます。投下致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 7時間後 】


冒険者「ふーっ…ご馳走様。美味しかったよ」

マスター「お褒めの言葉、ありがとうございます。またお越しくださいませ」

トコトコ…ガチャッ…バタン…


女剣士「今日のお食事、好評でしたね♪」

マスター「かなり好評だったな。そのうち定時メニューも悪くないかもしれん」

女剣士「アケビは結構、高級食材なんですよね。時期も限られますし」

マスター「む…ならちょっとキツイか。ま、考えておこう」

 
女剣士「それでえーと…明日はどこかに行くんですよね?」

マスター「あ、そうそう。明日は朝10時にココに集合だ。東部の街道に向かうぞ」

女剣士「わかりました。何をしに行くんですか?」

マスター「まぁ簡単な魔物掃除だな。いつもやってる事なんだが、とりあえず行けば分かる」

女剣士「はい。必要なものとかはありますか?」

マスター「自分の武具、それと必要なのはバックパックにある。1日中になると思うが大丈夫か?」

女剣士「大丈夫ですっ!」


マスター「ん。そんじゃ今日はしっかり休んでおけよ」

女剣士「わかりました、それじゃ失礼します」ペコッ


ガチャ…バタンッ

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 アパート 】


ガチャガチャ…

女剣士「ただいま~…って誰もいないんだった…」

トコトコ…


女剣士「ふぅ…疲れた」

女剣士「お風呂先に入れちゃお…。あぁでもその前に明日の準備を…」

…モゾモゾ

 
女剣士「…」

女剣士「一人暮らしになると、独り言増えるもんなのかな。私だけなのかな…?」

女剣士「…」

…シーン…


女剣士「と、とにかく持ってきた剣を磨いて、お弁当なんかも作っちゃったりして…」


女剣士「…明日、楽しみだな…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日(火曜日) 】


ガチャッ…

女剣士「おはようございます」

マスター「おっ、来たか。武器とかの準備はいいか?」

女剣士「大丈夫です」スチャッ

マスター「お、いい剣だな。俺も剣なんだが、コレだ」

…ズンッ!!!


女剣士「!?」

マスター「でかいだろう」

 
女剣士「な、何ですかこれ!っていうか、床に穴が!穴が!!」

マスター「あっ」

女剣士「ど、どうするんですかこの穴…」

マスター「まぁ大丈夫だろ。そのうち直る」

女剣士「ケガじゃないんですから!」


マスター「それより村までは馬車で行く。乗り場まで行くぞ」

女剣士「わかりました。私のバックパックはっと…」

マスター「あ、そこまでは俺が持つからいい。行くぞ」ヨイショ

女剣士「は、はいっ」

タッタッタッタッタ…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 馬車乗り場 】


ザワザワ…ガヤガヤ…

運転手「よろしくお願いします。前金は頂いているので、快適な旅に精一杯努めます」

女剣士「よろしくお願いします」ペコッ

マスター「ん、よろしくな」

運転手「足元にお気をつけてお乗りください」


女剣士「ん…よいしょ…」

ギシ…ギシギシ…

 
マスター「うし。よっこらせっと」ギシッ

…ストン


女剣士「馬車なんて久しぶりですよ」

マスター「酔ったりするほうか?一応、酔い止めは持ってきたが」

女剣士「あ、大丈夫です。もし酔ったら頂きます」

マスター「そうか。遠慮なく言えよ」


運転手「それじゃあ出発しますね。ハイヤッ!」パァン

ギシッ…パカラッ…パカッ、パカッパカッパカッ…

 
女剣士「~♪」

マスター「ずいぶん、嬉しそうだな?」

女剣士「そりゃそうですよ…。待ち望んでた事ですからっ」

マスター「ま、そりゃそうか」


女剣士「あ、ところでマスターさん。朝ご飯食べてきましたか?」

マスター「ん…いや、まだだが」

女剣士「良かったぁ。これ、どうぞっ!」

ゴソゴソ…スッ

マスター「何だこりゃ」

女剣士「お弁当です」フンッ!

 
マスター「そんな鼻息荒げる程の力作なのか」

女剣士「そういうこと言わないで下さいよっ!」

マスター「ま、有難うさん。お前の腕前なら美味いだろうしな」

…パカッ

マスター「お?何だこれ」

女剣士「この間もらったお魚が少し余ったので、マリネにしてみました」


マスター「ほう。いい香りだ…どうやって作った?」

女剣士「漬け汁はレモン汁、ワインビネガーとかを合わせつつ、香料をまぶしました」

マスター「ほう」

女剣士「風味があって美味しいと思います。あとは手製の簡単なのを詰めてみました」

マスター「じゃあ頂くよ」

女剣士「はいっ」

 
ヒョイ…パクッ

マスター「…」

女剣士「…」ドキドキ


マスター「…うん、美味いな。少しにんにくも入ってるな?香ばしさが良い」

女剣士「おいしいですか!?良かったぁ」

マスター「こっちも頂こう。…うん、料理美味いんだな本当に」モグ…

女剣士「趣味の1つですからね」エヘヘ

マスター「大したもんだよ。俺も料理には自信があるんだが、見習う所もありそうだ」

 
女剣士「そんな…。あ…それと、これをどうぞ」スッ

マスター「レトロな皮袋だな。何が入ってるんだ?」

女剣士「ぶどう酒ですっ。やっぱりこういうのには、ぶどう酒がつきものだと思いません?」フフッ

マスター「おま…、そういや酒とか普通に使ってるが未成年じゃないか」

女剣士「料理酒は別ですよぉ。そ、それとこれは余った物を合わせて手製にしてアルコールゼロに近いですから!」

マスター「んむ…じゃあいいか。しかし何だか…いたれりつくせりだな」

グビグビ…


マスター「うっ…?」

女剣士「!?」

マスター「こ…こりゃ…」

女剣士「だ、だめでしたか!?」アセッ

 
マスター「弁当に合いすぎる…う、美味いぞ…」ホワアッ

女剣士「な、なんだ良かったぁ…」ホッ

マスター「いやピッタリな飲み物だ。こりゃ食べるのも進む…」モグモグ


女剣士「えへへ、良かったです」

マスター「しかしこんなのまで作れるのか。お前、料理屋に勤めたほうが良かったんじゃないか?」

女剣士「それも考えましたけど、やっぱり親の背中を追いたいじゃないですか」

マスター「んーそんなもんか。それにしても、ここまで料理を覚えるってのは中々難しいぞ」

女剣士「お父さんの影響だけじゃないんですけどね」

マスター「ふむ」

 
女剣士「お料理を始めたのはお父さんですが、同じ町の料理店の方に教わったりもしまして」

マスター「ほう」

女剣士「凄い方で、今度中央にも支店を出すそうですよ」

マスター「へぇ…食べに行ってみるか。女剣士の師匠なら、さぞかし美味いんだろうな」

女剣士「まさに魔法のようなお料理ですから♪」

マスター「ふーん…」


女剣士「それに、戦いをする冒険者は…いつも最後の晩餐と思って美味い物を食べろって言ってました」

マスター「確かに、それはある」

女剣士「だから、冒険者になるなら手に職…って訳じゃないですが、料理を覚えておこうかなって」

マスター「いい心がけだな」

 
女剣士「えへへ、でも喜んで貰えてよかったです」

マスター「うんむ、美味い。自信を持っていい」

女剣士「やったっ」


マスター「さて、あとはのんびりと変わりいく景色でも楽しんでいくといい」

女剣士「そうしますっ」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 2時間後 】


…パカラパカラッ…

マスター「…」

女剣士「…」

マスター「…」

女剣士「…」


マスター「…あーそうだ。聞きたいことがあったんだ」

女剣士「何でしょうか」

マスター「実践の経験、お前の実力は余り知らないまま連れて来ちまったんだが…」

女剣士「あ…」

 
マスター「お前はどこまで出来る?依頼の実践の経験は?」

女剣士「実践はお父さんやお母さん達と何度か。剣術はほぼ独学ですが」

マスター「独学?親父さんとかが剣士なんじゃないのか?」

女剣士「あ、いやそれは…」


ヒヒーン!!!

運転手「う、うわぁ!」


マスター「ん?」

女剣士「馬と運転手さんの悲鳴…どうしましたか?」

 
運転手「め、目の前に盗賊が…」

女剣士「えっ!」


マスター「またか…話の途中だっつうに。馬車の積荷狙いだろう…よくあるんだ」

運転手「ど…どうしましょう」

マスター「俺が対処するよ。女剣士はここで待ってろ」

女剣士「は、はい」

 
…ヒュウウ

盗賊A「積荷の物と、中に乗客がいるなら降りて来い!」

盗賊B「命までは取らん!金になるものだけ置いていけ!」

盗賊C「出てこい!」


モゾ…ストン

マスター「やれやれ、またか」

盗賊A「客か…。金と持っているものは全部置いていけ!命までは取らん」

マスター「嫌だっつーの。いいから実力行使で奪ってみろ」

盗賊A「…戦うっていうのか?」

マスター「お前らみたいな二流には、まだまだ負けんよ」


盗賊A「いい度胸だ。その腕、なくなっても知らんからな!」ダッ

マスター「大剣を使うまでもない」スッ

 
盗賊A「おらぁ!」ブンッ

マスター「盗賊のくせに攻撃が遅いって何事だよ」

ヒュンッ…ガシッ!!

盗賊A「へっ?」

マスター「…おらあっ!」ブンッ!!!

グルンッ…ズシャアッ!!


盗賊A「ぬあっ!」

マスター「必殺…背負い投げ。なんつって」

盗賊A「な、なめやがって…」

 
マスター「実力の差は分かっただろ。俺も見逃してやるから、さっさと通してくれないか」

盗賊A「ふふ…おい、あっちを見てみろ!」

マスター「ん?」チラッ


盗賊B「…こっちに、女がいたぜ!」

盗賊C「一丁前に剣なんて装備してやがる!寄越せ!」グイッ

女剣士「あっ、ちょっと!それ私の剣ですよ!」


マスター「…あらら」

盗賊A「へへ、お前のコレか?乱暴されたくなかったら大人しく金のものを…」


マスター「おい、そこの2人!!」

 
盗賊B「ん?」

盗賊C「何だコラ!」


マスター「そこの女に手出したら…お前らもこうだからな!」グイッ

盗賊A「へっ?」

ミシミシミシミシ!!!

盗賊A「あいぎゃああああっ!」


盗賊B「ぬおっ!」ビクッ

盗賊C「や、やめろ!」

 
マスター「…ん、おい…後ろ」

盗賊C「ん?」クルッ


女剣士「…盗賊さん、それ返して下さいよぉ!!」クワッ

女剣士「掌底波ぁっ!!」ブンッ

…バキイッ!!!

盗賊B「ぬがあっ!」

クルクル…ドシャッ…


マスター「!」


盗賊C「て、てめぇ仲間に何しやがる!」

女剣士「人の剣を返して下さい!それは大事なものなんです!」

盗賊C「よくも仲間を!このやろう!」ブンッ!!

 
女剣士「きゃっ!」ヒュンッ

…ズザザ


盗賊C「へへ…不意打ちなんてさせねーぞ。正面から切り裂いてやる」

女剣士「…、運転手さん!馬車に着いてるコレ借りますね!」ダッ

運転手「へ?それは護身用のただ槍…」


女剣士「…」スチャッ


盗賊C「武器がないからって、そんな咄嗟に取っても無駄だぜぇ!」ダッ

女剣士「…小突っ!!」ビュンッ!!


盗賊C「!」

マスター「!」

 
ドスッ…

盗賊C「ぬぐ…」

女剣士「ごめんなさい、でも先端は刺さらないようにしたので…」

盗賊C「てめ…剣使いじゃ…ねえ…のかよ…」

…ドシャッ


盗賊A「よ、よくも俺の仲間を!」

マスター「お前ちょっと黙ってろ」

ゴツッ!!…ドサッ

盗賊A「」

 
女剣士「あ、マスターさんもやった!」

マスター「…」チラッ


盗賊B「」

盗賊C「」


マスター(女剣士…盗賊をどっちも一撃で沈めてやがる…)

  
運転手「お…」

運転手「おぉぉぉ…す、凄いですね!お二方!!」


トコトコ…グイッ

女剣士「全く、人の物を取っちゃダメですからね。返していただきます」チャキンッ

マスター「…お、おい」

女剣士「はい?」


マスター「お前…剣士じゃないのか?」

女剣士「剣士ですよ?」キョトン

マスター「…武道術、槍術。どっちもありゃ趣味でやれる技のキレじゃないぞ」

女剣士「あ…」

 
マスター「一体どこで覚えた?剣術はそれ以上に長けてるのか?」

女剣士「あ…じゃ、じゃあ馬車に戻ってから説明しますよ。さっきもそれを言いかけたんです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マスター「独学?親父さんとかが剣士なんじゃないのか?」

女剣士「あ、いやそれは…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マスター「そうだったか。分かった、戻ろう。聞かせてくれ」

女剣士「はいっ」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 馬車の中 】

パカッ…パカッ…


マスター「で…どうしてだ?」

女剣士「実は、私のお父さんは騎士で、お母さんは武道家だったんです」

マスター「…お前は、どっちかを目指さなかったのか?」

女剣士「親がこうなら、私はこうだ!って思ってて…気づけば剣の道に進んでたって感じです」

マスター「…」


女剣士「最も、小さい頃は父も母をマネしてたのでそっちの基本も身についちゃったようなんですが」エヘヘ

マスター「剣術の方は完全に独学なのか?」

 
女剣士「さっき言った料理の人みたく、実は知り合いに剣術を知ってる人がいたので基本は教えて頂きました」

マスター「ふむ」

女剣士「基本だけで、あとの発展の型は独学ですからまだまだ弱いですけどね」


マスター(基本が最も難しいんだが…槍術も武道術もキレが半端じゃないぞ…)

マスター(よく見れば、素晴らしい肉体だ。しなやかに伸びる筋肉…、咄嗟の反応速度…)

マスター(何より、相手にひるまずに向かって行く勇気。思ったよりもこの娘は…)ジー…

 
女剣士「…?」

マスター「…!」ハッ

女剣士「そ、そんな見つめてどうしましたか?何か変なところでも…?」

マスター「な…何でもない」プイッ


女剣士「…でも、"あぁいう事"があると少し落ち込むんですよね」

マスター「あぁいう事?」


女剣士「やっぱり武道術とか、槍術とかのほうがしっくりくるんですよ。血筋だから仕方ないんですが」

マスター「…」

女剣士「だから自分の道を見つけてやろうと意気込んでも…、こういう事が度々あって…あはは…」

マスター「…」

女剣士「やっぱり剣士の道って私じゃ厳しいのかもしれませんね」

 
マスター「…まだ若いからな。これから何があるか分からん。もっともっと悩んで考えることだ」

女剣士「…悩む、ですか?」

マスター「自分の道に悩むのは当然だ。誰でもあることだし、それは悪い事じゃない」

女剣士「…」

マスター「むしろ、悩まずに答えを出すほうが間違いだ。俺との日々が、その答えに近づければ嬉しいと思うぞ」

女剣士「マスターさん…」


マスター「まぁ極端な話、オールラウンダーっていう手もなくはない」

女剣士「オールラウンダー…ですか?」

マスター「ウェポンマスター…いや、バトルマスターといった感じか。全ての武具、武術を扱える戦士なんかもいるんだぞ」

女剣士「へぇ~…」

 
マスター「時間はある。早い答えを求めるな。そして努力は怠るな…。それだけは言っておく」

女剣士「…はいっ」ニコッ



マスター「村までは少し時間がある。休んでおけ」

女剣士「わかりました、ありがとうございましたっ!」」

マスター「…んむ」

女剣士「…♪」


マスター「…」

女剣士「…」

………
……

本日はここまでです。ありがとうございました。

皆様ありがとうございます。投下致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夕 方 】


…ゴトン…ゴトン…ズザ…

運転手「お二方、着きました。"街道村"です」


マスター「…ん、ご苦労様。ふわぁ…いつの間にか寝てたか…」ンー

女剣士「…」スヤスヤ

マスター「おい、女剣士」

女剣士「…」クゥクゥ

マスター「…」

 
運転手「どうしますか?」

マスター「仕方ない…背負ってくよ」

グイッ…ギュッギュ…


運転手「背負ってくって…そのバカでかい剣に2人分の荷物に…」

マスター「このくらいどうってことないさ。それより…運賃は?」

運転手「2万9000万ゴールドになります」

マスター「3万ゴールドで釣りは結構だ。またよろしくな」

運転手「はい、ありがとうございました」

 
トコ…トコトコ…

マスター「…」

女剣士「…」スヤスヤ

マスター「…」


女剣士「…」ユラユラ

マスター「…」


女剣士「何か揺れる…」パチッ

マスター「お、目が覚めたか?」

女剣士「はい…って!マスターさんっ!?」バタバタ

マスター「お、おい!暴れるな!」

 
女剣士「で、でも背負って貰ってって…あれ!?馬車にいたんじゃ…」

マスター「とっくに着いたよ。歩けるなら歩くか?」

女剣士「そ、そりゃもちろんです!」

ズザッ…


女剣士「ご…ご迷惑おかけしました!」

マスター「構わんよ。と…あれが今回の目的の街道村だ」

女剣士「あうぅ…あっ!入り口が見えますね…もう夕方ですし、一泊ですか?」

マスター「そうなるな。…って言ってなかったか?」

女剣士「はい」

マスター「あ~…そうか。着替えとかはないか?」

 
女剣士「一応とは思って持ってきました」

マスター「お、準備いいな。なら、とりあえずいつもお世話になってる宿場に行くぞ」

女剣士「はい~」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 宿 場 】

…ガラッ!!

宿番「いらっしゃ…あっ、マスターさんじゃないですか」

マスター「今日も世話になるよ」

宿番「わかりました…って、後ろの女性は…もしかして!」

マスター「違うっつーの。俺の…えーと…まぁ、弟子みたいなもんだ」


女剣士「よろしくお願いしますっ」ペコッ

 
宿番「よろしくね。じゃあマスターさん、部屋はどうします?」

マスター「あ…あ~。考えてなかったな…いつもの部屋代で3000ゴールドだろ?」

宿番「そうですね。二人で5000ゴールド分にしますが。マスターさんのも元々2人部屋なんですがね」

マスター「いやさすがに色々マズいだろ。2部屋頼むわ」

女剣士「ノーサンキューですよ!」ビシッ

マスター「はい?」


女剣士「2部屋なんてノーサンキュー、1部屋で大丈夫ですっ!」

マスター「いやお前…」

女剣士「そんなお金かける必要ありませんよ。私は平気ですから」

マスター「んむ…」

女剣士「…大丈夫です」

マスター「まぁ…お前がいいなら…いいんだが…」

 
宿番「じゃあ一部屋でいいですね」

女剣士「大丈夫です」

宿番「ではえーと…101号室の鍵です。利用料金はいつも通り後払いで大丈夫です」

マスター「いつも世話かけるな」

宿番「いえいえ、ごひいきにしていただき感謝してますよ」


マスター「んじゃ女剣士、こっちの部屋だ」

女剣士「はいっ」

トコトコ…


宿番「マスターさんも隅に置けない人だな」ククク

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 101号室 】


マスター「ふぅ、荷物は適当でいいぞ」

女剣士「って言っても、マスターさんが全部持ってるんですけどね」

マスター「んお、そうだったな。よいしょ…っと」

…ドサッ


マスター「さぁて…と」

女剣士「これから、どうするんですか?」

マスター「んーとな…俺がここでやることをザックリ説明するぞ」

女剣士「はい」

 
マスター「この村は俺が現役時代からの馴染みの村でな。若い頃から世話になってたんだ」

女剣士「へぇ~」

マスター「んで、付近に魔物ないし魔獣が多く生息しててな。度々ここら辺の生産物に害を与えるんだ」

女剣士「ふむふむ」

マスター「それで、俺は休みを使って隔週だとか、繁殖するシーズンになると討伐に動くわけだ」

女剣士「なるほど」


マスター「戦いは基本的に夜。終わり次第、寝て次の日の朝に帰るって感じだ」

女剣士「あれ?ってことは、クエストの依頼を受けてるわけじゃないんですね」

マスター「ん…まぁな。休みたいだろうが、準備してちょっと山のほうに行くぞ」

女剣士「余裕ですよ。いつでも大丈夫です」

 
マスター「バックパックは背負って、さ…向かうぞ」

女剣士「はいっ!」

ゴソゴソ…

マスター「うし、出発だ」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 山 道 】

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…


マスター「…」

女剣士「急に暗くなってきましたね。陽が落ちるのは早いなぁ」


マスター「…何だか不思議な気分だよ」

女剣士「え?」

マスター「いつもは一人だからな。こういうのも久々だ」

女剣士「久々って…前は私みたいな人がいたんですか?」

 
 
マスター「現役の頃は、パーティで行動してたからな…ちょっと懐かしくなる」

女剣士「マスターさんの仲間はどんな感じだったんですか?」

マスター「良い奴らだったよ。陽気な戦士に、博学だった僧侶…とか色々だ」

女剣士「今は皆さんは引退したんですか?」

マスター「たまにだが、うちにコーヒーを飲みに来る奴もいる。今度紹介しよう」

女剣士「楽しみです♪」


ザッザッザッザ…ピタッ

マスター「さて…」キョロキョロ

女剣士「?」

マスター「ここからは魔獣の縄張りだ。やはり少しずつ生息域を伸ばしてきてるか…見ろ」

女剣士「…!」

 
マスター「木に付いてる爪傷…相当な数がいそうだ」

女剣士「この辺の一帯、よく見ると傷だらけですね…」

マスター「去年まではもうちょい山奥だったんだが、年々村に近づいてるんだ」

女剣士「討伐してるのに増えるんですね?よく魔物たちは少なくなってるって聞きますが」

マスター「そりゃ中央都市付近とか、軍がきちんと動いてる所だ。こういった田舎はまだまだ処理されていないんだ」

女剣士「そうだったんですね…」


マスター「だからまだまだ"俺たちみたいな冒険者"が生業として生活できるんだが」

女剣士「!」

マスター「あ…ち、違うぞ!?俺は引退した身だからな?」

女剣士「分かってますよ」クスッ

 
マスター「さ、さぁこっちだ!きちんと着いて来いよ!」

女剣士「はいっ♪」


…ザッザッザッザ……

…………

……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 山の深部 】

ホー…ホー…

ガサガサ…サワサワサワ…


マスター「…」

女剣士「…完全に日が暮れちゃいましたね」

マスター「まだ月明かりが頼りになる分、今日は楽だ」


女剣士「…」

マスター(さすがに疲れたり、少し怖くなったか?)

 
女剣士「楽しいですね、こういうの」

マスター「お?」

女剣士「こういった本格的なのは中々ないので楽しいです」

マスター「ふっ…」


女剣士「♪」


…ガサッ!!

 
マスター「!」ピタッ

女剣士「!」ピタッ

マスター(ほう…いい反応だ。俺と同時に足が止まるとは)


女剣士「何か…いますね」スチャッ

マスター「…」スチャッ


ガサッ…ガサガサ…


 
マスター「気配は小さい。…が」ブンッ!!

…ズシャアッ!!!

???『ギャアッ!!』


女剣士「!」

マスター「この辺にいるってことは、やっぱり…ワーグだな」

女剣士(茂みの中の相手に当てた…?大剣とはいえ、今のどうやったんだろう!)


ガサガサ…ヌッ

ワーグ『グ…グル…』ギロッ


女剣士「ワーグ…、魔狼ですか!これが村を荒らす原因なんですか?」

マスター「まぁこいつもだ。あとはケルピーなんかもいるな」

女剣士「魔物のパライダイスですね…」

 
マスター「悪く思うなよっ」グッ

ブンッ…グシャアッ…

ワーグ『ギャ…』


マスター「さぁて、女剣士」

女剣士「は、はい」

マスター「本当なら、女剣士に基本から少しずつ叩き込むつもりだったが…気が変わった」

女剣士「え?」

マスター「お前の実力とその勇気を、俺が過小評価をしてたらしいと今日気づかされた」

女剣士「…?」

 
マスター「つまり…こういうことだな」チラッ

女剣士「?」チラッ


ガサガサッ!!…ガサッ…

ワーグの群『…グルルル』


女剣士「ワーグの…群!」

マスター「このくらいなら着いて来れるだろう?」

女剣士「…できます」スチャッ

マスター「危ない所はフォローしてやる。存分に暴れろ」

女剣士「…はいっ!」

 
ワーグ『グゥアッ!!』ダッ

ダッ…ダダ…ダダダダッ!!!


女剣士「えやああっ!小斬っ!!」ブンッ

…ブシャアッ!!…ドサッ…

マスター(やはり思った通り、剣術の基本も見事なものだ…)


女剣士「次っ!」

ワーグ『グガッ!!』クワッ

女剣士「おっとっと…そう簡単に当たりませんよ!」ヒュンッ

 
マスター(避ける動きも最小限か。よっぽどな鍛錬を積んできたのが良く分かる)


女剣士「…小火炎魔法っ!」ボワッ!!

…ボォンッ!!

ワーグ『ギャンッ!』


マスター「!」

女剣士「えへへ、どうですか…びっくりしましたね!」

マスター「魔法の練りも早い!魔法まで…扱えるのか…!?」

女剣士「いえ…私、魔法はお父さんににて苦手なんです」

マスター「いや…今の魔法はかなりのものだったぞ?」

 
女剣士「お父さんもだったんですけど、こういう簡単な魔法しか扱えなかったんです」

マスター「…ふむ」

女剣士「そこも似ちゃったので、だったら使えるものは使えるものだけで精一杯練習してきました」

マスター「…いいぞ、その心構え」


ワーグ『グルアアアッ!!』ダッ!!

ワーグ『グアアッ!』ダッ!!


マスター「お前は本当に、俺が思っていた以上の素質、努力家のようだな!」ブンッ!!

