舞園「まくら売りの少女」 (54)
むかし むかし あるところに さやかちゃんという それはそれは とてもかわいらしい メインヒロインの 女の子が いました。
しかし さやかちゃんに お母さんは いなくて お父さんと 2人で くらして いました。
お父さんは まいにち おしごとが いそがしくて なかなか おうちに かえれません。 さやかちゃんは さみしい おもいをして まくらを ぬらす日々を おくっていたのでした。
そんなある日 お父さんの じぎょうが しっぱいしました。 いっしょに じぎょうを たちあげたゆうじんに だまされて まくらを たいりょうに 買わされたのです。
そのけっか ふりょうざいこを かかえて けっさんで たいりょうの あかじを 出してしまい かいしゃは とうさんすんぜん。
それがげんいんで お父さんは さやかちゃんを やしなうことが できなくなりました。
あれやこれやと なやんだすえに お父さんは さやかちゃんに こう言いました。
「このまくらを 売っておいで。 ぜんぶ売るまで おうちに かえってきては だめだよ」
いまのごじせい まくらなんて 売れるわけが ありません。 これは ただの ていのいい くちべらし なのです。
しかし じゅんすいで けなげで とてもせいかくの良い さやかちゃんは お父さんの おもいつめたひょうじょうを 見て 私が お父さんを 支えてあげないと というしめいかんで このけんをしょうだくしました。
「わかりました。 お父さんの おしごとを がんばって てつだいますね」
さやかちゃんの その天使のような いやされるえがおに お父さんは ざいあくかんに さいなまれました。
さやかちゃんは まちに いきました。 ゆきがつもる さむいきせつ ですが さやかちゃんは ぼうかんぐを まともに 買うおかねが ありません。
さむぞらのもと うすぎで ひっしに まくらを 売ろうと よびかけるのでした。
「まくらー。 まくらー。 まくらはいらんかねー」
げんじつはひじょうです。 こんなにも あいらしい女の子が ひっしで まくらを 売ろうとしても だれも ちゅうもくすら してくれません。
それどころか 洗ってない犬をみるような目をむける スイマーの女の子
みすぼらしいかっこうの さやかちゃんに ひどいばせいを あびせる たんていの女の子
ろじょうせいかつのせいで まくらに えんがない ざんねんな 女の子も います。
ギャンブラーの女の子に いたっては さやかちゃんの なけなしの おこづかいを せびろうと してきました。
かのじょたちは あくまのけしんです。 まちがいありません。 苗木君騙されちゃダメですよ。
「まくらー……まくらー」
日はすっかりしずみ まちはだんだんと ひとどおりが すくなくなってきました。
それでもさやかちゃんはめげません。
どのくらい 声をあげたでしょうか。 どのくらい あるきまわったのでしょうか。
かよわい少女の たいりょくは すでにげんかいを むかえていました。
けっきょく まくらを1つも うることができずに さやかちゃんは その場にたおれこんでしまいました。
「お父さん……ごめんなさい。 わたしは お父さんの おしごとを てつだうことができませんでした」
さやかちゃんの目に うかんだひとつぶのなみだ。
ほほをつたい ゆきがつもった じめんに ほろりとおちる。
ほんのすこし なみだで ゆきは とけました。
しかし それに反して さやかちゃんの心とからだは こごえるばかりでした。
生きたい―― 死にたくない。
そんなおもいが さやかちゃんの 心の中に めばえはじめました。
生きるためなら なんでもする。 いやなことでも なんでもがまんする。
さやかちゃんの めのまえに ジャンボタニシの においがする ふとった 男の人があらわれました。
これが生きるか 死ぬかの うんめいの わかれみち。 さやかちゃんに まよってる じかんはありません。
「あ、あの……まくら買ってください。 おねがいします。 なんでもしますから――」
ついに今まで 言わないようにしてきた ことばを 言ってしまいました。
「ほ、ほんとうに 何でもするのですかな ハァハァ お、おじさんの言うこと なんでもきいてくれるかな?」
ジャンボタニシの そのいやらしい いきづかい。
ふけんぜんな ひょうじょう。
ねっとりとした くちょう。
それらのすべてに さやかちゃんは思わず けんおかんを いだいてしまいます。
でも さやかちゃんは 生きるために お父さんのために
涙目になりながらも ジャンボタニシに こびを売らなければなりません。