バスッ…ズシャッ!!!…ドサドサッ


マスター「よく俺の動きも見て、それも吸収するといい。まだ甘い部分を教えてやる」

 
女剣士「…是非っ!」

マスター「遅れるなよ、しっかりついて来い」ニカッ


女剣士(あ…)ドキッ


マスター「ん?」

女剣士「あ、いや!何でもないです!」

マスター「…ふっ。行くぞ!」ダッ

女剣士「はいっ!」ダッ

 
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日・宿(水曜日) 】


チチチ…チュンチュン…


女剣士「…」スヤスヤ

マスター「おい、朝だぞ」

女剣士「…むにゃ…」

マスター「もしもーし」


女剣士「!」ハッ

 
女剣士「それより、昨日はいろいろ教えていただいてありがとうございました」

マスター「当然だ」

女剣士「結局、相当数のワグナー狩りでしたね」

マスター「よく着いてきたな。正直驚いたぞ」


女剣士「あの後、どこかへ行ったようでしたがどこか行ってきたんですか?」

マスター「また村長のところだ。今回の報告にな」

女剣士「なるほど」

マスター「そうして狩をした分の報酬をもらう。本来なら首とか爪とか証拠を持ってくんだが…」

女剣士「マスターさんは持ってってませんでしたよね。一箇所に集めただけで」

マスター「俺の場合は村長の計らいで村の者がその場所に行くんだ。それからの後払いってことになってる」

 
女剣士「さすがにあの数は運べませんもんねぇ」アハハ…

マスター「少ない数しか狩れない駆け出し冒険者ならまだしも、俺の場合はあれが普通だからな…」

女剣士「さすがですよ」

マスター「だが今回はかなりの数の討伐だったし、数えるのも難しいかもしれんぞ」

女剣士「あはは…」

マスター「いつもなら、そろそろ宿番が報酬金を持って来るはずなんだがー…」


…コンコン

マスター「噂をすれば…来たか。どうぞ」

 
ガチャッ…

宿番「お疲れ様です。村長から昨日の報酬にと…いつものを預かってます」スッ

マスター「あぁご苦労様。えーと…」

ゴソゴソ…キラッ

マスター「これはいつもの礼だ。それと、もう帰る宿代もここから抜いて…と。これだけ渡すぞ」チャリッ

宿番「はい…確かに。いつも有難うございます」


マスター「いや、こっちこそいつも部屋を用意してもらって悪いな」

宿番「いえいえ、マスターさんには村全体が助けられてますから。では失礼致します」ペコッ

ガチャッ…バタンッ

 
マスター「それとな…」ゴソゴソ

…チャリチャリッ

女剣士「これは?」

マスター「これがお前の取り分。宿代は別にしとくから取っておけ」スッ

女剣士「えっ!?いやいや、いいですよ私はっ」

マスター「…んなわけにいかないだろ。お前もきちんと仕事はしたわけだし」

女剣士「借金もありますし、そっちは別に…」


マスター「お前、公式で活動するのはコレが初めてなんじゃないのか?」

女剣士「そうですけど…」

マスター「その初めてに報酬がなくてどうする。これは借金とかは別だ」

女剣士「む、むぅぅ…」

 
マスター「それに謝礼はきちんと受け取れ。俺らは慈善団体なんかじゃないんだぞ?」

女剣士「じゃ…じゃあ…」ペコッ

マスター「生活費の足しになるくらいは渡す。別途、借金の差し引きはそこからさせてもらうから安心しろ」

女剣士「はい、じゃあ頂きます」

スッ…チャリチャリンッ…ペラペラ…


女剣士「…えっ」

マスター「ん?」

女剣士「ええええぇっ!?」

マスター「ど…どうした?」


女剣士「これ間違えてますよ!4万ゴールドっておかしいでしょう!」

マスター「言いがかりは寄せよ…。きっかりと借金分の半額差し引いてるぞ?あとは196万ゴールドだ」

 
女剣士「少ないとかじゃなくて、逆です!…ちょっと、1日分でこれなんですか?」


マスター「ここの特産品は世界に輸出されるもんでな。田舎とはいえ年単位ではかなりの方なんだ」

マスター「それを潰されないように俺みたいのが度々活躍すりゃ、20万も30万も寄越すだろう」


女剣士「太っ腹なんです…ね?」

マスター「それはちょっと違う」

女剣士「?」


マスター「お前は冒険者の立場だからそう思うだけだ」

マスター「例えば、自分の事を命を張って守ってくれるボディーガードを1日3万や4万で雇うとして、希望者が来ると思うか?」

 
女剣士「いえ、さすがにそれは安いような気が…」

マスター「じゃあ俺らがやった、一般人の年間死者数のトップに割り込む"魔物"の退治は1万や2万でやれるか?」

女剣士「あ…」

マスター「そういうことだ」


女剣士「むぅ…。じゃあ、実力が高ければ高いほどやっぱり仕事も多いってことなんですね」

マスター「実はそうも行かなくてな。ドラゴン退治をするような奴が、こういう仕事をすると思うか?」

女剣士「あ~…」

マスター「そもそもそういう奴を雇うのは数十万…いや、数百、数千万単位が必要になることだってある」

女剣士「ええっ!」

  
マスター「まぁ金を積まれたらやる奴はいるだろうが…」

マスター「報酬の支払いもドラゴンなんかと比べたら安いしやりたくないだろうな」


女剣士「ふむふむ…」


マスター「それと自分で言うのもなんだが…」

マスター「上級魔物を討伐してきた俺みたいなのが、こういう仕事を請負うのは珍しいんだぜ」


女剣士「むむむ…」

マスター「それとな…冒険者は体が資本だ。稼ぐときに稼ぐ。冒険者のケガは一生モンになりがちなんだ」

女剣士「勉強になります」


マスター「まぁ話は長くなったが、その報酬は普通ってことと、貰えるものは貰えってことだ」

女剣士「はいっ!」

マスター「元気のいい返事でよろしい」

 
女剣士「じゃ、じゃあ…その討伐とかで、今までで一番稼いだ人ってどれくらいなんでしょうね」

マスター「結構前だが、数兆円ゴールドを稼ぎ出したのがいるらしいが」

女剣士「えええっ!凄い!」

マスター「ま、夢物語だよ。俺らは一歩…まず一歩だ。それを忘れるな」

女剣士「はいっ」


マスター「んじゃ、そろそろ宿出るか」

女剣士「あ…そうでした改めて言いたい事があったんです」

マスター「ん?」


女剣士「昨日、今日は本当にお世話になりました」ペコッ

 
マスター「はは…おいおい」

女剣士「はい?」

マスター「いつもそんな頭下げてたら持たないぞ?これから教えられる事は教えるつもりだからな」


女剣士「あはは…でも、お世話になる人にはきちんとお礼をいいますよ♪」

マスター「行儀のいいことで…」

女剣士「えへへー!」


マスター「…さて、忘れものはないな。中央に帰るぞ」

女剣士「はいっ!」


ガチャッ…バタンッ…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・

本日はここまでです。ありがとうございました。

シリーズマラソンしてきた

達成感!!

皆様ありがとうございます。投下致します。

>>215
嬉しいですねっ。ありがとうございますっ。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――――【 次の日(木曜日) 喫茶店 】

コチ…コチ…

マスター「…」

コチ…コチ…

マスター(9時20分…か。まだ女剣士は来ない…と)

マスター(今日は営業日…)

マスター(ふっ…そりゃ当然か。眠気覚ましの一杯も淹れておくか)

 
ダダダダッ…ガチャッ!!

マスター「お…」

女剣士「すすす、すいません~!遅刻しましたぁ!」

マスター「わかってるよ」

女剣士「寝坊しちゃって…って、わかってる…?」

マスター「まだ客も来てないし、落ち着け」


女剣士「全然疲れてないと思ったんですけど、気づけばこんなに寝てしまってて…」

マスター「目に見えない疲れほど怖いものはない。自分の体をもっと知ることだな」

女剣士「はい…」

 
マスター「と、本来なら叱る所だろうがそれは仕方ない。やや遠征に近いものもあったしな」

女剣士「あうう…」

マスター「予想通り、こうなるとは思ってた。だから店も…ほれ」チラッ

女剣士「え?」クルッ


マスター「"CLOSE"だ」


女剣士「マスターさん…!」

マスター「ほら、休んでる暇はないぞ」

女剣士「はいっ!早速掃除からしますね!」

 
マスター「頼むぞ…と、その前に。今日から奥にお前の仕事着を用意したからな」

女剣士「えっ、仕事着ですか?」

マスター「エプロンだけでは寂しいだろうと。やっぱり華には美しくあってもらおうと思ってな」

女剣士「華だなんて♪」

 
マスター「奥で着替えてこい」

 
女剣士「は、はいっ!」

タッタッタッタッタ…


マスター「…」

マスター「…」

マスター「…」


女剣士「…ってマスターさぁん!」

マスター「何だ!」

女剣士「こ…これはちょっと…」

マスター「せっかく用意したんだから、着てみてくれ!」

女剣士「は…はいぃ…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

キラキラ…!フワフワ…!

女剣士「メイド服だとは…思いませんでした…」プルプル

マスター「不服か?カフェといったらそういう制服が一般的だと思ったんだが」

女剣士「いえ…可愛くていいとは思うんですが少し恥ずかしいなって…」アハハ…


マスター「そうか?よく似合ってるし可愛くていいと思うぞ」

女剣士「あう…で、でもですね。ちょっと短すぎません…?」パサッ

 
マスター「そのくらいが普通だと思うんだがな。嫌なら別にいいんだが」

女剣士「い、いえいえ!」

マスター「じゃあ着てくれるのか?」

女剣士「え…えーと…それは…」モジモジ


…ガチャッ!!

女剣士「!」

マスター「おや」


常連「クローズだったけど、中にいるの見えたから入ってきちゃったけど大丈夫?」

マスター「もうオープン時間の予定だったので大丈夫ですよ」

女剣士(うわあ、うわあ~っ!お客さん来ちゃったよ~!!)カァァ

 
常連「お、メイド服かい」

女剣士「あ…あはは…」テレッ

常連「若くて可愛いじゃないか。マスター、いつものコーヒーね」

マスター「かしこまりました」


常連「そうそう、今日はこれを持ってきたんだ」

ゴソゴソ…キランッ

マスター「メロディディスクですね。いつもの曲ですか?」

常連「うん、それで頼むよ」

マスター「女剣士、メロディディスクのかけ方は分かるか?」

 
女剣士「め…メロディディスクって何でしょう」

マスター「その黒いディスクを、あそこのボックスの隙間に入れて、右側の丸いつまみを回すんだ」

女剣士「あ、はい…わかりました。それじゃあお預かりしますね」

常連「頼んだよ」


トコトコ…ゴソゴソ…スゥゥ…

女剣士(えと…これで入ったかな…?)


マスター「そう…そしたらつまみを回して。音量があがるから」

女剣士「は、はいっ」クルッ

 
ジャジャジャ…

女剣士(あ、音楽が鳴り始めた♪)

…ジャアアアアアン!!!!!!ビリビリビリ!!!!

女剣士「!?」

マスター「!?」

常連「!?」


ジャジャジャ…ジャアアアアアアアン!!!!

マスター「そりゃ左…のつま…だ!み…だ、…側!」ジャンジャン!!

女剣士「えっ!き…聞こえません!」

マスター「だか…が…だ!」ジャアーン!!!!

ジャジャジャジャジャ…!!

 
トコトコ…ポンッ

女剣士「!」

常連「メイドさん、落ち着いて。こうするんだよ」

トコトコ…クルンッ

ジャジャジャ~…♪タララ~…♪


常連「ははは、びっくりしたよ。確かにたまにこういうこともあるよ」アハハ

女剣士「ほ…本当にごめんなさいです…」


マスター「それの使い方もきちんと教えてなかったからな、俺のせいでもあります。申し訳ありません」

常連「いいよいいよ。仕方ないことだし、叱らないであげてな」ハハッ

マスター「そうですか、お気遣いありがとうございます」

 
女剣士(失敗しちゃった…はぁ…)

マスター「…」

女剣士(もっとしっかりしないとなぁ…はぁ…)


マスター「女剣士」

女剣士「は、はい」

マスター「お客様の前だ。ため息とか、暗い顔をするんじゃないぞ」

女剣士「あっ…」

マスター「失敗するのは当然のことだ。それを責めたりはしないが、暗い顔はダメだ」

女剣士「はい…」

 
常連「おお、怖いねえマスター」

マスター「はは…」

女剣士「…本当に申し訳ありませんでした」ペコッ

マスター「いいさ。一歩ずつ覚えていけばいい」

常連「そうそう!失敗は成功の母だよ」

女剣士「は…はいっ」


常連「あ~…そういや、マスター」

マスター「はい?」

常連「マスターってまだ冒険家業続けてるんだったよね?」

マスター「趣味のようなものですけどね」

 
常連「じゃあ、あの話は聞いたかな?」

マスター「あの話…?」

常連「最近、ギルド同士の争いごとが絶えなくなってるらしいよ」

マスター「…聞いたことないですね、詳しく聞かせて頂けますか?」


常連「中央の東ギルドと、西ギルドで共同クエスト請け負ってたのは知ってるかい?」

マスター「少しだけなら聞きました」

常連「それで、その共同クエスト中に東ギルドの失敗で西ギルドで死者を出してしまったらしいんだ」

マスター「…ふむ」

 
常連「そこから本格的な争いだってさ。かなり荒れてるみたいだよ」

マスター「それはちょっと…冒険者の端くれとしては聞き捨てなりませんね」

常連「ここも冒険者の喫茶店の名目なんだから、少しは気をつけた方がいいかもしれないよ」

マスター「ご忠告感謝致します。肝に銘じますね」


女剣士「マスターさん」ボソボソ

マスター「ん?」

女剣士「ここに飲みにくるギルドメンバーってどっち側の面子が多いんですか?」

マスター「この間の冒険戦士も含めて、まぁほとんど東ギルドだな」

女剣士「この店も東側ですものね」

マスター「心配することはないさ。いくらギルドメンバー同士のケンカだからって、一般市民を巻き込むような…」

 
…ガチャンッ!!!

西ギルド員A「…東ギルドの馴染みの店ってのはココか?少し…暴れさせてもらうぜ」

西ギルド員B「これも東が悪いんだ。文句なら東のやつに言いな!」


女剣士「…そうもいかないみたいですね」

マスター「…」ハァ

 
西ギルド員A「…東のやつが使ってるって割りには結構いい喫茶店じゃねえか!」

常連「…あんたら西ギルドの?」

西ギルド員A「そうさ。締め上げた東の面子から、よく集まるのはここだって聞いたからな!」

西ギルド員B「ケガしたくなかったら外に出てることだな!」


マスター「やれやれ、噂をすれば何とやらってやつか。恨みますよ常連さん」

常連「相変わらず酷い言われようだな」ハハハ

マスター「いつものことですよ」フッ


女剣士「ふふ…ふ、二人とも落ち着いてますけど…これってかなり危ない状況なんじゃ!」

 
西ギルド員A「…お?何だ可愛い娘いるじゃん!」

西ギルド員B「メイドだっけか?うっわ何この衣装!西ギルドに興味はない?」ハハハ

西ギルド員A「ほらほら…そのスカートめくっちゃうぜ~」グイッ

女剣士「きゃー!きゃー!!」

西ギルド員A「うはは!」


マスター「はぁ…」

常連「助けてあげなくていいのかい」

マスター「心配いらないですよ。ほら…」

 
女剣士「そういうことは…やめてくださぁぁいっ!」ブンッ!!!

バキィッ!!!ズドォン…!!!パラパラ…

西ギルド員A「」


西ギルド員B「…へ?」

女剣士「ふーっ…ふーっ…。もー!」


マスター「いい速さだな。ただ店をキズつけるのはやめてくれよ?」

女剣士「で、ですけどこの人たちがスカートを引っ張るからですよぉ!」

マスター「まぁお前もパンツの1枚や2枚くらいサービスで見せてやったらいいんじゃないか?」

女剣士「な、何てこと言うんですかぁ!」

 
西ギルド員B「てめ、よくも俺の仲間を!」グイッ

女剣士「も…もぉ!変なところばっかり触らないでくださいってば!」ビュッ

ゴツゴツゴツッ!!!…ドサッ

西ギルド員B「」


常連「おぉ!瞬殺…、さすがマスターのところのメイドさんだ…」


女剣士「あ…掌底波の連弾出しちゃった…。ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!」

西ギルド員A「」ポケー

西ギルド員B「」ピクピク

マスター「そうなると思ったからサービスで見せてもいいなじゃないかって思ったんだよ、なんてな」

女剣士「あうう…」


マスター「はぁ~…そのままにも出来んし警備隊呼んで拘束してもらうか」

マスター「何やら厄介なことになってるようだしな」

 
常連「…となると、今日は店じまいかな?」

マスター「…すいません」

常連「いいよいいよ」ガタッ

トコトコ…


常連「あ、そうそう。女剣士ちゃん」

女剣士「は、はい」

常連「そのメロディディスクは預けておくよ。次に来るまでにきちんと覚えててくれよ?」ニコッ

女剣士「あう…はいっ!あ、ありがとうございました」ペコッ


ガチャッ…バタン…

 
マスター「さて…警備隊呼んだら今日は店はちょっと休みだ。東ギルドに行く」

女剣士「えーと私はどうすれば…?」

マスター「ちょっと一緒に来い。東が顔なじみとか関係はない。詫びは入れてもらう」

女剣士「は…はい」


トコトコ…ピタッ

マスター「…あっ」

女剣士「…どうしました?」

 
マスター「ちょっと先に外に出てろ。すぐ行く」

女剣士「…は、はい」

ガチャッ…バタンッ… 
 
 
女剣士(…どうしたんだろ?)

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 20分後 】


マスター「お待たせ。少しだけ時間かけすぎてしまったな」

女剣士「結構長かったですね…何してたんですか?」

マスター「ちょっと、な。そうならなければいいんだが…」ハァ

女剣士「…?」

 
マスター「まぁなったら、なった時に言うさ」

女剣士「わ、わかりました」

女剣士(どうしたんだろ?)
 

マスター「さて、東ギルドの本部に行くか」

女剣士「はいっ!」


トコ…トコ…

………
……

本日はここまでです。ありがとうございました。

>>207
数兆円ゴールド?

ありがとうございます。投下致します。

>>245
間違ってますね。後日修正分としてアップしますね。
お気づき頂きありがとうございます。

  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市・東ギルド本部 】


ヒュウウッ…!!

女剣士「わぁぁ!大きいですねえ!」

マスター「変わらんな…」ボソッ

女剣士「…今、なんて…」

マスター「何でもない。でかくて当然だ…東ギルドは中央都市で一番でかいからな」


女剣士「何人くらい所属してるんですか?」

マスター「確か200人…ないし300人近かったはずだ」

女剣士「すごい!」

 
マスター「所属してる人からは報酬金の一部をギルドに入れる。そりゃここまででかくなるわな」

女剣士「本当にすごいですねえ」

マスター「人数分の泊まる部屋もあるし、一般開放する食事処もある。至れり尽くせりだ」

女剣士「冒険戦士さんはこんな所に所属してるんだぁ…」


マスター「とにかく中に入るぞ。今回のことをギルドマスターに話をつける」

女剣士「あ、はいっ」

 
ガチャッ…ギィィィ…

女剣士「…!」


ザワザワ…ガヤガヤ…

冒険者「…でさあ、今回の討伐が…」

冒険者「はぁぁ!?俺なんてさあ…」

受付「待機番号46番の方~!準備ができましたので応接室までお願いしますー!」

ギルドリーダー「今回の北方討伐任務に参加証を受け取った奴は午後から会議室Bだぞ!」

冒険者「ギルドリーダー、アイツは少し遅れるそうですよ~」

ザワザワ…!!


女剣士「わぁぁぁ…」キラキラ

 
マスター「相変わらず賑やかなところだ」

女剣士「凄いですね、凄いですねえ!これが中央都市の最大のギルド…!」

マスター「まぁな。とりあえずえーと…受付だ。こっちだったな」クルッ

スタスタスタ…

女剣士(凄い凄い、冒険者さんたちがこんなにいっぱい…!)

 
スタスタスタ…ピタッ

マスター「さて…受付さん」

受付「はい?あ、何かご用事があるなら一旦そこの予約名簿に名前を書いてお待ちください」

マスター「…何?」

受付「ただいま3時間待ちになってます。用事別で名簿にあるので、そちらを参照に番号を…」

マスター「面倒なのはいい。とりあえずギルドマスターに合わせろ」

受付「…はい?」


マスター「いいから、ギルドマスターに合わせろ。別に下っ端に用事があるわけじゃない」

受付「ギルドマスター様は多忙ですので、3ヶ月前からの予約が必要になります」

マスター「…いいから早くしろ。喫茶のマスターが来たって言えばわかる」

受付「承れません。予約をきちんとしてから…」

 
マスター「早くしろって言ってるんだが」

受付「…分からないなら、ガードマンを呼びますよ?よくそういう方がいますので」

マスター「呼ばないなら、力づくでも行くが?」


…トントン

マスター「ん?」

ギルドリーダー「どうかしましたか?」ニコッ


女剣士(あ、この人さっきギルドリーダーって呼ばれてる人だった…かな?)

女剣士(凄い筋肉…きっと強いんだろうなぁ)

 
マスター「お前は…ギルドリーダーだったか?リーダー程度には用事がないんだが」

ギルドリーダー「とはいえ、ギルドを預かる身の1人ですので。用事があるなるなら承りますよ?」

マスター「下の人間には用事がないんだ」

ギルドリーダー「下ともいえないんですがね。これでもトップ5に入りますので」


マスター「それじゃ意味がないんだな」

ギルドリーダー「ギルドマスターは多忙です」ニコニコ

マスター「下には用事がないって言ってるだろう」

ギルドリーダー「ギルドマスターは多忙ですよ」ニコニコ

マスター「もう1度言う、喫茶店のマスターと言えば分かる」

ギルドリーダー「無理です」ニコニコ

 
女剣士「…あわわ」オロオロ


マスター「…」

ギルドリーダー「…」ニコニコ

マスター「…」

ギルドリーダー「…こちらも暇ではないので、本当に力づくで出てって頂きますよ?」

マスター「お前みたいな下っ端に出来ると思うか?」

ギルドリーダー「下っ端下っ端と余り言わないで頂きたい。これでも気の短いほうなので」ニコ…


受付「いけない、お嬢さん!」ボソボソ

女剣士「は、はい?」ボソッ

受付「ギルドリーダーさんは怒ると暴れて手が付けられないんです!」

女剣士「えっ!」

 
マスター「その浮き出た血管。気が短いやつは、いつまで立っても上には上れないぞ?」

ギルドリーダー「だからこれでもトップに組み込む程の実力はありますよ?」ブルッ…

マスター「くくく…そう自分で言う所が…下っ端なんだろうが」

…ブチッ!!


ギルドリーダー「うるせぇな!!!下っ端下っ端と…呼ぶんじゃねええ!!」クワッ


受付「あ…」

女剣士「!」

ザワッ!!ザワザワ…

 
ギルドリーダー「お前ら離れてろ!少しコイツに分からせる必要があるらしいからな…」ググッ

マスター「…」


女剣士「マスターさん!」

マスター「大丈夫だ、そこで見てろ」

女剣士「は、はいっ!」


ギルドリーダー「随分余裕だなぁ…?うぉぉぉっ!攻撃増大魔法っ!」パァッ!!

ビキ…ビキビキッ…

受付「り、リーダーさんやめてください!また本部が壊れてしまいます!」

ギルドリーダー「うるせえええ!」

 
マスター「お前を倒したらギルドマスターに公認で会わせてくれるのか?」

ギルドリーダー「出来たら…なっ!」ブンッ!!!

…ズドォォン!!!ミシミシミシッ


ギルドリーダー「はっは!一撃で沈んで…んおっ!?」

クルクル…スタッ

マスター「そんなのに当たるかよ。しかし驚いた…本当に見た目通りの"パワー馬鹿"だったとはな」

ギルドリーダー「何だと!!」クワッ

フオ゙ンッ!!…ズドォン!!ドォォォン!!!

パラパラパラ…

 
ヒュッ…ヒュンヒュンッ!!

マスター「どうした、全然当たらないぞ?」

ギルドリーダー「おのれちょこまかと…!」


マスター「あぁ、そうだ…女剣士」

女剣士「は…はい」

マスター「こういう力馬鹿の相手は一撃でこっちも大ダメージになる。すぐに突っ込むのは間違いだ」

女剣士(こ、こんな時に指南ですか!?)

マスター「速度のある立ち回りを生かして、相手を見る。そうすると自然と隙は見えてくるからな」

女剣士「は、はい!」

 
ギルドリーダー「ぶつぶつと…さっさと吹き飛べやコラァ!!」

ブンッ…バキャアアンッ!!!


受付「きゃああっ!」

冒険者「ギルドリーダーさん、暴れすぎたらまた本部がめちゃくちゃになっちまう!」

ギルドリーダー「こいつを吹き飛ばすまではやめねぇよ!!」


マスター「まぁこいつほどイージーな相手はいないけどな」

ギルドリーダー「…戯言を!!」

マスター「戯言じゃないって事を見せてやるよ…ふんっ!」ダッ!!

ギルドリーダー「!?」

 
女剣士「えっ!?」

ビュッ…バキィッ!!!!

ギルドリーダー「ぬがっ…!」


女剣士(一瞬で…リーダーさんの場所まで…。早すぎて見えなかった…!それに…)


マスター「自慢の筋力は防御面じゃ微妙だったんじゃないか?」

ギルドリーダー「てめぇ…一体何者…」

グラッ…ドサアッ…


女剣士(空気を振るわせるほどに分かった…あの一撃の威力…!)


マスター「とまぁ、こんな感じに隙さえあれば幾らでも一撃で狙えるわけだ」

女剣士「…っ!」

マスター「今後、連戦になるような依頼だったら改めて隙の突き方は教えるけどな」

女剣士「は…はい!」

 
ザワ…ガヤガヤ…

冒険者「何だあれ…リーダーがやられるなんて…」

冒険者「っていうか一撃!?やばくねえか」

冒険者「…っていうかギルドマスターに用事あるとか…知り合いなのか…?」


女剣士「なんか雰囲気が…」

マスター「あ~…少し暴れすぎたか…」ポリポリ

女剣士「どうしましょう…」


…カツーン…

 
マスター「…ん?」

カツン…カツン…カツン…


ギルド長「随分と騒いでると思ったら…、懐かしい顔ですね」


マスター「…久しぶりだな、ギルド長」

女剣士「ぎぎ、ギルドマスターさんですか!?って、久しぶりって今…」


ザワ…!!

冒険者「ギルドマスターさんが出てきた!?」

冒険者「本当に知り合いみたいだぞ…、一体何者なんだ…」

 
ギルド長「ふむ…ここでは少し人目につきますね。こちらへどうぞ」

マスター「ありがとよ。少し暴れちまったが大丈夫だろ?」

ギルド長「問題ありませんよ。昔からじゃないですか」

マスター「ふん…」


女剣士(ギルド長さんとマスターさんは…知り合いなの…かな?)

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【特別ギルドルーム】


ギルド長「どうぞお掛けになってください」

マスター「言われなくても」スッ

女剣士「失礼します」スッ


ギルド長「で、僕に何か用事があるようでしたが」

 
マスター「面倒だから単刀直入に聞くぞ。お前ら、一体何をした?」

ギルド長「…どうか致しましたか」

マスター「俺の店に、西のギルド員が乗り込んで暴れたんだ」

ギルド長「…」


マスター「挙句の果てに、うちの店員が恥辱な目に合わされた」

女剣士「!」

マスター「スカートをめくられ、男どもの手によってそれはもう欲望の…」

女剣士「ちょっとちょっとちょっと!!そんな事まではされてませんから!」

マスター「む、そうか。まぁそういうこともあった訳だ…まずは謝ってくれ。こいつにな」

 
ギルド長「…ご迷惑をおかけしました。申し訳ないです」

女剣士「…」


マスター「今まで西とのいざこざはあったが、店に乗り込んでくるとは異常だぞ」

ギルド長「…」

マスター「一体…何をしたんだ。噂ではお前の所の失敗で、西のギルドメンバーを死なせたと聞いたが」

ギルド長「…」

マスター「…」


女剣士(空気が重い…私がいるような場所じゃないと思うんだけど…)

 
ギルド長「隠しても無駄でしょうし、お話します」

マスター「当然だ」


ギルド長「事件の発端は…少し前、冒険戦士くんの独り立ちの試験を考えてからです」

マスター「ふむ」

ギルド長「その際、試験を考案した時に西ギルドにも試験を行う人がいると声をかけられました」

マスター「…それで」

ギルド長「こちらも実力試験を行いたい面子が数人いたので、共同クエストという事である討伐を決めました」

マスター「何だ?」


ギルド長「"オルトロス"の討伐。属に言う上位討伐ですが、東西で8人ずつの16人での出発を決めました」


マスター「…」

ギルド長「そして冒険戦士くんには、これが成功した暁に独り立ちちさせる…と」


女剣士(どどど、どうしよう!何を言ってるのかさっぱり分からない)グルグル

 
ギルド長「こちら側でも実力充分の面子でしたし、向こう側も同様でした」

マスター「…それから」

ギルド長「討伐は順調に進んだそうです。ですが…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オルトロス『…ガアアァッッ!!』ボワッ!!


西ギルド員「…血を流しすぎ…て…動けない…ごほっ…」


冒険戦士「危ないっ!」バッ

…キィンッ!!!ズドォォンッ!!!


西ギルド員「あ…ありがとう」

冒険戦士「当たり前ですよ。それより次!」ハッ


オルトロス『…カァッ!!』ボワッ!!

 
ズドォン!!…パラパラ…

冒険戦士「くっ!」

西ギルド員「もうオルトロスは討伐寸前、先に攻撃を仕掛けてください…!」

冒険戦士「ですがそれでは貴方が野ざらしになってしまう!」

西ギルド員「大丈夫です、私は聖職ですよ?自分の身は自分で守れます」

冒険戦士「…わ、わかりました…」


ダッ…ダダダダダダッ!!

冒険戦士「うああああっ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
ギルド長「それで無事に倒すことはできました…」

マスター「…」

ギルド長「しかし西のギルド員は実際魔力が尽きており、置き去りとなった事でオルトロスの配下の魔物に…」

マスター「…何だそりゃ」

ギルド長「…」

マスター「とんだ言いがかりもいいもんだ。そんなの戦況下だったら当然の判断だろ」

ギルド長「一般ギルド員だったら…ですよね」

マスター「何?」


ギルド長「亡くなったのは、西ギルドでとても慕われている幹部だったんですよ」

マスター「…は」

 
ギルド長「そんな所に送る時点でどうかとは思いましたが…結果は結果です」

マスター「そんなの自業自得じゃないか…それで東と西のいざこざか?」

ギルド長「そうなってしまいました」

マスター「はぁ~…何やってるんだか…」


ギルド長「…」

マスター「ん?てことは…冒険戦士がこの間、依頼を受けに行ったっていうのは…」

ギルド長「という名目の逃がしですよ。冒険戦士は今、非常に危険な状態ですから」


マスター「俺が話しで聞いたのは、冒険戦士がミスで独り立ちの試験を失敗しかけたってだけだったが」

ギルド長「という噂を流したんです。冒険戦士くんの気を多少楽にするのと、東ギルドの格を落とさない為に」

マスター「俺が信じてた分、その効力はあるな」

 
ギルド長「…それは何よりです」 
 
マスター「しかしまぁ…何てこったい。これからどうするつもりなんだ」

ギルド長「西との話し合いの場を設けます」

マスター「取合ってくれるか?仮にも攻撃を仕掛けてくる相手だぞ」

ギルド長「僕の東ギルドの尊厳にかけても」

マスター「…信じるよ」


ギルド長「はい、お願いします。それと…この度は迷惑をかけて本当に申し訳ありませんでした」

マスター「早い解決を望むぞ」

ギルド長「…もちろんです」

 
マスター「とりあえず分かった。あとは勝手にやってくれ」スクッ

女剣士「帰るんですか?」

マスター「もう全貌が分かった以上、話はない。ギルド長、冒険戦士のやつはしっかり守ってやれよ」

ギルド長「当たり前です」


マスター「ん、よし。んじゃ帰るぞ」


ギルド長「…あ、そうだ」

マスター「まだ何かあるのか」

ギルド長「万が一ですが…、僕に何かあったら…」

マスター「それ以上言うな」ギロッ

 
ギルド長「…」

マスター「お前はここのギルドマスターだ。弱みを見せるな。そう…ずっと言い聞かせてきたはずだが」

ギルド長「…はいっ」


マスター「じゃあな。行くぞ女剣士」クルッ

女剣士「あ、はい」


ギルド長「有難うございました…先輩…」ペコッ


ガチャッ…バタンッ…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

トコ…トコ…

マスター「本当に東と西のいざこざか。参った事になってるな…」ポリポリ

女剣士「ま、マスターさん」

マスター「ん?」


女剣士「マスターさんって一体…。東のギルド長さんが先輩って…」

マスター「あ~…」

 
女剣士「もしかして本当に凄い戦士さんだったんじゃ…?」

マスター「あいつは俺が現役で東ギルドの所属だった時代に、後輩だった奴なんだがー…」

女剣士「!」

マスター「今じゃすっかり俺は衰え、あいつは現役のまま。まぁ先輩風を吹かせてるだけだ」

女剣士「…」


マスター「それより、んー…どうするか…」

女剣士「?」

マスター「いや、さすがに店が危険になるっていうのはどうかと思ってな」

女剣士「マスターさんがいれば大丈夫じゃないですか?」

 
マスター「いや…」チラッ

女剣士「…?」

マスター「だから…」チョイチョイ

女剣士「わ…、私ですか!」


マスター「ギルドメンバー吹き飛ばしちゃったし、西のやつに店は完全に目付けられただろ」

マスター「だから喫茶店の方の営業をどうするか迷ってるんだ」


女剣士「きっと大丈夫ですよ」

マスター「そりゃそうだといいんだが、万事には備えたいんだ」

女剣士「むぅ…」

マスター「強いとはいえ、お前は女子だから万が一って事もある。それが心配なんだ」

女剣士「う…」

 
マスター「…だが店を休みにして、コーヒーを淹れない日々ってのも俺としては暇になるし…」ンー

女剣士「店を離れて、冒険しちゃう…とか」ヘヘ

マスター「そりゃお前の願望だろっ!」

女剣士「うぅ、すいません」


マスター「はぁ~ったく…本当にどうするか…」

女剣士「どうしましょうか…って、あれ?」

 
ガヤガヤ…


マスター「なんか妙にざわついてるな」

女剣士「何かあったんでしょうか。お店の方角ですよね?」

マスター「…」

女剣士「マスターさん?」


マスター「どうやら、"そう"なってしまったかもしれん。急ぐぞ!」ダッ

女剣士「"そう"なってしまった?」ダッ

マスター「本部に行く前に言っただろ!そうなってほしくはないって!」

女剣士「あ…」

マスター「急げ!」

女剣士「はいっ!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

タッタッタッタ…ズザザ…


マスター「…!」

女剣士「あ…あぁぁ…!」


マスター「…やっぱりか」

女剣士「そ、そんな…何で…」

 
ゴォォォ…パチパチ…ボォン!!!

ジャアアッ…

消火員「水魔隊!足りないぞ!早くしないと燃え移る!!」

消火員「自分らでは限界です!」ググッ


マスター「…っ」

女剣士「お店が…燃えて…」

マスター「っち…」

女剣士「どうして…」

 
消火員「くっそ、火魔法にどんな魔力使いやがった…火が消えん!」

消火員「ダメです!隣に燃え移ります!」

ボォォォ…!!ボォン!!!バチバチ…


女剣士「え…ど…どうして…」

マスター「…」

女剣士「あう…」グスッ

マスター「泣くな…こうなることは少し予想してた。ちょっとココにいると危険だ…こっちに来い」グイッ

女剣士「え…ど、どこに…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


タッタッタッタ…
 
マスター「もう少し先だ」

女剣士「一体…どこに行くんですか…?」


マスター「あそこの小屋だ」


タッタッタッタ…ガチャッ、ギィィィ…

…モワッ

女剣士「ごほっ、ごほごほ!埃が…」

マスター「…見ろ。さっき、出かける前にコレを準備してたんだよ」

女剣士「!」

 
…キラキラ…

マスター「…燃やされるのまでは予想外だったがな。商売道具は生きてる」

女剣士「お店にあった珈琲豆とか珈琲メイカーですよね…これ!」

マスター「さすがにメロディボックスは持ってこれなかったが、常連さんのディスクは無事だ」スッ

女剣士「…」


マスター「しっかし…こうなると俺もしばらく身を隠したほうが良さそうだな」ハァ

女剣士「…」

マスター「まぁ…それと、その、女剣士」

女剣士「…何ですか?」

 
マスター「すまないが、もう借金の件はいい。これ以上、見ず知らずの人間を巻き込む訳にはいかん」

女剣士「で、でも…」

マスター「これ以上一緒にいれば危険には違いないからな」

女剣士「…」

マスター「もし東西のいざこざが落ち着いて、店が再開したら飲みに来てくれればいいさ」


女剣士「…」

マスター「俺はとりあえず久々の休暇っていう考えもある」

女剣士「…」

マスター「とりあえず、店は休業。お前も借金を気にせず、自分の道を改めて目指してだな…」


女剣士「…嫌です」ボソッ

マスター「…あ?」

女剣士「嫌ですよ。せっかく、マスターさんとの冒険や学べる事が、楽しみになってきたところなんですからっ!」

マスター「いやそう言っても…」

 
女剣士「私は足手まといになりません。もっと色々教えてくださいよ…!」

マスター「つってもなぁ…だが俺はもうここから離れるつもりだし」ポリポリ

女剣士「離れるって…どこに行くんですか?」

マスター「とりあえず、離れる。いざこざに巻き込まれるのはゴメンだからな」

女剣士「うぅ…」

マスター「だからお前は一旦地元に戻るか、別の発展してる町に移るとかー…」


女剣士「…あっ!」パンッ

マスター「ん?」

女剣士「じゃあ…こういうのはどうでしょうか」

マスター「何だ?」

 
女剣士「その道具を背負って、旅をして、その場その場で珈琲店を開くとか…!」

マスター「…」

女剣士「その名も青空珈琲店!…冒険もしたりして、一石二鳥っていうか…」アハハ…

マスター「…何だそれ」

女剣士「だ、だめですかね?現地の豆なんかも直接農家さんから仕入れたりとか…」

マスター「何だよそれ」ブルッ

女剣士「や…やっぱりダメですよね~…」


マスター「お…面白そうじゃないかよ!」

女剣士「!」ピョコン


マスター「悪くない考えだ…確かに俺は珈琲豆を原産だとか、世界中の人に…」ブツブツ

女剣士「じゃ、じゃあそうしましょうよ!!」

 
マスター「ん~…その前に、お前さ…」

女剣士「はい?」

マスター「何でそんなに少しだけ知り合った俺に固執するんだ?もっと自由に生きていいと思うんだが」


女剣士「…」

女剣士「…何ででしょうね」


マスター「…」


女剣士「自分がいい子でありたいのかも…しれないです」

マスター「ふむ」

女剣士「私のせいで馬車商人さんや、マスターさんが被害を受けたのは事実ですし…」

マスター「確かに、別に良いっていうのに引き下がらなかったな」

 
女剣士「そこから逃げたら、心残りになってしまいますから。最後まで努めたいんです」

マスター「…」

女剣士「っていう思いの中で、きっと心の奥底では自分が良い子でありたいって事なのかもしれません…」

マスター「…」

女剣士「で、ですが!逃げたくないって気持ちとか、マスターさんに冒険の心得を教えてほしいのは本当です!」

マスター「…どっちだよ」

女剣士「あ…」


マスター「…」

女剣士「その…」

マスター「…」

女剣士「あの…」ショボン

 
マスター「…」

マスター「…く」

女剣士「…?」

マスター「く…ははは…はははっ!」

女剣士(マスターさんが…笑った?)

 
マスター「はぁ…お前のその性格、どうにかならんのか」ハハハ

女剣士「うぅ…」

マスター「逃げたくない気持ち、俺から教わりたい気持ち。充分に伝わったよ」

女剣士「…じゃ、じゃあ!」


マスター「いつまでココに戻れるか分からんし、収入も町毎のギルド発行のクエスト頼りで安定しないかもしれんぞ?」

女剣士「…大丈夫です。頑張りますから!」

マスター「…何を言っても、無駄か。ほら…そっち側の珈琲メイカーを持ってきてくれ」ククク

女剣士「じゃ、じゃあ…!」

マスター「いいぜ。ただし、お前が決めた事だ…何も文句を言うんじゃないぞ?」

女剣士「当たり前です!」ピョンッ

  
マスター「じゃあ…うん。当面は、東部側を目指す。慣れてる街道村から少しずつ進んでいこう」

女剣士「はい。私は一旦自分の部屋に戻って、持っていけるものを準備してきますね」

マスター「親に連絡はどうするんだ」


女剣士「あ…それは、きちんと手紙で伝えます。全部…」

マスター「そうしろ」

女剣士「はい…。出先で手紙を書いてすぐに出すつもりです」

 
マスター「よし。それじゃ…」

女剣士「出発ですか!」

 
マスター「冒険者の喫茶店もとい…"青空珈琲店"。本日より営業開始だっ!」

女剣士「…おーっ!」

 
…そういやお前、ずっとメイド服だけど普通の服は?

あーっ!お店にあったはずだから一緒に燃えて…


アパートまでメイド服で戻るのか…

恥ずかしすぎる…しかもあれお気に入りだったのに…うぅ…

はは…

で、でも…元気出していきますよっ!

…………

  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
本日はここまでです。ありがとうございました。

また、1章はこれで終了です。
今回も従来のようなファンタジー作品で、少しでも楽しんで頂ければ幸いでした。
 

次回の更新は少し期日を空けて後の予定となっています。


それと、>>198>>199の間に抜け落ちがあること
>>163で一部修正、>>207で「数兆円ゴールド」⇒「数兆ゴールド」になります。
後日修正分はアップします。


それでは失礼致しました。

おつです!
次は別にスレ立てるんですかね?
それともこのスレで続行?

>>300
>>1の傾向だと一つの物語としてオチがつく、おまけ、んで別スレみたいな感じじゃね?

皆様有難うございます。

>>300 >>301
一応、このまま当スレで続行致します。
よろしくおねがいします。


読み返してたら2万9000万ゴールドで鼻水出た

皆様ありがとうございます。ちょっとご報告があります。

多忙になった事・PCが不調のため毎晩19時に更新していたのを
毎週の土・日・月の19時更新に変更します(目安程度ですが)

2章はこのままで、今週土曜日より再開する予定です。

是非、また読んで下されば有難いと思います。


それでは、失礼致しました。

P.S
>>305
修正の部分ですね。情報感謝ありがとうございます。

皆様ありがとうございます。
大変遅れましたが、第二章の投下を開始致します。

 
それから互いに準備を終えると、

改めて青空珈琲店として再出発。


2人は

最初の目的地となる街道村へと到着した――…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日・街道村 】

…ガチャッ!!

宿番「いらっしゃー…あれ?」


マスター「よう」

女剣士「お、お久しぶりです~」コソッ

宿番「随分早いですね今回は?1週間もたってませんよ

マスター「…ちょっとな」

宿番「…?」

 
女剣士「マスターさん」

マスター「ん?」

女剣士「いつもお世話になっていたようですし、やっぱり事情は説明したほうが…」

マスター「…そのほうがいいか。万が一ってことも考えられる…か」


宿番「えーと…何のことでしょうか」

マスター「あぁ。実はな…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マスター「ってわけだ」

宿番「ははぁ…災難でしたね」

マスター「だから今日はここに泊まって、このまま東に抜ける予定なんだ」

宿番「へぇ、なら明日からはどこに向かうんですか?」

マスター「まずは豪火山のふもとの町だな。あそこでコナの珈琲豆が採れるはずだろ。是非、この目で見たい」

宿番「あぁ、確かにそうですね」


女剣士「…珈琲粉、ですか?豆ですか?…??」

 
マスター「粉じゃない、コナ。コナっていう珈琲豆がとれるんだ」

女剣士「そんなのがあるんですか!」

マスター「火山の石灰質の土壌で採れる酸味の強い豆だ。人気なんだぞ?」

女剣士「へえ~…」


マスター「まぁ…とにかく…ってなわけで今日は一晩頼む。明日には出発予定だからな」

宿番「かしこまりました」ペコッ


マスター「さて、部屋も取れたし…ちょっと」スクッ

女剣士「あれ、どこかへ?」

 
マスター「あー…お前は部屋に行ってていい。ちょっと村長に挨拶してくるんだ。しばらく来れなくなりそうだしな」

女剣士「なるほど、わかりました」

マスター「すぐ戻ってくる」

ガチャッ…バタン…


宿番「それじゃえーと」ゴソッ

女剣士「…」

宿番「こちらが部屋のキーになります。いつもの番号の部屋ですので、ごゆっくりどうぞ」スッ

女剣士「101号室でしたね。ありがとうございます」

 
トコトコ…ギシギシ…

宿番「…」

女剣士「~♪」


宿番「お得意様ですからね、ごゆっくりお休み下さいね!」

女剣士「はい~っ」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1時間後 】

…ガチャッ

マスター「戻ったぞ」

女剣士「おかえりなさいです」


…モワッ

マスター「む…何か妙に部屋がモワっとしてるんだが」

女剣士「あ、せっかくなのでお風呂に先に…。お湯は張ったままなので後でどうぞ!」

マスター「ん…おう」

 
女剣士「えーと…それで、村長さんにはお話をしてきたんですか?」

マスター「うむ。村長にも一応、事情を話してきた。しばらくここにも来れないってな」

女剣士「そうでしたか」

マスター「そしたら…ほれ」ガサッ

女剣士「これは?」


マスター「ここの名産。いつもの世話に、これしか出来ませんがって渡してくれたぞ」

女剣士「何でしょうか?」

マスター「開けてみるといい」


ガサガサ…

女剣士「!」

マスター「それがこの街道村の産物。最高級の"栗"。そしてそれを使った栗団子だ」

女剣士「わぁぁ!」キラキラ

 
マスター「食べていいぜ。今年一番の出来らしい」


女剣士「いっただきまーす!」

マスター「早っ」


モグ…モグモグモグ…

女剣士「あ…甘い!美味しいぃ~!」

マスター「幸せそうな顔だな…何よりだ」

女剣士「マスターさんもどうですか?」モグモグ

マスター「あ…いや、俺は村長の家で頂いたからな。好きなだけ食べろ」

女剣士「はいっ」

 
マスター「…」

女剣士「美味しい~」モグモグ

マスター「…」

女剣士「やっぱり高級品と聞くと味も跳ね上がるようですねぇ」モグモグ

マスター「…」

女剣士「う~ん…」モグモグ


マスター「…ふむ、そうだな。少し待ってろ」

女剣士「?」モグモグ

マスター「えーと…」

カチャカチャ…

 
マスター「栗には…この豆と…」

ゴリゴリ…ゴリゴリ…

カチャッ、パサパサ…ジャー…


女剣士「…」モグモグ

マスター「…」ゴリゴリ

女剣士「…」モグモグ

マスター「…」ゴリゴリ

女剣士「…」モグモグ

 
マスター「…おいっ!」

女剣士「ひゃいっ!?」ビクッ

マスター「少し待ってろって言っただろ!」

女剣士「すいません!」モグモグ

マスター「…食うなっての!」


コポコポ…ジャー…

マスター「…ったく、食べ物に見境ねーのか。ほら」コトッ

女剣士「これは…コーヒーですか?」

マスター「栗に合うように少しのブレンドしてみたんだ。飲んでみろ」

 
女剣士「は、はい」

カチャッ…ゴク…


女剣士「…あっ」

女剣士「…さっぱりしてますね」


マスター「ん、合わなかったか?」

女剣士「いえ…何ていうか初めて飲んだ味です。酸味が多い…のかな?」

マスター「栗団子はとにかく甘いからな。苦味も少し多めに口のリセットにしようとしてみたんだが」


女剣士「普通に飲んだらかなりキツそうですけど、こういう甘いお菓子とは…」モグモグ

グビッ…グビグビグビ…


女剣士「ぴったりです!」プハァ!!

 
マスター「そりゃ何よりで」

女剣士「さっぱりしてて美味しいですねぇ」ホワッ

マスター「俺も飲むかー…」

…コンコン

マスター「はいどうぞ」


宿番「失礼します。って、うわっ!」ムワッ

マスター「ん?」

宿番「こ…コーヒーですか?なんか部屋も温かいですし、すっごい濃い匂いですね」

マスター「あーすまん。迷惑だったか。窓開けてあとで換気するよ」

宿番「いえ、それは構わないんですが。ちょっとお話が…」

マスター「…ん?」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 宿のロビー 】


制服の男「…」ズーン


…コソコソ

宿番「あそこに座ってる方です。マスターさんに用事があるとかっていう…」ボソボソ

女剣士「なんか立派な服着てますね。軍服ですか?」

マスター「…ありゃ中央軍の尉官の制服だ。俺に用事だって…?」

宿番「一応、その人が部屋にいるかどうか確かめるとだけ言いました。どうします?」


マスター「…ふむ。とりあえず敵意はなさそうだ。行ってみる」スッ

 
女剣士「あっ、マスターさん!」


トコトコトコ…

マスター「…よいしょ。対面に座らせてもらうよ」ストン

制服の男「!」


マスター「その制服、中央軍の人間だな。軍の人間が何か俺に用か?」

騎士少尉「自分は騎士少尉と申します。以後、お見知りおきを」

マスター「俺は軍に知り合いなんかいないぜ?」

騎士少尉「…ギルド長のことは」

マスター「何?」

騎士少尉「実は自分、ギルド長に頼まれて貴方達の護衛や見張りについてくれと」

 
マスター「…なるほどな。やはりとは思ったが、やっぱりソッチ繋がりだったか」

騎士少尉「ギルド長いわく、心配はいらないだろうが一応のためだそうですよ」

マスター「…」

騎士少尉「自分らは東ギルドと深い係わり合いがありますし、そのトップのお願いですから聞かないわけには」

マスター「知ってるよ。俺だって元東ギルドのメンバーだ」

騎士少尉「…そうでしたか」


マスター「まぁ…気持ちはうれしいが余計な世話だ。ボディガードなんかいらん」

騎士少尉「しかし」


マスター「しつこいぞ。俺は俺一人で十分…いや、二人で十分だ」

騎士少尉「…二人?あぁ、あなたに着いているという女性のことですね」

マスター「そんなことまで話してんのかアイツは…」ハァ

 
騎士少尉「だが使命は使命です。あなたたちが拒否をされても、守りの任務に就かせていただきたい」

マスター「…そんなに、俺らが西ギルドメンバーにやられるように思うのか?」

騎士少尉「ギルド長の話では相当な手練だとは聞いてましたが…念には念を、と」

マスター「…」ハァ

騎士少尉「…」


マスター「…分かった、分かったよ。お前、少尉ならそれなりの実力はあるんだろう?」

騎士少尉「それなりには」

マスター「…それなり、ね」ジー

騎士少尉「…?」

 
マスター「ふむ、こりゃいい機会かもしれんな…」ブツブツ

騎士少尉「…いかがなされましたか?」

マスター「いや、ちょっとな」

騎士少尉「ふむ」

 
マスター「まぁとりあえず…女剣士!」

女剣士「は、はいっ!」

マスター「ちょっと来い」

女剣士「はいっ」

トコトコ…

 
騎士少尉「こちらが例の女性ですね」

マスター「…この女剣士と勝負してくれ。これでコイツが負けたら俺らの旅に加えてやる」

騎士少尉「…え?」

女剣士「ええぇっ!?」


マスター「勝ったら中央に帰れ。…その条件なら此方としては飲むが?」

女剣士「ちょちょっと、ちょっと!マスターさん!」

マスター「うっせ」

女剣士「うっせって…ちょっとぉぉ!」

 
騎士少尉「…いいでしょう」スチャッ

女剣士「少尉さんもそんな条件飲まないでぇぇ!」

騎士少尉「マスター殿、約束ですからね?全く…自分がこんな女性と戦うはめになるとは…」

マスター「あぁ…約束だ」


女剣士「なんでぇぇ…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 宿の外・村の一角 】


ヒュウウ…

騎士少尉「…女性だからといって容赦はしませんよ」スチャッ

女剣士「どうしてこんなことに…」ブツブツ


マスター「互いに危ない時は俺が仲裁に入る。存分にやれ!」


女剣士「恨みますよマスターさぁん!」

マスター「おうおう…」

 
宿番「だ、大丈夫なんですかね…?」

マスター「大丈夫だと思うぞ。あいつも少尉という実力はあるだろうが、恐らく女剣士には勝てないだろう」

宿番「なぜです?」

マスター「…手が綺麗すぎる。ありゃ尉官になって、部下に命令だけをするようになった人間だ」

宿番「なるほど」

マスター「よくいるんだ。上になると、自分を磨くことを止める奴がな。まぁ見てろ」

宿番「はい」


騎士少尉「…」ゴゴゴ

女剣士「…」

 
騎士少尉「いきますっ!!」ダッ

女剣士「!」スチャッ


騎士少尉「…小突!!」ビュッ!!!

女剣士「このくらい!」キィン!!

騎士少尉「臆せず弾くとは…ですが足元がお留守ですよ!」ヒュッ

女剣士「わわ、蹴り!?」ピョンッ

騎士少尉「よく回避しました…ですが空中に浮いた状態なら!!小突!!」ビュッ!!


マスター(ほう…不真面目な奴にしては、いい槍術と体術の連弾だな)

 
女剣士「うくっ!」グルンッ!!
 
騎士少尉「空中で上体を反らした!?だけどそれは!」

女剣士「えへへ…きゃあっ!」

ドスンッ!!