「は、はい……何でもいうことをききます。 だ、だから 助けてください――」
「では せっしゃの家にまいりましょう。 なにをすればいいのか とうぜんわかりますな?」
さやかちゃんは ただひたすら 心の中で お父さんに かみさまに あやまりつづけました。
きれいなからだの ままではいられない。
けがれてしまう じぶんのからだ。
いままで たくさんあったはずの たのしいおもいでに おわかれをつげる。
さまざまな かんがえが あたまをめぐり
さやかちゃんは ふしぎと えみをうかべました。
じぎゃくてきな かわいたわらい。
ふこうを憎むわけでも お父さんを恨むわけでもない。
ただ じぶんのうんめいを 無理矢理うけいれようとする。
ほんとうに ぜつぼうしたときは ただ笑うしかありませんでした――
ジャンボタニシの家についたさやかちゃん。 へやは ちらかっていて とても臭いです。
さやかちゃんは ふるえています。
ただ寒いからというわけではなく これからどんなことをされるのか
そんなふあんで あたまがいっぱいでした。
しかし ジャンボタニシは いがいなことを言いました。
「いすにすわって まっててくれますかな? すぐにあたたかいスープを おもちしますぞ」
さやかちゃんに対してみせるやさしさ。
そのせいか すこしだけ さやかちゃんの けいかいが とけてしまいました。
「はい スープですぞ アツイですから きをつけてくだされ」
からだのしんが ひえきっていた さやかちゃんにとっては 何よりもほしかったもの。
スープをひとくち すするたびに さやかちゃんの 目からおおつぶの涙が こぼれおちました。
「ひっぐ……えっぐ…… どうして わたしに やさしくするんですか」
「こごえている 女の子にスープを出さないほど せっしゃも れいけつではありませんからな」
とくいげに こたえる ジャンボタニシ。
さやかちゃんはジャンボタニシに 心を許していきました。
「それでは 心のじゅんびは できましたかな? しんしつに いどうせよ はよ」
ていせい。 やっぱり ジャンボタニシに心をゆるしては いけませんでした。
「さあ 早く ベッドにあおむけで ねっころがってみい ホレホレ」
よくぼうまるだしの げひんなジャンボタニシ。
いやなことでも なんでもすると言ってしまったため
さやかちゃんは ジャンボタニシの言うことを きかざるをえません。
ジャンボタニシが こうふんしてくれるように
さやかちゃんはいっしょうけんめい えっちではずかしいポーズをとるようにしました。
「うひょお これはたまりませんなあ ハァハァ では さっそく」
ついにエロどうじんみたいに らんぼうされるときがきてしまいました。
これでおかねが もらえるなら お父さんのたすけになるのなら――
「そうさくいよくが わいてきましたぞ! まくらをはいしゃくします」
ジャンボタニシは絵ふでをとり さやかちゃんがもってきたまくらに絵をかきはじめました。
「あ、あの…… なにを……」
「グオルァ!! うごくんじゃない! そのポーズのまま やらしい表情のまま じっとしてろおお!!」
ジャンボタニシのきはくにおされました。
さやかちゃんは ただじっとその場をうごかずに すごしました。
「できたぞい! ハァハア われながら ほれぼれするできばえですなあ」
ジャンボタニシは まくらにさやかちゃんの うつくしいすがたを かきうつしました。
それはモデルも 絵をかくほうも 共にゆうしゅうだったため げいじゅつのいきにたっした できばえでした。
「あー きみの まくらをよごしちゃったね やくそくどおり買い取らせてもらうよ」
ジャンボタニシは きんかがつまったふくろを さやかちゃんに てわたしました。
さやかちゃんが もっているまくらを ぜんぶ買ったとしても おつりが出るくらいの きんがくです。
「そ、そんな こんなにうけとれません」
「きにしなくていいんですよ。 モデルりょうだと おもっていただければ
このまくらぜんぶに この絵をかいたら うひょうひょ これはおおもうけのよかんですなあ」
どうやら うぃんうぃんのかんけい だったらしいです。
さやかちゃんはすなおに きんかをうけとりました。
「今日はもうおそいですぞ 明日 お父さんのところに おくっていってあげるから 今日はとまっていきなさい」
「なにからなにまで……ほんとうに……ぐす……ありがとうございました」
こうして さやかちゃんは じゅんけつをたもったまま まくらをうりきることに せいこうしました。 やったね!