マスター(空中で体を反らしたらそりゃ倒れるわな。そしてそこは槍の間合いだ…どうする?)


騎士少尉「…好機!えやああっ!」ブンッ

女剣士「わわわわっ!」

グルングルン…ザスザスザスザス!!


騎士少尉「横転でちょこまかと!」

女剣士「くっ…小火炎魔法っ!」ボワッ!!

騎士少尉「ぬあっ!」ボォンッ!!

 
マスター(寝転んだ状態からの一瞬の魔法の練りか!)


女剣士「えへへ、危ないところでした」スクッ

騎士少尉「おのれ妙な魔法技を…」ゴホゴホ


女剣士「今度はこっちの番ですよ!」ダッ

…ダダダダッ!!!

騎士少尉「お…早いですね!」

女剣士「この距離なら剣の間合いが有利!小斬っ!!」ビュッ!!

騎士少尉「…甘い!」

…キィンッ!!!

 
女剣士「えっ!?」

マスター(…へぇ)


騎士少尉「普通の槍ならば"柄は切れている"でしょう。ですがこれは防御にも使える…鋼鉄製」

女剣士「そ、そんなの有りですか!」

騎士少尉「そしてこれはこのまま…武器となる!」ブンッ!!

ガキィンッ!!

クルクル…ザシュッ!!


女剣士「私の剣が…弾かれ…」

騎士少尉「勝負ありですかね」フッ


マスター(…いや)

 
女剣士「…まだです!掌底波ぁっ!」ヒュッ

騎士少尉「へっ?」

…バキィッ!!!!

騎士少尉「がっ…」


女剣士「油断はいけませんよ!」

騎士少尉「ごほっ…、掌底波…とは…」フラッ

女剣士「えへへ!」


マスター(そうだ。女剣士には隠された底力、スキルがある…)

 
騎士少尉「…」ニヤッ

女剣士「!」

騎士少尉「予想外にやりますね。ですがこれは真剣勝負。出来ることは…やらせていただく!」

女剣士「え?」

騎士少尉「これはもういりません!」パッ

…カランカランッ


女剣士「槍を捨てた…?」

騎士少尉「…」

スッ…キラッ

女剣士「…へっ?それは何ー…」

騎士少尉「せいっ!!」ヒュッ

ズバズバッ!!ビリビリッ!!

 
マスター「腰に…隠しナイフか!」


女剣士「!」

騎士少尉「確かにあなたは強い。ですが自分とは決定的な差がひとつある…」


女剣士「きゃあああっ!」

騎士少尉「女性だ、ということ」

 
マスター「ふむ…服を破られたか。女というのが仇となる場面…さぁどうする」

宿番「おぉ!眼福眼福!」


女剣士「やっ、ちょっとお!それは反則…!」バッ

騎士少尉「これが本当の殺し合いだったら、今の一瞬で死んでますよ!」ヒュッヒュ!!

女剣士「どんどん破かないでください!いやああっ!」ビリビリッ!!

 
騎士少尉「動きが鈍くなれば…もう貰ったようなものですよ!ナイフでも十分に!」ダッ

女剣士「…っ!」バッ


ズバッ…ガキィンッガキィン!!!!


騎士少尉「これで…今度こそ終わった…って、えっ!?」

女剣士「…うぐぐ…」ギリギリ

騎士少尉「そ、それは私が捨てた槍!!」


女剣士「確かに恥ずかしいですが…勝負に負けるのはもっと嫌なんですよ…!」ググッ

騎士少尉「くっ…何て力だ…」ギリギリ

女剣士「うぅぅ…!」ググッ…

 
騎士少尉「し…下着が見えてますよ…?」ニヤッ

女剣士「!」

騎士少尉「そんなに…見てほしいんです…か…?」ググッ

女剣士「そ…そういうことは…言わないでください!」カァッ

騎士少尉「ふふ、弱みを見せましたね!!」バッ!!

女剣士「きゃあっ!」

…ドシャッ!!


マスター(さすがに押し負けたか…。しかし、な)


騎士少尉「2度目の倒れこみは、もう逃がさない!」ビュッ!!

女剣士「この状態からでも!…小突うぅっ!!!」

騎士少尉「なっ!?」

 
…ドスッ!!!

騎士少尉「そ…そんな…バカな…」

女剣士「…」

騎士少尉「…がっ」

グラッ…ドシャアッ…


女剣士「はぁ…はぁ…」

マスター「…自分の勢いで、槍に突っ込んだんだ。カウンターで食らったのと一緒だ…そりゃ倒れるか」スッ

女剣士「マスターさん…」

マスター「ご苦労さん。ほら、上着貸してやる」

女剣士「あ、ありがとうございます」

 
マスター「どれ回復でも…って、槍で刺したのに血が出てないのか?」

女剣士「峰打ちみたいなもんです。鋼鉄の柄で思いっきり、みぞおちを貫きました」

マスター「…なるほどな。女剣士の甘さに軽い痛みだけで済んだか」

女剣士「久々に組み手らしいのをやりましたが、強かったですよ」ハァハァ


マスター「仕方ねえなあ…おい、起きろ。少尉」

騎士少尉「ごほっ、ごほごほ…」

マスター「これで実力差は分かっただろ。うちの店員にも勝てない雑魚が、俺らのお守りなんて100年早い」

騎士少尉「…くっ」

 
女剣士「マスターさん、そんな言い方!」


マスター「少し軍での地位があがったからって、あぐらかいてりゃ実力も落ちるんだよ」

騎士少尉「…あぐらなんか」

マスター「綺麗な手。軍人のくせに女だからって相手に下に見た事。どう見てもそうだろうが」

騎士少尉「…っ」


マスター「出直してこい。それと俺らにはもうお守りはいらん…そう伝えろ」

騎士少尉「…はい」

マスター「…」

ヨロ…ヨロヨロ…

 
マスター「そうだ、騎士少尉!…今はお前の悪さだけを言ったが、良い所もある!」

騎士少尉「…?」

マスター「誰にでも本気になれる事。勝とうとする信念。それがありゃお前はまだまだ上に行ける!」

騎士少尉「…」

マスター「…本気になれるなら、もっと本気で自分を磨け。それだけだ」

騎士少尉「…は、はい。ありがとうございました…」

ザッ…ザッザッ…ザッサッザ゙…


女剣士「…」

マスター「そして女剣士」クルッ

女剣士「は、はい」

マスター「よくやったな。少尉とはいえ、男に勝ったんだ。勝つとは思ってたが…いい動きだったぞ」ポン

女剣士「…」ピクピク

 
マスター「…ん?」

女剣士「…マスターさん」ニコッ

マスター「何だ?」


女剣士「掌底波ぁっ!!」ブンッ

…バキィッ!!


マスター「ぬおっ!な…何をする!!」

女剣士「…一発くらい殴らせてくれてもいいでしょう!泣きそうになったんですよ!!」

マスター「しかしだな!」

女剣士「最後に良い所だけ持って行こうとしないでください!!」

 
マスター「ぬ…」

女剣士「だけど、戦いの場を貰って…改めて自分のことを知れたのは感謝します」ペコッ

マスター「…そうだな」

女剣士「もっともっと強くなります!」

マスター「…あぁ」


宿番「あの、いい話の途中でしたが…そろそろ日が暮れるので…」

マスター「ん?」

宿番「いいものを見せて頂きましたし、今日の晩御飯は奮発しますよ。何か食べたいですか?」

女剣士「いいものですか?そんないい戦いでしたかっ」フンッ

 
宿番「戦いもそうですが、その…ね」ニコッ

女剣士「…戦い以外にいいモノ?」

マスター「そりゃ…お前の体じゃないのか?ま、俺は新鮮な食べ物なら何でもいいぞ」

女剣士「…っ!!」


宿番「ははは…ずばり言いますね。ではでは、村で新鮮な食材でも探してきます」

タッタッタッタッタ…


女剣士「も…」ブルッ

女剣士「もう、今日は色々と嫌ぁぁっ~…!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

多少遅れながらも…2章がはじまりました、どうぞよろしくお願いします。

本日はここまでです。ありがとうございました。

ありがとうございます。投下致します。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 】

ゴソゴソ…

マスター「うっし。出発の準備できたか?」

女剣士「忘れ物ナシ、いつでも行けます」

マスター「それじゃ行くかぁ」ウーン


女剣士「今日は豪火山に向かうんでしたっけ?」

マスター「そうだ」

女剣士「わかりました」

 
…コンコン

マスター「お…どうぞ」

…ガチャッ


宿番「失礼します。今日からしばらく会えませんし、折角なので個人的な挨拶をと」

マスター「そうなるな。今まで世話になった」

宿番「マスターさん…是非、また来て下さいね」

マスター「一生の別れじゃあるまいし、そんな顔すんな」

宿番「ですが寂しいものですよ…。101号室、いつまでも取って置きますから!」

マスター「…うむ」

 
女剣士「戻ってきた頃には、立派な剣士ですよ!」

宿番「もうすでに素晴らしいものを…」

女剣士「…セクハラですよ!」ギロッ

宿番「あはは…す、すいません」


マスター「怒ると怖いんだぞこいつ。もしかしたら宿も壊されるかもしれん」

宿番「わわ…口は災いの元ですね」

マスター「その通りだ。触らぬ神に祟りなしよ」


女剣士「ひ…人を災いみたいに言わないでくださーい!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 街道 】


トコトコ…トコトコ…

女剣士「うぅ…色々と疲れましたよ」ハァ

マスター「まぁそう言うな。ほら、貰った団子が余ってるから食べろ」スッ

女剣士「頂きますけど…」

マスター「はは…」


女剣士「はぁ~…」モグモグ

 
マスター「まぁ次に目を向けろ。豪火山のふもとで、楽しいぞ。行ったことないだろ?」

女剣士「そりゃないですけど…歩きで大丈夫なんですか?」

マスター「途中までしか馬車は入れないからな…4、5日かかるが山道を越えて行った方が早いんだ」

女剣士「なるほど」


マスター「それと…次に行く町はな、相当昔に惨劇が起きた場所だって知ってるか?」

女剣士「豪火山の町がですか?」

マスター「もう何百年も前…、豪火山で炎の魔物が大暴れしてな。町が壊滅したらしい」

女剣士「…!」

マスター「生き残った住民は皆無。一度は人が誰もいなくなったんだと」

女剣士「今は…?」

 
マスター「それから数年。そこの出身者たちが町に戻り、やがて長い歳月で復興を遂げたんだ」

女剣士「良かったです」ホッ


マスター「だがその傷跡は今も癒えていない。町外れには数百という石碑が立っているそうだ」

女剣士「…哀しいですね」

マスター「だが、それを力にして今じゃ立派な成長を遂げた町だ」

女剣士「すごいことじゃないですか」

マスター「当時に猛威を振るった火山だったが、今じゃ休火山だ。カルデラ湖で観光名所だとよ」

女剣士「観光名所ですかっ!」

 
マスター「見たいか?」

女剣士「はい!」

マスター「一応、小規模ギルドがあったはずだ。そこで何か、カルデラ湖付近の一般クエストがないか聞いてみるよ」

女剣士「わーい!」


マスター「なかったとしても、俺も久々だしカルデラ湖は見に行くつもりだったしな」

女剣士「やったっ!」


マスター「ん~…出来れば軽いクエストがあればいいんだが…」

女剣士「例えばどんなクエストがありそうですか?」

マスター「火属性のエレメンタルの討伐。たまたま出現して観光客に迷惑をかけるんだよ」

 
女剣士「火属性エレメンタルですか…。物理攻撃が効くんでしょうか」

マスター「あっ…お前、水属性の魔法使えないんだっけか?」

女剣士「からっきしダメですね。火の最下級の魔法しか…」

マスター「あー…」

女剣士「どうしましょう…危険ですか?」


マスター「ふむ…お前、自分の魔力がどれくらいあるかは分かってるか?」

女剣士「一応、小火炎魔法を10回放てないくらいですかね…」アハハ…

マスター「相当魔力がないんだな…。それじゃ武器に属性付与をしても維持する魔力はなさそうか」

女剣士「申し訳ないです…」

 
マスター「…」

女剣士「…」


マスター「…あっ」ポン
 
女剣士「え?」

マスター「そうだ。そうだったな…この近くに確か…」ブツブツ

女剣士「…何かあるんですか?」


マスター「…ふむ、ちょっと道中で寄り道してくぞ。こっちだ」


女剣士「…は、はい」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 道中にある小屋 】

ザッザッザ…

マスター「お、あったあった。うる覚えだったから心配だったんだが」

女剣士「…ここは?」

マスター「錬金術師が営んでる小さな店だ。ここならお前の装備も強化できそうだからな」

女剣士「錬金術…ですか」


マスター「まさか…それも知らないのか?」

 
女剣士「い、いえいえ。今あるスイッチ1つで点く明かりとか…」

女剣士「ひねると出る水道。冷蔵庫だとか、そういう不思議な技術のことですよね」


マスター「60点。正確にいえば、魔法の力を使わぬように開発された文明の利器の1つだな」


女剣士「あう…。でも何で錬金術屋さんなんですか?そんな場所で私の装備が強化できるんでしょうか」

マスター「お前が想像してるのは、いわゆる生活品の錬金術品だろう」

女剣士「…それ以外に錬金術の用途が?」

マスター「そもそも錬金術ってのは、東方で開発された物で。戦いのために生み出された技術なんだよ」

女剣士「そうなんですか!?」

 
マスター「今日という日、もう平和ともいえる世の中で錬金術は生活品の研究ばかりだがな」ククク

女剣士「そうだったんだぁ…」

マスター「ここは数少ない、冒険者用の武器や防具の錬金術装備、開発を行ってる場所なんだ」

女剣士「へぇ~!」


マスター「さぁて、"アイツ"がいればいいんだが…」

 
コンコン…

マスター「…いるかー?」

???「はーい、お客かな。どうぞー」


…ガチャッ

マスター「よかった、まだやってたか。失礼するぞ…久しぶり」

???「…誰?」

マスター「俺だ。わからんか?」


???「…」

???「…あぁっ!!」


マスター「思い出したか?かなり久しぶりだな…まだやってて安心したよ」

???「思い出した思い出した!!忘れる訳ないよ!久しぶりだねぇ!」

 
女剣士「…知り合いなんですか?」

マスター「あぁ…こいつは女錬金師。俺の現役時代のパーティの1人だよ」

女剣士「えっ!」


女錬金師「おや…初めましてかな?かわいこちゃん」ニコッ

女剣士「そ、そんな可愛いなんて」テレッ


マスター「お前はとっくに引退したものかと少し思ったが、やっぱりまだ経営は続けてたか」

女錬金師「まだまだ現役だよ。おかげ様で、各方のギルドに入用にしてもらってるからねぇ」

マスター「それは何よりだ」


女錬金師「…で、久々に来た理由は自慢かい?」

マスター「自慢だと?」

 
女錬金師「だからさ…この娘のことだよ」ジロジロ

女剣士「…?」


女錬金師「あんたもいよいよ年貢の納め時ってことなのかね?」クスクス

マスター「冗談だろ。こいつはえーと…あれだ、うちの店員だ」

女錬金師「…違うのかい?」

マスター「違う」


女錬金師「なーんだ残念」

マスター「…」

女錬金師「いい加減、あんたも伴侶を見つけたらいいんじゃないのかい」

 
マスター「…相変わらずな奴だ」ハァ


女錬金師「余計なお世話だよ。それより、嫁の自慢じゃないなら一体何の用なんだい?」

マスター「嫁じゃないが、コイツの事には変わりないんだがな」グイッ

女剣士「わわっ」


女錬金師「…ふむ?」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


マスター「ってわけだ。どうにかならんか?」

女錬金師「属性武器の魔力が維持できない…か」

女剣士「お手数かけます…うぅ」


女錬金師「…うーん。難しいねぇ」

マスター「やっぱりお前でもダメか?」

女錬金師「うーん…。元々の魔力が少ないってのは、補給薬を使っても勿体ないだけだし…」

 
マスター「これは今後のことにも関わるからな。出来れば若いうちに解決させたいんだ」

女錬金師「そうだねぇ。話を聞く限り、ものすごい才能なんだろう?勿体ないもんねぇ」

女剣士「…そ、そんなに厳しい事なんですか?」


女錬金師「そりゃ…魔法も使えない剣士が一人前になるのは難しいよ。聞いてないのかい?」

マスター「いや、いいんだそのことは」

女錬金師「え?」


女剣士「ちょ、ちょっと待ってください。何のことですか一体!」

マスター「いや…いいんだ」

女剣士「気になりますよ!教えてください!」

 
マスター「…女錬金師」ギロッ

女錬金師「何だい。どうせ気づくことだろう」

マスター「そりゃそうなんだが…」


女剣士「…教えてくださいよ」

マスター「…わかった」

女剣士「…」

 
マスター「…剣士というのはパーティや立ち回りにおいて重要な役割があるのは分かるよな」

女剣士「知ってますよ!相手を翻弄する敏捷力、前衛で戦う体力、常に応用できる技術力…ですよね?」

マスター「…その技術力は、いわゆる"オールラウンダー"の意味合いもある」

女剣士「前に言ってた、あらゆる武術、スキルを使えることですか?」

マスター「違う」

女剣士「じゃあ…何ですか?」


マスター「魔法攻撃も含めた、その技術力だ」

女剣士「!」

 
マスター「もちろん…物理だけでも有意義な立ち回りは出来る。だが、限界があるんだ」

女剣士「で…ですが、父は魔法が苦手で…。私以上に使えなかったのに相当強いんですよ?」

マスター「…騎士、だろ?」

女剣士「そ、そうです」


マスター「騎士は力技だ。技術だけでなく武道家のような気力の一撃を備えているんだ」

女剣士「そんな事言ったら、剣術の一撃も気の練りはあります!」

マスター「槍の一点と、剣の全てを飛ばすのではどちらが一撃に長けていると思う?」

女剣士「うっ…」

 
マスター「パーティ、団体戦においては基本的に前衛、中衛、後衛の3つに分かれているのは知っているな?」

女剣士「そうですね」
 
マスター「前衛は切り込み役。中衛以前は火力と支援役だ」

女剣士「はい」

マスター「前衛はやれる事が多ければ多いほど、パーティでは有利になる。もちろん中衛後衛もだが」

女剣士「そう…ですね」


マスター「前衛の騎士や戦士が盾役や火力なら、剣士は何だと思う?」

女剣士「…やっぱり相手の翻弄や、攻撃防御も出来る…万能役ですかね」

マスター「つまり?」

 
女剣士「何でも出来るって事ですね。さっき言ったオールラウンダー…です」

マスター「それを求められる前衛が、魔法に対抗出来ない、相手に合わせられなかったら…後衛はどうなる?」

女剣士「守ろうとやることが増えて、自分の力を出せない…」

マスター「その通り。特に…お前の場合はな」

女剣士「…」


マスター「器用貧乏とでもいおうか。やれる事は多いが、肝心な部分で撃沈されるだろう」

女剣士「…」

マスター「パーティがダメなら一人旅なら?とは思うかもしれんが、益々やる事は多くなる。個の力が重要になるからな」

女剣士「…」

 
マスター「剣士ってのは誰にでもとっつきやすい。もっとも人口が多いのは剣士だといっても過言ではない」

女剣士「そうですね…、人の歴史は剣と隣にありましたから…」

マスター「つまり今日という日、最も没者が多いのは剣士ということになる」

女剣士「!」


マスター「そのほとんどが、本当の剣士になりきれず…な」

女剣士「それが…魔法ということですか」

マスター「それだけじゃなく剣術面もだが…」

マスター「お前は少しの魔法を使える相手と比べたら、剣術で勝っても総合的に見れば危険な状態だ」


女剣士「…」

 
マスター「俺のように大剣を扱い、一撃に特化した剣士もいるが…」

女剣士「…」

マスター「レイピアに近いお前のような剣を使う剣士は火力で押せるわけでもないしな…」

女剣士「…う」


マスター「剣士っていうのは、あらゆる事象を覚えてこそ。それで一人前なんだよ」

女剣士「…」

マスター「そりゃ歴史には物理しか持たない有名な剣士はいる。だが、ほんの一握りの人間しか俺は知らん」


女剣士「じゃ…じゃあ、私が…一人前の剣士を目指しても…無理だってことなんです…か?」ブルッ

 
マスター「そうは思わない。…お前に言わなかった理由として、それを克服できる力があると信じたからだ」

女剣士「なぜ…信じられるんですか…」


マスター「努力が出来るところ。そして、お前の生まれ持った戦いの素質だ」

女剣士「努力と…戦いの素質…?」

マスター「少なくとも俺は、3つスキルの基本をそこまで完璧にこなす人間を見たことがない。その才能は天からの贈り物だろう」

女剣士「…」

マスター「逆に魔法が使えないのは重い事だ。だが…お前はそれに動じずに今日まで戦い抜いた気力がある」

女剣士「…はい」

マスター「…努力と素質。お前はそのままでも充分にゆっくりと前を目指せれば良いと…思っていた」

女剣士「思っていた…?」


マスター「ゆっくりと、独自の戦いや剣技も教えたかった…。だが、そうもいかなくなっただろう」

女剣士「あ…お店が燃えた事ですか…」

マスター「そうだ。実践頼りが多くなるであろう今、悠長に構えてはいられなくなったんだ」

女剣士「…」

マスター「…俺と一緒にいる時点でそれなりの危険はある」

女剣士「…私が西ギルド員を吹っ飛ばした事も要因ですよね…」

 
マスター「そうだ。逃げろと言ったが、お前は俺から教えを請うと言った」

マスター「だから…お前の不得意なエレメンタルの相手の豪火山を目指して進んできたんだ」

マスター「苦手な相手は、何よりも成長の糧となる。俺を尊敬した弟子を無碍には出来んよ」


女剣士「…そうだったんですか」

マスター「…黙ってた事は悪かった」

 
女剣士「じゃあ…私は、これからどうするべきでしょうか」

マスター「だからこそ…この錬金術屋に来たんだ。お前の成長のきっかけとなるようにな」ニカッ

女剣士「!」


女錬金師「…はは、参ったねぇ。こりゃ責任重大じゃないか」

マスター「頼むぞ」


女錬金師「私に任せな!頼まれた!」

女錬金師「…とは言いたいんだけど、どんなに考えても残念ながら本当に浮かばないんだよ…」ハァ


女剣士「…っ」


マスター「やはり魔力の補給薬のガブ飲みしか道はないか?」

女錬金師「冗談だよそんな事!中毒になって倒れてしまうよ!」

マスター「わかってるよ。俺だって冗談でいったんだ」

 
女錬金師「んー…」

マスター「…」


女剣士「あ…あの」

マスター「ん?」

女剣士「私のために、そこまで考えてくれて有難うございました。もう…大丈夫です」

マスター「何だって?」

女剣士「さっき言われた通り、努力で槍のような一点集中の気力だとか、それを剣で磨いてみたいと思います」

マスター「…」

女剣士「確かに魔法は苦手ですが、それを克服出来るように努力します!」

 
女錬金師「ゴメンね…力になれなくて」

女剣士「いえ。私自身、諦めませんから。実践を通して、成長したいと思います」

マスター「…」


女剣士「炎のエレメンタルがなんですか。魔法が使えないからって何ですか」

女剣士「ズタボロだろうが、きっとその中で活路を見出して見せます!」


マスター「…」

女錬金師「…そうかい。すまなかったね」

女剣士「謝らないでください。私のことを考えてくれて、嬉しかったです」

 
マスター「…やはり、ダメか」

マスター「せめて、一瞬の属性付与だとかをイメージできれば何とかなったと思うんだが…」


女錬金師「近くに強力な魔法使いでもいれば、魔力枯渇も問題なく練習できたと思うんだけどね」

マスター「…魔力か…。んーむ…」


女錬金師「…魔力の維持が問題か…」

女錬金師「魔法…、維持…維持か…。うーん、属性付与…。維持…魔法…」

女錬金師「…!」

女錬金師「…え?あ…あっ!も…もしかして!」


マスター「ん?」


女錬金師「ちょ、ちょっと待ってておくれ!」ダッ

マスター「お…おい!」

本日はここまでです。ありがとうございました。

皆様有難うございます。
その辺は追々と、楽しんで頂ければ幸いです。

投下開始致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ガサガサガサッ…ガランガラン!!!ドサドサッ!!


女錬金師「…あった!」

マスター「何だ?」

女剣士「?」


女錬金師「これ…何だかわかるかい?」トプンッ

マスター「青い…水か?」

女錬金師「ふっふーん。エレメンタル元素だよ」

マスター「…エレメンタル元素?」

 
女錬金師「そう。属性着火ライターに充填する練成されたオイルの前のモノだよ!」

マスター「ややこしいな。わかりやすく言え」

女錬金師「簡単にいえば、魔法を具現化して、そのエネルギーだけ抽出したもんさ」

マスター「なるほど」


女剣士「属性着火ライター…?」

マスター「武器に属性を付与するライターのことだ。だがお前は維持ができないのが問題なんだ」

女剣士「な…なるほど」


女錬金師「とりあえず、普通はこれを練成してライターに注入する」

女錬金師「そしてライター内部の魔石と弾けて武器に属性として付与出来るんだ」


マスター「で…そのエレメンタル元素がどうしたんだ?」

女錬金師「これをさ…女剣士ちゃん、ちょっとおいで」

女剣士「は、はい」

 
女錬金師「手を出して…そう。一滴だけ…」

…ポタッ


女剣士「…!」パァッ!!

マスター「!」

パァァ…ジャバァッ!!!


女剣士「わわっ!?手から…み、水が!」

マスター「今のは…水魔法!」

女錬金師「…」ニコッ

 
女剣士「な、何ですか今の!」アワワ

女錬金師「…今の感覚、どうだった?」

女剣士「ちょ、ちょっと体の芯がくすぐったかったです。今のは一体…?」

女錬金師「今の感覚が、水魔法を練る感覚さ」

女剣士「!」


マスター「どういう事だ?」

女錬金師「火魔法は使えるんだろう?だったら、他の魔法だって使えない訳じゃないと思ったんだ」

マスター「だ、だが人によって属性魔法には良し悪しがあると…。コイツの親も使えないんだぞ?」

 
女錬金師「基本の一属性の魔法が使えれば、基本的には他の属性の魔法も練りはできるはずなんだよ…」

女錬金師「親は苦手だっただけで、本当ならきっかけがあれば魔法自体は使えたんだと思うよ」

女錬金師「そもそも使えないなら、このエレメンタル元素は零れるだけ。さっきみたく魔法は発動しないのさ」


マスター「…なるほど、水魔法自体は使えなくはないわけか。だが…少ない魔力はどうにもならんぞ」

女錬金師「だから…一滴だけ与えたのさ」

マスター「何?」

女錬金師「…」ニヤニヤ

マスター「だからどういうことだよ」イラッ


女錬金師「確かに属性魔法の維持は魔力が要る。だが…一瞬だけ放てれば?」

マスター「そ、そうか!無理に維持させる必要はない…か…」

 
女錬金師「アンタもバカだねぇ。感覚を覚えさせるってのは、そういう風に使えるようにさせるって事なんだよ」

マスター「くっ…、あれだけの説明で分かるか!」

女錬金師「ふふん」


女剣士「あ…あの…それで私は…」

女錬金師「あ、そうそう。えーとね…ほら、コレ」スッ

女剣士「これは…」


女錬金師「青いのが水、緑が風のエレメンタル元素。毎日一滴ずつ手に垂らすんだ」

女剣士「そうすると…?」

女錬金師「一瞬だけ魔法が具現化する。そして、その感覚は体に馴染んでいくはずさ」

女剣士「馴染んでいく…」

 
女錬金師「慣れれば元素液がなくてもその魔法が使えるようになるはずだ」

女錬金師「そして、一瞬の発動の技術は自然と体に刷り込まれる」


女剣士「…!」

女錬金師「それを応用して武器に一瞬の付与をさせれば、少ない魔力で属性攻撃が可能になるよ」

女剣士「ほ、本当ですか!」


女錬金師「魔法の感覚をつかみ、それを武器に付与する。…長い鍛錬が必要になりそうだけどね」

女剣士「努力あるのみってことですか」

女錬金師「しかもこの方法も確実じゃないけど…やってみる価値はあると思うけどね」

女剣士「やります。やらせてください!」

 
女錬金師「そういうと思ったよ。じゃあ、この元素液…これはアタシからのプレゼントだ」ニコッ

女剣士「えっ!でも…高そうですよこれ」

女錬金師「マスターの弟子はアタシの弟子も一緒さ。遠慮なく受け取りな」

女剣士「…う、うーん」


マスター「女剣士。冒険者たるもの…受け取る心得を教えただろう」

女剣士「あっ」

女錬金師「…ふふ」


女剣士「じゃあ…ありがたく…いただきますね」ペコッ

女錬金師「うん、素直に受け取ってよろしい!」

 
マスター「…感謝するぞ、女錬金師」

女錬金師「いいっていいって!」


マスター「…時間は必要になるが、何とか解決の糸口が見えたようで良かったな」

女剣士「はいっ♪」

マスター「魔法を習得してきたら、完全な属性付与はゆっくりかつ確実に教えてやる。焦るなよ」

女剣士「わかりました!」


女錬金師「ふふ…良い弟子をもったじゃないか」

マスター「店員だが…まぁ、本当に弟子みたいなもんかもな」

女剣士「弟子ですね♪」

 
マスター「さて、のんびりしてる暇もない。そろそろ豪火山に向かって出発するぞ」

女剣士「あ、はい!」


マスター「それじゃ女錬金師、俺らは行くとするよ。また用事が出来たら寄りに来る」

女錬金師「はいよ。いつでも待ってるよ」

女剣士「ありがとうございましたっ」


マスター「…じゃっ」

ガチャッ…


女錬金師「…」

女錬金師「…!」

女錬金師「女剣士ちゃん!ちょっと待って!」ボソボソ

 
女剣士「はい?」


女錬金師「えーとね…」ゴソゴソ

ゴソ…ゴソゴソゴソ…

女錬金師「あとでこの箱開けな。マスターには内緒でね」


女剣士「な、何ですかこれ?」

女錬金師「いいものだよ。説明書は別途ついてるけど、必要になるときが絶対あるから、持っていきな!」

女剣士「…は、はい?」

 
マスター「ん…何やってる!遠いからな、日が暮れる前に1つの山を越すぞ!」


女剣士「あ…い、今行きます!」

女剣士「それじゃ、失礼します!色々お世話になりました~!」ダッ

ガチャッ…バタンッ…


女錬金師「ばいばーい♪」

女錬金師「ふふ…行っちゃったか」

女錬金師「がんばるんだよ。あの男が、ここまで入れ込む冒険者だ…。私も応援するからね」


女錬金師「…今月もこれで赤字か。支払いどーしよ」ハァ

 
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夕方・山道 】


ザッザッザッザ…ピタッ

マスター「ふむ…」
 
カァ…カァ…!!

女剣士「…日が暮れてきましたね」

マスター「今日はここで一泊だ。道に迷う前にキャンプを張るぞ」

女剣士「キャンプですか?」

 
マスター「バックパックに入ってるので準備はできる。分かるか?」

女剣士「はい。テントはえーと…」ゴソゴソ


マスター「その間に俺は火をたてよう。食料はあるし、俺が腕によりをかけて作ろう」

女剣士「わーい!」

マスター「ったく…本当に食べ物に目がないやつだな」フゥ

女剣士「し…趣味なんですから放っといてくださいよぉ!」

マスター「食道楽って感じだな。さ、それよりテントきちんと張ってくれよ」

女剣士「任せてくださいっ!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 30分後 】

ホウ…ホウ…
 
女剣士「やっとテント設置し終わったぁ!」

マスター「えらい時間かかったな…ご苦労さん」

女剣士「このテントの打ち込む部分…抜けるんですもん」
 
 
マスター「ビスか。慣れるまではよく抜けるからな」

女剣士「でもなんとか出来ました。手がドロドロです」

 
マスター「…手、出せ」

女剣士「は、はい」スッ

マスター「…」

ゴソゴソ…スッ

マスター「感覚の鍛錬がてら、泥を洗い流そう。ほら」

…ポタッ


女剣士「…んっ」ピクッ

パァァ!!…ジャバァ…

女剣士「…よかった、上手く水が具現化された…」ホッ

 
マスター「どんどん覚えろよ。その感覚1つ1つがレベルアップに繋がるからな」

女剣士「はいっ♪」


マスター「さて、こっちに座れ」

女剣士「あ、はい」

チョコチョコ…ストンッ


マスター「夜は少し冷えるからな。暖を取ることは大事だぞ」

女剣士「…あったまります」ホクホク

 
ボォォ…パチパチ…

マスター「…もうすぐ鍋が出来る。少しだけ待ってろ」

女剣士「…はい」

マスター「…」


ボォ…パチッ!!グツ…グツグツ…

女剣士「…」

マスター「…」

女剣士「…」

マスター「…」

 
女剣士「…マスターさん」

マスター「ん?」

女剣士「お店…燃えちゃって…。やっぱり哀しいですよね」

マスター「当たり前のことを聞いてどうするんだ」

女剣士「あうっ…すいません…」


マスター「…」

女剣士「…」

マスター「まぁ今はちょっと哀しくもあり…常連方には悪いが、少し嬉しくもある」

女剣士「お店が焼けたことがですか?」

 
マスター「こうして火を"冒険者同士"で組む事は、何だかんだ言って楽しいんだ」

女剣士「マスターさん…」

マスター「…」フッ


女剣士「…えへへ」

マスター「…」

女剣士「…」

マスター「…」

 
女剣士「…あっ!」

マスター「ん?」

女剣士「今、"冒険者同士"って!」

マスター「何…?い、言ってないぞ」

女剣士「言いましたよ!」

マスター「言ってない、気のせいだ」

女剣士「言ったー!」


マスター「…ほら、鍋がもう出来る。取り皿はあるからサクっと食べろ」ゴソゴソ

女剣士「誤魔化すんですかぁ!」

マスター「…いつまでも言うなら食わせないぞこらぁー!」

 
女剣士「あーっ、食べ物を盾にするなんて酷い!」

マスター「お前が変なことを言うからだろうが!」

女剣士「言ったのを認めてくださいよぉ!」

マスター「き…気のせいだ」

女剣士「…むぅ」

マスター「ほら早く食べるぞ」イソイソ


女剣士(…やっぱり、心の奥底ではまだまだマスターさんは冒険者なんだなぁ)クスッ


マスター「…おい」

女剣士「はい?」

 
マスター「今、なんで俺のほう見てクスっと笑った!」

女剣士「何でもありませーん!」

マスター「くっ…、さっさと食べてさっさと寝る!明日は早くから山を越えるからな!」

女剣士「はーいっ♪」


マスター「ったく…」ブツブツ


女剣士(何を恥ずかしがってるんでしょうか…マスターさんもまだまだ冒険者だと思うんですよね)

女剣士(まぁ…今は食べて、明日に向けて力をつけよっと!)

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

本日はここまでです。ありがとうございました。


次回は土曜日かな?

皆様ありがとうございます。
>>432 の質問に関して再書き込みするのを忘れてました。
前述していた通り、次の更新は今週の土曜日となります。
多忙の為ですが、お待ち頂ければ幸いです。

それでは失礼致しました。

少年剣士(青年剣士orオーナーor2代目英雄剣士)
幼剣士(聖剣士)
冒剣士
白剣士(3代目英雄剣士)

でウン百年とか先に

竜騎士
女剣士

でさらに年代を経て

真剣士

だろうな

まあ独立させて読んでも面白いから あまり気にしなくてもいいかも

皆様、たくさんの感想・意見等ありがとうございます。
世界観ですが、 >>442
にあるように、そちらの時系列です。
また、それぞれどこから読んでも楽しめるように作ってあるので宜しくお願いします。


では、投下開始致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 4日後・豪火山付近の山道 】


ザッザッザッザ…

女剣士「…ふぅ、ふぅ」ゴシゴシ

マスター「大丈夫か?水、飲め」

女剣士「頂きます…」グビッ


マスター「裏山道は思ったより酷いな…、まるで舗装されてないか…」

 
女剣士「表参道もあるんですか…?」

マスター「もちろん。だが短縮しようとしてこっちの道を進んできたんだが…」

女剣士「日に日に温度が上がってって…、凄い暑いですねこの辺…」タラッ

マスター「だな…少し失敗だったか」

女剣士「どうしてこんなに暑いんですか…?」ハァハァ


マスター「豪火山の山脈付近は、地下にあるマグマ群で地上を熱してるんだ。地熱ってやつだな」

女剣士「へ、へぇ…」

マスター「所々湯気が出てるのが地熱の塊だ。この辺一帯は暑いわけだな」

女剣士「そ…そうなんですねぇ。マスターは平気そうですが…」

 
マスター「ん?あぁ、俺はこのくらいはな。"熱い"くらいになったら抵抗魔法もかけるんだろうが」

女剣士「つまり…今は余裕ってことですか…」フラフラ

マスター「ん、まぁな。お前…相当倒れそうだが…大丈夫か?」


女剣士「当たり前です…冒険者たるもの…!これくらいでヘバっては…!」

マスター「そうだな…って」


女剣士「っ~…」フラッ

マスター「お、おい!」バッ

…ガシッ!!

 
女剣士「…」ダラン


マスター(…この暑さに負けてしまったか)

マスター(すまんが、お前の体力を知るには追い込むしかないんだ…悪く思わないでくれ)

マスター(死なない為にも、限界を知り、伸ばす事が俺たちには必須だからな…)


マスター「さて、ここから町も近い。バッグを前に回して…背負って行くとするか…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 ふもとの町 】


ヒヤッ…

女剣士「ん…冷たい」

女剣士「…」

女剣士「…えっ!」ガバッ


マスター「ん、気づいたか」

女剣士「あれ…ここは…」

 
マスター「町の宿。もうとっくに着いたぞ」

女剣士「あれれ…。わ、私…」

マスター「途中でぶったおれたから運んだんだ。丸一日寝てたんだぜ」

女剣士「えぇぇっ!ご、ごめんなさい!」

マスター「まぁ考えがあった事だし、別に気にするな」

女剣士「は…はぁ?」


マスター「んなことより、こっちのギルドに顔出しに行くぞ。仕事ないか聞くからな」

女剣士「私もいいんですか?」

マスター「何言ってる。お前も行って、クエストの依頼とか見たほうがいいだろう」

女剣士「はい~♪」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 町の中 】


…ガヤガヤ

女剣士「わぁ~人が多いですねえ。それに町並みが独特です」

マスター「温泉街って名目で再始動した町だからな。雰囲気も穏やかなものがある」

女剣士「豪火山の目の前なのに、暖かさも丁度いいですね?さっきみたいな暑さはないです」

マスター「だから町があるんだ。そこら中から熱気が噴出したら町なんか作れないだろう」

女剣士「う…そうですね」

 
マスター「俺らが泊まった宿にも温泉が付いてるからな。あとで入るといい」

女剣士「本当ですかっ!やったー!」

マスター「…うむ」

女剣士「それにしても…」キョロッ


ワイワイ…ガヤガヤ…


女剣士「さっきから歩いて行く人が持ってる茶色い卵みたいなのは…なんでしょう」ジュルリ

マスター「温泉饅頭だな」

女剣士「…」ジュルリ

マスター「…食べるか?」

女剣士「いえいえ、そんな悪いですよぉ!」

 
マスター「じゃあ、いらないんだな」プイッ

女剣士「あぁっ!うそ、うそです!食べたいですお願いします!」

マスター「…そこに売ってるから、買って来い。ほら、お金だ」スッ

女剣士「ありがとうございますー♪」ダッ

ダダダダダッ…


マスター「早っ」

 
女剣士「お饅頭1つくーださい!」

販売員「お、いらっしゃいませー。1個150ゴールド、5個で600ゴールドで1個分お得だよ!」

女剣士「…」

女剣士「5個で」


販売員「…、10個なら1200ゴールドで2個分お得だ!」

女剣士「…」

女剣士「じゅ…10個入りで」


販売員「毎度ありがとー!」

 
女剣士「お金と…はい、ありがとうございます」ガサガサ

販売員「またごひいきにー!」


タッタッタッタ…

女剣士「マスターさん!買えましたー!」

マスター「お、そうか…って、随分…袋がでかくないか」

女剣士「ま…マスターさんの分もと思いまして。ね?」

マスター「そうか悪いな。じゃあ1個もらおうか」

女剣士「どうぞっ!」スッ

 
マスター「んむ…」モグッ

女剣士「…じゃあ私も」パクッ

…モグモグ


女剣士「…!」パァァ

マスター「相変わらず美味いな」

女剣士「あんこがとーっても甘くて美味しいですねぇ♪」

マスター「温泉饅頭…もとい、薄皮饅頭は苦手な人が多いんだが」

女剣士「あんこたっぷりなほうが美味しいんですけどね?」

 
マスター「んむ…とりあえずギルドに向かうぞ」モグモグ

女剣士「はーいっ!」モグモグ


トコトコトコトコ…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 豪火山ギルド 】

…ガヤガヤ

女剣士「ここが豪火山のギルドですか?随分小さいんですね」


マスター「確かに小規模だが…」

マスター「そりゃお前は中央にある世界でも有数な巨大ギルド見たからな…。余計に小さく感じるんだ」


女剣士「…かもしれませんねぇ」

マスター「それにこの辺にはココしかないんでな。貴重な存在っちゃ貴重な存在だ」

女剣士「そうなんですね」

 
マスター「えーと…そんなに混んでないし受付にさっさと行くか」

女剣士「この間みたいな横入りはしないんですね」クス

マスター「ありゃ色々あっただろうが!」

女剣士「ですねっ」


マスター「さて、こっちだ」

スタスタ…

 
マスター「受付サン」

受付「はい」

マスター「今、この辺で一般で受付してる依頼はあるか?」

受付「えーと…少々お待ちを」ゴソゴソ


女剣士「そういえば、一般とかの概念はあるんですね」

マスター「ギルドに所属してない人とかの一般冒険者でもクエスト自体は受ける事はできるんだ」

女剣士「へえ~」

マスター「まぁギルドメンバーが厄介だと思って無視したりして、放っとかれたやつだがな」

女剣士「どんなのがあるんだろぉ」ワクワク

 
受付「えーと、よろしいですか」

マスター「うむ」


受付「最初に紹介出来るのは町内の掃除ですね」

マスター「却下」

受付「次は…、ギルドの加入紹介です。直接雇用なので賃金がいいですよ」

マスター「却下」

受付「では、猫の捜索などいかがでしょうか」

マスター「却下」

 
受付「では、今のところは紹介できるのはありませんねぇ…」

マスター「…エレメンタル討伐とかはないのか?数年前まで出してたはずだが」

受付「近年は冒険者も増え、当ギルドの基本討伐にまわされてます」

マスター「何…、豪火山付近の魔物討伐の依頼ってのは何もないのか?」

受付「ですね、山脈に関連するクエストの大半はメンバーで処理させていただいています」

マスター「そうか…」クルッ


受付「あれ、お帰りですか?クエストの受注はよろしいのでしょうか」

マスター「ちょっと目に付くものがなかった。また来れたらくるよ」

受付「わかりました」

 
トコトコトコトコ…

マスター「…はぁ」

女剣士「何もありませんでしたねえ」

マスター「そうだな、うーん…」

女剣士「勝手にエレメンタルの討伐を行うのは違法なんですか?」

マスター「違法じゃないが、この辺はあのギルドが動いてる。いざこざになるからな…」

女剣士「そうなんですかぁ…残念です」


マスター「仕方ない、豪火山のカルデラ湖でものんびり観光してくか」

女剣士「それは嬉しいですけど、戦えなかったのは少し残念ですね」


マスター「…」

マスター「山脈の途中には、小さな村もある。その辺で休憩しながらとかやるか?」

 
女剣士「あ、それでも充分ですよ!」

マスター「本当なら設備もあるこの辺から始めるのが良かったんだが…ま、仕方ないことだ」

女剣士「気にしませんよ、戦える場が設けてくれるだけで嬉しいことですから」

マスター「ふっ…じゃあ、観光に行くとするか」


女剣士「はーいっ!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 カルデラ湖への山道 】

ザッザッザッザ…

女剣士「…」

マスター「観光客が多いな。昔来た時より増えている気がするぞ」


女剣士「今は賑わってますけど…昔、この山道も人と魔物との戦いで…血路を開いたんですかねえ」

マスター「そうだろうな。当時の人がいたら、よっぽど平和で驚くかもしれん」

女剣士「その時代に生まれてたら、生き残る自信はないです…」


マスター「俺だってそうだ。だがまだまだ人に迷惑をかける魔物はいるからな」

マスター「例え弱くても、俺らみたいなのは必要なんだよ」

女剣士「…ですね!」

 
ザッザッザ…

マスター「この山道をまっすぐ行くとカルデラ湖なんだが…」

女剣士「大通りっぽいですしね」

マスター「そこに脇道があるだろ?」

女剣士「はい」

マスター「昔はそこが遠回りのカルデラ湖への道だったんだ。今は冒険者しか通らないがな」


女剣士「ってことは、さっき言ってたこの辺のギルドメンバーの?」

マスター「今はそうなるな。足跡もあるし、つい最近エレメンタルの討伐に出発したんじゃないか」

女剣士「むむぅ…羨ましいですね」

 
マスター「…」ククッ

女剣士「…?」

マスター「お前もよっぽどだな」


女剣士「何で笑ったんですか?」

マスター「自分が危険な目に合うかもしれないのに、その相手と戦えないで悔しいとか羨ましいとかな」

女剣士「冒険者なら当たり前です!」

マスター「よっぽどお前は戦士の血が流れてるらしい。早死にすんなよ」コツン

女剣士「あいたっ!…へへ」

 
…ザワ

マスター「…おや?」

ザワザワ…ガヤガヤ…

女剣士「どうしました?」

マスター「…見ろ。下から誰か登ってくるぞ」

女剣士「え?」クルッ


マスター「…ありゃ豪火山のギルドメンバーだな。火炎のマークが入ってるだろ?」

女剣士「確かに登ってきてますね。ちょっと…慌ててる?」


マスター「こりゃ何かあったな…」

女剣士「どうしたんでしょうか?」


マスター「ふむ…おーい!」

 
ギルド員「…何だ?俺たちは急いでるんだ」

マスター「その様子だと何かあったな。教えてくれないか」

ギルド員「一般人相手に話しをしてる暇はない、どいてくれ」


マスター「…」スッ

クルクルクル…ドスンッ!!!


ギルド員「!」


マスター「この大剣を見ても一般人だと?」

ギルド員「…他所の冒険者か」

 
マスター「見た所、3人しかいないようだが人手不足じゃないか?」

マスター「…良ければ手伝わせて欲しいんだが」

女剣士「!」


ギルド員「他所の奴に手伝わせる事はない、お前ら行くぞ!」

ギルド員「はい」

ギルド員「わかりました」

ダッ…タッタッタッタッタ…


女剣士「あっ…行っちゃいましたね…」

 
マスター「…ふ」

女剣士「?」

マスター「面白そうなことだ、俺らが行って足手まといになるという事はあるまい」ニヤッ

女剣士「ま、まさか」


マスター「…着いて行くぞ!」ダッ

女剣士「あっ、待ってくださいよぉ!」ダッ


女剣士(なんか、マスターさん…急に子供っぽくなっちゃった気がします)クスッ


タッタッタッタッタ…

………

……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ザッザッザッザ…

女剣士「とはいえ…本当にこんなの着いてって大丈夫なんですか?」アセアセ

マスター「大丈夫だろ。たまたま道に迷いましたとか言えばいい」

女剣士(それはさすがに通らない気がしますよ!)


マスター「…むっ」ピタッ

女剣士「どうしました?」

 
マスター「見ろ、あいつら…武器を用意し始めた」


ギルド員「…準備しろ」スチャッ

ギルド員「あぁ」スチャッ

ギルド員「余計な奴のせいで時間食ったな。急ごう」スチャッ


マスター「…」

女剣士「やっぱり何か討伐するみたいですね」

マスター「大方、他の面子の救助っていったところじゃないか」

女剣士「救助ですか?」

 
マスター「ギルド内でのいざこざは、他所の奴には手伝って欲しくないもんなんだ」

女剣士「人手が欲しかったら素直に言えばいいのに…」

マスター「プライドがあるんだろうよ。気持ちは分からなくはないが」

女剣士「う~ん…」


マスター「それに簡単な救助なのかもしれん。それなら人手もいらんかもな」

マスター「まぁ今は着いてくぞ」


女剣士「あ、はいっ」


ザッザッザ…

 
マスター「…」コソコソ

女剣士「…」コソコソ


マスター「…お」

女剣士「あっ!」


エレメンタル『…』ゴォォ


マスター「見ろ…あれが火のエレメンタルだ。真っ赤に燃え上がってるだろ?」

女剣士「精霊の一種でしたね。初めて見たけど綺麗ですねぇ…」

マスター「とはいえ、触れただけで燃え上がる危険なヤツだ。処理はせんとな」

女剣士「あのギルド員さんたち、剣士と騎士と魔法使いですね。剣士の動き見ないとっ」

マスター「属性付与の戦い方を見るといい」

女剣士「はいっ」

 
ギルド員「…エレメンタル如き、ジャマだ」スチャッ

ギルド員「水炎装っ!」ボワッ!!


女剣士「あれが水の属性付与…、蒼い炎…」


ギルド員「はぁっ!」ブンッ

…ズシャアッ!!