よくあさ さやかちゃんは早朝一番に お父さんがまっている家へと むかいました。
「お父さん ただいま」
まんめんの笑みで きたくしたさやかちゃん。
しかし お父さんのほうは すっかり しょうすい しきってました。
「さやか……」
「まくらを売りきることができました。 ほら やさしいジャンボタニシのおじさんから
こんなに たくさんの おかねを もらっちゃいました」
きんかの入ったふくろを ドサっとテーブルに置く。
そうすると お父さんは むすめの身に何があったのかを 何となく察してしまいました。
「あああ…… な、なんてことだ すまない 本当にすまない…… さやかぁ……」
お父さんは その場で泣きくずれてしまいました。 涙をぬぐう手は心なしか 赤くしもやけてました。
「お父さん いいんですよ。 昨日は一晩中さむぞらのした わたしをさがしていてくれたんですね?」
「ど、どうしてそれを……」
お父さんのなかに さいごの良心が のこっていました。
さやかちゃんを みごろしにすることを ゆるさなかった。
それをみやぶった さやかちゃんに お父さんは おどろきました。
「エスパーですから」
お父さんの問いに さやかちゃんは やすらかな笑顔でそう答えました。
ごうかな そうしょくが ほどこされた きゅうでんがありました。
そこに ジャンボタニシが えっけんに きていたようです。
人よりちょっと前むきなところが とりえの こううんな王子さまが
ジャンボタニシとくせいまくらを おきにめしたようです。
「ジャンボタニシクン キミがもっているまくらを ボクに売ってくれないか」
「はい 王子殿のたのみなら」
ジャンボタニシは 王子さまから たいりょうのしゃれいきんを うけとりました。
「あ、あのー いくらなんでも こんなにうけとれません」
「ああ きにしなくていいよ。 たのまれついでに ボクのおねがいをきいてくれるかな」
「はて、おねがいとな」
「このまくらにかかれている少女と けっこんしたい。 この少女がだれかおしえてほしい」
なんと 王子さまは さやかちゃんに ひとめぼれをしてしまったのです。
さやかちゃんのことを知った王子さまは すぐにさやかちゃんの家に でむきました。
「さやかちゃん ボクとけっこんしてくれないか?」
「い、いいんですか わたしが おうじさまと けっこんなんて
わたしは ただの へいみんなんですよ おうじさまと つりあいがとれるわけが……」
「それはちがうよ つりあいが とれるとか どうかじゃない
ボクが さやかちゃんのことを あいしているから けっこんしてほしいんだ」
「は、はい ふつつかものですが よろしくおねがいしますね」
王子さまの あつい きゅうこんを うけて さやかちゃんは 王子さまと けっこんしました。
こうして さやかちゃんは いつまでも 王子さまと いっしょに すえながく しあわせに くらしましたとさ。
めでたし めでたし
何だ葉隠だったのか
絵本風に書くのって難しい……
ひらがなばかりだと読みづらくなっちゃうし
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