エレメンタル『!』

ボボボ…ボフンッ…


女剣士「消えた!…倒したんですか?」

 
マスター「エレメンタルは下級精霊。切り込むだけで基本的に倒せる」

女剣士「…」

マスター「…どうした?」

女剣士「私、その下級精霊にも勝てないんですよね。ちょっとだけ…悲しくなっちゃいました」

マスター「…焦るなって言っただろ。何のために、今ここに俺がいると思ってる?」

女剣士「えへへ…ですよね!」


ザワザワ…

ギルド員「…もう少し上だな。避難小屋あたりか?」
 
ギルド員「確かその辺だ。…俺らに対処できるといいんスけどね」

ギルド員「あまり聞かない魔物だ…、用心に越したことはないんでしょうが」

 
マスター「あまり聞かない魔物…?」

女剣士「そんなのがいるんですか?」

マスター「表に出てこないヤツは多いが、この辺で地元の面子が聞かない魔物とは…」

女剣士「この辺にはどんなのがいるんですか?」


マスター「俺が知ってるのはエレメンタル、その上位のウィスプくらいだな」

女剣士「私にとっては十分に脅威ですね…」アハハ

マスター「それにしても聞かない魔物か…面白そうじゃないか」

女剣士「お…面白そうですか」


マスター「…ワクワクしないか?こういうの」

女剣士「確かに、ちょっと楽しくはありますけど…」

 
マスター「こういうのも楽しめるようになってこそ一人前だぞ!」

女剣士「そ、そうですかねえ?」

マスター「今に分かるさ…行くぞ」ダッ


女剣士「あ、はいっ!」ダッ

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 避難小屋 】
 
ジリジリ…

女剣士「う…わ、頂上付近まで来ると暑いですね」タラッ

マスター「正規ルートじゃない分、地熱が多いんだ。大丈夫か?」

女剣士「この間と比べたら大分楽です」

マスター「それならいいんだ」


ガヤガヤ…

女剣士「…あ、さっきの人たちがあそこに」

 
マスター「あそこの小屋が、避難小屋だな。数人のギルドメンバーも待機しているようだが…」

女剣士「単に集合して、珍しい魔物を団体で討伐するとかじゃないんですか?」

マスター「さっき俺が、遠まわしに問題があったな?と聞いた時に違うとは言わなかっただろ?」

女剣士「あ、そういえばそうですね」

マスター「少なくとも、あいつらにとって想定外の出来事があったのは間違いない」

女剣士「一体何があったんでしょうか」

マスター「シッ…耳を澄ませてみろ。話が聞こえる」


…ザワザワ
 
ギルド員「…本当に出たのか?」

ギルド員「あぁ、新人のメンバーも数人やられた。ココまで何とか退避してきたんだ」

 
女剣士「…?」

マスター「ほう…」


ギルド員「観光客に避難指示はいいのか?」

ギルド員「出してないぞ。伝令役にそこまで聞いてない」

ギルド員「…俺らで止められるか?というか倒せるのか?」

ギルド員「分からん。だがやるしかないだろう…」


女剣士「一体、何の話でしょうね」

マスター「恐らく、新人の研修中に強力な魔物が出たんだ。あいつらでも手を焼く程のな」

女剣士「えっ!」

 
マスター「地元のメンバーで手を焼くっていうのは相当だぞ」

女剣士「想定外…ってことですね」

マスター「まだ詳細が分からんが…少し話を聞かせてもらおう」ジッ


ギルド員「こっちの数は8。人が出払ってなければ…」

ギルド員「…一番の実力者のギルドマスターさんさえいればな」

ギルド員「中央の東と西の話し合いに参加だろ?そんなのより人を救う方を優先してほしいぜ…」


女剣士「…」

マスター「飛び火…ってやつか。だが…」

女剣士「?」

マスター「これならいけるぞ、来い」ダッ

女剣士「えっ、大丈夫なんですか!」

 
…ガヤガヤ

ギルド員「…ん?」


ザッザッサッ゙…

マスター「さっきぶりだな」

ギルド員「あ!お前…着いて来たのか!?」

マスター「…話を聞かせてもらった。是非、俺らにも手伝わせて欲しいんだが」

ギルド員「他所に手伝わす事なんてねぇよ。俺らで何とかする」

マスター「…東西の話合いで実力者がいないんだろ?それは俺も聞き捨てならないんだよ」

ギルド員「ん…?お前、中央のギルドメンバーなのか?」

 
マスター「まぁそんなもんだ。それに中央東のマスターとは顔馴染みでな…是非手伝わせて欲しい」

女剣士(なるほど)


ギルド員「…ダメだ。俺らにも俺らのプライドがある」

マスター「プライド如きで倒せるか分からない相手に挑んで、一般人を危険に巻き込むんだな」

ギルド員「何ぃ!?」

マスター「俺なら市民を守る為に、受け取れる戦力は受け取るぜ?…人の為の冒険者ならな」

ギルド員「…っ」


マスター「どうだ?正論だろう?」

ギルド員「…ちっ」

 
マスター「決まった。参加させてもらう…足手まといにはならんよ」

女剣士「ですっ!」


ギルド員「あんた…名前は」

マスター「マスター、と呼んでくれ」

戦士長「…俺は戦士長。…ギルドリーダーだ」

マスター「そうか、宜しく」


女剣士「私は女剣士です、どうぞ宜しくお願いします」ペコッ

戦士長「女か…よろしく」

女剣士「…はい」

 
マスター「で、相手について知りたいんだが」

戦士長「…"スルト"、だ」

マスター「…何?」


戦士長「新人研修をしている所に、突然現れたんだ。研修官も含めて…やられたよ」

マスター「きょ…巨人族がここに?」

戦士長「…どこから現れたのかも分からん」


女剣士「…巨人族ですか」

マスター「魔物の中でも上位の一種だ」

女剣士「上位の魔物…」

 
戦士長「こっちの戦力は8人…いや、お前らを含めて10人か」

マスター「…巨人族との戦いの経験は?」

戦士長「俺も含め、全く未経験。そうじゃなかったら既に特攻してるさ」

マスター「…」

戦士長「あんたはあるのか?」

マスター「何度か。直接対峙で、数体の巨人族との対峙の経験もある」


戦士長「…本当か!」

マスター「これでも俺らは役不足だと思うか?」


女剣士(私は全く未経験なんですが)ブルブル

 
戦士長「…奴等に弱点はあるのか?」

マスター「巨人族は基本的に共通で物理に抵抗力がある。更に魔法は根本的に弾く程の防御だ」

戦士長「ち…力は」

マスター「見たまんまさ。頭を抜かれたらクリーンヒットも関係なく一撃で俺らは死ぬだろうな」

戦士長「なら、どうすればいい…」


マスター「関節…。奴らは唯一、膝や肘といった間接部分の防御が薄い」

戦士長「はは…そこを狙って切れと?」

マスター「出来ない事はない。それに今は…やるしかないんだろう?」

戦士長「…」

マスター「俺なら市民を救い、かつギルドメンバーも守らせてもらう立ち回りを指南するが」

戦士長「お、お前が俺らのパーティリーダーになると!?」

 
マスター「別に請け負わないなら、先にお前らだけで行けばいい。俺はこの女剣士と二人だけでやる」

マスター「だが勝手に突っ走って、死んだからって恨みはなしだぞ?」

マスター「俺としては、仲間が多ければ作戦も速やかに終わると思っただけだからな」


戦士長「ぐぬ…」

マスター「そもそも、この豪火山ギルドのせいで市民が死傷しました…なんて公表したくないだろう」

戦士長「…そ、それはそうだが…」


…ポンッ

ギルド員「…戦士長」

戦士長「ん?」


ギルド員「俺らは市民を守る為の団体でもあります。誰かが犠牲にならねば…なりませんよ」

戦士長「…」

ザワ…ガヤガヤ…

ギルド員「マスターさんが本当に戦ってくれるなら、指南してもらうべきです!」

ギルド員「そうですよ、僕らがただ突っ込んで犬死するくらいなら…教えていただきましょう」

ギルド員「プライドとか言ってる場合じゃないんですから!」

 
戦士長「…そ、そうだな…。何よりも市民を…守るべきだものな…」

戦士長「ま…マスター…さん、是非、助けていただきたい…」ペコッ


マスター「…決まったな。俺がこの戦闘…パーティを仕切らせてもらう」スチャッ


女剣士(か…かっこいい!!)

本日はここまでです。ありがとうございました。

皆様有難うございます。
少し話にあがってましたが、そこはちょっと調べたりしたんですが、
最近使われやすい言葉だったのでそのまま使わせて頂きました。
気になる場合は最後に修正アップしなおすので、宜しくお願いします。

それでは投下致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ザッザッザ…

マスター「こっちの道で合ってるのか?随分、山奥で新人研修もやってるもんだ」

ギルド員「年々…魔物は少なくなってる…からな…」

マスター「…お前が先の巨人の襲われて生き残った奴なのか」

ギルド員「…あぁ」


マスター「どういう状況だったんだ」

 
ギルド員「エレメンタルの討伐をしていて…急に地鳴りが聞こえた…」

ギルド員「気がつけば…目の前に…スルトがいた…」

ギルド員「だが…、俺らの実力では…やられるばかり…で」ブルッ


マスター「逃げた面子はお前と、下に報告に行った伝令役だけ、か。しかし深くまで歩くな」


ギルド員「もうすぐ…そこだ…」

マスター「分かった。相手の姿が見えたら作戦は改めて考える」

戦士長「改めて!?リーダーになったんだ、そのくらいは先にきちんと考えて欲しいものだな!」


マスター「相手の姿を見えずに考えて何が作戦だ。なら、その巨人の特徴を教えてくれ」

戦士長「む…ぐ」

マスター「落ち着け。別に手柄をどうしようっていうんじゃない…人を救う気持ちは一緒のはずだぞ」

戦士長「…」

 
…ズドォン!!グラグラ

女剣士「きゃあっ!?」

マスター「む…揺れがひどいな。スルトが暴れているのか」

 
ギルド員「…マスター…さん、そこの岩陰だったはずです。覗いてみてください」

ギルド員「俺は…怖い…。後ろに下がる…」

マスター「ん…」

コソコソ…スッ


スルト『…グオオオッ!!』ブンッ

…ズドン!!!ミシミシミシ…

 
マスター「あいつがスルトか…真っ黒な容姿…珍しいタイプの巨人だな」

戦士長「ほう、あれが何とか出来ると?」コソッ

マスター「思ったよりも小さいな。まだ一般的なのと比べて戦いやすいと思うぞ」

戦士長「…」


…ポンポン

マスター「ん?」

ギルド員「さて…マスターサン、俺らは何をすればいい?」ニヤッ

マスター(む…えらい前向きなギルド員だな。この状況の中、やる気に満ち溢れてやがる)

 
ギルド員「マスターサン?」

マスター「あ、あぁ。見た所、あいつは打撃頼りだな。遠距離魔法も無理だろうし、主流の戦い方で行く」

ギルド員「というと、前衛と中衛、後衛でいいのか?」

マスター「それでいい。ええと…君の名前はなんだ?」


豪騎士「豪騎士だ。以後よろしくな」

マスター「豪火山の名前を入れてもらった騎士か…いい名前だな」

豪騎士「ふっ、ありがとう」

 
マスター「なら、戦士長と以下3人。豪騎士と以下3人でパーティを作ってくれ」

豪騎士「あんたらは?」

マスター「どうしても4人同士だと2人が余る。そこは俺と女剣士のペアで抑える」

豪騎士「分かった」


戦士長「…ふん、先ずはどうするつもりだ?」

マスター「まずは俺が先制して、相手のスキルを見極めよう」コキコキ

女剣士「一人で…危険じゃないですか?」

マスター「言っちゃ悪いだろうが、ココで一番動けるのは俺だと思うんでな」

 
戦士長「何を!?貴様のようなよそ者なんぞに!」グイッ

豪騎士「戦士長サン!今は内輪もめしてる場合じゃないでしょう!」

戦士長「ぐ…」


マスター「…」

マスター「気持ちは分かるが、実力と現実を受け入れてくれ」


戦士長「…くそっ」


豪騎士「マスターさん、悪かった。とりあえず相手の見極めは…お願いしたい」

マスター「期待して待ってろ」スチャッ

 
女剣士「気をつけて下さいね…」

マスター「この状況、前にもあったろ?力任せの相手っていうな」

女剣士「あ…東ギルドのですか!」

マスター「いつでも、どんな時でも鍛錬だと思って挑めばこういう場面でも過去が生かせる。覚えておけ」

女剣士「…はい!」


マスター「んじゃちょっくら見てくる。よっ!」ダッ

ダダダダダッ!!!


豪騎士「な…早っ!あの大剣を持ったままあの速度なんて!」

女剣士「さすがマスターさん!」

 
スルト『…ムッ!』

マスター「何で人里まで出てきたのかは知らんが…倒させて貰うぞ!」


スルト『グヌオオオッ!!!』クワッ

マスター「…ん?」

スルト『ハァッ!!』ブンッ

…ズドォン!!!ビリビリ…グオオオオッ!!!


マスター「うおっ!」

女剣士「えっ!?」

 
豪騎士「地面に打撃を当てて、そのまま衝撃波を繰り出した!?」


…ゴ゙ォォォォォ!!

マスター「…上手い技出すじゃねえか!」
 
 
女剣士「衝撃波が地面を滑りながらマスターさんに向かってく!」

マスター「ふ…衝撃波なんてな…弾き飛ばすだけだ!」ブンッ

ガキィンッ!!!ゴワッ!!!

スルト『!』


マスター「ぐ…」ビリビリ

 
女剣士「…良かった」ホッ

豪騎士「まさか打撃から衝撃波を出すなんて…」


マスター「地面を流す衝撃波か…予想以上の威力…。大きさもでかくて厄介か」

スルト『…』ニヤッ

マスター「…もう一度!突っ込ませて貰う!」ダッ


スルト『…グオオオッ!』ググッ


女剣士「また来ますよ!マスターさん!」

 
マスター「分かってるよ…相手がアレで出せるなら…!」ググッ

女剣士「えっ」


マスター「こっちも似たような動きで出せるんじゃねえか!?気合の一撃だしな!」ブンッ!!

スルト『グオオオアッ!!』ブンッ!!!


ズドォン!!!…ゴォォォォ!!!


豪騎士「ま、マスターさんも衝撃波を!」

女剣士「…!」

豪騎士「あの大剣の扱う力と、気合の練りが半端じゃなく上手いんだ…すげぇ…」

 
カッ…ドゴォン!!!グラグラ!!

マスター「ぬっ!」ビリビリ…

スルト『グヌッ…!』


パラパラ…

マスター「ちっ…相殺か。いけたと思ったんだが」

スルト『ヤルナ…』

マスター「…」

 
女剣士「しゃべ…るんですか!?」

豪騎士「人語の理解があるくらいは珍しくないさ」

女剣士「じゃあ、なんで私たちを襲ったか…聞きましょうよ!」

豪騎士「理解はあっても、知性は低い。ただただ食べる為だとか、そういうだけだよ」

女剣士「…っ」


マスター「…一旦退かせて貰うぞ」ダッ

スルト『ニガスカ!』ググッ…

マスター「ふんっ!」ブンッ!!

…ゴォォォ!!ドゴォン!!!

スルト『ヌアッ…!!』


マスター「…」

ダッ…タタタタタッ…

 
女剣士「マスターさん!」

ズザザ…

マスター「…ふぅ」

女剣士「ご苦労様です。見た感じ、対抗できそうですね」

マスター「思ったよりも実力自体は高くないが、巨人族特有の硬さは健在のようだ」


豪騎士「…マスターサンなら、そのまま倒せたんじゃないか?」

マスター「…」

豪騎士「マスターサン、どうした?」


マスター「さっきの道案内した奴に聞きたい事がある。新人達を襲ったのはあいつらだけか?」

 
ギルド員「…え?」

マスター「相手はアレだけか?」

ギルド員「…そうだ」


マスター「…お前、ちょっと来い」グイッ

ギルド員「おわっ…な、何をするんだ…」

マスター「相手は本当にアレだけか?」

ギルド員「だからそうだって!」


マスター「…」スチャッ

 
女剣士「!」

豪騎士「!」

戦士長「!」

ギルド員「ひっ!?」


女剣士「ま…マスターさん?仲間に武器を構えて何を!」

マスター「なぁに…、ちょっとな!」ブンッ!!

…ザシュッ!!!

ギルド員「ひぎっ!!」

 
女剣士「な…仲間を斬ったー!?」

豪騎士「マスターさん一体何を!…って!」


ギルド員「…」ヒュッ


戦士長「き…消えた!?」

マスター「…戦士長、後ろだ」

戦士長「へっ?」クルッ

 
ギルド員「…」ヌッ

戦士長「のわっ!き、貴様いつの間に背後に!」ビクッ

女剣士「今確かに斬ったと思ったんですが…な、何が起きたんですか!」


マスター「…そいつはもうギルドメンバーじゃねえよ。恐らく魔物の類が化けてるぜ」トントン

ギルド員「…」

戦士長「な、何!?」バッ


女剣士「ほ、本当ですか!?」

マスター「現に今切り裂いたのに、生きてるだろうが」

女剣士「た、確かにそうですが…」

 
戦士長「お、おのれ!我がギルドの仲間に化けるとは不届きな…姿を現せ!」スチャッ

ギルド員「…」ドロッ

戦士長「うおっ!?」

ドロドロ…ベチャッ…

女剣士「こ、今度は溶けたー!?」

マスター「物理が効かないって事は、スライム種のどれかだな。知性はそれなりのようだが」

マスター「いつの間に化けてやがったんだか…、そいつの"元になった奴"は既に死んでるな」


戦士長「く、くそ!俺の仲間に化けるとは…水炎装っ!死ねぃ!」ブンッ!!

スライム『!!』

…ドシャッ!ドロッ…ドバァ…

戦士長「ふー…ふー…」

 
女剣士「マスターさん、何でスライムが化けてるって気づいたんですか?」


マスター「…スルトとさっき対峙した時、死んだと聞いた仲間の遺体がそこにはなかった」

マスター「まず、ここが新人研修をやってた場所ではないと踏んだ」

マスター「それにあの一体だけなら襲われたギルドメンバーでも善戦処理はできたんじゃないかと思ってな」


女剣士「それだけで…」

マスター「それに、ちょっとこの展開は不味いぞ」ギリッ
 
女剣士「何故ですか?」

マスター「恐らく…俺ら人間を罠にハメる為じゃないかと…」

女剣士「え?罠…」


…ドォン!!!ミシミシ…

 
マスター「今の音は…」

女剣士「今のは衝撃波の音とは少し違いますね…何の音でしょうか」

マスター「これは、"足音"だな」

女剣士「え…」


ズゥン!!…ズゥン!!…ボォォ…


戦士長「…な、何だありゃ」

女剣士「う、うわっ…!」


マスター「女剣士」

女剣士「はい」

マスター「早い段階でこんな相手をさせるとは…少し反省してるよ」ハァ

 
女剣士「い、いえ…。経験の糧になりますからね…!」

マスター「そうか。全力でサポートしよう」

女剣士「いりません!とは言いたい所ですが…、是非、お願いします」タラッ…

 
キメラ『…ギィィ』

ウィスプ『…』フヨフヨ

スルト『…ククク』

エレメンタル『…』

スライム『…』


マスター「おーおー…勢ぞろいだな」

豪騎士「な…新たな巨人族!?それに、他の取り巻きの数が尋常じゃないぞ…」

戦士長「い、一体どうなってるんだ!」

マスター「さっきのも合わせてスルトが2体、他は何匹だ?ふーむ…」

 
女剣士「どうしましょうか…私が対抗できそうなのは…」


マスター「俺の後に着け。スルトの討伐に回るぞ」

マスター「それと…豪騎士!戦士長!それと残った7人は周りを頼む!」


戦士長「…分かった」

豪騎士「うじゃうじゃとどこから現れやがった…。これ以上進ませる訳にはいかないな」スチャッ

マスター「その通りだな。俺らがやられたら一般市民を巻き込む事になるぞ」

豪騎士「…マスターさん」

マスター「ん?」


豪騎士「俺一人で2人分の戦いをする。だから、1人を避難の呼びかけに使いたい」

マスター「…大丈夫か?」

豪騎士「これでも長い間、ここで戦い続けてきた。任せて欲しい」

 
マスター「うし…分かった。じゃあ、お前!急いで本部と今現在観光に来ている市民に呼びかけてくれ」

ギルド員「僕ですか…了解しましたっ!」ビシッ

マスター「それと出来れば山の入り口の封鎖。一応のため、近隣からの応援も頼む」

ギルド員「了解しました。では…、ご武運を…」ペコッ

ダッ…タッタッタッタッタッタ…!!


マスター「さぁて、準備はいいか。出来るだけ固まって戦ってくれ」

豪騎士「アドバイスはそれだけかな?巨人は任せたよ、君らが崩れたら俺らも危険だからね」ニヤッ

マスター「任せろ。働くさ…女剣士!遅れるなよ!」


女剣士「当たり前です!」スチャッ

 
マスター「…全員、準備を頼む!」

戦士長「全員、武器を準備しろ!武器への水属性着火用意っ!」

豪騎士「数人は俺に着け!マスターさんの支援に回る!」

ギルド員達「はっ!」ボワッ!!


マスター「事態はまだ不明だが、今はとにかく敵を抑え殲滅する!」

マスター「女剣士と俺は先行するぞ、行くぞ!」ダッ!!


女剣士「…はいっ!」ダッ!!

ダダダダダダッ…!!

 
キメラ『ギィィ!!』クワッ

マスター「邪魔だぁぁ!」ブンッ!!

…ドシャアッ!!!

マスター「…女剣士、このペースで着いて来れそうか!?」


女剣士「余裕です!ですけど、精霊に私の攻撃は…」

マスター「お前は道中はキメラを狙え!胴体を切り裂けば落とせる…スルトまでの道中の精霊は俺が相手をする!」

女剣士「わかりました!」

…ダダダダダッ!!!

 
キメラ『ギィッ!!』バッ

女剣士「…小斬っ!」

ビュッ…ズバァッ!!


マスター「いいぞ、その調子だ。それとな…こんな時だが指南の1つだ!」

女剣士「なんでしょうか!」

マスター「水魔法が少しでも使えるようになれば、こういう使い方もある!」

女剣士「ど、どんな方法ですか!」


マスター「小水流魔法っ!」パァッ!!

エレメンタル『…ッ』

…バシャアッ!!

マスター「弱点属性を受けた精霊は、一時的に本来の防御が薄くなりー…」スッ

 
ブンッ…ズバァッ!!

エレメンタル『』ジュワッ…


女剣士「…!」

マスター「確実な的中と一瞬の攻撃間合いが必要だが、いずれ使うようになるだろう。覚えておくんだ」

女剣士「はいっ!」

マスター「さぁスルトも目の前だ…、相手の攻略法は覚えているか」

女剣士「関節を狙う…でしたよね」

マスター「そうだ…、スルトの衝撃波もお前なら避けられるだろう。足の関節から上手く切り込め」

女剣士「わかりました!」

 
マスター「こっちはいいとして…そっちに逃がした魔物はお前らで処理を頼んだぞ!!」


…スチャッ

豪騎士「当たり前。一匹もココを通しやしない!」

戦士長「…俺の斧の前に平伏すがいい」


ウィスプ『…』ボォッ!!

豪騎士「水炎装っ!小突っ!!」ビュッ…

ボシュゥンッ!!

 
戦士長「我流、水属衝撃ィィィ!」

…ズドォォンッ!!!

ギルド員「中水流魔法っ!」パァッ!!

ギルド員「皆さん!抵抗魔法を!」パァッ!!


豪騎士「いいぞ!見える限りの相手を倒すのを目標に、確実に倒していこう!」

豪騎士「任せてくれよマスターサン!」

 
マスター「…ようし、いいぞ!」

女剣士「上手くいってるみたいですね…って、マスターさん正面!」ハッ

マスター「!」


スルト『グオオオッ!』ググッ

スルト『ヌゥゥゥ!』ググッ


女剣士「に…二体同時に来たー!?」

マスター「スルトも1匹増えやがってたからな…。横に並んで俺らの逃げ口をなくすつもりだ」

マスター「…俺が片方の衝撃波を抑える!俺の後ろにつけ!」

女剣士「はいっ!」


マスター「ふんっ!!」ブンッ!!

 
ゴッ…ゴォォォォ!!!

カァッ!!…ドゴォォン!!!パラパラ…


女剣士「うわ…凄い衝撃…」グラグラ

マスター「くそ…1匹ならまだしも、2匹の同時となるとキツいな…」

女剣士「どうしましょうか」

マスター「…お前はまだ俺の後ろからピッタリと着いてこい」

女剣士「わかりました」

 
スルト『ヌオオオォッ!』

スルト『ウウゥオオ!』

マスター「やらせるかよ!」ブンッ

…ゴォォォォ!!!

マスター「こっちからの先制の衝撃波だ!距離を詰めさせてもらうぞ!」

スルト『ヌウッ!』ガゴォ!!


スルト『…』クルッ

ザッザッザッザッ…


女剣士「ま、マスターさん!一体が逃げていきます!」

マスター「逃げた…だと?」


ザッザッザ…ピタッ

 
スルト『…』ニタッ

マスター「いや…違う」

スルト『…』ググッ

マスター「これは…」


スルト『カァッ!』ブンッ!

スルト『ヌゥアッ!!』ブンッ!

ゴォッ…ゴォォォォォォ!!!!


マスター「横のラインじゃなくて2連の縦のラインで攻撃してきたんだ!!」

 
女剣士「えぇっ!?」

マスター「一発目を防いでも二発目が来るぞ!横によけろ!」ダッ

女剣士「はいっ!」ダッ


ドゴォン!ドゴォォン!!!ズザザ…


女剣士「ふぅ…ふぅ…危なかった…」

マスター「少ない知性で考えやがったなスルトめ…」

女剣士「縦っていうのは厄介ですね」

マスター「…そうでもないんだなこれが」

女剣士「え?」

 
マスター「横に並ばれた方が俺らにとっては辛かったんだぜ?」ククク

女剣士「え?」

マスター「次の攻撃が来たら…手前のスルトを倒す。着いてこいよ」

女剣士「そ、そりゃ着いていきますが…」


スルト『ヌオッ!』ブンッ

スルト『ハァッ!!』ブンッ

ガツッ…ゴォォォォォォ!!


女剣士「きたぁ!」

マスター「横に避けろ!そして…次のが来る前に手前のスルトを切り落とす!」ダッ

女剣士「は、はい!」ダッ

 
スルト『!』

マスター「お前らやっぱり少し頭が足りないな」

ダッ…ダダダダダダダッ!!!


マスター「大斬っ!!!」ヒュッ…

ズバァァッ!!!…ドシャドシャッ…

スルト『ガァァアァ!!』


女剣士「関節を落とした!」

マスター「横で近くに並んでいたら、援護しあえて疑似タイマンになる事もなかったのにな」

女剣士「あ…そういうこと…」

 
マスター「お前の頭はスルト以下か」コツッ

女剣士「いたいっ!そ、そんな咄嗟に言われても考え付きませんよぅ…」

マスター「そりゃそうか。こうして経験を積けばいいさ」

女剣士「でも考えが浮かばなかったのは少し悔しいですけどね」

マスター「…くく」


女剣士「とりあえずあと1体ですね」キッ

スルト『グ…クソ…』


マスター「行くぞ!」スチャッ

 
スルト『グオオオッ!!』ビキビキッ

マスター「やらせるか!」ブンッ!!

ゴォォォッ!!ドゴォン!!

スルト『グヌッ!』


マスター「怯め怯め。この隙に前進を…」ダッ


スルト『グ…グオォォ!』ブンッ

ゴ…ゴォォォォッ!!!

 
マスター「な…怯まずに撃ってくるとは!技の発動も早い…!」

女剣士「…マスターさん!危ない!」ダッ

…ガキィン!!ドゴォン!!

女剣士「きゃああっ!」


マスター「女剣士!!」

女剣士「いつつ…だ、大丈夫です。剣で何とか衝撃を緩めました…」ヨロッ

マスター「あの衝撃波は重い。俺の事よりもまずは自分の身を案じるんだ」

女剣士「は…はい」

 
マスター「だが…助かったぞ。ありがとうな」

女剣士「い、いえ!」


スルト『…グオオオッ!!』ググッ


女剣士「いけない!また衝撃波が来る!」ハッ

マスター「女剣士、奴の実力はどうやら少し高いらしい」

マスター「俺が最初の衝撃波を抑える。その隙を見て、奴の関節を切り落とすんだ」


女剣士「私に…出来るでしょうか」

マスター「…出来る。お前の実力なら、確実に」

女剣士「はいっ…やってみます!」

 
スルト『ヌオォォ!』ブンッ!!

ゴッ…ゴォォォォ!!!

マスター「来たな…ぬあああっ!」ブンッ!!

ゴォ…ゴォォォ!!!


カッ…ドゴォォォン!!グラグラグラ…


マスター「今だ…行けぇぇ!」

女剣士「やぁぁぁっ!!」ダッ

ダダダダダダッ!!

 
スルト『ヌッ!?』

女剣士「私の間合いです!悪いですが、その全てを切り落とさせて頂きますよ!」タァンッ!!

マスター「飛んだか…いいぞ、高い!そのまま後ろを取るんだ!」


クルクル…スタッ!

スルト『ヌ…』

女剣士「貰ったぁ!」ブンッ!

マスター「よし!」


バッ…ガキィン!!

女剣士「!?」

 
スルト『クク…オソイゾ…?』

女剣士「な、何て早い反応…け、剣が、弾かれ…」

スルト『ザンネン…』ヒュッ

ドゴォッ!!!!

女剣士「うあ…っ!!」


マスター「なっ…!」


スルト『…』ニタッ

女剣士「…ごほっ」

…ドサッ

 
マスター「あ…あのスルトの実力を…甘く見すぎた…!」

女剣士「ま…ます…たー…さん…」ゴホッ

マスター「今行くぞ!待ってろ!」ダッ


スルト『グオッ!!』ヒュッ

ゴォォォォォ!!!ドゴォン!!

マスター「ぬ…ぐ…、奴のモーションが早すぎて近づく事が出来ん…!」

マスター「豪騎士!戦士長!そっちから誰か1人援軍を…」チラッ

 
ゴォォォ!!ボォン!!

豪騎士「…がはっ!」

戦士長「敵の炎が合わさって威力の増大が尋常じゃない!火の消化に当たれ!」

ギルド員「目一杯やってます!これ以上は魔力が…持ちません!」

豪騎士「前衛で巨人族と戦っているマスターサン達を見習え!死んでも道を死守するんだぁぁ!」


ゴォォォ…パチパチ…


マスター「はっ…参ったね…。この数とあんなスルトは予想外だった…」

…スチャッ

マスター「…あの衝撃波を抑えて進むには…アレしかないか…」

マスター「だが…持つか…?」

 
女剣士「…ごほっ…」


マスター「…どうこう考えてる場合じゃねえか。今行くぞ!」ダッ

スルト『ヌッ!』ピクッ

マスター「衝撃波なんて出させるか!だ…、大火炎魔法っ!!!」パァッ…

カッ…ドゴォォォォン!!! 
 

スルト『ヌグオォ!』プスプス


マスター「ごほっ…、た、大したダメージじゃねえだろうが…」

マスター「お前に近づくのは十分だ…!」

ダダダダダッ!!

 
スルト『!』ハッ

マスター「大火炎にびっくりしたか…?反応が鈍いぞ…切り落としてやるからな!」ブンッ!

ズバッ…ブシャアアッ!!!


スルト『グアァァッ!』グラッ

…ズズゥン…

スルト『ク…クソ…』


マスター「はぁ…はぁ…、死んでおけ…」ヒュッ

…ドスドスドスッ…ボトッ…ドシャッ…

スルト『…』

 
マスター「ち…、すまん女剣士…、完全に俺の誤算だった…」ソッ

女剣士「…」

マスター「ひ…ヒール…」パァッ!

女剣士「…」

マスター「足りないか…ひ、ヒールッ!!」パァッ!!

女剣士「…う…うぅ…?」…ドクン


マスター「間に合った…か…。はぁ、はぁ…」

マスター「だがこれでスルトは倒しきった…。何とか持ったか…これで…」ハッ


フヨフヨ…

ウィスプ『…』

エレメンタル『…』

 
マスター「なっ、精霊種!いつの間に近くに…!」

女剣士「ま…マスターさん…?」

マスター「…ちっ、女剣士じゃまだ相手には出来ない…か…」

女剣士「マスターさん!?あれ…私…」ガバッ


マスター「お…女剣士、気づいたか…」

女剣士「は、はい」

マスター「お…俺が倒れたら、厳しいと思うが…戦士長の場所まで運んでくれる…か?」

女剣士「え?どういうことですか?」

 
マスター「し…小水流魔法っ!!」パァッ!!パァッ!!

ジャバッ!!

ウィスプ『!』

エレメンタル『!』


マスター「ぬあああっ!」

ブンッ…ドシャドシャアッ!!…ジュワッ…


マスター「よ…し…倒した…か…」

マスター「あと…は…、た、頼んだ…ぞ…」グラッ


女剣士「マスターさん!?」

 
…ドサッ

マスター「…」


女剣士「マスターさん!?マスターさん!どうしたんですか!」ガバッ

マスター「…」

女剣士「マスターさん!」ユサユサ

マスター「…」


女剣士「な、何で!マスターさぁん!」

女剣士「…っ」

女剣士「そ、そうだ…戦士長のところに運んでくれって…」

…グイッ

女剣士「え、えい…!背負って…連れて行きますからね…!待っててください…!」ブルブル

…ザッ、ザッ、ザッ

 
豪騎士「お、おい!みんな…向こうを見ろ!スルトが全部倒れたぞ!」

ギルド員「うおおっ!マスターさん達がやってくれたんだ!」

豪騎士「もうひと踏ん張りだ!目に見える精霊を倒せば俺たちの勝ちなんだ!!踏ん張れぇ」


戦士長「ぬおおっ!」ブンッ!!

豪騎士「うらああっ!」ヒュッ!!

ギルド員「中水流魔法っ…、全身から魔力を捻じりだすんだぁぁ!」パァァッ!


豪騎士「その調子だ…って、ん?」

 
女剣士「はぁ…はぁ…」

ズリッ…ズリッ…


豪騎士「…マスターさんが運ばれてる…?どうしたんだ!!」

女剣士「わ、わかりません…急に…倒れて…」

豪騎士「くっ…今行く!」ダッ

タタタタタタッ…ズザザ…


豪騎士「一体どうしたんだ…マスターサン!」

マスター「…」

女剣士「わ、わかりません。どうしたんでしょうか…!」グスッ

 
豪騎士「血の気がない…。息も薄い…、まさか…」

女剣士「な、何ですか!?」

豪騎士「魔力の枯渇じゃないか…。魔力を使いすぎて、気を失っているんだ…」

女剣士「えっ!?で、でも…マスターさんは魔法をそんなに使ってませんよ!」

豪騎士「だ、だが…。実際にこの症状は…」

女剣士「…っ」


豪騎士「このままじゃ不味いぞ。だが…下山までにこれでは間に合わなくなる…!」

女剣士「じゃあどうすればいいんですかっ!」

豪騎士「魔力の充填薬があれば…」

 
女剣士「…充填薬!?」

豪騎士「あぁ…魔力を回復させる物だ。さっきまであったんだが、俺らも戦いで…」

女剣士「そ…そんな…」


豪騎士「時間がたつほど症状は重くなる。やばいぞ…」

女剣士「ど…どうすれば…」ブルッ

豪騎士「…充填薬がないことにはどうしようもない!」

 
女剣士「…充填薬!?」

豪騎士「あぁ…魔力を回復させる物だ。さっきまであったんだが、俺らも戦いで…」

女剣士「そ…そんな…」


豪騎士「時間がたつほど症状は重くなる。やばいぞ…」

女剣士「ど…どうすれば…」ブルッ

豪騎士「…充填薬がないことにはどうしようもない!」

 
女剣士「で、でも…私たちにそんなもの…ある訳が…」ハッ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女錬金師「必要になる時があるからね。内緒で…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

女剣士「…まさか」

ゴソゴソ…パカッ

女剣士「豪騎士さん…こ、これ…。細瓶に入ってるんですが…」スッ

…トプンッ


豪騎士「ま…魔力の充填薬!しかも…こりゃ軍部に卸される特注品じゃないか!」

女剣士「!」

豪騎士「…どこでコレを?」

女剣士「ま、まぁ色々と…」

 
豪騎士「とにかく今は…マスターさん!」

マスター「…」

豪騎士「これを飲まさせてもらうぞ」


女剣士「で、でも気を失ってますよ!どうするんですか…?」

豪騎士「口移しで空気と一緒に押し込んだりもあったんだろうが…今はこれで大丈夫だ」グイッ

女剣士「!」


豪騎士「細瓶のおかげで、喉の奥に反射運動を起こして直接流し込める」

豪騎士「普通はこんな細口じゃないんだが…こういう場合に備えてたような道具だな…」

 
マスター「…」

ゴクッ…ゴクッ…


女剣士「こ、これでマスターさんは…助かるんですか…?」

豪騎士「早い処置だろうから、大丈夫だろう」

女剣士「よ…良かった…」ヘナヘナ

豪騎士「しかし…、マスターさんが魔力枯渇するのは普段からなのか?」

女剣士「え?い、いや…初めて見ましたよ。枯渇したことも、今聞いて知ったくらいですし」


豪騎士「じゃあ…なんでこんな特注品を?一般に手に入る代物じゃないぞ」

女剣士「それはー…」

 
マスター「ごほっ!ごほごほごほ!!」

豪騎士「いけね、飲ませすぎた。マスターサン…大丈夫か?」

マスター「む…」パチッ

豪騎士「アンタ、魔力枯渇でぶっ倒れてたんだぜ。たまたま充填薬があったから良かったものを…」

マスター「充填薬は…豪火山のギルドメンバーが…?」

豪騎士「違う。マスターサンの身内から受け取った」


マスター「女剣士が!?」ガバッ

女剣士「マスターさん!良かった…生き返ったんですね!」ギュウッ!!

マスター「おい、人を勝手に死んだ事にするな」

女剣士「だ、だってぇ…」

 
マスター「た、戦いはどうなったんだ?」

豪騎士「あとは残っている少しの精霊を退治すれば…」チラッ


…ウオォォ!!

戦士長「俺らの勝ちだ!良くやったぞ皆!」

ギルド員「大丈夫か…立てるか?」

ギルド員「あぁ…」


豪騎士「…ってな訳で終わったみたいだね。無事に」ハハ

マスター「そうか…良かった」

 
豪騎士「あんたらが巨人族を相手してくれたおかげだ…」

マスター「何を。あの数の精霊を倒してこそだ」

豪騎士「はは…何て謙遜する人だ」


マスター「…女剣士、ところで話を戻すが…」

女剣士「は、はい」

マスター「何故、特注品の充填薬を持っていたんだ?」


女剣士「じ…実は…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マスター「…」

女剣士「…」


マスター「…女錬金師が、ね」


女剣士「どうして準備が出来たんでしょうね」

女剣士「それに、マスターさん…そんなに魔法使ってませんでしたよね?」

 
マスター「…」

女剣士「…?」


マスター「お前は戦いの力が高くても、別の面で劣ってるよな」ハァ

マスター「本当にスルト以下か」


女剣士「むっ、どういう意味ですかぁ!」


マスター「…あのな」

女剣士「はいっ」

マスター「俺はな…」

 
戦士長「…おおい!おーい!」

マスター「ん…」

ザッザッザッザ…

戦士長「どうした!何で戻って来ないんだ。そっちで戦いは終わったんだろ?」

豪騎士「あ…戦士長サン」

戦士長「この報告も含めて、一旦ギルド本部に戻ろう。…マスター、言いたくはないが…感謝するよ」

マスター「ん…あ、あぁ…」

 
戦士長「…助かった。本当に」

マスター「…」


戦士長「本当に強かったんだな…あんたら」

戦士長「最初の無礼、少しは詫びたい。二人とも、良ければ一緒にギルド本部に来てくれないか」


マスター「俺らがか?」

戦士長「お前たち以外にいないだろう」


マスター(無駄にプライドの高い人間だな…、実質、豪騎士がリーダーみたいなもんか)

 
女剣士「私は構いませんが…」

戦士長「なら決まった。今回の事、何かしらの魔物の問題にも関係がありそうだ…重く見るよ」

マスター「それがいいな。普段見せない魔物らが出てきたのは何かこちら側にも問題があったからだろう」

戦士長「…あぁ」


豪騎士「んじゃ、帰りますか!…二人とも立てるのか?」


マスター「よっ…大丈夫…だ」ヨロッ

女剣士「私も…大丈夫です…」ヨロッ


豪騎士「…二人ともダメそうだな」ハハッ

 
マスター「そ…そんなことは…」フラッ

女剣士「ないですよっ!」フラフラ…

 
豪騎士「…戦士長サン」

戦士長「わ…分かったよ。ほら…」

グイッ…ガシッ

マスター「…む」

女剣士「あはは…お手数かけます」

マスター「…すまんな」

 
豪騎士「あんたらは俺ら、そして町を救ってくれたのはアンタあってこそだ」

豪騎士「このくらいさせてくれ」


戦士長「…じゃあ行くか」


女剣士「はいっ…ありがとうございます」


マスター(ズタボロになるまで戦ったのは何年ぶりだろうか…)

マスター(それとあの話は…やはり…するべきだろうな…)


ザッザッザッザ…

ザッザッ…

……

本日はここまでです。ありがとうございました。
一部、修正分があったのですがいつも通り最後にアップ致します。

ありがとうございます。投下いたします。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜・豪火山ギルド 】


…ザワザワ

ギルド員「生き残れて良かったよ…あんな戦いは久しぶりだ…」

ギルド員「俺だって…。亡くなったのも付近から見つかったし…良かったな…」

ギルド員「いいのかどうなのか…。仲間を失ったのには変わりはないんだ」


戦士長「何故今回のような事が起きたのかはまだ捜索中だ。早い解決が望まれるな」

豪騎士「…ですね」

 
マスター「恐らく…だが」

戦士長「ん?」

マスター「…新人研修は定期で行っているんだろう?」

戦士長「そりゃそうだが」

マスター「魔物の生息域の変化とかあったんじゃないか?」

マスター「例えば…山奥にしかウィスプ等がいなくなったとか」


戦士長「…よく知っているな?近年、付近にいた魔物はめっきり少なくなったんだ」


マスター「多分だが、新人研修や依頼で生息域が減少したんだろう」

マスター「このギルドの実践研修は山の中で行わなければならなくなったろう?」

マスター「そして…奴らの縄張りに足を踏み入れた」

 
戦士長「…なるほど」

マスター「大体はそんな感じだろう。この山脈は広大だ…そりゃ魔物のパライダスだって存在してるさ」

戦士長「…」

マスター「俺だって人だし、人の味方だ。だが、そいつらの気持ちもわかる」

戦士長「…」

マスター「難しい問題さ。答えなんか出るわけがないんだ」

戦士長「そうだな。冒険者っていうのは、人っていうのは…、魔物っていうのは…複雑だよ」

マスター「…」

戦士長「…そういえば近隣への応援は保留させたのと、観光の封鎖解除はどうするべきか」ハァ


マスター「少なくとも近辺にはまだ群れはいそうだ。応援も含めて討伐隊は必須だろう」

マスター「あとは応援も混ぜてアンタらでやれるはずだ。観光解除は問題なさそうに見えるぞ」

 
戦士長「そ、そうか。色々助かる」

マスター「いやなに、冒険者同士…仲間だろう」

戦士長「あぁ…そうだな」

マスター「…」
 
 
豪騎士「ま…まぁまぁ!そんな染みったれた話をするんじゃないでしょう!」

戦士長「そ、そうだったな」

豪騎士「今は生き残った喜び、マスターサン、女剣士サンへの感謝でしょ!」

戦士長「…うむ」

 
豪騎士「ささっ、女剣士サン!グイっと飲んじゃって!」トクトク

女剣士「わ、私はまだ飲めませんよ!」

豪騎士「あ…そうなの?まぁ細かい事は気にしないで!」

女剣士「無理ですってばぁ!マスターさん助けてぇ~!」


マスター「そいつはまだ16歳だしな…あんまりイジメないでやってくれ」ククク

豪騎士「ありゃま随分と若いのね…」

マスター「それで実力も高くて、勇気もある。全く…今の若い奴らはどんなに将来有望なんだか」

 
豪騎士「若いって…、マスターサンもそんなに歳いってないでしょ?」

女剣士(あ、そういえばマスターさんって何歳なんだろう)


マスター「さぁ~な。まぁ若く見られがちだが」

豪騎士「あーっ!教えてよー!」

マスター「いいからお前が飲め」グイッ

豪騎士「むぐぐ…。わかった、わかったって!飲むから!」


マスター「…」

女剣士「…?」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――――【1時間後・テラス】

ソヨソヨ…

女剣士「…はぁ~。テラスは少し涼しいですね」

マスター「ギルドの中は熱気で溢れてたしな。豪火山といえど、夜風は少し涼しいか」

女剣士「いっぱい食べましたし、冒険者仲間に囲まれて楽しかったです」


マスター「…昼間はすまなかったな。俺の見誤りでお前を危険な目に…」

女剣士「いいんです。ああいう体験もなかったですし…いい経験です。怖かったですけどね」ヘヘ…

 
マスター「そうか…」

女剣士「これからも色々教えてくださいね。マスターさん!」

マスター「…あぁ」

女剣士「~♪」


マスター「…その前にな、1つ。話したい事があるんだ」

女剣士「…何ですか?まさか、このいい雰囲気の中…」ゴクッ

マスター「違うわ!」

女剣士「じゃあ何です?」

 
マスター「…俺が、戦いの途中で倒れたのは分かってるよな」

女剣士「あ…魔力の枯渇でしたっけ」

マスター「お前はさほど気にしてなかったようだが…。何も思わなかったか?」

女剣士「いえ…」


マスター「…」ハァ

女剣士「?」

 
マスター「いいか…良く聞け。俺はな…」

女剣士「はい」


マスター「お前と一緒で、魔力が極端に少ない…いわゆる万能に不向きな人間なんだ」

 
女剣士「…えっ?」

マスター「…」

女剣士「で、でも!ヒールとか、大火炎とか、水魔法とか…色々やってたじゃないですか」

マスター「技術面はな。魔力とは別だ」

女剣士「え…えっ…?」

 
マスター「…少し、昔話をしよう。聞いてくれるか?」

女剣士「も…もちろんです」


マスター「ありがとう。俺が東ギルドのメンバーだった事は話をしたよな」

女剣士「はい」

マスター「その頃、俺はまだ普通の剣…お前のようなカットラス風の片手剣で戦っていた」

女剣士「!」

マスター「その頃はまだ魔力のハンデも感じる事なかった…誰かさんのようにな」

女剣士「…」

 
マスター「やがて実力も上がり、上位依頼を請け負い始めると…それは急に来た」

女剣士「…」

マスター「前にも言った、魔法が使えない事によって自分の身を守れず、更に仲間への負担だ」

マスター「そういう事が増えつつも俺は、必至に戦った…」

女剣士「…」


マスター「だがある時、どうにもない失敗をしちまってな」

マスター「俺自身の限界を感じ、軽い片手剣を捨てて…新たな道を探した」


女剣士「それが…今の…」

マスター「そう。大剣だ」

 
女剣士「…!」

マスター「元々才能があったというか…人よりも気力を上手く練ることが出来たし」

マスター「力も人並み以上にあった俺は、すぐに大剣を扱うことは出来るようになったんだ」


女剣士「…」

マスター「そして、俺は改めて上位依頼を受けた」

マスター「魔力のいらない戦い方に切り替え、力でねじ伏せるようになった事で」

マスター「辛かった上位依頼はサクサクとこなせるようにはなった。嬉しかったよ」


女剣士「それで…」

 
マスター「…それからは成功続きで、俺のした事は正解だと思っていた。だがな…」

女剣士「…はい」

マスター「所詮、付け焼刃の立ち回りだ。ある時のクエストでボロが出て、仲間を巻き込む大失敗をしたんだ」


女剣士「…!」


マスター「それからは簡単だ。俺が自分自身に耐えられなくなって…逃げた」

女剣士「逃げ…た…?」


マスター「ギルドの脱退。いわゆる冒険者として引退を決意したってワケだな」ククク

女剣士「…」

 
マスター「仲間は止めてくれたさ。それが当時の固定のパーティメンバーだ」

女剣士「あっ、もしかして女錬金師さんや、マスターさんが前に紹介してくれるって言ってた…?」


マスター「そう。それと今回、女錬金師が俺に薬を渡さなかった訳だが…」

マスター「表立って俺に薬を渡しても受け取らない事は分かってたんだろう。だから内緒にしたんだ」


女剣士「…」

マスター「まぁ…何が言いたいかっていうとな」

マスター「お前は俺とそっくりなんだ。才能を持ち、魔法を使えない。そして…まだ若かったということ」

女剣士「…はい」

マスター「魔法を使えないで、他の才能に後々から移動しても俺と同じ道を辿るだけ」

マスター「その前に、お前を今までの道から外れることなどないよう…」

マスター「剣士としてずっと見据えられるように教えようと思ったんだ」

 
女剣士「…」


マスター「…ちなみにな、俺が冒険者だと言われる事を嫌がってた理由もこれさ」

女剣士「え?」

マスター「逃げた事を責められているようで、嫌だったんだ」

マスター「…何を言ってるか、わからんよな」


女剣士「いえ…わかります。わかる気がします」

マスター「…っふ」

女剣士「マスターさんは、もう自分で冒険者だとは思ってないんですか?本当に」

 
マスター「何?」

女剣士「何で冒険者の仕事依頼を副業としてきたんですか?」

女剣士「何でまた私と世界を歩こうと決めたんですか?本当に…引退したと思ってるんでしょうか」


マスター「…そ、それは」

女剣士「…今、本当のことを教えてほしいです」


マスター「…」

マスター「…表向きには引退したんだと言っているが…」

マスター「本心くらい、わかっているだろう…」

 
女剣士「…っ!」

マスター「皆だって俺の気持ちを分かってみてくれていた。それもまた、分かっている」

女剣士「…」

マスター「本当ならスッパリ足を洗うべきだったんだろうとも思う」

マスター「…俺と一緒にギルドを止めてくれた仲間のためにも」

女剣士「…マスターさん」


マスター「女錬金師は笑顔で今も迎えてくれるがな」

マスター「ほかの仲間とは顔合わせだってしない奴だっている」

マスター「今も俺が冒険者と一緒の仕事をしてる事は知ってるだろうし…な」

女剣士「…」

 
マスター「情けない話だが…正直…怖い。女錬金師も、普段は明るいが…俺の仕事を快くなんか…」

女剣士「…マスターさん」


カツ…カツ…カツ…ポンッ!

マスター「ん?」クルッ


女錬金師「そんなこと・・・思っちゃいないよ!!」


マスター「なっ!?」

女剣士「女錬金師さん!?」


女錬金師「このバカ…やっぱり倒れたんだってね。一応充填薬を持たせて良かったよ」ハァ

マスター「なな、何でお前がここにいるんだ!」

女錬金師「このギルドは私の店のご用達だよ?仕事がてらさ」

 
マスター「…そ、そういや…そうだったな…」

女錬金師「外で聞いた事ある声と、聞いた事ある話をしてると思えば…やっぱりアンタだったかい」

マスター「くっ…」


女錬金師「アンタと一緒に引退をしたのに、まだ冒険者稼業をやってるからって快く思わないだって?」

マスター「う…」

女錬金師「当たり前だよ!!」

マスター「…」

女錬金師「…なんて、冗談だよ。皆…アンタが冒険者を止められないのは知ってたさ」

マスター「な、何…?」

 
女錬金師「特にパーティだったアタシと…」

女錬金師「仲間だった剛腕武道家、魔僧侶…全員、アンタに冒険者は止められないってずっと言ってたさ」アハハ

マスター「…」


女錬金師「たまに、魔僧侶とは仕事で顔を見せるんだけどね、アンタの話をよくするよ」

マスター「お、俺の?」


女錬金師「未だに冒険者として活躍してる、実力があっても小さな村を救うヒーローだって」

女錬金師「毎回、笑いながら言ってるよ。所詮、アンタは一生冒険者だってね」


マスター「…!」

女錬金師「アンタは魔僧侶とは全然会わないし、心配もしてるだろうけど、別に恨んじゃいないさ」

女錬金師「もちろん、アンタが心配してる当時の面子…みんなそうさ。今度遊びに来て、自分で話も聞けばいい」

マスター「…」

 
女剣士「マスターさん…良かったじゃないですか…!」

マスター「あ…あぁ…」

女剣士「♪」


マスター「…」


女剣士「むぅ…もう!マスターさん!!」

マスター「ん…お。おう?」

 
女剣士「逃げたと思ってるのはマスターさんだけですよ」

女剣士「私も、マスターさんは趣味だろうが副業だろうが…今も立派な冒険者だと思ってますから」

マスター「…女剣士」

女剣士「これからも、私に道を教えてください。先輩として!」ペコッ


マスター「いいのか…俺でも。こんな卑屈な性格もしてるんだぞ?」

女剣士「…もちろんです。何があろうと…もう、あなたは私の師匠だと思ってますから!」


マスター「…っ」


女錬金師「いい弟子を持ったんじゃないかい。本当にね」

 
マスター「…そうだな」

女剣士「えへへっ!」


女錬金師「…ひと段落ついたところで、ちょっとついでに聞きたい事があるんだよ」

マスター「何だ?」

女錬金師「アンタは魔僧侶とは会わないけど、逆に私は剛腕武道家と会わないんだ」

女剣士「昔のパーティだった人ですね」

マスター「あ~…剛腕武道家な」


女錬金師「今は中央軍に務めてるってのは聞いたんだけど、どんな様子なんだい?」

 
マスター「あいつは今、軍の左官だか将官じゃなかったか?」

女錬金師「へぇ!女なのによくそこまで」

女剣士(女性なのに軍の幹部クラスですか。ってか剛腕武道家って凄い名前…)


マスター「今は"上官"とかって名乗ってるみたいだがな」

女錬金師「ほぉ~」

マスター「かなぁり前に、竜騎士っつー弟子が出来たって相当喜んでたな」

女錬金師「へぇ~」


女剣士(私と似たような感じなんですかね?兄弟子って感じ…。今度会ってみたいなぁ)

 
マスター「さぁなて。さて、夜風に当たりすぎると体に毒だ…中に戻るか」クルッ

女錬金師「…また、いつでもおいでよ」

マスター「あぁ、今度は…みんなにまた…会いに行くよ」

女錬金師「…ふふ」


マスター「ほら、行くぞ」

スタスタスタ…

女剣士「あ、待ってくださいよ!」


マスター(ありがとよ。女剣士、女錬金師…)

 
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

本日はここまでです。また、次の更新で最終回となります。
読んで下さった方々…付き合って下さった、ありがとうございました。

本来なら今週の土曜日19時からですが、最終回は明日の19時の更新になります。
それでは、失礼致します。

皆様、沢山の感想等ありがとうございます。
最終回、投下致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日・宿 】
 

ユサユサ…

マスター「おい、朝だぞ」

女剣士「むにゃ…朝早くないですか…」

マスター「お前、温泉に入りたいって言ってただろ。朝風呂だと日の出が綺麗だぞ」


女剣士「昨日夜中まで飲みでしたし…、ふしぶしが…」

マスター「お前飲んでないだろ!」

女剣士「むむぅ…」ガバッ

 
マスター「ほら…起きろ」グイッ

…パサッ

マスター「!!」


女剣士「あ…下着のままでしたね…」ニヘラ

マスター「はぁ~…」

女剣士「今着替えますぅ…」ゴソゴソ

マスター「お前寝起きだとか、そのおっとりしすぎる性格なんとかしろ!」

女剣士「むぅ~…」

 
マスター「戦う時と違いすぎるぞ…」

女剣士「でも、お父さんとお母さんどっちも似てるって言われるんですけどねぇ…」モゾモゾ

マスター「どんな親だか見てみたいわ…」ハァ


女剣士「よっし、着替えました。温泉に行きましょう!」ダッ

マスター「あ、おい!コラ!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 温 泉 】
 

…ガラッ!!

女剣士「うわぁ~!露天風呂が広~~い!!」


マスター「!?」

女剣士「…あれ?」

マスター「…!?!?」

女剣士「あれれ、マスターさん?何で女風呂に…まさか、覗きですか!?」

 
マスター「はっ!?いや、ここは男風呂だぞ!」

女剣士「えぇっ!?女風呂ですよ!」


マスター「ま…」

女剣士「…まさか」


マスター&女剣士「混浴…」

 
女剣士「まっ、気にしませんけどね」

スタスタスタ…ジャブンッ!!

マスター「うわっぷ!」

女剣士「あ、タオル着けたままの入浴はダメですよね。よいしょ」

マスター「…」


女剣士「あ~…マスターさん、どうせ濁り湯なんで期待してもダメですよぉ?」

マスター「…はぁ」

女剣士「見えなくてため息ついちゃいましたか?」クスクス

マスター「違うわ!もう何でもいいよ…」

 
女剣士「えへへ…温泉、気持ちいいですねぇ。昨晩の疲れによく効きそうです」ハフー

マスター「疲労には良く効くからな。ゆっくり浸かればいい」

女剣士「それに他のお客さんもいないし、開放感~!」ザバッ!


マスター「ば、バカ立つな!」

女剣士「あ…」ザボンッ!


マスター「何で俺がこんなに気を使わなければならんのだ…」

女剣士「マスターさんは別に気にしなくていいんですよ?」

マスター「気にするだろうが!」

 
女剣士「そうですか?」

マスター「お前な、俺がまともなじゃなかったら色々と危ういだろう」

女剣士「え~…」

女剣士「まぁ…そうなったらその時ですよね」エヘヘ


マスター「…」

マスター「…!!」ザバッ!!


女剣士「きゃあっ!?ちょ、ちょっと急に…そんな、ココでですか!?それはそれで心の…」


マスター「…お前!」

女剣士「…え?誰かいるんですか?」クルッ

 
冒険戦士「…やぁ、マスター」ハハ


マスター「冒険戦士!?」

女剣士「冒険戦士さん!?」ザバッ!!


冒険戦士「…マスター、それにお姉さん久しぶりだね」ニコッ

女剣士「良かった…無事でしたか…。色々聞いて、心配してたんですよ…」

冒険戦士「心配してくれてたの?嬉しいなぁ…っと待って!」

ザボザボ…ドボンッ…


女剣士「…?」

冒険戦士「お姉さん…、全部見えてる…」

女剣士「え…?あ…」

 
冒険戦士「あはは…僕もまだ健全な男子なんで…。ちょっと濁り湯に隠れるよ…」

タタタタタッ…ザボンッ…


女剣士「…」カァァ

ザボザボ…ブクブク…


マスター「それより…どうしてここにいる?逃げたんじゃないのか?」

冒険戦士「逃げてたよ。森の中を抜けて、山脈を通ってさ」

マスター「ふむ」

冒険戦士「でもね、山脈でたくさんの魔物に追いかけられてさ。仕方なく町に抜けたんだ」


マスター「…あー」

冒険戦士「そしたら町の中は、マスターとお姉さんの話でもちきりだったから」

マスター「どこにいるか聞いて、この宿に来たわけか」

 
冒険戦士「うん。久々に顔でも見せようかなって」

マスター「わざわざ嬉しいぞ。…生活のほうはどうだ?まだ戻れる見込みもないんだろう?」

冒険戦士「そうだね…まだ話し合いも進んでないみたいだし」

マスター「…そうか」

冒険戦士「そんな顔しないでよ。僕だって一人前の冒険者だし!」

マスター「すぐドジをするから心配には変わらん」

冒険戦士「もう…マスターはいっつもそうなんだから…」


女剣士「…」ブクブク

冒険戦士「でもまぁ、そこに沈んでるお姉さんに良い物見せてもらったしね」ニカッ

女剣士「ま…またこういうの…」ブクブクブク…

 
冒険戦士「お姉さん、自信持っていいと思うよ!」

女剣士「それ、フォローになってませんよぉぉ」

ザバザバザバ…!!


冒険戦士「!」

マスター「おーい、女剣士。向こう側に隠れるのはいいが、背中側が丸見えだぞ」


女剣士「う…うわぁぁんっ!」

ザバザバ…コケッ…ジャボォン!!!


冒険戦士「あ~あ…転んだ…」

 
マスター「さっきまで開放感とか、別に気にしないって言ってた奴が急にどうしたんだか」

冒険戦士「そりゃマスターだからじゃないの?」

マスター「何がだ?」

冒険戦士「いーや、何でも」


マスター「…まぁそれはそうと、いつ出発するつもりだ?早くここも出なければならないだろう」

冒険戦士「う~ん…次はエルフの町に行ってみるよ。大陸自体が違うし、落ち着きそうだし」

マスター「それがいいな」

冒険戦士「でも、お姉さんはマスターと冒険かぁ…ちょっぴり羨ましいや」


マスター「なんだったら、お前も来るか?」

冒険戦士「…ボクも?」

 
マスター「あぁ。俺らは別に気にしないぜ」

冒険戦士「…止めとくよ。もっと落ち着いて、マスターに本当に認められるようになったら…ね」

マスター「…そうか」

冒険戦士「さて…僕はそろそろ行くよ。顔が見れて良かった」ザバッ


女剣士「ふぁ、ファイトーですよー!」


冒険戦士「お姉さん…遠すぎて声が小さいよ…」

マスター「…気を付けてな。あ、そうだ…ちょっとロビーで待ってて貰えるか?」

冒険戦士「…あ、うん」


マスター「女剣士!俺らはあがってるから、あとでロビーに来いよ!」

女剣士「は、は~い…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


冒険戦士「は~いいお湯だった…。マスター、それで何か用?」

マスター「待たせたな…ほら」

冒険戦士「…こ、これって…」

マスター「お前が好きだったいつもの一杯だ。淹れたてだぜ」


冒険戦士「…」

マスター「当、青空喫茶店のサービスとなっております。どうぞご遠慮なく」


冒険戦士「…頂きます」

 
…ゴクッ

冒険戦士「うん…やっぱり、美味しいや…」

マスター「そりゃ良かった」

冒険戦士「でも、青空喫茶店て…何?」


マスター「まぁ色々あってな。気にするな」

冒険戦士「そっか」

グビッ…グビッ…


マスター「…」

冒険戦士「また、この味を飲めるといいな」

マスター「飲めるさ」

冒険戦士「…うん」

 
タッタッタッタッタ…

マスター「おっ」

女剣士「お待たせしました。髪の毛乾かすのに時間かかっちゃって」ホクホク


冒険戦士「湯上りのいい女性って感じだね、お姉さん」

女剣士「そ、そうですか?」テレッ

冒険戦士「うん、お風呂の中でも見た時も、思わず目がいっちゃったくらい!」


女剣士「う…うわあぁぁん!」ダッ

ダダダダダッ…!!


マスター「…あーあ。あんまりうちの弟子をいじめないでくれるかな」

 
冒険戦士「あはは…。ああいうお姉さん見ると、ついつい…ね」

マスター「昔っから変わらないな本当に」

冒険戦士「はは…それじゃ、僕はそろそろ出発しようかな!」


マスター「うむ。改めて…気を付けて行けよ」

冒険戦士「もちろん。お姉さんにもよろしくね」

マスター「わかった」

冒険戦士「じゃ…」


カツ…カツカツカツカツ…

 
マスター「…」

女剣士「はぁ…はぁ…」トコトコ

マスター「戻ってきたか。もう、冒険戦士は出発しちまったぞ」

女剣士「声かけたかったのに…」


マスター「行く所を見られたくないんじゃないか。…俺と一緒でな」

女剣士「え?」

マスター「逃げる事を見られたくないんだよアイツは…多分な」

女剣士「…」

マスター「さ、どうせアイツとはいつか会える。俺らも次の町に行く準備をするぞ」

 
女剣士「!…、次はどこへ行くんですか!?」

マスター「さぁて…どこに行きたい?このまま東方側に抜けてもいいんだが…希望とかあるか?」

女剣士「え、えっとぉ~…」


マスター「まだ落ち着きも取り戻してないみたいだし、時間はあるしな」

女剣士「マスターさんはどこかに行きたい所とかないんですか?」

マスター「そうだな…あぁ、お前の故郷とかどうだ?親に直接話もしたほうがいいんじゃないかと思ってな」

女剣士「わ…私の実家ですかぁ…」

 
マスター「そういやお前の実家って…どこだったか?」

女剣士「田舎町っていう小さな場所ですよ」

マスター「ふむ…ふむ?おい、ここからそう遠くもないじゃないか」

女剣士「あ…そ、そうですか?」


マスター「何だ、乗り気じゃないな」

女剣士「中央で頑張るとか言ってたのに、世界に旅立ってるとか…なんか…ね?」エヘッ


マスター「…」

女剣士「…」

マスター「お前、手紙で伝えるって言ったのに伝えてないのかぁ!?」

 
女剣士「ひーっ、ごめんなさいごめんなさいぃ!」

マスター「…決定、お前の実家に戻る。次の旅はそこからだ」

女剣士「ほ、本気ですか!?」

マスター「当たり前だ。さて、部屋に戻って準備するぞ」


女剣士「うぅ~…」

マスター「お前の親に会ったら、美味い珈琲でも淹れて飲ませてやるさ」

女剣士「マスターさんの珈琲は美味しいですからねぇ」


マスター「それにお前の親は手練なんだろう?いっぺん、手合わせをしてみたいもんだ」

女剣士「あっ!強いですよぉ?」

 
マスター「あぁ、そうだろうな」

女剣士「…仕方ない、行きますか」ハァ

マスター「当たり前だって言ってるだろう」

女剣士「…」

マスター「…」


女剣士「…マスターさん!」

マスター「なんだ?」

 
女剣士「これから、冒険者同士…冒険者の師匠として…よろしくお願いしますねっ!」

マスター「…それも」


マスター「…当たり前だ」

 
あ…そういえば借金とか…どうなりますか…?

ん~?そんなのあったか…?


えっ…

今はお前を教える方が大事だ…そんなもん忘れた…

で、でも…どうやって親に紹介すれば…


ギルドに紹介された師匠と弟子でいいんじゃないのか

あ~…それで大丈夫かな…

さぁ~な…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・ 
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・

 
再び冒険者として走り出した師匠と

駆け出し剣士の冒険劇ははまだまだ続く


さぁて、次は何が待っているんだろうか…
 
 
 
――ランプが燃えているうちに、
   人生を楽しみたまえ、
 しぼまないうちにバラの花を摘みたまえ

…ヨハン・マルティン・ウステリ
 
………
……

 
【 E N D 】

 
2章が終了し、これで今回の女剣士編の本編は一旦終了となります。

読んで下さった方々、楽しんでくれた方々、皆様に感謝の意を。


更新速度が遅くはなりましたが、ここまで書けた事をうれしく思います。


P.S
最後に、いつも通りにアフターストーリーと、修正分をアップ致します。

 
【 アフターストーリー 】


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 田舎町 】


マスター「…ここが、お前の実家?」

女剣士「そうですけど?」


マスター「…お前が親に言えば返してくれるって意味が分かったよ」

マスター「地方とはいえ、この豪邸。金持ちじゃないか…」


女剣士「ま…まぁ…」アハハ…

マスター「家に親はいるのか?」

 
女剣士「いると思いますよ。入りましょう」

マスター「う、うむ…」

…ガチャッ


女剣士「おかあさーん!」

女剣士「…」

女剣士「おかあさ~~ん!!!」


マスター「…いないのか?」

女剣士「いえ、今出てくると思います」

 
ガタッ…ガタガタガガタッ!!ドタンッ!!!

マスター「!」ビクッ


ドタドタドタ…

母親「お、女剣士!?お帰りなさい!」

女剣士「ただいま。今のすごい音は何?」

母親「そこで転んじゃって…あはは…」

マスター(に、似てる…)

女剣士「もー、お母さんったら…」


母親「いつものことでしょ…って、どなたですか?」

マスター「ど…どうも」ペコッ

女剣士「あ、お母さん。こちらはね…」

 
母親「…お赤飯!」


女剣士「ちがーう!!」

マスター「違います!!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

母親「あ…そ、そうだったんですか。私てっきり…」

女剣士「もー…」

マスター「はは…仕方ないですよね。いきなり来たんですから」


女剣士「お父さんは?」

母親「もうすぐ起きてくる…かな?」

ガタガタ…

母親「って言ってれば。お父さんにも紹介しなくちゃ♪」

 
ガチャッ…

父親「ん~…よく寝た」フワァ


マスター「!?」


母親「あ、おはようございますっ。女剣士が戻ってきてますよ♪」

父親「ん、お…おぉ!女剣士!」

女剣士「お父さん、ちょっと報告したい事があって戻ってきたんだ」

父親「そうか、何か用か?…お隣の男性は?」


マスター「あ…は…初めまして!」

 
父親「…まさか、もう…そんな男が…。お赤飯か…」ガクッ


母親「違いますよ!」

女剣士「違うっての!!」

マスター「違いますから!!!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マスター「…っていうわけです」ハァハァ


父親「あぁ、そうでしたか。それは娘が世話になって」

マスター「いえいえ…予想以上の実力を持っていてビックリしていますよ」

父親「迷惑をかけてなければいいんですが」

マスター「そんな全然!…ところで」

父親「はい?」

 
マスター「…まさかとは思いました。これでも冒険者の端くれですので…」

父親「…?」

マスター「あなたは十数年前に…亡くなった…、竜き…」

父親「いやぁ!!人違いでしょう!!」


マスター「…」

父親「彼は私のあ…兄でしてね。よく似ているって言われるんですよ」

マスター「…そう、ですか」


父親「そ…その兄譲りの負けん気を引いたようでしてね…娘も」

 
女剣士「そうなの!?」

父親「う…うむ。そうだ」


マスター「…」

マスター(まさか…な。国家予算に匹敵する報酬を得た、武道家と騎士の話…)

マスター(騎士は死に、その仲間の武道家が全てを引き継いだと聞く)

マスター(そしてこの女剣士の才能。当時の騎士に容姿がそっくりなこの父親…。いや、深くは追求しないでおこう…)


父親「…マスターさん?」

マスター「あ…い、いえ!それより、おふた方はとても強い方だとお聞きしました」

 
父親「あぁ…女剣士がそんなことを?」

女剣士「お父さん、昔の事故で目が見えないんでしょ?足も義足だし…なのに私、勝てた事ないじゃん」

父親「そりゃお前がまだまだ経験不足だからだ」

女剣士「わかんないよぉ~?今やったら、私に負けるかも!」

父親「負けるわけないだろ、やってみるか?お?」

女剣士「いいよ!久々に手合わせしよっか!」


マスター「ちょっと待ってください!」

マスター「…その勝負、自分とやって頂けませんか」

父親「へっ?」

マスター「あなたと…一度、お手合わせしてみたい」ゴクッ

父親「…」

 
マスター「どうでしょうか…是非、お願いします」

父親「…いいですよ。ただし、私は見ての通りの義足で…更に目が見えません。お手柔らかに頼みますよ」ハハハ

マスター「…是非もありません。感謝します」


女剣士(えーっ!お父さんとマスターさんが手合わせ!?)

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 近くの広場 】


…クルクルクル…ドスンッ!!

マスター「この広さなら、十分に戦えそうですね。大剣でも暴れられそうだ」

父親「はは…。まぁ田舎ですので広さだけはありますから」スチャッ


マスター(…槍か。この男…やはり騎士…)


父親「さて、やりますか。お手柔らかに」スッ

マスター「いえいえ…では。お願いします」

 
女剣士(…)ドキドキ

母親(…)ドキドキ


父親「…はぁ!」ダッ

ダダダダダダッ!!!


マスター(始まった…だが、思ったほどの速度ではない)

マスター「おりゃあっ!」ブンッ!


父親「ぬっ!」ビュッ!!

…ガキィン!!!

 
父親「"それほどの大剣"を、軽く振り回すとはやりますね…」


マスター(見えないのに、感じだけで全てが見えるのか!)

マスター(そういえば…俺がいることも言葉を発する前にわかっていた…もはや達人の域の感覚じゃないか…)


父親「久々に楽しめそうだ…本気でいかせて頂きますよ。龍突っ!!」

ビュッ…ビュオオオオッ!!!

マスター「竜技…!?…ぐっ!ふ、防ぎ切れない!」タァンッ!


女剣士「マスターさんが飛んで逃げた!」

母親「わぁ~高い…」

 
マスター「相手の苦手なのをつかせて頂く!轟音と共に上からならば…」

マスター「いくら気配を読んでも、どこから攻めるか難しいはずだ!」ヒュウッ

父親「…ふむ」

スタスタスタ…トスッ


父親「この辺…か」

マスター「はっ!?」

父親「そのまま落下してきたら槍に刺さりますよー。どうしますか」


マスター「な、何故…うらぁぁっ!」グルンッ!!

父親「ほう、空中で落下位置を変化するとは。やりますね」


…ズズゥン…!!

 
マスター「…ぬぐっ」バッ

父親「空中の攻めの威力は高いが、落下時に硬直が生まれるのはキツイですよね」ダッ

ダッ…ダッダッダッダッダッ!!


父親「龍突っ!!」ビュッ!!

マスター「ぬぅぅ…大斬っ!!!」ブンッ!!!

…ガガキィィン!!!


マスター「…っ!」ビリビリ

父親「つつ…大剣の威力は対したもんですね。貰ったと思ったんですが弾かれるとは…」ビリビリ

父親「さすがの振り速度だ。攻撃速度が尋常じゃない」

 
マスター「…ふふ、親父さん」

父親「むっ」ピクッ

マスター「この間合いなら、剣が有利だっ!」ブンッ

…ヒュンッ

マスター「外れた!?」


ズザッ…ズザサァ…

父親「ふぅ…危ない危ない。今のはちょっと危なかったな」

マスター「い…一瞬であそこまで…引いたのか…」タラッ

 
女剣士「お父さん…本当に強い…。あのマスターさんが…」

母親「あらあら、女剣士。強いに決まってるでしょ、私の夫であなたのお父さんなんだから♪」

女剣士「…うん」


父親「さて…小火炎魔法っ!」パァッ

マスター「!」

…ボォン!!

マスター「おっとっと…」プスプス

父親「ありゃ、避けもしない」

マスター「…すみませんが、貴方が魔法を苦手なのは聞いてます。脅威にはなりません」

父親「そうでしたか、全く…女剣士のやつめ」

 
女剣士「ご…ごめんなさーい」


父親「確かに私は魔法が苦手ですけどね、苦手なら苦手なりにやる手段があるんですよ」ニコッ

マスター「へえ、見せて頂きたいですね」


父親「…はっ!」ブンッ!!


女剣士「えっ!?」

マスター「や…槍を空高く投げた!?」


父親「…小火炎魔法っ!」パァッ

…ボォン!!!

 
マスター「…おっ!?どこに撃ちましたか、明後日の方向ですよ!」

父親「2つの注意は、1つの隙を生ませるのに十分なんですよ。小火炎魔法っ!!」パァッ

…ドゴォン!!…

マスター「あ、足元を!うわっ!」

…ドシャアッ!!


女剣士「マスターさんを転がした!」


ダダダッ…タァンッ!!

父親「今度は私が上からとらせて頂きますかね」

ヒュウウッ…ガシッ…

 
女剣士「さっき投げた槍を…取った…まさか…!」


父親「…龍落っ!!!」

ヒュウウウッ…!!


マスター「ぐ…!」ダッ…

父親「一度転んだ相手には、こんな小さな魔法でも…小火炎魔法っ!!」パァッ…ボォン!!

マスター「うあっ!」グラッ


女剣士「頭を揺らして…」


父親「…中々強かったですよ」


マスター「う…うおっ…防御がまにあわな…」

ヒュウウウウウウッ…ボコンッ…!!!

 
マスター「がっ…」

父親「柄での叩きつけに途中から切り替えましたが…私の勝ち…ですね?」

マスター「がはっ…」

…ドサァッ


父親「…ふぅ。女剣士、魔法は最小でも幾らでも戦いの手段はあるんだぞ。覚えておけよ」

女剣士「お…お父さん…」

父親「どうした…俺を見直したか?」ハハハ

 
女剣士「小斬~~!!!」ブンッ

…バシュウッ!!

父親「ぬおおぉっ!?な、何をする!」

女剣士「マスターさんをイジめるなんて、最低ですよ!!もっと手を抜いてもいいじゃないですか!」

父親「だ、だが男同士の真剣勝負で…」

女剣士「問答無用~!」


父親「な、何でだぁぁ!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夕 方 】


マスター「あいつつつ…」

父親「申し訳ありませんね…大丈夫でしたか?」

マスター「い、いえ。自分の実力も劣っているのが分かって良かったですよ」

父親「はは…」


母親「でも、まだ本気じゃありませんでしたよね?武器も違いますし」

父親「ば、バカッ!」


女剣士「え?」

マスター「え?」

 
母親「あれは少し前に貰った、お祭りで使うような軽い凡槍ですよ。本気なら龍槍使うじゃないですか」

父親「そういうことを人の前で言うんじゃないっつーの!」

母親「あ、あう…すいません…」


マスター(ま…マジか…)

女剣士「お父さん…どんだけ強いの…」

父親「まだまだお前には負けんよ」ハハハ

女剣士「む…むぅぅ…」

 
父親「それにしても、あなたのような人なら娘も安心だ。是非、娘を鍛えて頂きたいですよ」

マスター「そんな恐れ多い…」

父親「いえいえ」


マスター「…」

女剣士「ま、まぁさ。そういう訳だから、一応報告にね」

父親「んむ…励むんだぞ」

母親「頑張ってね♪」


女剣士「うん!」

 
父親「これからはどこに向かうんですかね?」

マスター「予定では、東方へ抜けるのも有りかと。大きく東からグルっと回るのも悪くはないですね」

父親「東方へ抜け、ジパング、更に大海を渡って遊休王国、星降町、西地方…やがてココへ戻ると」

マスター「その頃には1年…2年もたってるでしょう。立派な剣士に彼女も成長してますよ」


女剣士「…楽しそうですねぇ!」ウキウキ


父親「全く…誰に似たんだか」ハハ

マスター(どっちにも似てるよ!)


父親「それじゃ…娘を宜しくお願いしますね」ペコッ

母親「宜しくお願いします」ペコッ

マスター「いえいえ…」ペコッ

女剣士「釣られて…」ペコッ

 
母親「それで今日はどうするの?泊まってくの?」

マスター「しばらく離れる事になりますし、是非…今日は家族水入らずでいかがでしょうか」

女剣士「いいんですか?そりゃ少しはお話もしたいですが…」


父親「そんなこと言わず、マスターさんも一緒に飲みましょう」

マスター「いえいえ!ですが、家族水入らずというものが…」

父親「冒険家業として、冒険者同士…仲間でしょうよ」ニカッ

母親「…ですね」ニコッ


マスター「!」

女剣士「!」

 
マスター(全く…この人といい、女剣士といい…)ハハ

女剣士「お父さん…」


マスター「いいでしょう、是非…今晩は…飲み明かしましょうか!」

女剣士「おーっ!」


父親「…いやお前はダメだろ」

女剣士「えーっ!」

父親「いやいや」

女剣士「むぅぅ…」


マスター「やれやれ…これからも楽しませてくれそうだ」

 
女剣士「…何か言いましたか?」

マスター「いや何でもないさ」


女剣士「…えへへ、さぁ…明日も楽しく、これからも冒険者として頑張りましょうねっ!」


マスター「あぁ…そうだな!」ニカッ

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
【 E N D 】

 
ここまでお付き合いしてくださった皆様、ありがとうございました。

過去の作品との繋がりを持ちつつ、ちょっと変わった王道ファンタジーで描いたつもりです。

まだまだ描き切れてない部分はありますが、

次の機会があればまた、目に通してくれれば嬉しいです。


新作等がある時は、現存しているスレにご報告はさせていただきます。


本当にありがとうございました。

後は修正分のアップをしておきます。


それでは…失礼致します。

ごちそうさまでした

【修正分】
>>198 >>199の間に
 
マスター「昨晩は疲れたか?帰ってきてすぐに眠りに落ちたみたいだしな」

女剣士「お…おはようございます」カァァ

マスター「…どうしたよ」


女剣士「いえ、こうして男の人に寝顔を見ながら起こされるのは少し…恥ずかしいですね」アハハ

マスター「だから他の部屋も借りると」

女剣士「い、いえいえいえいえ。いいんですっ」

マスター「…んーむ」

乙でした!

竜騎士……の弟さんつえー!

>>163
 
マスター「時間はある。早い答えを求めるな。そして努力は怠るな…。それだけは言っておく」

女剣士「…はいっ」ニコッ



マスター「村までは少し時間がある。休んでおけ」

女剣士「ありがとうございました」ペコッ

マスター「…んむ」

女剣士「…♪」


マスター「…」

女剣士「…」

………
……

 
運転手「どうしますか?」

マスター「仕方ない…背負ってくよ」

グイッ…ギュッギュ…


運転手「背負ってくって…そのバカでかい剣に2人分の荷物に…」

マスター「このくらいどうってことないさ。それより…運賃は?」

運転手「2万9000ゴールドになります」

マスター「3万ゴールドで釣りは結構だ。またよろしくな」

運転手「はい、ありがとうございました」

>>603

マスター「さぁて、夜風に当たりすぎると体に毒だ…中に戻るか」クルッ

女錬金師「…また、いつでもおいでよ」

マスター「あぁ、今度は…みんなにまた…会いに行くよ」

女錬金師「…ふふ」


マスター「ほら、行くぞ」

スタスタスタ…

女剣士「あ、待ってくださいよ!」


マスター(ありがとよ。女剣士、女錬金師…)

>>647 >>681 >>683

お早いコメント感謝致します。
ありがとうございました。

>>1の弱点
パラダイス

まさか、二回も間違えるなんてwww

>>688
おおう…ご指摘ありがとうございます。

>>190>>579
「パラダイス」部分が間違っています。修正しておきます。
完全に打ち間違いですね、失礼しました。

過去作みたいが、スレッドない。・゜゜(ノД`)

読むにはどうすれば?
竜騎士読みたい♪

>>694
(⌒‐⌒)つGoogle先生

あ、またしても言い忘れ。>>1

とりあえず一ヶ所。つうか(嫌みじゃないけども、)普通にググれば出てくると思うんですがねぇ……。

竜騎士「田舎に飛ばされ自給自足生活」
http://ssmatomesokuho.com/thread/read?id=74627
竜騎士「孤島に残されサバイバル生活」
http://ssmatomesokuho.com/thread/read?id=105091
竜騎士「空を翔けて冒険生活」
http://ssmatomesokuho.com/thread/read?id=142134

新作
騎士長「王宮をクビになってしまった」
騎士長「王宮をクビになってしまった」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1393667841/l50)

連載を開始しました。
剣士・竜騎士や、勇者魔王の自分の過去作品とは違う世界観で展開される、
新しい世界観でのお話です。よろしくお願いいたします。

遅れましたが、たくさんのコメント本当にうれしく思います。
皆様、今作のお付き合い、ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom